【勝田班月報:6001】
研究にあたり我々の第1目標とすべきもの:
今日の癌研究陣の最高権力者の顔ぶれ及びその研究方向をみると、我々は勇気の奮い立つのを感じる。つまりこれでは決して癌の問題は片附かないのであって、いわば第2線を余儀なくされている我々が、前線に立たざるを得ない日が必らず近い将来にくるのである。そのときまでに我々は何をなしとげておくべきか。
まず一世を風びしている抗癌物質の追求であるが、これは一言にしていえば闇夜の鉄砲であり、また仮に一発くらいあたったところで、癌細胞の多様性を考えれば、決してそれが広く適用され得るとは考えられない。スクリーニングにしても癌細胞だけについてしらべているのでは正常細胞に毒性が少いものを拾えない。これはやりたい者にまかせておくのがよいであろう。そして我々としてはやはり組織培養の利点を最高度に発揮し、正常細胞と腫瘍細胞との、きわめて広い意味での各種の性質の相違を追求し、基礎的にしっかりデータをつかんでから攻撃点を決めるべきであろう。
次にこれと平行して、我々がなすべき仕事は“組織培養内での細胞の腫瘍化”の問題であろう。今日まで腹水腫瘍が研究陣にひろくはびこっているが、腫瘍というのは身体のなかの正常細胞が何かの原因で悪性化してできるのであって、腫瘍細胞は他人からもらってそれが増えるという可能性はきわめて低い。腹水腫瘍は従って本当の意味の癌とはかなりかけはなれた、一種の“感染”である。また我々がよく承知しているように、組織培養の株細胞はもとの母体にあったときとはその特性が相当変化していまっている。腹水腫瘍も動物の腹を何代も継代している内に自然に淘汰や変異がおこり、もとの腫瘍細胞とはおそらくかなり異なった性質になっているにちがいない。従ってこれを用いてその特性をしらべ、或は治療剤を見付けても果して、もとの癌にそれがあてはまるかどうか。ここに大きな問題があろう。そこで正常の細胞を培養しておき、これに発癌剤その他の悪性化の原因となり得る刺激をあたえて、培養内で細胞の悪性化をおこさせることができれば、組織培養は腹水腫瘍に代って次の10年間での研究陣を風びすることができるであろう。そのためには、1)まず正常の細胞を相当長期間培養できること(増殖でも維持でも)、2)それに刺激をあたえて一定期間後に必ず悪性化するようなコースを見付けること(動物に復元して腫瘍死すること)。この二つを先決しなくてはならぬのである。これができれば、悪性化する経過を色々な面から詳細に研究することが可能になり、癌研究陣全部に対して、組織培養グループが大きな貢献をすることができるのである。
ここに我々のなすべき二つの命題をかかげたが、今年度の研究題目として我々は前者の方をあげている。これは一つの作戦で、後者をなしとげるためにはあと何年かを要するが、成果が上らないのでは研究費もあとがつづかないおそれがある。前者ならば何とかつづけさせられる位のデータを各人が出せるであろうと考えたのであって、本当の第一の命題はむしろ後者にあることを考えて頂きたい。そしてこの両者に於ける各班員の相互扶助的なアドバイスをこの月報にどんどん寄稿していただきたいのである。 (勝田)
《各班員が現在おこなっている、あるいは計画し、考えている研究プラン》
§ 東京大学伝染病研究所 勝田 甫 §
(A)“組織培養内悪性化”のための研究
このためにはまず正常の細胞株を作ることができれば最ものぞましく、あとの仕事もきわめて楽になる。その上、正常細胞株(非腫瘍性細胞株)ができればウィルスワクチンを作るのにも絶好である。そこで当室ではサルの腎臓細胞とラッテの各種細胞(肝、腎、心など)を狙った。前者は、その非腫瘍性を証明するのに金がかかる欠点があるが、ポリオウィルスワクチンを作るのに有用であるし、しかも現在モンキーセンターの猿にB−ウィルスが流行している。これに人がかかると100%致死であるので、ポリオワクチンが一にサル腎臓細胞のprimary
cultureに依存している現在では、このため非常な支障をきたしている。従ってサル腎臓細胞の正常(非腫瘍性)の細胞を作れば一石二鳥の効果をあげることができるのである。
1)サル腎臓細胞の栄養要求の研究
予研多ケ谷研究室より材料の分与をうけ、primary
cultureについて、その各種栄養要求をしらべはじめたところである。
2)同細胞の無蛋白培地内継代、非腫瘍性細胞株の樹立の研究
PVPを用いた無蛋白培地でコルベンで培養にかかったが、この細胞はHeLaと異なり硝子面によく密着し、増殖をつづけている。無蛋白培地継代株はおそらくできると思われるが、問題は腫瘍性をおびないかどうかで、現在継代中の系の結果をみて、或いは酸素のBubblingを併用することを考えなくてはならないかも知れない。
当研究室のこれまでの研究結果及び奥村君との共同研究の結果からみて、何れにせよ、培地中の血清(ことに蛋白)がin
vitroの悪性化の大きな原因となっていると思われる。さらに通常の培養法は嫌気的傾向のの淘汰をおこなっている可能性も大きいので、変異した悪性細胞を優位に育ててしまう可能性がある。これらの理由から当研究室でははじめから無蛋白の培地で培養することを方針とし、あとは好気的環境を考慮するのである。
1)の方は秋までには一応の整理をすませ、2)の方は秋まで続けば復元移植を試みるのと同時に、奥村君に染色体分析をたのむ予定である。ラッテの細胞は近々にはじめる予定であるが未だ着手していない。狙いはサルと同じ。この方が復元に金がかからない利点がある。
(B)当研究室で無蛋白培地継代中の細胞株
HeLaが2種とLが4種、静置継代されている。HeLaはHeLa・P1と・P2、前者は浮遊状態で増殖し、7日間に6〜7倍増殖。後者は硝子壁に附着し7日間に5〜6倍増殖している。L株は、L・P1、L・P2、L・P3、L・P4で、L・P1はPVP+LYDの培地で継代し、7日間に約20倍増殖。L・P2はLYDの培地で約20倍。L・P3は合成培地DM-12で継代しているが7日間に6〜7倍の増殖。L・P4はLDのみの培地で、約10倍の増殖率を示している。これら各系の染色体分布比較は現在奥村君が研究中である。L・P4はL・P1よりも栄養要求が低いのではないかと想像されるが、こうして次第に要求度の低い細胞を選んで行くと、動物細胞の合成能がどこまで到達できるものか、その極限も知り得るのではないかと思われる。
(C)ホルモン作用の研究
これまで殊に性ホルモンを中心として基礎的データをあつめてきたが、若しサル腎臓細胞の非腫瘍性株ができたら、これに4−ニトロキノリンを添加するのと別に、女性ホルモン殊にエストラジオールを与えて悪性化させてみたいと計画している。この意味で次の文献は興味がある。Kirkman,H.:Estrogen-induced
tumors of the kidney in the syrian hamster.National
Cancer Institute.Monograph,No.1,Dec.1959.
そのほか、これまでHeLa・P1、・P2を用いた実験結果で、ホルモンの作用にはどうも蛋白の存在がかなり重要らしいので、この点をもう少し追究しているところである。
(D)Collagen形成
血清培地で継代していると、LはCollagenをもはや作らない。しかし少しこの細胞にとって好ましくない環境におくと、作る。たとえば無蛋白培地で3000rphで浮遊状培養すると、細胞塊のなかに作る。Hydroxyprolineの合成能は潜在的にいまだに持っているのであるが、ふだんはかくれているのである。この原因は何か。さきのHeLaが未だに、他の細胞と異なり、女性ホルモンに感受性をもっている点(増殖を促進される)と共に考えると、培養株は大抵皆同じような性質になってしまっていると云いながら、なお夫々何かしら、もとの細胞の特性をかくし持っていることがうかがわれる。非常に面白い。
九大の高木株、予研の高野山田株、これと他のprimary
cultureの細胞とをならべて、目下Collagen形成能を比較しているが、夫々相違がみられるのも興味深い。(九大、予研、伝研の共同研究)
(E)Silica(珪素)の影響
Silicaの影響をしらべているが、たしかにセンイ芽細胞(primary
culrureのみ)の増殖が促進される。しかしCollagen形成は促進されない。本当であろうか。少し重要なことなので、心及肺のセンイ芽細胞を用い何回もくりかえしてやっているが、何しろ1実験やるのに1月かかるので仲々能率があがらない。
(F)その他
NBC社のラクトアルブミン水解物がLot番号によりかなりその栄養価及硝子面への細胞の附着効果に差のあることを今春の組織培養学会で報告したが、さらにこの点を血清培地についても比較し、増殖促進力の低い瓶の水解物をアミノ酸分析(イオン交換樹脂)して比較してみたが、いわゆる必須アミノ酸の組成はほとんどちがわない点からみても、ビタミン組成が問題ではないかと想像されるので、ビタミン添加実験を近々に行う予定である。
§ 国立予防衛生研究所病理 高野 宏一§
(A)培養細胞の凍結保存
保存液:ラクトアルブミン水解物培養液+Glycerol(最終濃度20%)。
凍結方法:細胞100万個/mlを1アンプレに入れる。
a.急速法:細胞浮遊液をアセトン・ドライアイス槽内で急速に凍結した後、ドライアイスボックスに入れ保存。
b.緩徐法:細胞浮遊液をアンプルに分注後、そのままドライアイスボックスに入れて保存。凍結までに30分以上かかる。ドライアイスボックスをさらにdeep
freezer内に保存。温度−79℃(ドライアイス昇華点)
c.浮遊液をそのままdeep freezer内に保存。温度−20前後。
融解方法:アンプレを37℃温水槽に移す。2〜3分で融解。その後氷水中に保存。遠心操作で洗浄2回。Glycerolを除く。
細胞株:HeLa、L1(Changの肝臓)、A(HeLa亜株)、Pb(HeLa亜株)、AMFL(人羊膜)、KB,D6(Detoroit6)、CO(人結膜)、FL、IN(小腸)、L,BM(骨髄)、Ba(HeLa亜株)、HEp、WL(JTC-6・ラッテ肝)。
保存成績:HeLa及びL1では1年後、他では5月後に、40〜60%の生存細胞を示し、継代可能。
L及びWL(JTC-6)では保存未完成。Glycerol濃度を検討中。
急速緩徐両方間に大差なし(1年後)
−20℃では保存不可能。
凍結−79℃→保存−20℃を検討中。
1年後の増殖率に変化なし。融解後の培養初代では細胞の細長化が強いが、次代以後正常(もと)の形態をとる。
(B)RAT LIVER由来細胞の増殖に伴うHydroxyproline産生
短試静置培養によって細胞増殖に伴うHydroxyproline量の変動を測定した。本株は新生Wistar
RatのLiverより分離したもので(JTC-6)。同系ratの心より分離された高木氏株(JTC-4)との異同を検討するのが目的である。
結果は、今回の実験では細胞数の増加が予期したより低く、さらに第2回を計画中。
Hydroxyproline量はJTC-6では終始ほぼ一定域にあり、JTC-4が細胞増殖に伴い増加の傾向を示したのとは異なるようである。
(C)免疫血清による細胞障害作用の特異性
HeLaのBa亜系(Ep-line)、Pb亜系(Fb-line)の細胞浮遊液で家兎を免疫(1回100万個細胞、皮下及腹腔内、週3回5週間)して得た抗血清で上記2系、人系数株、L,WL(JTC-6)に対するCytopathogenic
effectsを検討。
1.血清反応:Ba、Pb両細胞に対する凝集素値は両種血清とも、1:320、Soluble
antigenによる補体結合反応の終末値は、1:4。
2.C.P.E.:1:10稀釋で両血清とも使用。人系株すべてにCPE陽性。Ba、Pb相互間及び他系間に差異なし。
L(mouse origin)、WL(JTC-6;rat orihgin)では陰性で、species
specificityのみ発現。
L及びWL(JTC-6)を抗原として免疫を実施中。
§ 東大薬学部生理化学教室 遠藤 浩良§
内分泌学的研究の研究目的
ホルモン平衡という生理的に重要な生体内因子が、腫瘍の発生及び増殖の場合にも関与していることは、当然考えられるところである。子宮癌、乳癌あるいは前立腺癌のような性器癌はその典型であるが、その他の癌性変化の場合にもホルモン平衡性を含む生体内部環境の異常による細胞内代謝系の量的変化が、やがて癌化という細胞自体の質的変化に転化することは考え得ることで、この場合特定の組織乃至器官が発癌しやすく、これが異常増殖を継続することは、各種の正常細胞の間にもホルモンに対する感受性の差があると同時に、それぞれの癌細胞とその起源をなす正常細胞の間にもホルモンに対する反応性に差のあることを推測させる。
従って発癌機構解明のための基礎研究の一端として、組織培養法を利用して、正常細胞及び腫瘍細胞の差異を内分泌学的観点から追求する。
現状報告
従来私たちの研究室では、骨組織の培養という器官培養に終始し、全く細胞培養をおこなったことがなく、腫瘍細胞を扱うのも初めてであります。従ってまだ計画をねっている段階で、実験結果を報告するまでに至りませんので、次に大まかな実験の方針及び皆さんに御教示いただきたい点を述べるにとどめます。
実験の方針
種々の起源の腫瘍細胞及び正常細胞について、インシュリン、脳下垂体生長ホルモン、甲状腺ホルモン或いは副腎皮質ホルモン等、糖代謝に関係するホルモンを単独あるいは同時に作用させたときの細胞増殖及び糖代謝の変化を定量的に追跡する。
御教示いただきたい点
腫瘍細胞の腫瘍性は復元などで証明されるにしても、正常細胞の“正常性”はどのような基準から云ったらよいのでしょうか。胎児性の細胞はある意味では腫瘍細胞に近いとすると、正常細胞としてはどのような細胞をえらぶべきでしょうか。
§ 東邦大学医学部解剖学教室 奥村 秀夫§
1.組織培養における血清蛋白と株細胞の遺伝的性質との関係
昨年度はL株細胞の血清培地継代のものと、無蛋白培地継代のもの(血清培地継代細胞から駲化させた伝研L・P1)との間で精密に染色体構成の比較をおこなった結果、両種とも増殖の主力をなす細胞の染色体構成は同じであることが明らかとなった。この事実から培地の血清が細胞の遺伝的性質に一義的な役割をもっていないだろうと考えられた。
a)本年度はこれを種々の株細胞についてしらべることを計画し、現在はHeLa株細胞について検討している。HeLa細胞では血清培地継代のものと無蛋白培地継代のものとでは僅かに差が見られ、後者の方が染色体数減少の傾向を見せている。しかし核型分析を詳細におこなってみなければ、前者で主軸をなしていた細胞が無蛋白培地に駲応したものか、新しい細胞が出現したのか判明しない。HeLa細胞は同数の染色体をもった細胞でも核型を異にする場合が多いために、核型分析は慎重を要する。一つ非常に興味深い結果は、L株細胞のときに見られたと同様に、無蛋白培地継代細胞群の方が、染色体数分布がかなり狭くなっていることである。L、HeLa両株にみられるこの現象は、たしかに血清の有無に密接な関係をもっていると云い得よう。血清が原因していると思われる染色体の数的変異の拡大に対し、血清中の如何なる成分が要因となっているかを今後は明らかにして行きたい。 b)無蛋白培地継代のL株細胞(伝研L・P1)から合成培地DM-11及-12に駲化させた細胞(L・P3)の染色体数の分布は明らかに減少を示している。現在までの結果では、染色体数の主軸が78本から74〜76本に移行している。DM-11とDM-25との間には明瞭な分布の差が見られていない。今後は成分のことなった種々の合成培地による細胞の染色体構成を分析して、培地中の各成分と、細胞の遺伝的性質との関連性を見出したいと思う。
2.組織培養株JTC-1及-2(ラッテ腹水肝癌AH-130)から、伝研に於て数種のColonial
clonesをつくっているが、各Cloneの染色体数を分析すると、現在までの結果では、比較的純度の高い近2倍性のものと、未だ純度の低い近3倍体性のものとの2系統が分離されたことが判った。今後はできるだけ純度の高い細胞系を樹立し、種々の実験による細胞の遺伝的性質の遷移を明確にし得るようにする。現在私の研究室でLとHeLaの各、単個培養を試みているが、未だ好成績を得ていない。
3.組織培養による発癌機構の研究に役立つため、正常細胞を正常のまま長期培養できるか否か、細胞遺伝学的立場より大いに協力をおしまない所存である。
§ 九州大学医学部第一内科 高木 良三郎§
“IN vitroにおける発癌”に関する研究
正常細胞の悪性化をin vitroに於て追求する手段として、悪性腫瘍組織よりマイクロゾーム分劃及びリボ核蛋白、デオキシリボ核蛋白を抽出し、これを正常組織由来の培養細胞に作用させて、その変化を形態学的及び免疫学的に観察したいと思う。まだ実験に着手したばかりであるが、悪性腫瘍組織からの核蛋白の抽出は終ったのでこれを報告する。悪性腫瘍組織としては今回は移植性腫瘍でマウスに類白血病様反応をおこすMY肉腫を用いた。 MY肉腫よりのマイクロゾーム分劃及びリボ核白、デオキシリボ核蛋白の調整
(1)Whole microsomesの調整(Littlefield法の変法)
1)肉腫片(5.7g)を無菌的に切出し、直ちに-20℃に保存。
2)これに0.25M蔗糖15mlを加えてワーリングブレンダーに約4分間。
3)ポッターのガラスホモゲナイザーで1分。
4)冷凍遠沈器で13,000G:15分→核(ミトコンドリアも含む)部分と細胞質部分とを分離し、細胞質蔗糖液34mlを得た。
5)この内10mlをさらに105,000G45分間高速遠沈してmicrosomal
pelletを得た。
6)このpelletに蒸留水10mlを加え、whole microsome
suspensionとした。
7)このsuspension 1mlに等量の10%トリクロール酢酸を加え、生じた沈殿をさらに5%トリクロール酢酸、アルコール及びエーテルで洗い、70℃の5%トリクロール酢酸を15分間作用させて、2回にわたりRNAを抽出し、オルミノール反応でこれを定量。
結果:RNA-P:42.5μg/ml、RNA:425μg/ml。
(2)RNA(リボ核蛋白)の調整(Littlefield,Keller,Gross,Zamenickの方法)
1)上述の細胞質液34mlから3mlをとり、44,000Gで30分遠沈、microsomal
pelletを得、これにデオキシコール酸60mgとグリシルグリシン緩衝駅5mlを加えて浮遊させた。
2)さらに105,000Gで30分遠沈、得られたRNAの沈殿を蒸留水でよく洗い、蒸留水3.8mlを加えてRNP浮遊液を作った。
3)この浮遊液1mlをとり、トリクロール酢酸を加えて生じた沈殿をアルコール・エーテルで洗った後、70℃の5%トリクロール酢酸で15分宛2回に渉りRNAを抽出し、これをオルミノール反応で定量した。
結果:RNA-P:30μg/ml、RNA:300μg/ml。
(3)DNP(デオキシリボ核蛋白)の調整(核単離はMirsky,Pollisterの法による)
1)(1)-4)の法で得られた核部分(ミトコンドリアも含む)を集め、これに冷生理的食塩水を加えて洗い、
2)次に1M食塩水を加えて粗DNPを抽出し12,000rpm60分で沈殿物を除き、
3)この上清に6容の水を加え、食塩濃度を0.15M程度に落して糸状のDNPを得た。
4)これをさらに0.15M食塩水で洗い、遠心沈殿を20mlの蒸留水にとかしDNP水溶液を得た。5)この1mlをとり、ジフェニールアミン反応によりDNA量を定量。
結果:DNA-P:23.3μg/ml、DNA:233μg/ml。
以上の操作はすべて可及的無菌的に行い、また用いた試薬も滅菌可能なものはすべて滅菌して用いた。このようにして得られたWhole
microsome、RNP、DNP浮遊液は塩類濃度の調整をおこなってから培養細胞に使用する予定である。
§ 大阪大学医学部第二外科(兼阪大癌研)伊藤 英太郎§
1)現在までの仕事
例の“悪性腫瘍組織中に含まれるL株細胞の増殖促進物質について”をつづけて居ります。この詳細は“Gann”の1959-60に報告してあります。
2)今後の予定
a)L・P1による同調培養において、各時期のRNA、Protein量の消長を検討して、細胞分裂の化学的機構を追究する。
b)同調培養の各時期に(1)の促進物質を働かせてその作用点を検するなどを考えて居ります。秋頃までは(1)を続けなくてはなりませんので、(2)はそれからになりますが、なるべく早く(2)にとりかかりたいと思って居ります。
【勝田班月報・6002】
《勝田甫》
A)サル腎臓細胞の培養
1)培養の基礎条件:
予研の多ケ谷氏との共同研究で、同氏より目下のところ週2回サル腎臓の供給をうけ、そのprimary
cultureについて、基礎条件をしらべている。容器は短試で5゚に傾斜静置、37℃加温、クエン酸処理による細胞核数算定を用いた。
牛血清至適濃度・・0.4%ラクトアルブミン水解物と共に各種濃度に牛血清を加えてみると、5%の濃度が最も細胞の増殖が良く、4日間で既に10倍以上の増殖を示す。
ラクトアルブミンの至適濃度・・牛血清を5%添加した場合と、血清の代りにPVP(AMW:70万)を0.1%加えた無蛋白培地と、その両者について、各種濃度にラクトアルブミン水解物(NBC)を加え、至適濃度を求めたところ、その両者とも0.4%が至適であることが判った。 現在、無蛋白培地(PVP+0.4%水解物)内でのPVPの至適濃度をしらべているところであるが、0.05%がよいか0.1%がよいか、未だ決定できる処までは行っていない。サル腎臓の供給は7月1杯で大体中止となり、あとは9月になるので、でき得る限り7月中に基礎条件をしらべてしまうべく、日曜も無休である。
2)無蛋白培地による細胞株樹立の研究:
前報にも記したようにサル腎臓細胞を無蛋白培地でprimary
cultureから培養継代できれば、悪性化さない細胞株が得られるのではないか、という想定から、材料の入るたびに新たにこの培養を試みて居る。容器は3角コルベンで静置培養。
培地ははじめに(PVP 0.1%+ラクトアルブミン0.4%)の培地と、これにイースト浸出液
0.08%をさらに加えたものとの2種を試みたが、后者では細胞が液に浮遊したまま、何日たっても硝子壁に附着せず、増殖も悪いのに対し、前者ではきわめてゆっくりではあるが、細胞が着実に増殖し、硝子面にも附着する。10日ほど培養するとコルベンの底面の半分位が細胞シートでおおわれてしまう。これは3回こころみたが何れも同様の増殖度であった。問題は継代法である。EDTAを用いれば容易であるが、EDTAにはmutagenicの効果があるとの説もあり、JTC-1及び-2の株がAH-130と染色体数まで異なるのは或は少しはそんな影響があるか、とも考えられるので、trypsinを用いてみたが第1回は失敗に終った。むしろ何も薬剤を用いずに機械的に硝子面から剥離できればその方がいちばん良いのではないかと考え、trypsinの低濃度使用とともに近々の内に試みてみる予定である。
何れにせよ悪性化さない細胞株の作り方を樹立するということは各領域から見てみわめて重要な命題であり、ぜひとも日本人研究者の手でなしとげたい問題である。
B)ラクトアルブミン水解物の製品むらの追究
今春の組織培養学会で報告したように、NBC社の水解物にはきわめてむらが見られる。各種のlot
No.の製品をならべてみると、黄色味を帯びたものと、そうでないもの、その両者がまだらに混っているもの、の3種が見られる。無蛋白培地で継代しているL・P1細胞の培養に使ってみると、lot
No.が3000番以前のものならばまず良いが、5000から6000、特に9000番台になると、細胞の増殖が悪いだけでなく、硝子面に附着しない。市販品の製品むらを追究してみたところで別に学問的意味は少ないが、L・P1及びHeLa・P1、P2などの無蛋白培地継代細胞の維持に困ることと、さらに若しそれによって硝子面への附着力の機構が少しでも判れば面白いと思って、ここ数カ月に渉ってこの問題をしらべてみた。
細胞はL・P1を用いてみたが、最悪の結果を示すのはlot
No.9673で、対照にはNo.2283を用いた。対照実験として血清培地(牛血清5%)継代のL株についても用いてみたが、こちらではほとんど差が見られなかった。まずNo.9673をイオン交換クロマトでアミノ酸全分析してみると、いちばん大きな、No.2283との相違はグルタミン或はグルタミン酸(この両者はクロマトで一つの共通のピークとしてあらわれる)の量がNo.2283の半分しかない、ということである。そのほかすこし少いものとして、Met、Thr、Ilewがある。そこでNo,9673のなかのグルタミン+グルタミン酸の量が全部グルタミン、全部グルタミン酸、両者が半分宛との3種の想定の下に(No.2283+100mg/l)になるように夫々加えてしらべてみたところ、初めの内はグルタミンのみを加えた方が増殖がよかったが、7日后では加えた群は何れも同じようにNo.2283と同じ位の増殖となった。これに対し何も添加せぬNo.9673の群ではあきらかに増殖度が低かった。すなわち、No.9673にグルタミン酸150mg/lを加えた群は7日后には対照よりわずか上くらいの増殖を示すが、2、4日后では対照より低い。No.9673にグルタミン酸80mg/lとグルタミン100mg/lの両者を加えた群では、2、4、7日后ともほとんど対照と同様の増殖が見られた。但し、これらの添加群では初めの数日は細胞の硝子面への附着がきわめて回復されたが、その后次第にまた硝子面からはがれて行く傾向をみせたので、グルタミンとグルタミン酸を加えただけでは完全には附着問題を解決できないことが判った。また最適と思われる(グルタミン:グルタミン酸)の量比のままで、両者の濃度を各種変えてみたが上記のものに劣った。グルタミンのみをさらに高濃度に加えても増殖度及び附着力は何れも濃度に比例して抑制された。メチオニン、スレオニン、イソロイシンを別個に添加してみると、夫々少しは無添加よりも良い結果を示すが、グルタミン及グルタミン酸の添加ほど顕著な効果はみられなかった。
ビタミンについては、アミノ酸分析をおこなう前に一番さきに疑を持ち、合成培地DM-12と同組成のビタミン混合液を各種濃度にNo.9673に加えてみたが、反って濃度に比例して増殖が抑制された。
現在、グルタミン+グルタミン酸にさらにメチオニン、スレオニン、イソロイシンを添加する実験をおこなっている。これらの問題が外国、殊に米国の研究者の間で問題になって居ないのは、無蛋白培地で細胞を培養している者がきわめて少い上、その場合にもラクトアルブミン水解物を用いていないためと考えられる。
《高野宏一》
(A)No.6001に記載したと同様の方式で現在保有している約20株(亜系を含む)の細胞株につき第2回目の凍結保存を実施中。さらに詳細な条件の検討をすませ、確実なdataを掴んだ上で6月〜1年に1回の“虫干し"を毎週の継代にかえる予定。これは時間・経費・労力の節約のみならず、細胞変異の研究上、えられた変異株をそのまま保つのに有用な方法であると期待する。もっとも後者については、凍結という条件による選択によって細胞集団の構成が変化する可能性も否定できないので、種々の観点から検討する要がある。
a)今回は、前回不成功であったLとWL(JTC-6)の凍結保存に特に重点をおいた。重要な点はglycerolの濃度らしいので、Lは5%、WLは5%及び10%で試みる。Lはすでに凍結実施、WLは近日中の予定。両者とも1ケ月の間隔で成績をとる。
b)100万個の細胞を1mlの浮遊液として容量5mlのアンプルに入れても、0.5mlで2.5mlのアンプルに入れても、共に保存可能であるが、細胞浮遊液調整上からは前者がよく(分注誤差を含め)保存時の取扱上からは后者アンプルの方が便利(一つのJarに多く入る)なので、2.5mlアンプルに1mlの浮遊液を入れる場合の効果を検討する。HeLaを材料に凍結を実施した。 c)凍結開始時と温度の(保存中の)影響:前回の実験で急速法よりも緩徐法の方がやや良好な保存成績を示した点、及び凍結后1ケ月よりも後期の方が高い生存率を示した事実(さらに繰返し確かめる必要はあるが)から、細胞が最終の単位まで静止の状態に達するのに案外時間を必要とするのではないかとの推定から、従来の方法で1ケ月-79℃に保存したHeLaをドライアイスボックスからdeep
freezer(約-20℃)に移した群について検討し、凍結時温度と保存温度との関係をみる実験を計画中。
(B)RAT LIVER由来細胞(JTC-6)のHydroxyproline産生
伝研組織培養室との共同で第2回の実験をおこなった。
細胞は前回よりも良好な増殖を示した。Hypro産生は大体前回と同様の傾向を示し、終始略一定の域内にある模様。但し接種材料(培養0日)の含量が非常に高い値を示した。接種材料のみトリプシン処理による浮遊液を用い、他は培養管壁に附着増殖した細胞を機械的に剥して材料とする点、手技上の差異があるので、この影響をみるための小実験を実施中。すなわち10万個宛を接種した培養管10本を2群に分け、培養開始后4日で、1群は機械的に、他はトリプシン処理で細胞を集め、細胞数及びHypro含量を測定比較した。結果は次回に報告。
(C)抗細胞免疫血清による細胞障害作用の種属特異性−
HeLaの細胞浮遊液で家兎を免疫した抗血清を各種細胞株の培養に加え、人体由来細胞に共通してCPE陽性、Rat及びMouse由来では陰性の結果を得たので、今回はRat由来のWL(JTC-6)及びMouse由来のLで免疫して得た抗血清を用い、両細胞株で交叉的にCPEを観察した。 免疫方法:長期免疫による高力価免疫血清を得るために、1959年9月から大体1週1回、200〜300万個cellsの浮遊液を家兎の耳静脈内に接種途中2ケ月中断したが(火事のため)、1960年6月迄継続した。
CPE:両種免疫血清を両種細胞(培養5〜7日)に加えると、それぞれ対応した免疫血清を加えた群に20時間で明らかなCPEを認め、他種の免疫血清では対照と殆んど差のない程度の非常に軽度な変化が認められるのみであった。RatとMouseとの間には抗原性の類似が無いか、あっても非常に僅かな程度と考えられる。
さらに両種血清を人体由来細胞に加えて影響を観察する予定。
《遠藤浩良》
(A)HeLa株細胞に対する各種ホルモンの影響の生化学的解析
ProgesteroneがChick embryo heart fibroblastsの増殖には抑制的であり、Rat
asciteshepatome cellsに対しては影響のない濃度で、HeLa細胞の増殖を促進することは、癌の面からのみならず、内分泌学的にも興味ある問題である。即ちHeLa細胞が由来する子宮頸部の上皮細胞は、健常時にはMenstrual
cycleに従って、具体的には卵胞ホルモンEstrogen(Estradiolその他)と黄体ホルモンGestagen(天然にはProgesteroneしか知られていない)の量比の変動に従ってその増殖が著しく変化する。子宮内膜は排卵前にはEstrogenの作用下で漸次肥厚し(増殖期)、排卵后Progesteroneが急激に増加すると更に肥厚して子宮腺の分岐が盛になり、多量の粘液を分泌するに至る(分泌期)。10年近くも継代されたHeLa細胞がこのようなProgesteroneに対する反応性を保持していることは非常に重要な知見であろう。更にTestosteroneのHeLa細胞に対する増殖抑制作用が、natural
estrogen(Estradiol)及びProgesteroneによって拮抗されるという知見は、生体内におけると同様なホルモンに対する反応性をHeLa細胞がいまなお保持していることをさらに裏書きしたもので、きわめて興味ある事実である。
そこで、このように増殖が促進あるいは抑制されたときの細胞活性の量的あるいは質的な変化を知ることができれば、HeLa細胞のintrinsicな生物学的性状を知る上にも、またこれらのホルモンの作用機序を解明する上にも貴重なデータを提供することになるであろう。 さて細胞活性の変化を生化学的に分析するとすれば、まず核酸代謝、糖代謝などの面をオーソドックスな方法で追跡することができるが、何人ものエキスパートの手で一挙に多正面作戦を敢行するならばいざ知らず、私たちの処のように1人2人で他の実験も併行しておこなうとなると、既知酵素の一つや二つを測定してみたところで、このような面では細胞増殖と細胞機能の関連について現在とられている考を支持する無数のデータに同質の結果をただ一つ加えるにすぎない可能性が大きい。
そこで私たちは、拡大膠着した戦線に加わることを避けて、全く新たな橋頭堡を確保するため少数精鋭(?)による奇襲攻撃可能な地点を探すことにしました。
その条件は、
1)得られた結果がいきなり抽象的な細胞増殖の問題に還元されず、まずあくまで具体的に前述の生理的状態との関連に於てHeLa細胞の生物学的性状を解析する上でSignificanceを持つこと。
2)その方法を他種細胞へ拡大したときの結果からは、今度は一般的な細胞の機能の問題としてもSignificanceを持つ可能性のあること。
3)それらの結果が別途に行なっている私たちの実験にも何らかのinformationを得る事。 4)これらの大きな望みにも拘らず技術的には私たちの弱体な戦力にとっても比較的容易であること。
以上のような大変慾ばった要請から出発して、私たちはAminopeptidaseをとりました。その理由は、
1)組織化学的に、子宮頸部の上皮基底層と子宮粘膜腺上皮には、正常な場合にも病理的上皮形成、例えば上皮性癌腫の場合にも、強いAminopeptidase活性が認められる。(ただこの場合子宮粘膜上皮に一様に活性があるのでなく、結合織細胞に接する部分に局在するので、HeLa細胞もこの活性をもっている筈だとは断言できない)。さらに、これまで頸部粘液には蛋白分解酵素が認められていなかったが、di-あるいはtri-peptideを用いて、数種のAminopeptidase活性が証明された。これは頸部粘液腺に由来するが、この活性の増大がErosionを起させるのではないかと想像される。
また、一方Operation或はAutopsy specimenでtumor
cell及びstromaにはaminopeptidase活性が特に高い(この場合は胃癌、輸胆管癌及びそれらの淋巴腺転移)。
2')生体内では一般に細胞機能の盛んな組織ではaminopeptidase活性の強いことが組織化学的に証明されている。そこで、他種の正常及腫瘍細胞について同様の測定を行ない、またintact
animalについての結果と比較すれば一般的な生理学的な問題として、現在ほとんど判っていないaminopeptidaseの存在意義について貴重な知見を加えることができる。 3')現在私たちは、別にiminopeptidase(prolinase)について研究を行なっているが、これはどちらかといえば、特別な意味をもつ酵素といえるので、その対照として一般的な
aminopeptidase活性との比較をおこなうつもりである。その意味で前述の知見が得られるものならば極めて有意義である。
4')Leucineの利用率が最も高いL・P1の構成蛋白がHeLaのそれと酷似していることや、一般的な知見からして、aminopeptidaseが存在するならば、leucine
aminopeptidase活性は最も高いものの一つであると考えられるので、l-leucyl-β-naphthylamideを合成基質とし、遊離するβ-naphthylamineを比色定量する方法を応用すれば、前述の子宮頸部粘液についておこなった真正ペプチドを用いる測定より遥かに感度よく検出できる筈であり、これなら私たちの技術を活用することにもなり、また現在可能である。
(B)HeLa細胞に対する各種ホルモンの影響に関する研究の今後の方向への提案
1.合成黄体ホルモン作用物質の影響
従来用いられてはきたが、近年特に経口避妊の目的から盛になった研究の結果、実用化された合成黄体ホルモン作用物質はほとんどすべてtestosterone誘導体であり、現在臨床的には僅かに持つその男性ホルモン作用により仮性半陰陽を生ずる可能性が論議の的になっている。
従ってこれらの物質についてHeLa細胞に対するProgesterone作用とtestosterone作用を検討することは内分泌的にも興味ある問題であろう。
[合成黄体ホルモン作用物質]
a.Ethisterone(17-ethinyl testosterone)・・・之は古くから用いられてきた。
b.17α-ethinyl-19-nortestosterone(“ノアルテン"塩野義)。
c.17α-methyl-19-nortestosterone(“ルテニン"帝国臓器)。
d.Norethynodrel(17α-ethinyl-17β-hydroxy-5(10)-estorene-3-one)・・・之は最近日本で 発売される筈。
e.17α-hydroxyprogesterone Capronate・・・之はlong
actingな製剤として二三市販されて いる。エステルが外れた17α-hydroxyprogesteroneは作用がないのに、何故生体内で強 い黄体ホルモン作用を示すのか興味の持たれている物質である。
f.Amphenone・・・まだ実験的な段階であるが、黄体ホルモン作用をもつ初めての非ステロイ ド性化合物である。
1.無蛋白培地ではなぜProgesteroneの作用があらわれないか
i)生体内では、steroid hormoneは血清蛋白と結合して存在するとされており、事実in
vitroでもsteroidは血清蛋白と結合する。そこで、ProgesteroneがHeLa細胞内にとり込まれるためには、そのような蛋白結合型になることを必要とすると考えることも一応可能である。血清含有培地で培養するとき、Progesteroneが培地中の蛋白と結合するか否かは、incubation后の培地を濾紙電気泳動にかけて各蛋白分劃とProgesteroneの動きをみることにより、検出できるであろう。一方、血清でなく各種の蛋白そのものを添加した場合の成績を比較検討することにより、蛋白結合型の問題についてはある程度の知見が得られるであろう。
ii)しかしProgesteroneのような分子量の小さいものが細胞膜を透過しないということは考えいくりことであり、しかも脂溶性であるSteroidは、蛋白結合型で運ばれるにしても、細胞膜を透過する際はむしろfreeとなると考えた方が自然である。とすると、無蛋白培地でも、血清蛋白が存在する場合でも同様の反応がでる筈になる。しかし実際は全く増殖が促進されないとなると、当然血清中にこの反応に必要な物質(単あるいは複数)が存在するのではないかという考え方も出てくる。そこで(i)の蛋白結合型の問題と併行して、血清中の透析性物質を添加した実験も試みてみる必要があるであろう。
とにかくこのようにしてProgesteroneのHeLa細胞増殖促進作用の機序を解明する努力もきわめて重要であろう。
(C)新知見
i)PVPは骨のガラス壁への固着を助ける。培養の后半に雑菌感染を起したので確実なことは云えないが、Casamino
acidだけで培養するという非常にガラス面に固着しにくい条件でも、0.1%PVP(M.W.70万)添加群の9日鶏胚大腿骨は全く落ちなかった。
ii)PVPはアミノ酸摂取を高めるか。お恥しいことながら、后半雑菌感染を起したので化学的に確めたのではないが、0.1%Bacto
Casitoneで9日鶏胚大腿骨を培養したとき、0.1%PVP添加群の長軸成長は無添加群より良いようであった。
《伊藤報告》
先月号の皆様の御報告大変興味深く面白く拝見させて頂きました。なお私方の報告があまりに簡単にすぎたため勝田先生からお叱りを戴いた次第でしたが、誠に申訳なく思って居ります。それで今回は今迄の仕事について少しく報告させて頂きます。
i)吾々は悪性腫瘍からの抽出物のなかにL株細胞の増殖を促進する物質の存在することを確認し、その物質のpurificationに進んでいるが、現在までに判ったところでは
a)抽出液のエタノール30〜70%飽和で沈殿する分劃に促進効果をみとめる。
b)100℃、30分の加熱に耐える。
c)50〜70%飽和硫安分劃の中にある。
d)非透析性である。
e)澱粉柱を用いた電気泳動法で分劃すると、Folin反応のpeakに一致する分劃に含まれるが、この分劃は人血清のβ-globulinよりやや遅い泳動速度を示す。
しかし有効物質が蛋白であるかどうか疑わしいので、現在trypsin、pronase処理、加水分解などをおこなってその影響を検討中である。
又一方、再生肝組織でも同様エタノール分劃中にL株細胞増殖促進効果を有する物質の存在することを確かめ得たので、そのものと、悪性腫瘍中に含まれる有効物質との異同をも検討中です。
ii)なお神前助教授の構想の下に、神前、青木、土井、伊藤などによって癌細胞より得た核酸或は核蛋白分劃による培養細胞の悪性化実験が約1年前より計画されていることをつけ加えます。
C3H/HeNマウスの幼児肝細胞に対して、同一系マウスの腹水肝癌より得たDNA、DNP、RNA、
RNPを加えてその悪性化を見る方法と、Sarcoma37より得た各分劃をL株細胞に添加する実験で、目下材料の蓄積中で、9月より本格的実験に入る予定です。
またこの悪性化をキャッチする方法に対する手馴らしとして、actinomycinによってL株細胞が悪性化するか否かを神前、青木のもとで実験中です。
《高木報告》
(1)前報につづきMY肉腫から抽出したwhole
microsome、DNP及びRNPを培養細胞に入れてみた。今回は一応毒性をためすべく種々の濃度を使用した。
組 織:ddNマウス胎児皮筋組織
培養法:タンザク培養、ヘパリン血漿のみを用いて組織片をタンザクの上に附着せしめ、 これに培養液1mlを加えて静置培養した。
培養液:LYH培地(80容)+牛血清(20溶)
添 加:培養5日后の細胞にこれらを作用させた。これら抽出物は蒸留水に浮遊(一部溶けた)した状態で-20℃にたくわえてあるので、使用にあたってこれに等量の倍濃度のLYH培地を加え、さらに20%の割になるように牛血清を加えてから培養細胞に作用させた。
従ってたとえばwhole microsomeでは初め425μg/mlあったものがこれらの操作により、実際に細胞に作用さす場合には最高濃度が170μg/mlとなるわけである。
次の各濃度を用いた。
W.M. 170 85 42 10.5 1
DNP 93 41 10 1
RNP 120 40 10 1
4日毎にredosingする積りであったが、2回目の抽出実験は収量が少なかったため、これを用いることができず、1度redosingしただけで以后は培地の追加、交換は行わずに観察している。
現在(DNP、W.M.は17日目、RNPは13日目)顕微鏡の弱拡大で観察する程度なので、はっきりしたことは云えないが、添加后1週間后頃から、いずれも高濃度に於て細胞のはえ方が疎になったような感をうけるだけで、特に形態の変化は認められない。従って長期間作用させる場合100μg/ml前后の、かなり高濃度が使用できるようである。
鶏胚(9日卵)皮筋組織にも加えてみたが、この細胞は増殖も早い代りに変性もおこし易く、かなり長期間の観察には適さないように思われる。
抽出の全操作を無菌的におこなうことはかなり煩雑であるので、今后操作は特に無菌的には行わず、その代り最后にアルコールでこれを洗ってこれをさらに生理的食塩水で数回洗い、アルコールを除いてから使用してみようと思う。また最后に蒸留水にとかさず、LYHに溶かした方が添加する際の操作が簡単のように思われるが、LYHにとかすと粗な沈殿物を生じてhomogeneousになりにくいため、やはり蒸留水にとかしてたくわえておき、使用に際して倍濃度LYHを加えて調整した方がよいように思う。
なおこの実験と平行してこれら抽出物をddNマウスに注射してleukemoid
reactionが起るか否かも検討しようと思う。但しleukemoid
R.は蛋白その他の物の注射によっても起り得るので、対照は厳重にとらねばならないと思っている。注射量は1D.u.,5日間注射して検討してみるつもりである。
以上のような方法で一応スタートしたわけですが、実験方法及び材料などで何か御気付きの点があれば、どうぞ御教示下さい。
(2)Immunocytopathogenic effectの検討
これまで2〜3細胞株の免疫血清を作ってCPEを観察してきたが、細胞の免疫血清を作るにはかなり多量の細胞を必要とし、またあまり高い抗体価は望めない。そこでadjuvantの使用を考えてFreundのadjubantを作製した。このadjuvantと一緒にどれ位の細胞を注射すればよいか検討しなければならないと思う。
【勝田班月報・6003】
《勝田報告》
A)サル腎臓細胞の栄養要求
成サルの腎臓細胞(皮質部、おそらく上皮細胞)のprimary
cultureについて、栄養的面よりみた基礎条件を検討してきたが、最もおどろくべきことは、成動物細胞、少くともこのサル腎臓細胞の増殖には鶏胚浸出液が不要であるということで、胎児組織細胞との間に高分子要求に判然とした区別のあることが判った。これによって、今后、成体と胎児の細胞の間の栄養要求も今后追求して行かなくてはならぬことがはっきり示されたし、鶏胚浸出液をマウスの皮下に接種してもそこにセンイ芽細胞の増生が惹起されぬ理由ものみこめたのである。
用いたサルは予研多ケ谷研究室より分与された成サルで、腎臓の皮質を細切し、トリプシン処理をおこなうが、多ケ谷研究室では冷蔵庫中で一晩処理する由であるが、我々は
0.25%PBS溶液(DIFCOのtrypsin、pH=7.6)で、初め室温1時間magnetic
stirrerで処理し、出てきた細胞はすてる。次に15分宛かけて、遊離した細胞を氷冷中に保存し、3〜4回くりかえした后poolした細胞をまとめて遠沈にかけ塩類溶液で洗い、培養に用いる。培養法はsimplified
replicate tissue culture methodである。培養に用いた基礎培地は、牛血清5%、ラクトアルブミン水解物0.4%、塩類溶液(処方D)である。
1)牛血清の至適濃度・・・この細胞の高分子要求度は低く、5%血清が至適であった。この培地での7日間の増殖率は18倍。
2)Lactalbumin hydrolysateの至適濃度・・・血清のある場合も無い場合(PVP
0.1%加)もO.4%が至適で、7日間で前者では22倍、后者では5.7倍の増殖が得られた。
3)PVP(分子量70万)の至適濃度・・・牛血清5%存在下では0.1%PVP添加が最も増殖を促進し、7日間で16倍。無蛋白の場合にも0.1%PVPが至適で7日間で4.3倍の増殖をみた。
4)牛血清の透析・・・この細胞の増殖にはやはり内液が必須であることが示された。
5)牛血清蛋白至適濃度・・・上記の透析内液を各種濃度に培地に加えてみると、10%が至適であった。
6)PVPの血清蛋白置換率・・・0.1%PVP添加培地に各種濃度に牛血清透析内液を加えてみると、2%加えた場合に10%牛血清透析内液のみを加えた対照群と略同等の増殖率を示した。即ち、0.1%PVPの存在は必要とする蛋白の80%容を置換し得る能力のあることが判った。
7)Yeast extractの影響・・・培地にyeast
extract(DIFCO)を加えると反って増殖が抑制された。0.04%ではまだcontrolより少し劣る位であるが、0.08%では殆ど増殖が起こらなかった。
8)鶏胚浸出液の影響・・・5%及10%の2種に加えてみたが両群とも培養の初めから急速に細胞が破壊され、7日后には両群とも細胞数が0になった。これはラッテ腹水肝癌細胞に於て見られた現象と似て居り、鶏胚浸出液の存在を必須とする胎児細胞と、根本的に異なる点の一つであろう。そして、あるものでは20倍以上にも(7日間)増えている、ということは、この知見が確かなものであることを示していると思われる。
しかし生体のなかでは、この場合の培地と同じような組成の栄養物が体内を廻っている筈であり、してみると、生体内で増殖が滅多に起らないのに、この培地で盛に起るのは、ごくわずかな低分子物質が関与しているのかも知れない。低分子物質となればその解析、追求ははるかに高分子より楽であるから、成体細胞の増殖機構の解明は胎児細胞よりもきわめて容易に、近い将来に、なしとげら得るものであるかも知れぬ。しかしこの場合にあくまで考慮しなくてはならぬことは、生体内に於てのみ発現する抑制物質の存在の可能性である。また成体細胞のなかでは腎細胞が最も培養の容易な点よりみて、抗癌物質のin
vitroでの検定の際の、副作用の試験に用いるのに、この成体腎細胞のprimary
cultureが最も適しているのではないかと思われる。
B)サル腎臓細胞の無蛋白培地内株化の計画:
さきに屡々記したようにin vitroで長期継代中に正常細胞が腫瘍化してしまう一つの原因として、anaerobicの培養環境と、培地内血清蛋白の影響がかなり重要なものであろうと指摘し、初めから無蛋白培地を用い、しかもなるべく好気的な環境を与えることに依って、腫瘍化さない細胞株が得られるのではないかと推定し、サル腎臓細胞についてこれを試みているのであるが、7月4日に培養に移した細胞系が下記の如く今日までつづいて居り、盛に増殖をつづけて居る(率は低いが)ので、株化の見込は大きいと思われる。
第1代:昭和35年7月4日、三角コルベン2ケ(100ml1ケ及300ml1ケ)、TD-40瓶1本に培養した。300ml三角コルベンは7月18日に希薄のtrypsin溶液を用いて継代を試みたが、以后の増殖が見られなかった。EDTAはその前に試用してこれもうまくないことが判っていたので、以后の継代法はもっばらピペットの先でかき落し、それを軽くpipettingする法をとることにした。
第2代:(1)7月31日にTD-40瓶より、一部をかき落し短試2本へ(直立)
(2)8月13日 100mlコルベンより一部をかき落し短試2本へ(直立)
(3)8月22日 100mlコルベンより一部をかき落し短試6本へ(直立)
第3代:8月27日、第2代の(2)をTD-15・1本へ移す
上記のように初代の一部だけを落して継代しているので、初代もまだ残っているがかき落したあとにはすぐにまた細胞が増生してくる。継代した方がきわめて順調に細胞が増えている。無蛋白培地はPVP
0.1%+ラクトアルブミン水解物0.4%+塩類溶液
C)その他
サル腎臓の他に、ウマの腎臓についても血清培地と無蛋白培地で株化を試みている。また発癌実験に便利のようにJAR系ラッテの腎臓についても近日中に同様の試みをはじめる予定である。その他の細胞についての研究業績は次号に於て発表することにする。
《遠藤報告》
A)HeLa株細胞に対する各種ホルモンの影響の生化学解析(2)
前月の研究連絡月報で、HeLa細胞の増殖に対するAndrogen、Estrogen及びGestagenの影響をLeucineaminopeptidaseの面から調べてみたいということを述べました。
しかし前月の報告に関する限り、全く他人様の報告からだけ出発したspeculationで内心これでHeLa細胞にLeucineaminopeptidase活性がなかったら引込みがつかないなと心配だったのですが、先日伝研組織培養室で血清培地を用いて培養したHeLa細胞1500万個を頂き、そのhomogenate上清を基質(L-leucyl-β-naphthylamide)溶液とincubateし、遊離されたβ-naphthylamineを呈色させて比色定量するという通常の方法で予試験をおこなったところ、HeLa細胞は予想以上に強い活性を持つことが確認されました。Growing
ratの各種臓器については、すでに調べてありますが、その中で活性の強いものの一つである肝臓を上廻るほどであります。
現在の所想定した酵素活性の存在を定性的に確認しただけで、これが果してホルモンの処理によって変動するかどうかは今后の本実験によるわけですが、自分勝手なspeculationもさして間違っていなかったらしいと、ほくそ笑みながら9月以降の実験に腕を撫しているところであります。
B)HeLa株細胞の増殖に対する合成黄体ホルモン作用物質の影響
前月の報告のB-1)で、最近繁用されているtestosterone誘導体に属する合成黄体ホルモン作用物質がHeLa細胞の増殖に対してどんな影響を及ぼすかということは、臨床的にまで関連して興味ある問題であると述べましたが、伝研組織培養室ではここまで手がのばせないとのことなので、この面も私たちの所でやらせて頂くことにしました。
現在testすべき物質を集めて居りますが、すでに二、三手に入りましたので、これも9月から着手する予定であります。
[質問]私たちは血清として“日本薬局方・健康人血清(乾燥)”を使おうと思って居りますが、どんなものしょうか。
《高野報告》
A)培養細胞株の凍結保存
現在までに手持ち約20種の細胞株をほとんど全部凍結に移した。HeLaおよびKBのLh-人血清培地継代株は凍結したが、Lh-牛血清およびTPB-人血清継代株はまだなので、HEp#2と共に準備中。
a)マウス由来細胞凍結条件としてGlycerolの濃度については近々1ケ月目のdataをとる。 b)HeLaにつき100万個cellsを1mlの浮遊液として、容量2.5mlのアンプルに入れる場合と、0.5mlにして入れる場合とで、保存1ケ月目に両群それぞれ3本宛アンプルを開き、全内容を1mlの新鮮培養液に再浮遊し、角tube1本宛に分注して培養を開始した。融解−再浮遊時の生細胞算定(Nigrosinによる)では1mlの方が生細胞多く、培養4日后にEDTA処理で調整した浮遊液中の生細胞数も大体その傾向を維持した。
この4日后の浮遊液をそれぞれ角瓶1本宛に移し、培養続行中。4ケ月后のdataをとった上でなければ結論はでないが、1mlの方が保存良好ときまれば、操作上都合が良い。
c)凍結細胞の炭酸ガス-incubatorでの培養:従来凍結保存を終了し、細胞を再び培養に移す場合は上述の要領で行なっていたが、数種の株、殊に凍結時の細胞数がやや少なかったものや、アンプル数の不足で慎重に扱わねばならぬものについて、融解后4mlの液に浮遊し、それぞれ1枚宛のシャーレ(径6cm)に入れ、炭酸ガス-incubator内で培養した。増殖状態は以前の方法より良好な様であるが、定量的に比較してないので、再検討の要がある。
B)RAT LIVER由来細胞(JTC-6)のhydroxyproline産生(伝研組織培養室との共同研究)
No.6002に、細胞増殖に伴うhyproの産生は終始略一定値を保つ事実を再確認する一方、接種材料中のhypro量が高いことを報告し、trypsin処理の影響をしらべる必要を述べた。その后trypsin処理と機械的剥離とでhyproの含有量に余り差のないことを確かめると同時に、前回の接種材料ではNigrosin溶液と等量混合して材料中の生細胞数算定を行なった際の稀釋率を計算に入れるのを忘れた事実が明らかとなった。つまり前報の接種材料についてのHypro含量0.001μg/1000cellsは実際には0.0005μg/1000cellsが正しく、接種材料が特にHyproが高い訳ではなかった。(どうもお恥しいmistakeです。しかし実験中のprocessや時刻を如実に記しておくwork
sheet systemのお陰で誤を正せたのはせめてもです。自慢にもなりませんが。)
C)抗細胞免疫血清による細胞障害作用
a)抗マウス細胞(L)血清及び抗ラッテ細胞(JTC-6)血清のヒト細胞に対する作用をみるべくHeLaで準備中。以前のdataが確かならCPEは出現しない筈。
b)抗血清による細胞障害作用発現の経時的観察
保温装置つきの撮影セットができたのでJTC-6が抗血清で障害される経過を位相差で追究した。抗血清添加后同一材料を継続観察すると、形態的変化は約2時間后に出現しはじめる。独立して存在する細胞は収縮した后に爆発的に破壊され、細胞質物質が遊出する。他の細胞と密に近接した細胞は収縮しないまま内部構造が変化する。
抗血清添加后経時的にNigrosinを加えて観察すると、上記の収縮破壊される細胞は染色されるが、収縮しない細胞は2時間の観察では染色されなかった。収縮できない条件にある(恐らく単純に物理的な意味で)細胞の変化が細胞に及ぶのが遅延するためか、或は相互に接着した状態の細胞膜は透過性が変化しにくいのか(Nigrosinは本来細胞浮遊液に用いる)今后検討する。
(浮遊状乃至孤立した細胞の方が、壁面に伸びた細胞より表面が密になり易く、色素蛋白をとりにくいと思うのですが、どうでしょうか?)
D)培養細胞のToxohormone作用(癌研・大橋氏との共同研究)
これは以前からの継続(断続?)実験。HeLaの培養上清にToxohormone作用のあることは一応確かめたが、培養液対照殊にLact.hydro.が時によって不定の態度をとるので、中断していた。今后はHenleの小腸細胞を材料にヒト血清(20%)、Hanksのみの培養液で継代し、その上清を凍結保存し、測定材料を調製中。従来の肝Catalase法に替えて血漿鉄法によって測定する予定。
E)Ehrlich腹水細胞抽出物添加によるL細胞の悪性度の促進
Cancer cellの特殊成分、特にDNA・RNAによる正常細胞→悪性細胞transformationが実現すれば癌性変化の機序に一知見を加えるものであるが、正常→悪性の前段階として、或程度Malignancyを有すると認められしかもHost
rangeの狭いL株を材料としこれが同じマウス由来のEhrlich腹水癌の細胞抽出物(これも前段階としてcrudeのまま)によってtransformして、他系マウスに感受性を有する様に変化するか否か試みる。目下腹水を大量に準備中。
《奥村報告》
A)HeLa株細胞の遺伝学的性質
1)蛋白培地継代による・・現在まで各研究室で継代されてきたHeLa細胞の染色体構成を折にふれ検討してきたが、この細胞はまことに不安定きわまりないことが明らかになった。まず第1にHeLa細胞は染色体分布範囲が非常に広い。即ちばらつきが大きいことである。いずれの研究室のものでもhyper
diploidからhyper tetraploidまで分布して居る。第2、同じ染色体数をもった細胞群の中に幾種かの核型が存在していることが特徴で、このような現象は細胞遺伝学の立場から考えて、HeLa細胞を種々の実験に用いるのはあまり望ましくない。特に細胞の遺伝性と関連性のある研究は考慮を要する。従って若し用いる場合はPuckなどがしているように、Clone
formationをおこなって、性質の明らかな細胞群を実験対照とすべきであると考える。第3に伝研組織培養室で現在継代されている無蛋白培地でのHeLa株細胞は血清培地に比較してかなりばらつきが少くなっているので、我々の実験に供するに非常に意義深いと思う。
2)無蛋白培地継代による・・前々報ではHeLa株細胞の無蛋白培地継代による染色体数分布の範囲の狭小を報じたが、現在まで数回samplingして観察してきたが、やはりこの現象は維持されている。また血清培地で最も優勢を示していた細胞群が減少して、これよりも染色体数2〜3本減少した細胞群が無蛋白培地で最も高い増殖率を示してかなり安定してきている。ただ核型分析の結果からみると、染色体数が同じでも型の異なったものがL株細胞などよりはるかに多いようである。これらの核型の最終的決定を現在行っているので近い内に報告するつもりである。
B)サルの腎細胞の培養による染色体研究
今月から伝研で継代しているこの細胞の培養継代に於ける染色体の分析を着手しているが、現在のところmitosisがなかなか見当らないので専ら標本作りに懸命です。今まであまりサルの培養細胞の遺伝性を追究した仕事がないので、今后大いに張切ってやって行く決心です。次の号には分析結果をある程度報告できるものと思います。
《高木報告》
1)MY肉腫から抽出したDNP、RNP及びwhole
microsomeの培養細胞に及ぼす影響
前報につづきDNP、WMは28日間、RNPは18日間培養細胞に作用させ、最后の1週間は80%LYH+20%牛血清培地に戻して培養を続け、前2者は培養35日目、後者は25日目で固定しGiemsa染色を施して観察したが、形態的に著明な変化は認められず、DNPでは120μg/ml、WMでは85μg/ml以上、RNPでは93μg/mlにおいて細胞の生え方が疎となり、またfibrousな感が強く思われたに止まった。
以上の実験は培養5日后、即ち細胞が或程度増殖してから作用させたものであるが、第2回の試みとして、MY肉腫から抽出したRNAをマウス胎児皮筋組織の培養と同時に作用させた場合についてその影響をみた。
(1)RNAの抽出法は今回は次のごとく行なった。
1)細胞質蔗糖液を得るところまでは月報6001に記したのと同じ。
2)氷冷下にこれにトリクロール醋酸を6%になるように加えて、蛋白、核酸、脂質などを沈 殿させ、
3)その沈殿をアルコール、エーテルなどで数回洗って脂質を除く。
4)1M食塩水を加え、70℃に30分おきRNAを抽出。
5)抽出されたRNAをアルコールで沈殿させ、次いでエーテルで洗い、一夜吸収乾燥させて エーテル分を除く。
6)これらを再び蒸留水にとかしてRNA水溶液として用いる。
(以上の方法ではRNAが低分子化してtransforming
activityが失われるおそれがあるので、今后はフェノール法に変更する予定)
(2)培養法は前報の通りである。培養と同時にRNA
176μg/ml及び88μg/mlを培養液に加えてその影響を観察している。
培養7日目及び14日目では増殖した繊維芽細胞に著明な形態の変化は認められない。但しやはり前回の実験同様、細胞のfibrousな感が対照に比して強く、また176μg/mlにおいてより強く思われる。細胞の増殖状態は良好で、発育抑制作用は見られないようである。10日目にredosingしてなお観察中である。
繊維芽細胞は培養条件によりかなりいろいろな形態を呈するので、RNAのこれに及ぼす影響を見る場合、形態的な変化だけを求めたのでは判定が困難である。そこで免疫学的にもこの変化を追ってみたいと思って居る。発癌による細胞の抗原性の変化についてはさきにWeiler等による有名な仕事がある。即ち彼は蛍光抗体を使ってDAB肝癌の発癌状態を追求し、その過程に於て形態的な変化をきたす前にすでに免疫学的に正常細胞としての抗原性が失われることを報じ、さらにStilboestrolによるハムスターの腎臓癌についても同様のことを観察している。
培養したマウス皮筋組織の繊維芽細胞がMY肉腫からのRNAに影響されて何らかの免疫学的変化をきたし、元の組織の抗原性を失うことも考えられる。但しこれは無理にRNAなど作用させなくても、細胞を長時間in
vitroで培養しただけでも起り得るかも知れないが・・・。
対照を充分においた上で、1ケ月間MY肉腫よりのRNAを作用させた培養細胞に、もとのマウス胎児皮筋組織の免疫血清を作用させ、抗原性の変化が見られるか否か、蛍光抗体により追求してみたいと思う。目下ddNマウス胎児皮筋組織の免疫血清を作っている。
2)MY肉腫よりのDNPをddNマウスに注射した場合の影響
(1)まず試験的にMY肉腫よりのDNPをTyrode液にとかして45μg/0.4mlをddNマウスの腹腔内に3日間連続注射し、注射后4週間后白血球数をしらべたが(先述の如くMY肉腫の移植ではddNマウスに類白血病様反応が起る)。Tyrode液のみ0.4ml注射した2疋の対照マウスでは白血球数は不変であるのに対し、注射群の4疋中1疋にやや白血球の増加が認められた。
(2)そこで次に1群5疋のddNマウスに、ddNマウス正常肝より抽出したDNPのHanks溶液45μg/0.5mlを連続4日間注射して、他群5疋には前回同様MY肉腫より抽出したDNPのHanks溶液40μg/0.5mlを連続4日間注射して3週間白血球数の変動を観察した。なおこの各群には対照としてHanks液だけの注射群3疋宛をおいた。その結果正常肝DNP及びHanks液注射群では白血球数に変化はみられず、MY肉腫DNP注射群において5疋中1疋だけにやや白血球の増加(45,000)がみられた。
このやや増加を示した1疋が有意であるかどうかは疑問であるが、塩溶液にとかすとDNPは粗な線状沈殿となるため、濃度が不平等に注射されることも考えられる。そこで蒸留水にとかした均等のままの状態で45μg/0.3ml
4日間連続注射して観察中であるが、現在までのところ白血球数の増加はほとんど見られない。
3)免疫に関する研究
(1)JTC-4細胞ともとのWistar系ラッテの心臓組織との免疫学的なつながりを交互的に検討すべくラッテ心臓の免疫血清を作っている。JTC-4細胞はsuckling
ratの心臓から分離された株細胞であるから、まずsuckling
ratの心臓で免疫を試みたが、何せ小さいために思うにまかせず1回の免疫に15疋位使ってもなお不充分であった。そこでこの家兎は1回の免疫に止めて、別にadult
ratの心臓で免疫を開始した。即ち3疋のadult
ratの心臓を集めて乳鉢ですりつぶし、これに生理的食塩水を50%の割になるように加えてemulsionとし2,000rpm5分間遠沈してその上清1ml(蛋白含有量約10mg)に対して約1.5mlのFreund'adjuvantを加え、水中油滴の状態として家兎の臀部に筋注した。現在までに1週間おきに3回注射した。 (2)ddNマウス胎児皮筋組織の家兎免疫血清を作るべく、出産間近いマウス胎児8疋からできるだけ皮筋組織をきりとり、これをすりつぶして、これに50%の割になるように生理的食塩水を加えてemulsionを作り、その遠沈上清2mlを得た。これを2回に分け、1ml宛adjuvantと共に家兎の臀筋に注射免疫している。
【勝田班月報:6004】
《勝田報告》
本日は、1)これまでの研究の中間報告.2)今後の研究予定.3)癌学会への申込演題の決定.の三つの問題が主になりますので、この順序で話して頂きたいと思います。まず私共の方の報告から始めますと、主な成果としては、サル腎臓細胞の培養があります。一般にどんな細胞でも長期間継代培養しておりますと、腫瘍細胞化してしまうものが多いようです。そこで私共は腫瘍化さない細胞株を作ろうともくろんでいるわけですが、その根拠としてラッテ腹水肝癌AH-130を長期継代して作った2種の株、これは何れもラッテに復元するとラッテが腫瘍死しますが、この株を3,000rphで高速回転培養すると腫瘍性が低下してしまうことを昨年の癌学会で報告しました。低下した細胞の染色体数は主軸が40本前後になってしまったのですが、これはまだ伏せてあって報告してないのですが、実は高速回転しなくても、大きなコルベンで静置培養しただけでもやはり細胞の主軸が40本前後になってしまうのです。これは液のaerobic
conditionの問題に大いに関係があると思います。またL細胞の染色体数のばらつきが、無蛋白培地に移すとぐっと狭くなり、しかも主軸が変らない。L・P1を血清培地に移すと多核細胞が急激にふえる。このような意味から何かしら細胞の変化に一つの主役を演じているらしい血清蛋白を培地から除き、protein-free
mediumで、しかもコルベンのようなもので培養すると、腫瘍性を帯びない細胞株ができるのではないか、と考えついた次第です。これは勿論あとでin-vitroで発癌させるための細胞を作るのが目的であるが同時にそれだけではなく、他の用途にも大いに役立つものを考えてのことで、この場合はPolio
virus Vaccineを作るために活用され得ることを計算に入れているのである。無蛋白培地内継代によるサル腎臓細胞の培養についてはNO.6003の小生の報告中、B項に詳述してあります。7月4日に初代からPVP培地に入れた培養が今日もなお増殖をつづけて居ります。但し継代の植継法がコツを要し、EDTAもtrypsinも共に悪影響があり、ピペットの先で剥しpipettingでバラバラにするだけの法が一番よいようです。またA項に記したように、サル腎臓細胞はL株などと栄養要求が似て居り、
Chick embryo extractが不要です。不要なのみか反って有害でもあるのですが、こうしてみると、embryoの組織とadultの組織とは栄養要求が全く異なるらしいことが示唆され、今迄は正常細胞の代表としてembryoの細胞だけ用いてきましたが、今後はadultの細胞の栄養要求をよくしらべてみなくてはならぬことを痛感します。これまでの正常細胞の培養には大抵CEEを入れていましたが、こうしてみると、だからこそadult細胞の培養が困難だったのではないかという気が致します。このようにadult
cellsのprimary cultureが簡単にできるのですから、今後は抗癌物質検定の対照にはこれを用いたら良いのではないかと思います。同様のadultの培養を今後はラッテでやって行きたいと思っております。
:質疑応答:
[高野]PVP培地で3代つづいている由ですが、PVPにさらにserumを入れた方が増殖は良いですか。
[勝田]それは明らかに良いです。
[高野]大谷君のところで血清培地で継代していると、サル腎臓細胞は3代目でいつも止まってしまい、どうしてもそれ以上は増えないのです。但し期間から云えば、とても2月などとは行きません。
[勝田]こちらのは2ケ月といっても増殖率はそんなに高くないのですから、増殖率を計算に入れるとそろそろそういう時期に入っているかも知れませんね。4代目まで持ちこせれば安心かも知れませんが。もとから保有している栄養物のeffectを考えるには増殖率からdilution
effectを計算しなくてはならぬと思います。
[奥村]私はこの継代中の染色体をしらべていますが、材料がまだ少なくて、はっきり染色体数を云々できるのは3例だけです。その内2ケが49本で、1ケが50本?でした。サルの染色体数はspermatocytesでしらべられ、50本説(牧野)と48本説(Painter)とあります。しかしどちらも古い報告であり、しかもこの例では体細胞ですので、私としては大変興味を持って居り、しかもこの仕事は有望だと考えて居ります。
[高野]Normalの細胞でもprimary cultureで染色体数にばらつきが出てくるでしょうか。正常の染色体数を知るのに必要と思いますが。
[奥村]肝などでは2代位ですでに巾が出てきます。Rat
liverで、植えてから5日位でおかしいのが出ます。
[高野]生体ではどうですか。
[奥村]生体では見当たりません。mitosisの数が少ないし、しらべ方も困難です。このサルの腎臓の培養では、いままでみた3ケの染色体は、変わっていないと考えられます。それから、よく数の変化と共にみられる異常染色体も見られませんでした。
[勝田]そんな意味から初代を血清培地で培養した細胞の研究もどの位の巾が出るものか、controlとしても必要ではないかと思います。
[高野]血清はどうなんですか。うちでは非働化しないで使っていますが。
[勝田]うちでは全部非働化して使っています。何だか忘れましたが、以前にある細胞でしらべたら非働化しない血清だと増殖によくなかったように記憶しているにです。
[高岡]冷蔵庫に保存しておくだけでも補体の一部がこわれるから、非働化の影響がみられないのではありませんでしょうか。
[奥村]伝研のHeLaは予研から行った筈ですが、予研のHeLaの主軸は染色体78本で、伝研のは76本、しかもばらつきが多く、数の多いのもふえてきている。
[高野]非働化の他に血清の種類、培地のrenewalの間隔の相違などもひびいてくるんでしょう。
[勝田]うちでは原則として1日おきに更新しています。ところで、こうしてサル腎臓細胞の無蛋白培地継代系を加えると伝研では現在のところ、HeLa2系、L4系と加えて、無蛋白培地で継代している細胞の種類は7系になります。L株系はアミノ酸要求の仕事をつづけていますが、継代はDM-12でL・P3をつづけています。DM-60にかえると永続しないので、まだアミノ酸の検討の不充分のものがあるとみて、今後しばらく研究をつづけます。次にCollagenの問題ですが、共同研究で高野、高木両先生の株のCollagen形成を定量していますが、L株そのものは、あのままで進展させていません。しかしこれは近い内にやりたいと思っています。Hormonの研究は、これまで判った要点は、正常のChick
embryo heartのfibroblasts、ラッテ腹水肝癌(AH-130)、HeLaの3種の細胞の内では、HeLaだけが特異的に女性ホルモンprogesterone、estradiolで増殖を促進され、またHeLaは男性ホルモンで抑制されるので、この両ホルモンを同時に各種濃度に組合わせ、両ホルモンの拮抗比を量的に出すことができました。しかしその作用機序がはっきりしないので、東大の遠藤先生と共同研究で、その点をいま突込み出したところです。次にsilicaのeffectsをしらべた仕事ですが、これはあまりCancerとは直接関係はなさそうなので省略します。最後に、最近まとめた仕事として、ラクトアルブミン水解物の製品むらの問題があります。結局
lot No.によってglutamineなどの含量が異なっていて、イオンクロマトで定量して、足りない分を補充してやったら、効力がかなり回復しました。しかし硝子面への附き方は完全には回復しないので、他のfactorもまた関与していると考えなくてはならぬと思います。NBCへも云ってやったのですが、季節による違いだらうなんて抜かしてきましたが、季節によってラクトアルブミンという蛋白のアミノ酸組成が変化するなんて考えられないことで、何か他に補充しているものがあって、それを入れ忘れたんじゃないかとも思っています。HeLaの無蛋白継代系はどうしてもYeast
extractが入用で、DM-12ではうまく増えません。Yeast
extract中の核酸成分が必要なのではあるまいかと考え、adenine、guanineなどをDM-12に入れてしらべて居ります。
《高野報告》
私どもの研究室の報告を致します。まず凍結保存ですが、現在のところ手持の株のほとんどの細胞の凍結が終りました。基礎条件は大体従来の文献通りにやってみました。保存は-76℃ですが、これは別に理由はなく、ドライアイスの昇華点のわけです。これまでの報告では血清はどうしても必要とされていますが、PVPのような高分子を入れてみた人はありません。血清の有無のデータだけです。PVPで血清を置換して凍結する試みをやってみたいと思っています。方法は(ラクトアルブミン水解物0.5%、血清20%ハンクス)6容と、(50%グリセロール)4容、これに細胞を100万個位入れ、アンプレに封じ、すぐドライアイスで凍結、deep
freezerに入れて-79℃で保存します。HeLa、Changのliver
cellの株は1年半つづけています。とかす時は37℃の温湯でとかし、とけるや否や氷水中に戻し、これを洗ってまた1mlの液にsuspendして分注するわけです。2.5mlのアンプレに1mlの材料を入れましたが、LとJTC-6では上の組成で旨く行かなかったので、Lで
glycerol 10%にしたところ1ケ月は少くとも保つようにになった。JTC-6は10%では駄目で、5%だと何とか残るが、入れた細胞の50%位しか生えません。3%その他及び血清をかえて、近々やってみたいと思っています。HeLaはP型O型ともっていますが、凍結後もその形質特性を保っているようです。どの細胞でも凍結1〜2ケ月にもどすと恢復率が悪く、6ケ月、1年後の方が反って良好です。この理由がよく判らないのですが、1ケ月間凍結させた後、一部は-20℃、他は-76℃に戻し、1ケ月後に両者の比較をやってみたいと思っています。つまり一旦凍結してしまえば、あとの温度はあまり影響がないかどうか、という問題です。
次にJTC-6のCollagen形成の問題ですが、これは培養の全期間(2w)を通じてHyproの産生量はper
cellにすると殆ど一定で、増減が認められません。この点JTC-4と少し性質が異なっているようです。
免疫実験では、手持のHeLaのP型とO型、これは性質の全く異なる亜系ですが、家兎を免疫して、2種の細胞の免疫学的変移の有無をしらべてみましたが、2種は全く同じで、他の人間細胞とも殆ど同じ結果になりました。CPEでしらべたのです。HeLaというより、むしろhuman
specificityのみ残っているだけのように思われました。このやり方では亜系間の差を見出すことは不可能だった訳です。JTC-6でCPEを顕微鏡(位相差)写真で隔時的に追ってみました。ここで細胞のこわされ方に何か差異があれば抗癌物質の作用効果などしらべるのに使えるのではないかと思っています。次にNo.6003に報告しましたが、in
vitroの悪性化の一端として、Ehrlichの腹水癌をあつめてこわし、L細胞に喰わせて影響をみる実験をいまやっています。
:質疑応答:
[勝田]どうもその場合Lにtissue乃至cell
extractを与えると、Lの増殖が抑えられるのではないかと思いますが。
[高野]濃度を薄くしてやるつもりです。その他に、癌研と一緒に前にやりかけた仕事ですが、培養細胞でtoxohormoneが出るかどうかという仕事もやりたいと思っています。
[遠藤]さきほどのhydroxprolineの定量ですが、定量法はどういう風にしてやっていますか。
[高野]5本1検体としてdataをとっています。
[遠藤]その場合blankが問題です。Hyproの定量法は感度が悪いので、この数値だと、見かけ上の値でTryやTyrのinterferenceがある可能性があります。全くhydroxyprolin産生のないcontrolをとれれば良いが、Blankを水で、Hypro=0としたcontrolだと、問題が残ると思います。
[勝田]高木株(JTC-4)だとhypro産生が非常に高いから比較できるのではないでしょうか。[遠藤]多いのは良いが、少いのは本当は作っていないのが他のアミノ酸のinterferenceで数値として出ているのかも知れないのです。少くとも5〜10μgならば安心できますが。[勝田]Standard
curveをかくと5μgの辺にわずかjunctionがあり、上も下も夫々は直線的なので、またがらない様にやっているのですが。
[高野]このままでも数をふやせば、即ち実際の計測量をませば良いわけですね。
[遠藤]そうです。私たちは骨のcollagen formationに興味があるので、これとprogenaseとの関係をしらべていたのですが、若しJTC-4及-6のdataがはっきりことなった数値の
collagen formationを示しているのなら、それとprogenaseとの関係も将来しらべたいと思います。
《遠藤報告》
私どもはいまAminopeptidaseの問題をしらべていますが、伝研で見付けたProgesteroneがHeLa細胞の増殖を促進するという現象は、生体内のこのhormonの作用と同じなので大変興味をもっているのです。プリントを用意して参りましたから御らん下さい。私どもが
Aminopeptidaseに着目した経過が大体お判りになると思います。Aminopeptidaseは蛋白のpeptide結合を着る作用をもっています。切れるほどcarboxyl基がふえて酸性が強くなるのですが、これを利用した定量法は感度があまり良くありません。β-naphthylamineをむすびつけて、aseの働きでpeptide結合が切れてくれれば呈色反応できるわけで、これで組織学的にもしらべられてきた。プリントにあるように、leucine
aminopeptidaseがどんな細胞にあるかということはこれまで大分各種の意見があらわれて論争の的となってきた。Burstoneはstromaにあると云い、Braun-Falcoはtumorの特徴と考え、Seligman等は逆に
fibroblastic cellがもっていて癌細胞には無いと唱えた。また生体内の胃腸粘膜などのように分泌機能をもつところには分布しているという説もある。我々はHeLaのhormoneに対する特性が面白いので子宮では一体この酵素はどうであろうかと考えた。Fuhrmanや
Nachlas等によると、むしろ子宮のfibroblasticの細胞に活性があって、Shleimの中にも相当出てくる。しかも高活性です。そこで上皮性のものにもあるのではないか、また従ってHeLaも持っているのではないかと考えたわけです。Nachlas等はendometriumに活性が強くmyometriumには低いというので、epithelが持っている可能性が高い訳です。実験としては先ずHeLa細胞にleucine
aminopeptidaseがあるかどうか、また細胞をとりだすとき用いるEDTAで活性度の変動があるかないか、が問題になりました。Ratの腎臓にEDTAを加えてしらべてみると酵素活性は88%に下りました。この位の数値ですから、しかも実際にはEDTAをすぐ洗ってしまうので、実際問題としては殆んど影響がないと思われます。予備実験としてHeLaを次表のように1500万個でしらべてみると、活性が強く出ました。次にホルモン2種を加えて4日間培養(ホルモンの促進効果が7日後より反って大きくあらわれると考えて)した場合にはどうか、というと、細胞数ではホルモン添加群の方が無添加の
Controlより125%多い。酵素活性は培養当りで163%、即ち細胞1ケ当りにすると約30%多い(129.1%)。Controlのみ比較すると、予試験2は1の場合より約2.3倍活性が強いが、これは培養日数によるもの、glass
homogenizerの操作による相違(homogenizer、時間、泡・・・変性)などが考えられている。後者も今後検討してから本実験に入ります。
:質疑応答:
[勝田]それは当然培養日数が大きく影響するので、培養のいろいろな日数をとって比較できるといちばん望ましい。この次はそれをやってみましょう。
[遠藤]最近teststerone誘導体の合成黄体ホルモン剤が発売されてきました。流産予防のために大量に投与すると、生れた子供に半陰陽が屡々あらわれます。即ちteststerone
効果が出るわけです。それで、伝研の諒解を得ましたので、我々の方では合成黄体ホルモンのeffectも今後しらべて行きたいと思って居ります。次にprolinaseですが、この酵素はCOとNHの間を切ります。Chick
embryoの頭のdismalにできる、軟骨を伴わない、うすい骨がありますが、この骨はprolinaseの活性が強いのです。long
boneでも活性は強いのですが、prolineが一旦peptide
bondにとりこまれて、それがoxidationによりhyproができるのではないかと考えていますが・・・。Hyproとprolinaseの関係をしらべたいと思って居ります。またJTC-4及-6でここをどう異るか、などの点についてもしらべたいと思います。[勝田]Silicaのfibroblasts増殖及びcollagen
formationに対するeffectにはprolinaseが一役買っているかも知れませんね。たとえばsilicaを添加するとprolinaseのactivity
が上るのではないでしょうか。
[遠藤]HeLaをglass homogenizerでhomogenizeするとき、白い強靭な組織が残りますが、これは何でしょうか。
[高野]案外、細胞膜が厚いのではないでしょうかね。
《高木報告》
RNA、DNAを細胞に作用させた仕事は、これまでの主なものとしてつぎのようなものがあります。
1)J.Biophy. & Biochem.Cytology,5(1) 25,1959;H.H.Benitz
et al.
2)Brit.J.Cancer,10(3)553-559,1956;E.Weiler.
3)Brit.J.Cancer,10(3)560-563,1956;E.Weiler.
4)Zeitschrift fiu Natureforschung,Bd.116
31-38,1958;E.Weiler.
5)Canadian Cancer Conference,3,329-336,1959;Sergio
de Carvalho.
私どもはMY肉腫からRNA、DNAを抽出したわけですが、これは移植性腫瘍で、類白血病様の病変を起こします。このRNA、DNA、whole
microsomeを抽出してembryonic mouse skinの
primary cultureに入れてみました。既に報告したように培養5日後に入れた場合、細胞の増殖率は落ちず、また形態的に特に変化は見られませんでした。培養と同時に入れた場合(170μg、87μg)、何れの濃度でも2〜3wでfibrousな感が強くなったような感じがしましたが、やはり特に形態上の変化はきたしませんでした。これは3回redosingをおこない、1ケ月で標本を固定してみました。これを免疫学的に蛍光抗体でしらべてみたい。 次に免疫学的な問題ですが、JTC-4細胞とrat
heartとの抗原性の関係をFluo,antibody
でしらべてみたいと思っています。その他NO.6003の報告通りです。
[高野]Weilerの実験では吸収を何回もやっていますが、この吸収の問題が非常にむずかしいですね。
[高木]そうです。正常抗原を考える場合、特に吸収を厳重にしなくてはならないと思います。しかしその度にsampleが減って行きますから、できるだけ高い抗体価の免疫血清が必要です。またRNAの活性は低温でないと落ちますが、普通の培地(20%牛血清+LYT)に混じて培養細胞に作用させた場合どの位活性が維持されるものですか。
[勝田]あらかじめRNAをこわして、これを第2のControlにしてやってみるとよいのではありませんか。
[高野]人間、動物でRNA蛋白が腫瘍性の抗原に作用するという報告、即ちRNAが効いたという報告がありますね。EhrlichのRNAをrat(in
vivo)にinjectionすると癌になり、
transplantableだというのですが・・・。
[高木]腹水肝癌からRNAを抽出して(フェノール法)、これを100μg/ml前後でJTC-4に入れてみましたが、細胞の増殖はかなり抑制されたようでした。
[勝田]株細胞ならprimary cultureより強く障害されることは当然考えられます。
[高木]MY肉腫から抽出したDNPをddNマウスに1疋あたり45μg前後、3〜4日連続注射したことは報告した通りですが、この場合塩溶液にとかすと絮状の沈殿を生じます。ですから濃度が不平等のまま注射される可能性がありますので、蒸留水にとかして注射してみましたが、lewkemoid
reactionと思われるものは認められないようでした。
[勝田]さきほどのRNAですが、これにはproteinは入っていませんね。
[高木]入っていません。Phenol法でやればRNAがとれる筈で、しかも収量はきわめて多いのです。
[勝田・遠藤・高野](抽出法の表をしらべて)蛋白は除去されるようですね。
[高木]JTC-4のHypro産生能の問題ですが、これは昨日、定量のdataを見たばかりだものですからまだ何とも・・・。他にJTC-4をprotein-freeで継代する仕事も、またやり直して居ります。PVPを入れて血清量をへらしてますが、硝子面から剥れませんね。JTC-4の栄養要求の仕事はまだ2〜3実験をすまさないとpaperにはなりません。そのほかナイトロミンなどを使って制癌剤の耐性細胞ができるかどうかもやっています。
[高岡]JTC-4のprotein-free medium内継代はうちでも預かった細胞で試みています。
《奥村報告》
いままでやった主な仕事としては、無蛋白培地で継代しているLの4亜株、及びその血清との関係、HeLaの無蛋白培地継代2亜株、猿の無蛋白培地内継代腎臓細胞などの細胞遺伝学的研究ですが、まずL株についてお話しますと、LとL・P1の染色体の比較は1959秋の癌学会で発表した通り、L・P1(PVP+LYD)の染色体はLと同じく68本が主軸で、ばらつきが
L・P1の方が明らかに少ない。L・P2(LYD培地継代)は66本が主軸ですが、これはまだ調べた細胞数が少ないので決定的なことは云えません。L・P3は(DM-12の合成培地継代)3主軸があって64、66、68本です。ばらつきは60〜72本で、それ以外の数の細胞は殆んど見当りません。LP・4(LD培地継代)は66本が主軸で、高倍性80〜100本がかなりあります。但しばらつきは狭い。そのほかDM-25で長期継代した細胞も2回samplingしてしらべましたが、DM-12継代のものと殆んど同じで、64本がやや多い位でした。しかしこの細胞系は現在は切れているそうです。核型分析ではL・P1〜L・P4の間にほとんど相違をみとめません。数の相違はrod(棒状)の染色体の数がちがうだけです。次にHeLaですが、これは血清培地継代系では76本が主軸で、90本以上の高倍体もかなり見られます。HeLa・P1はまだ4ケしかmitosisの良いのが見付けてありませんが、これは染色体が2本少なくて74本です。高倍体は少ないようです。HeLa・P2は44ケ位しらべましたが、やはり74本が主軸で、高倍率は1ケだけでした。そしてL→L・P1のときと同じよう、HeLa・P1及・P2では染色体数の分布の範囲が
HeLaより狭くなって居ります。そのせばまり方はLのときよりも極端で大変面白い所見だと思います。HeLaの核型は分析がきわめて難しく、核型を判定しにくいのです。というのは同じ染色体数でも2〜3種の核型があるからです。もちろん分裂異常とは判別できます。なおここで各研究室で継代しているHeLaの染色体を比較してみますと、次のように相違があらわれて居り、HeLaというのは不安定な株だという感を受けます。また第2の頻度の数がたえず(samplingの度に)変ります。だからCloneを作って実験に用いた方がよいと思います。HeLa・P1及・P2はこの傾向が少ないので、1種のCloneのようにも扱えると思いますが。HeLa細胞の主軸は、予研78本、伝研76本、川崎・明治製菓75本、東邦大・解剖76、78、81(81が最大)。90本以上の染色体の多いのは東邦大継代のHeLaが最高でした。
以上のように核型分析をいろいろやっていますが、何とかして共通核型を見付け出し、増殖あるいは生命維持に必要な最少単位の染色体を知りたいものと考えて居ります。HeLaでは特別に染色体数の少ないものが出てきたりします。20本位ですが、これを2〜3日おくと、また数が増えてきます。少いのが見出せれば細胞の遺伝的支配の最少単位のものが見出せるのではないかと思っています。
:質疑応答:
[高野]染色体20本のHeLaは増殖できないのではないですか。
[奥村]Duplicationが起って、細胞分裂はしないが核分裂をしてしまうのだと思います。そして40本になってしまうわけです。20本といま話しましたが、最低は23本でした。
[高野]Haploidのわけですね。
[奥村]HeLaは将来triploidに集まってしまう傾向があるのではないかと思います。PVPを用いてもLの場合はL・P1になって不変でしたが、HeLaはPVP培地で2本減り、L・P2〜・P4もL、L・P1に比べて2本減っているのは面白い現象と思います。この問題をどうお考えになりますか。
[勝田]HeLaの場合はPVPでふえる奴をselectしたわけですからね。変っても良いと思います。
[奥村]HeLaはどうもcloningしないでそのままやると遺伝子的には何も云えないような気がします。
[勝田]HeLaに女性ホルモンを与えてselectし、ホルモンにsensitivityの高い奴だけ
selectionしたら面白いでしょうね。
[奥村]サルの腎臓細胞はさきにお話したように、まだ3ケしか見ていませんが、仲々面白い結果になりそうです。それにサルの仕事は新しい仕事がありませんから、大いにやりたいと思っています。
【勝田班月報・6005】
《勝田報告》
A)サル腎臓細胞
a)無蛋白培地による長期継代:7月4日にTCに移したものが現在までつづいている。増殖率は相不変低い。この染色体を東邦大・奥村氏がしらべている。この状況ならば発癌実験に使える可能性もあるので、ラッテの腎及び肝についても同様の試みをはじめかけているが、ラッテは馬と同様になかなか培養が難しい。
b)鶏胚浸出液の影響:胎児組織細胞の増殖には一般に鶏胚その他の浸出液が必須であるが、吉田肉腫や腹水肝癌AH-130には反って増殖阻害的に働く。ところが正常成体のサル腎臓細胞の増殖にも、前報で報告したように鶏胚浸出液は阻害的に働くのである。しかしその后の研究で判ったことは肝癌AH-130の場合にはたとえば肝(正常成ラッテ)の浸出液は高分子部分も低分子部分も何れも同じように抑制力があるがサル腎臓では、高分子部分は抑制力がなく、反って増殖促進的に働く。そして低分子部分に強い抑制力が見られる。但しこの場合透析は蒸留水で1:0の鶏胚浸出液をおこなったので、さらにsalineで透析したものについてしらべたいと準備をすすめているが若しこの事実が確認されればさらに各種の細胞についても同様の実験をおこない、癌細胞のみに抑制的に働く因子を追究したいと思っている。 B)L・P1細胞のアミノ酸要求
アミノ酸12種+ビタミン9種+塩類その他9種=合計30種の組成から成る合成培地DM-60ではL・P1細胞を長期間培養することが困難なので、さらにアミノ酸要求について検討している。現在のところ、これにMethionine
8mg/l、Tryptophan 10mg/lを加えた方が増殖率のよくなることが判った。Phenylalanineはほとんど要求されぬように思われるが、さらに他のアミノ酸を検討した后に再び検討したいと思う。
C)Bilirubinの細胞に対する影響
細胞の種類によって生体内でbilirubinに触れている濃度に差がある。組織培養に移した場合、細胞の種類によりbilirubinに対する抵抗力に差があるのではないか、若しあるとすればそれによっても細胞のoriginをつきとめたり、或種の細胞だけを撰択的に増殖させたりすることができるのではないかという目標からbilirubinを各種濃度に各種細胞の培地に加えてしらべることにした。一番初めに手をつけたのが、無蛋白培地で継代しているL・P1細胞であるが、濃度は0、0.1、0.5、1、3mg/dlの5種であるが、まず苦心したのは水に溶かすことで、普通ではbilirubinは水に溶けない。クロロホルムにはとけるがあとの始末(滅菌とクロロホルムをとばし、培地に入れること)が厄介である。あれやこれやと2日間もいじくりまわした揚句、結局次の方法をとった。Bilirubin
10mgを1N NaOH 1mlにとかし、蒸留水(再)19ml加え、glass
filterで濾過滅菌し、これをstock solutionとする。これを一部とり等量の1N・HClを加えて中和し、そこでできる塩類を計算し、その分差引いて塩を加える。このとききわめて細かい沈澱ができるが、ピペットで細かく均等に浮遊させられるので稀釋して行く。1mg/dl以下では肉眼的にはほとんど溶けてしまっているように思われた。BilirubinはMerck製のを用いた。L・P1細胞での4日までの成績をサル腎臓細胞のprimary
culture(透析血清10%+ラクトアルブミン水解物0.4%+塩類溶液)の2日迄の成績と比較すると、次表の通り(表を呈示)、腎臓細胞に耐性が見られたが、この実験はなお7日后まで継続の予定である。しかしBilirubinと蛋白との結合が当然予想されるので、この結果は直ちに細胞間の差違と決定するわけに行かず、L・P1細胞を血清培地に移しての実験も行ってみる必要がある。
D)HeLa・P2細胞(無蛋白培地継代亜株)の合成培地培養試験
HeLa・P2細胞も無蛋白培地に移してから約8ケ月になるので合成培地に移しても増殖するのではないかと、各種の合成培地について7日間の成績をしらべたが何れも殆んど増殖しないか、しても極くわずかであった。PVPは各培地とも0.1%に添加した。
1)PVP+DM-11、
2)PVP+DM-11+アデニン10mg/l+グアニン0.3mg/l+ウラシール0.3mg/l+キサンチン0.3mg/l+ヒポキサンチン0.3mg/l+チミン0.3mg/l、3)PVP+DM-11+yeast
extract 0.08%、
4)PVP+Medium858、5)PVP+M.199、6)PVP+DM-12。何れも好成績は得られなかったが、その内ではM.858とDM-12でごく僅かの増殖が見られ、細胞の形態も健常であった。DM-11を基にしたものは殆んど好成績を得られなかった。M.199では培養中にpHが激低するが細胞は変性を呈するものが多く、M.858では反ってpHがわずか上昇する位であったが、細胞は健在であった。今后も各種を試みる予定である。
《高木報告》
1)MY肉腫から抽出したRNAの培養細胞に及ぼす影響
ddNマウス胎児皮筋組織のprimary cultureに、MY肉腫から抽出したRNAを作用させて、作用させない対照に較べてどの様な変化が認められるかを、先ず形態学的に観察したが、前報の如く有意と思われる様な著明な変化はみられなかった。そこで免疫学的には或いは何等かの影響を受けているかも知れないと考えて、蛍光抗体法を用いて、RNAを1ケ月間作用させた細胞にマウス胎児皮筋組織−家兎免疫血清を作用させてみたが、未だ免疫血清の抗体価が低いためか、対照の細胞も共に染っておらず、更に抗体価をあげるべく免疫を繰り返して後、改めて検討してみたいと思う。しかし、ddN妊娠マウスは中々思う様に入手出来ず、免疫に難渋している。
第3の追求手段としてRNAを作用させた細胞を復元して、その腫瘍形成能を対照のそれと比較する方法がある。(9月のmeetingの際、高野氏の御話にもあった如く・・・)。このためには比較的長期間RNAを作用させねばならず、従って細胞の長期間の維持及びRNAのredosingが必要となって来る。
細胞の長期間の維持については、現在迄こころみたところでは、マウス退治皮筋組織由来の細胞は、うまく植継げば少くとも2〜3ケ月は維持出来る様に思われる。
RNAのredosingの間隔については、培養液内のRNAがどの位の期間分解しないでその活性を維持するか調べなくてはならない。この目的で先ず細胞を含まない培養液に50μg/ml程度のRNAを含ましめ、1週間incubateしてその間におけるRNA量の変動を調べて見た。普通用いている80%LYT+20%牛血清の培養液で測定をこころみたが、血清蛋白が邪魔になって測定出来なかったので、一先ずLYTにRNAを溶かした状態で1週間観察してみた。Schneider法に準じて測定したが、これを略記すると(1)試料2ml+10%PCA(過塩素酸)2mlで沈澱をとる。(2)沈澱を冷5%PCAで2回洗う。(3)更に沈澱を80%アルコールで1回洗う。沈澱が微量につきこれ以上洗滌を行わず、(4)5%PCAで90℃20分間抽出、一度で沈澱は溶けて透明になったので抽出はこれ以上行わず、(5)抽出したものをベックマン型分光光度計E260で測定し、RNA-Pを求めてこれにfactor11.9を乗じてRNA量とした。(結果の表を呈示)
培養液のみの対照でも僅かにE260でかかって来るものはあるが、予想に反して細胞のない培養液のみの中では、始め51.5μg/mlあったRNAが1週間にわたって減少する傾向はなく、むしろ増加(?)したかの如き値を得た。これが測定誤差によるものか、或いは他の原因によるものか検討中である。再検後更に培養細胞にRNAを作用させた場合の培養液(牛血清を含まない)中のRNA量の変動についても検討してみたいと思っている。
2)免疫に関する研究
JTC-4細胞とWistar系ラッテの心臓との免疫学的なつながりを検討すべく、これら細胞、組織による家兎の免疫をつづけている。JTC-4細胞は、これまではGoldsteinらの方法に準じて、soluble
antigenについて静脈内注射をこころみて来たが、今度は細胞のそのまま生理的食塩水にsuspendして200〜400万個/2mlのsuspensionとして、これを始めの2回だけFreundのadjuvantを用い、以後は週に2回ずつ筋肉内に注射を繰返して居る。心臓組織はこれをすりつぶしたものの遠沈上清を同様に注射している。なお前に行った静脈内注射法によるJTC-4細胞−家兎抗血清の凝集価を、細胞のsuspensionを抗原として測定したところ(高野氏のadviceによる)80倍まで陽性であった。
また蛍光抗体法により、JTC-4細胞及びラッテ心臓の家兎免疫血清をJTC-4細胞(伝研にある形態的に九大のものとは異っているもの)、L細胞及びHeLa細胞に作用させたが結果は
HeLa細胞以外は+で(表を呈示)、未だ一度の吸収では強く種族特異性が現れている。更に腎、脾のaceton
powderでも吸収して出来る丈これを除去したいと思う。
3)その他
JTC-4細胞の無蛋白培地による培養をこころみるべく、目下牛血清を2%までおとしているが、細胞は可成りよく増殖している。前にこころみた方法と同様に2%牛血清培地で植継いで後PVP+LYTで交換して次第に細胞をadapt(?)させている。なお免疫には多くの細胞を必要とし、20%牛血清の培養液では牛血清の消費が大変であるので、これからは出来る丈2%牛血清の培養液にadapt(?)した細胞を残したいと思っている。
制癌剤に耐性を示すHeLa細胞をつくる試みは、目下ナイトロミン15〜20μg/ml、クロモマイシン0.01〜0.005μg/mlを作用させて実験を続行中である。
《遠藤報告》
HeLa細胞のLeucine aminopeptidase活性の測定におけるhomogenizing
timeと
homogenizerによるバラツキの検討
研究連絡月報No.6004で報告しましたように、HeLa細胞のleucine
aminopeptidase活性はprogesterone+estradiolの添加により細胞当り約30%高まりますが、この時はhomogenizeする時間がまだきめてなく又homogenizerによる差も検討していなかったので、上記の
treatmentによる該酵素活性の上昇が本当にtreatmentだけに依るのか否かについては若干疑問の点がありました。従って、その後non-treatmentのHeLa細胞を用い、以上の点について下記の通りの検討を行いました。
(1)homogenizeする時間はどの位が適当か。
HeLa細胞;2300万個(5日培養)
先づ全体を10mlのsuspensionとして大きいglass
homogenizerにとり、30秒間homogenizeする。この1.5mlずつを今後の実験に用いる新調の小さいglass
homogenizerに分注し、それぞれ一定時間更にhomogenizeする。一回凍結融解後遠心分離して上清1mlをとり比色定量の操作に移す。結果は、30〜180秒間で、T(%)は51.4〜54.0、liberated
naphthylamine(μmole)は0.166〜0.178で(表を呈示)、homogenizeする時間は思った程には測定結果に影響しないことがわかった。今後は約1分に決めてやることにする。
(2)homogenizerによるバラツキ
(1)の結果からhomogenizerによる差も先づ無視できるものと思われる(勿論homogenizerによるバラツキがhomogenizing
timeによる差を隠蔽してしまったという確率も非常に小さいとはいえ残りますが)。
従って、前述の活性の上昇は明らかにprogesterone+estradiolというtreatmentによるものと考えられます。
《高野報告》
A)培養細胞の凍結保存
a)マウス、ラッテ由来細胞の保存条件としてのglycerol濃度・・・マウス由来L株ではglycerol
5%で1ケ月は保存可能。間もなく2ケ月後のdataをとる。ラッテ由来JTC-6は
glycerol 10%では保存1ケ月後に殆んど生細胞が残らず、5%では約50%が生残し増殖能を示す。更に長い期間の観察と同時にglycerol
3%の群を新しく作って凍結した。
b)凍結用アンプルの容量と細胞浮遊液量との関係は、2.5mlアンプルに1ml浮遊液を入れると、0.5mlの場合及び従来の5mlアンプルに1ml入れた場合と変りなく有効なので1mlで用いることにした。
c)1ケ月-79℃に保存したHeLaの一部を-20℃に移し更に1ケ月後に-79℃群と比較した所、-20℃では生細胞が殆んどなくなり、この温度では保存不可能な事が明らかになった。 B)JTC-6のhydroxyproline産生(伝研組織培養室、東大薬学生理化学との共同)
N0.6004の報告会記事にある様にHyproの定量手技に関し遠藤氏から御意見を戴き少量を定量する場合の誤差を再検討する必要を感じたので同氏の御協力を得て今迄の結果をもう一度確かめる実験を計画中。高木株、予研株の他に高木株を伝研でEDTA処理に駲化させた株を含めて行う予定。最近予研癌室でもEDTA駲化株を作ったので出来れば之も一緒にしらべてみたい。
C)抗細胞免疫血清による細胞障害作用
a)抗マウス細胞(L)血清及び抗ラッテ細胞(JTC-6)血清をヒト由来のHeLaに作用させても障害作用は現れない。つまり抗細胞免疫血清には少くとも種属特異性があるという以前の所見を再確認した。
b)JTC-6細胞に同種抗血清を加えた場合位相差顕微鏡下の変化は2時間後に現われる事を前報(No.6003)で述べたが、同じく10%で用いた正常ウサギ血清でも略同様の障害が認められるので、非特異的因子を除くため56℃30分の非働化を行った後再検討した。抗血清による変化は添加後7時間で現われ推移の経過は大体以前と同様。非働化血清では14時間後にも殆んど変化が見られない。非働化抗血清による障害作用の経過を改めて経時的に観察する予定。
D)JTC-6株よりのClone分離(東邦大・解剖・奥村氏との共同研究に使用)
ラット肝由来のJTC-6株細胞は培養性状、形態学、及び核学的見地から純系とみなし難いのでColony-formationの手技を用いてColonial
cloneの分離を開始した。材料として従来のtrypsin継代株と、新しく駲化させて作ったEDTA継代株の両者を使用。シャーレに少数細胞をまく方法は、目的のcolonyだけをひろう時に多少扱い難くしかもcontaminationの恐れが大きいので、角瓶に滅菌ガーゼでふたをして炭酸ガスincubtorに入れ、数個のcolonyが出現した後、1個を残して他をエーゼで焼いて除く方法をとり現在2ケのcolonyが増殖中。近日同様の手段で更に数個を分離する予定。
E)Ehrlich腹水細胞抽出物のL細胞への添加
Ehrlich腹水を遠心して約200mlの細胞沈渣を採り凍結融解3回実施後glass
homogenizerで壊し遠心沈渣を更にhomogenizeした後の遠心上清とプールしたものを原液とみなしL細胞の培養に添加した。0.1%の濃度で充分発育したL細胞に与へ1週間観察したが形態学的に明らかな変化は認められない。(この間液交換の都度0.1%に添加)。1%濃度を上げた培養液で継代したところ相当数の細胞が変性を示し、完全に壊れた細胞も出現したので、2日後に0.5%に下げると変性の進行は止り、全体的にやや恢復しつつある様にみえるのでこの濃度での培養を継続中。
F)ラット脳下垂体前葉細胞の培養
東大産婦人科からの“依託生"2名と一緒にラットの脳下垂体前葉細胞の培養を開始。将来の目的は“前葉機能に及ぼす間脳の影響"。第1回はYoungnerの方法に従いtrypsinizationの繰返しでえた上清と沈渣を、第2回はメスで細切したfragmentを直接チューブの壁につける方法で試みた。第1回の消化後上清は細胞増殖を示さないが、沈渣群及び第2回の壁についた片の中で上皮性と思われる細胞のoutgrowthを示すものがあるので目下培養を継続中。
《奥村報告》
A)HeLa株細胞:無蛋白培地での2種の継代株H・P1、H・P2のうちH・P2について前報で報告したが、H・P1は細胞の増殖率が悪かったために思うようSamplingが出来ずにいた。しかし最近(9月中旬頃より)急に増殖率がよくなり、40ケほどのmetaphasesを得ることが出来、検べたところ染色体数の分布状態はH・P2とかなり類似していることが判明した。つまり血清培地継代細胞より、はるかに分布範囲が狭くなっており、同数の染色体をもった細胞でも種種の核型が存在している事である。分布範囲が狭くなる現象が今までも再三述べてきたように、やはり血清不添加によるためであることは、この場合にも明瞭に確認されたわけである。こうなると血清のもつ役割を詳細に追求することが重要であって、特に培養細胞の遺伝的性質を変異させる一つの大きなfactorとして種々の遺伝的問題解明の鍵となっている。 B)L株細胞:前報で無蛋白培地継代の4亜株(L・P1〜L・P4)について染色体数の分布結果を報告したが、このうちL・P2細胞(LYD培地)については増殖があまりよくなかったために9つの細胞で大体の傾向を示しただけに止まったが、その后かなり多数のmetaphases(現在まで約42metaphases)を得て、分析した結果染色体数の分布状態はL・P4細胞と非常に類似していて、最高頻値を示したのは66本の染色体をもった細胞であることが明かとなった。又L・P1、L・P3、L・P4もgenerationを追って観察分析してきているが、現在までの段階では各亜系とも殆んど継代期間中の相違は認められていない。核型分析は目下懸命に行っているが、何しろ想像に絶する程時間のかかる仕事で(勿論正確度に甘い採点をするなら別だが)なかなか期待通り進行しない現状である。しかし今では相当データも集盤戦に入った感じです。無蛋白培地での細胞の遺伝的特性の問題は重要な意義をもっていると思うので、慎重に事を運んでいる次第である。
C)サル腎臓細胞:この細胞の株化は伝研のTC研究室で行われているが、私も培養開始後の細胞の遺伝的特性を追究している。しかしなかなかmitosisが少なく充分な分析が出来ずにいる。したがって、これからはコルヒチンを用いてmetaphasesを増やそうと考えている。だが私はコルヒチンがはたして細胞の異常分裂のfactorになるのではないかという疑問を持っている。Dr.Ohnoの意見では全然心配はいらないとのことですが、私には納得がゆかないので今度はコルヒチンを用いるのと用いないのとを比較しようと考えている。 今まで分析材料に用いたサル腎細胞は血清不添加培地で継代されたものであるが、L株、HeLa株の両細胞で明らかなように血清の有無による細胞変異の常態をサル腎細胞でも早急に検討してみたいと思っている。
−追−10月20日(木)、伝研集団会で「無蛋白培地によるL株細胞(マウスセンイ芽細胞)の研究.第9報:無蛋白培地内継代4亜株間の染色体の比較」(20分)を話します。
(上記のH・P1はHeLa・P1、H・P2はHeLa・P2の略です。正式の略名ではありません)
【勝田班月報・6006】
《勝田報告》
A)サル腎臓細胞
無蛋白培地内の継代培養は、材料の入り次第に屡々行なっているが、本年7月4日に開始した系はその后しだいに増殖率が落ち、現在は殆ど停頓状態である。9月28日に開始した系は11月15日で48日になるが、大体良好な経過を辿っているので、この方が先の見込があるわけである。発癌実験用には小動物の方が好ましいのでラッテの腎臓についても同様の試みをおこなっている。
B)L・P1細胞のアミノ酸要求
Methionine、Tryptophan、Phenylalanineについては前報に報告したが、その後Cysteine、Threonine、Valineについてしらべた。CySHは8、80、160、400mg/lの4種の内160mg/lが最高の増殖を示した。これまでは80mg/lを採用していた。Threonineは100、200、500mg/lの内、200mg/lが至適で、これまでは100mg/lを使用していた。何れもこれまでの倍量となり、経済的には頭の痛い話であるが、増殖率を少し宛でもよくするためには仕方がないであろう。
Valineは8.5、85、170、425mg/lの内では、これまでと同様85mg/lが至適であることが判った。さらに他のアミノ酸についても検討をつづけている。
C)HeLa・P2細胞の合成培地内継代培養
前報でも若干報告したがHeLa株を無蛋白培地に馴らした亜株HeLa・P2を、さらに完全合成培地で何とか継代できるようにしたいと思い、夏ごろから各種培地での試みをおこなってきた(表を呈示)。結果は何れも余り面白くないが、Control自体もこの頃はあまり増殖率がよくない。そして合成培地の内ではM.858がまだ少しましのように見える。そこで858を用いて、その后もさらに培養を試みてみた。ところが秋に入ってから急にHeLa・P2自体の増殖がよくなり、7日間に9.3倍の増殖を示すようになったのと同時に、PVP+M.858での継代が成功するようになった。HeLa・P2は1959年11月7日から無蛋白培地に入れたのであるが、細胞が一つの株あるいは亜株として安定した増殖を示すようになるにはやはり1年位かかるということを裏書きしているのかも知れない。継代は合成培地で約7日毎におこなっている。
HeLa・P2:培地(PVP+LYD)・(1959-11-7より)・継代36代・7日間9.3倍増殖
PVP+M.858・(1960-10-7より)・継代4代・
6.3倍
そこでこの后者を、もう少し様子を見てから、HeLa・P3と名付けたいと考えている。
HeLa・P2がなぜDM-11、-12であまり増えないで、M.858で増えるかという問題であるが、后者に比べて前者に欠けているものは、核酸成分(だからDM-11に核酸を加えてみた)、補酵素類、それにinositolなどもある。EagleらによればHeLaにinositolは必須であるというが、まだこの試験はおこなってなかったので至急にDM-11、-12に加えてしらべてみたいと思っている。とにかくM.858では余りに沢山の組成が入りすぎていて、あとの実験に差支えるので、何とかしてもっと簡単な合成培地で継代できるようにしたいと思う。
D)各種細胞の増殖に対するBilirubinの影響
前号にやはり若干報告したが、細胞の種類による差がかなり現われて、次表のような結果を示した(表を呈示)。L・P1とHeLa・P2とでは夫々無蛋白の培地と血清を添加した場合との両者を比較し、夫々相異なる結果を得たのはきわめて興味が深い。L・P1では血清蛋白が存在しないと著明に増殖が抑制されるが、蛋白を加えるとこれがカバーされてしまう。L・P1ではBilirubinの濃度に比例してはっきりと増殖阻害がおこっているが、牛血清蛋白を5%加えた群ではControl(無添加)と殆んど同程度の増殖度を示している。ところがHeLa・P2では、無蛋白の場合、高濃度のBilirubinでは若干の抑制を受けるが、それにしてもL・P1の場合のように顕著ではなく、きわめて微弱である。血清蛋白を加えると、これはL・P1と同様に抑制現象がまったくカバーされてしまう。これは次のように考えて良いものであろうか。即ち、L・P1細胞のなかの代謝経路の内、ある極めて重要なものがBilirubinでblockされる。これはBilirubinが蛋白と結合した場合には阻害できない。或は、蛋白と結合するとその酵素のある場所まで入って行けない。しかしHeLa・P2の場合には側路があるので、主路がblockされても比較的簡単に代償されてしまう。
それ以外の細胞では、L、HeLaの血清培地継代系や、ラッテ腹水肝癌(AH-130)及び鶏胚心センイ芽細胞のprimary
cultureは、この程度のBilirubin濃度ではほとんど影響を受けない。面白いのはサル腎臓細胞のprimary
cultureで、これは0.5mg〜3mg/dlあたりの濃度で反って明らかな増殖促進効果をみせたことである。
これらに用いたBilirubinの濃度は、人血清中の正常値から病的濃度に渉るものをえらんでいる。またBilirubinはきわめて色々なものに溶けにくいので、pHの高い液にといて濾過滅菌し、稀釋してからpHを戻し、できた塩も考慮に入れて塩類溶液を調節して、培地を作るのである。
また上記の内で、HeLa細胞の増殖率がきわめて悪いが、HeLaはLと異なり、そのときの牛血清如何によって増殖度に大きな差がある。殊に透析した場合にこれが甚しいが、この実験では全部同じlotのものを用いたのでHeLaの為に適した血清を選べなかったものである。
Bilirubinが血清蛋白を含む培地に入れられたとき、なぜ阻害効果をカバーされるか。おそらく蛋白と結合するためであろうが、果たして本当に蛋白と結合するのか、それならば蛋白の内のどんな分劃と結合するのか。これはしらべてみたところ、かなり色々な説があるので、自分で確かめてみたいと思い、濃血清蛋白と混和後、37℃1昼夜加温してから、濾紙電気泳動でしらべてみたが、蛋白各分劃の移動は発色で判ったが、Bilirubinの方は何とも色が薄く(あまり濃いと溶けない)、臨床検査に用いるような各種の発色法をとってもBilirubinの濾紙上の存在箇所をたしかめることができず、ついに行き詰まってしまった。何とか良い考えがおありでしたら、お知恵を拝借したいものである。
形態の上では、培養の初期にはところどころの細胞の細胞質が濃く黄染しているのを見掛けるが培養と共にこれが次第に増す。他の大多数の細胞も取入れているのだろうとは思うが、なにしろ淡くて対照との区別がつかない。いちばんはっきりしているのは鶏胚センイ芽細胞であった。詳細次報。
《高野報告》
A)培養細胞の凍結保存
凍結用アンプルの容量と細胞浮遊液量との関係について、2.5mlアンプルに1mlを入れた場合と0.5mlを入れた場合とで凍結後1ケ月の生細胞数及び増殖に大差なく、むしろ1mlの方が良好な結果をえた。保存4ケ月目の成績も略同様の傾向を示したので、浮遊液調製の簡便さと確実さの上からも1mlを用いるほうがよいとの結論をえた。
マウス・ラッテ由来細胞保存条件としてのglycerol濃度については近々4ケ月の成績を検討し之によって今後の方針を決めることにした。
尚凍結保存環境に血清の存在が不可欠といわれているが、この場合栄養源としての意味は殆んどなく、専ら物理化学条件としての意義が大きいと思われるので近くPVPでの代用を試る予定。
B)JTC-6株のhydroxyproline産生(伝研組織培養室、東大薬学生理化学との共同)
No.6005に述べた主旨に基きJTC-6の細胞増殖に伴うHYPRO産生は細胞あたり略一定値を保つとの以前dataを再確認する為実験を開始した。遠藤氏の注文で1回の定量材料として少なくとも1000万個cells必要とのことで大仕掛(?)となった。培養開始後一部に増殖不良の培養が存在したので(恐らく培養瓶の故?)予定した4日目の定量を中止。0、7、10、14日目の材料で測定することとした。不充分ながら傾向を確かめる事は可能と考える。
C)抗細胞免疫血清による細胞障害作用
JTC-6及びLに同種抗血清を加える場合56℃30分の非働化によって非特異反応を除く必要を認めたので非働化抗血清による障害を改めて観察中。
また細胞浮遊液で免疫する場合、その細胞の特異性を擔う抗原が覆われる可能性が考えられるが、この点を確かめるためHeLa、JTC-6、Lの3株を材料にcitric
acid法によって核をとり、核浮遊液での免疫を開始した。
D)JTC-6株よりのclone分離
同株でのclone formation実施中にシャーレにまいた培養の染色標本を観察中たまたま相異する2種の細胞でそれぞれ構成されたcolonyが隣り合って存在するのを認めた。一は細胞、核ともに大きく比較的濃染性、他は小型でやや薄く染まる。生の材料では見分け難いのでこの形態を目安に分離する事は出来ないが、clone分離後の比較に基準として用いうる。 No.6005に記した方法でEDTA処理駲化系から6系を分離したが、現在2系が残って通常の継代を行える程度に発育が進んだところ。更に数系を分離して細胞及び集落形態、核所見、増殖態度等で異同を検討する。他に従来のtrypsin処理系でもcolony
formationを実施中。 E)Ehrich腹水細胞抽出物のL細胞培養への添加
前記の様に0.1〜0.5%に抽出物を加えてLの培養を続行中。染色標本でしらべると無処置群に比較して細胞の不同性、濃染性が強く巨大型の頻度がやや高い感じ。但しこの程度の変化は軽い障害作用ともみなしうる。要するに添加を中止しても安定に保持されるgeneticな変化が目標なのでマウスへの復元を試みながら長期継続の予定。
F)ラッテ脳下垂体前葉細胞の培養
Fibrin-clot法で培養した組織片からepithelial、fibroblastic両様の細胞がoutgrowして来るが未だ継代には至らない。小さな臓器なので充分な細胞数を得るのに一苦労。40頭を潰してtrypsinizationによる培養を開始した。
《高木報告》
1)RNAの培養細胞に及ぼす影響
RNAを培養細胞に作用させる場合、そのredosingの間隔については、培養液中のRNAがどの位の期間分解しないで維持されているかを調べなければならない。No.6005において報じた如く、AH-130腹水肝癌から抽出したRNAは、細胞を含まない培地(PVP+LYT)のみの中では、一週間にわたって殆んどその濃度の低下がみられなかった。今回は更に細胞を培養している培養液中に含まれたRNAが、どの様に消長するかについても比較検討した。
即ち、第1群・細胞を培養している培養液中にRNAを加えた場合と、第2群・細胞を含まない培地のみの中にRNAを加えた場合、についてその中に含まれたRNAの量を、添加後2、4及び7日目にSchneider法に準じて測定した。第3群、対照として細胞を培養しているRNAを加えない培養液のみの場合についても同様に日を追って測定した。
この実験では細胞は2%牛血清培地で継代しているJTC-4細胞を用い、これを試験管1本あたり約9万個細胞数になる様に植つぎ、2日間培養後Tyrode液で一度洗い、0.1%PVP+LYT培地で交換してこれに適当濃度のRNAを含有せしめた。
結果は(表を呈示)、今回の実験でも細胞を含まない培地のみの中では(第2群)RNA量は一週間後でもあまり減少しないのに対し、培養細胞のある培養液中では(第1群)2日後にはすでにRNA量の急速な減少がみられた。これは培養の有するRNaseにより培養液中のRNAが速やかに分解されるためにおこるものと思われる。
なお第3群のRNAを加えない培地のみの場合においても、測定に際しE260で僅かながら吸収を示すものがあった。
2)免疫に関する研究
Wistar系ラッテの心臓、JTC-4細胞共に一応予定の免疫を終了した。即ち始めの2回は一週間の間隔でadjuvantを用いて免疫を行い、以後はadjuvantを使用せず細胞のみを一週間に2回の割合で4週間家兎の皮下に注射した。最後の注射が終わって2週間後にboosterを行い、昨日始めて採血した。早速凝集価及びcytopathogenic
effectによる抗体価の測定を行う予定である。(今回のreportにはわずかながら間に合わなかった。)
なおHeLa細胞も同様にして再度免疫中である。
また蛍光抗体法で検討する際に非特異的抗体を吸収するために用いるaceton
powderも、ラッテ肝及びラッテ腎からのものは作成を完了した。これらはCoon法によって作成したのであるが、今回は特に温度に留意したためか綺麗なサラサラしたpowderが出来た。ラッテ脾は小さいために中々材料が集まらず未だ作成出来ていない。
3)その他の研究
(1)JTC-4細胞の無蛋白培地による培養
牛血清を含む培地で植ついでは2〜4日後に0.1%PVP+LYT培地で交換する方法を繰返し、牛血清の濃度を次第に落して、実験開始後3ケ月の現在では0.1%の濃度にまで落すことが出来た。2%牛血清培地及び0.1%牛血清培地における細胞の増殖率を出すべく目下実験中である。
(2)JTC-4細胞のcollagen産生能について
間もなく実験が終るので材料を遠藤先生の処へ御送りする予定である。培養した細胞はトリプシン処理して高速廻転培養管に集め、一度Tyrodeで洗って5%TCAを作用させて冷蔵庫中に保存している。細胞の増殖率は可成り良い様でinoculum
size 5万のものが一週間で大体15倍位に増殖している。
(3)制癌剤耐性HeLa細胞について
制癌剤に耐性を示すHeLa細胞をつくるべく、ナイトロミン15〜20μg/ml、クロモマイシン0.01〜0.05μg/mlを依然として作用させて実験を続行中である。
(4)JTC-4細胞の染色体について
遺伝学会に出席のため奥村先生が来福されたので、JTC-4細胞74代、培養後3日目及び7日目のものを提供して標本を作って頂いた。今後若しJTC-4細胞が無蛋白培地で培養出来る様になれば、それと比較して頂くと面白いと思う。
《奥村報告》
A)無蛋白培地継代細胞の染色体研究
1.L株細胞:前報までは主に4亜株(L・P1〜L・P4)間のchromosome
numberの分布の特徴を比較し報告して来たが、今回からはkaryotype(核型)の特徴について報告します。先ず血清培地継代のL細胞では68本の染色体をもった細胞が一番多く出現していて、その68本の染色体構成は11本のV型染色体(V-chrom.)と5本のJ型(J-chrom.)染色体と52本のr型(rod-type)染色体(r-chrom.)である。しかし、中には同じ68本の染色体をもったものでも、その構成が前述と異る細胞も若干混在している。例えば、V-chrom.が13本もあるもの、又J-chrom.が4本しかないものなど各要素(V、J、r)の数的差異が見られる場合、又各要素の数が同じであっても、chromosomeのsizeに明瞭に差があったり、constrictionの位置に相異がみられる、いわゆる質的差異が認められる場合である。L・P1細胞については、血清培地継代のL株細胞と殆んど差は認められない。即ち、染色体数68本をもった細胞が最も多く(頻度が明かに高くなっている)chromosomal
compositionも11V-chrom.+5J-chrom.+52r-chrom.である。ところが、L・P2細胞ではL・P1細胞と異なり、66本の染色体をもった細胞が最も頻度が高く、そのchromosomal
compositionは68本の場合の構成からr-chrom.が2本欠けたもの、即ち11V-chrom.+5J-chrom.+50r-chrom.である。しかし中には11V-chrom.+4J-chrom.+51r-chrom.のものとか、13V-chrom.+5J又は4J-chrom+48r又は49r-chrom.のものも若干みられた。L・P3細胞でも66本の染色体をもつ細胞が最も多く、その染色体構成はL・P2と非常によく似ている。L・P4細胞は無蛋白培地継代細胞の中でもL・P2、L・P3とはいくぶん異なり、最高頻度を示している66本のchromosomeの中に現在まで大別して3種類の核型が発見されている。例えば、L・P2、L・P3でみられた11V-chrom.+5J-chrom.+50r-chrom.の他に10〜13V型の細胞、6〜8J型細胞である。したがって詳細に分析すればほぼ10種類ぐらいの核型が共存していることになる。勿論L・P4だけでなくL・P1、L・P2、L・P3のいづれにも同数の染色体で異った核型が発見されてはいるが、非常に数が少ない。それに反してL・P4細胞は種々の核型の出現頻度に顕著な差が認められない。
2.HeLa株細胞:前報でHeLa・P1のchromosome
numberの分布がHeLa・P2と殆んど差がないと報告しましたが、samplingのときのミスでHeLa・P1でない事が判明しました。したがってHeLa・P1と記載されましたのをHeLa・P2に御訂正をお願いいたします。現在はHeLa・P2についてのみ分析しておりますがやはり74本の染色体をもった細胞が一番高い頻度を示しています。しかし核型は4〜5種類ほど存在していることが明らかになりました。
B)遺伝学会に出席して(福岡・九大)
10月29日〜11月1日まで4日間で約150題が報告されました。発表会場も3ケ所に分かれて私の是非ききたい演題が同時間に別々の会場で報告されるようなこともあって残念でしたが、私のきいた中で特に面白いものがいくつかありましたので一部ここに記述します。
1.岡田利彦、柳沢桂子(コロンビア大・動)。Thymine要求性突然変異株の特異的産生について。AminopterinとThymidine及びaminopterinにより合成が阻害されると思われる12種の物質を含む合成培地に、大腸菌15株又はK12株を発育させると、増殖した大腸菌の集団中10〜18%がthymine要求性変異株になる。しかも得られた変異株は遺伝的に安定であり、thymine要求性以外の形質にはなんら変化なく、thymineを含まない合成培地ではいわゆるthymine-less
deathをおこすという事です・・・このthymine要求性のlocusがchromosomalのものか又はcytoplasmicのものかという事が大切な問題である。
2.小川怒人(遺伝研)。発生初期における骨格筋ミオシンとアクチン分化の相関性。骨格筋proteinの分化に際し、アクチンとミオシンは全く別個の発現経過を有していることが判明した。この事は今まで発生初期でも再生組織においても常にアクチンがミオシンに先づるという考え方に反することになる。
3.黒田行昭、堀川正克、古山順一。組織培養による哺乳類体細胞の遺伝的研究(I〜 )。これは今春の京都におけるTC学会のときに発表された内容を更にいくぶん深めたもので、今月19日のTC学会でも発表されるはずである。
《遠藤報告》
HeLa細胞のleucineaminopeptidase活性に対する性ホルモンの影響
研究連絡月報No.6003及び6004で報告しましたように、HeLa細胞はかなり強いLeucine
aminopeptidase活性を持ち、更にこの活性は性ホルモンの添加で変動することが認められましたので、いよいよ各種のホルモンを添加する本実験を行いました。
1.実験条件
1)培地:20%Bovine serum+0.4%Lactalbumin
hydrolysate+saline D
2)培養期間:4日(2日目培地交換)
3)ホルモン:Progesterone 0.3mg/l(P)
Estradiol enzoate 3μg/l(E)
Testosterone 10mg/l(T)
Progesterone 0.3mg/l+Esteradiol
3μg/l(PE)
Progesterone 30mg/l+Testosterone
10mg/l(PT)
4)定量:(1)核数算定
(2)Leucine aminopeptidase活性の測定;2日目及び4日目の対照及び処理群の
HeLa細胞を150万個cell/ml程度のhomogenateとし、その上清について活性を測
定して、30分間(38℃に)1x10-9μmoleの基質を分解する強さを1(単位)とした。
2.実験結果
1)増殖:表の通りで、ほぼこれまでの結果と一致しているものと考えられる。
2)Leucine aminopeptidase活性:Leucineaminopeptidase
activity/cellとして表を呈示する。
3.考察
1)培養2日目には、増殖及び試験の結果から想像していた通り、Pは最もLeucine
amino
peptidase(Leu-ase)活性促進し、次いでEもLeu-ase活性を高め;更にTはまだ細胞増殖は殆ど抑制していないに拘らず著しくLeu-ase活性を低下させた。併し単独では促進的なPとEを同時に添加したPEにおいては対照と殆ど変らないLeu-ase活性しか認められなかった。この理由はよくわからない。又PTでは極めて著しい活性の低下が認められたが、これはPが30mg/lという高濃度なので、P単独でも抑えており、これにTの抑制効果が相加されたのかもしれない。P単独で濃度をいろいろに変えた場合の活性の変化を今後検討する必要がある。
2)培養4日目には、様相は全く変り、PはLeu-ase活性を低下させ、逆にTが著しく高めるという知見がえられた。Eは2日目と同様促進的であった。PEは依然として対照とそれ程差がなかった。併し、2日目には著しく対照より低い活性を示したPTが、4日目にはかなり対照より高い値を示した。これはTの著しい促進効果が、30mg/lの高濃度でのPの抑制効果(推測)を隠蔽したとも考えられる。
3)結局2日目及び4日目を通じ一定の傾向がみられたのは、EがLeu-ase活性を高めること及びPEはLeu-aseに殆ど影響しないことである。予備試験ではPEはLeu-ase活性を高めたが、その場合のEは今回の10倍の30μg/lであった。この点でも各ホルモンの濃度とLeu-ase活性の変化との関係を調べる必要を感じる。
4)P、T及びPTは、それぞれ2日目と4日目でLeu-aseに対する作用が逆転した。この知見をうまく説明できるような事実を私は知らないが、別に行った4日目のデータでも各処理群のLeu-ase活性は略同様になっていたので実験上のミスではないであろう。とするとPとTは化学構造的にも又生物学的作用の面でも似ている所が多いので、この知見は内分泌学的には興味ある問題を提供することになるであろう。
5)従って今後、この事実を確認するために、各ホルモン処理群についてもっと細かく日を追ってLeu-ase活性の変化を調べたい。
《伊藤報告》
S2分劃(悪性腫瘍組織抽出液30~70%エタノール飽和沈澱分劃)に対する蛋白分解酵素による処理及び加水分解の影響
前回の報告でS2分劃について、これまでの結果を発表致しましたが、今回は其后に得られました結果を報告致します。
1)Protease処理
S2分劃を1mg/ml、Proteaseを0.2mg/mlの濃度に、1/60M.phosphate
bufer(pH.8.0)に溶解し、37℃で24hrs incubateして后、100℃3min.加熱してEnzymeをinactivateする。此の様な処理を受けたS2分劃は未処理S2分劃が有するL株細胞増殖促進効果を全く失ふ。
2)Trypsin処理
S2分劃を1mg/mlの濃度に1/60M.phosphate buffer(pH.7.2)に溶解し、100℃30分加熱后
Trypsinを0.2mg/mlの濃度に添加して、37℃24hrs
incubateして后、100℃3min加熱いて
Enzymeをinactivateする。この処理を受けたS2分劃は、未処理S2分劃と同様効果を有する。 3)加水分解
S2分劃に6N・HClを加へ、120℃で24hrs.加水分解を行ったものは、完全に其の作用を失う。
以上でありますが、其の后現在はTrypsin処理したものの透析性について、更に別に電気泳動による各分劃について夫々検討を進めて居ります。
【勝田班月報:6007】
この1年間にはずい分色々の仕事をしましたが、まずBilirubinの各種細胞の増殖に対する影響の比較からはじめます。
A.Bilirubinの影響:
添加濃度は人の血清中での生理的濃度から中等度の病的濃度に至る範囲(0.01、0.5、1、3mg/dl)をえらび、細胞は鶏胚センイ芽細胞、L、L・P1、(血清蛋白+及び−)、サル腎臓細胞、ラッテ腹水肝癌AH-130、それよりの株JTC-1及び-2、HeLa、HeLa・P2(血清蛋白+及び−)。結果の概略をしめすと、L・P1では血清蛋白が無いと著明に阻害されるが、血清蛋白が存在すると(5%透析血清)阻害は全く消失する。サル腎臓細胞では反って
Bilirubinで増殖が促進され、AH-130とJTC-2はきわめて似た結果で共に軽い阻害が起る。しかし同一起源のJTC-1では強い抑制が見られ、これらの両株の樹立機転として突然変異を考えたのが裏書された。HeLa・P2では無蛋白の場合でもL・P1とのときと異なり激しい阻害は見られず、むしろ促進する濃度すら見られた。L・P1の場合Bilirubinが攻撃する代謝経路に、HeLa・P2では副路があるのではないかと考えられる。またサル腎臓細胞がしらべた限りの濃度では反って促進したのが面白い。細胞の種類によって明らかに異なる各種の反応を示したのは、今後色々な面に応用できると思う。
B.多核細胞形成に対する各種血清の影響:
無蛋白PVP培地で継代中のL・P1細胞は多核細胞が少ないが、これを牛血清蛋白含有培地に戻すと、数日の内に多核細胞の頻度がLのように多くなることは既報した。LはC3Hマウスの皮下のセンイ芽細胞であり、長年馬血清の培地で培養され、その後牛血清で数年、無蛋白にして数年である。各種血清によってその多核細胞形成頻度に相違があるか否か、若しあるとすれば、そのようなL・P1の培養歴と関連を持つかとうかをしらべた。結果はどの血清を加えても多核細胞は多くなり、種類によって頻度に相違はあるが、L・P1の培養歴とは相関関係は何もみられなかった。もう一つ面白いことは、LP・1細胞を馬血清含有培地に移すと細胞の凝集が起ることで、これはLには見られない。血清中の蛋白の仕業であるが、その本態はChokshi君にしらべさせようと思っている。
C.サル腎臓細胞の栄養要求:
鶏胚その他胎児組織のセンイ芽細胞や肝細胞の増殖には、鶏胚浸出液は必須であるが、正常の成体組織細胞であるサル腎臓細胞について栄養要求をしらべると、この細胞は鶏胚浸出液を必要とせず、高分子としては血清蛋白だけで活発に増殖する。そして鶏胚浸出液はむしろ抑制的に働くのである。ところが鶏胚浸出液を蒸留水で透析すると、抑制成分は低分子で外液に出てしまい、内液はむしろ促進的に働くのである。従って問題はこの内液がうまく吉田肉腫や肝癌を抑えてくれるかどうかに在る。近日中にその検索をはじめる予定である。
D.非悪性化細胞株樹立の企て:
初代培養から無蛋白PVP培地を用いて悪性化さない細胞株を作ろうとする企ては、サル腎臓細胞をつかって何系列もおこなっている。Lの無蛋白培地内継代4亜株間の染色体の比較、奥村君の仕事ではPVPを用いたL・P1だけがもとのL細胞と同じ染色体構成を保っている。つまりただ無蛋白の培地を用いただけでは駄目で、PVPのような代用高分子の存在が必要なのである。これにつづく悪性化の実験ではサルは用いにくいので、ラッテの腎臓で同じ実験を試みているが、これはまだ長期継代には至っていない。
E.L・P1細胞のアミノ酸要求:
L・P1のアミノ酸要求については各アミノ酸について逐一その至適最少要求度をしらべたが、結局アミノ酸13種を含め全組成31種から成る合成培地DM-114を得た。この培地でL・P1、L・P2、L・P3、LP・4の各亜系を培養してみると、それらの間にはっきりアミノ酸要求の相違が見られ、何れもDM-12(アミノ酸19種)の培地ではよく増殖するにも拘らず、DM-114ではL・P3は4日以後増殖がつづかず、L・P4では細胞がこわれて細胞数が減少してしまう。DM-114ではDM-12になかったFolic
acidが入っているので、それにつれてGlycineの要求が出てくるという考え方もあるので、Glycineを添加した実験も近日中にこころみる予定である。
F.HeLa細胞の無蛋白培地内培養:
現在、無蛋白培地内で継代できる亜株を3種もっている。HeLa・P1、HeLa・P2、HeLa・P3であるが、3番目のHeLa・P3は合成培地M・858で継代している系である。大体1年位たたないとやはり増殖率は良くなり安定してこないものであるが、前2者は、殊にHeLa・P2は最近その意味で安定してきたらしい。
:質疑応答:
[高木]Bilirubinは一体どんな動機ではじめたのですか。
[勝田]いちばん最初の考は体内の細胞はBilirubinに対する抵抗性が異なるだろう。殊に肝実質細胞を培養しようとするとき内被細胞やその他の細胞が混在して増えて困るが、何とかこれをBilirubinのようなものを用いて適当に分けられないかと考えた訳です。
[高木]培養に使う人血清にも当然入っている訳ですね。
[勝田]Bilirubinだけでなく、他の体内の生理的な色々の物質をしらべてみるのは面白いと思います。
[遠藤]Bilirubin-freeの血清を得られると良いのだが・・・
[勝田]ラクトアルブミン水解物の各種lotを比較試験していたとき、lotにより牛血清の色の還元され方に相違のあることを見付けたが、これはBilirubinと関係があるかも知れないので、やってみましょう。Protein-freeの培地では、PVPがあってもL・P1、HeLa・P2共にBilirubinの生理的濃度(0.1mg/dl)で既に抑制が見られている。蛋白が相当物を云っていることが判ります。
《奥村報告》
A.L細胞の4亜株の染色体の比較:
L・P1、L・P2、L・P3、L・P4の4種について染色体数及び核型について比較してみると、核型でもL・P4が一寸変っている。L・P2とL・P3は似ている。L・P1の主軸は68染色体であるのに対し、L・P2〜L・P4は66本にずれている。但しばらつきの幅は60〜70に入ってせばまっている。L・P4はHyperploidの頻度が高い。L・P1は最近少し傾向が変ってきて、80本近くのが増えてきたのと、66本のも増えてきた。L・P2はやはり60〜70本の間におさまり、HyperploidもL・P1と余り変らず11%ある。中心は66本で26%もあり、純化されてきた感じである。
L・P3はL・P2と似て居り、中心の66本は25%、Hyperploidはやや少くて、9%である。L・P4はHyperploidが多くて15%もあり、Lに近い頻度である。66本は21%もあるが、L・P4の特徴の一つとして、染色体数は同じでも核型のいろいろ違うのがある。ばらつきが60〜70%の辺にせばめられるのは無蛋白培地に特徴的のように見受けられる。また継代につれて狭くなって行く。
核型としてはL及びL・P1の中心の68本染色体のものでは、V型11本、J型4〜5本(5本が大部分)が特徴で、他の亜株ではL・P2では66本染色体のものは、V型11本、J型5本でrod型がL・P1より2本少ないだけで、V及びJは非常に似ている。L・P3の66本のV型J型はL・P2と酷似しているが、中にはVが12本とJが3本の型も存在している。L・P4の66本は、V型11本J型3〜5本で、この型の他に大きなVが1〜3本増加した型も見られる。但しL・P4の66本には色々の核型が混在しているのが特徴である。以上66本に共通なのは、V型11本、J型4〜5本あることである。68本を比較してまとめてみると、V及びJは大体すべて傾向が共通して居り、2本多い少ないのは、rodの数できまっているようである。
:質疑応答:
[勝田]Lの亜株を血清培地に戻した場合に再びばらつきが拡がるかどうかという点を一度検討しておく必要があると思います。それから染色体数が多い少ないといっても、細胞1ケ当りのDNA量が実際に増えたり減ったりしているのか、その辺も問題だと思います。
[奥村]rodがくっついて66本になる可能性もあるが、しかしそれならばV、J、が増えていなければならないが、実際はそうでない。
HeLaの亜株HeLa・P1、HeLa・P2を比較してみると、血清培地継代のHeLaでは中心は76本でHeLa・P1もHeLa・P2も中心は74本になっている。この場合も核型がrodで減少している。
[勝田]やはりDNA含量の件が気になります。引伸写真を作って紙を切抜き、その目方を比較するとか、cloneを作ってしらべるとか、何とかこの点をつきとめたいものです。
[伊藤]cloneを作ると核型が変りませんか。
[奥村]変り易いですね。
[勝田]microspectrophotometerを使う手もあります。
[高木]あいつは非常にむずかしくて測り難いですね。
[奥村]阪大堀川君の耐性株をしらべると、1回だけのsamplingですが、62本が増え68本が減っています。
[勝田]堀川君はDNAをBiochemicalに定量しています。そしてL・P1の方がかなり多いように報告していますが、これはLの方が多核細胞が多く、多核では核の小さいのが多いので、従って核数でDNAを割るとLの方が含量が少なくなってしまうという結果になるのではないかと想像するのですが・・・
[奥村]高岡さんの生物学的観察と似ているのは本当に面白いと思います。
[勝田]継代の時期による比較をよくやると面白いと思いますが。
[奥村]各代で傾向を見たいのですが、数を多くしなければならないので時間が大変です。[勝田]しかし必要なことだと思います。
[伊藤]Normalでの変異はどうですか。Normalでもばらつきが現れますか。
[奥村]肝は大分あるらしいですが、すぐにsamplingできず、何らかの処置をするので、この影響があると思いますので困ります。
[勝田]初代から無蛋白PVP培地でやってみれば見当がつくでしょう。
[奥村]Genom分析をやりたいと思っています。HeLaではやってみていますが、普通のHeLaでは76本染色体が一番多い訳ですが、手廻し遠沈器でゆっくりまわして、中間層をとって培養してみると、染色体が一番少ないので26本なんてのが見られます。しかしこれは増殖してつづいてくれないので困っていますが。
[勝田]比重を使って分ける手もあります。たとえばSucroseのような液で沈むのと沈まぬのと分けるとか。その他Colonial
cloneを使うとか、何を条件を変えて、とにかく染色体数の少ないものをえらんで増殖させて行く方法の方が良いかも知れませんね。
《遠藤報告》
A.HeLa株細胞のLeucine aminopeptidase活性について:
Hormone(性ホルモン)の影響をみた訳ですが、1〜2日目のばらつきが実に多いのです。後半ではtestosteroneを加えた群が活性が高くなっています。母培養によって活性の差ができるらしく、実験のstartのときの活性度に既に差が見られます。培地に使う血清の牛の雄雌によっても当然相違の生まれることも考慮に入れなくてはならぬと思います。20%位の活性の増加では他の分野の人は有意の差とは云わないようです。しかし組織培養の場合には、これはやはり有意と考えたいと思います。
今度はβ-gluconidaseをやってみたいと思います。これはin
vivoで変化のあるのが充分判っているし、活性もはっきり差があるからです。
testosteroneがこのようにleucine aminopeptidaseの活性を上げたということは、蛋白代謝と関係づけて考えるべきか、或は性ホルモン的作用と考えて良いのか。最近protein
anabolicの作用だけの物質ができているので、これを使ってしらべる手もあります。前は増殖だけを考えていましたが、今後はこのprotein
anabolicの立場から考えてみたいと思います。
B.Zn65の取込みについて:
前からZnには目をつけていたのですが、今度の癌学会ではZn-Histidine
Chelateが一番良く腫瘍細胞に入ったという報告がありました。千葉大の薬学などで、前立腺にZn-His-chelateが多く含まれているという報告をやっていました。ZnとInsulinとの関係を来年度はぜひやりたいと思っています。
:質疑応答:
[奥村]性ホルモンのHeLaに対する影響としては、たとえばTestosteroneが増殖率の多いものだけをおさえる、ということも考えられないだろうか。例えば染色体76本の方が全部抑えられればhyperploidの方が残るが、残ったものの増え方がおそければ、全体として抑えられたことになるわけです。
[遠藤]無蛋白培地のHeLaでやったらどうですか。
[勝田]Protein freeのHeLaは性ホルモンで促進されないから駄目ですね。
[遠藤]他の細胞にやってみると、例えば増殖には影響なくても酵素活性の方に変化があるかも知れません。サル腎臓細胞に期待しているのですが・・・。
[奥村]子宮癌は他の臓器に比べて、mitosisが多い傾向ですが、この点で、mitosisの多いのは、それだけ遺伝的にVariationが多いことになりますから、ホルモンがあるものだけに作用することもあり得ますし、またそういう報告もあります。
[遠藤]デュラポリンのようなものですね。
《伊藤報告》
Oncotrephinの仕事を主にやってきたのですが、まずそのいわれから話しますと、久留教授は以前に非常に大きな乳癌の患者の潰瘍から出るリンパ液で洗われている皮膚に、
krebs自身とは考えられないような増殖性変化のあることを見附け、また別の例で、
magenkrebsの患者で開腹してみるとtumorが大きくてmetaもあり、radikalの手術ができず、Haupttumorだけを取ったが、比較的にその後永生きし、死後解剖してみるとmetastasisの縮小を認めた例があります。また別の例として、magenkrebsの手術のとき肝をとって組織検査すると、胃潰瘍の患者に比べてmitosisが多いことに気が附かれました。これらの臨床的観察が根拠になって、腫瘍からは何か他の細胞の発育を刺激する物質が出てくるのではないか、と考えたわけです。これについて比較的はっきりしたdataが出はじめたのはBulloghの方法を用い初めてからで、mouseの耳の小片をとり、Warburgで1時間振盪し、更にコルヒチンと混ぜ4時間振盪後、上皮細胞のmitosis%をしらべたところ、陽性の結果を得た。そしてin
vitroでもう少し長く観察できるものとして、組織培養を用い始めた。腫瘍の生食extractをアルコールで分劃沈殿させますが、L株細胞の培地に各分劃を加えてしらべると、アルコール30〜70%沈殿(S2分劃)のものが活性があるらしく、以後の実験にはS2のN量を測り、濃度を既正しています。S2分劃の特性は1)耐熱性(100℃30分)、2)透析されない、3)硫安分劃では50〜70%飽和で不溶の分劃に活性、4)starchのzone
electrophoresisではFolinでpeakが二つでき、その中間に近いところ( 分劃)に活性がある。5)paper
electrophresisではβ-globulinに近い動きを示す。S2よりももっと細かく、30〜50%アルコールで沈殿するのをS2’、50〜70%をS2''と分けた。活性はこの内主にS2'にある。S2'分劃の特性はHClによる加水分解で活性が落ち、pronaseでも落ちる。
:質疑応答:
[勝田]pronase dijestionしたあと透析して外液をしらべる方が良い。
[伊藤]外液は増えるので、凍結乾燥で濃縮するのが大変です。trypsin
dijestionでは活性が残ります。trypsiningしたものを透析し、内液と外液を夫々しらべると、その都度で結果が若干ずれるので決定的なことは云えないが、外液に活性物質が出ることは確かに思われます。またこれらの因子をとりだす元の組織によって若干の相違があり、たとえばAH-130からのは耐熱性であるが、人肝癌では易熱性のものもあります。滅菌は全部使用前にmembrane
filterで行いますが、N量で多いときは10%位減少します。
[遠藤]それはfilterに吸着するためですか。
[勝田]濾過したfilterをさらに培地か何かでよく洗ってみると良いですね。
[遠藤]membrane filterに引掛るんでは大きいような気がします。大量にひいたとき減少量に変化はありませんか。
[伊藤]種々の量ではやってありません。濃度には関係ないようです。
[勝田]培養にいちばん広く使った濃度は。
[伊藤]S2’の分劃でN量0.1mg/ のを培地中に1/10〜1/50量です。濃度としてはこの上に2種、下にも2種やってみましたが、この辺が一番良いようです。細胞はL株で10%牛血清に0LYH(PR+)ですが、8日間に50倍位ふえます。inoculumは1.5万個〜2万個/tube。24時間培地を入れincubateしてから培地をすて、実験液にかえます。
[遠藤]癌学会ではCEEからとった実験には10μg/ml位にかいてあったが、その1/10〜1/50量となるとtumorよりCEEの方が強いということになりますか。
[伊藤]N量でいうとCEEの方が少しoptimalは低かったと思います。今後はresinで分劃する予定でおります。
[勝田]Sampleはどんなものについてしらべましたか。
[伊藤]やってみて効果を認めたのは、人の精上皮腫、肝癌(Nekrosisのないtumorの処のみ)grawitzと、実験癌としてはAH-130を接種後9〜10日目のもの。赤血球が混っているときは生食で数回洗いました。あとはCEEと再生肝です。正常肝は全く無効でした。
[勝田]ばらつきはどうですか。
[伊藤]Control 100万に対して130万以上を活性ありとしています。160万以上になることもあります。
[勝田]色々のtumorを比較してみると面白いと思います。殊に乳癌など。
[伊藤]乳癌はやったことはありません。
[勝田]AH-130は何匹位ratを使用しましたか。
[伊藤]30匹でdry weight 500mg位とれます。
[勝田]組織を保存するための凍結温度と可能な期間は。
[伊藤]-20℃のdeep freezerで2ケ月位おいたものでも活性がありました。
[梅田]解剖例でもやってみましたか。
[伊藤]死後6時間位のtumorでも活性は落ちていませんでした。腫瘍間の差としては例えば再生肝からの因子は60℃15分以上では活性が落ちるが、56℃15分では残っています。これに対してCEEからのは56℃15分でも落ちます。
[勝田]塩酸による加水分解の処置などはdelicateなところです。あとでよく飛ばす必要があるから、水にとかしてpHをcheckしなくてはなりません。またこれで全部アミノ酸の
orderまでこわれるし、アミノ酸もものによってはこわされてしまう。それからtrypsin処理の方法も検討が必要で、加えて加温を24時間もやると、その間に活性がおちる可能性があるから。trypsinの加え方も一ぺんに初めに全量加えないで、時々加える必要があります。やり方によってもっときれいに外液に出てくるのではないかしら。
[伊藤]digestしたかどうかはninhydrinでみてあります。
[勝田]peptidesならアルコールでさらに分けられるのではないか。そしてあとはresinのクロマトで分ける他はない。さらにもっとpurifyしたところでspincoの分析用のでpeakがいくつあるかしらべ分けるか・・・。Biuret反応はどうですか。
[伊藤]やってありません。
[勝田]Biuret反応は一応peptideに或程度特異的とされているのだから、やった方が良いでしょう。またactivityの検定法を検討してみる必要もあると思います。
[伊藤]Ratの腹腔内に2mg/mlを1ml入れて、24時間後に殺し、400倍の視野100ケで約3万個の細胞についてmitosisをしらべると、実質細胞では4〜5ケ、sternzellenではもっと多い。controlには見られませんでした。
[梅田]S2分劃の中には核酸は入っていますか。
[勝田・遠藤]spectrumをとってみる方が良いですね。2580Åの辺にpeakが残っているか、それとも2800の方にあるか。
[伊藤]肝からとったS2分劃で肝のmitosisが多いというのはOrgan
specificityを示しているようで面白いと思います。
《高木報告》
A.培養細胞に対するRNAの影響:
さきに月報に報告しましたが培養細胞に対して腫瘍のRNAを加えると或は腫瘍化が起らないかという問題からやっていますが、形態的にはこれまで2回しらべましたが、顕著な差は見られませんでした。そこで今度は長期間RNAを与えてその変化をみた訳です。まずMY肉腫からとったRNAをmouse
skinmuscle tissueの培養に、AH-130をJTC-4に入れた訳です。そしてそのための予備実験として先ず培地内でのRNAのこわれ方をしらべました。PVP+LYTの培地に細胞を入れずRNAのみ50μg/mlに加えた訳です。定量はSchneiderの法でみました。細胞があると、急速に培地中のRNAが4日以内に激減して行くのですが、細胞がないと7日間培地更新しなくても殆んどその値は一定でした。
:質疑応答:
[遠藤]この方法では生物学的に非活性のものも定量にひっかってしまいますね。つまり細胞のない場合に、仮にhigh
polymerのRNAがincubtionによってこわれて行っても、定量で見ているのはもっと下のレベルのところで見ているわけだから、変化が出ないのは当然かも知れません。そして細胞があれば、そのこわれたものを利用しているかも知れない。nucleotide位のところで。
[勝田]polymerizationの落ち方を見るならViscosityしかないでしょう。もっともPVPなんかが一緒に入っていると困るが。
[遠藤]そうですね。Viscosity位しかないでしょう。核酸のbaseの辺で測っているのでは意味がないでしょう。
[高木]結局これは長期RNA添加培養して、復元成績をみたいのです。Controlとして正常の肝(ラッテ)からのRNAもやっています。
B.免疫学的研究
蛍光抗体を使って細胞の同定ができるか、悪性良性腫瘍の比較ができるかどうか見たいと思います。liver,kidneyからacetonpowderを作っておき、細胞は2百万個生食に浮遊させ凍結融解後、静注、adjuvantと共に刺しています。抗体値は1〜2百万個cells/tubeで凝集反応を見ます。JTC-4の抗体では、40倍〜80倍のができました。抗原の種特異性を見るため、JTC-4とLの抗血清をJTC-4,L,HeLaなどに用いてみました。JTC-4抗血清では、JTC-4細胞は20倍で+++、L細胞が10倍で+++、HeLaが20倍で-となりました。抗L血清ではLは20倍で+++、JTC-4は20倍で++でした。蛍光抗体で見た結果は、間接法を用いたのですが、抗JTC-4と抗rat心の血清を用いると、JTC-4細胞の生きたままのでは、前者で核膜が染まり、後者では不染。JTC-4D(伝研でEDTAで継代のもの)は、前者では不染、後者では細胞質と核小体が染まりました。L細胞は両血清とも、染まってはいるがそんなに強くありません。JTC-6の生の標本では、CPが強く出ていましたが、前者で染まり、後者は不染、HeLaの生では前者血清で不染で、CPも見られませんでした。これで一応種特異性は出ていると思います。
C.Hydroxyprolineの産生:
JTC-4とJTC-6のHypro産生量を比較した訳ですが、培養につれてJTC-4のは次第に増加しているのに対し、JTC-6はほとんど変らないのは、やはり原組織の特異性を保持しているのかも知れません。
D.JTC-4細胞の無蛋白培地培養:
培地中の牛血清濃度を次第に下げ、その代りPVPを加えてありますが、0.1%まで下げましたが、やはり血清なしでPVPだけだと増殖してくれません。
E.クロモマイシン耐性細胞:
クロモマイシンの耐性細胞を作ろうとしています。これはHeLaで0.001μg/ml、JTC-4で0.01μg/mlが増殖を抑える限界ですが、0.005〜0.01μgでHeLaに作用させています。ナイトロミンはJTC-4で1〜10μg/mlで増殖を抑えますが、目下15μgまで濃度を上げられるようになりました。
F.RousのVirus:
Chick embryo heartの余り生えない状態でRousのSarcoma
virusを入れることを試みて居ります。
:質疑応答:
[勝田]高木氏の株をEDTAで継代している株、JTC-4Dが、今度の癌学会には出しませんでしたけれど、JTC-4とちがってcollagenをあまり作らなくなっています。細胞の形態ももちろん違いますし、EDTAにmutagenicのactionがあるという説によくあてはまると思いますし、そう思うと、JTC-1及び-2の特性がAH-130とちがっていることの一つの裏書にもなるし、これは今後さらに少しつっこんでみる必要があると思います。
【勝田班月報:6101】
《勝田報告》
去年の滓
全く振返ってみると去年は余り良い仕事ができなかった、とつくづく思う。いささか迫力が落ちたかと我ながら情なくなるが、要するに年をとるにつれて次第に雑用が多くなり、考える時間が減るせいもあるのではなかろうか。昨年からつづく仕事の残りもなるべく早く片附けて、今年は思切って良い仕事をやりとげたいと思う。
今年の夢
夢だけには終らせたくないが、まず第一に考え、且やり初めているのが、双子の培養管を作り、夫々の管に異種の細胞を入れ、細胞が硝子管に密着したあとで、静かに管を寝かす。すると管の中間につけてある結合部で両方の培養液がまじることになる。これをそのまま静置で培養し、あとで夫々の管のなかの細胞数をかぞえて細胞両種の間の干渉を見ようというわけである。最初にやったのがHeLaとJTC-4Dであるが、7日間培養すると、HeLaの増殖は促進され、高木君の株の方は抑制されている。勿論夫々単独での培養と比較しての話である。但し7日間では顕著な差にはならない。次に現在やっているのがHeLaとサル腎臓細胞であるが、これも似たような結果が出かけている。この仕事には夫々至適培地が同じ細胞をえらばなければならない欠点があるので、次の段階としては両管の間の穴をすり合せにしておいて、そこにセロファン膜をはさんで密着させ、ローラーチューブで回転しながら(液の撹拌のため)培養してみたいと思っている。さてこの培養法を何と名付けてよいか、がまた頭痛の種であるが、いま一寸考えているのは動物実験で2匹の動物を並べて血管をつないだりする実験をParabiosisと呼んでいるので、これをもじってParabioticcell
cultureと呼んだらどうかと考えているところである。また、これを何と和訳するかも問題である。何か良いちえがあったら拝借したいものである。これまでの外国の研究では、一つの容器で2種をmixして培養した例はあるが、それではせいぜい形態学的な観察しかできないのに対し、これでは定量培養ができるのが強味で、何とかもっと面白いところまで展開させ、1962年度あたり外国の学会に持って行って、あっと言わせてやりたいとひそかに念願している次第である。この培養法を利用すると、これまで培養のできなかった、例えば人肝実質細胞なども、となりの管に内被細胞を培養しておけば可能になるのではないかとも夢見ている次第である。
次に狙うのはやはりin vitroでの発癌実験であるが、いちばんさきにその内でもやりたいのは、子宮とか乳腺のような女性性器細胞の培養で、これを性ホルモンで発癌させる方法である。DNA、RNAなどは高木君が狙っているし、まあいちばん可能性のありそうなところを我々が狙うとすれば、こんなところになるであろう。第3の夢はSynchronous
cultureで、これのいちばん初めに狙うのはL・P4細胞(Lactalbumin
hydrolysateだけで継代している亜株)である。これはDM-12(乃至はDM-120)でよく増殖し、7日間に18倍という例もある。殊に初めの頃はgeneration
timeが24時間弱なので、やる方には大変便利なお行儀の良い細胞である。それからAH-130の肝癌やサル腎臓細胞のようなprimary
cultureでもぜひやりたいと思っている。
細胞の栄養要求は現在はL・P4のアミノ酸要求をやっているが、サル腎臓細胞についても低分子栄養物をもっと考えればPVP培地でもっと良くふえるようになるのではないかと思う。これはポリオワクチンを作り、或は検定する人からも大いに切望されている問題である。最近とくに痛感するのであるがやはり各種細胞の栄養要求の比較のような地味な仕事をやっておくと、それが他の仕事にもずい分役立つのである。従ってこの方面の仕事はあく迄つづけて行くつもりで居る。
新人の巣
若い研究者を養成することは自分の仕事をすることと同様に日本の科学のために必要なことである。しかも本当にその技倆を信頼できるようなひとでなければ何人いたとて何の役にも立たない。阪大の堀川君が今度漸く大学院を卒業し、1本立になって我々の仲間に入ってくれることになったのは何といっても心強いことであるし、今どきの若い連中の間にも何%かは見込のある人がいることを教えて、我々をほっとさせてくれる効果がある。ことのついでに私の研究室の現在及び将来の陣容を御紹介申上げておこう。小生、高岡君(この3月1日で満10年目になります。オバチャマ)、梅田君(横浜市立大・医学部卒・同学の病理に助手として2年間勤務の后、東大の大学院学生となり当室に常勤)、月岡君(昨春、新制高校を卒業した無口のお嬢ちゃん、もっぱら雑役をやってくれています)。それに国内留学生として古川君(東大小児科・大学院3年、白血病の細胞の培養を志していますので、平木内科のちゃらんぽらんな報告を検討し、もっと本当にしっかりしたデータを出してもらうために好適の人物です)、高井君(阪大・久留外科・大学院2年、古川君と共に本当に仲々しっかりした人物で日本の次の代を担ってくれると信頼できる人です)。それから外国からの留学生として印度Baroda大学・理学部生化学教室・大学院学生(博士課程)Chokshi君と、いま4月までですがChokshi君の研究室の教授Prof.C.V.Ramakrishnanが滞在中です。4月になると、現在東大医学部衛生看護学科の内川嬢が、農学部獣医学科の大学院学生の名を借りて(試験は先日パスしました)入ってきます。この方にはずっと組織培養をやる決心がついて居るようです。5月には東邦大学薬学部を4月に卒業の照屋君(沖縄県)が4月の国家試験を終えて入ってきます。生化学的定量などの方面を受持ってくれます。本当に良い人物、有望な人たちが入って来ますし、現在も居りますので、この一年間の活躍が我ながらたのしみでなりません。
【遠藤報告】
(1)塩類溶液の処方は間違っていませんか?
こういう失礼な設問をしたのは決して皆さんのお仕事についてではありませんから、まず怒らないで読んで下さい。
昨年中は雑誌「蛋白質・核酸・酵素」(共立出版)からやいのやいのとせっつかれ、とうとう"生化学領域の生物学的実験法"なる実験講座のトップを飾り(?)、"組織培養法"を執筆することになりました。というわけで正月も原稿に追われて過ごしたのですが、更めて塩類溶液の処方を調べてみて、あまりに成書に誤りが多いのに驚かされたのです。これは勝田さんの「組織培養法」のお手伝いをした時にも感じたのですが、自分の責任で別に表を作ってみて又々痛感させられたわけです。
例えば、
(1)"戦後の日本の組織培養研究者を大いに裨益した"という"Tissue
CultureTechnique"(G.Cammeron)では、Earle(1943)のNaH2PO4H2O・0.125・・・これは無水塩の値で、1水塩なら0.14である。
Buffered Saline SolutionというのにpHがはじめか違ったら困る。
SimmsX7のCaCl2(Anhydrous)・0.147・・・これは2水塩としての値である。lower
calcium contentを特徴とするSimms soln.がそれ程低カルシウムでなくなるのは大変困る。
(しかし、これらは組織培養法(勝田甫)では改められていますが、でも、HanksのCaCl2
0.20g/lは、現在殆ど0.14g/l(血清のイオン・カルシウム濃度5mgCa/dlと等しくするため)が用いられているので、改訂版ではそうした方がいいのではないでしょうか)
この他、処方の誤りではありませんが、higher
calcium content(血清の総カルシウム濃度10mg
Ca/dlと等しい。即ち現在一般に用いられているHanks等の倍量)を特徴とするGey(1936)は、引用文献のAm.J.Cancer
27 45(1936)の何処をみてもその処方がのっていないのです。これは他の人にも調べてもらったので私の見落としではありません。これはそんなことで勝田さんの表からは除かれたのだろうと思いますが、この「組成のGey's
BSSはDifcoから市販されており、御丁寧にもカタログの文献はやはり上記のものになっています。実はこの組成を私はずっと使っているので困っていたのですが、この処方が"Cell
and Tissue Culture"(J.Paul)に載っているのです。ところがGey(1945)となっているくだりで文献はありません。同書ではGey(1936)も収載しており、これはまさしく上記AM.J.Cancer
27 45(1936)で記載された処方になっております。どなたかGey(1945)の文献を御教え戴けませんでしょうか。
この"Cell and Tissue Culture"(J.Paul)は初版1959年ですが、すでに改訂版が1960年に出ているのを御存知でしょうか? 全く貧乏な研究者泣かせですが、随分内容の変った所や、全く新しい章もあり、確かに良くなっております。新版が1980円だったと思いますが、比較的安いので御求めになることをおすすめします。
(2)しかし、内容はユニークで面白いこのPaulの著でも、二三のTableは全くめちゃくちゃです。丁度今手許にこの本がないので明示できませんが、塩類溶液の組成にもCameron以上に誤りが多かったと記憶しています。又合成培地の表に至っては、Medium199のアミノ酸のdl体を用いたものがMedium858ではl体で半量になる筈なのに、全部同量の記載になっています。
只、Parker先生のために辨じておきますと、"Methods
of Tissue Culture"(1950)には全く誤りがありませんでした。尤も、収載された塩類溶液の種類は少ないのですが。
しかし、兎に角あのねれた内容からして、さしもとうなずかされました。
(2)CEEのGrowth-promoting activityに関する若干の知見
これまではchick embryo temurの培養に"Dynamic
medium"を使ってきました。これは、0日には9日のCEE、2日には11日のCEE、4日には13日のCEEというように(9日の鶏胚の場合)、培養組織のageに相応するageのCEEを使う方法です。これは9日のCEEだけを使うより良いことは前にみているのですが、初めから培養組織のageより高いageのCEEを通して使うことは試みていなかったので、大分古い話になりますが、"Dynamic
medium"と13日のCEEを通して使った場合を比較したことがあります。この時は、定量の結果、明らかに13日のCEEで初めから培養した方が骨形成はよくなっていました。(未発表)
そこで、CEEのossification-promoting activiyがembryoのageによってどのよう変化するかをみるために、9日のCEEを対照として10、11、12、13及び14日のCEEと比較してみました。勿論、馬血清はpoolして、この一連の実験には全部同じものを使いました。しかし、結果は11日にきれいなピークが出て、13、14日に至っては9日より遥かに劣っておりました。この結果は前の予試験と全く相容れないものです。結局最も違う実験条件といえば、血清の異なることで、亦々natural
biological fluidの固体差にいじめられる破目になりました。 時間がないので詳細は次号にでも書きたいと思います。
又、別個にCEEのUltrafiltrateの化学的分析を進めています。当然のことながら、Hyproを除くnaturally
occuring amino acidsはみなありそうです(しかし、Kirk一派のreport
ではtaurine,serine,glutamic acidしか記載していないのはどうしてでしょうか)。更に、これも当然のこと乍ら、nucleotide(nucleosideかもしれない)もかなりの濃度に含まれています。現在その同定を行っています。
《奥村報告》
年頭に際して(1961年)−
1960年は苦難の多い年でした。私共の教室にいた10人ほどの研究者が旧学位制度の期限が終るということで大混雑、そのアオリを受けて否応なく動きまわり、心身共に疲れ果てた次第です。確か昨年の年はじめに、私は「今年こそ自分の研究を計画通りに・・・」と決意し、スタートしたはずなのに、過ぎた一年をふり反ってみるとあまりにも淋しい心境です。昔の諺に「99里を半ばとす」というのがありますが、この論法から私の昨年の研究の進展を計算しますと計画の約35%をしたことになります。約1/3の目的しか達成することができなかった事になり、あとの2/3は今年に持ち越したことになるのです。そこで私は今年の年頭に際して考えた事は、今年は165%の仕事をしなければならないということです。大いに頑張るつもりです。
1961年の研究は昨年度の研究であった無蛋白培地と細胞の遺伝的性質との関係をひきつづき追究して、細胞の栄養要求と遺伝的性質の密接な関連性を明かにしたいと考えています。この命題を追うのに最も重要な事は正常細胞、腫瘍細胞のいづれにおいてもゲノム分析を可能にすることであります。しかし、このゲノム分析は今まで動物細胞において殆んど行われておらず、非常に難しい問題です。もしこの点を明確にすることが出来るならば組織培養において極く一般的にみられる染色体の変異性の問題もなかり解決されると思います。又癌細胞の変異における複雑さも単純化されてくるにちがいないのです。ともかく、今年は出来る限り努力に努力を重ねて種々の難問解決のために奮闘いたしたいと心算しておりますのでよろしく御教示下さい。
「現在はMonkey kidney細胞の2種培地(1.血清培地、2.無蛋白培地)によるPrimary
culture時のchromosome patternの分析を行っておりますがやはりserum
mediumの方がchromosome numberの変異が多くLやHeLa細胞でみられたのと同様な現象が得られております。来月の会議までにはかなりはっきりした事が言い得るようになると思います」
《伊藤報告》
総合研究班一年の集計の時期も迫って来ましたが、振返ってみると早いものです。
臨床医としての仕事をやりながらの研究で思うにまかせない事も多く、仕事の進行が全く遅々として居り、その範囲も狭くグループの皆様方の御報告をみる度に吾ながらいささか不甲斐なく思はれます。
又、連絡事項、月報の原稿等いつも遅れがちで勝田先生にはお叱りを戴く事の多い年度でしたが、何とか発表出来る成果を得られましたのは、勝田先生始め皆々様のお陰様と感謝致して居ります。
今年は少しは時間に余裕も出来ますので、変った方面の事(人癌の培養)等もやって見度いと思って居ます。又班員として班長を始め、他の方々に御迷惑をおかけする事の無い様、精々の努力を致す覚悟です。何卒次年度も宜敷くお願い申上げます。
《高野報告》
12月の癌学会の後の第2回報告会に出席出来ず残念でした。御一同にも御迷惑をおかけしたことと申しわけなく思っています。12月15日に父を亡くし、長男である立場から葬式に引続く後始末に追われて何も出来ませんでした。1960年は2月に部屋の火事騒ぎで4月迄機能停止。引き続いて引越しで落ち着かず正常にもどったのは6月以後でした。細胞株がナマのも凍結保存中のも大体無事だったのは不幸中の幸でした。Paper類が火災そのものより消防の"水害泥害"で大分やられ之は回収不能のままです。変な年といえば個人的には次男坊が眼の負傷に続いて虫垂炎で入院、前記父の死去とともに要するについていない年でした。1961年の訪れとともに公私ともどもスッキリと能率増進を期待していたら正月早々今度は長男が虫垂炎で手術、おまけに小生自身ヘバリだかハヤリカゼだか寝込む始末で余りよき新年でもなさ相。いやな事はまとめて済まし1961年は2月からのつもりで、これから張切ります。Transformation、resistancyとデリケイトな問題を中心に手不足、金不足をかこちながら、結局は余り変りばえしない自分のペースでとに角前進ということになるのでしょう。御一同の御健闘を祈りつつ雑感以下の雑文で御容赦願います。
P.S.わが研究室の名前が"癌室"から"細胞病理室"と変りました。理由はおよそお役所式形式的なもので、勿論小生の発案ではありません。看板が変っても中味は同じですからどうぞよろしく。尤も旧態依然では困りものでtransformation進捗のオマジナイと思って張切ることにします。重ねてどうぞよろしく。
《高木報告》
1961年の新春を迎え、身も心も新に研究へのスタートを切られた事と存じます。昨年以来科学研究費の整理その他でバタバタいたしましたが、どうやらひとかたついてホットした処です。今月のは報告にはなりませんが、昨年末の伝研の会合の時の追加などさせて頂きたいと思います。
1)培地中のRNAを測定する実験で、遠藤先生の・・・E260で測定すればRNAの分解した形のものでも塩基部分があればかかって来るのであるから、nativeのRNAを云々する場合にはこの様なやり方は意味がないのではないか・・・という御意見にについて、こちらに帰って測定法を検討した処、Shneiderの方法はNo.6005に記載した様に、PCA不溶のRNAを測定する事になり、分解した塩基部分は捨てる事になるので、この様な心配はないのではないか、つまりこの方法により測定したものは分解していないRNAのみと考えられますが如何でしょうか。
2)Bilirubinの培養細胞に対する影響をみた勝田先生の御仕事で、血清蛋白と結合する問題について・・・山岡教授に話してみました。・・・
Bilirubinは血清蛋白と結合しやすい。しかもAlbumine分劃とよく結合する。この結合にはpHの影響が大である。たとえばpH7.4と云った場合には、血清Albumineの等電点は6.4位であるから、これは(−)に荷電する事になり、またEstaerの形のBilirubinは(+)に荷電しているからくっつきやすくなる訳である。以上は山岡教授の話のうけうりですので、左様御承知下さい。
なお今月21日(土)に九州癌研究会なるものがございます。例のHydroxyprolinの演題とこれまでの細胞免疫学的研究のdataをまとめて2題出題しました。
【勝田班月報・6102】
《勝田報告》
細胞凍結保存制度
細胞株の保存のため凍結することは国内では予研・高野君をはじめ若干の人が手がけはじめていますが、1)どんな型の細胞にはどんな凍結保存法がよいか、2)保存により細胞株の性質が変らないか(淘汰)、3)最大或は最少どの位は保存できるか、などの基礎的なデータを早くしっかり出し、日本国内数ケ所に於て代表的な株と、国内でできた株すべては保存する、というような制度を早く作るべきではなかろうか。勿論これには国家的援助が必要であるが。これによって不時の事故で株が中絶することと、余り使わないときにもたえず維持して行かなくてはならぬという、合計すれば大変な量の労力を防ぐことができるのである。また同時に株を作るほうも、何でも良いから作るのではなく、何かちゃんと目的に沿うような株をつくるようにこれからは努力すべきではなかろうか。そして培養法が進歩して、どんな細胞でもすぐ培養できるようになれば、特殊に変異した株のほかは保存の要もなくなるであろうが、それはいつのことか判らぬので、致方のないことである。
A)パラビオーゼ細胞培養(Parabiotic Cell
Culture)について
今月は培養法を中心にかきましょう(試験管の図を呈示)。まず培養管ですが、1ml目盛のついた短試2本を細い硝子管が連結しています。初めは横にまっすぐつないでみたのですが、そうすると管を立てたとき液がその細い管のなかに入って行ってくれません。こんな形になるまでにずい分色々やってみました。Control群のためには夫々1本立ちの短試を同質の硝子管で作っておきます。液量ははじめは1.5mlのつもりでしたが、それだと細い管に液が入ると元管の方の液がすっかり少くなってしまうので2.0mlにしました。勿論Controlの方も2mlです。これで左右の管に夫々別の細胞を入れておいて、一晩位は未だ液が交通しない程度の傾斜でincubateし、細胞を硝子管の底に附着させてしまいます。それから初めてゆっくり管を寝かし、細い管の中まで液が入って、左右管の液が相通ずるようにします。以后はずっとこの状態で培養するわけです。数をかぞえるときも左右別々にクエン酸液を入れて別々にかぞえますが、この型(TWIN-D1)の欠点として遠沈管に入らないので、クエン酸液を入れたあと、1晩放置して細胞を自然沈着させなくてはなりません。そのためか、少し1本1本の核数の間のばらつきが少し大きい嫌いがあります。そこで遠沈もできるように改良したTWIN-D2や、間の連結管にMiliporefilterやcellophaneを挟むことのできるTWIN-D3型も発註してあります。こういう高級の細工は高島商店です。管を立てておく支持台は光研社です。次にJTC-4D株とHeLaとのpara-Cultureの結果をお目にかけましょう(表を呈示)。Para-Cultureすると、JTC-4Dの増殖は抑えられ、HeLaのは促進されています。 B)L原株とL・P4亜株との増殖に対するナイアシン及びその誘導体の影響
これは例のBarodaのProf.C.V.Ramakrishnan、Mr.H.R.Chokshi等と共同で始めた仕事ですが、合成培地DM-120を使い、Nicotinamideの代りにNicotinic
acidやその他の誘導体を用い、それらの間及び両株での間の、増殖の比較、DPNの合成、糖消費、乳酸産生、培地中のアミノ酸の変化、細胞の形態の変化などを見ようとする仕事です。いまL株について始めていますが、1週間LをDM-120で増殖させ(母培養、この間はよく増えます)、それから次の1週間に各種培地に移して実験するわけです。
C)L・P4細胞のアミノ酸要求
アミノ酸19種を含有する合成培地DM-120(全組成で37種)では、少くとも1週間はL、L・P1、L・P2、L・P3、L・P4は何れも旺盛に増殖する。しかしこれよりもアミノ酸6種を少くしたDM-114ではL・P1とL・P3は7日間増殖を続けられるが、他はできない。両培地の相違はアミノ酸6種だけである。殊にL・P4は細胞数が顕著に減少して行くので、L・P1とはアミノ酸要求に於て相違のあることがはっきりしている。そこで今年に入ってからL・P4のアミノ酸要求を順次しらべ、L・P1と比較をしているが、現在までに判った結果は次の通りである。
Phenylalanine:DM-120には80mg/l入っているがDM-114に入っていない。つまり少なくとも1週間の試験では入れなくとも入れたのを同じように増殖(L・P1)したのである。ところがL・P4でも入れない方がむしろ良く、0の群で7日間に5.5倍、80mg/lの群で3.2倍の増殖である。 Tyrosine:DM-120には50mg/l、DM-114は0である。これもL・P1では入れない方が良かったのである。しかしL・P4の場合は0だと7日間に4.5倍なのに対し、50mg/l入れた群では最高で6.3倍の増殖である。これがL・P1とL・P4のアミノ酸要求の相違の一つであろう。
Asparatic acid:DM-120には25mg/l、DM-114は0である。4日迄の成績によると、この場合もL・P4はL・P1と同様に0の方がよく、4日間で6.3倍であるのに対し、25mg/l入れると5.1倍となっている。7日后の成績でも同様、0の方が6.6倍、25mg/lが5.6倍となっている。この4日目から7日目にかけての増殖の悪さは、どうもfibroblastsの核計算用の振盪器と同じ恒温器に入れているため、最近実習をやっている連中が大ぜいfibroblastsの培養のcourseに入ったので、どうもその影響もあるらしい。
なおこれに関連したことであるが、アミノ酸要求をしらべるためには各アミノ酸を夫々別個に溶いて(いわゆる耐熱性のものは粉末でAutoclaveしてから)いるが、このmixtureと、全部溶いてからglass
filterで濾過滅菌したものと比べると、どうも后者の方が増殖が良い。そこで今后はmilipore
filterの小さいのを作って、それで全部これで滅菌するようにしたいと思い、準備をすすめている。その径は、TWIN-D3と同一径になるように12mmにする予定である。これができると、アミノ酸だけでなく、少量の貴重な薬品の濾過滅菌に使えて大変便利であろう。
《高野報告》
A)Ehrlich腹水細胞エキス添加培養液でのL細胞の継代
この実験を開始してから約4ケ月継代12代に達した。位相差顕微鏡及び染色標本による観察では、エキス添加群の細胞は細長い突起を示すものが多く、単核乃至多核巨細胞の頻度が大きい様である。核の形大きさ染色体等には無添加群と余り明らかな差異は認められない。
dd/Yマウスへの復元を皮下及び腹腔内接種によって屡々行っているが現在迄に確実な陽性例は得られていない。
現在の段階での変化が単に一時的な形態上のみのものか否か見当をつける為に、2.5%エキス添加継代したものを無添加培地にもどすと、上記の変化が消失するかどうか、抗L細胞血清による障害程度に差がないか、増殖曲線の比較、γ線照射に対する態度の比較等、種々の観点から調べてみる。
もしこの変化が不可逆なものであれば動物への復元は陰性でも、やがて陽性となる過程の一段階としての意義を担うものと考え度い。
更に奥村氏に依頼して添加群と原株との核学的所見をも比較して見度い。一応不可逆な変化の段階に達すれば現在一方で進行中のγ耐性HeLa株の所見と合せて面白い方向に伸ばせると考える。
B)細胞材料での免疫抗血清の調製
HeLa、L、JTC-6の細胞浮遊液及び核浮遊液での家兎の免疫は大体1週1回の頻度で(200〜300万個/head)大半が10回に達したので、一部採血し、それぞれの細胞株に対する障害度をしらべたが、どの群も抗体産生が充分でなく24時間後に僅かの比率の細胞が障害をうける程度なので更に免疫を続けることにした。従来の抗原接種は耳静脈内のみを用いたが、以後は皮下接種をも併用して効率をあげる。更にAdjuvant利用も試る予定で準備中。
C)JTC-6よりのclone formation
EDTA処理に駲化したJTC-6から2系のcolonial
cloneをとったが、最近になってその中の一株が形態的に他と相異をみせ始めた。以前に記した様に、この原株は少くとも2種類或いはそれ以上の細胞から成り、長期継代後も混在の状態なので純化の必要を感じて、clone
formationを行ったわけであるが、上記の1系は殆んどの細胞が細長い形で核も比較的小さく細胞相互の膠着性が低く、非規則な配列を示して増殖する点、fibroblasticな傾向が強い。更に純化が進んだ後、増殖度その他の性状を他の1系及び原株と比較する。
D)脳下垂体前葉細胞の培養
何しろ小さな臓器なので、40〜50匹のラッテから多くて1000万個位の細胞を集めるのが関の山。而も自家融解を起し易くTrypsinの作用がかかり過ぎると忽ち生細胞数が減ってしまう。Trypsin処理(0.1%、37℃、5分)は3回位に止め、clot状になる細胞塊をCa-Mg-free塩類液中で根気よくpipettingでほぐすのが最も効率がよいらしい。
7〜10日培養して増殖が旺盛になったところへラッテの間脳エキスを添加、その後経時的に培養液中のgonadotropin活性を幼弱マウスで生物学的に検定し、間脳−下垂体間の直接関係を証明しようというわけ。初代で陽性のdataを積みつつあるが、2代目への継代がなかなかうまく行かないので定量的な実験は未だ出来ないでいる。
《奥村報告》
A.サルの染色体−サルの染色体数については2つの説がある。1つはPainterの48本説(1924)、他の1つは牧野佐二郎の50本説(1952)である。しかし、性決定型はXY型ということで両者の報告は一致している。これらの報告は組織培養によるものでなく、切片標本などによる判定で、今考えてみるに相当誤差の多い結果と想像される。人間の染色体数も組織培養を用いてしらべた結果、48本や47本でなく、46本である事が明かとなった様に、サルの細胞についても当然この様なことが有り得ると思う。私も伝研で培養を試みられているサルの腎臓細胞を材料にして現在まで十数回samplingし検討しているが、49本の染色体をもった細胞が最も多い結果が得られている。しかし細胞群の中には48本の細胞、50本の細胞、それに他の数の細胞も比較的多く混在していて仲々数決定はむづかしいが、今后核型分析を行っていくうちに次第に染色体型が明確になると思います。重要な問題だけに慎重を要します。
B.サル腎臓細胞の染色体−サルの染色体を決定する場合には体内の数ケ所から細胞をとってしらべるのが望ましいのですが、今は腎細胞のみについて検討中です。現在、伝研ではサル腎細胞のPrimary
cultureを血清培地と無蛋白培地の2種で行っていますので、私はこの両者からsamplingしてchromosome
numberのdistributionにどの様な差がみられるかを分析中ですが、現在までの結果ではL株細胞の無蛋白培地駲化時にみられたような現象がみられます。つまり、血清培地の場合には非常にバラツキが大きく、培養開始后1週間目で4倍体及びその近辺の細胞が相当数出現し、又heteroploidyがみられますが、無蛋白培地で培養するとバラツキが少なく相当期間(未だ不明)正常数(2n)をもつ細胞が現れています。ただ現在のところ、無蛋白培地での培養では非常にmitosisが少く、従ってはっきりと結論を言う事が出来ませんが、大変面白い現象です。
C.WL細胞の染色体(予研高野先生と共同)−予研ではWL細胞からいくつかのcloneを作っています。と云いますのは現在のWL細胞の染色体分布をみますと、高2倍体、3倍体、4倍体など種々の型の細胞がみられますので、何とか種々のcloneを作り染色体型の分離を試みているのです。その結果、今までに約3倍体と約4倍体の2つのclone
formationが成功してします。他の型のcloneも是非作りたいところです。
《高木報告》
1)RNAの培養細胞に及ぼす影響
前報の如く、培地(PVP+LYT)中のRNAは、細胞が存在する場合には急激に分解することが分った。従ってRNAを長期間培養細胞に作用させて、それの及ぼす影響を観察する場合には可成り屡回にredosingしなければならない。
先に行ったMY肉腫よりのRNAをマウス繊維芽細胞のprimary
cultureに作用させた実験では、3回redosingを行った丈で1ケ月間観察した訳であるが、これではRNAはほんの短時間しか作用していないことになる。
そこで今度は一応株細胞を使用して、これに3日目毎にRNAを作用させ、長期間にわたりその変化をみたいと思っている。
RNAをAH-130腹水肝癌細胞から抽出したもので、その原液は5000μg/mlであった。これを培養2日後のJTC-4細胞の培地(PVP+LYT)中に100μg/mlの濃度で入れ、以後3日目毎に同一濃度のRNAをredosingしつつ培養続行中である。対照として、実験群と同じ日に培養した細胞で、同様にPVP+LYTのみで交換しているものをおいている。今回は、対照とくらべてRNAを作用させた細胞の復元性の変化を主体として検討して行きたいと思っている。
2)免疫に関する研究
HeLa、L、JTC-4、-6細胞の間に種属特異性がみられる事が、immunocytopathogenic
effect及び蛍光抗体法により一応明らかになったが、これらについて更に再検討中である。
先達って上京の際に抗JTC-4細胞血清をWistarラッテの心臓の凍結切片に作用させて、これのどの部分に抗血清がつくか観察する積りであったが切片が厚すぎて不成功に終った。やはりクリオスタットを使用しなければ駄目の様で之により更に薄い切片を作って検討したい。抗血清はラッテ肝、腎のaceton
powderで吸収したものを使用する予定である。また腹水肝癌細胞とJTC-4細胞等の抗原性の違いを追求すべくこの細胞の免疫を準備中である。
これまで、諸種細胞で免疫する場合に、それら細胞をそのまま家兎に注射して抗血清をつくって来たが、今後特に細胞の臓器特異性などを検討する際には、細胞からのRNPなどを抗原とした免疫法も考えねばならないと思う。
3)JTC-4細胞の無蛋白培地による培養
培地中の牛血清の濃度を次第に落し始めてから約3ケ月で0.1%BS+PVP+LYT培地で培養可能になったが、昨年末、この培地では増殖がきわめて悪くなった。そこで一度2%BS+LYT培地にもどし、再び牛血清濃度を落して0.5%BS+PVP+LYTで植つぎ、現在はこの培地で2日間丈培養してあとはPVP+LYT培地で交換している。まだprotein
freeとまでは行かない。 4)その他
制癌剤(ナイトロミン、クロモマイシン)耐性HeLa細胞の実験はなお続行中で、一代の培養期間中薬剤を3〜4日ずつ作用させて培養を続けている。またJTC-4細胞の諸種ウィルスに対する感受性をみるべく、目下日本脳炎ウィルス(G1)について検討中である。
【勝田班月報・6103】
《勝田報告》
組織培養内発癌実験について
我々の研究組織もようやく1年たってどうやらやっと準備態勢が整ったというところである。そこで先般コピーをお渡ししたように昭和36年度でははっきり標記の題目を研究計画の中にかき出した次第である。その具体的実行プランをそろそろ考えておかなくてはならない時期になってきたが、現在の各研究員の態勢からみると、まず癌化しない株、或は培養法を考えて試みているのが伝研の勝田一黨で、既存の株細胞に腫瘍細胞のcrudeの浸出液を与えて腫瘍化をしらべているのが予研・高野君、核酸分劃を与えているのが九大の高木君、というところで、あとは"できあがったら"と手ぐすねをひいている連中らしい。
伝研でのこれまでのサル腎臓細胞のPVP培地継代培養実験の結果では、まずこれで一応は行けると踏めた。あとは復元接種の容易な動物、たとえばラッテの細胞をこの方法で培養することである。しかしこれがサルのようにすぐうまく行かないので目下のところ何かコツがあるらしいとしらべているところであるが、とにかくどんな細胞を使うか、という問題がある。これはそのあと、どんな発癌剤を使うか、ということと密接な関係がある。
[細胞] [発癌剤] [癌化の確認及び変化の追求]
上皮性→ 腫瘍細胞分劃(高野・高木)→復元接種(各人)
非上皮性→薬剤→(勝田) 形態学的及生化学的検索
(奥村) (遠藤及掘川)
まだはっきり夫々を線でむすぶことはできないが、この上の表のような態勢になってきた。このことを意識して、もう一回自分のやりたいことと分担を次号で卒直にかいて頂きたいものである。伝研でねらっているのは、細胞数種であるが、特に次のものである。
乳腺及子宮内膜など → 性ホルモン
肝細胞、センイ芽細胞 → 薬剤(4ニトロキノリン及びDAB)
現在のところでは、大体6月頃から手をつけはじめたいと思っている。
このほか是非誰かにやってもらいたい一つとして異種移植の問題がある。これから先、我々として当然人癌の培養に入って行く以上、この極め手がもっと進歩してくれないと困るわけである。正常組織を移植したらどうなるか、腫瘍の場合と量的な相違しか示さないかどうか、という問題もある。他の人のやったデータではどうも矢張りマユツバで、一応は我々自身の手でやってみておきたいところである。誰か志願者はありませんか。
A)PVPについて
PVPを使った無蛋白培地の我々の仕事が米国の連中には大分気になっているらしいことが最近判ってきた。最新号のJ.Nat.Cancer
Inst.,Vol.26.No.1,1961を見ると、まずp.229にHueper,W.C.:"Bioassay
on polyvinylpyrrolidones with limited molecular
weight range"とあり、PVPがratの腹腔に入れると、その臓器内に残るが、rabbitの場合には残らないと云い、PVPの癌原性を云々している。しかしそのdataをみると、きわめて大量のPVPを接種しているにも拘らず、接種しない対照群と発癌率は略同じなのである。この著者はNIHのEnvironmental
Sectionの人で、おそらくEarleらに云われてやった仕事と思われる。というのは、そのすぐ次の論文がBryant,J.C.,Evans,V.J.,Schilling,E.L.
& Earle,W.R.:Effect of chemically defined
medium NCTC 109 supplemented with methocel
and of silicone coating the flasks on strain
2071 cells in suspension culture.P.239で、我々のPVPの仕事を引用し「彼等のはPVPの無蛋白といってもlactalbumin
hydrolysateを使ってあって合成培地ではない、それに静置培養だ」
などと2回もくりかえして強調している。このごろの合成培地の仕事をどんな気持でよんでいることであろう。それにpolypeptidesというものは、化学的研究にはまことに不向きであるが、virus
vaccineの製造の面から見ると、蛋白とは全然ちがったもので、抗体を作らないから絶対に有利なのである。次号ぐらいにまた何か出るのではないかとたのしみにしている。なお、ついでながら、かの頑固オヤジJohn
Paulも、彼の著書の第2版についに我々の仕事を2.3引用した。またこれもついでであるが、Parkerがこの5月第3版を出すらしいことをかきそえておく。
B)Parabiotic Cell Cultureについて
現在までに約6実験すんでいるが仲々面白い結果が出ている。その結果をお目にかけるが、これらはすべて前号に図示したTWIN-D1型のtubeを用いた。今週中にはTWIN-D3ができる予定なので、その実験もやって行くつもりであるが、TD型でこりているので、こんどはpatentをとっておくつもりである。D3のtubeは左右がばらばらになるtubeで、連結部AとBの箇所で左右の管が離れるようになっている。普通の培養のときはここにMiliporefilterを挟んで培養すると、液は交流するが細胞はしない。高分子の移動やウィルスを止めたいときはcellophan
membraneを使えば良い。このTWIN-D3は10rphのroller
tubeのドラムに挟して培養する。ゆっくり回転するから液の交流に適しているわけである(図を呈示)。
次にTWIN-D1で静置培養の結果をお目にかける。この細胞相互のresponseを何か旨い表わし方がないものか思案している次第で、一応7日后の細胞数をinoculumで割った数を7日間の増加倍数とし、双子管内での増殖倍数を単管内での増殖倍数で割って=InterferenceRatis(IR)と仮名した。7日后の結果を比較するときはIR7となるわけである。
つまりIRの数値が1のときは干渉を受けなかったことを示し、1以上のときは促進、1以下のときは増殖抑制を受けたことになる。何とか計算も簡単でしかも結果の判り易いあらわし方がないものか、考えた末がこれなのですが、数学の御得意の方も居られましょうし、是非御知恵を拝借したい次第です。
結果をみると(表を呈示)、JTC-1:JTC-2のとき両方とも抑制されているのは面白いでしょう。その他にも同様のものがありますが。
《遠藤報告》
(1)鶏胚の日齢とその浸出液の生長促進活性
培養組織 9日鶏胚大腿骨
培地 CEE:HS:GS(1:5:4);隔日培地交換
実験条件 鶏胚の左右大腿骨を対照群と実験群に分けるpair-mate
cultureで、対照群には6日間の培養中すべて9-day
CEEを用い、実験群には10-day〜14dayCEEを用いて、それぞれ9-day
CEEと比較した。
測定 長軸生長、乾燥重量、無機燐、ハイドロキシプロリン
結果 (対照に対する百分率の平均を表で呈示)。乾燥重量は全群対照よりやや良好で14日が最高無機燐は11日が最高で10、12日は対照を上回るが13、14日は60〜70%。ハイドロキシプロリンは11日のみ対照より良く他は90%。長軸生長は10-day〜14-dayCEEのいずれも9-dayCEEとの間に有意差なし。
考察:無機燐酸、即ち石灰化の程度から考えると、11日にピークがあるように思われます。しかし、本来日齢が進むと活性が落ちるのか、あるいは13、14日位になりますと脂肪が非常に多くなってきますから、これらが活性の発現を阻害しているのか、その辺はまださだかでありません。それでも、兎に角、この実験の範囲内では11日が最も活性が高いことは確かのようです。
これからすると、今まで9日鶏胚大腿骨の培養に用いてきたdynamic
medium(Startは9-CEE、第一回feedingは11-CEE、第二回feedingが13-CEE)と、13-CEEで初めから培養した場合を比較したら、当然Dynamic
mediumの方が良いはずです。ところが、以前の実験で(Dynamicmediumに対する13-CEEの百分率の平均で)、CEE:HS:GS(1:2:7)培地では乾燥重量101.6%、無機燐116.4%、ハイドロキシプロリン112.6%に対して、(1:5:4)培地は乾燥重量106.4%、無機燐108.8%、ハイドロキシプロリン114.7%の結果が得られているのです。全く相容れないデータになるわけで、前号で述べたように血清の差によるとしか考えられないような気がしています。如何でしょうか?
(2)鶏胚浸出液限外濾過の分析、についても書くつもりだったのですが、何分にも忙しいので(教育機関ですので研究機関委譲でしょうか?)又次号に日延べさせていただきます。
《高野報告》
A)細胞株の凍結保存
昨年一杯のdataをまとめてpaperにしました(予研のJ.J.M.S.B.に投稿)。HeLaは約2年、他の人由来は1年、JTC-6、Lは5ケ月保存可能の現状です。方法論的には一応標準化が出来た形ですが、細胞の生理活性に関し細い点で種々の問題を含み、今後もう少し検討する必要があります。例えば長期間保存中、生細胞の回収率が始めの数ケ月は低く後半にむしろ高くなったり、-79℃に保存後-20℃に移すと(凍結したまま)活性がなくなったりする事実から推して、細胞の生物学的活性が最終的単位迄、凍結休止するのに存外時間がかかるのではないかと考えられます。又凍結によって起りうる変化(選択をも含み)についても、検討の要があります。Chromosomeを比較してみる事も一方法です。凍結時の液中に血清とglycerolの必要な事は明らかですが、nutritionalな意義は恐らくないものと思われるので、延び延びになっていたPVPの利用を実施します。
B)Ehrlich細胞エキス添加L細胞
Transformationが完全に起ったとは言い切れない段階ですが、形態的変化はエキスを抜いても直ぐには復旧せず、或る程度迄進行したものではないかと考えます。目下増殖様式と放射線感受性を原株と比較しつつあります。
C)脳下垂体前葉細胞の培養
継代培養がやっと4代目に達し上皮性と思われる細胞が増殖中ですが、継代後のlagが大きく定量的実験を行いうる段階には達していません。初代培養初期材料での実験では間脳エキスを添加して培養した上清を幼弱マウスに接種して子宮重量増加及び充血度その他の所見を基準に無処置と比較すると有意の差で影響が認められ、一方大脳皮質エキスにはこの作用がないところから前葉のgonadotropin産生を刺戟する物質が間脳中に存在することを一応示したものと解します。2〜3週経過した培養でも同様にしてgonadotropin作用の復活が認められます。但しその量が文句なしに高い値を示すところ迄行かないので、目下間脳エキス添加培養上清をpoolして、それからの抽出濃縮を試みています。
《奥村報告》
A.無蛋白培地継代細胞の染色体(L及びHeLa細胞)
今までは血清培地継代から無蛋白培地に移して染色体の動向を分析してきたのであるが、その結果によると、無蛋白培地継代で最もよい増殖を示すと思われる細胞のchromosomal
patternは血清培地継代でpredominantの細胞のchromosomal
patternよりも染色体数が減少していることが明瞭である。そして、この様な現象はいかなる機構によるものかは非常に興味深いところである。
以上の現象を解明する一方法として、度々討議されている実験、即ち無蛋白培地継代細胞を血清培地に戻してchromosomal
patternがどの様になるか大いに期待しています。
B.サル腎細胞の染色体
サル腎細胞の血清培地及び無蛋白培地における培養で染色体数がどの様な変異を示すかは2月のウィルス班会議のときに報告した程度以上に仕事が進展していません。ただ現在は無蛋白培地での培養細胞が非常にmitosisが少ないため、何んとかしてmitosisをたくさん得る方法を考案中です。私が考えるにprotein-freeで培養される細胞は細胞の変異度が小さいだけに血清培地継代時よりも相当synchronous
divisionがあるように推察されるので、最も細胞増殖のよい時期を見出して、その時期を一定時間間隔でsamplingしてみたいと考えています。
C.UV耐性細胞の遺伝的変異
2日のウィルス会議で耐性細胞のchromosome
numberの分布が倍数性に変化する傾向があることを報告しましたが、極く最近のsamplingでは倍数性分離の傾向が減少して再び耐性獲得前の分布に戻しつつあるようです。この興味深い現象については今後詳細に追究したいと思っています。
《高木報告》
1.RNAに関する研究
AH-130腹水肝癌及び正常ラッテ肝よりRNAを調整し、実験を続行中である。DNAの調整法も検討している。
2.免疫に関する研究
班会議の際に報告した様に、JTC-4、-6、L及びHeLaの細胞の間には種属特異性がうかがわれる様であった。
そこで次にJTC-4細胞がラッテ心臓の如何なる部分に由来するかを確かめる意味で、ラッテ心臓の凍結切片に抗JTC-4細胞血清を作用させてみた。即ちcryostatと用いてラッテ心臓の凍結切片を作り(応微研の御好意による)、乾燥後これをメタノール、或いはアセトンで固定し、これにラッテの肝及び腎のaceton
powderで吸収した抗JTC-4細胞血清、抗ラッテ心臓血清ならびに抗HeLa細胞血清を作用させて、間接法により染めてみた。なお対照として、これら家兎の免疫開始前の血清をかけたものと、血清をかけないで蛍光色素をconjugateした抗家兎γglobulin山羊血清のみで染めたものをおいた。
しかしながら結果は失敗で、これら抗血清をかけたものは、いずれもすべて組織全般が染っており、間質組織に蛍光が強く、筋組織に弱い様に思われ、また対照の免疫開始前の家兎血清の非特異的反応によるものか、いずれにせよこれらの点を今後充分に吟味しなければならない。
3.その他の研究
1)protein free mediaによる培養のこころみとして、細胞を依然として、0.1〜0.5%+PVP+LYTの培地で始めの2日間丈培養して継代をつづけているが、最近は始めからPVP+LYTで植ついでも2〜3日は細胞が試験管壁にくっつく様になった。
2)先にJTC-4細胞のPoliovirusに対する感受性を調べてみたが、日本脳炎ウィルスに対する感受性も検討している。即ち培養2日目の細胞の培地をPVP+LYTで交換し、この9容に脳炎ウィルス1容を入れてみた。ウィルスとしては予研から分与をうけた日本脳炎ウィルスG1株を用い、これをマウスの脳内に接種して4日後、発症したマウスの脳を2〜3ケ集めて乳鉢ですりつぶし、脳1ケあたり3mlの生理的食塩水を加えて乳剤とし、これの2000rpm20分遠沈した上清を培養に入れた。
titeringは未だ行っていないが、培養に入れた後は培地を交換せず、1、3、5及び7日目に5本ずつの培地をpoolして2000rpm・10分間遠沈し、その上清を0.04mlずつ5疋のマウスの脳内に接種して、培地中のウィルスの有無を調べてみた。その結果、少くとも7日目まではウィルスは培地中に存在しており、接種したマウスは5〜6日までにはすべて死亡した。
8日目に2代目の培養に継代して、以後4日毎に継代する予定であるが、2代目即ちウィルスを培養に入れて12日目の培地にもウィルスは証明された。
対照として培地丈の中にウィルスを入れたものも同様にマウスの脳内に接種してみたが、これでは3日以後接種したマウスは1疋も死亡せず、ウィルスのtiterは急速におちることを示した。なおこれまでの処CPはみられない様である。
以上の予備実験により、JTC-4細胞は対照と比較した場合、日本脳炎ウィルスに対して或程度の感受性を有することが示唆された様である。更に検討中である。
【勝田班月報:6104】
《勝田報告》
A)Parabiotic Cell Cultureについて
前報で報告したデータの他に若干の知見を加え、4月1日の病理学会総会で発表しました。そのあと大急ぎでこれを2篇に分けて論文をまとめ、Japan.J.Exp.Med.の6月下旬発行号に入れました。嘗てreplicate
cultureでEarle等にタッチの差で先じられましたので、こんどは最もやりそうな相手としてEagleがマークされますが、それにやられないように超特急で論文にしたわけです。これらは何れもTWIN-D1型の培養管を使った静置培養法のデータです。というのはTWIN-D3の量産が仲々間に合わなかったからですが、最近どうやら揃ってきましたのでこれから回転培養の方もはじめます。
前号でHeLaとLとのIR7(7日后のinteraction
ratio)は、HeLa:L=0.8:1.0となって居りましたが、これらからの無蛋白培地継代亜株各1種宛で比較すると、HeLa・P2:L・P1=0.8:1.0となり、上と略似た結果となりました。次にLとHeLaを夫々同じ細胞同志で組合わせてしらべて見ますと、L:L=1.2:1.2、HeLa:HeLa=1.0:1.0となり、HeLaではsingle
tubeでも
twin tubeでも殆んど同じ増殖を示すが、Lではtwinの方が若干増殖が良くなることが判りました。これはいわゆるinoculum
sizeの問題とすぐ片附けることは難しい。何となれば、細胞1ケ当りの液量はsingle
tubeでもtwin tubeでも同じだからである。これが生物学の面白いところでしょうね。何かenvironmentを良くする、それが全く同じenvironmentがとなりにあることに依って促進されるわけで、まさに1+1=2ではなく、それ以上になってしまうわけです。
次に同じ細胞の組合せで、Twin-D1(静置)とTwin-D3(回転)を比較してみました。細胞はこれまで組合わせてみなかったJTC-1とLです。その結果は(表を呈示)大体似たような結果が得られました。つまりTwin-D1でも、Twin-D3でも、JTC-1の方が増殖を強く抑えられ、Lもどちらの培養法でも若干抑制されるわけです。同じ位の比率になってくれればこちらの註文に合いすぎるのですが、やはりそうは行かないのがこれまた生物学の面白いところでしょう。やはり回転することのeffectが差を大きくするのにひびいてくるのかも知れません。この仕事は今度の組織培養学会に出す予定ですので、せっせと材料を目下ふやしているところです。とにかく相当量データがたまらないと、何とも体系立てた仮説を述べることすら危険だと思われます。
B)L及びHeLaの亜株の栄養要求
アミノ酸要求については現在L・P4細胞について各アミノ酸とも2週間宛の実験で必須性と至適濃度を求めているが、その中間報告は今号では省略する。とにかくL・P1とはかなり異なった結果の出ていることをかき添えておく。
これまでLの亜株はL・P1からL・P4までの4種類であったが、最近L・P4からさらにL・P5と云う亜株を分けた。L・P4はラクトアルブミン水解物と塩類溶液だけで継代している亜株であるが、これを合成培地DM-120に移すと非常によく増殖する。ところがDM-120からビタミンの1種であるNicotinamideを除いても或程度よく増殖する(1週間に6倍位)ので、この一部をとってNiacin-freeのDM-120に入れて継代をはじめた。今度の3月24日から、週に略1回宛継代しているが、大体7日間に約5倍の増殖で、増殖率は低いが安定しているので永続きすると思われる。これをL・P5と名付けているが、NicotinamideもNicotinic
acidも含まない合成培地でどうやってDPN合成をやっているか、或はtryptophan→Nicotinic
acid→
Nicotinamideのcourseがあるのかも知れないが、簡単には何とか云えない問題である。
HeLaはこれまでHeLa・P1→HeLa・P4の4亜株があり、HeLa・P4はL・P4と同じ培地で継代している亜株だが、これからこんど一部をとって合成培地DM-120で継代の系を作りHeLa・P5と名付けた。始めたのは2月28日であるが、増殖率はまだ低い。しかしこの系も続くと思われる。 C)新細胞株の樹立
当研究室ではこれまで何とかして馬細胞の株を作ろうとして努力してきたが、4年目になってようやくその成果をあげることができた。まず高岡君は馬胎児腎臓から2株作った。その第1HsK-1(仮称、以下同じ)は1960-11-30より、第2のHsK-2は12月10日より継代している。7日間に3〜4倍の増殖であるが、きわめて安定した増殖を示している。この2系の特徴は、継代の際にトリプシンもEDTAも一切用いず、ただpipetingで剥して継代していることである。次に梅田君が馬胎児肝臓から3系作った。正確に云えば2株と1亜株である。HsLv-1はどうも内被細胞系らしい。Lv-2AとLv-2Bは実質細胞系かと思われる。増殖率はHsLv-1の場合は7日間に約13倍である。培養開始は1960-9-27、1969-10-7(HsLv-2A及び2B)である。ところがこれらに馬の伝染性貧血症の罹患馬の血清をごく少量2日間だけ加えてみると、健康馬血清を加えた場合には変化が見られぬのに対し、3〜5週間目になって上記のHsLv-2A、HsLv-2Bの2系だけは細胞病変があらわれてくるのである。そして前者では核内の空胞、后者では著明な巨細胞の形成と細胞質の空胞変性があらわれる。この他にラッテの腎臓と家兎の肝(実質細胞らしい)からも梅田君が株を夫々1ケ宛作った。
《遠藤報告》
(1)鶏胚浸出液低分子成分および高分子成分の生長促進活性
試料の調製
1)低分子成分(限外濾液):(図を呈示)図のような装置で、12日鶏胚の浸出液から限外濾液(Ultrafiltrate)を調製した(CEE-UF)。これをメンブランフィルターで濾過滅菌し、凍結して保存した。
2)高分子成分(透析内液):12日鶏胚浸出液を48時間4℃で透析した。透析は透膜性物質の流出を速めるため7〜9%のPVP溶液に対して行った。膜内液をとり出し凍結して保存した(CEE-R)。
培養
1)培養組織:9日鶏胚大腿骨
2)培地:Control group・・・CEE:HS:GS(1:5:4)
Exptl. group ・・・HS:GS(5:5)
CEE-UF:HS:GS(1:5:4)
CEE-R:HS:GS(1:5:4)
CEE-UF:CEE-R:HS:GS(1:1:5:3)
*Hs:馬血清、GS:Gey氏塩類溶液
3)培養条件:9日鶏胚の両大腿骨を対照群と実験群に分け、上記の培地で38℃6日間培養した(無血漿回転培養法)。培地は隔日に交換した。
4)測定:長軸生長、乾燥重量、無機燐、ハイドロキシプロリン。
5)組織学的検査:Mayer's H-E、Kossa。
結果
1)長軸生長:実験群はいずれも対照に比べ僅かに伸びが悪い。
2)乾燥重量および無機燐(図を呈示)。いずれも対照より劣る。
3)ハイドロキシプロリン:まだ計算が終っておりませんが、傾向は上と同様のようです。 4)組織学的検査:HS単独、およびこれにCEE-UFあるいはCEE-Rを加えた培地では、骨膜が極めて薄くosteogenic
cellは殆ど認められない。これに対し、CEE-UFとCEE-Rの両者を加えた群では、骨膜の像は対照群に近く、osteogenic
cellが認められる。
考察
HSにCEE-UFあるいはCEE-Rを加えると、いずれの場合も骨の生長がよくなる。したがって、いずれにも生長促進活性があることは確かであるが、CEE-Rの調製法には多くの問題点があり、さらに良いpreparationを使えばもっと生長は促進されると思われる。しかし、それにもかかわらず、両者をHSに加えると、いずれか単独に添加した場合よりさらに生長はよくなっている。即ち或る程度のsynergismが認められるわけで、これは骨膜については組織学的にも認められる。しかし、このreconstituted
mediumでもintact CEEにははるかに及ばない。これはやはりCEE-Rに原因があるように思われる。
以上はなはだ定性的な話であるが、これらは全く予試験的なものであり、今後検討を進めたい。
(2)CEE-UFの定性分析
これもまだ予試験のしかも途中ですが、次の物が確認されました。
1)アミノ酸:His,Arg,Try,Met,CySH and/or
Cys,Glu,Gly,Ser,Ala,Asp,Thr,Pro,Leu,(Val),(Lys)。
2)Purine、Pyrimidineの誘導体:250mμ近辺に吸収のあるものが現在7〜8種分離されていますが、Hypoxanthine、Uracil及びInosineが確認されました。
3)その他:この他、当然のことながら、未確認の物質がかなり沢山検出されています。
《奥村報告》
転勤挨拶、4月13日(木曜日)を最后に現在までいた東邦大学解剖学教室をやめ、予研の腸内ウィルス部(本年4月1日より発足、部長多ケ谷先生)に移り、細胞研究室で仕事を始めることになりました。この部は発足以来日が浅いので現在は各研究室の設営に多忙です。又、部員は臨職の人を含めると60名近くもいるので有機的結合がむづかしく、そのために毎週金曜日夕刻5時位からmeetingをもち、近い将来には研究会に発展させるそうです。ともかく、予研内部は非常に活気があって、私にとって申し分ない勉強の場です。組織培養も専門こそ違うけれども多数の研究室でしており、お互いに研究面で交流をもっている様です。私も新しい環境でもまれながら成長して行きたいと思っています。どうぞ今后共よろしくお願い致します。
L・P1細胞の血清培地継代実験:血清培地継代L株細胞を無蛋白培地に移して継代したときの染色体の変異を論議する場合にいつも問題になるのは、無蛋白培地継代から血清培地継代に移した時はどうなるかということである。確かに、この問題は非常に重要である。したがって、今後各亜株(無蛋白培地継代)の細胞を血清培地に移し、chromosomeの変化を追究し始めました。その結果、L・P1では血清培地継代2代目頃から高倍性(4倍体、8倍体)の細胞が僅か増え出してきています。主軸細胞(78本)には今のところ殆んど変化がみられない。
L・P4細胞の血清培地継代実験:L・P4細胞は染色体数の分布の点ではL・P2、L・P3の各細胞と非常に類似しているが、核型の点では若干複雑さをもっています。この細胞は血清培地に移すと78本のchromosomesをもった細胞が漸次増加してくるようです。現在のところでは観察metaphaseが22ケだけであるからはっきりしたことは云えないが、バラツキが大きくなると共に78本をもつ細胞が増加の減少をみせ、やはりL・P1でみられたように高倍性の細胞が増加しています。
近日中にL・P2、L・P3の各細胞の血清培地継代の実験をはじめようと思います。
《堀川報告》
組織培養研究グループの皆さん今日は。この度、新しく皆さんの仲間に加えていただきました。今後共にどうぞよろしく。さて、新しい研究所に来て、毎日動物園のクマのようにガリガリあちこちかきまぜて勢力範囲を拡げ、ボツボツ仕事の準備をしております。あれこれ今後の仕事の計画はしておりますが、今直ちにとは行きませんので、この方の問題は次回からにして従来やって来た仕事の概略をまず記して、皆さんの御批判をあおぎたいと思います。
題目:組織培養によるマウスL系細胞における遺伝生化学的研究
内容:
最近における微生物遺伝学の驚異的な進歩にともなって組織培養された哺乳類体細胞においても微生物遺伝学で用いられたと同様に細胞のレベルでその栄養要求性や、各種物理化学的要因による変異細胞の分離、さらにはこれらの蛋白、核酸合成の研究を行うことができるようになった。このような実験技術の進歩は同時に微生物において見出された形質転換(Transformation)や形質導入(Transduction)の現象が高等動物体細胞においてもみられるかどうかという興味ある問題にもふれることが可能となった。このような目的から本実験では1943年Earleによってマウス皮下脂肪組織から分離されたL細胞を試験管内で培養し、以下のような実験結果を得た。
1)L原株細胞の細胞増殖および蛋白核酸合成に対する各種物理化学的要因(MitomycinC、8-azaguanine、紫外線)の影響は第1義的には細胞分裂の抑制にあって、DNA、RNA、蛋白合成は比較的非感受性であることがわかった。とくに0.1μg/ml、MitomycinCで処理した細胞は細胞当りの蛋白、核酸量がいちじるしく増加するとともに巨細胞が出現する。
2)L原株細胞をMitomycinC、8-azaguanine、紫外線で数十継代処理することによりLMit細胞、L8-Az細胞、L-Uv細胞と名づけるそれぞれの耐性細胞を分離した。各種要因の細胞におよぼす作用機構のちがいによって耐性細胞の出現様式は異り、これらの耐性細胞の出現過程の要因のmutagnic
actionによるものか単なる選抜、適応によるものか明白ではないが、現在までの知見では各種耐性細胞ともに要因に対する選抜、適応によって出現したと考える方が妥当のように思われる。
3)分離、確立されたこれらの各種耐性細胞はL原株細胞に比して、(1)細胞の蛋白、核酸含量、(2)細胞の形態と大きさ、(3)細胞の増殖率、(4)コロニー形成能力、(5)染色体数、(6)各種薬剤に対する感受性などの点でそれぞれ差異を示し、同時にこれらの遺伝的特性は比較的安定していることがわかった。ことにL原株細胞の染色体数のピークが68本であるに対して、MitomycinCの耐性細胞(LMit細胞)では62と80本の2ケ所にピークがあることは興味深い現象である。
4)MitomycinCおよび紫外線照射に対してはLMit細胞とLUv細胞が交叉耐性を示し、8-azaguanineに対してはL8-Az細胞のみが耐性である事がわかった。これらの結果はMitomycinCと紫外線の作用機作の類似性を暗示するものである。
5)LMit細胞及びLUv細胞の増殖率はL原株細胞とL8-Az細胞からのfilterable
substance(セロハン膜濾過物質)によって促進されるが、一方L原株細胞およびL8-Az細胞はいずれの細胞のfilterable
substaceによっても影響されないことがわかった。
6)最後に細胞ホモジネートによる変異細胞間の形質転換(Transformation)を試みたが、一時的なHeteromorphic
changeであって遺伝的に安定したものは得られなかった。
今回は少し長くなりましたが、最初だから御許し下さい。今後ともはりきって、ジャンジャンやって行きたいと思いますが、その都度何かにつけて難問をもちこんで皆さんに御迷惑をおかけすると思いますが、何卒同穴のムジナのよしみで、よろしく御協力下さいますよう、最初にあたってお願いしておきます。
《高木報告》
過去一年間MY肉腫より抽出した核酸分劃を主として取扱って来たが、既報の如く、今迄の処、negative
dataしか出なかった。これが本当にnegativeなのか、或いはtechniqueの不充分なためかは問題であるが、兎に角RNA、Microsome、DNPなどの抽出法、その他の実験方法については、多少共なれて来た様に思う。
今年度は、昨年度のこれらささやかな経験を生かして、心を新たに再出発したいと思っている。前報において、我々班員の一応の態勢が示されて来たので、もう一度今年度の考えをのべてみたい。
1)核酸分劃を抽出する組織について
私共はまずvirusによるか、若くはvirusくさい腫瘍の組織からRNA、DNPなどを抽出して、それによる正常培養組織の影響を見たいと思い、MY肉腫を選んでみた。今後もなる丈その線にそって行きたいと思っているが、こちらにある動物性腫瘍のステムは限られているので、一応腹水肝癌AH-130及び家鶏肉腫などについて実験してみたい。更にこれと主に2、3、病原uirusについても核酸分劃の抽出をこころみて、それらのinfectivityにつき検討したいと思っている。
2)培養組織について
"正常"と云う意味からはやはりprimary cultureによるものでなければならない。しかも伝研などの御仕事から、培養後出来る丈早期に血清蛋白を培地から取除くことが望ましい様である。MY肉腫の場合は、マウスの胎児の皮筋組織を培養してみた訳であるが、これも厳密には"胎児"と云う事が気にかかる。出来れば成熟動物の組織を用いた方がよいであろう。Benitezらの仕事では、成熟動物のareolar
fibroblastを培養して、それに種々臓器からのRNA、Microsomeなどを作用せしめており、ラッテのMicrosomeの方がマウスの
Microsomeよりagentとしてはよりpotentであり、またラッテの繊維芽細胞の方がマウスの繊維芽細胞よりagentに対する影響をうけやすい事を報じている。
しかし私共は、抽出した核酸分劃がactive
agentであるか否かをみる意味で、先ず株細胞に作用させてその影響をみ、ついでprimary
cultureの細胞に作用させてみたいと思っている。
3)抽出について
RNA:温食塩水抽出法、Detargentを用いる方法などもあるが、やはりPhenol法が一番よい様である。そのPhenol法もいろいろmodificationがある訳であるが、組織をhomogenateにする前にPhenolを作用さすE.Wecker等の方法につき検討してみたいと思っている。
DNA:先には食塩抽出法でDNPを抽出したが、この先の蛋白をはなす方法としてGulland、Jordan、Threlfallらの方法により、即ち食塩でとり出したDNPをChloroform-amylalcoholで振って、蛋白部分を変性せしめ、DNAをとると云った方法を用いてみたい。
4)核酸分劃の作用させ方について
短時間作用させて影響が出れば、それで問題はないが、どうもやはり長く作用させないと効果はあまり期待出来ないのではないかと思われる。(Benitezの仕事では24時間で効果が出たと云っているが)しかしRNAなどは比較的短時間でOligonucleotideまで分解するので、長く作用させると云ってもRNA自体の作用する時間はごく短い事になり、結局はこれの繰返して作用させる事になる。作用させる濃度は50〜100μg/mlが適当と考えられ、作用させる際には血清蛋白を除いた培地を用いたい。PVP+LYT培地中のRNAの消長については大略はすでに報告したが、更に時間単位でその分解の度合いを検討する予定である。
5)判定の方法について
(1)先ず第一に復元成績の検討であろう。株細胞を作用させた場合でも、これにより有意の差が出れば一応判定出来るのではないかと思う。その有意の差として、予研高野氏の云っておられる様に、もともとある特定の種属にしか復元(若くは移植)出来なかった細胞が、その他の種属のものにも移植出来る様になった場合これは或程度質的(?)なちがいを生じたとも考えられるであろうし、また量的なちがいとしてFoleyなどの云っている様に、移植が成立するに必要な最低細胞数によりその細胞の悪性度(?)の変化をうかがうことが出来るかも知れない。しかし、この復元は株細胞の場合には細胞をふやせばよいので比較的容易かも知れないが、primary
cultureの場合の様に細胞数が比較的少い場合にはどうすればよいか・・・勿論1ケの細胞でも復元出来ると云う場合もあるでせうが・・・が問題ではないかと思いますが・・・。
その他の方法もこれに加味して行ってみたい。即ち
(2)形態学的にheteromorphismesがみられるか否か
(3)細胞のDNA含量に比較的変化がみられるか否かmicrospectrophotometryにより行ってみたい。これは紫外部を用いても出来るが、こちらにあるapparatusは不備なため、Feulgen反応で染めて測定してみたい。
(4)免疫学的変化、蛍光抗体法を用いて変化をみたいが、これはまず細胞の臓器特異性が確かめられた上でないと出来そうもない。
(5)染色体数・・・核学的変化。
viral RNAの場合には感受性動物に接種する事により症状の有無で判定出来る。
大体以上の様なことを考えております。御意見がうけたまわれれば幸です。
【勝田班月報:6105】
1)組織培養内での細胞の腫瘍化:
これがこの班の最大の狙いである。殊に今年度はこの班は広く注目されていると見てよいから、絶対にこの題目に於て或程度の成功を得なくてはならない。Earle一門も最近またこれに目をつけてPolioma
virusでの発癌を図っている。しかしX線やcortisoneを使わなくてはtumorができないというのでは情けない話で吉田肉腫やラッテ腹水肝癌のように無処置で接種しても腫瘍ができて、その動物を倒すという位の悪性にしたいものである。 従来の目標は、まず腫瘍化さない株をつくり、次にこれを悪性化させるという狙いであったが、腫瘍化さない株が万一今年中にできないと何も収穫が無いことになるので、何かの細胞のprimary
cultureを使うのと、株細胞を使うことも併用する。つまり次のようになる。
a.腫瘍化さない長期培養法及び株の樹立
b.発癌
b-1 primary culture:特に増殖をつづけさせる必要はなく、硝子面に拡がったら血清→PVPに切換えるのも一法で、発癌剤が血清蛋白と結合して作用しにくくなるという可能性も考慮に入れる。
b-2 株細胞:仮に腫瘍を作り得るものでも、その腫瘍性が強くなれば、それなりに意味がある。
次に実際に用いる発癌要因と細胞であるが、
a.発癌要因
a-1 Carcinogenic agent(発癌剤):4ニトロキノリン類(このDerivatives)、DAB、メチルコラントレン、その他。
a-2 antibiotics:マイトマイシン、クロロマイシン、アクチノマイシンなど。所謂制癌剤の異常濃度(主に低)をねらう
a-3 Hormoneその他、生理的物質:例えば性ホルモン。
a-4 Antimetabolites:例えばDNAprecursorに何か付いたもの。
a-5 放射線:コバルト60γ、X線など。
a-6 腫瘍分劃:tumorのextract及びその分劃。しかしこれは可能性は最も低いと覚悟しなくてはならない。
b.細胞
b-1 primary culture:rat mouseのfibroblasts、liver、乳腺細胞、monkey
kidney。 b-2 株細胞:JTC-4、JTC-6、L、rat
kidney、その他。大型動物の細胞は復元接種に費用がかかるので見合せる。
この細胞と発癌要因をどのように組合わせるか、であるが、大体次頁の表のように各人の分担をきめた。これが最少ノルマである。
:質疑応答:
[高野]Changのいわゆるliver cellの株を100万個、ハムスターの頬袋に入れると、少なくとも第1代は腫瘤を作り、10日後に次のハムスターに移したが、これはどうも結果はつくらないらしい。ハムスターはどちらもX線を600γかけたものを用いた。HeLaも同様の経過を辿る。だからこれらのでき方が強くなるということ、たとえばC3H以外のマウスにLがつくようになったとか、そういうことだけでも意味があると思う。またfibroblastsは癌化しにくいという文献がある。
[高木]Primary cultureであまり増えない細胞の場合はどうするか。
[勝田]接種量と瓶数をふやし、動物に復元するとき足りるだけにする以外に仕方がない。たとえば瓶にまいて、それがかなり増えたところで、血清を使って居れば、その血清をやめ、発癌要因を加え、以後はずっと形態学的観察を詳細におこなう。primary
cultureの場合には、むしろ増える必要はないとも云える。薬剤などの与え方は、動物体で発癌させている場合の量や濃度が参考になると思う。つまり体重の何十%が水分だから、それに対して何モル加えているということになる。体外排泄は培地交換と同じと考えてもよい。そして何日間どの位の量を継続するかは全く体験的にやってみる他はあるまい。大体1〜2月以内に変化をおこさせるような方法でないと実用的でないし、Controlも悪性化してしまうおそれがある。次にin
vitroの環境というものは、仮に発癌させても、その培地に適した栄養要求の癌にならない限り、そこで淘汰されてしまう可能性がある。だから初めの細胞に適したというより、癌化したあとの腫瘍細胞に合うような培地にしてから発癌要因を加える方がよいと云える。伝研でしらべてあるAH-130や吉田肉腫の至適培地の条件がこの際参考になると思う。3ケ月位やっても変化がなかったら培養は中止(接種する)。
薬品などを使用した場合は、そのあと瓶に残っていないように充分に洗浄する必要がある。次の実験のとき対照群にできたりすると困るからである。それからこの発癌コースは、腹水腫瘍に代るべき新しい研究法を提供するというところに重要性があるのだから、理想的に云えば、なるべく短期に発癌するもので、しかも再現性の高いものがよい。in
vivoに比べればnakedのcellであるから当然作用は早く出る筈である。若し体内に於て間接的に働いているという可能性があるならば、その発癌要因を与えた動物の血清を培地に用いる法もある。しかしin
vivoで要因を加えた細胞をとりだして培養するのでは価値はずっと低い。これまでの動物を用いた人工的発癌実験の報告をよくしらべ、細胞の種類と用いる要因との組合せをよく考える必要がある。また要因をいくつか組合わせる法もよいと思われる。
とにかく今年度の最高目標がこれであり、in
vitroの発癌がきれいに出来れば国際的に癌の研究に裨益するところが実に大きいのであるから、Z旗を掲げたつもりで突進する必要がある。
2)正常及び腫瘍細胞の特性の、細胞レベルでの比較研究:
これまでの研究で、これが癌だといえる生化学的特性は何一つ完全に押さえられていない。わずかに形態学的特性で分類されているだけである。しかし形態学的特性といっても、それはいわば癌化する前の正常細胞の特性で、従って同一形態学的分類に入る癌でもその制癌剤に対する感受性に大幅のばらつきのあることから判る通り、機能的分類が改めて作られなくてはならぬことは当然である。細胞レベルに於てこれら正常及び腫瘍の各種細胞についてその特性を比較研究することは現在きわめて重要なことであり、しかも組織培養によってのみ大きな成果が収められるといえる。そしてこの両者の間の、殊に生化学的特性より見ての相違が明らかにされてこそ、本格的な癌の治療、或は化学療法が可能となるのである。従って我々は一歩一歩確実なデータをつかみ、築き上げて行くことが大切で、その研究を進める思考過程に飛躍があることを最も慎しむべきであろう。
3)正常及び腫瘍細胞間の相互作用の解明:
これは伝研及び久留外科に於て各々若干異なった道ながら探求しているところであるが、後者のは腫瘍細胞中に含まれている物質すべてを、細胞をすりつぶして取出し、他の細胞に与えてその影響をしらべているのであって、前者とはいささか目的が異なる。生体内に於ては正常細胞も腫瘍細胞も共に生活しながら影響し合っている。その生きたままの影響をしらべようとするのが後者である。これまでの説では、いわゆるtoxohormoneのように癌細胞から分泌されて積極的に他の正常細胞の代謝を阻害し、患者をkakexieに陥らせるのだという説と、癌の細胞から分泌されるものには何か正常の細胞に増殖をおこさせ、つまり非正常的な行動をさせるものがあるのだという説と二説がある。しかし何れも本当にその目的に適合した実験法を採用しているとは云えない。Parabiotic
cultureのような方法で、或はもっとそれを改良しながら、しらべて行くことが絶対に必要であると思われる。
【勝田班月報:6106】
《勝田報告》
A.肝細胞の培養と発癌実験
当室で純系化しつつあるラッテJARの肝臓実質細胞をまず4ニトロキノリン系の物と、更にDAB系とでin
vitro発癌させようという目的であるが、これまで成ラッテ肝のReplicatecultureをやったことがないので、まずその至適条件を決めるため、発癌実験の準備と併行して、Replicate
cultureもやる準備をすすめています。鶏胚心センイ芽細胞のときと同じように、肝組織片を細切してRoller
tubeにつけ、migrateしてくるのを集めて実験培養に入れるのと、組織片をaseなどでばらして直接実験培養に入れるのと、2法が考えられますが、成ラッテでは后者の方法ではかなり強力にaseを使わないと細胞が単離されてきませんので、やはり細胞に対する障害が強すぎます。そこで現在は前者の方法を用い、5日間(20%BS+0.4%Lh+SalineD)の培地で母培養し、aseを用いずにrubber
cleanerでかき落し、80と150メッシュを通しました。この方法でかなりきれいな肝細胞の単離ができましたが、どうも間質細胞のゴミが多くこれには困っています。第1回はyeast
extractやchick embryo extractの添加の影響をしらべています。次に発癌実験は、Roller
tubeにつけた肝組織片培養に4ニトロキノリンを加える実験をはじめました。4ニトロキノリンは水にとけないのでアルコールで10-2乗M液を作り、これをD液で稀釋し10-8乗M液を作りました。10-6乗M以上だとすぐ細胞がやられてしまいますので、10-8乗M〜10-9乗Mのレベルでまずやって見る予定です。滅菌はアルコールで処理することだけなので、その点はいささか心配なのと、使った器具などの後の処置をきちんとして、他の培養は勿論のこと、人間の手に触れたりしないようにしなくてはなりません。この薬品はきわめて作用が強く10-8乗〜10-7乗Mで1日で細胞に変化が起るからです。来月号の月報には色々と御報告するデータが出ることと思います。培地は第1回は上記の血清培地を用います。
B.サル腎臓細胞の無蛋白培地培養
昨年7月4日にサルからとってすぐPVPの無蛋白培地に入れた群が、はじめは少し増えていましたが、その后とんと増えなくなってしまいました。しかし面白いことに1年経った今日でもきわめて健康な外見を示し、生きつづけているのです。ですからこの培地による培養法は発癌実験に用いるのにまったく最適と云えると思います。何年生きつづけるか、とにかくずっと続けてみますが、現在培養はroller
tubeに2本と短試に5本あります。
今月は報告はこれだけです。この他伝貧ウィルスの仕事も若干ありますが省きます。高岡君がAppeで入院したり休養(ごく短期間ですが)していた余波ですが、たまにはこんなことも良いでしょうし、仕事を発癌に切換えるのに好適でした。無蛋白のsublinesが一時そのため具合が悪くなったからです。
《高木報告》
1.in vitroにおける発癌実験
agent:
1)AH-130腹水肝癌及び正常ラッテ肝より抽出したRNAをSeitzで濾過滅菌して用いる。
2)発癌物質としてDABをTween20にとかし、更にTyrodeにとかしたものを間歇滅菌して用いる。Stilboestrolは未だ入手出来ない。
細胞:
一応JTC-4細胞を用いる。追ってprimary cultureの細胞も用いたい。
培地:
agentを作用さす際にはPVP+LYT培地を用いる。但し、これでは細胞が長期間の培養に耐え得ないので、時に20%BS+80%LYT培地に戻して適当に継代しなければならない。
実験:
RNAを作用させ始めてから3週間位になるが、やはりPVP+LYT培地を用いるせいか、細胞の増殖は可成り落ちる様である。
またJTC-4細胞に作用させるDABの濃度を検討した処、大体0.1μg/ml位が適当と思われたので、この濃度で実験してみたいと思っている。一先ず2ケ月位間歇的にこれらのagentを作用させ、irradiated
ratに復元して対照とその成績を比較してみたい。
2.JTC-4細胞のウィルスに対する感受性
先にpoliovirus各型について感受性を調べてみたので、今回は日本脳炎ウィルス(G1株)について検討してみた。培養4日目の細胞を用い、培地をPVP+LYTで交換してこれに脳炎ウィルスを入れ、4日目毎にその培地の遠沈上清で次代の細胞に継代し、その都度マウスでウィルスのtitering(LD50)を行った。
その結果は(図を呈示)、大体4代、16日間に亙ってウィルスを維持することが出来た。対照の、細胞のない培地丈の中にウィルスを入れたものでは1代、4日後にはすでにウィルスは証明されなかった。なお細胞に予めcortisoneを作用さしめておいた場合に、細胞のウィルスに対する感受性に変化がみられるか否か検討するために先ずcortisone
acetateの諸細胞に対する抑制効果をみた。
その結果各濃度の細胞数は(表を呈示)、JTC-4細胞は200μg/mlでもやや増殖を示し、繊維芽様細胞であるに拘らずcortisoneに可成り強い抵抗を示すことが分った。
従って本実験には大体100μg/mlのcortisone
acetateを作用させて細胞を予め培養し、これにpoliovirusを入れてその感受性につき検討したいと思っている。
《高野報告》
培養細胞の動物への復元
細胞が悪性であることを確める最後の決め手は、今のところ実験動物への復元による増殖様式が悪性を思わせるものであり、更に宿主動物が腫瘍死をとげるに至って最終的に証明されることになります。勿論この場合でも確実に腫瘍死である証拠が必要です。
動物への復元の条件を予備的に検討する為、手許の細胞株を用いてマウス、ラッテ、ハムスターへの接種を行っています。動物への接種及び組織像の判定は同室の浅野正英君が分担。Foleyによって100万個接種すると正常細胞でも一応腫瘤を形成し、1万個で或る程度の発育を示すものが悪性であるという基準が示されていますが、未だ始めの段階なので細胞数は比較的多くし、動物にはγ線照射及びcortisone投与を施しました。
現在結果の得られたのは(表と写真を呈示)、a)HeLa(母培養)は之だけでは何ういう種類の細胞か判定出来ない像を呈しますが、他とは明らに異り、b)LI(changのliver)は細胞索状の配列を示して肝細胞らしい顔付きを見せ(PAS陽性)、c)JTC-6-d(JTC-6から分離したcolonial
clone)は血液腔を形成する傾向を見せて内皮細胞を思わせます。形態だけでの判別は不確かですが3者が3様の姿を見せることは事実で、もう少し種々の材料による検討を重ねようと思います。
接種の条件は、Co60γ線800rを照射したハムスターの両側頬袋に0.5mlづつの細胞浮遊液(細胞数は材料により異る)を接種後、25mg/mlのcortisone
0.3ml(1回量)週に3回皮下注射して適時観察(エーテル麻酔下に引出して観察)必要に応じて標本作製。
【勝田班月報:6107】
《勝田報告》
A)正常ラッテ肝細胞の組織培養
前号で若干触れたが、次のような5種類の培地で肝実質細胞をsimplified
replicate tissue cultureにより2週間培養した。Ratは当研究室でbreedingしているJARの4ケ月♂で、この肝臓を細切し、roller
tubeの壁に沢山はりつける。牛血清20%+ラクトアルブミン水解物0.4%+塩類溶液Dで5日間10rpmで回転培養する。このとき組織片のまわりには殆ど細胞はmigrateしていない。しかし回転培養中に赤血球が除かれると云う利点がある。5日后にrubber
cleanerで組織片をかき落し、1,000rpm5分遠沈して上清をすて、沈渣をsalineにsuspendして80及び150meshを通す。このsuspensionを型の如く短試に分注するわけである。しらべた培地は、1)BS+LD、2)BS+LD+2%CEE(9日)、3)BS+LD+10%CEE、4)BS+LYD(Yは0.08%)、5)LDのみ、の5種である。
ところがこの結果が実に面白かった。培養4日后には若干の乱れがあるが、7日后、14日后の細胞数は、1)〜4)の群ではinoculumの19,000nuclei/tubeとほとんど変りない。全くきれいに水平のgrowth
curveができたのである。幸運にもこのことは、発癌実験をやるにはもってこいの条件である。5)の群は次第に細胞数が減少し、14日后には約5,000/tubeになってしまった。その次にprotein-free
mediaを数種しらべてみたが、これではLDのみよりも少し宛悪い。そこで"20%BS+0.4%Lh+D"の培地を発癌実験に使うことに決定した。先般第1回の連絡会の際に、無蛋白培地の方が良い、と述べたが、いざ細胞が癌化した時を考えると、癌細胞が増え易いような培地の方がよい訳である。その意味で前言を訂正すると共にできれば色々の培地を併行して使った方がさらに可能性が強くなると云いたい。
B)4ニトロキノリン-N-オキサイドによる発癌実験
生后7日のJARラッテ(♂♀不明)の肝を細切し、上記の母培養の要領でroller
tubeにつけ、20%BS+0.4%Lh+Dの培地で回転培養を開始した。1961-6-17日である。容器は本当は平型にしたかったのであるが皆他の実験に使われていたので仕方なく円形のrollertubeにした。14本作ったが、2日后の6月19日に培地交新、この内の7本に4ニトロキノリンを10-8乗Mに培地に添加した。10-4乗M〜10-6乗Mでは細胞に変性を起すが、10-8乗Mでは大丈夫だからである。この培地はさらに2日后に4ニトロキノリンを含まぬ培地とかえ、以后ときどき鏡検をしたが細胞には依然として変化なく、各組織細片のまわりには細胞のmigrationが全く見られない。
ところがである。時あだかも1961-7-12。顕微鏡をのぞいて居た高岡君が"エヘヘ"と奇声を発した。実験群7本の内1本に一つの組織片のまわりに細胞のoutgrowthが見付けられたのである。4ニトロキノリンを入れた日から頂度23日目にあたる。これらの細胞はexplantから単に細胞がmigrateしてきただけとは思われぬ形態で、硝子面によく密着している。形はやや大型で何となくふだん見なれた形とは異なる。円形とendothelialの中間のような外観を呈している。7月14日になると、さらにもう1本の実験群にも一つのexplantから似たような形のoutgrowthが見られた。この日にはControl群(無処置)の1本にもようやく一つのexplantから若干のoutgrowthが認められたが、これは純然たるfibroblastsの形態を示している。7月15日の観察では、実験群のかの2本はoutgrowthがきわめて大きくなっているが、細胞の形態が若干異なってきて、むしろendothelialに近くなった。現在まではこんなところであるが、後を追って同様の実験を次々とスタートしてあるので、それらも楽しみである。しかしやはり円形の回転管は観察に不便で、無理をしても平型回転管を使うべきであろう。これらの細胞が沢山にふえて動物の復元接種に使えるようになるには未だかなり日がかかるであろうし、その結果が判るようになるにもまた何週間かかかるであろう。8月15日の〆切の今年の癌学会には一寸間に合いそうもないが、2月頃また多分開かれると思われる合同報告会までには、あるところまで行けるのではないか、という気がする。
増殖しつつある細胞に発癌物質をかけると仲々細胞のtransformationの時期を判定するのがむずかしいが、このようにresting
cellのcultureを使うと反って判り易い利点があるのと、より生体内の発癌条件に近くなるという長所がある。皆さんもおっくうがらないで気楽に初代培養を使って見ませんか。
このほかDABいよる発癌も計画していますが、実施はもう少し先になると思います。
C)Parabiotic Cell Culture
Reportを第3報まで書いて、愈々こんどは正常細胞と癌細胞のinteractionの検索に入る所です。今秋の癌学会はこの問題にしようと思っていますが。まずかかるのは正常のラッテ肝細胞とラッテ腹水肝癌(AH-130)及び吉田肉腫との間の相互作用です。前者はさきに書いた様に増殖せずにmaintainされる状態、即ち通常の成体内の状態における肝細胞として、后者は同一の培地に於て急速に増殖する腫瘍として、その相互作用をしらべるわけです。 D)マウス白血病
これはこの班の仕事ではないのですが、こんなことにも手をつけている、という御参考にかきます。東大小児科から留学している古川君とやっているのですが、初めヒトの白血病細胞を培養しようとしたら仲々むずかしいのです。材料は流血と骨髄からとりましたが。それでまず簡単に材料が手に入るマウスの白血病細胞をやってみようと、予研抗生物質の竹内君と共同して、マウスのC-1489(Myelogenous
leukaemia、C57-substrain6マウスの腹腔内継代移植)を使ってはじめましたが、これもまた仲々そう簡単な代物ではないようです。
《高木報告》
in vitroにおける発癌実験
1)前報につづきRNAを作用させているJTC-4細胞の継代をこころみたが、長い間PVP+LYT培地を使って来たので細胞が弱っていたためか細胞の増殖が極めて不良で、培地の交換を繰返しているがどうもまずい様です。培地中のRNAのdegradationをもう一度しらべてみましたが、やはり24時間以内にoligonucleotide以下まで分解するらしく、RNAを屡回に作用させて、しかも細胞があまり弱らない様にもって行くのが少々むつかしい様です。それとRNAは保存に際しても可成り不安定ですので、度々新鮮なsampleから抽出して同じ濃度を作用させる様にかけねばならないと思います。DABの方は0.1μg/mlずつ作用させているのですが、これは今迄の処まずまずで、実験続行中です。
2)次に復元の問題ですが、私共の処では未だ培養細胞を復元して腫瘍を作った経験がないので、復元練習の意味で如何なる手段でも一度腫瘍を作ってみようと思い、生後約1ケ月のWistar
ratを用い、これにXray 200rを隔日3回照射したものにHeLa細胞及びJTC-4細胞を200〜500万個ずつ接種し、以後はcortisone
acetate 0.3ml(25mg/mlのもの)ずつ2回隔日に注射して観察しているところです。
その他これまでつづけて来た実験もありますが、特記することもありませんので、今回はこれ丈にします。
前報で高野班員のハムスター頬袋への細胞接種実験、興味深く拝見しました。各腫瘍の顔付きが面白いと思います。
それから遠藤班員の"夢"の中で、(1)のHCHOと共に生じるHCl、(2)のH2O2はそのtoxic
effectが少々気になりますが・・・。しかし"まさゆめ"にしたい気がします。
《奥村報告》
1.サル(カニクイザルAdult)腎臓細胞の培養
A.Primary culture
a.トリプシン消化。われわれの研究室ではpolio
virusのvaccineを検定するのに多量のサル腎細胞(MK
cells)を必要とするので出来るだけ手数のかからない、しかもdamageの少ない細胞を作らなくてはならない。以上の点から種々の消化条件を検討してきたが、その中で最も好ましい方法について報告します。(又現在は消化方法とその后の細胞増殖過程における細胞の変異度について観察中、この仕事にはtrypsinの他、EDTA、hyaluronidase、何も消化酵素を用いない場合、の各実験groupを比較している)。
腎臓摘出→直ちにcold PBS(4〜8℃)に入れてautolysisをさせない様にする。→髄質を取除いて冷PBS中で皮質を3〜5立方mmに細分する。→PBS(cold)で3〜5回組織片を洗う。洗ったのち、氷室で約1時間0.125%trypsin
sol.で消化、1匹分の腎皮質に対しtrypsin sol.150〜200ml、この前処理はcytotoxic
effectを除くために行う。→前処理の液は捨てて、新たに0.125%trypsin
sol.を350〜400ml入れて、over night(約15時間)で消化を行い、消化后はMediumで2度洗い培養開始する。
(註)種々の消化法を試みた結果、次の3点が特に重要と思われる。1)組織片を乾燥させないこと、2)前処理をすること、3)消化液を多くし、組織片を強く振盪しないこと。
前述の方法で消化し、消化直后の細胞の死亡率をNigrosin染色でしらべると少ないときで、14%程度、多くても20%の死亡率であった。この様な低い死亡率で消化できると消化后の細胞増殖も極めて調子がよい。
b.培地と細胞増殖(表を呈示)
Menkey serumを添加したgroupではgrowthはcalf
serumを入れたものより悪いがsmianや他のMonkey
kidneyに潜在していたと思われるvirusの出現がおさえられるのだろうと思われる結果が得られている。
以上の結果はMK細胞を種々の実験に用いるためのpreliminaryなもので一応報告しておきます。
2.HeLa株細胞のγ線及びECHO virusへのresistancy
Co60照射(2γ、3γ、4γ、5γ・・・)と各線量照射によるchromosomal
patternを分析中です。近日中に結果がでますのでまとめて報告したいと思います。
《堀川報告》
現在直面している問題点(その1)
(1)MitomycinCを始め、放射線その他の各種要因に対して耐性細胞がどの様な手段で出現するかという問題は、われわれ遺伝屋の基本的な問題であると同時に臨床的にも癌の治療などから見て最も重要な問題とされているが、そうかといってこの種の問題はいっこうに解決されません。これはわれわれ研究者がなまけて研究をおこたっているせいばかりではなく、とにかく根本的にむつかしい問題らしいです。
例えば現在私の所では上記のMitomycinCを始め5種の要因に対する耐性細胞を維持していますが、面白いことに用いる要因の種類によって耐性細胞の出現様式が大いに異り、同時に出てくる細胞の顔色がそれぞれ違っているのだから事態は非常にむつかしい。
前回東京で開かれた組織培養学会の際、予研の竹森先生から色々と参考意見をきかされ、それをきっかけにしてBacteriaに使われるありとあらゆるテクニックを用いて検討した結果、どうも耐性細胞の出現は要因によるmutagenic
actionによるものではなく、母集団中にすでに耐性細胞が存在していて、これが要因に出合ったとき単に生き残ってくるにすぎないという結論が出そうです。
いづれ詳しくは次の学会で報告する予定ですが、これを更に明確に立証するためには最も原始的な方法かもしれないが、写真でキャッチする以外に方法はありません。
現在Incubaterの中に倒立顕微鏡をすえつけてその機をうかがっている所ですが、仲々うまい具合につかめません。それも一例をとると、0.1μgmitomycinC/mlで処理したL細胞の場合には400万個のparent
cellの中から8〜9個の耐性細胞が出てくるのを、コロニー形成をマーカーにしてつかまえるのだから骨の折れる気の長い仕事です。
(2)L(原株)、LMit(mitomycinC耐性細胞)、LUv(紫外線耐性細胞)、L8-A(8-azaguanine耐性細胞)、Lγ(Co60耐性細胞)を色々の細胞濃度で、mouseにinjectionして発癌テストを開始しましたが、どれも今のところいい結果が得られません。少しImmunologicalな立場にたって仕事を進めてみます。
【勝田班月報:6108】
《遠藤報告》
伊藤教授が内分泌と癌の班の班長になられたので、そちらの班と両方に同じ報告を出さなくてはならぬ破目になりました。またこの班の主目的である発癌の実験は手をつけて居りません。HeLa細胞の培養にステロイドホルモンを加えてその影響をみることを主体として、まずprogesteroneを入れてみました。これは伝研の仕事の追試になりますが、こちらではprogesteroneはアルコールに溶かして入れて、controlには等量のアルコールを加えました。牛血清20%の培地で6日間培養しますと、2日後、4日後、に0.16mg/lの濃度で増殖促進が見られます。殊に4日後のはcontrolに比べて44%の促進ですから有意と思います。しかし6日後には殆んど各濃度で影響があらわれなくなりました。伝研の仕事では0.3mgと3.0mg/lの濃度ではっきり促進が見られていたようですが、その場合にはホルモンをアルコールで溶かさず直接水にといていました。そのため実際の溶解度ではもっと低いところが効いたのではないかと考えられます。次に我々の実験では血清濃度を20%でoptimalの濃度のために差がはっきりでないのか(伝研でも20%)ということも考え、5%BSでもしらべてみました。するとこの場合にも0.16mg/lの濃度で2日、4日、6日後と促進が見られ、殊に4日後ではcontrolに比べ89%の促進でした。確かにHeLaの増殖はprogesteroneで促進されることを確かめ得たわけです。このあとはtestosterone、freeのestradiol、その他のestrogensについてしらべてみたいと思います。組織培養の条件如何によってresponseがmodifyされる可能性もしかし充分考えておかなくてはならぬと思います。北大産婦人科の小川教授は、癌をホルモンで抑えようと考え、HeLaやHuman
lung(これはHeLaのcontrolとして)の株細胞を使って、各種ホルモンの影響をみています。丁度学会で北海道へ行きましたので逢ってきたのですが、実際にやったのは色々な研究生で、その学位論文に使ったものでした。ここでは面白いことにpregesteroneではHeLaは促進されぬと云って居ります。ホルモンの内では、estriolがいちばん促進しこれはhuman
lungeも促進されます。ついでestron、estradiolの順になっています。hydrocortisonもμg/ 以下の微量でしらべると、これまでの研究と異なり促進するそうです。progesteroneについては久留米と九大でも同様の実験をおこなって北大と同じ結果を得ているそうです。これら結果の我々との相違をどう考えたらよいものでしょう。
:質疑応答:
[高野]濃度が関係するのか。しかし8日後はeffectがないことになるのだからおかしい。遠藤氏の結果は夫々のlogのところのgeneration
timeで比較すれば良いと思います。直線のところで。
[高木]inoculum sizeの差があるのではないですか。
[遠藤]我々のところも伝研も北大も略同じ位です。北大2万、九大10万位です。
[勝田]一昨年の癌学会で私が物云いをつけた北大の仕事は、ホルモンの濃度がかなり高かったようですが。
[遠藤]私のいいたところでは、我々と同じ位で、それでは癌学会のあとでまたやり直したのですね。cell
countのerrorもきいてみたら一応±5%に抑えているとは云っていましたが・・・。
[勝田]研究生のやった仕事というのは気をつけないといけないです。早く学位をもらいたい一心で教授がこのマウスは今日当り死にそうな筈だなんていうと、天井にぶっつけたりする人がある・・・なんて噂もありますからね。遠藤君のdataとうちとの相違はたしかにホルモンの溶解度も関係があると思います。次に6日後になると効果が出なくなるという点では、第1の可能性として、細胞の硝子面への付着に効果があること、第2に増殖期に促進する点からみて、分裂中あるいは分裂しやすい状態のときホルモンが効くのではないでしょうか。
[高木]九大のデータはinoculum saizeがちがっています。久留米は今はやっていません。[勝田・補足]北大の牛血清はホルスタインのもので、東京のは和牛という相違だけでなく、使ったホルモンそのものは果して同一だったでしょうか。これが一番問題と思います。殊にnegativeのdataが出ている時には。例えば曾て三重大の病理でラッテの腹水肝癌AH-
130の細胞間結合はEDTAでは切れないと発表しましたので、我々のところのEDTAを送ったところ、これではあっさり切れて、結果使ったEDTAが悪かったということが判りました。勿論血清の質、牛の♂♀、そのときの生理状態も相当関係するとは思いますが、こういう仕事ではまずホルモンそれ自体の純度とか有効度を検討することが一番必要と思います。
《伊藤報告》
これまで腫瘍組織の抽出液中の、L株細胞の増殖を促進する物質を10%BS培地でしらべてきましたが、どうも実験の都度異なる結果が出たりして困りました。目標は30〜50%増殖促進におきました。そこで今度は伝研で作った無蛋白培地継代亜株のL・P1を使ってみました。L原株ではOptimalの増殖が出すぎて差が少ないからです。ところがL・P1でinoculumを3万位にしてみますと、腫瘍からのS2分劃で、Controlに比べ、200〜300%の増殖促進が見られるのです。これを蛋白を入れたためのeffectと区別するため、L・P1にBSを5%加えてみたところ、増殖を完全に抑制しました。次にBSを各種の濃度に加えてみました。1/5〜1/10稀釋では少し促進が見られました。しかしS2ほど促進するものは血清の中には無いようです。BSからS2を作ってみても多いときで30%位の促進でした。血清の以下の稀釋は1/80迄しらべましたが他には効果はありません。正常組織のS2分劃は、Lではかなり幅が出てくるので(促進はある)、これをL・P1で今後しらべたいと思います。組織のcontrolとして、再生肝には普通の肝、embryoに対してはadultの組織とえられますが、人の腫瘍のcontrolには全く困っています。その他、L・P1と同じ培地で我々のところでLから作ったcell
lineがありますので、それも作ってみたいと思います。S2分劃は、Lの場合には50〜10μg/ml加えると一番促進するのですが、L・P1はこれより低く2〜10μg/mlで一番促進します。またLの場合にはS2をさらに透析し、trypsinで消化しても促進するのですが、L・P1のときはどうか。これもぜひしらべてみたいと思っています。ここまでやれば蛋白ではなくなるわけですから。L・P1はしかし色々のことに非常にsensitiveなので使うとき注意を要します。
:質疑応答:
[高岡]L・P1はinoculum sizeによって後の増え方が全く違います。
[高野]S2の活性はtumorの種類によって差がありますか。
[伊藤]Grawingのtumor(kidney)からもとりましたが、hepatomaが一番よく再生肝も強くでます。
[勝田]用いる細胞の種類によって、例えばfibroblastにはsarcomaのS2というようなことはありませんか。それから実質細胞の系でないtumor;
myomaとか良性腫瘍のS2はどうか問題があると思いますね。
[高野]L・P1のinoculumによるeffectは炭酸ガスふらんきを使うと良いんではないですか。[勝田]細胞のconditioningするfactorの中ではpHのadjustということは大きいと思いますから効果はあるでしょう。ところで炭酸ガスふらんきで細胞のふえ方がどの位本当によいものか、高野君ぜひcell
countingでしらべてみてくれませんか。
[高野]やらなきやなりませんかね。
[高岡]伊藤さんのところはLやHeLaの増え方が凄く良いのは血清が神戸牛からとったものだからでしょうか。しかし堀川さんの教室(阪大・遺伝)でも同じ血清を使っていたわけですね。
[伊藤]早く仕事に細胞を使わなければならないのでlogarithmic
phaseのを次々と継代して行くのでgeneration
timeの短い細胞がselectされて行くのではないでしょうか。
[高野]それはたしかに有り得ますね。
《堀川報告》
どうも着任以来、研究室の整備に追われて余りdataは出ていません。やった仕事は以前にひきつづいて"組織培養によるLの変異の遺伝生化学的研究"です。その第1は1)細胞に及ぼす各種agentのeffect。2)これらagentに対する耐性細胞の出現過程。3)各種耐性細胞の遺伝的生化学的特性(これでtransformationを起させられないか)です。まず第1の問題についてお話しします。例えば培養にmitomycinを加えますと、加えた群では分裂は殆んど止まり、その代り細胞のsizeがどんどん大きくなって、細胞1ケ当りのRNA、DNA、蛋白の量が増加します。この大きくなったものが果してnormal
duplicationかabnormal duplicationかという問題がありますが、こうしたことをくりかえして、現在4種類の亜株をもって居ります。即ちLMit、LUV、L8.Az、Lγです。この内前2者の間にはCross
resistancyが認められています。Lγは2000γのorderでかけていますが、これはγ耐性細胞とUV耐性細胞との間には類似性があるという人もあります。現在chromosome
distributionもしらべて居ります。次にLMC細胞についてP32の細胞内DNA、RNAへの取り込みをしらべますと、LMCも普通のLもほとんどその度合に相違はありません(24時間)。次に酸可溶性分劃をイオンクロマトで分けますと、CMP、AMP、GMP、ADP、GDP・・・という順に出てきますが、MCで処理しますと、CMP、AMPが減ってきます。次にATPが減ります。ADP、AMPはなくなります。従ってマイトマイシンを使いますと、細胞のATP、ADP、AMPがまずやられる、と考えられます。またこれらの分劃をペーパークロマトであげ、それを使ってradioautographを作りますと、DNAもRNAもbase
ratisでは全く変りが認められません。またP32のとり込みは0、2、4、7日と見てもLMCでも殆んど同じです。染色体数について奥村氏によるとLの原株では68本だそうですが、我々のところでは63〜64本にpeakがあり、8.Az耐性株では68本にあります。第2の問題、耐性細胞の出現がmutationによるものか、selectionによるものか、という問題ですが、これをしらべるため、Lの原cultureをAとBと2seriesに大別し、Aの方はshort
test tube 10本に分けました。Bはその10本と同じ細胞数を角瓶1ケに入れました。これを一定期間培養後、A群では短試験管1本か角瓶各1ケへBseriesでは角瓶1本だったのを10本に、夫々subcultureしたのですが、その時mitomycinCで1μg/ml、24時間処理しました。そして、各400万細胞/bottle入れた内、できた細胞colonyの数をしらべたところ、Aseriesの方では実にそのばらつきが多く、Bseriesの方ではそれより遥かに少なく出ました。不変分散にしてAは104.4、Bは4.01でした。
この結果の示すところは、すでに母集団の中にMCに対して耐性のあるのが混っていたことを示していると考えられると思います。
この実験ではAとBと第2代の容器がちがっていますので、次にどちらも短試でやってみました。即ち、A群は前実験と同じ、B群の第2代は角瓶1本の代りに短試1本としました。するとこのときのばらつきの差はもっと著しく出まして、不変分散にしてA系は
1705.4、B系では0.54となりました。愈々上の推論が裏書きされてくるわけです。そこで次に角瓶の底に裏から格子をかき、MCで処理した培養を入れて倒立ケンビ鏡で見ながら各視野のケンビ鏡写真を隔時的にとりました。するとMCに耐性の細胞は培養につれて大きくなるので、それが集落を作って行くことが判る筈なのですが、実際には狙った細胞がどれも増えてくれず、うまく行きませんでした。本当はMCをかける前から追いたいのですが、確率から云ってそれは不可能に近いので、MCをかけてから追ったのです。
:質疑応答:
[勝田]大変な労力の仕事ですが、よくそれでも耐性の写真にとれましたね。高野君の仕事がこの仕事と似ていますので、つづけて話して頂いて、あとで討議をまとめてやりましょう。
《高野報告》
Cell unitでのenergy hitに対する耐性があるか否かをしらべるため、HeLaにCO60γをかけてみました。癌の治療に放射線をかけたとき、まわりの正常組織が崩れ、さらに再生してきて放射線に耐性をもつということもあり得るが、若しあるとすればこれらの遺伝学的差までしらべられるのではないかと考えられます。現在としては個々の細胞の耐性は取扱うことができず、一つのpopulationとして扱って居ります。まず細胞に500〜2000γかけますと、その照射量に比例して増殖が抑えられます。しかし頻回照射すると耐性細胞がでてきて、tailingが得られます。照射法として2000γ5回(計10000γ)かけたときと、初めに2000γかけ、そのあと500γ宛10回かけたとき(計7〜8000γ)とはあまり差か認められません。これは、γをかけて、やられた細胞の中からまた新しいcolonyのできてくるのを待ち、それにかけるということをくりかえすのですから、実に時間がかかります。第2回照射までは、確かにcurveは寝て、抵抗性の上昇を示しますが、以後いくら照射してもほとんど平行です。この二つの知見から、耐性細胞集団の出現はmutationよりもむしろselectionによるものと思います。500γ10回群では目下観察中ですが、2000γ耐性群に比し、耐性度が低いように思われます。この点、総線量がfactorとなる可能性もあります。さらに2000γ5回耐過後、通常通り継代して、時間の経った群について耐性をしらべ、そのstabilityを検討しつつあります。耐性群をγ線とcortisonで処理したハムスターのポーチに100万個及び10万個の接種量で入れますと、無処置HeLaは100万個100%、10万個80%つくったのに対し、耐性群は共に100%となり、一見移植性が高まったかの如くに見えましたが、第2代のハムスターに移しますと、無処置の50%余に対し、耐性群は移植率
0%であった。なおハムスターポーチの腫瘍はhistologicalにしらべ、granuloma、白血球、センイなどのときは陰性と認めています。Bacillomaも同様。この知見に対し、適確な説明はつけられませんが、chromosomal
distributionが狭くなる傾向と関連があるかも知れない。つまりselectionによってploidyが揃ってくるため、条件の悪い環境では一挙にやられてしまう可能性も考えられるのである。
《奥村報告》
1)耐性細胞の研究
Cell:HeLa
1-a)ECHO-Virusにresistantの細胞4種(E2、E5、E6、E9)についてchromosome
patternを比較したところ、euploidのcell typeが何れの場合もresistancyが高い。HeLaの無処置の系では染色体数の分布範囲がきわめて広く、しかも76〜78本が最高頻度なのに対し、
ECHO Virus resistantのは何れも分布範囲は狭く、しかも分布像がtriploidの方へずれている。E5、E9などはまたtetraploidも顕著に増加している。しかしこれら耐性各系はすでに作られてから1年以上たっているので、変異経過を辿ることができない。近い内にこの再現実験をしてみたいと思う。
1-b)CO60耐性細胞の染色体分布
高野氏のCO60耐性HeLaの染色体をしらべている。まだ数が少ないので明確なことが云えないが、2、3、4γと照射回数の増すにつれ染色体数分布の幅が狭くなる。しかし4500γ以上になるとあまりその幅の差は見られない。
1-c)ウィルス、CO60二重耐性細胞
ウィルス耐性とCO60耐性の細胞には共通した現象が見られるので二重耐性実験を計画中。 )ECHO耐性系に60COγをかける(実験中)
)CO60耐性系にECHO virusをかける
)同様にpoliovirusについてやってみる
)適当な制癌剤か発癌剤についても試みる
考察)まだ実験例が少ないので確定的には云えないが、耐性細胞はeuploid或はそれに近い染色体数を有し、放射線とvirusと耐性が共通しているように思われる。これが若し事実ならば、耐性獲得の現象は細胞自身の遺伝的安定度に深く関係があると考え得るのではないか。(遺伝的にaneuploidよりeuploidの細胞の方が安定なので)。これがさらに確かめられたら、primary
cultureからはじめて、chromosome patternに変異を生じてきた頃、放射線或はvirusをかけてみたいと思っている。これにより培養中によく見られるheteroploidyの現象を或は抑制し得るかも知れぬという夢である。
2)腎臓細胞の発癌実験計画
Monkey kidney cells(5代目)、Rabbit kidney
cells(3代目)を継代している。あまり増殖は良くないが、その内にStilbestrolを添加してみたいと考えている。両系とも培地は4種を用いている。YLE10、YLE5、YLE2(以上の数字はBS%)、M-199+2%BSである。YLE2は初めの内はよく増殖したが、現在は一番悪くほとんど増殖せず。
:質疑応答:
[堀川]CO60でselectionをくりかえして行くと細胞が弱くなって容器の壁にあまり着かなくなるとか、そういうことはありませんか。
[高野]増殖率は低下しますがよく増えています。形態の上では、大小不同、不規則な形態で、堀川氏のLMCのようなはっきりした特徴はありません。
[堀川]私のLMCはL・P1のようなきれいな形態をもっていて、壁につき方は弱いです。色々な細胞が混じっているのをpurifyして行くと、互に償って行くことができなくなり、不安定になるということも考えられます。また生き残った細胞がどうなって行くか。例えば5fluorouridineでtransformationの起るのを見ていますが、こういう細胞がどうなって行くのでしょうね。
[高野]cloneを作って行きたいですね。
[堀川]single cellをとりだして4ケ位の時から種々のgroupを作って育て、chromosomeがどうなって行くか見たら面白いでしょうね。
[勝田]染色体数のpeakは相当sharpになりますか。
[高野]まだはっきり数えてありません。
[勝田]君の表で、染色体数のpeakの幅が、2回照射で急に狭くなるが、以後はそのまま余り変化がないようですね。ですから同じ実験を何度もくりかえしてみて、いつも割に早く、しかも同じ所にpeakが行くとすれば、これはmutationでなく、selectionである一つの証明になるのではありませんか。
[堀川]放射線のdosisの与え方ですが、大量を短期にやるのと、少量を何回もかけるのとは・・・。
[高野]4000γかけると回復不能でした。100γx5回と500γx1回と差があるかどうか、これは臨床的にも大きな問題です。特に耐性細胞の出現にどんな差があるかですね。
[堀川]8azguanineを一度に大量与えると、一ぺんに細胞が死んでしまうが、少量与えると殆んど死なず、その量を少し宛上げて行くと、致死的な大量にも耐えられるようになります。これはinduced
enzymeとか、何かそういう類の関与を考えさせられます。また透過性の変化かも知れぬが、そうならばisotopeを使えば判ることですが。
[勝田]堀川氏と高野氏のdataをきくと、どうもselectionの方が主因らしい気がしますね。放射線障害にはSH基群が防御的に働くと云われますが、耐性細胞ではcysteine
metabolismが変ってはいないでしょうか。つまり、大抵の細胞はcysteineを要求しますが、耐性細胞では自分でどんどん合成できるかも知れぬ可能性ですね。合成培地で
cystein-freeのもので増えるかどうか見ればよい訳です。
[堀川]AETも放射線障害防御で有名ですが、日本製のAETを使ったら、それ自身が毒性があってどうも使いにくくて困りました。それから細胞の核を交換してみたらどうか、どいう問題があります。Drosophilaのsalivary
gland cellでは成功しています。salivary glandの染色体は太くなったところ(puff)が上下に移動しながらDNAを合成して行きます。このようなglandの核を移植するわけで、変種間で成功していますね。HeLaでも出来るのではないでしょうか。Immunologicalの問題もありますね。米国のマキノダン氏の実験ではbone
marrow cellに400γかけて免疫反応を除き,AETを使って核だけは生きているようにしておいて、核を入れかえるのです。AETはcysteineより良いそうです。
[堀川]染色体の問題ですが、耐性細胞株ではpeakの倍数の染色体をもつ倍数体もでてきますね。とにかく非常に染色体数の多いのを時々見かけます。
[勝田]たしかに普通の株でもありますよ。一般に押しつぶし標本を作ってかぞえるとき、どうも算え易いのばかり算えてしまう傾向と危険性がないでしょうか。数が多くなればどうしても染色体の重なる頻度も多くなる。それから構造上の関係でどうしてもpairが横に並びにくく、いつも重なってしまうようなのもあるかも知れないし、染色体の分析もこの辺でそろそろ方法論的に転換すべき時期が来ているような気がしますね。
《高木報告》
in vitroでの悪性化の実験をやって居りますが、AH-130肝癌細胞のRNA分劃を抽出しまして、JTC-4株に入れているわけです。しかしここに二つの厄介なことがあります。第1はJTC-4細胞をそのときPVP無蛋白培地に入れて居るのですが、この培地だとどうも細胞が弱って行ってしまいます。第2は培地に入れたRNAのdegradationがひどいことです。細胞の入っている管に入れますとどんどんこわされて行きます。定量法はoligonucleotideまでかかる方法を用いました。なおRNAは凍結しておいて1月、冷蔵庫で1週位するとかなり落ちます。したがってRNAは頻回に細胞に作用させなくてはなりません。BSの入った培地を使うとBSのeffectが出ることをおそれているわけです。
次に同じくJTC-4株細胞にDABを作用させます。DABは100mgをTween20の5mlに徐々にとかし、100℃3回の間歇滅菌をします。120℃ではDABが分解するからです。これを45mlに
tyrodeにとかし培地に入れます。このtyrode溶液は、冷蔵庫に保存しておくと沈殿が出ますが熱をかければ、またすぐに溶けます。DABは0.1〜1μg/mlに2種の培地に入れています。PVP培地とBS培地です。期間は3〜4週作用させます。(BS培地も作用させるときだけはPVP培地)。
そのほか、愈々細胞を復元接種してみたいときの練習に、ラッテの皮下に2〜400万個入れてみました。6匹です。ラッテはcortisone
acetate 0.1〜0.3ml、X線を200γ隔日3回照射しました。JTC-4をDAB処理し、4代まで行ったのを入れてみましたが、tumorができません。細胞は初めはtrypsinizeしましたが、現在はrubber
cleanerで剥したのを使っています。
:質疑応答:
[高野]Cortisoneの量が多すぎることと、X線は1回に沢山、400〜600γ照射した方がよいと思います。ラッテは600γまで大丈夫です。
[勝田]動物はハムスターのポーチの方が良くないかしら・・・。
[高野]Sylian golden hamsterがよいのですが、これが中々繁殖しないでこまっています。[高木]ハムスターもぜひやってみたいと思っています。DABは10〜100μg/mlだと細胞がすぐやられてしまいますので、0.1〜1μg/mlの濃度を使いました。DABをかけた細胞は、形態学的には変化が見られません。次にcortisoneは細胞に対して抑制作用があると云われていますが、L細胞を使っていろいろの濃度でしらべてみました。これは細胞自体に対するcortisoneの作用、特にそのウィルス感受性についてしらべたのです。すると図のような結果になりました。これはJTC-4株細胞でも同じような結果が出ました。これから100μg/ml濃度でcortisoneを作用させた細胞のPolioII型Virusに対する感受性の変化(かかり易くなっていないか)をこれからしらべたいと思っています。その他hydrocortisone、DOCAはfibroblastの増殖を促進するといわれていますので、この影響もしらべたいと思っています。
次にJTC-4からcloneを作りたいと思い、TD-40を使って細胞が15ケ位入るように入れ夫夫colonyを作らせ、その一つを拾ってsuspendし、また次にうえ、数代つづけて居ります。 6月17日にJTC-4とLとを同時にPVP培地に入れました。LはPVP培地にすぐなれて、うまく継いでいますが、JTC-4はBSを2%までは楽に減らせるのですが、1%になるともう旨く行きません。ここでとまっています。次に培地の相違によるDNA、RNAへのP32の取込みのちがいをしらべたいと思いその一部をはじめました。RNAはphenol法でしらべました。 またOrotic
acidをJTC-4に作用させてみると、4日迄のdataですが少し促進の傾向があります。これはDNAのprecursorで、小野製薬ではアミドの形で水に易溶性のを作っています。500μg/mlで促進しています。この使用効果についてはFederation
Proceeding(Vol.20,No.1,p155,1961)にもSavshuck
& Lockhartが報告しています。
[勝田]P32をそのまま使うと、DNAやRNAを分劃しても、無機Pの形のままのP32が
contaminateしていることが良くありますから、それらを除くことに注意して下さい。
[高野]ハムスターへの移植法ですが、ハムスターをエーテルで麻酔して、ピンセットで口の頬の内部からpauchを手袋をうら返すように引張り出します。そしてそこをヨーチンアルコールで消毒して、1/5以下の針をつけた0.5mlの注射器で、皮内注射の要領でpauchの2重膜の間に接種するのです。
またEDTAを使ったheterotransplantationがうまく出来る方法があります。EDTAで細胞を処理し、ゼラチンカプセルに入れてラッテの腹腔に入れるのです。dd
mouseのtumorをやってみました。これでしらべると、どうもHeLaよりchangのliver
cellの方が悪性度が高いようですね。1億個入れてみました。Lはconditioned
mouse(ddY)に100万個入れると或程度増えます。EhrlichはddNは駄目でddYがよいようです。
[勝田]高野君は異種移植の方をよく研究しておいて下さい。我々が早速応用させてもらいたいので。それから君もtumoreのextractを培養に入れて発癌実験をやっていたようですが、あれはどうなりましたか。
[高野]私のはL細胞の培養にEhrlichのextract(1:0)を添加するもので、普通は0.5%入れても細胞がこわれますが、ならすと1〜5%位入れても平気になります。この細胞は細長いスマートな細胞で、増殖カーブはLに似ています。この系とL原系をconditioningしたマウスに入れてみているところです。
それからcolony法ですが、5cmmシャーレに4〜5ml液を入れ、シャーレ当り細胞100ケの割でまいて、炭酸ガスふらんきに入れますと、率がいたって悪いのですが、100ケあたり40ケ位colonyができます。
[高木]私は角瓶に5ml入れ、細胞100ケ位でcolonyを作らせ、いらないcolonyはエーゼで焼いて、欲しいのがふえてきたところでtrypsin消化しています。
《勝田報告》
私どもは発癌実験を主にやっています。細胞は、我々はこれまで肝細胞を多く取扱ってきましたので、予定通りラッテの肝細胞をまず使っています。第二候補のラッテ乳腺細胞はまだ培養がうまく行っていません。というより材料の入手に困っています。さて、その肝細胞に用いる発癌剤としては4ニトロキノリンに第一に手をつけました。そのあとDABに入ろうと思っています。4ニトロキノリンの実験はこれまで2系やって居ります。
まず基礎実験からお話ししますと、成体のなかの肝細胞は、通常の状態ではほとんど増殖していませんので、それと同じような状態を再現する条件をしらべました。培養法はラッテの肝臓をまずメスで細切し、それを円形回転管につけて回転培養で数日間母培養します。このときの培地は20%BS+LDです。この間に組織についていた血球はほとんど落ちてrenewalのとき棄てられてしまいます。そこでrubber
cleanerで細胞を全部かき落として、白金の80、150メッシュを通しcell
suspensionを作りますと、これはほとんどが肝細胞から成っています。これをfibroblastと同じ様にピペットで短試に分注し、適当な培地を加えるわけです。第1回は5種、第2回は1種類の培地で培養して2週間観察しました。すると血清の入っていないLDだけの培地では次第に細胞がこわれてゆきますが、他の培地では何れもほとんどinoculumと同数の細胞が残りました。そこでこの中でいちばん組成の簡単なBS+LDの培地を以後の発癌実験に使うことにしました。ここで面白いのはchick
embryo extractを加えても増殖が何ら促進されないことです。
さてこのdataに基いて、20%BS+LDの培地を使い、生後7日のJAR・ratの肝をメスで細切し、円形roller
tubeの壁に附着させて回転培養します。組織片はなるべく小さいものをなるべく沢山つけた方がよいと思います。培地は週3回交新しますが、その内1回だけ、つまり2日間だけ4ニトロキノリンを10-8乗M加えた培地を用います。すべて発癌剤は、それが他の培養にcontaminateしないように、後始末をよく考えておかなくてはならないのですが、この4ニトリキノリンの場合には、熱を加えれば分解しますので、使ったピペットその他は煮沸すればよいわけです。2日間処理したあとはまたBS+LDに戻って、長い間培養をつづけました。すると23日目に実験群7本の内1本のなかの1つのexplantから細胞がmigrateしはじめているのが目につきました。単に遊出したというだけでなく、平たく硝子面に細胞質をのばし、かなり大きな細胞です。それがみるみる増えるのと平行して、次の日、次の日と色々なtubeで、計5ケ以上の新生細胞を出しているexplantが見付かったのです。それに対しcontrol群の方では、このころになって7本の内の1本の1ケのexplantから少し新生がみとめられましたが、形は大分上のとはちがっていました。第2回の実験は5ケ月のラッテを使いました。容器はこんどは平型の回転管です。それ以外は上と全く同じ条件でやったのですが、3週一寸経った今日、まだどのtubeでも新生細胞が見られません。これは材料の年齢の差によるのかも知れません。一方円形tubeではケンビ鏡観察にむかないので、第2回の実験は何れも平型回転管を使いました。しかし平型管というのは、どうも液の流れ方が癖があって、平面をひろくぬらしてくれません。やはりその点では円形管の方が良好です。一考を要するところと思います。なお第1実験の方は、その後、実験群の各新生細胞が次第に変性し、controlの唯一のものと共に消えてしまいました。残ったのは実験群の唯1ケのexplantだけで、これはゆっくりですが、いまだに増殖をつづけています。
この方法を用いますと、変化を起こさない細胞はすべて増殖せずに、静止状態で居りますので、変化を起こした細胞を見付けるのが実に楽です。培養法も簡単ですし、皆さんにおすすめします。
発癌実験に必然的に伴う宿命ですが、突然変異というものは変化する方向の決まっていないものです。たとえば栄養要求にしても実に各方面にむかっての変異が考えられますが、その内のごく小さい方向、つまり与えた培地に適した変異細胞だけがどんどん増殖できるわけで、その意味で発癌剤を与えたあとはなるべく各種類の培地でcultureすることがのぞましいと思います。
上述の実験に用いた培地は腹水肝癌AH-130のoptimalの培地です。ですからAH-130をつくったDABを発癌剤に使った方が或いは良いかも知れません。
[伊藤]静置培養で4ニトロキノリンを入れたのではうまく行きませんか。
[勝田]私はやらなかったのですが、いま九大癌研へ行った遠藤君は株細胞を使い、もっと高濃度でやっています。しかしこの場合は発癌実験ではなく、細胞に封入体のできることなどを論じているだけです。この実験も4ニトロキノリンをもう少し長く作用させることもやってみたいと思います。
次に御報告することとしては、馬の肝臓から3種の株細胞を作り、6月の伝研集談会に発表しましたが、これは発癌と関係がありませんので省略します。
Parabiotic cell cultureについて、その後やっている実験をお話ししましょう。まず
chick embryo heartのfibroblastsとchick embryo
liver cellsを組ましてみますと、fibroblastの増殖は7日後になって初めて少し抑えられますが、liverの方は7日間ほとんどeffectを受けません。次にfibroblastsとliver
cellsと夫々同じものを組にして培養しますと、次のような結果が得られました。どうもfibroblastではお互いに少し抑える傾向、liver
cellは促進する傾向が見られるのです。
これから秋にかけてのparabiotic cultureの研究の主体はRat
liverと、それ由来の肝癌AH-130及び少し系は異なりますが吉田肉腫、この二つの組合せを主体にしてやって行くつもりです。現在その第一歩をはじめています。この実験では肝は成ラッテの肝で、さきほどの発癌実験と同様、増殖しない状態において培養しています。この方が腫瘍の正常細胞に対するeffectをみるのに良いと思います。培地は従って20%BS+LDです。吉田肉腫は本当はHSの方が良いのですが、今回はこれを使ったところ、controlで細胞が2日後ふえているのがまたこわれて行ってしまいました。それに対してliver
cellとのparaculture
では少し宛ですが増えつづけています。面白い結果と思います。AH-130はliverとのparacultureでごく少し促進されています。一方、正常肝の方はきわめて微妙ですが、他のtumorとparacultureした方が少し宛抑えられるようです。秋の癌学会までにはもっと沢山データを出すつもりで居ります。
次に馬組織を北大から輸送した経験によると、培地に入れて5℃〜0℃の低温にさえ保てば、8日間位おいた材料からでも株が生まれました。サル腎臓tissueの輸送にも応用できるのではないかと思います。人癌組織などの輸送や保存にも参考になります。
L株より作った4亜株について多核細胞の出現率を見ますと、L・P1(PVPが培地に入っている)がやはり一番少なく、培地が無蛋白ではあるが代用高分子を含まぬ他の3系では、これより何れも多くなっています。この研究は目下継続中です。
先月の集談会で高岡君が演説した仕事ですが、trypsinで継代しているJTC-4株をうちでEDTAで継代しはじめたところ、数代の内に上皮様の形に変りました。これは元に戻りませんので、この系をJTC-4Dとよんでいますが、これのtissue
culture内でのCollagenの作り方をhydroxyproline定量でしらべたところ、細胞1ケ当りの量がJTC-4よりはるかに少なく、しかも培養後期になっても増えません。銀染色するとJTC-4は微細な銀センイを沢山形成していますが、JTC-4Dは作っていません。次にEDTAで継代しているHeLaをrubber
cleanerだけで継代はじめたところ、細胞の形がfibroblasticになってしまいました。
EDTAは細胞の形態をepithelialにかえる副作用と、細胞の変異を促進するような力を(変異を直接惹起するのでなくても)持っているのかも知れません。培養のときはEDTAを使うには慎重にせねばならぬと思います。
【勝田班月報・6109】
《勝田報告》
A)培養内の発癌実験
この7月頃やっていた発癌実験は何れも培養内で細胞増殖を得るに至らず、その后培養を中止いたしました。このときは初めは7日、后に3月の♂ラッテの肝を使用したのですが、生后7日の方が成績が良好で、4ニトロキノリン10-8乗Mを作用させた群で細胞の増殖が見られたのです。しかし報告会で話したように、培地が非常に問題と思います。折角癌化しても、使ってある培地がその癌化細胞の栄養要求に合っていなければ癌化した細胞は増えてくれない訳です。現在観察しているのは8月31日から6日間4ニトロキノリンを10-8乗M作用させた群(前の実験は2日間だけ作用)で、もう1月近く経っているが細胞増殖は見られない。細胞は生后1ケ月のラッテ♂の肝細胞である。この位の大きさのラッテが肝の収量から云っても実験にいちばん使い易い。この次は4ニトロキノリンの濃度をもう少し上げて見ることも考えている。
B)正常細胞と腫瘍細胞間の相互作用
正常ラッテ肝細胞とラッテ肝癌AH-130の間の、増殖に対する相互作用を、これまで主にしらべてきた。肝細胞の方は増殖しない状態においてparabiotic
cultureする訳であるが、何れの場合に於ても正常肝細胞の方は数が減少して行き(細胞が殺されるわけ)、AH-130の方は増殖を促進されている。Control(Single
tube)とParabiotic(Twin tube)の他に、両細胞を1本のtubeにMixして一緒に入れるcultureもやってみた。ところが面白いことに、parabiotic
cultureの方よりmix cultureの方が上記の相互作用が一層明瞭にあらわれるのである(表を呈示)。つまり、液相を通じてだけでも相互作用はあるが、細胞が直接触れ合うことにより、さらにそれが強められる訳で、面白いことである。この場合、触れ合う、と書いたが或いは触れ合わなくても、例えば一種の毒物を癌の方が出す場合、それが細胞のが近くにあれば、稀釋される前の濃厚なのに正常細胞が浸されるわけで、その為に強い効果があらわれた、と云えるかも知れない。しかし別の所見から考えて、触れ合っているのは事実で、例えば肝細胞だけを母培養したあとで、replicate
cultureすると、肝細胞は管底にあまり良く附着しない。ところがmix
cultureするとAH-130に抑えつけられてしまうのか、肝細胞がtubeを動かしても浮び上ってこないのである。正常肝細胞は久留説によれば、これらの実験の場合、AH-130の存在によって反って増殖を惹起される筈である。しかしそのような現象は全く見られなかった。このことは、久留教授及び伊藤班員の説が誤というわけではなくて、その追究してきた促進物質というものが、癌細胞が生きている状態では外に分泌されず、抽出してはじめて細胞外に取出されるものである、ことを意味しているのではあるまいか。その推定の下に、こんどはAH-130の腹水を大きく三つに分けてみた。1)腹水上清、2)AH-130のglass-homogenateを凍結融解した后の遠沈上清、3)同沈渣、この三つを何れも5%容に正常肝細胞の培養に入れてみたが増殖は全く起らず、反って阻害が見られた。それで2)をさらに各種濃度に添加する実験を準備している。一方、伊藤班員にはS2分劃の効果のあるというところを、AH-130のと人癌のと送ってもらう手筈になっていた所、台風で研究室もろともやられてしまったそうで、今度の癌学会には一寸間に合いそうもないことになった。我々のparabiotic
cultureに於ける正常肝細胞の阻害を中原氏のいわゆるtoxohormone作用と考えれば、中原氏は大いによろこぶ事と思うが、癌細胞が正常細胞におよぼしているeffectの、そのfactorsは複数形であろうし、仲々そんな簡単なものではあるまい。この場合もっと我々にとって面白いのは、正常細胞とのparabioticcultureによって、AH-130の増殖が促進されるという事実である。これは未だ、仮に想像はされても、実証のなかったdataであり、組織培養によってのみ証明されるものである。正常細胞の何によって促進されるか、これは面白い将来の問題というべきであろう。
次に吉田肉腫であるが、厄介なことにこいつは回転培養では増えない(だからセロファンを間におけない)、牛血清ではうまくなくて、馬血清で増える。そこで正常肝の方を馬血清で培養したところ、馬血清でも何とか行きそうがということが判った。従って馬血清で吉田と正常の肝をparabiotic
cultureした。まだ7日目のcountをしてないが、4日目までの成績ではどちらにも大した相互作用がないのである。これは大変面白い知見と思う。肝癌は肝細胞とだけ相互作用をおこすのか。それならば吉田はfibroblastsとは相互作用を起すかも知れぬ。という訳でfibroblastsとのparabiotic
cultureを計画中であるが、上記の7日目の成績が判らぬと余り先には進めぬ。
なおAH-130では回転培養でMilliporeでもCellophaneでも相互作用が同様に認められた。 これは今秋の癌学会及び組織培養学会に於て発表する予定である。
《高木報告》
1)in vitroにおける発癌実験
本年6月3日からDABを作用させ始めていますので、大体今月まで3ケ月と少しになります。PVP+LYT培地にDABを0.1〜1μg/ml入れて作用させていたものは、細胞の発育が思わしくないので、7月末からはすべて20%牛血清加培地にDABを1μg/ml入れる様にしました。復元(移植)実験はどうも思わしくなく、あれから(班会議後)再度HeLa細胞を用いてtrainingしてみましたが、1ケ月たっても腫瘍は出来ず、ガッカリしています。今度はsuckling
ratを用いてみようと目下ratの増産にこれつとめています。またhamsterも用いてみたいと思っていますが、何せ未だ動物が入手出来ないので仕方ありません。
形態的にみてDABを作用させたものは巨大細胞、多核細胞が対照に比して確かに多い様に思いますが、これ丈では何とも云えません。
2)L細胞の発育過程におけるP32のincorporation
前回の班会議でL細胞のtime courseによるP32のincorporationをのべました。その結果、大体直線的になった処、つまり培地中にP32を入れて10時間後をとることにしました。そこでルー瓶を用いて培養後2日、4日、7日目の細胞のP32のincorporationをみてみました。その方法は
(1)P32を1μc/mlになる様に加えた培地を作っておき、培養2、4、7日目にこの培地と交換して10時間incubateする。
(2)Incubationが終ったら細胞をrubber cleanerではぎおとして遠沈する。
(3)遠沈して得た細胞を1回0.154M KCl水で洗う。
(4)洗った細胞を1mlの水にsuspendして5回凍結融解して細胞をこわす。
(5)これにfinal 0.5MにPCAを加え、核酸、蛋白、Lipidなどを沈澱させる
(6)この沈渣について柴谷法(P32を充分に除去してpureな核酸を得る方法)による分劃を行い、contaminationのないpureなRNA、DNAfractionを得る。
(7)RNAはE260で吸光度を測定し、これに係数33.16を乗じてRNAμgとし、DNAはE267で測定して、これをDNAμgとした。同時に一定量を20mm径の小皿にまいてgeiger-muller
counterでcountしてspecific activityを求めた。
この結果、specific activity of RNA(cpm/RNA)は、2日目13.20、4日目8.53、7日目5.94となり、specific
activity of DNA(cpm/DNA)は、2日目6.1、4日目6.35、7日目4.15となった。つまりRNAの方は培養日数が若い程incorporationが大であり、これは想像される通りである。DNAはやはり同様の傾向とは思うがあまり(RNA程)差がひどくなく、また4日目が最も多くなった。この点については再度実験するつもりです。
3)その他
Orotic acidの諸種株細胞に対する効果を検討中ですが、JTC-4細胞に対してはやはり50μg/ml位(班会議で500μg/mlと申しましたのは、あとで下のScaleのとりちがいだったことが分かりました。まことに申訳ありません。ここに改めて訂正します)の処で促進作用がみられる様です。FLにはあまり影響なく、Lにはやや(有意ではありません)促進?作用がみられるかの様です。くわしくは全部まとめて次号にでもreportします。
それからLP細胞(こちらでprotein freeにならした細胞)はどうも増殖はあまり思わしくなく、角瓶に培養すると一時増加しますが次第に剥げ落ち(浮遊するのかも知れませんが)ます。growth
curveを出そうと思って5゚の角度で静置培養すると、どうも浮遊する細胞が多く、incubaterの中で直立させておきますと底について発育する様です。直立させて培養させた処では1週間に5倍位の増加率のようです。
今回は以上にしておきます。その他の実験はまたdataがそろってからreportします。
《堀川報告》
今回の研究報告は丁度夏休み期間中のものになりますので、私の所では余り成果もあがっておらず、またその間には8月上旬に伝研で例の研究報告会があり従来の仕事の概略はしゃべりましたので、今回はこの夏休み期間中にあった主な事についてお知らせします。
◇8月中はこれといった大きなニュースはありませんが、私自身11日から1週間程大阪の方に帰って暑中休暇を取って来ました。勿論8月といえば、我々の研究費が入ってよろこんだのは忘れていません。
◇9月に入って1、2、3日と仙台で恒例の遺伝学会が開催され出席しました。例年より少し早かったせいか暑いことこの上なし。出席者も少なかったようです。来年は静岡県の三島で開催されます。
◇9月19日朝10時羽田発JALで、黒田さん(阪大)が奥さんと子供2人づれでシカゴに向けて出発されました。皆さん御存じのことと思いますが、シカゴ大学のDr.Mosconaのもとで一年間発生遺伝学の仕事をやるためです。
これ位がまあとりあげてお知らせ出来る私の方のニュースですが、私の方でもこの放医研に来てから一人ふえ二人ふえして、現在ではTissue
cultureの部屋は狭いながら4人になりました。もうしばらくすると1人来るらしく、部屋を拡げるのに現在仕事中止で頑張っております。
最後に最近出た面白い論文(私に関しては)を2つばかり御紹介しましょう。
◇Transfer of DNA from parent to progeny
in a tissueculture line human carcinomaof
the cervix(Strain HeLa) Edwoard H.Simon
J.Mol.Biol.(1961) 3:101-104
体細胞でのDNA replicationのメカニズムを知るための実験です。すなわちHeLa細胞の
DNAを5-bromodeoxyuridineでラベルし、1回目の分裂後、2回目の分裂後にそれぞれのDNAのdensityをdensity
gradient centrifugationで調べます。1回目の分裂で全DNAが5-BUDRで半ラベルされ2回目の分裂で半ラベルされるものと全部ラベルされるDNAが見つかりました。これらの結果は体細胞でのDNA
replicationはバクテリヤやchlamydomonasに於けると同様Semiconservative
modelで起ることを示しています。これは実にきれいなすばらしい実験です。
◇A study of the penetration of mammalian
cells by deoxyribonucleic acids E.Barenfreund
& A.Bendich J.Biophys.Biochem.Cytol.(1961)
9:81-91
Pneumococciとhuman chronie grnulocytic leukemiaのleukocytesから取り出したTritium-labeled
DNAを37℃でgrowingしたHeLaに加えますとHeLaのDNAの中に入ることを証明したものです。
しかも、DNAの4つのBaseに完全に入ります。どの様なmechanism(DNAを受ける側のCell又入る方のDNAの型)でpenetrateするかは今後の問題ですが、興味あるDiscussionをしております。御一読下さい。
【勝田班月報:6110】
A)ラッテ正常組織細胞とラッテ腹水肝癌細胞との間の相互作用:
Parabiotic Cell Cultureを用い、生体内に於ける正常細胞と癌細胞との間の相互作用をしらべる第一歩として、ラッテの正常肝細胞とラッテ腹水腫瘍細胞(肝癌AH-130及び吉田肉腫)との間の相互作用からまずしらべ初めた。
正常肝とAH-130との間の静置培養(TWIN-D1)での相互作用の結果は前報で報告したので省略し、同じ細胞の組合せを回転培養で試みたところ、殆んど静置と同様の結果が得られた(表を呈示)。この実験では両細胞と同一管に一緒に入れて混合培養した群も2群加えた。単管に入れたのと、双子管の片方に入れて他方は培地だけ入れたのとである。こうしてみると、AH-130の増殖促進、Liverの阻害の現象は、普通のParabiotic
Cultureのときより一層強くあらわれた。回転培養であるから培地内の干渉物質diffusionの仕方のeffectとは考えられず、やはり一緒に細胞が直接接し合ったためのeffectと考えるべきであろう。つまり液層を通じてだけでも相互作用はあるが、直接接触し合うともっと強い相互作用があるということで、映画でもとって見ると、AH-130のことだからきっと細胞突起を肝細胞の中に突込んで注射出模しているのではないか、という気がする。 次に双子管の間にMillipore
filterを挟んだ場合とCellophaneを挟んだ場合と比較するとこれもCellophaneの方がむしろ強く相互作用があらわれた位で、干渉物質は容易にCellophaneを通過し得ると思われる。
吉田肉腫は、肉腫だからfibroblast系であり、肝癌とは異なる反応を示すと考え、吉田肉腫−fibroblast、吉田肉腫−肝細胞の組合せもしらべた(表を呈示)。吉田とfibroblastでは、吉田は初めは若干促進されるが、7日后には逆に抑えられている。之に対し、fibroblastの方は(AH-130−肝)の場合と同じように終始明らかに阻害を受けている。
次にTumorのこれらのもののoriginとは全く関係のないrat
kidney cellsをトリプシン消化して作ってAH-130とのparabioticを試みると、静置、回転何れでもKidney
cellsは阻害を受ける。殊に回転のときに著明である。元来AH-130には静置よりも回転培養が適しているので、回転でAH-130が非常によく増殖し、そのため受けた干渉も大きかったのではないかと想像される。回転ではAH-130はきわめて増殖促進を受けているが、静置では逆に抑制され、回転の結果と相反した結果になっている。この理由がどうもはっきり判らない。しかしこの判らないところが、将来の鍵になってくれる可能性もある。以上のように、腫瘍とその元の細胞との間には、どうも何か、Virus−宿主細胞の間の親和性に似たようなものがあり、それが転移の場所にも関係していることが暗示されるような気がする。AH-130とfibroblastの組合せは目下準備中である。
B)培養内発癌実験:
これには雑系ratは使いたくないので、うちのJARの子供をうむのを待っているが、目下余り生んでくれないので、来月までは"子待ち"という状態である。
《高木報告》
1)in vitroにおける発癌に関する研究
依然としてJTC-4cellsにDAB 1μg/mlを作用させ続けています。細胞の方は準備出来ているのですが、動物の方が中々軌道にのりません。しかしrat(Wistar
king)もどうにか殖えて来ましたし、またhamsterも純系のものを5対予研から頂くことにしましたので、癌学会が終りましたら実験にとりかかれると思います。またDABの外にStirboestrolも用いてみようと思い、目下primasy
cultureの準備中ですが、生后3週間のratの腎を培養してみたところでは、epithelial
cellsはLT+20%BS及びLYT+20%BSのいずれでも可成りよく発育しますが、PVP+LYT培地では思わしくなく、また培養後4〜5日目からfibroblastが優勢になって来るのが頭痛の種です。
2)免疫に関する研究
これまでJTC-4、HeLa及びL細胞間の免疫関係について調べてみた訳ですが、更にFL及びChang'Liver
cellも加えて検討してみようと思い、目下家兎を免疫中です。FL細胞の免疫血清は、未だやや日が浅いのですが、採血して他の3種類の株細胞の免疫血清及びratの心臓組織に対する免疫血清と共に異種血球凝集抑制試験を行ってみました。その結果は、各細胞の家兎免疫血清を用いて、血球の凝集がおこった処までの血清の稀釋倍数(titer)を、同一家兎の免疫開始前の血清のheterophile
haemagagglutininのtiterで割ったものです。血球浮遊液は各血球を0.5%の濃度に0.01Mphosphate
buffered NaCl solutionに浮遊したものです。L細胞の免疫血清については、免疫開始前の血清がありませんためdataにはなりませんが一応ここに記載しました(表を呈示)。もっと数多くの動物を免疫しなければはっきりした結果を云々することは出来ないと思いますが、大体において種属特異性の傾向は出ている様に思います。またここに示した数値は可成り低い様ですが、これは
Gerhardtらのdataをみましても高い値を示す例は比較的少い様です。
3)その他
(1)Orotic acidの株細胞に対する効果を調べてみました。さきにPilieriらはHeLa細胞を用いて、Orotic
acidは核酸のprecursorとして大した意味はないことを報じており、またSauehuckらはhuman
skin、liver、HeLa及びL細胞を、Orotic acidを含む培地で3日間培養して細胞の増殖促進効果はないことを述べています。
ここに行った実験は、培養と同時に薬剤を作用させ、以後一日おきに新にOrotic
acidを作用させて、1週間その効果をみた訳です。するとFL、L及びHeLa細胞に対しては500μg/ml以上の濃度で抑制作用がみられる丈ですが、JTC-4細胞に対しては50μg/mlでやや増殖促進作用がある如く、またChang'Liver
cellsに対しても同様でした。増殖促進と云うことになりますと慎重に判定しなければならないと思いますので、再度実験を繰返しているところです。
(2)伝研から頂いたL細胞が、私達のところでもprotein
free mediaで発育する様になったことはすでに報告しましたが、近頃どうにか試験管を5゚の角度においてもあまり浮遊せず増殖を示す様になりました。但、やはり1週間に数倍です。JTC-4細胞は、subcultureする時丈1日1%牛血清を加えてやれば、あとはprotein
free mediaで育ちます。
なおJTC-4細胞のclone cultureは9代で一応止めて、この細胞をふやしています。まもなく奥村先生の御手もとに届けることが出来ると思います。
昨10月14日、九大癌研拡張記念講演会がありました。今度こちらの化学部門に東京の癌研から遠藤教授が就任され、また病理部門はこれまで通り今井教授の専任と云うことになりました。東京から中原先生が来られて、発癌機構についてのやや哲学的な御話、また名大の宮川教授の無菌動物の御話などあり、有意義な一日でした。
《遠藤報告》
A)HeLa株細胞に対する性ホルモンの影響
(1)黄体ホルモン作用物質の増殖に対する影響
研究連絡月報No6108のはじめに書かれた"HeLa細胞の増殖に対するprogesteroneの影響"の続きをやっています。これまでは塩類溶液として、骨の培養にずっと使っているGey(1936)(G.Cameron"Tissue
Culture Technique"(1950)のp.40の表にのっているもの)をそのまま使ってきましたが、HeLaの培養でCa++とglucoseが普通の塩類溶液の2倍であるものを使う積極的理由は何もないので、変えるならまだデータのたまらない今のうちと、Hanksに転向しました。
そこで追試の意味も含めて、今までと同じ実験をHanksを使ってやり直しています。結果はまだ僅かばかりですから、何号かあとでまとめて書きたいと思います、その方が皆さんからまとまった批判を戴けると思いますので。
(2)男性ホルモン作用物質及び蛋白同化ホルモン作用物質の影響
去年の癌学会総会で報告しましたように、TestosteroneはHeLa細胞の増殖は抑制しますが、細胞1ケ当りのLeucine
aminopeptidase活性を高めます。これを、前者はandrogenicactivityにより、後者はanabolic
activityによると考え、各種のAndrogenとAnabolic
steroidを使って調べてみたいと思っていたのですが、今度10月半ばか11月初めから1人人を得ますので早速やってみます。
B)Collagen形成とProlinaseの関連
現在chick embryoの各種臓器についてprolinaseとleucine
aminopeptidase活性を測定し、更にそれぞれDNA、RNA及びHyproを同一sampleについて定量しています。現在までの所ではcollagen(厳密にはHypro)の多い組織はProlinase/Leucine
aminopeptidaseのratioが高いので、想定した通り何らかの関連がつかめそうです。
そうしたら、JTC-4とJTC-4D、或いはJTC-6を使ってかなり直接的にProlinaseとCollagenformationとの関係を追求できそうな気がします。その節は、細胞の供給をよろしくお願いします。(これについては研究連絡月報No.6004
p.6〜7に少し触れられています)
C)「中だるみ」と「真剣勝負の気魄」について
確かに月報面に現れた限りでは「中だるみ」を否定しません。併し、「真剣に癌と面をつき合わせて勝負しようとしない」わけではありません。
私達東大・薬学・生理化学教室のスタッフに関する限り。正直の所「数オーダーも上の厄介な病気」の癌と「真剣勝負」できる実力をまだ持ち合せないのです。
そこで、私達は先づ"癌の具体的な理解"をモットウにして
The Morphology of the Cancer Cells
by CH.Oberling and W.Bernhard
(The Cell ed J.Brachet & A.E.Mirsky Vol,
)
の勉強会を始めました。素人の輪読ですから、解らないとGeneral
Cytologyで勉強し直したりで、遅々として進みませんが、それでもみんな「真剣」にやっています。
これが終って、癌が如何に正常な細胞と違うか、いや如何に区別がつかないかがわかったら、次に癌の生化学を勉強する予定です。
このような勉強の結果、癌について何が知られており何が知られていないかを知った時、恐らく"組織培養による正常及び腫瘍細胞の研究"が欠くことのできないものであることを痛感し、そこに本当の「真剣勝負の気魄」が生れることと考えています。
《堀川報告》
L原株細胞を種々の物理化学的要因(例えばMitomycineC、8-azaguanine、紫外線およびγ線)で処理した場合、細胞分裂および核酸、蛋白合成にどの様な影響がみられるか。然もこの様な処理を数十継代繰り返した後には(それぞれの要因の作用機構の違いによってそれぞれ出現過程は異なるが)耐性細胞が出現することはこれまでに度々報告してきた。
耐性細胞の出現の模様がどうであろうとこの様な要因でもってL原株細胞からまったく性質の異った変異細胞を分離することは非常に興味ある問題で、現段階では前述の"各要因の作用機構"と"耐性細胞の分離の過程"に重点を置いて仕事を進めてきたため、変異細胞の特性を詳細に分析するところまで来ていない。仕事と云うものは一足飛びに行かないのが残念で、或る程度基礎的な所をしっかりつついておかないと後から出て来る結果を解決する時に苦しむからまあ仕方はない。
御存知の様にMitomycinCはantibioticsとしてバクテリアE.coliに於いてはDNA合成を特異的に抑えることが知られており、又紫外線、γ線はmutagenic
actionを有する強力な大砲、8-azaguanineはRNAの前駆物質として生細胞内のRNAの1つの素性に入って行くものだ。従ってどれをみても変異細胞を生じさせるに最も都合のいいものの様に思われる。
この様な強力な作用を持つ要因に対して耐性細胞は平気で生存出来る様になる。一方これらの耐性細胞はこれ迄調べた範囲では非常に広範囲な点でL原株細胞からも、又同じ変異細胞間でもそれぞれに異った特性を示して居る。例えば最近になって同研究室の共同研究者、土井田幸郎君がこれらの変異細胞間の細胞核学的分析を始めたが、非常に興味ある結果を得た。その一例を示すと、
L原株細胞 →染色体peak63本 Fragment無し
L8-Az(8-aza耐性細胞) →染色体peak65本と68本
未同定
LMit(MitomycinC耐性細胞)→染色体peak63本 Fragment大多数
LUv(紫外線耐性細胞) →染色体peak63本
Fragment無し
Lγ(γ線耐性細胞) →染色体peak49本 Fragment大多数
の様でBiochemicalな分析に先だって興味ある結果を出している。いづれ次回の組織培養学会の際に詳細は報告する予定である。LMitとLUvは染色体数からみると予想に反して原株細胞と差がなく、L8-Azでは2つのpeakを示す。一方最も大きな差のあるのはLγで染色体数が原株より14本も少くなることが分った。又LMitとLγでは染色体の切断が多くFragmentとして耐性細胞分離後数ケ月経つ今日でも各progenyに出て来るところを見ると何らかの形でこの様なFragmentも細胞分裂の際duplicateして来るのではないかと云う疑問を生じさせ、今后の問題として残されている。
さてこの様な耐性細胞がBiochemicalな素性及び代謝の面で互に差異があるかどうか今後の仕事に大いに期待している訳であるが、肝心のマウスに対する発癌実験はこれ迄マイナスの結果しか得ていない。何か小さなシコリの様なものでも出来てくれると後は占めたものなのだが・・・。然し考えてみればその様に簡単なものでもなさそうだ。発癌というものは入れる側の細胞だけの性質で起きるものでなくHost
animalの何らかの機構に変化が現われた時(例えば外来の細胞を受けつけやすい状態に変化した時)或るlatent
activityを有した細胞(現在我々が癌化させようと努力している細胞)を入れた時、activeに生体内で増殖しやがて腫瘍として発現するのではなかろうか。
この様な複雑な問題を考慮に入れて今後はあらゆる角度から堀りさげて仕事を進めてみたいと思う。
《高野班員さよならの挨拶》
細胞を通じて長い間の御附き合い誠に有難うございました。といってもアメリカ大陸はジェットに乗れば僅か14時間、時間的距離では汽車で行く九州より近い位です。お別れを言うのが大仰な感じですが、現実にこのグループを一応離れるわけですから、やはり一言御挨拶したい気持ちもあります。
「君もいよいよアメリカの土になりに行くか」とか「アメリカの土人になるつもりか」とか「何故日本人がアメリカの為に働くのか」といろいろうるさいむきもある様です。併し之はあく迄個人に属する問題で、強いて答えを求められるなら、「他の遊星に人が飛び出す時代、地球人が地球の上の何処にいようと同じこと」と返事する迄です。だが現実に国の境があるではないかといわれれば、誠にその通りですが、それは政治上経済上でのこと、細胞をいじる世界に国境はありません。いじられる細胞といじるhomo
sapiensだけの世界でよかろうと思います。それ以外の因子は各研究者個人の問題で、この世界でのおつき合いは、この世界に限るべきだと考えます。細胞にツカれた者どもが、それを唯一の共通点として自然に集まったのが研究グループの真骨頂で、他の点では個々が独立した烏合の衆で一向に構いません。うって一丸としたり、総力を集結したり、緊褌一番したりしなければ駄目なら、何処か間違っているのでしょう。
それから、本当にツカれた者同志の間では喧嘩にならずに無制限の討論が出来る筈です。個人の思想、感情が相違しても、共通の広場に出ての議論なら、どんなイヤな奴とでも出来る筈です。嘘やハッタリや見栄があれば、話し易い相手とだけ狃れ合いをすることになりましょう。それは自分自身に余剰因子が多過ぎることを意味します。飽く迄実証主義者である筈の我々は事実にのみ頭を下げましょう。たとえ他人のデータでも、経験の浅い人の口から出たものでも、要は年期の長さでなく仕事の内容そのものということです。
限られた数の人々の間だけでも、何ものにもとらわれない本当に自由な議論の場があって欲しいと思います。各々が色の違う見方考え方をしながら、それを構わず出し合って、利用出来るところは利用し合う、それが独立した研究者の集まるグループの本当の姿であり、この雰囲気が漂っている限り、能力に応じた成果は必ずあがるものと思います。
小生がこれから知らぬ他国で、どの様な道を歩いて行くか、それは小生自身にも分りませんが、仕事をする上の自由の度合が少しでも大きい可能性を求めて動くのは短い一生が終る迄変らないでしょう。自分の眼の黒い中に自分の生きる場所を少しもでよくしてみたい。之が今回の実験の動機です。島国生れの日本人が大陸の真中での研究生活にどの様なadaptationを示すか、之も一つのテーマでしょう。
何はともあれ、皆さん、のびのびと自由に能率をあげて下さい。現実の世界のかけひきはとも角も、事実を素直にうけとる自由な眼で頑なな癌細胞をあっちからこっちから可愛がってやりましょう。細胞に乾盃!!
