【勝田班月報:6001】
 研究にあたり我々の第1目標とすべきもの:
 今日の癌研究陣の最高権力者の顔ぶれ及びその研究方向をみると、我々は勇気の奮い立つのを感じる。つまりこれでは決して癌の問題は片附かないのであって、いわば第2線を余儀なくされている我々が、前線に立たざるを得ない日が必らず近い将来にくるのである。そのときまでに我々は何をなしとげておくべきか。
 まず一世を風びしている抗癌物質の追求であるが、これは一言にしていえば闇夜の鉄砲であり、また仮に一発くらいあたったところで、癌細胞の多様性を考えれば、決してそれが広く適用され得るとは考えられない。スクリーニングにしても癌細胞だけについてしらべているのでは正常細胞に毒性が少いものを拾えない。これはやりたい者にまかせておくのがよいであろう。そして我々としてはやはり組織培養の利点を最高度に発揮し、正常細胞と腫瘍細胞との、きわめて広い意味での各種の性質の相違を追求し、基礎的にしっかりデータをつかんでから攻撃点を決めるべきであろう。
 次にこれと平行して、我々がなすべき仕事は“組織培養内での細胞の腫瘍化”の問題であろう。今日まで腹水腫瘍が研究陣にひろくはびこっているが、腫瘍というのは身体のなかの正常細胞が何かの原因で悪性化してできるのであって、腫瘍細胞は他人からもらってそれが増えるという可能性はきわめて低い。腹水腫瘍は従って本当の意味の癌とはかなりかけはなれた、一種の“感染”である。また我々がよく承知しているように、組織培養の株細胞はもとの母体にあったときとはその特性が相当変化していまっている。腹水腫瘍も動物の腹を何代も継代している内に自然に淘汰や変異がおこり、もとの腫瘍細胞とはおそらくかなり異なった性質になっているにちがいない。従ってこれを用いてその特性をしらべ、或は治療剤を見付けても果して、もとの癌にそれがあてはまるかどうか。ここに大きな問題があろう。そこで正常の細胞を培養しておき、これに発癌剤その他の悪性化の原因となり得る刺激をあたえて、培養内で細胞の悪性化をおこさせることができれば、組織培養は腹水腫瘍に代って次の10年間での研究陣を風びすることができるであろう。そのためには、1)まず正常の細胞を相当長期間培養できること(増殖でも維持でも)、2)それに刺激をあたえて一定期間後に必ず悪性化するようなコースを見付けること(動物に復元して腫瘍死すること)。この二つを先決しなくてはならぬのである。これができれば、悪性化する経過を色々な面から詳細に研究することが可能になり、癌研究陣全部に対して、組織培養グループが大きな貢献をすることができるのである。
 ここに我々のなすべき二つの命題をかかげたが、今年度の研究題目として我々は前者の方をあげている。これは一つの作戦で、後者をなしとげるためにはあと何年かを要するが、成果が上らないのでは研究費もあとがつづかないおそれがある。前者ならば何とかつづけさせられる位のデータを各人が出せるであろうと考えたのであって、本当の第一の命題はむしろ後者にあることを考えて頂きたい。そしてこの両者に於ける各班員の相互扶助的なアドバイスをこの月報にどんどん寄稿していただきたいのである。      (勝田)
《各班員が現在おこなっている、あるいは計画し、考えている研究プラン》
 § 東京大学伝染病研究所        勝田 甫 §
 (A)“組織培養内悪性化”のための研究
 このためにはまず正常の細胞株を作ることができれば最ものぞましく、あとの仕事もきわめて楽になる。その上、正常細胞株(非腫瘍性細胞株)ができればウィルスワクチンを作るのにも絶好である。そこで当室ではサルの腎臓細胞とラッテの各種細胞(肝、腎、心など)を狙った。前者は、その非腫瘍性を証明するのに金がかかる欠点があるが、ポリオウィルスワクチンを作るのに有用であるし、しかも現在モンキーセンターの猿にB−ウィルスが流行している。これに人がかかると100%致死であるので、ポリオワクチンが一にサル腎臓細胞のprimary cultureに依存している現在では、このため非常な支障をきたしている。従ってサル腎臓細胞の正常(非腫瘍性)の細胞を作れば一石二鳥の効果をあげることができるのである。
 1)サル腎臓細胞の栄養要求の研究
 予研多ケ谷研究室より材料の分与をうけ、primary cultureについて、その各種栄養要求をしらべはじめたところである。
 2)同細胞の無蛋白培地内継代、非腫瘍性細胞株の樹立の研究
 PVPを用いた無蛋白培地でコルベンで培養にかかったが、この細胞はHeLaと異なり硝子面によく密着し、増殖をつづけている。無蛋白培地継代株はおそらくできると思われるが、問題は腫瘍性をおびないかどうかで、現在継代中の系の結果をみて、或いは酸素のBubblingを併用することを考えなくてはならないかも知れない。
 当研究室のこれまでの研究結果及び奥村君との共同研究の結果からみて、何れにせよ、培地中の血清(ことに蛋白)がin vitroの悪性化の大きな原因となっていると思われる。さらに通常の培養法は嫌気的傾向のの淘汰をおこなっている可能性も大きいので、変異した悪性細胞を優位に育ててしまう可能性がある。これらの理由から当研究室でははじめから無蛋白の培地で培養することを方針とし、あとは好気的環境を考慮するのである。
 1)の方は秋までには一応の整理をすませ、2)の方は秋まで続けば復元移植を試みるのと同時に、奥村君に染色体分析をたのむ予定である。ラッテの細胞は近々にはじめる予定であるが未だ着手していない。狙いはサルと同じ。この方が復元に金がかからない利点がある。
 (B)当研究室で無蛋白培地継代中の細胞株
 HeLaが2種とLが4種、静置継代されている。HeLaはHeLa・P1と・P2、前者は浮遊状態で増殖し、7日間に6〜7倍増殖。後者は硝子壁に附着し7日間に5〜6倍増殖している。L株は、L・P1、L・P2、L・P3、L・P4で、L・P1はPVP+LYDの培地で継代し、7日間に約20倍増殖。L・P2はLYDの培地で約20倍。L・P3は合成培地DM-12で継代しているが7日間に6〜7倍の増殖。L・P4はLDのみの培地で、約10倍の増殖率を示している。これら各系の染色体分布比較は現在奥村君が研究中である。L・P4はL・P1よりも栄養要求が低いのではないかと想像されるが、こうして次第に要求度の低い細胞を選んで行くと、動物細胞の合成能がどこまで到達できるものか、その極限も知り得るのではないかと思われる。
 (C)ホルモン作用の研究
 これまで殊に性ホルモンを中心として基礎的データをあつめてきたが、若しサル腎臓細胞の非腫瘍性株ができたら、これに4−ニトロキノリンを添加するのと別に、女性ホルモン殊にエストラジオールを与えて悪性化させてみたいと計画している。この意味で次の文献は興味がある。Kirkman,H.:Estrogen-induced tumors of the kidney in the syrian hamster.National Cancer Institute.Monograph,No.1,Dec.1959.
 そのほか、これまでHeLa・P1、・P2を用いた実験結果で、ホルモンの作用にはどうも蛋白の存在がかなり重要らしいので、この点をもう少し追究しているところである。
 (D)Collagen形成
 血清培地で継代していると、LはCollagenをもはや作らない。しかし少しこの細胞にとって好ましくない環境におくと、作る。たとえば無蛋白培地で3000rphで浮遊状培養すると、細胞塊のなかに作る。Hydroxyprolineの合成能は潜在的にいまだに持っているのであるが、ふだんはかくれているのである。この原因は何か。さきのHeLaが未だに、他の細胞と異なり、女性ホルモンに感受性をもっている点(増殖を促進される)と共に考えると、培養株は大抵皆同じような性質になってしまっていると云いながら、なお夫々何かしら、もとの細胞の特性をかくし持っていることがうかがわれる。非常に面白い。
 九大の高木株、予研の高野山田株、これと他のprimary cultureの細胞とをならべて、目下Collagen形成能を比較しているが、夫々相違がみられるのも興味深い。(九大、予研、伝研の共同研究)
 (E)Silica(珪素)の影響
 Silicaの影響をしらべているが、たしかにセンイ芽細胞(primary culrureのみ)の増殖が促進される。しかしCollagen形成は促進されない。本当であろうか。少し重要なことなので、心及肺のセンイ芽細胞を用い何回もくりかえしてやっているが、何しろ1実験やるのに1月かかるので仲々能率があがらない。
 (F)その他
 NBC社のラクトアルブミン水解物がLot番号によりかなりその栄養価及硝子面への細胞の附着効果に差のあることを今春の組織培養学会で報告したが、さらにこの点を血清培地についても比較し、増殖促進力の低い瓶の水解物をアミノ酸分析(イオン交換樹脂)して比較してみたが、いわゆる必須アミノ酸の組成はほとんどちがわない点からみても、ビタミン組成が問題ではないかと想像されるので、ビタミン添加実験を近々に行う予定である。
 § 国立予防衛生研究所病理       高野 宏一§
 (A)培養細胞の凍結保存
 保存液:ラクトアルブミン水解物培養液+Glycerol(最終濃度20%)。
 凍結方法:細胞100万個/mlを1アンプレに入れる。
 a.急速法:細胞浮遊液をアセトン・ドライアイス槽内で急速に凍結した後、ドライアイスボックスに入れ保存。
 b.緩徐法:細胞浮遊液をアンプルに分注後、そのままドライアイスボックスに入れて保存。凍結までに30分以上かかる。ドライアイスボックスをさらにdeep freezer内に保存。温度−79℃(ドライアイス昇華点)
 c.浮遊液をそのままdeep freezer内に保存。温度−20前後。
 融解方法:アンプレを37℃温水槽に移す。2〜3分で融解。その後氷水中に保存。遠心操作で洗浄2回。Glycerolを除く。
 細胞株:HeLa、L1(Changの肝臓)、A(HeLa亜株)、Pb(HeLa亜株)、AMFL(人羊膜)、KB,D6(Detoroit6)、CO(人結膜)、FL、IN(小腸)、L,BM(骨髄)、Ba(HeLa亜株)、HEp、WL(JTC-6・ラッテ肝)。
 保存成績:HeLa及びL1では1年後、他では5月後に、40〜60%の生存細胞を示し、継代可能。
L及びWL(JTC-6)では保存未完成。Glycerol濃度を検討中。
急速緩徐両方間に大差なし(1年後)
−20℃では保存不可能。
凍結−79℃→保存−20℃を検討中。
1年後の増殖率に変化なし。融解後の培養初代では細胞の細長化が強いが、次代以後正常(もと)の形態をとる。
 (B)RAT LIVER由来細胞の増殖に伴うHydroxyproline産生
短試静置培養によって細胞増殖に伴うHydroxyproline量の変動を測定した。本株は新生Wistar RatのLiverより分離したもので(JTC-6)。同系ratの心より分離された高木氏株(JTC-4)との異同を検討するのが目的である。
 結果は、今回の実験では細胞数の増加が予期したより低く、さらに第2回を計画中。
Hydroxyproline量はJTC-6では終始ほぼ一定域にあり、JTC-4が細胞増殖に伴い増加の傾向を示したのとは異なるようである。
 (C)免疫血清による細胞障害作用の特異性
HeLaのBa亜系(Ep-line)、Pb亜系(Fb-line)の細胞浮遊液で家兎を免疫(1回100万個細胞、皮下及腹腔内、週3回5週間)して得た抗血清で上記2系、人系数株、L,WL(JTC-6)に対するCytopathogenic effectsを検討。
 1.血清反応:Ba、Pb両細胞に対する凝集素値は両種血清とも、1:320、Soluble antigenによる補体結合反応の終末値は、1:4。
 2.C.P.E.:1:10稀釋で両血清とも使用。人系株すべてにCPE陽性。Ba、Pb相互間及び他系間に差異なし。
L(mouse origin)、WL(JTC-6;rat orihgin)では陰性で、species specificityのみ発現。
L及びWL(JTC-6)を抗原として免疫を実施中。

 § 東大薬学部生理化学教室       遠藤 浩良§
 内分泌学的研究の研究目的
 ホルモン平衡という生理的に重要な生体内因子が、腫瘍の発生及び増殖の場合にも関与していることは、当然考えられるところである。子宮癌、乳癌あるいは前立腺癌のような性器癌はその典型であるが、その他の癌性変化の場合にもホルモン平衡性を含む生体内部環境の異常による細胞内代謝系の量的変化が、やがて癌化という細胞自体の質的変化に転化することは考え得ることで、この場合特定の組織乃至器官が発癌しやすく、これが異常増殖を継続することは、各種の正常細胞の間にもホルモンに対する感受性の差があると同時に、それぞれの癌細胞とその起源をなす正常細胞の間にもホルモンに対する反応性に差のあることを推測させる。
 従って発癌機構解明のための基礎研究の一端として、組織培養法を利用して、正常細胞及び腫瘍細胞の差異を内分泌学的観点から追求する。
 現状報告
  従来私たちの研究室では、骨組織の培養という器官培養に終始し、全く細胞培養をおこなったことがなく、腫瘍細胞を扱うのも初めてであります。従ってまだ計画をねっている段階で、実験結果を報告するまでに至りませんので、次に大まかな実験の方針及び皆さんに御教示いただきたい点を述べるにとどめます。
 実験の方針
  種々の起源の腫瘍細胞及び正常細胞について、インシュリン、脳下垂体生長ホルモン、甲状腺ホルモン或いは副腎皮質ホルモン等、糖代謝に関係するホルモンを単独あるいは同時に作用させたときの細胞増殖及び糖代謝の変化を定量的に追跡する。
 御教示いただきたい点
  腫瘍細胞の腫瘍性は復元などで証明されるにしても、正常細胞の“正常性”はどのような基準から云ったらよいのでしょうか。胎児性の細胞はある意味では腫瘍細胞に近いとすると、正常細胞としてはどのような細胞をえらぶべきでしょうか。

 § 東邦大学医学部解剖学教室      奥村 秀夫§
 1.組織培養における血清蛋白と株細胞の遺伝的性質との関係
 昨年度はL株細胞の血清培地継代のものと、無蛋白培地継代のもの(血清培地継代細胞から駲化させた伝研L・P1)との間で精密に染色体構成の比較をおこなった結果、両種とも増殖の主力をなす細胞の染色体構成は同じであることが明らかとなった。この事実から培地の血清が細胞の遺伝的性質に一義的な役割をもっていないだろうと考えられた。
 a)本年度はこれを種々の株細胞についてしらべることを計画し、現在はHeLa株細胞について検討している。HeLa細胞では血清培地継代のものと無蛋白培地継代のものとでは僅かに差が見られ、後者の方が染色体数減少の傾向を見せている。しかし核型分析を詳細におこなってみなければ、前者で主軸をなしていた細胞が無蛋白培地に駲応したものか、新しい細胞が出現したのか判明しない。HeLa細胞は同数の染色体をもった細胞でも核型を異にする場合が多いために、核型分析は慎重を要する。一つ非常に興味深い結果は、L株細胞のときに見られたと同様に、無蛋白培地継代細胞群の方が、染色体数分布がかなり狭くなっていることである。L、HeLa両株にみられるこの現象は、たしかに血清の有無に密接な関係をもっていると云い得よう。血清が原因していると思われる染色体の数的変異の拡大に対し、血清中の如何なる成分が要因となっているかを今後は明らかにして行きたい。 b)無蛋白培地継代のL株細胞(伝研L・P1)から合成培地DM-11及-12に駲化させた細胞(L・P3)の染色体数の分布は明らかに減少を示している。現在までの結果では、染色体数の主軸が78本から74〜76本に移行している。DM-11とDM-25との間には明瞭な分布の差が見られていない。今後は成分のことなった種々の合成培地による細胞の染色体構成を分析して、培地中の各成分と、細胞の遺伝的性質との関連性を見出したいと思う。
 2.組織培養株JTC-1及-2(ラッテ腹水肝癌AH-130)から、伝研に於て数種のColonial clonesをつくっているが、各Cloneの染色体数を分析すると、現在までの結果では、比較的純度の高い近2倍性のものと、未だ純度の低い近3倍体性のものとの2系統が分離されたことが判った。今後はできるだけ純度の高い細胞系を樹立し、種々の実験による細胞の遺伝的性質の遷移を明確にし得るようにする。現在私の研究室でLとHeLaの各、単個培養を試みているが、未だ好成績を得ていない。
 3.組織培養による発癌機構の研究に役立つため、正常細胞を正常のまま長期培養できるか否か、細胞遺伝学的立場より大いに協力をおしまない所存である。

 § 九州大学医学部第一内科       高木 良三郎§
 “IN vitroにおける発癌”に関する研究
 正常細胞の悪性化をin vitroに於て追求する手段として、悪性腫瘍組織よりマイクロゾーム分劃及びリボ核蛋白、デオキシリボ核蛋白を抽出し、これを正常組織由来の培養細胞に作用させて、その変化を形態学的及び免疫学的に観察したいと思う。まだ実験に着手したばかりであるが、悪性腫瘍組織からの核蛋白の抽出は終ったのでこれを報告する。悪性腫瘍組織としては今回は移植性腫瘍でマウスに類白血病様反応をおこすMY肉腫を用いた。 MY肉腫よりのマイクロゾーム分劃及びリボ核白、デオキシリボ核蛋白の調整
 (1)Whole microsomesの調整(Littlefield法の変法)
1)肉腫片(5.7g)を無菌的に切出し、直ちに-20℃に保存。
2)これに0.25M蔗糖15mlを加えてワーリングブレンダーに約4分間。
3)ポッターのガラスホモゲナイザーで1分。
4)冷凍遠沈器で13,000G:15分→核(ミトコンドリアも含む)部分と細胞質部分とを分離し、細胞質蔗糖液34mlを得た。
5)この内10mlをさらに105,000G45分間高速遠沈してmicrosomal pelletを得た。
6)このpelletに蒸留水10mlを加え、whole microsome suspensionとした。
7)このsuspension 1mlに等量の10%トリクロール酢酸を加え、生じた沈殿をさらに5%トリクロール酢酸、アルコール及びエーテルで洗い、70℃の5%トリクロール酢酸を15分間作用させて、2回にわたりRNAを抽出し、オルミノール反応でこれを定量。
結果:RNA-P:42.5μg/ml、RNA:425μg/ml。
 (2)RNA(リボ核蛋白)の調整(Littlefield,Keller,Gross,Zamenickの方法)
1)上述の細胞質液34mlから3mlをとり、44,000Gで30分遠沈、microsomal pelletを得、これにデオキシコール酸60mgとグリシルグリシン緩衝駅5mlを加えて浮遊させた。
2)さらに105,000Gで30分遠沈、得られたRNAの沈殿を蒸留水でよく洗い、蒸留水3.8mlを加えてRNP浮遊液を作った。
3)この浮遊液1mlをとり、トリクロール酢酸を加えて生じた沈殿をアルコール・エーテルで洗った後、70℃の5%トリクロール酢酸で15分宛2回に渉りRNAを抽出し、これをオルミノール反応で定量した。
結果:RNA-P:30μg/ml、RNA:300μg/ml。
 (3)DNP(デオキシリボ核蛋白)の調整(核単離はMirsky,Pollisterの法による)
1)(1)-4)の法で得られた核部分(ミトコンドリアも含む)を集め、これに冷生理的食塩水を加えて洗い、
2)次に1M食塩水を加えて粗DNPを抽出し12,000rpm60分で沈殿物を除き、
3)この上清に6容の水を加え、食塩濃度を0.15M程度に落して糸状のDNPを得た。
4)これをさらに0.15M食塩水で洗い、遠心沈殿を20mlの蒸留水にとかしDNP水溶液を得た。5)この1mlをとり、ジフェニールアミン反応によりDNA量を定量。
結果:DNA-P:23.3μg/ml、DNA:233μg/ml。
 以上の操作はすべて可及的無菌的に行い、また用いた試薬も滅菌可能なものはすべて滅菌して用いた。このようにして得られたWhole microsome、RNP、DNP浮遊液は塩類濃度の調整をおこなってから培養細胞に使用する予定である。

 § 大阪大学医学部第二外科(兼阪大癌研)伊藤 英太郎§
 1)現在までの仕事
 例の“悪性腫瘍組織中に含まれるL株細胞の増殖促進物質について”をつづけて居ります。この詳細は“Gann”の1959-60に報告してあります。
 2)今後の予定
a)L・P1による同調培養において、各時期のRNA、Protein量の消長を検討して、細胞分裂の化学的機構を追究する。
b)同調培養の各時期に(1)の促進物質を働かせてその作用点を検するなどを考えて居ります。秋頃までは(1)を続けなくてはなりませんので、(2)はそれからになりますが、なるべく早く(2)にとりかかりたいと思って居ります。

【勝田班月報・6002】
《勝田甫》
A)サル腎臓細胞の培養
 1)培養の基礎条件:
 予研の多ケ谷氏との共同研究で、同氏より目下のところ週2回サル腎臓の供給をうけ、そのprimary cultureについて、基礎条件をしらべている。容器は短試で5゚に傾斜静置、37℃加温、クエン酸処理による細胞核数算定を用いた。
 牛血清至適濃度・・0.4%ラクトアルブミン水解物と共に各種濃度に牛血清を加えてみると、5%の濃度が最も細胞の増殖が良く、4日間で既に10倍以上の増殖を示す。
 ラクトアルブミンの至適濃度・・牛血清を5%添加した場合と、血清の代りにPVP(AMW:70万)を0.1%加えた無蛋白培地と、その両者について、各種濃度にラクトアルブミン水解物(NBC)を加え、至適濃度を求めたところ、その両者とも0.4%が至適であることが判った。 現在、無蛋白培地(PVP+0.4%水解物)内でのPVPの至適濃度をしらべているところであるが、0.05%がよいか0.1%がよいか、未だ決定できる処までは行っていない。サル腎臓の供給は7月1杯で大体中止となり、あとは9月になるので、でき得る限り7月中に基礎条件をしらべてしまうべく、日曜も無休である。
 2)無蛋白培地による細胞株樹立の研究:
 前報にも記したようにサル腎臓細胞を無蛋白培地でprimary cultureから培養継代できれば、悪性化さない細胞株が得られるのではないか、という想定から、材料の入るたびに新たにこの培養を試みて居る。容器は3角コルベンで静置培養。
 培地ははじめに(PVP 0.1%+ラクトアルブミン0.4%)の培地と、これにイースト浸出液
0.08%をさらに加えたものとの2種を試みたが、后者では細胞が液に浮遊したまま、何日たっても硝子壁に附着せず、増殖も悪いのに対し、前者ではきわめてゆっくりではあるが、細胞が着実に増殖し、硝子面にも附着する。10日ほど培養するとコルベンの底面の半分位が細胞シートでおおわれてしまう。これは3回こころみたが何れも同様の増殖度であった。問題は継代法である。EDTAを用いれば容易であるが、EDTAにはmutagenicの効果があるとの説もあり、JTC-1及び-2の株がAH-130と染色体数まで異なるのは或は少しはそんな影響があるか、とも考えられるので、trypsinを用いてみたが第1回は失敗に終った。むしろ何も薬剤を用いずに機械的に硝子面から剥離できればその方がいちばん良いのではないかと考え、trypsinの低濃度使用とともに近々の内に試みてみる予定である。
 何れにせよ悪性化さない細胞株の作り方を樹立するということは各領域から見てみわめて重要な命題であり、ぜひとも日本人研究者の手でなしとげたい問題である。
 B)ラクトアルブミン水解物の製品むらの追究
 今春の組織培養学会で報告したように、NBC社の水解物にはきわめてむらが見られる。各種のlot No.の製品をならべてみると、黄色味を帯びたものと、そうでないもの、その両者がまだらに混っているもの、の3種が見られる。無蛋白培地で継代しているL・P1細胞の培養に使ってみると、lot No.が3000番以前のものならばまず良いが、5000から6000、特に9000番台になると、細胞の増殖が悪いだけでなく、硝子面に附着しない。市販品の製品むらを追究してみたところで別に学問的意味は少ないが、L・P1及びHeLa・P1、P2などの無蛋白培地継代細胞の維持に困ることと、さらに若しそれによって硝子面への附着力の機構が少しでも判れば面白いと思って、ここ数カ月に渉ってこの問題をしらべてみた。
 細胞はL・P1を用いてみたが、最悪の結果を示すのはlot No.9673で、対照にはNo.2283を用いた。対照実験として血清培地(牛血清5%)継代のL株についても用いてみたが、こちらではほとんど差が見られなかった。まずNo.9673をイオン交換クロマトでアミノ酸全分析してみると、いちばん大きな、No.2283との相違はグルタミン或はグルタミン酸(この両者はクロマトで一つの共通のピークとしてあらわれる)の量がNo.2283の半分しかない、ということである。そのほかすこし少いものとして、Met、Thr、Ilewがある。そこでNo,9673のなかのグルタミン+グルタミン酸の量が全部グルタミン、全部グルタミン酸、両者が半分宛との3種の想定の下に(No.2283+100mg/l)になるように夫々加えてしらべてみたところ、初めの内はグルタミンのみを加えた方が増殖がよかったが、7日后では加えた群は何れも同じようにNo.2283と同じ位の増殖となった。これに対し何も添加せぬNo.9673の群ではあきらかに増殖度が低かった。すなわち、No.9673にグルタミン酸150mg/lを加えた群は7日后には対照よりわずか上くらいの増殖を示すが、2、4日后では対照より低い。No.9673にグルタミン酸80mg/lとグルタミン100mg/lの両者を加えた群では、2、4、7日后ともほとんど対照と同様の増殖が見られた。但し、これらの添加群では初めの数日は細胞の硝子面への附着がきわめて回復されたが、その后次第にまた硝子面からはがれて行く傾向をみせたので、グルタミンとグルタミン酸を加えただけでは完全には附着問題を解決できないことが判った。また最適と思われる(グルタミン:グルタミン酸)の量比のままで、両者の濃度を各種変えてみたが上記のものに劣った。グルタミンのみをさらに高濃度に加えても増殖度及び附着力は何れも濃度に比例して抑制された。メチオニン、スレオニン、イソロイシンを別個に添加してみると、夫々少しは無添加よりも良い結果を示すが、グルタミン及グルタミン酸の添加ほど顕著な効果はみられなかった。
 ビタミンについては、アミノ酸分析をおこなう前に一番さきに疑を持ち、合成培地DM-12と同組成のビタミン混合液を各種濃度にNo.9673に加えてみたが、反って濃度に比例して増殖が抑制された。
 現在、グルタミン+グルタミン酸にさらにメチオニン、スレオニン、イソロイシンを添加する実験をおこなっている。これらの問題が外国、殊に米国の研究者の間で問題になって居ないのは、無蛋白培地で細胞を培養している者がきわめて少い上、その場合にもラクトアルブミン水解物を用いていないためと考えられる。

《高野宏一》
 (A)No.6001に記載したと同様の方式で現在保有している約20株(亜系を含む)の細胞株につき第2回目の凍結保存を実施中。さらに詳細な条件の検討をすませ、確実なdataを掴んだ上で6月〜1年に1回の“虫干し"を毎週の継代にかえる予定。これは時間・経費・労力の節約のみならず、細胞変異の研究上、えられた変異株をそのまま保つのに有用な方法であると期待する。もっとも後者については、凍結という条件による選択によって細胞集団の構成が変化する可能性も否定できないので、種々の観点から検討する要がある。
 a)今回は、前回不成功であったLとWL(JTC-6)の凍結保存に特に重点をおいた。重要な点はglycerolの濃度らしいので、Lは5%、WLは5%及び10%で試みる。Lはすでに凍結実施、WLは近日中の予定。両者とも1ケ月の間隔で成績をとる。
 b)100万個の細胞を1mlの浮遊液として容量5mlのアンプルに入れても、0.5mlで2.5mlのアンプルに入れても、共に保存可能であるが、細胞浮遊液調整上からは前者がよく(分注誤差を含め)保存時の取扱上からは后者アンプルの方が便利(一つのJarに多く入る)なので、2.5mlアンプルに1mlの浮遊液を入れる場合の効果を検討する。HeLaを材料に凍結を実施した。 c)凍結開始時と温度の(保存中の)影響:前回の実験で急速法よりも緩徐法の方がやや良好な保存成績を示した点、及び凍結后1ケ月よりも後期の方が高い生存率を示した事実(さらに繰返し確かめる必要はあるが)から、細胞が最終の単位まで静止の状態に達するのに案外時間を必要とするのではないかとの推定から、従来の方法で1ケ月-79℃に保存したHeLaをドライアイスボックスからdeep freezer(約-20℃)に移した群について検討し、凍結時温度と保存温度との関係をみる実験を計画中。
 (B)RAT LIVER由来細胞(JTC-6)のHydroxyproline産生
 伝研組織培養室との共同で第2回の実験をおこなった。
 細胞は前回よりも良好な増殖を示した。Hypro産生は大体前回と同様の傾向を示し、終始略一定の域内にある模様。但し接種材料(培養0日)の含量が非常に高い値を示した。接種材料のみトリプシン処理による浮遊液を用い、他は培養管壁に附着増殖した細胞を機械的に剥して材料とする点、手技上の差異があるので、この影響をみるための小実験を実施中。すなわち10万個宛を接種した培養管10本を2群に分け、培養開始后4日で、1群は機械的に、他はトリプシン処理で細胞を集め、細胞数及びHypro含量を測定比較した。結果は次回に報告。
 
 (C)抗細胞免疫血清による細胞障害作用の種属特異性−
 HeLaの細胞浮遊液で家兎を免疫した抗血清を各種細胞株の培養に加え、人体由来細胞に共通してCPE陽性、Rat及びMouse由来では陰性の結果を得たので、今回はRat由来のWL(JTC-6)及びMouse由来のLで免疫して得た抗血清を用い、両細胞株で交叉的にCPEを観察した。 免疫方法:長期免疫による高力価免疫血清を得るために、1959年9月から大体1週1回、200〜300万個cellsの浮遊液を家兎の耳静脈内に接種途中2ケ月中断したが(火事のため)、1960年6月迄継続した。
 CPE:両種免疫血清を両種細胞(培養5〜7日)に加えると、それぞれ対応した免疫血清を加えた群に20時間で明らかなCPEを認め、他種の免疫血清では対照と殆んど差のない程度の非常に軽度な変化が認められるのみであった。RatとMouseとの間には抗原性の類似が無いか、あっても非常に僅かな程度と考えられる。
 さらに両種血清を人体由来細胞に加えて影響を観察する予定。

《遠藤浩良》
 (A)HeLa株細胞に対する各種ホルモンの影響の生化学的解析
ProgesteroneがChick embryo heart fibroblastsの増殖には抑制的であり、Rat asciteshepatome cellsに対しては影響のない濃度で、HeLa細胞の増殖を促進することは、癌の面からのみならず、内分泌学的にも興味ある問題である。即ちHeLa細胞が由来する子宮頸部の上皮細胞は、健常時にはMenstrual cycleに従って、具体的には卵胞ホルモンEstrogen(Estradiolその他)と黄体ホルモンGestagen(天然にはProgesteroneしか知られていない)の量比の変動に従ってその増殖が著しく変化する。子宮内膜は排卵前にはEstrogenの作用下で漸次肥厚し(増殖期)、排卵后Progesteroneが急激に増加すると更に肥厚して子宮腺の分岐が盛になり、多量の粘液を分泌するに至る(分泌期)。10年近くも継代されたHeLa細胞がこのようなProgesteroneに対する反応性を保持していることは非常に重要な知見であろう。更にTestosteroneのHeLa細胞に対する増殖抑制作用が、natural estrogen(Estradiol)及びProgesteroneによって拮抗されるという知見は、生体内におけると同様なホルモンに対する反応性をHeLa細胞がいまなお保持していることをさらに裏書きしたもので、きわめて興味ある事実である。
 そこで、このように増殖が促進あるいは抑制されたときの細胞活性の量的あるいは質的な変化を知ることができれば、HeLa細胞のintrinsicな生物学的性状を知る上にも、またこれらのホルモンの作用機序を解明する上にも貴重なデータを提供することになるであろう。 さて細胞活性の変化を生化学的に分析するとすれば、まず核酸代謝、糖代謝などの面をオーソドックスな方法で追跡することができるが、何人ものエキスパートの手で一挙に多正面作戦を敢行するならばいざ知らず、私たちの処のように1人2人で他の実験も併行しておこなうとなると、既知酵素の一つや二つを測定してみたところで、このような面では細胞増殖と細胞機能の関連について現在とられている考を支持する無数のデータに同質の結果をただ一つ加えるにすぎない可能性が大きい。
 そこで私たちは、拡大膠着した戦線に加わることを避けて、全く新たな橋頭堡を確保するため少数精鋭(?)による奇襲攻撃可能な地点を探すことにしました。
 その条件は、
 1)得られた結果がいきなり抽象的な細胞増殖の問題に還元されず、まずあくまで具体的に前述の生理的状態との関連に於てHeLa細胞の生物学的性状を解析する上でSignificanceを持つこと。
 2)その方法を他種細胞へ拡大したときの結果からは、今度は一般的な細胞の機能の問題としてもSignificanceを持つ可能性のあること。
 3)それらの結果が別途に行なっている私たちの実験にも何らかのinformationを得る事。 4)これらの大きな望みにも拘らず技術的には私たちの弱体な戦力にとっても比較的容易であること。
 以上のような大変慾ばった要請から出発して、私たちはAminopeptidaseをとりました。その理由は、
 1)組織化学的に、子宮頸部の上皮基底層と子宮粘膜腺上皮には、正常な場合にも病理的上皮形成、例えば上皮性癌腫の場合にも、強いAminopeptidase活性が認められる。(ただこの場合子宮粘膜上皮に一様に活性があるのでなく、結合織細胞に接する部分に局在するので、HeLa細胞もこの活性をもっている筈だとは断言できない)。さらに、これまで頸部粘液には蛋白分解酵素が認められていなかったが、di-あるいはtri-peptideを用いて、数種のAminopeptidase活性が証明された。これは頸部粘液腺に由来するが、この活性の増大がErosionを起させるのではないかと想像される。
 また、一方Operation或はAutopsy specimenでtumor cell及びstromaにはaminopeptidase活性が特に高い(この場合は胃癌、輸胆管癌及びそれらの淋巴腺転移)。
 2')生体内では一般に細胞機能の盛んな組織ではaminopeptidase活性の強いことが組織化学的に証明されている。そこで、他種の正常及腫瘍細胞について同様の測定を行ない、またintact animalについての結果と比較すれば一般的な生理学的な問題として、現在ほとんど判っていないaminopeptidaseの存在意義について貴重な知見を加えることができる。 3')現在私たちは、別にiminopeptidase(prolinase)について研究を行なっているが、これはどちらかといえば、特別な意味をもつ酵素といえるので、その対照として一般的な
aminopeptidase活性との比較をおこなうつもりである。その意味で前述の知見が得られるものならば極めて有意義である。
 4')Leucineの利用率が最も高いL・P1の構成蛋白がHeLaのそれと酷似していることや、一般的な知見からして、aminopeptidaseが存在するならば、leucine aminopeptidase活性は最も高いものの一つであると考えられるので、l-leucyl-β-naphthylamideを合成基質とし、遊離するβ-naphthylamineを比色定量する方法を応用すれば、前述の子宮頸部粘液についておこなった真正ペプチドを用いる測定より遥かに感度よく検出できる筈であり、これなら私たちの技術を活用することにもなり、また現在可能である。
 (B)HeLa細胞に対する各種ホルモンの影響に関する研究の今後の方向への提案
 1.合成黄体ホルモン作用物質の影響
 従来用いられてはきたが、近年特に経口避妊の目的から盛になった研究の結果、実用化された合成黄体ホルモン作用物質はほとんどすべてtestosterone誘導体であり、現在臨床的には僅かに持つその男性ホルモン作用により仮性半陰陽を生ずる可能性が論議の的になっている。
 従ってこれらの物質についてHeLa細胞に対するProgesterone作用とtestosterone作用を検討することは内分泌的にも興味ある問題であろう。
 [合成黄体ホルモン作用物質]
a.Ethisterone(17-ethinyl testosterone)・・・之は古くから用いられてきた。
b.17α-ethinyl-19-nortestosterone(“ノアルテン"塩野義)。
c.17α-methyl-19-nortestosterone(“ルテニン"帝国臓器)。
d.Norethynodrel(17α-ethinyl-17β-hydroxy-5(10)-estorene-3-one)・・・之は最近日本で 発売される筈。
e.17α-hydroxyprogesterone Capronate・・・之はlong actingな製剤として二三市販されて いる。エステルが外れた17α-hydroxyprogesteroneは作用がないのに、何故生体内で強 い黄体ホルモン作用を示すのか興味の持たれている物質である。
f.Amphenone・・・まだ実験的な段階であるが、黄体ホルモン作用をもつ初めての非ステロイ ド性化合物である。
 1.無蛋白培地ではなぜProgesteroneの作用があらわれないか
i)生体内では、steroid hormoneは血清蛋白と結合して存在するとされており、事実in vitroでもsteroidは血清蛋白と結合する。そこで、ProgesteroneがHeLa細胞内にとり込まれるためには、そのような蛋白結合型になることを必要とすると考えることも一応可能である。血清含有培地で培養するとき、Progesteroneが培地中の蛋白と結合するか否かは、incubation后の培地を濾紙電気泳動にかけて各蛋白分劃とProgesteroneの動きをみることにより、検出できるであろう。一方、血清でなく各種の蛋白そのものを添加した場合の成績を比較検討することにより、蛋白結合型の問題についてはある程度の知見が得られるであろう。
 ii)しかしProgesteroneのような分子量の小さいものが細胞膜を透過しないということは考えいくりことであり、しかも脂溶性であるSteroidは、蛋白結合型で運ばれるにしても、細胞膜を透過する際はむしろfreeとなると考えた方が自然である。とすると、無蛋白培地でも、血清蛋白が存在する場合でも同様の反応がでる筈になる。しかし実際は全く増殖が促進されないとなると、当然血清中にこの反応に必要な物質(単あるいは複数)が存在するのではないかという考え方も出てくる。そこで(i)の蛋白結合型の問題と併行して、血清中の透析性物質を添加した実験も試みてみる必要があるであろう。
 とにかくこのようにしてProgesteroneのHeLa細胞増殖促進作用の機序を解明する努力もきわめて重要であろう。
 (C)新知見
 i)PVPは骨のガラス壁への固着を助ける。培養の后半に雑菌感染を起したので確実なことは云えないが、Casamino acidだけで培養するという非常にガラス面に固着しにくい条件でも、0.1%PVP(M.W.70万)添加群の9日鶏胚大腿骨は全く落ちなかった。
 ii)PVPはアミノ酸摂取を高めるか。お恥しいことながら、后半雑菌感染を起したので化学的に確めたのではないが、0.1%Bacto Casitoneで9日鶏胚大腿骨を培養したとき、0.1%PVP添加群の長軸成長は無添加群より良いようであった。

《伊藤報告》
 先月号の皆様の御報告大変興味深く面白く拝見させて頂きました。なお私方の報告があまりに簡単にすぎたため勝田先生からお叱りを戴いた次第でしたが、誠に申訳なく思って居ります。それで今回は今迄の仕事について少しく報告させて頂きます。
 i)吾々は悪性腫瘍からの抽出物のなかにL株細胞の増殖を促進する物質の存在することを確認し、その物質のpurificationに進んでいるが、現在までに判ったところでは
 a)抽出液のエタノール30〜70%飽和で沈殿する分劃に促進効果をみとめる。
 b)100℃、30分の加熱に耐える。
 c)50〜70%飽和硫安分劃の中にある。
 d)非透析性である。
 e)澱粉柱を用いた電気泳動法で分劃すると、Folin反応のpeakに一致する分劃に含まれるが、この分劃は人血清のβ-globulinよりやや遅い泳動速度を示す。
 しかし有効物質が蛋白であるかどうか疑わしいので、現在trypsin、pronase処理、加水分解などをおこなってその影響を検討中である。
 又一方、再生肝組織でも同様エタノール分劃中にL株細胞増殖促進効果を有する物質の存在することを確かめ得たので、そのものと、悪性腫瘍中に含まれる有効物質との異同をも検討中です。
 ii)なお神前助教授の構想の下に、神前、青木、土井、伊藤などによって癌細胞より得た核酸或は核蛋白分劃による培養細胞の悪性化実験が約1年前より計画されていることをつけ加えます。
 C3H/HeNマウスの幼児肝細胞に対して、同一系マウスの腹水肝癌より得たDNA、DNP、RNA、
RNPを加えてその悪性化を見る方法と、Sarcoma37より得た各分劃をL株細胞に添加する実験で、目下材料の蓄積中で、9月より本格的実験に入る予定です。
 またこの悪性化をキャッチする方法に対する手馴らしとして、actinomycinによってL株細胞が悪性化するか否かを神前、青木のもとで実験中です。

《高木報告》
 (1)前報につづきMY肉腫から抽出したwhole microsome、DNP及びRNPを培養細胞に入れてみた。今回は一応毒性をためすべく種々の濃度を使用した。
 組 織:ddNマウス胎児皮筋組織
 培養法:タンザク培養、ヘパリン血漿のみを用いて組織片をタンザクの上に附着せしめ、     これに培養液1mlを加えて静置培養した。
 培養液:LYH培地(80容)+牛血清(20溶)
 添 加:培養5日后の細胞にこれらを作用させた。これら抽出物は蒸留水に浮遊(一部溶けた)した状態で-20℃にたくわえてあるので、使用にあたってこれに等量の倍濃度のLYH培地を加え、さらに20%の割になるように牛血清を加えてから培養細胞に作用させた。
 従ってたとえばwhole microsomeでは初め425μg/mlあったものがこれらの操作により、実際に細胞に作用さす場合には最高濃度が170μg/mlとなるわけである。
 次の各濃度を用いた。
W.M. 170 85 42 10.5 1
DNP 93 41 10 1
RNP 120 40 10 1
4日毎にredosingする積りであったが、2回目の抽出実験は収量が少なかったため、これを用いることができず、1度redosingしただけで以后は培地の追加、交換は行わずに観察している。
 現在(DNP、W.M.は17日目、RNPは13日目)顕微鏡の弱拡大で観察する程度なので、はっきりしたことは云えないが、添加后1週間后頃から、いずれも高濃度に於て細胞のはえ方が疎になったような感をうけるだけで、特に形態の変化は認められない。従って長期間作用させる場合100μg/ml前后の、かなり高濃度が使用できるようである。
 鶏胚(9日卵)皮筋組織にも加えてみたが、この細胞は増殖も早い代りに変性もおこし易く、かなり長期間の観察には適さないように思われる。
 抽出の全操作を無菌的におこなうことはかなり煩雑であるので、今后操作は特に無菌的には行わず、その代り最后にアルコールでこれを洗ってこれをさらに生理的食塩水で数回洗い、アルコールを除いてから使用してみようと思う。また最后に蒸留水にとかさず、LYHに溶かした方が添加する際の操作が簡単のように思われるが、LYHにとかすと粗な沈殿物を生じてhomogeneousになりにくいため、やはり蒸留水にとかしてたくわえておき、使用に際して倍濃度LYHを加えて調整した方がよいように思う。
 なおこの実験と平行してこれら抽出物をddNマウスに注射してleukemoid reactionが起るか否かも検討しようと思う。但しleukemoid R.は蛋白その他の物の注射によっても起り得るので、対照は厳重にとらねばならないと思っている。注射量は1D.u.,5日間注射して検討してみるつもりである。
 以上のような方法で一応スタートしたわけですが、実験方法及び材料などで何か御気付きの点があれば、どうぞ御教示下さい。
 (2)Immunocytopathogenic effectの検討
 これまで2〜3細胞株の免疫血清を作ってCPEを観察してきたが、細胞の免疫血清を作るにはかなり多量の細胞を必要とし、またあまり高い抗体価は望めない。そこでadjuvantの使用を考えてFreundのadjubantを作製した。このadjuvantと一緒にどれ位の細胞を注射すればよいか検討しなければならないと思う。

【勝田班月報・6003】
《勝田報告》
 A)サル腎臓細胞の栄養要求
 成サルの腎臓細胞(皮質部、おそらく上皮細胞)のprimary cultureについて、栄養的面よりみた基礎条件を検討してきたが、最もおどろくべきことは、成動物細胞、少くともこのサル腎臓細胞の増殖には鶏胚浸出液が不要であるということで、胎児組織細胞との間に高分子要求に判然とした区別のあることが判った。これによって、今后、成体と胎児の細胞の間の栄養要求も今后追求して行かなくてはならぬことがはっきり示されたし、鶏胚浸出液をマウスの皮下に接種してもそこにセンイ芽細胞の増生が惹起されぬ理由ものみこめたのである。
 用いたサルは予研多ケ谷研究室より分与された成サルで、腎臓の皮質を細切し、トリプシン処理をおこなうが、多ケ谷研究室では冷蔵庫中で一晩処理する由であるが、我々は
0.25%PBS溶液(DIFCOのtrypsin、pH=7.6)で、初め室温1時間magnetic stirrerで処理し、出てきた細胞はすてる。次に15分宛かけて、遊離した細胞を氷冷中に保存し、3〜4回くりかえした后poolした細胞をまとめて遠沈にかけ塩類溶液で洗い、培養に用いる。培養法はsimplified replicate tissue culture methodである。培養に用いた基礎培地は、牛血清5%、ラクトアルブミン水解物0.4%、塩類溶液(処方D)である。
 1)牛血清の至適濃度・・・この細胞の高分子要求度は低く、5%血清が至適であった。この培地での7日間の増殖率は18倍。
 2)Lactalbumin hydrolysateの至適濃度・・・血清のある場合も無い場合(PVP 0.1%加)もO.4%が至適で、7日間で前者では22倍、后者では5.7倍の増殖が得られた。
 3)PVP(分子量70万)の至適濃度・・・牛血清5%存在下では0.1%PVP添加が最も増殖を促進し、7日間で16倍。無蛋白の場合にも0.1%PVPが至適で7日間で4.3倍の増殖をみた。
 4)牛血清の透析・・・この細胞の増殖にはやはり内液が必須であることが示された。
 5)牛血清蛋白至適濃度・・・上記の透析内液を各種濃度に培地に加えてみると、10%が至適であった。
 6)PVPの血清蛋白置換率・・・0.1%PVP添加培地に各種濃度に牛血清透析内液を加えてみると、2%加えた場合に10%牛血清透析内液のみを加えた対照群と略同等の増殖率を示した。即ち、0.1%PVPの存在は必要とする蛋白の80%容を置換し得る能力のあることが判った。
 7)Yeast extractの影響・・・培地にyeast extract(DIFCO)を加えると反って増殖が抑制された。0.04%ではまだcontrolより少し劣る位であるが、0.08%では殆ど増殖が起こらなかった。
 8)鶏胚浸出液の影響・・・5%及10%の2種に加えてみたが両群とも培養の初めから急速に細胞が破壊され、7日后には両群とも細胞数が0になった。これはラッテ腹水肝癌細胞に於て見られた現象と似て居り、鶏胚浸出液の存在を必須とする胎児細胞と、根本的に異なる点の一つであろう。そして、あるものでは20倍以上にも(7日間)増えている、ということは、この知見が確かなものであることを示していると思われる。
 しかし生体のなかでは、この場合の培地と同じような組成の栄養物が体内を廻っている筈であり、してみると、生体内で増殖が滅多に起らないのに、この培地で盛に起るのは、ごくわずかな低分子物質が関与しているのかも知れない。低分子物質となればその解析、追求ははるかに高分子より楽であるから、成体細胞の増殖機構の解明は胎児細胞よりもきわめて容易に、近い将来に、なしとげら得るものであるかも知れぬ。しかしこの場合にあくまで考慮しなくてはならぬことは、生体内に於てのみ発現する抑制物質の存在の可能性である。また成体細胞のなかでは腎細胞が最も培養の容易な点よりみて、抗癌物質のin vitroでの検定の際の、副作用の試験に用いるのに、この成体腎細胞のprimary cultureが最も適しているのではないかと思われる。
B)サル腎臓細胞の無蛋白培地内株化の計画:
 さきに屡々記したようにin vitroで長期継代中に正常細胞が腫瘍化してしまう一つの原因として、anaerobicの培養環境と、培地内血清蛋白の影響がかなり重要なものであろうと指摘し、初めから無蛋白培地を用い、しかもなるべく好気的な環境を与えることに依って、腫瘍化さない細胞株が得られるのではないかと推定し、サル腎臓細胞についてこれを試みているのであるが、7月4日に培養に移した細胞系が下記の如く今日までつづいて居り、盛に増殖をつづけて居る(率は低いが)ので、株化の見込は大きいと思われる。
 第1代:昭和35年7月4日、三角コルベン2ケ(100ml1ケ及300ml1ケ)、TD-40瓶1本に培養した。300ml三角コルベンは7月18日に希薄のtrypsin溶液を用いて継代を試みたが、以后の増殖が見られなかった。EDTAはその前に試用してこれもうまくないことが判っていたので、以后の継代法はもっばらピペットの先でかき落し、それを軽くpipettingする法をとることにした。
 第2代:(1)7月31日にTD-40瓶より、一部をかき落し短試2本へ(直立)
     (2)8月13日 100mlコルベンより一部をかき落し短試2本へ(直立)
(3)8月22日 100mlコルベンより一部をかき落し短試6本へ(直立)
 第3代:8月27日、第2代の(2)をTD-15・1本へ移す
 上記のように初代の一部だけを落して継代しているので、初代もまだ残っているがかき落したあとにはすぐにまた細胞が増生してくる。継代した方がきわめて順調に細胞が増えている。無蛋白培地はPVP 0.1%+ラクトアルブミン水解物0.4%+塩類溶液
 C)その他
 サル腎臓の他に、ウマの腎臓についても血清培地と無蛋白培地で株化を試みている。また発癌実験に便利のようにJAR系ラッテの腎臓についても近日中に同様の試みをはじめる予定である。その他の細胞についての研究業績は次号に於て発表することにする。

《遠藤報告》
 A)HeLa株細胞に対する各種ホルモンの影響の生化学解析(2)
 前月の研究連絡月報で、HeLa細胞の増殖に対するAndrogen、Estrogen及びGestagenの影響をLeucineaminopeptidaseの面から調べてみたいということを述べました。
 しかし前月の報告に関する限り、全く他人様の報告からだけ出発したspeculationで内心これでHeLa細胞にLeucineaminopeptidase活性がなかったら引込みがつかないなと心配だったのですが、先日伝研組織培養室で血清培地を用いて培養したHeLa細胞1500万個を頂き、そのhomogenate上清を基質(L-leucyl-β-naphthylamide)溶液とincubateし、遊離されたβ-naphthylamineを呈色させて比色定量するという通常の方法で予試験をおこなったところ、HeLa細胞は予想以上に強い活性を持つことが確認されました。Growing ratの各種臓器については、すでに調べてありますが、その中で活性の強いものの一つである肝臓を上廻るほどであります。
 現在の所想定した酵素活性の存在を定性的に確認しただけで、これが果してホルモンの処理によって変動するかどうかは今后の本実験によるわけですが、自分勝手なspeculationもさして間違っていなかったらしいと、ほくそ笑みながら9月以降の実験に腕を撫しているところであります。
 B)HeLa株細胞の増殖に対する合成黄体ホルモン作用物質の影響
 前月の報告のB-1)で、最近繁用されているtestosterone誘導体に属する合成黄体ホルモン作用物質がHeLa細胞の増殖に対してどんな影響を及ぼすかということは、臨床的にまで関連して興味ある問題であると述べましたが、伝研組織培養室ではここまで手がのばせないとのことなので、この面も私たちの所でやらせて頂くことにしました。
 現在testすべき物質を集めて居りますが、すでに二、三手に入りましたので、これも9月から着手する予定であります。
[質問]私たちは血清として“日本薬局方・健康人血清(乾燥)”を使おうと思って居りますが、どんなものしょうか。

《高野報告》
 A)培養細胞株の凍結保存
 現在までに手持ち約20種の細胞株をほとんど全部凍結に移した。HeLaおよびKBのLh-人血清培地継代株は凍結したが、Lh-牛血清およびTPB-人血清継代株はまだなので、HEp#2と共に準備中。
 a)マウス由来細胞凍結条件としてGlycerolの濃度については近々1ケ月目のdataをとる。 b)HeLaにつき100万個cellsを1mlの浮遊液として、容量2.5mlのアンプルに入れる場合と、0.5mlにして入れる場合とで、保存1ケ月目に両群それぞれ3本宛アンプルを開き、全内容を1mlの新鮮培養液に再浮遊し、角tube1本宛に分注して培養を開始した。融解−再浮遊時の生細胞算定(Nigrosinによる)では1mlの方が生細胞多く、培養4日后にEDTA処理で調整した浮遊液中の生細胞数も大体その傾向を維持した。
 この4日后の浮遊液をそれぞれ角瓶1本宛に移し、培養続行中。4ケ月后のdataをとった上でなければ結論はでないが、1mlの方が保存良好ときまれば、操作上都合が良い。
 c)凍結細胞の炭酸ガス-incubatorでの培養:従来凍結保存を終了し、細胞を再び培養に移す場合は上述の要領で行なっていたが、数種の株、殊に凍結時の細胞数がやや少なかったものや、アンプル数の不足で慎重に扱わねばならぬものについて、融解后4mlの液に浮遊し、それぞれ1枚宛のシャーレ(径6cm)に入れ、炭酸ガス-incubator内で培養した。増殖状態は以前の方法より良好な様であるが、定量的に比較してないので、再検討の要がある。
B)RAT LIVER由来細胞(JTC-6)のhydroxyproline産生(伝研組織培養室との共同研究)
 No.6002に、細胞増殖に伴うhyproの産生は終始略一定値を保つ事実を再確認する一方、接種材料中のhypro量が高いことを報告し、trypsin処理の影響をしらべる必要を述べた。その后trypsin処理と機械的剥離とでhyproの含有量に余り差のないことを確かめると同時に、前回の接種材料ではNigrosin溶液と等量混合して材料中の生細胞数算定を行なった際の稀釋率を計算に入れるのを忘れた事実が明らかとなった。つまり前報の接種材料についてのHypro含量0.001μg/1000cellsは実際には0.0005μg/1000cellsが正しく、接種材料が特にHyproが高い訳ではなかった。(どうもお恥しいmistakeです。しかし実験中のprocessや時刻を如実に記しておくwork sheet systemのお陰で誤を正せたのはせめてもです。自慢にもなりませんが。)
 C)抗細胞免疫血清による細胞障害作用
 a)抗マウス細胞(L)血清及び抗ラッテ細胞(JTC-6)血清のヒト細胞に対する作用をみるべくHeLaで準備中。以前のdataが確かならCPEは出現しない筈。
 b)抗血清による細胞障害作用発現の経時的観察
 保温装置つきの撮影セットができたのでJTC-6が抗血清で障害される経過を位相差で追究した。抗血清添加后同一材料を継続観察すると、形態的変化は約2時間后に出現しはじめる。独立して存在する細胞は収縮した后に爆発的に破壊され、細胞質物質が遊出する。他の細胞と密に近接した細胞は収縮しないまま内部構造が変化する。
 抗血清添加后経時的にNigrosinを加えて観察すると、上記の収縮破壊される細胞は染色されるが、収縮しない細胞は2時間の観察では染色されなかった。収縮できない条件にある(恐らく単純に物理的な意味で)細胞の変化が細胞に及ぶのが遅延するためか、或は相互に接着した状態の細胞膜は透過性が変化しにくいのか(Nigrosinは本来細胞浮遊液に用いる)今后検討する。
 (浮遊状乃至孤立した細胞の方が、壁面に伸びた細胞より表面が密になり易く、色素蛋白をとりにくいと思うのですが、どうでしょうか?)
 D)培養細胞のToxohormone作用(癌研・大橋氏との共同研究)
 これは以前からの継続(断続?)実験。HeLaの培養上清にToxohormone作用のあることは一応確かめたが、培養液対照殊にLact.hydro.が時によって不定の態度をとるので、中断していた。今后はHenleの小腸細胞を材料にヒト血清(20%)、Hanksのみの培養液で継代し、その上清を凍結保存し、測定材料を調製中。従来の肝Catalase法に替えて血漿鉄法によって測定する予定。
 E)Ehrlich腹水細胞抽出物添加によるL細胞の悪性度の促進
 Cancer cellの特殊成分、特にDNA・RNAによる正常細胞→悪性細胞transformationが実現すれば癌性変化の機序に一知見を加えるものであるが、正常→悪性の前段階として、或程度Malignancyを有すると認められしかもHost rangeの狭いL株を材料としこれが同じマウス由来のEhrlich腹水癌の細胞抽出物(これも前段階としてcrudeのまま)によってtransformして、他系マウスに感受性を有する様に変化するか否か試みる。目下腹水を大量に準備中。
《奥村報告》
 A)HeLa株細胞の遺伝学的性質
 1)蛋白培地継代による・・現在まで各研究室で継代されてきたHeLa細胞の染色体構成を折にふれ検討してきたが、この細胞はまことに不安定きわまりないことが明らかになった。まず第1にHeLa細胞は染色体分布範囲が非常に広い。即ちばらつきが大きいことである。いずれの研究室のものでもhyper diploidからhyper tetraploidまで分布して居る。第2、同じ染色体数をもった細胞群の中に幾種かの核型が存在していることが特徴で、このような現象は細胞遺伝学の立場から考えて、HeLa細胞を種々の実験に用いるのはあまり望ましくない。特に細胞の遺伝性と関連性のある研究は考慮を要する。従って若し用いる場合はPuckなどがしているように、Clone formationをおこなって、性質の明らかな細胞群を実験対照とすべきであると考える。第3に伝研組織培養室で現在継代されている無蛋白培地でのHeLa株細胞は血清培地に比較してかなりばらつきが少くなっているので、我々の実験に供するに非常に意義深いと思う。
 2)無蛋白培地継代による・・前々報ではHeLa株細胞の無蛋白培地継代による染色体数分布の範囲の狭小を報じたが、現在まで数回samplingして観察してきたが、やはりこの現象は維持されている。また血清培地で最も優勢を示していた細胞群が減少して、これよりも染色体数2〜3本減少した細胞群が無蛋白培地で最も高い増殖率を示してかなり安定してきている。ただ核型分析の結果からみると、染色体数が同じでも型の異なったものがL株細胞などよりはるかに多いようである。これらの核型の最終的決定を現在行っているので近い内に報告するつもりである。
 B)サルの腎細胞の培養による染色体研究
 今月から伝研で継代しているこの細胞の培養継代に於ける染色体の分析を着手しているが、現在のところmitosisがなかなか見当らないので専ら標本作りに懸命です。今まであまりサルの培養細胞の遺伝性を追究した仕事がないので、今后大いに張切ってやって行く決心です。次の号には分析結果をある程度報告できるものと思います。

《高木報告》
 1)MY肉腫から抽出したDNP、RNP及びwhole microsomeの培養細胞に及ぼす影響
 前報につづきDNP、WMは28日間、RNPは18日間培養細胞に作用させ、最后の1週間は80%LYH+20%牛血清培地に戻して培養を続け、前2者は培養35日目、後者は25日目で固定しGiemsa染色を施して観察したが、形態的に著明な変化は認められず、DNPでは120μg/ml、WMでは85μg/ml以上、RNPでは93μg/mlにおいて細胞の生え方が疎となり、またfibrousな感が強く思われたに止まった。
 以上の実験は培養5日后、即ち細胞が或程度増殖してから作用させたものであるが、第2回の試みとして、MY肉腫から抽出したRNAをマウス胎児皮筋組織の培養と同時に作用させた場合についてその影響をみた。
 (1)RNAの抽出法は今回は次のごとく行なった。
1)細胞質蔗糖液を得るところまでは月報6001に記したのと同じ。
2)氷冷下にこれにトリクロール醋酸を6%になるように加えて、蛋白、核酸、脂質などを沈 殿させ、
3)その沈殿をアルコール、エーテルなどで数回洗って脂質を除く。
4)1M食塩水を加え、70℃に30分おきRNAを抽出。 
5)抽出されたRNAをアルコールで沈殿させ、次いでエーテルで洗い、一夜吸収乾燥させて エーテル分を除く。
6)これらを再び蒸留水にとかしてRNA水溶液として用いる。
(以上の方法ではRNAが低分子化してtransforming activityが失われるおそれがあるので、今后はフェノール法に変更する予定)
 (2)培養法は前報の通りである。培養と同時にRNA 176μg/ml及び88μg/mlを培養液に加えてその影響を観察している。
 培養7日目及び14日目では増殖した繊維芽細胞に著明な形態の変化は認められない。但しやはり前回の実験同様、細胞のfibrousな感が対照に比して強く、また176μg/mlにおいてより強く思われる。細胞の増殖状態は良好で、発育抑制作用は見られないようである。10日目にredosingしてなお観察中である。
 繊維芽細胞は培養条件によりかなりいろいろな形態を呈するので、RNAのこれに及ぼす影響を見る場合、形態的な変化だけを求めたのでは判定が困難である。そこで免疫学的にもこの変化を追ってみたいと思って居る。発癌による細胞の抗原性の変化についてはさきにWeiler等による有名な仕事がある。即ち彼は蛍光抗体を使ってDAB肝癌の発癌状態を追求し、その過程に於て形態的な変化をきたす前にすでに免疫学的に正常細胞としての抗原性が失われることを報じ、さらにStilboestrolによるハムスターの腎臓癌についても同様のことを観察している。
 培養したマウス皮筋組織の繊維芽細胞がMY肉腫からのRNAに影響されて何らかの免疫学的変化をきたし、元の組織の抗原性を失うことも考えられる。但しこれは無理にRNAなど作用させなくても、細胞を長時間in vitroで培養しただけでも起り得るかも知れないが・・・。 対照を充分においた上で、1ケ月間MY肉腫よりのRNAを作用させた培養細胞に、もとのマウス胎児皮筋組織の免疫血清を作用させ、抗原性の変化が見られるか否か、蛍光抗体により追求してみたいと思う。目下ddNマウス胎児皮筋組織の免疫血清を作っている。
 2)MY肉腫よりのDNPをddNマウスに注射した場合の影響
 (1)まず試験的にMY肉腫よりのDNPをTyrode液にとかして45μg/0.4mlをddNマウスの腹腔内に3日間連続注射し、注射后4週間后白血球数をしらべたが(先述の如くMY肉腫の移植ではddNマウスに類白血病様反応が起る)。Tyrode液のみ0.4ml注射した2疋の対照マウスでは白血球数は不変であるのに対し、注射群の4疋中1疋にやや白血球の増加が認められた。
 (2)そこで次に1群5疋のddNマウスに、ddNマウス正常肝より抽出したDNPのHanks溶液45μg/0.5mlを連続4日間注射して、他群5疋には前回同様MY肉腫より抽出したDNPのHanks溶液40μg/0.5mlを連続4日間注射して3週間白血球数の変動を観察した。なおこの各群には対照としてHanks液だけの注射群3疋宛をおいた。その結果正常肝DNP及びHanks液注射群では白血球数に変化はみられず、MY肉腫DNP注射群において5疋中1疋だけにやや白血球の増加(45,000)がみられた。
 このやや増加を示した1疋が有意であるかどうかは疑問であるが、塩溶液にとかすとDNPは粗な線状沈殿となるため、濃度が不平等に注射されることも考えられる。そこで蒸留水にとかした均等のままの状態で45μg/0.3ml 4日間連続注射して観察中であるが、現在までのところ白血球数の増加はほとんど見られない。
 3)免疫に関する研究
 (1)JTC-4細胞ともとのWistar系ラッテの心臓組織との免疫学的なつながりを交互的に検討すべくラッテ心臓の免疫血清を作っている。JTC-4細胞はsuckling ratの心臓から分離された株細胞であるから、まずsuckling ratの心臓で免疫を試みたが、何せ小さいために思うにまかせず1回の免疫に15疋位使ってもなお不充分であった。そこでこの家兎は1回の免疫に止めて、別にadult ratの心臓で免疫を開始した。即ち3疋のadult ratの心臓を集めて乳鉢ですりつぶし、これに生理的食塩水を50%の割になるように加えてemulsionとし2,000rpm5分間遠沈してその上清1ml(蛋白含有量約10mg)に対して約1.5mlのFreund'adjuvantを加え、水中油滴の状態として家兎の臀部に筋注した。現在までに1週間おきに3回注射した。 (2)ddNマウス胎児皮筋組織の家兎免疫血清を作るべく、出産間近いマウス胎児8疋からできるだけ皮筋組織をきりとり、これをすりつぶして、これに50%の割になるように生理的食塩水を加えてemulsionを作り、その遠沈上清2mlを得た。これを2回に分け、1ml宛adjuvantと共に家兎の臀筋に注射免疫している。

【勝田班月報:6004】
《勝田報告》
 本日は、1)これまでの研究の中間報告.2)今後の研究予定.3)癌学会への申込演題の決定.の三つの問題が主になりますので、この順序で話して頂きたいと思います。まず私共の方の報告から始めますと、主な成果としては、サル腎臓細胞の培養があります。一般にどんな細胞でも長期間継代培養しておりますと、腫瘍細胞化してしまうものが多いようです。そこで私共は腫瘍化さない細胞株を作ろうともくろんでいるわけですが、その根拠としてラッテ腹水肝癌AH-130を長期継代して作った2種の株、これは何れもラッテに復元するとラッテが腫瘍死しますが、この株を3,000rphで高速回転培養すると腫瘍性が低下してしまうことを昨年の癌学会で報告しました。低下した細胞の染色体数は主軸が40本前後になってしまったのですが、これはまだ伏せてあって報告してないのですが、実は高速回転しなくても、大きなコルベンで静置培養しただけでもやはり細胞の主軸が40本前後になってしまうのです。これは液のaerobic conditionの問題に大いに関係があると思います。またL細胞の染色体数のばらつきが、無蛋白培地に移すとぐっと狭くなり、しかも主軸が変らない。L・P1を血清培地に移すと多核細胞が急激にふえる。このような意味から何かしら細胞の変化に一つの主役を演じているらしい血清蛋白を培地から除き、protein-free
mediumで、しかもコルベンのようなもので培養すると、腫瘍性を帯びない細胞株ができるのではないか、と考えついた次第です。これは勿論あとでin-vitroで発癌させるための細胞を作るのが目的であるが同時にそれだけではなく、他の用途にも大いに役立つものを考えてのことで、この場合はPolio virus Vaccineを作るために活用され得ることを計算に入れているのである。無蛋白培地内継代によるサル腎臓細胞の培養についてはNO.6003の小生の報告中、B項に詳述してあります。7月4日に初代からPVP培地に入れた培養が今日もなお増殖をつづけて居ります。但し継代の植継法がコツを要し、EDTAもtrypsinも共に悪影響があり、ピペットの先で剥しpipettingでバラバラにするだけの法が一番よいようです。またA項に記したように、サル腎臓細胞はL株などと栄養要求が似て居り、
Chick embryo extractが不要です。不要なのみか反って有害でもあるのですが、こうしてみると、embryoの組織とadultの組織とは栄養要求が全く異なるらしいことが示唆され、今迄は正常細胞の代表としてembryoの細胞だけ用いてきましたが、今後はadultの細胞の栄養要求をよくしらべてみなくてはならぬことを痛感します。これまでの正常細胞の培養には大抵CEEを入れていましたが、こうしてみると、だからこそadult細胞の培養が困難だったのではないかという気が致します。このようにadult cellsのprimary cultureが簡単にできるのですから、今後は抗癌物質検定の対照にはこれを用いたら良いのではないかと思います。同様のadultの培養を今後はラッテでやって行きたいと思っております。

 :質疑応答:
[高野]PVP培地で3代つづいている由ですが、PVPにさらにserumを入れた方が増殖は良いですか。
[勝田]それは明らかに良いです。
[高野]大谷君のところで血清培地で継代していると、サル腎臓細胞は3代目でいつも止まってしまい、どうしてもそれ以上は増えないのです。但し期間から云えば、とても2月などとは行きません。
[勝田]こちらのは2ケ月といっても増殖率はそんなに高くないのですから、増殖率を計算に入れるとそろそろそういう時期に入っているかも知れませんね。4代目まで持ちこせれば安心かも知れませんが。もとから保有している栄養物のeffectを考えるには増殖率からdilution effectを計算しなくてはならぬと思います。
[奥村]私はこの継代中の染色体をしらべていますが、材料がまだ少なくて、はっきり染色体数を云々できるのは3例だけです。その内2ケが49本で、1ケが50本?でした。サルの染色体数はspermatocytesでしらべられ、50本説(牧野)と48本説(Painter)とあります。しかしどちらも古い報告であり、しかもこの例では体細胞ですので、私としては大変興味を持って居り、しかもこの仕事は有望だと考えて居ります。
[高野]Normalの細胞でもprimary cultureで染色体数にばらつきが出てくるでしょうか。正常の染色体数を知るのに必要と思いますが。
[奥村]肝などでは2代位ですでに巾が出てきます。Rat liverで、植えてから5日位でおかしいのが出ます。
[高野]生体ではどうですか。
[奥村]生体では見当たりません。mitosisの数が少ないし、しらべ方も困難です。このサルの腎臓の培養では、いままでみた3ケの染色体は、変わっていないと考えられます。それから、よく数の変化と共にみられる異常染色体も見られませんでした。
[勝田]そんな意味から初代を血清培地で培養した細胞の研究もどの位の巾が出るものか、controlとしても必要ではないかと思います。
[高野]血清はどうなんですか。うちでは非働化しないで使っていますが。
[勝田]うちでは全部非働化して使っています。何だか忘れましたが、以前にある細胞でしらべたら非働化しない血清だと増殖によくなかったように記憶しているにです。
[高岡]冷蔵庫に保存しておくだけでも補体の一部がこわれるから、非働化の影響がみられないのではありませんでしょうか。
[奥村]伝研のHeLaは予研から行った筈ですが、予研のHeLaの主軸は染色体78本で、伝研のは76本、しかもばらつきが多く、数の多いのもふえてきている。
[高野]非働化の他に血清の種類、培地のrenewalの間隔の相違などもひびいてくるんでしょう。
[勝田]うちでは原則として1日おきに更新しています。ところで、こうしてサル腎臓細胞の無蛋白培地継代系を加えると伝研では現在のところ、HeLa2系、L4系と加えて、無蛋白培地で継代している細胞の種類は7系になります。L株系はアミノ酸要求の仕事をつづけていますが、継代はDM-12でL・P3をつづけています。DM-60にかえると永続しないので、まだアミノ酸の検討の不充分のものがあるとみて、今後しばらく研究をつづけます。次にCollagenの問題ですが、共同研究で高野、高木両先生の株のCollagen形成を定量していますが、L株そのものは、あのままで進展させていません。しかしこれは近い内にやりたいと思っています。Hormonの研究は、これまで判った要点は、正常のChick embryo heartのfibroblasts、ラッテ腹水肝癌(AH-130)、HeLaの3種の細胞の内では、HeLaだけが特異的に女性ホルモンprogesterone、estradiolで増殖を促進され、またHeLaは男性ホルモンで抑制されるので、この両ホルモンを同時に各種濃度に組合わせ、両ホルモンの拮抗比を量的に出すことができました。しかしその作用機序がはっきりしないので、東大の遠藤先生と共同研究で、その点をいま突込み出したところです。次にsilicaのeffectsをしらべた仕事ですが、これはあまりCancerとは直接関係はなさそうなので省略します。最後に、最近まとめた仕事として、ラクトアルブミン水解物の製品むらの問題があります。結局
lot No.によってglutamineなどの含量が異なっていて、イオンクロマトで定量して、足りない分を補充してやったら、効力がかなり回復しました。しかし硝子面への附き方は完全には回復しないので、他のfactorもまた関与していると考えなくてはならぬと思います。NBCへも云ってやったのですが、季節による違いだらうなんて抜かしてきましたが、季節によってラクトアルブミンという蛋白のアミノ酸組成が変化するなんて考えられないことで、何か他に補充しているものがあって、それを入れ忘れたんじゃないかとも思っています。HeLaの無蛋白継代系はどうしてもYeast extractが入用で、DM-12ではうまく増えません。Yeast extract中の核酸成分が必要なのではあるまいかと考え、adenine、guanineなどをDM-12に入れてしらべて居ります。

《高野報告》
 私どもの研究室の報告を致します。まず凍結保存ですが、現在のところ手持の株のほとんどの細胞の凍結が終りました。基礎条件は大体従来の文献通りにやってみました。保存は-76℃ですが、これは別に理由はなく、ドライアイスの昇華点のわけです。これまでの報告では血清はどうしても必要とされていますが、PVPのような高分子を入れてみた人はありません。血清の有無のデータだけです。PVPで血清を置換して凍結する試みをやってみたいと思っています。方法は(ラクトアルブミン水解物0.5%、血清20%ハンクス)6容と、(50%グリセロール)4容、これに細胞を100万個位入れ、アンプレに封じ、すぐドライアイスで凍結、deep freezerに入れて-79℃で保存します。HeLa、Changのliver
cellの株は1年半つづけています。とかす時は37℃の温湯でとかし、とけるや否や氷水中に戻し、これを洗ってまた1mlの液にsuspendして分注するわけです。2.5mlのアンプレに1mlの材料を入れましたが、LとJTC-6では上の組成で旨く行かなかったので、Lで
glycerol 10%にしたところ1ケ月は少くとも保つようにになった。JTC-6は10%では駄目で、5%だと何とか残るが、入れた細胞の50%位しか生えません。3%その他及び血清をかえて、近々やってみたいと思っています。HeLaはP型O型ともっていますが、凍結後もその形質特性を保っているようです。どの細胞でも凍結1〜2ケ月にもどすと恢復率が悪く、6ケ月、1年後の方が反って良好です。この理由がよく判らないのですが、1ケ月間凍結させた後、一部は-20℃、他は-76℃に戻し、1ケ月後に両者の比較をやってみたいと思っています。つまり一旦凍結してしまえば、あとの温度はあまり影響がないかどうか、という問題です。
 次にJTC-6のCollagen形成の問題ですが、これは培養の全期間(2w)を通じてHyproの産生量はper cellにすると殆ど一定で、増減が認められません。この点JTC-4と少し性質が異なっているようです。
 免疫実験では、手持のHeLaのP型とO型、これは性質の全く異なる亜系ですが、家兎を免疫して、2種の細胞の免疫学的変移の有無をしらべてみましたが、2種は全く同じで、他の人間細胞とも殆ど同じ結果になりました。CPEでしらべたのです。HeLaというより、むしろhuman specificityのみ残っているだけのように思われました。このやり方では亜系間の差を見出すことは不可能だった訳です。JTC-6でCPEを顕微鏡(位相差)写真で隔時的に追ってみました。ここで細胞のこわされ方に何か差異があれば抗癌物質の作用効果などしらべるのに使えるのではないかと思っています。次にNo.6003に報告しましたが、in vitroの悪性化の一端として、Ehrlichの腹水癌をあつめてこわし、L細胞に喰わせて影響をみる実験をいまやっています。

 :質疑応答:
[勝田]どうもその場合Lにtissue乃至cell extractを与えると、Lの増殖が抑えられるのではないかと思いますが。
[高野]濃度を薄くしてやるつもりです。その他に、癌研と一緒に前にやりかけた仕事ですが、培養細胞でtoxohormoneが出るかどうかという仕事もやりたいと思っています。
[遠藤]さきほどのhydroxprolineの定量ですが、定量法はどういう風にしてやっていますか。
[高野]5本1検体としてdataをとっています。
[遠藤]その場合blankが問題です。Hyproの定量法は感度が悪いので、この数値だと、見かけ上の値でTryやTyrのinterferenceがある可能性があります。全くhydroxyprolin産生のないcontrolをとれれば良いが、Blankを水で、Hypro=0としたcontrolだと、問題が残ると思います。
[勝田]高木株(JTC-4)だとhypro産生が非常に高いから比較できるのではないでしょうか。[遠藤]多いのは良いが、少いのは本当は作っていないのが他のアミノ酸のinterferenceで数値として出ているのかも知れないのです。少くとも5〜10μgならば安心できますが。[勝田]Standard curveをかくと5μgの辺にわずかjunctionがあり、上も下も夫々は直線的なので、またがらない様にやっているのですが。
[高野]このままでも数をふやせば、即ち実際の計測量をませば良いわけですね。
[遠藤]そうです。私たちは骨のcollagen formationに興味があるので、これとprogenaseとの関係をしらべていたのですが、若しJTC-4及-6のdataがはっきりことなった数値の
collagen formationを示しているのなら、それとprogenaseとの関係も将来しらべたいと思います。

《遠藤報告》
 私どもはいまAminopeptidaseの問題をしらべていますが、伝研で見付けたProgesteroneがHeLa細胞の増殖を促進するという現象は、生体内のこのhormonの作用と同じなので大変興味をもっているのです。プリントを用意して参りましたから御らん下さい。私どもが
Aminopeptidaseに着目した経過が大体お判りになると思います。Aminopeptidaseは蛋白のpeptide結合を着る作用をもっています。切れるほどcarboxyl基がふえて酸性が強くなるのですが、これを利用した定量法は感度があまり良くありません。β-naphthylamineをむすびつけて、aseの働きでpeptide結合が切れてくれれば呈色反応できるわけで、これで組織学的にもしらべられてきた。プリントにあるように、leucine aminopeptidaseがどんな細胞にあるかということはこれまで大分各種の意見があらわれて論争の的となってきた。Burstoneはstromaにあると云い、Braun-Falcoはtumorの特徴と考え、Seligman等は逆に
fibroblastic cellがもっていて癌細胞には無いと唱えた。また生体内の胃腸粘膜などのように分泌機能をもつところには分布しているという説もある。我々はHeLaのhormoneに対する特性が面白いので子宮では一体この酵素はどうであろうかと考えた。Fuhrmanや
Nachlas等によると、むしろ子宮のfibroblasticの細胞に活性があって、Shleimの中にも相当出てくる。しかも高活性です。そこで上皮性のものにもあるのではないか、また従ってHeLaも持っているのではないかと考えたわけです。Nachlas等はendometriumに活性が強くmyometriumには低いというので、epithelが持っている可能性が高い訳です。実験としては先ずHeLa細胞にleucine aminopeptidaseがあるかどうか、また細胞をとりだすとき用いるEDTAで活性度の変動があるかないか、が問題になりました。Ratの腎臓にEDTAを加えてしらべてみると酵素活性は88%に下りました。この位の数値ですから、しかも実際にはEDTAをすぐ洗ってしまうので、実際問題としては殆んど影響がないと思われます。予備実験としてHeLaを次表のように1500万個でしらべてみると、活性が強く出ました。次にホルモン2種を加えて4日間培養(ホルモンの促進効果が7日後より反って大きくあらわれると考えて)した場合にはどうか、というと、細胞数ではホルモン添加群の方が無添加の
Controlより125%多い。酵素活性は培養当りで163%、即ち細胞1ケ当りにすると約30%多い(129.1%)。Controlのみ比較すると、予試験2は1の場合より約2.3倍活性が強いが、これは培養日数によるもの、glass homogenizerの操作による相違(homogenizer、時間、泡・・・変性)などが考えられている。後者も今後検討してから本実験に入ります。
 :質疑応答:
[勝田]それは当然培養日数が大きく影響するので、培養のいろいろな日数をとって比較できるといちばん望ましい。この次はそれをやってみましょう。
[遠藤]最近teststerone誘導体の合成黄体ホルモン剤が発売されてきました。流産予防のために大量に投与すると、生れた子供に半陰陽が屡々あらわれます。即ちteststerone
効果が出るわけです。それで、伝研の諒解を得ましたので、我々の方では合成黄体ホルモンのeffectも今後しらべて行きたいと思って居ります。次にprolinaseですが、この酵素はCOとNHの間を切ります。Chick embryoの頭のdismalにできる、軟骨を伴わない、うすい骨がありますが、この骨はprolinaseの活性が強いのです。long boneでも活性は強いのですが、prolineが一旦peptide bondにとりこまれて、それがoxidationによりhyproができるのではないかと考えていますが・・・。Hyproとprolinaseの関係をしらべたいと思って居ります。またJTC-4及-6でここをどう異るか、などの点についてもしらべたいと思います。[勝田]Silicaのfibroblasts増殖及びcollagen formationに対するeffectにはprolinaseが一役買っているかも知れませんね。たとえばsilicaを添加するとprolinaseのactivity
が上るのではないでしょうか。
[遠藤]HeLaをglass homogenizerでhomogenizeするとき、白い強靭な組織が残りますが、これは何でしょうか。
[高野]案外、細胞膜が厚いのではないでしょうかね。

《高木報告》
 RNA、DNAを細胞に作用させた仕事は、これまでの主なものとしてつぎのようなものがあります。
1)J.Biophy. & Biochem.Cytology,5(1) 25,1959;H.H.Benitz et al.
2)Brit.J.Cancer,10(3)553-559,1956;E.Weiler.
3)Brit.J.Cancer,10(3)560-563,1956;E.Weiler.
4)Zeitschrift fiu Natureforschung,Bd.116 31-38,1958;E.Weiler.
5)Canadian Cancer Conference,3,329-336,1959;Sergio de Carvalho.
 私どもはMY肉腫からRNA、DNAを抽出したわけですが、これは移植性腫瘍で、類白血病様の病変を起こします。このRNA、DNA、whole microsomeを抽出してembryonic mouse skinの
primary cultureに入れてみました。既に報告したように培養5日後に入れた場合、細胞の増殖率は落ちず、また形態的に特に変化は見られませんでした。培養と同時に入れた場合(170μg、87μg)、何れの濃度でも2〜3wでfibrousな感が強くなったような感じがしましたが、やはり特に形態上の変化はきたしませんでした。これは3回redosingをおこない、1ケ月で標本を固定してみました。これを免疫学的に蛍光抗体でしらべてみたい。 次に免疫学的な問題ですが、JTC-4細胞とrat heartとの抗原性の関係をFluo,antibody
でしらべてみたいと思っています。その他NO.6003の報告通りです。
[高野]Weilerの実験では吸収を何回もやっていますが、この吸収の問題が非常にむずかしいですね。
[高木]そうです。正常抗原を考える場合、特に吸収を厳重にしなくてはならないと思います。しかしその度にsampleが減って行きますから、できるだけ高い抗体価の免疫血清が必要です。またRNAの活性は低温でないと落ちますが、普通の培地(20%牛血清+LYT)に混じて培養細胞に作用させた場合どの位活性が維持されるものですか。
[勝田]あらかじめRNAをこわして、これを第2のControlにしてやってみるとよいのではありませんか。
[高野]人間、動物でRNA蛋白が腫瘍性の抗原に作用するという報告、即ちRNAが効いたという報告がありますね。EhrlichのRNAをrat(in vivo)にinjectionすると癌になり、
transplantableだというのですが・・・。
[高木]腹水肝癌からRNAを抽出して(フェノール法)、これを100μg/ml前後でJTC-4に入れてみましたが、細胞の増殖はかなり抑制されたようでした。
[勝田]株細胞ならprimary cultureより強く障害されることは当然考えられます。
[高木]MY肉腫から抽出したDNPをddNマウスに1疋あたり45μg前後、3〜4日連続注射したことは報告した通りですが、この場合塩溶液にとかすと絮状の沈殿を生じます。ですから濃度が不平等のまま注射される可能性がありますので、蒸留水にとかして注射してみましたが、lewkemoid reactionと思われるものは認められないようでした。
[勝田]さきほどのRNAですが、これにはproteinは入っていませんね。
[高木]入っていません。Phenol法でやればRNAがとれる筈で、しかも収量はきわめて多いのです。
[勝田・遠藤・高野](抽出法の表をしらべて)蛋白は除去されるようですね。
[高木]JTC-4のHypro産生能の問題ですが、これは昨日、定量のdataを見たばかりだものですからまだ何とも・・・。他にJTC-4をprotein-freeで継代する仕事も、またやり直して居ります。PVPを入れて血清量をへらしてますが、硝子面から剥れませんね。JTC-4の栄養要求の仕事はまだ2〜3実験をすまさないとpaperにはなりません。そのほかナイトロミンなどを使って制癌剤の耐性細胞ができるかどうかもやっています。
[高岡]JTC-4のprotein-free medium内継代はうちでも預かった細胞で試みています。

《奥村報告》
 いままでやった主な仕事としては、無蛋白培地で継代しているLの4亜株、及びその血清との関係、HeLaの無蛋白培地継代2亜株、猿の無蛋白培地内継代腎臓細胞などの細胞遺伝学的研究ですが、まずL株についてお話しますと、LとL・P1の染色体の比較は1959秋の癌学会で発表した通り、L・P1(PVP+LYD)の染色体はLと同じく68本が主軸で、ばらつきが
L・P1の方が明らかに少ない。L・P2(LYD培地継代)は66本が主軸ですが、これはまだ調べた細胞数が少ないので決定的なことは云えません。L・P3は(DM-12の合成培地継代)3主軸があって64、66、68本です。ばらつきは60〜72本で、それ以外の数の細胞は殆んど見当りません。LP・4(LD培地継代)は66本が主軸で、高倍性80〜100本がかなりあります。但しばらつきは狭い。そのほかDM-25で長期継代した細胞も2回samplingしてしらべましたが、DM-12継代のものと殆んど同じで、64本がやや多い位でした。しかしこの細胞系は現在は切れているそうです。核型分析ではL・P1〜L・P4の間にほとんど相違をみとめません。数の相違はrod(棒状)の染色体の数がちがうだけです。次にHeLaですが、これは血清培地継代系では76本が主軸で、90本以上の高倍体もかなり見られます。HeLa・P1はまだ4ケしかmitosisの良いのが見付けてありませんが、これは染色体が2本少なくて74本です。高倍体は少ないようです。HeLa・P2は44ケ位しらべましたが、やはり74本が主軸で、高倍率は1ケだけでした。そしてL→L・P1のときと同じよう、HeLa・P1及・P2では染色体数の分布の範囲が
HeLaより狭くなって居ります。そのせばまり方はLのときよりも極端で大変面白い所見だと思います。HeLaの核型は分析がきわめて難しく、核型を判定しにくいのです。というのは同じ染色体数でも2〜3種の核型があるからです。もちろん分裂異常とは判別できます。なおここで各研究室で継代しているHeLaの染色体を比較してみますと、次のように相違があらわれて居り、HeLaというのは不安定な株だという感を受けます。また第2の頻度の数がたえず(samplingの度に)変ります。だからCloneを作って実験に用いた方がよいと思います。HeLa・P1及・P2はこの傾向が少ないので、1種のCloneのようにも扱えると思いますが。HeLa細胞の主軸は、予研78本、伝研76本、川崎・明治製菓75本、東邦大・解剖76、78、81(81が最大)。90本以上の染色体の多いのは東邦大継代のHeLaが最高でした。
 以上のように核型分析をいろいろやっていますが、何とかして共通核型を見付け出し、増殖あるいは生命維持に必要な最少単位の染色体を知りたいものと考えて居ります。HeLaでは特別に染色体数の少ないものが出てきたりします。20本位ですが、これを2〜3日おくと、また数が増えてきます。少いのが見出せれば細胞の遺伝的支配の最少単位のものが見出せるのではないかと思っています。
 
 :質疑応答:
[高野]染色体20本のHeLaは増殖できないのではないですか。
[奥村]Duplicationが起って、細胞分裂はしないが核分裂をしてしまうのだと思います。そして40本になってしまうわけです。20本といま話しましたが、最低は23本でした。
[高野]Haploidのわけですね。
[奥村]HeLaは将来triploidに集まってしまう傾向があるのではないかと思います。PVPを用いてもLの場合はL・P1になって不変でしたが、HeLaはPVP培地で2本減り、L・P2〜・P4もL、L・P1に比べて2本減っているのは面白い現象と思います。この問題をどうお考えになりますか。
[勝田]HeLaの場合はPVPでふえる奴をselectしたわけですからね。変っても良いと思います。
[奥村]HeLaはどうもcloningしないでそのままやると遺伝子的には何も云えないような気がします。
[勝田]HeLaに女性ホルモンを与えてselectし、ホルモンにsensitivityの高い奴だけ
selectionしたら面白いでしょうね。
[奥村]サルの腎臓細胞はさきにお話したように、まだ3ケしか見ていませんが、仲々面白い結果になりそうです。それにサルの仕事は新しい仕事がありませんから、大いにやりたいと思っています。


【勝田班月報・6005】
《勝田報告》
 A)サル腎臓細胞
 a)無蛋白培地による長期継代:7月4日にTCに移したものが現在までつづいている。増殖率は相不変低い。この染色体を東邦大・奥村氏がしらべている。この状況ならば発癌実験に使える可能性もあるので、ラッテの腎及び肝についても同様の試みをはじめかけているが、ラッテは馬と同様になかなか培養が難しい。
 b)鶏胚浸出液の影響:胎児組織細胞の増殖には一般に鶏胚その他の浸出液が必須であるが、吉田肉腫や腹水肝癌AH-130には反って増殖阻害的に働く。ところが正常成体のサル腎臓細胞の増殖にも、前報で報告したように鶏胚浸出液は阻害的に働くのである。しかしその后の研究で判ったことは肝癌AH-130の場合にはたとえば肝(正常成ラッテ)の浸出液は高分子部分も低分子部分も何れも同じように抑制力があるがサル腎臓では、高分子部分は抑制力がなく、反って増殖促進的に働く。そして低分子部分に強い抑制力が見られる。但しこの場合透析は蒸留水で1:0の鶏胚浸出液をおこなったので、さらにsalineで透析したものについてしらべたいと準備をすすめているが若しこの事実が確認されればさらに各種の細胞についても同様の実験をおこない、癌細胞のみに抑制的に働く因子を追究したいと思っている。 B)L・P1細胞のアミノ酸要求
 アミノ酸12種+ビタミン9種+塩類その他9種=合計30種の組成から成る合成培地DM-60ではL・P1細胞を長期間培養することが困難なので、さらにアミノ酸要求について検討している。現在のところ、これにMethionine 8mg/l、Tryptophan 10mg/lを加えた方が増殖率のよくなることが判った。Phenylalanineはほとんど要求されぬように思われるが、さらに他のアミノ酸を検討した后に再び検討したいと思う。
 C)Bilirubinの細胞に対する影響
 細胞の種類によって生体内でbilirubinに触れている濃度に差がある。組織培養に移した場合、細胞の種類によりbilirubinに対する抵抗力に差があるのではないか、若しあるとすればそれによっても細胞のoriginをつきとめたり、或種の細胞だけを撰択的に増殖させたりすることができるのではないかという目標からbilirubinを各種濃度に各種細胞の培地に加えてしらべることにした。一番初めに手をつけたのが、無蛋白培地で継代しているL・P1細胞であるが、濃度は0、0.1、0.5、1、3mg/dlの5種であるが、まず苦心したのは水に溶かすことで、普通ではbilirubinは水に溶けない。クロロホルムにはとけるがあとの始末(滅菌とクロロホルムをとばし、培地に入れること)が厄介である。あれやこれやと2日間もいじくりまわした揚句、結局次の方法をとった。Bilirubin 10mgを1N NaOH 1mlにとかし、蒸留水(再)19ml加え、glass filterで濾過滅菌し、これをstock solutionとする。これを一部とり等量の1N・HClを加えて中和し、そこでできる塩類を計算し、その分差引いて塩を加える。このとききわめて細かい沈澱ができるが、ピペットで細かく均等に浮遊させられるので稀釋して行く。1mg/dl以下では肉眼的にはほとんど溶けてしまっているように思われた。BilirubinはMerck製のを用いた。L・P1細胞での4日までの成績をサル腎臓細胞のprimary culture(透析血清10%+ラクトアルブミン水解物0.4%+塩類溶液)の2日迄の成績と比較すると、次表の通り(表を呈示)、腎臓細胞に耐性が見られたが、この実験はなお7日后まで継続の予定である。しかしBilirubinと蛋白との結合が当然予想されるので、この結果は直ちに細胞間の差違と決定するわけに行かず、L・P1細胞を血清培地に移しての実験も行ってみる必要がある。
 D)HeLa・P2細胞(無蛋白培地継代亜株)の合成培地培養試験
 HeLa・P2細胞も無蛋白培地に移してから約8ケ月になるので合成培地に移しても増殖するのではないかと、各種の合成培地について7日間の成績をしらべたが何れも殆んど増殖しないか、しても極くわずかであった。PVPは各培地とも0.1%に添加した。 1)PVP+DM-11、
2)PVP+DM-11+アデニン10mg/l+グアニン0.3mg/l+ウラシール0.3mg/l+キサンチン0.3mg/l+ヒポキサンチン0.3mg/l+チミン0.3mg/l、3)PVP+DM-11+yeast extract 0.08%、
4)PVP+Medium858、5)PVP+M.199、6)PVP+DM-12。何れも好成績は得られなかったが、その内ではM.858とDM-12でごく僅かの増殖が見られ、細胞の形態も健常であった。DM-11を基にしたものは殆んど好成績を得られなかった。M.199では培養中にpHが激低するが細胞は変性を呈するものが多く、M.858では反ってpHがわずか上昇する位であったが、細胞は健在であった。今后も各種を試みる予定である。

《高木報告》
 1)MY肉腫から抽出したRNAの培養細胞に及ぼす影響
 ddNマウス胎児皮筋組織のprimary cultureに、MY肉腫から抽出したRNAを作用させて、作用させない対照に較べてどの様な変化が認められるかを、先ず形態学的に観察したが、前報の如く有意と思われる様な著明な変化はみられなかった。そこで免疫学的には或いは何等かの影響を受けているかも知れないと考えて、蛍光抗体法を用いて、RNAを1ケ月間作用させた細胞にマウス胎児皮筋組織−家兎免疫血清を作用させてみたが、未だ免疫血清の抗体価が低いためか、対照の細胞も共に染っておらず、更に抗体価をあげるべく免疫を繰り返して後、改めて検討してみたいと思う。しかし、ddN妊娠マウスは中々思う様に入手出来ず、免疫に難渋している。
第3の追求手段としてRNAを作用させた細胞を復元して、その腫瘍形成能を対照のそれと比較する方法がある。(9月のmeetingの際、高野氏の御話にもあった如く・・・)。このためには比較的長期間RNAを作用させねばならず、従って細胞の長期間の維持及びRNAのredosingが必要となって来る。
細胞の長期間の維持については、現在迄こころみたところでは、マウス退治皮筋組織由来の細胞は、うまく植継げば少くとも2〜3ケ月は維持出来る様に思われる。
RNAのredosingの間隔については、培養液内のRNAがどの位の期間分解しないでその活性を維持するか調べなくてはならない。この目的で先ず細胞を含まない培養液に50μg/ml程度のRNAを含ましめ、1週間incubateしてその間におけるRNA量の変動を調べて見た。普通用いている80%LYT+20%牛血清の培養液で測定をこころみたが、血清蛋白が邪魔になって測定出来なかったので、一先ずLYTにRNAを溶かした状態で1週間観察してみた。Schneider法に準じて測定したが、これを略記すると(1)試料2ml+10%PCA(過塩素酸)2mlで沈澱をとる。(2)沈澱を冷5%PCAで2回洗う。(3)更に沈澱を80%アルコールで1回洗う。沈澱が微量につきこれ以上洗滌を行わず、(4)5%PCAで90℃20分間抽出、一度で沈澱は溶けて透明になったので抽出はこれ以上行わず、(5)抽出したものをベックマン型分光光度計E260で測定し、RNA-Pを求めてこれにfactor11.9を乗じてRNA量とした。(結果の表を呈示)
培養液のみの対照でも僅かにE260でかかって来るものはあるが、予想に反して細胞のない培養液のみの中では、始め51.5μg/mlあったRNAが1週間にわたって減少する傾向はなく、むしろ増加(?)したかの如き値を得た。これが測定誤差によるものか、或いは他の原因によるものか検討中である。再検後更に培養細胞にRNAを作用させた場合の培養液(牛血清を含まない)中のRNA量の変動についても検討してみたいと思っている。
 2)免疫に関する研究
 JTC-4細胞とWistar系ラッテの心臓との免疫学的なつながりを検討すべく、これら細胞、組織による家兎の免疫をつづけている。JTC-4細胞は、これまではGoldsteinらの方法に準じて、soluble antigenについて静脈内注射をこころみて来たが、今度は細胞のそのまま生理的食塩水にsuspendして200〜400万個/2mlのsuspensionとして、これを始めの2回だけFreundのadjuvantを用い、以後は週に2回ずつ筋肉内に注射を繰返して居る。心臓組織はこれをすりつぶしたものの遠沈上清を同様に注射している。なお前に行った静脈内注射法によるJTC-4細胞−家兎抗血清の凝集価を、細胞のsuspensionを抗原として測定したところ(高野氏のadviceによる)80倍まで陽性であった。
また蛍光抗体法により、JTC-4細胞及びラッテ心臓の家兎免疫血清をJTC-4細胞(伝研にある形態的に九大のものとは異っているもの)、L細胞及びHeLa細胞に作用させたが結果は
HeLa細胞以外は+で(表を呈示)、未だ一度の吸収では強く種族特異性が現れている。更に腎、脾のaceton powderでも吸収して出来る丈これを除去したいと思う。
 3)その他
 JTC-4細胞の無蛋白培地による培養をこころみるべく、目下牛血清を2%までおとしているが、細胞は可成りよく増殖している。前にこころみた方法と同様に2%牛血清培地で植継いで後PVP+LYTで交換して次第に細胞をadapt(?)させている。なお免疫には多くの細胞を必要とし、20%牛血清の培養液では牛血清の消費が大変であるので、これからは出来る丈2%牛血清の培養液にadapt(?)した細胞を残したいと思っている。
制癌剤に耐性を示すHeLa細胞をつくる試みは、目下ナイトロミン15〜20μg/ml、クロモマイシン0.01〜0.005μg/mlを作用させて実験を続行中である。

《遠藤報告》
 HeLa細胞のLeucine aminopeptidase活性の測定におけるhomogenizing timeと
   homogenizerによるバラツキの検討
 研究連絡月報No.6004で報告しましたように、HeLa細胞のleucine aminopeptidase活性はprogesterone+estradiolの添加により細胞当り約30%高まりますが、この時はhomogenizeする時間がまだきめてなく又homogenizerによる差も検討していなかったので、上記の
treatmentによる該酵素活性の上昇が本当にtreatmentだけに依るのか否かについては若干疑問の点がありました。従って、その後non-treatmentのHeLa細胞を用い、以上の点について下記の通りの検討を行いました。
 (1)homogenizeする時間はどの位が適当か。
 HeLa細胞;2300万個(5日培養)
 先づ全体を10mlのsuspensionとして大きいglass homogenizerにとり、30秒間homogenizeする。この1.5mlずつを今後の実験に用いる新調の小さいglass homogenizerに分注し、それぞれ一定時間更にhomogenizeする。一回凍結融解後遠心分離して上清1mlをとり比色定量の操作に移す。結果は、30〜180秒間で、T(%)は51.4〜54.0、liberated naphthylamine(μmole)は0.166〜0.178で(表を呈示)、homogenizeする時間は思った程には測定結果に影響しないことがわかった。今後は約1分に決めてやることにする。
 (2)homogenizerによるバラツキ
 (1)の結果からhomogenizerによる差も先づ無視できるものと思われる(勿論homogenizerによるバラツキがhomogenizing timeによる差を隠蔽してしまったという確率も非常に小さいとはいえ残りますが)。
 従って、前述の活性の上昇は明らかにprogesterone+estradiolというtreatmentによるものと考えられます。

《高野報告》
 A)培養細胞の凍結保存
 a)マウス、ラッテ由来細胞の保存条件としてのglycerol濃度・・・マウス由来L株ではglycerol 5%で1ケ月は保存可能。間もなく2ケ月後のdataをとる。ラッテ由来JTC-6は
glycerol 10%では保存1ケ月後に殆んど生細胞が残らず、5%では約50%が生残し増殖能を示す。更に長い期間の観察と同時にglycerol 3%の群を新しく作って凍結した。
 b)凍結用アンプルの容量と細胞浮遊液量との関係は、2.5mlアンプルに1ml浮遊液を入れると、0.5mlの場合及び従来の5mlアンプルに1ml入れた場合と変りなく有効なので1mlで用いることにした。
 c)1ケ月-79℃に保存したHeLaの一部を-20℃に移し更に1ケ月後に-79℃群と比較した所、-20℃では生細胞が殆んどなくなり、この温度では保存不可能な事が明らかになった。 B)JTC-6のhydroxyproline産生(伝研組織培養室、東大薬学生理化学との共同)
 N0.6004の報告会記事にある様にHyproの定量手技に関し遠藤氏から御意見を戴き少量を定量する場合の誤差を再検討する必要を感じたので同氏の御協力を得て今迄の結果をもう一度確かめる実験を計画中。高木株、予研株の他に高木株を伝研でEDTA処理に駲化させた株を含めて行う予定。最近予研癌室でもEDTA駲化株を作ったので出来れば之も一緒にしらべてみたい。
 C)抗細胞免疫血清による細胞障害作用
 a)抗マウス細胞(L)血清及び抗ラッテ細胞(JTC-6)血清をヒト由来のHeLaに作用させても障害作用は現れない。つまり抗細胞免疫血清には少くとも種属特異性があるという以前の所見を再確認した。
 b)JTC-6細胞に同種抗血清を加えた場合位相差顕微鏡下の変化は2時間後に現われる事を前報(No.6003)で述べたが、同じく10%で用いた正常ウサギ血清でも略同様の障害が認められるので、非特異的因子を除くため56℃30分の非働化を行った後再検討した。抗血清による変化は添加後7時間で現われ推移の経過は大体以前と同様。非働化血清では14時間後にも殆んど変化が見られない。非働化抗血清による障害作用の経過を改めて経時的に観察する予定。
 D)JTC-6株よりのClone分離(東邦大・解剖・奥村氏との共同研究に使用)
 ラット肝由来のJTC-6株細胞は培養性状、形態学、及び核学的見地から純系とみなし難いのでColony-formationの手技を用いてColonial cloneの分離を開始した。材料として従来のtrypsin継代株と、新しく駲化させて作ったEDTA継代株の両者を使用。シャーレに少数細胞をまく方法は、目的のcolonyだけをひろう時に多少扱い難くしかもcontaminationの恐れが大きいので、角瓶に滅菌ガーゼでふたをして炭酸ガスincubtorに入れ、数個のcolonyが出現した後、1個を残して他をエーゼで焼いて除く方法をとり現在2ケのcolonyが増殖中。近日同様の手段で更に数個を分離する予定。
 E)Ehrlich腹水細胞抽出物のL細胞への添加
 Ehrlich腹水を遠心して約200mlの細胞沈渣を採り凍結融解3回実施後glass homogenizerで壊し遠心沈渣を更にhomogenizeした後の遠心上清とプールしたものを原液とみなしL細胞の培養に添加した。0.1%の濃度で充分発育したL細胞に与へ1週間観察したが形態学的に明らかな変化は認められない。(この間液交換の都度0.1%に添加)。1%濃度を上げた培養液で継代したところ相当数の細胞が変性を示し、完全に壊れた細胞も出現したので、2日後に0.5%に下げると変性の進行は止り、全体的にやや恢復しつつある様にみえるのでこの濃度での培養を継続中。
 F)ラット脳下垂体前葉細胞の培養
 東大産婦人科からの“依託生"2名と一緒にラットの脳下垂体前葉細胞の培養を開始。将来の目的は“前葉機能に及ぼす間脳の影響"。第1回はYoungnerの方法に従いtrypsinizationの繰返しでえた上清と沈渣を、第2回はメスで細切したfragmentを直接チューブの壁につける方法で試みた。第1回の消化後上清は細胞増殖を示さないが、沈渣群及び第2回の壁についた片の中で上皮性と思われる細胞のoutgrowthを示すものがあるので目下培養を継続中。
《奥村報告》
 A)HeLa株細胞:無蛋白培地での2種の継代株H・P1、H・P2のうちH・P2について前報で報告したが、H・P1は細胞の増殖率が悪かったために思うようSamplingが出来ずにいた。しかし最近(9月中旬頃より)急に増殖率がよくなり、40ケほどのmetaphasesを得ることが出来、検べたところ染色体数の分布状態はH・P2とかなり類似していることが判明した。つまり血清培地継代細胞より、はるかに分布範囲が狭くなっており、同数の染色体をもった細胞でも種種の核型が存在している事である。分布範囲が狭くなる現象が今までも再三述べてきたように、やはり血清不添加によるためであることは、この場合にも明瞭に確認されたわけである。こうなると血清のもつ役割を詳細に追求することが重要であって、特に培養細胞の遺伝的性質を変異させる一つの大きなfactorとして種々の遺伝的問題解明の鍵となっている。 B)L株細胞:前報で無蛋白培地継代の4亜株(L・P1〜L・P4)について染色体数の分布結果を報告したが、このうちL・P2細胞(LYD培地)については増殖があまりよくなかったために9つの細胞で大体の傾向を示しただけに止まったが、その后かなり多数のmetaphases(現在まで約42metaphases)を得て、分析した結果染色体数の分布状態はL・P4細胞と非常に類似していて、最高頻値を示したのは66本の染色体をもった細胞であることが明かとなった。又L・P1、L・P3、L・P4もgenerationを追って観察分析してきているが、現在までの段階では各亜系とも殆んど継代期間中の相違は認められていない。核型分析は目下懸命に行っているが、何しろ想像に絶する程時間のかかる仕事で(勿論正確度に甘い採点をするなら別だが)なかなか期待通り進行しない現状である。しかし今では相当データも集盤戦に入った感じです。無蛋白培地での細胞の遺伝的特性の問題は重要な意義をもっていると思うので、慎重に事を運んでいる次第である。
 C)サル腎臓細胞:この細胞の株化は伝研のTC研究室で行われているが、私も培養開始後の細胞の遺伝的特性を追究している。しかしなかなかmitosisが少なく充分な分析が出来ずにいる。したがって、これからはコルヒチンを用いてmetaphasesを増やそうと考えている。だが私はコルヒチンがはたして細胞の異常分裂のfactorになるのではないかという疑問を持っている。Dr.Ohnoの意見では全然心配はいらないとのことですが、私には納得がゆかないので今度はコルヒチンを用いるのと用いないのとを比較しようと考えている。 今まで分析材料に用いたサル腎細胞は血清不添加培地で継代されたものであるが、L株、HeLa株の両細胞で明らかなように血清の有無による細胞変異の常態をサル腎細胞でも早急に検討してみたいと思っている。
 −追−10月20日(木)、伝研集団会で「無蛋白培地によるL株細胞(マウスセンイ芽細胞)の研究.第9報:無蛋白培地内継代4亜株間の染色体の比較」(20分)を話します。
(上記のH・P1はHeLa・P1、H・P2はHeLa・P2の略です。正式の略名ではありません)


【勝田班月報・6006】
《勝田報告》
 A)サル腎臓細胞
 無蛋白培地内の継代培養は、材料の入り次第に屡々行なっているが、本年7月4日に開始した系はその后しだいに増殖率が落ち、現在は殆ど停頓状態である。9月28日に開始した系は11月15日で48日になるが、大体良好な経過を辿っているので、この方が先の見込があるわけである。発癌実験用には小動物の方が好ましいのでラッテの腎臓についても同様の試みをおこなっている。
 B)L・P1細胞のアミノ酸要求
 Methionine、Tryptophan、Phenylalanineについては前報に報告したが、その後Cysteine、Threonine、Valineについてしらべた。CySHは8、80、160、400mg/lの4種の内160mg/lが最高の増殖を示した。これまでは80mg/lを採用していた。Threonineは100、200、500mg/lの内、200mg/lが至適で、これまでは100mg/lを使用していた。何れもこれまでの倍量となり、経済的には頭の痛い話であるが、増殖率を少し宛でもよくするためには仕方がないであろう。
Valineは8.5、85、170、425mg/lの内では、これまでと同様85mg/lが至適であることが判った。さらに他のアミノ酸についても検討をつづけている。
C)HeLa・P2細胞の合成培地内継代培養
 前報でも若干報告したがHeLa株を無蛋白培地に馴らした亜株HeLa・P2を、さらに完全合成培地で何とか継代できるようにしたいと思い、夏ごろから各種培地での試みをおこなってきた(表を呈示)。結果は何れも余り面白くないが、Control自体もこの頃はあまり増殖率がよくない。そして合成培地の内ではM.858がまだ少しましのように見える。そこで858を用いて、その后もさらに培養を試みてみた。ところが秋に入ってから急にHeLa・P2自体の増殖がよくなり、7日間に9.3倍の増殖を示すようになったのと同時に、PVP+M.858での継代が成功するようになった。HeLa・P2は1959年11月7日から無蛋白培地に入れたのであるが、細胞が一つの株あるいは亜株として安定した増殖を示すようになるにはやはり1年位かかるということを裏書きしているのかも知れない。継代は合成培地で約7日毎におこなっている。 HeLa・P2:培地(PVP+LYD)・(1959-11-7より)・継代36代・7日間9.3倍増殖
        PVP+M.858・(1960-10-7より)・継代4代・   6.3倍
そこでこの后者を、もう少し様子を見てから、HeLa・P3と名付けたいと考えている。
 HeLa・P2がなぜDM-11、-12であまり増えないで、M.858で増えるかという問題であるが、后者に比べて前者に欠けているものは、核酸成分(だからDM-11に核酸を加えてみた)、補酵素類、それにinositolなどもある。EagleらによればHeLaにinositolは必須であるというが、まだこの試験はおこなってなかったので至急にDM-11、-12に加えてしらべてみたいと思っている。とにかくM.858では余りに沢山の組成が入りすぎていて、あとの実験に差支えるので、何とかしてもっと簡単な合成培地で継代できるようにしたいと思う。
 D)各種細胞の増殖に対するBilirubinの影響
 前号にやはり若干報告したが、細胞の種類による差がかなり現われて、次表のような結果を示した(表を呈示)。L・P1とHeLa・P2とでは夫々無蛋白の培地と血清を添加した場合との両者を比較し、夫々相異なる結果を得たのはきわめて興味が深い。L・P1では血清蛋白が存在しないと著明に増殖が抑制されるが、蛋白を加えるとこれがカバーされてしまう。L・P1ではBilirubinの濃度に比例してはっきりと増殖阻害がおこっているが、牛血清蛋白を5%加えた群ではControl(無添加)と殆んど同程度の増殖度を示している。ところがHeLa・P2では、無蛋白の場合、高濃度のBilirubinでは若干の抑制を受けるが、それにしてもL・P1の場合のように顕著ではなく、きわめて微弱である。血清蛋白を加えると、これはL・P1と同様に抑制現象がまったくカバーされてしまう。これは次のように考えて良いものであろうか。即ち、L・P1細胞のなかの代謝経路の内、ある極めて重要なものがBilirubinでblockされる。これはBilirubinが蛋白と結合した場合には阻害できない。或は、蛋白と結合するとその酵素のある場所まで入って行けない。しかしHeLa・P2の場合には側路があるので、主路がblockされても比較的簡単に代償されてしまう。
 それ以外の細胞では、L、HeLaの血清培地継代系や、ラッテ腹水肝癌(AH-130)及び鶏胚心センイ芽細胞のprimary cultureは、この程度のBilirubin濃度ではほとんど影響を受けない。面白いのはサル腎臓細胞のprimary cultureで、これは0.5mg〜3mg/dlあたりの濃度で反って明らかな増殖促進効果をみせたことである。
これらに用いたBilirubinの濃度は、人血清中の正常値から病的濃度に渉るものをえらんでいる。またBilirubinはきわめて色々なものに溶けにくいので、pHの高い液にといて濾過滅菌し、稀釋してからpHを戻し、できた塩も考慮に入れて塩類溶液を調節して、培地を作るのである。
 また上記の内で、HeLa細胞の増殖率がきわめて悪いが、HeLaはLと異なり、そのときの牛血清如何によって増殖度に大きな差がある。殊に透析した場合にこれが甚しいが、この実験では全部同じlotのものを用いたのでHeLaの為に適した血清を選べなかったものである。 Bilirubinが血清蛋白を含む培地に入れられたとき、なぜ阻害効果をカバーされるか。おそらく蛋白と結合するためであろうが、果たして本当に蛋白と結合するのか、それならば蛋白の内のどんな分劃と結合するのか。これはしらべてみたところ、かなり色々な説があるので、自分で確かめてみたいと思い、濃血清蛋白と混和後、37℃1昼夜加温してから、濾紙電気泳動でしらべてみたが、蛋白各分劃の移動は発色で判ったが、Bilirubinの方は何とも色が薄く(あまり濃いと溶けない)、臨床検査に用いるような各種の発色法をとってもBilirubinの濾紙上の存在箇所をたしかめることができず、ついに行き詰まってしまった。何とか良い考えがおありでしたら、お知恵を拝借したいものである。
 形態の上では、培養の初期にはところどころの細胞の細胞質が濃く黄染しているのを見掛けるが培養と共にこれが次第に増す。他の大多数の細胞も取入れているのだろうとは思うが、なにしろ淡くて対照との区別がつかない。いちばんはっきりしているのは鶏胚センイ芽細胞であった。詳細次報。

《高野報告》
 A)培養細胞の凍結保存
 凍結用アンプルの容量と細胞浮遊液量との関係について、2.5mlアンプルに1mlを入れた場合と0.5mlを入れた場合とで凍結後1ケ月の生細胞数及び増殖に大差なく、むしろ1mlの方が良好な結果をえた。保存4ケ月目の成績も略同様の傾向を示したので、浮遊液調製の簡便さと確実さの上からも1mlを用いるほうがよいとの結論をえた。
 マウス・ラッテ由来細胞保存条件としてのglycerol濃度については近々4ケ月の成績を検討し之によって今後の方針を決めることにした。
 尚凍結保存環境に血清の存在が不可欠といわれているが、この場合栄養源としての意味は殆んどなく、専ら物理化学条件としての意義が大きいと思われるので近くPVPでの代用を試る予定。
 B)JTC-6株のhydroxyproline産生(伝研組織培養室、東大薬学生理化学との共同)
 No.6005に述べた主旨に基きJTC-6の細胞増殖に伴うHYPRO産生は細胞あたり略一定値を保つとの以前dataを再確認する為実験を開始した。遠藤氏の注文で1回の定量材料として少なくとも1000万個cells必要とのことで大仕掛(?)となった。培養開始後一部に増殖不良の培養が存在したので(恐らく培養瓶の故?)予定した4日目の定量を中止。0、7、10、14日目の材料で測定することとした。不充分ながら傾向を確かめる事は可能と考える。
 C)抗細胞免疫血清による細胞障害作用
 JTC-6及びLに同種抗血清を加える場合56℃30分の非働化によって非特異反応を除く必要を認めたので非働化抗血清による障害を改めて観察中。
 また細胞浮遊液で免疫する場合、その細胞の特異性を擔う抗原が覆われる可能性が考えられるが、この点を確かめるためHeLa、JTC-6、Lの3株を材料にcitric acid法によって核をとり、核浮遊液での免疫を開始した。
 D)JTC-6株よりのclone分離
同株でのclone formation実施中にシャーレにまいた培養の染色標本を観察中たまたま相異する2種の細胞でそれぞれ構成されたcolonyが隣り合って存在するのを認めた。一は細胞、核ともに大きく比較的濃染性、他は小型でやや薄く染まる。生の材料では見分け難いのでこの形態を目安に分離する事は出来ないが、clone分離後の比較に基準として用いうる。 No.6005に記した方法でEDTA処理駲化系から6系を分離したが、現在2系が残って通常の継代を行える程度に発育が進んだところ。更に数系を分離して細胞及び集落形態、核所見、増殖態度等で異同を検討する。他に従来のtrypsin処理系でもcolony formationを実施中。 E)Ehrich腹水細胞抽出物のL細胞培養への添加
 前記の様に0.1〜0.5%に抽出物を加えてLの培養を続行中。染色標本でしらべると無処置群に比較して細胞の不同性、濃染性が強く巨大型の頻度がやや高い感じ。但しこの程度の変化は軽い障害作用ともみなしうる。要するに添加を中止しても安定に保持されるgeneticな変化が目標なのでマウスへの復元を試みながら長期継続の予定。
 F)ラッテ脳下垂体前葉細胞の培養
 Fibrin-clot法で培養した組織片からepithelial、fibroblastic両様の細胞がoutgrowして来るが未だ継代には至らない。小さな臓器なので充分な細胞数を得るのに一苦労。40頭を潰してtrypsinizationによる培養を開始した。

《高木報告》
 1)RNAの培養細胞に及ぼす影響
 RNAを培養細胞に作用させる場合、そのredosingの間隔については、培養液中のRNAがどの位の期間分解しないで維持されているかを調べなければならない。No.6005において報じた如く、AH-130腹水肝癌から抽出したRNAは、細胞を含まない培地(PVP+LYT)のみの中では、一週間にわたって殆んどその濃度の低下がみられなかった。今回は更に細胞を培養している培養液中に含まれたRNAが、どの様に消長するかについても比較検討した。
 即ち、第1群・細胞を培養している培養液中にRNAを加えた場合と、第2群・細胞を含まない培地のみの中にRNAを加えた場合、についてその中に含まれたRNAの量を、添加後2、4及び7日目にSchneider法に準じて測定した。第3群、対照として細胞を培養しているRNAを加えない培養液のみの場合についても同様に日を追って測定した。
 この実験では細胞は2%牛血清培地で継代しているJTC-4細胞を用い、これを試験管1本あたり約9万個細胞数になる様に植つぎ、2日間培養後Tyrode液で一度洗い、0.1%PVP+LYT培地で交換してこれに適当濃度のRNAを含有せしめた。
 結果は(表を呈示)、今回の実験でも細胞を含まない培地のみの中では(第2群)RNA量は一週間後でもあまり減少しないのに対し、培養細胞のある培養液中では(第1群)2日後にはすでにRNA量の急速な減少がみられた。これは培養の有するRNaseにより培養液中のRNAが速やかに分解されるためにおこるものと思われる。
 なお第3群のRNAを加えない培地のみの場合においても、測定に際しE260で僅かながら吸収を示すものがあった。
 2)免疫に関する研究
 Wistar系ラッテの心臓、JTC-4細胞共に一応予定の免疫を終了した。即ち始めの2回は一週間の間隔でadjuvantを用いて免疫を行い、以後はadjuvantを使用せず細胞のみを一週間に2回の割合で4週間家兎の皮下に注射した。最後の注射が終わって2週間後にboosterを行い、昨日始めて採血した。早速凝集価及びcytopathogenic effectによる抗体価の測定を行う予定である。(今回のreportにはわずかながら間に合わなかった。) なおHeLa細胞も同様にして再度免疫中である。
 また蛍光抗体法で検討する際に非特異的抗体を吸収するために用いるaceton powderも、ラッテ肝及びラッテ腎からのものは作成を完了した。これらはCoon法によって作成したのであるが、今回は特に温度に留意したためか綺麗なサラサラしたpowderが出来た。ラッテ脾は小さいために中々材料が集まらず未だ作成出来ていない。
 3)その他の研究
 (1)JTC-4細胞の無蛋白培地による培養
 牛血清を含む培地で植ついでは2〜4日後に0.1%PVP+LYT培地で交換する方法を繰返し、牛血清の濃度を次第に落して、実験開始後3ケ月の現在では0.1%の濃度にまで落すことが出来た。2%牛血清培地及び0.1%牛血清培地における細胞の増殖率を出すべく目下実験中である。
 (2)JTC-4細胞のcollagen産生能について
 間もなく実験が終るので材料を遠藤先生の処へ御送りする予定である。培養した細胞はトリプシン処理して高速廻転培養管に集め、一度Tyrodeで洗って5%TCAを作用させて冷蔵庫中に保存している。細胞の増殖率は可成り良い様でinoculum size 5万のものが一週間で大体15倍位に増殖している。
 (3)制癌剤耐性HeLa細胞について
 制癌剤に耐性を示すHeLa細胞をつくるべく、ナイトロミン15〜20μg/ml、クロモマイシン0.01〜0.05μg/mlを依然として作用させて実験を続行中である。
 (4)JTC-4細胞の染色体について
 遺伝学会に出席のため奥村先生が来福されたので、JTC-4細胞74代、培養後3日目及び7日目のものを提供して標本を作って頂いた。今後若しJTC-4細胞が無蛋白培地で培養出来る様になれば、それと比較して頂くと面白いと思う。

《奥村報告》
 A)無蛋白培地継代細胞の染色体研究
 1.L株細胞:前報までは主に4亜株(L・P1〜L・P4)間のchromosome numberの分布の特徴を比較し報告して来たが、今回からはkaryotype(核型)の特徴について報告します。先ず血清培地継代のL細胞では68本の染色体をもった細胞が一番多く出現していて、その68本の染色体構成は11本のV型染色体(V-chrom.)と5本のJ型(J-chrom.)染色体と52本のr型(rod-type)染色体(r-chrom.)である。しかし、中には同じ68本の染色体をもったものでも、その構成が前述と異る細胞も若干混在している。例えば、V-chrom.が13本もあるもの、又J-chrom.が4本しかないものなど各要素(V、J、r)の数的差異が見られる場合、又各要素の数が同じであっても、chromosomeのsizeに明瞭に差があったり、constrictionの位置に相異がみられる、いわゆる質的差異が認められる場合である。L・P1細胞については、血清培地継代のL株細胞と殆んど差は認められない。即ち、染色体数68本をもった細胞が最も多く(頻度が明かに高くなっている)chromosomal compositionも11V-chrom.+5J-chrom.+52r-chrom.である。ところが、L・P2細胞ではL・P1細胞と異なり、66本の染色体をもった細胞が最も頻度が高く、そのchromosomal compositionは68本の場合の構成からr-chrom.が2本欠けたもの、即ち11V-chrom.+5J-chrom.+50r-chrom.である。しかし中には11V-chrom.+4J-chrom.+51r-chrom.のものとか、13V-chrom.+5J又は4J-chrom+48r又は49r-chrom.のものも若干みられた。L・P3細胞でも66本の染色体をもつ細胞が最も多く、その染色体構成はL・P2と非常によく似ている。L・P4細胞は無蛋白培地継代細胞の中でもL・P2、L・P3とはいくぶん異なり、最高頻度を示している66本のchromosomeの中に現在まで大別して3種類の核型が発見されている。例えば、L・P2、L・P3でみられた11V-chrom.+5J-chrom.+50r-chrom.の他に10〜13V型の細胞、6〜8J型細胞である。したがって詳細に分析すればほぼ10種類ぐらいの核型が共存していることになる。勿論L・P4だけでなくL・P1、L・P2、L・P3のいづれにも同数の染色体で異った核型が発見されてはいるが、非常に数が少ない。それに反してL・P4細胞は種々の核型の出現頻度に顕著な差が認められない。
 2.HeLa株細胞:前報でHeLa・P1のchromosome numberの分布がHeLa・P2と殆んど差がないと報告しましたが、samplingのときのミスでHeLa・P1でない事が判明しました。したがってHeLa・P1と記載されましたのをHeLa・P2に御訂正をお願いいたします。現在はHeLa・P2についてのみ分析しておりますがやはり74本の染色体をもった細胞が一番高い頻度を示しています。しかし核型は4〜5種類ほど存在していることが明らかになりました。
 B)遺伝学会に出席して(福岡・九大)
 10月29日〜11月1日まで4日間で約150題が報告されました。発表会場も3ケ所に分かれて私の是非ききたい演題が同時間に別々の会場で報告されるようなこともあって残念でしたが、私のきいた中で特に面白いものがいくつかありましたので一部ここに記述します。
 1.岡田利彦、柳沢桂子(コロンビア大・動)。Thymine要求性突然変異株の特異的産生について。AminopterinとThymidine及びaminopterinにより合成が阻害されると思われる12種の物質を含む合成培地に、大腸菌15株又はK12株を発育させると、増殖した大腸菌の集団中10〜18%がthymine要求性変異株になる。しかも得られた変異株は遺伝的に安定であり、thymine要求性以外の形質にはなんら変化なく、thymineを含まない合成培地ではいわゆるthymine-less deathをおこすという事です・・・このthymine要求性のlocusがchromosomalのものか又はcytoplasmicのものかという事が大切な問題である。
 2.小川怒人(遺伝研)。発生初期における骨格筋ミオシンとアクチン分化の相関性。骨格筋proteinの分化に際し、アクチンとミオシンは全く別個の発現経過を有していることが判明した。この事は今まで発生初期でも再生組織においても常にアクチンがミオシンに先づるという考え方に反することになる。
 3.黒田行昭、堀川正克、古山順一。組織培養による哺乳類体細胞の遺伝的研究(I〜 )。これは今春の京都におけるTC学会のときに発表された内容を更にいくぶん深めたもので、今月19日のTC学会でも発表されるはずである。

《遠藤報告》
 HeLa細胞のleucineaminopeptidase活性に対する性ホルモンの影響
 研究連絡月報No.6003及び6004で報告しましたように、HeLa細胞はかなり強いLeucine
aminopeptidase活性を持ち、更にこの活性は性ホルモンの添加で変動することが認められましたので、いよいよ各種のホルモンを添加する本実験を行いました。
 1.実験条件
 1)培地:20%Bovine serum+0.4%Lactalbumin hydrolysate+saline D
 2)培養期間:4日(2日目培地交換)
 3)ホルモン:Progesterone 0.3mg/l(P)
       Estradiol enzoate 3μg/l(E)
       Testosterone 10mg/l(T)
       Progesterone 0.3mg/l+Esteradiol 3μg/l(PE)
       Progesterone 30mg/l+Testosterone 10mg/l(PT)
 4)定量:(1)核数算定
     (2)Leucine aminopeptidase活性の測定;2日目及び4日目の対照及び処理群の      HeLa細胞を150万個cell/ml程度のhomogenateとし、その上清について活性を測 定して、30分間(38℃に)1x10-9μmoleの基質を分解する強さを1(単位)とした。 2.実験結果
1)増殖:表の通りで、ほぼこれまでの結果と一致しているものと考えられる。
 2)Leucine aminopeptidase活性:Leucineaminopeptidase activity/cellとして表を呈示する。
 3.考察
 1)培養2日目には、増殖及び試験の結果から想像していた通り、Pは最もLeucine amino
peptidase(Leu-ase)活性促進し、次いでEもLeu-ase活性を高め;更にTはまだ細胞増殖は殆ど抑制していないに拘らず著しくLeu-ase活性を低下させた。併し単独では促進的なPとEを同時に添加したPEにおいては対照と殆ど変らないLeu-ase活性しか認められなかった。この理由はよくわからない。又PTでは極めて著しい活性の低下が認められたが、これはPが30mg/lという高濃度なので、P単独でも抑えており、これにTの抑制効果が相加されたのかもしれない。P単独で濃度をいろいろに変えた場合の活性の変化を今後検討する必要がある。
 2)培養4日目には、様相は全く変り、PはLeu-ase活性を低下させ、逆にTが著しく高めるという知見がえられた。Eは2日目と同様促進的であった。PEは依然として対照とそれ程差がなかった。併し、2日目には著しく対照より低い活性を示したPTが、4日目にはかなり対照より高い値を示した。これはTの著しい促進効果が、30mg/lの高濃度でのPの抑制効果(推測)を隠蔽したとも考えられる。
 3)結局2日目及び4日目を通じ一定の傾向がみられたのは、EがLeu-ase活性を高めること及びPEはLeu-aseに殆ど影響しないことである。予備試験ではPEはLeu-ase活性を高めたが、その場合のEは今回の10倍の30μg/lであった。この点でも各ホルモンの濃度とLeu-ase活性の変化との関係を調べる必要を感じる。
 4)P、T及びPTは、それぞれ2日目と4日目でLeu-aseに対する作用が逆転した。この知見をうまく説明できるような事実を私は知らないが、別に行った4日目のデータでも各処理群のLeu-ase活性は略同様になっていたので実験上のミスではないであろう。とするとPとTは化学構造的にも又生物学的作用の面でも似ている所が多いので、この知見は内分泌学的には興味ある問題を提供することになるであろう。
 5)従って今後、この事実を確認するために、各ホルモン処理群についてもっと細かく日を追ってLeu-ase活性の変化を調べたい。

《伊藤報告》
 S2分劃(悪性腫瘍組織抽出液30~70%エタノール飽和沈澱分劃)に対する蛋白分解酵素による処理及び加水分解の影響
前回の報告でS2分劃について、これまでの結果を発表致しましたが、今回は其后に得られました結果を報告致します。
 1)Protease処理
 S2分劃を1mg/ml、Proteaseを0.2mg/mlの濃度に、1/60M.phosphate bufer(pH.8.0)に溶解し、37℃で24hrs incubateして后、100℃3min.加熱してEnzymeをinactivateする。此の様な処理を受けたS2分劃は未処理S2分劃が有するL株細胞増殖促進効果を全く失ふ。
 2)Trypsin処理
 S2分劃を1mg/mlの濃度に1/60M.phosphate buffer(pH.7.2)に溶解し、100℃30分加熱后
Trypsinを0.2mg/mlの濃度に添加して、37℃24hrs incubateして后、100℃3min加熱いて
Enzymeをinactivateする。この処理を受けたS2分劃は、未処理S2分劃と同様効果を有する。 3)加水分解
 S2分劃に6N・HClを加へ、120℃で24hrs.加水分解を行ったものは、完全に其の作用を失う。  以上でありますが、其の后現在はTrypsin処理したものの透析性について、更に別に電気泳動による各分劃について夫々検討を進めて居ります。

【勝田班月報:6007】
 この1年間にはずい分色々の仕事をしましたが、まずBilirubinの各種細胞の増殖に対する影響の比較からはじめます。
 A.Bilirubinの影響:
 添加濃度は人の血清中での生理的濃度から中等度の病的濃度に至る範囲(0.01、0.5、1、3mg/dl)をえらび、細胞は鶏胚センイ芽細胞、L、L・P1、(血清蛋白+及び−)、サル腎臓細胞、ラッテ腹水肝癌AH-130、それよりの株JTC-1及び-2、HeLa、HeLa・P2(血清蛋白+及び−)。結果の概略をしめすと、L・P1では血清蛋白が無いと著明に阻害されるが、血清蛋白が存在すると(5%透析血清)阻害は全く消失する。サル腎臓細胞では反って
Bilirubinで増殖が促進され、AH-130とJTC-2はきわめて似た結果で共に軽い阻害が起る。しかし同一起源のJTC-1では強い抑制が見られ、これらの両株の樹立機転として突然変異を考えたのが裏書された。HeLa・P2では無蛋白の場合でもL・P1とのときと異なり激しい阻害は見られず、むしろ促進する濃度すら見られた。L・P1の場合Bilirubinが攻撃する代謝経路に、HeLa・P2では副路があるのではないかと考えられる。またサル腎臓細胞がしらべた限りの濃度では反って促進したのが面白い。細胞の種類によって明らかに異なる各種の反応を示したのは、今後色々な面に応用できると思う。
 B.多核細胞形成に対する各種血清の影響:
 無蛋白PVP培地で継代中のL・P1細胞は多核細胞が少ないが、これを牛血清蛋白含有培地に戻すと、数日の内に多核細胞の頻度がLのように多くなることは既報した。LはC3Hマウスの皮下のセンイ芽細胞であり、長年馬血清の培地で培養され、その後牛血清で数年、無蛋白にして数年である。各種血清によってその多核細胞形成頻度に相違があるか否か、若しあるとすれば、そのようなL・P1の培養歴と関連を持つかとうかをしらべた。結果はどの血清を加えても多核細胞は多くなり、種類によって頻度に相違はあるが、L・P1の培養歴とは相関関係は何もみられなかった。もう一つ面白いことは、LP・1細胞を馬血清含有培地に移すと細胞の凝集が起ることで、これはLには見られない。血清中の蛋白の仕業であるが、その本態はChokshi君にしらべさせようと思っている。
 C.サル腎臓細胞の栄養要求:
 鶏胚その他胎児組織のセンイ芽細胞や肝細胞の増殖には、鶏胚浸出液は必須であるが、正常の成体組織細胞であるサル腎臓細胞について栄養要求をしらべると、この細胞は鶏胚浸出液を必要とせず、高分子としては血清蛋白だけで活発に増殖する。そして鶏胚浸出液はむしろ抑制的に働くのである。ところが鶏胚浸出液を蒸留水で透析すると、抑制成分は低分子で外液に出てしまい、内液はむしろ促進的に働くのである。従って問題はこの内液がうまく吉田肉腫や肝癌を抑えてくれるかどうかに在る。近日中にその検索をはじめる予定である。
 D.非悪性化細胞株樹立の企て:
 初代培養から無蛋白PVP培地を用いて悪性化さない細胞株を作ろうとする企ては、サル腎臓細胞をつかって何系列もおこなっている。Lの無蛋白培地内継代4亜株間の染色体の比較、奥村君の仕事ではPVPを用いたL・P1だけがもとのL細胞と同じ染色体構成を保っている。つまりただ無蛋白の培地を用いただけでは駄目で、PVPのような代用高分子の存在が必要なのである。これにつづく悪性化の実験ではサルは用いにくいので、ラッテの腎臓で同じ実験を試みているが、これはまだ長期継代には至っていない。
 E.L・P1細胞のアミノ酸要求:
 L・P1のアミノ酸要求については各アミノ酸について逐一その至適最少要求度をしらべたが、結局アミノ酸13種を含め全組成31種から成る合成培地DM-114を得た。この培地でL・P1、L・P2、L・P3、LP・4の各亜系を培養してみると、それらの間にはっきりアミノ酸要求の相違が見られ、何れもDM-12(アミノ酸19種)の培地ではよく増殖するにも拘らず、DM-114ではL・P3は4日以後増殖がつづかず、L・P4では細胞がこわれて細胞数が減少してしまう。DM-114ではDM-12になかったFolic acidが入っているので、それにつれてGlycineの要求が出てくるという考え方もあるので、Glycineを添加した実験も近日中にこころみる予定である。
 F.HeLa細胞の無蛋白培地内培養:
現在、無蛋白培地内で継代できる亜株を3種もっている。HeLa・P1、HeLa・P2、HeLa・P3であるが、3番目のHeLa・P3は合成培地M・858で継代している系である。大体1年位たたないとやはり増殖率は良くなり安定してこないものであるが、前2者は、殊にHeLa・P2は最近その意味で安定してきたらしい。

 :質疑応答:
[高木]Bilirubinは一体どんな動機ではじめたのですか。
[勝田]いちばん最初の考は体内の細胞はBilirubinに対する抵抗性が異なるだろう。殊に肝実質細胞を培養しようとするとき内被細胞やその他の細胞が混在して増えて困るが、何とかこれをBilirubinのようなものを用いて適当に分けられないかと考えた訳です。
[高木]培養に使う人血清にも当然入っている訳ですね。
[勝田]Bilirubinだけでなく、他の体内の生理的な色々の物質をしらべてみるのは面白いと思います。
[遠藤]Bilirubin-freeの血清を得られると良いのだが・・・
[勝田]ラクトアルブミン水解物の各種lotを比較試験していたとき、lotにより牛血清の色の還元され方に相違のあることを見付けたが、これはBilirubinと関係があるかも知れないので、やってみましょう。Protein-freeの培地では、PVPがあってもL・P1、HeLa・P2共にBilirubinの生理的濃度(0.1mg/dl)で既に抑制が見られている。蛋白が相当物を云っていることが判ります。

《奥村報告》
 A.L細胞の4亜株の染色体の比較:
 L・P1、L・P2、L・P3、L・P4の4種について染色体数及び核型について比較してみると、核型でもL・P4が一寸変っている。L・P2とL・P3は似ている。L・P1の主軸は68染色体であるのに対し、L・P2〜L・P4は66本にずれている。但しばらつきの幅は60〜70に入ってせばまっている。L・P4はHyperploidの頻度が高い。L・P1は最近少し傾向が変ってきて、80本近くのが増えてきたのと、66本のも増えてきた。L・P2はやはり60〜70本の間におさまり、HyperploidもL・P1と余り変らず11%ある。中心は66本で26%もあり、純化されてきた感じである。
L・P3はL・P2と似て居り、中心の66本は25%、Hyperploidはやや少くて、9%である。L・P4はHyperploidが多くて15%もあり、Lに近い頻度である。66本は21%もあるが、L・P4の特徴の一つとして、染色体数は同じでも核型のいろいろ違うのがある。ばらつきが60〜70%の辺にせばめられるのは無蛋白培地に特徴的のように見受けられる。また継代につれて狭くなって行く。
 核型としてはL及びL・P1の中心の68本染色体のものでは、V型11本、J型4〜5本(5本が大部分)が特徴で、他の亜株ではL・P2では66本染色体のものは、V型11本、J型5本でrod型がL・P1より2本少ないだけで、V及びJは非常に似ている。L・P3の66本のV型J型はL・P2と酷似しているが、中にはVが12本とJが3本の型も存在している。L・P4の66本は、V型11本J型3〜5本で、この型の他に大きなVが1〜3本増加した型も見られる。但しL・P4の66本には色々の核型が混在しているのが特徴である。以上66本に共通なのは、V型11本、J型4〜5本あることである。68本を比較してまとめてみると、V及びJは大体すべて傾向が共通して居り、2本多い少ないのは、rodの数できまっているようである。

 :質疑応答:
[勝田]Lの亜株を血清培地に戻した場合に再びばらつきが拡がるかどうかという点を一度検討しておく必要があると思います。それから染色体数が多い少ないといっても、細胞1ケ当りのDNA量が実際に増えたり減ったりしているのか、その辺も問題だと思います。
[奥村]rodがくっついて66本になる可能性もあるが、しかしそれならばV、J、が増えていなければならないが、実際はそうでない。
 HeLaの亜株HeLa・P1、HeLa・P2を比較してみると、血清培地継代のHeLaでは中心は76本でHeLa・P1もHeLa・P2も中心は74本になっている。この場合も核型がrodで減少している。
[勝田]やはりDNA含量の件が気になります。引伸写真を作って紙を切抜き、その目方を比較するとか、cloneを作ってしらべるとか、何とかこの点をつきとめたいものです。
[伊藤]cloneを作ると核型が変りませんか。
[奥村]変り易いですね。
[勝田]microspectrophotometerを使う手もあります。
[高木]あいつは非常にむずかしくて測り難いですね。
[奥村]阪大堀川君の耐性株をしらべると、1回だけのsamplingですが、62本が増え68本が減っています。
[勝田]堀川君はDNAをBiochemicalに定量しています。そしてL・P1の方がかなり多いように報告していますが、これはLの方が多核細胞が多く、多核では核の小さいのが多いので、従って核数でDNAを割るとLの方が含量が少なくなってしまうという結果になるのではないかと想像するのですが・・・
[奥村]高岡さんの生物学的観察と似ているのは本当に面白いと思います。
[勝田]継代の時期による比較をよくやると面白いと思いますが。
[奥村]各代で傾向を見たいのですが、数を多くしなければならないので時間が大変です。[勝田]しかし必要なことだと思います。
[伊藤]Normalでの変異はどうですか。Normalでもばらつきが現れますか。
[奥村]肝は大分あるらしいですが、すぐにsamplingできず、何らかの処置をするので、この影響があると思いますので困ります。
[勝田]初代から無蛋白PVP培地でやってみれば見当がつくでしょう。
[奥村]Genom分析をやりたいと思っています。HeLaではやってみていますが、普通のHeLaでは76本染色体が一番多い訳ですが、手廻し遠沈器でゆっくりまわして、中間層をとって培養してみると、染色体が一番少ないので26本なんてのが見られます。しかしこれは増殖してつづいてくれないので困っていますが。
[勝田]比重を使って分ける手もあります。たとえばSucroseのような液で沈むのと沈まぬのと分けるとか。その他Colonial cloneを使うとか、何を条件を変えて、とにかく染色体数の少ないものをえらんで増殖させて行く方法の方が良いかも知れませんね。

《遠藤報告》
 A.HeLa株細胞のLeucine aminopeptidase活性について:
 Hormone(性ホルモン)の影響をみた訳ですが、1〜2日目のばらつきが実に多いのです。後半ではtestosteroneを加えた群が活性が高くなっています。母培養によって活性の差ができるらしく、実験のstartのときの活性度に既に差が見られます。培地に使う血清の牛の雄雌によっても当然相違の生まれることも考慮に入れなくてはならぬと思います。20%位の活性の増加では他の分野の人は有意の差とは云わないようです。しかし組織培養の場合には、これはやはり有意と考えたいと思います。
 今度はβ-gluconidaseをやってみたいと思います。これはin vivoで変化のあるのが充分判っているし、活性もはっきり差があるからです。
 testosteroneがこのようにleucine aminopeptidaseの活性を上げたということは、蛋白代謝と関係づけて考えるべきか、或は性ホルモン的作用と考えて良いのか。最近protein anabolicの作用だけの物質ができているので、これを使ってしらべる手もあります。前は増殖だけを考えていましたが、今後はこのprotein anabolicの立場から考えてみたいと思います。
 B.Zn65の取込みについて:
 前からZnには目をつけていたのですが、今度の癌学会ではZn-Histidine Chelateが一番良く腫瘍細胞に入ったという報告がありました。千葉大の薬学などで、前立腺にZn-His-chelateが多く含まれているという報告をやっていました。ZnとInsulinとの関係を来年度はぜひやりたいと思っています。

 :質疑応答:
[奥村]性ホルモンのHeLaに対する影響としては、たとえばTestosteroneが増殖率の多いものだけをおさえる、ということも考えられないだろうか。例えば染色体76本の方が全部抑えられればhyperploidの方が残るが、残ったものの増え方がおそければ、全体として抑えられたことになるわけです。
[遠藤]無蛋白培地のHeLaでやったらどうですか。
[勝田]Protein freeのHeLaは性ホルモンで促進されないから駄目ですね。
[遠藤]他の細胞にやってみると、例えば増殖には影響なくても酵素活性の方に変化があるかも知れません。サル腎臓細胞に期待しているのですが・・・。
[奥村]子宮癌は他の臓器に比べて、mitosisが多い傾向ですが、この点で、mitosisの多いのは、それだけ遺伝的にVariationが多いことになりますから、ホルモンがあるものだけに作用することもあり得ますし、またそういう報告もあります。
[遠藤]デュラポリンのようなものですね。

《伊藤報告》
 Oncotrephinの仕事を主にやってきたのですが、まずそのいわれから話しますと、久留教授は以前に非常に大きな乳癌の患者の潰瘍から出るリンパ液で洗われている皮膚に、
krebs自身とは考えられないような増殖性変化のあることを見附け、また別の例で、
magenkrebsの患者で開腹してみるとtumorが大きくてmetaもあり、radikalの手術ができず、Haupttumorだけを取ったが、比較的にその後永生きし、死後解剖してみるとmetastasisの縮小を認めた例があります。また別の例として、magenkrebsの手術のとき肝をとって組織検査すると、胃潰瘍の患者に比べてmitosisが多いことに気が附かれました。これらの臨床的観察が根拠になって、腫瘍からは何か他の細胞の発育を刺激する物質が出てくるのではないか、と考えたわけです。これについて比較的はっきりしたdataが出はじめたのはBulloghの方法を用い初めてからで、mouseの耳の小片をとり、Warburgで1時間振盪し、更にコルヒチンと混ぜ4時間振盪後、上皮細胞のmitosis%をしらべたところ、陽性の結果を得た。そしてin vitroでもう少し長く観察できるものとして、組織培養を用い始めた。腫瘍の生食extractをアルコールで分劃沈殿させますが、L株細胞の培地に各分劃を加えてしらべると、アルコール30〜70%沈殿(S2分劃)のものが活性があるらしく、以後の実験にはS2のN量を測り、濃度を既正しています。S2分劃の特性は1)耐熱性(100℃30分)、2)透析されない、3)硫安分劃では50〜70%飽和で不溶の分劃に活性、4)starchのzone electrophoresisではFolinでpeakが二つでき、その中間に近いところ( 分劃)に活性がある。5)paper electrophresisではβ-globulinに近い動きを示す。S2よりももっと細かく、30〜50%アルコールで沈殿するのをS2’、50〜70%をS2''と分けた。活性はこの内主にS2'にある。S2'分劃の特性はHClによる加水分解で活性が落ち、pronaseでも落ちる。
 :質疑応答:
[勝田]pronase dijestionしたあと透析して外液をしらべる方が良い。
[伊藤]外液は増えるので、凍結乾燥で濃縮するのが大変です。trypsin dijestionでは活性が残ります。trypsiningしたものを透析し、内液と外液を夫々しらべると、その都度で結果が若干ずれるので決定的なことは云えないが、外液に活性物質が出ることは確かに思われます。またこれらの因子をとりだす元の組織によって若干の相違があり、たとえばAH-130からのは耐熱性であるが、人肝癌では易熱性のものもあります。滅菌は全部使用前にmembrane filterで行いますが、N量で多いときは10%位減少します。
[遠藤]それはfilterに吸着するためですか。
[勝田]濾過したfilterをさらに培地か何かでよく洗ってみると良いですね。
[遠藤]membrane filterに引掛るんでは大きいような気がします。大量にひいたとき減少量に変化はありませんか。
[伊藤]種々の量ではやってありません。濃度には関係ないようです。
[勝田]培養にいちばん広く使った濃度は。
[伊藤]S2’の分劃でN量0.1mg/ のを培地中に1/10〜1/50量です。濃度としてはこの上に2種、下にも2種やってみましたが、この辺が一番良いようです。細胞はL株で10%牛血清に0LYH(PR+)ですが、8日間に50倍位ふえます。inoculumは1.5万個〜2万個/tube。24時間培地を入れincubateしてから培地をすて、実験液にかえます。
[遠藤]癌学会ではCEEからとった実験には10μg/ml位にかいてあったが、その1/10〜1/50量となるとtumorよりCEEの方が強いということになりますか。
[伊藤]N量でいうとCEEの方が少しoptimalは低かったと思います。今後はresinで分劃する予定でおります。
[勝田]Sampleはどんなものについてしらべましたか。
[伊藤]やってみて効果を認めたのは、人の精上皮腫、肝癌(Nekrosisのないtumorの処のみ)grawitzと、実験癌としてはAH-130を接種後9〜10日目のもの。赤血球が混っているときは生食で数回洗いました。あとはCEEと再生肝です。正常肝は全く無効でした。
[勝田]ばらつきはどうですか。
[伊藤]Control 100万に対して130万以上を活性ありとしています。160万以上になることもあります。
[勝田]色々のtumorを比較してみると面白いと思います。殊に乳癌など。
[伊藤]乳癌はやったことはありません。
[勝田]AH-130は何匹位ratを使用しましたか。
[伊藤]30匹でdry weight 500mg位とれます。
[勝田]組織を保存するための凍結温度と可能な期間は。
[伊藤]-20℃のdeep freezerで2ケ月位おいたものでも活性がありました。
[梅田]解剖例でもやってみましたか。
[伊藤]死後6時間位のtumorでも活性は落ちていませんでした。腫瘍間の差としては例えば再生肝からの因子は60℃15分以上では活性が落ちるが、56℃15分では残っています。これに対してCEEからのは56℃15分でも落ちます。
[勝田]塩酸による加水分解の処置などはdelicateなところです。あとでよく飛ばす必要があるから、水にとかしてpHをcheckしなくてはなりません。またこれで全部アミノ酸の
orderまでこわれるし、アミノ酸もものによってはこわされてしまう。それからtrypsin処理の方法も検討が必要で、加えて加温を24時間もやると、その間に活性がおちる可能性があるから。trypsinの加え方も一ぺんに初めに全量加えないで、時々加える必要があります。やり方によってもっときれいに外液に出てくるのではないかしら。
[伊藤]digestしたかどうかはninhydrinでみてあります。
[勝田]peptidesならアルコールでさらに分けられるのではないか。そしてあとはresinのクロマトで分ける他はない。さらにもっとpurifyしたところでspincoの分析用のでpeakがいくつあるかしらべ分けるか・・・。Biuret反応はどうですか。
[伊藤]やってありません。
[勝田]Biuret反応は一応peptideに或程度特異的とされているのだから、やった方が良いでしょう。またactivityの検定法を検討してみる必要もあると思います。
[伊藤]Ratの腹腔内に2mg/mlを1ml入れて、24時間後に殺し、400倍の視野100ケで約3万個の細胞についてmitosisをしらべると、実質細胞では4〜5ケ、sternzellenではもっと多い。controlには見られませんでした。
[梅田]S2分劃の中には核酸は入っていますか。
[勝田・遠藤]spectrumをとってみる方が良いですね。2580Åの辺にpeakが残っているか、それとも2800の方にあるか。
[伊藤]肝からとったS2分劃で肝のmitosisが多いというのはOrgan specificityを示しているようで面白いと思います。