【勝田班月報・6111】
《勝田報告》
腫瘍研究の夢
1:腫瘍細胞の特性
細胞を生体からとり出すと、たとえ培養に入れたところで、今日のところでは未だそれが癌かどうかという判定はつけられない。生体のなかで、生体の全身的支配に服従しないで、しかも勝手にどんどん増殖するという点だけが目やすであり、それ以上は判っていない。何故勝手に増殖するのだろうか。二つの可能性がある。第一は全身的な増殖阻止命令をきかない。第二は体液中の栄養分だけで増殖に必要な諸合成をどんどん行なえる。つまり高度の合成能力を具えている。第一の増殖阻止命令の中には、正常の生体内各細胞が受けていると仮定される阻止命令の他に、異種蛋白とみなされての抗体による阻止命令も含まれる。第二の点は、培養の株細胞と非常に良く似ている。しかし株細胞は生体に戻しても必ずしも癌のようには増殖するとは限らない。栄養分が不足なのか、生体の抵抗にやられるのか。勿論淘汰された環境の相違という点もあるが。
DNAが変化すれば当然そこに作り出されるRNA、蛋白の組成にも変化が予想され、もとの生体に対して抗原性をもつようになるであろう、とは考えられても情ないかな、そのしっかりした証明がまだ出来ていない。これはこれまでの検索法が誤っていた、つまりきわめて粗いオーダーの方法だったからではあるまいか。I131をラベルして正常血清を入れても細胞内には殆んどたまらないのに、免疫血清蛋白にラベルして入れれば、肝癌細胞の内部にたくさんたまるのだから、微妙な検索法さえ見つかれば必ず癌患者血清で癌の診断がつくのではないか、と確信している。近ごろgel内沈降反応が大分問題になっているが、これがどこまで行き得るか。Bioassayのようなやり方の方が結局は成功するのではあるまいか。但し人間という奴はひどい雑種なので、一人一人でまるでその血清がちがうから、非特異的蛋白の吸収ということが非常に難しいかも知れないが。
癌患者に見られる悪液質のような症状から、癌が生体に対し有害な物質を出していることは当然予想されるが、それがtoxohormoneのような熱をかけたり、その他強引な抽出法に対しても安定なものだけ、とは考えられない。もっと色々な物質が出て、有害な作用をやっているに違いない。我々のparabiotic
cultureの結果から見ても、Celophaneを通して阻害作用が行われ得るが、正常と癌と両種細胞を直接接触させて培養すると、さらに強い阻害作用が正常細胞に加えられる、という事実から考えても、このことは考えられるし、さらに又他の細胞の顕微鏡映画から想像するのであるが、癌細胞がその細胞質顆粒などを正常細胞に注射して殺す、或は正常細胞の顆粒を吸取ってしまう、ということも有り得るかも知れない。このような他の正常細胞に対する影響をしらべて行くと、案外そこに癌細胞の共通した特性というものが掴めるようになるかも知れない、と思っている。
2:癌の治療
かねてから云っているように、現実的には癌の治療が成功するとしたら、その第一歩はホルモンによる療法であろうと思う。しかし現実的なことは面白くないので、ここに夢を書こう。悪性腫瘍と今日呼ばれるものは、ほとんどが未熟性腫瘍であるが、その細胞内のenergyはほとんど増殖の方にばかり使われ、本来その元の細胞であったときの任務を遂行することを忘れているものが多い。しかもこれは"忘れている"のであって、"失ってしまっている"能力は少いのではないか。つまりその点を利用して、何かの刺戟でその細胞の"分化"の任務を見出させる。すると細胞はあわててその方にenergyを注ぎ込むので増殖の方がお留守になってしまわないか、というのである。まことに夢みたいな話であるが、今日の癌の研究には"夢"がいちばん大切だと私は考えている。
3:癌研究の今后の方向
癌研究の最后のゴールは決まっている。それは他の疾病と全く同じで、治療と予防である。しかしそこへ行きつくのが大変で、まず敵を充分知らなくてはならないが、これまでの癌を研究していた連中は本気な人が少いもので、未だに禄なことが判っていない。この敵を追いつめて行くには大別して道は二つあると思う。その第一は癌の方を追うことで、第二は宿主である生体の方を追うことである。これまでの研究者の多くは、この第一の癌細胞のあとを追っていた。しかし、生体は、個体によって発癌性が異なる。つまり同じ刺戟を与えても発癌するものとしない者とある。勿論突然変異の方向が360゚であることを考慮に入れても、なお体液による淘汰の役割の大きいことを否定できない。その抵抗は正常の細胞の細胞単位においてもおそらくは為されているであろうし、一生体としては勿論必死に行われているわけである。従って生体側がどんな抵抗を試みているか、且その抵抗の内でどんなものが有効か、最も効果があるか、その有効な抵抗を何らかの方法で鼓舞してやれないか、をしらべて、第二の道をとるのも、案外結果に早く到達できる方法ではないか、という気もする。
4:その他
癌の研究に対して文部省は地方分権的なやり方をとってきた。これまでのボス連はそれをアドバイスしたのかも知れない。しかし癌の研究はこれまでの疾病よりはるかに厄介な代物で、相当広い分野の人たちが本当の意味の共同研究をやらなくては解決つかぬと思う。厚生省では癌センターを作るというが、少くとも研究に関する限りでは、厚生省にやらしたら研究のケの字も成立し得ないことは、予研をみれば判る。文部省及びボス連は大いに考え直す必要があろう。
《高木報告》
これまでの知見によれば、癌細胞が相対的に正常細胞と異なっている点はいくつかあげることが出来るが"癌細胞とはかかる細胞である"と言う絶対的な特性をあげることは、先ず不可能でせう。そして唯、癌細胞は、形態学的に、生物学的に、その他いろいろな面から、正常細胞と較べてvarietyに富んだ無統制な細胞であると云うことは言えると思います。現在の段階で若し一つの細胞を取出して、それが正常細胞であるか、癌細胞であるか判定するとすれば、それは全く無理な話で、この議論はあくまでも可能性の域を脱し得ないものと思います。
私は前に一度"正常細胞とは"と云う討論をした時に"正常細胞とは・・・その細胞が構成している臓器或は生体そのものが正常に振舞う時、その細胞は正常とみなされるのであって、これらの細胞は生体内で増殖その他の機能がうまく調整されているものである"と云う考え方をとりました。そこでこの様な考え方をすると、癌細胞は生体内にあって何等かの原因でこの正常な生体機能から逸脱した細胞ということも言えそうです。そうすると、これら逸脱した細胞は自分勝手な生き方をする訳ですから、いろんな点でvarietyにとんだ、無統制な細胞になるのはむしろ当然で、この意味からは、癌細胞に一定した特性を見付け出すということは、それ自体無理があるのかも知れません。組織培養株細胞が、形態学的のみならずその他の点でも癌細胞と似通っていることは、これら株細胞が"生体の統制をはなれた細胞"と云う癌細胞の一つの特性(?)をみたすものであることに考え至れば、納得できることと思います。こう考えて来ると、何が癌細胞をして生体の統制から離れしめるかというその原因が、つまり発癌因子ということにもなって来そうです。そして細胞がこの様な因子の影響をうけて生体の統制から離れ、しかもautomaticityを発揮するまでには、長短、差こそあれ、いくばくかの日時を必要とするものと思われます。このことは動物による発癌実験により、或は株細胞≒癌細胞とすれば、この株細胞の樹立に或程度の日数を要することなどによっても裏書きされるのではないかと思います。ではその因子としてどの様なものが考えられるか? 要は上述の状態に細胞をもって行くものであればよいのですから、一つのものとするよりいろいろなものがあっても構わないのではないでせうか。但し、これらの因子がattackする点は一つかも知れませんが・・・。ウィルス、放射線、ホルモン、その他化学的、栄養的因子などすべて含まれて来ると思います。(ここに云うウィルスですが、これは将来ウィルスについての考え方が違って来ることも想像されますが、現在、普通我々が考えているウィルスと云う意味にとって頂きたいと思います)これを細胞単位で考えると、正常細胞に或る種のenargyが繰返し(?)与えられてその細胞の(おそらく核酸)にirreversibleな変調を及ぼし、それがひいては細胞をdedifferentiationの状態に導き、癌の発生をみるのではないか。従ってこれから細胞レベルの研究を進めて行くとすれば、どうしてもmolecule以上のorderの処を追及しなくてはならなくなるのではないでせうか。
しかしこの様に一つの細胞の癌化を追い求める一方、癌はあくまで生体に出来るものであるという事実からhost-parasite
relationshipと云った生体を一つのものとした大きな見方もしなくてはならないでせう。つまり癌化に至るまでの、または至った後の生体側の変化ん探索も切りはなせない問題で、この意味でimmnological
approachも大切なものとなって来ます。そしてこのことは当然治療とも関連して来ることで、発生した癌を可及的選択的にattackするagentの探究も大切でせうが、生体側の免疫学的状態の変化もさぐり、すべての体細胞が生体の統制下、正常に機能を発揮している状態を崩さない様にする、つまり予防方面の研究も極めて重要なものであると思います。
以上まとまりのないことを書きました。命題とピントが合っていない様で申訳ありませんが、私の頭の中にある癌というものに対する漫然たる考え方の一つで、小さな夢とまでは行きません。
【勝田班月報:6112】
《勝田報告》
1)発癌実験:Rat liver cellに4ニトロキノリンを短期間作用させて、最初の実験では対照に比べ、確かに著明な変化が起り、細胞増殖がいくつものcolonyで起ったのですが、これはその後消えてしまい、そのあと数回やった実験では何れも増殖が起りませんでした。材料にするratに目下純系化しつつあるJAR-ratを使いたいのですが、これが夏から秋にかけて急に繁殖しなくなり、実験が続けられなくなりました。しかし最近また子を生みはじめましたから、12月ごろからまた発癌実験を再開できると思います。
2)細胞株:馬の肝臓から今年作った株3種と、高木君の株JTC-4から分離したcollagen非形成の亜株1種を、明日の培養学会で発表し、正式に登録するつもりで居ります。猿腎から株ができかけています。12月上旬にpoliovirus感受性をテストします。また12月からモルモット腎の株を作る予定で居ります。モルモットにはほとんど癌ができない様で、その意味でvirusにも癌にも使えると思います。
3)正常細胞と腫瘍細胞との間の相互作用(parabiotic
cell culture)
生体内ではこの両者の間で相当色々な相互作用が行われているのではないかと想像されますが、その解明の第一歩としてcell
levelで相互作用が定量的に掴み得るかどうかをしらべるため、この実験を行った訳です。結果を抄録しますと、まずラッテの腹水肝癌AH-130と正常肝細胞の組合せでは、静置培養でも回転培養(10rph)でも結果は同じに、肝癌は増殖を促進され、肝細胞は阻害されます。また両細胞の液相をミリポアフィルターで隔てても、セロファン膜で仕切っても、ほとんど同じような相互作用があらわれました。つまりこの細胞の組合せでも、相互作用因子は容易にセロフャン膜を通過するものであることが判った訳です。次に吉田肉腫と正常ラッテ心センイ芽細胞との間の相互作用をしらべますと、上とそっくりの結果が得られました。吉田は促進され、センイ芽細胞は阻害されるのです。吉田は回転培養は不適ですので静置培養だけの結果です。系統を変えて、肝癌とラッテの正常腎上皮細胞(皮質トリプシン消化)との間の相互作用をみると、どういう理由か判らないが、この組合せに限って、静置と回転とで結果が相反した。静置では、正常腎はほとんど影響を受けぬのに対し、肝癌はむしろ抑制をうける。回転培養すると、こんどは腎が少し阻害されて、肝癌は増殖を促進される。
肝癌と正常の心センイ芽細胞の間ではセンイ芽細胞はほとんど影響を受けぬのに、肝癌はごくわずか促進される。次に吉田肉腫と正常肝の間は、正常肝はいつの実験でも殆んど影響を受けなかったのに対し、どういう訳か吉田肉腫の反応は実験をやるたびに異なり、影響を受けぬこともあるし、抑制をされることもある。他の組合せでは再現性があるのに、この実験だけはいつもちがう結果が出ました。肝癌と正常肝の組合せのとき、parabiotic
cultureの他に両細胞を直接混合してmixcultureも作りましたが、mixの方が相互作用が強く現れました。細胞が直接相接して何かやっていることが想像され、顕微鏡映画をとってみたら面白いと思うのですが、目下器械が故障していますので来春までとれません。以上の結果を綜合して考えますと、腫瘍と正常の細胞の間には、たしかに細胞レベルでも相互作用が見られること、しかも腫瘍とその起源した臓器の正常細胞との間には何かしら特異的関係があるらしいこと、が判りました。さらに想像をたくましくすれば、腫瘍が転移巣をつくる場合には、機械的にそこに腫瘍細胞が引掛り易いということの他に、そこの正常細胞との相互作用で、増殖しやすいところと、抑制されるところとある。こういう点もかなり影響しているのではないか、という気もいたします。
癌細胞と正常細胞との間の関係については、中原癌研所長のToxohormone説あり、逆に阪大・久留教授のOncotrephin説もあります。私共の研究結果には腫瘍細胞とparabiotic
cultureすることによって正常細胞のmitosisが促進されるような現象は認められませんでした。従って久留教授の云われるOncotrephinは癌細胞が生きている状態では分泌されない物質と考えるべきだと思います。つまり癌細胞乃至各種細胞をすり潰してextractするときのみ得られる物と考えるべきでしょう。
:質疑応答:
[高木]Mix-cultureで二種の細胞はうまく算え分けられますか。
[勝田]クエン酸による細胞質のとけ方の相違、核や核小体の形態で、区別できる細胞種の組合せだけがMix-cultureできるわけです。
[伊藤]正常肝の培養に加えて増殖を起し得なかったという、正常肝浸出液や腹水肝癌浸出液の5%というのは?。
[勝田]Volume%です。培地内の最終容量%です。但し、この場合濃度は1種類しかしらべなかったので、抑制はいえても、決して増殖を起さぬとは云えません。また貴兄のやっているように、extractした物質の細胞に対する影響をみる場合には、その結果とin
vivoに於ける状態とを考え合わせる必要があると思います。即ち、培養内ではその物質の細胞に対する直接作用をみるわけですが、in
vivoでは、一旦他の細胞に作用して二次的に、或は全身的反応をおこして、直接的に影響されるということもあるかも知れないからです。直接的作用をうけない細胞でもね。
[佐藤]mixするときの培地は?.
[勝田]例えば肝癌AH-13と正常肝では、牛血清20%+ラクトアルブミン水解物0.4%で、同じ培地を使う訳です。吉田肉腫のときは馬血清を使います。
[佐藤]腫瘍転移の臓器特異性を考えておられるわけですね。
[勝田]そうです。
[佐藤]正常細胞が増殖しているような条件では相互作用は如何ですか。
[勝田]まだやってありません。
[伊藤]in vitroで細胞数が維持しているような状態は、in
vivoに比すると異なっているのではないでしょうか。
[勝田]成体内の大抵の正常細胞がin vivoで増えていないのは、全身的支配で増殖抑制を受けているのか、或は成長促進物質が体液中に欠けている為か、この二つが考えられる。しかしin
vitroに移して、全身的な支配から外してやり、embryonalの細胞が増えるような培地に入れてやっても、adultの細胞は増えない、という結果から考えると、体内では成長促進物質が足りないと考えるべきではないかと思います。そして勿論、正常細胞間でも細胞の種類により、その成長促進物質に何らかの違いのあることは予想されるわけです。成体内では、たとえば肝にしても、正常の状態ではmitosisはきわめて低頻度で、大抵の細胞はきわめて長く生きているわけです。その意味でも、この場合のin
vitroでの維持状態というのは、生体内のに似ていると考えてよいと思います。
[堀川]相互作用のfactorが何であるかを追究されるわけですね。
[勝田]正常のchick embryo heartのfibroblastsの成長促進物質をしらべていた時などは、相手が高分子でしかも核酸系がからんできているので、大変やりにくかったのですが、幸にもこの相互作用の場合にはcellophneを通しても作用があらわれる、つまり作用物質が低分子と考えられますので、追究はずっと楽だと思います。そして一歩々々それをはじめているわけです。古川君がいま私の部屋でマウスの腹水系の白血病細胞の培養をずっとやっていますが、腹水移植だと5日位でマウスが死ぬのに、培養に入れると、その白血病が中々増えず、見る見る内に細胞数が減って行ってしまいます。これはやはり培養条件がまだ不満足のためと思います。adultのrat
liverと異なり、in vivoでどんどん増える能力を細胞が持っているのですから。
[遠藤]正常肝細胞はin vitroでmitosisがありますか。
[高岡]見たことがありません。おそらく無いでしょう。
[勝田]今年馬胎児肝から3株作ったときにも、3〜4ケ月はmigrationすら見られずにいて、急に株化したのですからね。生きていることは確実です。
[奥村]細胞の生命が、2〜3ケ月も続くとは思われないので、やはりどこかで分裂しているのでしょう。
[勝田]私はそうとは思いません。in vitroでももっと長くすら生きています。かって、やはり馬胎児肝のexplantを培養していたときも、細胞が5、6ケ〜10ケ位ついている処をペンでマークして、図をかいておいても、何ケ月もそのまま形も位置も変らないのです。4月から12月(フラン器の故障)までこの状態がつづいたのです。勿論維持状態です。
[佐藤]培地交新は?。
[勝田]実験の培養では1日おきです。なお、parabiotic
cultureに比べtwinD3管の片方に両細胞をmixした方が相互作用が強く出るということは、細胞間の液相を通じてのみの相互作用以上に、直接接触の作用のあることを示していると思います。TWIN-D3は回転培養で、液の撹拌とdiffusionも良いわけですから、そばにいる方が単に作用物質が濃厚に作用するということになりません。また培養そのものも、肝単独だと壁から浮き易いのですが、肝癌とmixすると、浮かなくなります。肝癌に抑えられてしまうのでしょうか。
[佐藤]praimary cultureと株細胞とでは差がありますか。
[勝田]細胞はできるだけin vivoに近い性質のものでしらべたいのでpraimary
cultureを使ったわけです。勿論株の方が使い易いので、この仕事のはじめの頃は、株で基礎的データをとったわけですが。
[佐藤]成長の高い細胞の方に影響が強く出るというようなことはないですか。
[勝田]腫瘍性の強さと相互作用の強さとの比較は将来やってみようと思っています。
[遠藤]Oncotrephinですが、in vivoでも腫瘍内でlysisを起している場合は、細胞内の物質が出てきて実際に作用する可能性はある訳ですね。
[伊藤]その可能性が大きいと思います。
[勝田]Parabiotic cultureでは量比で考えてOncotrephinが細胞内固定性のものと考えるならば、それを考慮しなければならぬほど腫瘍細胞が死んで入れ変わっているとは考えられません。伊藤君がtumor
extractを分劃して行くとき、逆にL・P1に抑制的に働く分劃を見ましたか。またそれとOncotrephic
fractionとの間に相殺(拮抗)されて0になるような関係は見られませんか。
[伊藤]この間しらべた中に抑制物質の分劃がありました。相殺作用は見てありません。
《堀川報告》
"組織培養によるL系細胞における変異細胞の遺伝生化学的研究・II"
1)L原株細胞の増殖、DNA、RNA、蛋白合成に及ぼす各種agentの作用機構:
L株細胞を各種の物理化学的要因で処理すると、ほとんどの場合細胞分裂の異常をきたし、巨大細胞が出現すると共に、長期処理後にはその耐性細胞が分離できます。この巨細胞や耐性細胞の出現機構をしらべ、癌治療における耐性細胞の出現機構の解明に役立てようとすると共に、耐性細胞を用いて、微生物で明らかにされてきた遺伝情報の伝達機構を哺乳動物細胞の染色体レベルで説明できるようにしたいというのがこの研究の目的です。
a)mitomycin-C:Lの原株細胞にmitomycinCを加えますと、0.3μg/mlで増殖の抑制が起り核が大きくなり、chromatinの凝集が巨細胞に見られます。0.1μg/ml与えますと、細胞1ケ当りのRNA、DNA、蛋白量が多くなり、DNAはcontrolの3〜4倍にもなります。P32を培地に入れて、そのincorporationをしらべますと、RNA、DNA、phospholipidの何れに於てもincorporationの度合はcontrolの原株と変りません。しかし放射能で見ると、DNAでは減っています。2日後頃からDNA、RNAの比放射能は抑えられます。
b)核酸合成の先駆物質及高エネルギー燐酸化合物のプールである酸溶性分劃の分析によるMitomycin-Cの作用機構の研究:mytomycinCを0.1μg/ml加えて24時間後、細胞を分劃すると、対照に比べP32の比放射能は、無機燐は多く、ATP、ADP、AMPへのincorporationは低下している。但しATPの量自身は変らない。4日後にはこれらの傾向はさらに強くなるが、ATPの量は変らない。対照実験としてATPをexogenousに与えてみると、細胞増殖は100μg/mlでは抑制されるが、10〜50μg/mlでは少し促進される。但しそれほど大きな促進ではない。
c)巨細胞内でのDNAreplicationは正常に進んでいるかどうかの試験:DNA、RNAのbase
analysisをやってみると、mitomycin-C処理24時間〜4日後でもbase
ratisはcontrolと差が見られない。細胞の形態について見ると、mitomycine-CでもCO60でも巨細胞が出現し、さらに処理をつづけると、小型の耐性細胞が出現してくるのです。
2)耐性細胞出現の機構の追究:
これが突然変異によって現れるのか、淘汰によって残るのか、癌の治療に重大な問題ですが、まず第一に、耐性細胞がきわめて小型なところから、原株細胞の中の小型なものを撰り分けてみるために遠沈によって細かく細胞群を分け、夫々そのmitomycin-C感受性を比較してみましたが、これでは差は認められませんでした。そこでLuria
& Delbruck,1943やDemerec,1945,1948等が微生物でやったFluctuotion
testをやってみました。1本の瓶から何本もの瓶に植継ぎ、その中の1本から、短試10本に植継ぐ群と、各1本から1本宛植継ぐ多数群とに分けて、感受性を比較してみますと、前者の短試の方が感受性のばらつきが大きく、不偏分散が104となるのに対し、後者の短試は皆似たような感受性で、分散は4.01となりました。同様の実験を中間の継代容器をかえてやってみますと、不偏分散が前者では170.5、後者では0.54となりました。この結果から考えますと、耐性細胞は原株中に既に存在している細胞が淘汰によって出現することを暗示されます。さらにNewcomebeの法に従いまして、colony形成期にrubber
cleanerでまたdisperseして、それを再び培養しますと、対照に比べ耐性細胞の集落が約10倍多く出ます。これもやはり淘汰を暗示します。
3)各種変異細胞の遺伝的特性、特に交叉耐性の核学的分析:
Mitomycin-CとUVとは交叉耐性が認められます。mitomycin-C耐性細胞のhomogenateを作り、そのDNAをL細胞の培養に入れてみていますが、やや不安定になるだけで耐性系へのtransformationは起りませんでした。次に各種耐性細胞を色々な点で比較してみますと、成長率は、UV-、Mitomycin-耐性株が少し低いのですが、細胞の大きさは、UV-、Mit-、γ-耐性株が小型です。またマウスへ復元接種してみましたが、すべて陰性に終りました。但しマウスは無処置のマウスです。
《土井田》
染色体分析についての補足:
染色体数のPeakはL原株は63本、UV-耐性63本、8-Aza耐性68本、Mit-耐性63本、CO60-γ耐性47本でした。Mit-とCO60-にはFragmentがみられ、Fragmentの出現%は観察日を変えても余り変化しません。従ってFragment自体も分裂するのではないかと想像されます。Mitomycin-Cの30分、60分処理ではLにfragmentは出現せず、4日ではcentromerのnotching、fragmentation、polypolar、mitosisが見られます。堀川氏のselectiontheoryが染色体レベルで証明できるかが今後の問題です。
:質疑応答:
[高木]分析にはルー瓶で何本位お使いになりましたか。
[堀川]10〜20本で、細胞数にして約10の9乗ケです。
[勝田]Lにmitomycin-Cを与えると細胞1ケ当りのDNAが増えて行くようですが、対照群のように仮に細胞数がふえたと仮定して、その数で培養当りのDNA量を割ってみると、対照細胞の1ケ当りDNAと同じ位の量になりますか。
[堀川]controlよりは低い値になります。つまりDNAの合成rateも少なくなっています。[勝田]そしてATPはあるけど利用されない訳ですね。
[堀川]そうです。phosphrylationが抑制されているようです。
[関口]phosphorylationの抑制と、DNAの合成阻害との関係をもう少しはっきりさせたら良いと思います。つまりAMP→ADP→ATPの過程にそれぞれPが関係してPolymerizationがあってDNAへ。この経路でphosphorylationとpolymerizationとのどっちが抑えられるのか、はっきりさせたいものです。
[堀川]分裂の抑制と、DNA合成の抑制とどっちが先かも問題です。
[関口]それは同じことの裏腹を見ているのではないですか。
[高木]巨細胞はできても、多核細胞は出ないのですか。
[堀川]出ません。
[奥村]Mitomycinを短期作用させたあとでgrowth
curveはcontrolと平行していましたね。1週間の結果はそのようとして、2週間みるとどのようになりますか。
[堀川]増殖曲線は2週間は比較してありません。
[奥村]L原株の染色体数が63本となっていましたね.Jが少し多くて、rodが少し少ないようですね。文献では64本以上が多いようですが。
[堀川]いや、White,Dickson(?)は63本でしたね。
[奥村]どこに差がでてくるかが問題です。
[堀川]我々の細胞では63本は間違いないと思います。二人で別々にしらべてみて、63本のものは矢張り63本となるんですから。
[奥村]Constrictionの形をよく見てやらないと・・・。
[土井田]Vをrodにする可能性が多いですね。だから重なっているのを見分けるときなどは、カバーグラスの上からマッチで叩いてみて慎重に確かめています。
[奥村]Fragmentがかなりconstantに出ていますね。idiogramに並べてconstantの位置に出ますか。
[土井田]それは見ていません。どの染色体のfragmentかは判り難いのです。耐性細胞系では全然判りません。
[遠藤]Fragmentationをおこした細胞も分裂できるか、ということですが、Fragmentの無いのが分裂のとき同じ%でfragmentを作って行くということは考えられませんか。
[堀川]重要でない部分にfragmentationを起した細胞が残って行くと考えられます。培地にagentを加えてない時は遠藤氏の云われるような可能性はないと思われます。
[奥村]染色体にsplitの入っていない標本が多いようですが・・・。
[土井田]たしかに中々良い標本ができにくいです。
[堀川]学会が終ったらマウスのprimary cultureでcarcinogenesisの仕事をやりたいと思います。
[勝田]Agentは何を使いますか。CO60なんかが良いんじゃありませんか。
[堀川]ええ、やはり今のようなものを使って、normalのprimary
cultureから始めた方がよいと思います。乞御期待というところです。
[遠藤]染色体が各耐性株で異なるのは、selectされた結果とお考えの訳ですね。
[堀川]そうです。
[遠藤]そうするとsubstrainもpureとは云えないということですね。
[堀川]そうです。生命を保つに必要なのは47本位で、あとはnon-essentialのが入っていると考えられますから・・・。
[佐藤]染色体数と増殖率との関係は?。
[堀川]Lγは47本ですが増殖率は悪いです。pureになればなるほど、他の条件には弱いような気がします。
[佐藤]吉田肉腫で30本台のを培養して行きますと、60〜70本台になります。Ehrlichでも68本というのがあります。
[勝田]株になると増えるのもありますし、さらに減る場合もあります。
[堀川]株化したものを癌化させるよりも、新鮮な細胞をとりだしてmutagenic
agentを加えて癌化させる方がやさしいんではないでしょうか。
[奥村]培養していると最初5倍体位が多くなって、その後に3〜4倍体が多くなってきます。
[佐藤]protein-freeにしてからホルモンを入れてみようと思っています。
《高木報告》
1)発癌実験:
JTC-4株にDABを1μg/mlに常時加えて、6月3日から今日に至っていますが、未だに癌化しません。それから、復元の練習をしているのですが、これが中々うまく行かないのです。3週のWistar
ratに400rかけ、Cortisone処理して、細胞としてはHeLaS3とJTC-4をrubber
cleanerでかき落して10の7乗ケ接種しました。これを3回やったのですが、3回ともついてくれません。こんどはStilbesterolでkidney
tumorを作りたいと思い、10月からハムスターの繁殖をはじめました。3週〜1月のハムスターを使って培養をはじめる予定です。これですとポーチも使えますし、復元に便利です。予備実験として、rat
kidney cell cultureにstilbesterolを与えて毒性をテストしてみました。100mg/mlにエタノールにとかして、稀釋にtyrodeに入れると、濁ってしまいます。これを稀釋して使ってみましたが1μg/ml迄は使えるような気がしました。またsteroid
hormoneの併用を考え、cortisone acetateをしらべましたが、これは100μgが限界でした。virusのsensitivityなども変るのではないかと思っています。目下復元接種の練習に大童です。
2)免疫学的実験:
これは杉君がこの間の癌学会で発表しましたが、JTC-4にDABをかけると核の大小不同が目立つようになり、多核細胞も出てきます。JTC-4を嫌気的に培養しても同様です。stilbesterolを10μg入れて3日後ではpyknoticになってしまいました。顕微鏡写真をお目にかけました。免疫実験の結果はanti-HeLa血清とanti-FL血清ではHeLaとFLは++でJTC-4とLは−、anti-JTC-4血清とanti-rat
heart cells血清、anti-L血清ではHeLaとFLは−でJTC-4とLは++か+でした。またこれに使った免疫血清のHA-titerをラッテ及び人の赤血球に対してしらべますと、JTC-4はRat赤血球に4でHuman(0型)赤血球は0、Rat-heart-cellsはRatが8でHumanは0、HeLaはRatが0でHumanは4、FLはRatが0でHumanは64と、何れも種特異性を示して居ります。これ以上進むにはantigenの精製が必要と思われます。京大の岡田氏は発生学研究に蛍光抗体法を使ってきれいな結果を得て居られますが、私はprimary
cultureでやってみたいと思っています。
3)JTC-4細胞の無蛋白培地培養:
PVPを使ってBSを0.1%まで減らすことはできましたが、それ以上完全にprotein-freeにすることは未だ成功しません。Lはきわめて簡単にadaptしました。但し増殖率は週数倍で伝研のほどよくありません。
4)各種薬剤の影響:
核酸のprecursorであるorotic acidはこれまでの報告ではHeLa、FL、Lには促進効果がないと云われていました。私はJTC-4に10、50、100、500、1000μg/mlの各濃度で影響を見ましたところ、10、50μg/mlの濃度で少し促進が見られました。Changのliver
cellの株でも同様です。しかし、HeLa、L、FLではやはり促進は見られませんでした。
次に蛋白同化ホルモンのeffectをみたいと計画しています。アナドロン(anabolic
steroid)は疲労や胃潰瘍に効くとされています。DOCAも同様の効果があるとされています。fibroblastの増殖が促進されるかどうかです。cortisone
acetateではLもJTC-4も10〜100μgで阻害されます。
今後進む方向としては、発癌を主体とし、免疫の方もやって行きたいと思っています。
:質疑応答:
[勝田]Stilbesterolの段階稀釋にどうしてethanolを使わないのですか。
[高木]Ethanolの毒性がこわいのでTyrodeを使いました。
[遠藤]私の経験ではエタノールの毒性は弱濃度ではあまりありませんから、稀釋に使って大丈夫と思います。Controlに同量のを入れればよいのです。
[関口]岡田氏の蛍光抗体法は50%硫安飽和分劃でのmicrosome
fractionがもっともogan specificityが高いと云っています。
[勝田]抗原精製も良いけど、非特異的抗原を完全になくすには材料が大量に必要となりますから、できた抗体の方の非特異的なものを吸収する方法の方が良いんではないですかね。
[堀川]萩原という人がやっていますが、相当むずかしいらしいですよ。
[高木]株細胞だと大分変っているから難しいけれど、primary
cultureの細胞なら良いんではないでしょうかね。それからanadrolは傷の治療に使うとfibroblastの促進効果があるというので臨床的には良いような気がするのです。
[関口]肝機能がやられるでしょう。
[高木]normal liverでのshiftだけらしいです。
[堀川]DABの本態は何ですか。
[遠藤]p-Dimethylaminoazobenzenのことです。Butter
yellowはcrudeのもので、本体はこれでしょう。
[高木]Stilbesterolの構造は? anadrolとの関係はどうですか。
[遠藤]anadrolは大分ちがいます。
[高木]あなた方の復元接種のtechniqueは・・・?
[堀川]私のは無処置のC3Hマウスに10の6乗ケの細胞を注射したのです。もっともtumorはできなかったのですが。
[佐藤]私のはL株を12匹入れて2匹位tumor様に大きくなったのですが、10日〜2週で消えてしまいました。後は何ともない。
[高木]Hostの細胞の反応とはちがいますか。
[佐藤]そうですね。残生のような形でだんだん死んで行くのです。同じのに何匹も打ってみました。C3HでやるとLから出たのか発生してきたのか判らなくなるので、腹腔に100〜200万個入れてみましたが変化はないようです。自然発生癌でも移植は中々つきにくいですから、つかぬからと云って癌でないとは云えないし、むずかしいところですね。
《伊藤報告》
台風の影響で細胞もやられたりしましたので、新しいデータはほとんど出ていません。細胞は最近はL・P1を使って腫瘍のS2分劃の仕事をやっています。L・P1ですとcontrolに比べ、S2分劃を加えた群では7日間にcontrolの2〜3倍増殖が促進されています。S2分劃をトリプシン処理して各種resinを通しますと、IRC50とIR400の非吸着部分は前者は酸性のpeptides、後者は塩基性と若干中性peptidsですが、前者は2倍の増殖促進効果があり、後者は抑制効果があらわれます。IR400を通したとき、非吸着部分を2分劃に分け、吸着部分をHClでeluteして4分劃に分けますと、後者の第1分劃が2倍の増殖促進効果を示します。大体ペプチドの形にしますと、2μg/ml位が促進効果のoptimalです。これらの分劃は夫々5倍稀釋で25倍までしらべました。normalのspleenやmucleにはありませんが、4ケ月位のrat
liverには認められます。再生肝では60時間後位が最高でした。Resinをもう少し適当なものを探す必要があると思います。
:質疑応答:
[勝田]2倍の促進というのは、たとえばconytolが7日間に10倍ふえるところを20倍ということですか。
[伊藤]そうです。
[勝田]normal liverでは何倍位ですか。
[伊藤]やはり2倍位です(S2の段階では)。非吸着部分の比がtumorと正常ではちがっているような感じがあります。
[勝田]有効分劃をさらにpaperchromtographyにかけましたか。二次元の。
[伊藤]Arg、Aspargine、Gly、をcontrolに入れて比較すると有効成分はglycineの処に合致します。
[関口]IR400の分のUV-spectrumの像はいかがですか。peptidesだけで核酸のcontaminationはありませんか。
[伊藤]Ninhydrin発色させて吸収の山をかくと、山の肩の辺に活性があります。
[勝田]大量生産する必要がありますね。色々な細胞でやってみるといいけど。私たちとしては分劃して行くのも面白いけど、他の細胞にもeffectiveかどうかをまず知りたいね。[奥村]Morphologicalな変化は?
[伊藤]特に変らないような気がします。それから牛血清のS2分劃は無効でした。
[勝田]Lからの無蛋白培地継代4株に5%に牛血清を加えるとL・P1とL・P2では増殖を抑え、L・P3とL・P4では促進します。
[堀川]そのままずっと続けたらどうなりますか。
[勝田]それはまだやってみません。血清の中には促進する因子も抑制する因子も入っているからprotein-freeの培地で加えてみて、促進なら促進の効果が、血清蛋白と関係のあるものを加えたため、或は蛋白的なものを加えたためでないことを証明しなければなりません。
[伊藤]濃度は2μgN/mlが至適でした。
[勝田]正常の細胞、特にadultの細胞の培養に利用できると非常に有用ですね。他の臓器からも抽出してみましたか。また正常肝をしらべたときのラッテの大きさは?
[伊藤]spleenとmuscleだけは見ましたが陰性でした。ラッテは4ケ月、200gのものです。[堀川]S2分劃の作り方はどうでしたっけ。
[伊藤]HomogenateをNaClで抽出、アルコール分劃法で30〜70沈殿の分劃です。
[関口]核酸が入っていますか。
[伊藤]Starch electrophoresisで分けて有効の分劃は、264mμの吸収は陰性でした。核酸抽出法の分劃では無効です。
[勝田]有効な最後の分劃についてUVspectrumをとってみれば訳ないでしょう。
[伊藤]目下やっています。
[堀川]牛の肝臓などで大量にとったらどうですか。
[伊藤]牛肝は阻害作用の報告がありますね。
[勝田]うちでもやりましたし、古くは癌研の中原さんがやって居ます。
《遠藤報告》
発癌の実験はまだやって居りません。HormoneのHeLaに対する影響をしらべて居ります。これまで骨の培養にはSalineはGeyのを使っていたのですが、これには他の処方に比べCaもGlucoseも2倍入っているのを使っていましたので、Hanksの処方に変えたところ、HeLaの増殖が非常によくなって、反ってホルモンの効果がはっきりしなくなりました。牛血清5%でも20%でも全然Progesteroneの促進効果が消えてしまったのです。今後は増殖率何倍のとき何%の促進といったような表現をする必要があるかも知れません。どうも増殖率によって成長促進効果が規定されるようだからです。Fig.1とFig.2はProgesteroneの各種濃度のeffectをGeyとHanksのSalineで比較した結果です。Fig.3は、これは一寸変な実験ですが、培養初期に細胞を分注したまま2日間室温において、それから37℃にincubeteしたのですが、2日間は細胞数が減り、以後Controlは回復しないのですが、Progesteroneを入れた群は再び増殖をおこしています。殊に0.64μg/mlの群は最も回復率が高くなっています。このようにConditionが悪いときにむしろ差が出易いわけで、どういう条件のときに影響が明確にでるかを今後検討してみたいと思います。
次にドイツのあまり大きくない製薬会社で"Regeneresen"という薬(?)を市販しています。fetalとyoungとありますが、主体は各種臓器から抽出したRNAで、organ-specificに臓器の代謝を促進すると云っています。例えば用途に応じ、Osteoblasten、Knorpel、Placenta、Lever用と色々あります。Clinical
dataで効くと云っているのですが、Osteoblasten用のを手に入れてテストしてみますと、まずRNAは2.0mg/dl位で、これはChick
embryo extract中の含量に略等しくなっています。Chick
embryo tibialの培養に0、20、50倍に稀釋して入れてみますと、骨長を基準にしますと、50x稀釋の群が、初めはControlより成長が悪いのですが、直線的に成長が続き、後期にはControlより良くなりました。他の濃度では抑制です。蛋白量は2mg/dl位あります。UV-spectrumをとってみますと、peakが二つあらわれ、純粋のRNAではありません。
:質疑応答:
[関口]Ethanolを加えて落ちますか。水溶液では不安定と思われますが。
[勝田]核酸だとすると不安定ですね。
[遠藤]proteinは2mg/dlです。
[堀川]Kutskyも同じことをやっていたのではないですか。
[勝田]我々と同じ方向に進んでいた訳ですが、その後RN蛋白をRNAと蛋白とに分け、蛋白の方に活性があると云っていました。
[高木]増殖の悪いときにeffectがよく出るというのは本当ですね。Orotic
Acidでも血清5%のときの方がはっきり出ました。
[伊藤]うちでも全く同じことを経験しました。しかし悪い状態のときに効くものを見ていて、本当にそれが意味があるか、という疑問を抱きますね。
[勝田]たしかにsalineの差による影響は大きいと思います。しかも細胞の種類によってその好みがちがうと思います。うちの"D"処方のはAH-130の培養のとき見付けたもので、Tyrodeよりも増殖がよかったので、以後はこれに変えたのです。
[奥村]Glucoseの量が関係しませんか。
[遠藤]Glucoseの量を1/10に下げると、posphorylaseの量が1〜2桁下がるという報告があります。
[奥村]Alkaline phosphataseは?
[遠藤]変っていないようでした。Phosphorylaseの活性が下がるとglycogenの合成は落ちる−ということはあるかも知れませんが、このdataは逆ですね。
[勝田]室温放置の実験、これはまぁその目的でなくやったんでしょうが、そのつもりでもう少し長くやったらどうですか。
[遠藤]勝田氏の処でprotein-freeの培地でHeLaに女性ホルモンをやったら効果が無かったというのは、今考えてみるとHormoneは体内でalbuminにくっついて循環しているということと関係があるのではないでしょうか。
《奥村報告》
A)Praimary culture:
1)Monkey:猿はRhesusとCynomolgusですが、Adultではkidney、Embryoではkidney、heart、liver、brain(cerebral
cortex)を試みました。Brainは2月位で変性をおこしました。 2)Rabbit
kidney:混在virusの検出などの目的でやっています。
3)Human amnion:人は固体差が大きくて成績が一定しませんので、何か確実な方法を作りたいと思い、目下培地の検討(M・199、血清濃度)、Enzymeなどをしらべています。人羊膜の培養の培地は仔牛血清10%とM・199です。
B)細胞及び組織の凍結保存:組織のまま保存できないかと考えたのですが、
1)Monkey kidney:3回やって3回とも失敗。
2)Rabbit kidney:2回やって2回とも成功しました。2種類、1立方cmに切るのと、3立方cmに切るのとやってみました。Glycerol濃度は5%、10%、20%の内10%がoptimalでした。あと2%CS+Lact,hyd.+Earle'ssalineです。2週後にtrypsin消化して培養したら増えました。但しinoculumは非常に多くなければ駄目です。例えば生のままですと、20万/mlに入れるのと同結果が40万/mlで得られました。株細胞はまだやっていません。
3)primary culture:monkey kidneyの細胞を2ケ月間凍結してうまく行きました。しかしこれも固体差が大きいようです。
なお凍結後のvirus感受性、染色体の変化を目下検討しはじめています。LやHeLaは凍結の直後、第1代では染色体像は変化していません。
C)培地と染色体変異との間の関係:
HeLaのcloneS3からさらにcloneを作ってみました。S3は7日間に仔牛血清10%+LYEの培地で8〜10倍ふえますが、作ったcloneのAは14〜15倍、Cは12〜14倍増殖します。染色体はまだ見てありません。仔牛血清濃度を2%に落すと、増殖は7日に8〜10倍になってきました。virusに対する感受性をplaqueでしらべるとあまり差はありません。今後はPVPやfractionVを使ってみたいと思います。
D)放射線及ウィルス耐性細胞の染色体分析:
1)ウィルス耐性細胞:1959年中野氏が分離したECHOウィルス耐性のHeLa亜系は、そのままでは染色体数のばらつきが大きいのでcloneを作ってみました。染色体数分布はpeakは次の通りです。E2(70本と90本にpeak)、E5(70近く)、E6(少し少ない方にpeak)、E9(E6と同じ)。耐性系ではCPは殆ど出ません。つまり耐性が維持されています。またE2は染色体像が元に戻りつつあるような感じがしました。またvirus耐性のものとCO60-耐性のものと染色体像が似ています。virus耐性細胞系にCO60の照射を行いますと、1,000レントゲンでは細胞の照射後のviable
countは、HeLa(39)、E9(48):500rではHeLa(52.4)、E2(71.7)、E5(72.0)でした。一回だけの実験なので今後くりかえしてみたいと思います。こうして照射した後は中々増えません。latent
infectionを考え、上清をHeLaに入れてみましたが、CPは出ませんでした。
2)CO60耐性細胞:78本を中心にして広範に分布しています。3,500〜4,000rをかけると70本近、4,000rでは90本近くにpeakがあります。70〜80本にpeakが行き、4倍体がふえています。6,000rから10,000rになるとpeakは70本附近ですが倍数体がふえてきます。倍数性のはっきりしているものは物理的要因に対して抵抗性が強いのではないかと思われます。現在ウィルス耐性の過程を追って染色体をみて行く予定です。Karyotypeを目下しらべて居ります。Lで耐性のものにはdicentricのものがありますが、HeLaでもあるかどうかしらべています。
:質疑応答:
[堀川]ECHO耐性、CO60耐性の染色体peakにふらつきがあるようですが、もともとあるものですか。もっと観察数を多くしなければならないような気がしますが。
[奥村]peakというよりもdistributionのmassとしての特徴ととらえて行かなければならないと思います。
[掘川]大変ですね。Lなんかはまだふらつきが少ないんですね。
[奥村]S3はふらつきが少ない点で使っています。
[堀川]Karyotypeに共通性がありますか。
[奥村]あります。HeLaは人由来という点が魅力です。
[土井田]ふらつきのある二つの亜株間の比較は難しいですね。共通点があるというのも難しいですね。
[奥村]統計学的な方法で解決できるだろうと思いますが・・・。
[土井田]僕の方は、Lで63本を集団の代表値としてとって、その中で比較しているのですが・・・。
[奥村]peakがはっきりしている場合はそれで良いでしょう。
[土井田]さっき云い落したのですが、63本に対してそのtriploid、tetraploidとして数がぴったり合う細胞が現われるのです。その意味からも私たちのLの63本という算定は正確なのではないかと思います。
[奥村]DK株というのが、やはり使っていますが、北大の獣医で作ったものだそうで・・・本当に犬からできたものかどうかに少し疑問があります。細胞のContaminationではないかと云われています。
[勝田]それはきっと鈴木君の作ったJTC-5でしょう。変なウィルスがかかるという話もありますね。
[高木]HeLaS3の腫瘍性は・・・?
[奥村]判りません。
[勝田]これからは株を作るときは何か特殊目的のあるときだけ作るようにしないと、維持して行くだけでも大変です。もっとも細胞の凍結保存ができれば楽ですが・・・。その意味からも、凍結保存したあと染色体が変らないかどうかという研究は必要且急を要する問題である。
[奥村]グリセロールを入れる目的は何ですか。細胞内に大きな結晶を作らない為ですか。[勝田]そう云われてますね。夏に学生がやったテストではProtein-freeの株はどういう訳か凍結保存が難しいので一層困っています。
[奥村]高野氏の説ではマウス由来の細胞はGlycerol
5%、ラッテ由来は10%、人のは20%がよいと云う話ですが・・・。
[勝田]あの位の数の細胞をみただけでは、そんなこと未だ云えないと思います。私はむしろ培地中の至適血清濃度と関係ありそうな気がしています。
[佐藤]さっきの人羊膜細胞の培養が中々うまく行かないという話ですが、岡山大小児科の喜多村氏が株(JTC-3)を作ったときは染色体の変化などしらべなかったので、その後何回か培養を試みたがうまく株化しないそうです。非公式の話ですが。
[奥村]私の処では8例中2例は増えていますが、あとは全部だめでした。培地はLhや199、EarleのSalineなどで、この2例は10%仔牛血清+M・199です。外国でもFL以外に色々やって旨く行かないようです。
[勝田]凍結保存ですが、凍結後Nigrosinでviable
countをしらべましたか。
[奥村]Monkey kidney cellsで凍結前、生存細胞が20〜24%なのが1ケ月凍結後は8〜14%になります。Rabbit
kidneyでは28〜31%が1月後に11〜13%です。
[勝田]高野君のやったのはもっと落ちが多かったと覚えてますが・・・。
[奥村]高野氏のは悪い時が8〜10%、良いときは96%位と思います。最近-90℃の凍結装置を予研で買う予定です。
[高木]植えつぐ直前の時期の細胞を凍結するのですね。
[奥村]そうです。
[勝田]凍結の前後で増殖曲線を比較しなくてはいけませんね。あまりちがうと問題がある。
[奥村]Semiam virus(猿の雑ウィルス)は2週間になって出てくるので、それ迄に使わなければならず、従ってlayが余り長いと問題です。ミドリザルはSemiam
virusが非常に少ないのですが、米国ではこれの株を作って、polioの感受性が非常に高いということです。
[勝田]Semiam、特にSV-40はミドリザルの培養でしかCPが出ないので、これ迄気付かれなかったわけですが、雑virusのcontamiはVaccineを作るのに非常に問題になるわけで、今後はその検出の容易な株細胞を作ることも大切ですし、株自身にもvirusのcontamiを起さぬように気をつける必要があります。Semiam
virusのことを考えると、いつかはVaccineも、腫瘍性を持たない株細胞で安全に作られるようになると思います。
問題が腫瘍から外れてしまいましたが、in
vitroで腫瘍を作ることと、腫瘍にならないようにしながら長期継代することとは、一つの紙の裏表みたいなもので、やはり我々とは関係の深い問題であると思います。
【勝田班月報・6201】
《勝田報告》
1962年を迎えて−
我々だけの水入らずの班が誕生してから1年近くが経ちました。各班員それぞれ、各々のピッチで研究をやってきました。この班の目標はいつも云うように、1)in
vitroでの発癌、2)正常細胞と腫瘍細胞との間の細胞学的特性の相違の発見、3)両者の間の相互作用の研究、の3点にあります。in
vitroの発癌は外国でも狙っているらしい形跡が伺えますので、外国との競争ですし、きわめて有意義な仕事ですので、我々としてはぜひ我々の手で完成したいと切願する次第です。
1年を振返ってみますと、発癌実験に実際にたずさわったのは、九大の高木班員と勝田とだけでした。むずかしい仕事である上に2/7名の仕事量では限度がありますので、4月からは岡山大の佐藤二郎助教授に参加して頂くことにしたいと思います。また現在の班員にも発癌に手をつけて頂きたいと存じます。研究費の配当は6月頃までのその実績によって決めるのが良いでしょう。但し、どうせ発癌をやるなら、株細胞を使ったのではその意義がきわめて薄れますので、ぜひprimary
cultureでやって頂きたいものです。
それから、班会議をやったとき、いつもそのあとの報告号を出すので莫大な苦労をしますので、今后は、こちらの速記は討論だけにとどめ、各自の発表は夫々があらかじめ、この用紙にかいて(何枚でも図や表入りでも結構です)、班会議のとき持参して頂くようにしたいと思いますが如何でしょうか。
今年は厚生省の癌センターが発足し、阪大の久留教授がその病院長に決りました。研究部長は吉田富三教授のようですが、ここでどの程度の基礎的研究まで手をつけるか、我々にも大いに影響のあるところです。我々としては、しっかりした培養研究者を一人でも多く送り込みたいところです。阪大の癌研でも何となく気分が落着かぬことと思いますが、何といっても大切なのは我々の"研究"です。あたふたしないで、じっくり自分の仕事をつづけて欲しいものです。
1962年。この年を我々はin vitro発癌の成功の年としたいものです。培養の世界、癌の世界に永久に記憶されるような。力を合わせて大いに頑張りましょう。
《堀川報告》
1962年の年頭にあたって
皆さんオメデトウございます。
1961年は夢の様にすぎて新しい新年を迎えた訳ですが、今年こそ猛虎の年にふさわしくお互いに大いに頑張りましょう。皆さんも同様だったでしょうが、私にはこの一年間はまったく多忙なものでした。大学という温室から飛び出してまる10ケ月間、研究所というお役所で無我無中で突進して来ました。
見るもの聞くもの全てがめづらしいこのお役所にあっては、人なみに反省したり、考えたりしておれば完全に取り残されてしまうからです。いや仕事をする気持さえなくされてしまうかもしれません。従って私の山登りは途中の木陰で石に腰すえて、ふり反って景色を眺めることはしませんでした。とにかく山頂のみめざして突き進んだ訳です。
こうしてやっとその山頂にほど近い所まで来た時(即ち私にとって或る程度この研究所の利点や欠点がのみこめた時)私は山頂までこの山は登れない事になったのです。(即ち私は次の所に移らねばならなくなったのです。)
先日の賀状でもお知らせしました様に今春3月に京都大学に移ります。理由は私の研究室の室長さんだった菅原努先生が、新設された京大の放射能基礎医学教室の教授として京都に移られたためです。
菅原先生は以前三島の国立遺伝研究所時代にも御世話になった人ですし、又私にとっては阪大の先輩にもあたります。従ってこの先生の旗あげには若輩ながらも私も加えてもらった様な次第です。
然し、京大に移ると言ってもただ単に身体のみ移すだけの問題ではなく無一物の所から新しい研究室を作りあげるのですから大変です。毎日の仕事と平行して次から次とそれ相応の準備をしなければなりませんでした。しかも今後も色々と大きな難問にぶつかるものと思い、簡単に帆を張ってすべり出す事は出来ぬと思いますが、とにかく文句なしに頑張ってやるつもりです。今後の私にとっても大きな試練だろうと思っています。どうか今一度皆さんの御助力をお願いします。
一昨年4月からこのメンバーの一員に加えていただき、金曜日には東大伝研組織培養室の抄読会に出席させてもらって、私自身従来の狭い学問領域から大きな視野にたって研究を押し進めねばならぬことも教わり、千葉から目黒までの道のりは決して楽なものではありませんでしたが、得る所も又非常に大きかった事を確信します。決して一人で狭いわくにとぢ込んでしまう事無く、大勢の人と議論し、意見を交すことこそ、そこに進歩があるものと思います。
ことに現在我々の取り組んでいる"試験管内で正常細胞を腫瘍化させる"仕事にいたっては非常に困難な問題であろうと思います。何故ならばガン発生の原因をウィルスとみるいわゆる「ガン・ウィルス起原説」がかなり有力になって来た今日、腫瘍化されたガン細胞からウィルスが検出された場合は勿論のこと、腫瘍化されたこれらのガン細胞からウィルスが見つけられない場合でもこの腫瘍化がウィルスによるものであるという説明が或る程度妥当化されて来たからです。
細菌学に於ける原則と同様に腫瘍化がウィルスで起るということを証明するには次の3原則が成立しなければなりません。
第1にガン細胞にウィルスがいなければならない。第2にそのウィルスを純粋に取り出すことが出来なければならない。第3にこの取り出したウィルスを用いて同じ型のガンが出来るかどうかを比較し確認しなければならない。
確かに動物の腫瘍の或るものにはウィルスがある(ポリオーマウィルス)。だが人間の悪性腫瘍からウィルスが見つからないのが現段階で、白血病なりリンパ腫の或るものはウィルスと考えらておるとは言え、このウィルスを証明する事が出来ていません。従ってガン・ウィルス起原説」がかなり有力になって来たとは言え、全部を「ウィルス起原説」にもち込むのは早計でしょう。又もし「ウィルス起原説」が正しいとするならばその説の確かさを裏づける我々の実験も必要だと思います。従って今一度力強くスクラムを組んで我々の目ざした腫瘍化の問題につきすすんで、正否を確かめようではありませんか。
私は今年の実験計画として次の様な、(1)従来のL細胞の耐性細胞の仕事を押し進めて、体細胞に於ける遺伝情報の伝達機構解明。(2)従来の株細胞と新しくマウスから正常細胞を取り出し、これらの腫瘍化を追い、同時にこれを発生と分化の観点から考察する。(3)人間細胞に於ける細胞遺伝学的ならびに遺伝生化学的研究。を考えております。
3月から場所こそ変りますが、意志はまったく変りありません。Distributionが少しばかり広がっただけの事で、むしろ今後の発展を考える時決してマイナスになる様にはやらぬつもりです。このメンバー全員の意志は私の胸の内にも強く刻みこまれています。うんと頑張りますよ。どうか今後共に連絡を密にして、大いに議論し、意見を交わして、助け合い、大いに頑張って行こうじゃありませんか。年頭にあたり以上の事をお願い致します。
《伊藤報告》
あけましておめでとうございます。本年も何卒宜敷くお願い申上げます。
昨年暮近く当方の久留教授が国立癌センター病院長に就任される事が本極りとなり、何かと落着かぬままに新年を迎えました。
久留先生は一応本年三月迄大阪大学教授を兼任されますが、後任については未だ全然噂も無い状態です。でも吾々のやって来た仕事は其の后も久留先生と連絡をとりながら神前先生の御指導を受けて続けていく筈になって居ます。
小生年末年始に帰省して居ました為最近のデータはありませんが、前回の研究会后の成績を報告致します。
吾々のS2分劃をTrypsin処理して后、IRC50のColumnにかけて素通りする部分にL・P1の増殖促進効果を認めましたので其後、更にfraction
Collectorを使ってこの素通り分劃を4つの分劃に分け、夫々について活性を検しますと、第3番目の分劃に活性を認めます。又同様にしてIR50に吸着される部分を5つの分劃に分けますと、第2、3番目の分劃に活性を認めます。以上の有効分劃は何れもNinhydrin反応で得たpatternの第2番目のpeakに相当します。又至適濃度は何れもS2に比して1/5程度になりますので、幾分かpurifyされたものと考えます。 但し此の様にして分劃すると、有効分劃でも、その活性がS2その物に比してやや低くなりますのでこの点尚検討が必要と思はれますが何れにしても此の方法で更に進める積りです。
再生肝、鶏胚についても同様方法にて検討を行って居ります。
◇高井君は重症患者を沢山受持って毎日フーフー、現在の所株の維持で手一杯と云ったところです。
◇以前、当研究室で仕事をして居られた青木先生は、現在成人病センターに勤務して居られますが、勤務を終ってから主として夜、当研究室に来られて仕事を続けて居られます。昨年十月頃からC3Hマウスの自然発生乳癌の培養が出来る様になり、これに対する各種ホルモンの影響をみておられます。又遠藤先生に何かとお教えを願うことがあると思いますが、宜敷くお願い申上げます。
◇又当院の放射線科及び第一外科からも人が来て、夫々各自の目的に沿った仕事を始めました。段々に人が多くなって部屋が小さく思われる程です。
《山田報告》
またどうぞよろしく
組織培養のレベルで細胞の変異を考えようとするとき、当然somatic
cell mutationを検出できるような実験システムにならなければならないと思うのですが、現実の問題として技術が仲々思う程進んでおりません。2年前私がDr.Puckのところにゆく時、この辺の問題を解決できないか、又実際にどの程度にやっているか知りたいと思って、そのためにはどうしてもDr.Puckのところにいって見なければと出掛けたのですが、この点に関する限りは失望して帰ってまいりました。
まづ細胞を1個づつのsuspensionにして新しいシャーレに培養した時、理論的には100%のplating
efficiency(以下p.e.)がなければ全細胞集団を扱はずに常に偏った集団を選択して使っていることになります。ところが、実際に常に100%近いp.e.が得られるのはDr.PuckのところでもHeLa-S3
cells−NI6HHF mediumのシステムだけでした。彼の所で46本の染色体を維持したまま培養をつづけている"正常細胞等"ではかなり改良したメデウム(たとえばF8HCFCなど)を使ってもp.e.は20〜50%で、その上増殖がやや不定という次第で染色体の数、形以外変異研究には使用できない現状でした。
又HeLa-S3 cellにしても、p.e.を100%にする目標で作られたメデウムN16HHFにしても30%の血清成分(human
& fetal calf serumそれぞれ15%づつ)を含むもので、いささかメデウムを単純化しようとする研究方向には逆行している感じで、p.e.を100%にするためのアガキのように思われました。このメデウムではbiochemical
mutantをいじることがためらわれます。勿論この血清成分から2つの蛋白成分(fetuin及びalbumin)を取り出して、それらで置換できるのですが、まだスッキリしない感じです。
ごぞんじのようにDr.Puckのところでは、Dr.FisherによってS1という高蛋白質要求株がHeLaの母培養から分離されております。その先をどのように進めているか興味をもってきいてみたのですが、Dr.FisherはS3のDNAにするtransformationを試みてうまくゆかなかったまま、やめてしまったとのことでした。
Dr.Puckは遺伝子レベルの研究はまだはやい、染色体レベルでやらなければならない仕事がたくさんあるので、それを済ませてから次に進まなければ、ときわめて落ちついております。彼のところに小児科とかけもちで染色体専門のassistant
professor(Dr.Robinson)がおり、材料をはこんではintersexその他の染色体異常を丹念にしらべております。また46本の染色体数とXの形態を維持したまま正常組織細胞を培養する努力も営々とつづけております。X線の細胞障害機作の研究でも染色体異常が主因というのが彼の年来の主張でした。とにかく彼は現在のところ染色体にcrazyで、またここにauthorityが一人できあがりつつあるといった感じです。
Colorado大学の生物物理教室には、この染色体レベルのcytogenetics−あまりうれしくない表現ですが−の他、Dr.Lermanはpneumococcusを使ってbacterial
transformationを、Dr.Morseはphaseを使ってBenzar流のchromosomal
mapをつついていますが、それらが一本化されて哺乳動物細胞のgeneticsとしての大きな流れとなるには長い年月を要する、あるいはどの程度可能なのか疑問のように思われました。
いうまでもなくColorado Univ.だけがこの方面の研究室というわけでなく、いろいろの所でこのような仕事がいろいろと試みられています。Pen.Univ.PittsburgのDr.Lieberman&
McArdel Memorial Institute(Madison,Wisc.)のDr.Szybalskiなどが、そのfrontiermenですが、まだまだつっこみの程度と考えられます。
このように考えてきますと、僕たちがやらなくてはならないことがまだ沢山あり、特に方法論的な問題で早急に解決しなくてはならないこともあるわけです。さらに日本ではCO2-incubator1つにしても文献をたよりに見よう見まねで作ったものがあるだけで、温度のチェック、流量計など実験器具の改良、整備から取りかからなくてはならないのです。大いにやるつもり−皆さんと一緒に−で帰ってまいりました。またどうぞよろしくお願い致します。
《高木報告》
"新しい年を迎えて"
私共の研究班が発足してから二年たちました。勿論始は釜洞班に寄寓した一年でしたが、兎に角志を同じくする者が一つの班にまとまっていよいよ三年目に入る訳です。この二年間の歩みをうり返ってみて、私自身全く御恥しい次第です。私共の目標とするProductionof
malignancy in tissue cultureは始の覚悟通りやはり一筋縄では行かぬ代物の様です。 しかし過去は過去として私共は常に前進しなければならないと思います。私は臨床の内科にいます関係上、多くの癌患者に接し、またその悲惨な最後を見届けることも屡々です。その中で、骨と皮ばかりの手をのばして私の手を握りしめ"先生、癌治療の決定版は未だ出来ませんか、未だ出来ませんか!!"と死ぬるまで毎日の様に叫びつづけていた一患者は、特に私の脳裡をはなれず、全く鞭打たるる思いがしております。来る一年も道は遠いかも知れませんが、一歩一歩着実に歩みを進めて行きたいものだと思います。
さて今年の計画ですが・・。発癌実験と免疫関係の仕事をすることはこれまでと変りありませんので、昨年年末ratを使って2〜3甲斐こころみてみましたが、どうもうまく行かず、そこで割につきやすいhamsterを目下増産これつとめている訳です。現在どうにか20疋位にはなりましたが、これではまだまだで、何とか早く増えてくれないものかと懸命です。子供が大きくなり次第数疋を使ってさしあたり株細胞の移植をこころみてみたいと思っています。
発癌剤としてはこれまで通りDAB、stirboestrolなど、その外にこれはこちらの癌研と一緒の仕事になると思いますが4NQOも用いたいと思っております。用いる細胞はJTC-4、それにratの肝、腎、hamsterの腎・・・のprimary
cultureと云った処を考えています。勿論昨年来DABを作用させ続けて来たJTC-4もあるのですが、これはあまり時間が経ちすぎましたので、復元実験の出来そうな時期に合せて再スタートしたいと思います。
免疫関係の仕事としては、まずこれまで調べて来た株細胞相互間の免疫学的つながりを、もっと多くの株細胞についても検討すると共に、これらの間に存在するとされている種属特異性或いは臓器特異性が、細胞のどの部に主として存在するのか、Ouchterlony法,Immunoelectrophoresesを用いて少し掘り下げてみたいものと思い、昨年年末ぼちぼち抗原の精製に着手しています。これまでの文献をみますと、癌組織の抗原の検討は誠に粗雑であり、従ってその前に一先ず株細胞について、その抗原性の検討をしたいと考えている訳です。 また皆様に何かと御迷惑を御かけすることもあると存じますが、何卒よろしくお願いいたします。
次に私共の研究室に、今年4月より大学院生が一人入ることになりました。梶山盂浩君と云います。これまで杉君と2人で絶対的時間の不足をかこっていた訳ですが、これでどうにかと云った処です。今后共よろしく御願いします。
【勝田班月報:6202】
《勝田報告》
A)発癌実験:
うちでBreedingしているJAR系ratがようやくまた仔を生みはじめましたので、今度は発癌剤としてDABを使って実験をはじめました。これまで2回スタートして居りますが、第1回は12月20日にはじめたもので、生後1日のラッテ肝を回転培養し、1週間後からDABを1μg/ml、15日間与えました。しかし今日までのところでは、対照と同様にごく僅かのmigrationが見られるだけです。第2回はこの1月11に、生後9日ラッテの肝を培養し、こんどは第1日からDABを同濃度に4日間加えて居りますが、今日までのところでは特記すべき増殖は得られて居りません。どうもDABは発癌がおそいので、また4ニトロキノリンに戻ろうかと考えています。
:質疑応答:
[遠藤]東大理学部生化の寺山研ではDABのいろいろな誘導体の発癌作用をしらべて居ますが、メチル化したDABだと2週間で動物が発癌するそうです。
[山田]病理組織学の方になりますが、2、3年前のBrit.J.Cancerに出ていたHydrocarbonを使っての発癌の仕事、mouseを使った実験ですが、センイ芽細胞の方が増殖が悪く、上皮様細胞の方が良い・・・というのは、この班のような発癌実験が全部陰性だった場合に備えて、何かしらのデータが積極的に出る訳ですから、誰か手をつけておくと良いと思います。
[勝田]山田君は病理だから頂度良いでしょう。お宅でやってくれませんか。
なお発癌の手技として癌ウィルスを使う手もありますが、これはむしろ釜洞班の本命の一つでもあるわけですから、うちの班ではやらない方が良いと思います。Antimetaboliteなどを使う手も我々の試みるべき一つの途ではないかと思います。
[山田]腫瘍化を測定する方法はどうするのですか。例えば特別な点で細胞増殖があるかとか・・・。
[勝田]それは他の班員にはもう何回も話してあることですが、私のこの実験の場合には、ラッテの肝細胞は生命を維持しているだけで、増殖はしないのです。だから発癌して増殖をはじめると、すぐ見付けられるわけです。但し、癌化した細胞が果してその培地で増殖できるかどうかは判らないので、1系の実験でも培地は何種類も使った方がのぞましい訳です。また使う材料もできるだけきれいな純系の動物を使うと、あとの復元接種試験がうまく行くことになります。
B)Parabiotic Cell Culture:
ラッテの正常細胞と腹水腫瘍との間の相互作用を先般までしらべましたが、その後それを補足する意味の実験を若干やりました。まずAH-130とラッテ心センイ芽細胞との間では、正常センイ芽細胞は殆ど影響を受けないのに対し、AH-130は4日以後に軽い抑制を受けました。これはもう数回くり返してみる予定で居ります。次にAH-130と正常肝との間の相互作用ですが、生体の内で癌が出来はじめた頃のことを考えると、AH-130の細胞数に対し正常肝の細胞数が少なすぎるので、後者をもっとふやして見たらどうか、という抗議が以前に出ましたので、こんどは正常肝を192,000/tube、AH-130をぐっとへらして4,000/tubeに入れてみました。TWIN-D3で回転培養したのですが、これが失敗でミリポアフィルターのところに肝細胞がつまってしまって、AH-130側の液が肝側に移ったきり戻らず、AH-130の増殖が抑えられてしまいました。今後はTWIN-D1で静置培養してみたいと思います。
C)無蛋白培地継代亜株:
1961-2-13よりHeLa・P2(PVP+LYDで継代の亜株)を0.4%ラクトアルブミン水解物+塩類溶液だけの培地に移しましたが、これがずっと今日まで継代され、33代になりました。1週間に3〜4倍の増殖率です。
:質疑応答:
[山田]L・P1の増殖率と比べてどうですか。
[高岡]L・P1の方はずっと良くて1週間に20倍位の増殖をしています。
[山田]Lの各無蛋白培地亜株についてちょっと説明して下さい。
[勝田]L・P1はPVP+LYD培地、L・P2はLYD培地、L・P3は合成培地DM-120、L・P4はLD単独で夫夫継代しています。L・P3は良いときは10倍位になっても悪いときは3〜4倍で、どうもむらがあります。今後いちばん有望なのはL・P4で、これはかってのL・P1のように、殆ど全部が単核のきれいに揃った細胞ですし、栄養要求も簡単ですし、合成培地DM-120でよく生えますので、今後色々な実験に大いに使って行く予定で居ります。無蛋白培地は緩衝力が弱いので継代が中々難しいです。
[山田]virusをかけるとき良いと云われるTris-Bufferを使ってみたらどうですか。
[奥村]Galactoseを入れるともっと良いという報告もあります。MK系の細胞で0.004%Galactose+0.02%Glucoseです。
[勝田]Glucoseの代りにGalactoseを利用できる細胞と、そうでないとで相違があるでしょうね。
C)サル腎臓細胞株(MK-D1)
この細胞から何系も培養していますが、最初に発表するのはMK-D1株と仮称しています。目下このpolio
virus感受性をしらべていますが、強毒株にはI、II、III型ともかかります。問題は弱毒株で、米国のMK株は弱毒ウィルスは駄目なのです。まずI型弱毒からしらべかけていますが、予備試験では罹ることが確められました。この株はウィルス用なので、1週間培地交新しないで基礎的データをとり初めています。継代培地は5%牛血清+0.4%ラクトアルブミン水解物+塩類溶液です。至適血清濃度は培養日数と共に上がり、7日後には10%になります。こんな点と、中々PVPなどを使った無蛋白培地では増えないことから、どうも蛋白を栄養源として使っているのではないか、という気がしてなりません。サル腎臓細胞の初代培養ではPVP+LYDの無蛋白培地でかなり良く増殖するのに、この株では細胞の生命の維持もできないということは不思議で、初代で無蛋白で増える細胞とは別の細胞がこの株になったのか、或は長期継代中に、微量に必要な物質の細胞内プールが切れてしまったのか、色々なことを考えさせられます。しかしとにかくウィルスに使うためには無蛋白培地で少くとも維持だけはできぬといけないので、目下各種の方法を試みていますが、無蛋白培地に移すと数日の間に細胞質がやせてしまって、栄養不良の形態を示します。
Skimmilk、Bovine albumin(FractionV)、Yeastlateなども使ってみましたが、良い結果は得られませんでした。virus
vaccineを作るのに、株細胞ではmalignant transformationを起している可能性があるというので、virus屋さんは毎回猿を殺してpraimary
cultureでやっていますが、これでは、経費が高くなり雑ウィルス混入の可能性も強いし、第一、その内にサルが居なくなってしまう可能性がありますので、我々としてはぜひ腫瘍化していない株を作る必要があります。この辺のところが逆にin
vitroの腫瘍化の問題ともひっかかってくる訳です。
:質疑応答:
[山田]猿1匹の腎臓から細胞はどの位とれますか。
[奥村]腎臓は約10グラムで、30万個/mlの浮遊液だと2リットルとれます。l
[奥村]無蛋白培地でやせてくるのは何日目からですか。
[高岡]移して次の日に見るともうやせはじめ、それがどんどん進行して右図のようになってしまいますが、そのまま無蛋白培地をつづけますと、1〜2ケ月でまた細胞質がふくらんでくるようです。目下観察中ですが・・・。
[山田]やせる前のこの細胞はセンイ芽細胞様ですか。チェッコの人のデータですが、初代培養は細胞の形が3種あって、数の上では上皮様が多く、株になってから、alkaline
phosphatase活性の有無で同定しているようです。このaseの強い方が壁につき易いというのです。
[佐藤]私の処でEhrlichの培養の血清濃度を下げて行って5〜2%位にしますと、2日後に細胞がやせてきて、頂度ウィルスをかけたときのCPみたいに、右図に似た形になってしまいます。
D)今後の方針:
大まかに云って、1)発癌実験は、いま伺ったメチルDABとか4ニトロキノリンの様な、なるべく効果の早く出るこのを使ってやって行きます。2)Parabiotic
cultureの方も相互作用している物質の本態を追って行きたいと思います。3)正常細胞と腫瘍細胞の相違をしらべる上からも、また発癌過程を追究する上からも、細胞のDNA-base組成(関口君担当)、蛋白の構成アミノ酸組成(菱沢君)などを分析比較して行く予定です。4)また京大・小川君にやってもらった組織化学の染色も、やり方をおぼえましたので、やはりparabiotic
cultureについてやって行きたいと思っています。
《高木報告》
A)発癌実験:
大きく分けて三つやりかけています。1)JTC-4株にDABを与える実験はこれまで3回Wister
Kingのラッテに復元接種してみましたが、何れも失敗に終りました。もっともHeLaで復元の練習をしてみましたが、これも失敗しましたので、technical
failureかも知れませんが。2)シリアン・ハムスターを予研から頂いて、これをbreedingしています。沢山にふえたらkidneyを培養してstilbesterolを使って見たいと思っていますが、生まれた仔をたべてしまうハムスターもいたりして困っています。JTC-4にDABをずっと与えたのは11月から増殖が悪くなったので通常の培地に戻して継代しています。今後は復元法をもっと研究すると共に、3)4ニトロキノリンの実験を癌研の遠藤先生と協力してやる予定です。つまりこれを使うと封入体ができて細胞が死にますが、封入体ができずに生残った細胞について追究するつもりです。
B)免疫学的研究:
HeLa、FL、JTC-4、JTC-6を使っています。CP、蛍光抗体、凝集反応、赤血球凝集などで追うわけですが、抗JTC-4兎血清を作ってこれらに使うと、JTC-4、-6だけは蛍光陽性で、speciesの特異性だけは出ます。organ
specificityまで行くにはどうしてもAntigenの精製をやらなくてはならぬと思います。次にFLでゲル内沈降反応をやってみました。1億個の細胞をテフロンのホモゲナイザーでこわして、凍結融解せずに(すればよかったのですが)soluble
antigenだけを45,000gにかけ、上清からは11mg(乾重)、沈渣は6回凍結融解して12,6mgとれました。CPx80のFLの免疫血清をシャーレの中央におき、まわりにはAntigenを5倍稀釋で10mg/mlから順次に入れましたが、1週間たっても沈降線が現れませんでした。穴の大きさは径18mmです。そこで次に同材料を50mg/mlから5倍稀釋でやりましたが、これも駄目でした。抗原と抗体とにはやはり至適の量比があるので、まずそれを決める必要があります。
:質疑応答:
[山田]ColterのNucleoprotein、WeilerのMicrosome
fractionなどでやってみたら如何です。
[高木]とにかく、とれる収量が少くて、角瓶10本で23mgですから、今度は角瓶50本でやって見ようと思っています。
[山田]ルー瓶を使うと良いですよ。3本使えば1億のオーダーになります。培地は20〜50ml。但し底面の平らなのをえらばないと駄目です。
[佐藤]細胞とAntigenを一緒に入れて培養するとどうなりますか。
[高木]それがCP法で、細胞はこわれます。Complementを加えぬとこのCPは可逆的ですが、補体を入れると不可逆的になります。細胞は若いのを使うのがよろしいです。頂度シートのできる時位。
[佐藤]私の処では最初から抗体を入れると、細胞は塊を作りますが、細胞数はじりじり増えて行きます。Ehrlichの1%牛血清にならしたsublineです。
[山田]このCP反応を染色標本で見ると、原形質の青味がぬけ、核の凝縮が見られます。[佐藤]DABを加えると細胞の形態はどうなりますか。
[高木]Atrophyを示します。うちも愈々Zeissの蛍光光源を買ってもらえることになりましたので、来年度からは蛍光抗体法を沢山やれることになります。
[勝田]京大の岡田氏のところではOrgan-specificityが馬鹿に良く出ているような話ですが、5月に京都へ行ったときぜひのぞいて見ると良いと思います。
[奥村]ハムスターの仔を食うくせのついたのは、もういつまで経っても癒りませんから交換した方がいいですね。
C)無蛋白培地内培養:
L株はPVP・0.05%+Lh・0.4%の培地に簡単に馴れましたが、増殖性というか、細胞シートの安定性がどうも不安定で困っています。tubeを立てて培養するか、コルベンだと良いのですが、横にねかしたり角瓶にしたりすると、シートが剥れ易いのです。増殖率は週に5〜6倍というところです。JTC-4は血清を2%位までは減らせても、どうしてもPVP培地では永くつづきません。
[高岡]管を立てて培養すると良いという点はL・P4と良く似ていますね。
D)Orotic acidの影響:
米国では培養細胞に特に効果を与えず、核酸へのとり込みも見られないと報告されていますが、私は小野製薬で作った水溶性のdemethylamideの型のものを使ってみました。細胞はL(LT+50%BS)、FL(LYT+10%BS)、Chang's
Liver(LT+20%BS)、JTC-4(LYT+BS20%と5%の2種)、HeLa(LYT+5%BS)の6種です。濃度は0、10、50、100、1,000μg/mlに加えました。結果はFLとHeLaには影響は見られませんでしたが、JTC-4でBSを5%にしたもので少し促進効果が認められました。10、50μgのところです。Chang's
LiverではBSを5〜1%に下げると50μgを中心にしてやはり促進効果が見られました。遠藤班員の云われる栄養値の低い培地の方が促進効果が出やすいという説によく一致しました。(註:このことは1959、伝研の研究生・斎藤重二の骨の培養の論文の中ですでに指摘している)。細胞の形態学的観察はいたしませんでした。
:質疑応答:
[佐藤]Orotic acidは担癌動物の延命効果があると云いますね。
[奥村]ChangのLiverは動物につきますか。
[山田]ハムスターとラッテにはつきます。この細胞はJTC-6に比べて染色でglycogenが多く出ます。勿論生体の肝に比べれば遥かに少いですが。どうも実質細胞ではないかと、また云われはじめました。
[高木]Changの処ではLiver株を新しくとっているそうですね。
[山田]染色体数は・・・。
[奥村]前にしらべたのは60本位で、多くなっています。
《伊藤報告》
L・P1を使って、腫瘍のS2分劃の仕事をつづけています。S2分劃をトリプシン消化し、これをIRC50とIR45を通すのですが、前者を素通りするものをニンヒドンで発色させると右図の実線のような曲線になりました。280mμの吸収で点線のように左のピークに一寸肩がつき、右の方に小さなピークが現れます。そこで右図のように四種の分劃に分けて、夫々の促進活性をしらべたところ、III分劃に認められました。IRC50を通したままでは活性はS2に比べて100%残っているのですが、III分劃では60%に落ちてしまいました。
次に青木先生がやって居られるのですが、C3Hマウスの自然発生乳癌をトリプシンで消化してprimary
cultureで培養ができるようになりましたので、将来はホルモンの影響などみて行きたいと思って居ります。長期継代も昨年秋からつづいています。
高井君の方は重症患者の担当になって、自分の株をついで行くのがやっとです。
:質疑応答:
[勝田]primary cultureだとcontrolをとるのがむずかしいね。うちでも乳腺細胞を培養しようと思って探してみても、経産ラッテでは乳腺が見付からないで困っています。妊娠ラッテでは勿体ないのでケチをして反ってやれないでいます。
[高木]C3Hのspontaneousの乳癌発生率は?
[佐藤]経産の1〜2年で50%位です。株によって差はありますが。培地は何ですか。
[伊藤]BS5%〜10%+LD 0.4です。
[遠藤]大分昔ですが名大の増田先生がexplant
cultureで発癌とホルモンの関係をしらべています。
[佐藤]私のところでは初代は培養できるのですが、あとがつづきません。
[高木]ddDマウスで3〜4代までは行くが、6〜7代で絶えてしまいます。培養するに従って段々悪くなります。
[伊藤]うちでは今、14〜15代になっています。なお久留先生の去られたあとは、私はそのまま阪大に残り、やって行くつもりです。発癌実験も、神前先生が何か独特の構想をもって居られるようなので相談しながらやる予定でおります。そのほか他の者ですがEhrlichも株になったようで週約4倍の増殖ですが継代しています。
[高岡]形はまるい形をしていますか。
[伊藤]まるくありません。揃ってきれいです。
[高木]PuckのN16HHFを使ったらどうですか。
[山田]Puckの処の染色体の変らないCell lineは、はじめはN16HHFEでしたが、その後EarleのNCTC109にvitamin、アミノ酸を加え、血清10〜15%で継代していますが、頬の皮膚をひっかいて、そこに再生するところをまたとって培養するのです。fibroblasticの形をしています。しかし時々切れて居ます。
[高木]血清を使ってcell variationに影響しないのでしょうかね。
[山田]染色体数が正常といっても、それがピークを作っているだけのことで、やはりある幅を持って居り、幅がひろがるとcloningをやってきれいなのに戻すわけです。
《遠藤報告》
はじめに前号月報の謝を訂正しておきますが、瓶のまま室温で1日放置して、そのあと次の日短試に分注したら、lag
phaseが大きく出たのです。分注してからおいたのではありません。
今回は細胞をあまり増殖させずに、maintainする目的で色々やってみました。細胞は全部前と同様HeLaです。BSを1%にして11,000/tubeの接種量で培養してみますと、やはり4日までは細胞数がぐっと下り、それから6日目にかけて立上りが見られました。
Progesteronを与えると、この立上りの曲線が大いに促進されます。しかし定性的には促進効果は判っても、定量的にはつかみにくくて困ります。そこで2%BSにしてみますと、データは一寸変っていますが、contamiがあってtube1本だけの点もありますので、この実験では一寸ものを云えません。BS3%にしますと2〜4日までmaintainされました。またprogesteroneの0.16mg/lあたりで6日目に促進がはっきり出ています。
次に細胞のinoculumをふやして56,000/tubeにしてみますと、BS3%で1週間に6〜7倍増えました。inoculumによってふえ方がまるでちがうので、今後はこのinoculumにもとずいて、また諸条件を検討しなくてはならないことになりました。
ホルモンをとかすのにエタノールをこれまで使っていましたが、実はその毒性が大したことないと思って、しらべてなかったのです。Final
0.2%に培地に加えてみましたところ、3%BSの培地で明らかに増殖抑制が現れました。昔の文献にもexplant
cultureで0.2%でdetectable injuryありとかいてありますが、これではホルモンがアルコールの解毒作用をしていることになってしまいますので、別のsolventを探すことにします。
結論として、今日のデータでは定量的な形でデータが出ないので発表はできないと思います。
:質疑応答:
[山田]序列の推計学を使ってみたらどうでしょう。例えばどの濃度が一番良かった、2番、3番・・・として、1番がいくつあるという具合に。
[遠藤]Factorがいくつもあるのでむずかしいと思います。例えばinoculum
sizeのちがいに依ってもデータが変ってきます。要するにcontrolが一定にならないのが困るのですね。[山田]促進物質についてですが、この場合のカーブを分析すると、一部の細胞は死に、一部のはふえている。その合計があのカーブに出ているのではないですか。特に培養初期にカーブが落ちるあたり。
[勝田]ニグロシンで生死計測をやってみたらどうですか。
[山田]もっと別の培養法を使ってみる手もあります。たとえばMarcusのWindow
techniqueを紹介しますと。シャーレに細胞をまいて、その裏に小孔を沢山あけたアルミニュウム板をはりつけ、倒立ケンビ鏡で各孔の中の細胞数をcountします。見えにくい時は緑色のフィルターを通すと見えよくなります。この方法でやると、colony
formationよりplating efficiencyが高い数値になります。
[佐藤]シャーレに線をかいても良いわけですね。
[奥村]対照群も数日してから急にふえていましたが、Synchronizeされているのと違いますか。
[勝田]あそこでSynchronizedの増殖をやったのならまず数が2倍近くの増え方でしょう。[佐藤]無蛋白培地でやった方がホルモンの作用がはっきりするのではないですか。
[遠藤]それは勝田さんのところでやって、Progesteroneの効果が出ないとされています。[勝田]それは成績にむらがあって深く追究していなのですがね。
[佐藤]Yeast extractが入っている細胞の場合、Yeを抜くと細胞数が一時減りますが、また何日かしてYeを入れてやると猛烈にふえるようになります。培地組成をminimumに抑えると細胞のAdaptationが敏感になるのではないでしょうか。だから最低の栄養にならして、そこから出発したら如何でしょう。また20%BSで継代していて、急に少ない培地へ入れるからデータが揃わないのではないですか。つまり最低栄養要求の株をとって長期にならしてからやるのが良いと思います。
[伊藤]しかし一面、in vivoの条件にできるだけ近いところでしらべないと、biological
significanceが少ないという問題も出ます。
[遠藤]私もそう思います。
[勝田]北大のデータはProgesteroneは促進効果がないということになっていましたが、(月報No,6108)これは技術的な問題もからんでいるのではないでしょうか。つまり、1)使ったホルモンが製品としてどうか。2)細胞のinoculum
size(北大は10万位で多い)3)培地に抗生物質を入れているらしいこと(抗生物質を使っていると、たとえばマイトマイシンのような他種のものにも鈍感になることは堀川君の仕事で示されている)。これらのことの影響があるのではないでしょうか。
[佐藤]血清とホルモンのinteractionはどうですか。
[遠藤]あることは判っているのです。血清をとった牛が♂か♀かでもデータは変るわけです。いままでホルモンは反応のresponseをmodifyするだけと考えられていましたが、自分のデータからしてももっと根本的な代謝に関係するのではないかとも考えられます。
[佐藤]血清がないときホルモンが効かず、あるとき効くのならもっと血清濃度を上げたらどうですか。
[勝田]この両者は一定比で結合するのだろうから、蛋白ばかりふやしても意味がないでしょう。
[山田]判定法ですが、増殖曲線の傾斜角度で比較したらどうですか。それから血清中にどの位ホルモンが混っていると考えられますか。
[遠藤]人間の場合平均して女性でProgesterone
1μg/ml位です。
[高岡]実験に使う前の代の条件を揃えてありますか。いつも細胞が同じような条件にあるものを使わないと対照群が揃わないと思います。
[山田]そうStandarizationをやり直す必要がある。
[遠藤]2月から後輩が一人入ってくることになりましたので、この方にはHeLaにテストステロンの影響をしらべさせたいと思っています。
[勝田]ホルモンも、拮抗ホルモンのAntagonismまで持って行かないと、本当にホルモン作用しているのか、栄養源的効果なのか判らないですね。
[遠藤]きれいな条件を作ってから拮抗を考えます。そして子宮の癌としてのHeLaというものをはっきりさせられるように進みたいと思います。
[勝田]私は1種類の株細胞だけをいじっているのは疑問だと思います。対照となる細胞lineも揃え、比較検討して行く必要があると思います。
[遠藤]最近Gyneの小林教授と関係があるので、子宮から材料をとって株を作りたいと思っています。
[高木]私の経験ではパラパラとしか生えませんね。初代はうまく行きますが。
[奥村]PackのN16の培地を使ったら・・・。
[勝田]合成培地というものは栄養的に完全なものではないから、やはりはじめはnatural
mediumでスクリーニングしてひっかけ、それから次第に合成培地にもっ行く方がよい。
[関口]HeLaのmitochondriaや細胞成分について生化学的に検討したら如何ですか。
[遠藤]ATPoxidationは阪大・奥貫研でやっています。但し7日間に6倍しかふえぬ株で細胞条件が一寸無理のような感じです。in
vivoの実験ですが、EstradiolはDPN-DPNH2、TPN-TPNH2系にCO-enzymeとして関係するという報告はあります。Progesteroneのin
vivoの実験はありません。
[勝田]いきなり酵素レベルに持って行くのは、うまく当らない危険性があります。やはり沢山のEnzymesの綜合responseである"増殖"を尺度にしてOptimalの条件をきめてから入って行かぬと無駄骨になることがあります。
《奥村報告》
この前の連絡会で4種の研究を予定にあげましたが、環境上やはり中心になるのは、1)色々な細胞の初代培養と、2)細胞の凍結保存の影響の二つになります。
A)初代培養:
かにくい猿では、腎臓の他に、肝、心、大脳皮質などやっています。最後のはEmbryoの材料でまだつづいてはいますが、一月に継代したら、その後あまり良くありません。
みどり猿(1匹8万円位)は、雑ウィルスとくにSV40が少ないのですが、腎は11代目になって居り、各代増殖率をしらべる群は2代目に入っています。睾丸は2代目、その他小腸、肝、心もやっています。
人羊膜はこのごろ大分うまく行くようになりました。0.25%トリプシンで消化し、20%仔牛血清+M・199でよく生えますが、固体差が大きく、駄目な人のときは全然駄目です。
人胎盤はホルモンと関係があるから面白いのですが、70%はシートをつくりますが、色色の細胞が混っているのと、血球を除くための前処理が大変という難点があります。
マウスの脾臓をN-19とM・199に夫々牛血清20%加えて培養しますと、前者では非常に良く生えます。
[勝田]胎盤は組織片をroller tubeにつけて2日間回転培養すると、血球が流れ落ちてしまって具合がよいと思います。
B)凍結保存:
HeLaS3を使ってみましたら、凍結35日後にまた培養すると、mitosisの数が少ないのですが76本と80本の染色体が見られました。62日後には76本のが8ケ中3ケありました。全部で50ケのmetaphaseの内です。S3の原株は69〜80本の幅があり、HeLaの原株は60〜88本の幅がありました。Puckのところのようにきれいではありません。結局、76本のが
predominantで残るとは思われますが、もっと計測数をふやさなくては仕様がないところです。なおポラロイドカメラを使ってケンビ鏡ですぐ染色体の写真をとってかぞえる手を考えています。
[遠藤]ポラロイドのフィルムは非常に感光度が早いので、露出overにとってしまうことが多いから注意が要ります。
[奥村]ECHOウィルス耐性の株は、凍結保存したあと継代3代目にきれてしまって、耐性をテストできませんでした。簡単なcloneのとり方として、2mm角位に濾紙を切り、0.25%トリプシン液を含ませ、狙うcolonyの上に3分間のせておき、それをとり出して次のシャーレにまく方法をやってみました。3回中2回成功しました。
[山田]Puckのところの新しいClone formationのやり方として、細胞をまいて24時間後に、細胞が1ケだけあるところを顕微鏡でしらべてマークし、そこへ硝子の細いシリンダーを立てトリプシン消化します。シリンダーの下端はシリコングリースを塗っておきます。[奥村]牛血清を1年間同じものを使えるように100l集めています。夏の血清は駄目なので、冬あつめているのですが、冬の仔牛は少く、雌雄の別はできません。
《山田報告》
私は発癌実験はマウスでやろうと思っています。放射線を使うと白血病ということになり、奥村君と共同してやるつもりで居ります。X線もHeLa以外の細胞でどんな影響があるか見たいし、耐性も培養でやってみると細胞レベルで耐性のあることが判ります。
X線照射で生き残った細胞にさらに照射をくりかえすと図のIカーブになり、スロープのなめらかな部分をclone
formationでとると図のIIIのようなカーブになります。そこで30%survivalになるDose(D1)を照射して、細胞のradio-resistancyをしらべて見たが、うまく行きませんでした。今後はX線照射における耐性の問題を一つの課題として仕事をすすめたいと思っています。
発癌はマウスのspleenの細胞を使いたいと思います。それからS3も東京でplating
efficiencyが100%になるかどうか見てみたいと準備しています。
[山田]4ニトロキノリンを使うときの濃度はどの位ですか。アルコールでとけますか。[高岡]10-6乗で封入体を作ると云われていますので、うちでは10-8乗で使っています。とかすときは10-4乗にアルコールでとかし(よくとけます)。それを水でうすめて10-8乗にもって行きます。この方法だと沈殿が出ません。これは冷蔵庫に保存しても1月で駄目になりますし、熱処理すれば発癌性を失います(九大・遠藤氏の話)。ですから使った器具は熱処理しています。
[山田]4ニトロキノリンの耐性も検討したいと思います。
【勝田班月報:6203】
《勝田報告》
正常ラッテ肝細胞の培養にDABを作用させる発癌実験で、第1回は培養開始1週間後にはじめてDABを添加したが、このときは旨く発癌しなかった。第2回目の実験では開始と同時に与えたところ、非常に面白い成果を得られたので報告する。
材料は生後9日のラッテ(JAR系)の肝で、メスで細切し、回転管の内壁にplasmaなしで附着させる。培地は20%牛血清+0.4%ラクトアルブミン水解物+塩類溶液(処方D)。DABは1μg/mlに加え、4日間培地更新なしに培養する。実験群、対照群(非添加)各6本で、4日目以後は週2回培地全量を更新した。第4日以後にはDABを全く添加しない。すると投与後約6日で、実験群の中の1本に新しい増殖の盛な細胞Colonyがあらわれ、ほぼ1日半位の間に、次々と、結局全部の実験群tubeに増殖コロニーが大量にあらわれてきた。対照群では若干のmigrationはあるが、増殖像は今日に至るまで全く認められない。それが実験群では6/6で全部できたのである。そこで問題はこれらの培養を、いつ、いかにして継代するかである。仮にその6本をA、B、C、・・・と名付けると一応次のような処置をとってみた。
A:第14日にラバークリーナーでTD-15へ→Colony
3ケでき増殖中、上皮様形態の細胞
A2:第14日にトリプシン消化で小角瓶へ→Colony
2ケでき増殖中、同上
B:第21日にコロニーだけをとり、トリプシン消化→回転培養(Colony新生せず)
C,D:第21日にコロニー以外の他の細胞をラバークリーナーで除く(コロニーだけ残す)(その後、第28日に継代し、失敗)
E,F:継代せずに初代のままつづける→(その後増殖が中止した)
各継代の結果は上表の右に記した通りで、この経験からみて、継代は思切って早い方が良い。(3月になった現在。A2系だけが増殖をつづけている)培養法は初代は10rphの回転培養で、継代後何れも静置。増殖してくる細胞には静置の方が良いようである。(A)の細胞が大量にふえたら復元試験をしたいと準備をすすめている。くりかえすが、上の成績から判る通り継代をためらっては失敗する。もう少しふえてからなどと思わずに継代するのがコツである。対照群はDABを加えぬ他はすべて実験群と夫々同じ操作をしてみた。migrationしか見られなかったが、例えばAの継代のとき、対照群も同様に1本を継代した。このTD-15に継代のもののみ継代後コロニーが1ケ出来たが、DAB処理群のコロニーと異なり、殆んど増殖しない位である。他の継代では一切コロニーはできなかった。
細胞の形態は(染色標本と生のTD-15継代のA系を展示)。新生の細胞には2種が混っている。右図の(a)と(b)であるが、継代後によく生えているのは(a)の方で、これは上皮様で、石垣状にぎっちりシートをつくってくる。どうもこれが悪性化した本命ではないかと思われる。
さてこのような結果が得られましたので、全く上と同じ実験条件で第3回目をやってみました。ところがこんどは、実験群対照群ともに、第2日頃(DAB処理中)から細胞のmigrationがはじまり、第5、6日頃から急速な細胞増殖がおこりました。このころは、上の(a)とも(b)との異なる、本当の"fibroglastic〃のものが主でした。第12日に継代、以後今日まで活発にふえています。但し継代後は上皮様のが主体になりました。これは対照群も充分復元してみられるので、両方とも今日まで培養をつづけています。どうして、第2回目と第3回目と異なる結果になったのか、異なっていたのは、1)ラッテが別のラッテであること(両方共JARの生後9日ではあるが、別の個体)。2)第3回目の方がラッテを殺してから培養に入れるまでの時間が少し長かったこと、の二つ位であろう。今迄正常ラッテ肝の培養をずい分やってきたが、こんな例ははじめてで、何かこの使ったラッテに原因があったのではないかという気がしている。
[山田]Outgrowthと本当のgrowthの区別は?
[勝田]Morphologicalに簡単にできます。右図の(a)と(b)のようにmigrationだと(a)のようにA)B)の組織片のまわりに、ほんの少しくっついて出てきますが、増殖がはじまったのは、例えば(b)の(A)片からはじまったものでもどんどん拡がってとなりの(B)を包み(C)にまでおおいかかるという具合で、みるみる拡がって行きます。
なお昨年の夏ごろから、4ニトロキノリン−ラッテ正常肝の組合わせでうまく行かなかった理由について考えてみますと、in
vitroで悪性化を図る場合、まず大きく見て二つの制約があります。第1が"Mutationの方向"で、第2が"培養環境によるselection"です。Mutationには方向性がない訳で右下図のように、細胞の性質は360゜いかなる方向にも変り得る訳です。その内、右図の点線の角度内に向いたとき癌化するとします。次に、そのとき用いている培地あるいはさらに大きく云って培養環境で、細胞増殖を起し得るような細胞の性質の方向を鎖線でかこんでみます。すると、仮に悪性化したとしても、鎖線の角度内に入っていないと、そのまま増殖できずに死んでしまう訳で、つまり点線角と鎖線角のオーバーラップした角"α"の方向に細胞が変った場合のみ"in
vitroの発癌"が成功することになります。
今回成功に近ずきつつあるDABでは、同じDAB肝癌であるAH-130などについて既にくわしくその栄養要求をしらべてあり、他のDAB肝癌でも他所から似たような培地で生えることが報告されています。だから"α"の角がかなり広かったと云えるでしょう。それに対し、4ニトロキノリンの方は、まだこれで発癌させた細胞を培養した経験がないので、鎖線に相当するところがよく判って居らず、したがってαがきわめて狭いか、或はoverlapしていなかったのかも知れません。もっとも1回はうまく行きかけたのですから少しはoverlapしていた、と云えるでしょうが。
さて、いまお話しましたように"正常肝-DAB"という非常に有望な系を見付けましたし、非増殖系を使うという非常に便利な研究法も見付けましたので、かねてのお約束に従い、早速全班員に追試をおねがいしたいと思います。
薬剤はDABを使うとして、肝をとる動物は、"勝田・JARラッテ、佐藤・呑竜ラッテ、高木・Wistarラッテ、伊藤・?ラッテ、山田・マウス、堀川・マウス、遠藤・呑竜ラッテ、奥村(発癌前後の染色体の比較)"のように分担しましょう。なお、ラッテはこれまで生後9日のを使いましたが、決してその年齢が良いというのではありません。controlが増える危険性の少ない点では、生後1月位が良いのではないでしょうか。
:質疑応答:
[山田]初めに培養するときトリプシン処理したら如何?
[勝田]細胞が弱り易いのでこれまではやりませんでしたが、うまく行くのが確実になってきたら、段々に細胞の方をpureにして行くべきです。現在のやり方ではmixomaのできる可能性もあるので、できた腫瘍をさらにcloningする必要もあります。
[高橋]ハムスターにしてはいけませんか。
[勝田]それは各班員properの仕事としては一向かまいません。しかし今の話はそれと別でとにかく突破口ができたら皆でそれをこじ拡げようという方の仕事です。
[遠藤]私のところは3週の呑竜を買っていますので、それを使うことになります。
[勝田]それはかまわないと思います。
[佐藤]私のところは呑竜をまだ飼ったことがないし、繁殖について条件が少し悪いのです。マウスの乳癌だと、TD-15で培養して純系マウスに簡単に復元できますが、今度の場合多くの例数が要るのですか。
[勝田]この場合、多くの成功例を作ることが先ず必要と思います。
[佐藤]培地更新は?
[勝田]週2回です。さっき1日おきと云いましたが間違いです。
[高橋]第4日に培地を洗いますか。
[勝田]培地をすて、よく液を切り、そのまま新培地を加えます。だから少しはDABが残るでしょうが培地をかえる度に稀釋されてしまいます。勿論洗っても良いでしょうが、それより成功につれて、作用日数を段々減らして行くのが面白いと思います。またControlにDABの混入する危険を考え、一度DABに使ったピペットはそのまま棄てています。
[遠藤]普通の有機物ならクロム硫酸で洗っていれば大丈夫です。それよりピペットを新聞紙でまいて乾熱滅菌するとき、少し熱が上りすぎると、カーボンやインクが出てきて、これが発癌の原因になる可能性があります。
[山田]EarleのLのときの発癌も技術に不明の点が多い。
[勝田]対照も癌化してしまったしね。生体内で発癌する場合、二つの途が考えられています。その第一は、変異した細胞がそのままどんどん増えて癌になるのと、第二はその薬剤の作用で細胞がやられ、そこに再生が起る。その再生が止まらなくなってしまって癌になる。この二つです。我々の仕事は第一の方が、少くとも存在し得ることを示している訳です。
いま説明したような培養法で肝を培養しますと、かなり永い期間細胞が生きています。例えば7ケ月目にしらべて、Nigrosine陰性、Neutral
red超生体染色で核は染まらず、細胞質顆粒は染まります。つまり"No
multiplication but viable"の状態です。Subcultureすると肝細胞は壁にろくに附かなくなります。
[山田]DABと蛋白とのinteractionを考える必要があるのではないですか。
[勝田]いわばrestingの細胞がDABによりmutationを起すことについて、私は次の様な可能性もあると"考えて"います。つまり遺伝形質支配はDNAでなくDNA-proteinである。このproteinにDABが作用し(或はcompoundを作って)、遺伝形質支配に変化が起る。
[関口]九大遠藤氏の仮説で、4ニトロキノリンがprotein-SHに働くという考があったが、核蛋白にはSHが少いので立消えになりました。
[山田]遠藤君はRNA-proteinを考えていたようです。
[高橋]Phenol抽出RNAは駄目で、Dodecyl・RNAだとDNAのcontamiが無くて良いので、この方法でRNAの変化を追っています。
[山田]自分はproteinのことはよく判らないが、RNA-proteinのproteinと4ニトロキノリンとのinteractionでclear
cutなデータが出ている様です。
[勝田]これまでの経過をふりかえると、班研究としては成功していると思います。in
vitroの発癌は外国でも狙っているので1日も早く仕事をいそぐ必要があります。それで、この春(6月末)の病理学会に、発癌seriesの第1報としてまず"正常ラッテ肝細胞の培養"ということで、第1報を出しておきたいと思いますが、如何でしょうか。
また、昨春の第1回連絡会でこの仕事の綜合的題名として、
"組織培養による細胞の悪性化の誘起の研究"としようと決めましたが、いま考えていて誘起(induction)だけでなく、できたものについても比較するという意味も含み、次の名前に変えたら如何でしょう。第三者にきいてみてもこれで充分意味は通じるというのですが・・・。
《組織培養における細胞の悪性化の研究》英語では"Production
of malignancy in tissue culture"となります。
[佐藤]"正常細胞の癌化"で良いか? どちらかと云えば《発癌》ということを打出しておいた方が良いのではないですか。
[堀川]Cell lebelでの発癌ということは、発癌のConceptとして良いのですか。
[佐藤]良いと思います。原題だと"株になったときの悪性化"という意味にもとれます。[山田]各班員が全部一緒に話し、或は発表する場合はともかく、別々に発表するときは、この方を副題にした方が良いのではないか・・・。
[勝田]単に各個研究を寄せあつめただけの班研究ではなく、有機的な綜合研究なのだから題名は統一した方が良いと思います。
[山田]きゅうくつな感じもします。癌のできたときは良いが、今の段階でこのような題名をつけるのいうのは。
[勝田]私は、この辺で研究上にもフンギリをつけるという意味で題名を考えたいのです。[山田]できた、というところで題をつけるのでも良いのではないか。竜頭蛇尾の感、"Japanese
Gann"のような気味があります。
[堀川]山田班員の説は一考に値します。"悪性化のための"という位にしておいて、悪性化して行ったときから題名を変えれば良いでしょう。具体的には"ための"という言葉を入れるわけです。
[山田]私の考はMain titleは夫々につける。Subtitleで統一ということが主です。
[堀川]それには賛成しかねます。やはり綜合の有機的な結合にによる研究であるからにはMain
titleを統一した方がよいと思います。
[高橋]日本語の方は良いが、英語のProduction
of・・・"は問題と思います。"The study on・・・"とした方が・・・。
[山田]"Japanese Gann"の外国の評判が気になります。Just
like"Japanese Gann"ということになるのが・・・。日本語は良いとして英語の論文はどうするのですか。
[勝田]この次の連絡会(5月)までに考えてくるようにした方が良いと思います。いまはとにかく第1報を病理学会に出させてくれ、ということです。
[山田]学会発表なら良いだろう。
[堀川]DABの仕事が或程度のところまでで、あとうまく行かずnegative
dataになったときの発表は?
[勝田]出来そうなんだから、今からそんなこと云わないでくれよ。これから高岡君に実際の手技を説明してもらいましょう。また発癌物質、たとえばこのDABなど、使ったあとどういう処理をしたらこわれて発癌性がなくなるか。これは取扱上大切なことなのでぜひ遠藤班員にしらべてもらうことにしましょう。
(どうもこのあたりの発言は、実際に自分の研究室で細胞の変化をおこさせている者とそうでない者との切実感の相違が喰いちがいを作っているようである。5月の連絡会までには各班員ともかなり成果を得られると思うので、この次は話もちがってくると思われる。割当に従って各員早急にピッチを上げて頂きたいところである。)
《実験法の詳細(高岡)》
〔DABの溶かし方〕
これは九大の高木班員のとかし方をまね、Tweem20を使いました。
100mlコルベンにDAB100mgを入れ、Tween20を5ml加えます。即座にとけます。これを100℃、30分で1昼夜おきに3回間歇滅菌し、さらに滅菌塩類溶液を45ml加えます。これを4℃で保存します。冷えると沈殿ができますが、温めればまたすぐ消えます。
〔培地〕
牛血清(56℃、30分非動化済)20%+LD(Lhを0.5%にとかした塩類溶液D)80%に上記のDAB溶液を1μg/mlに加えます。
〔材料の取り方〕
生後9日のラッテをエーテルで殺し(放血はしませんでした)、肝を無菌的にとりだしてシャーレに入れます。このとき塩類溶液で肝臓を洗ってはいけません。洗うと、あと組織片が壁に着かなくなります。さてこの肝組織をメス2本を使って、0.5〜1,0mm角位になるまで細切します。粥状にするわけです。これをピペットでRoller
tubeの管壁に一面につけます。右図の(a)の幅ぐらいにぐるりとつけるわけです。生後9日のラッテですと、1匹の肝からRoller
tubeが20〜30本できます。さて組織片をつけ終ったら、培地をすぐに入れます。各管1,5ml宛入れますが、組織片が乾かないようにすぐダブル栓をしめます。〔培養法〕
37℃の恒温器で、約10rphの回転ドラムにさして培養します。4日間は培地をかえずにそのままおき、4日後にDABの入った培地旧液を全部すて、よく切ってから、DABの入らぬ新しい培地を1.5ml宛加えます。以後は2回/週に培地交新します。この間ときどき顕微鏡で観察し、migration或は増殖像に気をつけます。なお、観察のとき、細胞を乾かさぬようにする注意が肝要です。
:質疑応答:
[佐藤]メスの代りに鋏を使ったらどうですか。
[高岡]組織片をつぶすおそれがあるので、メスを使わないと・・・。
[勝田]それもよくといだメスでね。鋏だと引きちぎってしまって、細胞がやられる。
[山田]pHの変化は?
[高岡]非常な稀釋液なので、DABをこの位入れてもpHには全く影響ありません。
[遠藤]エーテルで殺すとエーテルのeffectが出ないかしら・・・。
[関口]さっき山田班員のいわれた、DABがProteinにくっつくということは・・・?.
[山田]よく判りませんが、そのようなデータが出ています。
[関口]in vivoではfreeの形では作用しないんじゃありませんかね。
《堀川報告》
1961年度の私の主な仕事は哺乳動物体細胞の変異性と耐性のメカニズムを追求するためにmouseL細胞を用いてやって来ました。用いたagent及び主な内容は従来この報告でも度度述べてきましたので、今更詳細に述べる必要はないと思います。
ただこれらの問題は自分自身遺伝屋である故か、或る程度の興味をもって進め、又ある程度の結果を得る事が出来ました。然も現在最も力を入れている耐性のメカニズムを染色体レベルでその機能を説明しようと言う試みは、今後大いにやらねばならぬ問題と思っております。ここで大いに付け加えておかねばならぬ事は、これらの問題がin
vitroでの発癌問題とどの様な関連性があるかと云う疑問に対して私自身大いに有りと認めますし、又一昨年のこの研究グループ出発の際にとり決めた私の計画分担をあの手、この手で押し進めて来た訳です。従って発癌に関して直接の関連性はなかったにしろ、私自身当初に計画した事は一応満足な結果は得られなかったにしろ達成しつつあるし、又これらの仕事で得た結果は今後の仕事に大いに利用出来ると思います。
例えば、MitomaycinC、UV-ray、γ-rayの如きものは大まかに言ってその作用機構に類似性があり、然も一方L細胞、HeLa細胞の如き株化された細胞を少なくともこれらの要因で処理すると、もともとL原株細胞中にあった耐性細胞こそ或る程度pureな形でisolate出来るが、腫瘍化させる様な大きなActionは持っていないようだと云う事、然し、この腫瘍化出来ない原因が株細胞を用いたためなのか、用いた要因に起因しているのか、と云う問題に関しては未だに解答を得られません。
でもこれまでに少なくともLiebermanの様にPuromycin、8-azaguanine、Szybalskiの5-Bromodeoxyuridineの様に種々のantibiotics、核酸前駆体等種々のagentを用いて仕事をやって来た人々がLやHeLa細胞で大きな変異を起し得たと言う報告を耳にも目にもしない所をみるとやはりDifferentiationの極致に達した株化細胞を用いる事は余りリコウじゃあ無さそうに思われる。結局発癌の問題に関しては現在伝研で成功しつつあるDABを用いてのPraimary
cultureでの仕事のように何かの動物からPraimary
cultureしたものを用いて勝負するのが手取早いと云う結論です。
で今年の結果ですが、うちは3月に引越しがあると云う弱点はあるが、とにかく
(1)今年の発癌にはマウスの新鮮組織からisolateしたPraimary
cultureでやります。これは私にとっては初めての試みですが、A)マウスCBA系の上皮性fibroblast(正常cell) B)300γirradiation後induceされたマウスCFI系の腫瘍細胞、の培養も試み結果はかなりうまく行っておりますので、とにかくやってみます。前述の伝研での仕事がかなり有望なので先ずそれを追試してから、うまく行けばしめたもの、うまく行かなかった場合には次に発癌にどの様な方法を使うかこれも考慮中です。種々の発癌剤、Chemical
mutagenはもとより、うちでははやりTransformationやpinocytosisもうまく生かして使ってみるつもりです。
(2)従来のL細胞の仕事はもう少し発展させます。特に今後はこれまで苦労して確立させてきた各種耐性細胞を用いてその耐性のメカニズムと変異性の問題を解決したいと思っています。この問題は遺伝的な見地からの目的ばかりでなく、発癌の問題と取り組む際のテストケースとして私には又必要ですので。
(3)最後に計画しているのが人間の遺伝病を細胞レベルで分析証明したいと云う希望です。
:質疑応答:
[勝田]いま"癌細胞を正常細胞に帰してやる"というような発言をされたが、これは"非腫瘍性細胞に変える"というべきと思います。本当に正常に帰す、なんてことは非常にむずかしいことですから。かって数年前に報告しましたが、肝癌AH-130から作ったうちの株、JTC-1,-2はラッテに復元接種するとかなりの致死率を示します。これは染色体数の主軸は、夫々51本と58本ですが、培養はずっと静置培養を使っていました。ところがこの株を3,000rphの高速回転培養に移すと、数代の内に腫瘍性がぐんと落ちました。何回やってみても同じような結果です。そこで高速回転の細胞をいろいろな面から、静置継代の細胞と比較したのです。染色体は高速ではどちらの株も38〜40本の辺がピークになっていました。これは株をラッテに復元したとき第2位になって現れてくる38〜40本と核型もそっくりです。そして正常のラッテの体細胞と数の上ではきわめて近いのですが、核型がはっきりちがうのです。つまりこの場合の腫瘍性の低下は、染色体数からも解糖や呼吸からも、さも腫瘍細胞が正常に戻ったかの如く見えますが、実は株の細胞集団のなかに、腫瘍性の低い細胞(染色体数38〜40)が混っていて、新しいaerobicな環境におかれて俄然ふえ出し、主位を占めるようになった、と考えるべきだと思います。また、そのような細胞集団のなかに、いわば"弱小民族"のような細胞が長く保護されている、ということも大変面白い問題と思います。
[佐藤]いまの高速回転の細胞はSingle cell
cultureしたとき40本のばかりになりますか。
[勝田]腹水肝癌はどれも非常に細胞同志でくっつき易く、これをEDTAなどで処理しても一寸ぼやぼやしていると、すぐまたくっついてしまいます。がっちりaseなどを使うと細胞がやられ易く、仲々1ケからは生えにくくなるし、難しいのです。colonial
cloningも重ねてみましたが、40本のcolonyの中にすぐ4倍体などがあらわれます。
これは余談ですが、癌の治療について、いま二つの大きな途があります。(第1)は直接細胞を薬剤などで叩くことで、(第2)は担癌宿主の抵抗力を強めることです。(第1)の方では、癌の突然変異由来という点から考えても、当然その性質に千差万別のあることが想像されるし、また事実、各種薬剤などに対する抵抗性の相違、あるいは耐性細胞の混在などが見付けられてきている訳です。しかも正常細胞の中にも分裂している細胞が色々ある。これらの点から考えてみて、現在(第1)の途をとっている人がかなり多いけれど、このルートをとって成功する可能性は非常に低いのではないか、という気がします。私個人としては(第2)の方が成功の見込があるような気がしています。例えば腫瘍を動物に接種する場合を考えてみましても、その動物の抵抗に2種の段階があると思います。仮にそれを第1次抵抗と、第2次抵抗とよびましょう。第1次抵抗というのは、たとえば異種移植のときなどによく見られる現象、つまり植えてもつかない、はじめから持っている抵抗のことで、第2次抵抗というのは、癌をうえてしばらくしてから出てくる抵抗、つまり一種の抗体のようなもの、と考えてよいと思います。この場合、第1次の方を変えるということはいわば正常構成を変えることで、反って発癌の危険などが起るかも知れないし、むずかしいでしょうが第2次の方を強めるということは可能であると思います。
腫瘍性が極端に高くはない腫瘍、たとえばAH-130などはinoculum
sizeがあまり少ないと、それがついて宿主をたおす%がかなり低くなります。たとえば右図で、A位の数をIPしますと、B位までは一旦ふえても、やがてそれが減り出し、Cのように下ってしまい、その動物はさらに強い抵抗力をもつようになる。いわば免疫が成立して行きますが、Bの辺まで行ったところで、この腫瘍細胞をとり出して別のラッテにIPに入れますと、B'→C'のように、第二次抵抗のできる前に腫瘍細胞はどんどん増えて動物を倒すことができるわけです。つまり100%takeするかしないか、そこにX−Yのような限界量が考えられ、できてくる抗体とそのときの腫瘍細胞数との比によって、第二次抵抗の成否が決まってくると考えられます。
なお、このBをB'にして移すというtwo-step
transplantationは培養細胞などのように数が少ないとき応用すると有効です。
[堀川]マウスの悪性腫瘍で培養株になったのはありますか。すぐ復元できるような・・。[佐藤]私のところのEhrlichの株がありますよ。
[堀川]培地は?
[佐藤]血清1%〜50%(どちらも復元可能)、あとLYEです。血清量をおとすと、どうも成績が悪いようです。Inoculum
sizeにもよりますが。もう一つ、TCと動物継代をくりかえした系があります。染色体数は少なく、増殖も悪いのですが・・・。X線で叩くと染色体数が減りますが、これは増殖が悪くなります。染色体数と増殖度とは関係があるような気がします。
[堀川]私のところでは2/3の染色体が大きく太くなっているMutantがあり、やはり増殖は悪いです。DNA/cellの量をしらべたいと思っています。
[佐藤]染色体数と悪性度は無関係で、動物に復元すると、初代は悪性度が低く、段々に高くなってきます。latent
periodが短くなるわけです。長く培養すると悪性度が落ちるものかどうかしらべてみます。またL株の場合、これが動物につくようになったら、腫瘍の概念が変るだろう。
[堀川]Chemical mutagents+L細胞の悪性化という可能性も同時に考える必要があるのではないですか。
《山田報告》
ORGAN CULTUREについて:
Lasnitzki,I.
:Precancerous changes induced by 20-methylcholanthrene
in mouse prostates grown in vitro. Brit.J.Cancer,5,345,1951.
:The effect of estrone alone and combined
with 20-methylcholanthrene on mouse prostate
glands grown in vitro. Cancer Res.,14,632,1954.
:The effect of testosterone propionate on
organ cultures of the mouse prostate.J.Endocrinol.,12,236,1955.
:The effect of 3:4 benzpyrene on human foetal
lung grown in vitro. J.Path.Bact.,71,262,1956.
Franks,L.M.
:A factor in normal human serum that inhibits
epithelial growth in organ culture. Exper.Cell
Res.,17,579,1959.
Trowell,O.A.
:The culture of lymph nodes in vitro. Exper.Cell
Res.,3,79,1952.
:The culture of mature organs in a synthetic
medium. Exper.Cell Res.,16,118,1959. Organの培養はとくにaerationに注意。成熟動物の臓器はとくに酸素を要するので、酸素+5O%炭酸ガスを送って培養する。できるだけ小さい臓器がよい。
今回はorgan cultureの技術の紹介にとどめます。J.Paulの教科書にも比較的よくかかれています。
《高木報告》
1.発癌実験
1)DAB
i)JTC-4株細胞に昨年6月以来DAB 0.1〜1μg/mlを作用させ続けて来ましたが、昨年11月中旬、細胞の増殖が悪くなったので(DABの作用によるか否かは不明)普通培地に戻して培養をつづけ、本年1月26日より再びDAB1μg/mlを作用させ始めました。と云うのはhamsterが増殖して被接種動物側の受入態勢がやや整って来たからです。形態学的変化は前々回の班会議の際にスライドで御見せした程度のものです。
さて復元ですが、それに先立ちhamsterのcheek
pouchに移植してみたいと思っています。移植もこれはFoleyらの追試の様なことになりますが、JTC-4、HeLa、Liver(chang)細胞などの株細胞について一応malignancy?(移植率)のtitrationを行い、ついで発癌物質を作用させた細胞の移植を行ってみる積りです。
hamsterはcortisone treatedのものを先ず用い、うまく行ったらuntreatedのものを用いたいと思います。Cortisoneの量は2〜3mgで接種直後に更に3日おきに2回、この量を注射する予定です。
ついで復元する積りですが、純系の動物が中々入手困難で、雑系ではどうかと思われますので、その点を考えねばなりません。
ii)ratの組織のprimary cultureにDABを同様作用させる積りでいます。これは勝田班長の追試と云うことになるかと思います。濃度は1μg/mlで作用期間は細胞の増殖の仕方にもよるでせうが、大体2〜3週間と云った処でしょうか。但し、私共の処のratはWistar-kingですが、これでよいものでせうか。組織はsuckling
ratの肝とembryonic ratの皮膚組織を考えています。なお先日遠藤班員より御話しのmethylDABも是非用いてみたいと思っています。
2)Stirboestrol
培養組織としてhamusterの腎と一応JTC-4細胞も用いてみたい。hamsterの腎はplasma丈を用いて組織片をガラス壁にくっつける方法とtrypsinizeする方法と両方で培養してみたい。用いる濃度は先にratの腎でtestした処では0.1〜1μg/mlの予定です。これはアルコールでないと完全に溶けませんが、この前も遠藤氏が云われた様にアルコールそのものの障害作用を考慮に入れて、やはり濃い処丈をエタノールに溶かして、あとの稀釋はよくdisperseしながらsalineで行いたいと思います。
作用期間はprimary cultureであることを考え、まず2週間位作用させ、細胞が更に増殖する様であればまたintervalをおいて作用させる様にしたい。移植、復元はDABの場合と同様に行う予定です。
但、stirboestrolの欠点としてin vivoで発癌に6ケ月乃至1年もかかることです。以上2つの発癌剤について主として検討する積りですが・・・。次の4NQOについても検討したいと思っています。
3)4NQO
これはこちらの癌研と共同の仕事になると思います。
培養組織としてmousuの皮膚、肺、肝、など一応考えています。また細胞に10−5乗から−6乗Mの濃度を作用させた際、封入体様物質を作る細胞とそうでない細胞との運命を追求の予定です。
2.免疫学的研究
概略は前回の班会議で報告しました。
これからの方針として
1)C.P.、凝集反応、血球凝集反応、蛍光抗体法などを用いて更に多くの種族に由来する株細胞についてspecies
specificityを検討すると共に、2)Organ specificityを追求する意味でもantigenのpurificationにつとめたい。前回の失敗にこりて今度は出来る丈多くの細胞を得るべく大量培養を試みています。そしてsolble
antigenの硫安分劃、microsome fraction、NucleoproteinにつきImmunoelectrophoresisなどにより検討して行きたいと思います。目下、JTC-4細胞及びchang肝細胞の免疫中であり、またFL細胞の増産にこれつとめています。
3.その他の実験
1)無蛋白培地内培養
i)L細胞、目下Protein free mediaに移して19代目7ケ月になります。100または50mlナス型コルベン内での増殖が一番よい様です。TD40などでやりますと、日が経つにつれて細胞が浮いてきます。この浮いた細胞をとってもう一度高速回転培養をやってみようかなどと考えています。マリモの様になるかも知れませんが・・・。
ii)HeLa及びChng肝細胞についても2%牛血清加培地と0.1%PVP加無蛋白培地とで交代に培養をつづけています。
これらprotein free mediaで培養した細胞と普通培地で培養した細胞について移植性の差異も調べてみたいと思っています。
2)Orotic acidの株細胞に及ぼす影響
前回の班会議以後、FL、HeLa細胞についても、その増殖をおとして効果を検討しましたが、やはりこれらの株細胞には促進効果はみられませんでした。
:質疑応答:
[勝田]メチルDABというのは遠藤君の誤解で、問い合せましたらやっていないそうです。それからDABによる発癌実験はさっきもお話しした通り4日間で良いのです。あまり長くやりすぎると反っていけないのではないか、つまり変わった細胞がやられてしまう可能性があると思います。とにかく私どもの方法の最大のミソは、正常細胞を増殖させないで生かしておきますから、若し変った奴ができるとすぐ判るわけです。つまり増殖してくる細胞ができる、というのは細胞が変化した証拠なのですから、初期変化をつかみ易い訳です。肉眼でみていても、組織片が丸く、すき通ったように、キラリと光って見えます。そういうのを狙って顕微鏡でみます。大抵その周囲に増殖細胞が見付かるのです。
それからラッテですが、復元接種することを考えますと、やはり自分の研究室で繁殖させて同腹の仔に(兄弟に)返してみるようにした方が成功率が高くなると思います。
《遠藤報告》
1)HeLa株細胞:
a)Progesteroneについてこれまで主にしらべてきましたが、今後は b)Testosteroneの仕事からAndrogenへ、またさらにAnabolic
steroidへと進み、Anabolic steroidを酵素レベルでしらべたいと予定しています。また産婦人科の小林教授に、正常と癌の子宮粘膜をもらうつもりです。
2)間葉性組織の代謝:
Mucopolysaccharideの代謝や、骨(軟骨)でもChondroitin硫酸にS35をラベルしてしらべてみたいと思っています。結締織とcarcinogenesisの関係は何かあるでしょうか。例えば結締織のないCorneaには癌ができにくい、といったことなどから・・・。
:質疑応答:
[佐藤]組織学的には癌組織と結締織との間には相互作用がありますね。腹水腫瘍の場合には、多形核白血球→単核細胞→腫瘍細胞の純培養といったコースをとります。しかし結締織とcarcinogenesisとの関係のデータは未だ見えていません。
[遠藤]私はそれをやってみたいと個人的には考えています。
[高橋]癌組織には蛍光物質がつき易いのですが、これは結締織についていますね。
[遠藤]なおこれ以外にCarcinogenesisの研究ですが、これは目下形態学の勉強をしています。
《伊藤報告》(事後提出)
☆腫瘍のS2分劃の仕事は以前の報告で申し上げました様に、trypsinizeして、resin
column IRC-50を通過させるところで、4つの分劃に分け、そのIII分劃に活性を認めましたが、此の際やや活性の低下を来しますので、その点の検討を行っております。
但、従来使って居ましたS2分劃が品切れとなって、別の人肝癌のS2について同様分劃を行いましたところ、280mμの吸収パターンに少し差異が出て居ます。ニンヒドリン反応でのパターンは殆ど同型です。この分劃の夫々の活性は現在検定中です。
☆発癌実験は勝田先生のところで成功されたようですので、早速追試を致します。又、別に当方では培養の際のgas-phaseに少し操作を加えて、実験してみたいと思います。使う細胞は最終的には勿論primary
cultureのものを用いますが、暫くは株細胞も併用する事になると思います。
☆次に此れは報告から少し離れますが、先月の綜合班会議での勝田先生のお話しに此の席上で、もう一度お答えさせて頂きます。
我々のS2分劃がL細胞に対してしか促進作用を持たないと云う事でしたが、此れは培養細胞に対しては仰せの通り、L及びL・P1に対する効果しか検して居りませんので、誠に片手落ちであり、今後、腫瘍細胞を含めて、他の培養細胞に対する効果も検討する積りで居ります。但、現在までに他の研究者の行った結果で"in
vitro"で正常ラッテ肝切片のRNAへのC14-orotic
acidのuptakeをも促進すると云うはっきりとしたデータが得られて居る事を御報告しておきます。この作用はtrypsin処理して、IRC-50を通過させた分劃にも認めて居ります。それから、アルコール分劃の際の関口さんの御忠告は、今後充分注意致します。
《奥村報告》(事後提出)
A.組織培養による細胞の変異
1)Monkey及びRabbit kidney cellの増殖
MonkeyとしてはGreen monkeyを用い、消化はBodianの方法を若干変えた方法(既報)で細胞をばらばらにし、培養する。細胞がガラス壁に完全にmonolayerになった時にtrypsinizationで継代する。サル、ウサギのいづれも初代から3代位では明らかな増殖を示すが、その後はあまり増殖が良くないばかりか逆に減少することが多い。(細胞数計数による増殖カーブで示す)
又、細胞数と血清濃度の関係をみると、細胞数の少ないときに高濃度を必要としていたのは興味深い(増殖カーブを示す)。なぜこの様な実験を試みたかは、一応血清の細胞増殖に与える影響をみて、増殖と染色体数の変異性と検討したかった故。
B.HeLa株細胞の凍結前後の染色体数
凍結後のHeLa株細胞の染色体数は6代目まで観察した結果からは変化は見られないが、多倍体の細胞が凍結前より若干減少しているのが目立つ。その他は殆ど変化がないと云い得るであろう。しかし、もっと先になって変化が出てくるかも知れないので長期間、核型も併せて観察してゆきたい。
【勝田班月報:6204】
《勝田報告》
A)発癌実験
前月号に引きつづいて、ラッテ肝←DABの組合せだけで発癌実験を何seriesも出発させている。当室の実験No.ではこれらは"carcinogenesis"の分類に入るので、以下に示す実験No.は4ニトロキノリンのときからの続きNo.と考えて下さい。但し括弧の中にDABでのNo.を入れておきます。それからこれは一つの提唱ですが、お互いにdataを互いに理解しやすくするため、実験日のよび方を[培養開始の日を第0日]とし、以后[第何日]という風に記載する。たとえばはじめの4日間DABを与えたのだとすると(図を呈示)、第0日の午前0時に実験開始する訳ではないから、頂度[4日后]という数え方と同じ数で第何日と考えて良い訳です。以后の細胞の観察も復元日などの記載もすべてこれにつづいての第何日で通したいと思います。さて、それでは当室の仕事の報告に入ると、
#C5(DAB-2)(1962-1-11=0日)
前号に報告した通り9日ratの肝を用いたSeriesで、実験群に6/6本cell
coloniesの新生したときのものであるが、その后新生細胞の増殖率が次第に落ちたので仲々必要量の細胞が手に入らず、結局前報のAのlineだけが残り、これを第63日(1962-3-15)に、一部を(約100万個)、48日♂ratに腹腔内接種した。このratは4月9日現在で接種后25日になるが生存して居り、腹腔内の細胞も宿主側の細胞に囲まれて次第に消えてしまったように思われる。但しどこかにfocusを作っているか否かは不明。接種した残りの細胞は同日短試にsubcultureし、継代第5代に入ったが、わずかながら現在まで増殖をつづけている。
#C6(DAB-3)(1962-2-4=0日)
9日rat肝を用いてはじめたseriesで、前号月報に記したように、第2日目からmigrationがはじまり、実験群、対照群とも第5日6日頃から急速に細胞増殖のおこった系である。第39日に(3月15日)100万個を同腹♂rat(このとき生后48日)の腹腔に接種し、4月9日現在で25日目になるが上と同様にratは生存している。第39日にやはり残りを短試に継代し、3代目に入った。これも実験群、対照群ともわずかながら増殖をつづけている。
#C7(DAB-4)(1962-2-23=0日)
1.5月ratの肝部分切除を行ない、ratは生かしたまま肝切除片を培養に入れた。この系では第12日(3-7)に実験群3/7本に各1ケ宛の増殖colonyを発見。第26日(3-21)には実験群は7/7本、対照群は1/7に何れも各1ケの増殖colonyあり。第45日(4-9)では、実験群の各colonyは少し宛大きくなっているが、まだsubcultureできるほどにはなっていない。細胞の形態は#C5、#C6のときと似て実質細胞様である。
#C8(DAB-5)(1962-3-14=0日)
これも1月ratの肝部部分切除で肝組織片をとったが、それこそ"肝腎"のratの方が術后しばらくして創口にペニシリンをたらしたところペニシリンショックらしく急死してしまった。培養はそのまま続けているが、実験、対照各8本宛とも第22日(4-9)に至るも全く増殖がみられぬので、培養を中止した。
#C9(DAB-6)(1962-3-20=0日)
1.5月ratの肝部分切除。第20日(4-9)現在で実験、対照群各10本宛共に未だ増殖なし。
#C10(DAB-7)
1.5月rat肝部分切除。第13日(4-9)、実験群、対照群各7本宛未だ増殖なし。
実験は以上のようにつづけているが、Operationするにはどうしても1月以上のratでないと難しいので、今后は生后20日位のratのliverもやってみて、これは同腹の仔に復元するようにしたいと思っている。当室ではこの発癌実験に重点をおいているので、現在のところでは次に記すサルの腎の株細胞の栄養要求の他はほとんど仕事をすすめていない。
B)サル腎株細胞の栄養要求
Cynomolgus(カニクイザル)腎を細胞株を1株樹立し、MK-D1と仮称、先般Poliovirusに対する感受性をしらべたところ、I型強弱両系に対し陽性(但し初代培養より少し劣る)。この5月の培養学会に出題の予定。この細胞を無蛋白培地でふやそうとするが仲々ふえず、血清蛋白を抜くと1日の内に細胞質がやせてしまう。そこで全血清をトリプシンで消化して透析し、その外液をPVP培地に加えたところ4日后はやせずに中等度の増殖をするが、以后7日にかけて、またストンと増殖曲線が落ちてしまう。何とかせめて7日間はもたせたいので、今度は血清蛋白の電気透析した外液を加えてみたいと思っている。蛋白を丸ごと利用する訳でもあるまいし、また培地にLhも入っているのだから、恐らくアミノ酸以外の(若しアミノ酸とすればunknownの)、蛋白に結合している何物かを必須としているらしい。これまでの細胞に比べてとにかく余り面白いので、その方の興味からもこの仕事をつづけている。また同時に、この株には染色体数42本位のと、60〜80本のとあるので42本(normalと近頃されている)位のをColonial
cloneで純系を作りたいと努力している。
《高木報告》
今回は本年2月以降に行ったin vitroの発癌実験の経過を主として報告します。
1)発癌実験
培養法:廻転培養法(roller drumは医学部中央検査室のものを借用)plasma
clotは用いず。培 地:80%LT+20%牛血清、PC.SM.は原則として用いない。培地交換は4日毎に行う。
発癌剤:DABは1μg/ml、stirboestrolも1μg/mlの最終濃度になる様に稀釋する。
稀釋の仕方は既報の通り。
(1)第1回目の実験は2月24日にスタートした(Wistar
King ratの肝←DAB)。2疋の生后
48日目のrat(1、2とする)の肝を培養してみた。始めは肝を切出したhostのratを生存させる積りであったが、残念ながら2疋共術後1〜2日で死亡した。切出した肝切片に一寸PC.SM.液をたらし、すぐにこれを除いて、直ちにメスで細切し培養した。
対照群(K1とK2)各6本ずつ、DAB作用群(D1、D2)各6本ずつで、全部で24本培養した。DABの作用時間は4日間で、2月28日以後はDABを含まない培地で培養した。8日後の3月4日には、ほんの少し細胞の生えかかっているものがあり、その生えかかっているroller
tubeの数は、K1、3/6(6本中3本)、D1、5/6、K2、0/6、D2、1/6であった。そして少なくともこの時には、DABを作用さしている群に生えている細胞がepithelioidの感が強かった様に思われた。
3月10日(14日目)にはK1、6/6、D1、6/6、K2、3/6、D2、5/6に生えており、生えている細胞はsheetを造らず、fibroblasticの感が強くなった。
以後少しずつ増殖を示し、3月30日現在D2に1本生えていない丈で、殆どのroller
tubeに多少の差はあれ(図を呈示)間質細胞?を主体とするものが増殖している。そして対照群と作用群との間に何等かの有意の差は認められない。
なお、K2、D2群がK1、D1群より細胞の発育が悪いのは、K2、D2群は肝を切出す際に一寸不潔になった心配があったので、3月23日の培地交換まで、培地中にPC.SM.を入れたためかも知れない。
また別にタンザク用に静置培養したものでは、この様な細胞の生え方はきわめて悪い。 (2)第2回目の実験は3月9日にスタートした(golden
hamster←stirboestrol)。
培養組織は生后24日目のgolden hamsterの肝と腎とである。培養方法は上と大体同じであるが、腎の培養にあたっては被膜を可及的取除いた。腎は対照群、作用群各7本ずつ、肝は各5本ずつで、計24本培養した。
a)腎:3月14日培養5日目にstirboestrolを含まない培地で交換したが、この時すでに
apithelioid cellsが増殖しているものがあり、fibroblastはわずかにまざってみられた。3月17日再び1μg/mlのstirboestrolを作用せしめ21日に再び元の培地に戻した。つまり計9日間作用させたことになる。以后は残念ながらfibroblastが優勢になり、3月30日には殆どがfibroblastと思われ、epithelioid
cellは完全におきかわった様である。生え方は良好であるが対照群、作用群間に有意の差は認められない。
b)肝:薬剤の作用させ方は腎の場合と全く同様である。始の間、肝の場合には腎とことなり細胞の増殖は殆どみられなかったが、3月24日つまり培養15日目に至り、作用群の2本にepithelioid
cellsが、対照群の2本にfibroblast-like cellsがわずかに増殖している様であった(migrationと区別つきにくい程度)。しかしそれから1週間後の3月31日には対照群では2/5にわずかにfibroblast-like
cellsが生えているのに対し(この中1本はmigration)かも知れない)作用群では4/5に明らかなepithelioid
cellsの増殖がみられた。これら細胞は"眼をギョロギョロ"させた様に薄く(生えて)ついている肝細胞の周辺から同心円状に増殖しているものが主で、1本は島状に増殖しているものもあるが、対照群とは現在の処明らかな差がみられている。なお作用群の生えていない1本はcontamiと思われる。
(3)第3回目の実験は3月27日に培養を開始した。(Wistar-King
rat←DAB)前回(第一回目)の実験では用いたratがやや大きすぎた感があるので、今度は生後11日目のものを用いた。対照、作用群共各10本ずつ培養し、3月31日に培地を交換したが、本実験ではDAB
1μg/mlを8日間作用さす予定である。今までの処まだ細胞の増殖は両群共全く認められない。慎重に観察の予定である。
2)移植実験
3月2日にFL、JTC-4、HeLaS3株細胞を大体200万個levelでgolden
hamsterのcheek pouchに移植してみた。hamsterは100g程度のものが揃わず、60g〜150gのものを合せて5疋用いた。cortisone
acetateは2〜3mgを移植直後と以後2日おきに2回行った。
1ケ月後の4月2日、FLは2/4に小指頭大の腫瘤、JTC-4は1/2に1.5x2mm大の腫瘤、HeLaS3は2/4に米粒大の腫瘤が認められた。但し、分母は移植されたcheek
pouchの数、分子は腫瘍を生じたcheek pouchの数を示す。
この実験は予備的なもので、兎に角この細胞数で腫瘤が出来ることが分った。接種するhamsterの大きさ、細胞の培養日数など考慮しなければならない。なお3月31日、Chang'livercellを400〜500万個100gのhamster3疋の両cheek
pouchに移植し、検討中である。
この移植実験が軌道に乗り、techniqueになれて来たら、上の発癌実験の細胞を移植する予定である。
☆《Praimary Cultureとメス:勝田》
発癌実験を総員(おそらく?)ではじめてから、あちこちでどうも生えが良くないとか、色色の苦情をきかされる。この主な原因は私はメスの使い方に在る、と思う。株細胞ばかり使っているとメスなんかまるで用がないが、一たびprimary
cultureの世界に踏み出すと、そこはもうメスなしでは殆んど歩けないような荒野である。key
pointsは二つで、1)よく切れるようにとぐこと。2)メスの切り方。組織片を鋏で切ると、鋏の構造をみれば判るが、組織片を刃でひねってちぎるわけである。しかも刃がかなり厚い。良くといだメスで刃を2本ぴったり合わせて切れば、殆んど障害を与えずに、"切る"ことができる。実際に色々な組織片のprimary
cultureをやってみて、これが最も重要なfactorになっていることが判る。伝研のtraining
courseでは、最初のcourseでまずこの辺の練習を充分にさせ、しかも最后のcourseでもう一回仕上げをやる。自信のない人は、どうですか、chick
embryo heartでも切って培養してみませんか。explantの全面から均等に細胞が放射状に出るかどうか。ちぎり潰した面からは出ませんから、自分の腕のテストにはもってこいですよ。
《伊藤報告》
久留先生は3月25日離阪されました。
後任教授も決まらない今、吾々としては何となく気が抜けた様で、いささか落着かない毎日です。
又癌研内での吾々第二外科医局員の立場も仲々複雑で、従来の様に我儘も云えなくなりさうですが(資金の面でも)、何と云っても此の培養室は吾々で始めたものですし、やりたい事はどんどんやる積りです。
◇最近のDataですがJrypsin処理したS2分劃をIRC-50
Resin Columnを通し、素通りした分劃の効果の検して居るところまで報告したと思いますが、この分劃のactivityが人肝癌のものと、AH-130のもので、少しく異る様で、此の点現在尚検討中であります。このあたりで、正常肝との差もはっきりしさうな気がします。5月の会合の時には何かはっきりしたものをお報らせ出来ると考えて居ます。
◇次に発癌実験の追試ですが、生后8日目、13日目の2種類のラッテを用いて行い、現在夫々21日目、13日目になりますが、どうも細胞が生きて居る様子に乏しく、培養technicに未熟な点があるものと考えます。今后材料のあり次第実験を行ってみます。
◇当方で予定して居る発癌実験は今CO2-incubatorを作らせて居るところですので、それが到着次第開始し度いと考えて居ます。
《堀川報告》
放射線医学綜合研究所の名称でこの月報に報告するのも今回が最後で、次回からは京都大学からお送りして皆さんとお目にかかりましょう。
問題1.耐性獲得のメカニズムと変異性の遺伝生化学的研究について、その後得た結果は今回は省略します。
問題2.DABの追試実験。DABが発癌に最も有望だという勝田研の仕事を直ちに追試しております。用いた試薬及び血清濃度も総て勝田研のそれに習いました。用いた試薬はマウスのCBA系のAdult♂の肝臓です。全く同様の方法でメスで細切した組織片をtubeに塗りつけ回転培養しております。Controlは80%YLH+20%BS。Experimentは80%YLH+20%BSに
final conc.が1μgDAB/mlになる様に加える。
ところが前回まで行って来た静置培養の様にControl区もExpt区も細胞の増殖がみられないのです。確かにControl区に比較してExpt区のものの方が培地が酸性化するのが早い様で、これは確かにExpt区の方がCellの活性度の高いことを示している訳です。勝田研のものと異っている点といえばマウスへの復元を早くするため細胞を大量に集めたいという希望から、50ml用の短試に組織片を大量に塗りつけて回転培養してDABの効果をみた訳ですが、どうも第一回目の実験は有望な結果は得られませんでした。回数が少いだけに文句は今のところ言えませんが、直ちに次いで静置培養と回転培養を併用して考えられる原因を考慮しながら追試します。考えねばならぬ最大の問題はどうして回転培養の方が静置培養よりControlでも細胞の増え方がわるいのか、確かに回転培養の方が組織のはげが少い利点はあるが、私の経験では少々はげても細胞の増殖からみると静置培養の方がよいようだ。とにかく直ちに繰り返します。
問題3.これは新らしく手がけた仕事です。体細胞でのTransformationについては2、3の報告はありますが、実際に情報伝達のにない手であるA細胞のDNAを主体とする核酸成分を抽出して全く遺伝的Characterの異ったB細胞に与える事により完全にA細胞に変える事は困難で、従来私自身大いに困らされて来ました。
思いついたのがCellのpinocytosisの原理で、正常細胞(現在は実験の系を確立するためマウスのL系細胞使用、これは抗体産生能力の無い事からむしろ実験に適する、将来は
primary cultureのcellを使用する)と癌細胞(岡大・佐藤二郎助教授より分譲されたものでマウスのEhrlich癌細胞)という染色体数をはじめあらゆる諸形質からみても明確に遺伝的特異性を異にしたものを用います。
目的は正常細胞の細胞質内へ癌細胞から取り出した核を喰い込まし、この正常細胞の細胞質をかりてとり入れた核の分裂を起し、癌細胞を作りたいのです。癌化して来たかどうかはマウスへの復元テスト以外染色体数などいくらでも決め手はあります。これがうまく行く様になれば喰い込ませる核を分劃して低次のものとして次第にそのメカニズムをつかみます。貪喰実験は比較的有望な結果が出ております。L細胞はEhrlichの核を喰い込みますが、その逆は不可能です(これは好都合)。又同じL細胞でも私の所の耐性細胞の種類によっては喰い込む耐性と喰い込めないものがあります。この辺りの現象は非常に興味があります。生きた核を完全に喰い込んだか否かのtestはP32でlabelした核でAutoradiographyを取ったためにみごと失敗しました。直ちにH3-thymidineに切りかえて結果を待っています。 問題は喰い込んだ核が本当に分裂するか否かを決めることで土井田君と四苦八苦やっておりますが、例えばEhrlichの核を喰い込んだL細胞ではコロニーの作り方などがEhrlichのそれに非常に似てくるなど、或る程度期待はもてそうです。
あの手この手をかえて分裂させてみます。しばらくお待ち下さい。
《佐藤報告》
組織培養による正常及び腫瘍細胞の細胞病理学的研究
1)組織培養されたエールリッヒ腹水癌JTC-11を用いてCb系マウスを皮下免疫した后、20日放置して腹腔から本来の動物株を1000万、200万、40万接種すると著明な生命の延長が見られる(表を呈示)。JTC-11接種群で生存中のものは現在60日に達している。
順序が逆になったがJTC-11で免疫し20日置いて腹腔内へJTC-11細胞を200万宛移植すると、対照は17日3例、20日1例で6〜7mlの腹水腫瘍を生じて前例死亡したが、免疫群4例は前例腹水の発生を見ず生存した。生存例は后に更にJTC-11で免疫しOriginalの動物株エールリッヒ癌細胞に対する抗腫瘍性をためして後、動物株エールリッヒを1000万皮下移植したが腫瘍の発生は認められなかった。
同様の免疫をCb系マウスでL株で行い20日放置后JTC-11を200万細胞腹腔接種すると対照は13日2例、19、21、23、24日各1例宛、腹水を生じて前例死亡した。免疫群は18日1例死亡したのみで、2月末現在60日間異常は見られない。
現在、牛血清、Cb系マウス肝、L株、HeLa株、JTC-11死細胞等々について抗腫瘍性の判定を研究員野田が担当して行っている。
2)無蛋白培地でのJTC-11の増殖株
昨年7月来行って来たが、漸く60日培養に成功し増殖率の問題や動物への移植性が試験される段階になった。勝田さんのL・P1に当る細胞です。アミノ酸消費については栄養短大で実験中ですが、ロイシンの消費が著明との事です。PVP+LYE亜株を作るには矢張り細胞を多くして行う法が有利の様ですし、勝田さんの云われる様に交互に血清を入れて行う方法、或はPVP+LYEで多量の細胞でMCだけ続け、極めて少くなった所で1%血清を入れ増殖せしめた後PVP+LYEのみでMCだけ続け増加した所で半分だけラバクリナーでおとし継代すると、継代も成功するし更にとった後の部にも比較的早くPVP+LYEadapt細胞が増加して来ることがわかりました。
3)ラッテ奬膜細胞?の培養について
生后9日目のラッテの腹腔へ0.25%PBSTrypsinを注入して後、開腹して同様のPBSTrypsin液で腹腔を洗って細胞を集め50%牛血清+YLEで培養すると極めて早い時期から増殖率のよい細胞が得られた。
現在3ケ月に達し増殖率は13000細胞/ml〜92000細胞/mlで6日間、48.9倍〜8倍である。細胞はsheet様にならぶこともあるし、梁柱状にならぶ事もあり、更にノイリノーム様に唐草模様の構造を示す事もある。継代后日数を経過するとSudan に黄色に染る美麗な顆粒が現われる。単球の様なノイトラルロゼッテは見られないが核側に明庭を表す事がある。
4)吉田肉腫は血清量を少くして継代することが現在の所未だ成功していない。之は主として現在の培地で電子顕微鏡をとっています。
5)C3H乳癌についてはprimary cultureは確実に行きますが株は仲々作れません。原因がどうもTrypsin処理にある様ですので、濃度、pH、時間等について一人かかっています。
6)DAB実験
3月中に6回行いました。生后1.5〜2ケ月の呑竜ラッテをエーテル麻酔して肝を切りとり、夫を材料として行い、ラッテは生存させて復元の材料としました。現在夫々観察中ですが、全般的に増殖が悪く勝田さんの様な結果が出なくて困っています。但、今迄行った実験の内で明らかに肝細胞の増殖と思われる物が出ている事。小生の実験でメス細切の方法のまづかった事。ガラス壁附着の方法が清掃或は放置時間において欠陥のあった事。等々がかさなって美麗な結果が出なかったと思います。観察は続けますが、悪いものは省いて良いものだけ復元用にとっておいて、更に元気を出して4月中に方がつく様に本実験にかかります。結節が出来た塊は外から見ると周囲がみづみづしく見えて来る事を附加しておき、詳しい事は次の月報にします。
【勝田班月報・6205】
《勝田報告》
A)発癌実験:
前報で(C-10)の実験までの結果はお知らせしましたので、そのあとのをかきます。
#C11(DAB-8)
Ratがあまり年をとりすぎているとどうもExp群の生えが悪いらしいことに気がついたので、この実験では生后19日のratを用いた。培地は前と同じで、DABはやはり初めの4日間作用させた。第12日にExp:2/5、Cont:0/5の細胞増殖を得て、Exp群の方は現在継代第2代に入って居り、TD-15瓶3ケになっている。5月10日現在で総日数は28日。
#C12(DAB-9)
生后25日のratを使用。DABは4日間。第14日にExp:2/5、Cont:0/5の増殖。
5月10日で総TC日数14日。
[注意]
これらの"増殖"とはすべて上皮性の小型の細胞のことで、箒星状の動きの少い細胞は"増殖なし"の方にも若干出ている。しかし后者の細胞はまずこの研究の場合問題になるまい(結果一覧表を呈示)。なおNo,6203の月報の2〜3頁のあたりをもう1回よくよんでみて頂きたい。新生細胞の形状について記してある。
表をみて気が付くことは、肝部分切除の容易な生后1.5月のratでは陽性率がきわめて悪く、#C7の実験だけが成功している。それと、新生細胞のあらわれるのが、第12日目あたりが圧倒的に多いということである。目下このExpに最もふさわしいratの日齢をしらべているところであるが、それはratの種類によって差がありそうな気がする。また上の新生細胞のあらわれるにも差があり得るのではなかろうか。この研究には、やはり買ってきたratをすぐ使うのではなく自分のところでbreedingをして生ませた仔を使うのでないとうまく行きにくいのではないか、という気がしてきた。なお上のExpはすべて当室のJARを使っている。 #C5、C6、C7の増生細胞は現在TD-15瓶の底に実にきれいなCell
sheetを作って、復元を待っています。
B)ラッテ正常肝細胞の栄養要求:
これは発癌シリーズの第1報として、6月末病理学会で発表するためやっているExp.であるが、Roller
tubeで2日間liver explantsを培養した后、Rubber
cleanerでかきおとし、80及び150メッシュを通して短試に分注、静置培養している。Ratは20日〜1月のものを使っている。ところが細胞のmaintainはよくされるのだが、おどろいたことには何をやってもさっぱりふえて来ない。血清を牛、Rat、馬、兎、再生肝のRatと変えてみても同じ。Rat
EmbryoExtractを0、5、10%と加えてみても同じ。ビタミンB12を0、1.5、3、15μg/lと加えても全く同じ。全くあきれ返ったもので、目下最后のチエをしぼっているところである。
C)仔牛と成牛の血清の比較:
HeLaとMK-D1株でしらべたが、MK-D1では差がなく、HeLaでは4日、7日后に仔牛の方がわずかに良い。しかし無理して仔牛に変えるほどの良さではない。7日間のcell
countingによる。 D)サル腎MK-D1株細胞の栄養要求:
どうも数ケ月前とは細胞が少し変ってきたようで、(PVP0.1%+Lh0.4%+D)の培地で前には細胞数が減ったのに、4月14日からの7日間TCでは、きわめてゆるい上昇曲線を示している。今回は牛血清の透析内液(蛋白)を電気透析し、その外液をこのPVP培地に加えてみた。(+)(-)各側の外液を単独に加えたのでは殆んど影響がない。両外液を合せて入れると少し曲線が上る。それにさらに通常の透析外液も添加すると、さらに曲線はよくなり、7日間に約3倍の増殖を示すようになった。つまり血清中の低分子物質の何かを加え、また蛋白に電気的に結合している低分子の何かをさらに加えてやれば、無蛋白培地内で増殖させることは不可能ではない、というメドがついたわけである。そのようなものがLhの中にも含まれているが絶対量が不足なのかどうか、目下PVP培地でLhの濃度を変えて結果をしらべているところである。なおこの株細胞の染色体の検査はこれまで当室でやっていたが、4月から奥村班員が協力してくれることになり、当室では標本の作り方を色々としらべている。
《佐藤報告》
1)発癌実験
ラッテ肝←DABの組合せによるin vitroの発癌実験を班の一員として実験中である。実験材料は呑竜ラッテ(1月21〜23日生れ)、方法は研究連絡月報No.6203に従いました。但し第1実験のみは写真(位相差)撮影のためTD15瓶静置培養です。記載はNo.6204月報勝田さんの記載に従いました。実験結果の判定は後述しますが、全体として私自身の気持として予備的な物とした方が安全と思っています。その積りで読んで下さい。
◇C1(DAB-1)(1962-2-27=0日) ラッテ生后36日±1日
第9日目(1962-3-8)実験群3/5本に、対照群2/5に細胞増殖の開始するのを見た。対照の1例は小型類円形の細胞であった。MCは4日間隔で行い、第13日(1962-3-12)には全部のTDに箒星状の細胞が見られたが殆んど増殖しない。第55日(1962-4-23)実験群4/5、対照群3/5に組織片よりの細胞増殖を見たが増大度が極めて悪い。第64日(1962-5-2)に一部を残存して他は破棄した。ラッテは生存中。
◇C2(DAB-2)(1962-3-1) ラッテ生后38日±1日
第9日(3-10)実験群4/5に軽度の箒星状細胞増殖あり。対照0/5。第23日(3-24)実験群4/5、対照群2/5の組織片周囲細胞増殖。第54日(4-24)実験群3本、対照群2本を残して回転培養中である。実験群の細胞は肝組織片中の肝細胞の円形化、遊離が対照群に比して多い。又一部のものは透明となって光沢のよい細胞となっている。更に又組織片の周囲に肝細胞が横に連なっているものも見られる。未だ継代できる量とは程遠いが対照群より増殖型の細胞は多い。ラッテは生存中。
◇C3(DAB-3)(1962-3-9) ラッテ生后46日±1日
第46日(4-24)実験群4/5、箒星状のものが軽度増殖、又2例は小類円形細胞を混じて居る。対照群1/5。第54日(5-2)増殖極めて悪く実験対照共わづかに増殖型のものを各1例残した。ラッテは生存中。本例は肝細胞のメス切断が未熟であった様に思える。
◇C4(DAB-4)(1962-3-13) ラッテ生后50日±1日
本例は実験群、対照群共に殆んど変らない。小類円形(肝細胞)の軽度増殖が見られる。第50日(5-2)実験群2本、対照群3本宛残し回転培養中。ラッテは生存。
◇C5(DAB-5)(1962-3-19) ラッテ生后56日±1日
回転培養をすると組織片の脱落がおこり、こまるのでゴム栓をして30分間放置したため細胞の感想がおこり失敗?。第35日(4-23)実験群1/5に軽度の増殖を見ている。対照は0/5。ラッテは生存中。
◇C6(DAB-6)(1962-3-27) ラッテ生后64日±1日
第24日実験群1/5、対照群0/5。第27日(4-23)実験群2/5、対照群0/5。第36日(5-2)やや変性が現われている。ラッテ生存中。
◇C7(DAB-7)(1962-4-12=0日) ラッテ生后79日±1日
第11日(4-23)実験群、対照群共に2/5。fibroblastic
cellの増殖を見た。第20日(5-2)実験群、対照群共に5/5箒星状と、小類円形細胞の軽度の増殖を見る。
C6までのラッテはいづれも♂使用、C7ラッテは♀を使用した。
[実験の批判及び今后の方針]
本実験中メスの切り方及びとぎ方について未熟であった点。組織片附着時間の点。組織片の大きさの点。ラッテの生后日数の短縮。等々意に添わない点が多く以上の実験は余り自信がないが、その内で細胞の性質其の他確実と考えられる点を列記する。現れる細胞の形態は箒星状突起の多い偏平な広い細胞質を有し楕円形の核を有する細胞と小類円形(周辺は平滑でない)の細胞が主成分である。後者は肝細胞片の一部のもので明かに肝細胞と移行がみられるから肝細胞性であると考えて差支えないと思う。前者は色々の起原が考えられるが私が分離しているラッテ漿膜?細胞と極めて似ている点は或は肝表面の漿膜増殖を疑わしめる。DAB→肝に対する増殖の差は実験群が対照に比して確かに多い様に思えるが勝田さんの様に未だきれいにいかない。更に継代出来る程の増殖を未だ認めていない。此の点は熟練にも関係する様に思えるがラッテの生后日数にも関係していると思うのでラッテの幼若なものから始めて見る積りである。現在漸く4月25日、4月27日、4月29日、5月2日、5月3日生れの呑竜ラッテを自家繁殖せしめる事に成功したので、同じDAB量で30日以内のものを、メスの切り方、組織片の大きさ等を注意しながら実験を再開します。
2)無蛋白培地の研究。JTC-11細胞の無蛋白培地駲化に成功して現在6日で2.5X程度まで増殖しています。之は勝田さんのL・P1(PVP+LYD)にあたるもので、表現を同様にしますとE・P1(PVP+LYE)となります。継代は10万/mlで其れ以下だと増殖が悪く継代困難です。現在PVPの濃度決定及び(PVP+LYE-Y)を実験中でYeast
Extractは無くても継代できさうです。マウスえの復元腫瘍形成は可能です。−病理学会用−
3)高速回転法によるJTC-11k亜株の継代。現在4代目ですが、シリコン樹脂等何も用いなくとも浮遊して増殖しています。JTC-11が腹水癌のために浮遊状の培養が容易なのでせうか。粘液様空胞をもった細胞は継代后2日で静置時に比して極めて多く(5X〜15X)なります。−病理学会用−
4)C3H自然発生乳癌の株化。本例はprimary
cultureはトリプシン処理で容易ですが継代が不可能でした。其の后昨年12月7日培養開始の1瓶に結節が生じ現在4結節まで増加しました。他の実験例にも株化のおこり始めているのを発見しました。此の例は勝田さんのDAB腹水肝癌の様に初期にどんどん減少していって後始めて株化する例でせう。之が出来たらC3H自然発生乳癌の培養細胞による予防を行ってみます。
《高木報告》
1)発癌実験
前号につづき発癌実験を行っていましたが、4月12日、13日に廻転培養の恒温装置が故障すると云うaccidentがありました為、残念ながら折角の培養が駄目になりました。修繕されて4月28日、第4回目の実験をスタートしましたが・・・。今回はそれまでの経過を記載します。実験番号を◇C1、◇C2・・・と通し番号にします。
◇C1:(1)K1、D1(Wistar-King ratの肝にDABを作用させた群と対照群)
4月7日(培養42日目)にtrypsinを用いずpipettで剥ぎ落して継代した。K1
4本→4本、D14本→4本、残りの2本ずつはそのまま培地交換だけ行う。
4月11日 培地交換を行っても細胞のoutgrowthは殆ど認められず。
4月15日 2〜3日前よりthermostat切れた由にてすべて変性す。
:(2)K2、D2は植つがずに培養をつづけたが、先般の3月30日に観察した時以上は細胞の増殖はみられず、4月15日に至る。
◇C2:(1)HNS、HNK(hamster腎にStirb.を作用させた群と対照群)
4月7日(培養29日目)にHNS(hamster腎にStirb.作用群)3本→3本、上と同様pipettを用いて継代。HNK(hamster腎の対照群)3本→3本、上と同様。
4月11日(培養33日目)HNS、HNK各1本から各3本ずつに継代。これらは4月15日までは活発な細胞増殖はみられず、ガラス壁についている丈の感じであった。
:(2)HLS、HLK(hamster肝にstirb.を作用させた群と対照群)
前報で有意の差ありと報じたものであるが1週間おくれて4月7日の観察では対照のHLKにも5本中3本にepithelial
cellのoutgrowthを認めた。そのまま観察続行中に4月15に至る。 ◇C3:K3、D3(Wistar-King
ratの肝にDABを作用させた群と対照群)
培養8日目の4月4日D3にepithelialと思われる細胞が少し生えかかっている様であった。対照群と有意の差はなかった。
4月10日(培養14日目)3K 2本→3本、3D 3本→4本にpipettではがして継代する。残りは交換してそのまま培養をつづけ4月15日に至る。
以上から・・・どうも継代がうまく行かなかった様です。これは勝田氏のすでに指摘された如く、時期が遅きに失した為かも知れません。またhamster
liverにStirboestrolを作用させた群はepithelial
cellsが増殖して有意の差と思ったのですが、それから約1週間後に対照にも5本中3本epithelial
cellsの増殖をみました。やはりこれらの細胞を上手に継代し、増殖せしめ復元までもって行かねばならない様です。
◇C4:HNS2、HNK2。HLS2、HLK2。4月28日各10本ずつスタートしました。
4日目の5月1日にはHLS2、HLK2は細胞増殖みられず、HNS2、HNK2においてすべての培養管にepithelial
cellsの増殖(fibroblastはごくわずか)を認めます。
2)(復元)移植実験
先般につづきChang'肝細胞を各800万個、110万個、760万個細胞数ずつtreated
hamsterに接種しました。4日目にはすべて1.5x2mm大の腫瘤の発現をみています。
なお先に接種したFL細胞で生じた小指頭大の腫瘤は、接種後3週間目位を境にむしろ退化を示した。組織切片を検討中です。
3)免疫学的研究
目下勝田氏の馬株を増殖中で、免疫を間もなく開始します。
またFL細胞をルー瓶15本に増殖せしめ、Schneiderの方法によりmicrosome、mitochondria、nucleus、その他と分けて凍結乾燥中です。
《伊藤報告》
1)発癌実験
前回に報告した#C1、#C2(勝田研の実験番号に準ず)は、何れも実験開始后30日目になるも細胞増殖を見なかったので中止しました。
#C#(DAB-3)(1962-4-10=0日)
生后10日のWistar rat2匹の肝を用ひ、夫々対照群、実験群(4日間DAB加)6本づつ計24本の長試につけて、roller
tubeで培養。6日目より細胞増殖が見られ、14日目では対照群の1本以外の凡てに増殖するcolonyが出来ました。此れでtechniqueに自信が出来ましたので、以后はより成熟ラッテの部分切除肝について実験を行って居ります。
実験のscaleは原則として2匹の"ドンリュー"ratを用ひ、対照群、実験群各6本、合24本としております。
#C4(DAB-4)(1962-4-20=0日)
生后1ケ月♂・・・contamiにて失敗
#C5(DAB-5)(1962-4-24=0日)
生后33日♂ 10日后にK2=1/6、D2=2/6に増殖を認め、その后徐々に増殖して居るかに見えますが、まだsubculture出来る迄に至りません。現在K1:2/6、D1:1/6、K2:3/6、D2:5/6。
#C6(DAB-6)(1962-4-30=0日)
生后39日♂ 5月9日現在変化なし
#C7(DAB-7)(1962-5-7=0日)
生后21日♂ 5月9日現在変化なし
以上が現在迄の結果です。尚肝部分切除を受けたratは何れも元気で復元される日を待って居ます。今后DABの濃度、作用期間、他の因子とのconbination等検討したいと考えて居ます。
2)制癌剤(特にmitomycin)の作用機作について
まだ始めたばかりですが、HeLa、AH-130(primary
culture)、骨髄細胞等に対する作用を、作用時間、作用時期等の面から検討してみたいと考えて居ます。Mitomycinを投与されたpatientの血清等も使用しています。
3)株化したと思はれる新しい細胞
当大学第一外科でマウスの肋膜腔内に作られた腫瘍でmesodermalのものだと云う事ですが、此れを培養続けて居たところ、増殖が旺盛となり、これをマウス腹腔内に復元して腫瘍を得ました。もう暫く検討して詳しく御報告致します。
4)人癌患者腹水由来の細胞
高井君が従来のものとは別に、♂の胃癌患者の腹水から或種の細胞を培養に移しました。もう少し確かなものになれば、以前の細胞と種々の面で比較する筈です。
5)増殖促進物質
此の方は四月上旬にL・P1にcontami騒ぎがあって、暫く実験出来ず、やっと今月初から再開したところで、今回は御報告するDataがありません。
《山田報告》
デンバーからもどってもう5ケ月になりました。はやいものです。この間今後の実験のための研究室の整備、凍結細胞株の整理などに費やされてしまいました。私の実験にはどうしても必要と部長に請求して購入したCO2-incubatorと倒立顕微鏡が4月になって入り、その調整やらHeLaS3のplating
efficiencyのたしかめ、又recloningなどにこのところ忙しく動いております。
この前の班会議で約束した勝田氏の発癌実験の追試をはじめました。まだ第1回を行って陰性、第2回目をはじめたところです。とりあえず第1回目の実験を報告して、皆さんに批判してもらい、よい結果を得たいと思います。私の受持ちはDABによるマウス肝組織の発癌です。
成熟ddY株マウス(5週、体重19.8gm)から肝をとり高岡氏の方法に従って凡そ1mm角に切り出し、塩類液で洗わずにガラス面に附着させました。1試験管あたり10〜20片、この数が多すぎたためかガラス全面に血液細胞と組織破片が附着してどうも観察しにくい状態です。 全試験管数18本、6本づつ3群にわけ、よく附着した所で、第1群にDAB+Tween20添加培地、第2群にTween20添加培地、第3群に培地のみを加え静置培養しました。DABは最終的に1μg/ml、Tween20は50μg/ml、培地は20%牛血清培地Lactalbumin
hydrolysate(0.5%)in Hanks.
Tween20対照を置いたのは少し疑い深いのですが、Tween20そのものが表面活性剤で、腹水肝癌の島を分解して単個細胞浮遊液にする作用が知られていますから、もっとも50μg/mlは上記の作用濃度からみてはるかに低いのですが、使用期間の長いのと、この場合全細胞の解離を必要とせず、組織片の表面の変化だけを期待すればよいので、班員の一人として、一応検討する義務があると考えました。
培養4日間は液かえをせず、その後週2回の割でDAB及びTween20の無添加培地で液かえしました。はじめの4日間でpHはどの群も一様に6.6〜6.8、その後の液かえではpH7.4〜7.6のinitial
pHを維持しています。培養4日目頃から僅かですが細胞のmigrationがみられましたが、その後進捗せず、30日間の観察でoutgrowthの発生はどの群も陰性に終わりました。 陰性の結果を得たことについて今考えているのは、一試験管あたりの組織片数が多すぎたためはじめの4日間にpHがさがって組織を障害したのではないかという事です。今後は5〜10片とします。また成熟マウスを使ったことも問題で、勝田氏は生後9日目頃のラットを使用して居られるので、これを踏襲して幼若なマウスを使ってみたいと思っています。さらに根本的にはAzo色素餌食による肝癌発生はラット肝では起りますが、マウスではむづかしいという問題もあります。理くつはいろいろあるわけですが、まづ技術的な問題を片付けないと何とも言えない状態なので、更にくりかえし実験を行う予定です。
【勝田班月報:6206】
《勝田報告》
発癌実験の研究状況:
DABによる発癌実験は9回までおこないましたが、結果は次頁の表に一括して示します。ここで気が付きますことは、C#4〜7とC#8〜12とはDABをといた液をさらにうすめるとき用いた牛血清が別のlotになっているということです。そして前者の群の方がどうも成績が良いことです。つまりDABが蛋白に結合して作用するとすると、その結合する蛋白によってどうも結果が大分左右されるのではないか、ということが想像されますので、Homo或はAutoの血清をこれに使ってみることを現在試みて居ります。次に実際に細胞の増殖の起る時期(第12日位がきわめて多いのですが)にもRatの血清を使う必要があるのではないか、という気もします。つまりそこで培地によるselectionが行われるわけですから、復元試験したときRatの血清の中でどんどん増えるような細胞をselectしなければならないからです。またこれらの結果を通覧しますと、どうも若すぎるratはControlまで増え、年老りすぎたratではExp群が仲々増えず、結局、生後20〜25日頃のratがいちばん良いのではないか、という感じを受けました。次に復元方法であるが、昨日の組織培養学会の安村君の話では脳内接種>腹腔内>皮下の順に成績が良いとのことなので、我々としても今後はぜひ脳内接種を試みたいと思います。ただし(ちのみ)でないと駄目だとのことでしたが。(復元試験は1962-3-15に約10万個の細胞を48日のラッテ腹腔に接種したが、何れも次第に消失し、陰性結果となった)
:質疑応答:
[山田]復元ですが、Ehrlichの場合は、10万個腹腔と100個脳内とでは後者の方が良結果です。またRatのageにより成績が異なるというのは、他の動物にも見られる一般的傾向ですね。
[勝田]DABと細胞増殖との間にはまだ未知のfactorがいつくかあるし、Ratの日齢と増殖との間の関係も一定の基準を早く決められるようにしてあとの実験を進めたいと思います。[佐藤]血清とDABと混ぜて保存(冷蔵庫)していると沈殿が出ます。ラクトアルブミン水解物を含む液にとかしたときもやはり沈殿が出て、それが溶けない。Salineで保存すると出ない。そんなところがC#4,8,9,10あたりのNoneと関係が無いでしょうか。また血清を保存しておくと次第に増殖促進能力が低下しますが、それもあとの方の成績の良くない一因ではないでしょうか。
[堀川]使った容器の処理は?
[高岡]はじめに溶くときやDAB処理の培地をはじめに培養に入れるとき使ったピペットは全部棄てますが、roller
tubeはずい分うすめられている訳ですから、高圧をかけてDABをこわし、また使います。
[山田]肝細胞に貪食能がありますか。例えばTB菌をPhagocyteがとるように、異種血清による貪食促進でDABがとり入れられる、ということがあるかも知れない。
[堀川]貪食についてはmacromolecular levelで充分取込まれるということがScientific
Americanに出ていました。
[佐藤]ラクトアルブミン水解物とDABとの間のinteractionについてはどうでしょうか。[関口]あるとすればPolypeptidesとのinteractionがあるだろうと思いますが、詳しいことは判りません。
[佐藤]沈殿は結晶様で肉眼で見えるということ、特に血清とラクトアルブミン水解物の混ぜてある液にDABをといたとき鮮やかに出るということは、留意すべき問題と思います。[勝田]Ratの年齢、血清の種類、それとのDABの結合、この三つを当面の問題点として検討して行きましょう。
[山田]脳内接種には、特にそれ用に使う針を売っています。ウィルスを入れるときと同じに考えればよい訳です。注入量はマウスで1匹あたり0.03〜0.02mlですが、若いマウスの方が損傷が少ない。これは脳圧に関係している訳です。
[佐藤]小脳、中脳を避けて針を刺すことが大切です。
[山田]こまかい実際的なテクニックはvirus系の人にきくとよいです。
[勝田]Ratは純系を使うに越したことありませんが、それより大事なことは、自分の研究室で交配出産させて、はっきりageの判っているratを使うことが現在の段階では大切と思います。
《山田報告》
ddY系マウス肝組織の初代培養に対するDABの作用:
6月9日現在まで、5回実験を行っています。DABの使用法、培養法はNo.6203記載の高岡さんの報告通りです。培養液としてはTC199+20%仔牛血清を用いました。
マウス日齢の若いものでは実験群、対照群ともに上皮性細胞が増殖してきます。今さらに日齢をあげて実験を計画中です。下の表で増殖とあるのは申し合わせの通り、上皮性の細胞増殖のことですが、その他皆さんの話にあった箒星様の細胞の他"喰細胞"のような細胞もでてきます。どくに長期間培養したものでは"喰細胞"の大きなコロニーが出現して、1ケ月近くなってもなおactiveで分裂像もみられるようです。上皮性細胞はExplantをとってしまうと現状維持といった形で分裂像は多くみられません。一本の試験管に多数の組織片をうえた場合には(#1&4)はじめの4日間にpHがさがりすぎて、そのためか細胞の増殖が悪いようでした。
:質疑応答:
[山田]肝組織のexplantをroller tubeに植えつけるとき、per
tubeの数は?
[高岡]あまりexplantの数を多くしすぎますと反って結果の悪いことがあります。
[山田]つけてから乾かす時間は?
[高岡]乾かすといってもexplantをつけたらすぐ培地を直接管底にピペットで入れ、ゴム栓をして立てておくのです。全部のが終るまでですから20分位と思います。大切なのはSalineで組織片を洗わぬことで、こまかく粥状にしたらそのままpipetteでつけるのです。組織液などが糊の代わりをするのでしょう。
[山田]初めの実験ではageが大きすぎましたので、今後は4〜5日の若いところからはじめて見たいと思って居ります。またTween-20を使う理由は何ですか。Tween-40や-80よりも毒性が強いという話がありますが、この辺のところも増殖に作用しているのではないかと思って、私はTween-20だけのもやってみていますが。
[高木]DABを溶くにはTween-20がいちばん良く溶けるからです。
《佐藤報告》
1)発癌実験
前報No.6205にDAB→呑竜ラッテ肝、実験◇C1より◇C7まで記載した。ラッテの生後日数は36日から79日に到るまでのものであるが、細胞の積極的(継代できる程度)の増殖は認められない。◇C7の対照群のみ後でDABを与えて見るために残して他は破棄しました。◇C8位後の実験は自家繁殖させたラッテの実験です。
上述の実験はもう少し実験の穴がありますが、1)対照がどの程度の生後日数まで増殖能があるのか? 2)DAB→呑竜ラッテ肝4日作用で対照、DAB作用群の差、云わば発癌係数の最も高い点はいつか? 3)DAB→4日で増殖のおこらない生後日数の限界点? 4)継代できる細胞の対照DAB両群の腫瘍性の差?
以上4項目を発見する積りで同腹のもので比較する様計画しました。現在の所次回の実験計画、DABの種類、DABの作用期間、作用方式等について最も大切と思われる20〜30日の発癌成績が完了していないので未だ詳報はできない。此の実験群は北海道の病理学会出席迄には完了できる予定です。
2)組織培養株細胞による抗腫瘍性の増強について
JTC-11細胞でCb系マウスを免疫すると、originalの動物株エールリッヒ腹水癌のCbマウスでの腫瘍発育を阻止する。この免疫は蒸留水添加の死細胞では減弱する。HeLa細胞ではこの抗腫瘍性は増加しない。L細胞免疫ではJTC-11細胞のCb系マウスへの発癌を抑制するがoriginalの動物株エールリッヒ腹水癌のCb系への抗腫瘍性には強い変化が現れない。
3)現在PVP+YLE及びYLEの継代に成功しています。PVP+LE及びLEは困難を極めています。4)吉田肉腫細胞株の栄養要求は病理学会に提出していますが、遅れており目下追跡中です。間に合うかどうか心配しています。
:質疑応答:
[勝田]Ratのageを若いのから順に上げて行くようにしたら良いと思います。
[佐藤]細片のことですが、どうも血液成分が入ってきたなくなりますね。
[高岡]回転培養している内に培地で洗われてきれいになる筈ですが。
[佐藤]あのきらっと光る細胞はたしかに実質細胞だろうと思いますが、どうも増えなくて・・・。
[高岡]硝子面に一杯にふえないと継代はむずかしいですよ。migrationはどんな場合にも出てきます。
[奥村]トリプシン消化した初代培養でglucoseを4倍にしたら偶然によくついて増えました。これはvirusをうえるときの方法ですが試してみては如何ですか。Kidneyの
primary cultureは血清濃度を下げないとEpithelはふえません。2%位にしても良いです。[山田]Kidneyのときは判定が困難で、fibroblasticといってもそうと判定できないから、この点充分に留意して下さい。
[佐藤]右図のような細胞は私がラッテの腹腔内をトリプシナイズしてとったSerosaの細胞によく似ています。肝被膜由来ではないでしょうか。
《堀川報告》
これまでDABのtestも2度やりましたが不成功に終っているままです。一方pinocytosisを応用して正常細胞の癌化も先日報告しました様にやって来ましたが総て途中で休止状態です。
然し私の実験室も一応不完全ながらととのい、実験再開可能な状態にこぎつけました。若さとfightで遅ればせながら、これから追い込みをかけます。したがって7月号からは少なくとも少しはまとまった実験結果を報告できる様な段階にいたします。
:質疑応答:
[山田]PinocytosisとPhagocytosisの区別如何ですが、Amoebaの場合にはPhagocytosisの方は偽足で積極的に物を取入れることを呼んでいます。
[佐藤]Ehrlichの核をLはとるが、Lの核をEhrlichはとらないという具合に、核の貪食能をCytoplasmのcapacityだけに限って解釈するのは一方的と思います。Phagocytosisの能力がないのは癌細胞の属性です。
[勝田]この仕事はまずL細胞の核貪食の機構に重点をおいて進めると良いと思います。例えばその状況を顕微鏡映画にとってみるのも必要です。
[関口]核の取込みから細胞のmutationを論ずる場合はClear
cutなCriterionのある細胞をえらぶ必要があります。
[堀川]その点に関しては私はCancerということをCriterionにしているのであって、そのためにEhrlichの細胞株をえらんだのです。
[勝田]ラベルした核が細胞の中でどのような動きをしめすか、特に2〜3回分裂したあとどうか、その辺の機構も興味があります。またX線をかけることによってfeeder
layerになっている可能性があるのではありませんか。plating
efficiencyについて・・・。
[佐藤]MN細胞でやると良いでしょう。
[勝田]ネズミの腹に死菌を入れてみると、赤血球を中性白血球が食い、それらをさらに組織球が食っているのを見ることがあります。
[関口]X線や紫外線をかけると貪食能が促進されるということは、細胞膜の傷害に関係があるかも知れません。
[堀川]免疫に関係あるかも知れませんね。それからBarskiの仕事についてですが、二つの核が溶合して両方を合せた染色体数の細胞が出てきたと云っていますが、核同志の溶合は果してあるのでしょうか。50本と60本のとがfuseして110本になるというような・・・。
[勝田]細胞間でのfusionはよく見られますが、核のfusionの問題はまだはっきりされていないと思います。
《奥村報告》(期間しめきりまで原稿提出がなく、簡単なメモによる要旨のみ)
A)細胞の凍結保存:
1)人羊膜細胞(第2代)、2)骨格筋(初代)を凍結して染色体数をしらべる予定です。株よりも初代或はそれに近いものの方がしらべやすいです。1)はvariationが少く、分裂もまた少い。対照は凍結せずにしらべています。すると5代目位に46本が90%以上出てきます。角瓶1本1000万個位で8個位の分裂像が見られます。
B)ウィルス耐性HeLa:
Hyperploidについて
:質疑応答:
[勝田]細胞質の吻合の可能性がありますね。
[堀川]Spindle fibreが分裂時に何か傷害を受け或はContact
actionで異常となり、染色体数が増える可能性があるのではないでしょうか。
[山田]核型でみてどうでしょう。棒状のに変化は?
[奥村]J−型には異常なくVと棒状ので変化が出ます。このことは非耐性株の染色体数のちがいについてもあてはまります。ECHO-virusの1,2,5,6,9でしらべた場合、染色体数の変化は一致しています。
[堀川]細胞膜での異常も考えて良いでしょう。(Cell
Contactとの関係) なぜならばDrosophilaで♂ばかり出る場合、スピロヘータが寄生していたという事実があります。
[奥村]継代していてもnormal modal valueに戻ってこないという事実があり、また耐性株はCPが出てきません。
[勝田]Latent infectionは考えなくても良いのですか。
[奥村]形態も変っていません。Vogt-DulbeccoのデータではKaryotypeの変化なしにウィルス感受性(対ポリオ)が変っています。
《高木報告》
1)発癌実験
これまでのdataをまとめてみます。
培養法:plasma clotを用いない廻転培養法
培地:80%LT培地+20%牛血清
発癌剤と培養細胞:DAB1μg/ml→Wistar King
rat肝、Stilboestro1μg/ml→Golden hamster肝及び腎
結果:詳細は表に示す。
rat肝臓←DABについては、ratの日齢、薬剤投与期間及び培養技術などもっとさらに検討しなければならないと思う。fibroblastが主に増殖し、epithelial
cellsの増殖が悪かったのはratの生後の日齢が関係しているのかも知れない。生後11日目のratを用いながらepithelial
cellsの増殖が悪いのは薬剤投与期間の長すぎたためとも思われる。
hamster腎←Stilb.の実験2、4では、始めはepithelial
cellsが増殖しているが、5〜7日目からfibroblast-like
cellsが優勢になり、遂にはepithelial cellsと入れ代ってしまう。しかし実験4によれば、このfibroblast-like
cellsは10日目、14日目で共に2代目に継代出来そうである。
hamster肝←stilb.の実験2'、4'では薬剤作用群に生えて来る細胞はepithelial
cellsであるが、実験2'方が4'より実験群と対照群の差がはっきりしている。これはhamsterの生後の日齢の違いが主な原因ではないかと思う。なお実験3までで増殖した細胞の顕微鏡写真を供覧する。
2)移植実験
FL、Chang'Liver、JTC-4及びHeLa細胞をtreated
hamsterの頬袋に移植したが、前2者については100万個levelの細胞で腫瘤を作ることが分った。後2者については、移植したhamsterが大きすぎたためとも思われるが、はっきりした腫瘤は作らなかったので更に検討中である。次の段階として、細胞数によるtumor-producing
capacityをしらべてみたいと思う。
3)免疫学的研究
数種の株細胞につき血球凝集反応を中心に種特異性などにつき検討すべく準備をすすめている。目下JTC-6株を免疫の予定である。なおFL細胞の各成分についてもgel内沈降反応を行うべく準備をすすめている。
《伊藤報告》
1)発癌
先日の報告会でお話を聞いて当方での判定が誤っていることが分りました(註・班会議後の提出原稿なので今回討論で指摘された実験を指している)し、一方今後この方法で実験を続けて行く為の自信が少し出来て来ました。従来の実験での結果は別に考えて今後の結果を判断してゆき度いと考えて居ます。又ratは当分Donryuの生後15〜25日位のを使用し、tecniqueが確かになれば、復元と共に、主としてDABの作用期間についての検討をやってみる積りです。Donryuの自家繁殖を始めましたが、未だ適当な日数に達しませんので、それ迄は雑系でtechniqueの習得中です。
2)増殖促進物質
今迄にも御報告しました様に、L株の場合と異って、L・P1株の場合では、正常肝よりのS2分劃にも相当の促進活性が認められて、其点問題がありましたが、最近の実験でAH-130よりのS2分劃との間に耐熱性で差異がありさうな結果を得ましたので、一寸楽しくなって居るところです。
:質疑応答:
[勝田]あなたの"増殖"と認めている細胞の形はどうも変ですね。
[伊藤]さっきスライドで見たのと同様の解釈で見ているのですが・・・。いまのところDAB処理したexplantに特有の増殖があるというデータは出ません。また出たとしても復元実験がうまく行かなければ物が云えないと思います。
[佐藤]DABそれ自体にも製品によりcarcinogenesisに差がありそうですね。
[勝田]出てくる細胞には、石垣状に出るのと、ホーキ星のような形のと2種ありますが、前者のは見られなかったのですか。
[伊藤]ホーキ星状のは見ていますが・・・。
[山田]In vitroでホーキ星状をしている細胞のin
vivoとの関係が判らないと、捨てることは無理がある。
[佐藤]私の処と全く同じ方向をつっついているようだが、何か実験の方法を変えてみましょうか。伊藤氏の使用予定Ratは?
[遠藤]?がついている。
[勝田]DAB作用期間を変えてみる手があります。
[伊藤]濃度1μgの根拠は?
[勝田]高木君がはじめにしらべて細胞に余り害を与えない濃度という訳です。
[佐藤]実験#3について。細胞の違いがあるのではないでしょうか。
[高木]復元してしらべるのですから、対照が生えてきても一向構わないのではありませんか。
[伊藤]Exp.群とCont.群の差について、具体的に云えばどういう定義を考えて居られますか。私としては、両方生えてくるところで実験して、差が出れば良いと思うのですが。[勝田]なんども話しているように、形態的には敷石状とホーキ星状の2種の細胞が出てきます。敷石状の方を私は増殖と見ています。事実ふえるし、継代できるからです。また使うRatの日齢については次のような関係が見られます。細胞増殖の有無からみて、若い
RatはDAB作用群も対照群も+で、生後20日頃のRatはDAB作用群は+対照群は−、老ラッテはどちらも−です。
それで、実際的には生後20日を使うのが、いちばん細胞の変ったことを発見するのに楽な訳です。増え出すときには培地にDABは入っていないのだからNutritionalに促進するという意味はきわめて薄いし、増えてきたのは細胞が"変った"明らかな証拠と考えられる。対照群で生えないのだから。だから変ったことをすぐに見付けられるわけです。いま一息という所まで来ていると思う次第です。
[関口]DABやthioacetamideはCholangiomaを作るというのをよんだことがありますが。
[勝田][佐藤]DABはHepatomaを作る筈です。日本のこれまでの報告では。
[佐藤]DABの量とか作用期間、さらには培養条件を夫夫に変化させてやってみたらどうかと思うのですが・・・。
[勝田]私としては、いま一歩、何かの因子の調節でうまく行くところまで来ていると感じます。お互いに手紙で、或は電話で連絡し合って、いろいろ条件を変え、他の人とぶつからぬように連絡をとり合いながら進めることが大いに好ましいと思っています。
《遠藤報告》
I.HeLa株細胞の増殖に対するステロイドホルモンの影響
1)Testosterone
これまではProgesterneに固執し過ぎたので、こんどは予試験的に各種のステロイドホルモンについて巾広くまたそれぞれについて広い濃度範囲にわたって影響を調べる事にしました。対照1はTestosteroneの溶媒として使ったエタノールヲ同量加えたもの、対照2は全くエタノールを加えなかったもので、今回は2日及び4日後ではエタノールは促進的に働いています。これでエタノールは、無影響、抑制的、促進的、各1回ずつということになりましたが、まだcell
cultureの腕が悪いからでしょうか、今後は再現性あるデータが出せるよう修練に努めます。testosteroneの影響は、以前の勝田さんの所のデータとほぼ一致しています。
2)Methylandrostenediol
上記の実験のように、Testosteroneは1mg/lで若干抑制的に、10mg/lでは明らかに抑制的に働きますが、これらの影響がTestosteroneの生物学的活性に由来するのか、或いは単にsteroidの高濃度という物理化学的要因によるのかを調べるために、Testosterone同種体に属するためかなりのandrogene
activityはあるが一応protein anaboric actionの強められたMethylandrostenediolについて検討しました。(上述のTestosteroneの作用がそのhormon
activityによることは、勝田さんの所ではホルモン間の拮抗作用で見事に証明しているのですが、別のやり方をしてみたわけです)。
この実験は、お恥ずかしい限りですが、6日後のデータが雑ったためにとれませんでした。この実験では、Testosterone
1.0mg/lは4日後には抑制的に働いておりますが、この時Methylandrosteronediolは0.01〜10mg/lの全濃度範囲にわたって促進的に働いております。この促進傾向は2日後でも同様に認められます。(この増殖促進がprotein
anabolic actionによるとすると、これは興味ある問題なので、この追試及び他のAnabolic
steridについても実験を行っております。次回に御報告します。ここで10mg/lでも促進を示していることは、Teststerone
10mg/lの抑制が単に物理学的要因によるものではないことを表すものと考えられますが、別の実験でこのMethylandrostenediolも100mg/lでは著しい抑制を示す所から、100mg/l程度の抑制になると物理化学的なものと考えてよいかと思います。*このMethylandrosternediolによるHeLa増殖促進は、ひどくヘモった劣悪BSを使ったため6日間に5倍位にしか増えなかった実験では、4日後に著明でありました。臨床的にも、実験的にも、anabolic
steroidの効果はsubnormalの時によく現れることを考慮すると、またProgesteroneの効果をみるためBS濃度を漸次下げていったのと同様の発想が出てきますが、この点はまだ手をつけていません。
3)Dhydroisoandrosterone
以上の通り、化学構造の上からは極めて近縁でありながら生物学的作用の面からは若干異なるTestosteroneとMethylandrostenediolについて一応差が認められたので、次に、やはり化学構造は類似しているがin
vivoではandrogenic activityもprotein anabolic
actionもないといわれるDehydroisoandrosteroneについて調べてみました。左図のように、in
vivoで何のホルモン作用も示さないDehydroisoandrosteroneが、増殖促進傾向を示しました。これが事実とすれば非常に面白いことでありますが、実験操作上一寸問題がありますので、追試の結果を次回に報告致します。以上の結果から、種々のステロイドホルモンについて巾広く検索する必要があることが明瞭となったので、今後は更に検体の種類を広範にとる積りです。
II.発癌実験
大分前になりますが、DABよりMethylDABの方が肝癌の発生が遥かに早いという話を聞き込んでお話ししました所結局否定されたようでしたが、最近又寺山研究室(東大・理・生物化学)の人から、"前に2週間で発癌すると言ったとしたらそれは少しoverであったかもしれないが、DABより遥かに早いことは確かだ"ということをある席で聞きました。まだ文献も教えて貰っていないので、一寸気が早過ぎるきらいはありますが、先日の班会議で完全に同じ実験をしたのでは能率が悪いというような意見も出ておりましたので、こちらでは発癌剤としてはMethylDABを使う事にしました。動物は´呑竜`ratを使います。因に、DABとMethylDABの構造は次の通りです。(構造式展示)(この前の会議の時は、皆さんがMethylDABをp-monomethylaminoazobenzeneと勘違いされていたような気もするのですが)
#C1(MethylDAB-1)
動物:呑竜rat(生後165日の完全なplateaued
rat)
培養法:無血漿回転培養法(10rph)
培地:牛血清2容+0.5%Lactalbumin hydrolysate含有Hanks
発癌剤:MethyDABエタノールに溶かし、所定の濃度になるよう培地に加える。エタノール濃度は最終的には0.25%、対照にも同量のエタノールを加える。
<実験>Control、Exptl(I)MethylDAB 2μg/ml、(II)MthylDAB
1μg/ml、(III)Methyl
DAB 0.5μg/ml、各群5本づつ。まだ著変をみませんので、結果は次回に報告します。
:質疑応答:
[堀川]ラベルしたホルモンでARによる検討をやったら如何ですか。
[勝田]色々なホルモンにあたってみて、その中から最も適当したホルモンをえらび、濃度を変えながらAntagonistとの関係をしらべるなど、本当のホルモン作用を確認した上で詳しい検索に入ってはどうですか。
[遠藤]自分の方向としては今、ホルモンの研究は肝中心という感がありまして、末梢ホルモンでのホルモン作用は誰も考えていないので、その辺のところをやりたいと思っています。
[佐藤]HeLaは子宮頚部から由来したもので、cervixはCorpus
uteriと、腺その他形態学的にもホルモン作用の上でもちがうように思います。もちろんCervixとCorpusとのホルモン作用の差は今日のところでは判っていませんが・・・。この辺は考えてみなくて良いのですか。
[勝田]HeLaの初めのHistologyなど、Geyにくわしく問合せておきたいですね。
[山田]Original tumorはclinicalには"Unusual
tumor"ということですね。
[勝田]またHeLaだけを相手にせずに、他の子宮由来の細胞株を作る必要がありますね。前にGyneと関係を作ったから、とか聞きましたが・・・。
[山田]Gyneのこの小林さんの処で培養室を作って、データが出ているようです。テーマはHypophyseよりのGonadotropin排出に関するものと記憶していますが。
[遠藤]子宮由来の株については必要を感じながらまだやっていません。
[堀川]ホルモン作用の場合、植物のAuxinや昆虫ホルモンなど、とんでもないホルモンに当ってみたらどうですか。
[山田]母培養と実験培養との血清は一致していることが、望ましいですね。
【勝田班月報:6207】
A)発癌実験:
DABによるJAR系ラッテ肝細胞の発癌実験をつづけています。これまでの月報で初めからの成績は一覧表として報告しましたので、本号ではその后の成績だけを報告します。
なお、この一連の実験に於いては、培地は便宜上、次のような作り方をして居ります。
a:DAB液
前にかいたようにTween20でDABをとき、Saline(D)で稀釋します。DABは2mg/mlとなります。(これが保存液I) 次に即座に使える液を作るため、このI液を段階稀釋します。即ち
保存液I:1ml+(血清20%+Lh0.4%+D):9ml(この稀釋液をAと仮称)
A液1ml+(血清20%+Lh0.4%+D)19ml(これが保存液 )
保存液I、 とも低温で保存(5℃)します。 がなくなったり、別の血清でといて見たいとき、Iから作ります。ときにはIも作り直します。 は1w〜3月の間これまで保存して作ってみました。 液中のDABは10μg/mlです。
b:実験培地
上記のように保存液 はすでに通常の肝細胞用の(血清+Lh+D)の培地になっていますので、実験のときは、第 液+(血清20%+Lh0.4%+D)9容、に混合して培地に用い、Controlの方は右辺の培地をそのまま使えばよい訳です。(第 液に特種血清を用いたときは勿論対照にもそれを加えます)
このようにarrangeしますと、仕事がやり易くなりますので、おすすめします。なお我々のところでは、佐藤班員の云われるような、保存中のDABの沈澱(再結晶化?)は見られて居ません。血清加培地に早くといて 液で保存するためでしょうか。
[結果]
C-14からC-18に至る5実験をしましたが、大体成績はconstantです。しかし色々な経験も得られました。C16〜C18はまだはじめたばかりで、増殖期まで入っていませんが、班会議のときには報告できるでしょう。
[実験成績]
Exp.C-14: (18-day rat:DAB 4days) Since 1962-6-7
1)(Rat serum+Lh+D+DAB)1vol.+(Calf serum
medium)9bol.
2)(Calf serum+Lh+D+DAB)1vol.+(Calf serum
medium)9vol.
3)(Rat serum+Lh+D)1vol.+(Calf serum medium)9vol.(Cont.)
4)(Calf serum+Lh+D)1vol.+(Calf serum medium)9vol.(cont.)
上記の4種の群を作った。第4群はDAB(-)の対照。成績は次の通り。
11th 13th 30th day 継代后の成績
1) 4/5 4/5 sheet Rubber cleanerでよく コロニーができ、ゆっくり
2) 4/5 4/5 sheet 生えているところだけ 増殖中、現在第2代
3) 1/5 1/5 かき落とし各群TD-15
第2代はふえなくなった。
4) 1/5 1/5 2ケに継代
この実験は復元接種できそうなので、近日中に脳内接種をおこなう予定。
Exp.C-15: (18-day rat:DAB 4days and long
addition) 1962-6-19
(Calf serum+Lh+D+DAB)1vol.+(Bovine serum
medium)9vol.
1)(DAB:4days)
2)(DAB:Long term addition)
3)(DAB:Newly prepared and immediately used)
4)(calf serum+Lh+D)1vol.+(Bovine serum
medium)9vol.(Cont.)
上記のようにDABを長期間作用させてみる群と作ってすぐのDAB液の群も加えた。結果は
18th day 現在
1)4/5(増殖は余り良くない) 初代のまま
2)4/5(増殖は余り良くない) (現在までDABを継続しているが(1)と差なし)
3)1/5() (途中で中止した)
4)1/5 初代のまま
上の実験は頂度生え出す頃の日が学会で北海道へ行って居り、培地交新ができなかった。 そのため、実験群は生えだしたが、増殖が悪い。
Exp.C-16:(16-day rat)Since 1962-7-7 DABは4日間、Calf
Serum培地にとかした
Exp.C-17:(18-day rat)Since 1962-7-9 古い液、添加培地は牛血清培地
Exp.C-18:(21-day rat)Since 1962-7-12 (仔牛血清不足のため)
この3実験は同腹の仔を使っているので、日齢の検討にも役立つ。C-17は3群分用意してある。7日目頃から、再刺戟としてグリセオフォルビンとαナフチルイソチオシアネートとを夫々1μg/mlの濃度で(一緒に加えるのではなく)数日間加えてみる予定。C-18は3群分用意してあり、これは佐藤班員の追試になるが、DAB作用期間の比較に当て、4日、8日、12日の3種をしらべる予定。
[考察]
1.C-15の実験で判るように、培地交新は株細胞よりも注意が要る。折角の実験が学会で不在のためうまく行かなくなって残念ではあったが、非常によい経験にはなった。生え出しの頃の交新の如何に大切であるか。
2.同じくC-15の第3群は、無菌室の中でDABを新しくといて、すぐ使った群であるが増殖がControlと同じ結果になった。つまり血清とまぜて暫く保存しないと効果が現われにくい、ということらしい。非常に面白いことであるが、班員諸君のところではこの点如何ですか。 3.DABをといて保存しておくとき、Ratの血清でもCalfの血清でも、結果は似たようなものであった。(C-14の結果) だからこの点は今后気にする必要は無いらしい。
4.成牛の血清より仔牛の血清の方がどうも少し成績が良いのではないか、という感じがする。仔牛の方が元気の良いのを殺すためかも知れない。ただ仔牛の場合には無菌的に血液をとれないらしいが、目下のところではそのため血清が駄目になった例は起っていない。 5.C-17で追加刺戟に用いるグリセオフォルビンは水虫の薬であるが、発癌の促進効果があるとかいわれる。αナフチルイソチオシアネートは皮膚炎を起すとか、endothel系の増殖を促進するとか云われている。これ以外に、はっきりした発癌剤を追加刺戟に用いることも予定している。
[その他の発癌実験]
これまでに報告した内の#C-6(9日rat.DAB4日間、Exp.Cont.共6/6に増殖したもの)の細胞は約5ケ月半経っているが、殊にExp.の方がきれいな実質細胞様で、増殖率も高くなってきたので、これをまず復元接種する予定で、目下ラッテの適齢を待っている。
B)その他の研究:
最近は発癌実験に主力を注いできたので、他の方は殆んどストップである。しかし夏休みの学生実習を利用して、やりたかったこと若干もやる予定なので、来月、再来月はもっと色々のことが報告できると思われる。
《佐藤報告》
1)発癌実験
前報に引続いて実験を行いExp.24迄行っています。(呑竜ラット、DAB
4日作用の場合の結果表を呈示)。以上23例の実験から凡そ次の事は結論し得ると思う。
*1.試験管内に組織片を附着させて回転培養し、組織片からの増殖(継代を考えない)が対照において起る日数は生后20日を限界として著減する。
*2.生后27日以后ではcontの増殖は殆んど起らなくなる。
*3.上記の条件でExp.とCont.の間に最も差が現われる時期は生后22〜27日の間であるが、この条件ではCont.が1/6程度に増殖している。
次にDABの濃度を同じくして作用日数を4、8、12日に変化させて見た。(表を呈示)。
その結果からは現状の作用方式では4日間より培地交換して作用期間が8日間の方が明かによい結果がでている。従って生后27日以后でCont.0/6、Exp.4/6〜3/6程度の期待がDAB8日間作用で出来る可能性が多い。
次いで3'-methylDABを通常のDABと比較する実験を始めた。
◇21、第14日に、DAB4日は3/6、3'-methylDAB4日は2/6、Cont.は2/6の順であったが更に実験を続けて行った。ラットは生后25日。
◇22、第13日に、DAB4日は2/5、3'-methylDAB4日は5/5、同じく3'-MeDAB8日は3/5、同じく3'-MeDAB12日は1/5で、明らかに3'-methylDABが有効であった。ラットは生后26日。
以上の結果からCont.が0/6、Exp.が6/6になる可能性は3'-methylDAB4日或いはDAB8日でラット生后27〜30日の場合に発生する頻度が高いと思われる。
今后の目標としては「ラットへの復元とDABの試験管内消費、及びExp.Cont.比の上昇」にしばらくの間力を注ぎます。
2)C3H自然発生癌の株化が漸く成功して増殖率が急上昇しました。3株できましたが、何れも培養開始后6ケ月程度で増殖率急上昇しました。
《高木報告》
1)発癌実験
先報にひきつづき報告します。
なお以下、A細胞・石垣状に増殖を示す本命と思われる細胞。
B細胞・箒星状の間質細胞と思われる細胞
E細胞・epithelioid cells
F細胞・fibroblast-like cells・・・・・と略記します。
◇C5(生後21日目のW.K.rat肝←DAB 1μg/ml延べ8日間)、LT+20%牛血清培地。
7日目 D群に2/10、B細胞のmigrationおこる。K群にはなし。
20日目 D群には4/8、B細胞のcell sheetを作る。K群にも3/8におこる。
以後は細胞の増殖は止り、そのままの状態。
37日目 継代するも細胞の増殖をみず。
◇C6(生後14日目のG.hamster肝←DAB 1μg/ml
4日間)、LT+20%牛血清培地。
8日目 D群3/6、K群2/6にA細胞わずかに増殖。
18日目 D群4/6、K群5/6にA細胞の増殖をみる。
この日、各群2本→2本に継代するも細胞増殖なし。
22日目 継代しなかった残りの細胞の増殖かえって不良になる。
◇C6'(生後14日目のG.hamster腎←Stilb.1μg/ml
4日間)、
LT+2%牛血清で培養開始、4日目以後5%牛血清を用う。
4日目 S群、K群共E細胞の増殖をみる。
8日目 S群の方がepithelioidの傾向やや強し。
12日目 各群2本→2本に継代、7日後いずれの群もわずかながら細胞の増殖あり。しかし、19
日後にはS群の1本をのぞき細胞の増殖止る。
18日目 各群2本→2本に継代、12日後S群の1本にのみF細胞の増殖をみる。
22日目 残りを継代するも8日後K群の1本を除き細胞の増殖みられず。
◇C7(生後15日目のG.hamster肝←Stilb./ml
4日間)、LT+20%牛血清培地。
8日目 S群1/5にややA型細胞の増殖をみる。
11日目 S群2/5、K群3/5にA細胞の増殖をみる。
18日目 S群3/5、K群4/5にA細胞の増殖をみる。
25日目 増殖しているもの各群2本→2本の継代、4日後細胞増殖なし。
29日目 残りの各群の細胞増殖のみられたものを継代するも細胞増殖なし。
◇C7'(生後15日目のG.hamster腎←Stilb.1μg/ml
4日間)、LT+5%牛血清を用う。
4日目 各群共E細胞の増殖。
11日目 各群共F細胞がまさって来る。
18日目 各群共F細胞predominantとなる。
この日、各群2本→2本の継代。 11日後S群の1本を除き細胞増殖なし。
22日目 残りの各群2本→2本に継代。7日後S群の2本のみ細胞増殖あり。
◇C8(生後8日目のG.hamster肝←Stilb.1μg/ml
4日間)、LT+20%牛血清培地。
8日目 S群1/6にややA細胞の増殖みらる。
18日目 S群4/6、K群3/6にA細胞の増殖。
30日目 S群4/5、K群5/6にA細胞の増殖。・・・・・しかし差程強い増殖はみられない。
◇C8'(生後8日目のG.hamster腎←Stilb.1μg/ml
8日間)、LT+5%牛血清培地。
4日目 両群共E細胞の増殖。
8日目 両群共F細胞がまざって来る。
15日目 両群共F細胞がpredominantになる。継代するも失敗。
18日目 各群2本→3本に継代、2日後F細胞の増殖あり。
◇C9(生後14日目のG.hamster肝←Stilb.10μg/ml
4日間)、LT+20%牛血清培地。
11日目 S群6/6、K群5/6にややA細胞の増殖をみる。
18日目 これら細胞の増殖強まる。増殖可成り良好。
◇C9'(生後14日目のG.hamster腎←Stilb.10μg/ml
4日間)、LT+5%牛血清培地。
4日目 S群6/6、K群5/6にE細胞の増殖をみる。
11日目 両群共F細胞の増殖をみる。
各群2本→2本へ継代。 9日後S群においてF細胞の増殖良好。
14日目 各群2本→2本に継代、6日後S群がK群より細胞の増殖よし。
◇C10(生後21日目のW.K.rat肝←DAB1μg/ml
8日間の予定)
startしたばかり。
[気付いたこと]
1)◇C5で、細胞の増殖があまりなかったのは、この頃培地の調子が少し変ったので、その為と思う。
2)◇C6で培養の途中から、かえって増殖が悪くなった傾向があるが、これはroller
drumの孔に"トメ"がないため、roller
tubeがからまわりすることも関係すると思う。
3)◇C6'腎の培養でLT+2%〜5%牛血清培地を用うれば、20%牛血清培地を用いた時より少くとも培養の初期においてはE細胞が発育する傾向がつよい。12、18日目に継代したものにF細胞の増殖がみられる。S群の方がK群よりややよし。22日目に継代したものでS群の増殖のみられなかったのは母培養(初代)の細胞が可成りよわっていたためかとも思われる。 4)◇C7はS、K群に有意差なし。
5)◇C7'18日目、22日目に継代せるもの共にF細胞の増殖あり。S群がややよい。
6)◇C8 特に有意差ない。
7)◇C8'18日目に継代。7日後までS、K両群共増殖を示す。
8)◇C9 ややS群の方がA細胞の増殖がよいか?
9)◇C9'11日目、14日目継代共7日後までS群にF細胞の増殖よし。G.hamster腎←Stilb.で11日〜22日に継代したものは少くも2代目まではF細胞の増殖がみられる様である。それもS群がK群よりよい様である。しかし、3代に継代出来る位までに増殖さすのは割に難しい。 なお先に◇C4'を継代したものは:11日目に継代したものはS、K両群共細胞の増殖がみられるが、14日目、18日目、25日目に継代したものではK群において殆ど細胞の増殖はみられず、S群を更に14〜17日目に3代目に継代するとわずかにF細胞の増殖がみられるに止った。 肝細胞の継代はまだ成功していない。
2)免疫学的研究
株細胞の免疫学的差異を、更に広範の株細胞につき検討せんとしている。
A)血球凝集試験
予備試験としてO型人血球にChang肝細胞、JTC-4細胞、FL細胞の家兎免疫前、後血清を作用せしめ、この際血清を稀釋するPBS中にMagnecium
ionを含むものと、含まぬものにつきtiterを比較したところ、Mg++を含む方がはるかに高いtiterを示すことが追試出来た。なおChang肝及びFL細胞とJTC-4細胞との間に明らかな有意差がみられた。
B)蛍光抗体法
梶山は蛍光抗体法の習得もかねて、予研伊藤氏の所に数日御邪魔し、HeLa、Chang肝、FL、JTC-4細胞家兎免疫前、後血清をこれら細胞に作用せしめ、これら株細胞間の免疫学的つながりにつき検討を加えた。詳しくは次回班会議の時報告する。
《堀川報告》
やっと本格的に仕事が出来るようになり現在はDABによる発癌実験とPinocytosisによる株細胞の腫瘍化に重点を置き仕事を進めております。
1)発癌実験
培養法:廻転培養器がないのですべて静置培養法、TD-15培養ビン使用
培地 :20%bovine serum+80%YLHsolution
発癌剤:300γ及び500γX-ray、1μg/ml・DAB
培養細胞:mouse CAB系の肝
Exp.1 生後45日のDAB系mouse肝細胞にDABを4日間作用。5日目迄、Exp.区はControl区と共に何の変化も認められず。静置培養のせいか細胞の剥離ははなはだしい。12日目に至るもExp.区は殆ど変化なし。むしろControl区では剥離した残りの細胞がFibroblast状に増殖するのがみられる。18日目に至っても変化みられず実験中止。
Exp.2 生後49日のCBA系mouse肝細胞大量にDABを4日間作用。Control区は3日目頃から増殖が起る。しかもactiveに。一方Exp.区は5日目にFresh培地に返した頃から増殖を始める。6、7、8日目迄はFibroblasticな細胞が9日目頃からEpithelial
likeに変る。この時期にはExp.区はControl区よりもたしかに有意な増殖をしている感じがする。
15日目にmouseCAB系(生後28日目)♂に復元実験する。Control区250万個/mlを1匹に1mlづつ腹腔内注射→5匹。Exp.区320万個/mlを1匹に1mlづつ腹腔内注射→5匹。いづれも注射28日後の今日になる迄何の変化もなし。残念に思うのは一寸した手ちがいで、Ehrlich細胞同様に腹腔内注射をやってしまったことに失敗の大きな原因がある。直ちにSystemをかえてExp.3に入る。
Exp.3 ラッテ、マウスから得たin vitroの各細胞の増殖ならびに形態面に及ぼすDABの影響はむしろ班員の多くの人がこれまでねらってやっていてくれているので、私の所では出来る限り早く復元実験に持ち込む目的でいづれも多量の細胞を塗抹してDABとXrayを併用して処理した(図を呈示)。動物はmouseCAB系♂(生後31日)。培地はYLHsol.
処理13日目の現在の結果。
(1)群無処理Controlは4日目からFibroblasticなcellが増えて、8日目でSubculture、現在でも最初程ではないが増えている。
(3)群500γX-ray照射と、(5)群500γX-ray照射後1μg/mlのDABで4日間処理は、X線doseが強かった模様で増殖なし、特に(5)は細胞質に黒い顆粒が出現してdenaturateする傾向あり。今後は照射するX線doseを考えねばならない。
(2)群1μg/ml DAB処理4日間と、(4)群1μg/ml
DAB処理4日間後300γX-ray照射の、結果が一番よいようだがこれも(1)群と比較して現在ではまだ殆ど大差なし。(2)群と(4)群の今後をたのしみにしている。
この様にX線を併用してみましたが、初回は使用したX線量が一寸大きかった様で次いでこれらの点を考慮してExp.4を開始しております。尚Exp.3の今後の状況如何で復元実験をやってみます。更にX線だけにたよらず、他のChemicalagentを併用するつもりです。
2)Pinocytosisによる株細胞の腫瘍化は今回は特に報告できる結果がありませんので省略します。
《遠藤報告》
1)HeLa株細胞の増殖に対するステロイドホルモンの影響(各実験の図を呈示)
1)Dehydroisoandrosterone(その2)
前号では増殖促進傾向を示したDehydroisoandrosteroeが、その後極めて慎重に行った実験では殆ど無影響ということになりました。ただ4日後には、0.1〜10mg/lの濃度で20%前後の増殖促進を示していますが、果たして意味があるかどうか?
前号の実験の際のControlの6日間の増殖率は10倍、今回のは41倍という違いがどの程度こうしたresponseにひびいてくるかどうか?
2)MethylandrostenediolとMethylandrostanolone
前号ではMethylandrostenediolについて若干報告しましたが、その時予想された増殖促進傾向はその後の実験ではあまり著明でなく、4日あるいは6日後においてたかだか10〜20%に過ぎませんでした。この培養での6日間の増殖率は17倍でした。
3)4-chlorotestosterone
これは比較的新しいそしてかなり強力なanabolic
steroidであります。ただこれはエタノールにあまり溶けないのでCMCを使ってsuspensionを作り、これを培地に加え所定の濃度としました。CMCを加えない群も作ってCMCの影響もみました(CMCのMfinal
cocentrationは0.005%です)。
結果はこの4-chlorotestosteroneでも何の影響も認められませんでした。ただここで言えることは、1.0及び10mg/lを比較して4位にchlorが入っただけで明らかにTestosteroneとはちがってくるということです。この培養での6日間の増殖率は41倍でした。
次にprogesteroneの場合と同じ発想で、BS濃度を2%にして全く同じ実験をしてみました。 結果は、10mg/lでのTestosteroeの増殖抑制作用が著しく顕著になると同時に、この濃度では、前実験では増殖抑制作用を示さなかった4-chlorotestosteroneも同等の抑制作用を示しました。増殖促進作用は4日後に20〜36%であまり顕著ではありませんでした。この培養でのControlの6日間の増殖率は16倍でした。
2)発癌実験
前回にstartのもようだけ書きましたものは、何らpositive
dataを得ることなく終りました。申し訳ないころ乍ら、その後進捗をみておりません。
《伊藤報告》
◇発癌実験
其后4回実験をstartしました。呑竜はなかなかうまく子供を産んで呉れませんので、今までのところ雑系の20〜25日のものを使って居ます。
主としてDABの作用日数について検討を行う積りでやって居ますが、回転培養での細胞の増殖の判定がむづかしく困って居ます。explantの周囲に何か出来て来る事は確かだし、而も培地のpHは2日目毎の培地交換でも相当に低下しますから、細胞が増殖して居るのだろうとは思ふのですが、試験管のまま弱拡大で検鏡したのでは、細胞である事の確認が出来ません。そうして居る間に日数も経つ事ですので、subcultureに移してみて居ますが、これが成功せずどうも弱って居ます。
先日来、Leberの一部を使って静置培養の方も始めました。細胞はとれて居る様ですので、此れにもDABを添加してみたいと思って居ます。
此んな事で仲々はっきりしたDataを御報告出来ませんが、今度の会合の時にもう一度皆様のお話をよくきき、又高岡さんの実験もみせて戴いて、判定の基準を確認させて戴き度いと考えて居ます。
◇増殖促進物質
腫瘍よりのS2分劃と、正常肝よりのS2分劃との間に、その高濃度による増殖抑制の有無、加熱に対する態度等で、何か差異がありさうです。此の点、次の会合で詳しく御報告出来ると思います。
又AH-130よりのS2分劃のPurificationは、従来のIRC-50
Columnによる分離が思はしくありませんが、CM-Cellulose、DEAE-Cellulose
Columnを用ひての分離を開始しました。此れも近くDataが出る筈です。
◇高井君のところで、Actinomycin Sarkom(マウス)の培養株化が出来ましたので、今度の癌学会に出す積りです。これは復元した際の態度等で、以前の人癌腹水由来の細胞との比較に利用し度い考えです。
◇別に、前報でも一寸報告しておきましたmytomycinのin
vitroでの作用機作について、Dose、添加時期、添加時間等の検討をして居ますが、此れもまとまれば癌学会に出したいと思って居ます。
【勝田班月報:6208】
《勝田報告》
発癌実験だけについて報告します。
表1はこれまでの月報でも報告したものですが、血清の変ったC#8〜#10あたりでは増殖が見られなかった他は、一般にDABを用いた実験群の方が増殖を起す培養の数が対照より明らかに多くなっています。C#1のDABを12日使ったのは、やはりDABの使いすぎによって増殖が抑えられたのだと思います。C#6は9日ラッテ肝で、対照もふえてしまい、これは今日まで実験群と共につづいていますので、C#17の細胞ととも、各2匹宛の4日ラッテに脳内接種しました。7月27日に、10万個入れました。従ってラッテは計6匹使った訳です。(その後、8日後までは未だ変化を肉眼的に認めず)とにかくC#6の対照は、対照としては珍しく培養の続いている例で、そのまま株化するかも知れませんので貴重な例です。
第2表は、その後の成績で、やはり対照より実験群の方が増殖をはじめる培養が多く、C#17では対照は0/5となっています。この前の連絡会のとき、DABをまず溶くときの血清の種類の検討が必要かも知れない、とお話ししましたので、C#13ではラッテの血清にとき、あとの培養にも20%ラッテ血清を用いてみました。しかし結果は反って悪く、1本も増殖が起りませんでした。次のC#14ではこのとき作ったDAB-RSを使い、それに培養用としては仔牛の血清(CS)を用いました。その他にはじめから仔牛血清にといたDABも作って、同時に実験をはじめたのですが、結果はラッテ血清を使うことは全く意味がないことが判りました。その他、仔牛血清で判ったことは、成牛血清に比べCSの方がむらが少いということです。BSでも良いのは良いんですが、たまに悪いのがあるので困る。CSだとそれが少いという訳です。C#16→#18では同腹の仔ラッテを次々と使って、日齢のeffectも同時にしらべました。すると18日ラッテがいちばん良さそうなことが判りました。つまりControlは0で、実験群の率もMaxの訳です。第2表の実験ではどれも11日にふえ出しているのが面白く、大体DAB-Liver系の発癌実験も基礎コースが終った感です。C#18では、第15日になると増殖本数がふえました。今後は復元実験に主力をおきたいと思っていますが、ラッテの出産に左右されるので困ったものです。(このあとスライドでDABにより増えてくる細胞の位相差像を展示)TD-15瓶なのでピントが鮮明でないが、明らかに実質細胞系と思われる細胞の集団から成っている。このような細胞が活発に増えてきたときだけ(+)としている。(箒星様の細胞はこのように相互に石垣状に密接しないし、増殖しているかどうかも判らない。運動力が大きくて、explantからmigrateするだけかも知れない。たとえ少しあらわれても継代すると姿を消す。
Ratの日齢と増え方の関係ですが、これはいままでのデータを全部あつめてみると、それ以上に他のfactorが働いているような気がします。C#7などは1.5月でもうまく行っているのですから。
:質疑応答:
[山田]継代はトリプシンを使うのですか。
[佐藤]トリプシンを使うと、Exp.とControlの差がなくなるように感じますが・・・。
[高岡]初代→第2代のときはトリプシンを使わず、ラバークリーナーで落しています。その方が良いようです。以後の継代では、細胞が硝子面に一杯になったとき、トリプシンをうすくして使っています。大体他の場合の1/2位の濃度です。
[山田]継代したあとの成長の悪い場合、それはinoculum
sizeの大小によるのか、それとも細胞自体のgrowth
rateの差なのか・・・。
[勝田]初代から第2代に移すときはexplantsをかき落して入れるからinoculum
sizeの問題ではないと思います。
[伊藤]スライドの中に見られたAtypicalの細胞は実質細胞ではないのですか。
[勝田]大部分は実質細胞と思いますが、他のものも若干混っているかも知れません。
[佐藤]細胞の形態は自分のところで生えてくるのと同一の気がします。うちでは最初の4日間位迄はExp.とCont.は差がありません。
[山田]いま見せてもらったデータの限りでは、Exp.群とControl群との間に差のあることは明白だと思います。その意味付けを考える必要があるでしょう。
《佐藤報告》
1.発癌実験
前報に引続いて行った実験を記載し、後に本日迄の結果を纏めます。
◇C24(1962-7-6=0日)ラッテ生後28日
対照、メチールDAB4日投与、メチールDAB8日投与の3群を行った。
第20日の結果は、Cont.0/6、メチルDAB 1/6(4日)、メチルDAB
2/6(8日)
但し陽性のものも、DAB投与の場合現われる円形乃至菱形の細胞のSheetと異り、箒星状細胞に近い偏平な突起を有する細胞が連なって増殖することが特徴である。
◇C25(1962-7-11)ラッテ生後33日
5群に分けて実験し、第16日の結果は、対照
0/6、DAB8日 1/6、メチルDAB4日 0/6、8日
0/6、12日 1/6
DAB8日のものは類円形のものであるが尚Sheetは小さい。メチルDABのものは◇24に現れる細胞と同型でいわばRetothel
Sarcomaに相当する細胞である。
前記二つの実験は対照の結節発生率を0%として実験群の陽性率を高める積りでラッテの生後日数をのばしたが、対照は予定通り0%となったが、実験群も陽性率が低下した。従って現在私が行っている作用方式では呑竜ラッテで23〜27日間が差が最も現われ易い。
メチルDABに関して前報◇C21及び◇C22の観察をつづけた。ラッテは同腹生後25及び26日である。
◇21は其の後、第23日で対照 2/6、DAB4日 2/6、メチルDAB
4/6となった。
◇22は其の後、第24日で対照 1/5、DAB4日 2/5、メチルDAB4日
3/5、8日 2/5、12日 2/5となった。但、◇21と◇22例はどういうものか細長、云わばfibroblastic
cellの発育が旺盛であった。◇21と◇22のメチルDABの一部は継代されたが、細胞はDAB型と異り突起の多い箒星形に近い細胞が増殖している。現在の結果ではDABとメチルDABの間には増殖する細胞形態にかなりの差があるが、細胞増殖の差は著しくない。
◇7'此は廻転培養を長期つづけた所謂静止型の肝細胞がDAB投与で変化するかを見たものです。1962-4-12=0日、生後79日±1日を廻転培養し、第59日目にDABを4日間投与したが、其の後33日の観察に変化は認められなかった。
ラッテへの復元
1)◇8 3代(開始より66日目)Exp.Cont.共、同腹ラッテ脳内へ接種、1962-7-28日
現在12日目変化なし
2)◇10 3代(開始より61日目)Exp.Cont.共、同腹ラッテ脳内に接種、1962-7-28日
現在12日目変化なし
上記2群は、ラッテが2ケ月を経過して大きくなりすぎでないかと思われるので今後は幼若なものに脳内接種を行う予定
継代の現状
現在◇8、◇9、◇10、◇17、◇20、◇23で続行中
:質疑応答:
[山田]メチルDABがin vivoではCholangiomaを作ること、これとDABとの差がin
vitroで出ているのかも知れぬということ。これはDABの濃度などを、たとえば、上げたりするとあのような箒星形の細胞が出てくるかも知れない。この箒星形の細胞は生体染色が可能でMacrophageではないか、という気がします。
[佐藤]DABのとかし方には問題があるように思います。CH3DABは今後はやめてEpithel
cellを作るDABだけで追いたいと思います。それから肝臓内接種はどうでしょうね。
[勝田]それは私も考えたことはあるのですが、うまく刺したところにとどまってくれているかどうか、ということと、抗体の問題がありますね。
[伊藤]AH-130だとPortaderに入れるとHepatomaを作ります。
[佐藤]静止形肝細胞(59日ラッテ)にDABを4日与えましたがnegativeに終りました。うちのデータが、勝田さんのところほど、対照との差がはっきり出ないのは、Ratのせいでしょうか。techniqueのせいでしょうか。それからDABを長く入れると悪いというのは・・・。
[山田]やはりtoxic effectに働く可能性があるのでしょう。
[佐藤]DABの破壊物が作用している場合(in
vitro)とDABがintactで働いている場合(in
vivoのexp.)とでは相違があるのではないでしょうか。
[伊藤]復元接種する場合、沢山の細胞を得るのに時間がかかって、そのため細胞のalterationの可能性がありますね。
[勝田]だからintracranialの接種をしようという次第です。細胞がばかに少くて良いというので・・・。
[山田]Ehrlichだと100ケでheterotransplantationが効きます。
[堀川]一気に大量を入れた方が良いと思います。Selective
mediaとして生体を使うのが良いでしょう。
[勝田]脳内接種でそこにtumorができた場合、継代はどうしますかね。
[山田]Carcinomaならば継代は可能です。TumorができたかどうかはHirnの場合はすぐ判ります。切ると色がちがうし、細胞が多いですから。ホースターのdataでは、シリアンハムスターの復元接種で1万個がcriterionになっています。
[勝田]それから目下のところでは肝組織を切出して、explantで培養していますが、explantの中にDABが仲々入りにくいかも知れぬということを考えると、これは余りefficiencyの良いやり方ではないから、将来は細胞をばらして培養することも考えなくてはならぬでしょう。
[山田]細胞によるConditioningの問題があって、増えるtubeは増え、駄目なのは駄目のような気がしますが。
[堀川]動物の方のConditioning、たとえばX線やCortisoneによる前処置などを考えては・・・?
[高岡]Ehrlichを100ケ入れて何日位で増えてくるのですか。
[山田]多分1週間位でしょう。
[堀川]LにDAB処理して100万個、Ehrlichの株JTC-11を10万個と夫々マウスにIPで入れたのですが、Ehrlichの方だけ20日〜30日で死にました。
[山田]脳内接種というのは色々な意味で良い接種部位だという話です。
[佐藤]Ehrlichは1ケではつかんのですよ。
[山田]一般にLeukemia系統はうまく行きますね。
[堀川]制癌剤として働き、また発癌剤として働くならDNAなどに働くのでしょうか。
[山田]DABは蛋白とくっついて働くと云われていますが、大部分はそうであってもDNAの方にも働くかも知れませんね。
[堀川]Lか何かを使って、DABの作用機構をしらべるべきだと思います。
[勝田]それも勿論良いことだし、やらなくてはならないことですが、今の段階では何といっても完全に癌化させ、復元も陽性にさせて、それからゆっくり色々の解析に入れば良いと思うんです。とにかく癌化させることが第1でしょう。
《高木報告》
1)発癌実験
前報に報告した通りですが、これを括めると次の如くなります。
Exp.5、10、11は生後21、21、7日のW-K-ratの肝臓にDABを処理したが、増殖細胞は得られず。Exp.6、7、8、9は生後8〜15日のG-hamsterから夫々腎臓と肝臓をとりStilb.を処理した。実験によっては増殖系細胞が得られる。
考案:以下細胞種略名・A細胞は石垣状に増殖を示す本命と思われる細胞、B細胞は箒星状、Eはepithelioid
cells、Fはfibroblast cells
A.Golden hamster肝実験群
(1)有意差を生じせしめるためには薬剤(stilb)の作用期間は4日より7〜8日の方がよいのかも知れない。或いは動物の日齢が関係しているとも思われる。
(2)DABを作用せしめた時、18日以後目立って細胞の発育が不良になったのは偶然か、または発癌剤のちがったことによるものか・・・? 大体において20〜25日以後は細胞増殖が止まる。
(3)A細胞の生え始めは大体10〜15日の間、日齢の若い方が生え始めも早いか?
(4)hamster肝の場合はF細胞の増殖殆どなし、大抵は生えて来るのはA細胞であるが、時としてはB細胞がpseudo-sheet?を作ることあり。
(5)pipettによる継代は残念ながらすべて不成功・・・時期の問題がある。
B.Wistar-King ratの肝実験群
(1)ratの日齢如何をとわず、これまで行った処ではhamster肝に比してA細胞の増殖がおこりにくい様である。これはDABを使用直前2mg/mlの原液から培地でうすめるためかも知れない。
C.Golden hamster腎実験群
Exp.は2、4、6、7、8、9で、動物の日齢は生後8〜24日、Stilb.4〜9日の処理である。培地は2〜20%血清を添加したLT、結果は継代後6実験中4実験が有意であった。
考案:
(1)培地は20%LTより2〜5%LTを用いた方が、少くとも培養の初期にはE細胞がF細胞ににくらべてpredominantである。しかし後者の培地を用いても5〜8日目頃からボツボツF細胞がまざって来る。
(2)Stilb.10μg/ml加えた方が実験群における細胞の増殖がよい様に思われた。
(3)大体において継代後、実験群の方が細胞の増殖がよい様である・・・有意!。
(4)実験8において継代後は実験群、対照群共細胞の増殖が同様にみられるのは動物の日齢が若いためか?
(5)継代に都合のよいのは10〜20日(12〜18日)目位と思われる。
以上、今日までのdataをみて感ずいたことをそのまま書きました。勿論この考案の中に書いた或物は今後実験の発展に伴って考えなおされることと思います。なお勝田班長は仔牛の血清が成牛の血清より良い様に申しておられますが、私も同様に考えています。先日奥村班員の処からCalf
searumをもらってきましたので、それを使ってみましたが、こちらで使っている成牛血清に比較して非常に細胞の発育はよい様に思われました。私の処では未だ発癌剤を意識的に血清加培地に混じておいて、細胞に作用させる方法をとっておりません。今後はそれをやってみたいと思っております。
2)免疫学的研究
A.血球凝集試験
(1)予備試験
血清の稀釋液中のMg++の有無が凝集価に及ぼす影響をみた。血球はO型人血球、免疫血清は抗Chang
Liver、JTC-4、FL細胞家兎血清を用いた。なおMg++(-)の群では血清は4倍稀釋から、Mg++(+)の群では20倍稀釋から行った。右図の如く、凝集価そのものは明らかにMg++(+)群において高くなったが、凝集価の上昇度(前、後血清で)はあまり変りなかった。しかしMg++を含む稀釋液(Dulbecco
& Vogt処方)を用うれば、i)血清が少量ですむ、ii)判定が短時間で出来る、iii)判定が容易である、等の利点がある。以後はMg++を含む稀釋液を用いる予定である。
(2)予備実験
細胞の免疫血清を得るのにモルモットを用い得れば安価であり、しかもBrandらの方法で免疫すれば細胞も少くてすみ簡単である。従ってこの方法を追試してみたが、彼らが免疫に用いた細胞の前処置に使用しているmagnetostrictorがないので、細胞を凍結融解し、更に乳鉢ですりつぶしたものの遠沈上清を注射してみた。しかしながら抗体の上昇をみることは出来ず、更に細胞の前処置につき検討中である。
なおFL細胞の各分劃についてもゲル内沈降反応の準備をすすめている。
B.蛍光抗体法
免疫血清:抗HeLa、Chang liver、FL及びJTC-4家兎血清
細胞:HeLa、Chang liver、FL及びJTC-4細胞
方法:抗家兎γglobulin山羊血清(labeled)は使用前、径約1cm高さ10cm位のSephadexのカラムでpurifyし、次に先ず0.1g/mlserum、更に0.06g/mlserumのrat肝のaceton
powderで吸収したものを用いた。
染色に際しては抗家兎γglobulin山羊血清(labeled)は6倍に、また免疫血清は3倍にPBSで稀釋して使用した。染色時間は1時間、洗滌は30分間行った。染色度はHeLa細胞に同抗血清をかけたものの前を(+)後を(+++)としてこれを基準にした。なお判定はこの染り方の差をとった。
結果:種属特異性があることが分った訳であるが、それと別にこのdataに関する限りHeLa細胞とFL細胞のつながりが比較的少いことが分る。なお広汎に実験を進める予定です。
:質疑応答:
[勝田]継代法、第2代は静置ですか。(腎のトリプシンとMagnetic
stirrerのことを指す)
[高木]そうです。
[勝田]ハムスター腎とStilb.の組合せは有望のように思われますね。
[佐藤]培地に入れたDABを果して細胞がとり込んで使ったかどうか、培地中のDABを何かで発色させ、比色で測ってみる手はありませんか。
[遠藤]さあ、知りません。
[佐藤]復元が確実に行ってくれれば良いが、もし仲々行かんような場合のことを考えると、他の早道を探してみたら・・・。
[伊藤]復元以外に何か良い方法があるかどうか。
[堀川]やっぱりまず復元してみることが第1でしょうね。
[山田]メチルコラントレンは胃に入れると、数日後にもうその胃に変化があるが、その機構は判らないし、DABを喰わせて解糖その他をしらべても、それはただ量的意味で癌細胞をつかまえているだけのことで、質的には生化学的につかまえてはいないですね。
[佐藤]若いラッテの肝の培養にDABを加え、そうするとExp.もCont.も両方出てきますが、それを両方とも復元してみるのは意味があるんでしょうか。
[勝田]それもやってみる手はありますが、両方とも生えるのではDABによって細胞の性質が変ったということにはならないですね。たとえ変っていたとしても掴まえにくいし・・・。
[山田]今日色々話に出た内で、DABの溶かし方の問題がありますね。使うときにうすめるか、培地でうすめて保存しておくか。
[勝田]うちのたった1回の経験ですが、使うときにうすめたのは生え方が悪かった・・・。
[山田]それからRatのageのことで判ったのは、若いのを使うとExp.もCont.も両方とも生えてくるが、年とったのは両方生えない、ということですね。
《山田報告》
マウス肝組織初代培養に対するDABの作用
培養法:高岡さんの記載による。(月報No.6203)細切肝組織を5〜10個、角チューブ内面におき、付着後培養液を1mlづつ加える。
培養液:Exp.#1 0.5%Lactalbumin hydrolyzate
in Hanks+20%Calf serum、Exp.#2 TC199+20%Calf
serum、液替は週2回
DAB:100mg in 5ml of Tween20+45ml of dw(2mg/ml)を保存液とし、使用の都度、培養液で稀釋し、最終濃度を1μg/mlとした。
判定:Ep cellの層状のoutgrowthの出現をもって(+)とした。成績はすべて初代培養による。
結果:8実験の中、マウスの日齢が3〜14日の5例中3例はExp.Cont.両方が+で、19〜26日の3例は両方とも増殖しなかった。
:質疑応答:
[勝田](増殖しないというところで)血清のlotを変えてやってみなかったの。
[山田]変えてみる予定です。
[高岡]牛血清にはよくむらがありますが、仔牛血清なら良い筈ですがねえ。
[勝田]血清の非働化は、一旦やっても、そのあと保存したときは使う直前にまたやらなくてはいけないと云いますね。
[山田]血清学的にはそうされていますが、私は全然非働化しないで使いました。
[佐藤]DABが果して本当にとけたかどうか、その化学的な基準か何か、可溶、不溶を決めるものはありませんか。
[遠藤]さあ、知りませんねえ。溶けるときはさっと溶けてしまうし・・・。肉眼的に見て決めるだけでしょう。
[佐藤]溶けているかどうか、ということは非常に問題になると思いますが、溶かし方をみなさんどうやって居られますか。
[山田]Tweenでといて、水を加えるともうそのとき結晶が出る・・・。
[勝田]水? そこは水ではなくてSalineを入れるように月報にかいた筈だが。
[高木・高岡]Salineを加えると、そこでは結晶は出ない筈です。
[勝田]うちでは前の月報にかいたように(血清20%+ラクトアルブミン水解物0.4%+SalinrD)の培地を加えて冷蔵庫で保存しています。
[佐藤・山田・高木]うちでは濃いまま保存し、使用の度にうすめています。
[勝田]さっき報告した内の1例のように、そんなところの差が成績にひびいているのかも知れませんね。
《伊藤報告》
§発癌
前回の報告に書きました如く、RollerTubeによる発癌実験では細胞増殖の判定に自信がありませんでしたので、その方は今回上京した際に、もう一度高岡さんのやって居られる実物を見せて戴いてから、改めて開始する事にして、それ迄は前回にも一寸書いておきましたラッテ肝のtrypsinizeで得た細胞の静置培養法の方に手をつけて居ます。ただ、今迄にやったRollerTube法でやったものをsubcultureしたものに一部colonyの発現をみましたので、これは続けて居ます。
静置培養の方は3度試みて、3度共相当数の細胞を得て居りますが、2回目と3回目のものとでは、いささか細胞の形態が異なりますので、発癌実験に使う一方、必要な細胞をconstantに得られる様な条件を設定し度いと考えて居ます。
此の方法では比較的簡単に早く多数の細胞が得られますので、早い時期に復元出来るのではないかと予想しています。但し、発癌の有無は、復元以前の瓶内の観察だけでは恐らく不可能ではないかと考えます。
§促進物質
6月中旬頃よりL・P1の具合が悪くなり(これはどうもLactalbuminのせいだったようです。又、伝研から分けて戴き、それが殖えるのを待って居たりなどして、其後実験が進まず、癌学会の申込み原稿にも差支える程で困りましたが、やっと実験が始められる様になりました。CM-Celluloseによる分劃を検討しています。
:質疑応答:
[高岡]発癌に使っているのは何日位のratですか。
[伊藤]20日、28日位のratです。
[山田]トリプシンの濃度は?
[伊藤]0.25%です。初めの10分間に出るのは棄て、あと20分間位のをとります。血液成分は特に除く方法はとっていません。
[山田]肝実質はトリプシンに弱いですからね。
[勝田]うちでもexplantで発癌に成功したら、次はばらばらにしてやりたいと思っていますが、それははじめに目ざす細胞以外のものは除いてから使いたいと思っています。
[高岡]ばらばらにした細胞は増えるのですか。
[伊藤]どんどん増えます。ですから早くに復元してみたらどうでしょう。
[勝田]あまり早く復元するとDABが残っていたからと云われる難点があります。Ratの種類は?
[伊藤]呑竜ですが、あまりよく増えません。
[佐藤]うちのはよく増えます。やっぱり呑竜ですが。
[勝田]山田班員は培地にラクトアルブミン水解物は使ってみなかったのですか。
[山田]初めにやってみたのですが、これはratのageが大きすぎて、生えなかったのです。
《堀川報告》
1)発癌実験
Exp.3:前号のExp.3のその後の結果では(3)と(5)はX線doseが大きかったため、その後も分裂増殖は認められず。(おそらくこのものは駄目と思われる)
Control(1)と(2)(4)の間には培養開始後26日(その間Subculture3回)になる今日においても増殖において大した差は認められないで僅かにfibroblasticな細胞が増殖を続けている程度である。
復元実験は現在の段階では細胞数が少ないため行えない。
Exp.4:Exp.3で使用したX線doseをすべて150γに落し、その他は同じ系で実験を開始した。今回はX線doseは強くない様で細胞の死滅は認められない。5日目のSubcultureするまではControlに比べてExp.区がactiveに増える傾向にあったが、Subculture後この差はなくなり、7日目の現在に至る。痛切に感じるのは、この段階でどの区の細胞がactiveに増えているかと云う決め手の無い事で、同じ実験区の内にもvariationがあり、よろこばされたり、がっがりさせられる事が多い。とにかく復元実験で勝負するのが一番早いと云う結論が得られる。
2)培養細胞における喰食性(Cytosis)と形質転換の試み。
最近新しい言葉として用いられる様になった細胞の喰食性(Cytosis)ト云う言葉は広い意味でpinocytosisとphagocytosisを含んだものであってpinocytosis(Drink)、phagocytosis(Eat)ともに古くから各種細胞で明らかに認められてきた現象である。この細胞の喰食性を利用して培養下の正常細胞を腫瘍化させようとするのがこの仕事の目的である。しかしこの種の正常細胞を腫瘍化させるにあたって、現在の段階では最後の決定的なものとなる決めてを探すのに苦しい。
(1)正常細胞が癌細胞の核なりあるいは細胞質成分の一部を喰食する。
(2)喰食したものがhostの細胞内の代謝系路にどの様に喰い込んで行くか。
(3)うまく代謝系路に喰い込まれていった癌細胞の一部成分が細胞分裂によって子孫にどの様に伝えられていくか・・・を知らなければならない。
この様な目的から次の3つの系を使用した。
(1)便宜上、正常細胞としてL細胞にEhrlich細胞核を喰い込ませる事によりL細胞を癌化させる。
(2)2000γ照射されたL細胞へ正常L細胞核を喰い込ませる事によって巨大細胞化を防止する。
(3)抗原性を有し、更に抗体産生能力を高度に持っているマウスSpleen
cellを正常L細胞に喰食させることによりL細胞の形質を転換させる。
現在の段階までに得られた結果をまとめると、
(1)正常L細胞がEhrlich細胞核を喰食するのは、全L細胞の5%前後で、この喰食性はL細胞を2000γX線照射あるいは紫外線照射(15W、15cmの距離で30秒照射)することによって2倍まで高められる。
(2)正常L細胞がmouse spleen cellを喰食するのは10%程度で、この喰食性はL細胞を2000γ照射することによって28%程度まで高める。更に2000γ照射後3日後においてL細胞の喰食性は最大になることが分った。
(3)10000γ照射するとL細胞の喰食性は非常に低下する。
(4)L細胞が、H3-thymidineでラベルしたEhrlich細胞核を喰食することを、Autoradiographyで確かめた。喰食されたこれらEhrlich細胞核が以後どの様にL細胞の内へdistributeして行くかは現在追跡中。
(5)2000γ照射したL細胞へ正常L細胞核を喰い込ませることによって巨大細胞化を防止する能力はある様だ。
以上、漠然とした事しか報告出来ないが、現在までに得られている主な結果である。発癌実験と同様に更に今後の実験に依らなければならない。然し異種細胞内へ入った核酸なり蛋白がその細胞内でどの様な行動をするのかに大きな興味をもっている。
:質疑応答:
[勝田]Mouse spleenに2,000rかけたものをLに入れた場合、Lが巨細胞になるそうですが、核の数は?
[堀川]1つです。
[勝田]Mouse spleenにレントゲンをかけたことにより、何か巨細胞にするようなものをSpleen
cellが出すように変るという可能性もありますね。
[堀川]問題は、癌化の場合も5%位としても、それをどう旨くつかまえて復元するか、ということですね。Spleen
cellsをratに入れて抗血清を作り、それをspleen
cellにかけて抗原抗体反応をみることもやりたい、と思っています。
[山田]Spleen cellとLとが混合培養になるという危険は防げますか。若いのを使うと箒星のようなので継代可能なのが残りますが・・・。
[堀川]培地をかえるとき、よく洗ってやると数日でspleen
cellはすっかり無くなります。
[山田]リンパ球系のはなくなっても、箒星のようなのは残ると思いますが・・・。
[勝田]その可能性はあり得るね。それから発癌で、DABをやっておいてあとからレントゲンを弱くかけるとどうだろう。
[堀川]よほど低いdoseでやらないと、primary
cultureのものはすぐやられてしまいます。
[佐藤]増殖していない細胞だとレントゲン耐性があるのだから、細胞を冷やしておいて、レントゲンを弱くかけたらどうだろう。
[堀川]やっぱり駄目です。
[佐藤]レントゲン耐性の細胞を復元すると、つくでしょうか。
[堀川]Lの場合にはつきません。レントゲン以外の耐性のものもつきません。
[山田]うちで作ったレントゲン耐性のHeLaは継代しているうちに耐性がなくなってしまいました。
[堀川]果して本当にγ耐性を獲得したのかどうか。
[山田]九大癌研にいる遠藤のところで、4ニトロキノリンを入れると核内に封入体ができる、それが癌化とどういう関係にあるかは判っていないが、そのようなことが判っていると、培養で割に簡単にキャッチできるのではないでしょうか。生体との関係についても意味付けて行けると良いと思います。
[堀川]NatureにPiggy back systemというのが出ていました。マロン酸は生体では呼吸阻害をするが、細胞内へは入らない。in
vitroでポリスチレンその他を入れてやるとpinocytosisでポリスチレンが入り、あとにつづいてぞろぞろとマロン酸が入るというのです。高濃度では入るが低濃度では入らぬというのも、また、あるかも知れませんね。
[山田]ハムスターのpauchに入れると、1万個で癌ならつくが、正常ではつかぬと云われていますね。(Foley)。
[勝田]この段階で癌学会に出して良いかどうか考えて下さい。
[山田]勝田氏のところのデータは、現象的にははっきり差が出ているから、出して良いと思います。これは株ではなく、初代でやった、というところにまた意義があると思います。
【勝田班月報:6209】
発癌機構の考察:勝田甫
肝細胞にDABをかけると、それまで増殖しなかった細胞が突然増殖をはじめる。明らかに何らかの変化が細胞内に起った証拠である。しかしその細胞を動物に復元接種してみると腫瘍を作らずに消えてしまう。何度くりかえしてみても同じことになる。
ここら辺りで一度、細胞の発癌機構についてじっくり考えてみる必要があるのではなかろうか。発癌は明らかに細胞の不可逆的変化に基づく。そしてその変化は細胞のおかれた環境により淘汰される。悪性化がうまく行かないのは、細胞の変化が不十分(或は不適)なのか、折角悪性化したのが淘汰されてしまうのか、そのどちらか、であろう。細胞の変化について考えると、発癌にいたるのに、細胞は50位のステップを経るという説も最近云われている。動物実験でDABを用いて発癌させるのに何ケ月もかかるところからしらべられたのであろう。動物では、我々の実験とことなり、長い間DABを食わせる。これはどういう意味があるのだろうか。培養のように、あとから余り与えると、折角変った細胞に反って害になる、ということが無いのだろうか。第1段の変化から更に先に進ませるのに、同一物質で充分なのだろうか。しかしその変化に方向性のあることは推察できる。前に報告したが、DABを作用させて出てきた培養細胞に、胆管系の細胞の増殖を促進するような薬剤で追打ちしたところ、新生していた実質細胞がほとんど消え、箒星状のが残った、という事実からである。従って第1撃を加え、以後追討ちをかけるときは、同一方向の物を使う必要があろう。たとえば上に記したような物質はメチルDABのあとに使った方が向いていると考えられる。具体的方策として、とにかく我々はいま一歩のところにきているのであるから、追討ち剤についてよく考え、よく撰んで、色々やってみる必要があると思う。次に淘汰の問題について考えると、いま使っている培地はたしかに良い培地で、色々な細胞の培養に使える。しかしそれ故にこそ反って、ラッテ体内では生きられぬような細胞まで増殖させてしまっているかも知れない。また、これは逆の話であるが、同じくDABを使ってラッテに作った肝癌の一つ、AH-13、これはきわめて悪性で、腹腔内で腫瘍細胞があまり増えない内に、4〜5日でラッテが死んでしまうが、この細胞はいま使っている培地ではよく増えてくれない。この辺ももう一回よく考え直してみる必要がありそうである。
《勝田報告》
A)発癌実験:
これまでの月報に全実験例を記載してきたので、今月は現在まで続いている系列だけを拾って報告する(表を呈示)。細胞はすべてラッテ正常肝。薬剤はDABである。
C6のExp.群の方は明らかに株化した模様であり、対照群もなりかけている。Exp.群の188日(6代)の培養にDAB1μg/mlを再び4日間添加し、以后今日まで30日経つが著変を認めない。
C16の10本の内5本について、1ケ月后にDAB1μg/ml添加(4日間):今日まで著変なし、3ケ月目に再びDAB第3回目処理をおこなっている。
C18 Subcultureした残りを約5万個/rat宛、9日rat2匹に脳内接種し、現在7日を経ているが未だ変化なし。
C19、C20は念のため、もう一回年とったラッテの肝で発癌を試みてみた。しかしやっぱりうまくないことを確認した。
B)細胞株の凍結保存:
今夏の学生実習に2年生にやらせた偵察の結果では、細胞はJTC-1、2、8、12、4D、L、L・P1等であるが、次のようなことが判った。判定はニグロシン染色による生細胞算定と培養によった。
a.凍結の最大のコツはSlow freezingである。(Parkerの本にもかいてあります)
b.(メタノール+ドライアイス)系でなくとも魔法瓶にドライアイスを入れただけで充分。 c.Cell
suspensionはアンプレに入れて封じたり、厄介なことをしなくても、短試にダブル栓をかけ、断熱材で包み、プラスチックの袋に入れただけで大丈夫である。
d.保存液は夫々固有の培地にGlycerol或はDimethyl
sulphoxideを10〜20%に加えるだけ。前者はこれまで一般に用いられてきたが、后者の方が少し成績が良いようである。
e.凍結保存中に絶対にドライアイスを絶やさないこと。10年続いた株も1日の不注意で世の中から姿を消すことになる。
f.無蛋白培地継代の細胞は目下のところ未だ旨く行かないが、血清含有培地継代株は比較的容易で、JTC-12(サル腎)などは90%以上の細胞が生き返らせられる。このような場合は"淘汰"などは心配ないことになろう。
この実験は当室の必要性からも、今后さらに続け、実用的にも採用して行く予定なので、さらにテータが得られ次第、月報に報告することにする。
C)ラッテ腹水肝癌AH-13の培養:
AH-130とまぎらわしいが、この細胞は悪性度が高く、腹腔内でtumor
cellsが余りたまらない内に4〜5日でラッテが死んでしまう。腫瘍の悪性原因を拾うと、その内の主なものは二つで、1)活発な細胞増殖、2)腫瘍細胞の毒性作用(toxohormoneのような)であるが、このAH-13は后者の方が強いらしい。その意味でparabiotic
Cultureに使ったら面白いと思って手をつけることにした。まだ血清を比較する位のところであるが、硝子壁にほとんど附着しない細胞なので余り有難くない。CS20%+LDの培地で、4日后に2〜3倍位だが、後は平らになってしまう。RS50%だと約3.7倍(4日后)。それでもマウス白血病のように1日位でぐっと下ってしまって、何をやっても駄目とはちがい、あと血清濃度や色々いじくると何とかAH-130のようにふえるのではないかと期待している。この細胞は壁につかないので、母培養せずに、すぐ実験培養に移している。
D)サル腎細胞株(JTC-12)の無蛋白培地内培養:
JTC-12を1962-2-7、継代第19代のものを(LD)だけの培地に移した。細胞は増えず、細胞質も次第にやせて行った。-2-15に(PVP0.1%+BS透析外液10%+Lh0.4%+D)の培地に変えたが大した効果はなかった。外液を用意することは大変なので、-3-12に再び(LD)だけの培地に戻し、相不変週2回のRenewalだけは続けてきた。現在約7ケ月経っている訳であるが、-9-11にTD-40瓶の底面の一部をピペットでかき落しRoller
tube2本に移してみたところ、かき落した方も、残りのTD-40の方も共に少し増殖の兆候を示している。この分ならば有望であろう。1回でもトリプシン消化して継代できれば、あとは大丈夫なのであるが、目下のところはまだそこまでは行かない。これはウィルス屋の方へのサービスの訳で、できれば合成培地まで持って行きたい訳である。
なお原株の方については、今夏学生実習で大分きれいな染色体の写真がとれるようになった。やはりdouble
constrictionがときどき見られる。
E)ラッテ肝細胞のカタラーゼ活性:
これも学生実習でやらせたのであるが、肝癌と肝細胞をparabiotic
cultureして両者のカタラーゼ活性が、対照の単独培養に比べどう変るかをしらべた。培養4日后の細胞を分析したのであるが培養の方はこれまで通り、肝癌は促進され、肝は阻害されるという結果になった。ところでカタラーゼの方は、対照でも大分活性が4日後には落ちていたが、Parabioticの方では測定不能まで落ちてしまった。しかもそれが肝癌、肝両者ともにである。この実験は現在関口君があとをつづけてやっているが、若し事実とすれば、肝癌はparaで増殖促進されていることから考え、カタラーゼ活性は増殖に対するeffectという現在の相互作用の観察点からはさほど本質的なものではない、ということになりそうである。
F)悪性化の検定にParabiotic Cultureも?
肝癌−正常肝のときのような特異的相互作用が現われるかどうか、DAB実験で株化してしまった細胞や、それに近いものと、正常肝とのParabiotic
cultureを目下はじめている。勿論細胞がかなりないと出来ないが、これが旨く行けばcellレベルでの悪性判定の一法に将来なり得るかも知れない訳である。
《高木報告》
1)発癌実験
前報につづき、継代したものについてその経過をみると
◇C6
(1)12日目に継代したものは、S群にのみわずかに細胞の増殖がみられたが、活発な増殖をみるには至らず、継代後64日目で実験を中止した。
(2)18日目に継代したものでも(前報の19日目とあるのは誤り)、やはりS群にのみわずかな細胞の増殖がみられたが、植つぎにたえず継代後58日目で中止した。
(3)22日目に継代したものでは、K群にのみやや細胞の増殖がみられたが、18日目に更に第3代に継代後は殆ど細胞の増殖なく、第3代継代後40日で中止した。
◇C8
18日目に第2代に継代したが、S、K両群共にF細胞の増殖がみられ、第2代継代25日目に第3代目に、S、K両群共3本から2本に継代した。継代後にS群の方がK群より細胞の増殖がよかったが、活発な増殖をみるには至らず、25日後に実験を中止した。
◇C9
(1)11日目に継代したが、K群にくらべS群にF+F細胞の増殖よく、更に第2代継代後24日目にS群は3本より4本へ、K群は3本より1本へ継代す。継代後S群の増殖は依然よく、24日後に更にS群は2本より3本へ、K群は1本から1本へと第4代目に継代する。第4代継代後はS群にのみ細胞の増殖がみられK群は4日後に実験中止す。
(2)14日目に継代したものでもやはりK群に比してS群に細胞の増殖よく、38日後更にS群は2本から4本へ、K群は1本から1本へと継代するも、S群の増殖は良好で、23日後第4代に継代す。K群は第3代において細胞の増殖みられず7日目に中止した。
◇C9'
38日目に、S、K群共に2本から2本に継代するも、細胞増殖はみられず。7日後に実験を中止した。28日目に継代したものも、前報の如く細胞増殖みられず中止。
◇C11(生后7日目のW.K.rat肝←DAB1μg/ml
4日間)
12日目、細胞増殖D、K群共にみられず。
19日目、D群2/7、K群1/7。
23日目、D群3/7、K群4/7に細胞の増殖がみられたが、これらは以後かえって発育不良となり、ついに37日目に実験を中止した。この原因は牛血清が不良であったためであることが分った。以后rat、hamster共中々仔が生れず、8月下旬にやっと以下の実験が出来た。
◇C12
生后24日目のgalden hamsterの腎にStilb.10μg/ml
4日間作用。
◇C12'
生后24日目のgolden hamsterの肝にStilb.10μg/ml
4日間作用。
◇C13
生后24日目のW.K.rat肝にDAB 1μg/ml 4日間作用
これら3つの実験ではStilb.DAB共予め培地に2日間とかしておいたものを用いた。但し、この3つの実験も始めの4日間◇C11の後半に用いたと同じ牛血清を用いたのは失敗であった。現在、◇C12ではE細胞の増殖が殆どにみられているが、◇C12'、◇C13では有意と思われる細胞の増殖は未だ認められない。
(2)免疫学的研究
CFmouseの血球を用いて、HeLa、FL、Chang、JTC-4、JTC-8(馬株)及びL細胞の免疫血清について血球凝集反応を行った(結果の表を呈示)。JTC-4及びL細胞の免疫血清について有意と思われるtiterの上昇がみられた。
《佐藤報告》
月報を書いて皆様にお届けする日になって研究事項がなく只今班長宛電話連絡いたしました処、處期の通りお叱りを受け当然の事と思ひました。5日伝研着の処も1、2日遅れる事と思ひます。全く小生の怠慢であります。御寛恕の程お願いいたします。8月中は実験はしないで、株其の他の必要事項のみに極端に仕事を制限して研究室全員の夏眠を行ったわけです。其の間9月只今よりの準備と継続の実験DAB発癌のみについて7月迄の実験結果を追加しておきます。
DAB実験の継代(実験番号は従来記載したもの)
◇ 8の実験群 TD1本5代、試験管 3本いづれも6代。
対照群 TD15 2本いづれも6代、試験管 7本5代乃至6代。
◇ 9の実験群 試験管 3代1本。
対照群 試験管 2代1本、細胞が少なく結節状に残存。
◇10の実験群 TD15 4代1本、試験管 4本いづれも5代。
対照群 試験管6本、いづれも5代。
◇17の実験群 試験管1本、3代、増殖は余りよくない。
◇20の実験群 試験管1本、上皮性だが増殖はよくない。
◇21の実験群 試験管1本、2代箒星状わづか。
対照群 試験管 細長い結締織系の細胞増殖中。
◇22の実験群 結節状にわづかに残存。
◇23の実験群 増殖が極めて悪い。
◇8と◇10の復元7月16日 実験、対照共に同腹のラッテに行ったが現在51日目陰性である
以上の結果から(1)大量の細胞を得る事は仲々困難な様に思う。
(2)メチルDABの細胞は予想外に増殖が悪い。
9月に入りましたら、実験の再開を致します。
《堀川報告》
東山の山なみもしだいに秋の色に染り、朝夕はいくぶんかしのぎやすくなりましたが、まだ日中の暑さは相当のもの、今年の夏の京都の暑さは格別で、じっとしていても身体から汗のにじみ出るような毎日でした。従って7月末から仕事の方も全然と云っていい位、はかどりませんでした。だから今月号にはこれと云った報告も出来ませんので、この夏にあった出来事を2、3お伝えします。
1)8月上旬に、ミシガン大学の教授でDr.Foxと云う人が来研しました。この人は現在
Drosophila(ショウジョウバエ)を使って蛋白合成を研究しております。方法はImmunologyのtechniqueを使って種的特異蛋白や雌雄特異蛋白の合成を調べております。今後はショウジョウバエのTissue
cultureをやってこの種の問題を更に詳細に解明すつ目的の様です。従来私共がこのような培養をやっていたものですから、これを利用するための来日だったようです。阪大での関西地区の組織培養談話会で仕事の紹介をやってもらいました。
2)次いで8月中旬にエール大学物理化学教室のDr.Kirksonと云う若い助教授が突如来研しました。この人はBacteriophageのDNAのfunctionとstructureを研究している人で面白く愉快な人でした。南禅寺の境内にかりた旅館があまりよくないといってぶつぶつ言ってましたが、自分で来日後交渉して決めて来た旅館だからどうしようもなかったようです。京都地区の若手組織培養グループの席上で仕事の紹介をしてもらいました。その後広島から別府に廻って帰国したようです。こうして暑い暑い京都の地で次から次とやって来た彼氏等のためにくたくたになって京都の名所案内も大変なものでした。今頃になって少し疲れが出て来た様です。
3)8月下旬の22日に、今度はうちの菅原教授がモントリオールで開催される国際放射線学会出席のため渡米しました。何だか来たり行ったりの目の廻るような多忙さです。でもうちの教授は9月28日には帰国する予定です。あちこちの大学および研究室を廻って来る予定にしておられた様ですから、又次号ででもあちらの様子を少しはお伝え出来るかもしれません。
仕事の方はこのような状態でほとんどまとまった事も出来ず以前の仕事の続きとして、[Exp.4]のX線照射とDABを併用処理したmouse
liver cellをCBAstrain(30日目)の皮下に復元しましたが、これは全然だめでした。少し細胞数が少なかったせいもありますが、今のところ復元は一つも成功しておりません。
実験もやりやすくなりましたので、これから又とりかかります。
これ以外にpinocytosisの実験の方は、EhrlichとSpleen
cellの抗血清をRabbitで作るのに暑い時を利用してやりました。これ位が夏場に出来た仕事です。そして何とかこれだけは作り上げました。これを利用して、今後はpinocytosisされた核なりcellがどの程度までhost
cellの形質転換に働くか、を決めたいと思っております。Spleen
cellは特有のAntigenを持つ様ですが、困った事にEhrlichとLcellは共通したAntigenを持っている様です。これからabsorptionによって特有なAntigenにしなくてはなりません。
とにかく夏の間はだめでした。何よりも身体だけまあ元気でやって来たことを幸にして、これからの秋にそなえて頑張ります。皆さんお元気で、尚黒田さんも9月末にはDr.Mosconaの所から帰国する予定です。又にぎやかになるでしょう。
【勝田班月報・6210】
《勝田報告》
A)発癌実験:
先月号に報告以后の実験の結果を記載する。組合せはすべて正常ラッテ肝とDAB。1962-10-9現在である(表を呈示)。
C-21、C-22の頃はRatの手頃のがないため、実験をやらぬよりはダメ押しでも、とこんな老齢のを使い、生えの悪いことを再確認した。その后また生れてきたので、Exp.C23からは若いratを使いはじめた。C23、C24ではきれいに有意の差が出ている。C25は2群作って、第1群はこれまで通り4日間DABを与え、第2群は半分の濃度でずっと継続的に与えることにした。C25、C26ははじめてまだ日が浅いので、増殖には至らない。C26は形態学的観察のために、Roller
tubeにタンザクを入れ、その上に植片をのせて培養した。
DABを短期間隔で反覆与える実験は、C23でおこなっている。各周期10日間、つまり4日間DABを与え、6日間休み、また4日間と、これを繰返す。現在第2回目が終ったところであるが、2回目をかけなかった群と差が見られるに至っていない。
[復元接種]先月より3回おこなった。
1:1962-9-22: C6(2-4培養開始)の実験群を1月のratの門脈に約100万個注入したが、現在までのところでは変化は認められない。これはいわば予備実験で、門脈への注入法のコツが若干判った。
2:9-28: C17(7-9開始)の実験群細胞を約10万個、1月ratの大腿皮下に接種。これも今日までのところ変化がみられない。
3:10-5: C17は7-27にも生后4日ratの脳内に約10万個注入して腫瘍を作らなかったが、ここでまた10万個を7月ratの門脈に注入。まだ数日しか経っていないが、今のところでは手術の経過も良好で、ratは生きている。今后は段々と若いratの手術になれるように努める予定。
B)Parabiotic culture:
C6の実験が株化したことは前号にかいたが、それを使って、正常肝との間にAH-130のような特異的相互作用を惹起できるかどうか、parabiotic
cultureでしらべた(表を呈示)。 この株を仮にRLD-1と呼んでいるが、結果は上の通りで、RLD-1の増殖率は7日間で約4.6倍、正常肝とのparaでは約6.1倍と、明らかにparabioticでは促進されている。しかし正常肝の方は殆んど抑制も促進も受けない。つまり一方的な作用だけで、AH-130のときのように、積極的に正常肝を阻害する、という作用が見られない。別の考え方をすれば、細胞レベルでは悪性とは云えないらしい、といういうことである。なお念のために正常肝同志をparabioticでしらべてみると、これは全く、単独培養と同じように相互作用のあらわれは全然認められなかった。つまり"RLD-1"は正常肝とはちがっているが悪性細胞にはなっていないらしい、ということである。RLD-1の染色体数は目下しらべているところであるが、38〜40本というところが多いようである。(Ratの正常数は42本)
C)Lactalbumin hydrolysateの製品むら:
最近三光純薬で小分けして売ったControl No.3126の製品がどうも細胞によくないらしいのでreplicate
cultureでしらべた。#1491は前からの良いものである(表を呈示)。
製造元は勿論NBC社。L・P1、L・P4の何れに於ても#3126は細胞増殖が悪い。そのあと輸入された#3136は元封のままのポンド瓶であるが、L・P4でしらべると、#1491よりもむしろ良い位で、これなら安心して使える。なお、#3126でも細胞の硝子面への着き方には変りはなかった。以上、為御参考。
D)正常・腫瘍細胞間の相互作用−特にカタラーゼ活性に及ぼす影響について:
Parabiotic cultureした正常肝とAH-130について、夫々のカタラーゼ活性を定量した。夏休に学生がはじめたものを、関口君がひきつづいて精密にしらべてくれているのである。概略の結果はPara-cultureにより明らかに正常肝のカタラーゼ活性は激減する。AH-130の方はほとんど変化しないか、ときに(どういう訳かは今后の問題であるが)少し増える(表を呈示)。
なお予備的実験として、肝homogenateを4℃24時間保存して活性を測ってみたが、これは変化がなかった(15.7→14.0、7.2→7.1の程度)。また同一肝材料を培養とともに追うと、0日(12.7)、1日TC(6.1)、2日TC(5.3)、4日TC(2.8)と明らかに低下して行った。
《高木報告》
1)発癌実験
前報にのべた◇C12、◇C12'及び◇13の実験で一応periodを打つ積りであったが、培養17〜18日目に中検廻転培養のaccidentにより、夜中に温度が60℃に上昇し、ためにこの培養は一挙に駄目になりました。
誠に残念です。この実験は渡米しましても、若し許されるならばつづけてみたいと思っています。なお前につづき
◇C9
1)11日目に2代目に継代したものでは、4代継代後34日目に更に5代へと3本から1本に継代しました。しかし細胞増殖は次第に悪くなり、現在F細胞がかろうじてtubeにくっついている程度です。
2)14日目に2代目に継代したものでは、4代継代後26日目に5代へと6本から4本に植つぎました。これも現在細胞増殖は不良です。しかしこれらの実験で、兎に角Stilb、作用群において明らかに対照群より細胞の増殖がよく、長期間継代出来たことは注目に値すると思います。
2)その後、HeLa、FL、Chang肝、JTC-4、JTC-8及びL細胞の家兎免疫血清について、ラッテ、正常ヒト及び癌患者O型、馬の血球を用いて凝集反応を行いました。
これを総括すると次の如くなります。
免疫血清\血球正常人O型 癌患者O型 馬 ラッテ
マウス
抗HeLa 3 7 0 1 1
抗FL 5 7 0 1 1
抗Chang 6 7 3 2 0
抗JTC-8 5 7 0 1 1
抗JTC-4 1 0 4 2
抗L 0 0 0 3
ここに血清稀釋は20倍に始って倍数稀釋で5120倍まで行ってあり、表に示す数値は、免疫前家兎血清と免疫後家兎血清とを用いて、各血球が凝集を示した試験管の本数の差を示すものです。
大体3以上を有意とみてよいのではないかと思います。大体においてspecies
specificityを示している訳ですが、ここで問題となる処が2、3あります。
まずJTC-8細胞が人O型血球に対して有意の凝集を示していることであります。JTC-8細胞は本年4月より6月にかけて家兎に免疫を行い、免疫終了直後6月に行ったtestでは、人血球を凝集しておりません。これが本当だとすると血清がstock中に変化(?)したと云うことになりますが・・・、もう一つ考えられることは、私共の処で培養中にhuman
originの株細胞とcontaminationをおこしたか・・・と云うことです。この血清が当然凝集をおこすはずの馬血球に対して陰性であったことは、この後者の可能性を示唆するものかも知れません。いずれにせよ、もう一度伝研からJTC-8細胞を頂いて検討してみたいと思います。
次に気付いたことは、大体同一条件で実験したに拘らず、一般に癌患者の血球の方が正常人血球よりも高いtiterを示していることです。そしてその差(titerの)はHeLa免疫血清>FL免疫血清>Chang肝免疫血清となっております。勿論この一回の実験ではまだものは云えない訳ですが、今後更に実験を繰返して若しこの様な事実がconstantに示される様であれば、注目すべきことではないかと思います。更に正常動物血球と共に担癌動物血球をも用いて比較検討してみたいと思います。
また抗Chang肝血清が馬血球に3程度の凝集を示しているが、これは更に吸収試験の必要性を物語っているものとも思われます。
以上もの足りない月報ばかり書いて来ましたが、一応今月を以て中止させて頂きたいと思います。私のする仕事が少しでも班員各位の御役に立つ様に渡米後も頑張りたいと思います。皆様の御健闘を御祈りいたします。今後共よろしく御願いいたします。
《佐藤報告》
実験の計画、ラッテの増殖等漸くピッチがあがって来ました。8月一月間の休養が事故其の他で延びていらいらしていました。以下従来の実験のつづきと計画完了のものについて記載いたします。御批判下さい。
A)発癌実験
◇C26(1962-9-22=0日)ラッテ生后29日
此の実験は前回からの疑問であったDAB液の調整の方法がDAB実験の結果に及ぼす効果を見るために始めた実験群のNo.1である。
a)DAB調整は1962-8-15にDABを100μg/ml含むD塩類(0)と月報6207勝田保存液 を作った。 b)実験群は1)勝田保存液 よりDAB
4日投与。 2)同じく8日投与。 3)保存液より当日始めて血清加
DAB 4日投与。 4)同じく8日投与。 5)対照。 使用した血清はすべてY.78。
c)結果 第7日 組織片からの遊走が2)に於て最も著明であった。
第11日(1962-10-3)いづれのものも未だ明瞭な上皮様細胞は見られない。
d)考察 ラッテの生后日数が少し古い点、観察日数が未だ浅い点が考えられます。
1962-10-5 生后20日のものが出来ますのでもう一度実験を行います。
◇◇◇DAB実験に伴ふ継代によってかなりの細胞株が出来ると思ひます。それらの内には形態がかなり異ったものが見られます。現在の処では上皮様の肝細胞(E)と箒星状の細胞(漿膜?)(S)と繊維芽細胞様(F)とが徐々に株化しています。主目的である復元に使用したいのですが増殖率が悪いことと継代に際して消失細胞が多いので復元は未だ2回(いづれも陰性)4匹しか行っていません。継代だけは続けてなんとか細胞の種類を区別して見ます。 DAB発癌に関する私見及び計画
勝田班長の云われる様に此のあたりで一度よく考えて見ることも無駄でなかろうと思います。1)従来の仔ラッテによるDAB実験が増殖誘導効果を示すという点で癌化の第1歩であることは間違いないと思います。有意差を高める方法は血清添加の問題、DABの作用期間や動物の生后日数や系統に従って増殖する細胞の種類まで明かとなりつつありますが、復元の方法は大きな問題です。最近になってマウスのC3H乳癌から増殖に成功し、その形態からは乳癌であると考えられる夫々独立系統の三株が元の純系であるC3H及びC3HZbへの復元が何れも未だ不可能である、という実験を私の研究室の野田君が示しました。この問題は色々の事が考えられますので簡単には解決できないと思っていますが、この事はDAB→肝で若し其れが癌化していても復元が不可能かも知れない可能性をも暗示しています。この問題の解決の手段としては、DAB実験群細胞をラッテの非働化しない高濃度の血清をLDに添加して駲化淘汰する方法があると思います。最近呑竜ラッテの老いたものがかなり出来ましたのでこの方法を実験に移します。此の実験は上記の理由と、勝田さんの実験C#13ラッテ20%血清で増殖が起らない点及び今春3月から行っているJTC11細胞ウサギ血清(非働化しない)駲化によるウサギ接種が反応を現わし始めた点も一つの理由です。
2)この問題は現在の段階でやるべきかどうかと思いましたが、外科の大学院がおりますので一応計画を組みました。成熟ラッテの再生肝と仔ラッテの(生后20〜25日)の肝のDABに対する反応を従来の方法で比較して見ようと考えています。
【勝田班月報:6211】
《勝田報告》
A)発癌実験:
これまでの発癌実験の成績をDAB-Liverに関するものだけ揃えてみますと、上の表の通りです。C-6の実験群の方は今日、株と認めてよいと思いますので仮にRLD-1と呼んでいます。この場合のDはDABのDで、DenkenのDではありません。こうしてみますと、やはり、若干の例外はあっても、Ratのageが少ないとExp.Cont.両方生え易く、1月を越すと両方とも生えにくいことが良くわかります。Ratの系統によって多少の差はあるでしょうが、この目的には15〜25日位のがいちばん適しているのではないでしょうか。とにかくこうして、第一段の変化を細胞に起さすことができた訳で、次のステップを越えて本当のMalignancyを持たせるには、1)弱濃度DABを長期継続して与えてみるか、1μg/mlのまま10日、20日、30日に1回宛与えてみる方法と、2)それよりもさらに可能性があると思うのはホルモンなどのような、生体内に生理的に存在しているものが第二段を越えるのを手伝っているのではないかということです。それで成長ホルモンをC-24で使いはじめてみましたが、この結果はまだ判りません。この次にはテストステロンを使ってみたいと思っています。 それから復元法ですが、いよいよ今年度も残り少くなって参りましたので、無処置でなくX線やコルチゾン処理で叩いておいたRatへの復元もはじめたいと思います。それで若しつけば、数代動物継代の後は、無処理で動物継代ができるかも知れませんから。
細胞の染色体数についても若干しらべてみましたが、C-6のRLD-1では38〜40本位のが多いようです。まだ約30ケ位の計測ですが、無選択に全部かぞえていますから信用おけると思います。DABをかけて最初に出てくるのも矢張りその辺が多そうです。染色体の上でも変化がある訳です。
:質疑応答:
[山田]さっきの培地の表ですが、これまで色々な人が色々なかき方をして統一がありませんね。0.5%lactalbumine
hydrolyzate with 20%calf serumという具合に、実際のテクニックに合せてかいている人もありますし・・。何か統一した方がよいでしょうね。
[勝田]それは勿論です。私はやはり化学関係でやっているようにFinal
concentrationでかくべきだと思います。その方が科学的で一目で他のと比較出来ます。
[山田]Tween20の影響を私はみていますが、少くするとDABがとけにくくて困りますね。それからさっきの顕微鏡写真ですが、やっぱり実質細胞と同じように二核の細胞が多いですね。Giemsaで染めると、in
vivoの細胞に比べて、培養のはどうも細胞質の染まり方が悪い。RNAが少いんじゃないか、なんて釜洞さんが云ってましたね。
[佐藤]C24とC25は血清は同じですか。ageの多い方が反ってControlも出ていますね。ラッテを殺すときエーテルを使っていますか。エーテルは肝で代謝されますね。
[高岡]同じ血清です。エーテルを使わないとどうもHerz
Punktionがやれなくて。肝をとるときも勿体ないから、はじめに血清をとっていますので。
[勝田]しかしたしかにエーテルの影響は考慮に入れなくてはいけないね。
[佐藤]Controlの生え方がageと相関関係のない場合もあるようですが、個体差や性差も考える必要がないでしょうか。
[杉 ]性差については雄の方がDABで雌より早く発癌するように癌学会で報告していました。
[勝田]癌研の馬場君ですね。同じようなことが最近号のJ.Nat.Inst.に出ています。これはDAB以外のアゾ色素ですが。また同君が云ってましたが、DABをといて保存すると、保存中にかなりこわれて効力が低下する可能性があるそうです。今後注意する必要がありますね。
B)Parabiotic cultureによる細胞レベルでの癌化検定:
さきに腹水肝癌AH-130と正常肝、或は心センイ芽細胞と吉田肉腫をparaで培養したとき、Tumoreの方は増殖を促進され、正常の方は阻害されましたが、この方法を応用して細胞レベルで、細胞が悪性化したかどうかを判定できないか、ということを考えた訳です。しかしこれには細胞数がかなり必要ですので、株化した例のC-6のRLD-1を使い、ラッテ正常肝とparabiotic
cultureしてみました。すると、次頁の図のように、RLD-1の方はparacultureすることにより明らかに増殖が促進されるが、正常肝の方は一向に平気なのです。阻害もなければ促進もない。このような一方通行的相互作用がどうして起るか、ということは別として、肝がやられて、その上でRLD-1が促進されるのでないと、どうも悪性化していないとしか考えられない。この点でも復元接種の成績と、何か一致した結果を示すような気がします。正常肝と正常肝のparaではどちらもno
effectですから、正常肝とは変って一歩肝癌の方に近い性質にはなったが・・・というニュアンスを示していると思います。
C)相互作用の酵素レベルでの研究:
生体内で正常組織と腫瘍組織との間にどんな相互作用がおこなわれているか。Toxohormoneのような毒素をtumor
cellが出してそれで正常細胞がやられるという説と、さらに積極的に、ある物質をだして、それで正常細胞内の栄養源、たとえばfreeのアミノ酸プールのようなものを吐出させ、それを自分の蛋白合成などに利用する・・という栄養掠奪説とがあります。その後者の可能性があるような感じをparabiotic
cultureの結果は示しましたので、何とかしてそれを実証したいと考えていますが、未だうまいアイデイアが掴まりません。要するにtumor
cellの構成成分を放射性同位元素でラベルしておき、parabiotic
cultureのあとで、正常細胞の方に何かしらtumorのmessengerが入りこんでいるかどうかをまずしらべ、次に正常細胞の成分をラベルして、それがpara-cultureのあとでtumor
cellの構成成分の中にとり込まれているか否か、をしらべれば良いのですが、蛋白系及びRNA系にはturn
overというものがあり、単にturn overの結果を見るだけになってしまう可能性があるので、目下悩んでいるところです。そこで良い考が浮ぶまで一先ずCatalaseやlactic
dehydrogenaseのような酵素の活性がpara-cultureすることによって、normal及tumor
cellとも変化をきたしはしないかということを目下しらべていますが、catalaseについては少しデータが出初めましたので担当している関口君から、その報告をしてもらいましょう。
《関口報告》
I:培養細胞のカタラーゼ活性の測定:
A)材料及び方法
細胞:
a)正常ラッテ肝細胞:生後1〜1.5月のJAR系ラッテ肝をメスで粥状に細切80及び150メッシュを通し、そのまま細胞浮遊液を作る。
b)腹水肝癌AH-130細胞:6〜7日腹水のtumor
cellsをSalineDで洗滌し、静置沈殿法により、血球及び細小な細胞を除いた後、使用した。
培養法:TWIN-D1管16本をparabiotic cultureに用い、培養4日後の細胞核数算定とカタラーゼ活性測定にあてた。対照は両細胞を各単独に単管に培養。
培地:牛血清20%+ラクトアルブミン水解物0.4(NBC)+塩類溶液(D)。管当り2ml宛、2日培養後全量を交新。pH≒7.6。
カタラーゼ活性測定法:Euler-Josephson原法のBnnichsen等の変法(いわゆるRapid
method)で測定。
すなわち、反応フラスコに1/15M燐酸Buffer(pH=6.8)50mlをとり、0.1MH2O2・2mlを加え、水に冷した後、その2mlを10%H2SO4・2mlを含むビーカーにとる。次いで酵素液1mlを反応フラスコに吹き込み、30秒、60秒、90秒、120秒後に反応液2mlを夫々別のビーカーにとる。ビーカー中の残存するH2O2量を1/3,000M・KMnO4で滴定し、次式より各測定時間に於ける酵素の反応速度Kを算出する。
K=1/t・ln・xo/xt但しxoは0-timeに於けるKMnO4滴定値。xtは各時間に於けるKMnO4滴定値。tは時間(秒単位)。
各々のK値を時間に対してplotして得られた直後を0時間に内挿して得た値をKoとする。結果:
1)正常ラッテ肝細胞の単独培養中におけるカタラーゼ活性の変化:同一材料について、培養前、1日、2日、4日培養後と4種について測定したが、培養に伴い、かなり急速に活性の低下することが示された。しかし4日でもかなり活性は残っている。これよりparabiotic
cultureは4日間おこなうことにした。
2)正常肝と肝癌AH-130のParabiotic culture中におけるカタラーゼ活性の変化:2回実験をおこなった。実験1では、対照の正常肝が僅かな活性の変化(低下)を示すのに対し、para-cultureした肝では活性は全く消失した。この場合、AH-130は、0日には活性は全く認められないが、4日間単独培養群においてのみきわめて弱いが活性が認められた。実験2では、parabiotic
cultureした正常肝の活性は、対照の1/2に低下している。_
II:培養細胞の乳酸脱水素酵素(Lactic dehydrogenase=LDH)活性の測定:
まだPara-cultureした細胞の測定に入る前の予備実験の段階である。
細胞:JTC-2(Rat ascites hepatoma AH-130)、JTC-9(Horse
embryo liver)、JTC-10(Horse embryo liver、腹水肝癌AH-130(5日、7日、8日の腹水よりの細胞について直ちに測定)
LDH測定法:
1)酵素液:1,500rpm5分の遠沈で集めた細胞を、0.25M蔗糖液2.5mlに浮遊し、glass
homogenizer(氷冷)で3分間homogenize後、3,000rpm10分遠沈、その上清を酵素液とした。
2)LDH活性はKornberg法を一部改変して用いた。:すなわち0.002M・DPNH
0.2ml、酵素液 0.1ml、0.1M・燐酸Buffer(pH7.4)
2.8ml、以上を紫外部測定用キュベットに入れておき、0.01M・焦性ブドー酸(Na塩)
0.1mlをピペットでそこに吹込み、その直後より4分間の、340mμにおける吸光度の変化を、27℃で記録する。記録には日立のAutomatic
recording spectrophotometerを使用した。
LDH単位は、酵素液1mlが1分間に340mμにおける吸光度の0.001の変化をきたす活性を1単位とした。これを100万個細胞当りに換算比較した。
結果(数値は100万個当たりのu値): JTC-2
193u、JTC-9 1,120u、JTC-10 570u、AH-1305日腹水・細胞
1,470u/100万個、腹水 1,170u/ml、7日腹水・細胞
596u/100万個、腹水 1,100/ml、8日腹水・細胞
517u/100万個、腹水 16,300u/ml。但しこの細胞は同一個体の肝癌を逐日的に追ったのではなく、別々のラッテの腹水。
:質疑応答:
[山田]ToxohormonとLDHの問題は、生体の担癌動物の血清だけではなく、肝自体も変わってくるのですか。
[関口]主に血清だけですが、それが癌の部分から流れ込んできてそうなるのかどうかも判っていない訳です。ですから細胞レベルで双子でしらべてみようという訳です。
[高岡]この実験には正常肝は母培養せずに、メスで肝組織を細かく切り、80と150メッシュを通し、一度1,500rpm5分位の遠沈をかけました。すると血球と肝細胞が一緒に沈殿します。それを培地に再浮遊させ(roller
tube)、管を直立静置(10〜30分)しますと、下に肝細胞だけが白く沈んできます。。それを上清をすてて、培養に使うのです。塗抹標本でしらべるとほとんど肝細胞ばかり見えます。また母培養と同じ日数、培養してから夫々の細胞の塗抹標本を比較しても見分けがつきません。従って、この方法の方が操作が簡単なので、今後の研究に使えると思います。
[関口]LDHはlactic dehydrogenaseといっても、これは可逆的反応で、むしろ逆の方向の方が強いのでpyruvateを分解させて測定しました。Lact.+DPN→←pyruvate+DPNH。
[山田]かって血清の中のLDH活性を測って、癌の診断に使おうとする試みがありましたが、結局negativeでしたね。実験に入る場合、Ratによるgeneticのfactorやageなどの問題もあると思いますので、in
vitroに入れる迄充分注意する必要があると思います。同一の腹から何回かとり出して使ったら・・・。
[伊藤]Normal liverの場合、growthによる変化はcell単位のものですか。
[山田]Liebermanのデータではin vitro systemだと細胞の種類に関係なく、同一になる傾向がある。株細胞でも、originに関係なく、同一の傾向があるようです(文献あり)。[伊藤]正常肝細胞の培養で、細胞数がconstantなのは、生き死にする細胞の比が一定(同一)なのか、それとも生きている細胞がmaintainされているのか、どちらですか。
[勝田]いろいろな根拠から、後者であると思います。
[山田]mitosisもないですね。
[勝田]正確なところはColchicineでも使ってしらべてみないと・・・。発癌実験のControlでも生えてくる奴もコルヒチンで染色体をしらべる必要がありますね。
[山田]話はちがいますが、Changのliver cellの株をglycogen染色すると染まりますね。HeLaなんかも染まるけれど、染まり方、つまりglycogenのたまり方がちがってます。
《佐藤報告》
1)発癌実験
従来のデータを整理してみます。御批判下さい。(表5枚呈示)
急速にControlの増殖が落ちるのは20日前後である事が明瞭である。継代による増殖は15日前後ではないかと思われる。
勝田班長の実験ではDAB投与日数は4日が最適となっている。私の実験では8日が最適となっている。動物の種類、DABの調整、更に判定法?に差があるかも知れない。まづDAB調整法に問題をおいて、勝田保存液IIと従来の使用前血清添加とを比較した。
◇C26・ラット生後29日でCont.、勝田保存法の4日及び8日投与、及び従前の方法で4日及び8日投与を比較したが何れも増殖せず。
◇C27・ラット生後20日で同様な実験を行った。結果は、血清を予め添加しておいた方(勝田保存法)が有利の様である。この実験から見ると、班長の実験成績に近づいたと思われる。
3'-methylDABはE型(上皮)よりS型(繊維芽細胞)の増殖をおこす様に見えるが、継代はむつかしい。実験をつづけるときは、もう少し若いラットで、血清を予め添加して行う方法がのぞましい。
◇C28は生後8.5ケ月ラット再生肝(術後6日目)をつかって、非手術部と手術部(再生部)にDAB添加、現在第9日目で0/5。
◇C29は同様に術後13日目の再生肝にDAB添加、観察中。
:質疑応答:
[佐藤]C3Hマウス乳癌(spontaneous tumor)は生体からとった侭だと動物継代が利くのですが、培養したもの(継代)はどうも復元してもつきが悪いんですが・・・。
[山田]Earle一門の仕事では、同一のcell originからの色々なclonesの内でもgrowth
rateによって動物への移植性に差のあることを証明しています。
FL株に血液型のBを証明する仕事があります。同一動物の血清を使う場合、このようなことも考慮する必要がありそうです。
[佐藤]14〜15日のラッテの自家血清を使ってDAB発癌をやってみるつもりです。
[伊藤]マウスのmesoteriomaも、培養したあと復元できないという、似たデータがあります。
[勝田]マウス乳癌の場合、色々なpopulationの差が考えられるので、沢山のマウスについて培養例を多くしてみる必要があるでしょう。これは動物継代でselectしてやるのと同様に重要でしょう。
[伊藤]培養で、腫瘍化するという報告と、腫瘍性が落ちるという報告と二つがからみ合っていますね。
[佐藤]腫瘍化するというのは本当ですかね。
[勝田]L,clone 929の名の示すようにcloningして色々のがあることを証明しています。
[佐藤]継代が確実に行くという証拠までも含めて証明しないと、2〜3代継代だけで癌と云えるのでしょうかね。
[勝田]CarcinogenesisとTransplantabilityとはFactorは別だから区別して考える必要があります。
[佐藤]復元してtumorを作らないから、といってin
vitroの細胞がmalignantでないとは云えないでしょう。移植の問題以上に困難なfactorがあるのではないでしょうか。だから細胞を大量に動物に入れさえすればKnotenを作るでしょう。それをTCに移しまた大量に動物に戻す、という具合にin
vivoとin vitroをずっとくりかえしたら、と考えるのですが。勿論、実験のCriterionが不鮮明になりますが、復元の問題だけを考えると一方法ではないでしょうか。
[山田]結節を作っても、ほっとくと2週位でregressionしてなくなってしまいますね。ここにはregressionはheteroのimmunityの問題があります。吉田肉腫をマウスに入れると5日位で消えてしまう。
[佐藤]Rat→Ratだとisoだから・・・。(註:homoの場合もあり。)
[山田]isoでも免疫の問題は残ります。
[佐藤]復元の問題は別の次元として考えたらどうですか。
[伊藤]復元の前にBovine serumをRat serumに変えるのは良いんぢゃないですか。
[勝田]佐藤君がさっき云われたけれど、私は癌化は可逆的変化とは考えられません。右の図に書いたように、いま我々がDABを使って肝細胞を変えたのは頂度Dormant
level(sleeping)へもって行ったのだと思います。もう一度変えればTumor
levelに入るでしょうが、TumorとDormantとの間は決して可逆的とは考えられない。その可能性は疑問だと思います。癌化した一つのpopulationが腫瘍性が落ちた、といっても、それは腫瘍性の低い細胞がはじめから混っていたという可能性があるのです。例えばAH-130の染色体の主軸は43本ですが、それから作ったJTC-1、JTC-2は夫々51本と58本です。ところが両株を動物に復元しますと 第2位として両株とも38〜40本のが出てきます。これと同じideogram(核型)のしかも38〜40本というのが、両株を3,000rphの高速回転に移すと主軸のなってきて、復元接種してみると、腫瘍性が遥かに低下している。何回くりかえしても似た結果になるところから考えると、この38〜40本の腫瘍性の低い(或は無い)細胞は、はじめからこの細胞集団の中に混っていたものと思われます。つまり51本あるいは58本の細胞が腫瘍性を失うように変ったのではない、と考えられます。
[佐藤]生体内でtumor cellを抑えるfactorが考えられるので、その抑制を破るものが必要と思います。
[勝田]佐藤君の使おうとしているRat serum添加のExp.も、serumは少量から段々増やす様にして、ならして行った方が良いと思います。
[佐藤]勝田班長のC-13のRat serum20%も問題があると思うので、くりかえしてやって見たいと思っています。
[伊藤]Ratの組織をRatの血清で飼えないというのは変のように思われます。
[山田]Homoでは細胞がふえないというデータは大分あります。
[勝田]しかしRat serumでselectする、ということは良い方法と思います。
[山田]私の処では継代にRubber cleanerでやっていて、うまく行かなかったけれど、トリプシンを使ってやっと良く増えるようになったので、その細胞をどんどん復元してみたいと思います。
[勝田]第二段階に移らせられる可能性の大きい刺戟剤はホルモンだと思ってます。
[関口]冲中先生の、脳下垂体を除っておくと、DAB肝癌ができないという話からも、ホルモンの影響が考えられます。今年の発表は内蔵神経の切断でしたが・・・。
《伊藤報告》
私の方では、出来れば一度に多量の細胞を得て比較的早期に復元する事を目標として、ラッテ肝のTrypsin処理によって細胞を得て、これを培養する方法で、DAB及びActinomycinを働かせてみる事にして居ます。
〔実験法及び材料〕
1)ラッテ:雑系or呑竜 1ケ月前後♂ 2)培地:標準20%B.S+80%L.E 3)細胞のとり方:細切したラッテ肝にP.B.S.(-)を加えて20分stirring→上清排棄→Trypsin液中で20分stirring→上清排棄→Trypsin液中で20分(第一回使用細胞)→Trypsin液中で20分(第二回使用細胞)。第一、二回夫々15〜20万個/mlの細胞数でTD-15にて培養開始(第一、二回は細胞採取上の名で、培養瓶に入れてからは区別なし)
〔実験結果〕
a)9月5日 開始群(雑系、♂、生後27日)。対照群:TD-15 5本。実験群:TD-15 5本。9月8日よりDAB(1μg/ml)添加培地→9月18日より標準培地に戻す。9月30日両群共復元(i.p.100万個)。現在まで変化なし。
b)9月18日 開始群(雑系、生後32日、♂)。対照群:TD-15 5本。実験群:TD-15 5本。9月21日よりDAB添加→(実験群3本雑菌contamination)9月30日より標準培地に戻し現在継続中。
c)9月30日 開始群(呑竜、生後23日、♂)。対照群:TD-15 5本。実験群:TD-15 5本。10月3日よりDAB添加→10月13日・・標準培地に戻す。現在尚培養中。
d)10月13日 開始群(呑竜、生後25日、♂)。対照群:TD-15 5本。実験群:TD-15 5本。10月16日よりActinomycin添加。現在継続中。
此の方法では、勝田先生のところでの場合と異って、細胞の増殖をmarkerとする事は出来ないが、復元に必要なだけの細胞数を比較的早く得られるので、専ら復元性をmarkerとして今後は種々発癌要因の組合せ、作用期間等を変えて検討を続けたい。
:質疑応答:
[勝田]トリプシン消化してcell suspensionを作ったあと、遠沈などで細胞の種類を分けて培養していますか。
[伊藤]やっていません。
[勝田]昨日の黒木君の話の、アラビアゴムで撰別するのを参考にして我々もやってみましょう。どうも伊藤君の培養は生えてくる細胞の種類に問題があると思いますので、タンザクを入れて標本を作り、顕微鏡写真をとって月報に出して下さいませんか。Exp.とControlと両方。プリントは10枚宛やいて下されば結構です。
《高木報告》
免疫学的研究:
前回報告した株細胞の家兎免疫血清による2、3の動物赤血球凝集反応について、前回問題になった点を中心に凝集反応を補足実施しましたので、未だ実験数が少く不備ではありますが、現在までの結果を前回報告の分も一緒に表にしてみました。
凝集反応のやり方は前回と全く同様で、又表の数値も前回同様、免疫前と免疫後の家兎血清の赤血球凝集価の差を試験管の本数で表わしたものです。
健康人(1)と肺癌患者並びに馬のところで数値が2つ並んでいるのは、同一個体からとった赤血球について2回繰り返し行った結果をそれぞれ示したもので、健康人(1)については少しずれた結果が出ていますが、これは血清を節約する意味で一度PBSに稀釋したものを凍結保存しておいて使ったためにおきたものと思われ、この点に留意して行った肺癌患者及び馬については同一の数値が得られました。
前回の実験で、癌患者の血清が健康人のそれに比べて凝集価が高く出たので、これが偶然に出たものかどうかを知るため、健康人3名と癌患者4名(HeLa細胞がPortio由来なので子宮癌患者を選び)について比べてみましたが有意の差は出ませんでした。
前回一番問題となったJTC-8細胞については、繰り返しの実験でその抗家兎血清はやはり人血球をかなり凝集し、しかも馬血球は凝集しないところから、赤血球凝集反応が株細胞の抗原的種属特異性を忠実に表わすものとすれば、少なくとも我々のところでJTC-8細胞として植ついでいるものは人由来の細胞ではないかという疑いが濃厚になってきました。この問題は回を重ね検討を要する問題だと思います。
:質疑応答:
[山田]gel-difusionでorgan-specificなantibodyを出していますね。Deoxycholateでcell
destructionをおこなうところがミソですが。Coombs'testのようなやり方で細胞の同定ができるのではないでしょうかね。たとえば、Anti-mouse
serumを作っておいて、これを培養細胞と合わせると、マウスの細胞ならば、そのまわりに抗体がくっつきます。そこへ赤血球を入れると、その抗体の作用で、さらに赤血球がmouse
cellのまわりにくっつきます。他の細胞ならくっつかぬという調子にです。
[勝田]抗血清の作り方は?
[杉 ]週2回宛、計6回細胞を兎に注射し、それから1.5週後に採血します。血清内抗体価の上り具合については目下実験中です。
《山田報告》
DAB及びTween20のHeLa細胞に対する毒性について:
DAB及びその溶剤であるTween20が培養細胞に対してどの程度の障害作用を与えるか、とくにこの班で使用しているDAB1μg/ml、Tween20
0.005%(v/v)の濃度がどのような作用を示すか、またDABの薄い濃度に増殖促進作用があるのではないか、このような事を検討するために、まづDABとTween20の各種濃度に対するHeLa-S3BBclone(S3から2回recloneしたもの)の生存曲線を描いてみました。勿論、初代細胞と株細胞、正常と癌、その他の問題があって直接に発癌実験の解釈には役立たないと思いますが、培養された哺乳動物細胞のDAB及びTween20感受性にある程度のメドを与えることが出来ると思います。現在まで予備的に5回実験を行い、結果を得たのでここに御報告しますが、いづれ本実験を行って報告するつもりです。
実験方法:5mlの培養液(N16CF)と共に予めincubateしたシャーレに100個のS3BB細胞を播き(0.1ml)、直後に各種濃度のTween20及びDABを0.1ml添加して炭酸ガスincubator内で11〜16日間培養し、固定染色後、発生しているコロニー数を数え、対照のコロニー数と比較しました。
この実験でわかった事は、0.05%のTween20(この班のDABのとかし方では10μg/mlのDAB溶液に含まれるTween20)には著しい毒性がある事です。
そこでTween20の各種濃度のHeLa-S3BBに対する毒性作用を一覧してみますとTween20%(v/v)0.005%は%Control 89、0.01%は86、102%、0.02%は71、96%、0.04%は8%、0.05%は0、0.2%と成ります。即ちTween20は、0.02%まではplating
efficiencyに大きな影響はないが、それ以上の濃度ではかなりの影響があることが判りました。そこで1〜5μg/mlのDABの影響を、DAB溶液にふくまれる同濃度のTween20添加群を対照にして(但し0.02%以下)調べてみますと、DAB1μg、2μg、5μgでそれぞれ91%、102%、22%となります。即ちDAB2μg/mlまではS3BBに対して直接毒性を示さない事が判りました。従ってこれまでの成績では、この班で使用されているDAB1μg、Tween20
0.005%の濃度はHeLa細胞の生存にあまり強い毒性は示していない事が言えそうです。今後、一定濃度のTween20添加の下で、DABのHeLa細胞p.e.に及ぼす影響を調べてみます。
尚、DAB1μg/mlはHeLa細胞の増殖度には抑制的に働く結果を得ました。1回の実験ですので、更に繰返して確かめます。又これより低い濃度のDABがHeLa細胞の増殖に促進的に働くかどうか検討する予定です。
:質疑応答:
[山田]100mg/5ml Tween20+45ml以上の濃度で溶けないものでしょうか。
[佐藤]Plating efficiencyを使って、DAB処理のcell
lineをしらべてもらうと良いですね。
[伊藤]Window counting methodというのを教えて下さい。
[山田]シャーレの裏底に、小穴(面積1/2000)を一杯あけた金属板をあてて固定し、その穴から倒立顕微鏡で覗きながらcolony数と各colonyの細胞数をかぞえます。例えばスタートのとき4coloniesあって細胞数が7ケとすると7/4=1.75ケ、それが48時間後に4coloniesで14ケとすると14/4=3.66となるわけです。動く細胞でも穴から出るのと入るのと相殺と考えます。
[勝田]Polycarbonate樹脂は120℃の高圧滅菌ができ、しかも透明ですので、シャーレを型で作るととても安くできます。ガラスの硬質シャーレ以下です。そこでcellのplatingなどにも、底が平らで良いので、シャーレを高島商店に作らせようと思っています。形は円形でなく、四角にしたいと思います。また蓋は密閉できるようにするつもりです。希望があったら云って下さい。
[山田]4x6cm位で、高さはできるだけ低くして下さい。できれば2cm以下。ただplasticだから有機溶媒に弱くて、染色に困りませんか。
[註]このあと実際に円形シャーレで培養したところ、細胞は底面によくつき、ギムザ染色しても支障はなかったことを追記する。また寸法は並と小とにし、四角形にした。
《遠藤報告》
私のところでは目下まだ発癌の仕事はできていません。ですから他人の仕事を紹介します。
1)David Stone(Wooster Foundation):Endocrinology,71:233-237,1962.
Desoxycorticosterone,Progesterone,TestosteroneはHeLaの増殖を抑制することを見出し、これらに対するResistant
sublinesを作っています。
2)Stone,D. and Kang,Y.S.:ibid,71:238-243,1962.
上のResistant sublinesの染色体数をしらべています。
HeLa(strain HuE):68 chromosomes, Test.-resist.line:74、
DOC-resist.line:74。
3)Moon,H.D.,Jentoft,V.L. and Li,C.H.:Endocrinology,70:31-38,1962.
MoonはScience 125:643,1957に牛の成長ホルモンがRatの細胞に対して促進作用のあることを報告しています。これまでGrowth
hormoneは、人のは人かサルにしか効かない、spcies-specificityがある。しかも他ホルモンと異なり、定量的にもあるとされていましたが、本報では、人と牛のgrowth
hormoneをChangのliver cell株に与え、cell
countingとN定量で、牛ホルモンはあまり促進しないが、人ホルモンの方は促進することを報告しています。
4)これは私の考えですが、Dimethylglycineは肝内で代謝され、フォルムアルデヒドが出ます。同様にDABも出るわけで、これが発癌と何か関係あるのではないでしょうか。
またHeLaに対するEstriolの効果をみていますが、促進がありそうです。このホルモンはEstradiolの代謝産物で膣部に作用するといわれています。
:質疑応答:
[山田]Resistant lineについて、例えばDAB-resistant
lineなどで何が異なるのでしょう。adaptationでしょうか、selectionでしょうか。それからNitrogen
mustardでguanyl酸のpurine baseの7のdouble
bondが切れると云われていますね。
[関口]DABからフォルムアルデヒドが出てもそれは酸化されて蟻酸になり、これからどうも作用しているらしい、ということは15年位前から云われています。蟻酸はさらに酸化されれば炭酸ガスになってとんでしまいますから、Dimethlglycineにラベルしても炭酸ガスに出てしまうでしょう。DABの場合メチル基が二つありますが、蟻酸にならない方の、残ったメチル基が蛋白などにくっつく訳ですね。
《堀川報告》
§培養細胞における喰食性(Cytosis)と形質転換の試み(I)
実験のSystemには次の3つを用いた。
材料:
1)Mouse strain L cells←Ehrlich ascites
tumor cellの核を喰い込ませる。
2)2000γ照射されたMouse strain L cells←normal
mouse strain L cellsの核を喰い込ませる。
3)Mouse strain L cells←Mouse(CBAstrain)のSpleen
cellを喰い込ませる。
方法:Cytosisの証明と形質転換の判定
1)Survival((2)System 1:応用)
2)Chromosome number and karyotype analysis(1)、(3)
3)Immunological response(1)、(3)
4)Immunological competence(3)
5)Ability to induce tumor in mouse(1)
結果:
1)L細胞の染色体数は63本、メタセントリックchromosomeは13本、Ehrlich細胞の染色体は69本、メタセントリックchromosomeは3本、このようないいmarkerをもっているので仕事はやりいい、所がL細胞内へEhrich
ascites tumorの核は約5%の率でcytosisされるにもかかわらず、現在形質転換は全くみられない。とにかく興味あるSystemではあるが、形質転換させるためには今後もう少し種々とSystemを改良せねばならない。
2)2000γ照射されたL細胞はこれ迄の実験結果でも報告した様にほとんど死滅してしまう。これに正常なL細胞の核、正常なEhrlich
ascites tumor cellの核、又はMouse(CBA系)のSpleen
cellを喰い込ませることによってcell deathからのrecoveryをねらう。2000γ照射されたL細胞のrecoveryに役立つものは正常なL細胞の核のみで、他のHeterologousなcellでは役に立たないことがわかった。
この場合正常なL細胞の核が2000γ照射されたL細胞の核にとってかわってfunctionをもち分裂をはじめるのか。それとも正常なL細胞の核が2000γ照射されたL細胞内で分解されてもう一度組み立てにあづかり照射されたL細胞核自体が分裂のfunctionをもつ様になるのか現在の所わかっていない。これらは今後の問題である。
3)正常なL細胞はMouse(CBA系)から取り出したSpleen
cellを10%位い喰い込むが、このL細胞を2000γで照射した場合は30%位いのCytosis
rateにあがる。
一方Mouse Spleen cellを1μc 3H-thymidine/mlで2hrs
cultureし、Spleen cellをlabelする。
これを正常なL細胞をかったmediumに加えると、5時間後からL細胞中に入り始める(Autoradiographyで追求する)
培養2〜6日位いでL細胞核へSpleen cellのlabelされたDNAが移動する。
この場合spleen cellはそのままの形でL細胞内に残っている所からみて、L細胞質内のDNaseによってSpleen
cellのDNAが分解されL細胞核に吸収されるものと思われる。
一方これらのSpleen cellを喰い込んだL細胞はAnti-Spleen
cell serumに対してImmunologicalなresponseを示すことが分った。
結論:
この様にしてL細胞に喰い込まれたSpleen
cellがどの様な形で形質転換に関与するか、又、喰い込んだL細胞がその後数十代分裂した後もSpleen
cellの形質を保持するかどうかは今後の問題であるが、いづれにせよ従来のpinocytosisとちがってcell
levelでのcytosisを使ってHomologous又はHeterologousなcell間のinteractionをみるには非常に興味ある。このSystemをうまく使用すれば発癌のmechanismもうまくつかみだすことが出来ると思う。
*** この他に私共の所では従来やって来た耐性獲得の機構と、一方からは5-Bromodeoxyurideneなどによる細胞のSensitizationの面からあわせて生細胞におよぼすRadiationの作用機構を追求しております。
【勝田班:6212】
《勝田報告》
発癌実験についてだけ本日は報告する。
データは上の通りで、これまでと似た成績となった。C-28の実験群の増殖細胞は、第16日に330万個宛、生後約1月のRat2匹に、脾臓内に接種し、目下観察中。なおラッテは今回はじめて接種前に、コバルト60γ600rとハイドロコーチゾン2.5mg/rat(隔日注射)の前処置を採用した。
染色体数は、RLD-1の細胞では37〜41本が多く、正常の42本より左にずれている。DABを処理して出てくるPrimary
cultureについてもしらべているが、これは細胞数が少なくて仲々かぞえられない。しかしどうもRLD-1と似た傾向があるように思われる。
つまりDAB処理によって出てくる細胞は、生え出しの日数、形態、染色体数などから見てどうも一定の方向性を持っているような気がする。また正常肝とのParabiotic
cultureをRLD-1でおこなうと、悪性は示されないが、それに一歩近付いているような感を与える。つまり、いわばPre-cancerousのstepに入っているのではあるまいか。
正常levelからDAB刺激でPre-cancerous levelに入り、さらに第2段Malignant
levelへの変化を起こさせるものは、別のFoctorである可能性が大きいと思われる。たとえば生体内の生理的物質(ホルモンその他を含め)とか、嫌気的状態とか、のようなものである。
佐々木研のDAB肝癌は染色体数に於ても実に各種のものができている。このような無方向性はMutationの特徴であり、癌の特徴でもあるが、いままでかいたようにcell
levelでみるとDABの作用に方向性が感じられるところから、肝癌の多様性は、第2段の変化のときに現れるのではあるまいか。そしてそのときMalignantの方向にむかって変化した細胞が増殖を続け、腫瘍を形成するようになるのではあるまいか。
第2段の変化をとげさせる要因として、私のところで目下手をつけているのは、Anaerobiosisである。流動パラフィンを滅菌して培地の上に浮べmildなanaerobic
conditionを作る。もう一つは培地更新をおこなわずに放置することであるが、これにはpH変化もからんでくる。
次に細胞の変化を見付ける手段(いわばMaker)であるが、第一段の変化では"増殖"というマーカーを利用してうまく行った。第二段目は形態上のAtypieで行きたいと思っている。つまりRLD-1にせよ、primaryに出てくる細胞にせよ、余りに形が揃っていて、きれいすぎる。核や細胞質の大小不同、異常分裂などがもっと見られてよいのではあるまいか。従って主にタンザク培養で、染色標本を作って検索しながら、第2次の変化を起させるFactorを探して行くつもりである。
:質疑応答:
[山田]Minimum tumorの考え方からすると、この前癌状態はどういうことになるのだろう。
[伊藤]たしかに復元接種だけでCheckして行くのは大変なことです。
[山田]Earleの報告では発癌剤で形が変っていますね。
[黒木]ABでの発癌はどうでしょう。
[勝田]横の展開はあとの話で、いまはとにかく一日も早く発癌させることです。いわばキリで穴をあけて行く、その先端の仕事をやっているのですから。それから大阪のシンポジウムで吉田教授がDABを4日以内の、もっと短い日数を作用させたらどうか、との発言がありましたが、佐藤班員にこの点の検討をおねがいしたい。
[山田]Ratのageの若いものほど早くDABで変化がこないでしょうか。それからGrowth
hormoneは何故使ったのですか。Promotionですか。
[勝田]さっきも話したように、体内のホルモンなどが副次的に働いている可能性が大きいと考えたからです。
《佐藤報告》
1)発癌実験
前号6211に引きつづいて再生肝+DABの系列について、生後2ケ月の呑竜ラットを使用して従来の方法のままで発癌実験を行って見ました。
◇C30は肝切除後7日、◇C31は肝切除後14日、◇C33は肝切除後21日に培養開始、対照群、DAB4日添加群、DAB8日添加群とも未だ増殖開始はありません。
前回報告の◇C28◇C29実験と合せて再生肝+DABの条件では上皮様細胞の増殖は、対照、実験共に発生していない。但し肝切除後7日のものでは細長いfibroblast様細胞が、14〜21日では箒星状細胞の増殖が少〜中等度認められた。−幼若ラットの肝との比較−
◇C32はラット血清+DABの効果を見ました。使ったラット日齢は17日、第16日に、対照群は2/5、牛血清+DAB
4日添加群は4/5(本例のE型細胞の増殖量は対照に比し、1本当りの量が極めて多かった)、ラット血清(非働化)+DAB
4日添加は0/5、ラット血清(生)+DAB 4日添加は0/5であった。
本例のラット血清は生後半年以上たったものの血液を集めて2分し、非働化したものとしないものとに分けてLD中に20%になる様にして行った。但しDAB原液は、いづれも牛血清20%LDに10μg/ml含んでいたから正確には作用期間の血清は1%牛血清+19%ラット血清となります。
牛血清とラット血清との間に著明な差が出ますので、この点は採血するラット日齢、及び実験に使用するラット日齢を少なくして再実験いたします。
ラット肝の継代中のものは漸く株化したと思われるものが◇C8Controlと、◇C10対、◇C10実と出来ました。復元を先づ最初におこないました。C8Controlは生後22日のラット皮下へ3例(11月14日)、C10DABは29日のラット皮下へ2例220万個と270万個(11月29日)、◇C10Controlは36日ラット皮下へ1例280万個(12月4日)接種し、12月7日現在いづれも発癌していません。
◇C8controlが目下最も増加していますので、ラット血清等に関する予備実験として性状を少ししらべています。(1)この細胞はラバクリーナー駒込撹拌での継代には極めて弱い。Trypsin継代の方が容易である。従って復元実験の際ラバクリーナーを用いての復元では細胞が極めて傷害される可能性が強い。(2)2日毎の培地交換での増殖率は、6000個/mlでは6日で10倍、9万個/mlでは6日で4倍程度である。(3)牛血清濃度は10%と20%は殆んど変らない。
:質疑応答:
[勝田]再生肝の肝細胞をin vitroに移しても、うちでやった実験では肝細胞の増殖は見られませんでした。つまり佐藤班員は再生肝の細胞をin
vitroに移して"増殖しつつある細胞に対してDABは・・・"と云われたが、増殖はin
vitroに移すと同時に止まってしまうから、増殖しつつある細胞についてしらべたことになりません。
[山田]いつでも問題になるが、或日齢のラッテを用いたときだけしか出ないということは気になりますね。
[勝田]その通り。しかしこれもあとでの展開のときのテーマでしょう。
[山田]復元成績ですが、LやLiverなど復元接種後何百日も経って発癌した、というのもあるから、あまり短期であきらめてしまわない方が良いと思います。それから血清は動物種の差の上に個体差が大きいので、Rat血清もプールしないでしらべないとはっきりしたことは云えないでしょう。
[勝田]しかしラッテではプールしないととても量が足りないよ。Earleの処の実験は大抵C3Hを使っています。Milk
agent-free(Heston株)やそうでないのも使っていますが、Hestonもたえずcheckしないとすぐagentをもつようになるらしいので、あそこの発癌の成績は何とも云えないと思います。それからこの発癌実験で株化した細胞は佐藤氏の処は何種ありますか。
[佐藤]DAB群が1種、Control群が2種、計3種です。
[勝田]その染色体の比較をぜひやってくれませんか。うちの所見と比べたいのです。
[佐藤]早速かかりましょう。勝田氏のところではDABでAtypieがふえますか。細胞形態で。
[勝田]きわめて少いのです。しいて見ればControlの方が少い位です。
[佐藤]LとかEhrlichでタンザクを入れてみると、lag-phaseのときlog-phaseよりずっとAtypieが多かったので、観察の時期がかなり問題と思います。
[山田]HeLaではNuclear bridgeがよく見られますが、メタノールのような強い固定や、トリプシン処理でpipettingすると、このBridgeが切れてしまいます。X線をかけると多くなります。
[勝田]Lだとメタノール固定でもよく見られますよ。糸のようなのが。
[黒木]佐藤春郎先生はAtypieはCancerのCharacteristic
changeというよりむしろその環境によるchangeと考えておられますが・・・。
[伊藤]Atypieが出ないときが問題ですね。無いからといって第二段の変化を起していないとはいえないし・・・。
[勝田]しかし何かをマーカーにしなければ能率よく仕事をやって行けないから、この際仕方ないでしょう。勿論他にも何でもマーカーを見附てやってみて下さい。
《伊藤報告》
小生のところでは以前に続いて、Rat liver細胞→Trypsin処理にて細胞を得て、比較的早期に復元し、復元性のみを指標として実験を続けて居る。
今迄の結果を整理してみると、7回の実験のうちDAB処理6回Actinomycin処理1回、ラッテは雑系あるいは呑竜♂生後9〜15日、現在まで成功例は無い。
現在までの実験で感じて居る事および今後の予定:
(1)此の方法で取れた細胞は、比較的増殖が良好で、早期に復元に必要な細胞数を得られるが、但し各種の細胞が混在している。この点は前回の報告会でも至適されていたので、其後cell
suspensionを暫く試験官に入れて静置して後、3〜4層に分けてから培養する方法を試みて居り、此の方法でも望みはあるが、未だ満足すべき結果を得て居ない。本日お見せしたslideは、殆んど実質細胞と考えているが、此れは培養開始後3ケ月を経たもので、此の時期になると、此の様に比較的細胞の種類が揃って来る場合もある。
(2)此の方法でやる場合、細胞の増殖では対照群と実験群との間に差を見出し得ない為、今のところ、復元性のみを指標として居るが、此れでは復元性を得る迄の各段階に於ける変化に関しては全く認めることが出来ない為、今後此の点を掴える方法を何か考えなくてはならない。
(3)何かうまい方法で、比較的揃った細胞が得られれば、諸種発癌因子乃至環境をcombinierenして検討したい。
:質疑応答:
[勝田]トリプシナイズして得た細胞が、増えるといっても、その増殖度はどの位なのですか。Cell
countingしてgrowth curveをとってあったら見せて欲しいのですが。
[伊藤]いや、まだとってありません。
[山田]トリプシン処理をするとよく裸核のが出てきますね。
[佐藤]培養のなかに混っている細胞の型を鑑別するのにうちでは墨汁貪喰を使います。[勝田]トリプシンを使わずに、細切してメッシュで濾したらどうでしょう。(実質様及び箒星状細胞の写真供覧)この箒星は、きっとまわりの屑みたいなのを貪喰していると思いますので、映画にとってみたいと思っています。
[佐藤]このような箒星をいま3代継代していますが仲々ふえてくれません。
[勝田]動物ではアクチノマイシンはどの位で発癌しますか。
[伊藤]知りません。しらべておきましょう。
[堀川]箒星状のは肝臓の被膜から由来するのとちがいますか。
《杉 報告》(高木班員代理)
1)発癌実験:
高木さんが続けてきた発癌実験に関する培養は、既報の如く中検の廻転培養器の故障によりすべて中絶しましたので、新たに培養を始めました。
培養方法は従来のやり方と同じでstilbestrol→hamsterのkidney、liverについて行いました。但し中検の廻転培養器は前の様なことがあるといけないので、静置培養にしました。
Exp.1は生後28日のgolden hamster kidneyを使い、培養4日目に培地交換を行い、その実験群にstilbesttol(S)1μg/mlを入れ22日目にsubcultureするまでずっと同濃度を作用させた。22日目に試験管6本から2本に植つぎ(実験群にS.入れず)培養継続中。
観察:4日目fibroblastlike cell(F)少し、S.→、9日目epitheloid
cell(E)も少し、11日目S.群とC.群で差なし、14日目S.群でE.が優勢のもの3/6、C.群はF.が多数、18日目特に変化なし、22日目subculture、その後5日目S.群2/2、C.群2/1。
Exp.1'は生後28日のgolden hamster liverを使い、kidneyの場合と同様に培養4日目、培地交換と同時に実験群にS.1μg/mlを入れ現在も作用継続中(31日間)。
観察:22日目漸くS.群1/6本にE.少し、27日目S.群2/6本、C.群1/6本に何れもE.少し。
Exp.2は生後36日golden hamster kidneyを使い、培養開始時よりS.1μg/mlを入れ作用継続中(22日間)。
観察:4日目F.多数、E.極めて少数、13日目F.大多数、18日目F.大多数、S.群とC.群で殆んど差なし、22日目S.群2/6本にE.中等度。
Stilbestrol→hamster kidneyが少し有望らしいとの従来までの結果に基づき、先ずこれから手がけたのですが何分まだ例数が少いのでまだはっきりしたことはいえません。
実は先般の班会議から帰ったところ株細胞の調子が極めて不良で、一時はどうなることかと心配しましたが、どうやら次第にもち直しほっとしました。然し肝腎のJTC-4は打撃が大きく懸命の努力にも拘わらず、今以て維持出来るかどうか分らぬという心細い状態です。高木さんの渡米で人手が手薄になったところにこの様なことで発癌実験に手をつけるのが遅くなりまだ以上の結果しか得ておりません。
以後はDABについても行い復元実験も是非やらねばと考えています。
2)免疫学的研究
既報の表に補足した実験は、HeLa、FL、Chang、JTC-8、JTC-4、L、MSに対する免疫血清のチンパンジー、人(肺癌?)、マウス(CF.)赤血球の凝集です。人血球については種属特異性がはっきり出ています。チンパンジー血球はMS細胞にやはり関係を有し、同時に人由来の細胞にも若干の関係が出ております。マウス血球に対する抗L血清は、凝集価が非常に低く出ていますが、これは週2回の注射を都合により中断したためで、書かなかった方がよかったかも知れません。抗MS血清については注射開始後14日、25日、35日と凝集価は同値を示しました。伝研、予研から戴いたJTC-6、JTC-8、JTC-9、JTC-10については現在準備中でまだdataは出ておりません。
:質疑応答:
[勝田]ずっと免疫学的研究を続けて行くのでしたら、その研究法自体も相当考えて、たえず進歩した方法をとり入れて行く必要があると思います。さもないとおくれてしまいます。
[山田]Agar diffusionでもきれいに出ているデータがありますね。
[勝田]ハムスターを殺して腎だけでは勿体ないので、肝も培養するのは良いですが、それにかける発癌剤は、肝までStilbestrolでよいかどうか一考を要します。動物実験でStilbestrolで肝癌が発生するのですか。発癌剤はかなり臓器特異性がありますから、動物での知見を参考にして夫々最も良さそうなのをえらび、使い分けする必要があります。
[杉 ]Subcultureにはトリプシン消化がよいでしょうか。ラバークリーナーがよいでしょうか。
[高岡]腎の細胞ですからトリプシン消化がよいと思います。それに継代してもやはり組織片がまた硝子面にくっついてシートが出てくるでしょうね。
《山田報告》
DABのHeLa細胞に対する毒性について(2)
前回の報告でTween20の濃度が0.02%以下ではHeLa細胞のplating
efficiencyに大きな影響を与えない事を調べましたので、DABを新たに溶かし直して、DAB最終濃度が1〜6μg/ml、Tween20がいづれの場合も0.01%となるようにし、DABのHeLa細胞のp.e.に及ぼす影響を検討しました。その結果はDAB0を100%として、1μg/mlは86%、2μg/mlは79%、3μg/mlは51%、4μg/mlは44%、6μg/mlは39%となりました。DABの同一濃度内でもシャーレ間にかなりColony数の違いがあり(特にDAB1及び2μg/ml)、あまりきれいな実験とは申せませんが、一応DABの濃度に従ってColony数が減少してくるカーブがとれました。そして縦軸にColony数の対数、横軸にDAB濃度をとると、直線の反応曲線が描けます。
そこで今後、1μg/ml以下のDABのHeLa細胞増殖に直接及ぼす影響、及びDAB添加後生残した細胞の増殖曲線の変化を追求してゆくつもりです。
:質疑応答:
[山田]Freund virusを手がけはじめていますが、これによる癌が本当の癌かどうか問題で、たとえばこれを入れたところへ偶然乳癌ができて、それがウィルスと共に増殖して行くという可能性を中原氏などは考えて居られます。
[勝田]それは、発癌させる細胞の材料と、癌化した細胞を復元接種する動物との性を変えておけば、Sex
chromatinの%をマーカーに使えます。Giemsa染色でもよく見えますし、チオニン染色もよいと云われます。
[山田]Freund virusはそのtitrationと、どこで増えるかが問題です。電顕でMegakaryocyteのCytoplasmic
canalsの中に一杯virus粒子のつまっているのを見せた報告はありますが。
[堀川]Spleenの内部の細胞は培養で果して硝子面につきますか。
[山田]色々あるから、つくものもつかぬものもあります。Titrationはこのvirusの場合、10-4乗でも出てこないのです。他のは10-8乗、10-9乗でも出ますが。
[堀川]Spleenを切って、なかの細胞を押出し、ピペットでばらばらにして培養瓶に入れておきますと、Fibroblastのシートの上に大型のPlasma
cellが、浮いています。浮いているだけでつかないのです。それだけとってきて、6月7日から10月17日まで継代できました。
[勝田]Spleenは細胞の同定がむずかしいですね。
《堀川報告》
培養細胞における喰食性(Cytosis)と形質転換の試み(II)
(I)前回はL細胞に入って行くSpleen細胞のDNAをH3-thymidineでラベルしておいて、これらのH3-DNAのL細胞内でのtransferについて述べましたが、今回は蛋白をラベルする意味で持ち合せのC14-Leucineを使って同様のことをやっております。詳細な結果は次回の月報で報告します。
(II)L細胞とEhrlich ascites tumor cellにおける共通抗原について、Rabbitを用いてEhrlich細胞に対して作った抗血清を図の様にQuchterlong法のAgarの周辺部Eに置き、中央部にL細胞およびEhrlich細胞のHomogenateをAnti-genとして置く(E)(L)。Eと(E)では4本の沈降線が生じるが、(L)とEでも2本の沈降線が出来る。この内、外側の2本はEhrlichとLで共通であることが分る。従ってEhrlichの抗血清を大量のL細胞で前処置してLに共通な部分を吸収してしまうと(E)と《E》の間にみられるようなEhrlich細胞Specificな沈降線が2本得られる。現在CytosisによってL細胞内へ喰い込ませたEhrlichの核のきめ手にはこの系を使用せねばならないので、この所を明確なものにしなくてはならず、労多くして益の少い実験をくり返している。
(III)同様のことはSpleen cellに対してもみられ、今回の研究連絡会でも報告したようにSpleenから核を除いた残渣を抗原として使用した時の方が余分の沈降線が出現し、然もWhole
Spleen cellとして使用した時よりも少量の細胞数でclearな沈降線が出るあたり、抗原性としての核の意義を再検討せねばならぬ状態にある。むしろ今の段階では核内のDNAが抗原抗体反応(沈降線)のじゃまをしているようにもみうけられる。いずれにしても私共の現在の仕事はこの系をしっかりしてしまわない事にはCytosisによる形質転換のきめてが弱くなるのでがっちり取り組まねばならない。
§参考文献§
M.B.Sahasrabudhe et.al.:Partial deletion
of aspartic acid from DNA-proteins during
butter yellow carcinogenesis. Biochem.Biophys.Res.Communications
7 (3):173-178(1962)
DAB投与したラッテの肝臓からDNA-proteinを取り出し、そのアミノ酸組成を調べたもので、結果はアスパラギン酸含量がmgアミノ窒素あたりにして正常肝および新生児肝の約半分に減少しており、逆に13種のアミノ酸の内、バリンが倍増している。これはアスパラギン酸が核酸合成に用いられる結果と考え、さらにProtein中のアスパラギン酸がバリンに置換されたのではないかと推測している。同様の結果はDAB以外の他のCarcinogenでinduceしたCarcinogenesisについてもみられるのか追求してみる必要があると私自身思う。簡単すぎる実験でどうかと思うが御一読のほどを。
:質疑応答:
[伊藤]X線照射したLへ、よくLの裸核が入るというのはどういうことですか。
[堀川]おそらくPermeabilityが変るのだと思います。Lと他のものの核とは同時に入れますが、いくつもとり込みすぎると消化しきれません。X線処理したLに、新しい核が入ってどういう動きをするか、しらべたいのです。DNAのレベルにおとしてみてやれるか、又、映画にとればきっときれいにとれると思います。
[勝田]とりこまれた核がDNA合成をやれるかどうか、とりこましてからH3-thymidineを加えてみれば判りますね。
[堀川]Lから核を除き、そのあとデオキシコール酸で処理してLとオクタウロニーをおこなうと良く出ます。おそらくDNAがinhibitionをやっていたのかも知れぬと思います。
[勝田]核を取らないでやると・・・?。
[堀川]とても粘稠度が高くなって、agarの穴に入れるのにもうまく行きません。
[関口]凍結融解するとDNAが変りはしませんか。水素結合が外れるかどうか・・・。
《遠藤報告》
抄録提出がないので、のせられないが、HeLaの増殖に対する性ホルモン及びその合成誘導体の影響についての、これまでの仕事の総括をおこなった。
:質疑応答:
[堀川]微生物にはホルモン的なものはないか。
[勝田]的なものは、別の名前で呼ばれているでしょう。
[遠藤]無いと思います。Organaizeされていない微生物には無いと云えます。
[山田]働きとして何らかの調節をするものはホルモンではありませんか。また血清中にはホルモン作用はないものと考えて良いですか。Changのliver
cellで感じていますが、血清によってずい分生え方がちがいますね。
[堀川]HeLa-S3系を使ったデータはHeLa全体を代表しているといえるかどうか・・・。
[山田]厳密に云えるかどうかは判りませんが、他のものと比べて凡そ同じ位です。
[勝田]染色体数分布がAとBの裾が重なり合う二つのピークを持つ細胞集団で、bのところ(Bの中心でAの裾が重なっている)の細胞をcloningしたとき、Aの曲線が再現されるか、それともB中心の曲線に移るか、これだけは、山田君ひとつ奥村君と共同してはっきりさせてくれませんか。
[黒木]私のところでは吉田肉腫から5種のclonesを作りましたが、その内の1種が4倍体で、これはずっと続いています。
[勝田]いや、私の意味するのはploidyのようなちがい方でないものです。
[佐藤]うちでは血清濃度によって変りますね。血清を濃くすると増殖率が上り、染色体数もふえてきます。
[山田]2倍体を維持するには血清が影響するという文献があります。
[黒木]吉田の巨細胞は核が大きくて切れ込みがありますが、血球を入れて培養すると小さくなり、血球を入れずに培養すると、大きいまま増殖します。
[佐藤]吉田の復元法は?
[黒木]100〜200万位を大沢のHybridにうえると90%位つきます。2,000ケで3/4匹、20,000ケで2/4匹(呑竜)つきます。但しこのつかなかった2匹に2月後に200万うえたら死にました。
[佐藤]トリプシンをかけても充分ばらばらにならないときは、どうしたら良いでしょうか。
[山田]充分バラバラにならぬものをむりにpipettingを強くするより、トリプシンを充分にかけて軽くpipettingした方が細胞をいためないでしょう。
【勝田班月報・6301】
《勝田報告》
§日米癌化学療法討議会§
さる12月20日21日と麻布の国際会館で、約50人の完全なclosed
systemで行われました。ガリオア・エロアの返済すべき金を、日本のために使ってよいということで、科学のみならず、教育と経済についても、日米協力委員会というのができ、科学委員会では日米各10人宛が出席して、理工農医について討議した結果(医では吉田教授)、癌の研究を当分行なおう、ということになったのだそうです。そして、そのprojectsは、第1が化学療法、第2が癌の地理病理学的研究で、化学療法が主体ですが、まず、信頼性のある、普遍性のスクリーニングの方法をきめ、共通の言葉としようというのが歩み出しのようです。今回の討議会では、主に日本におけるこれまでの色々なScreeningの方法の紹介と、米国における方法の説明がありました。なお日本におけるこの仕事をはじめる場所として、佐々木研究所を足場にしてやって行きたいと、吉田教授は云っておられました。その理由は、1)癌研究の古い歴史を持っていること、2)民間研究所であるから人的支流が容易であること、であり、しかし元来は両国政府のやることであるから、将来は独自の機関を作るよう政府に要請する、とのことでした。Screeningには動物実験の他に、組織培養を非常に重視してきたこと(アメリカに於ても同様)が注目されました。それ故にこそ私などが呼ばれたのでしょう。これまでより遥かに重視するようです。アメリカではEagleの作った株KBを使っているようです。日本では動物の移植tumorの初代培養を使うのがほとんどでした。どちらが本当のヒトのtumorに近い性質を示すか、色々問題になる点もありますので、そこをかなり突いたところ、NIHからきたDr.Leiterもやっきになっていました。
日米合同科学討議会での結論
日米科学協力委員会は、癌化学療法の共同研究に関する勧告を行ったが、この勧告に基き、1962年12月20日、21日両日、東京において、日米合同癌化学療法シンポジウムが開催された。日米両国における癌化学療法スクリーニングの各種の方法が、総括的に検討、評価された。この学術的討議の結果として、参会者全員は次のような要望を提出することに一致した。
1.日米間に相互に共通する「基準スクリーニング方式」を実施するためのサービスセンターを日本に設立すること。このセンターの活動が確立するまでは、日本政府は、この機構を、民間機関として設置するのが適当であると考えられること。
2.「基準スクリーニング」を構成すべき各個のスクリーニング術式を選定するために、日米実行小委員会を設置すること。
3.米国癌化学療法サービスセンターは、日本側から推薦される試験方法を採用して、新たなスクリーニング方式を追加設定する。
4.日本政府は、日本サービスセンターの活動のために必要な供給源として、遺伝学的純系動物の開発、保持、繁殖の機構、腫瘍及び培養細胞株の保存供給機構(銀行)、さらに動物の保健機構等、必要な機構を設置すること。
5.両国において新薬剤が開発された場合には、できる限り速やかに情報の交換が行われるべきこと。
6.新しい薬剤が別個の方法によって開発された場合は、何れの国における場合も、基準方式にかけて試験し、その効果が両国において等しい基盤において判断、了解されるようにすること。
7.癌化学療法の問題のうち、その時々に適切な課題をえらんで、日本又は米国において随時シンポジウムを開くべきこと、このシンポジウムは大体1年に1回位が適当と考えられること。
8.日米両国は研究者の交換計画を確立し、科学協力の基盤の拡大を計るべきこと。
◇第2日最后にこのような結論がまとめられた(そのとき私は不在でしたが)。もう少し基礎的研究の援助もうたうべきであると我々は考えられるが・・・。
§文部省癌班長会§
12月15日に癌の綜合研究班の班長と数名のGuests(川喜田、山本正、滝沢、石館その他の各氏)でclosed
systemの一種のSymposium(or放談会)をひらきました。Palace
Hotelでやったのですが、仲々面白く、一日中あきずに猛烈なDiscussionがありました。何れも一言居士ばかりなので、発言したければ手なんか上げずにさっさと黒板を占領する必要があるほどでした。はじめに川喜田教授が、滝沢教授を"仮想敵国"と見なしながら、癌ウィルスの話を意気軒昂にやっていたのですが、小生がウィルスでできる癌の細胞はいつも似た性質のものができるのではないか。つまり一定の方向性があるのではないか。一般に例えばDABなどによる肝癌では、その都度色々なものができ、つまり方向性のないのが癌の特徴の一つ、と考えられているのだが・・・と云いましたろころ、急にしょげてしまって、そのときはそれほどとも思わなかったのですが、22日、日米合同の昼食のとき机に並んだところ"あれは痛いことを云われた。あれから川喜田さんと夜おそくまで銀座でのみながら嘆き合った(慰め合った?)。"と山本氏。"どうも君たち病理屋はウィルス屋を憎んでいるらしい。悪いウィルス屋とばかりつき合うからだ。"と川喜田教授がのたまいましたので、早速"そうです。安村君とつき合っているからでしょう。"と答えました。
このときは学問の他に、研究費申請についても若干の説明があり、がんの特定研究の研究対象に"化学療法"が入っていないのは怪しからんと、盛んに石館氏が文部省の人たちをいじめ、あまりひどいので小生は"これまで別枠の予算の大部分をとっていたのに、一寸もラチがあかないからこの辺で少し方向を変えてみよう、としたのでしょう"と云ってやりましたら、となりに居た藤井隆教授に"君は云いにくいことをずい分ずけずけ云う人だなあ"と妙な感心をされました。なお"こうしたことの相談役に誰かが決まってなると、ボスが自分の子分にだけ金をやることにならないか"という話に、吉田教授が"この頃はそんなことはあるまい"と答えたところ、阪大の山村教授が"本人が云うんだから、これほど確かなことはあるまい"と大笑いになりました。お正月らしく笑話をならべまして・・・。
§研究報告§
A)発癌実験:
12月の班会議のとき報告したように、DAB-正常肝の組合せで、誘導されて増殖してきた細胞は、腫瘍性も認められず且細胞自体にAtypieが少いので、第二次刺戟を色々と試み、Atypieを起させてみることを計画した。RoutinelyにPrimaryの生え出しを使うことは仲々能率がよくないので、株化したRLD-1を使ってAtypieを起させるFactorのスクリーニングをすることにした。
方法は小角瓶を直立させ、底に小さなcoverslipを入れ、細胞と培地を1.5ml入れる。一定期間培養后、タンザクをとりだし、ギムザ染色して細胞の形態をしらべ、効果をたしかめる。この方法はやってみたら仲々便利な方法だった。
Exp.1: 培地の上に流パラを入れ、気層と縁を切らせる実験。
1962-12-7より4日間放置・・・あまり形態に変化なし。
Exp.2: 培地を交新せずに放置する実験(1962-12-7より)
4日后: 核の大小不同が現われ、4倍体に相当する核もみられる。多核は少い。
6日后: 核の大小不同さらに顕著。核にくびれのある細胞が少し目立ってくる。
8日后: 核の不整形化がやや目立ち、核にこぶのついたものが増えてくる。
数ケの核をもつ細胞もふえてくる。
10日后:多核が増え、核の不整形のものが非常に目立つ。
14日后:細胞はほとんど変性壊死。
17日后:培地交新。(以后週2回宛)
25日后:新しい細胞集落の形成を発見。この細胞は2核が多い。
Exp.3: 第2回目にもDABをかける実験(1962-12-12より)
DABを1、3、5μg/mlに4日間与えたが変化を認めず。
Exp.4: 流パラ、Chick Embryo Extractの影響をみる実験(1962-12-13より)
1.CEEを10%に加えたところ(流パラなし)、4日后には細胞はほとんど死。
2.流パラ重層(CEEなし)をさらに長期にみると
7日后: 変化なし。
11日后: 週2回、1.5ml宛新培地を追加。
20日后: 核小体が小さく且数のふえている細胞が多くなった。
(注意)これらのExp.にはすべて通常の培養法のものを対照におき、比較観察している。
Exp.5: Rat liver extract、Rat serumの影響(1962-12-19より)
RLE 1%、RS 5%何れの群も9日后にみると、多少核の大小不同がある程度。
RSはCalf Serumより反って増殖がよい位。
Exp.6: 乳酸添加の影響(1963-1-3より)
乳酸を0.01%、0.1%に加えると、培地のpHは夫々7.4、6.8と下がる。しかし補正せずにそのまま培養。結果はあまり変化を与えず、反って形態がきれいなほどであった。pHのeffectか、乳酸のeffectか判らぬが、面白い現象である。しかし傍道に入りそうなので、この問題はしばらく手をつけないことにする。
Exp.7: サリドマイド添加の影響(1963-1-9より)
サリドマイドはグルタミンやビタミンBの拮抗剤で、奇形児を作るので有名だが、やっと手に入れてテストを開始した。(遠藤班員に感謝する。)
以上の実験結果を総括すると、1)培地交新をせずに放置して、新生してくる細胞をつかまえる(Exp.2)のと、2)流パラを入れ培地を加えて行く法(Exp,4)とがどうやら有望かも知れぬので、今后は殊に前者の法を何回かくりかえすことを試みる予定である。サリドマイドは勿論内心大いに頼みにしているが、結果はまだ判らない。
Replicate CultureでのDAB添加実験(C#30、1962-11-20より)
このExp.をはじめたことは前号のラストにかいたが、18日ラッテの肝を細切、80、150のメッシュを通して得たcell
suspensionを34,000核/tubeで短試に分注。DABははじめの4日のみ。70本中45本にDAB。1μg/ml。4、8、10、13、15、17、19、25、30、37、41日后にcell
count。Controlでは15日迄はinoculum sizeのまま保たれ、17、19日と少し減り出し、30日后には0に近く落ちてしまった。DAB群は15日后に3本中1本に、40ケの核の内10ケの核が新生した細胞の核らしい形態を示した。19日迄はcontrolと略同じ経過を辿ったが、25、30日にもなお細胞はかなり残り、30日目の3本中1本では明らかに新生細胞の核と思われるものが25,000ケ/tubeあった。しかし、37、41日后かぞえたtubeではExp.Cont.共に、生きている核は一ケも認められなかった。細胞数とtube数をもっとふやせば確率がよくなると思われるが、とにかくReplicate
cultureでも行けることが判ったのである。
B)ラッテ腹水肝癌AH-13の培養:
AH-13は毒性がつよく、腹腔にあまり細胞のたまらない内にラッテが死ぬ。正常肝との
Parabiotic cultureを試みたいため、これまで色々培養を試みたが、旨く行かなかった。ところがCalf
serum10%+Lh0.4%+Dの培地に、黒木君のpyruvicacidを0.01%加えたところ、カーブが上昇し1週間に4倍増殖を示した。同君に感謝したい。
《佐藤報告》
班員の皆様、明けましておめでとうございます。昨年は班長以下皆さんの愉快な又気力あふれる会合に出席し色々と勉強させて頂き研究に対して大きな刺戟となりました。本年も宜しくお願いいたします。
昨年中DAB→ラッテ肝に対する生体外発癌に関して実験を繰り返し色々の結果が判明して来ました。本年はこれら実験結果の中から発癌(動物復元可能)の最短距離を探しだして班研究の有終の美をかざりたいと思っています。又昨年までは培養そのものの技術的問題等に実験を集中しましたので本年は文献やその批判に時間をさきたいと思っています。
次に昨年末の実験結果を報告します。勝田班長からの宿題(DABの短期投与)
◇C34 1962-12-22=0日 ラット生后15日、DAB調整は1962年11月4日
使用牛血清は原液のものと同じ、液交換は対照は4日目。
結果は(表を呈示)、8日目の所見及び17日目の所見はラットのAgeの比較的若いものではDAB1μg/1mlの投与では1日間>2日間>3日間>4日間の順位で増殖本数が多く且1本当りの増殖細胞数も明かに多い。Controlは13日所見で増加の傾向が見られるが組織片1個当りの細胞数は少い。少しでも増殖(Epithelial)が見られたものを記載した関係上13日目4/5と忠実に記載したが1本当りの量及び全体観からは2/5〜1/5と記載する方が事実に近い様である。将来株化し得ると考えられる増殖(Epithelial)の点からは17日目の結果が最も正しいと考えられる。17日目の成績は、DAB1日間5/5、2日間4/5、3日間4/5、4日間3/5、controlは1/5であった。
◇C35 1962-12-27=0日 ラット生后20日(C34と同腹)。DAB、血清及び実験方法はC34と全く同様。8日目の結果(Epithelicalの増殖傾向のもの)DAB1日間0/5、2日間2/5、3日間4/54日間1/5、control1/5。12日目(増殖確実のもの)、DAB1日間0/5、2日間1/5、3日間2/5、4日間1/5、control
0/5であった。
◇C34、◇C35では結果が現れさうですから8日間まで実験を組んでもう一度やってみます。
DAB実験の長期のものの概括は(表を呈示)、C8のContr.Exp.、C10のContr.Exp.、C17の
EXp.、C21のContr.、C22のExp.、C22のメチルDAB、C23のExp.、C20のExp.が株化あるいは殆んど株化しています。その中の5系列については染色体数を調べましたが、分布は2倍体近辺に広がっています。
《杉 報告》
あけましておめでとうございます。
昨年末から高木班員渡米のあと代理として班会議に出席していましたが、今度申請する研究班には正式の班員として加えて戴くことになりました。どうぞ宜しくお願いします。高木さんもあちらで元気にやっているそうですので御安心下さい。ところで研究の方は年末にかけて高木さん渡米後、雑用が増えたり研究室の人手が少くなったりで、こと志に反して殆んど進展していません。新しい年を迎えてこれではいけないと決意を新たにしているところです。幸い段々と落着いてきましたので新しい実験にとりかかります。
[発癌実験]
私の手で昨年やりましたもののそのごの経過を報告しますと、
golden hamster kidney←→Stilbestrol
Exp.1 生后28日、S(1μg/ml)。培養4日目−18日間・22日目。(第2代へRT6本→2本)
18日目:S群2/2中1本はかなり、C群1/2。32日目:両群とも増殖の兆なし。41日目:細胞殆んど脱落。
Exp.2 生后36日。S(1μg/ml)培養初日−22日間・22日目。
22日目:S群2/6にepitheloid cell(E)が優勢の部あり、C群殆んどfibroblast
like cell(F)が主。42日目:両群ともかなり(第2代へRT6本→3本)。2日目:両群とも少し、僅かに
S群がC群に比べ優勢?。12日目:S群3/3中1本は非常によくEの部がみられる、C群3/3
Fが大部分。
Exp.2では2代に継代した後の細胞の拡がりは殆んどが母組織を中心にしているのでこれは増殖とはいいきれないと思われる。しかし12日目に於るS群では1本が明らかによく生え且つC群にみられないEがかなり優勢に出つつあることから希望がもてる。
golden hamster liver←→Stilbestrol
Exp.1' 生后28日。S(1μg/ml)培養4日目−28日間・32日目。
32日目:S群2/6 Eが中等度。C群殆んどなし。63日目:両群共に増殖の兆なく変性に傾く。 現在まで用いるhamsterの性についてはあまり考慮していませんでしたが、文献によるとstilbestrolをgolden
hamsterの皮下に与えてrenal tumourを作るのは雄であり生体と試験管内では条件が異なるとはいえ雄を用いた方がより適切と考えられるので、この点にも留意したいと思います。又stilb.は逆にprostateやbreastのcancerの治療にも使われており、このへんのところはdosisの問題やいろんな条件がからんでむつかしく、我々の実験でも作用させる期間とか問題はいろいろあるでしょうが、これを解析して行くのが組織培養をやる者の1つの使命だと心得てやるつもりです。
[免疫]
株細胞の家兎免疫血清による諸種動物赤血球凝集反応については、そのご日本猿血球について行いましたが結果は次の通りで(記載法は既報に準ず)、抗MS血清に最も高く抗人由来細胞血清にもいくらか出ています。抗HeLa:2、FL:3、Chang:3、JTC-8:1、JTC-4:0、L:0、MS:4。以上の様な血球凝集反応に並行して蛍光抗体法や堀川班員のやっておられる様な
Ouchterlony法を用いたりしてやる準備をすすめています。
臨床教室は人が多くて予算が少く、そのため機械器具が思う様に揃いませんが、実は蛍光顕微鏡のいいのが今まで教室になく困っていましたところ、近く入る予定ですのでそれがきたらやることにしています。大体今後の方針としては前回の班会議で与えられた課題を中心に発展させてゆくつもりですが、私自身が未熟でいろいろ勉強したり教えられたりすることが多いと思いますので宜しく御指導をお願いします。
《堀川報告》
新年おめでとうございます。
研究に学会にあるいはミーテングにとあけくれた1962年とも別れをつげ、新たに1963年の正月を迎えるにあたり、まず年頭の御挨拶を申し上げます。
かえりみるに、1962年は私にとっては1961年同様に目の廻る程多忙な一年でした。千葉の放医研に滞在すること一年にして、翌1962年の春には京大に転勤しなければならぬ状態になり、それ以後は試験管一本ない新設講座で新しい研究室造りに日夜追い廻されていた様な状態でした。従って私には、in
vitroでの発癌という大きな課題をになっておりながら、充分に任務を果せなかったことを心苦しく思います。正直なところ、この2年間私のやった仕事はどれだけだったか。勝田、佐藤、高木先生その他の方々に比してはるかに微小なものだったと反省しております。
たしかに私共は助手という立場で自力以外にasistantがいない、これは研究者にとって何よりも大きな弱点であると思います。あの様な方法でやってみたい、この様に改良した方法を駆使してみたいと思いは色々浮んでも、結局は追いついて行けなかったというのが偽のないところでした。この点同じ立場の遠藤さんはまったく私と同じ苦境にあったと思います。
然し、研究者にしてこの様な云い訳をするのは私自身の努力の足りなかった為で、今年こそはこの様な問題を打開して班員の一人として先日も報告しました様な私なりの方法論で大いに力を発揮したいと思います。
従来分子生物学の主な研究対象はビールス、バクテリア、それにバクテリオファージといった微生物に向けられていました。そして今後もしばらくはこの傾向は続くとしても近い将来、分子生物学の主要路線はかならず動物細胞の発生と分化に向けられ、そして人類最大の的であるガンと取り組んで実社会への貢献の足がかりを作ることは間違いのないところであると思います。この様な事態に先んじて今日我々がin
vitroで発癌という問題と取り組むことは、癌の本体をつかむ上にも大いに意義深いことであると信じております。幸い一昨年暮から放医研の土井田君も当教室の助手として加わってくれましたし、今年こそは大いに頑張って行きたいと念願しております。よろしく今年もお願いします。
《山田報告》
本年もどうぞよろしく
新年早々あまり楽しい話ではないのですが、昨年暮2月ばかり細胞の培養がうまくゆかず、屡々HeLa細胞のp.e.が0%ということがあり、あれこれ疑って調べてゆくうちに、雑菌混入につきあたりました。原因としては、1)
Millipore FilterのGrade HA(穴の大きさ0.45μ)は一応滅菌用として売出されているものの小型の球菌を通す危険がある。
2) Millipore Filterのpyrex filter holderは二面のスリ硝子で濾過膜をはさんでPinchでとめるだけなので、過度の過熱によってガラスに歪みが生じ、濾過膜の周辺より液を吸い込む危険があるのではないか。このことは今池本に確かめてもらっています。実際にはPH(0.30μ)で滅菌できていない事を認めました。 3)
最後に勝田さんには叱られそうな話ですが、抗生物質の使用は雑菌の検出を遅らせ、発見した時には広く汚染されてしまっている。
以上の手落ちの重なりで2月ばかり無駄にしてしましました。自戒のために書きました。 ◇◇もう一つのことはWistar
Instituteから送られてきたhuman deploid cell
strainのことです。WistarではHayflick及びKoprowskiによってこのdiploid
cell strainを使ったpolio vaccineが作製され、WHOのきも入りで世界各国で研究できるように配布の手順ができ、予研の手のはやい部長が早速に申込んで入手したのですが、その維持をまかされたものです。かなり手がかかること(週2回、1本を2本にsubcultureせねばならない)、又結構その維持が難しく、いささかもてあまし気味ですが、私個人としても実験に使いたいので、give
& takeで引受けたわけです。その送り状によると、50代継代をつづけると増殖能力が失われる、すなわちunlimited
growthという事が特徴で、これが所謂株化した細胞(彼らはcell
lineと呼んでいます)と異る点で、このような培養によってのみdiploid
cellの維持が可能であるという見解は、経験論的ですが、面白いと思います。3〜4日でSubcultureすると細胞数はおよそ2倍になっていることが認められますので、この株が切れるまで、培養開始より約半年間という事になり、その間個々の細胞は2の50乗に増殖することになります。この2の50乗という数字は10を虚としますと約10の15乗で、細胞のwet
weightを10-6乗mgのorderと考えますと、大体100kg〜まで1個の細胞が増殖し得る計算になります。これらのdiploid
cell strainはembryo由来ですので、受精卵が人間1個体まで発育し、それぞれ分化し、又repairを活発に、あるいは組織によっては緩慢に行って、やがて死に到るまでに産生する細胞数と近い数字を示すことは、何か細胞の寿命を暗示するようで、話題になりそうです。私のところで維持している細胞の寿命をできるだけ延ばすよう−しかしモーロクしないように−精々心掛けるつもりです。
なお、original reportはExp.Cell Research,25,585-621,1961に出ております。標題はThe
serial cultivation of human diploid cell
strainsです。
◇◇最後に高野の住所をかきます。時にくる手紙では、元気でやっております。仕事はInterferonのこと、又もとのvirus屋さんにもどったようですが、本人は癌屋のつもりでおりますので、どうぞお見忘れなく。
【勝田班月報・6302】
《勝田報告》
A)1月はもっぱらThalidomideで終始した。Primary←DABで出てきた細胞を使うのはもったいないので、株化したRLD-1を用いた。
[サリドマイド濃度]Thalidomideは水に難溶であるが、薄い濃度ではとける。0、1、10、50μg/mlの終濃度でしらべると、1μgでは薄すぎ、50μgでは濃すぎ、10μg/ml位がいちばん手頃である。
[細胞の変化]撰択的に核に変化が起る。有糸分裂はきれいに2群に染色体が分れず、わきに取残されるものが出てくる。その頻度はかなり高い。そして一旦分裂した核がまたそのまま融合するのであろうか、巨核が現われ、一般的にも核の大小不同、くびれ、こぶ形成、核小体の数がふえ、大きさが小形化・・・などの現象が現われる。特に濃度の高くない限り、細胞質には空胞変性などの変化はほとんど起らない。多核細胞も屡々見られ、巨核細胞は群をなしていることが多い。巨核細胞の分裂像も見られた。また4極などの異常分裂もある。いかにも悪性面をしてきたので、目下これをふやして復元接種する準備をすすめている。またPrimaryのliverにもDABで誘導したあと、そのtubeのままでサリドマイドをかけている。(Subcultureを待つと月日が経ちすぎるので)その結果は未明。
(模式図を呈示)図は数例の略図を示しただけであるが一般に核の変形は実に多彩である。 [サリドマイド添加日数]1〜7日間添加后、第10日にしらべると、1日添加でも巨核は現われるが、出現頻度は低い。綜合して、少くとも4日間位与えた方がよいと判定された。しかし問題は添加を止めたあと、何日間サリドマイドのeffectが残るかである。不可逆的変化を遂げてくれなければ意味がないからである。
Controlは何十本もの内1本だけ巨核細胞が現れたが、その頻度は培養中でも低かった。同じ株のなかでもCulture
flaskにより細胞の性質の異なることを考慮し、Stock
cultureは継代のときpoolせずにflask別に継代している。
RLD-1以外のRat liver株(DAB+及び−)についても同様のサリドマイド添加をはじめた。結果は未明。
B)ラッテ腹水肝癌AH-13の培養:
これまでに判ったデータは 1)10%CS+0.4%Lh+Saline+0.01%Pyruvic
acidの培地で、7日間は増殖を維持する。2)血清は、Calf
serum、bovine serum、horse serumの内ではCSが最も増殖がよい。3)Pyruvic
acid濃度は、0.005%、0.01%、0.05%の内では0.01%がoptimalである。4)目下calf
serumのoptimal concentrationを検討中である。これは3月末までには基礎的データを出し、Normal
liver cellsとのparabiotic cultureを検索する予定である。 C)アミノ酸分析:
昨秋入った日立のアミノ酸自動分析器がようやくこの頃順調に運転できるようになり、いろいろのアミノ酸分析をはじめている。
a) L・P1→L・P4の4亜株細胞のアミノ酸消費及び細胞蛋白構成アミノ酸組成を比較している。アミノ酸消費は、合成培地DM-120中で培養したあと、培地のアミノ酸の種類と量を測定し、培養前の培地と比較するのである。Eagleによると、色々の株細胞が皆似たようなアミノ酸要求を示すように報告されているが、我々の得た結果では同一のL株から枝生した4亜株の間にさえ、かなりの特異的な違いのあることが判った。つまりEagleのようにproteinを少し加えた合成培地でなく、純粋の合成培地でしらべているので、proteinからのliveration(or
contamination)を除去できてこのような差を見出すことができたものと思われる。蛋白構成アミノ酸についてはなお検討中である。
b) マウス移植性白血病(腹水型、C-1498)の細胞蛋白構成アミノ酸の組成:
2年ほど前からこの細胞の培養を試みているのに、仲々成功しない。よほど変った栄養要求をもっているにちがいないが、現在まで用いられたあらゆる培地を試みても旨く行かないので、細胞を集めてその蛋白を分離し、さらに酸分解して、アミノ酸組成をしらべてみた。その結果、第一に判ったことは、他のL系などの株細胞に比べ、各アミノ酸の細胞1ケ当りの含量がかなり低い(1/4〜1/6)。細胞の形態もきわめて小さいが、分析値でもこれが示され、次に組成の大きな特徴はmethionineがきわめて少ない(≒0)。酸化されたとしてもmethionine
sulfoxideが殆んど出ない。Cystineも少い。大変面白いのでヒト白血球についても目下検索中。
《佐藤報告》
前号に引きつづき株化されたものの染色体数分布を検索していました。
(染色分布図を呈示)今回はC22:C21:C20:の三例を見ました。詳細な検討は2月14日上京の班会議で御批判いただく事にしますが、極めて興味のある事はC22実験でDAB"発癌"の場合には42より左より(少数の方)に染色体数が分布しますが、同じ実験(同じラット)でメチルDABを使用した場合には明かに右遍(増える方)している事です。この株はメチルDABのみで発癌している可能性を追求します。
C21 contr.は前号記載の如くExp.の株はありませんが、形態的に明かに"箒星状細胞"であります。(染色体数分布は42が最頻値で44、45にもピークがある)
C20 Exp.は前号記載のものと同様DAB"発癌"のものであるますが、前回のものと同様42より左遍しています。
染色体数分布については勝田さんの謂われる様に精確にしなければならないと思いますが、42染色体数のものは比較的に美麗にみとめられます。42染色体数が現われる頻度はどうもラッテ日齢(実験時)で関係する様に考えられます。
DAB短期投与の実験◇C36、◇C37は夫々6日目、2日目で未だ結果がでていません。
C10Exp.株のラッテ血清(20%)駲化は仲々むつかしく牛血清と交替にして継続しています。C10Exp.株は一部5%LD牛血清で継代中で、これとラッテ血清で比較して見ます。ラッテ血清を2日間程使用すると、細胞に変性がおこり、後で牛血清に戻ししてもpolymorphieが長くのこっています。
《杉 報告》
昨年末から今年始めにかけての発癌実験のdataを大ざっぱにまとめますと
golden hamster kidney←stilbestrol
Exp.1 生後28日、S(1μg/ml)、培養4日−18日間・22日目。14日目:S群Eが優勢のもの3/6、C群Fが主。22日目(第2代へ、RT6本→2本)。第2代・5日目:18日目:S群2/2、C群1/2、概してS群の方が細胞が多い。32日目:両群共増殖の兆なし。41日目:細胞殆んど脱落。
58日目:培養中止。
Exp.2 生後36日、S(1μg/ml)、培養初日−22日間・22日目。18日目:両群共にFが主で両者間に差なし。22日目:S群2/6にEが中等度。42日目(第2代へ、RT6本→3本)。第2代・12日目:両群共3/3、但しS群の中1本はE多し。22日目:S群で優勢だったEが不明瞭となったがS群はC群に比べ明らかに細胞多し(S群1本破損)。29日目:両群共にFが主であるが、C群に比べS群は細胞多し。30日目(第3代へ、RT3本→3本)。
Exp.3 生後81/2moth、male、S(1μg/ml)培養初日−10日間・10日間。7日目:S群10/11、C群5/11少し。14日目:S群11/11、C群7/11、Fが主。中等度。
Exp.4 生後103日、male、S(1μg/ml)、培養初日−6日間以上。4日目:S群5/10、C群4/10、極めて少し。
golden hamster liver←stilbestrol
Exp.1' 生後28日、S(1μg/ml)、培養4日−28日間・32日間。27日目:S群2/6、C群1/6、E少し。32日目:S群2/6、C群細胞殆んど(-)。63日目:S群も細胞変性に傾く。73日目:細胞殆んど(-)。
hamster liver←Sのsystemは動物実験でpositiveのdataがありませんので可能性は薄いとみてExp.1'だけで中止しhamster←Sについては専らkidneyだけにしぼってやることにしました。Exp.3と4はoldのhamsterを用いました。理由はhamsterが最近の寒波異変のためでもないでしょうが増殖が思わしくないためyoungが不足しているのと、liverに比べkidneyは比較的よく生えるので思いきりoldのを一ぺん試みに無駄を覚悟でやってみたわけです。youngなものに比して生えが遅く使えるかどうか分りません。どうせ復元にもっていくのだからやはりyoungなところで増殖の盛んなのを捉えるべきでしょうか。今までのところ、golden
hamster kidney←Sに関しては対照群より実験群の方がいつも少しいい様です。しかしまだまだはっきりと差をあらわす旺盛な増殖といったものは認められず、作用期間、量、又更には第2のfactorと検討を要する問題がありそうです。更に例数を重ね検討したいと思います。
《山田報告》
DABを組織培養系にもちこむためにはどうしても滅菌しなくてはならないわけですが、高木先生によって紹介された100℃30分3回の間歇滅菌でDABが破壊されないかどうか、もしこれでこわれないのなら10lb10分の高圧滅菌で簡単に滅菌できないかどうか、そのような極めてprimitiveな事を確かめるために滅菌前後のDAB液の分光吸光曲線を調べてみました。DABそのものの吸収曲線は10-4乗MのDABのEthanol溶液で調べた所、410〜412mμに最大の山があり、これがN=Nによるものである事がわかりました(図を呈示)。Tween20には特異な吸収はありません。そこで410mμの吸収度を基準に100℃30分の加熱の影響をみた所(班できめた方法でDABをTween20にとかし、アミノ酸・ビタミン塩類溶液で稀釋したものについて)殆んど影響のない事がわかりました。10lb10分高圧滅菌した場合には410mμの山が約40%低下し、他の消長には殆んど影響がないので、DABのやく40%が高圧滅菌によりN=Nのところで破壊されることが明らかにされました。残念ながら滅菌の簡易化は不成功に終ったようです。DABの蛋白と結合した場合には別のところに山がでてまいります。ただ問題は血清の色が黄−橙のことで、全液については簡単に測定されません。(Phenol
Redは除けますが)。又410mμの吸収で細胞内の分布を測定できないか、(あるいは蛋白と結合した500mμ〜の所で)、考えていますが、濃度の問題で限界がありそうです。尚、DAB液を氷室保存中にDABの結晶が晶出してくるため、そのまま分光計にかけますと吸収度が低下しています。もしこの場合DABがAmino酸と結合したために低下したのなら別の山が現われる筈ですが、これは認められませんでした。細胞に対するDABの影響を定量的にみるためには小さい事ですが、まだ色々と問題がありそうです。
《堀川報告》
培養細胞における貪喰性と形質転換(癌化)の試み( )
(1)正常L細胞がH3-thymidine labeledマウスSpleen細胞を貪喰した際、貪喰後急速に、Spleen細胞のH3-labeled-DNAをL細胞核に吸収してしまうことは( )報で報告したが、これはhost側のL細胞のcytoplasm内に存在するDNaseによってSpleen細胞内のDNAが分解されL細胞自体のDNA合成に使用されるものであろうと云う可能性を暗示した。今回は同様の方法でマウスSpleen細胞をC14-DL-leucineでlabelし、これをL細胞に貪喰させた後のC14-proteinの挙動を追求した。H3-thymidineの場合と異ってC14を使用した場合はAutoradio-graphyの解像力が悪く、そのdetectionが容易ではないが技術面を改良して得た結果は要約して次の様になった(図を呈示)。C14-leucine
labeled mouse Spleen cellsとLを同一Medium内でcultureすると、L細胞のSpleen細胞の貪喰はincubation後3〜5時間目頃からみられ、Spleen細胞のC14-proteinは始めはL細胞のcytoplasmにtransferされるが、以後L細胞の核、又は主として核周辺に集まることが分った。これらの結果と( )報の結果から綜合して、貪喰されたSpleen細胞のDNAも更にはproteinもhost側のL細胞に吸収され、恐らくL細胞自体のDNA、protein合成に利用されることを意味しており、transformationの可能性を暗示するものである。然し、この場合あくまでSpleen細胞のDNAがL細胞内のDNAの一部分とreplaceしてtemplateとしての作用をもち、数十継代分裂後のL細胞にもSpleen細胞のCharacterを維持し続けるか否かは今後の大きな問題であると思われる。
(2)Ehrlich細胞核をL細胞に貪喰させた場合、どの様な形でEhrlich細胞DNAがL細胞核にincorporateされていくかを決定することは、形質転換の解明上まずやらねばならない問題である。現在予備実験として、Ehrlich細胞DNAをP32でlabelして、そのDNA、RNABaseごとのP32activityを調べ、L細胞が貪喰した場合どの様なEhrlich
cell DNAのBase componentをとり入れるかを決定している。この結果は、現在の段階では予備的なもので次回に報告をゆずりたい。
(3)前回の班会議で報告しました0.4μdiffusion
chamberを使ってのin vivo cultureは現在土井田君を中心にして仕事が展開されており、これまでin
vitroにのみ全てをたよっていたculture法が生体内培養と云う恵まれた環境の応用により、発癌問題の2stepの突破にも大いに利用出来る可能性が出て来た。
然しmouseのstrainによってin vivo cultureの容易なもの、手術に対してresistantなものsensitiveなものなどがあって現在それの基礎的dataの集積中です。
いづれ近い内に御報告出来ると思います。
《遠藤報告》
昨年はさぼりにさぼって除名の憂目にあい、辛うじてお情けで名前だけとどめて戴けることになりましたが、"一年の回顧反省"は、確かにこの班の究極の目標でありしかも既に突破口は開かれた目標であるin
vitroの発癌に対し積極的に何も貢献できなかったという事実に対する悔恨の一事に盡きます。そこで、さぼりながらもこの一年間多少勉強し考えてきたことを"きたるべき一年への抱負"として書いてみます。
(1)これまでにやられてきた方法をそのまま踏襲しても何もできそうにないこと
"The Morphology of the Cancer Cells"""Biochemistry
and Physiology of the CancerCell" "An
Introduction to the Bio-Chemistry of the
Cancer Cell"その他いろいろあさってみても、結局のところはじめからわかりきった癌の多様性と正常との間に決定的な差異がないという事実を再認識するにとどまり、過去の方法論にのっとるばかりではこれらの知見に同質のものを加えるだけであることがよくよくわかりました。
その点、in vitroの発癌という試みは全く新しい戦術であり、膠着した対癌戦線を切り崩す有効な方法の一つであることもよくわかりました。
しかし、この場合、発癌を判定するマーカーとしてAtypismその他いろいろのbiological
behaviorをとるとしたら、これまでの専門からして私にはかなり不利である。それでは、何かbiochemical
characteristicsをといっても、現状specificなものは何もない。
そこで従来とは少し違った観点を持ち込んでbaiochemicalに発癌に到る過程を追ってみたいと考えるようになりました。違った観点というのは、私の分担課題になっている《内分泌学的》ということです。
(2)発癌に内分泌因子の関与もありうるということ
これまでは、ホルモンのTarget organの癌以外では、発癌や育癌に内分泌因子をあまり考えていないようですが、ホルモンのtarget
cellもnon-target cellも同じgene構成を持っているのであるから、cellular
controling mechanismによって量的にmodifyされているにしても、ホルモンがnon-target
cellにもmetabolicalに何か作用していることは当然考えられます。とすれば、普通はhormone
dependencyを考えない発癌や育癌にも内分泌因子が関与していることは充分考えられます。
これがDAB肝癌の場合にもあてはまらないでしょうか。勿論考えられるから、勝田さんの所では既にDABの後処理としてtestosteroneやgrowth
hormoneを使っているわけですが。 これに関連するこれまでの知見を二三あげてみますと、
1)DAB肝癌発生における性差の問題
昨年10月の癌学会総会で、癌研の馬場さんが話されたので既に御存知のことと思いますが、長期観察による発癌率には性差はないが、その過程では♂の方が早く死亡し、これはtestosteroneによって惹起されるものである。これを馬場さんは、発癌頻度に性差はなく、その後の育癌の過程がtestosteroneによって促進されるからと考えています。(しかし、発癌がtestosteroneやestradiolにindependentでるという積極的な実験的証拠はこの実験の中にはないようです)
2)正常肝の代謝にもホルモンが影響する
(a)Cantarow,A.et al:Cancer Research 18 818(1958)
Uracil-2-C14は正常rat肝ではRNAに入らないが予めtestosterone或いはgrowth
Hormoneを投与しておくと再生肝同様RNAによく入る。
(b)岩本:生化学 31 355(1959)
♀ratの肝細胞核のRNA代謝は♂より高く、摘出−補償実験によりestradiolは肝細胞核のRNA代謝を高め、testosteroneはこれを減ずる方向に作用することがわかった。
(3)発癌或いは担癌について生化学者は何を考えているか
昨年12月のシンポジウム「発癌の生化学」でも討論されたように、肝のように再生能力の高いもの程癌化し易いようなことから、発癌の解明は即ちdifferentionの解明でるとして、発癌=dedifferentionといった抽象的で現実から遊離した議論からみれば随分進んできています。
しかし、分化ないし発癌を説明する理論としてJacob
& MonodのRepression theoryを援用してmodelを組むわけですが、この理論はまだあくまで抽象的なもので、repressorの実体は全く不明で、現状では何を考えてもよいわけです。
そこで内分泌学者の一部ではステロイドホルモンの作用機作を説明するためにsteroidをrepressorとして考え始めた人もあります(正確にはco-repressor或はco-deprepressorとすべきでしょうが)。確かに、このmodelでは、発癌まで含めて如何なる方向への細胞代謝の変化も説明はできます。
(4)当面どんな実験を考えているか
rat liverの組織培養で、testosteroneやestradiolのようなsteroid
hormoneが代謝にどう影響するかを例えばP32-incorporationなどで調べる。同時にDABを与えたらこれが如何に変動するか。この組合せをいろいろcheckすることにより、DABの細胞増殖誘起に至る過程の代謝面での変化をつかめるまもしれないと思っています。
ただ、生化学的後処理のために、今行われているのとは違った培養法をとらねばならないと思うので、現在想をねっています。腹案は一つありますが、後程御相談致します。
《伊藤報告》
小生昨年末に父親を脳溢血で失い、其前後のごたごたの為最近迄研究室をすっかり離れてしまい、やりかけの仕事を途中で放棄したものもあり、誠に申訳けない次第ながら最近はすっかり停滞して居ます。そろそろ又もとに戻らなくてはと考えているところです。
前回の連絡会の際に申し上げました様に、吾々の教室としては、今回新任教授に陣内先生をお迎えしました。昨年暮頃より各医局員の個人面接が行われて居り、小生も約一時間に亙ってお話をしました。それによりますと(1)従来のOncotrephinに関する仕事は4月頃までに何とかSchlufをつける。(2)発癌の仕事は続けてやって欲しい。(3)他に臨床に結びついた仕事を始める(人工内蔵or臓器移植)。と云った様な事で、何れにしても、此の研究班の班員としての仕事は続けてやって行けさうです。
それで昨年度の小生の成果を振返ってみますと、甚だ情ない次第ながら、はっきりした点はラッテ肝細切→Trypsinizeと云う方法で或種の細胞を比較的多量に、従って早期に復元出来る程度の量を得る事が出来ると云う事だけでした。今后は此の細胞の撰択、及び発癌要因の追加と云う事に努力してみたいと考えて居ます。
【勝田班月報:6303】
《勝田報告》
A)発癌実験について:
Resting liver CellsにDABをかけて"Proliferation"を起させることを第1段の細胞変化を見つける"目やす"としたが、第2段の変化を見附ける"目やす"として、前回報告したように、細胞形態のAtypismを目標に、最近の仕事を展開してきた。まずスクリーニングの意味でRLD-1株を使い、これに嫌気状態あるいは薬剤を使って、変化をしらべた。容器は小角瓶を直立させて用い、この底に小カバーグラスを入れておいて、一定期日毎に染色して標本を作った。実験#はCarcinogenesisのMorphological
examinationという意味で(CM)と冠した。CM-1では流動パラフィンを培地の上にのせて嫌気的にしたのと、培地交新をしない群(CM-2)を作ったが、後者では核に若干の変化が認められた。培地を永い間交新しないでおくと細胞は大抵やられてしまうが、しばらくそのまま放置すると、小さなcolonyが出てきます。しかしこの細胞はmorphologicalにはきれいでした。#CM4では、第7日以後、核小体が小さく数がふえたように認められました。Rat
liver extractは15日間の観察では、核にわずかにAtypieがおこっただけでした。CM-9では、古い培地のfactorの一つとして、乳酸を積極的に加えてみたのですが、変化なし。CM-10から彼の有名なサリドマイドを試用。はじめは0.1、1、10μg/mlと加えてみたが、何れに於ても巨核の細胞、くびれ、こぶのついた核、多核などが出現、DNA代謝に強い阻害が示唆された。巨核細胞はcolonyを作り、且、そのままでも分裂するらしく、分裂像を認めた。また4極分裂などの異常分裂もあり、悪性めいた形態を示してきた。一般にmetaphaseに於て、規則正しく染色体が二方に分かれず、その横に取残されるような染色体のあることが屡々認められた。短期使用濃度としては10μg/mlが適当と判定された。この頃、同一のRLD-1株でも瓶によって若干細胞の相違が想像されたので、瓶にNo.をつけて継代のとき瓶をまぜず、#1の瓶は→#1と、系統を夫々独立させて継代することにした。その結果、#5はサリドマイドにより変化をおこさず、#6の系は第2回目の実験のときは対照群まで巨核ができてしまった。サリドマイドのcontaminationとは考えにくい。#1の系も第2回はControlにもできた。他の細胞株について3例おこなったが何れも実験群にも巨核その他はできなかった。これらの結果により、初代培養でDABで増殖を誘導し、それにサリドマイドをかける実験と、もっと薄い濃度でDABを永くかける実験とをはじめている。
B)染色体分析について:
発癌実験その他で染色体をよくしらべる必要が出るが、従来の押しつぶし法では永久標本が作りにくいことと、押しつぶす要領が仲々体得しにくいので、最近Spreading法とAir-drying法をいろいろ試みている。細胞の種類によって色々modificationが必要のようである。
i)Spreadingの方はJTC-12株(monkey kidney)でやってみたが、遠沈回数をなるべく減らすように改良し、次の方式に到達した。
(a)コルヒチン10-6乗M、18hrs.37℃、培地に加え、液をすてSaline2mlを加え、強くピペットを使って分裂中の細胞をSaline中におとす。この液を短試に移し、倍量の蒸留水を加え(ときには徐々に)37℃、15分間、低張処理をする。
(一方、スライドグラスをアルコールに入れ、冷蔵庫において冷しておく。)低張処理液をCarnoy固定液5mlを入れた短試に、よく振りながらゆっくり点滴、30分間静置固定する。原suspension2mlはCarnoy5ml、2本に分注できる。これを1,000rpm5分間遠沈後、上清をすて、沈渣と液少量を残す。(軽く、homogeneousにしておく)。冷えたスライドグラスをピンセットで1枚とり出し、濾紙の上に45°以上に立ててアルコールを軽く切った後、3〜4cmの台に片方をのせる。この斜めのスライドの上に、上記のcell
suspensionをピペットで2滴位たらし、すぐピンセットでつまんで、アルコールランプの火の上で遠火で乾かす。(アルコールに引火しないように)。乾いたらギムザで染色、検鏡に供する。バルサムでカバーグラスをかけてもよい。
(b)pipettingでmetaphaseの落ちにくい細胞では、細胞全体を剥して以後は上記と同じ操作をする。
ii)Air-drying法:
あらかじめ瓶乃至シャーレにカバーグラスを入れて培養し、コルヒチンを培地に10-6乗M約20時間37℃で作用させた後、培地をすてずにそのまま5〜10倍容の蒸留水を徐々にあるいは適当の速さで加え、10〜15分室温におく。このCoverglassをとり出し(或はそのまま液をすてて)Carnoyで固定(室温2〜20分)。次にoverglassを平面におき、室温(1時間〜5時間〜1日〜1週:かなりの自由の幅あり)あるいは37℃(15分〜2時間〜半日)で標本を乾燥させた後、Giemsaで染色し、バルサムでslideglassに封ずる。
Primary cultureでDABによる生え出しのときなどはこの方法でないととても捕らえられない。
染色体数を算えるときは、メノコでなく、必ず紙にエンピツでカンタンなsketchをし、その上に赤いエンピツで点を打ちながらかぞえる。メノコで算えるのは危険である。またかぞえた結果をグラフに表わすときは、40本か41本か判定に困るようなのは、0.5宛にして両方に加えることにしている。
染色体標本の作り方は、同じ細胞でもそのときによって、例えば低張処理の長い方がよかったり、短い方がよかったり、仲々未だよく判らないfactorがあるらしい。
C)ラッテ腹水肝癌AH-13細胞の培養:
目下のところでは古川君が培養の基礎的条件を検討していますが、基本培地として(仔牛血清20%+ラクトアルブミン水解物0.4%+Pyruvic
acid 0.01%+SalineD)の培地で7日間に約4倍の増殖を示します。近い内ラッテ正常肝とのParabiotic
cultureを試みる予定です。
D)L・P 4亜株のアミノ酸消費の比較:
当室でかねてL株より4種の無蛋白培地継代亜株を作っているが、その培地はL・P1:PVP+Lh+Ye+SalineD、L・P2:Lh+Ye+SalineD、L・P3:DM-120、L・P4:Lh+SalineDである。そこでこれらの細胞を夫々(DM-120)の培地に移し、2日後に培地交新。さらに3日間培養した培地をアミノ酸自動分析器にかけ、培地内の各アミノ酸の消費され方を比較してみた。またその消費量を細胞数で割って、1000万個当りの3日間の消費量も計算した。平均細胞数の計算法は次式によった。平均細胞数=log-1乗(log
a+log b/2) 但しa=第2日の細胞数、b=第5日の細胞数。
培養前の培地DM-120の分析は4回おこなった結果を平均した。この各分析値は夫々よく一致し、max.error7%であった。細胞を培養後の培地は2回宛分析し、この平均値を出した。これもmax.error7%であった。
1)最も著明な相違が4亜株間で見られたのは、Arginineの消費であった。使用前の培地には0.461μM/ml入っているのが、L・P1では0.339、L・P3では0.318の減少(70以上)を示すのに対し、L・P2と特にL・P4ではその1/10以下の消費しか示さない。
2)Arginineの減少に対応し、培地に与えてない新しいニンヒドリン陽性物質(おそらくはArg.より由来したアミノ酸)が出現した。これには2種あり、一つはグルタミン酸とプロリンとの中間に出現する(X1と仮称)が、L原株にのみ認められる。第二のはProlineの位置に重なって現われ(X2)、L・P1、L・P2、L・P3に認められる。L・P4ではX1もX2も共に認められない。但しL・P2のX2はProlineより少しずれて出るので、Prolineの定量が可能であり、L・P1及びL・P3のX2と果して全く同一かは疑問で、むしろX3として別にしてもよいと思われる。
3)Threonineの消費について、L原株及びL・P2が高い消費を示し、L・P1及びL・P3は低く、L・P4は逆に+になっている。
4)LeucineはL原株及びL・P2が高い消費を示し、L・P1とL・P4は低く、L・P3は逆に+である。
5)L・P3はLysineが+(他の株はすべて−)、Methionine、Isoleucine、Leucineも+であるのが特徴である。
6)L・P4は他亜株に比べ各アミノ酸とも消費が少ない。
以上の結果を綜合して考察すると、L・P1とL・P3は近似する点が多い。即ち、Arginineの消費の高いこと。X2の出現。Threonine及びLeucine消費の低い点などである。またL原株とL・P2とは近似する点が多い。即ちArginine消費値は夫々-3.90と-3.94であり、Threonine消費値は-7.64と-8.05、Leucine消費値は-11.93と-14.21などである。但しX1の出現はL原株のみでL・P2にはない。L・P4は他のどの亜株とも著しく異なり、Arginineを殆んど消費せず、X1、X2とも生成せず、Threonine消費は逆に+であり、きわめて特徴のある亜株で、Krebs-HenseliteのOrnithine
cycleによるurea合成経路が重大な障害を受けているものと想像される。
これらの分析結果から考え、L・P 4亜株の間では、アミノ酸消費において、単に量的の相違だけでなく、定性的、質的相違も存在していることが明らかであり、Mammalian
cellsの変異の研究、とくに生化学的面からの分析に期待をもたせるものである。
なおこれら4亜株細胞の細胞蛋白質の構成アミノ酸の組成についても系統的に分析を進めているところである。
E)白血病細胞の蛋白構成アミノ酸組成の分析:
腹水型マウス白血病細胞の培養が、現在使われている色々の培地を使ってみても、うまく行かないところから、よほど変った細胞にちがいあるまいと、その蛋白のアミノ酸組成をしらべたところ、MethionineとCystineが非常に少いことが判った。そこで人間の白血病細胞も若干手に入れ、順次分析中であるが、やはりCystineが少いような結果を得ている。これについては、東大小児科と共同研究ということで今後材料を次々と送ってもらう予定であるが、何も治療を加えていない内の患者の細胞が欲しい点で仲々簡単に材料が手に入らない。蛋白のアミノ酸組成か変っているということは、そのreplicationの元である核酸の構造も他の細胞とは変っているということであり、核酸のBase組成の分析も目下準備中である。
:質疑応答:
[山田]染色体の染色にFeulgenを使うと、色素が過剰につかないでよいが、色がうすいので位相差顕微鏡で見なくてはなりません。GiemsaですとpH=4にすると、原形質が赤くなり、核がきれいに染まります。
[奥村]低張処理のまま遠沈すると、細胞がこわれ易い。固定は段階的にして行くのが良いと思います。Primary
cultureのときは培地を半分位捨て、1:1に蒸留水を加えて1〜2分おき、さらに蒸留水を加えて2〜3分おきます。固定は1/100、1/10、1と3段階にしています。これは醋酸アルコールでもよい。Air-dryingは37℃、10分が良いと思います。
[勝田]処理のしかた如何で染色体はいろいろな太さ、長さ、形になったりするが、idiogramを作るときなど、標準の形というものは、どのような作り方をしたものにおいているのですか。
[奥村]コルヒチン処理は短い方が良いです。数をかぞえるときは48時間位がよいが、形態を見るときは短い方が良い。長いと太く短くシャープでなくなるので、時間の短い方を基準にします。またコルヒチンの濃度が高いと、形全体が不鮮明になってしまう。しかし重なっているものは、処理時間が長いとばらばらになり易いので、長い方が数える目的には向いています。コルヒチン処理3〜5時間で元の培地に戻し、そのままover
nightして、翌日またコルヒチンをかけるようにするとダンゴ型はないし、分裂細胞の頻度も同じように出ます。10-4乗Mで処理すると2時間でダンゴになってしまう。Air-dryingと押しつぶしを合せる方法も目下試みています。
また顕微鏡で見ながら低張処理をして行くと、きわめて短時間で細胞がぱっとふくらむが、そのあとはしばらく目立つ変化はなく、さらに低張にして行くと、或時間たって急に破裂してしまいます。この時間は実に短い。
[勝田]Modal numberの頻度などをしらべる場合、これまでのやり方はどうも、きれいにかぞえられる細胞だけについてかぞえ、その中での%を出しているようですが、分裂細胞全体についての%でなくて良いのですか。
[奥村]Chromosomeの形の美しいのは、Ana-meta
phaseだから数としては多くはない筈です。
[高岡]全分裂細胞数をかぞえ、きれいに見える分裂像の数をかぞえると、Air-drying法の標本では、約1%です。だから全体のごく一部分を見ていることになります。TD-40瓶には細胞が500〜600万位はありますが、分裂中のが仮にその3%とすると、15万ケ位はある筈なのに、押しつぶし法では瓶1本で60〜100ケ位かぞえればよい方ですから、率は非常に悪いことになりますね。
[奥村]押しつぶし法でもドライアイスを使って永久標本を作る方法がありますが、これは剥すとき細胞が両方に残るので、分裂細胞はさらに減ってしまいます。押しつぶし標本は温度差に弱いので、なるべく恒温で保存する方がよいのですが、検鏡のときどうしても温度が上ります。素人が数をかぞえるときは、2n,4n・・・と荒っぽく分ける方が無難ですね。そして何かマーカーになるような染色体をみつけて、それを追う方法がよいでしょう。
[黒木]サリドマイドがglutamineのanalogと云われましたが、株細胞とprimary
cultureの細胞とでは、グルタミン要求がちがいますから、細胞によってサリドマイドの影響も異なっても良いわけですね。
[遠藤]アンモニアは測ってありますか。表には出ていませんが・・・。
[関口]培地のアンモニアを測っても、それは操作中に他からcontamiする可能性もあり、意味がないので出さなかったのです。
[堀川]Cellのlife cycle(mitotic cycle)を追ってアミノ酸消費のちがいを見たら面白いでしょう。
[勝田]それは予定しています。Synchronous
cultureを使ってね。
[黒木]Eagleの培地は使えないのですか。
[勝田]あれは血清蛋白を少し入れなければ増殖しない培地で、駄目です。
[奥村]+になるのはどういう風に考えたらよいのですか。
[関口]こういうのは、消費と合成の差引をみているわけで、合成の方が多ければ+になるわけです。純合成だけとか純消費とかをみたいときはアイソトープを使う必要があります。
[堀川]亜株を原株の培地にしばらく戻してからアミノ酸要求をしらべてみたらどうですか。本質的なちがいを生じているのかどうか判るでしょう。
[黒木]山根さんがLactalbumin hydrolysateのビタミンを定量したら、Eagle培地の1/10位だそうです。unpublished
dataですが。
[遠藤]私はfreeのアミノ酸分析を考えていますが・・・。
[関口]蛋白構成アミノ酸の分析には細胞が1000万個位は必要ですが、freeのアミノ酸プールをしらべるにはその10倍は少なくとも必要ですから、細胞の用意が大変ですよ。それからグルタミンは全部はグルタミン酸にならず、プロリンやアスパラギン酸などにもなりますので、glutamine要求をglutamic
acidで完全にはおきかえられず、夫々別個の要求と考えた方がよいと思います。
[山田]Monkey kidneyのprimaryではglutamineからglutamic
acidに行くという報告がありますね。
[遠藤]Glutamineは、味の素の再結晶したのは市販品よりpureです。
[黒木]Inoculum sizeで要求の異なることがありますね。
[山田]poolと培地中のアミノ酸との間に平衡関係がある筈だから、inoculum
sizeによって異なる事はあり得ます。それから白血病ですが、マウス白血病細胞(AKR)を、folic
acid(V-B12)などを培地に加えて培養し、generation
timeが10時間位で毎日継代すると継代できるというのがあります。これは継代してもMalignancyは保持しています。
[黒木]このleukemiaはどの程度のmalignancyをもっていますか。
[高岡]腹腔に接種して4〜5日で大抵死にます。
[黒木]SM36の腹水型leukemiaも培養がむずかしくて、早く細胞が死んでしまいます。
[堀川]Leukemia cellのSH・compoundsが少いということはどういうことでしょう。
[関口]これからDNAのbase ratio、G-Cratioとアミノ酸との関係も追究して行けると思っています。
《佐藤報告》
従来行って来た呑竜ラット肝←DABでDABがTC上で細胞の増殖促進をおこす点について纏めてみました。呑竜ラット肝←DABの場合、勝田氏法による判定では16日から28日程度の生後日数において対称との間に増殖率の差が認められ、その前後では認め難い。(併し現在進行中の実験からはDABの投与日数或は投与法を変えれば差があるやうに思える。)
◇C36及び◇C37は前報に引きつづいてDAB短期投与、生後15日及び20日を用いて実験を繰りかえしました。但しDAB及び投入血清は1月17日新調した。◇C36は生後15日ラットを使い、結果はDAB添加1日群は4/5、2日群は3/5、3日群は2/5、4日群は1/5、対照群は2/7。◇C37は生後20日ラットで、DAB添加1日群は4/5、2日群、3日群、4日群は皆1/5、対照群は0/5でした。
:質疑応答:
[山田]DABは1〜5、6μgで血清中に入れるのが、protein-boundDABの形になって安定のようです。
[勝田]3'-methylDABで出てきた細胞は染色体数のばらつきから見て非常に有望だと思いますが、細胞の形態は?
[佐藤]ホーキ星状のとEpithelialのと共存しています。3'methylDABだと染色体数が42本より多くなり、DABだと37〜38本に行くような気がしますので、実験を進めています。後者は長期間DABを作用させると37〜38本のpeakがはっきりします。Rat心からの放血が不足だと肝培養によくないような気がします。
[奥村]Adult ratのliverでは4n、8nが多いことは事実だがageによる差は不明です。
[堀川]New bornの細胞はAdaptしやすい性質があるのではないでしょうか。
[佐藤]Chromosome numberは生体環境で支配されているような気がするので、in
vitroの変化によって数の変ることはあり得るでしょう。Normalにも異常なものが含まれていて、それがin
vitroに移されたとき、生え出すという風に考えてみたい。特に若いageのものがその率が高いのではないでしょうか。生後20日以後のは、2nが出やすいような気がします。
[奥村]In vitroに移す前にCarcinogenを与えておいて培養したらどうですか。Methyl-cholanthreneによる皮下腫瘍のデータでは染色体数の変化は先行しないという報告があります。肝の4nは早い時期にあらわれるような気がします。
[勝田]In vitroでcarcinogenを与えるのでなければ、変って行く経過が判らない。佐藤君、3'methylDABの実験をもっと何回もやって、夫々について染色体数のばらつき方を比較して見たらどうですか。
[佐藤]MethylDABとDABはattackする所が異なっているのでしょうかね。
[山田]培養日数が6ケ月位になると染色体数が3n辺りに移る可能性が大きいから、3'methylDABのlineのバラツキは必らずしもreagentの差に還元できないでしょう。
[勝田]最近の「自然」にBurnetの"Scientific
American"に出た論文の和訳が出ていて、マウスの生後1日のものの胸腺をとり、あとから別のマウスの皮膚を植えると、それがつく、というのが出ていましたが、我々も復元法にこんなのも取入れてみたいと思っています。
[山田]手術でなくてもX線のbeamで胸腺をinactivateしたらどうでしょうか。
[佐藤]DABをVitaminBと一緒にやると、in vivoの発癌率は悪くなるようですね。
[黒木]DABとproteinの結合はin vivoで1週間で起りますが、それ以上にこのprotein-boundDABが蓄積されないと発癌しないようです。
[遠藤]DAB処理で生えてくるのは、DAB-resistant
cellがselectされて生えてくるという可能性はありませんか。つまりin
vivoの発癌とはちがっているのでは・・・。
[勝田]In vivoの発癌のときにも初期に我々のとそっくりな小型の細胞が増殖してくるので、我々のがちがっているとは考えにくいですね。むしろin
vivoとそっくりで、前癌状態に入っているのだから、もう一息と思っています。
《杉 報告》(高木班員代理)
発癌に関する実験の今までの結果を展望すると、用いた薬剤はDAB又はStilboestrol
1μg/ml、作用期間は4〜10日で例外的に14〜22日間作用させたものもある。動物はWistarKing
rat肝、golden hamster肝及び腎で、日齢はratは生後11〜18日、hamsterは大部分は生後8〜36日、例外的にかなり老齢のものも用いた。
1)rat肝(DAB5例)主として星芒状の間質細胞様のものが生え、対照群との間に差がなく継代出来ず。
2)hamster肝(stilb.5例、DAB1例)培養10〜15日目頃に実質様細胞が生え始めたが対照との間にはっきりした差異を認めず。継代は不成功に終った。
3)hamster腎(stilb.10例)培養4日目から上皮様細胞又はこれと繊維芽様細胞とが一緒に生え始め、10例中3例の実験群で対照群に比ベ上皮様細胞が優勢を占めるものが多くあらわれ、2例の実験群で対照群より旺盛な発育を示した。又これらを継代すると、初代においては差がみられなかった実験例でも、実験群と対照群との間にはかなりの差があらわれた。
全体的に眺めてみますと、golden hamster
kidney←→stilb.については対照群との間に差がある、即ちstilb.がhamster
kidneyからのcultureをstimulateしているのではないかと思います。そしてkedneyはliverに比して生え易いので老齢のhamsterでも遅ればせながら比較的よく生え、復元を抜きにして只in
vitroでの発育状態を比較する意味では比較的老齢のものの方がprimary
cultureで既に差が出ている様です。尤も悪性化ということになると一寸問題かも知れませんが・・・。
hamsterに対する発癌剤の文献、どうも有難うございました。その中の2-Acetylaminofluoreneは私共が使っているstilb.に構造上稍似たところがあり、rat
liverにもcarcinomaを作るといわれていますが、stilb.にはそういう働きはない様です。
:質疑応答:
[奥村]初代でEpithelialのがdominantのは、継代してもそのままですか。
[杉 ]継代(トリプシン)するとfibroblasticのが減って、Epithelialのが多くなります。
[奥村]動物のageによって生え出してくる細胞がちがいます。若いとfibroblast様のが多いですね。
[勝田]それは一般に云われていることです。それよりstilboestrol→kidneyのとき性別の影響は?
[杉 ]動物実験では♂にしかできないのです。
[勝田]stilboestrolの増殖に対する影響は見てありますか。
[杉 ]大体のところは見てあります。100μgになるともう駄目です。
[奥村]2、3代継代して細胞の形が揃ったところで添加したらどうですか。
[勝田]実験群(S)の方が良いというのは、Epithelialが多いんですか。それとも全体の増殖が良いのですか。
[杉 ]全体の増殖がよいということです。それから継代のし方ですが、初代10本なら第2代も10本という風にやっています。
[勝田]それは問題ですね。実験群と対照群と細胞密度、inoculum
sizeがほぼ揃うようにして継代しないと、ものが云えないでしょう。
[杉 ]これからの問題として、性の差を見たいと思っています。
[勝田]Exp.とControlに本当に差があるかどうか、これをまずはっきり確かめた上で、両者の比較分析に入るべきでしょう。変化したということを色々な面、復元接種とか染色体数とか色々な点ではっきり検討証明して欲しいですね。
[黒木]復元はcheek pauchに入れるのですか。
[杉 ]まだやっていませんが、そのつもりで居ります。
《伊藤報告》
毎度弁解めいた事で申訳けありませんが、年末から公的、私的に種々の雑用が重って、新しいDataを得る事が出来て居りません。今回は今年度最後の研究会でもありますので、今迄の反省と今後の予定を報告させて戴き度いと思います。
吾々の班がin vitroでの発癌を試みて仕事を開始し、先ず勝田先生のところでラッテ肝のRoller
Tubeによる培養にDABを与え、その増殖の仕方に於いて、実験群と対照群との間に差があると云う事実が認められ、それが突破口となって班員一同でその追試をやり、佐藤先生のところでも同様の結果が報告されて、其後此の方法で種々の面で展開をみて来た訳であります。小生も先ずこの方法の追試を試みましたが、テクニックのまずさの為か余りきれいな結果を得る事が出来ませんでした。
それで誠に勝手ながら、此の方法での研究は勝田、佐藤先生にお願いするとして、小生は別に初から多量の細胞を得て出来るだけ早期に復元する事を目的として、肝細切→Trypsin処理の方法で培養可能な細胞を得る事を検討して来たのであります。
此の方法によって、Originは分らないが、比較的揃った種類の細胞が得られ、而も増殖して、比較的早期に復元に必要なだけの細胞数を得られると云うことが分り、この方法によって数回復元を試みましたが、何れもnegativeの結果でした。ここで小生の採用している方法を反省してみますと、まずtecknicalな問題として、
(1)期待した程の細胞数を得る事が仲々困難である事。
(2)毎度皆様から指摘されている様に細胞のoriginが不明である事。其他、
(3)現在の常識として、in vitroの細胞が悪性化していると云う事と、transplantableであると云う事は必ずしも平行しない。即、transplantableになる為には悪性化の他に何等かの要因が必要である。従って吾々のテーマである"in
vitroでの発癌"と云う仕事をすすめて行くに当って、終局は復元可能な細胞を作る事を狙うとしても、その過程で起る変化をcheckする努力も必要であると思われる。
吾々はbiochemicalな面で此の点を追ってみたいと考えて居ますが、其のためには復元と云う事で考えていたより以上の多量の細胞が必要であり、今の方法ではどうもそれ程の細胞を得る事が困難に思われる。
以上の様な点で問題がありますが、最近のReportで肝細胞を得る優秀な方法を知り、此れを利用して、何とか培養可能な細胞を取ってみたいと考えています。報告の通りに出来れば、cellのpurityも高く、又収量も充分ですので今此の方法を検討して居るところです。
:質疑応答:
[勝田]君のやり方だとcell countingができる筈ですから、本当に増殖しているのかどうか、ちゃんとcountingをやって、基礎的なgrowth
curveをちゃんと見せて欲しいですね。かぞえるときは同時に核や核小体のmorphologyにもよく気をつけて見て下さい。
[奥村]トリプシン消化するとfibroblasticのがずい分出てきますね。自分たちはEDTAで大分沢山とれています。
[伊藤]トリプシンとEDTAを初めに比較したら、トリプシンの方がよかったのでトリプシンを使っているのです。
[勝田]Ratのageによってもdegestのされ方がずい分ちがいますね。うちでもcell
suspensionを作って、Replicate cultureでDABを入れてみましたが、率は悪いが出来なくはありません。40本中2本に増殖細胞のものと思われる、染まり方が株細胞のに似た核が認められました。
《山田報告》
哺乳動物正常組織由来の繊維芽細胞系のbiotin要求性
Hayflickのhuman fetal lung細胞系(WI38)を維持しはじめてから2月近くなります。現在よく増えて、既に30ampulesほど凍結保存を行っております。はじめ1、2代よく増殖して難しい事はないと思ったのですが、そのあと1、2代どうしても増殖せず、degenerationが目立って困ったのですが、文献的に調べた結果、biotin欠如に気付き、これを添加した所、直ちに増殖しはじめ、現在3日培養で平均1.9倍、4日培養で2.7倍程度constantに増殖しております。細かく書きますと、Hayflickはその論文でEagleのmediumを使うように書いておりますが、これはScience1955の文献で、13種のアミノ酸と9種のビタミンが入っております。Eagleはその後1959年にもScience誌上に哺乳動物細胞の培養液を発表しており、液かえせずに長く培養するためには、アミノ酸組成を上記のmediumの2倍以上、ビタミンも幾分多量に加えており、ただbiotinはnonessentialとして除いております。アメリカ人にとってEagle培地といえばDifcoで売出している1955年のものを意味したのでしょうが、僕たちにはより新しい方が身近かに思えて、つい1959年発表のものを使ったわけです。この細胞株と同様にhuman
fetal lungからとった繊維芽細胞株を、はじめTC199C(20)で初代培養し、以後Biotin添加Eagle(1959)で培養しておりますが、既に6代で、3〜4日でおよそ2倍になり順調に増殖しています。この場合もBiotinをふくまぬEagle(1959)で培養開始したものでは細胞が増殖できませんでした。その他、マウス、ハムスター新生仔からも繊維芽細胞の継代をつづけており、biotinの有無の影響をみておりますが、やはりbiotinがいるといえそうです。HeLa、L,KB、HEp#2などはbiotinを必要とせず、biotin要求性で2大別されそうに思えるのですが、培養細胞系の大部分は上皮系で、またすべてaneuploidであることと、他方はdiploidであるfibroblast系なこと、そのいづれに差異が起因するか検討する予定です。
:質疑応答:
[勝田]DABが保存している間にこわれて行かないかどうか、君の測定法でこんどしらべて下さい。
[山田]このHayflickのようなやり方で培養して、constantな増殖を示す細胞を使えば増殖はしていても使いよいのではありませんか。
[勝田]どういう点で細胞の変ったことをCheckしますか。めくらで復元するんですか。
[山田]形態をみたり、増殖をみたりということでは、どうでしょうか。常に細胞濃度が高い状態で培養するというのは生体に近いということで、2nが保たれているのではないでしょうか。
[堀川]2倍体の方がレントゲンに弱いのですか。
[山田]そうです。
[堀川]私のところではX線をかけて、それで生き残る細胞をとって行くと、1回照射毎に染色体数が4〜5本宛減って行って、40本になったのがX線耐性と云いたいのだから、山田班員のデータと合いません。
[勝田]本当に2倍体ということが原因かどうか・・・。
[山田]2倍体3種とHeLaと比べたら、はっきり差が出たのですが・・・。
[奥村]2倍体でない正常由来の細胞株を対照に使ったら良いのではありませんか。
《堀川報告》
培養細胞における貪食性と形質転換(癌化)の試み(IV)
(1)正常L細胞がH3-thymidine labeledマウスSpleen細胞を貪食した際、さらにはC14-DL-Leucine
labeledマウスSpleen細胞を貪食した際、貪食後急速にSpleen細胞のH3-labeled-DNAはL細胞核内に、一方Spleen細胞のC14-labeled-proteinはL細胞の細胞質または核の周辺に吸収されてしまうことは前報で報じた。これらの結果は貪食されたSpleen細胞のDNAもproteinも分解されてL細胞自体の核酸、蛋白合成に使用されるものであろうと云う可能性を強く暗示している。しかしこの場合、貪食されたSpleen細胞のDNAがどのような形でL細胞核にincorporateされて行くかを決定することは、Ehrlich細胞核のDNAがL細胞のDNA合成にどのように使用されるかと云う問題と同様に興味ある問題点である。
H3やC14分析用のガスクロカウンターが回転出来るまでの予備実験として、P32を用いてEhrlich細胞、Spleen細胞、L細胞などのDNA、RNA、酸溶性分劃などへの取り込みを調べOptimum
incubation timeを決定したが、これまで得られた結果は面白く、L細胞やEhrlich細胞はほとんどの細胞がDNAとactiveな酸溶性プールをもっているが、一方Spleen細胞中にはSmall
lymphocyteのようにactiveな酸溶性プールを持たない、いいかえると分裂してふえて行く可能性のない細胞が混在しているということを強調するような結果を得た。これらはすべて予備実験で得た脇道の結果であるが、これらで得た結果をもとにして現在各DNABaseを適当なH3またはC14
labeledアナローグでラベルしてL細胞内でのその行動を追跡中である。
(2)一方マウス体内でのdiffusion chamberによるin
vivo cultureは、これまでネンブタールによる一定の麻酔時間を選定するために、その濃度、injectionする場所などいろいろと調べて来たが、やっとStrainとしてはmouseのRFが良いということがわかり、現在は実際に細胞をChamber内に入れてmouseの腹の中にうえこみ、その増殖などを調べている段階である。いづれも下積実験というところでぼつぼつ報告出来るデータを出したいと思っています。
:質疑応答:
[勝田]Labeled nucleusを貪喰させたあと、その喰われた核の染色性はどうなって行きますか。
[堀川]染色性は落ちますが、うすく染まっています。
[勝田]こういうAnalogの類で癌をなおすということは無理です。生体内の正常細胞でも、たとえば胃壁の細胞なんかgeneration
timeが非常に短いから、そっちもやられてしまいます。我々の現在の立場ではむしろ、こういうAnalogを培養に使って、細胞を混乱状態に持って行っておいて、そこへ発癌剤を作用させるという手があると思います。
[山田]BUDR自体では発癌作用はないのですか。
[堀川]ないと思います。
[勝田]染色体modeのpeakがなくなったというのは、BUDRをどの位使ったときですか。
[堀川]50μg/mlで3ケ月です。
[奥村]少くなるだけで多くなるのはありませんか。
[堀川]殆んどありません。
[佐藤]Peakのずれは、ずれるのか、それとも全然ないところに、ポコッと出来るのですか。
[堀川]もとのLには44本というのは全くなくて、2回位X線をかけると少し出てきて、4回もかけると44本がpeakになってしまいます。DABの場合ですが、DABがDNAのあるbaseをattackしてmutantを作るという可能性も考えられます。Protein-boundによるfeed
back control mechanismも考えられないことはありませんが、こっちの方がclear
cutでしょう。
《奥村報告》
(原稿提出が無いので項目のみかきます)
1)細胞の凍結保存前後における染色体数の変化。
2)Primary cultureで種々のOrganの変化。
3)SV40(Hamsterで皮下腫瘍を作る、サルの雑ウィルス)のin
vitroでのcell transformation。(fibroblast→Epithelialに変えるという報告もある。
:質疑応答:
[堀川]それはtransformationではなくて、inductionではないですか。
[奥村]文献的にはtransformationという言葉を使っていますが・・・。実験はDNA・virusであるSV40をgreen
monkey kidney cellのcultureにかけ、H3・TDRでmonkey
kidney cellをラベルしておくと、H3-SV40 virusができるわけで、これでHamster
tumorを作ろうという次第です。
[勝田]堀川君に一つ、Transformation、Transduction、Inductionの区別を教わっておきましょう。
[堀川]図示して・・TransformationというのはA細胞の例えばDNAをとって、B細胞に入れ、BをAの性質に変えると云うようなやり方のときを云い、Transductionは例えばphageなどの仲介によってDNAが移されるもの。InductionはたとえばAlkaline
phosphataseの無い細胞A'にβグリセロリン酸ソーダを与えてaseを持つように変える。つまり或性質がA'に加わってAになる場合を云っています。
[奥村]細胞の凍結保存前後の染色体数の移動は凍結後にはバラツキの幅がせまくなりMitotic
figureも少くなります。株細胞ではもとのmodeを回復するものと認められますが、primaryのはrangeが変るようです。
[山田]DiploidよりTetraploidの方が物理的刺戟に強いとHaushkaが云っていますね。
[黒木]凍結による変化は、普段でも変るrangeの中で変るという報告(佐々木研・井坂)もありますね。
[勝田]この仕事は早くデータを括めて発表した方がよいと思います。しかしSurvival
rateがもとの細胞数の30%なんていうのでは、非常にselectionの可能性が大きくなるし、死ぬ細胞は何か考えてみる必要があります。
[奥村]Trypsin処理が細胞をいためるために%が低いと思いますので、Spinner
cultureで細胞を生やすようにしてEinwandを減らしたいと思います。次に第2の問題ですが、primary
cultureで色々な動物の色々なorganの細胞を培養して行きますと、次第に2nが減って行きます。そして何日位経ったらDiploidが50%以下になってしまうか、その日数を仮にFD50と名付けてしらべてみますと、Human
Embryoでは、Lungは135、Liverは17、Hamster(new
born)では、Lungは29、Liverは8、Kidneyは108、Brainは16、Monkey(adult)ではLungは66、Kidneyは108、Testisは42、Rabbitでは、Kidneyは28、Testisは37になりました。つまりSpeciesやOrganに関係がなく夫々ばらばらの結果を示しています。Testisは1nをとる目的で培養したのですが、1n±1は2/100ありました。なおこのdiploidというのは2n±3をそのrangeに入れています。Subcultureの基準はcell
sheetが底面の70〜80%できたところで、1本→2本にしました。培地は(CS20%+M・199)です。
[勝田]Diploidの本数が多くても少くても全部2n±3というのは少しおかしいですね。
[山田]FD50の長いのはfibroblastで、短いのはEpithelialとは云えませんか。
[奥村]云えません。
[勝田]この仕事には夫々の各代の増殖曲線をとって、全分裂回数との関係を出してみる必要があると思います。つまり、分裂をよくすると早く2nから外れ易くないかどうか、そういう点もcheckしておく必要があるでしょう。
《遠藤報告》
I HeLa細胞に対するステロイドホルモンの影響
まだ完全に終ってはいませんが、その後の実験を含めて、大略をまとめてみます。(増殖曲線と表を提示)
BS20%:10μg/ml以下の濃度域におけるステロイドホルモンのHeLa株細胞の増殖に対する影響は、それぞれのホルモンの生物学的活性に何らかの関連を持つらしい。☆代謝終末産物のEstriol、中間体dehydroisoandrosteron、或はandrogenic
activityの弱い合成anabolic steroidsは10μg/mlでも増殖に影響しないのに対し、biologically
active natural steroidは10μg/mlですべて抑制効果を示し、更に低濃度でそれぞれ何らかの影響を示す。
BS2%:上記の通り、それぞれのステロイドの生物学的活性と密接に関連すると考えられた特に低濃度での効果が、培養条件を変えると逆転する場合がある。
以上の結果から、細胞レベルでホルモンの影響を検討しその生理的意味を評価する場合、基礎的実験条件の吟味が特に重要であることがわかる。
:質疑応答:
[勝田]BS2%のExp.は細胞のそのときの生きのよさをcheckするため、BS20%も同時に第2Controlとして加える方が良いでしょう。前代、実験に使う前の培養日数は揃っていますか。
[遠藤]ひどくはなれてはいませんが、一定はしていません。
[勝田]濃度を一定にしておいて、Inoculum
sizeを変えてみることもやりたいですね。
[佐藤]Control群の増殖の悪いときは、inoculum
sizeが少なかったという可能性もあります。
[奥村]Hormoneによる促進のmechanismはどう考えますか。それから、血清とhormoneの関係ですが、血清中にも含まれているので、血清のロットが変ればgrowthも変ると思います。
[遠藤]Sponge matrix cultureをいまやっていますが、これによって、1)massive
culture、2)Redifferentiation、3)Interactionというようなことを狙っています。SpongeはPolyvinyl-alcohol
sponge(tumorを作るといわれていますが)と、Polyurethan
sponge(人造血管に使われています)を使っています。細胞はprimaryのchick
embryo fibroblast、JTC-4、L,HeLaです。Urethanの方ではJTC-4しかふえません。Cellular
interactionについては、三角コルベンに、spongeに細胞を吸わせて入れます。spongeを色々な形に切っておいて、細胞の種類を区別します。培養後spongeをとりだし、細胞をしぼり出してcountingをするわけです。
[山田]Seedingのとき細胞が落ちませんか。またspongeといっても真中のところはnecrosisになり易く、量的な扱いは困難と思いますが・・・。
【勝田班月報・6304】
《勝田報告》
A)最近は医学会総会シンポジウムの準備のため、発癌実験に余りてをつけられませんでしたが、そのわずかの内の又若干について拾いますと、
Exp.C38:15日Rat 1963-3-2培養開始。第13日成績:Cont.1/4。DAB
1μg/ml 1日間 2/4。DAB 1μg/ml 4日間 3/4。
DAB 0.1μg/ml(今日まで) 3/4。3-27(第25日)全部Subculture。Subculture后の成績は、1月后位でないとはっきりしないが、実験群では、現在colonyを作り、どうやら生えている模様。(添加1、4日は佐藤班員のデータとは逆になりました)
RLD-1株の染色体数は、新しい標本作製法で再検討をおこなったところ、42本が断然多く、42%。42±3は95%。他のDAB株についても検索中。
B)ラッテ正常・腫瘍細胞の相互作用
4月1日に発表したスライドをここに掲げます。詳細はいずれまたの機会にします。
《堀川報告》
1)培養細胞における貪喰性と形質転換(癌化)の試み(V)
正常L細胞が、Ehrlich細胞核やSpleen細胞を貪喰した際、どの程度L細胞が喰い込んだEhrlich細胞やSpleen細胞のDNAを利用し得るかを知るため、予備実験としてまずSpleen細胞を1μCH3-thymidine/ml内で24時間incubateすると、低率ではあるがSpleen細胞のDNA206μg中に37918countのH3-thymidineがincorporateする.この全DNAを培養液に加えてL細胞を24時間培養するとこれらL細胞のDNA153μg中に7092countのactivityが検出出来た。すなわち培地に加えたSpleen細胞のDNAのうち約1/5がL細胞のDNAにとりこまれたことが分る。現在はEhrlich細胞核DNAをlabelすることにより同様の実験をやっているが、これらがはっきりするとL細胞内に喰い込まれた各種細胞のDNAの利用度が比較的明確になると思う。
2)放射線と5-Bromodeoxyuridine(5-BUdR)を併用して発癌をねらえば面白いのではないかと云う結果を最近得ました。
これは神戸医大の青山氏との協同実験で得た結果で、たとえば(図を呈示)L原株細胞は63本の所に染色体のピークがあり、これから得たγ線耐性細胞(Lγ)では44本の所にピークが移ることはこれまで度々報告して来たが、このLγ細胞を更に63日間10μgBUdR/mlの存在下で培養すると、染色体の分布はばらばらになって全くピークは見られなくなりました。BUdRは突然変異を誘発する作用があると云うことが最近の遺伝実験で多くの人により報告されている点からみて、今後このような系をprimary
cultureに応用して発癌実験をねらえば面白いと思い現在計画中です。
《杉 報告》
golden hamster kidneyのprimary cultureにstilbestrolを作用させる実験をくり返しています。
まず作用させるdoseの問題ですが、10μg/mlで8日間作用させると培養12日目頃は組織が黒ずんだ様で出てきた細胞間に丸い間隙がみられ、薬剤によって障碍をうけたという感じですが、18日目頃になると細胞間に間隙を有しながらも上皮様細胞団が多く出てきます。これに比し対照群では上記の如き細胞団は稀には見出されるが殆んどなく、繊維芽様細胞が主に見られます。doseを1μg/mlにすると両群の間にこれ程はっきりした差が出ません。それで10μg/mlのところを現在重点的にやっていますが、この細胞間間隙を有する上皮様細胞団が果して盛んに増殖し得る細胞かどうかは疑問で、これをsubcultureすると今までのところどうもうまくいかない様です。又hamster
ageを比較的若いところ(今までの実験ではかなり老齢即ち3〜8ケ月位のところを使っており、ここで若いというのは2ケ月前後のところです)を使うと、対照群の方にも、実験群より少いが上記の様な、但し細胞間隙を有しない上皮様細胞が、老齢のものを使った時より余計に出てきます。10μg/mlを作用させて出てきたこの様な細胞を一応本命の細胞と考えていたのですが、これは一寸した培養条件の変化ですぐに落ちてしまう様にも思われ果してこれを本命の細胞と考えていいものか疑問です。もし細胞間隙を有する上皮様細胞団が作用薬剤の高濃度のための障碍をうけているものとすれば、或は1μg/mlを長期間くり返すか、10μg/mlをもっと短期間作用させるのがいいかも知れません。形態学的な観察のため、たんざく培養も並行して行っていますが、これには上記の上皮様細胞がきれいに生えず詳しい観察が出来ていません。又細胞が復元出来る程大量に生えず継代していると段々少くなってまだ株化したものがありません。これは動物の日齢が高いためとculture
techniqueに問題がありそうです。只、生後20日以内位の若いhamsterですと、kidneyは極めて小さいので大量に培養するのがむつかしいかも知れません。結局現在のところ、上記上皮細胞団の解明を中心に実験をすすめる予定です。
《黒木報告》
今年度からメンバーに加えて頂くことになりました。よろしくお願い致します。
現在までやって来た仕事を列記してみますと、(1)吉田肉腫少数細胞の培養。(2)少数細胞の移植性(マウス腹水肝癌、乳癌の少数細胞移植性を純系及びF1マウスを用い検討→札幌の病理学会で発表)。(3)乳癌の病理組織学(C3Hの繁殖成績、乳癌発生率、組織像、転移像→昨年度・癌学会に発表)。(4)免疫(1:腫瘍免疫動物を組織培養を用いての分析、2:AdjuvantにYScellsを加えて移植性の検討)。
以上のうち、中心となったのは(1)で、その内容は大阪のSympos.で発表した通りです。そこで、今後どの様に仕事をすすめるかと云うことですが、現在ねらっているのは次の5つです。(1)YSの培養を出来る丈合成された培地で行うこと。(2)合成培地を用いてアミノ酸Vitaminの面から栄養要求をみなおしてみること。(3)α-keto酸の意味を分析すること。(4)継代中の細胞の変化を種々の面からテストすること(腫瘍性、染色体、栄養要求)。(5)少数細胞の培養を血液なしで、そのレベルまでもっていくこと(赤血球のpyruvateの他のco-factorと云うこと。及び無血培地のよる継代培養)。
以上の5つですが、夫々少しづつExp.を開始しております。今回は、α-keto
acidの定量について中間報告致します。
目的:(1)血液添加で培養した場合、培地中のピルビン酸放出は、本当に起っているか。(2)ピルビン酸は培養中に増えるのか、or
減るのか→ピルビン酸は何故よいかと云う問題の分析への手がかりの一つとして。(3)large
inoculationの場合ピルビン酸は培地に増えるか→スライドに出した仮説(3)の裏づけとして。
培養法:YScells 20ケ/tubeの時と同様、Med.LE50%、Bov.serum(whole)50%、0日、2日、4日、6日、8日、10日にMed.を定量。
定量法:α-keto acidとして定量。(1)培地を遠心后TCAで除蛋白。(2)除蛋白上清3.0mlに2.4dinitrophenyl
hydrazin液(500mg in 100ml of 2.0N HCl)0.7ml加え、25℃5min.反応。(3)1.5N
NaOH 2.0ml加え、10分后〜15分后あに520mμで吸光。
結果:(図を呈示)まだpreliminary exp.の段階ですが(YSを一緒に培養したDataなし)、(1)血液を37℃におくと培地中にα-keto
acidを可成り早期から放出していること、
(2)pyruvateそのものは37℃におくと10日間で半分近く分解されてしまうこと。の二つは明らかに出来ました。定量技術ももっと練習し、YSを培養したときのDataを得たいと思っております。
《伊藤報告》
医学会総会も終って、やっと落着きました。其節は皆様に折角お集りを願いましたが、充分な事も出来ず、申訳けなかったと思って居ります。
当教室も愈々今月から陣内教授が常任で来られる事と相成り、暫くは雑用に忙しい毎日になりさうです。まだ新しい研究体制がはっきりしないので、いささか落着きませんが、何れにしても小生としては、今の班員としての仕事が続けさせて戴ける確約を得てありますので、その点は安心して居ます。
先日の連絡会で一寸お話し申し上げましたラッテ肝細胞の採取法(Exp.Cell
Res.:ゴムを使ったhomogenizerを使用する法)を検討して居ます。homogenizerを試作させて、一応使用可能なものが出来それを用いて、ほぼ文献に記載されて居るのに近い細胞を得られる様になりましたが、尚培養可能の細胞を得る所まではいっていません。而し、充分望みはありさうですし何と云っても、一度に大量の細胞が得られる点、大変に魅力がありますので、更に種々の点考慮検討して、続ける積りです。そんな事で、今回は何等具体的なDataを御報告出来ませんが、次回連絡会の際には、此の方法についての何かお話しが出来る様にし度いと考えています。
《佐藤報告》
1)発癌実験
これまでの実験で呑竜系ラット肝←DAB1μg/mlで増殖の促進がおこる事、1μg/mlの濃度では与えられる日数が1日間、2日間、3日間と延長するに従って増殖の促進が弱まる事が確認された。DAB←ラット肝で増殖促進の作用が顕著に現われるのは呑竜系ラットでは生后15〜20日で1μg/1mlを1日間作用させた場合である。
株化を行なって後染色体パターンを検索した範囲では以下の項目が推定された。(1)6例のDAB株について一般的に染色体数は37〜40付近に集る。更にDAB投与日数が4日、8日、12日と延びるに従ってこの傾向が強い様に思われた。(2)メチルDAB
12日投与の一例はDAB投与群と明らかに異り染色体数は55〜70附近に現われた。(3)対照群は上皮系のもの二株及び箒星状細胞型の一株と出来た。前2者は染色体数が30〜42に及んでおり、それぞれのDAB実験株に比較すると37〜40への集約が少い。箒星状細胞株は42〜45附近に染色体数が集約されている。(4)ラット生后日数と染色体数の間には「42の染色体数の現われる率が生后日数の増加と共に高くなる」傾向が認められた。以上の結論から、
A)メチルDAB株の復元実験:
1963-2-11。生后1ケ月呑竜系ラット(前処置無し)。腹腔へ、TD40
2本分。10日后の腹水採取検査で多数の中型単球と少数の注入株細胞らしき物を認めた。18日后の腹水採取は少量の液しか取れなかった。細胞は極めて少数である。1963-3-17(第34日)殺す。腫瘍発生(-)。 1963-3-17。生后1ケ月呑竜ラット(レ線、400γ前処置)。ルービン3本、皮下接種。1963-3-19(第2日)死亡、所見なし(-)。
1963-3-26。生后2ケ月呑竜系ラット(レ線、400γ前処置)。ルービン3本、1600万、皮下接種。1963-3-31(第5日)変化なし。観察中。
B)他のメチルDAB株の設立と染色体数のパターン:
現在株化しているメチルDAB株C22M12と同時実験の亜株メチルDAB
4日。C22Mは現在7代まで継代4月末頃染色体検査の予定。継代中のものは、C38M24(メチルDAB
24日投与=後報)2代54日。C39M24(メチルDAB 24日投与=後報)3代37日。C39M12(メチルDAB
12日投与=後報)2代37日。
C)ラット肝、対照実験(DAB及びメチルDAB)株細胞にDAB及びメチルDABを10日乃至12日間再投与及び新投与した場合の染色体パターン:
現在まで、C8Contr.にDAB及びメチルDAB。C10Contr.にメチルDAB。C10DABにDAB。を夫々10〜12日投与して直ちに染色体パターンを検索した範囲では緒言に述べた傾向が軽度に認められる程度である。現在投与日数を増加中である。
D)メチルDABに→ラット肝の増殖促進及び株細胞の設立:
◇C38(1963-2-5=0日)。ラット日齢17日、第16日・対照1/5→2代。メチルDAB
4日 1/5。メチルCAB 12日 1/5。メチルDAB 24日
1/5→2代。
◇C39(1963-2-22=0日)。ラット日齢9日、第13日・対照4/4。メチルDAB
4日 4/4。メチルDAB 12日 5/5→2代。メチルDAB
24日 5/5→3代。増殖細胞数において12日、24日例が優勢。 ◇C40(1963-2-28=0日)。ラット日齢15日、第18日・対照2/5。メチルDAB
1日 5/5。メチルDAB 2日 5/5。メチルDAB 3日
3/5。メチルDAB 4日 2/5。
◇C41(1963-3-5=0日)。ラット日齢20日、第15日・対照2/5。メチルDAB
1日 4/5。メチルDAB 2日 5/5。メチルDAB 3日
3/5。メチルDAB 4日 2/5。
【勝田班月報・6305】
《勝田報告》
A)発癌実験:
細胞形態に変異性の出ることを目標にし、しばらくの間RLD-1株その他を使って実験をしていたが、ふたたび元の初代培養での発癌実験もはじめましたので、その后の経過を報告します(Exp.#31〜#39の一覧表を呈示)。(DAB-N-oxideというのは寺山氏が(DABが生体内で一旦-N-oxideの形になって作用する)と考えているもので、同氏より分与をうけた。水によくとける。)
これらの実験の内、#C35のサリドマイドを加えた群では、第2代の9日培養でタンザク標本を作ってみましたが、核に変化が認められました。すなわち大型の不整形の核や、核小体の数の多いものなどが認められました。しかし第2代の52日培養の標本では、そのような異常の細胞は消失してしまっていました。つまりサリドマイドは投与中は効く。そしてその為変化をおこした細胞はやがて死んでしまうらしい。だから薄い濃度で永く与えた方が、変化をおこし、しかも増殖できる細胞が得られ易いかも知れない。
次に当室でDAB実験をおこなっている内、株化してしまったもの及び株化と認められるものを次に並べてみます(表を呈示)。いちばん早く株化確定したのにRLD-1と命名したので、その前のExp.#のが株化したとき困って、苦しまぎれにRLD-0とした次第で、現在10系です。RLD-1、RLC-1及びラッテ腹膜被覆細胞よりの株RPL-1の染色体分布図を呈示します。何れも最頻値42本で、RLD-1とRLC-1は42%、RPL-1は54%です。
B)DAB投与ラッテの肝細胞の培養:
これは予定になかったのですが、いつか寺山氏と呑んだとき話したらしく、こっちが忘れていたらラッテを送られて、仕方なく培養しました。Exp.#PC-1:3'メチルDAB・49日間給餌したラッテの肝。1963-3-27培養開始。箒星のような細胞だけが生えてきています。
Exp.PC-2:同上92日間給餌ラッテの肝。1963-4-11培養開始。増殖はほとんどありません。
《杉 報告》
golden hamster kidneyの、primary culture−stilbestrolのsystemで、10μg/mlの
stilbestrolを作用させた時、対照群に殆んど見られない様な上皮様細胞団が出ることを前報で報告しましたが、この細胞をたんざく培養でとらえ、染色して強拡大で見ますと、普通の上皮様細胞に混じて核が偏在し、あたかもSiegelringzellen様に見える細胞がかなりあり、弱拡大で細胞間の間隙の如く見えたところの一部はこれであることが分りました。これは非特異的な変化かも知れませんが、動物実験でgolden
hamsterにstilbestrolを皮下注射すると、kidneyにadenomaを生じ、その中でcolloid
degenerationを示す細胞のgroupが多く見られたという事実があり、上記細胞をこれと結びつけて考えると我々のin
vitroの実験は或程度、動物実験の過程を反映しているのではないかと思われますが如何でしょうか。しかし問題はこの細胞を復元出来る程大量に得るにはどうしたらよいかということで、これを第2代にsubcultureしようとしてもうまくいきません。
大体この細胞は使用した動物の日齢によっても違いますが、大凡培養10日過ぎから18日目位の間にはっきりと出てきます。ところがこの頃を過ぎると細胞団全体が変性に傾いて困ります。尤もこのところ色んな事情で手が足りず、慌ただしくやっていましたところ、株細胞など他の細胞の調子も思わしくなく、よく調べると丁度この大事な時期に培地が一寸おかしかった様にも思われ、或はそのせいかも知れませんので、これ以上の増殖が本当に出来ないのかどうかについて、も少し検討したいと思います。
尚、薬剤作用期間については、従来は8日間としてきましたが、10μg/mlに関しては4日間の作用でも上記の変化は起ることが分り以後は4日間の作用でみています。
《黒木報告》
長期継代吉田肉腫細胞の移植性について
培養された吉田肉腫細胞については、培養開始当初(3代)より各代毎にRat腹腔内に移植することにより、その移植性の変化をみて来ました。更に最近になって、少数細胞による復元移植により、より精密にみております。現在もなお、実験中ですので、最終的なことは岡山の学会にゆずるとして、現在までに分ったことについて、中間報告します。
1)継代の方法
第0日:YS20cells・Basal med.1ml+血液5倍液(Heparinaized
Rat新鮮血清をBasal med.で5に稀釋したもの)1ml→第7日・Basal
med.2ml追加(血液添加せず)総量4.0ml→第10日・短試の全量を50ml遠心管に移す(Basal
med.8mlと血液5倍液2mlを追加)総量14ml→第12日・Basal
med.10ml追加(血液添加せず)総量24ml→第14日・細胞数count、subculture(多くの場合100〜200万個/tube)。(一部は遠心し細胞数100〜200万個集めて、細胞をRat腹腔内に接種)→継代は第0に戻る。
2)(表を呈示)3〜50代までは大沢雑婚ラットを使用。51代以降は、呑竜ラットに切りかえました。呑竜ラットは、御承知のように、吉田肉腫に対して特に感受性の高いものであり、この種の実験にはより優れたTumor-Hostの組合せとなるからです。51〜60Gまでの移植率は14/14
100%であります。(現在62代)
以上のように100万個の移植細胞数では、特別な移植性の変化を来たしてないことが明らかになりました。しかし、より軽度な変化は100万個のorderでは分らないと考え、試みたのが次の少数細胞による復元成績です。
3)少数細胞による移植性の検討(Exp.138、139、140)
実験は56代にて行いました。(2月22日'63移植)
移植細胞数:10.000、1,000、100
稀釋液:Basal medium、0.5mlに所定の細胞数が含まれるように稀釋
使用ラット:実中研生産呑竜 100〜120g♂
その成績は表に示す通りです。100:0/9、1000:0/10、10、000:6/10。(現在、移植后4weekですが、まだsasciteに腫瘍細胞をもち乍ら、死なないのがありますので、今后成績は多少変ることと思います。成績は現在までに腫瘍死したものだけについて記しました)
ここで、in vivoで増殖した細胞を採り、再び少数細胞による移植を行ってみました。即ち、この移植性の低下が、もし培養されたpopulationの中の腫瘍性の高いものと低いものとの混在によるものであるのなら、一度in
vivoで増殖した細胞は腫瘍性の高いものである筈であり、その移植率はin
vivo継代の吉田と近い成績になることが想像されるからです。(表を呈示)100:0/7、1000:0/7、10,000:2/7。(この実験は3月14日開始であり、現在まだ6weeksですので、今后いくらか移植率の上昇が考えられます)
以上の成績から長期継代吉田肉腫細胞は極めて軽度ではあるが、移植率(腫瘍性)の低下を来たしているものと考えられます。この移植性の変化は、各代毎に戻し移植を行い、注意深く観察する他に、時々少数細胞の復元実験を行うことにより発見できるものであることを、教えられました。
少数細胞による移植がHost or tumorの軽度な変化を知る手がかりになることは、MH134etcを、C3H
inbredとF1 hybridを用いての移植実験により明らかにしたことなのですが(札幌の病理学会で発表)、今後も、この方法を応用して移植性の変化をみて行きたいと思っております。
《山田報告》
人胎児肺組織由来繊維芽細胞の継代培養
Hyflickの細胞株(WI-38)の維持をまかせられてから、すでに5ケ月、継代数は40代となり、増殖が以前より明らかに落ちてきました。その後私共のところで数系胎児肺組織より分離し、長いものではすでに30代以上継代してきました。それらの経験で分離後細胞の増殖度が徐々に変化して、終いには増殖が衰えてしまう事がわかりました。Hayflickは数字に弱いらしく、細かい記載がありませんので、一度数字で説明してみます。
(図を呈示)図は一定の時期に同一のフラン器内で同一の培地による増殖度の比較です。以前T1、T2と称していたものをphageとの混同をさけるためNIHT-1、NIHT-2・・・と改めました。[NIHTokyo]これらはいづれも4〜7ケ月の胎児の肺組織より分離したもので(WI-38は不明)一応同一のものと考えて図をみますと、組織より切り出した当初は発育が遅く、その後発育が旺盛となり、5〜15代で最高で、3月〜4月の培養で瓶中の細胞数は4倍近くになります。以後徐々に増殖度が低下し25代以後は2倍くらいにしかならず、30代を越すとますます低下し、40代以後は一本の瓶を一本又は三本の瓶を二本に継代するような有様となります。
同一の系については継代数と増殖度の関係を見ますと、この関係がはっきりします。(表を呈示)表はその1例でNIHT2の継代中の増殖度です。培養液、とくに血清によってかなり増殖度が動きますが、5代づつまとめて調べてみますと上記と略々同様の成績が得られます。 NIHT2は継代6代まで完全なsingle
cell suspensionにせず培養したので、正しい増殖度が得られませんでしたが、NIHT4、5で3〜5代の成績を得ており、6代以後よりやや増殖度が低下しています。これらの成績を綜合してみますと、はじめに述べたような推移を想定することができ、細胞のAgingとして理解することができそうです。この現象は所謂株細胞には見られないので、一応正常な現象と理解することも可能ですが、むしろ細胞株樹立の過程における培養環境への適応(不完全)と同一に考える方が妥当でしょう。ただ上記のように5〜15代継代の間で略々一定な旺盛な増殖が得られるので、実験方法としての正常増殖系を樹立し得たという意味で今後利用価値がありそうです。そのために純系マウス胎児よりの繊維芽細胞系の分離を行いつづあり、今後発癌実験に使用してゆく予定です。
本繊維芽細胞系はEagle基礎培地+10%仔牛血清で培養されていますが、HeLa、KBなどの株細胞と幾分栄養要求が異ることが推定されましたので、手掛けはじめました。Biotinについては前にかいた事がありますし、又更に進行中ですので、それ以外について触れてみます。すでにEagleは株細胞の殆んどが13種のアミノ酸と9種のビタミンにブドー糖、塩類と血清高分子(透析)部分で培養できることを報告していますが、本繊維芽細胞系は1stepの増殖がみられるだけで、その後8日間以上の培養中増殖が認められませんでした。同じ培地中でHeLaの一分枝系は図のように増殖します(図を呈示)。勿論全血清とくらべて増殖度が低く、Maximum
populationも低いのですが、継代可能です。即ちFb細胞系は血清中の低分子物質に増殖に必須なものがある事が判りましたので、更に進めてみるつもりです。
又エネルギー源としてのブドー糖消費と増殖の関係で、他の株細胞Chang's
liver cellstrainと比較した結果、かなり著明な差異を認めました。(表を呈示)即ち肝細胞ではEagle培地にブドー糖を添加しなくても対数期の増殖度に添加群と差異を認めませんが、NIHT4ではブドー糖無添加群の増殖度が著しく延長されています。肝にくらべてFb細胞群はいづれもpHの低下が著しく、かなり乳酸の産生が高い事が推定されますので、次に乳酸の測定に入ります。以前HeLa細胞で得た成績ですが、original
lineのHeLa細胞では消費したブドー糖の60%が乳酸として蓄積され、fusiformな高解糖系(P)では90%が蓄積されることを認めております。尚ブドー糖消費に関して他にも知見がありますが、次の機会にかきます。
《伊藤報告》
1)発癌実験
ラッテ肝細胞の大量培養を試みて居ますが、まだ成功したと云える段階に到りません。 数日間生きて居ることは確かですが、増殖が見られず、以后徐々に死滅してしまふ状態を繰返して居ますので、いささかがっかりして居ますが、尚、器具、techniqueに種々検討の余地が残っていますので、気落ちせずに続ける覚悟です。
2)増殖促進物質
久留教授の時代から続けていたOncotrephinの仕事を吾々としては、ここいらでSchlusseをつける事になり(国立がんセンターで今后も続けられる由)、その積りで残務整理をやっています。CM-Cellulose
Column(pH.5.6 Acetete Buffer)で2つの分劃に分け、その第一分劃に活性が移りN当りのActivityは約3倍に上昇します。更に此の分劃を同様CM-CelluloseColumn(pH,4.0)で分けて、素通りする分劃にactivityがあって、N当り3倍の活性上昇がみられ(0.7γN/mlで至適濃度)、従って、S2分劃からみて約10倍にpurifyされた事になります。このあたりで一応打切り、あとは今迄の穴埋めをして終りになります。色々不備の点も多く、又勝田先生を含めて、多くの方々から数多くの御批判を戴いた仕事でしたが、私個人としては此の仕事を通じて組織培養を知り又研究と云ふものの一部にでも触れ得た事を嬉しく思って居ます。
【勝田班月報:6306】
《勝田報告》
A)班全体としての今年度の研究方針:
今年度は是が非でも発癌に一つは成功したい。そしてそれは決して不可能ではあるまいと思います。少くともDAB関係ではかなり良いところまで来ていますので、何か出きるのではないかという気がします。現在問題にすべきのは、DABのあとの第2次刺激と、ラットへの復元法だと思います。少量の細胞でもやれるような、しかも確実な復元法を見附けるように努力することが緊急の必要事でしょう。DAB関係は、勝田、佐藤、伊藤の3人が担当しますので、他の分担は、杉(ステロイドホルモン)、堀川(癌細胞成分と放射線)、山田(放射線)、黒木(特に復元法)となりましょう。DAB以外は今年度は成功は無理かも知れませんが、第2年度の成功をねらって下さい。
B)報告:
最近のデータは前月号月報及びTCシンポジウムで発表しましたので、省略しますが、2実験だけ、一寸変った結果のを記載しておきます。
i)RLD-1株細胞の"培地無交新"実験:
1962-12月11日:第19代(TD-40瓶)に継代。19日→26日培地を交新しなかったところcell
sheetが剥れてきた。26日培地を交新し、以後14日無交新においたら、シートの剥れたあと、小さな細胞のコロニーが形成されてきた。1963年1月9日→2月2日の間は約2回/Wで交新し、このコロニーを育て、2月2日→2月20日(18日間)第3回の"培地無交新"をおこなったところ、大部分の細胞はやられてしまい、そのあとまた細胞(コロニーというほどきれいな集落形成ではないが)が生えてきた。そこで2月20日培地更新し、以後は約2回/wに交新をつづけた。3月2日第20代継代(Roller
tubes)。3月20日第21代継代(小角瓶)。3月23日染色標本(Giemusa及び染色体用)を作った。この系列の染色体数分布は、約1/2が4倍体に移行している。今後これの復元もテストしてみるつもりであるが、初代のままでこの"無交新"をおこなうと、細胞がみんなやられてしまうので、第2代に継代してからおこなうExp.をこんど試みたいと思っています。
ii)軟骨腫の形成:
Exp.#C28の実験であるが、これは11日ラッテにDABを1μg/ml4日かけ、第13日に実験群8/10、対照群7/10の増殖を示したもので、第16日に前処置したラッテ(生後27日、コバルト60γ600r、コルチゾン2.5mg/rat隔日5回)に30万個宛2匹に、前腹壁をあけ、脾内に接種した。その後ラッテに異常がないので、約5ケ月後解剖したところ、2匹中1匹に拇指頭大の堅い腫瘤形成を腸の上に発見した。組織切片を作ってみると、はっきりした軟骨腫である。どうしてこんなものがこんなところにできたのか、非常に解釈に苦しむところであるが、とにかく腫瘤ができたのは、この実験をはじめてからこれが最初なので、班としても記録しておくべき出来事と考える。そして、これによって感じさせられるのは、復元に当っては最初はやはり前処置を施した方がよいこと、復元後かなり永い間観察する必要があること、などであります。
:質疑応答:
[山田]ddDマウスの脳内接種では、Ehrlichだと1万個でも腫瘤を作って外からも判りますが、HeLaなどではこの程度の数では腫瘤を作りません。もっとも顕微鏡的には分裂や浸潤像が見られますが、やがては消えます。
[黒木]Thymusを取除いて接種するとつき易いのではありませんか。いま練習していますが・・・。
[勝田]幼若ラッテのとき胸腺をとっておいて復元に使ってみるとか、ハムスターの頬袋に入れるとか、今後は復元の方法を考えましょう。また細胞の方も株化したのでは困るわけで、培養初期のものを入れるとなると、少い数の細胞でもつくような場所を見付けなくてはなりません。
[伊藤]DAB-N-oxideの寺山氏のデータは再現性があるのですか。
[勝田]これは寺山氏が実験的に得たものではなく、頭の中で考えて、何故DABで発癌する動物としないのとあるのだろう、DAB自体には発癌性がなく、N-oxideになって初めて発癌性をもつためではないか、だからDAB→N-0xideに変える酵素をもたない動物では発癌しないのではないか・・・という次第で、頭の産物なのですが、どうも仲々うまくは行かないようです。杉君のところはぜひStilboestrolのExp.をつづけて頂きたいですね。
[杉 ]Stilboestrolのtumorは、文献的にはHistologicalの面でも種々の意見があるようですし、malignancyも強くないようです。
[勝田]伊藤君のところは肝細胞をばらばらにして、cell
suspensionでinoculeteして培養する仕事を早急にやって頂きたいですね。細胞数をcountしながら培養するのです。そうすると何本に(細胞何万個当りに)1ケの増殖細胞が出るのか、という計算ができてきます。
[伊藤]細胞の増殖、細胞の生死の判定をしないといけないと思うのですが、どうもはっきりさせる方法に困っています。
[勝田]一般に生死だけならnigrosinで行けるでしょうが、それより面白いのはprimaryの肝細胞と増殖してくる細胞と(クエン酸−クリスタル紫)で染まり方がちがうことです。この処置をすると、primaryの肝細胞は細胞質がきれいにとけず、かなり残っておりしかもcrystal
violetでdiffuseに染まるので、核内の様子がよく見えません。之に対し増殖してくる細胞は株細胞と同じように細胞質がよくとけ、核小体もくっきり染まるので、すぐ見分けがつきますから、かぞえ分けができます。
《佐藤報告》
本年度はどうしても発癌実験に成功したいと念願しています。さし当りラット肝←メチルDABの問題を追求して見ます。終了し次第先づ復元の状況(生体内でどの様な経過をたどるか)を調べて見ます。それを指標にして復元の追求を行って見ようと思ひます。ラット血清による撰択乃至適応は早速準備します。今回はDABによる染色体のパターン検索の結果を送ります。
(対照群3、DAB群8、メチルDAB群2の染色体数分布図を提示)。まずラット肝摘出後直ちにDAB及びメチルDABを4日〜12日投与し、以後其れらを取り除き、株化し、最初より半年前後で検索されたパターンです。以上の結果から対照群及びDAB群に比してメチルDABが染色体数を強く右遍(多い方へ)すること及び主体染色体の所謂消失がおこる事等が推測された。
そこでつくられた株細胞にメチルDAB及びDABを投与して、染色体の移動を検索した。primaryの時12日程度のものが、変化が著明と考えられたので、第1回目はC8対照株へDAB及びメチルDABを夫々10日与えて検索した。次にC21対照群にDAB及びメチルDABを夫々11日与えて検索した。C8及びC21株+DAB乃至メチルDAB実験から、primary←DAB同様に株の場合にも染色体移動(primaryより弱いが)がおこる可能性が認められたので更に長期投与する実験をおこなってみた。
C10(DAB)株に、DABを11日及び57日、メチルDABを55日与えた結果はメチルDAB群の染色体移動がより明瞭である。
:質疑応答:
[佐藤]マーカーを細胞の形態と染色体において研究したいと思います。また染色体自体のマーカーはmodal
valueの移行でやります。DABとメチルDABの染色体数分布に対する影響の差が少しつかめてきたように思われます。今後はこれらの核型をしらべることと、DABの濃度を上げるとメチルDAB型にならないか、という点も試したい。またDABの細胞内へのとり込み、細胞内での残り方を考えています。化学分析室と共同で、0.1μg/ml位の精度でDABをdetectできるような検出法を考えています。培地中の減りをみたいわけです。
[勝田]細胞内のDABの量とか分布はmicrospectrophotometerやisotopeを使うとかなり行けるんじゃないですかね。
[堀川]メチルDABによる染色体数のバラツキが持続するのはVariantの問題で、メチルDABが細胞内に残るためとは考えなくても良いと思います。
[勝田]primaryで生え出してきたのが、いつそのような大きなバラツキをもち始めるか、またどうしてそれが持続するのか、面白いですね。初めの頃のをぜひ知りたい。それから、このようなバラツキを持ったcell
populationの中には、malignantになったものが入っている可能性、頻度がそれだけ高いと思われるので、これをRatの血清でselectして生えるものを復元するということはぜひやってみてもらいたいと思います。
[土井田]染色体数ですが、コルヒチン処理をしないで標本を作って、比較してみてもらいたいと思います。また染色体の形にしても何かmaker
chromosomeが出現しているのではないでしょうか。
[山田]核型を一度土井田君に見てもらったら・・・。
[堀川]核型から攻めるのではなくて、他の攻め方があるのではないでしょうか。
[高岡]動物の発癌実験ではmarker chromosomeがあるようですね(V型:吉田俊英氏)。
《堀川報告》
培養細胞における貪食性と形質転換(癌化)の試み(VI)
(1)正常L細胞がEhrlich細胞核やSpleen細胞を貪食した際、どの程度L細胞が喰い込んだEhrlich細胞やSpleen細胞のDNAを利用し得るかを知るため、Spleen細胞、Ehrlich細胞、さらにはL細胞をそれぞれ別個に1μcH3-thymidine/ml内で24時間incubateすると、 1)Spleen細胞の206μgDNA中に、37.918countのH3thymidineがincorporateし、2)Ehrlich細胞の59.1μgDNA中に、306.519countのH3thymidineがincorporateし、L細胞の54μgDNA中に360.138countのH3thymidineがincorporateすることが分った。これら1)、2)、3)のDNAをそれぞれ別個の培養液に加えて、L細胞を24時間培養すると、それぞれのL細胞のDNAから、1)7.092count、2)64.416count、3)60.272countのactivityが検出された。これらのことから分ることは、L細胞は培養液中に加えたSpleen、Ehrlich、さらにはL細胞といった各種細胞から得たDNAの内homologousなDNAをのみ特異的に取り込むと云うような現象はまったく認められないで、培地に加えたSpleen細胞DNA、Ehrlich細胞DNA、さらにはL細胞DNAをほぼ同じ率で取りこむことが分る。すなわち培地に加えたDNAのうち、約1/5〜1/6がL細胞のDNAに取り込まれることが分った。この場合、Spleen細胞、Ehrlich細胞、L細胞ともに同じmouse
originであるという点に利用度の一致性が認められたものであって、異種動物からOriginateした細胞のDNAの利用度に関してはまったく異った結果を得るかどうかについては今後に残された問題であろう。
(2)正常L細胞内に喰い込まれたSpleen細胞や、Ehrlich細胞核の運命については、これまでH3-thymidineやC14-leucineなどでlabelすることによって追求してきたが、実際にL細胞内に喰い込まれたこれらSpleen細胞やEhrlich細胞核の形態変化を追うため、現在京大・生理学教室の品川氏と組んで電顕で追っている。喰い込まれた細胞の崩壊現象など今まで考えてもみなかったことが2、3分り、さらに、興味ある点としては従来光顕で追っていた時に得た結果よりも、L細胞の貪食性ははるかに大きいことが分ったことで、これは拡大像という利点が生んだものである。
すなわち正常L細胞はいづれの細胞も大なり小なりそこらにある大きなもの小さなもの手あたり次第に喰い込む能力のあることが分った。
(3)兎で作ったEhrlich細胞のAnti-serumをEhrlich細胞と反応させた時、少くとも4〜6本の沈降線が出ることが分った。ところがこのうち半分ばかりはL細胞と共通な抗原性を示し、EhrlichのAnti-serumからL細胞で吸収した残りがEhrlich細胞特有の抗原性であるということになる。
この様にして今後はこのEhrlich細胞特有の抗原性をマーカーにして実験を進める訳であるが、このようにL細胞とEhrlich細胞間に共通抗原の存在する理由として次のようなことが考えられる。すなわち、1)L細胞もEhrlich細胞も組織培養という条件下において、同一抗原性の所にまでDe-differentiateした。2)両細胞ともにmouse
originであるために共通な種特異性抗原をもつ。などが考えられる。これらについては更に詳細に調べてから報告したい。
:質疑応答:
[堀川]私としてはこのまま核またはsubcellur
fractionのとり込みによるtransformationをやって行き、10月に土井田君にバトンタッチしたいと思います。
[土井田]私は堀川氏の仕事をそのまま続ける訳には行きません。やるとしたらchromosome
mapの方から攻めることになります。助教授も堀川君も留守で教室の方が多忙になりますから、全力を傾注するというわけには行かなくなりますが・・・。
[佐藤]適当なサンプルを責任をもってやってもらえばいいんじゃないですか。
[土井田]Radiation biologyとcombineしてやれば自分としては有難いのですが。
[勝田]班とすると、そろそろ発癌ができかかると、それについて精密にしらべるstageに入ります。そのとき問題になるような標本について染色体を専門家の目でしっかり見てもらえばと思います。数をかぞえたりすることは、標本の作り方も進歩したし、各人が自分のところでやれば良いでしょう(かぞえ方をよく教わって)。大事な標本、あるいは問題点についてだけ、殊に核型などで相談役になってもらえれば。
《山田報告》
1.組織培養における物質の消費に関する細胞生活単位(Cell
Life Unit)について:
これまで組織培養で培地中の物質消費を細胞当りに換算するために、色々な簡易法が取られてきた。例えば測定前後の細胞数の平均で消費量を割るとか、増加窒素量で割るなどの方法が取られている。これらの方法は比較値として扱う場合一応意味を果してきたが、絶対値として考える場合には全く便宜的な解答しか与えてくれない。そこで細胞が分裂してから次に分裂するまでの間を1細胞生活単位として、これをもとに物質の消費を測定すると更に理論的な話を進めることができると考え、この細胞生活単位数の測定を計算する方法を案出したので報告する。
そのために2つの仮説が設定されている。(1)測定時間の間、細胞は一定速度で分裂する。(2)培地中の物質濃度は消費につれて変ってくるが、消費度に影響がない。即ち、測定時間中細胞は一定速度で物質を消費する。この2つの仮説は、何れも短時間の測定の場合には問題ないが、長時間の測定では平均値しか与えられなくなる。
細胞の増殖は対数期にある場合、n=n0・2 t-t0/Tで与えられる。t0及びtにおける細胞数がn0及びnで、Tは世代時間、これを自然対数に直すと、n=n0・e
0.69315(t-t0)/T。そこでt1よりt2との間に、細胞数がn1よりn2となるとすると、t1〜t2
ndt即ち斜線の面積は細胞の生活量を与える。これを細胞の生活単位(1xT)で割ると
t1→t2の間の細胞生活単位の数がでてくる。即ち、1/1T
t1〜t2 ndt=1/T t1〜t2 n0・e 0.69315(t-t0)/T
dt=n2-n1/0.69315。即ち、短時間 t1→t2で細胞数
n1→n2が測定されると、その間の細胞生活単位数は(n2−n1)をIn2
即ち 0.69315で割った数字となる。この数字で物質の消費量(その間の)を割れば、1細胞生活単位即ち、1個の細胞の1生活単位当りの消費量が平均として算出されるわけである。物質の産生についても同様の考え方ができる。
1例として肝細胞(Chang)のブドー糖消費を挙げると、本細胞は42時間までlag、42〜182時間までlogarithmic
phaseであった。ブドー糖の消費は対数期前半までほとんど認められず、それ以後細胞生活単位当り
4.4〜8.5X10-4乗μgの消費が認められた。この数字は1細胞重量が
10-3乗μgのoderであることを考え合せると可成り大きい事が判る。Human
Diploid Cell Strainでは更に大きい数字が得られた。
2.本年度の研究計画:
人胎児肝よりの繊維芽細胞株の分離と其増殖度の推定については前報で述べたので省略する。とくに5〜15代では一定の増殖度が得られる(4〜5倍/4日)ことが判ったので、"正常細胞"の増殖研究に入ることが可能になった。今年はマウス肺より同様の細胞増殖系を得、これにX線その他の発癌剤投与により、移植能を基本に、発癌実験を行う。
《杉 報告》
発癌実験
Golden hamster kingのprimary culture−stilboestrol:
これまでの実験結果を表示します。(一覧表呈示)
表中の分数の分母は培養したR.T.(回転培養管)の数で、分子は細胞の生えてきたR.T.の数を表わしたものですが、実験を始めた最初の頃はこうした観察をしておらず、且その分は既報致しましたのでそれ以後の結果です。又実験方法にも一寸迷いが出て、最初からトリプシンでばらばらにする方法を試みて失敗したりしてdataにならなかったものもあり、以上が現在までのdataです。
これでみると先づ用いた動物の日齢については、比較的老齢のhamsterを用いた時に実験群と対照群とで数字の上での差が見られ、若い日齢のものでは差が出ていません。しかし、若いものでも生えてきた細胞の形態を比較してみると、対照群ではfibroblastlike
cellが多数を占め、上皮様細胞団は稀にしかみられないのに比し、実験群では上皮細胞団がかなりみられ、fibroblastlike
cellよりもむしろ多い位です。
両群でのこの様な形態上の差は老齢のhamsterを用いた時にもみられます。そして作用量については、1μg/mlよりも10μg/mlの方がはっきり差が出る様に思われたので、最近は専ら10μg/mlをとっています。又作用日数はこの様な変化に関する限り、10μg/mlでは4日間で充分なことが分りました。動物の性差による反応の違いははっきりしません。
しかし問題は今のところ、これが次々に継代出来る程の増殖を示さないことで、継代法も含めての培養法に欠陥があるのか、それとももともと増殖能がないのか検討を要するところです。
《伊藤報告》
発癌過程の生化学的変化をとらえたいが、そのためには細胞が大量に培養できなければ困ります。その意味ではじめから肝細胞をばらばらにして、cell
suspensionでinoculateして培養したいと思っていますが、今までのところはどうも未だうまく行かないので、今年はなんとか成功したいと考えています。maintainかgrowthかも確めたいと思います。悪性化の途中で細胞が変ったということを簡単に見出せるような何か良いmarker、生化学的なmarkerでもないものでしょうか。癌化すると変るというような・・・。
:質疑応答:
[勝田]それは逆じゃないですか。癌の生化学的特性がつかめないから今日まで困っているのでしょう。
[関口]肝癌になるとArginase活性の低下が起ると報告されていますね。
[勝田]しかしそれはすべての肝癌にあてはまる共通の特性かどうか判らないでしょう。一つや二つ測ってみてそうだからと云ってそれだけを目標にするのは危険と思います。
[伊藤]Trypsin消化だとどうも細胞の収率が悪いですね。メスで細かくchoppingする方法とか、perfusionをやった後ゴムでhomogenizeする方法をとる方がよいと思います。どうもゴムの良いのが手に入りにくいので、テフロンのhomogenizerを使ってみました。たしかに細胞はばらばらになりますが、収量は30%位で、果してその細胞がまた培養でうまく生えるかどうか、疑問点がいろいろあり困っています。
[勝田]ゴムは軟いのはいくらでもありますが、軟いのは高圧に耐えないですね。
《黒木報告》
継代吉田肉腫細胞の形態的変化について:
大阪より帰ってから1ケ月間、栄養要求の方は一時お休みにして、もっぱら染色体標本の作成を行いました。しかし慣れぬこと故、色々と手違いが多く、結局、染色体を観察出来るようなよい標本は得られぬままに終った次第です。
そこで方向をかえ、核の形態学的観察を各代、BackしたRatのascitesについて行いました。Controlとしてnon-culturedのYS及びGVについても同様の観察を試みました。「GV」とは佐々木研で分離した吉田肉腫のclone(in
vivo)の一つで、染色体のpeakは80本にあります。
核の形態としては、夫々まとめて4群に分けその分布をみました。Iは腎型、楕円型、円形。IIは切れこみの深いもの。IIIは連なり2核、連なり3核、2核、3核。IVは輪状核です。
その結果は次に示す通り(表の呈示)、核の形は40代頃よりGVのそれに近ずいていくことが分りました。
1)培養初期(20代頃まで)はnon-culturedのYSと同様I群がもっとも多く、II、III、IV、は少い。しかし40代以降はII、III、IV、の各群が増加し、GVのpatternと似て来る。
2)in vivoにbackすると、in vitroと同様の分布を示す。
3)in vivoでGVと似たpatternを示すものも、次のRatにtransplantすると、又もとのYSと似たpatternを示すようになる。(56G)
これだけのDataから 2n→4n の変化が起ってくるとは云えませんが、その変化は想像されます。そこで、どうしても染色体が必要になる訳です。なお、56Gよりbackした細胞は現在in
vivoでも継代されております。
染色体標本の作製:
月報6303、Parker's textbookをみながらやってみたのですが、どうにもよい標本が得られませんでした(重り合いが多く立体的)。
方法としては、低張処理→遠心→固定→air-drying→acetoorscein→封入と云う方法ですが、どこが悪いのかうまく行きません。今後色々教えて頂きたいと思います。なお、この方法でmonolayer
cultureの細胞(肺癌由来・山根研究室)に応用してみたところ、1回できれいな標本が出来ました。monolayer
cultureのときは細胞がflattのため作り易いのではないかと思われます。又、吉田の場合、colchicineのoptimalな作用時間は、1.0x10-6Mで2hrs.、5.0x10-7Mで3hrs.です。それ以上では、細胞質に著明な変化(軟化)が現れます。最近の文献でAgarを用いる方法がありますので、これも試みてみる積りです。
先月号で述べた移植性の問題、核の形態等、長期培養による細胞の変化が少しづつ明らかになって来ましたので、どうしても、染色体をみる必要があると思います。又、抗研にmicrospectrophotometryが入っておりますので、これも利用して行きたいと思っております。更に栄養要求の変化も合せて追求し、綜合的に細胞の変化をおさえていきたいと思っております。
:質疑応答:
[黒木]今年の計画としては、1)復元法をいろいろ考えてみたいと思っています。それでThymusを除く方法をいま練習しています。2)吉田肉腫の方も栄養要求をつづけてやらなくてはなりません。3)発癌ではAutoのsystemを考えています。腹水中の細胞を、sucroseなどでふやしておいて取り、これを使って悪性にできれば、本人に復元テストできるわけです。
[勝田]班としても復元法が非常に問題であり、しらべたいところなので、黒木君がその点を検討してくれるのは大変ありがたいと思います。栄養要求の方は吉田肉腫は血清を使って生えているのだから、その血清をまず透析とかその他で次々に分劃して不必要なものを除いて行ったらどうですか。
[佐藤]腹水の細胞を培養するのは難しいでしょう。腹膜の細胞にしたら・・・。
[黒木]トリプシン消化するわけですね。それではとったネズミが死んでしまってAutoに返せないでしょう。
[勝田]復元接種するとき2stepsでやる手があります。前にAH-130から株を作ったとき試みたのですが、少い細胞で復元しなければならぬとき、初めに復元して少しふえ出したとき、動物の抗体が沢山作られる前に、それをまた採って次の動物に接種するわけです。こうすると、初めの動物のときは細胞数が"take"されるのに不足だったとしても、二度目のときはその低限界を越え得るわけです。またはじめに培養した動物の性を確認しておけば(幼若ではhistologicalにしらべて)、復元のとき別の性の動物を使い、生えてきたtumorがどちらの統のものか、sex
chromatinなどでしらべられますね。
[伊藤]ハムスターのpouchはもともと抗原性が少い(?)から、この細胞をとって培養して発癌させたら良いのではないでしょうか。
[山田]いやあそこは雑菌だらけで困るでしょう。
【勝田班月報・6307】
《勝田報告》
A)発癌実験:
(1)これまでラッテの出産が少し低下していたので新しいスタートはほとんどありませんでしたが、最近調子が出はじめましたから、また近い内に再開できます。しかしその前に継代第2代での増殖が何とかよくなるような培養条件を見付けておきたいと思い、RLD-10株('63-2-23開始)(C37のDAB群)を使い、7日間TCでcell
countingで、次のようなテストをしましたが、今までのところでは未だ何も良い結果は得られていません。Basal
mediumは(20%Calf.S.+0.4%Lh+D)です。
1)Glucose濃度のeffect (RLD-10:第4代)
0.1%、0.2%、0.4%と3種をみましたがほとんど差なし。
2)Pyruvate添加のeffect (RLD-10:第4代)
0.01%、0.005%の2種ですが、反って抑制されます。
3)Rat liver extractのeffect (RLD-10:第5代)
(1:1)に、生后約1年のラッテの肝をsalineでextractし、これを50%と考えて、培養培地中に0.05%、0.5%の2種加えてみましたが、濃度に比例して著明な増殖抑制が認められました。もっと若いageのラッテで、且もっと低濃度でやってみる必要があるかも知れません。
(2)復元試験。'62-11-15開始した群のRLD-7株細胞の染色標本をこの5月末にはじめて作ってみたところ、いままでのRLD、RLCの各株と全く異なり、核に大小不同が多く、しかもその核がギザギザやクビレやらあり、細胞質の中に千切れているところも見られます。そこでこの細胞のふえるのを待って、この6月6日に、生后3wのラッテの脳内に約100万ケ宛入れてみました。ラッテは2匹でCO60とコーチゾンで前処理してあります。しかし今日までのところでは2匹とも至って元気なものです。復元法としては、経過が見やすい点で前眼房などがいちばん良いかも知れませんね。
(3)ウィルス・テスト。上記のRLD-7株ですが、どうも細胞の変化がおかしいので或は、latentのvirus
infectionがあるのではないか、そしてDABとSynergismによってあのような株の変化(或は癌化)をひき起すのではないか−と考え、RLD-7細胞を5回凍結融解し、その遠沈上清を、Atypismもいちばん少く、細胞質のきれいなELD-1株の#5の培養に10%に加えてみました。2日后に染色標本を作ってみましたが、変化は何も認められないので、renewal(4日目)のときまた10%加え、今日5日目ですが、7日目にまた標本を作ってみます。
(4)Parabiotic cultureテスト。さきにRLD-1をno
renewalで何回もselectした結果、4nにpeakをもつcell
lineのとれたことを報告しましたが、このRLD-1(4n)株がmalignantか否か、正常ラッテ肝とのparabiotic
cultureでしらべたいと思い、8日ラッテの肝のprimaryと静置でしらべました。しかし結果は陰性で、(表を呈示)肝は平気、RLD-1(4n)はむしろ抑えられ気味となりました。なおRLC-1と正常ラッテ肝との組合せも調べてみました。Growingnormal
cellとはどうかの再確認の意味もあるのですが、RLC-1も反って抑制されてしましました。
B)腹水肝癌各型の培養スクリーニング:
Screeningといっても、細胞が硝子面によく附着するか否かのテストです。佐々木研で毎週ラッテで植継ぎしたときもらってくるのですが、運び方などもずい分問題になるようです。(表を呈示)附着し増殖する系(+)はAH-66、7974、286、414。細胞の中に附着するのがあるが、果してそれが癌細胞かどうか判らぬのと、且増殖しないらしい系(±)はAH-63、408、602、149、173、62、272、423、318。附着しない系(-)はAH-66F、99、129、310、でした。
培地はすべて20%CS+0.4%Lh+Dです。
AH-286は附着してよくふえますが、細胞質に泡状のものが見られ、ウィルス・コンタミの可能性が考えられます。
《佐藤報告》
前号に引続きラット肝←DAB及びメチルDABの所見を染色体のパターンと一部核型を検索しています。復元もつづけていますが只今の処、動物内発癌は成功していません。今度の実験結果は私の予想に反して思わしくありませんが、事実ですから止むを得ないと思います。更に条件を仔細に検討いたします。
前号でC10D株にメチルDABを55日投与したとき染色体の分布が処置前及びDAB57日に比し著変した事を報告しました。そこでこの法則が他の株にも当嵌るものかどうかを試みてみました。前述の株に夫々メチルDAB74日、DAB68日投与後、染色体のパターンを検索しましたが、両者の間に現在の所差が見えていません。(以下夫々の分布図を呈示)
C8(対照)株の現在の染色体パターンと、同時期に検索したC8(対照)株←メチルDAB84日の場合にも前号報告の如きメチルDABによる染色体の強い変動はない。
更にC10(対照)株において同様の検索を行なったが、著変は認められなかった。上述の三組の実験において、私はメチルDAB群に染色体の移動を期待したが結果は−出会った。念のため前号報告のメチルDABによる染色体パターンの移動が間違いないか、22(メチルDAB12日)株で検索して見た。結果は依然として右遍があり比較的幅広く増殖している事が判明した。 上述の結果の意義づけについては考え得る事もあるが、復元の試みを待って論じたい。前からの宿題であるpoolされた♂ラット血清による撰択を開始している。C10D株とC10D株をラット血清20%+LDの中で49日間おいて増殖させ現在増殖中のもの、復元は今の処(-)、の染色体パターン図を呈示する。
ラット血清による撰択→増殖→復元はメチルDABによる移動株について更にC10D←DAB55日及びC22(メチルDAB12日)株に就て行っているが前者は比較的早く増殖しているが、後者は殆んど発育してこない。発癌実験において培養日数が長い事は不利な点が多いのでこの一連の実験の不足部を補ふと共に短期メチルDAB(量的)→復元の実験を再開する予定。現在C39実験、メチルDAB→Primary24日・1963-2-22のものが増殖中ですのでこの検討を始めます。
《杉 報告》
発癌実験:golden hamster kidneyのprimary
culture−diethylstilbestrol:
primary cultureで出てくる細胞は既報の如く、実験群と対照群でepithelialなcellが活発な増殖をしているという証明は残念乍ら出来ていません。
即ち培養10〜18日目頃に、対照群に比べ実験群でepithelialのcellが多く出てくるわけですが、そのまま培養を続けると大体30日位を経過した頃から段々と変性に傾き管壁から落ちる。この頃のを次代に継代しても勿論増殖を示さない。そこで培養18日目位でまだ細胞団が拡大しつつあり、変性に陥らない頃にrubber
cleanerを用いて継代すると、そのまま変性しないで細胞団は再び一寸拡がる。しかし継代後10日過ぎ、即ちprimary
cultureの最初から約30日を経過するとやはり変性に傾く。それを継代してもうまくいかない。復元については(age
46days、female、hamster)培養30日目のものを、cortisone処理hamsterのcheek
pouch(age25days、male、contisone acetate 2.5mg/day、2days/w)にかえしてみたが、現在のところtumorを作っていない。接種細胞数は約5万です(crystal
violetで染色して数えたが生死を判定しかねるのもあり不確実)。尤もこの細胞は接種時、培養30日を経過していたため稍変性しかけていた部分もあり、復元の時期としてはよくなかったと思います。
以上の如く静置培養では盛んな増殖が得られないので多少の不便を忍んで、以前使っていた中検の廻転培養器でやり始めました。まだ日が浅いのでもう少しやってみないと分りませんが、細胞の生え出しは確かに早いが上皮様細胞がどうもうまく生えてこない様です。 染色体については今度新しく研究室に入り、現在培養一般について練習中の岡田君にやって貰っていますが、technicが未だしでdataになっていません。
hamster−−stilbestrolの動物実験では,以前から種々の実験結果が出ていますが、
stilbestrolはestrogenic activityをもったhormoneであり、これを使った発癌実験というのは多くが種々の他のhormoneとの関係においてなされていて、これらの複雑な組合せの違いにより異った実験結果が出ているとも思われます。勿論tumor乃至はadenomaをつくったというのもありますが、大体一致した結果として出ているのはhyperplasieをおこすということです。我々のin
vitroでの実験で、盛んな増殖こそおこさないが、実験群と対照群とで違いが見られるというのは、何かin
vivoでの変化に似たものが現れているという可能性が考えられます。只動物実験では発癌するまでにかなりの長期間を要しているので、invitroではそれ程長期間を要しないにしてもかなりの期間を要することは考えられ、現在の如く30日を過ぎると変性に陥るというのは不都合かも知れません。そうすると如何にしてこの出てきた細胞を、より長くin
vitroで維持させるかということも目下の重要な課題となります。その様に稍長く細胞をin
vitroに維持出来る状態にもっていってstilbestrolをくり返し作用させるか、他の要因を組み合せて作用させるかして、対照よりも早く悪性化させることが出来るのではないかと思います。stilbestrolをくり返し作用させるということに関しては、培養開始時に一度作用させておいて暫く正常培地に戻し、あとで作用させるということを試みましたが、これまでの結果では2回作用させても大した影響はなく、培養開始当初に作用させたものの影響だけが残っているという印象をうけます。
その他、動物実験でhamster liverに発癌性を有するo-aminoazo-toluenをhamster
liverのprimary cultureに作用させていますが、まだ結果は出ていません。
《黒木報告》
吉田肉腫少数細胞の培養とEagleの培地(1)
吉田肉腫細胞の基礎培地としては、Earle's
B.S.S.50%、Lh 0.3%(final)、Bov.serum50%を用いていたのですが、栄養要求の仕事がすすむにつれ、培地条件としてより優れたもの、即ちdefinedなものを用いる必要性が生じて来ました。そこでLEをEagleにおきかえ、血清の量もへらし、更に透析血清にもっていきたいと考え、昨年の末より、少しづつ実験を行って来ました。
その結果、おどろいたことに、Eagle'med.(1959発表の処方)50%、whole
Bov.Serum50%(非働化)で、pyruvateなしでも、血液なしでも、20ケの細胞が非常によく増殖するのです。(勿論LE50%、B.S.50%の培地では20ケの細胞は全く増殖しません)。このLEとEagleの差は一体どこにあるのか、又少数細胞の栄養要求とはどう云う関係にあるのか。これらのことについては、これからいろいろ実験をして解明していきたいと思っております。
EagleとLEの差はEagleのAmino acidとVitaminと、Lactalb.hydroly.の差と云うことになります。用いたlact.hydroly.は、宇田川先生のときよりずっと同じLotのものです。LotNo.9457。この9457と云うのは調べてみましたところ勝田先生のところで"不良"の折紙をつけられたものと分りました。この9457とEagleのAmino
acidを比較してみますと、不足しているのはglutamineです。(9457にはglu+GluNH2
69mg/l、Eagleにはglutamine292mg/l、gulNH2は0)。しかし9457+glutamineのmad.でもgrowthはありません(glutamine
0.1〜0.4mM)。
問題は非常に複雑になってしまい、一寸困っております。現在、Eagleから一つづつAmino酸を抜いたmed.を作りexp.をおこなっております。又pyruvateの効果もみておりますので、7月の班会議までには、いくらか分って来ると思います。(なお、これらの現象は3月末には掴んでいたのですが、大阪では、問題を余り複雑しないように、わざと伏せておいたものです。不悪ず、御了承下さい)
《堀川報告》
5月の岡山での組織培養学会にそなえて大量のネズミを使ってしまったのがたたって遂に仕事はストップされ、つい最近三島の国立遺伝学研究所を訪ねて森脇氏から種用のネズミをゆずりうけて持ち帰り、大急ぎで繁殖させているところなので、今月は発癌実験に関する仕事は出来ずに終ってしまいました。
その間の実験としてX線2000γで照射したL細胞の回復に関する仕事に主力を注いで来ました。現在の段階では放射線で照射されたL細胞の回復に働くのは正常L細胞から抽出した蛋白様の物質らしいことが分っております。勿論更にDNA、RNAをpurifyして実験を進めている段階です。
一方、Spleen細胞を喰い込んだL細胞が分裂何代目まで、そのSpleen細胞のantigenic
characterを維持し続けていくかを決定するためにこれまでAgarの沈降反応あるいはTest
tube法などを使って追求して来ましたが、この方法では全L細胞のうち何個がantigeic
characterを維持し続けるかをtestすることは不可能で、そのためLatex
particle methodをかりてこの種の仕事を展開させております。
この実験の結果と発癌実験(主として細胞成分と放射線)に関する結果は7月の班会議から少しづつ発表出来るものと思います。
《山田報告》
1.組織培養における物質の消費に関する細胞生活単位(Cell
Life Unit)について( )*James,T.W.,Ann.N.Y.Acad.Sci.,90:550-564,1960による数式を呈示
【勝田班月報:6308】
《勝田報告》
A)発癌実験:
a)初代スタート:その後の成績についてのみ記すと、次の5系統がある。
#C38(1963-3-2開始、15日ラッテ)この実験はDAB1μg/mlの群だけが現在まで続き、継代3代であるが、どうもこれも切れそうである。#C39(4-25開始、13日ラッテ)3群作った。DAB1μg/ml群は2/8→2群に分け、4本は第21→46日:初代のままNo
Renewal、途中で生え出し、3/4に新コロニー発見、以後はRenewal(2/W)で今日まで。残りの4本と、DAB-N-Oxide1μg/ml群(1/4)、Control群(1/4)は第2代に継代したら切れてしまった。#C40(5-27開始、14日ラッテ)第17日目にDAB群12/23→第19日、Roller
tubeに継代したが、第42日まで全然ふえてこないのでTCstop。Control群は0/7。#C41(6-27開始、9日ラッテ)DAB
4日と、#C42(6-30日開始、12日ラッテ)DAB
4日の結果はまだ判らない。
b)継代2代の増殖を促進するためのテスト:
発癌実験は永くかかっては困る。おそくとも半年以内に勝負をつけたい。しかしこれまでの経験ではDABで生えだした細胞を第2代に継代したとき、その増殖がおそくて、第2代でずいぶん日数をくわされる。ここが一つのNeckpointなので、培地に何か加えることによって増殖を上げられないかと考えた。1.Glucose(0.1%、0.2%、0.4%:何れもNo
effect)。2.Pyruvate(0.01%、0.05%:反って抑制)。3.Rat
liver extract(生後1年Rat、1:1、0.05%、0.5%:著明な抑制)。RLD-1を用いて7日間上記の条件テストをしてみたが、何れも失敗。しかしこれは必要なことなので、さらにprimaryから2代、3代に入る適当な細胞ができ次第、もっと若いratの、もっと薄いextractとか、chick
embryo extractなども試してみる予定である。
c)株化した細胞系について:
これまでしばしば報告したように、DABで増殖を誘導された細胞には、いわゆるAtypismがきわめて少い。しかし最近になって唯1例、その例外を見付けた。RLD-7株(1962-11-15)で、核が大小不同だけでなく、不整形で、切れこみや融合、分離などを呈し、崩壊像も示す。何かvirusの作用を思わせるようなところもあるので、細胞を5回、凍結融解し、その液をfinal
10%にRLD-1・#5の培養に加えてみた。しかし4日後にまだ変化があらわれないので、そのときのRenewalにまた10%加え、7日迄しらべたが決定的変化は現われなかった。なおもっと長期のテストも行なってみる予定。
ここで考えたのは、つまり、そのままではRatに病原性をもたないvirusがはじめからそのRatに居って、そのliverを使ってDABをかけたため、DABとの協同作業で病原性を呈するように変ったという可能性である。Chemical
carcinogenesisをやっていても、いつもこういうことは一応は頭におかなくてはなるまい。なお、このRat
liverはControlの方は非常にきれいな核の形態を示している。
d)ラッテへの復元接種テスト:
上記のRLD-7株を6月6日に、コバルト60をかけコルチゾンを打った生後3wのラッテ脳内に、細胞約100万個宛、2匹に接種したが現在までのところでは変化が認められない。
e)染色体分析:
i) RLD-1株はmetaphase count 100ケになったが、Peakはやはり43本。
ii) RLD-1・4n株:これはRLD-1・#3を1962-12-11に第19代に継代、TD-40瓶で12-19より12ー26まで7日間培地交新をおこなわなかったもので、月報の6306号に図示したよう染色体数のpeakが、81〜90本のところに46%を占めて移ったもので、RLD-1・4nと名付けた。生活環境が悪いときは4nの方が2nより暮し良いのかどうか。この4n株は正常肝とParabiotic
cultureしても増殖を促進されぬし正常肝も阻害されない。どうも悪性ではないらしい。
iii)RLD-0株は今までのところ80ケしらべたが、40本と42本にpeakがあり、41本が一寸へこんでいる。
iv) RLD-2株:まだ23ケしかかぞえてないが、今までのところではpeakは42本。
v) RLD-4株:これも42本。
vi) RLD-7株:38ケかぞえたが、41、42、43本が同じ位の高さに出ている。
B)腹水肝癌各系の培養スクリーニング:
これは前月号の月報に表を示したので省略するが、要するにAH-130が最近性質が変ってしまって、以前よく生えたmediumでも今は7日間ふえつづけられないのと、ガラスへの附き方が悪いので、routineに使うのにどうも思わしくないので、それに代るものを見附けようとしたもので、今迄のところではAH-66、AH-7974、AH-414、AH-286などがガラスへよく着くが、AH-286は細胞質に空胞のすごいのが多く、1種のfoamy
virusのcontamiでもあるのではないかと危惧される。第一候補としてAH-66とAH-7974と使い、parabioticでliverにより強く障害を与える方を使うようにしたいと考えている。
:質疑応答:
[黒木]AH-66Fは染色体数、38本と80本と2種類あるそうで、佐々木研では10代毎にしらべているそうです。
[佐藤]60本位のはありませんか。
[黒木]知りません。
[勝田]DAB-n-oxideは寺山先生から頂いてまだ1回しか使っていませんが・・・。
[寺山]特殊な作用が見られますか。
[勝田]濃度をいろいろ変えてみたりしないとどうも・・・。
[佐藤]増殖ということでみているわけですが、増殖と発癌とは平行する現象かどうか。また1μg/mlの濃度を使っていますが、これはラッテの生体内濃度とくらべてどうでしょう。
[寺山]旧薬理研でfreeのdyeを食べさせて測っていましたが、そう多くはなかったと思います。
[佐藤]Sondeで入れてやると上昇してすぐ下ってしまうのでしょう。
[寺山]Continousにたべさせると低い濃度で続いています。
[佐藤]生体内より高いか低いかの濃度を培養に入れるわけですが、どの位が・・・。
[寺山]もっと大きくしても・・・。しかしDABそのものが作用するのか、その代謝物が作用するのか問題です。EmbryoのliverはDAB代謝がありません。生後どの位で出てくるかは未だしらべてありませんが。
[山田]DABそのものに発癌性があるのか、その代謝物にあるのか、ということですね。
[寺山]それをやっているところなんです。そのものずばり発癌性ということでなくても、それに近いものを見出したいのです。
[堀川]発癌性物質まで変化させる代謝能力があるかどうか、ですね。
[安村]in vivoでのDABの使用量はどの位ですか。また1回だけの接種で発癌させる物がありますか。
[寺山]ラッテでは1gで6〜10ケ月です。ベンツピレンなどは1回ですが、1回といってもその部位に長く残っていますからね・・・。
[安村]Virus性のtumorなら1回の接種でもできます。DABなどを使っての発癌でも問題は時間ではないですか。Trypsin処理だけでも10ケ月でTumor化した例もあり(Barski,J.Nat.Cancer
Inst.)、DABも3ケ月と10ケ月との差ということで、どれが原因か云いにくくなるんじゃありませんか。
[勝田]培養では半年以上培養するとspontaneouslyに悪性化した例が間々ありますので、こちらは半年以内に勝負を決めたいと思っているのです。
[安村]増殖で見ていると発癌がはっきりしないでしょう。何かもっと良いマーカーがありませんか。
[勝田]我々は第1次のマーカーとして増殖誘導というものを使っているのです。これはDABによって肝細胞内の増殖抑制機構が外されて増え出してくるのではないかと"想像"していますが。
[寺山]増殖しかかったものにもっとDABを続けたらどうですか。
[勝田]いろいろやってみたのですが反って細胞がやられて死んでしまいますね。
[安村]増殖と癌化とはその調節機構は別かも知れません。だからgrowthでみているのは片手落ちかも知れませんね。Scienceに出ているそうですが、Thymusのレチンとプロミンで細胞の抑制と促進ができるそうですね。
[勝田]だから増殖の他に、第2次マーカーとしてatypismを見ているのです。
[黒木]佐藤班員のDABを80〜90日もやっているのは株ですか。
[佐藤]株です。primaryでは28日位やりましたが、増殖が少し落ちてきました。
[山田]HeLaでは4日間DABを与えても呼吸には影響ありませんでした。
[堀川]HeLaは何にでも強いですよ。
[黒木]DABを低濃度で長期間作用させることは重要でしょうか。
[寺山]そう思います。動物実験でも大量では障害が大きくて生存し得ない。普通は最初は障害が小さく、2〜3週後、核数が倍位にふえる。そのとき栄養などが悪いと動物が死亡することになりますが、この2〜3週を越えてしまうと死に難くなり、適応して行くようです。
[山田]耐性になるということですか。
[寺山]耐性の考え方ですが、どうも細胞の方が2種類あって、一つはDABをどんどん代謝してしまう能力が高まったもの、これが大部分ですが、もう一つのは発癌性の代謝物を作らないもので、こっちの方がTumorになってくるのではないかと思います。
[佐藤]Hepatoma前にcirrhosisで死亡するラッテはありませんか。
[寺山]目立って死にませんね。右下の図のように、2週から4週にかけて沢山落ちるわけで、この2週という時期にはRNAのCatabolismが盛になって細胞が障害を受けた後、増殖できないのではないでしょうか。
[山田]癌化したものを見付ける点ですが、in
vitroでは生体内と異なり色々のregulatorの作用がないので、発癌変化したものが現象面に出やすくなっているが、変化していない細胞も増殖性が出てきやすくなっていて、増殖してきた細胞全部が癌細胞ということではないので、その中から癌化した細胞をどのようにselectするか、ということが問題ですね。
[寺山]DABを少し加えてみて、それに耐えるものをselectするのも一法ですね。
[安村]癌細胞かどうかは、今のところでは、動物に復元してtumorを作るかどうかであり、従ってTumorを作るefficiencyが問題になります。これは移植癌の問題にもなり、組織移植のような、免疫のことなども考えに入れなければならないから、若い動物のしかも脳内などが接種部位として良いのではないでしょうか。脳内だとtumorになったかどうかが症状で判ります。若いと云っても、生後24時間以内と2〜3日経ったものとでは、皮膚移植の成績も大分ちがいがあります。X線とかコルチゾンなどで抑えられるもの以外のことも考えられるので、とにかく移植は生後1〜2日、できれば1日のラッテを使ってみないと・・・。
[寺山]そこでそのagingの変化ですが、liver
extractについても、成体の肝には自己肝に対してregulateすることがあって、もう完全にhepatomaになってしまったcellには作用が及ばないが、それへの過程にある細胞には作用を現わすことも考えられます。それから移植の方で、生後1日位のラッテに移植しても、そのあと相当日数の間飼っておくわけで、その点どうなんでしょう。
[安村]有効ないわば感染といったことが起ってしまえば、その後はいいのでしょう。その有効な感染を起すのに、生後1〜2日までの動物が良いということです。
[佐藤]私の場合は生後5日目のラッテに戻したのですがtumorを作りませんでした。
[安村]Polyoma virusでも生後2日目と5日目位のとではもう態度が違います。
[寺山]復元する動物ですが、若いのでなくても、DABをたべさせているラッテに戻したらどうですか。その動物の肝では、分化によってできた機能、例えばCatalaseなどは低下しており、こんなときには移植され易いのではないでしょうか。
[関口]発癌ということですが、αナフチル・イソチオサイアネートなんかでも、肝の増殖は起すが発癌にまでは行かないといったものがありますが、DABによる特有の作用は、増殖変化を起してくる2週間位より後の時期にあるのではないでしょうか。
[寺山]DAB発癌でHepatomaのできるのは6ケ月位とされていますが、佐々木研の小田島氏の研究によると、1ケ月feedingを境として、癌化しているようです。つまり数は少いが癌細胞は出現している。出現頻度が非常に低いだけです。
[堀川]発癌ということが、抗原が抗体を作らせるように入りくんでおり、発癌物質が細胞の代謝系の一部をattackし、多くは細胞の調節力で回復されてしまうが、ほんの一部のものがその回復力が見られず、癌細胞となるのでしょうか。
[寺山]そう考えていますね。それも一ケの細胞がすぐ癌細胞になるというのではなく、細胞分裂を何回か繰返して癌化すると考えています。
[山田]Polyomaなんかのvirusでの発癌は直接にDNAをattackすると考えたい。
[堀川]化学物質ではそのvirusでの作用を、色々な廻り道をとって実現しているとも考えられます。
[安村]癌化するというのには、とにかく染色体に変化を起すことが必要ですね。
[勝田]ちょっとその癌化ということで安村氏に説明しておきますが、細胞を一々動物に戻さなくても、何か、悪性かどうかを確かめられないか、ということです。以前に正常肝細胞と肝癌AH-130、或はセンイ芽細胞と肉腫とを組合せてparabiotic
cultureしたとき、正常細胞はそれによって阻害され、tumorの方は増殖を促進されました。AH-130からのTC株2種、JTC-1とJTC-2は最近復元してもラッテが死なないようになってしまったのですが、これを正常肝とparabiotic
cultureしますと、正常肝は影響を少しも受けず、株の方がJTC-1、-2とも反って抑制され気味です。つまりpara-cultureしたとき正常細胞を抑え、自分は促進されるという現象は、なにか、生体内での悪性と共通点を持っているように思われるのです。そして、DABによって増殖をinduceされてできた株の一つRLD-1を正常肝とpara-cultureしますと、正常肝は阻害されないが、RLD-1は明らかに増殖を促進される点から、RLD-1はtumorの方へ一歩進んだ細胞と見てよいのではないか、というのです。また悪性化したかどうかをin
vitroで見当をつけるのに、この正常細胞とのpara-cultureは使えるのではないか・・ということです。
[寺山]このことと、さっきのliver extractとの関連はどう考えますか。
[勝田]細胞を破壊してとれる物と、生きているのから継続的に出てくるものとでは、少し物質がちがうのだ、ということかも知れませんね。
[山田]Extractといってもその濃度も問題になりますね。
[安村]そのparabiotic cultureで増殖がどうなったかということは、安定性ということで、今としては復元してtumorを作ることで発癌を確かめるべきだしょう。
[勝田]それはそうです。だからこれまでも復元してみたし、今後も前眼房、脳内などをやろうと云っているわけです。ただ上のような現象が現われた後に、復元がうまく行かないとなると、そのときは復元法が悪いのではないか、と考えてみる必要がありますが、RLD-1のような結果ではまだつかないと云っても、細胞のせいと考えるのです。
《佐藤報告》
復元成績メモ
1)C22(メチルDAB12日株・染色体数の右偏していたもの)を1963年4-15〜5-14までに8実験行った。生後5日(脳内)から1.5ケ月(その他の部位)のラッテを使用した。接種部位は脳内、皮下、筋肉内、腹腔内、睾丸内であったが、1963-7-8日の肉眼的調査では腫瘍を形成していない。
2)その他、C10(DAB4日株)、C22(DAB4日株)、C8(対照←DAB)、C10(対照←メチルDAB)、C10(対照←DAB)を主に睾丸へ復元接種したが、肉眼的調査では腫瘍を形成していない。
死亡が2例あったが、2匹共肺炎によるものであった。
3)染色体実験追加例、C10D←メチルDAB54日で右偏したものをラッテ血清で培養中のものは、39本に僅かにピークを残すが、主流は70本以上であった。
:質疑応答:
[佐藤]DABは血清の蛋白と結合しているのですか。
[寺山]その結果には2種類あります。一つは化学的結合で、もう一つは物理的結合です。前者はAlbuminとで、これはAlbuminが肝で作られるので、そこで結合するのでしょう。後者は不溶性のものをよくAlbuminが掴まえますから、それでしょう。
[佐藤]血清にDABを混ぜて保存したものと、使用直前に混ぜたものとでは効果がちがうようですし、1μg/mlで混ぜておくと、1日たつと溷濁が出ますので、それ以上高濃度にはできません。
[寺山]レシチンなどを使うと高濃度になるのではないでしょうか。phospholipidはAlbuminとよくくっつきます。
[山田]血清培地でDABを稀釋して保存したものの方が、作ってすぐよりも効果が出やすいというのです。
[寺山]しかしあれは不溶性の物質だから微粒子となって分散状態になりますからね。
[佐藤]それからDABの定量についてですが、培地中のDABをどうして測ったら良いでしょう。
[寺山]Benzenで抽出して測れば1μgでも測れます。(定量法を図示)
[佐藤]520mμの所には血清の吸収も出ませんか。
[寺山]520mμには出るものはないでしょうね。
[山田]320mμにも吸収peakがありますが、その吸収はどうなんですか。
[寺山]DABの分子構造が酸性で二つあって、図示したように320と520mμにpeakがあります。中性にすると1種で400mμになりますが、他の物質の吸収が混りますから・・・。
[伊藤]佐藤班員はラッテの血清で癌細胞のselectionをしておられるのですね。
[佐藤]復元したときtumor cellが少いとふえてこない惧れがありますので、牛血清の代りにラッテ血清の中でよく増える細胞をふやしたい訳です。ラッテ内でtumorを作れる細胞ならラッテ血清の中で増える筈ですから。
[黒木]このselectinは時間がかかりますから何かplatingのようなことで・・・。
[勝田]それでも時間のかかるのは同じでしょう。
[佐藤]今でも大仕事なのにこれ以上は・・。もしその総細胞の1/100に癌細胞が混っていることが判っているなら、そうしてもいいですが、それが判らんことなので・・・。
[山田]しかしEarleがcloneをいくつも作ったらその中に復元できるのがあったわけで、cloneを作ってみるのも一法ですね。それから同種血清を使ってのselectionですが、iso-antigenもあることですし・・・。
[佐藤]多数(80匹)のratの血清をプールして使っています。
[安村]復元法ですが、大量の細胞、どろどろのを入れてやると良いでしょう。
[佐藤]X線をかけてsac状としたHodenに入れたのですが、まだtumorを作りません。
[安村]その部位ですが、Hodenより脳の方がtumorを作ったかどうか判り易い。脳は重要臓器でtumorを作れば動物は死ぬからすぐ判る。
[佐藤]前に吉田肉腫を脳内に入れたことがありますが、3〜4日で死んで行きました。しかしそのときは継代できませんでした。
[安村]3〜4日で死んだというのは感染の結果ではありませんか。
[杉 ]脳内へ入れる手技は・・・。
[安村]伝研の実習提要に出ていますが、他側の脳内へ0.02位入れます。2週目位から症状が出てきます。皮下と比べ、脳では少量でtumorを作り、継代のときもそのtumor部位をとり出してsuspensionにすれば良いのです。乳鉢を使っています。
《杉 報告》
発癌実験 Golden hamster kidneyのprimary
culture−diethylstilbestrol:
6月号に表示した以後の実験結果を表で示す。
現段階でmarkしている例の上皮細胞集団を盛んに増殖させたいので、廻転培養をやってみたのですが、期待に反して思った程よく生えず、しかも出てきた細胞は繊維芽様細胞が主で、markしている細胞は出てきません。又実験群と対照群の間の細胞の量的差もあまりありません。そこで最近は再び静置培養に切替えました。勝田班長のところでは廻転培養にすると細胞の増殖が俄然よくなるとのことですが、私共のところではどうもうまくいきません。そこで最初静置培養で上皮細胞を引き出しておいて、それを廻転培養に移すということを考えています。既報の如くExp.17をhamster
cheek pouchに復元したものは現在のところまだtumorを作っていません。
:質疑応答:
[黒木]そのハムスターへの復元は全部陰性ですか。
[杉 ]そうです。全然だめでした。
[黒木]復元に使う細胞数を10の8乗位にしてみたら如何ですかね。
[勝田]空胞のはどうですか。
[杉 ]回転培養したら全部なくなってしまいましたので・・・。また出来たらそれをやってみようと思っています。
[勝田]静置のときできたのだから、むしろanaerobic、たとえば流動パラフィンでも培地の上にかぶせて管を立てて培養したらepithelialのが出てくるかも知れませんよ。
[安村]そのepithelialのことですが、Kidneyではtubulusからepithelial、glomerulusからはfibroblast-like
cellが出てくるということです。
[山田]Fibroblastは解糖が高いですから、培養条件によってはそんなことでもselectできるのではないでしょうか。
[安村]fibroblastsと他のが混っているのではないですか。
[杉 ]いや、ほとんどがfibroblastsです。細胞のとり方は、伝研流の、切って細胞をとっているので、trypsine処理ではありません。
[安村]Fish-stream likeな像がサルのkidneyからのに見られ、kidneyを培養すると大抵そんな像が見られますね。
[勝田]杉君の仕事での特徴は、大きい空胞を持った細胞ですね。
[杉 ]それはanaerobicの条件がそうさせたのでしょうか。
[勝田]だから培地交新を4日毎でなくて、もっと長くのばしてみるのも手だと思うのですが・・・。
[杉 ]濃度も1μg/ml位に低くするとあまり効きませんでした。しかし、これで長い作用させてみることも考えられますが・・・。しかし1ケ月ではそう変化はありませんでした。
[勝田]Liverからの培養が生えてこなかったというのは、入れた組織片は生きているのですか。
[杉 ]管壁には着いているのですが、その片から細胞が周囲に出てこないのです。
[勝田]うちでも、Embryoや幼若でないratのliverはそうですが、組織片は生きていますよ。
[安村]トリプシン処理をしないのは?