《高木報告》
 A.培養細胞に対するRNAの影響:
 さきに月報に報告しましたが培養細胞に対して腫瘍のRNAを加えると或は腫瘍化が起らないかという問題からやっていますが、形態的にはこれまで2回しらべましたが、顕著な差は見られませんでした。そこで今度は長期間RNAを与えてその変化をみた訳です。まずMY肉腫からとったRNAをmouse skinmuscle tissueの培養に、AH-130をJTC-4に入れた訳です。そしてそのための予備実験として先ず培地内でのRNAのこわれ方をしらべました。PVP+LYTの培地に細胞を入れずRNAのみ50μg/mlに加えた訳です。定量はSchneiderの法でみました。細胞があると、急速に培地中のRNAが4日以内に激減して行くのですが、細胞がないと7日間培地更新しなくても殆んどその値は一定でした。

 :質疑応答:
[遠藤]この方法では生物学的に非活性のものも定量にひっかってしまいますね。つまり細胞のない場合に、仮にhigh polymerのRNAがincubtionによってこわれて行っても、定量で見ているのはもっと下のレベルのところで見ているわけだから、変化が出ないのは当然かも知れません。そして細胞があれば、そのこわれたものを利用しているかも知れない。nucleotide位のところで。
[勝田]polymerizationの落ち方を見るならViscosityしかないでしょう。もっともPVPなんかが一緒に入っていると困るが。
[遠藤]そうですね。Viscosity位しかないでしょう。核酸のbaseの辺で測っているのでは意味がないでしょう。
[高木]結局これは長期RNA添加培養して、復元成績をみたいのです。Controlとして正常の肝(ラッテ)からのRNAもやっています。

 B.免疫学的研究
 蛍光抗体を使って細胞の同定ができるか、悪性良性腫瘍の比較ができるかどうか見たいと思います。liver,kidneyからacetonpowderを作っておき、細胞は2百万個生食に浮遊させ凍結融解後、静注、adjuvantと共に刺しています。抗体値は1〜2百万個cells/tubeで凝集反応を見ます。JTC-4の抗体では、40倍〜80倍のができました。抗原の種特異性を見るため、JTC-4とLの抗血清をJTC-4,L,HeLaなどに用いてみました。JTC-4抗血清では、JTC-4細胞は20倍で+++、L細胞が10倍で+++、HeLaが20倍で-となりました。抗L血清ではLは20倍で+++、JTC-4は20倍で++でした。蛍光抗体で見た結果は、間接法を用いたのですが、抗JTC-4と抗rat心の血清を用いると、JTC-4細胞の生きたままのでは、前者で核膜が染まり、後者では不染。JTC-4D(伝研でEDTAで継代のもの)は、前者では不染、後者では細胞質と核小体が染まりました。L細胞は両血清とも、染まってはいるがそんなに強くありません。JTC-6の生の標本では、CPが強く出ていましたが、前者で染まり、後者は不染、HeLaの生では前者血清で不染で、CPも見られませんでした。これで一応種特異性は出ていると思います。
 C.Hydroxyprolineの産生:
 JTC-4とJTC-6のHypro産生量を比較した訳ですが、培養につれてJTC-4のは次第に増加しているのに対し、JTC-6はほとんど変らないのは、やはり原組織の特異性を保持しているのかも知れません。
 D.JTC-4細胞の無蛋白培地培養:
 培地中の牛血清濃度を次第に下げ、その代りPVPを加えてありますが、0.1%まで下げましたが、やはり血清なしでPVPだけだと増殖してくれません。
 E.クロモマイシン耐性細胞:
 クロモマイシンの耐性細胞を作ろうとしています。これはHeLaで0.001μg/ml、JTC-4で0.01μg/mlが増殖を抑える限界ですが、0.005〜0.01μgでHeLaに作用させています。ナイトロミンはJTC-4で1〜10μg/mlで増殖を抑えますが、目下15μgまで濃度を上げられるようになりました。
 F.RousのVirus:
 Chick embryo heartの余り生えない状態でRousのSarcoma virusを入れることを試みて居ります。

:質疑応答:
[勝田]高木氏の株をEDTAで継代している株、JTC-4Dが、今度の癌学会には出しませんでしたけれど、JTC-4とちがってcollagenをあまり作らなくなっています。細胞の形態ももちろん違いますし、EDTAにmutagenicのactionがあるという説によくあてはまると思いますし、そう思うと、JTC-1及び-2の特性がAH-130とちがっていることの一つの裏書にもなるし、これは今後さらに少しつっこんでみる必要があると思います。


【勝田班月報:6101】
《勝田報告》
 去年の滓
 全く振返ってみると去年は余り良い仕事ができなかった、とつくづく思う。いささか迫力が落ちたかと我ながら情なくなるが、要するに年をとるにつれて次第に雑用が多くなり、考える時間が減るせいもあるのではなかろうか。昨年からつづく仕事の残りもなるべく早く片附けて、今年は思切って良い仕事をやりとげたいと思う。
 今年の夢
 夢だけには終らせたくないが、まず第一に考え、且やり初めているのが、双子の培養管を作り、夫々の管に異種の細胞を入れ、細胞が硝子管に密着したあとで、静かに管を寝かす。すると管の中間につけてある結合部で両方の培養液がまじることになる。これをそのまま静置で培養し、あとで夫々の管のなかの細胞数をかぞえて細胞両種の間の干渉を見ようというわけである。最初にやったのがHeLaとJTC-4Dであるが、7日間培養すると、HeLaの増殖は促進され、高木君の株の方は抑制されている。勿論夫々単独での培養と比較しての話である。但し7日間では顕著な差にはならない。次に現在やっているのがHeLaとサル腎臓細胞であるが、これも似たような結果が出かけている。この仕事には夫々至適培地が同じ細胞をえらばなければならない欠点があるので、次の段階としては両管の間の穴をすり合せにしておいて、そこにセロファン膜をはさんで密着させ、ローラーチューブで回転しながら(液の撹拌のため)培養してみたいと思っている。さてこの培養法を何と名付けてよいか、がまた頭痛の種であるが、いま一寸考えているのは動物実験で2匹の動物を並べて血管をつないだりする実験をParabiosisと呼んでいるので、これをもじってParabioticcell cultureと呼んだらどうかと考えているところである。また、これを何と和訳するかも問題である。何か良いちえがあったら拝借したいものである。これまでの外国の研究では、一つの容器で2種をmixして培養した例はあるが、それではせいぜい形態学的な観察しかできないのに対し、これでは定量培養ができるのが強味で、何とかもっと面白いところまで展開させ、1962年度あたり外国の学会に持って行って、あっと言わせてやりたいとひそかに念願している次第である。この培養法を利用すると、これまで培養のできなかった、例えば人肝実質細胞なども、となりの管に内被細胞を培養しておけば可能になるのではないかとも夢見ている次第である。
 次に狙うのはやはりin vitroでの発癌実験であるが、いちばんさきにその内でもやりたいのは、子宮とか乳腺のような女性性器細胞の培養で、これを性ホルモンで発癌させる方法である。DNA、RNAなどは高木君が狙っているし、まあいちばん可能性のありそうなところを我々が狙うとすれば、こんなところになるであろう。第3の夢はSynchronous cultureで、これのいちばん初めに狙うのはL・P4細胞(Lactalbumin hydrolysateだけで継代している亜株)である。これはDM-12(乃至はDM-120)でよく増殖し、7日間に18倍という例もある。殊に初めの頃はgeneration timeが24時間弱なので、やる方には大変便利なお行儀の良い細胞である。それからAH-130の肝癌やサル腎臓細胞のようなprimary cultureでもぜひやりたいと思っている。
 細胞の栄養要求は現在はL・P4のアミノ酸要求をやっているが、サル腎臓細胞についても低分子栄養物をもっと考えればPVP培地でもっと良くふえるようになるのではないかと思う。これはポリオワクチンを作り、或は検定する人からも大いに切望されている問題である。最近とくに痛感するのであるがやはり各種細胞の栄養要求の比較のような地味な仕事をやっておくと、それが他の仕事にもずい分役立つのである。従ってこの方面の仕事はあく迄つづけて行くつもりで居る。
 新人の巣
 若い研究者を養成することは自分の仕事をすることと同様に日本の科学のために必要なことである。しかも本当にその技倆を信頼できるようなひとでなければ何人いたとて何の役にも立たない。阪大の堀川君が今度漸く大学院を卒業し、1本立になって我々の仲間に入ってくれることになったのは何といっても心強いことであるし、今どきの若い連中の間にも何%かは見込のある人がいることを教えて、我々をほっとさせてくれる効果がある。ことのついでに私の研究室の現在及び将来の陣容を御紹介申上げておこう。小生、高岡君(この3月1日で満10年目になります。オバチャマ)、梅田君(横浜市立大・医学部卒・同学の病理に助手として2年間勤務の后、東大の大学院学生となり当室に常勤)、月岡君(昨春、新制高校を卒業した無口のお嬢ちゃん、もっぱら雑役をやってくれています)。それに国内留学生として古川君(東大小児科・大学院3年、白血病の細胞の培養を志していますので、平木内科のちゃらんぽらんな報告を検討し、もっと本当にしっかりしたデータを出してもらうために好適の人物です)、高井君(阪大・久留外科・大学院2年、古川君と共に本当に仲々しっかりした人物で日本の次の代を担ってくれると信頼できる人です)。それから外国からの留学生として印度Baroda大学・理学部生化学教室・大学院学生(博士課程)Chokshi君と、いま4月までですがChokshi君の研究室の教授Prof.C.V.Ramakrishnanが滞在中です。4月になると、現在東大医学部衛生看護学科の内川嬢が、農学部獣医学科の大学院学生の名を借りて(試験は先日パスしました)入ってきます。この方にはずっと組織培養をやる決心がついて居るようです。5月には東邦大学薬学部を4月に卒業の照屋君(沖縄県)が4月の国家試験を終えて入ってきます。生化学的定量などの方面を受持ってくれます。本当に良い人物、有望な人たちが入って来ますし、現在も居りますので、この一年間の活躍が我ながらたのしみでなりません。

【遠藤報告】
 (1)塩類溶液の処方は間違っていませんか?
 こういう失礼な設問をしたのは決して皆さんのお仕事についてではありませんから、まず怒らないで読んで下さい。
 昨年中は雑誌「蛋白質・核酸・酵素」(共立出版)からやいのやいのとせっつかれ、とうとう"生化学領域の生物学的実験法"なる実験講座のトップを飾り(?)、"組織培養法"を執筆することになりました。というわけで正月も原稿に追われて過ごしたのですが、更めて塩類溶液の処方を調べてみて、あまりに成書に誤りが多いのに驚かされたのです。これは勝田さんの「組織培養法」のお手伝いをした時にも感じたのですが、自分の責任で別に表を作ってみて又々痛感させられたわけです。
 例えば、
(1)"戦後の日本の組織培養研究者を大いに裨益した"という"Tissue CultureTechnique"(G.Cammeron)では、Earle(1943)のNaH2PO4H2O・0.125・・・これは無水塩の値で、1水塩なら0.14である。 Buffered Saline SolutionというのにpHがはじめか違ったら困る。
SimmsX7のCaCl2(Anhydrous)・0.147・・・これは2水塩としての値である。lower calcium contentを特徴とするSimms soln.がそれ程低カルシウムでなくなるのは大変困る。
(しかし、これらは組織培養法(勝田甫)では改められていますが、でも、HanksのCaCl2 0.20g/lは、現在殆ど0.14g/l(血清のイオン・カルシウム濃度5mgCa/dlと等しくするため)が用いられているので、改訂版ではそうした方がいいのではないでしょうか)
 この他、処方の誤りではありませんが、higher calcium content(血清の総カルシウム濃度10mg Ca/dlと等しい。即ち現在一般に用いられているHanks等の倍量)を特徴とするGey(1936)は、引用文献のAm.J.Cancer 27 45(1936)の何処をみてもその処方がのっていないのです。これは他の人にも調べてもらったので私の見落としではありません。これはそんなことで勝田さんの表からは除かれたのだろうと思いますが、この「組成のGey's BSSはDifcoから市販されており、御丁寧にもカタログの文献はやはり上記のものになっています。実はこの組成を私はずっと使っているので困っていたのですが、この処方が"Cell and Tissue Culture"(J.Paul)に載っているのです。ところがGey(1945)となっているくだりで文献はありません。同書ではGey(1936)も収載しており、これはまさしく上記AM.J.Cancer 27 45(1936)で記載された処方になっております。どなたかGey(1945)の文献を御教え戴けませんでしょうか。
 この"Cell and Tissue Culture"(J.Paul)は初版1959年ですが、すでに改訂版が1960年に出ているのを御存知でしょうか? 全く貧乏な研究者泣かせですが、随分内容の変った所や、全く新しい章もあり、確かに良くなっております。新版が1980円だったと思いますが、比較的安いので御求めになることをおすすめします。
(2)しかし、内容はユニークで面白いこのPaulの著でも、二三のTableは全くめちゃくちゃです。丁度今手許にこの本がないので明示できませんが、塩類溶液の組成にもCameron以上に誤りが多かったと記憶しています。又合成培地の表に至っては、Medium199のアミノ酸のdl体を用いたものがMedium858ではl体で半量になる筈なのに、全部同量の記載になっています。
 只、Parker先生のために辨じておきますと、"Methods of Tissue Culture"(1950)には全く誤りがありませんでした。尤も、収載された塩類溶液の種類は少ないのですが。
しかし、兎に角あのねれた内容からして、さしもとうなずかされました。
 (2)CEEのGrowth-promoting activityに関する若干の知見
 これまではchick embryo temurの培養に"Dynamic medium"を使ってきました。これは、0日には9日のCEE、2日には11日のCEE、4日には13日のCEEというように(9日の鶏胚の場合)、培養組織のageに相応するageのCEEを使う方法です。これは9日のCEEだけを使うより良いことは前にみているのですが、初めから培養組織のageより高いageのCEEを通して使うことは試みていなかったので、大分古い話になりますが、"Dynamic medium"と13日のCEEを通して使った場合を比較したことがあります。この時は、定量の結果、明らかに13日のCEEで初めから培養した方が骨形成はよくなっていました。(未発表)
 そこで、CEEのossification-promoting activiyがembryoのageによってどのよう変化するかをみるために、9日のCEEを対照として10、11、12、13及び14日のCEEと比較してみました。勿論、馬血清はpoolして、この一連の実験には全部同じものを使いました。しかし、結果は11日にきれいなピークが出て、13、14日に至っては9日より遥かに劣っておりました。この結果は前の予試験と全く相容れないものです。結局最も違う実験条件といえば、血清の異なることで、亦々natural biological fluidの固体差にいじめられる破目になりました。 時間がないので詳細は次号にでも書きたいと思います。
 又、別個にCEEのUltrafiltrateの化学的分析を進めています。当然のことながら、Hyproを除くnaturally occuring amino acidsはみなありそうです(しかし、Kirk一派のreport
ではtaurine,serine,glutamic acidしか記載していないのはどうしてでしょうか)。更に、これも当然のこと乍ら、nucleotide(nucleosideかもしれない)もかなりの濃度に含まれています。現在その同定を行っています。

《奥村報告》
 年頭に際して(1961年)−
 1960年は苦難の多い年でした。私共の教室にいた10人ほどの研究者が旧学位制度の期限が終るということで大混雑、そのアオリを受けて否応なく動きまわり、心身共に疲れ果てた次第です。確か昨年の年はじめに、私は「今年こそ自分の研究を計画通りに・・・」と決意し、スタートしたはずなのに、過ぎた一年をふり反ってみるとあまりにも淋しい心境です。昔の諺に「99里を半ばとす」というのがありますが、この論法から私の昨年の研究の進展を計算しますと計画の約35%をしたことになります。約1/3の目的しか達成することができなかった事になり、あとの2/3は今年に持ち越したことになるのです。そこで私は今年の年頭に際して考えた事は、今年は165%の仕事をしなければならないということです。大いに頑張るつもりです。
 1961年の研究は昨年度の研究であった無蛋白培地と細胞の遺伝的性質との関係をひきつづき追究して、細胞の栄養要求と遺伝的性質の密接な関連性を明かにしたいと考えています。この命題を追うのに最も重要な事は正常細胞、腫瘍細胞のいづれにおいてもゲノム分析を可能にすることであります。しかし、このゲノム分析は今まで動物細胞において殆んど行われておらず、非常に難しい問題です。もしこの点を明確にすることが出来るならば組織培養において極く一般的にみられる染色体の変異性の問題もなかり解決されると思います。又癌細胞の変異における複雑さも単純化されてくるにちがいないのです。ともかく、今年は出来る限り努力に努力を重ねて種々の難問解決のために奮闘いたしたいと心算しておりますのでよろしく御教示下さい。
「現在はMonkey kidney細胞の2種培地(1.血清培地、2.無蛋白培地)によるPrimary culture時のchromosome patternの分析を行っておりますがやはりserum mediumの方がchromosome numberの変異が多くLやHeLa細胞でみられたのと同様な現象が得られております。来月の会議までにはかなりはっきりした事が言い得るようになると思います」

《伊藤報告》
 総合研究班一年の集計の時期も迫って来ましたが、振返ってみると早いものです。
 臨床医としての仕事をやりながらの研究で思うにまかせない事も多く、仕事の進行が全く遅々として居り、その範囲も狭くグループの皆様方の御報告をみる度に吾ながらいささか不甲斐なく思はれます。
 又、連絡事項、月報の原稿等いつも遅れがちで勝田先生にはお叱りを戴く事の多い年度でしたが、何とか発表出来る成果を得られましたのは、勝田先生始め皆々様のお陰様と感謝致して居ります。
 今年は少しは時間に余裕も出来ますので、変った方面の事(人癌の培養)等もやって見度いと思って居ます。又班員として班長を始め、他の方々に御迷惑をおかけする事の無い様、精々の努力を致す覚悟です。何卒次年度も宜敷くお願い申上げます。

《高野報告》
 12月の癌学会の後の第2回報告会に出席出来ず残念でした。御一同にも御迷惑をおかけしたことと申しわけなく思っています。12月15日に父を亡くし、長男である立場から葬式に引続く後始末に追われて何も出来ませんでした。1960年は2月に部屋の火事騒ぎで4月迄機能停止。引き続いて引越しで落ち着かず正常にもどったのは6月以後でした。細胞株がナマのも凍結保存中のも大体無事だったのは不幸中の幸でした。Paper類が火災そのものより消防の"水害泥害"で大分やられ之は回収不能のままです。変な年といえば個人的には次男坊が眼の負傷に続いて虫垂炎で入院、前記父の死去とともに要するについていない年でした。1961年の訪れとともに公私ともどもスッキリと能率増進を期待していたら正月早々今度は長男が虫垂炎で手術、おまけに小生自身ヘバリだかハヤリカゼだか寝込む始末で余りよき新年でもなさ相。いやな事はまとめて済まし1961年は2月からのつもりで、これから張切ります。Transformation、resistancyとデリケイトな問題を中心に手不足、金不足をかこちながら、結局は余り変りばえしない自分のペースでとに角前進ということになるのでしょう。御一同の御健闘を祈りつつ雑感以下の雑文で御容赦願います。
 P.S.わが研究室の名前が"癌室"から"細胞病理室"と変りました。理由はおよそお役所式形式的なもので、勿論小生の発案ではありません。看板が変っても中味は同じですからどうぞよろしく。尤も旧態依然では困りものでtransformation進捗のオマジナイと思って張切ることにします。重ねてどうぞよろしく。

《高木報告》
 1961年の新春を迎え、身も心も新に研究へのスタートを切られた事と存じます。昨年以来科学研究費の整理その他でバタバタいたしましたが、どうやらひとかたついてホットした処です。今月のは報告にはなりませんが、昨年末の伝研の会合の時の追加などさせて頂きたいと思います。
 1)培地中のRNAを測定する実験で、遠藤先生の・・・E260で測定すればRNAの分解した形のものでも塩基部分があればかかって来るのであるから、nativeのRNAを云々する場合にはこの様なやり方は意味がないのではないか・・・という御意見にについて、こちらに帰って測定法を検討した処、Shneiderの方法はNo.6005に記載した様に、PCA不溶のRNAを測定する事になり、分解した塩基部分は捨てる事になるので、この様な心配はないのではないか、つまりこの方法により測定したものは分解していないRNAのみと考えられますが如何でしょうか。
 2)Bilirubinの培養細胞に対する影響をみた勝田先生の御仕事で、血清蛋白と結合する問題について・・・山岡教授に話してみました。・・・
Bilirubinは血清蛋白と結合しやすい。しかもAlbumine分劃とよく結合する。この結合にはpHの影響が大である。たとえばpH7.4と云った場合には、血清Albumineの等電点は6.4位であるから、これは(−)に荷電する事になり、またEstaerの形のBilirubinは(+)に荷電しているからくっつきやすくなる訳である。以上は山岡教授の話のうけうりですので、左様御承知下さい。
 なお今月21日(土)に九州癌研究会なるものがございます。例のHydroxyprolinの演題とこれまでの細胞免疫学的研究のdataをまとめて2題出題しました。                                     

【勝田班月報・6102】
《勝田報告》
細胞凍結保存制度
 細胞株の保存のため凍結することは国内では予研・高野君をはじめ若干の人が手がけはじめていますが、1)どんな型の細胞にはどんな凍結保存法がよいか、2)保存により細胞株の性質が変らないか(淘汰)、3)最大或は最少どの位は保存できるか、などの基礎的なデータを早くしっかり出し、日本国内数ケ所に於て代表的な株と、国内でできた株すべては保存する、というような制度を早く作るべきではなかろうか。勿論これには国家的援助が必要であるが。これによって不時の事故で株が中絶することと、余り使わないときにもたえず維持して行かなくてはならぬという、合計すれば大変な量の労力を防ぐことができるのである。また同時に株を作るほうも、何でも良いから作るのではなく、何かちゃんと目的に沿うような株をつくるようにこれからは努力すべきではなかろうか。そして培養法が進歩して、どんな細胞でもすぐ培養できるようになれば、特殊に変異した株のほかは保存の要もなくなるであろうが、それはいつのことか判らぬので、致方のないことである。
 A)パラビオーゼ細胞培養(Parabiotic Cell Culture)について
 今月は培養法を中心にかきましょう(試験管の図を呈示)。まず培養管ですが、1ml目盛のついた短試2本を細い硝子管が連結しています。初めは横にまっすぐつないでみたのですが、そうすると管を立てたとき液がその細い管のなかに入って行ってくれません。こんな形になるまでにずい分色々やってみました。Control群のためには夫々1本立ちの短試を同質の硝子管で作っておきます。液量ははじめは1.5mlのつもりでしたが、それだと細い管に液が入ると元管の方の液がすっかり少くなってしまうので2.0mlにしました。勿論Controlの方も2mlです。これで左右の管に夫々別の細胞を入れておいて、一晩位は未だ液が交通しない程度の傾斜でincubateし、細胞を硝子管の底に附着させてしまいます。それから初めてゆっくり管を寝かし、細い管の中まで液が入って、左右管の液が相通ずるようにします。以后はずっとこの状態で培養するわけです。数をかぞえるときも左右別々にクエン酸液を入れて別々にかぞえますが、この型(TWIN-D1)の欠点として遠沈管に入らないので、クエン酸液を入れたあと、1晩放置して細胞を自然沈着させなくてはなりません。そのためか、少し1本1本の核数の間のばらつきが少し大きい嫌いがあります。そこで遠沈もできるように改良したTWIN-D2や、間の連結管にMiliporefilterやcellophaneを挟むことのできるTWIN-D3型も発註してあります。こういう高級の細工は高島商店です。管を立てておく支持台は光研社です。次にJTC-4D株とHeLaとのpara-Cultureの結果をお目にかけましょう(表を呈示)。Para-Cultureすると、JTC-4Dの増殖は抑えられ、HeLaのは促進されています。 B)L原株とL・P4亜株との増殖に対するナイアシン及びその誘導体の影響
 これは例のBarodaのProf.C.V.Ramakrishnan、Mr.H.R.Chokshi等と共同で始めた仕事ですが、合成培地DM-120を使い、Nicotinamideの代りにNicotinic acidやその他の誘導体を用い、それらの間及び両株での間の、増殖の比較、DPNの合成、糖消費、乳酸産生、培地中のアミノ酸の変化、細胞の形態の変化などを見ようとする仕事です。いまL株について始めていますが、1週間LをDM-120で増殖させ(母培養、この間はよく増えます)、それから次の1週間に各種培地に移して実験するわけです。
 C)L・P4細胞のアミノ酸要求
 アミノ酸19種を含有する合成培地DM-120(全組成で37種)では、少くとも1週間はL、L・P1、L・P2、L・P3、L・P4は何れも旺盛に増殖する。しかしこれよりもアミノ酸6種を少くしたDM-114ではL・P1とL・P3は7日間増殖を続けられるが、他はできない。両培地の相違はアミノ酸6種だけである。殊にL・P4は細胞数が顕著に減少して行くので、L・P1とはアミノ酸要求に於て相違のあることがはっきりしている。そこで今年に入ってからL・P4のアミノ酸要求を順次しらべ、L・P1と比較をしているが、現在までに判った結果は次の通りである。
 Phenylalanine:DM-120には80mg/l入っているがDM-114に入っていない。つまり少なくとも1週間の試験では入れなくとも入れたのを同じように増殖(L・P1)したのである。ところがL・P4でも入れない方がむしろ良く、0の群で7日間に5.5倍、80mg/lの群で3.2倍の増殖である。 Tyrosine:DM-120には50mg/l、DM-114は0である。これもL・P1では入れない方が良かったのである。しかしL・P4の場合は0だと7日間に4.5倍なのに対し、50mg/l入れた群では最高で6.3倍の増殖である。これがL・P1とL・P4のアミノ酸要求の相違の一つであろう。
 Asparatic acid:DM-120には25mg/l、DM-114は0である。4日迄の成績によると、この場合もL・P4はL・P1と同様に0の方がよく、4日間で6.3倍であるのに対し、25mg/l入れると5.1倍となっている。7日后の成績でも同様、0の方が6.6倍、25mg/lが5.6倍となっている。この4日目から7日目にかけての増殖の悪さは、どうもfibroblastsの核計算用の振盪器と同じ恒温器に入れているため、最近実習をやっている連中が大ぜいfibroblastsの培養のcourseに入ったので、どうもその影響もあるらしい。
 なおこれに関連したことであるが、アミノ酸要求をしらべるためには各アミノ酸を夫々別個に溶いて(いわゆる耐熱性のものは粉末でAutoclaveしてから)いるが、このmixtureと、全部溶いてからglass filterで濾過滅菌したものと比べると、どうも后者の方が増殖が良い。そこで今后はmilipore filterの小さいのを作って、それで全部これで滅菌するようにしたいと思い、準備をすすめている。その径は、TWIN-D3と同一径になるように12mmにする予定である。これができると、アミノ酸だけでなく、少量の貴重な薬品の濾過滅菌に使えて大変便利であろう。

《高野報告》
 A)Ehrlich腹水細胞エキス添加培養液でのL細胞の継代
 この実験を開始してから約4ケ月継代12代に達した。位相差顕微鏡及び染色標本による観察では、エキス添加群の細胞は細長い突起を示すものが多く、単核乃至多核巨細胞の頻度が大きい様である。核の形大きさ染色体等には無添加群と余り明らかな差異は認められない。 dd/Yマウスへの復元を皮下及び腹腔内接種によって屡々行っているが現在迄に確実な陽性例は得られていない。
 現在の段階での変化が単に一時的な形態上のみのものか否か見当をつける為に、2.5%エキス添加継代したものを無添加培地にもどすと、上記の変化が消失するかどうか、抗L細胞血清による障害程度に差がないか、増殖曲線の比較、γ線照射に対する態度の比較等、種々の観点から調べてみる。
 もしこの変化が不可逆なものであれば動物への復元は陰性でも、やがて陽性となる過程の一段階としての意義を担うものと考え度い。
 更に奥村氏に依頼して添加群と原株との核学的所見をも比較して見度い。一応不可逆な変化の段階に達すれば現在一方で進行中のγ耐性HeLa株の所見と合せて面白い方向に伸ばせると考える。
 B)細胞材料での免疫抗血清の調製
 HeLa、L、JTC-6の細胞浮遊液及び核浮遊液での家兎の免疫は大体1週1回の頻度で(200〜300万個/head)大半が10回に達したので、一部採血し、それぞれの細胞株に対する障害度をしらべたが、どの群も抗体産生が充分でなく24時間後に僅かの比率の細胞が障害をうける程度なので更に免疫を続けることにした。従来の抗原接種は耳静脈内のみを用いたが、以後は皮下接種をも併用して効率をあげる。更にAdjuvant利用も試る予定で準備中。
 C)JTC-6よりのclone formation
 EDTA処理に駲化したJTC-6から2系のcolonial cloneをとったが、最近になってその中の一株が形態的に他と相異をみせ始めた。以前に記した様に、この原株は少くとも2種類或いはそれ以上の細胞から成り、長期継代後も混在の状態なので純化の必要を感じて、clone formationを行ったわけであるが、上記の1系は殆んどの細胞が細長い形で核も比較的小さく細胞相互の膠着性が低く、非規則な配列を示して増殖する点、fibroblasticな傾向が強い。更に純化が進んだ後、増殖度その他の性状を他の1系及び原株と比較する。
 D)脳下垂体前葉細胞の培養
 何しろ小さな臓器なので、40〜50匹のラッテから多くて1000万個位の細胞を集めるのが関の山。而も自家融解を起し易くTrypsinの作用がかかり過ぎると忽ち生細胞数が減ってしまう。Trypsin処理(0.1%、37℃、5分)は3回位に止め、clot状になる細胞塊をCa-Mg-free塩類液中で根気よくpipettingでほぐすのが最も効率がよいらしい。
 7〜10日培養して増殖が旺盛になったところへラッテの間脳エキスを添加、その後経時的に培養液中のgonadotropin活性を幼弱マウスで生物学的に検定し、間脳−下垂体間の直接関係を証明しようというわけ。初代で陽性のdataを積みつつあるが、2代目への継代がなかなかうまく行かないので定量的な実験は未だ出来ないでいる。

《奥村報告》
 A.サルの染色体−サルの染色体数については2つの説がある。1つはPainterの48本説(1924)、他の1つは牧野佐二郎の50本説(1952)である。しかし、性決定型はXY型ということで両者の報告は一致している。これらの報告は組織培養によるものでなく、切片標本などによる判定で、今考えてみるに相当誤差の多い結果と想像される。人間の染色体数も組織培養を用いてしらべた結果、48本や47本でなく、46本である事が明かとなった様に、サルの細胞についても当然この様なことが有り得ると思う。私も伝研で培養を試みられているサルの腎臓細胞を材料にして現在まで十数回samplingし検討しているが、49本の染色体をもった細胞が最も多い結果が得られている。しかし細胞群の中には48本の細胞、50本の細胞、それに他の数の細胞も比較的多く混在していて仲々数決定はむづかしいが、今后核型分析を行っていくうちに次第に染色体型が明確になると思います。重要な問題だけに慎重を要します。
 B.サル腎臓細胞の染色体−サルの染色体を決定する場合には体内の数ケ所から細胞をとってしらべるのが望ましいのですが、今は腎細胞のみについて検討中です。現在、伝研ではサル腎細胞のPrimary cultureを血清培地と無蛋白培地の2種で行っていますので、私はこの両者からsamplingしてchromosome numberのdistributionにどの様な差がみられるかを分析中ですが、現在までの結果ではL株細胞の無蛋白培地駲化時にみられたような現象がみられます。つまり、血清培地の場合には非常にバラツキが大きく、培養開始后1週間目で4倍体及びその近辺の細胞が相当数出現し、又heteroploidyがみられますが、無蛋白培地で培養するとバラツキが少なく相当期間(未だ不明)正常数(2n)をもつ細胞が現れています。ただ現在のところ、無蛋白培地での培養では非常にmitosisが少く、従ってはっきりと結論を言う事が出来ませんが、大変面白い現象です。
 C.WL細胞の染色体(予研高野先生と共同)−予研ではWL細胞からいくつかのcloneを作っています。と云いますのは現在のWL細胞の染色体分布をみますと、高2倍体、3倍体、4倍体など種々の型の細胞がみられますので、何とか種々のcloneを作り染色体型の分離を試みているのです。その結果、今までに約3倍体と約4倍体の2つのclone formationが成功してします。他の型のcloneも是非作りたいところです。

《高木報告》
 1)RNAの培養細胞に及ぼす影響
 前報の如く、培地(PVP+LYT)中のRNAは、細胞が存在する場合には急激に分解することが分った。従ってRNAを長期間培養細胞に作用させて、それの及ぼす影響を観察する場合には可成り屡回にredosingしなければならない。
 先に行ったMY肉腫よりのRNAをマウス繊維芽細胞のprimary cultureに作用させた実験では、3回redosingを行った丈で1ケ月間観察した訳であるが、これではRNAはほんの短時間しか作用していないことになる。
 そこで今度は一応株細胞を使用して、これに3日目毎にRNAを作用させ、長期間にわたりその変化をみたいと思っている。
 RNAをAH-130腹水肝癌細胞から抽出したもので、その原液は5000μg/mlであった。これを培養2日後のJTC-4細胞の培地(PVP+LYT)中に100μg/mlの濃度で入れ、以後3日目毎に同一濃度のRNAをredosingしつつ培養続行中である。対照として、実験群と同じ日に培養した細胞で、同様にPVP+LYTのみで交換しているものをおいている。今回は、対照とくらべてRNAを作用させた細胞の復元性の変化を主体として検討して行きたいと思っている。
 2)免疫に関する研究
 HeLa、L、JTC-4、-6細胞の間に種属特異性がみられる事が、immunocytopathogenic effect及び蛍光抗体法により一応明らかになったが、これらについて更に再検討中である。
 先達って上京の際に抗JTC-4細胞血清をWistarラッテの心臓の凍結切片に作用させて、これのどの部分に抗血清がつくか観察する積りであったが切片が厚すぎて不成功に終った。やはりクリオスタットを使用しなければ駄目の様で之により更に薄い切片を作って検討したい。抗血清はラッテ肝、腎のaceton powderで吸収したものを使用する予定である。また腹水肝癌細胞とJTC-4細胞等の抗原性の違いを追求すべくこの細胞の免疫を準備中である。 これまで、諸種細胞で免疫する場合に、それら細胞をそのまま家兎に注射して抗血清をつくって来たが、今後特に細胞の臓器特異性などを検討する際には、細胞からのRNPなどを抗原とした免疫法も考えねばならないと思う。
 3)JTC-4細胞の無蛋白培地による培養
 培地中の牛血清の濃度を次第に落し始めてから約3ケ月で0.1%BS+PVP+LYT培地で培養可能になったが、昨年末、この培地では増殖がきわめて悪くなった。そこで一度2%BS+LYT培地にもどし、再び牛血清濃度を落して0.5%BS+PVP+LYTで植つぎ、現在はこの培地で2日間丈培養してあとはPVP+LYT培地で交換している。まだprotein freeとまでは行かない。 4)その他
 制癌剤(ナイトロミン、クロモマイシン)耐性HeLa細胞の実験はなお続行中で、一代の培養期間中薬剤を3〜4日ずつ作用させて培養を続けている。またJTC-4細胞の諸種ウィルスに対する感受性をみるべく、目下日本脳炎ウィルス(G1)について検討中である。

【勝田班月報・6103】
《勝田報告》
 組織培養内発癌実験について
 我々の研究組織もようやく1年たってどうやらやっと準備態勢が整ったというところである。そこで先般コピーをお渡ししたように昭和36年度でははっきり標記の題目を研究計画の中にかき出した次第である。その具体的実行プランをそろそろ考えておかなくてはならない時期になってきたが、現在の各研究員の態勢からみると、まず癌化しない株、或は培養法を考えて試みているのが伝研の勝田一黨で、既存の株細胞に腫瘍細胞のcrudeの浸出液を与えて腫瘍化をしらべているのが予研・高野君、核酸分劃を与えているのが九大の高木君、というところで、あとは"できあがったら"と手ぐすねをひいている連中らしい。
 伝研でのこれまでのサル腎臓細胞のPVP培地継代培養実験の結果では、まずこれで一応は行けると踏めた。あとは復元接種の容易な動物、たとえばラッテの細胞をこの方法で培養することである。しかしこれがサルのようにすぐうまく行かないので目下のところ何かコツがあるらしいとしらべているところであるが、とにかくどんな細胞を使うか、という問題がある。これはそのあと、どんな発癌剤を使うか、ということと密接な関係がある。
[細胞] [発癌剤]      [癌化の確認及び変化の追求]
上皮性→ 腫瘍細胞分劃(高野・高木)→復元接種(各人)
非上皮性→薬剤→(勝田)       形態学的及生化学的検索    
(奥村)   (遠藤及掘川)
 まだはっきり夫々を線でむすぶことはできないが、この上の表のような態勢になってきた。このことを意識して、もう一回自分のやりたいことと分担を次号で卒直にかいて頂きたいものである。伝研でねらっているのは、細胞数種であるが、特に次のものである。
 乳腺及子宮内膜など  → 性ホルモン
 肝細胞、センイ芽細胞 → 薬剤(4ニトロキノリン及びDAB)
 現在のところでは、大体6月頃から手をつけはじめたいと思っている。
 このほか是非誰かにやってもらいたい一つとして異種移植の問題がある。これから先、我々として当然人癌の培養に入って行く以上、この極め手がもっと進歩してくれないと困るわけである。正常組織を移植したらどうなるか、腫瘍の場合と量的な相違しか示さないかどうか、という問題もある。他の人のやったデータではどうも矢張りマユツバで、一応は我々自身の手でやってみておきたいところである。誰か志願者はありませんか。
 
 A)PVPについて
 PVPを使った無蛋白培地の我々の仕事が米国の連中には大分気になっているらしいことが最近判ってきた。最新号のJ.Nat.Cancer Inst.,Vol.26.No.1,1961を見ると、まずp.229にHueper,W.C.:"Bioassay on polyvinylpyrrolidones with limited molecular weight range"とあり、PVPがratの腹腔に入れると、その臓器内に残るが、rabbitの場合には残らないと云い、PVPの癌原性を云々している。しかしそのdataをみると、きわめて大量のPVPを接種しているにも拘らず、接種しない対照群と発癌率は略同じなのである。この著者はNIHのEnvironmental Sectionの人で、おそらくEarleらに云われてやった仕事と思われる。というのは、そのすぐ次の論文がBryant,J.C.,Evans,V.J.,Schilling,E.L. & Earle,W.R.:Effect of chemically defined medium NCTC 109 supplemented with methocel and of silicone coating the flasks on strain 2071 cells in suspension culture.P.239で、我々のPVPの仕事を引用し「彼等のはPVPの無蛋白といってもlactalbumin hydrolysateを使ってあって合成培地ではない、それに静置培養だ」 などと2回もくりかえして強調している。このごろの合成培地の仕事をどんな気持でよんでいることであろう。それにpolypeptidesというものは、化学的研究にはまことに不向きであるが、virus vaccineの製造の面から見ると、蛋白とは全然ちがったもので、抗体を作らないから絶対に有利なのである。次号ぐらいにまた何か出るのではないかとたのしみにしている。なお、ついでながら、かの頑固オヤジJohn Paulも、彼の著書の第2版についに我々の仕事を2.3引用した。またこれもついでであるが、Parkerがこの5月第3版を出すらしいことをかきそえておく。
 B)Parabiotic Cell Cultureについて
現在までに約6実験すんでいるが仲々面白い結果が出ている。その結果をお目にかけるが、これらはすべて前号に図示したTWIN-D1型のtubeを用いた。今週中にはTWIN-D3ができる予定なので、その実験もやって行くつもりであるが、TD型でこりているので、こんどはpatentをとっておくつもりである。D3のtubeは左右がばらばらになるtubeで、連結部AとBの箇所で左右の管が離れるようになっている。普通の培養のときはここにMiliporefilterを挟んで培養すると、液は交流するが細胞はしない。高分子の移動やウィルスを止めたいときはcellophan membraneを使えば良い。このTWIN-D3は10rphのroller tubeのドラムに挟して培養する。ゆっくり回転するから液の交流に適しているわけである(図を呈示)。
 次にTWIN-D1で静置培養の結果をお目にかける。この細胞相互のresponseを何か旨い表わし方がないものか思案している次第で、一応7日后の細胞数をinoculumで割った数を7日間の増加倍数とし、双子管内での増殖倍数を単管内での増殖倍数で割って=InterferenceRatis(IR)と仮名した。7日后の結果を比較するときはIR7となるわけである。
 つまりIRの数値が1のときは干渉を受けなかったことを示し、1以上のときは促進、1以下のときは増殖抑制を受けたことになる。何とか計算も簡単でしかも結果の判り易いあらわし方がないものか、考えた末がこれなのですが、数学の御得意の方も居られましょうし、是非御知恵を拝借したい次第です。
 結果をみると(表を呈示)、JTC-1:JTC-2のとき両方とも抑制されているのは面白いでしょう。その他にも同様のものがありますが。

《遠藤報告》
 (1)鶏胚の日齢とその浸出液の生長促進活性
 培養組織 9日鶏胚大腿骨
 培地   CEE:HS:GS(1:5:4);隔日培地交換
 実験条件 鶏胚の左右大腿骨を対照群と実験群に分けるpair-mate cultureで、対照群には6日間の培養中すべて9-day CEEを用い、実験群には10-day〜14dayCEEを用いて、それぞれ9-day CEEと比較した。
 測定   長軸生長、乾燥重量、無機燐、ハイドロキシプロリン
 結果   (対照に対する百分率の平均を表で呈示)。乾燥重量は全群対照よりやや良好で14日が最高無機燐は11日が最高で10、12日は対照を上回るが13、14日は60〜70%。ハイドロキシプロリンは11日のみ対照より良く他は90%。長軸生長は10-day〜14-dayCEEのいずれも9-dayCEEとの間に有意差なし。
 考察:無機燐酸、即ち石灰化の程度から考えると、11日にピークがあるように思われます。しかし、本来日齢が進むと活性が落ちるのか、あるいは13、14日位になりますと脂肪が非常に多くなってきますから、これらが活性の発現を阻害しているのか、その辺はまださだかでありません。それでも、兎に角、この実験の範囲内では11日が最も活性が高いことは確かのようです。
 これからすると、今まで9日鶏胚大腿骨の培養に用いてきたdynamic medium(Startは9-CEE、第一回feedingは11-CEE、第二回feedingが13-CEE)と、13-CEEで初めから培養した場合を比較したら、当然Dynamic mediumの方が良いはずです。ところが、以前の実験で(Dynamicmediumに対する13-CEEの百分率の平均で)、CEE:HS:GS(1:2:7)培地では乾燥重量101.6%、無機燐116.4%、ハイドロキシプロリン112.6%に対して、(1:5:4)培地は乾燥重量106.4%、無機燐108.8%、ハイドロキシプロリン114.7%の結果が得られているのです。全く相容れないデータになるわけで、前号で述べたように血清の差によるとしか考えられないような気がしています。如何でしょうか?
 (2)鶏胚浸出液限外濾過の分析、についても書くつもりだったのですが、何分にも忙しいので(教育機関ですので研究機関委譲でしょうか?)又次号に日延べさせていただきます。

《高野報告》
 A)細胞株の凍結保存
 昨年一杯のdataをまとめてpaperにしました(予研のJ.J.M.S.B.に投稿)。HeLaは約2年、他の人由来は1年、JTC-6、Lは5ケ月保存可能の現状です。方法論的には一応標準化が出来た形ですが、細胞の生理活性に関し細い点で種々の問題を含み、今後もう少し検討する必要があります。例えば長期間保存中、生細胞の回収率が始めの数ケ月は低く後半にむしろ高くなったり、-79℃に保存後-20℃に移すと(凍結したまま)活性がなくなったりする事実から推して、細胞の生物学的活性が最終的単位迄、凍結休止するのに存外時間がかかるのではないかと考えられます。又凍結によって起りうる変化(選択をも含み)についても、検討の要があります。Chromosomeを比較してみる事も一方法です。凍結時の液中に血清とglycerolの必要な事は明らかですが、nutritionalな意義は恐らくないものと思われるので、延び延びになっていたPVPの利用を実施します。
 B)Ehrlich細胞エキス添加L細胞
 Transformationが完全に起ったとは言い切れない段階ですが、形態的変化はエキスを抜いても直ぐには復旧せず、或る程度迄進行したものではないかと考えます。目下増殖様式と放射線感受性を原株と比較しつつあります。
 C)脳下垂体前葉細胞の培養
 継代培養がやっと4代目に達し上皮性と思われる細胞が増殖中ですが、継代後のlagが大きく定量的実験を行いうる段階には達していません。初代培養初期材料での実験では間脳エキスを添加して培養した上清を幼弱マウスに接種して子宮重量増加及び充血度その他の所見を基準に無処置と比較すると有意の差で影響が認められ、一方大脳皮質エキスにはこの作用がないところから前葉のgonadotropin産生を刺戟する物質が間脳中に存在することを一応示したものと解します。2〜3週経過した培養でも同様にしてgonadotropin作用の復活が認められます。但しその量が文句なしに高い値を示すところ迄行かないので、目下間脳エキス添加培養上清をpoolして、それからの抽出濃縮を試みています。

《奥村報告》
 A.無蛋白培地継代細胞の染色体(L及びHeLa細胞)
 今までは血清培地継代から無蛋白培地に移して染色体の動向を分析してきたのであるが、その結果によると、無蛋白培地継代で最もよい増殖を示すと思われる細胞のchromosomal patternは血清培地継代でpredominantの細胞のchromosomal patternよりも染色体数が減少していることが明瞭である。そして、この様な現象はいかなる機構によるものかは非常に興味深いところである。
 以上の現象を解明する一方法として、度々討議されている実験、即ち無蛋白培地継代細胞を血清培地に戻してchromosomal patternがどの様になるか大いに期待しています。
 B.サル腎細胞の染色体
 サル腎細胞の血清培地及び無蛋白培地における培養で染色体数がどの様な変異を示すかは2月のウィルス班会議のときに報告した程度以上に仕事が進展していません。ただ現在は無蛋白培地での培養細胞が非常にmitosisが少ないため、何んとかしてmitosisをたくさん得る方法を考案中です。私が考えるにprotein-freeで培養される細胞は細胞の変異度が小さいだけに血清培地継代時よりも相当synchronous divisionがあるように推察されるので、最も細胞増殖のよい時期を見出して、その時期を一定時間間隔でsamplingしてみたいと考えています。
 C.UV耐性細胞の遺伝的変異
 2日のウィルス会議で耐性細胞のchromosome numberの分布が倍数性に変化する傾向があることを報告しましたが、極く最近のsamplingでは倍数性分離の傾向が減少して再び耐性獲得前の分布に戻しつつあるようです。この興味深い現象については今後詳細に追究したいと思っています。

《高木報告》
 1.RNAに関する研究
 AH-130腹水肝癌及び正常ラッテ肝よりRNAを調整し、実験を続行中である。DNAの調整法も検討している。
 2.免疫に関する研究
 班会議の際に報告した様に、JTC-4、-6、L及びHeLaの細胞の間には種属特異性がうかがわれる様であった。
 そこで次にJTC-4細胞がラッテ心臓の如何なる部分に由来するかを確かめる意味で、ラッテ心臓の凍結切片に抗JTC-4細胞血清を作用させてみた。即ちcryostatと用いてラッテ心臓の凍結切片を作り(応微研の御好意による)、乾燥後これをメタノール、或いはアセトンで固定し、これにラッテの肝及び腎のaceton powderで吸収した抗JTC-4細胞血清、抗ラッテ心臓血清ならびに抗HeLa細胞血清を作用させて、間接法により染めてみた。なお対照として、これら家兎の免疫開始前の血清をかけたものと、血清をかけないで蛍光色素をconjugateした抗家兎γglobulin山羊血清のみで染めたものをおいた。
しかしながら結果は失敗で、これら抗血清をかけたものは、いずれもすべて組織全般が染っており、間質組織に蛍光が強く、筋組織に弱い様に思われ、また対照の免疫開始前の家兎血清の非特異的反応によるものか、いずれにせよこれらの点を今後充分に吟味しなければならない。
 3.その他の研究
 1)protein free mediaによる培養のこころみとして、細胞を依然として、0.1〜0.5%+PVP+LYTの培地で始めの2日間丈培養して継代をつづけているが、最近は始めからPVP+LYTで植ついでも2〜3日は細胞が試験管壁にくっつく様になった。
 2)先にJTC-4細胞のPoliovirusに対する感受性を調べてみたが、日本脳炎ウィルスに対する感受性も検討している。即ち培養2日目の細胞の培地をPVP+LYTで交換し、この9容に脳炎ウィルス1容を入れてみた。ウィルスとしては予研から分与をうけた日本脳炎ウィルスG1株を用い、これをマウスの脳内に接種して4日後、発症したマウスの脳を2〜3ケ集めて乳鉢ですりつぶし、脳1ケあたり3mlの生理的食塩水を加えて乳剤とし、これの2000rpm20分遠沈した上清を培養に入れた。
 titeringは未だ行っていないが、培養に入れた後は培地を交換せず、1、3、5及び7日目に5本ずつの培地をpoolして2000rpm・10分間遠沈し、その上清を0.04mlずつ5疋のマウスの脳内に接種して、培地中のウィルスの有無を調べてみた。その結果、少くとも7日目まではウィルスは培地中に存在しており、接種したマウスは5〜6日までにはすべて死亡した。
 8日目に2代目の培養に継代して、以後4日毎に継代する予定であるが、2代目即ちウィルスを培養に入れて12日目の培地にもウィルスは証明された。
 対照として培地丈の中にウィルスを入れたものも同様にマウスの脳内に接種してみたが、これでは3日以後接種したマウスは1疋も死亡せず、ウィルスのtiterは急速におちることを示した。なおこれまでの処CPはみられない様である。
 以上の予備実験により、JTC-4細胞は対照と比較した場合、日本脳炎ウィルスに対して或程度の感受性を有することが示唆された様である。更に検討中である。

【勝田班月報:6104】
《勝田報告》
 A)Parabiotic Cell Cultureについて
 前報で報告したデータの他に若干の知見を加え、4月1日の病理学会総会で発表しました。そのあと大急ぎでこれを2篇に分けて論文をまとめ、Japan.J.Exp.Med.の6月下旬発行号に入れました。嘗てreplicate cultureでEarle等にタッチの差で先じられましたので、こんどは最もやりそうな相手としてEagleがマークされますが、それにやられないように超特急で論文にしたわけです。これらは何れもTWIN-D1型の培養管を使った静置培養法のデータです。というのはTWIN-D3の量産が仲々間に合わなかったからですが、最近どうやら揃ってきましたのでこれから回転培養の方もはじめます。
 前号でHeLaとLとのIR7(7日后のinteraction ratio)は、HeLa:L=0.8:1.0となって居りましたが、これらからの無蛋白培地継代亜株各1種宛で比較すると、HeLa・P2:L・P1=0.8:1.0となり、上と略似た結果となりました。次にLとHeLaを夫々同じ細胞同志で組合わせてしらべて見ますと、L:L=1.2:1.2、HeLa:HeLa=1.0:1.0となり、HeLaではsingle tubeでも
twin tubeでも殆んど同じ増殖を示すが、Lではtwinの方が若干増殖が良くなることが判りました。これはいわゆるinoculum sizeの問題とすぐ片附けることは難しい。何となれば、細胞1ケ当りの液量はsingle tubeでもtwin tubeでも同じだからである。これが生物学の面白いところでしょうね。何かenvironmentを良くする、それが全く同じenvironmentがとなりにあることに依って促進されるわけで、まさに1+1=2ではなく、それ以上になってしまうわけです。
 次に同じ細胞の組合せで、Twin-D1(静置)とTwin-D3(回転)を比較してみました。細胞はこれまで組合わせてみなかったJTC-1とLです。その結果は(表を呈示)大体似たような結果が得られました。つまりTwin-D1でも、Twin-D3でも、JTC-1の方が増殖を強く抑えられ、Lもどちらの培養法でも若干抑制されるわけです。同じ位の比率になってくれればこちらの註文に合いすぎるのですが、やはりそうは行かないのがこれまた生物学の面白いところでしょう。やはり回転することのeffectが差を大きくするのにひびいてくるのかも知れません。この仕事は今度の組織培養学会に出す予定ですので、せっせと材料を目下ふやしているところです。とにかく相当量データがたまらないと、何とも体系立てた仮説を述べることすら危険だと思われます。
 B)L及びHeLaの亜株の栄養要求
 アミノ酸要求については現在L・P4細胞について各アミノ酸とも2週間宛の実験で必須性と至適濃度を求めているが、その中間報告は今号では省略する。とにかくL・P1とはかなり異なった結果の出ていることをかき添えておく。
 これまでLの亜株はL・P1からL・P4までの4種類であったが、最近L・P4からさらにL・P5と云う亜株を分けた。L・P4はラクトアルブミン水解物と塩類溶液だけで継代している亜株であるが、これを合成培地DM-120に移すと非常によく増殖する。ところがDM-120からビタミンの1種であるNicotinamideを除いても或程度よく増殖する(1週間に6倍位)ので、この一部をとってNiacin-freeのDM-120に入れて継代をはじめた。今度の3月24日から、週に略1回宛継代しているが、大体7日間に約5倍の増殖で、増殖率は低いが安定しているので永続きすると思われる。これをL・P5と名付けているが、NicotinamideもNicotinic acidも含まない合成培地でどうやってDPN合成をやっているか、或はtryptophan→Nicotinic acid→
Nicotinamideのcourseがあるのかも知れないが、簡単には何とか云えない問題である。
 HeLaはこれまでHeLa・P1→HeLa・P4の4亜株があり、HeLa・P4はL・P4と同じ培地で継代している亜株だが、これからこんど一部をとって合成培地DM-120で継代の系を作りHeLa・P5と名付けた。始めたのは2月28日であるが、増殖率はまだ低い。しかしこの系も続くと思われる。 C)新細胞株の樹立
 当研究室ではこれまで何とかして馬細胞の株を作ろうとして努力してきたが、4年目になってようやくその成果をあげることができた。まず高岡君は馬胎児腎臓から2株作った。その第1HsK-1(仮称、以下同じ)は1960-11-30より、第2のHsK-2は12月10日より継代している。7日間に3〜4倍の増殖であるが、きわめて安定した増殖を示している。この2系の特徴は、継代の際にトリプシンもEDTAも一切用いず、ただpipetingで剥して継代していることである。次に梅田君が馬胎児肝臓から3系作った。正確に云えば2株と1亜株である。HsLv-1はどうも内被細胞系らしい。Lv-2AとLv-2Bは実質細胞系かと思われる。増殖率はHsLv-1の場合は7日間に約13倍である。培養開始は1960-9-27、1969-10-7(HsLv-2A及び2B)である。ところがこれらに馬の伝染性貧血症の罹患馬の血清をごく少量2日間だけ加えてみると、健康馬血清を加えた場合には変化が見られぬのに対し、3〜5週間目になって上記のHsLv-2A、HsLv-2Bの2系だけは細胞病変があらわれてくるのである。そして前者では核内の空胞、后者では著明な巨細胞の形成と細胞質の空胞変性があらわれる。この他にラッテの腎臓と家兎の肝(実質細胞らしい)からも梅田君が株を夫々1ケ宛作った。

《遠藤報告》
(1)鶏胚浸出液低分子成分および高分子成分の生長促進活性
試料の調製
 1)低分子成分(限外濾液):(図を呈示)図のような装置で、12日鶏胚の浸出液から限外濾液(Ultrafiltrate)を調製した(CEE-UF)。これをメンブランフィルターで濾過滅菌し、凍結して保存した。
 2)高分子成分(透析内液):12日鶏胚浸出液を48時間4℃で透析した。透析は透膜性物質の流出を速めるため7〜9%のPVP溶液に対して行った。膜内液をとり出し凍結して保存した(CEE-R)。
培養
 1)培養組織:9日鶏胚大腿骨
 2)培地:Control group・・・CEE:HS:GS(1:5:4)
Exptl. group ・・・HS:GS(5:5)
CEE-UF:HS:GS(1:5:4)
CEE-R:HS:GS(1:5:4)
CEE-UF:CEE-R:HS:GS(1:1:5:3)
   *Hs:馬血清、GS:Gey氏塩類溶液
 3)培養条件:9日鶏胚の両大腿骨を対照群と実験群に分け、上記の培地で38℃6日間培養した(無血漿回転培養法)。培地は隔日に交換した。
 4)測定:長軸生長、乾燥重量、無機燐、ハイドロキシプロリン。
 5)組織学的検査:Mayer's H-E、Kossa。
結果
 1)長軸生長:実験群はいずれも対照に比べ僅かに伸びが悪い。
 2)乾燥重量および無機燐(図を呈示)。いずれも対照より劣る。
 3)ハイドロキシプロリン:まだ計算が終っておりませんが、傾向は上と同様のようです。 4)組織学的検査:HS単独、およびこれにCEE-UFあるいはCEE-Rを加えた培地では、骨膜が極めて薄くosteogenic cellは殆ど認められない。これに対し、CEE-UFとCEE-Rの両者を加えた群では、骨膜の像は対照群に近く、osteogenic cellが認められる。
考察
 HSにCEE-UFあるいはCEE-Rを加えると、いずれの場合も骨の生長がよくなる。したがって、いずれにも生長促進活性があることは確かであるが、CEE-Rの調製法には多くの問題点があり、さらに良いpreparationを使えばもっと生長は促進されると思われる。しかし、それにもかかわらず、両者をHSに加えると、いずれか単独に添加した場合よりさらに生長はよくなっている。即ち或る程度のsynergismが認められるわけで、これは骨膜については組織学的にも認められる。しかし、このreconstituted mediumでもintact CEEにははるかに及ばない。これはやはりCEE-Rに原因があるように思われる。
 以上はなはだ定性的な話であるが、これらは全く予試験的なものであり、今後検討を進めたい。
 (2)CEE-UFの定性分析
 これもまだ予試験のしかも途中ですが、次の物が確認されました。
 1)アミノ酸:His,Arg,Try,Met,CySH and/or Cys,Glu,Gly,Ser,Ala,Asp,Thr,Pro,Leu,(Val),(Lys)。
2)Purine、Pyrimidineの誘導体:250mμ近辺に吸収のあるものが現在7〜8種分離されていますが、Hypoxanthine、Uracil及びInosineが確認されました。
 3)その他:この他、当然のことながら、未確認の物質がかなり沢山検出されています。
《奥村報告》
 転勤挨拶、4月13日(木曜日)を最后に現在までいた東邦大学解剖学教室をやめ、予研の腸内ウィルス部(本年4月1日より発足、部長多ケ谷先生)に移り、細胞研究室で仕事を始めることになりました。この部は発足以来日が浅いので現在は各研究室の設営に多忙です。又、部員は臨職の人を含めると60名近くもいるので有機的結合がむづかしく、そのために毎週金曜日夕刻5時位からmeetingをもち、近い将来には研究会に発展させるそうです。ともかく、予研内部は非常に活気があって、私にとって申し分ない勉強の場です。組織培養も専門こそ違うけれども多数の研究室でしており、お互いに研究面で交流をもっている様です。私も新しい環境でもまれながら成長して行きたいと思っています。どうぞ今后共よろしくお願い致します。
 L・P1細胞の血清培地継代実験:血清培地継代L株細胞を無蛋白培地に移して継代したときの染色体の変異を論議する場合にいつも問題になるのは、無蛋白培地継代から血清培地継代に移した時はどうなるかということである。確かに、この問題は非常に重要である。したがって、今後各亜株(無蛋白培地継代)の細胞を血清培地に移し、chromosomeの変化を追究し始めました。その結果、L・P1では血清培地継代2代目頃から高倍性(4倍体、8倍体)の細胞が僅か増え出してきています。主軸細胞(78本)には今のところ殆んど変化がみられない。 L・P4細胞の血清培地継代実験:L・P4細胞は染色体数の分布の点ではL・P2、L・P3の各細胞と非常に類似しているが、核型の点では若干複雑さをもっています。この細胞は血清培地に移すと78本のchromosomesをもった細胞が漸次増加してくるようです。現在のところでは観察metaphaseが22ケだけであるからはっきりしたことは云えないが、バラツキが大きくなると共に78本をもつ細胞が増加の減少をみせ、やはりL・P1でみられたように高倍性の細胞が増加しています。
 近日中にL・P2、L・P3の各細胞の血清培地継代の実験をはじめようと思います。

《堀川報告》
 組織培養研究グループの皆さん今日は。この度、新しく皆さんの仲間に加えていただきました。今後共にどうぞよろしく。さて、新しい研究所に来て、毎日動物園のクマのようにガリガリあちこちかきまぜて勢力範囲を拡げ、ボツボツ仕事の準備をしております。あれこれ今後の仕事の計画はしておりますが、今直ちにとは行きませんので、この方の問題は次回からにして従来やって来た仕事の概略をまず記して、皆さんの御批判をあおぎたいと思います。
 題目:組織培養によるマウスL系細胞における遺伝生化学的研究
 内容:
 最近における微生物遺伝学の驚異的な進歩にともなって組織培養された哺乳類体細胞においても微生物遺伝学で用いられたと同様に細胞のレベルでその栄養要求性や、各種物理化学的要因による変異細胞の分離、さらにはこれらの蛋白、核酸合成の研究を行うことができるようになった。このような実験技術の進歩は同時に微生物において見出された形質転換(Transformation)や形質導入(Transduction)の現象が高等動物体細胞においてもみられるかどうかという興味ある問題にもふれることが可能となった。このような目的から本実験では1943年Earleによってマウス皮下脂肪組織から分離されたL細胞を試験管内で培養し、以下のような実験結果を得た。
 1)L原株細胞の細胞増殖および蛋白核酸合成に対する各種物理化学的要因(MitomycinC、8-azaguanine、紫外線)の影響は第1義的には細胞分裂の抑制にあって、DNA、RNA、蛋白合成は比較的非感受性であることがわかった。とくに0.1μg/ml、MitomycinCで処理した細胞は細胞当りの蛋白、核酸量がいちじるしく増加するとともに巨細胞が出現する。
 2)L原株細胞をMitomycinC、8-azaguanine、紫外線で数十継代処理することによりLMit細胞、L8-Az細胞、L-Uv細胞と名づけるそれぞれの耐性細胞を分離した。各種要因の細胞におよぼす作用機構のちがいによって耐性細胞の出現様式は異り、これらの耐性細胞の出現過程の要因のmutagnic actionによるものか単なる選抜、適応によるものか明白ではないが、現在までの知見では各種耐性細胞ともに要因に対する選抜、適応によって出現したと考える方が妥当のように思われる。
 3)分離、確立されたこれらの各種耐性細胞はL原株細胞に比して、(1)細胞の蛋白、核酸含量、(2)細胞の形態と大きさ、(3)細胞の増殖率、(4)コロニー形成能力、(5)染色体数、(6)各種薬剤に対する感受性などの点でそれぞれ差異を示し、同時にこれらの遺伝的特性は比較的安定していることがわかった。ことにL原株細胞の染色体数のピークが68本であるに対して、MitomycinCの耐性細胞(LMit細胞)では62と80本の2ケ所にピークがあることは興味深い現象である。
 4)MitomycinCおよび紫外線照射に対してはLMit細胞とLUv細胞が交叉耐性を示し、8-azaguanineに対してはL8-Az細胞のみが耐性である事がわかった。これらの結果はMitomycinCと紫外線の作用機作の類似性を暗示するものである。
 5)LMit細胞及びLUv細胞の増殖率はL原株細胞とL8-Az細胞からのfilterable substance(セロハン膜濾過物質)によって促進されるが、一方L原株細胞およびL8-Az細胞はいずれの細胞のfilterable substaceによっても影響されないことがわかった。
 6)最後に細胞ホモジネートによる変異細胞間の形質転換(Transformation)を試みたが、一時的なHeteromorphic changeであって遺伝的に安定したものは得られなかった。
 今回は少し長くなりましたが、最初だから御許し下さい。今後ともはりきって、ジャンジャンやって行きたいと思いますが、その都度何かにつけて難問をもちこんで皆さんに御迷惑をおかけすると思いますが、何卒同穴のムジナのよしみで、よろしく御協力下さいますよう、最初にあたってお願いしておきます。

《高木報告》
 過去一年間MY肉腫より抽出した核酸分劃を主として取扱って来たが、既報の如く、今迄の処、negative dataしか出なかった。これが本当にnegativeなのか、或いはtechniqueの不充分なためかは問題であるが、兎に角RNA、Microsome、DNPなどの抽出法、その他の実験方法については、多少共なれて来た様に思う。
 今年度は、昨年度のこれらささやかな経験を生かして、心を新たに再出発したいと思っている。前報において、我々班員の一応の態勢が示されて来たので、もう一度今年度の考えをのべてみたい。
 1)核酸分劃を抽出する組織について
 私共はまずvirusによるか、若くはvirusくさい腫瘍の組織からRNA、DNPなどを抽出して、それによる正常培養組織の影響を見たいと思い、MY肉腫を選んでみた。今後もなる丈その線にそって行きたいと思っているが、こちらにある動物性腫瘍のステムは限られているので、一応腹水肝癌AH-130及び家鶏肉腫などについて実験してみたい。更にこれと主に2、3、病原uirusについても核酸分劃の抽出をこころみて、それらのinfectivityにつき検討したいと思っている。
 2)培養組織について
 "正常"と云う意味からはやはりprimary cultureによるものでなければならない。しかも伝研などの御仕事から、培養後出来る丈早期に血清蛋白を培地から取除くことが望ましい様である。MY肉腫の場合は、マウスの胎児の皮筋組織を培養してみた訳であるが、これも厳密には"胎児"と云う事が気にかかる。出来れば成熟動物の組織を用いた方がよいであろう。Benitezらの仕事では、成熟動物のareolar fibroblastを培養して、それに種々臓器からのRNA、Microsomeなどを作用せしめており、ラッテのMicrosomeの方がマウスの
Microsomeよりagentとしてはよりpotentであり、またラッテの繊維芽細胞の方がマウスの繊維芽細胞よりagentに対する影響をうけやすい事を報じている。
 しかし私共は、抽出した核酸分劃がactive agentであるか否かをみる意味で、先ず株細胞に作用させてその影響をみ、ついでprimary cultureの細胞に作用させてみたいと思っている。
 3)抽出について
 RNA:温食塩水抽出法、Detargentを用いる方法などもあるが、やはりPhenol法が一番よい様である。そのPhenol法もいろいろmodificationがある訳であるが、組織をhomogenateにする前にPhenolを作用さすE.Wecker等の方法につき検討してみたいと思っている。
 DNA:先には食塩抽出法でDNPを抽出したが、この先の蛋白をはなす方法としてGulland、Jordan、Threlfallらの方法により、即ち食塩でとり出したDNPをChloroform-amylalcoholで振って、蛋白部分を変性せしめ、DNAをとると云った方法を用いてみたい。
 4)核酸分劃の作用させ方について
 短時間作用させて影響が出れば、それで問題はないが、どうもやはり長く作用させないと効果はあまり期待出来ないのではないかと思われる。(Benitezの仕事では24時間で効果が出たと云っているが)しかしRNAなどは比較的短時間でOligonucleotideまで分解するので、長く作用させると云ってもRNA自体の作用する時間はごく短い事になり、結局はこれの繰返して作用させる事になる。作用させる濃度は50〜100μg/mlが適当と考えられ、作用させる際には血清蛋白を除いた培地を用いたい。PVP+LYT培地中のRNAの消長については大略はすでに報告したが、更に時間単位でその分解の度合いを検討する予定である。
 5)判定の方法について
 (1)先ず第一に復元成績の検討であろう。株細胞を作用させた場合でも、これにより有意の差が出れば一応判定出来るのではないかと思う。その有意の差として、予研高野氏の云っておられる様に、もともとある特定の種属にしか復元(若くは移植)出来なかった細胞が、その他の種属のものにも移植出来る様になった場合これは或程度質的(?)なちがいを生じたとも考えられるであろうし、また量的なちがいとしてFoleyなどの云っている様に、移植が成立するに必要な最低細胞数によりその細胞の悪性度(?)の変化をうかがうことが出来るかも知れない。しかし、この復元は株細胞の場合には細胞をふやせばよいので比較的容易かも知れないが、primary cultureの場合の様に細胞数が比較的少い場合にはどうすればよいか・・・勿論1ケの細胞でも復元出来ると云う場合もあるでせうが・・・が問題ではないかと思いますが・・・。
その他の方法もこれに加味して行ってみたい。即ち
 (2)形態学的にheteromorphismesがみられるか否か
 (3)細胞のDNA含量に比較的変化がみられるか否かmicrospectrophotometryにより行ってみたい。これは紫外部を用いても出来るが、こちらにあるapparatusは不備なため、Feulgen反応で染めて測定してみたい。
 (4)免疫学的変化、蛍光抗体法を用いて変化をみたいが、これはまず細胞の臓器特異性が確かめられた上でないと出来そうもない。
 (5)染色体数・・・核学的変化。
 viral RNAの場合には感受性動物に接種する事により症状の有無で判定出来る。
 大体以上の様なことを考えております。御意見がうけたまわれれば幸です。

【勝田班月報:6105】
1)組織培養内での細胞の腫瘍化:
 これがこの班の最大の狙いである。殊に今年度はこの班は広く注目されていると見てよいから、絶対にこの題目に於て或程度の成功を得なくてはならない。Earle一門も最近またこれに目をつけてPolioma virusでの発癌を図っている。しかしX線やcortisoneを使わなくてはtumorができないというのでは情けない話で吉田肉腫やラッテ腹水肝癌のように無処置で接種しても腫瘍ができて、その動物を倒すという位の悪性にしたいものである。 従来の目標は、まず腫瘍化さない株をつくり、次にこれを悪性化させるという狙いであったが、腫瘍化さない株が万一今年中にできないと何も収穫が無いことになるので、何かの細胞のprimary cultureを使うのと、株細胞を使うことも併用する。つまり次のようになる。
 a.腫瘍化さない長期培養法及び株の樹立
 b.発癌
   b-1 primary culture:特に増殖をつづけさせる必要はなく、硝子面に拡がったら血清→PVPに切換えるのも一法で、発癌剤が血清蛋白と結合して作用しにくくなるという可能性も考慮に入れる。
   b-2 株細胞:仮に腫瘍を作り得るものでも、その腫瘍性が強くなれば、それなりに意味がある。
 次に実際に用いる発癌要因と細胞であるが、
 a.発癌要因
  a-1 Carcinogenic agent(発癌剤):4ニトロキノリン類(このDerivatives)、DAB、メチルコラントレン、その他。
  a-2 antibiotics:マイトマイシン、クロロマイシン、アクチノマイシンなど。所謂制癌剤の異常濃度(主に低)をねらう
  a-3 Hormoneその他、生理的物質:例えば性ホルモン。
  a-4 Antimetabolites:例えばDNAprecursorに何か付いたもの。
  a-5 放射線:コバルト60γ、X線など。
  a-6 腫瘍分劃:tumorのextract及びその分劃。しかしこれは可能性は最も低いと覚悟しなくてはならない。
 b.細胞
   b-1 primary culture:rat mouseのfibroblasts、liver、乳腺細胞、monkey kidney。   b-2 株細胞:JTC-4、JTC-6、L、rat kidney、その他。大型動物の細胞は復元接種に費用がかかるので見合せる。
 この細胞と発癌要因をどのように組合わせるか、であるが、大体次頁の表のように各人の分担をきめた。これが最少ノルマである。

 :質疑応答:
[高野]Changのいわゆるliver cellの株を100万個、ハムスターの頬袋に入れると、少なくとも第1代は腫瘤を作り、10日後に次のハムスターに移したが、これはどうも結果はつくらないらしい。ハムスターはどちらもX線を600γかけたものを用いた。HeLaも同様の経過を辿る。だからこれらのでき方が強くなるということ、たとえばC3H以外のマウスにLがつくようになったとか、そういうことだけでも意味があると思う。またfibroblastsは癌化しにくいという文献がある。
[高木]Primary cultureであまり増えない細胞の場合はどうするか。
[勝田]接種量と瓶数をふやし、動物に復元するとき足りるだけにする以外に仕方がない。たとえば瓶にまいて、それがかなり増えたところで、血清を使って居れば、その血清をやめ、発癌要因を加え、以後はずっと形態学的観察を詳細におこなう。primary cultureの場合には、むしろ増える必要はないとも云える。薬剤などの与え方は、動物体で発癌させている場合の量や濃度が参考になると思う。つまり体重の何十%が水分だから、それに対して何モル加えているということになる。体外排泄は培地交換と同じと考えてもよい。そして何日間どの位の量を継続するかは全く体験的にやってみる他はあるまい。大体1〜2月以内に変化をおこさせるような方法でないと実用的でないし、Controlも悪性化してしまうおそれがある。次にin vitroの環境というものは、仮に発癌させても、その培地に適した栄養要求の癌にならない限り、そこで淘汰されてしまう可能性がある。だから初めの細胞に適したというより、癌化したあとの腫瘍細胞に合うような培地にしてから発癌要因を加える方がよいと云える。伝研でしらべてあるAH-130や吉田肉腫の至適培地の条件がこの際参考になると思う。3ケ月位やっても変化がなかったら培養は中止(接種する)。
 薬品などを使用した場合は、そのあと瓶に残っていないように充分に洗浄する必要がある。次の実験のとき対照群にできたりすると困るからである。それからこの発癌コースは、腹水腫瘍に代るべき新しい研究法を提供するというところに重要性があるのだから、理想的に云えば、なるべく短期に発癌するもので、しかも再現性の高いものがよい。in vivoに比べればnakedのcellであるから当然作用は早く出る筈である。若し体内に於て間接的に働いているという可能性があるならば、その発癌要因を与えた動物の血清を培地に用いる法もある。しかしin vivoで要因を加えた細胞をとりだして培養するのでは価値はずっと低い。これまでの動物を用いた人工的発癌実験の報告をよくしらべ、細胞の種類と用いる要因との組合せをよく考える必要がある。また要因をいくつか組合わせる法もよいと思われる。
 とにかく今年度の最高目標がこれであり、in vitroの発癌がきれいに出来れば国際的に癌の研究に裨益するところが実に大きいのであるから、Z旗を掲げたつもりで突進する必要がある。

2)正常及び腫瘍細胞の特性の、細胞レベルでの比較研究:
 これまでの研究で、これが癌だといえる生化学的特性は何一つ完全に押さえられていない。わずかに形態学的特性で分類されているだけである。しかし形態学的特性といっても、それはいわば癌化する前の正常細胞の特性で、従って同一形態学的分類に入る癌でもその制癌剤に対する感受性に大幅のばらつきのあることから判る通り、機能的分類が改めて作られなくてはならぬことは当然である。細胞レベルに於てこれら正常及び腫瘍の各種細胞についてその特性を比較研究することは現在きわめて重要なことであり、しかも組織培養によってのみ大きな成果が収められるといえる。そしてこの両者の間の、殊に生化学的特性より見ての相違が明らかにされてこそ、本格的な癌の治療、或は化学療法が可能となるのである。従って我々は一歩一歩確実なデータをつかみ、築き上げて行くことが大切で、その研究を進める思考過程に飛躍があることを最も慎しむべきであろう。

3)正常及び腫瘍細胞間の相互作用の解明:
 これは伝研及び久留外科に於て各々若干異なった道ながら探求しているところであるが、後者のは腫瘍細胞中に含まれている物質すべてを、細胞をすりつぶして取出し、他の細胞に与えてその影響をしらべているのであって、前者とはいささか目的が異なる。生体内に於ては正常細胞も腫瘍細胞も共に生活しながら影響し合っている。その生きたままの影響をしらべようとするのが後者である。これまでの説では、いわゆるtoxohormoneのように癌細胞から分泌されて積極的に他の正常細胞の代謝を阻害し、患者をkakexieに陥らせるのだという説と、癌の細胞から分泌されるものには何か正常の細胞に増殖をおこさせ、つまり非正常的な行動をさせるものがあるのだという説と二説がある。しかし何れも本当にその目的に適合した実験法を採用しているとは云えない。Parabiotic cultureのような方法で、或はもっとそれを改良しながら、しらべて行くことが絶対に必要であると思われる。

【勝田班月報:6106】
《勝田報告》
 A.肝細胞の培養と発癌実験
 当室で純系化しつつあるラッテJARの肝臓実質細胞をまず4ニトロキノリン系の物と、更にDAB系とでin vitro発癌させようという目的であるが、これまで成ラッテ肝のReplicatecultureをやったことがないので、まずその至適条件を決めるため、発癌実験の準備と併行して、Replicate cultureもやる準備をすすめています。鶏胚心センイ芽細胞のときと同じように、肝組織片を細切してRoller tubeにつけ、migrateしてくるのを集めて実験培養に入れるのと、組織片をaseなどでばらして直接実験培養に入れるのと、2法が考えられますが、成ラッテでは后者の方法ではかなり強力にaseを使わないと細胞が単離されてきませんので、やはり細胞に対する障害が強すぎます。そこで現在は前者の方法を用い、5日間(20%BS+0.4%Lh+SalineD)の培地で母培養し、aseを用いずにrubber cleanerでかき落し、80と150メッシュを通しました。この方法でかなりきれいな肝細胞の単離ができましたが、どうも間質細胞のゴミが多くこれには困っています。第1回はyeast extractやchick embryo extractの添加の影響をしらべています。次に発癌実験は、Roller tubeにつけた肝組織片培養に4ニトロキノリンを加える実験をはじめました。4ニトロキノリンは水にとけないのでアルコールで10-2乗M液を作り、これをD液で稀釋し10-8乗M液を作りました。10-6乗M以上だとすぐ細胞がやられてしまいますので、10-8乗M〜10-9乗Mのレベルでまずやって見る予定です。滅菌はアルコールで処理することだけなので、その点はいささか心配なのと、使った器具などの後の処置をきちんとして、他の培養は勿論のこと、人間の手に触れたりしないようにしなくてはなりません。この薬品はきわめて作用が強く10-8乗〜10-7乗Mで1日で細胞に変化が起るからです。来月号の月報には色々と御報告するデータが出ることと思います。培地は第1回は上記の血清培地を用います。
 B.サル腎臓細胞の無蛋白培地培養
 昨年7月4日にサルからとってすぐPVPの無蛋白培地に入れた群が、はじめは少し増えていましたが、その后とんと増えなくなってしまいました。しかし面白いことに1年経った今日でもきわめて健康な外見を示し、生きつづけているのです。ですからこの培地による培養法は発癌実験に用いるのにまったく最適と云えると思います。何年生きつづけるか、とにかくずっと続けてみますが、現在培養はroller tubeに2本と短試に5本あります。
 今月は報告はこれだけです。この他伝貧ウィルスの仕事も若干ありますが省きます。高岡君がAppeで入院したり休養(ごく短期間ですが)していた余波ですが、たまにはこんなことも良いでしょうし、仕事を発癌に切換えるのに好適でした。無蛋白のsublinesが一時そのため具合が悪くなったからです。

《高木報告》
 1.in vitroにおける発癌実験
 agent:
 1)AH-130腹水肝癌及び正常ラッテ肝より抽出したRNAをSeitzで濾過滅菌して用いる。
 2)発癌物質としてDABをTween20にとかし、更にTyrodeにとかしたものを間歇滅菌して用いる。Stilboestrolは未だ入手出来ない。
 細胞:
 一応JTC-4細胞を用いる。追ってprimary cultureの細胞も用いたい。
 培地:
 agentを作用さす際にはPVP+LYT培地を用いる。但し、これでは細胞が長期間の培養に耐え得ないので、時に20%BS+80%LYT培地に戻して適当に継代しなければならない。
 実験:
 RNAを作用させ始めてから3週間位になるが、やはりPVP+LYT培地を用いるせいか、細胞の増殖は可成り落ちる様である。
 またJTC-4細胞に作用させるDABの濃度を検討した処、大体0.1μg/ml位が適当と思われたので、この濃度で実験してみたいと思っている。一先ず2ケ月位間歇的にこれらのagentを作用させ、irradiated ratに復元して対照とその成績を比較してみたい。
 2.JTC-4細胞のウィルスに対する感受性
 先にpoliovirus各型について感受性を調べてみたので、今回は日本脳炎ウィルス(G1株)について検討してみた。培養4日目の細胞を用い、培地をPVP+LYTで交換してこれに脳炎ウィルスを入れ、4日目毎にその培地の遠沈上清で次代の細胞に継代し、その都度マウスでウィルスのtitering(LD50)を行った。
 その結果は(図を呈示)、大体4代、16日間に亙ってウィルスを維持することが出来た。対照の、細胞のない培地丈の中にウィルスを入れたものでは1代、4日後にはすでにウィルスは証明されなかった。なお細胞に予めcortisoneを作用さしめておいた場合に、細胞のウィルスに対する感受性に変化がみられるか否か検討するために先ずcortisone acetateの諸細胞に対する抑制効果をみた。
 その結果各濃度の細胞数は(表を呈示)、JTC-4細胞は200μg/mlでもやや増殖を示し、繊維芽様細胞であるに拘らずcortisoneに可成り強い抵抗を示すことが分った。
 従って本実験には大体100μg/mlのcortisone acetateを作用させて細胞を予め培養し、これにpoliovirusを入れてその感受性につき検討したいと思っている。

《高野報告》
培養細胞の動物への復元
 細胞が悪性であることを確める最後の決め手は、今のところ実験動物への復元による増殖様式が悪性を思わせるものであり、更に宿主動物が腫瘍死をとげるに至って最終的に証明されることになります。勿論この場合でも確実に腫瘍死である証拠が必要です。
 動物への復元の条件を予備的に検討する為、手許の細胞株を用いてマウス、ラッテ、ハムスターへの接種を行っています。動物への接種及び組織像の判定は同室の浅野正英君が分担。Foleyによって100万個接種すると正常細胞でも一応腫瘤を形成し、1万個で或る程度の発育を示すものが悪性であるという基準が示されていますが、未だ始めの段階なので細胞数は比較的多くし、動物にはγ線照射及びcortisone投与を施しました。
 現在結果の得られたのは(表と写真を呈示)、a)HeLa(母培養)は之だけでは何ういう種類の細胞か判定出来ない像を呈しますが、他とは明らに異り、b)LI(changのliver)は細胞索状の配列を示して肝細胞らしい顔付きを見せ(PAS陽性)、c)JTC-6-d(JTC-6から分離したcolonial clone)は血液腔を形成する傾向を見せて内皮細胞を思わせます。形態だけでの判別は不確かですが3者が3様の姿を見せることは事実で、もう少し種々の材料による検討を重ねようと思います。
 接種の条件は、Co60γ線800rを照射したハムスターの両側頬袋に0.5mlづつの細胞浮遊液(細胞数は材料により異る)を接種後、25mg/mlのcortisone 0.3ml(1回量)週に3回皮下注射して適時観察(エーテル麻酔下に引出して観察)必要に応じて標本作製。

【勝田班月報:6107】
《勝田報告》
 A)正常ラッテ肝細胞の組織培養
 前号で若干触れたが、次のような5種類の培地で肝実質細胞をsimplified replicate tissue cultureにより2週間培養した。Ratは当研究室でbreedingしているJARの4ケ月♂で、この肝臓を細切し、roller tubeの壁に沢山はりつける。牛血清20%+ラクトアルブミン水解物0.4%+塩類溶液Dで5日間10rpmで回転培養する。このとき組織片のまわりには殆ど細胞はmigrateしていない。しかし回転培養中に赤血球が除かれると云う利点がある。5日后にrubber cleanerで組織片をかき落し、1,000rpm5分遠沈して上清をすて、沈渣をsalineにsuspendして80及び150meshを通す。このsuspensionを型の如く短試に分注するわけである。しらべた培地は、1)BS+LD、2)BS+LD+2%CEE(9日)、3)BS+LD+10%CEE、4)BS+LYD(Yは0.08%)、5)LDのみ、の5種である。
 ところがこの結果が実に面白かった。培養4日后には若干の乱れがあるが、7日后、14日后の細胞数は、1)〜4)の群ではinoculumの19,000nuclei/tubeとほとんど変りない。全くきれいに水平のgrowth curveができたのである。幸運にもこのことは、発癌実験をやるにはもってこいの条件である。5)の群は次第に細胞数が減少し、14日后には約5,000/tubeになってしまった。その次にprotein-free mediaを数種しらべてみたが、これではLDのみよりも少し宛悪い。そこで"20%BS+0.4%Lh+D"の培地を発癌実験に使うことに決定した。先般第1回の連絡会の際に、無蛋白培地の方が良い、と述べたが、いざ細胞が癌化した時を考えると、癌細胞が増え易いような培地の方がよい訳である。その意味で前言を訂正すると共にできれば色々の培地を併行して使った方がさらに可能性が強くなると云いたい。
 B)4ニトロキノリン-N-オキサイドによる発癌実験
 生后7日のJARラッテ(♂♀不明)の肝を細切し、上記の母培養の要領でroller tubeにつけ、20%BS+0.4%Lh+Dの培地で回転培養を開始した。1961-6-17日である。容器は本当は平型にしたかったのであるが皆他の実験に使われていたので仕方なく円形のrollertubeにした。14本作ったが、2日后の6月19日に培地交新、この内の7本に4ニトロキノリンを10-8乗Mに培地に添加した。10-4乗M〜10-6乗Mでは細胞に変性を起すが、10-8乗Mでは大丈夫だからである。この培地はさらに2日后に4ニトロキノリンを含まぬ培地とかえ、以后ときどき鏡検をしたが細胞には依然として変化なく、各組織細片のまわりには細胞のmigrationが全く見られない。
 ところがである。時あだかも1961-7-12。顕微鏡をのぞいて居た高岡君が"エヘヘ"と奇声を発した。実験群7本の内1本に一つの組織片のまわりに細胞のoutgrowthが見付けられたのである。4ニトロキノリンを入れた日から頂度23日目にあたる。これらの細胞はexplantから単に細胞がmigrateしてきただけとは思われぬ形態で、硝子面によく密着している。形はやや大型で何となくふだん見なれた形とは異なる。円形とendothelialの中間のような外観を呈している。7月14日になると、さらにもう1本の実験群にも一つのexplantから似たような形のoutgrowthが見られた。この日にはControl群(無処置)の1本にもようやく一つのexplantから若干のoutgrowthが認められたが、これは純然たるfibroblastsの形態を示している。7月15日の観察では、実験群のかの2本はoutgrowthがきわめて大きくなっているが、細胞の形態が若干異なってきて、むしろendothelialに近くなった。現在まではこんなところであるが、後を追って同様の実験を次々とスタートしてあるので、それらも楽しみである。しかしやはり円形の回転管は観察に不便で、無理をしても平型回転管を使うべきであろう。これらの細胞が沢山にふえて動物の復元接種に使えるようになるには未だかなり日がかかるであろうし、その結果が判るようになるにもまた何週間かかかるであろう。8月15日の〆切の今年の癌学会には一寸間に合いそうもないが、2月頃また多分開かれると思われる合同報告会までには、あるところまで行けるのではないか、という気がする。
増殖しつつある細胞に発癌物質をかけると仲々細胞のtransformationの時期を判定するのがむずかしいが、このようにresting cellのcultureを使うと反って判り易い利点があるのと、より生体内の発癌条件に近くなるという長所がある。皆さんもおっくうがらないで気楽に初代培養を使って見ませんか。
 このほかDABいよる発癌も計画していますが、実施はもう少し先になると思います。
 C)Parabiotic Cell Culture
 Reportを第3報まで書いて、愈々こんどは正常細胞と癌細胞のinteractionの検索に入る所です。今秋の癌学会はこの問題にしようと思っていますが。まずかかるのは正常のラッテ肝細胞とラッテ腹水肝癌(AH-130)及び吉田肉腫との間の相互作用です。前者はさきに書いた様に増殖せずにmaintainされる状態、即ち通常の成体内の状態における肝細胞として、后者は同一の培地に於て急速に増殖する腫瘍として、その相互作用をしらべるわけです。 D)マウス白血病
これはこの班の仕事ではないのですが、こんなことにも手をつけている、という御参考にかきます。東大小児科から留学している古川君とやっているのですが、初めヒトの白血病細胞を培養しようとしたら仲々むずかしいのです。材料は流血と骨髄からとりましたが。それでまず簡単に材料が手に入るマウスの白血病細胞をやってみようと、予研抗生物質の竹内君と共同して、マウスのC-1489(Myelogenous leukaemia、C57-substrain6マウスの腹腔内継代移植)を使ってはじめましたが、これもまた仲々そう簡単な代物ではないようです。
《高木報告》
 in vitroにおける発癌実験
 1)前報につづきRNAを作用させているJTC-4細胞の継代をこころみたが、長い間PVP+LYT培地を使って来たので細胞が弱っていたためか細胞の増殖が極めて不良で、培地の交換を繰返しているがどうもまずい様です。培地中のRNAのdegradationをもう一度しらべてみましたが、やはり24時間以内にoligonucleotide以下まで分解するらしく、RNAを屡回に作用させて、しかも細胞があまり弱らない様にもって行くのが少々むつかしい様です。それとRNAは保存に際しても可成り不安定ですので、度々新鮮なsampleから抽出して同じ濃度を作用させる様にかけねばならないと思います。DABの方は0.1μg/mlずつ作用させているのですが、これは今迄の処まずまずで、実験続行中です。
 2)次に復元の問題ですが、私共の処では未だ培養細胞を復元して腫瘍を作った経験がないので、復元練習の意味で如何なる手段でも一度腫瘍を作ってみようと思い、生後約1ケ月のWistar ratを用い、これにXray 200rを隔日3回照射したものにHeLa細胞及びJTC-4細胞を200〜500万個ずつ接種し、以後はcortisone acetate 0.3ml(25mg/mlのもの)ずつ2回隔日に注射して観察しているところです。
 その他これまでつづけて来た実験もありますが、特記することもありませんので、今回はこれ丈にします。
 前報で高野班員のハムスター頬袋への細胞接種実験、興味深く拝見しました。各腫瘍の顔付きが面白いと思います。
 それから遠藤班員の"夢"の中で、(1)のHCHOと共に生じるHCl、(2)のH2O2はそのtoxic effectが少々気になりますが・・・。しかし"まさゆめ"にしたい気がします。

《奥村報告》
 1.サル(カニクイザルAdult)腎臓細胞の培養
 A.Primary culture
 a.トリプシン消化。われわれの研究室ではpolio virusのvaccineを検定するのに多量のサル腎細胞(MK cells)を必要とするので出来るだけ手数のかからない、しかもdamageの少ない細胞を作らなくてはならない。以上の点から種々の消化条件を検討してきたが、その中で最も好ましい方法について報告します。(又現在は消化方法とその后の細胞増殖過程における細胞の変異度について観察中、この仕事にはtrypsinの他、EDTA、hyaluronidase、何も消化酵素を用いない場合、の各実験groupを比較している)。
 腎臓摘出→直ちにcold PBS(4〜8℃)に入れてautolysisをさせない様にする。→髄質を取除いて冷PBS中で皮質を3〜5立方mmに細分する。→PBS(cold)で3〜5回組織片を洗う。洗ったのち、氷室で約1時間0.125%trypsin sol.で消化、1匹分の腎皮質に対しtrypsin sol.150〜200ml、この前処理はcytotoxic effectを除くために行う。→前処理の液は捨てて、新たに0.125%trypsin sol.を350〜400ml入れて、over night(約15時間)で消化を行い、消化后はMediumで2度洗い培養開始する。
 (註)種々の消化法を試みた結果、次の3点が特に重要と思われる。1)組織片を乾燥させないこと、2)前処理をすること、3)消化液を多くし、組織片を強く振盪しないこと。
 前述の方法で消化し、消化直后の細胞の死亡率をNigrosin染色でしらべると少ないときで、14%程度、多くても20%の死亡率であった。この様な低い死亡率で消化できると消化后の細胞増殖も極めて調子がよい。
 b.培地と細胞増殖(表を呈示)
 Menkey serumを添加したgroupではgrowthはcalf serumを入れたものより悪いがsmianや他のMonkey kidneyに潜在していたと思われるvirusの出現がおさえられるのだろうと思われる結果が得られている。
 以上の結果はMK細胞を種々の実験に用いるためのpreliminaryなもので一応報告しておきます。
 2.HeLa株細胞のγ線及びECHO virusへのresistancy
 Co60照射(2γ、3γ、4γ、5γ・・・)と各線量照射によるchromosomal patternを分析中です。近日中に結果がでますのでまとめて報告したいと思います。

《堀川報告》
 現在直面している問題点(その1)
 (1)MitomycinCを始め、放射線その他の各種要因に対して耐性細胞がどの様な手段で出現するかという問題は、われわれ遺伝屋の基本的な問題であると同時に臨床的にも癌の治療などから見て最も重要な問題とされているが、そうかといってこの種の問題はいっこうに解決されません。これはわれわれ研究者がなまけて研究をおこたっているせいばかりではなく、とにかく根本的にむつかしい問題らしいです。
 例えば現在私の所では上記のMitomycinCを始め5種の要因に対する耐性細胞を維持していますが、面白いことに用いる要因の種類によって耐性細胞の出現様式が大いに異り、同時に出てくる細胞の顔色がそれぞれ違っているのだから事態は非常にむつかしい。
前回東京で開かれた組織培養学会の際、予研の竹森先生から色々と参考意見をきかされ、それをきっかけにしてBacteriaに使われるありとあらゆるテクニックを用いて検討した結果、どうも耐性細胞の出現は要因によるmutagenic actionによるものではなく、母集団中にすでに耐性細胞が存在していて、これが要因に出合ったとき単に生き残ってくるにすぎないという結論が出そうです。
 いづれ詳しくは次の学会で報告する予定ですが、これを更に明確に立証するためには最も原始的な方法かもしれないが、写真でキャッチする以外に方法はありません。
現在Incubaterの中に倒立顕微鏡をすえつけてその機をうかがっている所ですが、仲々うまい具合につかめません。それも一例をとると、0.1μgmitomycinC/mlで処理したL細胞の場合には400万個のparent cellの中から8〜9個の耐性細胞が出てくるのを、コロニー形成をマーカーにしてつかまえるのだから骨の折れる気の長い仕事です。
 (2)L(原株)、LMit(mitomycinC耐性細胞)、LUv(紫外線耐性細胞)、L8-A(8-azaguanine耐性細胞)、Lγ(Co60耐性細胞)を色々の細胞濃度で、mouseにinjectionして発癌テストを開始しましたが、どれも今のところいい結果が得られません。少しImmunologicalな立場にたって仕事を進めてみます。

【勝田班月報:6108】
《遠藤報告》
 伊藤教授が内分泌と癌の班の班長になられたので、そちらの班と両方に同じ報告を出さなくてはならぬ破目になりました。またこの班の主目的である発癌の実験は手をつけて居りません。HeLa細胞の培養にステロイドホルモンを加えてその影響をみることを主体として、まずprogesteroneを入れてみました。これは伝研の仕事の追試になりますが、こちらではprogesteroneはアルコールに溶かして入れて、controlには等量のアルコールを加えました。牛血清20%の培地で6日間培養しますと、2日後、4日後、に0.16mg/lの濃度で増殖促進が見られます。殊に4日後のはcontrolに比べて44%の促進ですから有意と思います。しかし6日後には殆んど各濃度で影響があらわれなくなりました。伝研の仕事では0.3mgと3.0mg/lの濃度ではっきり促進が見られていたようですが、その場合にはホルモンをアルコールで溶かさず直接水にといていました。そのため実際の溶解度ではもっと低いところが効いたのではないかと考えられます。次に我々の実験では血清濃度を20%でoptimalの濃度のために差がはっきりでないのか(伝研でも20%)ということも考え、5%BSでもしらべてみました。するとこの場合にも0.16mg/lの濃度で2日、4日、6日後と促進が見られ、殊に4日後ではcontrolに比べ89%の促進でした。確かにHeLaの増殖はprogesteroneで促進されることを確かめ得たわけです。このあとはtestosterone、freeのestradiol、その他のestrogensについてしらべてみたいと思います。組織培養の条件如何によってresponseがmodifyされる可能性もしかし充分考えておかなくてはならぬと思います。北大産婦人科の小川教授は、癌をホルモンで抑えようと考え、HeLaやHuman lung(これはHeLaのcontrolとして)の株細胞を使って、各種ホルモンの影響をみています。丁度学会で北海道へ行きましたので逢ってきたのですが、実際にやったのは色々な研究生で、その学位論文に使ったものでした。ここでは面白いことにpregesteroneではHeLaは促進されぬと云って居ります。ホルモンの内では、estriolがいちばん促進しこれはhuman lungeも促進されます。ついでestron、estradiolの順になっています。hydrocortisonもμg/ 以下の微量でしらべると、これまでの研究と異なり促進するそうです。progesteroneについては久留米と九大でも同様の実験をおこなって北大と同じ結果を得ているそうです。これら結果の我々との相違をどう考えたらよいものでしょう。

 :質疑応答:
[高野]濃度が関係するのか。しかし8日後はeffectがないことになるのだからおかしい。遠藤氏の結果は夫々のlogのところのgeneration timeで比較すれば良いと思います。直線のところで。
[高木]inoculum sizeの差があるのではないですか。
[遠藤]我々のところも伝研も北大も略同じ位です。北大2万、九大10万位です。
[勝田]一昨年の癌学会で私が物云いをつけた北大の仕事は、ホルモンの濃度がかなり高かったようですが。
[遠藤]私のいいたところでは、我々と同じ位で、それでは癌学会のあとでまたやり直したのですね。cell countのerrorもきいてみたら一応±5%に抑えているとは云っていましたが・・・。
[勝田]研究生のやった仕事というのは気をつけないといけないです。早く学位をもらいたい一心で教授がこのマウスは今日当り死にそうな筈だなんていうと、天井にぶっつけたりする人がある・・・なんて噂もありますからね。遠藤君のdataとうちとの相違はたしかにホルモンの溶解度も関係があると思います。次に6日後になると効果が出なくなるという点では、第1の可能性として、細胞の硝子面への付着に効果があること、第2に増殖期に促進する点からみて、分裂中あるいは分裂しやすい状態のときホルモンが効くのではないでしょうか。
[高木]九大のデータはinoculum saizeがちがっています。久留米は今はやっていません。[勝田・補足]北大の牛血清はホルスタインのもので、東京のは和牛という相違だけでなく、使ったホルモンそのものは果して同一だったでしょうか。これが一番問題と思います。殊にnegativeのdataが出ている時には。例えば曾て三重大の病理でラッテの腹水肝癌AH-
130の細胞間結合はEDTAでは切れないと発表しましたので、我々のところのEDTAを送ったところ、これではあっさり切れて、結果使ったEDTAが悪かったということが判りました。勿論血清の質、牛の♂♀、そのときの生理状態も相当関係するとは思いますが、こういう仕事ではまずホルモンそれ自体の純度とか有効度を検討することが一番必要と思います。
《伊藤報告》
 これまで腫瘍組織の抽出液中の、L株細胞の増殖を促進する物質を10%BS培地でしらべてきましたが、どうも実験の都度異なる結果が出たりして困りました。目標は30〜50%増殖促進におきました。そこで今度は伝研で作った無蛋白培地継代亜株のL・P1を使ってみました。L原株ではOptimalの増殖が出すぎて差が少ないからです。ところがL・P1でinoculumを3万位にしてみますと、腫瘍からのS2分劃で、Controlに比べ、200〜300%の増殖促進が見られるのです。これを蛋白を入れたためのeffectと区別するため、L・P1にBSを5%加えてみたところ、増殖を完全に抑制しました。次にBSを各種の濃度に加えてみました。1/5〜1/10稀釋では少し促進が見られました。しかしS2ほど促進するものは血清の中には無いようです。BSからS2を作ってみても多いときで30%位の促進でした。血清の以下の稀釋は1/80迄しらべましたが他には効果はありません。正常組織のS2分劃は、Lではかなり幅が出てくるので(促進はある)、これをL・P1で今後しらべたいと思います。組織のcontrolとして、再生肝には普通の肝、embryoに対してはadultの組織とえられますが、人の腫瘍のcontrolには全く困っています。その他、L・P1と同じ培地で我々のところでLから作ったcell lineがありますので、それも作ってみたいと思います。S2分劃は、Lの場合には50〜10μg/ml加えると一番促進するのですが、L・P1はこれより低く2〜10μg/mlで一番促進します。またLの場合にはS2をさらに透析し、trypsinで消化しても促進するのですが、L・P1のときはどうか。これもぜひしらべてみたいと思っています。ここまでやれば蛋白ではなくなるわけですから。L・P1はしかし色々のことに非常にsensitiveなので使うとき注意を要します。

:質疑応答:
[高岡]L・P1はinoculum sizeによって後の増え方が全く違います。
[高野]S2の活性はtumorの種類によって差がありますか。
[伊藤]Grawingのtumor(kidney)からもとりましたが、hepatomaが一番よく再生肝も強くでます。
[勝田]用いる細胞の種類によって、例えばfibroblastにはsarcomaのS2というようなことはありませんか。それから実質細胞の系でないtumor; myomaとか良性腫瘍のS2はどうか問題があると思いますね。
[高野]L・P1のinoculumによるeffectは炭酸ガスふらんきを使うと良いんではないですか。[勝田]細胞のconditioningするfactorの中ではpHのadjustということは大きいと思いますから効果はあるでしょう。ところで炭酸ガスふらんきで細胞のふえ方がどの位本当によいものか、高野君ぜひcell countingでしらべてみてくれませんか。
[高野]やらなきやなりませんかね。
[高岡]伊藤さんのところはLやHeLaの増え方が凄く良いのは血清が神戸牛からとったものだからでしょうか。しかし堀川さんの教室(阪大・遺伝)でも同じ血清を使っていたわけですね。
[伊藤]早く仕事に細胞を使わなければならないのでlogarithmic phaseのを次々と継代して行くのでgeneration timeの短い細胞がselectされて行くのではないでしょうか。
[高野]それはたしかに有り得ますね。

《堀川報告》
 どうも着任以来、研究室の整備に追われて余りdataは出ていません。やった仕事は以前にひきつづいて"組織培養によるLの変異の遺伝生化学的研究"です。その第1は1)細胞に及ぼす各種agentのeffect。2)これらagentに対する耐性細胞の出現過程。3)各種耐性細胞の遺伝的生化学的特性(これでtransformationを起させられないか)です。まず第1の問題についてお話しします。例えば培養にmitomycinを加えますと、加えた群では分裂は殆んど止まり、その代り細胞のsizeがどんどん大きくなって、細胞1ケ当りのRNA、DNA、蛋白の量が増加します。この大きくなったものが果してnormal duplicationかabnormal duplicationかという問題がありますが、こうしたことをくりかえして、現在4種類の亜株をもって居ります。即ちLMit、LUV、L8.Az、Lγです。この内前2者の間にはCross resistancyが認められています。Lγは2000γのorderでかけていますが、これはγ耐性細胞とUV耐性細胞との間には類似性があるという人もあります。現在chromosome
distributionもしらべて居ります。次にLMC細胞についてP32の細胞内DNA、RNAへの取り込みをしらべますと、LMCも普通のLもほとんどその度合に相違はありません(24時間)。次に酸可溶性分劃をイオンクロマトで分けますと、CMP、AMP、GMP、ADP、GDP・・・という順に出てきますが、MCで処理しますと、CMP、AMPが減ってきます。次にATPが減ります。ADP、AMPはなくなります。従ってマイトマイシンを使いますと、細胞のATP、ADP、AMPがまずやられる、と考えられます。またこれらの分劃をペーパークロマトであげ、それを使ってradioautographを作りますと、DNAもRNAもbase ratisでは全く変りが認められません。またP32のとり込みは0、2、4、7日と見てもLMCでも殆んど同じです。染色体数について奥村氏によるとLの原株では68本だそうですが、我々のところでは63〜64本にpeakがあり、8.Az耐性株では68本にあります。第2の問題、耐性細胞の出現がmutationによるものか、selectionによるものか、という問題ですが、これをしらべるため、Lの原cultureをAとBと2seriesに大別し、Aの方はshort test tube 10本に分けました。Bはその10本と同じ細胞数を角瓶1ケに入れました。これを一定期間培養後、A群では短試験管1本か角瓶各1ケへBseriesでは角瓶1本だったのを10本に、夫々subcultureしたのですが、その時mitomycinCで1μg/ml、24時間処理しました。そして、各400万細胞/bottle入れた内、できた細胞colonyの数をしらべたところ、Aseriesの方では実にそのばらつきが多く、Bseriesの方ではそれより遥かに少なく出ました。不変分散にしてAは104.4、Bは4.01でした。
 この結果の示すところは、すでに母集団の中にMCに対して耐性のあるのが混っていたことを示していると考えられると思います。
 この実験ではAとBと第2代の容器がちがっていますので、次にどちらも短試でやってみました。即ち、A群は前実験と同じ、B群の第2代は角瓶1本の代りに短試1本としました。するとこのときのばらつきの差はもっと著しく出まして、不変分散にしてA系は
1705.4、B系では0.54となりました。愈々上の推論が裏書きされてくるわけです。そこで次に角瓶の底に裏から格子をかき、MCで処理した培養を入れて倒立ケンビ鏡で見ながら各視野のケンビ鏡写真を隔時的にとりました。するとMCに耐性の細胞は培養につれて大きくなるので、それが集落を作って行くことが判る筈なのですが、実際には狙った細胞がどれも増えてくれず、うまく行きませんでした。本当はMCをかける前から追いたいのですが、確率から云ってそれは不可能に近いので、MCをかけてから追ったのです。

 :質疑応答:
[勝田]大変な労力の仕事ですが、よくそれでも耐性の写真にとれましたね。高野君の仕事がこの仕事と似ていますので、つづけて話して頂いて、あとで討議をまとめてやりましょう。

《高野報告》
 Cell unitでのenergy hitに対する耐性があるか否かをしらべるため、HeLaにCO60γをかけてみました。癌の治療に放射線をかけたとき、まわりの正常組織が崩れ、さらに再生してきて放射線に耐性をもつということもあり得るが、若しあるとすればこれらの遺伝学的差までしらべられるのではないかと考えられます。現在としては個々の細胞の耐性は取扱うことができず、一つのpopulationとして扱って居ります。まず細胞に500〜2000γかけますと、その照射量に比例して増殖が抑えられます。しかし頻回照射すると耐性細胞がでてきて、tailingが得られます。照射法として2000γ5回(計10000γ)かけたときと、初めに2000γかけ、そのあと500γ宛10回かけたとき(計7〜8000γ)とはあまり差か認められません。これは、γをかけて、やられた細胞の中からまた新しいcolonyのできてくるのを待ち、それにかけるということをくりかえすのですから、実に時間がかかります。第2回照射までは、確かにcurveは寝て、抵抗性の上昇を示しますが、以後いくら照射してもほとんど平行です。この二つの知見から、耐性細胞集団の出現はmutationよりもむしろselectionによるものと思います。500γ10回群では目下観察中ですが、2000γ耐性群に比し、耐性度が低いように思われます。この点、総線量がfactorとなる可能性もあります。さらに2000γ5回耐過後、通常通り継代して、時間の経った群について耐性をしらべ、そのstabilityを検討しつつあります。耐性群をγ線とcortisonで処理したハムスターのポーチに100万個及び10万個の接種量で入れますと、無処置HeLaは100万個100%、10万個80%つくったのに対し、耐性群は共に100%となり、一見移植性が高まったかの如くに見えましたが、第2代のハムスターに移しますと、無処置の50%余に対し、耐性群は移植率
0%であった。なおハムスターポーチの腫瘍はhistologicalにしらべ、granuloma、白血球、センイなどのときは陰性と認めています。Bacillomaも同様。この知見に対し、適確な説明はつけられませんが、chromosomal distributionが狭くなる傾向と関連があるかも知れない。つまりselectionによってploidyが揃ってくるため、条件の悪い環境では一挙にやられてしまう可能性も考えられるのである。

《奥村報告》
1)耐性細胞の研究
 Cell:HeLa
 1-a)ECHO-Virusにresistantの細胞4種(E2、E5、E6、E9)についてchromosome patternを比較したところ、euploidのcell typeが何れの場合もresistancyが高い。HeLaの無処置の系では染色体数の分布範囲がきわめて広く、しかも76〜78本が最高頻度なのに対し、
ECHO Virus resistantのは何れも分布範囲は狭く、しかも分布像がtriploidの方へずれている。E5、E9などはまたtetraploidも顕著に増加している。しかしこれら耐性各系はすでに作られてから1年以上たっているので、変異経過を辿ることができない。近い内にこの再現実験をしてみたいと思う。 
 1-b)CO60耐性細胞の染色体分布
高野氏のCO60耐性HeLaの染色体をしらべている。まだ数が少ないので明確なことが云えないが、2、3、4γと照射回数の増すにつれ染色体数分布の幅が狭くなる。しかし4500γ以上になるとあまりその幅の差は見られない。
 1-c)ウィルス、CO60二重耐性細胞
 ウィルス耐性とCO60耐性の細胞には共通した現象が見られるので二重耐性実験を計画中。  )ECHO耐性系に60COγをかける(実験中)
  )CO60耐性系にECHO virusをかける
  )同様にpoliovirusについてやってみる
  )適当な制癌剤か発癌剤についても試みる
 考察)まだ実験例が少ないので確定的には云えないが、耐性細胞はeuploid或はそれに近い染色体数を有し、放射線とvirusと耐性が共通しているように思われる。これが若し事実ならば、耐性獲得の現象は細胞自身の遺伝的安定度に深く関係があると考え得るのではないか。(遺伝的にaneuploidよりeuploidの細胞の方が安定なので)。これがさらに確かめられたら、primary cultureからはじめて、chromosome patternに変異を生じてきた頃、放射線或はvirusをかけてみたいと思っている。これにより培養中によく見られるheteroploidyの現象を或は抑制し得るかも知れぬという夢である。
 2)腎臓細胞の発癌実験計画
 Monkey kidney cells(5代目)、Rabbit kidney cells(3代目)を継代している。あまり増殖は良くないが、その内にStilbestrolを添加してみたいと考えている。両系とも培地は4種を用いている。YLE10、YLE5、YLE2(以上の数字はBS%)、M-199+2%BSである。YLE2は初めの内はよく増殖したが、現在は一番悪くほとんど増殖せず。

 :質疑応答:
[堀川]CO60でselectionをくりかえして行くと細胞が弱くなって容器の壁にあまり着かなくなるとか、そういうことはありませんか。
[高野]増殖率は低下しますがよく増えています。形態の上では、大小不同、不規則な形態で、堀川氏のLMCのようなはっきりした特徴はありません。
[堀川]私のLMCはL・P1のようなきれいな形態をもっていて、壁につき方は弱いです。色々な細胞が混じっているのをpurifyして行くと、互に償って行くことができなくなり、不安定になるということも考えられます。また生き残った細胞がどうなって行くか。例えば5fluorouridineでtransformationの起るのを見ていますが、こういう細胞がどうなって行くのでしょうね。
[高野]cloneを作って行きたいですね。
[堀川]single cellをとりだして4ケ位の時から種々のgroupを作って育て、chromosomeがどうなって行くか見たら面白いでしょうね。
[勝田]染色体数のpeakは相当sharpになりますか。
[高野]まだはっきり数えてありません。
[勝田]君の表で、染色体数のpeakの幅が、2回照射で急に狭くなるが、以後はそのまま余り変化がないようですね。ですから同じ実験を何度もくりかえしてみて、いつも割に早く、しかも同じ所にpeakが行くとすれば、これはmutationでなく、selectionである一つの証明になるのではありませんか。
[堀川]放射線のdosisの与え方ですが、大量を短期にやるのと、少量を何回もかけるのとは・・・。
[高野]4000γかけると回復不能でした。100γx5回と500γx1回と差があるかどうか、これは臨床的にも大きな問題です。特に耐性細胞の出現にどんな差があるかですね。
[堀川]8azguanineを一度に大量与えると、一ぺんに細胞が死んでしまうが、少量与えると殆んど死なず、その量を少し宛上げて行くと、致死的な大量にも耐えられるようになります。これはinduced enzymeとか、何かそういう類の関与を考えさせられます。また透過性の変化かも知れぬが、そうならばisotopeを使えば判ることですが。
[勝田]堀川氏と高野氏のdataをきくと、どうもselectionの方が主因らしい気がしますね。放射線障害にはSH基群が防御的に働くと云われますが、耐性細胞ではcysteine
metabolismが変ってはいないでしょうか。つまり、大抵の細胞はcysteineを要求しますが、耐性細胞では自分でどんどん合成できるかも知れぬ可能性ですね。合成培地で
cystein-freeのもので増えるかどうか見ればよい訳です。
[堀川]AETも放射線障害防御で有名ですが、日本製のAETを使ったら、それ自身が毒性があってどうも使いにくくて困りました。それから細胞の核を交換してみたらどうか、どいう問題があります。Drosophilaのsalivary gland cellでは成功しています。salivary glandの染色体は太くなったところ(puff)が上下に移動しながらDNAを合成して行きます。このようなglandの核を移植するわけで、変種間で成功していますね。HeLaでも出来るのではないでしょうか。Immunologicalの問題もありますね。米国のマキノダン氏の実験ではbone marrow cellに400γかけて免疫反応を除き,AETを使って核だけは生きているようにしておいて、核を入れかえるのです。AETはcysteineより良いそうです。
[堀川]染色体の問題ですが、耐性細胞株ではpeakの倍数の染色体をもつ倍数体もでてきますね。とにかく非常に染色体数の多いのを時々見かけます。
[勝田]たしかに普通の株でもありますよ。一般に押しつぶし標本を作ってかぞえるとき、どうも算え易いのばかり算えてしまう傾向と危険性がないでしょうか。数が多くなればどうしても染色体の重なる頻度も多くなる。それから構造上の関係でどうしてもpairが横に並びにくく、いつも重なってしまうようなのもあるかも知れないし、染色体の分析もこの辺でそろそろ方法論的に転換すべき時期が来ているような気がしますね。

《高木報告》
 in vitroでの悪性化の実験をやって居りますが、AH-130肝癌細胞のRNA分劃を抽出しまして、JTC-4株に入れているわけです。しかしここに二つの厄介なことがあります。第1はJTC-4細胞をそのときPVP無蛋白培地に入れて居るのですが、この培地だとどうも細胞が弱って行ってしまいます。第2は培地に入れたRNAのdegradationがひどいことです。細胞の入っている管に入れますとどんどんこわされて行きます。定量法はoligonucleotideまでかかる方法を用いました。なおRNAは凍結しておいて1月、冷蔵庫で1週位するとかなり落ちます。したがってRNAは頻回に細胞に作用させなくてはなりません。BSの入った培地を使うとBSのeffectが出ることをおそれているわけです。
次に同じくJTC-4株細胞にDABを作用させます。DABは100mgをTween20の5mlに徐々にとかし、100℃3回の間歇滅菌をします。120℃ではDABが分解するからです。これを45mlに
tyrodeにとかし培地に入れます。このtyrode溶液は、冷蔵庫に保存しておくと沈殿が出ますが熱をかければ、またすぐに溶けます。DABは0.1〜1μg/mlに2種の培地に入れています。PVP培地とBS培地です。期間は3〜4週作用させます。(BS培地も作用させるときだけはPVP培地)。
 そのほか、愈々細胞を復元接種してみたいときの練習に、ラッテの皮下に2〜400万個入れてみました。6匹です。ラッテはcortisone acetate 0.1〜0.3ml、X線を200γ隔日3回照射しました。JTC-4をDAB処理し、4代まで行ったのを入れてみましたが、tumorができません。細胞は初めはtrypsinizeしましたが、現在はrubber cleanerで剥したのを使っています。
 :質疑応答:
[高野]Cortisoneの量が多すぎることと、X線は1回に沢山、400〜600γ照射した方がよいと思います。ラッテは600γまで大丈夫です。
[勝田]動物はハムスターのポーチの方が良くないかしら・・・。
[高野]Sylian golden hamsterがよいのですが、これが中々繁殖しないでこまっています。[高木]ハムスターもぜひやってみたいと思っています。DABは10〜100μg/mlだと細胞がすぐやられてしまいますので、0.1〜1μg/mlの濃度を使いました。DABをかけた細胞は、形態学的には変化が見られません。次にcortisoneは細胞に対して抑制作用があると云われていますが、L細胞を使っていろいろの濃度でしらべてみました。これは細胞自体に対するcortisoneの作用、特にそのウィルス感受性についてしらべたのです。すると図のような結果になりました。これはJTC-4株細胞でも同じような結果が出ました。これから100μg/ml濃度でcortisoneを作用させた細胞のPolioII型Virusに対する感受性の変化(かかり易くなっていないか)をこれからしらべたいと思っています。その他hydrocortisone、DOCAはfibroblastの増殖を促進するといわれていますので、この影響もしらべたいと思っています。
 次にJTC-4からcloneを作りたいと思い、TD-40を使って細胞が15ケ位入るように入れ夫夫colonyを作らせ、その一つを拾ってsuspendし、また次にうえ、数代つづけて居ります。 6月17日にJTC-4とLとを同時にPVP培地に入れました。LはPVP培地にすぐなれて、うまく継いでいますが、JTC-4はBSを2%までは楽に減らせるのですが、1%になるともう旨く行きません。ここでとまっています。次に培地の相違によるDNA、RNAへのP32の取込みのちがいをしらべたいと思いその一部をはじめました。RNAはphenol法でしらべました。 またOrotic acidをJTC-4に作用させてみると、4日迄のdataですが少し促進の傾向があります。これはDNAのprecursorで、小野製薬ではアミドの形で水に易溶性のを作っています。500μg/mlで促進しています。この使用効果についてはFederation Proceeding(Vol.20,No.1,p155,1961)にもSavshuck & Lockhartが報告しています。
[勝田]P32をそのまま使うと、DNAやRNAを分劃しても、無機Pの形のままのP32が
contaminateしていることが良くありますから、それらを除くことに注意して下さい。
[高野]ハムスターへの移植法ですが、ハムスターをエーテルで麻酔して、ピンセットで口の頬の内部からpauchを手袋をうら返すように引張り出します。そしてそこをヨーチンアルコールで消毒して、1/5以下の針をつけた0.5mlの注射器で、皮内注射の要領でpauchの2重膜の間に接種するのです。
 またEDTAを使ったheterotransplantationがうまく出来る方法があります。EDTAで細胞を処理し、ゼラチンカプセルに入れてラッテの腹腔に入れるのです。dd mouseのtumorをやってみました。これでしらべると、どうもHeLaよりchangのliver cellの方が悪性度が高いようですね。1億個入れてみました。Lはconditioned mouse(ddY)に100万個入れると或程度増えます。EhrlichはddNは駄目でddYがよいようです。
[勝田]高野君は異種移植の方をよく研究しておいて下さい。我々が早速応用させてもらいたいので。それから君もtumoreのextractを培養に入れて発癌実験をやっていたようですが、あれはどうなりましたか。
[高野]私のはL細胞の培養にEhrlichのextract(1:0)を添加するもので、普通は0.5%入れても細胞がこわれますが、ならすと1〜5%位入れても平気になります。この細胞は細長いスマートな細胞で、増殖カーブはLに似ています。この系とL原系をconditioningしたマウスに入れてみているところです。
 それからcolony法ですが、5cmmシャーレに4〜5ml液を入れ、シャーレ当り細胞100ケの割でまいて、炭酸ガスふらんきに入れますと、率がいたって悪いのですが、100ケあたり40ケ位colonyができます。
[高木]私は角瓶に5ml入れ、細胞100ケ位でcolonyを作らせ、いらないcolonyはエーゼで焼いて、欲しいのがふえてきたところでtrypsin消化しています。

《勝田報告》
 私どもは発癌実験を主にやっています。細胞は、我々はこれまで肝細胞を多く取扱ってきましたので、予定通りラッテの肝細胞をまず使っています。第二候補のラッテ乳腺細胞はまだ培養がうまく行っていません。というより材料の入手に困っています。さて、その肝細胞に用いる発癌剤としては4ニトロキノリンに第一に手をつけました。そのあとDABに入ろうと思っています。4ニトロキノリンの実験はこれまで2系やって居ります。
 まず基礎実験からお話ししますと、成体のなかの肝細胞は、通常の状態ではほとんど増殖していませんので、それと同じような状態を再現する条件をしらべました。培養法はラッテの肝臓をまずメスで細切し、それを円形回転管につけて回転培養で数日間母培養します。このときの培地は20%BS+LDです。この間に組織についていた血球はほとんど落ちてrenewalのとき棄てられてしまいます。そこでrubber cleanerで細胞を全部かき落として、白金の80、150メッシュを通しcell suspensionを作りますと、これはほとんどが肝細胞から成っています。これをfibroblastと同じ様にピペットで短試に分注し、適当な培地を加えるわけです。第1回は5種、第2回は1種類の培地で培養して2週間観察しました。すると血清の入っていないLDだけの培地では次第に細胞がこわれてゆきますが、他の培地では何れもほとんどinoculumと同数の細胞が残りました。そこでこの中でいちばん組成の簡単なBS+LDの培地を以後の発癌実験に使うことにしました。ここで面白いのはchick embryo extractを加えても増殖が何ら促進されないことです。
 さてこのdataに基いて、20%BS+LDの培地を使い、生後7日のJAR・ratの肝をメスで細切し、円形roller tubeの壁に附着させて回転培養します。組織片はなるべく小さいものをなるべく沢山つけた方がよいと思います。培地は週3回交新しますが、その内1回だけ、つまり2日間だけ4ニトロキノリンを10-8乗M加えた培地を用います。すべて発癌剤は、それが他の培養にcontaminateしないように、後始末をよく考えておかなくてはならないのですが、この4ニトリキノリンの場合には、熱を加えれば分解しますので、使ったピペットその他は煮沸すればよいわけです。2日間処理したあとはまたBS+LDに戻って、長い間培養をつづけました。すると23日目に実験群7本の内1本のなかの1つのexplantから細胞がmigrateしはじめているのが目につきました。単に遊出したというだけでなく、平たく硝子面に細胞質をのばし、かなり大きな細胞です。それがみるみる増えるのと平行して、次の日、次の日と色々なtubeで、計5ケ以上の新生細胞を出しているexplantが見付かったのです。それに対しcontrol群の方では、このころになって7本の内の1本の1ケのexplantから少し新生がみとめられましたが、形は大分上のとはちがっていました。第2回の実験は5ケ月のラッテを使いました。容器はこんどは平型の回転管です。それ以外は上と全く同じ条件でやったのですが、3週一寸経った今日、まだどのtubeでも新生細胞が見られません。これは材料の年齢の差によるのかも知れません。一方円形tubeではケンビ鏡観察にむかないので、第2回の実験は何れも平型回転管を使いました。しかし平型管というのは、どうも液の流れ方が癖があって、平面をひろくぬらしてくれません。やはりその点では円形管の方が良好です。一考を要するところと思います。なお第1実験の方は、その後、実験群の各新生細胞が次第に変性し、controlの唯一のものと共に消えてしまいました。残ったのは実験群の唯1ケのexplantだけで、これはゆっくりですが、いまだに増殖をつづけています。
 この方法を用いますと、変化を起こさない細胞はすべて増殖せずに、静止状態で居りますので、変化を起こした細胞を見付けるのが実に楽です。培養法も簡単ですし、皆さんにおすすめします。
 発癌実験に必然的に伴う宿命ですが、突然変異というものは変化する方向の決まっていないものです。たとえば栄養要求にしても実に各方面にむかっての変異が考えられますが、その内のごく小さい方向、つまり与えた培地に適した変異細胞だけがどんどん増殖できるわけで、その意味で発癌剤を与えたあとはなるべく各種類の培地でcultureすることがのぞましいと思います。
上述の実験に用いた培地は腹水肝癌AH-130のoptimalの培地です。ですからAH-130をつくったDABを発癌剤に使った方が或いは良いかも知れません。
[伊藤]静置培養で4ニトロキノリンを入れたのではうまく行きませんか。
[勝田]私はやらなかったのですが、いま九大癌研へ行った遠藤君は株細胞を使い、もっと高濃度でやっています。しかしこの場合は発癌実験ではなく、細胞に封入体のできることなどを論じているだけです。この実験も4ニトロキノリンをもう少し長く作用させることもやってみたいと思います。
 次に御報告することとしては、馬の肝臓から3種の株細胞を作り、6月の伝研集談会に発表しましたが、これは発癌と関係がありませんので省略します。
 Parabiotic cell cultureについて、その後やっている実験をお話ししましょう。まず
chick embryo heartのfibroblastsとchick embryo liver cellsを組ましてみますと、fibroblastの増殖は7日後になって初めて少し抑えられますが、liverの方は7日間ほとんどeffectを受けません。次にfibroblastsとliver cellsと夫々同じものを組にして培養しますと、次のような結果が得られました。どうもfibroblastではお互いに少し抑える傾向、liver cellは促進する傾向が見られるのです。
 これから秋にかけてのparabiotic cultureの研究の主体はRat liverと、それ由来の肝癌AH-130及び少し系は異なりますが吉田肉腫、この二つの組合せを主体にしてやって行くつもりです。現在その第一歩をはじめています。この実験では肝は成ラッテの肝で、さきほどの発癌実験と同様、増殖しない状態において培養しています。この方が腫瘍の正常細胞に対するeffectをみるのに良いと思います。培地は従って20%BS+LDです。吉田肉腫は本当はHSの方が良いのですが、今回はこれを使ったところ、controlで細胞が2日後ふえているのがまたこわれて行ってしまいました。それに対してliver cellとのparaculture
では少し宛ですが増えつづけています。面白い結果と思います。AH-130はliverとのparacultureでごく少し促進されています。一方、正常肝の方はきわめて微妙ですが、他のtumorとparacultureした方が少し宛抑えられるようです。秋の癌学会までにはもっと沢山データを出すつもりで居ります。
 次に馬組織を北大から輸送した経験によると、培地に入れて5℃〜0℃の低温にさえ保てば、8日間位おいた材料からでも株が生まれました。サル腎臓tissueの輸送にも応用できるのではないかと思います。人癌組織などの輸送や保存にも参考になります。
 L株より作った4亜株について多核細胞の出現率を見ますと、L・P1(PVPが培地に入っている)がやはり一番少なく、培地が無蛋白ではあるが代用高分子を含まぬ他の3系では、これより何れも多くなっています。この研究は目下継続中です。
 先月の集談会で高岡君が演説した仕事ですが、trypsinで継代しているJTC-4株をうちでEDTAで継代しはじめたところ、数代の内に上皮様の形に変りました。これは元に戻りませんので、この系をJTC-4Dとよんでいますが、これのtissue culture内でのCollagenの作り方をhydroxyproline定量でしらべたところ、細胞1ケ当りの量がJTC-4よりはるかに少なく、しかも培養後期になっても増えません。銀染色するとJTC-4は微細な銀センイを沢山形成していますが、JTC-4Dは作っていません。次にEDTAで継代しているHeLaをrubber cleanerだけで継代はじめたところ、細胞の形がfibroblasticになってしまいました。
EDTAは細胞の形態をepithelialにかえる副作用と、細胞の変異を促進するような力を(変異を直接惹起するのでなくても)持っているのかも知れません。培養のときはEDTAを使うには慎重にせねばならぬと思います。

【勝田班月報・6109】
《勝田報告》
 A)培養内の発癌実験
 この7月頃やっていた発癌実験は何れも培養内で細胞増殖を得るに至らず、その后培養を中止いたしました。このときは初めは7日、后に3月の♂ラッテの肝を使用したのですが、生后7日の方が成績が良好で、4ニトロキノリン10-8乗Mを作用させた群で細胞の増殖が見られたのです。しかし報告会で話したように、培地が非常に問題と思います。折角癌化しても、使ってある培地がその癌化細胞の栄養要求に合っていなければ癌化した細胞は増えてくれない訳です。現在観察しているのは8月31日から6日間4ニトロキノリンを10-8乗M作用させた群(前の実験は2日間だけ作用)で、もう1月近く経っているが細胞増殖は見られない。細胞は生后1ケ月のラッテ♂の肝細胞である。この位の大きさのラッテが肝の収量から云っても実験にいちばん使い易い。この次は4ニトロキノリンの濃度をもう少し上げて見ることも考えている。
 B)正常細胞と腫瘍細胞間の相互作用
 正常ラッテ肝細胞とラッテ肝癌AH-130の間の、増殖に対する相互作用を、これまで主にしらべてきた。肝細胞の方は増殖しない状態においてparabiotic cultureする訳であるが、何れの場合に於ても正常肝細胞の方は数が減少して行き(細胞が殺されるわけ)、AH-130の方は増殖を促進されている。Control(Single tube)とParabiotic(Twin tube)の他に、両細胞を1本のtubeにMixして一緒に入れるcultureもやってみた。ところが面白いことに、parabiotic cultureの方よりmix cultureの方が上記の相互作用が一層明瞭にあらわれるのである(表を呈示)。つまり、液相を通じてだけでも相互作用はあるが、細胞が直接触れ合うことにより、さらにそれが強められる訳で、面白いことである。この場合、触れ合う、と書いたが或いは触れ合わなくても、例えば一種の毒物を癌の方が出す場合、それが細胞のが近くにあれば、稀釋される前の濃厚なのに正常細胞が浸されるわけで、その為に強い効果があらわれた、と云えるかも知れない。しかし別の所見から考えて、触れ合っているのは事実で、例えば肝細胞だけを母培養したあとで、replicate cultureすると、肝細胞は管底にあまり良く附着しない。ところがmix cultureするとAH-130に抑えつけられてしまうのか、肝細胞がtubeを動かしても浮び上ってこないのである。正常肝細胞は久留説によれば、これらの実験の場合、AH-130の存在によって反って増殖を惹起される筈である。しかしそのような現象は全く見られなかった。このことは、久留教授及び伊藤班員の説が誤というわけではなくて、その追究してきた促進物質というものが、癌細胞が生きている状態では外に分泌されず、抽出してはじめて細胞外に取出されるものである、ことを意味しているのではあるまいか。その推定の下に、こんどはAH-130の腹水を大きく三つに分けてみた。1)腹水上清、2)AH-130のglass-homogenateを凍結融解した后の遠沈上清、3)同沈渣、この三つを何れも5%容に正常肝細胞の培養に入れてみたが増殖は全く起らず、反って阻害が見られた。それで2)をさらに各種濃度に添加する実験を準備している。一方、伊藤班員にはS2分劃の効果のあるというところを、AH-130のと人癌のと送ってもらう手筈になっていた所、台風で研究室もろともやられてしまったそうで、今度の癌学会には一寸間に合いそうもないことになった。我々のparabiotic cultureに於ける正常肝細胞の阻害を中原氏のいわゆるtoxohormone作用と考えれば、中原氏は大いによろこぶ事と思うが、癌細胞が正常細胞におよぼしているeffectの、そのfactorsは複数形であろうし、仲々そんな簡単なものではあるまい。この場合もっと我々にとって面白いのは、正常細胞とのparabioticcultureによって、AH-130の増殖が促進されるという事実である。これは未だ、仮に想像はされても、実証のなかったdataであり、組織培養によってのみ証明されるものである。正常細胞の何によって促進されるか、これは面白い将来の問題というべきであろう。
 次に吉田肉腫であるが、厄介なことにこいつは回転培養では増えない(だからセロファンを間におけない)、牛血清ではうまくなくて、馬血清で増える。そこで正常肝の方を馬血清で培養したところ、馬血清でも何とか行きそうがということが判った。従って馬血清で吉田と正常の肝をparabiotic cultureした。まだ7日目のcountをしてないが、4日目までの成績ではどちらにも大した相互作用がないのである。これは大変面白い知見と思う。肝癌は肝細胞とだけ相互作用をおこすのか。それならば吉田はfibroblastsとは相互作用を起すかも知れぬ。という訳でfibroblastsとのparabiotic cultureを計画中であるが、上記の7日目の成績が判らぬと余り先には進めぬ。
 なおAH-130では回転培養でMilliporeでもCellophaneでも相互作用が同様に認められた。 これは今秋の癌学会及び組織培養学会に於て発表する予定である。

《高木報告》
 1)in vitroにおける発癌実験
 本年6月3日からDABを作用させ始めていますので、大体今月まで3ケ月と少しになります。PVP+LYT培地にDABを0.1〜1μg/ml入れて作用させていたものは、細胞の発育が思わしくないので、7月末からはすべて20%牛血清加培地にDABを1μg/ml入れる様にしました。復元(移植)実験はどうも思わしくなく、あれから(班会議後)再度HeLa細胞を用いてtrainingしてみましたが、1ケ月たっても腫瘍は出来ず、ガッカリしています。今度はsuckling ratを用いてみようと目下ratの増産にこれつとめています。またhamsterも用いてみたいと思っていますが、何せ未だ動物が入手出来ないので仕方ありません。
形態的にみてDABを作用させたものは巨大細胞、多核細胞が対照に比して確かに多い様に思いますが、これ丈では何とも云えません。
 2)L細胞の発育過程におけるP32のincorporation
 前回の班会議でL細胞のtime courseによるP32のincorporationをのべました。その結果、大体直線的になった処、つまり培地中にP32を入れて10時間後をとることにしました。そこでルー瓶を用いて培養後2日、4日、7日目の細胞のP32のincorporationをみてみました。その方法は
 (1)P32を1μc/mlになる様に加えた培地を作っておき、培養2、4、7日目にこの培地と交換して10時間incubateする。
 (2)Incubationが終ったら細胞をrubber cleanerではぎおとして遠沈する。
 (3)遠沈して得た細胞を1回0.154M KCl水で洗う。
 (4)洗った細胞を1mlの水にsuspendして5回凍結融解して細胞をこわす。
 (5)これにfinal 0.5MにPCAを加え、核酸、蛋白、Lipidなどを沈澱させる 
 (6)この沈渣について柴谷法(P32を充分に除去してpureな核酸を得る方法)による分劃を行い、contaminationのないpureなRNA、DNAfractionを得る。
 (7)RNAはE260で吸光度を測定し、これに係数33.16を乗じてRNAμgとし、DNAはE267で測定して、これをDNAμgとした。同時に一定量を20mm径の小皿にまいてgeiger-muller counterでcountしてspecific activityを求めた。
 この結果、specific activity of RNA(cpm/RNA)は、2日目13.20、4日目8.53、7日目5.94となり、specific activity of DNA(cpm/DNA)は、2日目6.1、4日目6.35、7日目4.15となった。つまりRNAの方は培養日数が若い程incorporationが大であり、これは想像される通りである。DNAはやはり同様の傾向とは思うがあまり(RNA程)差がひどくなく、また4日目が最も多くなった。この点については再度実験するつもりです。
 3)その他
 Orotic acidの諸種株細胞に対する効果を検討中ですが、JTC-4細胞に対してはやはり50μg/ml位(班会議で500μg/mlと申しましたのは、あとで下のScaleのとりちがいだったことが分かりました。まことに申訳ありません。ここに改めて訂正します)の処で促進作用がみられる様です。FLにはあまり影響なく、Lにはやや(有意ではありません)促進?作用がみられるかの様です。くわしくは全部まとめて次号にでもreportします。
 それからLP細胞(こちらでprotein freeにならした細胞)はどうも増殖はあまり思わしくなく、角瓶に培養すると一時増加しますが次第に剥げ落ち(浮遊するのかも知れませんが)ます。growth curveを出そうと思って5゚の角度で静置培養すると、どうも浮遊する細胞が多く、incubaterの中で直立させておきますと底について発育する様です。直立させて培養させた処では1週間に5倍位の増加率のようです。
 今回は以上にしておきます。その他の実験はまたdataがそろってからreportします。

《堀川報告》
 今回の研究報告は丁度夏休み期間中のものになりますので、私の所では余り成果もあがっておらず、またその間には8月上旬に伝研で例の研究報告会があり従来の仕事の概略はしゃべりましたので、今回はこの夏休み期間中にあった主な事についてお知らせします。
 ◇8月中はこれといった大きなニュースはありませんが、私自身11日から1週間程大阪の方に帰って暑中休暇を取って来ました。勿論8月といえば、我々の研究費が入ってよろこんだのは忘れていません。
 ◇9月に入って1、2、3日と仙台で恒例の遺伝学会が開催され出席しました。例年より少し早かったせいか暑いことこの上なし。出席者も少なかったようです。来年は静岡県の三島で開催されます。
 ◇9月19日朝10時羽田発JALで、黒田さん(阪大)が奥さんと子供2人づれでシカゴに向けて出発されました。皆さん御存じのことと思いますが、シカゴ大学のDr.Mosconaのもとで一年間発生遺伝学の仕事をやるためです。
 これ位がまあとりあげてお知らせ出来る私の方のニュースですが、私の方でもこの放医研に来てから一人ふえ二人ふえして、現在ではTissue cultureの部屋は狭いながら4人になりました。もうしばらくすると1人来るらしく、部屋を拡げるのに現在仕事中止で頑張っております。
 最後に最近出た面白い論文(私に関しては)を2つばかり御紹介しましょう。
◇Transfer of DNA from parent to progeny in a tissueculture line human carcinomaof the cervix(Strain HeLa) Edwoard H.Simon J.Mol.Biol.(1961) 3:101-104
 体細胞でのDNA replicationのメカニズムを知るための実験です。すなわちHeLa細胞の
DNAを5-bromodeoxyuridineでラベルし、1回目の分裂後、2回目の分裂後にそれぞれのDNAのdensityをdensity gradient centrifugationで調べます。1回目の分裂で全DNAが5-BUDRで半ラベルされ2回目の分裂で半ラベルされるものと全部ラベルされるDNAが見つかりました。これらの結果は体細胞でのDNA replicationはバクテリヤやchlamydomonasに於けると同様Semiconservative modelで起ることを示しています。これは実にきれいなすばらしい実験です。
◇A study of the penetration of mammalian cells by deoxyribonucleic acids E.Barenfreund & A.Bendich J.Biophys.Biochem.Cytol.(1961) 9:81-91
Pneumococciとhuman chronie grnulocytic leukemiaのleukocytesから取り出したTritium-labeled DNAを37℃でgrowingしたHeLaに加えますとHeLaのDNAの中に入ることを証明したものです。
 しかも、DNAの4つのBaseに完全に入ります。どの様なmechanism(DNAを受ける側のCell又入る方のDNAの型)でpenetrateするかは今後の問題ですが、興味あるDiscussionをしております。御一読下さい。

【勝田班月報:6110】
 A)ラッテ正常組織細胞とラッテ腹水肝癌細胞との間の相互作用:
 Parabiotic Cell Cultureを用い、生体内に於ける正常細胞と癌細胞との間の相互作用をしらべる第一歩として、ラッテの正常肝細胞とラッテ腹水腫瘍細胞(肝癌AH-130及び吉田肉腫)との間の相互作用からまずしらべ初めた。
正常肝とAH-130との間の静置培養(TWIN-D1)での相互作用の結果は前報で報告したので省略し、同じ細胞の組合せを回転培養で試みたところ、殆んど静置と同様の結果が得られた(表を呈示)。この実験では両細胞と同一管に一緒に入れて混合培養した群も2群加えた。単管に入れたのと、双子管の片方に入れて他方は培地だけ入れたのとである。こうしてみると、AH-130の増殖促進、Liverの阻害の現象は、普通のParabiotic Cultureのときより一層強くあらわれた。回転培養であるから培地内の干渉物質diffusionの仕方のeffectとは考えられず、やはり一緒に細胞が直接接し合ったためのeffectと考えるべきであろう。つまり液層を通じてだけでも相互作用はあるが、直接接触し合うともっと強い相互作用があるということで、映画でもとって見ると、AH-130のことだからきっと細胞突起を肝細胞の中に突込んで注射出模しているのではないか、という気がする。  次に双子管の間にMillipore filterを挟んだ場合とCellophaneを挟んだ場合と比較するとこれもCellophaneの方がむしろ強く相互作用があらわれた位で、干渉物質は容易にCellophaneを通過し得ると思われる。
 吉田肉腫は、肉腫だからfibroblast系であり、肝癌とは異なる反応を示すと考え、吉田肉腫−fibroblast、吉田肉腫−肝細胞の組合せもしらべた(表を呈示)。吉田とfibroblastでは、吉田は初めは若干促進されるが、7日后には逆に抑えられている。之に対し、fibroblastの方は(AH-130−肝)の場合と同じように終始明らかに阻害を受けている。
 次にTumorのこれらのもののoriginとは全く関係のないrat kidney cellsをトリプシン消化して作ってAH-130とのparabioticを試みると、静置、回転何れでもKidney cellsは阻害を受ける。殊に回転のときに著明である。元来AH-130には静置よりも回転培養が適しているので、回転でAH-130が非常によく増殖し、そのため受けた干渉も大きかったのではないかと想像される。回転ではAH-130はきわめて増殖促進を受けているが、静置では逆に抑制され、回転の結果と相反した結果になっている。この理由がどうもはっきり判らない。しかしこの判らないところが、将来の鍵になってくれる可能性もある。以上のように、腫瘍とその元の細胞との間には、どうも何か、Virus−宿主細胞の間の親和性に似たようなものがあり、それが転移の場所にも関係していることが暗示されるような気がする。AH-130とfibroblastの組合せは目下準備中である。
B)培養内発癌実験:
 これには雑系ratは使いたくないので、うちのJARの子供をうむのを待っているが、目下余り生んでくれないので、来月までは"子待ち"という状態である。

《高木報告》
 1)in vitroにおける発癌に関する研究
 依然としてJTC-4cellsにDAB 1μg/mlを作用させ続けています。細胞の方は準備出来ているのですが、動物の方が中々軌道にのりません。しかしrat(Wistar king)もどうにか殖えて来ましたし、またhamsterも純系のものを5対予研から頂くことにしましたので、癌学会が終りましたら実験にとりかかれると思います。またDABの外にStirboestrolも用いてみようと思い、目下primasy cultureの準備中ですが、生后3週間のratの腎を培養してみたところでは、epithelial cellsはLT+20%BS及びLYT+20%BSのいずれでも可成りよく発育しますが、PVP+LYT培地では思わしくなく、また培養後4〜5日目からfibroblastが優勢になって来るのが頭痛の種です。
 2)免疫に関する研究
 これまでJTC-4、HeLa及びL細胞間の免疫関係について調べてみた訳ですが、更にFL及びChang'Liver cellも加えて検討してみようと思い、目下家兎を免疫中です。FL細胞の免疫血清は、未だやや日が浅いのですが、採血して他の3種類の株細胞の免疫血清及びratの心臓組織に対する免疫血清と共に異種血球凝集抑制試験を行ってみました。その結果は、各細胞の家兎免疫血清を用いて、血球の凝集がおこった処までの血清の稀釋倍数(titer)を、同一家兎の免疫開始前の血清のheterophile haemagagglutininのtiterで割ったものです。血球浮遊液は各血球を0.5%の濃度に0.01Mphosphate buffered NaCl solutionに浮遊したものです。L細胞の免疫血清については、免疫開始前の血清がありませんためdataにはなりませんが一応ここに記載しました(表を呈示)。もっと数多くの動物を免疫しなければはっきりした結果を云々することは出来ないと思いますが、大体において種属特異性の傾向は出ている様に思います。またここに示した数値は可成り低い様ですが、これは
Gerhardtらのdataをみましても高い値を示す例は比較的少い様です。
 3)その他
 (1)Orotic acidの株細胞に対する効果を調べてみました。さきにPilieriらはHeLa細胞を用いて、Orotic acidは核酸のprecursorとして大した意味はないことを報じており、またSauehuckらはhuman skin、liver、HeLa及びL細胞を、Orotic acidを含む培地で3日間培養して細胞の増殖促進効果はないことを述べています。
 ここに行った実験は、培養と同時に薬剤を作用させ、以後一日おきに新にOrotic acidを作用させて、1週間その効果をみた訳です。するとFL、L及びHeLa細胞に対しては500μg/ml以上の濃度で抑制作用がみられる丈ですが、JTC-4細胞に対しては50μg/mlでやや増殖促進作用がある如く、またChang'Liver cellsに対しても同様でした。増殖促進と云うことになりますと慎重に判定しなければならないと思いますので、再度実験を繰返しているところです。
 (2)伝研から頂いたL細胞が、私達のところでもprotein free mediaで発育する様になったことはすでに報告しましたが、近頃どうにか試験管を5゚の角度においてもあまり浮遊せず増殖を示す様になりました。但、やはり1週間に数倍です。JTC-4細胞は、subcultureする時丈1日1%牛血清を加えてやれば、あとはprotein free mediaで育ちます。
 なおJTC-4細胞のclone cultureは9代で一応止めて、この細胞をふやしています。まもなく奥村先生の御手もとに届けることが出来ると思います。
 昨10月14日、九大癌研拡張記念講演会がありました。今度こちらの化学部門に東京の癌研から遠藤教授が就任され、また病理部門はこれまで通り今井教授の専任と云うことになりました。東京から中原先生が来られて、発癌機構についてのやや哲学的な御話、また名大の宮川教授の無菌動物の御話などあり、有意義な一日でした。

《遠藤報告》
 A)HeLa株細胞に対する性ホルモンの影響
 (1)黄体ホルモン作用物質の増殖に対する影響
 研究連絡月報No6108のはじめに書かれた"HeLa細胞の増殖に対するprogesteroneの影響"の続きをやっています。これまでは塩類溶液として、骨の培養にずっと使っているGey(1936)(G.Cameron"Tissue Culture Technique"(1950)のp.40の表にのっているもの)をそのまま使ってきましたが、HeLaの培養でCa++とglucoseが普通の塩類溶液の2倍であるものを使う積極的理由は何もないので、変えるならまだデータのたまらない今のうちと、Hanksに転向しました。
 そこで追試の意味も含めて、今までと同じ実験をHanksを使ってやり直しています。結果はまだ僅かばかりですから、何号かあとでまとめて書きたいと思います、その方が皆さんからまとまった批判を戴けると思いますので。
 (2)男性ホルモン作用物質及び蛋白同化ホルモン作用物質の影響
 去年の癌学会総会で報告しましたように、TestosteroneはHeLa細胞の増殖は抑制しますが、細胞1ケ当りのLeucine aminopeptidase活性を高めます。これを、前者はandrogenicactivityにより、後者はanabolic activityによると考え、各種のAndrogenとAnabolic
steroidを使って調べてみたいと思っていたのですが、今度10月半ばか11月初めから1人人を得ますので早速やってみます。
 B)Collagen形成とProlinaseの関連
 現在chick embryoの各種臓器についてprolinaseとleucine aminopeptidase活性を測定し、更にそれぞれDNA、RNA及びHyproを同一sampleについて定量しています。現在までの所ではcollagen(厳密にはHypro)の多い組織はProlinase/Leucine aminopeptidaseのratioが高いので、想定した通り何らかの関連がつかめそうです。
 そうしたら、JTC-4とJTC-4D、或いはJTC-6を使ってかなり直接的にProlinaseとCollagenformationとの関係を追求できそうな気がします。その節は、細胞の供給をよろしくお願いします。(これについては研究連絡月報No.6004 p.6〜7に少し触れられています)
 C)「中だるみ」と「真剣勝負の気魄」について
 確かに月報面に現れた限りでは「中だるみ」を否定しません。併し、「真剣に癌と面をつき合わせて勝負しようとしない」わけではありません。
 私達東大・薬学・生理化学教室のスタッフに関する限り。正直の所「数オーダーも上の厄介な病気」の癌と「真剣勝負」できる実力をまだ持ち合せないのです。
 そこで、私達は先づ"癌の具体的な理解"をモットウにして
   The Morphology of the Cancer Cells
by CH.Oberling and W.Bernhard
(The Cell ed J.Brachet & A.E.Mirsky Vol, )
の勉強会を始めました。素人の輪読ですから、解らないとGeneral Cytologyで勉強し直したりで、遅々として進みませんが、それでもみんな「真剣」にやっています。
 これが終って、癌が如何に正常な細胞と違うか、いや如何に区別がつかないかがわかったら、次に癌の生化学を勉強する予定です。
 このような勉強の結果、癌について何が知られており何が知られていないかを知った時、恐らく"組織培養による正常及び腫瘍細胞の研究"が欠くことのできないものであることを痛感し、そこに本当の「真剣勝負の気魄」が生れることと考えています。

《堀川報告》
 L原株細胞を種々の物理化学的要因(例えばMitomycineC、8-azaguanine、紫外線およびγ線)で処理した場合、細胞分裂および核酸、蛋白合成にどの様な影響がみられるか。然もこの様な処理を数十継代繰り返した後には(それぞれの要因の作用機構の違いによってそれぞれ出現過程は異なるが)耐性細胞が出現することはこれまでに度々報告してきた。
 耐性細胞の出現の模様がどうであろうとこの様な要因でもってL原株細胞からまったく性質の異った変異細胞を分離することは非常に興味ある問題で、現段階では前述の"各要因の作用機構"と"耐性細胞の分離の過程"に重点を置いて仕事を進めてきたため、変異細胞の特性を詳細に分析するところまで来ていない。仕事と云うものは一足飛びに行かないのが残念で、或る程度基礎的な所をしっかりつついておかないと後から出て来る結果を解決する時に苦しむからまあ仕方はない。
 御存知の様にMitomycinCはantibioticsとしてバクテリアE.coliに於いてはDNA合成を特異的に抑えることが知られており、又紫外線、γ線はmutagenic actionを有する強力な大砲、8-azaguanineはRNAの前駆物質として生細胞内のRNAの1つの素性に入って行くものだ。従ってどれをみても変異細胞を生じさせるに最も都合のいいものの様に思われる。
 この様な強力な作用を持つ要因に対して耐性細胞は平気で生存出来る様になる。一方これらの耐性細胞はこれ迄調べた範囲では非常に広範囲な点でL原株細胞からも、又同じ変異細胞間でもそれぞれに異った特性を示して居る。例えば最近になって同研究室の共同研究者、土井田幸郎君がこれらの変異細胞間の細胞核学的分析を始めたが、非常に興味ある結果を得た。その一例を示すと、
L原株細胞       →染色体peak63本  Fragment無し
L8-Az(8-aza耐性細胞)  →染色体peak65本と68本 未同定
LMit(MitomycinC耐性細胞)→染色体peak63本  Fragment大多数
LUv(紫外線耐性細胞)   →染色体peak63本 Fragment無し
Lγ(γ線耐性細胞)    →染色体peak49本  Fragment大多数
の様でBiochemicalな分析に先だって興味ある結果を出している。いづれ次回の組織培養学会の際に詳細は報告する予定である。LMitとLUvは染色体数からみると予想に反して原株細胞と差がなく、L8-Azでは2つのpeakを示す。一方最も大きな差のあるのはLγで染色体数が原株より14本も少くなることが分った。又LMitとLγでは染色体の切断が多くFragmentとして耐性細胞分離後数ケ月経つ今日でも各progenyに出て来るところを見ると何らかの形でこの様なFragmentも細胞分裂の際duplicateして来るのではないかと云う疑問を生じさせ、今后の問題として残されている。
 さてこの様な耐性細胞がBiochemicalな素性及び代謝の面で互に差異があるかどうか今後の仕事に大いに期待している訳であるが、肝心のマウスに対する発癌実験はこれ迄マイナスの結果しか得ていない。何か小さなシコリの様なものでも出来てくれると後は占めたものなのだが・・・。然し考えてみればその様に簡単なものでもなさそうだ。発癌というものは入れる側の細胞だけの性質で起きるものでなくHost animalの何らかの機構に変化が現われた時(例えば外来の細胞を受けつけやすい状態に変化した時)或るlatent activityを有した細胞(現在我々が癌化させようと努力している細胞)を入れた時、activeに生体内で増殖しやがて腫瘍として発現するのではなかろうか。
 この様な複雑な問題を考慮に入れて今後はあらゆる角度から堀りさげて仕事を進めてみたいと思う。

《高野班員さよならの挨拶》
 細胞を通じて長い間の御附き合い誠に有難うございました。といってもアメリカ大陸はジェットに乗れば僅か14時間、時間的距離では汽車で行く九州より近い位です。お別れを言うのが大仰な感じですが、現実にこのグループを一応離れるわけですから、やはり一言御挨拶したい気持ちもあります。
 「君もいよいよアメリカの土になりに行くか」とか「アメリカの土人になるつもりか」とか「何故日本人がアメリカの為に働くのか」といろいろうるさいむきもある様です。併し之はあく迄個人に属する問題で、強いて答えを求められるなら、「他の遊星に人が飛び出す時代、地球人が地球の上の何処にいようと同じこと」と返事する迄です。だが現実に国の境があるではないかといわれれば、誠にその通りですが、それは政治上経済上でのこと、細胞をいじる世界に国境はありません。いじられる細胞といじるhomo sapiensだけの世界でよかろうと思います。それ以外の因子は各研究者個人の問題で、この世界でのおつき合いは、この世界に限るべきだと考えます。細胞にツカれた者どもが、それを唯一の共通点として自然に集まったのが研究グループの真骨頂で、他の点では個々が独立した烏合の衆で一向に構いません。うって一丸としたり、総力を集結したり、緊褌一番したりしなければ駄目なら、何処か間違っているのでしょう。
 それから、本当にツカれた者同志の間では喧嘩にならずに無制限の討論が出来る筈です。個人の思想、感情が相違しても、共通の広場に出ての議論なら、どんなイヤな奴とでも出来る筈です。嘘やハッタリや見栄があれば、話し易い相手とだけ狃れ合いをすることになりましょう。それは自分自身に余剰因子が多過ぎることを意味します。飽く迄実証主義者である筈の我々は事実にのみ頭を下げましょう。たとえ他人のデータでも、経験の浅い人の口から出たものでも、要は年期の長さでなく仕事の内容そのものということです。
 限られた数の人々の間だけでも、何ものにもとらわれない本当に自由な議論の場があって欲しいと思います。各々が色の違う見方考え方をしながら、それを構わず出し合って、利用出来るところは利用し合う、それが独立した研究者の集まるグループの本当の姿であり、この雰囲気が漂っている限り、能力に応じた成果は必ずあがるものと思います。
 小生がこれから知らぬ他国で、どの様な道を歩いて行くか、それは小生自身にも分りませんが、仕事をする上の自由の度合が少しでも大きい可能性を求めて動くのは短い一生が終る迄変らないでしょう。自分の眼の黒い中に自分の生きる場所を少しもでよくしてみたい。之が今回の実験の動機です。島国生れの日本人が大陸の真中での研究生活にどの様なadaptationを示すか、之も一つのテーマでしょう。
 何はともあれ、皆さん、のびのびと自由に能率をあげて下さい。現実の世界のかけひきはとも角も、事実を素直にうけとる自由な眼で頑なな癌細胞をあっちからこっちから可愛がってやりましょう。細胞に乾盃!!