[勝田]細胞を痛めないためもあります。
[山田]たしかにトリプシンでは細胞がこわれ易いですね。
《伊藤報告》
以前からhomogenizerを使って大量の培養可能な肝細胞をとる事を試みて来ましたが、その経過を御報告致します。
先ず細胞の集め方を簡単に書きますと、1)0.027Mのクエン酸ソーダを含むCa-free
Locke's Solutionにて肝を潅流。2)肝を細切。3)0.25Msucroseを加えて肝片をhomogenize。4)filtrate。5)低速にて遠沈。6)沈渣をSuspension。
この方法で第一番に問題になるのは、homogenizerですが、Originalに従ってゴムを使って数回試作して使ってみましたが、どれもうまくゆかず、最近になって、結局テフロンのものを用いて、一応満足のゆくCellを得られる様になりました。半数に近い2核細胞を含み、病理屋さんにみて貰っても殆んど肝実質細胞と考えられるとの事です。
次に問題になるのは、培養法、培地ですが、此れも色々試みてみました。静置培養では種々の培地何れもガラス壁に細胞がつかなかったのですが、つい最近になって廻転培養法を使って何とかガラス壁につかせる事が出来る様になりました。
まだ培養日数が短い為、此れが今後どの様な経過をとるか分りませんが、増殖しないまでも、生き続けてくれれば、最初から大量の細胞を得られる事ではありますし、吾々の目的に充分使用出来るものと期待しています。
:質疑応答:
[黒木]トリパンブルーなどで染めて見ていますか。
[伊藤]まだです。
[勝田]とにかくこの実験は、細胞の生死、これをはっきり見て、培養後にはどうなっているかも見ることと、cell
countingをやりながら培養して、数の消長を知ることがいちばん必要と思います。
[安村]Tumorなんかですと、すりつぶしても細胞は3%位しかこわれないですね。
[山田]クエン酸処理で細胞がばらばらになり易くなっているので、すっても破れにくいのでしょう。
[勝田]Cell countingの為の0.1Mクエン酸溶液でもprimaryの肝細胞の細胞膜は実に強くて仲々とけません。fibroblastsなんかはすぐとけるのだが・・・。こんなことで肝細胞だけを主にselectできるのかも知れませんね。
《山田報告》
1.人正常繊維芽細胞の継代培養及び栄養要求:
4系列の胎児肺由来繊維芽細胞株について前回報告した通り、継代につれて増殖度が一定の傾向で変化し、それが細胞の老化を思わせる推移であることを認めましたので、この推移を起す原因が広い意味で栄養要求の変化であろうと考え、その実証に当っています。もともと発育の旺盛な時期でもEagle基礎培地+10%dialized
calf serumでは1段増殖をするだけで株細胞より多要求性な事が認められています。継代10代〜15代で、Eagle+10%仔牛血清培地中のコロニー形成率は30%程度ありますが、20代を過ぎたものではこれが5%以下に低下していることに気付き、今度は系統的に各継代時期についてコロニー形成率の比較を行う所です。尚これと平行してSeed
sizeによる増殖の有無を調べ、population densityの面から栄養要求を調べる予定です。さらに20代継代以向、コロニー形成率が低下したものにつき、CEE、幼若細胞培養に使用した培地、血清濃度、X線照射細胞の培養液等の添加によるコロニー形成率の恢復の有無を調べます。
2.マウス正常繊維芽細胞の樹立:
発癌実験を行うために、マウス正常繊維芽細胞等を使用することにし、これまで新生児マウス肺より細胞株を継代培養することを行ってきましたが、上皮性細胞の混在率が高く、発育が遅いので、胎児の発生の進むにつれて肺胞の分化が起り、繊維芽細胞成分の比率が低くなるのではないかと考え、妊娠期間中の各期及び新生児の肺のTCを比較検討しました。其結果、胎生時であれば妊娠20日目のものでもよく繊維芽細胞を培養できることに気付きました。そこで今週より予研で純化したddY系マウス保存株の1腹より胎児を別個に培養し、実験をスタートしました。最初の報告は次の班会議で致します。
3.ミクロシネによるHeLa細胞の世代時間の計算とその分散について:
数理統計研究所の崎野氏と共同で癌細胞の増殖機構を数学的に再検討する第1目標として、世代時間の分散を測定することと、同調培養の同調性のdecayの様子を映画で追求することにしました。とくにHeLa細胞は単離細胞培養が可能なため、1個からスタートしてコロニーになるまで連続的に追求できるので使用しています。既に3回繰返しましたが、1個から30個までにはなりますが、15〜6個よりabortionが目立ち、映画用の小培養チューブでは、条件が悪い事を知り、培養器を改良中です。
4.Changの肝細胞株のglycogen産生について:
前にかいたように肝細胞培養株(Chang)を4g/lのブドー糖添加培地で培養すると、組織化学的(Bauer-Feulgen)にGlycogenの蓄積を証明することができます。そこで生化学的に細胞内glycogen量を定量し、同時にブドー糖消費及び乳酸産生を追求してみました。glycogenの定量は抽出したglycogenをglucoseとしてAnthron試薬で測定、ブドー糖はanthron、乳酸はp-hydroxy
diphenylによるBarker法を使用しました。対照にHeLa及びNIHT系正常繊維芽細胞を使用すると、これらはブドー糖消費及び乳酸産生は略同様で、消費されたブドー糖の大部分が乳酸として産生されます。肝細胞では、とくに培養数日間はブドー糖の消費が著明でなくGlycogenの消費が目立ち、対数期の後半からブドー糖の消費が起り、乳酸の産生も他2株にくらべて著しく低いという結果を得ました。肝細胞のglycogen量は、他2者の数倍程度、この定量と組織化学的な定性的証明との関係を考慮中です。
5.Friend Virusについて:
癌センター大星氏の腹水型化したFriend cellの培養はまだ成功していませんが、Virus量について面白い事が判ってきました。Friend自身が皮下腫瘍化したもののVirus含有量は脾と大差ないと報告していますが、腹水型化しても尚Virusを保有していて脾が腫大してくるので、この脾腫、腹腔内腫瘍、腹水腫瘍細胞の三者のVirus量を測定した所、10%(w/u)乳剤を原液として、ID50がそれぞれ0.8、2.3、5.1という成績を得ました。即ち腹水細胞内のVirus量は脾にくらべて1万分の1以下で、Friend細胞内でVirusが増殖しているかどうか疑問になったわけです。次の段階として、Virusを含まない腫瘍細胞の分離を単個移植で検討中です。
6.ToyomycinのHeLa及びNIHT等繊維芽細胞に対する影響:
前に九大の高木氏が、JTC-4及びHeLaを使ってToyomycinに対する感受性を調べ、前者の感受性の低いことを報告していますが、同様のことが上記の細胞で認められるか否かを調べてみますと、反応曲線に関する限り差異がありませんでした。しかし、1μg/mlという高い濃度で10時間程度作用させると、HeLa細胞だけこわれ正常細胞は残るという事を見付けましたので、今度は短時間作用させて、以後薬剤を抜き、恢復を調べることから比較中です。
:質疑応答:
[安村]染色体がdiploidでも復元してtumorを作らぬとは限りませんね。1万個位まいて4日でcell
sheetができますか。
[山田]細胞がうすく拡がってきます。これはFibroblastらしく、銀染色センイは出ないが、少しついている感じがあります。
[勝田]Fibriblastというにはもっと長く培養してから染めた方が良いでしょう。Cell
growth stageによる栄養要求の差はアミノ酸要求もこれで考えてみる必要がありますね。
[山田]最近、協和発酵からGluNH2、Valなとのアミノ酸が安く出されて、合成培地に便利です。
《黒木報告》
吉田肉腫少数細胞の培養とEagleの培地(II)
前報において、Eagle Basal Med.(1959)のみで、血液なしでも、Pyruvateなしでも、少数吉田肉腫細胞の培養が可能であることを報告しましたが、その後、血清濃度、透析血清、Pyruvate添加についてのDataが得られましたので報告致します。
(1)血清濃度による影響(全血清及び透析血清)(表を提示):
全血清及び透析血清 5、10、20、40、50%の各濃度を、接種細胞数20個と10、000個について調べた。増殖率はGeneration
timeで表現した。
わかったことは、(1)全血清40〜50%では、細胞数に拘らず増殖は一定である。(2)20%全血清では、少数細胞の場合その増殖率は低下するようである。(3)全血清
5%、10%では増殖率は極めて低い。(4)透析により血清中の増殖促進因子は、ほとんど失われてしまう。
(2)ピルビン酸添加(2.0mM)による影響:
(1)の各群にピルビン酸を添加した結果、(1)ピルビン酸は低濃度の血清添加(10〜20%)の場合、著明な効果を示す。(2)高濃度の血清の場合(40〜50%)は、特別な効果を示さない。(3)透析血清に対する効果は著明である。
以上、二つのDataからEagle培地におけるピルビン酸の意味は、population-dependent
nutritional requirementとしてではなく、血清中の低分子増殖因子としての可能性が高くなりました。これをLE培地におけるpopulation-dependentな栄養要求とどのように結びつけるか、あるいは、全く別なものと考えるべきか、これからの仕事をすすめる中でつきとめたいと思います。
(3)Eagle培地におけるアミノ酸の意味:
この実験は、Eagle培地が何故よいかの分析のため、Eagleの13種のアミノ酸を一つづつ抜いた培地を作り、その影響を少数細胞、多数細胞培養の両者において、比較検討したものです。
現在までにわかっているところは、Glutamineのみが重要なpopulation
dependentなfactorとなっていることです。しかし、この実験が全血清50%添加と云う条件で行はれたところに問題があります。即ち、この大量の血清中のアミノ酸の中で、非働化操作により破かいされるのは、恐らくGlutamineのみであり、それがこのような結果となって表れたものと考えられるからです。この問題は、血清のfactorをより少くする条件で行はない限り、何の意味ずけも出来ないものと考えられます。
(4)Lactalbumin hydrolysateのLotによる差:
前報において我々の用いていたLactalb.hydrolysateのLot
No.が9457であり、それが"不良品"と云う折紙つきのものであることを報告しましたが、そこで、当然他のLotではどうか、Eagleと同じような増殖を示すのではないか、と云うことが問題になります。
調べたLotは、1491、3136、5393、9001、9457の5種類です。培養条件は、whole
serum 50%、Lact.hydro. 0.3%、Earle'BSS
50%です。接種細胞数としては、10,000個、20個の二つをおいたのですが、その結果はLotによる差はみられず、いずれにおいても、10,000個のorderでは増殖するが、20ケでは全く増殖しませんでした。EagleとLactalb.の間にはアミノ酸組成の他に何かより根本的な差があるものと思はれます(例えばVitamin)。
(5)染色体標本作製法:
どうやらきれいな標本が出来るようになりました。Moorehead,Nowellらの方法に従ったのですが、コツは固定法とslideglassを冷すところにあるようです。Agarを用いる方法は感心しません。
:質疑応答:
[山田]Generation timeをとるつもりなら、growth
curveの横軸は日数単位より時間単位の方が良いでしょう。
[黒木]はじめはgeneration timeをみるつもりではなかったので、時間で測っていなかったのです。
[勝田]透析の仕方ですが内液をとるときはもっと完全に透析する方が良いでしょう。
[山田]セファデックスと透析とは同じでしょうか。
[関口]セファデックスの方がずっと強力ですね。
[黒木]アミノ酸の耐熱性などはどうでしょう。
[安村]グルタミンだけがこわれ易いことは確かですが、他のアミノ酸は、変化を受けるとは思いますが不明です。
[黒木]Pyruvic acidなども熱で壊れますね。
[安村]合成培地でも、こわれる以上に入っていれば、細胞を飼う上には問題はないでしょう。
[山田]うちでは、ミリポアフィルターでアミノ酸溶液をひいています。短時間で出来ます。
《堀川報告》
1.発癌実験:放射線照射後のマウスに白血病が発生するということにヒントを得て、マウスCBA系統から得たSpleen細胞を試験管内培養することにより、これに低線量のX線を反復照射したのち新生児に復元して、リンパ性白血病をマウス体内に誘起することを試みた。材料はマウスCBA系統♂、生後20日目。培地はYLH80%+牛血清20%(静置培養)。
実験法:
A)1)対照区:Spleen細胞(無照射のまま培養する)
2)実験区:Spleen細胞に300γ照射後1週間培養し、また300γ照射を繰返す。
B)1)対照区:約8ケ月間継代培養されたSpleen細胞(無照射のまま培養)
2)実験区:約8ケ月間継代培養されたSpleen細胞に300γ照射後1週間培養を繰返す。
これらのものをマウスCBA系統の新生児に復元してリンパ性白血病を誘起させようとするのである。現在までの結果ではA)の2)の細胞のみが分裂できず増殖できない状態にあるが、B)の1)、2)などはactiveに分裂して行く像がみられる。
2.一方、離日までに整理する仕事として現在、A)
以前からやって来た耐性細胞の出現過程の解析と、その特性を分子レベルで説明しようとする試み。B)
Pinocytosisによる形質転換の試み。この二つの実験について整理出来るところまでまとめてしまうべく実験を進めております。
:質疑応答:
[勝田]君のγ線耐性のLはどうして作ったんでしたっけ。
[堀川]2,000rを計7回照射しました。間隔は34〜35日です。100万個で第1回は新しいcolonyが4〜5ケ出来て、その次は9ケ、7回目には45ケできました。染色体数も63本から減って行って44本になったのですが、実は8回目をかけたら88本になってしまったのです。使ったのがLだから旨く行ったので、HeLaだと耐性を得るのが困難だったと思います。
【勝田班月報・6309】
《勝田報告》
A)発癌実験:
(1)培養開始
#C43(1963-8-12)12日ラッテ(DAB1μg/ml・4日間)
#C44(1963-8-15)15日ラッテ(DAB1μg/ml・4日間)
この2実験はこの夏に於ける発癌用の唯一のスタートであり、100本位のroller
tubesを使ってはじめたが、開始后、事故による送電停止があり、夜間これが約8時間位に及んだ。管内の液に浸っていない部分の細胞は干されてしまった訳である。この為一般に成長が悪く、増殖細胞の集落も未だ形成されていない。はなはだがっかりさせられる結果となった。
(2)増殖開始后の継代
#C41(1963-6-27開始)
第28日(1963-7-25)、増殖細胞集落だけをラバークリーナーでかき落して継代。これまでの例と同様に徐々ではあるが確実に増殖をつづけている。
#C42(1963-6-30開始)
第25日(1963-7-25)、増殖細胞のあるtubes全部をトリプシン消化により継代したところ、実質細胞以外の細胞もバラバラにされ、第2代に於ける増殖細胞の接種濃度が薄められるためか、或は増殖細胞にやはりトリプシンが有害に働くためか、とにかくラバークリーナーに比べ、第2代の増殖は大分悪いようである。
(3)復元接種
a)RLD-7株:1963-7-31に約12万個の細胞を生后1日のrat1匹に脳内接種したが、1963-8-2死亡しているのを発見した。夏季のためautolysisが強いので確定的なことは云えないが、脳内出血死のようである。
b)JTC-1株:この細胞は腹腔内接種では100万個入れてもラッテが死なないようになってしまっているAH-130のTC株であるが、1963-7-31に上と同腹の生后1日のラッテ2匹に脳内接種してみた。約84万ケ/匹であるが、7日后に2匹とも死亡し、剖検したところAutolysisが強いが、脳内にたしかに腫瘍ができていた。これと次の接種とは、接種の練習と効果の確認のためである。
c)AH-7974:1963-8-30、生后約2ケ月の♂♀各1匹のラッテ右目の前眼房内に脳内接種針で約100万個宛(腹水よりとって稀釋したもの)(約0.05ml宛)を接種したところ、第4日現在で、右目は白濁しふくれている。兎とくらべ目玉が小さいからやりにくいが、とにかく接種部位としては使えるらしいことが証明された。
d)ラッテ新生児への接種上の便法:
1腹8〜12匹のラッテの乳児全部を同一細胞の接種に使うのがもったいないことがよくある。しかし下手に色素などを塗っても、はがれたり親に喰われてしまったりする。このとき蹠の爪をどちらか決めて1本短く切っておくのが、どうも一番良い方法のようである。一見判りにくいが、剖検のときしげしげ眺めれば確実に判る。御推賞する次第である。
(4)培地無交新の実験:
a)Exp.#C39
この培養群は1963-4-25に培養開始し、DAB1μg/ml、4日間で増えてきた細胞であるが、routinelyには2回/w培地の交新をおこなっている。この初代のものに1963-5-16→6-10(25日間)、DAB群3本だけ培地無交新をおこなった。結果は細胞は丸くなり、大部分は残存したが剥れるものも出てきた。但し膜状に剥れることはなかった。その后培地を交新したら、また元の集落の部分に同じように増えはじめてきた。そこで1963-7-1→7-22(21日間)再び培地無交新を施行した。結果は上とほとんど同じような所見であった。1963-8-29、第1回のsubcultureをおこない、静置培養に移した。細胞は硝子面に附着している。しかし増えてくるかどうかは今のところでは未だ判らない。
b)各種ラッテ肝株細胞
同時に併行して2回宛無交新を施行した。第1回は1963-4-13から5-12まで。第2回は1963-6-11から7-11まで。8月26日に継代し、染色体用の標本も作った。(染色体分析は未だできていない。)結果は次のように色々の反応が現われた。
RLD-3、RLD-6、RLC-1:第1回のとき細胞が丸くなり、交新で回復したが、第2回で再び丸くなったあと、交新でも回復しなかった。染色標本でも細胞はほとんど認められない。
RLD-0:殆んど細胞はやられたが、未だ残っているものがあり、今后増殖してくる可能性があるかも知れない。
RLD-2RLD-4RLD-5ELD-1#4()RLD-1#2(DAB)LD-1#3(4n)RLD-#5(RLD-1groupControl)RPL-1()1w B)染色体の核型分析:
RLD-1株(#5)とRPL-1株について、カバーグラス法による染色体用永久標本を、油浸で顕微鏡写真にとり、それを引伸して切抜いて並べた。東大衛生看護学科の学生の田島君というお嬢さんが熱心に夏休実習をやってくれた。RLD-1(#5)は43本、RPL-1は42本と、そのpeakをなす染色体数の分裂中期像について、前者は7ケ、后者は2ケのidiogramを作ってみた。未だcontrolのRLC系のものが作ってなく、RPL-1も2ケだけなので、正常とDAB群との比較という意味では比較ができないが、Metacentric(M)、Subtelocentric(S)、Telocentric(T)と分けてみると、次のような構成になった。なお写真のidiogramは染色体の大きさの順に並べた。RLD-1株(#5):12M+25S+4T、13M+20S+10T、14M+20S+9T、12M+20S+11T、12M+22S+9T、12M+21S+8T、14M+20S+9T。RPL-1株:14M+16S+12T、10M+20S+12T。
総括してM、S、T間の数比は細胞によってかなり差があるが、MetacentricはRLD-1株(#5)では12〜14本、Subtelocentricは20(〜25)本、Telocentricは4〜11本であり、大きさの順ではS、T、S・・・とつづくのがラッテの特徴らしい。しかし特にMarker
chromosomeと呼べるような特徴のある染色体は両株とも認められなかった。RPL-1の方は2例のみの分析で、しかもその2例の間にTを除いてはかなり差があるので、はっきりしたことは何も云えない。 RLD-1(#5)の核型2種、RPL-1の核型1種の写真像を呈示する。
《佐藤報告》
相変らず染色体パターンによるDAB及びメチルDABのラッテ肝の変化及び復元を行っています。再現性を考えながらやっています。組織培養法における染色体の移動を考えながら実験を進めています。現在まで分った所見を前のものと対照して見ます。(染色体分布図を呈示)。9月一杯までにこの問題の一応の結論をだして次に移ります。分析、教室で行っている培地中のDABの抽出、及び測定が一応軌道にのりましたから、来月位から報告できると思います。
《杉 報告》
発癌実験:golden hamster kidneyのprimary
culture−diethylstilbestrol
先頃よりmarkしている例の上皮様細胞団が最近の実験ではあまりあらわれず、稀にしか出てこないのでこの細胞を追求する上で困っています。従来作用させる薬剤は、diethyl
stilbestrol単独にしていましたが、最近はこれを作用させた後に0.01%pyruvic
acidを作用させることを試み、又流動パラフィンを培地の上においてその影響をみています。今のところ我々の観察法ではpyruvic
acidの影響は認められません。今までの実験によると、例の上皮様細胞団は静置培養では時に出てくるが廻転培養では殆んど出てこない点から、anaerobic
conditionで多く出るのではないかという想定で、培養開始当初からパラフィンを重層してやってみています。まだ始めたばかりですが、培養9日目、実験群に上皮様細胞団のみが少し出て来ています。若しfibroblastが殆んど出ずにこんなのがconstantに出るとなるとおもしろいのですが、今のところは偶然でそうなったのかも知れず、今は只期待をかけているという段階です。
先日、hamster cheek pouchに復元したExp.17の細胞は、接種後80余日を経過しても遂にtumorをつくりません。hamster
liver−o-Aminoazotolueneは対照からは細胞が殆ど出ず実験群の方にfragmentから僅かに出てきましたが、恐らくmigrationの段階で止りそのごさっぱりです。
一時かなり多く出た上皮様細胞団が最近の実験では何故出にくいのか、検討せねばなりません。
《黒木報告》
長期継代吉田肉腫細胞の染色体分析について
長期継代吉田肉腫細胞の移植性、核の形態については、月報6305、6306において述べましたが、それは要約すると移植性の低下と、核の切れこみの多くなったことです。特に後者は吉田肉腫のoriginal
stock及びpolyploidy cloneと比較するとき、染色体構成の変化が想像されました。そこで染色体分析を行った訳ですが、結論から先に云いますと、heteroploidy(hypotetraploidy
76)であること。又核型分析の結果から、今まで知られている吉田肉腫のどの型とも異る、全く別な「吉田肉腫」であると云う結果を得ました。(この仕事は、佐々木研究所との共同研究で行はれました。)
実験材料及び方法
細胞は、67代、2年6ケ月培養したものです。
colchicineを10-6乗M、2hrs作用させた後、Moorehead、Nowellらの方法によりAir-drying標本を作り、Giemsa染色后、Bioleitで封入しました。
染色体分析に際しては、無選択に97ケの細胞をとり、写真に撮影し、引き伸ばした後、再び実際に標本と照合し乍ら、数及び形態をcheckしました。標本との照合は、2回行い完全を期しました。
核型分析はModeのもの(この場合76)を選び、そのMeta、Subtelo、Telocentricの構成を調べ、さらにCamera
Lucidaによりスケッチし、夫々を大きさの順に並べ、比較検討を行いました。一部のものは、写真による核型分析を同時に行いました。両者の差は、出来上りがきれいか、きれいでないかの差にすぎません。
いづれにしても、この核型分析は、非常に時間がかかりますので、現在もっと簡単でしかもきれいに出来る方法を考えているところです。
結果
(1)染色体数の分布
染色体数の分布は(図を呈示)、76本にpeakがあり(21/97、21.7%)、その前后(70〜80)にも可成り幅広く分布しております。吉田肉腫のoriginal
stockのMode(40本、2n)のものは1ケもありません。しかし、60本前後-triploidy-のところに小さい山があります。140〜151本のところ(8n)にも、小さい山があります(9/97、9.3%)。
吉田肉腫のoriginal stockは40本、そのpolyploidy
cloneであるGVは、80本にきれいなpeakをもっておりますから、そのいずれとも異るわけです。これは核型分析を行うと更に明らかになります。
(2)染色体の構成
76本の染色体数をもつ細胞を選び、その染色体構成を調べてみますと、次の様になります。(15ケ調査)。30T+31S+15M、30T+33S+13M、30T+27S+19M、31T+29S+16M、29T+32S+15M、28T+27S+21M、27T+28S+21M、27T+34S+15M、25T+31S+20M、25T+29S+22M、24T+37S+15M、24T+34S+18M、24T+34S+18M、24T+31S+21M、20T+35S+21M。T:telocentric、S:Subtelocentric、M:Metacentric. これから分るように、T.S.M.の構成の比率に非常に大きなvariationがあります。吉田肉腫GVはT.S.M.が2:2:1ときれいな分布しております。又minute、Satelliteはありません。(長腕と短腕の比が1.0:1.3以上のものはSubtelo、それ以下のものはmetacentricとして扱っています。)
(3)染色体の形態−Marker chromosomes−
形態学的にみていきますと更に大きな特徴があります。即ち、大きいteloが2本、subteloが2本、大きいsubmetaが2本、そして大きいmetaが2本あることです。これらを大きさの順に並べてみますとS1.S2.T.M.の順になります。これらのS1.S2.T.M.を合せもっているものは、60%あります(9/15)。従ってS1.S2.T.M.をMarker
chromosomesと考えてよいと思はれます。 この染色体構成は吉田、GV戸は全く異っております。吉田肉腫は16T+16S+8Mで、GVは35T+30S+16Mです。
以上が継代吉田肉腫の染色体分析ですが、これから何も特別なことは云えません。これから移植性などの関連をみて行きたいと思います。
《伊藤報告》
前回の連絡会で御報告した如く、homogenizerを用いて肝細胞を集めて、短試験管に分注し、廻転培養をして、細胞の数を追ってみました。
[実験結果](分注翌日の管壁に着いて居る細胞数を第0日の細胞数とする)(図を呈示)。対照群は約1ケ月増殖せず、維持している。実験群は16日頃にやや増加している。
[考案]
*Cell-Suspensionで計測した細胞の約1/4が一応試験管壁について生き続けると思われる。*約1ケ月の観察では、対照群の細胞数は殆んど増さない。又試験管壁についたのを、そのまま観たのではmorphologicalにも殆んど変化をみせない。
*DAB添加群(入れっぱなし)については、まだ20日余の観察しか出来て居ませんが、その範囲内で、各培養日の3本の試験管の平均数をとると(株細胞の場合に比してややばらつきが大きいが)対照群の場合と同様に、細胞数の増加は殆んど認められなかったが、16日目の2本と24日目の1本に約2倍の細胞数になって居た物があった。但対照群の24日目にも1本矢張り細胞数が2倍に近かかったものがあり、この現象がDAB添加群に特異なものとは云えない。 だが細胞の増殖誘導が此の様な形で、添加群の試験管のあるものにだけ惹起されると云う事はあり得ると考えられるので、今后は核数計測のための染色液を入れる前に各試験管についてよく観察しておかなくてはならないと考えて居ます。
今后DABの濃度、添加日数、細胞のmorphologicalな変化等について検討を加える積りです。
【勝田班月報・6310】
《勝田報告》
A)RLD系株細胞の染色体数に対する培地無交新の影響:
前号の月報p.4第1行にRLD-2、RLD-4、RLD-6(これはRLD-5とかきましたが、6の誤りです。同p.3下から5行目のRLD-6は逆に5です。御訂正下さい。なおついでですが、p.4のB)項内のS(Subtelocentricとしたのは"Submetacentric"に御訂正下さい。)
同頁3行目にRLD-1#3(4nになった群)と、何れものさらに培地無交新をおこなって細胞が生えてきつつあると書きましたが、これらの細胞について染色体をしらべたところ、大分前とは変ってきたことが判りました。(図を呈示)斜線が処置前の染色体数の分布、黒く塗ったのが前号p.3にかいたように('63-4-13→5-12)と('63-6-11→7-11)と2回に渉って無交新をおこなったあと、生えてきた細胞の染色体数の分布です。RLD-1,4n:これは4倍体が非常に多く、46%もあったのですが、上の処置后はこのピークは非常に低くなり、むしろ43〜44本が高くなり、全体にバラツキが出てきました。この系は(RLD-1,4nA)と命名しました。RLD-2:42本に大きなピークがあったのですが、処置后はピークが低くなり、数の少ない方へバラツキが増えた感じです。この系は(RLD-2,A)と命名。RLD-4:42本にあったピークが41本に移り、シャープなピークとなり、その他数の少ない方へバラツキが増えた感じです。(RLD-4,A)と命名。RLD-6:これは標本は作ってあるのですが、処置前の染色体数がまだかぞえてありません。(次の班会議までには算える予定です。)
処置后のは、22ケしかかぞえてありませんが、41本がピークで、バラツキ少なくチンマリとまとまっています。(RLD-6,A)と命名。
以上の標本は、処置后約1月目に継代し、継代后TC3日の63'-8-29に揃って標本を作った。数の上での分散から考えると、RLD-1,4nAがいちばん、この中では可能性があるように思われるが、細胞の形態からみると、RLD-6が少し変っている。というのは、細胞質の突起が出来たり、頂度Hepatomaのように活発に歩き廻りそうな形の細胞がかなり混ってきたからで、その内これは映画にとってしらべてみる予定です。なお処置前のRLD-1,4nはすでに撮ってみましたが、まず運動性はほとんどありませんでした。RLD-4は全体的に継代のときトリプシンがとても効き難い株ですが、処理后もきれいにシートを作り、仲々細胞間の粘着力を失いそうに見えません。しかし、AH-7974などは余り動かず塊を作りますから(運動性=腫瘍性)とそう簡単には云えぬ訳です。なお図で、斜線と黒線とは別個の表を重ねたように描いてありますから、夫々の頂点が夫々の実際の細胞数です。
(B)ラッテ腹水肝癌AH-7974の培養:
AH-130が変ってしまって、硝子面に伸展しなくなり、増え方も悪くなったので、正常肝とのparabiotic
cultureに使うために、別の適当な系を探していましたが、既報のように硝子面によく着く系がいくつか見出されましたので、その内からAH-7974の培養テストをはじめました。この細胞の特徴は腹水の中で塊を作っていること、培養の初め数日間は硝子面に着く細胞が非常に少いが、その后急にふえて、1週間もすると硝子面に一杯になります。いわば一種のlagがあるわけです。(図を呈示)それを初代でcountしてみますと、やはりlagが出ます。それで初めにinoculateした細胞が大分死んでいたかというと、そうでもなく、viablecountでサフラニンでしらべたが、殆んど全部生きています。だからこの培地で増える細胞と増えない細胞の2種類が、腹水系の中に混在しているのかも知れないと考えられます。だから培地を変えればこのlagのなくなる可能性もあると思い、目下pyruvateやinsulinを加えてしらべはじめたところです。
図でみると、primary cultureの方はinoculumの内、せいぜい2〜30,000ケ位しか生きていないようにとられます。初代はトリプシン無し、第2代への継代のときだけモチダトリプシン200u/ml室温で10分間かけました。
《佐藤報告》
発癌実験(A)
これまでの研究でDAB or メチルDAB→ラット肝で組織培養上増殖促進がおこる事。それらは株化できる事がわかったが、1μg/1mlの濃度では(100〜200日)の連続投与でも今の所(最近Suckling
ratsにinjしていますが結果はまだ分りません)正確な意味での発癌には成功していません。ラッテにinjして癌を形成さす事が先決問題ですが、DAB→ラット肝組織培養でDABの側がどの様に変化するかを見て従来の動物実験側と比較して見る事も必要と思い、実験を始め未だ僅かではありますが我々の実験に力を与えると思うので書き記します。
1)DABの溶解はTweenがうすいと安定しません。従来の濃度の4倍では確実にとけています。
2)DANと血清(牛)ではベンゾール抽出で僅かに抽出液で減少します。4日間の37℃ふらんきincubateでも僅かに減少します。
3)第1回の予備実験は成熟ラットを用いましたが(生后69日♂)溶液中のDAB(測定値1.03μg/ml)のものが4日間に0.27μg/mlに減少していました。第2回の予備実験は(生后18日♂)使用、増殖促進結果と比較するために、(1)対照
7本、(2)DAB1μg/ml 4日 7本、(3)DAB1μg/ml
8日 7本、をつくりDAB実測値1.16μg/mlを入れた処、4日目の液で(2)0.23μg/ml、(3)0.24μg/mlとなっており第1回目の実験と同様液中からのDABの著明な減少が見られた。更に第8目の測定では、(2)群は0.04μg、(3)群は0.99μg/mlのDAB再投入のものが0.16μg/mlとなっていた。即ちDABの消費された4日めの液をかえて更にDABを投入しても著明にDABが消費する事がわかった。
発癌実験(B)
メチルDABの濃度を変化させて長期投与する方法として先づC10D株に1μg/ml、4μg/ml、10μg/mlを夫々17日間投与しタンザク法でしらべた処、1μgのものでは従来通り増殖し続けるが10μg/mlでは増殖を著明におさえられている。細胞核には余り強い変化はないが細胞質は大きな空胞(?)が現れ崩壊している。この場合耐性細胞は残る様なので10μg/mlのものは更に液替を続行して居る。形態学的な変化から見てTweenのものは影響も考えられるので(即ちDABμgとTween濃度が平行している。)、目下10μg/mlにおけるTween濃度で同様の実験を出発します。生体の条件と比較したとき分裂し増殖する事はDABの蓄積?にも影響するでせうから、出来れば血清等の濃度をさげて、或はそれによってコントロールして同じ容器中でDABを与えて見ようと考えています。
発癌実験(C)
染色体のパタンによる変動は依然続けています。従来のものを続けて見ていますがこの方には強い変化はありません。10月の班会議にまとめます。新しい株でのパターンを一つだけ書いておきます(図を呈示)。生后20日のラットを用いた実験、1962
12-27日出発したもの。著変は対照実験でも染色体パターンが右偏している。原因は上下のパターンで使用血清が途中で変動している事にあるのではないかと思っています。C35対照と同血清のものがすぐ株化しますのでパターンを見て見ます。長期を要していますので変動の原因が充分つかめるかどうかは分りませんが、できる丈条件を記載していって培養上における3N体の問題も解決する様努力します。
《黒木報告》
Mouse Ascites Hepatoma MH129P、129Fの培養
C3H mouseのascites hepatoma MH134、129P、129Fは転移実験における優れた材料として知られてはいるが、まだ培養は成功していなかった。最近、これらのうちMH129P、129Fが相次いで培養され、又その二三の特徴も明らかになったので、ここに簡単に述べてみる。(129Fも129Pとほぼ同様な経過特徴を有するので129Pをのみ記述する。)
実験材料
MH129P、FはC3H/HeNmouseのspontaneous hepatomaを腹水化したものである。
(佐藤春朗1956) 培養に用いたのは第301代の腹水。
培養経過
◇1963年6月8日培養開始。角ビン使用。接種細胞数10万個cells/ml、100万個cells/bottle、培地Eagle(1959)+B.S.50%
培養当初の10日間は、壁につく細胞は極めて僅かであり、大部分の細胞は浮いている。しかし、この浮游している細胞をcountし乍ら追っていくと、次第に細胞は巨大化し(直径30〜50μ)やがて変性消失してしまう。
◇15日目より培地を20%B.S.+80%Eagleとし、週1〜2回の培地交換を続けた。40日頃までは、壁についている細胞はfibroblast様細胞と円形の細胞の二種類あり、その数は極めて少い。培地のpHもそのままである。
◇45日目(8月2日)浮游細胞が急激に増加、countしたところ30万個cells/mlあった。(trypanblueによる生死判定では10%が死細胞。)
このため、浮游状で増殖する細胞と考え、以后浮游細胞のみを選択的に継代、現在10代102日である。
一方壁についている細胞は、fibroblast-likeであり、その数は増えていない。しかし今日までその細胞を選択すべく、浮游細胞を除きながら培地交換を続けた結果、現在fibroblastのfull
sheetを得ることが出来た。しかし常に浮游細胞が混在し、両者を確実に分離することは出来ていない。
培地の問題
培地は15日目まで50%BS、15日より53日まで20%、53日以降は10%及び5%と血清量を漸次減らして来ている。5%でも10%でもその増殖は同様である。(5%の場合は最初の1代のGrowthは悪かった。)
現在、血清量を更にへらし、又Eagle培地の方も少しづつ変化させ無血清培地にまでもっていくため準備中である。
増殖、移植性、染色体
増殖は早く、そのGeneration timeは21時間前后である。更にこの増殖は少数細胞の場合でも、同様維持されている。即ち接種細胞数を10,000、1,000、100、10cells/mlとしたとき、そのGrowth
curveへ平行となる。
移植性は低下しているようである。100万個cellsをC3H/HeN
inbredに移植して、tumor growthは6/6、tumor
takeは2/6である(移植後50日現在)。その詳細は細胞数を変えて検討中である。
染色体分析は正確にはみていないが、heper
diploidy、大きいV型染色体をもっている。 この細胞のように浮いて増殖するものがあることは、株化に際して見逃さないよう一応気をつける必要があろう。現在まで知られているものとして、吉田肉腫、MN肉腫、RS(山根研究室、Reticlosarcoma患者の腹水)がある。壁につく細胞と比べるとき、長所も短所もあるが、今后、その所を生かすような実験を考えてみたいと思う。
《堀川挨拶》
一足早い秋のおとずれに、どこの研究室もいよいよはりきって実験を開始されたことと思います。特にこれからのシーズンは、癌学会をはじめとして種々の学会が開催されるシーズンとあって皆さん方も多忙な毎日を送っておられることと思います。
私が発癌実験グループの一員としてこの班に加えていただいてから早くも2年半近くになりますが、この間微々たる力でほとんど何の役にもたたないまま今日まで来てしまいましたことを深くおわび致します。おかげさまで渡米の準備も一応完了し、来る10月2日羽田空港からMadisonに向けて出発することになりました。
癌学会、遺伝学会、そして更に多くの学会をま近にひかえながら、出席出来ないままで出発することにいささか心淋しいものを感じますが、これもいたしかたのないものなれば、いさぎよく次の研究室をめざして飛び立つことにします。念のためMadisonでの私の研究室のAdressを記しておきます。何かいいニュースがあったら知らせて下さい。勿論私の方からもこの月報には時々原稿を送らせていただいて、アメリカでの新しい情報をお知らせさせていただきたいと思います。
私の滞在する研究室は遺伝生化学を主体にやる所で直接発癌の問題とは関連がないかもしれませんが、ここにはDr.Szybalskiのように体細胞でTransformationに成功したような人もおりますので興味のある情報が得られると思います。
一方私の留守の間は前回の班会議でも御承認いただきましたように土井田幸郎君が私の代りに頑張ってくれると思います。留守中を守ってくれる土井田君も多忙のため多大の期待をかけられることは不可能かもしれませんが何卒私同様よろしくお願いいたします。
発癌機構の解明ひいては癌の治療といった問題は今世紀の最大の焦点であり、特にウィルスによる発癌がしきりと証明され、更にその機構が究明されようとしている現在、化学薬剤による細胞レベルでの発癌機能の研究はウィルスと共に発癌の機構を解明するに最も良き手段と考えられます。それはウィルスと化学薬剤も一見正常細胞の異ったSiteを攻撃しているように見えても、その底にある発癌の本体には共通性があると考えられるからです。
どうか大いにファイトをもやして人類の宿敵である癌の本体究明のため頑張って下さい。私も十二分に頑張って二年後に元気な姿でお会いすることをお約束します。
発癌グループならびに日本組織培養学会 万歳!! 大いなる発展を祈ります。
1963年9月23日
【勝田班月報:6311】
《勝田報告》
発癌実験について、特にDABで増殖を誘導した細胞に対する、第2次の刺戟の影響をしらべたこれまでのデータを括めてみます。
A)培地無交新の影響:
大別すると3群の実験に分れます。
(1)各種RLD株に対する無交新2回施行の影響:1963-4-13→5-12と、6-11→7-11と、各1月宛無交新をおこない、8-26に継代した。その結果、細胞の反応によりほぼ5種類に分けられた。
i)RLD-3、RLD-5、RLC-1:これらは第1回の無交新で、(細胞が丸くなり)、交新をはじめると(回復し)、第2回でまた(丸くなり)、次に交新をはじめても回復しなかった。
ii)RLD-0:(丸くなり)→(回復し)→(円くなり)→(形は回復し)→、しかし切れてしまった。
iii)RLD-2、RLD-4、RLD-6:(シートが剥れ、新しいコロニーが出てきて)→(交新でそれが増殖し)→(またシートが剥れ、新しいコロニーができ)→(交新をはじめるとそれが増殖する)。
iv)RLD-1,#4(サリドマイドを後処置した系)、RLD-1,#2(DABの後処置)、RLD-1,#3(4nになったもの)、RLD-1,#5(一番Atypismの少ない系):(生存し)→(交新で増殖をはじめ)→(生存し)→(交新で増殖)。
v)RPL-1(正常ラッテ腹膜細胞株):(第1回でシートが剥れ)→(交新で増殖)→(第2回でシートが剥れ)(核に異型性の変化が起ったが)→(交新をはじめると1週間で異型性は消えてしまった)
これら何れも2回の交新無しに耐えて出てきた細胞に(A)を附し、たとえば、RLD-1,#2からの細胞は(RLD-1,#2A)とよぶことにした。
Atypismの点からは、RLD-1,#2Aに最も強いAtypismが出現した。
(2)RLD-1株に対する反覆的培地無交新の影響:RLD-1,#3の系に今日まで何回もくりかえしてみた。最大5回までくりかえした。(4nB)の方はまだ4倍体がかなり残っているが、(4nA)の方はどういう訳か再び2倍体の方に戻りかけ、42本より少い方も多くなった。
(3)初代と第3代に対する無交新の影響:初代では#C27(1962-11-9開始)DAB4日、'63-2-16〜3-16まで28日間無交新→その間は生存したが以後切れた。
#C39(1963-4-25日TC開始)DAB4日、5-16〜6-10まで25日間と7-1〜7-22まで21日間無交新、8-29日継代→しかし細胞が硝子面に附着しなかった。
継代第3代では、#C42(1963-30日TC開始)DAB4日、7-25日継代、9-5〜9-23まで14日間無交新→切れてしまった。
以上のように株細胞でも無交新に強いものと弱いものとあり、かなり面白い変化の出たものもあるが、初代或は継代初期の細胞は抵抗力が弱く、切れ易いのは実際的に用いる場合困ったことである。
培地無交新の影響を染色体の上からしらべた結果は分布図を展示するが、4倍体辺りに移るもの、ほとんど変らぬもの、少しふえるもの(例43本)、少し減るもの(41本)など色々あり、一定した変化は見られない。しかしそれはそれで、むしろ生体の発癌状況に似ているとも云えよう。
B)ホルモン添加の影響:
これまで成長ホルモンとテストステロンの2種を用いたが未だ余り深くやっていない。
(1)成長ホルモン:#C24(DABを4日作用後)、第22日→26日(4日間)70μg/ml与えたが、第33日に継代し、対照群ともに細胞が附着せず、切れた。
(2)テストステロン:#C27(DAB4日)、対照は第45日の継代後に切れた。DAB群に、第10→14日(4日間)10μg/mlテストステロンを与えたのは株化し、RLD-6となった。第10→45日(35日)1μg/mlは切れた。
C)DABによる第2次刺戟及び長期添加の影響:
#C17(DAB1μg/ml、4日):実験群はそのまま後にRLD-5になった。それに1月に1回宛(4日間宛)1μg/ml、計2回与えたのは、継代後切れた。
#C23(同上):以後10日に1回(4日間)宛1μg/ml、計3回。継代後やはり附着せず。(対照は附着)
#C38、(DAB 0.1μg/mlを入れ放し)第25日に継代したが附着せず。
以上は何れも初代であることに御注意下さい、(佐藤班員のは株)
RLD-1,#2、1月半毎に1回(4日間)1μg/mlに添加し、4回くりかえした。これは株化して#2となった。(染色体数42本)
D)サリドマイド添加の影響:
(1)RLD-1株への影響。RLD-1,#1,#5,#6株に、0.1、1、10、50μg/ml濃度で添加したが、5例中3例は巨核巨細胞の出現傾向は見られたが、非添加群との差が見られない例もあった。染色体標本用に使用した後に、1963-1-22→2-6(15日間)の他に、2-16→3-3(15日間)何れも10μg/mlを与え、株化してRLD-1,#4となった。
(2)初代培養への影響。#C35(DAB、4日)第8日:DAB群15/15、内8本(そのまま)・・・→株化→RLD-8。残りの7本(第14日→18日:サリドマイド10μg/ml)・・・→株化→RLD-9。対照群5/5、内2本(そのまま)・・・→株化→RLC-3。残りの3本(第14日→18日:サリドマイド10μg/ml)→切れた。
この実験ではDAB群、サリドマイド後処置群、対照群、何れも株化したのが面白い。
#C36(DAB4日):第15日DAB群12/14、内7本(そのまま)・・・切れた。残りの5本(第15日〜40日:10μg/ml)・・・切れた。対照群2/5本・・・継代のとき切れた。
以上のように、サリドマイドは株によっては巨核巨細胞を作るのを促進する効果があるらしい。初代に対してはやはり核を少し大きく異型的にする。しかし何れも一過性の変化らしい。
E)培養細胞の復元接種試験:
次表のように、これまで18回復元を企てたが、何れも失敗に終っている。これは、細胞自身の性質を変えることができたか否かの他に、復元法の問題も入ってきて、2つの要因がからみ合っているので、仲々むずかしいところである。今後は細胞の性質を変化させる努力と共に、復元法の改良も考えて行かなくてはなるまい。
:質疑応答:
[佐藤]さっきの培地無交新のときの(A)系の顕微鏡写真は、継代後同じ日に作っているのですか。
[高岡]Aの系列は一緒に処置して、同じ日に作りました。
[山田]形態に現れた変化は、その後継代してもそのままつづきますか。
[高岡]2ケ月以上になりますが、今だにその変化したままです。
[山田]増殖度は変っていませんか。培地を変えないと、呼吸の阻害やpHの変化などがありますが、HeLaの場合には全部、増殖度の落ちることを見ています。そして増殖を回復すると元の形態に戻ります。
[奥村]解糖系が高くなったとき、培地中の糖の量をあげて、4.5g/lにすると増殖が回復しますね。
[山田]無交新というのは解糖能の高い細胞をえらぼうとしているのですか。
[勝田]1ケ月も培地を変えないでおくと、培地中の糖はほとんど無くなってしまうと思う。そこへ糖を多量に加えて、それが果して選んだ細胞の増殖を上昇させることになるのでしょうかね。とにかく無交新というのは、生体内での発癌の初期の状態を考えて、いわば凖嫌気的におくことで癌化する可能性がないか、と思って試みているのです。
[安村]復元法ですが、同じ細胞数のときは、脳内の方が感受性が高いと思います。細胞集団のなかの一部が癌化しているとすれば、動物を使ってselectすれば良いのではありませんか。菌の場合ですが、同じ培地で飼っていると、たとえHistidine要求のない菌ができてもそれは反って淘汰されてしまう。要求のない変異株をとるには、His(-)の培地に飼わない限りとることはできない。しかしHis(-)の菌は、いつも少数ながら必ず親株のなかに次々と生まれてはいるのです。なおmutation
rateは100万個〜1,000万個に1ケの割りです。
[山田]癌細胞の場合は少数であっても消えずに増えるのではないでしょうか。
[安村]100万さしても発癌しない(腫瘍を作らぬの意らしい)なら、どうも悪性化していないというより他ないが、1,000万さしてつくなら変異株を拾ったということになりはしないでしょうか。
[佐藤]AH-130の長期継代をして腫瘍性が落ちたというのならば、現在の培地は肝癌細胞向きでないのではないでしょうか。
[奥村]腫瘍性の低下ということは、期間の問題もあるから単に培地だけが問題とは云えませんね。
[安村]AH-130の腫瘍性の低下したものを、腫瘍でなくなったと考えるのかどうか。もとは癌であって、動物を殺さなくなってしまった期間の細胞を何と呼ぶか・・・。
[山田]移植性があるとかないとか云えば良いでしょう。正常とか悪性とかいう概念より、中途の段階的な、定量的な呼び方として。
[安村]癌になったかどうかを、動物で癌が出来るか出来ないかで決める、という現象論で決めるのなら、発癌させなければ(腫瘍を作らねば、の意らしい)、それまでだが、細胞が悪性化していても、方法が悪くてそれを認定できない、ということの方が大きいのではありませんか。だからその方法を改良することにもっともっと力を入れるべきだと思います。
[勝田]そのことは私の報告の最後にすでに云ってあるところです。結局我々が問題にしなくてはならない点を整理すると三つになると思います。その第一が、いかに培養内でうまく癌化させ、しかもその癌化率を大量に且確実にするかです。第二は、うまく癌化したものを、培養内でいかにうまく大量にふやすか、です。培地の工夫も勿論含まれます。第三は、復元法です。復元法如何によって、もちろん、たとえ癌化していても、つかないことがあり得るのですから、復元法を吟味することは大切です。現在我々はこの三つを、三つとも能率向上させなければならない立場にあります。
[安村]とにかく復元法を検討すべきだと思います。
[奥村]移植という問題は、また難しいことになります。
[伊藤]吉田肉腫は1ケでもつく、といいますが・・・。
[奥村][黒木]1ケでもつく、という癌細胞は非常に少ないですね。
[佐藤]培養内で、培地の血清をラッテの血清にかえて、ラッテに復元したときつき易いようにselectしておくとか、いろいろ準備はしています。
『附』この場合の安村君の発言は、非常に空論である。我々自身がすでに考えていることをそれ以上強調しても何にもならない。それよりこのような席上では、それではどのような動物を使って、どのような注射器で、どのような量で、どこに接種するのが良いと、具体的なadviceにつとめるべきである。またその理論そのものにしても"すでに癌化はしているが復元法が悪いからつかないだけだ"という風にもとれるが、私は決してそう思わない。何度も云っているように、正常肝とのparabiotic
cultureの結果からみて、"私は"前癌状態までは行っているが、未だ悪性化はしていない−と見るべきだと思っている。後処置をして、変化の面白いものもある。しかしそれらはまだ復元してないものも多い。復元法如何だけがいま鍵だというのではなく、現在では、まだ三つの要因があくまで完全に解決されないで残っていると考えるべき段階と思う。この前の班会議では盛に脳内接種を宣伝されたが、具体的データを今回の癌学会できいてみると、最初の動物移植のときは、脳内は成功せず、皮下のが成功している。だからこれらの発言は、安村君が自分自身に向っての心の苦悶を自問自答している−ととれば、我々もあまり腹が立つまい。それに対して、後に報告した黒木班員のハムスターへの復元は、我々に新しい一つの道を教える意味で、模範的な(積極的adviceに富んだ)発言であると思う。このような発言こそ他の班員にとって大きなプラスになる。班会議というものは、ある程度目標が絞られているだけに、かなり実際的な発言をしないとそれが活きてこない。単なる批判だけでは駄目で、それよりこれを、と具体的に別のもっと良い方法を知らせ合わなくてはならないと思う。(勝田)
《佐藤報告》
(1)染色体数の変動について:
呑竜系ラット肝対照株の染色体パターンの表を展示。生後9〜25日、総培養日数は223〜513日、7例の検索結果では変動の理由は分らないが、染色体数の主軸が2倍体より少数のところにあるもの、やや増えているもの、4倍体に近くなっているものと様々である。生後日数、培養日数との関連は見られない。
次に培養初期にDAB及びメチルDABを与えた後、株化した細胞株9例の染色体パターンの表を展示。対照と比較して、染色体数の主軸の減少がやや目立つ。
(2)Primary CultureにおけるDAB(1μg/ml)の減少:
グラフ提示。従来の方法で呑竜系のラット肝(生後18日)を用いてDAB1μg/mlを加え、4日後培地中のDABを測定した。20%(19.3%)程度にまで消耗していた。LDのみで液替えをして後、第8日目3.7%、第12日目0.9%であった。
またDABを1ml/1μgに4日与えた液は畧同様20.7%になっていた。この液を捨てて新たにDAB1ml/1μgに投与すると4日目16.2%に減少していた。以下はLDのみの液替えでDABは消失する。またprimary
cultureした対照を16日になって始めてDABを1ml/1μgに入れて見た。4日目の溶液中のDABは2.8%で前2者より著明に減少していた。
次に8対照株を材料として1ml/1μg(測定値
1.08μg/ml)のDABを300万細胞で平角に培養した状態4日でのDABの減少は、1.08μg/ml→0.13μg/mlで、その4日間で対照群の300万→672万に対してDAB添加群は300万→1100万と、増殖の促進が見られることは興味があり、今後完全な方法で計数して見る積りです。
次に生後69日の呑竜ラット♂の肝及び腎を用いて1日、2日、3日、4日の間隔でDAB1ml/1μgの消耗を見ました。40mlの共栓遠心管(高速回転培養瓶)を使用して培養液7mlの状態で廻転培養した。試験管内の細胞重量との関係も将来考えねばならないし、又DABの消耗原因をしらべて見なければならないし、多くの問題を含んでいるが、この実験でも、非常に速くDABが液中から消失することは興味が深い。
:質疑応答:
[山田]耐性になっているのですか。細胞膜の透過性が変るという例にあてはまりませんか。
[佐藤]よく判りません。今度は培地内の血清量を減らして、増殖しないという状態にしておいて、しらべてみたいと思っています。
[勝田]DABの定量の問題で今後やるべきこととして残っているのは、1)短期間つまり1日以内での各時間での培地内DABの減り方、2)株で実験するとき、ちゃんと細胞数をかぞえて、平均細胞数を出し、細胞一定数当りのDABの減る量をはっきり計測すること、3)その減り方が培養の時期によって変らないか、変るにはちがいないがその変り方、4)株にDABを各種濃度に入れてみて、その増殖に対するDABの影響などの点でしょう。
[佐藤]Ratのageが大きくなるとどうもDAB添加期間の永い方が良いように思われます。
[勝田]DABを連続して入れておいた株の培地から、一時DABを除き、しばらくして又DABを与えると、培地中のDABがまた大量に減るようになりはしないでしょうか。つまり本当に耐性になっているのか、一過性のものか、この点です。
[佐藤]細胞が増える状態のときと、増えない状態のときとは、細胞のDABに対する態度がちがうのではないかと思います。
[奥村]もちろん、そういう量的でない、質的な違いがあるように思いますね。
[勝田]細胞への増殖促進効果があるとすれば、それは何かした細胞の代謝に関与しているわけですからね。
[関口]細胞内でのprotein-boundのDABと、freeのDABとを、培養初期と長期のものと比較してみるべきですね。
[遠藤]ベンゼンで振ると、protein-boundのものもfreeの中へ出てしまうのではないですか。
[佐藤]proteinへの結合には、固いものを緩いものと2種あるでしょう。固いものはベンゼンで振っても絶対にとけてこない訳で、それは別に測ればよいのです。
[勝田]問題は細胞の内ですね。内部に入ったものがそのままproteinに結合してがっちり動かないのか、それともたえず培地中のDABとtornoverしているのか。連続してDABを与えていても少しは減るというのは、どういうことでしょうね。だから細胞1ケ当りのDABの減り具合をしらべておけば、それが細胞が増殖したため、増えた分だけまたDABがくっつくのかどうか、ということも判りますね。初代培養でこれをやるとすれば、やはりliverのcell
suspensionでcell countingをして培養しなくてはなりません。これはうちでもやってみましたが、伊藤班員がやっているようにテフロンのhomogenizerでゆっくり動かして、perfusionした肝の肝細胞をばらす方法でうまく行くと思います。これに関連してですが、テフロンは温度によって膨張収縮がかなり強く、細胞を痛めずにばらばらにするのに頂度良い大きさ(隙間)にするのが非常にむずかしいと思いますが、伊藤君の処は何度位で操作していますか。
[伊藤]普通に室温でやっています。
[佐藤]proteinについたDABはどんどんturnoverしていると云いますね。
[関口]蛋白に結合してもN-oxideの形でいるのかも知れません。
[勝田]N-oxideの形に変えるとしたら、それも培地中に出てくるだろうから、DABとN-oxideを分けて定量できぬかと寺山氏に昨日聞きましたが、難しいそうです。
《杉 報告》
発癌実験:
Golden hamster Kidneyのprimary culture−diethylstilbestrolのExp.1〜33までを総括すると(表を呈示)、廻転培養では実験群、対照群とも細胞は比較的よく生えるが、繊維芽様細胞が多数を占め、特に上皮様細胞は出てこない。pyruvic
acidの効果はあるかどうかはっきりしない。例の上皮様細胞団を多く生やす目的で培地上に流動paraffinを重層して培養したが効果は特に認められなかった。Exp.17を復元したものは、そのごもtumorを作らない。markしている上皮様細胞団の細胞内空胞と思われる部分はSudanIIIで染色されなかった。
最近hamsterが殖えなくなりましたが、現在、増殖用飼料で繁殖させる様、努めていますので新しく生れてきたら、細胞を大量に生えさせる工夫をして復元を繰返し試みたいと思っています。
:質疑応答:
[安村]ハムスター腎を培養すると必らず上皮様の細胞が出てきます。だから今の実験のままでは、Stilbestrolが上皮様細胞をselectするということは必ずしも云えないでしょう。むしろ対照に出てきた細胞にstilbestrolをかけてみたらどうですか。そこで上皮様細胞がselectされるのならば、それはstilbestrolの作用と云えましょう。
[勝田]これだけやって長期培養が1例もできないというのは何か培養法自体に欠陥があると思います。そこを検討してみるべきではありませんか。それからstilbestrolはホルモンの1種でDABのような非生理的化学物質とちがうから、やはり長期に渉って作用させた方が効果が出るのではないでしょうか。
[遠藤]Stilbestrolがホルモンであると考えるのは一寸問題があると思います。殊にin
vitroの腎に対しては異物と云えるかも知れません。
[勝田]実験データが或程度たまったら、こんどは色々の視角から整理してみる必要があります。たとえばハムスターのageの順に並べてみるとか、濃度で揃えるとか、或は性別で分けるとか、です。それから培養も、何もexplantに固着しないで、トリプシン処理して初代から大量に培養してみることも試みるべきではありませんか。そうすれば長期培養も楽になるかも知れません。
《伊藤報告》
homogenizerを使って細胞浮遊液を得て、短試験管→廻転培養のsystemで実験を続けています。
1)今回は対照群(A)、DAB(1μg/ml)7日間添加群(B)、DAB連続添加群(C)の群に分けて検しましたが、morphologicalには特に変化を見出していません。
2)数の計測の結果では、前回の報告にもありました如く、実験群特にB群に於いて、試験管によって、2〜3倍の細胞数を含むものがある。(増殖曲線を呈示)
3)C群(入れっぱなし)は最近(実験開始後約2ケ月)になって全体に細胞数の減少の傾向がみられる。
考案:
1)前回の報告ではcell suspensionで計測した細胞の約1/4が管壁にくっついてはえると報告し、その点について勝田先生から「管壁につかない細胞についても計測して行く様に」とのAdviceを戴き、又先月の黒木氏の御報告からみても、浮遊したままの細胞についても検討する事の必要性を感じた訳ですが、今回の実験では、分注した細胞の殆んどが管壁について呉れましたので、その点での心配はありませんでした。これは今回とれた細胞の具合がよかった為か、又Inoculumを減らした事が良かったのかも知れません。
2)次回からは短冊も入れて、morphologicalな検討も併行する。
3)実験群に時々見られる細胞数の多い場合と云うのが、増殖誘導と考えてよいものか否か、若しさうであるとすれば、此の様な細胞を残す事を考える必要がある。
4)2ケ月近くのDAB添加ではやや細胞障碍的に働くのではないか。
今後此等の事を考えに入れて、次の実験にかかり度いと考えています。
又廻転培養は何かと不便ですので、静置培養の方も再度試みる積りです。
:質疑応答:
[勝田]増殖細胞の核はちゃんと見分けられる筈ですから、cell
countingのときよく気をつけて見て下さい。またグラのかき方ですが、DABを加えて増え出している方のは、平均ではなく各々の点を打った方が判り良いと思います。何とか途中で増え出したtubeを見付けられるようにしたいですね。(例えば平型短試を使うとか。)それから大量にスタートして、短期間にしらべ、どの位の時期から増え出すか、つきとめて頂きたいですね。
《黒木報告》
Hamster cheek pouch移植法の基礎的研究
I.非処置Hamster cheek pouchへの吉田肉腫細胞移植:
異種移植による培養細胞の同定は、Foley,Handlerらによって、大規模な実験が行われ、そこから得た経験的法則は確立したかに見える。Foley,Handlerらの最近の綜説は、J.Nat.Cancer
Inst.Monograph No.7 1962に出ているが、これを読んで感じたことは、次の三点である。
(1)Control実験とも云うべき"originのはっきり分った細胞"を用いての実験が一つも行はれていないこと。
(2)invasivenessと云う言葉は出て来ても、それについての具体的表現のないこと。
(3)我々の研究室で系統的に行っている少数細胞による同種移植と比較するとき、余りにもそのDataがよすぎること。(例えば、吉田肉腫は呑竜ラットに1ケでも50%移植可能であるが、MH134等はC3Hinbred
mouseには100ケ、(C3Hxdd)F1には10,000ケ必要である。
これらの疑問を検討すべく、Hamsterを用いての基礎的な実験を本年8月より開始した。そして、この実験を始めるに当り次のような基本方針を定めた。
(1)実験に用いる細胞は、悪性、良性のはっきり分った細胞のみを用いる。この目的のため、当分の間は腹水腫瘍のみを用いる。
(2)cheek pouchの移植部位としての特殊性(Foleyはprivileged
statusと表現している。)を確かめ、更にcortison処置、X-ray照射等の基礎条件の検討を行う。このために、最初は細胞を吉田肉腫のみに限定し、様々な方法で移植比較を行う。
(3)組織学所見を重要し、浸潤性の検討を行う。
(4)長期間の観察を行う。
以上の4つの方針に基ずき、今後実験をすすめる予定である。今回はその第一報として非処置Hamsterへの吉田肉腫の移植性をReportする。
§実験材料及び方法§
☆Hamster
用いたHamsterはGolden Hamsterである。これは予研病理より抗研山根研究室へ分けられたものの子孫である。現在のところ自家繁殖により供給しているが、Mouseと同等、あるいはそれ以上の繁殖力を有するとは云っても、限りがあり、十分な実験はできない。しかし最近、実中研からの連絡によると需要があれば大量生産を行うとのこと故、今後は楽になるものと思はれる。なお、Hamsterの繁殖において注意すべきことは(1)生後10日から30日までは新鮮な野菜を与えること。これによって離乳率を80%〜90%に上げることが出来る。その他のHamsterは固形飼料で十分である。(2)Cageは丈夫なふたに止め金のついたものを用いること。普通のCageでは簡単に逃げ出してしまう。
☆移植方法
今回は生後30〜60日、体重50〜60gのものを用いた。Nembutal麻酔(0.1ml/100g
ip.inj.)によりcheek pouchを引き出し(第一回)ツベルクリン注射器により0.1mlの細胞浮遊液をcheek
pouch粘膜下に注射する。今回はCortison処置は行わない。
☆細胞(吉田肉腫非培養腹水)
吉田肉腫移植後3〜4日の謂る純培養状態の腹水を血清10〜20%添加Eagle培地(glutamin
less)で稀釋した。この状態の腹水は1.0〜2.0x10の8乗/mlの細胞を含む。移植細胞数は1.0x10の7乗、10の6乗、10の5乗、10の4乗、10の3乗、10の2乗、10の7段階である。
一群4匹(Foleyらは一群3匹である)計8つのcheek
pouchを用いた。片方のpouchは移植後様々な日数で切除し(電気メス使用)残りのpouchは最後まで観察する。
§実験結果§
経過の判定基準は
I.:腫瘤を全く作らないもの。
II.:米粒大の大きさに達っするが、間もなく消失する。
III.:1.0x1.0cm以上の大きさに達っし、粘膜と腫瘤は癒着し、粘膜面はうっ血出血ビランがみられる。しかし、nekroseとなり消失する。(膿瘍形成は含まない。)
IV.:更に大きくなり、4.0cm以上となる。そのため、腫瘤を口腔外に引き出すことは困難となる。腫瘤表面の皮ふは発赤し、潰瘍を形成、感染し、ついには死に到る。
以上の試案のうちI.II.を陰性、III.IV.を陽性と考えた。なおFoleyらの判定基準は次のようなものである。The
development of a nodule that became vasculized
and grew progressivel was considered as evidence
of growth. 従って上記私案III.IV.と一致するものと思はれる。
結果は(表と写真呈示)、一応(+)と判定されるもの(Foleyらの基準に従い2/6以上を+とした)は10の2乗以上である(10の3乗のDataについては再試する予定)。10の6乗以上のとき、前例陽性となる。又10の4乗のときは死亡するHamsterも出る。しかし死亡したHamsterを剖検しても肉眼的に転移は認められず、感染症により死んだものと思われる。(くずれおちたcheek
pouchは巨大な潰瘍となり、その部に蛆の発生することさえある)従って腫瘍死か否かについては疑問があり、組織標本により詳しく検討する予定である。
:質疑応答:
[勝田]培養細胞の場合は、数がなかなか増やせないときなど、この方法を使って、ハムスターのチークポーチで一旦ふやしてからラッテに接種するという手もありますね。
[安村]コリエルはラッテ肺に入れると効率が良いと云ってますが、実際はあまり良くないらしい。
[黒木]チークポーチは100万個入れるとNormal
tissueでもつく、といいますね。それからCortisonの効果は細胞数1ケタに相当します。Foley-Handlerは培養細胞だけを培養でテストしています(Syverton
Memorial Symposium #6)。ハムスターをねむらせるのにエーテルは駄目で、ポーチを出すころ目をさましてしまいます。だから眠り薬を腹腔に注射して処理する必要があります。
《山田報告》
1)2倍体繊維芽細胞株の増殖度の変化とコロニー形成率並びにDNA合成との関聨:
前にもかきましたように2倍体細胞株は継代につれて増殖度がかわってきます。増殖度を単に4日培養における増加倍数でなく増殖曲線対数期における世代時間で比較しますと、(図のように)継代30代近くまで世代時間に変化なく33.2±4.5時間程度になっています。しかし20代以向は増加倍数はすでに低下の傾向にあり、これは増殖曲線のinitial
fallの深さがだんだんに大きくなることにより説明されます。すなわちTrypsin処理によって新たに植込んだ細胞数中、生存細胞数の頻度が徐々に低下することが推定されるので、Eagle基礎培地+10%仔牛血清培地中でのコロニー形成率を調べてみました。結果は(表の通り)たしかに継代につれてコロニー形成率が低下することが認められますが、若い継代細胞でもやく30%の形成率しか得られず、培地が完全でないことが予想されますので、正しい生残率として表現することはできません。しかし一定の傾向として継代につれて著しくコロニー形成率が下ることがうかがわれます。なお血清濃度を20%にあげますと多少コロニー形成率が上昇します。今、CEE、Medium199、109、核酸前駆体、Vitaminなどの添加で形成率の上昇をはかっています。次にH3thymidineとりこみからみたDNA合成の態度を見ました。これで判ったことは、全細胞集団中一部の細胞しかDNA合成および増殖に関与していないことです。H3thymidine(1μc/ml)の連続ラベリングの成績で(表)みると、若い継代細胞株で80%、古いもので60%しかラベルされません。HeLa細胞ではコロニー形成率が100%に近く一世代時間のH3-TDN接触で100%ラベルされます。ということは、HeLaでは全細胞が増殖に関与しており、しからずんば死滅という感じです。一方2倍体細胞では一部の細胞が増殖し、他の一部は生存してDNA合成も行わないことがうかがわれます。この非増殖細胞が次第に増加して細胞集団の老化現象として認められるようになると考えると、今後は増殖と分化の関係をこの実験系で追求できるかも知れないと希望を持ちはじめました。
2)マウス胎児の2倍体細胞株の分離とコバルト60γ線による変化の追求:
すでに4回胎児肺組織よりの繊維芽細胞系の分離を試みました。人の場合よりEp細胞の消失がおそく、7、8代で尚EpとFbが混在しています。一部の細胞には500γのコバルト60γ線を照射して細胞の変化を観察中ですが、恢復が一般におそく時間が必要です。
3)閉鎖系にするS3-HeLa細胞のコロニー形成率:
勝田さんからの話で、同じ炭酸ガスフラン器を使用し、閉鎖系でのコロニー形成率を調べました。細胞を植込んですぐにシールしてフラン器に収めますと、同じ培地ではpHの上昇が起り、pHの上昇のためにコロニー形成率が10%以下になりました。そこで一旦炭酸ガスフラン器に収め、pHを調整して、その場でシールした所、解放系と変らぬ形成率を得ることができました。
:質疑応答:
[安村]12代以前のときplating efficiencyが上っていませんか。立上っていると困りますね。
[山田]まだ見てありません。これからやります。今後はマウスの肺を培養してそれに放射線をかけることをやろうと思っています。
[関口]HayflickのLeucineのとり込みのことですが、ただC14-Leucineが入ったといっても、それが単なるturnoverで入ったのか、それともproteinのnet
synthesisがあったのか、例えばH3thymidineなどを同時に使ってないのでunbalanced
growthでない、ということが云い切れないのではありませんか。
[山田]その通りですが、そこは見てありません。
[勝田]継代につれて例えばcollagen合成能がどのように変化して行くかなどを見て行くと面白いでしょうね。
《土井田報告》(要旨)
L細胞400万個/bottleにコバルト60γ5000rをかけて耐性細胞を作りましたが、ID50は530r(L原株は270r)です。染色体数のピークの移動は63本(L原株)→61本→53本→51本→50本→47本(5回目)→44本(7回目・80位もふえている)→42本(8回目・80位もふえている)と下って行きます。核型は小さいfragmentのようなのが出ています。二次狭窄の形のがある気もしますがマーカーとも云い切れません。結論としては、変異と淘汰の組合せと考えます。放射線をかけると染色体が減るということは事実ですが、減ったことと耐性とは必ずしもむすびつけられないと思います。以前にHeLaでやったときは2集団の混合であるような結果が出ました。
:質疑応答:(脳内接種について)
[佐藤]1000個位の細胞を脳へ入れるときは、どうやって算えるのですか。
[安村]濃いのを算えて、稀釋して使います。
[佐藤]非常に誤差が出るでしょう。
[安村]桁の問題で、誤差があってもかまいません。
【勝田班月報・6312】
《勝田報告》
A)L原株及び無蛋白培地内継代4亜株の間の、細胞構成蛋白のアミノ酸組成、並びに完全合成培地内アミノ酸消費の比較
この仕事はすでに今年の初めの月報でも少し報告し、詳細は今秋の癌学会と組織培養学会で発表しましたが、数値として月報に最も新しいデータを示しておいた方が良いと思い、書くことにしました。今年初めの月報のデータと少し違いがありますが、これは培養の状況が少し異なるためです。たとえばL・P3は前の月報にかいたときは増殖が悪いので、あとで実験をやり直したのです。今月号にはその増殖の良いときのデータを示します。
(1)細胞構成蛋白のアミノ酸組成:
acid-soluble fraction、lipoprotein fraction、nucleic
acid fractionを除いたあとの、いわゆるcell-constituting
proteinsの分劃を、酸水解し、そのなかのアミノ酸組成をアミノ酸自動分析計(KLA-2型・日立)で全分析して比較しました(表を呈示)。
各株のアミノ酸組成はモル比に於てはかなり似通った組成を示していますが、細胞1,000万個当りの量に換算しますと、5株の間でかなり相違が見られました。L・P1→L・P3に対してL株は約2/3、L・P4株は約1/2で、細胞がやせていることが判ります。
(2)完全合成培地DM-120内でのアミノ酸消費像の比較:
DM-120に入れますと、各亜株は勿論のこと、L原株でも数代の間は増殖をつづけます。DM-120に入れて2日后に培地を交新し、第2日から第5日までに使ったDM-120をアミノ酸分析にかけました。その結果を1,000万個当りに換算したのが次の表です(表を呈示)。
ここでまず目立つのは、定量的な差だけではなく、定性的な相違も見られるということです。グルタミン酸のあとに現われるX1とX2のpeaksがそれで、原株ではX1が現われ、L・P1、L・P2、L・P3はX2が出ます。L・P4はどちらも作りません。X2は恐らくCitrullineと推定され、ureaの全く認められないところから、図の点線のような経路が予想されるわけです(図を呈示)。最近、PPLOがcontamiしていると、この経路が働くという報告があります。しかし当室ではこれまでずっと抗生物質を培地に入れてありませんから、PPLOなどが入ればすぐ判る筈です。だがEinwandを除くために一応PPLOの培養テストも計画しています。
次に面白いのはL・P3のアミノ酸消費で、Arg、Ala、CySH(SerとGluNH2はpeakが重なっているので不明)だけを消費し、他のアミノ酸は合成してむしろ培地中へ出しているということです。だからこのpopulationの中からもっと合成能の強い細胞をselectして行くと、しまいにはglucoseだけで全部作ってしまうような細胞が生まれてくるかも知れません。
上記のように消費したアミノ酸を、それではどれだけの効率で新しく作る蛋白の中に組込んで行くか、ということですが、テストした期間に増殖した細胞数を細胞構成蛋白のアミノ酸組成表にあてはめて計算し、下の式を使って下表のような結果を得ました(表を呈示)。[培養当りの消費された各アミノ酸μMoles]/[培養当りの新しく合成された構成蛋白内各アミノ酸μMoles]。
これをUtilization factor(Mohberg & Johnson;J.Nat.Cancer
Inst.31(3):611-625,1963)とよんでいます。つまり取入れたアミノ酸を100%蛋白合成に利用していれば数値は1となり、無駄が大きければ数値は大きくなる。L・P3は最も効率がよいことが判る。
B)L・P3細胞へのCO60γ照射と、照射后のアミノ酸代謝:
山田班員に依頼してL・P3にCO60γを1,000rx2回かけてもらい(実施表を呈示)、その后、前述と同じ方法でDM-120内のアミノ酸の変化をしらべた。培養はTD-40瓶で、46cmの距離で25rx40分(計1,000r)宛照射した。
第1回の照射后は細胞の変化は認められず、増殖をつづけた。第2回の照射后1w位して少し変化が目立ってきた。22日后に継代したが、細胞は突起が多く、細胞全体が大きくなったように見え、細胞間の間隙も広まってきたように思われた。継代第2日〜第5日に用いた培地をアミノ酸分析に当てた。なお、分析に用いた以外に継代は続けているが、第2回照射后2ケ月頃から、大きさが照射前と同じ位小さく、形態もきれいに整った細胞が散在的コロニー状に出現し、増殖をつづけています。或はこれは耐性細胞かも知れぬと目下たのしみにして増えるのを待っています。
(表を呈示)3日間に細胞1,000万個が消費及び産生した各アミノ酸量を、無照射L・P3と照射L・P3とで比較した。Argの消費が高まり約5倍となり、それに伴いX2の産生も高まって、これをCitrullineとして計算すると、やはり約5倍となっていることが判る。His、Ala、Leuの消費も目立って高まり、逆にThr、Valは産生が増している。
(表を呈示)また、Argをスケールとして、そのCitrullineへの転換比と、合成された新構成蛋白への利用率をまとめた。但し后者は照射されたL・P3も無照射L・P3と同じ構成蛋白のアミノ酸をもっていると仮定しての計算である。無照射の35.5%が照射后はわずかに1.1%となり、照射により蛋白の合成系と分解系との間のバランスが激しく混乱を生じ、合成系もきわめて効率の悪い合成をむやみに行なっていることが判る。
なお、この場合のL・P3はまだ耐性細胞ではなく、上のデータは要するに照射による障害をみたものと考えてよい。いま生え出してきている細胞が耐性であるか否かは別としても、それについても今后またアミノ酸分析をおこなってみたいと思っています。
《佐藤報告》
発癌の判定
我々はDAB或はメチルDABを生体から取りだされた肝組織に短期又は長期に投与して増殖させ(1μg/ml)その細胞をラットに復元して癌をつくらせる方法をとって来た。然しながら現在まで実験例42、ラット数82中、最近脳内水腫をおこした一例以外陽性の結果を得ていない。此等の実験は染色体パターンや細胞群の多型性を判定として続行されている。
今回は安村氏からの提案について復元法の内Suckling
rats脳内接種の効力を試みた。色々の方法がありますがまづ第一にAH-130(腹水肝癌で伝研勝田班長の所でJAR系ラットに継代中であり培養株も存在するもの)を分与していただき岡山でDonryu系に継代した動物株で腫瘍性を判定した。現在まだ十分の結果はでていないが実験1、2の表を示しておきます。Exp.AH-Tox.No.1:1963-10-29
Suckling D-Orats 20〜24hours after birth、
Material F1(2)6th day after AH-130 inoculttion:intracerebral
0.03ml。
Exp.AH-Tox.No.2:1963-11-6 Suckling D-Orats
10hours after birth、
material F2(2)8th day after AH-130 inoculation:intracerebral
intraperitoneal 0.03ml。現在1,000及び100について実験を続行中です。
親が仔をたべてしまってTumorを確認できないもの以外は、全部13〜16日でTumorをもって死亡しています。この実験が完了し次第、勝田班長に培養株をいただいて培養株→復元の問題について検討する予定です。
DAB発癌については、培地内DAB消耗の確認と10μg耐性株の増殖につとめています。良くいけば12月の班会議に間に合うと思います。
《黒木報告》
Hamster cheek pouch移植法の基礎的研究
.Hamster Mouseの皮下、腹腔内移植との比較
異種移植の部位としては、Hamster cheek pouchの他、睾丸、脳、前眼房、無菌動物(SPF)、新生児動物、胸腺摘出動物等が用いられております。睾丸、脳、SPFについては定量的な研究が少く、その詳細についてはよく知られておりません。前眼房は、Rat、Mouseは小さく移植が困難であり、Rabbit、Guinea
Pigは予算の点から敬遠されがちです。更に肉眼的観察に制限があるのも不利な点の一つです。胸腺摘出動物については、今度の癌学会の発表(岡山大・砂田外科・岡谷氏、演説92)及びその追加発言(北大・癌免疫研・小林博氏)を聞きますと、それ程期待出来ないことが分りました。その要旨は胸腺摘出動物ではregressionする時間が4〜5日延長するに過ぎないとのことです。新生児動物を用いることは、H-2抗原の研究からみても可成り期待がもてそうです。このH-2抗原が出産后2〜5日に爆発的に増加することから考えますと、生后24hrs以内の動物を用いることが重要なことと考えられます。(自然、1963・12[免疫生物学のすすめ])今后は新生児と他移植法との組合せ、例えば脳内との組合せがもっと研究されてよいと思っております。
前書きが長くなりましたが、今回はHamster
cheek pouchが異種移植部位としてどの程度優れているかを定量的に検討するために行った実験を報告します。
[実験材料]
移植細胞は前回と比較する意味で、吉田肉腫(非培養腹水)を用いました。移植細胞数は1,000万個、100万個、10万個、1万個です。Hamsterは自家生産Golden
Hamster体重50〜70g、MouseはC3H/HeN、Rondon
breeding,inbred、実中研、大泉Farm生産のものです。
移植動物及び移植部位の組合せは、次の4種類です。(1)Hamster皮下(SC)移植。(2)Mouse皮下(SC)移植。(3)Hamster腹腔内(ip)移植。(4)Mouse腹腔内(ip)移植。
[実験成績]
1.Hamster皮下移植
ここで、一応陽性と考えたものは、移植後3〜5日目に直径0.8〜1.0cmのやや隆起した表面に血痂を伴った腫瘤を形成したものを指します。これは7日〜14日には完全消失してしまいます。このものが、吉田肉腫の増殖巣であるか否かについては現在組織標本により検索中ですのでそのうち報告出来るものと思います。1,000万個5/5、100万個3/5、10万個0/5。 2.Mouse皮下移植
陽性と判定したものは、移植后5日目頃出現した粟粒〜米粒大の腫瘤で、7日目にはすでに消失してしまいます。なお、現在、移植后80日にして移植部位に小さい腫瘤を再び形成したものがあり現在経過観察中です。1,000万個2/10、100万個3/10、10万個0/10。
3.Hamster腹腔内移植
腹腔内に移植后、3、5、7、10、15日に腹水を採取し、塗抹標本を作成、腫瘍細胞の存在を検索した。このとき、腫瘍細胞の状態により次の四つのGradeに分けた。(-):腫瘍細胞存在せず。(+):腫瘍細胞は僅かに認められるが分裂像はない。(++):(+++)と(+)の中間。(+++):95%以上が腫瘍細胞、謂るpure
culture。
この+++、++、+、-に夫々3、2、1、0点を与え平均を示したものが次の表です(表を呈示)。
すなはち、1,000万個移植の時にのみ腫瘍細胞の増殖がみられ、100万個、10万個、1万個のときは殆んど増殖しないことが分ります。
4.Mouse腹腔内移植
Hamsterの場合と同様に経時に、腹水中の腫瘍細胞の消長を追ってみたのが左表です(表を呈示)。Hamsterよりは可成りよいことが分ります。ここでHamster
cheek pouch内移植の成績と比較すると次のようになります(表を呈示)。よい順に並べますと
Ham.cp》Mouseip>Ham.SC>Ham.ip>MouseSCの順になります。cheek
pouchの優秀性がよく分ります。
《杉 報告》
発癌実験:
golden hamster kidneyのculture−diethylstilbestrol
動物実験での発癌には大多数が数ケ月から1年近くを要しているが、in
vitroで発癌に相当する様な変化が動物実験よりも早く起るとしてもそれ程早く起るとは考え難い。そうすると少くとも数ケ月間は細胞を盛んな増殖を営なむ或は維持出来る様な状態におかないと発癌に至る変化を起し得ないということになる。そういう意味では今まで行ってきた発癌実験で、株になる程の旺盛な増殖を示した例がないという点を勝田先生が指摘された如く、培養法についてもっと長期間培養出来る様に検討する必要がある。
先ず動物の日齢については実験の最初頃、比較的若い動物を使うと実験群と対照群との間に差が出ないが比較的老齢のものを用いると差が出る傾向にあった為、以後の実験では差を出すために比較的老齢のものを用いました。そのために増殖が思わしくなかったという事も考えられます。生後20日以内のを用いたのは3例あるが細胞数が少なかった為か長期継代に至っていません。腎の場合、若い動物では臓器が小さいため細胞を大量に得る事が困難で、一方老齢ののを用いれば比較的大量得られるが増殖が悪いという欠点がある。従って若いところを沢山集めて培養する必要がありそうです。薬剤濃度と作用期間もまだ検討の余地があるが差し当って先ず年齢を検討してみたいと思います。
そこで少くとも生後20日以内という若いところを使って実験をやり直していますが、この位若いものでは組織片から細胞が出てくるのが早く、10日目には従来markしていた特徴ある上皮様細胞団がかなり出てきます。しかし対照にも量的に稍少いがこれと同じものが見られる。今のところはこの細胞をうまく長期に培養出来る様になれば、培養の間に更に種々の刺戟を加えて目的とする変化を起させ得る可能性は残されていると思います。従って今後暫くは細胞を比較的長期に培養で維持出来る様に主力を注ぐつもりです。廻転培養も数回試みた結果繊維芽細胞が主として出るので中止したがこれも、も少し繰返し行って検討する必要があると思います。hamster肝はtrypsin消化による培養をやり始めたがまだうまくいっていません。
《高木班員アメリカ便り》
勝田先生 この手紙がつくのは丁度TC学会も終った頃だと思います。ここMemphisも秋の色深く、木の葉の色が誠にきれいです。今日は私がこちらに来てから頂度一年目、全く光陰矢の如しです。11月6日から3日間、NewYorkで行われた第3回Cell
Biolofy Meetingに出席して一昨12日帰って来た処です。ついでにWashingtonでNIHを、PhiladelphiaでTemple
Univ.、Pa.Univ.とAlbert Einstein Hosp.のInstituteを、NewYorkでCoumbia
Univ.を駆け足で見て廻りました。Scaleの大きさではNIHが一番ですが、個々のlab.をのぞいてみると差程ことあたらしいものもない様で、大体私共の処と同じ様なものが並んでいた様に思います。
Cell Biology Meetingですが、これはNew YorkのGrand
Central Stationのすぐ隣にあるCommodore Hotelで行われました。初日、2日目と午前中はSymposiumに平行して演題発表があり、3日目は演題発表丈でした。何しろ224題と云う出題で、会場も4ケ所に分れて同時に行われましたので聞いてまわるのは中々大変でした。こちらの学会は勿論発表も大切ですが、お互の社交?という事にも重きがおかれている様で、自分の興味ある演題丈をきいて、あとはお互にdiscusion(話?)をしている人も多かった様に思います。
兎も角Molecule Biology関係の出題が殆んどでAutoradiographyによるDNA、RNA関係の仕事とElectronmicroscope関係の仕事が圧倒的であり、又細胞のlysosomeを扱った仕事も可成りあり、Lysosomologyなる新語を云っている人もいた様です。この学会に関する限り、E.M.は従来のlight
Microscope同様に駆使されている感じで、Thymidine、Uridine、Cytidineなど用いたautoradiographyもE.M.で観察した物が多かった様に思います。第1日目のSympはRegulation
of Biosynthesisでしたが、これは同時に私共の処から出題した
growth、differentiation and maturation of
neuroblastoma cells in vitroが行われた会場にいたため殆どきく事が出来ませんでした。第2日目のTransport
across cell membraneは話をしたProf.の名を一寸忘れましたが、phagocytosisとPinocytosisとの際のcell
membraneの態度をEMによりきれいにみせている様でした。つづいてIonのcell
memb.を通しての交流に関する仕事の発表もあっておりましたが、この方は化学に弱い私には少々理解がむつかしい点がありました。
さて勝田先生のfilmは1日目の午后の3番目(実は4番目ですが、前のが1つ後廻しになりましたので)にありました。Prof.Moskowitzもよく説明しておられたし、写真も他のに比較して中々きれいだったと思いました。liver
cellsとJTC-1とのinteractionでJTC-1がliver
cellをattackする様にとりかこんだ時liver cellがするりとその中から抜け出した様な場面がありましたが、あの箇所は中々ユーモラスで?、皆の中から思わず笑いがもれました。またrat
heartとJTC-1とのinteractionの場面で、どうもなつかしい形の細胞が出て来た様で、あとでProf
Moskowitzにあのrat heart cellsはprimary cultureかと聞きました処、cell
lineだとの事でJTC-4だったのか(ではなかったのですか?)とチョッピリ郷愁を覚えました。質問はありませんでしたが、あとで培地、培養方法、liver
cellsの性状(Parenchymか何か)につき聞いている人がありました。うちのDr.Goldsteinも"中々きれいなfilmだった"と云っており、目下私共のtime
lapseが修理中ですので、先生のfilmに刺戟されてか"早くなおす様に業者に今話して来た"などとも云っていました。あとでDr.Moskowitz、Dr.Goldsteinと3人でお互の仕事をdiscussionするchanceを得てまことに有意義でした。堀川氏も出席されているのかと思っておりましたが、御姿をみかけなかった様でした。Dr.Moskowitzは大の日本funの様で、来年も日本に行くから日本語を勉強しなけりゃと云っておられました。Indianaの自分のLab.にも是非来てくれとの事でしたので若しchanceがあれば行ってみたいと思っています。
先生の処のLP間のアミノ酸消費像の比較ですが先達て(と云ってももう半年前)Dr.EagleがSt.Judeでセミナーを持った時に消費像にあまり差がない様に云っていましたし、株細胞は大体において似た様なものになってしまう様な話をしていましたので私はその点少々反撥を感じておりました。面白い御仕事だと思います。
さて私の仕事ですがまずpancreasのcultureはorgan
cultureによりAnti-Insulin serumを用いて10〜15日までInsulinの分泌(B
cells granule?)をdetect出来る様です。しかしこれはunspecific
stainingとの比較が大切で更に実験をくり返している処です。これがうまく行ったら括めてみたいと思っていますし、又pancreasのepithelioid、fibroblastic
celllineも小さく括めてみたいと思っています。今度Dr.Goldsteinからrabbit
cell linesを用いてのShope virusのT.C.をやってみる様に云われましたので、その方も目下準備中です。これと平行しanti-rabbit
pancreas cell line-rabbit及びguinea pig serumも出来上りましたので、このpurification、cell
originの追求もやってみたいと思っています。その他いろいろ他の仕事もやっています(Anti
tumor agent"vincristinのTC cellへの効果"をclinicのDr.がやっており、そちらもhelpする様に云われsuggestしています。等々)が主なこの3つです。つまりcell
BiologyとImmunologyをまたにかけて仕事をしている訳であぶはちとらずになるきらいもありますが、こちらに来た目的が多くの事を吸収するにあるのですからそれでよいのだと思っております。無理をせぬ程度に頑張りたいと思っています。このInstituteもJapan
boomでJapanese Dr.は現在私と共に3人、もう一人金沢大から来られる筈の方はofficial
passportをとる時の胸のXrayで陰があったとかで来春にのびたそうです。では又、御健闘を御祈りします。班員の皆様にもよろしく。11月12日
【勝田班月報:6401】
《山田報告》
Window technicで個々の細胞の増殖様式を、HeLa-S3とNIHT-5細胞について追求してみました。培養液はEagleでHeLaでは10%、NIHTでは20%の仔牛血清を添加してあります。接種細胞数はHeLaの場合2000個、Windowの内径1.2mm、NIHTでは100個、6.0mmです。NIHTは運動性が高く、コロニーが多く数えられないので、止むを得ず、Windowを大きくし、細胞数を下げました。いづれの場合もWindowに平均1個程度の細胞が出現する計算になっております。HeLaのplating
efficiencyは90以上、NIHT-5(10代目)は40〜50%でした。(グラフ呈示)HeLa-S3は翌日の観察(22時間後)で2個になっているものが50%程度、45時間後に2個になったものが50%程度で、それ以後およそ24時間毎に観察すると、それぞれが直線的に増殖し、多くの細胞はほとんどこの間に入ってきます。例外として2個の細胞が114時間の観察でまだ3個にしかなっていません。40個の単一細胞からスタートしたものを平均しますと、Time
lag4時間、世代時間26時間となります。NIHT-5の場合には、136時間の観察で細胞40個から、全く増えない1個のものまで、個々の細胞が種々の増殖度を示しております。ガラス壁面に附着した30個の接種細胞中全く増えなかったものが6個で中2個は途中でガラス面から剥離しました。すなわち、NIHT-5の1集団の中で個々の細胞の増殖度に大きな差があるわけです。全くふえなかった細胞が6個といってもfinal
populationでは1%以下となるわけですから、新しくTrypsin消化をして、継代すると、p.e.から考えて半分は又コロニー形成を認め得なくなるわけです。なお、136時間に5個以下のものは殆んど60時間以降ふえていないので、単にtrypsin消化の影響だけ(一次的な)で増殖がストップするのではないことが判ります。(集団としてのT.L.27時間、G.T.30時間)
それ以後、現在手がけていることは(1)個々のコロニーの構成細胞数と、個々の細胞のDNA量の関係(Microspectrophotometry)。(2)クローン細胞系のp.e.と増殖態度。(3)feeder
layerによるp.e.の上昇の有無。
最近、次の2つの論文に興味をひかれました。
Rothfels,K.H.,Kupelwieser,E.B.,& Parker,R.C.:Effects
of X-irradiated feeder layers on mitotic
activity and development of anewploidy in
mouse-embryo cells in vitro. Canadian Cancer
Conference,5,191-223,1963.(Academic Press,New
York)
Todaro,G.J.,Nilausen,K.,& Green,H.:Growth
properties of polyoma virus-induced hamster
tumor cells. Cncer Res.,23,825-832,1963.
Rothfelsらのものは、マウスの細胞株分離における、%Euploidyと%Mitosesの間に逆相関があり、継代10代まで%Eが100%のとき、%Mはどんどん低下して殆ど0%、10代以後%Eが低下すると%Mが上昇すること、CFIマウスのestablished
cell lineはすべてが移植性を獲得していることを示しています。今までのデータと合せて、純系マウスを使えば、細胞の株化(Aneuploid化)=移植性獲得まではもう規定の事実で、Euploidyの維持するための条件をさがしている感じです。この論文ではfeeder
layterが%Mを上昇させ、同時に%Eの低下を遅らせる作用があることを述べています。Todaroの論文はin
vivoでtransformした(polyoma wirusで)hamster
kidney cellは容易に株化するが、無処置の細胞は10代くらいで消失することを明確に示したものです。in
vitroでtransformした場合にも株化しやすくなることも述べています。
:質疑応答:
[佐藤]C3Hマウスを使った場合、移植後100日や200日もかかって発癌する(註:腫瘍を形成する−の意味)のは、問題があると思います。ウィルスの疑があります。
[安村]そういうときは、マウスの種を変えて、たとえばAとBとして、Aに発癌させ、AとBとのF1にその癌をかけてみるとかかるが、Bにかからない−というようなやり方ではっきりさせられます。
[勝田]細胞1ケだけのColonyで、増えないという場合、他のColonyからこぼれて、1ケだけ着いた形になったという場合もあり得るから注意をして下さい。それから、2nと云われますが、数は2nでも核型はどうなのですか。
[奥村]2nだから正常といえるかどうか、核型もちがうことがあるし、たとえ同じとしても前癌状態に入っていることも有り得る。2nは必要条件であって充分条件ではないので、2n=正常とは云えませんね。
[山田]2n=正常とは考えていません。まず2nは必要条件ということからはじまって、これから正常とは、ということへ入って行くつもりです。
[奥村]正常性の証明の手段として2nをもってきてはいけないと思います。正常性を検討するつもりなら、2倍体を維持した長期継代の細胞より、初代に近いものを多く使う方が良いと思います。
[安村]初期の細胞をまいて、2nでない細胞系を作ってみて悪性をしらべたら、染色体との関係が少しは判るでしょう。
[山田]染色体だけで見て行けばそういえると思いますが、癌にならない系の裏付として2nの細胞を結び付けてみています。
《勝田報告》
A)発癌実験:
その後のDABによる発癌実験のデータをお知らせします。(表を呈示)血清は全部仔牛血清を使い#C-45あたりからprimary
cultureの内に培地無交新をおこなう実験をはじめました。これを#C-48まで、4回くりかえしておこない、#C-49の実験では初代の第9日に、中性子を1100、275、89rと各2本宛に照射しました。これはいずれもまだ初代のままで、形態的にはまだ変化が認められません。またこの実験では同時にDAB-n-oxideをDABの代りに用いる実験もおこない肝細胞の増殖が起りましたが、これはratが若く、control迄増えていますので、n-oxideそのものの作用か否かは、これだけでは何とも申せません。
B)培養細胞の復元成績:
これまで約18回に渉って、色々の処理をしたRLD-系の細胞やprimary
cultureをラッテに復元接種しました。5万個〜200万個/ratの幅で、皮下、腹腔内、脳内、門脉内、脾内などに入れましたが、残念ながら、今日までのところでは未だ腫瘍形成に成功いたしません。最近の黒木班員の報告によると、Hamster
pouchが非常に有望の旨ですので、1963-11-24、RLD-7を300万個、golden
hamsterの片方のpouchに接種しましたが、今日までのところではまだ腫瘍を作って居りません。
C)L株亜株L・P3細胞へのコバルト60γ照射:
L・P3細胞は合成培地DM-120の中で3年以上も継代をつづけて居る細胞で、その特異的なアミノ酸代謝については、先般の培養学会で関口君が紹介し、また月報No.6312にも報告しました。このL・P3にコバルト60γを照射したところ非常におもしろい変化が現れましたので説明します。但しこの時期の細胞は、γ線でやられて変調をきたしている細胞であって、いわゆる耐性細胞ではありません。最近この培養のなかから、普通のL・P3と同じ形態の細胞が増え出してきました。これはいわゆる耐性細胞に相当すると思いますが、これについてはもっと沢山に増えてからしらべてみる予定で居ります。将来の計画としては、もっと軽くγ線をかけ、アミノ酸合成酵素を一つだけこわし、それに相応した染色体の変化をしらべて、当該酵素をつくるgeneのchromosome上の位置を決めて行きたい、ということです。
D)映画供覧:
今秋11月6日New Yorkで開かれた第3回アメリカ細胞生物学会に於て展示した顕微鏡映画、これは4月の医学会のときお見せしたfilmにさらに手を加え、Controlも加えたものですが、一応御らんに入れます。"Interaction
in Culture between normal and tumor cells
of rats"16mm.Silent.
:質疑応答:
[寺山]Leucineを出す、ということはどんなことでしょうね。
[関口]Waymouthの処方でもLeucineを入れてないものがありますね。やはり培養細胞と生体全体とでは必須アミノ酸がちがっているのでしょう。
[黒木]この映画のようなことが行われているとしたら、双子のparabiotic
cultureでしらべた増殖曲線でももっと差が出て良いのではありませんか。
[安村]Contact inhibitionも、培養法によって、その性質を得たり失ったりするでしょう。
[黒木]なかの黒い顆粒は何ですか。
[勝田]中性赤で超生体染色される顆粒、三田村先生がmetachondria(顆粒体)と命名され、今日一般にはLysosomeと呼ばれているものに一致すると思います。
[奥村]顆粒の単位で、肝癌が正常細胞から物を取るという所がはっきり判らなかったのですが・・・。
[勝田]一ケ所ははっきり見えた筈ですが、他のは解析してみないと正確には証明できません。但し顆粒の単位で移って行かなくても、正常細胞内で液状(位相差で見えない状態)のものが、肝癌内に吸いとられてから顆粒状になって核の方に進んで行く場面は沢山見られたでしょう。肝癌は要するにcytosis作用で正常細胞の細胞質の中から色々のものを吸収しているわけで、その吸取る場所と吸取られる場所はどちらもEndoplasmic
reticulumから通じている細胞質の穴のところだと思います。
[山田]細胞内では色々な構造が恒久的でなく、変るものと考えてよいと思います。
[勝田]Mitochondriaなんか切れたりくっついたりしています。
[山田]放射線照射の場合ですが、培地組成をうんと簡単にしてX線などをかけると変異がはっきり出るでしょう。
[寺山]変異とは単に栄養要求が変っただけのものを変異と呼んでも良いのですか。
[安村]菌の場合は呼んでいます。そしてその変異したもののDNAを親株にかけて、親株を変え得るなら、たしかに変異株と云って良いでしょう。
[土井田]大きな場合は染色体の単位、小さな場合はgeneの単位の変異をmutantと云います。マウスの骨髄に計900r照射するのに、100r/min.でかけると、50%変異が現れますが、1〜2r/min.では0〜8%にすぎません。前者では細胞が殆んど死にます。そして残ったわずかのものが増えてくるので変異が認め易いのですが、後者では死ぬのが少いので変異が認めにくいのです。しかしgeneには変異があるかも知れません。照射量の少いときは一旦切れた染色体が、またくっつくという場合があり、そのとき必要なenergy源を供給せずにもう一度照射すると矢張りやられてしまいます。
[安村]大量照射の場合は、ほとんどの細胞がやられますから、変異というよりselectionということの可能性の方が大きくありませんか。
[奥村]集団として仮に2,000r.かけた場合、変異を起すと一応皆生きられない筈です。たまたまその変異した内の何ケかが生き延びて増えた場合は、変異型というわけですが、その2,000r.に対して初めから耐性のある細胞が残った場合はselectionによるものと考える。後者の方が前者の場合よりcolonyの形成が早いです。
[土井田]Selectionはspontaneous mutantを拾ったものと思います。そしてこの場合X線はselectorの一つと云えます。
《佐藤報告》
発癌の判定:
前号につづきAH-130(腹水肝癌・動物株)による腫瘍発現性の検討を行っています。
Exp.No.3は3匹しか仔が生まれないで注射後全例死亡して失敗しました。
Exp.AH-Tox.No.4:1963-11-14、suckling D-Orats、
6days old、Material F3(1) 9th day after AH-130
inoculation、intracerebral、 0.03ml。
結果は(図表を呈示)1000細胞接種群は4匹中12日と13日に1匹宛14日に2匹死亡。100ケ接種群は4匹中15日16日に2匹宛死亡。
他の実験は未だ結果がでていませんから16mm映画の供覧と御批判をいただきたいと思ひます。
:質疑応答:
[山田]DAB代謝をしらべるのに組織としてどの位の量が必要でしょうか。
[寺山]組織量として50mg必要です。(wet weight)
[山田]それなら培養細胞でも代謝はみられますね。1gまでとれますから。
[勝田]肝癌になるとDAB代謝がないというのは何かの酵素系がなくなるためでしょうか。それから腎臓の細胞の培養でもDABが減少するのはどういう訳でしょう。
[寺山]腎も肝の1/10位の機能があります。DAB-methylaseをみているのか、DAB-reductaseをみているのか良く判りませんが。
[山田]連続投与していることはselectしていることになりますね。
[佐藤]DABに耐性の細胞から癌が出てくる可能性があります。
[寺山]n-oxideは腹腔内接種すると毒性が強いです。
[高岡]映画のEhrlich細胞の動き方は、露出間隔のちがいを考えると、うちで撮ったAH-130の動きよりおそいようですね。
[山田]Lで走行距離を計算している報告がありますね。
《黒木報告》
Hamster cheek pouch移植法の基礎的研究:
III.Syrian hamster albinoの移植成績(EXP.191)
Hamsterは次のように分類されます。
(1)chinese hamster(cricetulus barabenis)
(2)european hamster(cricetus cricetus)
(3)Syrian hamster(Mesocricetus auratus)
このうち、もっとも広く使はれているのは、Syrian
hamsterです。
chinese h.は特殊な目的(染色体)に、european
h.は日本にいないそうです。Syrian h.は通常毛の色が黄褐色ですのでGolden
h.又はSyrian golden h.と呼ばれています。この他Syrian
h.にはvariantとして、albino、Pandaの二型があります。すなはち、Syrian
h.はgolden、albino、Panda、となります。
今回は、これらのうち、albino型が実中研より入りましたので、吉田肉腫を100万個から100個inoc.し、Goldenとの感受性の比較を行いました。8/11'63移植ですので、まだ最終的な結果は分りませんが次の様になります。
接種細胞数 1000,000 100,000 10,000 1,000
100 10
albino h. 6/8 5/8 3/4 2/4 0/4 -
Golden h. 8/8 4/4 3/4 8/18 3/8 1/8
Golden h.と比較すると移植率も低く、又6311号で陽性と分類したIII、IVの中IVがないことが目立ちます。(観察期間はまだ1ケ月ですので、そのうちIVが出ないとは云えません)第一報(月報6310)で使用のhamsterより体重の多い(成熟している)のが気になります。このAge-factorがどの程度関係しているかは、まだよく分かりません。
IV.Cortisoneの影響(Exp.192 8/11 inoc.)
異種移植にCortisoneを用いたのは、Toolanが最初です。(1953) その後異種移植の際は、必ずと云ってもよい程、Cortisoneが使用されるようになり、その効果は確認されています。Foley,Handlerらの報告によりますと、Cortisoneの効果は細胞数にして平均10倍(0〜100倍)程度のようです。(HeLa、KBはCortisone処置とは関係なく1.0x10で(+))
この実験は、吉田肉腫を用いてCortisoneの効果をみたものです。恐らくtransplantabilityと増殖経過の両者に関係すると思はれますが、まだ、実験開始後1ケ月ですので、前者についてのみ記します。
Cortisone処置の方法はFoley,Handlerらの方法に従いました。即ち、移植直後より週二回、Cortisone
acetate(日本Merck萬有"Cortone"25mg/ml)を2.5mg(0.1ml)/Hamster、皮下に注射します。この実験では0、3、6、11、14、17、21、24、27にinj.しています。
接種細胞数 1000,000 100,000 10,000 1,000
100 10
Cort.処理 8/8 8/8 6/8 8/8 4/8 0/6
non.処理 4/4 3/4 2/6 8/18 3/8 1/8
表に示すように、移植率はやや上昇しています。ここでも、問題になるのは体重の多いことです。50〜60gのHamsterを用いればもっとよい成績を得るかも知れません。このDataから云えることは、Cortisone処置は絶対的なものでなく、補助的な役割をしているのに過ぎないことです。もっとも重要なのは、移植する動物部位の選択であると思います。
V.YS 1000個−非処置Hamsterの再実験(Exp.194
8/11)
第一報(月報6310)で非処置HamsterにYS 1000個inoc.のときの成績は0/8(I=4、II=4、III=0、IV=0)と100個の3/8、10個の1/8に比較して移植率が低かったため、やり直しを行いました。前回のHamsterは生後26日、体重62、58、56、70gです。今回の動物は生後45日、体重72、70、80、74gとやや大きいものです。その結果は8/10と可成りよい成績です。異種移植のDataはばらつき易い傾向があるのですが、それにしても一寸ひどいようです。
§今後の実験方針§
Cheek pouch移植法の仕事は、吉田肉腫についてやっと一通り終ったところです。今後の方針としては次の様なものがあります。
(1)体重のそろった(50〜60g)Hamsterを少くとも50匹まとめて入荷出来るような条件を作ること。
(2)他の移植腫瘍を用いて、腫瘍間の差をみること。次に予定されているものとしては、MH134、129P、129F、FM3A、SN36、AH13、AH66F、AH7974F、Ehrlich、S180、AH130、C3H乳癌等があります。C3H乳癌は腺癌ですので、組織像の変化をみるのには好都合です。
(3)それらの培養細胞:癌学会から帰って来たところ、吉田肉腫の継代細胞(74代、2年10ケ月)が雑菌感染で全滅していました。しかし動物にもどしたのがありますので(71代から2代in
vivo継代)これから再び継代する予定です。(腹水の腫瘍細胞の形態は長期培養のそれと同じです。その他継代されている培養細胞が二三ありますので、試みてみる予定です。
(4)正常細胞、胎児、正常臓器、diploid strain等を予定しています。
(5)他移植法との比較、Mouse、Hamsterの24hrs.内のnew
bornを用ひ、Cheek pouchとの比較を行う予定です。これだけのことが完成するのは何年先か分りません。
:質疑応答:
[山田]吉田肉腫って特別なのじゃないかしら。他の細胞はそんなに1月も保たないで消えてしまいます。
[奥村]種別の組合せによってずい分ちがうでしょう。
[勝田]正常の細胞もやってみて、質的なちがいがあるか、数的なちがいだけなのかも調べて頂きたいですね。消える前に次に植継いだりすることも・・・。
[山田]コブができていても組織学的にみると殆んど正常細胞しか残っていないことがあります。
[安村]そのコブがハムスターの癌になっていて、もうラッテへは戻らなくなっていたら困りますね。
[奥村]やはり同種の動物に復元することが望ましいと思います。
[安村]ハムスターという動物の良し悪しでなく、hamsterの"cheek
pouch"が特異的に免疫学的に適当ということです。それから前回の月報での勝田批判への釈明ですが、1)脳内接種と皮下接種の比較は、前のデータは脳内へは5,000ケ、皮下へは100万個と、入れた細胞数がまるで違うので、必ずしも同じ見地からは比べられません。2)生後24時間のマウスと1週のマウスとは、違いがあることもあり、無いこともあります。
[黒木]それは細胞によってもちがうでしょう。吉田のように増殖の早いものは違いが少いですが、7974のようなのでは24hrの方が48hrよりつきが良いです。
[安村]自分のデータでは、果糖肉腫では皮下より脳内の方が感受性が高いです。
[佐藤]発生した臓器にもよらないでしょうか。
[黒木]癌になると臓器特異性はなくなるのではありませんか。
[勝田]私のparabiotic cultureのデータでは、やはり(肝癌←→肝)(肉腫←→センイ芽細胞)という関連が見られます。安村君にやってみて頂きたいのですが、正常細胞と癌と色々な割合に混ぜて接種したらどうなるか、データをとってみて下さい。腎細胞と果糖肉腫とか。
[安村]やってみましょう。おそらくfeederになってtakeがよくなるでしょうね。
[勝田]Goldblattたちがembryoの組織を使ってやってますが、cell
countはとっていません。
《伊藤報告》
先ず前研究連絡会で報告した実験の続きを報告致します。(表を呈示)
此の結果、全経過を通じて、核数増加と考えられるものは、分母:全試験管数、分子:核数増加の認められた試験管数として、対照:1/42、DAB7日添加:6/42、DAB継続添加:3/42、と云ふ事で、此の増加が、DABによる増殖誘導と考え得るかどうか甚だ心もとない感じはありますが、或は実際に此の程度の割合で増殖が誘導されるのかも知れません。
☆次の実験を11月10日に開始しました。
実験群は前回と同様の3群とし、実験開始後10日目、20日目、30日目に各回、各群15本づつの試験管について細胞核数を計測して各10日間に於ける核数増加の頻度の大略を知らうとしました。
(1)核数増加と考えられるものは、10日迄ではDAB添加群に各1本、20日目迄では対照群に1本、7日群に3本、継続群になし。
(2)此の様な実験Systemで、核数増加tubeの発現頻度でDABの影響をみるとすれば、此れ迄のDataと考え合せて、10日以前には計測する必要がなさそうである。
(3)継続添加群では、20日目で対照群に比して核数の少いものが多く、どうもむしろ細胞障碍が現れているようである。従って今後はむしろ7日以内の添加の場合についての検討が必要と思える。
(4)前回勝田先生に指摘された核の型、染色性について注意してみたところ、確かに核数の増加を来たした場合の核に、比較的compactな而もはっきりと赤い色調を帯びた核小体(2個ときには1個)を認め得る核が多い事を認め得ました。
:質疑応答:
[勝田]DABを7日間も入れないで、もっと短期間のもやって下さい。それから計数できるのだから、総数何ケの細胞の内、何ケが分裂したか、という計算もしてみて下さい。
[奥村]核の染まりの悪いという肝細胞でも生きているのですか。
[勝田]生きているよ。Catalase活性も残っているし・・・。核の染まりが悪いのではなくて、肝実質細胞は他の細胞よりクエン酸に対して強いので、細胞質が残ってそれが染まってしまい、核が見えないのです。
[寺山]DABをくわせて前癌状態のとき、全肝臓の細胞数がふえています。これはnecrosisに伴うregenerationなのか、それとも真の増殖促進でしょうか。
[勝田]東大病理の斎藤氏は前者と考えるようですが、我々は後者と思います。
[山田]DABを長期たべさせたりしないで、肝に直接注入して1回位で早く出来させられませんか。
[寺山]メチルDABのデータですが、ゾンデで週1回大量にやってみましたが出来ませんでした。つづけてやるということに意味があるらしいです。
[山田]伝研製の純系ラッテでDABをやってみたら・・・。
《杉 報告》
Golden hamster kidney−Stilbestrol:
今までの各実験例において、培養したroller
tubeの本数に対する細胞増殖をおこした本数を百分率であらわしたものを日齢別に整理して図示すると次の如くなります。(1図を呈示)各日齢において一般に実験群の方が高率になっていますが、特に100日以上では、対照群の増殖が悪いのに比して、実験群では若いところとほぼ同じ様によく、対照との間の差が顕著になっています。これは薬剤の作用濃度、期間などの違った実験例も全部含めてあらわしたものですが、これらの実験例のうち、stilbestrol
10μg/ml、4日間作用だけをとり出して図にあらわすと(2図を呈示)大体傾向としては1図と大差はありません。20〜30日の比較的若いところで実験群と対照群が1図よりもはっきりと分れていますが、勿論数が少いので断言は出来ません。
次に性別に分けてみますと、(3図を呈示)日齢別にみても全体的にみても性別による差は殆んどありません。
又、先頃からmarkしている空胞様変化を伴った上皮様細胞団についてみますと(4図を呈示)100日以上では実験群、対照群とも低率で(尤も3例しかないのではっきりは云えませんが)一方、70日以内のところでは実験群で比較的高率に出たものがあるのに反し、対照群では50%以上のものがありません。4図を1図と比較した場合、1図では全体的にみれば、対照群も実験群も同じく高率のものがあります。しかし4図では対照群では実験群と同じく高率を示した例がないというところに違いがありました。
空胞様変化を伴った細胞自体には増殖能はあまり期待出来ないが、それに混在する上皮様細胞には増殖能を期待出来ると思われるので、今後もこの細胞団はmarkして追跡するつもりです。
それと同時に、前報にも書いた様にも少し長期間細胞を維持出来る様に工夫することに主力を注ぎたいと思います。そのためには使用する動物の日齢を下げるということ、即ち今までは20日以内のものはあまり用いていないので以後は出来る丈20日以内のものを使用する様にしたいと思います。今まで行った実験のうち20日以内のを用いたのは廻転培養2例を含めて3例で、偶然かも知れませんが、例の特徴ある上皮様集団が出ませんでしたが、そのご行った実験では16日のもので実験群に高率に出ています。
:質疑応答:
[勝田]生後100日以上のハムスターのとき差がはっきり出ていますね。ラッテの肝対DABでは生後3週以内が良いのですが、これだとadultの動物を使えるという良い利点がありますね。オスにも差があるようだからteststeronでも使ってみたら・・・。
[杉 ]Hyperplasiaが見られたという報告はありますが、その実験条件は不明な点が多いのです。
[寺山]ホルモン以外に、細胞をattackするということが発癌では大切です。
[安村]Stilbestrolが上皮細胞に効いているということを目標にしているのなら、ずっと長く入れておくと無くなってしまうのですか。
[寺山]さっき勝田さんがDABを入れるのに7日以下にしろと云われたのはどういうことですか。細胞がやられる位の方が発癌の可能性があるのではありませんか。動物に食わせるときも、初め1ケ月位、肝細胞がどっとやられて、それから新しいのが出てきて、半年位で肝癌になるわけです。
[伊藤]細胞がやられてしまわない内に一寸やめて、又入れる、というのをやってみようと思っています。
[高岡]動物ではDABを休み休み6ケ月位投与すると如何ですか。
[寺山]Total doseのDABが投与されれば、期間とは無関係に発癌するという人がありますが、しかしやはり或程度期間と関係があって、Total
doseだけではないと思います。途中で休むと癌ができないですね。
[安村]Tumorは徐々にふえて大きな癌になるのですか、それともsleepingしていて急に増大するのですか。
[奥村]DABを加えて起るdamageに対する再生がくりかえされることによって癌になるのではありませんか。
[関口]肝癌の場合には質的な特異性があると思います。単なる再生のくりかえしから起るとは思えません。
[山田]再生肝(肝部分切除)をくりかえして1年つづけたが肝癌になりませんでした。生体では1回の刺戟で出来ることもありますが・・・。
[黒木]初代でDABを連続投与して、継代したとき壁につかなかった、という細胞は死んでいるのですか。
[勝田]判りません。その着かない細胞に悪性化したのがいるのじゃないか、と山本正氏も云っていました。
[黒木]腹水肝癌各系の中には硝子につかないのが沢山あるのですからね。
[佐藤]幼若ラッテはDAB代謝能が弱いのではありませんか。
[寺山]そうです。4日間だけ投与してまた新しい培地にかえると、折角そこでmetabolicalに変っていたものが、また戻る可能性があります。
[勝田]つまりn-oxideを使うと良いだろう、ということですね。
[佐藤]ラッテの肝細胞に長期間加えるとどうでしょう。増殖させない状態で。
《土井田報告》
In vitroで継代された細胞の有する染色体構成は、いろいろの理由により由来した動物の体細胞でみられる染色体構成と甚だしく異なっている。この様な染色体の特徴を捉えるためには染色体数を算えるだけでなく、全体の染色体の特徴について形態的にみることも有効であると思われる。此のような目的のために、いろいろな表現方法がとられてきているが、その方法と共に用語もかなりまちまちであるように思われますので、それらの点について簡単にまとめてみました。
1930〜1950年代の文献から用語、核型のあらわし方、などについての解説(省略)
【勝田班月報・6402】
A)発癌実験:
(1)#C49(1963-11-21開始)
前回の班会議でこれについては若干報告しましたが、生后7日Rat肝で、DABとDAB-n-oxideを1μg/mlかけたもので(4日間)、第8日より増殖が何れの群にも起り、Controlもふえ出しましたが、その内DABをかけた群から2本宛えらんで、中性子を1100rad.、275rad.、89rad.の3種に照射しました。1100と275の両群は目下のところ迄、細胞は増えも減りもせずそのままですが、89rad.照射群に照射后約50日に至って、細胞シートの周辺にやや大型の(図を呈示)水滴状の形態をした細胞が現われてきた。これが今后どんどん増殖するかどうかは判らないが、何かしらの手応えはあったわけである。楽しみにしています。
(2)#C50(1963-12-10開始)
JAR-ratのF19・♀生后26日の肝をroller tube12本に培養し、4本は無添加のcontrol、4本はDAB、4本はDAB-n-oxide各1μg/mlに、現在まで約1.5ケ月間連続的に添加しています。この実験では、Control、Exp.両群とも何れも増殖が起りませんが、添加の両群は、explantsのまわりの游出細胞に、こわれた細胞が多く認められます。長期間連続投与は今后もつづける予定です。
B)復元実験:
1964-1-27:RLD-7がやっと大分ふえ貯りましたので復元を試みました。RLD-7はDAB
4日だけのExp.群ですが、DAB-Exp.群の内ではいちばん細胞のAtypismの激しい株です。但し、Control群はきれいな形態をしていますので、このAtypismはDABのためと考えてよいと思います。JAR・F20の生后22日rat2匹を使い、各約800万個宛入れました。復元部位歯、1匹は後肢大腿部筋肉内、他の1匹は背部皮下です。目下観察中。
C)その他:
正常ラッテ肝とAH-7974のparabiotic cultureを試みましたが、結果はAH-130のときと同様でした。L・P3が消費する僅少種類のアミノ酸だけをRenewalのときに与えてずっと増殖をさせています。L・P3の放射線照射后のアミノ酸代謝もしらべています。
《佐藤報告》
AH-130(勝田研究室でJARを用いて継代していたもの)をDonryu系を用いて岡山で継代して其れを接種材料とした。Donryu系のSuckling
ratsにintracerebralに10,000〜10ケまでのAH-130細胞をinoculationして腫瘍死するまでの日数を記録した(表を呈示)。
以上の実験から、次の事が云えると思う。
(1)腹水肝癌AH-130はDonryu系ラットの乳児脳内接種で100細胞があれば全例腫瘍死する。62例中1例を除いて20日以内に腫瘍死している。
(2)10個の細胞の場合(目下観察中のものがあるので確かではないが)腫瘍死しない物が出る。実験材料及び方法において腫瘍細胞が脳内に入っていない場合も想定される。
(3)これらの実験からいろいろの応用ができると考えられる。
《伊藤報告》
先ず、前回の実験の続きを報告します(表を呈示)。
此の結果、本実験の全過程を通じて、核数増加としたものは、対照群(3/43)、7日添加群(7/42)、継続添加群(1/42)と云う事になります。
其后12月に行った実験では細胞が全く管壁につかなかったり、又壁についた細胞も漸次減少してしまったりで、結果を得られるところまで行って居りません。ratがelder
ageにあった為かと考えて居ます。本年に入って生后22日目のratを用いた実験では、今のところ旨く行ってますので、此の結果は2月の連絡会の際に報告致します。
昨年内に行った実験で"対照に比してDAB 7日添加群で核数増加を来す場合が多い傾向"は認められましたが、此れがDABによる増殖誘導の効果の現れとみるには、まだ危険がある。今后これをはっきりさせる為には、(1)核数増加をより頻回に起させる。(2)核数増加を来した試験管内の細胞を集めて継代培養してより多くの細胞を得る。(3)現在培養されている細胞の組織標本を得る。
此等の努力が必要と思われ今迄も努めて来ていますが、うまくゆきませんでしたが、尚今后もやはり此等の点に努める積りです。次回の連絡会で又皆様方の御助言を得たいと考えて居ます。又前回の連絡会の際に話題になりました様に、DABを添加し続けて細胞がへばりかけた状態の中から、強い増殖能を持った細胞の出現を期待すると云う事もやってみています。
又今年からは、DAB以外に種々細胞成分、Actinomycinは是非やってみたいと考えて、具体案をねって居ます。
《杉 報告》
golden hamster kidneyのprimary culture−diethylstilbstrol:
hamsterの日齢は従来比較的老齢のを用いてきましたが、最近は生後20日以内のを用いています。前報の図では若いものよりむしろ老齢のもので対照群と実験群との差がはっきりと出ていますが、20日以内の若いものを今まであまり使っていないのと比較的長期の培養、発癌ということに対しては若い方が有利ではないかと考えて試みているわけです。確かに若い方が老齢のものより細胞の生え出しも早く増殖もいいので、培養したR.T.の数と細胞増殖の起ったR.T.の数の比をとってみると、対照群の成績がよいために実験群との差がはっきりと認められません。しかし例の上皮様細胞団をとり上げてみると僅かではあるが、実験群に余計に出てきます。しかもこの細胞の拡がり方は老齢のものに比べていい様です。次に薬剤の作用期間ですが、従来は濃度10μg、作用4日間というのを主としてやってきましたが、最近は濃度は一応10μgとして作用期間を6〜7日に延長したり、又繰返し間歇的に作用させる方法をとっています。この繰返し作用については例数が少いので断定は出来ませんが、作用直後よりも正常の培地で交換して(即ち作用を止めて)数日後に効果があらわれる様で、それが特に例の上皮様細胞について云える様です。但しその効果は顕著という程のものではありません。又primary
cultureに作用させる時、培養当初から作用させた方が予め培養したものに作用させるよりも効果が出ることから、一応第2代へ継代と同時に再び加えるということも試みましたが、これは却って悪い様です。したがって今までの印象では繰返し作用が強過ぎない様に濃度と作用期間をうまく調節すれば確かに効果があるのではないか、第2代に継代と同時に作用させるのは細胞にとっては継代という一種の環境の変化、外力が加わる時期に一致してまずいのではないかと考えています。次に培地組成中、牛血清を従来5%としていたのを最近数例は10%としていますが、今までのところ実験群、対照群ともfibroblastが主として出てきています。
又explantで培養した場合、両群の差を細胞数として表わせないのでtrypsin消化による法を考えていますがまだ薬剤未作用でdataになっていません。
《黒木報告》
Hamster cheek pouch移植法の基礎的研究:
.cheek puchの免疫獲得について(Exp.193、197)
異種移植の際、cheek pouchが非常に優れた部位であることの理由について、(1)血管の豊富なこと、(2)免疫学的特殊性が挙げられています。血管の豊富なことは事実ですが、それだけでは説明できません。免疫学的特殊性も証明はなく、推測にすぎません。cheek
pouchと云えども、同じ体液にさらされている訳ですから、humoral
immunityの立場からすれば、それ程特殊性があるようには思えません。
この実験はcheek pouchが後天的な免疫能を持つかどうかをみたものです。即ち、前処置として吉田肉腫細胞を腹腔内、皮下、cheek
pouch内に移植し、一旦増殖后治癒した動物に、再び吉田肉腫をcheek
pouch内に移植します。もし、前処置により免疫を獲得していれば、二回目の移植に対してはrejectする筈です。
前処置方法及び部位
(1)皮下及び腹腔内移植
月報6312に報告した皮下及び腹腔内に1,000万個移植した動物です。いづれも、3〜5日に腫瘍増殖をみています。
(2)cheek pouch前処置
月報6311の非処置ハムスター移植のものです。移植量は1,000万個〜10個総量 、 、 です( は全く腫瘍を作らないもの、 は米粒大の腫瘤形成、 はprogressive
growthの後
regressしたもの)
再移植
再移植は全てcheek pouchに行いました。細胞量は100万個、これは前回の実験で100%
tumor growthを示す量です。前処置から再移植までの期間は、皮下腹腔内移植の場合は、86日、cheek
pouch前処置の場合は62日及び88日です。なお再移植、前処置いずれのときも、Cortisoneは使用していません。(結果の表を呈示)
これらの成績からcheek pouchが前処置により免疫を獲得していることがわかります。すなわちcheek
pouchは免疫に関しては、少くとも後天免疫に関しては特殊な部位ではないように思えます。
なお最近、同様の成績がSV40及びSV40でtransformした細胞についても報告されています(Khera,K.S.et
al)。SV40を皮下にinj.し前処置したhamsterに3〜4w后、SV40でtransformした細胞を皮下、脳内、cheek
pouch等にchallengeします。challenge細胞が100〜10,000のときはrejectされる、と云うものです。例えばcheek
pouchの場合は、controlのTumor Producing Dosis(TPD)50が250であったのが70,000に上昇すると云うことです。
吉田肉腫細胞の継代について
昨年10月、吉田肉腫の継代細胞が雑菌感染のため切れてしまいました(74G.949日)。しかし、生き残りの復元動物を解剖したところ、そのうちの一匹の大網膜に拇指大の腫瘤を発見し、それから2代植継いだ後、腹壁の腫瘤をpancreatin消化により培養にもって来ました(培養経過を簡単に図で示す)。動物体内は結局3代103日経過したことになります。
その後、順調に継代され、現在77代です。培地は長い間用いてきた血液添加LE50BS50からEagle(1959)+1mM
of Pyruvate+20% of BSにかえました。理由は、この培地が優れていること(月報6308)、血液を採る手間がはぶけること等です。
現在までに次のことが分っています。(1)増殖態度:36〜50時間のGeneration
time、これは10,000、1,000、100、10のときでも同様です(図を呈示)。(2)形態:核の形態は培養細胞のそれです。(3)移植性:低下している模様。
以上の事柄から、この細胞は100日間動物体内を通ったに拘らず、以前の培養細胞の性質を維持しているものと思われます。
《山田報告》
1.ヒト二倍体繊維芽細胞株の細胞分枝系(クローン)の増殖態度
比較的若い継代数の培養(10代)から9個のクローン(コロニー)を分離しました。そのいづれも一個の細胞から5mm径以上のコロニーにまで増殖したもので、全細胞集団中比較的発育のよいものを取りました。しかし実験に使える程度に発育のよいものは1系(T5-F)だけで、あとはコロニーから次の継代で単層に増殖したものの4日毎に継代してゆくには増殖が遅すぎ、分裂細胞の頻度が極めて低く、plating
efficiencyは5%以下でした。
この成績から考えられることは、ある継代の培養でコロニー形成を行うまで増殖した細胞でも、新らたに培養すればまたふえるものとふえないものに分れてくること、すなわち細胞の増殖能は接種時の細胞−環境の関係によって支配されるらしいということであります。もしすべてのクローンが増殖能が高いという結果がでたとすれば、継代につれて、これらの細胞が次第にふえてくるはずで継代にしたがって増殖度が落ちるという事実と矛盾します。今増殖度の比較的高いT5-F系について実験を進めています。
2.二倍体繊維芽細胞株の個々の細胞のDNA含量
継代中出現する非増殖細胞については染色体数を測定し得ず、したがって分裂の際に不平等にDNA(染色体)が娘細胞にわかれ、そのために増殖能が失われたのかも知れないという考え方があります。この考え方によれば非増殖細胞は"異常細胞"で正常でないわけです。非増殖細胞のDNA全量が2n細胞と同じかどうかを調べる手始めとして、増殖、非増殖細胞の混合集団について、顕微測光法で50個の細胞のDAN量を測定してみました。測定の結果、2nに相当するものが断然多く、4nの2倍以上あります。勿論測定誤差がありますので、染色体数のように2nと(2n-1)を区別はできませんが、大部分の非増殖細胞はやはり2n程度のDNA量をもっていることが推定されました。なお、8nの細胞もでていることにも御留意ください(図を呈示)。
【勝田班月報:6403】
§特殊培養法による培養内発癌の研究§
RLC-2株(ラッテ正常肝よりの細胞株で2nの42本染色体を高度に維持している)を用い、タンザクを挿入した平型回転管で5度に傾斜、37℃で静置培養した。週2回培地を全量交新し、3週間後にトリプシンで剥して細胞をプールし、これを3本の同様なtubesにSubcultureした。ところが、それから2週間後どのtubesにも肝細胞とは形態を全く異にする細胞の集落が形成されはじめているのを発見し、以後その集落を観察していると、日と共に目に立って集落は増大した。
(顕微鏡写真を呈示)新生細胞は円形で、いわゆるContact
inhibitionを失った模様で、立体的に盛上って増殖する。位相差所見は、コントラストが肝細胞とは全く異なり、一見して区別できる。核小体が著明に大きいのも特徴の一つである。核の大きさに比べ、細胞質は強塩基性に染まり、核小体も太く濃く染まる。細胞はちょっとした振動で容易に剥れ、肝細胞のシート上の各処に転移集落を形成して行き、各所にそのColonyが認められるようになった。Colonyとして見るとき、頂度RLC-1株に肝癌AH-130を入れたときのような、集団としての侵略形成が認められた。分裂像も多く認められ、7日間に10〜20倍の増殖度と推定される。
これらの所見は、各種の肝癌細胞を培養した場合の形態学的所見に酷似している。まだラッテへの復元実験は試みてないが、細胞が可能量まで増え次第、復元をしてみる予定である。しかし以上に記した所見よりみて、おそらくこの新生細胞は腫瘍を形成するものと推定できる。今まで数多く実験を試みたが、このような著明な変化を起した例は1例もなかった。(そしてそれらの復元は陰性に終っているが。)
この新生細胞がどこから、どうやって出来てきたか−、それは今後の研究をまたなければ明確な回答を下し得ないが、現在なし得る範囲で想像してみると、次のことが考えられる。
カバーグラスの下の細胞は、変性壊死に陥る。これは急速な変化で問題にならない。問題にすべきは、液が浸ったり浸らなかったりする、いわゆる"なぎさ"の部分の細胞である。ここの細胞は、ギムザによる染色性は無変化の細胞と殆んど変らない。しかし図のように(図を呈示)、核の形や大きさに著明な変化が見られる。変化のない細胞と比較すると明瞭に大きい。
つまりこの部分の細胞のDNAあるいはDN-proteinは、顕著なdegenerationに陥っていると考えられる。換言すればdisordered
DNAである。細胞質の崩壊も見られるので、このようなdisordered
DNA or DN-proteinの断片、あるいはかなりの部分が、健全な部分の肝細胞のDNA合成に組込まれる、ということは当然想像がつく。これは堀川班員がLでおこなった色々の実験からも推定できる。彼のExp.で、L、マウス脾、エールリッヒ癌細胞と3種の細胞からDNAをとって培地に加えると、Lは非選択的に、何れも略同率にとり入れて自己のDNA合成に利用する、というデータはDNAをAdenine、Thymidine、Guanine、Citidineのレベル或はそれ以下にこわしてから利用するという可能性を示唆するが、一方同じく彼のデータで、X線で障害を与えたLは、その回復のためにはLのhomogenate或はDNAだけが役立ち、他の細胞のでは駄目であるという知見が得られている。この場合にはむしろ高分子構造のままの利用が考えられる。
"なぎさ"のdisordered DNAが若し新生細胞の出現に役立ったとすれば、それはかなりの大きさのDNA(少くともA,T,G,Cまでには分解されていない)として働いたと考えるべきであろう。
私が何故この"disorder"ということを重視するか、というと、AH-130から抽出したDN-protein、RN-proteinをRLC-1の培地に加えても、細胞の形態的変化が起らなかったという事実を持っているからである。つまりAH-130のDN-proteinはAH-130としてのordered
DNAを有している。たとえtumor DNAでも、そのように"ordered"のDNAでは細胞に変化を起させるのに役立たないのではあるまいか。
従って、この発癌法を何回もrepeatしてみるのと他にコバルト60やDABを大量に与えて細胞に障害、DNA-disorderを与え、そのDN-protein或はhomogenateを、増殖しつつある正常ラッテ肝の培養に加えて、細胞の悪性化を図るExp.を併行的におこなってみたいと思っている。
さて、この"なぎさ"にできたdisordered
DNAは、どこにいる細胞に使われたかというと、これははっきりとは云えないが、とにかく液に浸ってどんどんDNA合成を順調にくりかえしている細胞によって利用され、組込まれ、そして変異細胞ができた、と考えるのが妥当ではあるまいか。そしてその組込む細胞にも若干のdisorderが起きている必要があるかも知れない。
いうなれば、これが私の"NAGISA-theory"である。勿論実験を重ねて行けば判ることであるが、soverslipの断端というものも、何かの役割をしている可能性もある。しかし前に示したような変化は決して無視することのなきない変化であり"なぎさ"にこそこれらの秘密をかくしている宝島であると想像される。
:質疑応答:
[関口]狂ったものを作るような、酵素レベルの、低分子のものが入って変える、ということは考えられませんか。
[勝田]酵素レベルのものが入っただけでは、一過性の変化しか起らない、かも知れないね。
[土井田]mouseの血中に、outo、iso、homo、heteroのDNAを入れると骨髄細胞に変化を起す。しかしDNAを低分子にすると起らない−という文献がありますが、かなり高分子のまま入らないと効果がないのかも知れませんね。
[佐藤]標本を見て思ったことは、細胞質が青く染まっているということで、印象的です。今までAtypismばかり追っていましたが、癌の場合は、その細胞質が青く染まるということを追う方が良いかも知れませんね。ウィルスによる発癌の場合はどうですか。
[安村]まだ染めてないからよく判りませんが、変ってないと思ってる内に変ったのがいくつかあって、それが"ふるい"にかけた時、初めて出てくるのではありませんか。
[勝田]この新生細胞はRLC-2を"feeder layer"にしているようです。そういうことも必要条件の一つに思われます。
[佐藤]ウィルス発癌の場合ですが、変化したのは振うと早く落してしまうから(剥れ易いから)振って落ちてきた細胞を新しい"feeder
layer"に入れると早く増えるだろうと思いました。
[黒木]あれはsubculturingの前にあったのでしょうか。あの調子だとどんどん増えてあの細胞だけになるでしょうか。
[勝田]Subculturingの前に出来ていたから(少くとも3ケ以上)継代後の各tubeに皆一えいに出てきたのだと思います。現在もどんどん増えて内1本は5本に継代しました。
[安村]前から感じていたのですが、タンザクというのは、へりで切る訳だから、異物感がりますね。
[山田]タンザクのままでなく、こわして入れると良いかも知れません。
[佐藤]Lは異物に感受性がありませんね。メチルコラントレンを結晶で入れても知らん顔しています。
(勝田註:Lは培養の歴史に、メチルコラントレンを入れられている。耐性があるのではないか。)
[黒木]"なぎさ"のところに変化が出たという話ですが下の方には出ないのですか。
[勝田]そうです。あんな変化はなぎさだけです。
[佐藤]接種量が非常に少いときにああいう形のが見られます。
[勝田]タンザクという条件が必須かどうかは、入れたのと入れないのと、今後、同時に比較してみれば判るわけです。
[黒木]明日はその細胞のことを"癌化した"と報告するつもりですか。
[勝田]形態学的にみて肝癌そっくりですし、99%発癌していると信じられると報告するつもりです。
[黒木]しかし形は癌細胞に見えて、腫瘍を全然作らない細胞がありますよ。
[勝田]放射線やDABのときも、変性したDNAが取込まれて発癌する可能性が強いと思いますね。
[関口]DNAの場合は変性というとsingle strandになったDNAを意味しますから、変化と呼んだ方が広い意味にとれて良いと思います。
[山田]RLC-2が変ったということは良いですが、変化の前に1年間培養していた、ということが必要なのかどうか、ですね。
[勝田]Primary或はそれに近いものでやってみる予定で居ます。
[安村]どうしてCloneをとってやらないのですか。
[勝田]使える迄に時間がかかりすぎるのが難点です。しかしその内やりますよ。
《佐藤報告》
培地内DABの減少についての報告
: 質疑応答:
[山田]平均細胞数はどうやってとりましたか。
[佐藤]細胞数は、まっすぐ伸ばして面積でとりました。(勝田註?)
[山田]癌になるとDABをとらなくなる、といいますが・・・。
[佐藤]DABの場合は、分解しなくなる、と云っています。
[勝田]培地内のDABの減少を見るという仕事は大変面白い仕事だと思います。DABの作用機序も判ってくるかも知れませんしね。
[佐藤]濃度のorderの問題があります。培地中でDABが減ってくると、細胞がDABをとらなくなりますから、はじめに大量に入れた方が良いと思います。しかしDABはTween20にしかとけず、しかもこのTween20が細胞増殖を阻害するので困ります。アルコールも使ってみましたが、少ししか溶けませんね。
[黒木]AH-130のDABに対する耐性はどうですか。
[佐藤]しらべてありません。
[勝田]DABの減り方をしらべる実験のとき、同時に短試で何群か培養すれば調べられて良いですね。
[山田]溶かすのにdimethyl sulfoxideが良いという説がありますが、どうでしょう。
《伊藤報告》
本年度最後の連絡会ですので、今迄に得られたDataをまとめてみました。
Teflon Homogenizerを使って得られたラット肝細胞に対するDABの増殖誘導効果
第一回 二回 三回
対照群 1/23 1/42 3/43
7日添加群 6/42 7/42
連続添加群 3/21 3/42 1/42
此の結果からみて"7日添加群で核数増加を来たす場合が多い"傾向は認めます。ところが昨年12月以後3回行った実験の凡てに於いて、どうも細胞の具合が悪く(日数と共に細胞が管壁からはがれてしまう)困っています。
動物のageについては生後20〜25日目のものを用ふれば問題は無いと考えています。
血清の問題は否定出来ません。何しろcalf-serumの入手が仲々困難で、種々とり換えて検討する事が出来ませんので。もう一つは培養法そのものについてです。何しろ、此の様にhomogenizerで組織をつぶして得た細胞を培養する事は今迄余り行はれて居らず、又今迄のところCellのばらし方の条件等余り考慮しないでやって来て、何とかやれて来たので、種々の条件(潅流、homogenizer等)について、何の規定も出来ていませんでしたが、最近のような事になると、もう一度最初に戻って必要程度にばらばらになった細胞を得るための、最少の処理条件を充分に検討して、はっきりしておく必要があると思はれます。
どうも又振出しに戻ってしまふので、残念ですが、今ここで此のような点をはっきりさせておかない事には、今後仕事を奨めて行く自信が持てません。暫く先へ進むのが遅れても仕方が無いと考えています。
此の方法で最初からばらばらになった肝細胞のprimary
cultureをconstantに可能にする事は、発癌実験を進めて行く上に、充分有用なる道具を提供する事になると確信しますので、何とかやり遂げたいと思ひます。
:質疑応答:
[勝田]うまく行かなくなったのは、ラッテのageの関係がありませんか。それから、この前も云いましたが、テフロンのhomogenizerだと気温によって大分隙間が影響されると思います。一定温度の液にでも浸して使うことも考えて欲しいものです。
[伊藤]Ageは25日以上のは良くないことは判っています。
[勝田]Homogenizeしたあとの細胞の生死率をニグロシンその他の染色法でしらべたらどうですか。それからDABの作用日数を縮めること。佐藤君のデータでは呑竜では1日が一番良い。
[山田]Trypan blueの方が良いでしょう。
[安村]Trypan blueよりもErythrosineBが良いです。(以下各班員より染色法の解説)
Trypan Blue(黒木):生食に0.25%にとかし、濾過後室温で保存します。細胞浮遊液0.5mlに、この色素0.5ml加え、15分以内にかぞえます。少くとも1時間以内にしらべないと駄目です。死んだ細胞は染まります。
[山田]このcountは、platingによるefficiencyとよく一致します。
ErythrosineB(安村):この方法はParkerやExp.Cell
Res.に出ています。Nigrosineより感度が上です。まずPBSに0.4%にとかします。しかしこれは過飽和の気味で、どうしても溶け切れませんが、濾過して使います。培地によって加える量がちがいます。血清培地ですと細胞が安定しています。培地1.0mlに対し0.3mlを加えます。無蛋白培地のときは1.0mlに対して0.05mlを加え、10分以内にかぞえます。死んだのは染まりますが、Trypan
blueよりも余計に染まる結果になります。
Eosine(山田):見えにくいし、毒性があってすぐ染まるようになります。
Nigrosine(山田):毒性はないが、見にくい。ゴミや顆粒が多くて。
《山田報告》
マウスに対する発癌剤の作用を調べるために、いろいろ考えた末、ddYマウス−アルキル化剤の系を選びました。臓器としては腎を使用するつもりです。その理由として
(1)ddY系はbrother-sister matingが進んでおり、また容器に多数を使用しうること。
(2)腎は胎児より成熟動物までかなり自由に培養でき、奥村君からもいろいろ教えてもらえる。
(3)Weiler、岡田(京大)らによって臓器特異抗原の研究は腎で進んでいる。
(4)アルキル化剤はAlkyletionにその発癌性(活性)が考えられ、これが代謝によって不活化されれば他に作用点の考えられないこと。
などの諸点があげられます。
研究方法として、できるだけ早い時期にコロニー形成を行い、個々のコロニーに対する薬剤の作用を調べ、クローンレベルで観察を進めてゆくことを考えました。このように考えたのは、腎は多種類の細胞から構成されている器官であるにも拘わらず、従来は単に繊維芽細胞とか上皮細胞という記載だけで、BHK21(繊維芽性)やPK(上皮性)のようにかなり均一でクローン性として扱いうるものは別として、多くの場合混在集団として継代されています。このような場合、かりに細胞の形態変化を認めたとしても、本当の意味での変異なのか、単なる混在細胞の選択なのか不明であろうと想像されるからです。
今回は生後3週のddYマウス腎を材料とし、Eagle's
essential medium(1959)にSerine、Glycineを10-4乗M加えたものに仔牛血清を10%添加したものを培養液として使用しました。(その後この種の培地では20%血清添加の方が細胞のコロニー性増殖に好結果の得られることが判りました)。まづ腎組織を細切した後、0.25%trypsinで37℃、30分作用しましたが完全なsingle-cell
suspensionが得られず、とりあえず上記の培地で1週間培養し、さらに完全(できるだけ)にtrypsinで解離して単層培養を行った後、3代目に1万個/5ml/シャーレに播き、炭酸ガスフラン器で培養し、2、3週に同定、染色して構成コロニーの形態学的特徴をケンビ鏡で調べました。
その結果、上皮性と考えられる細胞コロニーに3種類の細胞コロニーが存在する事、それに繊維芽細胞を加えると、少くとも4種類の細胞コロニーを培養しうる事を認めました。なお、生後3週のマウスでは繊維芽細胞コロニーの出現は殆んど認められず、人胎児組織(肺)とかなり異なる事が判明しました。これはマウス胎児について引続き培養を行ってみます。アルキル化剤としてNitrominの作用を調べた結果、10μg/mlで明らかな細胞変性作用を認めました。
:質疑応答:
[安村]いまの3種類の細胞が夫々つながって行くのですか。
[山田]判りません。将来腎の特異抗原を持った細胞がどれか、追ってみたいと思っています。私の実験ではcloneではなく、1万個位まいてコロニーを数十ケ作らせ、その形態を見て行くというやり方で進んで行きたいと思っています。
[黒木]ナイトロミンで発癌している例は多いのですか(勿論SN-36の例は知っていますが)。ナイトロミンはマスクされているからナイトロジェン・マスタードの方が良いのではありませんか。ナイトロミンの場合は、少数細胞では効かなくて、細胞が大量の場合に効果があると思います。
[山田]発癌例は沢山あります。しかしin vitroでnitrogen
mustardの方が良いというのは本当かも知れませんね。
[勝田]この研究法だと細胞の変ったことがすぐ判るから良いですね。
[安村]初代から単孤培養でcolonyを作らせれば仕事はやりいいですね。Mouseのembryoの組織なら「CS10%+Eagle」の培地を使えば必ず株になります。
[山田]私は「CS10%+Eagle+Serine+Glycine」でやっています。
[黒木]2倍体の培養をするのに、胎児とadultでは大分ちがいがありますか。
[奥村]はっきり判らないのではないでしょうか。胎児の方が簡単だとは云われていますが。
《杉 報告》
Golden hamster kidneyのprimary culture−diethylstilbestrol:
前回示したグラフでは細胞増殖とhamster日齢の関係は、細胞の種類を考慮に入れなければ、一応日齢100日以上のところで対照群と実験群との差が明瞭に出ており、一方上皮様細胞に限定してみると若いところでも両群の間に差がみられました。そこで生後20日以内のものを使った実験例が少いところから、そのごはそういう極めて若いものを重点的に使用しました。(表を呈示)これでみると血清を10%にした場合上皮様細胞の出が悪くなっています。1月の月報の様にグラフに示すと(図を呈示)、細胞の種類を問わなければ両群の間に差がみられません。これを上皮様細胞団についてみると次のグラフの如く実験群に時に高率のものがあり対照との差が出ています。
又Stilbestrolの作用のさせ方としては表の様に間歇的に行ったが、第2、第4例では第2回目の作用後に、対照群で上皮様細胞が減じて繊維芽様細胞が目立ってきたのに反して、実験群では上皮様細胞団がそのまま優勢を続けて増殖の傾向を示しました。
次にhamster liverのprimary culture−o-Aminoazotoluene:
伊藤班員のクエン酸ソーダ潅流法をhamsterに適用してやってみましたが、数回失敗したのち、かなり大量の細胞が1個1個バラバラになってとり出せる様になりました。現在3例(hamster日齢はそれぞれ50、58、110日)やっていますが最初の2例は10〜20日培養で増殖なく管壁から落ち、目下第3例が培養10日目です。クリスタル紫で染色すると取り出した細胞の約1/4が生きていると思われます。も少し若いhamsterにこの方法が適用出来る様に工夫、練習中です。
:質疑応答:
[杉 ]血清を10%にするとfibroblastsが多かったのですが、そういうことはありますか。
[奥村・安村]ハムスターの腎では10%でfibroblastsが多いようで、Epithelialには2〜5%で十分です。
[勝田]ハムスターでDABによる発癌はあるのですか。また期間は?
[杉 ]オルトアミノアゾトルエン(OAT)で50%発癌すると云われています。半年以上です。
[勝田]Stilbestrolより、腎には4NQOのような強い薬品の方が、良いのではないでしょうか。
[山田]その方が良いかも知れませんね。
[勝田]出てくる細胞がEpithelだとかFibroblastsだとか云っても、それが何の意味があるか、ということですよ。
[安村]はじめから両方ともあるんだから。発癌物質でなくとも、ただその両方の細胞を特異的に選び出す物質はあるかも知れませんが。
[奥村]ホルモンで出来た癌は、ホルモンを入れないと復元できない、と云われていますね。
[山田]ホルモンによる発癌は、ホルモンが直接働いているのか間接的なのか、それも判っていないし、問題がまだ多いですからね。
[勝田]Stilbestrolの場合は、ハムスターにこれで腫瘍を作らせてその腫瘍細胞を培養し、その性質をまずしらべるということを先にした方が良いのではないでしょうかね。
[安村]山田法でやればもう少しはっきりするでしょうが、このままでは進めにくいのではないでしょうか。Epithelは初めからあるのだから・・・。
《黒木報告》
Hamster cheek pouch内移植法の基礎的研究:
VII.Cheek pouchの解剖学的構造について
cheek pouchの構造は図のように(図示)口腔外に引き出した袋は、口腔内においては、逆転して一つの袋になります。(ポケットを外に出したときと全く同様の構造です)したがって袋を外に引き出し、その中に注射しても、口腔内にもどせば袋の囲りに存在することになります。実際細胞の増殖は必ずどちらかのcheek
pouch ep.に附着してみられます。腫瘤が大きくなるときは口腔側よりもむしろ外側(皮下組織)に向かって行きます。
すなはち、厳密に云えば、 cheek pouch内移植ではなくcheek
pouch傍移植であるわけです。
又、cheek pouchには筋肉がついています。これはretractor
of pouchと呼ばれ、第XI−XII胸椎の棘上突起より始る非常に長い筋肉です。この筋肉があるため、実験の際は十分麻酔をかける必要が生じます。cheek
pouchの詳しい構造は、次の文献に記載されていますので、御参照下さい。
Briddy,R.B.and Brodie,A.F.: Facial muculature,nerves
and blood vessels of the hamster in relations
to the cheek pouch. J.Morphology,83 149-180,1943.(この本は金沢大学医学部にあります。他にはないようです)
VIII.組織学的検索
組織学的検索の結果、吉田肉腫細胞はcheek
pouch内で極めて活撥に増殖していることが明らかになりました。腫瘍細胞は、ラット体内におけると同様の構造をとり(Reticulo
Sarcoma様)粘膜下において増殖します。前述の筋肉間に浸潤し、更に粘膜上皮を破って行きます。(顕微鏡写真を呈示)写真は、腫瘍浸潤により粘膜上皮がうすくなっていることを示しています。更に皮下組織においても、吉田肉腫細胞は活撥に増殖し皮ふは潰瘍に陥り、動物を死に到らせます。(背部皮下移植では殆んどが変性しています。)しかし一方では腫瘍の中心部に巨大なNekrose巣をしばしばみます。細胞反応はII型、すなわち、米粒大の腫瘤を形成し、やがて消失するものには認めますが、他の型には殆んどみられません。遠隔臓器への転移及び唾液腺内への浸潤は現在迄に検索した範囲では認めておりません。しかしcheek
pouch内、epithel、皮下組織、皮ふへの浸潤性増殖は明らかですので、異種体内で浸潤性増殖を云々することは可能であると思はれます。この問題は今後、生化学的に血清CDH.肝Catalaseを測定し、考えてみたいと思っています。
又、死亡の原因を、潰瘍形成→感染→死亡と考え、Animals
used to die of secondary infectionと表現したのですが、これらの成績から考え、Animals
used to die with tumor.と変えた方がよいと思います。
IX.培養吉田肉腫の移植
今迄の実験は全て、吉田肉腫と云う増殖のはやい細胞を用いて来ました。このように悪性度の高い細胞では、同種移植との比較がむつかしいと云う欠点があります。幸にして(?)継代吉田肉腫細胞は、移植性が可成り落ちています。この細胞を用いて、同種(ドンリュウ)、異種(ハムスター)移植を同時に行い、ハムスターcheek
pouch移植性の特殊性を明らかにしようと云うのが、この実験の目的です。実験に用いた細胞は76代、Eagle+2mMPyruvate+20%牛血清の培地で8日間培養したものです。この細胞を所定濃度に濃縮又は稀釋し、cheek
pouch内には0.1ml、Rat腹腔内には1.0ml接種しました。(22.Jan.'64)
HamsterはGolden、Cortisone処置は2.5mg/Hamster週2回(移植後)処置します。
現在、まだ観察中ですので、確定的なことは云えませんが、表に示すように、コーチゾン処置ハムスターでは同種移植と同等の成績を得ています。(表を呈示)
X.Probit Analysis
今迄行って来た実験の結果を定量的、簡潔に表現するため、Probit
Analysis及びLD50を計算しました。LD50は動物の死亡ではなく、Tumor
Growthでみていますので、TPD(Tumor Producing
Dosis50)と表現します。TPD50はBehrens-Korber法を用いて計算しました。
1.Cortisone-treated ch.p. TPD50=<160cells
2.Non-treated ch.p. TPD50=<3160cells
3.Albino-hamster ch.p. TPD50=>20,000cells
4.Hamster subcut. TPD50= 794,000cells
5.Hamster ip. TPD50= 3,160,000cells
6.Mouse subcut. TPD50=>10,000,000cells
7.Mouse ip. TPD50=<316,000cells
:質疑応答:
[安村]ハムスターには純系がなくて困りますね。
[黒木]アメリカにはあります。いま異種で24時間以内の新生児に脳内接種を試みていますが、非常に良い成績です。ただし、出血しているので、見ようとしても、内部がとろけるようで扱いにくいです。組織標本にして見るより他には、決定的に腫瘍死とはいえませんが。結論として、Homoのnew
bornの脳内、皮下が一番良いと思います。
[伊藤]脳内の場合は他の箇所への接種の場合と多少意味が違うのではありませんか。
[安村]むろん脳圧の問題などあるから違いますが、脳内と皮下では脳内の方が一桁少い細胞数でつきます。そしてそれを1オーダー上げてまた皮下に刺すと、皮下にもつくことを確認しています。
[黒木]脳内の場合は、必ず組織標本を見る必要があると思います。脳内だけに頼ってはいけないと思います。
[佐藤]少数の場合は、接種量が確実とは云えないと思います。
[安村]Titrationをやって推計学的に処理すれば良いでしょう。
[土井田]黒木さんのCheek pouchへの復元の場合、血管はどうなのですか。それから、正常の組織を入れるとどうなりますか。
[黒木]それはこれからやってみる積りで居ります。
[安村]脳内はレッキとしたin vivoであるから、免疫学的にどうであっても、レッキとした腫瘍だと思います。
[勝田]脳内でついても、皮下の場合に動物を殺すかどうか問題だと思います。たとえば、皮下接種では腫瘍死させられないような腫瘍性の弱いものでも、脳内だと死ぬということがあるかも知れないから・・・。
[黒木]復元して腫瘍が出来ること、つまり移植性と、腫瘍死ということは、別に考えてみたいと思います。
[奥村]移植性の問題については、色々な部位の比較はできるが、腫瘍性の比較は同じ部位を使わないと比較できないと思います。
[安村]脳内の場合でも、継代できるかどうかも確かめないと、腫瘍性も確実とは云えません。
《土井田報告》
各種動物組織より抽出したDNAをマウスに投与した際、高頻度にanaphaseの異常の誘発されることが、最近マウスの骨髄細胞の観察により確かめられました(Karpell
et al.1963)。一方動物実験より、核酸前駆物質が放射線障害の回復に有効なことが判って来ました(菅原ら1963)。この様な効果が、如何なる機構で起るかは不明であるが、兎に角回復した細胞なり個体なりを追っかけてみることは、多くの機構や原因の考えられる発癌の問題に、放射線と癌、染色体と癌といった面から近づくものと考え、以下に記すような実験を行いました。
§材料と方法§
材料はL細胞のsubculture3日目のもの
試薬は2種のヌクレオチド混合物を10μg/mlと100μg/mlの濃度で用いました。ヌクレオチドは、(1)大五栄養製ヌクレトン及び(2)武田薬品製のヌクレオチドで、前者は1アンプル2ml中に3'-AMP、3'-GMP、3'-CMP、3'-UMPをほぼ等量づつ、合計50mg溶けておるもので、後者は上記の各nucleotidesの5'-の結晶を夫々等量溶かしたものである。
方法はsubculture3日目の細胞をRoux瓶又は200mlの角瓶に播き、1日後、2,000γのX線を照射した。照射1時間後、上記試薬を投与し、その後7日間、又は調査の全期間に亙って処理した。30、60、90日後、回復したcolonyの数を測定した。(colony数のとり方については研究連絡会で説明します)
§結果§
(表を呈示)結果は表に示した通りであるが、これまでの結果よりヌクレオチドには放射線の障害効果を減らし、動物実験と同様に回復させる能力があるように思はれる。この効果は、5'-nucleotidesよりも3'-nucleotides(Nucleton)でより大であるように思はれる。
この結果より推論するのはまだ早いかも知れないが、5'-および3'-nucleotidsをそれぞれ50μg/mlの割で同時に与えた場合にも、かなり高い回復効果がみられた。
§考察§
このdataは最近開始した実験の結果で、現在進行中のものであり、極めて不充分なものであるが、今後は生じた細胞の細胞遺伝学的調査やマウス個体えの復元なども考えております。なおL細胞は1週間に約20倍の細胞数増加がみられるが、3'-および5'-nulcleotidesをX線照射しないL細胞に100μg/mlの濃度で与えた時には12乃至14倍に増加した。この事は単独にnucleotidesを与えた場合、該薬はL細胞に弱い毒性を与えることを示すと考えられる(ただしcellの増殖については反覆調査をしていない)。
:質疑応答:
[勝田]君のLのgrowth curveで、はじめの24hrsにlagがありますが、log
phaseのlineを逆に辿ったB点の量、それだけの細胞数しかinoculationのとき生きていなかった、という可能性が大きいのですよ。(つまり接種のときの操作が荒くて、細胞が傷付けられること。)
[奥村]瓶当り400万個接種して、30日後に、他のはみなColony数が0なのに、一つだけ103ケあるというのは、耐性を示すのか、はじめから障害を受けていないのか、疑問だと思います。
[土井田]文献に長期培養のものは全部悪性化したというのがありますが・・・。Nature,199(4911):1043-1047,1963。何も特に加えずに長期培養していたら、transplantableのtumorができた、ということです。(Strangeways
Lab.)
[勝田]だから我々は株を避け、且、短期間の勝負を狙っているのです。
[安村]マウスは早いですね。6ケ月で悪性化した報告があります。Barskiがトリプシンを使った仕事ですが。
(以後、来年度入班する班員の研究計画を中心に討論した。)
[奥村]子宮内膜の培養をしていますが、Ratはcycleが3日位というのですが、兎には排卵週期がないというので、兎を使っています。細胞は2種類出てきます。子宮の両端を鉗子でとめて、30〜40分トリプシン処理します。2〜3万個まきますと、60%位、EpithelのColonyがとれます。いま、ホルモン添加と無処理のものと、培養条件を出しています。「CS20%+199」では、生え出しは良いのですが長く増殖しません。Hormoneを加えた方が良いと思って、ProgesteroneやEstradiolを加えてみかしたが、高濃度に加えると死んでしまいます。重曹の量を変えてpHをしらべますと、pH=7.8〜7.6位がEpithelの増殖には良いようでした。
[安村]血清の入った培地では、pHメーターを使うと、pHのブレが大きいものですが・・・。
[奥村]pHの絶対値としてはこれは一寸断言できません。
[安村]私はSV40でできたtumorをもう1回ハムスターを通してから培養し、plating
effeciencyを見ていますが、efficiencyがよさそうなら、この株を腫瘍だとして、正常mousuのembryoの形質転換に使いたいと思います。この場合、腫瘍細胞の株に何かのマーカーをつけておきたいと考えています。
[奥村]その細胞が、virusが本当に居ない、という証明が仲々難しいとおもいますが・・・。
[黒木]SV40のDNAが入って出来た腫瘍の、そのDNAが次の細胞に入って、また腫瘍を作るかどうか、ということを見てみたい訳ですね。
[安村]これは癌化するということに、物の(例えばDNAといったような)裏付けがあるとしての話で、若しその物としての裏付けなしに癌化するということなら、このもくろみは駄目なんですが。
[黒木]129Pの株を復元しますと、接種量によって期間は違いますが、何れも消えて行ってしまいます。この現象が免疫学的なものだとするなら、もとの動物継代の細胞と、培養した細胞の免疫的な違いをどうやってチェックすれば良いのでしょう。(この腫瘍は消えない内に、次々と動物を継代しているのです。)
[勝田]土井田君の仕事ですが、放射線をかけた細胞の中に、変ったものが出ないかどうかしらべて頂きたいですね。発癌要因として、あなたのところでは放射線を使って欲しいということです。そうすればproperの仕事に少し手をかける位の気持でやれるでしょうから。それから、発癌の仕事にはLなどのような、株になっている細胞を使うことは向いていないと思いますが・・・。山田君は今日3代目のCultureでClone法を使っていましたが、あのように、さらに初代でもCloneを使うというのは非常に意味のある良いやり方だと思いますね。
[安村]協同研究というやり方を大いに活かしたいですね。
[勝田]この班は、以前には学会にも班員間の共同研究をよく発表しましたが、このごろはそれが少くなったのは寂しいことです。今秋の癌学会あたろを契機として、また大いに共同の発表をして行きたいものです。
[佐藤]班員の夫々の専門を活かして、この班を盛り立てて行きたいものです。たとえば、土井田氏には、我々が発癌させた細胞の染色体の分析をたのむとか・・・。
【勝田班月報・6404】
《勝田報告》
発癌実験:
前回の班会議のとき、RLC-2(正常ラッテ肝細胞)を長期間タンザクで傾斜静置培養したところ、5週間后にtransformed
cellの発生を見出したことを報告したが、この細胞はその后も急速な増殖をつづけ、もはやRLC-2との共生ではなくなってしまったので、Rat
liverHepatoma(?)の株ということで、RLH-1株と命名した。この細胞の性質及びその后の経過について報告する。
1)Transformed cell(RLH-1)の形態と生態
細胞の大きさはきわめて小型である。(写真を呈示)写真中央の細胞はいわば原型といえそうである。円形のものもある。シートの上にもどんどん円形のが積重なって行く。2核〜多核も非常に多い。分裂も、3極分裂は稀でなく認められ、4極もある。分裂直后fuseして多核になることも多い。顕微鏡映画を大分撮したので、次の班会議のとき展示したいと考えている。Gemeration
timeは正確に未だ分析してないがかなり早い。
接種数を変えて(2種)その増殖曲線をとってみた(図を呈示・週42倍)。もっと接種数を減らせばこの増殖度は上昇すると思われる。
とにかく現在ふえすぎて継代の手間に困る状態である。継代状況をお目にかける(表を呈示)。ミステリーゾーンから来た生物のように増えつづけている。
2)RLH-1細胞の染色体数
まだ25ケしか算えてないが、68本にピークがあるらしい(表を呈示)。Hypertriploidである。勿論もっとかぞえる予定であるが、本数の多いのは閉口である。思切り少い方へ変ってくれたらさぞ良いだろうと思うが・・・。
核型分析は土井田班員におねがいする予定であるが、ざっと見た感じでは、大型のmeta-centricが17〜20本もあることが目立つ。acrocentricは数ケである。それ以外のは小型のmetacentricやtelocentricの多い点ではRLC-1、C-2と似ている。metacentricだけが増えたという感じである。なお表で136本が1個あるが、これは2核細胞の同時分裂かも知れない。ごく相接した2groupsのようにもとれるからである。そうとすれば68本は11.5/25となる。
3)RLH-1細胞の復元接種試験
これまで3種の復元法で試みてきたが、現在までのところでは未だ腫瘍形成を確認できていない。(1)1964-3-4:生后3日ラッテ2匹、左肩皮下、約20万個宛。(2)1964-3-15:生后35日ラッテ2匹、右大腿部筋内、約900万個宛。(3)1964-3-21:生后41日ラッテ2匹、腹腔内、1,250万個宛。脳内にも接種したいが、目下出産待ちである。(1)(2)ともまだ腫瘤を触れない。初代は一般にtumor
formationがおそく、1〜2月かかった報告もあるので、ずっと永く経過を見守ることにしている。(3)は1日おきに腹水をとって塗抹標本を作っている。第2日は、培養内のRLH-1と同じようにbasophilieの強い細胞が沢山見られ、そのmitosisもあった。第4日になると腹水が血清をおび、赤血球も大分混じてきた。まだほとんどの細胞が、basophilieが弱くなり、mitosis数もずっと減少した。第6日には一層mitosisが減少した。腹水中に見られる単核(2核もときどきある)の細胞が、Host側の単球或は組織球であるのか、接種したRLH-1が新環境のなかでそのような形になったのか、よく判らない。前者とすると、RLH-1が余りに早く消えたことになるので、網膜、腸間膜などにひっかかって巣を作っている可能性もある。とにかくもう暫く経過を見守る他はなさそうである。
4)追試試験
同様の培養法で次々とExp.をstartしている。Nagisa作戦である。Exp.Noは#CNとした。#CN1は、この現象を見付けたときのExp.である。
EXp.#CN-1:RLC-2細胞→5w→RLH-1発生。
Exp.#CN-2:1964-2-25開始、3-17.subculture。RLC-1、RLC-2、RLC-3:平型回転管、各2本宛。この内RLC-2の1本は、タンザクだけ出して顕微鏡映画を撮った。Nagisa現象は何れも見られるが、新生細胞は未だ出現していない。
Exp.#CN-3:1964-3-4開始、RLC-1(平型2本)、RLC-2(TD-15、2ケ)、RLC-3(TD-15、1ケ)、
RLC-5(平型2本、TD-15、1ケ)何れも未だ新生細胞は現れていない。
《佐藤報告》
発癌実験は培地中のDABの細胞当りの消耗を見ています。来月には復元其の他の結果も揃いますので班会議で報告させて頂きます。最近JTC-11の実験を纏めましたので、御参考までに報告いたします。(増殖率の図を呈示)。inoculumが少ない場合、計算上40個でも増殖して来ます。適性培地に関しては(図を呈示)、培養6日目の成績では、BSは20%、LHは0.4%、YEは0.04%、glucoseは0.36%が最高の増殖を示しています。JTC-11細胞のmaouse復元成績では、癌性は高く保持されている(図を呈示)。
《杉 報告》
golden hamster kidneyのprimary culture−stilboestrolの系で、実験群に於いて対照群よりも細胞増殖がよく起り、しかもそれが特に上皮様細胞についていえるということと、この上皮様細胞の増殖には、薬剤を間歇的にくり返し与えることがいいのではないか、という結果が得られた。しかしrat
liver−DAB系における程の顕著な増殖は、残念乍らまだ見られていない。
現在、更に加うべき刺戟について検討しているが、このsystemはあまり期待出来ないかも知れないという意見が前回の班会議で出たこともあり、ここでもう一度従来報ぜられている動物実験の成績を振返ってみたいと思う。
oestrogenic stimulationを長期に作用させていると、male
golden hamsterのkidneyにrenal carcinomaを作るがfemaleは作らないという発見はKirkman
and Baconによってなされ、この事はHorningによって確かめられている。
hormone投与によるmalignancyのiductionが内分泌系に属しないKidneyにおこるということは特異的である。潜伏期が稍長くて9〜12months(但しこれはtumourが外から触れて分る程大きくなるまで)という欠点があるが、興味あることはpelletを一回与えるだけでは発生率70〜80%であったのが第一回投与後3〜4monthsに第2回目のpelletを与えると100%に発生し、しかも出来たtumourは大きく、より容易に転移し易いということである。このことから我々の実験でも長期に連続して与えること、又は間歇的に繰返し与えることは必要であると思われる。発生したtumourはtransplantationが可能であるがそれはstilbeoestrolで前処理したmale
hamsterに於いてのみ可能である。即ちhormone
dependantであるという。 tumourはcortical
tubulesのepitheliumから発生し、medullaからは起らないと云われているが、Kirkmanはintertubular
connective tissueがtumour発生に重要な役割を演じているかも知れないと述べている。又最も早期にはhyperplastic
focusがあるが最後には明らかにcarcinomatousになると述べている。そしてこのtumour発生はhormone
antagonistであるtestosteronの同時投与によって予防される。他のrodentsは、oestrogenによりkidneyにtumourを作らないが、hamsterのkinney
epitheliumだけが何故tumourを作るかということについては、Horningはhamsterのrenal
epitheliumが吸収されたchemical carciogenにより選択的におかされ易いという他の実験結果を示している。更に流血中のoestrogenを不活化するliverの能力に注目して、hamster
liverは他のanimalのliverに比べてこの能力の弱いことを指摘している。又Shoppeeはoestrogenを過量に与えた場合、その10〜20%だけがmetabolitesとして尿に排泄されるに過ぎないと述べている。Stilboestrolが果してこのままの形でkidney
cellに作用してtumourを作っているかどうかは、我々の実験の重要な
Key pointになるが、以上の考え方はstilboestrolをそのままの形で作用させている我々の実験にとっては都合がよいと思われる。しかし一方stilboestrolはhormone作用を有し、それによって出来たtumourがhormone
dependantであるということから、tumourの発生にはhypophyseなどが関係していることが考えられるので、これらとの関連も考慮しなければならない。
我々の実験結果で、実験群に上皮様細胞の増殖がよいということは、動物実験におけるhyperplasieの段階に対比して考えてよいかも知れない。これから先の変化を起させるのが非常に難しいと思うが、長期に作用させ観察することはやはり絶対必要と考える。
hamsterの性による反応の違いについては、femaleは常に多量のoestrogenにさらされて或程度physiological
adaptationが出来ているのに対してmaleではそれがないためであるという意見がある。
我々の実験ではまだhyperplasieの段階?であるため性による差異は認められていない。
《黒木報告》
Hamster Cheek Pouch内移植法の基礎的研究 .異種新生児皮下移植法について
新生児特に生后24hrs.内の動物は異種を識別する能力をもっていないと云われています。Hamster
Cheek Pouch内移植法と異種新生児移植法とを同一細胞を用いて比較すれば前者の特殊性を明瞭にし得るものと考えられます。
実験材料:
動物はC3Hmouse(C3H/HeS、C3H/HeN、C3Hf/HeN)、夫々、我々の研究室において、Brother-Sister-Matingにより純系化しつつあるものです。妊娠したマウスは、朝夕二回づつ観察し、生后24hrs.内に発見出来るようにします。又、吉田肉腫も仔発見后直ちに移植出来るように週2〜3回移植しておきます。皮下移植量は0.1〜0.05ml、0.05mlの方が細胞のもれが少くよいようです。(表を呈示)。表から分るように100万個から100個で100%腫瘍増殖を示します。しかし10万個の1例を除いて他は全てregressしてしまいました。(死亡例は移植后27日死亡)。10個移植群は目下観察中。脳内は組織標本作製中。
増殖の一例をActual sizeで表示します。10日から15日は、皮膚及びBodenに癒着、動かない、Tumorは硬い。27日よく動く、軟い、内容物は白色、粥状のもの。43日(-)。
《山田報告》
コロニーの大きさによる細胞増殖度の差異:
ヒト2倍体性細胞株の増殖度の衰退は、決して継代40代後にはじめておこるのでなく、若い継代においても増殖能の喪失という形であらわれることを前に報告しましたが、その実証として次の実験を行いました。シャーレ内に収めたカバーグラスの上に少数の細胞を播いて増殖させた後(7日間)、培養液にH3-thymidineを加え、一世代時間以上(48時間)培養してオートラジオグラフィーにかけて、DNA合成を行なっている細胞の頻度を測定した。このラベル細胞の頻度をコロニー(クローン)構成細胞数によって群別して比較すると、少数の細胞からなるクローンはラベルされる細胞が少ないことが認められました。すなわち大部分の細胞の世代時間が48時間以上と考えられる。コロニーが大きくなるにつれて、ラベルされた細胞の頻度が上昇し、80%近くで、そのカーブはわるくなっている。このことは、100個以上まで増殖した細胞コロニーでも、次の48時間にDNA合成に入れない細胞が20%出現してくることを意味しています。したがって細胞が新生されたときに20%前後の確立で細胞が増殖し得なくなり、ただ生存するようになると考えると、この種の非増殖細胞の頻度が次第に大きくなってくることがよく理解されます。そして継代によるコロニー形成率の低下、および対数増殖期における増殖度が一定なことなど、これまで得られたデータを説明することができます。
マウス腎、肺組織の2倍体性細胞株:
すでに成熟マウス、生後1日、および胎児について、その継代培養、染色体変化の有無、およびNitromin耐性に関する研究を行なっています。とくに動物に対する移植性を、マウス脳内接種で追求中、正常の胎児のトリプシン消化細胞の移植性、50日継代腎細胞株の移植性を観察中です。
《伊藤報告》
前回の報告会で申上げました如く、今后暫くは何とかしてhomogenizerを使って得た細胞をconstantに培養し得る条件を決めるべく、その基礎条件を検討し度いと考えて居ります。今迄に得られた結果
[肝の潅流及びhomogenizeの検討]
◇動物は原則として生后20〜25日目の"ドンリュー"を用いた。
◇潅流液:Sodium Citrate(0.027M)in calcium
free Lock's Solution
◇判定:Tripan blue染色により、生細胞の残存率をみる。潅流液量を15mlとした場合、stroke回数10回で約5%、20回では1%以下。潅流液量30mlとした場合では、stroke回数10回で約4%、20回では1%以下。
まだ検討回数が少く確実な事は云えませんが、予想された如く、潅流液の量は余り問題にはならず、Homogenizerによるstrokeの回数に影響される点が多いようです。
また、10回のstrokeで充分細胞はバラバラになって居る事からして、今后更に少数回のstrokeでの検討を要します。
前回の報告会での山田先生の御報告、又Sacksの文献(此れのDataそのもの、或はその判定には尚検討を要すべき沢山の問題があると思いますが)等から考えて、homogenizerを使って得た細胞について実験をすすめて行く場合、更にはMass
Cultureした細胞に発癌剤を与えてtransformさせる場合、transformされるものは恐らく極く少数のものでせうし、その少数のtransformed
cellをcheckするのには、platingが非常にすぐれた方法である事を痛感させられました。是非やってみたいと考えて居ます。
《安村報告》
1.果糖肉腫(FRUKTOyl)の浮遊培養のこころみ
1-1 Genetic transformationをてがける最初の段階として、細胞を大量に培養できることがのぞましい。それによって細胞DNAを大量にとりだすことが可能になるからです。
1-2.本番の浮遊培養は、Eagle合成培地適応株(FRUKTOEg:現在は、Eagle's
minimum essential medium・1959+Biotin 0.25mg/lの培地でかわれています。いまのところBiotinをのぞくと継代できません。抗生物質ははいっておりません。P.R.はいれてあります。)予備実験としてFRUKTOyl株−YLEだけでかわれている−をつかいました。
1-3.このFRUKTOyl細胞はガラスにわりあいよくつくのを撰択してできたものですが、もちろんピペット操作だけでかんたんにガラスからはがれます。この細胞をYLEだけで在来のスターラーでマグネチックバーをステンレスワイヤーで宙づりにしてカクハンしますと細胞は死滅してゆくばかりでした。
1-4.そこでMcLimansやMerchantたちによって開拓された、メチルセルローズ(和光・CPS4000)をつかってみました。DOWChemicalのは手にはいりませんでした。なおカルボキシメチルセルローズはよくありませんでした。濃度は0.1%と0.2%です。結果は(図を呈示)、生存はある程度維持できましたが、結局は増殖がみられず失敗におわったわけです。生細胞数は前号(6403)にあるようにErythrosinBで染めてしらべました。
1-5.メチルセルローズが0.1%以下、たとえば0.02%、0.04%では0%同様に細胞は死滅する一方で、2日目には全滅というぐあいです。培地はメチルセルローズをくわえて高圧滅菌します。
1-6-1.在来のスターラーでは正確な廻転数がわからず、文献の記載に従ってslightly
convexedの水面をめやすにしてやっているわけです。夜中の電圧上昇によって回転が早くなることによって細胞の損傷がますことも考えられます。
1-6-2.バーをつるのにステンレスワイヤーをつかいますが、その上にswivelとして釣道具屋さんから「ヨリモドシ」と称するものを買ってきてつかいました。ステンレスというはなしでしたが、これはマッカなウソで真チュウにクロームメッキしたものでした。1カ月近く回転していましたら、ロクショウがでてしまいました。
1-6-3.このswivelをテフロンで試作をたのんでいますが、加工がむずかしいといってまだできません。ステンレスは加工がなお困難です。スターラは1分間60回転のモータで試作できました(電圧の影響をうけません)がこれでは細胞が完全に浮遊状態にならないので、もう少し早いのを試作中です。試作は三陽理科器械製作所(千代田区神田鍛冶町1-2)です。その他(図を呈示)目もりつきの300ml容量の培養びんも同所でつくってもらいました。瓶の下の口からはダブル栓をとおして注射器で液を採取して細胞数をかぞえることができます。 2.SV40による腫瘍からの細胞の培養
2-1.培養細胞の3代目を新生児(24時間)ハムスターに皮下に14万個1ぴき、7万個2ひき接種しました。18日めごろよりアズキ大の腫瘍をふれるようになり、現在では直径5cm以上の大きさになりました。うち1ぴきは40日め(接種後)に死亡しました。
3.そのほか(ウメクサ)
3-1 細胞保存の文献:Persidsky,M. & Richard,V.:Optimal
coditions and Comparativeeffectiveness of
dimethyl sulfoxide and polyvinylpyrrhoridon
in preservation of bone marrow.Nature 197(4871):1010-1012,1963.(培養細胞ではありませんが、役に立つと思います。)
《奥村報告》
昭和38年度は、諸々の観点から考えて一班員としての義務を遂行する自信をもてず脱班させていただいたのですが、本年4月から再び入班して皆様と一緒に発癌研究をする事になりましたので宜しくお願い致します。予研に移って3年目を迎え、どうやら昨年暮頃より落着いて仕事をする場を得、この4月1杯ぐらいで略設備の方が一段落という見通しが出来ました。本年は大いにピッチを上げる心算です。現在までは新設部のためと検定業務のために雑役などにかなりエネルギーを取られてきましたが、今年からはあまり悩まされずに済みそうです。
ここ2年間は主に"各種実験動物の各臓器由来細胞の初代並びに初期培養の条件"を行い、同時に初代又は初期培養細胞の少数細胞の培養条件を検討してきました。私は一昨年の頃から班会議でも話しましたが、ヒト羊膜の上皮性と繊維芽性細胞の分離培養(初代から)を始めて以来、種々の材料について分離培養を試み、又考え続けてきましたが、最近どうやらCO2フラン器(約1年間かかって作り上げたもの)を巧みに利用することによって初代培養から細胞の分離と又少数細胞を略確実に培養することができる様になってきました。その1つがウサギ子宮内膜細胞で、本年は子宮内膜に関しては、現在の培養方法を礎にして種々の実験を行いたいと考えています。
ウサギの子宮内膜を用いる主な理由として、(1)内分泌系細胞のうちで子宮内膜が発癌実験をし易いと考えた(いづれはヒト、ハムスターなどからの子宮内膜細胞を用いたい)。(2)ウサギには他の動物の様に週期的排卵がみられない、つまり子宮内膜細胞が時期的に著しい変化をしないために多数の細胞を得るために何匹ものウサギからとった細胞をpoolできる。(3)ウサギの場合は1匹からでも15〜20万個の内膜上皮細胞を採取できる。(ラットは1〜5万個のviable
cell)。したがって同一個体からの細胞で種々の実験を可能にする。
培養方法:
(1)トリプシン消化は0.25%(NBC 1:300)のトリプシン液で30〜40分
(2)用いるmediumは199(NaHCO3 0.11%)にcalf
serum(Lot番号C)20%に添加したもの
(3)容器はシャーレ(細胞浮游液1ml、2mlを入れる2種類)
(4)細胞濃度:約5,000、10,000、30,000、50,000(いづれもper
dish)
(5)送り込むCO2:培養開始2〜3日間は8〜10%CO2ガスを含む空気、基質5〜6%CO2含有空気中に移す。
培養結果及びホルモン投与実験の結果は次号に記載します。
【勝田班月報:6405】
《勝田報告》
"なぎさ"作戦について:
前回の班会議で報告したように、Control群よりできたRat肝の細胞株、RLC-2を平型の回転管にタンザク型カバーグラスを入れて、約5℃に傾斜培養(静置)していると(培地は週2回交新するが継代は滅多に行わない)細胞のtransformationが起った。この変化した細胞は、増殖度も早く、染色体数も68本が主軸で、RLC-2(42本)とは異なり、細胞の形態もすっかり変っているのでRLC-2の亜株、RLH-1と命名した。
1)RLH-1の復元接種試験:
(a)皮下接種 1964-3- 4:生後3日JARラッテ2匹、左肩皮下、20万個宛。
(b)筋肉内接種 1964-3-15:(F19生後35日)2匹、大腿筋肉、900万個宛。
(c)腹腔内接種 1964-3-21:(F19生後41日)2匹、腹腔内、1,250万個宛。
(d)脳内接種 1964-4- 8:(F20生後2日)5匹、脳内、100万個宛。
これまで上記の4法を試みたが、今日までのところでは何れも腫瘍形成を認めていない。但しこれまでの報告では半年近くかかった例もあるので、観察をつづける予定である。なお上の(c)の内1匹は、1964-4-4に開腹したところ横隔膜に白い粟粒大の結節、10ケ位の形成を見出した。この一部は次代に継代し、一部は組織標本用に供した。
2)追試実験:
この実験は"なぎさ作戦"と命名し、Exp.No.をCarcinogenesis
Nagisaから"CN"とした。(1)CN#1:RLC-2→RLH-1は4-15日現在、継代10代、Original
lineは静置であるが、Fluid suspension cultureや、合成培地へのAdaptationも試みている。核型分析は土井田班員に依頼の予定。(2)CN#2:1964-2-25開始、(3)CN#3:1964-3-4開始、(4)CN#4:1964-3-20開始と追試実験を行っている。
これらの追試実験に於ては未だ4月16日現在では新生細胞のcolonyは出現していないが、いわゆる"なぎさ部"に於ける細胞の形態学的変化は著明で、異常分裂も認められた。
3)考察:
Coverslipが絶対に必須条件であるか否かは未だ確定されない。しかし"なぎさ"部に於て、細胞の形態に大きな異型性が認められ、大きさから見ても、非常に大きなものから、極端に小さなものに至るまで、さまざまの細胞がある。核の異常形態や、異常分裂(3極分裂、不均等分裂、Endomitosis、Endoreduplication、その他)がしばしば認められる。これらの点より考えて"なぎさ"の方がより大きな要因であり、この地帯に於て新生細胞が誕生すると考えるのが妥当であろう。そしてその機構については、好ましからざる環境下において、変則的なDNA合成(或はDNA-polymerisation)をおこなっている細胞が、他のやはりdegenerateした細胞からの、degenerated
DNA或はdeviated DNAの一部をCytosisによって取り入れ、自己のDNAに取込んだためにtransformationが起る−と考えたい。これらの点については、勿論今後の実験的証明が必要である。
次にこの復元接種成績についてであるが、考えてみると牛血清ばかり培地に用いていたのは大失敗で、なぎさ地帯で色々な異常細胞が誕生している時期に、ラッテ血清を血清量全量或は部分的に添加してselectすべきであったと思う。今後の実験ではそのようにするつもりである。なおRLH-1についてはラッテ血清による再淘汰を現在おこなっている。
4)顕微鏡映画供覧:
RLH-1の誕生時の形態、その後の形態、各種異常分裂・・・
追試実験中の各seriesの"なぎさ"の細胞形態、分裂、異常分裂・・・
カバーグラス下の細胞と異常分裂。
:質疑応答:
[土井田]なぎさの細胞をそのままおかずに、また元のような培地の充分に行きわたる状態にするとどうなりますか。
[勝田]はっきり判りませんが、映画をとるときは"なぎさ"の状態より少し良く培地が行きわたるようにしています。
[土井田]Endomitosisにも色々な状態のが見られましたが、とにかく状態が悪くてあっぷあっぷしているみたいですね。
[山田]DABと結び付けてみませんか。
[勝田]今のところまだすぐ直接的には結びつかないが、これが或程度進展したら戻ります。DABでやられた細胞もこれと同じことをやっているのではないかと思いますが・・。
[佐藤]若い動物ほど発癌しやすい、若いものからの培養は染色体がばらつき易い−ということは考えられませんか。
[奥村]若いものは増殖系になり易いとはいえるが、若くて未分化な細胞が多いから2倍体を保ちにくい−とは云えないと思いますが・・・。
[佐藤]成熟した動物での或抑制が、若いものでは弱いので、培養という条件に入れると、その抑制から容易に外れて、染色体のばらつきなどが出るのではなかろうかと思います。また別の話でDABを入れつづけた培養で、DABを除いてLDだけにすると、抑制を外されて異常分裂をおこす細胞が増えるようです。
[勝田]動物でのDAB発癌で、DABを与えては少し休み、与えては休みすると、反って発癌が早くなるということは無いものでしょうか。
[佐藤]ラッテの血清でselectすると、細胞内にRNAが非常に増えて、ギムザで青く染まるようになります。これを復元してもつきませんが・・・。規則正しく培地交新や継代をしていると、DABやメチルDABを加えても発癌しないと思います。
[勝田]こんどつくづく感じたのは、RLH-1は形態学的には明らかに癌と認めてよいと思われるのに動物に仲々つかない。今後培養内でできた癌をどうやって動物にtakeされるようにするか、考えておかなければならない所があると思います。
[佐藤]LD+血清という培地がむしろ癌細胞AH系のを培養するのに適さないのではないでしょうか。
[黒木]培地が原因でしょうか?。今度しらべてみたら、腫瘍性が落ちないというデータは非常に少ないですね。
[佐藤]JTC-11は未だに落ちていません。
[勝田]JTC-11は染色体数のピークがsharpなのではありませんか。動物に復元したとき別のピークが出てこないのではありませんか。
[黒木]培地というより、培養という、もっと広い条件のために腫瘍性が落ちるのではありませんか。培養内で悪性化した細胞の場合にも、やっぱり腫瘍性が落ちているのですから。
[山田]しかし第1の段階では、正常細胞は増えない、肝癌はふえる−という条件でこの培地及び培養法を採用したという訳ですが、一応ふえてからまた変ったものをselectするにはどうするかという問題ですね。
[勝田]DAB発癌に関しては、私は初めの頃とは少し考えが変ってきています。DABを与えてそのためこわされた細胞のdeviated
DNAを喰った細胞の内のいくつかが変異するのではないかと思っています。
[奥村]SV40では、変異した細胞の変な核、変な細胞が、そのまま継代されて行くようです。
[山田]DABを与えて生体内で癌ができるまでの染色体数の変化を顕微分光分析(MSP)でしらべますと、MSPですからContentですから"C"であらわしますと(図を呈示)、正常は2C、4C、8Cにピークがあるが、癌巣のできる前はしだいにばらつきが出てくる。ところが癌巣が出来ると、ピタリとそこは2Cを示す。そしてその後、癌の発育に伴ってまたばらつきが出てくる、ということが報告されています。
また分裂の各時期でみますと、Metphaseはきれいに4Sにピークが、Telophaseは2Sにピークができますが、静止期の核ではもっとバラツキがあります。つまりそのバラツキの部分の細胞なんかは増えないのではないでしょうか。動物の場合にはStem-cellというものがはっきりしていることになります。しかし培養ではこういう事は全くあてはまらないで、Stem-cellから外れた染色体数の細胞も分裂する、ということになります。
[奥村]動物ではたしかに或条件で規定されるから染色体数の幅が狭くなります。
[勝田]私はこのごろ"分裂命令"というものが何か別にあるような気がします。細胞の準備体制ができ上らない内にその指令が発せられると(細胞内で)、異常分裂になってしまうのではないか、ということです。
[奥村]JTC-4株から、染色体数が20〜30本という少い亜株がとれました。それで考えるのですが、培養内での染色体のSystemというのがあるのではないでしょうか。この少い系はDNAも少く、Metacentricもある長いものも多く見られます。
[勝田]それは面白い系がとれましたね。我々が人工的な細胞を作って行くのに、染色体数も最少限、必要最少限のを作るというのは結構なことだと思います。
[黒木]復元法についてですが、生後24時間以内ならば皮下が良く、生後3日ならば脳内が良いです。
《佐藤報告》
RL-10 strain CellのDAB及び3'-Methyl-DABによる形態変化:
実験に使用したCell Strainの由来、DABの濃度、投与日数を表に示す(表を呈示)。
(顕微鏡写真を呈示)以下写真の説明。
(1)RLN-10 ◇C10のControlより出来し、673日経過したもの:殆んど変化なし。
(2)RLN-10にDAB1μgを357日投与したもの:Controlに比してやや大小不同が多く、細胞質に空胞形成がある。
(3)RLN-10に3'-Methyl-DAB1μgを373日投与したもの:細胞核にはやや大小不同が見られ、細胞質の境界線が凹カーブを示す。
(4)RLD-10をRat Serumにかえて358日経過したもの:増殖率がよく細胞に大小不同がある。
(5)RLD-10 Strain Cell ◇C10のDAB1μg4日投与のものよりStartしたもので677日後:RLN-10に比してやや細胞に大小不同が見られるが大差はない。
(6)RLD-10にDAB1μgを375日投与したもの:細胞核の異常と細胞質空胞、細胞質境界線の凹カーブが明かである。
(7)RLD-10に3'-Methyl-DABを1μg、376日投与したもの:細胞質の混濁、核の大小不同、細胞質境界線の凹カーブが明か。
(8)RLD-10 Strain Cellに3'-Methyl-DABを7%に投与し、後、牛血清を鼠血清におきかえたもの:核仁の増加、細胞質好塩基性、中性の増加が見られる。
(9)RLD-10に10μgのDABを167日投与、その後DABをとって18日目のもの:10μgDABをはずすと細胞の増殖が著しくなる。それと同時に核の多型性が著明に現れる。
(10)(9)の細胞を継代し、1、2、4日目のもの:核の多型性が著明。
(11)RLD-10にTweenを加え、10μgDABに含まれるTweenの影響を調べるControlとした:細胞質に空胞が現れ、核仁に大小不同が現われるが、10μg投与のものに比して少ない。
(12)(10)の細胞に10μgの3-'MethylDABを再投与したもの:10μg
3'-Methyl-DABを除いて強い多型性を示した細胞群の中でPolymorphismの強い細胞は少くなる(変性消失?発現不能?)但し核仁は大きく核膜は厚くなる。
§小括§
Cell StrainでもDABを高濃度に与えれば、核、細胞質共に著明な特異的変化を受ける。殊に高濃度の3'-Methyl-DABを連続投与して後、DABを除去すると核の多型性が著明に現れる。
各種Strain Cellによる試験管内DABの消耗についてのデータ発表。
:質疑応答:
[勝田]もう一息という感じですね。
[佐藤]Tweenの耐性の細胞にもっとDABをふやして与えてみようと思っています。
[勝田]DABを与えたり抜いたり、をくりかえしてみたらどうでしょう。
[佐藤]若いラッテと老齢(2月)のと、両方培養してみていますが、若い方はDABに弱いらしく、やられ易いです。老齢の方は、2ケ月位は生きているようですから、続けてみています。ラッテにDABを喰わせての発癌の過程で、動物実験での発癌発見よりも、それを培養に移してcheckして培養の方がもっと早期に発見できないか、ということも考えています。
[勝田]若いラッテの細胞と、老齢のラッテの細胞とでは、DABの消費量にちがいがあるのではないですか。
[佐藤]DAB濃度をもっと高めたいので、よく水に溶かす作用があってしかも細胞に害のない補助剤を探しています。
[勝田]n-oxideを使ってみたらどうでしょう。水溶性でよく溶けます。
[佐藤]DABならば発癌が確実ですが、n-oxidで確実と云えるかどうか・・・。
[奥村]動物実験の場合と、in vitroとでは、発癌に有効な物質がちがうかも知れませんね。
[佐藤]うちのDAB定量法は、蛋白に結合していないfreeのDABだけが定量にかかりますが、それでしらべると、DABを喰わせているラッテの肝では、freeのDABは割合少いし血清にも出てこない。牛血清培地とラッテ血清培地とでは、消費がちがうかも知れませんね。
[奥村]DABをやったマウスでは、血清中にfreeのDABが出てくるのでしょうか。
[佐藤]消費していても細胞に入っているのかどうか、しらべる必要があると思っています。
[関口]細胞にくっついているだけか、中に入っているのかということは問題ですね。
[勝田]DABにH3をつけられないかしら。そうすればAutoradiographyも使えるから。
[関口]H3をつけることは可能でしょう。
[勝田]DABの吸収度をしらべてそれをマーカーにすることは大変面白いと思います。DABの抗血清を作って仕事を進められないかしら・・・。それからRLH-1のDAB消費量もしらべてもらいたいですね。
[佐藤]勝田さんのところでは、DAB1μgで形態が変った、という報告がありましたが・・・。
[勝田]それは1μgで増殖を誘導したあと、第2段階の処理で変ったのであって、第1段階では変っていません。
[佐藤]私のところでは、このやり方で、もっとDABの濃度を上げて、続けて行くつもりで居ります。
《伊藤報告》
homogenizerを使ってラット肝細胞を得て、viable
cellを検しつつ種々条件を検討して来て、前回の報告で、肝潅流液量15〜30ml、strokeの回数10回で約4〜5%のviable
cellが得られる事を報告し、その後の検討によっても多い時で10%、平均5%近くのviable
cellをconstantに得られる事は確認出来ました。
今後は此の培養法に問題がありますが、炭酸ガスincubatorを是非使ってみたいと考えて居ます。何とか早くこの系での発癌実験のDataを出せる様にしなくてはと、いささかあせり気味です。
そこで、此の系とは別に比較的簡単にしかも、確実に得られるprimary
cultureの細胞を使って、発癌剤を加え、何かDataを得られる様な別の実験も開始し度いと考えています。今の案としてはmouse←Actinomycinの系を予定しています。此れは川俣教授のところでin
vivoで腫瘍の出来ることが分って居り、又此の腫瘍の腹水型になったものは、高井君によって株化されて、in
vivo←→in vitroに容易に移し得るものとなって居ますので、色々の点で比較するのに便利かと考えて居ます。
どうも今のままでは、培養内発癌についての実際のDataが仲々得られず、研究班員としてどうも気分的にもしんどい感じですので。此の系で何とかDataを出しながら、一方折角ここまでやって来たラッテ肝細胞の培養の検討も是非続けたいと考えて居ます。
:質疑応答:
[黒木]Actinomycinでできた腫瘍というのは、Actinomycinにたいする耐性が無いんですね。
[伊藤]ActinomycinCによってマウスに腫瘍のできる%は非常に高くて、60〜100%です。Primaryの培養で、トリプシン処理でとれる細胞の生死の%はどの位ですか。
[奥村]腎で80%、肝で30%位です。消化直後には60%位生きていても、1晩培養して20%位になってしまうこともあります。5月胎児(ヒト)腎のprimary
cultureでのplating efficiencyは8%位でした。炭酸ガス8%の条件下です。
[伊藤]炭酸ガスはpHのためだけですか。
[山田]そうです。
《杉 報告》
Golden hamster kidney−Stilboestrol:
動物実験ではtumourはmale hamsterだけに出来る。stilboestrolのhormone
antagonistであるtestosteroneを同時に与えるとtumourは出来ない。tumourのtransplantationはhormone
dependantであり、stilboestrolで処置したmale
hamsterにおいてのみ可能である。tumourの発生にはhypophyseなどの関与があるかも知れない。これらの実験事実については種々の解釈、推測がなされているが、hormone相互間や細胞との間に複雑な関係があるものと思われる。従ってこれらのからくりを試験管内で再現させるのは仲々むつかしいことが予想される。
しかし先ずstilboestrolのhormone antagonistであるtestosteroneを取り上げ、stilboestrolを作用させると同一条件でこれを作用させて、stilboestrolの作用と対比してみている。現在まだスタートしたばかりであるが、今のところtestosterone群はstilboestrol群ほど増殖がよくない様である。更にtestosteroneとstilboestrolの同時又は継時作用の群を作って比べてみたい。
Hamster liver−o-aminoazotoluene:
前に報告した様に伊藤班員が努力しておられる潅流法をそのごも繰返しやってみた。細胞はかなりとれ、trypan
blueで染まらないものも多数あるが、培養するとどうもうまく増殖してこない。
Mice skin−4-NQO:
この動物実験はhormoneによる発癌に比べて他のfactorの入る可能性が少く、薬剤の直接作用である可能性が大きく、試験管内で行うには好適と思われる。4-NQOは一応stilboestrolと同じ法で溶かして培養に入れてやれそうであるので、試みたいと思って準備している。
:質疑応答:
[勝田]君の云われたStilbestrolとTestosteroneの拮抗作用ですが、in
vitroでHeLaを使ってテストして見たらよいと思いますよ。うちで以前しらべたところでは、たとえば合成Estradidは生体では効くそうですが、in
vitroでは天然ホルモンのようにTestosteroneと拮抗しませんでした。
《奥村報告》
ウサギ子宮内膜細胞の培養条件の検討:
A.内膜上皮細胞の採取方法
a.上皮の剥離と細胞の分散−内膜から上皮だけを剥がすことは極めて難しい。しかしトリプシンの濃度と時間(作用)を適宜に組合わせる事によってかなり純度の高い上皮性細胞を採取できる。はじめはトリプシン液のほかにEDTAのみあるいはEDTAとトリプシンの混合液を用いてみたが、トリプシン液だけの場合以上の成績を得る事ができなかったので、現在ではトリプシン(1:300)だけの液で細胞剥離を行っている。トリプシンの濃度に関しては表の示す通り0.2又は0.25%(in
PBS)が至適であった。(各種濃度、各種時間の処理による細胞収量に関する25実験例の表を呈示)
b.血清濃度の検討−血清の種類は成牛12lots、馬3lots、仔牛8lotsについて検討したが、生後1〜4週間の仔牛の血清が一番良い事がわかり以後全べてcalf
serumを用いている。Rabbitの血清については目下検討中。
血清濃度は0、10、15、20、30、40の各%を199を基礎にして検討した結果20、30%が至適、以来20%にて全実験進行中。
B.Progesteroneの添加実験:
ProgesteroneをPropyrenglycolに溶かし、それを培地中に添加した。ホルモンは結晶性のもので、帝国臓器co.から入手した。ホルモンの作用効果の基準については一応細胞コロニー数を算定する方法を用いた。ホルモン濃度10、1、0.1、0.01、0.001μg/ml、植え込み細胞数1000〜3000、5000〜8000、20000〜50000/ml/シャーレについてコロニー計数の表を呈示。ホルモン濃度は0.1μg/mlが至適であった。
Estradiolの投与実験の成績は次回に書きますが、現在までの結果では0.01μg/mlが最も良く、植込み細胞数1000〜3000/ml/シャーレで、コロニー数は5〜7/シャーレ。
:質疑応答:
[勝田]トリプシン処理後に死細胞が多くて困るというのは、トリプシンの製品、濃度、また他の酵素との組合せなどで、もっと改良できると思います。兎の血中のProgesteroneやEstradiolの生理的濃度をしらべて、培養内での至適濃度と比較してみる必要がありますね。大体ホルモンの実験をする場合は、培地に加える血清の中のホルモン量も考慮に入れなくてはならないから、できれば透析その他でこれを除いておくことも考えなくてはならないと思います。
[山田]重曹量はHanksのままですか?
[奥村]重曹0.11%、炭酸ガス8%にしないと、子宮内膜はよくColonyを作りません。pH=7.3位です。炭酸ガスフランキのお蔭で、こういう培養がうまく行くようになったようです。
[山田]炭酸ガスフランキを使わないで、角瓶などを用いるときも、5%炭酸ガス-airを送り込んで密栓をしておけば、炭酸ガスを使った場合に近いデータが出ます。重曹量とpHの関係は下の表の通りです。但し5%炭酸ガス-Air:重曹系です。
重曹量g/l 2.2 1.23 1.0 0.78・・・ 0.12
pH 7.7 7.4 7.3 7.2 ・・・ 6.4
[奥村]ハムスターのセンイ芽細胞の場合は、炭酸ガスが12〜15%、重曹0.2g/l、pH7.1〜7.2位が一番良いようです。
[山田]要するに、少数細胞の場合は、この重曹−炭酸ガスのBufferを、どの位のpHに決めるかが大変問題になってくるのです。
[奥村]始めは炭酸ガスを5%に固定して、重曹量を色々と変えて条件を出してみましたが、現在は両方の色々な組合せを検討しているところです。
《山田報告》
1.Ehrlich K株(佐藤)のddYマウスへの移植性:
佐藤氏からわけていただいたEhrlich K株細胞を10%コウシ血清添加Eagle培地(1959)に馴らした後、試験管内および腹腔内の実験を併行して行うためにddYマウスへの腹腔内移植性を調べてみました。300万個のトリプシン消化細胞をddYマウス(やく20g)ipに接種したところ、血性の腹水がたまってくるのを認めましたが、癌細胞がほとんど見られず、開腹してみたところ、腹腔内底部に癌細胞のやわらかな塊を認めることができました。これをマウスで継代してゆくと(接種数はいつも300万個)、図のように(図を呈示)5代目までは30日間の観察で、なお生存しているマウスがありましたが、6代以後は全例が20日以内に腹水腫瘍死するようになりました。マウスの体重増加から、腹水量を推定しますと、やはり、継代のすすんだものだけが、よく腹水のたまることが判ります。
このマウス継代Ehrlich K株細胞は簡単に組織培養に移すことができます。ただし、ガラス面への"ツキ"および細胞の"ノビ"は試験管内継代細胞とくらべて悪く、もう一段の馴れが必要です。マウス腹腔内に7〜8代継代した後、試験管内にもどして4〜5代継代した細胞をもう一度マウス腹腔内にもどして、腹水のたまり方を見てみました。(図を呈示)それぞれの線は個々のマウスにおける腹水量(体重増加)で、丸はマウスでずっと継代した細胞の平均腹水量です。このように大部分がマウスで継代した場合と同様な腹水量増加を示し、4〜5代の試験管内継代でもマウスへの移植性に変化が認められません。今後この細胞株を、試験管内、腹腔内ともに自由にきりかえても増殖しうるようにすること、また浮遊培養することも考えております。
2.比較的継代の若いマウス細胞のコロニー形成率:
現在、成熟マウス腎、生後1日のマウス腎及び肺、マウス胎児(全組織)の継代培養を行ないつつありますが、それぞれ継代3代目で、コロニー形成率を比較してみました。上記の3系統(ms、ms2、ms3)は現在80日、50日、40日に達しています。コロニー形成用培養液としては、20%コウシ血清添加Eagle培地(1959)(10-4M
glycineおよびserine添加)を用いました。msの形成率は数字にできない程度(10-5乗で1、2個)、ms2は16.8/10,000個、19.8/10,000個、ms3は9.8/1000個でした。ことにms3(胎児)は10,000個でconfluentの細胞層を形成するのに、3,000個では25、28、35という数字が得られ、この程度の細胞濃度にギャップのあることがわかりました(populationによる栄養要求性)。それらの形態変化については次の機会に述べます。
:質疑応答:
[山田]Ehrlich Kをトリプシン継代して、100万個復元すると、初代は腹水中に細胞がなく、腹腔内にもやもやとした塊ができます。それをもっとマウスで継代している内に、普通のEhrlichの腹水のようになります。
[佐藤]自分のところで継代しているEhrlich
Kは100万個で20日位で死にますが・・。
[勝田]これは何の目的ではじめた仕事ですか?
[山田]EhrlichにはG1が無い、つまり分裂直後からDNA合成をはじめるという報告があるのですが、私はこの系を、TCでも動物でも充分継代できる癌細胞として、その点を追ってみたいのです。結果としてG1は短いながら有りました。Autographyでみたのです。
[奥村]Colony法だと、接種細胞数によって細胞の種類がselectされるようです。細胞数が多いと色々の種類の細胞のcolonyができますが、少くすると大体1種類の細胞のcolonyです。細胞が多いと、細胞間の相互作用が加わってくるのではないでしょうか。細胞数を少くすると、その培養法及び培地に適応した細胞だけが増えてくるという結果になるようです。
(以後は炭酸ガスフランキについての討論。要するに山田方式(平山式)はなるべく安く炭酸ガスフランキを作りたい、奥村方式(トキワ)はなるべく理想的なものと作りたい、というところが双方の根本的な相違点であるらしい。)
《黒木報告》
XII.吉田肉腫の新生児マウス脳内移植法:
新生児マウス(生後24hrs.内)皮下に吉田肉腫を移植した際、高率に腫瘤をつくるに拘らず、そのほとんどがregresすることを前報で報告しました。今回は新生児マウス脳内移植の成績についてReportします。脳内は、他の臓器と比べて免疫学的に寛容性が高いと云はれています。従って新生児との組合わせは非常に優れた移植法であることが想像されます。
実験に用いたマウスは前報と同様C3H/Hes、C3H/HeN、C3Hf/HeN、の三つのstrainです。接種液量は0.02ml。移植法は、伝研実習書に準じ、反対側の大脳半球に注入するようにしたのですが、ときには「液もれ」をみたものがあります。又、1.0mlの注射器を用いたため、注入量の正確さについては余り自信がありません。
結果(表を呈示)
忙しさにまぎれて、まだ組織標本を作っていないので最終的なことは云えませんが、脳内移植法はかなり優れた移植法であると云えます。しかし、この成績からは、皮下よりも脳内の方がよいとは云えません。注意すべきことは、皮下はregressするに拘らず、脳内では全て死亡することです。すなはち、脳と云う特殊な臓器のため、ある程度の増殖をみれば動物を死に致らせしめるものと思はれます。従って腫瘍性の検定には脳内のみに頼ることは危険性を伴うものと思はれます。脳内で増殖した細胞を皮下に移すか、又は皮下移植と平行して行う必要があります。
正常細胞でも、脳内移植でTumorを作ると云う報告があります。Chick
embryo(trypsin-dispersed,praimary or secondary
culture)cellsはadult conditioned rat brain内で500万個〜1,000万個でTumorを作るそうです。(Scotti,T.M.
et al:Growth of normal and Rous sarcome virus
ingected Chick embryo cells in rat brain.Cancer
Res.23(4),p.531-p.534.1963)
XIII.新生児移植法、Age factorの検討:
新生児が移植動物として非常に優れていることは、明らかになりましたが、生後何時間までの動物がよいのかははっきりしません。H-2抗原が48時間より急激に増加する事実は24、48時間を一つの境にして移植性も変化することが予想されます。
そこで生後1日(24hrs内)、3日(72hrs)、4日(96hrs)、5日(120hrs)、6日(144hrs)の動物(C3H)に、吉田肉腫を皮下又は脳内に移植しAge
factorを検討しました。接種細胞数は、皮下40,000、脳内4,000です。(表を呈示)
この成績から次の二つのことがわかります。
1)皮下移植の結果から明らかのように、生後24hrs.内に比べて、生後48〜72hrs.のものは移植率が急激に下がります。従って、皮下移植の場合はどうしても生後24hrs.内に移植する必要があります。
2)脳内は皮下程Age factorの影響を受けません。すなはち脳内は皮下よりも優れた移植部位であることがこの成績から分ります。
新生児移植の部位としては、この他、静脈内、腹腔内が考えられます。後者は皮下よりもよい成績が期待されます。前者については、最近のCancer
Res.に報告があり、人癌培養細胞を新生児(24hrs内)ラット静脈内に移植し、相当よい成績が出ています。(Southam
C.M.et al. Growth of several human cell
lines in new born rats.Cancer Res.23(2)P.345-355,1964)
発癌実験の場合の復元動物としては、同種を用いることが本道であると思います。Hamster等の異種を用いることは、それ以後の一つの応用問題にすぎないと思はれます。今までの成績から移植部位として感受性の高いものから並べますと次のようになります。御参考までに。
1)New born(24hrs.)脳内
2)New born(24hrs.)皮下
3)Suckling 脳内
4)同種Adult
5)Cortisone-treated Hamster ch.p.(同種Aduktとほぼ同じ)
6)Non-treated Hamster ch.p.
3)と4)の間にはX-ray or Cortisonによるconditioned
Animalが多分入ることでしょう。
:質疑応答:
[勝田]heteroで接種して腫大する塊は、果して接種した細胞が増えたのでしょうか。
[黒木]反応細胞ではなく、入れた細胞そのものだと思いますが、切片を作ってしらべてみます。
[奥村]染色体を見れば簡単に判ります。
[佐藤]脳内接種で死ぬ場合、日齢の多いラッテは頭蓋骨が固いので、脳圧が高くなり、そのため若いラッテより早く死ぬことがありますね。
[山田]脳内接種は細胞数は余り厳密にはできませんね。
[奥村]前眼房はどうです。
[山田]小さな動物ではやりにくいです。
《土井田報告》
現在データは出ていないが、次のような2点から研究をすべく仕事を進めている。本回はそれらについて私が考えている点について記すが、多少考えかたに飛躍があるかも知れないので、この点については班会議の席上ででも批判して戴き、又よい方法があったらsuggestionを戴きたい。
A)マウス臓器のprimary cultureについて。
B)組織培養で増殖性になった細胞を、宿主え復帰させる方法およびそれに関する考え方について。
A)については、NH系マウスを用いて肝および腎のprimary
cultureを試みているが、予備実験の段階で今後数多くの処理をしてゆきたい。
B)株細胞を含めin vitroで増殖するようになった細胞を(適当な)宿主にもどすとき、多くは増殖しない。原因としては、いろいろ考えられようが(1)organizeされた生体が増殖を抑制するため、(2)喰細胞により貪喰され、そのため絶滅してしまう、(3)免疫学的な立場で宿主が移植片として入れられた細胞をrejectするため。などが主たる要因であろう。primary
cultureで育つということは細胞がin vitroの条件に適応し既にいくらか変化したのかもしれないが、いづれ癌細胞も何等かの意味で変化していると考えられる。この様な面から私は次のような考えで仕事を進めようと思っている。即ち、in
vitroで増殖するようになった細胞を宿主に戻すとき、増殖能と宿主の関係と切りはなしてしまう。そのためにdiffusion
chamber法を復元実験と平行して行なう。
(予備実験)
生れた日のNH系マウスにL細胞を150万個inoculateした。このマウス内で移植されたL細胞がそのまま生長するか、増殖はしないが、此の時期のマウスの免疫学的特性から、そのまま残存するか(移植部位の組織をもう一度in
vitro cultureしてみる)。又、此の時期にinoculateすることによりマウスを免疫寛容にできないか、出来るなら数ケ月後同種細胞を移植したときに増殖するのではないか。
(経過)
生後、現在では40日を経たが、controlの2頭とともにLを移植されたマウス3頭も生存しているが、腫瘍を形成しているような所見は外見からはみられていない。
(今後の研究方向と問題点)
primary cultureで増殖系に入った細胞に関しては同系のマウスに復元することにより組織和合性のgeneの問題は解決できるが、Lその他の細胞での併行実験の際には組織適合性(特にH-2
locus)遺伝子等を考慮し、又発癌性なども考慮し、系統の選択をしたい。
primary cultureで増殖系に入ったcellsに放射線照射その他をおこない、その後生じた耐性細胞のごときものを、宿主に復元し、併せてdiffusion
chamberを取りあげ、増殖能力のin vivoでの変化を調べる。又宿主に対して移植された細胞が食殺される可能性もあるので、これについてはmacrophageとの混合培養法を利用して追求する。
:質疑応答:
[奥村]NH系というのは、放射線に対して非常に抵抗性が高い系ですか。
[土井田]そうかも知れません。
[佐藤]細胞が喰う−ということが頭にありすぎているように思われます。生きている癌細胞をmacrophageが喰うのではなくて、変性したのを喰う−というのが普通の概念ですが・・・。
[土井田]そこに問題はあると思いますが、TC内では脾細胞をLが丸ごと喰ってしまうのが見られます。
[黒木]NH系というのは自然発生癌は多いですか、少いですか。
[土井田]今のところよく判りません。
[勝田]研究目的をもう少しはっきり説明して下さい。
[土井田]移植法の問題と、放射線による変異です。Diffusion
chamberを用いて、動物へ復元した時の細胞の末路をまず見てみたいと思います。(以後、土井田班員の研究目的について、かなり討論が交されたが省略する)
【勝田班月報・6406】
《勝田報告》
A.ラッテ肝細胞の初代培養:
発癌実験に初代あるいは第2代辺りの培養を用いたいことは兼々話している所であるが、そのころの増殖が悪いので、Exp.に使える時期がどうしてもおそくなってしまう。そこで初代の増殖をもう少しまともに出来ないものか、と色々な培地でごくラフなスクリーニングを試み、染色標本で優劣を判定しながら培養し、現在までに次のような結果を得た。
[細胞浮游液の作成]
すべてトリプシン消化を用いた。肝をそのままメスで細切し、モチダ・トリプシン2,000u/ml液で、約15〜20分間室温で作用させた。これを1,500rpmで5分遠沈后、その沈渣を再浮游させて培養に用いた。
Exp.#1:1964-4-10開始。RatF20・生后4日。培地馬血清50%+DM-120。
1964-4-23継代。
#2: 5-8開始。ratF20・生后6日。培地馬血清50%+DM-120、仔牛血清20%+0.4Lh。
#3: 5-12開始。ratF20・生后10日。培地馬血清50%+DM-120、馬血清50%+0.4Lh。
Exp.#1と#2は小角瓶使用。 #3は平型回転管使用。
[結果]
Exp.#1:初代に於ては実質様細胞のシートとfibroblast様(内被細胞?)細胞のシートと夫々相半ば位に混合していた。第2代に入ると、后者の方が多くなった。これにDAB;0、1、10、50μg/ml加えて細胞の形態をしらべた。
1μg:TC第10日の標本でも無添加群とほとんど変りがない。
10μg:第10日標本でみると、細胞の変性有り。核が細かく断裂した像もかなりはっきりと認められた。
50μg:細胞変性が強く第2日の標本ですでに細胞がほとんど見られなくなってしまった。 Exp.#2:Exp.#1よりも后者型の細胞の存在率がずっと高い。馬血清培地では細胞シートができるが仔牛血清+Lh+D培地では第2日では、殆んどの細胞が変性を示し、第4日以后所々に小さなコロニーが出来はじめた。
Exp.#3:ほとんどが内被様細胞から成る。シートを形成せず、コロニー状に増殖。ラクトアルブミン培地よりも、DM-120培地の方が、コロニー数も細胞増殖も少し良好であった。
[現在までに判明した至適条件]
1.Ratはageの若い方がよい。これまで若すぎるとfib.様細胞が多くでてきて困ると考えていたが、実際は6日ratよりも4日ratの方が実質細胞がはるかに多く培養内に認められる。 2.培地は現在迄の所では(馬血清50%+合成培地DM-120、50%)が最も増殖が良好である。[今后の予定]
1.さらに培地を検討する。たとえば馬血清の至適濃度など。
2.DABの各種濃度、特に10μg〜50μg/mlの間を調べることと、長期添加の影響も調べる。
B.NAGISA作戦:
Exp.CN#1〜#4は全部1964-5-8に継代した。
無継代も5週間以上おくと、細胞増殖がみられなくなるので、適当なところで継代する方が反って良さそうである。
Exp.CN#5:1964-4-23開始。カバーグラスなし。RLC-1株、RLC-2株夫々平回転管2本。
Exp.CN#6:1964-5-23開始。RLC-1株、RLC-2株、RLC-3株、RLC-4株、RLC-5株、夫々平回転管2本。カバーグラス入り。なぎさ状態で加温。
その他:この実験は貪喰実験に用いるためで、貪喰材料にはRLH-1の染色体浮游液を用い、なぎさ部とシート内との貪喰率の比較の第2対照として用意した。:RLC-1株、RLC-2株、RLC-3株、RLC-5株夫々TD-7培養管2本。カバーグラスなし。平らに保持(なぎさを作らない)。
《佐藤報告》
◇培地中の細胞によるDABの消耗(つづき)
前号に1個の細胞が1時間に消耗する培地中のDAB量を棒グラフで記載しました。前号以外に行なった細胞の同じ時間におけるDABの消耗の図を呈示します。横軸は0時間から24時間迄の間における1個1時間のDAB量の消耗を示しています。JTC-2では最初の24時間に2.0x10-8乗μgのDABを、次の24時間には1個の細胞は1時間に平均5x10-8乗μgを消耗していることを示しています。訂正:前号JTC-2はJTC-1の誤りです。
次に現在まで行なったDAB消耗の夫々の細胞について、縦軸に培地中におけるDAB(1ml中1μg)を100%として横軸に夫々の細胞がDABを消耗するために必要な細胞数を記載しました(図を呈示)。この図によるとJTC-1及びJTC-2は培地中におけるDABの消耗が最も少い。次いでその動物株であるAH-130になります。RLN8及びRLN10は消耗能力が強くRLD10はRLN10に比してやや少い様です。RLN21(箒星状細胞)は他の対照のものよりやや多く消耗する様です。RLD-M-LD即ちRLD株をメチルDAB
10μgで耐性にした後LD(0μg)で培養したものではDABの消耗が期待したほど下っていません。併しそれの対照として拵えられたRLD-Tw10x即ちRLD株をTweenの10倍量で耐性?にしたものと比較するとかなり消耗度がおちています。又メチルDAB耐性とDAB耐性とが平行するかどうかにも疑問があります。DABの消耗の率の下降が発癌に関係するとすれば更に強く耐性?にする必要があろう。次に上述の細胞の実験時における増殖率の図を呈示する。
◇DAB発癌過程における動物(呑竜ラット)肝臓組織の組織培養上の態度
生后53日目の同種ラットにDABを試食させて、44日目=Exp.52、57日目=Exp.53、72日目=Exp.57、79日目=Exp.58に脱血して型の通り肝を細切してLD+20%牛血清で回転培養した所、44日投与のものでは細胞増殖はおこらなかったが、57日間投与のもので3/5、72日間投与のもので5/14、79日間投与のもので7/14の細胞増殖を見た。細胞の性状其の他については次回の班会議に発表の予定。
《杉 報告》
[golden hamster kidney−stilbestrol]
stilbestrolの繰返し作用:
生後24days♂。stilbestrol 10μg/mlを3日間作用。
培養14日目第2代へsubculture、3+3日間作用。培養10日目第3代へ、28日間作用。
第2代までstilbestrol群は増殖良好、第3代では増殖落ちcontrolと差なし。
stilbestrol群の他にtestosterone作用群を設け(testosteroneをethanolにとかしTyrode液で稀釋。これはstilbestrolのとかし方と同一。controlにも同じ割合でethanol、Tyrode液を入れている)。stilbestrol群、control群との比較を試みている。
生後6days。sex不明。stilbestrol群、testosterone群共10μg/ml。7+3+28日間。
stilbestrol群、control群共に増殖悪く、testosterone群のみ優勢。
生後9days。♀。stilbestrol、testosterone群共10μg/ml。4+3+21日間。
stilbestrol群が優勢。
trypsinizationによる定量的実験は成功していない。
[mice skin−4-NQO]
4-NQOはethanolにとかしTyrode液で稀釋。即ちstilbestrolやtestosteroneと同一方法でとかし得る。このところ研究室の人手不足でstilbestrol、testosteroneの拮抗作用の問題、4-NQOの実験など新しい実験のstartが出来ず進展していません。
《黒木報告》
マウス腹水肝癌MH129Pの培養 in vivo継代によるin
vitro増殖性の変化
月報6310においてマウス腹水肝癌MH134、129P、129F(CCl4により作られたC3H/HeNマウスの肝癌の腹水系。1956)の試験管内株化について報告しました。一旦株化した細胞をin
vivo継代するとき株細胞としての機能、すなわちin
vitroの増殖性がどのように変化するかについて興味をもち、二三の実験をつづけています。増殖性の変化がみられるとき、もとの腹水細胞のようにin
vitroの増殖性を失うものか、又それに伴い他のphenotypeも腹水型に近ずく(back-mutation?)ものか、更に、その増殖性の変化がgradualに起るとしたら、lag-phaseの増加又はdiploid細胞のようにinitial
fallの形で表れるのかをみてみたいと思っています。又animal
paasageによる腫瘍性の回復と表裏の関係にあるのかどうかも問題となります。
文献的には、佐藤二郎先生が、株化したEhrlichが95日5Gのin
vivo継代后も培養における増殖性を維持していることを報告しています(月報6404)。又、高井氏はactinomycin肉腫の株化細胞JTC-14が、in
vivoで27G(ddO mouse)及び22G(C3H mouse)継代后もin
vitro増殖性を保有していることを記載しています。Todaroはpolyoma
virus腫瘍を株化したとき、株細胞はin vitroにおいて少数細胞による増殖能を獲得することを明らかにしました。更にanimal
passage(1代)後も、この少数細胞レベルにおける増殖性の維持されていることを示しました。
動物継代に用いた細胞はMH129P、22代で215日in
vitro継代の細胞です。C3H/HeN or C3Hfを使用し10〜15日間隔で移植し、同時に10,000ケ/mlを培養に移しGrowthをみます。
Growthの測定は、Generation timeを厳密にとるため、時間単位で測定しました。細胞はtrypan
blueを染色生細胞のみをcountしました。又、logarithmic
growth phaseから直線を下に伸ばしinoculum
sizeと交る点を求めlag phaseの時間を計算して出しました。
結果は(表を呈示)、7G、108日迄の成績ではlag
phaseの延長の傾向がみられます。0-24hrs.とあるのは謂ば第1日のcountですので、0-27hrs.の成績も含んでいます。
なおin vitro継代細胞のGeneration timeは大体15時間前后ですので、logarithmic
phaseに関する限りでは、in vivoでtransferの細胞と同じであると云ってよいと思います。
《土井田報告》
NH系マウスの性質: 此の系統のマウスの腫瘍発生頻度は低いが、老齢になると肝癌が30〜40%発生するという。放射線に対する感受性は調べられていないが、雄の生殖腺に600γ局所照射を行なうと繁殖力が著るしくおちるようである。
復元実験の経過: 生後第1日(7/ )のNH系マウス(3匹)に1,460万個のL細胞を腹腔内に注入し、経過をみたが腫瘍発生をみなかったので、2ケ月后(5/ )同腹の対照2個体とともに改めて1,740万個のL細胞を背部皮下に注入した。現在すべての個体において腫瘤形成を認めていない。之等の個体については猶暫時経過を追うて見るつもりである。一方今後も此の種の実験を多少改良した方法のもとに反覆する。
Primary culture: NH系マウスの肝臓および皮質部を主体とした腎臓をとりだし、メスにて細切し、50mlの角瓶にて培養している。培地は20%仔牛血清(又は牛血清)を含むLH塩液で、37℃で静置培養している。
[腎臓] 血清の種類に関係なくfibroblast状の細胞が集落をなして増殖して来ている。最初瓶当り接種した細胞数は調べられていないので、形成されて来る集落について記すことは意味がないが、現在のところ牛血清の方が少し能率よくコロニーを形成するように思われる。
[肝臓] どの様な細胞が増殖しては生残しているのか見当がつかない。この点はっきりするためにはカバーグラスを培養瓶中に入れるのも一法であろう。
肝あるいは腎由来の細胞について幾つかの系を増殖させ、これに放射線照射を行ない、その後、再増殖してくる細胞について腫瘍性変異の有無を調べようと考えている。
マウスにおいては自然発生的に生ずる腎癌は殆んど皆無であるが、ある種の条件でX線照射を行なうと高頻度に腎癌の発生が(in
vivoで)みられたという。この事は我々に極めて興味深い事柄を示唆するようである。
《山田報告》
細胞増殖サイクル中のRNA合成度の推移について
動物細胞の増殖サイクル中に、DNA合成をを行なう一時期(S)があることは御存知の通りですが、この間DNAおよび蛋白質がどのように合成されているかあまり知られていません。今丁度RNA合成度の推移をHeLa細胞について調べておりますので、予報的な結果ですが、ここに紹介してみました。サイクルをひろげて、シェーマでRNA、蛋白質の合成時期を図で示します。もっとも蛋白質は分裂中も合成されるという報告があります。
そこでRNAについて少しくわしく調べてみますと、Interphaseではズーと合成が行なわれ、分裂期では一部RNH合成を行なわない時期があるという結果になります。すなわち15分程度の短いH3-Uridineのとりこみ時間では、MetaphaseおよびAnaphaseの細胞の銀粒子数はbackgroundと同じになります。(表を呈示)。6μc/mlのH3-Uridine、15分とりこみの結果をみますと、1枚のスライドで数多く数えたInterphaseおよびMetaphaseの銀粒子数を比較しますと、前者のCytoplasmの銀粒子はbackgroundと数えてよく(これまでの成績から)、核および核小体の和は約40程度ですが、Metaphaseの染色体上にはbackgroundと考えられる2.6個しかでてまいりません。しかしCytoplasmには17.5個でており、これはMetaphaseではCytoplasmでRNA合成が行われると考えるより、15分間の前半でprophaseの時期に核内(染色体上?)で行われたRNA合成の結果が、核膜消失により細胞質へ放出されたと考えた方が考えやすいと思います。Prophase、Anaphaseはまだ数がたりないので参考データ程度ですが、Prophaseでなお合成が行われること、そしてその程度はInterphaseより高いかも知れないことが推定されます。AnaphaseはMetaphaseと同様の数字です。ここで問題となるのはMetaphase、Anaphaseの持続時間で、これが15分以上あるとすればどちらかの時期でわずかながら合成が行われるというデータになります。最後にTelophaseですが、この時期の粒子の分布には3種類あり、細胞質内のみに見られるもの、核内にわずか合成がはじまっているもの、さらに核内で非常に粒子数の多いものが見られます。これらはTelophaseの後半でRNA合成が再びさかんになることを示していると思います。以上は分裂各期のRNA合成度についての話ですが、現在Interphaseで、どのようにRNA合成の変動があるかについて映画をオートラジオグラフィーの併用で調べております。
《奥村報告》
C)Estradiolの添加実験(Normal rabbit uterus
endometrium)
前報でprogesterone添加実験の成績を報告しましたが、colony
countの方法では0.1μg/mlの濃度が至適であることが判りました。今回は、次いでEstradiolを各濃度に添加して至適濃度を検討してみました。(Primary
culture)Basal mediumにはNo.199(Progesterone添加実験に用いたものと同一lot)。血清はcalf
serum(C)を20%に加え、NaHCO3の最終濃度0.20%。結果は0.01μg/mlが至適(表を呈示)。
D)ProgesteroneとEstradiolの混合投与実験
Progesterone及びestradiolの夫々の至適濃度は0.1μg/mlと0.01μg/mlである事が明かになったので、次に此らのhormoneを各濃度で混ぜた時にどうなるかを調べる実験に着手した。
D-1)Preliminarry exp.1. 恐らく両者のhormoneを高濃度に混ぜても細胞の増殖(又はコロニー形成率)に望ましい効果を示さないだろうと考えたが一応テストする事にした。(多くの細胞数を一度に採取する事が難かしいので実験を分割)。培養液は199+calf
serum(final concent.20%)。(表を呈示)未完。
【勝田班月報・6407】
《勝田班長》
[月報第50号発行記念号]
我研究チームが毎月発行している研究連絡月報も、いつの間にか本号で50号と通算されるに至った。この機会に一度、我々の歩いてきた路(それはまっしぐらの一筋の路であったが)を振返ってみることは、今后の進展のためにも、非常に有意義であろう。
いま、月報ファイルのNo. を開いてみると、月報第1号は、No.6001、1960-6-17発行となっている。その巻頭に、月報を発行するに至るまでの我々グループの歴史が簡単に記されているので、ここに再録しよう。勿論これは文部省の研究班としての歴史で、我々の共同研究の歴史はそれより遥かに古いことを附言しておく。
"癌研究班に於ける組織培養研究グループ"の歴史:
癌研究に組織培養がきわめて有用の研究法であることは当然であるにも拘わらず、昨年度以前はこの班に1名も組織培養研究者は参加していなかった。そこで昭和34年度の綜合研究の申請にあたって、勝田を中心にして組織培養研究グループが新班編成を計画した。 しかしこの申請は全面的には認可されず、癌研究班の内の放射線研究グループに、勝田のみを収容しようとしたので、その他に高野宏一(現在在米)、奥村秀夫(当時、東邦大、解剖)、の両名も収容してもらい、各員10万宛の研究費(勝田は後に5万円追加)をもらって発足した。この班における3名の立場は全く自由であり、放射線の仕事を考慮に入れる必要、義務は全く負わされなかった。昭和35年度編成にあたり、新たにウィルス研究者と組織培養研究者とを合わせて一つの班を作ることになり、上記3名がそちらに移ると共に、さらに3名(遠藤浩良、高木良三郎、伊藤英太郎)を加え得たのである"
(このウィルスとの寄合世帯は釜洞班と呼ばれていたが、1年后の昭和36年度には分離独立して、組織培養だけの班を結成することができた。)
月報の第1号→第3号は、Ditto刷りで、あまりきれいな出来上りではない。第1号を繰ってみると、"組織培養内悪性化のための研究"という言葉がすでに現れて居り、そのためにまず正常の細胞株を作ろうと計画している。当時としては仕方のない考え方であろ。う。高野班員は細胞の凍結保存のテストをはじめている。高木班員は腫瘍組織のマイクロゾーム、リボ核蛋白、デオキシリボ核蛋白などの分劃を抽出し、これを正常由来の細胞の培養への添加を試みている。
なお組織培養内発癌研究の発表として、一連の総合題名を付けることが、このとき既に決められている。第6002号で面白いのは、細胞の腫瘍性はさることながら"正常性"とは一体何かと皆で論じあっていることです(寄稿)。このころ、株細胞は原組織の特性を保持していることがある、として、JTC-4、JTC-6などについて膠原質産生能を共同でしらべ、連名で癌学会に発表しました。遠藤班員は勝田との共同研究として、HeLaを用い、性ホルモンの影響をしらべはじめている。奥村班員はLやHeLaの無蛋白培地亜株の染色体分析をおこなっている。第6004号(9月)からはAgfaのCopyrapid判で月報を作りはじめたので、現在よりもきれいなcopyが得られている。昭和35年9月3日、伝研で行われた組織培養グループだけの第1回の班会議の速記が第6004号にのっている。毎号一人で書くのにうんざりして、各班員のかいた原稿をまとめて綴じるようになったのは、第6005号からである。そして第1回の月報寄稿星取表もこの号に現れている。このころ、勝田はL・P1のアミノ酸要求をしらべて居り、高木班員は腫瘍分劃をJTC-4に加えて悪戦苦闘している。第2回の班会議は12月20日、癌学会の翌日開かれ、報告と例年度の申請について相談している。
月報ファイルNo. は、1961・1月からで、この巻から初めて年12册宛揃い出した。昭和36年度は(組織培養による正常及び腫瘍細胞の研究)という総合課題名で、班員は7人(勝田、遠藤、奥村、高木、伊藤、高野、堀川)。ここに初めて勝田班として組織培養が完全独立した。堀川班員は大学院を卒業して放医研に移った年である。第6102号には、勝田がはじめてParabiotic
cultureについて報告している。高木班員は(PVP+LYT)の培地を用い、添加したRNA分劃のJTC-4による消費をしらべている。高野班員は殊に腫瘍のcrude
extractを与えている。この年度から年5回の班会議がはじまり、第1回は5月14日、阪大癌研でおこなわれた。この第1次勝田班の研究目標は三つに大別され、1)培養内発癌、2)正常・腫瘍細胞間の相互作用。3)正常及び腫瘍細胞の特性の比較であった。1)でも2)でもないのは3)に入った訳である。研究費は120万で各人15万宛、高木、伊藤両班員の旅費が6万円、中央費9万円であった。班会議では発癌実験のための詳細な分担が決められたが、結果的には少数の班員がこれを実行しただけであった。この年は、勝田は正常・腫瘍間の相互作用の研究に全力をあげ、発癌に用いるための正常ラッテ肝細胞の培養の研究もおこなっている。高木班員は前半はRNA分劃の添加を粘っていた。堀川班員はL株を使って、色々な耐性を作ったり、耐性細胞の発現機構をしらべている。高野班員は10月30日、米国に"帰った"と記載されている。この年、勝田は4NQとラッテ肝を組合わせたが面白い結果が得られず(DABとラッテ肝)に変えたところ、年度の終りに近くなって、俄然DABによる増殖誘導の事実が見出され、大いに活気がついてきた。
月報ファイルNo. (1962)の第1号の1頁に"班会議のあと全部を一人で書くのはかなわないから、自分の演説の分は自分でかいてきてくれ"と記してある。よくこれまで辛棒したもの、と今にして思う。この年から佐藤、山田両班員が加わり(高野班員と山田班員と入れ代り)、計8人で160万円にふえている。但し昨年度の"悪平等"にこりて、この年の配分は、15万円、10万円、5万円と3段階を作り、あとは成績により第2次配給という制度に変っている。
高木班員はJTC-4にDAB、ハムスター腎にStilbestrol、・・・色々の組合せで頑張ったが、渡米のため11月で中途挫折してしまった。あとは杉氏がバトンタッチして今日に至っている。佐藤班員は呑竜ラッテにDAB、メチルDABでenergischによく働き、いずれも増殖誘導のおこることを見出している。堀川班員は京大に移り、Lに他の核を貪喰させる仕事をはじめている。奥村班員は凍結保存による細胞の淘汰の問題を染色体分析によってしらべ、遠藤班員は相不変HeLaとホルモンをしらべている。勝田はDABで増殖を誘導したラッテ肝に、さらに第2次刺戟を色々と加えて試みたが、仲々真の悪性化に至らず、その現状を、12月4日、大阪で開かれた(発癌の生化学)のシンポジウムで報告している。
昭和38年度は、第1次勝田班が2年つづき、発癌について何か出そうなことが判ってきたので、班を解散し、改めて(組織培養による発癌機構の研究)として、新しい班を申請することとし、班員は勝田、佐藤、山田、伊藤、堀川、杉、黒木の7人で出発した。真の意味の初登場は黒木班員である。奥村氏は勤務先の都合上、この年は入班しなかった。これまでの月報ファイルにくらべ、この年のNo. はずしりと重くなっている。熱心に仕事をやり、詳細に報告する人が増えてきたからである。勝田と佐藤班員は(ラッテ肝-DAB、メチルDAB)の組合せで奮闘している。結局この年にはまだ復元接種試験陽性の細胞変化は得られていないが。杉班員は(Golden
hamster-Stilbestrol)をつづけたが成果なく、堀川班員は前半L細胞の喰作用を利用して形質転換を図っているが、10月2日にはWisconsin大学へ留学にでかけてしまった。今となってみると、班のためには非常に惜しいことであった。この年は、4月には医学会総会で組織培養の演者5人の内3人を当班が占め(しかも格段と評判が良く)、5月には佐藤班員が岡山で組織培養学会の研究会開催を引受け(癌と組織培養)のシンポジウムでは名司会と評された。新入の黒木班員はハムスターポーチを利用しての、腫瘍の異種移植の基礎的データをがっちりとしらべ上げて行った。なお、この年の研究費は210万円で、大分増額された。
昭和39年に入り、発癌実験は俄然進展した。勝田が偶然に"なぎさ"培養で細胞の変換を見出し、その原因究明につとめ、追試実験でも同期間の5週間でやはり変換が起こり、100%ではないが再現性をたしかめた。そして前月号に発表したような、発癌機構に関する"なぎさ説"が誕生したのである。
この知見と理論は、他班員の発癌実験にも、その計画立案に有効に生かし得るものであるし、且活用されなくてはならない。第2次勝田班も、しかし、これでどうやら看板通りの実績を上げられる見通しがついて、ほっとしたものである。
昭和39年度は、研究費は230万円に増額された。1年休班した奥村君もまた新たに加わり、各種正常細胞を初代からcloningしてpure
cloneでのきれいな発癌実験を可能にさせるべく努力してくれている。前年度后半から客員となっていた安村氏も、今年度からは正式の班員として加わったが、惜しいことにこの夏から渡米されることに急に決まった。ただ在米中の高木氏が12月頃には帰国して、ピンチヒッターの杉班員と交代されることは心強い。関口班員は今年度はじめての入班であるが、7月16日から癌センターの室長として栄転することに決まった。しかし国内のしかも東京にいるのであるから、班会議には出席できるし、月報にも8月号から寄稿することになっている。
月報を出しはじめてから、かぞえてみると4年2月になる。その間毎年5回宛班会議を開き、月報と会議とで、たえず班員間の連絡を緊密にとり合い、励まし合ってきた。他の綜合班では班会議をせいぜい2回、よくて3回、ひどいのは1回(例えば1960のときの釜洞班)というのもある。私としては、綜合研究班というものは、こうあるべきものである−という一つのモデルをおこなっているつもりである。それが良かったか悪かったかは(もちろん各個人の能力にもよるが)、班としての成果で評価されよう。班員が互いに切磋琢磨し合うということは非常に有意義なことである上、同じ畑の、しかも他機関の研究者に自分の仕事がたえず認識されているという自覚は、孤独感によるスランプの発生を防止する。将来たとえ班の結成が許可されないような不幸(我々自身がしっかり仕事をやっていればそんなことは起らないのだが)に陥ったとしても、月報だけは少なくとも続けて行く価値があろう。
癌研究はこれからである。発癌機構が判っても、次には治療とか予防の問題が控えている。とにかく画期的な治療でなければなるまい、ということは想像がつくが、そこでもまた我々の決死の努力が要求されるであろう。とにかく癌という代物は、少くとも我々の代で解決して、次代までこの苦労を持越させてはならないものである。そのためには、並々の努力などでは絶対に駄目である。よっぽど疲れた場合以外は、日曜でも祭日でも研究をつづけなくてはならない。家庭奉仕などは死んでからゆっくりやれば良い。(ただし、癌をやっつけられれば、これは実に大きな意味での家庭奉仕である。)
昭和39年度もすでに1/4が過ぎた。あとで振返ってみて、あああの年はよく仕事をやったと、自分でも満足し、悔いのない年にしよう。
今后とも班員各位の奮励努力を期待して止まない。
《伊藤英太郎》
[月報50号を記念して]
今回で月報50号という事で、月並みな言葉ながら、月日の経つのの早いのに全く驚かされます。
振返ってみますに班全体としては、班員諸兄の御努力によって、in
vitroでの発癌という大きい問題、出発当時には見当もつきかねたような問題に、一応の道標が出来つつある事は、大変に御同慶の至りです。
小生の個人的な成果は、全くお恥かしい限りながら、班研究の進歩に寄与出来るような結果は皆無といってよい状態で申訳け無く思っていますが、それでも私自身にとっては、不成功の繰返しであった此の間の実験からも色々教えられる事が多かったと考えています。特に此の月報或は班会議での班員の方々の御意見をきかせて戴き、討論に参加出来た事は大変に得るところが多かった事を感謝しています。
次の記念号が出る頃には、班として誇るに足る成果が出ている事を確信すると共に、私自身としても、それに幾分でもお役にたち得るべく努力する事を改めて心に誓う次第です。
◇前回京都での連絡会でお話ししたように、今后はbtkマウス→Actinomycinの系で実験を進めたいと考えています。現在までにbtkマウス(12日、16日)についてwhole
embryo→細切→Trypsinizeにより得た細胞を培養してみましたが、割合と簡単に培養出来、しかも、subcultureも可能です。きれいなmonolayer
sheetを作り、mitosisも多くみられて相当活発な増殖をやっているようです。
此れについては今度の連絡会で詳しくお話し出来るものと思ひます。
《黒木登志夫》
[偶感:病理学から細胞生物学へ]
最近、生化学、生物物理等の前衛的生物学の分野では、将来計画、若い何とかの集いが極めて活撥のようである。しかし、病理学の分野では、そのような話は聞いたことがない。何故だろうか。それは、病理形態学が臨床医学と同じように、経験主義的な面が非常に大きいためであろう。一枚の組織標本の診断には常に経験がつきまとう。そこには大家の意見が絶対的なものとして尊重されるべき十分な理由がある。そして、伝統の重みと、形態学という技術的単純さが若手をしばりつけている。
これに対して細菌学は、その名が示すように技術によってではなく、対象によって生きる学問であり、そこには目的のためには手段を選ばない図太さがある。それが細菌の分離同定から始って抗生物質、Virus、更には遺伝情報へとたくましく成長した源泉であろう。 生化学は、病理学と同様、技術によって分れた学問である。しかし"現在の段階では"停滞の気配すら見られない。それは、形態学とは異なり物質レベルで対象にせまり得る技術であることによるものかも知れない。しかし、いつの日か、病理学と同じような立場になる可能性がないとは云えない。
学問の発達を歴史的に眺め、自分のおかれている位置を発見することはむつかしいであろう。歴史は本来破壊的なものでなく建設的なものである。学問を、より本質的なものへと押し進めるためには、大局的に、歴史的に、自分の位置を見定める必要があろう。武谷三男氏らのいう認識の三段階論(現象論的段階→実態論的段階→本質論的段階)から云えば、我々は今どの段階にあるのか、癌研究について云えば、恐らく実態論的段階に入りかかっていると考えてよいであろう。このような重要な位置にあるとき、技術を主とする病理形態学から細菌学のように目的を主とした学問−細胞生物学あるいは腫瘍学への飛躍が必要であろう。目的のためには手段を選ばない図太さ。しかし手段−技術−はますます細分化している。それを埋めるものとしての共同研究。云うは易しい。しかし実行はむつかしい。
《土井田幸郎》
[染色体つれづれ I]
今から染色体について日頃考えていることを書こうというのでも、又最近話題になっていることを網羅し解説しようというのでもない。月報も50号を算え、それを記念して何か一頁分だけ書くように勝田先生から連絡を戴いたので何か書くことはないかと思案の上、班会議出発の前夜(延期になったの本日まで知らなかったのだが)に至ってかくなる表題で書くことにしたのである。私自身はそうだと思っていないのだが、諸賢兄は私を少しばかり知っている人同様、私を染色体屋だと認めておられるのだろうから、この題は私にとって無縁ではなからう。しかし動機が動機なので、書くことに秩序もまとまりも充分な思想も入ってないし、又分責も持てない。とあっては勝田先生も心配で掲載する気持にもなれないかも知れません。その時は容赦なくカットして頂いて結構です。しかし筆此処に至って意外にいい題だし、今後のこと(即ち月報用のデータのない時のこと)もあるので、一つ続けてやろうかなど、いささかの色気も生じ、そのため表題のあとにIをつけることにした。 ☆1 染色体は遺伝子の担い手である。生きとし生けるすべての細胞、生物の生活活動につながる情報の根源は疑いもなく染色体から生じる。形態、機能の両面に究めども盡きぬ魅惑の宝庫を内蔵している。歩一歩その扉を開きたいものだ。
☆2 染色体の研究は荒漠たる原野にあるの想いを私に感じさせる。地平に日は昇り沈む。原野における楽しみ、それは珍奇なる動、植物の演ずる生活と行動を稀に掻間みる事か。
☆3 人類の染色体の研究は目下臨床分野でブームを巻き起している。私も時折り、むしろしばしばか? 調査も依頼される。一枚の核型分枝の図を作るに、慣れたる人の約1日の労働を要することを知るか知らざるか。
《奥村秀夫》
7月号で通算50号の月報を出す事を知り、これまでの並々ならぬ、勝田先生の努力と強靭なる信念に対し、心より敬意を表したいと存じます。
《勝田報告》
§NAGISA作戦
病理学会のころJARラッテが次々と出産したが、以后パタリと休止し、従って実験の方もパタリと進めなくなって困っている。しかしその后若干の実験は進めたので、中間報告ながら、下に記すことにする。
Exp.No.#CN-1〜4:これについては既報下が、何れも株細胞で、CN-1からRLH-1、CN-4からRLH-2ができたが、他は1964-6-25;Frozen(著変がないため)
#CN-5:1964-4-23;RLC-1、RLC-2を平型回転管(No
coverslip)なぎさ。
1964-6-13:Subcultured→現在。
#CN-6:1964-5-23;RLC-1・平型回転管2本(なぎさ)、TD-7
1ケ。RLC-2・平型回転管2本(なぎさ)、TD-7 1ケ。RLC-3・平型回転管2本(なぎさ)、TD-7
1ケ。RLC-4・平型回転管2本(なぎさ)RLC-5・平型回転管2本(なぎさ)、TD-7
1ケ。
964-6-13;RLH-1 cell homogenate(染色体suspensionのつもりだったが)を平型管1とTD-71とに少量添加。RLC-2とRLC-5は6-15、RLC-1とRLC-3は6-13、RLC-4は6-24に固定染色した。貪喰能の比較のためである。
#CN-7:1964-5-25;Praimary culture of trypsinized
liver from a 2-day JAR rat
(F21)。TD-40 2ケ。1964-6-9;Subcultured→平型回転管
10本。
6-18;Addition of H3-thymidine into 2 tubes(1時間処理と24時間処理の2種)。
6-25;Addition of H3-thymidine into 2 tubes(1時間処理と24時間処理の2種)。なぎさ部とシート部のDNA合成能の比較のための実験。
#CN-8:1964-5-27;Primary culture of trypsiized
liver from a 4-day JAR rat(F21)Roller tube
2本。6-18;Subculture→平型回転管3本。
6-23;Addtion of killed water vibrio。6-24;Stained。
Phagocytic activityをNagisa部とSheet部とで比較するために、この実験ではvibrioを使ってみたが、結果的にはこれは小さすぎて見にくかった。
§RLH-2の培養経過
Exp.#CN-4のRLC-2の1本からRLH-2が生まれたことについては既報したが、その経過を詳しく記すと次の通りである。
1964-3-20;Initiation of NAGISA culture.RLC-2
cells in flattened roller tubes with coverslips. 4-3;Cinemicrography
of a coverslip(なぎさの生態の観察のため).4-9;Cinemicrograph
of a tube from which the coverslip had been
discarded(同上).4-19;Formation of a colony
of new cells was found. 5-20;Subcultured
to a flat-tened roller tube and two roller
tubes. 5-27;Addition of 10% rat serum
into a roller tube containing 20% CS and
LD. 6-3;Subcultured.6-18;Subcultured.
RLH-2は位相差での形態はRLH-1によく似ているが、性質はかなり異なるらしい。特に栄養要求に於て異なるらしいことは、この(20%CS+0.4%Lh+D)という培地できわめて増殖のおそいことから推定できる。増殖がおそいので、いまだにRLC-2と混在して居りCloningか何かで分ける必要がありそうである。従ってまた染色体分析には非常に困難をきわめ、Mitosisが少い上、たとえあったとしても、それがRLC-2のではなくて、本当にRLH-2のである、と断定することもできない。現在までに10ケのCountingをおこなったが、41本・2、41〜42本・1、42本・5、70〜75本・1、約140本・1という成績である。41〜42本というのはおそらくRLC-2と考えると、70〜75本というのがRLH-2かも知れない。とにかく現在としては、何とかしてRLH-2の増殖率を向上させるような培地を探求する必要があると思われる。なお上記継代中でRat
serum 10%を追加した群は細胞がやられてくるので、3本を2本にした。
《黒木報告》
Hamster cheek pouch内移植法の基礎的検討 第14報:RLH-1細胞の移植(1)
NAGISA OPERATIONにより生じた細胞RLH-1の腫瘍性検討の一つの"試み"として、Hamstercheek
pouch内における増殖性をみてみました(Exp.226)。
[細胞]
1G:4月23日、抗研へ、直ちにフラン器へ。2G:4月24日、小角ビン2本へ植えかえ。培地(1)・(古い培地1.5ml)+(LE+20%BS
1.5ml)、(2)・(古い培地1.5ml)+(Eagle+1.0mM
pyruvate+20%BS 1.5ml)。3G:4月28日、小角ビンへ植えかえ(培地量5.0ml)、
(1)・Eagle+10% BS、(2)・Eagle1+1.0mM pyruvate+20%
BS)、どちらもgrowthよい。4G:5月1日、平角ビン(培地10ml)へ植えかえ、培地は10%BS+Eagle、5月3、4、5、6、7、学会のため増殖を検討出来なかった。5月9日、増殖悪いが培地交換。5月14日、依然として増殖悪い、培地を10%BS+Eagleから20%BS+1.0mM
pyruvate+Eagleにかえて培地交換。5月20日、同様の培地で培地交換。5G:5月22日、Rouxビン(培地量50ml)に植えかえ。培地は20%BS+1.0mM
pyr.+Eagle。25日、28日、培地交換。5月29日、Hamsterへ移植。
10%BS.Eagleで増殖がよいので、それで植えかえたところ、次の代で細胞がへばったためと思はれます。培地は20%BS+1.0mM
pyr.+Eagleの構成のものがよいようです。(血清量、pyruvateのどちらが効いているのかはわかりません)。なお、全てpipettingにより細胞を剥離し、EDTA、酵素は用いていません。
[結果]
実験ノート(腫瘍の大きさ:原寸大)をそのまま写します。御検討下さい(図を呈示)。
Hamster cheek pouch内で"腫瘤"を作ることは明らかです。特にコーチゾン処置動物ではその"腫瘤"を長い間維持しています。これが今后どのように変化するか、興味をもって観察しているところです。問題はいくつかあります。(1)この腫瘤は移植された細胞によるものか、(2)1万個以下の細胞数で腫瘤を作り得るか(一応Foleyの基準に従うとして)、(3)Hamsterの腫瘤をRatに移植したらどうなるか、(4)RLH-1はHamsterの移植成績のみから考えて悪性といい得るか、等で、うち(1)(2)は現在実験の準備中です。2週間后の班会議のときはもう少しDataが出るかも知れません。
《佐藤報告》
呑竜系ラット肝を細切し組織培養を行い、DABを投与すると増殖の誘導がおこる。然し残念な事に1μg/mlの投与では長期連続投与して、も発癌(呑竜系新生児脳内接種)はおこらない。1μg/mlで長期継代は可能であるが、No.6405に記載した様に1μg/mlの例では形態学的な変化は少ない。株化した肝細胞に更に高濃度でDABを投与(10μg/ml)すると核の異型性が現れて来る。核の異型性が出現することが組織培養上発見される事と、動物に移植して癌性を現わすこととparallelかどうかは明らかでないが、勝田班長の実験から察すると細胞質内RNAの増加現象と併せて少くとも組織培養上での発癌の大きな目安となると考えられる。勝田班長は"なぎさ作戦"が再現性があり、発癌の一つの過程を形態学的にとらえたと考え、その分析を実験的にすすめている。私は呑竜系ラット肝←DABの系において"なぎさ作戦"で現われる異型性のある細胞出現の類似現象をみつけようと試みている。即ち月報No.6403に記載した様にC.44(生后24時間以内の肝)で10μg/mlを交代投与すると増殖する新生児ラット肝細胞から1/5の割で増殖する細胞が出来る−現在4代継代中で性状の検索中−。このC.44の場合には10μg/ml連続投与では細胞がすべて比較的早く壊死してしまう。上記のC.44に比較してC.45(生后40日)で同様の実験を行うと肝細胞は10μg/mlの連続投与にも耐える様である。然し143日の投与においても増殖細胞は現われなかった。C.44、C.45の二つの実験からDAB→ラット肝でPrimary
Cultureで細胞核変型を現わす可能性は比較的若い(生后10日以内)ラット肝を用いて5μg/ml程度のDAB量において起りさうだと思える。
次に呑竜系ラット生后53日、同腹ラット6匹に実中研の固型飼料(DAB含有)を与え、44日后、57日后、79日后及び107日后に夫々肝臓をとり型の様に組織培養を行った。
◇C52、DAB飼料投与44日、DAB量898x0.0006=0.5388g。1964.3-26
屠殺日ラット生后97日。経日的にギムザ染色を行うと共に、2/15は第9日新生児ラット脳内接種(腫瘍-)、2/15は第11日
ラバークリーナーでガラス壁よりはづしメッシュで濾過して継代(増殖-)。
第6日観察で大小不同の肝細胞が認められ、一部ののもは増殖傾向があると考えられたが第44日観察で残存試験管5本中0/5であった。
◇C.53、DAB飼料投与57日、DAB量1228x0.0006=0.7368g。1964.4-8=0日、屠殺日ラット日齢110日。経日的にギムザ染色を行うと共に、2/15は第16日に継代し現在第78日増殖中。2/15は第17日に新生児ラット脳内2匹、腹腔内1匹(共に腫瘍-)。第18日より第78日の現在まで残り5本中3本は上皮様細胞が増殖中。
◇C.57、DAB飼料投与72日、DAB量1247x0.0006=0.7482g。1964.4-23=0日、屠殺日ラット日齢125日。第16日
1/14、第22日 4/14、第31日 5/14。
◇C.58、DAB飼料投与79日、DAN量1288x0.0006=0.7728g。1964.4-30=0日、屠殺日ラット日齢132日。第14日
4/14、第24日 5/14、第44日 5/14。
◇C.60、DAB飼料投与107日、DAB量1731x0.0006=1.0386g。1964.5-28=0日、屠殺日ラット日齢160日。第13日
3/14、第27日 4/14。
以上DABを投与された呑竜ラット肝より組織培養を行うと明かに上皮様の細胞のコロニーが現われる。我々は正常呑竜系ラットからの組織培養では少くとも生后30日を経過した場合には上皮様細胞との増殖を見ていない。従ってDAB投与によってラット肝が培養における増殖能を獲得して来たと考えられる。上記増殖細胞の形態については次の班会議に報告の予定である。
《杉 報告》
golden hamster kidney−stilbestrol:
前回報告の続き(新しくstartしたものなし)
stiblestrolの繰返し作用:
生后24days♂、第3代(初代より24日目に第3代にsubcultureしたもの)。10μg/mlを初代
3日間、第2代 3+3日間作用。更に第3代 34日間作用。以後増殖が落ちたので正常培地に換えたが、RTの数も少いのでsubcultureする程に至っていない。
testosteroneを作用させることについては、動物実験でhamsterにstilbestrolを与えてkidney
tumorを作る場合、それがmaleにしか出来ないということの関連において興味があるが、その前にHeLa細胞でtestosteroneとstilbestrolの拮抗作用をみた実験の追試をしてみる様に示唆されたので、我々のやり方で実際に用いている薬剤についてもそれがいえるかどうかをやってみるため現在細胞を増やして準備中。
mouse skin−4NQO:
まだ一回しか試みていないが、mouseのskinから実験に必要な程の大量のcellを取り出せなかった。そこで発癌実験にはならないが同じmouse
originで既に株になっているLを使って4NQOを作用させてみた。
濃度は一応10μg/mlから10x稀釋で0.001μg/mlまでで行ったが、保存用の株細胞を短期間で無理に増殖させて行ったせいかgrowth
curveがうまく出ず、結局あわててdataを出そうとあせったのが失敗に終った。しかし、傾向としては1μg/ml、10μg/mlはcontrolに比べて障害がある様に思われた。従ってprimaryで細胞が少量しが出ない場合はこれを参考にして、比較的うすいところを重点的にやりたいと思っている。
《奥村報告》
培養細胞のゲノム(GENOME)分析の研究
はじめに−全べての生物体に生命現象を持続するための遺伝的基本単位としてgenomeがある。そして比較的高等な生物ではそのgenomeが顕微鏡(光学)下で観察できる明確な染色体の基本型として捉える事が可能である。もし、このgenomeが何かの原因で欠失したり、或種の異常を起すと、生物体は生命現象を維持出来なくなると考えられてきた。この多細胞生物に見られる現象を出発点にして培養株細胞の場合を様々に憶測してみると、やはりin
vitroで正常分裂を続け同型の核型をもつ細胞を産み出し、長期間単細胞として生命現象を持続している株細胞にも、やはり"genome"又は"genome-like
pattern"が存在し得るであろうという結論を出さざるを得ない。私が1958年5月中旬からそのgenome分析の第1回の試みとして、HeLa細胞の母集団から出来るだけ染色体の少ない少ない細胞を分離する実験を行った。その時は或程度(というのはcloneのpurityが非常に低かった)成功したかに思ったが、なかなか思う様に仕事が進まず断念し、其后機会ある毎に種々の細胞を用いて"minimum
chromosome number"の細胞を分離しようと試みたが、研究する上の諸々の条件から持続できずに今年に至った。しかし、本年2月上旬に他の目的でJTC-4細胞の染色体標本を作っていた時に非常に染色体数の少ない細胞を見出し、再びこの種の仕事に着手した次第です。私は少くともずばりgenomeの検出が出来ずとも或る細胞集団の中にある基本的最少単位の染色体型を知り得るだけでも大きな意義があると信じています。その理由は多数あります。以下JTC-4細胞からの最少染色体数細胞の分離経過をお話しします。
1. JTC-4細胞の培養方法
培地:modified 199+calf serum 20%
細胞分散:0.02%EDTAと0.05%trypsin(いづれもCa、Mgを含まないPBSで溶かしたもの)を1:1に混合した液を用いる
継代時期:ガラス面(培養角瓶200ml容量)に80%のcell
sheet作成の時
植込み細胞数:約4〜6万個cells/mlの濃度
2. Cloning
現在まで3つのclone(仮名JTC-4/Y1、Y2、Y3)を分離、いづれもchromosome
numberの少ないcloneであるが、現在まで分離率が悪く43cloneのうち3つという成績です。
cloneY1:増殖率/週は3.7倍。分裂期38個の染色体数分布は24〜39(?)。
cloneY2:増殖率/週は4.2倍。分裂期67個の染色体数分布は26〜38、48〜53。
cloneY3:増殖率/週は2.8倍。分裂期75個の染色体数分布は28〜42、53〜64。
3. Parent stockの細胞のplating efficiecy
−7〜8%CO2 air(送り込み)条件下でのplating
efficiency−
500/dishで250〜300(約50〜60%)。400/dishで108〜45(約12〜26%)。
200/dishで24〜8(約4〜12%)。 mediumは6mlを入れる。
以上の様な成績を得ていますが、現在もefficiencyを高めるためのmediumの条件、CO2ガス量など検討中です。なお、3w前からautoradiographyを用いて25本前后の染色体のDNA合成を分析しておりますので、7月には或程度まとまった話しを出来ると思います。
追記:5月中旬より約2週間CO2フラン器を改造するために入院させましたので、実験もおくれてしまいました。現在略もとの調子を取り戻しつつありますので、今后一層奮闘する覚悟です。
《山田報告》
InterphaseにおけるRNA合成度の推移:
(図を呈示)HeLaS3細胞をばらばらにしてほとんど1個から増殖するように培養すると、48時間後には2〜8個のコロニーとなります。そこで2、4個のコロニーを選んでH3-ウリジンのRNAへの取込みをオートラジオグラフィーで調べ、これをRNA合成と考えますと、コロニー内の変動よりコロニー間の変動がずっと大きいことが判ります。このことは植込んだ細胞間にRNA合成度の変異があるためか、あるいはInterphase内でRNA合成度に一定の推移があるのか、どちらかです。そこで、まづInterphase内のRNA合成度の推移をケンビ鏡映画とオートラジオグラフィーを併用して観察してみました。現在までのところまだ予報の段階ですが、S期のはじまる前とG2期に2つの山があり、それ以外はほぼ一定(あるいは後半わづかに上昇)のようです。この結果はDNA合成がはじまると、RNA合成の抑制が起ることを示しており、何か理クツに合いすぎて、かえって慎重になっています。哺乳動物細胞のInterphase(Mitosisではなくて)のRNA合成に関する報告は調べた限り(とくにECR)、寺島君のしかありません。彼の同調培養による成績は、分裂後2〜4時間はほぼ一定で、その後徐々に合成度が増加してゆくことを示しています。しかしDNA合成が6時間培養から認められ、14時間後に最高となることから、G1-Sがいつも混在していて私たちが得たような短い期間の山は消えてしまうのかも知れないと思っております。その点、映画は細胞質の分裂(Cytokinesis)を0時間としており、5分程度の誤差ですから、このような観察には適した方法だと考えています。どなたか、この種の報告を他に御覧になったらお教え下さいませんか。
《土井田報告》
別に力を抜いているわけではないのだが、月報に記すほど思わしいデータが出ていないので今月は困っている。
RLH-1の染色体・・・5月中旬、医学放射線学会で盛岡に出向いている間にようやく増殖するようになったので、帰ってすぐ標本を作成したが、overpopulationであったため分裂像はみられなかった。早速一週間毎に培地の更新をしているが、遂に班会議までに間に合はなかった。増殖が急にしなくなった理由は全く不明である。
腎臓細胞の培養・・・NH系マウスより腎皮質をとり出し例のごとく80%LH+20%仔牛又は牛血清の培地で培養している。Fibroblast状の細胞が増殖してきている。一部ではようやく培養瓶一面に増殖してきているので、一部を細胞学的調査に用い、残りに放射線照射を行ない、復元の方にもってゆくことを考えている。目下はin
vitroで増殖する細胞系を作りつつある状態である。
(顕微鏡写真を呈示)写真は生じてきた腎臓細胞である。特別掲載するほどのものでもないが、経過報告のつもりまでに示したものである(培地:80%LH+20%仔牛血清、牛血清)。 Syracuse大学のS.Gelfantは最近、耳の上皮細胞を用いて細胞分裂の機構の研究をしている(1963他)。彼はintactのままもしくはin
vitroにとりだしたマウスの耳に切り傷を入れ、そのあと、簡単な塩類溶液に0.002Mのグルコースを投与した培養基中で4〜53、1/4時間培養したあと、かなり高頻度の分裂像が得られることを報告している。此の増殖は一過性のものであらうが(Gelfantは53、1/4時間以上追跡していない)、放射線の影響の尺度にもなると思はれ、また遺伝(体細胞の)的研究にも利用できそうで、目下追跡中である。
マウスの皮膚癌発生に関する研究が文献上みられるならば、諸氏にお教え戴きたいが勿論此のあたりの事も考えて長期培養もしてみようと考えている。Gelfantは切片標本について観察しているが、私としてはなんとかおしつぶし法で観察したい。細胞を解離するうまい方法があればと考えている。
《St.Jude Hospital便り・高木良三郎》
早いもので月報も数えて50号とか。班員の皆様も着々と成果をあげておられる様子でお慶びいたします。
勝田先生から50号を記念して何か書く様に云われましたが、こちらに参りまして以来、発癌実験とは縁を切り、differentiated
cellのfunctionをin vitroで維持する仕事の一部として、pancreasを対照として働いておりますので、果して皆様に興味ある事かどうか疑問に思いますが、兎も角一応これまでの仕事の経過を略記させて頂きます。
PancreasのTCに関する仕事はきわめて少く、私がこちらに来て仕事を始めた当初は歴史的なものを加えて2〜3を数えるにすぎませんでした。ここにDr.Goldsteinのねらいもあったのだと思います。始めまずcell
culture techniqueで何とかislet cellsをisolateしようとした訳です。1ケ月目に培養開始したadult
rabbit pancreasからcell lineを得ましたが、蛍光抗体法(Dr.Hiramotoと一緒にやっています)で、anti
insuline serum(AIS)、anti trypsin serum共に染める事が出来ず、また種々histochemical
stainingでも本態をつかみ得ず・・・。という訳で3〜4ケ月は暗中模索の態でした。
その中organ cultureを考えつきまして、これなら少くとも短期間はmaintain出来るのではないかと思い着手してみたのですが、殆ど参考文献もない(1954のclen以外)ため基礎条件をきめるのに暇どり、どうにかfoetal
rabbit pancreas(just before birth)を7日位maintainする事が出来る様になりました。その頃(昨年4月のanatomy
meeting)Minesota大の人がrat及びmouseのfoetal
pancreasのorgan cultureによるdifferentiationについて発表した訳です。これは、12〜19day
foetal pancreasの主にisletのdifferentiationを、aldehyde
Fuchsin staining(A & F)により追求したものです。
その后いろいろ条件を考慮しまして、どうにか10〜12日はanti
insulin serumでislet cells(β)をidentifyする事が出来る様になり、更にfoetalからnew
born、young rabbitと培養をこころみて行きました。そして現在の処生后15日のrabbit
pancreasを用いて、少くとも15日間in vitroでβcellのinsulinをidentify出来る処まで漕ぎつけました。
AISを用いた蛍光抗体法とA & F stainingの所見を比較するため、先ずfrozen
sectionを用いてAISで染め、それを今度はA &
F stainingで染めてみましたが、A & Fでどうしてもうまく染らず、逆にpraffine
sectionを蛍光抗体法に利用しました処、抗血清の吸収、染色時間の調節により、きれいにβcells(insulin)をidentify出来、同一切片をA
& Fでうまく再染色する事が出来ました。
またAISを用いた蛍光抗体法による染色のspecificityは次の様にしてcheckしました。
1) normal serumは染めない(serial sectionで)。 2)
stainingはAISによりinhibitされnormal serumではinhibitされない。・・・inhibition
test(direct methodによる)。
そこで両染色法の比較ですが、培養6日目までは少くともgood
correlationです。しかし9日以后となりますと、βcell
granuleはA & F stainingで認めがたくなり(従ってisletそのものも認めがたい)その代り時に多くのA
& F positiveでPAS positiveのgranuleが現れて来ます。これに対しAISでははっきりβcellを確認出来ます。後者のA
& F、PASpositiveのgranuleはAISでは染まりません。したがって或種のmucinと思われます。と云う訳でAISを用うれば少く共15日間はin
vitroでβcells(insulin)を証明出来るのに対して、A
& F stainingでは9日以後は追求きわめて困難になって来ます。従って、pancreasのprolonged
cultureでは蛍光抗体法の方がA & Fよりsensitiveでよりspecificと云える訳です。15日間の培養期間中AISにより証明されるinsulinはおそらくin
vitroでsynthesizeされたものと思われますが、これを確かめるためI125
labeled insulinを用いてimmuno percipitationを利用してmediumのinsulin
assayをやる予定です。
一方cell lineの方ですが、根気よくcolonyをpick
upしてそのhistoryをrecordして行く内に分離后8ケ月を経てその中の一つのlineがviscous
materialをmediumの中に分泌する事が確認されました。そして、始の中ははっきりしなかったのですが、この頃からcelllinesをはっきり4つのtypeに形態的にclassifyする事が出来る様になりました。
1)RP-L1・・・typical fibroblastic cells、long
spindle shaped。
2)RP-L2・・・short fusiform cells、elaborate
viscous material。
3)RP-L3・・・long cytoplasmic projection form
network。
4)RP-L4・・・epithelium like in morphology、distinct
granules in the cytoplasm。
と云う訳です。L2のviscosityは、testicular
hyaluronidaseによってのみ減じ、RNase
Trypsinはaffectしませんので、おそらくpolysaccharideと、思われます。目下carboyal
reactionでquantitatieに調べている処です。
またL4のcytoplasm内のgranuleはlipidとは考えられない様で形態的にzymogen
granuleの様ですが、目下の処何とも云えません。EMで検討を始めた処です。
以上大体これまでに得られたdataらしきものを略記しましたが、differentiated
cellのin vitroにおける維持またそのfateの追求と云う事は大切な問題と思います。
未だにcancer cellとnormal cell(?)とのqualitative
differenceがはっきりしていない 今日、まず所謂differentiated
"normal cell"についてのTCによる研究は"将を射んとせば先ず馬を"という事にもなると思います。
またorgan cultureは、cell cultureより一段とin
vivoに近い感で、私には興味深い
techniqueと思われます。
あと残り5ケ月、広く浅くいろんな事にあたってみたいと考えています。
11月上旬のCell Biology学会に出席の上、帰国したいと思っています。その節はまたよろしく御願いします。御健闘を祈ります。
《アメリカ便り・堀川正克》
先日の富士山に関する記事、続いて本日は研究連絡月報4、5月号をいただきました。いよいよ"なぎさ作戦"も本調子になって来ましたね。さすがに日本で初めてスキーで富士山からおりて来た人だけに大いに感動さされます。若き日の先生の姿、富士山からスキーでかけおりて行く姿をそっと想像したとき思わず"さすがだなあ"と一人でに笑いが出て来ました。そのFightと意気をいつ迄も維持していただいて今後T.C.界に出現する若き青年を叱咤激励されることを心より希望いたします。
私の方もMammalian Cellとはまったく縁の遠い人間になりましたが、それでも論文によるこの面の業績にはたえず目を通し帰国後にたちおくれなきよう視野を広めております。 大学院時代に失敗した昆虫(ショウジョウバエ)のEmbryo
cellのcultureに、やっと成功し、現在殆どのStrainから分離したCellで、Cell
lineを作っております。もう殆ど2、3のStrainは株化出来たようです。これらのCellは御存知のようにChromosome
8本で、それぞれenzyme action、Immunological
character、genetic backgroundが明確にされているだけにMolecular
geneticsの立場にたってCellのgrowth、differentiationを追求するのに好材料です。とにかく今回の成功はMammalian
cellで得た知識をそのままInsectに応用したと云う点にあります。やっと第1報をScienceに投稿すべく書きあげました。これからぼつぼつenzyme
synthesisとm-RNAについてこれらのCellで追って行きたいと思っております。
6月18日に京都の菅原教授がこちらにみえられ、1週間滞在して行かれます。久し振りにお会いして日本の状況をおききするのを楽しみにしているような次第です。
Dr.Szybalikiの部屋は調度センスイカンの様なもので、きっちりと生化学の器具でつまっているのもさすがT.C.界の第一人者を思わせます。8月にはアメリカの遺伝学会でColorado迄行ってきます。この機会にDenberのT.T.PuckのLab.も一見したいと思っております。ではお元気で研究の発展を心より祈っております。暮々も御自愛下さい。高岡さん始めLabo.の皆さんによろしく御伝え下さい。
【勝田班月報:6408】
A.発癌実験
(なぎさシリーズの実験一覧表を呈示)
初期の本格的なぎさ実験はCN#1→#4で、このとき、RLH-1とRLH-2とmutantが2種とれた。#5ではcoverslipを外してしまったが、その為かどうかMutantが得られていない。#6→#8の実験はcell
homogenateやVibrioを加えたり、H3-thymidineを入れたり、副次的なExp.になった。株を使う他に、若いラッテを使って細胞をどんどん増殖させその第2代で"なぎさ"状態においてMutantを作るようにしたいと、最近はprimary
cultureを狙っているが、ラッテの出産が仲々思うにまかせないで困っている。
CN#6の実験で、RLH-1からcrudeのchromosome
suspensionを作り(colchicine添加→homogenize)、なぎさcultureに入れて数日後、染色標本を作ってしらべたところでは、入れたsuspensionの細片は"なぎさ部"の細胞の細胞質内には沢山残っているが、深い所のシート中の細胞内にはほとんど見られなかった。phagocytosisをおこなわない、と見るよりむしろ、食うことには同じように食うが、すぐ消化してしまう。なぎさ部の細胞は消化できないのだ、と考える方が妥当ではあるまいかと思う。これは今後、もっと間隔をつめて標本を作ってみれば判ることであるが。
H3-thymidineの取込能の比較は、Exp.CN#7で現在まで未だ進行中であるが、これは生体からとったばかりの第2代のcultureを使ったため、Cell
populationがむらで、なぎさとかシートの奥とかの区別よりも、同じzoneの内でも色々なpopulationがあって、物を云えない。今後はモデル実験として、やはり株を使ってしらべる方がきれいに判ると思う。
Exp.CN#4でできたmutant、RLH-2の培養経過は前月号の月報に記したが、増殖度がきわめておそく、未だに元のRLH-2とのmixed
cultureの状態である。染色性はRLH-1と似て、basophiliaの強い細胞質、大きな核小体を有し、映画にとってみると、立体的に増殖することと、屡々fuseすることが目立つ。Rat
serumを添加したCultureで増殖が少し促進されたように見えるので、これはRatに復元接種すると案外takeされるのではないかと期待している。(顕微鏡映画上映)
B.ラッテ胸腺細胞の培養
胸腺の機能は未だ明らかでない。New born mouseの胸腺を切除すると、リンパ組織の発育が抑えられるが、取った胸腺をMillipore
filterのdiffusion chamberに入れて腹腔内に埋めておくと、リンパ組織も正常に発育するところから、何か液性の因子を出していることは推定されている。
我々は正常JARラッテ胸腺から4種の細胞株を作った。培養初期には大量のリンパ球が混在していたが、これらは管底に附着せず、液交新のとき棄てられた。管底に附着して残った細胞は、何由来か明劃でないが、数種が混在していることは確かである。その内、特に注目をひくのは、(図示)核の周辺に均等な大きさと位相差densityを有する顆粒が密集し、しかも細胞質が拡がってもこの顆粒はほとんど分散せず、固有運動も示さない、このような特異的な細胞が認められることである。Ioachim
& Furthは胸腺の培養細胞を巧みにReticular
cellsと呼んでいるが、頂度それに相当しているかも知れない。しかしこれまでの報告ではこのような顆粒についての記載は見当らない。顕微鏡映画をとってしらべると、この顆粒が細胞外に内容物を一せいに放出するような現象も認められた。放出すると動かなくなる細胞もあるが、変らずに動きつづけている細胞もある。面白いのは、大抵の株細胞では、分裂でできた娘細胞は、次の分裂もほとんど同時におこなうのが多いが、この顆粒細胞では片方が仲々分裂しない。或はHaematopoiesisのように、1ケだけが分裂能力を伝え、他はこわれて死ぬ(そのとき顆粒を放出)運命にあるのかも知れない。但し、これは今後、長期の映画撮影によって確かめたいと思っている。
顆粒はその染色性から考え、顆粒のCapsuleとcontentと異質でできているらしい。この顆粒が映画でみても動きが極めて少く、しかもお互に密着している、ということから考えて、Capsuleは何か粘稠性の強いmucin様のもので出来ているかも知れない。メタノール固定すると顆粒は溶けてしまうが、Ringer-Formal固定でGiemsa染色すると、Capsuleは真赤に、contentは空色に染まる。contentはPAS陽性であり、Thionineでmetachromasieを起さない。さらに各種の染色によってこの顆粒の定性的検索をおこなうと共に、parabiotic
cultureによって色々な細胞、特にリンパ系細胞とのinteractionを調べて行きたいと思っている。
:質疑応答:
[勝田]RLH-1はラッテの血清を添加すると細胞がどんどんこわれ、死んでしまう細胞が多いのですが、RLH-2はresistantで増えたりしていますから、復元がうまく行くのぞみがあると思います。
[山田]"なぎさ"の細胞に染色体の滓を入れたときの染色標本ですが、なぎさのとき異物を吸着しやすいのか、細胞自体が食いやすいのか、どっちでしょう。
[勝田]私は、なぎさの細胞は、食うことができるが消化がうまく行かないのだろうと思っていますが・・・。
[安村]"なぎさ説"は二段階説というわけですね。
[勝田]ウィルス説なども包含する説です。DNaseの欠損ということが第1段として必要前提で、実験的にDNaseを抑えてみたいと思って色々考えたのですが、いわゆるin
vitroで抑えるようなやり方ではcultureに適用しにくいので困っていました。先日永井君がDNaseの抗血清を作って入れたらどうか、という旨いアイディアを呉れました。
[山田]酵素に対する抗血清は本当にできるのですか。
[関口]それはできると思いますが・・・。難しいと思う点はDNaseには2種類あるので、DNaseIは結晶化できますが、IIはできません。だからIに対する抗血清はきれいにできると思いますが、IIは抗原としてきれいでないので、きれいな抗血清はできないのではないか、と思います。この場合はDNaseIIが問題なのですから・・・。
[黒木]ウィルス説を含む、ということを少し詳しく説明して下さい。
[勝田]殊にDNAvirus系の場合には、細胞の核の破片の代りにvirusが入って、消化されないで、核の構成に組込まれる・・・という具合に、そのまま"なぎさ説"に通じるわけです。
[安村]私のいう二段階説というのは、ウィルスでやられた細胞が、それ自体変化して行くということではなく、変化したその細胞が、おとなりの細胞に影響を与えるということです。
[関口]とり入れられるところ迄は問題ないと思うが、とり入れられたものがその先どうなるか、ということに問題があると思います。
(胸腺細胞についての討論)
[黒木]Osobaの文献の場合は、最後にdiffusion
chamberに入れるとき、リンパ球を分けていないのではないでしょうか。Burnetの説ではReticulum
cellとは云っていないで、Plasma cellと云っていますね。
[勝田]この細胞はぜひ電子顕微鏡にとってみたい、と思っています。
[山田]PAS染色のとき、Diastaseで処理して、Glycogenでないことを確かめておいた方が良いでしょう。
[黒木]ラッテ新生児の胸腺をとって、代りにこの細胞を入れてみたいですね。
[安村]細胞が何種が混在しているそうですが、メッシュを使って細胞の大きさで選別できると良いのですが、仲々難しいですね。10μ位ので濾しても、さきに入れた大きい細胞がすぐ目につまってしまって、小さいのも全然通らなくなってしまいます。
《黒木報告》
(15)RLH-1細胞移植ch.P.の組織像:
前報でRLH-1がch.P.内で腫瘤を形成することを報告しました。今回はその組織像について報告します。(顕微鏡写真を呈示)
組織標本用に腫瘤を剔出したものは、動物番号5、400万移植後3日目、無処置ハムスター右側ch.P.です。
組織像は、中心部にNecrosisがあり、その周囲に帯状に移植細胞の増殖巣があります。その外側にはハムスターの反応細胞が取り囲んでいます。このような像は皮下移植(同種)の初期にみられる像であり、すでに1936年Rossleによって記載されています。移植細胞は、核に大小不同があり、細胞質は空胞が多く、foamy
and reticulatedの状態です。
又、分裂像らしきものも、ところどころにみられます。
以上で移植した細胞がch.P.内で増殖していることは明らかですが、腫瘍性については何も云えません。
今後コーチゾン処置動物、10日頃の組織像をみる必要があると思っています。
(なおVan Gieson、PAS染色では、移植された細胞がPAS(+)の他、特別な知見は得られなかった)。
(16)1,000〜1,000,000個RLH-1移植:
RLH-1を1,000、10,000、100,000、1,000,000の4段階に稀釋して移植しました。(Exp.237)現在移植後10日ですのではっきりしたことは云えませんが、1,000,000のみが無処置、コーチゾン処置とも腫瘤を形成しました。しかし無処置のものはregressionがはじまっています。
(17)diploid celll strainのch.P.内移植性:
Hayflickらはhuman diploid cell strainがch.P.内で腫瘤を形成しないことを記載していますが、具体的なデータは何も示されていません。最近Foley,Handlerがdiploid
cell strainについて報告していますが、これも亦、実験成績の明示がなく何ら参考になりません(Exp.Cell
Res.33,591-594,1964)。
しかし、新着のJ.NCIにKisslingらが報告しているものはhuman
diploid cell strainのch.P.内増殖についてある程度数字を出していますので、御参考までに紹介します(Kissling,R.E.
& Addison,B.V.:Influence of various viruses
on the heterotransplantability of human cells.J.NCI.32(5),p.981-p.1000,1964)。
細胞:diploid strain、18-24transfer 1,000.000cells。
動物:ゴールデンハムスター90〜100g。
結果:移植後2日目2〜5mm、5日目2〜4mmにregress、7日目4/8は消失・残りは<1〜2mm、12日目全て消失。
「うめぐさ」Ratの細胞は2nを維持し易いということはないでしょうか。RLCもそうだし、その他最近文献が二つ続けて出ていますが。
(1)Peturson,G.,Exp.Cell Res.33,60-67,1964
(2)Krooth,R.S. et al..J.NCI.32,1031-1041,1964
:質疑応答:
[山田]Hamster pouchの復元で比較するなら、RLC-2とRLH-1とを比較すれば良いでしょう。
[勝田]RLC系の細胞は増殖がおそくてね。接種するほど沢山揃えるのが大変なのです。片端からなぎさに使っているし・・・。Hamster
pouchに入れてtumorを作る正常細胞と腫瘍細胞の境界はどの位でしたっけ。
[黒木]10,000ケです。10,000ケで2/6にtumorを作れば陽性ということにしています。
[安村]cortisoneをさしつづければHamster
pouchで継代できるでしょう。
[勝田]一発でつかない場合は、あとの処理で変るということもあるので好ましくないですね。今はとにかくRLH-2に期待しています。
《佐藤報告》
培地中の細胞によるDABに消耗について:
月報9406に記載した図表のデータから
(1)JTC-1及び2(腹水肝癌AH-130より勝田によって培養株化されたもの)が培地中におけるDABの消耗が最も少いことがわかる。
(2)AH-130(腹水肝癌動物株でJTC-1及び2の原株)は呑竜ラット肝細胞株群とJTC-1及び2との中間に位する。
(3)RLN10とRLD10は夫々◇C.10の実験から作られた呑竜ラット肝細胞株であり、前者はControl、後者はDABを初期4日投与されたものである。僅かではあるがDABを与えられたものが消耗が少い。
(4)RLN8及びRLN21は、夫々◇C.8及びC.21のControlであり、DABの消耗度はRLN10ににている。
(5)RLD-Tw10XはRLD10細胞株を10倍のTween濃度で耐性にしたもので、RLD-M-LD(DABを10μg/mlでRLD10を耐性にしたもの)の対照となるものである。RLD-Tw10XとRLD-M-LDとの間にはかなり著明な差が現れている。
以上の実験は細胞の種類、アイソトープ含有DAB、DABの濃度等について更に追求する。
次に、呑竜ラットにDABを飼食させて後、組織培養をした(図を呈示)。
DAB投与量の増加と共に箒星状細胞がまづ現れ、次いで上皮様シートが現れる。次第に箒星状細胞成分が減少して、上皮様肝細胞の現れる率が多くなるが、この肝細胞?はDABの増殖誘導によって現われるものに比して、やや大小不同で且つ重層して現われる点が異なる。本実験はin
vivo←DABを経時的に組織培養する実験シリーズのNo.1
Groupで目下第2シリーズを開始している。
追記:観察結果を30日〜40日に設定したのは上皮様細胞が増殖を始める時期が前記日数の当りで終了するからである。従って従来の増殖誘導実験で上皮様細胞の増殖する日より遅れる。
:質疑応答:
[佐藤]ラッテにDABを食わせて肝癌を作る過程の途中で、ときどき肝をとって培養して、培養で生えてくる細胞を復元してみると、どこかで復元可能な細胞ができてくると思い、そこを確かめたいのです。たしかにDABを食わせて50日経つと、培養したとき増殖する細胞が多いですね。培養40日位で、増殖細胞か否かは判定できます。それからDABを10μg/mlで培地に入れたり抜いたりをくりかえすと、生後60日のラッテ肝では死にませんが、若いラッテの肝だと、ほとんど死にたえてしまします。
[勝田]うちでは、以前のようなやり方だと、早期に実験に使えないので、このごろは若いラッテの肝をトリプシン消化して初代培養を作っていますが、これだと色々な細胞が混在していて困ります。
[佐藤]Rat serumは株になった細胞にも害がありますね。1ケ月位すると馴れてきますが・・・。
[安村]動物では肝癌は全体にできるのですか。
[佐藤]いや、病巣のように出来ます。
[安村]それでは動物から前癌状態のところを取っているつもりでも、その病巣に当らないということもあるのではありませんか。
[佐藤]3'methylDABの耐性とDABの耐性とは共通耐性でしょうか。どうでしょう。
[勝田]それはやってみなくては判らないでしょう。君は一つの材料から、Control、DAB、3'methylDABと三つの株を作ったのがあるでしょう。あれで耐性をみたらどうですか。
[佐藤]あれは初期4日間だけの添加ですから、余り比較にならないと思います。
[勝田]培養内のDAB消費は、他のtumorでもやってみましたか。たとえば吉田肉腫、武田肉腫、その他の要因で作ったラッテのtumorですが。
[佐藤]未だです。DABを消費しない細胞に、本当にDAB耐性があるのかどうか問題ですが、DAB10μg/ml連続添加の培養は、培地からDABを抜くと急激に細胞が増殖し、多核細胞なども沢山みられます。
[勝田]さっきのグラフで見ると、DAB消費の態度が割にはっきり2種類に分れていますね。AH-7974などもしらべてみたらどうですか。DAB肝癌で、しかもAH-130と性質が反対のところがありますから。それからDABを食わせている動物の肝を培養して、生えてくる細胞が正常か正常でないか、判定する方法がもっと他にもないものですかね・・・。DABを喰わせているラッテのseriesは1系列だけですか。
[佐藤]いや、あとを追かけてやっています。m-DABはやっていませんが。
[勝田]君の細胞も映画をとってみると良いね。ところで例の箒星状の細胞ですが、あれは一体なんでしょう。どんなorganを培養したとき出てくるか、皆で経験したところをあげてみましょう。Horse
bone marrow、spleen、Rat lung、liver、(peritoneal
lining cellsも似ている)・・・。これらの臓器に共通したものとして考えると、案外血管の内被細胞ではないでしょうかね。
[安村]サル腎で、無蛋白にして条件が悪くなったとき出てきますね。
[勝田]同じ細胞が出てくるのか、それとも違う細胞なのだが、或条件下で、似たようなこんな形になるのか、判らないですね。
《伊藤報告》
in vitroでのアクチノマイシンによる発癌について少し詳しく御報告致します。此の発癌実験は阪大微研の川俣教授の教室で行はれたものであります。
(1)使用されたアクチノマイシンはアクチノマイシンA型のもので"Actinomycin
S"と呼ばれるもの。
(2)動物:etk mouse(C57BL系の亜系)生後5〜10週。
(3)注射方法:1週2回宛、背部皮下に腫瘍発生迄反覆注射。
(4)腫瘍発生迄の日数及び発生率:平均28週で腫瘍発生、発生率約90%。
此の腫瘍が其後腹水型にされ、そのものは高井君によって比較的簡単に組織培養に移されることが分って居ます。
小生は、此のSystemeをin vitroでやる事を企だて、先ずその始めにetkマウス組織の培養を試みました。
i)etkマウスwhole Embryoの培養。此れは、前報で報告しました如く、容易で、又継代も出来、現在第3代に及んで居ます。
ii)生後12日目マウスの腎の培養。此れも又、Trypsinizeにて細胞浮遊液を作り、培養しましたが同様に容易で、第2代えの継代も出来て居ます。
此等2種(腎細胞を得る動物のageについては尚検討の余地があると考えます。)の細胞にactinomycinを加えて、変化を観たいと思っていますが、濃度をいくら位にすべきか、今検討中です。細胞をやっつけはしないが、或程度増殖をおさえるといった濃度をえらんで加えてみたいと考えて居ます。
一方細胞の方は、whole Embryo、kidney全部という事ですので、種々のoriginの細胞が混っている事は確かですが、まずは、このmixed
populationそのままで、Actinomycinを加え、そのうち、cloneがとれる様になれば、それも使ってみる積りです。
:質疑応答:
[安村]マウス全胎児をLD+血清培地で培養すると、はじめに出てくるのは細長い細胞が多いですが、だんだん薄い広い細胞になって、顕微鏡で見ないと判らないような薄いシートが出来るようになります。Ragle+血清だと100%近く株になりますが、細長いfibroblast様のが多く殖えてきます。但し株にするには、20〜30万cells/mlで継代する必要があります。
[伊藤]腎を培養するのにマウスの年齢はどの位まで使えますか。
[安村]Adultで大丈夫です。但し第5〜6代位で増殖が落ちますから気をつける必要があります。
[黒木]DABのように一度食われて肝に行ってから働くものより、この発癌剤のように直接働くものの方が培養で試すには良いと思います。ただマウスは培養株になり易く、且、悪性化しやすいらしいから、折角培養で発癌させても、発癌の促進ということだけになる可能性もありますので、なるべく早い時期に勝負を決めないと問題があると思います。
[勝田]添加濃度をどう決めますか。
[伊藤]以前にL株で濃度をしらべたデータがありますから、それを参考にして決めようと思います。
[勝田]細胞によって影響がかなりちがうし、殊に株でない細胞は弱いから、しらべてみた方がよいでしょう。あらかじめね。以前に寺山氏がこの席上でDABを使うにしても、細胞がこわれない濃度ではなく、少しこわれる位の濃度に入れないと発癌しないだろうと云われましたが、今考えるとその意見は正しかったと思います。
《奥村報告》
A.Cloning of JTC-4 cells.
JTC-4細胞のゲノム分析のためにrecloningをし、何んとかして最少染色体数型の細胞を高純化するため努力を重ねている。(分離cloneの成績の表を呈示)。分離したクローンは8ケで、染色体数は40本以下、最少は25本であった。
B.Effect of serum on plating efficiency
of JTC-4 cells.
細胞(JTC-4)をprotein-free mediumに馴らすための予備実験の1つとして、血清濃度及び種類によるe.o.p.を検討すると、次の様な結果を得た。(表を呈示)
salt contentはHanks処方、血清は仔牛血清。p.e.は血清のロットによって差があり、又血清濃度にも依存していた。、またAlbumin(Fraction-V)では置換できない。
この実験は無蛋白培地への順応亜株を得るには、必ずしも効率のより方法とは云えないが、血清濃度の低下による細胞のselectionを見るのに都合がよいと思う。
以前に伝研との共同研究でHeLa、Lの各株細胞が無蛋白培地に順応するときの状態をkaryologicalに分析を試みたことがあるが、その時は途中経過(順応の)を正確に把握する事が出来なかった。今回はコロニー形成の各時期で分析を行い、e.o.p.の低下が特定の型のselectされる結果によるものかどうか、あるいは母集団では見られなかった型の細胞が出現してくるのかどうかを分析したいと考えている。勿論、この種の実験を進行させる場合には、チューブや瓶を用いる時と、いくつかの条件の相異はあるが、当面血清濃度と核型との関係を分析することを意図している。
C.Effect of Hormone on proliferation of
Rabbit endometrium cells.
ウサギ子宮内膜細胞の増殖にホルモンがどの様な効果をもっているかを検べてみると、どうもProgestroneとEstradiolとでは作用時期が異るような結果を得た。今回の実験は細胞の数だけからであるから、作用機序は全く判らないが、H3-labelのホルモンを入手次第ホルモンの細胞内取り込みの実験をはじめます。以下の成績は予備実験の段階で確定的な事は云えない。
:質疑応答:
[勝田]はじめにEstradiolを与えておいて、途中でProgesteroneに切りかえる、つまりEstradiolが下準備しておけば、すぐProgesteronが働くかどうか、知りたいですね。
[伊藤]Directに働いているのかどうか・・・。
[奥村]全然判りませんが、一応細胞内にとり込まれて、そこでどうなるのかH3などを使ってやってみたいと思っています。
[勝田]ホルモンの溶剤は?
[奥村]プロピレン・グライコールで溶かしました。10,000μg/ml位まで溶けます。培養に入れる位までうすめると毒性はほとんどありません。
[勝田]先の話になりますが、発癌に使う場合は、片方のホルモンだけでは駄目ではないかと思います。つまり一方をうすく入れて、他方をぐっと多くするような、unbalanceな状態が必要と思っています。
[山田]ホルモンはどうか知りませんが、薬品の影響の場合は細胞数にも大分関係があります。だから少数細胞のplating
efficiencyで見た結果が、細胞数を多くした時のに一致するかどうか、問題がありますね。
《土井田報告》
RLH-1の染色体研究:
1964年4月17日に勝田先生より譲渡された細胞を20%仔牛血清を含むLH培地で培養し、継代3代目のものを次の2法により標本作製し検鏡した。
(1)おしつぶし法:最終濃度10-6乗Mのcolchicineで37℃4時間処理後、細胞を集め、3倍稀釋のwarmed
LHで10分処理、2,000rpmで5分遠沈、上清を棄て、細胞をLH1:dahlia色素1の混液にsuspendし、5分染色後おしつぶした。
(2)空気乾燥法:常法により行った。先づ(1)と同様濃度のcolchicine処理、水処理を行ったあと、細胞を遠沈し、上清をのぞき、これに固定液(methanol3:acetic
acid1)を加え、30分放置後細胞をresuspend、遠沈後上清をすて、適量の新しい固定液を加え細胞を懸濁した。氷室にて前以って冷やしたスライドグラス上に細胞懸濁液をたらし、直ちにアルコールランプ上でゆるやかに乾燥した。スライドを1日放置したあと、ギムザ氏液で染色し、バルサム包埋後検鏡した。
(結果)
in vitroで継代した細胞は(2)の方法では容易に破裂するので、先づ(1)の方法で作成した標本を観察したところ分裂像は全くみられなかった。しかるに(2)の方法で作成した標本で分裂像を認めた。現在までにみた細胞数は少ないが、結果は66〜70本で69に最頻数をもつように思われる。核型分析はまだ行っていないが、meta-centric、sub-metacentricのものに比してacro-centricもしくはtelocentricのものが少ない。染色体数70を有する細胞について調べたところ、acrocentricもしくはtelocentric
chromosomeは僅かに15本であり、残りのものはすべてmeta-かsubmeta-centric
chromosomesであった。
染色体の大きさは連続的であり、これまでのところ特記すべき特徴を有する染色体は認められていない。
腎臓細胞の培養:
NH系マウスの腎細胞の培養をつづけている。これまでの培養では繊維芽細胞が生じてきたが、腎皮質からの細胞増殖の様子をみることを目的に、TD-40にカバーグラスを入れ培養したところ、これまでと同様の繊維芽細胞と同時に偏平大型の細胞が混在して殖えて来た。この上皮細胞様の大型偏平細胞のoriginが何であるか、繊維芽細胞と由来がちがうかどうかなどについては全く判らない。
(このほか、放射線を浴びたヒトの白血球の核型について、1)原爆患者、2)職業的に放射線を浴びた人、3)治療で浴びた人、についての研究データを発表。)
:質疑応答:
[勝田]患者の治療のときの照射量は?(コバルト60)
[土井田]毎日250r宛かけて、総量4,000rになるまでかけます。そのあとどうなって行くかを見たいのですが、1クール終って癒ってしまうともう患者がきてくれないので困ります。
[勝田]健康人のデータが少なすぎますね。もっと数をふやすのと同時に、同一の人間について長期間、たとえば5年おきという具合に長くしらべることも必要でしょう。君自身のも材料にしたらいいでしょう。
[土井田]次回にはマウスの白血球について報告します。ヒトの場合はPHAを入れて3日位で分裂像が見られますが、マウスは1週間位しないと見られません。
[勝田]培養それ自体による染色体の数や形の変化、ということについては?
[土井田]このごろはむしろ培養によって変ることはない、と云われています。むしろBone
marrowの方が異常のものが多いのではないでしょうか。染色体のならべ方については、大きい方から1〜5番目、小さいほうからいくつかを見ていて途中は見ておりません。
《杉 報告》
hormoneによる発癌ではhormone間の相互関係といったものがかなり重要なfactorとなり、これをin
vitroで行うにはかなり難しい問題があると思われるが、動物実験の成績を出来るだけ精しく分析してその関係をin
vitroで再現させ、不明の点は片端から各種hormoneを重複的或は継時的に試みる必要があろう。我々の実験で先ず問題になるのは、stilbestrolに対するtestosteroneなどのsex
hormoneであり、in vitroでもこの関係は種々と調べてみる必要がある。このところ研究室の状態がpinchに見舞われ細胞の保存が精一杯という状況になり、発癌に関する実験は全く停滞しており残念乍ら報告すべきdataがない。従って発癌実験は進展していないが、hormoneの作用に関連して、我々のところで用いているstilbestrolとtestosteroneがHeLaS3増殖に対してもつ影響をみようとした。薬剤の濃度には段階を作り種々に組合せてやるべきだが、余裕がなかったので濃度は両者共に一応0.1μg/mlとし、cont:alcoholを実験群と同濃度に含有。s→s:stilbestrol、2日目に同じくstilbestrolで交換。s→t:stilbestrol、2日目にtestosteroneに換える。t→t:testosterone:2日目に同じくtstestosteronで交換。t→s:testosterone、2日目にstilbestrolに換える。t+s:testosteroneとstilbestrolを最初から混合、2日目に同じく交換(但しこの群ではt.s.共に各々0.05μg/ml)
培養2日目と4日目に液交換、4日目は各群とも普通の培地で交換、培地はLYT+20%bovine
serum(母培養を一律にこの培地でやっているのでそれに合せた)
接種細胞数が多過ぎたため増殖率はよくなかった。しかもこの濃度では対照群に比べ各群とも幾分増殖が悪く、細胞数は2日目でcont、s、t、t+sの順、7日目でcont、t→s、s→s、s→t、t+s、t→tの順、7日目でcont、t→s、s→s、t+s、s→t、t→tの順であった。(増殖曲線の図を呈示)
只一回の実験でしかも接種細胞数が多きに過ぎたことなどで、これから結論は出せないが、以上の実験条件ではstilbestrol、teststerone共に増殖抑制に働いており、特にtestosteroneに於いて著しいといえる。
《山田報告》
HeLaS3細胞の増殖サイクルにおけるDNA合成度の推移:
前号にかいたように、対数期の細胞を1コづつばらばらにして炭酸ガスフラン器のなかで48時間培養しますと、2〜8個、大体が4コのコロニーとなります。この段階でH3-ウリジンの15分間のとりこみをオートラジオグラフィでー調べますと、コロニーによってかなりとりこみに違いのあることがわかります。ウリジンは大部分がRNAにとりこまれ、一部チミジン又はデオキシンシチジンを経てDNAに入るのですが、10-5M程度の非放射性チミジンを加えておくと、ほとんど全部がRNAに入ると考えてさしつかえありません。このコロニーによるRNA合成度のちがいは(1)細胞集団中にRNA合成度についてかなり変化した細胞(増殖度のことなる?)が存在している、(2)増殖サイクル中にRNA合成度の変動がある、(3)その他技術的な変動、などの原因が考えられます。そのうちまづ予想されるものとして(2)の可能性を調べてみました。
方法は5分1コマで顕微鏡映画を撮影し、少くとも24時間うつした後、すぐに15分間H3ウリジンをとりこませ、これをオートラジオグラフィーにかけて、核、および核小体上の銀粒子数を数えました。個々の細胞は映画の分析により、細胞質分裂(Cytokinesis)後の時間を算定しておきます。
結果(表を呈示)は、分裂後8時間までは合成度が一定ですが、8〜10(8〜12)時間に合成度が高まり、その後ふたたびおちて、18〜20時間にもう一度ピークがあり、以後分裂に入ります。HeLaS3細胞は10%コウシ血清を加えたEagleMEMで培養した場合、G1期12〜13時間、S期6時間、G24時間という数字ですから、はじめのRNA合成度のピークはDNA合成の直前で、DNA合成がはじまると一旦RNA合成度が落ち、G2に入るとふたたびRNA合成がさかんになると考えられます。
分裂期のRNA合成についてはTaylorはじめ多くの人が報告していますが、一般的にいうと、Metaphase、AnaphaseではRNA合成は停止し、この時期に核内にあったRNAは細胞質中へ放出されるのです。私はこの現象が次のサイクルのTriggerになると考えています。
表の個々の値は平均して10コ、ある場合には5〜6コの平均をとっているわけですから、かなりの変動があります。しかし数学的にみても8〜10、18〜20時間のピークの存在は明らかです。またコロニー別にしらべた別の実験で、5日間培養して32コになったコロニーのRNA合成度を調べたところ、丁度このコロニーの構成細胞の大部分(28コ)が分裂後10〜20時間の位置にあり、そのデータから、DNA合成によるRNA合成の抑制を明確につかまえることができました。
:質疑応答:
[山田]次は2倍体の細胞を使ってやります。
[勝田]蛋白合成の方を早く見たいね。
[山田]今やっています。ただアミノ酸のとり込みの場合は後処置に困ります。水で洗えば溶けるものもあるだろうし、アルコールでboilするというのがありますがどうでしょう。Lys*、Phe*を入れて核と細胞質の比をとってみましたが、今のところ差が出ていません。Lys*はHistoneのつもりです。核に限ってみると、Pheの方がむしろ狭いピークです。HistoneをHClで処理して抜いてみたらどうかと思っています。
[関口]ActinomycinDの実験はやりましたか。
[山田]未だです。ActinomycinDとMitomycinを組合せてやるつもりです。案外このような小さな単位でColonyをやるときれいなdataが出るのではないかと思います。
[勝田]Generation timeの長い細胞の方が精密なデータが得られるかしら・・・。
[山田]寺島が云っているが、Mitosisを基準にするとG2、Sに関してはよく判るが、G1についてはよく判りません。とにかく映画で撮った細胞と標本にしたのと結びつけるのに苦労しました。映画をとったあと、すぐケンビ鏡のレンズ位置にダイヤモンドペンのつく装置を使って丸印をつけました。
《安村報告》
1.果糖肉腫細胞(FRUKTO-Eg)のマウス脳内移植法
1-1. FRUKTO-Eg株はEagle合成培地(1959)にBiotin
0.25mg/lをくわえた合成培地に増殖している系です。現在90代に達しています。
1-2. ちのみマウス脳内接種による結果:
細胞はFRUKTO-Eg株14代めのもの、接種細胞数は5,000、1,562、500、156、生後24hrs.マウスの脳内接種、結果はどの細胞数でもほぼ20日前後で5/5あるいは4/5死亡です。
脳内には0.5mlの注射器で少しながめのマントー針(3cm)をつかいます。いわゆる2段針と称するツベルクリン用の針はよくありません。深めにさして液もれをさせないこと、接種量は0.02ml。
*この腫瘍を乳鉢ですりつぶし、Eagle+Biotin
0.25mg/l(Eg-61培地とよびます)で稀釋して次代へマウス接種とともにin
vitroにもどします。マウスでできたtumorを継代していきます。F-EgM2→F-EgM3→F-EgM4・・・・というように。M2というのはマウス継代数2ということです。現在までのデータではF-EgM11までin
vitroにEg-61培地に復元できました。F-EgM11は40代近く継代されております。マウス継代はこの11代でうちきり。
1-3. 脳内と皮下の比較(F-EgM2細胞):
生後7日のマウスの脳内に6,000個、皮下に30、000個接種しました。脳内は16〜29日で4/6死亡し、皮下は0/4でした。
1-4. マウス年齢による違い(脳内接種):
生後1〜2日は25/26、生後5日は10/11、生後8〜9日では10/20の死亡率でした。
1-5-1. 脳内と皮下の比較では脳内がすぐれていることがわかります。皮下接種ではちのみ24時間以内のものでも最低5万の細胞数がないと腫瘍をつくりません。ときに2万5000でできたことがありましたが。
1-5-2. マウスの年齢の点では7日めまでは脳内のばあい、あまり影響がありません。7日をすぎると感度がおちはじめます。33日になりますとますますおちてしまいます。たとえば細胞数2,800で5日のマウスで、14、14、15と死に3/4の腫瘍率ですが、33日のマウスは16日という具合で1/5の率です。
1-5-3. 果糖肉腫細胞はマウス由来ですから、ホモの移植法です。実験につかった細胞はマウス継代が可能ですし、in
vitroにも、少くともマウス継代11代までのものまで実験したかぎりでは、わりあいかんたんにOriginalにつかっていた合成培地にもどります。ただし、マウス継代がすすむにつれてin
vitroにもどした初代のたちあがりがいくらか悪くなってきます。そんなわけですから、少数細胞ではホモの脳内接種が移植法としてはすぐれていると考えます。(わたしの果糖肉腫細胞ではと限定したほうが異議がでなくてよいでしょうが)。ホモの移植法脳内ではtumorをつくるが、皮下ではつくらないという悪性細胞があろうとは考えにくい、無処置の動物でね。
:質疑応答:
[安村]Sabin & KochはハムスターにSV40をかけてtumorをつくり、そのtumorを培養しているとVirusがtraceですが時たま出てくると云っています。うちでは6代までVero株でしらべたが出てきませんでした。また彼等は血清20%を与えないと細胞が変性をおこしてnecrosisに陥ると云いますが、私の場合は血清を減らしても平気で、2%でもOK、nectosisもありません。Eagleと血清の組合せだと少しbufferが弱いですが、Lhを入れると少し強くなります。
[奥村]Sabinのところも今のところ追試していない。自分でも自信をもっていないようです。
【勝田班月報・6409】
《勝田報告》
A)発癌実験
1."なぎさ"地帯の細胞とシート内細胞とのDNA合成能の比較:
この一端として、最も手をつけやすいH3-thymidineの、とり込み率をしらべた。詳しいcell
countingはまだやってないが、標本をざっと眺めたとことでは、とり込み率には相違が認められないようである。どちらもとり込んでいる。添加時間は1hr.と24hr.の2種。 なお副次的なことであるが、ごく最近Kodakのemulsion液を手に入れてテストしてみたが、さくら製品よりは薄い膜ができるらしく、grainsが核からずれるという現象は全く見られなかった。またgiemusaによる共染もきわめて少い。但しBack
groundはむしろ若干多い。これは輸送のためかも知れない。
2."なぎさ"細胞とシート内細胞とのPhagocytic
activity及び消化能の比較:
Crudeなchromosome suspensionを作って培養に添加し、その直后から顕微鏡映画をとりはじめ、"なぎさ"とシート部とを比較した。この実験は現在も継続中であるが、貪喰という点ではあまり差がなく、どちらもよく貪喰する。しかし、"なぎさ"部では消化が非常に悪い。つまりDNA-depolymeraseを含め色々な分解酵素の活性が低下、或は消失していることを示し、だんだん"なぎさ"理論が裏書きされてきた。
B)武田肉腫の培養
武田肉腫細胞の培養が仲々厄介だったのか、これまで培養の報告がない。大阪で医学会総会のあったときの病理学会の展示に北大・武田病理の若い人が色々の腹水腫瘍の培養を試みた報告を発表していたが、AH-130の他はすべて失敗し、"武田肉腫は、AH-13・・・その他と同様に、培養内では増殖できない細胞である"と結論していた。私が"AH-13はできますよ"と云ったら、びっくりしてあわてふためいていたが。
さてその武田肉腫を、ラッテごと北大・武田病理から空輸してもらい、うちのラッテと培養にすぐ入れてみたところ、雑菌がわっと出てきてしまった。これは標本でしらべると細胞内に共棲していたゲルトネル菌が、抗生物質を加えてない環境になったので急にふえだしたものらしい。継代経過を次に記す。
1964-3-6:ラッテ到着。培養→ゲルトネル菌発生→死滅。ラットへ移植。
3-9:移植(1)50%HsS+DM-120→この培地の内(ペニシリン・ストマイ)添加の培養のみ細胞生存。(2)50%CS+DM-120、(3)20%CS+LD→この2種の培地では間もなく細胞は消失(ゲルトネルのみでなく、抗生物質を添加した群でも同様)。
3-22:Subculture→4-9:培地から抗生物質を除く(もはや雑菌共存せず)。
4-23:ラッテへ移植→50万個→動物継代→各代5〜9日で死亡(ラッテ不足で切れ)。
5-29:ラッテへ再移植→現在17代(各代4〜9日で死亡)。
これを材料として各primary cultureで検討。
TC(培養系)は、7月頃自然切れ(血清の影響と思われる)。
上記のような経過をとってきたが、現在では勿論bacteria-freeになっている。これまでに判ったことは(7日間のSumplified
replicate culture method):
(1)牛血清より馬血清の方がよい。しかし馬血清のlotによって非常に差がある。
(2)馬血清+DM-120の培地では、馬血清50%、20%、10%の内では50%与えないと増殖しない。20%、10%では細胞数が減少してしまう。
(3)Pyruvateを0、0.01%、0.05%でしらべると、0.01%がoptimalで、2日、4日后のような初期の増殖を非常にaccelerateする。しかし7日后には無添加と余り差がなくなってしまう。
(4)細胞の形態は、初期は円形で硝子面に強くは附着しないが、2週間をすぎると附着するものが現われ、それは(図を呈示)極めて特徴のある細胞質突起を有している。
(5)増殖率はまだ極めて低く、7日間に3〜5倍。さらに培地の改良を必要とする。
C)その他
この夏に医学部の1年生が2人来て、microspectrophotometryと、JNCIの最近の号に出ていたRapid
methodでcell speciesのoriginを決める方法をやって貰ったが、そのPreliminaryexp.では、JTC-8、9、10はウマではなくヒトらしいという結果が出た。
《土井田報告》
RLH-1の染色体
前月月報に報告した細胞(RLH-1)と7月11日に分与された細胞(RLH-1-3)について、それぞれ染色体数および核型分析を行なっている。標本はいづれも前号月報記載の通り、10-6乗Mコルヒチン液で4時間処理後、air
dry法で作成した。
染色体数の度数分布は(図を呈示)、いづれの系列においても69に最頻数を有した。hyper-69よりhypo-69を有する細胞がやや多い傾向を示すが、この理由は単にテクニカルな問題で生じるものだけでなく、染色体数が減少の方向にむかうような何か一般的な趨勢によるものかも知れない。此の点については正常人の末梢白血球培養で多くの人のデータから推察される。これ等の報告においてはいづれもhypo-diploid
cellがhyper-diploid cellより高頻度にみられるという。しかしそのいづれであるか、又別の意味があるかについては、今の所不明である。多倍数性の細胞もかなりみられたが頻度は求めていない。
核型分析は現在69の染色体を有する細胞について主として分析を進めている。その幾つかの例を図に示す。核型分析の結果、大部分の染色体はmeta-centric又はsub-metacentricであり、acrocentricやtelocentricのものは比較的少ない。又この細胞群を特長ずけるような特定の染色体はみられていない。dicentric
chromosomeが幾つかの細胞で認められたが、この染色体を有する細胞は主として67あるいは68の染色体数を有しているように思はれる。
chromosome-gap、chromatic-break、isochromatid
breakなどの染色体異常がみられた。それ等の頻度を出すところまで分析が進んでいないので結論的なことは言えないが、頻度は決して高くないようである。
核型の分析は猶現在進めているが、図のb、cはgrossな見方からは全く同型と思はれる。
《黒木報告》
ハムスター・チークポーチ内移植法の基礎的検討
(18)RLH-1、1,000−10,000cellsの移植 (Exp.237)
月報6407、6408にRLH-1cellsを400万個、800万個移植した成績をレポートしました。
御承知のように、Foley & Hardlerは10,000個の移植性をmalignancyの基準にしています。しかし、この成績はあくまでも、いくつかの問題点を残しています。すなわち(1)用いた細胞はestablish
cell lineであること、現在の知識からするとestablished
cell lineはnormal→malig.、malig→malig.の低下がみられる故、この成績がどれだけ細胞の性質を示しているかは、むしろHomo
or Isoの移植成績との比較によって明らかにされるべきであろう。
(2)本当の意味での対照と云うべき"はっきりと分った"normal
and malig.cellが用いられていないこと。(3)2/6以上をpositiveとする統計的根拠が不十分である。probit法その他によりLD50を算出し、その信頼限界を求め、又二直性の平行性の検定から有意性の検定にまですすむのがよいと思はれる(これについては次の月報に報告するつもりです)。
とにかくRLH-1細胞についても、細胞量を変えて移植する必要のあることは明らかです。この成績の一部(移植后10日まで)は、前報に報告しましたが、今回はその後の成績をまとめて報告します。(表を呈示)無処置では10,000個、1,000個は陰性。コーチゾン処置では10万個6/8、10,000個7/8、1,000個1/6。一般に無処置のはtumorが赤く、コーチゾン処置のは白く硬い。
《奥村報告》
A.ウサギ子宮内膜細胞のDNA合成
内膜上皮細胞のplatingで形成されるコロニーは、そのsizeが時間と共に大きくなることは既知の事実である。しかしシャーレ内のコロニーを染めてみても分裂像(特に中期の核板)が殆んどみることが出来ない。分裂前期、末期らしい像はみることが出来る。又コロニーの成長も大小さまざまで2〜32ケの細胞期で止り、それ以上大きくならないコロニーも相当数ある。(この様な現象は内膜細胞だけにみられるのではなく、一般にprimary
culturedcellsにみられる)。更にProgesterone、Estradiolのホルモンを与えるとplating
efficiencyが高まるだけでなく、時には細胞の増殖がみられた。しかし、この増殖促進の現象はホルモンの直接的作用の結果であるか、どうかは全く判らず、現在いろいろの推測の段階に止まる。
今秋、H3-labelled Progest.及びEstradiolが入り次第、直ちにホルモンとして、その糸口をしらべてみる予定であるから、その前に内膜細胞のcell
cycle(G1、S、G2の各plase)とホルモン投与実験の際に細胞の増殖がどの様に変るのか、を細胞数だけでなく、DNA合成能の面からも一応checkしておくことにした。H3-thymidineのuptakeをみると次の様な結果を得た。
予備実験1.
内膜細胞を1シャーレ当り10,000cellsを植え込みmodified199(合成培地)にcalf
serum20%に添加して培養をはじめ3日后にH3-TDNを含む新しい培地に換えた。その后、a)は7日間、b)は14日間培養(途中2日毎にH3-TDN含有培地に更新)してsamplingした。
0.5μC/mlのH3-TDNを添加した実験では、上記の方法と同じ投与方法(無処理の培養3日間)を用いた結果、2hrs.のlabelで5.4%、48hrs.おきに2回labelすると(1回のbelling
time20分)3.5%であった。<この夏は猛暑の為かどうか判らないが全般に飼育動物が弱まり、とくに最近(ここ1ケ月)、ウサギが数匹次々に死亡してしまい実験一時中止>。
《伊藤報告》
前回の連絡会の際の宿題になっていました発癌実験の際に添加するActinomycinの濃度決定の為のDataを得るべく実験して一応の結論を得ましたので報告致します。
細胞:btkマウス胎児(13〜15日)のwhole EmbryoをTrypsinizeして得たもの。
primary culture。
培地:20%Calf Serum+80%L.E.
実験法:Simplified Replicate T.C.methodにより培養→核数計測。
結果:(図を呈示)。Exp.2は其后も続けて実験中ですので、より長期に亙っての濃度の影響が知り得る筈です。
以上のDataより、一応発癌実験に使ふ添加濃度としては、0.01μg/ml及び0.002μg/mlの2種と云う事にして、現在添加后日数を追って形態学的変化を追求中です。
《佐藤報告》
今月は残念ながら充分な研究結果がでていません。班研究の報告として癌学会へ
組織培養による発癌機構の研究 第5報:
DAB及び3'-methyl-DAB培養内長期投与によるラッテ肝細胞の形態学的変化と培地内DABの消長について
以上のものは演説にして、DAB及び3'-methyl-DABによる細胞株の多型性の発現及び其れらの細胞がDAB(培地内)に与える影響を報告いたします。DABの細胞内とりこみについては手段をつくして準備中です。先日上京してH3-ThymidineのAutoradiographyを班長の所で勉強しました。目下はDAB*の入手について全力をあげています。
次に示説として
組織培養による発癌機構の研究 第6報:DAB飼育呑竜ラッテ肝の組織培養
内容は月報に記載してまいりましたDAB発癌過程の呑竜系ラット肝の組織培養に対する細胞の状況を説明したものです。
11月の癌学会までにやっておかねばならない事が非常に沢山あります。9、10月は大車輪でやる積りです。
【勝田班月報:6410】
《勝田報告》
A.発癌実験:
1)前回の班会議で、"なぎさ"地帯の細胞にcell
homogenateを食わせると、どうも消化が悪いようだと報告したが、その辺をさらにたしかめるため、cell
homogenateを培地に加えて顕微鏡映画をとってみた(映画上映)。シート部の細胞も〈なぎさ〉部の細胞も同じように活発にhomogenateを貪食する。しかしシート部の細胞質では貪食されたhomogenateが消化されて段々と見えなくなって行くのに対し、〈なぎさ〉部では仲々消化されず、むしろ細片が固まって塊を作り、いつ迄も細胞質内に残るのが認められた。
DNA合成能の比較のため、培地内にH3-TdRを入れ(1hr.と24hrs.)、それをとり込んだ核の数をAutoradiographyでしらべたが、とりこんだ細胞/全細胞の比率は、シート部でも〈なぎさ〉部でもあまり相違がないように認められた(しかしこれは今後はっきりCellをかぞえて確かめる予定)。〈なぎさ〉部の細胞のmicronucleiにも取込みは見られた。
H3-TdRでラベルしておいたcell homogenateを培地に加え、Autoradiographyでしらべると、2〜3日後にも〈なぎさ〉部の細胞のCytoplasm内に、ラベルされた小塊の残っているのが見られた。
以上の結果を総括すると、DNA合成能、貪食能、の点ではシート部も〈なぎさ〉部も余り変りがなさそうであるが、消化能に於て、〈なぎさ〉部は劣っているらしいことが判った。
なお、映画でRLH-2のmorphologyと、RLH-3(?)、RLH-4(?)も示した。後2者は未だ本当にtransformしたものとは判断はできない。
2)RLH-2は生後24hrs以内のnew born ratsに2回復元接種してみた。
1964-8-22:脳内、約50万個/rat、4匹、今日まで異常を示さず。
1964-8-29:皮下、約200万個/rat、Calf serumで継代のRLH-2を1匹へ、rat
serumを添加して継代中のRLH-2を1匹へ、さらにrat
serum添加継代のRLH-1を1匹へ接種した。今日まで異常を示さないが、皮下の場合は長期間かかることがあるので、なお観察をつづける予定。
B.武田肉腫細胞の培養:
これは正常細胞との相互作用をしらべるために、吉田肉腫の代りに使うため、その培養基礎条件をしらべはじめた仕事であるが、これ迄は仲々増殖率が上らないで困っていた。ところが極く最近、回転培養(10r.p.h.)してみたところ、非常に増殖が良く、1週間に9倍近い増殖を得た。培地は50%馬血清+0.4%ラクトアルブミン水解物である。従って今後はこの条件を土台にして色々な培地の検討を心がけて行く予定である。
なお、Prof.Moskowitzのいうaggregenを作ると、その内部でcollagen
fiberの形成される可能性もあるので、まずこの武田肉腫でそのテストをはじめている。うまく行ったら、さらに、かの吉田肉腫でもそれを試み、これらがfibroblasts-originの細胞であることを証明してやろう、というのである。
Tumor cellの増殖率がある程度以上(例えば10倍/w.以上)の培地を使って培養しないと、どんな正常細胞と組合せてみても、そのtumor
cellsの増殖が促進されるような結果になる。例えばAH-13がそうであったので、武田肉腫の検討を慎重にしている訳である。
:質疑応答:
[奥村]変異した細胞を純粋に継代していますか。
[勝田]RLH-1は増殖度が高いので、あっという間に純培養になりました。RLH-2は増殖度が低いので、大分長い時間がかかりましたが現在では純培養になっていると思います。
[奥村]映画でみた後の二つの?も変異しているのではないでしょうか。効率はかなり良いですね。
[勝田]だけどtube数からいうと、まだまだ少ないでしょう。それに〈なぎさ〉帯は非常に狭いzoneだから、なんとかもっと大量になぎさ細胞のできる方法を考えてみたいと思います。dinitrophenolも培地に入れてみましたが結果は余り良くありませんでした(なぎさ様の細胞にならなかった)。
[土井田]Colonyの中の部分の方が増殖が早く、まわりに押されて独りになると増殖が落ちる、というようなことがありますか。
[勝田]Mutantのできはじめにはそういう傾向があるかも知れません。
[山田]変異という言葉の意味になるかも知れませんが、腫瘍化ではなく株化の経過を見ていることにならないでしょうか。
[勝田]しかし普通の株で、こんなに異常分裂が沢山見られるかしら・・・。
[山田]RLH-1も変異の時期をすぎて安定すれば異常分裂がなくなるのではないですか。
[勝田]RLH-1はもう安定していて、染色体も69本に安定していますが、いまだに異常分裂は沢山みられます。
[黒木]?のついているmutantらしい細胞もピペットで吸取って、RLCのcell
sheetにレントゲンをかけたものの上にでも播けば増え出すのではないでしょうか。
[勝田]そうかも知れないとは思いますが、初代培養を主体としたいと思っていますから、今の段階であまり手をかけたくないのです。
[奥村]この先をどう展開させるおつもりですか。たとえば培養内で変異したものを動物へ復元する場合の問題など・・・。
[勝田]数多くもっとやってみたいと思います。その内一つ位つくのが出来るかも知れませんから。それから現在までにできているMutantsについては、もっと色々の動物に復元してみようと思います。
[関口]なぎさ細胞とそうでないのと別にとり分ける方法がありますか。
[山田]カバーグラスにキズをつけておいて、折れば良いでしょう。
[関口]digestionの問題がすぐDNAと関係するかどうか・・・。lysosome(cathepsinなど)の活性の問題ではないでしょうか。つまりDNaseなどとは別ではないでしょうか。
[勝田]いま使っているのはhomogenateですが、今後はこれを分劃して、DNprotein、DNA・・・というレベルでやって行きたいと思っていますから、そうすればそのことは次第にはっきりしてくる訳です。現在、大切なのは、復元接種で〈つく〉ということです。さっき奥村君の云ったように、transformationとin
vivoでつくということの間の壁が問題です。
[奥村]Malignantということを主題とするには"つく"という段階の検討にも力を入れる必要があるでしょう。
[勝田]takeされるようなmutantをselectする、そのselectionの方向が問題です。方向がいちばん大切と思います。
[山田]勝田さんの方法は非常に正攻法です。
[黒木]RLH-1はラッテ血清でどうなりますか。
[勝田]どんどん細胞がこわれてしまいます。それが、馴らして行くとだんだん増えるようになりました。ラッテ血清はどうも色々な大抵の細胞によくないようです。
[山田]人血清を使っていての問題で、これは荻原氏の実験ですが、どうも具合の悪い血清があるので、それをしらべてみたらB抗原のあるのが良くなかったということが判った。そういうことからも、isoのものでは反って悪い結果を及ぼすことがあるのではないでしょうか。
[黒木]癌の場合にはそういう抗原抗体反応は無いのではありませんか。少くとも移植に関しては良く判っていないのではないですか。
[奥村]そうとも云えないのではないかと思います。
[勝田]Moskowitz氏がRLH-1をaggregateにして皮下などに入れるとtakeされるのではないかと云っていましたが、たしかにそれも一案と思います。
《黒木報告》
ハムスターチークポーチ内移植法の基礎的検討:
(19)RLH-1細胞のチークポーチ内移植−TPD50
前報でRLH-1細胞をch-p内に移植したときの経過を報告しました。その経過からみて、一応移植細胞が増殖した率は次表のようになります。
移植細胞数 無処置 コーチゾン処置
1,000,000 8/8 8/8
100,000 4/8 6/8
10,000 0/8 7/8
1,000 0/8 1/8
この成績から50%腫瘍増殖に必要な細胞数−50%Tumor
Producing Dosis TPD50をLitchfield-Wilcoxson法により算出してみました。この方法(大きく分ければProbit法に入る)は移植に用いた動物群において感受性が正規分布をしているとき、用量反応直線が正規S状曲線になり、それを縦軸をprobit変換することにより直線とするものです。直線性の検定は最兀法で求め、LD50(ED50)を計算します。
このED50(50%effective dosis)を求める方法は母集団が正規分布をしているときには、Mean、Mode、Medianと一致し、もっとも精度の高い方法です。この方法を用いると更にED50の信頼限界、二直性の平行性、効力比の有意性の検定も行うことが出来ますので、今後、実験腫瘍の分野にもっと取り入れられてよい方法であると思っています。
(RLH-1細胞のTPD50の計算式を記述)RLH-1のTPD50は5.0x10の3乗(1,000〜24,500)であった。
(20)RLH-1の組織像
前々回報告したRLH-1の組織像は無処置ハムスターのものでした。しかし今度コーチゾン処理のを作ってみたところ前と大分趣きを異にしていることが分りました。(スライドを呈示)
1)反応の仕方:無処置のものには強い細胞反応がみられたがコーチゾン処置のものには殆んどみられない。中心部necrosisは同じようにみられるがいくらか軽い。
2)移植細胞:形態は大分違う。無処置のものは空胞が多く弱々しかったがコーチゾン処置のものは核も原形質もしっかりしている。ところどころに胞巣を形成している。又血管内に侵入している像もみられた。
異種移植でこのような胞巣がみられるのは珍しく、文献的にはKoike,A.
Moor,G.E. Cancer,16,1065-1071,1963が記載しています。
RLH-1は悪性と云う感を強くしましたが、いかんせんheteroでは、ここまでが精いっぱいです。Homoでtakeさせることが第一でしょう。
:質疑応答:
[勝田]あの復元の組織構造のようなのはきれいでしたね。
[山田]前にうちに居た男が、spongeに細胞をしませてラッテの中に入れておいたら、spongeの中の細胞が、それぞれHeLaはHeLaらしく、LはLらしく構造ができていました。
[高井]Tumorができた、という判定は何日目にするのですか。
[黒木]別にきめてありません。出来たことを確めて色々処置をするのです。
[高井]大きさはどの位にまでなりますか。
[黒木]RLH-1では1cm位にはなります。cortisoneの接種量はラッテなら2〜3mg/100g、2〜3回/wやりますが、2週以上つづけてやるときはこの量では多すぎます。感染を起さないように抗生物質を併用する必要を痛感しました。
[勝田]肝癌細胞を入れると、やはりalveolar
structureか何かできますか。
[黒木]マウスの肝癌を入れてみましたが、まだ組織標本ができていません。
《土井田報告》
新生児マウウえのL細胞の移植実験:
in vitroで培養された細胞の復元の際の宿主との関係を検討する意味で、以前に新生児マウスにLを復元した経過について記したが、新たに同様の実験を行なったのでその結果を報告する。
T-2:CBA系マウス
8月6日生まれの計5匹のマウスにL細胞を6日、10日11日の3回腹腔内に注入した。8月15日終日停電断水した。8月16日、母親はじめ全部死亡、死亡の原因は不明。
T-3:NH系マウス
8月8日生まれのマウスにL細胞を同様に注入した。接種細胞数は8月10日に240万個、8月11日に140万個。
A・8月10、11日に接種し8月21日観察中に死んだので、直ちに腹水を採集したが、採集できなかった。次いで解剖し、腎、肝、脾臓、および小腸を培養した。L細胞を検出することを目的にしているので、培地は5%牛血清を含むYLHを用いた。以後3〜4日目毎に培地の交替をしているが、その間小腸壁を培養したものに軽度の感染が起ったので、ペニシリン・ストマイを加えて感染を抑えた。
脾臓を培養している瓶で、図に示したような(写真を呈示)細胞がみられた。(測定したわけではないが、目安で)もとのL細胞よりやや大きく思われる。この細胞がLか否かを染色体を手懸りに調べようと考えているが、生育が思はしくなく、現在(9月20日)やや退化の方向に向っている。
B・は同様に8月10日、11日に接種し、8月27に死んだが、死亡時刻が定かでなかったので、腎、肝、脾臓および小腸をCarnoy第2液で固定し、パラフィン切片を作成した。組織標本はHaematoxylin-eosinで染色した。組織に変性があるか充分検討していないが、死後時間をへているためか、分裂像はみられていない。
今後、無処置の新生児マウスの組織標本を作成し検討しようと思っている。
C・8月22日に死んだcontrolは、死後解剖したが死因は不明であった。他の個体にくらべ生育がおそく、授乳不足か何かが原因であろうと思われる。
RLH-1の染色体:
先月につづいて核型分析を続けている。RLH-1を特長ずける染色体はみられていない。dicentric
chromosomeを有する細胞や最長の染色体と同じか、それよりやや大きい長さを有するacrocentric
chromosomeなどもみられたが、いづれもRLH-1を特長ずけるものと考えられない。
dicentric chromosomeを有する細胞は染色体数68であることが多く、このことより、RLH-1の確立後生じたものと思われる。(dicentric染色体の有る2n=68と、acrocentric染色体の有る2n=69の核型分析を呈示)
:質疑応答:
[奥村]RLH-1の染色体は、正常ラッテに比べて物凄く激しく変っていますね。たとえば正常ラッテではmetacentricは非常に少ないのですが・・・。
[山田]たとえばLでも正常のマウスの染色体を残しているのに、RLH-1の場合には全部の染色体がかわるということを考えなくてはいけない訳です。しかも大体2本宛対になっているということはどういうことだろう。
[奥村]〈なぎさ〉の辺で6倍体とか8倍体が一杯できて、それが元になってできたのではないか、とは考えられます。
[土井田]正常なものと、この全く変った染色体の核型との移行がどう行われたかは、創造するほかないが、現在のRLH-1は非常に安定した核型をもっています。
[奥村]むかし武田肉腫の腹水をしらべたことがありますが、V型が多かったです。
[土井田]人の染色体で、モンゴリズムの場合、Gの21、22あたりの染色体の下半分だけ移るのがあります。こんなのは見かけは46本ですが、pseudo-diploidという訳です。
[勝田]RLH-1の場合、今後はどうしてこんな核型になったか、その過程を想像してみて欲しいですね。
[土井田]私はこうなる途中の細胞を分析してみたいです。
[勝田]ところが途中で染色体標本を作ってしまうと、そのしらべた細胞の子孫が得られないしね。
[奥村]でもやっぱり、あのなぎさの所の細胞がどんな核型か、ということを見てみた方が良いですよ。多分非常にhighploidyのものがあるのではなかろうか。
[勝田]さっきslideで紹介した論文の内、一寸云い落したのですが、micronucleiの場合それがどんなに小さくても、核小体様のものを含んでいる場合にはDNA合成をする。しかし持っていないものは合成しない。だが合成しても、それは母核の分裂とは無関係で静止核のまま居る、ということです。とにかく分裂にRNAが、特にDNA合成に密接に関与していることを物語っていますね。染色体が形成されるとき、核小体のRNAが各染色体に分散されるのではあるまいか。micronucleiというのは分裂のときの、chromosome
fragmentsが静止核になったとき出来るのだから。
[土井田]植物では特に仁染色体というのがあって、何番目と何番目に核小体がくっついているということが判っていますが・・・。
[山田]この核型をみていると余りきれいすぎるので、その移行が考えにくい。
[勝田]私はまずendoreduplicationでtetraploidができて、さらにoctoploidになり、それが3極分裂したのではないかと想像するが、どうでしょう。とにかく3極分裂する細胞は大きさがとても大きいですからね。
[奥村]そう考えて考えられないこともありませんが、一寸考えにくいですね。というのは3極分裂にもホモとヘテロとあって、若しそのようなことが起るとしたらそれはhomoでしょうが、homoというとその頻度は物凄く少いですから。それからmetaとacroの比率をとってみますと、大まかに人、猿とかマウスとかわけられます。それで傾向をみると、RLH-1は人や猿に近い方になってしまいます。
[黒木]この細胞で3極分裂の頻度はどの位ですか。
[勝田]かぞえてありませんから正確な%は判りません。しかしタンザクのcultureで、いつでも1枚に1ケはつかまえられる位です。
[山田]HeLaなんか何百に一つ位しかない。
[土井田]3極分裂した細胞がまた生き残るというのが僕らの常識ではあまり考えられませんね。
[奥村]生体では有り得ると思います。
[勝田]3極分裂のあと、その内の二つがfuseして2核細胞になることが多いですね。それから、なぎさの状態をみていると、3極分裂してなお生きていられる、ということはあります。
[土井田]動物では中心体というのがある筈だから、3極分裂では中心体が三つということを考えねばなりません。でも前にみた映画の中で静止核がfuseするところがありましたが、ああいうことになると、また中心体が倍になる訳ですね。
[黒木]後の方の仕事についてですが、L細胞が新生児マウスのどこかで増殖するかどうかということを見てみたい訳ですね。
[土井田]そうです。
[黒木]腹腔内に刺したのだから毎日でも腹水をとってしらべてみたらどうですか。細いCapillaryならとれる筈ですが。
[土井田]その必要はあると思いますが、子供をいじるとすぐ食われてしまうので仲々大変なんです。
[勝田]皮下へさした方がふくれ具合が見られて良いんじゃないですか。それからこの研究目的は?
[土井田]培養細胞を動物に入れると、消えてしまうのは何故か、ということをしらべたいのです。Immunotoleranceを道具にして、培養細胞を戻すということを手掛けたいと思います。試験管内で変異を起すということと、その変異を起したものが動物へ復元して癌を作るということを全く分けて考えたい、と思っている訳です。そしてその片方の、動物に復元して癌を作るという所のmechanismを知りたい、という訳です。
《伊藤報告》
アクチノマイシンをbtkマウスの細胞に作用させる場合の濃度を検討して、前報の如き結果を得ましたので、今回はまず、適当と思はれる2種の濃度を含む培地中での培養を継続し、形態学的な変化を観察しましたのでその結果を報告します(スライドを呈示)。
アクチノマイシン0.01μg/ml添加群、0.002μg/ml添加群及び対照群に分けて観察を続けた結果、培養17日目頃で、添加群に変化がみられ始めました。まず第一に気がつくのは対照群ではfibroblasticな細胞が比較的方向性をもってきれいな配列を示すのが普通ですが、この細胞の配列に乱れがみられ始め、更に核のpleomorphismが目立ってきます。此の傾向は日数と共に段々強くなり、35日目ではfibroblasticな細胞は殆んどなくなって、むしろepithelialな細胞になってしまひます。又細胞数も大分に減少しているようです。
残念ながら今回の実験では対照群の20日目以後の標本がとれなかった為、この現象がアクチノマイシンの作用によるものである事を確信出来ませんが、これ迄の経過からみて、まづはアクチノマイシンの作用により此のような変化がきたと考えています。現在、もう一段階濃度をあげて変化を観察しています。
復元時期の点は、今見られたような時期この細胞を集めて復元するのと、一方此の状態で培養を続けて、in
vitroでの増殖の盛んな細胞の出現を待って復元する事も考える必要ありと思ひます。
:質疑応答:
[山田]アクチノマイシンS0.01μg/ml、35日添加のものでは核小体が濃く染まっているのではないかしら。
[伊藤]さあ、はっきりそうとも思いませんでしたが・・・。そうかも知れません。
[勝田]こういう風にWhole embryoを使うとむずかしいですね。はじめから混っていた上皮様の細胞が、fibroblast様のよりも薬剤に強くて、残って行くのであるかも知れないし・・・。1ケ月でアクチノマイシンを除いて、あの細胞を増やして見なくてはね。しかしmouse
embryoでは3ケ月培養で悪性化してしまうというのだから、勝負を早くつけなくてはならないし・・・。
[黒木]対照はどの位長く培養していますか。
[伊藤]50日というのがあります。2回subcultureしてあります。
[黒木]50日で2回とは、増殖がおそいですね。
[奥村]btkマウスというのは?
[伊藤]微研で増やしているマウスです。
[山田]自分で経験はないが、mouse embryoでは、初めはどんどん増殖するが、1ケ月というともう増殖度が落ちるそうだから、アクチノマイシンSを添加して1ケ月位でどんどん増えるようにでもなれば矢張り変異といえるでしょう。
[伊藤]培養から復元するところの壁を、RLH-1が乗切れないとすれば、RLH-1のように変異して純粋な系になってしまったものでなく、その途中の、色々な細胞の混っている段階のものを生体でselectしてから、動物につくものをふやして系にする、ということも考えてみたらどうでしょう。
[勝田]はじめの出発材料をもっと純粋にとることを図ってもらいたいですね。せめて90%位がfibroblastsというように・・・。
[伊藤]mouse embryoでは皮下組織をとるのは仲々むずかしいです。
[奥村]私のところでは新生児ハムスターでやっていますが、かなりきれいにとれます。皮膚を剥しながらピンセットでくるくると捲きとって行くのです。それをトリプシン消化します。
[山田]Earleのところで、trypsinを使って皮と皮下組織を剥して分けるというのがありました。
[勝田]新生児より若マウスを使ってみたら?
[奥村]若いのでは皮下はとてもとれません。細胞がトリプシンでばらばらにならないのです。
[勝田]とにかくこれで伊藤君の仕事は一応方向付けられた訳で何よりです。
《山田報告》
Chromomycin A3の作用機構:
京大脇坂氏、千葉大三浦氏によってChromomycin
A3がRNA合成を特異的に阻害することが認められて以来、DNA合成に対して阻害作用のないことが信じられてきた。とくに三浦氏はS-RNAの特異阻害を報告して注目をひいた。私共(道健一と)は、RNAのmolecular
species、r-、s- & m-RNAの細胞内合成部位、その移動(核→細胞質)などについて、Actinomycin
Dとともにchromomycin A3を利用して研究することを考え、まづchromomycin
A3の作用機構を主としてオートラジオグラフィーで調べてみた。その結果を要約すると、
1)mass-populationでの増殖抑制は0.05μg/ml以上でおこる。コロニー形成に対しては0.001μg/mlですでに抑制が認められる。
2)RNA合成阻害は0.01μg/mlからみとめられ(10-8乗M)、1〜2μg/mlでほとんど完全にHeLa-S3細胞のRNA合成を阻止しうる−actinomycine
Dとほぼ同程度。
3)0.02μg/mlのactinomycin DはHeLa-S3細胞の核小体内RNA合成を阻止するが、クロマチンRNA合成およびDNA合成に対して影響のないことが知られている(Perry)が、chromomycin
A3では、同程度で核小体および核(クロマチン)RNA合成を阻害し、同時にDNA合成に対しても抑制効果を示す。すなわちactimomycine
Dで見られるようなある濃度でのr-RNA合成能特異阻害像は見られないだけでなく、DNA合成を最低裕幸限度から抑制することが明らかにされた。
4)増殖サイクルに対してはとくにS期でのDNA合成阻害が著明で、G2-block、mitosis-blockは認められない。
以上の成績はactinomycin Dと共にRNA合成阻害剤といわれるchromomycin
A3の作用機構が前者と幾分異なっていることを示している。そこでさらに作用機構を明らかにするために、次の実験を試みている。
A)RNA-dependent RNA synthesisに及ぼす影響:
PS-Y15細胞内、日本脳炎ウィルス(JEV)の増殖に及ぼすchromomycin
A3の影響を調べた(武田、青山)。細胞のRNA合成をほとんど完全に阻害する2μg/mlのchromomycin
A3添加培地内でのJEVの増殖はPSにおけるプラックカウントで測定して無処置細胞群とかわらず、蛍光抗体法によるviral
antigen産生細胞の出現頻度も同じである。H3-uridineのとりこみは宿主細胞だけの場合には、この濃度のchromomycin
A3でほとんど認められないが、JEV感染細胞では4〜6時間後よりとりこみがはじまり、8時間で最高値に達する。uridineのとりこみはすべて核内で起る。その時間的関係をシェーマで示す。以上の結果は、chromomycine
A3がactinomycin Dと同じく、RNA-dependent
RNA synthesisを阻害しないことを示している。
B)Chromomycin A3のDNAのtemperature profileに及ぼす影響(山田・大場):
仔ウシ胸腺DNAとin vitroでふった後、東大薬学部にある装置を使ってDNAのtmを測定した。対照としてactinomycin
Dを用いた。いづれも4μg/mlの濃度である。図でみられるように、actinomycin
Dではtmの明らかな上昇が認められるが、chromomycin
A3では認められない。chromomycin A3はmethnolに溶解した後、水で稀釋してもちいるので水溶液でないことが影響しているかも知れないと考え、水溶性のchromomycin
Sを用いてみたが結果は同じであった。この成績から、actinomycin
Dで考えられるDNAとの結合がchromomycin A3では確證が得られない。そこで現在、in
vivoでchromomycin A3を作用させ、そこから得られるDNAのtmについて検討する予定である。
以上の成績のほか、伝研小田氏にvaccinia
virus(DNAウィルス)の増殖に及ぼすchromomycin
A3の作用を調べてもらい、感染価と共にウィルス抗原蛋白(HA)の合成が阻害されることを観察中である。
:質疑応答:
[勝田]Viral RNA合成のはじめから、Viral
protein合成のはじめ迄、少し時間がかかりすぎるような気がしますが・・・。
[山田]核内でVirusが作られて、それが細胞質へ出るというところが他のものとちがう所ですから、そのためかも知れません。
[勝田]90分吸着というのは長すぎませんか。つまりその間にもうVirusのRNA合成がはじめられていると、準備のできてしまったものにはもはや薬剤が効かない、という可能性は?
[山田]よく判りません。
[奥村]Growthのone stepは何時間ですか。
[山田]18時間です。
[奥村]ずい分おそいですね。
[山田]増えている細胞の色々な合成の形態についても、もっとはっきり判らせる必要があると思います。それもまた発癌につながることと思います。
[勝田]RNA virusにDNAが少し混っているという説がありますね。
[奥村]Rousがそうですね。
[山田]僕は知りませんでした。
《奥村報告》
A.ウサギ子宮内膜細胞の増殖に対するホルモンの影響:
月報8月号にProgesterone、Estradiolが内膜細胞の増殖に何らかの影響を与えているらしいという推測を可能にするデータを報告しました。特にEstradiolが促進効果(増殖に対し)を示し、Progesteroneは投与後2〜10日間は若干促進効果を示すが2週後にはcontrolぐんと殆んど差がなかった。これらの結果を再検討するためとEstradiolの増殖促進効果を詳しくしらべるために以下の実験を試みた。
Exp.1は培地:199+CS20%(全べてのtubeをcontrolと同じ培地で1日培養し、2日目にhormoneを添加。培地更新は6、12、16日(ホルモン添加後)に行った。結果はやはりEstradiolを0.01μg/mlに加えた群が増殖を促進する結果を得た。これは8月号月報の記載の結果と一致することが判った。
Exp.2でEstradiolの濃度と細胞数(植込み)との関係を明らかにしておく必要があるので、それを試みた。植込み細胞数:50,000/ml/tube、培地その他の条件はExp.1と同じ。やはりEstradiol
0.01μg/ml添加による増殖促進を確認している。現在、seed
sizeを100,000/mlと10,000/mlの実験を進行中。
次に予定している実験はEstradiolのdoseを0.01μg、0.1μg、1μgにして、又colony
formationを利用して細胞レベルでのDNA、RNA合成の分析をする(autoradiographyを用いる)
B.JTC-4細胞のGENOME分析の試み:
ParentのJTC-4細胞(仮にJTC-4Yと呼ぶ)から度々cloneを分離し、現在まで58ケのcloneを得、そのうち18ケのcloneからrecloningを行い、出来るだけchromosome
numberの少ない細胞系を樹立すべく努力を重ねている。しかし、どうもchrom.no.の少ない細胞はかなり不安定のようで、2代目(継代)になると増殖が極度に悪く(2〜2.5倍/1週)しかも3代目にsomplingしてchromosome
analysisをするとdistributionが拡がっている。現在苦慮中。cloneの中で最も安定している型はchrom.no.が34〜37本ぐらいの分布をしているもので、この種の細胞は炭酸ガス-airの条件下では8代〜12代になっても若干distributionが拡がるだけで殆んど変らない。
:質疑応答:
[勝田]長期継代しているendometrium cellsはありますか。
[奥村]今年の2月から続いているのはありますが、増殖はあまり良くありません。
[山田]実際にcolonyをとるのにはカバーグラスを入れてやっているのですか。
[奥村]いや、シャーレのまま標本を作っています。このごろ底の真平なシャーレを作らせることができたので、それを使っています。
[山田]Colonyのままで10とか15とか染色体をみるのは良い方法ですね。
[高井]ホルモンは何にとかしたのですか。
[奥村]プロピレングリコールです。これは使用濃度では培養に影響ありません。
[土井田]染色体数の少い細胞を継代して行けるのですか。
[奥村]今までは少いのを継代して行くための条件を検討してなかったから、継代できなかったのではないか、と思います。これからその条件を検討すれば継代できる可能性はあります。
:勝田班長:今後の、近い将来の研究計画を話して下さい。
[黒木]今までの仕事を全部論文にしてから、培養実験として、Rat
embryoをはじめからplatingして、4NQを組合せて発癌実験をやってみたいと思います。
[勝田]奥村君の仕事は両女性ホルモンを組合せて使ってみる必要があると思います。生体で完全に片方だけになるということは考えられないのですから。それから高井君は伊藤君の仕事のあとを続けてやってくれるのでしょうか。
[高井]ええ、当分はそのつもりで居ります。fibroblastsだけを純粋にとり出す方法も考えなくてはならないと思って居ります。
[奥村]兎を使うのに一寸音をあげて居ます。高いですから。ハムスターに転向しようかとも考えています。
[勝田]折角基礎データが出はじめたところだから続けてやって下さい。
【勝田班月報・6411】
《勝田報告》
A)発癌実験:
なぎさ培養もつづけていますが、それより目下の急務は何とかしてこれまで出来たRLH-1、RLH-2でラッテにtumorを作らせることで、先月の班会議での黒木班員のデータにすっかり刺戟され、ラッテが使えるようになり次第、Cortisoneを使っては復元しています。しかし結論から云えば、今日までのところでは、まだtumorはできていません。
(1)腹腔内復元接種(cortisone 2mg/100g、週2回後肢大腿部)
RLH-1(1964-10-8接種、1月ラッテ1匹、約150万個)、1日、4日、7日后まではかなりmitosisが見られたが、以后次第に減少(腹水は貯まっている)、10日、14日后になると僅少で、14日后にはしらべた限りではmitosisは見附らなかった。
RLH-2(1964-10-6接種、1月ラッテ2匹、約150万個宛)、1日、6日、9日、12日、16日としらべたがmitosisは6日、9日にだけ見られた。しかもcell
islandsの形成も見られたが、何れも日と共に見られなくなってしまった。近日中にこの内の1匹を解剖してみる予定。
(2)皮下接種(cortisoneは上と同量で後頸部皮下。細胞は大腿部皮下)
RLH-1(1964-10-23接種、1月ラッテ2匹、約1000万個宛)、今日までのところ腫瘤を認めず。
RLH-2(1964-10-23接種、1月ラッテ2匹、約2000万個宛)、今日までのところ腫瘤を認めず。
(3)今后の予定
JARラッテが不足なので雑系ラッテを購入し、一両日中に接種を試みる予定。新生ラッテ、cortisone処理した若いラッテなどを用い、次は尾静脈内注入をやってみます。
B)正常ラッテ肝細胞とのParabiotic Culture:
RLH-1とRLH-2の両者についてしらべましたが、何れも(AH-130対正常肝)の場合と同じようにRLH-1、-2の増殖は促進され、肝細胞はこわされて行きました。但しRLH-1の方がその効果が強く現れました。この面からもRLH-1、RLH-2は前のDABで増殖誘導したRLD系と異なり、悪性腫瘍と云えるのでしょうが・・・。
C)Aggregate形成能とRLH-1、RLH-2:
Prof.Moskowitzのいうaggregenをこの両細胞で作らせてみましたが、ここでも両者の性質の差が現れました。RLH-1は全然作らず、RLH-2では径4mm位の円盤状のものまで出現する位よく出来ました。
D)武田肉腫細胞の組織培養:
現在まで約16種のExp.を試みましたが、どうもcontrolのcurveがきれいに一定せず困っています。これまで得られたデータを簡単に総括しますと、
[50%馬血清+DM-120]でも[50%馬血清+0.4%Lh]でも差がありません。従って経済及び手間の関係から途中から後者に変えました。
静置と回転培養(10rph及び2,000rph)では10rphの回転が最適。
Chick embryo extractは入れない方がよい。Calf
serumはダメ。Pyruvateは0.01%添加がoptimal。Insulinは効果なし。Lhは0.4%よりも0.2%の方がよいので、途中から0.2%に切換えた。これは血清濃度が高いためかも知れない。馬血清濃度は色々なinoculum
sizeでしらべても、50%、20%、10%の内では、50%だけで増殖が続き、他は一時ふえたように見えるときでも、またすぐ細胞数が減少して行ってしまう。Glucoseは1g、5g、10g/lの3者ではほとんど差が見られない。
ただ武田肉腫の培養でいちばん面白いのは次の実験であろう。すなわち、上に記したようにcontrolでも時によって増殖度に差があるので、考えてみたところ、どうも血清のlotによってちがうらしい。しかも、どうもhemolyticな血清の方が良さそうである。そこで馬血液を遠沈して上清をすて、赤血球だけにして、これを3回凍結融解した。これを2,000rpm15分遠沈して上清のきれいなところを取り、salineで稀釋して20%液とし、終濃度1.3%に培地に加えてみた。するとおどろいたことにcontrolよりもはるかに増殖がよい。このときcontrolは7日間に約2倍にしか増えなかったのに、この赤血球juice添加群では約5倍にふえているのである。しかも同じExp.の中でPyruvateの添加も試みていたが、Pyruvate0.01%(約3倍の増殖)よりはるかに良い増え方なのである。
これは面白いというので、赤血球成分の分劃を試みて行くことになり(この仕事は高岡君が癌学会にdemoで出しています)、癌学会に間に合わせる最后のExp.のため今夜は現在10時半、ようやくSpincoの回転が止まったところです。この第一段の分劃では赤血球のgosts、S-protein、Hemoglobinの3分劃に分け、どこに活性があるかをしらべますが、結果は癌学会でのおたのしみ・・・。
《佐藤報告》
DAB発癌実験については癌学会后の班会議に纏めて報告させて頂きます。今回はC3H乳癌細胞について私の所で実験し判明した事を報告させて貰います。
現在、株化できたC3H乳癌T.C.株はHei、Ye(-)、Aの3株で夫々1050日、954日、942日を経過しています。Ye(-)StrainにはPrimary
Cultureのときの亜株5及びP-lineがあり、A Strainには同様O-lineという亜株があり、染色体分布は表の通りであった(表を呈示)。
動物C3Hマウスへの復元はP及び5-lineに就ては詳細には未だわかっていないが、他の株はいづれも腫瘍を造る。但しレントゲン前処置が必要である。Ye(-)株はレントゲン無処置の場合にも復元が可能であり、他の株に比してやや腫瘍性が高い。
[培養株細胞中におけるBittner乳因子に就て]
電顕による株細胞の観察で現在までの所ウィルス粒子を認めていない。従来もC3H乳癌ウィルスは培養上増殖しないと謂われている。従ってC3H乳癌細胞のPrimary
Cultureの条件を検討して、その上でウィルスの増減を検索し、出来得れば本ウィルスの大量入手の手続を発見して見ようと考えた。
C3H乳癌の牛血清YLEにおける最適培地は、下記の最終濃度である。Bovine
serum 50%、Lactalbumin Hyd.0.25%、Yeast
extract 0%、Glucose 0.225〜0.45%。
◇Praimary Culture 0〜90日におけるウィルスの消長
上記のmedium及びYeastE.を0.05%含むmediumで、C3H原発乳癌を組織培養して経日的に観察した。Yeastを含むmediumの場合、ウィルスの量は急速に減少し培養後6日以後では電顕による発見が極めて困難となる。Yeastを含まないmediumでは、同一の原発乳癌からの培養でウィルス減量が少く38日の経過のT.C.細胞で細胞質中にA粒子を発見した。従来培養でA粒子は見つけられていない。(写真を呈示)
併しいずれにしても現在の培養条件で乳癌因子の増量は認められない。
◇株細胞の動物復元(C3H♀乳因子保有)による潜伏ウィルスの吸着
株細胞を動物へ復元して出来たTumorに就て電顕を見たが、ウィルスの存在は認められない。
◇原発腫瘍のC3H♂マウスによる継代に就て
最近、原発腫瘍をC3H♂マウスに継代してウィルスを観察した所、多量のウィルスを認めた(写真を呈示)。
《奥村報告》
本報では、特に報告すべき実験結果を得ていないので、現在の仕事の状況と今后の方針について若干意見を述べることにします。
A.JTC-4細胞からのクローン分離に関する仕事
現在まで約7ケ月間にこの細胞から総計約32ケのクローンを分離しましたが大部分(29ケ)は満足すべき染色体数を持っていないために打ち切り、現在4ケ継代中であるが、このうち2ケは増殖が極めて悪く1Wに2〜3倍程度である。又他の2ケは増殖が4〜5倍/a
weekでよいが染色体数の分布が32〜36本である。何んとかしてJTC-4細胞から20本代の染色体をもつ細胞系を分離したいと思うが、今までの結果では染色体数が少ない細胞は増殖が悪いばかりでなく、Purityも低い。つまり次のような傾向を示す。<30本以下のクローンは週3倍を越えない増殖度で極めて不安定。30〜35本のクローンは週3〜5倍で比較的不安定。35〜40本のクローンは週4〜8倍でかなり安定。41〜45本のクローンは週3〜5倍の増殖度でやや不安定。>55のクローンは週5〜7倍で比較的不安定。
*JTC-4細胞のparent culturesのcell cycleを、H3-TdR(1μc/mlを30分間label)の取り込みから測定中。
*cloneのkaryotypeを分析中。
*各染色体のDNA合成をH3-TdRの取り込みから検討中(予備実験)(つまり、各染色体のDNA合成の順位と、もしsecondary
constriction等のmarker chrom.があれば合成の進み方等)
B.HmLu細胞からのクローン分離に関する仕事
この細胞はJTC-4細胞と異なり、growthが極めてよい。Parent
stockの細胞は40〜50倍/a weekであるので、この細胞のクローン分離及びRecloningによるpurificationは非常に容易です。現在までJTC-4細胞と共に18程のクローンを分離、継代中。それらのクローンの生物学的性状を分析中です。Parentの細胞のgeneration
timeは約22〜24hrs.位と思いますが、只今正確なcell
cycleはH3-TdRの1μc/ml、20min labelingで検討中です。詳細は来月に報告しまし。
*この細胞からもJTC-4細胞の場合と同様、いくつかのcloneの(出来るだけchromosomeの少ないものを選び)chromosomal
DNAの合成をしらべ、特にmarker chromosomeに集中したい、と云うのはHmLu細胞には顕著なmarker
chromosomeをもつ細胞があるので興味深い。
*この細胞はFibroblasticな形態を示しているので、又lung由来という事からcollagen産生能がるかも知れないという予想から近日中に2、3のsample(Parentとclone)を東大薬学で検討してもらうことになっている(Hydroxy
prolineの定量)。
C.ウサギ子宮内膜細胞に対するホルモンの影響
数日前にH3-Progesteroneが到着しました。Estradiolは半月程おくれる予定です。取りあえずH3-Prog.を用いて内膜細胞への取り込み(時間、局在性)を検討します。
*次いでH3-Prog.の取り込みの量にもよりますが、出来ればcellをfractionationしてどの分劃に最も多く入るかをしらべたい。
*又、H3-Prog.の取り込まれる量がEstradiol、Testosteroneなど他のhormoneの存在下でどの様になるか、などの数種の実験を計画中です。
《黒木報告》
継代吉田肉腫細胞の移植性について
長期継代培養により正常細胞の悪性化、悪性細胞の悪性度の低下は組織培養における常識的現象とも云えます。特に後者については文献的にも数多くみられます。(文献を呈示)。又このような移植腫瘍に限らず、in
vitroで悪性化した細胞もだんだん悪性度の低くなることが報告されています。(Evans、Sanfordらの文献を呈示)。
しかし、これらの報告は、いずれも定量性に乏しく、たまたま2〜5匹の動物を用いて移植したところ、ついたから移植性が維持されていると云うような表現が多いようです。
移植の分野にも、もっと定量的な分析がとり入れられてもよいと考え、薬理の分野でよく用いられているLD50、ED50を応用してみました。
前号のRLH-1細胞のch-P内移植もその一つです。次に示すのは長期継代の吉田肉腫細胞のそれです。In
vivo継代のLD50は1.0ケ(0.23−4.2)ですが、56代・754日間培養したものは、3.0x10の3乗(4.1x10の2乗−2.2x10の4乗)、76代・1079日培養したものは、3.0x10の5乗(2.1x10の2乗−4.2x10の6乗)です。その移植率比は10-3乗から更に10-5乗となっています。又動物体内経過で55ケになりますが、もとの吉田肉腫とは有意の差が認められました。
(表と図を呈示)。
《ごあいさつ:伊藤英太郎》
先日の連絡会の際に申上げました如く、私、此度米国Roswell
Park Memorial InstituteのMoore博士のところへ参ることになり、10月27日に羽田を出発致します。あちらでは主として人癌の培養をやる事になると思います。
当班の開始以来、皆様と一緒に研究をさせて戴き、得る事の多かったことを感謝致して居ります。皆様の御努力でin
vitroでの発癌という仕事も、ようやく先が見え始め、私としましても、やっと仕事の方向が定った感のする時に暫くお別れしなくてはならないのは誠に残念に思われます。何しろ初めてのところに参りますことで、どんな事が出来るか分りませんが、精一杯の努力はして来る覚悟です。
又、皆様の御賛同を得て、私のあと、高井新一郎が班員となる事になりました。又、新しいエネルギーをもって、新しい観点から仕事をすすめて呉れるものと信じています。
何卒宜敷くお願い致します。
《ごあいさつ:高井新一郎》
御承知の通り、今月より私が新しく班に加えて頂くことになりました。よろしく御指導下さいます様お願いします。当分の間は、伊藤班員の敷いてくれたレールに乗って仕事をすすめて行くつもりです。
現在、手技の習得の意味で、伊藤と一緒に行ったbtk
mouse embryo(12日目)の培養細胞(control群及びAscinomycineS
0.001μg/ml群)を維持しております。形態については、先に伊藤より報告した通りであります。
考えて見れば、いつ復元すべきがという問題に関して、少くとも形態学的には、目印となる様な変化がありそうにも思えず、時期を追って復元をくり返す以外、方法はないと思われます。幸い継代はトリプシンで容易に出来る様ですし、10月2日にstartして、ほぼ4週目になりますので、明日第1回の復元を行う様手配したところです。さしあたりほぼ1ケ月の間隔で3ケ月まで復元してみるつもりです。
又、前回、御教示いただきました皮下組織のみの培養についてはembryoではとても無理ですので、生後間もない時期のmouseについて試みる予定です。
【勝田班月報:6412:培養内でのDAB代謝。ハムスター由来株樹立の詳細。】
《勝田報告》
なぎさ作戦と変異細胞:
昨日の培養学会でこれまでのデータをほとんどしゃべりましたので、今日は第3番目に得られた変異細胞の染色体について話します。このRLH-3細胞はまだ出来たばかりで(染色体核型分析の写真を呈示)、染色体数にきわめてばらつきが大きく、これから次第に培地でselectされて行くのであろうと思わせる。少いのは50本位のから、多いのは数百本に及んでいます。写真に示したように、dicentricやfrgmentと思われるような染色体がよく目につきます。いまラッテに接種したら、体内で増殖できるような細胞も混っているのではないかと思われるのですが、細胞数がまだ少いので、未だ接種してありません。或は思切って接種した方が良いのかも知れませんが、これは将来の課題です。
:質疑応答:
[吉田]樹立された癌、つまり染色体のピークがはっきりする前に、こういう変った染色体構造の時期がある、という意見が多いですね。
[土井田]樹立する前段階としてなら、もっとchromatid
breakなどがあって良いと思いますが・・・。
[勝田]それはこの標本よりもっと前の段階でしょう。
[山根]吉田肉腫など、ラッテの癌細胞にはmetacentricが少ないのに、この場合どうしてこうmetacentricが多いのですかね。
[吉田]培養するとmetacentricが増えるのではないでしょうか。培養条件がmetaをselectするというのではなかろうか。
[山田]Lなどではtelocentricが残っているのに、この場合、みんなmetaになるというのは・・・。
[吉田]株にもよるのかな。培養でmetaが多くなった培養株を動物に戻すとteloになる、というデータを持っています。
[山根](スライドを呈示)これはマウスのDDからの分離株の染色体ですが、metaが殆んどありません。
[黒木]Rabbit ear chromosomeというのはサテライズですか。
[吉田]ちがいます。ネズミの染色体をみるとき注意することは系統によって相違のあることです。たとえば第3の染色体pairを見ますと、ウィスターにはテロですが、椎橋のラッテにはサブテロで、ウィスターと椎橋のF1はテロとサブテロです。
[黒木]呑竜はどうですか。
[吉田]呑竜はWistarタイプです。
[勝田]呑竜はまだ皮膚の交換移植がうまく行かないようですね。
[黒木]F1では♂♀どちらをかけても、テロとサブテロ染色体になるのですか。
[吉田]どちらもこうなります。
《土井田報告》
マウスの末梢血球培養法:
放射線の生体におよぼす晩発性効果として発癌や加齢現象はよく知られている一方、放射線が染色体に異常を惹き起すこともよく知られている。しかしながら、両者の関係については現在のところ充分な知見はえられていない。我々は従来、放射線被曝せる人体細胞内に永続する染色体異常を調べて来た。このような調査から、上の問題についての手懸りを得ようと考えている。
此のような研究を人間について行うには、いろいろの制約があるので、マウスのごとき実験動物を用いることが望ましい。例えば線量の測定、予後の追跡などを始め照射方法など実験者の希望通りに進めることが出来る。
しかるに現在のところ、かかる小動物についての末梢白血球培養法は成功していないので、その方法を確立することを試みた。この際、遺伝的な研究についても併行的に調べたいので、マウスに如何なる障害も与えない様注意した。
培養法を簡単にのべる。
マウスの尾静脈より0.02mlの血液をとり、10%Ficoll液にsuspendする。37℃で1時間放置し、赤血球を沈降させる。白血球を含んだ上清部を短試験管に分離後2,000rpm5分遠沈し、上清を棄てる。その後、白血球を含む短試験管に次の培養液を加え、37℃8時間静置培養する。培養液は50%YLE又はYLH+25%牛血清+25%仔牛血清で、培養液10 に対し0.1mlのPHA-Mを混ぜる。
培養8日後最後の4時間10-6乗Mコルヒチン液で細胞を処理し、以後、通常のヒトの末梢白血球(Moorhead
et al 1960)に準じて標本を作製する。
現在のところ、ヒト末梢白血球培養後にみられる程、充分な分裂頻度は得られていないが、染色体構成を知る程度には充分な分裂像を得ることが出来る。我々は正常マウス被照射マウスについて核型分析を行なっているが、LevanとStichらによって報告された核型に極めてよく一致する像を得ている。
従来の方法は骨髄細胞、skin biopsyでえた細胞、肝細胞などが用いられた。これらの方法ではマウスを殺すか、あるいは著しい傷害を与えるのに対し、抹消白血球を用いればそのようなことは避けられる。
此の方法については小論文"Microculture
method of peripheral blood for chromosome
study in mice"としてExp. Cell Res.に投稿中である。(Y.Doida
& T.Sugahara)
現在より高い分裂頻度を得るため培地の条件その他培養条件について検討中である。
:質疑応答:
[土井田]さっき話の出た Rabbit ear chromosomeというのは図のような形(テロ型の先に兎の耳のような形の短い分体がついている)のchromosomeのことです。
[吉田]LevanはColchicineの代りに8-oxyquinolineを使っていますが、これを使うとrabbit
earが出るようです。雑系の動物だとYの大きさが非常にちがいますから、動物の系を表示した方が良いですね。こういう少量の液でどの位mitotic
indexが見られるものでしょう。
[土井田]0.02mlで多いときは50ケとれました。計算値で0.02mlに10万個位細胞があるとして、ずい分少いですね。マウスにまずadjuvantを注射して、次にリンパ球を少し取って、complete
adiuvantを打って採血すると、分裂像が1日早く現れます。
[勝田]あまり複雑なことをやると、それが刺戟になって異常分裂が起るかもしれませんよ。
[土井田]そう思いますから、なるべく何もしないで取りたいとは思っています。
《佐藤報告》
☆培地中のDABの吸収:
その後JTC-4(Wisterラッテ心、高木等)、RHT-2(JARラッテ心、勝田)、RLH-2(RLC-2よりtransformしたもの、勝田)、AH-7974、AH-66、吉田肉腫(佐藤)、武田肉腫(勝田により一度培養され動物継代中のもの)を追加実験した。AH-66、吉田肉腫及び武田肉腫は使用細胞が少く他のものと比較し難いので再度実験の予定。
判明した結果(図を呈示)
1)RLH-2はRLN-10(岡大癌研C10対照株)のDAB消耗と殆んど変らない。
2)AH-7974のDAB消耗度はAH-130よりやや高いが畧同様であり全般的に感度が低い。
3)RHT-2はJARラッテ心でRLH-2(JARラッテ肝)と比較できるがDAB消耗は極めて低い。
4)JTC-4はRHT-2同様ラッテ心であるがDAB消耗度は中等度でRHT-2より高い。動物種の違いか或は出現細胞かわからない。
総括と今後の方針:
(1)ラッテ心、JTC-11(エールリッヒマウス乳癌)等の細胞のDAB消耗の低い事はこれらの細胞がDABを本質的代謝或は吸着しないためであろう。この点は更にDABに対する各種動物の感度を考えて実験をつづける。
(2)AH-130、AH-7974等はDABに対する反応が少い。これはDABの高濃度の長期投与によって生体内で癌化した細胞だから結果として考え易い。併しDABの所謂無反応性と癌化とが一致するかどうかはわからない。
(3)AH-130の培養株であるJTC-1及びJTC-2は動物株であるAH-130に比して更にDABに対して無反応であるが理由はわからない。
(4)呑竜ラッテ肝細胞株にDABを10μg程度に長期投与するとDABに対する反応性が下がる。下がる度合は現在の範囲では肝癌細胞群に比して少い。DABを更に高濃度に添加すれば、DABに対する反応度の減少が期待できるが、目下20μg投与によって検索中である。
☆DAB飼育呑竜系ラッテ肝の組織培養:
DAB投与44〜149日迄の10例の肝硬変期(10例中には肝癌発生は0)の検索において次の結論が出た。
(1)57日間投与以後のラッテでは、30〜50%の割合で増殖を現わす試験管が認められた。併し増殖誘導実験の場合に比して増殖速度は遅い。
(2)上記増殖細胞の内、株化されたものは正常肝から株化されたものと形態学的にやや異なり、むしろ正常肝細胞株にDABを投与したものに似ている。
最近1964-11-19 DAB投与(201日)例で肝癌結節を発見した。
☆C-74 肝癌部を試験管10本と非肝癌部を10本、増殖部観察のために培養。更にsucklingラッテ(24時間以内)に肝癌部を1匹当り16.4万個、非肝癌部を1匹当り31.8万個注入した。目下観察中。
本実験の目的は原発DAB肝癌がLD+20%牛血清で増殖するか、更に続いて腫瘍性をどの程度維持するか。又原発肝癌が動物suckling脳内で継代できるか。培養上の肝癌の形態と非癌部(肝硬変部)増殖細胞との形態的及び生化学的相違を確めるためである。
:質疑応答:
[山根]RLH-1がDABを吸収するというのは、肝癌はDABを吸収しないという理論と反対ではないですか。
[佐藤]RLH-1はDABを作用させずに出来た"hepatomaであれかし"という細胞ですから、DABを吸収しなくても良い訳だと思います。DABに対する態度はControlの肝細胞と同じで良いと思います。そしてJTC-1や-2のようなAH-130由来の株がDABを吸収しないという結果が出ているから従来の理論と一致しています。
[山根]比色計の読みによる誤差はどの位出てきますか。
[佐藤]岡大の分析化学教室に協力してもらっていますから、データは信用できると思います。
[高木]実際問題としてDABをもっと濃く出来るのですか。
[佐藤]だんだんDABの濃度を上げて行って、今は20μg/mlまで行っています。
[勝田]DABを培地内から添加量の50%まで減らすのに1ケの細胞が必要とする時間を出してみたらどうでしょうか。
[佐藤]50%にならずに無限大になるものもあるから困ります。AH-130がprimaryのものよりJTC-1とか-2のような株になった細胞の方がDABを吸収しないというのはどういうことかと思いますが・・・。
[山田]培養すると臓器特異性などでも落ちるというから良いのではないですか。それからあのグラフは逆にして、曲線が上からはじまって段々下へさがるようにした方が、減っているという感じがはっきりすると思います。
[勝田]せっかくこれだけのデータがあるのですから、表現法を良く考えた方が良いですね。
[黒木]DAB1μgで増殖に抑制を受ける細胞がありますか。
[佐藤]あると思いますが、はっきりとしたデータはもっていません。やっとく必要があるな。
[黒木]DAB量を上げて行って、なお生きのびるようになった細胞(耐性細胞)と消費との間に何か関係がありますか。
[佐藤]RatにDABを食わせて生体で発癌させながら、その各時期の肝を取り出して培養して行くことと、培養内でDABを作用させて行くということを平行させてやって行きたいと思っています。
[堀 ]正常ねずみの肝の場合、50g迄は2倍体が多く、4倍体が段々ふえ、死ぬ時期には又2倍体に近くなります。
[吉田]肝では非常に少いのから多いのまでありますね。
[佐藤]総計で或量までDABを与えないと肝癌を作らない、つまり続けないと発癌しないということは、どういうことでしょう。
[勝田]与えつづけて肝の機能障害を起すまでという期間が必要なのではないですか。
[土井田]肝癌ができたということが見付かるのは、どういう大きさになった時ですか。培養内のgeneration
timeは生体内よりずっと短い。生体内でもしin
vitroと同じような速さで増えたら人間は忽ち死んでしまうんではないですか。
[勝田]生体内ではどんどん増えても一方では死んで行く癌細胞もある。つまり癌組織は自分の為のちゃんとした血管系を持たないから中心部は壊死に陥ってしまいます。つまり差引勘定は案外大したことがない−ということもあるでしょう。ひとつのmassとして或細胞群を見た場合、例えば染色体の上から非常に多くの異常分裂があったとしても、それが生き続けて集団の運命を決定するのかどうか。異常分裂は死んでしまうのではないかということを考える必要があるでしょう。それから佐藤君の、DABを食わせて発癌中のラッテ肝をとり出して培養する場合、殺す前に生体にH3-thymidineを入れて、増殖中の細胞の核をラベルしておき、それから培養に移してradioautographyをやると良いマーカーになるのではないですかね。
[山田]佐藤さんの意見というのは、本当の癌では1回の刺戟で癌になるのに、DABの発癌の時は反覆が必要だということがある。そこで培養の場合にもDAB1回だけの投与でなく、ずっと与えつづけてDABをとらなくなる細胞、つまりDAB反覆摂取後、発癌してDABをとらなくなるという細胞と同じ状態のところをつかまえたい、ということですね。
《高井報告》
I)btk mouse embryo cellsの復元
10月28日、培養26日目にControl群とActinomycin0.01μg/ml添加群をbtkマウス(16〜19g)4匹に復元しました。実験群の細胞数が予想外に少なかった為、control群3匹(2匹は背部皮下、1匹はip、各200万個)、実験群は1匹(背部皮下、140万個)に復元した。結果は11月20日現在、全然変化なし。一方、継代をつづけている細胞の方はcontrol群と実験群とで、形態は少し異なるが、両者共やや増殖が落ちて活気が悪くなって来た様に思われます。
II)btkマウス皮下組織の培養の試み
前回の連絡会で、最初からfibroblastsのみをとって培養する方がよかろうという助言を頂きましたので、試みましたが、結果は失敗しました。
i)new born btk mouse(生後3日目)。
皮下組織をメス・ピンセットでこすりとる。
0.25%トリプシン10mlを加え5分間stirrerにかける。
液を捨て、再びトリプシンを加え37℃約3時間incubate。
その後30分間stirrerにかけ、培養。培養4日後、細胞殆どなし。
ii)母親mouse。
i)がうまく行かぬと思ったので、母親マウスについて、上と殆ど同じ方法(37℃のincubateは止め、1時間づつ2回トリプシン処理)で行いましたが、ごく少数のfibroblastsがガラス壁に附着していますが、余り元気のない細胞です。
:質疑応答:
[山田]Actinomycinを添加しつづけていても継代できるというのは、少しは増えている訳ですね。
[高井]そうなんですが、2回目の継代でずい分へばってしまったようです。
[勝田]継代のとき一部を小角(カバーグラス入り)に入れて、標本を作って染めてみたら如何?
[高井]やってみたのですが、TD-40のものと顔付が少しちがうのです。
[奥村]Whole embryoを使った理由は?
[高井]別にありません。とり易いという理由からだ(伊藤班員の受継)と思います。
[山根]Controlの4代目の形は、培養が絶える前の形のようですね。
[勝田]Trypsinの代りにHyaluronidaseを使ったら如何? 或は皮下にトリプシンを注射・・・。
[山根]量の少い時は、組織片からスタートする方がTrypsinizeより早いのではないですか。
[奥村]Hyaluronidaseではバラバラになるが生えてこないです。注意するのは皮下組織を剥す時、乾かしてしまわないこと。ハムスターは1匹から3ml(約20万個)位とれます。20℃で2〜3時間トリプシン処理します。培地、特に血清の選択が必要です。
[山根]僕の経験ではCollagenaseが一番ですが高すぎます。Pronase0.05%、30分、37℃位が良いです。
[勝田]Aseの作用時間をなるべく短くすることが必要です。初代で使うのでなければ、細胞数の少いときは試験管を立てて培養する方が良いでしょう。
[奥村]これは仲々むずかしい仕事ですよ。僕のところも、はじめはずい分苦労しました。下の筋肉までとってしまっていないか、と思って、はじめはplasma
clotを使って生やしてみたりしました。
[高木]どうして皮下を使うのですか。
[高井]動物実験でActinomycinの皮下接種でtumorを作る、という例がありますから。
[黒木]37℃でのActinomycinの安定性は?
[山根]安定性はかなり良いですね。
[奥村]皮下だけでなく肺も使ってみたら良いでしょう。
[勝田]embryoでない限り、肺は雑菌が入り易いですね。
*その他Trypsin濃度についてのdiscussionあり、0.2〜0.5%の間で使っていることが判った。
《山田報告》
HeLaS3細胞の増殖サイクルにおけるアミノ酸とりこみの推移:
ケンビ鏡映画とH3-ウリジンのとりこみを併用して、個々の細胞のRNA合成度をオートラジオグラフィーで調べたことは前に報告した。同じ手技を用いてヒストン合成の時期と部位を検討することにし、その方法論について1、2考えたことがあるので報告する。
使用したアミノ酸はLysine、Tryptophan、Phenylalanineである。このうちLysineはヒストンの中にもっとも多く(10〜15%)、Tryptophanはヒストンにほとんどふくまれていないことが判っているので、この2種のアミノ酸のとりこみの型からヒストン合成の推移を推定することにした。Phenylalanineはヒストン中に3%程度ふくまれ、前2者の中間に位置するものと思われる。なお核酸については酸可溶性低分子分劃を除去する方法が一応確立しているが、蛋白質については、低分子物質を水洗で除くと同時に水溶性蛋白質が除去される可能性があり、いろいろ考えたが結局一定の時間(15分)の水洗で残ったものを蛋白質として一応扱うことにした。
3種のアミノ酸とりこみの推移は図に示す(図を呈示)が、それぞれのアミノ酸のとりこまれ方、またback
groundその他均等でないために、定量的な操作を行うことができず、型の相違から定性的に論ずる段階である。そのような見方で調べると、Tryptophanは分裂後、核内へ次第に多くとりこまれるようになり、G2期まで連続的に増加しているが、Lysineははじめ4〜6時間までに変動なく、以後増加して、S期まで続き、G2期に入ると、急激に低下することが明らかにされた。その他、nucleolusでは、LysineのとりこみがS期後半にピークを作り、G2期で急激に低下することを認めた。
さらに定量的な扱いをするために、2NのHCl、室温で一晩処理すると、蛋白質のなかでヒストンだけが抽出されることが知られているので、この操作によりヒストン以外の蛋白質合成の推移を検討することにした。ただしこの操作により染色性が著しく落ちるので、オートラジオグラフィーまで行ったものの、まだgrain
countを実施していない。この染色を検討した後、実施する予定です。
:質疑応答:
[勝田]DNAの場合以外は「くみ込み」と「turnover」との区別が仲々つき難いと思うんですが・・・。核の中のproteinの内で、ヒストンと非ヒストンとの比率はどの位ですか?
[山田]ヒストンが数10%で、非ヒストン蛋白よりずっと多いと思いますが、はっきりしません。しらべておきます。
[土井田]寺島氏のようにSynchronizeさせた細胞ではやらないのですか。
[山田]やれると思いますが、Synchroと云ってもpopulationが混っていますから、寺島氏のではRNAの谷が出てきません。私のやり方では数多くは追えませんが。
[勝田]山田君の方が映画で追っているからずっと正確でしょう。
[土井田]最初の15分のラベルだけでなく、ラベル後時間をおいてHClで処理して、染色体にどう乗っているかを・・・。
[山田]それは良い方法ですね。すぐやってみます。
《奥村報告》
ハムスター肺由来細胞の株化と生物学的性状(仮名HmLu細胞):
ハムスター3日目の乳飲仔の肺から細胞株をとり、更にその細胞から通算75ケのコロニーを分離培養した。これらの細胞系のうち数種を選び、いくつかん性状をしらべた。(全過程の詳細図を呈示)株化の過程は比較的順調で、現在で106代目に至る。
以下この株細胞の性質について順次述べます。
なお培地はTC199に仔牛血清を20%に添加したもの。
1.増殖:22、25代目では一週に7〜8倍。40、45代では一週に10〜12倍。83、86、94代では一週に50〜80。
25代目頃まではlag phaseが長く72hrs.位でしたが、83代目以後では24hrs.を越えることがなく、時には殆んど認められないこともあった。但し、増殖が非常によくなったのが何代目からであるかは明かでないが、大体60〜70代頃からであろうと想像される。
2.cell cycleの決定:94代目の細胞を用い、H3-TdR(0.05μg/1μC/ml)のpulse
labeling(20min.)の取り込みからG1、S、G2の各期の時間を算出すると、Generation
timeは11hrs.、G1は3hrs.、Sは7.0hrs.、G2は1hr.となる。*percent
labeled mitosisはlate prophaseからanaphaseまでをpick
upして算出した。
3.PPLOの検出:2種類の材料(1.whole cell+medium、2.medium中で凍結融解したもの)について、増殖培養後、PPLO培地に血清添加したもので検出を試みたが結果はNegativeであった。
4.核小体数の推移:継代100代目に至るまで適当な間隔をおいて一細胞(一核)当りの核小体の数をしらべると、50代目頃より、数のdistributionが拡がり、100代目では4〜8個のものが多かった。
5.種属特異抗原の検査:a)染色体の構成からみると、ヒト、ラット、マウスの細胞株(in
vitro)のうちで、私共の研究室で保存している細胞とは明かに異り、区別し得る。b)免疫学的同定は赤血球凝集試験、細胞毒性試験、蛍光抗体法、更に一部の系(後述)の細胞ではHA-inhibition
testを行い明かに他の動物由来細胞株と反応が異り、かなり強く種特異性が認められた。なお、用いた抗血清は次の通り。
1.Anti-normal hamster lung/Rabbit serum
2.Anti-normal hamster kidney/Rabbit serum
3.Anti-human(HEp-2)/Rabbit serum
4.Anti-mouse(L)/Rabbit serum
5.Anti HmLu cell/Rabbit serum
6.Anti-rat γglobulin/Rabbit serum
6.形態:Primaruy cultureでは2〜3種の細胞のmixed
populationであるが、その後は殆んどがfibroblasticな細胞で、70代目頃よりFibroblasticともEpithelial
likeとも区別しにくいものが若干見られる様になった。分離したcolonyの数種のものは非常にepithelialに似た形態を示している。
7.同種動物(Syrian hamster)への復元実験:この実験の詳細は後日報告しますが、現在までに明かになった事は次の通りである。
a.9日目の乳飲ハムスターの皮下に100,000個のcellを入れると約2ケ月位で明かにtumorを認められるようになる。
b.生後24hrs.以内のハムスターの脳内に1,000個のcellを入れると約2ケ月位で明かにtumorを認められる。
c.生後24hrs.以内のハムスターの脳内に100,000個のcellを入れると、1,000個入れた時よりもsurvival
timeが明かに短縮される。
d.皮下、及び脳内接種で出現してくるtumorは病理学的にはFibro-sarcomaの像を示していた。
8.株細胞及び分離colonyのchromosome no.のdistribution:現在まで約20種類の分枝系の細胞についてその染色体の数と核型をしらべたが、その一部を図で示す(図を呈示)。染色体数については42〜45本にピークのあるものが多いが、78〜80本、更に86〜90本にピークのあるものも分離されている。なおこの他にchrom.no.の少ない(30本代)clonial
cloneが2種類分離されている。
核型の特徴については次報で述べる、要するに以前から狙っている培養細胞(この場合はHmLu)の、chromosome
levelでの最小基本単位の検出に一歩づつ近づいています。
:質疑応答:
[佐藤]染色体数の少くなることと増殖の落ちることとの間に何か関係があるのではありませんか?
[山田]Polyoma virusで発癌させている仕事の内で、発癌しても細胞の形が全然変らない、というのがありますね。
[山根]自分のところの培養では、染色体数のpeakがもっとはっきりしているのですが・・・。
[奥村]染色体の核型をどれだけしらべるかによると思います。自分のところでは、写真にとるのはわずかですが、ずいぶん沢山の細胞について分析しています。出来るだけのものをしらべています。
[山根]生体内ではあまり染色体数のばらつきは無いですね。だから培養条件をもっと良くすれば、ばらつきの少いcloneが得られるのではないでしょうか。それから奥村法のクローニングだと、隣のコロニーもとってしまう可能性がありませんか。
[奥村]さっきお目にかけたスライドはわざとcolonyの多いのをえらんだのでして、実際にクローンをとるときは、シャーレに7〜8位しかcoloniesを作らないようなplatingをしてとります。(Plating
efficiencyをみるときは沢山まきますが・・・。)それを何度もくりかえしてcloneにするのです。
[山根]Cloneにするには2回以上Cloningしないといけない、というのは本当ですね。本当のcloneというのは、ただ1ケの細胞からの系をいうべきです。
[高木]だから奥村さんの場合のようなのは、"Colony
selection"と呼べば良いと思います。
[山根]培地条件が悪くなると、バラツキが多くなると思いますが・・・。
[土井田]人の血球の場合は、条件が悪くなると、反ってピークの幅が狭くなります。
[勝田]Lの場合、PVPを入れた無蛋白培地で継代しているL・P1細胞は、奥村君がしらべてくれたのですが、peakの染色体数は原株と変らず、バラツキの幅が原株よりずっとせまくなっています。
(ここで高木班員よりPancreasよりの細胞株、RPline2及びline4の蛍光抗体のスライド2枚と、line2に見られた4極分裂の像のdemonstrationあり。)
《黒木報告》
In vitroにおける「発癌実験」を始めるに当って:
吉田肉腫、腹水肝癌の仕事が一段落し、この次は、In
vitroにおける発癌に入ることにしました。
今度の癌学会に出席して感じたことは、発癌の問題をより分析的により深く研究しようとすると、どうしても「癌」から離れ、例えばphage、枯草菌、原虫を用いて行かざるを得ないのではないかと云うことです。
発癌に対するするどい問題意識を生かすためには、従来の発癌実験−動物に薬を投与し、癌の出来るのを待つ−は、いかに複雑で、そしてまだるっこいことか。
そこを突き破り、新しい道を開かんがためには、細胞レベルにおける「発癌」が有力な突破口になると思はれます。
そこで、如何なる方法で実験をすすめるかについて、あらましの考えを記します。
(1)発癌剤
a.作用した部分に直接に癌のできるもの、b.作用機序の調べられているもの、を条件にして考え、4NQOを選びました。Nitrosamin、DABはa.にあはず、メチルコランスレンはb.にあいません。
4NQOは4HAQOとの関係が明らかになり、どちらも入手出来ること、H3-4NQOも入手可能のことが有利です。
(2)動物
a.純系の程度、Mouse≫Rat(Donryu)≫Hamster
Donryuの皮膚移植の成績(本年度の癌学会演題249)はこのラットが純系とは云えぬまでも可成り均一であることを示しています。
b.4NQOによる発癌、Mouse=Rat Hamster(?)
c.培養のしやすさ、Mouse>Hamster & Rat(?)
d.Virusの汚染、Hamster>Mouse>Rat
e.復元部位、Hamster(チークポーチ)>Rat=Mouse
f.染色体の分析の容易、Rat≧Hamster≧Mouse
Mouseは全てteloでしかも大きさが本当にgradualに下がるので分析しにくい。Hamsterはteloが少い。
g.Spontaneの悪性化、Mouse>Hamster>Rat(?)
h.二倍体の維持のしやすさ、Rat>Mouse=Hamster(?)
Peturson 1964、Kroath 1964、Katsutaによる
i.動物の入手、扱いの容易、Mouse>Rat≫Hamster
以上を総合判断し(特にd.f.g.h.重視)Ratにきめました。実中研のドンリュウ使用の予定です。
(3)細胞
Spontaneにmalignantになった細胞は、Evansらのliver
parenchymal cell of C3H mouseを除いて全てfibroblastです。又、fibroblast←epith.の変化の多いため、前者の方が未分化と考えられます。
分離臓器は杉村隆氏のData(本年度癌学会演題53)及び昭和医大・森氏のDataから考えLungを選びました。
(4)培養法
Colony作製法をフルに利用するつもりです。培地はEagle
MEM+supplementα+CS(10%or20%)、αとしてはpyruvate、serine、insulinを考えています。Autoradiographyも相当利用する積りです。(H3-TDR、H3-4NQO、etc.)
とりあえず最初はprimary cultureのcolonyから行います。今後の御教示をお願い致します。
:質疑応答:
[山根]Primary cultureでcolonyはできますが、それを2代、3代とつづけていると、だんだん悪くなってしまいますね。
[奥村]私もやっていますが、plating efficiencyは1%以下ですね。良くて数%という所です。
[土井田]4NQOの仕事はここの田島先生がずっとやって居られますから少しお話を伺ってみると良いと思います。
[勝田]移植を片付けて、黒木君がいよいよ発癌に入ってくれるのは本当にうれしいですね。
《堀 浩氏の研究成果の紹介》
生後2週の♂Wister ratの肝を1〜2mmに細切し、タンザクにつけ、20%CS+LYの培地に初め4日間だけDABを1μg/ml入れて回転培養します。その後6日してからexplantをとって組織切片をつくり、検鏡しました。explantの内部はnecrosisに陥っていましたが周辺ではbile
ductの増殖、多層化も見られ、parenchymalの増殖も見られました。ほとんどのparenchymal
cellsが死ぬにも拘らず、です。4日から10日までは少くとも見られました。(Kupfferのhypertrophyはcontrolでも見られました。)なおこの増殖parenchymal
cellsの細胞質はHE染色では普通のhepatic cellsのようにはEosinで染まりません。
Agar1%の上にexplantをのせ、或は卵の膜を使ってみますと、fibroblasticの増殖は胆管のと共にありますが、parenchymalのは出てきません。そして残っているliver
cellsはeosinでよく染まります。またAzo day-diet-rat
liverの再生細胞はeosinophiliaが低下し、basophiliaが強くなっています。ミトコンドリアの染色性も高まっています。
:質疑応答:
[佐藤]Controlの培養がちっとも生えんというのはおかしいな。
[勝田]eosinophiliaの変化の件ですが、primaryのhepatic
cellsは0.1Mクエン酸+クリスタル紫で処理しても、細胞質がとけず、細胞質が染まって見えます。ところがDABで生えだしてきた細胞は、株細胞と同じように、クエン酸で細胞質がよく解けます。細胞膜の透過性の問題か、とにかくそこに何らかの質的なちがいが出てくるわけです。堀さんの云われるeosinophiliaの低下と非常に関係があると思います。
[堀 ]私は染色体でなく組織化学が好きですから、そちらの方を生かして発癌の研究をやって行きたいと思っています。
《山根 績氏の談》
[山根]私としては是非班に加わって発癌の仕事をやりたいが、ウィルスによる発癌を計画している上、人手が足りなくなるので、化学的物理的発癌には一寸手がまわりません。ウィルスではいけませんか。
[勝田]Virusを使う発癌をやっている班は別に一つあるので、この班のやり方としてはたとえウィルスを使うと譲歩しても、たとえば発癌剤で少し叩いておいて、それに非癌源性ウィルスをかける、と云ったやり方でやってもらえれば、と思っています。
【勝田班月報・6501】
《勝田報告》
A)なぎさ作戦
RLH-4が誕生しました。前に班会議で映画をお目にかけた?印の2番目からです。経過はCN#14の実験群で、RLC-2由来です。1968-8-19にNagisa
cultureをはじめ、9-4日にRLH-1のhomogenateを加えています。9-8にcoverslipだけとり出し、新しいtubeに上下逆にして入れました。初めより約1.5月后、どうもmutantができたらしいのでTD-15に継代しましたが、目指すのが仲々ふえてこないので、そのままrenewalをつづけていたところ、2.5月后になって新生coloniesを見付けました。小型円形の細胞で大小不同は余り目立ちません。固いaggregate様のcoloniesを作るのが特徴です。以后は着実に増えていますので遠からず復元接種も試みられるでしょう。
“なぎさ"の細胞にH3-TdRでラベルしたRLH-1のcell
homogenateを喰わせる実験はその后もつづけています。狙いは染色体や静止核の一部に集中してgrainの見られるような細胞を見付けることですが、今までのところでは、homogenate添加后3日、7日(3日后にrenewal)后の標本では、未だそのような細胞は見付かりません。今后はもっと細かく日を追ってしらべてみるつもりです。これがつかまえられればNagisa
theorieの一つの裏書になりますから。 B)復元接種試験
JARが仲々仔を生まないので、遂に思切って雑系ラッテを買ってnew
bornの生后24時間のに2匹宛、RLH-1(500万宛)、RLH-2(700万宛)、RLH-3(300万宛)と脳内接種しました。接種日は64-12-12、その后、乳児はすくすくと成長し、がっかりしていました。所が年が明けてから、RLH-1接種の2匹のうち1匹が弱りはじめ、65-1-5に遂に死亡しました。期待に胸をふくらませ乍ら、ふくれた脳を開いてみましたら、中から水がどっとあふれ出し、診断は脳水腫、組織学的診断では腫瘍細胞の増殖は見当たらずがっかりしています。
《黒木報告》
吉田肉腫の栄養要求(2)アミノ酸の検討
吉田肉腫はEhrlichと並んで、もっともpopularな腹水腫瘍の一つであり、各方面の研究に使はれています。従って吉田肉腫が完全合成培地で培養出来れば、その応用面は更に広くなるものと思はれます。この仕事は最終目的としては、完全合成培地を目ざし、少しづつ、ひまをみては続けている実験です。
月報6308に、Eagle MEM+1.0mM Pyruvate+20%B.S.が、もっともよいGrowth(primary
cultureで)を示した。その后α-keto acid、aminoacidについて検討を加えSerineが有効との結果を得ました。
なお、基本となっている考え方はpopulation
and serum dependent nutrientsです。
Basal medium:EagleMEM・1.0mMpyr.・10%CS(lot#4514)(表を呈示)表でみるようにSerineが有効という結果が出ました。
《土井田報告》
RLH-3の染色体数
(図を呈示)RLH-3細胞の染色体数の分布を調べた。
最頻数の染色体数は63であった。染色体数のばらつきが、左に大きくかたよっているが、一部technicalなlossによるものが含まれているからかも知れない。しかし高倍数性の細胞が125前後に染色体数を有することにより、RLH-3の細胞集団は63に最頻数を有するものと考えてもよいと思う。
Fragmentを有する細胞が3細胞(62、63、107)でみられた。これらの細胞はfragmentを除いた染色体数でもって図中に入れてある。
Dicentric chromosomeも4細胞で5個認めた。
Fragment & decentric chromosomeの出現頻度は、普通にみられる細胞集団(白血球培養や植物の根端細胞など)での頻度に比してかなり高いが、このことは、このRLH-3がなお、可成り不安定な状態にあることを示唆するものかも知れない。
猶この細胞の標本は勝田先生より頂いたもので、明らかに染色体数がtechnicalに減っていると思はれる細胞は除き、全部観察した。観察細胞数が足りない点は今後、細胞を頂くなりして更に観察する予定である。
RLH-3の核型分析
RLH-3の核型分析は目下進行中である。
《高木報告》
1965年の新年を迎え、皆様も心機一転大いにこの年へのplanを練っておられることと思います。私も長くて短かった2年間の滞米生活をおえて研究室の方も何とか準備されて来た処です。班の仕事とは全くはなれた2年間でしたけれども、この間に得た経験はこれから先の癌研究に充分役立つものと信じています。
先の班会議の時にも申しました様に、あちらでは主に“正常細胞"のfunctionを出来る丈長くin
vitroで維持し、またこのfateを追求して行く仕事をして来ました。その一部(?)としてpancreasをいじくって来た訳ですが、この問題はTissue
Culturistとして非常に大切なことで、裏を返せばまたin
vitroの発癌の問題にも関聯して来る事です。云い換えるならば発癌の仕事と裏表の関係にあるのではないかと思います。つまりin
vitroで癌細胞とは何かと云う問題ととりくむのに、では一体正常細胞とはどんなものかと云う事を考えるのにもあたると思います。
さて静かな正月を利用して過去一年皆様が歩んで来られた道を月報を通してふりかえらせて頂き、また癌に関する文献もよんでみたりしています。我々の班が出来てから5年目を迎えますが班員各位の御努力によって数々の興味あるdataが出つつあると思います。しかしながら、かのEarleが長年月を打込んでなおかつその念願を果し得なかったin
vitroのchemical Carcinogenesisの問題は、とても一筋、二筋縄で片付く様な手合とは思われません。私共もこれまでstilbesterolとhamster
kidney系を使って仕事をして来ましたが、残念ながらまず成果なしと云った処だと思います。今后は従来の方法によるこの系の仕事は打切る積りです。そして発癌実験の方法、癌細胞(発癌)のcriteria、それに我々がどれ丈の間in
vitroで“正常細胞"を培養出来るかと云う事を再検討の上(この問題は5年前スタートの時皆で考えたと思いますが)取組んでみたいものだと思っています。特にin
vitroにおける癌細胞のcriteriaですが、私はTCsystemでのmorphologyはあくまでも“参考"であってこれで物を云う事は危険であると考えます。一応現段階ではautoまたはinbred
animalにもどしてtumorを作るか否かで判定することになるでせうが、それもtumorを作る細胞=癌細胞と考えた場合であって、若しそうでない様な事もおこるとすると全く面倒なことになります。兎も角今年班員の一人として再出発するにあたり、どの様なsystemで如何に仕事を進めて行くか検討している処です。
《高井報告》
I)btk mouse embryo cellsの継代培養
前回の月報に記載しましたように、control群、実験群共に増殖がかなり遅くなって来ました。特に、実験群(Actinomycin
S 0.01μg/mlを含む培地)は、増殖が悪く、11月16日の継代后、1本は細胞が消滅してしまい、残り1本は12月1日以后、Actinomycinを含まない培地にかえて培養していますが、殆んどふえていない様です。control群の方は、遅いながら少しづつはふえています。細胞の形態は、control群では繊維状の突起が非常に多い細胞が全く無秩序に重なり合っており、初代培養の頃の様な紡錘形に近い細胞が方向性をもって配列している様な状態とは全然様相を異にして来ました。これに対し、Actinomycin群の方は長い突起は少い様で、膜状に広がった細胞質を、もった細胞が多い様です。
その後の復元はまだ必要な細胞数が得られないので行っておりません。
)bik(adult)皮下fibroblastの培養
1)前報の母親mouseからの培養が、漸次増殖して来ました。形態は上記embryo
cellsのcontrol群とよく似ています。目下第1回の継代をしたところですが、継代がうまく行けば、その一部にAcatinomycinを作用させるつもりです。
2)プロナーゼによるadult btk mouse皮下組織の分散。12月にはbik
mouseのnew bornが得られず、止むなくadult(♀経産)の皮下組織を0.05%プロナーゼ、室温、30分でやってみました。充分な細胞は得られませんでしたが、一応培養中です。(顕微鏡写真を呈示)
《佐藤報告》
皆さんお目出たうございます。本年も頑張ってなんとか仕事の完成を祝いたいものです。新年の第1報はDAB飼育呑竜ラッテ肝の組織培養についてラッテ肝が発癌に近づき少しばかり面白い成績が出ましたので報告します。
前号6412号に記載した◇C74(DAB投与日数192日)は、開腹に際して腫瘍らしい結節(microscopic=adenoma)を発見したので、結節部と非結節部に分けて原発動物肝の細切濾過細胞をnew
bornのラッテ脳内に接種した。現在までに48日経過したがTumor(-):更に結節部の培養試験管から培養日数12日目の細胞をnew
born脳内に接種。現在36日経過Tumor(-):
(写真を呈示)。写真の様に肝細胞に大小不同があり、重なり合って増殖している。核分裂末期のものも認められる。最初培養管中に多数の此等細胞を認めたとき癌細胞と考えたが、上記の様に移植性はなかった。腺腫と考えている。写真B1は非粘膜部に現われる肝細胞であり、Aに比して大きく核仁が著明である。大小不同もかなり著明である。多くの標本から考えて見るとこの細胞はDAB投与による再生結節の肝細胞と考えられる。
写真B2は同様非結節部の肝及び箒星細胞である。混合することはない。肝細胞が段階的に悪性化するとすれば、B2→B1→Aとなると推定できる。Aは此の写真のみでは明かでないが、増殖する場合索状(模式図を呈示)になって行くことが特徴であり、このものが更に悪性化すれば散在性或は瀰漫性の増殖をおこすと考えたい。
写真Cは◇C68(DAB投与149日)に認められたものであるが(勿論肉眼的、顕微鏡的に未だ癌発生はないラッテ)箒星状細胞に囲まれた中央部にB2に類似する肝細胞が認められる。細胞にかなり大小不同があり、時には異型のものも見られる。
写真DはC65(DAB投与121日)より作られた株細胞である。以上の経過から形態学的な移行がLD+20%牛血清培地でうまくとりだされたと考えれば、D→C→B1→B2→Aとなる。A細胞群の行きつくところ、即ち移植性のある肝癌細胞AHの発見のため(勝田班長からの電話によれば、佐々木研での原発肝癌からの移植率は50%)続けて実験をおこなった。
◇C76(DAB投与192日)以后普通食9日。64:11-28
前例同様結節部と非結節部に分けてnew bornラッテ脳内に1匹当り大凡30万細胞を接種した。現在までに38日経過したがTumor(-)。
組織培養に現われる肝細胞は74実験と略同様である。
◇C78(DAB投与192日)以后普通食14日。64:12-3
この例は結節部が小さかったので復元は行なっていない。細胞像は同じである。
◇C80(DAB投与192日)以后普通食21日。64:12-10
この例には結節は発見されなかった。第27日検索において2/10陽性である。但し箒星状細胞はかなり多く認められる。陽性例の1本にはB1〜B2の像がみ見られる。他の一本は従来DAB飼食呑竜ラッテ肝から株細胞が出きた始めの細胞である。後者の発生は従来記載した様に尚発生時期がのこっているので陽性率は未だ上昇する可能性がある。
詳細な討論については班会議で行いたいが、C細胞が出来るまでにかなり長い年月が必要である。ある時期が来ると殆どB1〜B2細胞になる。この細胞の存在下にA細胞が現われると思われる。
又LD+20%牛血清培地で肝癌細胞の移植性がどの様になるかを、AH-130より勝田・高岡によってつくられたJTC-2細胞でラッテnew
born脳内接種実験を行っている。第2回第3回実験は未だ検索中であるが、第1の実験では10,000、1,000、100の細胞(JTC-2)脳内接種で10,000(16日、18日)
1,000(18日、19日) 100(24日、25日)で夫々死期をむかえた。屠殺后の鏡検で明かにTumorの増殖を認めた。したがってAH-130の場合、培養で其れほど移植性はおちないといえる。
《奥村報告》
謹しみて新春の御慶びを申し上げます。
皆様、昨年中はいろいろ御世話になりました。どうも有難度ございました。本年もよろしく御指導、御鞭撻の程をお願い申し上げます。毎年、正月には“ことしこそは"と思うのですが、なかなか予定通りの成果をあげることが出来ずに年を越してしまいます。しかし1964年までかかって一応最初の計画通りの研究室を作ることができました。1965年からは、これまでの基礎の上にどしどし成果を築いてみたいと思い、4日からスタートを切りました。どうぞ、よろしく御導き下さい!! 本報では新年の御挨拶旁々現況の概略を報告いたします。
A.HmLu細胞の無蛋白培地へのAdaptation
過去9ケ月にわたりHmLu細胞をserum-free培地(NO.199)にadaptさせるべく努力してまいりましたが、今月4日になって、ようやく1%(calf
serum)で増殖させるところまで到達いたしました。今后は、Glucose、Pyruvate、Glutamineなど主な成分を検討して、3月頃までには完全にprotein-freeにもってゆきたいと考えています。
B.JTC-4細胞のchromosomal DNAの合成解析
Bender & Prescottらの行った方法と似た方法を用い、JTC-4-Y(染色体数分布:30〜35)の各染色体のDNA合成をH3-TdRのautoradiographで分析をはじめています。これは昨年10月頃から行い、現在ではかなりfineなgrainを染色体上につくることが出来るようになりました。 C.ウサギ子宮内膜上皮細胞に関する研究
昨年12月からH3でラベルしたProgesterone、Estradiolを用い内膜細胞への取り込み実験を計画、実施中です。当面しらべたいことは、1)ホルモンが細胞内に入るかどうか、2)取り込まれる場合にはcytoplasmか、又は核内まで入るがどうか、そしてその取り込まれ方の時間的推移、3)現在cotrolの細胞としてJTC-4細胞を用いているが、はたしてホルモンに対する細胞の感受性とホルモンの取り込まれ方に何らかの関係が存在するかどうか。
以上の諸点を検討したのち、cellの増殖(ホルモンによっての)との関係など詳細に分析していくべく計画中です。
【勝田班月報・6502】
《勝田報告》
A)発癌実験:
(1)なぎさ培養による第4番目のMutant(RLH-4)
1964-8-9:RLC-2より、なぎさ培養開始。9-4:RLH-1のCell
homogenate添加。顕微鏡映画の撮影を開始。9-7:Mutant発生を示唆するような所見。9-8:カバーグラスを取除く。10-5:継代(平型回転管よりTD-15へ)。11-2:継代(TD-15よりTD-15へ)。12-25:新コロニー発見。映画撮影開始。その后順調に増殖をつづけているが、このMutantが果して何時ごろPopulationの中に生まれたものか、簡単には推測できない。
RLH-4の染色体数:(図を呈示)13ケしかかぞえてありませんから、決定的なことは云えませんが、Hypertriploidのようです。RLH-3は63本がピークで頂度3nでした。
(2)なぎさ培養細胞のフォスファターゼ染色
Alkaline-phosphataseとacid phosphataseの2種について次の各種標本について染色を行ってみた。対照細胞のL・P3はよく染まったが、なぎさ細胞は(シート部も)何れも活性がよく認められなかった。これはさらに追試確認すると共に染色法自体も検討する必要を考えている。RLC-5:1964-12-3→1965-1-30(なぎさ培養58日)。1965-1-15→1-30(なぎさ培養15日)。1965-1-22→1-30(なぎさ培養8日)。RLC-6:1965-1-22→1-30(なぎさ培養8日)。
(3)なぎさ培養へのlabelled cell homeogenateの添加
RLC-5:1964-12-24:なぎさ培養開始。1965-1-12:H3-thymidine-labelled
homogenate添加。添加1日、2日、3日、4日后に標本を固定してautoradiographyでしらべた。
mitosisの細胞の染色体のどこか一部にgrainsが集中して認められないかどうかしらべたが、染色体にgrainのあるものは認められなかった。
或はもっと長期おいてからautoradiographyをおこなった方がよいのかも知れない。
(4)Mutantsの復元接種試験
(a)1964-12-12:雑系ラッテ生后24hrs以内のものに脳内接種。RLH-1、RLH-2、RLH-3(300万〜700万コ宛)・2匹宛。1965-1-5:RLH-1接種ラッテの1匹が死にかけたので剖検したところ、脳水腫と判明。腫瘍細胞の増殖した兆候なし。1-21:残りのラッテ全部を殺して剖検。RLH-3接種の内1匹が発育不良で脳水腫。他は全部健全。異常なし。
(b)1965-1-22:生后1ケ月のハムスターのポーチへ次の如く接種。RLH-1、RLH-2、夫々に100万個/ハムスター。ハムスターは何れもCortisone0.1ml(2.5mg含有)を週2回接種。ポーチ内の腫瘤が大きくなったら、これをラッテへ移植してみる予定。
B)その他の実験:
(1)ラッテ胸腺細胞
正常ラッテ胸腺より樹立した4種の株(RTM-1、-2、-3、-4)について、その細胞質内の特異顆粒の性状をしらべるため、DNase、RNaseをかけて、その后アクリジオンレンジで蛍光染色をおこなったが、特異顆粒がきわめて少かったため、この結果については信頼できない。(光らなかった。)
なおこの特異顆粒中にγ-globulinが含まれているか否かを電気泳動法で証明するため、少し宛継代のたびに細胞をためて凍結貯蔵中である。
(2)ウマ末梢血白血球の培養
Cell countingをおこないながら、白血球、特に単球細胞の延命に好適な培地と培養法の検索につとめている。
《土井田報告》
RLH-3の核型分析
RLH-3の染色体数の分布は先に報告した通り、63本のところにpeakを有した。今回は核型分析の経過を報告する。(図を呈示)。2つのn=62の細胞では、telocentric
chromosome(TCC)が共に42本で残り20本はmetacentric又はsubtelocentric
chromosome(MCC or STC)である。これらの染色体の大きさは漸進的に変化していて、特長となるものはないが、最小の2本のMCCは他のものとは稍々目立つ程度に小さい。染色体数53本のものでは、同一細胞内に2ケのdicentric
chromosome(DCC)を含む例がある。TCC以外の染色体数は22である。この例でも稍々小型の2本がみられる。
64の例でTCC以外の染色体は19本で、1本の著るしい大型のSTCがある。
この系統の細胞ではtelocentricでない染色体の総数は18〜22の間にある。
RLH-1との比較
著しい特長はTCCがRLH-1では15本前後で総体的に少ないが、RLH-3では逆にTCCが多くそれ以外の染色体数が20本前後と少なかった。
同じ起源の細胞で、同様の処理を受けたと思はれるのに、核型構成の上に大きな変化が起り、非常に異なったものが生じたことは現象的に興味あることである。
《高井報告》
)btk mouse embryo cells(第5代目)のgrowth
curve
10月2日より培養をつづけているControl群に、Actinomycinを作用させて見ようと考えていますので、まづそれに先立って、この細胞の増殖率を調べてみました。最初startする時、生の状態では細胞が見えにくく、又ある程度の細胞塊があり、極めて細胞数の算定が困難であったため、inoculum
sizeが少なすぎました。従って、細胞数のバラツキもかなり大で、良い実験ではありませんが、lag
phaseが相当長くて6日目になって漸く増殖の傾向が見えて来ました。このあと更に日を追って追求中ですが、何れにしても増殖は緩慢です。
)mouse皮下そしきの培養。その後もくり返し、btk
mouse(adult及びnew born)の皮下組織の培養を試みていますが、まだうまく行きません。又たとえうまく行ったとしても皮下そしきのみからでは極く少数の細胞しか得られないのではないかと思いますので、この方法は一応中止しようかと考えております。
細胞に発癌剤を作用させて、腫瘍化させるのが一番大事な目的であるのに、その発癌剤を作用させるべき材料を得る段階に余りに大きな労力を費すことは、賢明とはいえないと思います。whole
embryoでは得られる細胞が、色々の組織に由来することが不利だというので、皮下そしきのみを材料にしようと考えたわけですが、たとえmixed
populationであっても、培養し易い材料をえらぶ方が実験の能率が上ると思います。又、発癌のmechanismがおそらくはDNA合成の何らかの過程と密接に関連していると考えられますので、DNA合成の盛んな、つまり増殖の速い細胞を材料とする方が有利と考えられます。この意味で上記I)の如き細胞は余り適当ではないと思いますので、株細胞も扱ってみようと考えています。 )btk
mouse embryo cellsおActinomycinを作用させたものを、現在Actinomycin(-)の培地に戻して観察していますが、最近生残った細胞が少し増殖して来ましたので、今後更に追求して行く予定です。
《黒木報告》
吉田肉腫の栄養要求(3)
前報でセリンが有効との結果を得ましたが、その至適濃度の決定を行ったのがこの報告です(Exp.#248-2)。(表を呈示)すなはち、optimum
conc.は0.2mMです。なお、pyruvateは本実験では2.0mMを用いていますが、その后のExp.で(Exp.#248-1)で0.5、1.0、2.0mMがほぼ同様の結果を得ました。
血清濃度との関係は(表を呈示)表の通りです。SERINEが入っても5%ではNo
growthです。5%WholeでGrowthさせるのを次の目的とします。なお、10%C.S.、1.0mM
Pyr.、0.2mM SER.の条件におけるGrowthは6回測定しましたがバラツキが多く、23.0±5.9hrs.です。
《高木報告》
in vivoの発癌実験を考えてみる時、私はOrrの仕事に興味を覚えます。彼はepidermal
carcinomaを作る実験で、carcinogenをapplyした場所に隣接する部分のstromaが、この発癌に大いなる役割を果すらしい事を述べています。つまり彼はM.C.をマウスの右肩にapplyしてそこからepidermal
graftをとって左肩に移植した場合にはtumorを生じないが、もとのgraftをきり出した処にはtumorを生ずると云う事・・・を行っております。
またこれは発癌実験ではないのですがGrobsteinのdifferentiationに関する興味ある仕事もあります。この場合彼はpancreatic
rudimentのepitheliumからacinal differentiationmesenchymと共に培養した場合においてのみである事を述べております。・・・これらは1、2の例ですが、この様に考えて来ますと、differentiatinにせよ、dedifferentiationにせよ、これらの場合、実際に変化を被る細胞(組織)の外に上の例ではConnective
tissue stroma、またはmesenchymと云ったtissueの存在、つまりこれらのtissue相互間のInteractionが大切な役割を果している様に思えます。もう一つin
vivoの発癌で考慮されねばならないのは広い意味のCo-Carcinogenic
factorであろうと思います。兎も角生体における発癌の過程をみる時、これは決してsimpleなものではありません。
今in vitroの発癌実験をふりかえってみると、今日までCell-medium-Carcinogenと云った比較的Simpleなsystemで実験が続けられて来ました。そして癌らしき細胞も出来るのですが、癌細胞のcriteriaがその細胞を復元して無規制な増殖を示すと云う事にあるため、その過程で今一歩と云う処かと思います。私共も、今日まで同様なsystemでStilbesterol−hamster腎を用いて仕事をして来た訳ですが、薬剤のえらび方か、臓器のえらび方か、或いはculture
techniqueの問題かは知りませんが、先ずはっきりしたdataを出す事は出来ませんでした。勿論この様なsystemでも発癌する事は充分考えられますが、今后は新しいsystemで出発したいと考えています。つまりよりpotentなcarcinogenをよりorganizeされたtissueに作用させ、更にCo-Carcinogenic
factorをも考慮して仕事を進めて行きたいと思い、その準備をしている訳です。
《佐藤報告》
研究員の関係で1月は少しペースをおとしてので新しい研究はしていない。
DAB投与による発癌はDAB 10μgの投与をつづけているものにDAB消費度の減少を来たしたものが現われたので復元を準備中。
3'-methyl-DABを投与すると投与日数によって染色体の移動3nがおこる様である。
RLH-1:1965年1月5日、呑竜ラッテ新生児に1匹当り脳内27万、腹腔内90万、各々2匹宛注入したが、目下(-)。
DAB飼育ラッテ肝からの肝腺腫様細胞の一部は増殖中で、なんとか株細胞にしDABの追加実験をして見たいと思っています。此の細胞をとるために一部のものはJTC-2或はラッテ肝細胞株のconditioned
Mediumで培養している。
AH-130動物株とJTC-2と比較
JTC-2は腫瘍性(復元性)は殆んどおちないが、悪性度(脳内における増殖態度が膨張性)は少くなっている。継代は可能で目下3代目。動物通過で悪性度が恢復するかは検討中。
【勝田班月報:6503:兎子宮内膜細胞に対するホルモンの影響。胸腺細胞。】
《勝田報告》
A)発癌実験
“なぎさ”培養によって第4のMutantができ、これまでのと合せて4種のMutantsを目下hamster
pouchに復元している。これでtumorができたら、それをratに接種してみる予定である。しかし同時にもっと沢山mutantsを作ることも計画しており、10種作れば1種ぐらいはtakeされると踏んでいる。またrat
liverの株も、古いのは細胞の形態に若干異型が現れてきたので、なるべく新しい株、或はprimaryに近い細胞を使うように考えている。しかし細胞数をはじめに多目に入れてやる必要があるがその点が仲々困難で支障をきたしている。
DABによる発癌実験も併行しておこなっているが成果はその内括めて発表する。
B)ラッテ胸腺細胞の組織培養(顕微鏡映画も展示)
胸腺は免疫学的に活性のある一系の細胞を生み出すところとして注目され、またリンパ組織発育にも重要な関係を有するものと見做されている。同時に体内に生じた腫瘍細胞との間にも極めて特異的な相互作用をおこない得る可能性が感じられたので、正常ラッテ胸腺より株細胞を作ることを企て、現在までに4株とcolonial
clone1種を得ている(RTM-1、-2、-3、-4、clone1A)
これらの株について各種の検索をおこなった結果、培養細胞はおそらく細網細胞(reticulum
cells)であるらしいが、その細胞質にきわめて特異的な顆粒が存在し、これは分泌顆粒と想像される。ケンビ鏡映画によると、この顆粒は核のまわりに密集して限局し(ゴルジ部は除く)、動きのきわめて少い点から推して、顆粒外に粘稠度の高い物質の在ることが想像される。映画によると、ときにより、この顆粒の内容物は培地中に放出される。顆粒及びその膜面あるいは顆粒外物質について各種の検索をおこなった結果、次のような結果が得られ、この細胞が抗体産生をおこなっている可能性が強く暗示され、今後in
vitroでの抗体産生実験に用いられる見込が濃くなった。
ラッテ胸腺細網細胞内の特異的顆粒:
HE(フォルマリン固定)で染色すると顆粒内容はエオジン好性(++)で、蛋白或いはポリサッカライド等が考えられる。
ギムザ染色は、フォルマリン固定では顆粒外物質がpurplish
red(アヅール顆粒)に染まるが、メタノール固定では染まらない。
マロリー染色では、顆粒内容はpinkish redに染まる。
PAS(メタノール固定)は、顆粒内容は(−)、顆粒膜と顆粒外物質は若干(+)で(ポリサッカライド、グリコーゲン)の存在を示唆する。
ピロニン染色では顆粒内容はPink(RNA)に、顆粒膜はPinkish
red(RNA)、顆粒外物質はRed granules(RNA)に染まる。
SudamIIIは(−)であるが脂肪顆粒が若干見られる。
チオニン(フォルマリン固定)では顆粒内容は(−)、顆粒膜と顆粒外物質は(+)である。Metachromasia(Hyaluronic
acid,chondroitin sulfate)は(−)である。
酸性フォスファターゼは顆粒内容と顆粒外物質は(−)、顆粒膜は(+)。
Fluorochrome(アクリジン・オレンジ)で染めると顆粒内容が緑〜黄緑に染まるがDNAとは思われない。顆粒外物質は赤く染まる(RNA
or degradedDNA)。
抗ラッテglobulin家兎血清-γ-globulinによる蛍光抗体で染めると(直接法)、顆粒膜と顆粒外物質は染まらないが、顆粒内物質は(+)である。これはglobulinの存在を思わせる。(但し蛍光抗体で光るのはRTM-1と-2だけです。
電顕では顆粒膜は膜の表面にribosome様の粒子がついている。
:質疑応答(
[高木]培養日数が経つと顆粒の内容物を出してしまった死んだ細胞が増えますか。
[勝田]死ぬとこわれてしまうのか、死んだままという細胞は余り目につきません。
[黒木]位相差で見える顆粒と、電顕でみてリボゾームがまわりにくっついている顆粒と、蛍光抗体法で光るのと、皆同一の顆粒ですか。
[勝田]同じものだと思います。
[高木]この細胞ではミトコンドリアは桿状ですか。
[勝田]桿状です。
[高木]顆粒をもったまま分裂し、培養と共に顆粒が増えるのですね。
[勝田]そうです。培養と共に増えるのは一寸不思議ですが・・・。
[高木]いや、私の膵臓の株も培養につれて糖の蓄積がふえます。
[勝田]我々はこれまで細胞の内部にばかり多く目を向けてきましたが、これからは細胞外の細胞間物質についてもよく考える必要があると思います。こんど訪れた印度HyderabadのDr.Bhargavaはラッテ肝のsliceでmetabolismをしらべた時と、free
cell suspensionにしてしらべた時とはmetabolismのちがうことを見出し、細胞表面或は細胞間の物質の失われることによる、と考えていました。高木君のJTC-4もあのころとしてはCollagenを作る能力を維持しているFibroblastの株として唯一のものでしたが、あれも継代期間が永いし、うちの色々なdiploidの株も継代期間が永い。余り頻ぱんにsubcultureして、細胞間物質を除いてしまうと、細胞が脱分化して変化しやすくなるのではないでしょうか。この胸腺の株にしても初代は半年もおいているのですから・・・。なお、映画で分裂をみていると、胸腺の細胞はhematopoiesisのような分裂をやっているのではないかと想像されます。
[黒木]その分裂しない方が機能と結びつくのではありませんか。
[勝田]そうかも知れません。とにかくもっと長期間映画をとりつづけてみます。なおこれまでのin
vitroの抗体産生のexp.はin vivoで抗原を与えておいてから細胞をとり出してin
vitroに移し、そこで抗体産生をしらべています。さっき蛍光抗体法で光らなかったとお話したRTM-3、-4のような株こそ、in
vitroでの抗体産生Exp.に使えるのではないかと期待しています。
[奥村]New York Academy of ScienceのBieseleの論文で、trypsinを使って継代すると染色体数が変るというのがありますね。
[黒木]Continuous labellingをやってみれば分裂するのとしないのと判るでしょう。
[勝田]映画の方が早いですね。
[佐藤]in vitroの抗体産生のexp.のとき、培地の血清に対する抗体はどうなるのでしょう。こういう抗原過剰の場合・・・。
[勝田]この細胞に直接抗原を作用させても、抗体を作るかどうかは疑問です。むしろ、中間にリンパ球とか、組織球、白血球のようなものが介在する可能性の方が大きいでしょう。
[奥村]他にああいう顆粒を持った細胞というのは報告されていませんか。
[勝田]無いですね。このあとで気がついたのですが、蛍光抗体法で見たとき対照ラッテ肝の株を使ったら、そのなかにときたま胸腺と同じように顆粒の光る細胞が混っている。位相差でも胸腺のとそっくりで、おそらく網内系の細胞、とくにKupfferの星細胞と思います。だから網内系の細胞はみんな抗体を作る能力を持っているということも考えられます。しかし蛍光抗体法では特異性を余り強く主張できないから、いま細胞をためていますが、これをすりつぶして、電気泳動でγ-globulinを分劃証明しようと思っています。ただしこの細胞は増殖がおそいので、ためるのが大変です。
[高木]早く増殖するようになると機能がなくなってしまっているでしょうね。
[勝田]その通り。
《黒木報告》
昨年11月末トキワの炭酸ガスフランキを一台購入したのですが、炭酸ガスの出が悪く、pHを維持できませんでした。又ボンベも急速に空になり(12日間で7.0kgボンベ2本)回路のleakが想定された訳です。2週間前の2月1日に東京から修理に来てどうやら使えるようになったところです。pHの維持は非常によくなったのですが、上下の温度差(1℃)が修正できず困っています。現在、L-cellsを用いてplating
exp.の練習中です。
炭酸ガスフランキの故障、Ratの入手難で現在のところ、まだ発癌実験に手をつけておりませんので、今回は吉田肉腫のコロニー形成法についての二三のデータを示します。
吉田肉腫は御承知のようにsuspendの状態で増殖し、ガラス壁に附着することはありません。このためplatingが出来なかった訳ですが、寒天中に植えこむことにより、ある程度コロニーを作らせることが出来るようになった訳です。
寒天はDifcoのBacto agarをアルコール・エーテルで脱脂し、0.3%のtryptose
phosphate broth中に5%にとかし、Autoclave
EagleMEM培地で1%、0.5%稀釋します。通常下側の寒天層は1%、上方には細胞を浮遊させた0.5%の寒天をおきます。炭酸ガスフランキにincubateし、コロニーを散乱光でみてcountします。
#1(2,000cells/dish、BS20%、EagleMEM、2mMPyruvate)
1.0xEagle 297、73、201、258、252 10.6%
1.5xEagle 373、320、312、367、224 16.0%
2.0xEagle 229、258、179、132 9.9%
#2(200cells/dish、BS20%、EagleMEM、2mMPyruvate)
1.0xEagle 6、0、4、4、6 2.0%
1.5xEagle 9、5、8、6、6 3.4%
2.0xEagle 4、0、2、4、1 1.1%
*1.0x、1.5x、2.0xはアミノ酸、Vitaminを1.0x、1.5x、2.0xしたもの。
:質疑応答:
[勝田]アミノ酸分析のときの技術的問題ですが、最近うちで日を逐って標準試料の分析をやってみましたら、ニンヒドリンの発色性がかなり激しく落ちて行くことが判り、びっくりしました。こういうことを考慮に入れておく必要がありますね。
[高木]なぜ寒天を使ったのですか。
[黒木]吉田肉腫はsuspensionのままで増殖するからです。
[奥村]Puckが重曹量とpHとの関連のcurveを発表しています。それからExptl.Cell
Res.に立体的にCell coloniesを作らせるというのが出ていましたね。細胞を混ぜるにしては寒天0.5%というのは濃すぎませんか。
[黒木]0.3%もやってみましたが同じでした。あとで寒天を包埋して切ってみましたら、細胞は居ましたが、バラバラでした。
[勝田]本当のpure cloneを作るのに、英国の連中がやっている方法で、流パラの中へ、培養液にsuspendしたcell
suspensionを1滴宛おとし、細胞1ケ居るのを探して吸い取るという方法がありましたね。液の濃縮を防ぐ上で非常に良い方法だと思います。
《佐藤報告》
RLN10にDABを10μg時に20μg投与してStrain
cellよりDABの吸収乃至代謝の少ないCell populationを作った。即ちD2である。この細胞は形態学的には大小不同或は異型性がある。復元において腫瘍発生を期待しているものである。
D1は同様にDABを10μg投与したが、後、比較的長い間DABをのぞいて後、検索したものであるが、D2と同様DABの消耗の少いことを期待したが、現在の所予想に反して高い値を示している。
D.C.53はDABで57日飼育したラッテ肝よりとりだした株であるがラッテ肝細胞群のDAB吸収よりやや少い程度である。更に長期飼育の株ができれば、更に下がると予想される。
C44はnew bornラッテ肝をPrimary Cultureし直ちにDABを投与し変性の度合に応じてDABを除去しながらselectionして取り出した株である。
AH-130動物株の細胞をnew born ratsの脳内に入れて腫瘍死するまでの日数と、JTC-2細胞を同様にして脳内接種した場合の比較をした。接種細胞数10ケ、100ケ、1、000ケのどの群においても延命日数はJTC-2の方が長かった。また顕微鏡的には前者が浸潤性であるに反し、後者は脳室内に膨張性に増殖する点、簡単に言えば培養によって良性化している。併し、後者の脳をすりつぶして生後32日目の呑竜ラッテ腹腔内に入れると明かに腹水腫瘍となって死亡する。このときの像は大網或は腹壁に結節が認められる点、AH-130
originalと異る。
:質疑応答:
[勝田]DABを培地に入れたり抜いたりしている群では、入れているときも細胞は増えているのですか。
[佐藤]ケンビ鏡でみた範囲では増えている感じです。
[勝田]DABを入れたり抜いたりすることが、どうしてDAB摂取量の低下に効果があるのだろう。
[佐藤]色々な問題を含んでいると思いますので、また検討してみるつもりです。
[勝田]こういう変化が可逆性が不可逆性が、問題ですね。DAB肝癌では肝癌になってしまうとDABを代謝する酵素がなくなってしまう、と寺山氏が云って居られましたが、どういう方法でそれをしらべているのでしょう。
[佐藤]知りませんでした。
[勝田]腹がふくれる−と云われたが、それは癌細胞のふえたことですか、腹水の水がたまったことですか。
[佐藤]癌細胞がふえるのですが・・・。培養株のは腹水中に浮遊しないで、腹壁にtumorを作るのではないでしょうか。脳内でも脳組織の内部に侵入しないで、まわりにくっついています。
[勝田]JTC-1、-2の復元接種をそんなにやる目的は・・・。
[佐藤]いま発癌実験に使っている培地が腫瘍性を落すということと関係があるかどうかをしらべたかったのです。結果としては、腫瘍性は低下しないが良性腫瘍に傾くような気がします。
[奥村]勝田班長のところで以前にJTC-1、-2の腫瘍性が低下した、というデータがありましたね。
[勝田]それはデータにするほど沢山のラッテに入れたのではありません。ただ腹腔に復元して、死ぬ筈のものが死ななくなった、ということです。
[高井]脳内接種は脳室内に入れるのが本当なのですか。
[佐藤]いや、狙ったわけではなく、結果としてそこで増えていたのです。
[奥村]接種時のテクニックにもよるのではないでしょうか。
[黒木]若し培地のselectionによって腫瘍性が落ちるのならば、その先どういう培地にすれば良いのですか。
[佐藤]血清をラッテにするとか、色々考えなくてはならないでしょう。でも実際にはそう低下させるような培地ではないと思います。
・・ガヤガヤ(以後同時に何人も話し出したので速記者がこう記して以後空白)・・
《高井報告》
btk mouse embryo cells、Actinomycin処理群のその後の状態について。
昨年10月2日より培養をつづけているbtk mouse
embryo cellsのActinomycin群は、段々増殖が悪くなり、上図の如く(継代図を呈示)11月16日の継代後、1本は細胞が消失し、残りの一方も益々心細くなったので、12月1日以後はActinomycinを含まない、対照群と同じmediumに変更しました。ところが、その後も段々と細胞が減少して来ましたが、週2回のmedium交新をつづけていました所、本年1月下旬に、2〜3コの直径3〜5mm位のcolonyが出来ているのを見付けました。このcolonyを形成している細胞は、下の写真(顕微鏡写真を呈示)の通りで、細胞及び核の形の多様性、大小不同等の特徴をもっています。
一方、対照群の方も、増殖はかなり落ちて来ていまして、下の写真の如く、細胞は割に少ない様ですが、繊維様の突起が極めて豊富であり、一見してActinomycin処理群の細胞とは著明な違いがあります。しかし乍ら、よく探しますと対照群の方でも処理群の細胞に似た様な細胞が少数乍ら、所々に見つかります。
従ってActinomycin処理群に見出された細胞の由来、乃至成因に関して:i)元々あった細胞が、selectされて残ったのか、ii)元々あった細胞から変化して生じたのか、更に、それらのselection乃至mutationに対して、Actinomycinが何らかの役割を演じていたのか否か、については、今の所何とも言えないと思います。又、この現象の再現性についても、今後の追求が必要です。
:質疑応答:
[勝田]アクチノマイシン発癌の動物実験で途中経過をしらべた報告はありますか。
[高井]ないようです。
[勝田]やっておく必要がありますね。それからEvansらのデータで、mouse
embryoの組織だと3月以内にみな癌化してしまうと云いますから・・・。
[高井]培養内の経過をもっと早くしなくてはなりませんね。
[勝田]染色体の標本を作る練習もしておくと良いですね。それから材料としてFibroblastだけうまく採るということ・・・。何か良い方法がないですかね。培地にはCEEを少し加えると良いでしょう。
[高井]今までの例では、培養以前の、−皮下組織を採る−という段階がうまく行きません。
[奥村]どうしてかなぁ。時間があったらまたお教えしましょう。
[勝田]前に伊藤君が印度のBhargavaたちの方法をまねて、肝実質細胞のsuspensionを作ろうとしてうまく行かないで困っていたようですが、こんど実際にやるところを見てきましたから、紹介しましょう。(Exp.Cell.Res.,27:453-467,1962)
2〜15月rat(頭を叩いて殺し、すぐ使用)→すぐ腹を開き、門脈から環流(心のとまらぬ内)環流液は0.027MSodium
citrate in Ca-free Lockeを冷やしたもの→肝は見る見る白くなって行く→50ml環流したところで肝を切り取り→(必要なら環流液で表面を洗い)濾紙で表面の液を除き秤量→シャーレの中で細切(ハサミ)→0.25M(8.5%)Sucrose6mlにLiverを1gの比でsucrose液を加え→手製ホモゲナイザー(管の内径は2.15cm、ゴム栓は赤い軟か目のゴム栓、上端の径は2.2cmとなっているがこれは数値では表現できない由)で、手で5〜6回ゆっくり強く上下してすりつぶす→金属メッシュ(200mesh)で濾す。メッシュは丸めただけのものでconnective
tissueが内に残る(ガラス棒を沿えると濾過が早い)→さらにsucroseで洗い→200G(600rpm)1〜2分→free
nucleiは浮き、living parenchymal cellsは沈む→再びsucroseで洗う(他のbafferで洗っても良い)→Exp.。
《奥村報告》
A.ウサギ子宮内膜細胞に対するホルモンの影響
この実験をはじめてから今月で丁度1年になる。最初は内膜細胞を出来るだけ多く採取し、しかも活性を失わない様に培養へ移すことの条件を検討し、結局子宮摘出後すぐに細胞のTrypsinizationを行って、短時間(せいぜい摘出後2時間以内)で細胞をバラバラにして培養に移すことが肝心であることを知った。次いで培養には培地として、YLE、LE、N16、NO.199など用いてみたが中でもNO.199(塩類組成がHanks)が最も良好で、血清は牛血清、仔牛血清、ウサギ血清をテストした結果仔牛血清が比較的よく、特に2〜3週間、あるいはそれ以上培養を続けるのに一番効果的であった。しかし、同じ仔牛血清でもlotによってかなり差があって8lotsをテストして、うち2lotsだけがよく、他のlotsは普通の組織(一般に用いられるKidney、Lungなど)の培養には十分使い得るし、HeLa-S3細胞でのplatingには80%、又はそれ以上のe.o.p.を示したが内膜細胞にはあまりよくなかった。更に少数細胞の培養条件をしらべ、NO.199にcheckした仔牛血清を20%に添加(30%、時には40%でも可)した培地を用い、細胞数を10,000、5,000、1,000ケ/mlの段階で植え込み、1,000/mlでcolonyが1〜3ケ程度出来てくる条件を見出した。それは培地中の重曹を0.07〜0,1%に加え、培養開始後24〜48hrs.は炭酸ガスを10〜15%時には8%(フランキ内の炭酸ガス量)の状態におき、その後5〜7%に減少させる。勿論この種の培養条件は未だ決定的なものではないが、要するに培養初期はpH7.2〜7.4程度に保ち、あとでpH7.8前後に移す事が成功を高めるための1つのコツであることを知り、以来少数細胞を培養するときにはこの条件にしている。
ホルモンの投与実験:Progesterone及びEstradiolを用い、内膜細胞の増殖促進を目標にいろいろの濃度をしらべ、植え込み細胞数が5,000〜10,000ケ/ml(他の細胞数2〜30,000ケ/ml、又は500〜1,000/mlの場合も畧同様の結果)でProgesteroneは0.1μg/ml、Estradiolは0.01μg/mlが夫々他の濃度に比べて、より増殖を促進することを見出した。又e.o.p.もホルモンを加えない細胞よりも高いことがわかり、次いでチューブを用いて増殖度を測定すると、controlの細胞よりもホルモンを添加したときの方が1.5〜4倍程度高く、しかも3回の実験結果からみて、内膜細胞の増殖へのホルモンの促進効果もProgesteroneとEstradiolとで若干作用機序が異なっていることを示唆するような傾向を得た。そこで、次にH3-Progesterone及びH3-Estradiolを用いて細胞内へのuptakeをみると、JTC-4細胞では10%前後の細胞にgrains(autoradiographyによる)が存在したのに対し、内膜細胞では30〜50%(ラベル-ホルモンを培地に加えて後1週間位)、ホルモン投与後10日目には15〜25%に減少していた。つまり、JTC-4細胞へのホルモンのuptakeは常に畧10%程度であるが、内膜細胞では培養期間中に取り込み細胞の頻度分布に極めて大きな変動があるらしい。なお、この実験は現在続けて進行させているので近いうちに明かな傾向を知ることが出来るであろう。以上、今年度の最後の班会議で今まで掴み得たことを報告した。
B.JTC-4Y細胞の基本染色体型の解析に関する実験
今までJTC-4細胞から各種のクローンを分離し、最少染色体数の細胞クローン系を得るべく努力してきたが、やはり様々な困難に会い、現在までのところ染色体数分布が30〜34本のところに約80〜90%の集まっている系が最も安定であり、実験にも使い易いために、一応この系を用いて実験をすすめている。方法は各細胞に共通な核型を決定し、オートラジオグラフィーでその各染色体のDNA合成の時間的相関性を見ることを当面の目的とした。しかし、染色体上に小さな、しかも出来るだけ大きさの均一なgrainをつくることがむづかしく、ここ5ケ月間その条件を見出しつつある。少くとも、私のところで検討している範囲では低濃度のH3-TdRを長時間作用させるよりは高濃度(2μC/ml程度)で短時間作用させる方が染色体の拡がり、grainの出かたなどから比較的よい結果を得ている。この他にexposureの条件も問題があるし、乳剤なども十分検討の余地があって、未だ最適条件をみつけていないが、是非とも、はやくtechniqueを確立したい思いで奮闘中です。
:質疑応答:
[勝田]さきの文献の、動物体内のpH、というのはどうやって変えるんですか。(子宮内膜)
[奥村]局所のpHを測ると、酵素活性の強い時は8.0位で低い時は7.2位となっています。肥厚した時が8.0位というわけです。
[高井]内膜細胞にラベルするときはContinuous
labellingですか?
[奥村]そうです。
[勝田]H3だとすごい内部照射で、その影響が出る可能性も考えなくてはならないでしょう。崩壊するときすごい放射能を出すという話もききましたが・・・。
[奥村]Estradiolは0.05μC/0.01μg/ml、Progesteroneは少し多いのですが、0.2μC/0.1μg/mlで使っています。
[高木]Autographyで実際にとりこんでいるgrainsは核当りいくつ位ですか。
[奥村]Max.100位、Min.10位ですが、back groundがとても多くて定量的に物を云えません。この次はcoldのhormoneで洗ってちゃんとやります。
[高井]細胞内のどういうところに入っていますか。
[奥村]ほとんど細胞質です。核に少し入っている像もみましたが、これだけでは何とも云えません。
[勝田]問題はホルモンが本当に取込まれているのかどうか、蛋白にでも結付いているのかどうか、培地内のホルモンをcoldにおきかえて、しばらく培養してからautographyなり生化学分析なりをやって、しらべてみる必要がありますね。
[奥村]この問題は今年充分にやってみる予定です。ただ細胞が沢山とれませんので実験がむずかしいんです。それから染色体当りのgrain数はどの位が良いかというと、大体5〜6コ位でしょうね。
[勝田]染色体数の少くなった細胞というのは、染色体がその代り大きくなっているのではありませんか。
[奥村]いいえ、小さいのもあります。ラベルされた染色体は、どうもよく枝が分れません。Tritiumのせいかと思います。
[勝田]Coldでもthymidineを沢山入れると分裂を抑えるという報告がありますが、TdRによる阻害と言うことも考えられませんか。
[奥村]この濃度では無いと思います。それから、さっきの高井班員のFibroblastsですが、生後24hrs.位のハムスターですと、1腹分のハムスターから5万個/mlで25ml位とれます。皮膚を引張りすぎないことが大切で、透明な膜が張っているのをピンセットで捲きとって室温で2hrs.スターラーでトリプシン消化します。
[勝田]あまり難しかったら心臓を母培養して、出てくるFibroblastsを使う手もありますね。
《高木報告》
発癌実験においては、1つの種類の細胞が発癌するためには、他の種類の細胞とのinterrelationshipも大切なのではないかと思う。そこで細胞をバラして培養する方法でなく、組織片をそのまま培養してそれに発癌剤を作用させる実験方法をとりたいと思う。つまりorgan
cultureによる発癌実験である。この方面の研究でまず眼を引くのはLasnitzkiのprostateにMethylcholanthreneを作用させた実験である。最近のCancer
Researchにも彼は発表していたが、そのhistological
findingをみるとき、controlと比較して作用群にみられるepithelial
hyperplasiaは如何にも上皮性細胞の癌化過程を思わしめるものがある。私はこれからしばらくの間mouseまたはrat
skin←→4NQOのsystemで仕事を進めてみたいと思っている。動物のskinを培養する事が先決であるが、skinの培養についてはこれまでMcGowan、Maeyer及びJonesと云った人々の仕事がある。これらの人々の培養法及び用いた組織のageなどはそれぞれ異なるけれ共いずれも一応一週間から四週間位まで観察をしている。従って三週間位幼若動物のskinを培養することは、方法を検討するならば不可能ではないと考える。その方法として、
培養方法:1)Teflon ringを用い、nylon meshの上に組織片をのせた従来行って来た方法。2)agar
mediumの上に組織片をのせるwolffなどの行っている方法を考慮している。
培地:いろいろ検討の余地があると思うけれど、basal
mediaとして、1)3xEagle's medium。2)1xEagle's
medium+10%CEE+10%Serum。3)LYT(又はLT)medium。を検討の予定である。なおL-15mediumもpHの点できわめてstableであるのでこれについても検討したい。(Am.J.Hyg.,75:173-180,1963)
gas phase:95〜97%酸素+5〜3%炭酸ガスで行う予定である。なお液体培地を用いる場合bubblingさせたいと思うが、現段階では一寸実施が困難である。
4NQO:0.25%benjeneにとかしたものを用いる。他の発癌剤に比較して溶解度に対する心配はない。作用濃度は10-4乗M〜10-5乗Mを考えている。
:質疑応答:
[勝田]炭酸ガスフラン器のない場合、英国の連中はデシケーターにgasを入れてフラン器へ入れていますね。それから、いつも云うことですが、DNA以外のもののprecursorなどにラベルして組込ませる場合、本当のincorporationとturn
overとの区別をつけるのが大切ですね。
次に今年度の具体的な研究計画について、これまで話を伺ってない方に伺いたいと思います。
[高木]この1年はorgan cultureを主体とした仕事をやって行きたいと思っています。そして発癌実験もorgan
cultureで、4NQ-Oと若いラッテかマウスの皮膚−という組合せをやり、それ以外の仕事としては、正常組織のorgan
culture或は2種類の組織の併置培養をやりたいと思います。
[奥村]昆虫では細胞のgenic functionがホルモンで変ることを報告されていますが、私は家兎のendometriumを使って、progesteroneやestradiolの影響、特にgrowthに対する影響をしらべたいと思っています。またhormone-dependent、-independentの細胞を作り、それを発癌剤とも組合せて影響をみたいと思っています。
[勝田]女性々組織細胞のホルモンによる発癌exp.として私が可能性ありと思う方法は或期間progesteroneを次第に増量しながら与え、その後急にprogesteroneをやめてEstradiolに切換えるのです。人間で妊娠中絶したあと乳癌ができ易いことからヒントを得たのですが・・・。こんなこともendometriumでやってみてもらいたいと思います。
[高木]正常な機能をin vitroでできるだけ維持させるということも発癌exp.の裏返しとして必要だと思いますが、そういうことを奥村班員にやってもらったら如何でしょう。
[勝田]班が1年目か2年目ならばそれも良いのですが、3年目ですからもう少し積極的にやってもらわないと困ります。
[佐藤]Endometriumの細胞は培養内で上皮性ですか。
[奥村]そうです。ただとても扱い難いので・・・。
[勝田]しかし他にやっている人がいませんから有利です。
[佐藤]ヒト材料で掻把した材料で培養したらFibroblastsが出てきてしまいました。
[奥村]掻把した材料はその傾向があります。
[勝田]高井班員は・・・?