【勝田班月報・6111】
《勝田報告》
 腫瘍研究の夢
 1:腫瘍細胞の特性
 細胞を生体からとり出すと、たとえ培養に入れたところで、今日のところでは未だそれが癌かどうかという判定はつけられない。生体のなかで、生体の全身的支配に服従しないで、しかも勝手にどんどん増殖するという点だけが目やすであり、それ以上は判っていない。何故勝手に増殖するのだろうか。二つの可能性がある。第一は全身的な増殖阻止命令をきかない。第二は体液中の栄養分だけで増殖に必要な諸合成をどんどん行なえる。つまり高度の合成能力を具えている。第一の増殖阻止命令の中には、正常の生体内各細胞が受けていると仮定される阻止命令の他に、異種蛋白とみなされての抗体による阻止命令も含まれる。第二の点は、培養の株細胞と非常に良く似ている。しかし株細胞は生体に戻しても必ずしも癌のようには増殖するとは限らない。栄養分が不足なのか、生体の抵抗にやられるのか。勿論淘汰された環境の相違という点もあるが。
 DNAが変化すれば当然そこに作り出されるRNA、蛋白の組成にも変化が予想され、もとの生体に対して抗原性をもつようになるであろう、とは考えられても情ないかな、そのしっかりした証明がまだ出来ていない。これはこれまでの検索法が誤っていた、つまりきわめて粗いオーダーの方法だったからではあるまいか。I131をラベルして正常血清を入れても細胞内には殆んどたまらないのに、免疫血清蛋白にラベルして入れれば、肝癌細胞の内部にたくさんたまるのだから、微妙な検索法さえ見つかれば必ず癌患者血清で癌の診断がつくのではないか、と確信している。近ごろgel内沈降反応が大分問題になっているが、これがどこまで行き得るか。Bioassayのようなやり方の方が結局は成功するのではあるまいか。但し人間という奴はひどい雑種なので、一人一人でまるでその血清がちがうから、非特異的蛋白の吸収ということが非常に難しいかも知れないが。
 癌患者に見られる悪液質のような症状から、癌が生体に対し有害な物質を出していることは当然予想されるが、それがtoxohormoneのような熱をかけたり、その他強引な抽出法に対しても安定なものだけ、とは考えられない。もっと色々な物質が出て、有害な作用をやっているに違いない。我々のparabiotic cultureの結果から見ても、Celophaneを通して阻害作用が行われ得るが、正常と癌と両種細胞を直接接触させて培養すると、さらに強い阻害作用が正常細胞に加えられる、という事実から考えても、このことは考えられるし、さらに又他の細胞の顕微鏡映画から想像するのであるが、癌細胞がその細胞質顆粒などを正常細胞に注射して殺す、或は正常細胞の顆粒を吸取ってしまう、ということも有り得るかも知れない。このような他の正常細胞に対する影響をしらべて行くと、案外そこに癌細胞の共通した特性というものが掴めるようになるかも知れない、と思っている。
 2:癌の治療
 かねてから云っているように、現実的には癌の治療が成功するとしたら、その第一歩はホルモンによる療法であろうと思う。しかし現実的なことは面白くないので、ここに夢を書こう。悪性腫瘍と今日呼ばれるものは、ほとんどが未熟性腫瘍であるが、その細胞内のenergyはほとんど増殖の方にばかり使われ、本来その元の細胞であったときの任務を遂行することを忘れているものが多い。しかもこれは"忘れている"のであって、"失ってしまっている"能力は少いのではないか。つまりその点を利用して、何かの刺戟でその細胞の"分化"の任務を見出させる。すると細胞はあわててその方にenergyを注ぎ込むので増殖の方がお留守になってしまわないか、というのである。まことに夢みたいな話であるが、今日の癌の研究には"夢"がいちばん大切だと私は考えている。
 3:癌研究の今后の方向
 癌研究の最后のゴールは決まっている。それは他の疾病と全く同じで、治療と予防である。しかしそこへ行きつくのが大変で、まず敵を充分知らなくてはならないが、これまでの癌を研究していた連中は本気な人が少いもので、未だに禄なことが判っていない。この敵を追いつめて行くには大別して道は二つあると思う。その第一は癌の方を追うことで、第二は宿主である生体の方を追うことである。これまでの研究者の多くは、この第一の癌細胞のあとを追っていた。しかし、生体は、個体によって発癌性が異なる。つまり同じ刺戟を与えても発癌するものとしない者とある。勿論突然変異の方向が360゚であることを考慮に入れても、なお体液による淘汰の役割の大きいことを否定できない。その抵抗は正常の細胞の細胞単位においてもおそらくは為されているであろうし、一生体としては勿論必死に行われているわけである。従って生体側がどんな抵抗を試みているか、且その抵抗の内でどんなものが有効か、最も効果があるか、その有効な抵抗を何らかの方法で鼓舞してやれないか、をしらべて、第二の道をとるのも、案外結果に早く到達できる方法ではないか、という気もする。
 4:その他
 癌の研究に対して文部省は地方分権的なやり方をとってきた。これまでのボス連はそれをアドバイスしたのかも知れない。しかし癌の研究はこれまでの疾病よりはるかに厄介な代物で、相当広い分野の人たちが本当の意味の共同研究をやらなくては解決つかぬと思う。厚生省では癌センターを作るというが、少くとも研究に関する限りでは、厚生省にやらしたら研究のケの字も成立し得ないことは、予研をみれば判る。文部省及びボス連は大いに考え直す必要があろう。

《高木報告》
 これまでの知見によれば、癌細胞が相対的に正常細胞と異なっている点はいくつかあげることが出来るが"癌細胞とはかかる細胞である"と言う絶対的な特性をあげることは、先ず不可能でせう。そして唯、癌細胞は、形態学的に、生物学的に、その他いろいろな面から、正常細胞と較べてvarietyに富んだ無統制な細胞であると云うことは言えると思います。現在の段階で若し一つの細胞を取出して、それが正常細胞であるか、癌細胞であるか判定するとすれば、それは全く無理な話で、この議論はあくまでも可能性の域を脱し得ないものと思います。
 私は前に一度"正常細胞とは"と云う討論をした時に"正常細胞とは・・・その細胞が構成している臓器或は生体そのものが正常に振舞う時、その細胞は正常とみなされるのであって、これらの細胞は生体内で増殖その他の機能がうまく調整されているものである"と云う考え方をとりました。そこでこの様な考え方をすると、癌細胞は生体内にあって何等かの原因でこの正常な生体機能から逸脱した細胞ということも言えそうです。そうすると、これら逸脱した細胞は自分勝手な生き方をする訳ですから、いろんな点でvarietyにとんだ、無統制な細胞になるのはむしろ当然で、この意味からは、癌細胞に一定した特性を見付け出すということは、それ自体無理があるのかも知れません。組織培養株細胞が、形態学的のみならずその他の点でも癌細胞と似通っていることは、これら株細胞が"生体の統制をはなれた細胞"と云う癌細胞の一つの特性(?)をみたすものであることに考え至れば、納得できることと思います。こう考えて来ると、何が癌細胞をして生体の統制から離れしめるかというその原因が、つまり発癌因子ということにもなって来そうです。そして細胞がこの様な因子の影響をうけて生体の統制から離れ、しかもautomaticityを発揮するまでには、長短、差こそあれ、いくばくかの日時を必要とするものと思われます。このことは動物による発癌実験により、或は株細胞≒癌細胞とすれば、この株細胞の樹立に或程度の日数を要することなどによっても裏書きされるのではないかと思います。ではその因子としてどの様なものが考えられるか? 要は上述の状態に細胞をもって行くものであればよいのですから、一つのものとするよりいろいろなものがあっても構わないのではないでせうか。但し、これらの因子がattackする点は一つかも知れませんが・・・。ウィルス、放射線、ホルモン、その他化学的、栄養的因子などすべて含まれて来ると思います。(ここに云うウィルスですが、これは将来ウィルスについての考え方が違って来ることも想像されますが、現在、普通我々が考えているウィルスと云う意味にとって頂きたいと思います)これを細胞単位で考えると、正常細胞に或る種のenargyが繰返し(?)与えられてその細胞の(おそらく核酸)にirreversibleな変調を及ぼし、それがひいては細胞をdedifferentiationの状態に導き、癌の発生をみるのではないか。従ってこれから細胞レベルの研究を進めて行くとすれば、どうしてもmolecule以上のorderの処を追及しなくてはならなくなるのではないでせうか。
しかしこの様に一つの細胞の癌化を追い求める一方、癌はあくまで生体に出来るものであるという事実からhost-parasite relationshipと云った生体を一つのものとした大きな見方もしなくてはならないでせう。つまり癌化に至るまでの、または至った後の生体側の変化ん探索も切りはなせない問題で、この意味でimmnological approachも大切なものとなって来ます。そしてこのことは当然治療とも関連して来ることで、発生した癌を可及的選択的にattackするagentの探究も大切でせうが、生体側の免疫学的状態の変化もさぐり、すべての体細胞が生体の統制下、正常に機能を発揮している状態を崩さない様にする、つまり予防方面の研究も極めて重要なものであると思います。
以上まとまりのないことを書きました。命題とピントが合っていない様で申訳ありませんが、私の頭の中にある癌というものに対する漫然たる考え方の一つで、小さな夢とまでは行きません。

【勝田班月報:6112】
《勝田報告》
 1)発癌実験:Rat liver cellに4ニトロキノリンを短期間作用させて、最初の実験では対照に比べ、確かに著明な変化が起り、細胞増殖がいくつものcolonyで起ったのですが、これはその後消えてしまい、そのあと数回やった実験では何れも増殖が起りませんでした。材料にするratに目下純系化しつつあるJAR-ratを使いたいのですが、これが夏から秋にかけて急に繁殖しなくなり、実験が続けられなくなりました。しかし最近また子を生みはじめましたから、12月ごろからまた発癌実験を再開できると思います。
 2)細胞株:馬の肝臓から今年作った株3種と、高木君の株JTC-4から分離したcollagen非形成の亜株1種を、明日の培養学会で発表し、正式に登録するつもりで居ります。猿腎から株ができかけています。12月上旬にpoliovirus感受性をテストします。また12月からモルモット腎の株を作る予定で居ります。モルモットにはほとんど癌ができない様で、その意味でvirusにも癌にも使えると思います。
 3)正常細胞と腫瘍細胞との間の相互作用(parabiotic cell culture)
 生体内ではこの両者の間で相当色々な相互作用が行われているのではないかと想像されますが、その解明の第一歩としてcell levelで相互作用が定量的に掴み得るかどうかをしらべるため、この実験を行った訳です。結果を抄録しますと、まずラッテの腹水肝癌AH-130と正常肝細胞の組合せでは、静置培養でも回転培養(10rph)でも結果は同じに、肝癌は増殖を促進され、肝細胞は阻害されます。また両細胞の液相をミリポアフィルターで隔てても、セロファン膜で仕切っても、ほとんど同じような相互作用があらわれました。つまりこの細胞の組合せでも、相互作用因子は容易にセロフャン膜を通過するものであることが判った訳です。次に吉田肉腫と正常ラッテ心センイ芽細胞との間の相互作用をしらべますと、上とそっくりの結果が得られました。吉田は促進され、センイ芽細胞は阻害されるのです。吉田は回転培養は不適ですので静置培養だけの結果です。系統を変えて、肝癌とラッテの正常腎上皮細胞(皮質トリプシン消化)との間の相互作用をみると、どういう理由か判らないが、この組合せに限って、静置と回転とで結果が相反した。静置では、正常腎はほとんど影響を受けぬのに対し、肝癌はむしろ抑制をうける。回転培養すると、こんどは腎が少し阻害されて、肝癌は増殖を促進される。
 肝癌と正常の心センイ芽細胞の間ではセンイ芽細胞はほとんど影響を受けぬのに、肝癌はごくわずか促進される。次に吉田肉腫と正常肝の間は、正常肝はいつの実験でも殆んど影響を受けなかったのに対し、どういう訳か吉田肉腫の反応は実験をやるたびに異なり、影響を受けぬこともあるし、抑制をされることもある。他の組合せでは再現性があるのに、この実験だけはいつもちがう結果が出ました。肝癌と正常肝の組合せのとき、parabiotic cultureの他に両細胞を直接混合してmixcultureも作りましたが、mixの方が相互作用が強く現れました。細胞が直接相接して何かやっていることが想像され、顕微鏡映画をとってみたら面白いと思うのですが、目下器械が故障していますので来春までとれません。以上の結果を綜合して考えますと、腫瘍と正常の細胞の間には、たしかに細胞レベルでも相互作用が見られること、しかも腫瘍とその起源した臓器の正常細胞との間には何かしら特異的関係があるらしいこと、が判りました。さらに想像をたくましくすれば、腫瘍が転移巣をつくる場合には、機械的にそこに腫瘍細胞が引掛り易いということの他に、そこの正常細胞との相互作用で、増殖しやすいところと、抑制されるところとある。こういう点もかなり影響しているのではないか、という気もいたします。
 癌細胞と正常細胞との間の関係については、中原癌研所長のToxohormone説あり、逆に阪大・久留教授のOncotrephin説もあります。私共の研究結果には腫瘍細胞とparabiotic cultureすることによって正常細胞のmitosisが促進されるような現象は認められませんでした。従って久留教授の云われるOncotrephinは癌細胞が生きている状態では分泌されない物質と考えるべきだと思います。つまり癌細胞乃至各種細胞をすり潰してextractするときのみ得られる物と考えるべきでしょう。

 :質疑応答:
[高木]Mix-cultureで二種の細胞はうまく算え分けられますか。
[勝田]クエン酸による細胞質のとけ方の相違、核や核小体の形態で、区別できる細胞種の組合せだけがMix-cultureできるわけです。
[伊藤]正常肝の培養に加えて増殖を起し得なかったという、正常肝浸出液や腹水肝癌浸出液の5%というのは?。
[勝田]Volume%です。培地内の最終容量%です。但し、この場合濃度は1種類しかしらべなかったので、抑制はいえても、決して増殖を起さぬとは云えません。また貴兄のやっているように、extractした物質の細胞に対する影響をみる場合には、その結果とin vivoに於ける状態とを考え合わせる必要があると思います。即ち、培養内ではその物質の細胞に対する直接作用をみるわけですが、in vivoでは、一旦他の細胞に作用して二次的に、或は全身的反応をおこして、直接的に影響されるということもあるかも知れないからです。直接的作用をうけない細胞でもね。
[佐藤]mixするときの培地は?.
[勝田]例えば肝癌AH-13と正常肝では、牛血清20%+ラクトアルブミン水解物0.4%で、同じ培地を使う訳です。吉田肉腫のときは馬血清を使います。
[佐藤]腫瘍転移の臓器特異性を考えておられるわけですね。
[勝田]そうです。
[佐藤]正常細胞が増殖しているような条件では相互作用は如何ですか。
[勝田]まだやってありません。
[伊藤]in vitroで細胞数が維持しているような状態は、in vivoに比すると異なっているのではないでしょうか。
[勝田]成体内の大抵の正常細胞がin vivoで増えていないのは、全身的支配で増殖抑制を受けているのか、或は成長促進物質が体液中に欠けている為か、この二つが考えられる。しかしin vitroに移して、全身的な支配から外してやり、embryonalの細胞が増えるような培地に入れてやっても、adultの細胞は増えない、という結果から考えると、体内では成長促進物質が足りないと考えるべきではないかと思います。そして勿論、正常細胞間でも細胞の種類により、その成長促進物質に何らかの違いのあることは予想されるわけです。成体内では、たとえば肝にしても、正常の状態ではmitosisはきわめて低頻度で、大抵の細胞はきわめて長く生きているわけです。その意味でも、この場合のin vitroでの維持状態というのは、生体内のに似ていると考えてよいと思います。
[堀川]相互作用のfactorが何であるかを追究されるわけですね。
[勝田]正常のchick embryo heartのfibroblastsの成長促進物質をしらべていた時などは、相手が高分子でしかも核酸系がからんできているので、大変やりにくかったのですが、幸にもこの相互作用の場合にはcellophneを通しても作用があらわれる、つまり作用物質が低分子と考えられますので、追究はずっと楽だと思います。そして一歩々々それをはじめているわけです。古川君がいま私の部屋でマウスの腹水系の白血病細胞の培養をずっとやっていますが、腹水移植だと5日位でマウスが死ぬのに、培養に入れると、その白血病が中々増えず、見る見る内に細胞数が減って行ってしまいます。これはやはり培養条件がまだ不満足のためと思います。adultのrat liverと異なり、in vivoでどんどん増える能力を細胞が持っているのですから。
[遠藤]正常肝細胞はin vitroでmitosisがありますか。
[高岡]見たことがありません。おそらく無いでしょう。
[勝田]今年馬胎児肝から3株作ったときにも、3〜4ケ月はmigrationすら見られずにいて、急に株化したのですからね。生きていることは確実です。
[奥村]細胞の生命が、2〜3ケ月も続くとは思われないので、やはりどこかで分裂しているのでしょう。
[勝田]私はそうとは思いません。in vitroでももっと長くすら生きています。かって、やはり馬胎児肝のexplantを培養していたときも、細胞が5、6ケ〜10ケ位ついている処をペンでマークして、図をかいておいても、何ケ月もそのまま形も位置も変らないのです。4月から12月(フラン器の故障)までこの状態がつづいたのです。勿論維持状態です。
[佐藤]培地交新は?。
[勝田]実験の培養では1日おきです。なお、parabiotic cultureに比べtwinD3管の片方に両細胞をmixした方が相互作用が強く出るということは、細胞間の液相を通じてのみの相互作用以上に、直接接触の作用のあることを示していると思います。TWIN-D3は回転培養で、液の撹拌とdiffusionも良いわけですから、そばにいる方が単に作用物質が濃厚に作用するということになりません。また培養そのものも、肝単独だと壁から浮き易いのですが、肝癌とmixすると、浮かなくなります。肝癌に抑えられてしまうのでしょうか。
[佐藤]praimary cultureと株細胞とでは差がありますか。
[勝田]細胞はできるだけin vivoに近い性質のものでしらべたいのでpraimary cultureを使ったわけです。勿論株の方が使い易いので、この仕事のはじめの頃は、株で基礎的データをとったわけですが。
[佐藤]成長の高い細胞の方に影響が強く出るというようなことはないですか。
[勝田]腫瘍性の強さと相互作用の強さとの比較は将来やってみようと思っています。
[遠藤]Oncotrephinですが、in vivoでも腫瘍内でlysisを起している場合は、細胞内の物質が出てきて実際に作用する可能性はある訳ですね。
[伊藤]その可能性が大きいと思います。
[勝田]Parabiotic cultureでは量比で考えてOncotrephinが細胞内固定性のものと考えるならば、それを考慮しなければならぬほど腫瘍細胞が死んで入れ変わっているとは考えられません。伊藤君がtumor extractを分劃して行くとき、逆にL・P1に抑制的に働く分劃を見ましたか。またそれとOncotrephic fractionとの間に相殺(拮抗)されて0になるような関係は見られませんか。
[伊藤]この間しらべた中に抑制物質の分劃がありました。相殺作用は見てありません。
《堀川報告》
 "組織培養によるL系細胞における変異細胞の遺伝生化学的研究・II"
1)L原株細胞の増殖、DNA、RNA、蛋白合成に及ぼす各種agentの作用機構:
L株細胞を各種の物理化学的要因で処理すると、ほとんどの場合細胞分裂の異常をきたし、巨大細胞が出現すると共に、長期処理後にはその耐性細胞が分離できます。この巨細胞や耐性細胞の出現機構をしらべ、癌治療における耐性細胞の出現機構の解明に役立てようとすると共に、耐性細胞を用いて、微生物で明らかにされてきた遺伝情報の伝達機構を哺乳動物細胞の染色体レベルで説明できるようにしたいというのがこの研究の目的です。
 a)mitomycin-C:Lの原株細胞にmitomycinCを加えますと、0.3μg/mlで増殖の抑制が起り核が大きくなり、chromatinの凝集が巨細胞に見られます。0.1μg/ml与えますと、細胞1ケ当りのRNA、DNA、蛋白量が多くなり、DNAはcontrolの3〜4倍にもなります。P32を培地に入れて、そのincorporationをしらべますと、RNA、DNA、phospholipidの何れに於てもincorporationの度合はcontrolの原株と変りません。しかし放射能で見ると、DNAでは減っています。2日後頃からDNA、RNAの比放射能は抑えられます。
 b)核酸合成の先駆物質及高エネルギー燐酸化合物のプールである酸溶性分劃の分析によるMitomycin-Cの作用機構の研究:mytomycinCを0.1μg/ml加えて24時間後、細胞を分劃すると、対照に比べP32の比放射能は、無機燐は多く、ATP、ADP、AMPへのincorporationは低下している。但しATPの量自身は変らない。4日後にはこれらの傾向はさらに強くなるが、ATPの量は変らない。対照実験としてATPをexogenousに与えてみると、細胞増殖は100μg/mlでは抑制されるが、10〜50μg/mlでは少し促進される。但しそれほど大きな促進ではない。
 c)巨細胞内でのDNAreplicationは正常に進んでいるかどうかの試験:DNA、RNAのbase analysisをやってみると、mitomycin-C処理24時間〜4日後でもbase ratisはcontrolと差が見られない。細胞の形態について見ると、mitomycine-CでもCO60でも巨細胞が出現し、さらに処理をつづけると、小型の耐性細胞が出現してくるのです。

2)耐性細胞出現の機構の追究:
 これが突然変異によって現れるのか、淘汰によって残るのか、癌の治療に重大な問題ですが、まず第一に、耐性細胞がきわめて小型なところから、原株細胞の中の小型なものを撰り分けてみるために遠沈によって細かく細胞群を分け、夫々そのmitomycin-C感受性を比較してみましたが、これでは差は認められませんでした。そこでLuria & Delbruck,1943やDemerec,1945,1948等が微生物でやったFluctuotion testをやってみました。1本の瓶から何本もの瓶に植継ぎ、その中の1本から、短試10本に植継ぐ群と、各1本から1本宛植継ぐ多数群とに分けて、感受性を比較してみますと、前者の短試の方が感受性のばらつきが大きく、不偏分散が104となるのに対し、後者の短試は皆似たような感受性で、分散は4.01となりました。同様の実験を中間の継代容器をかえてやってみますと、不偏分散が前者では170.5、後者では0.54となりました。この結果から考えますと、耐性細胞は原株中に既に存在している細胞が淘汰によって出現することを暗示されます。さらにNewcomebeの法に従いまして、colony形成期にrubber cleanerでまたdisperseして、それを再び培養しますと、対照に比べ耐性細胞の集落が約10倍多く出ます。これもやはり淘汰を暗示します。

 3)各種変異細胞の遺伝的特性、特に交叉耐性の核学的分析:
 Mitomycin-CとUVとは交叉耐性が認められます。mitomycin-C耐性細胞のhomogenateを作り、そのDNAをL細胞の培養に入れてみていますが、やや不安定になるだけで耐性系へのtransformationは起りませんでした。次に各種耐性細胞を色々な点で比較してみますと、成長率は、UV-、Mitomycin-耐性株が少し低いのですが、細胞の大きさは、UV-、Mit-、γ-耐性株が小型です。またマウスへ復元接種してみましたが、すべて陰性に終りました。但しマウスは無処置のマウスです。
《土井田》
 染色体分析についての補足:
 染色体数のPeakはL原株は63本、UV-耐性63本、8-Aza耐性68本、Mit-耐性63本、CO60-γ耐性47本でした。Mit-とCO60-にはFragmentがみられ、Fragmentの出現%は観察日を変えても余り変化しません。従ってFragment自体も分裂するのではないかと想像されます。Mitomycin-Cの30分、60分処理ではLにfragmentは出現せず、4日ではcentromerのnotching、fragmentation、polypolar、mitosisが見られます。堀川氏のselectiontheoryが染色体レベルで証明できるかが今後の問題です。

 :質疑応答:
[高木]分析にはルー瓶で何本位お使いになりましたか。
[堀川]10〜20本で、細胞数にして約10の9乗ケです。
[勝田]Lにmitomycin-Cを与えると細胞1ケ当りのDNAが増えて行くようですが、対照群のように仮に細胞数がふえたと仮定して、その数で培養当りのDNA量を割ってみると、対照細胞の1ケ当りDNAと同じ位の量になりますか。
[堀川]controlよりは低い値になります。つまりDNAの合成rateも少なくなっています。[勝田]そしてATPはあるけど利用されない訳ですね。
[堀川]そうです。phosphrylationが抑制されているようです。
[関口]phosphorylationの抑制と、DNAの合成阻害との関係をもう少しはっきりさせたら良いと思います。つまりAMP→ADP→ATPの過程にそれぞれPが関係してPolymerizationがあってDNAへ。この経路でphosphorylationとpolymerizationとのどっちが抑えられるのか、はっきりさせたいものです。
[堀川]分裂の抑制と、DNA合成の抑制とどっちが先かも問題です。
[関口]それは同じことの裏腹を見ているのではないですか。
[高木]巨細胞はできても、多核細胞は出ないのですか。
[堀川]出ません。
[奥村]Mitomycinを短期作用させたあとでgrowth curveはcontrolと平行していましたね。1週間の結果はそのようとして、2週間みるとどのようになりますか。
[堀川]増殖曲線は2週間は比較してありません。
[奥村]L原株の染色体数が63本となっていましたね.Jが少し多くて、rodが少し少ないようですね。文献では64本以上が多いようですが。
[堀川]いや、White,Dickson(?)は63本でしたね。
[奥村]どこに差がでてくるかが問題です。
[堀川]我々の細胞では63本は間違いないと思います。二人で別々にしらべてみて、63本のものは矢張り63本となるんですから。
[奥村]Constrictionの形をよく見てやらないと・・・。
[土井田]Vをrodにする可能性が多いですね。だから重なっているのを見分けるときなどは、カバーグラスの上からマッチで叩いてみて慎重に確かめています。
[奥村]Fragmentがかなりconstantに出ていますね。idiogramに並べてconstantの位置に出ますか。
[土井田]それは見ていません。どの染色体のfragmentかは判り難いのです。耐性細胞系では全然判りません。
[遠藤]Fragmentationをおこした細胞も分裂できるか、ということですが、Fragmentの無いのが分裂のとき同じ%でfragmentを作って行くということは考えられませんか。
[堀川]重要でない部分にfragmentationを起した細胞が残って行くと考えられます。培地にagentを加えてない時は遠藤氏の云われるような可能性はないと思われます。
[奥村]染色体にsplitの入っていない標本が多いようですが・・・。
[土井田]たしかに中々良い標本ができにくいです。
[堀川]学会が終ったらマウスのprimary cultureでcarcinogenesisの仕事をやりたいと思います。
[勝田]Agentは何を使いますか。CO60なんかが良いんじゃありませんか。
[堀川]ええ、やはり今のようなものを使って、normalのprimary cultureから始めた方がよいと思います。乞御期待というところです。
[遠藤]染色体が各耐性株で異なるのは、selectされた結果とお考えの訳ですね。
[堀川]そうです。
[遠藤]そうするとsubstrainもpureとは云えないということですね。
[堀川]そうです。生命を保つに必要なのは47本位で、あとはnon-essentialのが入っていると考えられますから・・・。
[佐藤]染色体数と増殖率との関係は?。
[堀川]Lγは47本ですが増殖率は悪いです。pureになればなるほど、他の条件には弱いような気がします。
[佐藤]吉田肉腫で30本台のを培養して行きますと、60〜70本台になります。Ehrlichでも68本というのがあります。
[勝田]株になると増えるのもありますし、さらに減る場合もあります。
[堀川]株化したものを癌化させるよりも、新鮮な細胞をとりだしてmutagenic agentを加えて癌化させる方がやさしいんではないでしょうか。
[奥村]培養していると最初5倍体位が多くなって、その後に3〜4倍体が多くなってきます。
[佐藤]protein-freeにしてからホルモンを入れてみようと思っています。


《高木報告》
 1)発癌実験:
 JTC-4株にDABを1μg/mlに常時加えて、6月3日から今日に至っていますが、未だに癌化しません。それから、復元の練習をしているのですが、これが中々うまく行かないのです。3週のWistar ratに400rかけ、Cortisone処理して、細胞としてはHeLaS3とJTC-4をrubber cleanerでかき落して10の7乗ケ接種しました。これを3回やったのですが、3回ともついてくれません。こんどはStilbesterolでkidney tumorを作りたいと思い、10月からハムスターの繁殖をはじめました。3週〜1月のハムスターを使って培養をはじめる予定です。これですとポーチも使えますし、復元に便利です。予備実験として、rat kidney cell cultureにstilbesterolを与えて毒性をテストしてみました。100mg/mlにエタノールにとかして、稀釋にtyrodeに入れると、濁ってしまいます。これを稀釋して使ってみましたが1μg/ml迄は使えるような気がしました。またsteroid hormoneの併用を考え、cortisone acetateをしらべましたが、これは100μgが限界でした。virusのsensitivityなども変るのではないかと思っています。目下復元接種の練習に大童です。
 2)免疫学的実験:
 これは杉君がこの間の癌学会で発表しましたが、JTC-4にDABをかけると核の大小不同が目立つようになり、多核細胞も出てきます。JTC-4を嫌気的に培養しても同様です。stilbesterolを10μg入れて3日後ではpyknoticになってしまいました。顕微鏡写真をお目にかけました。免疫実験の結果はanti-HeLa血清とanti-FL血清ではHeLaとFLは++でJTC-4とLは−、anti-JTC-4血清とanti-rat heart cells血清、anti-L血清ではHeLaとFLは−でJTC-4とLは++か+でした。またこれに使った免疫血清のHA-titerをラッテ及び人の赤血球に対してしらべますと、JTC-4はRat赤血球に4でHuman(0型)赤血球は0、Rat-heart-cellsはRatが8でHumanは0、HeLaはRatが0でHumanは4、FLはRatが0でHumanは64と、何れも種特異性を示して居ります。これ以上進むにはantigenの精製が必要と思われます。京大の岡田氏は発生学研究に蛍光抗体法を使ってきれいな結果を得て居られますが、私はprimary cultureでやってみたいと思っています。
 3)JTC-4細胞の無蛋白培地培養:
 PVPを使ってBSを0.1%まで減らすことはできましたが、それ以上完全にprotein-freeにすることは未だ成功しません。Lはきわめて簡単にadaptしました。但し増殖率は週数倍で伝研のほどよくありません。
 4)各種薬剤の影響:
 核酸のprecursorであるorotic acidはこれまでの報告ではHeLa、FL、Lには促進効果がないと云われていました。私はJTC-4に10、50、100、500、1000μg/mlの各濃度で影響を見ましたところ、10、50μg/mlの濃度で少し促進が見られました。Changのliver cellの株でも同様です。しかし、HeLa、L、FLではやはり促進は見られませんでした。
 次に蛋白同化ホルモンのeffectをみたいと計画しています。アナドロン(anabolic steroid)は疲労や胃潰瘍に効くとされています。DOCAも同様の効果があるとされています。fibroblastの増殖が促進されるかどうかです。cortisone acetateではLもJTC-4も10〜100μgで阻害されます。
 今後進む方向としては、発癌を主体とし、免疫の方もやって行きたいと思っています。
 :質疑応答:
[勝田]Stilbesterolの段階稀釋にどうしてethanolを使わないのですか。
[高木]Ethanolの毒性がこわいのでTyrodeを使いました。
[遠藤]私の経験ではエタノールの毒性は弱濃度ではあまりありませんから、稀釋に使って大丈夫と思います。Controlに同量のを入れればよいのです。
[関口]岡田氏の蛍光抗体法は50%硫安飽和分劃でのmicrosome fractionがもっともogan specificityが高いと云っています。
[勝田]抗原精製も良いけど、非特異的抗原を完全になくすには材料が大量に必要となりますから、できた抗体の方の非特異的なものを吸収する方法の方が良いんではないですかね。
[堀川]萩原という人がやっていますが、相当むずかしいらしいですよ。
[高木]株細胞だと大分変っているから難しいけれど、primary cultureの細胞なら良いんではないでしょうかね。それからanadrolは傷の治療に使うとfibroblastの促進効果があるというので臨床的には良いような気がするのです。
[関口]肝機能がやられるでしょう。
[高木]normal liverでのshiftだけらしいです。
[堀川]DABの本態は何ですか。
[遠藤]p-Dimethylaminoazobenzenのことです。Butter yellowはcrudeのもので、本体はこれでしょう。
[高木]Stilbesterolの構造は? anadrolとの関係はどうですか。
[遠藤]anadrolは大分ちがいます。
[高木]あなた方の復元接種のtechniqueは・・・?
[堀川]私のは無処置のC3Hマウスに10の6乗ケの細胞を注射したのです。もっともtumorはできなかったのですが。
[佐藤]私のはL株を12匹入れて2匹位tumor様に大きくなったのですが、10日〜2週で消えてしまいました。後は何ともない。
[高木]Hostの細胞の反応とはちがいますか。
[佐藤]そうですね。残生のような形でだんだん死んで行くのです。同じのに何匹も打ってみました。C3HでやるとLから出たのか発生してきたのか判らなくなるので、腹腔に100〜200万個入れてみましたが変化はないようです。自然発生癌でも移植は中々つきにくいですから、つかぬからと云って癌でないとは云えないし、むずかしいところですね。

《伊藤報告》
 台風の影響で細胞もやられたりしましたので、新しいデータはほとんど出ていません。細胞は最近はL・P1を使って腫瘍のS2分劃の仕事をやっています。L・P1ですとcontrolに比べ、S2分劃を加えた群では7日間にcontrolの2〜3倍増殖が促進されています。S2分劃をトリプシン処理して各種resinを通しますと、IRC50とIR400の非吸着部分は前者は酸性のpeptides、後者は塩基性と若干中性peptidsですが、前者は2倍の増殖促進効果があり、後者は抑制効果があらわれます。IR400を通したとき、非吸着部分を2分劃に分け、吸着部分をHClでeluteして4分劃に分けますと、後者の第1分劃が2倍の増殖促進効果を示します。大体ペプチドの形にしますと、2μg/ml位が促進効果のoptimalです。これらの分劃は夫々5倍稀釋で25倍までしらべました。normalのspleenやmucleにはありませんが、4ケ月位のrat liverには認められます。再生肝では60時間後位が最高でした。Resinをもう少し適当なものを探す必要があると思います。

 :質疑応答:
[勝田]2倍の促進というのは、たとえばconytolが7日間に10倍ふえるところを20倍ということですか。
[伊藤]そうです。
[勝田]normal liverでは何倍位ですか。
[伊藤]やはり2倍位です(S2の段階では)。非吸着部分の比がtumorと正常ではちがっているような感じがあります。
[勝田]有効分劃をさらにpaperchromtographyにかけましたか。二次元の。
[伊藤]Arg、Aspargine、Gly、をcontrolに入れて比較すると有効成分はglycineの処に合致します。
[関口]IR400の分のUV-spectrumの像はいかがですか。peptidesだけで核酸のcontaminationはありませんか。
[伊藤]Ninhydrin発色させて吸収の山をかくと、山の肩の辺に活性があります。
[勝田]大量生産する必要がありますね。色々な細胞でやってみるといいけど。私たちとしては分劃して行くのも面白いけど、他の細胞にもeffectiveかどうかをまず知りたいね。[奥村]Morphologicalな変化は?
[伊藤]特に変らないような気がします。それから牛血清のS2分劃は無効でした。
[勝田]Lからの無蛋白培地継代4株に5%に牛血清を加えるとL・P1とL・P2では増殖を抑え、L・P3とL・P4では促進します。
[堀川]そのままずっと続けたらどうなりますか。
[勝田]それはまだやってみません。血清の中には促進する因子も抑制する因子も入っているからprotein-freeの培地で加えてみて、促進なら促進の効果が、血清蛋白と関係のあるものを加えたため、或は蛋白的なものを加えたためでないことを証明しなければなりません。
[伊藤]濃度は2μgN/mlが至適でした。
[勝田]正常の細胞、特にadultの細胞の培養に利用できると非常に有用ですね。他の臓器からも抽出してみましたか。また正常肝をしらべたときのラッテの大きさは?
[伊藤]spleenとmuscleだけは見ましたが陰性でした。ラッテは4ケ月、200gのものです。[堀川]S2分劃の作り方はどうでしたっけ。
[伊藤]HomogenateをNaClで抽出、アルコール分劃法で30〜70沈殿の分劃です。
[関口]核酸が入っていますか。
[伊藤]Starch electrophoresisで分けて有効の分劃は、264mμの吸収は陰性でした。核酸抽出法の分劃では無効です。
[勝田]有効な最後の分劃についてUVspectrumをとってみれば訳ないでしょう。
[伊藤]目下やっています。
[堀川]牛の肝臓などで大量にとったらどうですか。
[伊藤]牛肝は阻害作用の報告がありますね。
[勝田]うちでもやりましたし、古くは癌研の中原さんがやって居ます。

《遠藤報告》
 発癌の実験はまだやって居りません。HormoneのHeLaに対する影響をしらべて居ります。これまで骨の培養にはSalineはGeyのを使っていたのですが、これには他の処方に比べCaもGlucoseも2倍入っているのを使っていましたので、Hanksの処方に変えたところ、HeLaの増殖が非常によくなって、反ってホルモンの効果がはっきりしなくなりました。牛血清5%でも20%でも全然Progesteroneの促進効果が消えてしまったのです。今後は増殖率何倍のとき何%の促進といったような表現をする必要があるかも知れません。どうも増殖率によって成長促進効果が規定されるようだからです。Fig.1とFig.2はProgesteroneの各種濃度のeffectをGeyとHanksのSalineで比較した結果です。Fig.3は、これは一寸変な実験ですが、培養初期に細胞を分注したまま2日間室温において、それから37℃にincubeteしたのですが、2日間は細胞数が減り、以後Controlは回復しないのですが、Progesteroneを入れた群は再び増殖をおこしています。殊に0.64μg/mlの群は最も回復率が高くなっています。このようにConditionが悪いときにむしろ差が出易いわけで、どういう条件のときに影響が明確にでるかを今後検討してみたいと思います。
 次にドイツのあまり大きくない製薬会社で"Regeneresen"という薬(?)を市販しています。fetalとyoungとありますが、主体は各種臓器から抽出したRNAで、organ-specificに臓器の代謝を促進すると云っています。例えば用途に応じ、Osteoblasten、Knorpel、Placenta、Lever用と色々あります。Clinical dataで効くと云っているのですが、Osteoblasten用のを手に入れてテストしてみますと、まずRNAは2.0mg/dl位で、これはChick embryo extract中の含量に略等しくなっています。Chick embryo tibialの培養に0、20、50倍に稀釋して入れてみますと、骨長を基準にしますと、50x稀釋の群が、初めはControlより成長が悪いのですが、直線的に成長が続き、後期にはControlより良くなりました。他の濃度では抑制です。蛋白量は2mg/dl位あります。UV-spectrumをとってみますと、peakが二つあらわれ、純粋のRNAではありません。

 :質疑応答:
[関口]Ethanolを加えて落ちますか。水溶液では不安定と思われますが。
[勝田]核酸だとすると不安定ですね。
[遠藤]proteinは2mg/dlです。
[堀川]Kutskyも同じことをやっていたのではないですか。
[勝田]我々と同じ方向に進んでいた訳ですが、その後RN蛋白をRNAと蛋白とに分け、蛋白の方に活性があると云っていました。
[高木]増殖の悪いときにeffectがよく出るというのは本当ですね。Orotic Acidでも血清5%のときの方がはっきり出ました。
[伊藤]うちでも全く同じことを経験しました。しかし悪い状態のときに効くものを見ていて、本当にそれが意味があるか、という疑問を抱きますね。
[勝田]たしかにsalineの差による影響は大きいと思います。しかも細胞の種類によってその好みがちがうと思います。うちの"D"処方のはAH-130の培養のとき見付けたもので、Tyrodeよりも増殖がよかったので、以後はこれに変えたのです。
[奥村]Glucoseの量が関係しませんか。
[遠藤]Glucoseの量を1/10に下げると、posphorylaseの量が1〜2桁下がるという報告があります。
[奥村]Alkaline phosphataseは?
[遠藤]変っていないようでした。Phosphorylaseの活性が下がるとglycogenの合成は落ちる−ということはあるかも知れませんが、このdataは逆ですね。
[勝田]室温放置の実験、これはまぁその目的でなくやったんでしょうが、そのつもりでもう少し長くやったらどうですか。
[遠藤]勝田氏の処でprotein-freeの培地でHeLaに女性ホルモンをやったら効果が無かったというのは、今考えてみるとHormoneは体内でalbuminにくっついて循環しているということと関係があるのではないでしょうか。

《奥村報告》
 A)Praimary culture:
 1)Monkey:猿はRhesusとCynomolgusですが、Adultではkidney、Embryoではkidney、heart、liver、brain(cerebral cortex)を試みました。Brainは2月位で変性をおこしました。 2)Rabbit kidney:混在virusの検出などの目的でやっています。
 3)Human amnion:人は固体差が大きくて成績が一定しませんので、何か確実な方法を作りたいと思い、目下培地の検討(M・199、血清濃度)、Enzymeなどをしらべています。人羊膜の培養の培地は仔牛血清10%とM・199です。
 B)細胞及び組織の凍結保存:組織のまま保存できないかと考えたのですが、
 1)Monkey kidney:3回やって3回とも失敗。
 2)Rabbit kidney:2回やって2回とも成功しました。2種類、1立方cmに切るのと、3立方cmに切るのとやってみました。Glycerol濃度は5%、10%、20%の内10%がoptimalでした。あと2%CS+Lact,hyd.+Earle'ssalineです。2週後にtrypsin消化して培養したら増えました。但しinoculumは非常に多くなければ駄目です。例えば生のままですと、20万/mlに入れるのと同結果が40万/mlで得られました。株細胞はまだやっていません。
 3)primary culture:monkey kidneyの細胞を2ケ月間凍結してうまく行きました。しかしこれも固体差が大きいようです。
 なお凍結後のvirus感受性、染色体の変化を目下検討しはじめています。LやHeLaは凍結の直後、第1代では染色体像は変化していません。
 C)培地と染色体変異との間の関係:
 HeLaのcloneS3からさらにcloneを作ってみました。S3は7日間に仔牛血清10%+LYEの培地で8〜10倍ふえますが、作ったcloneのAは14〜15倍、Cは12〜14倍増殖します。染色体はまだ見てありません。仔牛血清濃度を2%に落すと、増殖は7日に8〜10倍になってきました。virusに対する感受性をplaqueでしらべるとあまり差はありません。今後はPVPやfractionVを使ってみたいと思います。
 D)放射線及ウィルス耐性細胞の染色体分析:
1)ウィルス耐性細胞:1959年中野氏が分離したECHOウィルス耐性のHeLa亜系は、そのままでは染色体数のばらつきが大きいのでcloneを作ってみました。染色体数分布はpeakは次の通りです。E2(70本と90本にpeak)、E5(70近く)、E6(少し少ない方にpeak)、E9(E6と同じ)。耐性系ではCPは殆ど出ません。つまり耐性が維持されています。またE2は染色体像が元に戻りつつあるような感じがしました。またvirus耐性のものとCO60-耐性のものと染色体像が似ています。virus耐性細胞系にCO60の照射を行いますと、1,000レントゲンでは細胞の照射後のviable countは、HeLa(39)、E9(48):500rではHeLa(52.4)、E2(71.7)、E5(72.0)でした。一回だけの実験なので今後くりかえしてみたいと思います。こうして照射した後は中々増えません。latent infectionを考え、上清をHeLaに入れてみましたが、CPは出ませんでした。
 2)CO60耐性細胞:78本を中心にして広範に分布しています。3,500〜4,000rをかけると70本近、4,000rでは90本近くにpeakがあります。70〜80本にpeakが行き、4倍体がふえています。6,000rから10,000rになるとpeakは70本附近ですが倍数体がふえてきます。倍数性のはっきりしているものは物理的要因に対して抵抗性が強いのではないかと思われます。現在ウィルス耐性の過程を追って染色体をみて行く予定です。Karyotypeを目下しらべて居ります。Lで耐性のものにはdicentricのものがありますが、HeLaでもあるかどうかしらべています。

 :質疑応答:
[堀川]ECHO耐性、CO60耐性の染色体peakにふらつきがあるようですが、もともとあるものですか。もっと観察数を多くしなければならないような気がしますが。
[奥村]peakというよりもdistributionのmassとしての特徴ととらえて行かなければならないと思います。
[掘川]大変ですね。Lなんかはまだふらつきが少ないんですね。
[奥村]S3はふらつきが少ない点で使っています。
[堀川]Karyotypeに共通性がありますか。
[奥村]あります。HeLaは人由来という点が魅力です。
[土井田]ふらつきのある二つの亜株間の比較は難しいですね。共通点があるというのも難しいですね。
[奥村]統計学的な方法で解決できるだろうと思いますが・・・。
[土井田]僕の方は、Lで63本を集団の代表値としてとって、その中で比較しているのですが・・・。
[奥村]peakがはっきりしている場合はそれで良いでしょう。
[土井田]さっき云い落したのですが、63本に対してそのtriploid、tetraploidとして数がぴったり合う細胞が現われるのです。その意味からも私たちのLの63本という算定は正確なのではないかと思います。
[奥村]DK株というのが、やはり使っていますが、北大の獣医で作ったものだそうで・・・本当に犬からできたものかどうかに少し疑問があります。細胞のContaminationではないかと云われています。
[勝田]それはきっと鈴木君の作ったJTC-5でしょう。変なウィルスがかかるという話もありますね。
[高木]HeLaS3の腫瘍性は・・・?
[奥村]判りません。
[勝田]これからは株を作るときは何か特殊目的のあるときだけ作るようにしないと、維持して行くだけでも大変です。もっとも細胞の凍結保存ができれば楽ですが・・・。その意味からも、凍結保存したあと染色体が変らないかどうかという研究は必要且急を要する問題である。
[奥村]グリセロールを入れる目的は何ですか。細胞内に大きな結晶を作らない為ですか。[勝田]そう云われてますね。夏に学生がやったテストではProtein-freeの株はどういう訳か凍結保存が難しいので一層困っています。
[奥村]高野氏の説ではマウス由来の細胞はGlycerol 5%、ラッテ由来は10%、人のは20%がよいと云う話ですが・・・。
[勝田]あの位の数の細胞をみただけでは、そんなこと未だ云えないと思います。私はむしろ培地中の至適血清濃度と関係ありそうな気がしています。
[佐藤]さっきの人羊膜細胞の培養が中々うまく行かないという話ですが、岡山大小児科の喜多村氏が株(JTC-3)を作ったときは染色体の変化などしらべなかったので、その後何回か培養を試みたがうまく株化しないそうです。非公式の話ですが。
[奥村]私の処では8例中2例は増えていますが、あとは全部だめでした。培地はLhや199、EarleのSalineなどで、この2例は10%仔牛血清+M・199です。外国でもFL以外に色々やって旨く行かないようです。
[勝田]凍結保存ですが、凍結後Nigrosinでviable countをしらべましたか。
[奥村]Monkey kidney cellsで凍結前、生存細胞が20〜24%なのが1ケ月凍結後は8〜14%になります。Rabbit kidneyでは28〜31%が1月後に11〜13%です。
[勝田]高野君のやったのはもっと落ちが多かったと覚えてますが・・・。
[奥村]高野氏のは悪い時が8〜10%、良いときは96%位と思います。最近-90℃の凍結装置を予研で買う予定です。
[高木]植えつぐ直前の時期の細胞を凍結するのですね。
[奥村]そうです。
[勝田]凍結の前後で増殖曲線を比較しなくてはいけませんね。あまりちがうと問題がある。
[奥村]Semiam virus(猿の雑ウィルス)は2週間になって出てくるので、それ迄に使わなければならず、従ってlayが余り長いと問題です。ミドリザルはSemiam virusが非常に少ないのですが、米国ではこれの株を作って、polioの感受性が非常に高いということです。
[勝田]Semiam、特にSV-40はミドリザルの培養でしかCPが出ないので、これ迄気付かれなかったわけですが、雑virusのcontamiはVaccineを作るのに非常に問題になるわけで、今後はその検出の容易な株細胞を作ることも大切ですし、株自身にもvirusのcontamiを起さぬように気をつける必要があります。Semiam virusのことを考えると、いつかはVaccineも、腫瘍性を持たない株細胞で安全に作られるようになると思います。
 問題が腫瘍から外れてしまいましたが、in vitroで腫瘍を作ることと、腫瘍にならないようにしながら長期継代することとは、一つの紙の裏表みたいなもので、やはり我々とは関係の深い問題であると思います。 

【勝田班月報・6201】
《勝田報告》
1962年を迎えて−
 我々だけの水入らずの班が誕生してから1年近くが経ちました。各班員それぞれ、各々のピッチで研究をやってきました。この班の目標はいつも云うように、1)in vitroでの発癌、2)正常細胞と腫瘍細胞との間の細胞学的特性の相違の発見、3)両者の間の相互作用の研究、の3点にあります。in vitroの発癌は外国でも狙っているらしい形跡が伺えますので、外国との競争ですし、きわめて有意義な仕事ですので、我々としてはぜひ我々の手で完成したいと切願する次第です。
 1年を振返ってみますと、発癌実験に実際にたずさわったのは、九大の高木班員と勝田とだけでした。むずかしい仕事である上に2/7名の仕事量では限度がありますので、4月からは岡山大の佐藤二郎助教授に参加して頂くことにしたいと思います。また現在の班員にも発癌に手をつけて頂きたいと存じます。研究費の配当は6月頃までのその実績によって決めるのが良いでしょう。但し、どうせ発癌をやるなら、株細胞を使ったのではその意義がきわめて薄れますので、ぜひprimary cultureでやって頂きたいものです。
 それから、班会議をやったとき、いつもそのあとの報告号を出すので莫大な苦労をしますので、今后は、こちらの速記は討論だけにとどめ、各自の発表は夫々があらかじめ、この用紙にかいて(何枚でも図や表入りでも結構です)、班会議のとき持参して頂くようにしたいと思いますが如何でしょうか。
 今年は厚生省の癌センターが発足し、阪大の久留教授がその病院長に決りました。研究部長は吉田富三教授のようですが、ここでどの程度の基礎的研究まで手をつけるか、我々にも大いに影響のあるところです。我々としては、しっかりした培養研究者を一人でも多く送り込みたいところです。阪大の癌研でも何となく気分が落着かぬことと思いますが、何といっても大切なのは我々の"研究"です。あたふたしないで、じっくり自分の仕事をつづけて欲しいものです。
 1962年。この年を我々はin vitro発癌の成功の年としたいものです。培養の世界、癌の世界に永久に記憶されるような。力を合わせて大いに頑張りましょう。

《堀川報告》
 1962年の年頭にあたって
 皆さんオメデトウございます。
 1961年は夢の様にすぎて新しい新年を迎えた訳ですが、今年こそ猛虎の年にふさわしくお互いに大いに頑張りましょう。皆さんも同様だったでしょうが、私にはこの一年間はまったく多忙なものでした。大学という温室から飛び出してまる10ケ月間、研究所というお役所で無我無中で突進して来ました。
 見るもの聞くもの全てがめづらしいこのお役所にあっては、人なみに反省したり、考えたりしておれば完全に取り残されてしまうからです。いや仕事をする気持さえなくされてしまうかもしれません。従って私の山登りは途中の木陰で石に腰すえて、ふり反って景色を眺めることはしませんでした。とにかく山頂のみめざして突き進んだ訳です。
 こうしてやっとその山頂にほど近い所まで来た時(即ち私にとって或る程度この研究所の利点や欠点がのみこめた時)私は山頂までこの山は登れない事になったのです。(即ち私は次の所に移らねばならなくなったのです。) 先日の賀状でもお知らせしました様に今春3月に京都大学に移ります。理由は私の研究室の室長さんだった菅原努先生が、新設された京大の放射能基礎医学教室の教授として京都に移られたためです。
 菅原先生は以前三島の国立遺伝研究所時代にも御世話になった人ですし、又私にとっては阪大の先輩にもあたります。従ってこの先生の旗あげには若輩ながらも私も加えてもらった様な次第です。
 然し、京大に移ると言ってもただ単に身体のみ移すだけの問題ではなく無一物の所から新しい研究室を作りあげるのですから大変です。毎日の仕事と平行して次から次とそれ相応の準備をしなければなりませんでした。しかも今後も色々と大きな難問にぶつかるものと思い、簡単に帆を張ってすべり出す事は出来ぬと思いますが、とにかく文句なしに頑張ってやるつもりです。今後の私にとっても大きな試練だろうと思っています。どうか今一度皆さんの御助力をお願いします。
 一昨年4月からこのメンバーの一員に加えていただき、金曜日には東大伝研組織培養室の抄読会に出席させてもらって、私自身従来の狭い学問領域から大きな視野にたって研究を押し進めねばならぬことも教わり、千葉から目黒までの道のりは決して楽なものではありませんでしたが、得る所も又非常に大きかった事を確信します。決して一人で狭いわくにとぢ込んでしまう事無く、大勢の人と議論し、意見を交すことこそ、そこに進歩があるものと思います。
 ことに現在我々の取り組んでいる"試験管内で正常細胞を腫瘍化させる"仕事にいたっては非常に困難な問題であろうと思います。何故ならばガン発生の原因をウィルスとみるいわゆる「ガン・ウィルス起原説」がかなり有力になって来た今日、腫瘍化されたガン細胞からウィルスが検出された場合は勿論のこと、腫瘍化されたこれらのガン細胞からウィルスが見つけられない場合でもこの腫瘍化がウィルスによるものであるという説明が或る程度妥当化されて来たからです。
 細菌学に於ける原則と同様に腫瘍化がウィルスで起るということを証明するには次の3原則が成立しなければなりません。
 第1にガン細胞にウィルスがいなければならない。第2にそのウィルスを純粋に取り出すことが出来なければならない。第3にこの取り出したウィルスを用いて同じ型のガンが出来るかどうかを比較し確認しなければならない。
 確かに動物の腫瘍の或るものにはウィルスがある(ポリオーマウィルス)。だが人間の悪性腫瘍からウィルスが見つからないのが現段階で、白血病なりリンパ腫の或るものはウィルスと考えらておるとは言え、このウィルスを証明する事が出来ていません。従ってガン・ウィルス起原説」がかなり有力になって来たとは言え、全部を「ウィルス起原説」にもち込むのは早計でしょう。又もし「ウィルス起原説」が正しいとするならばその説の確かさを裏づける我々の実験も必要だと思います。従って今一度力強くスクラムを組んで我々の目ざした腫瘍化の問題につきすすんで、正否を確かめようではありませんか。
 私は今年の実験計画として次の様な、(1)従来のL細胞の耐性細胞の仕事を押し進めて、体細胞に於ける遺伝情報の伝達機構解明。(2)従来の株細胞と新しくマウスから正常細胞を取り出し、これらの腫瘍化を追い、同時にこれを発生と分化の観点から考察する。(3)人間細胞に於ける細胞遺伝学的ならびに遺伝生化学的研究。を考えております。
 3月から場所こそ変りますが、意志はまったく変りありません。Distributionが少しばかり広がっただけの事で、むしろ今後の発展を考える時決してマイナスになる様にはやらぬつもりです。このメンバー全員の意志は私の胸の内にも強く刻みこまれています。うんと頑張りますよ。どうか今後共に連絡を密にして、大いに議論し、意見を交わして、助け合い、大いに頑張って行こうじゃありませんか。年頭にあたり以上の事をお願い致します。

《伊藤報告》
 あけましておめでとうございます。本年も何卒宜敷くお願い申上げます。
 昨年暮近く当方の久留教授が国立癌センター病院長に就任される事が本極りとなり、何かと落着かぬままに新年を迎えました。
 久留先生は一応本年三月迄大阪大学教授を兼任されますが、後任については未だ全然噂も無い状態です。でも吾々のやって来た仕事は其の后も久留先生と連絡をとりながら神前先生の御指導を受けて続けていく筈になって居ます。
 小生年末年始に帰省して居ました為最近のデータはありませんが、前回の研究会后の成績を報告致します。
 吾々のS2分劃をTrypsin処理して后、IRC50のColumnにかけて素通りする部分にL・P1の増殖促進効果を認めましたので其後、更にfraction Collectorを使ってこの素通り分劃を4つの分劃に分け、夫々について活性を検しますと、第3番目の分劃に活性を認めます。又同様にしてIR50に吸着される部分を5つの分劃に分けますと、第2、3番目の分劃に活性を認めます。以上の有効分劃は何れもNinhydrin反応で得たpatternの第2番目のpeakに相当します。又至適濃度は何れもS2に比して1/5程度になりますので、幾分かpurifyされたものと考えます。 但し此の様にして分劃すると、有効分劃でも、その活性がS2その物に比してやや低くなりますのでこの点尚検討が必要と思はれますが何れにしても此の方法で更に進める積りです。 再生肝、鶏胚についても同様方法にて検討を行って居ります。
 ◇高井君は重症患者を沢山受持って毎日フーフー、現在の所株の維持で手一杯と云ったところです。
 ◇以前、当研究室で仕事をして居られた青木先生は、現在成人病センターに勤務して居られますが、勤務を終ってから主として夜、当研究室に来られて仕事を続けて居られます。昨年十月頃からC3Hマウスの自然発生乳癌の培養が出来る様になり、これに対する各種ホルモンの影響をみておられます。又遠藤先生に何かとお教えを願うことがあると思いますが、宜敷くお願い申上げます。
 ◇又当院の放射線科及び第一外科からも人が来て、夫々各自の目的に沿った仕事を始めました。段々に人が多くなって部屋が小さく思われる程です。

《山田報告》
 またどうぞよろしく
 組織培養のレベルで細胞の変異を考えようとするとき、当然somatic cell mutationを検出できるような実験システムにならなければならないと思うのですが、現実の問題として技術が仲々思う程進んでおりません。2年前私がDr.Puckのところにゆく時、この辺の問題を解決できないか、又実際にどの程度にやっているか知りたいと思って、そのためにはどうしてもDr.Puckのところにいって見なければと出掛けたのですが、この点に関する限りは失望して帰ってまいりました。
 まづ細胞を1個づつのsuspensionにして新しいシャーレに培養した時、理論的には100%のplating efficiency(以下p.e.)がなければ全細胞集団を扱はずに常に偏った集団を選択して使っていることになります。ところが、実際に常に100%近いp.e.が得られるのはDr.PuckのところでもHeLa-S3 cells−NI6HHF mediumのシステムだけでした。彼の所で46本の染色体を維持したまま培養をつづけている"正常細胞等"ではかなり改良したメデウム(たとえばF8HCFCなど)を使ってもp.e.は20〜50%で、その上増殖がやや不定という次第で染色体の数、形以外変異研究には使用できない現状でした。
 又HeLa-S3 cellにしても、p.e.を100%にする目標で作られたメデウムN16HHFにしても30%の血清成分(human & fetal calf serumそれぞれ15%づつ)を含むもので、いささかメデウムを単純化しようとする研究方向には逆行している感じで、p.e.を100%にするためのアガキのように思われました。このメデウムではbiochemical mutantをいじることがためらわれます。勿論この血清成分から2つの蛋白成分(fetuin及びalbumin)を取り出して、それらで置換できるのですが、まだスッキリしない感じです。
 ごぞんじのようにDr.Puckのところでは、Dr.FisherによってS1という高蛋白質要求株がHeLaの母培養から分離されております。その先をどのように進めているか興味をもってきいてみたのですが、Dr.FisherはS3のDNAにするtransformationを試みてうまくゆかなかったまま、やめてしまったとのことでした。
 Dr.Puckは遺伝子レベルの研究はまだはやい、染色体レベルでやらなければならない仕事がたくさんあるので、それを済ませてから次に進まなければ、ときわめて落ちついております。彼のところに小児科とかけもちで染色体専門のassistant professor(Dr.Robinson)がおり、材料をはこんではintersexその他の染色体異常を丹念にしらべております。また46本の染色体数とXの形態を維持したまま正常組織細胞を培養する努力も営々とつづけております。X線の細胞障害機作の研究でも染色体異常が主因というのが彼の年来の主張でした。とにかく彼は現在のところ染色体にcrazyで、またここにauthorityが一人できあがりつつあるといった感じです。
 Colorado大学の生物物理教室には、この染色体レベルのcytogenetics−あまりうれしくない表現ですが−の他、Dr.Lermanはpneumococcusを使ってbacterial transformationを、Dr.Morseはphaseを使ってBenzar流のchromosomal mapをつついていますが、それらが一本化されて哺乳動物細胞のgeneticsとしての大きな流れとなるには長い年月を要する、あるいはどの程度可能なのか疑問のように思われました。
 いうまでもなくColorado Univ.だけがこの方面の研究室というわけでなく、いろいろの所でこのような仕事がいろいろと試みられています。Pen.Univ.PittsburgのDr.Lieberman& McArdel Memorial Institute(Madison,Wisc.)のDr.Szybalskiなどが、そのfrontiermenですが、まだまだつっこみの程度と考えられます。
 このように考えてきますと、僕たちがやらなくてはならないことがまだ沢山あり、特に方法論的な問題で早急に解決しなくてはならないこともあるわけです。さらに日本ではCO2-incubator1つにしても文献をたよりに見よう見まねで作ったものがあるだけで、温度のチェック、流量計など実験器具の改良、整備から取りかからなくてはならないのです。大いにやるつもり−皆さんと一緒に−で帰ってまいりました。またどうぞよろしくお願い致します。
《高木報告》
 "新しい年を迎えて"
 私共の研究班が発足してから二年たちました。勿論始は釜洞班に寄寓した一年でしたが、兎に角志を同じくする者が一つの班にまとまっていよいよ三年目に入る訳です。この二年間の歩みをうり返ってみて、私自身全く御恥しい次第です。私共の目標とするProductionof malignancy in tissue cultureは始の覚悟通りやはり一筋縄では行かぬ代物の様です。 しかし過去は過去として私共は常に前進しなければならないと思います。私は臨床の内科にいます関係上、多くの癌患者に接し、またその悲惨な最後を見届けることも屡々です。その中で、骨と皮ばかりの手をのばして私の手を握りしめ"先生、癌治療の決定版は未だ出来ませんか、未だ出来ませんか!!"と死ぬるまで毎日の様に叫びつづけていた一患者は、特に私の脳裡をはなれず、全く鞭打たるる思いがしております。来る一年も道は遠いかも知れませんが、一歩一歩着実に歩みを進めて行きたいものだと思います。
 さて今年の計画ですが・・。発癌実験と免疫関係の仕事をすることはこれまでと変りありませんので、昨年年末ratを使って2〜3甲斐こころみてみましたが、どうもうまく行かず、そこで割につきやすいhamsterを目下増産これつとめている訳です。現在どうにか20疋位にはなりましたが、これではまだまだで、何とか早く増えてくれないものかと懸命です。子供が大きくなり次第数疋を使ってさしあたり株細胞の移植をこころみてみたいと思っています。 発癌剤としてはこれまで通りDAB、stirboestrolなど、その外にこれはこちらの癌研と一緒の仕事になると思いますが4NQOも用いたいと思っております。用いる細胞はJTC-4、それにratの肝、腎、hamsterの腎・・・のprimary cultureと云った処を考えています。勿論昨年来DABを作用させ続けて来たJTC-4もあるのですが、これはあまり時間が経ちすぎましたので、復元実験の出来そうな時期に合せて再スタートしたいと思います。
 免疫関係の仕事としては、まずこれまで調べて来た株細胞相互間の免疫学的つながりを、もっと多くの株細胞についても検討すると共に、これらの間に存在するとされている種属特異性或いは臓器特異性が、細胞のどの部に主として存在するのか、Ouchterlony法,Immunoelectrophoresesを用いて少し掘り下げてみたいものと思い、昨年年末ぼちぼち抗原の精製に着手しています。これまでの文献をみますと、癌組織の抗原の検討は誠に粗雑であり、従ってその前に一先ず株細胞について、その抗原性の検討をしたいと考えている訳です。 また皆様に何かと御迷惑を御かけすることもあると存じますが、何卒よろしくお願いいたします。
 次に私共の研究室に、今年4月より大学院生が一人入ることになりました。梶山盂浩君と云います。これまで杉君と2人で絶対的時間の不足をかこっていた訳ですが、これでどうにかと云った処です。今后共よろしく御願いします。

【勝田班月報:6202】
《勝田報告》
 A)発癌実験:
 うちでBreedingしているJAR系ratがようやくまた仔を生みはじめましたので、今度は発癌剤としてDABを使って実験をはじめました。これまで2回スタートして居りますが、第1回は12月20日にはじめたもので、生後1日のラッテ肝を回転培養し、1週間後からDABを1μg/ml、15日間与えました。しかし今日までのところでは、対照と同様にごく僅かのmigrationが見られるだけです。第2回はこの1月11に、生後9日ラッテの肝を培養し、こんどは第1日からDABを同濃度に4日間加えて居りますが、今日までのところでは特記すべき増殖は得られて居りません。どうもDABは発癌がおそいので、また4ニトロキノリンに戻ろうかと考えています。

 :質疑応答:
[遠藤]東大理学部生化の寺山研ではDABのいろいろな誘導体の発癌作用をしらべて居ますが、メチル化したDABだと2週間で動物が発癌するそうです。
[山田]病理組織学の方になりますが、2、3年前のBrit.J.Cancerに出ていたHydrocarbonを使っての発癌の仕事、mouseを使った実験ですが、センイ芽細胞の方が増殖が悪く、上皮様細胞の方が良い・・・というのは、この班のような発癌実験が全部陰性だった場合に備えて、何かしらのデータが積極的に出る訳ですから、誰か手をつけておくと良いと思います。
[勝田]山田君は病理だから頂度良いでしょう。お宅でやってくれませんか。
 なお発癌の手技として癌ウィルスを使う手もありますが、これはむしろ釜洞班の本命の一つでもあるわけですから、うちの班ではやらない方が良いと思います。Antimetaboliteなどを使う手も我々の試みるべき一つの途ではないかと思います。
[山田]腫瘍化を測定する方法はどうするのですか。例えば特別な点で細胞増殖があるかとか・・・。
[勝田]それは他の班員にはもう何回も話してあることですが、私のこの実験の場合には、ラッテの肝細胞は生命を維持しているだけで、増殖はしないのです。だから発癌して増殖をはじめると、すぐ見付けられるわけです。但し、癌化した細胞が果してその培地で増殖できるかどうかは判らないので、1系の実験でも培地は何種類も使った方がのぞましい訳です。また使う材料もできるだけきれいな純系の動物を使うと、あとの復元接種試験がうまく行くことになります。

 B)Parabiotic Cell Culture:
 ラッテの正常細胞と腹水腫瘍との間の相互作用を先般までしらべましたが、その後それを補足する意味の実験を若干やりました。まずAH-130とラッテ心センイ芽細胞との間では、正常センイ芽細胞は殆ど影響を受けないのに対し、AH-130は4日以後に軽い抑制を受けました。これはもう数回くり返してみる予定で居ります。次にAH-130と正常肝との間の相互作用ですが、生体の内で癌が出来はじめた頃のことを考えると、AH-130の細胞数に対し正常肝の細胞数が少なすぎるので、後者をもっとふやして見たらどうか、という抗議が以前に出ましたので、こんどは正常肝を192,000/tube、AH-130をぐっとへらして4,000/tubeに入れてみました。TWIN-D3で回転培養したのですが、これが失敗でミリポアフィルターのところに肝細胞がつまってしまって、AH-130側の液が肝側に移ったきり戻らず、AH-130の増殖が抑えられてしまいました。今後はTWIN-D1で静置培養してみたいと思います。
 C)無蛋白培地継代亜株:
 1961-2-13よりHeLa・P2(PVP+LYDで継代の亜株)を0.4%ラクトアルブミン水解物+塩類溶液だけの培地に移しましたが、これがずっと今日まで継代され、33代になりました。1週間に3〜4倍の増殖率です。

 :質疑応答:
[山田]L・P1の増殖率と比べてどうですか。
[高岡]L・P1の方はずっと良くて1週間に20倍位の増殖をしています。
[山田]Lの各無蛋白培地亜株についてちょっと説明して下さい。
[勝田]L・P1はPVP+LYD培地、L・P2はLYD培地、L・P3は合成培地DM-120、L・P4はLD単独で夫夫継代しています。L・P3は良いときは10倍位になっても悪いときは3〜4倍で、どうもむらがあります。今後いちばん有望なのはL・P4で、これはかってのL・P1のように、殆ど全部が単核のきれいに揃った細胞ですし、栄養要求も簡単ですし、合成培地DM-120でよく生えますので、今後色々な実験に大いに使って行く予定で居ります。無蛋白培地は緩衝力が弱いので継代が中々難しいです。
[山田]virusをかけるとき良いと云われるTris-Bufferを使ってみたらどうですか。
[奥村]Galactoseを入れるともっと良いという報告もあります。MK系の細胞で0.004%Galactose+0.02%Glucoseです。
[勝田]Glucoseの代りにGalactoseを利用できる細胞と、そうでないとで相違があるでしょうね。

 C)サル腎臓細胞株(MK-D1)
この細胞から何系も培養していますが、最初に発表するのはMK-D1株と仮称しています。目下このpolio virus感受性をしらべていますが、強毒株にはI、II、III型ともかかります。問題は弱毒株で、米国のMK株は弱毒ウィルスは駄目なのです。まずI型弱毒からしらべかけていますが、予備試験では罹ることが確められました。この株はウィルス用なので、1週間培地交新しないで基礎的データをとり初めています。継代培地は5%牛血清+0.4%ラクトアルブミン水解物+塩類溶液です。至適血清濃度は培養日数と共に上がり、7日後には10%になります。こんな点と、中々PVPなどを使った無蛋白培地では増えないことから、どうも蛋白を栄養源として使っているのではないか、という気がしてなりません。サル腎臓細胞の初代培養ではPVP+LYDの無蛋白培地でかなり良く増殖するのに、この株では細胞の生命の維持もできないということは不思議で、初代で無蛋白で増える細胞とは別の細胞がこの株になったのか、或は長期継代中に、微量に必要な物質の細胞内プールが切れてしまったのか、色々なことを考えさせられます。しかしとにかくウィルスに使うためには無蛋白培地で少くとも維持だけはできぬといけないので、目下各種の方法を試みていますが、無蛋白培地に移すと数日の間に細胞質がやせてしまって、栄養不良の形態を示します。
Skimmilk、Bovine albumin(FractionV)、Yeastlateなども使ってみましたが、良い結果は得られませんでした。virus vaccineを作るのに、株細胞ではmalignant transformationを起している可能性があるというので、virus屋さんは毎回猿を殺してpraimary cultureでやっていますが、これでは、経費が高くなり雑ウィルス混入の可能性も強いし、第一、その内にサルが居なくなってしまう可能性がありますので、我々としてはぜひ腫瘍化していない株を作る必要があります。この辺のところが逆にin vitroの腫瘍化の問題ともひっかかってくる訳です。

 :質疑応答:
[山田]猿1匹の腎臓から細胞はどの位とれますか。
[奥村]腎臓は約10グラムで、30万個/mlの浮遊液だと2リットルとれます。l
[奥村]無蛋白培地でやせてくるのは何日目からですか。
[高岡]移して次の日に見るともうやせはじめ、それがどんどん進行して右図のようになってしまいますが、そのまま無蛋白培地をつづけますと、1〜2ケ月でまた細胞質がふくらんでくるようです。目下観察中ですが・・・。
[山田]やせる前のこの細胞はセンイ芽細胞様ですか。チェッコの人のデータですが、初代培養は細胞の形が3種あって、数の上では上皮様が多く、株になってから、alkaline phosphatase活性の有無で同定しているようです。このaseの強い方が壁につき易いというのです。
[佐藤]私の処でEhrlichの培養の血清濃度を下げて行って5〜2%位にしますと、2日後に細胞がやせてきて、頂度ウィルスをかけたときのCPみたいに、右図に似た形になってしまいます。

 D)今後の方針:
 大まかに云って、1)発癌実験は、いま伺ったメチルDABとか4ニトロキノリンの様な、なるべく効果の早く出るこのを使ってやって行きます。2)Parabiotic cultureの方も相互作用している物質の本態を追って行きたいと思います。3)正常細胞と腫瘍細胞の相違をしらべる上からも、また発癌過程を追究する上からも、細胞のDNA-base組成(関口君担当)、蛋白の構成アミノ酸組成(菱沢君)などを分析比較して行く予定です。4)また京大・小川君にやってもらった組織化学の染色も、やり方をおぼえましたので、やはりparabiotic
cultureについてやって行きたいと思っています。

《高木報告》
 A)発癌実験:
 大きく分けて三つやりかけています。1)JTC-4株にDABを与える実験はこれまで3回Wister Kingのラッテに復元接種してみましたが、何れも失敗に終りました。もっともHeLaで復元の練習をしてみましたが、これも失敗しましたので、technical failureかも知れませんが。2)シリアン・ハムスターを予研から頂いて、これをbreedingしています。沢山にふえたらkidneyを培養してstilbesterolを使って見たいと思っていますが、生まれた仔をたべてしまうハムスターもいたりして困っています。JTC-4にDABをずっと与えたのは11月から増殖が悪くなったので通常の培地に戻して継代しています。今後は復元法をもっと研究すると共に、3)4ニトロキノリンの実験を癌研の遠藤先生と協力してやる予定です。つまりこれを使うと封入体ができて細胞が死にますが、封入体ができずに生残った細胞について追究するつもりです。
 B)免疫学的研究:
 HeLa、FL、JTC-4、JTC-6を使っています。CP、蛍光抗体、凝集反応、赤血球凝集などで追うわけですが、抗JTC-4兎血清を作ってこれらに使うと、JTC-4、-6だけは蛍光陽性で、speciesの特異性だけは出ます。organ specificityまで行くにはどうしてもAntigenの精製をやらなくてはならぬと思います。次にFLでゲル内沈降反応をやってみました。1億個の細胞をテフロンのホモゲナイザーでこわして、凍結融解せずに(すればよかったのですが)soluble antigenだけを45,000gにかけ、上清からは11mg(乾重)、沈渣は6回凍結融解して12,6mgとれました。CPx80のFLの免疫血清をシャーレの中央におき、まわりにはAntigenを5倍稀釋で10mg/mlから順次に入れましたが、1週間たっても沈降線が現れませんでした。穴の大きさは径18mmです。そこで次に同材料を50mg/mlから5倍稀釋でやりましたが、これも駄目でした。抗原と抗体とにはやはり至適の量比があるので、まずそれを決める必要があります。

 :質疑応答:
[山田]ColterのNucleoprotein、WeilerのMicrosome fractionなどでやってみたら如何です。
[高木]とにかく、とれる収量が少くて、角瓶10本で23mgですから、今度は角瓶50本でやって見ようと思っています。
[山田]ルー瓶を使うと良いですよ。3本使えば1億のオーダーになります。培地は20〜50ml。但し底面の平らなのをえらばないと駄目です。
[佐藤]細胞とAntigenを一緒に入れて培養するとどうなりますか。
[高木]それがCP法で、細胞はこわれます。Complementを加えぬとこのCPは可逆的ですが、補体を入れると不可逆的になります。細胞は若いのを使うのがよろしいです。頂度シートのできる時位。
[佐藤]私の処では最初から抗体を入れると、細胞は塊を作りますが、細胞数はじりじり増えて行きます。Ehrlichの1%牛血清にならしたsublineです。
[山田]このCP反応を染色標本で見ると、原形質の青味がぬけ、核の凝縮が見られます。[佐藤]DABを加えると細胞の形態はどうなりますか。
[高木]Atrophyを示します。うちも愈々Zeissの蛍光光源を買ってもらえることになりましたので、来年度からは蛍光抗体法を沢山やれることになります。
[勝田]京大の岡田氏のところではOrgan-specificityが馬鹿に良く出ているような話ですが、5月に京都へ行ったときぜひのぞいて見ると良いと思います。
[奥村]ハムスターの仔を食うくせのついたのは、もういつまで経っても癒りませんから交換した方がいいですね。

 C)無蛋白培地内培養:
 L株はPVP・0.05%+Lh・0.4%の培地に簡単に馴れましたが、増殖性というか、細胞シートの安定性がどうも不安定で困っています。tubeを立てて培養するか、コルベンだと良いのですが、横にねかしたり角瓶にしたりすると、シートが剥れ易いのです。増殖率は週に5〜6倍というところです。JTC-4は血清を2%位までは減らせても、どうしてもPVP培地では永くつづきません。
[高岡]管を立てて培養すると良いという点はL・P4と良く似ていますね。

 D)Orotic acidの影響:
 米国では培養細胞に特に効果を与えず、核酸へのとり込みも見られないと報告されていますが、私は小野製薬で作った水溶性のdemethylamideの型のものを使ってみました。細胞はL(LT+50%BS)、FL(LYT+10%BS)、Chang's Liver(LT+20%BS)、JTC-4(LYT+BS20%と5%の2種)、HeLa(LYT+5%BS)の6種です。濃度は0、10、50、100、1,000μg/mlに加えました。結果はFLとHeLaには影響は見られませんでしたが、JTC-4でBSを5%にしたもので少し促進効果が認められました。10、50μgのところです。Chang's LiverではBSを5〜1%に下げると50μgを中心にしてやはり促進効果が見られました。遠藤班員の云われる栄養値の低い培地の方が促進効果が出やすいという説によく一致しました。(註:このことは1959、伝研の研究生・斎藤重二の骨の培養の論文の中ですでに指摘している)。細胞の形態学的観察はいたしませんでした。

 :質疑応答:
[佐藤]Orotic acidは担癌動物の延命効果があると云いますね。
[奥村]ChangのLiverは動物につきますか。
[山田]ハムスターとラッテにはつきます。この細胞はJTC-6に比べて染色でglycogenが多く出ます。勿論生体の肝に比べれば遥かに少いですが。どうも実質細胞ではないかと、また云われはじめました。
[高木]Changの処ではLiver株を新しくとっているそうですね。
[山田]染色体数は・・・。
[奥村]前にしらべたのは60本位で、多くなっています。

《伊藤報告》
 L・P1を使って、腫瘍のS2分劃の仕事をつづけています。S2分劃をトリプシン消化し、これをIRC50とIR45を通すのですが、前者を素通りするものをニンヒドンで発色させると右図の実線のような曲線になりました。280mμの吸収で点線のように左のピークに一寸肩がつき、右の方に小さなピークが現れます。そこで右図のように四種の分劃に分けて、夫々の促進活性をしらべたところ、III分劃に認められました。IRC50を通したままでは活性はS2に比べて100%残っているのですが、III分劃では60%に落ちてしまいました。
 次に青木先生がやって居られるのですが、C3Hマウスの自然発生乳癌をトリプシンで消化してprimary cultureで培養ができるようになりましたので、将来はホルモンの影響などみて行きたいと思って居ります。長期継代も昨年秋からつづいています。
 高井君の方は重症患者の担当になって、自分の株をついで行くのがやっとです。

 :質疑応答:
[勝田]primary cultureだとcontrolをとるのがむずかしいね。うちでも乳腺細胞を培養しようと思って探してみても、経産ラッテでは乳腺が見付からないで困っています。妊娠ラッテでは勿体ないのでケチをして反ってやれないでいます。
[高木]C3Hのspontaneousの乳癌発生率は?
[佐藤]経産の1〜2年で50%位です。株によって差はありますが。培地は何ですか。
[伊藤]BS5%〜10%+LD 0.4です。
[遠藤]大分昔ですが名大の増田先生がexplant cultureで発癌とホルモンの関係をしらべています。
[佐藤]私のところでは初代は培養できるのですが、あとがつづきません。
[高木]ddDマウスで3〜4代までは行くが、6〜7代で絶えてしまいます。培養するに従って段々悪くなります。
[伊藤]うちでは今、14〜15代になっています。なお久留先生の去られたあとは、私はそのまま阪大に残り、やって行くつもりです。発癌実験も、神前先生が何か独特の構想をもって居られるようなので相談しながらやる予定でおります。そのほか他の者ですがEhrlichも株になったようで週約4倍の増殖ですが継代しています。
[高岡]形はまるい形をしていますか。
[伊藤]まるくありません。揃ってきれいです。
[高木]PuckのN16HHFを使ったらどうですか。
[山田]Puckの処の染色体の変らないCell lineは、はじめはN16HHFEでしたが、その後EarleのNCTC109にvitamin、アミノ酸を加え、血清10〜15%で継代していますが、頬の皮膚をひっかいて、そこに再生するところをまたとって培養するのです。fibroblasticの形をしています。しかし時々切れて居ます。
[高木]血清を使ってcell variationに影響しないのでしょうかね。
[山田]染色体数が正常といっても、それがピークを作っているだけのことで、やはりある幅を持って居り、幅がひろがるとcloningをやってきれいなのに戻すわけです。

《遠藤報告》
 はじめに前号月報の謝を訂正しておきますが、瓶のまま室温で1日放置して、そのあと次の日短試に分注したら、lag phaseが大きく出たのです。分注してからおいたのではありません。
 今回は細胞をあまり増殖させずに、maintainする目的で色々やってみました。細胞は全部前と同様HeLaです。BSを1%にして11,000/tubeの接種量で培養してみますと、やはり4日までは細胞数がぐっと下り、それから6日目にかけて立上りが見られました。
Progesteronを与えると、この立上りの曲線が大いに促進されます。しかし定性的には促進効果は判っても、定量的にはつかみにくくて困ります。そこで2%BSにしてみますと、データは一寸変っていますが、contamiがあってtube1本だけの点もありますので、この実験では一寸ものを云えません。BS3%にしますと2〜4日までmaintainされました。またprogesteroneの0.16mg/lあたりで6日目に促進がはっきり出ています。
 次に細胞のinoculumをふやして56,000/tubeにしてみますと、BS3%で1週間に6〜7倍増えました。inoculumによってふえ方がまるでちがうので、今後はこのinoculumにもとずいて、また諸条件を検討しなくてはならないことになりました。
 ホルモンをとかすのにエタノールをこれまで使っていましたが、実はその毒性が大したことないと思って、しらべてなかったのです。Final 0.2%に培地に加えてみましたところ、3%BSの培地で明らかに増殖抑制が現れました。昔の文献にもexplant cultureで0.2%でdetectable injuryありとかいてありますが、これではホルモンがアルコールの解毒作用をしていることになってしまいますので、別のsolventを探すことにします。
 結論として、今日のデータでは定量的な形でデータが出ないので発表はできないと思います。

 :質疑応答:
[山田]序列の推計学を使ってみたらどうでしょう。例えばどの濃度が一番良かった、2番、3番・・・として、1番がいくつあるという具合に。
[遠藤]Factorがいくつもあるのでむずかしいと思います。例えばinoculum sizeのちがいに依ってもデータが変ってきます。要するにcontrolが一定にならないのが困るのですね。[山田]促進物質についてですが、この場合のカーブを分析すると、一部の細胞は死に、一部のはふえている。その合計があのカーブに出ているのではないですか。特に培養初期にカーブが落ちるあたり。
[勝田]ニグロシンで生死計測をやってみたらどうですか。
[山田]もっと別の培養法を使ってみる手もあります。たとえばMarcusのWindow
techniqueを紹介しますと。シャーレに細胞をまいて、その裏に小孔を沢山あけたアルミニュウム板をはりつけ、倒立ケンビ鏡で各孔の中の細胞数をcountします。見えにくい時は緑色のフィルターを通すと見えよくなります。この方法でやると、colony formationよりplating efficiencyが高い数値になります。
[佐藤]シャーレに線をかいても良いわけですね。
[奥村]対照群も数日してから急にふえていましたが、Synchronizeされているのと違いますか。
[勝田]あそこでSynchronizedの増殖をやったのならまず数が2倍近くの増え方でしょう。[佐藤]無蛋白培地でやった方がホルモンの作用がはっきりするのではないですか。
[遠藤]それは勝田さんのところでやって、Progesteroneの効果が出ないとされています。[勝田]それは成績にむらがあって深く追究していなのですがね。
[佐藤]Yeast extractが入っている細胞の場合、Yeを抜くと細胞数が一時減りますが、また何日かしてYeを入れてやると猛烈にふえるようになります。培地組成をminimumに抑えると細胞のAdaptationが敏感になるのではないでしょうか。だから最低の栄養にならして、そこから出発したら如何でしょう。また20%BSで継代していて、急に少ない培地へ入れるからデータが揃わないのではないですか。つまり最低栄養要求の株をとって長期にならしてからやるのが良いと思います。
[伊藤]しかし一面、in vivoの条件にできるだけ近いところでしらべないと、biological significanceが少ないという問題も出ます。
[遠藤]私もそう思います。
[勝田]北大のデータはProgesteroneは促進効果がないということになっていましたが、(月報No,6108)これは技術的な問題もからんでいるのではないでしょうか。つまり、1)使ったホルモンが製品としてどうか。2)細胞のinoculum size(北大は10万位で多い)3)培地に抗生物質を入れているらしいこと(抗生物質を使っていると、たとえばマイトマイシンのような他種のものにも鈍感になることは堀川君の仕事で示されている)。これらのことの影響があるのではないでしょうか。
[佐藤]血清とホルモンのinteractionはどうですか。
[遠藤]あることは判っているのです。血清をとった牛が♂か♀かでもデータは変るわけです。いままでホルモンは反応のresponseをmodifyするだけと考えられていましたが、自分のデータからしてももっと根本的な代謝に関係するのではないかとも考えられます。
[佐藤]血清がないときホルモンが効かず、あるとき効くのならもっと血清濃度を上げたらどうですか。
[勝田]この両者は一定比で結合するのだろうから、蛋白ばかりふやしても意味がないでしょう。
[山田]判定法ですが、増殖曲線の傾斜角度で比較したらどうですか。それから血清中にどの位ホルモンが混っていると考えられますか。
[遠藤]人間の場合平均して女性でProgesterone 1μg/ml位です。
[高岡]実験に使う前の代の条件を揃えてありますか。いつも細胞が同じような条件にあるものを使わないと対照群が揃わないと思います。
[山田]そうStandarizationをやり直す必要がある。
[遠藤]2月から後輩が一人入ってくることになりましたので、この方にはHeLaにテストステロンの影響をしらべさせたいと思っています。
[勝田]ホルモンも、拮抗ホルモンのAntagonismまで持って行かないと、本当にホルモン作用しているのか、栄養源的効果なのか判らないですね。
[遠藤]きれいな条件を作ってから拮抗を考えます。そして子宮の癌としてのHeLaというものをはっきりさせられるように進みたいと思います。
[勝田]私は1種類の株細胞だけをいじっているのは疑問だと思います。対照となる細胞lineも揃え、比較検討して行く必要があると思います。
[遠藤]最近Gyneの小林教授と関係があるので、子宮から材料をとって株を作りたいと思っています。
[高木]私の経験ではパラパラとしか生えませんね。初代はうまく行きますが。
[奥村]PackのN16の培地を使ったら・・・。
[勝田]合成培地というものは栄養的に完全なものではないから、やはりはじめはnatural mediumでスクリーニングしてひっかけ、それから次第に合成培地にもっ行く方がよい。
[関口]HeLaのmitochondriaや細胞成分について生化学的に検討したら如何ですか。
[遠藤]ATPoxidationは阪大・奥貫研でやっています。但し7日間に6倍しかふえぬ株で細胞条件が一寸無理のような感じです。in vivoの実験ですが、EstradiolはDPN-DPNH2、TPN-TPNH2系にCO-enzymeとして関係するという報告はあります。Progesteroneのin vivoの実験はありません。
[勝田]いきなり酵素レベルに持って行くのは、うまく当らない危険性があります。やはり沢山のEnzymesの綜合responseである"増殖"を尺度にしてOptimalの条件をきめてから入って行かぬと無駄骨になることがあります。

《奥村報告》
 この前の連絡会で4種の研究を予定にあげましたが、環境上やはり中心になるのは、1)色々な細胞の初代培養と、2)細胞の凍結保存の影響の二つになります。
 A)初代培養:
 かにくい猿では、腎臓の他に、肝、心、大脳皮質などやっています。最後のはEmbryoの材料でまだつづいてはいますが、一月に継代したら、その後あまり良くありません。
 みどり猿(1匹8万円位)は、雑ウィルスとくにSV40が少ないのですが、腎は11代目になって居り、各代増殖率をしらべる群は2代目に入っています。睾丸は2代目、その他小腸、肝、心もやっています。
 人羊膜はこのごろ大分うまく行くようになりました。0.25%トリプシンで消化し、20%仔牛血清+M・199でよく生えますが、固体差が大きく、駄目な人のときは全然駄目です。
 人胎盤はホルモンと関係があるから面白いのですが、70%はシートをつくりますが、色色の細胞が混っているのと、血球を除くための前処理が大変という難点があります。
 マウスの脾臓をN-19とM・199に夫々牛血清20%加えて培養しますと、前者では非常に良く生えます。
[勝田]胎盤は組織片をroller tubeにつけて2日間回転培養すると、血球が流れ落ちてしまって具合がよいと思います。
 B)凍結保存:
 HeLaS3を使ってみましたら、凍結35日後にまた培養すると、mitosisの数が少ないのですが76本と80本の染色体が見られました。62日後には76本のが8ケ中3ケありました。全部で50ケのmetaphaseの内です。S3の原株は69〜80本の幅があり、HeLaの原株は60〜88本の幅がありました。Puckのところのようにきれいではありません。結局、76本のが
predominantで残るとは思われますが、もっと計測数をふやさなくては仕様がないところです。なおポラロイドカメラを使ってケンビ鏡ですぐ染色体の写真をとってかぞえる手を考えています。
[遠藤]ポラロイドのフィルムは非常に感光度が早いので、露出overにとってしまうことが多いから注意が要ります。
[奥村]ECHOウィルス耐性の株は、凍結保存したあと継代3代目にきれてしまって、耐性をテストできませんでした。簡単なcloneのとり方として、2mm角位に濾紙を切り、0.25%トリプシン液を含ませ、狙うcolonyの上に3分間のせておき、それをとり出して次のシャーレにまく方法をやってみました。3回中2回成功しました。
[山田]Puckのところの新しいClone formationのやり方として、細胞をまいて24時間後に、細胞が1ケだけあるところを顕微鏡でしらべてマークし、そこへ硝子の細いシリンダーを立てトリプシン消化します。シリンダーの下端はシリコングリースを塗っておきます。[奥村]牛血清を1年間同じものを使えるように100l集めています。夏の血清は駄目なので、冬あつめているのですが、冬の仔牛は少く、雌雄の別はできません。

《山田報告》
 私は発癌実験はマウスでやろうと思っています。放射線を使うと白血病ということになり、奥村君と共同してやるつもりで居ります。X線もHeLa以外の細胞でどんな影響があるか見たいし、耐性も培養でやってみると細胞レベルで耐性のあることが判ります。
 X線照射で生き残った細胞にさらに照射をくりかえすと図のIカーブになり、スロープのなめらかな部分をclone formationでとると図のIIIのようなカーブになります。そこで30%survivalになるDose(D1)を照射して、細胞のradio-resistancyをしらべて見たが、うまく行きませんでした。今後はX線照射における耐性の問題を一つの課題として仕事をすすめたいと思っています。
 発癌はマウスのspleenの細胞を使いたいと思います。それからS3も東京でplating efficiencyが100%になるかどうか見てみたいと準備しています。
[山田]4ニトロキノリンを使うときの濃度はどの位ですか。アルコールでとけますか。[高岡]10-6乗で封入体を作ると云われていますので、うちでは10-8乗で使っています。とかすときは10-4乗にアルコールでとかし(よくとけます)。それを水でうすめて10-8乗にもって行きます。この方法だと沈殿が出ません。これは冷蔵庫に保存しても1月で駄目になりますし、熱処理すれば発癌性を失います(九大・遠藤氏の話)。ですから使った器具は熱処理しています。
[山田]4ニトロキノリンの耐性も検討したいと思います。

【勝田班月報:6203】
《勝田報告》
 正常ラッテ肝細胞の培養にDABを作用させる発癌実験で、第1回は培養開始1週間後にはじめてDABを添加したが、このときは旨く発癌しなかった。第2回目の実験では開始と同時に与えたところ、非常に面白い成果を得られたので報告する。
 材料は生後9日のラッテ(JAR系)の肝で、メスで細切し、回転管の内壁にplasmaなしで附着させる。培地は20%牛血清+0.4%ラクトアルブミン水解物+塩類溶液(処方D)。DABは1μg/mlに加え、4日間培地更新なしに培養する。実験群、対照群(非添加)各6本で、4日目以後は週2回培地全量を更新した。第4日以後にはDABを全く添加しない。すると投与後約6日で、実験群の中の1本に新しい増殖の盛な細胞Colonyがあらわれ、ほぼ1日半位の間に、次々と、結局全部の実験群tubeに増殖コロニーが大量にあらわれてきた。対照群では若干のmigrationはあるが、増殖像は今日に至るまで全く認められない。それが実験群では6/6で全部できたのである。そこで問題はこれらの培養を、いつ、いかにして継代するかである。仮にその6本をA、B、C、・・・と名付けると一応次のような処置をとってみた。
 A:第14日にラバークリーナーでTD-15へ→Colony 3ケでき増殖中、上皮様形態の細胞
A2:第14日にトリプシン消化で小角瓶へ→Colony 2ケでき増殖中、同上
B:第21日にコロニーだけをとり、トリプシン消化→回転培養(Colony新生せず)
C,D:第21日にコロニー以外の他の細胞をラバークリーナーで除く(コロニーだけ残す)(その後、第28日に継代し、失敗)
E,F:継代せずに初代のままつづける→(その後増殖が中止した)
 各継代の結果は上表の右に記した通りで、この経験からみて、継代は思切って早い方が良い。(3月になった現在。A2系だけが増殖をつづけている)培養法は初代は10rphの回転培養で、継代後何れも静置。増殖してくる細胞には静置の方が良いようである。(A)の細胞が大量にふえたら復元試験をしたいと準備をすすめている。くりかえすが、上の成績から判る通り継代をためらっては失敗する。もう少しふえてからなどと思わずに継代するのがコツである。対照群はDABを加えぬ他はすべて実験群と夫々同じ操作をしてみた。migrationしか見られなかったが、例えばAの継代のとき、対照群も同様に1本を継代した。このTD-15に継代のもののみ継代後コロニーが1ケ出来たが、DAB処理群のコロニーと異なり、殆んど増殖しない位である。他の継代では一切コロニーはできなかった。
 細胞の形態は(染色標本と生のTD-15継代のA系を展示)。新生の細胞には2種が混っている。右図の(a)と(b)であるが、継代後によく生えているのは(a)の方で、これは上皮様で、石垣状にぎっちりシートをつくってくる。どうもこれが悪性化した本命ではないかと思われる。
 さてこのような結果が得られましたので、全く上と同じ実験条件で第3回目をやってみました。ところがこんどは、実験群対照群ともに、第2日頃(DAB処理中)から細胞のmigrationがはじまり、第5、6日頃から急速な細胞増殖がおこりました。このころは、上の(a)とも(b)との異なる、本当の"fibroglastic〃のものが主でした。第12日に継代、以後今日まで活発にふえています。但し継代後は上皮様のが主体になりました。これは対照群も充分復元してみられるので、両方とも今日まで培養をつづけています。どうして、第2回目と第3回目と異なる結果になったのか、異なっていたのは、1)ラッテが別のラッテであること(両方共JARの生後9日ではあるが、別の個体)。2)第3回目の方がラッテを殺してから培養に入れるまでの時間が少し長かったこと、の二つ位であろう。今迄正常ラッテ肝の培養をずい分やってきたが、こんな例ははじめてで、何かこの使ったラッテに原因があったのではないかという気がしている。
[山田]Outgrowthと本当のgrowthの区別は?
[勝田]Morphologicalに簡単にできます。右図の(a)と(b)のようにmigrationだと(a)のようにA)B)の組織片のまわりに、ほんの少しくっついて出てきますが、増殖がはじまったのは、例えば(b)の(A)片からはじまったものでもどんどん拡がってとなりの(B)を包み(C)にまでおおいかかるという具合で、みるみる拡がって行きます。
 なお昨年の夏ごろから、4ニトロキノリン−ラッテ正常肝の組合わせでうまく行かなかった理由について考えてみますと、in vitroで悪性化を図る場合、まず大きく見て二つの制約があります。第1が"Mutationの方向"で、第2が"培養環境によるselection"です。Mutationには方向性がない訳で右下図のように、細胞の性質は360゜いかなる方向にも変り得る訳です。その内、右図の点線の角度内に向いたとき癌化するとします。次に、そのとき用いている培地あるいはさらに大きく云って培養環境で、細胞増殖を起し得るような細胞の性質の方向を鎖線でかこんでみます。すると、仮に悪性化したとしても、鎖線の角度内に入っていないと、そのまま増殖できずに死んでしまう訳で、つまり点線角と鎖線角のオーバーラップした角"α"の方向に細胞が変った場合のみ"in vitroの発癌"が成功することになります。
 今回成功に近ずきつつあるDABでは、同じDAB肝癌であるAH-130などについて既にくわしくその栄養要求をしらべてあり、他のDAB肝癌でも他所から似たような培地で生えることが報告されています。だから"α"の角がかなり広かったと云えるでしょう。それに対し、4ニトロキノリンの方は、まだこれで発癌させた細胞を培養した経験がないので、鎖線に相当するところがよく判って居らず、したがってαがきわめて狭いか、或はoverlapしていなかったのかも知れません。もっとも1回はうまく行きかけたのですから少しはoverlapしていた、と云えるでしょうが。
 さて、いまお話しましたように"正常肝-DAB"という非常に有望な系を見付けましたし、非増殖系を使うという非常に便利な研究法も見付けましたので、かねてのお約束に従い、早速全班員に追試をおねがいしたいと思います。
 薬剤はDABを使うとして、肝をとる動物は、"勝田・JARラッテ、佐藤・呑竜ラッテ、高木・Wistarラッテ、伊藤・?ラッテ、山田・マウス、堀川・マウス、遠藤・呑竜ラッテ、奥村(発癌前後の染色体の比較)"のように分担しましょう。なお、ラッテはこれまで生後9日のを使いましたが、決してその年齢が良いというのではありません。controlが増える危険性の少ない点では、生後1月位が良いのではないでしょうか。

 :質疑応答:
[山田]初めに培養するときトリプシン処理したら如何?
[勝田]細胞が弱り易いのでこれまではやりませんでしたが、うまく行くのが確実になってきたら、段々に細胞の方をpureにして行くべきです。現在のやり方ではmixomaのできる可能性もあるので、できた腫瘍をさらにcloningする必要もあります。
[高橋]ハムスターにしてはいけませんか。
[勝田]それは各班員properの仕事としては一向かまいません。しかし今の話はそれと別でとにかく突破口ができたら皆でそれをこじ拡げようという方の仕事です。
[遠藤]私のところは3週の呑竜を買っていますので、それを使うことになります。
[勝田]それはかまわないと思います。
[佐藤]私のところは呑竜をまだ飼ったことがないし、繁殖について条件が少し悪いのです。マウスの乳癌だと、TD-15で培養して純系マウスに簡単に復元できますが、今度の場合多くの例数が要るのですか。
[勝田]この場合、多くの成功例を作ることが先ず必要と思います。
[佐藤]培地更新は?
[勝田]週2回です。さっき1日おきと云いましたが間違いです。
[高橋]第4日に培地を洗いますか。
[勝田]培地をすて、よく液を切り、そのまま新培地を加えます。だから少しはDABが残るでしょうが培地をかえる度に稀釋されてしまいます。勿論洗っても良いでしょうが、それより成功につれて、作用日数を段々減らして行くのが面白いと思います。またControlにDABの混入する危険を考え、一度DABに使ったピペットはそのまま棄てています。
[遠藤]普通の有機物ならクロム硫酸で洗っていれば大丈夫です。それよりピペットを新聞紙でまいて乾熱滅菌するとき、少し熱が上りすぎると、カーボンやインクが出てきて、これが発癌の原因になる可能性があります。
[山田]EarleのLのときの発癌も技術に不明の点が多い。
[勝田]対照も癌化してしまったしね。生体内で発癌する場合、二つの途が考えられています。その第一は、変異した細胞がそのままどんどん増えて癌になるのと、第二はその薬剤の作用で細胞がやられ、そこに再生が起る。その再生が止まらなくなってしまって癌になる。この二つです。我々の仕事は第一の方が、少くとも存在し得ることを示している訳です。
 いま説明したような培養法で肝を培養しますと、かなり永い期間細胞が生きています。例えば7ケ月目にしらべて、Nigrosine陰性、Neutral red超生体染色で核は染まらず、細胞質顆粒は染まります。つまり"No multiplication but viable"の状態です。Subcultureすると肝細胞は壁にろくに附かなくなります。
[山田]DABと蛋白とのinteractionを考える必要があるのではないですか。
[勝田]いわばrestingの細胞がDABによりmutationを起すことについて、私は次の様な可能性もあると"考えて"います。つまり遺伝形質支配はDNAでなくDNA-proteinである。このproteinにDABが作用し(或はcompoundを作って)、遺伝形質支配に変化が起る。
[関口]九大遠藤氏の仮説で、4ニトロキノリンがprotein-SHに働くという考があったが、核蛋白にはSHが少いので立消えになりました。
[山田]遠藤君はRNA-proteinを考えていたようです。
[高橋]Phenol抽出RNAは駄目で、Dodecyl・RNAだとDNAのcontamiが無くて良いので、この方法でRNAの変化を追っています。
[山田]自分はproteinのことはよく判らないが、RNA-proteinのproteinと4ニトロキノリンとのinteractionでclear cutなデータが出ている様です。
[勝田]これまでの経過をふりかえると、班研究としては成功していると思います。in vitroの発癌は外国でも狙っているので1日も早く仕事をいそぐ必要があります。それで、この春(6月末)の病理学会に、発癌seriesの第1報としてまず"正常ラッテ肝細胞の培養"ということで、第1報を出しておきたいと思いますが、如何でしょうか。
 また、昨春の第1回連絡会でこの仕事の綜合的題名として、
"組織培養による細胞の悪性化の誘起の研究"としようと決めましたが、いま考えていて誘起(induction)だけでなく、できたものについても比較するという意味も含み、次の名前に変えたら如何でしょう。第三者にきいてみてもこれで充分意味は通じるというのですが・・・。
《組織培養における細胞の悪性化の研究》英語では"Production of malignancy in tissue culture"となります。
[佐藤]"正常細胞の癌化"で良いか? どちらかと云えば《発癌》ということを打出しておいた方が良いのではないですか。
[堀川]Cell lebelでの発癌ということは、発癌のConceptとして良いのですか。
[佐藤]良いと思います。原題だと"株になったときの悪性化"という意味にもとれます。[山田]各班員が全部一緒に話し、或は発表する場合はともかく、別々に発表するときは、この方を副題にした方が良いのではないか・・・。
[勝田]単に各個研究を寄せあつめただけの班研究ではなく、有機的な綜合研究なのだから題名は統一した方が良いと思います。
[山田]きゅうくつな感じもします。癌のできたときは良いが、今の段階でこのような題名をつけるのいうのは。
[勝田]私は、この辺で研究上にもフンギリをつけるという意味で題名を考えたいのです。[山田]できた、というところで題をつけるのでも良いのではないか。竜頭蛇尾の感、"Japanese Gann"のような気味があります。
[堀川]山田班員の説は一考に値します。"悪性化のための"という位にしておいて、悪性化して行ったときから題名を変えれば良いでしょう。具体的には"ための"という言葉を入れるわけです。
[山田]私の考はMain titleは夫々につける。Subtitleで統一ということが主です。
[堀川]それには賛成しかねます。やはり綜合の有機的な結合にによる研究であるからにはMain titleを統一した方がよいと思います。
[高橋]日本語の方は良いが、英語のProduction of・・・"は問題と思います。"The study on・・・"とした方が・・・。
[山田]"Japanese Gann"の外国の評判が気になります。Just like"Japanese Gann"ということになるのが・・・。日本語は良いとして英語の論文はどうするのですか。
[勝田]この次の連絡会(5月)までに考えてくるようにした方が良いと思います。いまはとにかく第1報を病理学会に出させてくれ、ということです。
[山田]学会発表なら良いだろう。
[堀川]DABの仕事が或程度のところまでで、あとうまく行かずnegative dataになったときの発表は?
[勝田]出来そうなんだから、今からそんなこと云わないでくれよ。これから高岡君に実際の手技を説明してもらいましょう。また発癌物質、たとえばこのDABなど、使ったあとどういう処理をしたらこわれて発癌性がなくなるか。これは取扱上大切なことなのでぜひ遠藤班員にしらべてもらうことにしましょう。
(どうもこのあたりの発言は、実際に自分の研究室で細胞の変化をおこさせている者とそうでない者との切実感の相違が喰いちがいを作っているようである。5月の連絡会までには各班員ともかなり成果を得られると思うので、この次は話もちがってくると思われる。割当に従って各員早急にピッチを上げて頂きたいところである。)

《実験法の詳細(高岡)》
〔DABの溶かし方〕
これは九大の高木班員のとかし方をまね、Tweem20を使いました。
 100mlコルベンにDAB100mgを入れ、Tween20を5ml加えます。即座にとけます。これを100℃、30分で1昼夜おきに3回間歇滅菌し、さらに滅菌塩類溶液を45ml加えます。これを4℃で保存します。冷えると沈殿ができますが、温めればまたすぐ消えます。
〔培地〕
 牛血清(56℃、30分非動化済)20%+LD(Lhを0.5%にとかした塩類溶液D)80%に上記のDAB溶液を1μg/mlに加えます。
〔材料の取り方〕
 生後9日のラッテをエーテルで殺し(放血はしませんでした)、肝を無菌的にとりだしてシャーレに入れます。このとき塩類溶液で肝臓を洗ってはいけません。洗うと、あと組織片が壁に着かなくなります。さてこの肝組織をメス2本を使って、0.5〜1,0mm角位になるまで細切します。粥状にするわけです。これをピペットでRoller tubeの管壁に一面につけます。右図の(a)の幅ぐらいにぐるりとつけるわけです。生後9日のラッテですと、1匹の肝からRoller tubeが20〜30本できます。さて組織片をつけ終ったら、培地をすぐに入れます。各管1,5ml宛入れますが、組織片が乾かないようにすぐダブル栓をしめます。〔培養法〕
 37℃の恒温器で、約10rphの回転ドラムにさして培養します。4日間は培地をかえずにそのままおき、4日後にDABの入った培地旧液を全部すて、よく切ってから、DABの入らぬ新しい培地を1.5ml宛加えます。以後は2回/週に培地交新します。この間ときどき顕微鏡で観察し、migration或は増殖像に気をつけます。なお、観察のとき、細胞を乾かさぬようにする注意が肝要です。

 :質疑応答:
[佐藤]メスの代りに鋏を使ったらどうですか。
[高岡]組織片をつぶすおそれがあるので、メスを使わないと・・・。
[勝田]それもよくといだメスでね。鋏だと引きちぎってしまって、細胞がやられる。
[山田]pHの変化は?
[高岡]非常な稀釋液なので、DABをこの位入れてもpHには全く影響ありません。
[遠藤]エーテルで殺すとエーテルのeffectが出ないかしら・・・。
[関口]さっき山田班員のいわれた、DABがProteinにくっつくということは・・・?.
[山田]よく判りませんが、そのようなデータが出ています。
[関口]in vivoではfreeの形では作用しないんじゃありませんかね。

《堀川報告》
 1961年度の私の主な仕事は哺乳動物体細胞の変異性と耐性のメカニズムを追求するためにmouseL細胞を用いてやって来ました。用いたagent及び主な内容は従来この報告でも度度述べてきましたので、今更詳細に述べる必要はないと思います。
 ただこれらの問題は自分自身遺伝屋である故か、或る程度の興味をもって進め、又ある程度の結果を得る事が出来ました。然も現在最も力を入れている耐性のメカニズムを染色体レベルでその機能を説明しようと言う試みは、今後大いにやらねばならぬ問題と思っております。ここで大いに付け加えておかねばならぬ事は、これらの問題がin vitroでの発癌問題とどの様な関連性があるかと云う疑問に対して私自身大いに有りと認めますし、又一昨年のこの研究グループ出発の際にとり決めた私の計画分担をあの手、この手で押し進めて来た訳です。従って発癌に関して直接の関連性はなかったにしろ、私自身当初に計画した事は一応満足な結果は得られなかったにしろ達成しつつあるし、又これらの仕事で得た結果は今後の仕事に大いに利用出来ると思います。
 例えば、MitomaycinC、UV-ray、γ-rayの如きものは大まかに言ってその作用機構に類似性があり、然も一方L細胞、HeLa細胞の如き株化された細胞を少なくともこれらの要因で処理すると、もともとL原株細胞中にあった耐性細胞こそ或る程度pureな形でisolate出来るが、腫瘍化させる様な大きなActionは持っていないようだと云う事、然し、この腫瘍化出来ない原因が株細胞を用いたためなのか、用いた要因に起因しているのか、と云う問題に関しては未だに解答を得られません。
 でもこれまでに少なくともLiebermanの様にPuromycin、8-azaguanine、Szybalskiの5-Bromodeoxyuridineの様に種々のantibiotics、核酸前駆体等種々のagentを用いて仕事をやって来た人々がLやHeLa細胞で大きな変異を起し得たと言う報告を耳にも目にもしない所をみるとやはりDifferentiationの極致に達した株化細胞を用いる事は余りリコウじゃあ無さそうに思われる。結局発癌の問題に関しては現在伝研で成功しつつあるDABを用いてのPraimary cultureでの仕事のように何かの動物からPraimary cultureしたものを用いて勝負するのが手取早いと云う結論です。
 で今年の結果ですが、うちは3月に引越しがあると云う弱点はあるが、とにかく
(1)今年の発癌にはマウスの新鮮組織からisolateしたPraimary cultureでやります。これは私にとっては初めての試みですが、A)マウスCBA系の上皮性fibroblast(正常cell) B)300γirradiation後induceされたマウスCFI系の腫瘍細胞、の培養も試み結果はかなりうまく行っておりますので、とにかくやってみます。前述の伝研での仕事がかなり有望なので先ずそれを追試してから、うまく行けばしめたもの、うまく行かなかった場合には次に発癌にどの様な方法を使うかこれも考慮中です。種々の発癌剤、Chemical mutagenはもとより、うちでははやりTransformationやpinocytosisもうまく生かして使ってみるつもりです。
(2)従来のL細胞の仕事はもう少し発展させます。特に今後はこれまで苦労して確立させてきた各種耐性細胞を用いてその耐性のメカニズムと変異性の問題を解決したいと思っています。この問題は遺伝的な見地からの目的ばかりでなく、発癌の問題と取り組む際のテストケースとして私には又必要ですので。
(3)最後に計画しているのが人間の遺伝病を細胞レベルで分析証明したいと云う希望です。

 :質疑応答:
[勝田]いま"癌細胞を正常細胞に帰してやる"というような発言をされたが、これは"非腫瘍性細胞に変える"というべきと思います。本当に正常に帰す、なんてことは非常にむずかしいことですから。かって数年前に報告しましたが、肝癌AH-130から作ったうちの株、JTC-1,-2はラッテに復元接種するとかなりの致死率を示します。これは染色体数の主軸は、夫々51本と58本ですが、培養はずっと静置培養を使っていました。ところがこの株を3,000rphの高速回転培養に移すと、数代の内に腫瘍性がぐんと落ちました。何回やってみても同じような結果です。そこで高速回転の細胞をいろいろな面から、静置継代の細胞と比較したのです。染色体は高速ではどちらの株も38〜40本の辺がピークになっていました。これは株をラッテに復元したとき第2位になって現れてくる38〜40本と核型もそっくりです。そして正常のラッテの体細胞と数の上ではきわめて近いのですが、核型がはっきりちがうのです。つまりこの場合の腫瘍性の低下は、染色体数からも解糖や呼吸からも、さも腫瘍細胞が正常に戻ったかの如く見えますが、実は株の細胞集団のなかに、腫瘍性の低い細胞(染色体数38〜40)が混っていて、新しいaerobicな環境におかれて俄然ふえ出し、主位を占めるようになった、と考えるべきだと思います。また、そのような細胞集団のなかに、いわば"弱小民族"のような細胞が長く保護されている、ということも大変面白い問題と思います。
[佐藤]いまの高速回転の細胞はSingle cell cultureしたとき40本のばかりになりますか。
[勝田]腹水肝癌はどれも非常に細胞同志でくっつき易く、これをEDTAなどで処理しても一寸ぼやぼやしていると、すぐまたくっついてしまいます。がっちりaseなどを使うと細胞がやられ易く、仲々1ケからは生えにくくなるし、難しいのです。colonial cloningも重ねてみましたが、40本のcolonyの中にすぐ4倍体などがあらわれます。
 これは余談ですが、癌の治療について、いま二つの大きな途があります。(第1)は直接細胞を薬剤などで叩くことで、(第2)は担癌宿主の抵抗力を強めることです。(第1)の方では、癌の突然変異由来という点から考えても、当然その性質に千差万別のあることが想像されるし、また事実、各種薬剤などに対する抵抗性の相違、あるいは耐性細胞の混在などが見付けられてきている訳です。しかも正常細胞の中にも分裂している細胞が色々ある。これらの点から考えてみて、現在(第1)の途をとっている人がかなり多いけれど、このルートをとって成功する可能性は非常に低いのではないか、という気がします。私個人としては(第2)の方が成功の見込があるような気がしています。例えば腫瘍を動物に接種する場合を考えてみましても、その動物の抵抗に2種の段階があると思います。仮にそれを第1次抵抗と、第2次抵抗とよびましょう。第1次抵抗というのは、たとえば異種移植のときなどによく見られる現象、つまり植えてもつかない、はじめから持っている抵抗のことで、第2次抵抗というのは、癌をうえてしばらくしてから出てくる抵抗、つまり一種の抗体のようなもの、と考えてよいと思います。この場合、第1次の方を変えるということはいわば正常構成を変えることで、反って発癌の危険などが起るかも知れないし、むずかしいでしょうが第2次の方を強めるということは可能であると思います。
 腫瘍性が極端に高くはない腫瘍、たとえばAH-130などはinoculum sizeがあまり少ないと、それがついて宿主をたおす%がかなり低くなります。たとえば右図で、A位の数をIPしますと、B位までは一旦ふえても、やがてそれが減り出し、Cのように下ってしまい、その動物はさらに強い抵抗力をもつようになる。いわば免疫が成立して行きますが、Bの辺まで行ったところで、この腫瘍細胞をとり出して別のラッテにIPに入れますと、B'→C'のように、第二次抵抗のできる前に腫瘍細胞はどんどん増えて動物を倒すことができるわけです。つまり100%takeするかしないか、そこにX−Yのような限界量が考えられ、できてくる抗体とそのときの腫瘍細胞数との比によって、第二次抵抗の成否が決まってくると考えられます。
 なお、このBをB'にして移すというtwo-step transplantationは培養細胞などのように数が少ないとき応用すると有効です。
[堀川]マウスの悪性腫瘍で培養株になったのはありますか。すぐ復元できるような・・。[佐藤]私のところのEhrlichの株がありますよ。
[堀川]培地は?
[佐藤]血清1%〜50%(どちらも復元可能)、あとLYEです。血清量をおとすと、どうも成績が悪いようです。Inoculum sizeにもよりますが。もう一つ、TCと動物継代をくりかえした系があります。染色体数は少なく、増殖も悪いのですが・・・。X線で叩くと染色体数が減りますが、これは増殖が悪くなります。染色体数と増殖度とは関係があるような気がします。
[堀川]私のところでは2/3の染色体が大きく太くなっているMutantがあり、やはり増殖は悪いです。DNA/cellの量をしらべたいと思っています。
[佐藤]染色体数と悪性度は無関係で、動物に復元すると、初代は悪性度が低く、段々に高くなってきます。latent periodが短くなるわけです。長く培養すると悪性度が落ちるものかどうかしらべてみます。またL株の場合、これが動物につくようになったら、腫瘍の概念が変るだろう。
[堀川]Chemical mutagents+L細胞の悪性化という可能性も同時に考える必要があるのではないですか。

《山田報告》
ORGAN CULTUREについて:
Lasnitzki,I.
:Precancerous changes induced by 20-methylcholanthrene in mouse prostates grown in vitro. Brit.J.Cancer,5,345,1951.
:The effect of estrone alone and combined with 20-methylcholanthrene on mouse prostate glands grown in vitro. Cancer Res.,14,632,1954.
:The effect of testosterone propionate on organ cultures of the mouse prostate.J.Endocrinol.,12,236,1955.
:The effect of 3:4 benzpyrene on human foetal lung grown in vitro. J.Path.Bact.,71,262,1956.
Franks,L.M.
:A factor in normal human serum that inhibits epithelial growth in organ culture. Exper.Cell Res.,17,579,1959.
Trowell,O.A.
:The culture of lymph nodes in vitro. Exper.Cell Res.,3,79,1952.
:The culture of mature organs in a synthetic medium. Exper.Cell Res.,16,118,1959. Organの培養はとくにaerationに注意。成熟動物の臓器はとくに酸素を要するので、酸素+5O%炭酸ガスを送って培養する。できるだけ小さい臓器がよい。
 今回はorgan cultureの技術の紹介にとどめます。J.Paulの教科書にも比較的よくかかれています。

《高木報告》
1.発癌実験
 1)DAB
i)JTC-4株細胞に昨年6月以来DAB 0.1〜1μg/mlを作用させ続けて来ましたが、昨年11月中旬、細胞の増殖が悪くなったので(DABの作用によるか否かは不明)普通培地に戻して培養をつづけ、本年1月26日より再びDAB1μg/mlを作用させ始めました。と云うのはhamsterが増殖して被接種動物側の受入態勢がやや整って来たからです。形態学的変化は前々回の班会議の際にスライドで御見せした程度のものです。
 さて復元ですが、それに先立ちhamsterのcheek pouchに移植してみたいと思っています。移植もこれはFoleyらの追試の様なことになりますが、JTC-4、HeLa、Liver(chang)細胞などの株細胞について一応malignancy?(移植率)のtitrationを行い、ついで発癌物質を作用させた細胞の移植を行ってみる積りです。
 hamsterはcortisone treatedのものを先ず用い、うまく行ったらuntreatedのものを用いたいと思います。Cortisoneの量は2〜3mgで接種直後に更に3日おきに2回、この量を注射する予定です。
 ついで復元する積りですが、純系の動物が中々入手困難で、雑系ではどうかと思われますので、その点を考えねばなりません。
ii)ratの組織のprimary cultureにDABを同様作用させる積りでいます。これは勝田班長の追試と云うことになるかと思います。濃度は1μg/mlで作用期間は細胞の増殖の仕方にもよるでせうが、大体2〜3週間と云った処でしょうか。但し、私共の処のratはWistar-kingですが、これでよいものでせうか。組織はsuckling ratの肝とembryonic ratの皮膚組織を考えています。なお先日遠藤班員より御話しのmethylDABも是非用いてみたいと思っています。
 2)Stirboestrol
 培養組織としてhamusterの腎と一応JTC-4細胞も用いてみたい。hamsterの腎はplasma丈を用いて組織片をガラス壁にくっつける方法とtrypsinizeする方法と両方で培養してみたい。用いる濃度は先にratの腎でtestした処では0.1〜1μg/mlの予定です。これはアルコールでないと完全に溶けませんが、この前も遠藤氏が云われた様にアルコールそのものの障害作用を考慮に入れて、やはり濃い処丈をエタノールに溶かして、あとの稀釋はよくdisperseしながらsalineで行いたいと思います。
 作用期間はprimary cultureであることを考え、まず2週間位作用させ、細胞が更に増殖する様であればまたintervalをおいて作用させる様にしたい。移植、復元はDABの場合と同様に行う予定です。
但、stirboestrolの欠点としてin vivoで発癌に6ケ月乃至1年もかかることです。以上2つの発癌剤について主として検討する積りですが・・・。次の4NQOについても検討したいと思っています。
 3)4NQO
 これはこちらの癌研と共同の仕事になると思います。
 培養組織としてmousuの皮膚、肺、肝、など一応考えています。また細胞に10−5乗から−6乗Mの濃度を作用させた際、封入体様物質を作る細胞とそうでない細胞との運命を追求の予定です。
2.免疫学的研究
 概略は前回の班会議で報告しました。
 これからの方針として
 1)C.P.、凝集反応、血球凝集反応、蛍光抗体法などを用いて更に多くの種族に由来する株細胞についてspecies specificityを検討すると共に、2)Organ specificityを追求する意味でもantigenのpurificationにつとめたい。前回の失敗にこりて今度は出来る丈多くの細胞を得るべく大量培養を試みています。そしてsolble antigenの硫安分劃、microsome fraction、NucleoproteinにつきImmunoelectrophoresisなどにより検討して行きたいと思います。目下、JTC-4細胞及びchang肝細胞の免疫中であり、またFL細胞の増産にこれつとめています。
3.その他の実験
 1)無蛋白培地内培養
i)L細胞、目下Protein free mediaに移して19代目7ケ月になります。100または50mlナス型コルベン内での増殖が一番よい様です。TD40などでやりますと、日が経つにつれて細胞が浮いてきます。この浮いた細胞をとってもう一度高速回転培養をやってみようかなどと考えています。マリモの様になるかも知れませんが・・・。
ii)HeLa及びChng肝細胞についても2%牛血清加培地と0.1%PVP加無蛋白培地とで交代に培養をつづけています。
 これらprotein free mediaで培養した細胞と普通培地で培養した細胞について移植性の差異も調べてみたいと思っています。
 2)Orotic acidの株細胞に及ぼす影響
 前回の班会議以後、FL、HeLa細胞についても、その増殖をおとして効果を検討しましたが、やはりこれらの株細胞には促進効果はみられませんでした。

 :質疑応答:
[勝田]メチルDABというのは遠藤君の誤解で、問い合せましたらやっていないそうです。それからDABによる発癌実験はさっきもお話しした通り4日間で良いのです。あまり長くやりすぎると反っていけないのではないか、つまり変わった細胞がやられてしまう可能性があると思います。とにかく私どもの方法の最大のミソは、正常細胞を増殖させないで生かしておきますから、若し変った奴ができるとすぐ判るわけです。つまり増殖してくる細胞ができる、というのは細胞が変化した証拠なのですから、初期変化をつかみ易い訳です。肉眼でみていても、組織片が丸く、すき通ったように、キラリと光って見えます。そういうのを狙って顕微鏡でみます。大抵その周囲に増殖細胞が見付かるのです。
 それからラッテですが、復元接種することを考えますと、やはり自分の研究室で繁殖させて同腹の仔に(兄弟に)返してみるようにした方が成功率が高くなると思います。

《遠藤報告》
1)HeLa株細胞:
 a)Progesteroneについてこれまで主にしらべてきましたが、今後は b)Testosteroneの仕事からAndrogenへ、またさらにAnabolic steroidへと進み、Anabolic steroidを酵素レベルでしらべたいと予定しています。また産婦人科の小林教授に、正常と癌の子宮粘膜をもらうつもりです。
2)間葉性組織の代謝:
 Mucopolysaccharideの代謝や、骨(軟骨)でもChondroitin硫酸にS35をラベルしてしらべてみたいと思っています。結締織とcarcinogenesisの関係は何かあるでしょうか。例えば結締織のないCorneaには癌ができにくい、といったことなどから・・・。

 :質疑応答:
[佐藤]組織学的には癌組織と結締織との間には相互作用がありますね。腹水腫瘍の場合には、多形核白血球→単核細胞→腫瘍細胞の純培養といったコースをとります。しかし結締織とcarcinogenesisとの関係のデータは未だ見えていません。
[遠藤]私はそれをやってみたいと個人的には考えています。
[高橋]癌組織には蛍光物質がつき易いのですが、これは結締織についていますね。
[遠藤]なおこれ以外にCarcinogenesisの研究ですが、これは目下形態学の勉強をしています。

《伊藤報告》(事後提出)
 ☆腫瘍のS2分劃の仕事は以前の報告で申し上げました様に、trypsinizeして、resin column IRC-50を通過させるところで、4つの分劃に分け、そのIII分劃に活性を認めましたが、此の際やや活性の低下を来しますので、その点の検討を行っております。
 但、従来使って居ましたS2分劃が品切れとなって、別の人肝癌のS2について同様分劃を行いましたところ、280mμの吸収パターンに少し差異が出て居ます。ニンヒドリン反応でのパターンは殆ど同型です。この分劃の夫々の活性は現在検定中です。
 ☆発癌実験は勝田先生のところで成功されたようですので、早速追試を致します。又、別に当方では培養の際のgas-phaseに少し操作を加えて、実験してみたいと思います。使う細胞は最終的には勿論primary cultureのものを用いますが、暫くは株細胞も併用する事になると思います。
 ☆次に此れは報告から少し離れますが、先月の綜合班会議での勝田先生のお話しに此の席上で、もう一度お答えさせて頂きます。
 我々のS2分劃がL細胞に対してしか促進作用を持たないと云う事でしたが、此れは培養細胞に対しては仰せの通り、L及びL・P1に対する効果しか検して居りませんので、誠に片手落ちであり、今後、腫瘍細胞を含めて、他の培養細胞に対する効果も検討する積りで居ります。但、現在までに他の研究者の行った結果で"in vitro"で正常ラッテ肝切片のRNAへのC14-orotic acidのuptakeをも促進すると云うはっきりとしたデータが得られて居る事を御報告しておきます。この作用はtrypsin処理して、IRC-50を通過させた分劃にも認めて居ります。それから、アルコール分劃の際の関口さんの御忠告は、今後充分注意致します。
《奥村報告》(事後提出)
A.組織培養による細胞の変異
 1)Monkey及びRabbit kidney cellの増殖
 MonkeyとしてはGreen monkeyを用い、消化はBodianの方法を若干変えた方法(既報)で細胞をばらばらにし、培養する。細胞がガラス壁に完全にmonolayerになった時にtrypsinizationで継代する。サル、ウサギのいづれも初代から3代位では明らかな増殖を示すが、その後はあまり増殖が良くないばかりか逆に減少することが多い。(細胞数計数による増殖カーブで示す)
 又、細胞数と血清濃度の関係をみると、細胞数の少ないときに高濃度を必要としていたのは興味深い(増殖カーブを示す)。なぜこの様な実験を試みたかは、一応血清の細胞増殖に与える影響をみて、増殖と染色体数の変異性と検討したかった故。
B.HeLa株細胞の凍結前後の染色体数
 凍結後のHeLa株細胞の染色体数は6代目まで観察した結果からは変化は見られないが、多倍体の細胞が凍結前より若干減少しているのが目立つ。その他は殆ど変化がないと云い得るであろう。しかし、もっと先になって変化が出てくるかも知れないので長期間、核型も併せて観察してゆきたい。

【勝田班月報:6204】
《勝田報告》
 A)発癌実験
 前月号に引きつづいて、ラッテ肝←DABの組合せだけで発癌実験を何seriesも出発させている。当室の実験No.ではこれらは"carcinogenesis"の分類に入るので、以下に示す実験No.は4ニトロキノリンのときからの続きNo.と考えて下さい。但し括弧の中にDABでのNo.を入れておきます。それからこれは一つの提唱ですが、お互いにdataを互いに理解しやすくするため、実験日のよび方を[培養開始の日を第0日]とし、以后[第何日]という風に記載する。たとえばはじめの4日間DABを与えたのだとすると(図を呈示)、第0日の午前0時に実験開始する訳ではないから、頂度[4日后]という数え方と同じ数で第何日と考えて良い訳です。以后の細胞の観察も復元日などの記載もすべてこれにつづいての第何日で通したいと思います。さて、それでは当室の仕事の報告に入ると、
 #C5(DAB-2)(1962-1-11=0日)
 前号に報告した通り9日ratの肝を用いたSeriesで、実験群に6/6本cell coloniesの新生したときのものであるが、その后新生細胞の増殖率が次第に落ちたので仲々必要量の細胞が手に入らず、結局前報のAのlineだけが残り、これを第63日(1962-3-15)に、一部を(約100万個)、48日♂ratに腹腔内接種した。このratは4月9日現在で接種后25日になるが生存して居り、腹腔内の細胞も宿主側の細胞に囲まれて次第に消えてしまったように思われる。但しどこかにfocusを作っているか否かは不明。接種した残りの細胞は同日短試にsubcultureし、継代第5代に入ったが、わずかながら現在まで増殖をつづけている。
 #C6(DAB-3)(1962-2-4=0日)
 9日rat肝を用いてはじめたseriesで、前号月報に記したように、第2日目からmigrationがはじまり、実験群、対照群とも第5日6日頃から急速に細胞増殖のおこった系である。第39日に(3月15日)100万個を同腹♂rat(このとき生后48日)の腹腔に接種し、4月9日現在で25日目になるが上と同様にratは生存している。第39日にやはり残りを短試に継代し、3代目に入った。これも実験群、対照群ともわずかながら増殖をつづけている。
 #C7(DAB-4)(1962-2-23=0日)
 1.5月ratの肝部分切除を行ない、ratは生かしたまま肝切除片を培養に入れた。この系では第12日(3-7)に実験群3/7本に各1ケ宛の増殖colonyを発見。第26日(3-21)には実験群は7/7本、対照群は1/7に何れも各1ケの増殖colonyあり。第45日(4-9)では、実験群の各colonyは少し宛大きくなっているが、まだsubcultureできるほどにはなっていない。細胞の形態は#C5、#C6のときと似て実質細胞様である。
 #C8(DAB-5)(1962-3-14=0日)
 これも1月ratの肝部部分切除で肝組織片をとったが、それこそ"肝腎"のratの方が術后しばらくして創口にペニシリンをたらしたところペニシリンショックらしく急死してしまった。培養はそのまま続けているが、実験、対照各8本宛とも第22日(4-9)に至るも全く増殖がみられぬので、培養を中止した。
#C9(DAB-6)(1962-3-20=0日)
 1.5月ratの肝部分切除。第20日(4-9)現在で実験、対照群各10本宛共に未だ増殖なし。
 #C10(DAB-7)
 1.5月rat肝部分切除。第13日(4-9)、実験群、対照群各7本宛未だ増殖なし。
 実験は以上のようにつづけているが、Operationするにはどうしても1月以上のratでないと難しいので、今后は生后20日位のratのliverもやってみて、これは同腹の仔に復元するようにしたいと思っている。当室ではこの発癌実験に重点をおいているので、現在のところでは次に記すサルの腎の株細胞の栄養要求の他はほとんど仕事をすすめていない。
 B)サル腎株細胞の栄養要求
 Cynomolgus(カニクイザル)腎を細胞株を1株樹立し、MK-D1と仮称、先般Poliovirusに対する感受性をしらべたところ、I型強弱両系に対し陽性(但し初代培養より少し劣る)。この5月の培養学会に出題の予定。この細胞を無蛋白培地でふやそうとするが仲々ふえず、血清蛋白を抜くと1日の内に細胞質がやせてしまう。そこで全血清をトリプシンで消化して透析し、その外液をPVP培地に加えたところ4日后はやせずに中等度の増殖をするが、以后7日にかけて、またストンと増殖曲線が落ちてしまう。何とかせめて7日間はもたせたいので、今度は血清蛋白の電気透析した外液を加えてみたいと思っている。蛋白を丸ごと利用する訳でもあるまいし、また培地にLhも入っているのだから、恐らくアミノ酸以外の(若しアミノ酸とすればunknownの)、蛋白に結合している何物かを必須としているらしい。これまでの細胞に比べてとにかく余り面白いので、その方の興味からもこの仕事をつづけている。また同時に、この株には染色体数42本位のと、60〜80本のとあるので42本(normalと近頃されている)位のをColonial cloneで純系を作りたいと努力している。

《高木報告》
 今回は本年2月以降に行ったin vitroの発癌実験の経過を主として報告します。
 1)発癌実験
培養法:廻転培養法(roller drumは医学部中央検査室のものを借用)plasma clotは用いず。培 地:80%LT+20%牛血清、PC.SM.は原則として用いない。培地交換は4日毎に行う。
発癌剤:DABは1μg/ml、stirboestrolも1μg/mlの最終濃度になる様に稀釋する。
    稀釋の仕方は既報の通り。
 (1)第1回目の実験は2月24日にスタートした(Wistar King ratの肝←DAB)。2疋の生后
48日目のrat(1、2とする)の肝を培養してみた。始めは肝を切出したhostのratを生存させる積りであったが、残念ながら2疋共術後1〜2日で死亡した。切出した肝切片に一寸PC.SM.液をたらし、すぐにこれを除いて、直ちにメスで細切し培養した。
 対照群(K1とK2)各6本ずつ、DAB作用群(D1、D2)各6本ずつで、全部で24本培養した。DABの作用時間は4日間で、2月28日以後はDABを含まない培地で培養した。8日後の3月4日には、ほんの少し細胞の生えかかっているものがあり、その生えかかっているroller tubeの数は、K1、3/6(6本中3本)、D1、5/6、K2、0/6、D2、1/6であった。そして少なくともこの時には、DABを作用さしている群に生えている細胞がepithelioidの感が強かった様に思われた。
 3月10日(14日目)にはK1、6/6、D1、6/6、K2、3/6、D2、5/6に生えており、生えている細胞はsheetを造らず、fibroblasticの感が強くなった。
 以後少しずつ増殖を示し、3月30日現在D2に1本生えていない丈で、殆どのroller tubeに多少の差はあれ(図を呈示)間質細胞?を主体とするものが増殖している。そして対照群と作用群との間に何等かの有意の差は認められない。
 なお、K2、D2群がK1、D1群より細胞の発育が悪いのは、K2、D2群は肝を切出す際に一寸不潔になった心配があったので、3月23日の培地交換まで、培地中にPC.SM.を入れたためかも知れない。
 また別にタンザク用に静置培養したものでは、この様な細胞の生え方はきわめて悪い。 (2)第2回目の実験は3月9日にスタートした(golden hamster←stirboestrol)。
 培養組織は生后24日目のgolden hamsterの肝と腎とである。培養方法は上と大体同じであるが、腎の培養にあたっては被膜を可及的取除いた。腎は対照群、作用群各7本ずつ、肝は各5本ずつで、計24本培養した。
 a)腎:3月14日培養5日目にstirboestrolを含まない培地で交換したが、この時すでに
apithelioid cellsが増殖しているものがあり、fibroblastはわずかにまざってみられた。3月17日再び1μg/mlのstirboestrolを作用せしめ21日に再び元の培地に戻した。つまり計9日間作用させたことになる。以后は残念ながらfibroblastが優勢になり、3月30日には殆どがfibroblastと思われ、epithelioid cellは完全におきかわった様である。生え方は良好であるが対照群、作用群間に有意の差は認められない。
 b)肝:薬剤の作用させ方は腎の場合と全く同様である。始の間、肝の場合には腎とことなり細胞の増殖は殆どみられなかったが、3月24日つまり培養15日目に至り、作用群の2本にepithelioid cellsが、対照群の2本にfibroblast-like cellsがわずかに増殖している様であった(migrationと区別つきにくい程度)。しかしそれから1週間後の3月31日には対照群では2/5にわずかにfibroblast-like cellsが生えているのに対し(この中1本はmigration)かも知れない)作用群では4/5に明らかなepithelioid cellsの増殖がみられた。これら細胞は"眼をギョロギョロ"させた様に薄く(生えて)ついている肝細胞の周辺から同心円状に増殖しているものが主で、1本は島状に増殖しているものもあるが、対照群とは現在の処明らかな差がみられている。なお作用群の生えていない1本はcontamiと思われる。
 (3)第3回目の実験は3月27日に培養を開始した。(Wistar-King rat←DAB)前回(第一回目)の実験では用いたratがやや大きすぎた感があるので、今度は生後11日目のものを用いた。対照、作用群共各10本ずつ培養し、3月31日に培地を交換したが、本実験ではDAB 1μg/mlを8日間作用さす予定である。今までの処まだ細胞の増殖は両群共全く認められない。慎重に観察の予定である。
2)移植実験
 3月2日にFL、JTC-4、HeLaS3株細胞を大体200万個levelでgolden hamsterのcheek pouchに移植してみた。hamsterは100g程度のものが揃わず、60g〜150gのものを合せて5疋用いた。cortisone acetateは2〜3mgを移植直後と以後2日おきに2回行った。
 1ケ月後の4月2日、FLは2/4に小指頭大の腫瘤、JTC-4は1/2に1.5x2mm大の腫瘤、HeLaS3は2/4に米粒大の腫瘤が認められた。但し、分母は移植されたcheek pouchの数、分子は腫瘍を生じたcheek pouchの数を示す。
 この実験は予備的なもので、兎に角この細胞数で腫瘤が出来ることが分った。接種するhamsterの大きさ、細胞の培養日数など考慮しなければならない。なお3月31日、Chang'livercellを400〜500万個100gのhamster3疋の両cheek pouchに移植し、検討中である。
 この移植実験が軌道に乗り、techniqueになれて来たら、上の発癌実験の細胞を移植する予定である。

 ☆《Praimary Cultureとメス:勝田》
 発癌実験を総員(おそらく?)ではじめてから、あちこちでどうも生えが良くないとか、色色の苦情をきかされる。この主な原因は私はメスの使い方に在る、と思う。株細胞ばかり使っているとメスなんかまるで用がないが、一たびprimary cultureの世界に踏み出すと、そこはもうメスなしでは殆んど歩けないような荒野である。key pointsは二つで、1)よく切れるようにとぐこと。2)メスの切り方。組織片を鋏で切ると、鋏の構造をみれば判るが、組織片を刃でひねってちぎるわけである。しかも刃がかなり厚い。良くといだメスで刃を2本ぴったり合わせて切れば、殆んど障害を与えずに、"切る"ことができる。実際に色々な組織片のprimary cultureをやってみて、これが最も重要なfactorになっていることが判る。伝研のtraining courseでは、最初のcourseでまずこの辺の練習を充分にさせ、しかも最后のcourseでもう一回仕上げをやる。自信のない人は、どうですか、chick embryo heartでも切って培養してみませんか。explantの全面から均等に細胞が放射状に出るかどうか。ちぎり潰した面からは出ませんから、自分の腕のテストにはもってこいですよ。

《伊藤報告》
 久留先生は3月25日離阪されました。
 後任教授も決まらない今、吾々としては何となく気が抜けた様で、いささか落着かない毎日です。
 又癌研内での吾々第二外科医局員の立場も仲々複雑で、従来の様に我儘も云えなくなりさうですが(資金の面でも)、何と云っても此の培養室は吾々で始めたものですし、やりたい事はどんどんやる積りです。
 ◇最近のDataですがJrypsin処理したS2分劃をIRC-50 Resin Columnを通し、素通りした分劃の効果の検して居るところまで報告したと思いますが、この分劃のactivityが人肝癌のものと、AH-130のもので、少しく異る様で、此の点現在尚検討中であります。このあたりで、正常肝との差もはっきりしさうな気がします。5月の会合の時には何かはっきりしたものをお報らせ出来ると考えて居ます。
 ◇次に発癌実験の追試ですが、生后8日目、13日目の2種類のラッテを用いて行い、現在夫々21日目、13日目になりますが、どうも細胞が生きて居る様子に乏しく、培養technicに未熟な点があるものと考えます。今后材料のあり次第実験を行ってみます。
 ◇当方で予定して居る発癌実験は今CO2-incubatorを作らせて居るところですので、それが到着次第開始し度いと考えて居ます。

《堀川報告》
 放射線医学綜合研究所の名称でこの月報に報告するのも今回が最後で、次回からは京都大学からお送りして皆さんとお目にかかりましょう。
 問題1.耐性獲得のメカニズムと変異性の遺伝生化学的研究について、その後得た結果は今回は省略します。
 問題2.DABの追試実験。DABが発癌に最も有望だという勝田研の仕事を直ちに追試しております。用いた試薬及び血清濃度も総て勝田研のそれに習いました。用いた試薬はマウスのCBA系のAdult♂の肝臓です。全く同様の方法でメスで細切した組織片をtubeに塗りつけ回転培養しております。Controlは80%YLH+20%BS。Experimentは80%YLH+20%BSに
final conc.が1μgDAB/mlになる様に加える。
ところが前回まで行って来た静置培養の様にControl区もExpt区も細胞の増殖がみられないのです。確かにControl区に比較してExpt区のものの方が培地が酸性化するのが早い様で、これは確かにExpt区の方がCellの活性度の高いことを示している訳です。勝田研のものと異っている点といえばマウスへの復元を早くするため細胞を大量に集めたいという希望から、50ml用の短試に組織片を大量に塗りつけて回転培養してDABの効果をみた訳ですが、どうも第一回目の実験は有望な結果は得られませんでした。回数が少いだけに文句は今のところ言えませんが、直ちに次いで静置培養と回転培養を併用して考えられる原因を考慮しながら追試します。考えねばならぬ最大の問題はどうして回転培養の方が静置培養よりControlでも細胞の増え方がわるいのか、確かに回転培養の方が組織のはげが少い利点はあるが、私の経験では少々はげても細胞の増殖からみると静置培養の方がよいようだ。とにかく直ちに繰り返します。
 問題3.これは新らしく手がけた仕事です。体細胞でのTransformationについては2、3の報告はありますが、実際に情報伝達のにない手であるA細胞のDNAを主体とする核酸成分を抽出して全く遺伝的Characterの異ったB細胞に与える事により完全にA細胞に変える事は困難で、従来私自身大いに困らされて来ました。
 思いついたのがCellのpinocytosisの原理で、正常細胞(現在は実験の系を確立するためマウスのL系細胞使用、これは抗体産生能力の無い事からむしろ実験に適する、将来は
primary cultureのcellを使用する)と癌細胞(岡大・佐藤二郎助教授より分譲されたものでマウスのEhrlich癌細胞)という染色体数をはじめあらゆる諸形質からみても明確に遺伝的特異性を異にしたものを用います。
 目的は正常細胞の細胞質内へ癌細胞から取り出した核を喰い込まし、この正常細胞の細胞質をかりてとり入れた核の分裂を起し、癌細胞を作りたいのです。癌化して来たかどうかはマウスへの復元テスト以外染色体数などいくらでも決め手はあります。これがうまく行く様になれば喰い込ませる核を分劃して低次のものとして次第にそのメカニズムをつかみます。貪喰実験は比較的有望な結果が出ております。L細胞はEhrlichの核を喰い込みますが、その逆は不可能です(これは好都合)。又同じL細胞でも私の所の耐性細胞の種類によっては喰い込む耐性と喰い込めないものがあります。この辺りの現象は非常に興味があります。生きた核を完全に喰い込んだか否かのtestはP32でlabelした核でAutoradiographyを取ったためにみごと失敗しました。直ちにH3-thymidineに切りかえて結果を待っています。 問題は喰い込んだ核が本当に分裂するか否かを決めることで土井田君と四苦八苦やっておりますが、例えばEhrlichの核を喰い込んだL細胞ではコロニーの作り方などがEhrlichのそれに非常に似てくるなど、或る程度期待はもてそうです。
 あの手この手をかえて分裂させてみます。しばらくお待ち下さい。

《佐藤報告》
 組織培養による正常及び腫瘍細胞の細胞病理学的研究
 1)組織培養されたエールリッヒ腹水癌JTC-11を用いてCb系マウスを皮下免疫した后、20日放置して腹腔から本来の動物株を1000万、200万、40万接種すると著明な生命の延長が見られる(表を呈示)。JTC-11接種群で生存中のものは現在60日に達している。
 順序が逆になったがJTC-11で免疫し20日置いて腹腔内へJTC-11細胞を200万宛移植すると、対照は17日3例、20日1例で6〜7mlの腹水腫瘍を生じて前例死亡したが、免疫群4例は前例腹水の発生を見ず生存した。生存例は后に更にJTC-11で免疫しOriginalの動物株エールリッヒ癌細胞に対する抗腫瘍性をためして後、動物株エールリッヒを1000万皮下移植したが腫瘍の発生は認められなかった。
 同様の免疫をCb系マウスでL株で行い20日放置后JTC-11を200万細胞腹腔接種すると対照は13日2例、19、21、23、24日各1例宛、腹水を生じて前例死亡した。免疫群は18日1例死亡したのみで、2月末現在60日間異常は見られない。
 現在、牛血清、Cb系マウス肝、L株、HeLa株、JTC-11死細胞等々について抗腫瘍性の判定を研究員野田が担当して行っている。
 2)無蛋白培地でのJTC-11の増殖株
 昨年7月来行って来たが、漸く60日培養に成功し増殖率の問題や動物への移植性が試験される段階になった。勝田さんのL・P1に当る細胞です。アミノ酸消費については栄養短大で実験中ですが、ロイシンの消費が著明との事です。PVP+LYE亜株を作るには矢張り細胞を多くして行う法が有利の様ですし、勝田さんの云われる様に交互に血清を入れて行う方法、或はPVP+LYEで多量の細胞でMCだけ続け、極めて少くなった所で1%血清を入れ増殖せしめた後PVP+LYEのみでMCだけ続け増加した所で半分だけラバクリナーでおとし継代すると、継代も成功するし更にとった後の部にも比較的早くPVP+LYEadapt細胞が増加して来ることがわかりました。
 3)ラッテ奬膜細胞?の培養について
 生后9日目のラッテの腹腔へ0.25%PBSTrypsinを注入して後、開腹して同様のPBSTrypsin液で腹腔を洗って細胞を集め50%牛血清+YLEで培養すると極めて早い時期から増殖率のよい細胞が得られた。
 現在3ケ月に達し増殖率は13000細胞/ml〜92000細胞/mlで6日間、48.9倍〜8倍である。細胞はsheet様にならぶこともあるし、梁柱状にならぶ事もあり、更にノイリノーム様に唐草模様の構造を示す事もある。継代后日数を経過するとSudan に黄色に染る美麗な顆粒が現われる。単球の様なノイトラルロゼッテは見られないが核側に明庭を表す事がある。
 4)吉田肉腫は血清量を少くして継代することが現在の所未だ成功していない。之は主として現在の培地で電子顕微鏡をとっています。
 5)C3H乳癌についてはprimary cultureは確実に行きますが株は仲々作れません。原因がどうもTrypsin処理にある様ですので、濃度、pH、時間等について一人かかっています。
 6)DAB実験
 3月中に6回行いました。生后1.5〜2ケ月の呑竜ラッテをエーテル麻酔して肝を切りとり、夫を材料として行い、ラッテは生存させて復元の材料としました。現在夫々観察中ですが、全般的に増殖が悪く勝田さんの様な結果が出なくて困っています。但、今迄行った実験の内で明らかに肝細胞の増殖と思われる物が出ている事。小生の実験でメス細切の方法のまづかった事。ガラス壁附着の方法が清掃或は放置時間において欠陥のあった事。等々がかさなって美麗な結果が出なかったと思います。観察は続けますが、悪いものは省いて良いものだけ復元用にとっておいて、更に元気を出して4月中に方がつく様に本実験にかかります。結節が出来た塊は外から見ると周囲がみづみづしく見えて来る事を附加しておき、詳しい事は次の月報にします。

【勝田班月報・6205】
《勝田報告》
A)発癌実験:
 前報で(C-10)の実験までの結果はお知らせしましたので、そのあとのをかきます。 
 #C11(DAB-8)
 Ratがあまり年をとりすぎているとどうもExp群の生えが悪いらしいことに気がついたので、この実験では生后19日のratを用いた。培地は前と同じで、DABはやはり初めの4日間作用させた。第12日にExp:2/5、Cont:0/5の細胞増殖を得て、Exp群の方は現在継代第2代に入って居り、TD-15瓶3ケになっている。5月10日現在で総日数は28日。
 #C12(DAB-9)
 生后25日のratを使用。DABは4日間。第14日にExp:2/5、Cont:0/5の増殖。
5月10日で総TC日数14日。
 [注意]
 これらの"増殖"とはすべて上皮性の小型の細胞のことで、箒星状の動きの少い細胞は"増殖なし"の方にも若干出ている。しかし后者の細胞はまずこの研究の場合問題になるまい(結果一覧表を呈示)。なおNo,6203の月報の2〜3頁のあたりをもう1回よくよんでみて頂きたい。新生細胞の形状について記してある。
 表をみて気が付くことは、肝部分切除の容易な生后1.5月のratでは陽性率がきわめて悪く、#C7の実験だけが成功している。それと、新生細胞のあらわれるのが、第12日目あたりが圧倒的に多いということである。目下このExpに最もふさわしいratの日齢をしらべているところであるが、それはratの種類によって差がありそうな気がする。また上の新生細胞のあらわれるにも差があり得るのではなかろうか。この研究には、やはり買ってきたratをすぐ使うのではなく自分のところでbreedingをして生ませた仔を使うのでないとうまく行きにくいのではないか、という気がしてきた。なお上のExpはすべて当室のJARを使っている。 #C5、C6、C7の増生細胞は現在TD-15瓶の底に実にきれいなCell sheetを作って、復元を待っています。
 B)ラッテ正常肝細胞の栄養要求:
 これは発癌シリーズの第1報として、6月末病理学会で発表するためやっているExp.であるが、Roller tubeで2日間liver explantsを培養した后、Rubber cleanerでかきおとし、80及び150メッシュを通して短試に分注、静置培養している。Ratは20日〜1月のものを使っている。ところが細胞のmaintainはよくされるのだが、おどろいたことには何をやってもさっぱりふえて来ない。血清を牛、Rat、馬、兎、再生肝のRatと変えてみても同じ。Rat EmbryoExtractを0、5、10%と加えてみても同じ。ビタミンB12を0、1.5、3、15μg/lと加えても全く同じ。全くあきれ返ったもので、目下最后のチエをしぼっているところである。
 C)仔牛と成牛の血清の比較:
 HeLaとMK-D1株でしらべたが、MK-D1では差がなく、HeLaでは4日、7日后に仔牛の方がわずかに良い。しかし無理して仔牛に変えるほどの良さではない。7日間のcell countingによる。 D)サル腎MK-D1株細胞の栄養要求:
 どうも数ケ月前とは細胞が少し変ってきたようで、(PVP0.1%+Lh0.4%+D)の培地で前には細胞数が減ったのに、4月14日からの7日間TCでは、きわめてゆるい上昇曲線を示している。今回は牛血清の透析内液(蛋白)を電気透析し、その外液をこのPVP培地に加えてみた。(+)(-)各側の外液を単独に加えたのでは殆んど影響がない。両外液を合せて入れると少し曲線が上る。それにさらに通常の透析外液も添加すると、さらに曲線はよくなり、7日間に約3倍の増殖を示すようになった。つまり血清中の低分子物質の何かを加え、また蛋白に電気的に結合している低分子の何かをさらに加えてやれば、無蛋白培地内で増殖させることは不可能ではない、というメドがついたわけである。そのようなものがLhの中にも含まれているが絶対量が不足なのかどうか、目下PVP培地でLhの濃度を変えて結果をしらべているところである。なおこの株細胞の染色体の検査はこれまで当室でやっていたが、4月から奥村班員が協力してくれることになり、当室では標本の作り方を色々としらべている。

《佐藤報告》
 1)発癌実験
 ラッテ肝←DABの組合せによるin vitroの発癌実験を班の一員として実験中である。実験材料は呑竜ラッテ(1月21〜23日生れ)、方法は研究連絡月報No.6203に従いました。但し第1実験のみは写真(位相差)撮影のためTD15瓶静置培養です。記載はNo.6204月報勝田さんの記載に従いました。実験結果の判定は後述しますが、全体として私自身の気持として予備的な物とした方が安全と思っています。その積りで読んで下さい。
 ◇C1(DAB-1)(1962-2-27=0日) ラッテ生后36日±1日
 第9日目(1962-3-8)実験群3/5本に、対照群2/5に細胞増殖の開始するのを見た。対照の1例は小型類円形の細胞であった。MCは4日間隔で行い、第13日(1962-3-12)には全部のTDに箒星状の細胞が見られたが殆んど増殖しない。第55日(1962-4-23)実験群4/5、対照群3/5に組織片よりの細胞増殖を見たが増大度が極めて悪い。第64日(1962-5-2)に一部を残存して他は破棄した。ラッテは生存中。
 ◇C2(DAB-2)(1962-3-1) ラッテ生后38日±1日
 第9日(3-10)実験群4/5に軽度の箒星状細胞増殖あり。対照0/5。第23日(3-24)実験群4/5、対照群2/5の組織片周囲細胞増殖。第54日(4-24)実験群3本、対照群2本を残して回転培養中である。実験群の細胞は肝組織片中の肝細胞の円形化、遊離が対照群に比して多い。又一部のものは透明となって光沢のよい細胞となっている。更に又組織片の周囲に肝細胞が横に連なっているものも見られる。未だ継代できる量とは程遠いが対照群より増殖型の細胞は多い。ラッテは生存中。
 ◇C3(DAB-3)(1962-3-9) ラッテ生后46日±1日
 第46日(4-24)実験群4/5、箒星状のものが軽度増殖、又2例は小類円形細胞を混じて居る。対照群1/5。第54日(5-2)増殖極めて悪く実験対照共わづかに増殖型のものを各1例残した。ラッテは生存中。本例は肝細胞のメス切断が未熟であった様に思える。
 ◇C4(DAB-4)(1962-3-13) ラッテ生后50日±1日
 本例は実験群、対照群共に殆んど変らない。小類円形(肝細胞)の軽度増殖が見られる。第50日(5-2)実験群2本、対照群3本宛残し回転培養中。ラッテは生存。
 ◇C5(DAB-5)(1962-3-19) ラッテ生后56日±1日
 回転培養をすると組織片の脱落がおこり、こまるのでゴム栓をして30分間放置したため細胞の感想がおこり失敗?。第35日(4-23)実験群1/5に軽度の増殖を見ている。対照は0/5。ラッテは生存中。
 ◇C6(DAB-6)(1962-3-27) ラッテ生后64日±1日
 第24日実験群1/5、対照群0/5。第27日(4-23)実験群2/5、対照群0/5。第36日(5-2)やや変性が現われている。ラッテ生存中。
 ◇C7(DAB-7)(1962-4-12=0日) ラッテ生后79日±1日
 第11日(4-23)実験群、対照群共に2/5。fibroblastic cellの増殖を見た。第20日(5-2)実験群、対照群共に5/5箒星状と、小類円形細胞の軽度の増殖を見る。
 C6までのラッテはいづれも♂使用、C7ラッテは♀を使用した。
 [実験の批判及び今后の方針]
 本実験中メスの切り方及びとぎ方について未熟であった点。組織片附着時間の点。組織片の大きさの点。ラッテの生后日数の短縮。等々意に添わない点が多く以上の実験は余り自信がないが、その内で細胞の性質其の他確実と考えられる点を列記する。現れる細胞の形態は箒星状突起の多い偏平な広い細胞質を有し楕円形の核を有する細胞と小類円形(周辺は平滑でない)の細胞が主成分である。後者は肝細胞片の一部のもので明かに肝細胞と移行がみられるから肝細胞性であると考えて差支えないと思う。前者は色々の起原が考えられるが私が分離しているラッテ漿膜?細胞と極めて似ている点は或は肝表面の漿膜増殖を疑わしめる。DAB→肝に対する増殖の差は実験群が対照に比して確かに多い様に思えるが勝田さんの様に未だきれいにいかない。更に継代出来る程の増殖を未だ認めていない。此の点は熟練にも関係する様に思えるがラッテの生后日数にも関係していると思うのでラッテの幼若なものから始めて見る積りである。現在漸く4月25日、4月27日、4月29日、5月2日、5月3日生れの呑竜ラッテを自家繁殖せしめる事に成功したので、同じDAB量で30日以内のものを、メスの切り方、組織片の大きさ等を注意しながら実験を再開します。
 2)無蛋白培地の研究。JTC-11細胞の無蛋白培地駲化に成功して現在6日で2.5X程度まで増殖しています。之は勝田さんのL・P1(PVP+LYD)にあたるもので、表現を同様にしますとE・P1(PVP+LYE)となります。継代は10万/mlで其れ以下だと増殖が悪く継代困難です。現在PVPの濃度決定及び(PVP+LYE-Y)を実験中でYeast Extractは無くても継代できさうです。マウスえの復元腫瘍形成は可能です。−病理学会用−
 3)高速回転法によるJTC-11k亜株の継代。現在4代目ですが、シリコン樹脂等何も用いなくとも浮遊して増殖しています。JTC-11が腹水癌のために浮遊状の培養が容易なのでせうか。粘液様空胞をもった細胞は継代后2日で静置時に比して極めて多く(5X〜15X)なります。−病理学会用−
 4)C3H自然発生乳癌の株化。本例はprimary cultureはトリプシン処理で容易ですが継代が不可能でした。其の后昨年12月7日培養開始の1瓶に結節が生じ現在4結節まで増加しました。他の実験例にも株化のおこり始めているのを発見しました。此の例は勝田さんのDAB腹水肝癌の様に初期にどんどん減少していって後始めて株化する例でせう。之が出来たらC3H自然発生乳癌の培養細胞による予防を行ってみます。

《高木報告》
 1)発癌実験
 前号につづき発癌実験を行っていましたが、4月12日、13日に廻転培養の恒温装置が故障すると云うaccidentがありました為、残念ながら折角の培養が駄目になりました。修繕されて4月28日、第4回目の実験をスタートしましたが・・・。今回はそれまでの経過を記載します。実験番号を◇C1、◇C2・・・と通し番号にします。
 ◇C1:(1)K1、D1(Wistar-King ratの肝にDABを作用させた群と対照群)
 4月7日(培養42日目)にtrypsinを用いずpipettで剥ぎ落して継代した。K1 4本→4本、D14本→4本、残りの2本ずつはそのまま培地交換だけ行う。
 4月11日 培地交換を行っても細胞のoutgrowthは殆ど認められず。
 4月15日 2〜3日前よりthermostat切れた由にてすべて変性す。
   :(2)K2、D2は植つがずに培養をつづけたが、先般の3月30日に観察した時以上は細胞の増殖はみられず、4月15日に至る。
 ◇C2:(1)HNS、HNK(hamster腎にStirb.を作用させた群と対照群)
 4月7日(培養29日目)にHNS(hamster腎にStirb.作用群)3本→3本、上と同様pipettを用いて継代。HNK(hamster腎の対照群)3本→3本、上と同様。
 4月11日(培養33日目)HNS、HNK各1本から各3本ずつに継代。これらは4月15日までは活発な細胞増殖はみられず、ガラス壁についている丈の感じであった。
   :(2)HLS、HLK(hamster肝にstirb.を作用させた群と対照群)
前報で有意の差ありと報じたものであるが1週間おくれて4月7日の観察では対照のHLKにも5本中3本にepithelial cellのoutgrowthを認めた。そのまま観察続行中に4月15に至る。 ◇C3:K3、D3(Wistar-King ratの肝にDABを作用させた群と対照群)
培養8日目の4月4日D3にepithelialと思われる細胞が少し生えかかっている様であった。対照群と有意の差はなかった。
 4月10日(培養14日目)3K 2本→3本、3D 3本→4本にpipettではがして継代する。残りは交換してそのまま培養をつづけ4月15日に至る。
 以上から・・・どうも継代がうまく行かなかった様です。これは勝田氏のすでに指摘された如く、時期が遅きに失した為かも知れません。またhamster liverにStirboestrolを作用させた群はepithelial cellsが増殖して有意の差と思ったのですが、それから約1週間後に対照にも5本中3本epithelial cellsの増殖をみました。やはりこれらの細胞を上手に継代し、増殖せしめ復元までもって行かねばならない様です。
 ◇C4:HNS2、HNK2。HLS2、HLK2。4月28日各10本ずつスタートしました。
 4日目の5月1日にはHLS2、HLK2は細胞増殖みられず、HNS2、HNK2においてすべての培養管にepithelial cellsの増殖(fibroblastはごくわずか)を認めます。
 2)(復元)移植実験
 先般につづきChang'肝細胞を各800万個、110万個、760万個細胞数ずつtreated hamsterに接種しました。4日目にはすべて1.5x2mm大の腫瘤の発現をみています。
なお先に接種したFL細胞で生じた小指頭大の腫瘤は、接種後3週間目位を境にむしろ退化を示した。組織切片を検討中です。
 3)免疫学的研究
 目下勝田氏の馬株を増殖中で、免疫を間もなく開始します。
 またFL細胞をルー瓶15本に増殖せしめ、Schneiderの方法によりmicrosome、mitochondria、nucleus、その他と分けて凍結乾燥中です。

《伊藤報告》
 1)発癌実験
 前回に報告した#C1、#C2(勝田研の実験番号に準ず)は、何れも実験開始后30日目になるも細胞増殖を見なかったので中止しました。
 #C#(DAB-3)(1962-4-10=0日)
 生后10日のWistar rat2匹の肝を用ひ、夫々対照群、実験群(4日間DAB加)6本づつ計24本の長試につけて、roller tubeで培養。6日目より細胞増殖が見られ、14日目では対照群の1本以外の凡てに増殖するcolonyが出来ました。此れでtechniqueに自信が出来ましたので、以后はより成熟ラッテの部分切除肝について実験を行って居ります。
 実験のscaleは原則として2匹の"ドンリュー"ratを用ひ、対照群、実験群各6本、合24本としております。
 #C4(DAB-4)(1962-4-20=0日)
 生后1ケ月♂・・・contamiにて失敗
 #C5(DAB-5)(1962-4-24=0日)
 生后33日♂ 10日后にK2=1/6、D2=2/6に増殖を認め、その后徐々に増殖して居るかに見えますが、まだsubculture出来る迄に至りません。現在K1:2/6、D1:1/6、K2:3/6、D2:5/6。
#C6(DAB-6)(1962-4-30=0日)
生后39日♂ 5月9日現在変化なし
 #C7(DAB-7)(1962-5-7=0日)
 生后21日♂ 5月9日現在変化なし
以上が現在迄の結果です。尚肝部分切除を受けたratは何れも元気で復元される日を待って居ます。今后DABの濃度、作用期間、他の因子とのconbination等検討したいと考えて居ます。 
 2)制癌剤(特にmitomycin)の作用機作について
 まだ始めたばかりですが、HeLa、AH-130(primary culture)、骨髄細胞等に対する作用を、作用時間、作用時期等の面から検討してみたいと考えて居ます。Mitomycinを投与されたpatientの血清等も使用しています。
 3)株化したと思はれる新しい細胞
 当大学第一外科でマウスの肋膜腔内に作られた腫瘍でmesodermalのものだと云う事ですが、此れを培養続けて居たところ、増殖が旺盛となり、これをマウス腹腔内に復元して腫瘍を得ました。もう暫く検討して詳しく御報告致します。
 4)人癌患者腹水由来の細胞
 高井君が従来のものとは別に、♂の胃癌患者の腹水から或種の細胞を培養に移しました。もう少し確かなものになれば、以前の細胞と種々の面で比較する筈です。
 5)増殖促進物質
 此の方は四月上旬にL・P1にcontami騒ぎがあって、暫く実験出来ず、やっと今月初から再開したところで、今回は御報告するDataがありません。

《山田報告》
デンバーからもどってもう5ケ月になりました。はやいものです。この間今後の実験のための研究室の整備、凍結細胞株の整理などに費やされてしまいました。私の実験にはどうしても必要と部長に請求して購入したCO2-incubatorと倒立顕微鏡が4月になって入り、その調整やらHeLaS3のplating efficiencyのたしかめ、又recloningなどにこのところ忙しく動いております。
 この前の班会議で約束した勝田氏の発癌実験の追試をはじめました。まだ第1回を行って陰性、第2回目をはじめたところです。とりあえず第1回目の実験を報告して、皆さんに批判してもらい、よい結果を得たいと思います。私の受持ちはDABによるマウス肝組織の発癌です。
 成熟ddY株マウス(5週、体重19.8gm)から肝をとり高岡氏の方法に従って凡そ1mm角に切り出し、塩類液で洗わずにガラス面に附着させました。1試験管あたり10〜20片、この数が多すぎたためかガラス全面に血液細胞と組織破片が附着してどうも観察しにくい状態です。 全試験管数18本、6本づつ3群にわけ、よく附着した所で、第1群にDAB+Tween20添加培地、第2群にTween20添加培地、第3群に培地のみを加え静置培養しました。DABは最終的に1μg/ml、Tween20は50μg/ml、培地は20%牛血清培地Lactalbumin hydrolysate(0.5%)in Hanks.
Tween20対照を置いたのは少し疑い深いのですが、Tween20そのものが表面活性剤で、腹水肝癌の島を分解して単個細胞浮遊液にする作用が知られていますから、もっとも50μg/mlは上記の作用濃度からみてはるかに低いのですが、使用期間の長いのと、この場合全細胞の解離を必要とせず、組織片の表面の変化だけを期待すればよいので、班員の一人として、一応検討する義務があると考えました。
 培養4日間は液かえをせず、その後週2回の割でDAB及びTween20の無添加培地で液かえしました。はじめの4日間でpHはどの群も一様に6.6〜6.8、その後の液かえではpH7.4〜7.6のinitial pHを維持しています。培養4日目頃から僅かですが細胞のmigrationがみられましたが、その後進捗せず、30日間の観察でoutgrowthの発生はどの群も陰性に終わりました。 陰性の結果を得たことについて今考えているのは、一試験管あたりの組織片数が多すぎたためはじめの4日間にpHがさがって組織を障害したのではないかという事です。今後は5〜10片とします。また成熟マウスを使ったことも問題で、勝田氏は生後9日目頃のラットを使用して居られるので、これを踏襲して幼若なマウスを使ってみたいと思っています。さらに根本的にはAzo色素餌食による肝癌発生はラット肝では起りますが、マウスではむづかしいという問題もあります。理くつはいろいろあるわけですが、まづ技術的な問題を片付けないと何とも言えない状態なので、更にくりかえし実験を行う予定です。

【勝田班月報:6206】
《勝田報告》
発癌実験の研究状況:
 DABによる発癌実験は9回までおこないましたが、結果は次頁の表に一括して示します。ここで気が付きますことは、C#4〜7とC#8〜12とはDABをといた液をさらにうすめるとき用いた牛血清が別のlotになっているということです。そして前者の群の方がどうも成績が良いことです。つまりDABが蛋白に結合して作用するとすると、その結合する蛋白によってどうも結果が大分左右されるのではないか、ということが想像されますので、Homo或はAutoの血清をこれに使ってみることを現在試みて居ります。次に実際に細胞の増殖の起る時期(第12日位がきわめて多いのですが)にもRatの血清を使う必要があるのではないか、という気もします。つまりそこで培地によるselectionが行われるわけですから、復元試験したときRatの血清の中でどんどん増えるような細胞をselectしなければならないからです。またこれらの結果を通覧しますと、どうも若すぎるratはControlまで増え、年老りすぎたratではExp群が仲々増えず、結局、生後20〜25日頃のratがいちばん良いのではないか、という感じを受けました。次に復元方法であるが、昨日の組織培養学会の安村君の話では脳内接種>腹腔内>皮下の順に成績が良いとのことなので、我々としても今後はぜひ脳内接種を試みたいと思います。ただし(ちのみ)でないと駄目だとのことでしたが。(復元試験は1962-3-15に約10万個の細胞を48日のラッテ腹腔に接種したが、何れも次第に消失し、陰性結果となった)

 :質疑応答:
[山田]復元ですが、Ehrlichの場合は、10万個腹腔と100個脳内とでは後者の方が良結果です。またRatのageにより成績が異なるというのは、他の動物にも見られる一般的傾向ですね。
[勝田]DABと細胞増殖との間にはまだ未知のfactorがいつくかあるし、Ratの日齢と増殖との間の関係も一定の基準を早く決められるようにしてあとの実験を進めたいと思います。[佐藤]血清とDABと混ぜて保存(冷蔵庫)していると沈殿が出ます。ラクトアルブミン水解物を含む液にとかしたときもやはり沈殿が出て、それが溶けない。Salineで保存すると出ない。そんなところがC#4,8,9,10あたりのNoneと関係が無いでしょうか。また血清を保存しておくと次第に増殖促進能力が低下しますが、それもあとの方の成績の良くない一因ではないでしょうか。
[堀川]使った容器の処理は?
[高岡]はじめに溶くときやDAB処理の培地をはじめに培養に入れるとき使ったピペットは全部棄てますが、roller tubeはずい分うすめられている訳ですから、高圧をかけてDABをこわし、また使います。
[山田]肝細胞に貪食能がありますか。例えばTB菌をPhagocyteがとるように、異種血清による貪食促進でDABがとり入れられる、ということがあるかも知れない。
[堀川]貪食についてはmacromolecular levelで充分取込まれるということがScientific Americanに出ていました。
[佐藤]ラクトアルブミン水解物とDABとの間のinteractionについてはどうでしょうか。[関口]あるとすればPolypeptidesとのinteractionがあるだろうと思いますが、詳しいことは判りません。
[佐藤]沈殿は結晶様で肉眼で見えるということ、特に血清とラクトアルブミン水解物の混ぜてある液にDABをといたとき鮮やかに出るということは、留意すべき問題と思います。[勝田]Ratの年齢、血清の種類、それとのDABの結合、この三つを当面の問題点として検討して行きましょう。
[山田]脳内接種には、特にそれ用に使う針を売っています。ウィルスを入れるときと同じに考えればよい訳です。注入量はマウスで1匹あたり0.03〜0.02mlですが、若いマウスの方が損傷が少ない。これは脳圧に関係している訳です。
[佐藤]小脳、中脳を避けて針を刺すことが大切です。
[山田]こまかい実際的なテクニックはvirus系の人にきくとよいです。
[勝田]Ratは純系を使うに越したことありませんが、それより大事なことは、自分の研究室で交配出産させて、はっきりageの判っているratを使うことが現在の段階では大切と思います。

《山田報告》
ddY系マウス肝組織の初代培養に対するDABの作用:
 6月9日現在まで、5回実験を行っています。DABの使用法、培養法はNo.6203記載の高岡さんの報告通りです。培養液としてはTC199+20%仔牛血清を用いました。
 マウス日齢の若いものでは実験群、対照群ともに上皮性細胞が増殖してきます。今さらに日齢をあげて実験を計画中です。下の表で増殖とあるのは申し合わせの通り、上皮性の細胞増殖のことですが、その他皆さんの話にあった箒星様の細胞の他"喰細胞"のような細胞もでてきます。どくに長期間培養したものでは"喰細胞"の大きなコロニーが出現して、1ケ月近くなってもなおactiveで分裂像もみられるようです。上皮性細胞はExplantをとってしまうと現状維持といった形で分裂像は多くみられません。一本の試験管に多数の組織片をうえた場合には(#1&4)はじめの4日間にpHがさがりすぎて、そのためか細胞の増殖が悪いようでした。

 :質疑応答:
[山田]肝組織のexplantをroller tubeに植えつけるとき、per tubeの数は?
[高岡]あまりexplantの数を多くしすぎますと反って結果の悪いことがあります。
[山田]つけてから乾かす時間は?
[高岡]乾かすといってもexplantをつけたらすぐ培地を直接管底にピペットで入れ、ゴム栓をして立てておくのです。全部のが終るまでですから20分位と思います。大切なのはSalineで組織片を洗わぬことで、こまかく粥状にしたらそのままpipetteでつけるのです。組織液などが糊の代わりをするのでしょう。
[山田]初めの実験ではageが大きすぎましたので、今後は4〜5日の若いところからはじめて見たいと思って居ります。またTween-20を使う理由は何ですか。Tween-40や-80よりも毒性が強いという話がありますが、この辺のところも増殖に作用しているのではないかと思って、私はTween-20だけのもやってみていますが。
[高木]DABを溶くにはTween-20がいちばん良く溶けるからです。

《佐藤報告》
1)発癌実験
 前報No.6205にDAB→呑竜ラッテ肝、実験◇C1より◇C7まで記載した。ラッテの生後日数は36日から79日に到るまでのものであるが、細胞の積極的(継代できる程度)の増殖は認められない。◇C7の対照群のみ後でDABを与えて見るために残して他は破棄しました。◇C8位後の実験は自家繁殖させたラッテの実験です。
 上述の実験はもう少し実験の穴がありますが、1)対照がどの程度の生後日数まで増殖能があるのか? 2)DAB→呑竜ラッテ肝4日作用で対照、DAB作用群の差、云わば発癌係数の最も高い点はいつか? 3)DAB→4日で増殖のおこらない生後日数の限界点? 4)継代できる細胞の対照DAB両群の腫瘍性の差? 以上4項目を発見する積りで同腹のもので比較する様計画しました。現在の所次回の実験計画、DABの種類、DABの作用期間、作用方式等について最も大切と思われる20〜30日の発癌成績が完了していないので未だ詳報はできない。此の実験群は北海道の病理学会出席迄には完了できる予定です。
2)組織培養株細胞による抗腫瘍性の増強について
 JTC-11細胞でCb系マウスを免疫すると、originalの動物株エールリッヒ腹水癌のCbマウスでの腫瘍発育を阻止する。この免疫は蒸留水添加の死細胞では減弱する。HeLa細胞ではこの抗腫瘍性は増加しない。L細胞免疫ではJTC-11細胞のCb系マウスへの発癌を抑制するがoriginalの動物株エールリッヒ腹水癌のCb系への抗腫瘍性には強い変化が現れない。
3)現在PVP+YLE及びYLEの継代に成功しています。PVP+LE及びLEは困難を極めています。4)吉田肉腫細胞株の栄養要求は病理学会に提出していますが、遅れており目下追跡中です。間に合うかどうか心配しています。

 :質疑応答:
[勝田]Ratのageを若いのから順に上げて行くようにしたら良いと思います。
[佐藤]細片のことですが、どうも血液成分が入ってきたなくなりますね。
[高岡]回転培養している内に培地で洗われてきれいになる筈ですが。
[佐藤]あのきらっと光る細胞はたしかに実質細胞だろうと思いますが、どうも増えなくて・・・。
[高岡]硝子面に一杯にふえないと継代はむずかしいですよ。migrationはどんな場合にも出てきます。
[奥村]トリプシン消化した初代培養でglucoseを4倍にしたら偶然によくついて増えました。これはvirusをうえるときの方法ですが試してみては如何ですか。Kidneyの
primary cultureは血清濃度を下げないとEpithelはふえません。2%位にしても良いです。[山田]Kidneyのときは判定が困難で、fibroblasticといってもそうと判定できないから、この点充分に留意して下さい。
[佐藤]右図のような細胞は私がラッテの腹腔内をトリプシナイズしてとったSerosaの細胞によく似ています。肝被膜由来ではないでしょうか。

《堀川報告》
 これまでDABのtestも2度やりましたが不成功に終っているままです。一方pinocytosisを応用して正常細胞の癌化も先日報告しました様にやって来ましたが総て途中で休止状態です。
 然し私の実験室も一応不完全ながらととのい、実験再開可能な状態にこぎつけました。若さとfightで遅ればせながら、これから追い込みをかけます。したがって7月号からは少なくとも少しはまとまった実験結果を報告できる様な段階にいたします。

 :質疑応答:
[山田]PinocytosisとPhagocytosisの区別如何ですが、Amoebaの場合にはPhagocytosisの方は偽足で積極的に物を取入れることを呼んでいます。
[佐藤]Ehrlichの核をLはとるが、Lの核をEhrlichはとらないという具合に、核の貪食能をCytoplasmのcapacityだけに限って解釈するのは一方的と思います。Phagocytosisの能力がないのは癌細胞の属性です。
[勝田]この仕事はまずL細胞の核貪食の機構に重点をおいて進めると良いと思います。例えばその状況を顕微鏡映画にとってみるのも必要です。
[関口]核の取込みから細胞のmutationを論ずる場合はClear cutなCriterionのある細胞をえらぶ必要があります。
[堀川]その点に関しては私はCancerということをCriterionにしているのであって、そのためにEhrlichの細胞株をえらんだのです。
[勝田]ラベルした核が細胞の中でどのような動きをしめすか、特に2〜3回分裂したあとどうか、その辺の機構も興味があります。またX線をかけることによってfeeder layerになっている可能性があるのではありませんか。plating efficiencyについて・・・。
[佐藤]MN細胞でやると良いでしょう。
[勝田]ネズミの腹に死菌を入れてみると、赤血球を中性白血球が食い、それらをさらに組織球が食っているのを見ることがあります。
[関口]X線や紫外線をかけると貪食能が促進されるということは、細胞膜の傷害に関係があるかも知れません。
[堀川]免疫に関係あるかも知れませんね。それからBarskiの仕事についてですが、二つの核が溶合して両方を合せた染色体数の細胞が出てきたと云っていますが、核同志の溶合は果してあるのでしょうか。50本と60本のとがfuseして110本になるというような・・・。
[勝田]細胞間でのfusionはよく見られますが、核のfusionの問題はまだはっきりされていないと思います。

《奥村報告》(期間しめきりまで原稿提出がなく、簡単なメモによる要旨のみ)
A)細胞の凍結保存:
1)人羊膜細胞(第2代)、2)骨格筋(初代)を凍結して染色体数をしらべる予定です。株よりも初代或はそれに近いものの方がしらべやすいです。1)はvariationが少く、分裂もまた少い。対照は凍結せずにしらべています。すると5代目位に46本が90%以上出てきます。角瓶1本1000万個位で8個位の分裂像が見られます。
B)ウィルス耐性HeLa:
Hyperploidについて

 :質疑応答:
[勝田]細胞質の吻合の可能性がありますね。
[堀川]Spindle fibreが分裂時に何か傷害を受け或はContact actionで異常となり、染色体数が増える可能性があるのではないでしょうか。
[山田]核型でみてどうでしょう。棒状のに変化は?
[奥村]J−型には異常なくVと棒状ので変化が出ます。このことは非耐性株の染色体数のちがいについてもあてはまります。ECHO-virusの1,2,5,6,9でしらべた場合、染色体数の変化は一致しています。
[堀川]細胞膜での異常も考えて良いでしょう。(Cell Contactとの関係) なぜならばDrosophilaで♂ばかり出る場合、スピロヘータが寄生していたという事実があります。
[奥村]継代していてもnormal modal valueに戻ってこないという事実があり、また耐性株はCPが出てきません。
[勝田]Latent infectionは考えなくても良いのですか。
[奥村]形態も変っていません。Vogt-DulbeccoのデータではKaryotypeの変化なしにウィルス感受性(対ポリオ)が変っています。

《高木報告》
1)発癌実験
これまでのdataをまとめてみます。
培養法:plasma clotを用いない廻転培養法
培地:80%LT培地+20%牛血清
発癌剤と培養細胞:DAB1μg/ml→Wistar King rat肝、Stilboestro1μg/ml→Golden hamster肝及び腎
結果:詳細は表に示す。
 rat肝臓←DABについては、ratの日齢、薬剤投与期間及び培養技術などもっとさらに検討しなければならないと思う。fibroblastが主に増殖し、epithelial cellsの増殖が悪かったのはratの生後の日齢が関係しているのかも知れない。生後11日目のratを用いながらepithelial cellsの増殖が悪いのは薬剤投与期間の長すぎたためとも思われる。
 hamster腎←Stilb.の実験2、4では、始めはepithelial cellsが増殖しているが、5〜7日目からfibroblast-like cellsが優勢になり、遂にはepithelial cellsと入れ代ってしまう。しかし実験4によれば、このfibroblast-like cellsは10日目、14日目で共に2代目に継代出来そうである。
 hamster肝←stilb.の実験2'、4'では薬剤作用群に生えて来る細胞はepithelial cellsであるが、実験2'方が4'より実験群と対照群の差がはっきりしている。これはhamsterの生後の日齢の違いが主な原因ではないかと思う。なお実験3までで増殖した細胞の顕微鏡写真を供覧する。
2)移植実験
 FL、Chang'Liver、JTC-4及びHeLa細胞をtreated hamsterの頬袋に移植したが、前2者については100万個levelの細胞で腫瘤を作ることが分った。後2者については、移植したhamsterが大きすぎたためとも思われるが、はっきりした腫瘤は作らなかったので更に検討中である。次の段階として、細胞数によるtumor-producing capacityをしらべてみたいと思う。
3)免疫学的研究
 数種の株細胞につき血球凝集反応を中心に種特異性などにつき検討すべく準備をすすめている。目下JTC-6株を免疫の予定である。なおFL細胞の各成分についてもgel内沈降反応を行うべく準備をすすめている。

《伊藤報告》
1)発癌
 先日の報告会でお話を聞いて当方での判定が誤っていることが分りました(註・班会議後の提出原稿なので今回討論で指摘された実験を指している)し、一方今後この方法で実験を続けて行く為の自信が少し出来て来ました。従来の実験での結果は別に考えて今後の結果を判断してゆき度いと考えて居ます。又ratは当分Donryuの生後15〜25日位のを使用し、tecniqueが確かになれば、復元と共に、主としてDABの作用期間についての検討をやってみる積りです。Donryuの自家繁殖を始めましたが、未だ適当な日数に達しませんので、それ迄は雑系でtechniqueの習得中です。
2)増殖促進物質
 今迄にも御報告しました様に、L株の場合と異って、L・P1株の場合では、正常肝よりのS2分劃にも相当の促進活性が認められて、其点問題がありましたが、最近の実験でAH-130よりのS2分劃との間に耐熱性で差異がありさうな結果を得ましたので、一寸楽しくなって居るところです。

 :質疑応答:
[勝田]あなたの"増殖"と認めている細胞の形はどうも変ですね。
[伊藤]さっきスライドで見たのと同様の解釈で見ているのですが・・・。いまのところDAB処理したexplantに特有の増殖があるというデータは出ません。また出たとしても復元実験がうまく行かなければ物が云えないと思います。
[佐藤]DABそれ自体にも製品によりcarcinogenesisに差がありそうですね。
[勝田]出てくる細胞には、石垣状に出るのと、ホーキ星のような形のと2種ありますが、前者のは見られなかったのですか。
[伊藤]ホーキ星状のは見ていますが・・・。
[山田]In vitroでホーキ星状をしている細胞のin vivoとの関係が判らないと、捨てることは無理がある。
[佐藤]私の処と全く同じ方向をつっついているようだが、何か実験の方法を変えてみましょうか。伊藤氏の使用予定Ratは?
[遠藤]?がついている。
[勝田]DAB作用期間を変えてみる手があります。
[伊藤]濃度1μgの根拠は?
[勝田]高木君がはじめにしらべて細胞に余り害を与えない濃度という訳です。
[佐藤]実験#3について。細胞の違いがあるのではないでしょうか。
[高木]復元してしらべるのですから、対照が生えてきても一向構わないのではありませんか。
[伊藤]Exp.群とCont.群の差について、具体的に云えばどういう定義を考えて居られますか。私としては、両方生えてくるところで実験して、差が出れば良いと思うのですが。[勝田]なんども話しているように、形態的には敷石状とホーキ星状の2種の細胞が出てきます。敷石状の方を私は増殖と見ています。事実ふえるし、継代できるからです。また使うRatの日齢については次のような関係が見られます。細胞増殖の有無からみて、若い
RatはDAB作用群も対照群も+で、生後20日頃のRatはDAB作用群は+対照群は−、老ラッテはどちらも−です。
 それで、実際的には生後20日を使うのが、いちばん細胞の変ったことを発見するのに楽な訳です。増え出すときには培地にDABは入っていないのだからNutritionalに促進するという意味はきわめて薄いし、増えてきたのは細胞が"変った"明らかな証拠と考えられる。対照群で生えないのだから。だから変ったことをすぐに見付けられるわけです。いま一息という所まで来ていると思う次第です。
[関口]DABやthioacetamideはCholangiomaを作るというのをよんだことがありますが。
[勝田][佐藤]DABはHepatomaを作る筈です。日本のこれまでの報告では。
[佐藤]DABの量とか作用期間、さらには培養条件を夫夫に変化させてやってみたらどうかと思うのですが・・・。
[勝田]私としては、いま一歩、何かの因子の調節でうまく行くところまで来ていると感じます。お互いに手紙で、或は電話で連絡し合って、いろいろ条件を変え、他の人とぶつからぬように連絡をとり合いながら進めることが大いに好ましいと思っています。

《遠藤報告》
I.HeLa株細胞の増殖に対するステロイドホルモンの影響
1)Testosterone
 これまではProgesterneに固執し過ぎたので、こんどは予試験的に各種のステロイドホルモンについて巾広くまたそれぞれについて広い濃度範囲にわたって影響を調べる事にしました。対照1はTestosteroneの溶媒として使ったエタノールヲ同量加えたもの、対照2は全くエタノールを加えなかったもので、今回は2日及び4日後ではエタノールは促進的に働いています。これでエタノールは、無影響、抑制的、促進的、各1回ずつということになりましたが、まだcell cultureの腕が悪いからでしょうか、今後は再現性あるデータが出せるよう修練に努めます。testosteroneの影響は、以前の勝田さんの所のデータとほぼ一致しています。
2)Methylandrostenediol
上記の実験のように、Testosteroneは1mg/lで若干抑制的に、10mg/lでは明らかに抑制的に働きますが、これらの影響がTestosteroneの生物学的活性に由来するのか、或いは単にsteroidの高濃度という物理化学的要因によるのかを調べるために、Testosterone同種体に属するためかなりのandrogene activityはあるが一応protein anaboric actionの強められたMethylandrostenediolについて検討しました。(上述のTestosteroneの作用がそのhormon activityによることは、勝田さんの所ではホルモン間の拮抗作用で見事に証明しているのですが、別のやり方をしてみたわけです)。
 この実験は、お恥ずかしい限りですが、6日後のデータが雑ったためにとれませんでした。この実験では、Testosterone 1.0mg/lは4日後には抑制的に働いておりますが、この時Methylandrosteronediolは0.01〜10mg/lの全濃度範囲にわたって促進的に働いております。この促進傾向は2日後でも同様に認められます。(この増殖促進がprotein anabolic actionによるとすると、これは興味ある問題なので、この追試及び他のAnabolic steridについても実験を行っております。次回に御報告します。ここで10mg/lでも促進を示していることは、Teststerone 10mg/lの抑制が単に物理学的要因によるものではないことを表すものと考えられますが、別の実験でこのMethylandrostenediolも100mg/lでは著しい抑制を示す所から、100mg/l程度の抑制になると物理化学的なものと考えてよいかと思います。*このMethylandrosternediolによるHeLa増殖促進は、ひどくヘモった劣悪BSを使ったため6日間に5倍位にしか増えなかった実験では、4日後に著明でありました。臨床的にも、実験的にも、anabolic steroidの効果はsubnormalの時によく現れることを考慮すると、またProgesteroneの効果をみるためBS濃度を漸次下げていったのと同様の発想が出てきますが、この点はまだ手をつけていません。
3)Dhydroisoandrosterone
以上の通り、化学構造の上からは極めて近縁でありながら生物学的作用の面からは若干異なるTestosteroneとMethylandrostenediolについて一応差が認められたので、次に、やはり化学構造は類似しているがin vivoではandrogenic activityもprotein anabolic
actionもないといわれるDehydroisoandrosteroneについて調べてみました。左図のように、in vivoで何のホルモン作用も示さないDehydroisoandrosteroneが、増殖促進傾向を示しました。これが事実とすれば非常に面白いことでありますが、実験操作上一寸問題がありますので、追試の結果を次回に報告致します。以上の結果から、種々のステロイドホルモンについて巾広く検索する必要があることが明瞭となったので、今後は更に検体の種類を広範にとる積りです。
II.発癌実験
 大分前になりますが、DABよりMethylDABの方が肝癌の発生が遥かに早いという話を聞き込んでお話ししました所結局否定されたようでしたが、最近又寺山研究室(東大・理・生物化学)の人から、"前に2週間で発癌すると言ったとしたらそれは少しoverであったかもしれないが、DABより遥かに早いことは確かだ"ということをある席で聞きました。まだ文献も教えて貰っていないので、一寸気が早過ぎるきらいはありますが、先日の班会議で完全に同じ実験をしたのでは能率が悪いというような意見も出ておりましたので、こちらでは発癌剤としてはMethylDABを使う事にしました。動物は´呑竜`ratを使います。因に、DABとMethylDABの構造は次の通りです。(構造式展示)(この前の会議の時は、皆さんがMethylDABをp-monomethylaminoazobenzeneと勘違いされていたような気もするのですが)
#C1(MethylDAB-1)
 動物:呑竜rat(生後165日の完全なplateaued rat)
 培養法:無血漿回転培養法(10rph)
 培地:牛血清2容+0.5%Lactalbumin hydrolysate含有Hanks
 発癌剤:MethyDABエタノールに溶かし、所定の濃度になるよう培地に加える。エタノール濃度は最終的には0.25%、対照にも同量のエタノールを加える。
 <実験>Control、Exptl(I)MethylDAB 2μg/ml、(II)MthylDAB 1μg/ml、(III)Methyl
DAB 0.5μg/ml、各群5本づつ。まだ著変をみませんので、結果は次回に報告します。

 :質疑応答:
[堀川]ラベルしたホルモンでARによる検討をやったら如何ですか。
[勝田]色々なホルモンにあたってみて、その中から最も適当したホルモンをえらび、濃度を変えながらAntagonistとの関係をしらべるなど、本当のホルモン作用を確認した上で詳しい検索に入ってはどうですか。
[遠藤]自分の方向としては今、ホルモンの研究は肝中心という感がありまして、末梢ホルモンでのホルモン作用は誰も考えていないので、その辺のところをやりたいと思っています。
[佐藤]HeLaは子宮頚部から由来したもので、cervixはCorpus uteriと、腺その他形態学的にもホルモン作用の上でもちがうように思います。もちろんCervixとCorpusとのホルモン作用の差は今日のところでは判っていませんが・・・。この辺は考えてみなくて良いのですか。
[勝田]HeLaの初めのHistologyなど、Geyにくわしく問合せておきたいですね。
[山田]Original tumorはclinicalには"Unusual tumor"ということですね。
[勝田]またHeLaだけを相手にせずに、他の子宮由来の細胞株を作る必要がありますね。前にGyneと関係を作ったから、とか聞きましたが・・・。
[山田]Gyneのこの小林さんの処で培養室を作って、データが出ているようです。テーマはHypophyseよりのGonadotropin排出に関するものと記憶していますが。
[遠藤]子宮由来の株については必要を感じながらまだやっていません。
[堀川]ホルモン作用の場合、植物のAuxinや昆虫ホルモンなど、とんでもないホルモンに当ってみたらどうですか。
[山田]母培養と実験培養との血清は一致していることが、望ましいですね。

【勝田班月報:6207】
 A)発癌実験:
 DABによるJAR系ラッテ肝細胞の発癌実験をつづけています。これまでの月報で初めからの成績は一覧表として報告しましたので、本号ではその后の成績だけを報告します。
なお、この一連の実験に於いては、培地は便宜上、次のような作り方をして居ります。
 a:DAB液
前にかいたようにTween20でDABをとき、Saline(D)で稀釋します。DABは2mg/mlとなります。(これが保存液I) 次に即座に使える液を作るため、このI液を段階稀釋します。即ち
 保存液I:1ml+(血清20%+Lh0.4%+D):9ml(この稀釋液をAと仮称)
 A液1ml+(血清20%+Lh0.4%+D)19ml(これが保存液 )
保存液I、 とも低温で保存(5℃)します。 がなくなったり、別の血清でといて見たいとき、Iから作ります。ときにはIも作り直します。 は1w〜3月の間これまで保存して作ってみました。 液中のDABは10μg/mlです。
 b:実験培地
上記のように保存液 はすでに通常の肝細胞用の(血清+Lh+D)の培地になっていますので、実験のときは、第 液+(血清20%+Lh0.4%+D)9容、に混合して培地に用い、Controlの方は右辺の培地をそのまま使えばよい訳です。(第 液に特種血清を用いたときは勿論対照にもそれを加えます)
 このようにarrangeしますと、仕事がやり易くなりますので、おすすめします。なお我々のところでは、佐藤班員の云われるような、保存中のDABの沈澱(再結晶化?)は見られて居ません。血清加培地に早くといて 液で保存するためでしょうか。
[結果]
 C-14からC-18に至る5実験をしましたが、大体成績はconstantです。しかし色々な経験も得られました。C16〜C18はまだはじめたばかりで、増殖期まで入っていませんが、班会議のときには報告できるでしょう。
[実験成績]
Exp.C-14: (18-day rat:DAB 4days) Since 1962-6-7
1)(Rat serum+Lh+D+DAB)1vol.+(Calf serum medium)9bol.
2)(Calf serum+Lh+D+DAB)1vol.+(Calf serum medium)9vol.
3)(Rat serum+Lh+D)1vol.+(Calf serum medium)9vol.(Cont.)
4)(Calf serum+Lh+D)1vol.+(Calf serum medium)9vol.(cont.)
上記の4種の群を作った。第4群はDAB(-)の対照。成績は次の通り。
11th 13th 30th day      継代后の成績   
1) 4/5 4/5 sheet Rubber cleanerでよく  コロニーができ、ゆっくり
2) 4/5 4/5 sheet 生えているところだけ  増殖中、現在第2代
3) 1/5 1/5    かき落とし各群TD-15   第2代はふえなくなった。
4) 1/5 1/5     2ケに継代 
 この実験は復元接種できそうなので、近日中に脳内接種をおこなう予定。
Exp.C-15: (18-day rat:DAB 4days and long addition) 1962-6-19
(Calf serum+Lh+D+DAB)1vol.+(Bovine serum medium)9vol.
1)(DAB:4days)
2)(DAB:Long term addition)
3)(DAB:Newly prepared and immediately used)
4)(calf serum+Lh+D)1vol.+(Bovine serum medium)9vol.(Cont.)
 上記のようにDABを長期間作用させてみる群と作ってすぐのDAB液の群も加えた。結果は 18th day         現在
 1)4/5(増殖は余り良くない)  初代のまま
 2)4/5(増殖は余り良くない)  (現在までDABを継続しているが(1)と差なし)
3)1/5() (途中で中止した)
4)1/5 初代のまま
 上の実験は頂度生え出す頃の日が学会で北海道へ行って居り、培地交新ができなかった。 そのため、実験群は生えだしたが、増殖が悪い。
Exp.C-16:(16-day rat)Since 1962-7-7 DABは4日間、Calf Serum培地にとかした
Exp.C-17:(18-day rat)Since 1962-7-9 古い液、添加培地は牛血清培地
Exp.C-18:(21-day rat)Since 1962-7-12 (仔牛血清不足のため)
 この3実験は同腹の仔を使っているので、日齢の検討にも役立つ。C-17は3群分用意してある。7日目頃から、再刺戟としてグリセオフォルビンとαナフチルイソチオシアネートとを夫々1μg/mlの濃度で(一緒に加えるのではなく)数日間加えてみる予定。C-18は3群分用意してあり、これは佐藤班員の追試になるが、DAB作用期間の比較に当て、4日、8日、12日の3種をしらべる予定。
[考察]
 1.C-15の実験で判るように、培地交新は株細胞よりも注意が要る。折角の実験が学会で不在のためうまく行かなくなって残念ではあったが、非常によい経験にはなった。生え出しの頃の交新の如何に大切であるか。
 2.同じくC-15の第3群は、無菌室の中でDABを新しくといて、すぐ使った群であるが増殖がControlと同じ結果になった。つまり血清とまぜて暫く保存しないと効果が現われにくい、ということらしい。非常に面白いことであるが、班員諸君のところではこの点如何ですか。 3.DABをといて保存しておくとき、Ratの血清でもCalfの血清でも、結果は似たようなものであった。(C-14の結果) だからこの点は今后気にする必要は無いらしい。
 4.成牛の血清より仔牛の血清の方がどうも少し成績が良いのではないか、という感じがする。仔牛の方が元気の良いのを殺すためかも知れない。ただ仔牛の場合には無菌的に血液をとれないらしいが、目下のところではそのため血清が駄目になった例は起っていない。 5.C-17で追加刺戟に用いるグリセオフォルビンは水虫の薬であるが、発癌の促進効果があるとかいわれる。αナフチルイソチオシアネートは皮膚炎を起すとか、endothel系の増殖を促進するとか云われている。これ以外に、はっきりした発癌剤を追加刺戟に用いることも予定している。
[その他の発癌実験]
 これまでに報告した内の#C-6(9日rat.DAB4日間、Exp.Cont.共6/6に増殖したもの)の細胞は約5ケ月半経っているが、殊にExp.の方がきれいな実質細胞様で、増殖率も高くなってきたので、これをまず復元接種する予定で、目下ラッテの適齢を待っている。
 B)その他の研究:
 最近は発癌実験に主力を注いできたので、他の方は殆んどストップである。しかし夏休みの学生実習を利用して、やりたかったこと若干もやる予定なので、来月、再来月はもっと色々のことが報告できると思われる。

《佐藤報告》
 1)発癌実験
 前報に引続いて実験を行いExp.24迄行っています。(呑竜ラット、DAB 4日作用の場合の結果表を呈示)。以上23例の実験から凡そ次の事は結論し得ると思う。
 *1.試験管内に組織片を附着させて回転培養し、組織片からの増殖(継代を考えない)が対照において起る日数は生后20日を限界として著減する。
 *2.生后27日以后ではcontの増殖は殆んど起らなくなる。
 *3.上記の条件でExp.とCont.の間に最も差が現われる時期は生后22〜27日の間であるが、この条件ではCont.が1/6程度に増殖している。
 次にDABの濃度を同じくして作用日数を4、8、12日に変化させて見た。(表を呈示)。
その結果からは現状の作用方式では4日間より培地交換して作用期間が8日間の方が明かによい結果がでている。従って生后27日以后でCont.0/6、Exp.4/6〜3/6程度の期待がDAB8日間作用で出来る可能性が多い。
 次いで3'-methylDABを通常のDABと比較する実験を始めた。
 ◇21、第14日に、DAB4日は3/6、3'-methylDAB4日は2/6、Cont.は2/6の順であったが更に実験を続けて行った。ラットは生后25日。
 ◇22、第13日に、DAB4日は2/5、3'-methylDAB4日は5/5、同じく3'-MeDAB8日は3/5、同じく3'-MeDAB12日は1/5で、明らかに3'-methylDABが有効であった。ラットは生后26日。
 以上の結果からCont.が0/6、Exp.が6/6になる可能性は3'-methylDAB4日或いはDAB8日でラット生后27〜30日の場合に発生する頻度が高いと思われる。
 今后の目標としては「ラットへの復元とDABの試験管内消費、及びExp.Cont.比の上昇」にしばらくの間力を注ぎます。
 2)C3H自然発生癌の株化が漸く成功して増殖率が急上昇しました。3株できましたが、何れも培養開始后6ケ月程度で増殖率急上昇しました。

《高木報告》
 1)発癌実験
 先報にひきつづき報告します。
 なお以下、A細胞・石垣状に増殖を示す本命と思われる細胞。
      B細胞・箒星状の間質細胞と思われる細胞
      E細胞・epithelioid cells
      F細胞・fibroblast-like cells・・・・・と略記します。
 ◇C5(生後21日目のW.K.rat肝←DAB 1μg/ml延べ8日間)、LT+20%牛血清培地。
7日目 D群に2/10、B細胞のmigrationおこる。K群にはなし。
20日目 D群には4/8、B細胞のcell sheetを作る。K群にも3/8におこる。
以後は細胞の増殖は止り、そのままの状態。
37日目 継代するも細胞の増殖をみず。
 ◇C6(生後14日目のG.hamster肝←DAB 1μg/ml 4日間)、LT+20%牛血清培地。
8日目 D群3/6、K群2/6にA細胞わずかに増殖。
18日目 D群4/6、K群5/6にA細胞の増殖をみる。
この日、各群2本→2本に継代するも細胞増殖なし。
22日目 継代しなかった残りの細胞の増殖かえって不良になる。
 ◇C6'(生後14日目のG.hamster腎←Stilb.1μg/ml 4日間)、
 LT+2%牛血清で培養開始、4日目以後5%牛血清を用う。
4日目 S群、K群共E細胞の増殖をみる。
8日目 S群の方がepithelioidの傾向やや強し。
12日目 各群2本→2本に継代、7日後いずれの群もわずかながら細胞の増殖あり。しかし、19 日後にはS群の1本をのぞき細胞の増殖止る。
18日目 各群2本→2本に継代、12日後S群の1本にのみF細胞の増殖をみる。
22日目 残りを継代するも8日後K群の1本を除き細胞の増殖みられず。
 ◇C7(生後15日目のG.hamster肝←Stilb./ml 4日間)、LT+20%牛血清培地。
8日目 S群1/5にややA型細胞の増殖をみる。
11日目 S群2/5、K群3/5にA細胞の増殖をみる。
18日目 S群3/5、K群4/5にA細胞の増殖をみる。
25日目 増殖しているもの各群2本→2本の継代、4日後細胞増殖なし。
29日目 残りの各群の細胞増殖のみられたものを継代するも細胞増殖なし。
 ◇C7'(生後15日目のG.hamster腎←Stilb.1μg/ml 4日間)、LT+5%牛血清を用う。
4日目 各群共E細胞の増殖。
11日目 各群共F細胞がまさって来る。
18日目 各群共F細胞predominantとなる。
この日、各群2本→2本の継代。 11日後S群の1本を除き細胞増殖なし。
22日目 残りの各群2本→2本に継代。7日後S群の2本のみ細胞増殖あり。
 ◇C8(生後8日目のG.hamster肝←Stilb.1μg/ml 4日間)、LT+20%牛血清培地。
8日目 S群1/6にややA細胞の増殖みらる。
18日目 S群4/6、K群3/6にA細胞の増殖。
30日目 S群4/5、K群5/6にA細胞の増殖。・・・・・しかし差程強い増殖はみられない。
 ◇C8'(生後8日目のG.hamster腎←Stilb.1μg/ml 8日間)、LT+5%牛血清培地。
4日目 両群共E細胞の増殖。
8日目 両群共F細胞がまざって来る。
15日目 両群共F細胞がpredominantになる。継代するも失敗。
18日目 各群2本→3本に継代、2日後F細胞の増殖あり。
 ◇C9(生後14日目のG.hamster肝←Stilb.10μg/ml 4日間)、LT+20%牛血清培地。
11日目 S群6/6、K群5/6にややA細胞の増殖をみる。
18日目 これら細胞の増殖強まる。増殖可成り良好。
 ◇C9'(生後14日目のG.hamster腎←Stilb.10μg/ml 4日間)、LT+5%牛血清培地。
4日目 S群6/6、K群5/6にE細胞の増殖をみる。
11日目 両群共F細胞の増殖をみる。
各群2本→2本へ継代。 9日後S群においてF細胞の増殖良好。
14日目 各群2本→2本に継代、6日後S群がK群より細胞の増殖よし。
 ◇C10(生後21日目のW.K.rat肝←DAB1μg/ml 8日間の予定)
startしたばかり。

[気付いたこと]
 1)◇C5で、細胞の増殖があまりなかったのは、この頃培地の調子が少し変ったので、その為と思う。
 2)◇C6で培養の途中から、かえって増殖が悪くなった傾向があるが、これはroller drumの孔に"トメ"がないため、roller tubeがからまわりすることも関係すると思う。
 3)◇C6'腎の培養でLT+2%〜5%牛血清培地を用うれば、20%牛血清培地を用いた時より少くとも培養の初期においてはE細胞が発育する傾向がつよい。12、18日目に継代したものにF細胞の増殖がみられる。S群の方がK群よりややよし。22日目に継代したものでS群の増殖のみられなかったのは母培養(初代)の細胞が可成りよわっていたためかとも思われる。 4)◇C7はS、K群に有意差なし。
 5)◇C7'18日目、22日目に継代せるもの共にF細胞の増殖あり。S群がややよい。
6)◇C8 特に有意差ない。
7)◇C8'18日目に継代。7日後までS、K両群共増殖を示す。
8)◇C9 ややS群の方がA細胞の増殖がよいか?
9)◇C9'11日目、14日目継代共7日後までS群にF細胞の増殖よし。G.hamster腎←Stilb.で11日〜22日に継代したものは少くも2代目まではF細胞の増殖がみられる様である。それもS群がK群よりよい様である。しかし、3代に継代出来る位までに増殖さすのは割に難しい。 なお先に◇C4'を継代したものは:11日目に継代したものはS、K両群共細胞の増殖がみられるが、14日目、18日目、25日目に継代したものではK群において殆ど細胞の増殖はみられず、S群を更に14〜17日目に3代目に継代するとわずかにF細胞の増殖がみられるに止った。 肝細胞の継代はまだ成功していない。
 2)免疫学的研究
 株細胞の免疫学的差異を、更に広範の株細胞につき検討せんとしている。
 A)血球凝集試験
 予備試験としてO型人血球にChang肝細胞、JTC-4細胞、FL細胞の家兎免疫前、後血清を作用せしめ、この際血清を稀釋するPBS中にMagnecium ionを含むものと、含まぬものにつきtiterを比較したところ、Mg++を含む方がはるかに高いtiterを示すことが追試出来た。なおChang肝及びFL細胞とJTC-4細胞との間に明らかな有意差がみられた。
 B)蛍光抗体法
 梶山は蛍光抗体法の習得もかねて、予研伊藤氏の所に数日御邪魔し、HeLa、Chang肝、FL、JTC-4細胞家兎免疫前、後血清をこれら細胞に作用せしめ、これら株細胞間の免疫学的つながりにつき検討を加えた。詳しくは次回班会議の時報告する。

《堀川報告》
やっと本格的に仕事が出来るようになり現在はDABによる発癌実験とPinocytosisによる株細胞の腫瘍化に重点を置き仕事を進めております。
 1)発癌実験
 培養法:廻転培養器がないのですべて静置培養法、TD-15培養ビン使用
 培地 :20%bovine serum+80%YLHsolution
 発癌剤:300γ及び500γX-ray、1μg/ml・DAB
 培養細胞:mouse CAB系の肝
 Exp.1 生後45日のDAB系mouse肝細胞にDABを4日間作用。5日目迄、Exp.区はControl区と共に何の変化も認められず。静置培養のせいか細胞の剥離ははなはだしい。12日目に至るもExp.区は殆ど変化なし。むしろControl区では剥離した残りの細胞がFibroblast状に増殖するのがみられる。18日目に至っても変化みられず実験中止。
 Exp.2 生後49日のCBA系mouse肝細胞大量にDABを4日間作用。Control区は3日目頃から増殖が起る。しかもactiveに。一方Exp.区は5日目にFresh培地に返した頃から増殖を始める。6、7、8日目迄はFibroblasticな細胞が9日目頃からEpithelial likeに変る。この時期にはExp.区はControl区よりもたしかに有意な増殖をしている感じがする。
 15日目にmouseCAB系(生後28日目)♂に復元実験する。Control区250万個/mlを1匹に1mlづつ腹腔内注射→5匹。Exp.区320万個/mlを1匹に1mlづつ腹腔内注射→5匹。いづれも注射28日後の今日になる迄何の変化もなし。残念に思うのは一寸した手ちがいで、Ehrlich細胞同様に腹腔内注射をやってしまったことに失敗の大きな原因がある。直ちにSystemをかえてExp.3に入る。
 Exp.3 ラッテ、マウスから得たin vitroの各細胞の増殖ならびに形態面に及ぼすDABの影響はむしろ班員の多くの人がこれまでねらってやっていてくれているので、私の所では出来る限り早く復元実験に持ち込む目的でいづれも多量の細胞を塗抹してDABとXrayを併用して処理した(図を呈示)。動物はmouseCAB系♂(生後31日)。培地はYLHsol.
 処理13日目の現在の結果。
 (1)群無処理Controlは4日目からFibroblasticなcellが増えて、8日目でSubculture、現在でも最初程ではないが増えている。
 (3)群500γX-ray照射と、(5)群500γX-ray照射後1μg/mlのDABで4日間処理は、X線doseが強かった模様で増殖なし、特に(5)は細胞質に黒い顆粒が出現してdenaturateする傾向あり。今後は照射するX線doseを考えねばならない。
(2)群1μg/ml DAB処理4日間と、(4)群1μg/ml DAB処理4日間後300γX-ray照射の、結果が一番よいようだがこれも(1)群と比較して現在ではまだ殆ど大差なし。(2)群と(4)群の今後をたのしみにしている。
 この様にX線を併用してみましたが、初回は使用したX線量が一寸大きかった様で次いでこれらの点を考慮してExp.4を開始しております。尚Exp.3の今後の状況如何で復元実験をやってみます。更にX線だけにたよらず、他のChemicalagentを併用するつもりです。
 2)Pinocytosisによる株細胞の腫瘍化は今回は特に報告できる結果がありませんので省略します。

《遠藤報告》
 1)HeLa株細胞の増殖に対するステロイドホルモンの影響(各実験の図を呈示)
 1)Dehydroisoandrosterone(その2)
 前号では増殖促進傾向を示したDehydroisoandrosteroeが、その後極めて慎重に行った実験では殆ど無影響ということになりました。ただ4日後には、0.1〜10mg/lの濃度で20%前後の増殖促進を示していますが、果たして意味があるかどうか?
 前号の実験の際のControlの6日間の増殖率は10倍、今回のは41倍という違いがどの程度こうしたresponseにひびいてくるかどうか?
 2)MethylandrostenediolとMethylandrostanolone
 前号ではMethylandrostenediolについて若干報告しましたが、その時予想された増殖促進傾向はその後の実験ではあまり著明でなく、4日あるいは6日後においてたかだか10〜20%に過ぎませんでした。この培養での6日間の増殖率は17倍でした。
 3)4-chlorotestosterone
 これは比較的新しいそしてかなり強力なanabolic steroidであります。ただこれはエタノールにあまり溶けないのでCMCを使ってsuspensionを作り、これを培地に加え所定の濃度としました。CMCを加えない群も作ってCMCの影響もみました(CMCのMfinal cocentrationは0.005%です)。
 結果はこの4-chlorotestosteroneでも何の影響も認められませんでした。ただここで言えることは、1.0及び10mg/lを比較して4位にchlorが入っただけで明らかにTestosteroneとはちがってくるということです。この培養での6日間の増殖率は41倍でした。
 次にprogesteroneの場合と同じ発想で、BS濃度を2%にして全く同じ実験をしてみました。 結果は、10mg/lでのTestosteroeの増殖抑制作用が著しく顕著になると同時に、この濃度では、前実験では増殖抑制作用を示さなかった4-chlorotestosteroneも同等の抑制作用を示しました。増殖促進作用は4日後に20〜36%であまり顕著ではありませんでした。この培養でのControlの6日間の増殖率は16倍でした。
 2)発癌実験
 前回にstartのもようだけ書きましたものは、何らpositive dataを得ることなく終りました。申し訳ないころ乍ら、その後進捗をみておりません。

《伊藤報告》
 ◇発癌実験
 其后4回実験をstartしました。呑竜はなかなかうまく子供を産んで呉れませんので、今までのところ雑系の20〜25日のものを使って居ます。
 主としてDABの作用日数について検討を行う積りでやって居ますが、回転培養での細胞の増殖の判定がむづかしく困って居ます。explantの周囲に何か出来て来る事は確かだし、而も培地のpHは2日目毎の培地交換でも相当に低下しますから、細胞が増殖して居るのだろうとは思ふのですが、試験管のまま弱拡大で検鏡したのでは、細胞である事の確認が出来ません。そうして居る間に日数も経つ事ですので、subcultureに移してみて居ますが、これが成功せずどうも弱って居ます。
 先日来、Leberの一部を使って静置培養の方も始めました。細胞はとれて居る様ですので、此れにもDABを添加してみたいと思って居ます。
 此んな事で仲々はっきりしたDataを御報告出来ませんが、今度の会合の時にもう一度皆様のお話をよくきき、又高岡さんの実験もみせて戴いて、判定の基準を確認させて戴き度いと考えて居ます。
 ◇増殖促進物質
 腫瘍よりのS2分劃と、正常肝よりのS2分劃との間に、その高濃度による増殖抑制の有無、加熱に対する態度等で、何か差異がありさうです。此の点、次の会合で詳しく御報告出来ると思います。
 又AH-130よりのS2分劃のPurificationは、従来のIRC-50 Columnによる分離が思はしくありませんが、CM-Cellulose、DEAE-Cellulose Columnを用ひての分離を開始しました。此れも近くDataが出る筈です。
 ◇高井君のところで、Actinomycin Sarkom(マウス)の培養株化が出来ましたので、今度の癌学会に出す積りです。これは復元した際の態度等で、以前の人癌腹水由来の細胞との比較に利用し度い考えです。
 ◇別に、前報でも一寸報告しておきましたmytomycinのin vitroでの作用機作について、Dose、添加時期、添加時間等の検討をして居ますが、此れもまとまれば癌学会に出したいと思って居ます。

【勝田班月報:6208】
《勝田報告》
 発癌実験だけについて報告します。
 表1はこれまでの月報でも報告したものですが、血清の変ったC#8〜#10あたりでは増殖が見られなかった他は、一般にDABを用いた実験群の方が増殖を起す培養の数が対照より明らかに多くなっています。C#1のDABを12日使ったのは、やはりDABの使いすぎによって増殖が抑えられたのだと思います。C#6は9日ラッテ肝で、対照もふえてしまい、これは今日まで実験群と共につづいていますので、C#17の細胞ととも、各2匹宛の4日ラッテに脳内接種しました。7月27日に、10万個入れました。従ってラッテは計6匹使った訳です。(その後、8日後までは未だ変化を肉眼的に認めず)とにかくC#6の対照は、対照としては珍しく培養の続いている例で、そのまま株化するかも知れませんので貴重な例です。
 第2表は、その後の成績で、やはり対照より実験群の方が増殖をはじめる培養が多く、C#17では対照は0/5となっています。この前の連絡会のとき、DABをまず溶くときの血清の種類の検討が必要かも知れない、とお話ししましたので、C#13ではラッテの血清にとき、あとの培養にも20%ラッテ血清を用いてみました。しかし結果は反って悪く、1本も増殖が起りませんでした。次のC#14ではこのとき作ったDAB-RSを使い、それに培養用としては仔牛の血清(CS)を用いました。その他にはじめから仔牛血清にといたDABも作って、同時に実験をはじめたのですが、結果はラッテ血清を使うことは全く意味がないことが判りました。その他、仔牛血清で判ったことは、成牛血清に比べCSの方がむらが少いということです。BSでも良いのは良いんですが、たまに悪いのがあるので困る。CSだとそれが少いという訳です。C#16→#18では同腹の仔ラッテを次々と使って、日齢のeffectも同時にしらべました。すると18日ラッテがいちばん良さそうなことが判りました。つまりControlは0で、実験群の率もMaxの訳です。第2表の実験ではどれも11日にふえ出しているのが面白く、大体DAB-Liver系の発癌実験も基礎コースが終った感です。C#18では、第15日になると増殖本数がふえました。今後は復元実験に主力をおきたいと思っていますが、ラッテの出産に左右されるので困ったものです。(このあとスライドでDABにより増えてくる細胞の位相差像を展示)TD-15瓶なのでピントが鮮明でないが、明らかに実質細胞系と思われる細胞の集団から成っている。このような細胞が活発に増えてきたときだけ(+)としている。(箒星様の細胞はこのように相互に石垣状に密接しないし、増殖しているかどうかも判らない。運動力が大きくて、explantからmigrateするだけかも知れない。たとえ少しあらわれても継代すると姿を消す。
 Ratの日齢と増え方の関係ですが、これはいままでのデータを全部あつめてみると、それ以上に他のfactorが働いているような気がします。C#7などは1.5月でもうまく行っているのですから。

 :質疑応答:
[山田]継代はトリプシンを使うのですか。
[佐藤]トリプシンを使うと、Exp.とControlの差がなくなるように感じますが・・・。
[高岡]初代→第2代のときはトリプシンを使わず、ラバークリーナーで落しています。その方が良いようです。以後の継代では、細胞が硝子面に一杯になったとき、トリプシンをうすくして使っています。大体他の場合の1/2位の濃度です。
[山田]継代したあとの成長の悪い場合、それはinoculum sizeの大小によるのか、それとも細胞自体のgrowth rateの差なのか・・・。
[勝田]初代から第2代に移すときはexplantsをかき落して入れるからinoculum sizeの問題ではないと思います。
[伊藤]スライドの中に見られたAtypicalの細胞は実質細胞ではないのですか。
[勝田]大部分は実質細胞と思いますが、他のものも若干混っているかも知れません。
[佐藤]細胞の形態は自分のところで生えてくるのと同一の気がします。うちでは最初の4日間位迄はExp.とCont.は差がありません。
[山田]いま見せてもらったデータの限りでは、Exp.群とControl群との間に差のあることは明白だと思います。その意味付けを考える必要があるでしょう。

《佐藤報告》
1.発癌実験
 前報に引続いて行った実験を記載し、後に本日迄の結果を纏めます。
◇C24(1962-7-6=0日)ラッテ生後28日
 対照、メチールDAB4日投与、メチールDAB8日投与の3群を行った。
 第20日の結果は、Cont.0/6、メチルDAB 1/6(4日)、メチルDAB 2/6(8日)
但し陽性のものも、DAB投与の場合現われる円形乃至菱形の細胞のSheetと異り、箒星状細胞に近い偏平な突起を有する細胞が連なって増殖することが特徴である。
◇C25(1962-7-11)ラッテ生後33日
 5群に分けて実験し、第16日の結果は、対照 0/6、DAB8日 1/6、メチルDAB4日 0/6、8日 0/6、12日 1/6
DAB8日のものは類円形のものであるが尚Sheetは小さい。メチルDABのものは◇24に現れる細胞と同型でいわばRetothel Sarcomaに相当する細胞である。
 前記二つの実験は対照の結節発生率を0%として実験群の陽性率を高める積りでラッテの生後日数をのばしたが、対照は予定通り0%となったが、実験群も陽性率が低下した。従って現在私が行っている作用方式では呑竜ラッテで23〜27日間が差が最も現われ易い。
 メチルDABに関して前報◇C21及び◇C22の観察をつづけた。ラッテは同腹生後25及び26日である。
◇21は其の後、第23日で対照 2/6、DAB4日 2/6、メチルDAB 4/6となった。
◇22は其の後、第24日で対照 1/5、DAB4日 2/5、メチルDAB4日 3/5、8日 2/5、12日 2/5となった。但、◇21と◇22例はどういうものか細長、云わばfibroblastic cellの発育が旺盛であった。◇21と◇22のメチルDABの一部は継代されたが、細胞はDAB型と異り突起の多い箒星形に近い細胞が増殖している。現在の結果ではDABとメチルDABの間には増殖する細胞形態にかなりの差があるが、細胞増殖の差は著しくない。
◇7'此は廻転培養を長期つづけた所謂静止型の肝細胞がDAB投与で変化するかを見たものです。1962-4-12=0日、生後79日±1日を廻転培養し、第59日目にDABを4日間投与したが、其の後33日の観察に変化は認められなかった。
ラッテへの復元
1)◇8 3代(開始より66日目)Exp.Cont.共、同腹ラッテ脳内へ接種、1962-7-28日
現在12日目変化なし
2)◇10 3代(開始より61日目)Exp.Cont.共、同腹ラッテ脳内に接種、1962-7-28日
現在12日目変化なし
 上記2群は、ラッテが2ケ月を経過して大きくなりすぎでないかと思われるので今後は幼若なものに脳内接種を行う予定
継代の現状
 現在◇8、◇9、◇10、◇17、◇20、◇23で続行中

 :質疑応答:
[山田]メチルDABがin vivoではCholangiomaを作ること、これとDABとの差がin vitroで出ているのかも知れぬということ。これはDABの濃度などを、たとえば、上げたりするとあのような箒星形の細胞が出てくるかも知れない。この箒星形の細胞は生体染色が可能でMacrophageではないか、という気がします。
[佐藤]DABのとかし方には問題があるように思います。CH3DABは今後はやめてEpithel cellを作るDABだけで追いたいと思います。それから肝臓内接種はどうでしょうね。
[勝田]それは私も考えたことはあるのですが、うまく刺したところにとどまってくれているかどうか、ということと、抗体の問題がありますね。
[伊藤]AH-130だとPortaderに入れるとHepatomaを作ります。
[佐藤]静止形肝細胞(59日ラッテ)にDABを4日与えましたがnegativeに終りました。うちのデータが、勝田さんのところほど、対照との差がはっきり出ないのは、Ratのせいでしょうか。techniqueのせいでしょうか。それからDABを長く入れると悪いというのは・・・。
[山田]やはりtoxic effectに働く可能性があるのでしょう。
[佐藤]DABの破壊物が作用している場合(in vitro)とDABがintactで働いている場合(in vivoのexp.)とでは相違があるのではないでしょうか。
[伊藤]復元接種する場合、沢山の細胞を得るのに時間がかかって、そのため細胞のalterationの可能性がありますね。
[勝田]だからintracranialの接種をしようという次第です。細胞がばかに少くて良いというので・・・。
[山田]Ehrlichだと100ケでheterotransplantationが効きます。
[堀川]一気に大量を入れた方が良いと思います。Selective mediaとして生体を使うのが良いでしょう。
[勝田]脳内接種でそこにtumorができた場合、継代はどうしますかね。
[山田]Carcinomaならば継代は可能です。TumorができたかどうかはHirnの場合はすぐ判ります。切ると色がちがうし、細胞が多いですから。ホースターのdataでは、シリアンハムスターの復元接種で1万個がcriterionになっています。
[勝田]それから目下のところでは肝組織を切出して、explantで培養していますが、explantの中にDABが仲々入りにくいかも知れぬということを考えると、これは余りefficiencyの良いやり方ではないから、将来は細胞をばらして培養することも考えなくてはならぬでしょう。
[山田]細胞によるConditioningの問題があって、増えるtubeは増え、駄目なのは駄目のような気がしますが。
[堀川]動物の方のConditioning、たとえばX線やCortisoneによる前処置などを考えては・・・?
[高岡]Ehrlichを100ケ入れて何日位で増えてくるのですか。
[山田]多分1週間位でしょう。
[堀川]LにDAB処理して100万個、Ehrlichの株JTC-11を10万個と夫々マウスにIPで入れたのですが、Ehrlichの方だけ20日〜30日で死にました。
[山田]脳内接種というのは色々な意味で良い接種部位だという話です。
[佐藤]Ehrlichは1ケではつかんのですよ。
[山田]一般にLeukemia系統はうまく行きますね。
[堀川]制癌剤として働き、また発癌剤として働くならDNAなどに働くのでしょうか。
[山田]DABは蛋白とくっついて働くと云われていますが、大部分はそうであってもDNAの方にも働くかも知れませんね。
[堀川]Lか何かを使って、DABの作用機構をしらべるべきだと思います。
[勝田]それも勿論良いことだし、やらなくてはならないことですが、今の段階では何といっても完全に癌化させ、復元も陽性にさせて、それからゆっくり色々の解析に入れば良いと思うんです。とにかく癌化させることが第1でしょう。

《高木報告》
1)発癌実験
 前報に報告した通りですが、これを括めると次の如くなります。
Exp.5、10、11は生後21、21、7日のW-K-ratの肝臓にDABを処理したが、増殖細胞は得られず。Exp.6、7、8、9は生後8〜15日のG-hamsterから夫々腎臓と肝臓をとりStilb.を処理した。実験によっては増殖系細胞が得られる。
 考案:以下細胞種略名・A細胞は石垣状に増殖を示す本命と思われる細胞、B細胞は箒星状、Eはepithelioid cells、Fはfibroblast cells
A.Golden hamster肝実験群
(1)有意差を生じせしめるためには薬剤(stilb)の作用期間は4日より7〜8日の方がよいのかも知れない。或いは動物の日齢が関係しているとも思われる。
(2)DABを作用せしめた時、18日以後目立って細胞の発育が不良になったのは偶然か、または発癌剤のちがったことによるものか・・・? 大体において20〜25日以後は細胞増殖が止まる。
(3)A細胞の生え始めは大体10〜15日の間、日齢の若い方が生え始めも早いか?
(4)hamster肝の場合はF細胞の増殖殆どなし、大抵は生えて来るのはA細胞であるが、時としてはB細胞がpseudo-sheet?を作ることあり。
(5)pipettによる継代は残念ながらすべて不成功・・・時期の問題がある。
B.Wistar-King ratの肝実験群
(1)ratの日齢如何をとわず、これまで行った処ではhamster肝に比してA細胞の増殖がおこりにくい様である。これはDABを使用直前2mg/mlの原液から培地でうすめるためかも知れない。
C.Golden hamster腎実験群
Exp.は2、4、6、7、8、9で、動物の日齢は生後8〜24日、Stilb.4〜9日の処理である。培地は2〜20%血清を添加したLT、結果は継代後6実験中4実験が有意であった。
 考案:
(1)培地は20%LTより2〜5%LTを用いた方が、少くとも培養の初期にはE細胞がF細胞ににくらべてpredominantである。しかし後者の培地を用いても5〜8日目頃からボツボツF細胞がまざって来る。
(2)Stilb.10μg/ml加えた方が実験群における細胞の増殖がよい様に思われた。
(3)大体において継代後、実験群の方が細胞の増殖がよい様である・・・有意!。
(4)実験8において継代後は実験群、対照群共細胞の増殖が同様にみられるのは動物の日齢が若いためか?
(5)継代に都合のよいのは10〜20日(12〜18日)目位と思われる。
 以上、今日までのdataをみて感ずいたことをそのまま書きました。勿論この考案の中に書いた或物は今後実験の発展に伴って考えなおされることと思います。なお勝田班長は仔牛の血清が成牛の血清より良い様に申しておられますが、私も同様に考えています。先日奥村班員の処からCalf searumをもらってきましたので、それを使ってみましたが、こちらで使っている成牛血清に比較して非常に細胞の発育はよい様に思われました。私の処では未だ発癌剤を意識的に血清加培地に混じておいて、細胞に作用させる方法をとっておりません。今後はそれをやってみたいと思っております。
2)免疫学的研究
A.血球凝集試験
(1)予備試験
 血清の稀釋液中のMg++の有無が凝集価に及ぼす影響をみた。血球はO型人血球、免疫血清は抗Chang Liver、JTC-4、FL細胞家兎血清を用いた。なおMg++(-)の群では血清は4倍稀釋から、Mg++(+)の群では20倍稀釋から行った。右図の如く、凝集価そのものは明らかにMg++(+)群において高くなったが、凝集価の上昇度(前、後血清で)はあまり変りなかった。しかしMg++を含む稀釋液(Dulbecco & Vogt処方)を用うれば、i)血清が少量ですむ、ii)判定が短時間で出来る、iii)判定が容易である、等の利点がある。以後はMg++を含む稀釋液を用いる予定である。
(2)予備実験
 細胞の免疫血清を得るのにモルモットを用い得れば安価であり、しかもBrandらの方法で免疫すれば細胞も少くてすみ簡単である。従ってこの方法を追試してみたが、彼らが免疫に用いた細胞の前処置に使用しているmagnetostrictorがないので、細胞を凍結融解し、更に乳鉢ですりつぶしたものの遠沈上清を注射してみた。しかしながら抗体の上昇をみることは出来ず、更に細胞の前処置につき検討中である。
 なおFL細胞の各分劃についてもゲル内沈降反応の準備をすすめている。
B.蛍光抗体法
免疫血清:抗HeLa、Chang liver、FL及びJTC-4家兎血清
細胞:HeLa、Chang liver、FL及びJTC-4細胞
方法:抗家兎γglobulin山羊血清(labeled)は使用前、径約1cm高さ10cm位のSephadexのカラムでpurifyし、次に先ず0.1g/mlserum、更に0.06g/mlserumのrat肝のaceton powderで吸収したものを用いた。
染色に際しては抗家兎γglobulin山羊血清(labeled)は6倍に、また免疫血清は3倍にPBSで稀釋して使用した。染色時間は1時間、洗滌は30分間行った。染色度はHeLa細胞に同抗血清をかけたものの前を(+)後を(+++)としてこれを基準にした。なお判定はこの染り方の差をとった。
結果:種属特異性があることが分った訳であるが、それと別にこのdataに関する限りHeLa細胞とFL細胞のつながりが比較的少いことが分る。なお広汎に実験を進める予定です。

 :質疑応答:
[勝田]継代法、第2代は静置ですか。(腎のトリプシンとMagnetic stirrerのことを指す)
[高木]そうです。
[勝田]ハムスター腎とStilb.の組合せは有望のように思われますね。
[佐藤]培地に入れたDABを果して細胞がとり込んで使ったかどうか、培地中のDABを何かで発色させ、比色で測ってみる手はありませんか。
[遠藤]さあ、知りません。
[佐藤]復元が確実に行ってくれれば良いが、もし仲々行かんような場合のことを考えると、他の早道を探してみたら・・・。
[伊藤]復元以外に何か良い方法があるかどうか。
[堀川]やっぱりまず復元してみることが第1でしょうね。
[山田]メチルコラントレンは胃に入れると、数日後にもうその胃に変化があるが、その機構は判らないし、DABを喰わせて解糖その他をしらべても、それはただ量的意味で癌細胞をつかまえているだけのことで、質的には生化学的につかまえてはいないですね。
[佐藤]若いラッテの肝の培養にDABを加え、そうするとExp.もCont.も両方出てきますが、それを両方とも復元してみるのは意味があるんでしょうか。
[勝田]それもやってみる手はありますが、両方とも生えるのではDABによって細胞の性質が変ったということにはならないですね。たとえ変っていたとしても掴まえにくいし・・・。
[山田]今日色々話に出た内で、DABの溶かし方の問題がありますね。使うときにうすめるか、培地でうすめて保存しておくか。
[勝田]うちのたった1回の経験ですが、使うときにうすめたのは生え方が悪かった・・・。
[山田]それからRatのageのことで判ったのは、若いのを使うとExp.もCont.も両方とも生えてくるが、年とったのは両方生えない、ということですね。

《山田報告》
マウス肝組織初代培養に対するDABの作用
培養法:高岡さんの記載による。(月報No.6203)細切肝組織を5〜10個、角チューブ内面におき、付着後培養液を1mlづつ加える。
培養液:Exp.#1 0.5%Lactalbumin hydrolyzate in Hanks+20%Calf serum、Exp.#2 TC199+20%Calf serum、液替は週2回
DAB:100mg in 5ml of Tween20+45ml of dw(2mg/ml)を保存液とし、使用の都度、培養液で稀釋し、最終濃度を1μg/mlとした。
判定:Ep cellの層状のoutgrowthの出現をもって(+)とした。成績はすべて初代培養による。
結果:8実験の中、マウスの日齢が3〜14日の5例中3例はExp.Cont.両方が+で、19〜26日の3例は両方とも増殖しなかった。

 :質疑応答:
[勝田](増殖しないというところで)血清のlotを変えてやってみなかったの。
[山田]変えてみる予定です。
[高岡]牛血清にはよくむらがありますが、仔牛血清なら良い筈ですがねえ。
[勝田]血清の非働化は、一旦やっても、そのあと保存したときは使う直前にまたやらなくてはいけないと云いますね。
[山田]血清学的にはそうされていますが、私は全然非働化しないで使いました。
[佐藤]DABが果して本当にとけたかどうか、その化学的な基準か何か、可溶、不溶を決めるものはありませんか。
[遠藤]さあ、知りませんねえ。溶けるときはさっと溶けてしまうし・・・。肉眼的に見て決めるだけでしょう。
[佐藤]溶けているかどうか、ということは非常に問題になると思いますが、溶かし方をみなさんどうやって居られますか。
[山田]Tweenでといて、水を加えるともうそのとき結晶が出る・・・。
[勝田]水? そこは水ではなくてSalineを入れるように月報にかいた筈だが。
[高木・高岡]Salineを加えると、そこでは結晶は出ない筈です。
[勝田]うちでは前の月報にかいたように(血清20%+ラクトアルブミン水解物0.4%+SalinrD)の培地を加えて冷蔵庫で保存しています。
[佐藤・山田・高木]うちでは濃いまま保存し、使用の度にうすめています。
[勝田]さっき報告した内の1例のように、そんなところの差が成績にひびいているのかも知れませんね。

《伊藤報告》
§発癌
 前回の報告に書きました如く、RollerTubeによる発癌実験では細胞増殖の判定に自信がありませんでしたので、その方は今回上京した際に、もう一度高岡さんのやって居られる実物を見せて戴いてから、改めて開始する事にして、それ迄は前回にも一寸書いておきましたラッテ肝のtrypsinizeで得た細胞の静置培養法の方に手をつけて居ます。ただ、今迄にやったRollerTube法でやったものをsubcultureしたものに一部colonyの発現をみましたので、これは続けて居ます。
 静置培養の方は3度試みて、3度共相当数の細胞を得て居りますが、2回目と3回目のものとでは、いささか細胞の形態が異なりますので、発癌実験に使う一方、必要な細胞をconstantに得られる様な条件を設定し度いと考えて居ます。
 此の方法では比較的簡単に早く多数の細胞が得られますので、早い時期に復元出来るのではないかと予想しています。但し、発癌の有無は、復元以前の瓶内の観察だけでは恐らく不可能ではないかと考えます。
§促進物質
 6月中旬頃よりL・P1の具合が悪くなり(これはどうもLactalbuminのせいだったようです。又、伝研から分けて戴き、それが殖えるのを待って居たりなどして、其後実験が進まず、癌学会の申込み原稿にも差支える程で困りましたが、やっと実験が始められる様になりました。CM-Celluloseによる分劃を検討しています。

:質疑応答:
[高岡]発癌に使っているのは何日位のratですか。
[伊藤]20日、28日位のratです。
[山田]トリプシンの濃度は?
[伊藤]0.25%です。初めの10分間に出るのは棄て、あと20分間位のをとります。血液成分は特に除く方法はとっていません。
[山田]肝実質はトリプシンに弱いですからね。
[勝田]うちでもexplantで発癌に成功したら、次はばらばらにしてやりたいと思っていますが、それははじめに目ざす細胞以外のものは除いてから使いたいと思っています。
[高岡]ばらばらにした細胞は増えるのですか。
[伊藤]どんどん増えます。ですから早くに復元してみたらどうでしょう。
[勝田]あまり早く復元するとDABが残っていたからと云われる難点があります。Ratの種類は?
[伊藤]呑竜ですが、あまりよく増えません。
[佐藤]うちのはよく増えます。やっぱり呑竜ですが。
[勝田]山田班員は培地にラクトアルブミン水解物は使ってみなかったのですか。
[山田]初めにやってみたのですが、これはratのageが大きすぎて、生えなかったのです。
《堀川報告》
1)発癌実験
Exp.3:前号のExp.3のその後の結果では(3)と(5)はX線doseが大きかったため、その後も分裂増殖は認められず。(おそらくこのものは駄目と思われる)
Control(1)と(2)(4)の間には培養開始後26日(その間Subculture3回)になる今日においても増殖において大した差は認められないで僅かにfibroblasticな細胞が増殖を続けている程度である。
復元実験は現在の段階では細胞数が少ないため行えない。
Exp.4:Exp.3で使用したX線doseをすべて150γに落し、その他は同じ系で実験を開始した。今回はX線doseは強くない様で細胞の死滅は認められない。5日目のSubcultureするまではControlに比べてExp.区がactiveに増える傾向にあったが、Subculture後この差はなくなり、7日目の現在に至る。痛切に感じるのは、この段階でどの区の細胞がactiveに増えているかと云う決め手の無い事で、同じ実験区の内にもvariationがあり、よろこばされたり、がっがりさせられる事が多い。とにかく復元実験で勝負するのが一番早いと云う結論が得られる。
2)培養細胞における喰食性(Cytosis)と形質転換の試み。
 最近新しい言葉として用いられる様になった細胞の喰食性(Cytosis)ト云う言葉は広い意味でpinocytosisとphagocytosisを含んだものであってpinocytosis(Drink)、phagocytosis(Eat)ともに古くから各種細胞で明らかに認められてきた現象である。この細胞の喰食性を利用して培養下の正常細胞を腫瘍化させようとするのがこの仕事の目的である。しかしこの種の正常細胞を腫瘍化させるにあたって、現在の段階では最後の決定的なものとなる決めてを探すのに苦しい。
 (1)正常細胞が癌細胞の核なりあるいは細胞質成分の一部を喰食する。
 (2)喰食したものがhostの細胞内の代謝系路にどの様に喰い込んで行くか。
 (3)うまく代謝系路に喰い込まれていった癌細胞の一部成分が細胞分裂によって子孫にどの様に伝えられていくか・・・を知らなければならない。
この様な目的から次の3つの系を使用した。
 (1)便宜上、正常細胞としてL細胞にEhrlich細胞核を喰い込ませる事によりL細胞を癌化させる。
 (2)2000γ照射されたL細胞へ正常L細胞核を喰い込ませる事によって巨大細胞化を防止する。
 (3)抗原性を有し、更に抗体産生能力を高度に持っているマウスSpleen cellを正常L細胞に喰食させることによりL細胞の形質を転換させる。
現在の段階までに得られた結果をまとめると、
 (1)正常L細胞がEhrlich細胞核を喰食するのは、全L細胞の5%前後で、この喰食性はL細胞を2000γX線照射あるいは紫外線照射(15W、15cmの距離で30秒照射)することによって2倍まで高められる。
 (2)正常L細胞がmouse spleen cellを喰食するのは10%程度で、この喰食性はL細胞を2000γ照射することによって28%程度まで高める。更に2000γ照射後3日後においてL細胞の喰食性は最大になることが分った。
 (3)10000γ照射するとL細胞の喰食性は非常に低下する。
 (4)L細胞が、H3-thymidineでラベルしたEhrlich細胞核を喰食することを、Autoradiographyで確かめた。喰食されたこれらEhrlich細胞核が以後どの様にL細胞の内へdistributeして行くかは現在追跡中。
 (5)2000γ照射したL細胞へ正常L細胞核を喰い込ませることによって巨大細胞化を防止する能力はある様だ。
 以上、漠然とした事しか報告出来ないが、現在までに得られている主な結果である。発癌実験と同様に更に今後の実験に依らなければならない。然し異種細胞内へ入った核酸なり蛋白がその細胞内でどの様な行動をするのかに大きな興味をもっている。

 :質疑応答:
[勝田]Mouse spleenに2,000rかけたものをLに入れた場合、Lが巨細胞になるそうですが、核の数は?
[堀川]1つです。
[勝田]Mouse spleenにレントゲンをかけたことにより、何か巨細胞にするようなものをSpleen cellが出すように変るという可能性もありますね。
[堀川]問題は、癌化の場合も5%位としても、それをどう旨くつかまえて復元するか、ということですね。Spleen cellsをratに入れて抗血清を作り、それをspleen cellにかけて抗原抗体反応をみることもやりたい、と思っています。
[山田]Spleen cellとLとが混合培養になるという危険は防げますか。若いのを使うと箒星のようなので継代可能なのが残りますが・・・。
[堀川]培地をかえるとき、よく洗ってやると数日でspleen cellはすっかり無くなります。
[山田]リンパ球系のはなくなっても、箒星のようなのは残ると思いますが・・・。
[勝田]その可能性はあり得るね。それから発癌で、DABをやっておいてあとからレントゲンを弱くかけるとどうだろう。
[堀川]よほど低いdoseでやらないと、primary cultureのものはすぐやられてしまいます。
[佐藤]増殖していない細胞だとレントゲン耐性があるのだから、細胞を冷やしておいて、レントゲンを弱くかけたらどうだろう。
[堀川]やっぱり駄目です。
[佐藤]レントゲン耐性の細胞を復元すると、つくでしょうか。
[堀川]Lの場合にはつきません。レントゲン以外の耐性のものもつきません。
[山田]うちで作ったレントゲン耐性のHeLaは継代しているうちに耐性がなくなってしまいました。
[堀川]果して本当にγ耐性を獲得したのかどうか。
[山田]九大癌研にいる遠藤のところで、4ニトロキノリンを入れると核内に封入体ができる、それが癌化とどういう関係にあるかは判っていないが、そのようなことが判っていると、培養で割に簡単にキャッチできるのではないでしょうか。生体との関係についても意味付けて行けると良いと思います。
[堀川]NatureにPiggy back systemというのが出ていました。マロン酸は生体では呼吸阻害をするが、細胞内へは入らない。in vitroでポリスチレンその他を入れてやるとpinocytosisでポリスチレンが入り、あとにつづいてぞろぞろとマロン酸が入るというのです。高濃度では入るが低濃度では入らぬというのも、また、あるかも知れませんね。
[山田]ハムスターのpauchに入れると、1万個で癌ならつくが、正常ではつかぬと云われていますね。(Foley)。
[勝田]この段階で癌学会に出して良いかどうか考えて下さい。
[山田]勝田氏のところのデータは、現象的にははっきり差が出ているから、出して良いと思います。これは株ではなく、初代でやった、というところにまた意義があると思います。

【勝田班月報:6209】
発癌機構の考察:勝田甫
 肝細胞にDABをかけると、それまで増殖しなかった細胞が突然増殖をはじめる。明らかに何らかの変化が細胞内に起った証拠である。しかしその細胞を動物に復元接種してみると腫瘍を作らずに消えてしまう。何度くりかえしてみても同じことになる。
 ここら辺りで一度、細胞の発癌機構についてじっくり考えてみる必要があるのではなかろうか。発癌は明らかに細胞の不可逆的変化に基づく。そしてその変化は細胞のおかれた環境により淘汰される。悪性化がうまく行かないのは、細胞の変化が不十分(或は不適)なのか、折角悪性化したのが淘汰されてしまうのか、そのどちらか、であろう。細胞の変化について考えると、発癌にいたるのに、細胞は50位のステップを経るという説も最近云われている。動物実験でDABを用いて発癌させるのに何ケ月もかかるところからしらべられたのであろう。動物では、我々の実験とことなり、長い間DABを食わせる。これはどういう意味があるのだろうか。培養のように、あとから余り与えると、折角変った細胞に反って害になる、ということが無いのだろうか。第1段の変化から更に先に進ませるのに、同一物質で充分なのだろうか。しかしその変化に方向性のあることは推察できる。前に報告したが、DABを作用させて出てきた培養細胞に、胆管系の細胞の増殖を促進するような薬剤で追打ちしたところ、新生していた実質細胞がほとんど消え、箒星状のが残った、という事実からである。従って第1撃を加え、以後追討ちをかけるときは、同一方向の物を使う必要があろう。たとえば上に記したような物質はメチルDABのあとに使った方が向いていると考えられる。具体的方策として、とにかく我々はいま一歩のところにきているのであるから、追討ち剤についてよく考え、よく撰んで、色々やってみる必要があると思う。次に淘汰の問題について考えると、いま使っている培地はたしかに良い培地で、色々な細胞の培養に使える。しかしそれ故にこそ反って、ラッテ体内では生きられぬような細胞まで増殖させてしまっているかも知れない。また、これは逆の話であるが、同じくDABを使ってラッテに作った肝癌の一つ、AH-13、これはきわめて悪性で、腹腔内で腫瘍細胞があまり増えない内に、4〜5日でラッテが死んでしまうが、この細胞はいま使っている培地ではよく増えてくれない。この辺ももう一回よく考え直してみる必要がありそうである。

《勝田報告》
A)発癌実験:
 これまでの月報に全実験例を記載してきたので、今月は現在まで続いている系列だけを拾って報告する(表を呈示)。細胞はすべてラッテ正常肝。薬剤はDABである。
 C6のExp.群の方は明らかに株化した模様であり、対照群もなりかけている。Exp.群の188日(6代)の培養にDAB1μg/mlを再び4日間添加し、以后今日まで30日経つが著変を認めない。 C16の10本の内5本について、1ケ月后にDAB1μg/ml添加(4日間):今日まで著変なし、3ケ月目に再びDAB第3回目処理をおこなっている。
 C18 Subcultureした残りを約5万個/rat宛、9日rat2匹に脳内接種し、現在7日を経ているが未だ変化なし。
 C19、C20は念のため、もう一回年とったラッテの肝で発癌を試みてみた。しかしやっぱりうまくないことを確認した。
 B)細胞株の凍結保存:
 今夏の学生実習に2年生にやらせた偵察の結果では、細胞はJTC-1、2、8、12、4D、L、L・P1等であるが、次のようなことが判った。判定はニグロシン染色による生細胞算定と培養によった。 a.凍結の最大のコツはSlow freezingである。(Parkerの本にもかいてあります)
 b.(メタノール+ドライアイス)系でなくとも魔法瓶にドライアイスを入れただけで充分。 c.Cell suspensionはアンプレに入れて封じたり、厄介なことをしなくても、短試にダブル栓をかけ、断熱材で包み、プラスチックの袋に入れただけで大丈夫である。
 d.保存液は夫々固有の培地にGlycerol或はDimethyl sulphoxideを10〜20%に加えるだけ。前者はこれまで一般に用いられてきたが、后者の方が少し成績が良いようである。
 e.凍結保存中に絶対にドライアイスを絶やさないこと。10年続いた株も1日の不注意で世の中から姿を消すことになる。
 f.無蛋白培地継代の細胞は目下のところ未だ旨く行かないが、血清含有培地継代株は比較的容易で、JTC-12(サル腎)などは90%以上の細胞が生き返らせられる。このような場合は"淘汰"などは心配ないことになろう。
 この実験は当室の必要性からも、今后さらに続け、実用的にも採用して行く予定なので、さらにテータが得られ次第、月報に報告することにする。
 C)ラッテ腹水肝癌AH-13の培養:
 AH-130とまぎらわしいが、この細胞は悪性度が高く、腹腔内でtumor cellsが余りたまらない内に4〜5日でラッテが死んでしまう。腫瘍の悪性原因を拾うと、その内の主なものは二つで、1)活発な細胞増殖、2)腫瘍細胞の毒性作用(toxohormoneのような)であるが、このAH-13は后者の方が強いらしい。その意味でparabiotic Cultureに使ったら面白いと思って手をつけることにした。まだ血清を比較する位のところであるが、硝子壁にほとんど附着しない細胞なので余り有難くない。CS20%+LDの培地で、4日后に2〜3倍位だが、後は平らになってしまう。RS50%だと約3.7倍(4日后)。それでもマウス白血病のように1日位でぐっと下ってしまって、何をやっても駄目とはちがい、あと血清濃度や色々いじくると何とかAH-130のようにふえるのではないかと期待している。この細胞は壁につかないので、母培養せずに、すぐ実験培養に移している。
 D)サル腎細胞株(JTC-12)の無蛋白培地内培養:
 JTC-12を1962-2-7、継代第19代のものを(LD)だけの培地に移した。細胞は増えず、細胞質も次第にやせて行った。-2-15に(PVP0.1%+BS透析外液10%+Lh0.4%+D)の培地に変えたが大した効果はなかった。外液を用意することは大変なので、-3-12に再び(LD)だけの培地に戻し、相不変週2回のRenewalだけは続けてきた。現在約7ケ月経っている訳であるが、-9-11にTD-40瓶の底面の一部をピペットでかき落しRoller tube2本に移してみたところ、かき落した方も、残りのTD-40の方も共に少し増殖の兆候を示している。この分ならば有望であろう。1回でもトリプシン消化して継代できれば、あとは大丈夫なのであるが、目下のところはまだそこまでは行かない。これはウィルス屋の方へのサービスの訳で、できれば合成培地まで持って行きたい訳である。
 なお原株の方については、今夏学生実習で大分きれいな染色体の写真がとれるようになった。やはりdouble constrictionがときどき見られる。
 E)ラッテ肝細胞のカタラーゼ活性:
 これも学生実習でやらせたのであるが、肝癌と肝細胞をparabiotic cultureして両者のカタラーゼ活性が、対照の単独培養に比べどう変るかをしらべた。培養4日后の細胞を分析したのであるが培養の方はこれまで通り、肝癌は促進され、肝は阻害されるという結果になった。ところでカタラーゼの方は、対照でも大分活性が4日後には落ちていたが、Parabioticの方では測定不能まで落ちてしまった。しかもそれが肝癌、肝両者ともにである。この実験は現在関口君があとをつづけてやっているが、若し事実とすれば、肝癌はparaで増殖促進されていることから考え、カタラーゼ活性は増殖に対するeffectという現在の相互作用の観察点からはさほど本質的なものではない、ということになりそうである。
F)悪性化の検定にParabiotic Cultureも?
 肝癌−正常肝のときのような特異的相互作用が現われるかどうか、DAB実験で株化してしまった細胞や、それに近いものと、正常肝とのParabiotic cultureを目下はじめている。勿論細胞がかなりないと出来ないが、これが旨く行けばcellレベルでの悪性判定の一法に将来なり得るかも知れない訳である。

《高木報告》
 1)発癌実験
 前報につづき、継代したものについてその経過をみると
 ◇C6
 (1)12日目に継代したものは、S群にのみわずかに細胞の増殖がみられたが、活発な増殖をみるには至らず、継代後64日目で実験を中止した。
 (2)18日目に継代したものでも(前報の19日目とあるのは誤り)、やはりS群にのみわずかな細胞の増殖がみられたが、植つぎにたえず継代後58日目で中止した。
 (3)22日目に継代したものでは、K群にのみやや細胞の増殖がみられたが、18日目に更に第3代に継代後は殆ど細胞の増殖なく、第3代継代後40日で中止した。
 ◇C8
 18日目に第2代に継代したが、S、K両群共にF細胞の増殖がみられ、第2代継代25日目に第3代目に、S、K両群共3本から2本に継代した。継代後にS群の方がK群より細胞の増殖がよかったが、活発な増殖をみるには至らず、25日後に実験を中止した。
 ◇C9
 (1)11日目に継代したが、K群にくらべS群にF+F細胞の増殖よく、更に第2代継代後24日目にS群は3本より4本へ、K群は3本より1本へ継代す。継代後S群の増殖は依然よく、24日後に更にS群は2本より3本へ、K群は1本から1本へと第4代目に継代する。第4代継代後はS群にのみ細胞の増殖がみられK群は4日後に実験中止す。
 (2)14日目に継代したものでもやはりK群に比してS群に細胞の増殖よく、38日後更にS群は2本から4本へ、K群は1本から1本へと継代するも、S群の増殖は良好で、23日後第4代に継代す。K群は第3代において細胞の増殖みられず7日目に中止した。
 ◇C9'
 38日目に、S、K群共に2本から2本に継代するも、細胞増殖はみられず。7日後に実験を中止した。28日目に継代したものも、前報の如く細胞増殖みられず中止。
 ◇C11(生后7日目のW.K.rat肝←DAB1μg/ml 4日間)
 12日目、細胞増殖D、K群共にみられず。
 19日目、D群2/7、K群1/7。
 23日目、D群3/7、K群4/7に細胞の増殖がみられたが、これらは以後かえって発育不良となり、ついに37日目に実験を中止した。この原因は牛血清が不良であったためであることが分った。以后rat、hamster共中々仔が生れず、8月下旬にやっと以下の実験が出来た。
 ◇C12
 生后24日目のgalden hamsterの腎にStilb.10μg/ml 4日間作用。
 ◇C12'
 生后24日目のgolden hamsterの肝にStilb.10μg/ml 4日間作用。
 ◇C13
 生后24日目のW.K.rat肝にDAB 1μg/ml 4日間作用
 これら3つの実験ではStilb.DAB共予め培地に2日間とかしておいたものを用いた。但し、この3つの実験も始めの4日間◇C11の後半に用いたと同じ牛血清を用いたのは失敗であった。現在、◇C12ではE細胞の増殖が殆どにみられているが、◇C12'、◇C13では有意と思われる細胞の増殖は未だ認められない。
 (2)免疫学的研究
 CFmouseの血球を用いて、HeLa、FL、Chang、JTC-4、JTC-8(馬株)及びL細胞の免疫血清について血球凝集反応を行った(結果の表を呈示)。JTC-4及びL細胞の免疫血清について有意と思われるtiterの上昇がみられた。

《佐藤報告》
 月報を書いて皆様にお届けする日になって研究事項がなく只今班長宛電話連絡いたしました処、處期の通りお叱りを受け当然の事と思ひました。5日伝研着の処も1、2日遅れる事と思ひます。全く小生の怠慢であります。御寛恕の程お願いいたします。8月中は実験はしないで、株其の他の必要事項のみに極端に仕事を制限して研究室全員の夏眠を行ったわけです。其の間9月只今よりの準備と継続の実験DAB発癌のみについて7月迄の実験結果を追加しておきます。
 DAB実験の継代(実験番号は従来記載したもの)
◇ 8の実験群 TD1本5代、試験管 3本いづれも6代。
   対照群 TD15 2本いづれも6代、試験管 7本5代乃至6代。
◇ 9の実験群 試験管 3代1本。
   対照群 試験管 2代1本、細胞が少なく結節状に残存。
◇10の実験群 TD15 4代1本、試験管 4本いづれも5代。
   対照群 試験管6本、いづれも5代。
◇17の実験群 試験管1本、3代、増殖は余りよくない。
◇20の実験群 試験管1本、上皮性だが増殖はよくない。
◇21の実験群 試験管1本、2代箒星状わづか。
   対照群 試験管 細長い結締織系の細胞増殖中。
◇22の実験群 結節状にわづかに残存。
◇23の実験群 増殖が極めて悪い。
 ◇8と◇10の復元7月16日 実験、対照共に同腹のラッテに行ったが現在51日目陰性である 以上の結果から(1)大量の細胞を得る事は仲々困難な様に思う。
(2)メチルDABの細胞は予想外に増殖が悪い。
9月に入りましたら、実験の再開を致します。

《堀川報告》
 東山の山なみもしだいに秋の色に染り、朝夕はいくぶんかしのぎやすくなりましたが、まだ日中の暑さは相当のもの、今年の夏の京都の暑さは格別で、じっとしていても身体から汗のにじみ出るような毎日でした。従って7月末から仕事の方も全然と云っていい位、はかどりませんでした。だから今月号にはこれと云った報告も出来ませんので、この夏にあった出来事を2、3お伝えします。
 1)8月上旬に、ミシガン大学の教授でDr.Foxと云う人が来研しました。この人は現在
Drosophila(ショウジョウバエ)を使って蛋白合成を研究しております。方法はImmunologyのtechniqueを使って種的特異蛋白や雌雄特異蛋白の合成を調べております。今後はショウジョウバエのTissue cultureをやってこの種の問題を更に詳細に解明すつ目的の様です。従来私共がこのような培養をやっていたものですから、これを利用するための来日だったようです。阪大での関西地区の組織培養談話会で仕事の紹介をやってもらいました。
 2)次いで8月中旬にエール大学物理化学教室のDr.Kirksonと云う若い助教授が突如来研しました。この人はBacteriophageのDNAのfunctionとstructureを研究している人で面白く愉快な人でした。南禅寺の境内にかりた旅館があまりよくないといってぶつぶつ言ってましたが、自分で来日後交渉して決めて来た旅館だからどうしようもなかったようです。京都地区の若手組織培養グループの席上で仕事の紹介をしてもらいました。その後広島から別府に廻って帰国したようです。こうして暑い暑い京都の地で次から次とやって来た彼氏等のためにくたくたになって京都の名所案内も大変なものでした。今頃になって少し疲れが出て来た様です。
 3)8月下旬の22日に、今度はうちの菅原教授がモントリオールで開催される国際放射線学会出席のため渡米しました。何だか来たり行ったりの目の廻るような多忙さです。でもうちの教授は9月28日には帰国する予定です。あちこちの大学および研究室を廻って来る予定にしておられた様ですから、又次号ででもあちらの様子を少しはお伝え出来るかもしれません。
 仕事の方はこのような状態でほとんどまとまった事も出来ず以前の仕事の続きとして、[Exp.4]のX線照射とDABを併用処理したmouse liver cellをCBAstrain(30日目)の皮下に復元しましたが、これは全然だめでした。少し細胞数が少なかったせいもありますが、今のところ復元は一つも成功しておりません。
 実験もやりやすくなりましたので、これから又とりかかります。
 これ以外にpinocytosisの実験の方は、EhrlichとSpleen cellの抗血清をRabbitで作るのに暑い時を利用してやりました。これ位が夏場に出来た仕事です。そして何とかこれだけは作り上げました。これを利用して、今後はpinocytosisされた核なりcellがどの程度までhost cellの形質転換に働くか、を決めたいと思っております。Spleen cellは特有のAntigenを持つ様ですが、困った事にEhrlichとLcellは共通したAntigenを持っている様です。これからabsorptionによって特有なAntigenにしなくてはなりません。
 とにかく夏の間はだめでした。何よりも身体だけまあ元気でやって来たことを幸にして、これからの秋にそなえて頑張ります。皆さんお元気で、尚黒田さんも9月末にはDr.Mosconaの所から帰国する予定です。又にぎやかになるでしょう。

【勝田班月報・6210】
《勝田報告》
 A)発癌実験:
 先月号に報告以后の実験の結果を記載する。組合せはすべて正常ラッテ肝とDAB。1962-10-9現在である(表を呈示)。
 C-21、C-22の頃はRatの手頃のがないため、実験をやらぬよりはダメ押しでも、とこんな老齢のを使い、生えの悪いことを再確認した。その后また生れてきたので、Exp.C23からは若いratを使いはじめた。C23、C24ではきれいに有意の差が出ている。C25は2群作って、第1群はこれまで通り4日間DABを与え、第2群は半分の濃度でずっと継続的に与えることにした。C25、C26ははじめてまだ日が浅いので、増殖には至らない。C26は形態学的観察のために、Roller tubeにタンザクを入れ、その上に植片をのせて培養した。
 DABを短期間隔で反覆与える実験は、C23でおこなっている。各周期10日間、つまり4日間DABを与え、6日間休み、また4日間と、これを繰返す。現在第2回目が終ったところであるが、2回目をかけなかった群と差が見られるに至っていない。
 [復元接種]先月より3回おこなった。
 1:1962-9-22: C6(2-4培養開始)の実験群を1月のratの門脈に約100万個注入したが、現在までのところでは変化は認められない。これはいわば予備実験で、門脈への注入法のコツが若干判った。
 2:9-28: C17(7-9開始)の実験群細胞を約10万個、1月ratの大腿皮下に接種。これも今日までのところ変化がみられない。
 3:10-5: C17は7-27にも生后4日ratの脳内に約10万個注入して腫瘍を作らなかったが、ここでまた10万個を7月ratの門脈に注入。まだ数日しか経っていないが、今のところでは手術の経過も良好で、ratは生きている。今后は段々と若いratの手術になれるように努める予定。
 B)Parabiotic culture:
 C6の実験が株化したことは前号にかいたが、それを使って、正常肝との間にAH-130のような特異的相互作用を惹起できるかどうか、parabiotic cultureでしらべた(表を呈示)。 この株を仮にRLD-1と呼んでいるが、結果は上の通りで、RLD-1の増殖率は7日間で約4.6倍、正常肝とのparaでは約6.1倍と、明らかにparabioticでは促進されている。しかし正常肝の方は殆んど抑制も促進も受けない。つまり一方的な作用だけで、AH-130のときのように、積極的に正常肝を阻害する、という作用が見られない。別の考え方をすれば、細胞レベルでは悪性とは云えないらしい、といういうことである。なお念のために正常肝同志をparabioticでしらべてみると、これは全く、単独培養と同じように相互作用のあらわれは全然認められなかった。つまり"RLD-1"は正常肝とはちがっているが悪性細胞にはなっていないらしい、ということである。RLD-1の染色体数は目下しらべているところであるが、38〜40本というところが多いようである。(Ratの正常数は42本)
 C)Lactalbumin hydrolysateの製品むら:
 最近三光純薬で小分けして売ったControl No.3126の製品がどうも細胞によくないらしいのでreplicate cultureでしらべた。#1491は前からの良いものである(表を呈示)。
 製造元は勿論NBC社。L・P1、L・P4の何れに於ても#3126は細胞増殖が悪い。そのあと輸入された#3136は元封のままのポンド瓶であるが、L・P4でしらべると、#1491よりもむしろ良い位で、これなら安心して使える。なお、#3126でも細胞の硝子面への着き方には変りはなかった。以上、為御参考。
 D)正常・腫瘍細胞間の相互作用−特にカタラーゼ活性に及ぼす影響について:
 Parabiotic cultureした正常肝とAH-130について、夫々のカタラーゼ活性を定量した。夏休に学生がはじめたものを、関口君がひきつづいて精密にしらべてくれているのである。概略の結果はPara-cultureにより明らかに正常肝のカタラーゼ活性は激減する。AH-130の方はほとんど変化しないか、ときに(どういう訳かは今后の問題であるが)少し増える(表を呈示)。
 なお予備的実験として、肝homogenateを4℃24時間保存して活性を測ってみたが、これは変化がなかった(15.7→14.0、7.2→7.1の程度)。また同一肝材料を培養とともに追うと、0日(12.7)、1日TC(6.1)、2日TC(5.3)、4日TC(2.8)と明らかに低下して行った。

《高木報告》
 1)発癌実験
 前報にのべた◇C12、◇C12'及び◇13の実験で一応periodを打つ積りであったが、培養17〜18日目に中検廻転培養のaccidentにより、夜中に温度が60℃に上昇し、ためにこの培養は一挙に駄目になりました。
 誠に残念です。この実験は渡米しましても、若し許されるならばつづけてみたいと思っています。なお前につづき
 ◇C9
 1)11日目に2代目に継代したものでは、4代継代後34日目に更に5代へと3本から1本に継代しました。しかし細胞増殖は次第に悪くなり、現在F細胞がかろうじてtubeにくっついている程度です。
 2)14日目に2代目に継代したものでは、4代継代後26日目に5代へと6本から4本に植つぎました。これも現在細胞増殖は不良です。しかしこれらの実験で、兎に角Stilb、作用群において明らかに対照群より細胞の増殖がよく、長期間継代出来たことは注目に値すると思います。
 2)その後、HeLa、FL、Chang肝、JTC-4、JTC-8及びL細胞の家兎免疫血清について、ラッテ、正常ヒト及び癌患者O型、馬の血球を用いて凝集反応を行いました。
これを総括すると次の如くなります。

免疫血清\血球正常人O型 癌患者O型 馬 ラッテ マウス
 抗HeLa 3 7 0 1 1
 抗FL 5 7 0 1 1
 抗Chang 6 7 3 2 0
 抗JTC-8 5 7 0 1 1
 抗JTC-4 1 0 4 2
 抗L 0 0 0 3
ここに血清稀釋は20倍に始って倍数稀釋で5120倍まで行ってあり、表に示す数値は、免疫前家兎血清と免疫後家兎血清とを用いて、各血球が凝集を示した試験管の本数の差を示すものです。
大体3以上を有意とみてよいのではないかと思います。大体においてspecies specificityを示している訳ですが、ここで問題となる処が2、3あります。
 まずJTC-8細胞が人O型血球に対して有意の凝集を示していることであります。JTC-8細胞は本年4月より6月にかけて家兎に免疫を行い、免疫終了直後6月に行ったtestでは、人血球を凝集しておりません。これが本当だとすると血清がstock中に変化(?)したと云うことになりますが・・・、もう一つ考えられることは、私共の処で培養中にhuman originの株細胞とcontaminationをおこしたか・・・と云うことです。この血清が当然凝集をおこすはずの馬血球に対して陰性であったことは、この後者の可能性を示唆するものかも知れません。いずれにせよ、もう一度伝研からJTC-8細胞を頂いて検討してみたいと思います。
 次に気付いたことは、大体同一条件で実験したに拘らず、一般に癌患者の血球の方が正常人血球よりも高いtiterを示していることです。そしてその差(titerの)はHeLa免疫血清>FL免疫血清>Chang肝免疫血清となっております。勿論この一回の実験ではまだものは云えない訳ですが、今後更に実験を繰返して若しこの様な事実がconstantに示される様であれば、注目すべきことではないかと思います。更に正常動物血球と共に担癌動物血球をも用いて比較検討してみたいと思います。
 また抗Chang肝血清が馬血球に3程度の凝集を示しているが、これは更に吸収試験の必要性を物語っているものとも思われます。
 以上もの足りない月報ばかり書いて来ましたが、一応今月を以て中止させて頂きたいと思います。私のする仕事が少しでも班員各位の御役に立つ様に渡米後も頑張りたいと思います。皆様の御健闘を御祈りいたします。今後共よろしく御願いいたします。

《佐藤報告》
 実験の計画、ラッテの増殖等漸くピッチがあがって来ました。8月一月間の休養が事故其の他で延びていらいらしていました。以下従来の実験のつづきと計画完了のものについて記載いたします。御批判下さい。
 A)発癌実験
 ◇C26(1962-9-22=0日)ラッテ生后29日
 此の実験は前回からの疑問であったDAB液の調整の方法がDAB実験の結果に及ぼす効果を見るために始めた実験群のNo.1である。
 a)DAB調整は1962-8-15にDABを100μg/ml含むD塩類(0)と月報6207勝田保存液 を作った。 b)実験群は1)勝田保存液 よりDAB 4日投与。 2)同じく8日投与。 3)保存液より当日始めて血清加 DAB 4日投与。 4)同じく8日投与。 5)対照。 使用した血清はすべてY.78。
c)結果 第7日 組織片からの遊走が2)に於て最も著明であった。
第11日(1962-10-3)いづれのものも未だ明瞭な上皮様細胞は見られない。
d)考察 ラッテの生后日数が少し古い点、観察日数が未だ浅い点が考えられます。
1962-10-5 生后20日のものが出来ますのでもう一度実験を行います。
◇◇◇DAB実験に伴ふ継代によってかなりの細胞株が出来ると思ひます。それらの内には形態がかなり異ったものが見られます。現在の処では上皮様の肝細胞(E)と箒星状の細胞(漿膜?)(S)と繊維芽細胞様(F)とが徐々に株化しています。主目的である復元に使用したいのですが増殖率が悪いことと継代に際して消失細胞が多いので復元は未だ2回(いづれも陰性)4匹しか行っていません。継代だけは続けてなんとか細胞の種類を区別して見ます。 DAB発癌に関する私見及び計画
 勝田班長の云われる様に此のあたりで一度よく考えて見ることも無駄でなかろうと思います。1)従来の仔ラッテによるDAB実験が増殖誘導効果を示すという点で癌化の第1歩であることは間違いないと思います。有意差を高める方法は血清添加の問題、DABの作用期間や動物の生后日数や系統に従って増殖する細胞の種類まで明かとなりつつありますが、復元の方法は大きな問題です。最近になってマウスのC3H乳癌から増殖に成功し、その形態からは乳癌であると考えられる夫々独立系統の三株が元の純系であるC3H及びC3HZbへの復元が何れも未だ不可能である、という実験を私の研究室の野田君が示しました。この問題は色々の事が考えられますので簡単には解決できないと思っていますが、この事はDAB→肝で若し其れが癌化していても復元が不可能かも知れない可能性をも暗示しています。この問題の解決の手段としては、DAB実験群細胞をラッテの非働化しない高濃度の血清をLDに添加して駲化淘汰する方法があると思います。最近呑竜ラッテの老いたものがかなり出来ましたのでこの方法を実験に移します。此の実験は上記の理由と、勝田さんの実験C#13ラッテ20%血清で増殖が起らない点及び今春3月から行っているJTC11細胞ウサギ血清(非働化しない)駲化によるウサギ接種が反応を現わし始めた点も一つの理由です。
 2)この問題は現在の段階でやるべきかどうかと思いましたが、外科の大学院がおりますので一応計画を組みました。成熟ラッテの再生肝と仔ラッテの(生后20〜25日)の肝のDABに対する反応を従来の方法で比較して見ようと考えています。

【勝田班月報:6211】
《勝田報告》
A)発癌実験:
 これまでの発癌実験の成績をDAB-Liverに関するものだけ揃えてみますと、上の表の通りです。C-6の実験群の方は今日、株と認めてよいと思いますので仮にRLD-1と呼んでいます。この場合のDはDABのDで、DenkenのDではありません。こうしてみますと、やはり、若干の例外はあっても、Ratのageが少ないとExp.Cont.両方生え易く、1月を越すと両方とも生えにくいことが良くわかります。Ratの系統によって多少の差はあるでしょうが、この目的には15〜25日位のがいちばん適しているのではないでしょうか。とにかくこうして、第一段の変化を細胞に起さすことができた訳で、次のステップを越えて本当のMalignancyを持たせるには、1)弱濃度DABを長期継続して与えてみるか、1μg/mlのまま10日、20日、30日に1回宛与えてみる方法と、2)それよりもさらに可能性があると思うのはホルモンなどのような、生体内に生理的に存在しているものが第二段を越えるのを手伝っているのではないかということです。それで成長ホルモンをC-24で使いはじめてみましたが、この結果はまだ判りません。この次にはテストステロンを使ってみたいと思っています。 それから復元法ですが、いよいよ今年度も残り少くなって参りましたので、無処置でなくX線やコルチゾン処理で叩いておいたRatへの復元もはじめたいと思います。それで若しつけば、数代動物継代の後は、無処理で動物継代ができるかも知れませんから。
 細胞の染色体数についても若干しらべてみましたが、C-6のRLD-1では38〜40本位のが多いようです。まだ約30ケ位の計測ですが、無選択に全部かぞえていますから信用おけると思います。DABをかけて最初に出てくるのも矢張りその辺が多そうです。染色体の上でも変化がある訳です。

 :質疑応答:
[山田]さっきの培地の表ですが、これまで色々な人が色々なかき方をして統一がありませんね。0.5%lactalbumine hydrolyzate with 20%calf serumという具合に、実際のテクニックに合せてかいている人もありますし・・。何か統一した方がよいでしょうね。
[勝田]それは勿論です。私はやはり化学関係でやっているようにFinal concentrationでかくべきだと思います。その方が科学的で一目で他のと比較出来ます。
[山田]Tween20の影響を私はみていますが、少くするとDABがとけにくくて困りますね。それからさっきの顕微鏡写真ですが、やっぱり実質細胞と同じように二核の細胞が多いですね。Giemsaで染めると、in vivoの細胞に比べて、培養のはどうも細胞質の染まり方が悪い。RNAが少いんじゃないか、なんて釜洞さんが云ってましたね。
[佐藤]C24とC25は血清は同じですか。ageの多い方が反ってControlも出ていますね。ラッテを殺すときエーテルを使っていますか。エーテルは肝で代謝されますね。
[高岡]同じ血清です。エーテルを使わないとどうもHerz Punktionがやれなくて。肝をとるときも勿体ないから、はじめに血清をとっていますので。
[勝田]しかしたしかにエーテルの影響は考慮に入れなくてはいけないね。
[佐藤]Controlの生え方がageと相関関係のない場合もあるようですが、個体差や性差も考える必要がないでしょうか。
[杉 ]性差については雄の方がDABで雌より早く発癌するように癌学会で報告していました。
[勝田]癌研の馬場君ですね。同じようなことが最近号のJ.Nat.Inst.に出ています。これはDAB以外のアゾ色素ですが。また同君が云ってましたが、DABをといて保存すると、保存中にかなりこわれて効力が低下する可能性があるそうです。今後注意する必要がありますね。

B)Parabiotic cultureによる細胞レベルでの癌化検定:
 さきに腹水肝癌AH-130と正常肝、或は心センイ芽細胞と吉田肉腫をparaで培養したとき、Tumoreの方は増殖を促進され、正常の方は阻害されましたが、この方法を応用して細胞レベルで、細胞が悪性化したかどうかを判定できないか、ということを考えた訳です。しかしこれには細胞数がかなり必要ですので、株化した例のC-6のRLD-1を使い、ラッテ正常肝とparabiotic cultureしてみました。すると、次頁の図のように、RLD-1の方はparacultureすることにより明らかに増殖が促進されるが、正常肝の方は一向に平気なのです。阻害もなければ促進もない。このような一方通行的相互作用がどうして起るか、ということは別として、肝がやられて、その上でRLD-1が促進されるのでないと、どうも悪性化していないとしか考えられない。この点でも復元接種の成績と、何か一致した結果を示すような気がします。正常肝と正常肝のparaではどちらもno effectですから、正常肝とは変って一歩肝癌の方に近い性質にはなったが・・・というニュアンスを示していると思います。
C)相互作用の酵素レベルでの研究:
 生体内で正常組織と腫瘍組織との間にどんな相互作用がおこなわれているか。Toxohormoneのような毒素をtumor cellが出してそれで正常細胞がやられるという説と、さらに積極的に、ある物質をだして、それで正常細胞内の栄養源、たとえばfreeのアミノ酸プールのようなものを吐出させ、それを自分の蛋白合成などに利用する・・という栄養掠奪説とがあります。その後者の可能性があるような感じをparabiotic cultureの結果は示しましたので、何とかしてそれを実証したいと考えていますが、未だうまいアイデイアが掴まりません。要するにtumor cellの構成成分を放射性同位元素でラベルしておき、parabiotic cultureのあとで、正常細胞の方に何かしらtumorのmessengerが入りこんでいるかどうかをまずしらべ、次に正常細胞の成分をラベルして、それがpara-cultureのあとでtumor cellの構成成分の中にとり込まれているか否か、をしらべれば良いのですが、蛋白系及びRNA系にはturn overというものがあり、単にturn overの結果を見るだけになってしまう可能性があるので、目下悩んでいるところです。そこで良い考が浮ぶまで一先ずCatalaseやlactic dehydrogenaseのような酵素の活性がpara-cultureすることによって、normal及tumor cellとも変化をきたしはしないかということを目下しらべていますが、catalaseについては少しデータが出初めましたので担当している関口君から、その報告をしてもらいましょう。

《関口報告》
I:培養細胞のカタラーゼ活性の測定:
 A)材料及び方法
細胞:
 a)正常ラッテ肝細胞:生後1〜1.5月のJAR系ラッテ肝をメスで粥状に細切80及び150メッシュを通し、そのまま細胞浮遊液を作る。
 b)腹水肝癌AH-130細胞:6〜7日腹水のtumor cellsをSalineDで洗滌し、静置沈殿法により、血球及び細小な細胞を除いた後、使用した。
培養法:TWIN-D1管16本をparabiotic cultureに用い、培養4日後の細胞核数算定とカタラーゼ活性測定にあてた。対照は両細胞を各単独に単管に培養。
培地:牛血清20%+ラクトアルブミン水解物0.4(NBC)+塩類溶液(D)。管当り2ml宛、2日培養後全量を交新。pH≒7.6。
カタラーゼ活性測定法:Euler-Josephson原法のBnnichsen等の変法(いわゆるRapid method)で測定。
 すなわち、反応フラスコに1/15M燐酸Buffer(pH=6.8)50mlをとり、0.1MH2O2・2mlを加え、水に冷した後、その2mlを10%H2SO4・2mlを含むビーカーにとる。次いで酵素液1mlを反応フラスコに吹き込み、30秒、60秒、90秒、120秒後に反応液2mlを夫々別のビーカーにとる。ビーカー中の残存するH2O2量を1/3,000M・KMnO4で滴定し、次式より各測定時間に於ける酵素の反応速度Kを算出する。
 K=1/t・ln・xo/xt但しxoは0-timeに於けるKMnO4滴定値。xtは各時間に於けるKMnO4滴定値。tは時間(秒単位)。
各々のK値を時間に対してplotして得られた直後を0時間に内挿して得た値をKoとする。結果:
 1)正常ラッテ肝細胞の単独培養中におけるカタラーゼ活性の変化:同一材料について、培養前、1日、2日、4日培養後と4種について測定したが、培養に伴い、かなり急速に活性の低下することが示された。しかし4日でもかなり活性は残っている。これよりparabiotic cultureは4日間おこなうことにした。
 2)正常肝と肝癌AH-130のParabiotic culture中におけるカタラーゼ活性の変化:2回実験をおこなった。実験1では、対照の正常肝が僅かな活性の変化(低下)を示すのに対し、para-cultureした肝では活性は全く消失した。この場合、AH-130は、0日には活性は全く認められないが、4日間単独培養群においてのみきわめて弱いが活性が認められた。実験2では、parabiotic cultureした正常肝の活性は、対照の1/2に低下している。_
II:培養細胞の乳酸脱水素酵素(Lactic dehydrogenase=LDH)活性の測定:
 まだPara-cultureした細胞の測定に入る前の予備実験の段階である。
細胞:JTC-2(Rat ascites hepatoma AH-130)、JTC-9(Horse embryo liver)、JTC-10(Horse embryo liver、腹水肝癌AH-130(5日、7日、8日の腹水よりの細胞について直ちに測定)
LDH測定法:
 1)酵素液:1,500rpm5分の遠沈で集めた細胞を、0.25M蔗糖液2.5mlに浮遊し、glass homogenizer(氷冷)で3分間homogenize後、3,000rpm10分遠沈、その上清を酵素液とした。
 2)LDH活性はKornberg法を一部改変して用いた。:すなわち0.002M・DPNH 0.2ml、酵素液 0.1ml、0.1M・燐酸Buffer(pH7.4) 2.8ml、以上を紫外部測定用キュベットに入れておき、0.01M・焦性ブドー酸(Na塩) 0.1mlをピペットでそこに吹込み、その直後より4分間の、340mμにおける吸光度の変化を、27℃で記録する。記録には日立のAutomatic recording spectrophotometerを使用した。
 LDH単位は、酵素液1mlが1分間に340mμにおける吸光度の0.001の変化をきたす活性を1単位とした。これを100万個細胞当りに換算比較した。
結果(数値は100万個当たりのu値): JTC-2 193u、JTC-9 1,120u、JTC-10 570u、AH-1305日腹水・細胞 1,470u/100万個、腹水 1,170u/ml、7日腹水・細胞 596u/100万個、腹水 1,100/ml、8日腹水・細胞 517u/100万個、腹水 16,300u/ml。但しこの細胞は同一個体の肝癌を逐日的に追ったのではなく、別々のラッテの腹水。

 :質疑応答:
[山田]ToxohormonとLDHの問題は、生体の担癌動物の血清だけではなく、肝自体も変わってくるのですか。
[関口]主に血清だけですが、それが癌の部分から流れ込んできてそうなるのかどうかも判っていない訳です。ですから細胞レベルで双子でしらべてみようという訳です。
[高岡]この実験には正常肝は母培養せずに、メスで肝組織を細かく切り、80と150メッシュを通し、一度1,500rpm5分位の遠沈をかけました。すると血球と肝細胞が一緒に沈殿します。それを培地に再浮遊させ(roller tube)、管を直立静置(10〜30分)しますと、下に肝細胞だけが白く沈んできます。。それを上清をすてて、培養に使うのです。塗抹標本でしらべるとほとんど肝細胞ばかり見えます。また母培養と同じ日数、培養してから夫々の細胞の塗抹標本を比較しても見分けがつきません。従って、この方法の方が操作が簡単なので、今後の研究に使えると思います。
[関口]LDHはlactic dehydrogenaseといっても、これは可逆的反応で、むしろ逆の方向の方が強いのでpyruvateを分解させて測定しました。Lact.+DPN→←pyruvate+DPNH。
[山田]かって血清の中のLDH活性を測って、癌の診断に使おうとする試みがありましたが、結局negativeでしたね。実験に入る場合、Ratによるgeneticのfactorやageなどの問題もあると思いますので、in vitroに入れる迄充分注意する必要があると思います。同一の腹から何回かとり出して使ったら・・・。
[伊藤]Normal liverの場合、growthによる変化はcell単位のものですか。
[山田]Liebermanのデータではin vitro systemだと細胞の種類に関係なく、同一になる傾向がある。株細胞でも、originに関係なく、同一の傾向があるようです(文献あり)。[伊藤]正常肝細胞の培養で、細胞数がconstantなのは、生き死にする細胞の比が一定(同一)なのか、それとも生きている細胞がmaintainされているのか、どちらですか。
[勝田]いろいろな根拠から、後者であると思います。
[山田]mitosisもないですね。
[勝田]正確なところはColchicineでも使ってしらべてみないと・・・。発癌実験のControlでも生えてくる奴もコルヒチンで染色体をしらべる必要がありますね。
[山田]話はちがいますが、Changのliver cellの株をglycogen染色すると染まりますね。HeLaなんかも染まるけれど、染まり方、つまりglycogenのたまり方がちがってます。

《佐藤報告》
1)発癌実験
 従来のデータを整理してみます。御批判下さい。(表5枚呈示)
 急速にControlの増殖が落ちるのは20日前後である事が明瞭である。継代による増殖は15日前後ではないかと思われる。
 勝田班長の実験ではDAB投与日数は4日が最適となっている。私の実験では8日が最適となっている。動物の種類、DABの調整、更に判定法?に差があるかも知れない。まづDAB調整法に問題をおいて、勝田保存液IIと従来の使用前血清添加とを比較した。
 ◇C26・ラット生後29日でCont.、勝田保存法の4日及び8日投与、及び従前の方法で4日及び8日投与を比較したが何れも増殖せず。
 ◇C27・ラット生後20日で同様な実験を行った。結果は、血清を予め添加しておいた方(勝田保存法)が有利の様である。この実験から見ると、班長の実験成績に近づいたと思われる。
 3'-methylDABはE型(上皮)よりS型(繊維芽細胞)の増殖をおこす様に見えるが、継代はむつかしい。実験をつづけるときは、もう少し若いラットで、血清を予め添加して行う方法がのぞましい。
 ◇C28は生後8.5ケ月ラット再生肝(術後6日目)をつかって、非手術部と手術部(再生部)にDAB添加、現在第9日目で0/5。
 ◇C29は同様に術後13日目の再生肝にDAB添加、観察中。