[高井]今までの方針通りやります。勿論再現性もみます。
[佐藤]私は今まで通り続けてやってみます。DAB20μgで細胞をほとんど殺してしまってからDABを抜くと、細胞が生き返ってColoniesができてきますが、この細胞をラッテへ復元してもつきません。どうしたらつく細胞が出来るものでしょうか。
[勝田]動物による実験的発癌のような苛酷な条件が人癌の発生の場合、ヒトの生体の中でも期待して良いものか、私は疑問を持ちます。むしろたとえば発癌剤とウィルス、それも非発癌性ウィルスとのsynergismのようなものを重視したい。しかし今、研究室にウィルスを持込むと、たとえ他の方法で癌ができてもcontaminationではないか、なんて云われますから、ここしばらくはこの仕事はやりません。やはり当分は“なぎさ”を続けます。DAB実験についても、なぎさ理論の上に立ったようなexp.をやって行きます。
[佐藤]発癌剤が細胞のどのstageに働くか、ということも問題だと思います。生体で云えばはじめに食わせたときのDABの作用と、一度肝細胞がやられて再生してきた細胞に対して働くDABとは異なるのではないでしょうか。【勝田班月報・6502】
《勝田報告》
A)発癌実験:
(1)なぎさ培養による第4番目のMutant(RLH-4)
1964-8-9:RLC-2より、なぎさ培養開始。9-4:RLH-1のCell
homogenate添加。顕微鏡映画の撮影を開始。9-7:Mutant発生を示唆するような所見。9-8:カバーグラスを取除く。10-5:継代(平型回転管よりTD-15へ)。11-2:継代(TD-15よりTD-15へ)。12-25:新コロニー発見。映画撮影開始。その后順調に増殖をつづけているが、このMutantが果して何時ごろPopulationの中に生まれたものか、簡単には推測できない。
RLH-4の染色体数:(図を呈示)13ケしかかぞえてありませんから、決定的なことは云えませんが、Hypertriploidのようです。RLH-3は63本がピークで頂度3nでした。
(2)なぎさ培養細胞のフォスファターゼ染色
Alkaline-phosphataseとacid phosphataseの2種について次の各種標本について染色を行ってみた。対照細胞のL・P3はよく染まったが、なぎさ細胞は(シート部も)何れも活性がよく認められなかった。これはさらに追試確認すると共に染色法自体も検討する必要を考えている。RLC-5:1964-12-3→1965-1-30(なぎさ培養58日)。1965-1-15→1-30(なぎさ培養15日)。1965-1-22→1-30(なぎさ培養8日)。RLC-6:1965-1-22→1-30(なぎさ培養8日)。
(3)なぎさ培養へのlabelled cell homeogenateの添加
RLC-5:1964-12-24:なぎさ培養開始。1965-1-12:H3-thymidine-labelled
homogenate添加。添加1日、2日、3日、4日后に標本を固定してautoradiographyでしらべた。
mitosisの細胞の染色体のどこか一部にgrainsが集中して認められないかどうかしらべたが、染色体にgrainのあるものは認められなかった。
或はもっと長期おいてからautoradiographyをおこなった方がよいのかも知れない。
(4)Mutantsの復元接種試験
(a)1964-12-12:雑系ラッテ生后24hrs以内のものに脳内接種。RLH-1、RLH-2、RLH-3(300万〜700万コ宛)・2匹宛。1965-1-5:RLH-1接種ラッテの1匹が死にかけたので剖検したところ、脳水腫と判明。腫瘍細胞の増殖した兆候なし。1-21:残りのラッテ全部を殺して剖検。RLH-3接種の内1匹が発育不良で脳水腫。他は全部健全。異常なし。
(b)1965-1-22:生后1ケ月のハムスターのポーチへ次の如く接種。RLH-1、RLH-2、夫々に100万個/ハムスター。ハムスターは何れもCortisone0.1ml(2.5mg含有)を週2回接種。ポーチ内の腫瘤が大きくなったら、これをラッテへ移植してみる予定。
B)その他の実験:
(1)ラッテ胸腺細胞
正常ラッテ胸腺より樹立した4種の株(RTM-1、-2、-3、-4)について、その細胞質内の特異顆粒の性状をしらべるため、DNase、RNaseをかけて、その后アクリジオンレンジで蛍光染色をおこなったが、特異顆粒がきわめて少かったため、この結果については信頼できない。(光らなかった。)
なおこの特異顆粒中にγ-globulinが含まれているか否かを電気泳動法で証明するため、少し宛継代のたびに細胞をためて凍結貯蔵中である。
(2)ウマ末梢血白血球の培養
Cell countingをおこないながら、白血球、特に単球細胞の延命に好適な培地と培養法の検索につとめている。
《土井田報告》
RLH-3の核型分析
RLH-3の染色体数の分布は先に報告した通り、63本のところにpeakを有した。今回は核型分析の経過を報告する。(図を呈示)。2つのn=62の細胞では、telocentric
chromosome(TCC)が共に42本で残り20本はmetacentric又はsubtelocentric
chromosome(MCC or STC)である。これらの染色体の大きさは漸進的に変化していて、特長となるものはないが、最小の2本のMCCは他のものとは稍々目立つ程度に小さい。染色体数53本のものでは、同一細胞内に2ケのdicentric
chromosome(DCC)を含む例がある。TCC以外の染色体数は22である。この例でも稍々小型の2本がみられる。
64の例でTCC以外の染色体は19本で、1本の著るしい大型のSTCがある。
この系統の細胞ではtelocentricでない染色体の総数は18〜22の間にある。
RLH-1との比較
著しい特長はTCCがRLH-1では15本前後で総体的に少ないが、RLH-3では逆にTCCが多くそれ以外の染色体数が20本前後と少なかった。
同じ起源の細胞で、同様の処理を受けたと思はれるのに、核型構成の上に大きな変化が起り、非常に異なったものが生じたことは現象的に興味あることである。
《高井報告》
)btk mouse embryo cells(第5代目)のgrowth
curve
10月2日より培養をつづけているControl群に、Actinomycinを作用させて見ようと考えていますので、まづそれに先立って、この細胞の増殖率を調べてみました。最初startする時、生の状態では細胞が見えにくく、又ある程度の細胞塊があり、極めて細胞数の算定が困難であったため、inoculum
sizeが少なすぎました。従って、細胞数のバラツキもかなり大で、良い実験ではありませんが、lag
phaseが相当長くて6日目になって漸く増殖の傾向が見えて来ました。このあと更に日を追って追求中ですが、何れにしても増殖は緩慢です。
)mouse皮下そしきの培養。その後もくり返し、btk
mouse(adult及びnew born)の皮下組織の培養を試みていますが、まだうまく行きません。又たとえうまく行ったとしても皮下そしきのみからでは極く少数の細胞しか得られないのではないかと思いますので、この方法は一応中止しようかと考えております。
細胞に発癌剤を作用させて、腫瘍化させるのが一番大事な目的であるのに、その発癌剤を作用させるべき材料を得る段階に余りに大きな労力を費すことは、賢明とはいえないと思います。whole
embryoでは得られる細胞が、色々の組織に由来することが不利だというので、皮下そしきのみを材料にしようと考えたわけですが、たとえmixed
populationであっても、培養し易い材料をえらぶ方が実験の能率が上ると思います。又、発癌のmechanismがおそらくはDNA合成の何らかの過程と密接に関連していると考えられますので、DNA合成の盛んな、つまり増殖の速い細胞を材料とする方が有利と考えられます。この意味で上記I)の如き細胞は余り適当ではないと思いますので、株細胞も扱ってみようと考えています。 )btk
mouse embryo cellsおActinomycinを作用させたものを、現在Actinomycin(-)の培地に戻して観察していますが、最近生残った細胞が少し増殖して来ましたので、今後更に追求して行く予定です。
《黒木報告》
吉田肉腫の栄養要求(3)
前報でセリンが有効との結果を得ましたが、その至適濃度の決定を行ったのがこの報告です(Exp.#248-2)。(表を呈示)すなはち、optimum
conc.は0.2mMです。なお、pyruvateは本実験では2.0mMを用いていますが、その后のExp.で(Exp.#248-1)で0.5、1.0、2.0mMがほぼ同様の結果を得ました。
血清濃度との関係は(表を呈示)表の通りです。SERINEが入っても5%ではNo
growthです。5%WholeでGrowthさせるのを次の目的とします。なお、10%C.S.、1.0mM
Pyr.、0.2mM SER.の条件におけるGrowthは6回測定しましたがバラツキが多く、23.0±5.9hrs.です。
《高木報告》
in vivoの発癌実験を考えてみる時、私はOrrの仕事に興味を覚えます。彼はepidermal
carcinomaを作る実験で、carcinogenをapplyした場所に隣接する部分のstromaが、この発癌に大いなる役割を果すらしい事を述べています。つまり彼はM.C.をマウスの右肩にapplyしてそこからepidermal
graftをとって左肩に移植した場合にはtumorを生じないが、もとのgraftをきり出した処にはtumorを生ずると云う事・・・を行っております。
またこれは発癌実験ではないのですがGrobsteinのdifferentiationに関する興味ある仕事もあります。この場合彼はpancreatic
rudimentのepitheliumからacinal differentiationmesenchymと共に培養した場合においてのみである事を述べております。・・・これらは1、2の例ですが、この様に考えて来ますと、differentiatinにせよ、dedifferentiationにせよ、これらの場合、実際に変化を被る細胞(組織)の外に上の例ではConnective
tissue stroma、またはmesenchymと云ったtissueの存在、つまりこれらのtissue相互間のInteractionが大切な役割を果している様に思えます。もう一つin
vivoの発癌で考慮されねばならないのは広い意味のCo-Carcinogenic
factorであろうと思います。兎も角生体における発癌の過程をみる時、これは決してsimpleなものではありません。
今in vitroの発癌実験をふりかえってみると、今日までCell-medium-Carcinogenと云った比較的Simpleなsystemで実験が続けられて来ました。そして癌らしき細胞も出来るのですが、癌細胞のcriteriaがその細胞を復元して無規制な増殖を示すと云う事にあるため、その過程で今一歩と云う処かと思います。私共も、今日まで同様なsystemでStilbesterol−hamster腎を用いて仕事をして来た訳ですが、薬剤のえらび方か、臓器のえらび方か、或いはculture
techniqueの問題かは知りませんが、先ずはっきりしたdataを出す事は出来ませんでした。勿論この様なsystemでも発癌する事は充分考えられますが、今后は新しいsystemで出発したいと考えています。つまりよりpotentなcarcinogenをよりorganizeされたtissueに作用させ、更にCo-Carcinogenic
factorをも考慮して仕事を進めて行きたいと思い、その準備をしている訳です。
《佐藤報告》
研究員の関係で1月は少しペースをおとしてので新しい研究はしていない。
DAB投与による発癌はDAB 10μgの投与をつづけているものにDAB消費度の減少を来たしたものが現われたので復元を準備中。
3'-methyl-DABを投与すると投与日数によって染色体の移動3nがおこる様である。
RLH-1:1965年1月5日、呑竜ラッテ新生児に1匹当り脳内27万、腹腔内90万、各々2匹宛注入したが、目下(-)。
DAB飼育ラッテ肝からの肝腺腫様細胞の一部は増殖中で、なんとか株細胞にしDABの追加実験をして見たいと思っています。此の細胞をとるために一部のものはJTC-2或はラッテ肝細胞株のconditioned
Mediumで培養している。
AH-130動物株とJTC-2と比較
JTC-2は腫瘍性(復元性)は殆んどおちないが、悪性度(脳内における増殖態度が膨張性)は少くなっている。継代は可能で目下3代目。動物通過で悪性度が恢復するかは検討中。
【勝田班月報・6504】
《勝田報告》
A)なぎさ培養によって生じた変異細胞(RLH-1、-2、-3、-4)のラッテ復元接種及びハムスターポーチ接種の今日までの総合成績一覧表(表を呈示)。
以上のラッテ復元成績を纏めると次のようになった。RLH-1:0/17、RLH-1R*:0/1、RLH-2:0/10、RLH-2R*:0/4、RLH-3:0/2。計0/34。
*RLH-1Rは第1回30日間BSの代りに20%RS、その后BS培地に28日間、第2回10%RS+20%CSで70日間培養。*RLH-2Rは(10%RS+20%BS)で72日間培養したものと、90日間培養後20%BSで20日間培養したもの。
B)DABによる発癌実験:
RLC-1、-3、-4、-5細胞を用い、DABを比較的高濃度に与えて、変異細胞の出現を狙った。昨年秋以后のデータを次に示す。容器はすべてTD-15(カバーグラスなし)。培地は20%CS+0.4%Lh+salineD。静置培養。
Exp.CM#25(RLC-1細胞):1964-11-10(第0日)→12-3(第23日):新鮮なRLC-1を追加→1965-1-29(第80日)まで80日間DAB
10μg/ml。2-19(第101日)→3-22(第132日)まで31日間DAB10μg/ml。細胞のpleomorphism出現。増殖はかなり阻害された。
Exp.CM#26(RLC-3細胞):1964-11-10(第0日)→12-3(第23日)まで23日間DAB
10μg/ml。
12-7(第27日)→12-29(第49日)まで22日間DAB
10μg/ml。1965-1-8(第59日)→1-29(第80日)まで21日間DAB
10μg/ml。増殖が非常に阻害され、DABを除いても増殖再開せず。
pleomorphismあり。
Exp.CM#27(RLC-4細胞):1964-11-10(第0日)→12-3(第23日)まで23日間DAB
10μg/ml。
12-7(第27日)→12-18(第38日)まで11日間DAB
10μg/ml。12-25(第45日)→12-29(第49日)まで4日間DAB
10μg/ml。1965-1-8(第59日)→1-29(第80日)まで21日間DAB
10μg/ml。
細胞増殖が著明に阻害され、DABを除いても増殖が再開せず。形態的pleomorphismあり。
Exp.CM#28(RLC-5細胞):1964-11-10(第0日)→12-3(第23日)新鮮なRLC-5を追加→1965-1-29(第80日)まで80日間DAB
10μg/ml。2-19(第101日)→3-22(第132日)まで31日間DAB
10μg/ml。この細胞にこの濃度では、増殖や形態にDABが著しい影響を与えていないように見えた。3月22日の所見では変性に陥った細胞の小塊がシートのところどころに認められた。 Exp.CM#29(RLC-5細胞):1965-3-19(第0日)。3-20(第1日)→3-25(第6日)まで5日間DAB
10μg/ml。細胞シートが所々剥げ落ち、残った細胞も変性に陥りかけている。培養の半数にRLC-4のhomogenateを添加。3-26(第7日)DAB除去后、細胞に著しい回復が見られる。これはhomogenate添加群も非添加群とも特に差はない。
《佐藤報告》
1.発癌実験(DAB飼育Donryu系ラッテ肝の組織培養)
最近65'2−組織培養を開始した◇C82実験の復元で漸くDonryu系ラッテnewbornにTumorを作る事ができました。理論的には当然Tumorが出来る筈で、喜ぶにあたいしませんが、
Primaryに動物から動物にTumorをつくり、且つ培養に成功するものをつくってDAB発癌の移行を見ようとする企が一応終ったことになりますのでほっとしています。標本その他の詳細は班会議でお話します。この系列の実験についての概略だけメモしておきます。
DAB投与日数 陽性率 判定日(培養開始后)
◇C52 44日 0/5 44日
◇C53 57日 3/5 81日 株化14代349日
◇C57 72日 5/14 31日
◇C58 72日 5/14 44日
◇C60 107日 5/14 42日 株化7代299日
◇C61 142日 6/11 41日 株化5代264日
以上、第1シリーズDAB投与日数と共に増殖をおこす試験管が現れるが、培養中の試験管から、或は株細胞からの復元でTumorは作らない。まだこの程度の投与日数では再生結節すら明瞭でない。株化させたものは
◇C62 65日 2/5 43日
◇C63 107日 4/10 65日
◇C65 121日 4/16 51日
◇C68 149日 6/15 27日
◇C74 191日 結節部8/8 50日 2代124日
対照部2/8 50日
Donryu newbornへ結節部をつぶして2匹、対照部をつぶして2匹両方共84日后Tumor(-)
しけん培養開始后第12日結節部を、対照部共にnewbornへ接種したが第87日Tumor(-)
結節部増殖細胞は大小不同でTumorかと思われたが復元は不成功。
対照部にも少数ながら同様の細胞群が見られる。
◇C76 199日 結節部5/5 29日 2代115日
対照部5/5 29日 2代115日
Donryu系newbornへ組織のHamks(3x)乳剤を結節部及び対照部よりこしらえ各々6匹及び
2匹移植。第90日でTumorをつくらない。
◇C78 199日 結節部2/5 43日
対照部1/5 43日
◇C80 199日 3/10 37日 本例には結節は認められない。
DAB投与日数をここで一応打きっておいたのは◇C74、◇C76でTumorが発見されたためこれ以上の投与はラッテを死亡せしめると考えたためですが、◇C78、◇C801と実験して見て結節が未だ不充分と思い、一応試験的に開腹したところ残りの動物で強い変化がなかったので更にDAB投与を再開した。
◇C82 199+38=237 結節部5/5 36日 2代41日
対照部5/5 36日 2代41日
開腹時、結節部のHanks乳液をDonryu newbornの脳内3例(1例は第13日目に脳内水腫をおこして死亡、その脳をすりつぶして腹腔へ接種、結果不明。第2例は第21日目死亡。第3例は第38日脳水腫と共に脳質腔内にTumor発見。継代中)。皮下3例(共に全例皮下Tumor発生)。
◇C83 199+66=265 結節部5/5 8日
2代13日(結節は灰白色)
結節部3/5 8日 2代13日(結節は灰白赤色)
Donryu脳内3、腹腔内3、皮下3移植。観察中。
上述の材料をつかって実験を計画中。
2.RLH-1の復元
No.1(9代)418万個/mlの細胞浮游液を、脳内、3例、12万5千個 腹腔内、2例、62万4千個。胸腔内、2例、41万8千個。本例は親にくわれて失敗。
No.2(10代)脳内1匹当り27万個cells。腹腔内1匹当り90万個cells。77日后Tumor(-)。 No.3(14代)細胞浮游液に墨汁液を交ぜて脳内接種して、RLH-1細胞の追求を行った。
2日后及び4日后の連続切片で観察した処、脳膜の蜘蛛膜下腔と思われる部に、核分裂を示す島岐状の細胞(RLH-1細胞)を発見した。
3.JTC-2の毒力(移植性について)
newbornに対する腫瘍性については、AH-130と比較して前回に報告したが、そのご幼若
Donryuラッテに接種を行った所、一時腹水をつくりTumor
cellの増殖があったが、その后腹水が消失した。接種脳脳:JTC-2の1,000個脳内接種、18日后殺す→生后32日Donryuラッテへ全脳をすりつぶし接種、11日后→100,000個、10,000個、1,000個を接種、夫々62日Tumor(-)。2,800万個接種、生后43日ラッテ、現在62日腹水消失。同11日后→2100万個接種、現在
31日腹水はない。同11日后→16后腫瘍死。
成熟Donryuラッテに対しては移植率は低い様である。
《高井報告》
1)btk mouse embryo cells、Actinomycin
S処理群のその後の経過。
前回の班会議で御報告いたしましたActinomycin処理群に発見されたコロニーは、その後、徐々にではありますが、大きくなって来る様です。細胞の形は前報通りで余り変っていない様に思われます。しかし乍ら、control群の方も長期間(第4代のままでMedium更新のみを続けていたもの)同一の培養瓶でmaintainしていたものでは、細胞の形態が上記Actinomycin処理群に生じたものとかなり似て来ていることに最近気がつきました。このことから考えると処理群に現れた変な細胞も単に長期間、同一の瓶で培養している間にselectされただけでmalignant
transformationとは無関係かも知れないという可能性が非常に高いのではないかと思われ、ちょっと悲観しております。
2)btk mouse、newborn皮下組織培養の試み。
先日、奥村先生に色々操作上のコツを教えてもらい、その後、3回程試みました。第1段階の皮下そしきをピンセットで集める段階は、今迄よりかなりうまくなった様に思います。しかし、第2段階のトリプシン処理で細胞がうまくバラバラにならず、少数の細胞しか得られませんでした。又得られた細胞もErythrosineBで染まるものが極めて多く、何れも失敗に終りました。今迄、生後3日目のmouseを用いていましたが、もっと若いものでないと駄目なのかも知れないので、今后は1日目位のものを用いる予定です。
3)btk mouse whole embryoの培養。
2)がうまく行かないので、再びwhole embryoの培養をstartしたところです。1)に記載した細胞は大分古くなりましたので、近日全部復元してみる予定です。
《奥村報告》
A.ウサギ子宮内膜細胞に対するホルモンの影響
内膜細胞の培養が連続5回失敗してしまい、残念ながらH3-Progesterone、H3-Estradiolの取り込み実験をすることが出来ずにいます。近日中に再び実験を始めるつもりです。
B.ヒト子宮内膜細胞の培養
ウサギの内膜細胞での実験と並行させて、ヒトからの材料を用い、やはりホルモンとの関連性を探ることを試みはじめました。最初にヒトの子宮内膜細胞の採取を検討した結果、不妊症患者の細胞が汚染が少なくて培養に適していること、培養は初代から多くの細胞を植え込むと(1万個、10万個/ml)繊維性細胞ばかりが増殖してくるので、トリプシン消化后、single
cell rateを40〜50%にした浮游液を1,000〜3,000ケ/mlの細胞濃度でシャーレに植え込む方法を用いた。出来てくるコロニー数は現在のところさまざまで0〜8ケ程度そのうち1ケ程度が比較的上皮性のものである。培地はウサギの場合と同様No,199に仔牛血清20%を用いる。血清濃度は30%、40%にすると若干細胞増殖が促進される程度で20%のものと余り差はない。CO2ガス量は約10%、pH7.4〜7.8に調整。
C.当面の実験計画(子宮内膜細胞に対するホルモンの影響)
これから数ケ月のうちに行う実験計画は主にautoradiographyを用いる実験である。
用いる細胞:ウサギ及びヒト子宮内膜細胞、HeLa細胞、ハムスター肺からの分離株(Negative
controlとして)、ヒト子宮癌からの細胞の5種類。
標識物質:ホルモン・H3-progesterone、H3-estradiol。その他・H3-TdR、H3-UdR。
実験方法:1.ホルモンの細胞内への取り込みを時間を追ってしらべることと、その細胞内局在性の検討、同時にホルモンの代謝をどの程度までcheckできるかをしらべたい。例えばestradiolが細胞内で代謝されて、estrial、estroneになり細胞外に出てくることがあるかどうかなど。2.ホルモン存在下での細胞のDNA、RNA合成の推移を検討すること。
《黒木報告》
このところ種々の事情で研究の方は余り進展をみていません。今迄ためておいた実験を論文にすべく一日の半分をそれにあてていますが。慣れぬ英文故なかなか捗りません。最近行った仕事の一つに、悪性度の分析の試みがあります。これは生存率曲線に「何かものを云はせる」ために、先ず生存率をprobit変換し(実際には正規確率紙を使用)直線化した上で、傾斜、並行性等を検討し、悪性度の問題にせまろうとするものです。これは三島の組織培養学会での山田正篤先生の質問(probitの平行性の意味)への回答として行はれたものです。まだ検討が不十分ですので次の班会議までには発表出来るようにします。
トキワのCO2 incubatorは3月12日に新品と交換、今度は順調に動いています。(5%CO2でpH7.2を維持、NaHCO3
0.7g/l)、目下L細胞でplating-efficiencyをみています。Ratのembryoを培養するのが私の発癌実験の第一歩になる訳ですが、全然ドンリュウラットが妊娠してくれず、困っています。現在、実中研固型飼料CA-1にvitaminEを添加していますが効果の程はさだかでありません。(VitaminE
1gをオリーブ油約10mlにとかし、約7kgの固型飼料とよく混合して用いる。
(図を呈示)図は、この前の班会議で一寸述べた培地のNaHCO3とpHの適定直線です。縦軸のNaHCO3をlogにすると直線が得られます。(当たり前の話ですが)。実線はEagle
MEM、破線はそのBaseのHanksです。
《高木報告》
さて前回までintroductionを書いて来たつもりですので、今週からはいよいよ実験に入らなければならないのだが、残念ながらまだやっと着手したばかりでdataらしきものは出ていない。何せCO2incubatorなしでorgan
cultureをやる訳であるから可成り無理がある様である。一応CO2
3% O2 97%ガスボンベを購入してみたが、1本4,000円で、私の現在やっているタンクからSelas
filterを通して滅菌蒸留水をbubblingさせてcontainerに入れる方法では、ぶっ続けに通気すると2週間位しかもたない様である。成丈けeconomizeしてintermittentに通気している積りであるが、それでも3週間位がやっとと云う事で、可成り高くつく実験である。それともう一つの欠点はcontainerのcapacityが小さいためpHの調整が困難な点である。・・・何はともあれ強引に実験をstartしている。先達っての班会議でも御話しした様に、先ずrat
skin←→4NQO系を考えて生后間もない(7〜14日)rat
skinのorgan cultureを試みたが現在の処培養9日目まではまず大丈夫の様で、epidermis、Corium、subcutaneous
tissue、hair follicleなど比較的良い状態に保たれている。
培養方法であるが、これは私がこれまで行って来たteflon
ringの上にnylon meshをのせてその上にtissue
fragmantをのせる方法、organ culture用特製のdisposable
petri dishによる方法(これだと0.7〜0.8mlのmediumですむ)(図を呈示)、及びagar
mediumによる方法を検討しているが、まだはっきりしたことは云えないが今日までの所見に関する限り後二者が良い様である。
mediumについてもいろいろと検討すべきであろうが、一応modified
Eagle's mediaをbasalmediaとしてそれに10%CEE(1:1)と10%BSを加えたものを用いている。勿論L-15とかRPMI#1579(Moor's
media)などもbasal mediaとして面白いと思うが、現段階ではあまり培養するためのfactorを多くするとかえって複雑になるので一応mediaを一定にして様子をみる事にしている。・・・amino
acidsの入手の問題もあるので・・・。
それとgolden hamsterのsubmandibular gland(SMG)のorgan
cultureもStartしている。
これは、SMG←→dimethylbenzanthraceneの実験に関連して行っているもので、まだ3日目のCultured
tissueのstainingを行っていないので何ともいえないが、3日目のmediumを交換するためtissue
fragmentをforcepsでつまむ時、ズルズルすべって中々つまめなかった。explantした時はこの様にズルズルしていなかった様で、唾液の分泌(?)をつづけているのかも知れない。これが何日つづくことか・・・面白いと思う。
次回の月報にはもう少し詳しいinformationをのせる事が出来ると思う。
なお本月報を利用して当研究室の構成人員を御紹介します。
◇梶山猛浩君(入局5年生)
Cell strainの免疫学的差異を調べて行く彼の仕事も一応終りそうで、あと一息と云う処です。これからそのまとめと補足、それにferritin抗体を使った組織のEM的検索−つまりinsulin、glucagon、ACTH、growth
hormonなどがどの細胞のどの部分から分泌されているか?更にin
vitroでcultureしたものについては?と云った様な問題・・・を山田英智先生の協力の下に一緒にやるつもりです。目下遠賀療養所に出張中で週2日こちらに出て来ています。 ◇岡田楷夫君(入局4年生)
奥村先生の処で一応chromosomをいぢくれる様にして頂きました。現在はその方面の仕事、特にdiploid
cellの培養、“functioned"cell lineの分離と云った仕事と共にantiglucagonserumを用いたpancreas
& cellsの仕事もstartしています。この5月で“Bettfrei"からあけますので、彼も臨床、研究と多忙なことになります。
◇緒方佳晃君(入局3年生)
あと一年“Bettfrei"の期間が残っています。彼はrat
pancreasを用いて(young rabbitの入手困難な事及び高価な事からratで仕事をする予定で目下ratの自給自足の態勢に入っています)、更に培養条件の検討、βcellsに対する諸種agents(hormon、diabetagenic
agent・・)の検討、更にはin vitroにおけるinsulin合成の問題などやってもらいたいと思っています。 ◇池上隆君(入局2年生)
今年の5月から研究室に入ります。この人には、organ
cultureによる発癌実験と癌組織のorgan cultureなど一緒にやってもらうつもりです。
◇藤野春代さん
昨年9月から当研究室で仕事を手伝ってくれています。
その外、3年の学生が2人位遊びに来るかもしれません。
《堀 報告》
今年度からこの研究班に入れて頂き、in vitroの発癌の問題をratの肝を主に使って、組織化学的方法により追求させて頂くことになりました。班長の勝田先生をはじめ班員全てこの道の大先輩であり、authorityであられる方々の御指導御鞭撻を御願いする次第であります。実際にやる事としては、in
vivoとin vitroにおけるhepatic cellの比較を主にしたいと存じます。hapetic
cellを特徴付けるG6Pase、Phosphorylaseなどの酵素を中心として、その他種々の酵素類、その他組織化学的に特異性の確立している方法を用いて、in
vivoの細胞を培養に移すとどの様な変化が起るかを、Weilerがtissue
specific antigenの変化を見た様に追求したいと思います。しかし乍ら、当研究班が既に第3年目の総まとめの時期に入っているということは、新参者がのうのうと我が道を往っていたのでは申訳ないのではないかと思わせます。従って、今年はまず組織化学的方法の培養細胞えの適応をmasterした後、各先輩方の注文に応じて染色一手引受けの染色屋にならうかと思いますのでよろしく御引立て下さい。なお、染色というものは、はためには簡単の様ですが、fluorescence-antibody法に見られる様に色々なfactorsがあって面倒なものですので、一応の結論を出すのには或る程度時間を必要といたしますので、御含みおき下さい。なお、昨年秋の班会議の折に御話いたしましたexplantsの組織像の事ですが、その後色々検討した結果、使用したcoverglassの質が悪かったため、特にA20でtreatしないcontrolののび方が悪く、従ってexplantsがnecrosisを起したことが分りました。今はAdam製の良質coverを使っていますので、controlでもごく簡単にのびてくる様になりました。今迄はroller
tubeを使っていましたが、CO2-incubatorが入りましたので、今後これを活用していと思っています。しかし目下の処不調で困っています。
《土井田報告》
培養条件下での放射線誘発染色体異常のAutographyによる解析
放射線照射後生じる染色体切断と染色分体切断の量は、用いる電離放射線の種類や線量、線量率、一回照射、分割照射などいろいろな条件によって異なるが、両者の相対的な量は照射後の時間によって変化する。即ち照射後比較的短時間で細胞を固定した場合には、染色分体切断が多く、ヒトの末梢白血球培養の場合には照射後固定までに20時間以上経過した時には、染色体切断が殆んどで分体切断は少ないという。このことの理由はヒトの白血球培養の場合、培養状態におかれたあとDNA合成を行なうので、S期以前に起った染色分体切断はすべて染色体型の異常として次の分裂で捉えられるというのである。
しかしこの考えは少し無理なようで、私には培養後の最初の分裂である時には、やはり染色分体切断として観察される筈であると考え、この点を確かめるためAutoradiographyの方法を用い研究を始めた。
方法はヒトの末梢白血球を常法通り分離後、0.5uc/mlのH3-thymidineを含む25%AB人血清+75%LE培地で(培養開始時より)、24、40、48時間培養し、そのあと二度H3-thymidineを含まない上記血清培地で洗い。全部で72時間になるように、AB人血清-LE培地で、それぞれ48、32、24時間培養した。細胞はこれも常法通りcolhicine処理、低張液処理、固定をしたあとair
dry法で標本を作成した。
サクラ・オートラジオグラフ用乳剤でコートし、現在露光中である。結果は次号月報に報告できるのではないかと考えている。
猶、私のデータでは、乳癌手術後毎日250Rづつ、上胸部に照射されている患者の末梢白血球培養で平均6.12%とかなり高い染色分体切断を観察しているが、正常健康人、原爆被曝者、職業性被曝者、乳癌患者の照射前の個体においては、それぞれ1.90、1.42、1.66および0.60%とかなり低かった。
(インドの報告)
【勝田班月報・6505】
《勝田報告》
A)“なぎさ"変異細胞の復元接種試験
なぎさ培養でできた変異細胞、RLH-1、-2、-3、-4の内RLH-4についてはまだ復元も余り試みてないので、いろいろの方法で試みることをはじめた。その皮切りのところを報告する。 1965-3-18:RLH-1
800万個無処置のハムスターのポーチへ接種。-20(第2日):径約3mmのtumorが形成された。-22(第4日):約5mmになったので摘出して一部は固定、切片標本作製へ他は培養に移した。培養はTD-40瓶1本を用い、[仔牛血清20%+0.4%Lh+D]の培地で約10万個/mlを10ml入れ培養開始。しかし殆んどの細胞は硝子面に附着せず、培地交新の度に細胞数が減少して行った。約2〜3週后には生きている細胞はほとんど残っていないように見えた。約4週后、瓶内に小さなコロニー数コを発見。
4-2(培養第31日):コロニーを1コ宛、先曲りピペットで各1本宛の回転培養管に移し、3本を得た。残りはまとめて他の1本に移した。しかし純粋にコロニー1コだけ宛とれたか否かは不明。この継代直前のコロニーの形態は、ほとんどのコロニーはRLH-4に似た立体的に盛上ってくるコロニーで、細胞も円形細胞が多かったが、1コだけRLH-3に似たコロニーがあり、細胞は大型で平面的に拡がり、細胞間に隙間がなく、またFibroblasticでない形態を示していた(模式図を呈示)。これらのコロニーの細胞が夫々増殖したら、またハムスターポーチやラッテへ復元してみる予定である。
B)高濃度DAB添加実験
RLC-1、-3、-4、-5の4種細胞を用い、DAB 10μg/mlに添加したり抜いたりする実験をおこなっているが、1965-4-25現在では培養第166日になっている。
RLC-1:DAB(+)80日→(-)21日→(+)31日→(-)34日。胸腺の細網細胞に似たような、密集した顆粒を細胞質に持つ細胞が沢山見られ、大小不同、異型性もかなりある(なぎさに似)。増殖は緩慢。
RLC-3:DAB(+)23日→(-)4日→(+)22日→(-)10日→(+)21日*→(-)84日→(+)2日。*3回目のDAB添加后、細胞が殆んど死滅したかのように見えたが、その后次第に細長いFibroblasticの細胞が増殖してきた。
RLC-4:DAB(+)23日→(-)4日→(+)11日→(-)7日→(+)4日→(-)10日→(+)21日→(-)86日。細胞の形は、大小不同、異型性があり、増殖は非常に緩慢。
RLC-5:CAB(+)80日→(-)21日→(+)31日→(-)32日*(+)2日。*RLD系よりもさらに小型の実質細胞株細胞が増殖して一面につながった細胞シートを形成した。
DAB処理后に出てきた細胞は、上記のようにRLC-1とRLC-4とは似ているが、他のRLC-3及びRLC-5からのは、これともお互にも違っている。
C)ラッテ胸腺株細胞内にγ-globulinが存在するか否か、細胞をすりつぶしCelluloseAcetateで電気泳動にかけたが、細胞数が足りないらしく、うまくγのbandが出ないので超遠心で19Sのピークを出すことを考え、目下準備中である。まだSalmonella
typhiであらかじめchallengeしたラッテの胸腺をとって培養している。
《佐藤報告》
(表を呈示)DAB投与ラットの経時的な培養と復元について表にまとめました。DABでこしらえた肝癌は◇C82の場合には、少なくともLD+20%牛血清培地で増殖しています。Micro像は次の班会議の節、正常肝、増殖結節肝、腺腫と共に御覧に入れる積りです。肝細胞が索状に連なって増殖して行く傾向のある事が分ります。細胞数の関係で未だ復元していませんが、近く復元して見る積りです。動物継代はoriginalの肝癌からDonryu
newbornの脳内及び皮下接種をおこないました。脳内接種は13、21、31日で死亡し、31日例から又newbornへ継代しました。この場合16〜21日で前例死亡しています。細胞数との関係における毒力は、現在の所継代株をのこすのに精一杯で、行っていませんが、皮下接種に比較するとはるかに敏感の様です。又皮下では一度でまたTumorが消失する場合が認められました。又newbornとyoung
ratでは矢張り前者がよい様です。
◇発癌実験:直接RLD10株にDABを投与する方法は目下の所続行中ですがTumorをつくったものはありません。
前号に報告したC74株即ちDAB投与の後つくった株でラッテに対してTumorをつくらないが、形態学的にはラッテにTumorをつくるC82株に類似している細胞が増えはじめましたので、此にDABを投与して癌性を付与して見ようと考えています。
細胞株の凍結が順調に行き始めましたから必要なもののみのこして発癌のしめくくりに全力をつくします。
《黒木報告》
4NQO及び4HAQOの溶解法及び保存法(Exp.#287、291、292)
4NQO及び4HAQOを使用する「発癌実験」の第一歩を漸く踏み出しました。よろしくお願い致します。4-NQO:(4-Nitroquinoline
1 oxide)癌研・高山昭三氏より分与されたもの。
4-HAQO:(4-hydroquinoline-1-oxide)予研・山田正篤氏より分与されたもの(山田三のところへは九大遠藤英也氏より来た)。いずれも、EtOHに10-2乗Mでdisolveした後、dist.waterで10-3乗Mに稀釋し、凍結保存する(滅菌はMF-HA-で濾過滅菌)。EtOHで溶けにくいときは少し加温するとよい。
九大癌研の久米文弘氏によれば、4HAQOは37℃で極めて不安定と云う(PBS
pH7.5のとき)。 そこで4NQO及び4HAQOを5x10-5乗Mにし、日立自記光電比色計にて195-700mMの範囲にわたって記録した。測定時間、0、1、3、6、24、72hrsの6段階で、保存条件は37℃。
結果は(1)10-3乗MのStock Soln.を水で5x10-5乗Mにしたものでは、4NQO=pH5.7、4HAQO=pH4.7。(2)10-3乗MのStock
Soln.をPBS(-)で5x10-5乗Mでは、4NQO、4HAQO共にpH=7.4。
1.4NQO
4NQOはpH5.7、7.4のいずれにおいても非常に安定である。208、251、367mMの三つにpeakがある(表と図を呈示)。
2.4HAQO pH4.7
4NQOと異り不安定である。しかし、pH=4.7においては比較的安定。peakは、219、256、353mMにある(表と図をを呈示)。24時間経つと可成り変化する。72hrs.后にはやや混濁、遠心后比色した。
3.4HAQO pH7.4
pH=7.4にすると極めて不安定になり、1時間のincubationでO.D.が354mMで17〜18%低下します。peakの位置もずれて来ます(図と表を呈示)。
以上で明らかなことは、4NQOは安定であるが4HAQOは極めて不安定であり、pHが7.0近くのとき著しい。保存は酸性状態にしておく。使用に際しての稀釋液も酸性のものが望ましく、incubateする直前まで中性にしない。
L-細胞のコロニー形成法について
目下CO2-incubatorによりL-細胞のplating法の練習をしていますが、うまく行きません(Exp.#286、289)。Med.:Eagle
MEM(biotin)、SER・0.2mM、PYR・1.0mM、Bovine Serum
10%、CO2 5%(CO2 1.0l/h air 19.0 l/h)。Digestion:0.005%Pronase
in PBS(-)3min at 37℃。Inoc.Size:100cells/dish
or bottle、single cell rate >95%。incubation:12〜14days。
Exp.#286:NaHCO3はいずれも0.7g/l。ビン・99、92、92、86、76、74、70、68、61、28colonys。dish・64、60、54、49、48、47、41、38、35、32colonys。(いずれも培地量5ml)。colonyの大きさはビン>dish。
Exp.#289:NaHCO3のconc.をかえてみた。NaHCO3
0.7g/lではdish 64、86。bottle 86、91、94。1.05g/lではdish
64、67。bottle 81、85、91。1.4g/lではdish 79、95。bottle
65、66、
73。いずれの場合も、dishよりbottleの方がい結果を得ています。目下、CO2-NaHCO3の関係をpH
meterで調べているところです。
《土井田報告》
細胞増殖に関する研究の予備的実験
細胞分裂については形態的な面からはいろいろなことが判ってきているが、細胞分裂の調節機構や生化学的変化については、猶不明の点が多い。この問題は細胞増殖の問題と関連しているので、当然腫瘍細胞の増殖の機構とも関係し、大切な研究題目の一つである。最近、この面から予備的な研究をしている。
(1)Autoradiography
Autoradiographyのtechniqueの習得を兼ね、カバーグラス上に増殖させたL細胞のH3-
thymidineの取り込みをみた(図を呈示)。
図は正常細胞におけるlabelled cellの割合を調べたものである。培養方法は1昼夜37℃静置状態でL細胞をカバーグラス上に培養後、0.8μc/mlのH3-thymidineで処理、その後普通のYLH液でよく洗浄(今回はcold
thymidine mediumを使用しなかった)後、thymidineを含まないYLH液で培養した。各時間培養後、カバーグラス毎cellを固定し、サクラオートグラフ用乳剤に浸し15日間exposed。結果は、18hrs後を除いて常に一定の値のlabelledpercentを得た。1hrs後のものを除いてback
groundは殆んどなく好結果を得た。平行的にγ線照射群でも調べたが、結果は正常の場合とかなり異なった。このことは多くの問題を含んでいるようであるので、更に研究を進めた上で報告したいと思っている。
(2)細胞成分の分劃
Autographyのtechniqueの習得と平行して、細胞成分の分劃も試みている。同様L細胞を用いて核蛋白分劃を取った。この分劃は260muでpeakをもっていたが、まだ定量するところ迄はいっていない(但しこの吸収は核酸と核蛋白質とがまだ結合した状態のものである)。
RLH-3の染色体
RLH-3の染色体については既に月報6301、6302号においてふれ、この細胞が染色体の数と形の上で、RLH-1とはかなり相異することを指摘した。その後RLH-3がLとコンタミしたのではないかという問合せが勝田先生のところに来たそうで、それについて勝田先生より私の方に電話で質問されたので解答しておきたい。
勿もこの様は疑義が何を根拠にして起ったのか私には判らないが、推察するに、単に染色体形態が似ているという極めて単純な考えから出たにすぎないと思う。
幸いにも、この観察に用いた標本は培養から標本作製まで、すべて勝田先生のところでなされたものであるから、私に責任がないといえばそれまでだが、一応権威のために釈明しておくのもあながち無駄でないだらう。第1に以前は兎も角、今日においてはcell
contami-nationは決して起らないであらう。いい加減な研究室は知らない。私共の教室(や勝田先生のところでも恐らく)では起りようがない。第2に(私自身或る意味で細胞遺伝屋なので言いたくないのだが)染色体のもつ形態的な意義である。確かに染色体の形態には種、腫瘍などでそれぞれ特異性はある。しかし、多くの株細胞や腫瘍細胞では、そのもとの種の核型と似ても似つかぬほど変異したものもあるし、逆に私の経験からも動物、植物の間でさえ、似たものがある。現在の段階で染色体は眼でみることの出来る細胞の特徴を示す唯一のものとしての意義−だが連続的に細胞をみているときには好都合だが−以上に他の点も考慮せず染色体の意義を強調することは、あまりに無謀といわざるを得ないでろう。
私はここで言いたいのは勝田研でRLH-3に関する限りコンタミなど起っていないだらうといいたいだけで、染色体の意義云々を強調したいのでも、それを論議しようとも思っていないのである。
RLH-3と奥村班員と私の報告したLの核型の比較であるが、後2者の結果はどちらの観察結果も正しいと信ずる根拠が、実験結果についても又文献的考察からもあるので触れない。 染色体の形態だけで私も物が云えるという立場をとるなら、私に言えることは正常のLに比べてRLHではJ型が2本少ないという点である。
しかし上のことは敢ていうたわけで周知のごとく、培養株細胞の染色体はモードの染色体数を中心に数に変異があるし、モードのものの間にも多少の変異があるわけで、この点だけからは結局何も言えず、もし強いて言うなら、RLH-3を勝田先生のところよりもち帰り、免疫学的その他もろもろの手段を通して同定してもらうより他はない。
《堀 報告》
酸性フォスファターゼの分布
β-glycerophosphateを基質とし、Gomori法によってAPaseを組織化学的に検出した場合、電顕的にはdense
body、生化学的にはlysosomeとして知られているorganelleが染色されることは既に知られている。このlysosomeの代謝上の意義については色々議論されているが、その細胞内分布や種々の異った生理的条件にある細胞の観察から細胞の分泌、消化活動に参与していると考えられる。
アゾ色素によるin vivoの発癌に関する我々の未発表dataによると、APaseは正常及び再生肝細胞においては、規則正しいperibiliaryの配列を示す多くの小顆粒として見られるが、異形性増生細胞や肝癌細胞においては全く不規則な分布を示すと共に、反応自体も明らかに弱くなる。また、最近in
vitro実験のcontrolとすべく、次の5種の腹水癌;MTK- 、Yoshida、Takeda、H-96(小生が最近作ったもの)、GTD;と2種の培養株;H-99(小生が最近作ったもので、ラット復元は2度失敗)、HeLa、も染色してみた。
その結果の概略を述べると、APase顆粒は全ての細胞に含まれているが、その細胞内分布は一様ではなく、H-99を除く他の細胞では主としてnuclear
hofに散在する一方、H-99では全く不規則に細胞内に散乱している。また、HeLa以外の細胞では分裂中の細胞に(図を呈示)図の如き分布を示して存在するが、HeLaではAPase活性がない。さて、正常肝細胞を培養した場合にどうなるかというと、培養初期しか見ていないが(2週間以内)、APase顆粒の分布は全く不規則で、散乱型であり、更に分裂細胞では殆ど検出出来ない。毛細胆管えの胆汁分泌という機能がAPase顆粒のperibiliary分布を結果しているとすると、正常肝細胞をin
vitroに移した場合にも、胆汁を分泌しない肝癌細胞と同様、APase顆粒の分布が散乱性になることは不思議な事ではないと考えられる。TPPase活性は主としてGolgiに検出されるのでAPaseとTPPaseを比較することは興味あることと考えられたが、残念乍ら目下の処原因不明の障害により、TPPaseを培養細胞で染色することは出来ていない。
《高井報告》
最近1ケ月余りはどういうわけか、何をやってもうまく行かず、いささか、くさっております。以下、失敗のあらましを報告します。
1)btk mouse embryo cells、ActinomycinS処理群のその後。
前報で、処理群に生じたコロニーもcontrol群とよく似ていると書きましたが、よく見ると、やはり違いがある様です。即ちControl群の方の細胞は、非常にうすく広がって見えるのに対し、処理群の方はかなり細胞が暗く見え割合に境界が鮮明なものがかなり混じている様です。又、ごく短期間だけ(約2日間)、シネをとって見ましたが、処理群の方が細胞の動きも活発でmitosisも見られました。(倒立顕微鏡を他の実験にずっと使っておりますので、長期間のシネをやれませんでした。)
そこでこれはやはり有望なのではないかと思い、何とかこのコロニーの細胞をふやしてみようと大切に扱っていましたところ、cellが少しふえてコロニーがちょっと、はがれかける傾向が見られましたので、◇4月14日:1コのコロニーをラバークリーナーではがし、pipetting→TD151本。4月20日:他のコロニーをラバークリーナーではがしてトリプシン処理→短試1本と、継代しましたが、これが失敗で殆ど細胞がガラスにつきませんでした。
現在もとのTD40に残ったわづかの細胞を、大事にふやそうと試みております。この残った細胞の中には、小紡錘形、円形の暗くみえる境界のはっきりした細胞がかなりあり、有望と考えていますが、とにかく、もっとふえてくれないことには何も出来ず弱っています。
2)その他。
上記の如く少しは有望と思えるcellが出来て来たので、もう一度Embryo細胞を培養して同じ結果が得られるかどうかを試みる為、先日、3月8日から継代している細胞に、Actinomycinを加えたのですが、これがcontaminationで全滅し、又、ここ2回ばかりは、ニンシンしている筈のネズミが、開腹してみると全然ニンシンではなかったり、という様な具合で、一昨日やっと次のシリーズを培養しはじめたところです。
《高木報告》
本月報で前回の実験のより詳しいdataを報告したいと思っていたが、まことに残念ながら培養がSkin、Submandibular
gland共に9日目までで駄目になり、12日目には殆どnecrosisになってしまった。
その原因はいろいろあると思うが、最大のものは混合ガスのcontrolがうまく行かなかった事にあるのではないかと思う。私の現在使っているガスボンベは6000l入りで、これに直接に普通のflowmeterがついている。これがきわめて“粗"で、私の仕事の場合、希望するbubblingを得るためには目盛の0以下の処でcontrolしなければならない。従って適当量流そうとするといつの間にか止ってしまうし、止めまいとすると強すぎてこの調子で流すと1週間もガスがもてそうにない。と云う訳で止ったり、また止ったりがつづいた事が悪かったと思う。大阪酸素に話して5日前にやっと微量ガス調整器を2万円なりで入手出来ました。これだと可成りよい様ですが、それでも目盛0の処でcontrolしなければなりません。第2にlenspaperの代りに用いた合成繊維の障子紙がtoxicであったと思う。tea
bag paperとよく似ているので用いてみたが失敗であった。pancreasをこの紙の上で培養すると3日目には殆ど半分はnecrosisになってしまった。第3に日本の洗剤は意外と落ちにくい事が分った。ついあちらの洗剤と同じ様な気がしてそのつもりで洗っていたが、培養をして日が経つとteflon
ringの辺り丈がalkalicになったりする事に気付いた。これはringの洗い(soapのおとし方)がやや足りなかった為かと思う。
大体以上の3つが主な原因と考えられる。私が仕事をする上に更にもう1つの問題点は、young
animalの入手困難なことである。勿論時期的なこともあるかも知れないが、先の実験以后この1ケ月全く手に入らない。業者からは全く期待出来ず、医学部の純系動物も3ケ月前からの申込みがつかえており、また日本ラッテから購入したWistar
rat 4対も全く仔を生んでくれず(優遇しているつもりですが)、手の下し様がない。やっと熊本県に割によく動物を持った店をさがし出したので目下交渉中であるが、大抵の実験動物のあらゆる年齢のものは注文して2〜3時間で入手出来たあちらとは全く雲泥のちがいで、ここいらに日本のscienceのおくれる禍根もある様である。目下動物待ちと云った処で、次回は何とかdataをのせたいものです。
【勝田班月報:6506:復元成る!】
☆☆☆昭和40年5月17日午前9時30分より阪大松下講堂4階会議室に於て、この名前になってからの11回目の班会議が開かれたが、席上、岡大癌研の佐藤班員により、DABを添加したラッテ肝細胞の培養を、ラッテに復元接種したところ、腫瘍を形成した旨の報告があり、当班初の復元成功を祝うことができた。まことに記念すべき班会議であった。☆☆☆
《勝田報告》
A.発癌実験:
“なぎさ”実験はその後も継続してやっているが、どういう訳かさっぱり変異細胞が出来なくなってしまった。もっともRLH-5に相当するのが今できかけているようであるが。なお、これまでに出来たMutantsも、ラッテにつかないという事が実に不思議なので、或はMutationによりラッテのhistocompatibility
gene(R-foctor)を失って元の系のラッテにつかなくなった、という可能性も否定できないので、ウィスター系ラッテのnewbornsに数日前復元を試みた。また、これまでの復元テストでは余り長期には観察していないので、今度JAR
ratsのnewbornsができ次第、それにかかる予定である。
RLH-4をハムスターポーチに入れて少しふくれたところでまた培養に戻した系の形態をスライドで展示する。もとのRLH-4にそっくりである。これの復元も試みている。
この他、“なぎさ”からDAB10μg/mlに移した実験があるが、これについては次回に報告する。
復元法としては、これまで脳内接種がきわめて良いとされてきたが、吉田肉腫その他のようにestablishedの、悪性の強い腫瘍では、どんどん増殖するからそれも良いが、動物内で増殖のおそい系では、tumor
cellsのふえる前に脳水腫その他でラッテが死んでしまい、反って長期観察に適さない可能性がある。伝研の山本正氏のやっておられる方法、肢の皮下から筋肉内を一旦針を通し、肩の辺の皮下に接種するという方法は、さした細胞が漏れないので非常に良い。これからはこれと腹腔内とを常用してみたいと思っている。
B.ラッテ胸腺細胞の培養:
変なことから免疫の領域に引きずり込まれてしまったが、胸腺細胞の実験はさらに第2、第3と計画し、且進行させている。昨日の培養学会ではあまりはっきり云わなかったが、RESの細胞はみんな抗体を作る能力を持っている可能性がある。しかしとにかく増殖がおそいので、気を永くしないといけないので困る。最後にはin
vitroでの抗体産生まで持って行くつもりであるが、それには細網細胞だけでなく、他の細胞、たとえばmacrophage、histiocyteのようなものの存在が必要と思われる。つまり、後者が菌なり何なり抗原をphagocytoseして、それに対応するmessageを細網細胞その他、抗体産生をおこなう細胞に伝えるのではないか、と思われる。しかし抗体を作るようになるのだから、どんな風にその為にDNAに変化が起るのか、大変面白いところと思っている。
:質疑応答:
[高井]免疫してからTC迄どの位の日数ですか。
[高岡]2週でtitreを測って、すぐ殺し、培養します。titreの上がったところで使う訳です。
[奥村]なぎさ細胞を、thymusを除いたラッテに接種したことがありますか。
[勝田]まだありません。今準備しているのは、各種の動物細胞に対する抗血清を作って、RLHの細胞とgel-diffusionで免疫学的な関係をしらべてみようということです。案外牛なんかに合うのかも知れませんし・・・。
[佐藤]うちに来ているRLH-1はラッテnewborn脳内で4日位迄は塊を作っています。だから早い時期に次々継代すると良いかも知れません。墨汁と一緒に入れるとmeningenにたまっています。脳水腫ができるということ自体も怪しいことだと思います。
[勝田]meningenに居るといっても、生きているのですか。
[佐藤]核分裂が見付かっているから大丈夫でしょう。
[勝田]君が後でやる報告でも判るように、とにかくもっと長期観察をやらなくてはだめだということが判りました。今までは早くあきらめすぎた。
[奥村]半年は見るべきでしょう。
[高岡]腹腔に入れると、RLHの方は見えなくなってしまっても、いつ迄も反応細胞が消えませんから、やっぱりどこかに生きているのですね。
[黒木]Minimum deviation hepatomaでは7ケ月植継ぎ、というのもあります。ラッテはBuffaloなども使ってみると良いのではありませんか。
[佐藤]肝癌のstrainになっているのでも長いこと増えないで居ることがあります。
[土井田]ハムスターポーチに入れて、またTCに戻した細胞が元の細胞と同じということはどうやって・・・。
[勝田]染色体でみるつもりですが、とにかくラッテにtakeされてからの問題です。
[高木]何%位の割でハムスターにつくのですか。Cortisoneは?
[高岡]Cortisoneを使わなくても必らずつきます。使わないと後になって縮むかも知れませんが、化膿しやすいので・・・。その代りすぐ摘出したのです。
[黒木]ハムスターポーチはすごく汚染しやすいので、コーチゾンと抗生物質をやはり入れた方が良いでしょう。あれはヌカミソをかきまわすような匂がしますね。
[佐藤]RLH-1から-4の内で、rat脳に入れて一番残るのをえらんで、色々接種法のテストに使ったら良いのではないですか。他のが駄目ならRLH-1をえらぶとか・・・。
[高岡]いいえ、RLH-4がいちばん有望そうなのです。
[奥村]RLH-4をcloningしてみましょうか。
[勝田]やってもらいましょう。
《佐藤報告》
◇発癌
1965年2月20日、RLD-10株に3'-methyl-DABを投与しつづけた細胞(RLD-10[10μg-20μg])をDonryu系ラット新生児脳内に2例(1匹当り36万個cells)腹腔内(1匹当り253万個cells)に復元した。(表を呈示)
I.C.の内、1例は34日に脳内水腫をおこして死亡した。肉眼的に脳内Tumorは発見されなかったが念のため、生後11日ラットの皮下及び腹腔内に全脳を乳剤として注入した。このラットは目下40日観察中であるが変化はない。
I.C.の内、1例1.2は48日後動物が左に頚をかたむけて廻る様になったが、残念ながら他の動物に喰われて死亡した。
I.P.の1例、1.3は69日目著明な腹水を生じた。腹水塗抹標本で肝癌の島らしきもの及びpapillaryのTumor或はその移行型らしきものを認めた。この腹水は直ちにI.P.3例、I.C.3例に接種継代した。70日目、無菌的に解剖し腹水を再培養し、開腹所見で大網部に3x1x1cmのTumor、及び腹膜全面に癌性炎が起こっていた。(後に顕微鏡的にも確認)一般の腹水肝癌と異なり腹脂肪織後膜の腫瘍浸潤は殆んど認められなかった。
本例の継代動物の中、5-1日ascitesを生後26日ラットに注入したものの例は13日後、腹腔穿刺で細胞島(核分裂細胞が散見する)を発見した。
以上、継代可能な腹水癌を培養肝細胞から3'-methyl-DAB投与によって作り得たと考えるが尚多くの確認が必要であり、再現性等について既に実験を開始した。現在までのデータの内この腹水肝癌が培養細胞からのものであると考えられる点は以下の通りである。
(1)現在当研究室で維持している腹水肝癌AH13、66、7974は全く異なっている。
(2)再培養(腹水)細胞は形態学的にRL株に類似しており、継代が容易である。(この点は培養歴を有する細胞の特性)且つ腹水中細胞の多様性が再培養においても認められ発癌細胞の多様性を暗示している。
(3)原発動物の肝臓は正常であって復元に際して入り得る3'-methyl-DABによる発癌は否定し得る。
(4)脳内接種細胞の場合は明瞭でないが明かに変化が見られる。
(5)RLDcontrol株及びこの株からの3'-methyl-DAB投与亜株については復元を精査しなければならないが目下の所では発癌していない。
(6)再培養株の染色体数パターンはRLDcontrol株とよく似ている。
(表を呈示)表3は腹水癌を発生した細胞の歴史である。RLD-10control株より77代で分離し78代より3'-methyl-DABを10μg/mlに投与した。87代から88代までの間に(4回)20μg/mlを投与して後、動物に復元した。精確な事は未だわからないがDABを常に培地中に含むことが必要なのではならろうか。説明の足らない点は討論で補いたい。
:質疑応答:
[勝田]少し補足ですが、培地にDABを入れて培養したあと、DABの定量をしてみると正常肝その他だとDABが消費されるが、DAB肝癌だとDABが消費されないで培地中に残っている、という訳です。この君の細胞ではDAB消費能はどうでしたっけ・・・。
[佐藤]消費が少なくなっているのです。培養後の培地中のDABをしらべますと、一般に正常ラッテ肝では消費能は(+++)、正常ラッテ心は(+)、正常マウス肝は(-)、ラッテ肝癌(DABによるもの)(-)です。はじめ消費が(+++)に相当したのをDABを与えながら継代している内に(+半)位になったのを復元したらついて、(++半)位のはつかないのですから、継代して消費の少くなったものを打ったらついた、といえます。考え方として1)DABの効果の蓄積が、細胞が分裂するとなくなってしまうのではないか、2)DAB高濃度という環境で癌細胞をselectできるのではないか、ということが考えられます。対照は今もってつかない。
[勝田]私は累積の方を考えていたが、DAB消費の点をみると、Miller
& Miller(Cancer Res.,7:468-480,1947)のdeletion
theoryを裏書きするような感じですね。細胞のDABに対するdose
response curveをとって比較する必要がありますね。
[黒木]AH-108Aという肝癌は切片にすると中が中空になっていて、胆管上皮癌だと云われていますが、さっきのスライドにもそれに似たところがありましたね。
[勝田]腹水の中でmitosisがありますか。
[佐藤]あります。腹水中の細胞は300万個位で少いですが。
[勝田]あのスライドの顆粒のある細胞は“なぎさ”の5番目に当るMutant(?)に似ていますね。
[永井]DAB肝癌に限ってDABの消費がないわけですね。
[佐藤]他の肝癌についてはしらべてありませんが、RLH-1では消費があります。それから復元法の問題ですが、Newbornでは、脳内はtakeの時期は早いがtumorの増殖は案外低く、皮下はtakeの時期は遅くつく率が低く、腹腔はtakeの時期は遅いがtumorの増殖は案外良い?といった傾向が見られ、腹腔内接種が案外良いのではないか、と思われます。
[勝田]私もこのごろそう感じています。脳内ではtumorができない内に死んでしまう可能性があります。最近は山本正氏の方法も採用しています。それから、今の内にRLD-10とRLN-10とを復元してみておく必要がありますね。何と云っても培養期間が長かったのですから。
[佐藤]Ratに接種した場合、核の大小不同の多いことが目立ちました。それと、メチルDABで作ったのに、DABの消費能が半減しているのですね。
[高岡]3'methyl DABで作用したのにDABの吸収が減るのですか。面白いですね。
[佐藤]やはりそういうことらしいです。
[勝田]結局これで判ったことは、1)in vitroで肝癌を作り得ること、2)アゾ色素を大量に与える必要のあること、3)与え方になお考慮の余地のあること、4)復元接種した後かなり長期間観察する必要がある、などですね。
[奥村]期間が永すぎると思います。染色体への働きかけがDAB添加によって起るとするなら、もっと早い時期について良いと思います。
[黒木]細胞にはずい分混り物があるようですが、DABによるin
vitroの発癌としてはこれが初めてですね。
[佐藤]Cloningをしようと思っています。
[高岡]RLD-10は染色体数が偏ってから形態が変ったのですか。
[佐藤]10μgDABのlineでは、RLD-10(DAB1gx4)に比べて顆粒が多い。形態上の変化はやはりありました。
[黒木]10μgでは増殖するのですか。
[佐藤]10μgでは死ぬことはなく、増えてきます。
[勝田]Primary cultureだと、10μgではいかれてしまうが、株化すると段々強くなります。
[高岡]株にも感受性が色々あって、10μgでもいかれてしまう株もあります。
[勝田]うちでもDABの高濃度のをやっていますが、うちの場合は一種のなぎさ式に、ショックを与えるためにやっているので少し意味がちがいますが・・・。
[高木]高濃度で半死半生ということに関してですが、TC内でも生体内に近いように、ふえない状態で発癌剤を入れた方が良いのではありませんか。もっとも10μgDABで増えない状態にするというのも、その一つの方法かとも思いますが。
[高井]DAB添加前の遊びの時期が必要なのかどうか・・・。
[佐藤]今の方法を改良してprimaryで何とか2ケ月で発癌できるようにしたいと思っています。
[土井田]こんどの株はDAB無しの期間はどの位ですか。
[佐藤]全部で3年で、10μgを時々やり出してから2ケ月です。この他にラッテにDABを食わせて、その発癌前の肝を時々とってTCに入れ、それにDABを入れてみていますが、まだうまく出来ません。何をcheckすべきかが問題で、今のままではDABの濃度の総計しか判りません。
[奥村]Cloningするにしても、時期的に色々のが必要ですから、色々のを凍結しておく必要があります。DAB-proteinの免疫血清がとれないでしょうか。
[勝田]もしdeletionならば、結合すべき蛋白はなくなってしまっているのだから、そんなものを作っても余り意味がないでしょう。
[黒木]Millerの説を、もう一度よく見ておく必要があります。H3-DABは、できていますか。
[勝田]C14-DABなら癌センター病理の馬場君が作って使っていました。
[佐藤]生物学的な方向で一応primaryの方へ行けたら、あとはisotopeで細胞の方へ進まなければならないと思います。
[奥村]ProteinやDNAというと、1,000万個以上の細胞が要るので、細胞レベルの方へ持って行けば話ができるようになるでしょう。
[黒木]Ratのcultureのspontaneous malignant-transformationの報告はありますか。
[勝田]非常に少いが、大分昔にGeyのところでfibroblastsのが報告されています。
[黒木]Goldblattらのは?
[勝田]あれはNを使っています。そして不思議なことに誰も追試していない(できない?)。
[永井]H3-DABのことですが、トリチウム化したあとの精製が問題ですね。
[奥村]話がちがいますが、細胞の保存の状態はどうですか。
[佐藤]3ケ月位前からのは一生懸命保存しています。
[奥村]前からのがあればchromosome levelでも見られます。
[佐藤]今後はいちばん見付け易いマーカーとして、核型、組織化学などをしらべて行きたいと思っています。
[勝田]細胞質のbasophiliaとか、細胞の大きさなど特徴的ですか。
[佐藤]期待していたほど差がないようですが、色々のが混っています。
[奥村]復元動物からの再培養細胞の染色体、核型と、対照のと比較してみたらどうでしょう。それからtumorの初期で染色体数をしらべると、大体どの辺のものがtumorとしてついて行くか判るでしょう。
[佐藤]動物体内のselectionは染色体にあまり関係がないのではないでしょうか。以前、はじめ三つの個体に分けてうったら、夫々別の染色体数になったことがあります。
《高井報告》
現在、Actinomycinをかけて、維持、観察をつづけているbtk
mouse embryo cellsの系列は次の通りです。Kはcontrol群、AcはActinomycin処理群です。
bEIは'64-10-2培養開始、Kは現在第7代。Acは第3代、'64-10-3〜11-30までAc(0.01μg/ml)、その後Ac(-)とす、'65-1月下旬コロニー2コ発見、'65-4-14及び4-20の2回に継代を試み失敗、目下残った細胞を大事に育てています。
bEIIIは'65-4-23培養開始、Kは現在初代。Acは4-30よりAc入りのmedium。
bEIVは'65-4-30培養開始、Kは現在第3代。Acは現在第2代、5-4からAc(+)。
これまで、月報で経過を報告して来たのは、bEI.Acに相当します。
1)bEI.Acのその後の経過:(顕微鏡写真6枚展示)
写真1)は上記の継代失敗後に残ったコロニーの一部で、かなり、つぶれた細胞も多く見られます。真中のひろがった細胞質をもった細胞はcontrol群の細胞によく似ています。
写真2)は同じコロニーの別の場所ですが、ここでは割合に小型の境界明瞭な細胞と、円形の細胞が集っております。この小型紡錘形の細胞が有望ではないかと前報に報告したわけです。
ところで、私はim vovoでActinomycinによって作られたActinomycin
sarcomeからのstrain、JTC-14をもっているのですが、in
vitroでActinomycinを作用させて生ずるであろうmalignant
cellは、おそらくJTC-14に似ているであろうと考えてもよかろうと思います。
そこで、写真2)の細胞と比較するため、同じ倍率で、撮影したのが写真3)であります。AS.T-d26-T125というのは、JTC-14の亜株で途中ddO
mouseに接種して、再びin vitroに戻したもので、現在なお腫瘍性を保持しています。写真2)、3)を比較すると、細胞の大きさは割合似ていますが、写真2)の方は核が小さいことが目立ち、写真3)の細胞を一応の目標と考えた場合、まだmalignancyを獲得したとは思い難い様です。この小さい細胞が増殖しないかと期待しつつ、大事にしていたのですが、その後の約2週間で、小紡錘形の細胞は、漸次丸くなって崩壊してしまい、写真4)、5)の如き状態になってしまいました。倍率がちがうので比較しにくいのですが、写真5)の半島状に突出した部分の中央部附近が、写真2)の場所に相当します。写真6)はcontrol群の方ですが、第7代への継代の時に細胞数が少なかった為か、こんな妙な形のcellになっています。
2)bEIII及びIVについて:
今の所、まだ著明な変化はありませんが、bEI.AC.で得られた様なtransformed
cells(?)のコロニーをもっと多数に得たいと思い、多くの瓶を用いて、経過を見て行くつもりです。
:質疑応答:
[勝田]使う細胞材料をもう少しきれいにしたいですね。全胎児でなく、もっとselectして・・・。
[高井]Newbornの皮下組織はピンセットで取れるようになったのですが、トリプシン消化してもうまく効きません。
[奥村]トリプシンをかけずにそのままでも生えてきますよ。必要なら培養して7日の班会議のとき持って帰れるようにしましょうか。(スライド展示)
[勝田]Mouse embryoのときは、spontaneous
transformationがあるから、transformさせる前の期間をできるだけ短くする必要があります。transformを確認してからは長くかかってもかまわないですが。それから、Roller
tube cultureでやったらどうですか。Newbornを使うのも良いし。embryoならlungを使ってfibroblastsを出させる手もあるでしょう。
[奥村]Newbornは3日位になるともうトリプシンが効きません。
[土井田]細胞のでてきたところが奥村氏のスライドのようでなく混った感じですね。
《高木報告》
これまでの月報と重複する様になるが、まとめてここに記載する
Organ cultureによる発癌実験として
rat skin→4NQO
rat、hamsterのskin→DMBA
rat、hamsterのSubmandibular gland→DMBA
を計画し、目下preliminary experimentにとりかかっている。まずこれらの組織を一定期間(出来れば4週間以上)in
vitroで維持する事が問題である。そのため
1.培地条件は
基礎培地としてLHがよいか或いはmodified
Eagleがよいか
血清の種類及び濃度はどれ位がよいか
更にCEEを加えたがよいかどうか
2.培養条件は
solid mediaの上に培養したがよいか、或いはliquid
mediaを用いてそれに接して培養した方がよいか
という点について検討中である。勿論通気gasの組成、incubationの温度なども考慮されねばならぬが、現在の処、これはconstantとして実験をすすめている。これまでmodified
Eagle+10%CEE+10%BSで行った実験では、通気の不充分だった事、また用いたpaperがtoxicであった事、から10日前後しかyoung
ratのskin及びsubmandibular glandを培養する事が出来なかった。
通気が持続的に出来るapparatusを購入したので目下再検討中である。
これまでの文献でもfoetal animalのskinを1〜2ケ月またはそれ以上in
vitroで維持しているので、young animalを使えば培養条件により3〜4週間維持する事は可能であろうと思う。
10日間培養したyoung rat skinの培養組織のslideを供覧する。
なおpancreasの仕事は目下β細胞と共にα細胞についても検討中である。α細胞については未だ定義の明らかにされていない点もあり、銀染色、chromium
Hematoxylin Phloxine染色及びAnti glucagon
serumを用いた蛍光抗体法により仕事を進めている。
:質疑応答:
[勝田]Organ cultureのとき紙が悪かったそうですが、millipore
filterを使ったら如何。
[高木]レンズペーパーがあれば良いのですが、仲々良いのがありません。Acetate
paperはpHがアルカリになるし、tea bagはあみ目が均一でありません。
[勝田]寒天を使うと、その中の薬剤濃度が培養と共に不均一になるし、調節が効かないから液体培地の方が良いですね。
[難波]1cm位の間隔で寒天に溝を切って流すのはどうでしょう。
[高木]Agarの上にcell sheetを作るうまい方法はありませんか。
[佐藤]Agarの上ではsheetを作らないでColony状になってしまいます。岡山の村上教授がHeLaの塊を作らせています。
[黒木]吉田肉腫は、Agarを下が1%、上が0.5%の間にサンドイッチして培養しています。
[佐藤]生体の中で増えも減りもしないというのは抑制が働いて保っているのだが、この場合はふえも減りもしなくても、むしろ死んで行く傾向にあるのではないでしょうか。
[勝田]生体でも皮膚は増殖しているのだから、全然増殖しないのはむしろ不自然でしょう。問題はこのような培養で休止核に作用してくれるかです。DABでは肝に作用して増殖誘導しましたが。
[高木]Lasnitzkiはorgan cultureで変異を起すことを報告していますが、それから先、それが癌化しているところを掴まえたいのですが。
《黒木報告》
1.4NQO、4HAQOのL細胞への影響:
4NQO、4HAQOが核内に封入体を形成させる至適濃度は久米らによれば、4NQOは1.5x10-5乗M、4HAQOは7x10-5乗Mとされています(chang
liver、L等)。両者の差はStabilityの差にもとずくと考えられています。しかし、封入体を形成した細胞は死ぬらしいので、毒性のテストは別に行う必要があると考え、L細胞のPlating
eff.へのeffectをみてみました。
培地:Eagl MEM with 1.0mg/l of biotine,1.0mM・Pyruvate,0.2mM・Serine
and 10% of B.S.
培養方法:小型角ビンに5.0mlの培地、ゴム栓する。
培地を4.5ml加え、そこに0.5mlに100ケのcellが含むように稀釋された細胞浮遊液、次いで直ちに0.1mlのtest
materialを加える。12日間incubationする。
4NQOはEagle MEM pH7.2、4HAQOはNaHCO3 free
Eagle MEM pH4.2で稀釋。
結果は表に示した(表を展示)。B.S.のLotのためかP.E.は50%と非常に悪い。
4NQOで10-8乗M,4HAQOで10-6.5乗M前後がP.E.50(50%plating
efficiency)となりそうです。現在、half logで稀釋した液を用い、さらに実験を行っています。
colonyの細胞の形態は、特別なことはなく、もちろん封入体もみられません。
L細胞の他に2、3の細胞によりP.E.50をcheckする予定です。
2.Rat胎児肺組織の培養:
4NQO、4HAQOを作用させる細胞としてはドンリュウラットの胎児肺組織由来の繊維芽細胞を考えています。その理由は月報6412p18にありますがもう一度その大要を記します。
(1)現在までin vitroでmalig.transformしたのはEvansらのC3H
mouse liverを除いて全てfibroblastであること、fibroblastの方が変化し易いと考えられる。
(2)Embryoからdiploid cellがmaintainしやすいだろう。
(3)Ratはdiploidのままでmaintainされることが多いらしい。
(4)4NQO、4HAQOでRatに肺癌が出来る。
(5)4NQO→4HAQOの作用はドンリュウラットでは肝及び肺にもっとも著明に認められる。
(6)入手の容易さ(Ratの)
ドンリュウラットが1匹漸く妊娠しましたので、4月22日第一回の培養を行いました。このExp.は細胞の分離法、形態、維持等の予備実験のため4NQOは作用させません。
1.妊娠後期のRat→帝王切開→胎児
2.胎児から無菌的に肺(右三葉左一葉)を剔出する(これはやさしい)
3.一匹一匹の肺を別にdishにとる(以下すべて一匹一匹を別にする)
4.ハサミ又はかみそりで細切
5.次のgroupに分ける
(i)細切した細胞をそのまま培地中に加え培養→REL-101
(ii)型の如く組織片を管壁にはりつけ培養→REL-102
(iii)0.1%pronasePBSで消化30min. at 37℃→REL-103、-104
(iv)0.1%pronase 0.25%pancreatine 0.1%methylcellulose
in PBS(-)でdigestion→REL-105、-106
(iii)(iv)はstirringしたものとしないものの両者による。
結局次の如し、Rat Embryonal Lung
REL-101:細切したfragmentをそのまま→継代
REL-102:fragmentをはりつける→継代せず
REL-103:0.1%pronase・stirring→継代
REL-104:0.1%pronase・stirring→継代せず
REL-105:処方(iv) stirring→継代
REL-106:処方(iv) stirring(-)→継代せず
Cf) 各groupはそれぞれ一匹の胎児由来、それぞれ1〜3本の角ビン(5ml)又はdish(6cm)
細胞のロ過は1/3の注射針による
Cell countを厳密に行うことは出来なかったが大体50万個cells/ml
培地:Autoclaved EagleMEM(biotine)、1.0mM
pyruvate、0.2mM Serine、20%B.S.、重曹0.7g/l
形態及び増殖
REL-103〜106は2日後ほぼfull sheetとなる。REL-103がもっとも良好。
Explant OutgrowthはREL-101>REL-102である。
☆細胞はfibroblastic、ところどころにepithelialの構造あり。fibroblastic
cellはmultilayerのようである。「流れ」を作る。
それらの中に死んだ細胞らしいものがmix(光線を強く屈折する)。
二代目よりepithelialのcellは見あたらず殆んどfibroblast、二核、多核も僅かにみられる。
運動性は良好らしい(偽足と「足あと」がある)。密集すると配列にOrientationがある。
☆Explant outgrowthのときの形態
前述のようにREL-101の方がGrowthはよい。これは壁につくcell
fragmentの数が-102より多く、又極めて小さいのまでくっつくためと思はれます。
REL-101は10日後transfer。
primaryのうち、dishにinoc.したものは染色してみました。fragmentからoutgrowthする細胞の形はfragmentにより異なります。(1)fibroblastic
cellがBHK-21のcolonyの様にでる。(2)epithelial
cellがsheet状に出る。
この二種類である。(2)の方が多くみられます。これは恐らく、切り出した部分に由来するものと思はれます。
しかしこれらをtransferすると、REL-103と同様のfibroblasticになります。
継代
継代に従いGrowthは落ちるようです。Growth
Curveをはっきりととっていないのでよく分りませんが、50〜70%のinitial
fallののち4日で2倍程度が精々のようです。
細胞の剥離には0.1、0.05、0.01、0.005%のpronase(PBS-)を用いてみましたが、0.05%がoptimal。必要な細胞数は10〜20万個/ml。継代の鍵はpronase消化と細胞数にあるようです。
死細胞について
full sheetあるいはそれ以前においても死細胞が目立ちます(生の標本及び染色後)。これらは娘細胞の片方だけの分裂と関係あるのか、あるいは培養条件が悪いことに由来するかは分りません。
:質疑応答:
[勝田]吉田肉腫の50代以後の染色体数は?
[黒木]70本台から95〜102本へ移りました。ピークが98本で、これは動物へ戻してもそのままです。
[勝田]心組織を培養するとどうも上皮様みたいな細胞が残り、肺だとfibroblasticのが残りやすいですね。ただ生後のlungは雑菌が入るのでね。
[高岡]Newboarn lungでもできますよ。カビが生えますがつまんで捨てれば良いです。
[佐藤]4NQOの作用は?
[黒木]Lung、皮下のsarcomaなどです。4NQOから4HAQOになるときのEnzymeが肺、肝に多いのです。どこに4NQOを与えても肺に腫瘍のできることがあります(Gann、杉村氏)。
(炭酸ガスフランキ用シャーレについての提案あり)
《奥村報告》
Autoradiographyによる培養細胞へのホルモンとりこみ実験:
ステロイド(Progesterone、Estradiol)ホルモンによってウサギ子宮内膜細胞の増殖が促進される事実をもとにし、ホルモンの細胞に対する作用機序をしらべるためにH3-progesterone、H3-estradiolを培地に加え、細胞内へのとり込みをしらべる実験を行った。残念ながら、現在まで満足な結果を得ていない。
Exp.1. HeLa、JTC-4、HmLu、ウサギ子宮内膜細胞を培養し、24〜48hrs.後にH3-progesterone
0.05μc/0.1μg/ml、H3-estradiol 0.02μc/0.01μg/ml、のdoseを添加、24hrs.、37℃でincubate、その後coldのhormoneをそれぞれ5又は10倍量加えて、10、20、30、60、180、240min.の各条件で、余分のH3ラベルのhormoneを除き、次の2つの方法でオートラジオグラムを作製した。
方法1. PBSで3回洗い→carnoy液で固定20min.→洗い→coldPCA(2%)で3min.処理→水洗→乾燥→乳剤
方法2. PBSで3回洗い→formalin液で固定overnight→洗い→乾燥→乳剤
以上のような方法で作った場合、方法1では細胞内にみられるgrainが極めて少く細胞の種類による差はみられない。方法2ではいづれの細胞にもgrainが多くあり、細胞内のlocalizationは判然としない。又細胞周辺部にも一面にgrainがでてくる。問題はhormoneが細胞内にそのままpoolされるとすると、標本作製中に細胞外に流れ出てくるので、その場合いかに細胞内のhormoneを固定するか、という点をさらに検討しなければならない。(現在進行中)
ウサギ子宮内膜細胞の継代培養:
現在まで24回にわたり内膜細胞の継代培養を試みた(#1〜#24)。そのうち19回はsubcultureも出来ずに絶えた。残り5回のうち2回は(#16、18)3代目(通算培養日数
#16:43日、#18:62日)で絶えた。#23の実験群が6代目(通算49日)まで継代され現在に至る。増殖は1週間に約1.5〜2.5倍。培地は#1〜#10:199+CS20%+0.01μg/mlEstradiol(E).#11〜#20:199+CS20%+0.1μg/mlProgeste.(P).#21〜#24:199+CS20%+E+P。
:質疑応答:
[勝田]Hormoneがcell内のどこに入るのかを知りたいのなら、むしろ細胞を生化学的に分劃した方がよいのではないかしら。
[奥村]細胞質にも核にも入っているようだが、localizationまでは未だ云えません。
[高木]Progesterone+Estradiolが一番よく株になるのですか。
[奥村]入れないのとでは大分ちがいます。やはりhormone-dependentであることは確かです。
[高木]Insulinは肝には良いが、この場合も入れてみたらどうでしょう。関係ないですか?
[永井]判りません。
[高岡]Subcultureしないと長期培養に良いことが多いです。
[勝田]Intercellular materialsの問題ですね。継代の他に、初代でホルモンを大量にやって、そのeffectsを見る手もありますね。
[高木]Intercellular materialsとは何ですか?
[勝田]何かよく判らないがRNAも入っているらしい。Bhargavaなどがラッテ肝をスライスでしらべた時と細胞をバラバラにしてみたときと、代謝がぐんと違っていると報告しています。だからもう一つの培養法としてaggregate
cultureを試みるのも一法ですね。
[土井田]Autographyのとき、一旦乾燥させてからdippingしたら如何です。
[奥村]Dippingによってホルモンが外に出るのかも知れませんね。
[永井]Uterusの代謝が特異的なことは、lipid代謝の面からも明らかです。
《土井田報告》
細胞分裂に関する研究:
前月報に記したごとくH3-TdRを用いてDNA合成を調べているが、L細胞に10,000Rのγ線を照射した場合に得られた結果について予報的に報告する。
1.H3-TdRで1hr.処理した後、直ちに固定。2.H3-TdRで1hr.処理した後、YLHで2回洗い、更に9hrs.incubateした後、固定した。
結果は(図示)、10hrs.後固定した群で、ラベルされた細胞の%は高くなった。control群で同様処理した時に得られた結果では、H3-TdRに1時間expose後、直ちに固定した群で得られた、ラベルされた細胞の%との間に差がなかったことから、H3-TdR処理後の洗い方が悪かったために生じた差でなく、DNA合成機構の上に障害が起こったため、1hr.区と10hrs.区で差が生じたものと思われる。この点について現在改めて研究している。
in vitroでの細胞培養:
発癌実験について、昨年度は勝田先生との間で見解を異にしたことから、NH系マウスの腎細胞についての研究は一時やめてしまったが、今回改めて、放射線との関係において研究することを目的にマウスの臓器細胞の培養を始めた。我々の動物室は手狭なので思うように材料が得られないので、先づ利用出来るものをという考えで実験を始めた。
「研究の目的」X線発見当時からX線の投与により皮膚癌の出来ることが報告されたが、この点に着目し、軟X線を用いて皮膚の細胞に変異を誘発させ、細胞遺伝学的考察をも併行的に行ない、皮膚発癌の誘導を試みる。
「経過」C57BLxC3HのF1から臓器細胞をとり出し、YLH80+calf
serum20の培地で細胞を育てている。細胞は組織片をメスで切り刻み、小角瓶のガラス面に塗布した。
現在までのシーリーズは次の通り
1)生後2日目の上記F1マウスの♀、♂各1頭づつから、腎臓と肝臓をとりだし、培養している。培養開始は5月4日。
2)1)と同腹の♀、♂各1頭のマウスの腎臓を肝臓をとりだし細切後、培養している。培養開始は生後6日目で5月8日。
「細胞培養の経過」1)2)共、肝臓細胞はepithelioid細胞がみられ、腎臓細胞を用いた群からはfibroblast状の細胞が生えてきている。
3)胎生後期の胎児を母体より取り出し、皮膚を中心に培養している。各個体と培養臓器は次の如くである。
(i)皮膚、(ii)皮膚、(iii)皮膚、肝臓、腎臓、四肢、(iv)皮膚、肝臓、腎臓、培養開始は5月13日
(iii)番目の個体の四肢というのは、四本の肢丸ごとメスで細切したものであるから、その中には皮膚も筋肉、骨、骨髄などが含まれており、培養されたものである。この四個体については性別は不明である。
培地は2日乃至3日毎に更新している。
:質疑応答:
[高木]Xrayの作用はepidermal cellsとfibroblastsとでどうでしょう。
[佐藤]Xrayによる発癌は上皮が多いですね。fibroblastsなら肉腫になるわけで、癌を狙うのならeithelだけとり出すことを考えなくてはならんでしょう。
[高木]Epidermal cellsだけのTCをGeyのところでやっていますが、旨く行かないらしい。Epidermal
cellsとStromaとの間の作用をしらべたらどうでしょう。自分の場合はmixed
populationですが、3代目にはfibroblastsがdominantになります。
[奥村]Subcultureのとき、トリプシンでepidermal
cellsがすごくやられるのではないでしょうか。
[土井田]基底膜のところの構造は?
[佐藤](図示して)この通りです。
[高木]Agingのことを云って居られましたが、in
vivoのagingをそのままin vitroにあてはめることはできないでしょう。胎児のある日数の細胞をとってきて、何日TCしたからそれに相応する胎児の日数のcellsになったとは云えないでしょう。
[奥村]Agingは 1)cell levelでのagingと、2)
populationとしてのagingと、二つに分けて考えられますね。
[勝田]Cell levelでのagingの一つの解釈として、DNAのagingということを考えたい。いつかやってみたいと思っているのですが、親細胞のDNAは、もしcrossing
overのようなことがDNA levelで起らなければ、いつまでも各single
strandはdaughter cellsの中に、2本は元のが混っている筈です。しかしこれが再びDNAをduplicateする能力が永久につづくとは考えられない。むしろ、何回かtemplateとし使われると、すりきれてくるのではないか。これをDNAstrandのagingと考えたい。
[奥村]染色体上でlethalな変化の蓄積としても考えられる。
[土井田]agingとX-rayとの関係も考えられ、追究したい。
[奥村]それはむづかしいのではないか。SV40をかけてH3TdRのとり込み方の変化をみている仕事があるが、一番早いとり込みが、#8〜12の染色体にみられたのに、SV40をかけると#16〜18に変っている。こんなことをX-rayでやってみては如何ですか。
[勝田]先の仕事で、何故照射直後からしらべはじめなかったのですか。
[土井田]Giant cellになるのが判らなかったものですから。しかし20〜24hrs.ではgiant
cellとそうでないのと区別がつきにくいので、両方mixしてしらべています。
[奥村]X-reyでは5〜7日でgiant cellsができてきますね。3日位で何とか判ります。
[黒木]Agingのことですが無菌動物ではCell
cycle(G1、S、G2、M)が倍位になっているそうです。in
vitroでの分裂の早さをagingと結付けて考えると面白いですね。
[勝田]KampfochmidtのEinwandに対し、Toxohormoneの一派が宮川さんに頼んで無菌動物を使って発癌させ、腫瘍系を作ろうとしています。
[土井田]無菌動物でもX-rayで、反ってよく癌ができるそうです。
《堀 報告》
G6PaseとPhosphorylase:
今月は健康を害したり、外国からのお客があったりして、仲々仕事がはかどりませんでしたが、僅かばかりの結果を要約しますと:
G6Paseは肝組織において肝実質細胞のみに存在する酵素ですから、この酵素の消長を培養肝細胞について調べることは意味のあることだと思います。培養開始後約1週間のprimary
cultureを材料とし、しかもepithelialなoutgrowthを示すもののみを対照としました。固定方法は、無固定;フォルマリンーカルシウム;フォルマリンー蔗糖;グルタルアルデヒト;etc、多くのもので0℃
1min〜3minの固定、染色は固定材料を水、又は蔗糖液で洗滌後、30℃、60min、次の液(0.1%G6P
4ml+0.2MTris buffer、pH6.7 4ml+H2O 1.4ml+2%Pb(NO3)2
0.6ml)でincubate後、水洗、薄い黄色硫化アンモニウム液で発色、通常通り、tetrachlorethyleneに溶いた合成樹脂に封入観察しました。普通の氷結切片ではこの方法で極めて強い反応が肝細胞に現れるのですが、どうしたことか、固定、incubationの条件を色々変えてもなんとしても染ってくれないので全く困って居ります。時々出現する大型の球型細胞には反応がありますが、sheet状にきれいに伸びているものには反応がないのです。
PhosphrylaseはG6Pよりも多くの組織に存在しますが、肝では実質細胞にのみ強く現れます。方法は、小生が1964、1965、Stain
technolに発表しましたものを使いました。incubating
mediumはI2法では[GIP(50mg/ml)0.2ml;AMP(5mg/ml)0.1ml;EDTA(37mg/ml)1.0ml;0.2M
Acetate buffer、pH6.0、2.0ml;H2O to make 5ml]、Pb法では[GIP(同じく)0.1ml;NaF(8mg/ml)0.5ml;acetate
buffer、2.0ml;H2O 2.1ml;2%Pb(NO3)2 0.3ml]。G6Paseと同じ様にこの酵素も又何としても染らないのです。方法的には全て手を尽くたので、結局、培養1週間の肝細胞には、これらの酵素が極めて低い活性を示すか、或は失われてしまっているのではないかと結論せざるをえません。これに関し、Weilerのtissue
specific antigenがニワトリで培養初期に失われるという報告は興味があります。
【勝田班月報・6507】
《勝田報告》
[なぎさ+DAB]の発癌実験:
RLH-1〜4のNagisa mutantsの復元テストについては班会議のときにゆずり、今月は上記表題の実験について報告します。
これはラッテ肝由来のRLC系の株(control由来)を或期間なぎさ状態で培養し、それをTD-15瓶にsubcultureし、同時にDABを高濃度に添加したものです。[なぎさ]にしておいたままDABを加える実験もやっていますが、それは別の機会に報告します。
この実験で非常に面白いのは、TD-15にsubcultureして間も無く、DABの消費が急に減ってしまう例が多いことです。(一覧表を呈示)消費する培養よりも、しないものの方が多いのです。まだ定量的には測ってありませんが、週2回のrenewalのときに眺めても、10μgDABが、入れたときよりむしろ濃い位の感じで残っています。これは、TD-15に移して、2回目のrenewalのとき、つまり約1週間目にすでに気付くことが多いのです。
これらの細胞の形態は一般に核小体がギムザで濃染することが目につきます。細胞質の形は、case
by caseで差がありますが、一般にはcell sheetを形成して上皮様のものが多い。しかし、RLH群のようにシートの上に立体的に積重なる細胞もよく見かけます。その内、表に示した[C]群はもっとも面白く、シートを形成せず、細胞質もbasophiliaが強く、肝癌の培養像にそっくりです。
[A]と[B]は1965-6-24に、生后約24hrsのラッテ各1匹に2万個宛腹腔内接種しました。しかし勿論まだ結果は判りません。その他のも復元したいのですが、ラッテが生まれないので待っている始末です。
培地内のDAB消費の有無が、若し悪性化の標識たり得るとすれば、何と簡単に(この場合)悪性化してしまうものでしょう。一旦殆んど消費しないようになった培養がしばらくするとまた消費するようになったりします。populationの中でちがう細胞が交代するのでしょうか。この辺は今后に残された問題と思います。
実験中の色々な細胞は変ってしまってから映画をとりましたが、そのせいかしばらく増殖の落ちてしまったものがあり、[C]などは従って今だに復元テストができません。
[表:註][なぎさ]日数の+は、そこでsubcultureしたこと。[DAB消費]の(+)は消費する。(−)は消費しない。(--)は殆んど全く消費しない。RTMは現在roller
tube methodで回転培養中。名称欄の[]はその固定染色標本を作ったもの。(6:+Homog.)のごとき記載は、第6日にcell
homogenateを添加したことを示す。
DABは10μg、5μg、1μgなど時々かえて添加した。処理日数は6月27日現在です。
[M]と[Q]は、DABを高度に与えても、それに耐性があり、消費しながらどんどん増殖している。合計18本の内、上のごとく2本はDABの消費をつづけて居り、他の2本は切れてしまい、残り14本というものが、多少の差はあるが、何れもDAB消費能が低下してしまった訳である。
これは一体どうしたことなのであろう。
顕微鏡写真その他は次の班会議の折りに展示する。
《佐藤報告》
1.AH-TC86a(復元して出来た腹水肝癌の性状)。
animal transplantationは現在4代を進行中です。生存日数は適当なラッテができませんので明瞭ではありませんが、20〜30日です。腹水中細胞数は2000〜3000/mlで初代より増加しています。PAS染色はInselの中心部が弱陽性です。腫瘍死した動物の腹腔内所見は初代のものと全く同様です。皮下Tumorの性状は目下準備中。
2.AH-TC86t(前動物の腹水中の腫瘍を再培養したもの)とRLD-10
strainとの比較。
この両者の比較での差が動的状態における癌細胞と正常(?)細胞との本質的差になる筈である。それと共に現在の段階では再現実験のMarkerになる。
◇酵素の組織化学で現在、 Succinic dehydrogenase:Diphosphopyridine
nucleotide(DPNH)dehydrogenase:Adenosin triphosphatase(ATPase):Acid
phosphatase:Alkalinephosphatase:Glucose-6-phosphatase。以上の6種類を行なって見ましたが本質的な差はありません。量的な多少の差はありますが目下の結果では未だなんとも云へません。
◇DABの消耗C.100(図を呈示)。縦軸はone cellが24時間の間に消費するDAB
10-8乗μg数を現わす。横軸は実験開始から24時間までを1、24〜48時間までを2、以下同様です。
左は対照、右は癌よりの再培養です。対照(RLD-10)よりDABの消耗が少い。(小生はもっと強い差を期待していました。この件については更に検討して見ます)
◇培養発癌細胞の癌性の決定に対する復元部位の問題。
1)再培養細胞 2代(再培養后13日)65'5-14=0日:10,000/animalで接種。I.C.・異常なし。I.P.→2/3(+)
6-22=39日、穿刺により癌細胞がみつかった。Subcut.・観察中。
2)再培養細胞 5代(再培養后41日)65'6-11=0日:10,000/animalで接種。 I.C.。I.P.。Subcut.。何れも観察中。
3)再培養細胞 5代(再培養后44日)65'6-14=0日:10,000/animalで接種。 I.C.。I.P.。Subcut.。何れも観察中。
(1)の実験が開始され30日を経て所見がなかったので細胞数を10万/animalとしたが、本日腹水の貯溜を明かにしたので、今后は細胞数を減少する。
◇RLD-10及びAH-TC86tに含まれる物質。
PAS染色で弱陽性物質が核及び細胞質に認められる。Pyronin-Methylgrunn染色では、AH-TC86tの方がPyronin好性物質が多いと思われた。併し定量において下記の様な著変がみられた。RLD-10:RNA-P・5.520
picogram/cell。DNA-P・0.844 picogram/cell;
RNA/DNA=6.54。 AH-TC86t:RNA-P・0.252 picogram/cell。DNA-P・0.970
picogram/cell; RNA/DNA=0.26。RNA/DNAはlife
cycleにも影響されるし、細胞質の大きさにも関係するのでこの定量は今后繰返してやってみたいが、[Erwin
Chargaff and J.N.Davidson: The nucleic acids
chemistry and biology Volume 2 1955]の中からRNA/DNAをみて見ると、正常成熟ラッテ肝:RNA-P
3.26〜3.24picogram/cell、DNA-P 0.89〜0.87picogram/cell・RNA/DNA=4.38〜3.64。肝癌:RNA-P
1.3picogram/cell、DNA-P 1.0picogram/cell・RNA/DNA=1.3。ラッテ肝について、生后日数においてRNA/DNAを見てみると、下記の通りである。10日目(1.76)、21日目(2.29)、41日目(4.21)、182日目(4.62)で若いものほど低くなっている。前記の自家実験と比較して興味深い。
3.RLD-10(10μg〜20μg)株、即ち2-20日復元してAH-TC86aを作ったものはその后そのまま10μg〜20μgで継続されているもの、駒込で上に浮いて見える様なもののみ継代するもの(RLD-10S)、15μgで継代するもの等の亜株になっている(図を呈示)。以下に記載するのはこれらの系から復元されたC.85において発癌したと思われるものがあるので特記した。 ◇C85
65'4-28=0日
RLD-10(15μg)8.16万個/animal I.C.2例。(1)33日目
死、脳内水腫Tumor(-)。(2)37日目Agonal脳内水腫:脳室腔内に灰白色粟粒大のTumorが数ケ、生后38日のラッテ腹腔え移植。
RLD-10(S)9.6万個/animal I.C.2例。(1)(2)共に10日以内死亡親に喰われる。
RLD-10(10μg〜20μg)45.6万個/animal I.C.4例。(1)15日目
脳内水腫Tumor(-)、全脳を生后21日腹腔へ。(2)32日目喰われる。(3)34日目 死Tumor(-)。(4)49日目
Agonal。
この第4例は大脳左半球に弾力性硬の0.7〜1cm位の灰白色Tumor(組織は未だみていない)。又脳底部に浸潤があった。生后28日ラッテへ継代すると共にそのTumorをきざんで回転法で再培養した(再培養后現在6日目、肝細胞らしい増殖部あり)。この例は確実に発癌していると思う。
4.
C.87 65'5-4=0日
RLD-10C:I.C.、I.P.各々2例、50〜100万個/animal(49日)異常なし。
C.89 65'5-11=0日
RLD-10(control):I.C.4例 21.7万個/animal、I.P.4例
36.2万個/animal(42日)異常なし。
C.91 65'5-21=0日
RLD-10(control):I.C.2例 128万個/animal、I.P.2例
353万個/animal(32日目)異常なし。
RLD-10(10μg〜20μg):I.C.2例 75.4万個/animal
1例少しおかしい。
I.P.2例503万個/animal異常なし
C.92 65'5-24=0日
RLN-8(control):I.C.3例 133.8万個/animal(29日目)親に喰われる。I.P.3例
312.2万個/animal(29日目)異常なし。
C.94 65'5-27=0日
injection后翌日全例死亡。
C.96 65'6-2=0日
RLD-10(15μg)I.C.2例、I.P.2例 28万個/animal(20日目)異常なし。
RLD-10(S)I.C.2例、I.P.2例 27万個/animal(20日目)共に異常なし。
C.97 65'6-2=0日 (20日目)
RLN-36(control)I.C.2例、I.P.2例 31万個/animal。
RLD-10(10γCo)I.C.2例、I.P.3例 27万個/animal。65'6-14日以后の復元は省略する。
5.発癌の再現のための実験
1)正常(?)培養肝細胞からDAB又は3'-Me-DAB投与によって発癌させるため、まづ現在保有するRLN系の細胞(RLN-21のみ箒星状)の染色体パターンを調べた。(図を呈示)表に示すように、42の所にあるものは見当らない。それでこれらの細胞からは不利と思われるので、一寸見合わせている。
2)C.88 65'5-6=0日
RLD-10細胞をTD15に10本つくり、10μg、20μg、30μg等の組合せで投与実験をつづけている。6-8日に3例を復元した。詳細は班会議で報告。
3)C.105 65'6-3=0日
同様の実験をRLN-21で開始。
4)C.98 65'6-3=0日
3日目のDonryu系ラッテ。タンザク9本、経日的にギムザ染色。6-21、試験管9本→内5本を合せてTD40(培養開始后18日)。これはPrimary
Cultureから出来る限り短時日に発癌させる目的で行っているもので、これが真の再現実験となる。 *教室の野田が予研でこの出発細胞のクローン化を企てているが果してうまくいくかどうか。
6.DAB飼育Donryu系ラッテ肝から出発した株について
C-60strain(DAB 107日)、C-74strain(DAB 199日)、C-82strain(DAB
237日)の各系を脳内接種した。C-82strainのみtakeした。C-74はC-82にかなり似ているが細胞の索状増殖が少く一応Adenom或は再生結節肝細胞の株と考えられる。
そこでC-74株に3'-Me-DABを再投与すれば比較的短時日に動物復元陽性の株が出来る筈で、C.104
65'6-9=0日としてDAB投与実験を始めた。この実験でC-74に脂肪?化がおこりつつある事は興味深い。
ちなみにDABを飼食させてから、とりだされた肝細胞株の傾向は次の通りである(DAB投与日数と共に)。(1)細胞単位では細胞質に次第に空胞化が多くなり、細胞は大型し、癌になると又小さくなる様である。(2)最初は一面のシート形成をするが、次第に索状の構造をとる様になり、次いで小Inselをつくる様になり、更にバラバラの細胞となる様である。
詳細は班会議で報告の予定。
《高井報告》
5月の班会議以后、別の学会の準備に忙殺されておりましたので、その間、新たな発癌実験を開始することは出来ませんでした。そこで、前報の三系列の観察をつづけていたのですが、これが梅雨時に入って雑菌のため相当な被害を受け、全く悲惨な状態になってしまいました。
殊に一番望みをかけていたbEI.Ac群が殆ど全滅してしまい、残念でなりません。
1)bEI群:control群は5月末にcontaminationのため全滅。Ac群の方は、5月23日トリプシンでコロニーの一部から短試1本に継代に成功(第4代)、その後、5月25日にその短試が破損したため、急いで第5代に継代(短試1本)、6月12日にこれを短試2本に継代(第6代)。 このTD40に残った細胞(第3代)がかなり急速な増殖を開始しました。この方の細胞の形は前月報の写真4)に近い状態と、写真2)の様な状態が交互に現われる様な傾向が見られ、大分細胞数も多くなって来たので、近い将来に復元出来るのではないかと期待していたのですが、6月19日に継代を試みたところ、雑菌のため絶えてしまい、現在上記第6代の短試2本のうちの1本のみ助っています。
2)bE 群:control群の方は、今迄bEI.K群につき屡々記載した如き細いセンイ状の突起の多い細胞です。Ac群の方は、殆ど細胞が消失し、TD40に1カ所のみ細胞群の残っている部分があり、この部分では大部分の細胞がこわれて、前月報、写真1)、2)に見られる様なcelldebrisと思われるこまかいゴミの様なものの集まりの所々に、写真2)の細胞に似た様な細胞が散在しています。つまり、bEIAc群にみられた変化に幾分似通った様な現象がおこっている様にも思われ(bEIAc群の時より残った細胞の元気が悪い様です。)、今後の変化を興味をもって観察したいと思います。
3)bE 群:今の所、Ac群もcontrol群とよく似た細胞です。以上の如く、bEIAc群が殆ど全滅したのは、手痛いDamageではありますが、bEIAc群におこった変化が、再現性のないものならば、全く問題にならないわけで、もし、あの変化がActinomycinの作用に関係したものならば、当然再現性がある筈なので、今後更にくり返して、実験するつもりです。
《高木報告》
発癌実験
Exp.I:前回の班会議の時御話しした様に、終局の目的にadult
animalのskinを長期間培養してこれに対する4NQOの効果を観察し、更に同一動物への復元まで持って行く事であるが、それに至るまでの一つのstepとしてWistar
ratのfoetal skinを用いて培養をこころみ、それに4NQOを作用させてみた。
4NQOはここの癌研の遠藤教授からもらいうけたもので、時間がなかったのでabsolute
Ethanolにとかしたものを用いた。はじめ10-2乗M/mlの割にalcoholにとかし、これを1000〜10000xにうすめて最終濃度10-5乗、10-6乗M/mlとし、alcoholをこれから実験群と同様の濃度にうすめた2つの対照群をおいた。
培地は80%Eagle's basal Media+10%BS+10%CEEで、これにagarを1%の割に加えてsolid
mediaとした。
この実験は一つにはorgan culture levelにおける4NQOの毒性をみるためのものでもあったが、実験群が多くて12日目までしか観察出来ず、またtissue
fragmentが小さきにすぎてhistologicalにはっきり物を云う事は出来なかったが、しかし次の様な傾向が示唆された。
1)一般にtissueの維持は、この実験に関する限り不良で、その理由としてこれまで試みたsuckling
animalのtissueとちがい毛が生えていないので、培養と共に表裏を区別する事が困難になり、tissue
fragmentsをtransferする際に表裏逆にした可能性のあったこと及びagarが少し軟すぎて(かたまり方不充分で)tissueがその中にうまった様な場合があった事等があげられる。
2)4NQO 10-5乗M/ml添加群では、毒性つよく、培養6日目ですでに多くのpyknotic、又はdegenerativeな変化が細胞にみられた。
3)4NQO 10-6乗M/ml添加群で培養と共に、original
tissueに殆どみられない角化層の増加がみられたが、これは対照群でも可成りみとめられた。またZona
granularと思われる細胞のhyperplasiaを思わせる部があったが、これも対照にこれと似た所見がみられる場所があり、有意かどうか断ずる事はむつかしい。
Exp.2:mouse foetal skinを用いて、同様な液体培地より新たな実験をstartした。今回は4NQOは水にとかして、最終濃度10-6乗、10-7乗M/mlとして添加し、より大きなtissue
fragmensを用いている。
《土井田報告》
各種の放射線被曝者の晩発性障害の機構の解明を目的とし、人の体細胞−末梢白血球−に存在する染色体異常の量的変動についての観察を行なっており、此の班の研究について報告できるような結果はあまり得られなかった。
11回班会議の時に報告したマウスの胚の細胞培養をつづけているが、此の細胞に放射線照射を始める前に細胞学的研究を行なうためsubcultureした。この際トリプシン処理を行なうと悪性化を促進するという結果が幾つか報告されているので、出来る限りこの様な影響のないようにと思いラバークリーナーで機械的にガラス面よりはなしたところ、一部の細胞で相当障害があり、相対的にみてこの処置はあまり適当でないことが判った。現在はこの細胞を大事に育てているが、出来るだけ早期に放射線照射を行なう予定である。
既にRLH-1とRLH-3の染色体数と核型については調べ月報に報告したが、その後の両者の細胞遺伝学的研究と、調査の進んでいないRLH-2、RLH-4について細胞遺伝学的研究を行なった。材料を入手して間がないし、更に最初に記した人間の染色体調査をせねばならず、現在は図に示したごとき予報的結果しか得られていない(図を呈示)。
《黒木報告》
Rat胎児肺組織の培養(2)
前報でDonryu RatのEmbryo肺の培養(REL-101〜106)について報告しました。この培養はもともと、培養条件方法その他をテストするための謂ばパイロットであった訳ですが、継代3代目よりGrowthが落ちて来、現在ではやっと植え継いている有様です(培地・EagleMEM+20%Bov.S+1.0mMPyruvate+0.2mM
Biotin)。
これではExp.の材料として用いることが出来ないので、いくつかの改良を行い、6月16日及び19日より培養を開始しました。
改良点:(1)継代をrigid scheduleのもとに行う。とりあえず10万個/ml、4日置きで継代する。(2)容器をCO2-incubator-dish系にする。三春のdish(径50mm、培地量3.5ml)を使用。位相差観察にもよい。(3)培地 EagleMEMに次のsupplementを加える。(a)Bov.alb.fract.V
1.0%w/v。(b)GLY 0.1mM。(c)PRO 0.1mM。(d)SER
0.2mM。(e)Pyruvate 1.0mM。(f)CYS 4x。(a)の1.0%Bov.alb.はTodaro、GreenらのDataによるfibroblastのGrowthとmaintenanceは、alb.により相当いよくなっている。(b)(c)のGrycin、Prolineはcollagen合成を考えて加えたももの。(d)(e)のPyruvate、Serineはpopulation
dependent nutrientとしての意味。(f)Cystineの量を4倍にしたのはdiploid
cellが(1)Met及びGlusose、(2)homocystine、Serから、(3)CystathionineのいずれからもCystineを合成出来ないと云う知見(H.Eagle)による。
《堀 報告》
Explantsの組織化学的変化
前報ではシロネズミ肝の培養初期のoutgrowthの細胞にG6PaseとPHosphorylaseが検出困難であることを書きましたが、僅か一週間位の間にこの様な大きな変化が起るとるれば、その変化の過程を見ることが重要なことと考えられます。そしてそのためには、explantより出て来た細胞丈でなくexplantに残っている細胞を調べる必要があります。従って今月は培養開始後、3、6、20時間、2日、8日の間隔で1回当り約20コのexplantをとり、-70℃のアセトンで冷却後、クリオスタットで切片としG6Pase、PAS、toluidine
blue(TB)、SDH、Phosphorylase、の染色をHEと共に試みました。各種の染色は同一のexplantよりの連続切片を用いて行いました。その結果は下表の通りです。なおexplantは小さくてそのままではクリオスタットで切りにくいので、大きな肝臓片の中に埋め込んで切りました。こうすれば、台に用いた組織を染色のcontrolとすることも出来、一石二鳥です。
3hr 6hr 20hr 2d 8d outgrowth
HE + + ± ± − −
PAS − − − − ± ±
G6P ++ ++ ++ + + +
TB + + ++ ++ ++ ++
SDH ++ ++ ++ ++ ++ ++
Phos. − − − − − −
(HE:eosinophilia。Phos.:Phosphorylase)
以上は生き残っている細胞についてのみの結果です。今年一月三島の班会議に傍聴させて頂いた時報告しました様に、生き残っている細胞はexplantのfree
surfaceに接する部分に限られて存在します。central
necrosisは3hrで既に始っていて、この時生き残っている細胞が後にoutgrowingすると考えられます。今回の実験での収穫はG6Paseが弱い乍らも游出した細胞に検出出来たこと、游出する細胞中には明らかに実質細胞を含むことが判明した事です。テクニックを改良すれば、きっとPhosphorylaseも染る様になるのではないかと思います。G6PaseやPhosphorylaseが培養初期に存在することが確認出来れば、その後どの様な変化を起すかを見ることは興味ある事と思います。
【勝田班月報・6508・DABによる発癌の諸問題】
《勝田報告》
A)“なぎさ”変異細胞の復元接種試験
(1)復元接種試験成績
これまで報告した以後の復元接種試験の成績を表で示す(表を展示)。ラッテとハムスターを用いた。3-18に接種したハムスターポーチの腫瘤は、4日後に培養に移し、TC25日後にコロニーを生じたので、第32日に継代して今日に至っている。ラッテ接種例では、'64-12-12に脳内に接種した例で、RLH-1群2匹の内1匹が第24日に脳水腫で死亡した。残りは第40日に全例解剖したが、RLH-3群の2匹中1匹に脳水腫がみられた。ハムスターは、まだ技術的に馴れていないせいか、腫瘤形成率が悪い。
ここで反省してみたのであるが、RLH-1〜4の4種の変異細胞の生じた元の細胞株は、F11頃の未だ完全には純系化していないJARラッテの肝由来の細胞である。だから現在の純系化したJARラッテへこれらを復元接種することには問題があるのではないか、と思われる点がある。つまりこれらの母細胞を得た頃のラッテと同格のラッテは今日ではすでに存在していないからである。
そこで、反って系の異なるラッテの方がtakeするかも知れぬという観点から、ウィスター系や雑系のラッテに復元をおこなってみた。しかし今日までのところはっきり腫瘍形成を示した例は未だ得られていない。
(2)これまでの復元接種の成績から、今後は上記のように動物の種類を色々撰択してみる必要があることと、観察期間をさらに長期(少なくとも半年間)に延長する必要のあることを痛感した。
B)“なぎさ”培養とDAB高濃度添加の併用の影響
“なぎさ”培養とDAB高濃度添加を併用すると、細胞の変化が早く起る事が最近判った。すなわち“なぎさ”培養によって変化をおこさせた細胞を、TD-15瓶その他に継代し、これに直ちにDABを10μg/mlに添加しはじめると、4日後の第1回の培地交新のときは培地内のDABの色が非常に薄くなって、DABの消費されていることを示しているが、次の3日後の培地交新のときに調べると、DABの色がそのまま残っていることが多い。試みにコールマンの比色計で培地の色を測ってみると、BlankにDABなしの培地を入れ、450mμの吸収を測った結果は表のようになった(表を呈示)。これは4日間の消費である。これによると、16例中4例だけが消費をつづけるが、他の12例は代謝能が無くなっている。但し、4例中JとQの2例は“なぎさ”培養をおこなわず、DABの前処理を施してある。これらの培養法の詳細は別表に示してある。DAB肝癌がもはやDAB代謝に関与する蛋白を失っていて且、急速に増殖している、という事実を考え合わせると、この実験法によって極めて短時間に細胞の変異をおこさせることができる、と云えることになる。
これらの“なぎさ”→DAB処理の細胞の動態を顕微鏡映画で観察すると実に興味深い結果が得られた(映画展示)。つまり正常の肝細胞がほとんど積極的な運動を示さぬのに対し、肝癌はよく活発に運動することがこれまでの研究で判っているが、この肝癌そっくりの形態や運動を示す系も得られた。ことに(C)が著明である。これらの細胞については、目下復元接種中、あるいはその準備中であるので、成績はいずれ報告する。
“なぎさ”培養とDAB添加を同時に平行しておこなっている実験もあるが、この成績は今後報告することにする。
:質疑応答:
[寺山]DABを与えずに“なぎさ”培養のままだとどの位DABを消費するものでしょう。
[高岡]測ってはありませんが、肉眼的にみたところでは、DAB5μg/mlで0.16の吸収の時、0.04位になるという減り方と同じ位の消費をします。
[勝田]“なぎさ”1ケ月、DAB 2〜3週で、能率よく変異株を得られるのではないかと思っています。
[寺山]最初にDABを加えて、吸収が減ってきた時の細胞の増殖の仕方は、加える以前とちがいますか。
[高岡]subculutreするわけでなく、培地だけ変えているので、増殖の度合いははっきりわかりませんが、細胞数は減っていないし、分裂もあります。
[高木]2核細胞の“なぎさ”培養での運命は?
[勝田]Cell cheetでは、2核細胞と、単核細胞との間には、たえず移行があります。
[佐藤]“なぎさ”で変異したものをDABでselectしたということは考えられませんか。
[寺山]“なぎさ”培養での細胞のDAB消費酵素の活性の低下が、一時的なものか獲得したものかは一寸はっきりしませんね。
[佐藤]生体での変異は他方向であってもその殆どが消えてしまうのに対し、培養ではかなり残るのではないでしょうか。
[寺山]DAB添加下で増殖するような変異細胞はくさいと思いますよ。
[渡辺]DABを食わせますとネズミ肝のazoreductaseの活性が急激に低下しますが、与えるのを止めると1週間でまた回復します。homogenatesにDAB、TPNなどを加え、DABの減少でこの活性を定量します。
[寺山]450mμの所はアゾ色素の吸収だから、450mμでみた吸光度は殆ど特異的にアゾ色素のものでしょう。DABの添加は、短期間では効果がないと思います。むしろ、DAB添加下でどんどん増えるものを選んでいったら如何ですか。
[勝田]佐藤君がさっき、“なぎさ”で変異したものをDABでselectしたのではないかというように言っていましたが、私は“なぎさ”で酵素がいためられていて、DABを加えるとそれが急速にやられてしまうのではないか、と考えています。
[佐藤]しかし、アゾ色素のつく蛋白がなくなると肝癌になるのだから、矢張りその蛋白がなくなるのではないかと思いますが・・・。
[寺山]DABの消費と、蛋白との結合とは、必ずしも一致しません。マウスの肝のhomogenatesの方がRatの肝のhomogenatesよりずっとDABの消費は多いが結合は少ない。
[勝田]Demethylationで色がなくなるのですか。何段階位でなくなるのでしょう?.
[寺山]Demethylationでは色は残り、azoreducationで消えます。この二つは平行的に起るものです。そして主にmetaboliteがtoxicなのです。azoreductivityの高いのは、むしろresistantなのではないでしょうか。一時的でなく、geneticalな変化を起させる必要があります。“なぎさ”の細胞を、DAB添加下でsubcultureして、DAB存在下で増殖するものを、選んでゆくというのは面白いと思いますよ。AH系ではDAB存在下でもどんどん増殖するのでしょう。
[佐藤]10万位の単位でDAB1μg/mlでは、増えます。
[高岡]1μg/mlの濃度なら正常の肝細胞でも増えるでしょう。
《佐藤報告》
表1〜5を展示。
◇表1は、復元成功第1号[RLD-10(10μg-20μg)株]を含むRLD-10株亜株の簡単な実験系図です。前月報の改定です。◇表2は復元成功(2-20
C86(88G)右)以後各亜株について行われた復元実験及びその成績表で、表1と表2を比較してみると、現在未だ確実な事は云えませんが、結論だけ書けば、RLD-10株について現在の細胞数と3'-Me-DABの量を基準にすれば、3'-Me-DABは10μgのみでは直接投与しても発癌しない。勿論間欠投与だけではだめである。10μg連続の状態で時にそれより高濃度を与えると発癌すると思いたい。一度で発癌したらLD+20%BSで存在し得ると思います。このことと10μg
3'-Me-DABの存在が必要なこととは一見矛盾するようにみえますが、別に差支えないと思います。
確実にTumorが存在し再培養でもTumorらしいものが現在増殖しつつあるもの、のみから考えますと低率ですが、死亡或は死戦期をむかえて殺し、脳内に著明な脳水腫をみとめたもの(一部のものには小さな粟粒大の灰白色、弾力性硬のTumorを数ケ認めたが腫瘍の確認が未だ出来ていないもの、このものは種々の所見或は結果からTumorが存在すると思われるものが多い)を含みますと高率となります。又C91の腹水は既に再培養されていますので、C86と比較してみた所、C91には遊離細胞が多い様にみえました。C91はC86の原株に比して更にDABが与えられた事になりますので又興味があります。
◇表3は、C85の復元実験における詳細であって、C86の復元成績の詳細と併せるとHydrocephalusが脳内腫瘍形成とかなり関係が深いことが分ります。
表2には省略しましたが、他の株は未だいづれも発癌したものはありません。
◇表4は、RLD-10control株と、AH-TC86t株(再培養)との核の大きさの比較を写真にとってその核を切りとって秤量したものです。AH-86t(cancer)の方が明らかに大きく、山が二つある様に見えます。Microphotoで見た場合、大小不同が著しく且つ核膜に凹凸があり多形多核の多い事が目立ちます。Cineをとってみると面白いと考えています。
◇表5は、AH-TC86t株の毒性について動物継代によるもの及び培養細胞からの動物への再復元によって調査中でありまして現在までのところ、1万/animal接種でI.C.の例の2例が48日目に1例死亡、49日目死戦期1例であり、AH-130の例から考えますと、腫瘍性現段階ではかなり弱いと考えています。
◇再現実験はかなり進んでいますが、復元後、まだ判定の日数に達していません。
Primary Cultureのもの(C-98)6-3=0日には最近継代してTD40に移し、3'Me-DABを1μg/mlよりStartしました。又他の株RLN-21株(箒星状細胞)は最近投与を始めましたが3'-Me-DABに対しRLD-10株より抵抗が強いようです。
:質疑応答:
[寺山]動物の場合、DABでも3'-MeDABでも、つづけて与えないと癌が出来ないですね。与えたり与えなかったりすると駄目です。
[堀 ]はじめに示された肝癌の判定はどうなさいましたか。殊に肝癌になるまでのものの場合は?
[佐藤]DABを与えているラッテを、3、4、5、6、7月後という具合に殺して、その肝をとり出し、一部はラッテに接種、一部は培養するわけです。勿論組織切片も作ります。そして、再生結節、腺腫、癌と判定しているのです。この実験は、動物にDABを喰わせ、その癌化の途中の細胞をとって培養し、培養内でつづけてDABを添加すると、培養内の癌化が早いのではないか、という予測のもとにはじめた実験です。
[堀 ]組織化学的にいって、同じような変化をもっている再生肝を培養した場合、そのGrowthは、それぞれ異なると思いますか。
[佐藤]それは、それぞれ違うと思います。
[堀 ]DABの投与量と、再生肝の組織化学的な像とは、必ずしも並行しないのではないかと思います。いま自分がやっているDAB給餌ラッテの実験で、G6Pの誘導を見ていると、これは30%蛋白食で誘導するのですが、どの段階でも、色々な癌化の段階の細胞がみられます。今までDABの発癌過程というのは日を追ってみていましたが、果して日を追うだけで良いか、という疑問を持ちはじめています。
[寺山]個々の細胞では、そうかもしれないが、populationとしてみるからいいのではないですか。
[黒木]ねずみ内の発癌の各段階からとった肝臓を培養した場合の増殖コロニーの形のシェーマで、はじめは丸くふえるのが、だんだん索状にふえるようになる、ということをどう考えられますか。間に空隙が出来たりするのは、細胞の運動性のせいと考えてよいか、或いはpopulationの異なったものが混っているということから起るのか、どうでしょう。
[佐藤]悪性になるとバラバラになります。
[勝田]黒木君の云うので正しいと思います。つまり色々と性質の違った細胞が生じているので、走りやすいものもあれば、そうでないものもある。そこで平均して出てこないという結果になるのでしょう。
[黒木]悪性になったもののcolonyの形が索状なのは、細胞の運動に方向性があり、次に方向性がなくなってバラバラになる、と考えられるかと思います。復元は何匹づつしましたか。
[佐藤]3匹づつさしています。
[黒木]毒力の判定は何で表現されますか。
[佐藤]死亡日数で判定しています。
[黒木](図を呈示)動物の生存日数から計算して、縦軸をプロビット展開すると直線になります。これは、正規確率グラフ用紙というのを買ってきて使えばすぐ出来ます。横軸はlog目盛と普通目盛との両方あります。薬剤効果などを記すときはlogの方が良いでしょう。この直線が平行して移動するか、それとも線の傾斜が変化するか、が問題で、前者が定量的変化を示すのに対して、後者は質的な変化を現わしていることになります。
[勝田]佐藤君の実験での問題点をあえて拾上げてみますと、まず細胞として株細胞を使っており、その培養期間が3年にも及ぶということ、次にDABを添加した期間が動物発癌に必要の期間よりもはるかに長いということ、また別の細胞系で再現性があるかどうかということ、ですね。それからこの癌が出来るまでの細胞の変化の経過をなるべく詳しく紹介して欲しいですね。
[寺山]DABの濃度は、どこまであげられますか。
[佐藤]10μgまで位です。
[寺山]動物発癌の場合、肝細胞はどの位の濃度のDABにさらされているか? 渡辺さん、どうでしょう。
[渡辺]血液中(門脈血)では非常に少ないです。平常DABは血中にはあまり遊んでいません。みんな肝臓に貯まっています。ラッテが1日6〜10mgDABを食べるとして、肝全体で1日当り数mgのDABにさらされていることになります。
[佐藤]動物の場合、沢山食べるとその時はDABは高濃度になるし、あまり食わないでいると低くなると考えられる。培養でもそういう波が必要だろうと思うのです。
[黒木]DAB発癌の場合、DAB耐性細胞を選び出すということが試験管内発癌の必須条件というわけですか。
[佐藤]DAB耐性細胞が出来るということと発癌そのものとは、直接どう結びつけられるかははっきりしないが、耐性細胞を作ることが試験管内発癌の必須条件といえると思います。
[勝田]将来のことですが、細胞1ケ当りどの位までDABを蓄積し得るのかという事をみる必要もありますね。少量の添加でもだんだん蛋白についてたまってくるということも考えられると思うが、癌化するのにどうしてあんな高濃度のDABが必要なんでしょうね。
[寺山]大部分は発癌に関係ない方向に流れ、発癌に関与するのはごく少しだからですよ。発癌にはやはりthresholdというか、或必要最少量があるのでしょう。
[佐藤]少ない量では蓄積できないのでしょう。
[勝田]DABの分解酵素がなくなるというのは、必須条件でなく、余儀なくそうなってしまうのではないでしょうか。
[奥村]分解酵素はどこにありますか。
[寺山]DABの酵素はミクロゾーム分劃にあります。結合蛋白も、はじめはミクロゾーム内ですが、後には細胞質全体にひろがります。それから復元接種ですが、肝の部分切除をおこなっておいた動物だとtakeされ易いのではないでしょうか。ホルモン的な統御を考えますと・・・。
[高木]復元した細胞をまたTC内で継代すると、いつもあんな風に多形性が強いのですか。増殖はどうですか。
[佐藤]あの写真は6代の継代です。増殖はまだおそいようです。
[高木]正常細胞を培養にうつすと、どの位で酵素活性が変りますか。
[勝田]Liebermanたちが大分前に報告しているではありませんか。大抵の酵素活性は4〜5日で低下するように云っていたでしょう。増えるのも若干ありますが。
[佐藤]DABにメタルをつけて、電子顕微鏡でみるということは出来ないでしょうか。
[寺山]オートグラフィでみる方がよいのではないですか。
[勝田]DABの蛋白結合は、強いですか。
[寺山]強いですね。
[勝田]では抗原となり得るわけですね。
[寺山]それをやっている人がいます。
[難波]抗原としてどの程度、純度がありますか。
[寺山]かなりbasicな蛋白と結合します。等電点8に近い所で割合はっきり分劃されます。この蛋白が或geneのreprsserの役割をする蛋白だと考えると、遺伝的にも解釈が成立つと思いますね。
《高井報告》
1)bEI.Ac.群: 雑菌感染を免れた短試1本の細胞を急速にふやしつつあり、7月5日現在、第8代短試5本にまでなりました。増殖もかなり旺盛になって来た様で、細胞の大きさ、形は割合に小型で、JTC-14に似て来た様な気もします。短試の垂直静置培養のため、底に細胞があって、写真がとれないのですが、もうすぐTD15に移せる位になると思います。充分な細胞数が得られれば、復元の予定です。
2)bEIII群: bEIIIAc群の細胞集団は、(写真1〜3呈示)写真1)の通りで、月報6506の写真1)2)のbEIAc群の細胞と似ていると思っているのですが、6月末にこの細胞群が剥げ落ちてしまい、現在は、写真2)の如きControl群と同様な細胞しか残っていません。継代の時期を誤った様です。
3)bEIV群: 著変なし
4)bEV群: 6月26日培養開始。今迄の群と異なり、頭部、肺、胸廓、背柱を除いた軟部組織をトリプシン処理して培養しました。又、この群は20%CS・YLH培地にしてみました。(今迄のは20%CS・LE)現在まだActinomycinを加えずに、少しふやしてから処理する予定です。
現在までの結果は、以上の通りですが、この辺で実験方法について少し反省してみたいと思います。
私共がこれまでやって来たActinomycinS 0.01μg/ml持続作用という方法が発癌のために果して適当かどうかは勿論大いに疑問があります。どういう濃度、作用時間が適当かは、色々試みる他ないわけですが、in
vivoでの発癌実験に出来るだけ近い条件をin
viatroで再現してやるのも一つの行き方といえましょう。
川俣教授らの報告によれば、in vivoでActinomycin肉腫を作る時の実験条件は、btk
mouse(生後5〜10週)に、所要濃度のActinomycinSの生食溶液を0.1〜0.4ml週2回皮下注射であり、7.5μg/kg(体重)では、平均28週で注射部位にTumorを生じ、15μg/kg、30μg/kgでは、Tumor出現までの期間が短縮される傾向がみられたとのことです。これから計算してみれば、注射する液のActinomycinSの濃度は1.5〜2.25μg/mlと思われます。
皮下注射されたActinomycinSがどの位の時間で吸収され、どんな経過で局所の組織内濃度が低下して行くかはわかりませんが、上記の値から考えて、注射部位の細胞は少くともある一定の期間は、私共の用いた0.01μg/mlよりも、はるかに高濃度のActinomycinSに接触していることになり、これが週に2回繰返されることになります。
従って今後は、1.5〜3μg/ml程度の高濃度のActinomycinを短期間作用させることを繰返すというsystemもやってみたいと考えています。
:質疑応答:
[勝田]アイソトープをラベルしたアクチノマイシンSで、動物発癌の場合のアクチノマイシンS拡散のパターンを見られませんか。また、発癌経過につれての局所の組織像を一度見せてもらったらどうですか。アクチノマイシンSをとかすのに有機溶媒を使っているところを見ると、その局所に薬剤が残りやすいということも関係があると思いますが・・・。
[高井]アクチノマイシンSは、たしかに吸収がわるくて、Dに比べて局所に残ります。
[黒木]対照の増殖はどうですか。また添加は何日目位から・・・?
[高井]大変おそいです。2〜3週でやっと継代です。添加は初代から入れています。
[黒木]その時は、細胞はどうなりますか。
[高井]そんなにどんどん死んでしまうということはないが、対照と同じテンポで継代するわけには行きません。
[勝田]この組合せは有望と思います。しかし何といっても材料がマウス胎児であるという点に問題がありますから、なるべく短期間で勝負をつけるようにしなくてはなりませんね。
《堀 報告》
今迄得られた結果の総括
前回の班会議には出席出来なかったので、4月以来やってきた、正常肝細胞の培養初期の組織化学的変化について総括的に報告します。
Acid Phosphatase活性を示す顆粒の分布については、Hepatome-96、-99、HeLa、gTD-4、Takeda、Yoshida、MTK-IIIの既に確立された系について調査したが、癌の系統によって特異的な分布を示すということは見当らなかった。また、肝細胞の培養したものでは、in
vivoの分布に極めて類似した配列を示す顆粒は観察されたが、必ずしもそれが全てではなく、種々雑多の分布を示すものが多く、結局はこのAPase顆粒をもって、肝細胞のmarkerとし、それによって培養期間中に肝細胞の変化を追求しようということは不可能であることが分った。
次にG6PaseとPhosphorylaseの検出であるが、これが予想以上に難行して、目下の処、後者の染色は培養材料で全く成功していない。G6Paseについては、肝培養後、3、5、8、20時間、2日、8日と日を追って移植片を凍結切片として調べた処、培養開始後necroseを起さず生き残っている移植片周辺の細胞に極めて強い反応を認めることが出来たが、移植片より遊出してカバーグラスに広く伸びた細胞では極めて低頻度で弱い反応が顆粒状、或いは、Network状に見られた。目下、なおPhosphorylaseについては検討中であるが、当初の予想に反して、これら2つのglycogenolysisに関与した2つの酵素をliver
cellのmarkerとしようという試みはどうも失敗のようである。この様にliver
cell特有の酵素が極めて培養の初期に失活しているということは、注目すべきことであるが、活性を染められないということが、即ち、酵素蛋白の消失を意味するか否かは問題の残る処で、今後は、唯、単に種々な酵素を染色してみるということよりも、最近、Biochemistryで注目されている酵素の誘導という方向を、私の研究に取り入れて、肝細胞の酵素誘導能の変化を培養においてみてゆきたいと考える。なおG6Pdehydrogenaseの誘導については、既にin
vivoでのcarcinogenesisにおける変化をみているので、これを参考として実験を進める。
:質疑応答:
[高木]培地中のglucose濃度は?
[堀 ]0.1%の80%です。
[高木]glucose濃度をふやすと、グリコーゲンは減らないのではないでしょうか。
[堀 ]問題は、組織化学的に決まるか決まらないかということが、果してどれだけの意味をもつか、ということだと思います。
[土井田]酵素活性がin vitroで3hrでなくなるというのはどういうことなのでしょう。
[堀 ]どういうことなのかと、いま考えているところです。
[土井田]一度無くなったものがまた回復するということもあるのではありませんか。
[堀 ]培養条件によってはそういうこともあると思います。
[土井田]定量的にはいえなくても、定性的には組織化学で判断できるのではないか。
[堀 ]そう思ってやっていますが、なかなか問題があるのです。
[土井田]細胞が1ケだと染まらないのが、沢山かたまっていると染まることがあるというのは、活性があっても染め出せないという問題もあるでしょう。
[難波]glycogen染色の固定法は?
[堀 ]-70℃のアセトンです。水は全然使いません。
[勝田]培養ごく初期に酵素活性が落ちるというのは、無くなるというより、ただ忘れているだけで、何か手段を使って思い出させれば、また復活するのではないかと私は考えています。
《高木報告》
1)発癌実験
先の実験で10-5乗M/ml濃度の4NQOはorgan
culture levelで毒性がやや強すぎる様に思えるので、今回の実験では10-6乗と10-7乗M/mlを最終濃度として用いた。
組織はfoetal mouse skinで4mm平方の大きさに切って液体培地に接したlenspaperの上において培養した。培地はModified
Eagle's media+10%BS+10%CEE(1:1)である。培養7日目(現在)まで組織は良くその構造が維持されており、10-6乗、10-7乗M/ml
4NQO実験群の間ではさしたる組織学的所見の違いはなく、一部にStratum
germinationの増殖及びstromaの増殖が認められたが、対照との間に有意と思われる差ではない。
Lasnitzkiがmouse prostateに20MCを作用させてその影響をみた仕事では、natural
mediaの方がsemi-difined mediaより明らかにepithelial
hyperplasiaを認め得たと云う報告をしているが、これがそのままskinの発癌実験にあてはまるかどうかは問題があるとしても、一応natural
mediaについても検討する必要があろう。また今回は液体培地を用いて実験を行っているが、これは前回の班会議の時にも指摘された様に代謝産物及びcarcinogenのdiffusionの問題を考えての事で、skinはsolid
mediaの方がよいかも知れず、組織片の周に孔をあけるか、または溝をほってそれに培地を流してやる方法も考えており、近々検討の予定である。これまでの培養のslideを供覧する。
2)その他
(1)膵のorgan culture:どうやら私が帰国する前の仕事のlevelまで持って行けた様でrat
pancreasの培養が比較的うまく行った。Schweisthalも行っている様にrabbitと異なりratの方がAldehyde
Fuchsin染色により培養後長くβ顆粒を追求する事が出来た。それらのslideを供覧する。
いよいよin vitroでラ氏島β細胞に対する種々agentの効果をみる段階に入る。効果の判定法としては蛍光抗体法、A
& F染色と共にmedium中のInsulin assayも行う予定で目下rat
epididymal fat tissueを用いたassay法を検討中である(I131-insulinを用いたimmunoassayは現状では実施不能であるので・・)またα細胞についても現在glucagon分泌にからんで未だ色々問題のある処でこれを解明すべく努力しているのであるが、どうやらchromium
Hematoxylin PhloxineとAnti glucagon serumとによって周の切片を染色する事に成功し、まず一歩踏出したと云える。いよいよこれからFerritin抗体法による電顕所見も併せて検討することになる。またα細胞のin
vitroにおけるfateの追求についてもStartした処である。
(2)その他これまでに分離した株細胞の写真を供覧する。
:質疑応答:
☆討論の前に、梶山氏より各種株細胞の種特異性に関する免疫学的検索のデータの展示あり。
[高木]細胞は組織培養しても種特異性抗原は変化しないとこれまで考えられてきています。しかし私はどうもその点問題があると思いますが・・・。
[堀 ]全細胞を抗原とすると、蛍光抗体法でどうしても核が染まらない。核を分劃して抗原にしても、やっぱり核は染まらない。これは不思議なことだと思います。
[黒木]種特異性でなく、系の特異性はでますか?
[堀 ]Isozymesでは、マウスの系によって差があるというデータをもっていますが・・・。
[勝田]顕微鏡写真の中でヘマトキシリンで濃く染る細胞はピクノーシスではありませんか。
[高木]そうではありませんよ。
[難波]メラニンか何かでは・・・?
[高木]細胞ですよ。増殖していますから。
《黒木報告》
ラット胎児肺組織の培養(3)
4NQ、4HAQOを作用させる材料としてRat(Donryu)胎児肺の培養を試みていますが、まだ思うような結果が出ないで、いささか行き詰りの状態です。
Pronase digestでGrowthしてくる細胞は(写真を呈示)photo1の如きfibroblastが一部にみられますが、大部分はep.の様です。細胞質がうすく拡がり核の周りに顆粒がみられます。
初代では前回報告したようにAlbumin添加も非添加も同様に3〜4日でfull
sheetになります。
2代目の植えつぎは0.02%pronase5min. at
37℃で細胞を剥し、40万個/dishで5cm dishに植えこみました。24hrs.後には、alb(+)培地26.5万個/dish、alb(-)培地42.5万個/dish、更に4日後のtransfer時には、alb(+)培地36.8万個/dish、殆ど増殖の傾向がみられませんでした。(alb(-)はカビのcontami)。
3代目は、alb(+)は35万個/dish→4日後には1.9万個/dish、alb(-)は35万個/dish→4日後には5万個/dish、細胞が殆んど増殖していないことが分ります。
特にalb.はtoxicに働くように思はれます。photo3はalbumin(-)の培地の細胞形態ですが、alb(+)培地を48hrs.作用させると、photo4の如く変性してしまいます。todaro、山根らのDataはhamsterを用いていますので、Albuminの作用がspeciesにより左右されることを示唆するものと考えられます。
《土井田報告》
RLH各系の細胞遺伝学的研究
月報6507にRLH-1〜-4系細胞の染色体数を予報的に報告したが、この結果を多少補足するデータを得つつある。核型分析の結果はまだ報告する段階に至っていない。
RLH-1:染色体数のモードは69で、この値は以前の報告と同じである。核型も以前の報告と同じく、meta-、sub-meta-centric
chromosomeが多い。この系の細胞はかなり安定状態になっていると考えられる。
RLH-2:染色体数のモードは78であった。核型分析はまだ行っていない。
RLH-3:染色体数のモードは58であった。此の系の細胞の染色体数については既に報告したが、その際は63にモードがあった。染色体数の減少の理由については、更に核型の方からのデータもふやし、検討することを考えている。顕微鏡的に見た限りにおいて、此の細胞はtelocentric
chromosomeを多く有している。
RLH-4:データが不充分であって、今後研究せねばならないが、染色体数のモードは一応69にある。(染色体数分布図を展示)
:質疑応答:
[佐藤]この4ツの染色体の核型は、お互いに似ているのがありますか。
[土井田]2と4はまだ核型を調べてありませんが、1と3に関しては全く似ていません。
《奥村報告》(書面による報告のみ)
A.JTC-4Y細胞の核型分析に関する実験
JTC-4細胞をcloningして、そのcloneの中から染色体数の少ない細胞系を分離する試みを続けてきた。現在までに分離したcloneのうちでchrom.no.が少ないものは、A:24〜28、B:27〜32、C:30〜33、D:34〜36、E:36〜38、F:38〜42である。これらのうちで継代中に、chromosomal
aberrationが非常に少ないものは“D”で最終cloningから10ケ月経過した後にも、かなり高いpurityを示している。
この“D”cloneの細胞のcell cycleをH3-TdRのpulse
labelingによって分析すると、Sphaseの時間が16〜18hrs.という極めて特異的なlife
cycle patternを示す。このcycle analysisは現在最後の確認実験を実施中。同時にchromosomeレベルでDNA合成のtime
patternの分析も進行中。
B.Autoradiographyによる培養細胞へのホルモン取込み実験
6月号でH3-Progesterone、H3-Estradiolの細胞内取り込みの実験でオートラジオグラフィーがうまく行かないことを報告した。その後、細胞固定、ホルモンが細胞内の蛋白と結合する場合のことを考えて蛋白沈殿剤の種類(uranyl
acetate)などを検討しているが、それらのことから一応次の事柄を問題点として拾い上げることが出来る。
1)ホルモン濃度を0.1μg/ml(Prog.)、0.01μg/ml(Estrad.)のdoseでは細胞内への取り込みをautoradiographyで明瞭にみとめることはむづかしい。
2)固定、蛋白沈殿剤としては重金属含有液はbackのgrainが非常に出現しやすくて、きれいな標本を作ることはむづかしい。現在までのところcarnoy固定が至適である。
【勝田班月報・6509】
《勝田報告》
A)“なぎさ"→DAB処理細胞の所見
先般の班会議に於て“なぎさ"培養した細胞を継代してすぐDABを高濃度に与えると、DABを代謝しないような細胞が高頻度に得られる、と報告したが、これらの細胞のその后の形態学的特徴を記載する。(主に1μg/ml、58〜102日間処理)。A系:形のそろった小型細胞が密集のシート。B系:やや小型、形不揃、殆んど一杯のシート。C系:中型不揃、顆粒多、集落中心部厚し。D系:小型割に揃、集落形成、分裂多し。E系:死滅。F系:小型、揃、密集シート全面。G系:中型ほとんど一杯のシート、センイ芽細胞様細胞も混。H系:小型、割に揃、殆んど一杯のシート。I系:中型、不揃、顆粒多、集落形成。J、K、L系:円形回転管にて回転培養中、観察不能。M系:中型、薄、不揃、ほとんど一杯のシート。N系:中型、不揃、顆粒多、ほとんど一杯のシート。O系:やや小型、顆粒多、不揃、小さな集落。P系:円形回転管(静置)ほとんど死滅。Q系:小型、揃、密集シート全面。
その后の観察、H系:シート上に立体的集落なし、顆粒余り目立たず、動きまわりそうな細胞は見当らず。I系:顆粒の多い細胞あり(特に大きく拡がった細胞に)小型細胞群もあり(空胞なし)。R系:小型の細胞に空胞あり、シート上に塊はあるが生死は不明、異型性少し、大型少し、黒ぽい細胞質顆粒の目立つ小型細胞多し。(表を呈示)
上記の内、特にCとDは有望なので、復元接種を試みるべく、細胞の増えるのを待って居る。特にDは顕微鏡映画撮影によると、運動性がかなり活発で3極分裂のような異常分裂やEndomitosisなども記録された。 B)“なぎさ"細胞の復元接種試験
各種の可能性を考慮した結果、純系ラッテを用いずに(JAR♂x呑竜♀)のF1を作り(65'-8-6夕方出産、11匹)65'-8-7午すぎ、腹腔内に1000~2000万個/rat宛接種した。その后各仔とも発育しているが[10日后の観察]他の無処置の家族に比べ、全般的に見て発育が良くなく、痩せて居る。そのためが腹部が大きく見えるが、腹水は採取できない。(RLH-1・2匹、RLH-2・3匹、RLH-3・3匹、RLH-4・3匹)。やっと1000万個の細胞を揃えて、F1に、24時間以内に接種してみた理想的な実験なので、少くとも6月以上は観察する予定で個室アパートも用意して、時の経つのを待っている。
C)DAB耐性度試験
DABに対する耐性度を細胞の側から定量的に表現するため1種の“Dose
response curve"のようなものを描くために、まず対照としてRLC-5株(無処理、肝)を用いて6日間に渉りDABを3種濃度に添加して増殖曲線をとったが(図を呈示)、何の理由か不明であるが、無添加群でも増殖率が悪くデータとしては使えないような結果になってしまった。
どうして増殖が悪かったかであるが、この頃どうも一般に当室ではその傾向があるので、培地成分、特にラクトアルブミン水解物の陳旧化に因るのではないかと考慮し、新しい製品によるテストを準備中である。なお血清は春期採取の凍結保存材料を用いた。
《佐藤報告》
(表を呈示)表は前号に記載されたものに、其の後腫瘍が発見されたものを追加しました。最上列には肝細胞株名を記載してある。その株の由来は矢張り前号に系図を書いてあります。RLD-10のみ例外的に左に書いてありますが、他のものは株の系図と同じ順序で並べてあります。この結果から見ると64'-9-5にRLD-10株より3'-Me-DABを与へたものは65'-3-4にRLD-10(10〜20μg)からpipettingによって分離されたものを除いて、すべて腹水肝癌を生じたことになります。肉眼的に脳内水腫のみでTumorをみとめられない例で全脳をすりつぶして1ケ月程度のラッテ腹腔へ動物継代したとき明かに腹水肝癌を生じて死亡した例がC85の実験のRLD-10(10〜20μg)株例に認められました。この事は先に脳水腫とTumorを同時に認めた例と併せて、脳水腫とTumorとが密接な関係にある事を示しています。脳内水腫による死亡日数は腹腔内腫瘍死に比較して約1/2ですから、明らかなTumor形成(腹水癌発生)のsignal
signとなる。
復元して出来たTumorはC86例、C91例、C96例及びC97例については動物継代及び再培養を行い比較検討中である。今の所これらの細胞の間にかなり相異がみられるやうであるから、最初の発癌剤のときより新しい癌細胞が培地中でできつつあると考えたい。現在までの復元陽性成績から考えると、RLD-10(10〜20μg)及びRLD-10(10-L2)が復元陽性の筈出、最近65'7-7
C114:i.c.3例、i.p.4例、subc.3例。65'-7-24 C125:i.c.4例、i.p.4例を追加復元した。現在までの所Tumorの発生は見られない。
(表を呈示)C53、C60、C61、C74、C82、C84はDABをfeedingして後、株化された肝細胞名です。
C74即ちDABを191日与えられてから培養された株は、C82(DAB-feeding236日)に比して腫瘍性が弱い。
C84は復元后、日が浅いので未だ結論は出せない。
下半分は現在判明した対照株の復元成績ですべて陰性です。
再現実験は目下色々の方法ですすめていますが、未だ成功したものはありません。
《土井田報告》
RLH各系の細胞遺伝学的研究
前月月報に続いてRLHの4系の染色体数の分布および核型分析の結果を報告する。
(図を呈示)第1図はRLH-1、-2、-3、-4系細胞の染色体数の分布を示す。これらの細胞は1965-6-16に標本を作成したものである。モードの染色体数は69、78、58、69であり、月報6508号の報告とちがっていない。
第2図はRLH-3の染色体数およびその分布を経日的に調べた結果である。標本6501は月報6501に報告したものである。此の時染色体数のモードは63にあった。染色体数は左にひずんだ分布を示している。標本283は第1図に示した結果と同じである。染色体数は58で、分布は均等で正規分布に近い型を示している。標本作成日は上記1965-6-17である。核型分析を行なう程よい標本でなかったので、1965-7-13に高岡さんの方で標本(air
dry法)を作ってもらい、観察した結果が標本285に示されている。僅か1ケ月で染色体数のモードは55に移り、標本283より更に3本減少した。核分析の方が充分に進んでいないので、どの様な変化が起っているか不明であるが、極めて興味ある現象と思はれる。染色体数の違った細胞間のviabilityに差がるにしても、何故このように徐々に変化するのか。RLH-1の染色体数が安定しているのと極めて対照的であり、変異性の原因について更に考えてみたい。
第3図はRLH-4細胞の核型である。此の細胞は染色体数69で、13本のtelo-centric染色体を有している。他はMeta-、submeta-染色体である。RLH-1は14〜15本のtelocentric染色体を有しているが、相対的に極めて核型は類似している。厳密な更に多数の細胞の核型を調べた上で検討したいと考えている。
《高井報告》
以前から期待していたbEIは、その後増殖が極めて悪くなり、むしろ死滅する細胞が多くなって殆ど絶滅、bE の一部とbEVは雑菌感染で絶滅してしまい、結局7月末から新たに再出発の形となりました。
1)btk mouse embryoの皮下組織の培養(bE 及びbE )
以前からembryoを用いることの不利と、更に全胎児を材料とすることの不利を指摘されておりましたので、今回はembryoではありますが、その皮下組織のみを材料として7月30日培養開始。方法は次の通り。btk
mouse embryo 7(出産直前位)。頭、手足、尾を除いてから、ピンセットで皮膚をつまんで、ちょうど服をぬがせる様にしてむきとる。
bE =この皮膚片→皮下組織(筋肉も一部入って来る)をむしりとり、トリプシン液を加え、30分間室温でstirrerにかける→1,200rpm10分間遠沈→20%CS・YLHにsuspendして、TD40
3本へ(約15万cells/ml)。bE =この皮膚片をトリプシン液中で30分間stirrerにかける→遠沈→TD40
3本へ(約15万cells/ml)。
bE の場合も、この程度のトリプシン処理では皮膚の上皮細胞はバラバラにならず膜状に残っています。得られた培養細胞は、以前よりは均一な紡錘形のもので、殆どfibroblastsと思われます。8月6日より、これらの細胞の一部に0.01μg/mlのActinomycinSの持続的な処理を行っています。
2)bE (8月18日培養開始)
妊娠16〜19日目のembryoを用いて、bE と同じ方法で培養開始。この時はbE の時よりembryoが小さかったので皮膚を剥がすのがやや困難でした。今後は妊娠20日位の出産間近のembryoを用いる必要があると思います。何れにしても、whole
embryoを使うよりは良いと思われますので、今後はこの方法でやって行くつもりです。
3)mouse embryo fibroblastsに対する高濃度Actinomycin短時間佐用の影響
Actinomycin高濃度短時間の間歇的処理による発癌実験に対する予備実験として、bE 初代(3日目)の細胞を用いてActinomycinS
1μg/ml及び0.5μg/mlの15分間処理の影響をしらべてみました。(図を呈示) 分注してから、3日目にActinomycin処理を行ったのは、今迄このcellのgrowth
curveを画いた時、lag phaseが割合長いことが多かった為、わざと遅らせてみたのですが、今回の実験ではlagは殆どなく(primary
culture後3日目に実験した為か?)。こんなに遅くする必要はなかったと反省しています。尚、Actinomycin
15分処理後、1回Hanks液2mlで洗ってから、Ac(-)のmediumに変えました。
何れにしても、0.5〜1μg/mlの濃度では、15分間の処理で、0.01μg/ml持続作用に匹敵する位の影響があることが明かになりました。又、この場合、持続作用の時とは異り、4日目に一度減少した後、6日目で又増加していることが注目されます。しかし乍ら、週2回短時間処理で発癌をねらうためには、これではまだ少し作用が強すぎるかとも思われます。作用時間を15分間以下にすることは技術的に困難と考えられますので、今後もう少し低濃度で15分間処理の影響をしらべてみたいと考えています。
《黒木報告》
ラット胎児細胞(肺及び皮膚)への4NQの添加(1)
細胞が発癌剤により癌化するとき、発癌剤はどのように働いているのか、この機作を研究するのが我々の目的である訳ですが、そのための作業仮説(手がかり)がうまく出来ないため、4NQの添加をのばしてきました。
しかし、佐藤二郎先生、勝田先生の考え、成績から見て、発癌剤による細胞のdamage、それを通しての細胞の耐性かく得を一つの道標とすることができるのではないかと考えるに至り、ここにやっと4NQを添加することにこぎつけた訳です。又、2倍体細胞に関する山田先生の仕事からみても、transferするとき、死んでしまうcellが可成りあることと考え、subcultureはなるべくさける方針にしました。
(1)RES-13(Rat embryonal Skin)
Donryu Rat embryoのSkinをexplant outgrowth法でcultureしたものです。(図を呈示)
Skinは1匹分を剥し、メスで細切后explant
outgrowth法でcultureしました。初代はきれいなfibroblastのsheetでしたが、2代目からLungと同様の細胞質のうすい拡がった形態を示すようになってきました。
☆RES-13-NQ-1は10-7乗M添加后、full sheetとなったためtransferし、失敗した例です。このとき、10-7乗MではGrowthに殆んど影響のないことをMitotic
index(計算法を呈示)を計算して確認しました。
☆そこで10-6乗Mに一度に高い濃度を加えてみたのですが(RES-13-NQ-2)、これはほとんど全メツに近く細胞がやられてしまったと云う結果に終りました。
(2)REL-130(図を呈示)
REL-130は6匹分のRat embryo lungsをまとめて0.1%pronase
digestionにより始めたものです。培地は最初の4日間、一部にBov.alb.を1.0%添加しましたが、toxicのことが明らかになったため、それを抜き、CS
10%、Eagle MEM(GLY+.SER.、PRO.、Pyruvateを添加、CYSは4xに濃度を上げる)を用いています。細胞の形態、Growthは前報の通りです。
☆REL-130-NQ-1
7月29日より添加開始。はじめは10-7乗Mでしたが以后、10-6.5乗、10-6乗、10-5.5乗Mと濃度をあげて来ましたが、cell
damageの様子はなく、困っています。今后更に-5.0乗までもって行く積りです。
細胞は4NQ添加にも拘らず、Growthをつづけ、full
sheet−multilayerになっている状態です。形態はmultilayerのためかspindle状、格子模様がみられます。
☆REL-130-NQ-2
8月2日より3日間、一度に10-6.0乗Mの4NQを加えたところ、sheetの3/4位が剥れ落ちてしまい、残ったところに島状のcell
sheetをみるだけになりました。4NQの添加は三日間で打ちきり現在は普通の培地で細胞をgrowthさせています。
このように高濃度の4NQに対して耐性のかく得(又は先天的な耐性)は今までの報告になく興味ある現象ですので、今后注意していきたいと思っています。
なお、L細胞のPE50は(50%のplating aff.を起させる濃度)は、約10-8乗Mと云う成績が出ています。遠藤英也氏のDataによると、Chang
Liver cellは10-5乗Mでほとんどmitosisがみられなくなるとのことです。
《高木報告》
梅雨以降無菌室の状態が全く不良で、moldになやまし続けられたが、8月中旬にcoolerをつけたので大分よくなり、これからの仕事に励まうとしている処です。従って仕事の方は大した進歩がなくて申訳なく思いますが、以下moldになやまされず行い得た実験についてのみ記載します。
Exp.3 rat submandibular gland(8day old
rat)
培地80%modified Eagle+10%CEE+10%BS。
組織片をsupportするのにteflon ringに不足を来した為、Spongelを用いた。即ちSpongelの上にlens
paperをおき、その上に3〜4片のsubmandibular
glandをおいた。培地交換は3日毎に行い、5日毎に固定してH&E染色を行い検鏡した。
その結果、培養5日目にしてcentral necrosisがみられ、10日目に至ると実質細胞の変性がましたが導出管腔壁の細胞は割に良い状態に保たれ、これは15日目まで同様であった。なお管腔内に小円形でpicnoticな核を有する細胞塊を認めた。培養20日になると組織は殆ど壊死におちいった。全期間を通じてmitosisの像はみられず、培養と共に壊死におちいる傾向が強くなった。
Exp.4 rat skin(4day old rat)←4NQO
培地modified Eagle+10%CEE+10%BS。
teflon ring、lens paperを使用した。3つの群をおいた。1)Control。2)4NQO
10-6乗mol。3)agar mediaに組織片をおく。
培養5日目になると角質が大体2〜3倍に厚くなり、その後は変化がみられず、むしろ15日目になると角質は表皮からはがれて来る。表皮は一般に5日目までに幾分厚くなり、その后は厚さに変化を来さない。核の大きさは培養と共に一部のものにおいて増し、大小不同の傾向がややみられる。mitosisの像は本実験ではみられなかった。毛嚢の構造は5〜10日目で次第に失われる。10日目以後になると全実験群に壊死の像がつよくなったが、その程度は4NQO添加群においてやや強い様に思われた。
agarを用いたsolid mediaとliquid mediaとの間に明らかな差は認められないが、liquid
mediaがやや良い様にも思われた。これから培地条件につき検討を加えてみる予定である。
《堀 報告》
前報の終りに書いた事に従って、今月はin
vitroにおけるenzyme inductionをシロネズミ肝細胞の培養初期に試みることにして、その手始めとして次のことをやってみました。 (1)G6Pdehydrogenaseについて:このenzymeはシロネズミを3日間絶食させ、続いて[30%casein、60%glucose、2%Yeast,4%植物油、4%粗製塩]よりなる餌を2〜3日与えると、無処理の肝では極めてうすくしか染色されなかったものが、非常に濃く染まる様になり、簡単にinductionを証明出来ます。処が、in
vitroでは同じ方法がつかえないので(inductionのために)、まず上記の処理をしたネズミの血清、各種臓器をとり出し、その抽出物を作って、色々なdoseで無処理のネズミの腹腔に注入し、その肝を染色してinductionが起っているかどうかを調べてみました。もし、有効抽出物が得られたら、それを培養細胞に適用しようというわけです。処がどんなことをしてもさっぱりその有効成分を分離出来ず、この試みは目下の処失敗です。
(2)G6Paseについて:ネズミにcortisoneを投与すると肝のG6Pase活性が3倍位上昇すること、この上昇はenzymeがinduceされたためであることが知られています。そこで、培養肝細胞のcortisone処理を行い、G6Paseの染色を試みました(培養するとG6Paseが染らなくなることは前に報告しました)。1μg/mlから上のdoseで色々やってみましたが、10μg/ml以上では短期間に細胞がやられてしまうので、結局1μg/mlで1日〜1週間処理をしてみたのですが、結局これでもenzyme
inductionは不成功でした。目下、in vitroでのenzymeinductionを如何にやったらよいか困って居ります。
上の実験とは関係ないのですが、phytohemagglutininの培養肝細胞に及ぼす影響を調べて居りますが、目下の処顕著な増殖促進効果はみられて居りません。
【勝田班月報:6510:培養肝細胞の酵素活性】
《勝田報告》
A)“なぎさ”培養からDAB処理に移して生じた変異細胞株のDAB消費について:
1〜数ケ月間“なぎさ”培養をおこなってから、TD-15瓶に継代し、これに5
or 10μg/mlの高濃度にDABを与えると、3〜4日後の第1回の培地交新のときにはDABが消費されているが、次の3〜4日後の第2回目のとき、非常に多くの例で、DABが消費されなくなっていたことはすでに報告した。
(表を展示)表はDABを加えてから0.5〜1月後に測った第1回のデータと、さらに約3月後に測った第2回のデータで、5μg/mlにDABを加え、約10万個の細胞を4日間培養した後、培地上清をコールマン比色計で450mμで吸光度測定したもので、Blankにはcell-freeでincubateした培地を用いている。第1回測定の際は4例だけが著しい消費を示しただけで、あとは消費能が著しく、或は中等度に低下していた。A株は第1回のときは消費せず、第2回のとき消費を示したが、これと同様のR株とを除けば、他はすべて、第1回のときと同じように、一旦失った消費能を回復していなかった。つまり、この“消費能喪失”はかなり安定した変化であったといえる。これら変異株の染色体数については現在分析中であり、ラッテへの復元接種試験も長期観察を準備している。
B)各種細胞のDAB耐性の試験
ラッテの肝細胞は他の細胞よりDABを高度に代謝することが知られている。そしてDAB肝癌にその能力のないことも同様である。それならばDABに対する抵抗性に於ても、肝細胞は低く、肝癌は強いのかどうか。培地にDABを0、1、5、10μg/mlと加え、各種の細胞について、6日間の増殖に対する影響をしらべた。(10細胞系についての増殖測定図を呈示)
a)正常ラッテ肝細胞株(RLC-4、RLC-5・継代2代)
いづれもDABの濃度に比例して増殖を抑えられる。同じラッテ肝といっても、株によって耐性に差のあることが判る。同じinoculum
sizeで比較するとRLC-4の方がRLC-5より弱い。RLC-5のinoculumを減らしてみると、RLC-4と同じようなcurvesになってしまう。代謝する細胞の場合はinoculum
sizeがものを云うのは当り前であろうが、4.1万個接種のRLC-5・10μgの線に同じ細胞系の1.2万個接種の1μの線が略一致している。継代初期(第2代)の肝は1μgでもこわされ、以上4種の内では耐性が最も弱い。
b)“なぎさ”変異株(RLH-1)
同じく肝由来ではあるが“なぎさ”培養で生まれた変異株の内、RLH-1について同様にしらべてみると、10μgは増殖が抑えられているが(こわされていない)5μg、1μgでは、少し抑えられるだけで、かなりの増殖度を維持している。
c)肝以外の細胞株(ラッテ心由来上皮様細胞株RLH-2、L株)
RLH-2で面白いのは、5μg、10μgではRLH-1よりも抑えられるのに1μgでは反って増殖を促進されていることである。L株では5μgで少し抑えられ、10μgで4日以後curveが下り坂であるが、6日以後の細胞数はまだinoculumのx3近い。
d)DAB肝癌由来の細胞株(AH-66、AH-130、AH-7974)
AH-66は培養の形態像は正常肝のそれによく似ているがDAB肝癌3種の内では、DABに対して最も抵抗性が低かった。AH-130、AH-7974の株はいずれもDABに対し抵抗性が強く10μgでも増殖を続けていた。
これらの6日後の細胞数のControlに対する%を以ってdose
response curvesを描いてみたが、どうもはっきりと細胞の種類別による傾向を示すような図にはならなかった。
:質疑応答:
[奥村]“なぎさ”培養からDAB高濃度に移した場合、細胞は死ぬのですか。
[高岡]はじめは余り増えませんが死んで行くのではないと思います。だから分裂を抑えているのではないでしょうか。
[奥村]Synchronous cultureでやってみたら如何ですか。TdRで抑えて揃えて・・・。
[勝田]TdRを大量に入れて揃えるのは良い方法とは思えません/
[奥村]合成をみるだけならよく判るでしょう。
[佐藤]一番困るのはTweenの問題です。Tween0.05でももうこたえる。Tween耐性(株)をつくってやってみたが、大分作用がちがいます。Tween0.05で10μgだから、10μgDABの時のTweenがかなりのshockで、DAB量としてはこれがmaximumでしょう。動物の場合でもオリーブ油などを合わせてDABをかけると、発癌能率が良いという報告がありますよ。
[奥村]Tweenで細胞の表面が変るのですか。
[佐藤]細胞質に脂肪顆粒が出ます。Tweenだけでも出るのです。
[堀 ]Tweenではbasophiliaがなくなるだけでしょう。liver
cellだけでなく腹水癌細胞にも同じ作用を示します。
[佐藤]一つ有利なことは、DABはTweenを入れないとよく吸収しない。だからDABを吸収しない細胞はまちがいない。
[勝田]“なぎさ”からDAB高濃度処理ですぐ変異細胞が現れるということは、DAB単独処理で変異細胞の現われるのに要する長い期間の内の、大部分の期間を“なぎさ”が代行するということになります。しかもその作用は似た方向への細胞変化をおこなわせている訳で、DABの作用のいくつかの内の一つは、やはりcatabolic
enzymesをやっつけることかも知れませんね。
[黒木]Dose responseの解析はできますか。
[高岡]1、5、10μgDAB添加群の増殖細胞数を対照群の増殖細胞数で割って100倍という式で計算してみたのですが、細胞種による傾向分けははっきりできませんでした。
[黒木]logにとったら良いのではないでしょうかね。0〜1μgはplateauで、それ以後は下がるというような・・・。blankノ吸収はどうですか。やはり450mμにpeakが行きませんか。
[高岡]450mμというのは血清培地と、それにDABを加えたものとの間で、吸光度の差がいちばん大きなところなのです。はじめにそれを測ってから使ったわけです。
[勝田]寺山さんも、この間の班会議のとき、450mμはDABの吸収のところだから、それで良いという話をしていましたね。
《佐藤報告》
(表及びShemaを呈示)RLD-10 Strain Cellsを材料として、3'-Me-DAB発癌の再現を行っている表を示します。動物への復元は、C99以外は未だ結果判定日(60〜90日)に達していません。C99を含めてすべての復元動物は未だTumorをつくっていません。A、C、G、以外の実験lineは現在尚実験進行中です。
次に再現実験の観察から得られた培養ラッテ肝細胞の発癌?に到るまでの形態的変化をShamaで示します。Shamaの要点は3'-Me-DABを添加すると、顆粒が細胞質に現われる。次いで細胞に空胞が生じて変性する。他方3'-Me-DABに対して耐性をもった様に見える細胞が出現する。この細胞は細胞質に顆粒が見えない。核仁が大きくなっている。この細胞は3'-Me-DABが更に追加されると、又悪性を起す。変性の中に耐性ができ、その結果更に強い耐性細胞が形成される。上記過程を繰り返して癌細胞が形成される。
復元成績については、RLD-10株に3'-Me-DABを添加して悪性化した細胞をラッテに復元した後、再培養した細胞AH-Te-86tについて、ラッテ(新生児)の脳内(i.c)、皮下(s.c.)に接種して生存日数を調べました。AH-66Fを培養して脳内及び腹腔内接種をおこなったもの、JTC-2(AH-130の培養株)を脳内に接種接種したものと比較してみました。
:質疑応答:
[勝田]脳内に接種して出来た腫瘤を、ラッテの腹腔に継代接種すると、どうなりましたか。
[佐藤]2例やってみました。勿論つきますが、死ぬのにはやはり50日位かかりました。脳内接種で死ぬということと、脳の内にtumorが出来るということは、区別したい。
[勝田]腫瘍性を確めるという意味では腹腔内接種の方がたしかでしょう。脳内接種で死んだのでは、死因が不明確なのでもう一回腹腔に継代してみなくてはなりませんから。
それから、接種細胞数が少ないとき、動物の延命日数にばらつきが大きいように思われますが、理由として、1)接種細胞数にばらつきが大きいか、2)動物が純系でないため動物の個体差が大きいか、この二つが考えられますね。
[黒木]接種細胞のばらつきが大きく影響するでしょう。
[勝田]RLD-10以外の細胞も使ってみる必要がありますね。
[佐藤]だんだん細胞をかえてみたいが、まずは再現性をたしかめてみます。
[勝田]再現性を確めるには、箒星形細胞の株などより、別の実質細胞の株について確めるべきでしょう。
[佐藤]RLD-10の色々な処置群の内、(系図を呈示)左の半分の群がいづれもつかないで右半分だけがつくというのは何故か、ということですが、DABの与え方が影響するのではないかと思います。図では入れ放しのように見えるところでも、増殖具合によって、ときどきDABを抜くことがあったのです。primary
cultureでもはじめていますが、1μg/mlでも細胞の消滅して行くことが多いので難しいです。
[黒木]477日→840日の変化は再現できないのが問題ではないでしょうか。また840日後の所ですでに腫瘍化しているのではないでしょうか。
[佐藤]それは考えられますね。
[黒木]primary cultureで1μg/mlが限度ということは、477日位で10μg、800日位で30μg、477−840日の間のDABなしの培養が問題になるのではないでしょうか。
[佐藤]株分けする前に癌になっていたのか、それとも細胞のcontamiがあったのか、という点ですが、枝分けしてできた細胞が夫々かなり違っているのでcontamiでないことはいえるでしょう。10μg4ケ月の方ですが、DABを与えていないからなるべく培地交換をしなかったので、これが問題かも知れません。継代をした方が癌を作り易いのではないか、といま思っています。それから細胞濃度によって、例えば10,000と100,000とで、DABの作用が違うようです。
[勝田]DABの消費具合はどうですか。そんな高濃度に加えていれば、培地交新のとき目でみても判る筈ですが・・・。
[佐藤]まだやっていません。細胞数が違うとものすごく違うから、目で見るのでは問題と思います。癌化した分も測ってみるつもりです。
[勝田]知りたいことは、あの系図のどこで消費が変ったかということですね。
[佐藤]手間がかかって今の方法では出来ません。
[勝田]君の方法は1μg/mlで測っていますが、routineに10μgも入れていれば、変化があればすぐに判るのではないでしょうか。わざわざ測らなくても作業中に判る筈です。
[佐藤]そういう意味なら、今の細胞はほとんどDABを消費していません。それから、この実験はここで中止して、今後は色々の注意を生して、再現実験をした方がいいと思っています。そして実験のときには形態、特に核に念を入れるつもりです。
[黒木]10μgに対する耐性ですが、他のlinesで長期培養したもので、DABに対する耐性がありますか。
[佐藤]primaryで1μgだから、株ならすごく耐性があるとはいえます。しかし10μgの方も完全に耐性というわけではありません。ときには抜いて細胞を増やしますし、継代にも注意しています。
[黒木]primaryからやるときも、10μgまで持って行かなくてはいけませんが、DAB(-)で数百日かかるところを、DAB(+)でどの位かかるかが問題ですね。
[佐藤]殖えるようになったらいいのではないですか。primaryを早く増殖系にもっていくにはどうしたらいいかということも同時に考えています。シャーレのコロニー法を考えています。
[勝田]寒天法はどうでしょうね。効率は悪いけれど・・・。
[高岡]DAB耐性は、株によって個体差がすごく大きいようです。そして耐性は株の培養日数とは一概に結びつきません。
[奥村]耐性とcarcinogenesisと直接関係がないということにはなりませんか。
[高岡]まだはっきり判りません。DAB肝癌ならばDAB耐性かと思ったのですが、そうとは限らないのですね。
[黒木]耐性と消費を区別しなくてはならないということになりますね。
[佐藤]培養日数を長くしたら変ることがあるのではないですか。
[高岡]RLC-5は現在使っている株のなかでは培養日数が長い方ですが、それでも他の株よりも多く消費します。
[勝田]考え方として、消費と耐性とは区別した方が・・・と思います。
[黒木]本来は区別されますね。消費そのものが細胞のdamageと同義的なものならいいのですが。
[佐藤]DABがなくなることは、DABの一定の所が切れたためとは限りません。
[黒木]azobandが切れるということではないのですか。
[佐藤]そうとも限りません。培地でみているのだから、細胞の蛋白にくっつくだけのも、分解されるのも、いろいろあります。
[奥村]耐性とはどういうことでしょうね。
[佐藤]生体でDAB肝癌が出来ることは、少くともDABでやられるような細胞なら存在できない筈で、だから生残る細胞、耐性細胞でなければ、癌細胞とは考えられないということになります。
[奥村]生残ること即ち耐性ということより、非感受性的ということも考えるべきでしょう。つまり、いわゆる耐性と、みかけ上の耐性があるでしょう。かなりgeneticな意味としての耐性と、消費しないということは、区別しなければいけないと思います。
[佐藤]耐性を遺伝的にはどういう風に考えますか。
[奥村]耐性因子の概念を考えます。
[佐藤]増殖率を耐性としてみるのかどうかを、消費の方と両方をためしてみたいと思います。
[土井田]普通は死ぬかどうかの生存率でみます。それに対し、最近bacterial
geneticsの領域では、molecular levelでやっているものがあります。大腸菌にUVをかけると、thymine
dymerができます。UV耐性のはこれを放り出して、あとrepairするのです。このように耐性の意味が判っているものがあります。
[佐藤]耐性というより、増殖率、消費率といった方がいいでしょう。
[土井田]resistanceということがあります。
[佐藤]生死ということを基準に耐性を云えばよいのですか。
[勝田]細胞浮遊液をシャーレにまいて、集落のでき方をみるというのも、増殖をみているわけですから、結局生死よりも増殖を基準にしている方が多いですね。
[佐藤]生きていても増えないものもあるし、DABにやられながらも殖えるものがあります。
[奥村]耐性より抵抗性の方が広い意味があるのではないでしょうか。
[勝田]生死の場合は、耐DAB生存率というような言葉を使うべきでしょうね。
《堀 報告》
月報6507に書きました様に、培養肝細胞のグリコーゲンやphosphorylase活性は、培養後3hrs.にして全く検出不可能になってしまうことが既に判りましたが、その際用いた方法は、8立法mm位の組織片をカバーグラスにのせて回転培養し、時間を追ってその組織片をとり出して凍結切片にするというやり方でした。
今回は比較的大きい組織片(0.1〜0.2立法cm)を作り、これを炭酸ガスフランキ中で(1)培養液を用いず、(2)LD-20にinsulin(0.1〜1u/ml)、または、phlorizin(1〜10mM)、または、cortisone(1〜20μg/ml)を添加した培地と共に静置培養し、2、4、6、8hrs.後に取り出して凍結切片とし、そのグリコーゲン、phosphorylase、G6Pase、G6PD活性を染色により調査してみました。insulin、phlorizin、cortisoneはいずれもin
vivoにおいて肝グリコーゲンの増加をもたらすと同時に、cortisoneはG6Pase活性の上昇をうながすといわれています。またphlorizinはphosphorylaseのinhibitorともなりえます。
結果は、意外なことに(1)mediumを用いず唯、単に炭酸ガスフランキ中に放置しておいた組織片が一番長く酵素活性とグリコーゲンを保持しており、(2)insulin、phlorizin、cortisoneなどの添加は殆ど何の影響もなく、無添加培地を用いたときと同程度の酵素活性の消失を示しました。更に、これら3物質を培養1週間のliver
cellに作用させてみましたが、PAS、G6Pase染色の増加は全く見られませんでした。唯、G6PD(G6Pdehydrogenase)活性は上記組織片での実験では、殆ど検出不能な程の活性しか示さなかったのに反し、培養して組織片からoutgrowthした細胞では、組織片に接している部分の細胞に限り、明かに強い増加した活性を示し、組織片から遠い細胞程、弱い反応を示しました。目下の処、調査した数少い物質の中、培養した細胞で活性乃至は含量が増加したものはこのG6PDのみです。
:質疑応答:
[勝田]薬剤の効果は投与期間にも関係あるでしょう。
[堀 ]コーチゾンでは、いろいろやってみましたが、10μg以上では変性におちいります。1〜5μg1〜2週ではG6Pは変化ありません。
[勝田]migrateした細胞の内で、植片に近い細胞の方がG6Pase活性が高いように染っていましたが、ギムザ染色などでも染まり方はそのようですね。
[堀 ]本当は肝細胞についていい染色があって、癌化したかどうかを染色でみられる方法があればいいと思います。
[黒木]G6PDHでisozyme patternはどうでしょう。
[堀 ]普通の方法では1〜2本出ます。
[黒木]isozyme patternで違うものが出ればinductionと見るのですか。
[堀 ]まだ調べていません。培養の場合は、組織量が少いので抽出してみていません。生体材料ならば簡単に抽出できるのだから、何か有効成分があっても良いのですが、それを調べると、生体でのincucerの実験になってしまうので、その点ためらっています。
[勝田]固定法はどうするのですか。
[堀 ]-70℃のアセトンで固定して脱水し、いきなり染めます。
[黒木]培養しているとisozyme patternが変ってくるということを今度癌学会で発表する報告がありますね。
[奥村]ハムスターでは1本になります。ふえるのではなくて減る方の変化ですね。
[堀 ]Minimal deviation hepatomaではG6PDHが他の肝癌より割合に高いですね。G6Paseも他のに比べると高い。肝臓の悪性化はG6PDHの活性に関係があるように考えられます。また酸性ヘマトキシリン染色で細胞を染めると、肝細胞は染まりませんが、肝癌は染まるのと染まらないのとあります。
[勝田]うちのラッテの肝細胞の株でやってみたらいいのではないでしょうかね。
[堀 ]冷アセトンで固定して送ってもらえばやりますよ。
[勝田]G6Paseもcheckしてみたいですね。
[堀 ]冷アセトン固定のほかに、1%フォルマリン固定し直した方がよいこともありますから、送り方については、もう少し検討しましょう。
《高井報告》
今回はbEVI、及びbEVIII群のその後の経過と、in
vivoで作られたActinomycin肉腫(固型腫瘍)のprimary
cultureについて報告します。
1)in vivoで作られたActinomycin肉腫(固型腫瘍)のprimary
cultureについて。
in vitroにおけるActinomycinでの発癌実験の際の目標をはっきりさせるために、btk
mouseで作られたActinomycin-induced sarcomaのprimary
cultureを行い、その形態及び復元性をしらべてみました。材料の皮下肉腫はbtk
mouse(♂)に、本年1月26日より約4ケ月間Actinomycinを週2回皮下注射して、8月に生じてきた腫瘍で、トリプシン消化(約60分室温)したものを、15%BS・YLH培地で培養しました。(ASS.I→8月11日培養開始。ASS.II→9月9日培養開始。)
細胞の形態は非常にsharpな感じの境界鮮明な紡錘形の細胞がかなり多いのが注目されます。この型の細胞は、今迄屡々報告して来たところの、bEAc群に現れて来る細胞とかなりよく似ております。
ASS.Iの方は8月16日(5日目)にbtk mousu腹腔内に復元接種(100万個)し、このmouseは、28日後に腫瘍死しましたが、腹水はなく、腹壁及び腸間膜にTumorが認められました。この事からbtk←Actinomycinのin
vitroの発癌をcheckする場合には、腹腔内接種よりも、むしろ皮下接種の方が適しているのではないかと思います。
ASS.IIの方は、4日目の細胞を皮下に接種し(30万個)、約1W後より皮下に結節を触れ、現在漸次増大しつつあります。
尚、ASS.Iの方は、2代目へ継代しましたが、約5日後には殆どの細胞が変性、脱落してしまいました。
2)bEVI−K.及びAc.群について。
上記のASS群の細胞の形態を参考にしながら、in
vitroの発癌実験の方を見て行くと、bEVI.K.(Ac.(-))群では既報の通りの細胞ですが、bEVIAc(8月6日以後Ac.0.01μg/ml)はAc.添加後8〜10日頃には、すでに細い紡錘状の細胞が多くなり、2W後にはsharpな小紡錘型のものと、広いcytoplasmaをもった細胞とが混在しておりましたが、8月23日第4代への継代後、突如として、全くK群とよく似た細胞ばかりになってしまいました。このことから、Ac.添加後、ASSの細胞に近い細胞が出現したら、それらが消失(selection?)してしまわないうちにmouseに復元する方が良いかとも考えられます。
3)bEVIII−K.及びAc.群について。
8月18日培養開始。Ac群は8月25日にAc.(0.01μg/ml)処理を開始。Ac.添加後6日目に少数の細い紡錘型の細胞が出現。添加後17日目には、K群に似たひろがった細胞の所々に、小さなはっきりした境界をもつ紡錘型の細胞、円形の細胞、破壊された細胞が存在しております。これを9月13日に、btk
mouse1匹の皮下に接種しましたが、現在までのところ、Tumorはふれません。接種した細胞は一応70万個でしたが、この中にはかなりdamageをうけた細胞が多く含まれており、ASSに似た小紡錘型の細胞は約16万個でした。
今後は、最初から多くの瓶で培養、Ac.処理を行って、もっと多数の細胞を復元出来る様にするつもりです。(各群の顕微鏡写真を呈示)
:質疑応答:
[勝田]接種したマウスは、当分半年以上は観察した方が良いですね。
[高井]繰返して投与する法、その他でもう少し長く培養してみます。それからアクチノマイシン耐性も培養でしらべてみたいと思っています。これは一度やってみたのですが、余りちがいが出なかったのです。LD50でみると差が出るのではないかと思っています。DABとちがって、アクチノマイシン発癌は注射した場所からの距離によって作用が違うと思います。
[勝田]それなら耐性のできることが必要条件ではないでしょう。
[高井]割合早くできているかどうかです。
[勝田]佐藤君がDABでやったように、発癌経過を追って、逐次動物の局所を培養してみたらどうですか。
[高井]それはやってみたいのですが、どこから出来るかわかりませんので、in
vivoで発癌したもののin vitroでの性格をしらべたいと思っています。奥村班員が以前に仁の数について話して居られましたが・・・。
[奥村]仁の数がハムスターの場合、増えるということですね。
[勝田]紡錘形の細胞が増えるのを待ってから復元したらどうですか。
[高井]それがあんまり増えないので困っています。
[勝田]佐藤君、in vitroでDABで肝癌になった細胞の増殖率は?
[佐藤]1週間に10〜20倍で、あまり変りません。
[高岡]発癌もしない内から、ずい分増殖するのですね。うちの正常肝細胞株は週にせいぜい5倍位です。
[佐藤]アクチノマイシン発癌で、マウスで日を追ってしらべたのがありますか。
[高井]ありません。アクチノマイシン発癌は、病理の部屋でも、まだやっていませんから。
[勝田]病理的データがないというのは困りますね。まずそれからやる必要がありますね。染色標本でもつくって詳細に見るべきですね。
[高井]癌発生の再少量なども知りたいです。
[黒木]Act.Dで出来なくて、Act.Sだけで出来るというのは、どこが違っているからでしょう?
[高井]ペプチトがついていますが、その一部が違うだけです。
《黒木報告》
ラット胎児細胞への4NQの添加(2)
「耐性を通しての腫瘍性のかく得」という佐藤二郎先生の方針を受けついで、4NQOでも10-7乗Mから1/2〜1/4
logMolづつ濃度を増していきました。前報では10-5.5乗Mまでを報告しましたが、その後、濃度を更に1/4
logMol増加させたところ細胞変性と巨細胞の形成がみられるようになり、一応の目的を果すことが出来ました。しかし4NQO
10-5.25乗Mol添加を少しよくばり4日間続けたため、細胞の変性はなかなか回復せず(培地から4NQOを抜いても)に終ってしまいました。というのは、TD-15を炭酸ガスフランキに入れて培養すべくMetalcapしたまま普通のincubatorに入れ2日間放置するという失敗を演じたためです。(顕微鏡写真と継代略図を呈示)
REL(Rat Embryonal Lung)の継代
Ratのembryoからとった細胞の継代は思いの他むつかしく、継代図でも分るように1G、2GはうまくGrowthするのですが(REL-130では1G、2Gをそれぞれ6日及び8日でtransferしている)、3代目はGrowthが極端に落ちてしまいます。REL-130では、約2ケ月間transferできず(full
sheetを作らず)現在に至っています。
しかし、ビンのところどころにfocusができていますので、そこから増殖度のよい細胞が増えてくることと思はれます。現在までの培養したRELの1G、2G、3Gのうえつぎは次の如くです。
Exp# Cell Name 1G 2G 3G 4G
5G
#306 REL-123 3day 4day 4day nig.
#297 REL-101 10 5 4 14 nig.
REL-103 4 4 4 nig.
REL-105 6 13 10 65 9*
*6G=15d.7G=6d.8G=18d. nig.=no.growth
すなわち現在まで継代されているのはREL-130(これはGrowthは不安定)及びREL-105の二つです。transferしたらMetalcapで栓をし、炭酸ガスフランキに2〜3日入れるとよいようです。
封入体の形成
L-cells,REL-130,Yoshida Sarcomaに10-5乗M、10-7乗Mの4NQを加えたのでは封入体は見られませんでした。しかし、HeLaを用いたところ遠藤英也氏の記載のような封入体を見ることが出来ました。(写真を呈示)
4NQOよりは4HAQOの方が明瞭であり、また、24hrs.処理は3hrs.処理の方が著明です。この本態については、RNPとされています(GANN,52,173-177,1961)が、時間及び核内の場所から考えても核小体の変性物のようです。
なお、Yoshida Sarcomaは10-7乗Mの4NQで完全にdamageされます。
今後の問題
上述のようにラットの細胞は3〜4Gにcrisisがあるため、発癌Exp.には適さないように思はれます(4NQで、耐性からcell
damageへと来ても、丁度crisisと重るため継代出来ない)。
そこでドンリュウから純系のBuffalo、及びハムスターに動物をきりかえようとしています。特にハムスターは山根教授のところで基礎的なdataを出していますので仕事はやりよいかと思はれます(アルブミン添加培地による繊維芽細胞の継代)。
ただし、ハムスターのin vivoのExp.がないのでそれを平行して進める積もりです。
次の問題として、4HAQOの不安定さがあります。pH7.2で30分でこわれる程なので、Exp.に使いにくく困っています。4HAQOのAcetyl化により安定にすることを考えているところです。
封入体の問題はcellによって出たりでなかったりするので、どれだけの意味があるか疑問ですが一応H3-TdRによるAutoradiographyを用いてDNA合成能のcheckだけはするつもりです。
*附 継代培養された吉田肉腫のLife Cycle
134G.1663days cultureの細胞にH3-TdR 0.04μC/ml処理し(30分間)、Life
Cycleを調べました。さくらNR-M2使用、1W露出後、Konidol現像、Giemsa染色という順の操作です。
G.T.:14.0〜14.6hrs.、G1.:1.4〜2.0hrs.、S.:9.0hrs.、G2.:3.1hrs.、M.:0.5hrs.、L.I.:46%、M.I.:3.4%という成績です。Grainの分布表にもとずき10ケ以上を“positive”“labeled”としました。
1.5時間毎に48hrs.に恒りサンプリング、%Lab.mitosisの推移を表にしました(表を呈示)。二晩徹夜のおかげできれいなカーブがとれました。
今迄に発表された成績との比較では松沢氏の成績がもっともきれいです。
:質疑応答:
[佐藤]胎児の日数はどうやって決めるのですか。
[黒木]3日位mateさせて妊娠したものを使うのです。3日位の程度差で出来ます。
[佐藤]何日ぐらいのを使うのですか。
[黒木]15〜16日以後のです。肺はピンセットで簡単にとれます。
[勝田]4NQOを増やしていった実験はまたはじめて欲しいですね。
[黒木]logで濃度を上げていくと、細胞がやられるとき、急にやられてしまいます。はじめ限界の見当がつきませんでした。
[高岡]濃度を上げたときのsubcultureは?
[黒木]していません。
[勝田]核小体が抜けるというのは、うちでもサリドマイドか何かを入れたとき同じような経験があります。
[黒木]発癌性のあるものの場合にあんなことがおきるのでしょうか。何かがとけ出すのではないかと思います。
[勝田]細胞のRNAは? Unna-Pappenheimか何かで染めてみましたか。
《高木報告》
#5)Skin organcultureの予備実験の一つとして先ずsuckling
rat skinの培養に及ぼすChick embryo extractの影響を観察した。
方法は生後5日目のWistar rat skinを用い、70%Alcohol及びハイアミンに各々5分間づつ動物ごとつけて消毒後、Hanks駅で洗い背部のskinを切り取って3x3mmの切片を作り、Lens-paper上に二片宛置いてteflon
ringで支えmediumを切片の下縁がやっと浸る程度に入れた。mediumは20%B.S.を含むEagle's
basal media(但しPyruvateを含む)に10%Chick
embryo extractを加えたもの及び加えないものにつき検討した。
培養組織は、3日目毎に培地交換し、一部組織をBouinで固定し、H
& Eで染色して観察した。
9日目まで主として表皮は比較的よく維持され、これまでに報告したものと大体同様の所見で、真皮にはnecrosisが強く、核濃縮及び細胞質の染色性の低下をみた。embryo
extractを加えたものと対照の間にはほとんど差が見られなかったが、9日目のものでは表皮の状態はむしろC.E.E.を入れないものの方が幾分良い様に思われた。10日以後のものでは全体にnecrosisが非常に強いので培養を中止した。
以上の結果から生後のRatを用いる場合、C.E.E.は特にその組織を維持する上に良い影響は及ぼさない様であった。尚、生後のRat
skinを培養する場合、その消毒法が問題になるが、これまで動物を70%alcohol、次いでハイアミンに約5分間つけて消毒し、組織片を切り取って、これをHanks液で洗っていたが、この最後の洗いが不充分であった様に思われる。従ってこれら薬液によるtoxicな効果が、組織片の維持を短くしていたとも思われる。次回はこの点を検討したい。
#6)mouse skinをorgan cultureしこれに及ぼす4NQOの影響をみたが、今回は特に高濃度、即ち4NQO最終濃度10-4乗Mol及び10-5乗Molを入れた場合に組織細胞がどの様に反応をみせるかを検討すべく計画した。
生直前と思われるfoetal mouseの背部より3x3mmの皮フ切片を取りLenspaper上に置いてstainless
meshで支え、組織片の下縁にLiq.mediaが丁度達する様にして培養した。MediumはC.E.E.、B.S.を夫々10%含むEagle's
basal mediaを用い、これに4NQOを10-4乗及び10-5乗Molになるように加えた二群をおいた。3%炭酸ガス97%酸素混合ガスを送気して培養後、24hrs.、48hrs.、72hrs.、5日目、7日目、12日目にBouin固定し、H
& E染色にて観察を行ったが、先回4NQO 10-5乗Molで培養した時は5日目で已に組織がnecroticになった事を再検討する為とChang
Liver cellに4NQO 10-5乗Molを作用させると、24時間後に已に核内封入体を生じたとの報告があるので、その点をたしかめる為、この様な短間隔で観察した。
培養後、24時間で両群共に角質の肥厚を認め特に10-5乗群に著明であった。48時間後のものでは24時間目のものに比しあまり変化が見られず、72時間後に至り10-4乗群で表皮の一部に肥厚の傾向を認め、対照群及び10-5乗Mol群に見られた核周囲の明庭もみられず、核は一般に濃染し表皮表層部にて細胞質内空胞の増加を認めた。この傾向は5日目、7日目にても同様であったが、培養後日数の経過につれて全体的にnecroticになり、特に真皮にその傾向が強く見られた。培養12日目では、10-4乗で表皮の肥厚が見られず表皮細胞の状態は5日目、7日目のものと、ほとんど変化がなかった。10日目までで培養を中止した。Chang
liver cellに4NQOを入れたとき、24時間後にみられたと云う核内封入体の如きものは認められなかったが、表皮の肥厚が培養数日中に見られ、10-4乗Mと云う高濃度でもかなり長期間培養にたえることが分った。
動物に発癌剤を作用させる場合は、可成り高濃度のものが用いてあり(Mouseに4NQOを塗布する際は0.05mgを1回量とする。HamsterにDMBAを注射する時は5mgのPelletを用いる)この意味からin
vitroでもDMBAの如くpelletの形で作用させることも考慮している。また、これまでにskinは少し小さく切りすぎた感があり、もっと大きく切ってみたい。
これまでの成績で培養があまりうまくいかぬ原因として、先に述べた皮フの消毒の問題、組織が“しめりすぎ”になってしまう傾向があること、またskinは培養の場合まるく巻いてしまう性質があること、などが挙げられるが、上記の培養日数をへた組織の所見で表皮と真皮とが剥離する所見が見られたのは、Lenspaperから組織片を剥す際の外力による障害ではないかと考えられ、その点、rayon
acetate meshの使用等も考えねばならない。
:質疑応答:
[勝田]組織がレンズペーパーについたままで固定して薄切したら、組織がこわれずにうまくゆきませんか。
[高木]レンズパーパーがうまく薄切出来るでしょうか。
[奥村]濾紙でさえちゃんと切れます。
[高木]いろいろ試してみようと思っています。
[勝田]現在の技術では、長期間のorgan cultureが出来ないのですから、organ
cultureでの発癌実験は無理ではないでしょうか。Cell
cultureに切りかえるか、organ cultureで続けるなら、それをまた動物へ戻してみるという手があります。
[高木]胎児組織でなら、2〜3ケ月培養できますから、その間に勝負をつけたいと思います。Organ
cultureではCell cultureでかけられないほどの高濃度がかけられるという利点があります。
[黒木]4NQOの動物での発癌実験では120〜150日もかかると云われていましたが、今では最低1回の接種で割に簡単にできるのですね。
[高木]私は3週から1ケ月の所見で発癌をみています。
[勝田]どうしてもOrgan cultureでやるのなら、Culture内で一定期間4NQOを与え、その皮膚植片を同系の動物に移植し(同系ならtakeされますから)どの位culture内で処理したのが皮膚癌を作るか−をみる。それができれば、またculture内の観察に戻って、その処理期間の間に細胞にどんな変化が起るか、をみれば良いわけです。これはぜひやってもらいたいですね。
[黒木]動物に注射して、その部位をOrgan Cultureするのはどうですか。
[勝田]それで何が判るのでしょう。in vitroでの性質の変化を追いたいのです。
[佐藤]胎児をすりつぶして同種の動物に接種したらembryomaができたという報告がありますね。また、別のことですが、発癌物質のattack後、何回か分裂がなくては発癌しない、という考えがあります。
[奥村]Geneの変化がcumulativeだと考えて良いのでしょうか。
[黒木]Heidelbergerの考えだと、DAB発癌の場合、あんなに長く期間がかかるのを説明できないでしょう。
[勝田]不思議に思うのは、発癌剤の場合、組合せで加算的に行くということです。各発癌剤は夫々ちがう処をattackしている筈なのですがね。だから非特異的な破壊作用をしているのにすぎないのではないか、とも思ってしまします。
[奥村]Polygeneの考え方がありますね。作用過程は別だが結果は同じ、ということが考えられます。
[勝田]加算説は正しいようですね。ネズミに煙草の煙を吸わせただけでは発癌しないが、これに発癌剤を少し与えると肺癌ができる、という実験がありますね。
[奥村]煙草のアルコール抽出物でラッテに100%確実に癌ができるそうです。“憩”の抽出物です。
《土井田報告》
今月は前月にひき続きRLH各系の細胞遺伝学的研究につき報告するが、前月月報に記した以上に大きな進展はなかった。私自身の努力の足りなかった点もあるが、教室が私一人になり、その上国際生理学会のあふりを食って外人来訪が相ついだため、此の一月朝から晩まで殆んど自分の時間がなかったことにもよる。国際放射線学会に菅原教授を無事送り出し(菅原、土井田で発表)、9月にRLHの細胞遺伝学的研究を終る心算だっただけに雑用に追い廻されたことを、かえすがえす残念に思っている。
「核型分析の結果」
RLH-3系:染色体数が経時的に63から58、更に55と減少した。最初の63本を有する系(6501)ではMeta-、Submeta-、Subterminal-centric
chromosome数は約20本(18〜22)あり、残りはTelocentric
chromosomeであった。58を有する系(283)では前者が20本あり、残りはTelocentricであった。55本を有する系(285)ではMeta-、Submeta-、Subtelo-centricが25本に増しており、残りの30本は末端動原体染色体であった。核型相互間の変動についての決定的な根拠は何一つないが、Telocentric染色体の間で結合が起ったためによるかも知れない。
RLH-4の核型分析は充分進んでいないが、RLH-1のそれに極めて類似している。Telocentric染色体数はRLH-1で14〜15本、RLH-4でも14本を示した。
RLH-2は17本のTelocentric染色体を有し、他はMeta-、Submeta-、Subtelo-centric染色体であった。
:質疑応答:
[勝田]RLH-4は染色体数モードも核型もRLH-1と同一です。ここで考えられるのは、RLH-4を作るとき、途中でRLH-1のhomogenateを加えていますが、このhomogenateからRLH-1がcontamiしたか−ということと、もう一つはRLH-1の核が貪食されて、いかれた核にとってかわったという、一種のtransformationの可能性とこの二つが考えられます。しかしRLH-1のhomogenateを作るときは、colchicineを一晩入れたあと、水処理を30分してから、homogenizeし、あとはそのまま保存しているのですから、生きた細胞がその中に入っているということは非常に考えにくいのです。また継代して2コに分けた内の一方の容器にだけ変異細胞が現れたのですから、homogenateの内に生きたRLH-1が混っていたとすると、期間もかかりすぎるし、少し変です。
[土井田]染色体数がふえているhybrid cellが出来てもいいゆな気がします。
[勝田]今後うちにないような細胞の核を入れてみるより他はありません。
[土井田]Natureにhybridの論文が出ていましたが、hybridは簡単に出来るが、やがて無くなっていくようです。RLH-1とRLH-4のchromosomeは全く区別がつきません。
[奥村]RLH-3はRatの染色体らしい感じがしますね。acrocentricの多いところなど・・・。RLH-1はRatらしくありませんね。
[勝田]originが違います。RLH-3はRLC-3から出来ましたが、他の3つはRLC-2から出来ています。
[奥村]RLH-2はHumanのととてもよく似ていますね。
[高岡]RLH-2は多核が非常に多い系です。
[奥村]Hybridが出来るとき、2n+2n=4nでなくて、acro→meta的な変かでnがふえ、遂にHybridとなることがあり得ると思います。
[勝田]Translocationですね。
[奥村]Ratのnormalのchromosomeをお見せしましょう。(写真を呈示)
[勝田]RLH-1ではcellのfusionは見ましたが“なぎさ”ではまだ見ていません。今後はHybridをぜひやろうと思っています。蛍光抗体でみると、HeLaとLでもhybridができるという報告がありますね。阪大微研の岡田氏の、ウィルスによる細胞質fusionを応用した人がありますが、これではあとでvirusを除けないからCO60でも使ったらと考えています。
[奥村]それだとDNAをたたいてしまうのではありませんか。virusだと一杯ついてしまうし・・・。
[勝田]子供が両方の性質を持っていなければ本当のHybridとはいえませんね。
[黒木]Hybridをselectするのにずい分低い温度(29℃)を使っていますが、これは問題ではないでしょうか。
[奥村]温度を上げるとbubblingしますね。
《奥村報告》
培養細胞の変異に関する研究
培養細胞の変異を分析しようとする場合にある特定の形質をmarkerにする方法が一般的であるが、それはPhenotypeの変化をみるだけに止まることが大部分である。Isoantigenの様にgeneとの関連性が比較的容易に判る場合は別として、一般にはGenotypeとPhenotypeとの関連性は観念的には結びついてもそれを実証することは難しい。特に培養細胞を用いて細胞遺伝学をやろうとする場合、非常に変異の大きい細胞ばかりでなかなか細胞集団の特性を論ずることが出来ない。一応細胞の遺伝性は染色体及びDNA
compositionのlevelにあると考え得るが、その染色体の変異も生体内の細胞よりも培養細胞の方が複雑であって、染色体をmarkerにした遺伝学も極めて多くの難点がある。そこで私共は培養細胞を全く別個(生体内とは)の生物という仮定を基に、培養環境内に長期間増殖しつづける細胞の遺伝的必須単位を採ってみようと考えた。それ以来6年間、先ず第1のねらいとして染色体数の少ない細胞の分離を試みた。現在まで多数の細胞株を用い、諸々の分離法を試案して来たが、なかなか思う様に進まず5年半を経過した。幸にして昨年(1964)の後半からJTC-4細胞からのcloneの中に染色体数の少ないものを見出すことが出来た。その細胞系はJTC-4/Y2と名づけられ、現在継代中である。染色体数のdistributionは狭く30〜35に集中し、核型レベルでもかなりpurityの高いものである。少くともKaryotypeのレベルで、正常核型との比較検討が比較的容易である。この細胞は染色体が少いばかりでなく、核当りのDNA量も生化学的定量、MSPによる測定のいづれに於いてもDiploid
range以下であることが最近になって実証された。
1)Chromosome number:30-35
2)Reduction of DNA amounts in a nucleus(%):
染色体構成からの結果:15-25
MSPによる測定(With Feulgen reaction):20-45
生化学的測定(Burton's method with diphenylamine):40-55
:質疑応答:
[勝田]Collagenをつくっていますか。
[奥村]はい、つくっています。
[勝田]JTC-4のoriginal lineの染色体数は何本ですか。
[奥村]60〜70本です。
[勝田]2nから直接少ない染色体数のものが出来たのなら2nと比較できるが、一たんふえたものから分離した染色体数の少ない系の核型を、2nから変化したと言っていいでしょうか。
[奥村]DNA量、chromosomeの長さから云えるということで、DNAの質的な点については全くわかりません。
[勝田]diploid cultureから染色体数の少いのがとれると良いですね。もっとも効率は低いでしょうがね。そうして初めて比較できます。
[奥村]Genotypeとphnotypeが問題ですが、これも行きづまるでしょう。最近HeLaやFLでもcollagenをつくるという報告がありますから、collagen産生が必ずしもmakerにはならなくなりました。
[高木]JTC-4は、S期が長いので定量が問題です。MSPでみると少し多目に出ることがあるでしょう。
[黒木]MSPでみて2つのピークとしてみる時、ピークだけで比較すれば、それで良いのではないですか。
[勝田]対照として肝細胞を使うのは考えものですね。
[奥村]肝はこれまでに、ずい分よくしらべられて、いろいろ判っているからです。
[勝田]MSPのtailingでG2期はどのぐらいですか。
[奥村]4時間位です。
[勝田]コルヒチンを入れれば良いでしょう。
[奥村]コルヒチンを入れる時間がむずかしいのです。2〜2.5時間位でやっています。
[黒木]metaphaseを測るとうまくいきます。これまで染色体数が2nより少いと云われた細胞でも、実際のDNA量は2n以上ですか。
[奥村]2nと同じ位のものもあります。
[勝田]別の話ですが、再生肝では4nが2つに分れて、それだけでふえるのではないでしょうか。
[高木]いや、やはりH3-TdRのとり込みがあると報告されています。
[奥村]肝ではG1でcell cycleがとまっています。
[勝田]4NQOをJTC-4にかけたらどうでしょう。
[奥村]もっと生化学的なことを確かめてからにしたいです。plating
efficiencyが40%位で一定になるようにして・・・。
[黒木]染色体が移動することについて、そう言っている人はどの位信じていますか。
[土井田]培養細胞について、はっきり言っている人は少いです。late
labelling chromosomeについては?
[奥村]やはりsex chromosomeのようです。これはWistarの♂のようです。
[勝田]土井田君、RLH-3の場合の染色体の減り方はどうですか。
[土井田]RLH-3ではSubteloが二つくっついているのがありました。
[奥村]JTC-4/Y2にもそういうのがあります。
[土井田]そのものが、分れる時、反対方向に紡錘体ができると駄目ですが、一方向ならうまく分れます。確立1/2で。
[高岡]RLH-3については、今後も定期的に染色体をしらべる必要がありますね。
[勝田]Spindle fibersは何でできているのですか。
[土井田]染色では、Carbohydrate、RNA、S-S結合があるとされています。このS-Sは、fiberのできる時期だけS-HがS-Sになり、また元に戻ります。
[勝田]分裂のとき核小体のRNAがここに行くのではないでしょうか。
[土井田]行く可能性もありますね。
[奥村]染色体のキネトコアから出てくるという説があります。素材のarrangementは、もっと前に出来ていて、chromosomeについているとみなければならないでしょう。
[勝田]これまでのendoreduplicationの定義について説明して下さい。
[土井田]1936年Geitlerがendomitosisを定義を下しました。それは、染色体はPro.、Meta.と見えてきて、Ana.、Telo.と消えていく。核膜はどの時期にも残っているが、spindle
fiberはどの時期にも見られない。これをendomitosisとしました。これに対して、染色体が4本宛組になっているものばかりの時、endo-reduplictionといいます。
[黒木]Endomitotic-reduplicationといえば良いのではないですか。
[勝田]核が分れて細胞質の分れないのをendomitosisといっていいのではないかと思いますが。
[土井田]細胞質が分れないで核だけ分れるのはKaryokinesisといいます。細胞分裂をKaryokinesisとっCytokinesisより成っているとするわけです。
[黒木]Pairの内一方の染色体だけにdamageを与えるうまい方法はありませんか。
[土井田]軟X線などでやっています。そして染色体がdouble
helixでできているということが、発生のモザイク卵などを使って証明されつつあります。1963年頃のNatureには、染色体の微細構造がシェーマできれいに出されていました。
【勝田班月報・6511】
《勝田報告》
A)各種細胞のDAB消費能の比較:
前月号に[なぎさ→DAB]による変異細胞のDAB消費能について記したが、それに対する一種の対照の意味もあって、各種の株細胞について前号と同様の方法で4日間におけるDABの消費能をしらべてみた。結果は(表を呈示)、いちばん著明に消費するのは、無処置の肝細胞株RLC-5であった。逆にいちばん消費の少いのは肝癌AH-130からの株のJTC-1で、サル腎からの株JTC-12がそれについだ。その他は頂度それらの中間に位した。同じAH-130からの株でありながらJTC-2は中等度の組に入っていた。中等度の級の中の各株を眺めると、この消費能は肝であることか、DABで処理されたことがあるかないか等ということとは、関係がないかのように思われる。Proc.N.A.S.に出ていた[HeLaやKBも少いながらcollagenを作る]という報告と同じように、株化したために細胞の性質が変ってrepressionが減少したのかも知れない。
B)“なぎさ”培養よりDAB高濃度処理に移して生じた変異細胞の染色体数:
各種sublinesの内、今回は(N)、(O)、(Q)の3種について染色体をしらべた。算えられる細胞が少いので、とても図示はできないが、数だけ示す(表を呈示)。(Q)は2n=42本が多いが、この系は前号に記したようにDABの消費能の高い株である。その他のは消費能が低いが、染色体数には大きなばらつきが目立っている。
《佐藤報告》
最近の発癌実験における動物(Donryu系新生児)の生存日数其の他についてデータを送ります。検討して下さい(図を呈示)。
3'-Me-DAB添加細胞の3例は未だ生存しています。左側の細胞系は屠殺しましたが所見(-)現在の所外観上所見はありません。第3表は最初にRLD-10(Tw-10)が0.05%Tween20を添加(648日)し、培養総日数(502+648=1150日)で10万の細胞を脳内、腹腔内及び皮下に夫々3匹宛注射されたことを示しています。以下のC89、C91、C101、C147はRLD-10(発癌実験に使用した株)の復元です。C89の復元で肉眼的に異常なかった8例を接種后143日に屠殺した。この内の腹腔内接種の1匹の大網部に粟粒大腫瘤(本日の顕微鏡所見で癌細胞と認めた。)を認めた。腹水は認められない。−30日程放置しておけば腹水癌ができるかも知れない。−
3'-Me-DABによって発癌?した細胞系の復元によっておこる腫瘍死と其の発癌?に利用されたRLD-10細胞の復元によっておこる腫瘍死?例の間には圧倒的な差異があるが、正常細胞(?)から発癌したと云ひ難い。
次はDABとは全く無関係に樹立されたDonryu系ラッテの肝細胞株、RLN-8、RLN-10、RLN-21、RLN-36、RLN-39の復元成績です。RLN-8(培養日数1109日)の腹腔内310万接種の3匹を屠殺した所、2匹に夫々腹水5mlと20mlを認めた。動物継代は成績(現在21日経過)は未だ分らない。再培養細胞及び元のRLN-8の細胞形態から考察するとspontan
malignant transformationがおこったと考えられる。
《高井報告》
今月は学会つづきのため、実験の方は余り進展していません。
以前からactinomysin処理をつづけていたbE 、 、 は復元接種と雑菌感染のために殆どなくなったので、癌学会終了後に新たにmouse
embryoの皮下fibroblastsを培養して再出発したところです。
今回はmouse embryo fibroblastsと、actinomysin肉腫(solid)のprimary
cultureについて調べはじめているactinomycin感受性について報告します。
1)bE (btk mouse embryo皮下fibroblasts)のactinomycin感受性。
in vitroでのactinomycin処理によって細胞がactinomycinに対する抵抗性を獲得する過程を経時的に追うことを試みました。種々の濃度についてしらべて、dose-response
curveを画くのが本当でしょうが、それでは必要な細胞数が多くなり、本来の発癌実験に差支えますので、actinomycinSの濃度は0.01μg/mlの一種類に限り、対照群とAc群を夫々Acを含まない培地と、Ac
0.01μg/ml入りの培地で培養してみました。(表を呈示)
結果はグラフの通りで、17日間のactinomycin処理では、まだ対照群と比べて余り差はない様です。分注後、翌日の実験開始時までに見られる細胞数の減少はAc群の方が大きく、これはactinomycinによる傷害を受けた細胞が混在しているためと思われます。培養日数が長くなるにつれ、Ac群も対照群も共に増殖が悪くなり、こういう実験に必要な数の細胞を得ることが困難になるので、これより後の時期には、今日は調べることが出来ませんでした。
2)ASS (in vivoで作ったactinomycin-induced
sarcomaのprimary culture)の、actino-mycin感受性(図を呈示)。
primary culture時、直接、短試験管に分注して、上と同様な実験を種々の濃度のActino-mycinSを用いて行ったのが第3図です。primary
cultureのため、接種した細胞の全てが、ガラス壁に接着増殖するのでないためか、妙な形のgrowth
curveですが、actinomycinの反復注射によって出来たtumorではあっても、少くとも著明なactinomycin抵抗性はもっていないことがわかります。
《高木報告》
前の月報以来、日が浅いので、その間特に報告する様なdataは出ていないが、先月までの実験のあとをふり返って今后の予定につき少しのべたいと思う。これまでの実験で長く組織を維持できなかった原因として、動物のage、培地の不適当さ、組織がtoo
wetになる傾向があったこと、及び皮膚片を消毒する際の薬液の影響などが考えられる。組織片の培養中における保持及び皮膚を消毒する際の薬液の影響は、注意すれば除きうるが、培地については天然培地より合成培地に至るまで考慮してみる予定である。また、これまでの実験結果では、幼若マウスの皮膚を2〜3週間維持することが精一杯でこれではとても発癌実験が可能であるとは思われない。そこで兎も角皮膚組織を長く維持する意味で今度はfoetalmouse
skinをwatch glass methodで培養することを考えている。
すでに述べた如くBangらはFellのwatch glass
methodで2.5cmのwatch glassに1:1C.E.E.3滴、chichen
plasma10滴よりなるplasma clotを作り、6cmのPetri
dishに入れて、37℃で空気中において、人胎児の皮膚を6ケ月近くも培養しており、若しこれだけ長くin
vitroで組織を維持することが出来ればcarcinogenによる発癌もおこりうるのではないかと思う。この様に長く皮膚が維持された原因として、天然培地を用いたこと、少量の培地を用いて代謝産物があまり稀釋されない様な環境で培養したことなどがあげられると思う。具体的には3cm径のwatch
glassを5cm径のPetri dishに入れて、3滴のC.E.E.(1:1)と10滴のchicken
plasmaよりなる培地で培養したいと思っている。4NQOはplasmaにとかしてfinalが10-6乗〜10-4乗Molになる様にするつもりである。
今后は、これ迄通りの液体培地を用いた幼若動物の皮膚及び肺の培養と、watch
glass methodを用いた胎児組織の培養の二本立てで仕事をすすめていきたいと思っている。
《黒木報告》
10月は、東京、博多とかけまわったため、月報にのせるべきデータの集積はありません。現在考えていることを少し記してみたいと思います。
今度の癌学会のシンポジウムで山田さんが述べましたように、populationの中には、分裂しないで静止核の状態で止まっている細胞があると思はれます。この細胞はDNA合成の立場からみると、おそらくG1期にあるものと思はれます。(S期、G2の長さは細胞の種類を問わず大体一定ですので、S期の初めに分裂へのtriggerがあると考えてよいと思います) そしてこのG1期の細胞が分化への機能をもっていると考えるべきでしょう。
そこで、G1期のnon-proliferatingの細胞を観察する方法が問題となります。今回山田さんの発表された式、No=(2(1-P))n・[P:nonprolif.cellの頻度、n:分裂頻度]、ではno.nを入れてPを算出する訳ですが、動物体内の現象には全く適用できません。(in
vitroでも実際の運用には問題が残ります)。
今考えているのは、AutroradiographyとMicrospectrophotometryを併用し、S、G1、G2の細胞構成を計算し、更にGeneration
time時間構成からの細胞構成と比較し、その差からG1期の細胞を確認しようということです。この方法により、Slow-growing
tumor(例えばLY-group・吉田肉腫のLong-Survival
variants)はnon-proliferatingの細胞が多く、それが分化に向う(?)と云うような成績が得られればと思っています。
Hamsterは現在交配中です。妊娠次第、alb(+)medで継代培養→4NQO、4HAQO添加に入るつもりです。純系のハムスターのにないのが泣きどころです。
《奥村報告》
A.ウサギ子宮内膜細胞に関する実験
ウサギ子宮内膜細胞の培養条件に関しては以前にも報告したように、CO2ガス・フラン器を用い、培地は合成培地・NO.199に仔牛血清を20〜30%加えたものでよく、更にホルモン(Progesterone、Estradiol)を適当量加えると、無添加の場合より比較的長期間培養することが出来る。しかしホルモン添加培地でも、現在までの結果からみると(表を呈示)、5ケ月くらいがせい一杯で、次第に細胞が変性し、培養不能となる。培養中の細胞増殖は非常に悪く、H3-TdRの取り込みからみても増殖しない細胞が多い。そこで、培地中のホルモン添加量を増減したり、時には全く除いたりしたり、さまざま試みたが、今のところ細胞増殖に適当な条件を見い出していない。現在、ホルモンの他に2、3のビタミン、アミノ酸についても併行的に検討中である。
B.ヒト子宮内膜細胞に関する実験
ウサギの場合と並行してヒトの内膜細胞の培養を行い、その条件を検討中である。ヒトの場合には採取材料が限定されて、こちらの望むような材料が入手困難であるが、今までのところ13例中7例が2〜3週間培養可能、ただし、この場合ウサギのように細胞形態の均一性に欠け、又培地中のホルモン濃度も材料によって極めて変動しやすいので今后の実験に用いる場合にどの程度まで予備実験を生かし得るか、はなはだ疑問である。但し、ウサギのときに比べると材料によってかなり培養が順調でH3-TdRのとり込み実験においてもウサギの場合にみられなかったほど、多くのDNA合成中の細胞をみることが出来る。しかし、長期間の培養が困難であるという点では共通している。又、ヒト材料の場合には最初にplatingをしてから細胞種の選択をすることが重要で、その点から見てもウサギほど容易ではない。
《堀 報告》
速達をわざわざ頂きまして恐縮に存じます。実は今月は教授、助教授、助手が学会で全く出払ってしまって未だに帰って来ません。
その穴埋めと、今月より始った二年生の学生実習を加えて、学生実習が週の中4日と全く自分の事をする暇がなく、おかげで何も出来ずに終りそうです。従って月報にかくことがありませんので、申訳けありませんが、御容赦ください。来週は皆帰って来ますし、来月は少しは暇も出来るので、G6Paseなどの染色の際、遠隔地で固定して当方で染色出来る様な方法を考えて近日中に先生のsambpleを染める事をさせて頂きたいと存じます。その様な方向こそ共同研究のあり方だと思いますので。御健闘を祈ります。(せっかく時をみて肝癌を3例cultureしたら、islandによくのびたので気を良くした処、停電でCO2-incubatorがとまりcontamiというはかないことになりました)。
《土井田幸郎:挨拶》
御挨拶にかえて
癌に父を奪はれるまでもなく生物学や医学を志すものにとって癌を征圧し、癌の発生因を知らうとすることはある意味ですべての人が考えることであります。細胞の増殖や分化の問題に非常な興味をもっている私にとっても癌というものは極めてattractiveなものでありました。ただこれだけ過去から現在まで多くの人が取り組んで猶不明の点の多いものに、いきなり私の如き門外漢がとび込んで何が出来るかという点が私をして放射線と癌にはふれないでおこうと考えた大きな理由でした。
しかし、結局何等成果はあがらなかったものの、勝田先生をリーダーとする“組織培養による発癌機構の研究”班の班員に入れて戴いたことは、誠に有難いことでした。自分の考えていることと、他の人々の考えていることに開きがあって、何とか判ってもらおうと議論しあったことも楽しかったけれども、班員の皆さんがそれぞれ一生懸命におやりになっているのを見るのは楽しいことでした。兎も角発癌ということが成功したのを聞きえたのは実に気持のよいことでした。
私は11月1日羽田を出発しRochester大学に留学し、二年間放射線生物学の勉強を致すことになりました。主として培養細胞を用いcell
deathの問題ととり組むことになりそうです。染色体の仕事もするかも知れませんが、多少異なったやりかたをしてみたいと思っております。班を途中から抜けて皆様に御迷惑をおかけ致し恐縮致しております。その分、むこうに行って頑張ろうと期しております。
班員の皆様の御健康をお祈りし、班の一層の発展を期待して御挨拶にかえます。
【勝田班月報:6512:3'-Me-DABによる培養内発癌は果たして成功だったのか】
☆☆☆今回は特に、佐藤班員の最近の業績(3'-Me-DABによるラッテ肝細胞の培養内悪性化)について、若しそれが本当に3'-Me-DABの作用による変異であるのならば極めて重要な業績であるだけに、そして且それが班の共同研究の一部であるだけに、果して本当に3'-Me-DABによったのかどうかを各班員が納得できるように理解するため、大部分の時間を佐藤班員の報告とそれに対する質疑にあてることにした。☆☆☆
《勝田報告》
A.“なぎさ”培養よりDAB処理に移して生じた変異細胞について:
前回にも報告したが正常ラッテ肝細胞を“なぎさ”状態で1〜数カ月間培養し、これを継代してTD-15瓶に移し、DABを5或いは10μg/mlに与えると1週間以内に培地のDABを消費しないようにそのCell
populationの性質が変化する。“なぎさ”培養だけの場合に比べ、この処置をおこなった場合の特徴として、非常に高率に変異細胞の現れることと、非常に短期間のDAB処理でpopulationとしての変化があらわれることである。この際の“変異”のcriterionとして“DABの消費能”に注目したが、これは結果的には消費能だけでなく、染色体数のモードにも変化のあらわれていることが後にわかった。また“消費能の低下あるいは消失”はかなり安定した変化で、第1回の測定(DAB処理約1月後)のさらに3月後にもほとんどの細胞群がそれを回復していなかった。Sublines、A、K、P、R、TはRLC-5よりできたものであり、BはRLC-6、CはRLC-7からできた(各系の染色体数分布図を呈示)。
この場合問題にしなくてはならないのは、RLC-5の原株である。Rができるころまではよかったが、以後染色体のモードに変化があらわれ、継代とともにしだいにモードの本数が減少して行ってしまった。Tは減少しはじめてから実験にかかったものである。これらの変化はあとになってから染色体数をかぞえてみて判ったことで、やはり株を継代しているとき、特に実験に用いているときには、時々染色体用の標本を作っておくばかりでなく、その数もなるべく早くかぞえておいた方が良い、ということが判った。ともあれ、RLC-5の原株がこのようにかぞえるたびにモードの染色体数が減って行くのは面白い現象で、今後どの位まで減ってしまうか、別の意味で期待されるところである。
他の発癌実験では、これまですべて、染色体モードが42にあり、細胞の形態も異常のない株を我々は使ってきた。そして少しでも大小不同とか異型性のあらわれた場合は、これはみな凍結してしまった。今後の実験でもやはりこの方針は守り、且、なるべく生体から取り出した以後の日数の少い内に実験に用いるようにしたいと思っている。
B.Tween20の細胞増殖に対する影響:
Azodyesをとかすのにtween20を用いてきたが、このtween20のcytotoxicityが問題になるのではないか、つまりazodyeで悪性化したとしても、そこにterrn20が一役買っていると事が面倒になるので、RLC-7(正常ラッテ肝)とJTC-2(ラッテ肝癌AH-130)の両株を使い、DABを5μg/ml
finallyになるように揃えて、tween20の濃度を0.005%、0.01%、0.025%、0.05%とかえ、7日間の増殖に対する影響をしらべた。RLC-7では、薄い3濃度では細胞増殖を抑え、3者間にあまり差がない(controlの増殖度が低いため)が、0.05%で著明に細胞がこわされて行った。つまりtween20がDABの増殖阻害を促進している。JTC-2では濃度に比例してはっきり増殖抑制がみられ、殊に(DAB5μg/ml+Tw.20:0.025%)の群と(DAB5μg/ml+Tw.20:0.05%)との間に(DABなし、Tw.20のみ0.05%)の群が入ったほどであった。
:質疑応答:
[奥村]Tween20は、どの位まで濃度を下げられますか。
[高岡]加熱してうすめれば1/10まで下げられます。その代りすぐ培地で稀釋しなくてはなりません。
[奥村]佐藤先生の所は?
[佐藤]定量する時には、もっとTween20の濃度をあげないと、はかれません。血清が入っていると溶解しやすいように思います。寺山氏の所ではアルコールで溶すそうです。
[黒木]山田先生のHeLaでのコロニー形成に対するTween20の影響は、どんな結果だったでしょうか。
[奥村]Tween20添加で細胞増殖をおさえるということは、動物での発癌と培養での発癌との間に、大きな違いがあるということですね。細胞表面などに変化があるだろうと思われるし、直接に働く所などもちがうでしょうね。
[黒木]保存中に析出するのは、どの濃度からですか。
[高岡]低温保存で1/2稀釋までは析出しません。
[黒木]3'メチルDABの場合も同じように溶かすのですか。
[佐藤]同じです。
[奥村]3'メチルDABの方が少しは溶かしやすいのではないでしょうか。
[佐藤]そんな気もしますが、よく分かりません。勝田先生の株で2nを保つのは2年位ですね。
[奥村]九大の高木先生の株などは、わりに早く多い方へ移ったようですね。
[黒木]腹水癌は(ラッテの場合)低2倍体へ移ることが多いようですね。
《佐藤報告》
班会議で最近の実験について纏めて話す様、連絡がありましたので、一部はコピーにして持参します。できる限り御了解いただける様、説明いたしますが、完全に理解いただけるかどうか心配です。
RLD-10細胞に20〜10μgを添加して最初に出来た腹水癌の腹水所見、その再培養細胞の所見。更にin
vitroで20〜10μg添加をつづけた後、復元して出来た腹水癌細胞AH-TC91aの腹水所見、その再培養細胞の所見。RLD-10細胞から15μgDAB添加により出来た腹水細胞(AH・TC-97)とその再培養細胞の所見。RLD-10細胞に10μgDABを添加した後出来た腹水癌細胞(AH・TC-96)とその再培養細胞の所見。(顕微鏡写真を呈示)
それらの4系の腹水中にある癌細胞の島を構成する細胞の数を比較すると、1個が主流のものが3系、AH・TC91a系だけが、1個と11個以上とが同数でした。
次に4系の腹水癌の動物継代の所見をみると、いづれの系でも継代によって生存日数が短縮しています。例えばAH・TC-97aでは、復元第1代は73日生存していますが第6代は11日生存です。
(染色体数分布図を呈示)染色体は親株RLD-10(in
vitro)をはじめ、どの系も正2倍体ではありません。
RLD-10の対照系であるRLN-10に3'-Me-DABを添加した場合は、RLD-10に比して3'-Me-DABに対する抵抗が弱いこと。核仁の増大の殆んどないこと。等が特長です。20μgの3'-Me-DABを添加すると殆んどの細胞が変性するが、少数のtransform
or selectionの細胞がのこる。
:質疑応答:
[奥村]染色体数の分布図を拝見しましたが、検索してあるのは数だけですね。
[佐藤]そうです。
[黒木]復元接種したときはやはり途中経過をみるべきだと思います。
[佐藤]途中でtumor cellが見つけられたのに、結局死なないで生きているという例がありますから・・・。
[黒木]その経過について説明して下さい。
[佐藤]途中で腹水をとってみたら、tumor cellがあったのに、その後60日以上も生き続けているのがあるのです。
[黒木]では癌がなおったというのではないのですね。
[奥村]RLN-8のラッテについたというのが、動物の既成の腹水癌の混入でないという根拠は形態だけのことですか。個人的にコンタミの可能性があると思いますか。
[佐藤]形態でだけのことです。コンタミということは考えられません。
[勝田]RLN-8の動物に復元して、増えたものの染色体数は?
[佐藤]未だ調べていません。
[黒木]剖検所見をみると、悪性の腹水癌の像に似ていて、緩慢に増えるものとは似ていませんね。非常に長い潜伏期があって、増え出してからは急速に増えたのではないでしょうか。
[佐藤]それは充分考えられます。そしてそれを動物へ継代すると、2代目は早くなって20日位で死ぬようになります。なぜこんなに長い潜伏期があるのかは、わからないのですが。
[黒木]他のcontrol lineの形態は?
[佐藤]今日は持ってきていませんが、RLN-8は他のlineに比べて、増殖は速く細胞質の塩基性も強くシートの出来方についていうと、それぞれの細胞同志の間のつながりが弱いように思えます。
[黒木]RLD-10のことですが「3'-Me-DABで出来た肝癌と、無処置の培養からの肝癌との間には圧倒的なちがいがある」というのは生存日数のことですか。
[佐藤]生存日数のことと、発生率のことです。
[勝田]圧倒的な差異といっていいのでしょうか。
[佐藤]takeする率が非常にちがいます。RLD-10のcontrolは2/9、150日死亡、DAB長期投与群は22/25、70〜80日で死亡です。今後の実験では、復元試験の観察を2ケ月で打切ろうかと思うがどうでしょうか。
[奥村]矢張り死ぬまでみるべきだと思います。
[勝田]この2/9と22/25という分母のとり方は接種量を一定にしなければ意味ないのではありませんか。
[高井]しかし、それぞれを詳細にみると、22/25という方が接種細胞数の少ないものが多いのだから、悪性が強いのだろうとはいえますね。
[黒木]復元接種試験の結果からすると、脳内での復元は意味ないということですね。細胞数を揃えて腹腔内に接種すれば、実験的にはもっと整理できますね。
[勝田]死亡表の黒丸の基準は?
[佐藤]死んだものを黒丸にしてあります。124だけは、他のものと異って死なないうちに調べたら腹水がとれたので死ぬことを予想して黒にしました。しかしそのあと、まだ生きているので結局、白に戻しました。
[高井]その当時は腹水中に細胞があれば当然死ぬと思ったわけですね。
[勝田]一つの表の中で基準のちがうものが一緒の記号で混在しているのは、一寸変なセンスですね。
[高木・奥村]斜線にでもして、他と区別すればよいのではありませんか。
[勝田]RLD-10の系図の真中の所もtakeされたのですから黒になるわけですね。
[佐藤]程度のちがいはありますが、黒にするべきかも知れません。
[奥村]程度の差は別として、つくかつかないかの判定では黒にすべきですね。基準をどこにおくかの問題ですが、この場合何匹中の何匹であろうが、つけば黒にするべきと思います。
[黒木]この表は、定性的な問題を表しているのですから、黒にすべきですね。
[佐藤]訂正します。
[高井]今の判定基準でゆくと、この表に出ている65.2.20以前にもついていたかも知れませんね。
[佐藤]そうです。ですから、プライマリーから始めて、3年間のこの実験の再実験をやるべきだと思っています。
[黒木]9.15に枝分けして10μg加える以前の復元実験はないわけですね。
[佐藤]ありません。
[勝田]そうすると、定性的にいうと、中心の線の真中辺で細胞が変った可能性があるわけですね。我々として知りたいのは、その後の各系の染色体はどうなのか、ということですが。
[佐藤]動物へ復元して腹水系化したものについての染色体についてだけしかしらべてありません。
[高木]ついた系を、DABを除いて培養すると腫瘍性がおちるかどうか、わかっていますか。
[佐藤]それはやってみていません。
[勝田]その問題は、2次的なことと思います。
[奥村]生後24hr.の動物への復元では、トレランスということも考えねばならないのですね。
[高井]ついた例をみると、トレランスが成立するには、接種量が少なすぎると思いますが・・・。
[黒木]トレランスについて、説明して下さい。
[奥村]新生児に1,000万個以上の細胞を接種すると、immunotoleranceが成立して、癌細胞でなくてもつくという事を考えねばならないということです。
[佐藤]成ラッテにも、つけてみています。その方が悪性度の強弱に、ふるいがかけられて、判りよくなると思うのです。
[奥村]幼若ラッテの場合は、抗体産生能がないという意味で、成ラッテにコーチゾン又は、放射線処理した場合とは意味が異うと思いますね。
[高井]今後は、成ラッテへ復元テストする事にすればよいのではないでしょうか。
[奥村]幼若ラッテへの接種の場合、動物内で再変異して増殖するという可能性があるのではないかと思います。immunotoleranceの場合は1千万〜1億という大量の細胞を入れますが、この場合は入れた数がそれよりずっと少ないから、不完全なトレランスが成立しているとも考えられるようです。こういう実験の場合は、どの位の細胞を入れれば、どういう風にトレランスが成立するのか、をcontrolにおかなければならないと思います。
[黒木]アデノによる癌化細胞の場合も、成ラッテにはつかず、乳児に復元してtakeされる、というのはどう考えますか。矢張りimmunotoleranceの成立とみるのでしょうか。
[奥村]当然ひっかかってくると思いますね。
[黒木]奥村さんの言ったのがうなずけるのは、あの剖検例からは、そう考えると、その過程が説明できますからね。
[奥村]ハムスターなら生後3日、マウスは2日、ラットも2日位の間ならimmunotoleranceが成立するそうです。
[高井]immunotoleranceの問題にあまりかかわると、問題が複雑になると思います。抗原性が違うということで、ふるわれるものがあるにしても、復元は成体ラッテに限るという風にすればどうでしょうか。
[高岡]染色体数が34本になってからの再培養lineはtakeされますか。
[佐藤]やってみていません。
[勝田]このlineはさっき高木班員の言った「takeされた系をDABなしで培養継続すると、どうなるか」という質問の答になりますね。
[高木]そうですね。真中の線の途中、丁度枝分れしたあたりで、染色体数が変ったのではないか、ということが考えられますね。
[黒木]この変化は重大ですね。RLD-10にDABを添加する再実験のことですが、実験3と4との開始時期はRLD-10
control群がtakeされる前後ということになりますね。
[佐藤]そうなると思います。
[勝田]染色体数のばらつく時期の意味は・・・?
[奥村]一般的に考えると、いろいろな性質のものが、わっと出てきていると思われますね。
[勝田]低3nといっているものの間に、核型にちがいがあるかどうか、調べなくてもよいのでしょうか。
[奥村]しらべるべきでしょうね。
[佐藤]此頃は、永久標本にしていますから、この次までには核型を並べて来るつもりです。
[奥村]お宅の以前の染色体のしらべ方は、標本の作り方や計数の対照とするものの選び方について非常に問題があって、あまり正確なデータが得られていないのではないかと思います。
[佐藤]私もそう思います。
[奥村]いくつ宛算定していますか。
[佐藤]50ケです。
[奥村]染色体の数え方及び分析というのは、矢張りかなりのキャリアが必要と思います。50コという頻度は、非常になれた人が結論を出すために必要な最少限ですね。なれない内は、少なくとも200コ位数えないと、このピークがはたしてそれぞれの特徴かどうか、はっきり言えないと思うのです。
[勝田]佐藤班員は、この仕事の結論を自分でどう考えますか。
[佐藤](1)まず3'メチルDABによって細胞の形態が変るということは云えると思います。(2)controlの分のtakeされる率や生存日数の長いことから考えて、3'メチルDABはtakeされる率を高め、生存日数を短くする働きがあると思います。再培養細胞に3'メチルDABを加えた場合も生存日数を短くすることを確めています。
[黒木]ということは、もともと或る程度腫瘍性をもっているものに対して、3'メチルDABが腫瘍性を増す働きをするということですね。
[奥村]とすると、このRLD-10の系の実験について、この真中の系が、どこで、何故腫瘍化したかが、クローズアップされねばならないですね。
*黒木班員が黒板に系図を書き、日数を入れて解説を試みるが、判らなくなり中途で挫折する。
[勝田]実験のやり方が乱雑すぎるから、他人に納得させにくいんです。
[佐藤]RLD-10にDAB添加しての再実験の系がtakeされない件ですが、今日は云わなかったが、それらの群で、当然DABを消費しなくなっていると思われる系が依然消費することがわかっています。
[高岡]RLD-10のoriginal lineの維持の仕方は・・・?
[勝田]1本のものから分けて使っているのですか? 我々の実験では、同じように継代していても二つのtubeの間に違いが出て来たということがあります。そういうことはありませんか。
[佐藤]もとのものは1本の瓶で、実験の度に分けて使っています。
[高井]継代時の接種細胞数は?
[佐藤]700〜1,000万個/TD40をとって5〜10万個/mlつまり100万個/TD40位にして使います。週に10〜20倍に増えます。
[高井]復元したねずみの腹水の細胞濃度は?
[佐藤]1,000万個/ml位です。
[高井]3'-Me-DAB処理群とcontrol群のtakeの差は、腫瘍細胞全体の性質がちがうことと、腫瘍性のある細胞が少数まざっていたということと、二つ考えられますね。継代時に二つ或は三つに分けた時、その少数の腫瘍細胞が入った瓶と、入らなかった瓶が出来たということは考えられませんか。
[奥村]今日聞いた限りでは、これらのデータで定量的に討論することは全く出来ないと思います。自分の考えでは、これらの実験は予備実験として、これから本実験に入らねばならないのではないかと思います。
[佐藤]これからの実験予定としては、これらの株についてはもはや発癌実験には使えないと思っています。初代培養を使うこと、特に完全な純クローンを使って実験を始めようと思っています。一番困ることは、つかなかった場合にもつかないということが言い切れない点です。
[黒木]cloneでもすぐ変った細胞が出てくるので、絶対とは言えませんね。
[高岡]材料を厳選することも必要と思いますが、例数を増やすこと、再現性を高めること、を先に考えるべきだと思います。
[奥村]これを予備実験として生かすには、3年間constantにcontrolを培養出来るようにして、この実験を再現してみるべきだと思います。それができて初めて、発表するべきでしょうね。
[佐藤]そこで聞きたいことは、どういう材料を使えば、もっときれいな実験がやれるかということについて教えて欲しいです。血清などは、大量にプールして始めるよう、またcloneのことも計画しています。CSとBSのちがい、トリプシンとかき落すのとのちがいも検討する予定です。
[勝田]班の研究の一端として、この実験の将来計画について、皆さんから御意見を伺いたいと思います。
[高木]もう一度新しく再出発して、一つの系はこの実験と同じことをくり返して再現性を確かめてみるべきだと思います。
[黒木]Exp.IIIとIVとの結果を待ってみて、それがIIを再現するか否かで、佐藤結論が正しいかどうかが決まると思います。この実験をどうやってやりなおすかという事になると、いま云われたCSとBSのちがい、トリプシンとかき落し、DABの+と−、という風な実験プランにすると、又もっと複雑になるのではありませんか。どちらにしても何時かは、自然発癌する系で実験している訳ですね。ですから関与する条件を簡単にすること、DAB添加条件も簡単にすること、cloneに必ずしも頼らなくてもよい、系を枝分けする時は必ず一部を凍結保存することと検査する必要があると思います。
[勝田]この実験系図をみていると、Exp.IIに関しては、他の系とは非常に異った或るfactorが加わっているのではないかと思われます。例えば、ウィルスの感染があるとか・・・。それからRLD-10以外には、こういうDAB添加実験をやっていないのですか。
[佐藤]他にはやっていません。
[勝田]どんなCell lineを使っても再現性がなくてはいけないですね。
[奥村]それは必ずしもそうでなくてもよいのではないですか。DABの実験に入る前にもし変異していたりすると、同じ結果にはならないと思います。
[勝田]勿論、100%でなくても、50%でも再現性がなければね。
[黒木]この実験をどう評価するか、何を追求するかですね。
[奥村]途中経過をちゃんとみて、杭をきちんきちんと打っておかずに、どんどん進んでしまった観がありますね。
[黒木]3'メチルDABだけで細胞に癌化を起すことは出来ないが、或る変化を起した細胞に3'メチルDABヲ加えると、腫瘍化する、ということはいえますか?
[高木]系図の左側の方がつかないというのは、どう説明しますか。
[勝田]問題はもはや佐藤個人ではなく、班としての態度の問題です。癌学会で発表して、試験管内で3'メチルDABで腫瘍化成功、という印象を与えていますから、何とか論文ででもありのままを発表したいところですが、1例報告ということではどうも問題がありますね。
[高木]厳密に言えば何も言えないのではないですか。事実としては、何となくDABが腫瘍化を促進しているというように思えても・・・。
[黒木]使うcell lineが安定するにはどの位かかりますか。
[佐藤]1年半位かかると思います。
[高井]私は高木班員と同じような意見です。進行中の実験IIIとIVとの結果をみて、この実験を打ち切る方がよいと思います。自分自身の感じとしては、こんなに厳密に時々染色体や復元をチェックし、その時々の細胞の保存も必要となると、とても自分にはやってゆけないような気がします。
[高木]今まではとにかく復元してtakeされる細胞をと、そこに焦点をあわせていたが、こうなると又だいぶむずかしくなるわけですね。
[勝田]ついたついたといっても、それがまず自分で再現でき、また他人も追試できなくては科学とはいえませんね。
[高木]継代はあくまで1本から1本ですか。
[佐藤]1本です。TD-40、1コです。
[勝田]枝分けする前の染色体分布が広い幅の場合、その途中の処置をちがえた事でselectされるとは、必ずしも云えないのではないでしょうか。つまり分けた時すでにちがった細胞が分注されているという事なら、最後に染色体数のちがう系が出来ても当たり前ではないでしょうか。
今後の我々の方針としては、もっと短期間の発癌実験をねらうべきですね。それから癌学会で発表したことの後始末はどうしましょう?
[佐藤]提出原稿には、control群もtakeしたということをはっきり書いて出しました。
[黒木]Exp.IIIとIVの結果を待ってから論文にしておくべきだと思います。
[勝田]Exp.IIIとIVの結果は何時わかりますか。
[佐藤]来年4月か5月です。
[奥村]何れにしても正式に発表するべきだと思います。来年の癌学会には出すべきでしょう。
[高井]黒木班員の云うように、学会に出すだけでなく、事実を事実として論文にすべきだと思います。他の問題と一緒でなく、この問題だけ、独立した論文にすべきだと思います。
[勝田]結論として、今は論文にしない、少なくともIIIとIVとの結果がわかってから、もう一度討論して決める、ということですね。佐藤班員が今後補足すべき実験として、どんなものが考えられますか。それからもはややめるべき実験も・・・。
[黒木]動物継代、再培養はやめてよいと思います。10μgL2というlineがつくかどうかはみて欲しいですね。
[高木]真中のlineのtransformationについて、確めることと、DABを長い間添加した系は復元するとどうか、ということをみて欲しい。
[黒木]これは重要ですね。こんなに長い間DABを入れて、それが何の役にも立っていないとすると妙ですね。
[勝田]染色体は全部みておくことが必要ですね。黒木君の云った10μgL2の復元成績をみることも必要でしょう。こうしてみると、RLN-8とRLD-10が自然腫瘍化を起した。それからRLD-10のDAB添加実験については幾つも系があるが、結局元は一つだから、元の一つが自然腫瘍化した・・・ということになりますね。
《高木報告》
前報の如くwatch glass methodによるplasma
clot上のorgan cultureを少し宛始めた。結論から云うと、初回の事なので不慣れの為か、Liquid
Mediaを用いたこれまでの培養より寧ろ悪い様であった。以下、その方法を記する。
1)生後約3ケ月の雄鶏を1日絶食させてHeparin加採血後Plasmaを分離する。11日発育卵よりChick
embryo extract(1:1)を得て、3.5cm watch glassにplasmaを6滴、C.E.E.を2滴、滴下して撹拌後、放置するとclotを生ずる。ついでこのcolt上にサージロンをおき、その上に組織片をならべて培養した。
サージロンは最近入手した合成繊維のmeshで組織を移し換える時の障害を防ぐ為に用いたもので、あらかじめ蒸留水、エタノール、エーテルにて清浄後、高圧滅菌を行い1x1cmの小片に切ったものを用いた。Watch
glassはそのまま6cmのpetri dishに入れ、全体をmoist
炭酸ガス Chamberに入れて培養した。
MaterialはSwiss mouseの生直前と思われる胎児の皮フで、胎児を無菌的に摘出後、Hanks液で数回洗って、ハサミで背部の皮フを剥ぎ取り、2x3mmに細切してplasma
clot上に置いた。4NQOを10-5乗Mol最終濃度に入れたものと、controlを設けたが、4NQOはあらかじめplasmaに加えて所定の最終濃度になる様にした。これらは夫々3〜4日毎に培地の更新を行い、この時meshと共に持ち挙げて移したので、組織に対する外力による物理的障害は比較的軽度で済んだと思う。培養開始後、9、13、19日目に夫々固定染色して観察したが、始めに触れた様に結果については全く期待はずれで、培養19日目のものではほとんど全滅の状態であり、13日目のものでも現在までに行ったLiquid
mediaによる培養結果に比べてかなり生きが悪かった。
惟、最初から懸念された様に、サージロンにかなり硬く附着しているものもあるので、これ等は剥す際に大部分の健常な組織がmeshの方に残って了うのではないかと考えられるので、その点、工夫を要する。またBang等の報告ではHeparinはtoxicであるとしてこれを用いず、siliconをcoatした注射器でplasmaを得ているが、この点も更に検討すべき問題であると思う。
現在、更に多数のものについて、出来るだけ長期間培養する様に新たな実験を行っている。
2)上記の実験と同時に牛血清の影響をみる為、Liquid
Mediaによる高濃度B.S.含有培地によるfoetal
mouse skinの培養を行った。方法はEagles basal
mediumを用い、これに夫々B.S. 20、40、60%を含む三群を置き、C.E.E.は全く加えなかった。他の点についてはこれまで報告したLiquid
mediaによる方法と同じで、refeedingの時mediumの半量宛を交換した。培養後、9、13、19、23日目に夫々固定染色して観察したが、19日目のものを見ると、B.S.60%を加えたものが最も組織が健常に保たれ、40%、20%と濃度が低くなるにつれて壊死の度合が強くなる様に思われた。しかし何分にも例数が少く、今後更に例数を殖すと同時に一層多くの血清濃度の段階を設けて検討する予定である。
3)次いで11月10日より予備的にC3Hmouse乳癌組織の培養をWalffの方法に従って行ってみた。方法は周知の如くEmbryo
extract、Bovine serum、Hanks soln.を3:3:6の割合に取り、0.5%にagarを混じたもの2mlを3.5cmのpetridishに入れ、固った後に2x3mmの組織片と、8日目のchick
embryoより摘出した1〜2mm径のmesonephrosを相接して培養した。
またこれと比較する意味でEagle's basal medium、B.S.、C.E.E.を6:3:3に含むLiquid
mediaを用いたstainless mesh上の培養も併せ行った。両者共に4〜5日毎にmedium
changeを行い、特にLiquid mediaのものはその半量宛を交換し、夫々5日、12日目に固定染色後、観察した。培養5日目のものではcentral
necrosisを中等度に認めるのみで、両群共に大差はなかったが、12日目に至るとmesonephrosを共存させたものではcentral
necrosisは可成り強くみられたが、未だ周辺部に健常な細胞群が認められるのに反し、mesonephros−のものでは腫瘍組織はほとんど溶解した様になり細胞構造が全く認められなかった。
《黒木報告》
ハムスター細胞の培養(1)
4NQOのhost cellとして今までRat embryoのlungを用いて来ましたが、3-4
transfer generationでgrowthがstopし、又細胞の形態も、epithelial(むしろRES
originを思はせる)であったため、ハムスターに切りかえてみました。
ハムスターの場合はTodaroらによりAlbuminの高濃度添加がGrowthを維持する旨報告され、又、山根研においても追試されていますので、その培地を用いる事にしました。培地の構成はEagle
MEMにアミノ酸PRO. 0.1mM、GLY. 0.1mM、SER.
0.2mMと、Pyruvate 1.0mM、Bacto-Peptone 0.1%、Bov.Albumin(Armour
Bov.Alb.Fract.V)1.0%を加えBov.Ser.を20%添加しました。現在はC.S.を用いています。(山根研の培地はPRO.とGLY.を除いてあります)
13/XI'65 生後1週間のハムスター♀から、肺、肝、腎を剔出、Explant
outgrowth法でdish、TD-15、TD-40にてcultureした。細胞の名は次の如し。Hai-11(肺由来)、Kan-11(肝由来)、Jin-11(腎由来)。それぞれ一週間後にはほぼfull
sheet近くなった。
GrowthをBov.Alb.のあるなしで比較すると、肝を除き、Alb.のある方がGrowthはよい、肝ではAlb.の有無に拘らず同じ様に増殖する。
興味あるのは細胞の形態である。Kan-11はBov.alb.(+)でfibroblastic、(-)ではepithelial。Jin-11は(+)でpureなfibroblast、(-)では少しep.及び丸い細胞がmixするがFib.が多い。Hai-11は(+)でfibroblastは少しでepith.及び丸い細胞がmixしている、丸いのはsusp.でもgrowthするようである、(-)ではgrowthがみられなかった。
すなわち、Kan、JinではBov.alb.の存在がセンイ芽細胞を選択するように思はれます。特にKanではこの傾向が著明です。(この機序が同一細胞の表現の差によるものか、又は違う細胞のSelectionによるかは明らかでありませんが)
又Rat Embryo Lungのときのようにmultilayer格子模様が今回もJin株においてみられました。Contact
inhibitionの概念も少し修正される必要がありそうです。
ともかく、培地、臓器により、細胞に差のあることは確かですので、これらの組合せから目的にあったcellをとりたいと思っています。
ハムスターの他に純系のバッファローラットが手に入りましたので、これでも試みてみる積りです。BuffaloはMorrisのminimum
deviation hepatomaのhostとして有名です。
4NQの添加はとりあえず、Jin-11のセンイ芽細胞から始めます。(顕微鏡写真を呈示)
《高井報告》
in vivoで作ったActinomycin肉腫(固形)の細胞と、in
vitroでActinomycin処理を行っている細胞との、ギムザ染色による比較について報告します。(夫々写真を呈示)
1)固形Actinomycin肉腫のTrypsin処理細胞浮遊液の塗抹標本。
ActinomycinSを4カ月間皮下に注射して、btk
mouseに作ったActinomycin肉腫を、primary cultureするために、Trypsinによって細胞を分散せしめた時に作った塗抹標本です。従って、細胞質はかなりdamageを受けています。大部分が腫瘍細胞と思われます。細胞の大小不同が著明であり、非常にbasophilicに染る細胞質をもつものと、basophilicではああるが、かなり淡く染る細胞質をもつものとの2種類の腫瘍細胞が、ほぼ同数位の割で混在しています。核は大きく長円形乃至腎臓形で、核小体は大きくて数コあります。
2)ASS.IV.培養細胞(上記 1)をprimary cultureせるものの2代目)。
上記の細胞浮遊液を培養し、2日目にTrypsinでタンザク入小角に継代したものの、継代後2日目の標本では、細胞は多形性に富み、突起の多い多角形、紡錘形のものが多く、大小不同も著明である。細胞質はbasophilicであるが、1)にのべた非常にbasophilicな細胞質をもつものは殆どない。核は長円形で核小体も大きい。
3)bEIX K.3代目(通算34日目)(control群)。
btk mouse embryoの皮下fibroblastのcontrol群であるが、これでも細胞の大小不同、多形性は著明で、核小体もかなり大きいが細胞質が明るくてbasophilicityが弱いことが2)に比してはっきり異っている。
4)bEIX Ac.2代(通算33日目、Ac.0.01μg/ml持続、28日間処理)。
2)に比べると、多形性がまだやや少い感があり、どことなく違っている様にも思われるが、核、核小体の形態も2)に似ており、殊に細胞質のbasophilicなことが2)によく似ている。この細胞を、btk
mouse皮下に約200万個、ごく最近復元接種してあります。
他に、C57BL mouseのembryo皮下fibroblastを培養して、同様なActinomycin処理を行っている系列もありますが、この方はまだ4)の如き2)に似た細胞にはなって居りません。
5)ASS.IV細胞の移植実験。
Actinomycinによって悪性化した細胞が、最少限何個あればtakeされるのか?又、その場合、Tumorが発見されるまでにどの位の期間が必要か?を知るための一つのモデルとして、上記1)の細胞を1,000コ、100コ、10コづつ、各群5匹のbtk
mouse(♂)の皮下に移植しました。1週間後の現在までには、まだTumorは見出せません。もし、10コでもtakeされる様なら、今後in
vitroの実験群の復元も容易になるのではないかと思います。
:質疑応答:
[勝田]この細胞はよく動きますか。
[高井]これから映画をとってしらべようと思っています。
[黒木]培養細胞は何時ごろから肉腫細胞に似てきましたか。
[高井]それがよく分からないのです。
《奥村報告》
A.JTC-4細胞の染色体機能の解析:
JTC-4(ラッテ由来)細胞株からのclone分離の結果、染色体数の極めて少ない系を得たことは以前に報告済みである。その後、この細胞を生物学的モデルとして、いくつかの実験を計画しているが、その中の1つとして染色体の機能、つまり細胞の形質と染色体の関連性を探る実験として、2つのcloneを用い、1〜2本の染色体を利用し、それらの染色体(DNA)によって作られる抗原物質を見出す実験をスタートした。方法は、
細胞:Normal rat heart(primary)、JTC-4/Y-A2、JTC-4/Y-B2。
動物:Hamster(syrian)、mouse C3H/He。
免疫方法:各動物の生後24時間以内に各細胞を5千万個〜1億個/個体に接種(この際死亡するbabyは20〜50%)、1〜5週後に免疫用細胞を接種し、CPで抗体価を測定する。
B.ウサギ子宮内膜細胞の培養(ステロイド系ホルモンとの関連性)
Progesterone、Estradiolの各ホルモンを或濃度で作用させると、細胞増殖の促進が認められることは既報の通りであるが、濃度を高くすると、細胞質に空胞あるいは液胞状のものが出現する。これはホルモンに対する感受性細胞の特異的反応であるかないかは今後検討する予定である。ホルモン濃度を更に高くすると、一見非特異的と思われる変性像がみられる。細胞増殖促進濃度はProgesteroneで0.05μg〜0.5μg/ml、Estradiolで0.002μg〜0.01μg/ml。特異的反応(?)はProgesteroneで1.5μg〜2.5μg/ml、Estradiolで0.8μg〜1.5μg/ml。変性非特異的反応(?)はProgesteroneで3.5μg/ml以上、Estradiolで2.0μg/ml以上である。
:質疑応答:
[高木]Toleranceの作り方を教えて下さい。
[奥村]生後24時間以内に、5千万個〜1億個の細胞を接種します。これでtoleranceが成立します。
[高木]免疫はどうしますか。
[奥村]生後7日後、14日後、30日後と細胞を接種して作ります。そのときtoleranceを、一つのcloneの細胞で作っておき、あとから同じ動物に他のcloneの細胞で免疫しますと、重複しない染色体の分の抗原に対する抗体ができます。早ければ1月位に抗血清がとれます。
[勝田]腫瘍抗原が核にあるというのは確かですか。
[奥村]SV40腫瘍の場合は文献にもありますし、自分たちの実験でもそうです。
☆☆☆次期の研究班の申請について☆☆☆
[奥村]存続した方がよいと思います。形は培養を中心においてもよいから、レパートリーをもっと広げて、直接発癌でなくても、生化学的な面から攻めてゆくし、免疫学的、或はウィルス発癌などをやる人を含めていったらどうでしょう。
[黒木]班長がそんなにいやならやめても、と一時は思いましたが、佐藤班員の問題の解明のためにも、ぜひ班という組織の中で解決してゆきたいと思うので、存続を希望します。それと、もう少し広い知識をとり入れるように図ることを希望します。もっともあまり拡げると、discussionが漫然としてしまうので、どの位拡げるかは問題ですが・・・。
[高木]黒木氏と同意見です。佐藤班員の仕事が、予備実験として終ったところですので存続した方がよいと思います。班の構成としては、virus屋も1人位良いのですが、核酸や蛋白に詳しい人も欲しいと思います。発癌というテーマにしぼりながら、もう少し幅をもたせるやり方がよいと思います。
[高井]前の方々と全く同意見です。
[佐藤]存続を希望します。個人的には、今後は量的には仕事量を減らし、もう少し質を上げたいと思っています。
[勝田]癌のことを知っていて、核酸、蛋白、に詳しい人間を探すのはむずかしいが・・・。
[高木]自分の所に居る高橋君も、核酸、蛋白に詳しいので、協力者として班会議に出席させて欲しいと思います。永井氏などはどうでしょう。
[勝田]小野氏、杉村氏なども考えられます。ただあまりあちこちの班に沢山入りすぎているのでね。
[黒木]大橋氏などは如何でしょう。
[勝田]奈良医大の螺良氏がこの班に入りたい希望をもっておられますが、如何でしょう。ウィルス発癌をやっておられますが・・・。
[高木・黒木・奥村]賛成です。
[奥村]各方面の専門家を入れるのは、協力者としてでなく、正式班員にするべきであると思います。それでないと傍観者的になる可能性が考えられます。
[勝田]では結論として、次期も班を継続することに決めましょう。そして今伺った皆さんの御意見を加味して、新しく入班して頂く方々について御意向を伺ってみます。結果は後から御報告します。☆☆☆
【勝田班月報・6601】
《勝田報告》
A)“なぎさ"培養よりDAB高濃度処理に移して生じた変異細胞株の染色体数モード:
(表を呈示)すでに報告したように、TLC-5はすでに2nより減ってしまったが、これから得られた変異株は2n前后が多い。結果の表をみると有望そうに見えるが、何れも母株の方が不安定で今にも変わってしまうのではないかと思われるので、これら変異株は凍結保存してしまうことにした。
B)ラッテ肝細胞株RLC-9に対するDAB-amin-N-oxideの影響:
前回の班会議のとき報告したように、DABの溶解補助剤として使っているTween20は、それ単独でもかなり細胞毒性を有し、これで発癌させたのではあとの解析が厄介になるので、水溶性の形のDABを探したところ、寺山氏の主張するDABの中間代謝物であるN-oxideがそれに相当することが判ったので、今后のアゾ色素による実験は全部これに切換えることにした。1mg/mlでもよく溶け、高圧滅菌できる。増殖に対する影響は図の通りで濃度に比例して抑制する(図を呈示)。
《佐藤報告》
昨年はいろいろの実験をしましたが、どうもはっきりしませんでした。研究の中心をどこに置くかが漸くわかりかけた処です。今年はじっくり落着いて仕事にかかります。
本年の計画としては次のように考えています。
(1)昨年度の実験を整理する。2月号月報には無理と思いますが、3月号月報から少しづつ纏めて報告。
(2)昨年度迄の細胞はできる限り凍結保存して手間を省く。研究室の人事異動が有りさうなので対策をかねて考えています。凍結は現在7割強完了しました。
(3)復元動物は長期観察が必要なので動物ケージ及び動物小屋を整理しました。
(4)ラッテ肝からのPrimary Cultureを始めていますが未だ材料として使用できません。 (5)CO2-Incuvatorが漸く使用できる段階になりました。JTC-11
srain cellを使用して予備実験を行いました。(現在迄の処この細胞は、極めてPlating
efficiencyが高いので、Pure cloneが容易いと考えています)。
CO2-Incuvatorの使用はラッテ肝細胞のPrimary
Culture及びStrainからPure cloneを作って実験する為です。今月はデータを書くことがとぼしく申訳ありません。
《高井報告》
1)復元実験:昨年後半に下記の如き復元実験を行いましたが、現在(1966年1月9日)までの所、何れも陰性です。
細胞 接種日 接種細胞数
処理群
bE Ac.1代 11月25日(通算36日目、Ac.0.01μg/ml.31日作用)
200万個/mouse1匹
C57I.Ac.1代 12月6日 (通算61日目、Ac.0.01μg/ml.58日作用)
50/万個mouse1匹
bE Ac.間歇3代 12月10日(通算49日目Ac.0.1μg/ml.週2回30分間)
90万個/mouse1匹
対照群
bE K.2代 12月4日 (通算45日目) 150万個/mouse2匹
bE K.3代 12月10日(通算51日目) 90万個/mouse2匹
C57IK.3代 12月4日 (通算59日目) 150万個/mouse2匹
bE K.2代 12月10日(通算49日目) 100万個/mouse2匹
上記の内、12月4日に復元せるbE K(対照群)は、復元接種後5日目に2匹共5x4mm位の腫瘤をふれましたが、その後漸次縮小し、接種後13日目には、全く触れなくなってしまいました。尚、復元実験に使用したmouseは、何れもbtk
adultで、接種部位はS.C.です。
2)ASS 細胞(in vivoで作ったactinomycin肉腫をトリプシン消化せるもの)の少数個移植実験:
Actinomycinの作用によって細胞の悪性化が仮におこったとしても、初期には多数のnon-malignant
cellsと混在した状態だと考えられます。従って、復元実験に100万個のorderの細胞を使ったとしても、その中に含まれる悪性細胞は、10個位ということもあり得ると思います。その場合に、果して動物にTumorが出来るかどうか?
又、どの位の期間でTumorとして認められる位に増殖して来るか?