 :質疑応答:
[佐藤]C3Hマウス乳癌(spontaneous tumor)は生体からとった侭だと動物継代が利くのですが、培養したもの(継代)はどうも復元してもつきが悪いんですが・・・。
[山田]Earle一門の仕事では、同一のcell originからの色々なclonesの内でもgrowth rateによって動物への移植性に差のあることを証明しています。
FL株に血液型のBを証明する仕事があります。同一動物の血清を使う場合、このようなことも考慮する必要がありそうです。
[佐藤]14〜15日のラッテの自家血清を使ってDAB発癌をやってみるつもりです。
[伊藤]マウスのmesoteriomaも、培養したあと復元できないという、似たデータがあります。
[勝田]マウス乳癌の場合、色々なpopulationの差が考えられるので、沢山のマウスについて培養例を多くしてみる必要があるでしょう。これは動物継代でselectしてやるのと同様に重要でしょう。
[伊藤]培養で、腫瘍化するという報告と、腫瘍性が落ちるという報告と二つがからみ合っていますね。
[佐藤]腫瘍化するというのは本当ですかね。
[勝田]L,clone 929の名の示すようにcloningして色々のがあることを証明しています。
[佐藤]継代が確実に行くという証拠までも含めて証明しないと、2〜3代継代だけで癌と云えるのでしょうかね。
[勝田]CarcinogenesisとTransplantabilityとはFactorは別だから区別して考える必要があります。
[佐藤]復元してtumorを作らないから、といってin vitroの細胞がmalignantでないとは云えないでしょう。移植の問題以上に困難なfactorがあるのではないでしょうか。だから細胞を大量に動物に入れさえすればKnotenを作るでしょう。それをTCに移しまた大量に動物に戻す、という具合にin vivoとin vitroをずっとくりかえしたら、と考えるのですが。勿論、実験のCriterionが不鮮明になりますが、復元の問題だけを考えると一方法ではないでしょうか。
[山田]結節を作っても、ほっとくと2週位でregressionしてなくなってしまいますね。ここにはregressionはheteroのimmunityの問題があります。吉田肉腫をマウスに入れると5日位で消えてしまう。
[佐藤]Rat→Ratだとisoだから・・・。(註:homoの場合もあり。)
[山田]isoでも免疫の問題は残ります。
[佐藤]復元の問題は別の次元として考えたらどうですか。
[伊藤]復元の前にBovine serumをRat serumに変えるのは良いんぢゃないですか。
[勝田]佐藤君がさっき云われたけれど、私は癌化は可逆的変化とは考えられません。右の図に書いたように、いま我々がDABを使って肝細胞を変えたのは頂度Dormant level(sleeping)へもって行ったのだと思います。もう一度変えればTumor levelに入るでしょうが、TumorとDormantとの間は決して可逆的とは考えられない。その可能性は疑問だと思います。癌化した一つのpopulationが腫瘍性が落ちた、といっても、それは腫瘍性の低い細胞がはじめから混っていたという可能性があるのです。例えばAH-130の染色体の主軸は43本ですが、それから作ったJTC-1、JTC-2は夫々51本と58本です。ところが両株を動物に復元しますと 第2位として両株とも38〜40本のが出てきます。これと同じideogram(核型)のしかも38〜40本というのが、両株を3,000rphの高速回転に移すと主軸のなってきて、復元接種してみると、腫瘍性が遥かに低下している。何回くりかえしても似た結果になるところから考えると、この38〜40本の腫瘍性の低い(或は無い)細胞は、はじめからこの細胞集団の中に混っていたものと思われます。つまり51本あるいは58本の細胞が腫瘍性を失うように変ったのではない、と考えられます。
[佐藤]生体内でtumor cellを抑えるfactorが考えられるので、その抑制を破るものが必要と思います。
[勝田]佐藤君の使おうとしているRat serum添加のExp.も、serumは少量から段々増やす様にして、ならして行った方が良いと思います。
[佐藤]勝田班長のC-13のRat serum20%も問題があると思うので、くりかえしてやって見たいと思っています。
[伊藤]Ratの組織をRatの血清で飼えないというのは変のように思われます。
[山田]Homoでは細胞がふえないというデータは大分あります。
[勝田]しかしRat serumでselectする、ということは良い方法と思います。
[山田]私の処では継代にRubber cleanerでやっていて、うまく行かなかったけれど、トリプシンを使ってやっと良く増えるようになったので、その細胞をどんどん復元してみたいと思います。
[勝田]第二段階に移らせられる可能性の大きい刺戟剤はホルモンだと思ってます。
[関口]冲中先生の、脳下垂体を除っておくと、DAB肝癌ができないという話からも、ホルモンの影響が考えられます。今年の発表は内蔵神経の切断でしたが・・・。

《伊藤報告》
 私の方では、出来れば一度に多量の細胞を得て比較的早期に復元する事を目標として、ラッテ肝のTrypsin処理によって細胞を得て、これを培養する方法で、DAB及びActinomycinを働かせてみる事にして居ます。
〔実験法及び材料〕
 1)ラッテ:雑系or呑竜 1ケ月前後♂ 2)培地:標準20%B.S+80%L.E 3)細胞のとり方:細切したラッテ肝にP.B.S.(-)を加えて20分stirring→上清排棄→Trypsin液中で20分stirring→上清排棄→Trypsin液中で20分(第一回使用細胞)→Trypsin液中で20分(第二回使用細胞)。第一、二回夫々15〜20万個/mlの細胞数でTD-15にて培養開始(第一、二回は細胞採取上の名で、培養瓶に入れてからは区別なし)
〔実験結果〕
 a)9月5日 開始群(雑系、♂、生後27日)。対照群:TD-15 5本。実験群:TD-15 5本。9月8日よりDAB(1μg/ml)添加培地→9月18日より標準培地に戻す。9月30日両群共復元(i.p.100万個)。現在まで変化なし。
 b)9月18日 開始群(雑系、生後32日、♂)。対照群:TD-15 5本。実験群:TD-15 5本。9月21日よりDAB添加→(実験群3本雑菌contamination)9月30日より標準培地に戻し現在継続中。
 c)9月30日 開始群(呑竜、生後23日、♂)。対照群:TD-15 5本。実験群:TD-15 5本。10月3日よりDAB添加→10月13日・・標準培地に戻す。現在尚培養中。
 d)10月13日 開始群(呑竜、生後25日、♂)。対照群:TD-15 5本。実験群:TD-15 5本。10月16日よりActinomycin添加。現在継続中。
此の方法では、勝田先生のところでの場合と異って、細胞の増殖をmarkerとする事は出来ないが、復元に必要なだけの細胞数を比較的早く得られるので、専ら復元性をmarkerとして今後は種々発癌要因の組合せ、作用期間等を変えて検討を続けたい。

 :質疑応答:
[勝田]トリプシン消化してcell suspensionを作ったあと、遠沈などで細胞の種類を分けて培養していますか。
[伊藤]やっていません。
[勝田]昨日の黒木君の話の、アラビアゴムで撰別するのを参考にして我々もやってみましょう。どうも伊藤君の培養は生えてくる細胞の種類に問題があると思いますので、タンザクを入れて標本を作り、顕微鏡写真をとって月報に出して下さいませんか。Exp.とControlと両方。プリントは10枚宛やいて下されば結構です。
《高木報告》
免疫学的研究:
 前回報告した株細胞の家兎免疫血清による2、3の動物赤血球凝集反応について、前回問題になった点を中心に凝集反応を補足実施しましたので、未だ実験数が少く不備ではありますが、現在までの結果を前回報告の分も一緒に表にしてみました。
 凝集反応のやり方は前回と全く同様で、又表の数値も前回同様、免疫前と免疫後の家兎血清の赤血球凝集価の差を試験管の本数で表わしたものです。
 健康人(1)と肺癌患者並びに馬のところで数値が2つ並んでいるのは、同一個体からとった赤血球について2回繰り返し行った結果をそれぞれ示したもので、健康人(1)については少しずれた結果が出ていますが、これは血清を節約する意味で一度PBSに稀釋したものを凍結保存しておいて使ったためにおきたものと思われ、この点に留意して行った肺癌患者及び馬については同一の数値が得られました。
 前回の実験で、癌患者の血清が健康人のそれに比べて凝集価が高く出たので、これが偶然に出たものかどうかを知るため、健康人3名と癌患者4名(HeLa細胞がPortio由来なので子宮癌患者を選び)について比べてみましたが有意の差は出ませんでした。
 前回一番問題となったJTC-8細胞については、繰り返しの実験でその抗家兎血清はやはり人血球をかなり凝集し、しかも馬血球は凝集しないところから、赤血球凝集反応が株細胞の抗原的種属特異性を忠実に表わすものとすれば、少なくとも我々のところでJTC-8細胞として植ついでいるものは人由来の細胞ではないかという疑いが濃厚になってきました。この問題は回を重ね検討を要する問題だと思います。

 :質疑応答:
[山田]gel-difusionでorgan-specificなantibodyを出していますね。Deoxycholateでcell destructionをおこなうところがミソですが。Coombs'testのようなやり方で細胞の同定ができるのではないでしょうかね。たとえば、Anti-mouse serumを作っておいて、これを培養細胞と合わせると、マウスの細胞ならば、そのまわりに抗体がくっつきます。そこへ赤血球を入れると、その抗体の作用で、さらに赤血球がmouse cellのまわりにくっつきます。他の細胞ならくっつかぬという調子にです。
[勝田]抗血清の作り方は?
[杉 ]週2回宛、計6回細胞を兎に注射し、それから1.5週後に採血します。血清内抗体価の上り具合については目下実験中です。

《山田報告》
DAB及びTween20のHeLa細胞に対する毒性について:
 DAB及びその溶剤であるTween20が培養細胞に対してどの程度の障害作用を与えるか、とくにこの班で使用しているDAB1μg/ml、Tween20 0.005%(v/v)の濃度がどのような作用を示すか、またDABの薄い濃度に増殖促進作用があるのではないか、このような事を検討するために、まづDABとTween20の各種濃度に対するHeLa-S3BBclone(S3から2回recloneしたもの)の生存曲線を描いてみました。勿論、初代細胞と株細胞、正常と癌、その他の問題があって直接に発癌実験の解釈には役立たないと思いますが、培養された哺乳動物細胞のDAB及びTween20感受性にある程度のメドを与えることが出来ると思います。現在まで予備的に5回実験を行い、結果を得たのでここに御報告しますが、いづれ本実験を行って報告するつもりです。
 実験方法:5mlの培養液(N16CF)と共に予めincubateしたシャーレに100個のS3BB細胞を播き(0.1ml)、直後に各種濃度のTween20及びDABを0.1ml添加して炭酸ガスincubator内で11〜16日間培養し、固定染色後、発生しているコロニー数を数え、対照のコロニー数と比較しました。
 この実験でわかった事は、0.05%のTween20(この班のDABのとかし方では10μg/mlのDAB溶液に含まれるTween20)には著しい毒性がある事です。
そこでTween20の各種濃度のHeLa-S3BBに対する毒性作用を一覧してみますとTween20%(v/v)0.005%は%Control 89、0.01%は86、102%、0.02%は71、96%、0.04%は8%、0.05%は0、0.2%と成ります。即ちTween20は、0.02%まではplating efficiencyに大きな影響はないが、それ以上の濃度ではかなりの影響があることが判りました。そこで1〜5μg/mlのDABの影響を、DAB溶液にふくまれる同濃度のTween20添加群を対照にして(但し0.02%以下)調べてみますと、DAB1μg、2μg、5μgでそれぞれ91%、102%、22%となります。即ちDAB2μg/mlまではS3BBに対して直接毒性を示さない事が判りました。従ってこれまでの成績では、この班で使用されているDAB1μg、Tween20 0.005%の濃度はHeLa細胞の生存にあまり強い毒性は示していない事が言えそうです。今後、一定濃度のTween20添加の下で、DABのHeLa細胞p.e.に及ぼす影響を調べてみます。
 尚、DAB1μg/mlはHeLa細胞の増殖度には抑制的に働く結果を得ました。1回の実験ですので、更に繰返して確かめます。又これより低い濃度のDABがHeLa細胞の増殖に促進的に働くかどうか検討する予定です。

 :質疑応答:
[山田]100mg/5ml Tween20+45ml以上の濃度で溶けないものでしょうか。
[佐藤]Plating efficiencyを使って、DAB処理のcell lineをしらべてもらうと良いですね。
[伊藤]Window counting methodというのを教えて下さい。
[山田]シャーレの裏底に、小穴(面積1/2000)を一杯あけた金属板をあてて固定し、その穴から倒立顕微鏡で覗きながらcolony数と各colonyの細胞数をかぞえます。例えばスタートのとき4coloniesあって細胞数が7ケとすると7/4=1.75ケ、それが48時間後に4coloniesで14ケとすると14/4=3.66となるわけです。動く細胞でも穴から出るのと入るのと相殺と考えます。
[勝田]Polycarbonate樹脂は120℃の高圧滅菌ができ、しかも透明ですので、シャーレを型で作るととても安くできます。ガラスの硬質シャーレ以下です。そこでcellのplatingなどにも、底が平らで良いので、シャーレを高島商店に作らせようと思っています。形は円形でなく、四角にしたいと思います。また蓋は密閉できるようにするつもりです。希望があったら云って下さい。
[山田]4x6cm位で、高さはできるだけ低くして下さい。できれば2cm以下。ただplasticだから有機溶媒に弱くて、染色に困りませんか。
 [註]このあと実際に円形シャーレで培養したところ、細胞は底面によくつき、ギムザ染色しても支障はなかったことを追記する。また寸法は並と小とにし、四角形にした。

《遠藤報告》
 私のところでは目下まだ発癌の仕事はできていません。ですから他人の仕事を紹介します。
1)David Stone(Wooster Foundation):Endocrinology,71:233-237,1962.
Desoxycorticosterone,Progesterone,TestosteroneはHeLaの増殖を抑制することを見出し、これらに対するResistant sublinesを作っています。
2)Stone,D. and Kang,Y.S.:ibid,71:238-243,1962.
上のResistant sublinesの染色体数をしらべています。
HeLa(strain HuE):68 chromosomes, Test.-resist.line:74、 DOC-resist.line:74。
3)Moon,H.D.,Jentoft,V.L. and Li,C.H.:Endocrinology,70:31-38,1962.
MoonはScience 125:643,1957に牛の成長ホルモンがRatの細胞に対して促進作用のあることを報告しています。これまでGrowth hormoneは、人のは人かサルにしか効かない、spcies-specificityがある。しかも他ホルモンと異なり、定量的にもあるとされていましたが、本報では、人と牛のgrowth hormoneをChangのliver cell株に与え、cell countingとN定量で、牛ホルモンはあまり促進しないが、人ホルモンの方は促進することを報告しています。
 4)これは私の考えですが、Dimethylglycineは肝内で代謝され、フォルムアルデヒドが出ます。同様にDABも出るわけで、これが発癌と何か関係あるのではないでしょうか。
またHeLaに対するEstriolの効果をみていますが、促進がありそうです。このホルモンはEstradiolの代謝産物で膣部に作用するといわれています。

 :質疑応答:
[山田]Resistant lineについて、例えばDAB-resistant lineなどで何が異なるのでしょう。adaptationでしょうか、selectionでしょうか。それからNitrogen mustardでguanyl酸のpurine baseの7のdouble bondが切れると云われていますね。
[関口]DABからフォルムアルデヒドが出てもそれは酸化されて蟻酸になり、これからどうも作用しているらしい、ということは15年位前から云われています。蟻酸はさらに酸化されれば炭酸ガスになってとんでしまいますから、Dimethlglycineにラベルしても炭酸ガスに出てしまうでしょう。DABの場合メチル基が二つありますが、蟻酸にならない方の、残ったメチル基が蛋白などにくっつく訳ですね。

《堀川報告》
§培養細胞における喰食性(Cytosis)と形質転換の試み(I)
実験のSystemには次の3つを用いた。
材料:
 1)Mouse strain L cells←Ehrlich ascites tumor cellの核を喰い込ませる。
 2)2000γ照射されたMouse strain L cells←normal mouse strain L cellsの核を喰い込ませる。
 3)Mouse strain L cells←Mouse(CBAstrain)のSpleen cellを喰い込ませる。
方法:Cytosisの証明と形質転換の判定
 1)Survival((2)System 1:応用)
 2)Chromosome number and karyotype analysis(1)、(3)
 3)Immunological response(1)、(3)
 4)Immunological competence(3)
 5)Ability to induce tumor in mouse(1)
結果:
 1)L細胞の染色体数は63本、メタセントリックchromosomeは13本、Ehrlich細胞の染色体は69本、メタセントリックchromosomeは3本、このようないいmarkerをもっているので仕事はやりいい、所がL細胞内へEhrich ascites tumorの核は約5%の率でcytosisされるにもかかわらず、現在形質転換は全くみられない。とにかく興味あるSystemではあるが、形質転換させるためには今後もう少し種々とSystemを改良せねばならない。
 2)2000γ照射されたL細胞はこれ迄の実験結果でも報告した様にほとんど死滅してしまう。これに正常なL細胞の核、正常なEhrlich ascites tumor cellの核、又はMouse(CBA系)のSpleen cellを喰い込ませることによってcell deathからのrecoveryをねらう。2000γ照射されたL細胞のrecoveryに役立つものは正常なL細胞の核のみで、他のHeterologousなcellでは役に立たないことがわかった。
この場合正常なL細胞の核が2000γ照射されたL細胞の核にとってかわってfunctionをもち分裂をはじめるのか。それとも正常なL細胞の核が2000γ照射されたL細胞内で分解されてもう一度組み立てにあづかり照射されたL細胞核自体が分裂のfunctionをもつ様になるのか現在の所わかっていない。これらは今後の問題である。
 3)正常なL細胞はMouse(CBA系)から取り出したSpleen cellを10%位い喰い込むが、このL細胞を2000γで照射した場合は30%位いのCytosis rateにあがる。
一方Mouse Spleen cellを1μc 3H-thymidine/mlで2hrs cultureし、Spleen cellをlabelする。
これを正常なL細胞をかったmediumに加えると、5時間後からL細胞中に入り始める(Autoradiographyで追求する)
培養2〜6日位いでL細胞核へSpleen cellのlabelされたDNAが移動する。
この場合spleen cellはそのままの形でL細胞内に残っている所からみて、L細胞質内のDNaseによってSpleen cellのDNAが分解されL細胞核に吸収されるものと思われる。
一方これらのSpleen cellを喰い込んだL細胞はAnti-Spleen cell serumに対してImmunologicalなresponseを示すことが分った。
結論:
 この様にしてL細胞に喰い込まれたSpleen cellがどの様な形で形質転換に関与するか、又、喰い込んだL細胞がその後数十代分裂した後もSpleen cellの形質を保持するかどうかは今後の問題であるが、いづれにせよ従来のpinocytosisとちがってcell levelでのcytosisを使ってHomologous又はHeterologousなcell間のinteractionをみるには非常に興味ある。このSystemをうまく使用すれば発癌のmechanismもうまくつかみだすことが出来ると思う。
*** この他に私共の所では従来やって来た耐性獲得の機構と、一方からは5-Bromodeoxyurideneなどによる細胞のSensitizationの面からあわせて生細胞におよぼすRadiationの作用機構を追求しております。

【勝田班:6212】
《勝田報告》
発癌実験についてだけ本日は報告する。
 データは上の通りで、これまでと似た成績となった。C-28の実験群の増殖細胞は、第16日に330万個宛、生後約1月のRat2匹に、脾臓内に接種し、目下観察中。なおラッテは今回はじめて接種前に、コバルト60γ600rとハイドロコーチゾン2.5mg/rat(隔日注射)の前処置を採用した。
 染色体数は、RLD-1の細胞では37〜41本が多く、正常の42本より左にずれている。DABを処理して出てくるPrimary cultureについてもしらべているが、これは細胞数が少なくて仲々かぞえられない。しかしどうもRLD-1と似た傾向があるように思われる。
 つまりDAB処理によって出てくる細胞は、生え出しの日数、形態、染色体数などから見てどうも一定の方向性を持っているような気がする。また正常肝とのParabiotic cultureをRLD-1でおこなうと、悪性は示されないが、それに一歩近付いているような感を与える。つまり、いわばPre-cancerousのstepに入っているのではあるまいか。
 正常levelからDAB刺激でPre-cancerous levelに入り、さらに第2段Malignant levelへの変化を起こさせるものは、別のFoctorである可能性が大きいと思われる。たとえば生体内の生理的物質(ホルモンその他を含め)とか、嫌気的状態とか、のようなものである。
佐々木研のDAB肝癌は染色体数に於ても実に各種のものができている。このような無方向性はMutationの特徴であり、癌の特徴でもあるが、いままでかいたようにcell levelでみるとDABの作用に方向性が感じられるところから、肝癌の多様性は、第2段の変化のときに現れるのではあるまいか。そしてそのときMalignantの方向にむかって変化した細胞が増殖を続け、腫瘍を形成するようになるのではあるまいか。
 第2段の変化をとげさせる要因として、私のところで目下手をつけているのは、Anaerobiosisである。流動パラフィンを滅菌して培地の上に浮べmildなanaerobic conditionを作る。もう一つは培地更新をおこなわずに放置することであるが、これにはpH変化もからんでくる。
 次に細胞の変化を見付ける手段(いわばMaker)であるが、第一段の変化では"増殖"というマーカーを利用してうまく行った。第二段目は形態上のAtypieで行きたいと思っている。つまりRLD-1にせよ、primaryに出てくる細胞にせよ、余りに形が揃っていて、きれいすぎる。核や細胞質の大小不同、異常分裂などがもっと見られてよいのではあるまいか。従って主にタンザク培養で、染色標本を作って検索しながら、第2次の変化を起させるFactorを探して行くつもりである。

 :質疑応答:
[山田]Minimum tumorの考え方からすると、この前癌状態はどういうことになるのだろう。
[伊藤]たしかに復元接種だけでCheckして行くのは大変なことです。
[山田]Earleの報告では発癌剤で形が変っていますね。
[黒木]ABでの発癌はどうでしょう。
[勝田]横の展開はあとの話で、いまはとにかく一日も早く発癌させることです。いわばキリで穴をあけて行く、その先端の仕事をやっているのですから。それから大阪のシンポジウムで吉田教授がDABを4日以内の、もっと短い日数を作用させたらどうか、との発言がありましたが、佐藤班員にこの点の検討をおねがいしたい。
[山田]Ratのageの若いものほど早くDABで変化がこないでしょうか。それからGrowth hormoneは何故使ったのですか。Promotionですか。
[勝田]さっきも話したように、体内のホルモンなどが副次的に働いている可能性が大きいと考えたからです。

《佐藤報告》
1)発癌実験
 前号6211に引きつづいて再生肝+DABの系列について、生後2ケ月の呑竜ラットを使用して従来の方法のままで発癌実験を行って見ました。
 ◇C30は肝切除後7日、◇C31は肝切除後14日、◇C33は肝切除後21日に培養開始、対照群、DAB4日添加群、DAB8日添加群とも未だ増殖開始はありません。
 前回報告の◇C28◇C29実験と合せて再生肝+DABの条件では上皮様細胞の増殖は、対照、実験共に発生していない。但し肝切除後7日のものでは細長いfibroblast様細胞が、14〜21日では箒星状細胞の増殖が少〜中等度認められた。−幼若ラットの肝との比較−
◇C32はラット血清+DABの効果を見ました。使ったラット日齢は17日、第16日に、対照群は2/5、牛血清+DAB 4日添加群は4/5(本例のE型細胞の増殖量は対照に比し、1本当りの量が極めて多かった)、ラット血清(非働化)+DAB 4日添加は0/5、ラット血清(生)+DAB 4日添加は0/5であった。
 本例のラット血清は生後半年以上たったものの血液を集めて2分し、非働化したものとしないものとに分けてLD中に20%になる様にして行った。但しDAB原液は、いづれも牛血清20%LDに10μg/ml含んでいたから正確には作用期間の血清は1%牛血清+19%ラット血清となります。
 牛血清とラット血清との間に著明な差が出ますので、この点は採血するラット日齢、及び実験に使用するラット日齢を少なくして再実験いたします。
 ラット肝の継代中のものは漸く株化したと思われるものが◇C8Controlと、◇C10対、◇C10実と出来ました。復元を先づ最初におこないました。C8Controlは生後22日のラット皮下へ3例(11月14日)、C10DABは29日のラット皮下へ2例220万個と270万個(11月29日)、◇C10Controlは36日ラット皮下へ1例280万個(12月4日)接種し、12月7日現在いづれも発癌していません。
 ◇C8controlが目下最も増加していますので、ラット血清等に関する予備実験として性状を少ししらべています。(1)この細胞はラバクリーナー駒込撹拌での継代には極めて弱い。Trypsin継代の方が容易である。従って復元実験の際ラバクリーナーを用いての復元では細胞が極めて傷害される可能性が強い。(2)2日毎の培地交換での増殖率は、6000個/mlでは6日で10倍、9万個/mlでは6日で4倍程度である。(3)牛血清濃度は10%と20%は殆んど変らない。

 :質疑応答:
[勝田]再生肝の肝細胞をin vitroに移しても、うちでやった実験では肝細胞の増殖は見られませんでした。つまり佐藤班員は再生肝の細胞をin vitroに移して"増殖しつつある細胞に対してDABは・・・"と云われたが、増殖はin vitroに移すと同時に止まってしまうから、増殖しつつある細胞についてしらべたことになりません。
[山田]いつでも問題になるが、或日齢のラッテを用いたときだけしか出ないということは気になりますね。
[勝田]その通り。しかしこれもあとでの展開のときのテーマでしょう。
[山田]復元成績ですが、LやLiverなど復元接種後何百日も経って発癌した、というのもあるから、あまり短期であきらめてしまわない方が良いと思います。それから血清は動物種の差の上に個体差が大きいので、Rat血清もプールしないでしらべないとはっきりしたことは云えないでしょう。
[勝田]しかしラッテではプールしないととても量が足りないよ。Earleの処の実験は大抵C3Hを使っています。Milk agent-free(Heston株)やそうでないのも使っていますが、Hestonもたえずcheckしないとすぐagentをもつようになるらしいので、あそこの発癌の成績は何とも云えないと思います。それからこの発癌実験で株化した細胞は佐藤氏の処は何種ありますか。
[佐藤]DAB群が1種、Control群が2種、計3種です。
[勝田]その染色体の比較をぜひやってくれませんか。うちの所見と比べたいのです。
[佐藤]早速かかりましょう。勝田氏のところではDABでAtypieがふえますか。細胞形態で。
[勝田]きわめて少いのです。しいて見ればControlの方が少い位です。
[佐藤]LとかEhrlichでタンザクを入れてみると、lag-phaseのときlog-phaseよりずっとAtypieが多かったので、観察の時期がかなり問題と思います。
[山田]HeLaではNuclear bridgeがよく見られますが、メタノールのような強い固定や、トリプシン処理でpipettingすると、このBridgeが切れてしまいます。X線をかけると多くなります。
[勝田]Lだとメタノール固定でもよく見られますよ。糸のようなのが。
[黒木]佐藤春郎先生はAtypieはCancerのCharacteristic changeというよりむしろその環境によるchangeと考えておられますが・・・。
[伊藤]Atypieが出ないときが問題ですね。無いからといって第二段の変化を起していないとはいえないし・・・。
[勝田]しかし何かをマーカーにしなければ能率よく仕事をやって行けないから、この際仕方ないでしょう。勿論他にも何でもマーカーを見附てやってみて下さい。

《伊藤報告》
 小生のところでは以前に続いて、Rat liver細胞→Trypsin処理にて細胞を得て、比較的早期に復元し、復元性のみを指標として実験を続けて居る。
 今迄の結果を整理してみると、7回の実験のうちDAB処理6回Actinomycin処理1回、ラッテは雑系あるいは呑竜♂生後9〜15日、現在まで成功例は無い。
 現在までの実験で感じて居る事および今後の予定:
(1)此の方法で取れた細胞は、比較的増殖が良好で、早期に復元に必要な細胞数を得られるが、但し各種の細胞が混在している。この点は前回の報告会でも至適されていたので、其後cell suspensionを暫く試験官に入れて静置して後、3〜4層に分けてから培養する方法を試みて居り、此の方法でも望みはあるが、未だ満足すべき結果を得て居ない。本日お見せしたslideは、殆んど実質細胞と考えているが、此れは培養開始後3ケ月を経たもので、此の時期になると、此の様に比較的細胞の種類が揃って来る場合もある。
(2)此の方法でやる場合、細胞の増殖では対照群と実験群との間に差を見出し得ない為、今のところ、復元性のみを指標として居るが、此れでは復元性を得る迄の各段階に於ける変化に関しては全く認めることが出来ない為、今後此の点を掴える方法を何か考えなくてはならない。
(3)何かうまい方法で、比較的揃った細胞が得られれば、諸種発癌因子乃至環境をcombinierenして検討したい。

 :質疑応答:
[勝田]トリプシナイズして得た細胞が、増えるといっても、その増殖度はどの位なのですか。Cell countingしてgrowth curveをとってあったら見せて欲しいのですが。
[伊藤]いや、まだとってありません。
[山田]トリプシン処理をするとよく裸核のが出てきますね。
[佐藤]培養のなかに混っている細胞の型を鑑別するのにうちでは墨汁貪喰を使います。[勝田]トリプシンを使わずに、細切してメッシュで濾したらどうでしょう。(実質様及び箒星状細胞の写真供覧)この箒星は、きっとまわりの屑みたいなのを貪喰していると思いますので、映画にとってみたいと思っています。
[佐藤]このような箒星をいま3代継代していますが仲々ふえてくれません。
[勝田]動物ではアクチノマイシンはどの位で発癌しますか。
[伊藤]知りません。しらべておきましょう。
[堀川]箒星状のは肝臓の被膜から由来するのとちがいますか。

《杉 報告》(高木班員代理)
1)発癌実験:
 高木さんが続けてきた発癌実験に関する培養は、既報の如く中検の廻転培養器の故障によりすべて中絶しましたので、新たに培養を始めました。
 培養方法は従来のやり方と同じでstilbestrol→hamsterのkidney、liverについて行いました。但し中検の廻転培養器は前の様なことがあるといけないので、静置培養にしました。
 Exp.1は生後28日のgolden hamster kidneyを使い、培養4日目に培地交換を行い、その実験群にstilbesttol(S)1μg/mlを入れ22日目にsubcultureするまでずっと同濃度を作用させた。22日目に試験管6本から2本に植つぎ(実験群にS.入れず)培養継続中。
観察:4日目fibroblastlike cell(F)少し、S.→、9日目epitheloid cell(E)も少し、11日目S.群とC.群で差なし、14日目S.群でE.が優勢のもの3/6、C.群はF.が多数、18日目特に変化なし、22日目subculture、その後5日目S.群2/2、C.群2/1。
 Exp.1'は生後28日のgolden hamster liverを使い、kidneyの場合と同様に培養4日目、培地交換と同時に実験群にS.1μg/mlを入れ現在も作用継続中(31日間)。
観察:22日目漸くS.群1/6本にE.少し、27日目S.群2/6本、C.群1/6本に何れもE.少し。
 Exp.2は生後36日golden hamster kidneyを使い、培養開始時よりS.1μg/mlを入れ作用継続中(22日間)。
観察:4日目F.多数、E.極めて少数、13日目F.大多数、18日目F.大多数、S.群とC.群で殆んど差なし、22日目S.群2/6本にE.中等度。
Stilbestrol→hamster kidneyが少し有望らしいとの従来までの結果に基づき、先ずこれから手がけたのですが何分まだ例数が少いのでまだはっきりしたことはいえません。
 実は先般の班会議から帰ったところ株細胞の調子が極めて不良で、一時はどうなることかと心配しましたが、どうやら次第にもち直しほっとしました。然し肝腎のJTC-4は打撃が大きく懸命の努力にも拘わらず、今以て維持出来るかどうか分らぬという心細い状態です。高木さんの渡米で人手が手薄になったところにこの様なことで発癌実験に手をつけるのが遅くなりまだ以上の結果しか得ておりません。
以後はDABについても行い復元実験も是非やらねばと考えています。
2)免疫学的研究
 既報の表に補足した実験は、HeLa、FL、Chang、JTC-8、JTC-4、L、MSに対する免疫血清のチンパンジー、人(肺癌?)、マウス(CF.)赤血球の凝集です。人血球については種属特異性がはっきり出ています。チンパンジー血球はMS細胞にやはり関係を有し、同時に人由来の細胞にも若干の関係が出ております。マウス血球に対する抗L血清は、凝集価が非常に低く出ていますが、これは週2回の注射を都合により中断したためで、書かなかった方がよかったかも知れません。抗MS血清については注射開始後14日、25日、35日と凝集価は同値を示しました。伝研、予研から戴いたJTC-6、JTC-8、JTC-9、JTC-10については現在準備中でまだdataは出ておりません。

 :質疑応答:
[勝田]ずっと免疫学的研究を続けて行くのでしたら、その研究法自体も相当考えて、たえず進歩した方法をとり入れて行く必要があると思います。さもないとおくれてしまいます。
[山田]Agar diffusionでもきれいに出ているデータがありますね。
[勝田]ハムスターを殺して腎だけでは勿体ないので、肝も培養するのは良いですが、それにかける発癌剤は、肝までStilbestrolでよいかどうか一考を要します。動物実験でStilbestrolで肝癌が発生するのですか。発癌剤はかなり臓器特異性がありますから、動物での知見を参考にして夫々最も良さそうなのをえらび、使い分けする必要があります。
[杉 ]Subcultureにはトリプシン消化がよいでしょうか。ラバークリーナーがよいでしょうか。
[高岡]腎の細胞ですからトリプシン消化がよいと思います。それに継代してもやはり組織片がまた硝子面にくっついてシートが出てくるでしょうね。

《山田報告》
DABのHeLa細胞に対する毒性について(2)
 前回の報告でTween20の濃度が0.02%以下ではHeLa細胞のplating efficiencyに大きな影響を与えない事を調べましたので、DABを新たに溶かし直して、DAB最終濃度が1〜6μg/ml、Tween20がいづれの場合も0.01%となるようにし、DABのHeLa細胞のp.e.に及ぼす影響を検討しました。その結果はDAB0を100%として、1μg/mlは86%、2μg/mlは79%、3μg/mlは51%、4μg/mlは44%、6μg/mlは39%となりました。DABの同一濃度内でもシャーレ間にかなりColony数の違いがあり(特にDAB1及び2μg/ml)、あまりきれいな実験とは申せませんが、一応DABの濃度に従ってColony数が減少してくるカーブがとれました。そして縦軸にColony数の対数、横軸にDAB濃度をとると、直線の反応曲線が描けます。
 そこで今後、1μg/ml以下のDABのHeLa細胞増殖に直接及ぼす影響、及びDAB添加後生残した細胞の増殖曲線の変化を追求してゆくつもりです。

 :質疑応答:
[山田]Freund virusを手がけはじめていますが、これによる癌が本当の癌かどうか問題で、たとえばこれを入れたところへ偶然乳癌ができて、それがウィルスと共に増殖して行くという可能性を中原氏などは考えて居られます。
[勝田]それは、発癌させる細胞の材料と、癌化した細胞を復元接種する動物との性を変えておけば、Sex chromatinの%をマーカーに使えます。Giemsa染色でもよく見えますし、チオニン染色もよいと云われます。
[山田]Freund virusはそのtitrationと、どこで増えるかが問題です。電顕でMegakaryocyteのCytoplasmic canalsの中に一杯virus粒子のつまっているのを見せた報告はありますが。
[堀川]Spleenの内部の細胞は培養で果して硝子面につきますか。
[山田]色々あるから、つくものもつかぬものもあります。Titrationはこのvirusの場合、10-4乗でも出てこないのです。他のは10-8乗、10-9乗でも出ますが。
[堀川]Spleenを切って、なかの細胞を押出し、ピペットでばらばらにして培養瓶に入れておきますと、Fibroblastのシートの上に大型のPlasma cellが、浮いています。浮いているだけでつかないのです。それだけとってきて、6月7日から10月17日まで継代できました。
[勝田]Spleenは細胞の同定がむずかしいですね。

《堀川報告》
培養細胞における喰食性(Cytosis)と形質転換の試み(II)
 (I)前回はL細胞に入って行くSpleen細胞のDNAをH3-thymidineでラベルしておいて、これらのH3-DNAのL細胞内でのtransferについて述べましたが、今回は蛋白をラベルする意味で持ち合せのC14-Leucineを使って同様のことをやっております。詳細な結果は次回の月報で報告します。
(II)L細胞とEhrlich ascites tumor cellにおける共通抗原について、Rabbitを用いてEhrlich細胞に対して作った抗血清を図の様にQuchterlong法のAgarの周辺部Eに置き、中央部にL細胞およびEhrlich細胞のHomogenateをAnti-genとして置く(E)(L)。Eと(E)では4本の沈降線が生じるが、(L)とEでも2本の沈降線が出来る。この内、外側の2本はEhrlichとLで共通であることが分る。従ってEhrlichの抗血清を大量のL細胞で前処置してLに共通な部分を吸収してしまうと(E)と《E》の間にみられるようなEhrlich細胞Specificな沈降線が2本得られる。現在CytosisによってL細胞内へ喰い込ませたEhrlichの核のきめ手にはこの系を使用せねばならないので、この所を明確なものにしなくてはならず、労多くして益の少い実験をくり返している。
 (III)同様のことはSpleen cellに対してもみられ、今回の研究連絡会でも報告したようにSpleenから核を除いた残渣を抗原として使用した時の方が余分の沈降線が出現し、然もWhole Spleen cellとして使用した時よりも少量の細胞数でclearな沈降線が出るあたり、抗原性としての核の意義を再検討せねばならぬ状態にある。むしろ今の段階では核内のDNAが抗原抗体反応(沈降線)のじゃまをしているようにもみうけられる。いずれにしても私共の現在の仕事はこの系をしっかりしてしまわない事にはCytosisによる形質転換のきめてが弱くなるのでがっちり取り組まねばならない。
§参考文献§
 M.B.Sahasrabudhe et.al.:Partial deletion of aspartic acid from DNA-proteins during butter yellow carcinogenesis. Biochem.Biophys.Res.Communications 7 (3):173-178(1962)
DAB投与したラッテの肝臓からDNA-proteinを取り出し、そのアミノ酸組成を調べたもので、結果はアスパラギン酸含量がmgアミノ窒素あたりにして正常肝および新生児肝の約半分に減少しており、逆に13種のアミノ酸の内、バリンが倍増している。これはアスパラギン酸が核酸合成に用いられる結果と考え、さらにProtein中のアスパラギン酸がバリンに置換されたのではないかと推測している。同様の結果はDAB以外の他のCarcinogenでinduceしたCarcinogenesisについてもみられるのか追求してみる必要があると私自身思う。簡単すぎる実験でどうかと思うが御一読のほどを。

 :質疑応答:
[伊藤]X線照射したLへ、よくLの裸核が入るというのはどういうことですか。
[堀川]おそらくPermeabilityが変るのだと思います。Lと他のものの核とは同時に入れますが、いくつもとり込みすぎると消化しきれません。X線処理したLに、新しい核が入ってどういう動きをするか、しらべたいのです。DNAのレベルにおとしてみてやれるか、又、映画にとればきっときれいにとれると思います。
[勝田]とりこまれた核がDNA合成をやれるかどうか、とりこましてからH3-thymidineを加えてみれば判りますね。
[堀川]Lから核を除き、そのあとデオキシコール酸で処理してLとオクタウロニーをおこなうと良く出ます。おそらくDNAがinhibitionをやっていたのかも知れぬと思います。
[勝田]核を取らないでやると・・・?。
[堀川]とても粘稠度が高くなって、agarの穴に入れるのにもうまく行きません。
[関口]凍結融解するとDNAが変りはしませんか。水素結合が外れるかどうか・・・。

《遠藤報告》
 抄録提出がないので、のせられないが、HeLaの増殖に対する性ホルモン及びその合成誘導体の影響についての、これまでの仕事の総括をおこなった。

 :質疑応答:
[堀川]微生物にはホルモン的なものはないか。
[勝田]的なものは、別の名前で呼ばれているでしょう。
[遠藤]無いと思います。Organaizeされていない微生物には無いと云えます。
[山田]働きとして何らかの調節をするものはホルモンではありませんか。また血清中にはホルモン作用はないものと考えて良いですか。Changのliver cellで感じていますが、血清によってずい分生え方がちがいますね。
[堀川]HeLa-S3系を使ったデータはHeLa全体を代表しているといえるかどうか・・・。
[山田]厳密に云えるかどうかは判りませんが、他のものと比べて凡そ同じ位です。
[勝田]染色体数分布がAとBの裾が重なり合う二つのピークを持つ細胞集団で、bのところ(Bの中心でAの裾が重なっている)の細胞をcloningしたとき、Aの曲線が再現されるか、それともB中心の曲線に移るか、これだけは、山田君ひとつ奥村君と共同してはっきりさせてくれませんか。
[黒木]私のところでは吉田肉腫から5種のclonesを作りましたが、その内の1種が4倍体で、これはずっと続いています。
[勝田]いや、私の意味するのはploidyのようなちがい方でないものです。
[佐藤]うちでは血清濃度によって変りますね。血清を濃くすると増殖率が上り、染色体数もふえてきます。
[山田]2倍体を維持するには血清が影響するという文献があります。
[黒木]吉田の巨細胞は核が大きくて切れ込みがありますが、血球を入れて培養すると小さくなり、血球を入れずに培養すると、大きいまま増殖します。
[佐藤]吉田の復元法は?
[黒木]100〜200万位を大沢のHybridにうえると90%位つきます。2,000ケで3/4匹、20,000ケで2/4匹(呑竜)つきます。但しこのつかなかった2匹に2月後に200万うえたら死にました。
[佐藤]トリプシンをかけても充分ばらばらにならないときは、どうしたら良いでしょうか。
[山田]充分バラバラにならぬものをむりにpipettingを強くするより、トリプシンを充分にかけて軽くpipettingした方が細胞をいためないでしょう。


【勝田班月報・6301】
《勝田報告》
 §日米癌化学療法討議会§
 さる12月20日21日と麻布の国際会館で、約50人の完全なclosed systemで行われました。ガリオア・エロアの返済すべき金を、日本のために使ってよいということで、科学のみならず、教育と経済についても、日米協力委員会というのができ、科学委員会では日米各10人宛が出席して、理工農医について討議した結果(医では吉田教授)、癌の研究を当分行なおう、ということになったのだそうです。そして、そのprojectsは、第1が化学療法、第2が癌の地理病理学的研究で、化学療法が主体ですが、まず、信頼性のある、普遍性のスクリーニングの方法をきめ、共通の言葉としようというのが歩み出しのようです。今回の討議会では、主に日本におけるこれまでの色々なScreeningの方法の紹介と、米国における方法の説明がありました。なお日本におけるこの仕事をはじめる場所として、佐々木研究所を足場にしてやって行きたいと、吉田教授は云っておられました。その理由は、1)癌研究の古い歴史を持っていること、2)民間研究所であるから人的支流が容易であること、であり、しかし元来は両国政府のやることであるから、将来は独自の機関を作るよう政府に要請する、とのことでした。Screeningには動物実験の他に、組織培養を非常に重視してきたこと(アメリカに於ても同様)が注目されました。それ故にこそ私などが呼ばれたのでしょう。これまでより遥かに重視するようです。アメリカではEagleの作った株KBを使っているようです。日本では動物の移植tumorの初代培養を使うのがほとんどでした。どちらが本当のヒトのtumorに近い性質を示すか、色々問題になる点もありますので、そこをかなり突いたところ、NIHからきたDr.Leiterもやっきになっていました。
 日米合同科学討議会での結論
 日米科学協力委員会は、癌化学療法の共同研究に関する勧告を行ったが、この勧告に基き、1962年12月20日、21日両日、東京において、日米合同癌化学療法シンポジウムが開催された。日米両国における癌化学療法スクリーニングの各種の方法が、総括的に検討、評価された。この学術的討議の結果として、参会者全員は次のような要望を提出することに一致した。
1.日米間に相互に共通する「基準スクリーニング方式」を実施するためのサービスセンターを日本に設立すること。このセンターの活動が確立するまでは、日本政府は、この機構を、民間機関として設置するのが適当であると考えられること。
 2.「基準スクリーニング」を構成すべき各個のスクリーニング術式を選定するために、日米実行小委員会を設置すること。
 3.米国癌化学療法サービスセンターは、日本側から推薦される試験方法を採用して、新たなスクリーニング方式を追加設定する。
 4.日本政府は、日本サービスセンターの活動のために必要な供給源として、遺伝学的純系動物の開発、保持、繁殖の機構、腫瘍及び培養細胞株の保存供給機構(銀行)、さらに動物の保健機構等、必要な機構を設置すること。
 5.両国において新薬剤が開発された場合には、できる限り速やかに情報の交換が行われるべきこと。
 6.新しい薬剤が別個の方法によって開発された場合は、何れの国における場合も、基準方式にかけて試験し、その効果が両国において等しい基盤において判断、了解されるようにすること。
 7.癌化学療法の問題のうち、その時々に適切な課題をえらんで、日本又は米国において随時シンポジウムを開くべきこと、このシンポジウムは大体1年に1回位が適当と考えられること。
 8.日米両国は研究者の交換計画を確立し、科学協力の基盤の拡大を計るべきこと。
◇第2日最后にこのような結論がまとめられた(そのとき私は不在でしたが)。もう少し基礎的研究の援助もうたうべきであると我々は考えられるが・・・。
 §文部省癌班長会§
 12月15日に癌の綜合研究班の班長と数名のGuests(川喜田、山本正、滝沢、石館その他の各氏)でclosed systemの一種のSymposium(or放談会)をひらきました。Palace Hotelでやったのですが、仲々面白く、一日中あきずに猛烈なDiscussionがありました。何れも一言居士ばかりなので、発言したければ手なんか上げずにさっさと黒板を占領する必要があるほどでした。はじめに川喜田教授が、滝沢教授を"仮想敵国"と見なしながら、癌ウィルスの話を意気軒昂にやっていたのですが、小生がウィルスでできる癌の細胞はいつも似た性質のものができるのではないか。つまり一定の方向性があるのではないか。一般に例えばDABなどによる肝癌では、その都度色々なものができ、つまり方向性のないのが癌の特徴の一つ、と考えられているのだが・・・と云いましたろころ、急にしょげてしまって、そのときはそれほどとも思わなかったのですが、22日、日米合同の昼食のとき机に並んだところ"あれは痛いことを云われた。あれから川喜田さんと夜おそくまで銀座でのみながら嘆き合った(慰め合った?)。"と山本氏。"どうも君たち病理屋はウィルス屋を憎んでいるらしい。悪いウィルス屋とばかりつき合うからだ。"と川喜田教授がのたまいましたので、早速"そうです。安村君とつき合っているからでしょう。"と答えました。
 このときは学問の他に、研究費申請についても若干の説明があり、がんの特定研究の研究対象に"化学療法"が入っていないのは怪しからんと、盛んに石館氏が文部省の人たちをいじめ、あまりひどいので小生は"これまで別枠の予算の大部分をとっていたのに、一寸もラチがあかないからこの辺で少し方向を変えてみよう、としたのでしょう"と云ってやりましたら、となりに居た藤井隆教授に"君は云いにくいことをずい分ずけずけ云う人だなあ"と妙な感心をされました。なお"こうしたことの相談役に誰かが決まってなると、ボスが自分の子分にだけ金をやることにならないか"という話に、吉田教授が"この頃はそんなことはあるまい"と答えたところ、阪大の山村教授が"本人が云うんだから、これほど確かなことはあるまい"と大笑いになりました。お正月らしく笑話をならべまして・・・。
 §研究報告§
 A)発癌実験:
 12月の班会議のとき報告したように、DAB-正常肝の組合せで、誘導されて増殖してきた細胞は、腫瘍性も認められず且細胞自体にAtypieが少いので、第二次刺戟を色々と試み、Atypieを起させてみることを計画した。RoutinelyにPrimaryの生え出しを使うことは仲々能率がよくないので、株化したRLD-1を使ってAtypieを起させるFactorのスクリーニングをすることにした。
 方法は小角瓶を直立させ、底に小さなcoverslipを入れ、細胞と培地を1.5ml入れる。一定期間培養后、タンザクをとりだし、ギムザ染色して細胞の形態をしらべ、効果をたしかめる。この方法はやってみたら仲々便利な方法だった。
 Exp.1: 培地の上に流パラを入れ、気層と縁を切らせる実験。
1962-12-7より4日間放置・・・あまり形態に変化なし。
 Exp.2: 培地を交新せずに放置する実験(1962-12-7より)
4日后: 核の大小不同が現われ、4倍体に相当する核もみられる。多核は少い。
6日后: 核の大小不同さらに顕著。核にくびれのある細胞が少し目立ってくる。
8日后: 核の不整形化がやや目立ち、核にこぶのついたものが増えてくる。
    数ケの核をもつ細胞もふえてくる。
10日后:多核が増え、核の不整形のものが非常に目立つ。
14日后:細胞はほとんど変性壊死。
17日后:培地交新。(以后週2回宛)
25日后:新しい細胞集落の形成を発見。この細胞は2核が多い。
 Exp.3: 第2回目にもDABをかける実験(1962-12-12より)
DABを1、3、5μg/mlに4日間与えたが変化を認めず。
 Exp.4: 流パラ、Chick Embryo Extractの影響をみる実験(1962-12-13より)
1.CEEを10%に加えたところ(流パラなし)、4日后には細胞はほとんど死。
2.流パラ重層(CEEなし)をさらに長期にみると
 7日后: 変化なし。
 11日后: 週2回、1.5ml宛新培地を追加。
 20日后: 核小体が小さく且数のふえている細胞が多くなった。
(注意)これらのExp.にはすべて通常の培養法のものを対照におき、比較観察している。
 Exp.5: Rat liver extract、Rat serumの影響(1962-12-19より)
RLE 1%、RS 5%何れの群も9日后にみると、多少核の大小不同がある程度。
RSはCalf Serumより反って増殖がよい位。
 Exp.6: 乳酸添加の影響(1963-1-3より)
乳酸を0.01%、0.1%に加えると、培地のpHは夫々7.4、6.8と下がる。しかし補正せずにそのまま培養。結果はあまり変化を与えず、反って形態がきれいなほどであった。pHのeffectか、乳酸のeffectか判らぬが、面白い現象である。しかし傍道に入りそうなので、この問題はしばらく手をつけないことにする。
 Exp.7: サリドマイド添加の影響(1963-1-9より)
 サリドマイドはグルタミンやビタミンBの拮抗剤で、奇形児を作るので有名だが、やっと手に入れてテストを開始した。(遠藤班員に感謝する。)
 以上の実験結果を総括すると、1)培地交新をせずに放置して、新生してくる細胞をつかまえる(Exp.2)のと、2)流パラを入れ培地を加えて行く法(Exp,4)とがどうやら有望かも知れぬので、今后は殊に前者の法を何回かくりかえすことを試みる予定である。サリドマイドは勿論内心大いに頼みにしているが、結果はまだ判らない。
 Replicate CultureでのDAB添加実験(C#30、1962-11-20より)
 このExp.をはじめたことは前号のラストにかいたが、18日ラッテの肝を細切、80、150のメッシュを通して得たcell suspensionを34,000核/tubeで短試に分注。DABははじめの4日のみ。70本中45本にDAB。1μg/ml。4、8、10、13、15、17、19、25、30、37、41日后にcell count。Controlでは15日迄はinoculum sizeのまま保たれ、17、19日と少し減り出し、30日后には0に近く落ちてしまった。DAB群は15日后に3本中1本に、40ケの核の内10ケの核が新生した細胞の核らしい形態を示した。19日迄はcontrolと略同じ経過を辿ったが、25、30日にもなお細胞はかなり残り、30日目の3本中1本では明らかに新生細胞の核と思われるものが25,000ケ/tubeあった。しかし、37、41日后かぞえたtubeではExp.Cont.共に、生きている核は一ケも認められなかった。細胞数とtube数をもっとふやせば確率がよくなると思われるが、とにかくReplicate cultureでも行けることが判ったのである。
 B)ラッテ腹水肝癌AH-13の培養:
 AH-13は毒性がつよく、腹腔にあまり細胞のたまらない内にラッテが死ぬ。正常肝との
Parabiotic cultureを試みたいため、これまで色々培養を試みたが、旨く行かなかった。ところがCalf serum10%+Lh0.4%+Dの培地に、黒木君のpyruvicacidを0.01%加えたところ、カーブが上昇し1週間に4倍増殖を示した。同君に感謝したい。

《佐藤報告》
 班員の皆様、明けましておめでとうございます。昨年は班長以下皆さんの愉快な又気力あふれる会合に出席し色々と勉強させて頂き研究に対して大きな刺戟となりました。本年も宜しくお願いいたします。
 昨年中DAB→ラッテ肝に対する生体外発癌に関して実験を繰り返し色々の結果が判明して来ました。本年はこれら実験結果の中から発癌(動物復元可能)の最短距離を探しだして班研究の有終の美をかざりたいと思っています。又昨年までは培養そのものの技術的問題等に実験を集中しましたので本年は文献やその批判に時間をさきたいと思っています。
 次に昨年末の実験結果を報告します。勝田班長からの宿題(DABの短期投与)
 ◇C34 1962-12-22=0日 ラット生后15日、DAB調整は1962年11月4日 使用牛血清は原液のものと同じ、液交換は対照は4日目。
 結果は(表を呈示)、8日目の所見及び17日目の所見はラットのAgeの比較的若いものではDAB1μg/1mlの投与では1日間>2日間>3日間>4日間の順位で増殖本数が多く且1本当りの増殖細胞数も明かに多い。Controlは13日所見で増加の傾向が見られるが組織片1個当りの細胞数は少い。少しでも増殖(Epithelial)が見られたものを記載した関係上13日目4/5と忠実に記載したが1本当りの量及び全体観からは2/5〜1/5と記載する方が事実に近い様である。将来株化し得ると考えられる増殖(Epithelial)の点からは17日目の結果が最も正しいと考えられる。17日目の成績は、DAB1日間5/5、2日間4/5、3日間4/5、4日間3/5、controlは1/5であった。
 ◇C35 1962-12-27=0日 ラット生后20日(C34と同腹)。DAB、血清及び実験方法はC34と全く同様。8日目の結果(Epithelicalの増殖傾向のもの)DAB1日間0/5、2日間2/5、3日間4/54日間1/5、control1/5。12日目(増殖確実のもの)、DAB1日間0/5、2日間1/5、3日間2/5、4日間1/5、control 0/5であった。
 ◇C34、◇C35では結果が現れさうですから8日間まで実験を組んでもう一度やってみます。 DAB実験の長期のものの概括は(表を呈示)、C8のContr.Exp.、C10のContr.Exp.、C17の
EXp.、C21のContr.、C22のExp.、C22のメチルDAB、C23のExp.、C20のExp.が株化あるいは殆んど株化しています。その中の5系列については染色体数を調べましたが、分布は2倍体近辺に広がっています。

《杉 報告》
 あけましておめでとうございます。
 昨年末から高木班員渡米のあと代理として班会議に出席していましたが、今度申請する研究班には正式の班員として加えて戴くことになりました。どうぞ宜しくお願いします。高木さんもあちらで元気にやっているそうですので御安心下さい。ところで研究の方は年末にかけて高木さん渡米後、雑用が増えたり研究室の人手が少くなったりで、こと志に反して殆んど進展していません。新しい年を迎えてこれではいけないと決意を新たにしているところです。幸い段々と落着いてきましたので新しい実験にとりかかります。
[発癌実験]
 私の手で昨年やりましたもののそのごの経過を報告しますと、
 golden hamster kidney←→Stilbestrol
Exp.1 生后28日、S(1μg/ml)。培養4日目−18日間・22日目。(第2代へRT6本→2本)
18日目:S群2/2中1本はかなり、C群1/2。32日目:両群とも増殖の兆なし。41日目:細胞殆んど脱落。
 Exp.2 生后36日。S(1μg/ml)培養初日−22日間・22日目。
22日目:S群2/6にepitheloid cell(E)が優勢の部あり、C群殆んどfibroblast like cell(F)が主。42日目:両群ともかなり(第2代へRT6本→3本)。2日目:両群とも少し、僅かに
S群がC群に比べ優勢?。12日目:S群3/3中1本は非常によくEの部がみられる、C群3/3 Fが大部分。
 Exp.2では2代に継代した後の細胞の拡がりは殆んどが母組織を中心にしているのでこれは増殖とはいいきれないと思われる。しかし12日目に於るS群では1本が明らかによく生え且つC群にみられないEがかなり優勢に出つつあることから希望がもてる。
 golden hamster liver←→Stilbestrol
 Exp.1' 生后28日。S(1μg/ml)培養4日目−28日間・32日目。
32日目:S群2/6 Eが中等度。C群殆んどなし。63日目:両群共に増殖の兆なく変性に傾く。 現在まで用いるhamsterの性についてはあまり考慮していませんでしたが、文献によるとstilbestrolをgolden hamsterの皮下に与えてrenal tumourを作るのは雄であり生体と試験管内では条件が異なるとはいえ雄を用いた方がより適切と考えられるので、この点にも留意したいと思います。又stilb.は逆にprostateやbreastのcancerの治療にも使われており、このへんのところはdosisの問題やいろんな条件がからんでむつかしく、我々の実験でも作用させる期間とか問題はいろいろあるでしょうが、これを解析して行くのが組織培養をやる者の1つの使命だと心得てやるつもりです。
[免疫]
 株細胞の家兎免疫血清による諸種動物赤血球凝集反応については、そのご日本猿血球について行いましたが結果は次の通りで(記載法は既報に準ず)、抗MS血清に最も高く抗人由来細胞血清にもいくらか出ています。抗HeLa:2、FL:3、Chang:3、JTC-8:1、JTC-4:0、L:0、MS:4。以上の様な血球凝集反応に並行して蛍光抗体法や堀川班員のやっておられる様な
Ouchterlony法を用いたりしてやる準備をすすめています。
 臨床教室は人が多くて予算が少く、そのため機械器具が思う様に揃いませんが、実は蛍光顕微鏡のいいのが今まで教室になく困っていましたところ、近く入る予定ですのでそれがきたらやることにしています。大体今後の方針としては前回の班会議で与えられた課題を中心に発展させてゆくつもりですが、私自身が未熟でいろいろ勉強したり教えられたりすることが多いと思いますので宜しく御指導をお願いします。

《堀川報告》
 新年おめでとうございます。
 研究に学会にあるいはミーテングにとあけくれた1962年とも別れをつげ、新たに1963年の正月を迎えるにあたり、まず年頭の御挨拶を申し上げます。
 かえりみるに、1962年は私にとっては1961年同様に目の廻る程多忙な一年でした。千葉の放医研に滞在すること一年にして、翌1962年の春には京大に転勤しなければならぬ状態になり、それ以後は試験管一本ない新設講座で新しい研究室造りに日夜追い廻されていた様な状態でした。従って私には、in vitroでの発癌という大きな課題をになっておりながら、充分に任務を果せなかったことを心苦しく思います。正直なところ、この2年間私のやった仕事はどれだけだったか。勝田、佐藤、高木先生その他の方々に比してはるかに微小なものだったと反省しております。
 たしかに私共は助手という立場で自力以外にasistantがいない、これは研究者にとって何よりも大きな弱点であると思います。あの様な方法でやってみたい、この様に改良した方法を駆使してみたいと思いは色々浮んでも、結局は追いついて行けなかったというのが偽のないところでした。この点同じ立場の遠藤さんはまったく私と同じ苦境にあったと思います。
 然し、研究者にしてこの様な云い訳をするのは私自身の努力の足りなかった為で、今年こそはこの様な問題を打開して班員の一人として先日も報告しました様な私なりの方法論で大いに力を発揮したいと思います。
 従来分子生物学の主な研究対象はビールス、バクテリア、それにバクテリオファージといった微生物に向けられていました。そして今後もしばらくはこの傾向は続くとしても近い将来、分子生物学の主要路線はかならず動物細胞の発生と分化に向けられ、そして人類最大の的であるガンと取り組んで実社会への貢献の足がかりを作ることは間違いのないところであると思います。この様な事態に先んじて今日我々がin vitroで発癌という問題と取り組むことは、癌の本体をつかむ上にも大いに意義深いことであると信じております。幸い一昨年暮から放医研の土井田君も当教室の助手として加わってくれましたし、今年こそは大いに頑張って行きたいと念願しております。よろしく今年もお願いします。

《山田報告》
 本年もどうぞよろしく
 新年早々あまり楽しい話ではないのですが、昨年暮2月ばかり細胞の培養がうまくゆかず、屡々HeLa細胞のp.e.が0%ということがあり、あれこれ疑って調べてゆくうちに、雑菌混入につきあたりました。原因としては、1) Millipore FilterのGrade HA(穴の大きさ0.45μ)は一応滅菌用として売出されているものの小型の球菌を通す危険がある。 2) Millipore Filterのpyrex filter holderは二面のスリ硝子で濾過膜をはさんでPinchでとめるだけなので、過度の過熱によってガラスに歪みが生じ、濾過膜の周辺より液を吸い込む危険があるのではないか。このことは今池本に確かめてもらっています。実際にはPH(0.30μ)で滅菌できていない事を認めました。 3) 最後に勝田さんには叱られそうな話ですが、抗生物質の使用は雑菌の検出を遅らせ、発見した時には広く汚染されてしまっている。
 以上の手落ちの重なりで2月ばかり無駄にしてしましました。自戒のために書きました。 ◇◇もう一つのことはWistar Instituteから送られてきたhuman deploid cell strainのことです。WistarではHayflick及びKoprowskiによってこのdiploid cell strainを使ったpolio vaccineが作製され、WHOのきも入りで世界各国で研究できるように配布の手順ができ、予研の手のはやい部長が早速に申込んで入手したのですが、その維持をまかされたものです。かなり手がかかること(週2回、1本を2本にsubcultureせねばならない)、又結構その維持が難しく、いささかもてあまし気味ですが、私個人としても実験に使いたいので、give & takeで引受けたわけです。その送り状によると、50代継代をつづけると増殖能力が失われる、すなわちunlimited growthという事が特徴で、これが所謂株化した細胞(彼らはcell lineと呼んでいます)と異る点で、このような培養によってのみdiploid cellの維持が可能であるという見解は、経験論的ですが、面白いと思います。3〜4日でSubcultureすると細胞数はおよそ2倍になっていることが認められますので、この株が切れるまで、培養開始より約半年間という事になり、その間個々の細胞は2の50乗に増殖することになります。この2の50乗という数字は10を虚としますと約10の15乗で、細胞のwet weightを10-6乗mgのorderと考えますと、大体100kg〜まで1個の細胞が増殖し得る計算になります。これらのdiploid cell strainはembryo由来ですので、受精卵が人間1個体まで発育し、それぞれ分化し、又repairを活発に、あるいは組織によっては緩慢に行って、やがて死に到るまでに産生する細胞数と近い数字を示すことは、何か細胞の寿命を暗示するようで、話題になりそうです。私のところで維持している細胞の寿命をできるだけ延ばすよう−しかしモーロクしないように−精々心掛けるつもりです。
 なお、original reportはExp.Cell Research,25,585-621,1961に出ております。標題はThe serial cultivation of human diploid cell strainsです。
 ◇◇最後に高野の住所をかきます。時にくる手紙では、元気でやっております。仕事はInterferonのこと、又もとのvirus屋さんにもどったようですが、本人は癌屋のつもりでおりますので、どうぞお見忘れなく。

【勝田班月報・6302】
《勝田報告》
A)1月はもっぱらThalidomideで終始した。Primary←DABで出てきた細胞を使うのはもったいないので、株化したRLD-1を用いた。
 [サリドマイド濃度]Thalidomideは水に難溶であるが、薄い濃度ではとける。0、1、10、50μg/mlの終濃度でしらべると、1μgでは薄すぎ、50μgでは濃すぎ、10μg/ml位がいちばん手頃である。
 [細胞の変化]撰択的に核に変化が起る。有糸分裂はきれいに2群に染色体が分れず、わきに取残されるものが出てくる。その頻度はかなり高い。そして一旦分裂した核がまたそのまま融合するのであろうか、巨核が現われ、一般的にも核の大小不同、くびれ、こぶ形成、核小体の数がふえ、大きさが小形化・・・などの現象が現われる。特に濃度の高くない限り、細胞質には空胞変性などの変化はほとんど起らない。多核細胞も屡々見られ、巨核細胞は群をなしていることが多い。巨核細胞の分裂像も見られた。また4極などの異常分裂もある。いかにも悪性面をしてきたので、目下これをふやして復元接種する準備をすすめている。またPrimaryのliverにもDABで誘導したあと、そのtubeのままでサリドマイドをかけている。(Subcultureを待つと月日が経ちすぎるので)その結果は未明。
 (模式図を呈示)図は数例の略図を示しただけであるが一般に核の変形は実に多彩である。 [サリドマイド添加日数]1〜7日間添加后、第10日にしらべると、1日添加でも巨核は現われるが、出現頻度は低い。綜合して、少くとも4日間位与えた方がよいと判定された。しかし問題は添加を止めたあと、何日間サリドマイドのeffectが残るかである。不可逆的変化を遂げてくれなければ意味がないからである。
 Controlは何十本もの内1本だけ巨核細胞が現れたが、その頻度は培養中でも低かった。同じ株のなかでもCulture flaskにより細胞の性質の異なることを考慮し、Stock cultureは継代のときpoolせずにflask別に継代している。
 RLD-1以外のRat liver株(DAB+及び−)についても同様のサリドマイド添加をはじめた。結果は未明。
B)ラッテ腹水肝癌AH-13の培養:
 これまでに判ったデータは 1)10%CS+0.4%Lh+Saline+0.01%Pyruvic acidの培地で、7日間は増殖を維持する。2)血清は、Calf serum、bovine serum、horse serumの内ではCSが最も増殖がよい。3)Pyruvic acid濃度は、0.005%、0.01%、0.05%の内では0.01%がoptimalである。4)目下calf serumのoptimal concentrationを検討中である。これは3月末までには基礎的データを出し、Normal liver cellsとのparabiotic cultureを検索する予定である。 C)アミノ酸分析:
 昨秋入った日立のアミノ酸自動分析器がようやくこの頃順調に運転できるようになり、いろいろのアミノ酸分析をはじめている。
 a) L・P1→L・P4の4亜株細胞のアミノ酸消費及び細胞蛋白構成アミノ酸組成を比較している。アミノ酸消費は、合成培地DM-120中で培養したあと、培地のアミノ酸の種類と量を測定し、培養前の培地と比較するのである。Eagleによると、色々の株細胞が皆似たようなアミノ酸要求を示すように報告されているが、我々の得た結果では同一のL株から枝生した4亜株の間にさえ、かなりの特異的な違いのあることが判った。つまりEagleのようにproteinを少し加えた合成培地でなく、純粋の合成培地でしらべているので、proteinからのliveration(or contamination)を除去できてこのような差を見出すことができたものと思われる。蛋白構成アミノ酸についてはなお検討中である。
 b) マウス移植性白血病(腹水型、C-1498)の細胞蛋白構成アミノ酸の組成:
 2年ほど前からこの細胞の培養を試みているのに、仲々成功しない。よほど変った栄養要求をもっているにちがいないが、現在まで用いられたあらゆる培地を試みても旨く行かないので、細胞を集めてその蛋白を分離し、さらに酸分解して、アミノ酸組成をしらべてみた。その結果、第一に判ったことは、他のL系などの株細胞に比べ、各アミノ酸の細胞1ケ当りの含量がかなり低い(1/4〜1/6)。細胞の形態もきわめて小さいが、分析値でもこれが示され、次に組成の大きな特徴はmethionineがきわめて少ない(≒0)。酸化されたとしてもmethionine sulfoxideが殆んど出ない。Cystineも少い。大変面白いのでヒト白血球についても目下検索中。

《佐藤報告》
 前号に引きつづき株化されたものの染色体数分布を検索していました。
(染色分布図を呈示)今回はC22:C21:C20:の三例を見ました。詳細な検討は2月14日上京の班会議で御批判いただく事にしますが、極めて興味のある事はC22実験でDAB"発癌"の場合には42より左より(少数の方)に染色体数が分布しますが、同じ実験(同じラット)でメチルDABを使用した場合には明かに右遍(増える方)している事です。この株はメチルDABのみで発癌している可能性を追求します。
C21 contr.は前号記載の如くExp.の株はありませんが、形態的に明かに"箒星状細胞"であります。(染色体数分布は42が最頻値で44、45にもピークがある)
 C20 Exp.は前号記載のものと同様DAB"発癌"のものであるますが、前回のものと同様42より左遍しています。
 染色体数分布については勝田さんの謂われる様に精確にしなければならないと思いますが、42染色体数のものは比較的に美麗にみとめられます。42染色体数が現われる頻度はどうもラッテ日齢(実験時)で関係する様に考えられます。
 DAB短期投与の実験◇C36、◇C37は夫々6日目、2日目で未だ結果がでていません。
 C10Exp.株のラッテ血清(20%)駲化は仲々むつかしく牛血清と交替にして継続しています。C10Exp.株は一部5%LD牛血清で継代中で、これとラッテ血清で比較して見ます。ラッテ血清を2日間程使用すると、細胞に変性がおこり、後で牛血清に戻ししてもpolymorphieが長くのこっています。

《杉 報告》
 昨年末から今年始めにかけての発癌実験のdataを大ざっぱにまとめますと
 golden hamster kidney←stilbestrol
 Exp.1 生後28日、S(1μg/ml)、培養4日−18日間・22日目。14日目:S群Eが優勢のもの3/6、C群Fが主。22日目(第2代へ、RT6本→2本)。第2代・5日目:18日目:S群2/2、C群1/2、概してS群の方が細胞が多い。32日目:両群共増殖の兆なし。41日目:細胞殆んど脱落。
58日目:培養中止。
 Exp.2 生後36日、S(1μg/ml)、培養初日−22日間・22日目。18日目:両群共にFが主で両者間に差なし。22日目:S群2/6にEが中等度。42日目(第2代へ、RT6本→3本)。第2代・12日目:両群共3/3、但しS群の中1本はE多し。22日目:S群で優勢だったEが不明瞭となったがS群はC群に比べ明らかに細胞多し(S群1本破損)。29日目:両群共にFが主であるが、C群に比べS群は細胞多し。30日目(第3代へ、RT3本→3本)。
 Exp.3 生後81/2moth、male、S(1μg/ml)培養初日−10日間・10日間。7日目:S群10/11、C群5/11少し。14日目:S群11/11、C群7/11、Fが主。中等度。
 Exp.4 生後103日、male、S(1μg/ml)、培養初日−6日間以上。4日目:S群5/10、C群4/10、極めて少し。
 golden hamster liver←stilbestrol
 Exp.1' 生後28日、S(1μg/ml)、培養4日−28日間・32日間。27日目:S群2/6、C群1/6、E少し。32日目:S群2/6、C群細胞殆んど(-)。63日目:S群も細胞変性に傾く。73日目:細胞殆んど(-)。
 hamster liver←Sのsystemは動物実験でpositiveのdataがありませんので可能性は薄いとみてExp.1'だけで中止しhamster←Sについては専らkidneyだけにしぼってやることにしました。Exp.3と4はoldのhamsterを用いました。理由はhamsterが最近の寒波異変のためでもないでしょうが増殖が思わしくないためyoungが不足しているのと、liverに比べkidneyは比較的よく生えるので思いきりoldのを一ぺん試みに無駄を覚悟でやってみたわけです。youngなものに比して生えが遅く使えるかどうか分りません。どうせ復元にもっていくのだからやはりyoungなところで増殖の盛んなのを捉えるべきでしょうか。今までのところ、golden hamster kidney←Sに関しては対照群より実験群の方がいつも少しいい様です。しかしまだまだはっきりと差をあらわす旺盛な増殖といったものは認められず、作用期間、量、又更には第2のfactorと検討を要する問題がありそうです。更に例数を重ね検討したいと思います。

《山田報告》
 DABを組織培養系にもちこむためにはどうしても滅菌しなくてはならないわけですが、高木先生によって紹介された100℃30分3回の間歇滅菌でDABが破壊されないかどうか、もしこれでこわれないのなら10lb10分の高圧滅菌で簡単に滅菌できないかどうか、そのような極めてprimitiveな事を確かめるために滅菌前後のDAB液の分光吸光曲線を調べてみました。DABそのものの吸収曲線は10-4乗MのDABのEthanol溶液で調べた所、410〜412mμに最大の山があり、これがN=Nによるものである事がわかりました(図を呈示)。Tween20には特異な吸収はありません。そこで410mμの吸収度を基準に100℃30分の加熱の影響をみた所(班できめた方法でDABをTween20にとかし、アミノ酸・ビタミン塩類溶液で稀釋したものについて)殆んど影響のない事がわかりました。10lb10分高圧滅菌した場合には410mμの山が約40%低下し、他の消長には殆んど影響がないので、DABのやく40%が高圧滅菌によりN=Nのところで破壊されることが明らかにされました。残念ながら滅菌の簡易化は不成功に終ったようです。DABの蛋白と結合した場合には別のところに山がでてまいります。ただ問題は血清の色が黄−橙のことで、全液については簡単に測定されません。(Phenol Redは除けますが)。又410mμの吸収で細胞内の分布を測定できないか、(あるいは蛋白と結合した500mμ〜の所で)、考えていますが、濃度の問題で限界がありそうです。尚、DAB液を氷室保存中にDABの結晶が晶出してくるため、そのまま分光計にかけますと吸収度が低下しています。もしこの場合DABがAmino酸と結合したために低下したのなら別の山が現われる筈ですが、これは認められませんでした。細胞に対するDABの影響を定量的にみるためには小さい事ですが、まだ色々と問題がありそうです。

《堀川報告》
 培養細胞における貪喰性と形質転換(癌化)の試み( )
 (1)正常L細胞がH3-thymidine labeledマウスSpleen細胞を貪喰した際、貪喰後急速に、Spleen細胞のH3-labeled-DNAをL細胞核に吸収してしまうことは( )報で報告したが、これはhost側のL細胞のcytoplasm内に存在するDNaseによってSpleen細胞内のDNAが分解されL細胞自体のDNA合成に使用されるものであろうと云う可能性を暗示した。今回は同様の方法でマウスSpleen細胞をC14-DL-leucineでlabelし、これをL細胞に貪喰させた後のC14-proteinの挙動を追求した。H3-thymidineの場合と異ってC14を使用した場合はAutoradio-graphyの解像力が悪く、そのdetectionが容易ではないが技術面を改良して得た結果は要約して次の様になった(図を呈示)。C14-leucine labeled mouse Spleen cellsとLを同一Medium内でcultureすると、L細胞のSpleen細胞の貪喰はincubation後3〜5時間目頃からみられ、Spleen細胞のC14-proteinは始めはL細胞のcytoplasmにtransferされるが、以後L細胞の核、又は主として核周辺に集まることが分った。これらの結果と( )報の結果から綜合して、貪喰されたSpleen細胞のDNAも更にはproteinもhost側のL細胞に吸収され、恐らくL細胞自体のDNA、protein合成に利用されることを意味しており、transformationの可能性を暗示するものである。然し、この場合あくまでSpleen細胞のDNAがL細胞内のDNAの一部分とreplaceしてtemplateとしての作用をもち、数十継代分裂後のL細胞にもSpleen細胞のCharacterを維持し続けるか否かは今後の大きな問題であると思われる。
(2)Ehrlich細胞核をL細胞に貪喰させた場合、どの様な形でEhrlich細胞DNAがL細胞核にincorporateされていくかを決定することは、形質転換の解明上まずやらねばならない問題である。現在予備実験として、Ehrlich細胞DNAをP32でlabelして、そのDNA、RNABaseごとのP32activityを調べ、L細胞が貪喰した場合どの様なEhrlich cell DNAのBase componentをとり入れるかを決定している。この結果は、現在の段階では予備的なもので次回に報告をゆずりたい。
 (3)前回の班会議で報告しました0.4μdiffusion chamberを使ってのin vivo cultureは現在土井田君を中心にして仕事が展開されており、これまでin vitroにのみ全てをたよっていたculture法が生体内培養と云う恵まれた環境の応用により、発癌問題の2stepの突破にも大いに利用出来る可能性が出て来た。
 然しmouseのstrainによってin vivo cultureの容易なもの、手術に対してresistantなものsensitiveなものなどがあって現在それの基礎的dataの集積中です。
いづれ近い内に御報告出来ると思います。

《遠藤報告》
 昨年はさぼりにさぼって除名の憂目にあい、辛うじてお情けで名前だけとどめて戴けることになりましたが、"一年の回顧反省"は、確かにこの班の究極の目標でありしかも既に突破口は開かれた目標であるin vitroの発癌に対し積極的に何も貢献できなかったという事実に対する悔恨の一事に盡きます。そこで、さぼりながらもこの一年間多少勉強し考えてきたことを"きたるべき一年への抱負"として書いてみます。
(1)これまでにやられてきた方法をそのまま踏襲しても何もできそうにないこと
"The Morphology of the Cancer Cells"""Biochemistry and Physiology of the CancerCell" "An Introduction to the Bio-Chemistry of the Cancer Cell"その他いろいろあさってみても、結局のところはじめからわかりきった癌の多様性と正常との間に決定的な差異がないという事実を再認識するにとどまり、過去の方法論にのっとるばかりではこれらの知見に同質のものを加えるだけであることがよくよくわかりました。
 その点、in vitroの発癌という試みは全く新しい戦術であり、膠着した対癌戦線を切り崩す有効な方法の一つであることもよくわかりました。
 しかし、この場合、発癌を判定するマーカーとしてAtypismその他いろいろのbiological behaviorをとるとしたら、これまでの専門からして私にはかなり不利である。それでは、何かbiochemical characteristicsをといっても、現状specificなものは何もない。
 そこで従来とは少し違った観点を持ち込んでbaiochemicalに発癌に到る過程を追ってみたいと考えるようになりました。違った観点というのは、私の分担課題になっている《内分泌学的》ということです。
(2)発癌に内分泌因子の関与もありうるということ
 これまでは、ホルモンのTarget organの癌以外では、発癌や育癌に内分泌因子をあまり考えていないようですが、ホルモンのtarget cellもnon-target cellも同じgene構成を持っているのであるから、cellular controling mechanismによって量的にmodifyされているにしても、ホルモンがnon-target cellにもmetabolicalに何か作用していることは当然考えられます。とすれば、普通はhormone dependencyを考えない発癌や育癌にも内分泌因子が関与していることは充分考えられます。
 これがDAB肝癌の場合にもあてはまらないでしょうか。勿論考えられるから、勝田さんの所では既にDABの後処理としてtestosteroneやgrowth hormoneを使っているわけですが。 これに関連するこれまでの知見を二三あげてみますと、
1)DAB肝癌発生における性差の問題
 昨年10月の癌学会総会で、癌研の馬場さんが話されたので既に御存知のことと思いますが、長期観察による発癌率には性差はないが、その過程では♂の方が早く死亡し、これはtestosteroneによって惹起されるものである。これを馬場さんは、発癌頻度に性差はなく、その後の育癌の過程がtestosteroneによって促進されるからと考えています。(しかし、発癌がtestosteroneやestradiolにindependentでるという積極的な実験的証拠はこの実験の中にはないようです)
 2)正常肝の代謝にもホルモンが影響する
(a)Cantarow,A.et al:Cancer Research 18 818(1958)
 Uracil-2-C14は正常rat肝ではRNAに入らないが予めtestosterone或いはgrowth Hormoneを投与しておくと再生肝同様RNAによく入る。
 (b)岩本:生化学 31 355(1959)
♀ratの肝細胞核のRNA代謝は♂より高く、摘出−補償実験によりestradiolは肝細胞核のRNA代謝を高め、testosteroneはこれを減ずる方向に作用することがわかった。
(3)発癌或いは担癌について生化学者は何を考えているか
 昨年12月のシンポジウム「発癌の生化学」でも討論されたように、肝のように再生能力の高いもの程癌化し易いようなことから、発癌の解明は即ちdifferentionの解明でるとして、発癌=dedifferentionといった抽象的で現実から遊離した議論からみれば随分進んできています。
しかし、分化ないし発癌を説明する理論としてJacob & MonodのRepression theoryを援用してmodelを組むわけですが、この理論はまだあくまで抽象的なもので、repressorの実体は全く不明で、現状では何を考えてもよいわけです。
 そこで内分泌学者の一部ではステロイドホルモンの作用機作を説明するためにsteroidをrepressorとして考え始めた人もあります(正確にはco-repressor或はco-deprepressorとすべきでしょうが)。確かに、このmodelでは、発癌まで含めて如何なる方向への細胞代謝の変化も説明はできます。
(4)当面どんな実験を考えているか
 rat liverの組織培養で、testosteroneやestradiolのようなsteroid hormoneが代謝にどう影響するかを例えばP32-incorporationなどで調べる。同時にDABを与えたらこれが如何に変動するか。この組合せをいろいろcheckすることにより、DABの細胞増殖誘起に至る過程の代謝面での変化をつかめるまもしれないと思っています。
 ただ、生化学的後処理のために、今行われているのとは違った培養法をとらねばならないと思うので、現在想をねっています。腹案は一つありますが、後程御相談致します。

《伊藤報告》
 小生昨年末に父親を脳溢血で失い、其前後のごたごたの為最近迄研究室をすっかり離れてしまい、やりかけの仕事を途中で放棄したものもあり、誠に申訳けない次第ながら最近はすっかり停滞して居ます。そろそろ又もとに戻らなくてはと考えているところです。
 前回の連絡会の際に申し上げました様に、吾々の教室としては、今回新任教授に陣内先生をお迎えしました。昨年暮頃より各医局員の個人面接が行われて居り、小生も約一時間に亙ってお話をしました。それによりますと(1)従来のOncotrephinに関する仕事は4月頃までに何とかSchlufをつける。(2)発癌の仕事は続けてやって欲しい。(3)他に臨床に結びついた仕事を始める(人工内蔵or臓器移植)。と云った様な事で、何れにしても、此の研究班の班員としての仕事は続けてやって行けさうです。
 それで昨年度の小生の成果を振返ってみますと、甚だ情ない次第ながら、はっきりした点はラッテ肝細切→Trypsinizeと云う方法で或種の細胞を比較的多量に、従って早期に復元出来る程度の量を得る事が出来ると云う事だけでした。今后は此の細胞の撰択、及び発癌要因の追加と云う事に努力してみたいと考えて居ます。

【勝田班月報:6303】
《勝田報告》
A)発癌実験について:
 Resting liver CellsにDABをかけて"Proliferation"を起させることを第1段の細胞変化を見つける"目やす"としたが、第2段の変化を見附ける"目やす"として、前回報告したように、細胞形態のAtypismを目標に、最近の仕事を展開してきた。まずスクリーニングの意味でRLD-1株を使い、これに嫌気状態あるいは薬剤を使って、変化をしらべた。容器は小角瓶を直立させて用い、この底に小カバーグラスを入れておいて、一定期日毎に染色して標本を作った。実験#はCarcinogenesisのMorphological examinationという意味で(CM)と冠した。CM-1では流動パラフィンを培地の上にのせて嫌気的にしたのと、培地交新をしない群(CM-2)を作ったが、後者では核に若干の変化が認められた。培地を永い間交新しないでおくと細胞は大抵やられてしまうが、しばらくそのまま放置すると、小さなcolonyが出てきます。しかしこの細胞はmorphologicalにはきれいでした。#CM4では、第7日以後、核小体が小さく数がふえたように認められました。Rat liver extractは15日間の観察では、核にわずかにAtypieがおこっただけでした。CM-9では、古い培地のfactorの一つとして、乳酸を積極的に加えてみたのですが、変化なし。CM-10から彼の有名なサリドマイドを試用。はじめは0.1、1、10μg/mlと加えてみたが、何れに於ても巨核の細胞、くびれ、こぶのついた核、多核などが出現、DNA代謝に強い阻害が示唆された。巨核細胞はcolonyを作り、且、そのままでも分裂するらしく、分裂像を認めた。また4極分裂などの異常分裂もあり、悪性めいた形態を示してきた。一般にmetaphaseに於て、規則正しく染色体が二方に分かれず、その横に取残されるような染色体のあることが屡々認められた。短期使用濃度としては10μg/mlが適当と判定された。この頃、同一のRLD-1株でも瓶によって若干細胞の相違が想像されたので、瓶にNo.をつけて継代のとき瓶をまぜず、#1の瓶は→#1と、系統を夫々独立させて継代することにした。その結果、#5はサリドマイドにより変化をおこさず、#6の系は第2回目の実験のときは対照群まで巨核ができてしまった。サリドマイドのcontaminationとは考えにくい。#1の系も第2回はControlにもできた。他の細胞株について3例おこなったが何れも実験群にも巨核その他はできなかった。これらの結果により、初代培養でDABで増殖を誘導し、それにサリドマイドをかける実験と、もっと薄い濃度でDABを永くかける実験とをはじめている。
B)染色体分析について:
 発癌実験その他で染色体をよくしらべる必要が出るが、従来の押しつぶし法では永久標本が作りにくいことと、押しつぶす要領が仲々体得しにくいので、最近Spreading法とAir-drying法をいろいろ試みている。細胞の種類によって色々modificationが必要のようである。
 i)Spreadingの方はJTC-12株(monkey kidney)でやってみたが、遠沈回数をなるべく減らすように改良し、次の方式に到達した。
(a)コルヒチン10-6乗M、18hrs.37℃、培地に加え、液をすてSaline2mlを加え、強くピペットを使って分裂中の細胞をSaline中におとす。この液を短試に移し、倍量の蒸留水を加え(ときには徐々に)37℃、15分間、低張処理をする。
(一方、スライドグラスをアルコールに入れ、冷蔵庫において冷しておく。)低張処理液をCarnoy固定液5mlを入れた短試に、よく振りながらゆっくり点滴、30分間静置固定する。原suspension2mlはCarnoy5ml、2本に分注できる。これを1,000rpm5分間遠沈後、上清をすて、沈渣と液少量を残す。(軽く、homogeneousにしておく)。冷えたスライドグラスをピンセットで1枚とり出し、濾紙の上に45°以上に立ててアルコールを軽く切った後、3〜4cmの台に片方をのせる。この斜めのスライドの上に、上記のcell suspensionをピペットで2滴位たらし、すぐピンセットでつまんで、アルコールランプの火の上で遠火で乾かす。(アルコールに引火しないように)。乾いたらギムザで染色、検鏡に供する。バルサムでカバーグラスをかけてもよい。
(b)pipettingでmetaphaseの落ちにくい細胞では、細胞全体を剥して以後は上記と同じ操作をする。
 ii)Air-drying法:
 あらかじめ瓶乃至シャーレにカバーグラスを入れて培養し、コルヒチンを培地に10-6乗M約20時間37℃で作用させた後、培地をすてずにそのまま5〜10倍容の蒸留水を徐々にあるいは適当の速さで加え、10〜15分室温におく。このCoverglassをとり出し(或はそのまま液をすてて)Carnoyで固定(室温2〜20分)。次にoverglassを平面におき、室温(1時間〜5時間〜1日〜1週:かなりの自由の幅あり)あるいは37℃(15分〜2時間〜半日)で標本を乾燥させた後、Giemsaで染色し、バルサムでslideglassに封ずる。
 Primary cultureでDABによる生え出しのときなどはこの方法でないととても捕らえられない。
 染色体数を算えるときは、メノコでなく、必ず紙にエンピツでカンタンなsketchをし、その上に赤いエンピツで点を打ちながらかぞえる。メノコで算えるのは危険である。またかぞえた結果をグラフに表わすときは、40本か41本か判定に困るようなのは、0.5宛にして両方に加えることにしている。
 染色体標本の作り方は、同じ細胞でもそのときによって、例えば低張処理の長い方がよかったり、短い方がよかったり、仲々未だよく判らないfactorがあるらしい。
C)ラッテ腹水肝癌AH-13細胞の培養:
 目下のところでは古川君が培養の基礎的条件を検討していますが、基本培地として(仔牛血清20%+ラクトアルブミン水解物0.4%+Pyruvic acid 0.01%+SalineD)の培地で7日間に約4倍の増殖を示します。近い内ラッテ正常肝とのParabiotic cultureを試みる予定です。
D)L・P 4亜株のアミノ酸消費の比較:
 当室でかねてL株より4種の無蛋白培地継代亜株を作っているが、その培地はL・P1:PVP+Lh+Ye+SalineD、L・P2:Lh+Ye+SalineD、L・P3:DM-120、L・P4:Lh+SalineDである。そこでこれらの細胞を夫々(DM-120)の培地に移し、2日後に培地交新。さらに3日間培養した培地をアミノ酸自動分析器にかけ、培地内の各アミノ酸の消費され方を比較してみた。またその消費量を細胞数で割って、1000万個当りの3日間の消費量も計算した。平均細胞数の計算法は次式によった。平均細胞数=log-1乗(log a+log b/2) 但しa=第2日の細胞数、b=第5日の細胞数。
 培養前の培地DM-120の分析は4回おこなった結果を平均した。この各分析値は夫々よく一致し、max.error7%であった。細胞を培養後の培地は2回宛分析し、この平均値を出した。これもmax.error7%であった。
 1)最も著明な相違が4亜株間で見られたのは、Arginineの消費であった。使用前の培地には0.461μM/ml入っているのが、L・P1では0.339、L・P3では0.318の減少(70以上)を示すのに対し、L・P2と特にL・P4ではその1/10以下の消費しか示さない。
 2)Arginineの減少に対応し、培地に与えてない新しいニンヒドリン陽性物質(おそらくはArg.より由来したアミノ酸)が出現した。これには2種あり、一つはグルタミン酸とプロリンとの中間に出現する(X1と仮称)が、L原株にのみ認められる。第二のはProlineの位置に重なって現われ(X2)、L・P1、L・P2、L・P3に認められる。L・P4ではX1もX2も共に認められない。但しL・P2のX2はProlineより少しずれて出るので、Prolineの定量が可能であり、L・P1及びL・P3のX2と果して全く同一かは疑問で、むしろX3として別にしてもよいと思われる。
 3)Threonineの消費について、L原株及びL・P2が高い消費を示し、L・P1及びL・P3は低く、L・P4は逆に+になっている。
 4)LeucineはL原株及びL・P2が高い消費を示し、L・P1とL・P4は低く、L・P3は逆に+である。
 5)L・P3はLysineが+(他の株はすべて−)、Methionine、Isoleucine、Leucineも+であるのが特徴である。
 6)L・P4は他亜株に比べ各アミノ酸とも消費が少ない。
 以上の結果を綜合して考察すると、L・P1とL・P3は近似する点が多い。即ち、Arginineの消費の高いこと。X2の出現。Threonine及びLeucine消費の低い点などである。またL原株とL・P2とは近似する点が多い。即ちArginine消費値は夫々-3.90と-3.94であり、Threonine消費値は-7.64と-8.05、Leucine消費値は-11.93と-14.21などである。但しX1の出現はL原株のみでL・P2にはない。L・P4は他のどの亜株とも著しく異なり、Arginineを殆んど消費せず、X1、X2とも生成せず、Threonine消費は逆に+であり、きわめて特徴のある亜株で、Krebs-HenseliteのOrnithine cycleによるurea合成経路が重大な障害を受けているものと想像される。
 これらの分析結果から考え、L・P 4亜株の間では、アミノ酸消費において、単に量的の相違だけでなく、定性的、質的相違も存在していることが明らかであり、Mammalian cellsの変異の研究、とくに生化学的面からの分析に期待をもたせるものである。
 なおこれら4亜株細胞の細胞蛋白質の構成アミノ酸の組成についても系統的に分析を進めているところである。
E)白血病細胞の蛋白構成アミノ酸組成の分析:
 腹水型マウス白血病細胞の培養が、現在使われている色々の培地を使ってみても、うまく行かないところから、よほど変った細胞にちがいあるまいと、その蛋白のアミノ酸組成をしらべたところ、MethionineとCystineが非常に少いことが判った。そこで人間の白血病細胞も若干手に入れ、順次分析中であるが、やはりCystineが少いような結果を得ている。これについては、東大小児科と共同研究ということで今後材料を次々と送ってもらう予定であるが、何も治療を加えていない内の患者の細胞が欲しい点で仲々簡単に材料が手に入らない。蛋白のアミノ酸組成か変っているということは、そのreplicationの元である核酸の構造も他の細胞とは変っているということであり、核酸のBase組成の分析も目下準備中である。

 :質疑応答:
[山田]染色体の染色にFeulgenを使うと、色素が過剰につかないでよいが、色がうすいので位相差顕微鏡で見なくてはなりません。GiemsaですとpH=4にすると、原形質が赤くなり、核がきれいに染まります。
[奥村]低張処理のまま遠沈すると、細胞がこわれ易い。固定は段階的にして行くのが良いと思います。Primary cultureのときは培地を半分位捨て、1:1に蒸留水を加えて1〜2分おき、さらに蒸留水を加えて2〜3分おきます。固定は1/100、1/10、1と3段階にしています。これは醋酸アルコールでもよい。Air-dryingは37℃、10分が良いと思います。
[勝田]処理のしかた如何で染色体はいろいろな太さ、長さ、形になったりするが、idiogramを作るときなど、標準の形というものは、どのような作り方をしたものにおいているのですか。
[奥村]コルヒチン処理は短い方が良いです。数をかぞえるときは48時間位がよいが、形態を見るときは短い方が良い。長いと太く短くシャープでなくなるので、時間の短い方を基準にします。またコルヒチンの濃度が高いと、形全体が不鮮明になってしまう。しかし重なっているものは、処理時間が長いとばらばらになり易いので、長い方が数える目的には向いています。コルヒチン処理3〜5時間で元の培地に戻し、そのままover nightして、翌日またコルヒチンをかけるようにするとダンゴ型はないし、分裂細胞の頻度も同じように出ます。10-4乗Mで処理すると2時間でダンゴになってしまう。Air-dryingと押しつぶしを合せる方法も目下試みています。
 また顕微鏡で見ながら低張処理をして行くと、きわめて短時間で細胞がぱっとふくらむが、そのあとはしばらく目立つ変化はなく、さらに低張にして行くと、或時間たって急に破裂してしまいます。この時間は実に短い。
[勝田]Modal numberの頻度などをしらべる場合、これまでのやり方はどうも、きれいにかぞえられる細胞だけについてかぞえ、その中での%を出しているようですが、分裂細胞全体についての%でなくて良いのですか。
[奥村]Chromosomeの形の美しいのは、Ana-meta phaseだから数としては多くはない筈です。
[高岡]全分裂細胞数をかぞえ、きれいに見える分裂像の数をかぞえると、Air-drying法の標本では、約1%です。だから全体のごく一部分を見ていることになります。TD-40瓶には細胞が500〜600万位はありますが、分裂中のが仮にその3%とすると、15万ケ位はある筈なのに、押しつぶし法では瓶1本で60〜100ケ位かぞえればよい方ですから、率は非常に悪いことになりますね。
[奥村]押しつぶし法でもドライアイスを使って永久標本を作る方法がありますが、これは剥すとき細胞が両方に残るので、分裂細胞はさらに減ってしまいます。押しつぶし標本は温度差に弱いので、なるべく恒温で保存する方がよいのですが、検鏡のときどうしても温度が上ります。素人が数をかぞえるときは、2n,4n・・・と荒っぽく分ける方が無難ですね。そして何かマーカーになるような染色体をみつけて、それを追う方法がよいでしょう。
[黒木]サリドマイドがglutamineのanalogと云われましたが、株細胞とprimary cultureの細胞とでは、グルタミン要求がちがいますから、細胞によってサリドマイドの影響も異なっても良いわけですね。
[遠藤]アンモニアは測ってありますか。表には出ていませんが・・・。
[関口]培地のアンモニアを測っても、それは操作中に他からcontamiする可能性もあり、意味がないので出さなかったのです。
[堀川]Cellのlife cycle(mitotic cycle)を追ってアミノ酸消費のちがいを見たら面白いでしょう。
[勝田]それは予定しています。Synchronous cultureを使ってね。
[黒木]Eagleの培地は使えないのですか。
[勝田]あれは血清蛋白を少し入れなければ増殖しない培地で、駄目です。
[奥村]+になるのはどういう風に考えたらよいのですか。
[関口]こういうのは、消費と合成の差引をみているわけで、合成の方が多ければ+になるわけです。純合成だけとか純消費とかをみたいときはアイソトープを使う必要があります。
[堀川]亜株を原株の培地にしばらく戻してからアミノ酸要求をしらべてみたらどうですか。本質的なちがいを生じているのかどうか判るでしょう。
[黒木]山根さんがLactalbumin hydrolysateのビタミンを定量したら、Eagle培地の1/10位だそうです。unpublished dataですが。
[遠藤]私はfreeのアミノ酸分析を考えていますが・・・。
[関口]蛋白構成アミノ酸の分析には細胞が1000万個位は必要ですが、freeのアミノ酸プールをしらべるにはその10倍は少なくとも必要ですから、細胞の用意が大変ですよ。それからグルタミンは全部はグルタミン酸にならず、プロリンやアスパラギン酸などにもなりますので、glutamine要求をglutamic acidで完全にはおきかえられず、夫々別個の要求と考えた方がよいと思います。
[山田]Monkey kidneyのprimaryではglutamineからglutamic acidに行くという報告がありますね。
[遠藤]Glutamineは、味の素の再結晶したのは市販品よりpureです。
[黒木]Inoculum sizeで要求の異なることがありますね。
[山田]poolと培地中のアミノ酸との間に平衡関係がある筈だから、inoculum sizeによって異なる事はあり得ます。それから白血病ですが、マウス白血病細胞(AKR)を、folic acid(V-B12)などを培地に加えて培養し、generation timeが10時間位で毎日継代すると継代できるというのがあります。これは継代してもMalignancyは保持しています。
[黒木]このleukemiaはどの程度のmalignancyをもっていますか。
[高岡]腹腔に接種して4〜5日で大抵死にます。
[黒木]SM36の腹水型leukemiaも培養がむずかしくて、早く細胞が死んでしまいます。
[堀川]Leukemia cellのSH・compoundsが少いということはどういうことでしょう。
[関口]これからDNAのbase ratio、G-Cratioとアミノ酸との関係も追究して行けると思っています。

《佐藤報告》
 従来行って来た呑竜ラット肝←DABでDABがTC上で細胞の増殖促進をおこす点について纏めてみました。呑竜ラット肝←DABの場合、勝田氏法による判定では16日から28日程度の生後日数において対称との間に増殖率の差が認められ、その前後では認め難い。(併し現在進行中の実験からはDABの投与日数或は投与法を変えれば差があるやうに思える。)
 ◇C36及び◇C37は前報に引きつづいてDAB短期投与、生後15日及び20日を用いて実験を繰りかえしました。但しDAB及び投入血清は1月17日新調した。◇C36は生後15日ラットを使い、結果はDAB添加1日群は4/5、2日群は3/5、3日群は2/5、4日群は1/5、対照群は2/7。◇C37は生後20日ラットで、DAB添加1日群は4/5、2日群、3日群、4日群は皆1/5、対照群は0/5でした。

 :質疑応答:
[山田]DABは1〜5、6μgで血清中に入れるのが、protein-boundDABの形になって安定のようです。
[勝田]3'-methylDABで出てきた細胞は染色体数のばらつきから見て非常に有望だと思いますが、細胞の形態は?
[佐藤]ホーキ星状のとEpithelialのと共存しています。3'methylDABだと染色体数が42本より多くなり、DABだと37〜38本に行くような気がしますので、実験を進めています。後者は長期間DABを作用させると37〜38本のpeakがはっきりします。Rat心からの放血が不足だと肝培養によくないような気がします。
[奥村]Adult ratのliverでは4n、8nが多いことは事実だがageによる差は不明です。
[堀川]New bornの細胞はAdaptしやすい性質があるのではないでしょうか。
[佐藤]Chromosome numberは生体環境で支配されているような気がするので、in vitroの変化によって数の変ることはあり得るでしょう。Normalにも異常なものが含まれていて、それがin vitroに移されたとき、生え出すという風に考えてみたい。特に若いageのものがその率が高いのではないでしょうか。生後20日以後のは、2nが出やすいような気がします。
[奥村]In vitroに移す前にCarcinogenを与えておいて培養したらどうですか。Methyl-cholanthreneによる皮下腫瘍のデータでは染色体数の変化は先行しないという報告があります。肝の4nは早い時期にあらわれるような気がします。
[勝田]In vitroでcarcinogenを与えるのでなければ、変って行く経過が判らない。佐藤君、3'methylDABの実験をもっと何回もやって、夫々について染色体数のばらつき方を比較して見たらどうですか。
[佐藤]MethylDABとDABはattackする所が異なっているのでしょうかね。
[山田]培養日数が6ケ月位になると染色体数が3n辺りに移る可能性が大きいから、3'methylDABのlineのバラツキは必らずしもreagentの差に還元できないでしょう。
[勝田]最近の「自然」にBurnetの"Scientific American"に出た論文の和訳が出ていて、マウスの生後1日のものの胸腺をとり、あとから別のマウスの皮膚を植えると、それがつく、というのが出ていましたが、我々も復元法にこんなのも取入れてみたいと思っています。
[山田]手術でなくてもX線のbeamで胸腺をinactivateしたらどうでしょうか。
[佐藤]DABをVitaminBと一緒にやると、in vivoの発癌率は悪くなるようですね。
[黒木]DABとproteinの結合はin vivoで1週間で起りますが、それ以上にこのprotein-boundDABが蓄積されないと発癌しないようです。
[遠藤]DAB処理で生えてくるのは、DAB-resistant cellがselectされて生えてくるという可能性はありませんか。つまりin vivoの発癌とはちがっているのでは・・・。
[勝田]In vivoの発癌のときにも初期に我々のとそっくりな小型の細胞が増殖してくるので、我々のがちがっているとは考えにくいですね。むしろin vivoとそっくりで、前癌状態に入っているのだから、もう一息と思っています。

《杉 報告》(高木班員代理)
 発癌に関する実験の今までの結果を展望すると、用いた薬剤はDAB又はStilboestrol 1μg/ml、作用期間は4〜10日で例外的に14〜22日間作用させたものもある。動物はWistarKing rat肝、golden hamster肝及び腎で、日齢はratは生後11〜18日、hamsterは大部分は生後8〜36日、例外的にかなり老齢のものも用いた。
1)rat肝(DAB5例)主として星芒状の間質細胞様のものが生え、対照群との間に差がなく継代出来ず。
2)hamster肝(stilb.5例、DAB1例)培養10〜15日目頃に実質様細胞が生え始めたが対照との間にはっきりした差異を認めず。継代は不成功に終った。
3)hamster腎(stilb.10例)培養4日目から上皮様細胞又はこれと繊維芽様細胞とが一緒に生え始め、10例中3例の実験群で対照群に比ベ上皮様細胞が優勢を占めるものが多くあらわれ、2例の実験群で対照群より旺盛な発育を示した。又これらを継代すると、初代においては差がみられなかった実験例でも、実験群と対照群との間にはかなりの差があらわれた。
 全体的に眺めてみますと、golden hamster kidney←→stilb.については対照群との間に差がある、即ちstilb.がhamster kidneyからのcultureをstimulateしているのではないかと思います。そしてkedneyはliverに比して生え易いので老齢のhamsterでも遅ればせながら比較的よく生え、復元を抜きにして只in vitroでの発育状態を比較する意味では比較的老齢のものの方がprimary cultureで既に差が出ている様です。尤も悪性化ということになると一寸問題かも知れませんが・・・。
 hamsterに対する発癌剤の文献、どうも有難うございました。その中の2-Acetylaminofluoreneは私共が使っているstilb.に構造上稍似たところがあり、rat liverにもcarcinomaを作るといわれていますが、stilb.にはそういう働きはない様です。

 :質疑応答:
[奥村]初代でEpithelialのがdominantのは、継代してもそのままですか。
[杉 ]継代(トリプシン)するとfibroblasticのが減って、Epithelialのが多くなります。
[奥村]動物のageによって生え出してくる細胞がちがいます。若いとfibroblast様のが多いですね。
[勝田]それは一般に云われていることです。それよりstilboestrol→kidneyのとき性別の影響は?
[杉 ]動物実験では♂にしかできないのです。
[勝田]stilboestrolの増殖に対する影響は見てありますか。
[杉 ]大体のところは見てあります。100μgになるともう駄目です。
[奥村]2、3代継代して細胞の形が揃ったところで添加したらどうですか。
[勝田]実験群(S)の方が良いというのは、Epithelialが多いんですか。それとも全体の増殖が良いのですか。
[杉 ]全体の増殖がよいということです。それから継代のし方ですが、初代10本なら第2代も10本という風にやっています。
[勝田]それは問題ですね。実験群と対照群と細胞密度、inoculum sizeがほぼ揃うようにして継代しないと、ものが云えないでしょう。
[杉 ]これからの問題として、性の差を見たいと思っています。
[勝田]Exp.とControlに本当に差があるかどうか、これをまずはっきり確かめた上で、両者の比較分析に入るべきでしょう。変化したということを色々な面、復元接種とか染色体数とか色々な点ではっきり検討証明して欲しいですね。
[黒木]復元はcheek pauchに入れるのですか。
[杉 ]まだやっていませんが、そのつもりで居ります。

《伊藤報告》
 毎度弁解めいた事で申訳けありませんが、年末から公的、私的に種々の雑用が重って、新しいDataを得る事が出来て居りません。今回は今年度最後の研究会でもありますので、今迄の反省と今後の予定を報告させて戴き度いと思います。
 吾々の班がin vitroでの発癌を試みて仕事を開始し、先ず勝田先生のところでラッテ肝のRoller Tubeによる培養にDABを与え、その増殖の仕方に於いて、実験群と対照群との間に差があると云う事実が認められ、それが突破口となって班員一同でその追試をやり、佐藤先生のところでも同様の結果が報告されて、其後此の方法で種々の面で展開をみて来た訳であります。小生も先ずこの方法の追試を試みましたが、テクニックのまずさの為か余りきれいな結果を得る事が出来ませんでした。
 それで誠に勝手ながら、此の方法での研究は勝田、佐藤先生にお願いするとして、小生は別に初から多量の細胞を得て出来るだけ早期に復元する事を目的として、肝細切→Trypsin処理の方法で培養可能な細胞を得る事を検討して来たのであります。
 此の方法によって、Originは分らないが、比較的揃った種類の細胞が得られ、而も増殖して、比較的早期に復元に必要なだけの細胞数を得られると云うことが分り、この方法によって数回復元を試みましたが、何れもnegativeの結果でした。ここで小生の採用している方法を反省してみますと、まずtecknicalな問題として、
(1)期待した程の細胞数を得る事が仲々困難である事。
(2)毎度皆様から指摘されている様に細胞のoriginが不明である事。其他、
(3)現在の常識として、in vitroの細胞が悪性化していると云う事と、transplantableであると云う事は必ずしも平行しない。即、transplantableになる為には悪性化の他に何等かの要因が必要である。従って吾々のテーマである"in vitroでの発癌"と云う仕事をすすめて行くに当って、終局は復元可能な細胞を作る事を狙うとしても、その過程で起る変化をcheckする努力も必要であると思われる。
吾々はbiochemicalな面で此の点を追ってみたいと考えて居ますが、其のためには復元と云う事で考えていたより以上の多量の細胞が必要であり、今の方法ではどうもそれ程の細胞を得る事が困難に思われる。
以上の様な点で問題がありますが、最近のReportで肝細胞を得る優秀な方法を知り、此れを利用して、何とか培養可能な細胞を取ってみたいと考えています。報告の通りに出来れば、cellのpurityも高く、又収量も充分ですので今此の方法を検討して居るところです。
 :質疑応答:
[勝田]君のやり方だとcell countingができる筈ですから、本当に増殖しているのかどうか、ちゃんとcountingをやって、基礎的なgrowth curveをちゃんと見せて欲しいですね。かぞえるときは同時に核や核小体のmorphologyにもよく気をつけて見て下さい。
[奥村]トリプシン消化するとfibroblasticのがずい分出てきますね。自分たちはEDTAで大分沢山とれています。
[伊藤]トリプシンとEDTAを初めに比較したら、トリプシンの方がよかったのでトリプシンを使っているのです。
[勝田]Ratのageによってもdegestのされ方がずい分ちがいますね。うちでもcell suspensionを作って、Replicate cultureでDABを入れてみましたが、率は悪いが出来なくはありません。40本中2本に増殖細胞のものと思われる、染まり方が株細胞のに似た核が認められました。

《山田報告》
哺乳動物正常組織由来の繊維芽細胞系のbiotin要求性
 Hayflickのhuman fetal lung細胞系(WI38)を維持しはじめてから2月近くなります。現在よく増えて、既に30ampulesほど凍結保存を行っております。はじめ1、2代よく増殖して難しい事はないと思ったのですが、そのあと1、2代どうしても増殖せず、degenerationが目立って困ったのですが、文献的に調べた結果、biotin欠如に気付き、これを添加した所、直ちに増殖しはじめ、現在3日培養で平均1.9倍、4日培養で2.7倍程度constantに増殖しております。細かく書きますと、Hayflickはその論文でEagleのmediumを使うように書いておりますが、これはScience1955の文献で、13種のアミノ酸と9種のビタミンが入っております。Eagleはその後1959年にもScience誌上に哺乳動物細胞の培養液を発表しており、液かえせずに長く培養するためには、アミノ酸組成を上記のmediumの2倍以上、ビタミンも幾分多量に加えており、ただbiotinはnonessentialとして除いております。アメリカ人にとってEagle培地といえばDifcoで売出している1955年のものを意味したのでしょうが、僕たちにはより新しい方が身近かに思えて、つい1959年発表のものを使ったわけです。この細胞株と同様にhuman fetal lungからとった繊維芽細胞株を、はじめTC199C(20)で初代培養し、以後Biotin添加Eagle(1959)で培養しておりますが、既に6代で、3〜4日でおよそ2倍になり順調に増殖しています。この場合もBiotinをふくまぬEagle(1959)で培養開始したものでは細胞が増殖できませんでした。その他、マウス、ハムスター新生仔からも繊維芽細胞の継代をつづけており、biotinの有無の影響をみておりますが、やはりbiotinがいるといえそうです。HeLa、L,KB、HEp#2などはbiotinを必要とせず、biotin要求性で2大別されそうに思えるのですが、培養細胞系の大部分は上皮系で、またすべてaneuploidであることと、他方はdiploidであるfibroblast系なこと、そのいづれに差異が起因するか検討する予定です。

 :質疑応答:
[勝田]DABが保存している間にこわれて行かないかどうか、君の測定法でこんどしらべて下さい。
[山田]このHayflickのようなやり方で培養して、constantな増殖を示す細胞を使えば増殖はしていても使いよいのではありませんか。
[勝田]どういう点で細胞の変ったことをCheckしますか。めくらで復元するんですか。
[山田]形態をみたり、増殖をみたりということでは、どうでしょうか。常に細胞濃度が高い状態で培養するというのは生体に近いということで、2nが保たれているのではないでしょうか。
[堀川]2倍体の方がレントゲンに弱いのですか。
[山田]そうです。
[堀川]私のところではX線をかけて、それで生き残る細胞をとって行くと、1回照射毎に染色体数が4〜5本宛減って行って、40本になったのがX線耐性と云いたいのだから、山田班員のデータと合いません。
[勝田]本当に2倍体ということが原因かどうか・・・。
[山田]2倍体3種とHeLaと比べたら、はっきり差が出たのですが・・・。
[奥村]2倍体でない正常由来の細胞株を対照に使ったら良いのではありませんか。

《堀川報告》
培養細胞における貪食性と形質転換(癌化)の試み(IV)
(1)正常L細胞がH3-thymidine labeledマウスSpleen細胞を貪食した際、さらにはC14-DL-Leucine labeledマウスSpleen細胞を貪食した際、貪食後急速にSpleen細胞のH3-labeled-DNAはL細胞核内に、一方Spleen細胞のC14-labeled-proteinはL細胞の細胞質または核の周辺に吸収されてしまうことは前報で報じた。これらの結果は貪食されたSpleen細胞のDNAもproteinも分解されてL細胞自体の核酸、蛋白合成に使用されるものであろうと云う可能性を強く暗示している。しかしこの場合、貪食されたSpleen細胞のDNAがどのような形でL細胞核にincorporateされて行くかを決定することは、Ehrlich細胞核のDNAがL細胞のDNA合成にどのように使用されるかと云う問題と同様に興味ある問題点である。
 H3やC14分析用のガスクロカウンターが回転出来るまでの予備実験として、P32を用いてEhrlich細胞、Spleen細胞、L細胞などのDNA、RNA、酸溶性分劃などへの取り込みを調べOptimum incubation timeを決定したが、これまで得られた結果は面白く、L細胞やEhrlich細胞はほとんどの細胞がDNAとactiveな酸溶性プールをもっているが、一方Spleen細胞中にはSmall lymphocyteのようにactiveな酸溶性プールを持たない、いいかえると分裂してふえて行く可能性のない細胞が混在しているということを強調するような結果を得た。これらはすべて予備実験で得た脇道の結果であるが、これらで得た結果をもとにして現在各DNABaseを適当なH3またはC14 labeledアナローグでラベルしてL細胞内でのその行動を追跡中である。
(2)一方マウス体内でのdiffusion chamberによるin vivo cultureは、これまでネンブタールによる一定の麻酔時間を選定するために、その濃度、injectionする場所などいろいろと調べて来たが、やっとStrainとしてはmouseのRFが良いということがわかり、現在は実際に細胞をChamber内に入れてmouseの腹の中にうえこみ、その増殖などを調べている段階である。いづれも下積実験というところでぼつぼつ報告出来るデータを出したいと思っています。

 :質疑応答:
[勝田]Labeled nucleusを貪喰させたあと、その喰われた核の染色性はどうなって行きますか。
[堀川]染色性は落ちますが、うすく染まっています。
[勝田]こういうAnalogの類で癌をなおすということは無理です。生体内の正常細胞でも、たとえば胃壁の細胞なんかgeneration timeが非常に短いから、そっちもやられてしまいます。我々の現在の立場ではむしろ、こういうAnalogを培養に使って、細胞を混乱状態に持って行っておいて、そこへ発癌剤を作用させるという手があると思います。
[山田]BUDR自体では発癌作用はないのですか。
[堀川]ないと思います。
[勝田]染色体modeのpeakがなくなったというのは、BUDRをどの位使ったときですか。
[堀川]50μg/mlで3ケ月です。
[奥村]少くなるだけで多くなるのはありませんか。
[堀川]殆んどありません。
[佐藤]Peakのずれは、ずれるのか、それとも全然ないところに、ポコッと出来るのですか。
[堀川]もとのLには44本というのは全くなくて、2回位X線をかけると少し出てきて、4回もかけると44本がpeakになってしまいます。DABの場合ですが、DABがDNAのあるbaseをattackしてmutantを作るという可能性も考えられます。Protein-boundによるfeed back control mechanismも考えられないことはありませんが、こっちの方がclear cutでしょう。

《奥村報告》
(原稿提出が無いので項目のみかきます)
1)細胞の凍結保存前後における染色体数の変化。
2)Primary cultureで種々のOrganの変化。
3)SV40(Hamsterで皮下腫瘍を作る、サルの雑ウィルス)のin vitroでのcell transformation。(fibroblast→Epithelialに変えるという報告もある。

 :質疑応答:
[堀川]それはtransformationではなくて、inductionではないですか。
[奥村]文献的にはtransformationという言葉を使っていますが・・・。実験はDNA・virusであるSV40をgreen monkey kidney cellのcultureにかけ、H3・TDRでmonkey kidney cellをラベルしておくと、H3-SV40 virusができるわけで、これでHamster tumorを作ろうという次第です。
[勝田]堀川君に一つ、Transformation、Transduction、Inductionの区別を教わっておきましょう。
[堀川]図示して・・TransformationというのはA細胞の例えばDNAをとって、B細胞に入れ、BをAの性質に変えると云うようなやり方のときを云い、Transductionは例えばphageなどの仲介によってDNAが移されるもの。InductionはたとえばAlkaline phosphataseの無い細胞A'にβグリセロリン酸ソーダを与えてaseを持つように変える。つまり或性質がA'に加わってAになる場合を云っています。
[奥村]細胞の凍結保存前後の染色体数の移動は凍結後にはバラツキの幅がせまくなりMitotic figureも少くなります。株細胞ではもとのmodeを回復するものと認められますが、primaryのはrangeが変るようです。
[山田]DiploidよりTetraploidの方が物理的刺戟に強いとHaushkaが云っていますね。
[黒木]凍結による変化は、普段でも変るrangeの中で変るという報告(佐々木研・井坂)もありますね。
[勝田]この仕事は早くデータを括めて発表した方がよいと思います。しかしSurvival rateがもとの細胞数の30%なんていうのでは、非常にselectionの可能性が大きくなるし、死ぬ細胞は何か考えてみる必要があります。
[奥村]Trypsin処理が細胞をいためるために%が低いと思いますので、Spinner cultureで細胞を生やすようにしてEinwandを減らしたいと思います。次に第2の問題ですが、primary cultureで色々な動物の色々なorganの細胞を培養して行きますと、次第に2nが減って行きます。そして何日位経ったらDiploidが50%以下になってしまうか、その日数を仮にFD50と名付けてしらべてみますと、Human Embryoでは、Lungは135、Liverは17、Hamster(new born)では、Lungは29、Liverは8、Kidneyは108、Brainは16、Monkey(adult)ではLungは66、Kidneyは108、Testisは42、Rabbitでは、Kidneyは28、Testisは37になりました。つまりSpeciesやOrganに関係がなく夫々ばらばらの結果を示しています。Testisは1nをとる目的で培養したのですが、1n±1は2/100ありました。なおこのdiploidというのは2n±3をそのrangeに入れています。Subcultureの基準はcell sheetが底面の70〜80%できたところで、1本→2本にしました。培地は(CS20%+M・199)です。
[勝田]Diploidの本数が多くても少くても全部2n±3というのは少しおかしいですね。
[山田]FD50の長いのはfibroblastで、短いのはEpithelialとは云えませんか。
[奥村]云えません。
[勝田]この仕事には夫々の各代の増殖曲線をとって、全分裂回数との関係を出してみる必要があると思います。つまり、分裂をよくすると早く2nから外れ易くないかどうか、そういう点もcheckしておく必要があるでしょう。

《遠藤報告》
I HeLa細胞に対するステロイドホルモンの影響
まだ完全に終ってはいませんが、その後の実験を含めて、大略をまとめてみます。(増殖曲線と表を提示)
 BS20%:10μg/ml以下の濃度域におけるステロイドホルモンのHeLa株細胞の増殖に対する影響は、それぞれのホルモンの生物学的活性に何らかの関連を持つらしい。☆代謝終末産物のEstriol、中間体dehydroisoandrosteron、或はandrogenic activityの弱い合成anabolic steroidsは10μg/mlでも増殖に影響しないのに対し、biologically active natural steroidは10μg/mlですべて抑制効果を示し、更に低濃度でそれぞれ何らかの影響を示す。
 BS2%:上記の通り、それぞれのステロイドの生物学的活性と密接に関連すると考えられた特に低濃度での効果が、培養条件を変えると逆転する場合がある。
 以上の結果から、細胞レベルでホルモンの影響を検討しその生理的意味を評価する場合、基礎的実験条件の吟味が特に重要であることがわかる。

 :質疑応答:
[勝田]BS2%のExp.は細胞のそのときの生きのよさをcheckするため、BS20%も同時に第2Controlとして加える方が良いでしょう。前代、実験に使う前の培養日数は揃っていますか。
[遠藤]ひどくはなれてはいませんが、一定はしていません。
[勝田]濃度を一定にしておいて、Inoculum sizeを変えてみることもやりたいですね。
[佐藤]Control群の増殖の悪いときは、inoculum sizeが少なかったという可能性もあります。
[奥村]Hormoneによる促進のmechanismはどう考えますか。それから、血清とhormoneの関係ですが、血清中にも含まれているので、血清のロットが変ればgrowthも変ると思います。
[遠藤]Sponge matrix cultureをいまやっていますが、これによって、1)massive culture、2)Redifferentiation、3)Interactionというようなことを狙っています。SpongeはPolyvinyl-alcohol sponge(tumorを作るといわれていますが)と、Polyurethan sponge(人造血管に使われています)を使っています。細胞はprimaryのchick embryo fibroblast、JTC-4、L,HeLaです。Urethanの方ではJTC-4しかふえません。Cellular interactionについては、三角コルベンに、spongeに細胞を吸わせて入れます。spongeを色々な形に切っておいて、細胞の種類を区別します。培養後spongeをとりだし、細胞をしぼり出してcountingをするわけです。
[山田]Seedingのとき細胞が落ちませんか。またspongeといっても真中のところはnecrosisになり易く、量的な扱いは困難と思いますが・・・。

【勝田班月報・6304】
《勝田報告》
 A)最近は医学会総会シンポジウムの準備のため、発癌実験に余りてをつけられませんでしたが、そのわずかの内の又若干について拾いますと、
 Exp.C38:15日Rat 1963-3-2培養開始。第13日成績:Cont.1/4。DAB 1μg/ml 1日間 2/4。DAB 1μg/ml 4日間 3/4。 DAB 0.1μg/ml(今日まで) 3/4。3-27(第25日)全部Subculture。Subculture后の成績は、1月后位でないとはっきりしないが、実験群では、現在colonyを作り、どうやら生えている模様。(添加1、4日は佐藤班員のデータとは逆になりました)
 RLD-1株の染色体数は、新しい標本作製法で再検討をおこなったところ、42本が断然多く、42%。42±3は95%。他のDAB株についても検索中。
 B)ラッテ正常・腫瘍細胞の相互作用
 4月1日に発表したスライドをここに掲げます。詳細はいずれまたの機会にします。

《堀川報告》
 1)培養細胞における貪喰性と形質転換(癌化)の試み(V)
正常L細胞が、Ehrlich細胞核やSpleen細胞を貪喰した際、どの程度L細胞が喰い込んだEhrlich細胞やSpleen細胞のDNAを利用し得るかを知るため、予備実験としてまずSpleen細胞を1μCH3-thymidine/ml内で24時間incubateすると、低率ではあるがSpleen細胞のDNA206μg中に37918countのH3-thymidineがincorporateする.この全DNAを培養液に加えてL細胞を24時間培養するとこれらL細胞のDNA153μg中に7092countのactivityが検出出来た。すなわち培地に加えたSpleen細胞のDNAのうち約1/5がL細胞のDNAにとりこまれたことが分る。現在はEhrlich細胞核DNAをlabelすることにより同様の実験をやっているが、これらがはっきりするとL細胞内に喰い込まれた各種細胞のDNAの利用度が比較的明確になると思う。
 2)放射線と5-Bromodeoxyuridine(5-BUdR)を併用して発癌をねらえば面白いのではないかと云う結果を最近得ました。
 これは神戸医大の青山氏との協同実験で得た結果で、たとえば(図を呈示)L原株細胞は63本の所に染色体のピークがあり、これから得たγ線耐性細胞(Lγ)では44本の所にピークが移ることはこれまで度々報告して来たが、このLγ細胞を更に63日間10μgBUdR/mlの存在下で培養すると、染色体の分布はばらばらになって全くピークは見られなくなりました。BUdRは突然変異を誘発する作用があると云うことが最近の遺伝実験で多くの人により報告されている点からみて、今後このような系をprimary cultureに応用して発癌実験をねらえば面白いと思い現在計画中です。

《杉 報告》
 golden hamster kidneyのprimary cultureにstilbestrolを作用させる実験をくり返しています。
 まず作用させるdoseの問題ですが、10μg/mlで8日間作用させると培養12日目頃は組織が黒ずんだ様で出てきた細胞間に丸い間隙がみられ、薬剤によって障碍をうけたという感じですが、18日目頃になると細胞間に間隙を有しながらも上皮様細胞団が多く出てきます。これに比し対照群では上記の如き細胞団は稀には見出されるが殆んどなく、繊維芽様細胞が主に見られます。doseを1μg/mlにすると両群の間にこれ程はっきりした差が出ません。それで10μg/mlのところを現在重点的にやっていますが、この細胞間間隙を有する上皮様細胞団が果して盛んに増殖し得る細胞かどうかは疑問で、これをsubcultureすると今までのところどうもうまくいかない様です。又hamster ageを比較的若いところ(今までの実験ではかなり老齢即ち3〜8ケ月位のところを使っており、ここで若いというのは2ケ月前後のところです)を使うと、対照群の方にも、実験群より少いが上記の様な、但し細胞間隙を有しない上皮様細胞が、老齢のものを使った時より余計に出てきます。10μg/mlを作用させて出てきたこの様な細胞を一応本命の細胞と考えていたのですが、これは一寸した培養条件の変化ですぐに落ちてしまう様にも思われ果してこれを本命の細胞と考えていいものか疑問です。もし細胞間隙を有する上皮様細胞団が作用薬剤の高濃度のための障碍をうけているものとすれば、或は1μg/mlを長期間くり返すか、10μg/mlをもっと短期間作用させるのがいいかも知れません。形態学的な観察のため、たんざく培養も並行して行っていますが、これには上記の上皮様細胞がきれいに生えず詳しい観察が出来ていません。又細胞が復元出来る程大量に生えず継代していると段々少くなってまだ株化したものがありません。これは動物の日齢が高いためとculture techniqueに問題がありそうです。只、生後20日以内位の若いhamsterですと、kidneyは極めて小さいので大量に培養するのがむつかしいかも知れません。結局現在のところ、上記上皮細胞団の解明を中心に実験をすすめる予定です。

《黒木報告》
 今年度からメンバーに加えて頂くことになりました。よろしくお願い致します。
 現在までやって来た仕事を列記してみますと、(1)吉田肉腫少数細胞の培養。(2)少数細胞の移植性(マウス腹水肝癌、乳癌の少数細胞移植性を純系及びF1マウスを用い検討→札幌の病理学会で発表)。(3)乳癌の病理組織学(C3Hの繁殖成績、乳癌発生率、組織像、転移像→昨年度・癌学会に発表)。(4)免疫(1:腫瘍免疫動物を組織培養を用いての分析、2:AdjuvantにYScellsを加えて移植性の検討)。
 以上のうち、中心となったのは(1)で、その内容は大阪のSympos.で発表した通りです。そこで、今後どの様に仕事をすすめるかと云うことですが、現在ねらっているのは次の5つです。(1)YSの培養を出来る丈合成された培地で行うこと。(2)合成培地を用いてアミノ酸Vitaminの面から栄養要求をみなおしてみること。(3)α-keto酸の意味を分析すること。(4)継代中の細胞の変化を種々の面からテストすること(腫瘍性、染色体、栄養要求)。(5)少数細胞の培養を血液なしで、そのレベルまでもっていくこと(赤血球のpyruvateの他のco-factorと云うこと。及び無血培地のよる継代培養)。
 以上の5つですが、夫々少しづつExp.を開始しております。今回は、α-keto acidの定量について中間報告致します。
 目的:(1)血液添加で培養した場合、培地中のピルビン酸放出は、本当に起っているか。(2)ピルビン酸は培養中に増えるのか、or 減るのか→ピルビン酸は何故よいかと云う問題の分析への手がかりの一つとして。(3)large inoculationの場合ピルビン酸は培地に増えるか→スライドに出した仮説(3)の裏づけとして。
 培養法:YScells 20ケ/tubeの時と同様、Med.LE50%、Bov.serum(whole)50%、0日、2日、4日、6日、8日、10日にMed.を定量。
 定量法:α-keto acidとして定量。(1)培地を遠心后TCAで除蛋白。(2)除蛋白上清3.0mlに2.4dinitrophenyl hydrazin液(500mg in 100ml of 2.0N HCl)0.7ml加え、25℃5min.反応。(3)1.5N NaOH 2.0ml加え、10分后〜15分后あに520mμで吸光。
 結果:(図を呈示)まだpreliminary exp.の段階ですが(YSを一緒に培養したDataなし)、(1)血液を37℃におくと培地中にα-keto acidを可成り早期から放出していること、
(2)pyruvateそのものは37℃におくと10日間で半分近く分解されてしまうこと。の二つは明らかに出来ました。定量技術ももっと練習し、YSを培養したときのDataを得たいと思っております。

《伊藤報告》
 医学会総会も終って、やっと落着きました。其節は皆様に折角お集りを願いましたが、充分な事も出来ず、申訳けなかったと思って居ります。
 当教室も愈々今月から陣内教授が常任で来られる事と相成り、暫くは雑用に忙しい毎日になりさうです。まだ新しい研究体制がはっきりしないので、いささか落着きませんが、何れにしても小生としては、今の班員としての仕事が続けさせて戴ける確約を得てありますので、その点は安心して居ます。
 先日の連絡会で一寸お話し申し上げましたラッテ肝細胞の採取法(Exp.Cell Res.:ゴムを使ったhomogenizerを使用する法)を検討して居ます。homogenizerを試作させて、一応使用可能なものが出来それを用いて、ほぼ文献に記載されて居るのに近い細胞を得られる様になりましたが、尚培養可能の細胞を得る所まではいっていません。而し、充分望みはありさうですし何と云っても、一度に大量の細胞が得られる点、大変に魅力がありますので、更に種々の点考慮検討して、続ける積りです。そんな事で、今回は何等具体的なDataを御報告出来ませんが、次回連絡会の際には、此の方法についての何かお話しが出来る様にし度いと考えています。

《佐藤報告》
 1)発癌実験
 これまでの実験で呑竜系ラット肝←DAB1μg/mlで増殖の促進がおこる事、1μg/mlの濃度では与えられる日数が1日間、2日間、3日間と延長するに従って増殖の促進が弱まる事が確認された。DAB←ラット肝で増殖促進の作用が顕著に現われるのは呑竜系ラットでは生后15〜20日で1μg/1mlを1日間作用させた場合である。
 株化を行なって後染色体パターンを検索した範囲では以下の項目が推定された。(1)6例のDAB株について一般的に染色体数は37〜40付近に集る。更にDAB投与日数が4日、8日、12日と延びるに従ってこの傾向が強い様に思われた。(2)メチルDAB 12日投与の一例はDAB投与群と明らかに異り染色体数は55〜70附近に現われた。(3)対照群は上皮系のもの二株及び箒星状細胞型の一株と出来た。前2者は染色体数が30〜42に及んでおり、それぞれのDAB実験株に比較すると37〜40への集約が少い。箒星状細胞株は42〜45附近に染色体数が集約されている。(4)ラット生后日数と染色体数の間には「42の染色体数の現われる率が生后日数の増加と共に高くなる」傾向が認められた。以上の結論から、
 A)メチルDAB株の復元実験:
 1963-2-11。生后1ケ月呑竜系ラット(前処置無し)。腹腔へ、TD40 2本分。10日后の腹水採取検査で多数の中型単球と少数の注入株細胞らしき物を認めた。18日后の腹水採取は少量の液しか取れなかった。細胞は極めて少数である。1963-3-17(第34日)殺す。腫瘍発生(-)。 1963-3-17。生后1ケ月呑竜ラット(レ線、400γ前処置)。ルービン3本、皮下接種。1963-3-19(第2日)死亡、所見なし(-)。
 1963-3-26。生后2ケ月呑竜系ラット(レ線、400γ前処置)。ルービン3本、1600万、皮下接種。1963-3-31(第5日)変化なし。観察中。
 B)他のメチルDAB株の設立と染色体数のパターン:
 現在株化しているメチルDAB株C22M12と同時実験の亜株メチルDAB 4日。C22Mは現在7代まで継代4月末頃染色体検査の予定。継代中のものは、C38M24(メチルDAB 24日投与=後報)2代54日。C39M24(メチルDAB 24日投与=後報)3代37日。C39M12(メチルDAB 12日投与=後報)2代37日。
 C)ラット肝、対照実験(DAB及びメチルDAB)株細胞にDAB及びメチルDABを10日乃至12日間再投与及び新投与した場合の染色体パターン:
現在まで、C8Contr.にDAB及びメチルDAB。C10Contr.にメチルDAB。C10DABにDAB。を夫々10〜12日投与して直ちに染色体パターンを検索した範囲では緒言に述べた傾向が軽度に認められる程度である。現在投与日数を増加中である。
 D)メチルDABに→ラット肝の増殖促進及び株細胞の設立:
 ◇C38(1963-2-5=0日)。ラット日齢17日、第16日・対照1/5→2代。メチルDAB 4日 1/5。メチルCAB 12日 1/5。メチルDAB 24日 1/5→2代。
 ◇C39(1963-2-22=0日)。ラット日齢9日、第13日・対照4/4。メチルDAB 4日 4/4。メチルDAB 12日 5/5→2代。メチルDAB 24日 5/5→3代。増殖細胞数において12日、24日例が優勢。 ◇C40(1963-2-28=0日)。ラット日齢15日、第18日・対照2/5。メチルDAB 1日 5/5。メチルDAB 2日 5/5。メチルDAB 3日 3/5。メチルDAB 4日 2/5。
 ◇C41(1963-3-5=0日)。ラット日齢20日、第15日・対照2/5。メチルDAB 1日 4/5。メチルDAB 2日 5/5。メチルDAB 3日 3/5。メチルDAB 4日 2/5。

【勝田班月報・6305】
《勝田報告》
A)発癌実験:
 細胞形態に変異性の出ることを目標にし、しばらくの間RLD-1株その他を使って実験をしていたが、ふたたび元の初代培養での発癌実験もはじめましたので、その后の経過を報告します(Exp.#31〜#39の一覧表を呈示)。(DAB-N-oxideというのは寺山氏が(DABが生体内で一旦-N-oxideの形になって作用する)と考えているもので、同氏より分与をうけた。水によくとける。) これらの実験の内、#C35のサリドマイドを加えた群では、第2代の9日培養でタンザク標本を作ってみましたが、核に変化が認められました。すなわち大型の不整形の核や、核小体の数の多いものなどが認められました。しかし第2代の52日培養の標本では、そのような異常の細胞は消失してしまっていました。つまりサリドマイドは投与中は効く。そしてその為変化をおこした細胞はやがて死んでしまうらしい。だから薄い濃度で永く与えた方が、変化をおこし、しかも増殖できる細胞が得られ易いかも知れない。
 次に当室でDAB実験をおこなっている内、株化してしまったもの及び株化と認められるものを次に並べてみます(表を呈示)。いちばん早く株化確定したのにRLD-1と命名したので、その前のExp.#のが株化したとき困って、苦しまぎれにRLD-0とした次第で、現在10系です。RLD-1、RLC-1及びラッテ腹膜被覆細胞よりの株RPL-1の染色体分布図を呈示します。何れも最頻値42本で、RLD-1とRLC-1は42%、RPL-1は54%です。
 B)DAB投与ラッテの肝細胞の培養:
 これは予定になかったのですが、いつか寺山氏と呑んだとき話したらしく、こっちが忘れていたらラッテを送られて、仕方なく培養しました。Exp.#PC-1:3'メチルDAB・49日間給餌したラッテの肝。1963-3-27培養開始。箒星のような細胞だけが生えてきています。
Exp.PC-2:同上92日間給餌ラッテの肝。1963-4-11培養開始。増殖はほとんどありません。
《杉 報告》
 golden hamster kidneyの、primary culture−stilbestrolのsystemで、10μg/mlの
stilbestrolを作用させた時、対照群に殆んど見られない様な上皮様細胞団が出ることを前報で報告しましたが、この細胞をたんざく培養でとらえ、染色して強拡大で見ますと、普通の上皮様細胞に混じて核が偏在し、あたかもSiegelringzellen様に見える細胞がかなりあり、弱拡大で細胞間の間隙の如く見えたところの一部はこれであることが分りました。これは非特異的な変化かも知れませんが、動物実験でgolden hamsterにstilbestrolを皮下注射すると、kidneyにadenomaを生じ、その中でcolloid degenerationを示す細胞のgroupが多く見られたという事実があり、上記細胞をこれと結びつけて考えると我々のin vitroの実験は或程度、動物実験の過程を反映しているのではないかと思われますが如何でしょうか。しかし問題はこの細胞を復元出来る程大量に得るにはどうしたらよいかということで、これを第2代にsubcultureしようとしてもうまくいきません。
 大体この細胞は使用した動物の日齢によっても違いますが、大凡培養10日過ぎから18日目位の間にはっきりと出てきます。ところがこの頃を過ぎると細胞団全体が変性に傾いて困ります。尤もこのところ色んな事情で手が足りず、慌ただしくやっていましたところ、株細胞など他の細胞の調子も思わしくなく、よく調べると丁度この大事な時期に培地が一寸おかしかった様にも思われ、或はそのせいかも知れませんので、これ以上の増殖が本当に出来ないのかどうかについて、も少し検討したいと思います。
 尚、薬剤作用期間については、従来は8日間としてきましたが、10μg/mlに関しては4日間の作用でも上記の変化は起ることが分り以後は4日間の作用でみています。

《黒木報告》
 長期継代吉田肉腫細胞の移植性について
 培養された吉田肉腫細胞については、培養開始当初(3代)より各代毎にRat腹腔内に移植することにより、その移植性の変化をみて来ました。更に最近になって、少数細胞による復元移植により、より精密にみております。現在もなお、実験中ですので、最終的なことは岡山の学会にゆずるとして、現在までに分ったことについて、中間報告します。
 1)継代の方法
 第0日:YS20cells・Basal med.1ml+血液5倍液(Heparinaized Rat新鮮血清をBasal med.で5に稀釋したもの)1ml→第7日・Basal med.2ml追加(血液添加せず)総量4.0ml→第10日・短試の全量を50ml遠心管に移す(Basal med.8mlと血液5倍液2mlを追加)総量14ml→第12日・Basal med.10ml追加(血液添加せず)総量24ml→第14日・細胞数count、subculture(多くの場合100〜200万個/tube)。(一部は遠心し細胞数100〜200万個集めて、細胞をRat腹腔内に接種)→継代は第0に戻る。
 2)(表を呈示)3〜50代までは大沢雑婚ラットを使用。51代以降は、呑竜ラットに切りかえました。呑竜ラットは、御承知のように、吉田肉腫に対して特に感受性の高いものであり、この種の実験にはより優れたTumor-Hostの組合せとなるからです。51〜60Gまでの移植率は14/14 100%であります。(現在62代)
 以上のように100万個の移植細胞数では、特別な移植性の変化を来たしてないことが明らかになりました。しかし、より軽度な変化は100万個のorderでは分らないと考え、試みたのが次の少数細胞による復元成績です。

 3)少数細胞による移植性の検討(Exp.138、139、140)
 実験は56代にて行いました。(2月22日'63移植)
 移植細胞数:10.000、1,000、100
 稀釋液:Basal medium、0.5mlに所定の細胞数が含まれるように稀釋
 使用ラット:実中研生産呑竜 100〜120g♂
その成績は表に示す通りです。100:0/9、1000:0/10、10、000:6/10。(現在、移植后4weekですが、まだsasciteに腫瘍細胞をもち乍ら、死なないのがありますので、今后成績は多少変ることと思います。成績は現在までに腫瘍死したものだけについて記しました)
 ここで、in vivoで増殖した細胞を採り、再び少数細胞による移植を行ってみました。即ち、この移植性の低下が、もし培養されたpopulationの中の腫瘍性の高いものと低いものとの混在によるものであるのなら、一度in vivoで増殖した細胞は腫瘍性の高いものである筈であり、その移植率はin vivo継代の吉田と近い成績になることが想像されるからです。(表を呈示)100:0/7、1000:0/7、10,000:2/7。(この実験は3月14日開始であり、現在まだ6weeksですので、今后いくらか移植率の上昇が考えられます)
 以上の成績から長期継代吉田肉腫細胞は極めて軽度ではあるが、移植率(腫瘍性)の低下を来たしているものと考えられます。この移植性の変化は、各代毎に戻し移植を行い、注意深く観察する他に、時々少数細胞の復元実験を行うことにより発見できるものであることを、教えられました。
 少数細胞による移植がHost or tumorの軽度な変化を知る手がかりになることは、MH134etcを、C3H inbredとF1 hybridを用いての移植実験により明らかにしたことなのですが(札幌の病理学会で発表)、今後も、この方法を応用して移植性の変化をみて行きたいと思っております。

《山田報告》
 人胎児肺組織由来繊維芽細胞の継代培養
 Hyflickの細胞株(WI-38)の維持をまかせられてから、すでに5ケ月、継代数は40代となり、増殖が以前より明らかに落ちてきました。その後私共のところで数系胎児肺組織より分離し、長いものではすでに30代以上継代してきました。それらの経験で分離後細胞の増殖度が徐々に変化して、終いには増殖が衰えてしまう事がわかりました。Hayflickは数字に弱いらしく、細かい記載がありませんので、一度数字で説明してみます。
 (図を呈示)図は一定の時期に同一のフラン器内で同一の培地による増殖度の比較です。以前T1、T2と称していたものをphageとの混同をさけるためNIHT-1、NIHT-2・・・と改めました。[NIHTokyo]これらはいづれも4〜7ケ月の胎児の肺組織より分離したもので(WI-38は不明)一応同一のものと考えて図をみますと、組織より切り出した当初は発育が遅く、その後発育が旺盛となり、5〜15代で最高で、3月〜4月の培養で瓶中の細胞数は4倍近くになります。以後徐々に増殖度が低下し25代以後は2倍くらいにしかならず、30代を越すとますます低下し、40代以後は一本の瓶を一本又は三本の瓶を二本に継代するような有様となります。
 同一の系については継代数と増殖度の関係を見ますと、この関係がはっきりします。(表を呈示)表はその1例でNIHT2の継代中の増殖度です。培養液、とくに血清によってかなり増殖度が動きますが、5代づつまとめて調べてみますと上記と略々同様の成績が得られます。 NIHT2は継代6代まで完全なsingle cell suspensionにせず培養したので、正しい増殖度が得られませんでしたが、NIHT4、5で3〜5代の成績を得ており、6代以後よりやや増殖度が低下しています。これらの成績を綜合してみますと、はじめに述べたような推移を想定することができ、細胞のAgingとして理解することができそうです。この現象は所謂株細胞には見られないので、一応正常な現象と理解することも可能ですが、むしろ細胞株樹立の過程における培養環境への適応(不完全)と同一に考える方が妥当でしょう。ただ上記のように5〜15代継代の間で略々一定な旺盛な増殖が得られるので、実験方法としての正常増殖系を樹立し得たという意味で今後利用価値がありそうです。そのために純系マウス胎児よりの繊維芽細胞系の分離を行いつづあり、今後発癌実験に使用してゆく予定です。
 本繊維芽細胞系はEagle基礎培地+10%仔牛血清で培養されていますが、HeLa、KBなどの株細胞と幾分栄養要求が異ることが推定されましたので、手掛けはじめました。Biotinについては前にかいた事がありますし、又更に進行中ですので、それ以外について触れてみます。すでにEagleは株細胞の殆んどが13種のアミノ酸と9種のビタミンにブドー糖、塩類と血清高分子(透析)部分で培養できることを報告していますが、本繊維芽細胞系は1stepの増殖がみられるだけで、その後8日間以上の培養中増殖が認められませんでした。同じ培地中でHeLaの一分枝系は図のように増殖します(図を呈示)。勿論全血清とくらべて増殖度が低く、Maximum populationも低いのですが、継代可能です。即ちFb細胞系は血清中の低分子物質に増殖に必須なものがある事が判りましたので、更に進めてみるつもりです。
 又エネルギー源としてのブドー糖消費と増殖の関係で、他の株細胞Chang's liver cellstrainと比較した結果、かなり著明な差異を認めました。(表を呈示)即ち肝細胞ではEagle培地にブドー糖を添加しなくても対数期の増殖度に添加群と差異を認めませんが、NIHT4ではブドー糖無添加群の増殖度が著しく延長されています。肝にくらべてFb細胞群はいづれもpHの低下が著しく、かなり乳酸の産生が高い事が推定されますので、次に乳酸の測定に入ります。以前HeLa細胞で得た成績ですが、original lineのHeLa細胞では消費したブドー糖の60%が乳酸として蓄積され、fusiformな高解糖系(P)では90%が蓄積されることを認めております。尚ブドー糖消費に関して他にも知見がありますが、次の機会にかきます。

《伊藤報告》
 1)発癌実験
 ラッテ肝細胞の大量培養を試みて居ますが、まだ成功したと云える段階に到りません。 数日間生きて居ることは確かですが、増殖が見られず、以后徐々に死滅してしまふ状態を繰返して居ますので、いささかがっかりして居ますが、尚、器具、techniqueに種々検討の余地が残っていますので、気落ちせずに続ける覚悟です。
 2)増殖促進物質
 久留教授の時代から続けていたOncotrephinの仕事を吾々としては、ここいらでSchlusseをつける事になり(国立がんセンターで今后も続けられる由)、その積りで残務整理をやっています。CM-Cellulose Column(pH.5.6 Acetete Buffer)で2つの分劃に分け、その第一分劃に活性が移りN当りのActivityは約3倍に上昇します。更に此の分劃を同様CM-CelluloseColumn(pH,4.0)で分けて、素通りする分劃にactivityがあって、N当り3倍の活性上昇がみられ(0.7γN/mlで至適濃度)、従って、S2分劃からみて約10倍にpurifyされた事になります。このあたりで一応打切り、あとは今迄の穴埋めをして終りになります。色々不備の点も多く、又勝田先生を含めて、多くの方々から数多くの御批判を戴いた仕事でしたが、私個人としては此の仕事を通じて組織培養を知り又研究と云ふものの一部にでも触れ得た事を嬉しく思って居ます。

【勝田班月報:6306】
《勝田報告》
A)班全体としての今年度の研究方針:
 今年度は是が非でも発癌に一つは成功したい。そしてそれは決して不可能ではあるまいと思います。少くともDAB関係ではかなり良いところまで来ていますので、何か出きるのではないかという気がします。現在問題にすべきのは、DABのあとの第2次刺激と、ラットへの復元法だと思います。少量の細胞でもやれるような、しかも確実な復元法を見附けるように努力することが緊急の必要事でしょう。DAB関係は、勝田、佐藤、伊藤の3人が担当しますので、他の分担は、杉(ステロイドホルモン)、堀川(癌細胞成分と放射線)、山田(放射線)、黒木(特に復元法)となりましょう。DAB以外は今年度は成功は無理かも知れませんが、第2年度の成功をねらって下さい。
B)報告:
 最近のデータは前月号月報及びTCシンポジウムで発表しましたので、省略しますが、2実験だけ、一寸変った結果のを記載しておきます。
 i)RLD-1株細胞の"培地無交新"実験:
 1962-12月11日:第19代(TD-40瓶)に継代。19日→26日培地を交新しなかったところcell sheetが剥れてきた。26日培地を交新し、以後14日無交新においたら、シートの剥れたあと、小さな細胞のコロニーが形成されてきた。1963年1月9日→2月2日の間は約2回/Wで交新し、このコロニーを育て、2月2日→2月20日(18日間)第3回の"培地無交新"をおこなったところ、大部分の細胞はやられてしまい、そのあとまた細胞(コロニーというほどきれいな集落形成ではないが)が生えてきた。そこで2月20日培地更新し、以後は約2回/wに交新をつづけた。3月2日第20代継代(Roller tubes)。3月20日第21代継代(小角瓶)。3月23日染色標本(Giemusa及び染色体用)を作った。この系列の染色体数分布は、約1/2が4倍体に移行している。今後これの復元もテストしてみるつもりであるが、初代のままでこの"無交新"をおこなうと、細胞がみんなやられてしまうので、第2代に継代してからおこなうExp.をこんど試みたいと思っています。
 ii)軟骨腫の形成:
 Exp.#C28の実験であるが、これは11日ラッテにDABを1μg/ml4日かけ、第13日に実験群8/10、対照群7/10の増殖を示したもので、第16日に前処置したラッテ(生後27日、コバルト60γ600r、コルチゾン2.5mg/rat隔日5回)に30万個宛2匹に、前腹壁をあけ、脾内に接種した。その後ラッテに異常がないので、約5ケ月後解剖したところ、2匹中1匹に拇指頭大の堅い腫瘤形成を腸の上に発見した。組織切片を作ってみると、はっきりした軟骨腫である。どうしてこんなものがこんなところにできたのか、非常に解釈に苦しむところであるが、とにかく腫瘤ができたのは、この実験をはじめてからこれが最初なので、班としても記録しておくべき出来事と考える。そして、これによって感じさせられるのは、復元に当っては最初はやはり前処置を施した方がよいこと、復元後かなり永い間観察する必要があること、などであります。

 :質疑応答:
[山田]ddDマウスの脳内接種では、Ehrlichだと1万個でも腫瘤を作って外からも判りますが、HeLaなどではこの程度の数では腫瘤を作りません。もっとも顕微鏡的には分裂や浸潤像が見られますが、やがては消えます。
[黒木]Thymusを取除いて接種するとつき易いのではありませんか。いま練習していますが・・・。
[勝田]幼若ラッテのとき胸腺をとっておいて復元に使ってみるとか、ハムスターの頬袋に入れるとか、今後は復元の方法を考えましょう。また細胞の方も株化したのでは困るわけで、培養初期のものを入れるとなると、少い数の細胞でもつくような場所を見付けなくてはなりません。
[伊藤]DAB-N-oxideの寺山氏のデータは再現性があるのですか。
[勝田]これは寺山氏が実験的に得たものではなく、頭の中で考えて、何故DABで発癌する動物としないのとあるのだろう、DAB自体には発癌性がなく、N-oxideになって初めて発癌性をもつためではないか、だからDAB→N-0xideに変える酵素をもたない動物では発癌しないのではないか・・・という次第で、頭の産物なのですが、どうも仲々うまくは行かないようです。杉君のところはぜひStilboestrolのExp.をつづけて頂きたいですね。
[杉 ]Stilboestrolのtumorは、文献的にはHistologicalの面でも種々の意見があるようですし、malignancyも強くないようです。
[勝田]伊藤君のところは肝細胞をばらばらにして、cell suspensionでinoculeteして培養する仕事を早急にやって頂きたいですね。細胞数をcountしながら培養するのです。そうすると何本に(細胞何万個当りに)1ケの増殖細胞が出るのか、という計算ができてきます。
[伊藤]細胞の増殖、細胞の生死の判定をしないといけないと思うのですが、どうもはっきりさせる方法に困っています。
[勝田]一般に生死だけならnigrosinで行けるでしょうが、それより面白いのはprimaryの肝細胞と増殖してくる細胞と(クエン酸−クリスタル紫)で染まり方がちがうことです。この処置をすると、primaryの肝細胞は細胞質がきれいにとけず、かなり残っておりしかもcrystal violetでdiffuseに染まるので、核内の様子がよく見えません。之に対し増殖してくる細胞は株細胞と同じように細胞質がよくとけ、核小体もくっきり染まるので、すぐ見分けがつきますから、かぞえ分けができます。

《佐藤報告》
 本年度はどうしても発癌実験に成功したいと念願しています。さし当りラット肝←メチルDABの問題を追求して見ます。終了し次第先づ復元の状況(生体内でどの様な経過をたどるか)を調べて見ます。それを指標にして復元の追求を行って見ようと思ひます。ラット血清による撰択乃至適応は早速準備します。今回はDABによる染色体のパターン検索の結果を送ります。
 (対照群3、DAB群8、メチルDAB群2の染色体数分布図を提示)。まずラット肝摘出後直ちにDAB及びメチルDABを4日〜12日投与し、以後其れらを取り除き、株化し、最初より半年前後で検索されたパターンです。以上の結果から対照群及びDAB群に比してメチルDABが染色体数を強く右遍(多い方へ)すること及び主体染色体の所謂消失がおこる事等が推測された。
 そこでつくられた株細胞にメチルDAB及びDABを投与して、染色体の移動を検索した。primaryの時12日程度のものが、変化が著明と考えられたので、第1回目はC8対照株へDAB及びメチルDABを夫々10日与えて検索した。次にC21対照群にDAB及びメチルDABを夫々11日与えて検索した。C8及びC21株+DAB乃至メチルDAB実験から、primary←DAB同様に株の場合にも染色体移動(primaryより弱いが)がおこる可能性が認められたので更に長期投与する実験をおこなってみた。
 C10(DAB)株に、DABを11日及び57日、メチルDABを55日与えた結果はメチルDAB群の染色体移動がより明瞭である。

 :質疑応答:
[佐藤]マーカーを細胞の形態と染色体において研究したいと思います。また染色体自体のマーカーはmodal valueの移行でやります。DABとメチルDABの染色体数分布に対する影響の差が少しつかめてきたように思われます。今後はこれらの核型をしらべることと、DABの濃度を上げるとメチルDAB型にならないか、という点も試したい。またDABの細胞内へのとり込み、細胞内での残り方を考えています。化学分析室と共同で、0.1μg/ml位の精度でDABをdetectできるような検出法を考えています。培地中の減りをみたいわけです。
[勝田]細胞内のDABの量とか分布はmicrospectrophotometerやisotopeを使うとかなり行けるんじゃないですかね。
[堀川]メチルDABによる染色体数のバラツキが持続するのはVariantの問題で、メチルDABが細胞内に残るためとは考えなくても良いと思います。
[勝田]primaryで生え出してきたのが、いつそのような大きなバラツキをもち始めるか、またどうしてそれが持続するのか、面白いですね。初めの頃のをぜひ知りたい。それから、このようなバラツキを持ったcell populationの中には、malignantになったものが入っている可能性、頻度がそれだけ高いと思われるので、これをRatの血清でselectして生えるものを復元するということはぜひやってみてもらいたいと思います。
[土井田]染色体数ですが、コルヒチン処理をしないで標本を作って、比較してみてもらいたいと思います。また染色体の形にしても何かmaker chromosomeが出現しているのではないでしょうか。
[山田]核型を一度土井田君に見てもらったら・・・。
[堀川]核型から攻めるのではなくて、他の攻め方があるのではないでしょうか。
[高岡]動物の発癌実験ではmarker chromosomeがあるようですね(V型:吉田俊英氏)。

《堀川報告》
培養細胞における貪食性と形質転換(癌化)の試み(VI)
 (1)正常L細胞がEhrlich細胞核やSpleen細胞を貪食した際、どの程度L細胞が喰い込んだEhrlich細胞やSpleen細胞のDNAを利用し得るかを知るため、Spleen細胞、Ehrlich細胞、さらにはL細胞をそれぞれ別個に1μcH3-thymidine/ml内で24時間incubateすると、 1)Spleen細胞の206μgDNA中に、37.918countのH3thymidineがincorporateし、2)Ehrlich細胞の59.1μgDNA中に、306.519countのH3thymidineがincorporateし、L細胞の54μgDNA中に360.138countのH3thymidineがincorporateすることが分った。これら1)、2)、3)のDNAをそれぞれ別個の培養液に加えて、L細胞を24時間培養すると、それぞれのL細胞のDNAから、1)7.092count、2)64.416count、3)60.272countのactivityが検出された。これらのことから分ることは、L細胞は培養液中に加えたSpleen、Ehrlich、さらにはL細胞といった各種細胞から得たDNAの内homologousなDNAをのみ特異的に取り込むと云うような現象はまったく認められないで、培地に加えたSpleen細胞DNA、Ehrlich細胞DNA、さらにはL細胞DNAをほぼ同じ率で取りこむことが分る。すなわち培地に加えたDNAのうち、約1/5〜1/6がL細胞のDNAに取り込まれることが分った。この場合、Spleen細胞、Ehrlich細胞、L細胞ともに同じmouse originであるという点に利用度の一致性が認められたものであって、異種動物からOriginateした細胞のDNAの利用度に関してはまったく異った結果を得るかどうかについては今後に残された問題であろう。
 (2)正常L細胞内に喰い込まれたSpleen細胞や、Ehrlich細胞核の運命については、これまでH3-thymidineやC14-leucineなどでlabelすることによって追求してきたが、実際にL細胞内に喰い込まれたこれらSpleen細胞やEhrlich細胞核の形態変化を追うため、現在京大・生理学教室の品川氏と組んで電顕で追っている。喰い込まれた細胞の崩壊現象など今まで考えてもみなかったことが2、3分り、さらに、興味ある点としては従来光顕で追っていた時に得た結果よりも、L細胞の貪食性ははるかに大きいことが分ったことで、これは拡大像という利点が生んだものである。
すなわち正常L細胞はいづれの細胞も大なり小なりそこらにある大きなもの小さなもの手あたり次第に喰い込む能力のあることが分った。
 (3)兎で作ったEhrlich細胞のAnti-serumをEhrlich細胞と反応させた時、少くとも4〜6本の沈降線が出ることが分った。ところがこのうち半分ばかりはL細胞と共通な抗原性を示し、EhrlichのAnti-serumからL細胞で吸収した残りがEhrlich細胞特有の抗原性であるということになる。
この様にして今後はこのEhrlich細胞特有の抗原性をマーカーにして実験を進める訳であるが、このようにL細胞とEhrlich細胞間に共通抗原の存在する理由として次のようなことが考えられる。すなわち、1)L細胞もEhrlich細胞も組織培養という条件下において、同一抗原性の所にまでDe-differentiateした。2)両細胞ともにmouse originであるために共通な種特異性抗原をもつ。などが考えられる。これらについては更に詳細に調べてから報告したい。

 :質疑応答:
[堀川]私としてはこのまま核またはsubcellur fractionのとり込みによるtransformationをやって行き、10月に土井田君にバトンタッチしたいと思います。
[土井田]私は堀川氏の仕事をそのまま続ける訳には行きません。やるとしたらchromosome mapの方から攻めることになります。助教授も堀川君も留守で教室の方が多忙になりますから、全力を傾注するというわけには行かなくなりますが・・・。
[佐藤]適当なサンプルを責任をもってやってもらえばいいんじゃないですか。
[土井田]Radiation biologyとcombineしてやれば自分としては有難いのですが。
[勝田]班とすると、そろそろ発癌ができかかると、それについて精密にしらべるstageに入ります。そのとき問題になるような標本について染色体を専門家の目でしっかり見てもらえばと思います。数をかぞえたりすることは、標本の作り方も進歩したし、各人が自分のところでやれば良いでしょう(かぞえ方をよく教わって)。大事な標本、あるいは問題点についてだけ、殊に核型などで相談役になってもらえれば。

《山田報告》
1.組織培養における物質の消費に関する細胞生活単位(Cell Life Unit)について:
 これまで組織培養で培地中の物質消費を細胞当りに換算するために、色々な簡易法が取られてきた。例えば測定前後の細胞数の平均で消費量を割るとか、増加窒素量で割るなどの方法が取られている。これらの方法は比較値として扱う場合一応意味を果してきたが、絶対値として考える場合には全く便宜的な解答しか与えてくれない。そこで細胞が分裂してから次に分裂するまでの間を1細胞生活単位として、これをもとに物質の消費を測定すると更に理論的な話を進めることができると考え、この細胞生活単位数の測定を計算する方法を案出したので報告する。
 そのために2つの仮説が設定されている。(1)測定時間の間、細胞は一定速度で分裂する。(2)培地中の物質濃度は消費につれて変ってくるが、消費度に影響がない。即ち、測定時間中細胞は一定速度で物質を消費する。この2つの仮説は、何れも短時間の測定の場合には問題ないが、長時間の測定では平均値しか与えられなくなる。
 細胞の増殖は対数期にある場合、n=n0・2 t-t0/Tで与えられる。t0及びtにおける細胞数がn0及びnで、Tは世代時間、これを自然対数に直すと、n=n0・e 0.69315(t-t0)/T。そこでt1よりt2との間に、細胞数がn1よりn2となるとすると、t1〜t2 ndt即ち斜線の面積は細胞の生活量を与える。これを細胞の生活単位(1xT)で割ると t1→t2の間の細胞生活単位の数がでてくる。即ち、1/1T t1〜t2 ndt=1/T t1〜t2 n0・e 0.69315(t-t0)/T dt=n2-n1/0.69315。即ち、短時間 t1→t2で細胞数 n1→n2が測定されると、その間の細胞生活単位数は(n2−n1)をIn2 即ち 0.69315で割った数字となる。この数字で物質の消費量(その間の)を割れば、1細胞生活単位即ち、1個の細胞の1生活単位当りの消費量が平均として算出されるわけである。物質の産生についても同様の考え方ができる。
 1例として肝細胞(Chang)のブドー糖消費を挙げると、本細胞は42時間までlag、42〜182時間までlogarithmic phaseであった。ブドー糖の消費は対数期前半までほとんど認められず、それ以後細胞生活単位当り 4.4〜8.5X10-4乗μgの消費が認められた。この数字は1細胞重量が 10-3乗μgのoderであることを考え合せると可成り大きい事が判る。Human Diploid Cell Strainでは更に大きい数字が得られた。
2.本年度の研究計画:
 人胎児肝よりの繊維芽細胞株の分離と其増殖度の推定については前報で述べたので省略する。とくに5〜15代では一定の増殖度が得られる(4〜5倍/4日)ことが判ったので、"正常細胞"の増殖研究に入ることが可能になった。今年はマウス肺より同様の細胞増殖系を得、これにX線その他の発癌剤投与により、移植能を基本に、発癌実験を行う。

《杉 報告》
発癌実験
 Golden hamster kingのprimary culture−stilboestrol:
 これまでの実験結果を表示します。(一覧表呈示)
表中の分数の分母は培養したR.T.(回転培養管)の数で、分子は細胞の生えてきたR.T.の数を表わしたものですが、実験を始めた最初の頃はこうした観察をしておらず、且その分は既報致しましたのでそれ以後の結果です。又実験方法にも一寸迷いが出て、最初からトリプシンでばらばらにする方法を試みて失敗したりしてdataにならなかったものもあり、以上が現在までのdataです。
 これでみると先づ用いた動物の日齢については、比較的老齢のhamsterを用いた時に実験群と対照群とで数字の上での差が見られ、若い日齢のものでは差が出ていません。しかし、若いものでも生えてきた細胞の形態を比較してみると、対照群ではfibroblastlike cellが多数を占め、上皮様細胞団は稀にしかみられないのに比し、実験群では上皮細胞団がかなりみられ、fibroblastlike cellよりもむしろ多い位です。
 両群でのこの様な形態上の差は老齢のhamsterを用いた時にもみられます。そして作用量については、1μg/mlよりも10μg/mlの方がはっきり差が出る様に思われたので、最近は専ら10μg/mlをとっています。又作用日数はこの様な変化に関する限り、10μg/mlでは4日間で充分なことが分りました。動物の性差による反応の違いははっきりしません。
 しかし問題は今のところ、これが次々に継代出来る程の増殖を示さないことで、継代法も含めての培養法に欠陥があるのか、それとももともと増殖能がないのか検討を要するところです。

《伊藤報告》
 発癌過程の生化学的変化をとらえたいが、そのためには細胞が大量に培養できなければ困ります。その意味ではじめから肝細胞をばらばらにして、cell suspensionでinoculateして培養したいと思っていますが、今までのところはどうも未だうまく行かないので、今年はなんとか成功したいと考えています。maintainかgrowthかも確めたいと思います。悪性化の途中で細胞が変ったということを簡単に見出せるような何か良いmarker、生化学的なmarkerでもないものでしょうか。癌化すると変るというような・・・。

 :質疑応答:
[勝田]それは逆じゃないですか。癌の生化学的特性がつかめないから今日まで困っているのでしょう。
[関口]肝癌になるとArginase活性の低下が起ると報告されていますね。
[勝田]しかしそれはすべての肝癌にあてはまる共通の特性かどうか判らないでしょう。一つや二つ測ってみてそうだからと云ってそれだけを目標にするのは危険と思います。
[伊藤]Trypsin消化だとどうも細胞の収率が悪いですね。メスで細かくchoppingする方法とか、perfusionをやった後ゴムでhomogenizeする方法をとる方がよいと思います。どうもゴムの良いのが手に入りにくいので、テフロンのhomogenizerを使ってみました。たしかに細胞はばらばらになりますが、収量は30%位で、果してその細胞がまた培養でうまく生えるかどうか、疑問点がいろいろあり困っています。
[勝田]ゴムは軟いのはいくらでもありますが、軟いのは高圧に耐えないですね。

《黒木報告》
  継代吉田肉腫細胞の形態的変化について:
 大阪より帰ってから1ケ月間、栄養要求の方は一時お休みにして、もっぱら染色体標本の作成を行いました。しかし慣れぬこと故、色々と手違いが多く、結局、染色体を観察出来るようなよい標本は得られぬままに終った次第です。
 そこで方向をかえ、核の形態学的観察を各代、BackしたRatのascitesについて行いました。Controlとしてnon-culturedのYS及びGVについても同様の観察を試みました。「GV」とは佐々木研で分離した吉田肉腫のclone(in vivo)の一つで、染色体のpeakは80本にあります。
 核の形態としては、夫々まとめて4群に分けその分布をみました。Iは腎型、楕円型、円形。IIは切れこみの深いもの。IIIは連なり2核、連なり3核、2核、3核。IVは輪状核です。
 その結果は次に示す通り(表の呈示)、核の形は40代頃よりGVのそれに近ずいていくことが分りました。
 1)培養初期(20代頃まで)はnon-culturedのYSと同様I群がもっとも多く、II、III、IV、は少い。しかし40代以降はII、III、IV、の各群が増加し、GVのpatternと似て来る。
 2)in vivoにbackすると、in vitroと同様の分布を示す。
 3)in vivoでGVと似たpatternを示すものも、次のRatにtransplantすると、又もとのYSと似たpatternを示すようになる。(56G)
 これだけのDataから 2n→4n の変化が起ってくるとは云えませんが、その変化は想像されます。そこで、どうしても染色体が必要になる訳です。なお、56Gよりbackした細胞は現在in vivoでも継代されております。
  染色体標本の作製:
 月報6303、Parker's textbookをみながらやってみたのですが、どうにもよい標本が得られませんでした(重り合いが多く立体的)。 方法としては、低張処理→遠心→固定→air-drying→acetoorscein→封入と云う方法ですが、どこが悪いのかうまく行きません。今後色々教えて頂きたいと思います。なお、この方法でmonolayer cultureの細胞(肺癌由来・山根研究室)に応用してみたところ、1回できれいな標本が出来ました。monolayer cultureのときは細胞がflattのため作り易いのではないかと思われます。又、吉田の場合、colchicineのoptimalな作用時間は、1.0x10-6Mで2hrs.、5.0x10-7Mで3hrs.です。それ以上では、細胞質に著明な変化(軟化)が現れます。最近の文献でAgarを用いる方法がありますので、これも試みてみる積りです。
先月号で述べた移植性の問題、核の形態等、長期培養による細胞の変化が少しづつ明らかになって来ましたので、どうしても、染色体をみる必要があると思います。又、抗研にmicrospectrophotometryが入っておりますので、これも利用して行きたいと思っております。更に栄養要求の変化も合せて追求し、綜合的に細胞の変化をおさえていきたいと思っております。

 :質疑応答:
[黒木]今年の計画としては、1)復元法をいろいろ考えてみたいと思っています。それでThymusを除く方法をいま練習しています。2)吉田肉腫の方も栄養要求をつづけてやらなくてはなりません。3)発癌ではAutoのsystemを考えています。腹水中の細胞を、sucroseなどでふやしておいて取り、これを使って悪性にできれば、本人に復元テストできるわけです。
[勝田]班としても復元法が非常に問題であり、しらべたいところなので、黒木君がその点を検討してくれるのは大変ありがたいと思います。栄養要求の方は吉田肉腫は血清を使って生えているのだから、その血清をまず透析とかその他で次々に分劃して不必要なものを除いて行ったらどうですか。
[佐藤]腹水の細胞を培養するのは難しいでしょう。腹膜の細胞にしたら・・・。
[黒木]トリプシン消化するわけですね。それではとったネズミが死んでしまってAutoに返せないでしょう。
[勝田]復元接種するとき2stepsでやる手があります。前にAH-130から株を作ったとき試みたのですが、少い細胞で復元しなければならぬとき、初めに復元して少しふえ出したとき、動物の抗体が沢山作られる前に、それをまた採って次の動物に接種するわけです。こうすると、初めの動物のときは細胞数が"take"されるのに不足だったとしても、二度目のときはその低限界を越え得るわけです。またはじめに培養した動物の性を確認しておけば(幼若ではhistologicalにしらべて)、復元のとき別の性の動物を使い、生えてきたtumorがどちらの統のものか、sex chromatinなどでしらべられますね。
[伊藤]ハムスターのpouchはもともと抗原性が少い(?)から、この細胞をとって培養して発癌させたら良いのではないでしょうか。
[山田]いやあそこは雑菌だらけで困るでしょう。

【勝田班月報・6307】
《勝田報告》
A)発癌実験:
 (1)これまでラッテの出産が少し低下していたので新しいスタートはほとんどありませんでしたが、最近調子が出はじめましたから、また近い内に再開できます。しかしその前に継代第2代での増殖が何とかよくなるような培養条件を見付けておきたいと思い、RLD-10株('63-2-23開始)(C37のDAB群)を使い、7日間TCでcell countingで、次のようなテストをしましたが、今までのところでは未だ何も良い結果は得られていません。Basal mediumは(20%Calf.S.+0.4%Lh+D)です。
 1)Glucose濃度のeffect (RLD-10:第4代)
0.1%、0.2%、0.4%と3種をみましたがほとんど差なし。
2)Pyruvate添加のeffect (RLD-10:第4代)
0.01%、0.005%の2種ですが、反って抑制されます。
 3)Rat liver extractのeffect (RLD-10:第5代)
(1:1)に、生后約1年のラッテの肝をsalineでextractし、これを50%と考えて、培養培地中に0.05%、0.5%の2種加えてみましたが、濃度に比例して著明な増殖抑制が認められました。もっと若いageのラッテで、且もっと低濃度でやってみる必要があるかも知れません。
 (2)復元試験。'62-11-15開始した群のRLD-7株細胞の染色標本をこの5月末にはじめて作ってみたところ、いままでのRLD、RLCの各株と全く異なり、核に大小不同が多く、しかもその核がギザギザやクビレやらあり、細胞質の中に千切れているところも見られます。そこでこの細胞のふえるのを待って、この6月6日に、生后3wのラッテの脳内に約100万ケ宛入れてみました。ラッテは2匹でCO60とコーチゾンで前処理してあります。しかし今日までのところでは2匹とも至って元気なものです。復元法としては、経過が見やすい点で前眼房などがいちばん良いかも知れませんね。
 (3)ウィルス・テスト。上記のRLD-7株ですが、どうも細胞の変化がおかしいので或は、latentのvirus infectionがあるのではないか、そしてDABとSynergismによってあのような株の変化(或は癌化)をひき起すのではないか−と考え、RLD-7細胞を5回凍結融解し、その遠沈上清を、Atypismもいちばん少く、細胞質のきれいなELD-1株の#5の培養に10%に加えてみました。2日后に染色標本を作ってみましたが、変化は何も認められないので、renewal(4日目)のときまた10%加え、今日5日目ですが、7日目にまた標本を作ってみます。
 (4)Parabiotic cultureテスト。さきにRLD-1をno renewalで何回もselectした結果、4nにpeakをもつcell lineのとれたことを報告しましたが、このRLD-1(4n)株がmalignantか否か、正常ラッテ肝とのparabiotic cultureでしらべたいと思い、8日ラッテの肝のprimaryと静置でしらべました。しかし結果は陰性で、(表を呈示)肝は平気、RLD-1(4n)はむしろ抑えられ気味となりました。なおRLC-1と正常ラッテ肝との組合せも調べてみました。Growingnormal cellとはどうかの再確認の意味もあるのですが、RLC-1も反って抑制されてしましました。
 B)腹水肝癌各型の培養スクリーニング:
 Screeningといっても、細胞が硝子面によく附着するか否かのテストです。佐々木研で毎週ラッテで植継ぎしたときもらってくるのですが、運び方などもずい分問題になるようです。(表を呈示)附着し増殖する系(+)はAH-66、7974、286、414。細胞の中に附着するのがあるが、果してそれが癌細胞かどうか判らぬのと、且増殖しないらしい系(±)はAH-63、408、602、149、173、62、272、423、318。附着しない系(-)はAH-66F、99、129、310、でした。
 培地はすべて20%CS+0.4%Lh+Dです。
 AH-286は附着してよくふえますが、細胞質に泡状のものが見られ、ウィルス・コンタミの可能性が考えられます。

《佐藤報告》
 前号に引続きラット肝←DAB及びメチルDABの所見を染色体のパターンと一部核型を検索しています。復元もつづけていますが只今の処、動物内発癌は成功していません。今度の実験結果は私の予想に反して思わしくありませんが、事実ですから止むを得ないと思います。更に条件を仔細に検討いたします。
 前号でC10D株にメチルDABを55日投与したとき染色体の分布が処置前及びDAB57日に比し著変した事を報告しました。そこでこの法則が他の株にも当嵌るものかどうかを試みてみました。前述の株に夫々メチルDAB74日、DAB68日投与後、染色体のパターンを検索しましたが、両者の間に現在の所差が見えていません。(以下夫々の分布図を呈示)
 C8(対照)株の現在の染色体パターンと、同時期に検索したC8(対照)株←メチルDAB84日の場合にも前号報告の如きメチルDABによる染色体の強い変動はない。
 更にC10(対照)株において同様の検索を行なったが、著変は認められなかった。上述の三組の実験において、私はメチルDAB群に染色体の移動を期待したが結果は−出会った。念のため前号報告のメチルDABによる染色体パターンの移動が間違いないか、22(メチルDAB12日)株で検索して見た。結果は依然として右遍があり比較的幅広く増殖している事が判明した。 上述の結果の意義づけについては考え得る事もあるが、復元の試みを待って論じたい。前からの宿題であるpoolされた♂ラット血清による撰択を開始している。C10D株とC10D株をラット血清20%+LDの中で49日間おいて増殖させ現在増殖中のもの、復元は今の処(-)、の染色体パターン図を呈示する。
 ラット血清による撰択→増殖→復元はメチルDABによる移動株について更にC10D←DAB55日及びC22(メチルDAB12日)株に就て行っているが前者は比較的早く増殖しているが、後者は殆んど発育してこない。発癌実験において培養日数が長い事は不利な点が多いのでこの一連の実験の不足部を補ふと共に短期メチルDAB(量的)→復元の実験を再開する予定。現在C39実験、メチルDAB→Primary24日・1963-2-22のものが増殖中ですのでこの検討を始めます。
《杉 報告》
 発癌実験:golden hamster kidneyのprimary culture−diethylstilbestrol:
 primary cultureで出てくる細胞は既報の如く、実験群と対照群でepithelialなcellが活発な増殖をしているという証明は残念乍ら出来ていません。
 即ち培養10〜18日目頃に、対照群に比べ実験群でepithelialのcellが多く出てくるわけですが、そのまま培養を続けると大体30日位を経過した頃から段々と変性に傾き管壁から落ちる。この頃のを次代に継代しても勿論増殖を示さない。そこで培養18日目位でまだ細胞団が拡大しつつあり、変性に陥らない頃にrubber cleanerを用いて継代すると、そのまま変性しないで細胞団は再び一寸拡がる。しかし継代後10日過ぎ、即ちprimary cultureの最初から約30日を経過するとやはり変性に傾く。それを継代してもうまくいかない。復元については(age 46days、female、hamster)培養30日目のものを、cortisone処理hamsterのcheek pouch(age25days、male、contisone acetate 2.5mg/day、2days/w)にかえしてみたが、現在のところtumorを作っていない。接種細胞数は約5万です(crystal violetで染色して数えたが生死を判定しかねるのもあり不確実)。尤もこの細胞は接種時、培養30日を経過していたため稍変性しかけていた部分もあり、復元の時期としてはよくなかったと思います。 以上の如く静置培養では盛んな増殖が得られないので多少の不便を忍んで、以前使っていた中検の廻転培養器でやり始めました。まだ日が浅いのでもう少しやってみないと分りませんが、細胞の生え出しは確かに早いが上皮様細胞がどうもうまく生えてこない様です。 染色体については今度新しく研究室に入り、現在培養一般について練習中の岡田君にやって貰っていますが、technicが未だしでdataになっていません。
 hamster−−stilbestrolの動物実験では,以前から種々の実験結果が出ていますが、
stilbestrolはestrogenic activityをもったhormoneであり、これを使った発癌実験というのは多くが種々の他のhormoneとの関係においてなされていて、これらの複雑な組合せの違いにより異った実験結果が出ているとも思われます。勿論tumor乃至はadenomaをつくったというのもありますが、大体一致した結果として出ているのはhyperplasieをおこすということです。我々のin vitroでの実験で、盛んな増殖こそおこさないが、実験群と対照群とで違いが見られるというのは、何かin vivoでの変化に似たものが現れているという可能性が考えられます。只動物実験では発癌するまでにかなりの長期間を要しているので、invitroではそれ程長期間を要しないにしてもかなりの期間を要することは考えられ、現在の如く30日を過ぎると変性に陥るというのは不都合かも知れません。そうすると如何にしてこの出てきた細胞を、より長くin vitroで維持させるかということも目下の重要な課題となります。その様に稍長く細胞をin vitroに維持出来る状態にもっていってstilbestrolをくり返し作用させるか、他の要因を組み合せて作用させるかして、対照よりも早く悪性化させることが出来るのではないかと思います。stilbestrolをくり返し作用させるということに関しては、培養開始時に一度作用させておいて暫く正常培地に戻し、あとで作用させるということを試みましたが、これまでの結果では2回作用させても大した影響はなく、培養開始当初に作用させたものの影響だけが残っているという印象をうけます。
 その他、動物実験でhamster liverに発癌性を有するo-aminoazo-toluenをhamster liverのprimary cultureに作用させていますが、まだ結果は出ていません。

《黒木報告》
 吉田肉腫少数細胞の培養とEagleの培地(1)
 吉田肉腫細胞の基礎培地としては、Earle's B.S.S.50%、Lh 0.3%(final)、Bov.serum50%を用いていたのですが、栄養要求の仕事がすすむにつれ、培地条件としてより優れたもの、即ちdefinedなものを用いる必要性が生じて来ました。そこでLEをEagleにおきかえ、血清の量もへらし、更に透析血清にもっていきたいと考え、昨年の末より、少しづつ実験を行って来ました。
 その結果、おどろいたことに、Eagle'med.(1959発表の処方)50%、whole Bov.Serum50%(非働化)で、pyruvateなしでも、血液なしでも、20ケの細胞が非常によく増殖するのです。(勿論LE50%、B.S.50%の培地では20ケの細胞は全く増殖しません)。このLEとEagleの差は一体どこにあるのか、又少数細胞の栄養要求とはどう云う関係にあるのか。これらのことについては、これからいろいろ実験をして解明していきたいと思っております。
 EagleとLEの差はEagleのAmino acidとVitaminと、Lactalb.hydroly.の差と云うことになります。用いたlact.hydroly.は、宇田川先生のときよりずっと同じLotのものです。LotNo.9457。この9457と云うのは調べてみましたところ勝田先生のところで"不良"の折紙をつけられたものと分りました。この9457とEagleのAmino acidを比較してみますと、不足しているのはglutamineです。(9457にはglu+GluNH2 69mg/l、Eagleにはglutamine292mg/l、gulNH2は0)。しかし9457+glutamineのmad.でもgrowthはありません(glutamine 0.1〜0.4mM)。
 問題は非常に複雑になってしまい、一寸困っております。現在、Eagleから一つづつAmino酸を抜いたmed.を作りexp.をおこなっております。又pyruvateの効果もみておりますので、7月の班会議までには、いくらか分って来ると思います。(なお、これらの現象は3月末には掴んでいたのですが、大阪では、問題を余り複雑しないように、わざと伏せておいたものです。不悪ず、御了承下さい)

《堀川報告》
 5月の岡山での組織培養学会にそなえて大量のネズミを使ってしまったのがたたって遂に仕事はストップされ、つい最近三島の国立遺伝学研究所を訪ねて森脇氏から種用のネズミをゆずりうけて持ち帰り、大急ぎで繁殖させているところなので、今月は発癌実験に関する仕事は出来ずに終ってしまいました。
 その間の実験としてX線2000γで照射したL細胞の回復に関する仕事に主力を注いで来ました。現在の段階では放射線で照射されたL細胞の回復に働くのは正常L細胞から抽出した蛋白様の物質らしいことが分っております。勿論更にDNA、RNAをpurifyして実験を進めている段階です。
 一方、Spleen細胞を喰い込んだL細胞が分裂何代目まで、そのSpleen細胞のantigenic characterを維持し続けていくかを決定するためにこれまでAgarの沈降反応あるいはTest tube法などを使って追求して来ましたが、この方法では全L細胞のうち何個がantigeic
characterを維持し続けるかをtestすることは不可能で、そのためLatex particle methodをかりてこの種の仕事を展開させております。
 この実験の結果と発癌実験(主として細胞成分と放射線)に関する結果は7月の班会議から少しづつ発表出来るものと思います。

《山田報告》
 1.組織培養における物質の消費に関する細胞生活単位(Cell Life Unit)について( )*James,T.W.,Ann.N.Y.Acad.Sci.,90:550-564,1960による数式を呈示

【勝田班月報:6308】
《勝田報告》
A)発癌実験:
 a)初代スタート:その後の成績についてのみ記すと、次の5系統がある。
#C38(1963-3-2開始、15日ラッテ)この実験はDAB1μg/mlの群だけが現在まで続き、継代3代であるが、どうもこれも切れそうである。#C39(4-25開始、13日ラッテ)3群作った。DAB1μg/ml群は2/8→2群に分け、4本は第21→46日:初代のままNo Renewal、途中で生え出し、3/4に新コロニー発見、以後はRenewal(2/W)で今日まで。残りの4本と、DAB-N-Oxide1μg/ml群(1/4)、Control群(1/4)は第2代に継代したら切れてしまった。#C40(5-27開始、14日ラッテ)第17日目にDAB群12/23→第19日、Roller tubeに継代したが、第42日まで全然ふえてこないのでTCstop。Control群は0/7。#C41(6-27開始、9日ラッテ)DAB 4日と、#C42(6-30日開始、12日ラッテ)DAB 4日の結果はまだ判らない。
 b)継代2代の増殖を促進するためのテスト:
 発癌実験は永くかかっては困る。おそくとも半年以内に勝負をつけたい。しかしこれまでの経験ではDABで生えだした細胞を第2代に継代したとき、その増殖がおそくて、第2代でずいぶん日数をくわされる。ここが一つのNeckpointなので、培地に何か加えることによって増殖を上げられないかと考えた。1.Glucose(0.1%、0.2%、0.4%:何れもNo effect)。2.Pyruvate(0.01%、0.05%:反って抑制)。3.Rat liver extract(生後1年Rat、1:1、0.05%、0.5%:著明な抑制)。RLD-1を用いて7日間上記の条件テストをしてみたが、何れも失敗。しかしこれは必要なことなので、さらにprimaryから2代、3代に入る適当な細胞ができ次第、もっと若いratの、もっと薄いextractとか、chick embryo extractなども試してみる予定である。
 c)株化した細胞系について:
 これまでしばしば報告したように、DABで増殖を誘導された細胞には、いわゆるAtypismがきわめて少い。しかし最近になって唯1例、その例外を見付けた。RLD-7株(1962-11-15)で、核が大小不同だけでなく、不整形で、切れこみや融合、分離などを呈し、崩壊像も示す。何かvirusの作用を思わせるようなところもあるので、細胞を5回、凍結融解し、その液をfinal 10%にRLD-1・#5の培養に加えてみた。しかし4日後にまだ変化があらわれないので、そのときのRenewalにまた10%加え、7日迄しらべたが決定的変化は現われなかった。なおもっと長期のテストも行なってみる予定。
 ここで考えたのは、つまり、そのままではRatに病原性をもたないvirusがはじめからそのRatに居って、そのliverを使ってDABをかけたため、DABとの協同作業で病原性を呈するように変ったという可能性である。Chemical carcinogenesisをやっていても、いつもこういうことは一応は頭におかなくてはなるまい。なお、このRat liverはControlの方は非常にきれいな核の形態を示している。
 d)ラッテへの復元接種テスト:
 上記のRLD-7株を6月6日に、コバルト60をかけコルチゾンを打った生後3wのラッテ脳内に、細胞約100万個宛、2匹に接種したが現在までのところでは変化が認められない。
 e)染色体分析:
 i) RLD-1株はmetaphase count 100ケになったが、Peakはやはり43本。
 ii) RLD-1・4n株:これはRLD-1・#3を1962-12-11に第19代に継代、TD-40瓶で12-19より12ー26まで7日間培地交新をおこなわなかったもので、月報の6306号に図示したよう染色体数のpeakが、81〜90本のところに46%を占めて移ったもので、RLD-1・4nと名付けた。生活環境が悪いときは4nの方が2nより暮し良いのかどうか。この4n株は正常肝とParabiotic cultureしても増殖を促進されぬし正常肝も阻害されない。どうも悪性ではないらしい。
 iii)RLD-0株は今までのところ80ケしらべたが、40本と42本にpeakがあり、41本が一寸へこんでいる。
 iv) RLD-2株:まだ23ケしかかぞえてないが、今までのところではpeakは42本。
 v) RLD-4株:これも42本。
 vi) RLD-7株:38ケかぞえたが、41、42、43本が同じ位の高さに出ている。
B)腹水肝癌各系の培養スクリーニング:
 これは前月号の月報に表を示したので省略するが、要するにAH-130が最近性質が変ってしまって、以前よく生えたmediumでも今は7日間ふえつづけられないのと、ガラスへの附き方が悪いので、routineに使うのにどうも思わしくないので、それに代るものを見附けようとしたもので、今迄のところではAH-66、AH-7974、AH-414、AH-286などがガラスへよく着くが、AH-286は細胞質に空胞のすごいのが多く、1種のfoamy virusのcontamiでもあるのではないかと危惧される。第一候補としてAH-66とAH-7974と使い、parabioticでliverにより強く障害を与える方を使うようにしたいと考えている。

 :質疑応答:
[黒木]AH-66Fは染色体数、38本と80本と2種類あるそうで、佐々木研では10代毎にしらべているそうです。
[佐藤]60本位のはありませんか。
[黒木]知りません。
[勝田]DAB-n-oxideは寺山先生から頂いてまだ1回しか使っていませんが・・・。
[寺山]特殊な作用が見られますか。
[勝田]濃度をいろいろ変えてみたりしないとどうも・・・。
[佐藤]増殖ということでみているわけですが、増殖と発癌とは平行する現象かどうか。また1μg/mlの濃度を使っていますが、これはラッテの生体内濃度とくらべてどうでしょう。
[寺山]旧薬理研でfreeのdyeを食べさせて測っていましたが、そう多くはなかったと思います。
[佐藤]Sondeで入れてやると上昇してすぐ下ってしまうのでしょう。
[寺山]Continousにたべさせると低い濃度で続いています。
[佐藤]生体内より高いか低いかの濃度を培養に入れるわけですが、どの位が・・・。
[寺山]もっと大きくしても・・・。しかしDABそのものが作用するのか、その代謝物が作用するのか問題です。EmbryoのliverはDAB代謝がありません。生後どの位で出てくるかは未だしらべてありませんが。
[山田]DABそのものに発癌性があるのか、その代謝物にあるのか、ということですね。
[寺山]それをやっているところなんです。そのものずばり発癌性ということでなくても、それに近いものを見出したいのです。
[堀川]発癌性物質まで変化させる代謝能力があるかどうか、ですね。
[安村]in vivoでのDABの使用量はどの位ですか。また1回だけの接種で発癌させる物がありますか。
[寺山]ラッテでは1gで6〜10ケ月です。ベンツピレンなどは1回ですが、1回といってもその部位に長く残っていますからね・・・。
[安村]Virus性のtumorなら1回の接種でもできます。DABなどを使っての発癌でも問題は時間ではないですか。Trypsin処理だけでも10ケ月でTumor化した例もあり(Barski,J.Nat.Cancer Inst.)、DABも3ケ月と10ケ月との差ということで、どれが原因か云いにくくなるんじゃありませんか。
[勝田]培養では半年以上培養するとspontaneouslyに悪性化した例が間々ありますので、こちらは半年以内に勝負を決めたいと思っているのです。
[安村]増殖で見ていると発癌がはっきりしないでしょう。何かもっと良いマーカーがありませんか。
[勝田]我々は第1次のマーカーとして増殖誘導というものを使っているのです。これはDABによって肝細胞内の増殖抑制機構が外されて増え出してくるのではないかと"想像"していますが。
[寺山]増殖しかかったものにもっとDABを続けたらどうですか。
[勝田]いろいろやってみたのですが反って細胞がやられて死んでしまいますね。
[安村]増殖と癌化とはその調節機構は別かも知れません。だからgrowthでみているのは片手落ちかも知れませんね。Scienceに出ているそうですが、Thymusのレチンとプロミンで細胞の抑制と促進ができるそうですね。
[勝田]だから増殖の他に、第2次マーカーとしてatypismを見ているのです。
[黒木]佐藤班員のDABを80〜90日もやっているのは株ですか。
[佐藤]株です。primaryでは28日位やりましたが、増殖が少し落ちてきました。
[山田]HeLaでは4日間DABを与えても呼吸には影響ありませんでした。
[堀川]HeLaは何にでも強いですよ。
[黒木]DABを低濃度で長期間作用させることは重要でしょうか。
[寺山]そう思います。動物実験でも大量では障害が大きくて生存し得ない。普通は最初は障害が小さく、2〜3週後、核数が倍位にふえる。そのとき栄養などが悪いと動物が死亡することになりますが、この2〜3週を越えてしまうと死に難くなり、適応して行くようです。
[山田]耐性になるということですか。
[寺山]耐性の考え方ですが、どうも細胞の方が2種類あって、一つはDABをどんどん代謝してしまう能力が高まったもの、これが大部分ですが、もう一つのは発癌性の代謝物を作らないもので、こっちの方がTumorになってくるのではないかと思います。
[佐藤]Hepatoma前にcirrhosisで死亡するラッテはありませんか。
[寺山]目立って死にませんね。右下の図のように、2週から4週にかけて沢山落ちるわけで、この2週という時期にはRNAのCatabolismが盛になって細胞が障害を受けた後、増殖できないのではないでしょうか。
[山田]癌化したものを見付ける点ですが、in vitroでは生体内と異なり色々のregulatorの作用がないので、発癌変化したものが現象面に出やすくなっているが、変化していない細胞も増殖性が出てきやすくなっていて、増殖してきた細胞全部が癌細胞ということではないので、その中から癌化した細胞をどのようにselectするか、ということが問題ですね。
[寺山]DABを少し加えてみて、それに耐えるものをselectするのも一法ですね。
[安村]癌細胞かどうかは、今のところでは、動物に復元してtumorを作るかどうかであり、従ってTumorを作るefficiencyが問題になります。これは移植癌の問題にもなり、組織移植のような、免疫のことなども考えに入れなければならないから、若い動物のしかも脳内などが接種部位として良いのではないでしょうか。脳内だとtumorになったかどうかが症状で判ります。若いと云っても、生後24時間以内と2〜3日経ったものとでは、皮膚移植の成績も大分ちがいがあります。X線とかコルチゾンなどで抑えられるもの以外のことも考えられるので、とにかく移植は生後1〜2日、できれば1日のラッテを使ってみないと・・・。
[寺山]そこでそのagingの変化ですが、liver extractについても、成体の肝には自己肝に対してregulateすることがあって、もう完全にhepatomaになってしまったcellには作用が及ばないが、それへの過程にある細胞には作用を現わすことも考えられます。それから移植の方で、生後1日位のラッテに移植しても、そのあと相当日数の間飼っておくわけで、その点どうなんでしょう。
[安村]有効ないわば感染といったことが起ってしまえば、その後はいいのでしょう。その有効な感染を起すのに、生後1〜2日までの動物が良いということです。
[佐藤]私の場合は生後5日目のラッテに戻したのですがtumorを作りませんでした。
[安村]Polyoma virusでも生後2日目と5日目位のとではもう態度が違います。
[寺山]復元する動物ですが、若いのでなくても、DABをたべさせているラッテに戻したらどうですか。その動物の肝では、分化によってできた機能、例えばCatalaseなどは低下しており、こんなときには移植され易いのではないでしょうか。
[関口]発癌ということですが、αナフチル・イソチオサイアネートなんかでも、肝の増殖は起すが発癌にまでは行かないといったものがありますが、DABによる特有の作用は、増殖変化を起してくる2週間位より後の時期にあるのではないでしょうか。
[寺山]DAB発癌でHepatomaのできるのは6ケ月位とされていますが、佐々木研の小田島氏の研究によると、1ケ月feedingを境として、癌化しているようです。つまり数は少いが癌細胞は出現している。出現頻度が非常に低いだけです。
[堀川]発癌ということが、抗原が抗体を作らせるように入りくんでおり、発癌物質が細胞の代謝系の一部をattackし、多くは細胞の調節力で回復されてしまうが、ほんの一部のものがその回復力が見られず、癌細胞となるのでしょうか。
[寺山]そう考えていますね。それも一ケの細胞がすぐ癌細胞になるというのではなく、細胞分裂を何回か繰返して癌化すると考えています。
[山田]Polyomaなんかのvirusでの発癌は直接にDNAをattackすると考えたい。
[堀川]化学物質ではそのvirusでの作用を、色々な廻り道をとって実現しているとも考えられます。
[安村]癌化するというのには、とにかく染色体に変化を起すことが必要ですね。
[勝田]ちょっとその癌化ということで安村氏に説明しておきますが、細胞を一々動物に戻さなくても、何か、悪性かどうかを確かめられないか、ということです。以前に正常肝細胞と肝癌AH-130、或はセンイ芽細胞と肉腫とを組合せてparabiotic cultureしたとき、正常細胞はそれによって阻害され、tumorの方は増殖を促進されました。AH-130からのTC株2種、JTC-1とJTC-2は最近復元してもラッテが死なないようになってしまったのですが、これを正常肝とparabiotic cultureしますと、正常肝は影響を少しも受けず、株の方がJTC-1、-2とも反って抑制され気味です。つまりpara-cultureしたとき正常細胞を抑え、自分は促進されるという現象は、なにか、生体内での悪性と共通点を持っているように思われるのです。そして、DABによって増殖をinduceされてできた株の一つRLD-1を正常肝とpara-cultureしますと、正常肝は阻害されないが、RLD-1は明らかに増殖を促進される点から、RLD-1はtumorの方へ一歩進んだ細胞と見てよいのではないか、というのです。また悪性化したかどうかをin vitroで見当をつけるのに、この正常細胞とのpara-cultureは使えるのではないか・・ということです。
[寺山]このことと、さっきのliver extractとの関連はどう考えますか。
[勝田]細胞を破壊してとれる物と、生きているのから継続的に出てくるものとでは、少し物質がちがうのだ、ということかも知れませんね。
[山田]Extractといってもその濃度も問題になりますね。
[安村]そのparabiotic cultureで増殖がどうなったかということは、安定性ということで、今としては復元してtumorを作ることで発癌を確かめるべきだしょう。
[勝田]それはそうです。だからこれまでも復元してみたし、今後も前眼房、脳内などをやろうと云っているわけです。ただ上のような現象が現われた後に、復元がうまく行かないとなると、そのときは復元法が悪いのではないか、と考えてみる必要がありますが、RLD-1のような結果ではまだつかないと云っても、細胞のせいと考えるのです。

《佐藤報告》
復元成績メモ
1)C22(メチルDAB12日株・染色体数の右偏していたもの)を1963年4-15〜5-14までに8実験行った。生後5日(脳内)から1.5ケ月(その他の部位)のラッテを使用した。接種部位は脳内、皮下、筋肉内、腹腔内、睾丸内であったが、1963-7-8日の肉眼的調査では腫瘍を形成していない。
2)その他、C10(DAB4日株)、C22(DAB4日株)、C8(対照←DAB)、C10(対照←メチルDAB)、C10(対照←DAB)を主に睾丸へ復元接種したが、肉眼的調査では腫瘍を形成していない。
死亡が2例あったが、2匹共肺炎によるものであった。
3)染色体実験追加例、C10D←メチルDAB54日で右偏したものをラッテ血清で培養中のものは、39本に僅かにピークを残すが、主流は70本以上であった。

 :質疑応答:
[佐藤]DABは血清の蛋白と結合しているのですか。
[寺山]その結果には2種類あります。一つは化学的結合で、もう一つは物理的結合です。前者はAlbuminとで、これはAlbuminが肝で作られるので、そこで結合するのでしょう。後者は不溶性のものをよくAlbuminが掴まえますから、それでしょう。
[佐藤]血清にDABを混ぜて保存したものと、使用直前に混ぜたものとでは効果がちがうようですし、1μg/mlで混ぜておくと、1日たつと溷濁が出ますので、それ以上高濃度にはできません。
[寺山]レシチンなどを使うと高濃度になるのではないでしょうか。phospholipidはAlbuminとよくくっつきます。
[山田]血清培地でDABを稀釋して保存したものの方が、作ってすぐよりも効果が出やすいというのです。
[寺山]しかしあれは不溶性の物質だから微粒子となって分散状態になりますからね。
[佐藤]それからDABの定量についてですが、培地中のDABをどうして測ったら良いでしょう。
[寺山]Benzenで抽出して測れば1μgでも測れます。(定量法を図示)
[佐藤]520mμの所には血清の吸収も出ませんか。
[寺山]520mμには出るものはないでしょうね。
[山田]320mμにも吸収peakがありますが、その吸収はどうなんですか。
[寺山]DABの分子構造が酸性で二つあって、図示したように320と520mμにpeakがあります。中性にすると1種で400mμになりますが、他の物質の吸収が混りますから・・・。
[伊藤]佐藤班員はラッテの血清で癌細胞のselectionをしておられるのですね。
[佐藤]復元したときtumor cellが少いとふえてこない惧れがありますので、牛血清の代りにラッテ血清の中でよく増える細胞をふやしたい訳です。ラッテ内でtumorを作れる細胞ならラッテ血清の中で増える筈ですから。
[黒木]このselectinは時間がかかりますから何かplatingのようなことで・・・。
[勝田]それでも時間のかかるのは同じでしょう。
[佐藤]今でも大仕事なのにこれ以上は・・。もしその総細胞の1/100に癌細胞が混っていることが判っているなら、そうしてもいいですが、それが判らんことなので・・・。
[山田]しかしEarleがcloneをいくつも作ったらその中に復元できるのがあったわけで、cloneを作ってみるのも一法ですね。それから同種血清を使ってのselectionですが、iso-antigenもあることですし・・・。
[佐藤]多数(80匹)のratの血清をプールして使っています。
[安村]復元法ですが、大量の細胞、どろどろのを入れてやると良いでしょう。
[佐藤]X線をかけてsac状としたHodenに入れたのですが、まだtumorを作りません。
[安村]その部位ですが、Hodenより脳の方がtumorを作ったかどうか判り易い。脳は重要臓器でtumorを作れば動物は死ぬからすぐ判る。
[佐藤]前に吉田肉腫を脳内に入れたことがありますが、3〜4日で死んで行きました。しかしそのときは継代できませんでした。
[安村]3〜4日で死んだというのは感染の結果ではありませんか。
[杉 ]脳内へ入れる手技は・・・。
[安村]伝研の実習提要に出ていますが、他側の脳内へ0.02位入れます。2週目位から症状が出てきます。皮下と比べ、脳では少量でtumorを作り、継代のときもそのtumor部位をとり出してsuspensionにすれば良いのです。乳鉢を使っています。

《杉 報告》
発癌実験 Golden hamster kidneyのprimary culture−diethylstilbestrol:
 6月号に表示した以後の実験結果を表で示す。
 現段階でmarkしている例の上皮細胞集団を盛んに増殖させたいので、廻転培養をやってみたのですが、期待に反して思った程よく生えず、しかも出てきた細胞は繊維芽様細胞が主で、markしている細胞は出てきません。又実験群と対照群の間の細胞の量的差もあまりありません。そこで最近は再び静置培養に切替えました。勝田班長のところでは廻転培養にすると細胞の増殖が俄然よくなるとのことですが、私共のところではどうもうまくいきません。そこで最初静置培養で上皮細胞を引き出しておいて、それを廻転培養に移すということを考えています。既報の如くExp.17をhamster cheek pouchに復元したものは現在のところまだtumorを作っていません。

 :質疑応答:
[黒木]そのハムスターへの復元は全部陰性ですか。
[杉 ]そうです。全然だめでした。
[黒木]復元に使う細胞数を10の8乗位にしてみたら如何ですかね。
[勝田]空胞のはどうですか。
[杉 ]回転培養したら全部なくなってしまいましたので・・・。また出来たらそれをやってみようと思っています。
[勝田]静置のときできたのだから、むしろanaerobic、たとえば流動パラフィンでも培地の上にかぶせて管を立てて培養したらepithelialのが出てくるかも知れませんよ。
[安村]そのepithelialのことですが、Kidneyではtubulusからepithelial、glomerulusからはfibroblast-like cellが出てくるということです。
[山田]Fibroblastは解糖が高いですから、培養条件によってはそんなことでもselectできるのではないでしょうか。
[安村]fibroblastsと他のが混っているのではないですか。
[杉 ]いや、ほとんどがfibroblastsです。細胞のとり方は、伝研流の、切って細胞をとっているので、trypsine処理ではありません。
[安村]Fish-stream likeな像がサルのkidneyからのに見られ、kidneyを培養すると大抵そんな像が見られますね。
[勝田]杉君の仕事での特徴は、大きい空胞を持った細胞ですね。
[杉 ]それはanaerobicの条件がそうさせたのでしょうか。
[勝田]だから培地交新を4日毎でなくて、もっと長くのばしてみるのも手だと思うのですが・・・。
[杉 ]濃度も1μg/ml位に低くするとあまり効きませんでした。しかし、これで長い作用させてみることも考えられますが・・・。しかし1ケ月ではそう変化はありませんでした。
[勝田]Liverからの培養が生えてこなかったというのは、入れた組織片は生きているのですか。
[杉 ]管壁には着いているのですが、その片から細胞が周囲に出てこないのです。
[勝田]うちでも、Embryoや幼若でないratのliverはそうですが、組織片は生きていますよ。
[安村]トリプシン処理をしないのは?
[勝田]細胞を痛めないためもあります。
[山田]たしかにトリプシンでは細胞がこわれ易いですね。

《伊藤報告》
 以前からhomogenizerを使って大量の培養可能な肝細胞をとる事を試みて来ましたが、その経過を御報告致します。
 先ず細胞の集め方を簡単に書きますと、1)0.027Mのクエン酸ソーダを含むCa-free Locke's Solutionにて肝を潅流。2)肝を細切。3)0.25Msucroseを加えて肝片をhomogenize。4)filtrate。5)低速にて遠沈。6)沈渣をSuspension。
 この方法で第一番に問題になるのは、homogenizerですが、Originalに従ってゴムを使って数回試作して使ってみましたが、どれもうまくゆかず、最近になって、結局テフロンのものを用いて、一応満足のゆくCellを得られる様になりました。半数に近い2核細胞を含み、病理屋さんにみて貰っても殆んど肝実質細胞と考えられるとの事です。
 次に問題になるのは、培養法、培地ですが、此れも色々試みてみました。静置培養では種々の培地何れもガラス壁に細胞がつかなかったのですが、つい最近になって廻転培養法を使って何とかガラス壁につかせる事が出来る様になりました。
 まだ培養日数が短い為、此れが今後どの様な経過をとるか分りませんが、増殖しないまでも、生き続けてくれれば、最初から大量の細胞を得られる事ではありますし、吾々の目的に充分使用出来るものと期待しています。

 :質疑応答:
[黒木]トリパンブルーなどで染めて見ていますか。
[伊藤]まだです。
[勝田]とにかくこの実験は、細胞の生死、これをはっきり見て、培養後にはどうなっているかも見ることと、cell countingをやりながら培養して、数の消長を知ることがいちばん必要と思います。
[安村]Tumorなんかですと、すりつぶしても細胞は3%位しかこわれないですね。
[山田]クエン酸処理で細胞がばらばらになり易くなっているので、すっても破れにくいのでしょう。
[勝田]Cell countingの為の0.1Mクエン酸溶液でもprimaryの肝細胞の細胞膜は実に強くて仲々とけません。fibroblastsなんかはすぐとけるのだが・・・。こんなことで肝細胞だけを主にselectできるのかも知れませんね。

《山田報告》
1.人正常繊維芽細胞の継代培養及び栄養要求:
 4系列の胎児肺由来繊維芽細胞株について前回報告した通り、継代につれて増殖度が一定の傾向で変化し、それが細胞の老化を思わせる推移であることを認めましたので、この推移を起す原因が広い意味で栄養要求の変化であろうと考え、その実証に当っています。もともと発育の旺盛な時期でもEagle基礎培地+10%dialized calf serumでは1段増殖をするだけで株細胞より多要求性な事が認められています。継代10代〜15代で、Eagle+10%仔牛血清培地中のコロニー形成率は30%程度ありますが、20代を過ぎたものではこれが5%以下に低下していることに気付き、今度は系統的に各継代時期についてコロニー形成率の比較を行う所です。尚これと平行してSeed sizeによる増殖の有無を調べ、population densityの面から栄養要求を調べる予定です。さらに20代継代以向、コロニー形成率が低下したものにつき、CEE、幼若細胞培養に使用した培地、血清濃度、X線照射細胞の培養液等の添加によるコロニー形成率の恢復の有無を調べます。
2.マウス正常繊維芽細胞の樹立:
 発癌実験を行うために、マウス正常繊維芽細胞等を使用することにし、これまで新生児マウス肺より細胞株を継代培養することを行ってきましたが、上皮性細胞の混在率が高く、発育が遅いので、胎児の発生の進むにつれて肺胞の分化が起り、繊維芽細胞成分の比率が低くなるのではないかと考え、妊娠期間中の各期及び新生児の肺のTCを比較検討しました。其結果、胎生時であれば妊娠20日目のものでもよく繊維芽細胞を培養できることに気付きました。そこで今週より予研で純化したddY系マウス保存株の1腹より胎児を別個に培養し、実験をスタートしました。最初の報告は次の班会議で致します。
3.ミクロシネによるHeLa細胞の世代時間の計算とその分散について:
 数理統計研究所の崎野氏と共同で癌細胞の増殖機構を数学的に再検討する第1目標として、世代時間の分散を測定することと、同調培養の同調性のdecayの様子を映画で追求することにしました。とくにHeLa細胞は単離細胞培養が可能なため、1個からスタートしてコロニーになるまで連続的に追求できるので使用しています。既に3回繰返しましたが、1個から30個までにはなりますが、15〜6個よりabortionが目立ち、映画用の小培養チューブでは、条件が悪い事を知り、培養器を改良中です。
4.Changの肝細胞株のglycogen産生について:
 前にかいたように肝細胞培養株(Chang)を4g/lのブドー糖添加培地で培養すると、組織化学的(Bauer-Feulgen)にGlycogenの蓄積を証明することができます。そこで生化学的に細胞内glycogen量を定量し、同時にブドー糖消費及び乳酸産生を追求してみました。glycogenの定量は抽出したglycogenをglucoseとしてAnthron試薬で測定、ブドー糖はanthron、乳酸はp-hydroxy diphenylによるBarker法を使用しました。対照にHeLa及びNIHT系正常繊維芽細胞を使用すると、これらはブドー糖消費及び乳酸産生は略同様で、消費されたブドー糖の大部分が乳酸として産生されます。肝細胞では、とくに培養数日間はブドー糖の消費が著明でなくGlycogenの消費が目立ち、対数期の後半からブドー糖の消費が起り、乳酸の産生も他2株にくらべて著しく低いという結果を得ました。肝細胞のglycogen量は、他2者の数倍程度、この定量と組織化学的な定性的証明との関係を考慮中です。
5.Friend Virusについて:
 癌センター大星氏の腹水型化したFriend cellの培養はまだ成功していませんが、Virus量について面白い事が判ってきました。Friend自身が皮下腫瘍化したもののVirus含有量は脾と大差ないと報告していますが、腹水型化しても尚Virusを保有していて脾が腫大してくるので、この脾腫、腹腔内腫瘍、腹水腫瘍細胞の三者のVirus量を測定した所、10%(w/u)乳剤を原液として、ID50がそれぞれ0.8、2.3、5.1という成績を得ました。即ち腹水細胞内のVirus量は脾にくらべて1万分の1以下で、Friend細胞内でVirusが増殖しているかどうか疑問になったわけです。次の段階として、Virusを含まない腫瘍細胞の分離を単個移植で検討中です。
6.ToyomycinのHeLa及びNIHT等繊維芽細胞に対する影響:
 前に九大の高木氏が、JTC-4及びHeLaを使ってToyomycinに対する感受性を調べ、前者の感受性の低いことを報告していますが、同様のことが上記の細胞で認められるか否かを調べてみますと、反応曲線に関する限り差異がありませんでした。しかし、1μg/mlという高い濃度で10時間程度作用させると、HeLa細胞だけこわれ正常細胞は残るという事を見付けましたので、今度は短時間作用させて、以後薬剤を抜き、恢復を調べることから比較中です。

 :質疑応答:
[安村]染色体がdiploidでも復元してtumorを作らぬとは限りませんね。1万個位まいて4日でcell sheetができますか。
[山田]細胞がうすく拡がってきます。これはFibroblastらしく、銀染色センイは出ないが、少しついている感じがあります。
[勝田]Fibriblastというにはもっと長く培養してから染めた方が良いでしょう。Cell growth stageによる栄養要求の差はアミノ酸要求もこれで考えてみる必要がありますね。
[山田]最近、協和発酵からGluNH2、Valなとのアミノ酸が安く出されて、合成培地に便利です。

《黒木報告》
吉田肉腫少数細胞の培養とEagleの培地(II)
 前報において、Eagle Basal Med.(1959)のみで、血液なしでも、Pyruvateなしでも、少数吉田肉腫細胞の培養が可能であることを報告しましたが、その後、血清濃度、透析血清、Pyruvate添加についてのDataが得られましたので報告致します。
(1)血清濃度による影響(全血清及び透析血清)(表を提示):
 全血清及び透析血清 5、10、20、40、50%の各濃度を、接種細胞数20個と10、000個について調べた。増殖率はGeneration timeで表現した。
 わかったことは、(1)全血清40〜50%では、細胞数に拘らず増殖は一定である。(2)20%全血清では、少数細胞の場合その増殖率は低下するようである。(3)全血清 5%、10%では増殖率は極めて低い。(4)透析により血清中の増殖促進因子は、ほとんど失われてしまう。
(2)ピルビン酸添加(2.0mM)による影響:
 (1)の各群にピルビン酸を添加した結果、(1)ピルビン酸は低濃度の血清添加(10〜20%)の場合、著明な効果を示す。(2)高濃度の血清の場合(40〜50%)は、特別な効果を示さない。(3)透析血清に対する効果は著明である。
 以上、二つのDataからEagle培地におけるピルビン酸の意味は、population-dependent nutritional requirementとしてではなく、血清中の低分子増殖因子としての可能性が高くなりました。これをLE培地におけるpopulation-dependentな栄養要求とどのように結びつけるか、あるいは、全く別なものと考えるべきか、これからの仕事をすすめる中でつきとめたいと思います。
(3)Eagle培地におけるアミノ酸の意味:
 この実験は、Eagle培地が何故よいかの分析のため、Eagleの13種のアミノ酸を一つづつ抜いた培地を作り、その影響を少数細胞、多数細胞培養の両者において、比較検討したものです。
 現在までにわかっているところは、Glutamineのみが重要なpopulation dependentなfactorとなっていることです。しかし、この実験が全血清50%添加と云う条件で行はれたところに問題があります。即ち、この大量の血清中のアミノ酸の中で、非働化操作により破かいされるのは、恐らくGlutamineのみであり、それがこのような結果となって表れたものと考えられるからです。この問題は、血清のfactorをより少くする条件で行はない限り、何の意味ずけも出来ないものと考えられます。
(4)Lactalbumin hydrolysateのLotによる差:
 前報において我々の用いていたLactalb.hydrolysateのLot No.が9457であり、それが"不良品"と云う折紙つきのものであることを報告しましたが、そこで、当然他のLotではどうか、Eagleと同じような増殖を示すのではないか、と云うことが問題になります。
調べたLotは、1491、3136、5393、9001、9457の5種類です。培養条件は、whole serum 50%、Lact.hydro. 0.3%、Earle'BSS 50%です。接種細胞数としては、10,000個、20個の二つをおいたのですが、その結果はLotによる差はみられず、いずれにおいても、10,000個のorderでは増殖するが、20ケでは全く増殖しませんでした。EagleとLactalb.の間にはアミノ酸組成の他に何かより根本的な差があるものと思はれます(例えばVitamin)。
(5)染色体標本作製法:
 どうやらきれいな標本が出来るようになりました。Moorehead,Nowellらの方法に従ったのですが、コツは固定法とslideglassを冷すところにあるようです。Agarを用いる方法は感心しません。

 :質疑応答:
[山田]Generation timeをとるつもりなら、growth curveの横軸は日数単位より時間単位の方が良いでしょう。
[黒木]はじめはgeneration timeをみるつもりではなかったので、時間で測っていなかったのです。
[勝田]透析の仕方ですが内液をとるときはもっと完全に透析する方が良いでしょう。
[山田]セファデックスと透析とは同じでしょうか。
[関口]セファデックスの方がずっと強力ですね。
[黒木]アミノ酸の耐熱性などはどうでしょう。
[安村]グルタミンだけがこわれ易いことは確かですが、他のアミノ酸は、変化を受けるとは思いますが不明です。
[黒木]Pyruvic acidなども熱で壊れますね。
[安村]合成培地でも、こわれる以上に入っていれば、細胞を飼う上には問題はないでしょう。
[山田]うちでは、ミリポアフィルターでアミノ酸溶液をひいています。短時間で出来ます。

《堀川報告》
1.発癌実験:放射線照射後のマウスに白血病が発生するということにヒントを得て、マウスCBA系統から得たSpleen細胞を試験管内培養することにより、これに低線量のX線を反復照射したのち新生児に復元して、リンパ性白血病をマウス体内に誘起することを試みた。材料はマウスCBA系統♂、生後20日目。培地はYLH80%+牛血清20%(静置培養)。
実験法:
A)1)対照区:Spleen細胞(無照射のまま培養する)
 2)実験区:Spleen細胞に300γ照射後1週間培養し、また300γ照射を繰返す。
B)1)対照区:約8ケ月間継代培養されたSpleen細胞(無照射のまま培養)
 2)実験区:約8ケ月間継代培養されたSpleen細胞に300γ照射後1週間培養を繰返す。
これらのものをマウスCBA系統の新生児に復元してリンパ性白血病を誘起させようとするのである。現在までの結果ではA)の2)の細胞のみが分裂できず増殖できない状態にあるが、B)の1)、2)などはactiveに分裂して行く像がみられる。
2.一方、離日までに整理する仕事として現在、A) 以前からやって来た耐性細胞の出現過程の解析と、その特性を分子レベルで説明しようとする試み。B) Pinocytosisによる形質転換の試み。この二つの実験について整理出来るところまでまとめてしまうべく実験を進めております。

 :質疑応答:
[勝田]君のγ線耐性のLはどうして作ったんでしたっけ。
[堀川]2,000rを計7回照射しました。間隔は34〜35日です。100万個で第1回は新しいcolonyが4〜5ケ出来て、その次は9ケ、7回目には45ケできました。染色体数も63本から減って行って44本になったのですが、実は8回目をかけたら88本になってしまったのです。使ったのがLだから旨く行ったので、HeLaだと耐性を得るのが困難だったと思います。
 
【勝田班月報・6309】
《勝田報告》
 A)発癌実験:
 (1)培養開始
 #C43(1963-8-12)12日ラッテ(DAB1μg/ml・4日間)
 #C44(1963-8-15)15日ラッテ(DAB1μg/ml・4日間)
この2実験はこの夏に於ける発癌用の唯一のスタートであり、100本位のroller tubesを使ってはじめたが、開始后、事故による送電停止があり、夜間これが約8時間位に及んだ。管内の液に浸っていない部分の細胞は干されてしまった訳である。この為一般に成長が悪く、増殖細胞の集落も未だ形成されていない。はなはだがっかりさせられる結果となった。
 (2)増殖開始后の継代
 #C41(1963-6-27開始)
第28日(1963-7-25)、増殖細胞集落だけをラバークリーナーでかき落して継代。これまでの例と同様に徐々ではあるが確実に増殖をつづけている。
 #C42(1963-6-30開始)
第25日(1963-7-25)、増殖細胞のあるtubes全部をトリプシン消化により継代したところ、実質細胞以外の細胞もバラバラにされ、第2代に於ける増殖細胞の接種濃度が薄められるためか、或は増殖細胞にやはりトリプシンが有害に働くためか、とにかくラバークリーナーに比べ、第2代の増殖は大分悪いようである。
 (3)復元接種
 a)RLD-7株:1963-7-31に約12万個の細胞を生后1日のrat1匹に脳内接種したが、1963-8-2死亡しているのを発見した。夏季のためautolysisが強いので確定的なことは云えないが、脳内出血死のようである。
 b)JTC-1株:この細胞は腹腔内接種では100万個入れてもラッテが死なないようになってしまっているAH-130のTC株であるが、1963-7-31に上と同腹の生后1日のラッテ2匹に脳内接種してみた。約84万ケ/匹であるが、7日后に2匹とも死亡し、剖検したところAutolysisが強いが、脳内にたしかに腫瘍ができていた。これと次の接種とは、接種の練習と効果の確認のためである。
 c)AH-7974:1963-8-30、生后約2ケ月の♂♀各1匹のラッテ右目の前眼房内に脳内接種針で約100万個宛(腹水よりとって稀釋したもの)(約0.05ml宛)を接種したところ、第4日現在で、右目は白濁しふくれている。兎とくらべ目玉が小さいからやりにくいが、とにかく接種部位としては使えるらしいことが証明された。
 d)ラッテ新生児への接種上の便法:
 1腹8〜12匹のラッテの乳児全部を同一細胞の接種に使うのがもったいないことがよくある。しかし下手に色素などを塗っても、はがれたり親に喰われてしまったりする。このとき蹠の爪をどちらか決めて1本短く切っておくのが、どうも一番良い方法のようである。一見判りにくいが、剖検のときしげしげ眺めれば確実に判る。御推賞する次第である。
 (4)培地無交新の実験:
 a)Exp.#C39
 この培養群は1963-4-25に培養開始し、DAB1μg/ml、4日間で増えてきた細胞であるが、routinelyには2回/w培地の交新をおこなっている。この初代のものに1963-5-16→6-10(25日間)、DAB群3本だけ培地無交新をおこなった。結果は細胞は丸くなり、大部分は残存したが剥れるものも出てきた。但し膜状に剥れることはなかった。その后培地を交新したら、また元の集落の部分に同じように増えはじめてきた。そこで1963-7-1→7-22(21日間)再び培地無交新を施行した。結果は上とほとんど同じような所見であった。1963-8-29、第1回のsubcultureをおこない、静置培養に移した。細胞は硝子面に附着している。しかし増えてくるかどうかは今のところでは未だ判らない。
 b)各種ラッテ肝株細胞
 同時に併行して2回宛無交新を施行した。第1回は1963-4-13から5-12まで。第2回は1963-6-11から7-11まで。8月26日に継代し、染色体用の標本も作った。(染色体分析は未だできていない。)結果は次のように色々の反応が現われた。
RLD-3、RLD-6、RLC-1:第1回のとき細胞が丸くなり、交新で回復したが、第2回で再び丸くなったあと、交新でも回復しなかった。染色標本でも細胞はほとんど認められない。
RLD-0:殆んど細胞はやられたが、未だ残っているものがあり、今后増殖してくる可能性があるかも知れない。
RLD-2RLD-4RLD-5ELD-1#4()RLD-1#2(DAB)LD-1#3(4n)RLD-#5(RLD-1groupControl)RPL-1()1w B)染色体の核型分析:
 RLD-1株(#5)とRPL-1株について、カバーグラス法による染色体用永久標本を、油浸で顕微鏡写真にとり、それを引伸して切抜いて並べた。東大衛生看護学科の学生の田島君というお嬢さんが熱心に夏休実習をやってくれた。RLD-1(#5)は43本、RPL-1は42本と、そのpeakをなす染色体数の分裂中期像について、前者は7ケ、后者は2ケのidiogramを作ってみた。未だcontrolのRLC系のものが作ってなく、RPL-1も2ケだけなので、正常とDAB群との比較という意味では比較ができないが、Metacentric(M)、Subtelocentric(S)、Telocentric(T)と分けてみると、次のような構成になった。なお写真のidiogramは染色体の大きさの順に並べた。RLD-1株(#5):12M+25S+4T、13M+20S+10T、14M+20S+9T、12M+20S+11T、12M+22S+9T、12M+21S+8T、14M+20S+9T。RPL-1株:14M+16S+12T、10M+20S+12T。
 総括してM、S、T間の数比は細胞によってかなり差があるが、MetacentricはRLD-1株(#5)では12〜14本、Subtelocentricは20(〜25)本、Telocentricは4〜11本であり、大きさの順ではS、T、S・・・とつづくのがラッテの特徴らしい。しかし特にMarker chromosomeと呼べるような特徴のある染色体は両株とも認められなかった。RPL-1の方は2例のみの分析で、しかもその2例の間にTを除いてはかなり差があるので、はっきりしたことは何も云えない。 RLD-1(#5)の核型2種、RPL-1の核型1種の写真像を呈示する。

《佐藤報告》
 相変らず染色体パターンによるDAB及びメチルDABのラッテ肝の変化及び復元を行っています。再現性を考えながらやっています。組織培養法における染色体の移動を考えながら実験を進めています。現在まで分った所見を前のものと対照して見ます。(染色体分布図を呈示)。9月一杯までにこの問題の一応の結論をだして次に移ります。分析、教室で行っている培地中のDABの抽出、及び測定が一応軌道にのりましたから、来月位から報告できると思います。

《杉 報告》
 発癌実験:golden hamster kidneyのprimary culture−diethylstilbestrol
 先頃よりmarkしている例の上皮様細胞団が最近の実験ではあまりあらわれず、稀にしか出てこないのでこの細胞を追求する上で困っています。従来作用させる薬剤は、diethyl stilbestrol単独にしていましたが、最近はこれを作用させた後に0.01%pyruvic acidを作用させることを試み、又流動パラフィンを培地の上においてその影響をみています。今のところ我々の観察法ではpyruvic acidの影響は認められません。今までの実験によると、例の上皮様細胞団は静置培養では時に出てくるが廻転培養では殆んど出てこない点から、anaerobic conditionで多く出るのではないかという想定で、培養開始当初からパラフィンを重層してやってみています。まだ始めたばかりですが、培養9日目、実験群に上皮様細胞団のみが少し出て来ています。若しfibroblastが殆んど出ずにこんなのがconstantに出るとなるとおもしろいのですが、今のところは偶然でそうなったのかも知れず、今は只期待をかけているという段階です。
 先日、hamster cheek pouchに復元したExp.17の細胞は、接種後80余日を経過しても遂にtumorをつくりません。hamster liver−o-Aminoazotolueneは対照からは細胞が殆ど出ず実験群の方にfragmentから僅かに出てきましたが、恐らくmigrationの段階で止りそのごさっぱりです。
 一時かなり多く出た上皮様細胞団が最近の実験では何故出にくいのか、検討せねばなりません。

《黒木報告》
 長期継代吉田肉腫細胞の染色体分析について
 長期継代吉田肉腫細胞の移植性、核の形態については、月報6305、6306において述べましたが、それは要約すると移植性の低下と、核の切れこみの多くなったことです。特に後者は吉田肉腫のoriginal stock及びpolyploidy cloneと比較するとき、染色体構成の変化が想像されました。そこで染色体分析を行った訳ですが、結論から先に云いますと、heteroploidy(hypotetraploidy 76)であること。又核型分析の結果から、今まで知られている吉田肉腫のどの型とも異る、全く別な「吉田肉腫」であると云う結果を得ました。(この仕事は、佐々木研究所との共同研究で行はれました。)
 実験材料及び方法
 細胞は、67代、2年6ケ月培養したものです。
 colchicineを10-6乗M、2hrs作用させた後、Moorehead、Nowellらの方法によりAir-drying標本を作り、Giemsa染色后、Bioleitで封入しました。
 染色体分析に際しては、無選択に97ケの細胞をとり、写真に撮影し、引き伸ばした後、再び実際に標本と照合し乍ら、数及び形態をcheckしました。標本との照合は、2回行い完全を期しました。
 核型分析はModeのもの(この場合76)を選び、そのMeta、Subtelo、Telocentricの構成を調べ、さらにCamera Lucidaによりスケッチし、夫々を大きさの順に並べ、比較検討を行いました。一部のものは、写真による核型分析を同時に行いました。両者の差は、出来上りがきれいか、きれいでないかの差にすぎません。
 いづれにしても、この核型分析は、非常に時間がかかりますので、現在もっと簡単でしかもきれいに出来る方法を考えているところです。
 結果
 (1)染色体数の分布
 染色体数の分布は(図を呈示)、76本にpeakがあり(21/97、21.7%)、その前后(70〜80)にも可成り幅広く分布しております。吉田肉腫のoriginal stockのMode(40本、2n)のものは1ケもありません。しかし、60本前後-triploidy-のところに小さい山があります。140〜151本のところ(8n)にも、小さい山があります(9/97、9.3%)。
 吉田肉腫のoriginal stockは40本、そのpolyploidy cloneであるGVは、80本にきれいなpeakをもっておりますから、そのいずれとも異るわけです。これは核型分析を行うと更に明らかになります。
 (2)染色体の構成
 76本の染色体数をもつ細胞を選び、その染色体構成を調べてみますと、次の様になります。(15ケ調査)。30T+31S+15M、30T+33S+13M、30T+27S+19M、31T+29S+16M、29T+32S+15M、28T+27S+21M、27T+28S+21M、27T+34S+15M、25T+31S+20M、25T+29S+22M、24T+37S+15M、24T+34S+18M、24T+34S+18M、24T+31S+21M、20T+35S+21M。T:telocentric、S:Subtelocentric、M:Metacentric. これから分るように、T.S.M.の構成の比率に非常に大きなvariationがあります。吉田肉腫GVはT.S.M.が2:2:1ときれいな分布しております。又minute、Satelliteはありません。(長腕と短腕の比が1.0:1.3以上のものはSubtelo、それ以下のものはmetacentricとして扱っています。)
(3)染色体の形態−Marker chromosomes−
 形態学的にみていきますと更に大きな特徴があります。即ち、大きいteloが2本、subteloが2本、大きいsubmetaが2本、そして大きいmetaが2本あることです。これらを大きさの順に並べてみますとS1.S2.T.M.の順になります。これらのS1.S2.T.M.を合せもっているものは、60%あります(9/15)。従ってS1.S2.T.M.をMarker chromosomesと考えてよいと思はれます。 この染色体構成は吉田、GV戸は全く異っております。吉田肉腫は16T+16S+8Mで、GVは35T+30S+16Mです。
 以上が継代吉田肉腫の染色体分析ですが、これから何も特別なことは云えません。これから移植性などの関連をみて行きたいと思います。

《伊藤報告》
 前回の連絡会で御報告した如く、homogenizerを用いて肝細胞を集めて、短試験管に分注し、廻転培養をして、細胞の数を追ってみました。
 [実験結果](分注翌日の管壁に着いて居る細胞数を第0日の細胞数とする)(図を呈示)。対照群は約1ケ月増殖せず、維持している。実験群は16日頃にやや増加している。
 [考案]
*Cell-Suspensionで計測した細胞の約1/4が一応試験管壁について生き続けると思われる。*約1ケ月の観察では、対照群の細胞数は殆んど増さない。又試験管壁についたのを、そのまま観たのではmorphologicalにも殆んど変化をみせない。
*DAB添加群(入れっぱなし)については、まだ20日余の観察しか出来て居ませんが、その範囲内で、各培養日の3本の試験管の平均数をとると(株細胞の場合に比してややばらつきが大きいが)対照群の場合と同様に、細胞数の増加は殆んど認められなかったが、16日目の2本と24日目の1本に約2倍の細胞数になって居た物があった。但対照群の24日目にも1本矢張り細胞数が2倍に近かかったものがあり、この現象がDAB添加群に特異なものとは云えない。 だが細胞の増殖誘導が此の様な形で、添加群の試験管のあるものにだけ惹起されると云う事はあり得ると考えられるので、今后は核数計測のための染色液を入れる前に各試験管についてよく観察しておかなくてはならないと考えて居ます。
 今后DABの濃度、添加日数、細胞のmorphologicalな変化等について検討を加える積りです。

【勝田班月報・6310】
《勝田報告》
A)RLD系株細胞の染色体数に対する培地無交新の影響:
 前号の月報p.4第1行にRLD-2、RLD-4、RLD-6(これはRLD-5とかきましたが、6の誤りです。同p.3下から5行目のRLD-6は逆に5です。御訂正下さい。なおついでですが、p.4のB)項内のS(Subtelocentricとしたのは"Submetacentric"に御訂正下さい。) 同頁3行目にRLD-1#3(4nになった群)と、何れものさらに培地無交新をおこなって細胞が生えてきつつあると書きましたが、これらの細胞について染色体をしらべたところ、大分前とは変ってきたことが判りました。(図を呈示)斜線が処置前の染色体数の分布、黒く塗ったのが前号p.3にかいたように('63-4-13→5-12)と('63-6-11→7-11)と2回に渉って無交新をおこなったあと、生えてきた細胞の染色体数の分布です。RLD-1,4n:これは4倍体が非常に多く、46%もあったのですが、上の処置后はこのピークは非常に低くなり、むしろ43〜44本が高くなり、全体にバラツキが出てきました。この系は(RLD-1,4nA)と命名しました。RLD-2:42本に大きなピークがあったのですが、処置后はピークが低くなり、数の少ない方へバラツキが増えた感じです。この系は(RLD-2,A)と命名。RLD-4:42本にあったピークが41本に移り、シャープなピークとなり、その他数の少ない方へバラツキが増えた感じです。(RLD-4,A)と命名。RLD-6:これは標本は作ってあるのですが、処置前の染色体数がまだかぞえてありません。(次の班会議までには算える予定です。) 処置后のは、22ケしかかぞえてありませんが、41本がピークで、バラツキ少なくチンマリとまとまっています。(RLD-6,A)と命名。
 以上の標本は、処置后約1月目に継代し、継代后TC3日の63'-8-29に揃って標本を作った。数の上での分散から考えると、RLD-1,4nAがいちばん、この中では可能性があるように思われるが、細胞の形態からみると、RLD-6が少し変っている。というのは、細胞質の突起が出来たり、頂度Hepatomaのように活発に歩き廻りそうな形の細胞がかなり混ってきたからで、その内これは映画にとってしらべてみる予定です。なお処置前のRLD-1,4nはすでに撮ってみましたが、まず運動性はほとんどありませんでした。RLD-4は全体的に継代のときトリプシンがとても効き難い株ですが、処理后もきれいにシートを作り、仲々細胞間の粘着力を失いそうに見えません。しかし、AH-7974などは余り動かず塊を作りますから(運動性=腫瘍性)とそう簡単には云えぬ訳です。なお図で、斜線と黒線とは別個の表を重ねたように描いてありますから、夫々の頂点が夫々の実際の細胞数です。
 (B)ラッテ腹水肝癌AH-7974の培養:
 AH-130が変ってしまって、硝子面に伸展しなくなり、増え方も悪くなったので、正常肝とのparabiotic cultureに使うために、別の適当な系を探していましたが、既報のように硝子面によく着く系がいくつか見出されましたので、その内からAH-7974の培養テストをはじめました。この細胞の特徴は腹水の中で塊を作っていること、培養の初め数日間は硝子面に着く細胞が非常に少いが、その后急にふえて、1週間もすると硝子面に一杯になります。いわば一種のlagがあるわけです。(図を呈示)それを初代でcountしてみますと、やはりlagが出ます。それで初めにinoculateした細胞が大分死んでいたかというと、そうでもなく、viablecountでサフラニンでしらべたが、殆んど全部生きています。だからこの培地で増える細胞と増えない細胞の2種類が、腹水系の中に混在しているのかも知れないと考えられます。だから培地を変えればこのlagのなくなる可能性もあると思い、目下pyruvateやinsulinを加えてしらべはじめたところです。
 図でみると、primary cultureの方はinoculumの内、せいぜい2〜30,000ケ位しか生きていないようにとられます。初代はトリプシン無し、第2代への継代のときだけモチダトリプシン200u/ml室温で10分間かけました。

《佐藤報告》
 発癌実験(A)
 これまでの研究でDAB or メチルDAB→ラット肝で組織培養上増殖促進がおこる事。それらは株化できる事がわかったが、1μg/1mlの濃度では(100〜200日)の連続投与でも今の所(最近Suckling ratsにinjしていますが結果はまだ分りません)正確な意味での発癌には成功していません。ラッテにinjして癌を形成さす事が先決問題ですが、DAB→ラット肝組織培養でDABの側がどの様に変化するかを見て従来の動物実験側と比較して見る事も必要と思い、実験を始め未だ僅かではありますが我々の実験に力を与えると思うので書き記します。 1)DABの溶解はTweenがうすいと安定しません。従来の濃度の4倍では確実にとけています。 2)DANと血清(牛)ではベンゾール抽出で僅かに抽出液で減少します。4日間の37℃ふらんきincubateでも僅かに減少します。
 3)第1回の予備実験は成熟ラットを用いましたが(生后69日♂)溶液中のDAB(測定値1.03μg/ml)のものが4日間に0.27μg/mlに減少していました。第2回の予備実験は(生后18日♂)使用、増殖促進結果と比較するために、(1)対照 7本、(2)DAB1μg/ml 4日 7本、(3)DAB1μg/ml 8日 7本、をつくりDAB実測値1.16μg/mlを入れた処、4日目の液で(2)0.23μg/ml、(3)0.24μg/mlとなっており第1回目の実験と同様液中からのDABの著明な減少が見られた。更に第8目の測定では、(2)群は0.04μg、(3)群は0.99μg/mlのDAB再投入のものが0.16μg/mlとなっていた。即ちDABの消費された4日めの液をかえて更にDABを投入しても著明にDABが消費する事がわかった。
 発癌実験(B)
 メチルDABの濃度を変化させて長期投与する方法として先づC10D株に1μg/ml、4μg/ml、10μg/mlを夫々17日間投与しタンザク法でしらべた処、1μgのものでは従来通り増殖し続けるが10μg/mlでは増殖を著明におさえられている。細胞核には余り強い変化はないが細胞質は大きな空胞(?)が現れ崩壊している。この場合耐性細胞は残る様なので10μg/mlのものは更に液替を続行して居る。形態学的な変化から見てTweenのものは影響も考えられるので(即ちDABμgとTween濃度が平行している。)、目下10μg/mlにおけるTween濃度で同様の実験を出発します。生体の条件と比較したとき分裂し増殖する事はDABの蓄積?にも影響するでせうから、出来れば血清等の濃度をさげて、或はそれによってコントロールして同じ容器中でDABを与えて見ようと考えています。
 発癌実験(C)
 染色体のパタンによる変動は依然続けています。従来のものを続けて見ていますがこの方には強い変化はありません。10月の班会議にまとめます。新しい株でのパターンを一つだけ書いておきます(図を呈示)。生后20日のラットを用いた実験、1962 12-27日出発したもの。著変は対照実験でも染色体パターンが右偏している。原因は上下のパターンで使用血清が途中で変動している事にあるのではないかと思っています。C35対照と同血清のものがすぐ株化しますのでパターンを見て見ます。長期を要していますので変動の原因が充分つかめるかどうかは分りませんが、できる丈条件を記載していって培養上における3N体の問題も解決する様努力します。

《黒木報告》
 Mouse Ascites Hepatoma MH129P、129Fの培養
 C3H mouseのascites hepatoma MH134、129P、129Fは転移実験における優れた材料として知られてはいるが、まだ培養は成功していなかった。最近、これらのうちMH129P、129Fが相次いで培養され、又その二三の特徴も明らかになったので、ここに簡単に述べてみる。(129Fも129Pとほぼ同様な経過特徴を有するので129Pをのみ記述する。)
 実験材料
 MH129P、FはC3H/HeNmouseのspontaneous hepatomaを腹水化したものである。 (佐藤春朗1956) 培養に用いたのは第301代の腹水。
 培養経過
◇1963年6月8日培養開始。角ビン使用。接種細胞数10万個cells/ml、100万個cells/bottle、培地Eagle(1959)+B.S.50%
培養当初の10日間は、壁につく細胞は極めて僅かであり、大部分の細胞は浮いている。しかし、この浮游している細胞をcountし乍ら追っていくと、次第に細胞は巨大化し(直径30〜50μ)やがて変性消失してしまう。
◇15日目より培地を20%B.S.+80%Eagleとし、週1〜2回の培地交換を続けた。40日頃までは、壁についている細胞はfibroblast様細胞と円形の細胞の二種類あり、その数は極めて少い。培地のpHもそのままである。
◇45日目(8月2日)浮游細胞が急激に増加、countしたところ30万個cells/mlあった。(trypanblueによる生死判定では10%が死細胞。) このため、浮游状で増殖する細胞と考え、以后浮游細胞のみを選択的に継代、現在10代102日である。
一方壁についている細胞は、fibroblast-likeであり、その数は増えていない。しかし今日までその細胞を選択すべく、浮游細胞を除きながら培地交換を続けた結果、現在fibroblastのfull sheetを得ることが出来た。しかし常に浮游細胞が混在し、両者を確実に分離することは出来ていない。
 培地の問題
 培地は15日目まで50%BS、15日より53日まで20%、53日以降は10%及び5%と血清量を漸次減らして来ている。5%でも10%でもその増殖は同様である。(5%の場合は最初の1代のGrowthは悪かった。) 現在、血清量を更にへらし、又Eagle培地の方も少しづつ変化させ無血清培地にまでもっていくため準備中である。
 増殖、移植性、染色体
 増殖は早く、そのGeneration timeは21時間前后である。更にこの増殖は少数細胞の場合でも、同様維持されている。即ち接種細胞数を10,000、1,000、100、10cells/mlとしたとき、そのGrowth curveへ平行となる。
 移植性は低下しているようである。100万個cellsをC3H/HeN inbredに移植して、tumor growthは6/6、tumor takeは2/6である(移植後50日現在)。その詳細は細胞数を変えて検討中である。
 染色体分析は正確にはみていないが、heper diploidy、大きいV型染色体をもっている。 この細胞のように浮いて増殖するものがあることは、株化に際して見逃さないよう一応気をつける必要があろう。現在まで知られているものとして、吉田肉腫、MN肉腫、RS(山根研究室、Reticlosarcoma患者の腹水)がある。壁につく細胞と比べるとき、長所も短所もあるが、今后、その所を生かすような実験を考えてみたいと思う。

《堀川挨拶》
 一足早い秋のおとずれに、どこの研究室もいよいよはりきって実験を開始されたことと思います。特にこれからのシーズンは、癌学会をはじめとして種々の学会が開催されるシーズンとあって皆さん方も多忙な毎日を送っておられることと思います。
 私が発癌実験グループの一員としてこの班に加えていただいてから早くも2年半近くになりますが、この間微々たる力でほとんど何の役にもたたないまま今日まで来てしまいましたことを深くおわび致します。おかげさまで渡米の準備も一応完了し、来る10月2日羽田空港からMadisonに向けて出発することになりました。
 癌学会、遺伝学会、そして更に多くの学会をま近にひかえながら、出席出来ないままで出発することにいささか心淋しいものを感じますが、これもいたしかたのないものなれば、いさぎよく次の研究室をめざして飛び立つことにします。念のためMadisonでの私の研究室のAdressを記しておきます。何かいいニュースがあったら知らせて下さい。勿論私の方からもこの月報には時々原稿を送らせていただいて、アメリカでの新しい情報をお知らせさせていただきたいと思います。
 私の滞在する研究室は遺伝生化学を主体にやる所で直接発癌の問題とは関連がないかもしれませんが、ここにはDr.Szybalskiのように体細胞でTransformationに成功したような人もおりますので興味のある情報が得られると思います。
 一方私の留守の間は前回の班会議でも御承認いただきましたように土井田幸郎君が私の代りに頑張ってくれると思います。留守中を守ってくれる土井田君も多忙のため多大の期待をかけられることは不可能かもしれませんが何卒私同様よろしくお願いいたします。
 発癌機構の解明ひいては癌の治療といった問題は今世紀の最大の焦点であり、特にウィルスによる発癌がしきりと証明され、更にその機構が究明されようとしている現在、化学薬剤による細胞レベルでの発癌機能の研究はウィルスと共に発癌の機構を解明するに最も良き手段と考えられます。それはウィルスと化学薬剤も一見正常細胞の異ったSiteを攻撃しているように見えても、その底にある発癌の本体には共通性があると考えられるからです。 どうか大いにファイトをもやして人類の宿敵である癌の本体究明のため頑張って下さい。私も十二分に頑張って二年後に元気な姿でお会いすることをお約束します。
 発癌グループならびに日本組織培養学会 万歳!! 大いなる発展を祈ります。
                               1963年9月23日

【勝田班月報:6311】
《勝田報告》
 発癌実験について、特にDABで増殖を誘導した細胞に対する、第2次の刺戟の影響をしらべたこれまでのデータを括めてみます。
A)培地無交新の影響:
大別すると3群の実験に分れます。
(1)各種RLD株に対する無交新2回施行の影響:1963-4-13→5-12と、6-11→7-11と、各1月宛無交新をおこない、8-26に継代した。その結果、細胞の反応によりほぼ5種類に分けられた。
 i)RLD-3、RLD-5、RLC-1:これらは第1回の無交新で、(細胞が丸くなり)、交新をはじめると(回復し)、第2回でまた(丸くなり)、次に交新をはじめても回復しなかった。
 ii)RLD-0:(丸くなり)→(回復し)→(円くなり)→(形は回復し)→、しかし切れてしまった。
 iii)RLD-2、RLD-4、RLD-6:(シートが剥れ、新しいコロニーが出てきて)→(交新でそれが増殖し)→(またシートが剥れ、新しいコロニーができ)→(交新をはじめるとそれが増殖する)。
 iv)RLD-1,#4(サリドマイドを後処置した系)、RLD-1,#2(DABの後処置)、RLD-1,#3(4nになったもの)、RLD-1,#5(一番Atypismの少ない系):(生存し)→(交新で増殖をはじめ)→(生存し)→(交新で増殖)。
 v)RPL-1(正常ラッテ腹膜細胞株):(第1回でシートが剥れ)→(交新で増殖)→(第2回でシートが剥れ)(核に異型性の変化が起ったが)→(交新をはじめると1週間で異型性は消えてしまった)
 これら何れも2回の交新無しに耐えて出てきた細胞に(A)を附し、たとえば、RLD-1,#2からの細胞は(RLD-1,#2A)とよぶことにした。
 Atypismの点からは、RLD-1,#2Aに最も強いAtypismが出現した。
(2)RLD-1株に対する反覆的培地無交新の影響:RLD-1,#3の系に今日まで何回もくりかえしてみた。最大5回までくりかえした。(4nB)の方はまだ4倍体がかなり残っているが、(4nA)の方はどういう訳か再び2倍体の方に戻りかけ、42本より少い方も多くなった。
(3)初代と第3代に対する無交新の影響:初代では#C27(1962-11-9開始)DAB4日、'63-2-16〜3-16まで28日間無交新→その間は生存したが以後切れた。
 #C39(1963-4-25日TC開始)DAB4日、5-16〜6-10まで25日間と7-1〜7-22まで21日間無交新、8-29日継代→しかし細胞が硝子面に附着しなかった。
 継代第3代では、#C42(1963-30日TC開始)DAB4日、7-25日継代、9-5〜9-23まで14日間無交新→切れてしまった。
 以上のように株細胞でも無交新に強いものと弱いものとあり、かなり面白い変化の出たものもあるが、初代或は継代初期の細胞は抵抗力が弱く、切れ易いのは実際的に用いる場合困ったことである。
 培地無交新の影響を染色体の上からしらべた結果は分布図を展示するが、4倍体辺りに移るもの、ほとんど変らぬもの、少しふえるもの(例43本)、少し減るもの(41本)など色々あり、一定した変化は見られない。しかしそれはそれで、むしろ生体の発癌状況に似ているとも云えよう。
 B)ホルモン添加の影響:
これまで成長ホルモンとテストステロンの2種を用いたが未だ余り深くやっていない。
(1)成長ホルモン:#C24(DABを4日作用後)、第22日→26日(4日間)70μg/ml与えたが、第33日に継代し、対照群ともに細胞が附着せず、切れた。
(2)テストステロン:#C27(DAB4日)、対照は第45日の継代後に切れた。DAB群に、第10→14日(4日間)10μg/mlテストステロンを与えたのは株化し、RLD-6となった。第10→45日(35日)1μg/mlは切れた。
 C)DABによる第2次刺戟及び長期添加の影響:
#C17(DAB1μg/ml、4日):実験群はそのまま後にRLD-5になった。それに1月に1回宛(4日間宛)1μg/ml、計2回与えたのは、継代後切れた。
#C23(同上):以後10日に1回(4日間)宛1μg/ml、計3回。継代後やはり附着せず。(対照は附着)
#C38、(DAB 0.1μg/mlを入れ放し)第25日に継代したが附着せず。
以上は何れも初代であることに御注意下さい、(佐藤班員のは株)
RLD-1,#2、1月半毎に1回(4日間)1μg/mlに添加し、4回くりかえした。これは株化して#2となった。(染色体数42本)
 D)サリドマイド添加の影響:
(1)RLD-1株への影響。RLD-1,#1,#5,#6株に、0.1、1、10、50μg/ml濃度で添加したが、5例中3例は巨核巨細胞の出現傾向は見られたが、非添加群との差が見られない例もあった。染色体標本用に使用した後に、1963-1-22→2-6(15日間)の他に、2-16→3-3(15日間)何れも10μg/mlを与え、株化してRLD-1,#4となった。
(2)初代培養への影響。#C35(DAB、4日)第8日:DAB群15/15、内8本(そのまま)・・・→株化→RLD-8。残りの7本(第14日→18日:サリドマイド10μg/ml)・・・→株化→RLD-9。対照群5/5、内2本(そのまま)・・・→株化→RLC-3。残りの3本(第14日→18日:サリドマイド10μg/ml)→切れた。
この実験ではDAB群、サリドマイド後処置群、対照群、何れも株化したのが面白い。
#C36(DAB4日):第15日DAB群12/14、内7本(そのまま)・・・切れた。残りの5本(第15日〜40日:10μg/ml)・・・切れた。対照群2/5本・・・継代のとき切れた。
以上のように、サリドマイドは株によっては巨核巨細胞を作るのを促進する効果があるらしい。初代に対してはやはり核を少し大きく異型的にする。しかし何れも一過性の変化らしい。
 E)培養細胞の復元接種試験:
 次表のように、これまで18回復元を企てたが、何れも失敗に終っている。これは、細胞自身の性質を変えることができたか否かの他に、復元法の問題も入ってきて、2つの要因がからみ合っているので、仲々むずかしいところである。今後は細胞の性質を変化させる努力と共に、復元法の改良も考えて行かなくてはなるまい。

 :質疑応答:
[佐藤]さっきの培地無交新のときの(A)系の顕微鏡写真は、継代後同じ日に作っているのですか。
[高岡]Aの系列は一緒に処置して、同じ日に作りました。
[山田]形態に現れた変化は、その後継代してもそのままつづきますか。
[高岡]2ケ月以上になりますが、今だにその変化したままです。
[山田]増殖度は変っていませんか。培地を変えないと、呼吸の阻害やpHの変化などがありますが、HeLaの場合には全部、増殖度の落ちることを見ています。そして増殖を回復すると元の形態に戻ります。
[奥村]解糖系が高くなったとき、培地中の糖の量をあげて、4.5g/lにすると増殖が回復しますね。
[山田]無交新というのは解糖能の高い細胞をえらぼうとしているのですか。
[勝田]1ケ月も培地を変えないでおくと、培地中の糖はほとんど無くなってしまうと思う。そこへ糖を多量に加えて、それが果して選んだ細胞の増殖を上昇させることになるのでしょうかね。とにかく無交新というのは、生体内での発癌の初期の状態を考えて、いわば凖嫌気的におくことで癌化する可能性がないか、と思って試みているのです。
[安村]復元法ですが、同じ細胞数のときは、脳内の方が感受性が高いと思います。細胞集団のなかの一部が癌化しているとすれば、動物を使ってselectすれば良いのではありませんか。菌の場合ですが、同じ培地で飼っていると、たとえHistidine要求のない菌ができてもそれは反って淘汰されてしまう。要求のない変異株をとるには、His(-)の培地に飼わない限りとることはできない。しかしHis(-)の菌は、いつも少数ながら必ず親株のなかに次々と生まれてはいるのです。なおmutation rateは100万個〜1,000万個に1ケの割りです。
[山田]癌細胞の場合は少数であっても消えずに増えるのではないでしょうか。
[安村]100万さしても発癌しない(腫瘍を作らぬの意らしい)なら、どうも悪性化していないというより他ないが、1,000万さしてつくなら変異株を拾ったということになりはしないでしょうか。
[佐藤]AH-130の長期継代をして腫瘍性が落ちたというのならば、現在の培地は肝癌細胞向きでないのではないでしょうか。
[奥村]腫瘍性の低下ということは、期間の問題もあるから単に培地だけが問題とは云えませんね。
[安村]AH-130の腫瘍性の低下したものを、腫瘍でなくなったと考えるのかどうか。もとは癌であって、動物を殺さなくなってしまった期間の細胞を何と呼ぶか・・・。
[山田]移植性があるとかないとか云えば良いでしょう。正常とか悪性とかいう概念より、中途の段階的な、定量的な呼び方として。
[安村]癌になったかどうかを、動物で癌が出来るか出来ないかで決める、という現象論で決めるのなら、発癌させなければ(腫瘍を作らねば、の意らしい)、それまでだが、細胞が悪性化していても、方法が悪くてそれを認定できない、ということの方が大きいのではありませんか。だからその方法を改良することにもっともっと力を入れるべきだと思います。
[勝田]そのことは私の報告の最後にすでに云ってあるところです。結局我々が問題にしなくてはならない点を整理すると三つになると思います。その第一が、いかに培養内でうまく癌化させ、しかもその癌化率を大量に且確実にするかです。第二は、うまく癌化したものを、培養内でいかにうまく大量にふやすか、です。培地の工夫も勿論含まれます。第三は、復元法です。復元法如何によって、もちろん、たとえ癌化していても、つかないことがあり得るのですから、復元法を吟味することは大切です。現在我々はこの三つを、三つとも能率向上させなければならない立場にあります。
[安村]とにかく復元法を検討すべきだと思います。
[奥村]移植という問題は、また難しいことになります。
[伊藤]吉田肉腫は1ケでもつく、といいますが・・・。
[奥村][黒木]1ケでもつく、という癌細胞は非常に少ないですね。
[佐藤]培養内で、培地の血清をラッテの血清にかえて、ラッテに復元したときつき易いようにselectしておくとか、いろいろ準備はしています。
『附』この場合の安村君の発言は、非常に空論である。我々自身がすでに考えていることをそれ以上強調しても何にもならない。それよりこのような席上では、それではどのような動物を使って、どのような注射器で、どのような量で、どこに接種するのが良いと、具体的なadviceにつとめるべきである。またその理論そのものにしても"すでに癌化はしているが復元法が悪いからつかないだけだ"という風にもとれるが、私は決してそう思わない。何度も云っているように、正常肝とのparabiotic cultureの結果からみて、"私は"前癌状態までは行っているが、未だ悪性化はしていない−と見るべきだと思っている。後処置をして、変化の面白いものもある。しかしそれらはまだ復元してないものも多い。復元法如何だけがいま鍵だというのではなく、現在では、まだ三つの要因があくまで完全に解決されないで残っていると考えるべき段階と思う。この前の班会議では盛に脳内接種を宣伝されたが、具体的データを今回の癌学会できいてみると、最初の動物移植のときは、脳内は成功せず、皮下のが成功している。だからこれらの発言は、安村君が自分自身に向っての心の苦悶を自問自答している−ととれば、我々もあまり腹が立つまい。それに対して、後に報告した黒木班員のハムスターへの復元は、我々に新しい一つの道を教える意味で、模範的な(積極的adviceに富んだ)発言であると思う。このような発言こそ他の班員にとって大きなプラスになる。班会議というものは、ある程度目標が絞られているだけに、かなり実際的な発言をしないとそれが活きてこない。単なる批判だけでは駄目で、それよりこれを、と具体的に別のもっと良い方法を知らせ合わなくてはならないと思う。(勝田)

《佐藤報告》
(1)染色体数の変動について: 
 呑竜系ラット肝対照株の染色体パターンの表を展示。生後9〜25日、総培養日数は223〜513日、7例の検索結果では変動の理由は分らないが、染色体数の主軸が2倍体より少数のところにあるもの、やや増えているもの、4倍体に近くなっているものと様々である。生後日数、培養日数との関連は見られない。
 次に培養初期にDAB及びメチルDABを与えた後、株化した細胞株9例の染色体パターンの表を展示。対照と比較して、染色体数の主軸の減少がやや目立つ。
(2)Primary CultureにおけるDAB(1μg/ml)の減少:
 グラフ提示。従来の方法で呑竜系のラット肝(生後18日)を用いてDAB1μg/mlを加え、4日後培地中のDABを測定した。20%(19.3%)程度にまで消耗していた。LDのみで液替えをして後、第8日目3.7%、第12日目0.9%であった。
 またDABを1ml/1μgに4日与えた液は畧同様20.7%になっていた。この液を捨てて新たにDAB1ml/1μgに投与すると4日目16.2%に減少していた。以下はLDのみの液替えでDABは消失する。またprimary cultureした対照を16日になって始めてDABを1ml/1μgに入れて見た。4日目の溶液中のDABは2.8%で前2者より著明に減少していた。
 次に8対照株を材料として1ml/1μg(測定値 1.08μg/ml)のDABを300万細胞で平角に培養した状態4日でのDABの減少は、1.08μg/ml→0.13μg/mlで、その4日間で対照群の300万→672万に対してDAB添加群は300万→1100万と、増殖の促進が見られることは興味があり、今後完全な方法で計数して見る積りです。
 次に生後69日の呑竜ラット♂の肝及び腎を用いて1日、2日、3日、4日の間隔でDAB1ml/1μgの消耗を見ました。40mlの共栓遠心管(高速回転培養瓶)を使用して培養液7mlの状態で廻転培養した。試験管内の細胞重量との関係も将来考えねばならないし、又DABの消耗原因をしらべて見なければならないし、多くの問題を含んでいるが、この実験でも、非常に速くDABが液中から消失することは興味が深い。

 :質疑応答:
[山田]耐性になっているのですか。細胞膜の透過性が変るという例にあてはまりませんか。
[佐藤]よく判りません。今度は培地内の血清量を減らして、増殖しないという状態にしておいて、しらべてみたいと思っています。
[勝田]DABの定量の問題で今後やるべきこととして残っているのは、1)短期間つまり1日以内での各時間での培地内DABの減り方、2)株で実験するとき、ちゃんと細胞数をかぞえて、平均細胞数を出し、細胞一定数当りのDABの減る量をはっきり計測すること、3)その減り方が培養の時期によって変らないか、変るにはちがいないがその変り方、4)株にDABを各種濃度に入れてみて、その増殖に対するDABの影響などの点でしょう。
[佐藤]Ratのageが大きくなるとどうもDAB添加期間の永い方が良いように思われます。
[勝田]DABを連続して入れておいた株の培地から、一時DABを除き、しばらくして又DABを与えると、培地中のDABがまた大量に減るようになりはしないでしょうか。つまり本当に耐性になっているのか、一過性のものか、この点です。
[佐藤]細胞が増える状態のときと、増えない状態のときとは、細胞のDABに対する態度がちがうのではないかと思います。
[奥村]もちろん、そういう量的でない、質的な違いがあるように思いますね。
[勝田]細胞への増殖促進効果があるとすれば、それは何かした細胞の代謝に関与しているわけですからね。
[関口]細胞内でのprotein-boundのDABと、freeのDABとを、培養初期と長期のものと比較してみるべきですね。
[遠藤]ベンゼンで振ると、protein-boundのものもfreeの中へ出てしまうのではないですか。
[佐藤]proteinへの結合には、固いものを緩いものと2種あるでしょう。固いものはベンゼンで振っても絶対にとけてこない訳で、それは別に測ればよいのです。
[勝田]問題は細胞の内ですね。内部に入ったものがそのままproteinに結合してがっちり動かないのか、それともたえず培地中のDABとtornoverしているのか。連続してDABを与えていても少しは減るというのは、どういうことでしょうね。だから細胞1ケ当りのDABの減り具合をしらべておけば、それが細胞が増殖したため、増えた分だけまたDABがくっつくのかどうか、ということも判りますね。初代培養でこれをやるとすれば、やはりliverのcell suspensionでcell countingをして培養しなくてはなりません。これはうちでもやってみましたが、伊藤班員がやっているようにテフロンのhomogenizerでゆっくり動かして、perfusionした肝の肝細胞をばらす方法でうまく行くと思います。これに関連してですが、テフロンは温度によって膨張収縮がかなり強く、細胞を痛めずにばらばらにするのに頂度良い大きさ(隙間)にするのが非常にむずかしいと思いますが、伊藤君の処は何度位で操作していますか。
[伊藤]普通に室温でやっています。
[佐藤]proteinについたDABはどんどんturnoverしていると云いますね。
[関口]蛋白に結合してもN-oxideの形でいるのかも知れません。
[勝田]N-oxideの形に変えるとしたら、それも培地中に出てくるだろうから、DABとN-oxideを分けて定量できぬかと寺山氏に昨日聞きましたが、難しいそうです。

《杉 報告》
発癌実験:
 Golden hamster Kidneyのprimary culture−diethylstilbestrolのExp.1〜33までを総括すると(表を呈示)、廻転培養では実験群、対照群とも細胞は比較的よく生えるが、繊維芽様細胞が多数を占め、特に上皮様細胞は出てこない。pyruvic acidの効果はあるかどうかはっきりしない。例の上皮様細胞団を多く生やす目的で培地上に流動paraffinを重層して培養したが効果は特に認められなかった。Exp.17を復元したものは、そのごもtumorを作らない。markしている上皮様細胞団の細胞内空胞と思われる部分はSudanIIIで染色されなかった。
最近hamsterが殖えなくなりましたが、現在、増殖用飼料で繁殖させる様、努めていますので新しく生れてきたら、細胞を大量に生えさせる工夫をして復元を繰返し試みたいと思っています。

 :質疑応答:
[安村]ハムスター腎を培養すると必らず上皮様の細胞が出てきます。だから今の実験のままでは、Stilbestrolが上皮様細胞をselectするということは必ずしも云えないでしょう。むしろ対照に出てきた細胞にstilbestrolをかけてみたらどうですか。そこで上皮様細胞がselectされるのならば、それはstilbestrolの作用と云えましょう。
[勝田]これだけやって長期培養が1例もできないというのは何か培養法自体に欠陥があると思います。そこを検討してみるべきではありませんか。それからstilbestrolはホルモンの1種でDABのような非生理的化学物質とちがうから、やはり長期に渉って作用させた方が効果が出るのではないでしょうか。
[遠藤]Stilbestrolがホルモンであると考えるのは一寸問題があると思います。殊にin vitroの腎に対しては異物と云えるかも知れません。
[勝田]実験データが或程度たまったら、こんどは色々の視角から整理してみる必要があります。たとえばハムスターのageの順に並べてみるとか、濃度で揃えるとか、或は性別で分けるとか、です。それから培養も、何もexplantに固着しないで、トリプシン処理して初代から大量に培養してみることも試みるべきではありませんか。そうすれば長期培養も楽になるかも知れません。

《伊藤報告》
homogenizerを使って細胞浮遊液を得て、短試験管→廻転培養のsystemで実験を続けています。
 1)今回は対照群(A)、DAB(1μg/ml)7日間添加群(B)、DAB連続添加群(C)の群に分けて検しましたが、morphologicalには特に変化を見出していません。
 2)数の計測の結果では、前回の報告にもありました如く、実験群特にB群に於いて、試験管によって、2〜3倍の細胞数を含むものがある。(増殖曲線を呈示)
 3)C群(入れっぱなし)は最近(実験開始後約2ケ月)になって全体に細胞数の減少の傾向がみられる。
 考案:
 1)前回の報告ではcell suspensionで計測した細胞の約1/4が管壁にくっついてはえると報告し、その点について勝田先生から「管壁につかない細胞についても計測して行く様に」とのAdviceを戴き、又先月の黒木氏の御報告からみても、浮遊したままの細胞についても検討する事の必要性を感じた訳ですが、今回の実験では、分注した細胞の殆んどが管壁について呉れましたので、その点での心配はありませんでした。これは今回とれた細胞の具合がよかった為か、又Inoculumを減らした事が良かったのかも知れません。
 2)次回からは短冊も入れて、morphologicalな検討も併行する。
 3)実験群に時々見られる細胞数の多い場合と云うのが、増殖誘導と考えてよいものか否か、若しさうであるとすれば、此の様な細胞を残す事を考える必要がある。
 4)2ケ月近くのDAB添加ではやや細胞障碍的に働くのではないか。
今後此等の事を考えに入れて、次の実験にかかり度いと考えています。
又廻転培養は何かと不便ですので、静置培養の方も再度試みる積りです。

 :質疑応答:
[勝田]増殖細胞の核はちゃんと見分けられる筈ですから、cell countingのときよく気をつけて見て下さい。またグラのかき方ですが、DABを加えて増え出している方のは、平均ではなく各々の点を打った方が判り良いと思います。何とか途中で増え出したtubeを見付けられるようにしたいですね。(例えば平型短試を使うとか。)それから大量にスタートして、短期間にしらべ、どの位の時期から増え出すか、つきとめて頂きたいですね。

《黒木報告》
Hamster cheek pouch移植法の基礎的研究
 I.非処置Hamster cheek pouchへの吉田肉腫細胞移植:
 異種移植による培養細胞の同定は、Foley,Handlerらによって、大規模な実験が行われ、そこから得た経験的法則は確立したかに見える。Foley,Handlerらの最近の綜説は、J.Nat.Cancer Inst.Monograph No.7 1962に出ているが、これを読んで感じたことは、次の三点である。
(1)Control実験とも云うべき"originのはっきり分った細胞"を用いての実験が一つも行はれていないこと。
(2)invasivenessと云う言葉は出て来ても、それについての具体的表現のないこと。
(3)我々の研究室で系統的に行っている少数細胞による同種移植と比較するとき、余りにもそのDataがよすぎること。(例えば、吉田肉腫は呑竜ラットに1ケでも50%移植可能であるが、MH134等はC3Hinbred mouseには100ケ、(C3Hxdd)F1には10,000ケ必要である。
 これらの疑問を検討すべく、Hamsterを用いての基礎的な実験を本年8月より開始した。そして、この実験を始めるに当り次のような基本方針を定めた。
(1)実験に用いる細胞は、悪性、良性のはっきり分った細胞のみを用いる。この目的のため、当分の間は腹水腫瘍のみを用いる。
(2)cheek pouchの移植部位としての特殊性(Foleyはprivileged statusと表現している。)を確かめ、更にcortison処置、X-ray照射等の基礎条件の検討を行う。このために、最初は細胞を吉田肉腫のみに限定し、様々な方法で移植比較を行う。
(3)組織学所見を重要し、浸潤性の検討を行う。
(4)長期間の観察を行う。
 以上の4つの方針に基ずき、今後実験をすすめる予定である。今回はその第一報として非処置Hamsterへの吉田肉腫の移植性をReportする。
§実験材料及び方法§
☆Hamster
 用いたHamsterはGolden Hamsterである。これは予研病理より抗研山根研究室へ分けられたものの子孫である。現在のところ自家繁殖により供給しているが、Mouseと同等、あるいはそれ以上の繁殖力を有するとは云っても、限りがあり、十分な実験はできない。しかし最近、実中研からの連絡によると需要があれば大量生産を行うとのこと故、今後は楽になるものと思はれる。なお、Hamsterの繁殖において注意すべきことは(1)生後10日から30日までは新鮮な野菜を与えること。これによって離乳率を80%〜90%に上げることが出来る。その他のHamsterは固形飼料で十分である。(2)Cageは丈夫なふたに止め金のついたものを用いること。普通のCageでは簡単に逃げ出してしまう。
☆移植方法
 今回は生後30〜60日、体重50〜60gのものを用いた。Nembutal麻酔(0.1ml/100g ip.inj.)によりcheek pouchを引き出し(第一回)ツベルクリン注射器により0.1mlの細胞浮遊液をcheek pouch粘膜下に注射する。今回はCortison処置は行わない。
☆細胞(吉田肉腫非培養腹水)
 吉田肉腫移植後3〜4日の謂る純培養状態の腹水を血清10〜20%添加Eagle培地(glutamin less)で稀釋した。この状態の腹水は1.0〜2.0x10の8乗/mlの細胞を含む。移植細胞数は1.0x10の7乗、10の6乗、10の5乗、10の4乗、10の3乗、10の2乗、10の7段階である。
一群4匹(Foleyらは一群3匹である)計8つのcheek pouchを用いた。片方のpouchは移植後様々な日数で切除し(電気メス使用)残りのpouchは最後まで観察する。
§実験結果§
 経過の判定基準は
 I.:腫瘤を全く作らないもの。
II.:米粒大の大きさに達っするが、間もなく消失する。
III.:1.0x1.0cm以上の大きさに達っし、粘膜と腫瘤は癒着し、粘膜面はうっ血出血ビランがみられる。しかし、nekroseとなり消失する。(膿瘍形成は含まない。)
IV.:更に大きくなり、4.0cm以上となる。そのため、腫瘤を口腔外に引き出すことは困難となる。腫瘤表面の皮ふは発赤し、潰瘍を形成、感染し、ついには死に到る。
以上の試案のうちI.II.を陰性、III.IV.を陽性と考えた。なおFoleyらの判定基準は次のようなものである。The development of a nodule that became vasculized and grew progressivel was considered as evidence of growth. 従って上記私案III.IV.と一致するものと思はれる。
 結果は(表と写真呈示)、一応(+)と判定されるもの(Foleyらの基準に従い2/6以上を+とした)は10の2乗以上である(10の3乗のDataについては再試する予定)。10の6乗以上のとき、前例陽性となる。又10の4乗のときは死亡するHamsterも出る。しかし死亡したHamsterを剖検しても肉眼的に転移は認められず、感染症により死んだものと思われる。(くずれおちたcheek pouchは巨大な潰瘍となり、その部に蛆の発生することさえある)従って腫瘍死か否かについては疑問があり、組織標本により詳しく検討する予定である。

 :質疑応答:
[勝田]培養細胞の場合は、数がなかなか増やせないときなど、この方法を使って、ハムスターのチークポーチで一旦ふやしてからラッテに接種するという手もありますね。
[安村]コリエルはラッテ肺に入れると効率が良いと云ってますが、実際はあまり良くないらしい。
[黒木]チークポーチは100万個入れるとNormal tissueでもつく、といいますね。それからCortisonの効果は細胞数1ケタに相当します。Foley-Handlerは培養細胞だけを培養でテストしています(Syverton Memorial Symposium #6)。ハムスターをねむらせるのにエーテルは駄目で、ポーチを出すころ目をさましてしまいます。だから眠り薬を腹腔に注射して処理する必要があります。

《山田報告》
1)2倍体繊維芽細胞株の増殖度の変化とコロニー形成率並びにDNA合成との関聨:
 前にもかきましたように2倍体細胞株は継代につれて増殖度がかわってきます。増殖度を単に4日培養における増加倍数でなく増殖曲線対数期における世代時間で比較しますと、(図のように)継代30代近くまで世代時間に変化なく33.2±4.5時間程度になっています。しかし20代以向は増加倍数はすでに低下の傾向にあり、これは増殖曲線のinitial fallの深さがだんだんに大きくなることにより説明されます。すなわちTrypsin処理によって新たに植込んだ細胞数中、生存細胞数の頻度が徐々に低下することが推定されるので、Eagle基礎培地+10%仔牛血清培地中でのコロニー形成率を調べてみました。結果は(表の通り)たしかに継代につれてコロニー形成率が低下することが認められますが、若い継代細胞でもやく30%の形成率しか得られず、培地が完全でないことが予想されますので、正しい生残率として表現することはできません。しかし一定の傾向として継代につれて著しくコロニー形成率が下ることがうかがわれます。なお血清濃度を20%にあげますと多少コロニー形成率が上昇します。今、CEE、Medium199、109、核酸前駆体、Vitaminなどの添加で形成率の上昇をはかっています。次にH3thymidineとりこみからみたDNA合成の態度を見ました。これで判ったことは、全細胞集団中一部の細胞しかDNA合成および増殖に関与していないことです。H3thymidine(1μc/ml)の連続ラベリングの成績で(表)みると、若い継代細胞株で80%、古いもので60%しかラベルされません。HeLa細胞ではコロニー形成率が100%に近く一世代時間のH3-TDN接触で100%ラベルされます。ということは、HeLaでは全細胞が増殖に関与しており、しからずんば死滅という感じです。一方2倍体細胞では一部の細胞が増殖し、他の一部は生存してDNA合成も行わないことがうかがわれます。この非増殖細胞が次第に増加して細胞集団の老化現象として認められるようになると考えると、今後は増殖と分化の関係をこの実験系で追求できるかも知れないと希望を持ちはじめました。
2)マウス胎児の2倍体細胞株の分離とコバルト60γ線による変化の追求:
 すでに4回胎児肺組織よりの繊維芽細胞系の分離を試みました。人の場合よりEp細胞の消失がおそく、7、8代で尚EpとFbが混在しています。一部の細胞には500γのコバルト60γ線を照射して細胞の変化を観察中ですが、恢復が一般におそく時間が必要です。
3)閉鎖系にするS3-HeLa細胞のコロニー形成率:
 勝田さんからの話で、同じ炭酸ガスフラン器を使用し、閉鎖系でのコロニー形成率を調べました。細胞を植込んですぐにシールしてフラン器に収めますと、同じ培地ではpHの上昇が起り、pHの上昇のためにコロニー形成率が10%以下になりました。そこで一旦炭酸ガスフラン器に収め、pHを調整して、その場でシールした所、解放系と変らぬ形成率を得ることができました。

 :質疑応答:
[安村]12代以前のときplating efficiencyが上っていませんか。立上っていると困りますね。
[山田]まだ見てありません。これからやります。今後はマウスの肺を培養してそれに放射線をかけることをやろうと思っています。
[関口]HayflickのLeucineのとり込みのことですが、ただC14-Leucineが入ったといっても、それが単なるturnoverで入ったのか、それともproteinのnet synthesisがあったのか、例えばH3thymidineなどを同時に使ってないのでunbalanced growthでない、ということが云い切れないのではありませんか。
[山田]その通りですが、そこは見てありません。
[勝田]継代につれて例えばcollagen合成能がどのように変化して行くかなどを見て行くと面白いでしょうね。

《土井田報告》(要旨)
 L細胞400万個/bottleにコバルト60γ5000rをかけて耐性細胞を作りましたが、ID50は530r(L原株は270r)です。染色体数のピークの移動は63本(L原株)→61本→53本→51本→50本→47本(5回目)→44本(7回目・80位もふえている)→42本(8回目・80位もふえている)と下って行きます。核型は小さいfragmentのようなのが出ています。二次狭窄の形のがある気もしますがマーカーとも云い切れません。結論としては、変異と淘汰の組合せと考えます。放射線をかけると染色体が減るということは事実ですが、減ったことと耐性とは必ずしもむすびつけられないと思います。以前にHeLaでやったときは2集団の混合であるような結果が出ました。

 :質疑応答:(脳内接種について)
[佐藤]1000個位の細胞を脳へ入れるときは、どうやって算えるのですか。
[安村]濃いのを算えて、稀釋して使います。
[佐藤]非常に誤差が出るでしょう。
[安村]桁の問題で、誤差があってもかまいません。

【勝田班月報・6312】
《勝田報告》
A)L原株及び無蛋白培地内継代4亜株の間の、細胞構成蛋白のアミノ酸組成、並びに完全合成培地内アミノ酸消費の比較
 この仕事はすでに今年の初めの月報でも少し報告し、詳細は今秋の癌学会と組織培養学会で発表しましたが、数値として月報に最も新しいデータを示しておいた方が良いと思い、書くことにしました。今年初めの月報のデータと少し違いがありますが、これは培養の状況が少し異なるためです。たとえばL・P3は前の月報にかいたときは増殖が悪いので、あとで実験をやり直したのです。今月号にはその増殖の良いときのデータを示します。
 (1)細胞構成蛋白のアミノ酸組成:
 acid-soluble fraction、lipoprotein fraction、nucleic acid fractionを除いたあとの、いわゆるcell-constituting proteinsの分劃を、酸水解し、そのなかのアミノ酸組成をアミノ酸自動分析計(KLA-2型・日立)で全分析して比較しました(表を呈示)。
 各株のアミノ酸組成はモル比に於てはかなり似通った組成を示していますが、細胞1,000万個当りの量に換算しますと、5株の間でかなり相違が見られました。L・P1→L・P3に対してL株は約2/3、L・P4株は約1/2で、細胞がやせていることが判ります。
 (2)完全合成培地DM-120内でのアミノ酸消費像の比較:
 DM-120に入れますと、各亜株は勿論のこと、L原株でも数代の間は増殖をつづけます。DM-120に入れて2日后に培地を交新し、第2日から第5日までに使ったDM-120をアミノ酸分析にかけました。その結果を1,000万個当りに換算したのが次の表です(表を呈示)。
 ここでまず目立つのは、定量的な差だけではなく、定性的な相違も見られるということです。グルタミン酸のあとに現われるX1とX2のpeaksがそれで、原株ではX1が現われ、L・P1、L・P2、L・P3はX2が出ます。L・P4はどちらも作りません。X2は恐らくCitrullineと推定され、ureaの全く認められないところから、図の点線のような経路が予想されるわけです(図を呈示)。最近、PPLOがcontamiしていると、この経路が働くという報告があります。しかし当室ではこれまでずっと抗生物質を培地に入れてありませんから、PPLOなどが入ればすぐ判る筈です。だがEinwandを除くために一応PPLOの培養テストも計画しています。
 次に面白いのはL・P3のアミノ酸消費で、Arg、Ala、CySH(SerとGluNH2はpeakが重なっているので不明)だけを消費し、他のアミノ酸は合成してむしろ培地中へ出しているということです。だからこのpopulationの中からもっと合成能の強い細胞をselectして行くと、しまいにはglucoseだけで全部作ってしまうような細胞が生まれてくるかも知れません。
 上記のように消費したアミノ酸を、それではどれだけの効率で新しく作る蛋白の中に組込んで行くか、ということですが、テストした期間に増殖した細胞数を細胞構成蛋白のアミノ酸組成表にあてはめて計算し、下の式を使って下表のような結果を得ました(表を呈示)。[培養当りの消費された各アミノ酸μMoles]/[培養当りの新しく合成された構成蛋白内各アミノ酸μMoles]。
これをUtilization factor(Mohberg & Johnson;J.Nat.Cancer Inst.31(3):611-625,1963)とよんでいます。つまり取入れたアミノ酸を100%蛋白合成に利用していれば数値は1となり、無駄が大きければ数値は大きくなる。L・P3は最も効率がよいことが判る。
 B)L・P3細胞へのCO60γ照射と、照射后のアミノ酸代謝:
 山田班員に依頼してL・P3にCO60γを1,000rx2回かけてもらい(実施表を呈示)、その后、前述と同じ方法でDM-120内のアミノ酸の変化をしらべた。培養はTD-40瓶で、46cmの距離で25rx40分(計1,000r)宛照射した。
 第1回の照射后は細胞の変化は認められず、増殖をつづけた。第2回の照射后1w位して少し変化が目立ってきた。22日后に継代したが、細胞は突起が多く、細胞全体が大きくなったように見え、細胞間の間隙も広まってきたように思われた。継代第2日〜第5日に用いた培地をアミノ酸分析に当てた。なお、分析に用いた以外に継代は続けているが、第2回照射后2ケ月頃から、大きさが照射前と同じ位小さく、形態もきれいに整った細胞が散在的コロニー状に出現し、増殖をつづけています。或はこれは耐性細胞かも知れぬと目下たのしみにして増えるのを待っています。
 (表を呈示)3日間に細胞1,000万個が消費及び産生した各アミノ酸量を、無照射L・P3と照射L・P3とで比較した。Argの消費が高まり約5倍となり、それに伴いX2の産生も高まって、これをCitrullineとして計算すると、やはり約5倍となっていることが判る。His、Ala、Leuの消費も目立って高まり、逆にThr、Valは産生が増している。
 (表を呈示)また、Argをスケールとして、そのCitrullineへの転換比と、合成された新構成蛋白への利用率をまとめた。但し后者は照射されたL・P3も無照射L・P3と同じ構成蛋白のアミノ酸をもっていると仮定しての計算である。無照射の35.5%が照射后はわずかに1.1%となり、照射により蛋白の合成系と分解系との間のバランスが激しく混乱を生じ、合成系もきわめて効率の悪い合成をむやみに行なっていることが判る。
 なお、この場合のL・P3はまだ耐性細胞ではなく、上のデータは要するに照射による障害をみたものと考えてよい。いま生え出してきている細胞が耐性であるか否かは別としても、それについても今后またアミノ酸分析をおこなってみたいと思っています。

《佐藤報告》
 発癌の判定
 我々はDAB或はメチルDABを生体から取りだされた肝組織に短期又は長期に投与して増殖させ(1μg/ml)その細胞をラットに復元して癌をつくらせる方法をとって来た。然しながら現在まで実験例42、ラット数82中、最近脳内水腫をおこした一例以外陽性の結果を得ていない。此等の実験は染色体パターンや細胞群の多型性を判定として続行されている。
 今回は安村氏からの提案について復元法の内Suckling rats脳内接種の効力を試みた。色々の方法がありますがまづ第一にAH-130(腹水肝癌で伝研勝田班長の所でJAR系ラットに継代中であり培養株も存在するもの)を分与していただき岡山でDonryu系に継代した動物株で腫瘍性を判定した。現在まだ十分の結果はでていないが実験1、2の表を示しておきます。Exp.AH-Tox.No.1:1963-10-29 Suckling D-Orats 20〜24hours after birth、
  Material F1(2)6th day after AH-130 inoculttion:intracerebral 0.03ml。
  Exp.AH-Tox.No.2:1963-11-6 Suckling D-Orats 10hours after birth、
  material F2(2)8th day after AH-130 inoculation:intracerebral intraperitoneal  0.03ml。現在1,000及び100について実験を続行中です。
 親が仔をたべてしまってTumorを確認できないもの以外は、全部13〜16日でTumorをもって死亡しています。この実験が完了し次第、勝田班長に培養株をいただいて培養株→復元の問題について検討する予定です。
 DAB発癌については、培地内DAB消耗の確認と10μg耐性株の増殖につとめています。良くいけば12月の班会議に間に合うと思います。

《黒木報告》
 Hamster cheek pouch移植法の基礎的研究 
  .Hamster Mouseの皮下、腹腔内移植との比較
 異種移植の部位としては、Hamster cheek pouchの他、睾丸、脳、前眼房、無菌動物(SPF)、新生児動物、胸腺摘出動物等が用いられております。睾丸、脳、SPFについては定量的な研究が少く、その詳細についてはよく知られておりません。前眼房は、Rat、Mouseは小さく移植が困難であり、Rabbit、Guinea Pigは予算の点から敬遠されがちです。更に肉眼的観察に制限があるのも不利な点の一つです。胸腺摘出動物については、今度の癌学会の発表(岡山大・砂田外科・岡谷氏、演説92)及びその追加発言(北大・癌免疫研・小林博氏)を聞きますと、それ程期待出来ないことが分りました。その要旨は胸腺摘出動物ではregressionする時間が4〜5日延長するに過ぎないとのことです。新生児動物を用いることは、H-2抗原の研究からみても可成り期待がもてそうです。このH-2抗原が出産后2〜5日に爆発的に増加することから考えますと、生后24hrs以内の動物を用いることが重要なことと考えられます。(自然、1963・12[免疫生物学のすすめ])今后は新生児と他移植法との組合せ、例えば脳内との組合せがもっと研究されてよいと思っております。
 前書きが長くなりましたが、今回はHamster cheek pouchが異種移植部位としてどの程度優れているかを定量的に検討するために行った実験を報告します。
 [実験材料]
 移植細胞は前回と比較する意味で、吉田肉腫(非培養腹水)を用いました。移植細胞数は1,000万個、100万個、10万個、1万個です。Hamsterは自家生産Golden Hamster体重50〜70g、MouseはC3H/HeN、Rondon breeding,inbred、実中研、大泉Farm生産のものです。
 移植動物及び移植部位の組合せは、次の4種類です。(1)Hamster皮下(SC)移植。(2)Mouse皮下(SC)移植。(3)Hamster腹腔内(ip)移植。(4)Mouse腹腔内(ip)移植。
 [実験成績]
 1.Hamster皮下移植
 ここで、一応陽性と考えたものは、移植後3〜5日目に直径0.8〜1.0cmのやや隆起した表面に血痂を伴った腫瘤を形成したものを指します。これは7日〜14日には完全消失してしまいます。このものが、吉田肉腫の増殖巣であるか否かについては現在組織標本により検索中ですのでそのうち報告出来るものと思います。1,000万個5/5、100万個3/5、10万個0/5。 2.Mouse皮下移植
 陽性と判定したものは、移植后5日目頃出現した粟粒〜米粒大の腫瘤で、7日目にはすでに消失してしまいます。なお、現在、移植后80日にして移植部位に小さい腫瘤を再び形成したものがあり現在経過観察中です。1,000万個2/10、100万個3/10、10万個0/10。
 3.Hamster腹腔内移植
 腹腔内に移植后、3、5、7、10、15日に腹水を採取し、塗抹標本を作成、腫瘍細胞の存在を検索した。このとき、腫瘍細胞の状態により次の四つのGradeに分けた。(-):腫瘍細胞存在せず。(+):腫瘍細胞は僅かに認められるが分裂像はない。(++):(+++)と(+)の中間。(+++):95%以上が腫瘍細胞、謂るpure culture。
 この+++、++、+、-に夫々3、2、1、0点を与え平均を示したものが次の表です(表を呈示)。
 すなはち、1,000万個移植の時にのみ腫瘍細胞の増殖がみられ、100万個、10万個、1万個のときは殆んど増殖しないことが分ります。
 4.Mouse腹腔内移植
 Hamsterの場合と同様に経時に、腹水中の腫瘍細胞の消長を追ってみたのが左表です(表を呈示)。Hamsterよりは可成りよいことが分ります。ここでHamster cheek pouch内移植の成績と比較すると次のようになります(表を呈示)。よい順に並べますと Ham.cp》Mouseip>Ham.SC>Ham.ip>MouseSCの順になります。cheek pouchの優秀性がよく分ります。

《杉 報告》
 発癌実験:
 golden hamster kidneyのculture−diethylstilbestrol
 動物実験での発癌には大多数が数ケ月から1年近くを要しているが、in vitroで発癌に相当する様な変化が動物実験よりも早く起るとしてもそれ程早く起るとは考え難い。そうすると少くとも数ケ月間は細胞を盛んな増殖を営なむ或は維持出来る様な状態におかないと発癌に至る変化を起し得ないということになる。そういう意味では今まで行ってきた発癌実験で、株になる程の旺盛な増殖を示した例がないという点を勝田先生が指摘された如く、培養法についてもっと長期間培養出来る様に検討する必要がある。
 先ず動物の日齢については実験の最初頃、比較的若い動物を使うと実験群と対照群との間に差が出ないが比較的老齢のものを用いると差が出る傾向にあった為、以後の実験では差を出すために比較的老齢のものを用いました。そのために増殖が思わしくなかったという事も考えられます。生後20日以内のを用いたのは3例あるが細胞数が少なかった為か長期継代に至っていません。腎の場合、若い動物では臓器が小さいため細胞を大量に得る事が困難で、一方老齢ののを用いれば比較的大量得られるが増殖が悪いという欠点がある。従って若いところを沢山集めて培養する必要がありそうです。薬剤濃度と作用期間もまだ検討の余地があるが差し当って先ず年齢を検討してみたいと思います。
 そこで少くとも生後20日以内という若いところを使って実験をやり直していますが、この位若いものでは組織片から細胞が出てくるのが早く、10日目には従来markしていた特徴ある上皮様細胞団がかなり出てきます。しかし対照にも量的に稍少いがこれと同じものが見られる。今のところはこの細胞をうまく長期に培養出来る様になれば、培養の間に更に種々の刺戟を加えて目的とする変化を起させ得る可能性は残されていると思います。従って今後暫くは細胞を比較的長期に培養で維持出来る様に主力を注ぐつもりです。廻転培養も数回試みた結果繊維芽細胞が主として出るので中止したがこれも、も少し繰返し行って検討する必要があると思います。hamster肝はtrypsin消化による培養をやり始めたがまだうまくいっていません。

《高木班員アメリカ便り》
 勝田先生 この手紙がつくのは丁度TC学会も終った頃だと思います。ここMemphisも秋の色深く、木の葉の色が誠にきれいです。今日は私がこちらに来てから頂度一年目、全く光陰矢の如しです。11月6日から3日間、NewYorkで行われた第3回Cell Biolofy Meetingに出席して一昨12日帰って来た処です。ついでにWashingtonでNIHを、PhiladelphiaでTemple Univ.、Pa.Univ.とAlbert Einstein Hosp.のInstituteを、NewYorkでCoumbia Univ.を駆け足で見て廻りました。Scaleの大きさではNIHが一番ですが、個々のlab.をのぞいてみると差程ことあたらしいものもない様で、大体私共の処と同じ様なものが並んでいた様に思います。
Cell Biology Meetingですが、これはNew YorkのGrand Central Stationのすぐ隣にあるCommodore Hotelで行われました。初日、2日目と午前中はSymposiumに平行して演題発表があり、3日目は演題発表丈でした。何しろ224題と云う出題で、会場も4ケ所に分れて同時に行われましたので聞いてまわるのは中々大変でした。こちらの学会は勿論発表も大切ですが、お互の社交?という事にも重きがおかれている様で、自分の興味ある演題丈をきいて、あとはお互にdiscusion(話?)をしている人も多かった様に思います。 兎も角Molecule Biology関係の出題が殆んどでAutoradiographyによるDNA、RNA関係の仕事とElectronmicroscope関係の仕事が圧倒的であり、又細胞のlysosomeを扱った仕事も可成りあり、Lysosomologyなる新語を云っている人もいた様です。この学会に関する限り、E.M.は従来のlight Microscope同様に駆使されている感じで、Thymidine、Uridine、Cytidineなど用いたautoradiographyもE.M.で観察した物が多かった様に思います。第1日目のSympはRegulation of Biosynthesisでしたが、これは同時に私共の処から出題した growth、differentiation and maturation of neuroblastoma cells in vitroが行われた会場にいたため殆どきく事が出来ませんでした。第2日目のTransport across cell membraneは話をしたProf.の名を一寸忘れましたが、phagocytosisとPinocytosisとの際のcell membraneの態度をEMによりきれいにみせている様でした。つづいてIonのcell memb.を通しての交流に関する仕事の発表もあっておりましたが、この方は化学に弱い私には少々理解がむつかしい点がありました。
さて勝田先生のfilmは1日目の午后の3番目(実は4番目ですが、前のが1つ後廻しになりましたので)にありました。Prof.Moskowitzもよく説明しておられたし、写真も他のに比較して中々きれいだったと思いました。liver cellsとJTC-1とのinteractionでJTC-1がliver cellをattackする様にとりかこんだ時liver cellがするりとその中から抜け出した様な場面がありましたが、あの箇所は中々ユーモラスで?、皆の中から思わず笑いがもれました。またrat heartとJTC-1とのinteractionの場面で、どうもなつかしい形の細胞が出て来た様で、あとでProf Moskowitzにあのrat heart cellsはprimary cultureかと聞きました処、cell lineだとの事でJTC-4だったのか(ではなかったのですか?)とチョッピリ郷愁を覚えました。質問はありませんでしたが、あとで培地、培養方法、liver cellsの性状(Parenchymか何か)につき聞いている人がありました。うちのDr.Goldsteinも"中々きれいなfilmだった"と云っており、目下私共のtime lapseが修理中ですので、先生のfilmに刺戟されてか"早くなおす様に業者に今話して来た"などとも云っていました。あとでDr.Moskowitz、Dr.Goldsteinと3人でお互の仕事をdiscussionするchanceを得てまことに有意義でした。堀川氏も出席されているのかと思っておりましたが、御姿をみかけなかった様でした。Dr.Moskowitzは大の日本funの様で、来年も日本に行くから日本語を勉強しなけりゃと云っておられました。Indianaの自分のLab.にも是非来てくれとの事でしたので若しchanceがあれば行ってみたいと思っています。
 先生の処のLP間のアミノ酸消費像の比較ですが先達て(と云ってももう半年前)Dr.EagleがSt.Judeでセミナーを持った時に消費像にあまり差がない様に云っていましたし、株細胞は大体において似た様なものになってしまう様な話をしていましたので私はその点少々反撥を感じておりました。面白い御仕事だと思います。
さて私の仕事ですがまずpancreasのcultureはorgan cultureによりAnti-Insulin serumを用いて10〜15日までInsulinの分泌(B cells granule?)をdetect出来る様です。しかしこれはunspecific stainingとの比較が大切で更に実験をくり返している処です。これがうまく行ったら括めてみたいと思っていますし、又pancreasのepithelioid、fibroblastic celllineも小さく括めてみたいと思っています。今度Dr.Goldsteinからrabbit cell linesを用いてのShope virusのT.C.をやってみる様に云われましたので、その方も目下準備中です。これと平行しanti-rabbit pancreas cell line-rabbit及びguinea pig serumも出来上りましたので、このpurification、cell originの追求もやってみたいと思っています。その他いろいろ他の仕事もやっています(Anti tumor agent"vincristinのTC cellへの効果"をclinicのDr.がやっており、そちらもhelpする様に云われsuggestしています。等々)が主なこの3つです。つまりcell BiologyとImmunologyをまたにかけて仕事をしている訳であぶはちとらずになるきらいもありますが、こちらに来た目的が多くの事を吸収するにあるのですからそれでよいのだと思っております。無理をせぬ程度に頑張りたいと思っています。このInstituteもJapan boomでJapanese Dr.は現在私と共に3人、もう一人金沢大から来られる筈の方はofficial passportをとる時の胸のXrayで陰があったとかで来春にのびたそうです。では又、御健闘を御祈りします。班員の皆様にもよろしく。11月12日


【勝田班月報:6401】
《山田報告》
 Window technicで個々の細胞の増殖様式を、HeLa-S3とNIHT-5細胞について追求してみました。培養液はEagleでHeLaでは10%、NIHTでは20%の仔牛血清を添加してあります。接種細胞数はHeLaの場合2000個、Windowの内径1.2mm、NIHTでは100個、6.0mmです。NIHTは運動性が高く、コロニーが多く数えられないので、止むを得ず、Windowを大きくし、細胞数を下げました。いづれの場合もWindowに平均1個程度の細胞が出現する計算になっております。HeLaのplating efficiencyは90以上、NIHT-5(10代目)は40〜50%でした。(グラフ呈示)HeLa-S3は翌日の観察(22時間後)で2個になっているものが50%程度、45時間後に2個になったものが50%程度で、それ以後およそ24時間毎に観察すると、それぞれが直線的に増殖し、多くの細胞はほとんどこの間に入ってきます。例外として2個の細胞が114時間の観察でまだ3個にしかなっていません。40個の単一細胞からスタートしたものを平均しますと、Time lag4時間、世代時間26時間となります。NIHT-5の場合には、136時間の観察で細胞40個から、全く増えない1個のものまで、個々の細胞が種々の増殖度を示しております。ガラス壁面に附着した30個の接種細胞中全く増えなかったものが6個で中2個は途中でガラス面から剥離しました。すなわち、NIHT-5の1集団の中で個々の細胞の増殖度に大きな差があるわけです。全くふえなかった細胞が6個といってもfinal populationでは1%以下となるわけですから、新しくTrypsin消化をして、継代すると、p.e.から考えて半分は又コロニー形成を認め得なくなるわけです。なお、136時間に5個以下のものは殆んど60時間以降ふえていないので、単にtrypsin消化の影響だけ(一次的な)で増殖がストップするのではないことが判ります。(集団としてのT.L.27時間、G.T.30時間)
 それ以後、現在手がけていることは(1)個々のコロニーの構成細胞数と、個々の細胞のDNA量の関係(Microspectrophotometry)。(2)クローン細胞系のp.e.と増殖態度。(3)feeder layerによるp.e.の上昇の有無。

 最近、次の2つの論文に興味をひかれました。
Rothfels,K.H.,Kupelwieser,E.B.,& Parker,R.C.:Effects of X-irradiated feeder layers on mitotic activity and development of anewploidy in mouse-embryo cells in vitro. Canadian Cancer Conference,5,191-223,1963.(Academic Press,New York)
Todaro,G.J.,Nilausen,K.,& Green,H.:Growth properties of polyoma virus-induced hamster tumor cells. Cncer Res.,23,825-832,1963.
 Rothfelsらのものは、マウスの細胞株分離における、%Euploidyと%Mitosesの間に逆相関があり、継代10代まで%Eが100%のとき、%Mはどんどん低下して殆ど0%、10代以後%Eが低下すると%Mが上昇すること、CFIマウスのestablished cell lineはすべてが移植性を獲得していることを示しています。今までのデータと合せて、純系マウスを使えば、細胞の株化(Aneuploid化)=移植性獲得まではもう規定の事実で、Euploidyの維持するための条件をさがしている感じです。この論文ではfeeder layterが%Mを上昇させ、同時に%Eの低下を遅らせる作用があることを述べています。Todaroの論文はin vivoでtransformした(polyoma wirusで)hamster kidney cellは容易に株化するが、無処置の細胞は10代くらいで消失することを明確に示したものです。in vitroでtransformした場合にも株化しやすくなることも述べています。

 :質疑応答:
[佐藤]C3Hマウスを使った場合、移植後100日や200日もかかって発癌する(註:腫瘍を形成する−の意味)のは、問題があると思います。ウィルスの疑があります。
[安村]そういうときは、マウスの種を変えて、たとえばAとBとして、Aに発癌させ、AとBとのF1にその癌をかけてみるとかかるが、Bにかからない−というようなやり方ではっきりさせられます。
[勝田]細胞1ケだけのColonyで、増えないという場合、他のColonyからこぼれて、1ケだけ着いた形になったという場合もあり得るから注意をして下さい。それから、2nと云われますが、数は2nでも核型はどうなのですか。
[奥村]2nだから正常といえるかどうか、核型もちがうことがあるし、たとえ同じとしても前癌状態に入っていることも有り得る。2nは必要条件であって充分条件ではないので、2n=正常とは云えませんね。
[山田]2n=正常とは考えていません。まず2nは必要条件ということからはじまって、これから正常とは、ということへ入って行くつもりです。
[奥村]正常性の証明の手段として2nをもってきてはいけないと思います。正常性を検討するつもりなら、2倍体を維持した長期継代の細胞より、初代に近いものを多く使う方が良いと思います。
[安村]初期の細胞をまいて、2nでない細胞系を作ってみて悪性をしらべたら、染色体との関係が少しは判るでしょう。
[山田]染色体だけで見て行けばそういえると思いますが、癌にならない系の裏付として2nの細胞を結び付けてみています。

《勝田報告》
A)発癌実験:
 その後のDABによる発癌実験のデータをお知らせします。(表を呈示)血清は全部仔牛血清を使い#C-45あたりからprimary cultureの内に培地無交新をおこなう実験をはじめました。これを#C-48まで、4回くりかえしておこない、#C-49の実験では初代の第9日に、中性子を1100、275、89rと各2本宛に照射しました。これはいずれもまだ初代のままで、形態的にはまだ変化が認められません。またこの実験では同時にDAB-n-oxideをDABの代りに用いる実験もおこない肝細胞の増殖が起りましたが、これはratが若く、control迄増えていますので、n-oxideそのものの作用か否かは、これだけでは何とも申せません。
B)培養細胞の復元成績:
 これまで約18回に渉って、色々の処理をしたRLD-系の細胞やprimary cultureをラッテに復元接種しました。5万個〜200万個/ratの幅で、皮下、腹腔内、脳内、門脉内、脾内などに入れましたが、残念ながら、今日までのところでは未だ腫瘍形成に成功いたしません。最近の黒木班員の報告によると、Hamster pouchが非常に有望の旨ですので、1963-11-24、RLD-7を300万個、golden hamsterの片方のpouchに接種しましたが、今日までのところではまだ腫瘍を作って居りません。
C)L株亜株L・P3細胞へのコバルト60γ照射:
 L・P3細胞は合成培地DM-120の中で3年以上も継代をつづけて居る細胞で、その特異的なアミノ酸代謝については、先般の培養学会で関口君が紹介し、また月報No.6312にも報告しました。このL・P3にコバルト60γを照射したところ非常におもしろい変化が現れましたので説明します。但しこの時期の細胞は、γ線でやられて変調をきたしている細胞であって、いわゆる耐性細胞ではありません。最近この培養のなかから、普通のL・P3と同じ形態の細胞が増え出してきました。これはいわゆる耐性細胞に相当すると思いますが、これについてはもっと沢山に増えてからしらべてみる予定で居ります。将来の計画としては、もっと軽くγ線をかけ、アミノ酸合成酵素を一つだけこわし、それに相応した染色体の変化をしらべて、当該酵素をつくるgeneのchromosome上の位置を決めて行きたい、ということです。
D)映画供覧:
 今秋11月6日New Yorkで開かれた第3回アメリカ細胞生物学会に於て展示した顕微鏡映画、これは4月の医学会のときお見せしたfilmにさらに手を加え、Controlも加えたものですが、一応御らんに入れます。"Interaction in Culture between normal and tumor cells of rats"16mm.Silent.