という様な問題について手掛りを得ようと考え、次の実験を行いました。即ち確実に悪性であって、しかも私の実験の場合に、最も近いと考えられるものとして、in
vivoでActinomycinによって作られた固形肉腫をえらび、これをTrypsin処理でバラバラにした細胞を培養することなく、直接にbtk
mouse(adult male)に接種しました(1965年11月18日)。接種細胞数は1,000コ/mouse、100コ/mouse及び10コ/mouseとし、各群5匹つづに、皮下接種しました。
細胞浮游液は、0.2ml中に所要の細胞数が含まれる様に倍数稀釋で調整しましたので、厳密に10コとか、100コであったかどうかは疑問ですが、orderとしては合っているものと思われます。
結果は1,000個を接種したものは22〜26日で、100個を接種したものは34〜40日で、夫々Tumorを生じ、以後かなり急速に増大しつつあります。10個を接種したものは47日目までは全例陰性でしたが、52日目に1例にTumorを発見しました。(尚1,000コ及び100コ移植群も、夫々2匹つづは、まだTumorが出来ていません)。
まだ1回の実験で、はっきりしたことはいえませんが、私の実験systemの場合、in
vitroでActinomycin処理を行った細胞の復元のrouteとして、adult
btk mouseの皮下接種も充分使用可能と思われます。又この場合、前回の班会議でも指摘された様に、充分長期の観察期間が必要であることが、再認識されたわけであります。
3)今年度の方針:これまでやって来たtissue
culture→Acatinomycin処理→復元という実験だけでなく、出来るだけin
vivoでのActinomycin肉腫の誘発実験に近い様な受験をin
vitroで模倣するということを考えています。具体的な方法については目下考慮中です。
《黒木報告》
昨年1年の仕事を振りけってみますと、思ったほどの成果は上っていないようです。むしろ、今后の何年間かの仕事への基礎作りを行ったものと思っています(寒天によるcloing、移植性、生存日数の推計学的処理、4NQ・4HAQOの基礎、ラット・ハムスター胎児の培養等々)。
今年はこれらの基礎の上に立って飛躍してみたいと思っています。具体的には次の仕事が予定されています。
(1)In Vitro Transformation
最近のNCI.J.にBerwald YとSachs Lの二人の名で、In
vitro transformation of Normalcells to tumor
cells by carcinogenic hydrocarbonなる論文があります。
これはhamster embryo(whole)にBenzpyren(BP)、3'-Methyl-cholanthren(MCA)等を作用させ、72日后にadult
hamster subcutanにtumorを作らせ得たという成績で、きれいな仕事のようです(controlはtumorを作らない)。mouseでは52日で発癌しています。
ただ少し気になるのは、colonyの形、その他の経過(transformationの)がpolyoma
virusによるそれと酷似していることです(Sachsはpolyomaの仕事も可成り行っている)。又、余りdataがきれいすぎることです。
いずれにせよ、今は誰かが追試する必要があるでしょう。
4NQO・4HAQOの仕事はすこしづつ進んでいます。細胞は前回の班会議で御紹介した、ハムスターsucklingの腎由来(Jin-11)です。これをcontrol、4NQO、4HAQOの三つの群に分け、継代しています。4NQOは10-5.25乗Mでcell
degeneratが起り、最近recoveryして来たところです。4HAQOは10-5乗Mでも大きな変化がなく、継代されてきています。
形態学的変化は現在の処いずれのGroupにも見られていません。又、継代の時に凍結保存しています(Liquid
air)ので、再現性のその他でも有利に運べると思います。
今后、Exp.の数を増し、又cloningを行う積りです。(Sachsはrat-embryo
cultureのfeederの上にcloningしている)
(2)肺上皮細胞の培養
これは今度新たにみつかった培養法です。上述のJin-11と同時に、ハムスターの肺からHai-11と云う細胞を培養していましたが、このとき丸い細胞がmixしている旨、前回の月報に報告し、又写真ものせました。この細胞は容易にガラス壁から剥れ、あるいは、はじめから附着しないでfloatしているようです。倒立でみて、浮いている細胞も真でいないように思えたので、それらのみを分離し、継代を続け現在に到っています(約二カ月)。
形態的には核が小さく、細胞質の大きな、喀痰の細胞診のときの剥離細胞に極めて似ています。ここから肺胞上皮という推測が生れた訳です。phagocytosisは盛んのようです。
増殖はほとんどないようです。今后H3-thymidine、wridine、leucineでDNA、RNA、proteinの合成を調べる予定です。
(3)腹水腫瘍のpopulation analysis(吉田班の仕事)
寒天を用いて行はれます。薬剤感受性等がマーカーになる予定です。
大体以上の三つの仕事に重点をおきます。その前に仕上げるべき論文もいくつかあります。来年の1月号の月報「昨年は予期した以上の成績を出した」と書きたいものです。
《高木報告》
1月1日午前零時四十五分、私の病棟の一人の患者が癌にたおれました。autopsyは明日行われますが、Hepatomaと思われます。私の1966年は一癌患者の死でスタートした訳です。何となく鞭打たれる思いがいたします。
癌の研究を思い立ったのがかれこれ10年前、その間どれ丈の仕事が出来たかを懐古してみますと全く恥かしい気がします。勿論私は私なりに努力してきたつもりですが、その成果たるやとるに足らぬもので、改めて眼前に立ちふさがる巨岩(癌)の征服の困難さを思い知らされています。
帰国以来、皆様の御好意で再び之の班に復帰させて頂きましたが、他の班員の方々にくらべ、私はまだ努力が足りなかったと反省させられています。特に班長勝田氏と佐藤氏のファイトには敬服いたします。しかし敬服している丈では駄目なので何とか今年は私もこの御二方について行きたいと考えています。
佐藤氏の御仕事は、未だ種々の問題があるとしても、一応対照と有意と思われる差で培養細胞を復元(移植)出来たと云う事は、in
vitroの発癌実験に曙光をもたらすもので、これからがいよいよ本腰をすえてかかるべきepochに入ったのではないでせうか。いずれにせよ班のためにもこれはプラスであったと思います。
さて此の一年の私の計画ですが、癌の正体が中々つかめない事の裏には、“正常"とは何であるかと云う事が未だよく理解されていない点があげられると思います。そこで“培養における細胞(正常)機能の維持"と云う事にまず努力してみたいと考えています。しかしこの問題をかたずけてから改めて発癌の仕事にとりかかると云った悠長(?)なことは云っておれませんので、これと平行してin
vitroの発癌も行います。その方法ですが、私はいましばらくorgan
cultureで押してみたいと考えています。と申しますのは私には一つの細胞の発癌には、それと関係のある他の細胞の介在も必要ではないかと思われるからです。丁度細胞分化のGrobsteinの仕事にみられる様に・・・。目下の問題はまず何とかorgan
fragmentを長くin vitroに維持したいと云う事です。これは現在行われているorgan
cultureの泣き処でもあります。つまり基本方針は昨年と同じで、何とかこれを推進したいと考えています。幸い今年度から我々の班はレパートリーが広くなり、生化学、ウィルス、移植と云った専門の方々も参加して頂ける事は御同慶にたえません。よろしく御指導御鞭撻の程御願いいたします。
《堀 報告》
G6Pdehydrogenase isozymeについて:
ようやく待望のacrylamideがEastmanより届きまして、gel
electrophoresisを始めました。手始めに3日絶食、3日[30%protein-60%glucose]食を与えてG6PDをinduceしたシロネズミ肝の1:1
H2O homogenateをsampleとして、3mA/tube、2hrの泳動を試み、展開したものを、次の基質で染色してみました。 :G6P(50mg/ml)0,1ml、
NitroBT(1mg/ml)0.25ml、NADP 2mg 、EDTA・0.1M
0.1ml、Tris buffer・pH7.2・0.2M 0.25ml、KCl・0.1M
0.1ml、 H2O 0.2ml。これに適量のphenajine methosulfateを加えたものと加えないものを作りました。(結果図を呈示)。
赤血球のG6PDについての文献では、他の動物ですが2〜3本の帯しかでないので、これ丈分れたことは予期以上の成果でした。この仕事の目的は、培養肝細胞で色々な酵素活性の低下が見られるのにG6PDのみは明らかに増加しているという前報の知見をもとにして、では果してこの増加はin
vivoにおけるinductionによる増加と同じ性質のものか否かをDISCELECTROPHORESISで確めようというのです。もし同じ様な性質のものであれば、肝細胞の同定にもなるし色々の面で面白いと思います。なお、培養細胞については目下test中ですが、試料の量が少いのを何とか克服しなくてはなりません。
以前考えた遠隔地での標本の固定、保存に関する方法については目下の処、冷アセトン(-70℃)固定1日、後、風乾、直ちに-10℃に保存したものでは少くとも1ケ月は各種脱水素酵素の活性が残っていて染色可能であることが判ったのですが、G6Paseはアセトンでよく保存されずまだよい方法がみつかりません。またAPaseは冷ホルマリン(10%+1%CaCl2)で数分固定してから、冷水で洗って、0℃の冷水に保存可能です。
今1つの報告しなくてはならないことは、昨年秋に行った実験の残りの肝細胞が、今迄増えたり減ったりし香ばしくなかったのですが、最近極めて確実な増殖を示す様になり、strain化出来そうだということです。近い中に正確なdataを作りお知らせします。1年もたったものを今更strain化しても、あまり意味がないとも思いますが、もともと残ったものをそのままただmediumのみ更新しておいたものですので、これからの仕事の上に何か役に立つことでもあればよいと思っています。
昨年はさっぱり仕事がはかどらずに、班員としての義務を果すことが出来ず真に申訳無く思っております。今年も教授の還暦に関連した事業や、5つも学会の世話など、でとても仕事は出来そうもありませんので、この研究班の活躍を期待するとともに、今後も機会のあるときには、色々御教示を賜ったり討論に加えて頂くことが出来れば幸と存じます。
【勝田班月報:6602:器官培養による発癌実験の試み】
《勝田報告》
A)DAB-N-Oxideについて:
DABの発癌性中間代謝物としてDAB-N-Oxideが寺山氏によって主張されていますが、これはきわめてよく水に可溶で、1mg/mlでも溶け、高圧滅菌が可能でした。そこでまずRLC-9株(正常JAR系ラッテ肝細胞)を使って、その増殖に対する影響を1、5、10、20μg/mlの各種濃度でしらべました。こういう薬剤の効果をしらべるとき、細胞をsuspensionでinoculateするときから加えるのと、細胞がmonolayerを作ってから加えるのとではかなり効果に差があることが判っていましたので、今回はその両方を試み、且比較してみました。
(増殖曲線の図を呈示)細胞をまくとき同時にN-oxideを入れた例と、細胞をまいてから2日おいて、細胞が硝子面にくっついてからN-oxideを加えた例とを比較すると、何れも濃度に比例して増殖を抑えていますが、やはり初めから加えた方が抑え方が強くなっています。
次にN-oxideを加えた培養の細胞の形態変化を顕微鏡映画で追いましたのでそれをお目にかけます。(映画供覧)10μg/mlに加えても、分裂する細胞はどんどん分裂しますし、一方、こわれてしまう細胞もあります。こわれる場合は、分裂の直後ではなく、間期にこわれるのが多いようです。
ところで困ったことに、DAB-N-oxideはヘモグロビンやFeがあると簡単に分解してしまい、MABやDABなどになってしまいます。水溶液は320mμにmaxの吸収があり、220〜230、420〜440mμのところにも吸収があるのですが、培地に加えて2日間低温で保存しただけでも、このpeakは消えてしまい、410mμに移りました。この410mμのpeakは培養すると低くなりました(おそらくDABでしょう)。N-oxide単液ですとHClを加えて酸性にしても赤色にならないのですが、培地と混合したものは赤変しました。培地は20%CS+0.4%Lhです。ですからN-oxideを加えても、それがN-oxideとして働いている時間はごく短くて、別のものに変って働いているわけで、これもどうも余り具合の良い道具ではなさそうです。昨日の合同報告会で癌研の高山氏がニトロソアミンの話をされ、これは水溶性で具合が良さそうなので、今後はニトロソアミンも試み、その他4NQOなども要に応じて使ってみます。こうなったら手当り次第です。
B.AH-7974、RLC-8に対するアルコール、Tween20の影響:
表面活性剤の細胞増殖に対する影響をしらべる一端として、まずこれらをしらべましたが、Tween20はかなりtoxicでした。アルコールは不思議ですが余り抑制効果がなく、エタノール0.01%では明らかに増殖促進が認められました。非水溶性の発癌剤をとかすにはTweenよりもアルコール(エタノール)の方が良さそうです。
C.ラッテ胸腺・細網細胞によるin vitro抗体産生の実験:
4月の病理学会の小グループ討論会に映画で展示するべく、目下さかんに実験をすすめています。先日、細網細胞のなかで作られて貯められている抗体を、新生児ラッテの胸腺リンパ球にtransmitさせる実験をやって、うまく成功しました。生後24時間以内の、まだ抗体の見出されないthymocytesを細網細胞と一緒にしてincubateし、映画をとりましたら、thymocytesがreticulum
cellsに近寄り、細胞膜にくっついたり乗ったりしました。2.5時間後にAnti-rat-β-γ-rabbit
serumで、蛍光抗体法でしらべたところ、thymocytesがきれいに光るようになっていたのです。
:質疑応答:
[黒木]in vivoで抗体を作らせた細網細胞を使ったのですか。それともin
vitroで抗体を作らせたのですか。
[勝田]うちでラッテ胸腺から作った4細胞株の内、抗ラッテβγグロブリン家兎血清で光る3つのものを抗体産生をしているとして使うのです。
[黒木]乳のみラッテの、その胸腺リンパ球は光らないわけですね。
[勝田]光らないことを確かめました。
[高木]PPLOの共通抗原のデータがありましたね。
[勝田]PPLOというのは、なかなか種類が多くて知られているのも知られてないのもあるから困ります。
[杉村]RLC-9が肝実質細胞ということは、何か生化学的特質で、証拠付けられていますか。
[勝田]生化学的にはまだ確かめていません。形態学的にそうだと思うのです。
[佐藤]エチルアルコールで溶けるDABの量は、非常に少いので、高濃度のDABは使えません。
[勝田]ニトロソアミンは、4℃保存といいますが、37℃であたためるとどうなりますかね。
[杉村]コダックの瓶には、暗い所に保存とかいてあるだけで、冷やしておけとは書いてありません。
[奥村]DABはプロピレン・グリコールで溶けないでしょうか。
[勝田]映画でお見せしたように、DAB-N-oxideを10μg/mlに入れても平気で細胞分裂しますし、一方そのN-oxideの吸収ピークが消えてしまったりするのですから、薬剤の選択では、その濃度と共に分解あるいは変性の問題も考慮に入れる必要があります。
[藤井]常に培地中になくても、一旦細胞に薬剤が入ってしまえば、それで作用しないでしょうか。
[勝田]それでは細胞が分裂するたびに薄まってしまいますね。
[黒木]しかし薬剤を除いたあとも影響がつづくという例もありますね。Leo
Sacksはある程度コロニー形成をさせてから最後の2日位に薬剤を添加すると変異コロニーが現れるという、つまり非常に短期間の内に細胞の運動性などが変り得るということですね。N-oxideでは肝癌ができますか。
[勝田]ラッテに呑ませて6ケ月で11/13匹にできたと寺山氏は云っておられます。
[黒木]呑ませてだと結局DAB-N-oxideの形でというより、変った形のが効果があるのではないでしょうか。
[杉村]変異したことをあとで確認するためには純系株を使うべきではありませんか。
[勝田]勿論そうです。しかし純系株を作るのは非常に面倒なので、まず誰にもできる方法でやってみようという訳です。
[藤井]ある程度以下の薬剤濃度だと、一方ではやられ、他方は反って促進されたりするかも知れませんね。
《高井報告》
1)bE.IX.及びbE.II.群のその後の経過:
前回の班会議に於て、bE.IX.Ac.(通算33日目、Ac.0.01μg/ml28日間処理)が、ASS.IV.(in
vivoで作ったActinomycin肉腫の培養細胞)によく似ていることを報告しました。その後、これがどうなるかを興味をもって見ていたのですが、bE.IX.Ac.は培養40日目(Ac.35日間処理)頃からだんだん小形の紡錘形の細胞が多くなって来ました。この小形の細胞は、Control群の細胞に比し、細胞の突起が非常に少いこと、及び細胞質のbasophiliaが強い点で、はっきり異っていますが、同時に又、目標であるASS.IV.の細胞ともかなり異っています。即ち、ASS.IV.に比し、小さく、又、形も整っていて、大小不同も少く、ずっとおとなしい感じの細胞であります。このbE.IX.Ac.群は、その後、漸次、増殖がおとろえ、培養67日目(Ac.62日間処理)以後、Ac.を含まない培地にかえましたが、遂に絶滅してしまいました。今から考えると、ASS.IV.に似ていた時期に、Ac.処理を中止した方が良かったのかも知れません。
bE.II.群は12月26日培養開始、1月4日よりActinomycin処理を始めました。bE.II.Ac.はAc.処理(0.01μg/ml)10日目までは殆どControl群と変りのない細胞であり、Ac.処理22日目には既に、上記bE.IX.Ac.40日目(Ac.処理35日間)に似た小型の紡錘形細胞が多くなっており、ASS.IV.に似た時期をとらえることは出来ませんでした。
2)ASS.IV.細胞(in vivoで作ったActinomycin肉腫をトリプシン処理で、バラバラにしたもの)の少数移植実験:
前月号の月報に書きました実験における、各Tumorの増殖速度を計測したDataを表示します(表を呈示する)。移植部位(皮下)に生じたTumorを、皮膚の上から計測したもので、かなり測定誤差も大きいと考えられ、とても定量的な取扱いは出来ないものと考えられますが、接種細胞数が1/10になると、Tumor発見までの時期が約2週間位おくれる傾向が見られます。又、1,000個移植した群でも5匹中2匹takeしなかったものがあり、100個移植せる群では、Tumorがregressionしてしまったものがあることは、このbtk
mouseが、まだgeneticallyに充分homogeneousでない事を示すものとも考えられます。
しかしながら、このDataと実際にin vivoでactinomycinによって肉腫が生ずるのに要する日数(actinomycinSを週2回、4カ月注射した場合、早いものでも、注射終了後60〜70日してからtumor触知)を考え合せると、実際にin
vivoでmalignant transformationをおこす細胞は、多くても100個以下、おそらく10個位ではないかと考えられます。10個接種群、1/5でその1例は接種後52日に発見。100個接種群は2/5で接種後40日に発見。1,000個接種群は3/5で接種後26日に発見。
:質疑応答:
[黒木]これは細胞学的には肉腫ですね。
[高井]そうです。
[勝田]in vivoで出来たアクチノマイシン肉腫を長期培養するときれる−ということは、in
vivoのアクチノマイシン肉腫細胞と同じような性質に細胞が培養内で変った場合、その細胞もやっぱり切れてしまう可能性を示しているでしょう。ですから、in
vivoの肉腫細胞をよく増殖させられるような培養条件をまず検討する必要があるでしょう。
それからマウスの胎児組織は自然癌化率が高いから、短期間で勝負をつけなくてはいけないですね。
[難波]復元箇所をもっといろいろ試してみたら如何でしょう。
[奥村]対照の細胞をもっと、きれいに保持できるようにすると、差をよむことがもっとはっきり出来ると思う。それから少数細胞移植の時は動物の系のこともよく考えておくべきだと思います。
[螺良]マウスはどんなマウスですか。btkというのは?
[高井]C57BLの亜系でTとの近親系のようなものです。
少数細胞のとき、その稀釋法には自信がありませんが、井坂先生の所などは稀釋法はどうやっているのでしょう。
[黒木]稀釋法はよく知りませんが、少数の時はうすめてから接種までの時間をなるべく短かくすることに気を使っているようです。
[奥村]この薬品は、他の動物にも発癌剤として有効ですか。もしハムスターでも使えるのなら、ハムスターの皮下細胞を使うといいですね。これなら培養条件は大分調べてありますから。
[藤井]自分の実験(皮膚移植)の結果では、DDDマウスでは27代ものinbreedingでも10匹中数匹は移植した皮膚のおちることがあります。F1の場合にもつくまでに期間がかかるし、数多く動物を使うとバラツキがずい分できます。それから腫瘍復元場所の問題も、皮下はバラツキが多いが腹腔は割に少ないとか、いろいろ考えるべきことがありますね。
[奥村]H-2因子ということだけで解決できないことが多くあるが、生まれてからの感染なども問題になります。
[藤井]皮膚移植では全部つくのに、その系でできたtumorを植えるとバラツクというのは、どういうことでしょうね。
[勝田]高井君の仕事での問題をまとめてみると、培養条件の問題と、期間を短期間でやらねばという問題、多種の動物、ハムスターなどにつけてみること、それから発癌剤の濃度の問題ということになりますね。
[黒木]今の濃度で細胞が変性しますか。
[高井]増殖はずっと落ちます。
[勝田]増殖が落ちる位で驚いてはいけないよ。ガシャッとやっつけなくてはならないんじゃないですかね。
[奥村]in vitroのことだけ考えるなら、僕の所のハムスターのfibroblast株を持っていって実験すれば良いのではないかと思いますね。
《佐藤報告》
◇発癌実験
ラッテ肝←3'-Me-DABの組合わせにおいての発癌実験をstartがら始めました。(1)培養に使用するDonryu系のラッテは乳児ラッテ♂としました。(2)使用するBovine
serum又はCalf Serumはpoolして一系列の少くも2年継続可能のように準備しました。(3)培地更新は更新する試験管に対しコマゴメを1本づつかえて行ひました。(4)継代して静置培養するとき試験管を直立させて液境界面に細胞が現れないようにする。(5)培養日数の比較的早い時期から、染色体数、核型、形態に関する永久標本及び凍結保存を行う。(6)出来れば上皮様実質細胞のcloningを行う。
進行状況:現在(1月31日)で培養73、56、24、17、12日の計5つの初代培養が行われている。73日目のものはぼつぼつ実験のための材料になると思います。
◇DAB飼育ラッテ肝臓の組織培養
2月4日の特定研究「ガン」綜合研究16班報告会及びシンポジウムで班長報告の後、纏めて報告しました。此の論文は勝田班長の多大の援助により完成し、Japan.J.Exp.Med.Vol35,491-511に掲載される予定です。後程おわたしします。要点のみ記載します。
(1)DAB飼育を行うと飼育が57日をこすと、ラッテ日齢が30日をこえても初代培養で増殖型肝細胞が現れる。
(2)初代培養で現れる増殖型肝細胞は前癌I、前癌II、癌I、癌IIの4つのtypeに分けられ、互に移行像がある所から、この様な段階を経て発癌すると考えられる。
(3)DAB飼育57日、107日、142日、191日、236日、312日の肝臓から株細胞をつくり形態を比較した。DABの飼育日数が長くなるほど核及び細胞質の異型性が増加、核仁の総量が増加、核仁の配列が不規則化、又細胞質面積に比し核の面積増大が見られた。191日、236日、312日DAB飼育の3匹のラッテ肝臓よりの株細胞は腫瘍性があった。
:質疑応答:
[奥村]最初からin vitroでDABをかけた場合、in
vivoでDABを与えて経時的にとった培養の細胞の形態の変化と似ていますか。
[佐藤]ある程度似ていると思います。形態でみて、或程度の悪性度の判断はつけられると思います。
[黒木]連続的に変化していると思いますが、顆粒の出てくるのだけ前後とつながらないような感じですね。
[難波]♂の方が発癌率が高いのは♂の方が餌をよく食べるからではないでしょうか。
[佐藤]そういうこともあると思います。
[杉村]馬場氏のデータだと♀が発癌は遅れるが、終局的には同じになっていますね。
[勝田]後の方のやり方のことですが、このやり方だとその時期々々の増殖「可能」細胞はつかまえられるが、それが連続していると断定することは危険だと思います。
[佐藤]発癌していない肝から取った培養も、長期培養した場合に自然発癌するという問題もあります。
[勝田]populationとしての形態の変化を、あのように言って良いでしょうかね。正常肝の培養でもあの中の悪性という略図に似ている場合もあります。
[難波]発癌していない肝の培養でも増殖してくるというのは、増殖誘導されているのでしょうか。
[堀 ]正常の肝では1/10,000位の分裂頻度です。部分切除すると、それが3%位になり、その内tetraが60%、diploidが30%位です。DABを与えて部分切除すると、diploidが60%、tetraが30%と、逆になります。5日位の短期でもそういう現象が起っています。
[勝田]Tetraの場合、endoreduplicationのような形になっていませんか。2核の肝細胞の核が同時に分裂形式に入って、1核宛の細胞2ケに分れることがありますので。
[堀 ]それは調べられていません。初代培養で得られるのは、tetraでなくdiploidだと思います。Azo色素を喰わせて、出てくるのもdiploidが多いだろうという感じですね。
《黒木報告》
ハムスター腎細胞に対する4NQO、4HAQOの効果:
昨年12月号の月報で、生後7日の♀ハムスターの肺、腎、肝からexplant
outgrowth、albumin mediumにより培養細胞を得たことを報告しました。
今回はこれらのうち、腎由来のセンイ芽細胞(Jin-11)に4NQO、4HAQOを加えた結果を述べます。
結論から先に記しますと、4NQO 10-5.25乗M、4HAQO
10-5.0乗Mの濃度で細胞変性を起したのですが、細胞増殖回復後も、形態学的変化(細胞の配列も含めて)がみられず、培養後80日の現在(1966年1月31日)では、control、4NQO、4HAQOのいずれの群も増殖がとまり細胞変性を来たしつつあります。
(培養の大凡の経過を図で呈示)初代12日目にいくつかのbottleをpoolし、TD-403本に培養、その他コロニー形成観察のため三春P-3シャーレに10,000個、1,000個、100個/dishでinoculum(TD-40の接種細胞は175,000個/mlx10ml)、コロニー形成はみられなかった。
2G、5日目(5Y30、17days)に4NQO、4HAQOをそれぞれ10-6.0乗M,24hrs.contact、形態学的な変化はみとめられなかった。
3Gへの継代は、7日培養後に行はれた。10,000個/ml、TD-40にinoc.残りは凍結保存する。3Gでsheetがきれいに形成されてから4NQO、4HAQOを10-6.0乗M、10-5.5乗M→10-5.25乗Mと段階的に濃度を上げ、10-5.25乗Mで4NQOは細胞変性をみる。4HAQOは10-5.0乗Mで変性が出現、この細胞変性は4NQO、4HAQOを除いてからもしばらくつづく。(特に4NQOは長引く)
細胞変性は細胞の剥離及び細胞が大きく丸くなり(形は不正)、しかし、細胞内構造は位相差で明瞭にみえる、というような形態を経たのちに死メツすることが特徴的のようです。
細胞の剥離変性は(特に4NQOの場合)は細胞配列の中心部に著明、帯状に残ったところから又、細胞がmigrateするようです。(略図を呈示)細胞が流れの上に配列していると→その中心部がまず変性し→網目状に残った細胞から中に新しくcellが出る。
4HAQO群は回復がはやく、39daysに4Gへ継代、sheetを作ってから10-5.0乗M添加1d、変性なし(このあと正月休み)。
培養56日目に4NQO群も相当程度回復したので、再び10-5.25乗M、及び4HAQO
10-5乗M添加。
しかし、この頃からcontrolの増殖はとまり細胞変性剥離がみられた。同時に4NQO、4HAQOもcell
damegeから回復出来なくなり、現在に到っている。
なお、以上の経過の中で、継代後3日間、及びcell
degenerationのみられたときは、TD-40にアルミホイルでcapし、炭酸ガスフランキに入れた。他のときはsealed。
この次は凍結した細胞と新たな培養によりはじめるつもりですが、どのような方法をとるべきか迷っています。
(1)4NQO、4HAQOの段階的添加はやめる。
(2)いきなり10-5.25乗M,10-5乗Mでexp.する(あるいはもう少し低濃度)
(3)形態学その他のマーカーがほしい。
(4)feederを用いたcolony形成はどうか。
(5)target cellは何か、等々。
浮いて培養できる肺細胞の培養:
前回の月報でも報告しましたように、初代から浮いている細胞がハムスター肺からとれました(Hai-11、7day
suckling。 Hai-21、embryo)。この細胞の特徴は
(1)浮いているか、又はガラス壁に伸展せずに附着している。位相差で核など内部構造がよくみえない。
(2)Smear preparationでは、剥離細胞の如く核が小さく、うすい細胞質をもっている。核は一方に偏していることが多い。
(3)PAS(+)。
(4)分裂像がみられない。
(5)軽く圧力をかけて位相差でみると、phagocytosisを行っているように細胞内に小さい顆粒が沢山みえる。(顕微鏡写真を呈示)
(6)培養後80日の現在、細胞は大分へってしまったが、依然として生きている(もちろんtrypan
blueには染まらない)
(7)肺以外からはとれない。
(8)ラットではみられなかった(もう一度やりなおす積り)
この細胞の本態はalveolar epithel(肺胞上皮)か又はalveolar
macrophageと云はれている細胞と思はれます(血液由来ではないだろう)。
今後、phagocytosisの研究、Harzfehler zellenとの関連性などの研究に使えそうです。DNA、RNA、Protein合成をH3-TdR、H3-UdR、H3-Leucinでみると同時に墨によるphagocytosisをみて、細胞の機能との関係に入りたいと思っています。
:質疑応答:
[勝田]その肺からの細胞はセン毛をもっていませんか。
[黒木]ありません。
[杉村]4NQOをtetrahymenaに与えて異型細胞が出来る場合、cell
cycleの或る時期にしかその遺伝形質に作用しない、ということがあります。培養細胞の場合は、いろんな状態の細胞が混っているから、遺伝的変化をおこすものと、単なる変性とが混っているようですね。
[黒木]4NQOはその作用がずい分後まで残りますから、かけ方に注意が必要ですね。
[勝田]この細胞は、1世代どの位の時間ですか。若し非常に長いとすると、G1でブロックされるのかも知れませんね。
[杉村]封入体の出来た細胞の運命はどうですか。
[黒木]処理後、3hrs.がいちばん見やすいが、その後だんだんよく見えなくなってしまいます。どうなるのでしょうね。
[堀 ]あれは本当に封入体ですか。仁が消えたみたいに見えますが・・・。
[勝田]そうですね。しかし、以前報告した連中が、あれを封入体様と言っているんですよ。
[杉村]あれが発癌のレールにのっているものか、死んでゆくものか、疑問ですね。
[高木]遠藤氏は死んでゆくものだと言っています。
[黒木]ただ、同じ副産物としても、発癌性のあるものに特異的に出るというので重要視されています。問題は今後どういうsystemで進めてゆくか、ということですが、難しいことだと思います。
[杉村]肝臓の場合は、4NQOから4HAQOを作る酵素がはっきり判っていて、purifyされています。この酵素はdiacoumarol(?)を少し与えると特異的に阻害されて、4HAQOができなくなります。
[黒木]段階的に添加してゆくというやり方も、時間のロスが多くて効果的でないですね。それと4NQOでハムスターに癌が出来るのですか。
[杉村]伝研の青山君が以前にハムスターポーチに4HAQOを入れていましたが、そのときは出来ませんでしたね。DABを少しやっておいて、あと4NQOを注射すると、肝癌発生率が高まります。注射は皆やっているが、食べさせるというのはやってませんね。森さんは、レシチンにとかして与えて色々なtumorを作っています。ただし、一度に沢山注射すると、局所が肉腫になってしまいます。
[螺良]局所に出来てしまうと、それを切除しているようです。肺ガンや何かが出来るまで・・・。
[杉村]4NQOの水溶性のがありますよ。発癌性は少し落ちますが・・・。
《高木報告》
今回はこれまでの結果をとりまとめて、更にその後の若干の発展について報告します。実験初期のものは大体Eagle's
Basal Medium又はModified Eagle's MediumにBovine
serum、C.E.E.を加えた液体培地又は寒天培地を用いて、マウス、ラットの皮膚、肺、腎、顎下腺等を培養し、一部のものに発癌剤として4NQO
10-4乗〜10-7乗Molを添加してみましたが、いづれも、10日かせいぜい2週間維持するのがやっと、と云う有様で認むべき成果は得られませんでした。
その中で、マウスの皮膚を高濃度の4NQO(10-4乗Mol)中で短期間培養したものに幾分の変化がみられたかと思います。
その後Plasma clot methodにより主として人胎児(4〜5ケ月のもの)、マウス、ハムスター(胎児或は新生児)の皮膚及び腎を培養することを試みました。先ず皮膚について、生直前と思われるスイスマウスの背部の皮膚を用いてPlasma
clot上で30日間培養しました。Medium作成法は前に述べた通りですが、今回は14日目以後のPlasma採取は全部シリコンを塗布した注射器を用いて行い、他に抗凝固剤は一切使用しませんでした。4NQOは10-5乗Molを13日まで加え、その後何も加えない群と、対照群とをおきました。
培地交換は大体3〜5日に行いましたが、これは新しいplasma
clot上に組織片を移してから3〜4日になると、組織片の下及びその周辺部にclotの融解がおこり始めるからです。培養後5日目毎に固定してH
& E染色により30日目まで観察しました。このシリコン塗布注射器により採血したPlasmaはMc-Gowan等が人胎児皮膚のorgan
cultureに用いて好成績を得ているものですが、ヘパリン等の抗凝固剤を加えて採血する場合と異り採血後凝固し易く、その点、技術的にかなり困難が伴います。培養結果、5日目のものではこれまで種々の培養法において等しく認められた様に、角質の増生が目立ち、この傾向は、4NQO群と対照群との間に差を認めません。
その後は、角質のそれ以上の増生はあまり起こらない様です。これに反して、表皮、真皮についてはこれまでの合成培地との相違が目立ち5日目の組織において已に核の濃縮がかなり認められますが、その程度はその後も変らず、又、両群共に同様で4NQOの影響は認められません。
今回の実験は30日目で打切りましたが、30日目のもので核の濃縮は5日目のもの同様に可成り認められますが、表皮全般の状態はあまり変りなく依然として組織は生存し続けていると思われます。この結果より見ますと、更に長期の培養も可能であろうとの希望が持たれます。
続いて約6ケ月と思われる人胎児の腎を同様Plasma
clotにより培養して22日目まで一応organizeされた状態に維持出来ました。
今回は最初からシリコン塗布注射器により得たPlasmaを用いました。
培養8日目、已にcentral necrosisはかなり目立ちますが、周辺部の細胞はほとんど変化がなく、12、17、22、27日と固定しましたが、22日目のものまで一応健常に保たれており、glomerulusらしき構造が認められます。但し、27日目のものではglomerulusの構造はほとんど認められず、少数の尿細管を認める他にFibroblast増殖が強くなっています。他に人胎児の皮膚も現在培養中ですが、無菌的な皮膚はなかなか入手困難で、今までのところ成果は上っていません。次回位にはなんとかきれいな写真を載せたいものと思っています。 顕微鏡写真を呈示:マウス胎児(生直前)の皮膚。同胎児皮膚を80%EBM、10%B.S.、10%C.E.E.、4NQO
10-4乗Molにて3日間培養後。約6ケ月の人胎児腎組織。同人胎児腎組織をPlasma
clot methodにより22日間培養後・glomerulus及び尿細管はかなりよくその構造を保っている。
:質疑応答:
[勝田]Epidermisが、とび出してくる時期に、そこだけ切り取って培養するということは出来ませんか。
[高木]大変むつかしいと思いますが、やってみられるとは思います。ただ、添加後3日位なので、そんな短期間で本当に変化が起きたかどうか自信がありません。
[黒木]発癌にそういうstromaが必要だということも考えられるでしょう。
[高木]ネズミの背の皮膚にぬって、発癌前にその部分の皮膚をきれいに取って隣へ移したら、移した方でなく、取った後に癌が出来たという実験があって、stromaの重要性を強調している人がいます。
[勝田]高木君の場合だけでなく、他の発癌剤にでも、dimethyl
sulfoxideを混ぜて与えると、発癌剤の浸透が促進されて面白いと思いますね。
[高木]発癌ということにも、異った細胞の間の相互関係を重要視したいので器官培養をやっていますが、器官培養は長期間行えないという欠点があります。
[杉村]長く維持出来ないというのは?
[高木]栄養分や酸素の補給が不充分だからです。
[杉村]サイズの問題ですね。
[螺良]器官培養では細胞は生きているだけなのですか。分化しているのですか。プラス・マイナス・ゼロということですか。
[高木]増えたり、死んだりで、プラス・マイナス・ゼロというのが理想的ですが、なかなかそうは行かないのです。骨みたいに、丸ごと培養して分化もさせるというのもありますが、今やっている培養は組織片で、液相と気相の境界線で培養しているという所がミソです。
[勝田]別の話ですが、肝の再生の指令はどこから出るのでしょうね。正常ラッテ肝由来の株を正常肝の初代培養とparabiotic
cultureすると、前者の増殖が抑えられるので、これは後者からrepresserが出ているためかと思って、後者の代りに再生肝を使ってみたことがありますが、やっぱり前者の増殖が抑えられてしまいました。それから、肝に4nが多いというのは、G2で止まっているのがあるからではないでしょうか。
[奥村]いや、肝細胞はG1で止まっていると云われていますよ。
[杉村]in vivoで再生肝を作って、器官培養をやると、再生肝らしく維持されますか。
[勝田]肝臓を丸ごと器官培養するということはまだやっていないと思います。やってみないと判りませんね。
《堀 報告》
G6Pdehydrogenase isozymes:
まずnormal male ratのliverと前報の如くinductionを行ったrat
liverにおけるZymogramの比較を行うべく実験を始めました。第1に染色液が極めて高価なので成可く経済的であること、材料に培養細胞を使う場合資料が少いので出来る丈装置を小さくすること、第2にnormalと誘導された肝では酵素活性が著しく異り、前者では極めて活性が低く、両者を同様の方法で泳動にかけることは出来ないことなどの点を考慮して、try
& errorで結局、次の如く方法を定めました。
(1)homogenateは1:2の水で作り、10,000gで30分遠沈、上清を取り、正常のものに限りこれを凍結乾燥で脱水、後、元の量の5分の1の水で溶かして5倍濃度液を作った。
(2)正常、誘導肝共に材料0.01mlを0.1mlのspacer
gelに混ぜ、その適当量(0.05〜0.1ml)を泳動にかけた。
(3)泳動には・・3mm〜5mmのガラス板にスライドグラスを細く切ってエポキシ樹脂ではりつけ、これに上からガラス板をかぶせセメダインで貼りつけ、泳動後はこれをはずしてゲルを取出す様にした・・手作りのtrayを用い、Ornstein
& Davis法により17〜20℃、2hrs.通電(tray1本当り2.5mA)。
(4)前述の如き染色液にて37℃、2hrs.染色。初めは、泳動の都度、異ったZymogramが得られ、その原因が不明で大分苦労したが、どうもhomogenateが古くなると酵素活性が落ちてパターンに変化をきたすらしい。
Spacer gelやSmall pore gelの濃度や量を色々調節してみたが、結局、Small
poreは7.7%、Spacerは3.1%0.3mlがよいことが分った。殺して直ちに泳動にかけた場合より、数日凍結保存後に泳動した場合の方がzymogramの差が極めて明瞭となる。
結論としてはバンド4と5がinduced liverではっきり出るのに、normalでは5がうすくなる。この事はnormalの資料を多くしても同じであることから、単なるspecific
activityの差ではなさそうである。
さて、培養肝細胞であるが、初期培養1週間の肝片90〜100コ位、2週間のものを60コ位、水でhomogenateとし、凍結乾燥後、出来る丈少量のspacer
gelに溶かして泳動した。結果は全くのNegativeで明らかに手法上の誤りがあったと考えられる。即ち、組織片が少なすぎたのかもしれない。今後、更に検討する。
前報の培養約1年の肝originのcell lineであるが、極めて増殖が遅くTD-15に1ぱいにsheetを作るには数ケ月もかかると考えられる。カバーグラスの小片を染色して観察した結果、極めて形態的多様性を示す細胞の集りで、核はおとなしいものからhyperchromatismを示す巨大なものまで雑多であることが分った。細胞質の染色性もまちまちである。細胞同志はきわめて密な接触を保っている様で、中には黄紅色の色素顆粒を有するものもある。また、可成り多くのものが変性壊死の過程にあった。これらのことから、これらの細胞はまだ悪性化の途上にあると考えられる。
:質疑応答:
[勝田]培養細胞の場合、細胞数が非常に少ないのではないのですか。
[堀 ]そうなのです。
[奥村]どの位の数がありましたか。大体10,000,000個必要だそうです。
[勝田]生化学屋さんは定量の感度を一桁上げて欲しいものですね。
[奥村]100,000位でできればいいですね。
[難波]展開剤は何ですか。
[堀 ]TRIS燐酸緩衝液です。実験群と対照群とでバンドの出方が違うので、何かいいinhibitorを加えて、バンドを消すことができれば・・・。Inhibitorが見つかれば面白いと思います。
《奥村報告》
A.ウサギ子宮内膜細胞に対するホルモンの影響
現在までにえられた結果ではProgesterone、Estradiolとも細胞増殖に対し促進的に働くことが判ったが、その作用機序については全く不明である。そこでH3をラベルしたホルモンを用い、細胞への取込み実験を行ない、はたしてホルモンが細胞内へどの程度、又どこに入るのかをAutoradiographicalに検べてみた。しかし結果はなかなかclear-cutに出ず、或程度の傾向を掴むことに止まった。細胞内におけるホルモンの局在性に関しては不明であるが、細胞内に取り込まれることでかは確かのようで、次のような結果から推論出来ると思う。Estradiol(0.01μg/ml)添加では1細胞当たりのgrain数は平均6.7、Progesterone(0.1μg/ml)添加では1細胞当たり平均6.9であった。
又更にProg.とEst.の2種のホルモンをそれぞれ適当な濃度で組み合わせ細胞の増殖をみた結果は、Estradiolを0.1、0.05、0.01、0.005μg/mlとProgesteroneを0.1、0.05、0.01μg/mlの組み合わせにおいて、controlの増殖を1として、Estradiol
0.01μg添加でProgestrone 0.05μg/mlでは1.8、0.01μg/mlでは3.2であった。またEstradiolを0.005μg/mlにProgesteroneを0.1μg/ml添加すると3.8となり、少くとも増殖促進を指標とした場合に、この組み合わせが効果的のようである。(培養20日後に算定)
B.JTC-4細胞のDNA量の測定
JTC-4細胞(予研亜株)のDNA量が正常細胞(体細胞)のそれよりも少ないことが推測されてきたが、その事についてその後2度測定した結果やはり正常体細胞(2n)のDNA量よりも少ない結果を得た。それぞれの細胞のNucleiについてのDNA量は10-12乗g/N値として、Spermは5.5、Heartは11.9、Liverは24.7、JTC-4(対数増殖期の細胞でG2期及びS期の半分(後期)にある細胞が全体の約35〜40%であることが観察された)は9.2であった(Standard
deviationは1.1〜3.8)。この結果をMSP(DNA-Feulgen)及びchromosome
compositionの分析と比較すると、やはりいづれの分析からもDNA
contentの減少(2nより)が見られ、その減少の量については未だ正確なことは判らない。
なおこの細胞がchromosome karyotype、plating
efficiency、colony sizeなどからみて、従来の株細胞などと比較して相当purityが高いことが想像されるので、細胞生物学的材料としてかなり有効なものであろうと考えている。
:質疑応答:
「杉村]チミヂンなどと違って、ホルモンの場合は構造物にとり込まれずに、作用しているので、coldを入れるとすぐおきかわってしまうおそれがありますね。
[勝田]細胞当りのDNA値から換算して、JTC-4-Yはploidyにすると何nになりますか。
[奥村]1.3〜1.6n位になると思います。
[杉村]最少単位のDNAはあるのですか。ハプロイドの染色体は維持しているのですか。
[勝田]染色体のペアでないのがあるということは、分裂したあと、片方の娘細胞の死ぬ、或は増殖しないことがある、という可能性も示しますね。H3-TdRを長く入れ放しでautographyをやってみましたか。細胞の何%位がラベルされるか・・・。
[奥村]それは、やってみませんが、flush labellingですと、第1ピークでmitosisの95%がラベルされ、第2のピークも90%位です。S期は14〜18時間で普通より長いです。シャーレにまくと、colony
sizeはよく揃うのですが、plating efficiencyが60%位で余りよくありません。一般に培養細胞は、遺伝的解析という面で大変わずらわしい、という事をこれまで感じているので、この細胞によってその点を克服できるかと期待しています。
[黒木]Phenotypeはどうですか。
[勝田]JTC-4というのは異常な位collagenを作ります。こんなに作る細胞は他にあまりないでしょう。
《堀川氏より勝田班長への手紙》
御無沙汰致しております。御変りございませんか。いつもながら月報や連絡書御送りいただき厚く御礼申しあげます。
私の方もいよいよ帰国を前にあわただしい毎日を送っておりますが、本来ガタガタとあわただしい生活の好きな私には、これが何よりも大きな刺戟で楽しんでおります。過去2年と少しばかり当地に来て出来た仕事をふり返っておりますが、結局は習うことより教えることに追い廻され、加えてTissue
Cultureの設備のない所で自分でsetし、新しいInsect
tissue-cultureに体当りした訳で、まあこれ位いの所で満足せねばと云う段階でMadisonを離れます。しかし、これからいよいよ本格的な実験に入ろうとする所でここを離れて行く事は、組み立てたSystemを後の人々に残して行く様ではがゆい感じです。日本の京大の医学部という所で、Insectを主体としたGeneticsをどこまでのばすべきか、またはどこでmammalian
cell或いは他のmaterialsに転向すべきかなど思いをめぐらしているのが現在のいつわりのない私の気持です。しかしGenetics出身の私にしてみれば、やはり現在の仕事を発展させて1968年東京で開かれる国際遺伝学会にそなえたい気持で一杯です。いづれ、こうした問題は帰国後ゆっくり考えて見たいと思いますし、また勝田先生にも御相談する機会を持てることを希望しております。・・・後略・・・
【勝田班月報・6603】
《勝田報告》
A)DAB-amine-N-oxideについて:
前月号にこのDAB-N-oxideが実に不安定であることを報告しましたが、それは培地中のヘモグロビン、特にFeがcatalystになって、MABやDABに変ってしまう為と、寺山氏から聞かされていました。そこで血清蛋白のpureなものと一緒にすれば、それと結合して安定化するのではないかと考え、ArmourのBovine
albuminの結晶(FractionV)を再蒸留水にとかし、それにDAN-N-oxide
10%溶液を等量すなわち終量5%になるように加えた。これを37℃で20分間incubateした后、約6時間室温に保存した后、分光光度計で吸収をしらべた。対照としてalbuminと混ぜないN-oxideの5%再蒸留水溶液を作り、同じような処理をした后、吸光度をしらべたが、対照の方は低いピークではあるが320mμに鈍い山を示し、N-oxideの存在することをあらわすと共に410mμに山がなくDABはほとんど含まれていないことを示していたが、前者のalbuminと混ぜた方は、280mμのproteinの吸収から急速に下降し、少しは肩は示すが、320mμにはピークは消失し、その代り410mμにピークができて、DABに変ったことを示した。
そこでこんどはDAB-N-oxideの20μg/ml再蒸留水液3mlと、FractionVの1%再蒸留水溶液1mlとを室温で混じ、BlankにはFractionV1%液1mlと再蒸留水3mlを入れ、その吸光度の320mμにおける経時的変化を連続的にしらべたところ、0→100までの吸光度の目盛で、10分間に1目盛宛continuouslyに吸光度が落ちて行くことが判った。
これらの所見は、DAB-N-oxideがきわめて不安定なことを示して居ると共に、寺山氏がN-oxideを動物に呑ませて肝癌を作った場合にも、体内の血中でN-oxideはDABに変り、DABが肝癌を作っていたことを示唆している。つまり寺山氏が[N-oxideの作用と思ったのは、実はDABそのものの作用であった]という可能性が大きい。
しかしごく短時間に細胞内の物質と結合して作用をはじめる可能性もあるので、RLC-9株(正常ラッテ肝)を使い、DAB-N-oxideの濃度を次第に上げながら連続的に与えておく実験もおこなっており、現在30μg/mlと40μg/mlの2群がある。
B)Nitrosodiethylamine(DEN、Tokyo-kasei)・(C2H5)2N-NO・(M.W.:102.14)について:
ラッテ肝細胞株に長期投与しているが、映画でしらべるとどうも細胞増殖が反って促進されている感じなので、cell
countingをやってみたら次のような結果が出ました。
(表を呈示)細胞:RLC-9株、RLC-10株。Culture
medium:20%CS+LD。 addition of CEN:From
the 2nd day。添加濃度:1〜80μg/ml。細胞はどちらも正常ラッテ肝由来ですが、反応に少し差があるようです。RLC-10では80μg/mlが添加7日后にmax.になってしまいましたので、今后さらに高濃度をしらべてみます。
C)DABによるラッテ肝細胞の増殖誘導:
前にやったことですが、らってが純系になったので、2月18日、F25♀生后10日のラッテの肝を使い、DABを1μg/mlに第0日→第4日だけ用いたところ、第14日にExp.:8/8。Cont.:5/6に増殖を得た。これらは今后DENの実験に用いる予定です。
《佐藤報告》
皆さんに対して研究の責任を感じていますが、思う様にはかどりません。正常ラッテ肝の培養(Primary)から実験に使用できる細胞が未だできません。従って今月は月報を遠慮した方がよいかとも思ったのですが、現在までの進行状況を書き送ります。
C163 11-19=0日 生后6日♂。現在96日、もうすぐ使用できると思います。
N.7 1-19=0日 生后5日♂。本日継代した所ですので未だよく分りません。染色体標本とギムザ標本をつくるようにしました。
上記2例以外に、Primary cultureしていますが、未だ継代していません。実験にBovineSerumとCalf
serumのロットを各々2本使用しましたが、増殖はBovine
Serumの方がよい様です。
◇難波君は主として免疫と、培養肝細胞のBilirubin代謝に主力をおいて毎日やっていますが、未だ充分の結果がでません。
《黒木報告》
2月はハムスターの出産がなく、4NQO関係の実験は進行していません。
目下feeder layerの為にMouse embryoのcultureをしています。出来るだけ多くcultureしcell
batchとして凍結する積りです。又、ハムスターも生れたときに出来るだけ培養し、凍結保存し、以后必要の際にとり出す方針です。
そこで凍結のためのいくつかの予備実験をしましたので、御参考のために記します。凍結温度は液体空気-196℃、容器はLinde
LR10-6型、硬質ガラス特製アンプレ使用。
(1)DMSOとグリセリンの比較及び凍結方法:
L1210(マウスの腹水型白血病)使用。凍結期間60日(表を呈示)。-80℃の温度は大西製のfreezerによる。凍結後の腫瘍性確認のための移植はCDF1マウスへ生細胞を1万個i.p.移植。生死判別は0.25%のtripan
blue染色。
以上の実験から、1)DMSOの方がGlycerolよりもはるかによいこと。2)凍結の方法が重要であること、-80℃に入れる方がよい(3時間)。それから液体空気に入れる。
(2)DMSOの濃度の検討:
上の実験の凍結方法3、すなはち、+4℃ 2hrs.-80℃
3hrs.。次に液体空気に入れる方法により、DMSOの濃度の決定を行いました。細胞は吉田肉腫、凍結期間は4日、細胞浮遊液は10%Bov.Ser.、EagleMEM、生死判定はtrypan
blue。
(表を呈示)。0%の41.8%の生細胞という成績はsmearを作ってみた結果、ほとんどが裸核のことがわかりました。すなはち、細胞質が非常にもろくsmearのときにこわれたものと思はれます。(DMSOもグリセリンも添加せずに凍結-40℃可能というhauschka
T.S,Levan,Aの論文があります。) 以上の結果から、90%以上の生存率で、安心して−停電断水の心配なしに−凍結することが出来ることが分り、目下実用に入ったところです。
寒天培地内におけるコロニーの形成について:
寒天内のコロニーの切片標本が出来ましたのでその形態について記します。固定はBouinです。これを用いると寒天が固るので以后の操作がしやすくなります。
(表を呈示)Invasion(+++)は、倒立顕微鏡又は切片で細胞が寒天の中に入りこんでいくもの、Invasion(-)は細胞が塊をなし外に出ていこうとしないものです。(+++)には、YoshidaS、PolyploidYS、AH13、AH13M、AH13C、AH7974F、AH66F、AH130F(Si)、AH130F(G)、AH131B、
CulturedYSがあります。AH39、AH423、HeLaは(-)でした。自由細胞率との間の相関に御注目下さい。Invasionと云うよりは運動能かも知れませんが。
《高木報告》
その后も人胎児組織をPlasma clot methodで培養しています。
1)人胎児皮膚の器官培養
約6ケ月と思われる人胎児の背部より皮膚を切り取りP.C.200u/ml、S.M.200μg/mlを夫々含むHanks液に1時間宛3回液を換えて浸した後、6x7mm程度の切片を作る。Plasm
clot作製法は前報のものと全く同じでシリコンコート注射器による採血も大分うまく行くようになった。実験群はC.E.E.に入れた4NQOが10-5乗Molの最終濃度になる群と、何も入れない対照群とを置き、夫々4、8、12、17日目にBouin固定、H
& E染色にて観察し、対照群のみ21日まで培養した。
培養後の変化として両群共にこれまで種々の培養法において等しく認められた様に角質層の増生が起り、経日的にその程度が増すと共にParakeratosisを認めたが両群間に有意差はなかった。
同様に培養前2〜3層であった表皮層も経日的に厚さを増し、12日目のものでは両群共に6〜7層と可成り厚くなったが、両群とも同様で特に対照群の皮膚組織は3週間殆んど謙常に保たれたと云てよいと思う。また培養前の組織には全く認められなかったMitosisの像が、培養4日目のものに両群共可成り多数認められるようになり、この傾向は12日目までほとんど同程度に継続されたが、17日目のものでは4NQO添加群の組織で核が急にややPicnoticになりMitosisを全く認めなくなった。
この変化が4NQOの影響によるものか、もっと他のfactorによるものかは今後の検討を要するところです。対照群は21日目まで培養を続けたが17日目のものと殆んど同様にMitosisが認められた。12日目までのものに見られたMitosisの数量的な差については、4NQO添加群の方が幾分多いのではないかとの感じをうけるが、確定的なことは云えない(写真を呈示)。 2)人胎児腎の器官培養
前の腎組織培養に引続き今回はPlasma clot method及び液体培地(70%199、20%BS、10%C.E.E.)の比較を行うと同時に相方共に4NQO
10-5乗Mol添加群と対照群をおいて培養した。 用いた腎組織は約6ケ月の人胎児より得たもので、摘出后P.C.100u/ml、S.M.100μg/mlを含むHanks液に約3時間浸した後、4x5x3mm程度に細切し、前報同様のPlasma
clot上及び、Stainless meshにより、培地に接するようにした液体培地により培養した。その結果は、Plasma
clotによるものでは対照群は1月号に写真を載せたものとほとんど同程度であり、4NQO添加群では培養后8日目頃からcentral
nectosisと共に全体的に核のPicnosisが目立ち、この傾向は経日的に増強して17日目のものでは組織の大部分はnecrosisの像を呈しており、4NQO群は培養を打切った。対照群は引続き27日目まで培養したが、27日目のものにも前報、写真、培養22日目の人胎児腎と同程度に可成りよくorganizeされており、一部にはglomerulusの構造も認められる。液体培地を用いたものでは、夫々対応するPlasma
clot cultureに比べて培養後8日目より全体的に核のPicnosisが強く組織固有の構造がほとんど認められなくなる。この傾向は矢張り4NQO添加群に強く12日目のものでは両者ともに、殆んどの核がPicnosisを呈する。しかしいずれの実験群においても培養前、培養後の全期間を通じてMitosisは認められず、又、4NQO添加に対する反応と思われる何らの所見も得られなかった。液体培地については血清濃度などに今後検討すべき問題点があると思う。
《高井報告》
今月は公私共に雑用が極めて多く、実験の方が殆ど進まず困っています。
1)bE11Ac.群のその後の経過:
前月報に報告した様に、小型紡錘形の細胞が殆どを占める様になった後、かなり細胞数が減少して来たので、2月7日(培養44日、Ac処理35日間)からアクチノマイシンを含まない培地に変更してみました。Ac(-)にしてから約1週間で細胞はかなり回復し、cell
sheetを形成して来ましたが、同時に細胞の形態も対照群と酷似したものになりました。
要するに、この群の細胞に見られた形態学的変化は、まだ可逆性であったわけで、いわゆるtransformationはまだおこっていないと考えらると思います。この群のcellは、もう一度アクチノマイシンを作用させてみるつもりです。
2)ASSV(in vivo固型アクチノマイシン肉腫のprimary
culture):
前回の班会議で勝田先生から指摘されました、in
vivoのアクチノマイシン肉腫細胞の培養条件の検討にとりかかりました。今回はprimaryのtumorがありませんでしたので、btkマウスで継代せる腫瘍(前月報の実験の100個移植群のNo.1のマウス)を材料としました。培地は20%CS・YLHと20%BS・199の2種とし、細胞数の測定でなく、顕微鏡による観察のみにしました。現在1週間目ですが、20%CS・YLHの方はかなり細胞の変性が強く、20%・BS199の方が(やはり変性の傾向はありますが)細胞は少しキレイな様です。
3)btkマウスについて:
先日の班会議でbtkマウスについて、御質問がありましたので、ここにあらためて記載します。余り詳しい文献は見当らないのですが、「アクチノマイシンの発癌性に関する研究。I.アクチノマイシン皮下注射によるハツカネズミにおける肉腫発生実験」中林登:大阪大学医学雑誌11(7)、1959、の中に次の様に記載されております。すなわち「・・・btk系とは、C57BL系ハツカネズミ雄と、螺良、赤松らによって分離された乳癌好発系ハツカネズミtaの雌を交配し、そのF1からC57BL系ハツカネズミに似た黒色の毛色を選別して兄妹交配を行い、現在第15代に到っているもので・・・」とあります。前月報のDiscussionの項の私の答えを上記の如く訂正させて頂きます。
《奥村報告》
A.ウサギ子宮内膜細胞に関する研究
前月報(班会議)で報告した結果以上のものは未だデータとして得ておりませんが、オートラジオグラフィーでホルモンの細胞内への取り込み実験がある程度可能であることが判明したのでその后の確認実験を近いうちにするつもりです。その具体的計画について若干述べてみます。
用いる細胞:ウサギ子宮内膜、ヒト子宮内膜、その非感受性と思われる1〜2の細胞(現在考えているものは“in
vitro"cell lineとnon-target cellのprimary
culture)。
ホルモン:Progesterone、Estradiol、TeststeroneとこれらのH3ラベルしたもの。
培養条件:CO2及びO2gasの量を調節できるincubatorを用い、少数細胞(500〜1000/ml)をplatingし、コロニーレベルで行う。optim.pHは現在まで得られたデータから7.4〜8.0の範囲を用いる。serumは仔牛とヒトのものを用いる。synthetic
mediumはNo.199とEagle'sbasal medium、F-10、他に特別のconditioned
mediumを用いる。
以上の実験を再開するに先立ち、予備実験として生化学関係の人と共同で37℃で種々の培地条件(例えば、血清入り培地、又は各細胞のあるフラクションの添加された状態)での各種ホルモンのstabilityを時間に追ってしらべる計画を立てている。
ウサギに比べてヒト子宮からの細胞採取はいろいろな点から困難であって、実験条件を十分検討しなければならないと思う(age、その他)。材料については最近ある病院から手術材料として子宮全部(傷つけずに)をまるごと入手出来る様に話がついたので大いに助かります。おそらく来月ぐらいから月に一度ぐらいはもらえると期待しております。
B.JTC-4細胞のDNA、染色体に関する研究
前号までに数回にわたりJTC-4のchromosome
complement及びDNA contentについて報告しました。その結果、この細胞のDNA
contentがdiploid cell(大部分はG1 phaseにあると考えられているもの)より少く、haploid量(sperm)より多いことがほぼ確かであろうということが判った。さらに、来月(3月)から伝研の積田教授に入門してDNAのbase
compositionをしらべることにした。その方法については先日、積田先生と話し合いましたが、当面2つの方法を用いることになる様です(詳細は省略)。
いづれにしても、“in vitro"cellとしての非常に好材料として考えている、この細胞のcharacterizationを主眼にし、その中からspecificでstabilityの高いmarkerを見出して行こうと計画しております。予備的実験としてはcollagen
formation ability、LDH isozymepatternなど2〜3のものを、その専門家に依頼して結果は出ております。またauto-immuneとGuinea
pigのheteroのsystemの両方で、immunologicalな実験の材料作りをはじめてもいます。
C.発癌の研究班に入って直接の発癌実験をすることが出来ず残念に思います。内分泌学的研究という“大げさな"課題に取り組んですぐ発癌の仕事というのは私自身の能力から考えて非常に無理なことであることに気がついた次第です。私はホルモンを扱うにしてもやはりBiological
problem(ホルモンと細胞増殖、ホルモンと細胞の形質の関連性など)についつい魅惑されてしまって“ともかく何とか発癌を!"という一本のレールに乗れない様に思いました。しかし、今后もう少し生物学的課題の整理がついたら、そのレールに乗かることも可能かと思いますので、その時はどうぞよろしく御教示下さい。私にとっては現在発癌を実験的に行い、かつ生物学的課題をも併せて解析出来るのはウィルス−細胞というsystemが最も手がけやすいように思います。ですからしばらくは発癌に関しては、sponta-neous
transformationか、ウィルス−細胞という系で追ってみたいと思います。それにつけても極度の人手不足で参りました。皆様の御発展をお祈りします!!。
《堀 報告》
組織培養による発癌機構の組織化学的研究
主たる目的としたことは肝組織片の培養によって得られる細胞群が組織化学的にどの程度肝細胞としての特徴を保持しているかを調査することであった。
(1)Primary culture(1〜2wks)でacid phosphataseの活性と分布を調べた。
APaseはin vitroではbile canalの両側に沿ってきれいな分布を示す顆粒に検出される。この様な特異的細胞内分布を示すのは肝細胞以外にない。従ってこれをmarkerとして実質細胞を区別せんと試みた。
MTK 、吉田、武田肉腫、GTD、H-96、HeLa、H-99培養株を比較のため用いた。
確立された移植癌または培養株細胞においては、主としてnuclear
hofにAPase顆粒が局在しているが、肝培養細胞では、in
vivoにおける如きpericytoplasmな配列を示すものが多く見られた。しかし乍ら、このことは全細胞に共通したことではなく、このAPase顆粒のみによる細胞の分類、同定は不可能であった。
(2)同じくG6PaseとPhosphorylaseの活性について。
この2つのglycogenolytic enzymesは肝細胞を特徴付けるに充分な肝実質細胞に特異的酵素と考えられるが、そのいずれも培養細胞では検出不可能であった。
(3)培養初期の組織片の変化。
G6PaseとPhosphorylaseの検出が不能であったことから、培養初期の組織片の変化を調べることにした。
培養開始から、時間を追って組織片を取り出し切片として、G6P、phosphorylase、glycogen、RNA、succinic
dehydrogenaseの染色を行い、各々の消長を調べた。その結果、RNAやSDHは培養時間と関係なく、或いは次第に強く検出されるにも拘らず、glycogen、phosphorylaseは急激に減少、G6Paseも1日以上では検出不可能になることが判明した。
(4)CO2incubatorでの組織片の変化。
G6PaseやPhosphorylase、glycogenなどが何故この様に急激に検出不能になるかを更に調べるために、肝組織片を(1)培養液を用いず(2)LD-20にinsulin、Phlorizin、cortisoneを添加した培地と共に培養、2〜8hrs.後の組織変化を調査した。その結果、培地なしで只放置した組織片で一番酵素活性の消失が遅いことが分った。一方、添加物の効果は全く認められなかった。
(5)酵素のin vitro inductionの試み。
in vivoではcortisoneが肝G6Paseのinduceを結果することが分っているので、培養細胞にcortisone(1μg/ml)を1〜7日作用させてG6Paseの染色を試みたが不成功に終った。
また、in vivoでは30%casein食により肝G6PDHのinductionが可能であるが、その培養えの適用は不能である。
(6)G6PDHisozymeについて。
培養肝細胞はin vivo肝より強いG6PDH活性を示す事が染色で判った。これはin
vitroにおける酵素活性の上昇の唯一の例であった。そのため、電気泳動を用いて、正常肝、30%casein食投与肝、培養肝細胞のisozyme
patternを調べることを計画した。
正常肝では5〜6bands、30%casein食肝で6〜7bandsのzymogramが得られ、前者は後者の3〜4番目のbandに相当するものが極めて活性が弱く、5〜6番目が欠けていることが判明した。しかし乍ら培養肝では材料の不足のため満足なzymogramが得られなかった。
培養肝細胞のzymogramが正常肝と異るとすれば、肝細胞の代謝の変化が示されることになり、興味のあることと思われる。
【勝田班月報・6604】
《勝田報告》
1.Nitrosodiethylamine(DEN)による培養内発癌実験:
DENがラッテ肝細胞の増殖を促進するらしいと前月号の月報にかきましたが、cell
countでDEN各種濃度の肝細胞増殖に対する影響をしらべたところ、低濃度では明らかに増殖を促進して居り、阻害にはmg
orderに入れなければならないことが判った。(DENは、2日培養してcell
sheetのできたところで添加した。) (表を呈示)μg
orderでしらべた結果では、2日后、4日后には40μg/mlが最も促進したが、7日后になると80μg/mlがピークになった。7日后(総計第9日)には100μg/mlがピークになった。これらの濃度を細胞数あたりに換算してみると、0.5μg〜0.2μg/1,000
cellsのとき最も増殖を促進し、1μg/1,000 cells以上になると抑制するらしいという結果になった。
2.“なぎさ"培養→DAB高濃度添加の実験:
“なぎさ"培養からDAB高濃度添加に移すと、変異細胞株が短期に高率にできると前に報告しました。その内SubstrainMというのは一寸変った細胞でRLC-3由来ですが、DABを異常に消費します。20μg/mlにDABを加えても3日間でほとんど完全に消費してしまいます。これは染色体数のピークは77本になっています。
《佐藤報告》
発癌実験
月報NO.6602の計画に従って実験中です。現在私の研究室で飼育中のDonryu系ラッテの染色体の核型をつくりました。方法は『Yosida,T.H.
and Amano,K.:Chromosoma:1965』に従いました。ラッテ体重3.5μg/gr.のコルヒチンを使用(文献には一律ラッテ当り400μg)2時間后殺して大腿部骨髄からair-drying法で標本作製。(♂♀の核型図を呈示)。
標本での疑問点・(1)大きさの順位にならべてあるが、非常によく似ているものがある。実測はどの様にしてするのか? (2)(1)の理由により、♀のX染色体は区別がむつかしい。♂のY染色体は周囲にacrocentric
chromosomeがないので発見が容易。
C.163−前報NO.6603に報告したC.163株は現在5th、Subculture、122日。染色体標本は4thSubculture、培養112日のものを材料として使用した。タンザク培養后3日目に培地交新、翌日コルヒチンを1μg/mlと4μg/mlに最終的になる様にして、6時間、12時間、24時間を検索した。1μg/ml
12時間が最もよく、次いで1μg/ml 24時間がよかった。
染色体数は核型分析が可能のものは13個、いづれも42であった。無理をして数えると以下の通りである。染色体数42以上のものはない。25本:1、33本:1、39本:2、40本:5、41本:1、42本:20。C.163はRLN-163と名付け以后cloningを行う予定。
《黒木報告》
ハムスター胎児細胞に対する4NQOの効果
今までラット胎児肺細胞、ハムスター新生児腎細胞を培養し、4NQO
or 4HAQOを添加する実験をくり返して来ましたが、すべて発癌又は形態学的変化をみないままに終ってしまいました。今まで用いていた4NQO、4HAQOを吸光度曲線により検討したところ、かなり吸光度が低下していることがわかりましたので、新たに作り直すと同時に培養細胞も新たに、実験を再開しました。(4NQO、4HAQOは今后2w毎に作り直す予定です)。
細胞:golden hamster、whole embryo(ただし、頭部及び肺、心は除く)Zen-1と略する。
培養方法:Explant outgrowth法による。培地:Eagle+1.0mMpyruwate、0.2mMSerine+
1mg/l af biotine & 20%B.S.(但し血清は培養17日以降は10%にした。節約のため)。
digestion:0.02%pronase、37℃ 4〜5min.。Bottle:主としてTD-40、P-3dish(三春、45mm)。Incubator:主としてCO2-incubator、growthが安定になれば、閉鎖ガス環境。
発癌剤:4NQO、4HAQO 10-2乗MにEtOHに、水を加えて10-3乗でstock
soln.とする。
milipore filtration。
培養は3月5日に開始した。(角ビン10本、TD-40
1本、90mm dish 1枚、計12本)。5日後full sheet。pronase
digestion後、(表を呈示)表の如く培養を行った。(TD-40
4本、dish 20枚)inoc.sizeは1万個/ml、dishは10,000、1,000、100/dishでコロニー形成をみる。残りは凍結(10本、5万個/amp.DMSO
10%、液体空気)、今后thawingして使う予定。
4NQOは前回までの実験からみて4x10-6乗M(10-5.4乗M、0.76μg
per ml)で与えた。
Controlの細胞はepithelialのものが多く、細胞質はうすく核の回りにgranulaのあるものが多くみられた。なかにfibroblastがmixしている。継代を重ねると、特にひんぱんに継代したcontrol-2、-3ではきれいなfibroblastだけのsheetとなる。
4NQOを加えると細胞の大部分は剥れおち、残った細胞はspindle、配列はcrisscrossし、multilayerになる。肉眼的にみると、その部分はフェルトのようにみえる。controlでも
crisscrossはみられるが、それはfibroblastの流れの重り合ったところに限られているようである。(図を呈示)図はZen-1-NQ-1に4NQOを1w加えた後のcellの残った部分で、あたかもtransformed
fociの如く思はれる。
ここに残った細胞はいずれもspindleでcrisscrossしています。他の4NQOを加えたびん(NQ-2)でも同様の変化がおこっています。45mmのdishで4NQOを添加したのは16日目、(4NQO添加後10日)で染色したところ直径8mmのfocusが5つ程みえました。
4HAQOは4x10-6乗Mでは変化なく、10-5乗Mでmultilayerになります。
このような変化が細胞のSelectionによるのかどうかはわかりません。しかしmultilayerはcontrolにはみられない所見ですので、何らかの変化を考えてもよいと思はれます。
Zen-1-NQ-1は4NQOを1w加えてから4NQO free
med.で培養していますがfocusからmigrateする細胞は初めのうち(2〜3日)は、focusと同じようなspindleのcellでしたが、6〜7日後にはフラットの細胞で核が大きく、核小体の明瞭な細胞をみるようになり、今后も注意深く観察する積りです。
Zen-1-NQ-2、Aen-1-HA-1は10日、12日間4NQO、4HAQOを加えましたが、今后(継代后)carci-nogenを加えつづけるのと、中止するものに分けてみるつもりです。
今後の方針として、
(1)transformationを明確にするため、colonial
colonyレベルの仕事にもっていく、そのためfeederlayerの作り方を検討しています(softex使用)。
(2)継代による変化:1.controlは3つおく。2.4NQO、4HAQOは加えつづけるものと、途中で中止するものの二つにする。3.適当なときにまずcheek
pouchにinoc.してみる。4.形態の観察。5.必要に応じて凍結アンプレからとり出し、再現性をみる。等です。
また4NQOの種々のderivativeも手に入り次第実験に用いていきます。
《高井報告》
1)bEII.Ac.群のその後の経過:
前月報に間に合わなかった写真を、お目にかけると共に、その後の経過について報告します。(写真を呈示)写真1)はbEII.K群、即ち対照群の培養30日であります。写真2)はbEII.Ac.群の37日目(Ac.0.01μg/ml.28日処理)で、小型紡錘形の細胞が大部分を占めていた時期です。ところが、44日目(Ac.処理35日)からアクチノマイシンを含まない培地にかえたところ、その後わずか3日間で、写真3)の如くcontrol群に極めてよく似た形になってしまいました。 そこで3月1日(66日目)から、再びアクチノマイシンを添加したところ、TD40、4本のうち、2本において高度のdegenerationがおこり、この2本は3月10日(75日目)から再びAc(-)にして様子を見ています。
細胞の形態は(図を呈示)図の如くで、顆粒が多くて、丸くかたまった細胞があちこちに細々とガラス壁についています。この状態はbEI.Ac.(月報6503〜6506参照)の時に見られた最初の変化と似ている様に思われますので、目下、大切に育てています。残りの2本では、こういう変化もおこってはいますが、なお、その他に対照群の細胞と似た細胞もかなり残存しており、まだアクチノマイシンを含んだ培地で飼っております。
同様な処理をしているのに、どうして、この様な異った経過(程度の差だと思いますが)をとったかについては、よく分りませんが、培地のLot(contamiをおそれて、2群に分けている)によってアクチノマイシンの濃度が少し異るのかも知れません。(非常に稀釋しなければならないので、多少の誤差は避けられないと思います。)
2)in vivo固形アクチノマイシン肉腫のprimary
culture:
前回報告したASSVは雑菌(カビ)のため絶滅。
あらためてASS をstartしました。(材料はASS
10個移植で生じたTumor)。今回は接種細胞数が少かったためか、余り調子よく増殖しなかったのですが、(写真を呈示)写真4)は20%BS・199の9日目、写真5)は20%CS・YLHの同じく9日目です。どうも199の方が少し良さそうですが、何れの培地でも約3週間で変性が強くなり、充分な培地では無い様です。
《高木報告》
(1)引続いて人胎児皮フの長期培養を試みた。方法は前報と全く同じでPlasma
clotを用い、胎児の月数もほぼ同じ6ケ月位と思われる。培養后12日目までは健常に保たれmitosisも認められたが20日目に固定してみると4NQO添加群、対照群共に殆んどの細胞がPicnoticになっていた。また2週間遅れて培養開始したハムスター胎児の皮フも4日目ですでに全部変性におちいっていた。
この様に今回の実験で壊死が早く起った原因として採血の際、シリコンをコートしたばかりの新しい注射器を用いたので何かtoxicなものが附着していたのではないかと考えています。このことはシリコンコート注射器を使いはじめのPlasma
clotによる培養の結果が非常に悪く、その后日を経るに従ってうまくいきだした点とを考え併せると、何か意味がありそうです。目下、人胎児を用いた実験を再出発しています。
(2)ハムスター胎児のorgan cultureを三回に亙り行った。第1回目は(1)にも書いた様に途中で駄目になった。第2回は生下前2〜3日と思われるハムスター胎児の皮フ及び腎の培養で、これは復元実験の一つの足がかりとして行ったものです。培養方法はこれまでのPlasma
clot法と全く同じで夫々4NQO 10-5乗Mol.添加群及び対照群をおいて4、9、15日目にBouin固定H.&
E.染色して観察した。
a)皮フ:培養前のものにはかなり多数のmitosisを認める。4日目のものでは角質の増生、及び表皮の肥厚(2〜3層のものが4〜5層になる)、及び基底細胞層の規則正しい配列をみるに至るがmitosisは非常に少くなり、又真皮には幾分Picnosisが認められる。9日目のものでは角質、表皮共に4日目以上の肥厚はなく表皮に幾分のPicnosisを認め、mitosisは全くない。更に15日目のものでは、全層殆んどnecroticとなり表皮層にpicnoticな薄い層を認めるのみです。従ってここまでで培養を中止した。
b)腎:a)で皮フを取った同じハムスター胎児より腎を取り出し、約1x2x1mmの腎をそのまま前記同様のPlasma
clotにて培養し、矢張り4、9、15日目に観察した。培養4日目central
necrosisを認めるが辺縁部は殆んど健常に保たれている。9、15日目のものでは、管腔が少し拡大してはいるが、尿細管の構造は大体正常に保たれている。培養前の組織には多数のmitosisを認めたが、培養4日目以后mitosisは全く認められない。
この実験でも4NQO 10-5乗Mol.添加群、対照群の間に特別な差を認めなかった。a)b)の実験を通じてみると15日目の皮フが腎に比べて非常に状態が悪いと云うことがどうも納得出来ない。今后いろいろ検討すべき問題がある。先ずその一つとしてclotの成分について、C.E.E.の代りにHamster
embryo extractの使用、又ハムスター血漿の使用、或は現在用いている3%CO2、97%O2ガスをO2又はAirに変えること、又は温度の問題等色々考えられる。
(3)ハムスターを用いた3回目の実験は上記同様生下前2〜3日のハムスター胎児の皮フをPlasm
clot及び液体培地を用いて培養した。Plasma
clotは上述のものと同じで、液体培地はi)70%199+20%B.S.+10%C.E.E.よりなる半合成培地、及びii)70%B.S.+30%C.E.E.よりなる天然培地を用いた。両者のうち天然培地は血清源は異るが、Plasma
clotを液体にした状態に近いと考えることが出来ると思う。現在8日目までの培養結果はPlasma
clotを用いた皮フでは(2)において記したものと大同小異であるが、液体培地によるものでは両者とも4日目からすでに全くnecroticであり、これらの胎児組織を培養するには液体培地はどうも適当でなかった様に思われる。使用した血清、C.E.E.については、同時に培養したハムスターの顎下腺が健常である点からみて、それほど問題があるとは思われず、他の点につき更に検討の余地があると思われる。
《永井報告》
3年程前に、伝研から現在の職場に移ったのですが、此処は発生学のひとつのセンターでもありますので、私の興味もいつか脳の生化学からこの方面に移って現在に至っています。これまで物質の上では、リピドや糖質の化学にたずさわってきた関係で、発生学へのアプローチの仕方も、こういた物質の研究をもとにしたものとなっている次第です。癌については、伝研時代に少しいじくったことがある位で、現在は全く離れています。それでどの程度お役に立てるかと内心気がかりです。現在おこなっています仕事は、1)ウニの配偶子のスルホリピドの研究、2)ヒトデの卵巣物質の研究、3)ウニ胚を用いてのcell
aggregationの生化学的研究の3つです。1)の研究は、従来植物にしかないといわれていたスルホン酸結合のリピドがウニの卵と精子に存在することをみつけたので、目下その化学構造決定と生理的意義を追求中です。このリピドは精子の呼吸を倍に高めるとともに、精子の凝集作用を示します。またこのリピドで前処理すると授精率が急速に低下します。これらは、しかし癌と関係がつきそうにないようです。ちょっとでもありそうなのは、2)と3)でしょうか。2)はヒトデの卵が、他の動物の場合と違って、卵巣中にあるときは全く分裂せず、神経ホルモンによって海水中に放卵されると直ちに成熟分裂をおこすという現象にヒントを得た仕事です。つまり、卵巣中には分裂を抑制している物質があるのではないか、この物質を追求中といったところです。3)は、これはちょっとやそっとでは片附きそうにない問題で、皆様からお智慧を拝借してじっくりやっていこうと考えていますので、どうぞよろしくお願い致します。ウニ卵は、嚢胚期までの発生途上では、EDTAなどでmetalを除くと、cellがばらばらになり、これを元の海水に戻すとaggregateをspecificにおこない、もとの姿を回復し、また発生をつづけていきます。これは昔から知られた事実で、発生学者によっても時々とりあげられる問題ですが、生化学的な研究、その物質的基盤を明らかにする研究は、全くやられていない現状です。Cell再構成の実験はMosconaなどがやり始めているところですが、ウニ卵の方がSystemとしてSimpleで取り扱いやすい(もっとも現実は仲々きびしく、思ったとほりのようでもなさそうですが)し、卵も多量に入手できますので、やる気も動いたといったところです。目下、ウニ卵発生の同調培養、実験系の確立などに大わらわといった有様です。ばらばらにcellをしたのち、海水に戻してやると直ちにくっつき合って塊をつくり、やがてその中でSpecificな結びつきが成立していくのか、互に区別できる組織像が成立していくゆです。cell同志があまりにも早くくっつき合うのに驚かされるとともに、おれがまた何かと問題をひきおこします。まだ安定した実験系をつくりあげるにのは程遠いようです。もう春ウニのシーズンも終りに近づいてきました。すると、夏までおあづけとなります。これが別の悩みの種です。生物学の根本問題のひとつは形態形成にあると私は思っていますので、何とかしてこの問題に対して私なりの突破口を開きたいものと思っています。
《藤井報告》
組織培養のこの研究班では、勝田教授はじめ、みなさんなかなかときついスケジュールでやっておられるので、臨床をやりながらのhalf-dayペースでやっていてついていけるかどうか危ぶんでいます。場違いのところに出て来た感しきりです。今回は私のやっている事を御紹介して御挨拶としたいとおもいます。移植免疫の仕事を始めたのは、そもそも癌の免疫をやる予備として、私の所の石橋教授から与えられたテーマだったわけですが、癌の免疫はあまりにむつかしく、その方はついつい手うすとなり、移植免疫の方がおもしろくなって凝っている恰好です。
同種移植では、ふつう血清の中に抗体がなかなかみつからず(Gorer等の血球凝集系は別として)、細胞性あるいは細胞結合性抗体の概念が導入され、遅延型反応と関連して今だに重要な免疫学と課題になっているとおもわれます。MiamiのDr.R.A.Nelsonが細胞結合性抗体の成立機序について仮説を立てており、そのその研究室で仮説の実験的証明の仕事をやってきましたが、その仮説というのはdonorとrecipientが互いに共通な抗原をもっておって交差反応性を示すとき、産生抗体がrecipient自身の細胞に交差反応して、そこに細胞結合性の抗体が成立するというものです。同種移植反応を、抗原と宿主の相対的関係からみる、魅力ある考え方です。(J.Exp.Med.,118,1037,1963)
最近同種移植でも血清中の抗体がCytotoxicテストや、Immune-adherence法できれいに証明出来るようになりましたが、その出現の仕方も、donorとrecipientの組合せ関係によっていることが示唆されています。細胞結合性抗体の本体をと、考えながらも、今1度、血清抗体の方を整理しようとやっています。19S、7S抗体とcytotoxcity等の関係など面白い成績が出かかっています。
この他、研究室の2〜3人と担癌宿主の免疫反応性、とくにその低下する原因についての実験と、補体、とくにマウスの補体が測れるようになりましたので、癌や移植の免疫と関連して研究をすすめています。
《三宅報告》
ヒト胎児皮膚のSponge matrix cultureにみられる表皮のMitosisと、H3-TdRの取りこみの分布地図について:
この号から参加させていただくことになりました。何とぞよろしくお願い申し上げます。相変らずのヒトの胎児の皮フをみています。材料にしたのは胎生3ケ月のものです。分裂をみたのはSpongeに容れて4〜5日目の廻転培養を行ったものです。H3-TdRの取りこみは培養2〜3日の後に2時間させたものです。同じ材料についてその両方を行ったものではないのです。表題にかかげた2つのものは、いわばこのCultureの方法についての重大な批判ともなる訳です。固定、Paraffin包埋して、最初の一枚から連続切片にすればよかったのですが、一応H.E染色をしてからという方法をとりました為に連続切片をしたと申しましてもParaffineblockの後2/3位の厚さしかないものです。(図を呈示)これを図のように標本の上で5つに分け、表皮の部を層状にa、b、cの3層にわけて、MitosisとH3-TdRのLabelingをみたのです。
分裂は、もちろんBasal cell layerに見られ、この上のSupra-basal
cell layerにもみとめられました。その広さは“AとE"の辺縁部、及び“C"に少いことが判りました。Labelingは、組織片(2〜3mm角)の中心では“B、C、D"に少く、組織片の辺縁部では“A、B、C、D、E"に瀰漫性にあることが判りました。これは当然のことかも知れません。これを組織片の全体から立体的にながめますと、MitosisもLabelingも共にドーナツ型の分布地図を示しその大きさを比較するとMitosisのしめす型が、Labelingのもつ型よりも、分厚く、中心に片よっていることが判りました。またどうしたことか、Mitosisが辺縁部に少くてドーナツの型からいえば、Mitosisのものが全体からいえば少し小型であるといえます。
実は皮膚がCultureの間に分化を示すとすれば、上方に角化層を作りあげて行くばかりでなくてRete
pegs(釘脚)を作るために、Basal layerの中でMitosisとLabelingが所々に局在して来ると考えたのです。それが連続切片を作って見た動機になったのですが、そのようなことはありませんでした。このCulture
methodでは胎生の表皮は、上方に向って一途にProliferationをして、角化傾向をみせるのですが、Basal
cellのDown growthは見られないのです。皮膚の分化という点からすれば、考えねばならぬ点と思いました。
なお後になりましたが、Spongeは山内製薬のGelfoam
Sponge(Spongel)です。培養液は、Eagleに牛血清と鶏胚抽出液を添加したものです。Spongeは硝子壁にPlasmaでclottingしてあります。
【勝田班月報・6605】
《勝田報告》
A)当室に於て樹立或は分離した培養細胞株の一覧表:
過去17年間に於て伝研組織培養室に於て新たに樹立した株、或は他の既製株より分離した亜株(無蛋白培地継代可能の亜株)を示す(表を呈示)。
胸腺よりの株は上皮性細網細胞と思われる細胞がはじめはかなり多い。しかし継代と共にこの%が減少して行く傾向がある。容器によっては細網細胞が再び主位を占めることもある。この他RTM-1よりのClonAもある。
新生児の内より故意に育ちの悪い1仔をえらび胸腺を採取した。胸腺は萎縮状態であったが、その経過を知るため培養したところ、果して中途で退行変性を呈し、継代培養できなくなった。
B)微分干渉位相差顕微鏡による培養細胞の観察:
日本光学で最近開発した微分干渉位相差というのは、これまでの位相差がいわば細胞の内部を透視しているのに対し、頂度細胞の表面から細胞膜の表面の凹凸ぶりを眺めているような感じである。(写真を呈示)下の写真はRTM-10(ラッテ胸腺細網細胞)の微分干渉写真で、細胞質内の顆粒が非常に立体的にみえ、核膜の辺端や核小体が隆起しているのも判る。この顕微鏡で観察した結果、硝子面に附着して広く細胞質を拡げている細胞の断面形態は下図のようであることが判った(模式図を呈示)。細胞質や核の辺縁が盛上っているのは、氷嚢に水を少し入れて密封して机の上においたときと同様の所見で、細胞質や細胞膜の物質的特性を暗示している。
《佐藤報告》
◇正常ラッテ肝細胞株のラッテ復元による腫瘍発生状況(表を呈示)。各細胞株の形態については5月の班会議でスライドにして持参の予定です。腫瘍性のあるRLN-8株は形態学的に癌細胞と考えられます。他のもの6細胞株は多型性、異型性がわづかです。たびたび報告しました様に復元してラッテを腫瘍死させた場合には復元株が癌であることは間違ありませんが、腫瘍をつくらなかった場合、復元された細胞株が癌ではないとは云ひ切れません。最近でも接種后235日たって腫瘍死した例がありました。極端に云へば接種動物が自然死するまで観察しなければならないと思います。即ち動物へ復元して腫瘍をつくる能力の弱いものは敢えて人工的な線(例えば100万接種で5ケ月観察、或いは500万で3ケ月)を引き、その線以上の腫瘍性をつかまえる事が現実的だと思ひます。培養肝細胞の発癌に関しては形態学的悪性度(核が大きく或は数が多くなる。核膜が肥厚する。細胞質境界が明瞭となる。多型性、異型性が増加する。異常核分裂が見える)と動物への腫瘍移植率がよく一致していました。
RLD-10株(RLN-10株と同じラッテ肝より初代培養し最初の4日間のみ1μg/mlにDABを添加した細胞株)の腫瘍発生率(表を呈示)。この株細胞は私が3'-Me-DABの培養内発癌実験に主として使用した。培養1235日目の実験でi.p.に腫瘍発生率が100%であり且つ死亡までの日数が短いことが判明した。1313日、1337日ではそのような事はおこっていない。3'-Me-DABで発癌?させた場合にはi.c.が最も早く死亡する。この点は1235日目のRLD-10には見られない。然しどうしてこの様な高い腫瘍発生率が現れたかについては現在の所分らない。
月報6510の復元については班会議で報告の予定。
200日程度の3'-Me-DAB投与は腫瘍発生率及び死亡日数を短縮した。
RLN-10及びRLN-21への3'-Me-DAB投与は今の所発癌への効果がない。
RLN-35、36、38及びRLN-39には今后3'-Me-DABを投与して見る積である。
《黒木報告》
ハムスターWhole Embryoへの4NQO、4HAQO(2)
前報においては培養20日までの成績を報告しましたが、その後継代は順調にすすみ、現在(4月22日)は培養48日に達しています。
現在までに得られた成績をまとめると次のようになります。
(1)4NQO、4HAQOを、それぞれ4x10-5乗M、10-5乗M加えると、明らかなmorphological
transformationが起る。
(2)morphologicalの変化はLeo Sachsの報告と非常によく一致している。fusiformな細胞がcrisscrossし、multilayerを形成する。
(3)controlは培養40日目前后から増殖がおち、形態的には、うすい、顆粒を多く持った細胞から成るGiemsa染色すると、collagen様のものがintercellularに沢山みえる(これが「分化」
とどう結びつくか目下考えているところです。)
このようなcollagenの合成?は4NQO、4HAQOを加えた方にはみられない。
(4)controlha40日頃に増殖がとまるのに対し、4NQO、4HAQO添加群は活発に増殖している。継代に伴い混在していたcontrolと同じ形態の細胞は少くなって来た。
(5)山根、松谷によるmodified Eagleを用いれば1%前后にコロニーが形成される(4NQO、4HAQO添加群の細胞)。今日これからクローンをとった。
(6)feeder layerも目下検討中(細胞をsuspendにして5,000rのCo60をradiationする方法が、簡単のようです。
(7)第二回目の実験群もスタートした。4NQO
4x10-6乗M、4HAQO 10-5乗Mをそれぞれ2日づつ培地交新と同時に加え、10日間で中止の予定。
(8)動物(ハムスター)への4NQO、4HAQO注射による発癌実験も開始した。
大体以上です。詳しくは班会議のときに。
《三宅報告》
ヒト胎児皮フの培養(Sponge Matrix)にみられる表皮のH3-TdRの標識細胞
及び標識率の差(部位的な)について
in vivoではヒトのadultの大腿部と足蹠部の皮フの間には有核層の厚さ、角質層の肥厚、更にはまた細胞の増殖状態の間に著しい差が認められます。この皮フをin
vitroに培養すると、はたして同じことが生れるかということをしらべてみたのです。培養の方法は前回に記したのと同じです。材料は3〜4ケ月のヒトの胎児の大腿と足蹠の皮フです。それを8日間Roller
cultureで培養した後にH3-TdRに2時間、5μc/mlの割合で取りこみをみました。最も長いのが8日間で、それまで各時間に同じことをやりました。大腿部の表皮では培養直後のものでは標識細胞(L.C.)は大体基底層に一致して出現します。ただ僅かに例外的にその上の中間層にも見られますが、標識率(L.I.)は大体20%と概算することが出来ました。このL.C.とL.I.の関係は、培養6、12、18時間の後も略々同様の価を示します。培養の時間が24時間以上になりますと、この価はだいぶ異って参ります。24時間目になるとL.C.は明らかにSuprabasalの部にまで拡がり、L.I.も45%に高まります。30時間の培養をへますと、L.C.は表皮の最上層にも出現します。この時のL.I.は50%にもなります。しかし36、42、54、60時間の培養の時間が長引くにつれてL.I.は下降してきます。それは51、44、35、26%と漸減して来ます。所が培養を更につづけて、4、5、6、7、8日目になりますとL.I.は20%と落ちて、横ばいの状態になります。がL.C.の出現部位はbasal
layerのみでなく、Suprabasalの部位にも認められるのです。
一方、足蹠部の表皮では培養1〜2日目では、L.C.の出現は前者と異って、basal
layerにしか出て来ません。L.I.はまだ計算しえなかったのですが、とても前者の50%などという高い価は出て来ません。その後時間を経たもので、L.C.はSuprabasalの部にみられますが、その后、Labelingはbasal
layerに落ちついてしまうのです。このように表皮の細胞の増殖はin
vitroでも著しい差があるのです。
《高木報告》
最近は人胎児の入手がなくもっぱりハムスターを使って実験しています。今回はハムスター胎児の皮フをいろいろ条件の異るPlasma
clotを用いて培養してみました。
1)Plasma及びEmbryoextractの割合について。
生直前のハムスター胎児背部の皮フを切り取り、3x5mmに細切して、サージロン上より、Plasma
clotの上に置いた。Plasma clotの組成としては、(1)今までに用いたChick
Plasma(C.P.と略)6滴、C.E.E.2滴(3:1)よりなるもので、これに4NQO
10-5乗Mol添加群及び対照群をおき、(2)C.P.5滴、C.E.E.3滴(5:3)、(3)C.P.4滴、C.E.E.4滴(1:1)、の以上4群に別けて3%CO2・97%O2通気下に、37℃で培養した。Medium更新は3〜4日毎とし、4、8、14日目に夫々Bouin固定、H.&
E.染色にて観察した。
培養前のものでは表皮層とは画然と区分されMitosisを可成りの程度に認めるが、角質層は全く認められない。培養4日のものでは各群共に2〜3層の表皮に相当する厚さだけ角質の増生を認めるが表皮と真皮の画然とした区別が出来なくなり表皮に相当する部分にもMitosisは認められない。真皮には幾分核のPicnosisを認めるが全般的にみて組織は殆ど健常に保たれている。8日目のものでは3:1群では4NQO群、対照群共に4日目のものと殆ど変らないのに比べて5:3、1:1群は共にPicnosisが可成り強く認められ、14日目に至るとこの傾向はますます強く、5:3、1:1群では全層殆どnecroticになっている。Plasma
clotはC.E.E.の量が多くなるにつれて柔かくなり、1:1のものでは時には組織片が少しclot内に埋没して了う状態もみられたことが、この様な結果になって現れたのではないかと思われる。
2)Embryoextractの種類及び気層についての予備実験。
ハムスターの皮フを培養するのにハムスター胎児抽出液(H.E.E.と略)を用いることは以前からの懸案だったので今回予備的に用いてみた。同時にC.P.・C.E.E.を用いた培養を空気中で行ってみた。使用した材料は1)と殆ど同程度のものを同じ方法で採取して用いた。Mediumは、(1)C.P.6滴:H.E.E.2滴(妊娠中期のハムスター胎児を、Hanks液1:1にて抽出)。(2)C.P.6滴:C.E.E.2滴(従来のものと同じ)の二群とし、(1)は更に4NQO
10-5乗Mol.添加群及び対照群を置き、3%CO2・97%O2混合ガス通気下に37℃にincubateし、(2)は空気中で37℃にincubateした。
その結果(1)においては4日目のもので表皮と真皮はなお、かなりはっきりと区分され、数は少ないが明らかなMitosisを両群共に認めた。8日目のものでは何故か原因ははっきりしないが、両群共に全体的に核がPicnoticであり、この点につき今後更に検討していきたい。 いずれにしてもハムスター皮フの培養で培養後Mitosisが認められたのは初めてであり、矢張りH.E.E.の使用については今後十分検討すべきであると思う。
(2)の空気中で培養したものについては、これまでのガス通気によるものとの間に殆ど差を認めなかった。
《高井報告》
今月は別の仕事に忙殺されてしまい、発癌の仕事は全くはかどらず困っております。従って残念ながら、今までから維持している細胞系についての観察以外に報告すべきものがありません。
1)bE Ac.群:前月報に報告しましたように、細胞変性が強くなった状態からの、恢復→transformed
colonyの出現を期待しているのですが、未だその傾向はみられません。前に記載した変性の少かった2本の瓶も、その後やはりひどくなって来ましたので、4月9日からAc.(-)のmediumにかえて、観察をつづけています。
2)in vivo固型アクチノマイシン肉腫の培養:ASS の培養のうち、20%BS・199の方も20%CS・YLHの方も、夫々1本のみ細胞増殖がおこって来て、かなり元気になって来た様です。20%BS・199の方がやや細胞が幅が広い以外には、特に著明な差はないように思われます。この細胞のprimary
cultureに適当な培地の検討に関しては、馬血清その他の多種の血清を試みる様、勝田先生からAdviceを受けているのですが、今のところin
vivoで作ったアクチノマイシン肉腫がすぐに使えるものがないので着手出来ない状態です。
3)復元実験:月報6601に記載しました復元実験については、現在までのところ、全く陰性のままです。
《永井報告》
バフンウニの季節が今月初旬でおわり、あとは7月のムラサキウニまで待たねばならないので、材料を仕込む意味で今月前半は三崎に行き受精膜を集めるのに精を出した。これを溶解する酵素もウニ孵化時に分泌されるので、embryoをmass
cultureし、これを集めた。この酵素は従来蛋白分解酵素とみられて来たが、よく調べてみると、確固とした証拠なしの提言とみられる。それで、むしろグリコシダーゼ系の酵素でないかとにらんで仕事を始めているわけです。一応精製した受精膜にcrudeの酵素を加えて、還元値が上昇するかどうかをみた。糖質が遊離してくれば、アルデヒド基の露出によって、還元値が増す。実験の結果は、どうやら時間とともに還元値が増加するようです。これをもとに膜の化学構造の決定まで行ければと目下夢を描いています。ウニと同時にヒトデも集めました。今年はどうやら調子がわるいらしく、卵巣と精巣をwet
wt.で夫々1kgと600g程ようやく集めることが出来ました。これから、前報の意図のもとに、減数分裂を抑制している物質がとれればよいのですが。今月の後半は、先ず第一段階として糖脂質の抽出と分離にとりかかっています。ケイ酸カラムクロマトでは、糖脂質として検出されるものは(図を呈示)、図の と とか主要部である。HCl水解で、糖のガスクロを試みると、 からはFucoseとXsugarが、 からはFucose、Xylose、Galactose、Glucose、Xsugar( の場合と同じ)が検出された。このXsugarがどんなものか仲々わからず困っていたのです。メチル化糖かと思って脱メチル反応(BCl3処理)を試みても全く変化しないといった有様でした。所が今月後半に入って、ふとしたことから、東大農化・水産化学教室で、ヒトデの体表から分泌される毒性物質を研究していることを知り、早速paperをもらって読んだところ、水溶性のサポニン系物質として単離しており、これが毒性の本体だと書いてあります。非糖部分は未同定ですが、糖部分としてFucoseとQuinovoseとが存在しているとあるので、もしかすると我々のSugarXもこの珍しい糖Quinovoseではないかと思い、早速出かけて水産化学からQuinovoseをもらい験してみました。現在のところ、SugarXはBuOH:Pyridine:H2O(6:4:3)でのペーパークロマトでQuinovoseに一致したspotを与えました。我々はウニ卵から新しい型のリピドでスルホン酸型のキノボースと思われる糖をもっている糖脂質を見出しています。またナマコからやはりQuinovoseが得られています。ヒトデ、ウニ、ナマコは棘皮動物門(Echinodermata)に属するわけで、いずれも同じくQuinovose
typeの糖をもつことになり、面白いことになるのですが、果してどうか。ヒトデの問題のリピドが水産化学の人々がとりだしたSaponinに似ているようでもあるので、目下この点を追及中です。もっとも彼らのものは、水に可溶、有機溶剤に不溶ですが、我々のものは水に不溶ですので、一応違うものとみれるのですが、何とも云えません。彼らは7月の卵をもっていないヒトデ全体からとっているのですが、我々は卵からこのものを得ています。Saponin様物質だとすると、我々のものは新物質ではなくなりますが、それにしてもこの様な一般にCellに対して毒性を有する物質が、何故精子にはなく、卵に多量に存在するのかが依然として謎のまま残ります。我々の物質のCell分裂に対する効果如何の問題もまだ残っています。
【勝田班月報:6606:ハムスター胎児細胞への4NQO・4HAQOの作用】
DENによる培養内発癌実験について:
前月にひきつづいてラッテ肝細胞の培養にDEN(ディエチルニトロソアミン)の添加をつづけている。最近、肝細胞のシートに縞模様があらわれ、これは三種類の細胞(何れも肝細胞ではあるが)が集団をつくり合っている為にできたものと判った(略図を呈示)。
中型細胞は、細胞質が明るく、余裕のある限り互いに密着しない。顕微鏡映画で観察すると(供覧)非常によく動く。しかし分裂はきわめて低頻度である。大型の細胞は硝子面に広く伸展し、細胞質が灰色に見える。これは変性しかけた細胞ではないかと思われる。小型の細胞は互いに強く密着し、ほとんど立体的に押上げ合っているかのように見える。これも余り動きはなく、何れにせよ変性への過程に入っている細胞ではないかと想像される。
これらの培養はDENを50μg/mlから、100μg/ml、現在は1,000μg/mlまで上げて連続的に投与している群である。先般も報告したようにDENはμgレベル(100μg/ml位)で明らかに肝細胞の増殖を促進し、DAB発癌とDEN発癌とでは機構がかなり異なることを示唆している。
今後はさらに若い株の肝細胞を用い、短期間での変異を狙いたいと思っている。
胸腺細網細胞の培養による抗体産生の実験は、昨日報告したので省略する。今後はできた抗体の特異性について証明することに努力したい。
:質疑応答:
[螺良]DENの作用で、映画に見られたような動きの活発な細胞と、そうでないのとに分れたのですか。
[勝田]そうだと思います。分れたというより変ったということです。
[黒木]継代すれば分離できるのではないでしょうか。
[三宅]変性細胞と、動きの早い細胞の島との間に、膜があるように見えましたが、膜でしょうか。
[勝田]そんな風に見えましたね。しかし本当のところはまだ判りません。
[黒木]DENは安定ですか。pHの変化その他に対して・・・。
[勝田]光以外に対しては安定だそうです。
[黒木]DMNではどうですか。動物実験ではDENと同じような結果が得られているそうですが・・・。
[勝田]DMNも使ってみたいのですが、水に易溶性の点でDENから使いはじめました。癌研・高山氏の話では、DENも水にとかして与えると胆管上皮癌が多く、油にとかして与えると肝癌が多くできるそうですね。
[黒木]杉村先生の話では4NQOでも水にとけるのができたそうです。
[螺良]DENは1mg/mlで細胞変性はどうですか。
[高岡]1mg/mlでは増殖は抑えますが、変性は少いようです。
[勝田]DEN発癌の肝臓は、DABのときのような激しい破壊像が少くて、出血巣があって、その周囲に増殖像がみられるということです。しかし、DABに比べ、動物発癌のレベルでもデータが少いので困っています。
[堀川]2種の発癌剤を組合せて試みてみましたか。
[勝田]薬剤で2種というのはやっていません。“なぎさ”培養のあと高濃度DAB処理−というのはやってみました。今後はDABをはじめに投与し、次にDENというのはやってみる予定で居ります。
《佐藤報告》
発癌実験:RLD-10(Donryu系ラッテ生後14日の肝をprimary
cultureし、最初の4日間のみ1μg/mlのDABを添加し、以後DABを除いて増殖株となった細胞)に3'-Me-DABを添加して発癌させる実験は計4回行われた。そのうち2回は既に報告した。第3回目については昨年暮ラッテの復元成績判定日が来るまで待って報告する様お約束していました。
現在(66'-4-30日)でみると(復元表を呈示) A)RLD-10細胞に3'-Me-DABを添加しないで復元すると、培養1091日で所謂spontaneous
transformationがおこっているのが分る(腹腔内接種のみ)。培養1235日の復元接種では極めて強い癌性が認められたが、培養1313日、1337日両培養細胞の復元接種では現在までの所腫瘍は認めれない(127日及び108日経過)。この間の癌性の低下の理由は分らない。 B)RLD-10細胞に3'-Me-DABを添加した場合を見ると添加日数が160日を越えた場合、癌性の増強が明かに見られる(この点は第II回実験と同様である)。腫瘍をつくったものとつくらないものについて、投与方法を検討して見ると、3'-Me-DABを連続投与するか、極めて変性が強くなる迄投与するかの方法が有効であり、10μg/mlと0μg/mlを交換する方法では効果が少い様に思われた。復元接種の方法としては、100万個細胞接種→3ケ月屠殺開腹、500万個細胞接種→死亡まで(少くとも1年)観察の方法が最適と考えられる。
培養上の自然発癌について
(I)RLN-8(正常Donryu系ラッテ生後9日の肝より株化されたもの)が自然発癌したことは前号の記録を参照していただきたい。記録中、復元時培養日数1192、接種細胞数100万個、観察中の3匹の内1匹は149日で腫瘍発生、この細胞は培養日数1268日で生後31日のラッテ腹腔に100万個、500万個、1,000万個復元接種したとき、復元後178日の屠殺開腹で夫々0/1、0/2、2/3の腫瘍腹水の発生を見た。
又、RLN-8培養日数1109日でnew born Donryu系ラッテに復元接種し、復元後130日たって出来た腫瘍腹水を再培養しSp-1と名付けた。再培養後55日に1,000万個の細胞を生後34日のDonryu系ラッテに移植した場合には、49、64、75日で3/3腫瘍死した。
(II)RLN-39細胞の自然発癌
前号RLN-39細胞の復元表中、287日死亡頭部化膿と記載のものは病理組織標本検索の結果、腫瘍細胞を確認、又i.p.303観察中0/3の内1例は腹腔中にTumor発見310日死亡。従ってRLN-39は発癌していたことになります。
:質疑応答:
[堀川]Tumorの区別は簡単にできますか。
[佐藤]それは出来ます。それから、ラッテ継代も出来ますから、間違いはないと思います。
[螺良]はっきりしないもののassayのためには、1,000万個位接種する必要があるわけですか。
[佐藤]新生児では1,000万個の必要はありません。100万個で100日で殺せばcheck出来る、という方式でやろうと思っています。
[螺良]少数細胞で長期間見るより、大量接種して早くみる方に揃えた方がよくありませんか。
[佐藤]少数で長くかかってつくということで、腫瘍性の低いものをcheck出来ます。
[黒木]100万個の方は省略して、500万個だけでデータを出した方がよいのではないでしょうか。
[佐藤]100万個の方は途中で殺して、中間の低い腫瘍性をしらべ、500万個は死ぬまでおくという、ちがう方法のつもりです。
[堀川・黒木・螺良]実験方式は出来る限り簡潔に確実にすべきですね。
[高井]100万個で3ケ月のもので、どの位の%に判別出来るとお思いですか。
[佐藤]つくべきものなら100%判ります。
[勝田]自分のこれまでのデータをよく整理して、接種量、観察期間、take率などに関する一つの表を作ってみて下さい。
[螺良]対照に腫瘍性があるかどうかのcheckを気にしているのか、対照と3'-Me-DAB処理群との差をみることに重点をおいているのかどちらですか。
[佐藤]両方とも考えています。
[勝田]細胞への復元接種について我々の間でこれまで問題になってきたことを、新しい方々も居られますので、簡単に要約してみますと、(1)培養内での変異細胞を少数の内に確実に捕えるため、色々な復元接種法を試みた結果、佐藤班員の経験では、新生児腹腔内接種が最高の成績を示しました。(2)次に接種した動物を何時まで観察すべきか・・という問題があります。Evansなどは1.5年はみるべきと云っていますが、1.5年もおいてはじめて出来た腫瘤が果たして接種細胞の作ったものかどうか、という問題が残ります。佐藤班員が「私は今後こうやろうと思う」と云っても、そうやりたいということの根拠をもっと皆にはっきり判るように説明しなくてはならないと思います。実際的には100万個で3ケ月ということで、変異細胞のchecking、500万個で死ぬまでということで、使った正常細胞の悪性のcheckingということになりますかね。
[黒木]腹水腫瘍細胞を動物に接種した場合の細胞数と、生存日数の関係は図示できます。また図から計算した結果はautoradiographyで調べたgeneration
timeと一致しました。
[佐藤]この図でみると、100万個で死ぬまでみて、500万個で1ケ月という方がよいということでしょうか。
[高井]腫瘍細胞のgeneration timeで死亡日数が決まるわけですね。すると100万個が500万個にふえるのに必要な日数が、100万個と500万個の死亡日数の差になるわけですか。
[黒木]ただ佐藤先生のような場合、接種した細胞100万個が皆同じような悪性細胞というわけではないのですから、この腹水腫瘍のデータが必ずしもあてはまるわけではないでしょう。
[勝田]もう一つの問題はRLN-39(9日ラッテ)のように、2年以上培養しただけで、ラッテにtakeされたものがあるのですから、実験は2年以内、出来れば1年以内にすませなくてはならないということですね。
[佐藤]はっきりは云えませんが、材料をとったラッテの年齢が若いほど早く悪性化するように思えます。とにかく、人工的でも或る形式を定めて、復元実験をやろうと思っています。
[高井]結局、佐藤先生のplan通りでよいようですね。
《高井報告》
HVJ(Hemagglutinating Virus of Japan)による細胞融合現象を細胞のmalignancyの有無の判定に利用する試み:
われわれが組織培養内での発癌をねらって仕事を進める場合に問題になる重要な事柄の一つは、細胞のmalignancyの判定であります。もちろん、この問題は最終的にはgeneticに適当なhostに復元接種を行うとすれば、非常に多くの動物を要し、時間的、空間的、並びに経済的にかなりの負担になります。そこで、簡単なsystemでmalignancyの有無が短時間内に、たとえ大ざっぱにしても判定出来て復元接種のための目安が得られれば有用であろうと思われます。
ところで、御承知の様に、阪大微研の岡田等は、数年来HVJによる細胞融合現象を詳しく追求しておられますが、この現象を上記の目的に使用できる可能性もありそうに思えます。すなわち、彼等の報告によれば、mouse腹水腫瘍(Ehrlich、Sarcoma180、Sarcoma37、SN36、Actinomycin
Sarcome、MH-134)、組織培養株細胞(KB、HeLa、FL、Chang
Liver、MS、ERK、L)、並びに人間のmyeloid leukemia
cellsは高いfusion capacityを有するのに対し、monkey
kidney、mouse embryo fibroblast、chick embryo
fibroblastの2代目ではfusion capasityは極めて低く、正常leukocytesはfusion
capacityを有しないとの事です(Okada et al.,Exptl.Cell
Res.32,417-430,1963)。彼ら自身「Fusion capacityが細胞の癌化のindicatorになり得るかを正確に検定してみる必要がある。」とも述べています。(岡田その他、細胞化学シンポジウム、15巻、159-177、1966)。
そこで、この現象が私の現在維持しているbEIIK(9代目)(btk
mouse embryo fibroblasts、対照群)並びにAS.T-d26-T(JTC-14株−actinomycin
induced sarcomaのstrain−の株でmalignancy(+))について、おこるかどうかを試してみました。なお、必ずfusionをおこす筈の細胞としてHeLaも同時に使用しました。岡田等のroutineに使用している方法はcell
suspensionの状態でHVJと混合し、37℃で60分間振盪する方法ですが、これでは1,000万個のorderの細胞数を必要とします。上記の復元接種のための予備試験という意味に使うには、とてもこれだけ多くの細胞は使えないので、今回はタンザク入りの小角ビンを使用し、cellがガラス壁に附着したままの状態でHVJと接触させてみました。
最初は小角ビンに1mlの新しいmediumを入れたところへ、HVJ液0.1mlを加え、10分間iced
waterで冷してから、incubtor(37℃)に入れ、24時間後固定染色してみましたが、これではHeLaでさえ余りfusionしていませんでした。
そこで、Newcastle Disease Virusで同様な現象を観察しているKohnの方法(A.Kohn,Virology
26,228-245,1965)に準じて、mediumを捨てた後、HVJ液0.1mlを直接cell
sheetに添加し、30分間37℃にincubate後、新しいmedium0.9mlを加えて24時間更にincubateしてみました。この方法によれば、HeLaはfusion(++)ですが、AS.T-d26-Tは(-)、bEIIKは(±)〜(-)といった状態でした。当然fusionするだろうと思っていたAS.T-d26-Tがうまく融合しないので困っています。
何れにしても、この現象は今までcell suspensionでの解析はずい分詳しく検討されて来ていますが、cell
sheetでの反応の条件については、今まで殆ど検討されていない様です。殊に融合をおこすのはイキの良い細胞に限られ、degenerateしたcellは融合しないということもあります。更にVirusの量の問題もあり、当然、細胞数も問題になる筈です。これらの色々な問題について、もう少し検討しないことには、目的は達せられないわけですが、この現象のspecificityについて、まだはっきり「正常のものは融合しない、悪性のものはする」と言い切れるかどうか疑わしい現在では、余り深く追求することは、本来の発癌実験をやる上で、望しくないかも知れません。しかし、もう少しだけ、この問題を検討してみたいと考えています。
:質疑応答:
[堀川]高井さんの場合、このHVJを腫瘍化を見付ける手段に使うつもりですね。
[高井]これが非常に簡単にできるのなら使えると思いますが、なかなか難しいかもしれません。
[堀川]Ideaとしてはよいが、本当に使おうと思うなら、やはり、その作用機構がはっきりわかってからでないと、使うのは無理ではないでしょうかね。
[勝田]岡田氏のDataをみると、正常細胞の実験が不足ですね。
[高井]私のcontrolの細胞で代を追ってcheckしようかとも思っていますが、細胞の条件が非常によくないとよくくっつかないそうなので、negativeを決定するのが難しいと思います。
《螺良報告》
現在組織培養の研究は次の3つの系列で行っている。
(1)マウス乳癌の組織培養
これは一昨日のシンポジウムで発表したように、培養細胞とその戻し移植におけるウィルス様粒子の産生を電顕的に調べているものである。とくに戻し移植をするマウスについては乳因子のあるDD系、乳因子のない(C57BLxDD)F1、及びDDfBの3系について比較している。勿論電顕的なスクリーニングは非常に粗い網目であり、またその粒子は必ずしも乳因子を意味しないが、ともかく最も迅速なスクリーニングとして電顕をねらった。今迄の結論は
(1)培養によってもHistocompatibilityは不変である。
(2)培養細胞ではほぼ成熟ウィルスはみられなくなった。
(3)乳因子のある系統への戻し移植ではウィルス様粒子を認めることがあった。
(4)乳因子のない系統への戻し移植では今迄のところ確実なウィルス様粒子らしいものは見つかっていない。
(2)(3)(4)の順でこの結論は不確かさが多い。従って今後これらを確かめると共に、発癌物質を用いてウィルスの成熟が促進されることがないかも確かめたい。
(2)マウス肺腺腫の組織培養
A系マウスの肺腺腫は移植につれて腺癌様の形態に移行する。この移植性肺腫瘍からYLH或はYLE培地に10%〜50%コウシ血清を加えて、トリプシナイズした組織から静置培養を試みたが、今まで数回反覆しても常に最初の2週間はかなりの増殖を見るものの以後発育の停止を来すことが常であった。
マウスの肺腺腫は組織学的に段階を追って腺癌に移行するもので、もし正常組織が培養できた場合、in
vitroの発癌実験を行い癌化の過程を追求する上に好適な材料と考えられるが、その為には先ず移植性肺腺腫の培養を物にしてから、正常肺の培養そしてそのTransformationという方向へ仕事を進めたい。
(3)マウス及びラットの睾丸間細胞腫の組織培養
(1)Wistarラット
このラットは生後2年以上で自然発生腫瘍が多く、しかもそれらは内分泌系由来のものである。之からYLHに10%コウシ血清を加えた培地で単層培養を試みたところ、睾丸間細胞腫2例、乳腺繊維腺腫1例、下垂体腫瘍1例は、初代培養で発育を認めた。しかし乳腺繊維腺腫以外は継代の見込みがない状態となった。(顕微鏡写真を呈示)
(2)KFマウス
之に自然発生した睾丸間細胞腫は前記の培地によく発育し、現在継代しているものは1965年1月4日から培養したものである。この培養細胞のもとの原発腫瘍は、移植に関してホルモン依存性があり、たとえ同系のKFマウスでも女性ホルモンを投与していないものには移植できない。ところが一旦培養すると初代培養7日目でホルモン依存性なく移植でき、しかも動物に継代可能である。(表を呈示)
この腫瘍で問題となることは、原発がホルモン産生臓器であるが、その機能が培養で維持されているか、また培養或は戻し移植で電顕的にウィルス様粒子が認められたが、これはこの腫瘍に如何なる関係があるかという2点である。之等についての現在のデータを示すと以下の通りである。
i)ホルモン産生能
生物学的な方法と化学的な方法の2つがあるが、戻し移植したマウスの雌雄について各臓器とくに卵巣、子宮と睾丸、精嚢を無処置のものと比較した。子宮及び精嚢重量が増加しているが、これらは去勢動物を用いて確かめる必要があろう。
また戻し移植腫瘍を阪大医学部・森君に組織化学的に調べてもらった。
Histochemistry of Re-inoculted Testicular
tumor
Alkaline phosphatase -
Acid phosphatase -
Aminopeptidase -
β-Glucuronidase +++〜++++
Non-specific Esterase ±〜+
Succinic dehydrogenase ++++
Lactic dehydrogenase +++
Malic dehydrogenase ++
Glutamic dehydrogenase +
β-Glycerophosphate dehydrogenase +
Isocitrate dehydrogenase ++
Glucose-6-phosphate dehydrogenase ++
ホルモン産生細胞ではGlucose-6-phosphate dehydrogenaseと3-β-ol
dehydrogenase活性との間に平行関係があるが、この場合G-6-P
dehydrogenaseしか行えなかった。然しその部位と活性程度からみても、ステロイドホルモン産生能はない様だとの見解であった。
また移植腫瘍2gを阪大医学部遺伝の関さんに化学的に分析してもらったが、ステロイドホルモン(Testosterone、Androstendione、Estradiol、Estrone、Estriol)はかかってこなかった。
従って原発がどうであったかは別問題であるが、少くとも培養の戻し移植でもホルモン産生能はなくなっていて、培養細胞でも同様消失しているという可能性が強くなった。
ii)ウィルス様粒子
戻し移植から電顕的に100mμ大の細胞表面から遊離されヌクレオイドをもつウィルス様粒子が認められた。京大翆川氏もA系に誘発し移植性とした間細胞腫を培養し、培養細胞にウィルス様粒子を認め、発癌性乃至はホルモン産生との関係を暗示した。しかし私の見解では之が乳因子ではないかと考えている。(電顕像を呈示)
その根拠はA系、KF系とも乳癌の発生があり、乳因子をもっていることが確かで、それらに同様のウィルス様粒子を見ること、また乳因子は或程度carrier
stateで培養されるが多くの成績では半年以後次第に消失してゆくようであって、翆川氏のもその様な傾向にあること、また私の場合、培養10月で電顕的にウィルス様粒子のないものに乳癌をcontact
cultureすると乳癌細胞は培養されなかったのに、間細胞腫は4月後にもなお電顕的にウィルス様粒子がみられ、乳因子が感染してcarrier
stateで維持されているのでないかと考えられるという結果が出たからである。
尤も造腫瘍性を確かめるには、生物学的な方法によらねばならぬので、ウィルス様粒子のある移植腫瘍からcell-freeのextractを作って新生KFマウスの皮下及び腹腔と、幼若KFマウスの1側睾丸内に接種を行ったが、約6ケ月を経過して腫瘍の発生は未だない。
以上ホルモン産生及びウィルス様粒子とも何れも否定的な方向に結果がゆきそうであるが、この培養細胞が乳因子或は白血病ウィルス等の持続感染系に使えないかという点に、腫瘍ウィルスの研究をしている者として興味をもっている。
:質疑応答:
[高木]戻し移植は、Testisを除去した動物へ戻しているのですか。
[螺良]いいえ、無処理の動物に戻しています。
[勝田]これから、どういう方面へ仕事を進めて行きますかね。肺のepthelをうまく培養出来れば、adenomaの実験など面白いのではありませんか。私達の経験では、使う動物の年齢が培養内増殖に非常に影響しますから、年齢を追って培養に移してみて、どういう条件で上皮の培養ができるか、という所をまず調べてみることですね。ただ、この場合のadenomaは自然発癌したから、培養内ではどういうやり方をするか、問題がありますね。
[螺良]肺の上皮細胞は特異顆粒があるので良いマーカーになります。
[勝田]私達の班として希望するるのは、マウスの肺の上皮細胞を培養することから始めて頂くことでしょうね。
[螺良]正常な細胞と、発癌したものとでは、どちらが培養しやすいでしょう。adenomaを培養してみても2週間位しか生えていないのです。
[黒木]培地からYEをぬいて、Eagleのビタミンを加えてみたらどうでしょう。
[勝田]Yeast extractは、大抵の細胞に増殖抑制的ですね。
[堀川]腫瘍ウィルスでの発癌機構は、どのウィルスでも同じようなものと、考えて居られますか。
[螺良]RNA型、DNA型でちがいますが、余りはっきりはしていません。
☆☆☆ 各班員の今年度の研究計画についての話合い:
[勝田]今年は大別して次の三つの仕事をしたいと思います。
(1)ラッテ肝を使い、DENなどによるin vitroの発癌実験。
(2)正常細胞と癌細胞との間の相互作用、特にその作用因子を物質的に追うこと。
(3)胸腺の培養内抗体産生の仕事をもう少しはっきりさせる。
[佐藤]ラッテを使います。
(1)古くからある正常肝由来の株細胞に3'-Me-DABを添加する。
(2)初代培養に3'-Me-DABを添加する。
(3)培養肝細胞の機能について調べる。
[高木]HVJの問題をもう少しやりたいと思っています。
[螺良]主に次の三つです。
(1)乳癌の継代培養で、ウィルス粒子が出てくるか、否か、発癌物質でたたいた場合どうか。
(2)マウス、ラッテの睾丸間細胞腫の培養。
(3)A strainマウスの肺のadenomaの培養。正常から段階を追って培養し、in
vivoとの比較をしたい。
[勝田]正常の肺上皮が癌化した場合、どうなるかを知っておくために、adenomaを培養して慣れておくのはよいことですね。
[三宅]胎児の皮膚の器官培養の検討です。強く増殖させないで、正常の状態で調べたいと思います。それからメチルコラントレンを使って電顕レベルまで持って行きたい。アイソトープをラベルしたメチルコラントレンを使って、どこへはいるか位は調べてみたいと思います。
[堀川]
(1)ショウジョウバエを使って、細胞の分のregulationをみること。
(2)mammalian cellsでUVやX線などの生細胞への影響、特にrepairingの問題。
(3)発癌の仕事については考慮中です。
[勝田]堀川氏の場合には、放射線を使っての発癌を狙うとか、或はもっと基礎的なところを調べてもらうと良いですね。
[勝田]遠藤君、メチルコラントレンの定量は簡単ですか。
[遠藤]培地を有機溶媒でふって、O.D.で見られる筈です。結合したものはとりにくいかもしれませんが、Heidelbergerは、C14、H3をラベルしたメチルコラントレンを使っていますね。
《黒木報告》
Hamster Whole Embryo Cellへの4NQO・4HAQOの作用(3)
(継代のoutlineの図を呈示)全部で10のsublineから出来ています。
1.Control:
Zen-1・1、1・2、1・3、1・4の4つに分けて維持、このうちZen-1・1は継代間隔を比較的長くしてあります。
2.4NQO:
NQ-1:7日間培養後、4x10-6乗Mの4NQOを7日間加え、以後4NQO
free med.
NQ-2:9日間培養後、4NQO 4x10-6乗M 10日間加え、1日おいて継代
NQ-3:NQ-2のsubline、3Gで4日おいて再び4NQO
4x10-6乗M 10日間添加
3.4HAQO:
HA-1:7日間おいて、4x10-6乗M 4HAQO 2日間加え、つづいて10-5乗Mを10日間加える(total
12日)
HA-2:HA-1のsubline、3Gで再び10-5乗M 14日間加える
4.6-chloro-4NQO:
Cl-NQ-1:Ca 4x10-6乗Mの6-chloro 4NQOを1回、12日間
発癌剤の添加方法:
4NQOは血清と室温で30分間おくと発癌性がなくなることが知られています(中原、福岡、Gann,50,1〜15,1959)。また4HAQOはpH7.0近くではきわめて不安定で、室温30分間でその吸光度曲線は著しく変化します(PBS(-)中)。月報6505に詳述。
これらの点を考慮に入れると、4NQOはSH基及び血清のない状態で細胞と接触させるのがよく、4HAQOはpH4.0で接触させるのがよいことになります。しかしpH4.0は無理ですし、Goldblatt、CameronのごとくあとでEinwandの入るキケンもあるという訳で、もっとも簡便な方法に統一しました。すなはち(略図を呈示)培地をびんの先の方にあつめておき(瓶を傾けて)細胞の上に培地のないようにしておきます。そこに0.1mの先端目盛のメスピペットで一定量の4NQO、4HAQOを吹きつける訳です。
(なお4NQO、4HAQOは10-2乗MにEtOHに溶解後、dis.waterで10-3乗Mとし、millipore
filtration、この原液をそのまま加えます。4x10-6乗Mのときは0.036ml、10-5乗Mのときは0.08ml、4HAQOは塩酸塩ですのでこの原液のpHは4.0前後です。発癌剤は、1週間〜10日毎に作りなおし、保存は0.5mlづつ小分けにして凍結-20℃しておきます。なお、光に対しては特別の注意を払っていません。)
Carcinogenの添加は、2日に1回とします。従って、前に記したそれぞれの群の添加回数は、NQ-1;4、NQ-2;5、NQ-3;10、HA-1;6、HA-2;13、6-Cl-NQ;1(溶液の作り方が失敗したため1回きり)となります。このことはCarcinogenの有効時間との関係で問題になるでしょう。
Carcinogenを除くときには、前のresidual
effectにこりてPBS3回、complete med.1回と回数をふやしました。
Carcinogenの濃度:4NQO 4x10-6乗Mの濃度は、以前のrat、ハムスター腎のときの経験からきめました。10-5.25乗M(5.5x10-6乗M)は強すぎ、10-5.5乗M(3.16x10-6乗M)は弱いという経験から、その中間をとった訳です。4NQO
4x10-6乗Mは0.76μg/ml、4HAQO・HCl 10-5乗Mは2.25μg/mlになります。
その他の培養手技:
培地はEagle MEM(autoclaved)+1.0mM Pyruvate+0.2mM
Serine+1.0mg/l of biotine+10%of Bov.Ser.(Lotは統一)。
酵素は0.02%Pronase。
継代のinoc.Sizeは10万個/ml。
うえかけ後3〜4日はアルミホイルでsealし、炭酸ガスフランキ、cell
sheetが出来たらゴム栓にする。
培地交換は週2回。
培地はControl用とExp.用に分け、ピペットも一本毎にかえ、cell
contaminationには十分気をつけた。
培養経過:
1.Control
初代から2〜3代まではきわめて活発に増殖する。
細胞の形態は比較的よくそろっており、培養2代1週間前後のときは、fibroblastともepithelialともつかないようであった。培養20日目にはGiemsa染色すると(写真を呈示)きれいなfibroblastのmonolayerであった。細胞の配列は方向性をもったfibroblastのそれであった。細胞の大きさもよくそろっている。しかし、10日後(29日)にはこの細胞の形は変り、細胞質はうすく広がり、細胞の形からはfibroblastとは云えないようになっていた。さらに10日経て、40日位になるとintercellularにCollagen(?)様のものが網状に形成されて来る(写真呈示)これは細胞質のしわのように思われる。位相差では細胞質のうすく広がった細胞から成っている。細胞がこのように変る前(30日前後)に細胞質内の顆粒の増えた時期があった。増殖は継代の略図からも分るように、30日すぎはほとんどとまってしまっている。現在(70日すぎ)は、やっと細胞を維持している状態でとても継代は出来ない。
2.4NQO添加群
4x10-6乗M(10-5.4乗M、0.76μg/ml)の4NQOを添加すると細胞変性と配列の乱れが起って来ます。その結果、月報6604に記した如く、フェルトのような厚い部分と細胞の変性脱落の二つの部分が、一本の培養びん中に同時に出現します。
NQ-1は4NQO free med.にかえてから20日間培地交換をつづけ、継代しました。継代時にはフェルトの部分はますますあつくなり、そこから細胞のない部分へのmigrationはほとんどありません。継代後の細胞はmultilayerになる傾向が少く、培養3G
49d.(7-7-35)にはflatなepithelialのcellから成るように変化しました。
NQ-2は(9-10→)のスケジュールでcarcinogenが加えられたのですが、3代目へ継代後には、あちこちにfusiform
cellのcriscrossした像から成るfocusが出現して来ました。このfocusのbackgroundにはcontrolと同じような細胞がみられます。focus以外の部分にも、細胞の大小不同が目につきます。しかし、細胞の形は培養50日すぎから余り特色がなく、multilayerを形成する傾向も少くなり、また同時に増殖も低下して来ました。
NQ-3は(9-10-5-10→)と二回に恒って4NQOを加えたのですが、2回目の4NQO添加がoverであったらしく、小さなfocus(直径5mm前後)を1ケとそのまわりのうすい細胞層を残すのみで、増殖はまだおこりません。
以上のように4NQO添加群は最初の40日位までは明らかなmorphological
transformationがみられるのですが、それ以後、またもとに逆もどりするようです。4NQOの添加方式等も考慮に入れて再実験を行うつもりです。
ただ、4NQOそのものにcarcinogenecityはなく、4HAQOがmetabolic
activityと一般に云はれ、4NQO→4HAQOは酵素的に反応がすすむとされていますので、用いている細胞にその酵素がなければ発癌しない訳です。
3.4-hydroxy amino quinoline-1-oxide 4HAQO添加群
4HAQOは、4NQOのごときcytopathic effectが少なく、10-5乗Mでも細胞変性はみられません。
HA-1(7-2(4x10-6乗M)-10(10-5乗M)→)、4HAQOを加えて3日目には一部分に4NQOと同じような細胞の配列の乱れがみられましたが、他の部分はcontrolと同じような細胞から成っています。3代目に移しかえるとき(7-12-1)には肉眼的にmultilayerのfocusのごときものがみられるようになりました。3代目に継代してから最初の一週間は、細胞はcontrolと同じようで特別の変化はみられなかったのですが、その後培養びんのあちこちにtransformed
fociの出現をみました。このfocusはfusiformな細胞のcrisscrossした像から成ります。そのbackgroundには、controlにみるような細胞のsheetがみられます。継代をつづけるに従い、このcontrolのような細胞はselection
or dilutionされ、現在(76日)では、ほとんどが、このtransformed
cellから構成されています。増殖度はcontrolにみられた30〜40日頃からのcrisisにおちいることもなく、活発に増殖つづけております。
HA-2(7-12-5-14→)、1回目の4HAQO添加後、再び4HAQOを10-5乗M
14日添加したものです。HA-1と同じように、継代3代目にtransformed
fociが出現し、backgroundにはcontrolと同じような細胞がみられます。HA-1と同じように継代に従い、transformed
cellがselectionされ、またgrowthも低下することなく現在に及んでいます。
このように、HA-1とHA-2は、細胞の形態、増殖度からみても全く同じ経過をたどっています。二回目の4HAQOを14日間添加したことの意味は現在のところなさそうに思えます(将来悪性化したとき、悪性度の差などで現れないとは限りませんが)。
以上の4HAQO添加群の結果をまとめると次のようになります。
1.紡錘形の細胞が無方向性に配列するtransformed
fociの出現。
2.培養40〜50日までは、コントロールにみられるようなフラットな大きく拡った細胞のmix.、それ以後はなくなる。
3.増殖は途中で落ちることなく、3〜4times/Wのわりで増殖をつづける。
4.Giemsa染色でもtransformed cellにはintercellularな物質はみられない。
5.培地のpH低下が早い(これはphenol redからみた感じにすぎないのですが、24hrs.後には黄色くなっています)。
4.6-chloro-4NQO添加
6-chloro-4NQOが手許にあったので、4NQOと同じように加えてみました。これは非常にとけにくく、とけても(EtOH、propylene
glycol)水を加えるとたちまち沈殿がでます。このため一度加えただけですが、はじめは4NQOと同じように細胞の乱れと、multilayerが出現しました。しかし継代50日頃には、flatなepthelialなcell
sheetにもどってしまいました。
コロニー形成の試み:
上記の如きmorphological transformationがおこったにしても、cloneレベルで仕事をしない限りはpopulationのselectionといううたがいが残ります。また、morphlogical
transformationのおこっているのを確定し、人を納得させるためにも、矢張りcolony
formationは絶対に必要です。
このため、培養当初より、cloneあるいはコロニー形成のための予備実験をつづけて来ました。
最初に行ったfeeder layerなし、Standard
med.(20% or 10%Bov.S.、Eagle MEM)では全くcolonyは作られません。100コ、1,000コでは増殖せず、10,000コ、100,000コでは培養11日でfull
sheetになりました。
そこでfeeder layerの作成方法と培地の検討に着手しました。
feeder layerとしてはsoflex(軟X線)照射を行ってみたのですが、cell
growthをとめるには致らずに終ってしまいました。止むを得ず、少し離れた大学病院に行き、コバルト60照射2,500r〜5,000rによりauthenticなfeeder
layerを作りcolony形成に用いました。(コバルト60のかけ方はdishにmonolayerにまいたものと、suspensionの二つの群に分ける、どちらも同じ)
培地としては、山根教授のところで改良されたmodified
Eagle(bov.albumine fract,V 0.75%、Bact-peptone
0.1%に含む)を用いてみました。その結果は、この培地がハムスター細胞には非常によい結果を与えることが分りました。
NQ-2のコロニー形成: Cells:NQ-2,3G,34days
in vitro,10days incubation
cells/dish Modified Eagle Eagle
100、000 full sheet full sheet
10,000 colonial sheet sparcely
1,000 15,18,21,25 no growth
100 3, 3, 5, 0 no growth
HA-1のコロニー形成: Cells:HA-1,3G,34days
in vitro,10days incubation
cells/disy Modified Eagle Eagle
100,000 full sheet full sheet
10,000 colonial sheet sparsely
1,000 1,2,2,5, no growth
100 no growth no growth
予想に反して、feeder layer群には全くコロニー形成はみられません(modified
Eagle)(NQ-2,4G,46days、HA-1,4G,46days)。
コロニーの形態:
HQ-2、HA-1のどちらでも、transformed cellから成るコロニーが多くみられます。
コロニーの形はfusiformなcellがcrisscrossしmultilayerを形成するものや、multilayerは形成せず、典型的なfibroblastのコロニーを示すもの、細胞がお互いに連絡し合ず、パラパラと散布するものなど様々です。またcontrolのようなflatな拡ったcellから成るコロニーもあります。これらのコロニーの形態とその分類についてはまだ十分に検討しておりませんので詳しいことは次にゆずります。(写真を呈示)
培養細胞の移植実験について:
ハムスターnewborn皮下、adult SC、ch-p.へ培養細胞各100万の移植を行い、腫瘍形成能をみた。
結果はHA-1、5G、56d.ではnewborn SC 9匹は、移植後7日、20日目腫瘤形成なし。adult
SCではNo.41は7日目に2x2mmの硬い腫瘤形成をみたが20日目には消失。No.42は7日目には2x4mm、20日目には4x4mmで皮膚とユ着。adult.ch-p.No.43は7日目に3x4mm硬、20日目には3x2mm。
NQ-2、5G、56d.ではNo.53、ch-p.は7日目には2x2mmの硬く白い腫瘤をみたが、20日目には(-)。
Zen-2-1、4G、26d.はNo.54、ch-p.で7日目に2x2の赤く軟い腫瘤をみたが、20日目には(-)。
HA-2、5G、65d.はNo.55〜63でnewborn SCは13d.に腫瘤なし。No.65、adult
SC.は11日目には8x5mmのよく動く硬い腫瘤があり13日目には6x6とやや縮小。No.66はadult
ch-p.、11日目に7x7x5mmの硬い白色の腫瘤。No.67、adult
ch-p.、11日目に7x7x5mm剔出して組織標本を作る。
4NQO、4HAQOによるハムスターの発癌実験:
4NQO及びそのderivativesの発癌性は今まで、マウス、モルモット、ジュウシマツなどで確認されていますが、どういう訳かハムスターを用いた成績は出ておりません。そこで、ハムスターの細胞を用いている都合上、動物でも(又はでは)発癌するというdataがほしく、実験を開始した訳です。今までのいろいろの文献を参考にし、solvent
of carcinogenはpropylen glycol、4NQO及び4HAQOをそれぞれ1.0mg、5.0mgづつ10匹のハムスターに接種しました。部位は右ソケイ部、10日おきに5回、皮下注射(0.2ml)です。
4NQO、4HAQOはかなり強い作用があるらしく、局所にはnecrosis
ulcerをみます。5回目の注射を終った現在では、4HAQO群に特にひどいulcerが残っています。いずれの群でも、皮下に硬結を触れるようになりました。
:質疑応答:
[佐藤]発癌剤を入れない対照のものでも、コロニーを作らせると、transformedと同じ様なコロニーが出来るのではありませんか。
[黒木]対照では、増殖がわるいので、その点は調べられませんでした。
[佐藤]Collagenなんかを出している様な細胞は、mesenchymalなものの様です。何日の胎児を使いましたか。
[黒木]15〜16日で、産まれるにはまだ間のあるものです。
[佐藤]15〜16日というと、肝や肺など、上皮性の細胞もあるわけですが・・・。
[遠藤]東京に居た頃、Changのliver cellの株を4NQOで10-5乗Mで、24hrs.作用させてみたことがあります。そして、やはり増殖の早い細胞群も現れてきたのをみたことがあります。巨細胞や、多核細胞は見られませんでしたか。
[黒木]みられないようでした。
[遠藤]4HAQOというのは、すごく扱いにくい薬品です。0.4%位のHClで、保存するのが一番良いと思います。実験のとき中性のbufferに吹き込んで使います。細胞のない培地だけで、培地に吹き込んでどの位4HAQOがもつかを調べてみると、4HAQOの形では、10分位しか存在していない。みている間に酸化をうけて、赤い沈殿ができてきます(但しNgas中ではできない)。細胞内で酵素に還元され、activeの形に変って行きます。4NQOは比較的安定ですが血清特にSH量にdependentです。Cystineはよいが、Cysteineとglutathioneが問題です。
[高木]窒素と炭酸ガスで調節しながら(対照も)実験すれば、かなり良いわけですね。
[遠藤]そうですね。とにかく4HAQOの場合、何日間添加しても効いていたのは10分間だけということを、考慮に入れてやって下さい。何日入れたと云わず、何回入れたと書いた方がよいと思います。4NQOの場合は培地中では安定で、細胞内で4HAQOに変って作用します。PRを入れているとわからないが、入れていないと、赤い沈殿がよくわかります。
[堀川]4HAQOがcell内のどの分劃に結び付くか、調べてありますか。
[遠藤]4NQOでやってみたことがあるが、はっきりしませんでした。
[黒木]癌研の高山先生が、Autoradiographyで調べて、核の中にあると言って居られました。
[高木]4NQOは水溶液で低温におくとどの位保ちますか。
[遠藤]3週間位保ちます。高木氏の云われた様に酸素に触れないようにしておくと、4HAQOの効果が出ないということも考えられますね。
[勝田]染色体の標本は作ってありますか。
[黒木]途中、凍結してはあるが、標本にはしていません。
[勝田]対照が生えにくいというのは、クローニンなどに困りますね。
[黒木]しかし、途中で対照が消えてしまうというのが、利点でもあります。
[遠藤]4NQOでもっと低濃度(影響が形の上に表れない位)で長くやるというのも、やってみたらどうですか。
[勝田]発癌剤を使うとき、2種類の方法があります。DABみたいに、どかんとCell
damageと起こさせるというやり方と、死なせずに低濃度で長く作用させるというやり方ですね。遠藤氏に伺いますが、水に溶けないという物質も、実際は少しは溶けるものでしょう。
[遠藤]水に溶けていなくてもいつの間にか沈殿がなくなるということはありますね。
[螺良]ガラスに塗って添加するということも出来ますね。
[勝田]胎児より新生児を使った方が良いと思います。ハムスター胎児組織の培養で、自然発癌のデータが出てきましたからね。それと材料をはっきりさせないと、変異でなくて、始めからあったものが、selectされたのではないかということも指摘される恐れがあります。
[黒木]私の変異株の場合は、pHがすごく下ります。
[佐藤]私の場合は、takeされる細胞では脂肪顆粒が出てきます。
[黒木]今の実験方式で、詳細に検討、及び再現実験を試みたいと思います。復元もしっこくやるつもりです。また、発癌性のない4NQOもやってみたいと思います。変異細胞のcloningももっとうまくやらなければ、と思っています。
[勝田]もし腫瘍を作るようになったら、逆にさかのぼって、何回処置をすれば変異させられるか、最少回数と量を調べなければね。
[螺良]ハムスターを使った理由は?
[黒木]いろいろありますが、細胞を同種のcheek
pouchにもどせることと、ハムスター胎児については、山根先生が培養材料及び条件の検討をしていられるので、便利だからです。
[遠藤]横へひろげるにも、余り無計画でなく、薬品をよく選ぶようにして下さい。ある構造のものは細胞内に取り込まれても還元されず、発癌しません。
《高木報告》
再びハムスター皮フの培養条件について
先月はハムスター胎児皮フの培養にハムスター胎児抽出液(H.E.E.)を用いて可成りの効果があったことを報告しましたが、その後の2〜3の試みについて報告します。
1)胎生中期ハムスター皮フの培養
動物の大きさによる培養の難易をみる為、胎生中期ハムスター背部の皮フを、皮下組織と共にハサミで切り取って培養しました。Mediumとしては、C.E.E.とChick
plasma1:3からなるclotを用い、その上にサージロンを置いて皮フ片を載せ、37℃、3%炭酸ガス、97%酸素通気下に培養し、4日毎に固定染色して観察しました。培養前の組織は胎生末期のものに比べてかなり未分化の状態にありますが、培養後4日目のものでもこの傾向がみられ、表皮、真皮の区別はあまりはっきりしませんが8日目になると、H.E.E.を用いて胎生末期のものを培養したときに似て、表皮、真皮ははっきり区別され基底細胞層の配列も規則正しく明らかなMitosisも認められます。更に13日目までこの傾向が同様にみられますが、17日目あたりになると角質層は表皮層からやや剥離した状態になり、表皮細胞の配列もくずれてきました。以前行った胎生末期の組織の培養では4日以後は殆んど組織を維持することが出来なかったのに比べ、この結果はMediumの条件もさること乍ら培養される組織の側の条件(特に胎生時期の問題)もかなり大きいことを暗示しています。
2)H.E.E.を用いたハムスター胎児皮フの培養
先月報のものと同じH.E.E.を用いたPlasma
clotにより先のものより更に出生が間近いと思われるハムスター胎児を培養しました。
今回は固定染色を2日毎に行い頻回に観察しましたが、その結果培養後2日目ですでに角質層の増生を認め、表皮層も培養前の1〜2層に比べて3〜4層と徐々に厚くなって基底細胞層もその形を整えて来ますが、この実験では期待されたMitosisは殆んど見られませんでした。4日目、6日目、8日目と日を追って少しづつ表皮の厚さを増し、多いものでは5〜6層にまで達しますが矢張りMitosisは認められませんでした。
:質疑応答:
[高木]今後の問題ですが、1)PancreasはRabbitのβCellは片付いたので、ratやhumanのβcellをやっています。2)発癌関係は増殖の肥大の起らぬ状態で長く培養することを心掛けたいと思います。ハムスターのskinとkidneyのorgan
cultureをやりたいと思いますが、hamster embryo
extractが良さそうに思われます。DNBAも使いたいと考えています。またcell
levelでの仕事もやりたいと思います。
[勝田]Embryo extractにはいろんな酵素が入っているから、それを入れた培地で4NQOがどの位失活しないでいられるか、問題がありますね。それからハムスターとなると、その培養条件についても、検討を始めなくてはなりませんね。
[遠藤]器官培養の場合、もっとよく維持させるために、ホルモン添加とか、培地の検討とか、考えられているのですか?
[高木]それも考えていますが、それより組織片の大きさ等が問題だと思います。
[勝田]発癌実験を皮膚の器官培養でやる利点は何でしょう。
[三宅]組織レベルで調べられることですね。
[勝田]動物での発癌過程の組織像をよくつかんでおく必要がありますね。
[遠藤]動物の場合なら皮膚癌を作らせるとき、paintingなどの方法があるが、器官培養の場合のそういう考慮は?
[三宅]パラフィンで固めた小さな塊をのせてみたことがありますが、与える期間の問題などが不適で、全部necrosisになってしまいました。
[黒木]4NQOを器官培養で与えた場合、epithelの方にも変化は起こりませんか。
[高木]余り起りません。
[三宅・高木」皮膚の器官培養の場合、大きさが大きすぎると、内部がnecrosisに陥るので困ります。
[黒木]発癌剤は下から吸い上げられるわけですか。
[高木]そうです。動物の時のように注射してみたらとも考えていますが。
[黒木]注射だと肉腫になるのではないでしょうか。
[遠藤]4HAQOの場合は、paintingでは成功せず(白洲がマウスで成功)1回注射でラッテに肉腫ができました。fibrosarcomaで癌にはなりにくいですね。たった一回、それも10分の作用でsarcomaが出来るという利点があります。4NQOは中原先生がpaintingでマウスに癌を作っておられるし、マウスの肉腫もあります。4NQO単独では肝癌は出来ません。DABをまず喰わせておいて皮膚に4NQOを塗って肝癌を作った例はあります。森さんは肝癌を作っておられます。
[勝田]methylcholanthreneはlotによって活性の低いのがあると云いますが、4NQOは?
[遠藤]ベルゾールにとかして、アルミナのクロマトを通して精製して使います。1時間もたたない内に出来ますよ。
[勝田]我々は精製ということに慣れないから、つい億劫がるのだね。発癌剤は強力なものを使った方が良いですね。
[遠藤]強力であり、水溶性で、作用機序のはっきりしているものであることが必要ですね。
《三宅報告》
皮膚のOrgan Cultureについて、その将来。
これから、ここに書きますことは実験についての所見ではありません。先般の福岡でのSymposiumの際に皆様からいただいたsuggestionについて、帰京して頭が落ちついて考えた私なりの考えなのです。この前の班会議の際にも申しましたように、皮膚のOrgan
Cultureをしていて、我々を刺戟したものは、この中で類上皮癌が出来ないかということでした。そのために増殖を高めるということが、私共の第一の目標になったのです。その点では九大の高木先生のお考えとは少しづれていたようです。増殖をたかめてはならないという考え方が、どうした理念から出たものか、詳しく聞くことは出来ませんでしたから、まっこうにそれに相対してゆくことは、私には出来ませんが、若し、高木先生のお考えが、私が想像するように、癌細胞とは生体の中で決して増殖率が速くないものであるから、増殖率を細胞にたかめるという方法では、よしそれがin
vitroでたかめられても、それだけでは決して癌とはいえないというものでしたら、私には反対の意見があります。私は癌とは増殖率が遅速があってもそれは問題ではなくて、それが無制限でなくてはならないと考えています。growth
control mechanismのはずれが癌の特質と考えています。
私達の皮膚のOrgan cultureの場合、Symposiumで表皮層の増殖曲線でお見せしたように、in
vitroに移された3〜4日までの間に、激しいBasal
layerの分裂があり、10〜11日目になると表皮の層の厚さは横ばいになります。どうやら角化層というendproductが出来るとBasal
layerへのfeed backが働くと考えられるのです。それは、想像にすぎませんが、酵素的なものかも知れませんし、あるいはGeneがテンプレートを作るという所で、抑制をうけているのかも知れません。こうした考えからすると、皮膚のOrgan
Cultureをして、それから無制限な増殖である癌を作ろうとするためには、培養条件を、少し落して、増殖をひかえさせるという方法よりも、むしろ逆にますます培養条件をよくして、このfeed
back的なものを取り除くという方法をとるのも、決してあやまった方法でないと考えているのです。この道筋にそって、やり度いのです。
【勝田班月報:6607:4HAQOによるmalignant
transformationの成功】
《勝田報告》
今回は渡米のための準備に追われて、あまりお話できる材料がなくて申しわけありません。
前に報告した“なぎさ”培養→DAB高濃度の実験の中のDABを異常に消費するMというsubstrainとDABに全然接していないRLC-10という正常肝由来の株細胞との相互作用を双子培養を使ってみてみました。DABの入っていない培地とDAB5μg/ml添加培地でしらべましたが、どちらの場合もRLC-10は双子の方が抑制をうけています。またMはDAB5μg/ml添加によって、増殖を殆ど抑制されないということも、この実験によってわかります。
現在“なぎさ”培養→DABによるsubstrainが11種、DEN高濃度添加約5ケ月経過のsubstrainが10種ありますが、そのそれぞれについて、正常肝細胞との相互作用をしらべてみたいと思っています。
:質疑応答:
[吉田]DABの消費について、正常肝細胞は培養内でも消費するわけですね。
[勝田]そうです。そして生体内での実験でDAB肝癌は全然消費しなくなるというデータがあります。
[田波]Mの形態は変っていますか。
[吉田]染色体が増えているそうだから、大きくなっているでしょう。
[高岡]細長く大きくなっているようです。
[螺良]肝癌細胞はDABを取り込まないからDABの害はうけないということはあるでしょうが、Mの場合こんなに消費してなお害をうけないのは何故でしょうか。
[勝田]分解酵素の働きが非常に強いのでしょうね。
[吉田]消費が+の場合は分解してもしきれなくて害をうける、−の場合は全然うけつけない、+++となると分解して更に平気で増殖するということですね。
[田波]HeLaやLなどにDABを加えると、どういう態度を示しますか。
[高岡]消費は少し±位です。20μg/mlの添加では増殖は非常におさえられます。
[勝田]私共の実験計画としては、この他に、純系ラッテでtumorを作ろうと思っています。JARは現在26Fになっています。19Fの時、藤井班員に皮膚移植をやって頂いて成功しています。
《佐藤報告》
発癌実験(つづき)
1)RLD-10(DAB処理群)由来の実験系は、月報6512では動物に癌を作っていなかった系も、controlを含めて全部が悪性化し、長期間観察の結果、復元動物は腫瘍死しました。接種後、腫瘍死までの日数は、213、276、287、303、315及び357日でした。従って10μg/mlの3'-Me-DAB長期連続投与(670日及び687日)の場合にも悪性化が認められた。
2)RLN-10(control群)細胞に3'-Me-DABを加えると細胞の形態にtransformが見られるが、今の處、動物接種で癌をつくらない。理由は解らない。
3)ラッテ肝のprimary cultureからclone化を行っているが未だ使用できない。染色体の核型については、遺伝研の吉田先生の所に習いにいきました。其の内正確な結果がでるでせう。
:質疑応答:
[勝田]4NQOで肝癌が出来ますか。
[黒木]今までの報告にはないようですが、4NQO→4HAQOに働く酵素は肝臓に非常に多いので、肝癌の出来る可能性は充分あると思います。
別の質問ですが、DABを加えて肝癌になったものと、加えずになったものとの間に腹水肝癌としてみた時、違いがありますか。
[佐藤]DABを加えずに腹水癌になったものの方が継代がむつかしいようです。又、再培養すると、それぞれ形態に違いがあるように思います。
[吉田]染色体の面では、今までの腹水肝癌に比べてバリエーションが非常に多いですね。生体で発癌したものとちがって培養されていた各種の細胞が発癌しているような感じです。つまり生体でのセレクションがかかっていないように思われます。
[勝田]in vitroでセレクトされると、復元してもつかなくなっている可能性があるのですね。
[堀川]もとから生体内の癌細胞であったエールリッヒの場合でも培養すると染色体数のばらつきが非常に多くなって、それを又動物で継代するようになると、染色体数のピークがかなり集約されてきます。
[黒木]形態変異の場合、クロンとまでゆかなくても、コロニーをとってしらべると、もっと悪性度については、はっきりするのではないでしょうか。
[佐藤]私もそう考えて手をつけてはいますが、なかなかうまくゆきませんので、今先づ炭酸ガスに馴らしています。
《高木報告》
前の班会議で御指摘をうけたCarcinogen添加の方法について今回は、これまでのMediumに加える方法にかえて皮フ表面からの添加を試みた。
培養基には前報に同じハムスター胎児抽出物よりなるPlasma
clotを、又、培養材料は生下2〜3日前と思われるハムスター胎児の皮フを用いた。今回の実験で異る点は新しく入った炭酸ガスフランキを用い5%炭酸ガス加Airを用いたことと、4NQOを添加する時は皮フ片をシャーレ上に置いてその上から4NQO含有Hanks液を一滴々下してclot上に移したこと、及び、DMBAはpowderを皮フ片の一部にふりかけたことである。実験群は夫々4NQO
10-4乗Mol.、10-5乗、10-6乗、DMBA、及び対照群をおき夫々、3日、6日目に固定、染色して観察した。
結果:培養前のものでは今回の材料は表皮は2〜3層で、基底細胞層の配列は規則的でなく、角質は認められず、Mitosisも殆んどみられない。
対照群:3日目表皮は3〜4層になり幾分厚くなる。角質も表皮と同じ位の厚さに増生して錯角化を中等に認める。真皮にはかなりのPicnosisをみる。全体にmitosisは殆んどみられない。6日目のものもほぼ同様である。
4NQO 10-6乗Mol.トフ群:3〜6日とも対照群に比べて殆んど差がない。
4NQO 10-5乗Mol.トフ群:3日目のものは対照に比べて角質増生少く錯角化もほとんどなくてむしろ培養前の状態に近いが、6日目に至ると対照と同程度に角質層の増生を見、錯角化はこの群の方が強い。一部にMitosisを認め、特にPicnosisが強いとは云えない。
4NQO 10-4乗Mol.トフ群:3日目のものでは10-5乗群同様むしろ培養前のものに近い状態であるが6日目のものでは角質層の厚さは対照よりやや薄く全層に錯角化を認める。Mitosisはない。
DMBA群:3日目の角質層の増生は全くなく、全層に亙りPicnosisの傾向あり。6日目表皮層は1〜2層と薄くなり、これと同じ位の厚さの錯角化を伴う角質層を生ずる。表皮の細胞も巨大な核を持った細胞が多くなり基底層の配列も乱れる。
:質疑応答:
[吉田]4NQOはどういう方法で処理していますか。
[高木]継代毎に組織片にたらして、しずくを切ってから、プラスマクロットの上にのせてやります。動物の皮膚に塗布するのと同じような感じにやっているわけです。
[黒木]4HAQOも使ってみられたらどうですか。
[堀川]どの位の期間培養できますか。
[高木]2〜3週位です。
[吉田]対照群はどう処理していますか。
[高木]対照群には4NQOの代りに溶媒としての塩類溶液をたらしてやります。
[堀川]培養できる期間を3週より長くできませんか。
[高木]それはむつかしいですね。
[勝田]梅田君からの手紙にあるのだが、器官培養→細胞培養というやり方を利用したらどうだろう。
[高木]それはいいですね。やってみましょう。
[堀川]要は3週後の問題ですね。
《三宅報告》
ヒト胎児皮フ(Organ Culture)へのMethylcholantren
Pelletの添加
Organ cultureをした皮フへ試験管内でM.C.がどの様な作用を及すかをしらべてゆこうとする手始めに、(ハムスターはまだつかっていません)ヒトの胎生皮フを用いて、体外にうつした最初からM.C.のPelletを附着させて、短時日ですが、変化をしらべました。
PelletはMerckの組織用のパラフィンに5%の割に溶解させて滅菌、シャーレの中に薄く流しこんで、メスでゴバンジマに細切したものです。出来上ったPelletは1mm以下の厚さの1.5〜2.0mm平方のものになりました。Spongeの中へE.E.をしみこませて、さきにこのPelletを入れ、組織片をこの上にのせてclottingをしたものと、Pelletを皮フの上にのせてclottingをしたものの2通りを作りました。このたびは時間を長くかけたものを、しらべることが出来ませず、9日目に固定、組織標本をつくりました。
溶媒に用いたparaffinは、もちろん標本作製の途中でなくなりますが、M.C.の名残りと考えられるものは2通り像としてみられました。その1つはうすい褐色の色のついた標本の中での拡がりと、も1つはM.C.の結晶と考えられる構造が残っていました。結晶となったものが、もともと、この姿のままで、はじめからパラフィンの中にあったのか、標本作製の途中で再びこの像になったのかは判りません。組織所見としては、2年前にやった時と同じでNecrosisが強いことです。Organ
cultureという方式の欠点は組織の中心がNecrosisになることが多いのは御承知の通りですが、M.C.の場合のNecrosisは拡がりが強いことです。上皮性細胞の乱れが強いということは、これからよく考える必要があります。間葉性のものは割合に抵抗が強く、殊に軟骨はそうでした。
これからも、もうしばらくこの様な実験を続ける所存ですが、M.C.を適切な培養時間に添加したり、又それから抜きとったりする必要があると思います。その様な、ためにはパラフィンのPelletでは都合が悪いので、Berwald,Y.
et.al.(J.Nat.Cancer Inst.35,641,1965)の知恵にならってM.C.をミリポアフィルターにとかしこんで、適当な大きさに切りとって、Pelletの代用に用いることを試みています。
:質疑応答:
[高木]ネクローゼが起るというのは、物理的な、例えばパラフィンが重いためというようなことからでしょうか。
[三宅]パラフィンを乗せた部分だけでなく広汎なネクローゼがみられるので、矢張り薬品のせいだと思われます。
[吉田]対照として、薬品を含まないパラフィンのかたまりだけをのせたものもやってみるとよいですね。
[三宅]発癌剤の%が高すぎるかも知れないということも考えています。発癌剤を作用させる時間も検討してみようと思っています。
[堀川]これだけの仕事をやられるなら、材料は矢張りハムスターとかマウスとかを使った方が復元に有利ではありませんか。それから高木班員と同様、器官培養→細胞培養というやり方がよいと思います。ミリポアフィルターは発癌剤をしませてのせることの利点は・・・。
[三宅]パラフィンは37℃でやわらかくなるので、取り除くのがむつかしいのですが、ミリポアフィルターは固型なので楽に動かせます。
[黒木]メチルコラントレンには発癌性のないものもあるが、発癌の作用機序はわかっているのでしょうか。
[勝田]はっきりしていないようですね。それからメチルコラントレンはロットによって発癌性がちがうそうですから、確かに発癌性が強いとわかっているものを貰って使う方がよいですよ。
[三宅]皮膚の場合、ベイサルレイヤーだけに分裂がみられます。ケラチン層はむしろその抑制に働くと想像して、10日目位から除くようにしています。成人の皮膚の場合もケラチン層を除いてやると培養しやすくなりますね。
[螺良]培養期間1ケ月では発癌させるのに短かすぎませんか。生体では2ケ月はかかると思いますが。
[三宅]勿論もっと長くしたいのですが、むつかしいですね。
[吉田]こういう実験の場合、材料の年齢ということも考慮に入れる必要がありませんか。私は年とった細胞のほ方が発癌しやすいのではないかと思いますが。
[堀川]発生学的にいえば、未分化の細胞の方がどの方向へも変異できるという意味で、発癌しやすいともいえませんか。
[勝田]さっきも螺良班員がいわれましたが、メチルコラントレンの場合、生体ではかなり長期間かかって発癌するのですから、培養1ケ月以上はつづけるようにするべきでしょうね。純系動物を使えば、培養後の皮膚を動物へ移植できるのではないでしょうか。
[藤井]皮膚は非常に強いものですから、培養したものでも移植できると思いますね。
《藤井報告》
皮膚移植の技法について:別刷を配布。
《堀川報告》
御存知のように過去2年6ケ月間、MadisonのDepartment
of Geneticsに滞在してショウジョウバエを使って発生遺伝学的研究に従事してきました。こうしたショウジョウバエと云う発癌実験とはかなり縁遠い材料での仕事であるが故に、この月報にも投稿するような機会にめぐまれませんでしたが、この度帰国と共に再度班員の一人に加えていただきました事を嬉しく思っております。ただ現在の私の立場として直接発癌実験と取り組んで勝負することは不可能ですが、おかれた環境でこれから私がやろうとする仕事を通じて直接的にも皆様のやっておられるin
vitroでの発癌実験の研究にお役に立つことを心から念じております。
幸い4月以降研究室の再整備も一応完了し、以下に述べます2つの問題を中心に仕事を進めております。
(1)細胞の分化と機能の遺伝的制御機構の研究
Madisonでやったショウジョウバエでの仕事を更に発展させようとする系で、第1の問題は特定のenzyme合成に関与するm-RNAの抽出と、それをmediumに加えることによりenzyme
activityをもたないembryonic cellsに合成をinduceさせようとする試みです。
第2の問題はin vitroで作ったCell agregatesを種々の組み合わせでもって幼虫体にtransplantし、出来てくる組織、ならびに器官の同定をやる。この問題を通じてcellのdifferentiationを追うつもりです。
幸いこれらの実験に使用するショウジョウバエの各strainsもMadisonからとどき、新しく出来上った飼育室で調子よく殖えております。
(2)哺乳動物細胞における放射線障害の回復機構の研究
この問題は少しいじくりかけた所で日本を出発したと云う、中途半端になっている仕事です。今回もLcellsとEhrlich
ascites tumor cellsを使用して、それぞれからXray,UVrayに対するresistant
cellsを再度分離し、sensitive cellsとresistant
cellsを比較検討しつつ回復の機序をSubcellular
levelで見ようとするものです。
今回はむしろDNAまたはRNA levelに主眼をおくことなく、emzyme
levelで回復の機構を調べたいと思っています。それぞれのOriginal
cellsから少しづつ耐性の度合が増したCellsが分離されて来ているのが現状という所です。
:質疑応答:
[奥村]酵素レベルのものをどうやってしらべる計画ですか。
[堀川]硫安分劃→カラムという手法でしらべようと思っています。
[吉田]染色体数の減少と耐性獲得とは平行していますか。
[堀川]平行しているとははっきりいえません。
[黒木]耐性の測定にはどういう方法を使っていますか。
[堀川]いろいろな線量をかけて、生存細胞数を数える方法です。
[勝田]細胞のホモジネイトを使う時は、生きているのが残らないように、よほど注意する必要がありますね。
[堀川]今度は、分劃して使おうと思っています。
[黒木]2,000r1回で残った細胞と、500r4回で残った細胞とでは、耐性の点で違いますか。
[堀川]しらべたいと思っていますが、まだ手がつけられていません。
[吉田]ちがうだろうと思いますね。それから染色体が変らないうちは耐性ができていないように思います。
《螺良報告》
培養乳癌の戻し移植
現在MCと称しているDD系マウス乳癌の組織培養は、1963年6月12日にF20代の5819♀マウスから培養を初めたものである。原発は腺癌であった(写真を呈示)。今日まで3年余りYLH培地に継代しているが、培養或は形態上では変化はない。巨細胞が多いが、その間にある敷石状にならぶ細胞が主体をなしているものである(写真を呈示)。ただ核型分析は行う余裕がなかったので、専ら戻し移植によって培養細胞をチェックしてきた。原発が腺癌であったので、培養後の戻し移植でどの様な形が再現されるのかということとともに、乳癌はウィルス腫瘍であるので、培養及び戻し移植でウィルス粒子がどうなるかを電顕的に調べている。
原発と同系のDD系マウスは乳因子をもっているので、之のないものとして(C57BL♀XDD♂)F1も用いた。培養の戻しをDDからF1へ再移植して電顕的にウィルス様粒子がどうなるかを見ている。
(復元成績の表を呈示)移植の成績を要約すると、DD系及びそのF1には100%移植性があるが、C57BLにはつかない。即ち3年前後も培養してもHistocompatibilityは不変であった。(但しDD系はF1へ戻し移植したものからの再移植による)。
さて之等の戻し移植及び再移植について、電顕的にウィルス様粒子がみられるかどうかを現在追求中であるが、少くとも原発にみるようにもりもり粒子が出る所見は乳因子のあるDD系に戻しても見られなかった。しかしそれらしい粒子も少数みられることもあるので、形態的にはっきりした形でたしかめてみたい。それと共に戻し移植では未分化な中に腺腔を作る部分がある(写真を呈示)。粒子の産生もこの様な形態に関連があるかも知れず、今後その点に留意して電顕をみてゆくことにしている。
:質疑応答:
[勝田]L株で培地から蛋白を除くと、コラーゲン産生を復活するという報告がありますが、この細胞でも生活条件をかえると、又ウィルスのインダクションがみられるようになるということは考えられないでしょうか。
[堀川]紫外線によるインダクションなども試みられると、面白いのではないかと思います。
《黒木報告》
Hamster Whole Embryoの細胞への4NQO・4HAQOの作用(4)
(1)培養細胞の移植
Hamster Whole Embryoの無処置(control)細胞(Zen-1・1、Zen1・2、Zen1・3、Zen1・4)及び4NQO・4HAQOによるtransformed
cellは順調に継代されています。
Transformationであることは次の二点から確かです。
(1)形態学的に、transformed cellは多層で増殖し、細胞の配列は乱れ、いわゆるcotact
inhibitionを失った所見です。これに対してコントロールは20日頃までは典型的なfibroblastの像ですが、以後はgranulated
flatな細胞のmonolayerになります。
(2)増殖:controlは培養30日頃から増殖がとまり、その後はただ維持状態にすぎません。しかし、transf.cellsは、この30〜40日頃のcrisisをのりきり活発に増殖をつづけています。(この増殖の変化を模式的に図で示す)
以上の二つの点からみてmorphological transformationであることは明らかです。これに加えるに、移植陽性であれば、一応Malignant
trasformationと云える訳です。
移植には生後24時間以内のnewbornハムスターの皮下、及び体重80〜100gのadultハムスターcheek
pouch及び皮下を用いました。(詳細は表で示す)
HA-1の移植:培養56日にはnewborn、adultのいずれでも不成功でした。すなはち、1週には小さい硬い腫瘤(2mmx4mm程度)が出来たのですが、移植後20日目頃にregress、この腫瘍の硬さ、regressの日数は対照のそれとは異るので、このころすでにある程度の悪性化は行っていたと考えてもよいでしょう。しかし、7G77日にはch-p.、SCのいずれでも硬い腫瘤を生じ、現在もどんどん大きくなっています。これらの腫瘤は移植後1週間目には直径5mm位の大きさに達しています。まだ動物は死にません。
移植に必要な細胞数(LD50)はch-p.では10万個以下と思はれます。
HA-2細胞:培養65日にはじめて移植を行いました。newborn、adultのいずれでもHA-1と同様硬い腫瘤を作りました。生後24時間以内のハムスター皮下に100万個移植後49日目、腫瘤は注射針に沿ってるいるいと生じています。肢にできているのは筋肉内の腫瘤のようです。(復元動物の写真を呈示)
6G87d.の動物が腫瘤を生じながらも、regressしたのはcontamiのうたがいのある細胞を用いたためと思はれます。
これらの腫瘤はいずれも移植後1週間目には硬い腫瘤として触れることが出来ます。いわゆるspontaneous
transformでは、移植と腫瘤の発生の間にかなり長いlatent
periodが必要です。たとえば先号に紹介されたGotlieb-Stematskyの例では、3〜16週のLatentがあります。またSacksのtransformationの仕事のLatentは30〜50日のようです(一度生じたtumorが消え30〜50日後に現れる)。これらと比較すると、移植後1週で5mmX5mm程度の大きさのtumorを触れることは、この65日という期間をさらに短かくし得ること、及びtransformationの率の非常に高いことを示唆していると云えます。
組織学的にはfibrosarcoma、浸潤性増殖の傾向は少く、ch.-p.の筋層を破る程度のようです。転移の有無はまだ調べてありません。特徴的なことは、腫瘍組織の中に沢山のeosino、plasma、Langhans巨細胞のみつかることです。
腫瘍の継代移植は容易です。現在3代目に達しています。
これに対して、4NQOによる細胞はすべてregressしています。コロニーの形態、増殖度などから考えて、transformationは明らかであるに拘らず、melignant
transformationはまだのようです。これは再現実験のNQ-4においても同様です。
この事実は、4NQO→4HAQOの変化が、用いた細胞では起りにくいことを示唆しているものと思はれます。4NQO→4HAQOの酵素の測定も必要のようです。
また、このようなmorphological transformat.とmalignant
transformationの間のgapは、それぞれが別なgeneの変化によることを、又は(morpholog.transformation+α)=malignantを示唆しているようでもあります。
今後、4NQOの細胞の移植性はしっこくくり返すつもりです。
対照の細胞もすべてnegativeです(表を呈示)。移植後1週には赤い軟いtumorが出来ますが1週には全くみえません。目下組織標本作製中。
(2)再現性
以上のごとく4HAQOによるmalignant transformationに成功しました。目下、その再現性を確認中です。詳しくは次号にでますが、4HAQOは1回の接触(有効時間10分)でもtransformationをおこすようです。現在のところExp.の系列は19系統、培地交換と継代におはれて大変です。
:質疑応答:
[吉田]生体へ4HAQOを作用させると、どの位の期間で発癌するのですか。この実験では大変早い時期に変異しているようですが。
[黒木]生体では120日位です。
[堀川]対照の復元実験が少し弱いのではないでしょうか。
[黒木]対照は増殖しないので、復元実験を沢山やるだけ細胞数を集めることがむづかしいのです。
[吉田]細胞が組織培養の条件に馴応しないうちに変異が起ったとも考えられますが、その点が大変面白いですね。
[黒木]4HAQOをかけて非常に早い時期に変異したかどうかの見当がつく所も利点です。
[堀川]対照群の問題ですが、細胞数が集められないなら、対照群2群、実験群1群の割合で出発してでも、対照群の復元例を増すべきだと思います。
[奥村]もっと初期に変異を起こしているかも知れないわけですし、早い時期にコロニーを作らせて、コロニー単位の解析をするべきではないでしょうか。対照群が長期継代困難とすると、コロニーレベルでの変異の特徴はつかめていないわけですね。ハムスター新生児の肺の場合、早いのは3ケ月位で動物につくことがありますから、自然悪性化をどの程度考慮するか問題ですね。
増殖性の獲得と悪性化の関係はどうなっているのでしょうか。
[黒木]私にとっては、対照群は増殖しない方が都合がよいと思いましたので、対照の増殖をよくすることには熱を入れないできました。Leo
Sacksの場合も対照群は増殖がとまっています。
[勝田]奥村君の所では対照群の増殖度は安定していますか。
[奥村]2、3代まではよく増殖します。それから少しおちて、又増え出して安定するという順をたどります。そして大体4ケ月で動物にtumorを作るものが出来てしまうことがあります。
[勝田]問題はハムスターの場合、自然悪性化の条件がわかっていないことだと思います。黒木君の仕事の場合も、この自然悪性化を4HAQOが助けたのだということかも知れませんね。
[黒木]発癌性のない、同じ様な薬剤を添加する群を、対照にとってみたいと思っています。
[堀川]数を多くして、統計的に処理すればよいと思いますが。
[黒木]それも考えていますが、なかなかむづかしいですね。
[佐藤]増殖しない状態のものが、こういう風に増え出すということは4HAQOに増殖誘導という働きがあるとも考えられます。
[勝田]対照に増殖系のものを使ってみたらよいのではないでしょうか。
[奥村]199+CS10%〜20%という培地を使えば、完全に増殖させられます。勿論CSの質的検討が必要ですが。
[勝田]これから先の解析のために、4HAQOに本当の発癌因子としての作用があったかどうかを確かめておくべきですね。
[奥村]対照が増えなくなった時に、実験群が増殖して変異を起すということは差ではなく、有と無の違いだと思います。対照というものは、先々にもちゃんと取っておいて実験群との差をみなくてはいけないと思います。
[堀川]せっかく、うまくゆきそうなのですから、ここでぐっとおさえるべき所はおさえておくべきですね。増殖系でどうかということもみておく必要があると思います。
[藤井]動物に復元したものは継代できますか。
[黒木]出来ます。
[藤井]生体内で発癌したtumorには癌特異抗原ができるといわれていますが、組織培養で変異した場合ももとの組織との共通抗原を失って、癌の特異抗原をもつようになっているということはありませんか。そういう問題が復元実験にひっかかってきませんか。
[黒木]この系が確立すれば免疫学的にも、いろいろ探求出来ると思いますが、今の所はまだ・・・。
[勝田]そこを藤井君にやって貰うんですね。
[吉田]株化しない前にこういう変異が起ったという所がとても面白いと思います。他の発癌剤との併用も考えてみるとよいと思います。
[黒木]総括しておさえるべき点としては、対照群をもっと多角的にということですね。今の増殖しない系で長くおくと実験群と同じようなフォーカスが出来るかどうか、増殖系の対照でどういう変化が起るか、発癌性のない同種の薬品でどういう変化が起るか等、早速しらべてゆきたいと思います。ただ対照が株化する条件におくと対照が4ケ月で自然悪性化するということになり、なお解析がむつかしくなると思います。
[勝田]とにかく、この実験は非常に有望そうで楽しみですね。薬剤としても日本で開発したものでもありますし。班としては、発癌の研究ではなくて、発癌機構の研究なのですから、何とかして早く機構の方へはいりたいものですね。そういう点からみても増殖系の細胞を使う時はクローニングをして使う方がいいですね。
【勝田班月報・6608】
(勝田班長はアメリカへ出張・《巻頭言》にアメリカ便)
《佐藤報告》
RLD-10細胞については既に度々報告しました様に自然癌化があります。3'-Me-DABを投与すると200日位で復元の陽性率が上り、及びラテ生存日数が短縮されます。
RLN-10細胞はRLD-10細胞の起源のラッテと同じ肝臓からDABに全く関係なくつくられた株細胞です。この細胞に対する3'-Me-DAB投与実験は図を呈示します。現在までの所Tumorを形成したものは有りません。
従って現在までの所RLN-10細胞には3'-Me-DABは発癌?という機転については作用していない。併し形態学的にはかなり強いtransformationをおこしている。然しtransformationの形はいづれの系統でもよく似ている。したがってRLN-10細胞では3'-Me-DABで癌化の一段階までには達するが完全な癌化にはいたらないとも考えられる。
《高木報告》
人胎児の皮フを用いた2〜3の実験について報告する。
1)約5ケ月と思われる人胎児背部の皮フを切り取り、P.C.1000u/ml、S.M.2000μg/ml、fungizon5mg/20mlを含むHanks液に約3時間浸して後、3x5mm似細切してPlasma
clot及び液体培地を用いて5%CO2gas含有空気よりなるCO2incubator中で培養した。
実験群はPlasmaclotを用いたものでは、a)4NQO
10-5乗Molを含むHanks液を2/w、表面より塗布したもの、b)control、液体培地を用いたものでは、c)75%199+20%B.S. d)75%199+5%C.E.E.+20%C.S.よりなるもの、以上4群とした。
結果:培養前野組織では表皮は大体3層で角化層は認められず、一層の規則正しく配列した基底細胞層をみる。培養3日目、a)b)両群とも表皮は4〜5層に肥厚し、その上に薄い(1〜2層)錯角層を伴う角質層を認める。基底細胞層の配列も整然として両群間に特記すべき差異を認めない。12日目に至ると表皮は5〜6層と更に幾分厚さを増し、4NQO添加群では対照に比べ角化層形成がかなり抑えられている。この時期までnecrosisも殆んどなく、組織は健常に保たれているが、先般のものに見られた程のmitosisはなく全体に少い。c)d)群では3日目まではPlasma
clotによるものと殆んど同程度に保たれており、C.S.、B.S.使用により特別の差を見ないが、9日目のものでは両群共全くnecroticであり途中incubatorの温度が上りすぎるという事故はあったが概して液体培地はよくないと思われる。この実験で初めてfungizonを用いたが特別toxicでもなく好結果であったと思う。
2)無菌的に取り出された約5ケ月目の人胎児の皮フを1)と同様な方法で培養した。この場合fungizonは用いず実験群は、a)4NQO
10-5乗Mol in Hnaks塗布群及び、b)対照群とし長期培養を目指した。培養前の組織は時期的にも、組織学的にも、1)のものと殆んど同様である。培養4日目、両群共表皮は5〜6層と幾分厚くなり薄い角化層(1〜2層)を認める。4NQO添加群では基底細胞層の配列が不規則でこの点、対照と著しく異なるが両群同様に健常である。8日目表皮は6〜7層と幾分厚くなり2層程度の薄い錯角化を伴う角化層を同様に認める。この時期のものでは基底層は正しく配列しており、4日目のものであの様な乱れを生じたのは偶然か有意なのか俄かに断じ難い。今後の検討にまちたい。この1)2)を通じて云えることは前の同様な実験に比べてmitosisが非常に少ないことである。培養条件で変った点と云えば、O2gasを空気に変えただけなので、高O2濃度が分裂を促進したのではないかと考えている。尚目下、継続培養中である。
《黒木報告》
Hamster Whole Embryo細胞への4NQO及び4HAQOの作用(5)
(1)移植実験
ついにハムスターが「腫瘍死」を遂げました。死んだハムスターは先月の月報に写真をのせた新生児皮下100万個移植群で現在6匹中3匹が死にました。生存日数は74日、80日、80日です。残りの3匹もかなり弱っていますので間もなく死ぬと思います。
腫瘤は非常に大きく最大のものは50x40x50mm、小さいものでも35x25x20mm位あります。このようなのが3〜4ケあるのですから、恐らくハムスターの体重よりもTumorの方が重いと思います(両方合せて140g)。
転移は肝に小さい白色結節が1つみつかっています(組織像はまだ)。又腹腔内、胸腔内にも腫瘤は浸潤性に入り、肝、腎などに癒着しています。これらの所見から考えてこの腫瘍が悪性であることは間違いがないことと思っています。
その他の群、例えばadultの皮下、ch.P.移植群はまだ死ぬ気配はみられません。(tumor自身はどんどん大きくなっている)。
(2)新たに始めた実験について
4NQO及び4HAQOのtransformationの再現性をみるため、及び4HAQOの最少必要量をみるために、次の三組の実験をstartしました。
1)Exp.345(Zen-2、NQ-4、HA-3)(図を呈示)。
この実験は前回の4NQO、4HAQOの実験のそのままのくり返しです。4NQOは、NQ-2と同様にmorphological
transformationがおきたのですが、これまたNQ-2と同様に動物にtumorを作ることは出来ません(現在培養117日)。増殖は活発です(10x/w)。
4HAQOは最初からcrisscrossのpatternがみえず、現在までだらだらと継代されています。最近growthがよくなって来たので移植したのですがtumorは出来ませんでした。この4HAQOによるtransformationのreproducibilityの失敗は、4HAQOのstock
soln.として前に作り、-20にて保存したのを、その度thawingして用いたことにあると思われます。
2)exp.378(図を呈示)
前回のHA-3にこりて、少し面倒でも4HAQOは実験の直前に作り、保存したものは用いないことにしました。また1回実験する度に残ったcarcinogenを光電比色計にかけ、その吸収度曲線を記録として残すことを励行しました。
実験の目的は4HAQOの必要量を知ることにあります。もし1回の処置でtransformationがおこるのなら、発癌機構の分析は非常にし易くなるはずです。
carcinogen処置後2日目には、一部に細胞の配列の乱れがみえて来ました。この所見は、carcinogenを取った後もつづき10日目頃には、transformed
focusらしきものがあちこちにみえるようになって来、有望のようです。これに対して4HAQOを4回8回とかけた群(AH-6、HA-8)は、細胞のdamageがひどく現在に到るも継代出来ない状態です。
3)Exp.403(図を呈示)
この実験の目的は二つあります。一つには4HAQOの作用時間を思いきって短くし、10分間あるいは1時間とすること。他はnon-carcinogenic
carcinogenである4-amino quinoline-N-Oxideの作用をみることです。
4HAQOは非常に不安定で培養液中では10分間位しかもたないだろうという遠藤英也先生の意見にもとずき、4HAQO
10-5乗M添加後10分及び1時間後にcarcinogenを除きました。(除き方は前にも記したようにPBS
3回、medium 1回で洗います)。まだ培養後僅かしかたっていませんが、初期のmorphologicalな変化(criss
cross、multilayer)はHA-8、HA-9のいずれにもみられました。今後が期待されるところです。
4AQO(図を呈示)はreduceされるときのproductで、発癌性はないといはれています。この4AQOを杉村先生にお願いして分けて頂きtransformationの有無を調べています。途中、吸収度曲線のとり方のエラー(pHのadjustの忘れ)から癌センターに問合せたりして、連続投与は出来ませんでした。4HAQOとは異るようですが、morphological
transformationはおきているようです。10月までにはある程度わかることと思います。
いずれの実験でも継代の度毎にコロニーの形成を試みています。
【勝田班月報・6609】
(勝田班長は前月につづきアメリカ出張中・《巻頭言》にアメリカ便)
《永井報告》
ウニはシーズン・オフになったので現在はchemical
workをやっています。受精膜の化学成分は、予期に反して90%が蛋白、残りは糖及びアミノ糖から成っていることがわかって来ました。蛋白は酸性アミノ酸(Glu、Asp)に富見、酸性蛋白のように思われます。アミノ糖はグルコサミンとガラクトサミンとが約1:1のモル比で存在し、従来云われていた9:1と異なった知見を得ました。9:1というのは15年程前のデータですから、どうでしょうか。糖はマンノースが少量のみ。(1)これらのアミノ糖及び糖が蛋白に結合(covalent
bonding)して糖蛋白をつくっているか、(2)それとも糖類は蛋白とは別個にpolymerを形成して、このcationic
polimerと酸性蛋白とがイオン結合で結合して膜を作っているのか、二つの可能性が考えられます。受精膜形成のメカニズムから考えると、後者の可能性の方が面白いのですが、果してどうか。一応後者の可能性を頭において実験を進めたいと思っています。ウニのスルホリピドの基本糖成分であるスルホシュガーの結晶化を試みていますが、強酸性の為うまくいかず、trial
and errorを続けています。ヒトデ卵のX-Sugar(No6605)はガスクロマトグラフィーによってもQuinovoseであることが判明しました。(図を呈示)
この頃のガスクロマトグラフィーの進歩は見るべきものがあります。最初は脂肪酸の分析が主でしたが、段々、糖類、アミノ酸、ステロイド、糖アルコール、etc、かなりの種類の生体成分が分析できるようになって来ているのが現状です。アミノ酸などはまだ、標準的な方法の確立までいっていませんが、それも時間の問題だと思います。ガスクロマトグラフィーをうまく使いこなせば、μg単位のサンプルについて分析可能となるわけですから、相当なものです。ラジオガスクロマトグラフィーが発達すればもっと微量の物質の分析が可能になるでしょう。糖質化学などの分野もガスクロマトグラフィーの出現により、随分と影響を受け始めています。組織培養など、生化学者からみれば物質的には甚だ微量なものを扱っている人々にも、いずれ有力な手段となってくるに違いないと思っています。cell1個当りの分析もやがて夢でなくなる時が、そう遅くない時に訪れるでしょうが、ガスクロマトグラフィーなどさしづめその突破口となるのではないかと思います。
勝田班長の米国からの報告によれば、イノシトールを培養細胞の保存に(凍結保存)使うと、ジメチルスルホキシドやグリセロールなどよりも、細胞の抗原性の変動が少いとのことです。私もリピドをやっている関係から、イノシトールリピドには7〜8年とりつかれていたことがあります。5〜6年程前に、また2年程前にも、イノシトールを凍結保存剤に使ったらどうか、ということを提案したことがありましたが、あまり取り上げられませんでした!。イノシトールは代謝回転の速いリピド成分として、リピド生化学では随分研究されて来ましたが、遊離状態のイノシトールも生体組織にはかなり存在しています。例えば、組織100g当りのイノシトール(fee-type)のng数を表にしてみれば、下記のようになります。Plasma
: 1.14 whole blood : 1.25
Liver : 12.1 Lung :17.1
Heart : 7.1 Kidney cortex :61
Testes : 28 Ovary :32
Thyroid :121 Pituitary :96
Adrenal cortexs: 16 Salivary gland:19
Brain(cerebral cortex):− Spleen :22
Diaphragm : 6.2 Pancreas :12
Adipose tissue : 3.1 Eye(lens) :−
thyroidとpituitaryには、特に多く注目されています。またplasma中には少く、tissueにplasmaからactive
transportによって蓄積されるものと考えられています。上記glandsではhomogenateを遠心分劃するとcytoplasmic
fractionに局在するそうですが、最近非水溶液で遠心分劃をおこなうと、むしろ核分劃に多いそうです(胸腺組織についての伝研・積田氏の最近の知見:私信)。これがどのような意味をもっているのか興味のあるところだと思います。組織培養に使うとよいということはEagle
et al(1957)が云っており、これの代謝がかなり速いことからそのpathwayがCharalampous
et al.により現在まで研究されてきています。いずれにせよ、イノシトールは生体組織にはかなり在ってわるさをしないらしい、ということは云えると思います。分り切ったことのようですが重要だと思います。S.J.Webbはvirusやbacteriaの乾燥保存の際に添加することにより、好結果を得ています。またイノシトールを加えてやるとultra-violet
irradiationに耐えるようになることから(Rous
sarcoma virus)、nucleoproteinの構造を保っているwater-structureと密接な関係があり、このstructural
waterとinositolとがその-OHを媒介に置換するのではないかと考えています。(inositol、ソルビトールの化学構造を図示)。またこれはイノシトールとは一応無関係ですが、化学的には同類のソルビトールについて茅野氏(1962年)の興味深い研究があります。即ちカイコ休卵の時期に休眠して冬を越すが、その際グリコーゲンの殆どがこのソルビトールに転換され、また春になって休眠がやぶられると、ソルビトールがグリコーゲンに再転換されるという研究です。卵にはその際wet
weightにして5%ものソルビトールが蓄積され、なめてみても甘く感ずる程だそうです。茅野氏はこのようにして昆虫卵は耐寒性を獲得し、又エネルギー保存を同時におこなっているものと考えています。自然の巧みさに驚きます。これらの糖アルコール類は培養の保存について、もっと考慮されてよいのではないでしょうか。
《螺良報告》
乳癌培養細胞にMoloney白血病細胞をcotact
cultureした場合の戻し移植
培養乳癌細胞は継代3年を経過し、電顕的にはウィルス粒子フリーとなている。之に白血病ウィルスをかけて培養できないかということで、cell-freeの白血病ウィルスを加えたが、その培地には造腫瘍性はなかった。
そこでcontact cultureに望みを託し、C57BLにMoloney白血病ウィルスで誘発した白血病細胞とcontact
cultureを試みた。その培養細胞は下図の如くで、白血病細胞(脾、リンパ節)は培養されて居ず乳癌のみ敷石状に増殖しているものと思われた。
[DDの培養乳癌にC57白血病をcontact culture]
(写真呈示・乳癌培養細胞の特長をもち白血病細胞は認め難いが)
そこでもし乳癌細胞だけになっていたら、之から電顕的に粒子が出れば白血病ウィルスでないかという可能性がある。この検索は目下遂行中であるが、一方、果して乳癌細胞だけになっているかを確かめるのに戻し移植を行った。乳癌はDD系由来、白血病はC57BL由来であるので、(C57♀xDD♂)F1・・・BDF1へ戻した。培養細胞はcontactしてから6ケ月、4〜6代を継代培養したものである。
1)BDF1への戻し移植
3匹に移植何れも陽性で局所に腫瘍を作ったが、同時に脾及び肝腫を伴った。移植后50〜62日で殺したが、下の写真のように局所の乳癌と共に、肝、脾、腎に白血病の浸潤を認めた。 [BDF1への戻し]
(写真呈示・接種部の腫瘍、肝への白血病細胞浸潤)
之が培養細胞で乳癌、白血病の2つが培養されていたのか、或は白血病の方はウィルスで誘発されたかが問題で、2月という期間は潜伏期としてかなり短い。
2)BDF1からDD又はC57BL屁の再移植
培養細胞でhistocompatibilityが不変だという結果をえているので、もしcontactした培養細胞に2種がまじっていたなら、DD由来の乳癌とC57由来の白血病はBDF1なら両者がつき、DDへなら乳癌だけ、C57へは白血病だけがつく筈である。目下の所C57への移植はついていないが、DDへの戻しでは41〜71日後に乳癌だけがついていて白血病は発生しなかった。 [DDへの戻し]
(写真呈示・培養部の腫瘍、肝−正常)
考察:今の所実験途中で結論に至らないが、BDF1の白血病はウィルスでなくて培養細胞によると思われる。そうすると培養に2系統の細胞が混っていたのではないかと思われ、之等が系統を異にする場合は、夫々の系のマウスを戻し移植に使って、細胞の選別ができないろうか。
まとめ
以上中間的な所ではあるが要約すると(図を呈示)、というところで、C57に白血病が2月で未だ出来ないで完全に系統による選別ができた所まではいっていない。
しかし培養細胞を系統別にしておくと戻しによって之を選別することが出来そうである。
《高木報告》
先報、実験2)のその后の経過について記します。培養8日目までの所では、4NQO添加群及び対照群の間に目立った差は認められませんでした。15日目4NQO群では表皮は3〜4層でむしろ薄くなりますが、表皮真皮共に健常に保たれており、角質層の著明な肥厚はありませんでした。
対照群では表皮5〜6層で幾分厚く、細胞の形は培養前のものに似て、胞体の明るい細胞が並んでいます。両群共mitosisは殆んど見られません。15日目までで4NQOの添加を中止し、その后は同じmediumにて培養を続けました。23日目のものでは15日目とはむしろ逆に、4NQO群では2〜3層の表皮と規則正しく配列した一層の基底細胞層を認め、角質層は表皮よりやや厚めと云う程度で、それ程著明な肥厚は認められませんが、対照群では表皮の厚さは殆んど変らず、表皮と真皮の区別ははっきりしているのですが、基底細胞層の規則正しい配列は全くみられず、若干の錯角化を伴う角質層は表皮に相当する程度ですが、更にその角化層の上にfibroblastの増殖がみられます。概して4NQO群の方が健常に保たれているように思えます。29日目のものでは4NQO群は4〜5層の表皮と同程度の厚さの角化層よりなり、基底細胞層の配列は崩れて了っていますが、真皮の細胞と共にかなり健常に保たれている感じです。
これに比べて対照群では、表皮2〜3層で基底層は認められず、真皮は毛嚢を除いて全くnecrosisになっており、23日目のものと同様薄い角質層の上にfibroblastの増殖を認めます。両群共mitosisは認められません。今回の実験では特に23、29日目のもので外観上サージロンの表面一面にoutgrowthがみられ、この為サージロンが曲って了う程でした。主としてこの為と思われるのですが、その部のclot融解が早く、その融解物の中に組織片が埋れて了う傾向がみられました。それが特に4NQOを塗らない対照群に強く、この為にむしろ対照群の方の健常さが早く失われる結果になったのではないかと思います。今回はincubtorがやや不調で30日前后で培養を止めましたが、次の機会にもっと長期の観察を行う予定です。
《三宅報告》
ヒト胎児皮膚からDD系マウス成熟皮膚へと、対象の切りかへを一部で始めたのです。20-Methyl
cholanthrenをペレットにした方法をかえて、これを5%の割合にParaffinに溶かして、ミリポアフィルターにしみこませ、固型化した後に2mm角位の小片に切り、培養直後のマウスの皮膚にのせ、3〜6日間放置しました。コントロールとしては、そのフィルターの小片を成熟マウスの背の皮膚に3日間のせたものと、フィルターにParaffinだけをしみこませたものを培養皮膚に添付したものについて検索しました。また、この実験に用いた20-M.C.はin
vivoの実験でBenzenに溶かしたもの、1回塗布后皮膚癌を発生したものと、同じボトルからのものです。培養皮膚に添付する時間がどの位で充分であるかを知りたいのが、この実験での目的になったのです。結論をさきに云えば3〜6日間もフィルターを放置したことは長きに失したと考えられます。これから、もっと短時間で、しかも対象の皮膚を胎生のものに再び戻してやり度いと思います。
その結果を述べますと、in vivoでは3日間の添付で、表皮は4層位になります。基底層の細胞は極めてactiveとなり、核は大きく泡状を呈して来て、Dermisの上に並んで来ます。表皮の最上部には薄い、Eosinで染まる角化層が積みかさねられてくるのです。
培養皮膚では、3〜6日に亘るフィルターの添加で、なる程培養されたコントロールの皮膚にくらべると、基底層細胞は少し増殖して来ますが、散在性に強い変性からまぬかれることは出来ず、核は泡状、時には空泡を形成して来ます。また、こまったことには、Paraffinだけのfilterを添加した皮膚のコントロールに、表皮の変化が出現することです。
以上の結果から、これからの実験を、すこしかえてゆく必要があると思われることです。 それは胎生の動物の皮膚に戻るということ。
M.C.の作用時間をもっと短くしてゆくということ。
ヒトの胎児での実験を、併用してゆくということ。だと考えています。
《佐藤報告》
(表を呈示)表はDonryu系ラッテに生体でDABを191日飼食させ、その肝臓を(特に肥大性結節)培養したのち、新生児ラッテに復元してTumor形成能をみたものです。詳しくは別刷を参照して下さい。このTCstrainは現在の所、中等度(?)のTumor-producing
capacityがありますが、3'-Me-DABを10μg/mlに連続或は間歇的に投与すると、比較的早く(66日〜79日)でTumor-producing
capacityを増加する様に見えます。実験そのものにも未だ追加等必要ですが発癌剤の機作の内に腫瘍性の増強(Selection?)がある様に見えます。実験は下記の通りです(図を呈示)。
(表を呈示)次はRLD-10株に3'-Me-DABを投与して悪性化した腹水肝癌を再培養し、それに3'-Me-DABを再投与すると腫瘍性が増強したことを示す。
《堀川報告》
今月号にもまだ改めて紹介出来るようなデータを得ていない。
帰国後早々にデータが得られるなどあまりにも虫のいい話かもしれないが、それにしても日本には学会やその他の会合が多すぎる。
8月10日から札幌で遺伝学会が開催され、それに出席したり、あちこちの談話会に引っぱり出されているうちに8月も過ぎてしまった感じである。仕事の方もさぼっているわけではない。事実今夏も学会や談話会に出席した日以外は一日も休みなく頑張ったつもりである。
幸い、放射線障害回復機序の実験に使用するX線、ならびにUV線耐性細胞もぼつぼつではあるが、きれいな形で分離されつつある。然し、現在のところ、肝心の装置がなくてどうにもならず、東芝から購入する部品の到着を待っているところである。
一方ショウジョウバエもいつでも仕事が開始出来るようになっておりながら、Madisonのボスが未だにOriginal
Note Booksを返送してくれない。(Paperにまとめるためボスに必要)といったところで、これもハエと共に手ぐすね引いて待っているところである。
Madisonの勝田先生から便りをいただいた。元気で頑張っておられ、あちこちで大分好評を博しておられるようで何よりだが、せめても9月の班会議までに少しでも自分の仕事を進めておきたいと思うものの、今のように八方ふさがりでは、どうにもならないというのが現況である。
《黒木報告》
Malignant transformation of hamster whole
embryonic cells by 4NQO
and its derivatives in tissue culture(6)
前報に記した4HAQOのdoseをかえた実験は目下運行中ですので詳しいdataは、班会議にまわしたいと思います(4HAQOの再現性はあるのですが、そのpatternが少し異なっている)。 今回は主に4NQO、6-chloro
4NQOの移植実験について記します。
月報6607号に4HAQO処置細胞はmorphological
& malignant transformationしたのに拘わらず、4NQO、6-chloro-4NQOによるそれはmalignantにならずmorphological
transformationのlevelにとどまっていると報告しました。その後くり返してハムスターcheek
pouch、SC(adult & newborn)に移植した結果、培養110日以降にmalignantになりました。4HAQOの2倍近くの日数を必要とした訳です。この結果は4NQO→4HAQOのenzyme
activityが、hamsterにおいては低いことを示唆しているのかも知れません。
この反応は次の如くです(図を呈示)。
4NQO及び6-chlo-4NQO処置細胞には次の5つがあります(図を呈示)。これらのうち、NQ-1は培養134日にカビのcontamiにより切れてしまった、growthはよく、非常に有望であった。NQ-3は前にも記したように2回目の4x10-6乗Mがoverぎみで、その後growthはとまってしまった。結局現在継代しているのはNQ-2、Cl-NQ-1、NQ-4の三系である。
NQ-2の移植成績は次表に示すように、培養56日には、ch.p.で2つともregressionし、(1wに小さいnodule、2wに消失)negativeでした。その後しばらくgrowthがよくなかったので、移植を手控ていたのですが、115日にch.p.とSC.に移植したところ、SC.はregression、ch.p.には硬いtumorがregressionせずに、しかしきわめて徐々に大きくなるtumorが得られました(図を呈示、histolog.は目下製作中)。しかし、その10日後(125日)には皮下にも移植可能となり、培養131日には新生児の全例(10/10)にtumor、165日はch.p.、SC.のいずれでも安定したようです。(NQ-2の移植成績表を呈示)
このように、NQ-2のmalignant transformationは培養120日前後におこったようです。なお、125日のch.p.のtumorは組織学的にfibrosarcomaでした。
NQ-4の移植成績
NQ-4は、NQ-2と似た細胞像と活発な増殖性を有するに拘らず、現在に到るまでmalignantになっていません。NQ-2と同様にmorphol.tr.とmalig.tr.のgapがみられます。
cheek pouchで一時的に増殖した結節の組織像は、necrosisとcell
reactionでcontrolのそれと同様でした。(移植成績の表を呈示)。
6-chloro 4NQO処置細胞の移植
6-chloro 4NQOは以前にも記したように、ただ1回のみの処置です。しかし、その培地は12日間放置しておき15-12のscheduleです。現在まで移植は1回のみですが培養125daysにはhistologicalにfibrosarcomaとして確認されました(表を呈示)。
コントロールの移植
前回の班会議のとき、コントロールの移植実験の足りないことが指摘されましたので、その後何回かくりかえして試みました。結果は次表に記しますが、SC
of newborn、ch.P. of adultのいずれでも陰性です。Zen-2では長く培養した細胞を用いています(表を呈示)。コントロールの移植は大体この位でよいと思いますが、いかがでしょうか。
☆以下は武田薬品の小冊子「実験治療」にのった一文です(執筆者はK.O.生)。
《癌は自然に発生するか?》
1941年Geyがラットの繊維芽細胞を培養しつづけていると、永い間には元のラットに戻し移植すると肉腫のかたちで増殖することを認めたが、その後マウスの胎児から得られた細胞系には、このようなことがかなり頻繁にみられるという事実が知られてきた。このような細胞の体外培養を、時々嫌気性の条件下においてやるとやはり同様の事実がみられたので、Warburgの嫌気解糖系が優先するようなselectionが、癌を発生せしめると考えた学者もある(Gold-blatt-Cameron)。
In vitroの条件というものは、in vivoとことなって、ある意味で有限の因子からなるから、人工的に調節可能であると考えると、すべての条件が知られているにもかかわらず、多くの細胞は通常の状態で増殖してゆくのに、突然その仲間に悪性化したものができるということになる。
それでは、癌化ということは、まったく内在的な条件だけでおこりうる、いわめて気ままな、分析不可能な現象だとして、癌の研究は無意味になったと考える学者もできようというものである。
Polyomaのような、また他の殆ど遍在性と考えられるウィルスの関与を除外し、また宇宙線のような普遍な物理学的条件を除外してもこのようなin
vitro癌化がおこりうるものか否かは、考えようによってははなはだ重大な問題である。
上に述べたように一体in vitroの条件はすべて分析可能で有限であるかというにまだまだそうはいい切れないであろう。勝田はin
vitroで培養液と試験管壁とのなす境界に近いところに、一見癌に近いかと思われる細胞群の出現をみとめている。この部のガス圧、表面張力その他の特異性ということも頭におかねばならない点であろう。
一面から考えるとin vitroは増殖の場であって、細胞と細胞との隣り合せの関係は、invivoのように複雑でない。増殖しても増殖しても、植えかえられる培養細胞のコロニーにとっては、終点のないむなしい増殖がつづく。この系ではin
vitroで一種類の細胞の増殖を停止させるnegative
feed back機構を欠いていると考えてもよいであろう。
再生と潰瘍化を繰り返すin vivoの場と、この意味では一種の類似がなり立つ。この
negative feed backを免疫学的機構におきかえるとBurnerやGreeneの癌の免疫学説が成り立つであろう。
最近、一方ではHeidelbergerのように癌化と分化とを類似に置いて考える学説を主張する学者もあるが、一方ではまたsomatic
mutation(体細胞突然変異)として解釈する根拠も多くでてきている。もし後者の説の立場に立つならば、例えば、化学的発癌における癌原物質の作用は、きわめて特異的に突然変異条件をつくりだす場合もあろうし、または単に自然発癌の機会を増強するにすぎない場合も考えられよう。
癌は果たしてまったく自然の条件でも発生するものであろうか?。学者は必ずしも、生物は細胞分裂の機会ごとに自然に癌を生じうる危険をもっているとは考えていない。癌になる程の変異には何かある特異なmotiveが必要であって、そのmotiveはきわめて一部ではあるが判っている。Motiveを共通にする物質、エネルギー、ウィルスなどを考え、その全面的な解明を求めているというべきであろう。
In vitroの自然癌化は、その面からいうと、いまだ解決されるべき手がかりもつかめていない特種な分野かも知れない。
【勝田班月報:6610:アメリカ組織培養学会の話題】
《勝田報告》
The Second Decennial Review Conference
of Tissue Cultureに出席して
“Waymouth”のは合成培地での培養ですが、すごくlagがあって、死んだ細胞の成分が使われているのではないか、と思われました。“Amos”のは細胞の分化を維持するのに、アミノ酸、ビタミン、ホルモンなどの他に、未知の物質が必要だという話でした。“Bell”の話は、主にchick
embryoを使っての実験で、lens placodeのoptic
cupの形成に阻害剤やC14uridineのとり込みなどから、普通のribosomeの他に、蛋白合成をする他の新しいribosomeを見付けたということでした。“Sutton”はLeighton
tubeにAralditeを入れてそのまま包埋してしまい、60℃から0℃に急に冷やして合成樹脂を剥し、それからブロックを切り出して電顕用の標本を作っていました。Golgiでlysosomeの合成が盛であり、細胞膜からlysosome内のenzymesが外へdischargeされること、2核の細胞には核の間の細胞質に細胞膜が残っているのが認められたこともあるなどが面白いところでした。“Pitot”は細胞の色々な酵素活性、殊にtyrosine
transaminaseやserine dehydoraseについて、RueberH-35を用い、in
vivoとin vitroとの比較をしていました。“Gartler”は色々な株18種(ヒト由来)についてG6Pdehydrogenaseその他の活性をしらべ、ニグロはstarch-gelで分けるとG6PDがslow
bandとfast bandの2本に分れる、つまりtypeAはニグロにだけ見られるもので、HeLaはニグロ由来であるから(+)。ところがchangのliver、Detroit-6、HEp6その他、殊にHeLa樹立から以後5年間に作られた株は、しらべた18株すべてにtypeAがあって、HeLaのcontamiらしいと発表し、大変な反論を買いました。“Earnes”はHistochemistryで細胞の特性をしらべようとし、adult
human tissue、主にbone marrowのprimary cultureを使い、Histochemistryで示せるものとして、AIK.P.、AcP.、Est(dNA)、Est(NANA)、β-gluc.(NASBI)、β-gluc.(8-HQ)、AtPase、AminoP.(β-LN)、Dehydrs:SD、LD、β-OHBD、G6PD.、GlutD.があるがmacrophage(monocytes)ではAIK.P.以外は全部存在すること、図のような(箒星状?)細胞にはAIK.P.が(+)、glycogenはfibroblastその他色々の細胞にみられるからmarkerにはならない、などと主張しました。“Westfall”はC3H由来で合成培地で継代している6clonesについて、その自然発癌について報告しました。“Grobstein”の仕事はやはりがっちりしていました。Epithelio-Mesenchmal
interactionを培養内でしらべOrganogenetic
interactionのtime courseを追っていました。“Abercrombie”は相も変らずcontact
inhibitionで、大分皆からやっつけられました。“Herrmann”はchick
embryo muscle(leg)のcultureで、胎生日齢の進むにつれてin
vitroの増殖は落ちるが、DNA当りのmyosin合成量はふえることなどを紹介しました。“DeMars”はヒトの細胞、とくにfibroblastsを用い、X染色体の行方を追い、G6PD.との関連にふれ、inactiveXもFeulgenでうすく染まり且replicateされること、静止核のheterochromatinはG2期の細胞にだけ見られたことなどを報告しました。“Hayflick”はspontaneous
transformationの大部分はウィルス感染によるものであると力説し、“Sanford”は培地組成を重視、FCSよりHsSの方が細胞が変り易く、embryoではmouse>hamster>ratの順にtransformしやすいと述べました。
《佐藤報告》
培養上の発癌を確認するためには種々の条件が必要である。従来解明できたことは培養肝細胞は長期培養になると発癌する(最近RLN-10株も癌性が現れた)。動物接種後、腫瘍発生迄には400日を越えるものがある。発癌剤にはTumor-producing
capacityと所謂malignancyを増強する作用があるらしい。
然し細胞のレベルで発癌を論ずるには正常(?)肝細胞のcloningを行って後、発癌剤を作用さす事が望ましい。
最近まで炭酸ガスフランキを使用して肝細胞のpure
cloneをつくるべく努力したが未だ成功していない。
RLN-10細胞は培養1501日と培養1529日でシャーレに培養した。dish当り100で培養を始めると6%位の細胞が増殖する。10個細胞で2から7程度である。
RLN-39細胞は培養1225日と培養1239日でシャーレに培養した。dish当り1,000個乃至100個で5%程度のコロニー増殖である。
RLN-187(生後8日のラッテ♂)は培養124日で、シャーレに培養されたが10,000個ではコロニーを発生しない。
N-7(生後5日のラッテ♂)は、培養167日で前者同様10,000個細胞ではコロニーを作り難い。
RLN-163(生後6日のラッテ♂)は培養229日及び270日で10,000でいくらかのコロニーができる。
今後、培養日数の比較的短いものからpure
cloneをつくって発癌実験に用いる予定。
:質疑応答:
[黒木]コロニーの形態はどうですか。
[佐藤]丸い形をしています。顕微鏡でみると上皮性の細胞です。
[黒木]大きさはどの位ですか。
[佐藤]1〜2週で判定して1ミリ位です。
[勝田]コロニーを作らせる場合、まいた直後に位相差でしらべると1ケだけになっていない細胞がありますね。そういう事にもよく気をつけなくてはいけないと思います。
[佐藤]今までの実験経過からみても、どうしてもクロンを使って実験を始めたいと思っています。培養総日数の短い系の場合は1万個の細胞をまいて1ツ位はクロンがとれるだろうと思います。
[堀川]コロニーの中での染色体数のばらつきはどうですか。
[佐藤]まだしらべてみていません。
[黒木]前に奥村さんがしらべたと思いますが・・・。
[勝田]分離後初代は揃っているが、継代を重ねると、ばらついてくるということだったと思います。
[堀川]in vitro発癌の場合、ウィルスはいないのだという事はどうやって証明すればよいのですか。
[勝田]病原性のないウィルスや未知のウィルスとなると検出出来ないのではないかと思います。ウィルスと発癌剤が何かの形で組合わさって発癌することもあろうかと考えられますが、現在の段階では何とも云えませんね。
[永井]再現性をみることが、非常に大切なことだと思います。
[堀川]そうですね。条件を変えて再現性をみるのが大事ですね。
[黒木]in vivoでも、発癌が、作用させた発癌剤だけによるものだという確証はないですね。
[勝田]セレクションではないということと、再現性があるということが、きめてになるでしょうね。
[螺良]佐藤班員の実験で、自然悪性化と3'メチルDAB添加群の悪性化の間に差がありますか。
[佐藤]復元成績には差がみられます。けれどもセレクションではないという確証はありません。染色体数が42本の2倍体を保っている系の中にも悪性化したものがあるかどうか、しらべてみたいと思っています。
[堀川]DABを動物へ接種して、in vivoで蛋白と結合した形のものを抽出して、in
vitroへ添加してみるというのはどうでしょうか。
[佐藤]今日お話したデータの他に、電子顕微鏡的にもしらべ始めていますが、今の所ウィルスは見つかっていません。又発癌前とあとでは細胞の微細構造に少し違いがあるようです。
《三宅報告》
前回に述べたようにD.D.系マウスの成体皮膚の試験管内保持が、うまく参りませんでしたので、同系の新生仔(6匹)にかえて、従前からの方法に従って培養を始めました。もっとも感染の事を考えて、新生仔といっても、出産前1日目のもの、体長約2cmのものでした。この背の皮膚と、大脳を培養開始と同時にMCA-ミリポアフィルターを直接組織にのせ、24時間後にFilterを取り去り培養を続けました。別の一匹を正中線で縦断する面で組織標本を作りました。この組織検査で意外なことを知りました。
(1)背の皮膚といっても、皮膚附属器の発育の様相によって、部位的に相違の大きいことが判りました。すなわち、附属器のない所では基底層細胞は美しく円柱状のものがならんで、その上に4〜5層の棘細胞層がならんでいますが、附属器が豊かに出来た部では基底層は密集した不整形の細胞から出来ていて菲薄な棘細胞層と、同じく薄い角化層がみられます。背の皮膚全体としては、後者の占める率が高く、培養に用いたのは後者の方が多いものと考えました。(2)同じD.D.の成体の皮膚は、この様な部位的な差がなくて一様に基底層の粗な層と、その上に、たかだか2層の棘細胞層と、うすい角化層から出来ています。前述の胎生のものの方が、Adultのものより、形態学的にはHyperplasicであるという感をうけたのです。
この胎生の背の皮膚出実験を続けました所、現在、培養10日目という結果しかないのですが(すべての組織片について連続切断を作らせるものですから、これがネックになっているようです)、この胎生(新生仔)の背の皮膚も長期の培養に適しない様です。棘細胞層も、角化層も、ヒト胎児(3〜4ケ月)にみられるような肥厚もなければ、基底層での爆発的なMitosisもないのです。24時間MCA-Piltwを作用せしめたものに、棘細胞層の僅かな核成分の増加があって、角質層の直下にまで及ぶとみられるものがあるのみです。H3-20-MCAはBenzolに溶解されていますので、この同位元素を用いて、皮膚細胞への取りこみを、しらべる考えでしたので、このD.D.マウスの背の皮膚へ、培養前にcoldのMCA-Benzolを滴下、よく洗って、後培養を始めたものでは、9日目で皮膚は全体がNecroseという非運にあいました。新生仔の皮膚を用いた間違いは、その組織像からも指摘出来ると思います。反省して、より幼若なD.D.、ハムスターへと一応仕事をすすめます。
:質疑応答:
[勝田]ケラチン層があると増殖が起こらないというのは面白いですね。
[三宅]成体皮膚の場合、セロテープをはっては剥がすということを40回くり返してケラチン層を剥がします。
[堀川]胎児皮膚に成体皮膚のケラチン層をはりつけるとどうなりますか。
[三宅]それはしたことがありませんが、胎児皮膚を培養して、出来たケラチン層を剥がそうとしてみましたが、どうしてもとれませんでした。
[永井]ケラチナーゼのような酵素を作用させてみたことはありますか。
[三宅]ありません。
[勝田]ネズミの年齢との関係もしらべてみると面白いでしょうね。この仕事では発癌実験よりケラチン層との相互作用をしらべる方が面白そうですね。
[永井]物質としてとっておいて、ないものにつけたり、どんどん剥がしたりしてみても面白いですね。
[堀川]メチルコラントレンの作用時間はどの位ですか。
[三宅]24時間です。
[堀川]もし、うまく発癌したら、どうやって復元するつもりですか。
[三宅]そのまま、つまりスポンジごと植え込むつもりです。
[勝田]スポンジに血漿を使って組織をはりつけ、培養液に浮かして培養すると、32℃では組織がスポンジへはいってゆかないが、37℃ではどんどんはいってゆくというデータがありますね。
《高木報告》
現在進行中のハムスター全胎児よりの培養について報告します。
1)7月29日スタート
Medium:90%199+10%CS+0.5mg/ml Pyruvate+0.3mg/ml
Glutaminを用いて、Leo Sacksの方法に従い、胎生末期ハムスター全胎児よりTrypsin(N.B.C.
1:300 0.25%)消化により得た細胞を100万個/8ml宛TD-40Flaskにとり、初代のみアルミフォイルで覆って5%炭酸ガスAir、37℃の炭酸ガスフランキにて培養し、2代目継代後3日目より14日間に計5回に亙る4HAQOの添加を黒木氏(HA-2)の方法に従って行い、除去の際にはP.B.S.で3回洗って培養液に変えました。
4HAQO添加群には翌日より細胞のdamageがみられ、日毎に強くなってFlask中央部の細胞は全く剥げ落ちて了います。14日目にも尚、周辺部に残った細胞はcarcinogen除去後1週間目頃より徐々に増殖が起り、10日目を過ぎる頃より、一部criss-cross.multilayerを思わせる像を呈してきました。17日目にやっと3代へ継代しましたが、細胞数が少く、10日目にやっとsheetを作ってきました。コントロールも殆んど同時期に継代していますが、1G、2G、3G共に著明な変化は認められません。目下継続培養中です。
2)9月8日スタート
1)と全く同様な方法で得たものをMediumを変えて培養しています。Medium:0.5%Lactalbumin
Earle90%+CS10%+0.5mg/ml Pyruvate+0.3mg/ml
Glutamin。今回は対照として無処置コントロールと共に4HAQOの溶媒に用いた10%Ethanolを同量加えた群をおきました。2代目継代後、2日目に4HAQO及びE-OHsolnを夫々添加しましたが、添加後2日目に既に4HAQO群では中央部の細胞が剥離しますが、E-OH群でも4HAQO投与群と無処置群の中間程度の変化がみられました。目下carcinogen添加を続けています。
3)次に前報に記しました人胎児皮フの器官培養の写真を載せます。
:質疑応答:
[黒木]再増殖してきた細胞のシートは薄いですか。厚くなりますか。
[高木]厚くなります。黒木班員の実験で得られたものとよく似ていると思います。
[黒木]細胞の形は少し違うように思いますが・・・。
[高木]4HAQOの添加は何回位が効果的でしょうか。アルコールの影響についてはどう考えますか。
[黒木]アルコールだけの対照群をとってみていないので、わかりません。
[勝田]4HAQO溶液のたらし方について少し説明して下さい。
[黒木]今やっている方法は、培養液を全部すてて、4HAQO溶液をたらし、すぐ培地を添加しています。局所は矢張りひどくやられますね。
《黒木報告》
Malignant Transformation of Hamster Embryonic
Cells by 4-NQO and its derivatives in Tissue
Culture
(7)再現性について
この種の実験においてまず第一に重要視されるのは再現性でしょう。再現性をみるべくいくつかの実験がstartしています。
結論から先にいいますと前のHA-1 or -2の確実な再現性は得られていません。しかし、これらの実験からtransformationの起り方が少し訳ったような気がしますし、また、今後の培養状の問題点も掴めたように思はれます。
☆NQ-4はNQ-2 or NQ-1と同様の経過をたどり、現在は増殖も安定し、P.E.も15%前後、colonyの大きさもそろっている。細胞はP.E. である。しかし、再度にわたる移植にもかかわらず、悪性化の所見は得られていない。
☆HA-3はNQ-4と同時にスタート、しかし凍結保存したCarcinogensを使ったためか、初期の変化も(criss-cross
and necrosis)もみられなかった。90日すぎに細胞の形はfibroblast様にそろってきたが、growthは悪く謂るtransformed
cellとは明らかに異なる。(班会議から帰って来たらcontamination!!)この失敗にこりて、以後の実験はすべて使用のたびに4HAQOを新たにpreparationし、使用後、残りを光電比色計(auto-recording)にかけ、4HAQOであることをconfirmするようにした。
☆HA-4、-5、-6、-7
これは1x(2d.)2x(4d.)4x(8d.)8x(16d.)と4HAQO処理回数をかえたsiriesの実験である。これらのうちHA-4、HA-6、HA-7にtransformed
fociが出現した。(HA-4は班会議から帰って来てfociを発見)(写真を呈示)
transformed fociの出現まで要した日数は、HA-4=total
85d.(添加後76d.)ただしtransformed fociであるのがはっきりと確認できたのはそれより15日後。HA-6=total
59d.発癌剤後50日。HA-7=total 59d.発癌剤後50日。
これらのtransformed fociの細胞はactiveに増殖している。polynucleated
cellの多いこともその一つの特徴である。(HA-5にまだtransformed
cellが出現しない)
現在まで得られた所見をまとめてみるとtransformationの経過は次のようになりそうです。・・Carcinogensを2
or 3d.数回処理→Early Changesが起こる(1)cell
necrosis(2)fusiformedcells criss-crossed
arrangement→この間の時間は実験毎にまた発癌剤によって異るらしい→Transformed
Foci出現(1)densefoci(2)active growth。
:質疑応答:
[勝田]動物に復元して出来たtumorを、培養に移した時の細胞はどんな形をしていますか。
[黒木]大量培養では始の変異細胞にそっくりです。コロニーでは上皮様細胞はありません。それ以外は同じようなコロニーが出来ます。
[勝田](1)Early Changesと(2)Transformの間の期間が一定でないということは、発癌剤を使っての実験では当然のことで心配する必要はないと思います。
[高木]結果からみると、4HAQOは6〜8回加えた方がよいということのようですね。
[黒木]なるべく作用回数をへらしたいと思ったのですが、結局は回数の多い方がよいようです。
[勝田]この実験を発表すると、どういう異論が出ると思われますか。
[黒木]4HAQOの方はよいと思うのですが、4NQOは変異までに長くかかりすぎるので、セレクションという事を指摘されるかも知れないと思っています。それから胎児の細胞を使うのは悪性化を知るのにはよい材料だと思いますが、コロニー法でセレクションか本当の変異かをしらべたりするのには、安定した株の方が材料として適していると思います。
[佐藤]対照が増殖しないということは問題がありませんか。発癌剤が発癌因子として効く前に、急激な株化への誘導因子として効いたということは考えられませんか。
[勝田]ポリオーマとPPLOだけは調べておく必要がありますね。
[堀川]in vivoで発癌剤として知られている薬品が、皆、in
vitroでもこのような変異を起こさせるのでしょうか。
[奥村]in vivoでは発癌剤として知られているものであっても、in
vitroでは発癌剤として効いたのか、変異因子としてだけ効いたのか、はっきりさせておく必要があると思います。
[堀川]しかし、それは大変むつかしいことですね。発癌剤として効いたものでも第一段階では変異因子として作用しているのではないでしょうか。
[黒木]化学発癌剤を使っての動物発癌の実験の経過も決して一定とはいえませんね。ということは何段階もかかって発癌するということだと思われます。そして矢張り第一段階は変異因子として作用しているのではないでしょうか。私の場合、培養細胞がin
vivoでも増殖できる細胞へと変異するのは非常に短期間の間のような気がしています。
[勝田]そうでしょうか。
[藤井]復元してから長い期間がたってつくものには、宿主側に何か反応細胞、浸潤細胞といったものが、沢山出てきていますか。
[黒木]そういう所はまだみていません。今度の実験で感じたのですが、復元してtumorが出来たら、2ツあれば1ツは途中で採取して、組織像をみておくことが、悪性度を知るのに確実な方法ですね。
[勝田]話が少し変りますが、イノシトールを凍結保存に用いると、凍結された細胞の抗原性が変わらないという仕事が出ています。なかなか面白い仕事だと思います。
[藤井]ラッテのtumorを凍結しておいたら、マウスにもtumorを作る細胞に変わったという仕事が出ていましたね。
[勝田]細胞を凍結すると、抗原性が減るということになるわけですね。
《螺良報告》
戻し移植の再培養
乳癌及び睾丸間細胞腫の組織培養は、戻し移植によってその生物学的特性をチェックして来たが、それから更に再培養することによって、もとの培養細胞が再現されるかを調べた。
1.乳癌
DDF30.10104♀に培養乳癌細胞MC10582と10590を7月16日に皮下移植し、41日後の8月26日に摘出して再培養した。培養方法は最初と同様にトリプシン処理し、10%コウシ血清加YLH培地を用いた。移植癌はかなりもとの培養細胞に似た未分化癌で大部分を培養に使った為になお1部に腺管状の構造があるかどうかは確かめられなかった。
再培養とともに、その腫瘍の一部から同系のDD系への移植を行ったが現在ほぼ1月で何れも移植されている。ただし動物はすべて生存中である。(復元成績の表と顕微鏡写真を呈示)
<目標>
再培養でもほぼもとの培養細胞と類似した敷石状の配列がみられる。しかし多方向に突起を出す細胞も再培養でみられた。
再培養のねらいは、戻し移植によって電顕的にB粒子がみられないか、そうして再培養によってこれがどれ位維持されるかを見ること、戻し移植を再び行ってなお腺癌様構造をとる能力があるかどうかを調べてみることにある。
2.睾丸間細胞腫
睾丸間細胞腫はその移植性に関してホルモン依存性があるが、培養によって依存性は消失して雌雄を問わず移植しうる様になり、しかもこれをマウスからマウスへ継代することによって腫瘍増殖の潜伏期がかなり短かくなった。
この移植腫瘍の特性が再培養によってどう変るかを見るために再培養を試みた。
<目標>
再培養から再び戻し移植をして、ホルモン依存性の如何及び形態の如何を、もとの戻し移植と比較する。おそらく同様であろうと思われる。
はじめの戻し移植では乳癌ウィルスのB粒子がみられたが、再培養でこれがどれ位維持されるか、そうしてたとえB粒子が消失しても再び戻し移植をするとまた出てくるかどうかを調べたい。既にKFマウスの正常睾丸にも電顕的にB粒子を見出して居り、乳癌ウィルスは乳腺ばかりでなく正常の睾丸にも産生されている証拠があがっている。
《永井報告》
次のシーズンまで、しばらく受精卵の化学分析を続けています。(アミノ酸分析結果と化学組成の表を呈示)
表からわかるように蛋白が90%近くで、蛋白部分は酸性基に富んでいる。残りの10%が何に由来するかは、まだはっきりつかめていません。Hexose+Hexosamineで1.7%にしかなりませんから。Sugarのgas
chromatogramは、mannoseとglucoseが検出された。
受精卵の外側にあるjelly coatの糖はfucoseであるが、これは検出出来ず、jellyのcontaminationがないことがここでも云えると思います。但しφ-OH-H2SO4法でtestすると、3N-HCl、100゜水解物について試みた場合、7hr.以上の水解ではλmaxが485μmから480μmに移り、その他の(mannose、glucose以外の)Sugar-like
substanceの存在が予想されます。これについては、reducing
value及びφ-OH-H2SO4法でhydrolysisのtime
courseをとってみると、20hrs.以降に、何か新しくSugar-like
Substanceが遊離されてくるように思われる。普通Sugarは、3N-HCl、12hrs.の水解で殆どつぶれて、反応が消失するのが殆どである。赤外吸収図では受精膜は所謂蛋白の吸収図を呈し、SO4``1もSugarも少ないことを示しましたが、Jelly
coatはSO4``1もSugarのOH吸収も強く出しており、主要部がSulfated
Polysaccharideであることがよくわかります。
【勝田班月報・6611】
《勝田報告》
パラビオーゼ式細胞培養法による各種変異細胞株の特性の検討
これまで報告したように[なぎさ培養后のDAB高濃度処理]、[ダイエチル・ナイトロソアミン(DEN)による処理]などによって、正常ラッテ肝由来の細胞から色々な変異株が得られてきたが、これらの細胞が正常ラッテ肝細胞に対してparabiotic
culture内でどんな態度を示すか、肝細胞株RLC-9及び-10を用いて検討した。その結果、次に記すように、3株とも夫々に相異なる反応を示した(夫々に図を呈示)。
(a)なぎさ培養后DAB高濃度処理により生じた変異株“O":
RLC-9とparabiotic cultureしたところ、2日后には変異の増殖促進、正常株への抑制が認められたが、日と共にその傾向が消失し、7日后にはほとんど相互作用が認められなくなってしまった。つまり無反応型と呼べるであろう。
(b)DEN処理による変異株(Exp.DEN-2):
RLC-10と組合せたところ、RLC-10の増殖はparabiotaic
cultureにより阻害されたが、変異株の方は促進されなかった(図では反って若干の阻害を受けたように見えるが、推計学的には有意の差があるかどうか判らない。未検定である)。これはかってDABを4日間使って増殖を誘導したRLD-1株の特性と似ている。
(c)DEN処理による変異株(Exp.DEN-13):
変異株の増殖が反って阻害され、正常肝細胞株(RLC-9)の方が反って促進されてしまた。不思議な現象であるが、事実であるから何とも致し方ない。
とにかく、変異株によってさまざまに特性が異なるということは、当然とは云え、面白いことである。最近癌毒素の研究を再開したので、色々と考えさせられているところである。
《黒木報告》
ICCC、UICC、それに名古屋の腫瘍ウィルス・シンポジウムとききまわりやっと仙台にもどったところです。UICCは本部附にされたため、殆んど演題をきいてないのですが、名古屋ではたっぷり3日間腫瘍ウィルスの先端的な仕事に触れてきました。
そこで感じたのはアメリカのものすごい精力的な仕事に比べて日本のそれが、いかに小さく箱庭的であるかということです。アメリカのこのウィルスの仕事を支えているのは、polio
uirus以来築かれたtissue cultureの「幅広い」しかもかなりレベルの高い技術ではないでしょうか。日本の組織培養が、ともすると「組織培養家」の間に閉じこめられ、「秘技」的扱いをされていたことには反省の余地がありそうです。このことは組織培養学会をより広い分野の人達が参加出来るようにしていくこととあわせて考えてみたいと思っています。
Chemical carcinogenesisもin vitroのtechniqueを十分に利用していかないと、virusからますますとり残されそうな感じです。その為にはin
vitroのchemical carcinogenesisを組織培養家の間にだけ閉じこめておかず、広く生化学者(例えば九大の遠藤教授)が自由自在に取り扱えるようにする必要がありそうです。もちろん生化学者の人達にも勉強してもらはねばなりませんが、我々組織培養をやっているものも、より普遍的な技術を求めて研究する必要がありそうです。
以上のことを考へながら、今後の仕事の方針を探し続けているところです。次の4つの点にfocusを合せる積りです。
(1)発癌剤添加方法の改良
先日のICCCの混乱のもととなった発癌剤の添加の方法について改良を加えたいと思っています。具体的にはPBS
or 0.9%NaCl Soln.にcellをsusp.させ、そこにcarcinogenを加え、30min.程度contactさせ、次にcultureする方法です。又はMonolayerのうえにPBS
or 0.9%NaCl soln.with carc.をのせ、しばらくしてからmediumとreplaceする方法です。
water solubleの4NQO 6-carboxylも用いる予定です。
(2)Established cellによるtransformation
Primary cultureによるtransformationはmalignancyをはっきりとcheckできても、celllevelの分析では劣ることは確かです。そこで、transformat.を容易に用いられるsystemにするためにも、established
cell lineを上手に利用することが望しい訳です。具体的にはBHK-21、3T3を考えています。
(3)Albumin mediumの使用
Controlがspontaneous transformationせずにLimited
growthを示す点にも、種々の質問が集中しますので、albumin
med.を用い、もの点を追求します。なお、従来のlimited
growthを「分化」と結びつけて考えるつもりです。
(4)transformed cellの発癌剤に対する耐性
化学発癌剤により発癌したとき、その細胞がそのagentによる変化したという直接の証拠はどこにもありません(virusではT抗原、核酸のhomologyをあげることができる)。一つのMarkerとなり得る可能性のあるのは、発癌剤に対する耐性です。この分析はH3-TdR、Ur、LEU、を用いて12日の癌学会までにdataを出す積りです。
《高木報告》
1)器官培養による制癌剤スクリーニングの検討
器官培養は細胞培養にくらべて組織細胞を一定期間ならばよりin
vivoに近い状態に保つことが可能であり、また細胞培養では困難な人の悪性腫瘍組織などもごく短期間ならば維持しうると云う利点を有する。若し患者からbiopsyでえられた組織片を器官培養して、それに制癌剤を作用させ、その効果を適確に判定することが出来れば、至適な制癌剤を見出すにあたり、きわめて有用な方法であると云うべきであろう。本実験はこの様な考えの下にスタートした。
ただここで問題になるのは器官培養においてはその効果の判定にあたり、細胞培養における細胞数算定と云う様な簡単ではっきりした指標が得られるかどうかと云うことである。この種の試みとして1964年にM.YARNELL等の報告があるが、彼等はこの指標として組織WetWeight
10μgあたりにとりこまれるP32のカウントをもってしている。しかしP32は、非常に非特異的汚染度の強いアイソトープであり、僅少量のWet
Weightの測定では誤差が大きくて精度が悪いので、私達はP32の代りにDNAのSpecificの前駆物質であるH3をラベルしたThymidineを用いて非特異的汚染を除く工夫をし、組織の重量を測る代りに、用いた組織のDNA量と蛋白量を測定し、細胞活性を表現する指標として、DNA
1mg中にとりこまれたH3-Thymidineのカウントを以て表わす方法について検討を加えた。
続いてこの系を用いてクロモマイシンA3やCHS等、二、三の抗癌剤についてDNA合成に対する抑制効果がどの様に発現されるかを観察し、制癌剤スクリーニングの為の基礎的な二、三の実験を行ってみた。
培養に使用した細胞はヒヨコとハムスターの正常組織で、DNA合成の盛んな胸腺と脾とである。組織片は大体3x3mmに細切し、Stainless-steel
mesh上より5%仔牛血清を含むE.B.M.に接するようにして気相は5%CO2
Gas、95%O2、又は空気、37℃の中で40数時間培養し、その間各種制癌剤を作用せしめた。作用后、組織片をH3-Thymidineと共に4〜6時間incubateし、反応中止后、Schmidt-Thannhauser-Schneiderの変法によりDNAを抽出した。
DAN量はDiphenylamine法により求め、液体シンチレーションスペクトロメーターにより放射能を測定してDNAの比放射能を求めた。蛋白量はビューレット法により定量した。
先ず次の点につき検討した。
a)培地中に加えられたH3-Thymidineがincubationの時間につれて如何に培養組織のDNA合成に利用されているかについて検討したが、DNAの比放射能とincubationの時間とに関しては、半時間から1時間位のlag
phaseのあと6〜8時間までは直線的にDNAの合成がすすみ、それ以后、合成はやや低下する傾向がみられた。この低下した理由としてはincubationの際、組織片を集めて培地中に浸漬したこと及び、この培地より血清を取り去ったことも考えられる。従ってこの系の実験では4時間(時に6時間)のIncubation
timeを用いた。
b)培養組織片の大きさについて検討したが、これは肉眼的に大体同じくらいのものであればDNAの比放射能に大差ないことが判ったが、故意に小さくすると矢張りDNAの比放射能が大きくなる傾向がみられた。
ついで制癌剤効果観察の一例として、A3及びCHSを1μg/mlの濃度で40数時間作用せしめたが、DNA合成抑制の程度はA3で50%、CHSで57%となり、CHSの方がA3よりもやや強い抑制効果を示した。この場合、ヒヨコとハムスターによる種類、胸腺、脾の別による差異は認められなかった。
細胞培養法によれば、L細胞でA3の方がCHSよりも大体10倍程度も強い抑制作用を示しており、またHeLa細胞を用いても同様の傾向がみられている。即ち現在までの処、organ
cultureではcell cultureとは異った成績がえられた訳で、この相違について更に検討中である。
2)発癌実験
先報に記した7月29日スタートのハムスターcell
cultureは現在約90日を経過しcontrolは6代目、4HAQO添加群は5代目であるが細胞は広く伸びており増殖悪くなかなか移植出来そうもない。9月8日スタートの実験は20日目すぎてから急に細胞のdegenationが強くなり、回復不能の為中止した。
10月12日新たに同様の実験をスタートした。方法は先月報のものと殆んど同じであるが、今回は3代でcarcinogenを添加したこと及び、継代細胞数を10万/mlと少くしたところ現在、carcinogenを除いて4代目へ移るところであるが、4HAQO・E-OHによるdamageが少くなった。まだcriss-crossやmultilayerの像はみられない。controlの細胞は3代に入り増殖が悪いが、それに反してcorcinogen添加群では可成りの増加をみている。
《三宅報告》
先般来のDD系マウスの19日目の胎児についての皮膚のSponge法、意にまかせぬ結果に終りましたので、それより若い胎児を用いることにしました。妊娠日数と胎児の大さについての関連が、結果のもののついでではありませんが、みつかったのです。これに従えば、16〜17日の胎児の大さのものが、もっとも適しているように考えられたのです。数字で示されているところでは16〜17日目のものは888.7±13.55mgということです(図を呈示)。この時期の背の皮膚は培養3日目で次のような所見を呈しました。
(1)最上層にperidermを押上げ、その下に角化層(恐らく不完全角化)を作り、その下には顆粒層を作りあげました。(2)Basal
cellの核は培養前の対照にくらべて、極めて泡状で大きく、核小体も大形化しています。(3)Basal
cellの配列に乱れがみられます。(4)この胎生の皮膚を切片にするに際し表皮が伸展してDermisの下に廻るという、技術上のArtifactが起る事があります。そのために興味のある所見が生れました。即ちDermisの裏に廻った表皮はSpongeの側につけられて、気体に接しないためか、ここでは角化が起る事が少く、表皮細胞がSpongの間隙に侵入します。原形質はbasophilicで核も大形化します。核小体も大きいようです。上皮細胞が創傷に際して、アメーバ様の運動をして傷害部を被覆するといいますが、このSpongeの中への移動もそれに類するものでしょう。
(5)以上の通りのBasal cellの配列の乱れ、Dysplasia(?)など、これから、16〜17日目のDD系マウスの胎児を対称に仕事を続ける理由が得られたように思うのです。
《螺良報告》
系統別戻し移植による培養細胞の撰別
月報6609号の実験が一応完了したので、まとめて報告する。これはもともと、DDの乳癌培養にC57BLの白血病細胞をcontact
cultureして乳癌細胞に白血病ウィルスを感染できないかを目的としたものであった。しかし結果はDDの乳癌とC57BLの白血病の共存となり、しかも戻し移植によって夫々の腫瘍が系統別に再現された。前回ではC57BLの戻しの結果がなかったが、今回はそれが出たのでその組織像を示す(戻し移植のC57BL脾臓・写真を呈示)。
さて問題は培養細胞であるが、その条件は下のようなものの4本をプールして3系統のマウスに戻し移植したものである(培養細胞と移植動物の表を呈示)。
[まとめ]
前回にはC57BLの結果が未だであったが、出来たのは白血病であった。期間が短いので細胞性のウィルスによる可能性は少い。小生らの他の実験に関連して考えるべきことが多いが、とにかく8ケ月培養しても細胞はHybridにならず、夫々のcompatibilityと腫瘍性を維持していたと思われることが今の結論である。
《堀川報告》
哺乳動物細胞における放射線障害回復機構の分子生物学的研究。
紫外線照射された大腸菌において、その主な障害の1つにthymine
dimerの形成があることはDr.R.B.Setlowをはじめとする多くの分子生物学者によって見出された。この紫外線照射によって大腸菌のDNA鎖内に形成されるthymine
dimerは、DNAの複製を阻止することから細胞の死をまねき、同時に試験管内の実験からもDNAえの紫外線照射は形質転換能(transforming)を失わせることが証明された。また一方ではこうした紫外線照射によって生じたthymine
dimerを切り出し、もと通りの正常なDNA鎖に復元されるSplitting
enzymeが同じく大腸菌のある特定のstrainにおいて見出され、それ以来紫外線を中心とした放射線照射による障害からの回復機構の研究はにわかに活況をおびて来た。
これにともなって当然考えられることは、このような回復機構のSystemが哺乳動物細胞にも存在するか否かという問題であり、これが勿論今日の放射線分子生物学の中心問題となって来たことはひとり我田引水ではあるまい。
こういう意味から帰国後はmouse L cells、Ehrlich
Ascites tumor cellsをはじめとするCultured
mammalian cellsを中心にして紫外線さらにはX線耐性細胞を再度分離し、それらのものについて大腸菌でみられるような現象、さらには、Splitting
enzymeのごとき存在があるかどうかを追求しているが、最近になって非常に面白い回復現象がみつかって来た。すなわち紫外線照射されたEhrlich
Ascites tumor cellsがある一定時間後に完全に回復してしまうというのである。この現象が微生物でのSystemとまったく同じ機構で説明できるかどうか(私としてはむしろ微生物のそれとは別の機構であることを望むわけだが)、またこういった回復現象はEhrlich
Ascites tumor cellsのような上皮性細胞にのみ特異的にみられる現象なのか等々・・・は今後の実験にまたねばならない。場合によってはこれから2、3の細胞株を寄せ集めて比較実験をせねばならないだろう。いずれにしてもやることは山のようにあるが、今日のように学会、学会に毎日をついやしているようでは仕事にありつけるのはむつかしい。学会が一日も早く終り、再度実験がstartできることを願っているのが、いつわりのない現在の心境である。
次号からは落ち着いてもう少し学問的に話しを進めます。
《藤井報告》
何はともあれ、先日のICCCの成果の上ったこと、おめでとうございます。勝田班長のタレント(マスコミ・タレントの意ではありません)にも驚きましたし、皆さんの組織培養における研究レベルもよくわかって、門外漢乍ら、うれしく思ったことです。癌における組織培養学が根をおろしてきていることを眼のあたりみることが出来ました。癌における組織培養学が発癌という問題ととり組んで、確たる地歩を進め、成果の上ってきたことは、大きな光明でもありますが、このように組織培養学が一つの研究の手段から独立した学問になりつつあるときに、この方面の恐らくは大先輩である筈の欧米の国々から、私からみてかなりグローブな臨床材料の組織培養化の試みや成果が、堂々と発表されていることは、驚きでもあったし、ああいう地道な仕事を今だにやっている、あるいはやっていける国柄に感心もした訳です。そういえば勝田班の面々は、エキスパートでありすぎて、当初は、今でも近より難い感がないでもありません。
同種移植免疫でcell-bound抗体の本体が未だにはっきりせず、血清抗体の方を整理して、cell-boundの抗体と関係づけようとやって来ている現状ですが、今までのところ19S抗体より7S抗体にcytotoxic活性があまりにはっきり出ています。一方、モデル実験(同種免疫の)でcell-bound抗体が19S抗体らしいというデータを持って居て、血清中のそれと関係づけるのに些か弱っています。私の場合、cytotoxicityテストも短時間(30〜60分)の判定なので、せめてリンパ節細胞の短期培養の上で、これ等抗体の活性をしらべてみたいと思っています。特にcell-bound抗体の活性試験などは、この培養がうまく出来ないと駄目のようです。
最近、抗体が抗体産生を抑える、例えば19S抗体を注射すると、7S抗体の産生が抑えられるという論文がありましたが、またK.T.Brunner等(Swissの実験癌研究所、ExperimentalHematology,No.11.1966)は、cell-bound
immunityが血清抗体を注射あるいは培養液に附加すると抑えられることを言っております。血清抗体にもいろいろありますが、移植免疫屋からみると面白い話。
【勝田班月報:6612:ラッテ肝癌細胞の放出する毒性物質】
《勝田報告》
A)ラッテ肝癌細胞の放出する毒性物質:
さきに、双子管を使って肝癌細胞と正常ラッテ肝細胞のparabiotic
cultureを初代あるいは第2代で試みると、AH-130でもAH-7974でも何れもその増殖が促進され、正常肝が壊されて行くことを見出して報告した。腫瘍と正常センイ芽細胞との間ではこのような相互作用は認められず、センイ芽細胞は影響を受けなかった。
この肝癌細胞の放出する毒性代謝物質の本体が判れば、そしてそれに対抗できる物質を得ることができれば、癌患者を悪液質から防いで死期をおくらせ、それによって時をかせいで、或は免疫学的抵抗力の発生によって癌が癒るかも知れない。これが狙いで、毒性物質の本体を追究することにしたが、道具としては初代培養より株を用いた方が成績が安定するので、正常ラッテ由来の2倍体肝細胞株RLC-10を用い、初代のAH-130(母培養数日後)との間の相互作用を確かめたところ、左図(増殖曲線を呈示)のようにやはり特異的な相互作用が現れたので、このRLC-10を今後の解析に持ちいることにした。
「仔牛血清20%+Lh0.4%+塩類溶液」の培地で肝癌AH-130を2〜4日母培養した後、同組成の培地で実験培養し、2日後に培地交新し、第2日から第4日までの2日間AH-130を培養した培地(これを“肝癌培地”と略稱)を分析に用いることにした。
まず、RLC-10単独の培養に、培地内のsalineの代りにこの肝癌培地を20〜40%に添加して、増殖に対する影響をしらべると、肝癌培地によって明らかにRLC-10の増殖が阻害される、ということが判った。(以下、各実験毎に増殖曲線を呈示)
そこで今度は肝癌培地の分析にかかった。肝癌培地を透析した場合のテストは、無添加の対照に比べ、無処理の肝癌培地を20%添加すると著明な増殖抑制が見られた。透析内液(高分子)はそれに反し、7日間を通じ、増殖を反って促進した。透析外液は2日後、4日後には抑制していたが、7日後には反って促進に変ってしまった。培地は1日おきに全量を交新したが、これは阻害物質の他に促進物質も含んでいること(或は培地組成由来の)を意味するかも知れない。
透析後、外液と内液を再び混和したのでは、2日後には抑制を見せたが以後は作用が消え透析という処理によって失活するものがあることを暗示している。これは本来ならば、無処理の肝癌培地と同じカーブになる筈のものであるから。
次に肝癌培地の透析外液、つまり低分子の方を、色々の温度処理してみた結果で、透析もせず、無処理の培地は7日間を通じて増殖を抑えている。そして透析外液(無加温)は2日後、4日後には抑えているが、7日後になると対照と差が無くなってしまった。2日後の成績が温度に反比例して抑制しているのは面白い。ところが7日後になると揃いも揃って皆、対照とほとんど差のないところまで上ってしまった。これが何を意味するか、は今後の問題であろう。とにかく毒性物質は低分子であるらしいことは云えよう。
Parabiotic cultureの成績では、肝癌は正常センイ芽細胞細胞には影響を与えなかった。だからいま物質レベルで追うときにもno
effectsでなければならぬ筈である。この意味の対照実験で、正常ラッテ皮下組織のセンイ芽細胞に対する影響をしらべた。無処理の肝癌培地は、対照とほとんど同じ増殖曲線となり、正常センイ芽細胞に対しては毒性を示さないことが判った。そして透析外液は著明な増殖促進を見せた。今後は無血清の合成培地で肝癌培地を作ってみたいと考えている。
B)肝癌細胞に対する放射線(コバルト60γ)照射の影響(増殖曲線と映画を展示):
映画は500r、700r、1,000rと3種を撮したが、ここでは1,000r照射後1日後より4週後まっでを連続的に示す。ここでは特に多核巨細胞が如何にして照射後に生じ、且その運命はどうなって行くかを検索した。
その結果明らかになったことは、コバルト60の1,000r照射によりAH-66肝癌(培養株)の細胞分裂は抑えられるが、数日経つと再開する。しかしこの場合、分裂直後に細胞質融合をおこなうものが多く、2〜3核の細胞ができてくる。これらは更にまた分裂をおこなうが、以後は多極分裂が多くなり、しかもまた分裂直後に細胞質融合をおこなうことが多い。こうして次第に大小不同の異型性の強い沢山の核を持った巨細胞が形成されて行く。細胞の致死的現象は瞬間的に起るが、分裂直後に起ることが多い。多核巨細胞も分裂をおこなおうとし、分裂直後に死ぬか或は再融合して延命する。
これらの所見を基にして、あえて空想的作業仮説を立てるならば、放射線照射後によく見出される癌の再発には、二つの原因があるのではあるまいか。つまり、一つははじめから耐性の高い細胞が混っていて、それが淘汰されて残るということと、もう一つ、多核巨細胞からの健全な癌細胞の再形成である。
若し細胞の生存と増殖に必須のgenesが、放射線照射によって障害を受けると、一部に機能欠損部をもつgenesになる。G1期よりG2期の方が障害を受け易いという人があるが、G2期にはgenesは倍加されているので、これは考えにくい。G1期にgenesに機能欠損部をもつ細胞は早晩は死んで行かなければならないが、G2期の片方に機能欠損部をもつ細胞は分裂しない限り生存できるし、分裂しても娘細胞の一つは健全にまた分裂をつづけられる。また機能欠損部をもつ細胞も健全な細胞と融合すれば生存できる。Genesが倍加しているものでは、それぞれに欠損部があってもお互いに欠損部を補い合って延命するが、分裂すると欠損部が致命的になって死なざるを得ない。照射された細胞に分裂後の細胞融合が多いというのは、このような理由からではあるまいか。
ともあれ、このようにして次第に多核巨細胞が形成され、これが多極分裂した場合、機能欠損部をもつ細胞は個々には延命できない。そこでまたすぐに融合しようとする。しかし、非常に低い確立であろうが、全く健全なgenesだけを抜きとって組上げる細胞が生まれないとは限らない。そのような細胞が生まれたとき、これが活発に増殖して再発の因になるのではあるまいか。
堀川班員、北大の放射線科、そして私たち自身の実験でも、照射後の耐性細胞は染色体数が減っている。この減少がどんな理由によるものか、その辺を探るということは、耐性のmechanismを明らかにする上の一つの鍵になるかも知れない。何種類かの探索法による所見を総合して考えるということは大変有益であると思われる。
:質疑応答:
☆毒性物質について
[黒木]その毒性物質というのは濃縮できますか。
[勝田]濃縮できると思いますが、低分子物質らしいので、塩濃度の点で問題がありますね。
[永井]Collodion膜を使って透析に代る良い方法があります。しらべておきます。
[黒木]AH-130の方がstationary phaseに入ったときの培地ではどうでしょう。
[勝田]やってみないと判りませんが、Parabiotic
cultureのときのカーヴから考えて、抑制しなくなる可能性はありますね。
[三宅]正常のセンイ芽細胞と正常肝との間の相互作用はどうですか。
[勝田]増殖しているセンイ芽細胞の方が抑えられていました。
[藤井]抗体産生細胞に対するAH-130の影響はどうですか。
[勝田]胸腺の株とAH-130とのparaではAH-130の方が抑えられていました。
[藤井]マウスに癌性の腹水を接種しておいて、免疫のため抗原を与えると、正常血清を接種しておいた場合よりも抗体産生能が落ちていました。
[勝田]増殖に対する影響と分化機能に対するのとでは違っているかも知れませんね。
☆コバルト照射について
[黒木]この細胞は継代していますか。
[勝田]照射後は継代していません。
[螺良]細胞質の廻るというのは、照射していないのも廻りますか。
[勝田]照射しないとこんな巨細胞が出来ないから判りません。
[堀川]細胞の種類によって、多核になる細胞と一核のまま大きくなる細胞とあると思いますが・・・。
[勝田]一核のまま大きいと云っても、その経過を映画にとってみないと判りません。二核の細胞が分裂に入って、染色体を形成して、そのまま大きな一核になってしまうのもありますから。
[堀川]多核の場合、全部の核が染色体を形成し得るかどうか・・・。
[勝田]多核ではH3-TdRを長時間入れてみても、とり込んでいない小核もあり、DNA合成の非同調と、不能が考えられます。
[黒木]多核の場合、染色体形成が映画で見られますか。
[勝田]見えるように思われるが、大きく球状になるので、はっきりしない場合が多いです。
[堀川]正常と癌の細胞を、混ぜておいて照射すると、Hybridが出来るのではありませんか。
[勝田]Hybrid形成は面白いと思いますが、正常と癌とではどういう面白味がありますかね。
[堀川]Geneの問題に入るわけです。
[勝田]Hybridの仕事はマーカーが大切ですが、照射によってmaskされていたgene機能のmaskが外れるという可能性もありますし、酵素レベルのマーカーも解釈が難しいし、困りますね。
[掘川]それは対照がちゃんとしていれば・・・。放射線でそこまで変えるというなら大変なことです。
[永井]照射によって融合のfactorが出来るということは考えられませんか。
[勝田]細胞膜の荷電の変化とか、いろいろ考えなくてはならないでしょうね。
[螺良]放射線だけで変異が起せますか。またこの線量は生体より多いですか。
[堀川]遺伝的レベルでAをBに変えるということは出来ないでしょう。この線量は生体より大分多く、L細胞では1,000rですと1回の分裂で死んでしまいますね。
[佐藤]生体へかける場合は線量の合計だけでなく照射法もずい分ちがいますね。センイ芽細胞と上皮細胞とでもちがいます。
[堀川]同線量でも分割照射の方が影響が少ないですね。しかもセンイ芽細胞は障害回復が早いとされています。
《黒木報告》
ハムスター胎児細胞の4NQO及びその誘導体によるin
vitro transformation
(9)HA-1〜HA-7、NQ-1〜NQ-4のまとめ
再現性については、前回までの報告では、はっきりとdataをもって示しませんでした。しかし、その後、移植実験をくり返した結果、かなりreproducibilityの高いことがわかりましたので、ここにまとめて報告します(以下ぞれぞれに、詳細な復元表を呈示)。
4HAQO処置群のまとめです。この表でMorphologicalとMalignant
transformationをわけてあるのはmalignantでないtransformationが得られたからです。HA-7がそれにあたります。Morphological
transformationのみられなかった(transf.fociが出現しなかった)のは、HA-5の1本とHA-6の1本のbottleのみです。totalでは11/13ということになります。また、1回処置群でもtransformationが得られています。このことは4HAQOのphage
inductionの有効時間は15分であるという遠藤さんのdataと比較して興味のあることです。(10分間作用させたgroupは現在観察中です)
以下にHA-4、HA-6の移植成績を示します。組織学的にはいずれもfibrosarcomaでした。これに対し、HA-7ではくり返しの移植にもかかわらずtumorは形成されません。形態学的には、growth
speed colonyの形からみても、他のHA-6などと区別は出来ません。
次に4NQO及び6-chloro 4NQOによるtransformationの結果をまとめて示します。NQ-3は20日間にわたり4NQO処置をしたため、growthがとまったとICCCでもreportしましたが、UICCから帰って来たら、小さいtransformed
fociがみられました(230日)。これは、4NQOにより、bottleのほとんどの細胞がdamageを受けたため、このようにおそくtransformat.したのであろうと想像しています。前に述べたEarly
changeとTransformed Fociの間の時間の重要な因子としてこのcell
damageの程度をあげることができそうです。また、興味あることは、HA-7と同様、NQ-4がくり返しの移植にも拘わらず、tumorを形成しないことです。移植は79日から219日まで6回にわたり、25のcheek
pouchまたはSCに移植していますが、すべての例でnegativeの成績です。(histologicalにはgranuloma)
このようなnon-malignant morphlogical trasformationが何を意味するのか(NAGISAの場合も含めて)今後考えてみる必要がありそうです。例えば移植抗原の変化による移植拒否の可能性も否定できません。今後に残された問題点の一つでしょう。
以上の現在までの成績をまとめ、schemaを考えてみました。Controlはcollagen(fibre)を形成する点からdifferentiationとして理解しています。(schemaを呈示)それはNormal
CellsはDifferentiationへの道とSpontaneous
transformationへの道へ分かれる。CARCINOGENSを作用させると、Morphological
Transformationを経て、Malignant transformationへと進むが、not
malignantのままでいるものもある。
:質疑応答:
[高木]最後のスライドにある対照群の分化ということと、実験群の中に途中でそれに近い状態がありながら、長い時間たってから増殖しはじめたものがあるということ、とをどう考えて居られますか。
[黒木]対照群も同じように培地を変え培養をつづけているのに、未だに増殖しはじめるものがないということから、この場合の分化は対照群に特有の現象だと考えています。
[勝田]対照群は繊維を作っていますか。
[黒木]まだ染色してみていません。
[高木]どの系の場合も、一時繊維を作るような状態を経過して、変異細胞が出現したのですか。
[黒木]そうです。しかし変異細胞の出現する時期は一定ではありません。
[勝田]対照群の分化ということについてですが、培養0日のものが分化していない細胞だという証明をしておかないと、培養内で分化したと断言するのは危険だと思います。我々の仕事の中に鶏胚心の初代培養で、ハイドロキシプロリンの定量と鍍銀染色と平行してみたものがあります。その場合、ハイプロの量は初期から細胞当りにすると同量位でしたが、銀繊維はstationary
phaseにはいって初めて現れてきました。つまり材料は作っていたが、プールしていたということです。
[三宅・堀川]この実験方式では、分化ということは強調しない方がよいと思います。
[堀川]この方式で、adultでもうまくゆくでしょうか。
[勝田]僕も胎児という点にひっかかります。
[黒木]自分の方針としては、もう少しハムスター胎児で実験をつづけて安定した実験方式を立てたいと思っています。
[勝田]たしかDr.Sanfordだったと思いますが、ハムスター胎児の株を作ることも出来るのに、黒木氏の場合どうして対照群が増殖しないのだろう、と不思議がっていました。
[黒木]自分が不思議だと思うことは、形態が全く同じなのに、ハムスターに復元してもつかない系があるということです。
[勝田]我々の“なぎさ”の時、話したことですが、変異の方向にはかなりの幅があり、決して同じものばかりが出来るのではないと思います。
[佐藤]僕もずい分時間と手間をかけて実験してきましたが、今にして思えば復元してつくとかつかないとかいうことに余りこだわると、どうしようもなくなるようです。クローンを用いるとか、何とか方法を変えなければ、行詰まってしまうと思います。
それから引きつづいて、DABの吸収について調べているうちに、細胞の種類によってだけでなく、状態によってDABの吸収度が違うということを経験しました。増殖状態で++のものが、冷蔵庫内におくと−、ホモジネイトにしたり、超音波でこわしたりすると±、になってしまうのです。このことから、発癌剤をどういう状態の細胞にかけるかということも問題だと思います。
[勝田]酵素レベルではDABを吸収しないということですね。面白い仕事ですね。
いうまでもないことですが、ここで一言、佐藤班員の今までの手間のかかった仕事のすべてが、今度の黒木班員の仕事の成功の土台になっているということを、黒木班員は自覚すべきですね。
[藤井]変異の方向が異種へ向かった為に、復元してもつかなくなったということも考えられますね。抗原性の問題です。
[勝田]そういう面から考えると、この細胞系の場合、凍結保存しておくことはよくありませんねん。凍結すると抗原性が変わるということをDr.Morganが言っています。イノシトールを使うと抗原性が変らないというデータも出していますから、その点研究してみるとよいでしょう。
[藤井]復元してつかなかった動物の、リンパ腺の細胞が、復元細胞への抗体をもっているかどうか、調べてみるのも面白いと思います。
[勝田]先程の佐藤班員のデータについてですが、超音波は、酵素をこわしてしまいますか。
[永井]直接こわしてしまうということは無いと思います。しかし、遊離させるということは考えられます。
[佐藤]まだデータが不充分ではっきりしたことは云えませんが、蛋白合成をやっている時にだけ吸収するように思われます。
[勝田]我々の班もそろそろ発癌機構に入ってゆかねばなりませんね。DABの実験についても、もう一度あともどりして、静止期の肝細胞にDABがどう働いているかも調べたいものです。
[永井]黒木班員の4HAQO又は4NQOで変異した細胞系は、それぞれの薬剤に耐性をもっていますか。
[黒木]今しらべている所です。成長カーブの上で違いがあるのかどうか、コロニーを作らせるレベルでどうか。もう一つは、予研の山田先生の方法で薬剤作用後のH3TdR、H3UR、H3Argの取り込みがどうかという三点で調べています。
[勝田]薬剤の添加法について、もう少し工夫した方がよいと思います。
[黒木]考えています。癌センターの杉村先生のデータに4NQOを4HAQOにもってゆくのを、アルブミンが促進しているということがあり、一方東北大の山根先生のデータからアルブミンはハムスター胎児の細胞の増殖を促進するというのが判っていますから、アルブミンを使おうと考えています。
[勝田]染色体について、調べてありますか。僕が気にしているのは、同じ傾向が出るかどうかということです。来年度は4NQOを班として集中的にやってもよいと思います。もちろん他のものもやりますが・・・。
《佐藤報告》
自然発癌:
1.Tumor-producing capacity of tha strains
:RLN-8,RLN-10,RLN-35,RLN-36,RLN-38, andRLN-39.