 :質疑応答:
[寺山]Leucineを出す、ということはどんなことでしょうね。
[関口]Waymouthの処方でもLeucineを入れてないものがありますね。やはり培養細胞と生体全体とでは必須アミノ酸がちがっているのでしょう。
[黒木]この映画のようなことが行われているとしたら、双子のparabiotic cultureでしらべた増殖曲線でももっと差が出て良いのではありませんか。
[安村]Contact inhibitionも、培養法によって、その性質を得たり失ったりするでしょう。
[黒木]なかの黒い顆粒は何ですか。
[勝田]中性赤で超生体染色される顆粒、三田村先生がmetachondria(顆粒体)と命名され、今日一般にはLysosomeと呼ばれているものに一致すると思います。
[奥村]顆粒の単位で、肝癌が正常細胞から物を取るという所がはっきり判らなかったのですが・・・。
[勝田]一ケ所ははっきり見えた筈ですが、他のは解析してみないと正確には証明できません。但し顆粒の単位で移って行かなくても、正常細胞内で液状(位相差で見えない状態)のものが、肝癌内に吸いとられてから顆粒状になって核の方に進んで行く場面は沢山見られたでしょう。肝癌は要するにcytosis作用で正常細胞の細胞質の中から色々のものを吸収しているわけで、その吸取る場所と吸取られる場所はどちらもEndoplasmic reticulumから通じている細胞質の穴のところだと思います。
[山田]細胞内では色々な構造が恒久的でなく、変るものと考えてよいと思います。
[勝田]Mitochondriaなんか切れたりくっついたりしています。
[山田]放射線照射の場合ですが、培地組成をうんと簡単にしてX線などをかけると変異がはっきり出るでしょう。
[寺山]変異とは単に栄養要求が変っただけのものを変異と呼んでも良いのですか。
[安村]菌の場合は呼んでいます。そしてその変異したもののDNAを親株にかけて、親株を変え得るなら、たしかに変異株と云って良いでしょう。
[土井田]大きな場合は染色体の単位、小さな場合はgeneの単位の変異をmutantと云います。マウスの骨髄に計900r照射するのに、100r/min.でかけると、50%変異が現れますが、1〜2r/min.では0〜8%にすぎません。前者では細胞が殆んど死にます。そして残ったわずかのものが増えてくるので変異が認め易いのですが、後者では死ぬのが少いので変異が認めにくいのです。しかしgeneには変異があるかも知れません。照射量の少いときは一旦切れた染色体が、またくっつくという場合があり、そのとき必要なenergy源を供給せずにもう一度照射すると矢張りやられてしまいます。
[安村]大量照射の場合は、ほとんどの細胞がやられますから、変異というよりselectionということの可能性の方が大きくありませんか。
[奥村]集団として仮に2,000r.かけた場合、変異を起すと一応皆生きられない筈です。たまたまその変異した内の何ケかが生き延びて増えた場合は、変異型というわけですが、その2,000r.に対して初めから耐性のある細胞が残った場合はselectionによるものと考える。後者の方が前者の場合よりcolonyの形成が早いです。
[土井田]Selectionはspontaneous mutantを拾ったものと思います。そしてこの場合X線はselectorの一つと云えます。

《佐藤報告》
 発癌の判定:
 前号につづきAH-130(腹水肝癌・動物株)による腫瘍発現性の検討を行っています。
Exp.No.3は3匹しか仔が生まれないで注射後全例死亡して失敗しました。
Exp.AH-Tox.No.4:1963-11-14、suckling D-Orats、 6days old、Material F3(1) 9th day after AH-130 inoculation、intracerebral、 0.03ml。
 結果は(図表を呈示)1000細胞接種群は4匹中12日と13日に1匹宛14日に2匹死亡。100ケ接種群は4匹中15日16日に2匹宛死亡。
 他の実験は未だ結果がでていませんから16mm映画の供覧と御批判をいただきたいと思ひます。

 :質疑応答:
[山田]DAB代謝をしらべるのに組織としてどの位の量が必要でしょうか。
[寺山]組織量として50mg必要です。(wet weight)
[山田]それなら培養細胞でも代謝はみられますね。1gまでとれますから。
[勝田]肝癌になるとDAB代謝がないというのは何かの酵素系がなくなるためでしょうか。それから腎臓の細胞の培養でもDABが減少するのはどういう訳でしょう。
[寺山]腎も肝の1/10位の機能があります。DAB-methylaseをみているのか、DAB-reductaseをみているのか良く判りませんが。
[山田]連続投与していることはselectしていることになりますね。
[佐藤]DABに耐性の細胞から癌が出てくる可能性があります。
[寺山]n-oxideは腹腔内接種すると毒性が強いです。
[高岡]映画のEhrlich細胞の動き方は、露出間隔のちがいを考えると、うちで撮ったAH-130の動きよりおそいようですね。
[山田]Lで走行距離を計算している報告がありますね。

《黒木報告》
Hamster cheek pouch移植法の基礎的研究:
 III.Syrian hamster albinoの移植成績(EXP.191)
 Hamsterは次のように分類されます。
(1)chinese hamster(cricetulus barabenis)
(2)european hamster(cricetus cricetus)
(3)Syrian hamster(Mesocricetus auratus)
 このうち、もっとも広く使はれているのは、Syrian hamsterです。
chinese h.は特殊な目的(染色体)に、european h.は日本にいないそうです。Syrian h.は通常毛の色が黄褐色ですのでGolden h.又はSyrian golden h.と呼ばれています。この他Syrian h.にはvariantとして、albino、Pandaの二型があります。すなはち、Syrian h.はgolden、albino、Panda、となります。
 今回は、これらのうち、albino型が実中研より入りましたので、吉田肉腫を100万個から100個inoc.し、Goldenとの感受性の比較を行いました。8/11'63移植ですので、まだ最終的な結果は分りませんが次の様になります。
接種細胞数 1000,000 100,000 10,000 1,000 100 10
albino h.   6/8 5/8 3/4 2/4 0/4 -
Golden h. 8/8 4/4 3/4 8/18 3/8 1/8
 Golden h.と比較すると移植率も低く、又6311号で陽性と分類したIII、IVの中IVがないことが目立ちます。(観察期間はまだ1ケ月ですので、そのうちIVが出ないとは云えません)第一報(月報6310)で使用のhamsterより体重の多い(成熟している)のが気になります。このAge-factorがどの程度関係しているかは、まだよく分かりません。
 IV.Cortisoneの影響(Exp.192 8/11 inoc.)
 異種移植にCortisoneを用いたのは、Toolanが最初です。(1953) その後異種移植の際は、必ずと云ってもよい程、Cortisoneが使用されるようになり、その効果は確認されています。Foley,Handlerらの報告によりますと、Cortisoneの効果は細胞数にして平均10倍(0〜100倍)程度のようです。(HeLa、KBはCortisone処置とは関係なく1.0x10で(+))
 この実験は、吉田肉腫を用いてCortisoneの効果をみたものです。恐らくtransplantabilityと増殖経過の両者に関係すると思はれますが、まだ、実験開始後1ケ月ですので、前者についてのみ記します。
 Cortisone処置の方法はFoley,Handlerらの方法に従いました。即ち、移植直後より週二回、Cortisone acetate(日本Merck萬有"Cortone"25mg/ml)を2.5mg(0.1ml)/Hamster、皮下に注射します。この実験では0、3、6、11、14、17、21、24、27にinj.しています。
接種細胞数 1000,000 100,000 10,000 1,000 100 10
Cort.処理 8/8 8/8 6/8 8/8 4/8 0/6
non.処理 4/4 3/4 2/6 8/18 3/8 1/8
 表に示すように、移植率はやや上昇しています。ここでも、問題になるのは体重の多いことです。50〜60gのHamsterを用いればもっとよい成績を得るかも知れません。このDataから云えることは、Cortisone処置は絶対的なものでなく、補助的な役割をしているのに過ぎないことです。もっとも重要なのは、移植する動物部位の選択であると思います。
 V.YS 1000個−非処置Hamsterの再実験(Exp.194 8/11)
 第一報(月報6310)で非処置HamsterにYS 1000個inoc.のときの成績は0/8(I=4、II=4、III=0、IV=0)と100個の3/8、10個の1/8に比較して移植率が低かったため、やり直しを行いました。前回のHamsterは生後26日、体重62、58、56、70gです。今回の動物は生後45日、体重72、70、80、74gとやや大きいものです。その結果は8/10と可成りよい成績です。異種移植のDataはばらつき易い傾向があるのですが、それにしても一寸ひどいようです。
 §今後の実験方針§
 Cheek pouch移植法の仕事は、吉田肉腫についてやっと一通り終ったところです。今後の方針としては次の様なものがあります。
 (1)体重のそろった(50〜60g)Hamsterを少くとも50匹まとめて入荷出来るような条件を作ること。
 (2)他の移植腫瘍を用いて、腫瘍間の差をみること。次に予定されているものとしては、MH134、129P、129F、FM3A、SN36、AH13、AH66F、AH7974F、Ehrlich、S180、AH130、C3H乳癌等があります。C3H乳癌は腺癌ですので、組織像の変化をみるのには好都合です。
 (3)それらの培養細胞:癌学会から帰って来たところ、吉田肉腫の継代細胞(74代、2年10ケ月)が雑菌感染で全滅していました。しかし動物にもどしたのがありますので(71代から2代in vivo継代)これから再び継代する予定です。(腹水の腫瘍細胞の形態は長期培養のそれと同じです。その他継代されている培養細胞が二三ありますので、試みてみる予定です。
 (4)正常細胞、胎児、正常臓器、diploid strain等を予定しています。
 (5)他移植法との比較、Mouse、Hamsterの24hrs.内のnew bornを用ひ、Cheek pouchとの比較を行う予定です。これだけのことが完成するのは何年先か分りません。

 :質疑応答:
[山田]吉田肉腫って特別なのじゃないかしら。他の細胞はそんなに1月も保たないで消えてしまいます。
[奥村]種別の組合せによってずい分ちがうでしょう。
[勝田]正常の細胞もやってみて、質的なちがいがあるか、数的なちがいだけなのかも調べて頂きたいですね。消える前に次に植継いだりすることも・・・。
[山田]コブができていても組織学的にみると殆んど正常細胞しか残っていないことがあります。
[安村]そのコブがハムスターの癌になっていて、もうラッテへは戻らなくなっていたら困りますね。
[奥村]やはり同種の動物に復元することが望ましいと思います。
[安村]ハムスターという動物の良し悪しでなく、hamsterの"cheek pouch"が特異的に免疫学的に適当ということです。それから前回の月報での勝田批判への釈明ですが、1)脳内接種と皮下接種の比較は、前のデータは脳内へは5,000ケ、皮下へは100万個と、入れた細胞数がまるで違うので、必ずしも同じ見地からは比べられません。2)生後24時間のマウスと1週のマウスとは、違いがあることもあり、無いこともあります。
[黒木]それは細胞によってもちがうでしょう。吉田のように増殖の早いものは違いが少いですが、7974のようなのでは24hrの方が48hrよりつきが良いです。
[安村]自分のデータでは、果糖肉腫では皮下より脳内の方が感受性が高いです。
[佐藤]発生した臓器にもよらないでしょうか。
[黒木]癌になると臓器特異性はなくなるのではありませんか。
[勝田]私のparabiotic cultureのデータでは、やはり(肝癌←→肝)(肉腫←→センイ芽細胞)という関連が見られます。安村君にやってみて頂きたいのですが、正常細胞と癌と色々な割合に混ぜて接種したらどうなるか、データをとってみて下さい。腎細胞と果糖肉腫とか。
[安村]やってみましょう。おそらくfeederになってtakeがよくなるでしょうね。
[勝田]Goldblattたちがembryoの組織を使ってやってますが、cell countはとっていません。

《伊藤報告》
 先ず前研究連絡会で報告した実験の続きを報告致します。(表を呈示)
此の結果、全経過を通じて、核数増加と考えられるものは、分母:全試験管数、分子:核数増加の認められた試験管数として、対照:1/42、DAB7日添加:6/42、DAB継続添加:3/42、と云ふ事で、此の増加が、DABによる増殖誘導と考え得るかどうか甚だ心もとない感じはありますが、或は実際に此の程度の割合で増殖が誘導されるのかも知れません。
☆次の実験を11月10日に開始しました。
 実験群は前回と同様の3群とし、実験開始後10日目、20日目、30日目に各回、各群15本づつの試験管について細胞核数を計測して各10日間に於ける核数増加の頻度の大略を知らうとしました。
(1)核数増加と考えられるものは、10日迄ではDAB添加群に各1本、20日目迄では対照群に1本、7日群に3本、継続群になし。
(2)此の様な実験Systemで、核数増加tubeの発現頻度でDABの影響をみるとすれば、此れ迄のDataと考え合せて、10日以前には計測する必要がなさそうである。
(3)継続添加群では、20日目で対照群に比して核数の少いものが多く、どうもむしろ細胞障碍が現れているようである。従って今後はむしろ7日以内の添加の場合についての検討が必要と思える。
(4)前回勝田先生に指摘された核の型、染色性について注意してみたところ、確かに核数の増加を来たした場合の核に、比較的compactな而もはっきりと赤い色調を帯びた核小体(2個ときには1個)を認め得る核が多い事を認め得ました。

 :質疑応答:
[勝田]DABを7日間も入れないで、もっと短期間のもやって下さい。それから計数できるのだから、総数何ケの細胞の内、何ケが分裂したか、という計算もしてみて下さい。
[奥村]核の染まりの悪いという肝細胞でも生きているのですか。
[勝田]生きているよ。Catalase活性も残っているし・・・。核の染まりが悪いのではなくて、肝実質細胞は他の細胞よりクエン酸に対して強いので、細胞質が残ってそれが染まってしまい、核が見えないのです。
[寺山]DABをくわせて前癌状態のとき、全肝臓の細胞数がふえています。これはnecrosisに伴うregenerationなのか、それとも真の増殖促進でしょうか。
[勝田]東大病理の斎藤氏は前者と考えるようですが、我々は後者と思います。
[山田]DABを長期たべさせたりしないで、肝に直接注入して1回位で早く出来させられませんか。
[寺山]メチルDABのデータですが、ゾンデで週1回大量にやってみましたが出来ませんでした。つづけてやるということに意味があるらしいです。
[山田]伝研製の純系ラッテでDABをやってみたら・・・。

《杉 報告》
Golden hamster kidney−Stilbestrol:
 今までの各実験例において、培養したroller tubeの本数に対する細胞増殖をおこした本数を百分率であらわしたものを日齢別に整理して図示すると次の如くなります。(1図を呈示)各日齢において一般に実験群の方が高率になっていますが、特に100日以上では、対照群の増殖が悪いのに比して、実験群では若いところとほぼ同じ様によく、対照との間の差が顕著になっています。これは薬剤の作用濃度、期間などの違った実験例も全部含めてあらわしたものですが、これらの実験例のうち、stilbestrol 10μg/ml、4日間作用だけをとり出して図にあらわすと(2図を呈示)大体傾向としては1図と大差はありません。20〜30日の比較的若いところで実験群と対照群が1図よりもはっきりと分れていますが、勿論数が少いので断言は出来ません。
 次に性別に分けてみますと、(3図を呈示)日齢別にみても全体的にみても性別による差は殆んどありません。
 又、先頃からmarkしている空胞様変化を伴った上皮様細胞団についてみますと(4図を呈示)100日以上では実験群、対照群とも低率で(尤も3例しかないのではっきりは云えませんが)一方、70日以内のところでは実験群で比較的高率に出たものがあるのに反し、対照群では50%以上のものがありません。4図を1図と比較した場合、1図では全体的にみれば、対照群も実験群も同じく高率のものがあります。しかし4図では対照群では実験群と同じく高率を示した例がないというところに違いがありました。
空胞様変化を伴った細胞自体には増殖能はあまり期待出来ないが、それに混在する上皮様細胞には増殖能を期待出来ると思われるので、今後もこの細胞団はmarkして追跡するつもりです。
それと同時に、前報にも書いた様にも少し長期間細胞を維持出来る様に工夫することに主力を注ぎたいと思います。そのためには使用する動物の日齢を下げるということ、即ち今までは20日以内のものはあまり用いていないので以後は出来る丈20日以内のものを使用する様にしたいと思います。今まで行った実験のうち20日以内のを用いたのは廻転培養2例を含めて3例で、偶然かも知れませんが、例の特徴ある上皮様集団が出ませんでしたが、そのご行った実験では16日のもので実験群に高率に出ています。

 :質疑応答:
[勝田]生後100日以上のハムスターのとき差がはっきり出ていますね。ラッテの肝対DABでは生後3週以内が良いのですが、これだとadultの動物を使えるという良い利点がありますね。オスにも差があるようだからteststeronでも使ってみたら・・・。
[杉 ]Hyperplasiaが見られたという報告はありますが、その実験条件は不明な点が多いのです。
[寺山]ホルモン以外に、細胞をattackするということが発癌では大切です。
[安村]Stilbestrolが上皮細胞に効いているということを目標にしているのなら、ずっと長く入れておくと無くなってしまうのですか。
[寺山]さっき勝田さんがDABを入れるのに7日以下にしろと云われたのはどういうことですか。細胞がやられる位の方が発癌の可能性があるのではありませんか。動物に食わせるときも、初め1ケ月位、肝細胞がどっとやられて、それから新しいのが出てきて、半年位で肝癌になるわけです。
[伊藤]細胞がやられてしまわない内に一寸やめて、又入れる、というのをやってみようと思っています。
[高岡]動物ではDABを休み休み6ケ月位投与すると如何ですか。
[寺山]Total doseのDABが投与されれば、期間とは無関係に発癌するという人がありますが、しかしやはり或程度期間と関係があって、Total doseだけではないと思います。途中で休むと癌ができないですね。
[安村]Tumorは徐々にふえて大きな癌になるのですか、それともsleepingしていて急に増大するのですか。
[奥村]DABを加えて起るdamageに対する再生がくりかえされることによって癌になるのではありませんか。
[関口]肝癌の場合には質的な特異性があると思います。単なる再生のくりかえしから起るとは思えません。
[山田]再生肝(肝部分切除)をくりかえして1年つづけたが肝癌になりませんでした。生体では1回の刺戟で出来ることもありますが・・・。
[黒木]初代でDABを連続投与して、継代したとき壁につかなかった、という細胞は死んでいるのですか。
[勝田]判りません。その着かない細胞に悪性化したのがいるのじゃないか、と山本正氏も云っていました。
[黒木]腹水肝癌各系の中には硝子につかないのが沢山あるのですからね。
[佐藤]幼若ラッテはDAB代謝能が弱いのではありませんか。
[寺山]そうです。4日間だけ投与してまた新しい培地にかえると、折角そこでmetabolicalに変っていたものが、また戻る可能性があります。
[勝田]つまりn-oxideを使うと良いだろう、ということですね。
[佐藤]ラッテの肝細胞に長期間加えるとどうでしょう。増殖させない状態で。

《土井田報告》
 In vitroで継代された細胞の有する染色体構成は、いろいろの理由により由来した動物の体細胞でみられる染色体構成と甚だしく異なっている。この様な染色体の特徴を捉えるためには染色体数を算えるだけでなく、全体の染色体の特徴について形態的にみることも有効であると思われる。此のような目的のために、いろいろな表現方法がとられてきているが、その方法と共に用語もかなりまちまちであるように思われますので、それらの点について簡単にまとめてみました。
 1930〜1950年代の文献から用語、核型のあらわし方、などについての解説(省略)

【勝田班月報・6402】
 A)発癌実験:
 (1)#C49(1963-11-21開始)
 前回の班会議でこれについては若干報告しましたが、生后7日Rat肝で、DABとDAB-n-oxideを1μg/mlかけたもので(4日間)、第8日より増殖が何れの群にも起り、Controlもふえ出しましたが、その内DABをかけた群から2本宛えらんで、中性子を1100rad.、275rad.、89rad.の3種に照射しました。1100と275の両群は目下のところ迄、細胞は増えも減りもせずそのままですが、89rad.照射群に照射后約50日に至って、細胞シートの周辺にやや大型の(図を呈示)水滴状の形態をした細胞が現われてきた。これが今后どんどん増殖するかどうかは判らないが、何かしらの手応えはあったわけである。楽しみにしています。
 (2)#C50(1963-12-10開始)
 JAR-ratのF19・♀生后26日の肝をroller tube12本に培養し、4本は無添加のcontrol、4本はDAB、4本はDAB-n-oxide各1μg/mlに、現在まで約1.5ケ月間連続的に添加しています。この実験では、Control、Exp.両群とも何れも増殖が起りませんが、添加の両群は、explantsのまわりの游出細胞に、こわれた細胞が多く認められます。長期間連続投与は今后もつづける予定です。
 B)復元実験:
 1964-1-27:RLD-7がやっと大分ふえ貯りましたので復元を試みました。RLD-7はDAB 4日だけのExp.群ですが、DAB-Exp.群の内ではいちばん細胞のAtypismの激しい株です。但し、Control群はきれいな形態をしていますので、このAtypismはDABのためと考えてよいと思います。JAR・F20の生后22日rat2匹を使い、各約800万個宛入れました。復元部位歯、1匹は後肢大腿部筋肉内、他の1匹は背部皮下です。目下観察中。
 C)その他:
 正常ラッテ肝とAH-7974のparabiotic cultureを試みましたが、結果はAH-130のときと同様でした。L・P3が消費する僅少種類のアミノ酸だけをRenewalのときに与えてずっと増殖をさせています。L・P3の放射線照射后のアミノ酸代謝もしらべています。

《佐藤報告》
 AH-130(勝田研究室でJARを用いて継代していたもの)をDonryu系を用いて岡山で継代して其れを接種材料とした。Donryu系のSuckling ratsにintracerebralに10,000〜10ケまでのAH-130細胞をinoculationして腫瘍死するまでの日数を記録した(表を呈示)。
以上の実験から、次の事が云えると思う。
 (1)腹水肝癌AH-130はDonryu系ラットの乳児脳内接種で100細胞があれば全例腫瘍死する。62例中1例を除いて20日以内に腫瘍死している。
 (2)10個の細胞の場合(目下観察中のものがあるので確かではないが)腫瘍死しない物が出る。実験材料及び方法において腫瘍細胞が脳内に入っていない場合も想定される。
 (3)これらの実験からいろいろの応用ができると考えられる。

《伊藤報告》
 先ず、前回の実験の続きを報告します(表を呈示)。
此の結果、本実験の全過程を通じて、核数増加としたものは、対照群(3/43)、7日添加群(7/42)、継続添加群(1/42)と云う事になります。
其后12月に行った実験では細胞が全く管壁につかなかったり、又壁についた細胞も漸次減少してしまったりで、結果を得られるところまで行って居りません。ratがelder ageにあった為かと考えて居ます。本年に入って生后22日目のratを用いた実験では、今のところ旨く行ってますので、此の結果は2月の連絡会の際に報告致します。
 昨年内に行った実験で"対照に比してDAB 7日添加群で核数増加を来す場合が多い傾向"は認められましたが、此れがDABによる増殖誘導の効果の現れとみるには、まだ危険がある。今后これをはっきりさせる為には、(1)核数増加をより頻回に起させる。(2)核数増加を来した試験管内の細胞を集めて継代培養してより多くの細胞を得る。(3)現在培養されている細胞の組織標本を得る。
 此等の努力が必要と思われ今迄も努めて来ていますが、うまくゆきませんでしたが、尚今后もやはり此等の点に努める積りです。次回の連絡会で又皆様方の御助言を得たいと考えて居ます。又前回の連絡会の際に話題になりました様に、DABを添加し続けて細胞がへばりかけた状態の中から、強い増殖能を持った細胞の出現を期待すると云う事もやってみています。
 又今年からは、DAB以外に種々細胞成分、Actinomycinは是非やってみたいと考えて、具体案をねって居ます。

《杉 報告》
 golden hamster kidneyのprimary culture−diethylstilbstrol:
 hamsterの日齢は従来比較的老齢のを用いてきましたが、最近は生後20日以内のを用いています。前報の図では若いものよりむしろ老齢のもので対照群と実験群との差がはっきりと出ていますが、20日以内の若いものを今まであまり使っていないのと比較的長期の培養、発癌ということに対しては若い方が有利ではないかと考えて試みているわけです。確かに若い方が老齢のものより細胞の生え出しも早く増殖もいいので、培養したR.T.の数と細胞増殖の起ったR.T.の数の比をとってみると、対照群の成績がよいために実験群との差がはっきりと認められません。しかし例の上皮様細胞団をとり上げてみると僅かではあるが、実験群に余計に出てきます。しかもこの細胞の拡がり方は老齢のものに比べていい様です。次に薬剤の作用期間ですが、従来は濃度10μg、作用4日間というのを主としてやってきましたが、最近は濃度は一応10μgとして作用期間を6〜7日に延長したり、又繰返し間歇的に作用させる方法をとっています。この繰返し作用については例数が少いので断定は出来ませんが、作用直後よりも正常の培地で交換して(即ち作用を止めて)数日後に効果があらわれる様で、それが特に例の上皮様細胞について云える様です。但しその効果は顕著という程のものではありません。又primary cultureに作用させる時、培養当初から作用させた方が予め培養したものに作用させるよりも効果が出ることから、一応第2代へ継代と同時に再び加えるということも試みましたが、これは却って悪い様です。したがって今までの印象では繰返し作用が強過ぎない様に濃度と作用期間をうまく調節すれば確かに効果があるのではないか、第2代に継代と同時に作用させるのは細胞にとっては継代という一種の環境の変化、外力が加わる時期に一致してまずいのではないかと考えています。次に培地組成中、牛血清を従来5%としていたのを最近数例は10%としていますが、今までのところ実験群、対照群ともfibroblastが主として出てきています。
又explantで培養した場合、両群の差を細胞数として表わせないのでtrypsin消化による法を考えていますがまだ薬剤未作用でdataになっていません。

《黒木報告》
 Hamster cheek pouch移植法の基礎的研究:
  .cheek puchの免疫獲得について(Exp.193、197)
異種移植の際、cheek pouchが非常に優れた部位であることの理由について、(1)血管の豊富なこと、(2)免疫学的特殊性が挙げられています。血管の豊富なことは事実ですが、それだけでは説明できません。免疫学的特殊性も証明はなく、推測にすぎません。cheek pouchと云えども、同じ体液にさらされている訳ですから、humoral immunityの立場からすれば、それ程特殊性があるようには思えません。
 この実験はcheek pouchが後天的な免疫能を持つかどうかをみたものです。即ち、前処置として吉田肉腫細胞を腹腔内、皮下、cheek pouch内に移植し、一旦増殖后治癒した動物に、再び吉田肉腫をcheek pouch内に移植します。もし、前処置により免疫を獲得していれば、二回目の移植に対してはrejectする筈です。
 前処置方法及び部位
 (1)皮下及び腹腔内移植
 月報6312に報告した皮下及び腹腔内に1,000万個移植した動物です。いづれも、3〜5日に腫瘍増殖をみています。
 (2)cheek pouch前処置
 月報6311の非処置ハムスター移植のものです。移植量は1,000万個〜10個総量 、 、 です( は全く腫瘍を作らないもの、 は米粒大の腫瘤形成、 はprogressive growthの後
regressしたもの)
 再移植
 再移植は全てcheek pouchに行いました。細胞量は100万個、これは前回の実験で100%
tumor growthを示す量です。前処置から再移植までの期間は、皮下腹腔内移植の場合は、86日、cheek pouch前処置の場合は62日及び88日です。なお再移植、前処置いずれのときも、Cortisoneは使用していません。(結果の表を呈示)
 これらの成績からcheek pouchが前処置により免疫を獲得していることがわかります。すなわちcheek pouchは免疫に関しては、少くとも後天免疫に関しては特殊な部位ではないように思えます。
 なお最近、同様の成績がSV40及びSV40でtransformした細胞についても報告されています(Khera,K.S.et al)。SV40を皮下にinj.し前処置したhamsterに3〜4w后、SV40でtransformした細胞を皮下、脳内、cheek pouch等にchallengeします。challenge細胞が100〜10,000のときはrejectされる、と云うものです。例えばcheek pouchの場合は、controlのTumor Producing Dosis(TPD)50が250であったのが70,000に上昇すると云うことです。
 吉田肉腫細胞の継代について
 昨年10月、吉田肉腫の継代細胞が雑菌感染のため切れてしまいました(74G.949日)。しかし、生き残りの復元動物を解剖したところ、そのうちの一匹の大網膜に拇指大の腫瘤を発見し、それから2代植継いだ後、腹壁の腫瘤をpancreatin消化により培養にもって来ました(培養経過を簡単に図で示す)。動物体内は結局3代103日経過したことになります。
 その後、順調に継代され、現在77代です。培地は長い間用いてきた血液添加LE50BS50からEagle(1959)+1mM of Pyruvate+20% of BSにかえました。理由は、この培地が優れていること(月報6308)、血液を採る手間がはぶけること等です。
現在までに次のことが分っています。(1)増殖態度:36〜50時間のGeneration time、これは10,000、1,000、100、10のときでも同様です(図を呈示)。(2)形態:核の形態は培養細胞のそれです。(3)移植性:低下している模様。
以上の事柄から、この細胞は100日間動物体内を通ったに拘らず、以前の培養細胞の性質を維持しているものと思われます。

《山田報告》
 1.ヒト二倍体繊維芽細胞株の細胞分枝系(クローン)の増殖態度
比較的若い継代数の培養(10代)から9個のクローン(コロニー)を分離しました。そのいづれも一個の細胞から5mm径以上のコロニーにまで増殖したもので、全細胞集団中比較的発育のよいものを取りました。しかし実験に使える程度に発育のよいものは1系(T5-F)だけで、あとはコロニーから次の継代で単層に増殖したものの4日毎に継代してゆくには増殖が遅すぎ、分裂細胞の頻度が極めて低く、plating efficiencyは5%以下でした。
 この成績から考えられることは、ある継代の培養でコロニー形成を行うまで増殖した細胞でも、新らたに培養すればまたふえるものとふえないものに分れてくること、すなわち細胞の増殖能は接種時の細胞−環境の関係によって支配されるらしいということであります。もしすべてのクローンが増殖能が高いという結果がでたとすれば、継代につれて、これらの細胞が次第にふえてくるはずで継代にしたがって増殖度が落ちるという事実と矛盾します。今増殖度の比較的高いT5-F系について実験を進めています。 
 2.二倍体繊維芽細胞株の個々の細胞のDNA含量
 継代中出現する非増殖細胞については染色体数を測定し得ず、したがって分裂の際に不平等にDNA(染色体)が娘細胞にわかれ、そのために増殖能が失われたのかも知れないという考え方があります。この考え方によれば非増殖細胞は"異常細胞"で正常でないわけです。非増殖細胞のDNA全量が2n細胞と同じかどうかを調べる手始めとして、増殖、非増殖細胞の混合集団について、顕微測光法で50個の細胞のDAN量を測定してみました。測定の結果、2nに相当するものが断然多く、4nの2倍以上あります。勿論測定誤差がありますので、染色体数のように2nと(2n-1)を区別はできませんが、大部分の非増殖細胞はやはり2n程度のDNA量をもっていることが推定されました。なお、8nの細胞もでていることにも御留意ください(図を呈示)。

【勝田班月報:6403】
§特殊培養法による培養内発癌の研究§
 RLC-2株(ラッテ正常肝よりの細胞株で2nの42本染色体を高度に維持している)を用い、タンザクを挿入した平型回転管で5度に傾斜、37℃で静置培養した。週2回培地を全量交新し、3週間後にトリプシンで剥して細胞をプールし、これを3本の同様なtubesにSubcultureした。ところが、それから2週間後どのtubesにも肝細胞とは形態を全く異にする細胞の集落が形成されはじめているのを発見し、以後その集落を観察していると、日と共に目に立って集落は増大した。
 (顕微鏡写真を呈示)新生細胞は円形で、いわゆるContact inhibitionを失った模様で、立体的に盛上って増殖する。位相差所見は、コントラストが肝細胞とは全く異なり、一見して区別できる。核小体が著明に大きいのも特徴の一つである。核の大きさに比べ、細胞質は強塩基性に染まり、核小体も太く濃く染まる。細胞はちょっとした振動で容易に剥れ、肝細胞のシート上の各処に転移集落を形成して行き、各所にそのColonyが認められるようになった。Colonyとして見るとき、頂度RLC-1株に肝癌AH-130を入れたときのような、集団としての侵略形成が認められた。分裂像も多く認められ、7日間に10〜20倍の増殖度と推定される。
 これらの所見は、各種の肝癌細胞を培養した場合の形態学的所見に酷似している。まだラッテへの復元実験は試みてないが、細胞が可能量まで増え次第、復元をしてみる予定である。しかし以上に記した所見よりみて、おそらくこの新生細胞は腫瘍を形成するものと推定できる。今まで数多く実験を試みたが、このような著明な変化を起した例は1例もなかった。(そしてそれらの復元は陰性に終っているが。)
 この新生細胞がどこから、どうやって出来てきたか−、それは今後の研究をまたなければ明確な回答を下し得ないが、現在なし得る範囲で想像してみると、次のことが考えられる。
 カバーグラスの下の細胞は、変性壊死に陥る。これは急速な変化で問題にならない。問題にすべきは、液が浸ったり浸らなかったりする、いわゆる"なぎさ"の部分の細胞である。ここの細胞は、ギムザによる染色性は無変化の細胞と殆んど変らない。しかし図のように(図を呈示)、核の形や大きさに著明な変化が見られる。変化のない細胞と比較すると明瞭に大きい。
 つまりこの部分の細胞のDNAあるいはDN-proteinは、顕著なdegenerationに陥っていると考えられる。換言すればdisordered DNAである。細胞質の崩壊も見られるので、このようなdisordered DNA or DN-proteinの断片、あるいはかなりの部分が、健全な部分の肝細胞のDNA合成に組込まれる、ということは当然想像がつく。これは堀川班員がLでおこなった色々の実験からも推定できる。彼のExp.で、L、マウス脾、エールリッヒ癌細胞と3種の細胞からDNAをとって培地に加えると、Lは非選択的に、何れも略同率にとり入れて自己のDNA合成に利用する、というデータはDNAをAdenine、Thymidine、Guanine、Citidineのレベル或はそれ以下にこわしてから利用するという可能性を示唆するが、一方同じく彼のデータで、X線で障害を与えたLは、その回復のためにはLのhomogenate或はDNAだけが役立ち、他の細胞のでは駄目であるという知見が得られている。この場合にはむしろ高分子構造のままの利用が考えられる。
 "なぎさ"のdisordered DNAが若し新生細胞の出現に役立ったとすれば、それはかなりの大きさのDNA(少くともA,T,G,Cまでには分解されていない)として働いたと考えるべきであろう。
 私が何故この"disorder"ということを重視するか、というと、AH-130から抽出したDN-protein、RN-proteinをRLC-1の培地に加えても、細胞の形態的変化が起らなかったという事実を持っているからである。つまりAH-130のDN-proteinはAH-130としてのordered DNAを有している。たとえtumor DNAでも、そのように"ordered"のDNAでは細胞に変化を起させるのに役立たないのではあるまいか。
 従って、この発癌法を何回もrepeatしてみるのと他にコバルト60やDABを大量に与えて細胞に障害、DNA-disorderを与え、そのDN-protein或はhomogenateを、増殖しつつある正常ラッテ肝の培養に加えて、細胞の悪性化を図るExp.を併行的におこなってみたいと思っている。
 さて、この"なぎさ"にできたdisordered DNAは、どこにいる細胞に使われたかというと、これははっきりとは云えないが、とにかく液に浸ってどんどんDNA合成を順調にくりかえしている細胞によって利用され、組込まれ、そして変異細胞ができた、と考えるのが妥当ではあるまいか。そしてその組込む細胞にも若干のdisorderが起きている必要があるかも知れない。
 いうなれば、これが私の"NAGISA-theory"である。勿論実験を重ねて行けば判ることであるが、soverslipの断端というものも、何かの役割をしている可能性もある。しかし前に示したような変化は決して無視することのなきない変化であり"なぎさ"にこそこれらの秘密をかくしている宝島であると想像される。

 :質疑応答:
[関口]狂ったものを作るような、酵素レベルの、低分子のものが入って変える、ということは考えられませんか。
[勝田]酵素レベルのものが入っただけでは、一過性の変化しか起らない、かも知れないね。
[土井田]mouseの血中に、outo、iso、homo、heteroのDNAを入れると骨髄細胞に変化を起す。しかしDNAを低分子にすると起らない−という文献がありますが、かなり高分子のまま入らないと効果がないのかも知れませんね。
[佐藤]標本を見て思ったことは、細胞質が青く染まっているということで、印象的です。今までAtypismばかり追っていましたが、癌の場合は、その細胞質が青く染まるということを追う方が良いかも知れませんね。ウィルスによる発癌の場合はどうですか。
[安村]まだ染めてないからよく判りませんが、変ってないと思ってる内に変ったのがいくつかあって、それが"ふるい"にかけた時、初めて出てくるのではありませんか。
[勝田]この新生細胞はRLC-2を"feeder layer"にしているようです。そういうことも必要条件の一つに思われます。
[佐藤]ウィルス発癌の場合ですが、変化したのは振うと早く落してしまうから(剥れ易いから)振って落ちてきた細胞を新しい"feeder layer"に入れると早く増えるだろうと思いました。
[黒木]あれはsubculturingの前にあったのでしょうか。あの調子だとどんどん増えてあの細胞だけになるでしょうか。
[勝田]Subculturingの前に出来ていたから(少くとも3ケ以上)継代後の各tubeに皆一えいに出てきたのだと思います。現在もどんどん増えて内1本は5本に継代しました。
[安村]前から感じていたのですが、タンザクというのは、へりで切る訳だから、異物感がりますね。
[山田]タンザクのままでなく、こわして入れると良いかも知れません。
[佐藤]Lは異物に感受性がありませんね。メチルコラントレンを結晶で入れても知らん顔しています。
(勝田註:Lは培養の歴史に、メチルコラントレンを入れられている。耐性があるのではないか。)
[黒木]"なぎさ"のところに変化が出たという話ですが下の方には出ないのですか。
[勝田]そうです。あんな変化はなぎさだけです。
[佐藤]接種量が非常に少いときにああいう形のが見られます。
[勝田]タンザクという条件が必須かどうかは、入れたのと入れないのと、今後、同時に比較してみれば判るわけです。
[黒木]明日はその細胞のことを"癌化した"と報告するつもりですか。
[勝田]形態学的にみて肝癌そっくりですし、99%発癌していると信じられると報告するつもりです。
[黒木]しかし形は癌細胞に見えて、腫瘍を全然作らない細胞がありますよ。
[勝田]放射線やDABのときも、変性したDNAが取込まれて発癌する可能性が強いと思いますね。
[関口]DNAの場合は変性というとsingle strandになったDNAを意味しますから、変化と呼んだ方が広い意味にとれて良いと思います。
[山田]RLC-2が変ったということは良いですが、変化の前に1年間培養していた、ということが必要なのかどうか、ですね。
[勝田]Primary或はそれに近いものでやってみる予定で居ます。
[安村]どうしてCloneをとってやらないのですか。
[勝田]使える迄に時間がかかりすぎるのが難点です。しかしその内やりますよ。

《佐藤報告》
 培地内DABの減少についての報告

 : 質疑応答:
[山田]平均細胞数はどうやってとりましたか。
[佐藤]細胞数は、まっすぐ伸ばして面積でとりました。(勝田註?)
[山田]癌になるとDABをとらなくなる、といいますが・・・。
[佐藤]DABの場合は、分解しなくなる、と云っています。
[勝田]培地内のDABの減少を見るという仕事は大変面白い仕事だと思います。DABの作用機序も判ってくるかも知れませんしね。
[佐藤]濃度のorderの問題があります。培地中でDABが減ってくると、細胞がDABをとらなくなりますから、はじめに大量に入れた方が良いと思います。しかしDABはTween20にしかとけず、しかもこのTween20が細胞増殖を阻害するので困ります。アルコールも使ってみましたが、少ししか溶けませんね。
[黒木]AH-130のDABに対する耐性はどうですか。
[佐藤]しらべてありません。
[勝田]DABの減り方をしらべる実験のとき、同時に短試で何群か培養すれば調べられて良いですね。
[山田]溶かすのにdimethyl sulfoxideが良いという説がありますが、どうでしょう。

《伊藤報告》
 本年度最後の連絡会ですので、今迄に得られたDataをまとめてみました。
 Teflon Homogenizerを使って得られたラット肝細胞に対するDABの増殖誘導効果
      第一回  二回   三回
対照群   1/23 1/42 3/43
7日添加群 6/42 7/42
連続添加群 3/21 3/42 1/42
 此の結果からみて"7日添加群で核数増加を来たす場合が多い"傾向は認めます。ところが昨年12月以後3回行った実験の凡てに於いて、どうも細胞の具合が悪く(日数と共に細胞が管壁からはがれてしまう)困っています。
 動物のageについては生後20〜25日目のものを用ふれば問題は無いと考えています。
 血清の問題は否定出来ません。何しろcalf-serumの入手が仲々困難で、種々とり換えて検討する事が出来ませんので。もう一つは培養法そのものについてです。何しろ、此の様にhomogenizerで組織をつぶして得た細胞を培養する事は今迄余り行はれて居らず、又今迄のところCellのばらし方の条件等余り考慮しないでやって来て、何とかやれて来たので、種々の条件(潅流、homogenizer等)について、何の規定も出来ていませんでしたが、最近のような事になると、もう一度最初に戻って必要程度にばらばらになった細胞を得るための、最少の処理条件を充分に検討して、はっきりしておく必要があると思はれます。
 どうも又振出しに戻ってしまふので、残念ですが、今ここで此のような点をはっきりさせておかない事には、今後仕事を奨めて行く自信が持てません。暫く先へ進むのが遅れても仕方が無いと考えています。
 此の方法で最初からばらばらになった肝細胞のprimary cultureをconstantに可能にする事は、発癌実験を進めて行く上に、充分有用なる道具を提供する事になると確信しますので、何とかやり遂げたいと思ひます。

 :質疑応答:
[勝田]うまく行かなくなったのは、ラッテのageの関係がありませんか。それから、この前も云いましたが、テフロンのhomogenizerだと気温によって大分隙間が影響されると思います。一定温度の液にでも浸して使うことも考えて欲しいものです。
[伊藤]Ageは25日以上のは良くないことは判っています。
[勝田]Homogenizeしたあとの細胞の生死率をニグロシンその他の染色法でしらべたらどうですか。それからDABの作用日数を縮めること。佐藤君のデータでは呑竜では1日が一番良い。
[山田]Trypan blueの方が良いでしょう。
[安村]Trypan blueよりもErythrosineBが良いです。(以下各班員より染色法の解説)
Trypan Blue(黒木):生食に0.25%にとかし、濾過後室温で保存します。細胞浮遊液0.5mlに、この色素0.5ml加え、15分以内にかぞえます。少くとも1時間以内にしらべないと駄目です。死んだ細胞は染まります。
[山田]このcountは、platingによるefficiencyとよく一致します。
ErythrosineB(安村):この方法はParkerやExp.Cell Res.に出ています。Nigrosineより感度が上です。まずPBSに0.4%にとかします。しかしこれは過飽和の気味で、どうしても溶け切れませんが、濾過して使います。培地によって加える量がちがいます。血清培地ですと細胞が安定しています。培地1.0mlに対し0.3mlを加えます。無蛋白培地のときは1.0mlに対して0.05mlを加え、10分以内にかぞえます。死んだのは染まりますが、Trypan blueよりも余計に染まる結果になります。
Eosine(山田):見えにくいし、毒性があってすぐ染まるようになります。
Nigrosine(山田):毒性はないが、見にくい。ゴミや顆粒が多くて。

《山田報告》
 マウスに対する発癌剤の作用を調べるために、いろいろ考えた末、ddYマウス−アルキル化剤の系を選びました。臓器としては腎を使用するつもりです。その理由として
(1)ddY系はbrother-sister matingが進んでおり、また容器に多数を使用しうること。
(2)腎は胎児より成熟動物までかなり自由に培養でき、奥村君からもいろいろ教えてもらえる。
(3)Weiler、岡田(京大)らによって臓器特異抗原の研究は腎で進んでいる。
(4)アルキル化剤はAlkyletionにその発癌性(活性)が考えられ、これが代謝によって不活化されれば他に作用点の考えられないこと。
などの諸点があげられます。
 研究方法として、できるだけ早い時期にコロニー形成を行い、個々のコロニーに対する薬剤の作用を調べ、クローンレベルで観察を進めてゆくことを考えました。このように考えたのは、腎は多種類の細胞から構成されている器官であるにも拘わらず、従来は単に繊維芽細胞とか上皮細胞という記載だけで、BHK21(繊維芽性)やPK(上皮性)のようにかなり均一でクローン性として扱いうるものは別として、多くの場合混在集団として継代されています。このような場合、かりに細胞の形態変化を認めたとしても、本当の意味での変異なのか、単なる混在細胞の選択なのか不明であろうと想像されるからです。
 今回は生後3週のddYマウス腎を材料とし、Eagle's essential medium(1959)にSerine、Glycineを10-4乗M加えたものに仔牛血清を10%添加したものを培養液として使用しました。(その後この種の培地では20%血清添加の方が細胞のコロニー性増殖に好結果の得られることが判りました)。まづ腎組織を細切した後、0.25%trypsinで37℃、30分作用しましたが完全なsingle-cell suspensionが得られず、とりあえず上記の培地で1週間培養し、さらに完全(できるだけ)にtrypsinで解離して単層培養を行った後、3代目に1万個/5ml/シャーレに播き、炭酸ガスフラン器で培養し、2、3週に同定、染色して構成コロニーの形態学的特徴をケンビ鏡で調べました。
 その結果、上皮性と考えられる細胞コロニーに3種類の細胞コロニーが存在する事、それに繊維芽細胞を加えると、少くとも4種類の細胞コロニーを培養しうる事を認めました。なお、生後3週のマウスでは繊維芽細胞コロニーの出現は殆んど認められず、人胎児組織(肺)とかなり異なる事が判明しました。これはマウス胎児について引続き培養を行ってみます。アルキル化剤としてNitrominの作用を調べた結果、10μg/mlで明らかな細胞変性作用を認めました。

 :質疑応答:
[安村]いまの3種類の細胞が夫々つながって行くのですか。
[山田]判りません。将来腎の特異抗原を持った細胞がどれか、追ってみたいと思っています。私の実験ではcloneではなく、1万個位まいてコロニーを数十ケ作らせ、その形態を見て行くというやり方で進んで行きたいと思っています。
[黒木]ナイトロミンで発癌している例は多いのですか(勿論SN-36の例は知っていますが)。ナイトロミンはマスクされているからナイトロジェン・マスタードの方が良いのではありませんか。ナイトロミンの場合は、少数細胞では効かなくて、細胞が大量の場合に効果があると思います。
[山田]発癌例は沢山あります。しかしin vitroでnitrogen mustardの方が良いというのは本当かも知れませんね。
[勝田]この研究法だと細胞の変ったことがすぐ判るから良いですね。
[安村]初代から単孤培養でcolonyを作らせれば仕事はやりいいですね。Mouseのembryoの組織なら「CS10%+Eagle」の培地を使えば必ず株になります。
[山田]私は「CS10%+Eagle+Serine+Glycine」でやっています。
[黒木]2倍体の培養をするのに、胎児とadultでは大分ちがいがありますか。
[奥村]はっきり判らないのではないでしょうか。胎児の方が簡単だとは云われていますが。

《杉 報告》
 Golden hamster kidneyのprimary culture−diethylstilbestrol:
 前回示したグラフでは細胞増殖とhamster日齢の関係は、細胞の種類を考慮に入れなければ、一応日齢100日以上のところで対照群と実験群との差が明瞭に出ており、一方上皮様細胞に限定してみると若いところでも両群の間に差がみられました。そこで生後20日以内のものを使った実験例が少いところから、そのごはそういう極めて若いものを重点的に使用しました。(表を呈示)これでみると血清を10%にした場合上皮様細胞の出が悪くなっています。1月の月報の様にグラフに示すと(図を呈示)、細胞の種類を問わなければ両群の間に差がみられません。これを上皮様細胞団についてみると次のグラフの如く実験群に時に高率のものがあり対照との差が出ています。
又Stilbestrolの作用のさせ方としては表の様に間歇的に行ったが、第2、第4例では第2回目の作用後に、対照群で上皮様細胞が減じて繊維芽様細胞が目立ってきたのに反して、実験群では上皮様細胞団がそのまま優勢を続けて増殖の傾向を示しました。
 次にhamster liverのprimary culture−o-Aminoazotoluene:
 伊藤班員のクエン酸ソーダ潅流法をhamsterに適用してやってみましたが、数回失敗したのち、かなり大量の細胞が1個1個バラバラになってとり出せる様になりました。現在3例(hamster日齢はそれぞれ50、58、110日)やっていますが最初の2例は10〜20日培養で増殖なく管壁から落ち、目下第3例が培養10日目です。クリスタル紫で染色すると取り出した細胞の約1/4が生きていると思われます。も少し若いhamsterにこの方法が適用出来る様に工夫、練習中です。

 :質疑応答:
[杉 ]血清を10%にするとfibroblastsが多かったのですが、そういうことはありますか。
[奥村・安村]ハムスターの腎では10%でfibroblastsが多いようで、Epithelialには2〜5%で十分です。
[勝田]ハムスターでDABによる発癌はあるのですか。また期間は?
[杉 ]オルトアミノアゾトルエン(OAT)で50%発癌すると云われています。半年以上です。
[勝田]Stilbestrolより、腎には4NQOのような強い薬品の方が、良いのではないでしょうか。
[山田]その方が良いかも知れませんね。
[勝田]出てくる細胞がEpithelだとかFibroblastsだとか云っても、それが何の意味があるか、ということですよ。
[安村]はじめから両方ともあるんだから。発癌物質でなくとも、ただその両方の細胞を特異的に選び出す物質はあるかも知れませんが。
[奥村]ホルモンで出来た癌は、ホルモンを入れないと復元できない、と云われていますね。
[山田]ホルモンによる発癌は、ホルモンが直接働いているのか間接的なのか、それも判っていないし、問題がまだ多いですからね。
[勝田]Stilbestrolの場合は、ハムスターにこれで腫瘍を作らせてその腫瘍細胞を培養し、その性質をまずしらべるということを先にした方が良いのではないでしょうかね。
[安村]山田法でやればもう少しはっきりするでしょうが、このままでは進めにくいのではないでしょうか。Epithelは初めからあるのだから・・・。

《黒木報告》
 Hamster cheek pouch内移植法の基礎的研究:
 VII.Cheek pouchの解剖学的構造について
 cheek pouchの構造は図のように(図示)口腔外に引き出した袋は、口腔内においては、逆転して一つの袋になります。(ポケットを外に出したときと全く同様の構造です)したがって袋を外に引き出し、その中に注射しても、口腔内にもどせば袋の囲りに存在することになります。実際細胞の増殖は必ずどちらかのcheek pouch ep.に附着してみられます。腫瘤が大きくなるときは口腔側よりもむしろ外側(皮下組織)に向かって行きます。
 すなはち、厳密に云えば、 cheek pouch内移植ではなくcheek pouch傍移植であるわけです。
又、cheek pouchには筋肉がついています。これはretractor of pouchと呼ばれ、第XI−XII胸椎の棘上突起より始る非常に長い筋肉です。この筋肉があるため、実験の際は十分麻酔をかける必要が生じます。cheek pouchの詳しい構造は、次の文献に記載されていますので、御参照下さい。
Briddy,R.B.and Brodie,A.F.: Facial muculature,nerves and blood vessels of the hamster in relations to the cheek pouch. J.Morphology,83 149-180,1943.(この本は金沢大学医学部にあります。他にはないようです)
 VIII.組織学的検索
 組織学的検索の結果、吉田肉腫細胞はcheek pouch内で極めて活撥に増殖していることが明らかになりました。腫瘍細胞は、ラット体内におけると同様の構造をとり(Reticulo Sarcoma様)粘膜下において増殖します。前述の筋肉間に浸潤し、更に粘膜上皮を破って行きます。(顕微鏡写真を呈示)写真は、腫瘍浸潤により粘膜上皮がうすくなっていることを示しています。更に皮下組織においても、吉田肉腫細胞は活撥に増殖し皮ふは潰瘍に陥り、動物を死に到らせます。(背部皮下移植では殆んどが変性しています。)しかし一方では腫瘍の中心部に巨大なNekrose巣をしばしばみます。細胞反応はII型、すなわち、米粒大の腫瘤を形成し、やがて消失するものには認めますが、他の型には殆んどみられません。遠隔臓器への転移及び唾液腺内への浸潤は現在迄に検索した範囲では認めておりません。しかしcheek pouch内、epithel、皮下組織、皮ふへの浸潤性増殖は明らかですので、異種体内で浸潤性増殖を云々することは可能であると思はれます。この問題は今後、生化学的に血清CDH.肝Catalaseを測定し、考えてみたいと思っています。
又、死亡の原因を、潰瘍形成→感染→死亡と考え、Animals used to die of secondary infectionと表現したのですが、これらの成績から考え、Animals used to die with tumor.と変えた方がよいと思います。
 IX.培養吉田肉腫の移植
 今迄の実験は全て、吉田肉腫と云う増殖のはやい細胞を用いて来ました。このように悪性度の高い細胞では、同種移植との比較がむつかしいと云う欠点があります。幸にして(?)継代吉田肉腫細胞は、移植性が可成り落ちています。この細胞を用いて、同種(ドンリュウ)、異種(ハムスター)移植を同時に行い、ハムスターcheek pouch移植性の特殊性を明らかにしようと云うのが、この実験の目的です。実験に用いた細胞は76代、Eagle+2mMPyruvate+20%牛血清の培地で8日間培養したものです。この細胞を所定濃度に濃縮又は稀釋し、cheek pouch内には0.1ml、Rat腹腔内には1.0ml接種しました。(22.Jan.'64)
 HamsterはGolden、Cortisone処置は2.5mg/Hamster週2回(移植後)処置します。
 現在、まだ観察中ですので、確定的なことは云えませんが、表に示すように、コーチゾン処置ハムスターでは同種移植と同等の成績を得ています。(表を呈示)
 X.Probit Analysis
 今迄行って来た実験の結果を定量的、簡潔に表現するため、Probit Analysis及びLD50を計算しました。LD50は動物の死亡ではなく、Tumor Growthでみていますので、TPD(Tumor Producing Dosis50)と表現します。TPD50はBehrens-Korber法を用いて計算しました。
1.Cortisone-treated ch.p. TPD50=<160cells
2.Non-treated ch.p. TPD50=<3160cells
3.Albino-hamster ch.p. TPD50=>20,000cells
4.Hamster subcut. TPD50= 794,000cells
5.Hamster ip. TPD50= 3,160,000cells
6.Mouse subcut. TPD50=>10,000,000cells
7.Mouse ip. TPD50=<316,000cells

 :質疑応答:
[安村]ハムスターには純系がなくて困りますね。
[黒木]アメリカにはあります。いま異種で24時間以内の新生児に脳内接種を試みていますが、非常に良い成績です。ただし、出血しているので、見ようとしても、内部がとろけるようで扱いにくいです。組織標本にして見るより他には、決定的に腫瘍死とはいえませんが。結論として、Homoのnew bornの脳内、皮下が一番良いと思います。
[伊藤]脳内の場合は他の箇所への接種の場合と多少意味が違うのではありませんか。
[安村]むろん脳圧の問題などあるから違いますが、脳内と皮下では脳内の方が一桁少い細胞数でつきます。そしてそれを1オーダー上げてまた皮下に刺すと、皮下にもつくことを確認しています。
[黒木]脳内の場合は、必ず組織標本を見る必要があると思います。脳内だけに頼ってはいけないと思います。
[佐藤]少数の場合は、接種量が確実とは云えないと思います。
[安村]Titrationをやって推計学的に処理すれば良いでしょう。
[土井田]黒木さんのCheek pouchへの復元の場合、血管はどうなのですか。それから、正常の組織を入れるとどうなりますか。
[黒木]それはこれからやってみる積りで居ります。
[安村]脳内はレッキとしたin vivoであるから、免疫学的にどうであっても、レッキとした腫瘍だと思います。
[勝田]脳内でついても、皮下の場合に動物を殺すかどうか問題だと思います。たとえば、皮下接種では腫瘍死させられないような腫瘍性の弱いものでも、脳内だと死ぬということがあるかも知れないから・・・。
[黒木]復元して腫瘍が出来ること、つまり移植性と、腫瘍死ということは、別に考えてみたいと思います。
[奥村]移植性の問題については、色々な部位の比較はできるが、腫瘍性の比較は同じ部位を使わないと比較できないと思います。
[安村]脳内の場合でも、継代できるかどうかも確かめないと、腫瘍性も確実とは云えません。

《土井田報告》
 各種動物組織より抽出したDNAをマウスに投与した際、高頻度にanaphaseの異常の誘発されることが、最近マウスの骨髄細胞の観察により確かめられました(Karpell et al.1963)。一方動物実験より、核酸前駆物質が放射線障害の回復に有効なことが判って来ました(菅原ら1963)。この様な効果が、如何なる機構で起るかは不明であるが、兎に角回復した細胞なり個体なりを追っかけてみることは、多くの機構や原因の考えられる発癌の問題に、放射線と癌、染色体と癌といった面から近づくものと考え、以下に記すような実験を行いました。
§材料と方法§
 材料はL細胞のsubculture3日目のもの
 試薬は2種のヌクレオチド混合物を10μg/mlと100μg/mlの濃度で用いました。ヌクレオチドは、(1)大五栄養製ヌクレトン及び(2)武田薬品製のヌクレオチドで、前者は1アンプル2ml中に3'-AMP、3'-GMP、3'-CMP、3'-UMPをほぼ等量づつ、合計50mg溶けておるもので、後者は上記の各nucleotidesの5'-の結晶を夫々等量溶かしたものである。
 方法はsubculture3日目の細胞をRoux瓶又は200mlの角瓶に播き、1日後、2,000γのX線を照射した。照射1時間後、上記試薬を投与し、その後7日間、又は調査の全期間に亙って処理した。30、60、90日後、回復したcolonyの数を測定した。(colony数のとり方については研究連絡会で説明します)
§結果§
 (表を呈示)結果は表に示した通りであるが、これまでの結果よりヌクレオチドには放射線の障害効果を減らし、動物実験と同様に回復させる能力があるように思はれる。この効果は、5'-nucleotidesよりも3'-nucleotides(Nucleton)でより大であるように思はれる。
 この結果より推論するのはまだ早いかも知れないが、5'-および3'-nucleotidsをそれぞれ50μg/mlの割で同時に与えた場合にも、かなり高い回復効果がみられた。
§考察§
 このdataは最近開始した実験の結果で、現在進行中のものであり、極めて不充分なものであるが、今後は生じた細胞の細胞遺伝学的調査やマウス個体えの復元なども考えております。なおL細胞は1週間に約20倍の細胞数増加がみられるが、3'-および5'-nulcleotidesをX線照射しないL細胞に100μg/mlの濃度で与えた時には12乃至14倍に増加した。この事は単独にnucleotidesを与えた場合、該薬はL細胞に弱い毒性を与えることを示すと考えられる(ただしcellの増殖については反覆調査をしていない)。

 :質疑応答:
[勝田]君のLのgrowth curveで、はじめの24hrsにlagがありますが、log phaseのlineを逆に辿ったB点の量、それだけの細胞数しかinoculationのとき生きていなかった、という可能性が大きいのですよ。(つまり接種のときの操作が荒くて、細胞が傷付けられること。)
[奥村]瓶当り400万個接種して、30日後に、他のはみなColony数が0なのに、一つだけ103ケあるというのは、耐性を示すのか、はじめから障害を受けていないのか、疑問だと思います。
[土井田]文献に長期培養のものは全部悪性化したというのがありますが・・・。Nature,199(4911):1043-1047,1963。何も特に加えずに長期培養していたら、transplantableのtumorができた、ということです。(Strangeways Lab.)
[勝田]だから我々は株を避け、且、短期間の勝負を狙っているのです。
[安村]マウスは早いですね。6ケ月で悪性化した報告があります。Barskiがトリプシンを使った仕事ですが。
 (以後、来年度入班する班員の研究計画を中心に討論した。)
[奥村]子宮内膜の培養をしていますが、Ratはcycleが3日位というのですが、兎には排卵週期がないというので、兎を使っています。細胞は2種類出てきます。子宮の両端を鉗子でとめて、30〜40分トリプシン処理します。2〜3万個まきますと、60%位、EpithelのColonyがとれます。いま、ホルモン添加と無処理のものと、培養条件を出しています。「CS20%+199」では、生え出しは良いのですが長く増殖しません。Hormoneを加えた方が良いと思って、ProgesteroneやEstradiolを加えてみかしたが、高濃度に加えると死んでしまいます。重曹の量を変えてpHをしらべますと、pH=7.8〜7.6位がEpithelの増殖には良いようでした。
[安村]血清の入った培地では、pHメーターを使うと、pHのブレが大きいものですが・・・。
[奥村]pHの絶対値としてはこれは一寸断言できません。
[安村]私はSV40でできたtumorをもう1回ハムスターを通してから培養し、plating effeciencyを見ていますが、efficiencyがよさそうなら、この株を腫瘍だとして、正常mousuのembryoの形質転換に使いたいと思います。この場合、腫瘍細胞の株に何かのマーカーをつけておきたいと考えています。
[奥村]その細胞が、virusが本当に居ない、という証明が仲々難しいとおもいますが・・・。
[黒木]SV40のDNAが入って出来た腫瘍の、そのDNAが次の細胞に入って、また腫瘍を作るかどうか、ということを見てみたい訳ですね。
[安村]これは癌化するということに、物の(例えばDNAといったような)裏付けがあるとしての話で、若しその物としての裏付けなしに癌化するということなら、このもくろみは駄目なんですが。
[黒木]129Pの株を復元しますと、接種量によって期間は違いますが、何れも消えて行ってしまいます。この現象が免疫学的なものだとするなら、もとの動物継代の細胞と、培養した細胞の免疫的な違いをどうやってチェックすれば良いのでしょう。(この腫瘍は消えない内に、次々と動物を継代しているのです。)
[勝田]土井田君の仕事ですが、放射線をかけた細胞の中に、変ったものが出ないかどうかしらべて頂きたいですね。発癌要因として、あなたのところでは放射線を使って欲しいということです。そうすればproperの仕事に少し手をかける位の気持でやれるでしょうから。それから、発癌の仕事にはLなどのような、株になっている細胞を使うことは向いていないと思いますが・・・。山田君は今日3代目のCultureでClone法を使っていましたが、あのように、さらに初代でもCloneを使うというのは非常に意味のある良いやり方だと思いますね。
[安村]協同研究というやり方を大いに活かしたいですね。
[勝田]この班は、以前には学会にも班員間の共同研究をよく発表しましたが、このごろはそれが少くなったのは寂しいことです。今秋の癌学会あたろを契機として、また大いに共同の発表をして行きたいものです。
[佐藤]班員の夫々の専門を活かして、この班を盛り立てて行きたいものです。たとえば、土井田氏には、我々が発癌させた細胞の染色体の分析をたのむとか・・・。

【勝田班月報・6404】
《勝田報告》
発癌実験:
 前回の班会議のとき、RLC-2(正常ラッテ肝細胞)を長期間タンザクで傾斜静置培養したところ、5週間后にtransformed cellの発生を見出したことを報告したが、この細胞はその后も急速な増殖をつづけ、もはやRLC-2との共生ではなくなってしまったので、Rat liverHepatoma(?)の株ということで、RLH-1株と命名した。この細胞の性質及びその后の経過について報告する。
 1)Transformed cell(RLH-1)の形態と生態
 細胞の大きさはきわめて小型である。(写真を呈示)写真中央の細胞はいわば原型といえそうである。円形のものもある。シートの上にもどんどん円形のが積重なって行く。2核〜多核も非常に多い。分裂も、3極分裂は稀でなく認められ、4極もある。分裂直后fuseして多核になることも多い。顕微鏡映画を大分撮したので、次の班会議のとき展示したいと考えている。Gemeration timeは正確に未だ分析してないがかなり早い。
 接種数を変えて(2種)その増殖曲線をとってみた(図を呈示・週42倍)。もっと接種数を減らせばこの増殖度は上昇すると思われる。
 とにかく現在ふえすぎて継代の手間に困る状態である。継代状況をお目にかける(表を呈示)。ミステリーゾーンから来た生物のように増えつづけている。
 2)RLH-1細胞の染色体数
 まだ25ケしか算えてないが、68本にピークがあるらしい(表を呈示)。Hypertriploidである。勿論もっとかぞえる予定であるが、本数の多いのは閉口である。思切り少い方へ変ってくれたらさぞ良いだろうと思うが・・・。
 核型分析は土井田班員におねがいする予定であるが、ざっと見た感じでは、大型のmeta-centricが17〜20本もあることが目立つ。acrocentricは数ケである。それ以外のは小型のmetacentricやtelocentricの多い点ではRLC-1、C-2と似ている。metacentricだけが増えたという感じである。なお表で136本が1個あるが、これは2核細胞の同時分裂かも知れない。ごく相接した2groupsのようにもとれるからである。そうとすれば68本は11.5/25となる。
 3)RLH-1細胞の復元接種試験
 これまで3種の復元法で試みてきたが、現在までのところでは未だ腫瘍形成を確認できていない。(1)1964-3-4:生后3日ラッテ2匹、左肩皮下、約20万個宛。(2)1964-3-15:生后35日ラッテ2匹、右大腿部筋内、約900万個宛。(3)1964-3-21:生后41日ラッテ2匹、腹腔内、1,250万個宛。脳内にも接種したいが、目下出産待ちである。(1)(2)ともまだ腫瘤を触れない。初代は一般にtumor formationがおそく、1〜2月かかった報告もあるので、ずっと永く経過を見守ることにしている。(3)は1日おきに腹水をとって塗抹標本を作っている。第2日は、培養内のRLH-1と同じようにbasophilieの強い細胞が沢山見られ、そのmitosisもあった。第4日になると腹水が血清をおび、赤血球も大分混じてきた。まだほとんどの細胞が、basophilieが弱くなり、mitosis数もずっと減少した。第6日には一層mitosisが減少した。腹水中に見られる単核(2核もときどきある)の細胞が、Host側の単球或は組織球であるのか、接種したRLH-1が新環境のなかでそのような形になったのか、よく判らない。前者とすると、RLH-1が余りに早く消えたことになるので、網膜、腸間膜などにひっかかって巣を作っている可能性もある。とにかくもう暫く経過を見守る他はなさそうである。
 4)追試試験
 同様の培養法で次々とExp.をstartしている。Nagisa作戦である。Exp.Noは#CNとした。#CN1は、この現象を見付けたときのExp.である。
 EXp.#CN-1:RLC-2細胞→5w→RLH-1発生。
 Exp.#CN-2:1964-2-25開始、3-17.subculture。RLC-1、RLC-2、RLC-3:平型回転管、各2本宛。この内RLC-2の1本は、タンザクだけ出して顕微鏡映画を撮った。Nagisa現象は何れも見られるが、新生細胞は未だ出現していない。
 Exp.#CN-3:1964-3-4開始、RLC-1(平型2本)、RLC-2(TD-15、2ケ)、RLC-3(TD-15、1ケ)、
RLC-5(平型2本、TD-15、1ケ)何れも未だ新生細胞は現れていない。
《佐藤報告》
 発癌実験は培地中のDABの細胞当りの消耗を見ています。来月には復元其の他の結果も揃いますので班会議で報告させて頂きます。最近JTC-11の実験を纏めましたので、御参考までに報告いたします。(増殖率の図を呈示)。inoculumが少ない場合、計算上40個でも増殖して来ます。適性培地に関しては(図を呈示)、培養6日目の成績では、BSは20%、LHは0.4%、YEは0.04%、glucoseは0.36%が最高の増殖を示しています。JTC-11細胞のmaouse復元成績では、癌性は高く保持されている(図を呈示)。

《杉 報告》
 golden hamster kidneyのprimary culture−stilboestrolの系で、実験群に於いて対照群よりも細胞増殖がよく起り、しかもそれが特に上皮様細胞についていえるということと、この上皮様細胞の増殖には、薬剤を間歇的にくり返し与えることがいいのではないか、という結果が得られた。しかしrat liver−DAB系における程の顕著な増殖は、残念乍らまだ見られていない。
 現在、更に加うべき刺戟について検討しているが、このsystemはあまり期待出来ないかも知れないという意見が前回の班会議で出たこともあり、ここでもう一度従来報ぜられている動物実験の成績を振返ってみたいと思う。
 oestrogenic stimulationを長期に作用させていると、male golden hamsterのkidneyにrenal carcinomaを作るがfemaleは作らないという発見はKirkman and Baconによってなされ、この事はHorningによって確かめられている。
 hormone投与によるmalignancyのiductionが内分泌系に属しないKidneyにおこるということは特異的である。潜伏期が稍長くて9〜12months(但しこれはtumourが外から触れて分る程大きくなるまで)という欠点があるが、興味あることはpelletを一回与えるだけでは発生率70〜80%であったのが第一回投与後3〜4monthsに第2回目のpelletを与えると100%に発生し、しかも出来たtumourは大きく、より容易に転移し易いということである。このことから我々の実験でも長期に連続して与えること、又は間歇的に繰返し与えることは必要であると思われる。発生したtumourはtransplantationが可能であるがそれはstilbeoestrolで前処理したmale hamsterに於いてのみ可能である。即ちhormone dependantであるという。 tumourはcortical tubulesのepitheliumから発生し、medullaからは起らないと云われているが、Kirkmanはintertubular connective tissueがtumour発生に重要な役割を演じているかも知れないと述べている。又最も早期にはhyperplastic focusがあるが最後には明らかにcarcinomatousになると述べている。そしてこのtumour発生はhormone antagonistであるtestosteronの同時投与によって予防される。他のrodentsは、oestrogenによりkidneyにtumourを作らないが、hamsterのkinney epitheliumだけが何故tumourを作るかということについては、Horningはhamsterのrenal epitheliumが吸収されたchemical carciogenにより選択的におかされ易いという他の実験結果を示している。更に流血中のoestrogenを不活化するliverの能力に注目して、hamster liverは他のanimalのliverに比べてこの能力の弱いことを指摘している。又Shoppeeはoestrogenを過量に与えた場合、その10〜20%だけがmetabolitesとして尿に排泄されるに過ぎないと述べている。Stilboestrolが果してこのままの形でkidney cellに作用してtumourを作っているかどうかは、我々の実験の重要な
Key pointになるが、以上の考え方はstilboestrolをそのままの形で作用させている我々の実験にとっては都合がよいと思われる。しかし一方stilboestrolはhormone作用を有し、それによって出来たtumourがhormone dependantであるということから、tumourの発生にはhypophyseなどが関係していることが考えられるので、これらとの関連も考慮しなければならない。
 我々の実験結果で、実験群に上皮様細胞の増殖がよいということは、動物実験におけるhyperplasieの段階に対比して考えてよいかも知れない。これから先の変化を起させるのが非常に難しいと思うが、長期に作用させ観察することはやはり絶対必要と考える。
 hamsterの性による反応の違いについては、femaleは常に多量のoestrogenにさらされて或程度physiological adaptationが出来ているのに対してmaleではそれがないためであるという意見がある。
 我々の実験ではまだhyperplasieの段階?であるため性による差異は認められていない。
《黒木報告》
 Hamster Cheek Pouch内移植法の基礎的研究   .異種新生児皮下移植法について
 新生児特に生后24hrs.内の動物は異種を識別する能力をもっていないと云われています。Hamster Cheek Pouch内移植法と異種新生児移植法とを同一細胞を用いて比較すれば前者の特殊性を明瞭にし得るものと考えられます。
 実験材料:
 動物はC3Hmouse(C3H/HeS、C3H/HeN、C3Hf/HeN)、夫々、我々の研究室において、Brother-Sister-Matingにより純系化しつつあるものです。妊娠したマウスは、朝夕二回づつ観察し、生后24hrs.内に発見出来るようにします。又、吉田肉腫も仔発見后直ちに移植出来るように週2〜3回移植しておきます。皮下移植量は0.1〜0.05ml、0.05mlの方が細胞のもれが少くよいようです。(表を呈示)。表から分るように100万個から100個で100%腫瘍増殖を示します。しかし10万個の1例を除いて他は全てregressしてしまいました。(死亡例は移植后27日死亡)。10個移植群は目下観察中。脳内は組織標本作製中。
 増殖の一例をActual sizeで表示します。10日から15日は、皮膚及びBodenに癒着、動かない、Tumorは硬い。27日よく動く、軟い、内容物は白色、粥状のもの。43日(-)。

《山田報告》
 コロニーの大きさによる細胞増殖度の差異:
 ヒト2倍体性細胞株の増殖度の衰退は、決して継代40代後にはじめておこるのでなく、若い継代においても増殖能の喪失という形であらわれることを前に報告しましたが、その実証として次の実験を行いました。シャーレ内に収めたカバーグラスの上に少数の細胞を播いて増殖させた後(7日間)、培養液にH3-thymidineを加え、一世代時間以上(48時間)培養してオートラジオグラフィーにかけて、DNA合成を行なっている細胞の頻度を測定した。このラベル細胞の頻度をコロニー(クローン)構成細胞数によって群別して比較すると、少数の細胞からなるクローンはラベルされる細胞が少ないことが認められました。すなわち大部分の細胞の世代時間が48時間以上と考えられる。コロニーが大きくなるにつれて、ラベルされた細胞の頻度が上昇し、80%近くで、そのカーブはわるくなっている。このことは、100個以上まで増殖した細胞コロニーでも、次の48時間にDNA合成に入れない細胞が20%出現してくることを意味しています。したがって細胞が新生されたときに20%前後の確立で細胞が増殖し得なくなり、ただ生存するようになると考えると、この種の非増殖細胞の頻度が次第に大きくなってくることがよく理解されます。そして継代によるコロニー形成率の低下、および対数増殖期における増殖度が一定なことなど、これまで得られたデータを説明することができます。
 マウス腎、肺組織の2倍体性細胞株:
 すでに成熟マウス、生後1日、および胎児について、その継代培養、染色体変化の有無、およびNitromin耐性に関する研究を行なっています。とくに動物に対する移植性を、マウス脳内接種で追求中、正常の胎児のトリプシン消化細胞の移植性、50日継代腎細胞株の移植性を観察中です。

《伊藤報告》
 前回の報告会で申上げました如く、今后暫くは何とかしてhomogenizerを使って得た細胞をconstantに培養し得る条件を決めるべく、その基礎条件を検討し度いと考えて居ります。今迄に得られた結果
[肝の潅流及びhomogenizeの検討]
 ◇動物は原則として生后20〜25日目の"ドンリュー"を用いた。
 ◇潅流液:Sodium Citrate(0.027M)in calcium free Lock's Solution
 ◇判定:Tripan blue染色により、生細胞の残存率をみる。潅流液量を15mlとした場合、stroke回数10回で約5%、20回では1%以下。潅流液量30mlとした場合では、stroke回数10回で約4%、20回では1%以下。
 まだ検討回数が少く確実な事は云えませんが、予想された如く、潅流液の量は余り問題にはならず、Homogenizerによるstrokeの回数に影響される点が多いようです。
 また、10回のstrokeで充分細胞はバラバラになって居る事からして、今后更に少数回のstrokeでの検討を要します。
 前回の報告会での山田先生の御報告、又Sacksの文献(此れのDataそのもの、或はその判定には尚検討を要すべき沢山の問題があると思いますが)等から考えて、homogenizerを使って得た細胞について実験をすすめて行く場合、更にはMass Cultureした細胞に発癌剤を与えてtransformさせる場合、transformされるものは恐らく極く少数のものでせうし、その少数のtransformed cellをcheckするのには、platingが非常にすぐれた方法である事を痛感させられました。是非やってみたいと考えて居ます。

《安村報告》
 1.果糖肉腫(FRUKTOyl)の浮遊培養のこころみ
 1-1 Genetic transformationをてがける最初の段階として、細胞を大量に培養できることがのぞましい。それによって細胞DNAを大量にとりだすことが可能になるからです。
 1-2.本番の浮遊培養は、Eagle合成培地適応株(FRUKTOEg:現在は、Eagle's minimum essential medium・1959+Biotin 0.25mg/lの培地でかわれています。いまのところBiotinをのぞくと継代できません。抗生物質ははいっておりません。P.R.はいれてあります。)予備実験としてFRUKTOyl株−YLEだけでかわれている−をつかいました。
 1-3.このFRUKTOyl細胞はガラスにわりあいよくつくのを撰択してできたものですが、もちろんピペット操作だけでかんたんにガラスからはがれます。この細胞をYLEだけで在来のスターラーでマグネチックバーをステンレスワイヤーで宙づりにしてカクハンしますと細胞は死滅してゆくばかりでした。
 1-4.そこでMcLimansやMerchantたちによって開拓された、メチルセルローズ(和光・CPS4000)をつかってみました。DOWChemicalのは手にはいりませんでした。なおカルボキシメチルセルローズはよくありませんでした。濃度は0.1%と0.2%です。結果は(図を呈示)、生存はある程度維持できましたが、結局は増殖がみられず失敗におわったわけです。生細胞数は前号(6403)にあるようにErythrosinBで染めてしらべました。
 1-5.メチルセルローズが0.1%以下、たとえば0.02%、0.04%では0%同様に細胞は死滅する一方で、2日目には全滅というぐあいです。培地はメチルセルローズをくわえて高圧滅菌します。
 1-6-1.在来のスターラーでは正確な廻転数がわからず、文献の記載に従ってslightly convexedの水面をめやすにしてやっているわけです。夜中の電圧上昇によって回転が早くなることによって細胞の損傷がますことも考えられます。
 1-6-2.バーをつるのにステンレスワイヤーをつかいますが、その上にswivelとして釣道具屋さんから「ヨリモドシ」と称するものを買ってきてつかいました。ステンレスというはなしでしたが、これはマッカなウソで真チュウにクロームメッキしたものでした。1カ月近く回転していましたら、ロクショウがでてしまいました。
 1-6-3.このswivelをテフロンで試作をたのんでいますが、加工がむずかしいといってまだできません。ステンレスは加工がなお困難です。スターラは1分間60回転のモータで試作できました(電圧の影響をうけません)がこれでは細胞が完全に浮遊状態にならないので、もう少し早いのを試作中です。試作は三陽理科器械製作所(千代田区神田鍛冶町1-2)です。その他(図を呈示)目もりつきの300ml容量の培養びんも同所でつくってもらいました。瓶の下の口からはダブル栓をとおして注射器で液を採取して細胞数をかぞえることができます。 2.SV40による腫瘍からの細胞の培養
2-1.培養細胞の3代目を新生児(24時間)ハムスターに皮下に14万個1ぴき、7万個2ひき接種しました。18日めごろよりアズキ大の腫瘍をふれるようになり、現在では直径5cm以上の大きさになりました。うち1ぴきは40日め(接種後)に死亡しました。
 3.そのほか(ウメクサ)
3-1 細胞保存の文献:Persidsky,M. & Richard,V.:Optimal coditions and Comparativeeffectiveness of dimethyl sulfoxide and polyvinylpyrrhoridon in preservation of bone marrow.Nature 197(4871):1010-1012,1963.(培養細胞ではありませんが、役に立つと思います。)

《奥村報告》
 昭和38年度は、諸々の観点から考えて一班員としての義務を遂行する自信をもてず脱班させていただいたのですが、本年4月から再び入班して皆様と一緒に発癌研究をする事になりましたので宜しくお願い致します。予研に移って3年目を迎え、どうやら昨年暮頃より落着いて仕事をする場を得、この4月1杯ぐらいで略設備の方が一段落という見通しが出来ました。本年は大いにピッチを上げる心算です。現在までは新設部のためと検定業務のために雑役などにかなりエネルギーを取られてきましたが、今年からはあまり悩まされずに済みそうです。
 ここ2年間は主に"各種実験動物の各臓器由来細胞の初代並びに初期培養の条件"を行い、同時に初代又は初期培養細胞の少数細胞の培養条件を検討してきました。私は一昨年の頃から班会議でも話しましたが、ヒト羊膜の上皮性と繊維芽性細胞の分離培養(初代から)を始めて以来、種々の材料について分離培養を試み、又考え続けてきましたが、最近どうやらCO2フラン器(約1年間かかって作り上げたもの)を巧みに利用することによって初代培養から細胞の分離と又少数細胞を略確実に培養することができる様になってきました。その1つがウサギ子宮内膜細胞で、本年は子宮内膜に関しては、現在の培養方法を礎にして種々の実験を行いたいと考えています。
 ウサギの子宮内膜を用いる主な理由として、(1)内分泌系細胞のうちで子宮内膜が発癌実験をし易いと考えた(いづれはヒト、ハムスターなどからの子宮内膜細胞を用いたい)。(2)ウサギには他の動物の様に週期的排卵がみられない、つまり子宮内膜細胞が時期的に著しい変化をしないために多数の細胞を得るために何匹ものウサギからとった細胞をpoolできる。(3)ウサギの場合は1匹からでも15〜20万個の内膜上皮細胞を採取できる。(ラットは1〜5万個のviable cell)。したがって同一個体からの細胞で種々の実験を可能にする。
培養方法:
(1)トリプシン消化は0.25%(NBC 1:300)のトリプシン液で30〜40分
(2)用いるmediumは199(NaHCO3 0.11%)にcalf serum(Lot番号C)20%に添加したもの
(3)容器はシャーレ(細胞浮游液1ml、2mlを入れる2種類)
(4)細胞濃度:約5,000、10,000、30,000、50,000(いづれもper dish)
(5)送り込むCO2:培養開始2〜3日間は8〜10%CO2ガスを含む空気、基質5〜6%CO2含有空気中に移す。
 培養結果及びホルモン投与実験の結果は次号に記載します。

【勝田班月報:6405】
《勝田報告》
"なぎさ"作戦について:
 前回の班会議で報告したように、Control群よりできたRat肝の細胞株、RLC-2を平型の回転管にタンザク型カバーグラスを入れて、約5℃に傾斜培養(静置)していると(培地は週2回交新するが継代は滅多に行わない)細胞のtransformationが起った。この変化した細胞は、増殖度も早く、染色体数も68本が主軸で、RLC-2(42本)とは異なり、細胞の形態もすっかり変っているのでRLC-2の亜株、RLH-1と命名した。
1)RLH-1の復元接種試験:
(a)皮下接種  1964-3- 4:生後3日JARラッテ2匹、左肩皮下、20万個宛。
(b)筋肉内接種 1964-3-15:(F19生後35日)2匹、大腿筋肉、900万個宛。
(c)腹腔内接種 1964-3-21:(F19生後41日)2匹、腹腔内、1,250万個宛。
(d)脳内接種  1964-4- 8:(F20生後2日)5匹、脳内、100万個宛。
 これまで上記の4法を試みたが、今日までのところでは何れも腫瘍形成を認めていない。但しこれまでの報告では半年近くかかった例もあるので、観察をつづける予定である。なお上の(c)の内1匹は、1964-4-4に開腹したところ横隔膜に白い粟粒大の結節、10ケ位の形成を見出した。この一部は次代に継代し、一部は組織標本用に供した。
2)追試実験:
 この実験は"なぎさ作戦"と命名し、Exp.No.をCarcinogenesis Nagisaから"CN"とした。(1)CN#1:RLC-2→RLH-1は4-15日現在、継代10代、Original lineは静置であるが、Fluid suspension cultureや、合成培地へのAdaptationも試みている。核型分析は土井田班員に依頼の予定。(2)CN#2:1964-2-25開始、(3)CN#3:1964-3-4開始、(4)CN#4:1964-3-20開始と追試実験を行っている。
 これらの追試実験に於ては未だ4月16日現在では新生細胞のcolonyは出現していないが、いわゆる"なぎさ部"に於ける細胞の形態学的変化は著明で、異常分裂も認められた。
3)考察:
 Coverslipが絶対に必須条件であるか否かは未だ確定されない。しかし"なぎさ"部に於て、細胞の形態に大きな異型性が認められ、大きさから見ても、非常に大きなものから、極端に小さなものに至るまで、さまざまの細胞がある。核の異常形態や、異常分裂(3極分裂、不均等分裂、Endomitosis、Endoreduplication、その他)がしばしば認められる。これらの点より考えて"なぎさ"の方がより大きな要因であり、この地帯に於て新生細胞が誕生すると考えるのが妥当であろう。そしてその機構については、好ましからざる環境下において、変則的なDNA合成(或はDNA-polymerisation)をおこなっている細胞が、他のやはりdegenerateした細胞からの、degenerated DNA或はdeviated DNAの一部をCytosisによって取り入れ、自己のDNAに取込んだためにtransformationが起る−と考えたい。これらの点については、勿論今後の実験的証明が必要である。
 次にこの復元接種成績についてであるが、考えてみると牛血清ばかり培地に用いていたのは大失敗で、なぎさ地帯で色々な異常細胞が誕生している時期に、ラッテ血清を血清量全量或は部分的に添加してselectすべきであったと思う。今後の実験ではそのようにするつもりである。なおRLH-1についてはラッテ血清による再淘汰を現在おこなっている。
4)顕微鏡映画供覧:
 RLH-1の誕生時の形態、その後の形態、各種異常分裂・・・
 追試実験中の各seriesの"なぎさ"の細胞形態、分裂、異常分裂・・・
 カバーグラス下の細胞と異常分裂。

 :質疑応答:
[土井田]なぎさの細胞をそのままおかずに、また元のような培地の充分に行きわたる状態にするとどうなりますか。
[勝田]はっきり判りませんが、映画をとるときは"なぎさ"の状態より少し良く培地が行きわたるようにしています。
[土井田]Endomitosisにも色々な状態のが見られましたが、とにかく状態が悪くてあっぷあっぷしているみたいですね。
[山田]DABと結び付けてみませんか。
[勝田]今のところまだすぐ直接的には結びつかないが、これが或程度進展したら戻ります。DABでやられた細胞もこれと同じことをやっているのではないかと思いますが・・。
[佐藤]若い動物ほど発癌しやすい、若いものからの培養は染色体がばらつき易い−ということは考えられませんか。
[奥村]若いものは増殖系になり易いとはいえるが、若くて未分化な細胞が多いから2倍体を保ちにくい−とは云えないと思いますが・・・。
[佐藤]成熟した動物での或抑制が、若いものでは弱いので、培養という条件に入れると、その抑制から容易に外れて、染色体のばらつきなどが出るのではなかろうかと思います。また別の話でDABを入れつづけた培養で、DABを除いてLDだけにすると、抑制を外されて異常分裂をおこす細胞が増えるようです。
[勝田]動物でのDAB発癌で、DABを与えては少し休み、与えては休みすると、反って発癌が早くなるということは無いものでしょうか。
[佐藤]ラッテの血清でselectすると、細胞内にRNAが非常に増えて、ギムザで青く染まるようになります。これを復元してもつきませんが・・・。規則正しく培地交新や継代をしていると、DABやメチルDABを加えても発癌しないと思います。
[勝田]こんどつくづく感じたのは、RLH-1は形態学的には明らかに癌と認めてよいと思われるのに動物に仲々つかない。今後培養内でできた癌をどうやって動物にtakeされるようにするか、考えておかなければならない所があると思います。
[佐藤]LD+血清という培地がむしろ癌細胞AH系のを培養するのに適さないのではないでしょうか。
[黒木]培地が原因でしょうか?。今度しらべてみたら、腫瘍性が落ちないというデータは非常に少ないですね。
[佐藤]JTC-11は未だに落ちていません。
[勝田]JTC-11は染色体数のピークがsharpなのではありませんか。動物に復元したとき別のピークが出てこないのではありませんか。
[黒木]培地というより、培養という、もっと広い条件のために腫瘍性が落ちるのではありませんか。培養内で悪性化した細胞の場合にも、やっぱり腫瘍性が落ちているのですから。
[山田]しかし第1の段階では、正常細胞は増えない、肝癌はふえる−という条件でこの培地及び培養法を採用したという訳ですが、一応ふえてからまた変ったものをselectするにはどうするかという問題ですね。
[勝田]DAB発癌に関しては、私は初めの頃とは少し考えが変ってきています。DABを与えてそのためこわされた細胞のdeviated DNAを喰った細胞の内のいくつかが変異するのではないかと思っています。
[奥村]SV40では、変異した細胞の変な核、変な細胞が、そのまま継代されて行くようです。
[山田]DABを与えて生体内で癌ができるまでの染色体数の変化を顕微分光分析(MSP)でしらべますと、MSPですからContentですから"C"であらわしますと(図を呈示)、正常は2C、4C、8Cにピークがあるが、癌巣のできる前はしだいにばらつきが出てくる。ところが癌巣が出来ると、ピタリとそこは2Cを示す。そしてその後、癌の発育に伴ってまたばらつきが出てくる、ということが報告されています。
 また分裂の各時期でみますと、Metphaseはきれいに4Sにピークが、Telophaseは2Sにピークができますが、静止期の核ではもっとバラツキがあります。つまりそのバラツキの部分の細胞なんかは増えないのではないでしょうか。動物の場合にはStem-cellというものがはっきりしていることになります。しかし培養ではこういう事は全くあてはまらないで、Stem-cellから外れた染色体数の細胞も分裂する、ということになります。
[奥村]動物ではたしかに或条件で規定されるから染色体数の幅が狭くなります。
[勝田]私はこのごろ"分裂命令"というものが何か別にあるような気がします。細胞の準備体制ができ上らない内にその指令が発せられると(細胞内で)、異常分裂になってしまうのではないか、ということです。
[奥村]JTC-4株から、染色体数が20〜30本という少い亜株がとれました。それで考えるのですが、培養内での染色体のSystemというのがあるのではないでしょうか。この少い系はDNAも少く、Metacentricもある長いものも多く見られます。
[勝田]それは面白い系がとれましたね。我々が人工的な細胞を作って行くのに、染色体数も最少限、必要最少限のを作るというのは結構なことだと思います。
[黒木]復元法についてですが、生後24時間以内ならば皮下が良く、生後3日ならば脳内が良いです。

《佐藤報告》
 RL-10 strain CellのDAB及び3'-Methyl-DABによる形態変化:
 実験に使用したCell Strainの由来、DABの濃度、投与日数を表に示す(表を呈示)。
 (顕微鏡写真を呈示)以下写真の説明。
 (1)RLN-10 ◇C10のControlより出来し、673日経過したもの:殆んど変化なし。
 (2)RLN-10にDAB1μgを357日投与したもの:Controlに比してやや大小不同が多く、細胞質に空胞形成がある。
(3)RLN-10に3'-Methyl-DAB1μgを373日投与したもの:細胞核にはやや大小不同が見られ、細胞質の境界線が凹カーブを示す。
 (4)RLD-10をRat Serumにかえて358日経過したもの:増殖率がよく細胞に大小不同がある。
(5)RLD-10 Strain Cell ◇C10のDAB1μg4日投与のものよりStartしたもので677日後:RLN-10に比してやや細胞に大小不同が見られるが大差はない。
 (6)RLD-10にDAB1μgを375日投与したもの:細胞核の異常と細胞質空胞、細胞質境界線の凹カーブが明かである。
 (7)RLD-10に3'-Methyl-DABを1μg、376日投与したもの:細胞質の混濁、核の大小不同、細胞質境界線の凹カーブが明か。
 (8)RLD-10 Strain Cellに3'-Methyl-DABを7%に投与し、後、牛血清を鼠血清におきかえたもの:核仁の増加、細胞質好塩基性、中性の増加が見られる。
 (9)RLD-10に10μgのDABを167日投与、その後DABをとって18日目のもの:10μgDABをはずすと細胞の増殖が著しくなる。それと同時に核の多型性が著明に現れる。
 (10)(9)の細胞を継代し、1、2、4日目のもの:核の多型性が著明。
 (11)RLD-10にTweenを加え、10μgDABに含まれるTweenの影響を調べるControlとした:細胞質に空胞が現れ、核仁に大小不同が現われるが、10μg投与のものに比して少ない。
 (12)(10)の細胞に10μgの3-'MethylDABを再投与したもの:10μg 3'-Methyl-DABを除いて強い多型性を示した細胞群の中でPolymorphismの強い細胞は少くなる(変性消失?発現不能?)但し核仁は大きく核膜は厚くなる。
§小括§
 Cell StrainでもDABを高濃度に与えれば、核、細胞質共に著明な特異的変化を受ける。殊に高濃度の3'-Methyl-DABを連続投与して後、DABを除去すると核の多型性が著明に現れる。
 各種Strain Cellによる試験管内DABの消耗についてのデータ発表。

 :質疑応答:
[勝田]もう一息という感じですね。
[佐藤]Tweenの耐性の細胞にもっとDABをふやして与えてみようと思っています。
[勝田]DABを与えたり抜いたり、をくりかえしてみたらどうでしょう。
[佐藤]若いラッテと老齢(2月)のと、両方培養してみていますが、若い方はDABに弱いらしく、やられ易いです。老齢の方は、2ケ月位は生きているようですから、続けてみています。ラッテにDABを喰わせての発癌の過程で、動物実験での発癌発見よりも、それを培養に移してcheckして培養の方がもっと早期に発見できないか、ということも考えています。
[勝田]若いラッテの細胞と、老齢のラッテの細胞とでは、DABの消費量にちがいがあるのではないですか。
[佐藤]DAB濃度をもっと高めたいので、よく水に溶かす作用があってしかも細胞に害のない補助剤を探しています。
[勝田]n-oxideを使ってみたらどうでしょう。水溶性でよく溶けます。
[佐藤]DABならば発癌が確実ですが、n-oxidで確実と云えるかどうか・・・。
[奥村]動物実験の場合と、in vitroとでは、発癌に有効な物質がちがうかも知れませんね。
[佐藤]うちのDAB定量法は、蛋白に結合していないfreeのDABだけが定量にかかりますが、それでしらべると、DABを喰わせているラッテの肝では、freeのDABは割合少いし血清にも出てこない。牛血清培地とラッテ血清培地とでは、消費がちがうかも知れませんね。
[奥村]DABをやったマウスでは、血清中にfreeのDABが出てくるのでしょうか。
[佐藤]消費していても細胞に入っているのかどうか、しらべる必要があると思っています。
[関口]細胞にくっついているだけか、中に入っているのかということは問題ですね。
[勝田]DABにH3をつけられないかしら。そうすればAutoradiographyも使えるから。
[関口]H3をつけることは可能でしょう。
[勝田]DABの吸収度をしらべてそれをマーカーにすることは大変面白いと思います。DABの抗血清を作って仕事を進められないかしら・・・。それからRLH-1のDAB消費量もしらべてもらいたいですね。
[佐藤]勝田さんのところでは、DAB1μgで形態が変った、という報告がありましたが・・・。
[勝田]それは1μgで増殖を誘導したあと、第2段階の処理で変ったのであって、第1段階では変っていません。
[佐藤]私のところでは、このやり方で、もっとDABの濃度を上げて、続けて行くつもりで居ります。

《伊藤報告》
 homogenizerを使ってラット肝細胞を得て、viable cellを検しつつ種々条件を検討して来て、前回の報告で、肝潅流液量15〜30ml、strokeの回数10回で約4〜5%のviable cellが得られる事を報告し、その後の検討によっても多い時で10%、平均5%近くのviable cellをconstantに得られる事は確認出来ました。
 今後は此の培養法に問題がありますが、炭酸ガスincubatorを是非使ってみたいと考えて居ます。何とか早くこの系での発癌実験のDataを出せる様にしなくてはと、いささかあせり気味です。
 そこで、此の系とは別に比較的簡単にしかも、確実に得られるprimary cultureの細胞を使って、発癌剤を加え、何かDataを得られる様な別の実験も開始し度いと考えています。今の案としてはmouse←Actinomycinの系を予定しています。此れは川俣教授のところでin vivoで腫瘍の出来ることが分って居り、又此の腫瘍の腹水型になったものは、高井君によって株化されて、in vivo←→in vitroに容易に移し得るものとなって居ますので、色々の点で比較するのに便利かと考えて居ます。
 どうも今のままでは、培養内発癌についての実際のDataが仲々得られず、研究班員としてどうも気分的にもしんどい感じですので。此の系で何とかDataを出しながら、一方折角ここまでやって来たラッテ肝細胞の培養の検討も是非続けたいと考えて居ます。

 :質疑応答:
[黒木]Actinomycinでできた腫瘍というのは、Actinomycinにたいする耐性が無いんですね。
[伊藤]ActinomycinCによってマウスに腫瘍のできる%は非常に高くて、60〜100%です。Primaryの培養で、トリプシン処理でとれる細胞の生死の%はどの位ですか。
[奥村]腎で80%、肝で30%位です。消化直後には60%位生きていても、1晩培養して20%位になってしまうこともあります。5月胎児(ヒト)腎のprimary cultureでのplating efficiencyは8%位でした。炭酸ガス8%の条件下です。
[伊藤]炭酸ガスはpHのためだけですか。
[山田]そうです。

《杉 報告》
 Golden hamster kidney−Stilboestrol:
動物実験ではtumourはmale hamsterだけに出来る。stilboestrolのhormone antagonistであるtestosteroneを同時に与えるとtumourは出来ない。tumourのtransplantationはhormone dependantであり、stilboestrolで処置したmale hamsterにおいてのみ可能である。tumourの発生にはhypophyseなどの関与があるかも知れない。これらの実験事実については種々の解釈、推測がなされているが、hormone相互間や細胞との間に複雑な関係があるものと思われる。従ってこれらのからくりを試験管内で再現させるのは仲々むつかしいことが予想される。
 しかし先ずstilboestrolのhormone antagonistであるtestosteroneを取り上げ、stilboestrolを作用させると同一条件でこれを作用させて、stilboestrolの作用と対比してみている。現在まだスタートしたばかりであるが、今のところtestosterone群はstilboestrol群ほど増殖がよくない様である。更にtestosteroneとstilboestrolの同時又は継時作用の群を作って比べてみたい。
 Hamster liver−o-aminoazotoluene:
 前に報告した様に伊藤班員が努力しておられる潅流法をそのごも繰返しやってみた。細胞はかなりとれ、trypan blueで染まらないものも多数あるが、培養するとどうもうまく増殖してこない。
 Mice skin−4-NQO:
 この動物実験はhormoneによる発癌に比べて他のfactorの入る可能性が少く、薬剤の直接作用である可能性が大きく、試験管内で行うには好適と思われる。4-NQOは一応stilboestrolと同じ法で溶かして培養に入れてやれそうであるので、試みたいと思って準備している。

 :質疑応答:
[勝田]君の云われたStilbestrolとTestosteroneの拮抗作用ですが、in vitroでHeLaを使ってテストして見たらよいと思いますよ。うちで以前しらべたところでは、たとえば合成Estradidは生体では効くそうですが、in vitroでは天然ホルモンのようにTestosteroneと拮抗しませんでした。

《奥村報告》
ウサギ子宮内膜細胞の培養条件の検討:
A.内膜上皮細胞の採取方法
 a.上皮の剥離と細胞の分散−内膜から上皮だけを剥がすことは極めて難しい。しかしトリプシンの濃度と時間(作用)を適宜に組合わせる事によってかなり純度の高い上皮性細胞を採取できる。はじめはトリプシン液のほかにEDTAのみあるいはEDTAとトリプシンの混合液を用いてみたが、トリプシン液だけの場合以上の成績を得る事ができなかったので、現在ではトリプシン(1:300)だけの液で細胞剥離を行っている。トリプシンの濃度に関しては表の示す通り0.2又は0.25%(in PBS)が至適であった。(各種濃度、各種時間の処理による細胞収量に関する25実験例の表を呈示)
 b.血清濃度の検討−血清の種類は成牛12lots、馬3lots、仔牛8lotsについて検討したが、生後1〜4週間の仔牛の血清が一番良い事がわかり以後全べてcalf serumを用いている。Rabbitの血清については目下検討中。
血清濃度は0、10、15、20、30、40の各%を199を基礎にして検討した結果20、30%が至適、以来20%にて全実験進行中。
B.Progesteroneの添加実験:
 ProgesteroneをPropyrenglycolに溶かし、それを培地中に添加した。ホルモンは結晶性のもので、帝国臓器co.から入手した。ホルモンの作用効果の基準については一応細胞コロニー数を算定する方法を用いた。ホルモン濃度10、1、0.1、0.01、0.001μg/ml、植え込み細胞数1000〜3000、5000〜8000、20000〜50000/ml/シャーレについてコロニー計数の表を呈示。ホルモン濃度は0.1μg/mlが至適であった。
 Estradiolの投与実験の成績は次回に書きますが、現在までの結果では0.01μg/mlが最も良く、植込み細胞数1000〜3000/ml/シャーレで、コロニー数は5〜7/シャーレ。

 :質疑応答:
[勝田]トリプシン処理後に死細胞が多くて困るというのは、トリプシンの製品、濃度、また他の酵素との組合せなどで、もっと改良できると思います。兎の血中のProgesteroneやEstradiolの生理的濃度をしらべて、培養内での至適濃度と比較してみる必要がありますね。大体ホルモンの実験をする場合は、培地に加える血清の中のホルモン量も考慮に入れなくてはならないから、できれば透析その他でこれを除いておくことも考えなくてはならないと思います。
[山田]重曹量はHanksのままですか?
[奥村]重曹0.11%、炭酸ガス8%にしないと、子宮内膜はよくColonyを作りません。pH=7.3位です。炭酸ガスフランキのお蔭で、こういう培養がうまく行くようになったようです。
[山田]炭酸ガスフランキを使わないで、角瓶などを用いるときも、5%炭酸ガス-airを送り込んで密栓をしておけば、炭酸ガスを使った場合に近いデータが出ます。重曹量とpHの関係は下の表の通りです。但し5%炭酸ガス-Air:重曹系です。
重曹量g/l 2.2  1.23 1.0 0.78・・・ 0.12
pH       7.7 7.4 7.3 7.2 ・・・ 6.4
[奥村]ハムスターのセンイ芽細胞の場合は、炭酸ガスが12〜15%、重曹0.2g/l、pH7.1〜7.2位が一番良いようです。
[山田]要するに、少数細胞の場合は、この重曹−炭酸ガスのBufferを、どの位のpHに決めるかが大変問題になってくるのです。
[奥村]始めは炭酸ガスを5%に固定して、重曹量を色々と変えて条件を出してみましたが、現在は両方の色々な組合せを検討しているところです。

《山田報告》
1.Ehrlich K株(佐藤)のddYマウスへの移植性:
 佐藤氏からわけていただいたEhrlich K株細胞を10%コウシ血清添加Eagle培地(1959)に馴らした後、試験管内および腹腔内の実験を併行して行うためにddYマウスへの腹腔内移植性を調べてみました。300万個のトリプシン消化細胞をddYマウス(やく20g)ipに接種したところ、血性の腹水がたまってくるのを認めましたが、癌細胞がほとんど見られず、開腹してみたところ、腹腔内底部に癌細胞のやわらかな塊を認めることができました。これをマウスで継代してゆくと(接種数はいつも300万個)、図のように(図を呈示)5代目までは30日間の観察で、なお生存しているマウスがありましたが、6代以後は全例が20日以内に腹水腫瘍死するようになりました。マウスの体重増加から、腹水量を推定しますと、やはり、継代のすすんだものだけが、よく腹水のたまることが判ります。
 このマウス継代Ehrlich K株細胞は簡単に組織培養に移すことができます。ただし、ガラス面への"ツキ"および細胞の"ノビ"は試験管内継代細胞とくらべて悪く、もう一段の馴れが必要です。マウス腹腔内に7〜8代継代した後、試験管内にもどして4〜5代継代した細胞をもう一度マウス腹腔内にもどして、腹水のたまり方を見てみました。(図を呈示)それぞれの線は個々のマウスにおける腹水量(体重増加)で、丸はマウスでずっと継代した細胞の平均腹水量です。このように大部分がマウスで継代した場合と同様な腹水量増加を示し、4〜5代の試験管内継代でもマウスへの移植性に変化が認められません。今後この細胞株を、試験管内、腹腔内ともに自由にきりかえても増殖しうるようにすること、また浮遊培養することも考えております。
2.比較的継代の若いマウス細胞のコロニー形成率:
 現在、成熟マウス腎、生後1日のマウス腎及び肺、マウス胎児(全組織)の継代培養を行ないつつありますが、それぞれ継代3代目で、コロニー形成率を比較してみました。上記の3系統(ms、ms2、ms3)は現在80日、50日、40日に達しています。コロニー形成用培養液としては、20%コウシ血清添加Eagle培地(1959)(10-4M glycineおよびserine添加)を用いました。msの形成率は数字にできない程度(10-5乗で1、2個)、ms2は16.8/10,000個、19.8/10,000個、ms3は9.8/1000個でした。ことにms3(胎児)は10,000個でconfluentの細胞層を形成するのに、3,000個では25、28、35という数字が得られ、この程度の細胞濃度にギャップのあることがわかりました(populationによる栄養要求性)。それらの形態変化については次の機会に述べます。

 :質疑応答:
[山田]Ehrlich Kをトリプシン継代して、100万個復元すると、初代は腹水中に細胞がなく、腹腔内にもやもやとした塊ができます。それをもっとマウスで継代している内に、普通のEhrlichの腹水のようになります。
[佐藤]自分のところで継代しているEhrlich Kは100万個で20日位で死にますが・・。
[勝田]これは何の目的ではじめた仕事ですか?
[山田]EhrlichにはG1が無い、つまり分裂直後からDNA合成をはじめるという報告があるのですが、私はこの系を、TCでも動物でも充分継代できる癌細胞として、その点を追ってみたいのです。結果としてG1は短いながら有りました。Autographyでみたのです。
[奥村]Colony法だと、接種細胞数によって細胞の種類がselectされるようです。細胞数が多いと色々の種類の細胞のcolonyができますが、少くすると大体1種類の細胞のcolonyです。細胞が多いと、細胞間の相互作用が加わってくるのではないでしょうか。細胞数を少くすると、その培養法及び培地に適応した細胞だけが増えてくるという結果になるようです。
(以後は炭酸ガスフランキについての討論。要するに山田方式(平山式)はなるべく安く炭酸ガスフランキを作りたい、奥村方式(トキワ)はなるべく理想的なものと作りたい、というところが双方の根本的な相違点であるらしい。)

《黒木報告》
 XII.吉田肉腫の新生児マウス脳内移植法:
 新生児マウス(生後24hrs.内)皮下に吉田肉腫を移植した際、高率に腫瘤をつくるに拘らず、そのほとんどがregresすることを前報で報告しました。今回は新生児マウス脳内移植の成績についてReportします。脳内は、他の臓器と比べて免疫学的に寛容性が高いと云はれています。従って新生児との組合わせは非常に優れた移植法であることが想像されます。
 実験に用いたマウスは前報と同様C3H/Hes、C3H/HeN、C3Hf/HeN、の三つのstrainです。接種液量は0.02ml。移植法は、伝研実習書に準じ、反対側の大脳半球に注入するようにしたのですが、ときには「液もれ」をみたものがあります。又、1.0mlの注射器を用いたため、注入量の正確さについては余り自信がありません。
 結果(表を呈示)
 忙しさにまぎれて、まだ組織標本を作っていないので最終的なことは云えませんが、脳内移植法はかなり優れた移植法であると云えます。しかし、この成績からは、皮下よりも脳内の方がよいとは云えません。注意すべきことは、皮下はregressするに拘らず、脳内では全て死亡することです。すなはち、脳と云う特殊な臓器のため、ある程度の増殖をみれば動物を死に致らせしめるものと思はれます。従って腫瘍性の検定には脳内のみに頼ることは危険性を伴うものと思はれます。脳内で増殖した細胞を皮下に移すか、又は皮下移植と平行して行う必要があります。
 正常細胞でも、脳内移植でTumorを作ると云う報告があります。Chick embryo(trypsin-dispersed,praimary or secondary culture)cellsはadult conditioned rat brain内で500万個〜1,000万個でTumorを作るそうです。(Scotti,T.M. et al:Growth of normal and Rous sarcome virus ingected Chick embryo cells in rat brain.Cancer Res.23(4),p.531-p.534.1963)
 XIII.新生児移植法、Age factorの検討:
 新生児が移植動物として非常に優れていることは、明らかになりましたが、生後何時間までの動物がよいのかははっきりしません。H-2抗原が48時間より急激に増加する事実は24、48時間を一つの境にして移植性も変化することが予想されます。
そこで生後1日(24hrs内)、3日(72hrs)、4日(96hrs)、5日(120hrs)、6日(144hrs)の動物(C3H)に、吉田肉腫を皮下又は脳内に移植しAge factorを検討しました。接種細胞数は、皮下40,000、脳内4,000です。(表を呈示)
 この成績から次の二つのことがわかります。
1)皮下移植の結果から明らかのように、生後24hrs.内に比べて、生後48〜72hrs.のものは移植率が急激に下がります。従って、皮下移植の場合はどうしても生後24hrs.内に移植する必要があります。
2)脳内は皮下程Age factorの影響を受けません。すなはち脳内は皮下よりも優れた移植部位であることがこの成績から分ります。
 新生児移植の部位としては、この他、静脈内、腹腔内が考えられます。後者は皮下よりもよい成績が期待されます。前者については、最近のCancer Res.に報告があり、人癌培養細胞を新生児(24hrs内)ラット静脈内に移植し、相当よい成績が出ています。(Southam C.M.et al. Growth of several human cell lines in new born rats.Cancer Res.23(2)P.345-355,1964)
 発癌実験の場合の復元動物としては、同種を用いることが本道であると思います。Hamster等の異種を用いることは、それ以後の一つの応用問題にすぎないと思はれます。今までの成績から移植部位として感受性の高いものから並べますと次のようになります。御参考までに。
1)New born(24hrs.)脳内
2)New born(24hrs.)皮下
3)Suckling 脳内
4)同種Adult
5)Cortisone-treated Hamster ch.p.(同種Aduktとほぼ同じ)
6)Non-treated Hamster ch.p.
3)と4)の間にはX-ray or Cortisonによるconditioned Animalが多分入ることでしょう。

 :質疑応答:
[勝田]heteroで接種して腫大する塊は、果して接種した細胞が増えたのでしょうか。
[黒木]反応細胞ではなく、入れた細胞そのものだと思いますが、切片を作ってしらべてみます。
[奥村]染色体を見れば簡単に判ります。
[佐藤]脳内接種で死ぬ場合、日齢の多いラッテは頭蓋骨が固いので、脳圧が高くなり、そのため若いラッテより早く死ぬことがありますね。
[山田]脳内接種は細胞数は余り厳密にはできませんね。
[奥村]前眼房はどうです。
[山田]小さな動物ではやりにくいです。

《土井田報告》
 現在データは出ていないが、次のような2点から研究をすべく仕事を進めている。本回はそれらについて私が考えている点について記すが、多少考えかたに飛躍があるかも知れないので、この点については班会議の席上ででも批判して戴き、又よい方法があったらsuggestionを戴きたい。
A)マウス臓器のprimary cultureについて。
B)組織培養で増殖性になった細胞を、宿主え復帰させる方法およびそれに関する考え方について。
 A)については、NH系マウスを用いて肝および腎のprimary cultureを試みているが、予備実験の段階で今後数多くの処理をしてゆきたい。
 B)株細胞を含めin vitroで増殖するようになった細胞を(適当な)宿主にもどすとき、多くは増殖しない。原因としては、いろいろ考えられようが(1)organizeされた生体が増殖を抑制するため、(2)喰細胞により貪喰され、そのため絶滅してしまう、(3)免疫学的な立場で宿主が移植片として入れられた細胞をrejectするため。などが主たる要因であろう。primary cultureで育つということは細胞がin vitroの条件に適応し既にいくらか変化したのかもしれないが、いづれ癌細胞も何等かの意味で変化していると考えられる。この様な面から私は次のような考えで仕事を進めようと思っている。即ち、in vitroで増殖するようになった細胞を宿主に戻すとき、増殖能と宿主の関係と切りはなしてしまう。そのためにdiffusion chamber法を復元実験と平行して行なう。
 (予備実験)
 生れた日のNH系マウスにL細胞を150万個inoculateした。このマウス内で移植されたL細胞がそのまま生長するか、増殖はしないが、此の時期のマウスの免疫学的特性から、そのまま残存するか(移植部位の組織をもう一度in vitro cultureしてみる)。又、此の時期にinoculateすることによりマウスを免疫寛容にできないか、出来るなら数ケ月後同種細胞を移植したときに増殖するのではないか。
 (経過)
 生後、現在では40日を経たが、controlの2頭とともにLを移植されたマウス3頭も生存しているが、腫瘍を形成しているような所見は外見からはみられていない。
 (今後の研究方向と問題点)
 primary cultureで増殖系に入った細胞に関しては同系のマウスに復元することにより組織和合性のgeneの問題は解決できるが、Lその他の細胞での併行実験の際には組織適合性(特にH-2 locus)遺伝子等を考慮し、又発癌性なども考慮し、系統の選択をしたい。
 primary cultureで増殖系に入ったcellsに放射線照射その他をおこない、その後生じた耐性細胞のごときものを、宿主に復元し、併せてdiffusion chamberを取りあげ、増殖能力のin vivoでの変化を調べる。又宿主に対して移植された細胞が食殺される可能性もあるので、これについてはmacrophageとの混合培養法を利用して追求する。

 :質疑応答:
[奥村]NH系というのは、放射線に対して非常に抵抗性が高い系ですか。
[土井田]そうかも知れません。
[佐藤]細胞が喰う−ということが頭にありすぎているように思われます。生きている癌細胞をmacrophageが喰うのではなくて、変性したのを喰う−というのが普通の概念ですが・・・。
[土井田]そこに問題はあると思いますが、TC内では脾細胞をLが丸ごと喰ってしまうのが見られます。
[黒木]NH系というのは自然発生癌は多いですか、少いですか。
[土井田]今のところよく判りません。
[勝田]研究目的をもう少しはっきり説明して下さい。
[土井田]移植法の問題と、放射線による変異です。Diffusion chamberを用いて、動物へ復元した時の細胞の末路をまず見てみたいと思います。(以後、土井田班員の研究目的について、かなり討論が交されたが省略する)

【勝田班月報・6406】
《勝田報告》
 A.ラッテ肝細胞の初代培養:
 発癌実験に初代あるいは第2代辺りの培養を用いたいことは兼々話している所であるが、そのころの増殖が悪いので、Exp.に使える時期がどうしてもおそくなってしまう。そこで初代の増殖をもう少しまともに出来ないものか、と色々な培地でごくラフなスクリーニングを試み、染色標本で優劣を判定しながら培養し、現在までに次のような結果を得た。
[細胞浮游液の作成]
 すべてトリプシン消化を用いた。肝をそのままメスで細切し、モチダ・トリプシン2,000u/ml液で、約15〜20分間室温で作用させた。これを1,500rpmで5分遠沈后、その沈渣を再浮游させて培養に用いた。
Exp.#1:1964-4-10開始。RatF20・生后4日。培地馬血清50%+DM-120。 1964-4-23継代。
#2: 5-8開始。ratF20・生后6日。培地馬血清50%+DM-120、仔牛血清20%+0.4Lh。
#3: 5-12開始。ratF20・生后10日。培地馬血清50%+DM-120、馬血清50%+0.4Lh。
Exp.#1と#2は小角瓶使用。 #3は平型回転管使用。
[結果]
 Exp.#1:初代に於ては実質様細胞のシートとfibroblast様(内被細胞?)細胞のシートと夫々相半ば位に混合していた。第2代に入ると、后者の方が多くなった。これにDAB;0、1、10、50μg/ml加えて細胞の形態をしらべた。
1μg:TC第10日の標本でも無添加群とほとんど変りがない。
10μg:第10日標本でみると、細胞の変性有り。核が細かく断裂した像もかなりはっきりと認められた。
50μg:細胞変性が強く第2日の標本ですでに細胞がほとんど見られなくなってしまった。 Exp.#2:Exp.#1よりも后者型の細胞の存在率がずっと高い。馬血清培地では細胞シートができるが仔牛血清+Lh+D培地では第2日では、殆んどの細胞が変性を示し、第4日以后所々に小さなコロニーが出来はじめた。
 Exp.#3:ほとんどが内被様細胞から成る。シートを形成せず、コロニー状に増殖。ラクトアルブミン培地よりも、DM-120培地の方が、コロニー数も細胞増殖も少し良好であった。
[現在までに判明した至適条件]
 1.Ratはageの若い方がよい。これまで若すぎるとfib.様細胞が多くでてきて困ると考えていたが、実際は6日ratよりも4日ratの方が実質細胞がはるかに多く培養内に認められる。 2.培地は現在迄の所では(馬血清50%+合成培地DM-120、50%)が最も増殖が良好である。[今后の予定]
 1.さらに培地を検討する。たとえば馬血清の至適濃度など。
 2.DABの各種濃度、特に10μg〜50μg/mlの間を調べることと、長期添加の影響も調べる。
 B.NAGISA作戦:
 Exp.CN#1〜#4は全部1964-5-8に継代した。
無継代も5週間以上おくと、細胞増殖がみられなくなるので、適当なところで継代する方が反って良さそうである。
 Exp.CN#5:1964-4-23開始。カバーグラスなし。RLC-1株、RLC-2株夫々平回転管2本。
 Exp.CN#6:1964-5-23開始。RLC-1株、RLC-2株、RLC-3株、RLC-4株、RLC-5株、夫々平回転管2本。カバーグラス入り。なぎさ状態で加温。
 その他:この実験は貪喰実験に用いるためで、貪喰材料にはRLH-1の染色体浮游液を用い、なぎさ部とシート内との貪喰率の比較の第2対照として用意した。:RLC-1株、RLC-2株、RLC-3株、RLC-5株夫々TD-7培養管2本。カバーグラスなし。平らに保持(なぎさを作らない)。
《佐藤報告》
 ◇培地中の細胞によるDABの消耗(つづき)
 前号に1個の細胞が1時間に消耗する培地中のDAB量を棒グラフで記載しました。前号以外に行なった細胞の同じ時間におけるDABの消耗の図を呈示します。横軸は0時間から24時間迄の間における1個1時間のDAB量の消耗を示しています。JTC-2では最初の24時間に2.0x10-8乗μgのDABを、次の24時間には1個の細胞は1時間に平均5x10-8乗μgを消耗していることを示しています。訂正:前号JTC-2はJTC-1の誤りです。
 次に現在まで行なったDAB消耗の夫々の細胞について、縦軸に培地中におけるDAB(1ml中1μg)を100%として横軸に夫々の細胞がDABを消耗するために必要な細胞数を記載しました(図を呈示)。この図によるとJTC-1及びJTC-2は培地中におけるDABの消耗が最も少い。次いでその動物株であるAH-130になります。RLN8及びRLN10は消耗能力が強くRLD10はRLN10に比してやや少い様です。RLN21(箒星状細胞)は他の対照のものよりやや多く消耗する様です。RLD-M-LD即ちRLD株をメチルDAB 10μgで耐性にした後LD(0μg)で培養したものではDABの消耗が期待したほど下っていません。併しそれの対照として拵えられたRLD-Tw10x即ちRLD株をTweenの10倍量で耐性?にしたものと比較するとかなり消耗度がおちています。又メチルDAB耐性とDAB耐性とが平行するかどうかにも疑問があります。DABの消耗の率の下降が発癌に関係するとすれば更に強く耐性?にする必要があろう。次に上述の細胞の実験時における増殖率の図を呈示する。
 ◇DAB発癌過程における動物(呑竜ラット)肝臓組織の組織培養上の態度
 生后53日目の同種ラットにDABを試食させて、44日目=Exp.52、57日目=Exp.53、72日目=Exp.57、79日目=Exp.58に脱血して型の通り肝を細切してLD+20%牛血清で回転培養した所、44日投与のものでは細胞増殖はおこらなかったが、57日間投与のもので3/5、72日間投与のもので5/14、79日間投与のもので7/14の細胞増殖を見た。細胞の性状其の他については次回の班会議に発表の予定。

《杉 報告》
 [golden hamster kidney−stilbestrol] stilbestrolの繰返し作用:
 生後24days♂。stilbestrol 10μg/mlを3日間作用。
 培養14日目第2代へsubculture、3+3日間作用。培養10日目第3代へ、28日間作用。
 第2代までstilbestrol群は増殖良好、第3代では増殖落ちcontrolと差なし。
stilbestrol群の他にtestosterone作用群を設け(testosteroneをethanolにとかしTyrode液で稀釋。これはstilbestrolのとかし方と同一。controlにも同じ割合でethanol、Tyrode液を入れている)。stilbestrol群、control群との比較を試みている。
 生後6days。sex不明。stilbestrol群、testosterone群共10μg/ml。7+3+28日間。
stilbestrol群、control群共に増殖悪く、testosterone群のみ優勢。
 生後9days。♀。stilbestrol、testosterone群共10μg/ml。4+3+21日間。
stilbestrol群が優勢。
 trypsinizationによる定量的実験は成功していない。
 [mice skin−4-NQO]
 4-NQOはethanolにとかしTyrode液で稀釋。即ちstilbestrolやtestosteroneと同一方法でとかし得る。このところ研究室の人手不足でstilbestrol、testosteroneの拮抗作用の問題、4-NQOの実験など新しい実験のstartが出来ず進展していません。

《黒木報告》
 マウス腹水肝癌MH129Pの培養  in vivo継代によるin vitro増殖性の変化
 月報6310においてマウス腹水肝癌MH134、129P、129F(CCl4により作られたC3H/HeNマウスの肝癌の腹水系。1956)の試験管内株化について報告しました。一旦株化した細胞をin vivo継代するとき株細胞としての機能、すなわちin vitroの増殖性がどのように変化するかについて興味をもち、二三の実験をつづけています。増殖性の変化がみられるとき、もとの腹水細胞のようにin vitroの増殖性を失うものか、又それに伴い他のphenotypeも腹水型に近ずく(back-mutation?)ものか、更に、その増殖性の変化がgradualに起るとしたら、lag-phaseの増加又はdiploid細胞のようにinitial fallの形で表れるのかをみてみたいと思っています。又animal paasageによる腫瘍性の回復と表裏の関係にあるのかどうかも問題となります。
 文献的には、佐藤二郎先生が、株化したEhrlichが95日5Gのin vivo継代后も培養における増殖性を維持していることを報告しています(月報6404)。又、高井氏はactinomycin肉腫の株化細胞JTC-14が、in vivoで27G(ddO mouse)及び22G(C3H mouse)継代后もin vitro増殖性を保有していることを記載しています。Todaroはpolyoma virus腫瘍を株化したとき、株細胞はin vitroにおいて少数細胞による増殖能を獲得することを明らかにしました。更にanimal passage(1代)後も、この少数細胞レベルにおける増殖性の維持されていることを示しました。
 動物継代に用いた細胞はMH129P、22代で215日in vitro継代の細胞です。C3H/HeN or C3Hfを使用し10〜15日間隔で移植し、同時に10,000ケ/mlを培養に移しGrowthをみます。
 Growthの測定は、Generation timeを厳密にとるため、時間単位で測定しました。細胞はtrypan blueを染色生細胞のみをcountしました。又、logarithmic growth phaseから直線を下に伸ばしinoculum sizeと交る点を求めlag phaseの時間を計算して出しました。
 結果は(表を呈示)、7G、108日迄の成績ではlag phaseの延長の傾向がみられます。0-24hrs.とあるのは謂ば第1日のcountですので、0-27hrs.の成績も含んでいます。
なおin vitro継代細胞のGeneration timeは大体15時間前后ですので、logarithmic phaseに関する限りでは、in vivoでtransferの細胞と同じであると云ってよいと思います。

《土井田報告》
 NH系マウスの性質: 此の系統のマウスの腫瘍発生頻度は低いが、老齢になると肝癌が30〜40%発生するという。放射線に対する感受性は調べられていないが、雄の生殖腺に600γ局所照射を行なうと繁殖力が著るしくおちるようである。
 復元実験の経過: 生後第1日(7/ )のNH系マウス(3匹)に1,460万個のL細胞を腹腔内に注入し、経過をみたが腫瘍発生をみなかったので、2ケ月后(5/ )同腹の対照2個体とともに改めて1,740万個のL細胞を背部皮下に注入した。現在すべての個体において腫瘤形成を認めていない。之等の個体については猶暫時経過を追うて見るつもりである。一方今後も此の種の実験を多少改良した方法のもとに反覆する。
 Primary culture: NH系マウスの肝臓および皮質部を主体とした腎臓をとりだし、メスにて細切し、50mlの角瓶にて培養している。培地は20%仔牛血清(又は牛血清)を含むLH塩液で、37℃で静置培養している。
 [腎臓] 血清の種類に関係なくfibroblast状の細胞が集落をなして増殖して来ている。最初瓶当り接種した細胞数は調べられていないので、形成されて来る集落について記すことは意味がないが、現在のところ牛血清の方が少し能率よくコロニーを形成するように思われる。
 [肝臓] どの様な細胞が増殖しては生残しているのか見当がつかない。この点はっきりするためにはカバーグラスを培養瓶中に入れるのも一法であろう。
 肝あるいは腎由来の細胞について幾つかの系を増殖させ、これに放射線照射を行ない、その後、再増殖してくる細胞について腫瘍性変異の有無を調べようと考えている。
 マウスにおいては自然発生的に生ずる腎癌は殆んど皆無であるが、ある種の条件でX線照射を行なうと高頻度に腎癌の発生が(in vivoで)みられたという。この事は我々に極めて興味深い事柄を示唆するようである。

《山田報告》
 細胞増殖サイクル中のRNA合成度の推移について
 動物細胞の増殖サイクル中に、DNA合成をを行なう一時期(S)があることは御存知の通りですが、この間DNAおよび蛋白質がどのように合成されているかあまり知られていません。今丁度RNA合成度の推移をHeLa細胞について調べておりますので、予報的な結果ですが、ここに紹介してみました。サイクルをひろげて、シェーマでRNA、蛋白質の合成時期を図で示します。もっとも蛋白質は分裂中も合成されるという報告があります。
 そこでRNAについて少しくわしく調べてみますと、Interphaseではズーと合成が行なわれ、分裂期では一部RNH合成を行なわない時期があるという結果になります。すなわち15分程度の短いH3-Uridineのとりこみ時間では、MetaphaseおよびAnaphaseの細胞の銀粒子数はbackgroundと同じになります。(表を呈示)。6μc/mlのH3-Uridine、15分とりこみの結果をみますと、1枚のスライドで数多く数えたInterphaseおよびMetaphaseの銀粒子数を比較しますと、前者のCytoplasmの銀粒子はbackgroundと数えてよく(これまでの成績から)、核および核小体の和は約40程度ですが、Metaphaseの染色体上にはbackgroundと考えられる2.6個しかでてまいりません。しかしCytoplasmには17.5個でており、これはMetaphaseではCytoplasmでRNA合成が行われると考えるより、15分間の前半でprophaseの時期に核内(染色体上?)で行われたRNA合成の結果が、核膜消失により細胞質へ放出されたと考えた方が考えやすいと思います。Prophase、Anaphaseはまだ数がたりないので参考データ程度ですが、Prophaseでなお合成が行われること、そしてその程度はInterphaseより高いかも知れないことが推定されます。AnaphaseはMetaphaseと同様の数字です。ここで問題となるのはMetaphase、Anaphaseの持続時間で、これが15分以上あるとすればどちらかの時期でわずかながら合成が行われるというデータになります。最後にTelophaseですが、この時期の粒子の分布には3種類あり、細胞質内のみに見られるもの、核内にわずか合成がはじまっているもの、さらに核内で非常に粒子数の多いものが見られます。これらはTelophaseの後半でRNA合成が再びさかんになることを示していると思います。以上は分裂各期のRNA合成度についての話ですが、現在Interphaseで、どのようにRNA合成の変動があるかについて映画をオートラジオグラフィーの併用で調べております。

《奥村報告》
C)Estradiolの添加実験(Normal rabbit uterus endometrium)
 前報でprogesterone添加実験の成績を報告しましたが、colony countの方法では0.1μg/mlの濃度が至適であることが判りました。今回は、次いでEstradiolを各濃度に添加して至適濃度を検討してみました。(Primary culture)Basal mediumにはNo.199(Progesterone添加実験に用いたものと同一lot)。血清はcalf serum(C)を20%に加え、NaHCO3の最終濃度0.20%。結果は0.01μg/mlが至適(表を呈示)。
 D)ProgesteroneとEstradiolの混合投与実験
 Progesterone及びestradiolの夫々の至適濃度は0.1μg/mlと0.01μg/mlである事が明かになったので、次に此らのhormoneを各濃度で混ぜた時にどうなるかを調べる実験に着手した。
 D-1)Preliminarry exp.1. 恐らく両者のhormoneを高濃度に混ぜても細胞の増殖(又はコロニー形成率)に望ましい効果を示さないだろうと考えたが一応テストする事にした。(多くの細胞数を一度に採取する事が難かしいので実験を分割)。培養液は199+calf serum(final concent.20%)。(表を呈示)未完。

【勝田班月報・6407】
《勝田班長》
[月報第50号発行記念号]
 我研究チームが毎月発行している研究連絡月報も、いつの間にか本号で50号と通算されるに至った。この機会に一度、我々の歩いてきた路(それはまっしぐらの一筋の路であったが)を振返ってみることは、今后の進展のためにも、非常に有意義であろう。
 いま、月報ファイルのNo. を開いてみると、月報第1号は、No.6001、1960-6-17発行となっている。その巻頭に、月報を発行するに至るまでの我々グループの歴史が簡単に記されているので、ここに再録しよう。勿論これは文部省の研究班としての歴史で、我々の共同研究の歴史はそれより遥かに古いことを附言しておく。
 "癌研究班に於ける組織培養研究グループ"の歴史:
 癌研究に組織培養がきわめて有用の研究法であることは当然であるにも拘わらず、昨年度以前はこの班に1名も組織培養研究者は参加していなかった。そこで昭和34年度の綜合研究の申請にあたって、勝田を中心にして組織培養研究グループが新班編成を計画した。 しかしこの申請は全面的には認可されず、癌研究班の内の放射線研究グループに、勝田のみを収容しようとしたので、その他に高野宏一(現在在米)、奥村秀夫(当時、東邦大、解剖)、の両名も収容してもらい、各員10万宛の研究費(勝田は後に5万円追加)をもらって発足した。この班における3名の立場は全く自由であり、放射線の仕事を考慮に入れる必要、義務は全く負わされなかった。昭和35年度編成にあたり、新たにウィルス研究者と組織培養研究者とを合わせて一つの班を作ることになり、上記3名がそちらに移ると共に、さらに3名(遠藤浩良、高木良三郎、伊藤英太郎)を加え得たのである"
(このウィルスとの寄合世帯は釜洞班と呼ばれていたが、1年后の昭和36年度には分離独立して、組織培養だけの班を結成することができた。)
 月報の第1号→第3号は、Ditto刷りで、あまりきれいな出来上りではない。第1号を繰ってみると、"組織培養内悪性化のための研究"という言葉がすでに現れて居り、そのためにまず正常の細胞株を作ろうと計画している。当時としては仕方のない考え方であろ。う。高野班員は細胞の凍結保存のテストをはじめている。高木班員は腫瘍組織のマイクロゾーム、リボ核蛋白、デオキシリボ核蛋白などの分劃を抽出し、これを正常由来の細胞の培養への添加を試みている。
 なお組織培養内発癌研究の発表として、一連の総合題名を付けることが、このとき既に決められている。第6002号で面白いのは、細胞の腫瘍性はさることながら"正常性"とは一体何かと皆で論じあっていることです(寄稿)。このころ、株細胞は原組織の特性を保持していることがある、として、JTC-4、JTC-6などについて膠原質産生能を共同でしらべ、連名で癌学会に発表しました。遠藤班員は勝田との共同研究として、HeLaを用い、性ホルモンの影響をしらべはじめている。奥村班員はLやHeLaの無蛋白培地亜株の染色体分析をおこなっている。第6004号(9月)からはAgfaのCopyrapid判で月報を作りはじめたので、現在よりもきれいなcopyが得られている。昭和35年9月3日、伝研で行われた組織培養グループだけの第1回の班会議の速記が第6004号にのっている。毎号一人で書くのにうんざりして、各班員のかいた原稿をまとめて綴じるようになったのは、第6005号からである。そして第1回の月報寄稿星取表もこの号に現れている。このころ、勝田はL・P1のアミノ酸要求をしらべて居り、高木班員は腫瘍分劃をJTC-4に加えて悪戦苦闘している。第2回の班会議は12月20日、癌学会の翌日開かれ、報告と例年度の申請について相談している。
 月報ファイルNo. は、1961・1月からで、この巻から初めて年12册宛揃い出した。昭和36年度は(組織培養による正常及び腫瘍細胞の研究)という総合課題名で、班員は7人(勝田、遠藤、奥村、高木、伊藤、高野、堀川)。ここに初めて勝田班として組織培養が完全独立した。堀川班員は大学院を卒業して放医研に移った年である。第6102号には、勝田がはじめてParabiotic cultureについて報告している。高木班員は(PVP+LYT)の培地を用い、添加したRNA分劃のJTC-4による消費をしらべている。高野班員は殊に腫瘍のcrude extractを与えている。この年度から年5回の班会議がはじまり、第1回は5月14日、阪大癌研でおこなわれた。この第1次勝田班の研究目標は三つに大別され、1)培養内発癌、2)正常・腫瘍細胞間の相互作用。3)正常及び腫瘍細胞の特性の比較であった。1)でも2)でもないのは3)に入った訳である。研究費は120万で各人15万宛、高木、伊藤両班員の旅費が6万円、中央費9万円であった。班会議では発癌実験のための詳細な分担が決められたが、結果的には少数の班員がこれを実行しただけであった。この年は、勝田は正常・腫瘍間の相互作用の研究に全力をあげ、発癌に用いるための正常ラッテ肝細胞の培養の研究もおこなっている。高木班員は前半はRNA分劃の添加を粘っていた。堀川班員はL株を使って、色々な耐性を作ったり、耐性細胞の発現機構をしらべている。高野班員は10月30日、米国に"帰った"と記載されている。この年、勝田は4NQとラッテ肝を組合わせたが面白い結果が得られず(DABとラッテ肝)に変えたところ、年度の終りに近くなって、俄然DABによる増殖誘導の事実が見出され、大いに活気がついてきた。
 月報ファイルNo. (1962)の第1号の1頁に"班会議のあと全部を一人で書くのはかなわないから、自分の演説の分は自分でかいてきてくれ"と記してある。よくこれまで辛棒したもの、と今にして思う。この年から佐藤、山田両班員が加わり(高野班員と山田班員と入れ代り)、計8人で160万円にふえている。但し昨年度の"悪平等"にこりて、この年の配分は、15万円、10万円、5万円と3段階を作り、あとは成績により第2次配給という制度に変っている。
 高木班員はJTC-4にDAB、ハムスター腎にStilbestrol、・・・色々の組合せで頑張ったが、渡米のため11月で中途挫折してしまった。あとは杉氏がバトンタッチして今日に至っている。佐藤班員は呑竜ラッテにDAB、メチルDABでenergischによく働き、いずれも増殖誘導のおこることを見出している。堀川班員は京大に移り、Lに他の核を貪喰させる仕事をはじめている。奥村班員は凍結保存による細胞の淘汰の問題を染色体分析によってしらべ、遠藤班員は相不変HeLaとホルモンをしらべている。勝田はDABで増殖を誘導したラッテ肝に、さらに第2次刺戟を色々と加えて試みたが、仲々真の悪性化に至らず、その現状を、12月4日、大阪で開かれた(発癌の生化学)のシンポジウムで報告している。
 昭和38年度は、第1次勝田班が2年つづき、発癌について何か出そうなことが判ってきたので、班を解散し、改めて(組織培養による発癌機構の研究)として、新しい班を申請することとし、班員は勝田、佐藤、山田、伊藤、堀川、杉、黒木の7人で出発した。真の意味の初登場は黒木班員である。奥村氏は勤務先の都合上、この年は入班しなかった。これまでの月報ファイルにくらべ、この年のNo. はずしりと重くなっている。熱心に仕事をやり、詳細に報告する人が増えてきたからである。勝田と佐藤班員は(ラッテ肝-DAB、メチルDAB)の組合せで奮闘している。結局この年にはまだ復元接種試験陽性の細胞変化は得られていないが。杉班員は(Golden hamster-Stilbestrol)をつづけたが成果なく、堀川班員は前半L細胞の喰作用を利用して形質転換を図っているが、10月2日にはWisconsin大学へ留学にでかけてしまった。今となってみると、班のためには非常に惜しいことであった。この年は、4月には医学会総会で組織培養の演者5人の内3人を当班が占め(しかも格段と評判が良く)、5月には佐藤班員が岡山で組織培養学会の研究会開催を引受け(癌と組織培養)のシンポジウムでは名司会と評された。新入の黒木班員はハムスターポーチを利用しての、腫瘍の異種移植の基礎的データをがっちりとしらべ上げて行った。なお、この年の研究費は210万円で、大分増額された。
 昭和39年に入り、発癌実験は俄然進展した。勝田が偶然に"なぎさ"培養で細胞の変換を見出し、その原因究明につとめ、追試実験でも同期間の5週間でやはり変換が起こり、100%ではないが再現性をたしかめた。そして前月号に発表したような、発癌機構に関する"なぎさ説"が誕生したのである。
 この知見と理論は、他班員の発癌実験にも、その計画立案に有効に生かし得るものであるし、且活用されなくてはならない。第2次勝田班も、しかし、これでどうやら看板通りの実績を上げられる見通しがついて、ほっとしたものである。
 昭和39年度は、研究費は230万円に増額された。1年休班した奥村君もまた新たに加わり、各種正常細胞を初代からcloningしてpure cloneでのきれいな発癌実験を可能にさせるべく努力してくれている。前年度后半から客員となっていた安村氏も、今年度からは正式の班員として加わったが、惜しいことにこの夏から渡米されることに急に決まった。ただ在米中の高木氏が12月頃には帰国して、ピンチヒッターの杉班員と交代されることは心強い。関口班員は今年度はじめての入班であるが、7月16日から癌センターの室長として栄転することに決まった。しかし国内のしかも東京にいるのであるから、班会議には出席できるし、月報にも8月号から寄稿することになっている。
 月報を出しはじめてから、かぞえてみると4年2月になる。その間毎年5回宛班会議を開き、月報と会議とで、たえず班員間の連絡を緊密にとり合い、励まし合ってきた。他の綜合班では班会議をせいぜい2回、よくて3回、ひどいのは1回(例えば1960のときの釜洞班)というのもある。私としては、綜合研究班というものは、こうあるべきものである−という一つのモデルをおこなっているつもりである。それが良かったか悪かったかは(もちろん各個人の能力にもよるが)、班としての成果で評価されよう。班員が互いに切磋琢磨し合うということは非常に有意義なことである上、同じ畑の、しかも他機関の研究者に自分の仕事がたえず認識されているという自覚は、孤独感によるスランプの発生を防止する。将来たとえ班の結成が許可されないような不幸(我々自身がしっかり仕事をやっていればそんなことは起らないのだが)に陥ったとしても、月報だけは少なくとも続けて行く価値があろう。
 癌研究はこれからである。発癌機構が判っても、次には治療とか予防の問題が控えている。とにかく画期的な治療でなければなるまい、ということは想像がつくが、そこでもまた我々の決死の努力が要求されるであろう。とにかく癌という代物は、少くとも我々の代で解決して、次代までこの苦労を持越させてはならないものである。そのためには、並々の努力などでは絶対に駄目である。よっぽど疲れた場合以外は、日曜でも祭日でも研究をつづけなくてはならない。家庭奉仕などは死んでからゆっくりやれば良い。(ただし、癌をやっつけられれば、これは実に大きな意味での家庭奉仕である。)
 昭和39年度もすでに1/4が過ぎた。あとで振返ってみて、あああの年はよく仕事をやったと、自分でも満足し、悔いのない年にしよう。
 今后とも班員各位の奮励努力を期待して止まない。

《伊藤英太郎》
[月報50号を記念して]
 今回で月報50号という事で、月並みな言葉ながら、月日の経つのの早いのに全く驚かされます。
 振返ってみますに班全体としては、班員諸兄の御努力によって、in vitroでの発癌という大きい問題、出発当時には見当もつきかねたような問題に、一応の道標が出来つつある事は、大変に御同慶の至りです。
 小生の個人的な成果は、全くお恥かしい限りながら、班研究の進歩に寄与出来るような結果は皆無といってよい状態で申訳け無く思っていますが、それでも私自身にとっては、不成功の繰返しであった此の間の実験からも色々教えられる事が多かったと考えています。特に此の月報或は班会議での班員の方々の御意見をきかせて戴き、討論に参加出来た事は大変に得るところが多かった事を感謝しています。
 次の記念号が出る頃には、班として誇るに足る成果が出ている事を確信すると共に、私自身としても、それに幾分でもお役にたち得るべく努力する事を改めて心に誓う次第です。
◇前回京都での連絡会でお話ししたように、今后はbtkマウス→Actinomycinの系で実験を進めたいと考えています。現在までにbtkマウス(12日、16日)についてwhole embryo→細切→Trypsinizeにより得た細胞を培養してみましたが、割合と簡単に培養出来、しかも、subcultureも可能です。きれいなmonolayer sheetを作り、mitosisも多くみられて相当活発な増殖をやっているようです。
 此れについては今度の連絡会で詳しくお話し出来るものと思ひます。

《黒木登志夫》
[偶感:病理学から細胞生物学へ]
 最近、生化学、生物物理等の前衛的生物学の分野では、将来計画、若い何とかの集いが極めて活撥のようである。しかし、病理学の分野では、そのような話は聞いたことがない。何故だろうか。それは、病理形態学が臨床医学と同じように、経験主義的な面が非常に大きいためであろう。一枚の組織標本の診断には常に経験がつきまとう。そこには大家の意見が絶対的なものとして尊重されるべき十分な理由がある。そして、伝統の重みと、形態学という技術的単純さが若手をしばりつけている。
 これに対して細菌学は、その名が示すように技術によってではなく、対象によって生きる学問であり、そこには目的のためには手段を選ばない図太さがある。それが細菌の分離同定から始って抗生物質、Virus、更には遺伝情報へとたくましく成長した源泉であろう。 生化学は、病理学と同様、技術によって分れた学問である。しかし"現在の段階では"停滞の気配すら見られない。それは、形態学とは異なり物質レベルで対象にせまり得る技術であることによるものかも知れない。しかし、いつの日か、病理学と同じような立場になる可能性がないとは云えない。
 学問の発達を歴史的に眺め、自分のおかれている位置を発見することはむつかしいであろう。歴史は本来破壊的なものでなく建設的なものである。学問を、より本質的なものへと押し進めるためには、大局的に、歴史的に、自分の位置を見定める必要があろう。武谷三男氏らのいう認識の三段階論(現象論的段階→実態論的段階→本質論的段階)から云えば、我々は今どの段階にあるのか、癌研究について云えば、恐らく実態論的段階に入りかかっていると考えてよいであろう。このような重要な位置にあるとき、技術を主とする病理形態学から細菌学のように目的を主とした学問−細胞生物学あるいは腫瘍学への飛躍が必要であろう。目的のためには手段を選ばない図太さ。しかし手段−技術−はますます細分化している。それを埋めるものとしての共同研究。云うは易しい。しかし実行はむつかしい。
《土井田幸郎》
[染色体つれづれ I]
 今から染色体について日頃考えていることを書こうというのでも、又最近話題になっていることを網羅し解説しようというのでもない。月報も50号を算え、それを記念して何か一頁分だけ書くように勝田先生から連絡を戴いたので何か書くことはないかと思案の上、班会議出発の前夜(延期になったの本日まで知らなかったのだが)に至ってかくなる表題で書くことにしたのである。私自身はそうだと思っていないのだが、諸賢兄は私を少しばかり知っている人同様、私を染色体屋だと認めておられるのだろうから、この題は私にとって無縁ではなからう。しかし動機が動機なので、書くことに秩序もまとまりも充分な思想も入ってないし、又分責も持てない。とあっては勝田先生も心配で掲載する気持にもなれないかも知れません。その時は容赦なくカットして頂いて結構です。しかし筆此処に至って意外にいい題だし、今後のこと(即ち月報用のデータのない時のこと)もあるので、一つ続けてやろうかなど、いささかの色気も生じ、そのため表題のあとにIをつけることにした。 ☆1 染色体は遺伝子の担い手である。生きとし生けるすべての細胞、生物の生活活動につながる情報の根源は疑いもなく染色体から生じる。形態、機能の両面に究めども盡きぬ魅惑の宝庫を内蔵している。歩一歩その扉を開きたいものだ。
 ☆2 染色体の研究は荒漠たる原野にあるの想いを私に感じさせる。地平に日は昇り沈む。原野における楽しみ、それは珍奇なる動、植物の演ずる生活と行動を稀に掻間みる事か。 ☆3 人類の染色体の研究は目下臨床分野でブームを巻き起している。私も時折り、むしろしばしばか? 調査も依頼される。一枚の核型分枝の図を作るに、慣れたる人の約1日の労働を要することを知るか知らざるか。

《奥村秀夫》
 7月号で通算50号の月報を出す事を知り、これまでの並々ならぬ、勝田先生の努力と強靭なる信念に対し、心より敬意を表したいと存じます。

《勝田報告》
 §NAGISA作戦
 病理学会のころJARラッテが次々と出産したが、以后パタリと休止し、従って実験の方もパタリと進めなくなって困っている。しかしその后若干の実験は進めたので、中間報告ながら、下に記すことにする。
 Exp.No.#CN-1〜4:これについては既報下が、何れも株細胞で、CN-1からRLH-1、CN-4からRLH-2ができたが、他は1964-6-25;Frozen(著変がないため)
 #CN-5:1964-4-23;RLC-1、RLC-2を平型回転管(No coverslip)なぎさ。
1964-6-13:Subcultured→現在。
 #CN-6:1964-5-23;RLC-1・平型回転管2本(なぎさ)、TD-7 1ケ。RLC-2・平型回転管2本(なぎさ)、TD-7 1ケ。RLC-3・平型回転管2本(なぎさ)、TD-7 1ケ。RLC-4・平型回転管2本(なぎさ)RLC-5・平型回転管2本(なぎさ)、TD-7 1ケ。
964-6-13;RLH-1 cell homogenate(染色体suspensionのつもりだったが)を平型管1とTD-71とに少量添加。RLC-2とRLC-5は6-15、RLC-1とRLC-3は6-13、RLC-4は6-24に固定染色した。貪喰能の比較のためである。
 #CN-7:1964-5-25;Praimary culture of trypsinized liver from a 2-day JAR rat
(F21)。TD-40 2ケ。1964-6-9;Subcultured→平型回転管 10本。
6-18;Addition of H3-thymidine into 2 tubes(1時間処理と24時間処理の2種)。
6-25;Addition of H3-thymidine into 2 tubes(1時間処理と24時間処理の2種)。なぎさ部とシート部のDNA合成能の比較のための実験。
 #CN-8:1964-5-27;Primary culture of trypsiized liver from a 4-day JAR rat(F21)Roller tube 2本。6-18;Subculture→平型回転管3本。
6-23;Addtion of killed water vibrio。6-24;Stained。
Phagocytic activityをNagisa部とSheet部とで比較するために、この実験ではvibrioを使ってみたが、結果的にはこれは小さすぎて見にくかった。
 §RLH-2の培養経過
 Exp.#CN-4のRLC-2の1本からRLH-2が生まれたことについては既報したが、その経過を詳しく記すと次の通りである。
 1964-3-20;Initiation of NAGISA culture.RLC-2 cells in flattened roller tubes with coverslips. 4-3;Cinemicrography of a coverslip(なぎさの生態の観察のため).4-9;Cinemicrograph of a tube from which the coverslip had been discarded(同上).4-19;Formation of a colony of new cells was found. 5-20;Subcultured to a flat-tened roller tube and two roller tubes. 5-27;Addition of 10% rat serum into a roller tube containing 20% CS and LD. 6-3;Subcultured.6-18;Subcultured.
 RLH-2は位相差での形態はRLH-1によく似ているが、性質はかなり異なるらしい。特に栄養要求に於て異なるらしいことは、この(20%CS+0.4%Lh+D)という培地できわめて増殖のおそいことから推定できる。増殖がおそいので、いまだにRLC-2と混在して居りCloningか何かで分ける必要がありそうである。従ってまた染色体分析には非常に困難をきわめ、Mitosisが少い上、たとえあったとしても、それがRLC-2のではなくて、本当にRLH-2のである、と断定することもできない。現在までに10ケのCountingをおこなったが、41本・2、41〜42本・1、42本・5、70〜75本・1、約140本・1という成績である。41〜42本というのはおそらくRLC-2と考えると、70〜75本というのがRLH-2かも知れない。とにかく現在としては、何とかしてRLH-2の増殖率を向上させるような培地を探求する必要があると思われる。なお上記継代中でRat serum 10%を追加した群は細胞がやられてくるので、3本を2本にした。

《黒木報告》
 Hamster cheek pouch内移植法の基礎的検討 第14報:RLH-1細胞の移植(1)
 NAGISA OPERATIONにより生じた細胞RLH-1の腫瘍性検討の一つの"試み"として、Hamstercheek pouch内における増殖性をみてみました(Exp.226)。
 [細胞]
 1G:4月23日、抗研へ、直ちにフラン器へ。2G:4月24日、小角ビン2本へ植えかえ。培地(1)・(古い培地1.5ml)+(LE+20%BS 1.5ml)、(2)・(古い培地1.5ml)+(Eagle+1.0mM pyruvate+20%BS 1.5ml)。3G:4月28日、小角ビンへ植えかえ(培地量5.0ml)、
(1)・Eagle+10% BS、(2)・Eagle1+1.0mM pyruvate+20% BS)、どちらもgrowthよい。4G:5月1日、平角ビン(培地10ml)へ植えかえ、培地は10%BS+Eagle、5月3、4、5、6、7、学会のため増殖を検討出来なかった。5月9日、増殖悪いが培地交換。5月14日、依然として増殖悪い、培地を10%BS+Eagleから20%BS+1.0mM pyruvate+Eagleにかえて培地交換。5月20日、同様の培地で培地交換。5G:5月22日、Rouxビン(培地量50ml)に植えかえ。培地は20%BS+1.0mM pyr.+Eagle。25日、28日、培地交換。5月29日、Hamsterへ移植。
 10%BS.Eagleで増殖がよいので、それで植えかえたところ、次の代で細胞がへばったためと思はれます。培地は20%BS+1.0mM pyr.+Eagleの構成のものがよいようです。(血清量、pyruvateのどちらが効いているのかはわかりません)。なお、全てpipettingにより細胞を剥離し、EDTA、酵素は用いていません。
 [結果]
 実験ノート(腫瘍の大きさ:原寸大)をそのまま写します。御検討下さい(図を呈示)。
 Hamster cheek pouch内で"腫瘤"を作ることは明らかです。特にコーチゾン処置動物ではその"腫瘤"を長い間維持しています。これが今后どのように変化するか、興味をもって観察しているところです。問題はいくつかあります。(1)この腫瘤は移植された細胞によるものか、(2)1万個以下の細胞数で腫瘤を作り得るか(一応Foleyの基準に従うとして)、(3)Hamsterの腫瘤をRatに移植したらどうなるか、(4)RLH-1はHamsterの移植成績のみから考えて悪性といい得るか、等で、うち(1)(2)は現在実験の準備中です。2週間后の班会議のときはもう少しDataが出るかも知れません。

《佐藤報告》
 呑竜系ラット肝を細切し組織培養を行い、DABを投与すると増殖の誘導がおこる。然し残念な事に1μg/mlの投与では長期連続投与して、も発癌(呑竜系新生児脳内接種)はおこらない。1μg/mlで長期継代は可能であるが、No.6405に記載した様に1μg/mlの例では形態学的な変化は少ない。株化した肝細胞に更に高濃度でDABを投与(10μg/ml)すると核の異型性が現れて来る。核の異型性が出現することが組織培養上発見される事と、動物に移植して癌性を現わすこととparallelかどうかは明らかでないが、勝田班長の実験から察すると細胞質内RNAの増加現象と併せて少くとも組織培養上での発癌の大きな目安となると考えられる。勝田班長は"なぎさ作戦"が再現性があり、発癌の一つの過程を形態学的にとらえたと考え、その分析を実験的にすすめている。私は呑竜系ラット肝←DABの系において"なぎさ作戦"で現われる異型性のある細胞出現の類似現象をみつけようと試みている。即ち月報No.6403に記載した様にC.44(生后24時間以内の肝)で10μg/mlを交代投与すると増殖する新生児ラット肝細胞から1/5の割で増殖する細胞が出来る−現在4代継代中で性状の検索中−。このC.44の場合には10μg/ml連続投与では細胞がすべて比較的早く壊死してしまう。上記のC.44に比較してC.45(生后40日)で同様の実験を行うと肝細胞は10μg/mlの連続投与にも耐える様である。然し143日の投与においても増殖細胞は現われなかった。C.44、C.45の二つの実験からDAB→ラット肝でPrimary Cultureで細胞核変型を現わす可能性は比較的若い(生后10日以内)ラット肝を用いて5μg/ml程度のDAB量において起りさうだと思える。
 次に呑竜系ラット生后53日、同腹ラット6匹に実中研の固型飼料(DAB含有)を与え、44日后、57日后、79日后及び107日后に夫々肝臓をとり型の様に組織培養を行った。
 ◇C52、DAB飼料投与44日、DAB量898x0.0006=0.5388g。1964.3-26 屠殺日ラット生后97日。経日的にギムザ染色を行うと共に、2/15は第9日新生児ラット脳内接種(腫瘍-)、2/15は第11日 ラバークリーナーでガラス壁よりはづしメッシュで濾過して継代(増殖-)。
第6日観察で大小不同の肝細胞が認められ、一部ののもは増殖傾向があると考えられたが第44日観察で残存試験管5本中0/5であった。
 ◇C.53、DAB飼料投与57日、DAB量1228x0.0006=0.7368g。1964.4-8=0日、屠殺日ラット日齢110日。経日的にギムザ染色を行うと共に、2/15は第16日に継代し現在第78日増殖中。2/15は第17日に新生児ラット脳内2匹、腹腔内1匹(共に腫瘍-)。第18日より第78日の現在まで残り5本中3本は上皮様細胞が増殖中。
 ◇C.57、DAB飼料投与72日、DAB量1247x0.0006=0.7482g。1964.4-23=0日、屠殺日ラット日齢125日。第16日 1/14、第22日 4/14、第31日 5/14。
 ◇C.58、DAB飼料投与79日、DAN量1288x0.0006=0.7728g。1964.4-30=0日、屠殺日ラット日齢132日。第14日 4/14、第24日 5/14、第44日 5/14。
 ◇C.60、DAB飼料投与107日、DAB量1731x0.0006=1.0386g。1964.5-28=0日、屠殺日ラット日齢160日。第13日 3/14、第27日 4/14。
 以上DABを投与された呑竜ラット肝より組織培養を行うと明かに上皮様の細胞のコロニーが現われる。我々は正常呑竜系ラットからの組織培養では少くとも生后30日を経過した場合には上皮様細胞との増殖を見ていない。従ってDAB投与によってラット肝が培養における増殖能を獲得して来たと考えられる。上記増殖細胞の形態については次の班会議に報告の予定である。

《杉 報告》
 golden hamster kidney−stilbestrol:
 前回報告の続き(新しくstartしたものなし)
 stiblestrolの繰返し作用:
生后24days♂、第3代(初代より24日目に第3代にsubcultureしたもの)。10μg/mlを初代 3日間、第2代 3+3日間作用。更に第3代 34日間作用。以後増殖が落ちたので正常培地に換えたが、RTの数も少いのでsubcultureする程に至っていない。
 testosteroneを作用させることについては、動物実験でhamsterにstilbestrolを与えてkidney tumorを作る場合、それがmaleにしか出来ないということの関連において興味があるが、その前にHeLa細胞でtestosteroneとstilbestrolの拮抗作用をみた実験の追試をしてみる様に示唆されたので、我々のやり方で実際に用いている薬剤についてもそれがいえるかどうかをやってみるため現在細胞を増やして準備中。
 mouse skin−4NQO:
 まだ一回しか試みていないが、mouseのskinから実験に必要な程の大量のcellを取り出せなかった。そこで発癌実験にはならないが同じmouse originで既に株になっているLを使って4NQOを作用させてみた。
 濃度は一応10μg/mlから10x稀釋で0.001μg/mlまでで行ったが、保存用の株細胞を短期間で無理に増殖させて行ったせいかgrowth curveがうまく出ず、結局あわててdataを出そうとあせったのが失敗に終った。しかし、傾向としては1μg/ml、10μg/mlはcontrolに比べて障害がある様に思われた。従ってprimaryで細胞が少量しが出ない場合はこれを参考にして、比較的うすいところを重点的にやりたいと思っている。

《奥村報告》
 培養細胞のゲノム(GENOME)分析の研究
 はじめに−全べての生物体に生命現象を持続するための遺伝的基本単位としてgenomeがある。そして比較的高等な生物ではそのgenomeが顕微鏡(光学)下で観察できる明確な染色体の基本型として捉える事が可能である。もし、このgenomeが何かの原因で欠失したり、或種の異常を起すと、生物体は生命現象を維持出来なくなると考えられてきた。この多細胞生物に見られる現象を出発点にして培養株細胞の場合を様々に憶測してみると、やはりin vitroで正常分裂を続け同型の核型をもつ細胞を産み出し、長期間単細胞として生命現象を持続している株細胞にも、やはり"genome"又は"genome-like pattern"が存在し得るであろうという結論を出さざるを得ない。私が1958年5月中旬からそのgenome分析の第1回の試みとして、HeLa細胞の母集団から出来るだけ染色体の少ない少ない細胞を分離する実験を行った。その時は或程度(というのはcloneのpurityが非常に低かった)成功したかに思ったが、なかなか思う様に仕事が進まず断念し、其后機会ある毎に種々の細胞を用いて"minimum chromosome number"の細胞を分離しようと試みたが、研究する上の諸々の条件から持続できずに今年に至った。しかし、本年2月上旬に他の目的でJTC-4細胞の染色体標本を作っていた時に非常に染色体数の少ない細胞を見出し、再びこの種の仕事に着手した次第です。私は少くともずばりgenomeの検出が出来ずとも或る細胞集団の中にある基本的最少単位の染色体型を知り得るだけでも大きな意義があると信じています。その理由は多数あります。以下JTC-4細胞からの最少染色体数細胞の分離経過をお話しします。
 1. JTC-4細胞の培養方法
 培地:modified 199+calf serum 20%
 細胞分散:0.02%EDTAと0.05%trypsin(いづれもCa、Mgを含まないPBSで溶かしたもの)を1:1に混合した液を用いる
 継代時期:ガラス面(培養角瓶200ml容量)に80%のcell sheet作成の時
 植込み細胞数:約4〜6万個cells/mlの濃度
 2. Cloning
 現在まで3つのclone(仮名JTC-4/Y1、Y2、Y3)を分離、いづれもchromosome numberの少ないcloneであるが、現在まで分離率が悪く43cloneのうち3つという成績です。
 cloneY1:増殖率/週は3.7倍。分裂期38個の染色体数分布は24〜39(?)。
cloneY2:増殖率/週は4.2倍。分裂期67個の染色体数分布は26〜38、48〜53。
 cloneY3:増殖率/週は2.8倍。分裂期75個の染色体数分布は28〜42、53〜64。
 3. Parent stockの細胞のplating efficiecy
−7〜8%CO2 air(送り込み)条件下でのplating efficiency−
 500/dishで250〜300(約50〜60%)。400/dishで108〜45(約12〜26%)。
 200/dishで24〜8(約4〜12%)。 mediumは6mlを入れる。
以上の様な成績を得ていますが、現在もefficiencyを高めるためのmediumの条件、CO2ガス量など検討中です。なお、3w前からautoradiographyを用いて25本前后の染色体のDNA合成を分析しておりますので、7月には或程度まとまった話しを出来ると思います。
 追記:5月中旬より約2週間CO2フラン器を改造するために入院させましたので、実験もおくれてしまいました。現在略もとの調子を取り戻しつつありますので、今后一層奮闘する覚悟です。

《山田報告》
 InterphaseにおけるRNA合成度の推移:
 (図を呈示)HeLaS3細胞をばらばらにしてほとんど1個から増殖するように培養すると、48時間後には2〜8個のコロニーとなります。そこで2、4個のコロニーを選んでH3-ウリジンのRNAへの取込みをオートラジオグラフィーで調べ、これをRNA合成と考えますと、コロニー内の変動よりコロニー間の変動がずっと大きいことが判ります。このことは植込んだ細胞間にRNA合成度の変異があるためか、あるいはInterphase内でRNA合成度に一定の推移があるのか、どちらかです。そこで、まづInterphase内のRNA合成度の推移をケンビ鏡映画とオートラジオグラフィーを併用して観察してみました。現在までのところまだ予報の段階ですが、S期のはじまる前とG2期に2つの山があり、それ以外はほぼ一定(あるいは後半わづかに上昇)のようです。この結果はDNA合成がはじまると、RNA合成の抑制が起ることを示しており、何か理クツに合いすぎて、かえって慎重になっています。哺乳動物細胞のInterphase(Mitosisではなくて)のRNA合成に関する報告は調べた限り(とくにECR)、寺島君のしかありません。彼の同調培養による成績は、分裂後2〜4時間はほぼ一定で、その後徐々に合成度が増加してゆくことを示しています。しかしDNA合成が6時間培養から認められ、14時間後に最高となることから、G1-Sがいつも混在していて私たちが得たような短い期間の山は消えてしまうのかも知れないと思っております。その点、映画は細胞質の分裂(Cytokinesis)を0時間としており、5分程度の誤差ですから、このような観察には適した方法だと考えています。どなたか、この種の報告を他に御覧になったらお教え下さいませんか。

《土井田報告》
 別に力を抜いているわけではないのだが、月報に記すほど思わしいデータが出ていないので今月は困っている。
 RLH-1の染色体・・・5月中旬、医学放射線学会で盛岡に出向いている間にようやく増殖するようになったので、帰ってすぐ標本を作成したが、overpopulationであったため分裂像はみられなかった。早速一週間毎に培地の更新をしているが、遂に班会議までに間に合はなかった。増殖が急にしなくなった理由は全く不明である。
 腎臓細胞の培養・・・NH系マウスより腎皮質をとり出し例のごとく80%LH+20%仔牛又は牛血清の培地で培養している。Fibroblast状の細胞が増殖してきている。一部ではようやく培養瓶一面に増殖してきているので、一部を細胞学的調査に用い、残りに放射線照射を行ない、復元の方にもってゆくことを考えている。目下はin vitroで増殖する細胞系を作りつつある状態である。
 (顕微鏡写真を呈示)写真は生じてきた腎臓細胞である。特別掲載するほどのものでもないが、経過報告のつもりまでに示したものである(培地:80%LH+20%仔牛血清、牛血清)。 Syracuse大学のS.Gelfantは最近、耳の上皮細胞を用いて細胞分裂の機構の研究をしている(1963他)。彼はintactのままもしくはin vitroにとりだしたマウスの耳に切り傷を入れ、そのあと、簡単な塩類溶液に0.002Mのグルコースを投与した培養基中で4〜53、1/4時間培養したあと、かなり高頻度の分裂像が得られることを報告している。此の増殖は一過性のものであらうが(Gelfantは53、1/4時間以上追跡していない)、放射線の影響の尺度にもなると思はれ、また遺伝(体細胞の)的研究にも利用できそうで、目下追跡中である。
 マウスの皮膚癌発生に関する研究が文献上みられるならば、諸氏にお教え戴きたいが勿論此のあたりの事も考えて長期培養もしてみようと考えている。Gelfantは切片標本について観察しているが、私としてはなんとかおしつぶし法で観察したい。細胞を解離するうまい方法があればと考えている。

《St.Jude Hospital便り・高木良三郎》
 早いもので月報も数えて50号とか。班員の皆様も着々と成果をあげておられる様子でお慶びいたします。
 勝田先生から50号を記念して何か書く様に云われましたが、こちらに参りまして以来、発癌実験とは縁を切り、differentiated cellのfunctionをin vitroで維持する仕事の一部として、pancreasを対照として働いておりますので、果して皆様に興味ある事かどうか疑問に思いますが、兎も角一応これまでの仕事の経過を略記させて頂きます。
 PancreasのTCに関する仕事はきわめて少く、私がこちらに来て仕事を始めた当初は歴史的なものを加えて2〜3を数えるにすぎませんでした。ここにDr.Goldsteinのねらいもあったのだと思います。始めまずcell culture techniqueで何とかislet cellsをisolateしようとした訳です。1ケ月目に培養開始したadult rabbit pancreasからcell lineを得ましたが、蛍光抗体法(Dr.Hiramotoと一緒にやっています)で、anti insuline serum(AIS)、anti trypsin serum共に染める事が出来ず、また種々histochemical stainingでも本態をつかみ得ず・・・。という訳で3〜4ケ月は暗中模索の態でした。
 その中organ cultureを考えつきまして、これなら少くとも短期間はmaintain出来るのではないかと思い着手してみたのですが、殆ど参考文献もない(1954のclen以外)ため基礎条件をきめるのに暇どり、どうにかfoetal rabbit pancreas(just before birth)を7日位maintainする事が出来る様になりました。その頃(昨年4月のanatomy meeting)Minesota大の人がrat及びmouseのfoetal pancreasのorgan cultureによるdifferentiationについて発表した訳です。これは、12〜19day foetal pancreasの主にisletのdifferentiationを、aldehyde Fuchsin staining(A & F)により追求したものです。
 その后いろいろ条件を考慮しまして、どうにか10〜12日はanti insulin serumでislet cells(β)をidentifyする事が出来る様になり、更にfoetalからnew born、young rabbitと培養をこころみて行きました。そして現在の処生后15日のrabbit pancreasを用いて、少くとも15日間in vitroでβcellのinsulinをidentify出来る処まで漕ぎつけました。
 AISを用いた蛍光抗体法とA & F stainingの所見を比較するため、先ずfrozen sectionを用いてAISで染め、それを今度はA & F stainingで染めてみましたが、A & Fでどうしてもうまく染らず、逆にpraffine sectionを蛍光抗体法に利用しました処、抗血清の吸収、染色時間の調節により、きれいにβcells(insulin)をidentify出来、同一切片をA & Fでうまく再染色する事が出来ました。
 またAISを用いた蛍光抗体法による染色のspecificityは次の様にしてcheckしました。
1) normal serumは染めない(serial sectionで)。 2) stainingはAISによりinhibitされnormal serumではinhibitされない。・・・inhibition test(direct methodによる)。
 そこで両染色法の比較ですが、培養6日目までは少くともgood correlationです。しかし9日以后となりますと、βcell granuleはA & F stainingで認めがたくなり(従ってisletそのものも認めがたい)その代り時に多くのA & F positiveでPAS positiveのgranuleが現れて来ます。これに対しAISでははっきりβcellを確認出来ます。後者のA & F、PASpositiveのgranuleはAISでは染まりません。したがって或種のmucinと思われます。と云う訳でAISを用うれば少く共15日間はin vitroでβcells(insulin)を証明出来るのに対して、A & F stainingでは9日以後は追求きわめて困難になって来ます。従って、pancreasのprolonged cultureでは蛍光抗体法の方がA & Fよりsensitiveでよりspecificと云える訳です。15日間の培養期間中AISにより証明されるinsulinはおそらくin vitroでsynthesizeされたものと思われますが、これを確かめるためI125 labeled insulinを用いてimmuno percipitationを利用してmediumのinsulin assayをやる予定です。
 一方cell lineの方ですが、根気よくcolonyをpick upしてそのhistoryをrecordして行く内に分離后8ケ月を経てその中の一つのlineがviscous materialをmediumの中に分泌する事が確認されました。そして、始の中ははっきりしなかったのですが、この頃からcelllinesをはっきり4つのtypeに形態的にclassifyする事が出来る様になりました。
1)RP-L1・・・typical fibroblastic cells、long spindle shaped。
2)RP-L2・・・short fusiform cells、elaborate viscous material。
3)RP-L3・・・long cytoplasmic projection form network。
4)RP-L4・・・epithelium like in morphology、distinct granules in the cytoplasm。
と云う訳です。L2のviscosityは、testicular hyaluronidaseによってのみ減じ、RNase
Trypsinはaffectしませんので、おそらくpolysaccharideと、思われます。目下carboyal reactionでquantitatieに調べている処です。
 またL4のcytoplasm内のgranuleはlipidとは考えられない様で形態的にzymogen granuleの様ですが、目下の処何とも云えません。EMで検討を始めた処です。
 以上大体これまでに得られたdataらしきものを略記しましたが、differentiated cellのin vitroにおける維持またそのfateの追求と云う事は大切な問題と思います。
未だにcancer cellとnormal cell(?)とのqualitative differenceがはっきりしていない 今日、まず所謂differentiated "normal cell"についてのTCによる研究は"将を射んとせば先ず馬を"という事にもなると思います。
 またorgan cultureは、cell cultureより一段とin vivoに近い感で、私には興味深い
techniqueと思われます。
 あと残り5ケ月、広く浅くいろんな事にあたってみたいと考えています。
 11月上旬のCell Biology学会に出席の上、帰国したいと思っています。その節はまたよろしく御願いします。御健闘を祈ります。

《アメリカ便り・堀川正克》
先日の富士山に関する記事、続いて本日は研究連絡月報4、5月号をいただきました。いよいよ"なぎさ作戦"も本調子になって来ましたね。さすがに日本で初めてスキーで富士山からおりて来た人だけに大いに感動さされます。若き日の先生の姿、富士山からスキーでかけおりて行く姿をそっと想像したとき思わず"さすがだなあ"と一人でに笑いが出て来ました。そのFightと意気をいつ迄も維持していただいて今後T.C.界に出現する若き青年を叱咤激励されることを心より希望いたします。
 私の方もMammalian Cellとはまったく縁の遠い人間になりましたが、それでも論文によるこの面の業績にはたえず目を通し帰国後にたちおくれなきよう視野を広めております。 大学院時代に失敗した昆虫(ショウジョウバエ)のEmbryo cellのcultureに、やっと成功し、現在殆どのStrainから分離したCellで、Cell lineを作っております。もう殆ど2、3のStrainは株化出来たようです。これらのCellは御存知のようにChromosome 8本で、それぞれenzyme action、Immunological character、genetic backgroundが明確にされているだけにMolecular geneticsの立場にたってCellのgrowth、differentiationを追求するのに好材料です。とにかく今回の成功はMammalian cellで得た知識をそのままInsectに応用したと云う点にあります。やっと第1報をScienceに投稿すべく書きあげました。これからぼつぼつenzyme synthesisとm-RNAについてこれらのCellで追って行きたいと思っております。 6月18日に京都の菅原教授がこちらにみえられ、1週間滞在して行かれます。久し振りにお会いして日本の状況をおききするのを楽しみにしているような次第です。
 Dr.Szybalikiの部屋は調度センスイカンの様なもので、きっちりと生化学の器具でつまっているのもさすがT.C.界の第一人者を思わせます。8月にはアメリカの遺伝学会でColorado迄行ってきます。この機会にDenberのT.T.PuckのLab.も一見したいと思っております。ではお元気で研究の発展を心より祈っております。暮々も御自愛下さい。高岡さん始めLabo.の皆さんによろしく御伝え下さい。

【勝田班月報:6408】
A.発癌実験
 (なぎさシリーズの実験一覧表を呈示)
 初期の本格的なぎさ実験はCN#1→#4で、このとき、RLH-1とRLH-2とmutantが2種とれた。#5ではcoverslipを外してしまったが、その為かどうかMutantが得られていない。#6→#8の実験はcell homogenateやVibrioを加えたり、H3-thymidineを入れたり、副次的なExp.になった。株を使う他に、若いラッテを使って細胞をどんどん増殖させその第2代で"なぎさ"状態においてMutantを作るようにしたいと、最近はprimary cultureを狙っているが、ラッテの出産が仲々思うにまかせないで困っている。
 CN#6の実験で、RLH-1からcrudeのchromosome suspensionを作り(colchicine添加→homogenize)、なぎさcultureに入れて数日後、染色標本を作ってしらべたところでは、入れたsuspensionの細片は"なぎさ部"の細胞の細胞質内には沢山残っているが、深い所のシート中の細胞内にはほとんど見られなかった。phagocytosisをおこなわない、と見るよりむしろ、食うことには同じように食うが、すぐ消化してしまう。なぎさ部の細胞は消化できないのだ、と考える方が妥当ではあるまいかと思う。これは今後、もっと間隔をつめて標本を作ってみれば判ることであるが。
 H3-thymidineの取込能の比較は、Exp.CN#7で現在まで未だ進行中であるが、これは生体からとったばかりの第2代のcultureを使ったため、Cell populationがむらで、なぎさとかシートの奥とかの区別よりも、同じzoneの内でも色々なpopulationがあって、物を云えない。今後はモデル実験として、やはり株を使ってしらべる方がきれいに判ると思う。
 Exp.CN#4でできたmutant、RLH-2の培養経過は前月号の月報に記したが、増殖度がきわめておそく、未だに元のRLH-2とのmixed cultureの状態である。染色性はRLH-1と似て、basophiliaの強い細胞質、大きな核小体を有し、映画にとってみると、立体的に増殖することと、屡々fuseすることが目立つ。Rat serumを添加したCultureで増殖が少し促進されたように見えるので、これはRatに復元接種すると案外takeされるのではないかと期待している。(顕微鏡映画上映)
B.ラッテ胸腺細胞の培養
胸腺の機能は未だ明らかでない。New born mouseの胸腺を切除すると、リンパ組織の発育が抑えられるが、取った胸腺をMillipore filterのdiffusion chamberに入れて腹腔内に埋めておくと、リンパ組織も正常に発育するところから、何か液性の因子を出していることは推定されている。
 我々は正常JARラッテ胸腺から4種の細胞株を作った。培養初期には大量のリンパ球が混在していたが、これらは管底に附着せず、液交新のとき棄てられた。管底に附着して残った細胞は、何由来か明劃でないが、数種が混在していることは確かである。その内、特に注目をひくのは、(図示)核の周辺に均等な大きさと位相差densityを有する顆粒が密集し、しかも細胞質が拡がってもこの顆粒はほとんど分散せず、固有運動も示さない、このような特異的な細胞が認められることである。Ioachim & Furthは胸腺の培養細胞を巧みにReticular cellsと呼んでいるが、頂度それに相当しているかも知れない。しかしこれまでの報告ではこのような顆粒についての記載は見当らない。顕微鏡映画をとってしらべると、この顆粒が細胞外に内容物を一せいに放出するような現象も認められた。放出すると動かなくなる細胞もあるが、変らずに動きつづけている細胞もある。面白いのは、大抵の株細胞では、分裂でできた娘細胞は、次の分裂もほとんど同時におこなうのが多いが、この顆粒細胞では片方が仲々分裂しない。或はHaematopoiesisのように、1ケだけが分裂能力を伝え、他はこわれて死ぬ(そのとき顆粒を放出)運命にあるのかも知れない。但し、これは今後、長期の映画撮影によって確かめたいと思っている。
 顆粒はその染色性から考え、顆粒のCapsuleとcontentと異質でできているらしい。この顆粒が映画でみても動きが極めて少く、しかもお互に密着している、ということから考えて、Capsuleは何か粘稠性の強いmucin様のもので出来ているかも知れない。メタノール固定すると顆粒は溶けてしまうが、Ringer-Formal固定でGiemsa染色すると、Capsuleは真赤に、contentは空色に染まる。contentはPAS陽性であり、Thionineでmetachromasieを起さない。さらに各種の染色によってこの顆粒の定性的検索をおこなうと共に、parabiotic cultureによって色々な細胞、特にリンパ系細胞とのinteractionを調べて行きたいと思っている。

 :質疑応答:
[勝田]RLH-1はラッテの血清を添加すると細胞がどんどんこわれ、死んでしまう細胞が多いのですが、RLH-2はresistantで増えたりしていますから、復元がうまく行くのぞみがあると思います。
[山田]"なぎさ"の細胞に染色体の滓を入れたときの染色標本ですが、なぎさのとき異物を吸着しやすいのか、細胞自体が食いやすいのか、どっちでしょう。
[勝田]私は、なぎさの細胞は、食うことができるが消化がうまく行かないのだろうと思っていますが・・・。
[安村]"なぎさ説"は二段階説というわけですね。
[勝田]ウィルス説なども包含する説です。DNaseの欠損ということが第1段として必要前提で、実験的にDNaseを抑えてみたいと思って色々考えたのですが、いわゆるin vitroで抑えるようなやり方ではcultureに適用しにくいので困っていました。先日永井君がDNaseの抗血清を作って入れたらどうか、という旨いアイディアを呉れました。
[山田]酵素に対する抗血清は本当にできるのですか。
[関口]それはできると思いますが・・・。難しいと思う点はDNaseには2種類あるので、DNaseIは結晶化できますが、IIはできません。だからIに対する抗血清はきれいにできると思いますが、IIは抗原としてきれいでないので、きれいな抗血清はできないのではないか、と思います。この場合はDNaseIIが問題なのですから・・・。
[黒木]ウィルス説を含む、ということを少し詳しく説明して下さい。
[勝田]殊にDNAvirus系の場合には、細胞の核の破片の代りにvirusが入って、消化されないで、核の構成に組込まれる・・・という具合に、そのまま"なぎさ説"に通じるわけです。
[安村]私のいう二段階説というのは、ウィルスでやられた細胞が、それ自体変化して行くということではなく、変化したその細胞が、おとなりの細胞に影響を与えるということです。
[関口]とり入れられるところ迄は問題ないと思うが、とり入れられたものがその先どうなるか、ということに問題があると思います。
(胸腺細胞についての討論)
[黒木]Osobaの文献の場合は、最後にdiffusion chamberに入れるとき、リンパ球を分けていないのではないでしょうか。Burnetの説ではReticulum cellとは云っていないで、Plasma cellと云っていますね。
[勝田]この細胞はぜひ電子顕微鏡にとってみたい、と思っています。
[山田]PAS染色のとき、Diastaseで処理して、Glycogenでないことを確かめておいた方が良いでしょう。
[黒木]ラッテ新生児の胸腺をとって、代りにこの細胞を入れてみたいですね。
[安村]細胞が何種が混在しているそうですが、メッシュを使って細胞の大きさで選別できると良いのですが、仲々難しいですね。10μ位ので濾しても、さきに入れた大きい細胞がすぐ目につまってしまって、小さいのも全然通らなくなってしまいます。

《黒木報告》
 (15)RLH-1細胞移植ch.P.の組織像:
 前報でRLH-1がch.P.内で腫瘤を形成することを報告しました。今回はその組織像について報告します。(顕微鏡写真を呈示)
 組織標本用に腫瘤を剔出したものは、動物番号5、400万移植後3日目、無処置ハムスター右側ch.P.です。
 組織像は、中心部にNecrosisがあり、その周囲に帯状に移植細胞の増殖巣があります。その外側にはハムスターの反応細胞が取り囲んでいます。このような像は皮下移植(同種)の初期にみられる像であり、すでに1936年Rossleによって記載されています。移植細胞は、核に大小不同があり、細胞質は空胞が多く、foamy and reticulatedの状態です。
又、分裂像らしきものも、ところどころにみられます。
 以上で移植した細胞がch.P.内で増殖していることは明らかですが、腫瘍性については何も云えません。
 今後コーチゾン処置動物、10日頃の組織像をみる必要があると思っています。
(なおVan Gieson、PAS染色では、移植された細胞がPAS(+)の他、特別な知見は得られなかった)。
 (16)1,000〜1,000,000個RLH-1移植:
 RLH-1を1,000、10,000、100,000、1,000,000の4段階に稀釋して移植しました。(Exp.237)現在移植後10日ですのではっきりしたことは云えませんが、1,000,000のみが無処置、コーチゾン処置とも腫瘤を形成しました。しかし無処置のものはregressionがはじまっています。
 (17)diploid celll strainのch.P.内移植性:
 Hayflickらはhuman diploid cell strainがch.P.内で腫瘤を形成しないことを記載していますが、具体的なデータは何も示されていません。最近Foley,Handlerがdiploid cell strainについて報告していますが、これも亦、実験成績の明示がなく何ら参考になりません(Exp.Cell Res.33,591-594,1964)。
 しかし、新着のJ.NCIにKisslingらが報告しているものはhuman diploid cell strainのch.P.内増殖についてある程度数字を出していますので、御参考までに紹介します(Kissling,R.E. & Addison,B.V.:Influence of various viruses on the heterotransplantability of human cells.J.NCI.32(5),p.981-p.1000,1964)。
細胞:diploid strain、18-24transfer 1,000.000cells。
動物:ゴールデンハムスター90〜100g。
結果:移植後2日目2〜5mm、5日目2〜4mmにregress、7日目4/8は消失・残りは<1〜2mm、12日目全て消失。
 「うめぐさ」Ratの細胞は2nを維持し易いということはないでしょうか。RLCもそうだし、その他最近文献が二つ続けて出ていますが。
(1)Peturson,G.,Exp.Cell Res.33,60-67,1964
(2)Krooth,R.S. et al..J.NCI.32,1031-1041,1964

 :質疑応答:
[山田]Hamster pouchの復元で比較するなら、RLC-2とRLH-1とを比較すれば良いでしょう。
[勝田]RLC系の細胞は増殖がおそくてね。接種するほど沢山揃えるのが大変なのです。片端からなぎさに使っているし・・・。Hamster pouchに入れてtumorを作る正常細胞と腫瘍細胞の境界はどの位でしたっけ。
[黒木]10,000ケです。10,000ケで2/6にtumorを作れば陽性ということにしています。
[安村]cortisoneをさしつづければHamster pouchで継代できるでしょう。
[勝田]一発でつかない場合は、あとの処理で変るということもあるので好ましくないですね。今はとにかくRLH-2に期待しています。

《佐藤報告》
 培地中の細胞によるDABに消耗について:
月報9406に記載した図表のデータから
(1)JTC-1及び2(腹水肝癌AH-130より勝田によって培養株化されたもの)が培地中におけるDABの消耗が最も少いことがわかる。
(2)AH-130(腹水肝癌動物株でJTC-1及び2の原株)は呑竜ラット肝細胞株群とJTC-1及び2との中間に位する。
(3)RLN10とRLD10は夫々◇C.10の実験から作られた呑竜ラット肝細胞株であり、前者はControl、後者はDABを初期4日投与されたものである。僅かではあるがDABを与えられたものが消耗が少い。
(4)RLN8及びRLN21は、夫々◇C.8及びC.21のControlであり、DABの消耗度はRLN10ににている。
(5)RLD-Tw10XはRLD10細胞株を10倍のTween濃度で耐性にしたもので、RLD-M-LD(DABを10μg/mlでRLD10を耐性にしたもの)の対照となるものである。RLD-Tw10XとRLD-M-LDとの間にはかなり著明な差が現れている。
 以上の実験は細胞の種類、アイソトープ含有DAB、DABの濃度等について更に追求する。
 次に、呑竜ラットにDABを飼食させて後、組織培養をした(図を呈示)。
 DAB投与量の増加と共に箒星状細胞がまづ現れ、次いで上皮様シートが現れる。次第に箒星状細胞成分が減少して、上皮様肝細胞の現れる率が多くなるが、この肝細胞?はDABの増殖誘導によって現われるものに比して、やや大小不同で且つ重層して現われる点が異なる。本実験はin vivo←DABを経時的に組織培養する実験シリーズのNo.1 Groupで目下第2シリーズを開始している。
 追記:観察結果を30日〜40日に設定したのは上皮様細胞が増殖を始める時期が前記日数の当りで終了するからである。従って従来の増殖誘導実験で上皮様細胞の増殖する日より遅れる。

 :質疑応答:
[佐藤]ラッテにDABを食わせて肝癌を作る過程の途中で、ときどき肝をとって培養して、培養で生えてくる細胞を復元してみると、どこかで復元可能な細胞ができてくると思い、そこを確かめたいのです。たしかにDABを食わせて50日経つと、培養したとき増殖する細胞が多いですね。培養40日位で、増殖細胞か否かは判定できます。それからDABを10μg/mlで培地に入れたり抜いたりをくりかえすと、生後60日のラッテ肝では死にませんが、若いラッテの肝だと、ほとんど死にたえてしまします。
[勝田]うちでは、以前のようなやり方だと、早期に実験に使えないので、このごろは若いラッテの肝をトリプシン消化して初代培養を作っていますが、これだと色々な細胞が混在していて困ります。
[佐藤]Rat serumは株になった細胞にも害がありますね。1ケ月位すると馴れてきますが・・・。
[安村]動物では肝癌は全体にできるのですか。
[佐藤]いや、病巣のように出来ます。
[安村]それでは動物から前癌状態のところを取っているつもりでも、その病巣に当らないということもあるのではありませんか。
[佐藤]3'methylDABの耐性とDABの耐性とは共通耐性でしょうか。どうでしょう。
[勝田]それはやってみなくては判らないでしょう。君は一つの材料から、Control、DAB、3'methylDABと三つの株を作ったのがあるでしょう。あれで耐性をみたらどうですか。
[佐藤]あれは初期4日間だけの添加ですから、余り比較にならないと思います。
[勝田]培養内のDAB消費は、他のtumorでもやってみましたか。たとえば吉田肉腫、武田肉腫、その他の要因で作ったラッテのtumorですが。
[佐藤]未だです。DABを消費しない細胞に、本当にDAB耐性があるのかどうか問題ですが、DAB10μg/ml連続添加の培養は、培地からDABを抜くと急激に細胞が増殖し、多核細胞なども沢山みられます。
[勝田]さっきのグラフで見ると、DAB消費の態度が割にはっきり2種類に分れていますね。AH-7974などもしらべてみたらどうですか。DAB肝癌で、しかもAH-130と性質が反対のところがありますから。それからDABを食わせている動物の肝を培養して、生えてくる細胞が正常か正常でないか、判定する方法がもっと他にもないものですかね・・・。DABを喰わせているラッテのseriesは1系列だけですか。
[佐藤]いや、あとを追かけてやっています。m-DABはやっていませんが。
[勝田]君の細胞も映画をとってみると良いね。ところで例の箒星状の細胞ですが、あれは一体なんでしょう。どんなorganを培養したとき出てくるか、皆で経験したところをあげてみましょう。Horse bone marrow、spleen、Rat lung、liver、(peritoneal lining cellsも似ている)・・・。これらの臓器に共通したものとして考えると、案外血管の内被細胞ではないでしょうかね。
[安村]サル腎で、無蛋白にして条件が悪くなったとき出てきますね。
[勝田]同じ細胞が出てくるのか、それとも違う細胞なのだが、或条件下で、似たようなこんな形になるのか、判らないですね。

《伊藤報告》
 in vitroでのアクチノマイシンによる発癌について少し詳しく御報告致します。此の発癌実験は阪大微研の川俣教授の教室で行はれたものであります。
(1)使用されたアクチノマイシンはアクチノマイシンA型のもので"Actinomycin S"と呼ばれるもの。
(2)動物:etk mouse(C57BL系の亜系)生後5〜10週。
(3)注射方法:1週2回宛、背部皮下に腫瘍発生迄反覆注射。
(4)腫瘍発生迄の日数及び発生率:平均28週で腫瘍発生、発生率約90%。
 此の腫瘍が其後腹水型にされ、そのものは高井君によって比較的簡単に組織培養に移されることが分って居ます。
 小生は、此のSystemeをin vitroでやる事を企だて、先ずその始めにetkマウス組織の培養を試みました。
i)etkマウスwhole Embryoの培養。此れは、前報で報告しました如く、容易で、又継代も出来、現在第3代に及んで居ます。
ii)生後12日目マウスの腎の培養。此れも又、Trypsinizeにて細胞浮遊液を作り、培養しましたが同様に容易で、第2代えの継代も出来て居ます。
 此等2種(腎細胞を得る動物のageについては尚検討の余地があると考えます。)の細胞にactinomycinを加えて、変化を観たいと思っていますが、濃度をいくら位にすべきか、今検討中です。細胞をやっつけはしないが、或程度増殖をおさえるといった濃度をえらんで加えてみたいと考えて居ます。
 一方細胞の方は、whole Embryo、kidney全部という事ですので、種々のoriginの細胞が混っている事は確かですが、まずは、このmixed populationそのままで、Actinomycinを加え、そのうち、cloneがとれる様になれば、それも使ってみる積りです。

 :質疑応答:
[安村]マウス全胎児をLD+血清培地で培養すると、はじめに出てくるのは細長い細胞が多いですが、だんだん薄い広い細胞になって、顕微鏡で見ないと判らないような薄いシートが出来るようになります。Ragle+血清だと100%近く株になりますが、細長いfibroblast様のが多く殖えてきます。但し株にするには、20〜30万cells/mlで継代する必要があります。
[伊藤]腎を培養するのにマウスの年齢はどの位まで使えますか。
[安村]Adultで大丈夫です。但し第5〜6代位で増殖が落ちますから気をつける必要があります。
[黒木]DABのように一度食われて肝に行ってから働くものより、この発癌剤のように直接働くものの方が培養で試すには良いと思います。ただマウスは培養株になり易く、且、悪性化しやすいらしいから、折角培養で発癌させても、発癌の促進ということだけになる可能性もありますので、なるべく早い時期に勝負を決めないと問題があると思います。
[勝田]添加濃度をどう決めますか。
[伊藤]以前にL株で濃度をしらべたデータがありますから、それを参考にして決めようと思います。
[勝田]細胞によって影響がかなりちがうし、殊に株でない細胞は弱いから、しらべてみた方がよいでしょう。あらかじめね。以前に寺山氏がこの席上でDABを使うにしても、細胞がこわれない濃度ではなく、少しこわれる位の濃度に入れないと発癌しないだろうと云われましたが、今考えるとその意見は正しかったと思います。

《奥村報告》
A.Cloning of JTC-4 cells.
 JTC-4細胞のゲノム分析のためにrecloningをし、何んとかして最少染色体数型の細胞を高純化するため努力を重ねている。(分離cloneの成績の表を呈示)。分離したクローンは8ケで、染色体数は40本以下、最少は25本であった。
B.Effect of serum on plating efficiency of JTC-4 cells.
 細胞(JTC-4)をprotein-free mediumに馴らすための予備実験の1つとして、血清濃度及び種類によるe.o.p.を検討すると、次の様な結果を得た。(表を呈示)
salt contentはHanks処方、血清は仔牛血清。p.e.は血清のロットによって差があり、又血清濃度にも依存していた。、またAlbumin(Fraction-V)では置換できない。
この実験は無蛋白培地への順応亜株を得るには、必ずしも効率のより方法とは云えないが、血清濃度の低下による細胞のselectionを見るのに都合がよいと思う。
以前に伝研との共同研究でHeLa、Lの各株細胞が無蛋白培地に順応するときの状態をkaryologicalに分析を試みたことがあるが、その時は途中経過(順応の)を正確に把握する事が出来なかった。今回はコロニー形成の各時期で分析を行い、e.o.p.の低下が特定の型のselectされる結果によるものかどうか、あるいは母集団では見られなかった型の細胞が出現してくるのかどうかを分析したいと考えている。勿論、この種の実験を進行させる場合には、チューブや瓶を用いる時と、いくつかの条件の相異はあるが、当面血清濃度と核型との関係を分析することを意図している。
C.Effect of Hormone on proliferation of Rabbit endometrium cells.
 ウサギ子宮内膜細胞の増殖にホルモンがどの様な効果をもっているかを検べてみると、どうもProgestroneとEstradiolとでは作用時期が異るような結果を得た。今回の実験は細胞の数だけからであるから、作用機序は全く判らないが、H3-labelのホルモンを入手次第ホルモンの細胞内取り込みの実験をはじめます。以下の成績は予備実験の段階で確定的な事は云えない。

 :質疑応答:
[勝田]はじめにEstradiolを与えておいて、途中でProgesteroneに切りかえる、つまりEstradiolが下準備しておけば、すぐProgesteronが働くかどうか、知りたいですね。
[伊藤]Directに働いているのかどうか・・・。
[奥村]全然判りませんが、一応細胞内にとり込まれて、そこでどうなるのかH3などを使ってやってみたいと思っています。
[勝田]ホルモンの溶剤は?
[奥村]プロピレン・グライコールで溶かしました。10,000μg/ml位まで溶けます。培養に入れる位までうすめると毒性はほとんどありません。
[勝田]先の話になりますが、発癌に使う場合は、片方のホルモンだけでは駄目ではないかと思います。つまり一方をうすく入れて、他方をぐっと多くするような、unbalanceな状態が必要と思っています。
[山田]ホルモンはどうか知りませんが、薬品の影響の場合は細胞数にも大分関係があります。だから少数細胞のplating efficiencyで見た結果が、細胞数を多くした時のに一致するかどうか、問題がありますね。

《土井田報告》
 RLH-1の染色体研究:
 1964年4月17日に勝田先生より譲渡された細胞を20%仔牛血清を含むLH培地で培養し、継代3代目のものを次の2法により標本作製し検鏡した。
(1)おしつぶし法:最終濃度10-6乗Mのcolchicineで37℃4時間処理後、細胞を集め、3倍稀釋のwarmed LHで10分処理、2,000rpmで5分遠沈、上清を棄て、細胞をLH1:dahlia色素1の混液にsuspendし、5分染色後おしつぶした。
(2)空気乾燥法:常法により行った。先づ(1)と同様濃度のcolchicine処理、水処理を行ったあと、細胞を遠沈し、上清をのぞき、これに固定液(methanol3:acetic acid1)を加え、30分放置後細胞をresuspend、遠沈後上清をすて、適量の新しい固定液を加え細胞を懸濁した。氷室にて前以って冷やしたスライドグラス上に細胞懸濁液をたらし、直ちにアルコールランプ上でゆるやかに乾燥した。スライドを1日放置したあと、ギムザ氏液で染色し、バルサム包埋後検鏡した。
(結果)
 in vitroで継代した細胞は(2)の方法では容易に破裂するので、先づ(1)の方法で作成した標本を観察したところ分裂像は全くみられなかった。しかるに(2)の方法で作成した標本で分裂像を認めた。現在までにみた細胞数は少ないが、結果は66〜70本で69に最頻数をもつように思われる。核型分析はまだ行っていないが、meta-centric、sub-metacentricのものに比してacro-centricもしくはtelocentricのものが少ない。染色体数70を有する細胞について調べたところ、acrocentricもしくはtelocentric chromosomeは僅かに15本であり、残りのものはすべてmeta-かsubmeta-centric chromosomesであった。
染色体の大きさは連続的であり、これまでのところ特記すべき特徴を有する染色体は認められていない。
 腎臓細胞の培養:
 NH系マウスの腎細胞の培養をつづけている。これまでの培養では繊維芽細胞が生じてきたが、腎皮質からの細胞増殖の様子をみることを目的に、TD-40にカバーグラスを入れ培養したところ、これまでと同様の繊維芽細胞と同時に偏平大型の細胞が混在して殖えて来た。この上皮細胞様の大型偏平細胞のoriginが何であるか、繊維芽細胞と由来がちがうかどうかなどについては全く判らない。
(このほか、放射線を浴びたヒトの白血球の核型について、1)原爆患者、2)職業的に放射線を浴びた人、3)治療で浴びた人、についての研究データを発表。)

 :質疑応答:
[勝田]患者の治療のときの照射量は?(コバルト60)
[土井田]毎日250r宛かけて、総量4,000rになるまでかけます。そのあとどうなって行くかを見たいのですが、1クール終って癒ってしまうともう患者がきてくれないので困ります。
[勝田]健康人のデータが少なすぎますね。もっと数をふやすのと同時に、同一の人間について長期間、たとえば5年おきという具合に長くしらべることも必要でしょう。君自身のも材料にしたらいいでしょう。
[土井田]次回にはマウスの白血球について報告します。ヒトの場合はPHAを入れて3日位で分裂像が見られますが、マウスは1週間位しないと見られません。
[勝田]培養それ自体による染色体の数や形の変化、ということについては?
[土井田]このごろはむしろ培養によって変ることはない、と云われています。むしろBone marrowの方が異常のものが多いのではないでしょうか。染色体のならべ方については、大きい方から1〜5番目、小さいほうからいくつかを見ていて途中は見ておりません。

《杉 報告》
 hormoneによる発癌ではhormone間の相互関係といったものがかなり重要なfactorとなり、これをin vitroで行うにはかなり難しい問題があると思われるが、動物実験の成績を出来るだけ精しく分析してその関係をin vitroで再現させ、不明の点は片端から各種hormoneを重複的或は継時的に試みる必要があろう。我々の実験で先ず問題になるのは、stilbestrolに対するtestosteroneなどのsex hormoneであり、in vitroでもこの関係は種々と調べてみる必要がある。このところ研究室の状態がpinchに見舞われ細胞の保存が精一杯という状況になり、発癌に関する実験は全く停滞しており残念乍ら報告すべきdataがない。従って発癌実験は進展していないが、hormoneの作用に関連して、我々のところで用いているstilbestrolとtestosteroneがHeLaS3増殖に対してもつ影響をみようとした。薬剤の濃度には段階を作り種々に組合せてやるべきだが、余裕がなかったので濃度は両者共に一応0.1μg/mlとし、cont:alcoholを実験群と同濃度に含有。s→s:stilbestrol、2日目に同じくstilbestrolで交換。s→t:stilbestrol、2日目にtestosteroneに換える。t→t:testosterone:2日目に同じくtstestosteronで交換。t→s:testosterone、2日目にstilbestrolに換える。t+s:testosteroneとstilbestrolを最初から混合、2日目に同じく交換(但しこの群ではt.s.共に各々0.05μg/ml)
培養2日目と4日目に液交換、4日目は各群とも普通の培地で交換、培地はLYT+20%bovine serum(母培養を一律にこの培地でやっているのでそれに合せた)
 接種細胞数が多過ぎたため増殖率はよくなかった。しかもこの濃度では対照群に比べ各群とも幾分増殖が悪く、細胞数は2日目でcont、s、t、t+sの順、7日目でcont、t→s、s→s、s→t、t+s、t→tの順、7日目でcont、t→s、s→s、t+s、s→t、t→tの順であった。(増殖曲線の図を呈示)
 只一回の実験でしかも接種細胞数が多きに過ぎたことなどで、これから結論は出せないが、以上の実験条件ではstilbestrol、teststerone共に増殖抑制に働いており、特にtestosteroneに於いて著しいといえる。

《山田報告》
 HeLaS3細胞の増殖サイクルにおけるDNA合成度の推移:
 前号にかいたように、対数期の細胞を1コづつばらばらにして炭酸ガスフラン器のなかで48時間培養しますと、2〜8個、大体が4コのコロニーとなります。この段階でH3-ウリジンの15分間のとりこみをオートラジオグラフィでー調べますと、コロニーによってかなりとりこみに違いのあることがわかります。ウリジンは大部分がRNAにとりこまれ、一部チミジン又はデオキシンシチジンを経てDNAに入るのですが、10-5M程度の非放射性チミジンを加えておくと、ほとんど全部がRNAに入ると考えてさしつかえありません。このコロニーによるRNA合成度のちがいは(1)細胞集団中にRNA合成度についてかなり変化した細胞(増殖度のことなる?)が存在している、(2)増殖サイクル中にRNA合成度の変動がある、(3)その他技術的な変動、などの原因が考えられます。そのうちまづ予想されるものとして(2)の可能性を調べてみました。
 方法は5分1コマで顕微鏡映画を撮影し、少くとも24時間うつした後、すぐに15分間H3ウリジンをとりこませ、これをオートラジオグラフィーにかけて、核、および核小体上の銀粒子数を数えました。個々の細胞は映画の分析により、細胞質分裂(Cytokinesis)後の時間を算定しておきます。
 結果(表を呈示)は、分裂後8時間までは合成度が一定ですが、8〜10(8〜12)時間に合成度が高まり、その後ふたたびおちて、18〜20時間にもう一度ピークがあり、以後分裂に入ります。HeLaS3細胞は10%コウシ血清を加えたEagleMEMで培養した場合、G1期12〜13時間、S期6時間、G24時間という数字ですから、はじめのRNA合成度のピークはDNA合成の直前で、DNA合成がはじまると一旦RNA合成度が落ち、G2に入るとふたたびRNA合成がさかんになると考えられます。
 分裂期のRNA合成についてはTaylorはじめ多くの人が報告していますが、一般的にいうと、Metaphase、AnaphaseではRNA合成は停止し、この時期に核内にあったRNAは細胞質中へ放出されるのです。私はこの現象が次のサイクルのTriggerになると考えています。
 表の個々の値は平均して10コ、ある場合には5〜6コの平均をとっているわけですから、かなりの変動があります。しかし数学的にみても8〜10、18〜20時間のピークの存在は明らかです。またコロニー別にしらべた別の実験で、5日間培養して32コになったコロニーのRNA合成度を調べたところ、丁度このコロニーの構成細胞の大部分(28コ)が分裂後10〜20時間の位置にあり、そのデータから、DNA合成によるRNA合成の抑制を明確につかまえることができました。

 :質疑応答:
[山田]次は2倍体の細胞を使ってやります。
[勝田]蛋白合成の方を早く見たいね。
[山田]今やっています。ただアミノ酸のとり込みの場合は後処置に困ります。水で洗えば溶けるものもあるだろうし、アルコールでboilするというのがありますがどうでしょう。Lys*、Phe*を入れて核と細胞質の比をとってみましたが、今のところ差が出ていません。Lys*はHistoneのつもりです。核に限ってみると、Pheの方がむしろ狭いピークです。HistoneをHClで処理して抜いてみたらどうかと思っています。
[関口]ActinomycinDの実験はやりましたか。
[山田]未だです。ActinomycinDとMitomycinを組合せてやるつもりです。案外このような小さな単位でColonyをやるときれいなdataが出るのではないかと思います。
[勝田]Generation timeの長い細胞の方が精密なデータが得られるかしら・・・。
[山田]寺島が云っているが、Mitosisを基準にするとG2、Sに関してはよく判るが、G1についてはよく判りません。とにかく映画で撮った細胞と標本にしたのと結びつけるのに苦労しました。映画をとったあと、すぐケンビ鏡のレンズ位置にダイヤモンドペンのつく装置を使って丸印をつけました。

《安村報告》
1.果糖肉腫細胞(FRUKTO-Eg)のマウス脳内移植法
 1-1. FRUKTO-Eg株はEagle合成培地(1959)にBiotin 0.25mg/lをくわえた合成培地に増殖している系です。現在90代に達しています。
 1-2. ちのみマウス脳内接種による結果:
 細胞はFRUKTO-Eg株14代めのもの、接種細胞数は5,000、1,562、500、156、生後24hrs.マウスの脳内接種、結果はどの細胞数でもほぼ20日前後で5/5あるいは4/5死亡です。
 脳内には0.5mlの注射器で少しながめのマントー針(3cm)をつかいます。いわゆる2段針と称するツベルクリン用の針はよくありません。深めにさして液もれをさせないこと、接種量は0.02ml。
 *この腫瘍を乳鉢ですりつぶし、Eagle+Biotin 0.25mg/l(Eg-61培地とよびます)で稀釋して次代へマウス接種とともにin vitroにもどします。マウスでできたtumorを継代していきます。F-EgM2→F-EgM3→F-EgM4・・・・というように。M2というのはマウス継代数2ということです。現在までのデータではF-EgM11までin vitroにEg-61培地に復元できました。F-EgM11は40代近く継代されております。マウス継代はこの11代でうちきり。
 1-3. 脳内と皮下の比較(F-EgM2細胞):
 生後7日のマウスの脳内に6,000個、皮下に30、000個接種しました。脳内は16〜29日で4/6死亡し、皮下は0/4でした。
 1-4. マウス年齢による違い(脳内接種):
 生後1〜2日は25/26、生後5日は10/11、生後8〜9日では10/20の死亡率でした。
 1-5-1. 脳内と皮下の比較では脳内がすぐれていることがわかります。皮下接種ではちのみ24時間以内のものでも最低5万の細胞数がないと腫瘍をつくりません。ときに2万5000でできたことがありましたが。
 1-5-2. マウスの年齢の点では7日めまでは脳内のばあい、あまり影響がありません。7日をすぎると感度がおちはじめます。33日になりますとますますおちてしまいます。たとえば細胞数2,800で5日のマウスで、14、14、15と死に3/4の腫瘍率ですが、33日のマウスは16日という具合で1/5の率です。
 1-5-3. 果糖肉腫細胞はマウス由来ですから、ホモの移植法です。実験につかった細胞はマウス継代が可能ですし、in vitroにも、少くともマウス継代11代までのものまで実験したかぎりでは、わりあいかんたんにOriginalにつかっていた合成培地にもどります。ただし、マウス継代がすすむにつれてin vitroにもどした初代のたちあがりがいくらか悪くなってきます。そんなわけですから、少数細胞ではホモの脳内接種が移植法としてはすぐれていると考えます。(わたしの果糖肉腫細胞ではと限定したほうが異議がでなくてよいでしょうが)。ホモの移植法脳内ではtumorをつくるが、皮下ではつくらないという悪性細胞があろうとは考えにくい、無処置の動物でね。

 :質疑応答:
[安村]Sabin & KochはハムスターにSV40をかけてtumorをつくり、そのtumorを培養しているとVirusがtraceですが時たま出てくると云っています。うちでは6代までVero株でしらべたが出てきませんでした。また彼等は血清20%を与えないと細胞が変性をおこしてnecrosisに陥ると云いますが、私の場合は血清を減らしても平気で、2%でもOK、nectosisもありません。Eagleと血清の組合せだと少しbufferが弱いですが、Lhを入れると少し強くなります。
[奥村]Sabinのところも今のところ追試していない。自分でも自信をもっていないようです。

【勝田班月報・6409】
《勝田報告》
 A)発癌実験
 1."なぎさ"地帯の細胞とシート内細胞とのDNA合成能の比較:
 この一端として、最も手をつけやすいH3-thymidineの、とり込み率をしらべた。詳しいcell countingはまだやってないが、標本をざっと眺めたとことでは、とり込み率には相違が認められないようである。どちらもとり込んでいる。添加時間は1hr.と24hr.の2種。 なお副次的なことであるが、ごく最近Kodakのemulsion液を手に入れてテストしてみたが、さくら製品よりは薄い膜ができるらしく、grainsが核からずれるという現象は全く見られなかった。またgiemusaによる共染もきわめて少い。但しBack groundはむしろ若干多い。これは輸送のためかも知れない。
 2."なぎさ"細胞とシート内細胞とのPhagocytic activity及び消化能の比較:
 Crudeなchromosome suspensionを作って培養に添加し、その直后から顕微鏡映画をとりはじめ、"なぎさ"とシート部とを比較した。この実験は現在も継続中であるが、貪喰という点ではあまり差がなく、どちらもよく貪喰する。しかし、"なぎさ"部では消化が非常に悪い。つまりDNA-depolymeraseを含め色々な分解酵素の活性が低下、或は消失していることを示し、だんだん"なぎさ"理論が裏書きされてきた。
 B)武田肉腫の培養
 武田肉腫細胞の培養が仲々厄介だったのか、これまで培養の報告がない。大阪で医学会総会のあったときの病理学会の展示に北大・武田病理の若い人が色々の腹水腫瘍の培養を試みた報告を発表していたが、AH-130の他はすべて失敗し、"武田肉腫は、AH-13・・・その他と同様に、培養内では増殖できない細胞である"と結論していた。私が"AH-13はできますよ"と云ったら、びっくりしてあわてふためいていたが。
 さてその武田肉腫を、ラッテごと北大・武田病理から空輸してもらい、うちのラッテと培養にすぐ入れてみたところ、雑菌がわっと出てきてしまった。これは標本でしらべると細胞内に共棲していたゲルトネル菌が、抗生物質を加えてない環境になったので急にふえだしたものらしい。継代経過を次に記す。
 1964-3-6:ラッテ到着。培養→ゲルトネル菌発生→死滅。ラットへ移植。
 3-9:移植(1)50%HsS+DM-120→この培地の内(ペニシリン・ストマイ)添加の培養のみ細胞生存。(2)50%CS+DM-120、(3)20%CS+LD→この2種の培地では間もなく細胞は消失(ゲルトネルのみでなく、抗生物質を添加した群でも同様)。
3-22:Subculture→4-9:培地から抗生物質を除く(もはや雑菌共存せず)。
 4-23:ラッテへ移植→50万個→動物継代→各代5〜9日で死亡(ラッテ不足で切れ)。
 5-29:ラッテへ再移植→現在17代(各代4〜9日で死亡)。
    これを材料として各primary cultureで検討。
 TC(培養系)は、7月頃自然切れ(血清の影響と思われる)。
 上記のような経過をとってきたが、現在では勿論bacteria-freeになっている。これまでに判ったことは(7日間のSumplified replicate culture method):
 (1)牛血清より馬血清の方がよい。しかし馬血清のlotによって非常に差がある。
 (2)馬血清+DM-120の培地では、馬血清50%、20%、10%の内では50%与えないと増殖しない。20%、10%では細胞数が減少してしまう。
 (3)Pyruvateを0、0.01%、0.05%でしらべると、0.01%がoptimalで、2日、4日后のような初期の増殖を非常にaccelerateする。しかし7日后には無添加と余り差がなくなってしまう。 (4)細胞の形態は、初期は円形で硝子面に強くは附着しないが、2週間をすぎると附着するものが現われ、それは(図を呈示)極めて特徴のある細胞質突起を有している。
 (5)増殖率はまだ極めて低く、7日間に3〜5倍。さらに培地の改良を必要とする。
 C)その他
この夏に医学部の1年生が2人来て、microspectrophotometryと、JNCIの最近の号に出ていたRapid methodでcell speciesのoriginを決める方法をやって貰ったが、そのPreliminaryexp.では、JTC-8、9、10はウマではなくヒトらしいという結果が出た。

《土井田報告》
 RLH-1の染色体
 前月月報に報告した細胞(RLH-1)と7月11日に分与された細胞(RLH-1-3)について、それぞれ染色体数および核型分析を行なっている。標本はいづれも前号月報記載の通り、10-6乗Mコルヒチン液で4時間処理後、air dry法で作成した。
 染色体数の度数分布は(図を呈示)、いづれの系列においても69に最頻数を有した。hyper-69よりhypo-69を有する細胞がやや多い傾向を示すが、この理由は単にテクニカルな問題で生じるものだけでなく、染色体数が減少の方向にむかうような何か一般的な趨勢によるものかも知れない。此の点については正常人の末梢白血球培養で多くの人のデータから推察される。これ等の報告においてはいづれもhypo-diploid cellがhyper-diploid cellより高頻度にみられるという。しかしそのいづれであるか、又別の意味があるかについては、今の所不明である。多倍数性の細胞もかなりみられたが頻度は求めていない。
 核型分析は現在69の染色体を有する細胞について主として分析を進めている。その幾つかの例を図に示す。核型分析の結果、大部分の染色体はmeta-centric又はsub-metacentricであり、acrocentricやtelocentricのものは比較的少ない。又この細胞群を特長ずけるような特定の染色体はみられていない。dicentric chromosomeが幾つかの細胞で認められたが、この染色体を有する細胞は主として67あるいは68の染色体数を有しているように思はれる。
 chromosome-gap、chromatic-break、isochromatid breakなどの染色体異常がみられた。それ等の頻度を出すところまで分析が進んでいないので結論的なことは言えないが、頻度は決して高くないようである。
 核型の分析は猶現在進めているが、図のb、cはgrossな見方からは全く同型と思はれる。
《黒木報告》
 ハムスター・チークポーチ内移植法の基礎的検討
 (18)RLH-1、1,000−10,000cellsの移植 (Exp.237)
 月報6407、6408にRLH-1cellsを400万個、800万個移植した成績をレポートしました。
 御承知のように、Foley & Hardlerは10,000個の移植性をmalignancyの基準にしています。しかし、この成績はあくまでも、いくつかの問題点を残しています。すなわち(1)用いた細胞はestablish cell lineであること、現在の知識からするとestablished cell lineはnormal→malig.、malig→malig.の低下がみられる故、この成績がどれだけ細胞の性質を示しているかは、むしろHomo or Isoの移植成績との比較によって明らかにされるべきであろう。 (2)本当の意味での対照と云うべき"はっきりと分った"normal and malig.cellが用いられていないこと。(3)2/6以上をpositiveとする統計的根拠が不十分である。probit法その他によりLD50を算出し、その信頼限界を求め、又二直性の平行性の検定から有意性の検定にまですすむのがよいと思はれる(これについては次の月報に報告するつもりです)。
 とにかくRLH-1細胞についても、細胞量を変えて移植する必要のあることは明らかです。この成績の一部(移植后10日まで)は、前報に報告しましたが、今回はその後の成績をまとめて報告します。(表を呈示)無処置では10,000個、1,000個は陰性。コーチゾン処置では10万個6/8、10,000個7/8、1,000個1/6。一般に無処置のはtumorが赤く、コーチゾン処置のは白く硬い。

《奥村報告》
 A.ウサギ子宮内膜細胞のDNA合成
 内膜上皮細胞のplatingで形成されるコロニーは、そのsizeが時間と共に大きくなることは既知の事実である。しかしシャーレ内のコロニーを染めてみても分裂像(特に中期の核板)が殆んどみることが出来ない。分裂前期、末期らしい像はみることが出来る。又コロニーの成長も大小さまざまで2〜32ケの細胞期で止り、それ以上大きくならないコロニーも相当数ある。(この様な現象は内膜細胞だけにみられるのではなく、一般にprimary culturedcellsにみられる)。更にProgesterone、Estradiolのホルモンを与えるとplating efficiencyが高まるだけでなく、時には細胞の増殖がみられた。しかし、この増殖促進の現象はホルモンの直接的作用の結果であるか、どうかは全く判らず、現在いろいろの推測の段階に止まる。
今秋、H3-labelled Progest.及びEstradiolが入り次第、直ちにホルモンとして、その糸口をしらべてみる予定であるから、その前に内膜細胞のcell cycle(G1、S、G2の各plase)とホルモン投与実験の際に細胞の増殖がどの様に変るのか、を細胞数だけでなく、DNA合成能の面からも一応checkしておくことにした。H3-thymidineのuptakeをみると次の様な結果を得た。
 予備実験1.
 内膜細胞を1シャーレ当り10,000cellsを植え込みmodified199(合成培地)にcalf serum20%に添加して培養をはじめ3日后にH3-TDNを含む新しい培地に換えた。その后、a)は7日間、b)は14日間培養(途中2日毎にH3-TDN含有培地に更新)してsamplingした。
 0.5μC/mlのH3-TDNを添加した実験では、上記の方法と同じ投与方法(無処理の培養3日間)を用いた結果、2hrs.のlabelで5.4%、48hrs.おきに2回labelすると(1回のbelling time20分)3.5%であった。<この夏は猛暑の為かどうか判らないが全般に飼育動物が弱まり、とくに最近(ここ1ケ月)、ウサギが数匹次々に死亡してしまい実験一時中止>。

《伊藤報告》
 前回の連絡会の際の宿題になっていました発癌実験の際に添加するActinomycinの濃度決定の為のDataを得るべく実験して一応の結論を得ましたので報告致します。
 細胞:btkマウス胎児(13〜15日)のwhole EmbryoをTrypsinizeして得たもの。
    primary culture。
 培地:20%Calf Serum+80%L.E.
 実験法:Simplified Replicate T.C.methodにより培養→核数計測。
 結果:(図を呈示)。Exp.2は其后も続けて実験中ですので、より長期に亙っての濃度の影響が知り得る筈です。
 以上のDataより、一応発癌実験に使ふ添加濃度としては、0.01μg/ml及び0.002μg/mlの2種と云う事にして、現在添加后日数を追って形態学的変化を追求中です。

《佐藤報告》
 今月は残念ながら充分な研究結果がでていません。班研究の報告として癌学会へ
 組織培養による発癌機構の研究 第5報:
DAB及び3'-methyl-DAB培養内長期投与によるラッテ肝細胞の形態学的変化と培地内DABの消長について
以上のものは演説にして、DAB及び3'-methyl-DABによる細胞株の多型性の発現及び其れらの細胞がDAB(培地内)に与える影響を報告いたします。DABの細胞内とりこみについては手段をつくして準備中です。先日上京してH3-ThymidineのAutoradiographyを班長の所で勉強しました。目下はDAB*の入手について全力をあげています。
 次に示説として
 組織培養による発癌機構の研究 第6報:DAB飼育呑竜ラッテ肝の組織培養
 内容は月報に記載してまいりましたDAB発癌過程の呑竜系ラット肝の組織培養に対する細胞の状況を説明したものです。
 11月の癌学会までにやっておかねばならない事が非常に沢山あります。9、10月は大車輪でやる積りです。

【勝田班月報:6410】
《勝田報告》
A.発癌実験:
 1)前回の班会議で、"なぎさ"地帯の細胞にcell homogenateを食わせると、どうも消化が悪いようだと報告したが、その辺をさらにたしかめるため、cell homogenateを培地に加えて顕微鏡映画をとってみた(映画上映)。シート部の細胞も〈なぎさ〉部の細胞も同じように活発にhomogenateを貪食する。しかしシート部の細胞質では貪食されたhomogenateが消化されて段々と見えなくなって行くのに対し、〈なぎさ〉部では仲々消化されず、むしろ細片が固まって塊を作り、いつ迄も細胞質内に残るのが認められた。
 DNA合成能の比較のため、培地内にH3-TdRを入れ(1hr.と24hrs.)、それをとり込んだ核の数をAutoradiographyでしらべたが、とりこんだ細胞/全細胞の比率は、シート部でも〈なぎさ〉部でもあまり相違がないように認められた(しかしこれは今後はっきりCellをかぞえて確かめる予定)。〈なぎさ〉部の細胞のmicronucleiにも取込みは見られた。
 H3-TdRでラベルしておいたcell homogenateを培地に加え、Autoradiographyでしらべると、2〜3日後にも〈なぎさ〉部の細胞のCytoplasm内に、ラベルされた小塊の残っているのが見られた。
 以上の結果を総括すると、DNA合成能、貪食能、の点ではシート部も〈なぎさ〉部も余り変りがなさそうであるが、消化能に於て、〈なぎさ〉部は劣っているらしいことが判った。
 なお、映画でRLH-2のmorphologyと、RLH-3(?)、RLH-4(?)も示した。後2者は未だ本当にtransformしたものとは判断はできない。
 2)RLH-2は生後24hrs以内のnew born ratsに2回復元接種してみた。
 1964-8-22:脳内、約50万個/rat、4匹、今日まで異常を示さず。
 1964-8-29:皮下、約200万個/rat、Calf serumで継代のRLH-2を1匹へ、rat serumを添加して継代中のRLH-2を1匹へ、さらにrat serum添加継代のRLH-1を1匹へ接種した。今日まで異常を示さないが、皮下の場合は長期間かかることがあるので、なお観察をつづける予定。
B.武田肉腫細胞の培養:
 これは正常細胞との相互作用をしらべるために、吉田肉腫の代りに使うため、その培養基礎条件をしらべはじめた仕事であるが、これ迄は仲々増殖率が上らないで困っていた。ところが極く最近、回転培養(10r.p.h.)してみたところ、非常に増殖が良く、1週間に9倍近い増殖を得た。培地は50%馬血清+0.4%ラクトアルブミン水解物である。従って今後はこの条件を土台にして色々な培地の検討を心がけて行く予定である。
 なお、Prof.Moskowitzのいうaggregenを作ると、その内部でcollagen fiberの形成される可能性もあるので、まずこの武田肉腫でそのテストをはじめている。うまく行ったら、さらに、かの吉田肉腫でもそれを試み、これらがfibroblasts-originの細胞であることを証明してやろう、というのである。
 Tumor cellの増殖率がある程度以上(例えば10倍/w.以上)の培地を使って培養しないと、どんな正常細胞と組合せてみても、そのtumor cellsの増殖が促進されるような結果になる。例えばAH-13がそうであったので、武田肉腫の検討を慎重にしている訳である。

 :質疑応答:
[奥村]変異した細胞を純粋に継代していますか。
[勝田]RLH-1は増殖度が高いので、あっという間に純培養になりました。RLH-2は増殖度が低いので、大分長い時間がかかりましたが現在では純培養になっていると思います。
[奥村]映画でみた後の二つの?も変異しているのではないでしょうか。効率はかなり良いですね。
[勝田]だけどtube数からいうと、まだまだ少ないでしょう。それに〈なぎさ〉帯は非常に狭いzoneだから、なんとかもっと大量になぎさ細胞のできる方法を考えてみたいと思います。dinitrophenolも培地に入れてみましたが結果は余り良くありませんでした(なぎさ様の細胞にならなかった)。
[土井田]Colonyの中の部分の方が増殖が早く、まわりに押されて独りになると増殖が落ちる、というようなことがありますか。
[勝田]Mutantのできはじめにはそういう傾向があるかも知れません。
[山田]変異という言葉の意味になるかも知れませんが、腫瘍化ではなく株化の経過を見ていることにならないでしょうか。
[勝田]しかし普通の株で、こんなに異常分裂が沢山見られるかしら・・・。
[山田]RLH-1も変異の時期をすぎて安定すれば異常分裂がなくなるのではないですか。
[勝田]RLH-1はもう安定していて、染色体も69本に安定していますが、いまだに異常分裂は沢山みられます。
[黒木]?のついているmutantらしい細胞もピペットで吸取って、RLCのcell sheetにレントゲンをかけたものの上にでも播けば増え出すのではないでしょうか。
[勝田]そうかも知れないとは思いますが、初代培養を主体としたいと思っていますから、今の段階であまり手をかけたくないのです。
[奥村]この先をどう展開させるおつもりですか。たとえば培養内で変異したものを動物へ復元する場合の問題など・・・。
[勝田]数多くもっとやってみたいと思います。その内一つ位つくのが出来るかも知れませんから。それから現在までにできているMutantsについては、もっと色々の動物に復元してみようと思います。
[関口]なぎさ細胞とそうでないのと別にとり分ける方法がありますか。
[山田]カバーグラスにキズをつけておいて、折れば良いでしょう。
[関口]digestionの問題がすぐDNAと関係するかどうか・・・。lysosome(cathepsinなど)の活性の問題ではないでしょうか。つまりDNaseなどとは別ではないでしょうか。
[勝田]いま使っているのはhomogenateですが、今後はこれを分劃して、DNprotein、DNA・・・というレベルでやって行きたいと思っていますから、そうすればそのことは次第にはっきりしてくる訳です。現在、大切なのは、復元接種で〈つく〉ということです。さっき奥村君の云ったように、transformationとin vivoでつくということの間の壁が問題です。
[奥村]Malignantということを主題とするには"つく"という段階の検討にも力を入れる必要があるでしょう。
[勝田]takeされるようなmutantをselectする、そのselectionの方向が問題です。方向がいちばん大切と思います。
[山田]勝田さんの方法は非常に正攻法です。
[黒木]RLH-1はラッテ血清でどうなりますか。
[勝田]どんどん細胞がこわれてしまいます。それが、馴らして行くとだんだん増えるようになりました。ラッテ血清はどうも色々な大抵の細胞によくないようです。
[山田]人血清を使っていての問題で、これは荻原氏の実験ですが、どうも具合の悪い血清があるので、それをしらべてみたらB抗原のあるのが良くなかったということが判った。そういうことからも、isoのものでは反って悪い結果を及ぼすことがあるのではないでしょうか。
[黒木]癌の場合にはそういう抗原抗体反応は無いのではありませんか。少くとも移植に関しては良く判っていないのではないですか。
[奥村]そうとも云えないのではないかと思います。
[勝田]Moskowitz氏がRLH-1をaggregateにして皮下などに入れるとtakeされるのではないかと云っていましたが、たしかにそれも一案と思います。

《黒木報告》
 ハムスターチークポーチ内移植法の基礎的検討:
(19)RLH-1細胞のチークポーチ内移植−TPD50
 前報でRLH-1細胞をch-p内に移植したときの経過を報告しました。その経過からみて、一応移植細胞が増殖した率は次表のようになります。
移植細胞数  無処置  コーチゾン処置
1,000,000   8/8     8/8
100,000   4/8     6/8
10,000 0/8 7/8
1,000   0/8     1/8
この成績から50%腫瘍増殖に必要な細胞数−50%Tumor Producing Dosis TPD50をLitchfield-Wilcoxson法により算出してみました。この方法(大きく分ければProbit法に入る)は移植に用いた動物群において感受性が正規分布をしているとき、用量反応直線が正規S状曲線になり、それを縦軸をprobit変換することにより直線とするものです。直線性の検定は最兀法で求め、LD50(ED50)を計算します。
このED50(50%effective dosis)を求める方法は母集団が正規分布をしているときには、Mean、Mode、Medianと一致し、もっとも精度の高い方法です。この方法を用いると更にED50の信頼限界、二直性の平行性、効力比の有意性の検定も行うことが出来ますので、今後、実験腫瘍の分野にもっと取り入れられてよい方法であると思っています。
 (RLH-1細胞のTPD50の計算式を記述)RLH-1のTPD50は5.0x10の3乗(1,000〜24,500)であった。
(20)RLH-1の組織像
 前々回報告したRLH-1の組織像は無処置ハムスターのものでした。しかし今度コーチゾン処理のを作ってみたところ前と大分趣きを異にしていることが分りました。(スライドを呈示)
 1)反応の仕方:無処置のものには強い細胞反応がみられたがコーチゾン処置のものには殆んどみられない。中心部necrosisは同じようにみられるがいくらか軽い。
 2)移植細胞:形態は大分違う。無処置のものは空胞が多く弱々しかったがコーチゾン処置のものは核も原形質もしっかりしている。ところどころに胞巣を形成している。又血管内に侵入している像もみられた。
 異種移植でこのような胞巣がみられるのは珍しく、文献的にはKoike,A. Moor,G.E. Cancer,16,1065-1071,1963が記載しています。
 RLH-1は悪性と云う感を強くしましたが、いかんせんheteroでは、ここまでが精いっぱいです。Homoでtakeさせることが第一でしょう。

:質疑応答:
[勝田]あの復元の組織構造のようなのはきれいでしたね。
[山田]前にうちに居た男が、spongeに細胞をしませてラッテの中に入れておいたら、spongeの中の細胞が、それぞれHeLaはHeLaらしく、LはLらしく構造ができていました。
[高井]Tumorができた、という判定は何日目にするのですか。
[黒木]別にきめてありません。出来たことを確めて色々処置をするのです。
[高井]大きさはどの位にまでなりますか。
[黒木]RLH-1では1cm位にはなります。cortisoneの接種量はラッテなら2〜3mg/100g、2〜3回/wやりますが、2週以上つづけてやるときはこの量では多すぎます。感染を起さないように抗生物質を併用する必要を痛感しました。
[勝田]肝癌細胞を入れると、やはりalveolar structureか何かできますか。
[黒木]マウスの肝癌を入れてみましたが、まだ組織標本ができていません。

《土井田報告》
新生児マウウえのL細胞の移植実験:
 in vitroで培養された細胞の復元の際の宿主との関係を検討する意味で、以前に新生児マウスにLを復元した経過について記したが、新たに同様の実験を行なったのでその結果を報告する。
 T-2:CBA系マウス
 8月6日生まれの計5匹のマウスにL細胞を6日、10日11日の3回腹腔内に注入した。8月15日終日停電断水した。8月16日、母親はじめ全部死亡、死亡の原因は不明。
 T-3:NH系マウス
 8月8日生まれのマウスにL細胞を同様に注入した。接種細胞数は8月10日に240万個、8月11日に140万個。
 A・8月10、11日に接種し8月21日観察中に死んだので、直ちに腹水を採集したが、採集できなかった。次いで解剖し、腎、肝、脾臓、および小腸を培養した。L細胞を検出することを目的にしているので、培地は5%牛血清を含むYLHを用いた。以後3〜4日目毎に培地の交替をしているが、その間小腸壁を培養したものに軽度の感染が起ったので、ペニシリン・ストマイを加えて感染を抑えた。
 脾臓を培養している瓶で、図に示したような(写真を呈示)細胞がみられた。(測定したわけではないが、目安で)もとのL細胞よりやや大きく思われる。この細胞がLか否かを染色体を手懸りに調べようと考えているが、生育が思はしくなく、現在(9月20日)やや退化の方向に向っている。
 B・は同様に8月10日、11日に接種し、8月27に死んだが、死亡時刻が定かでなかったので、腎、肝、脾臓および小腸をCarnoy第2液で固定し、パラフィン切片を作成した。組織標本はHaematoxylin-eosinで染色した。組織に変性があるか充分検討していないが、死後時間をへているためか、分裂像はみられていない。
今後、無処置の新生児マウスの組織標本を作成し検討しようと思っている。
 C・8月22日に死んだcontrolは、死後解剖したが死因は不明であった。他の個体にくらべ生育がおそく、授乳不足か何かが原因であろうと思われる。
RLH-1の染色体:
先月につづいて核型分析を続けている。RLH-1を特長ずける染色体はみられていない。dicentric chromosomeを有する細胞や最長の染色体と同じか、それよりやや大きい長さを有するacrocentric chromosomeなどもみられたが、いづれもRLH-1を特長ずけるものと考えられない。
 dicentric chromosomeを有する細胞は染色体数68であることが多く、このことより、RLH-1の確立後生じたものと思われる。(dicentric染色体の有る2n=68と、acrocentric染色体の有る2n=69の核型分析を呈示)

 :質疑応答:
[奥村]RLH-1の染色体は、正常ラッテに比べて物凄く激しく変っていますね。たとえば正常ラッテではmetacentricは非常に少ないのですが・・・。
[山田]たとえばLでも正常のマウスの染色体を残しているのに、RLH-1の場合には全部の染色体がかわるということを考えなくてはいけない訳です。しかも大体2本宛対になっているということはどういうことだろう。
[奥村]〈なぎさ〉の辺で6倍体とか8倍体が一杯できて、それが元になってできたのではないか、とは考えられます。
[土井田]正常なものと、この全く変った染色体の核型との移行がどう行われたかは、創造するほかないが、現在のRLH-1は非常に安定した核型をもっています。
[奥村]むかし武田肉腫の腹水をしらべたことがありますが、V型が多かったです。
[土井田]人の染色体で、モンゴリズムの場合、Gの21、22あたりの染色体の下半分だけ移るのがあります。こんなのは見かけは46本ですが、pseudo-diploidという訳です。
[勝田]RLH-1の場合、今後はどうしてこんな核型になったか、その過程を想像してみて欲しいですね。
[土井田]私はこうなる途中の細胞を分析してみたいです。
[勝田]ところが途中で染色体標本を作ってしまうと、そのしらべた細胞の子孫が得られないしね。
[奥村]でもやっぱり、あのなぎさの所の細胞がどんな核型か、ということを見てみた方が良いですよ。多分非常にhighploidyのものがあるのではなかろうか。
[勝田]さっきslideで紹介した論文の内、一寸云い落したのですが、micronucleiの場合それがどんなに小さくても、核小体様のものを含んでいる場合にはDNA合成をする。しかし持っていないものは合成しない。だが合成しても、それは母核の分裂とは無関係で静止核のまま居る、ということです。とにかく分裂にRNAが、特にDNA合成に密接に関与していることを物語っていますね。染色体が形成されるとき、核小体のRNAが各染色体に分散されるのではあるまいか。micronucleiというのは分裂のときの、chromosome fragmentsが静止核になったとき出来るのだから。
[土井田]植物では特に仁染色体というのがあって、何番目と何番目に核小体がくっついているということが判っていますが・・・。
[山田]この核型をみていると余りきれいすぎるので、その移行が考えにくい。
[勝田]私はまずendoreduplicationでtetraploidができて、さらにoctoploidになり、それが3極分裂したのではないかと想像するが、どうでしょう。とにかく3極分裂する細胞は大きさがとても大きいですからね。
[奥村]そう考えて考えられないこともありませんが、一寸考えにくいですね。というのは3極分裂にもホモとヘテロとあって、若しそのようなことが起るとしたらそれはhomoでしょうが、homoというとその頻度は物凄く少いですから。それからmetaとacroの比率をとってみますと、大まかに人、猿とかマウスとかわけられます。それで傾向をみると、RLH-1は人や猿に近い方になってしまいます。
[黒木]この細胞で3極分裂の頻度はどの位ですか。
[勝田]かぞえてありませんから正確な%は判りません。しかしタンザクのcultureで、いつでも1枚に1ケはつかまえられる位です。
[山田]HeLaなんか何百に一つ位しかない。
[土井田]3極分裂した細胞がまた生き残るというのが僕らの常識ではあまり考えられませんね。
[奥村]生体では有り得ると思います。
[勝田]3極分裂のあと、その内の二つがfuseして2核細胞になることが多いですね。それから、なぎさの状態をみていると、3極分裂してなお生きていられる、ということはあります。
[土井田]動物では中心体というのがある筈だから、3極分裂では中心体が三つということを考えねばなりません。でも前にみた映画の中で静止核がfuseするところがありましたが、ああいうことになると、また中心体が倍になる訳ですね。
[黒木]後の方の仕事についてですが、L細胞が新生児マウスのどこかで増殖するかどうかということを見てみたい訳ですね。
[土井田]そうです。
[黒木]腹腔内に刺したのだから毎日でも腹水をとってしらべてみたらどうですか。細いCapillaryならとれる筈ですが。
[土井田]その必要はあると思いますが、子供をいじるとすぐ食われてしまうので仲々大変なんです。
[勝田]皮下へさした方がふくれ具合が見られて良いんじゃないですか。それからこの研究目的は?
[土井田]培養細胞を動物に入れると、消えてしまうのは何故か、ということをしらべたいのです。Immunotoleranceを道具にして、培養細胞を戻すということを手掛けたいと思います。試験管内で変異を起すということと、その変異を起したものが動物へ復元して癌を作るということを全く分けて考えたい、と思っている訳です。そしてその片方の、動物に復元して癌を作るという所のmechanismを知りたい、という訳です。

《伊藤報告》
 アクチノマイシンをbtkマウスの細胞に作用させる場合の濃度を検討して、前報の如き結果を得ましたので、今回はまず、適当と思はれる2種の濃度を含む培地中での培養を継続し、形態学的な変化を観察しましたのでその結果を報告します(スライドを呈示)。
 アクチノマイシン0.01μg/ml添加群、0.002μg/ml添加群及び対照群に分けて観察を続けた結果、培養17日目頃で、添加群に変化がみられ始めました。まず第一に気がつくのは対照群ではfibroblasticな細胞が比較的方向性をもってきれいな配列を示すのが普通ですが、この細胞の配列に乱れがみられ始め、更に核のpleomorphismが目立ってきます。此の傾向は日数と共に段々強くなり、35日目ではfibroblasticな細胞は殆んどなくなって、むしろepithelialな細胞になってしまひます。又細胞数も大分に減少しているようです。
 残念ながら今回の実験では対照群の20日目以後の標本がとれなかった為、この現象がアクチノマイシンの作用によるものである事を確信出来ませんが、これ迄の経過からみて、まづはアクチノマイシンの作用により此のような変化がきたと考えています。現在、もう一段階濃度をあげて変化を観察しています。
 復元時期の点は、今見られたような時期この細胞を集めて復元するのと、一方此の状態で培養を続けて、in vitroでの増殖の盛んな細胞の出現を待って復元する事も考える必要ありと思ひます。

 :質疑応答:
[山田]アクチノマイシンS0.01μg/ml、35日添加のものでは核小体が濃く染まっているのではないかしら。
[伊藤]さあ、はっきりそうとも思いませんでしたが・・・。そうかも知れません。
[勝田]こういう風にWhole embryoを使うとむずかしいですね。はじめから混っていた上皮様の細胞が、fibroblast様のよりも薬剤に強くて、残って行くのであるかも知れないし・・・。1ケ月でアクチノマイシンを除いて、あの細胞を増やして見なくてはね。しかしmouse embryoでは3ケ月培養で悪性化してしまうというのだから、勝負を早くつけなくてはならないし・・・。
[黒木]対照はどの位長く培養していますか。
[伊藤]50日というのがあります。2回subcultureしてあります。
[黒木]50日で2回とは、増殖がおそいですね。
[奥村]btkマウスというのは?
[伊藤]微研で増やしているマウスです。
[山田]自分で経験はないが、mouse embryoでは、初めはどんどん増殖するが、1ケ月というともう増殖度が落ちるそうだから、アクチノマイシンSを添加して1ケ月位でどんどん増えるようにでもなれば矢張り変異といえるでしょう。
[伊藤]培養から復元するところの壁を、RLH-1が乗切れないとすれば、RLH-1のように変異して純粋な系になってしまったものでなく、その途中の、色々な細胞の混っている段階のものを生体でselectしてから、動物につくものをふやして系にする、ということも考えてみたらどうでしょう。
[勝田]はじめの出発材料をもっと純粋にとることを図ってもらいたいですね。せめて90%位がfibroblastsというように・・・。
[伊藤]mouse embryoでは皮下組織をとるのは仲々むずかしいです。
[奥村]私のところでは新生児ハムスターでやっていますが、かなりきれいにとれます。皮膚を剥しながらピンセットでくるくると捲きとって行くのです。それをトリプシン消化します。
[山田]Earleのところで、trypsinを使って皮と皮下組織を剥して分けるというのがありました。
[勝田]新生児より若マウスを使ってみたら?
[奥村]若いのでは皮下はとてもとれません。細胞がトリプシンでばらばらにならないのです。
[勝田]とにかくこれで伊藤君の仕事は一応方向付けられた訳で何よりです。

《山田報告》
 Chromomycin A3の作用機構:
 京大脇坂氏、千葉大三浦氏によってChromomycin A3がRNA合成を特異的に阻害することが認められて以来、DNA合成に対して阻害作用のないことが信じられてきた。とくに三浦氏はS-RNAの特異阻害を報告して注目をひいた。私共(道健一と)は、RNAのmolecular species、r-、s- & m-RNAの細胞内合成部位、その移動(核→細胞質)などについて、Actinomycin Dとともにchromomycin A3を利用して研究することを考え、まづchromomycin A3の作用機構を主としてオートラジオグラフィーで調べてみた。その結果を要約すると、
 1)mass-populationでの増殖抑制は0.05μg/ml以上でおこる。コロニー形成に対しては0.001μg/mlですでに抑制が認められる。
 2)RNA合成阻害は0.01μg/mlからみとめられ(10-8乗M)、1〜2μg/mlでほとんど完全にHeLa-S3細胞のRNA合成を阻止しうる−actinomycine Dとほぼ同程度。
 3)0.02μg/mlのactinomycin DはHeLa-S3細胞の核小体内RNA合成を阻止するが、クロマチンRNA合成およびDNA合成に対して影響のないことが知られている(Perry)が、chromomycin A3では、同程度で核小体および核(クロマチン)RNA合成を阻害し、同時にDNA合成に対しても抑制効果を示す。すなわちactimomycine Dで見られるようなある濃度でのr-RNA合成能特異阻害像は見られないだけでなく、DNA合成を最低裕幸限度から抑制することが明らかにされた。
 4)増殖サイクルに対してはとくにS期でのDNA合成阻害が著明で、G2-block、mitosis-blockは認められない。
 以上の成績はactinomycin Dと共にRNA合成阻害剤といわれるchromomycin A3の作用機構が前者と幾分異なっていることを示している。そこでさらに作用機構を明らかにするために、次の実験を試みている。
 A)RNA-dependent RNA synthesisに及ぼす影響:
 PS-Y15細胞内、日本脳炎ウィルス(JEV)の増殖に及ぼすchromomycin A3の影響を調べた(武田、青山)。細胞のRNA合成をほとんど完全に阻害する2μg/mlのchromomycin A3添加培地内でのJEVの増殖はPSにおけるプラックカウントで測定して無処置細胞群とかわらず、蛍光抗体法によるviral antigen産生細胞の出現頻度も同じである。H3-uridineのとりこみは宿主細胞だけの場合には、この濃度のchromomycin A3でほとんど認められないが、JEV感染細胞では4〜6時間後よりとりこみがはじまり、8時間で最高値に達する。uridineのとりこみはすべて核内で起る。その時間的関係をシェーマで示す。以上の結果は、chromomycine A3がactinomycin Dと同じく、RNA-dependent RNA synthesisを阻害しないことを示している。
B)Chromomycin A3のDNAのtemperature profileに及ぼす影響(山田・大場):
 仔ウシ胸腺DNAとin vitroでふった後、東大薬学部にある装置を使ってDNAのtmを測定した。対照としてactinomycin Dを用いた。いづれも4μg/mlの濃度である。図でみられるように、actinomycin Dではtmの明らかな上昇が認められるが、chromomycin A3では認められない。chromomycin A3はmethnolに溶解した後、水で稀釋してもちいるので水溶液でないことが影響しているかも知れないと考え、水溶性のchromomycin Sを用いてみたが結果は同じであった。この成績から、actinomycin Dで考えられるDNAとの結合がchromomycin A3では確證が得られない。そこで現在、in vivoでchromomycin A3を作用させ、そこから得られるDNAのtmについて検討する予定である。
 以上の成績のほか、伝研小田氏にvaccinia virus(DNAウィルス)の増殖に及ぼすchromomycin A3の作用を調べてもらい、感染価と共にウィルス抗原蛋白(HA)の合成が阻害されることを観察中である。

 :質疑応答:
[勝田]Viral RNA合成のはじめから、Viral protein合成のはじめ迄、少し時間がかかりすぎるような気がしますが・・・。
[山田]核内でVirusが作られて、それが細胞質へ出るというところが他のものとちがう所ですから、そのためかも知れません。
[勝田]90分吸着というのは長すぎませんか。つまりその間にもうVirusのRNA合成がはじめられていると、準備のできてしまったものにはもはや薬剤が効かない、という可能性は?
[山田]よく判りません。
[奥村]Growthのone stepは何時間ですか。
[山田]18時間です。
[奥村]ずい分おそいですね。
[山田]増えている細胞の色々な合成の形態についても、もっとはっきり判らせる必要があると思います。それもまた発癌につながることと思います。
[勝田]RNA virusにDNAが少し混っているという説がありますね。
[奥村]Rousがそうですね。
[山田]僕は知りませんでした。

《奥村報告》
A.ウサギ子宮内膜細胞の増殖に対するホルモンの影響:
 月報8月号にProgesterone、Estradiolが内膜細胞の増殖に何らかの影響を与えているらしいという推測を可能にするデータを報告しました。特にEstradiolが促進効果(増殖に対し)を示し、Progesteroneは投与後2〜10日間は若干促進効果を示すが2週後にはcontrolぐんと殆んど差がなかった。これらの結果を再検討するためとEstradiolの増殖促進効果を詳しくしらべるために以下の実験を試みた。
 Exp.1は培地:199+CS20%(全べてのtubeをcontrolと同じ培地で1日培養し、2日目にhormoneを添加。培地更新は6、12、16日(ホルモン添加後)に行った。結果はやはりEstradiolを0.01μg/mlに加えた群が増殖を促進する結果を得た。これは8月号月報の記載の結果と一致することが判った。
 Exp.2でEstradiolの濃度と細胞数(植込み)との関係を明らかにしておく必要があるので、それを試みた。植込み細胞数:50,000/ml/tube、培地その他の条件はExp.1と同じ。やはりEstradiol 0.01μg/ml添加による増殖促進を確認している。現在、seed sizeを100,000/mlと10,000/mlの実験を進行中。
 次に予定している実験はEstradiolのdoseを0.01μg、0.1μg、1μgにして、又colony formationを利用して細胞レベルでのDNA、RNA合成の分析をする(autoradiographyを用いる)
B.JTC-4細胞のGENOME分析の試み:
 ParentのJTC-4細胞(仮にJTC-4Yと呼ぶ)から度々cloneを分離し、現在まで58ケのcloneを得、そのうち18ケのcloneからrecloningを行い、出来るだけchromosome numberの少ない細胞系を樹立すべく努力を重ねている。しかし、どうもchrom.no.の少ない細胞はかなり不安定のようで、2代目(継代)になると増殖が極度に悪く(2〜2.5倍/1週)しかも3代目にsomplingしてchromosome analysisをするとdistributionが拡がっている。現在苦慮中。cloneの中で最も安定している型はchrom.no.が34〜37本ぐらいの分布をしているもので、この種の細胞は炭酸ガス-airの条件下では8代〜12代になっても若干distributionが拡がるだけで殆んど変らない。

 :質疑応答:
[勝田]長期継代しているendometrium cellsはありますか。
[奥村]今年の2月から続いているのはありますが、増殖はあまり良くありません。
[山田]実際にcolonyをとるのにはカバーグラスを入れてやっているのですか。
[奥村]いや、シャーレのまま標本を作っています。このごろ底の真平なシャーレを作らせることができたので、それを使っています。
[山田]Colonyのままで10とか15とか染色体をみるのは良い方法ですね。
[高井]ホルモンは何にとかしたのですか。
[奥村]プロピレングリコールです。これは使用濃度では培養に影響ありません。
[土井田]染色体数の少い細胞を継代して行けるのですか。
[奥村]今までは少いのを継代して行くための条件を検討してなかったから、継代できなかったのではないか、と思います。これからその条件を検討すれば継代できる可能性はあります。
 :勝田班長:今後の、近い将来の研究計画を話して下さい。
[黒木]今までの仕事を全部論文にしてから、培養実験として、Rat embryoをはじめからplatingして、4NQを組合せて発癌実験をやってみたいと思います。
[勝田]奥村君の仕事は両女性ホルモンを組合せて使ってみる必要があると思います。生体で完全に片方だけになるということは考えられないのですから。それから高井君は伊藤君の仕事のあとを続けてやってくれるのでしょうか。
[高井]ええ、当分はそのつもりで居ります。fibroblastsだけを純粋にとり出す方法も考えなくてはならないと思って居ります。
[奥村]兎を使うのに一寸音をあげて居ます。高いですから。ハムスターに転向しようかとも考えています。
[勝田]折角基礎データが出はじめたところだから続けてやって下さい。

【勝田班月報・6411】
《勝田報告》
 A)発癌実験:
 なぎさ培養もつづけていますが、それより目下の急務は何とかしてこれまで出来たRLH-1、RLH-2でラッテにtumorを作らせることで、先月の班会議での黒木班員のデータにすっかり刺戟され、ラッテが使えるようになり次第、Cortisoneを使っては復元しています。しかし結論から云えば、今日までのところでは、まだtumorはできていません。
 (1)腹腔内復元接種(cortisone 2mg/100g、週2回後肢大腿部)
RLH-1(1964-10-8接種、1月ラッテ1匹、約150万個)、1日、4日、7日后まではかなりmitosisが見られたが、以后次第に減少(腹水は貯まっている)、10日、14日后になると僅少で、14日后にはしらべた限りではmitosisは見附らなかった。
RLH-2(1964-10-6接種、1月ラッテ2匹、約150万個宛)、1日、6日、9日、12日、16日としらべたがmitosisは6日、9日にだけ見られた。しかもcell islandsの形成も見られたが、何れも日と共に見られなくなってしまった。近日中にこの内の1匹を解剖してみる予定。
 (2)皮下接種(cortisoneは上と同量で後頸部皮下。細胞は大腿部皮下)
 RLH-1(1964-10-23接種、1月ラッテ2匹、約1000万個宛)、今日までのところ腫瘤を認めず。
RLH-2(1964-10-23接種、1月ラッテ2匹、約2000万個宛)、今日までのところ腫瘤を認めず。
(3)今后の予定
JARラッテが不足なので雑系ラッテを購入し、一両日中に接種を試みる予定。新生ラッテ、cortisone処理した若いラッテなどを用い、次は尾静脈内注入をやってみます。
 B)正常ラッテ肝細胞とのParabiotic Culture:
 RLH-1とRLH-2の両者についてしらべましたが、何れも(AH-130対正常肝)の場合と同じようにRLH-1、-2の増殖は促進され、肝細胞はこわされて行きました。但しRLH-1の方がその効果が強く現れました。この面からもRLH-1、RLH-2は前のDABで増殖誘導したRLD系と異なり、悪性腫瘍と云えるのでしょうが・・・。
 C)Aggregate形成能とRLH-1、RLH-2:
 Prof.Moskowitzのいうaggregenをこの両細胞で作らせてみましたが、ここでも両者の性質の差が現れました。RLH-1は全然作らず、RLH-2では径4mm位の円盤状のものまで出現する位よく出来ました。
 D)武田肉腫細胞の組織培養:
 現在まで約16種のExp.を試みましたが、どうもcontrolのcurveがきれいに一定せず困っています。これまで得られたデータを簡単に総括しますと、
 [50%馬血清+DM-120]でも[50%馬血清+0.4%Lh]でも差がありません。従って経済及び手間の関係から途中から後者に変えました。
 静置と回転培養(10rph及び2,000rph)では10rphの回転が最適。
 Chick embryo extractは入れない方がよい。Calf serumはダメ。Pyruvateは0.01%添加がoptimal。Insulinは効果なし。Lhは0.4%よりも0.2%の方がよいので、途中から0.2%に切換えた。これは血清濃度が高いためかも知れない。馬血清濃度は色々なinoculum sizeでしらべても、50%、20%、10%の内では、50%だけで増殖が続き、他は一時ふえたように見えるときでも、またすぐ細胞数が減少して行ってしまう。Glucoseは1g、5g、10g/lの3者ではほとんど差が見られない。
 ただ武田肉腫の培養でいちばん面白いのは次の実験であろう。すなわち、上に記したようにcontrolでも時によって増殖度に差があるので、考えてみたところ、どうも血清のlotによってちがうらしい。しかも、どうもhemolyticな血清の方が良さそうである。そこで馬血液を遠沈して上清をすて、赤血球だけにして、これを3回凍結融解した。これを2,000rpm15分遠沈して上清のきれいなところを取り、salineで稀釋して20%液とし、終濃度1.3%に培地に加えてみた。するとおどろいたことにcontrolよりもはるかに増殖がよい。このときcontrolは7日間に約2倍にしか増えなかったのに、この赤血球juice添加群では約5倍にふえているのである。しかも同じExp.の中でPyruvateの添加も試みていたが、Pyruvate0.01%(約3倍の増殖)よりはるかに良い増え方なのである。
 これは面白いというので、赤血球成分の分劃を試みて行くことになり(この仕事は高岡君が癌学会にdemoで出しています)、癌学会に間に合わせる最后のExp.のため今夜は現在10時半、ようやくSpincoの回転が止まったところです。この第一段の分劃では赤血球のgosts、S-protein、Hemoglobinの3分劃に分け、どこに活性があるかをしらべますが、結果は癌学会でのおたのしみ・・・。

《佐藤報告》
 DAB発癌実験については癌学会后の班会議に纏めて報告させて頂きます。今回はC3H乳癌細胞について私の所で実験し判明した事を報告させて貰います。
 現在、株化できたC3H乳癌T.C.株はHei、Ye(-)、Aの3株で夫々1050日、954日、942日を経過しています。Ye(-)StrainにはPrimary Cultureのときの亜株5及びP-lineがあり、A Strainには同様O-lineという亜株があり、染色体分布は表の通りであった(表を呈示)。
 動物C3Hマウスへの復元はP及び5-lineに就ては詳細には未だわかっていないが、他の株はいづれも腫瘍を造る。但しレントゲン前処置が必要である。Ye(-)株はレントゲン無処置の場合にも復元が可能であり、他の株に比してやや腫瘍性が高い。
 [培養株細胞中におけるBittner乳因子に就て]
 電顕による株細胞の観察で現在までの所ウィルス粒子を認めていない。従来もC3H乳癌ウィルスは培養上増殖しないと謂われている。従ってC3H乳癌細胞のPrimary Cultureの条件を検討して、その上でウィルスの増減を検索し、出来得れば本ウィルスの大量入手の手続を発見して見ようと考えた。
 C3H乳癌の牛血清YLEにおける最適培地は、下記の最終濃度である。Bovine serum 50%、Lactalbumin Hyd.0.25%、Yeast extract 0%、Glucose 0.225〜0.45%。
 ◇Praimary Culture 0〜90日におけるウィルスの消長
 上記のmedium及びYeastE.を0.05%含むmediumで、C3H原発乳癌を組織培養して経日的に観察した。Yeastを含むmediumの場合、ウィルスの量は急速に減少し培養後6日以後では電顕による発見が極めて困難となる。Yeastを含まないmediumでは、同一の原発乳癌からの培養でウィルス減量が少く38日の経過のT.C.細胞で細胞質中にA粒子を発見した。従来培養でA粒子は見つけられていない。(写真を呈示)
併しいずれにしても現在の培養条件で乳癌因子の増量は認められない。
 ◇株細胞の動物復元(C3H♀乳因子保有)による潜伏ウィルスの吸着
 株細胞を動物へ復元して出来たTumorに就て電顕を見たが、ウィルスの存在は認められない。
 ◇原発腫瘍のC3H♂マウスによる継代に就て
 最近、原発腫瘍をC3H♂マウスに継代してウィルスを観察した所、多量のウィルスを認めた(写真を呈示)。

《奥村報告》
 本報では、特に報告すべき実験結果を得ていないので、現在の仕事の状況と今后の方針について若干意見を述べることにします。
 A.JTC-4細胞からのクローン分離に関する仕事
 現在まで約7ケ月間にこの細胞から総計約32ケのクローンを分離しましたが大部分(29ケ)は満足すべき染色体数を持っていないために打ち切り、現在4ケ継代中であるが、このうち2ケは増殖が極めて悪く1Wに2〜3倍程度である。又他の2ケは増殖が4〜5倍/a weekでよいが染色体数の分布が32〜36本である。何んとかしてJTC-4細胞から20本代の染色体をもつ細胞系を分離したいと思うが、今までの結果では染色体数が少ない細胞は増殖が悪いばかりでなく、Purityも低い。つまり次のような傾向を示す。<30本以下のクローンは週3倍を越えない増殖度で極めて不安定。30〜35本のクローンは週3〜5倍で比較的不安定。35〜40本のクローンは週4〜8倍でかなり安定。41〜45本のクローンは週3〜5倍の増殖度でやや不安定。>55のクローンは週5〜7倍で比較的不安定。
 *JTC-4細胞のparent culturesのcell cycleを、H3-TdR(1μc/mlを30分間label)の取り込みから測定中。
 *cloneのkaryotypeを分析中。
 *各染色体のDNA合成をH3-TdRの取り込みから検討中(予備実験)(つまり、各染色体のDNA合成の順位と、もしsecondary constriction等のmarker chrom.があれば合成の進み方等)
 B.HmLu細胞からのクローン分離に関する仕事
 この細胞はJTC-4細胞と異なり、growthが極めてよい。Parent stockの細胞は40〜50倍/a weekであるので、この細胞のクローン分離及びRecloningによるpurificationは非常に容易です。現在までJTC-4細胞と共に18程のクローンを分離、継代中。それらのクローンの生物学的性状を分析中です。Parentの細胞のgeneration timeは約22〜24hrs.位と思いますが、只今正確なcell cycleはH3-TdRの1μc/ml、20min labelingで検討中です。詳細は来月に報告しまし。
 *この細胞からもJTC-4細胞の場合と同様、いくつかのcloneの(出来るだけchromosomeの少ないものを選び)chromosomal DNAの合成をしらべ、特にmarker chromosomeに集中したい、と云うのはHmLu細胞には顕著なmarker chromosomeをもつ細胞があるので興味深い。
 *この細胞はFibroblasticな形態を示しているので、又lung由来という事からcollagen産生能がるかも知れないという予想から近日中に2、3のsample(Parentとclone)を東大薬学で検討してもらうことになっている(Hydroxy prolineの定量)。

 C.ウサギ子宮内膜細胞に対するホルモンの影響
 数日前にH3-Progesteroneが到着しました。Estradiolは半月程おくれる予定です。取りあえずH3-Prog.を用いて内膜細胞への取り込み(時間、局在性)を検討します。
 *次いでH3-Prog.の取り込みの量にもよりますが、出来ればcellをfractionationしてどの分劃に最も多く入るかをしらべたい。
 *又、H3-Prog.の取り込まれる量がEstradiol、Testosteroneなど他のhormoneの存在下でどの様になるか、などの数種の実験を計画中です。

《黒木報告》
 継代吉田肉腫細胞の移植性について
 長期継代培養により正常細胞の悪性化、悪性細胞の悪性度の低下は組織培養における常識的現象とも云えます。特に後者については文献的にも数多くみられます。(文献を呈示)。又このような移植腫瘍に限らず、in vitroで悪性化した細胞もだんだん悪性度の低くなることが報告されています。(Evans、Sanfordらの文献を呈示)。
しかし、これらの報告は、いずれも定量性に乏しく、たまたま2〜5匹の動物を用いて移植したところ、ついたから移植性が維持されていると云うような表現が多いようです。
移植の分野にも、もっと定量的な分析がとり入れられてもよいと考え、薬理の分野でよく用いられているLD50、ED50を応用してみました。
 前号のRLH-1細胞のch-P内移植もその一つです。次に示すのは長期継代の吉田肉腫細胞のそれです。In vivo継代のLD50は1.0ケ(0.23−4.2)ですが、56代・754日間培養したものは、3.0x10の3乗(4.1x10の2乗−2.2x10の4乗)、76代・1079日培養したものは、3.0x10の5乗(2.1x10の2乗−4.2x10の6乗)です。その移植率比は10-3乗から更に10-5乗となっています。又動物体内経過で55ケになりますが、もとの吉田肉腫とは有意の差が認められました。
(表と図を呈示)。

《ごあいさつ:伊藤英太郎》
 先日の連絡会の際に申上げました如く、私、此度米国Roswell Park Memorial InstituteのMoore博士のところへ参ることになり、10月27日に羽田を出発致します。あちらでは主として人癌の培養をやる事になると思います。
 当班の開始以来、皆様と一緒に研究をさせて戴き、得る事の多かったことを感謝致して居ります。皆様の御努力でin vitroでの発癌という仕事も、ようやく先が見え始め、私としましても、やっと仕事の方向が定った感のする時に暫くお別れしなくてはならないのは誠に残念に思われます。何しろ初めてのところに参りますことで、どんな事が出来るか分りませんが、精一杯の努力はして来る覚悟です。
 又、皆様の御賛同を得て、私のあと、高井新一郎が班員となる事になりました。又、新しいエネルギーをもって、新しい観点から仕事をすすめて呉れるものと信じています。
 何卒宜敷くお願い致します。
《ごあいさつ:高井新一郎》
 御承知の通り、今月より私が新しく班に加えて頂くことになりました。よろしく御指導下さいます様お願いします。当分の間は、伊藤班員の敷いてくれたレールに乗って仕事をすすめて行くつもりです。
 現在、手技の習得の意味で、伊藤と一緒に行ったbtk mouse embryo(12日目)の培養細胞(control群及びAscinomycineS 0.001μg/ml群)を維持しております。形態については、先に伊藤より報告した通りであります。
 考えて見れば、いつ復元すべきがという問題に関して、少くとも形態学的には、目印となる様な変化がありそうにも思えず、時期を追って復元をくり返す以外、方法はないと思われます。幸い継代はトリプシンで容易に出来る様ですし、10月2日にstartして、ほぼ4週目になりますので、明日第1回の復元を行う様手配したところです。さしあたりほぼ1ケ月の間隔で3ケ月まで復元してみるつもりです。
 又、前回、御教示いただきました皮下組織のみの培養についてはembryoではとても無理ですので、生後間もない時期のmouseについて試みる予定です。

【勝田班月報:6412:培養内でのDAB代謝。ハムスター由来株樹立の詳細。】
《勝田報告》
なぎさ作戦と変異細胞:
 昨日の培養学会でこれまでのデータをほとんどしゃべりましたので、今日は第3番目に得られた変異細胞の染色体について話します。このRLH-3細胞はまだ出来たばかりで(染色体核型分析の写真を呈示)、染色体数にきわめてばらつきが大きく、これから次第に培地でselectされて行くのであろうと思わせる。少いのは50本位のから、多いのは数百本に及んでいます。写真に示したように、dicentricやfrgmentと思われるような染色体がよく目につきます。いまラッテに接種したら、体内で増殖できるような細胞も混っているのではないかと思われるのですが、細胞数がまだ少いので、未だ接種してありません。或は思切って接種した方が良いのかも知れませんが、これは将来の課題です。

 :質疑応答:
[吉田]樹立された癌、つまり染色体のピークがはっきりする前に、こういう変った染色体構造の時期がある、という意見が多いですね。
[土井田]樹立する前段階としてなら、もっとchromatid breakなどがあって良いと思いますが・・・。
[勝田]それはこの標本よりもっと前の段階でしょう。
[山根]吉田肉腫など、ラッテの癌細胞にはmetacentricが少ないのに、この場合どうしてこうmetacentricが多いのですかね。
[吉田]培養するとmetacentricが増えるのではないでしょうか。培養条件がmetaをselectするというのではなかろうか。
[山田]Lなどではtelocentricが残っているのに、この場合、みんなmetaになるというのは・・・。
[吉田]株にもよるのかな。培養でmetaが多くなった培養株を動物に戻すとteloになる、というデータを持っています。
[山根](スライドを呈示)これはマウスのDDからの分離株の染色体ですが、metaが殆んどありません。
[黒木]Rabbit ear chromosomeというのはサテライズですか。
[吉田]ちがいます。ネズミの染色体をみるとき注意することは系統によって相違のあることです。たとえば第3の染色体pairを見ますと、ウィスターにはテロですが、椎橋のラッテにはサブテロで、ウィスターと椎橋のF1はテロとサブテロです。
[黒木]呑竜はどうですか。
[吉田]呑竜はWistarタイプです。
[勝田]呑竜はまだ皮膚の交換移植がうまく行かないようですね。
[黒木]F1では♂♀どちらをかけても、テロとサブテロ染色体になるのですか。
[吉田]どちらもこうなります。

《土井田報告》
マウスの末梢血球培養法:
 放射線の生体におよぼす晩発性効果として発癌や加齢現象はよく知られている一方、放射線が染色体に異常を惹き起すこともよく知られている。しかしながら、両者の関係については現在のところ充分な知見はえられていない。我々は従来、放射線被曝せる人体細胞内に永続する染色体異常を調べて来た。このような調査から、上の問題についての手懸りを得ようと考えている。
 此のような研究を人間について行うには、いろいろの制約があるので、マウスのごとき実験動物を用いることが望ましい。例えば線量の測定、予後の追跡などを始め照射方法など実験者の希望通りに進めることが出来る。
 しかるに現在のところ、かかる小動物についての末梢白血球培養法は成功していないので、その方法を確立することを試みた。この際、遺伝的な研究についても併行的に調べたいので、マウスに如何なる障害も与えない様注意した。
 培養法を簡単にのべる。
 マウスの尾静脈より0.02mlの血液をとり、10%Ficoll液にsuspendする。37℃で1時間放置し、赤血球を沈降させる。白血球を含んだ上清部を短試験管に分離後2,000rpm5分遠沈し、上清を棄てる。その後、白血球を含む短試験管に次の培養液を加え、37℃8時間静置培養する。培養液は50%YLE又はYLH+25%牛血清+25%仔牛血清で、培養液10 に対し0.1mlのPHA-Mを混ぜる。
 培養8日後最後の4時間10-6乗Mコルヒチン液で細胞を処理し、以後、通常のヒトの末梢白血球(Moorhead et al 1960)に準じて標本を作製する。
 現在のところ、ヒト末梢白血球培養後にみられる程、充分な分裂頻度は得られていないが、染色体構成を知る程度には充分な分裂像を得ることが出来る。我々は正常マウス被照射マウスについて核型分析を行なっているが、LevanとStichらによって報告された核型に極めてよく一致する像を得ている。
 従来の方法は骨髄細胞、skin biopsyでえた細胞、肝細胞などが用いられた。これらの方法ではマウスを殺すか、あるいは著しい傷害を与えるのに対し、抹消白血球を用いればそのようなことは避けられる。
 此の方法については小論文"Microculture method of peripheral blood for chromosome study in mice"としてExp. Cell Res.に投稿中である。(Y.Doida & T.Sugahara)
 現在より高い分裂頻度を得るため培地の条件その他培養条件について検討中である。

 :質疑応答:
[土井田]さっき話の出た Rabbit ear chromosomeというのは図のような形(テロ型の先に兎の耳のような形の短い分体がついている)のchromosomeのことです。
[吉田]LevanはColchicineの代りに8-oxyquinolineを使っていますが、これを使うとrabbit earが出るようです。雑系の動物だとYの大きさが非常にちがいますから、動物の系を表示した方が良いですね。こういう少量の液でどの位mitotic indexが見られるものでしょう。
[土井田]0.02mlで多いときは50ケとれました。計算値で0.02mlに10万個位細胞があるとして、ずい分少いですね。マウスにまずadjuvantを注射して、次にリンパ球を少し取って、complete adiuvantを打って採血すると、分裂像が1日早く現れます。
[勝田]あまり複雑なことをやると、それが刺戟になって異常分裂が起るかもしれませんよ。
[土井田]そう思いますから、なるべく何もしないで取りたいとは思っています。

《佐藤報告》
 ☆培地中のDABの吸収:
 その後JTC-4(Wisterラッテ心、高木等)、RHT-2(JARラッテ心、勝田)、RLH-2(RLC-2よりtransformしたもの、勝田)、AH-7974、AH-66、吉田肉腫(佐藤)、武田肉腫(勝田により一度培養され動物継代中のもの)を追加実験した。AH-66、吉田肉腫及び武田肉腫は使用細胞が少く他のものと比較し難いので再度実験の予定。
 判明した結果(図を呈示)
1)RLH-2はRLN-10(岡大癌研C10対照株)のDAB消耗と殆んど変らない。
2)AH-7974のDAB消耗度はAH-130よりやや高いが畧同様であり全般的に感度が低い。
3)RHT-2はJARラッテ心でRLH-2(JARラッテ肝)と比較できるがDAB消耗は極めて低い。
4)JTC-4はRHT-2同様ラッテ心であるがDAB消耗度は中等度でRHT-2より高い。動物種の違いか或は出現細胞かわからない。
 総括と今後の方針:
(1)ラッテ心、JTC-11(エールリッヒマウス乳癌)等の細胞のDAB消耗の低い事はこれらの細胞がDABを本質的代謝或は吸着しないためであろう。この点は更にDABに対する各種動物の感度を考えて実験をつづける。
(2)AH-130、AH-7974等はDABに対する反応が少い。これはDABの高濃度の長期投与によって生体内で癌化した細胞だから結果として考え易い。併しDABの所謂無反応性と癌化とが一致するかどうかはわからない。
(3)AH-130の培養株であるJTC-1及びJTC-2は動物株であるAH-130に比して更にDABに対して無反応であるが理由はわからない。
(4)呑竜ラッテ肝細胞株にDABを10μg程度に長期投与するとDABに対する反応性が下がる。下がる度合は現在の範囲では肝癌細胞群に比して少い。DABを更に高濃度に添加すれば、DABに対する反応度の減少が期待できるが、目下20μg投与によって検索中である。
 ☆DAB飼育呑竜系ラッテ肝の組織培養:
 DAB投与44〜149日迄の10例の肝硬変期(10例中には肝癌発生は0)の検索において次の結論が出た。
(1)57日間投与以後のラッテでは、30〜50%の割合で増殖を現わす試験管が認められた。併し増殖誘導実験の場合に比して増殖速度は遅い。
(2)上記増殖細胞の内、株化されたものは正常肝から株化されたものと形態学的にやや異なり、むしろ正常肝細胞株にDABを投与したものに似ている。
 最近1964-11-19 DAB投与(201日)例で肝癌結節を発見した。
 ☆C-74 肝癌部を試験管10本と非肝癌部を10本、増殖部観察のために培養。更にsucklingラッテ(24時間以内)に肝癌部を1匹当り16.4万個、非肝癌部を1匹当り31.8万個注入した。目下観察中。
 本実験の目的は原発DAB肝癌がLD+20%牛血清で増殖するか、更に続いて腫瘍性をどの程度維持するか。又原発肝癌が動物suckling脳内で継代できるか。培養上の肝癌の形態と非癌部(肝硬変部)増殖細胞との形態的及び生化学的相違を確めるためである。

 :質疑応答:
[山根]RLH-1がDABを吸収するというのは、肝癌はDABを吸収しないという理論と反対ではないですか。
[佐藤]RLH-1はDABを作用させずに出来た"hepatomaであれかし"という細胞ですから、DABを吸収しなくても良い訳だと思います。DABに対する態度はControlの肝細胞と同じで良いと思います。そしてJTC-1や-2のようなAH-130由来の株がDABを吸収しないという結果が出ているから従来の理論と一致しています。
[山根]比色計の読みによる誤差はどの位出てきますか。
[佐藤]岡大の分析化学教室に協力してもらっていますから、データは信用できると思います。
[高木]実際問題としてDABをもっと濃く出来るのですか。
[佐藤]だんだんDABの濃度を上げて行って、今は20μg/mlまで行っています。
[勝田]DABを培地内から添加量の50%まで減らすのに1ケの細胞が必要とする時間を出してみたらどうでしょうか。
[佐藤]50%にならずに無限大になるものもあるから困ります。AH-130がprimaryのものよりJTC-1とか-2のような株になった細胞の方がDABを吸収しないというのはどういうことかと思いますが・・・。
[山田]培養すると臓器特異性などでも落ちるというから良いのではないですか。それからあのグラフは逆にして、曲線が上からはじまって段々下へさがるようにした方が、減っているという感じがはっきりすると思います。
[勝田]せっかくこれだけのデータがあるのですから、表現法を良く考えた方が良いですね。
[黒木]DAB1μgで増殖に抑制を受ける細胞がありますか。
[佐藤]あると思いますが、はっきりとしたデータはもっていません。やっとく必要があるな。
[黒木]DAB量を上げて行って、なお生きのびるようになった細胞(耐性細胞)と消費との間に何か関係がありますか。
[佐藤]RatにDABを食わせて生体で発癌させながら、その各時期の肝を取り出して培養して行くことと、培養内でDABを作用させて行くということを平行させてやって行きたいと思っています。
[堀 ]正常ねずみの肝の場合、50g迄は2倍体が多く、4倍体が段々ふえ、死ぬ時期には又2倍体に近くなります。
[吉田]肝では非常に少いのから多いのまでありますね。
[佐藤]総計で或量までDABを与えないと肝癌を作らない、つまり続けないと発癌しないということは、どういうことでしょう。
[勝田]与えつづけて肝の機能障害を起すまでという期間が必要なのではないですか。
[土井田]肝癌ができたということが見付かるのは、どういう大きさになった時ですか。培養内のgeneration timeは生体内よりずっと短い。生体内でもしin vitroと同じような速さで増えたら人間は忽ち死んでしまうんではないですか。
[勝田]生体内ではどんどん増えても一方では死んで行く癌細胞もある。つまり癌組織は自分の為のちゃんとした血管系を持たないから中心部は壊死に陥ってしまいます。つまり差引勘定は案外大したことがない−ということもあるでしょう。ひとつのmassとして或細胞群を見た場合、例えば染色体の上から非常に多くの異常分裂があったとしても、それが生き続けて集団の運命を決定するのかどうか。異常分裂は死んでしまうのではないかということを考える必要があるでしょう。それから佐藤君の、DABを食わせて発癌中のラッテ肝をとり出して培養する場合、殺す前に生体にH3-thymidineを入れて、増殖中の細胞の核をラベルしておき、それから培養に移してradioautographyをやると良いマーカーになるのではないですかね。
[山田]佐藤さんの意見というのは、本当の癌では1回の刺戟で癌になるのに、DABの発癌の時は反覆が必要だということがある。そこで培養の場合にもDAB1回だけの投与でなく、ずっと与えつづけてDABをとらなくなる細胞、つまりDAB反覆摂取後、発癌してDABをとらなくなるという細胞と同じ状態のところをつかまえたい、ということですね。

《高井報告》
I)btk mouse embryo cellsの復元
 10月28日、培養26日目にControl群とActinomycin0.01μg/ml添加群をbtkマウス(16〜19g)4匹に復元しました。実験群の細胞数が予想外に少なかった為、control群3匹(2匹は背部皮下、1匹はip、各200万個)、実験群は1匹(背部皮下、140万個)に復元した。結果は11月20日現在、全然変化なし。一方、継代をつづけている細胞の方はcontrol群と実験群とで、形態は少し異なるが、両者共やや増殖が落ちて活気が悪くなって来た様に思われます。
II)btkマウス皮下組織の培養の試み
 前回の連絡会で、最初からfibroblastsのみをとって培養する方がよかろうという助言を頂きましたので、試みましたが、結果は失敗しました。
i)new born btk mouse(生後3日目)。
 皮下組織をメス・ピンセットでこすりとる。
 0.25%トリプシン10mlを加え5分間stirrerにかける。
 液を捨て、再びトリプシンを加え37℃約3時間incubate。
 その後30分間stirrerにかけ、培養。培養4日後、細胞殆どなし。
ii)母親mouse。
 i)がうまく行かぬと思ったので、母親マウスについて、上と殆ど同じ方法(37℃のincubateは止め、1時間づつ2回トリプシン処理)で行いましたが、ごく少数のfibroblastsがガラス壁に附着していますが、余り元気のない細胞です。

 :質疑応答:
[山田]Actinomycinを添加しつづけていても継代できるというのは、少しは増えている訳ですね。
[高井]そうなんですが、2回目の継代でずい分へばってしまったようです。
[勝田]継代のとき一部を小角(カバーグラス入り)に入れて、標本を作って染めてみたら如何?
[高井]やってみたのですが、TD-40のものと顔付が少しちがうのです。
[奥村]Whole embryoを使った理由は?
[高井]別にありません。とり易いという理由からだ(伊藤班員の受継)と思います。
[山根]Controlの4代目の形は、培養が絶える前の形のようですね。
[勝田]Trypsinの代りにHyaluronidaseを使ったら如何? 或は皮下にトリプシンを注射・・・。
[山根]量の少い時は、組織片からスタートする方がTrypsinizeより早いのではないですか。
[奥村]Hyaluronidaseではバラバラになるが生えてこないです。注意するのは皮下組織を剥す時、乾かしてしまわないこと。ハムスターは1匹から3ml(約20万個)位とれます。20℃で2〜3時間トリプシン処理します。培地、特に血清の選択が必要です。
[山根]僕の経験ではCollagenaseが一番ですが高すぎます。Pronase0.05%、30分、37℃位が良いです。
[勝田]Aseの作用時間をなるべく短くすることが必要です。初代で使うのでなければ、細胞数の少いときは試験管を立てて培養する方が良いでしょう。
[奥村]これは仲々むずかしい仕事ですよ。僕のところも、はじめはずい分苦労しました。下の筋肉までとってしまっていないか、と思って、はじめはplasma clotを使って生やしてみたりしました。
[高木]どうして皮下を使うのですか。
[高井]動物実験でActinomycinの皮下接種でtumorを作る、という例がありますから。
[黒木]37℃でのActinomycinの安定性は?
[山根]安定性はかなり良いですね。
[奥村]皮下だけでなく肺も使ってみたら良いでしょう。
[勝田]embryoでない限り、肺は雑菌が入り易いですね。
*その他Trypsin濃度についてのdiscussionあり、0.2〜0.5%の間で使っていることが判った。

《山田報告》
HeLaS3細胞の増殖サイクルにおけるアミノ酸とりこみの推移:
 ケンビ鏡映画とH3-ウリジンのとりこみを併用して、個々の細胞のRNA合成度をオートラジオグラフィーで調べたことは前に報告した。同じ手技を用いてヒストン合成の時期と部位を検討することにし、その方法論について1、2考えたことがあるので報告する。
 使用したアミノ酸はLysine、Tryptophan、Phenylalanineである。このうちLysineはヒストンの中にもっとも多く(10〜15%)、Tryptophanはヒストンにほとんどふくまれていないことが判っているので、この2種のアミノ酸のとりこみの型からヒストン合成の推移を推定することにした。Phenylalanineはヒストン中に3%程度ふくまれ、前2者の中間に位置するものと思われる。なお核酸については酸可溶性低分子分劃を除去する方法が一応確立しているが、蛋白質については、低分子物質を水洗で除くと同時に水溶性蛋白質が除去される可能性があり、いろいろ考えたが結局一定の時間(15分)の水洗で残ったものを蛋白質として一応扱うことにした。
 3種のアミノ酸とりこみの推移は図に示す(図を呈示)が、それぞれのアミノ酸のとりこまれ方、またback groundその他均等でないために、定量的な操作を行うことができず、型の相違から定性的に論ずる段階である。そのような見方で調べると、Tryptophanは分裂後、核内へ次第に多くとりこまれるようになり、G2期まで連続的に増加しているが、Lysineははじめ4〜6時間までに変動なく、以後増加して、S期まで続き、G2期に入ると、急激に低下することが明らかにされた。その他、nucleolusでは、LysineのとりこみがS期後半にピークを作り、G2期で急激に低下することを認めた。
 さらに定量的な扱いをするために、2NのHCl、室温で一晩処理すると、蛋白質のなかでヒストンだけが抽出されることが知られているので、この操作によりヒストン以外の蛋白質合成の推移を検討することにした。ただしこの操作により染色性が著しく落ちるので、オートラジオグラフィーまで行ったものの、まだgrain countを実施していない。この染色を検討した後、実施する予定です。

 :質疑応答:
[勝田]DNAの場合以外は「くみ込み」と「turnover」との区別が仲々つき難いと思うんですが・・・。核の中のproteinの内で、ヒストンと非ヒストンとの比率はどの位ですか?
[山田]ヒストンが数10%で、非ヒストン蛋白よりずっと多いと思いますが、はっきりしません。しらべておきます。
[土井田]寺島氏のようにSynchronizeさせた細胞ではやらないのですか。
[山田]やれると思いますが、Synchroと云ってもpopulationが混っていますから、寺島氏のではRNAの谷が出てきません。私のやり方では数多くは追えませんが。
[勝田]山田君の方が映画で追っているからずっと正確でしょう。
[土井田]最初の15分のラベルだけでなく、ラベル後時間をおいてHClで処理して、染色体にどう乗っているかを・・・。
[山田]それは良い方法ですね。すぐやってみます。

《奥村報告》
ハムスター肺由来細胞の株化と生物学的性状(仮名HmLu細胞):
 ハムスター3日目の乳飲仔の肺から細胞株をとり、更にその細胞から通算75ケのコロニーを分離培養した。これらの細胞系のうち数種を選び、いくつかん性状をしらべた。(全過程の詳細図を呈示)株化の過程は比較的順調で、現在で106代目に至る。
 以下この株細胞の性質について順次述べます。
 なお培地はTC199に仔牛血清を20%に添加したもの。
1.増殖:22、25代目では一週に7〜8倍。40、45代では一週に10〜12倍。83、86、94代では一週に50〜80。
25代目頃まではlag phaseが長く72hrs.位でしたが、83代目以後では24hrs.を越えることがなく、時には殆んど認められないこともあった。但し、増殖が非常によくなったのが何代目からであるかは明かでないが、大体60〜70代頃からであろうと想像される。
2.cell cycleの決定:94代目の細胞を用い、H3-TdR(0.05μg/1μC/ml)のpulse labeling(20min.)の取り込みからG1、S、G2の各期の時間を算出すると、Generation timeは11hrs.、G1は3hrs.、Sは7.0hrs.、G2は1hr.となる。*percent labeled mitosisはlate prophaseからanaphaseまでをpick upして算出した。
3.PPLOの検出:2種類の材料(1.whole cell+medium、2.medium中で凍結融解したもの)について、増殖培養後、PPLO培地に血清添加したもので検出を試みたが結果はNegativeであった。
4.核小体数の推移:継代100代目に至るまで適当な間隔をおいて一細胞(一核)当りの核小体の数をしらべると、50代目頃より、数のdistributionが拡がり、100代目では4〜8個のものが多かった。
5.種属特異抗原の検査:a)染色体の構成からみると、ヒト、ラット、マウスの細胞株(in vitro)のうちで、私共の研究室で保存している細胞とは明かに異り、区別し得る。b)免疫学的同定は赤血球凝集試験、細胞毒性試験、蛍光抗体法、更に一部の系(後述)の細胞ではHA-inhibition testを行い明かに他の動物由来細胞株と反応が異り、かなり強く種特異性が認められた。なお、用いた抗血清は次の通り。
1.Anti-normal hamster lung/Rabbit serum
2.Anti-normal hamster kidney/Rabbit serum
3.Anti-human(HEp-2)/Rabbit serum
4.Anti-mouse(L)/Rabbit serum
5.Anti HmLu cell/Rabbit serum
6.Anti-rat γglobulin/Rabbit serum
6.形態:Primaruy cultureでは2〜3種の細胞のmixed populationであるが、その後は殆んどがfibroblasticな細胞で、70代目頃よりFibroblasticともEpithelial likeとも区別しにくいものが若干見られる様になった。分離したcolonyの数種のものは非常にepithelialに似た形態を示している。
7.同種動物(Syrian hamster)への復元実験:この実験の詳細は後日報告しますが、現在までに明かになった事は次の通りである。
a.9日目の乳飲ハムスターの皮下に100,000個のcellを入れると約2ケ月位で明かにtumorを認められるようになる。
b.生後24hrs.以内のハムスターの脳内に1,000個のcellを入れると約2ケ月位で明かにtumorを認められる。
c.生後24hrs.以内のハムスターの脳内に100,000個のcellを入れると、1,000個入れた時よりもsurvival timeが明かに短縮される。
d.皮下、及び脳内接種で出現してくるtumorは病理学的にはFibro-sarcomaの像を示していた。
8.株細胞及び分離colonyのchromosome no.のdistribution:現在まで約20種類の分枝系の細胞についてその染色体の数と核型をしらべたが、その一部を図で示す(図を呈示)。染色体数については42〜45本にピークのあるものが多いが、78〜80本、更に86〜90本にピークのあるものも分離されている。なおこの他にchrom.no.の少ない(30本代)clonial cloneが2種類分離されている。
 核型の特徴については次報で述べる、要するに以前から狙っている培養細胞(この場合はHmLu)の、chromosome levelでの最小基本単位の検出に一歩づつ近づいています。

 :質疑応答:
[佐藤]染色体数の少くなることと増殖の落ちることとの間に何か関係があるのではありませんか?
[山田]Polyoma virusで発癌させている仕事の内で、発癌しても細胞の形が全然変らない、というのがありますね。
[山根]自分のところの培養では、染色体数のpeakがもっとはっきりしているのですが・・・。
[奥村]染色体の核型をどれだけしらべるかによると思います。自分のところでは、写真にとるのはわずかですが、ずいぶん沢山の細胞について分析しています。出来るだけのものをしらべています。
[山根]生体内ではあまり染色体数のばらつきは無いですね。だから培養条件をもっと良くすれば、ばらつきの少いcloneが得られるのではないでしょうか。それから奥村法のクローニングだと、隣のコロニーもとってしまう可能性がありませんか。
[奥村]さっきお目にかけたスライドはわざとcolonyの多いのをえらんだのでして、実際にクローンをとるときは、シャーレに7〜8位しかcoloniesを作らないようなplatingをしてとります。(Plating efficiencyをみるときは沢山まきますが・・・。)それを何度もくりかえしてcloneにするのです。
[山根]Cloneにするには2回以上Cloningしないといけない、というのは本当ですね。本当のcloneというのは、ただ1ケの細胞からの系をいうべきです。
[高木]だから奥村さんの場合のようなのは、"Colony selection"と呼べば良いと思います。
[山根]培地条件が悪くなると、バラツキが多くなると思いますが・・・。
[土井田]人の血球の場合は、条件が悪くなると、反ってピークの幅が狭くなります。
[勝田]Lの場合、PVPを入れた無蛋白培地で継代しているL・P1細胞は、奥村君がしらべてくれたのですが、peakの染色体数は原株と変らず、バラツキの幅が原株よりずっとせまくなっています。
(ここで高木班員よりPancreasよりの細胞株、RPline2及びline4の蛍光抗体のスライド2枚と、line2に見られた4極分裂の像のdemonstrationあり。)

《黒木報告》
 In vitroにおける「発癌実験」を始めるに当って:
 吉田肉腫、腹水肝癌の仕事が一段落し、この次は、In vitroにおける発癌に入ることにしました。
今度の癌学会に出席して感じたことは、発癌の問題をより分析的により深く研究しようとすると、どうしても「癌」から離れ、例えばphage、枯草菌、原虫を用いて行かざるを得ないのではないかと云うことです。
発癌に対するするどい問題意識を生かすためには、従来の発癌実験−動物に薬を投与し、癌の出来るのを待つ−は、いかに複雑で、そしてまだるっこいことか。
そこを突き破り、新しい道を開かんがためには、細胞レベルにおける「発癌」が有力な突破口になると思はれます。
そこで、如何なる方法で実験をすすめるかについて、あらましの考えを記します。
(1)発癌剤
a.作用した部分に直接に癌のできるもの、b.作用機序の調べられているもの、を条件にして考え、4NQOを選びました。Nitrosamin、DABはa.にあはず、メチルコランスレンはb.にあいません。
4NQOは4HAQOとの関係が明らかになり、どちらも入手出来ること、H3-4NQOも入手可能のことが有利です。
(2)動物
a.純系の程度、Mouse≫Rat(Donryu)≫Hamster
Donryuの皮膚移植の成績(本年度の癌学会演題249)はこのラットが純系とは云えぬまでも可成り均一であることを示しています。
b.4NQOによる発癌、Mouse=Rat Hamster(?)
c.培養のしやすさ、Mouse>Hamster & Rat(?)
d.Virusの汚染、Hamster>Mouse>Rat
e.復元部位、Hamster(チークポーチ)>Rat=Mouse
f.染色体の分析の容易、Rat≧Hamster≧Mouse 
 Mouseは全てteloでしかも大きさが本当にgradualに下がるので分析しにくい。Hamsterはteloが少い。
g.Spontaneの悪性化、Mouse>Hamster>Rat(?)
h.二倍体の維持のしやすさ、Rat>Mouse=Hamster(?)
 Peturson 1964、Kroath 1964、Katsutaによる
i.動物の入手、扱いの容易、Mouse>Rat≫Hamster
 以上を総合判断し(特にd.f.g.h.重視)Ratにきめました。実中研のドンリュウ使用の予定です。
(3)細胞
 Spontaneにmalignantになった細胞は、Evansらのliver parenchymal cell of C3H mouseを除いて全てfibroblastです。又、fibroblast←epith.の変化の多いため、前者の方が未分化と考えられます。
分離臓器は杉村隆氏のData(本年度癌学会演題53)及び昭和医大・森氏のDataから考えLungを選びました。
(4)培養法
 Colony作製法をフルに利用するつもりです。培地はEagle MEM+supplementα+CS(10%or20%)、αとしてはpyruvate、serine、insulinを考えています。Autoradiographyも相当利用する積りです。(H3-TDR、H3-4NQO、etc.)
とりあえず最初はprimary cultureのcolonyから行います。今後の御教示をお願い致します。

 :質疑応答:
[山根]Primary cultureでcolonyはできますが、それを2代、3代とつづけていると、だんだん悪くなってしまいますね。
[奥村]私もやっていますが、plating efficiencyは1%以下ですね。良くて数%という所です。
[土井田]4NQOの仕事はここの田島先生がずっとやって居られますから少しお話を伺ってみると良いと思います。
[勝田]移植を片付けて、黒木君がいよいよ発癌に入ってくれるのは本当にうれしいですね。

《堀 浩氏の研究成果の紹介》
 生後2週の♂Wister ratの肝を1〜2mmに細切し、タンザクにつけ、20%CS+LYの培地に初め4日間だけDABを1μg/ml入れて回転培養します。その後6日してからexplantをとって組織切片をつくり、検鏡しました。explantの内部はnecrosisに陥っていましたが周辺ではbile ductの増殖、多層化も見られ、parenchymalの増殖も見られました。ほとんどのparenchymal cellsが死ぬにも拘らず、です。4日から10日までは少くとも見られました。(Kupfferのhypertrophyはcontrolでも見られました。)なおこの増殖parenchymal cellsの細胞質はHE染色では普通のhepatic cellsのようにはEosinで染まりません。
 Agar1%の上にexplantをのせ、或は卵の膜を使ってみますと、fibroblasticの増殖は胆管のと共にありますが、parenchymalのは出てきません。そして残っているliver cellsはeosinでよく染まります。またAzo day-diet-rat liverの再生細胞はeosinophiliaが低下し、basophiliaが強くなっています。ミトコンドリアの染色性も高まっています。

 :質疑応答:
[佐藤]Controlの培養がちっとも生えんというのはおかしいな。
[勝田]eosinophiliaの変化の件ですが、primaryのhepatic cellsは0.1Mクエン酸+クリスタル紫で処理しても、細胞質がとけず、細胞質が染まって見えます。ところがDABで生えだしてきた細胞は、株細胞と同じように、クエン酸で細胞質がよく解けます。細胞膜の透過性の問題か、とにかくそこに何らかの質的なちがいが出てくるわけです。堀さんの云われるeosinophiliaの低下と非常に関係があると思います。
[堀 ]私は染色体でなく組織化学が好きですから、そちらの方を生かして発癌の研究をやって行きたいと思っています。

《山根 績氏の談》
[山根]私としては是非班に加わって発癌の仕事をやりたいが、ウィルスによる発癌を計画している上、人手が足りなくなるので、化学的物理的発癌には一寸手がまわりません。ウィルスではいけませんか。
[勝田]Virusを使う発癌をやっている班は別に一つあるので、この班のやり方としてはたとえウィルスを使うと譲歩しても、たとえば発癌剤で少し叩いておいて、それに非癌源性ウィルスをかける、と云ったやり方でやってもらえれば、と思っています。