2.Days of tumor production of the straoms
:RLN-8,RLN-10,and RLN-39.
3.Rats died of tumor formation by the culture
cells(RLD-10) treated without 3'-Me-DAB. についての膨大な表を呈示。
1.は現在約1,000日になるnormalラッテ肝組織からの培養細胞のTumor-producing
capacityです。観察中のものが多数有りますから、更に陽性のものが出る可能性があります。
2.はTumor takeのもののみを集めました。RLN-8は腹水型の肝癌です。RLN-10及びRLN-39は上皮性の動物もありますが、sarcomatousの部分も見えます。
3.はRLD-10株の自然発癌に当るものです。復元動物13/36が陽性です。復元細胞のculture
dayは1091から1235日までです。
:質疑応答:
[黒木]復元して出来た結節の組織像の中に未分化様の像がありましたが、あれは、腹水肝癌の遊離細胞を復元した時の組織像、又Dr.Evansの肝由来の培養細胞が自然悪性化したのを復元した時の組織像と似ていますね。
[佐藤]上皮性細胞と思われるものを復元して出来た腫瘍の組織像が、肉腫様にみえることもあるが、今の所どういうことなのか、はっきりわかりません。
[勝田]細胞の継代はどうしていますか。
[佐藤]0.2%のトリプシンで浮遊させ、遠心沈殿して細胞を集めます。大体2週間に1度継代しています。
[勝田]Dr.Hayflickが培養内の変異は殆どウィルスによるものだと云っていますが、佐藤班員の場合、培養の総日数に関係なく、或る時期にどの系もつづけて変異するということはありませんでしたか。
[佐藤]そういうことは経験していません。若い年齢の動物から培養すると早く培養内悪性化が起るという傾向があるように思いますが、データが少ないので確信はありません。又、悪性化は徐々に起こっているようです。
[勝田]では培養0日に悪性細胞がいるという事は考えられませんか。
[佐藤]それも考えられると思うので、今しらべてみています。
[堀川]復元後400日なんて長い日がたつと、動物体内で又何が起こっているかわかりませんね。もう少し短い期間に勝負出来ないと、解析することがむつかしいですね。
[勝田]さっきの培養0日に悪性細胞がいるのではないかということについてですが、培養初期にクローニングすると、悪性細胞のクロンがとれるというデータがある位ですから、よく調べてみないといけませんね。
[黒木]最初から悪性細胞が混ざっているのか、或いは悪性化しやすい細胞が混ざっているのか、どちらでしょうか。
[勝田]調べてみないと判りませんが、どちらの場合も可能性があると考えられます。それについても、42年度には高等な細胞でもクローニング出来る方法を確立したいものですね。それも確実に1匹からのクロンをね。松村氏のレジンを使う方法も皆で開発したいものです。
[黒木]コロニー形成の頻度の高い状態で、クロンをとれば、それぞれ特性のあるクロンがとれると思いますが、その頻度の低い状態の場合は、増殖の早いものだけを拾うことにならないでしょうか。
[勝田]何とかクロンを取るのに、奇抜な方法を考え出したいですね。
[黒木]培養瓶に小さなカバーグラスを沢山入れておいて、少数の細胞をまき、培養1日後に顕微鏡で調べて、細胞が1個だけついているカバーグラスを拾い出して培養している人がありますね。
[勝田]初めが1個だということを確認する点ではよい方法ですね。
[佐藤]さきに勝田班長が云われた初期にクローニングすると悪性細胞のクロンがとれるというデータは、炭酸ガスフランキで長期間培養してコロニーを育てていますから、その間に悪性化したとも考えられませんか。そう考えると、こういう方法で分離したクロンを使うのも又こわい気がします。
☆4HAQOの添加法については濃度と回数をどう調節すればよいか、炭酸ガスフランキについてその効用と弊害、癌と免疫について本当の所はわからないが癌免疫というものがあると思ってやりましょうという段階だということ、等々の雑談。
《高木報告》
最近試みたハムスター胎児皮膚の低温低湿における器官培養で、可成りの成果を得たので報告する。用いた材料は生下2〜3日前のハムスター胎児背部の皮膚で、これを切取った後3x3mm程度にメスで細切後、これまでに何度も用いたハムスター胎児抽出液(H.E.E)2滴、鶏血漿(C.P)6滴よりなるPlasma
clotにサージロンの上から置いて次の3群に分けて培養した。1)37℃群でa.は対照群、b.は4NQO
10-5乗Mol添加群、2)30℃群は4NQO(-)、湿度をincubatorのガラス戸内面に水滴が付くか付かないかの程度に調節したもの。
低温だけでなく低湿としたのは、既報にある如く湿度が高いとPlasma
clot融解物と水滴とのmixした液の中に組織片が沈没して了う為に、組織の壊死が早められるのではないかと思われるふしがあった為である。これらを炭酸ガス10%空気90%の気相にincubateして3〜4日毎に培地交換を行い、その度に4NQO
10-5乗Mol含有Hanks液を滴下し、対照群にはHanks液のみを滴下して培養し、夫々3、7、10、14、20日目に標本を作って観察した。培養前の組織では表皮層は2〜3層よりなり基底細胞層は規則正しく配列しており、極く僅かな角化層を認める。Mitosisは殆んどみられない。3日目のものでは各群共に表皮は3〜4層と幾分厚さを増すが、夫々の間に著明な差異は認められない。7日目になると俄然著明な差が現われ、37℃群では表皮と真皮は可成りはっきり区別出来るが、表皮は2〜3層で薄くなり、又基底細胞層は認められずmitosisもない。これに反し低温低湿群では表皮は5〜6層と厚さを増し、整然と並んだ一層の基底細胞層を持って、真皮と区分されておりmitosisも可成り見られる。
尚4NQO群は対照に比べて著明に悪く表皮と真皮の区別もあまりはっきりせず、表皮層にあたる場所には長楕円形の核を持った細胞を少数みとめるのみで勿論mitosisはない。
10日目になるとこれらの差は更に顕著になり、37℃群では基底細胞層は勿論表皮層も定かでないのに比べて30℃群では7日目のものと全く同様、組織はきわめて健常に維持されている。
14日目のものでも上記の傾向は変らず、37℃のものでは組織の一部に僅かの細胞が生残している程度であるのに反して、30℃群では基底細胞層が乱れ、表皮が2〜3層になり幾分薄くはなるが、依然として表皮と真皮は画然と区分されており、mitosisこそみられないが明らかな差がある。
20日目になると、30℃群にも構造の乱れがやや強くなり基底細胞層は殆んど認められないが表皮真皮の区別は可成りはっきりしている。
又、この時期のものでは角質が表皮5〜6層に相当する厚さになり著明な錯角化を認める。37℃群では14日目同様、組織の一部に細胞が生残している様な状態である。
以上、この実験に関する限り、低温、低湿と云う環境が皮膚組織の培養に対し、明らかな好条件を与えるものと思われる。この条件を用いて現在進行中の実験でも8日目までの所、全く同様の結果が得られており、今後は温度と湿度との関係についても更に検討したいと思っている。尚、本実験では4NQOの効果については目新しい所見は得られなかった。
(各時期の顕微鏡写真を提示)
:質疑応答:
[三宅]低温で培養したものの組織像は、非常にきれいですね。気層はどうなっていますか。
[高木]炭酸ガス10%にしています。
[三宅]酸素が多いと角化に影響がありますか。とくに厚さについてどうですか。
[高木]角化層の厚さは一週間ではっきり差がつく位厚くなります。
[堀川]低温、低湿で培養しようというアイデアはどうして得られましたか。
[高木]生体での皮膚の条件から考えました。
[三宅]皮膚温のきめ方は、どういう方法を用いましたか。
[高木]そのための器具があります。今の実験では胎児を使っていますが、次からは生まれて直後のものを使う予定です。器官培養で三週間維持出来れば、発癌剤を作用させる実験が始められると思います。
[勝田]材料が胎児なら皮膚温37℃として培養してもよいように思いますが。
[池上]生まれる直前なので、培養中に分化して、生まれて直後と同じ状態になっているのではないでしょうか。
[三宅]ケラチン層が気体にふれる所と、ふれない所では、その厚さが違うという経験はありませんか。私は1例だけ、気体にふれる所の方が厚くなったというデータを持っています。
[螺良]培養に使われたのは皮膚のどの部分ですか。
[池上]背中です。
[三宅]組織片は液中にあるのですか。
[池上]Plasma clotの上にのっていて、正常な状態では空気にふれています。clotが液化してしまうと良くないようです。
《三宅報告》
D.D.系マウスのMCA-filterに際してみられた基底層の活動的な細胞とSponge
Matrixの中に侵入してゆく、アメーバ状の細胞、及びヒト胎児皮膚のMCA-Filter添付でみられたAtypismを思わせる間葉系の細胞(これは対照の培養でのH3-TdRを3μC/ml・2時間作用させると、強いuptakeをしめす細胞−筋細胞か、それとも結合織母細胞であるかは判明しがたいもの)が、このような型態に変ってゆくと考えられるのです。この3系のものに着目して追ってゆこうとしました。ところが、これを、そのままのSpongeに入れたままに培養しましても、永くmaintainを続けることが不可能であると知りました。そうした細胞が強い分裂像をSpongeの中ではしめして呉れないことでも、それと判ります。勿論又このようなSpongeで細胞がAtypicalな姿をみせたとて、これを悪性などとは考えられないことです。これから、この細胞を追う上に肝要であることは、何かの方法で、Spongeの外に取り出して、別の試験管なり、平板の上に置きかえて、増殖を期待することと、形態の変化をながめてゆくことにあると考えています。そのために小さい角瓶を用意して、上の3系の細胞が出来た時間をみはからって、Spongeを、丸ごとそのままに細切して平面上に移して、時間をかけて、その増殖を期待することにしました。これは難しい−少なくとも私たちの技術では−ことと覚悟しています。(顕微鏡写真を呈示)
:質疑応答:
[勝田]これは1時間10廻転の廻転培養ですか。
[三宅]1時間12〜13廻転位の廻転培養です。2代目には静置培養にしたいと考えています。
[勝田]組織片のついているのは“なぎさ”の所ですか。
[三宅]いいえ、液中です。
[堀川]変異細胞と思われるような細胞が出ていて、大変面白いと思われますが、あの細胞については、どう考えておられますか。
[三宅]今の所、まだはっきり変異細胞とは言えないと思っています。
[勝田]一つの方法として、Dr.Heidelbergerのように、変った細胞の部分をバラバラにして細胞培養で増やす、というのも試みるとよいでしょう。
[三宅]皮膚の器官培養をしていて、さっきお見せした様な変異細胞を見られたことがありますか。核仁が大きくて、細胞質の染まり方が青い、というような細胞です。
[高木]あまり見かけませんね。
[勝田]その細胞のDNA合成については調べてありますか。
[三宅]まだ調べてみていません。次の計画として、メチルコラントレンにH3ラベルしたものを用意してありますから、使ってみるつもりです。
《堀川報告》
A.組織培養による哺乳動物細胞の放射線障害回復の分子機構
1)数年前われわれは、培養された哺乳動物細胞における変異性の問題を解明する目的から、組織培養されたマウスL細胞を用い、それから各種物理化学的要因(MitomycinC、8-azaguanine、UV線、γ線)に対する耐性細胞を分離し、その出現過程の解析並びに耐性細胞のもつ遺伝的特性の究明に主力を注いて来た。そしてこれから耐性細胞のもつ特性をgenetic
markerとして耐性細胞間の形質転換(transformation)を試みてきた。
2)次いで放射線照射により、マウスL細胞の貪喰性(Cytosis)が促進されるという現象を利用して、放射線障害を受けた細胞への正常核の取り込み、更にはhighly
polymerized DNAの取り込みによる障害回復の研究へと仕事は発展した。
当時、Petrovic et al.(1963-1965)、Djordjevic
et al.(1962)もこの種の研究を精力的に進めていた。
3)ショウジョウバエの細胞を用いて分化の問題を追求していたマディソンでの2年半の生活の間に、細胞レベルにおける放射線生物学の中核的問題は一転した。
即ちThymine溶液を冷凍して、UV照射すると、2個のthymine
monomerが結合して1個のdimerを生ずるというBeukersら(1959,1960)の発見が契機となり、大腸菌を用いた多くの放射線生物学者(Setlowら(1964)、Rupert(1962,1964)、Paul
Howard-Flanders(1964)、Rorschら(1964)、Elderら(1965)、Jaggerら(1965)その他)により、微生物における紫外線障害回復の分子機構の研究は急速に進展した。そして最近にいたり、その研究分野はウニ卵(Setlow(1966))やショウジョウバエにまでおよんできている。
一方、高等生物細胞におけるこの方面の研究は(Troskoら(1965)の培養されたChinese
hamster cellsを用いた局部的な仕事が現在の段階で知られる唯一つのものである。)電離放射線による障害回復の分子機構と共に今後に残された大きな問題である。
このような目的からわれわれは、マウスL細胞、マウスエールリッヒ腹水腫瘍細胞を中心とする培養細胞を用いて、放射線による障害回復機構の研究に着手した。今回はその予備的結果を報告するにとどめる。分析的研究は今後にまちたい。
B.in Vitro発癌実験(計画)
実験Aの方も比較的順調に進み出したのでやっと発癌実験の方にも手が出せるようになった。出来れば成体から得た細胞をin
Vitroで癌化させ、それを成体にもどして勝負したいと思う。したがってマウスのBorn
marrow Cellsか、Spleen Cellsをin Vitroで種々の物理的科学的要因で処理し、それを同系のマウスにもどし、白血病死をおこさせたいと願っている。このSystemの最も弱い点はウィルス関与をどのように処理するかという点にある。もう少し頭をひねってから出発したい。
:質疑応答:
[勝田]エールリッヒ細胞の放射線障害の場合、成長カーヴでみると、3日後に増殖がおちて、1週間後には回復してしまうというと、3日〜1週間の間は増殖が早くなっているわけでしょうか。
[堀川]いいえ、1週間近くなると対照群はstationary
phaseにはいってしまいますから、logarithmic
phaseの傾斜としては平行しています。ですからgeneration
timeは変っていないと思います。
次にやろうと思っている発癌実験のプランは、ネズミの骨髄と脾臓から血液細胞を採取して培養に移し、PHAを添加して幼若化させます。その細胞をXray、UV、DAB、4HAQOの組み合わせで処理し、もとの動物へ復元して、(1)細胞数の増減、(2)脾臓表面の細胞コロニーの形成等について調べようというものです。
[永井]X線、UV処理は白血病との関連性において考えているわけですね。
[勝田]面白い計画ですね。
[堀川]自分でもうまくゆけば面白いと思っていますが、ウィルス感染ということについては、きっと問題が残ると思います。
[藤井]骨髄とか脾臓とかを培養した場合、或る種の細胞群しか残らないということはないでしょうか。
[堀川]そういう心配もありますが、とにかく来年1年の宿題としてやってみたいと思っています。
《螺良報告》
腎エステラーゼから見た睾丸間細胞腫のホルモン産生
KF系マウスの睾丸間細胞腫を組織培養した場合、ホルモン産生能が培養で維持されているかどうかが問題となるが、培地よりも先ず細胞そのものについて調べたところでは化学的に検出できる様な量はなかった。そこでいろいろな方法の中で腎エステラーゼが雌雄で異ったZymogramをとる所から、培養の戻し移植をしたマウスについて調べてみた。
(表を呈示)接種部位や動物の性は余り影響がないが、潜伏期はかなり長いので、接種動物は充分長く観察する必要がある。なおこれらから更にKFマウスに継代してゆくと、かなり潜伏期は短かくなっている。これは継代によって潜伏期の短いものを選択したことと共に、KFマウスも近親交配を重ねてよりhomogeneousになった為ではないかと考えられる。こうしてかなりのKFマウス及び担癌動物がえられる様になったので、無処置雌雄、去勢雌雄及びそれらの担癌動物の腎エステラーゼのZymogramをしらべることができるようになった。
腎からエステラーゼのZymogramを作る方法は、荻田善一氏の方法「薄層電気泳動法」I
代謝、2:78-87、同 II、2:246-256に従った。
(Zymogramの写真を呈示)写真は基線に近い方が一寸カブったが、濃い帯と中央に左右にやや薄い帯がある(♂)。雌にはそれがないが、担癌動物では雌雄とも去勢如何をとわず、同様の帯が出現している。
問題はZymogramのホルモン産生に関する意義と、in
vitroでどう応用するかということにあるが、それらは今後勉強してゆきたい。
:質疑応答:
[堀川]Enzyme assayはどうやっていますか。去勢するとどんと変るのですね。
[勝田]他の動物でもそうです。Tumorになってもこの違いが残るものと、残らないものとがあるのですか。
[螺良]他の動物でもそうです。Tumorになったものと、なっていないものとでは、腎と肝でははっきり区別がつきません。血清ではどうか、やってみようと思っています。
[永井]Tumorを植えて、どの位で変動が出てくるのですか。
[螺良]このTumorは出てくるのがおそくて、はじめ2〜3カ月は触れないので、初期はとっていません。はっきり大きく腫大した動物でしか測ってありません。
[永井]Tumorの量との関係は判らない訳ですね。
[勝田]あのTumorが男性ホルモンを出しているのではないか−ということを云いたい訳ならば、去勢した雌に男性ホルモンを注射しておくという、群も作らなくてはなりませんね。
:一般討論:
[永井]Keratinのことについてですが胎児と成人とではKeratinの組成が違いますか。
[三宅]電顕でFibrilの並び方の濃さがちがう、というのを見ましたが、あとは余り違いが無いようです。
[永井]Hormone-dependencyで、Keratinができたり、できなかったり、というのを聞いたことがありますが・・・。
[堀川]放射線の感受性のことですが、核酸のGC含量の多い細胞ほど感受性が高いという説があります。
【勝田班月報・6701】
《勝田報告》
A)“なぎさ"→DAB処理により出現した変異細胞のAzodyes代謝能:
10月のICCC及び月報でも報告しましたが、“なぎさ"培養后に通常の静置培養に移し、ラッテ肝細胞に高濃度にDABを与えたところ、非常に高率に変異細胞亜株ができました。これらは培地にDABを添加しても代謝しなくなってしまった株が多いのですが、なかに数株、とくに“M"という亜株は反ってきわめて活発にDABを代謝するように変ってしまい、20μg/mlにDABを与えても、増殖しながら3日の内にこのDABをほとんど完全に消費してしまうのです。この消費は光電比色計で、培地をblankにしてDABの最大吸収である450mμでのO.D.でしらべました。
それではこの培地を生化学的に分析したらどうか、ということから、東大の寺山氏に依頼して、数種の亜株についてその培養后の培地を分析してもらいました。結果は下の表の通りですが、分別定量法について一応、彼の記載をそのまま下に記してみます。
[Benzene(5)+Aceton(2)の混液でAzodyesを抽出し、solventを蒸発させた后、dyesをalminachromatographyにかけ、DAB、MABその他を分別し、各分劃について2N
HClで吸収スペクトルを夫々測定し、一応分子吸収度を(max,wave
lengthにおける)40,000として計算した。]
細胞数は夫々50万個/ml、20%CS+0.4%Lh+Dで37℃、4日間培養后の培地。DABは20μg/ml(実際にはもっと少かった)に添加しました。Tweenは0.01%。(表を呈示)
[B、T及び培地では多少、水酸化体乃至polymerらしいazodyeがありましたが、これは培地にもある点から、代謝によって生じたというより、元の使用したDABが不純だったためと思います。その点MABについても同じで、これも混在していたものでしょう。]
亜株Tは代謝能を失った亜株の典型的な例です。培地だけ(20μg/mlに入れたつもりが、実際は13.5μg/mlだったようですが)のsampleより、むしろ多い位です。Mと比べて非常に対照的です。
これによって教えられたことは、このような分析の場合には、やはり精製したDABを使わなくてはならないことです。
今后は、この亜株Mについて、DAB分解酵素の追究に入って行きたいと思っています。
B)4NQOについて:
4NQOと4HAQOの吸収について黒木班員がかって月報にかいて居られましたが、我々は4NQOをアルコールではなく、dimethyl
sulfoxideで溶くことにしたため、一応その吸収と消長をしらべてみました。
4NQOはdimethyl sulfoxide(DMSO)できわめて迅速に室温で溶解し、沈澱も生じなかった。これを少量のPBSとさらに塩類溶液Dで稀釋して、日立の自記分光光度計でしらべた処、252mμ(紫外部)と366mμ(可視部)に特異吸収が認められた。Blankには4NQOを含まぬ同様の混液を用いた。終濃度(5x10-5乗M・4NQO)。
次に4NQOい対する血清及びLhの影響をしらべた。4NQOをDMSOで10-2乗Mにとき、これに9倍容のPBSを加え、さらにこの混液に9倍容のDを加えて、10-4乗Mの4NQO溶液を作った。これに等量のD或は培地(20%CS+0.4%Lh+D)を加えて、一定時間おきに252mμと366mμでの吸収の変化をしらべた。但し、252mμでは培地自体の吸収もあるので、Dを加えた場合のsampleしか測定できなかった。
(表を呈示)BlankはPBS・5容+D・95容+DMSO(0.5%)で、4NQOの終濃度は5x10-5乗Mであった。中原氏の報告では4NQOを血清と混和すると、SH基にすぐ結合し、4NQOの活性が失われるとされたが、こうしてみると仲々失われないようである。SH基の培地中での数と4NQOの投与量の関係もあるかも知れない。釜洞氏の報告もまんざらホラではないかも知れないことになる。(投与日数の影響について)。
《高木報告》
私共の月報もすでに80回目を迎える様になったことは誠に感無量である。その間班員各位のうまざる努力の累積が昨年黒木氏のin
vitroにおける発癌系を生み出し、今年はこれからいよいよ次のstepにふみだす新しいepochと云えよう。今年の私共の研究室の目標は (1)organ
cultureによるcarcinogenesisの実験
organを出来る丈長くin vitroで培養すべくガス組成、ガス圧、培養温度、培地組成などの基礎的培養条件を再検討する。この為、新たに機械を試作して検討中であるが、一方現在至適であると思われる条件で皮フを培養して、これにcarcinogenを作用させたものを移植までもって行き、その変化を観察したい。すでに移植実験はtraining中であるので、まもなくこの実験は軌道にのるものと思う。
(2)黒木氏の発癌実験を再現して、その上で発癌機構の究明に一歩踏出す
これ迄4HAQOを用いた追試は未だcarcinogenesisを起すに至っていない。これはtechniqueの問題もあると思うが、一つにはCO2
incubatorのtroubleがあまりにも多すぎたことによる。ここ当分は安定した癌研のCO2
incubatorで仕事をすすめる予定である。発癌実験を追試しえたならば、その機構を明らかにするため次の方向にすすむことを考えている。
即ち、高橋の協力の下に、一まず癌化の各時期におけるRNA、DNA含量の変化を観察し、つぎにメチル化アルブミンカラム法によるRNAの分別を試みて癌化と各種RNA合成との関係を明らかにし、癌化の本質の追求に努力する。これまでに正常細胞から癌化の本質をさぐると云う意図の下にDNA及びRNAにつき、その含量や塩基組成の差をみるといった仕事は可成り古くから行われて来たが、これらの成績は癌化へ至る中間の過程についての知識はきわめて乏しい。この意味でin
vitroの黒木氏の発癌系は細胞の癌化と核酸代謝の関係を追跡する上に一つの手段として期待出来る。いろいろな問題はあると思うが少しでも目的に近ずきたい。 次に12月来の実験データを記載する。
1)ハムスター胎児皮フのorgan cultureを再び低温・低湿で行い前報の結果を確かめた。 培養方法は前報と殆ど同様であるが主体を30℃群におきこの群に
a)H.E.E.2滴、chick plasma 6滴よりなるclotを用いた対照群
b)同上に4NQO 10-5乗Mol添加(塗布)
c)同上に組織片支持にサージロンの代りにミリポアフィルター(HA)を用いたもの
d)同上を空気中においたもの
e)H.E.E.の代りにC.E.E.を用いたもの
等に分け、これに対する対照として
f)37℃、高湿度のものを置いた。
d)群を除く全群を10%CO2・90%空気中で培養し、d)群のみは底に水を容れたポリエチレン製の容器に入れて密封し、同じCO2
incubator内に置いて温度を一定にした。培地交換は最初の一週間は行わなかった。それはH.E.E.を用いたplasma
clotがなかなか出来なかった為であるが、この点種々検討した結果H.E.E.plasmaをmix后、5〜10分間30℃にincubateすることによりclotingが完全に起ることが分った。室温が下った為にこの様なことになったのではないかと思われる。
培養結果
培養前の組織は、今回はすでに出血の始まっている全く生下直前の動物であった為、可成りの分化を示しており、2〜3層の表皮層の上には既に表皮層の1/2程度の厚さに角化層を認め、真皮には多数の毛嚢と少数の毛根をみる。培養4日目のものでは殆ど全群共に規則正しい一層の基底層を持つ3〜4層の表皮層を持ち角化層も1.5倍程度に厚さを増しているが、予想された様に唯37℃群のみ幾分表皮層が薄く基底層の配列も乱れている。4NQO添加群にも特別の差を認めない。8日目に至り上記の差は一段と著明になり、30℃群では全群角化層及び表皮層は更に幾分厚くなり、基底層の配列も規則正しいのに反し、37℃群では表皮はかなり薄くなり、基底層も殆どみられない。
30℃群間ではH.E.E.、C.E.E.間にも又、サージロン、ミリポアフィルター間にも4NQO添加群にも特記すべき差異を認めなかった。尚、空気中に置いたものは5日目にカビのcontaminの為に培養を中止した。
今回は前にも記した様に培地交換に失敗した為か、12日目のものではいずれも前回に比しあまり健常でなかったので、これを比較することを止めるが、8日目までの所見からも低温、低湿が皮フ培養に適していることは裏付けられたと思う。
2)ハムスターの皮フ移植
培養皮フのハムスターへの復元に至る予備実験として無処置ハムスターの皮フ移植を試みた。用いたハムスターは生后7〜8週のもので体重は約100g、1昨年秋より一腹のハムスターより出発して雑婚により繁殖したものである。方法としては前の班会議で藤井氏により供覧されたマウスの皮フ移植法をそのままハムスターに応用したものであり、graftの大きさは約13mmである。
a)5匹宛2腹計10匹のハムスターのうち同腹同志移植したもの8匹につき、2匹は繃帯の締すぎで翌日死亡、4匹は繃帯が抜けてgraftは既に落ちていた。繃帯の抜けなかった2匹は1週間后に繃帯を取り去ったが2匹ともgraftはtakeされていた。異腹同志移植2匹のうち1匹は呼吸困難で死亡、残る1匹はtakeした。
graftのtakeされたものでは2週間をすぎた現在、2〜3mmの発毛を認める。graftは頭尾の方向を逆にしてあるので発毛が完成しても見分けられるであろう。結局この群では3/10死亡、残る7匹のうち、3/7がgraftをtakeした。
b)次に異腹同志3匹宛、計6匹を夫々移植したが呼吸困難で死亡2匹、繃帯が抜けてgraftが落ちたも2匹、残2匹は10日をすぎた現在、大体graftはtaeされたようである。生残ったもののうち2/4はtakeしたことになる。今後更にテクニックが向上すればtakeされる率はもっと高くなると思う。
《佐藤報告》
新年お目出度得。今年も仲よく元気で頑張りませう。
発癌実験についてDABの方はい結果は未だでませんが、今年はなんとか区ぎりをつけようと思っています。研究室で難波君がラッテ細胞←4NQOを試み始めましたので、少し報告しておきます。
◇1.4NQOをエタノール及びDimethyl sulfoxide(DMSO)を溶媒としてみました。DMSOの方がよくとけ5x10-2乗Mで美麗に溶けます。此より高濃度は未だ実験していません。溶媒そのものの毒性も未だ調べていません。10-2乗Mでエタノール及びDemethyl
sulfoxideにとかされた4NQOをPBSで1000倍稀釋し日立分光光電比色計で吸収をとると、Peakは共に251〜252と360〜364との間にありました。(現在機械に少しノイズがあるため正確なPeakはもう一度調べます)。
◇2.ラッテ胎児組織の培養
生まれる直前のembryoの頭をとり、ハサミで細切後Trypsin法で細胞を集め、TD15一本宛200万個の細胞を入れ、0.4%LD+20%BSで培養を始めた。
◇3.Primary culture後、72時間にエタノールにとかされた4NQOをPBSで稀釋して30分37℃に投与した。10-4乗M、10-5乗Mではdegenerative
cellsの方がliving cellsより多く、10-6乗M、10-7乗Mではliving
cellsの方が多かった。10-4乗Mのものは投与後3日の観察で殆んど全部の細胞が死亡。10-5乗Mのものでは残った細胞が増殖して来た。controlは増殖しており観察中。
長期観察及び復元実験は細胞形態の短期観察を終って後行う予定。
胎児のfragment培養は実験材料を得る迄に日数がかかるので今の所行っていない。
◇4.動物実験によると4NQOをとかす溶媒によって発生してくるTumorが異るといわれている。念のため、ラッテ新生児の皮下に下記の如く4NQOを接種しておいた。
50μg(溶媒エタノール)3匹。100μg(溶媒DMSO)3匹。
《三宅報告》
ヒト胎児皮膚のSponge Mtorix Cultureに際して、発育する角化層の厚さ、量の問題、時間の問題について、ここしばらく、発癌物質を与えることとは別に検索して来ました。Rollerdrumを用いる廻転培養で、培養液と気体(95%O2+5%CO2)ではみて来たのですが、これを静置培養にかえて、気体に触れているものと、終始培養液に触れているものとの差をみるために、tubeの中に植片をtandemに並べて、37℃と30℃(高木博士にならって)の2つの孵卵器で1週間の培養の後固定、HEの染色をみてみました。この方法ではRoller
drumを用いる培養にくらべて、角質層の菲薄さが目立ちました。殊に気体にばかり角質の表面がふれて、MtrixになるSpongeが湿潤している状態のものが最も悪い結果を得ました。温度については、これからtestをかさねる決心ですが、30℃の方が悪い様です。これから気体をNにかえたりすることで、角化が気体や温度と、どの様な相関に出現するかということを追いたいと考えています。
発癌物質を作用させることについては、皮膚の培養の条件をよりよくするために、昨年末以来、考案して来たのですが、spongeをplasma
clotで硝子壁に附着する方法では、何の打開の道をえませず、Rat
tail collagenに植えて、これに発癌物質を加えようとしています。一度Spngeに植えて、これに発癌物質を作用させ、その上で、また、この間、班会議で、少し触れました様なatypicalな細胞を、これから切り離して、新しく培養をするという迂遠な道を省略したいと思ったのです。昨年末から、このCollagenを硝子壁に親和性を保たせることに何度か失敗をくりかえしました。
本年は、何とか、このatypicalな細胞を取り出したい一心です。角化をみてゆかうというのは、本筋からはなれて了うことです。発癌物質を添加する方法も、溶媒をかえ、濃度をかえ、細胞をみてゆく方法も、光学顕微鏡から、電顕のレベルに入り、用いる同位元素も、ととのえて、やりとげたいと考えています。
《黒木報告》
明けまして、おめでとうございます。
昨年は後半を学会台風に吹き荒らされ、何が何だか分らないうちに終わってしまったような気がします。しかし、前半には仕事も調子にのり、ともかく第一段階の発癌に成功した年でもありました。丁度、登山に例えれば、班の仕事はpolar
method(極地法)に似ているのではないかと思っています。勝田隊長のもとでbase
campを築き、attack campまで次々に積み重ねる、そして、最後に何人かがattackするという方式に似ていると思っています。
しかし、登山と異るのは、われわれの目的とするものは、独立峰ではなく、山脈のごとき、あるいは山塊のような、大きな相手であり、attackよりもrouteの重要視される事でしょう。
ともあれ、今後2〜3年の間にchemical carcinogensによるin
vitro transformationは急速な発展を予想されます。UICCの発表のみでも、McArdleのDr.Heidelberger、NCIのDr.DiPaolo、Sloan-KetteringのDr.Borenfreundらがかなりのところまで来ています。私としても彼らに遅れをとらないよう頑張るつもりです。そのためにも、日本にいた方が得と思い、Dr.Heidelbergerその他からの招待は一応断りました。
仕事の方は、established cell lineを用いる実験系を開発することに重点をおいています。現在もっている細胞は、Todaro,G.J.
and Green,H.によってestablishされた3T3cellsです。まだ4NQOは添加していませんが、2月の班会議までには何かdataが出るかも知れません。初代培養を用いている限りは、実験も限られ、進歩もおそいと思いますので、何とかして3T3で成功させたいものです。
もちろんhamsterの初代へcarcinogenを添加する実験も続けていきます。この方は技術のstandardを作ることに努めます。すなはち、もっとも短期間で悪性化させる方法は何か、HA-1〜HA-7の時間(transformする)のばらつきを少くすること、cloneによる分析などです。carcinogenのmarker(VirusのT
antigenのようなもの)も何とかみつけたいものです。これがあれば、spontaneous
transformationもこはくありません。
ともかく能率よく余り学会にかきまはされず、落ちついて仕事をすすめたいものです。
《螺良報告》
新年おめでとう御座います。昨年は何やかにやと忙しい年でしたが、今年はもっと静で能率の上る年になってほしいと思っています。
さて今年どう仕事を進めるかということよりも、今の所昨秋留守勝の後片づけの仕事の方が多いようです。当方も本来は癌ウィルスの動物レベルの仕事から細胞レベルへと進路を求めて培養に入ってきたので、本業をどうするかはよく考えるべき問題だと思ひます。乳癌や白血病ウィルスを培養するという試みも昨年の結果では必ずしも有望とはいえないと思っていた矢先、モロニー白血病ウィルスからdefectiveな肉腫ウィルスが分離されて、先般彼がこのウィルスを置いてゆきました。之を用いると細胞レベルの仕事ができるのですが、既に米国ではかなりやっているので、私の場合どの様な進路を見出すかを目下考慮中ですが、とにかくこのウィルスに用いる為に、乳癌のmono-layerの培養系と、動物としては黒木君の所からもらったBALB/cをふやして次の仕事に準備中です。
というわけでウィルスによるtransformationに力を入れると、とても化学物質にまで手がまわらないので、42年度は一応勝田班と離れるのが妥当ということになりますが、勿論培養の仕事は今後も続けてゆきますから、どうか従前同様に皆様の御教示を賜りたいと思って居ります。
しかしながら化学物質も全く諦めたわけでありません。というのはこちらでA系による肺腺腫誘発の動物での仕事があり、それに合せた細胞レベルでの癌化の仕事をしたい目標をもっているのです。ただし昨年1年は之は夢に終ってしまいましたが、ただ年末にやった事を一寸報告しておきます。
乳癌や睾丸間細胞腫はYLHで割に容易に生えるのに、肺腺腫はかなり困難なことは福岡での班会議の時にお話し、それについていろいろの提案を頂きました。その後Y抜き等でやってみて目ぼしい結果は得られませんでしたが、12月20日にA10432♀に移植した肺腺腫を摘出(移植後171日目)して、Eagle
MEMにコウシ血清を10%加えて培養したところ、翌日から既に単層に発育を認めた。之はTD-40を5本用いてすべて同様の結果がえられた。
(写真を呈示)写真に示すように、やや細長い細胞が並んでいて宛も腺細胞のようにみえる。この様な細胞は今までの培養でみられなかったものである。
今までは平らにひきのばされた細胞質の大きな細胞をみることが大部分であった。尤も培養細胞の中には濃縮したものや、顆粒がでたものもあって、之等が今迄と同様の結果をとるか、或はそうでなくうまく発育をつづけてくれるかは今の所見込はわからない。
しかし12月30日には5本のうち、1本のPA7-10005をA系の1匹に戻し移植をする所までこぎつけた。
残念乍らこの時に他の培地で培養していないので、果してEagle培地がYLHよりよかったかどうかはわからないし、また今までより肺腺腫も継代世代が進んでいるので、細胞側の条件も同一でない。従って比較の材料がないが、とにかくPrimaryだけは上皮性らしいものが生えたことまでで年を越した次第である。
《堀川報告》
1967年の新春をむかえ、班員の皆さんおめでとうございます。過去3度の正月をアメリカで過ごしてきた私にとっては、今年の正月は久し振りに日本の地で、しかも郷里の松山において少くとも3日間は総べての雑念を忘れてむかえることが出来たということで、満足感にひたっております。
じっと静かに目を閉じて過ぎ去った1966年をふり返ってみるとき、それは実に多忙な一年だったと思います。自分の実験計画をたて、給料の値上げをどのように成功させるかだけを熟考し、客分として扱われていたアメリカの生活は特別としても、日本での研究生活には余りにも雑事が多すぎる。帰国後はこれが日本だ、とにかくどのような多忙をもきり抜けて研究面において立派な成果を出すのが日本での真の立派な研究者であると自分の心に云いきかせつつ、ここまでやって来たような訳ですが、あまりにもひどすぎる。これではユニークな仕事も生まれようがない。とにかく何とかしてほしいものですね。これだけは年頭に当って大いに叫びたいですよ。と云って日本のような貧乏国ではいくらガタガタ言ったところでどうなるものでもない。現在の段階では文句を云う前にまあ残っている雑事でも片付けて実験にとりかかるのが賢明な策のようです。さて新春をむかえるに当り、私も私なりに夢を抱いています。まず今年は培養細胞を用いて[放射線障害回復の機構]をとことんまでつついてみたい。この仕事はこれまで機会のあるごとに報告をしてきたので、皆さんの記憶の内にも少しはとどめていただいていると思います。昨年の予備実験から一応の方向がついてきたのでグングンと押して行きたい。ところで第2の仕事はin
vitroでの[発癌実験]です。この問題はこれまで幾度かやろうやろうと考えながらもいろいろの事情から出発出来なかった仕事ですが、今年こそは是非着手して出来得る限り良き成果をおさめたいと念願しています。私にとっては未知の分野だけに、これから一歩一歩地固めをしながら前進させていかねばならない難問でしょう。とにかく夢は夜にまかせるとして、頑張らねばならない。今年ももう一年あれこれと不平を言う事なしに、もくもくと仕事をやり、稔り多い一年であるよう頑張ることを新年にあたり、ひそかに願っている次第です。皆さん今年もよろしくお願いします。そしてうんと頑張りましょう。
【勝田班月報・6702】
《勝田報告》
A)4NQOの活性持続性:
4NQOは中原氏らによれば、血清と混ぜるとSH基とただちに結合して失活する−とされている。しかし釜洞・角永氏らは5x10-7乗M・8日(これ以下はダメ)処理した群だけが悪性化したと報告している。そこで[20%CS+0.4%Lh+SalineD]の培地に等量の[10-4乗M4NQO+0.5%DMSO+SalineD]を混ぜて隔時的にO.D.の変化をしらべてみた。(結果表を呈示)。4NQOの終濃度は5x10-5乗Mとなり、血清は10%となる。これ以上血清をふやすと紫外部の吸収がみられなくなる。どうも結果表をみると、37℃・7日間加温でも4NQOは血清中で失活しないらしい。もっともこの場合、血清中のSH基の数と4NQOのモル比が問題になり得る。一桁ちがえば差は認めにくくなる。血清中の蛋白が10%として上の液中では1%(10g/l)。これを全部仮にアルブミンと考えてみると(分子量7万)、1/7000M。アルブミン1MにfreeのSH5コとして(牛6コ、ヒト42コ)、SHは1/1400M、つまり7x10-4乗Mとなり、5x10-5乗Mの4NQOを充分に収容し得る筈である。DMSOの関与は考えにくいので、血清内で4NQOがSH基にくっついて失活するという推論には、なお検討の余地がありそうである。
なお釜洞氏らは4NQOを10-4乗Mに水に溶いたと報告されたが、これは本当に溶けているか否か疑問である。もっと低濃度ならば直接水だけでも溶けるらしい。
B)RLC-10株細胞(正常ラッテ肝)の増殖に対するdimethyl
sulfoxideの影響:
これは昨年2月におこなった実験のデータであるが、最近班内でDMSOを溶剤として使うのが流行りはじめたので、お庫から出してお目にかけることにする。
DMSOは培養2日后に添加をはじめ、以后7日間の増殖をしらべた。この細胞では2%だとはっきり第4日以后に阻害を示し、1%でも増殖を抑制しているが、0.5%では対照との間に有意の差がない。我々の実験に用いている終濃度はこれ以下であるから、増殖という点に関しては、まず心配はいらないと考えてよいであろう(図を呈示)。
《黒木報告》
4NQO及びその誘導体のハムスターへの発癌性(in
vivo)
ハムスター胎児細胞を用いて4NQOのin vitro
transformationをすすめるに当って気になるのは、4NQOがハムスターに発癌性を有するかどうかということです。現在までに4NQOによる発癌はマウス、ラット、モルモット、ジュウシマツ(Uvolonca
domestica)で調べられていますが、ハムスターの成績はどういう訳か、昨年初めまではありませんでした。しかし月報6607に紹介したように英国のParish,D.J.and
Searle,C.E.らによりhamsterもtumorの出来ることが明らかにされました。その成績を再び要約してみます。
☆Carcinogen:4NQO:0.5% aceton soln.(0.5mg/ml)
☆Animals:male golden 11匹使用、6〜7週
☆treatment:0.5mlを週2回、whole backに塗布(5mg/w塗布したことになる)
☆Results:この量はtoxicではない。Papilloma:14w(1匹)17w(2匹)27w(3匹)
(表を呈示)このSearleらの報告の他に、森和雄氏(昭和医大)がhamsterで発癌に成功しているそうです(未発表、私信による)。(阪大の釜洞教授のところでは癌学会のときにはまだ出来ていないとのこと)
私が動物の発癌実験を始めたのは1966年4月11日ですが、in
vitroが中心なので、in vivoは簡単の方がよいと思い、文献の中でもっとも手間のかからない方法を選びました。すなはち、中原・福岡のGann
50 、1959及び久米:医学研究 34、1964の方法に準じて、(1)Solventとしてはpropylene
glycolを用いる。(2)皮下inj.によりfibrosarcomaの発生をねらう。これはin
vitroで成功した場合fibrosarcomaがもっとも考えられるからです。(部位は右鼠蹊部)。(3)10日おき5回、total
1.0mg & 5.0mg。(4)4NQO、4HAQOの両者で行う。(5)動物は動物不足のためage
sexをそろえられなかった。以上の方針でExp.を開始した訳です。
[結果]
発癌物質の局所に対するdamageは著しく、注射部位はulcer
necrosisをおこし、しばしばinfectionをみました。
長期間にわたる実験のため途中死亡、脱出ハムスターも多く、完全なdataは得られませんが、現在までは1匹にtumorの発生をみています。(表を呈示。7匹のうち1匹は295d.にtumor・小豆大、あり)。このうちの発癌例は4NQO
5.0mgの1例のみです。この例は10月4日(177d)のときにはなく、学会嵐の吹き終った後、12月14日(249d)には巨大なtumorとして発見されました(写真を呈示)。発癌したのはその中間の200日頃と推定しています。
組織学的にはfibrosarcoma、肺に転移巣(顕微鏡的・写真を呈示)がありました。
この成績は、中原らによる同様の実験(雑系マウス使用、propylene
glycolにとかし、皮下inj.、5回10日おき)と比較すると、非常に悪いことが分ります。
このtumorを培養したところ、写真に示すような細胞及びコロニーが得られました(写真を呈示)。criss-crossに配列するところはin
vitroのtransformed cellによく似ています。なお、動物継代にも成功しています。
《佐藤報告》
A)自然発癌
正常ラッテ肝組織から培養され株化された6株の内3株が夫々培養850日、1109日、1160日よりTumor-producing
capacityをもった事を報告した。[月報6612]
Tumor-producing capacityを示さなかった残りの3株の内、1株が最近になって、Tumor-producing
capacityをもったと思われるので報告しておく。
RLN-35(ラッテ日齢20日)で、(表を呈示)培養日数910日にi.p.接種、接種後313に腫瘍発生。また培養日数1009日i.p.では接種後184に腫瘍発生を認めた。
B)4NQO→Embryo all
(1)(図を呈示)1)Controlは39日現在尚増殖中と思われる。2)10-5乗Mのものは細胞変性がかなり強かったが、現在TD-15瓶に一杯になったので復元の予定。3)10-6乗M、30分投与をうけた細胞は培養7日目に継代し培養24日目に再投与を行った。一本には4NQO
30分、他の1本いは4NQOを連続投与した。連続投与では2日間で変性が強くなり以后4NQOを除いたが除去後7日目で細胞は完全消失した。
(2)(図を呈示)略図説明。Rat Embryo(生れる直前)をExplant
culture(RE-1)でスタート(TD40静置)。培養11日目に継代しTD-40
2本に分注、培養32日目にDMSOに溶かした4NQOを培地中に5x10-7乗Mになる様に入れた(7日間)。ControlとしてDMSOを7日間、同濃度に入れた。10-7乗では連続投与に耐える様である。
《高木報告》
その後行ったハムスターの皮フ移植について報告する。
先月報に記した皮フ移植は、panniculusを除いたgraftを、
panniculusを残して作ったrecipient側のbedに移植したもので同腹、異腹共に約半数がtakeされると云うまずまずの成績を示したが、実際に胎児の皮フを培養する場合panniculusを除去することは不可能なので今回はgraft側にもpanniculusを付けて、これをpanniculusを残したbedに移植することをa)adult→adult、b)suckling→adultの二つの場合について試みた。
a)adult→adult
生後、約8週間の1腹のハムスター6匹の背部に、約11mm径のbedを作りほぼ同時期の異腹のハムスターより約13mmのgraftを取って移植した。この際panniculusをつけた皮フではかなり厚く、又、硬くrecipient側に生体接着剤(alon
alpha)で接着固定するのが幾分困難であった。9日目繃帯除去。現在14日目まで観察した限りではgraftの部分は痂皮様となり未だ発毛はみられない。しかし先回の移植実験でtakeされなかったものでは、bedの部分が瘢痕性の収縮を示して小さくなったのに比べて未だその傾向がみられないので、表皮の剥離した跡にこれから発毛がおこるのではないかと思っている。
b)suckling→adult
生后、6日目約2〜3mmの明らかな毛を持ったハムスターより径13mmのgraftを取り生後約8週目の1腹のハムスター7匹の背部に作った径11mmのbedに移植した。9日目繃帯除去。14日目の現在、途中麻酔死した1匹を除く6匹は、表皮はうすい痂皮状になって脱落したが、そのうち2匹はその跡に明らかに頭尾逆方向の発毛がみられ、graftはtakeされた。他の1匹はgraft全体が脱落して瘢痕状収縮をみとめ、残る3匹については目下の所不明である。 次に先報の結果についてその後の経過を追加する。月報6701に報じた移植群では5週を経過した現在、抜毛部の毛は完全に生え揃って、他の部分と区別がつかずgraftのtakeされたものでも、その部の毛は必ずしも逆方向にはならないで、takeされたものとされないものの区別が殆んどつかない。これはハムスターの毛はマウスと違って長くて柔らかい為と思われる。
唯一匹だけ偶々graftの部分に白い毛が生えた為に現在でもはっきりtakeされたことが判るものがあり、今後はgraftの毛色を変えるように工夫したいと思う。
《三宅報告》
H3-Methylcholanthren、H3-Uridineを用いて、培養皮膚に作用させた後に、光顕的に、その取り込みを追うよりも、電顕Autoradiographyにのせて、それに成功すれば、形態学をやるものが、発癌の機構を追うことに一歩近づくことになることを話したことがあります。ColdのMethylcholanthrenをさえ、うまく使用出来ないために、labeledのものは、長くfreezerの中に眠ることになっていました。H3-Methylcholanthrenを用いるステップになっていないままでは、仕方がありませんので、H3-TdRについて、その電顕Autoradiographyを第一病理の藤田博士のもとで、開始された方法を用いて、同教室の北村君がやって呉れたのがこのphotosです。H3-Methylcholanthrenの取りこみに取りかかる第一stepと考えています。
(写真を呈示)核の中に濃く、不規則な、毛糸の切端の様にみえるのが、銀顆粒です。核の中の濃厚なopaqueのあるところに局在するかに見えます。核外に見られる銀顆粒状の濃いものは、人工産物です。形は明らかに違います。
《永井報告》
4NQOと-SHgroupが反応しやすいこと、或は発癌物質と蛋白質-SHgroupとの関連性について、これまで得られている知見などを想い出してみたときに、これから述べることが何等かの示唆を与えはしないかと思って記してみた。それは細胞分裂と蛋白-SHgroupとの関連性について、日本の動物学者(団、坂井ら)によって得られている知見である。彼らによると(ウニ卵を使っての研究であるが)、細胞内蛋白の-SHgroupは細胞が分裂する直前に最大値に達し、それが減少し始めると分裂がおきる、という。この両現象は殆ど完全に同調しており、逆に云えば、-SH含量の変化を知れば、細胞分裂の時期を知り得る程である。
然も、この現象がみられるのは、0.6M-KClで抽出される蛋白についてであって、単に水で抽出される蛋白については、(図を呈示)図に示したように、丁度反対の動きがみられる。胚全体の蛋白は-SHでは全く変化がみられない。この0.6M-KCl-soluble蛋白は、水に不溶な性質をもっている。また、分裂卵細胞の内容物を、卵細胞からとり去って、いわゆるCortex部分と内容物部分とに分けるとCortex部分の-SHについて上記のSHサイクルがみられるが、内容物ではみられない。更に、Cortex部分にみられるSHサイクルについては、やはり0.6M-KCl可溶蛋白についてみられるだけで、今度は水可溶蛋白については、図にみられるような鏡像関係にある反対サイクルはみられなかった。次にSHサイクルは、トリクロール酢酸可溶性の蛋白についてもみられる。この場合、TCA-insoluble蛋白のSHは、図のような反対サイクルを描く。とにかくこのSHサイクルは丁度分裂との関聯のもとに一種のBiological
clockのような現象として捉えうるわけである。もう一つわかっている興味深い事実は、1%エーテル含有海水で卵を処理すると、卵は分裂しないで、核分裂のみが進行する。そしてSHサイクルの方は、エーテル海水で処理した時点におけるレベルで止まってしまう。次にこの卵を普通海水に戻すと、卵は今度は細胞分裂を開始する。と同時にSHサイクリの方も、前に停止したレベルから回復を始め動き出す。そしてこの場合も、SHサイクルと細胞分裂とは同調している。この際、長時間エーテル海水にさらしておくと、核分裂の進行に応じているかのように、いっぺんに4分裂、或は8分裂を起こす(図を呈示)。このことが何を意味しているかについては、いろいろ後論はあるが、とにかく面白い事実である。団らは、細胞分裂機構との関連のもとにこの現象の研究を現在もすすめている。蛋白質のSH→←S-Sの変化と、蛋白物性の変化(即ち分裂機構の生成)とを結びつけようとしている。発癌剤との関連はどうであろうか。
《堀川報告》
Leukemiaを指標とした発癌実験の第1歩として次の実験を開始した。
1.まずマウスRF系♀(生後40日)からbone
marrowを分離し、
2.注射針でbone marrow cellsを無菌的に分離。
3.分離されたcellsを3群にわけて次のように処理する。
A群)20%牛血清を含むEagle minimum mediumでT-30フラスコ中でCultureする(23時間)。 B群)Pytohemagglutinin(PHA)を含む前記Eagle
mediumでcultureする(23時間)。
C群)4-NQO*をfinal concentrationで10-5乗Mに含む前記Eagle
mediumでcultureする(23時間)。*Ethanolに溶かした4-NQOをmediumに加わえて最終濃度10-5乗Mになるよう調整した。溶液中の4-NQOのactivityは30分位で失活するというから、実際に23時間の処理でも、その作用時間は初期の瞬間的なものであると思う。
4.23時間処理後、3群ともにnormalなEagle
medium(20%牛血清を含む)にもどし、それぞれ6日間cultureする。この間cell
numberのcountは行っていないが、cellのconditionはいたって良好。ただPHAを含んだ培地で処理したものは最後までcellが凝集する傾向にあった。(従って以後の実験にはPHAを加える必要なしと見る。)
5.6日間正常培地でcultureした3群のcellsをそれぞれ900RのX線をあらかじめ照射したdd/YF系♀(生後40日)に一匹あたり40〜70万個cellsで静注する。
これは900R照射されたマウスのSpleen上に形成するcolony数から、injectしたbone
mrrow cellsの生存率を検定するためのものである。
(結果)。 今回の実験はみごとに失敗した。それは900R照射したマウスが、Spleen上にcolonyを形成する前に死亡したためである。今回の実験には一群に5匹ずつのマウスを使ったが、次回は少くとも10匹から15匹を使って生存マウス数を高める必要がある。
現在の段階では全くfundamental ideaを得るための実験であるが、これなくしてはSecond
stepに向う事が出来ない。次の実験を続行中であるが、同時に皆さんの御批判をこう。
【勝田班月報:6703:各班員4NQOによる発癌実験開始】
A)4NQO類による培養内発癌実験:
(1)ラッテ肺センイ芽細胞の4HAQOによる処理
細胞はJAR系F20生後13日♀の肺組織由来のセンイ芽細胞RLG-1の培養内継代30代を用い、4HAQOは0.01N・HClで保存、PBS及びDで稀釋して2μg/ml(約10-5乗M)で用いた。TD-15の培養をこの液で37℃・10分間処理し、その後培地で洗って培養しています。処理は1966-9-8、10-3、10-6と3回おこなったところ、徐々に細胞がやられてしまった。しかし12月になって数コのコロニーが出来て、これを継代したが増殖はあまり早くない。復元の準備中である。
(2)ラッテ皮下センイ芽細胞の4NQOによる処理(顕微鏡映画)
JAR系ラッテがどうも続かないかも知れないと思われたとき、また同系統のラッテの雑系を元にして純系を作る企てをはじめたが、仮にこれをJAR2系と名付けると、JAR2・F1生後3日、同F2生後9日♀などの皮下組織からセンイ芽細胞をとり出して培養し、これを4NQOで処理しながら顕微鏡映画で連続的に形態の変化を追った。その一部を供覧する。はじめの実験では4NQOは塩類溶液Dで5x10-5乗Mに稀釋し、37℃、30分〜1時間処理した。次は映画をとりながら、そのまま培地に5x10-5乗M及び5x10-6乗Mに加え、24時間37℃で加温した。10-5乗Mのレベルでは細胞がほとんどやられてしまって、その後も細胞が生えてこないことが多い。この種の細胞では10-6乗Mのレベルが適当らしい。九大癌研の遠藤らは処理後に世代時間5時間などという細胞の出現を報告しているが、我々はまだそんな細胞は見出していない。
4NQOが細胞内のどんな処へ局在するかをしらべるため、H3-4NQOを用い、H3TdRの場合と略同様の方法でRadioautographyを試みた。しかしどうも3日という露光時間は短かすぎたらしく、grainsが見られずに終った。
また遠藤らの記載している核内封入体というのを確かめるため、10-6乗M、2x10-6乗M、10-5乗Mの3種で24時間処理して、原法通りに固定染色してみたが、封入体様の存在はほとんど認められなかった
(3)4NQOの培地内安定性
中原らは4NQOがSHと結合して不活化することを報告しているが、培地内で血清その他から由来するSHのために、4NQOが忽ち不活化してしまうかどうか4NQOを培地と混合し、20℃及び37℃で7日間、その366mμ及び252mμにおける吸光度の変化を追究したが、不活化は全く認められず、4NQOは培地に直接添加してもかなり長時間安定であることが判った。
B)DAB代謝:
“なぎさ”→DAB高濃度処理、DEN処理或はDAB-N-oxide処理後のDAB高濃度処理などによって、ラッテ肝細胞の色々な変異株が作られてきたが、それらのDAB代謝能を同時に比較してみた。1月号の月報に報告したように、寺山研で培地を生化学的に分析して頂いた結果と、我々のやっている培地を直接比色する方法の結果とが非常によく一致したので、ここでは450mμでの吸収を直接測ることにした。培地にDABを20μg/mlに4日間加えて培養したあとの培地の吸光度によって判定した。
DEN群は、ジエチルニトロソアミンを10μgから1,000μgまで次第に増量しながら与えたあと(3ケ月)、さらに3カ月間高濃度DABで処理した株である。N-oxideは10μg/mlから50μg/mlまで4カ月与え、高濃度DABでさらに2月間処理した株である。
大部分の変異株では代謝能を失ってしまっている(培地内のDABが減らずに残っている)が、MとDEN12、13とは反って代謝能が昂進し、4日間にほとんど完全に20μg/mlのDABを代謝してしまう。(ラッテ肝由来の各種変異株のDAB代謝能の表を呈示)
何とかこの代謝に関与する酵素蛋白を分離したいと考え、細胞をhomogenate
levelでまず粗く分劃し、DAB代謝が行われるかどうかをしらべた。細胞はDEN-13を用い、凍結融解3回、2,000rpm
15分の上清と沈渣とに分けた。容器は比色管を滅菌して用い、実験の終りまで同一容器にゴム栓で密封したまま加温し、そのままで比色した。反応液は次の組成であった。「ATP
10-3乗M、DPN 10-5乗M、MgCl2・6H2O 10-3乗M、ニコチン酸アミド
10-2乗M」を0.25M-Sucrose液に溶いたもの3容と「DAB
20μg/ml」を培地にといたもの1容の混合液である。すなわちこの場合、DABの終濃度は5μg/mlになった。結果は培地だけにDABを加えた場合には吸光度が反って増えて行ったが、沈殿の方ではわずかながら減少がみられた。今後反応液の組成を改良することによって分劃レベルで代謝を活発に行わせられるように努めたいと思っている。
:質疑応答:
[堀川]凍結融解3回だけで細胞が全部こわれるでしょうか。
[勝田]無菌的に処理しなければならないので、この方法をとったのですが、回数その他、もっと検討してみましょう。
[永井]時間と共に「培地」のO.D.が上って行くのは、どういうことでしょう。
[高岡]実は低温で液を保存していたので、DABが一部析出していて、それが37℃加温と共に少し宛溶けて行ったのではないか、と想像しています。
[永井]DABの代謝産物も出ているかも知れませんから、全吸収カーブをとってみると良いですね。
[勝田]話が変りますが、永井班員のおすすめで、Collodion
bag(ドイツ製)というのを買って先日使ってみましたが、透析とちがって外液でうすめられないから、低分子と高分子を分けるとき、とくに低分子を必要とするとき非常に便利のようです。
[堀川]Transformatin rateは計算できますか。
[黒木]現在のところはまだ・・・。
[堀川]4NQOで処理するとgeneralには作用を及ぼしますが、大きな変異がつかまるのは頻度の問題になりますね。
[黒木]封入体のことですが、月報No.6510にかきましたが、私の経験では、L、rat肺、吉田肉腫では出ません。HeLaでは出ます。
[勝田]封入体は、はじめは遠藤氏はRNAではなくdegraded
DNAであると云っていましたが、その後訂正してRNAらしいと報告しています。どうも核小体の変性ということが一番可能性がありますね。
[黒木]そう、はじめはたしかにRNAを否定していましたね。封入体はfibroblastsでは出なくて、epithelで出るのではありませんか。
《螺良報告》
うっかりしている間に1月が過ぎ、月報の原稿を忘れたことは大変残念でした。
さて年末に今まで生えにくかったマウスの肺腺腫がEagle培地で生えて継代できた事に勇気を得て、正常肺の培養のin
vitro carcinogenesisにとりかかって見ました。とくに肺を選びマウスを用いた理由はA系マウスの生体でメチルコラントレン及び4NQOによる誘発実験をやったことがあるからです。尤もこの実験には以下のような問題があることも承知の上で計画しました。
1.マウスは特にspontaneous transformationが多いが、in
vitroでin vivoより速にtransformさせることを第一の目標とすること。
2.今の所、TD-15及びTD-40しか設備がないので之でやって、transformationは主に戻し移植に頼ってチェックする。
3.肺腺腫好発系のA系が充分得られないので、繁殖のよいICRで先ずスタートする。
4.4NQOは10-5乗位までなら培地にとけるということで(微研・釜洞、愛知がんセンター・田中)投与を簡単にする為に直接血清にといた後に培地に溶いた。濃度は10-7乗〜10-8乗をねらった。
5.正常肺として、胎生16〜17日のICR胎児肺を用い、10%コウシ血清加Eagle培地を用いた。4NQOとの接触は継代株を用いず、培養1日後から開始、細胞の変性を目標に正常培地に切りかえる。
6.無処置の培養正常肺は継代して、時々ICRマウスへ戻し移植を行ってspontaneous
transformationをチェックする。
目下の所、培養は4週間程度で、TD-40を用いて培養した正常ICR胎児肺5本のうち、10-7乗を1本、10-8乗を1本4NQOを投与しました。
「無処置群」NEP-1、NEP-2、NEP-3
(顕微鏡写真を呈示)培養1日後、割に速かに発育し、1日後でコロニーの形成が認められる。細胞は敷石状の配列をとるものもあるが、培養日数を経るに従って遊走魚群状に並ぶ紡錘型の細胞もみられる。これら2種の細胞は互に移行しない様で、後者の中に前者が島状にとりこまれている所もある。
培養2週間では主に後者の細胞が互に方向性を失って交錯したcriss-cross状の配列もみられるので、4NQO処置による変化に之が特異的かどうかは問題であろう。なお脂肪染色では変性顆粒以外に特に脂肪滴は明かでないが、PAS及びムチカルミンでは細胞質の染るものがある。
「10-8乗処置群」NEP-5
培養1日後から4NQOを2.7x10-8乗モル濃度に培地に加えたものでは細胞の変性が全く起らないようで、対照群と同様な発育がみられる。従って2週間後に継代し、さらに1週間後3代目の継代を行い、成熟ICRマウスに戻し移植を行った。
(顕微鏡写真を呈示)初代培養5日目の位相差像は、大部分は敷石状にならぶ上皮性様の細胞であるが、一端に紡錘状の細胞もみられる。培養日数が進むにつれてcriss
cross状の所見もみられるが、特に対照群との差異はみられない。
「10-7乗処置群」NEP-4
初代培養1日後に4NQOを2.7x10-7乗培地に加えると、既に12時間後に著明な細胞の変性を来すので、4NQOは一応溶解して作用しているものと考えられた。
(顕微鏡写真を呈示)添加3日目には、細胞変性が著しい為に5日目で添加を打切り、正常の培地に切りかえた。変性の著しいコロニーがあるが、中には余り影響をうけないコロニーもあったので、その後培養を継続しているが、増殖が余り良くないので継代しうるに至っていない。
「まとめ」
以上、ICRマウスの胎児肺を用いて4NQOの添加を行ったが、添加は直接血清にとく方法によった。細胞変性が10-7乗と10-8乗の間で起っているので、之が今後の添加量の一応の目安になろう。今の所、生体で肺腺腫が顕微鏡的にみられる8週から12週を一応in
vitroで添加の期間の最大限としてみたい。
今後の方針としては復元経験でどうなるかを対照群と共に確かめることにあるが、さらにICR以外に、肺腺腫好発系のA系について同様の実験を試みたい。
:質疑応答:
[勝田]細胞質全体に脂肪顆粒が拡がるのですね。Follic
acidかATPを入れてみると防げるのではないでしょうか。銀染色は何日間培養後の染色ですか。
[豊島]2週間です。
[勝田]それなら普通ならば染まる筈ですね。4NQOの10-8乗Mは入れ放しですか。
[豊島]そうです。10mgを40mlにとかして、それから順に終濃度にします。
[堀川]復元はどこへやりましたか。
[豊島]皮下です。生後1週の仔、newborn、adult・・・いろいろやりましたが、newbornは翌日死んでいました。1週のは生きています。
[吉田]ICRはどの程度純系なのですか。
[豊島]判りません。
[堀川]Criss-crossのカテゴリーはどうですか。何層位に重なるのですか。
[黒木]うすい時にはよく判りますが、細胞が平行して重ならないで、直角に重なり合い、かなり厚くなります。
[勝田]しかしセンイ芽細胞は無処置でも上に重なったりしますね。
[黒木]24時間培養で処理となると、増殖した細胞だけでなく遊走してきたのもかなり混っていますね。初代24hrということは大変結構と思いますが、組織片でなくトリプシン処理して均一な細胞群にして使うべきと思います。4NQOはfibroblastsには強く作用しますが、epithelにはそれほどでありませんからね。それでepithelが残ったのでは・・・。
[勝田]あとにひとつ残った組織片から生えだしたのはどうもepithelのような感じでしたね。4NQOを抜いてから何日経って見付けたのですか。
[豊島]次の日です。
[勝田]作用中にも生えていて生き残ったのか・・。どうもselectionみたいですね。
[吉田]こういう実験のときは細胞の種類を一定にしておいてやらないと、はっきりしませんね。耐性獲得にしてはどうも期間が短かすぎるようです。
[永井]4NQO処理による変異細胞は、4NQOに耐性がありますか。
[黒木]他の発癌剤ではみな耐性があるとされていますが、4NQOの場合は無いようですね。4NQOを血清にとかすというのは少しおかしいですね。3x10-3乗Mまで水にとけるというデータがあります。6-chloro-4NQOはPBAによく溶けます。
[勝田]がんセンターの千原氏のデータに、4NQOが核酸の色々な組成の内、guanineに特異的に結合することを癌学会で発表していましたね。
[堀川]DNAもsingle strandだと結合しない。guanine以外だという説もあります。
《黒木報告》
今回は次の4つの点について報告をします。
(1)hamster embryonic cellsに対する4NQO、4HAQOの添加方法及び濃度の検討
(2)3T3を用いた4NQO transformationの検討
(3)凍結保存添加剤としてのinositolの使用経験
(4)NQ-3、NQ-4、HA-7の追加
(1)ハムスターembryonic cellsへの4NQO、4HAQOの作用、特に濃度及び添加方法について
発癌剤の添加方法を
1)Monolayer growthの細胞にかける
2)Suspensionの状態の細胞にかける
の二方法に分け、また濃度も4NQOでは10-5.5乗、10-6.5乗、10-7.5乗また4HAQOでは10-5.0乗、10-6.0乗、10-7.0乗とそれぞれ3段階をおいてtestしてみました。
☆Exp.#433(1966.12.13開始)
5日間cultureした初代培養のハムスター胎児細胞を100万個/B.づつ遠心管(池本40ml)にとる。cellsはPBSにsuspend、incubator(37℃)で2時間、4HAQO
10-5.0乗、10-5.5乗、10-6.0乗、10-6.5、10-7.0乗とcontactした。遠心でcarcinogenを除いたのち、TD-40に継代した。
結果:Carcinogen contact groupとcontrolの間に何らのgrowthの差、形態の差はみられなかった。すなはち、cell
necrosis、criss-crossed arrangementなどの“Early
Changes”はいずれにも見られず、現在はpractically
no growth。
☆Exp.442(1967.1.19開始)
4NQO及び4HAQOをmonolayer growthの細胞に、溶かした濃度は4NQOで10-5.5乗、-6.5乗、-7.5乗M,4HAQOでは10-5.0乗、-6.0乗、-7.0乗Mである。
pronase処理で得られた初代培養細胞4日目にcarcinogenを添加した。
4NQOはmed.中に吹きこみ、4HAQOはcell cheetに吹きつける方法をとった。(diluentは4HAQOは0.9%NaCl
Soln.に0.1N HClを1/10量加えたもの、4NQOは生食である)
処置回数は、4NQO 10-5.5乗Mが1日おき2回、他はすべて5回である(4NQO
10-5.5乗M群のみ2回なのはcell damageが甚しいため)。
Carcinogen添加後19日(2月7日)現在では、4NQO
10-5.5乗、4HAQO 10-5.0と10-6.0乗にEarly change(criss-cross)あり、他は不明、目下継代かんさつ中。
☆Exp.447(図を呈示)
初代の細胞を培養5日目に継代するとき、suspensionの状態で、4NQO、4HAQOを添加した。実験方法は次の通り。100万個/B.で培地中にsuspend、そこにcarcinogensを吹きこみ、最終conc.、4NQO
10-5.5乗、-6.5乗、-7.5乗、4HAQO 10-5.0乗、-6.0乗、-7.0乗とする。37℃のwater
bath中で80回/mim振盪させながら処置。遠心してcarcinogenを除き、100万個/TD-40の濃度でinoc.した。
結果:10-5.5乗M 4NQOはガラス壁に附着する細胞はない。10-6.5乗Mでも、10-7.5乗M
or controlの1/10程度、4HAQOは細胞障害がほとんどみられなかった。
Criss-crossed arrangementは10-6.5乗M 4NQOにみられたのみ、4NQO
10-7.5乗、4HAQO各群もcontrolと同じようであった。
☆Exp.451(図を呈示)
Exp.447のdataから、4NQOの濃度とうえこみcell濃度に改良すべき点が明らかにんったので、次の組合せで実験を行った。4NQO
10-6.0乗M 300万個/TD-40、4NQO 10-6.5乗M
200万個/TD-40、4NQO 10-7.0乗M 200万個/TD-40、前回と同様、37℃、2hr.、80/m.でShaking。8日後(2月10日)継代のときは10-6.0乗Mに多くのfociがみられた。
☆以上のcarcinogenの濃度とsuspension contactの方法は実験後日も浅く、まだEarly
changesの段階ですが、次のことは云えそうです。
1)4HAQOはsuspension contactでは全く効果がない。
2)Suspension contactのときは、half or one
log 4NAOの濃度を下げる必要がある。そうしないと細胞が皆やられてしまう。またうえこみ細胞数も濃度に合せて加減する。
3)4NQOの濃度は10-5.5乗M〜10-6.5乗M(3.2x10-6乗〜3.2x10-7乗M)、4HAQOは10-5.0乗〜10-6.0乗Mがよいらしい。
(2)3T3細胞の4NQO transformationについて
3T3細胞はNew York大学のTodaro、GreenらによりestablishされたSwiss
mouseの胎児由来の株細胞です。Todaro→奥村→山根のrouteで我々の研究室にも入ってきました。この細胞が有名になったのは、SV-40のtransformationに対して非常に高いtransformabilityを有すること、aneuploidyであるにも拘わらず、contact
inhibitionが強くかかり、50,000 cells/平方cmの濃度でgrowthが完全にstopしてしまうことです。
tumor virusのin vitro transformationの仕事の発展をみていると、最初はprimary
cultureからのmalignant transformationが行はれ、次いて、established
cell linesを用いたtransformationの解析に入っていくことが分ります。chemical
carcinogenでも、当然このstepは踏れることが予想され、そのための準備として3T3を取り上げた訳です。(進行図を展示)
添加方法
I :従来の如く、cell sheetに直接吹きつける
II :med.の中に吹きこむ
III:PBSの中に吹きこみ、2時間後に普通の培地にかえる
Carcinogenとしては、はじめて水溶液の4NQO6Cを用いた(6-carboxyl
4NQO)。この物質は、PBS中に(Na+があるので)非常によくとける。発癌性はラットで証明されている(Kawachi
T. et al,Gann,56,415-416,1965)。しかし国立癌センター川添豊氏の話ではmouseにcarcinogenecityはないとのことであり、私は目下は使用を中止している。
濃度(final) 4NQO6C:10-6乗M,4HAQO 10-5乗M,treatしたときのcellsはsubconfluent(logarithmic
growth)の状態であった。
結果:cell damageを2時間後にみたところ実験群III(PBSにcarcinogenを加える)はcell
damegeが甚しかった。2日後には4NQO6Cは、かなりdamageからrecoverしてきたので、2日後ふたたび4NQO6Cを同じ方法で加えた。4HAQOはcell
damageが強いので2回目の添加は行はなかった。その後回復の様子がみえないので、培地交換せずにtotal
19日間放置した。処置後21日後にcriss-crossed
arrangement(写真を呈示)を発見、その他、巨核細胞、多核細胞を散見した(シェーマ呈示)。このような多核細胞はハムスターの胎児細胞を4NQO、4HAQOで処置したときにも認められた。
さらに1週後(処置してから28日)にはMacroでもややdenseなfocusとして認められるようになった。focusの数は次の如きである。4HAQO
I(cell sheet):7/TD40、II(medium):2/TD40、III(PBS):3/TD40。4NQO6C
I(cell sheet):17/TD40(一部felt状)、II(medium):8/TD40、III(PBS):13/TD40。目下carcinogenのconcentなどをかえて検討中である。
(3)凍結保存のときの添加剤としてのInositol
Joseph Morganのdetaによると、inositolは細胞凍結保存のとき抗原性の変動を防ぐということが、勝田班長のお土産話として、班会議のときに報告されました。(文献では不明のため目下Morganに問合わせ中です)
routine workには現在、DMSO 10%luquid airシステムで行っていますが、inositolに切りかえるべくその予備実験をしました。
Inositolは水には15%(V/W)程度しかとけません。濃度を上げて20%までとかしても凍結すると析出してしまいます。
方法及び材料:吉田肉腫(ascites)。:medium、
Eagle 10%Bov.S.。:4℃に2h、-80℃に3h、以後liquid
airに移し、3日後細胞の生存をtrypan blueで計る。
結果:
(% W/V or V/V) 20 15 10 7 5 3 2
inositol 25.2 56.0 73.0 80.0
76.8 − 51.5D
MSO 76.5 80.0 93.5 91.0 91.0 86.5 −
上表の如く、DMSOと比較すると、生存率の低いのが気になります。凍結speedなどもDMSOとかえる必要があるのかも知れません。
このため、現在はDMSO愛用中です。
(4)NQ-3、NQ-4、HA-7についての追加
☆NQ-3:継代し、目下動物移植をしているところです。
☆NQ-4☆HA-7:not malignant transformationとして報告しましたが、その後非常に長いlatentをへてtumorが発生、histologyはまだですがやや訂正の必要がありそうです。tumor発生動物は次の通りです。
#131 NQ-4 500万個SC移植(adult)培養95日の細胞、移植後206日に母指大のtumor発生
#212 HA-7 ch.p 200万個 148d. 移植後70日ch.pにtumor。
:質疑応答:
[勝田]Cell sheetに発癌剤溶液を吹き込んで、どの位の時間おくのですか。
[黒木]20〜30秒位が濃い濃度で接触する時間です。後は培地でうすめられます。
[勝田]Criss-crossというのは、顕微鏡でみていて、或ピント面ではタテに細胞が並んでいて、ピントをずらせるとこんどは横に走っている−というようなことでしょう。
[黒木]そうです。そういうことです。
[勝田]振る場合は何時間ふるのですか。その間に4HAQOは失活してしまうでしょう。
[黒木]2時間ですから活性はなくなっていしまうと思います。
[勝田]3T3という株は、いつもFull sheetにならない内に継代してやらないと、性質が変ってしまうのではありませんか。
[黒木]Establishされてからはその必要はないときいたのですが、一部重なったりするのが見られるのはその為なんでしょうかね。
[佐藤]発癌剤がよく効くのは細胞の増殖が良いときで、growth
Curveの落ちている時には効かないのではないでしょうか。
[黒木]Logarithmic phaseのときの方がきれいにtransformationが出るという報告がSV40-3T3の実験で出ています。
[勝田]振盪培養をする理由は何ですか。
[黒木]細胞を硝子壁につかせないためです。Cell
sheetで処理すると、はじめ居た細胞の内、大半がやられて減ってしまいますが、これだとあとの培養開始のとき、中途半端にやられた細胞までも着かないから、Selectされてしまいます。
[佐藤]3T3は無処理では変異しませんか。
[黒木]形態をみているだけで、悪性度は見ていないようです。
[佐藤]復元後の所見は自分の場合と同じようですね。復元後長期間たって出来たtumorでも、再培養して元と同じような形態の細胞が出てくるので、接種した細胞がtumorを作ったと思います。しかし時々良性悪性の混ったようなのもあります。
[勝田]Heterochromatinが変異細胞に残っていれば、別の性の動物に復元して鑑別可能ですね。
[吉田]いや実はそれで問題があるのです。
☆吉田俊秀氏・4NQO変異細胞の染色体分析:
黒木氏の4NQOによる変異細胞の染色体分析を仙台に赴いて行ないました。4NQOはmutagenic
actionがあるとされていますが、変異細胞は何れも2nよりも染色体数が増えていました。無処理の細胞にはXXとXYのが混っていて、初めの材料が両性の胎児を混ぜて使っていることが判りました。
吉田肉腫に4NQOを1.6x10-3乗M・0.8ml腹腔内注射し、30分後に染色体の異常をしらべると、1)直後には染色体がばらばらに切断され、2)その後も切断が多くなり、3)48時間後にはtranslocationも認められました。H3-TdRを使ってみると、Breakageを起している細胞にだけラベルがあるので、G2
stageに効いているかと思われます。吉田肉腫の染色体の核型を大別してA、B、C・・・のように染色体群を分けると、A、G、B群の染色体に切断の起り易いことが判りました。切れ易い群と殆ど切れない群がありました。
[勝田]HA-7の染色体モードが2nと云われましたが、動物に戻したときは如何ですか。
[吉田]しらべて見たいとは思っていますが・・・。2倍体数の染色体の核型が正常のとは違っているのでほっとしました。元の材料に♀♂の混っているのはまずいですね。
[奥村]皮下の細胞を使えば20代位まで2倍体を維持できます。Spontaneousに悪性化した場合は2n-rangeのものが多いですが、この場合は非常にdamegeを受けた後の変異だから4n近くが出来たのではないでしょうか。G6Paseの活性は性染色体にあると云われますが、増殖に関するgeneと分化に関与するものと、分けられないものでしょうかね。
[黒木]Transformationは注意深く見ていれば細胞が少数の内にも見付かりますが、復元には数が要るので、増える迄待たなくてはなりません。
[吉田]癌の場合は増殖に関与する染色体だけが残るのではないでしょうかね。Plasma
cell tumorを使って、染色体とγ-globulin産生との関連をしらべていますが、染色体数が倍加すると、γ-globulin産生量も倍加するというデータを持っています。今後、増殖と染色体との関連性も見ようと思っています。
[堀川]Hybridizationを使って、染色体レベルで倍になったとき、機能的に双方100宛のこともあり、50,50のこともあり、染色体と機能の問題はなかなか難しいと思います。癌化もgene
levelで考えられると良いのですが、これが難しいことですね。細菌などの例から見ても、DNAを直接attackしなくても、ミトコンドリアに何か着くということで逆にgeneを変えるというようなことも考えられますからね。
《佐藤報告》
(ラッテ胎児←4NQO実験系図を示す)RE-1とRE-3実験は4NQOをDimethyl-sulfoxideに溶かしたものを投与、RE-2はエタノールに4NQOを溶解した。形態学的に見ると、4NQOの影響を受けたと思われる細胞は小型で細胞質に顆粒を生じて来る。又、重なり合ふ傾向が現われる。Controlの細胞は外形質が広い。一般に認められる細胞はfibroblast
like cellである。復元動物は目下の所Tumorをつくっていない。
又、この実験で10-6乗〜10-5乗M程度が細胞の耐え得る濃度と想定できたので、5x10-6乗M(DMSO)で細胞を処理後、2、3、及び5日目に生死を観察した。
◇自然発癌:RLN-21 箒星状細胞の株を復元した例、10例中1例が復元後367日にTumorを形成した。粘液を分泌する株に見える。目下再培養して更に復元し性状を確める予定。
RLD-10及びRLN-21を含めてラッテ肝組織を起源とする細胞株8株中6株がTumor-producing
capacityをもったこととなる。
◇DAB吸収実験は目下精査中。
:質疑応答:
[永井]DABの消費がゼロになった時の細胞を顕微鏡でみると、どんな状態ですか。
[佐藤]すっかりこわれていました。
[堀川]低温では酵素が働かないのではないでしょうか。
[永井]酵素の働きを見るなら低温にして実験するのは意味がないと思いますね。
[佐藤]DABの消費が色素が蛋白に吸着することの結果なら、低温でもみられると思うのですが。
[永井]細胞レベルでの話と酵素レベルでの話とは区別して考える必要がありますね。
[勝田]佐藤班員の場合は、酵素レベルでしらべるつもりではなく、細胞レベルで、ただ細胞が増殖しない状態での消費をみたいと思ったわけですね。
[佐藤]そうです。増殖している状態で消費をみていると、増殖度が一定でないと消費量(細胞当り)が一定でなくなり、相互の比較が出来なくなるので、低温におけば細胞が増殖しない状態での消費がみられると考えたわけです。
[勝田]増殖している時期と増殖していない時期との消費のちがいを、同じ細胞で先ずしらべてみるべきではないでしょうか。それから4NQOの仕事の方ですが、何故胎児を使ったのですか。
[佐藤]培養が容易だということと、黒木班員と同じ方法で追試したいと、考えたからです。
[勝田]自然悪性化の頻度の高い胎児はなるべくさけて、新生児か乳児を使うようにした方が良いと思います。我々は乳児の皮下からfibroblastsをとっていますが、簡単に培養出来ますよ。我々の所では、なかなか細胞が悪性化しなくて困っていますが、材料にラッテを使っているからではないかと考えたりしています。ラッテの細胞というのは悪性化しにくいのではないでしょうか。
[佐藤]私の所で悪性化した系も、3年以上培養したものばかりです。悪性化するとは思いますが、しにくいといえるかも知れませんね。
《三宅報告》
発癌剤を作用せしめて、その電顕のAutoradiographyを追究するというのが私共の目的の一つでした。前回の月報でも書きました通り、その目的をはたす前にTestとしてやった電顕のphotosの方が一足先に出来ました。それはヒトの胎児の(12週前後の)皮膚をSponge-Matrixで培養したものです。Spongeがあるという事が電顕の包埋後の薄切処理に障害を残すのではないかというのは単なる「キユウ」に終りました。この頃になると(培養1週間)、立派な角質層ができていて、その下の棘細胞層も4〜5につみかさねられています。角質層の部は、切片の中に出にくかったのですが、Basal
cellsと棘細胞は、美しい像を現わしました。Basal
layerでは、まだTonofibrilesが出来ていないのです。これは成人のこの部の細胞との大きい差です。棘細胞層では細胞間にDesmosomeが作られていますが、これから細胞質内に延びるべきtonofibrilesの走行は充分ではありませんし、又このTonofibrileの上に して出来て来るKeratohyaline
granuleの形成も不充分です。それらしく見えるのはMelanin顆粒と されました。又正常の成人の棘細胞と異る所は形質が如何にも明快でOrganellaの形成の僅少なことでした。以後、20-MCAのlabelしたものについての、電顕Auto
radiographyにほぼあしがかりが出来たことを申しのべたいと思うのです。また、先般から、tubeの壁に直接、Spongeをつけて、炭酸ガス+酸素のgasで培養を行い、培養液にふれる部と、ふれない部について、37℃と30℃の下で培養しました。これでは、液に全く した所の液層が最も適していました。37℃と30℃とでは、差があって、皮膚付属器の出来上っている時期(九大の高木博士が前にしめされたハムスターの皮膚のような)では30℃がよくて、それ以前の未熟な皮膚については37℃が適当であるとの成績をえました。これから、しばらく、gasを(炭酸ガス+酸素)からNにかえること、30℃で廻転させてみて、皮膚の角化の差をみたい所存です。
:質疑応答:
[勝田]高木班員のデータでは低温低湿がよいということでしたね。
[高木]そうです。そして実験をくり返してみましたが、同じ結果を得ています。しかし、結果は正反対のようでも、三宅班員の使われた材料は、まだ本当に未分化な3ケ月のヒト胎児の皮膚であり、私の所で使ったのは生まれる直前のハムスター胎児であることを考えると、むしろ理屈にあっていると思います。
[勝田]培養内でうまく分化したものですね。in
vivoでの各時期の標本を電顕でとっておいて、培養内で分化したものと対比させてみる必要がありますね。
[高木]分化の度合いはin vivoよりin vitroの方が急速なようですね。
[勝田]どの位の期間、培養を維持できますか。
[三宅]1ケ月位は維持できます。
《堀川報告》
(実験 2)前報の(実験 1)に続いて今回は同様の方法でマウスdd/YF系(♀)(生後49日)から得たBone
marrow cellsを2群に分けて培養し、In vitroでの観察を続けることを主目的とした。第1群は70%YLH、10%Tryptose
phosphate broth、20%牛血清を含む培地でcultureし、第2群は同培地に4NQOを1x10-5乗Mのfinal
concentrationに含む条件下で22時間処理し、その後は第一群同様にNormal
mediumで継代を続けている。
Controlは培養後5日頃から細胞数は次第に減少し、しかも残存する細胞はそのsizeを次第に増して行く、一方4NQOで処理した群はその形態もそれほどに大きく変化することなく浮遊状態で細胞数を次第に増してくるようであり、培養開始後8日目において、一本のculture
bottleからそれぞれ2本のbottleにdivideした。現在培養開始後13日目になっている。
(実験 3)同じくdd/YF系(♀)(生後56日目)のbone
marrow cellsを分離、(実験 2)と同様の方法で培養を始めた。ただ、この実験では4NQOで処理する時間を2時間にとどめ、以後はnormal
mediumで継代している。継代期間中の細胞形態の変化はcontrol、実験区ともに(実験
3)のそれとほとんど同一である。
☆今後の実験としてはcontrolさらには4NQOで処理した群の細胞のtransformationの追求さらには細胞の同定が必要である。同時にいい時期に同系のマウスにtransplantして白血病を起こさせる能力があるかどうかも確かめなければならない。
:質疑応答:
[高木]4NQOで処理しない群の細胞が、だんだん大きくなって行くのは、若い未分化な細胞が残っていたのだとは考えられませんか。
[堀川]出発点では見られない細胞です。どうしてこういう細胞が出てくるのか、今の所全くわかりません。
[黒木]PHAを添加するとどうなりますか。
[堀川]骨髄系の細胞の場合、PHAを添加すると細胞が凝集してしまいます。
[吉田]細胞は増殖しているのですか。
[堀川]対照群の大きい細胞も増殖してはいますが、まだbottle1本を2本に分けられる程にはなっていません。4NQO添加群は培養開始後8日目に2本に分けられました。
[黒木]生きたままの状態で観察するだけでなく、塗抹標本を作ってきちんと細胞の同定をしなくてはいけないのではないでしょうか。
[堀川]細胞がもう少し多くなったら、ぜひ標本を作ってしらべてみなくてはと考えてはいます。
[勝田]しかし大変面白いアイデアですね。こういう系が確立できると白血病にも手がつけられますね。
《高木報告》
月報6702に報じたハムスターの皮フ移植実験のその後の経過及び4週間目の結果について。 a)adult→adultの系では6匹のうち2匹死亡、残る4匹のうち1匹に3週目頃よりgraftの部分の発毛をみとめ約4週目の現在graftはtakeされた。他の3匹には瘢痕性収縮をみとめ結局この系では1/4がtakeされた。 b)suckling→adult、この系では先般の2週目までに6匹中2匹がtakeされていたが、その後20日目頃には他の1匹にも発毛をみとめ、残る3匹は4週目の現在、瘢痕性収縮をみとめ、結局この系では3/6にtakeされた。以上の結果よりみて、ハムスター胎児又はsucklingの皮フをpanniculusと共に培養しても移植復元には差支えないものと思われる。上記のものと月報6701に報じた移植実験の結果をまとめてみると、各系とも大体半数近くがtakeされたとみられる。今後、S(suckling)→A(adult)系につき種々検討していきたい。
次にcell cultureについて、1月26日実験開始、方法は既報の如くLeo
sachsの方法に従い、4日目に継代して翌日より2日毎に4HAQO
10-3乗Mol in E-OHを黒木氏の方法に従って添加(10-3乗Molを0.08ml/8ml添加で10-5乗Molになる)し、実験群は2、4、8日間添加群及び無処置対照群の4群とした。carcinogen添加翌日にはこれまで同様Flask中央のcarcinogen通過部位の細胞は大部分剥離し辺縁部のものは対照とあまり変りなく残っている。各群からcarcinogenを除くにあたりHanks液で3回、complete
mediumで1回洗った。carcinogen添加後早いものでは2日目頃より残存せる紡錘状細胞のcytoplasmaが部分的に他細胞に重なり合う傾向がみえはじめ、その後次第に紡錘形の細胞が数を増してくるが7日目に至り、4及び8日添加群の一部にcriss-crossを認め、9日目には添加全群にこれをみとめたがあまり勢いよく増殖しているとは思われず著明なfocusも作っていない。controlは現在3Gにあるが胞体の広く拡った細胞が殆んどで増殖はよくない。
:質疑応答:
[吉田]このデータでは同腹と異腹との間に差がないようですね。これは純系度合によるのではないでしょうか。
[黒木]純系動物を使うべきですね。
[藤井]移植成功率がこの程度の動物を使って、復元実験をするということは問題があると思います。
[吉田]そうですね。ただ非常に悪性化した培養組織だとtakeされるでしょうが。そうでないとなかなかtakeされなくて実験としては大変でしょう。新生児を使うのも一つの方法ではないでしょうか。
[高木]4NQOの実験の方へ移りますが、変異コロニーはパッと出てきますか。
[黒木]毎日見ていて出てくるか出てくるかと待っていると、イライラするので5日目位に観察して、変異したかしないか決めるようにしています。ですから別に4日目にはなくて5日目にパッと出てくるというわけではありません。
[吉田]癌化した時の判定の一つにcontact inhibitionの消失ということがあげられているようですが、それについてどう考えられますか。
[勝田]判定基準の一つに含まれてもよいと思いますが、contact
inhibitionがなくなったから必ず癌化しているとは言えません。
[奥村]形態的変異の場合、どんな細胞からどんな細胞へ変るのですか。
[黒木]私の場合にはpile upするということと、増殖が早くなるということで判定しています。
[奥村]細胞レベルでの変化ですか。例えばセンイ芽細胞が上皮細胞に変るというような。或いはコロニーレベルですか。
[黒木]コロニーレベルです。
[勝田]“なぎさ”の場合には、全然別の形の細胞がcell
sheetの上にコロニーを作るのですが、黒木班員の場合もcell
sheetの上に変異細胞のコロニーをもっていくと見分けがつきますか。
[黒木](顕微鏡写真のスライドを呈示)このように見分けがつくと思います。
[奥村]しかし、センイ芽細胞様の形態のものが上皮細胞様形態に変化したのではないようですから、形態変異はあまり強調せずに増殖の方を強調した方がよさそうですね。
[勝田]これは班全体としての宿題だと思いますが、変異を問題にするからには、クロンをとる技術を習得して使いこなすようにしなくてはなりませんね。
【勝田班月報・6704】
《勝田報告》
A)4NQO類による培養内発癌実験:
4NQO類を用いたこれまでの実験を一覧表にしてみました。細胞はすべてラッテ由来、CQ-4以后はセンイ芽細胞、特にCQ-5以后は皮下組織由来のきれいなセンイ芽細胞を用いています(きれいな−とは如何にもセンイ芽細胞らしい形態の細胞という意味)。(表を呈示)。
細胞変異の出現度について記すと、どうもラッテの細胞は変異が起り難いようでdramaticな変異はあまり見られず、これならまあ変ったかなアと思われるのに、CQ-4とCQ-13があります。前者は4HAQO、後者は4NQO処理です。
CQ-13の実験は、大変面白いことには、処理のはじめから全部連続して映画をとってあることです。但し同一視野とは行きません。何故かというと、撮している視野以外のところに変異集落ができてしまったので、途中で視野を切換えたからです。1967-2-10午后(雪がふっていました)から11日午后(まだふっていました)まで24時間・10-6乗M・4NQOで処理したところ、12日午后には核の内部に網目状のfiberが見られるような変化を示し、死ぬ細胞が多くなり、19日にはほとんどの細胞が死んでしまいました。そこで20日から別視野をえらんでとりはじめたところ、26日迄の間に分裂した細胞が2コ見付かりました。2-26から3-4にかけては、分裂は起りませんでしたが、細胞が特徴のある活発なlocomotionを示していました。3-4から3-10にかけては、相変らず細胞が活発に動きまわり、criss-crossを思わせるところが認められ、そこでは小型細胞の分裂が3コ認められました。この視野では3-10から3-12までの2日間に、さらに3コの細胞が分裂しました。この日、別視野にできかけと思われるcolonyが認められましたので、そちら(周辺部)に切りかえたところ、16日までの4日間に非常に沢山の分裂がひきつづき、generation
timeをかぞえられない始末(多層になって追跡できなくなってしまう)でした。そこでその日にsubcultureし、また映画をとりはじめたのですが、まちがえてcoverslipの下の細胞を狙ってしまい、これは1回しか分裂せず、この間のフィルムは使えないことになってしまいました。3-30からまた別視野で撮影をつづけています。以上の所見を略図にかいてみますと次のようになります(図を呈示)。
B)“なぎさ”培養によるラッテ胸腺細網細胞の変異:
前回の班会議のとき、Rat thymusの細胞株を“なぎさ"状態において、固定染色してみたら、形態上明らかに変異を示す細胞が沢山現れていた事をお知らせしましたが、このときは生きた細胞を残さずに全部染色してしまいましたので別の実験で胸腺の株の各系を“なぎさ"培養してみましたところ、3/10例に約1月以内に変異細胞が出現しました。(経過の表を呈示)(RTM-1A株・RTM-1よりのclone、RTM-2株、RTM-8株よりの変異細胞の写真を呈示)。
何れも円形小型化し(細胞質が硝子面にうすく拡がらないため)、立体的にpile
upして増殖している。肝細胞の“なぎさ"のときのようにdramaticなcolony形成は見られず、いつの間にかこんな細胞が出てきた、という感じであった。グロブリン顆粒をたたえた、元のelegantな姿は消え失せてしまった。復元結果を観察中。
《黒木報告》
4月の病理学会総会で佐藤春郎教授が宿題報告「癌転移」をやるため、その準備に追はれています。2月以降に行った実験は次の6つです。
(1)Transformationの表現としての累積増殖曲線。(2)Exp.433、442、447、451のその後。
(3)4HAQOの15分間処置。(4)3Methyl 4NQO、4NQOによるtransformation。(5)normal
hamstercellsのcloning。(6)3T3のcloning。
(1)Transformationの表現法としての累積増殖曲線
transfromationのcriteriaとしては今までgrowthが活発なことと、形態の変化(pile
up)を挙げてきました。しかしただ、それを散文的に表現したのでは説得性に欠けるため増殖のよいことを累積増殖曲線の形で表現することを試みた訳です(山田正篤氏のsuggestionによる)。古いdataのHA-1、HA-2、NQ-2などをひっくり返し、第2代のうえかえ時を1として、それ以後のgrowthを累積していくという簡単な方法です。このためには、うえこみsizeとharvestのきちんとした記載、一定の継代方法が必要ですが、HA-1、HA-2、NQ-2、cl-NQ-1では、きれいなcurveが得られました(図を呈示)。controlが途中でcellが少くなるのは(累積に拘ず)うえこみsizeよりもharvestの少いためです。今後はこの方法でtransformationを表現する積りです。
(2)4NQO、4HAQOの濃度と添加方法
前号の月報に記したように、carcinogenをsuspensionでcontactさせる方法とmonolayerでcontactさせる法、又carcinogenの濃度を、4NQO:10-5.5乗、10-6.5乗、10-7.5乗。4HAQO:10-5.0乗、10-6.0乗、10-7.0乗の三段階で実験をすすめました(Exp.433、442、447、451)。現在60日程度すぎたのですが、これまでの結果では、1)Monolayer
cotactだけにtransformationが起る。 2)濃度は4NQOは10-5.5乗、4HAQOは10-5乗Mのみ有効という結果がでています。またtransformed
cellsは、CO2 incubatorを用いたときに生じやすい、or
selectされやすい所見も得られたので、目下分析中ですが、確かなことは云えません。4HAQO
10-5乗M(HA-8と略)、4NQO 10-5.5乗M(NQ-5と略)は、それぞれ発癌剤処置後28日、23日にcheek
pouchにtumorを作り剔出標本はfibrosarcomaでしたが、3wでregressしてしまいました。目下tumorの再培養と染色体の分析中です。(このような実験のときには、ハムスターが純系でないことが悩みの種です。Histologにはsarcomaなのですが、immunological
failureのためにrejectされるのでしょう。発癌剤処置後の短時間の実験は方法としてはまだ改良すべき点が沢山あります)。
(3)4HAQO 15分間処置
以前に行った4HAQO 10分間及び1時間処置は、現在までのところtransformat.していません(Exp.403)。15分間という時間は遠藤先生のE.Coli(λphage)を用いた実験で示された4HAQOの有効時間です。やり直しの実験(Exp.464)は、1匹のembryoから得られたhamster
cellsを用いて行いました。conc.は次の通りです。1.10-3乗M・・・すべてのcellがやられて剥れてしまった。2.10-5.0乗M・・・1G培養3日目に添加。3.10-4.5乗M・・・2G培養7日目に添加。4.10-5.0乗M・・・2G培養7日目に添加。5.10-5.5乗M・・・2G培養7日目に添加。
処置方法は従来のごとく、100xのconc.(1.を除く)の4HAQOをcell
sheetに直接添加し、30秒後にmed.で100xにdilut.、final
concent.にする方法です。15分後にPBSで3回、med.で1回washし、standard
med.にかえてcultureします。
現在は処理後2wですが、4HAQO 10-4.5乗Mに変化がみられました。
(4)3Methyl 4NQO、4AQOの処置
(3)の15分間処置と同じcellsを用い、併行してすすめています。10-5乗M
5回処置です。cytotoxicな作用はありません。目下かんさつ中。
(5)hamster embryonic cellsのcloning
ハムスターのembryoでcolonyを作ることができるようになりました。1,000ケまいて70ケ前後(P.E.7%)です。Petri
dishを三春P-3からFalconのplastic dishにかえたことも重要なfactorのようです。Med.もalbuminがなくとも、standard
med.20%C.S.でも5%はcolonyを作ります。しかしalbuminのときは、denseなcolony、またはfibroblasticなcolonyのみとれることなど、思いがけない所見も得られましたので、目下調べているところです。
(6)3T3のcloning
3T3の実験はcloneをとってから本格的にはじめる積りでcolonyを作るpreliminaryのexp.をすすめています。途中でCO2-incubatorの故障などで少しおくれましたが、現在までの所見では、1)20%C.S.
Eagleで30%のP.E.(これはもっと上がるはず)。2)Agar法ではseedlayerを0.3%、0.4%、0.5%寒天濃度及びcell数を100、1,000、10,000のいずれでもcolonyを作らないという所見を得ています。
4月になったらcylinder法でcloneをとり、本格的に始める積りです。
《佐藤報告》
第5回班会議6703号で、培養肝細胞株処理とDAB消費(試験管内)に就て若干述べました。今日までに判明したデータを記載しておきます。(表を呈示)
判定:細胞に超音波を与えて破壊し、DABを含む培地中でincubateしても細胞核がcountされない程度(培養しても生きた細胞が認められない)に破壊されるとDABの消費は全くおこらない。
4NQO→ラットEmbryo
10-6乗M 4NQOと投与時間の関係
4NQO 投与時間を30分、1、2、4、8、24、48、72時間後に正常培地にもどした場合、4時間迄の投与では変化に乏しい。6時間〜72時間投与後、4NQOを除去したものでは残存細胞が増殖する。今后の復元はこの辺りを目標にする。
RE-3(2代 20日目)細胞に5x10-7乗Mの濃度で4NQOを5、10、15、20、25、30日間投与し、投与后は正常培地にもどして35日間細胞の変化を観察した。20日間以上投与したものでは細胞は殆んどみられなくなるが、残存した細胞は核小体が大きくなっており、30日間投与したものでは巨大な細胞が出現している。従って5x10-7乗M濃度の実験では20日間以上の投与が必要と思われる。
動物復元は復元后最高22日で未だ結果はわからない。
《三宅報告》
試験管内で、ヒト、マウス、ハムスターの胎児皮膚に発癌物質を作用させるまでの処置と操作について、永い間の困難と低迷があった。Sponge
Matrixを用いた立体培養のみに終始したのでは、結果の見通しは、方法は異なるがHiebert(Cancer,12,633,'59)のAKマウス胎児皮膚の立体培養(Strange
way)同様、暗いものが暗示され、Matrixを鶏の血漿からCollagen
gelにかえたり、Spongeをはぶいて、組織を直接、血漿-clotやCollagenの上にのせて、表皮やその下のDermisからの細胞発育をみてきた。それは、それでもまだOrgan
Cultureから離れまいとする作業でしかなかった。どうやら、今結論敵に、plasma
clotに直接うえたものからはfibroblastが、またCollagen
gelに直接うえたものからは上皮細胞が多くでて来ることがわかった(写真を呈示)。一方では、上記の皮膚をトリプシンを用いないで、dissecting(機械的に)をやって硝子面にのせたものからは同じくfibroblastが多くでて来ることも判ってきた。いまこの最後の方法でえた平板上の細胞(マウスとヒト胎児の写真を呈示)に、4x10-6乗Mの4NQOと20-MCA(5μg/ml)を作用させたもの、及び、一方でまづ最初Spong
Cultureをおこなって、上記同様の方法で発癌物質を隔日に3回作用させた後に、これを動物に戻す方法を取り出した。このOrgan-Culture-transplantationという方法について、私共はこの間に、Pronaseを作用させて個々の細胞を平面に増殖させる方法をとらなかった。それはPronaseの入手が遅れたことと、Organ
cultureをした組織をdissectして何度も平面にまいても細胞がうまく、はえて呉れなかったという、技術上の失敗によるものであった。そのためにorgan
cultureされた組織から、出来るだけSpongeをのぞいて直接マウスの背の皮膚に戻してみた。この実験はまだ日が浅くて結果はのべられない。がこの方法については反省が必要である。古い論文であるがRous,P.が、C系マウスのembryoの皮膚を20-MCAと一緒にAdultのマウスの大腿の筋の中に戻して4週間以内という早さでPapilomaとCarcinomaの発するのをみたという、二つの実験を少しmodifyしたにすぎないのではないかという反省である。が、この古い実験での追試に近い発癌の機構については、後で、各種の方法を用いて、かえりみることとして、ともあれ、先をいそごうとしている。
《高木報告》
ハムスター胎児皮フの培養及び復元実験
器官培養開始以来の懸案であった培養組織の復元にやっと一歩を踏み出し、先ず手始めに培養1週間目の皮フを復元した。培養にはこれまでと同様C.E.E.2滴、chick
plasma 6滴からなるplasma clotを用い、30℃可及的低温にincubateした。
今回は移植に用いる為に約10x10mmと、これまでのうちでは最大の皮フ片を直接clot上に置いて培養し、carcinogenとして4NQO
10-5Mol.in Hanks.を皮フ表面に1滴滴下し、対照群にはHanks液のみを滴下して、この処置を培養開始時及び3日目の培地交換時の計2回行った。用いた組織片は妊娠末期の雑婚ハムスター胎児の背部より皮フ全層を採ったもので1匹から2片を得るのがやっとである。この期の皮フは肉眼的には白っぽく、発毛はみえないが、組織学的には1〜2層の表皮層及びその厚さに相当する角化層を認め真皮における毛嚢や、毛の発生もadultのそれとあまり変わらない程度に分化している。
7日間培養後、肉眼的には培養前に比べて幾分白っぽくなり光沢がなくなった様にも見え、in
vivoのこの時期に相当するものでは肉眼的に明らかな発毛を認めるにも不拘、培養皮フ片には少くも肉眼的には認められない。
組織学的には4NQOの添加群と対照群の間に殆んど差を認めず、相片とも2〜3層の表皮層よりなるが、細胞は可成り大型になり核も大きくなって、淡染する核質と数個の核小体を認めるようになり表皮全体の厚さは培養前に比べて2倍程に厚くなり角化層も約2倍に厚さを増して著明な錯角化を認める。この培養組織片をHanks液で洗った後、径7mmの円形のgraftを採り、adult
Hamsterの背部に作った径6mmの移植床に移植した。
4NQO群、対照群夫々4匹宛を用いたが、早いものでは移植後3週目にgraftの部分に発毛を認め、4週目には途中逃亡した対照群の1匹を除く7匹全部に白毛を認めた。
今回の実験では移植した動物の全てに白毛を生じたが、周囲が有色毛の中にgraftの大きさに相当して白毛を生じたのであるからtakeされた(?)と考えて良いのではないかと思っている。この点更に検討したい。
現在5週目であるが、4NQO処理群においてgraftの部分に腫瘤形成などの変化はまだみられない。
《奥村報告》
*ふたたび班員となるに際して
またまた皆様の仲間に加えていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。班の主題となっている発癌機構の解明は、あまりにも難問すぎて、とてもとても私ごとき学徒には手のほどこしようがありません。恐らく、これからの1年間に目ざましい成果なぞ100%期待できないと思います。
班に入るに際して、こんな弱気では途中で落馬してしまうかも知れません、よろしく御寛容の程!。昨年1年間のうちに“発癌"に関してさまざまな夢想を試みました。その中には極めてさまざまな計画があります。思考実験でけでダメになったものも数多くあります。また、一度は試みたいと思うものもあります。しかし、結論として、私ははやり“発癌"という山の裏側に廻り、発癌を成立させる因子を1つ1つ覗きながら仕事を進めてみることにしました。要するに、細胞が悪性になったかどうかという問題には一応無関心でいたいと思います。したがって、ことしは“Cell
transformation"と云う課題について実験を組んでみます。そのための小道具は次のようなものです。
Transforming factors:Simian virus 40
Rous sarcoma virus
4NQO、その他
Cells:Hamster、mouseのfibroblasts
humanのtrophoblasts、その他
以上の道具のうち出来るだけ多くのものを用いたいと思います。また、Cellは出来るだけsynchronizeした状態で用い、T-factorに対するTarget
phaseがあるかどうかを探りながら仕事をすすめてみたいと考えております。
《堀川報告》
今月の月報にはまとめて報告出来るような結果を持ち合わせていません。どの実験も丁度時間まちのところにあり、ちょびり、ちょびり報告していたのでは読んでいただく皆さんの方で理解に苦しむと考え、次号にまとめて結果を報告することにしました。この点御了承下さい。したがって今回は面白そうな文献の紹介にとどめます。
1)By Carmia Borek and Leo Sachs:In Vitro
cell transformation by X-irradiation.Nature
210:276-278(1966)
2)By Carmia Borek and Leo Sachs:The difference
in contact inhibition of cell replication
between normal cells and cells transformed
by different carcinoges.
Proc.Nat.Acad.Sci.56;1705-1711(1966)
【勝田班月報・6705】
A)4NQO類による培養内発癌実験:
◇細胞:ラッテ皮下センイ芽細胞
◇今実験の特徴:これまでの実験では、映画に撮すため、平型回転培養管を用いていたが、黒木班員の実験でもTD-40瓶を使って変異コロニーが数コだけしか出来ないのであるから、平回管では細胞数が少なすぎるかも知れないと思い、TD-40瓶を用いた。
Exp.CQ#16
(1)RSC-1株細胞(1966-9-29、生后3日雑系F1ラッテ、皮下センイ芽細胞より培養の株)
1967-3- 8:TD-40へ継代(継代第5代となる)。
3-18:10-6乗M・4NQO(DMSOに10-2乗Mにといて使用)。
24時間だけ処理。以后細胞はどんどん変性壊死。
3-25:顕微鏡写真撮影、細胞はほとんど死滅していた。
4-20:瓶の頸部近くに比較的大きなコロニーを1コ発見。観察中。
(2)RSC-2株細胞(1967-1-21、生后9日雑系F2ラッテ、皮下センイ芽細胞由来)
1967-3- 8:TD-40へ継代(継代第3代となる)。
3-18:上と同処置、同所見。
3-25:ほとんど細胞は死滅。
5- 4:コロニー未だ認めず。
Exp.CQ#17
(1)RSC-4株細胞(1967-3-23、生后4日の(JARx雑)F1の皮下センイ芽細胞由来)。
1967-3- 8:TD-40へ継代(継代第3代となる)。
4-14:上と同条件で4NQO処理。 細胞は以后どんどん変性壊死に陥った。
5- 1:コロニー1コ発見。現在観察中。
(2)RSC-5株細胞(RSC-4と同条件で培養した株)。継代、処理は上のRSC-4と同じ。
5- 1:未だコロニーを認めず。
◇以上の所見よりみて、たしかにTD-40瓶の方が効率が良さそうである。
B)“なぎさ"及びDEN処理后、高濃度DAB処理により生じた変異株の3'-メチルDAB消費能: なぎさ培養あるいはジエチルニトロソアミン処理后、20μg/mlDAB処理により多数の変異がラッテ肝細胞の培養に現われたが、これらの亜株の3'-Me-DAB消費能をしらべると、DAB消費能とは全く平行せず、両者の代謝系の別個であることが暗示された。(表を呈示)この所見は今后の展開にとって大変有益な知見であると思われる。
C)“なぎさ"→DAB高濃度処理による変異株(M)のDAB耐性:
亜株MはDAB消費能が異常に高い亜株の一つであるが、Growth
Curveをとってみると(図を呈示)、20μg/mlでも7日間に約2.4倍増えることが判った。
《佐藤報告》
4NQO→ラットEmbryoの実験
☆N-10:その後、Rat胎児を培養材料として2系列(RE-4及びRE-5)をスタートした(図を呈示)。
☆N-11:RE-5の培養6日目の細胞を使用し、DMSOに稀釋された5x10-7乗Mの4NQOを添加した場合の細胞増殖は殆ど起こらず、6日后は死んでいく(図を呈示)。
☆N-12:RE-1、RE-2及びRE-3の動物復元実験では現在まだ発癌を見ていない。
DAB発癌
先月の月報では超音波及び凍結融解で培養肝細胞を破壊してDAB消費能がどうなるか報告した。今回は培養肝細胞の増殖率とDAB消費能との関係について検索するための予備実験を行った。実験材料はRLN-10及びRLN-163。細胞増殖阻止にはPuromycinを使用した。
(図を呈示)培養2日后0.2μg/ml及び1μg/mlのPuromycinを添加、5日后0.2μg/mlを1μg/mlの増加、その1日后Puromycinを除去。培養2日后Puromycin添加。培養と同時にPuromycin添加し2日后除去。等の実験を行った。
《黒木報告》
HA-8の移植性について
3月〜4月上旬は病理学会−宿題報告にかかりきりになり、また、3月にハムスターの交配を忘れたため、胎児が得られず、新しいExp.の開始はありません。
3T3は第一回のcloningを終り現在Re-cloning中です。mass-cultureでも、colonyの形からみても、3T3はいくつかのpopulationのmixであるようです(形態学的に)。念には念を入れて、2回cloningを行い、selectionの可能性をなくしてから、exp.開始の予定です。それにしても2回cloningをすると、exp.に使えるようになるのは、2ケ月後になります。(第一回のcloning
14日、とったコロニーがsheetを作るのに10日、第2回も同じく24日、さらにExp.に使えるまでにするのに10日位growthさせる)
今回は前報で述べたHA-8(4HAQO 10-5.0乗M
5x treat)の移植性について記します。
HA-8のcumulative growth curveを示します(図を呈示)。
継代の各時期において移植を行った結果、(1)処置後28日、35日には、、h.p.及びSCでtumorを作り、histologicalにはfibrosarcomaでしたが、20日後にregress。
(2)51日には、一旦regressするように思はれたが、やがて増殖。(3)60日はregressなうgrowthです。
もっとも興味のあるのは、41日において、染色体核型に異常のないことです。
目下、tumorを作るようになった後の標本を製作中ですが、何らかの手がかりが得られるかも知れません。
このような、regression→takeのような進行の形は以前にもみました(HA-1のとき)。これが何を意味するかは、興味のあるところです。
常識的に考えて、(1)malignant cellのselection。(2)progression(細胞の質的変化)の二つが考えられます。いずれにしてもcloningが絶対必要な条件となります。(2)のときは、malignancyへのstepwiseの変化の他、surface
antigenの変化も考慮に入れる必要があります。(移植成績の表を呈示)
この細胞は、培養13日目、発癌剤の最初の処置から9日後に1アンプル凍結してありますので、これから、染色体の変化を詳しく追うことができると思います。
☆carcinogenとcellとのsuspensionでのcontactは、全て失敗におはりました。
cumelative growth curveは次回の班会議のときに示します。
《高木報告》
月報6704に記した培養皮フ片の復元後の経過について
先報では移植後4週目を終った所で7匹中全部にtakeされたらしいことを報告したが、その後6週目を終った時期の写真を示す(写真2枚を呈示)。写真1)では7匹中右の3匹が対照群、左の4匹が4NQO添加群であるが、動物によって白毛の量に幾分の差はあるが他に目立った変化はみられない。写真2)は4NQO添加群の1匹を拡大したものであるがgraftの部分の白毛は他の部位に比べて明らかに密生している。この後、8週を終る頃より4NQO添加群のみ背部の脱毛がみられはじめたが、白毛の部分では脱毛が軽度である。10週目に入り脱毛は止った様である。これらが単なる毛変えかどうか今後の結果に待ちたい。
前回と全く同様の実験を新たに開始したが、移植後2週間を経過した現在、前回同様他の部分は発毛したのにgraftの部分のみ発毛しないで残っている。
《堀川報告》
前々号で途中まで紹介した(実験2)(実験3)の経過から報告すると、
(実験2)dd/YF系(♀)(生後49日目)マウスから得たBone
marrow cellsを2群にわけて培養、第1群は70%YLH、10%Tryptose
phosphate broth、20%牛血清を含む培地でCultureし、第2群は同培地に4NQOを1x10-5乗Mのfinal
concentrationに含む条件下で22時間処理し、その後は第1群同様にnormal
mediumで7〜10日おきに培地交換して継代を続ける。
Controlの方は培養後次第に細胞数が減少し、cell
sizeも次第に増大していく。そして培養開始後50日前後にはほとんどの細胞は退化して消失して行く。一方4NQOで処理した群はその形態もそれほど大きな変化もなく、継代されて行く。その間、細胞数においてもそれほど大きな増加もみられないが、そうかと云って減少することもなくほとんどconstantに保たれて行くようである。このことは換言すると4NQOで処理した群はinactiveではあるが、常にあるcellは分裂して細胞数を増し、medium交換のさいに失われるcell
numberをおぎなっていると考えてもよさそうである。培養を開始してから丁度50日目においてdd/YF系(生後21日目)に復元する。controlの方は死細胞(?)も含めて187万個cells/mouseの条件で2匹のマウスに、また4NQO処理群も187cells/mouseの細胞濃度で4匹のmouseにもどす。復元後31日になる今日になってもcontrol、4NQO処理群ともに白血病で倒れるものは一匹もみられない。またそれらしき症状を呈するものはまだ認められない。
(実験3)dd/YF系(♀)(生後56±1日目)のマウスのBone
marrow cells分離、(実験2)と同様の方法で培養を始めた。ただ、この実験では4NQOで処理する時間を2時間にとどめ、以後はnormal
mediumで、7〜10日間おきに培地交換して継代を続けた。培養開始後59日めに、Bacterial
contaminationをおこして残念ながら放棄した。
培養59日間における細胞の変化は逐次photgraphsにもとらえたが、controlおよび4NQO処理群ともに(実験2)とまったく同じであり、大きな差異は認められなかった。
(実験4)dd/YF系(♂)(生後35±1日目)マウスのBone
marrow cellsを分離、これを前回同様2群に分けて培養、第1群は70%TC-199、10%Tryptose
phosphate broth、20%牛血清を含む培地でcultureし、第2群は同培地に4NQOを1x10-5乗Mのfinal
concentrationに含む条件下で2.5時間処理した。その後は第1群同様にnormal
mediumで7〜10日おきに培地交換して継代を続ける。
4NQO処理群は培養経過とともに(実験2)(実験3)で示したとまったく同様の様相を示すが、controlの方はやや異っている。勿論次第に細胞数は減少してくるが、それ程に顕著ではなく、大半の細胞はガラス壁に付着して生存を続けるようだ。そのことはaciveなmedium
colorの変化から推測し得る。またこれらの事実は(実験4)で使用したmediumがBone
marrowcells cultureのために(実験2、3)で使ったそれよりさらに適していることを示している。
こうして継代47日後にcontrol cellsは380万個cells/mouseの条件で、500R照射した生後23日目のdd/YF系マウス3匹にかえす。また一方4NQO処理群は760万個cells/mouseで500R照射した同6匹のmouseにかえした。さらに500R照射したmouseで無処置のもの(細胞を返していないもの)をもう1つのcontrolとした。今回500R照射したmouseをhostに用いたのは、返したBone
marrow cellsの体内増殖をactiveにし、白血病化を容易にする目的と、さらにはBone
marrow deathに対する長期培養されたBone marrow
cellsのfunctional activityをtestすることにある。だが復元後11日になる今日まで上記の目的を果し得るなんらの結果も得られていない。
以上が今日までに得られている結果であるが、発癌への積極的な手がかりが得られていないのが現状である。
《奥村報告》
1)Human trophoblastsの培養
昨年からはじめている仕事で、現在までのところ継代細胞系6種を得ている。cultureは種々条件を検討した結果、199にcalf
serumを30%に添加した培地を用い、単層培養、材料は週齢6〜12の物を用いた。Prim.cult.時の植え込み細胞数は10〜100万個cells/ml10%CO2ガス下では1000コ/mlまで落すことが出来る。細胞の増殖度は未だ不安定であるが、大体2〜3/2週、seed時のlag
phaseは継代時によって異るが、我々の培養条件下では、約40〜60時間(H3-TdRがとりこまれはじめる時間)。しかし、継代7代目頃からは30〜40時間に短縮。
2)継代培養におけるtrophoblastの性質
継代3代目頃まではepithelial cellが大部分であるが、その后spindle-likeの細胞が出現。しかし、いづれの場合でもconfluent
sheetの状態ではcotact inhibitionがきく。この細胞系の最大の特徴は、培養開始后長いものでは4ケ月近くになるが、いぜんとして、ホルモン(HCG)を分泌し続けていることである。(ホルモン産生能はimmuno-assayとしてsero-test、又bio-assayによって確認)
3)SV-40ウィルスによるtransformationの実験
この継代trophoblastsにSV-40(PFU 10-8乗/0.2ml)を0.1〜0.2ml/10万個cellsでinfect.させると、少くとも3〜4週后にtransformed
cellを見ることが出来る。現在なお進行中。
《三宅報告》
1)前回に記したd.d系マウスの胎児皮膚をOrgan
Cultureをして、4NQO及び20-MCAを、作用させたものを、再び動物に戻したものは、いまだ移植部位に腫瘤の発生を、みない。
2)ヒト胎児皮膚のOrgan Cultureをしたものについて培養后、3日目、5日目、7日目に最終濃度4x10-6乗M
4NQOをさせたもの、及び20MCA 5μg/mlを1週間連続に作用させたものについて組織所見をみると夫々次のような変化がみられた(写真を呈示)。
図1は4NQOを3回、30秒はたらかせた後、2週間に亙って培養を続けたものである。表皮の増殖は著しく、角化も甚だしい。-----
reteの部には壊死は認められないばかりか、ここに分裂像がみとめられる。ことに目立った所見は表皮下のDermisであって、fibroblastは緻密なまでに増殖し、核は大きく、またHyperchromatismを呈していることである。図2はその部の強拡大である。図3は20MCAを1週間に亙って5μg/mlの濃度で作用させたものである。みられる通りの表皮及びDermis共にNecrosisが強い。
【勝田班月報:6706:ハムスター胎児細胞の培養内自然悪性化】
《勝田報告》
A)“なぎさ”→DAB処理により生じた変異株MのホモジネートのDAB代謝の測定:
ラッテ肝由来の変異株MはDAB代謝能が異常に高いので、その代謝酵素を分離すべく、Cell
homogenateのレベルでの代謝能をしらべているが、今回はJBC.176:535,1948に記載されたMueller,G.C.
& Miller,J.A.の反応液を試用してみた。(組成表を呈示)
原法では肝組織のhomogenateなので、10%にできるが、こちらは培養細胞なので、500万個/2mlにsuspendしてhomogenizeし、これを約200万個/0.8mlで用いた。添加量は0.8mlである。
37℃ for 30〜60min.加温というのが原法であるが、我々は2.5時間37℃で加温、20%TCA
in aceton-EtOH(1:1) 3mlを加えて反応を止め、発色させ、520mμのO.D.を測った。結果は稍減少が認められたが、原法の1/10〜1/100の細胞数なので、もっと減少をはっきり掴むためには反応時間を延長させるか、細胞数をふやす(きわめて困難であるが)ほかはないことが判った。
B)4NQOによる培養内発癌実験
a)TD-40瓶による実験
Exp#CQ16:1967-3-18 ラッテ皮下センイ芽細胞の培養、TD-40・2本の培地に4NQOを10-6乗Mに添加、24時間加温後通常の培地にかえた。細胞の変性壊死が目立ったが、その内の一本に4月20日に新細胞集落を発見。集落は一コの独立集落ではなく、比較的小さな、いくつかの塊の集合であった。細胞は比較的小型で、無方向性に多層性に配列していた。5-21継代し、ラッテに復元接種を試みるべく、目下細胞を増殖させているところである。(顕微鏡写真を呈示)
Exp#CQ17:同じくラッテ皮下センイ芽細胞の継代第2代(CQ16は第5代)のTD-40瓶・2本に1967-4-14、4NQOを3x10-6乗M、1時間加温の処理を加えたところ、5-1にその内の1本に新細胞集落を発見した。やや小型で顆粒の多い細胞から成り、十字状にきわめて多層に増殖していた(写真を呈示)。5-21継代。復元接種準備中である。
b)顕微鏡映画撮影による長期観察(Exp#CQ13)
ラッテ皮下センイ芽細胞の培養、平型回転管(coverslip入り)1本を1967-2-10、4NQO
10-6乗Mで24hr処理したが、添加直後より撮影を開始し、毎2分1コマの間隔で34日間連続撮影した。培地交新の都度、同一視野あるいは別視野を撮した。第0日より第1日まで4NQO処理、第2〜3日に死ぬ細胞が多く、第3〜10日には視野内の細胞はほとんど死んでしまった。第10〜16日に分裂1コが見られ、第16〜22日には細胞の運動が目立ちはじめ、第22〜28日にはきわめてよく動き、小型細胞の分裂も3コ見られた。第28〜30日にも分裂3コ。第30〜34日に、できかけの集落と思われる部位の周辺を狙ったら、小型細胞の無数の分裂が認められた。その後この細胞を復元接種したが、ラッテに腫瘍は形成されなかった。
:質疑応答:
[黒木]形態的には自分のところの変異細胞ととてもよく似ていますね。
[堀川]処理後4週も経ってまだこわれる細胞のあるのは、まだ薬剤の効果が残っているのでしょうか。放射線の場合などは、もっと早く片がつくと思いますが・・・。
[勝田]Cell cycleのまわり方にすごいdelayが起って、あるところまで廻って死ぬのかも知れませんね。
[黒木]形態の変異よりおくれて悪性度が出てくることがありますから、映画の細胞ももう少しすると、つくかも知れません。
[奥村]変異細胞の出現頻度が低いというのは、むしろ変異の幅が狭いことを意味しているのではないでしょうか。また、分裂が関与しなくても、もっと分子レベルでの変化が先行することも考えられます。
[吉田]映画で核小体の大きいのが見える時期があって面白いですね。
[黒木]ハムスターでは、変異は1カ月で見られ、悪性化は2カ月で判ります。
[勝田]変異が先行するというのは、まだ変異の方向が一定していないで、その後培養内で淘汰されて行くのが悪性度の高い細胞だということでしょうかね。
[安藤]変異した時、悪性と良性の細胞が混っていて、それがしだいに選別されるのか、或は悪性まで行かなかったのが以後の培養期間中に悪性化するのか、沢山実験してみれば判る筈です。
[勝田]変異の時期で細胞をばらしてまいてcoloniesを作らせ、夫々のclonesをしらべればよいが、大変な仕事です。
[安藤]変異した細胞が全例悪性とは限らぬ−ということは確かですか。
[勝田]黒木班員の場合、1例takeされないのが出来たわけです。
[吉田]形態変異と、悪性化、という風に言葉を区別すべきでしょうね。映画の最後のカットで、分裂の多い時期、あのときは変異が一杯できているでしょうね。
[勝田]Leo Sachsたちの、放射線による変異細胞が、はじめはハムスターに腫瘤を作るが、やがてregressしてしまう。あんなのも悪性化といっていいんでしょうかね。
[黒木]私はこのごろあれも悪性化と思うようになりました。少し甘くなった。最近DABの誘導体で皮下にうって肉腫を作ったのを見附けました。(Miller
& Miller;Pharmacological Review,18(1):805-838,1966)。喰わせて発癌させるのでは、どういう分解産物が効くのかまで考えなくてはならないので、こういう直接的作用のあるものを使う方が良いですね。
《黒木報告》
今回は次の事項について報告します。
1.hamster whole embryo cultureのcolony形成について、特にalbumin
med.について
2.treated cultureのcolony
3.3-methyl 4NQO、4HAQO及びsuspend contact
with carcinogenのcumulative growth
4.4NQO、4HAQOのdoseをかえたときのcumulative
growth curve
5.15分間処置のcumulative growth curve
6.spontaneous transformation(Zen-4)について
1.hamster whole EmbryoのColony形成いついて
前号の巻頭言の「変異か淘汰か」の問題にとりくむためにも、また、colonyの形態からtransformationを判定し、transformabilityをcountするためにも、正常細胞のcolony形成実験は重要な意味をもちます。
そこで、次の条件で“normal cells”のcolony形成実験にとりくみました。
1.細胞:4〜7日培養したhamster whole embryonic
cells(初代pronase digestionによる)
2.培地:20%BS添加(orCS)albumin med.又はEagle
MEM(albumin med.はbovine alb.fract.V 0.75%
& Bacto-peptone 0.1%を含むものです)
3.Petri皿:Falcon Plastics、60x15mm or 35mmx10
4.Feeder cells:20日間程度培養したBALB/Cの胎児細胞をsuspendedの状態で5,000r(コバルト60)かけ、10万個/dishにまき、1〜2日後にhamster
cellsをseedする
§Exp450§
この実験ではalbumin med.を用いて、feeder
layerの検討を行った。また、次に示すHA-8、NQ-5のcontrolでもある。(表を呈示)feeder
layer(+)10,000個/dは数えきれないcolony(正確に云えば、colonyの間もcell
sheetで、colonyであるとはっきり云えない)が生じたが、feeder(-)10,000個/dのcolony数はfeeder(+)1,000/dにほぼ匹敵し、それぞれ、1.0%、6.0%前後である。他の実験でもfeeder(+)1,000個/d≒feeder(-)10,000個/dの関係が認められた。これは後者ではcolonyを作り得ない細胞が丁度feeder
lay.の如く働いていることを示すのかも知れない。
colonyの形は(スライド及びpetri dish供覧)比較的transformedの如く“dense”にみえる。しかし、実体顕微鏡等により詳しくみると、colonyの1/4は方向性をもったfibroblastのcolonyから成っていることが分る。残りの3/4はflatの細胞のcolonyであった。このセンイ芽細胞から成るcolonyは細胞の増殖が極めて活発であり、かつ方向性を保ったまま重るためにdenseにみえるのであろう。random
orientationのcolonyは、total 434ケのうち、1例もみられなかった。
しかし、このように“dense”のcolonyが出現することは、transformationのかんさつを困難にすることが明らかである。
そこで、oriented fibroblastsはalbumin med.により特異的に選択されるのではないかという予想のもとにalbuminとStandard
med.の比較をおこなった。
§Exp465§
この実験ではfeeder layerを用いずalbuminとstandard
med.の比較に限った。Falcon Plasticsの35mmφPetri
dishを用いた。
(表を呈示)colonyの数はalb.でもstd.med.でも、また1,000個/dでも500個/dでも大差はないが、albuminの方がsizeは大きく、また形もそろっている。
fibroblasticのcolonyはalbumin med.では1/7に認められた。しかも、この細胞は増殖がよく、前回のExp.と同様にdenseにみえるものもある。std.のmed.では、fibroblastic
colonyは少く、またgrowthもalbuminよりは低く“thin”である。
現在、さらに、feeder layer、albumin med.、standard
med.の組合せで実験が進行中である。予備実験の結果からstandardになるようなcolony形成法をみつけ出し、cloningなどの実験に入りたく思っている。
2.発癌剤処置のコロニー
前回のExp450と同時に行った。
細胞はHA-8:発癌剤処置9日、終了直後。NQ-5:4NQO
10-5.5乗M4日、終了後5日。
(表を呈示)colony形成率、そのうちのoriented
fibrobl.のしめる割合はcontrolと大差がない。しかしcontrolにはみられなかったrandom
orientation colonyがみられた。
このcolonyの形は、Sachsらのいうtransformed
colonyと同一のものか、あるいは、発癌と関係あるものかは、現在のところ不明であるが、一応transformed
colonyとして扱うと、4HAQOでは10-4乗、4NQOでは10-5乗でtransf.していることになる。
これが正しいかどうかは、更にいくつかの実験により確かめる必要があろう。
残されたもう一つの問題は、ここに示したrandom
orientat.のcolonyが本当に悪性化に連るものかどうかである。というのは、HA-8が悪性化したときのcolonyはrandomというよりは、むしろ方向性のある配列を示しpile
upしているdenseなcolonyだからである。
この問題は、このcolonyをひろってさらに継代する膨大な実験によって解決されるものと思はれる。(colonyの写真を呈示)
3.4NQO、3-methyl 4NQO処置細胞について
transformationであることの証明には、いくつかの事項が考えられますが、例えば、
1)そのagentにより再現性をもってtransformationすること
2)そのagentのmarker(例えばvirusにおけるT-抗原)を有すること
3)agentのdoseとresponseの間に一定の関係のみられること
4)Spontaneous transformationと、はっきり区別のつくだけ十分な時間の差異をもっていること
5)cloneを用いた実験に成功すること
6)clone分析により遺伝的に安定であることの証明
7)他のsystem(例えばin vivo)のdataとよく一致すること
ここで最後の項目は必ずしもtransformationの確証とはなりませんが、重要な所見となることは確かです。
そこでin vivoで絶対に発癌性がないことが明らかであり、4NQOの対照としてふさわしいものを国立癌センターの川添豊氏に選んで頂き、またsampleも少量恵与して頂いた。10-5乗Mの濃度で5回処置を行ったが、transformationは得られなかった。(図を呈示)
この物質は全体に毒性も少く、10-5乗Mでもcytopathic
effectはなく、また“early changes”もみられなかった。この実験から、4NQO及び4HAQOによるtransformationはその物質の発癌性によることが強く示唆された。
4.浮遊状態の細胞と発癌剤の接触
ウィルスによるtransformationは、virusと細胞をmonolayerかあるいはsuspended
stateのどちらかで接触感染させている。これはvirusのとりこみが細胞のpinocytosisによるため、両者の衝突の頻度(確立)が感染率を決定するというvirusの特異性によるのかも知れない。しかしchemicalでもsuspended
stateの処置がいくようになれば、技術的には一つの進歩であると思はれるので、次の実験を行った。
logarithmicに増殖している細胞を0.025%pronaseで剥離し、培地中に10万個/ml〜50万個/mlにsuspend、種々の濃度の発癌剤を加え、37℃で2時間振盪した。2時間後、遠心により発癌剤を洗い、TD-40に培養した。結果は、4HAQOでは、細胞の変性、criss-crossなどのEarly
changesさえも全くみられなかった。
細胞の変性のほとんどみられないのは、4HAQOが毒性の低いことの他に、不安定であるためであろう。(図、表を呈示)
結局、4NQOは非常に毒性が強く、ほとんどの細胞がやられてしまう。
この方法が全て失敗した理由としては、transformationに向う変化よりも、細胞の死に到る変化の方を強く起すことによるのであろう。
また、細胞からみても、damageを受けたうえに、さらにガラス壁に附着しなければならないことになり、selectionの機会が一つ増えることになる。
以上の理由から、4NQO、4HAQOは、suspension
contactでtransformしなかったものと思はれるが、今後、処置時間を短かくするなどの方法ではtransformationにもっていけるかも知れないと思っている。
5.4HAQOのdose-responce-relation ship
4HAQO 10-5.0乗M、10-6.0乗M,10-7.0乗Mの3段階、各5回9日間処置により、transformationの成否をみた。結果はcumulative
growth curveで示すように、HA-8のみがtransformした。10-6.0乗M、10-7.0乗Mは、controlと同じようなgrowth
curveを示した。なお、このHA-8は前号の月報に示したregression→growthの経過を示した培養細胞である。(図を呈示)
6.4NQOのdose-response relation shipについて
4NQO、10-5.5乗M,10-6.5乗M、10-7.5乗Mで調べた。10-5.5乗Mは2回処置のとき、cell
damageが強いので以後の処置を中止した。他は4HAQOと同様に5回9日間つづけた。(図を呈示)cumulation
growth curveでは、10-5.5乗M処置のNQ-5のみがtransformした。興味あるのは、NQ-5が培養27日、発癌剤処置後23日で動物移植によりfibrosarcomaの像を示したがregressしたことである。
またNQ-5のcumulative growth curveに変曲点の認められることも、興味をひく。とくにhistologicalにmalig.featureを示しながらも、in
vitroの増殖が次第に低下し、そのあとで“transformed
focus”が出現して、growthが急速に上昇したこと、さらに、focus出現後も、動物に移植するとregressすることは、増殖能と悪性化は分離して考えるべきものであることを示唆しているように思はれます。今後、経験を重ねるに従って、種々のtransformationの様相が明らかにされ、そこから何らかの知見がひき出されるように思はれます。
また、以上の実験で、dose-responseがはっきりしないように(doseがcriticalに働くように)みえますが、これは、1/1、0/1の判定基準ですので、さらに多くの例を重ねる必要があると思っています。
7.15分間処置によるtransformation
4HAQOはneutralで15min.で失活するという遠藤さんのdataから考えて、4HAQO
15分間処置でtransformが起るように思はれました。
そこで、短時間処置によるtransformationを、くり返し試みてみたところ、cumulative
growth curveでみて、濃度を3倍上げた10-4.5乗M群にのみ、transformationがみられたのです。(図を呈示)
(なお10-4.5乗Mは24h.処理すると、細胞は強く傷害を受け、増殖不能になる。このことは、4HAQOが15min以上、少なくとも細胞にdamageを与えるという活性は保持していることを示している)
このHA-15はvacuolusをもったcellとfibroblastの共生状態がつづき、pile
upの傾向も少いようです。まだmalignantにはなっていません。
さらに経過を追う必要がありそうです。
8.Spontaneous transformationについて
hamster whole embryoを培養すると、増殖はやがてとまり、fibre、meshwork
arrangementなどの変化がおこること、また、このようなlimited
life spanがtransformation(induced)のselectionに対して都合のよい条件であることは、すでにくり返しのべてきました。これに対して、一部では「establishできないような培養法」は、悪い条件の培養であるという考え方もあり、establishする培養法にきりかえるべきであるとの意見も聞かれた訳です。(この考え方には少し疑問があります。機能を維持する培養、あるいは目的に沿った培養法が、establishすることよりも重要なのではないでしょうか)
4NQO-transformationの対照細胞はすべてgrowthが止っても、定期的にmedium
changeをつづけ、経過をかんさつしてきたところ、そのうちの一つZen-4が培養後311日にestablishしました。
この細胞のhistoryを少し詳しく記します。
1966.3.5 explant outgrowthで培養
3.10 liquid airに凍結保存
6.24 liquid airよりthawing、凍結106日(thawingのときの細胞生存率85%)
7.3 第3代
7.9 第4代
7.15 第5代
7.22 第6代、以後うえかえせずに1967.5まで維持(増殖はみられなかった)
1967.4.26 focusを発見、継代、以後denseなlayerを形成し、活発に増殖
5.4 染色体標本
5.4 移植→sarcoma
以上の結果から、hamster胎児細胞は300日以降にはSpontaneous
transformationの起る可能性のあることが明らかになりました。
従って、induced transformationは100日以内に起させないとまずいようです。
:質疑応答:
[奥村]あのスライドのcoloniesの写真は培養何日位ですか。
[黒木]12日頃です。
[奥村]それであの大きさでは、初めが1コではなく100コ位づつかも知れませんね。
[勝田]映画をとっていて思うのですが、2〜3コの塊からはすぐどんどん増え出すのに、本当の1コからは仲々生え出してきませんね。
[吉田]Mutation rateは普通は10-6乗位のorderです。10-3乗位というのは4NQOが変異に有効に働いていると思いますね。
[安藤]細菌だと10-8乗位ですが、薬品を使うと10-2乗位にまで上げられます。
[奥村]一つのcolonyがいくつ位の細胞から出発しているかを考え、あの数値は1order上げておいた方が良いのではありませんか。
[黒木]3T3が変異の最高で60%位にもなります。
[勝田]Mouseのfeeder layerを使うと、それとのHybridができてしまうのでは・・・。
[黒木]Feederを使わないと細胞数を10倍位にしなくてはならないし、出発が1コでないという問題も起ります。
[奥村]Conditioned mediumを使うことを検討すべきでしょうね。
[勝田]復元したらtumorを作ったがregressし、その後は本当にtakeされたという、その2時期の間に細胞は何回位分裂した計算になりますか。
[黒木]10回位でしょう。
[堀川]はじめの頃は対照群が300日も保たなかったわけですね。若し300日保てば自然悪性化してしまうものかどうか・・・。
[黒木]この1例だけですが、とにかく300日たったら悪性化していたわけです。とすると実験は100日以内に勝負をつければよいと思います。
[奥村]100日でも長すぎるのではありませんか。
[堀川]4NQOが悪性化を促進しているだけですか。
[黒木]発癌剤というものは、そういう働きを持っているのではありませんか。
[佐藤]DABの実験からも思うのですが、発癌剤は発癌を促進またはselectするのだと思います。
[奥村]発癌のためにはどの遺伝子を何回どう叩けばよいかがはっきるするような実験法を用いるべきでしょう。
[黒木]現在の時点でそんなことができますか。実験法について色々検討したのですが、Rafajko,R.R.:JNCI,38:581-591,1967にHamster
whole embryoにAdenoをかけるのに、5%炭酸ガスを使うと変異が非常に高率になるといいます。炭酸ガスフランキは癌化に何らかの役目を果たしているのではないでしょうか。
[奥村]自分の所で自然悪性化した例は、みな炭酸ガスフランキで培養したものです。
[黒木]できるできないではなく、頻度が上るのではないでしょうか。
[勝田]私のところで仲々癌化しないのは、炭酸ガスを使わないためですかね。
[吉田]炭酸ガスが変異の頻度を上げるということを蚕で実験している人があります。
[安藤]炭酸ガスで変異促進というのは、培地のpHを下げるという意味もあるかも知れません。他のmildな酸で酸性にしてみたらどうでしょう。
[奥村]pHを上げないようにすると自然悪性化の頻度を上げられると思います。
[堀川]こういう発癌とウィルス発癌とは同じ機構でしょうか。
[奥村]同じとは云えないが、似ていることもありますね。昔ウィルス発癌がうまく行かなかった頃の条件をしらべてみると、pHが高すぎたようです。
[堀川]変異のprimaryの変化は、duplicationの時のbaseの読みちがいですか。
[安藤]そうですね。たしかにbase changeでしょうね。
[吉田]4NQOは吉田肉腫に与えるとheterochromatinの部分を特異的にattackします。
[黒木]特異的といっても細胞質だってやられるでしょう。
[堀川]それは放射線でも同様です。
[奥村]Synchronous cultureでやってみると、もっとどういう時期にヒットするか判るでしょう。
[吉田]染色体レベルでみて、SでもG1でも染色体異常は起らず、G2期にあったものだけが異常を起すということを、私は発表しています。
[安藤]Double-strandのDNAにはよくつくが、Sinleではつかない。その考からだけ行けばG1、G2両方に効くように思えますが・・・。
[勝田]生化学者にしても染色体研究者にしても、或薬剤が効いたということのcriterionとして、DNAがきれたとか、染色体に異常が起ったとかを重視していますが、それで良いのでしょうかね。むしろそんな細胞は増えられずに死んでしまい、別のが増えるのではないでしょうか。
[堀川]染色体レベルの変異をみるのならhybridのやり方を採用するのが良いと思いますね。
[奥村]黒木氏の今の目的は変異の機構を整理したいのか、悪性化させたいのか、どちらですか。前者ならSynchro.など、後者ならそれだけに攻め方をしぼるべきでしょう。
[勝田]過程としては処理後、変異→悪性化となる、その変異のところでcloningをやって悪性化への過程をしらべることも必要ですね。
《高木報告》
1)2つのハムスター培養皮フ片の移植実験について
月報6704及び6705に報じた2つの実験群で相方とも同じ培養条件を用いた。即ち培地としてはC.E.E.2滴、chick
plasma6滴からなるplasma clotを用い30℃可及的低湿にincubateした。用いた移植片は生直前と思われるハムスター胎児の背部及び側腹部より皮フ全層を取り、約10x10mm角に切り直接clot上に置いて培養した。carcinogenとして4NQO
10-5乗Mol.in Hanksを皮フ表面に1滴滴下し、対照群にはHanks液のみを滴下してこの処置を培養開始時及び3日目の計2回行った。
培養後7日目の皮フ片は非常に健常に保たれており、これらより7mm径の移植片を切り取って成熟ハムスターの背部に設けられた6mm径の移植床に移床した。
第1回目のものでは4NQO群4匹、対照群3匹の全部に移植後4週目に移植部位に白毛を生じた。白毛を生じた部分の範囲は各個体により夫々径7mmから2〜3mmまでのばらつきがある。8週目頃より4NQO群では背部に毛代えと思われる脱毛がみられ、かなり高度の脱毛を呈したが、白毛の部分だけは脱毛は軽度であった。
11週目にはこの脱毛も殆んど恢復し、現在14週を経過したが、対照、4NQO群とも白毛は充分維持されている。両群とも白毛部の皮フに腫瘤形成や、皮下との癒着などの変化はみられず、動物は元気である。
第2回目のものも全く同様の方法で培養されたものを同様に移植したが生残った対照群4匹、4NQO群6匹のうち4週目には対照群3匹に白毛を生じ、4NQO群3匹に白毛、1匹に褐色毛を生じた。その後対照群の残る1匹に白毛を生じ対照群は全部発毛した。結局2回目の実験では10匹中8匹にtakeされた?ことになる。7週目を経過した現在、対照と4NQO群の間に著明な差はみられない。2回の実験を通じてみて現段階では培養皮フ片の移植成功率の高いことと、take?されたgraftが白毛を生ずるらしい点が興味深い。尚、今後は培養片の移植率に関する対照の意味で培養しない胎児皮フの移植、又適当な純系動物を用いての移植実験を是非行いたい。
2)cell cultureによる発癌実験として、ハムスター胎児がなかなか生れないので、ratのthymusから分離したfibroblasticなcell
lineに4NQOを作用させたが、10-6乗Mol以上の濃度では、24時間作用させただけで翌日から細胞の障害が強く現われ、1週間後には殆んど完全に細胞は無くなって了う。一方、10-8乗Mol以下では3日間作用させたのち、10日経っても何の変化もみられなかった。従って今後は10-7乗Molを中心に検討してみたいと思う。
:質疑応答:
[三宅]白い毛が生えたことについてですが、組織標本はありますか。
[梶山]まだありません。
[藤井]皮膚移植ではそういうことがあります。神経を切ってしまうためでしょうが、C57BLでも白毛が出てくることがあります。
[勝田]移植直前まで発癌剤を添加し放しでは、発癌剤のついたまま移植することになります。
[加納]Autoの動物に戻したらどうですか。
[藤井]この実験は、つきすぎる位よくついています。培養したためでしょうかね。技術的に云いますと、もっと大きなgraftを使った方が良いと思います。
[黒木]発癌実験をcell levelでなくorgan cultureでやる利点は何ですか。
[三宅]組織として、夫々の細胞集団での変化が見られます。
[勝田]組織レベルでの変化を見て、復元してまた組織学的に検討できます。その意味で、組織像をみていないのはうまくありませんね。
[藤井]培養したバラバラの皮膚の細胞を移植するという技術も開発されています。ハムスターは雑系ですから、マウスの純系を使って実験した方が良いと思いますね。
《三宅報告》
試験管内での発癌が変異であるのか、それとも混在していた既存の悪性乃至は準悪性の細胞のSelectionによるものかという、前回の月報の巻頭にかかげられた言葉は私達、胎生のOrganを対象に用いるものにとっても、大切なsuggesionであると考えた。Organizeのpatternでの悪性腫瘍に馴れて来た私達が、良性の細胞のComponentから出来ていると信じきっていた胎生の組織の中に悪性か、それとも、まことに不安定(形態学的にも、機能的にも)な細胞を、それと名ざすことは、まことに困難であるが、皮膚という組織の構成成分について、そのどれが最も不安定な細胞であるかを、推察することぐらいのことはできそうである。
皮膚の表皮では解剖学的にはBasal layerのみでしか分裂をみることがないこと、これを培養に移すと、角化という現象は、素晴らしい勢でのびるがDowngrowthが無いこと、又この上皮性細胞はDedifferentiationという言葉で示される通りアメーバ様の性格を持って来るが、決して異型性を示さぬこと、またもっと大切なことはBasal
layerの細胞が僅少であることなど、4NQO、MCAの添加によっても、こちらの目的通りには、動いて呉れない、と考えるようになった。所が表皮の下にあるdermis以下の細胞−それは神経もあり、血管もあるが、その主体となるfibroblast
likeな細胞は、Andresen(J.N.C.I.,38,169,1967)によるC3H発癌実験でも知られる通り、すこぶるmultipotencyを持っていて、C3Hの前眼房の中に戻されると、骨や軟骨を作る性格をあらわして来る。私達の皮膚のOrgan
cultureでも4NQO(10-6乗M/ml)を黒木氏の方法で作用させたものでも、表皮は極めて温順で角化を示す反面、fibroblast
likeの細胞は核の大さが増し、Hyperchromatieになって、細胞の濃度も増して来るという具合いにAtypismを示して来るのである。もちろん、これだけで悪性云々の言葉を、さしひかえるべきであるが、今これにH3-TdR、H3-Ur.、H3-Conpundをtakeさせる、一方でHeidelbergerの方法に従って、platingをやるかたわら、動物に戻す実験を行いつつある。
Fibroblast like cellという細胞系といっても、まことにアイマイな表現になることを、おそれるが、胎生のWharton's
jellyを作る細胞というようなものに関連のふかいものと、お考えいただき度い。
:質疑応答:
[吉田]Epidermisの細胞がsponge内に入りこんでくるのはorientationを失った為ですか。またそういうものが悪性化とつながりますか。
[三宅]初期段階としてはそう考えたのですが・・・。
[勝田]Heidelbergerのように、あの変異したようなセンイ芽細胞をcell
cultureに移してふやし、復元してみたら如何ですか。彼の場合は上皮性の変化があったのに肉腫になりましたが。
[三宅]今試みております。上皮性のものでも肉腫状所見を呈してもかまわないと私は思います。
[黒木]あのセンイ芽細胞はcell cultureすると、criss-crossを呈するんではないでしょうか。それから溶媒としてプロピレングリコールも良いと思いますが。
[吉田]あれは毒性がありますよ。新生児には無理でしょう。
[奥村]ホルモンの実験に使った限りでは、培地でうすめると細胞にあまり影響はないようです。
[勝田]Sponge中へactiveに入って行く細胞の方が、より悪性、ということはありませんか。
[三宅]今まであまりしらべてみて居ません。なお瓶は5%炭酸ガスを入れ、ゴム栓をしています。
《佐藤報告》
◇RLN-187細胞及びRLN-E7細胞を使用してPuromycinで細胞増殖をおさえた場合、DAB吸収(48時間1細胞)がどの様に変化するかを実験しました。
1)Puromycinで増殖を阻止し破壊した場合にはDAB吸収は寧ろ増加する。
2)0.2μg/ml、Puromycin2日後、Puromycinを除いて増殖を亢めてもDAB吸収には余り影響がない。
3)細胞崩解の方法をうまくやれば細胞増殖に関係なくDAB吸収をおこすことが出来そうである。
◇DAB発癌
3'-Me-DABをdimethylsulfoxideに溶解して培養肝細胞に添加する方法で20μg/ml1ケ月位で形態学的な変化がおこるが未だ復元までいっていない。
◇4NQO→ラッテ
N-13:4NQO→生れる直前のラッテ胎児肺。
トリプシン法でprimary cultureして2日目、7日目、12日目に4NQOを10-6乗Mの濃度で1時間、5時間、12時間投与した。ラッテ全胎児に4NQOを投与した場合に比して肺細胞は抵抗が強い。
N-14:前号に続きRE-4、RE-5の2つの系で実験中です。
1)RE-4、5x10-7乗Mのものでは、細胞の増殖が悪くなり、それ以後4NQOの投与を行っていません。
2)RE-5、5x10-7乗Mのものでも17日間続けて投与後8日間正常培地にもどし、再び7日間4NQOを投与したところ、以後細胞の増殖が悪くなった。細胞の形態学的変化は少い。
3)RE-5で10-6乗M、4〜6時間、時々4NQOを投与している系(現在まで7回)形態学的にかなり細胞が変化しており、また増殖もかなり保たれているようです。
N-15:動物復元でtumorを形成したものはまだ見当らない。
:質疑応答:
[奥村]炭酸ガス条件下では肺がいちばん自然発癌しやすいのですが、肺の細胞は炭酸ガスフランキで培養してみたら如何ですか。
[勝田]私のところのラッテ肺由来の株に4HAQOをかけてみたら、以前報告したようにコロニーはできたのですが、ラッテにtakeされませんでした。炭酸ガスではありません。
[黒木]移植しなくても増殖度の一変したコロニーのできたことなどでcheckして、どんどんやれば良いのではありませんか。
[吉田]動物はやはり純系をえらばないと、復元するのに不利だと思います。純系もあるのだから・・・。
[佐藤]自分のところは呑竜を使っていますが、とくにbrother-sister-matingはやっていません。DAB肝癌が呑竜で継代できるからえらんだのです。
☆呑竜が純系か否かの議論しばらく続く☆
[勝田]DAB消費の測定で、実際のO.D.としてはどちらの群の方が減っているのですか。
[佐藤]Tube当りでみると同じ位です。
[堀川]Puromycin処理した細胞は大きくなっていませんか。つまり蛋白当りの数値でみると、結果がまたちがってくるのではありませんか。
[佐藤]私はこの場合、細胞のfragmentsなどが消費しているのではないかと考えています。細胞をこわすのに、凍結融解や超音波では、消費が0になってしまうのに、この場合のようなこわれ方では何故消費があるのか、いま考えています。
[安藤]細胞をこわして細胞内のものを全部外へ出してしまうと、酵素が働かなくなるが、Puromycinを加えた場合は、細胞の増殖は止まっていても、生きていれば、酵素は活性の状態で外へ出されているのかも知れません。何時間incubateして見ているのですか。
[佐藤]48時間です。
[難波]Puromycinでやられる時までに貯えていた酵素が働いていると考えても良いわけでしょうか。
[勝田]Cellを入れないcontrolにPuromycinを入れましたか。つまりPuromycinがDABと直接作用するという可能性はないのですか。
[安藤]DABそのものにPuromycinを加えて対照をとる必要がありますね。
[堀川]培地内だけでなく、細胞内のDAB量はしらべられないでしょうか。
[佐藤]濃度の点で不可能ですね。Colchicineでcell
cycleをとめてみるのも試みたいと思っています。
[奥村]Colchicineよりコルセミドを使う方が良いでしょう。
[勝田]いずれにしてもmetaphaseで止まってしまうから、どういうものでしょうね。
《堀川報告》
前号までに実験(1)から(4)までの経過を報告してきた。同様にしてこれまでに実験(7)まで逐次進めてきたが、いづれも御存知のようにマウスBone
marrow cellsを用いたIn vitro cultureによるLeukemogenesisをねらったものである。これらの7つの実験系はいづれも使用するマウスstrainを変えたり、mediumの組成をかえたり、4NQOの濃度さらには処理する時間を変えたりしてきたわけである。順序から行けば実験(4)につづいて(5)(6)(7)と内容を紹介すべきだと思うが、すでに班会議でも述べたのでこれらは省略し、もう少し結果が動きだしてからまとめて整理してみたい。
今は丁度これらの実験を進めてから結果まちの時期のようなので、今回はこれまでの実験系について反省してみたい。思うに発癌実験のような仕事は他の実験にはみられない(少なくともcell
levelの仕事で)忍耐を要することがわかった。アイディアよりもむしろねばりである。勿論アイディアなくして仕事は出来っこない。私の云っているのは比重からみてである。とにかく出発した実験の結果まちには他の仕事にはみられない長い時間を要する。これには非常に緻密な排列と整理を必要とする。
さて次に実験の系であるが、私の実験系は発癌実験の系としてどうしてもスッキリした系ではなさそうだ。しかし前号の月報の巻頭に述べられていた内容が強く私の心をうったように、それは時期的にみて非常に重要なものを意味すると思う。もし発癌だけをねらい、その機構を知ろうと思えば、色メガネをかけて最もシンプルな系をもくもくとまい進すべきであろう。いつかはその系についての機構も少しづつでも明らかにされてくるにちがいない。
しかし癌には色々の種類のものがある。すべてを同じレベルで同じ機構で説明出来るものだろうか。ある場合にはウィルスの如き作用で・・・。ある場合には化学薬剤の如き作用で・・・。ある場合には両者の如き作用が組み合わさって作用し、種々の癌を誘起させるに違いない。とにかくあらゆる分野の人が、あらゆる角度から攻撃せねば、とうてい陥落出来そうもない。まことに癌は学問の上でも癌である。
白血病もうわさにたがわず、その1つで正真正銘の癌だ。この癌は我々の如き放射線遺伝学屋にとり関係なきにしもあらずだし、加えて癌畑に素人なものの最もアタックし易い方向と思い一寸足をすべりこませてみたものの、とてもとても手ごわい相手のようだ。しかし色々の意味から一度喰いついたら、とてもあきらめて離すことの出来ない味のある癌のようでもある。さあこれからどのように喰いついた部分をかみ切ってやろうかと頭をひねっているのが現状である。
:質疑応答:
[安藤]UV照射して回復したなかに、dymerがどの位残っていますか。
[堀川]まだしらべてありません。
[奥村]復元接種部位はどこですか。
[堀川]尾静脈です。
[奥村]死ぬまでには行かなくても脾臓などの腫脹がみられるのではありませんか。
[堀川]なるべく永く生かしておくつもりで、殺してしらべてはありません。
[黒木]このマウスの系はレントゲン照射などで白血病ができませんか。
[堀川]あまり出ない系です。
[吉田]放射線をかけるのはspleenにcoloniesを作らせるためでしょうが、目的が4NQOで白血病になれば良いのなら、放射線をかけなくても良いのではありませんか。
[堀川]両方をねらっていますから・・・。
[吉田]胸腺は白血病を起す場として大切だということが、いま大分唱えられています。だからあまり色々ねらうと、何を見ているのか判らなくなるのではありませんか。脾臓のcoloniesを見る方にもっと力を入れたら如何でしょう。
[黒木]白血病ができたとすると、Virusの心配も起ってきますね。
《奥村報告》
A.In vitroにおけるcell transformationの実験系に関する一考察
日頃、私は哺乳動物の扱い方のむづかしさを痛感しております。しかも、バクテリヤ←→ファージの実験系でみられるようなclearな実験結果、さらにそれから導き出されるさまざまな現象解析に比べると、哺乳動物細胞が極めてやっかいなものであることを痛感します。しかし、そのむづかしいことにより一層の魅力を感じていることも云えます。私の興味がcell
transformationにあるだけにbacteria-phageの実験系は色々な意味で刺戟となります。今迄も幾人かの人から親切な助言をもらいましたし、さらには私自身も多少微生物遺伝のことを勉強しましたが、その都度考えさせられることは、哺乳動物細胞には、それなりの独自の実験方法論がなければならないということです。ある一部の実験を除いては、簡単にbacteriaを扱うときの手法をそのままもってくることは出来ないように思います。
しかし、さまざまな従来のin vitro cell transformationの報告をみますと、結論的にはbacteriaでみられる結果、あるいは方法論にうまくツヂツマを合せようとしているものが多いようです。中には相当無理な筋道を立て、いくつもの飛躍した考えをつなぎ合せているものがあるようです。私は、今までに約30種のcell
lineを得て(cell lineをつくることが目的の場合もありましたし、他の実験の副産物としてcell
lineが出来てしまった場合もありました)。その都度、哺乳動物細胞の不思議さに接し、いつも空しい感じが、心の片隅から消すことの出来ない経験をしてきました。その最も代表的なものがspontaneous
cell transformationです。そこでこれらの細胞を中心に(文献にみられるものを加えて)、色々とデータの整理を試み、あな埋め実験をして、縦軸に染色体のmeta-submetacentric
chrom.数を取り、横軸にAcrocentric chrom.数を取った図を作成してみました。細胞はハムスターです(図を呈示)。さらに、cell
transformationを解析していく一つの手がかりとして(spontaneouslyの場合にも、experimentallyの場合にも)コロニーレベルの解析方法をいろいろと試みてきましたが、最近はどうやらうまく行くようになりました。つまり細胞の増殖能を指標にした実験系です。ここしばらくは、人為的なcell
transformationもこのシステムにしたがって進行させてみたいと考えております。つまり、初期の培養がコロニー単位で増殖の速いものおそいものを分離し、それらの細胞を追っていく方法、現在までに得た結果からみますと、一つの傾向として、small
colonyの中からでてくるlarge colonyのcellがかなり大きく質的変化を示しているように思います。又、large
colonyからのsmall colonyは非増殖性になることが多い。
B.ヒトtrophblastsのSV・40によるtransformation
m.o.i. 100~300ぐらいでinfect.させると約3〜5週後にstransformationがみられることが判りました。詳細は次報でします。
:質疑応答:
[黒木]Cloningされる場合の、シャーレのサイズと培地は何ですか。
[奥村]サイズは4mm〜90mm、液量に注意する必要があります。0.1ml〜。培地は10%〜50%Calf
serumとM・199、Eagleです。血清はよくえらぶ必要があります。私は北海道から取寄せていますが、それでも何割のロットしか使えません。
[勝田]増殖の早いコロニーを拾ってまくと、次の代は全部早いのですか。
[奥村]100%ではありません。小さいのも少し宛出るので意識的にそういうのも拾ってみました。
[黒木]Coloniesの大きさだけでなく、性質はみてありますか。
[奥村]今は見ていません。
[吉田]Plating efficiencyはどの位ですか。
[奥村]1/100%のレベルです。1〜2カ月経つと数%になってきます。
[難波]4mmシャーレでは最後まで0.2ml位でつづけるのですか。
[奥村]そうです。
[黒木]Hamsterの場合、flatなcoloniesもfibroblastsというのですか。
[奥村]形態については余り断言しないことにしています。
[加納]TakeされたということのCriterionは何ですか。また部位や量は?
[奥村]1,000〜10,000皮下か脳内に入れます。脳内の方がよくつきます。病理で組織学的所見で診断を下してもらっています。
[勝田]人間材料を発癌実験に使うそうですが、悪性化をどうやってcheckするつもりなのですか。
[奥村]培養内の形態や、ホルモン産生能、増殖などが、mole(竒胎)の培養のそれらに似ているか否かで判定したいと思っています。
[堀川]それだけでは決定的でないでしょう。
[黒木]チークポーチなども良いのではありませんか。それより、ウィルスと化学物質の組合せの場合、発癌性のないウィルスとの組合せをみるべきではないでしょうか。
[奥村]SV40などは癌化に40〜100日かかります。それに化学物質を加えてどうヒットするかを見たいのです。
[堀川]4NQO発癌の場合も、ウィルスが何の関与もしていないという証拠は今のところありません。という意味で、しらべてみる価値はありますね。
[黒木]ウィルスの発癌の場合はVirus genomが組込まれることが判っているし、4NQOなどの場合はDNAのbase
changeのあることが判っています。この二つが組合わさると、実際にどういうことが起ったのか判らなくなってしまうと思います。
[吉田]両方とも発癌性のないものを組合せて、それで発癌するような系を見附けられれば、それは大変意味があると思いますね。
[勝田]私もかねてからそれを主張しているのですが・・・。
【勝田班月報・6707】
《勝田報告》
ラッテ肝ホモジネートのDAB代謝:
前回の班会議で[なぎさ培養→DAB高濃度処理]によって生じた変異株のhomogenateによるDAB代謝について報告したが、homogenateレベルにすると、どうもDAB代謝量がはかばかしくなかった。この原因をつきとめるため、培養細胞ではなく、ラッテから取出したばかりの肝組織について、そのhomogenateの濃度を色々と変えてDAB代謝能をしらべた。
1)10%Liver homogenateの作り方:
Rat liver tissueを細切して、これを0.5M・KCl水溶液9倍容に入れ、ホモジナイザー(Waringblender)で15秒間homogenizeする。さらにドライアイスと37℃温湯で凍結融解を2回くりかえし、3,000rpm
5分の遠沈后、その上清を10%homogenateとみなした。
2)反応:
(表を呈示)反応液は前号にも記載してあるが、今回はこの処方によった。これらの液を短試に入れ、よく混和させてから37℃の湯浴で、0時間、2時間、18時間后に夫々20%TCA(アセトン・エタノール1:1溶液)を加えて反応を停止させ、比色計で吸光度をしらべた。
結果(表を呈示)は表の通りで、Cell homogenateが10%、5%の場合には37℃・2時間后の吸光度はきわめて有意に低下していたが、2.5%以下になるとO.D.の減少は非常に少く、はっきり消費されるとは云い得ない値であった。
またCell homogenateを1%にして、時間を延長してみても、18時間后にも吸光度の減少は全く認められなかった。
5%以上のhomogenateでないとdetect出来ないという結果になったことは、培養細胞を分劃しして、その活性を検討して行こうという現在、非常に困ったことである。
さらに高価にはなるが、ATPその他の添加など、反応液をいろいろ検討してみる必要があるかも知れない。
《佐藤報告》
Donryu系ラッテ肝の組織培養株(7)が長期間になりましたので一応纏める事にしました。(表を呈示)表のようにRLN-36とRLN-38は腫瘍形成能がない。培養細胞の形態では異型性多型性が見られる。この2つの株は培養を継続し復元を続けている。
腫瘍形成ラッテは総数27匹である。(表を呈示)性状は表の通りである。表での復元は培養細胞をラッテ新生児へ接種した。被接種ラッテが腫瘍死するまでの平均生存日数は228日である。RLN-8はまづ定型的な肝癌で腹水性腫瘍も同時に有していた。動物への移植継代で腹水肝癌を生じた。RLN-21は箒星状の細胞であってまづ肉腫と考えられるが細胞が並列する部があって、血管内皮系の細胞を想起させる。この系も動物移植継代が陽性であった。他の3系は癌腫の部分と肉腫の部分の併存があった。
《堀川報告》
[実験]培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防御
ならびにLeukemogenesisの試み
今回は先日の班会議の際御紹介したうちの最後の実験系、つまり(実験6)についてその後の結果を報告したい。
dd/YF系マウス(生後39±1日)♂5匹のBone marrowから得たBone
marrow cellsを2群に分け、(a)一群は培養直後10-5乗M4NQOで2時間処理、その後はnormal
mediumで44日間culture。(b)一方他群は最初からnormal
medium内で44日間cultureした。培養45日目に500R・X線照射したdd/YF系♂♀混合(生後20日)にもどした(図を呈示)。この図からわかることは、
(1)500R照射したマウスは半数が死んだが、cultured
normal crllsを移植したものでは全数生存している。つまりcultureされたnormal
Bone marrow cellsがX線照射されたマウス内で機能的に働き、死亡から防護している可能性を示している。
(2)一方4NQO処理細胞をもどしたマウスでは同様に半数が死亡した。これは勿論防護能力のなかったことを示している。
更にLeukemogenesisの問題であるが、4NQO処理細胞をこれらマウスにもどしてから46日目には(死亡したマウスを含めて生前の結果を綜合)末梢の白血球数をcountすると、3〜5万/平方mmに達するものが出て来た(正常は5〜7千/平方mm)。しかも正常値では60%をしめるリンパ球が15〜30%に減少して完全に白血球組成をかえたかにみえ、一瞬Leukemogenesisを思わせた。しかし白血球の組成は分節核が多く、幼芽球の少なかったこと、しかも更にわるいことには、その後9日目に生存マウスについて再検すると殆ど正常白血球数および組成にもどっていることから、どうもこの段階では理解に苦しむ点が多い。とにかく何かが変って来ていることは確かなようだが、更に更に次次の実験を要するようだ。それに前回の班会議でも問題になったように、「骨髄死」防護とLeukemogenesisの実験系は、2つに完全にseparateして進めるのがデータの整理上、妥当のように思われる。
《高木報告》
1)ハムスター培養皮フ片移植実験その後の経過について
a)月報6704に報じた移植群は現在4ケ月を経過したが、両群の生存せる全動物は健常と思われgraftの部分にも目立った変化は認められないが、唯4NQO添加群で生存せる4匹の動物のうち1匹に、最近takeされたgraftの辺縁部と思われる部位に約3x3mm程度の偏平なわずかな隆起をみとめた。表面平滑で硬さも変りなく発毛もあるので、これが有意な変化かどうかは今后の観察にまちたいと思う。他の3匹及び対照群にはこれに類似する変化は、まだみられない。
b)月報6705に報じた実験群では、2ケ月半を経過した現在、生存せる10匹は全て健常であり、graftの部分の変化をみとめない。
復元実験を考える場合、純系動物を用いるか或いはautotransplantationを行うのがよい事は班会議でも度々指摘され、また私共も充分に考慮している処である。我々はさしあたりautotransplantationについて検討しているが、そのためには現在行っているfoetal又は、newborn
animalでは皮フを剥離した時に動物は死ぬ事になるので、その目的を達することは出来ない。adult
animalの皮フを培養する事が出来れば、発癌実験の目的にもまたauto-transplantationが可能な意味でも一層理想的と云えよう。Gilletteらは、adult
mouseの耳介の皮フをcortisonを加えた培地で可成り長期間培養しているが、我々もハムスターを用いてこの方法に準じて、ハムスターに発癌物質を作用させて培養した皮フのautotrans-plantationを試みるべく計画している。
2)ハムスターがなかなか妊娠しないので引続きrat
thymus由来のcell strainを用いて4NQOによる実験を行っている。今回は25代目subculture后4日目に夫々4NQO
10-7乗Mol.10-8乗Mol.を24時間作用させて後、8日間観察したが対照に比べて全く変化のみられないままfull
sheetを作ったので、夫々subcultureして26代目に移った。2日後4NQO
10-6.5乗Mol.及び10-7乗Mol.を夫々2日間又は8日間作用させたところ、NQI及びNQ (2日間作用)は4NQOによるdamageを全くうけず、5日目には27Gに移り、その後も対照に比べて全く変化を示さない。一方NQ 及びNQ の8日間添加群は4日宛2回、Refeedの時に4NQOを添加したが、添加後8日目頃より徐々にdamageをうけて剥れる細胞が増し、除去後10日目を経た現在、NQ では極く少数の変性しかかった細胞が残ってだけであるが、NQ では可成り多数の細胞が生き残って密集する傾向にあるが未だtransformed
fociはみられない。
《三宅報告》
d.d.系マウスの17日目の胎児について、皮膚のOrgan
Cultureの第2日目、4日目、6日目にわたり4NQO・10-6乗M/mlを3回、作用せしめ、第8日目に、(1)そのH.E.による組織増、(2)H3-TdRの取りこみのAutoradiography、(3)Dissecting后PronaseB(0.25%sol.)による単細胞化后培養、(4)組織片をSpongeからはずしてd.d.系マウスの背部皮下への移植をこころみた。
HEの像では(写真を呈示)、角化層の形成については両者に差はない、が棘細胞の核の膨化、淡明化が実験群に強い、Dermisの結合織母細胞も変性に傾き、前回のヒトの胎児のDermisの細胞とはかなり違っている。
Pronaseによる単離細胞も硝子面で変性に似たものが多いのは、この組織像によるものか、あるいは、800rpmという遠沈の不手ぎわによるものか不明である。H3-TdRの取りこみについては次回に述べる。
《黒木報告》
Transformation前後の呼吸解糖について
in vitro transformationは発癌機構を探ぐる上で重要な手段となり得るが、その他に発癌過程の分析においても従来には、出来なかったような材料を提供するにちがいない。例えば染色体の研究である。その他に生化学的phenotypeの分析にも役立つであろう。ただ生化学分析において困るのは、それが多くの(1,000万個以上)細胞を要求することである。startの細胞数が少いと、細胞を集める間に発癌してしまうことにもなりまねない。
生化学的表現形質研究の手はじめとして、最初に呼吸解糖の分析を抗研生化学部・佐藤清美氏との実験にて開始した(Glycolysis
and Respiration of Hamster Embryonic Cellsの表を呈示)。Crabtree
effect(glucose添加による呼吸抑制、癌細胞に特異的と云われている)は次のようになる。
(1)呼吸基質(pyruvate)を加えない場合
O2 uptake in G(+)/O2 uptake in none=2.37+(2.32÷2)/2.37=0.993≒1.0
(2)Pyruvateを加えたとき
O2 uptake in G(+) & Pyr(+)/O2 uptake
in Pyr(+)=2.62/2.53=1.04>1.0
すなはちglucoseによる呼吸抑制はなく、Crabtree(-)である。
(Glycolysis and Respiration of Transformed
Cells(HA-2)の表を呈示)。
transformed cellsでもCrabtree effectをcount.すると
(1)Pyruvate(-)のとき
O2 uptake in G(+)/O2 uptake in none=2.08+(1.95÷2)/1.61=2.02/1.61=1.25
(2)Pyruvate(+)Pyr.+Gluc.(+)/Pyr.(+)=2.24/3.00=0.75<1.0
即ち呼吸をPyruvateで促進させてglucoseを添加すると呼吸が抑制されc.effect(+)となる。 この他normalとtransformed
cellsの違いは、
(1)乳酸産生
normalではg(+)のとき1.29〜1.31であるのに対し、transformed
cellsは8.7〜8.84とはなはだしく高い。
(2)O2 uptake
normalは2.32〜2.37と比べるとtransformedは1.95〜2.08と幾らか低い。
(3)Hexose monophosphate pathway(HMP)の依存度
G-1-C14のC14-CO2はHMP及びTCAcycleにより生じ、G-6-C14のCO2-14はTCAcycleのみから作られる。従って、両者の比はHMPの依存度を表す。
normal:CO2←G-1-C14/CO2←G-6-C-14=0.069/0.015=4.6/1
transformed:CO2←G-1-C14/CO2←G-6-C14=0.125/0.040≒3/1
すなはち、normal cellでもtransformed cellsはHMPが活発である(両者の増殖はどちらも同じくらい活発であった。細胞はlog
phase)。なおYS(Yoshida sarcoma)ではこの比は11.0/1.0でこれらの細胞に比較するとはるかに高い。
呼吸解糖は細胞の基本的な営みであるが、もう一つ細胞の機能と関係したmarkerを用いて生化学的な分析を行うべきであろう。従来この種の研究の材料であった肝癌では糖代謝が同時に肝臓の特異性をも反映していた。繊維芽細胞ではcollagen合成にこれを求めたい。
【勝田班月報:6708:Leukemogenesisの試み】
A)4NQO実験:
4NQO関係の実験では、これまでRLG-1株(ラッテ肺由来)、RSC-1〜5株(ラッテ皮下組織)を用い、19実験をおこなってみた。(この内RLG-1による1実験は4HAQOであるが) そして変異細胞らしいもののコロニーは約半数の培養に出現し、その内9系を継代培養している。しかしこれらはラッテに復元接種しても、不思議なことにどの系もtumorを作らない。変異集落の出現過程はいずれも似ていて、4NQO処理後ほとんどの細胞は変性壊死に陥ってしまい、その後新しくコロニーが生じてきた。その数は容器1コにつきコロニー1コ〜数コである。復元は50万個/ratで、乳児の皮下に接種した。
その後これらの実験に用いた株細胞をしらべたところ、RLG-1は銀センイをわずか作っているが、RSC系の細胞の培養は鍍銀染色をしてもセンイが染まらない。若しセンイ芽細胞でないとすると、皮下組織からどんな細胞が得られたかということになる。またそれなら、いくら4NQOで処理しても肉腫にならないのは当然ともいえる。(復元は実験#CQ-4と13を夫々1匹入れたが4カ月(-)で殺した)
そこで最近の株をいろいろ当ってみると、ラッテ膵由来の株、RPC-1が見事に好銀性センイを作っていることが判った。これならばセンイ芽細胞といえるから、これからの4NQO実験にはこのような株を使うことにした。現在使いはじめたところである。なお、RPC-1というのは、生後6月の♀の膵を1963-11-10から培養しはじめた株である。(RPC-1株細胞の鍍銀染色写真を呈示)
B)ラッテ胸腺細胞株の“なぎさ”培養:
RTM-1、1A、2、3、4、5、6、7、8、10の10種の胸腺細胞株(何れも細網細胞)を平型回転管に入れ、1967-2-1から3-8んで“なぎさ”式に静置培養したところ、RTM-1A、2、8の3系に変異細胞が現われた。しかしこの内RTM-1Aと2とは母株にも自然変異が現われたように思われたので、対象から除き、RTM-8の変異株について検討した。
これらの変異細胞は何れも増殖が早く、Contact
inhibitionを示さず、pile upして増殖する。そして諸々の形態的特徴が“なぎさ”培養でラッテ肝細胞から生じた変異株RLH-1に似ている。その染色体数分布は(分布図を呈示)、59〜62本のHypotriploidyで、これならtakeされるのではないかと秘かにねがっている(顕微鏡写真を呈示)。
復元試験は、JAR系x雑系ラッテのF1の生後2日仔にI.P.で50万個宛、2匹宛接種したがtakeされなかったので、2.5月後に再び接種した。その内RTM-8変異株を接種したラッテが、学会に出張中に死亡してしてしまった。即日診られなかったので断定はできないが、腹水はたまっていなかったようで、恐らく肺炎のための死亡かと思われた。これは細胞数をもっとふやしてわらに復元試験をおこなう予定である。
C)DAB代謝異常株:
ラッテ肝細胞を“なぎさ”培養からDAB高濃度処理に移して作った変異株の内、M株はDABを高度に消費するが3'-Me-DABを与えると代謝しない。そこでDABの代わりに3'-Me-DABを20μg/mlに1月与えつづけ、その後培地をすてて(subcultureせずに)再びDAN
20μg/mlに戻したところ、はじめの8日間(その間に培地交新一回)はこんどはDABを代謝しなかった。しかし8日以後はまた高度に代謝するようになった。代謝酵素の機能の切換えがすぐにはできなかったわけである。
Cell homogenateによるDAB代謝の仕事は培養細胞を使うと量的に大変なのでまずラッテの肝組織を使って見当をつけ、それに従って培養細胞の分劃に入りたいと考えている。
:質疑応答:
[黒木]銀で染まらなくてもHyproでかかってくれば良いでしょう。
[勝田]Hyproの定量にかかる位ならば鍍銀法で染まると思います。
[高木]Transformするとセンイを作らなくなる−というようなcheckingをなさるおつもりですか。
[勝田]Collagen fiberを作っていないのではfibroblastsかどうか判らないから4NQOで処理しても肉腫になるまい、ということで、transformしたらfiberを作らなくなるかどうかは副次的な問題で、そのときどきで色々のができるだろうと思います。
[吉田]DABを消費するというのは、DABを分解しているのですか。
[勝田]そうです。比色で特異吸収が4日間でほとんど零になってしまいます。
[安藤]ラッテ肝のDAB代謝は、i)脱メチル化、ii)(N)のメチル化、iii)(ベンゼン核の)メチル化、iv)アゾ基の還元的分解、v)それらの生成物のNのアセチル化、等が知られている。この内、M株では培地内のDABの色が消失するのですから、アゾ基の分解の起っていることは間違いないでしょう。その他にどんな分解物ができているかは、詳しくしらべてみないと判りません。
それからM株ではDABを高度に消費し、3'-Me-DABは消費しないと云われましたが、ラッテの肝組織が若し3'-Me-DABは消費しないとすれば、DAB分解酵素を追いやすいですが、するとなると分劃が厄介になってきますね。
[永井]発癌物質相互間の関係が、そういうことで少し判ってくると面白いですね。
[吉田]その分解能と発癌との関係は?
[勝田]直接的関係は未だ判りませんが、DAB発癌による肝癌はDAB分解能が落ちていると報告されています。
[黒木]抵抗性と代謝能とは平行的ですか。
[勝田]代謝能がなくても抵抗性の高い場合はあります。
[吉田]DABがないと増殖しないような株ができると面白いですね。
[佐藤]自分のところでDAB消費をしらべたのは、肝細胞の同定のためです。つまり正常肝細胞と自然発癌の肝癌は消費するが、DAB肝癌は消費しない、培養内DAB処理による肝癌細胞も消費しない−という具合にです。
[勝田]むかしDABを初代培養のはじめ4日間だけ与えて肝細胞の増殖を誘導しましたが、あの辺の変化はもう一回詳細にしらべてみる必要があると感じます。
[佐藤]モルモットはDAB肝癌ができないとされていますので、モルモットの肝細胞を培養してDAB消費をしらべてみるのも面白いと思います。
[吉田]DABを代謝してしまうということと、発癌との間の関係はどうもパラレルではないようですね。
[勝田]他の発癌とは関係はない、或は少いでしょうが、DAB発癌の場合には間接的にせよ何らかの関係のある可能性がありますね。
《佐藤報告》
◇DAB吸収について
吸収量(μg/ml) 平均細胞数(10,000個/ml) DAB/cell(x10-6乗μg)
対照 0.32 6.2
5.1
1μgP.対照 0.37 4.4
8 4
1μgP.上清 0 − −
1μgP.沈渣 0.35 4.1
8.5
100μgP.上清 0 −
−
100μgP.沈渣 0.15 1.2
12.5
上の表はDABの吸収を示す。又DAB液に1μg及び100μgのPuromycinを添加して2日後に測定したmediumでは共にDABの消費はおさえていなかった。100μg
Puromycin及び1μg Puromycin処理後、Trypsinで細胞を浮遊させて1,000rpm5分で上清と沈渣にわけてDAB消費を見た。上清ではどちらの場合もDAB吸収はなかった。Puromycin処理による細胞は100μgの場合も1μgの場合も細胞質核共に小型化し、100μgの場合には細胞質の中に顆粒が発生する。
◇4NQO発癌実験
現在までに復元したラッテを記載する。
動物番号 接種日 培養細胞 培養日数 細胞数
接種場所 4NQO処理
1 5-16 ラッテ肝 472 500万個 i.p. 5x10-7乗M、25日(1)(2)
2 7-1 ラッテ肝 488 500万個 i.p. 5x10-7乗M、62日
3 7-1 ラッテ肝 488 500万個 i.p. 5x10-7乗M、62日
4 7-1 ラッテ全胎児 93 500万個 s.c. 5x10-7乗M、34日
5 7-10 ラッテ肝 497 500万個 i.p. 10-6乗M、8日
6 7-10 ラッテ肝 497 100万個 i.p. 5x10-7乗M、62日
7 7-10 ラッテ胎児肺 39 500万個 s.c. 10-6乗M、4回
8 7-10 ラッテ胎児肺 39 100万個 s.c. 10-6乗M、4回
9 7-10 ラッテ全胎児 131 500万個 s.c. 5x10-7乗M、33日
10 7-10 ラッテ全胎児 131 500万個 s.c. 5x10-7乗M、33日
11 7-11 ラッテ胎児肺 64 100万個 s.c. 10-6乗M、2回
注
(1)5x10-7乗M 4NQO投与方法は、培地中に4NQOを5x10-7乗Mになるように溶かして連続して投与している。
(2)この動物は7/17日肺炎で死亡、剖見にて腫瘍(-)。
(3)10-6乗M 4NQOの投与方法は4NQOがこの濃度で溶かされた培地で4〜6時間処理後正常培地にもどした。だいたい週2回処理した。
(4)それぞれの実験にはコントロール実験として4NQO未処置の細胞を500万個乃至100万個接種した。
(5)実験に使用した動物は呑竜系ダイコクネズミである。
:質疑応答:
[安藤]沈渣と上清というのは?
[佐藤]Puromycinでこわれかけた細胞そのものが沈渣です。intactな細胞も入っています。
[安藤]その状態からもう少し分劃して、intactな細胞をなくすことができませんか。
[勝田]Trypsin処理でこわして、DAB代謝活性が上るということは、trypsinが逆にinhibitorをこわしている為かも知れませんね。それからextractを作るとき、たいていsalineを入れてhomogenateを作りますが、我々の場合でもhomogenateにすると代謝活性が落ちるというのは、DABのような水に溶けない物質に対する酵素の場合は、それがlipidと結合したlipoproteinの形で、細胞内に存在している可能性も疑ってみる必要があると思いますね。
[安藤]沈渣と上清に分けた意味はpuromycinで細胞がこわれているという前提ですね。
[永井]そのあとtrypsin処理するのだと、puromycinを作用させる意味がないように思われますが・・・。
[堀川]あとで結合の状態などを見るのなら、puromycinなどよりもむしろX線とか紫外線をかけてみた方がよいと思われますね。
[永井・堀川」もう少し焦点を絞って、細胞の生きた状態でみたいのか、蛋白としてみたいのか、はっきりさせたら如何ですか。
[佐藤]これは増殖しない状態の細胞で、一定した条件を設定して実験をはじめたいということからはじまった仕事です。
[堀川]熱変性させた蛋白ではDABを吸着しますか。
[佐藤]見ていません。
[安藤]細胞が増殖しないという条件でみても、それではabnormalですから必ずしも増殖状態のときと同じように酵素が働いたとは云えないかも知れません。
☆☆☆これまでの記載分では、佐藤班員の説明不充分と他班員の誤解により、討論が完全に空廻りしてしまっている。科学的発表の場合には、自分の考えたこと、行なったことを、完全に誤解の生じないような表現で、他人に話すことが必要であることの、典型的な一例である。☆☆☆
[佐藤]DABは血清ならば100μg/mlにとけますので、そのなかで肝細胞株を3日間培養しますと、細胞が沢山こわれてしまいます。そこで20μg/mlにかえて、そのあとまた100μg/mlのDABで3日間という具合に処理したところ、培養66日後に新しく細胞集落が出現してきました。
[黒木]変異を起させるには細胞が完全にはやられないが、ほとんど全部やられてしまう、という条件が必要と思います。
[高岡]DABを加えない全血清だけではどうなりますか。
[佐藤]やってみていません。
[藤井]皮膚移植の場合、とり出したskinを他種動物のDNAと一緒にしておいてからもう一度自分のskinに戻すと、takeされない、という報告があります。自分自身のDNA(同系)とならばtakeされます。処理は37℃1時間です。
[勝田]私のところでも実はDNA-transformationの実験にかかっています。これはラッテ肝細胞を“なぎさ”培養しておいて、他種、つまりヒトのDNAをくわえるのです。まだはじめたばかりです。
[吉田]取込ませる技術が難しいでしょう。
[勝田]とり込ませるのはわけないのですが、消化されないようにすることが大切で、それで“なぎさ”培養を使うわけです。Criterionはヒトの蛋白合成です。
[永井]Cell levelでのtransformationの仕事が沢山出ていますが、どの程度追試が成功しているのですか。真偽性などは・・・?
[堀川]細胞レベルではなかなか確実なものはないと云って良いでしょうね。班長の云われた、マーカーを何にするかという所に難点があるのです。昆虫細胞の仕事では少しできているようですが・・・。
[勝田]さきほどの藤井班員の話ですが、逆の実験もやってみたらどうでしょう。つまり普通ならばtakeされない他系のskinを、同系のDNAで処理してtakeされるようにならないかどうか・・・。
☆このあと、藤井班員によるmicrodiffusion
plateでのオクタロニー分析法の解説があり、実物も展示された。これは小さなplastic
plateに小孔を明けて使うもので、結果は染色後顕微鏡で判定する。少数の細胞で沈降線があらわれるので、培養細胞の検査には好適である。その内データとしてまとまったら話して下さる由、その日を楽しみにしよう。
《黒木報告》
6月はpaper(Carcinogenesis in tissue culture
VIII)を一つ書き、そのためexp.の方はお留守になってしまった。しかし、このpaperの中で、大体重要なことは網らし、云いたいことも云ったので、前の短いpaper(Proc.Japan
Acad.及びTohoku J.)の欲求不満はいくらか解消できた。
6月から7月にかけて、コロニーレベルのexp.に重点をおく積りであったが、7月18日によく調べなかった新しい血清により培地交換を行ったところ、すべてがcontamin.し、約1ケ月〜2ケ月損したことになった。今回はコロニーによるtransformationを、発癌剤の毒性への抵抗性に関するdata及び文献について報告する。
(1)Plating後の4HAQO処置によるtransformation
Berwold、Sachsらのpaperではplating後にBP(最近はX・ray)を加え10〜14日後にfixしてcolony
levelのtransformationをみている。4NQOでも同様のExp.を試みた。
Exp.#505
feeder cells:C3H mouse embryonic cells・2G、5,000r照射(332r/min.
Co60)10万個/d.にFalcon 60mm Petri dishに撒布、2日後、hamster
cellsをseedした。
hamster cells:1G 5days in vitro、1,000/d.にseed。
medium:20%BS+Eagle MEM(GLU、PYR、SERはfilter、他は高圧滅菌)
albumin med.はfibroblastic cellsのselectionを行うので、使用を中止した。
carcinogen:4HAQO・HClをseeding第1日に10-5.0乗、10-5.5乗、10-6.0乗、10-6.5乗Mに加えた。
incubation:14days 炭酸ガスフランキでcultureし、MtOH固定、Giemsa・stain、実体顕微鏡でcolonyかんさつ。
§Results§
Carcinogenは前述通り、各群のPEは対照9.6%、10-6.5乗9.9%、-6.0乗10.3%、-5.5乗7.75%、-5.0乗0.98%で、transformed
comonyは10-5.0乗群にのみ1/49出現した。
このうち10-5.0乗Mは5枚のdish故、seedしたcellsに対しては7/5000すなはち2x10-4乗のtransformation
rateになる。この率は前回のHA-8のtransformatin
rate 5x10-4乗とほぼ一致する。
なお、Sachsらの場合は、10μgのBPでPE 0.9%、transformed
colony 16.8%(denseのcolonyだけにとると4.3x10-4乗)、したがって1.61x10-3乗のrateになる(PRONAS.56-4,1123,1966.Huberman
and Sachs)。
(2)発癌剤4NQOに対するtransformed cellsの抵抗性
上記のExp.を4NQOで行はずに4HAQOでtreatした理由は、4NQOが、特に、少数細胞レベルのときに、強い毒性を示すことが分っているからである。次表に示す(図を呈示)ように10-7乗Mの濃度でcolony形成率は0になる。このために、plating後のtreatmentによるtransformat.は4HAQOでないとできない。
4NQOのcolony形成に及ぼす影響を調べてみたろころ(表を呈示)、transformed
cells(CL-NQ-7、NQ-2、HA-1)にはnormal、Lcellsに比して4NQOに対する特異的な抵抗性は得られなかった。
そしてplating法でみられた「抵抗性」の欠除はmass・cultureに4NQOを加え、growth
curveをみたときにも得られた(図を呈示)。
「抵抗性」の欠除は今までに得られた多くの成績とは一致しない。すなはち、1938のHaddowの仕事以来調べた範囲のすべての仕事は、chemicalで発癌した細胞はその物質に対して抵抗性を有している。しかしspecificityはない。すなはち、Methylcholanthreneで発癌した細胞はMCAだけでなく、DMBA、BPにも抵抗性を有する。これらの事実をもとに、Prehnは、発癌機構を発癌剤に対する抵抗性をもったpopulationのselectionと考える“clonal
selection theory”を提出し、またVosilieuも、それにもとずく発癌機構の解析を行った。(発癌剤に対する抵抗性の文献を呈示)
4NQO-transformationにおいてtoxicityへの抵抗性のないことは、恐らく、4NQOがcarcinogenであると同時に強力なcarcinostatic
agentでもある事実によるのであろう(Sakai,et
al Gann 46,605-616,1955)。また、この抵抗性の欠除の事実は、「transformed
cellsは4NQOのtoxicityに対してselectionされて生じたのではない」ことを示唆している。
4NQOのproximateのcarcinogen 4HAQOでは、この抵抗性はどうなるか、これから試みるつもりである。(Normal
cellsに対する4HAQOのtoxicityは、最初の表に示した)
:質疑応答:
[堀川]Synchronous cultureで実験を進めたい理由は?
[黒木]Cell cycleのどのstepで発癌剤が働くのかを知りたいのです。
[堀川]抵抗性をしらべるためgrowth curveを作るときは、もう少し長い日数みるべきでしょう。
[黒木]発癌剤に耐性があるかどうかは、これまではcell
levelやPlating efficiencyで見ている報告は少いですね。
[勝田]耐性の問題は、実験的にわりだしたものですね。
[黒木]これまでの化学発癌の場合も、その薬物だけへの耐性でなく、交叉耐性もできているようですね。
[堀川・吉田]発癌と抵抗性とは関係ないようですね。
☆ここで吉田班員が、黒木班員の4NQO−ハムスターの実験の染色体分析の結果をスライドにより展示した。
[堀川]染色体のgroupによって傾向があるように見えますね。
[吉田]Trisomieの起り易いgroupなどあります。
[黒木]最近の検索ではmodeが44本のが多いですね。
[吉田]処理後早い時期をみているからでしょう。もっと進むと、或時期に染色体数が倍加して、それから不要なものが落ちて、Hypotetraploidになるのではないか、と思っています。Ratの白血病でも大きなtelocentricがtrisomieになるようです。Hamsterの場合仲々一定のものにならないのは、材料がembryoだからtarget
cellsが多すぎるのだと思います。ヒトではモンゴリズムのとき21番目の染色体がtrisomieを作ります。白血病では21番に欠損のできる例があります。
[堀川]吉田班員は染色体数が2倍になったとき、γglobulin産生に関与する染色体の数が倍になっていることを確めたかったわけですね。
[黒木]染色体の数のresponse relationshipというようなことは、知られているのですか。
[堀川]Ephrussiのhybridの仕事が沢山ありますが、markerによって全然ちがう結果が出ています。必ずしも1+1=2とならないようです。
[黒木]私の場合、transformation rateが10-3乗〜10-4乗というのはどうでしょう。
[吉田・堀川]その位で良いと思いますよ。自然発癌の場合が10-6乗だし・・・。
[勝田]この場合は、まいた細胞数の何%というより、増殖可能細胞の何%という方が良いですね。
[吉田]いまお話した私の結果から考えて、培養内の方が反って細胞がselectされ、動物の体内では変な細胞も受入れられて或程度ふえるようです。どうも今まで私の考えていたのとは反対のように思われます。
[勝田]胎児組織を動物体内に移植して、それをさらに体内あちこちに移植し直していると悪性化したという古い報告をきいたことがあります。
[吉田]形態での変異と悪性変異との間に、染色体レベルでどういう関係があるのかをもっとしらべたいと思います。また冷血動物では核の入れかえの実験がありますが、高等動物細胞でもそのような核あるいは染色体の入れかえなどが出来ると面白いと思います。
[勝田]核の入れかえは堀川班員が以前に狙っていたね。
[堀川]Transformationの問題の場合、入れたDNAを採る時期、入れられる細胞のcell
cycleの時期によってrateがぐっと変るでしょう。
[黒木]そこまで行かなくても、培養をはじめて何日目の細胞を使うか、cell
sheetがどの位のとき発癌剤を作用させるか、pH、温度など条件を一定にしてやらなければと思うのですが、色々判らないことが多くて・・・。
《高木報告》
1)月報6707の2)に報じたrat thymus由来の株細胞に対する4NQO添加後の経過について、NQ
I及びNQ IIIは27代継代後も殆ど形態的な変化はみられず、full
sheetを作ったので培養を打切った。
NQ IIは4NQO除去後、約3週間たった7月5日に生じたcell
colony2ケの中cell densityの高い1ケを、機械的に剥がしてtrypsin・EDTAで処理後3本のCarrel瓶とP-3シャーレに植継ぎ(27代)炭酸ガスフランキに入れた。Carrel瓶に継代した3本は翌日培地が強くアルカリ性に傾いたので、その中の1本は炭酸ガスフランキに移した。現在炭酸ガスフランキ中のP-3
2枚とCarrel 1本とはcontrolとあまり形態の異ならない細胞が生存しているが、rubber
stopperをほどこしたCarrel 2本は培地がアルカリ性に傾いたためか細胞はすべて変性したので培養を中止した。
7月10日には7月5日に継代したfocusの残りの細胞をP-3
2枚に植継いだが、継代に失敗し、現在ごう少数のfibroblastic
cellsが附着して残っている。継代した元のTD40にも少量の培地を加えて炭酸ガスフランキに入れた処、4〜5日して2〜3ケのcolonyの発生をみた。これらが7月10日に継代の際剥げ落ちて移動した細胞の作ったcolonyか、或いははじめからそこに残っていた細胞がtransformして生じたものかは分らない。
NQ IVは生存した細胞数が多く、それらが次第に恢復して殆どsheetを作った。このsheetはcontrolの細胞と同様な形態のもの及び上皮様細胞で、細胞質に顆粒の多い細胞が入りまじっていた。このsheetはtrypsinizationにより7月10日、TD15とP-32枚に植つぎ、TD15はrubber
stopperをほどこし、P-3は炭酸ガスフランキに入れたが、controlの細胞と似た形態の細胞が主で、その中に処々上皮様の上記の細胞が混在している。これらの細胞は適当な時期に復元してみる積りであるが、以上の実験ではNQ
IIにみられたcolonyの発生が果して本当のtransformed
fociかどうかやや疑問がある。更に次の実験を行った。
2)6月20日27代目のrat thymus(RT)細胞を用いて実験を開始、今回ははじめから炭酸ガスフランキに入れて4NQO
10-6乗M/mlを28時間及び10-7乗M/mlを7日間夫々作用させた。
10-6乗M/ml添加した培養では殆どの細胞がdamageをうけてガラス面より脱落して了ったが、その後約2週間たった7月14日、明らかにpile
upした細胞のtransformed fociが2〜3ケあるのに気付いた。RTcellsは如何にcell
densityがましてもpile upすることはなく、またcell
sheetは透明感が強く培養瓶のガラス越しに肉眼的にこれをみることはきわめて困難である。生じたfocusは肉眼的に白っぽく認められ、細胞はpile
upし又形態もcontrolの細胞とは異っている。これはtransformed
fociと云って間違いないと思う。
10-7乗M/ml添加した培養ではcontrolに比較して何等の変化も認められなかったので培養を中止した。(実験経過の図を呈示)
上記の実験に用いたRTcellsは、今日迄約10ケ月間in
vitroで継代培養されているものであるが、これらの細胞の10,000個及び100,000個を含む浮遊液0.2mlを、夫々2匹づつのhamsterのcheek
pouchに移植したが、3週間を経た今日腫瘍形成などの変化は全くみられない。
3)先報に記したautotransplantationの準備としてadult
hamsterのauricular skinのorgan cultureを試みた。培養方法は大略Gilletteの方法に準じて行った。即ち耳介を水洗後ether及び70%ethanolで数回洗い、耳介の皮膚を剥ぎとって(10x10mm)これをNystatin200u/ml、SM
250ng/ml、PC 2,000u/mlに溶かしたHanks液に各90分、30分、30分と浸した後、皮膚表面の水分を吸取紙で吸いとり、P-1シャーレ内でEagle'sMEM+10%calf
serum+hydrocortisone10mg/lにPC・SMを加えた約3mlの培地上に浮かせて37℃のincubatorで培養した。培養4日までは組織は可成りhealthyな状態に保たれている。なお今後培養条件を検討したいと思う。
:質疑応答:
[吉田]RTcellsは培養をはじめてからどの位たちましたか。
[高木]約10カ月です。
[黒木]Pile upするという性質は、継代してもそのまま続きますか。
[高木]まだsubcultureしたばかりで判りません。
[吉田]移植成績は? 対照の移植は?
[高木]Controlはhamster cheek pouchで未だ腫瘍を作っていません。
[吉田]材料がラッテだからラッテへ復元する方が良いと思いますか・・・。細胞の種類は何ですか?
[高木]まだ同定できていません。勝田班長のところの細網細胞とは違うようです。
《三宅報告》
d.d.系マウスの胎生15日目の皮膚について、器官培養の直後から、4NQO、MCA-Benzol(その対照及びethanolのみによる対照を含めて)を作用せしめ、1週間の後、H3TdRを1μc/ml、2時間、37℃のもとに取りこませ、Radioautographyを検索した。その結果、labeling
indexを皮膚の各部についてしらべた所、次のようなバラついた結果をえた。
MCA-Benz. Ethanol Cotrol
Control 4NQO
Basal layer 31.0% 26.0 29.7
30.0 0
Hair follicles 11.7 6.3 26.3 8.8
0
Dermis 5.2 7.9 15.3 15.0 0
このAutoradiographyは、同時に同じ感光材料を用いて、行われたものである。4NQOを作用させた皮膚に、Grainが全く見られなかったというのが、ethanolのためでないのは、ethanolのみを用いた対照に豊かに入っていることで、判明する。4NQOを作用させた皮膚のepidermisやdermisの皮膚に核の濃縮や、形質の中での空胞形成がみられる所からみると、3回の4NQOの作用に誤りがあったのか、それとも1週間という培養時間に、組織の退行性病変からの立ち上りのためには、不足したのか、いろいろのことが考えられる。
対照例についても、この3ツの皮膚の部分のL.I.にバラツキがみられるのは、この実験が2系のsiblingの皮膚について行われたためかも知れない。即ち、胎生発育の微妙な差が、この系の間に生れたものかも知れない。今後、この実験をくりかえして、誤差を少くするように努力したいと考える。
:質疑応答:
[藤井]Rat embryoのskinですか。毛の生える時期との関係はどうでしょう。
[三宅]マウスの15日胎児です。但し1日2日は誤差があるかも知れません。
[吉田]Hair-lessのマウスを使ったらどうでしょう。必要なら差上げますよ。
[堀川]Thymidineの加え方はどうしていますか?
[三宅]培地に加え、一定時間後すぐに組織切片を作ります。Cold-TdRは使いません。4NQOは10-6乗M与えましたが、organ
cultureでは一般に薬剤の高濃度に耐える筈なのですが、4NQOでは毒性が強すぎるようです。
《堀川報告》
培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびにLeukemogenesisの試み(2)
前報で報告した(実験6)につき詳細が得られましたので、それを追加します。大筋は前報をみていただくとわかるように
1)500R照射しただけのControlマウスは8匹中4匹、つまり半数が死亡し
2)Cultured normal bone marrow cellsを移植したものでは全数(3匹)生存。
3)4NQO処理bone marrow cellsをもどしたマウスでは6匹中3匹つまり半数が死亡。
これらの結果から少くとも2)のcultureされたnormal
bone marrow cellsがX線照射されたマウス内で機能的に働き、死亡から防護している可能性を示すと前報で結論したが、今回は特に3)の系につき重点的に追ってみた。すなわち、4NQO処理細胞をマウスにもどしてから47日目にそれぞれのマウスの末梢血をとり白血球数をしらべると、「Mice
transplanted 4NQO-treated bone marrow cells」群は、「Mice
trasplanted normal bone marrow cells」群や「Control
mice(X-irradiated and non-transplanted mice)」群ではみられないような白血球数の異常増加があるマウスにみられた。(勿論どれもX線がかかっているので正常値5000〜7000立法mm白血球数より幾分増えてはいるようだが)
また同時にこの際、末梢血の白血球を分類してみると(表を呈示)、正常マウスでは全白血球中の50~60%をもしめるリンパ球が、4NQO処理細胞をもどしたマウスでは極減し、そのリンパ球は10〜20%しか存在しない。
とにかくここまでの段階では4NQO処理したbone
marrow cellsをマウスにもどすことによって何かが変ってきたとは言えるようである。
ただその後9日目に生存マウスについて再検するとほとんど正常白血球数および組成(分類した結果にもとずく)にもどっていることから、どうも何かがおこりつつあるようであるが、それはLeukemiaという段階にまでは達していない。
しかも4NQO処理細胞群をもどしたマウスがControlマウス(500Rされたもの)と同様に半数死ぬことから、これが単に機能的な細胞を与え得なかったために現象的にはControlマウスと同じ機構で死んで行ったのだと考えるのが正しいのか否かについては未だ決定的なデータを得ていない。
:質疑応答:
[藤井]復元接種をする実験のときは、動物材料は純系を使うべきだと思います。
[吉田]そうですね。X線をかけているから良いようなものの、それでも500rでは回復しますからね。純系があるのだから、良い純系をえらんで使うべきですよ。
[堀川]4NQOのかけ方ですが、無処理の細胞でColoniesを作らせたところで、4NQOをかけた方が良いか、とも思っています。
[黒木]無処理ではColoniesができるわけですね。そして4NQOを作用させるとColoniesができなくて、浮遊状態で少し宛増えているわけですね。生体での白血病の場合も余りふえないが、分化しないので幼若がたまって行くということがありますが、それと同じような現象かどうかは、4NQOを作用させた細胞の形態をしらべてみると判るのではないでしょうか。
[堀川]いましらべているところです。
[勝田]培養細胞が機能を維持しているかどうかを、動物のrecoveryを目途にして見るというのは良い方法だと思いますが、それだけ大切な実験にしては動物の数が少なすぎますね。
[藤井]X線の照射量をもっと増やして、対照が全部死ぬいうdoseにした方が良いのではありませんか。
[永井]4NQO処理細胞が正常な骨髄細胞の機能を有していないのか或は処理細胞が白血病に変っているのかを知るのに、正常骨髄細胞と半々にして接種してみたら如何ですか。
[吉田]入れた細胞が増えたほか、hostの細胞がふえたのか、どちらですか。
[勝田]入れる細胞と、recipientと性をかえれば良いでしょう。
《奥村報告》奥村班員の抄録が提出されなかったので班長のメモによって概略で記す。
ウィルス発癌の実験はまだ予備実験の段階であり、化学発癌には着手していないので、現在行なっている仕事について報告する。
1.trophoblastsの培養にSV40をかけると、100%transformationが起る。増殖度は数倍〜数十倍上昇、ホルモン産生量も上昇する。
2.ハムスター新生児細胞を種類別にisolateして、武田薬品のtest薬剤を加えると、臓器の種類によりeffective
doseに差が見られた。
3.Rabbitのmorula(桑実胚)は数千個の細胞から成るが、これをtrypsinizeして静置培養すると、急増殖を示した。その内シートの一部が盛上り、beatingを示した。5〜6日からはじめて3週間以上beatingは続き、最高毎分140搏位であった。胚の受精膜のみを培養すると、塊をあちこちに作ったが、その中にも高く盛上った塊が見られた。これらは心を作っていくものと思われる。
:質疑応答:
[堀川]はじめの薬剤の話は、細胞と薬剤の関係が一定でない、ということですね。つまり、たとえばCHSだと腎上皮は完全にやられてしまうが、心センイ芽細胞は影響を受けない。だが他の薬品だとまた違う結果が出る、ということですね。
[奥村]そうです。
[吉田]1コの卵から1コの心ができるのですか。
[奥村]大体そうです。
[堀川]材料にした胚はまだ心など判らない時期のものでしょうから、心の原基のようなものが分化して行くわけですね。
[吉田]どのstageになると分化が起るか、ということが大切ですね。
[奥村]Trophoblastsを別にわけると、一緒においた時よりも、心のでき方が悪いようです。
[永井]beatingしている細胞塊の内部構造は?
[奥村]いましらべています。
[永井]Inductionが起きていると考えますか。
[吉田]もちろん起っている筈ですね。
☆☆☆癌学会に提出予定の題名(仮題)☆☆☆
第15報:4NQO類による培養内transformation(黒木)
第16報:4NQO類発癌ハムスター細胞の染色体分析(吉田)
第17報:培養内4NQO処理ラッテセンイ芽細胞の顕微鏡映画観察(勝田)
第18報:4NQO類発癌剤の毒性に対する抵抗性(示説)(黒木)
第19報:培養内自然発癌のラッテ肝細胞について(2)(佐藤)
【勝田班月報・6709】
《勝田報告》
A)ラッテ肝各分劃のDAB消費:
ラッテ肝を潅流后、細切し、10mM MgCl入りの0.25M
sucrose液中でテフロンホモゲナイザーでhomogenizeし、超遠心で核、ミトコンドリア、ミクロゾーム、上清と、4分劃に分け、反応液を加え、37℃1時間加温后に520μで吸光をしらべた(表を呈示)。結果は、分劃していないhomogenateでは代謝がみられるが、このなかには生細胞の混在している可能性もある。そして各分劃はほとんど似たような結果で、ミクロゾームとSupの混液がわずかに代謝しているかに見える。
今后は反応液の処方の検討と、分劃法の検討をおこなう予定で準備している。
B)“なぎさ"変異細胞株RLH-1のラッテ復元試験:
RLH-1を思切って大量にラッテへ復元するテストをおこなってみた。
細胞数:2x1000万個/ラッテ。 ラッテ:JARx雑系のF3、生后約1ケ月。
接種部位:皮下2匹、腹腔内2匹。
結果:腹腔内接種では、第7日には腹水中に分裂細胞の存在が認められた。皮下接種では、7日に径1cm位のtumorが接種部位の皮下に認められ、第10日に1匹だけ腫瘤をとり出しメスで細切して3匹のラッテの皮下に再接種を試みた。これは第7日にtumorをふれたが、以后regressしてしまった。
考察:ラッテのhistocompatibility gensはかなり強固なものらしい。だから純系動物細胞を用い、同系(しかも同じ親の子)に戻すことが必要。RLH-1はJARの純系にならぬ内の肝細胞が起源だが、純系化以后のJAR或いは雑系には戻りにくい。今回もどしたのは雑系と純系をかけ合わせたF3ということも遺伝的に面白い。
《藤井報告》
組織培養でtransformationを来した細胞を、免疫学的に元の細胞と比較して異同をみつけられないものかどうか、がテーマである訳です。具体的にはtransformed
cellsに元の細胞とは異なる抗原がみられるかどうか、あるいは元の細胞にあった抗原が減っているようなことがあるかどうかをみつけることです。
こういう実験には、immunodiffusionが適する訳ですが、この方法は抗原あるいは抗体をみつける免疫学的方法としては最も感度の低い沈降反応に頼る訳で、自信はあまりありません。幸い勝田班長が渡米土産の一つに実物を持って帰られたMicrodiffusion
methodのmicroplateがあり、これを使っていろいろ基礎実験をやっている段階です。これを使いますと、非常に微量の抗原、抗体で足り、感度はかなり良いようで少なくとも沈降反応の毛細管法の2〜3倍は行きそうです。抗原に使う細胞は50〜100万ケ位で一応1回分はありますので、組織培養レベルの仕事にも向くと思います。最終的には、cultured
transformedcellsを検討する訳ですが、培養はamateurなので、変な細胞をつくり勝ちで危いから、これも勝田先生におんぶしてやって行きます。
現在までにやったのは、抗原にマウス血清、抗血清に兎抗血清で、泳動の支持体にセルローズアセテート膜(PBS、pH
7.0)でやってうまく行き、次いでラット肝(抗原)と兎抗ラット肝細胞の系でみて、抗原のdiffusionが膜のmilliporeの大きさの関係でうまく行かず、結局agar1%にして5本の沈降線をはっきり認めています。
次に、勝田先生の所で、AH-130に抵抗性となったラットがあり、その血清と、AH-130の細胞および正常ラット肝細胞(非培養)の間に、沈降線が現れるかどうかをみました。血清は5回AH-130を接種し、各回とも拒否反応を示したもので、最終接種后8日で採血してあります。-16℃保存、稀釋しないで使いました。抗原になるAH-130細胞は、6000万個/mlを凍結融解后、テフロンホモジナイザーで、破壊(氷冷中、60分間、PBSに浮游)しました。破壊后1%Na-Deoxycholate(DOC)の等量を加へ、再びホモジナイズし、lipopolysaccharide系の膜抗原の遊離を企図しました。この方がPBSで抗原抽出をおこなうより多くの沈降線が出ることをみています。支持体は1%agar(difco)、in
0.2%DOC、厚さは市販のビニールテープ(薄い方)2枚相当で極めてうすい。泳動はcold
roomで3日間。泳動后、水洗1日。乾燥してAmid
Blackで染色し顕微鏡下に検討します。(各well内液量は0.01ml位)
抗血清−兎抗ラット肝血清 1/1。抗原にAH-130とラット肝細胞をおいたもの。
抗血清にAH-130抵抗性ラットの血清、3xconc。抗原にAH-130と正常ラット肝細胞。
抗血清にAH-130対抗性]らっとの血清1/1。抗原にAH-130のExtract
in 0.5%DOC。
(夫々の図を呈示)このように、一応、iso-、homo-、の間で線が出ています。方法として抗γ-Gl抗体や蛍光ラベル抗体の利用や、沈降線と細胞分劃抗原との関係等がわかってくれば、transformed
cellsの相手になれるかと思っています。
《高木報告》
1)前報1)2)両実験とも4NQO処理後に生じたtransformed
fociを、trypsinで処理して継代した処、継代1代目では実験群の細胞はcontrolの細胞に比し、細胞の境界が明瞭で核は比較的大きく、その中にはっきりした核小体が2〜3ケ認められた。しかし細胞がpile
upして増殖する像はみられなかった。この様な細胞を更にsuckling
ratへの移植を考えて継代した処(2代目)、倒立顕微鏡下では形態的にあまり差異が認められなくなった。目下染色体標本を作製中で、suckling
ratの入手出来次第、移植を試みる予定である。
2)Nitrosoguanidine(NG)の培養細胞(RT)に対する効果を観察すべく、まずその濃度を検討した。NG
5〜10mgを1mlのethanolにとかし、それをNaHCO3を加えないacidicなHanks液(pH6.3位)で稀釋して、500μg、250μg、100μg、50μg/ml濃度の液を作り、ControlとしてHnaks液にethanolをNG
500μgのものに相当する丈加えたものをおいた。
MA-30培養瓶に培養したRT細胞に、2mlずつ各濃度の液を加えて、CO
2incubatorに2時間incubateし、その後4mlの培地(LT+Eagle's
vitamin+10%calf serum)を加えて培養をつづけた。2日後には500μg、250μg加えた細胞は完全に死滅し、100μg、50μgでは細胞が丸くなり、短い突起で網状につながった様な形態を呈したので、NGを全く含まない培地で交換した。しかしこれらの細胞も2〜3日後には殆ど脱落してしまった。
次いで50μg、10μg、1μg、0.1μg/mlの濃度につき検討を加えた。上記の実験と同様にして、ただ今回はNGをとかしたHanks液によるincubationを1時間とし、それに2倍容の培地を加えて経過を追っているが、4日目の今日、0.1μg、1μg処理群では殆どcontrolと変りなく、10μg、50μgでは細胞の変性がみられ、とくに50μgでは顕著である。refeedして観察をつづけると共に次回は10μg〜100μg/mlを中心に再度実験を繰返してみたいと思う。また純系ratのprimary
cultureに対する効果も観察すべく準備中である。
《黒木報告》
colony-levelのtransformationのtechnique上の見通しがついたので、7月になって、いくつかの実験をstartさせた。しかし、それが全部失敗に終った。P.E.が1/10程度におち、またsizeが小さく、colony-transformationも見られないようになった(血清のlotは同じ)。この原因がfeeder
cellsのlot差によるものであることが最近になって分った。このためマウス胎児を培養したら、それをまずlotテストし、残りを凍結、よいlotをもどして使うSysemに最近きりかえたところである。
9月末の班会議にはcolony-levelの仕事を多分報告出来ると思う。
HA-15の移植
15分間 10-4.5乗M 4HAQO treatmentでtransformした細胞が最近やっとtranspl.(+)となった。delayed
malignizationにぞくするものかも知れない(表を呈示)。
《三宅報告》
前回に引き続いてd.d.系マウスの胎生(17日)の皮膚をOrgan
Cultureして、MCA 4μg/ml、4NQO 10-6乗Mを作用せしめた。両者共に7日間の間、同じ濃度のもとに放置し、後H3-TdR
1μc/mlを2時間incorporateしてAutoradiographyで追ったのである。L.I.はBasal
layerとSupra basal layerについて600個の細胞について計算した処、MCAでは28.1%(対照24.5%)となり、前回を下廻る結果をえた。この前回31%のものが、下廻る数字をえた理由は、計算上の技術上の差があるかもしれない。というのは前回は、標本をすべてphotoに撮影した後の計算であったが、この度は顕微鏡の直下での計算であった。4NQOについては前回と同様にCell
damageが強い。この理由は、判らない(写真を呈示)。
ヒトの胎児皮膚(12〜14週)のCulture(MCA)をしたものを、dd系マウス及びハムスターのポーチに移したものについては、米粒大の腫瘤が残っているものがある。
《堀川報告》
1)培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護
ならびにLeukemogenesisの試み(3)
この実験は培養方法をかえたり4NQOの濃度、処理時間をmodifyして実験を進めている段階で、その結果については今月は特筆すべきものがないので次回にゆずることにする。従って今月は以下の問題について結果を簡単に報告する。
2)培養哺乳動物細胞における紫外線障害回復の分子機構の研究(1)
紫外線照射によるThymine dimerの形成、さらにはこれらの障害からの分子レベルでの回復機構はE.coliを中心とする微生物において次第に明らかにされてきているが、こうした微生物で見出される分子過程の回復機構が哺乳動物細胞にも存在するかどうかということは、生物の進化の過程の究明さらには臨床医学への直接的応用という面から最も重要かつ興味を呼ぶ問題である。
こうした目的からわれわれはmouse L cells、Ehrlich
ascites tumor cells、PS(ブタ腎細胞)を用いてCO2
incubatorによるコロニー形成法で、これら三種の細胞株のX線に対する線量−生存率関係(線量効果曲線)を調べた(表を呈示)。その結果は、三種の細胞ではX線感受性にまったく差のないことがわかった。
しかるに一方紫外線に対する線量−生存率関係を調べた結果では(表を呈示)、三者でまったく異った感受性を示し、紫外線照射に対してPS細胞が最も感受性が高くEhrlich
ascitestumor cellsは最も抵抗性細胞でL細胞はこれらの中間であることがわかった。
このように細胞種によるX線感受性には大きな差異は存在しないが(耐性細胞は別問題、これはいつかの機会に報告する)、紫外線に対する感受性は起源を異にする細胞株の種類によって大きく異なることがわかる。こうした結果は発生学的見地から見た際、非常に重要な問題を提供し、同時にある特殊な細胞株では紫外線障害回復能あるいはまたこうした回復能では説明し得ない紫外線抵抗機構をもつものと推測される。
つづいて紫外線照射線量に対するDNA内のthymine
dimer生成率を三種の細胞株でみると(図を呈示)、照射線量の増加と共にthymine
dimer生成量は増加し、しかも三種の細胞間にはまったく差異はなく始めの低線量域を除いて直線的に線量と共に増えることがわかった。こうした3種の細胞株で照射線量とともに生成するdimer量の間に大差がみられないことは、Schneider(1955)やChargaff(1955)の報告したMouse、Mouse
ascites carcinoma、PigなどでのDNA塩基組成にそれほど大きな差異がないという結果からも一応うなずけられる。ではこのようにDNA中に紫外線照射によって生成するdimerの除去機構が3種の細胞間でどのようにおこなわれているか、ということが以後の大きな問題となってくる。
《奥村報告》
SV40ウィルスによるハムスターfibroblastsの増殖誘導
Spontaneous cell transformationの実験で、既に報告しましたシステムを用い、今度はtransforming
agentとしてSV40ウィルスを組み合わせてみました。細胞はnewborn
hamsterの皮下のfibroblastsです。初代はplaque
bottleで培養、2代目にシャーレへ移し(1000〜5000/3ml/dish)、約2w后にsmall
colonyをisolateして、再びplateする。従ってtransform-ationの実験には3代目のものを用いたことになります(培養通算日数は17〜20日)。agentsを加えるときのcolony数は実験シリーズによって異りますが、現在まで3回行った結果では20〜35ケ/dishです。SV40ウィルスは777strainをGMK(primary)でpassageしたもの、titerは10-7.5〜8.0乗
TCID-50/0.2。
実験成績(1)3代目plateと同時にinfectさせた場合(m.o.i.50)と、実験成績(2)plate后5日にinf.(m.o.i.50)の結果表を呈示。なお、実験条件の詳細な検討は進行中です。
【勝田班月報:6710:Transformationを来した細胞の抗原性の変化】
A.4NQO発癌実験:
4NQOによる実験は主としてRatのfibroblastsを用い(実験一覧表を呈示)、最近の実験で4NQOの濃度を3.3x10-6乗Mにあげてみたところ、これまで変異細胞の集落の発現するのに約1月要したのが、きわめて短縮され、たとえばExp.CQ#23の実験では処理後8日目に1本の培養管の中に5コの集落が発見された(その経過の映画供覧)。仮にこの集落に、A、B、C、D、Eと略名を与えたが(顕微鏡写真を呈示)、増殖細胞Cは小型で、細胞質顆粒に富んでいる。Dはやはり小型の顆粒の多い細胞が見られる。これらの集落が夫々別個に発生したものか、或は一コの集落から飛火したものか、これは現在のところでは不明である。
復元接種試験は、この最近のexpt.の細胞はまだ接種していないが、その前のものは今日までのところでは何れも陰性の結果となっている。
しかし、このように短期間で変異細胞(?)が現われるようになったので、映画でその全過程を追うにしても、これまでの4倍の能率を上げることができるようになり、うまく視野内で変異をcatchできる可能性が一段と強くなった。今後は当分この3.3x10-6乗M・30分処理でやって行きたいと思っている。
B.“なぎさ”培養によって生じたラッテ肝細胞の変異株RLH-5:
Exp.series“CN"#43でRLC-9系からRLH-5が得られた。その形態は(顕微鏡写真を呈示)肝癌AH-130に似ており、活発な運動性を示す。この変異株で面白いのは、はじめに使った細胞がRLC-9であり、これはJAR系ラッテのF29の雌の肝で、完全な純系材料を出発点としていることである。従って現在、復元の準備を進めているが、“take"される可能性がきわめて高い。
RLH-5の染色体のmodeは(図を呈示)63本と66本にピークがある。(64本が谷になっているのは、technical
failureによるものか否か、未だ不明)3倍体〜高3倍体で、その意味からも“take"されそうな感じがする。
C.正常ラッテ肝ホモジネートによるDAB代謝:
これまでrat肝をhomogenateにすると、どうもDABを代謝してくれないので困っていたが、反応液の処方を変えることによって、今回はじめて旨く行くようになった(処方を呈示)。この前の処方はMillerらのものであるが今度は安藤班員の新しく考案した処方である。
測定結果は、homogenateの作り方を、普通のWaring
blender、テフロンのホモジナイザー、フレンチプレスと3種採用して活性を比較してみた。また作ってすぐ測定したのと、4℃で2日間おいてから測ったのと、2種のデータをとった。
作って当日の測定(37℃、30分の加温)では、フレンチプレスによるhomogenateが最高の活性を示しているが、2日保存するとWaring
blenderの方が最高の活性を示している。どういう理由か、確かなことは未だ云えないが、保存中にenzymesが液中に遊離してくるためかも知れない。
D.なぎさ変異肝細胞RLH-1の復元接種:
RLH-1はこれまで何回復元しても腫瘍を作らなかったが、最近雑系ラッテとJARを交配して作っている第2系のJARのF3の生後1月のラッテに、皮下に2匹、腹腔内に2匹、2,000万個位宛入れたところ、皮下の方が2匹とも約1週後に小指大の腫瘤を作った。これは一部histology、他を培養と再接種(3匹)に用いたが次代のラッテでは腫瘤は形成せず消失してしまった。I.P.された2匹は未だ生存している。
:質疑応答:
[黒木]4NQO類による変異細胞は一般に顆粒が目立ちますね。
[吉田]復元にはF1のラッテを使う方が良いですよ。
[永井]DAB用のhomogenateを作るのにdeoxycholateを使ってみましたか。
[高岡]まだです。目下計画中です。
[黒木]4NQOは、特に細胞数が少いと毒性が強いですね。あのcolonyは少し立体的すぎる感じですね。Subcultureすると次代の形態はどうですか。
[高岡]継代しましたが形態はまだ見ていません。
[勝田]さっきお話したようにell sheetが流れて丸まったものではないかと思っています。Coloniesができたところで、早目に復元することを考えていますが、女はケチだから・・・。
[吉田]丸まったシートの中で、何かこわれた細胞から取って変異細胞が出来てくるのでしょうかね。なぎさ理論のように・・・。
[黒木]私はFull sheetになる1日前に薬剤をかけるようにしています。
[梅田]Heidelbergerの仕事では、あるcell
lineで変異株がとれても、他のでは駄目ですね。
[黒木]Colony levelの仕事に持込まなくてはなりませんね。今の所の“変異”のマーカーは?
[勝田]この場合はColony毎に性質がちがうかも知れません。マーカーとしては、いまのところは、coloniesが出来たということと、その細胞の増殖が早いということ、この二つだけcheckしています。
[吉田]悪性ということは、ネズミにつくかつかないか、だけではcheckできにくいですね。
[堀川]無処理のcell lineでも染色体の乱れはありますか。
[吉田]動物によってちがいます。マウスは変り易いですが、ラッテは維持しやすいですね。
[藤井]癌研の宇多小路氏の言によると、臓器によって染色体(数?)がちがうとのことですが、本当でしょうか。
[吉田]昔はちがうとも云われましたが、それは技術的エラーの結果で、現在ではちがわないとされています。
[梅田]4NQOの作用機序は判っていますか。
[黒木]4NQOそのものについては、どう変化するかはしらべられています。
[堀川]8アザグアニン作用後にでも、DNAに結合するということは云われています。
[黒木]杉村氏などは、蛋白への結合をいま問題にしているようですね。
[勝田]そのようなレベルの仕事は、今後培養で解明して行くべきですね。
《黒木報告》
4NQO/ハムスター胎児の組合せによるin vitro
transformationの仕事も、ようやくむつかしい段階に達し、単にin
vitroで癌を作るだけではなく、癌化の機構にせまるように内容を飛躍させねばならない段になった。
今までの技術を使ってtransformation stageのphenotypeを詳細に追いかけることも必要であるが、さらに技術を発展させるために次の三つの方針を定めた。
(1)colony-levelでtransformationを判定し、定量的にtransformationを考える
(2)synchronous culture・systemによるtransformat.からcarcinogenと生体高分子とのinteractionの問題に入る
(3)established cell lineによるtransformationの系を新たに開発する
I.Colony-levelのtransformation
びわ湖の班会議のときに報告したように、carcinogen
treated cultureを発癌剤を除いてcolonyを作らせると、total
colonyの6.0%前後に“transformed colony"がみられる。されに7月の班会議には、hamster胎児細胞をfeeder
cellsの上にまき、24時間後に4HAQOを加えると“transformed
colony"が2.0%にみられたことを報告した。そこで問題は
(1)reproducibility
(2)“transformed colony"と考えたものはun-treated
cultureには検索した範囲では、1度も発見されないものであるが、それが本当に→transformation→malignizationに連なるものか
(3)soft-agar法との関連性である。
(1)Reproducibility
feeder cells、Bov.serumのLot差の問題などのため、しばらくcolonyがうまくできないことがつづき、実験は予定よりかなりおくれてしまった。(実験結果を表で呈示)
以上今までのexp.を失敗も含めてすべてならべてみたが、dataにばらつきの大きいこと、率が前のexp.と比べると低いことがはっきりした。株細胞(HeLaなど)のplatingと異り、feeder
layerを用いるembryoのsystemは技術的にはまだ不安定で、ときには原因が分らずに低いPEを示す。PEが低いとtransformed
colonyの出現率が0となる・・・
ここで云うtransformed colonyが無処置及びnon-carcinogenic
derivativeの中には見当らないとしても、本当にtransformation→malignizationに連なるものかどうかは自信がない。目下、一つのtransf.の経過の各時期を追いかけて、colonyの形態をかんさつ中である。
なお、Sachsらのいうtransformed colonyは原著の写真をよく検討してみたところ、我々のexp.では無処置にみられるものもtransformedとして扱はれているようである。
soft agarのcolonyも平行してすすめている。現在の段階では、non-treatedのhamster胎児も、Bact-peptone
0.1%添加soft agar中では500/100,000程度に小さい(30ケ前後のcellから成る)コロニーを作ることが分った。目下exp.が進行中である。
II.Synchronous culture系
excess TdR(2mM)法で、3代目のハムスター胎児の同調培養を試みた。細胞の増殖曲線からみると、ある程度の同調は得られたようである。目下autoradiographyでDNA合成MIなどをみているところである(同時にlife
cycleの分析もおこなったがまだ結果は出ていない)。
III.BHK-21を用いたtransformation
初代培養を用いたtransformationは、正常→悪性への変化をみるのにはよいが、定量的にtransformationの機序を解析するためには不利である。
virusではBHK-21/polyoma、3T3/SV-40のような優れたsystemが開発されており、「悪性」はぬきにして、transformationの問題が解析されている。
chemical carcinogenesisでもそれと同じような系がどうしてもほしい訳で、最初に3T3/4NQOを試みた。月報6703に報告したように、giant
cellsなどの異常は確かに起こるのだが、目的とするpiled
upはおこっても不安定でgeneticな変化かどうかは確実ではなかった。また、colony-levelでanalysisにもっていけなかった。
そこでBHK-21を用いてみた。BHK-21は御承知のように、polyoma
virusで配列が乱れ、pile-upする他、mycoplasma、Rous
virus、adenovirusでもtransformすることが知られている。
最初にwildのBHK-21に10-5乗M4HAQOでtreatmentしたところ、以下に示すようなcolony
levelのtransformationを得ることができた。
cells:山根研由来のBHK-21 uncloned
Media:10%B.S. or C.S. Eagle MEM Kanamycin
30mg/lを含む
colony:20%C.S. Eagle、Falcon Petridish(60mm)
carcinogen:10-5.0乗M 4HAQO for 9days
BHK-21のcolonyはよく知られているように、規則的な配列を示す典型的な繊維芽細胞のそれである。その他に、treated
cultureには、規則的な配列を示さない中心部が厚くもり上ったcolonyが沢山みられる。このコロニーは中心部が非常にpile
upするので剥れやすく、10日以上incubateすると沢山のdaughter
colonyを作る傾向がある。これはcontact inhibitionのlossと関係あると考え、一応、transformed
colonyとして扱うと(表を呈示)、P.E.はtreatment直後はcarcinogenのcytotoxic
actionのためか、かなり低い(無処置は20%程度)が、継代とともにP.E.は上昇し、transformed
cellsの出現率も6.3→35.6→71.5→85.0と急速に上昇する。non-transformed
colonyは14.2→53.0→19.9→0と多少の消長はあるが55日後には非常に少なくなった(55日にnon-transformedが1ケみつかったが、cloningでとってしまった)。Small
unclassifiedとは小さいcolonyで細胞がパラパラと散在しているもの、transformedともuntransformedとも云えない。処理直後に多く次第に減少していくことから十分の大きさのcolonyを形成できない程度にcarcinogenでdamageを受けた細胞とも考えられる(X線照射のあとによくみられる)。このようなtransformed
colonyの増加が、(1)selective overgrowth、(2)delayed
transformation、(3)transforming agent(?)のtransmissionのいずれによるかは今後の分析によらねばなるまい。(1)のselectionと考えるときには、treated
cultureのP.E.の増加が一つのevidenceとなる。しかし、mass-cultureのgrowth
curveでは両者の間に差がない。
次の問題は、このようなコロニーの形態上の差が、geneticな変化か否かである。これをみるためにtreated
cultureからtransformed colony(Exp.#1〜#5)及びnon-transformed
colony(#6)をとり、そのprogenyを観察した(colonyをpick
up後直ちにdilutionしplateする)55daysに行った(表を呈示)。#5の例を除けばtransformedのprogenyはすべてtransformedであり、non-transformedのprogenyの93.6%はoriginalと同様の形態である。少数の例外はcolonial
cloneにつきもののcontaminantとして考えてよい(特にtransformed
colonyは剥がれやすいので、non-transf.にcontaminateする率は高い)。
この後の問題として
(1)reproducibility
(2)cloned populationの使用などである。目下、二回連続してとったcolonial
cloneを用いてexp.を開始している。また
(3)mycoplasma、virusのcontaminationの可能性も十分に否定する必要がある。
いずれにしても3T3/4NQOよりははるかに有望である。今後は、このsystemの開発に力を入れたいと思っている。
:質疑応答:
[吉田]全胎児を材料にしている場合には、当然色々な細胞のコロニーが出来ることが考えられますね。そろそろ胎児を卒業して特定の臓器を使うべきではないでしょうか。
[勝田]薬剤の処理時間を変えるとどうなるかということと、同調培養で薬剤を作用させた時の結果をにらみ合わせてみたいですね。
[堀川]Celll cycleによる発癌性の問題ということですね。
[勝田]我々としてすぐやってみるべき実験は、矢張り、同調培養で4NQOを作用させてみることです。そうすると変異率がぐっと上るはずですね。我々のdataと黒木班員のdataから想像出来ることは、cell
cycleの中での非常に短い期間に作用しているのではないかということです。
[黒木]三田氏のdataではテトラヒメナを同調培養しておいて、4NQOを作用させるとG2期にきくということです。
[堀川]放射線関係のdataでも、変異に関係のあるのはG2期といわれています。
[勝田]G2期に作用するならば、すぐDNAにむすびつくわけですね。
[吉田]そうですね。そしてすぐ染色体異常をおこすわけです。
[勝田]今度使い始めたBHK-21という株は悪性ではありませんか。悪性だとすると異常分裂が多いから、変異率が高いのではないでしょうか。
[黒木]それは考えられることです。cloneをとって凍結保存をしておいて、あまり継代せずに使うつもりです。
[安村]いくらcloneをとっても、継代を重ねるとすぐ乱れますからね。それからcolonial
cloneの場合は少なくとも2回はくり返してcloningするべきです。
[勝田]2回ぐらいやってもcloneにはならないと思います。映画で観察していると、1ケだけにされた細胞は殆ど死ぬようです。それが2ケだと割合に順調に増え出します。cloneと言うからには、矢張り1ケ釣りをしないと駄目だと思います。
[安村]1ケ釣りからふやしても、populationとして実験に供することが出来るようになる頃には、矢張り乱れてしまうのではないでしょうか。始めに吉田氏の言われた全胎児というような均一でない材料から出発すると、当然色々な細胞のcolonyが出てきて変異か、selectionかわからなくなるから、全胎児は材料として不適当と思われるということについて、私はむしろその均一でない材料を生かして、処理前にcloneをひろって、それから4NQOを各cloneに作用させてみれば、どの種類の細胞が4NQOで変異するかがわかると思いますがね。2代目で5%のP.E.ならcloneは充分ひろえるはずです。
[勝田]cloneのカミサマのお話を少しききましょう。
[堀川]確立されたcloneで分化の度合と変異の関係をしらべられそうですね。
[安村]要するに一般に言われている「培養細胞が機能を持たない」というのは、目指す細胞をひろっていないからです。機能を持たない、或は失われたかに見える時は、機能を有する細胞がselect
outされた結果にすぎないように思われます。自分の経験によれば、ステロイド産生細胞はその機能を維持し得ますが、それはcloningをしてステロイド産生細胞の系としてcloneをひろった場合です。
それからfibroblastsはcloningしやすいのですが、上皮系の細胞はむつかしいですね。
《佐藤報告》
ラット細胞←4NQO復元動物
4NQO→ラッテ培養細胞→新生児ラッテ復元(68匹)の一覧表を呈示
総括
細胞はDonryu系ラッテ全胎児より5系、同系胎児肺より2系、同系胎児肝細胞株2系。
培地:20%BS+LD及び20%BS+YLE・YLEの方が4NQO処理後の回復が早い。
4NQO:5x10-7乗Mは数日より最高62日処理。10-6乗Mは数時間、最高19回処理。10-5乗Mは数分間、最高4回処理。
対照としてDMSO処理を行った。
接種細胞数は50万個から500万個。
接種部位は脳内、腹腔内、皮下及び前眼房内。(接種細胞の顕微鏡写真を呈示)
結果:現在まで腫瘍は発見されていない。
:質疑応答:
[勝田]今の写真の肝細胞はあまり変異しているように見えませんね。無処置の肝実質細胞系でもよく見られる像です。細胞の大小はspaceの問題だと思われます。私の所で肝実質細胞に4NQOを作用させたら、cell
sheetにすき間が出来たような像がみられました。
[堀川]一つ一つの細胞がちぢんでしまったのですか。
[勝田]よくはわかりませんが、細胞表面が変るのではないかと思われます。
[黒木]ラッテ胎児肺からは、どんな細胞が培養されましたか。
[佐藤]fibroblastsと上皮様のものと両方出てきます。4NQOを作用させるとfibroblastsが残るようです。
[安村]変異しているらしく見えるものをcloningすれば、−本当に変異しているcloneがひろえた−ということも考えられませんか。
[佐藤]どうでしょうか。ハムスターの細胞は作用をうけてから、あとはひとりでに悪性化の方向へ進むように思われますが、ラッテの場合はそう簡単にゆかないようです。
[吉田]4NQOは製品による効果のちがいが大きいようですね。
[永井]毒性がちがうのですか。
[吉田]そうです。
[黒木]しかし細胞の側からみても、随分デリケートだと思います。同じ製品でも同じcell
lineでも培養のtubeによって(個体差)異なる時があります。それから毒性のことでは、feederを使うと無処置群は抵抗性を増します。
[安村]4NQO変異株には4NQO耐性があるのですか。
[黒木]釜洞氏の所のdataでは一応あるということになっていましたがあまりはっきりしないようです。私の所でもしらべてみましたが、はっきり耐性があるとは言えません。
[吉田]耐性と悪性というのは、全く別の問題だろうと思います。
[勝田]薬剤の製品むらについて一言。DABも製品によって可成り不純物の混合比がちがうようです。寺山氏から教えられて精製して使い始めました所、dataが変ってきて以前の濃度では細胞が死んでしまって困っています。
《藤井報告》
“なぎさ”培養によりtransformationを来した細胞の抗原性の変化について。
“なぎさ”培養によりtransformationをおこした細胞、RLH-5とtransformationをおこしていない対照細胞、RLC-9(何れも医科研癌細胞研のもの)について、前回の月報に記したmicrodiffusion法により抗原を比較した。
実験091367:
RLH-5、20万個を0.5%Na-Deoxycholate-PBS.・0.05mlに浮遊させ、ガラスホモジナイザーにて(30分間、氷冷して)破壊、そのホモジネートを使用。
RLC-9、40万個は同様に(0.1mlに浮遊)してホモジェネートを作る。
沈降資料:(1)(6)はRLC-9,50万個per well。(7)はnormal
rat liver tissue,50万個per well。(3)(4)はRLH-5,50万個per
well。(2)はAnti-rat liver tissue rabbit antiser.(FR51)。(5)はAnti-rat
liver tissue rabbit antiser.(FR56)。(図を呈示)する。
結果は(2)と(7)の間にみられる沈降線の中“a”が(1)と(2)の間にみられる“a'”と融合するようであるが、“a'”が(1)の周のlipoproteinに由る暈輪とはっきり区別し難い。(2)とtransformed
cellsの(3)の間に“a'”に相当する沈降線はみられない。この関係は抗血清(5)に対しても同様であるが、FR56血清(5)はFR51(2)より抗体値は低い。
この成績からRLH-5細胞は、RLC-9細胞が正常ラット肝組織と共通抗原としてもつ抗原を持っていないようにみえる。
実験092567:
(1)(6)はRLC-9,50万個per well。(7)はRLH-5,50万個per
well。(3)(4)はRLH-5,150万個per well。(2)はFR51。(5)はAnti-rat
ascites tumor(AH-13)rabbit ser.。
この実験では各細胞のホモジェネートを遠心し(2,000rpm,10min.)上清を使用した。
結果は(1)と(2)の間に明確な沈降線がみられるが、これは(2)とtransformed
cells(3)(7)の間にはみられない。(6)と(5)すなわち抗ラット腫瘍(AH-13)の間には沈降線はないが、(4)transformed
cellsと(5)との間には明快ではないが確かに沈降線がみられている。
この成績は“なぎさ”培養によるtransformed
cellsが、対照の正常培養RLC細胞の有つ抗原を失い、ラット肝癌(AH-13)と共通な抗原を獲得(?)していることを示しているようである。tumor抗原のことは、なおこの程度の沈降線では確言出来ないけれども。
(Exp.092567の写真を呈示)
:質疑応答:
[勝田]化学発癌の場合、各例性質の違うものが出来ると言われていますが、本当にそうか、抗原の点で共通のものでも持っていはしないか、ということもねらいの一つです。
[吉田]ホモの場合に沈降線は出ますか。
[藤井]大抵出ませんね。抗AH-13 rat血清と抗ラッテ肝組織Rabbit血清との間の新しい沈降線は何を意味しているのでしょうか。
[黒木]AH-13は樹立されてから、もう随分たっている肝癌ですから、現在では抗原抗体反応の系としては不適当ではないでしょうか。
[吉田]L株細胞でもまだ種特異抗原をもっている位ですから、種特異抗原のようなものは案外長くもっているのではないかと思います。
[黒木]私も4NQO肉腫を抗原にして、同種の動物で抗血清を作ろうとしているのですが、なかなか出来ないものですね。
《三宅報告》
先般来皮フのOrgan cultureをしたものに4NQOを作用させると、2週間後の形態学的観察では、変性、ヱ死が極めて著明であったことは、のべた。それで組織片が変性し始める前に、これをCell-Cultureのlevelに移しかえると、細胞のViabilityが元に戻るというWorking
Hypothesisの上に立って、Organ Cultureを4NQO作用後、Trypsinization(これ以後に、Pronaseに代える予定)及び、単にレザーによる細切をこころみ、平型試験管に移しかえてみた。Organ
Cultureとしての培養期間は7日間、このうち4NQO作用日数は4日間である。Cell
cultureに移すと、4NQO作用群は、初めでは細胞数は減少をつづけるが、5〜6日目頃から、コロニーを作り始めている、が一方対照群では増殖力は変化していない。これについてはCell-countはまだ行っていない。同様の4NQOを作用後に分散を1日早く行った群でも、その結果は同様であった。
細胞個々の形態学的な変化は著明なものはない。Piling
upとみられる像も、もちろんまだ著明なものを得ていない。
今後かかる実験をマウスやハムスターの胎児皮膚で行い、Organ
Culture→Cell Cultureという方法と皮膚の最初からCell
Cultureを行った上での実験を続けたい。
:質疑応答:
[安村]ヒトの皮膚から上皮様のcelll lineはなかなか出来ないものですね。
[吉田]この班では、ヒトの材料を扱う人がないのは何故ですか。
[勝田]ヒトの材料を扱った場合、悪性化しても復元接種して悪性化を確かめることが出来ないから困るのです。
《高木報告》
1)4NQOを作用せしめたRT株細胞について、その後も経過を観察中であるが、transformed
fociがみつかってから約2ケ月を経た今日、処理細胞のpile
upする性質も一部の培養を除き継代中に次第に消失してしまった感がする。これらの細胞の形態をスライドで供覧する。第2回目に行った実験群で、4NQO
10-6乗Mで処理した細胞については、近日中に王様ラットが出産の予定であるので100万個の細胞を復元の予定である。
2)Nitrosoguanidine(NG)のRT細胞及びWister
King A rat胸腺細胞に対する効果
RT細胞を用いて: i)まずNG 500μg、250μg、100μg、50μg/mlの各濃度の液を作り、acidicなHanksにて稀釋し、これで細胞を2時間incubateした後2倍容の培地を加えて培養を続けたところ、2日後には500μg、250μg/mlでは細胞は完全に死滅し、4〜5日後にはすべての濃度において細胞はガラス壁から脱落した。ii)次により稀い濃度50μg、10μg、1μg、0.1μg/mlにつき検討したが、この場合incubationの時間は1時間とし、その後2倍容の培地を加えて培養をつづけた。4日後には0.1μg、1μgはcontrolと変りなく、10μg、50μgではやや細胞の変化が認められたが、その後50μgでは殆どの細胞が変性し、10μgでは対照と区別つかぬまでに細胞の増殖をみた。
従って用いるべき濃度は10μg〜50μg/mlの間が適当と思われる。
iii)次いで10μg、25μg、50μg/mlの各濃度につき、1時間incubation後、薬液を捨てて、新しい培地と交換して観察した。この場合には前回の実験と異り、25μg、50μg/mlでも細胞の軽度の変性がみられるに止り、50μg/mlはその後事故のため失ったが、25μgg/mlでは細胞の変性と共に10日目頃から細胞の異型性がつよく現れ、培養19日目の現在、多核細胞、巨核細胞の出現、contact
inhibitionの消失などの像がみられている。これらの像がreversibleかirreversibleか追求したい。
W.K.A rat胸腺細胞を用いて: 純系ratの胸腺細胞の培養を8月28日に開始し、fibroblasticな細胞をえた。これを用いて25μg、10μg/mlの濃度につき検討中である。今回もNGにincubationする時間は2時間とし、これに2倍容の培地を加えて4日間おいて観察中である。現在の処、25μg/mlの約半数の細胞が変性した像がみられる。
なおWKAratの胸腺及び胃を250μg/mlのNGで約1時間incubateし、その後25μg/ml含む培地上に8日間organ
cultureして、それをcell cultureに移す試みを行ったが、はじめに処理したNGの濃度が濃すぎた為か、或いは培養の期間が長すぎたためか、細胞のoutgrowthを認めることが出来ない。更に条件を検討中である。
:質疑応答:
[勝田]この系(RT細胞)はコラーゲンを産生していますか。
[高木]染色してみていないので、わかりません。
[吉田]ニトロソグアニジンの添加実験について、濃度を高くすると、変異細胞の出現頻度が多くなりますか。
[高木]25μg/mlの群からしか、変異細胞を得ていませんので、まだわかりません。これから追試してみたいと思っています。
《堀川報告》
1)培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびにLeukemogenesisの試み(4)
月報No,6708号までにマウス骨髄細胞の培養ならびに4NQO処理によるLeukemogenesisの試みについてこれまでに行った(実験1)から(実験6)までについて大要を紹介してきた。以来今日まで(実験9)まで進めて来ているが、未だ発表出来る段階に達していない。今回のこれら3実験は、班会議の際に問題とされた点、つまり「骨髄死」の防護実験とLeukemogenesisの実験を特に区別して進め、また4NQOで処理する時の骨髄細胞の培養条件(細胞のage及びcondition)を考慮してやっており、また取り出したばかりの新鮮な骨髄細胞が培養時間とともに種類の上からも更には形態面からも移り変っていく動態を各種染色法とアイソトープの取り込みで追っている。いづれこれらは或程度、物が言える段階に来た時に紹介する。
2)培養哺乳動物細胞における紫外線障害回復の分子機構の研究(2)
Thymine dimerの生成量は紫外線照射線量と共に増加し、しかも三種の細胞(PS細胞、mouseL細胞、Ehrlich
ascites細胞)の間にはまったく差異はなく始めの低線量域を除いて直線的に線量と共に増加することを前報で報告した。では生成されたdimerの除外機構がこれらの細胞間でどの様になっているかを知る必要がある。つまりここではDark
reactivationの機序が存在するかどうかを知る必要が生じて来た。
紫外線照射後、時間経過を追ってDNA中に存在するdimer量を測定した結果、MouseL細胞は紫外線400ergs/平方mm照射後120時間までにはDNA中のdimerを除去する能力がない。つまりDark
reactivation enzymeを保持していないか、あるいは持っていてもごく微量であると推定される。次いでEhrlich
Ascites tumorでは照射後24時間において約30%のdimerがDNAから除去されることがわかった。つまりDark
reactivation enzymeを不完全ながら(100%除去出来ない)保持していることがわかる。このことは、DNAから除去されたdimerが酸可溶性分劃に放出されてくる状態をみれば、更に確固たる裏付けとなる訳で、そういう意味から紫外線照射後の時間経過に従って、Ehrlich細胞の酸可溶性分劃内のdimerの増加を調べ、Dimer/Thymine(%)は0時間1.23%、24時間36.31%、48時間71.88%、120時間104.08%と意義深い結果を得た。(夫々表を呈示)
以上の結果を総合すると400ergs/平方mm紫外線で照射された場合、mouseL細胞にはDNA中に生成したdimerを除去する能力は殆ど無いが、一方Ehrlich細胞ではDNA中に生成したdimerを約24時間後には、その一部約30%をDNAから除去し、酸可溶性分劃に放出する能力があるということである。すなわちEhrlich細胞には部分的な回復能をもっているということがわかる。では残りの50〜60%のdimerはchromosome上に残っているのか、そしてこのようなdimer残存の条件下でDNA複製を可能にさせている高等動物細胞の染色体という高次構造はどのようになっているのかという問題が生じて来る。従って当然細胞周期をめぐる動力的解析が必要となってくるであろう。
:質疑応答:
[安藤]Dark reactivationはどうやって行いますか。
[堀川]暗室で培養するわけです。カッティングエンザイム、ポリメレースが同一のものであるかどうかが問題点だと思っています。又UVと4NQOの作用の仕方に共通点があるのに興味をもっています。
[吉田]4NQO処理でdimerが出来るという論文を読んだ事があります。
[堀川]抗dimerを作ってミトコンドリアの酵素assayをしてみたいと思っています。細胞全体としてのdimerをみるのでなく、細胞の各分劃のdimerをみたいわけです。
[永井]修復促進剤はありませんか。又蛋白合成rateと修復との間にparallelな関係はありますか。
[堀川]修復促進剤は今の所見つかっていません。蛋白合成rateと修復とは関係なく行われます。
[吉田]この実験は三つの系統を使ってみている事が、複雑な結果をもたらしているのではないでしょうか。
[堀川]将来は勿論一つの系統で、耐性株と原株との比較をとりたいと考えています。
[吉田]その酵素は遺伝に関与していると考えていますか。
[堀川]そう考えています。一つの染色体をポンと入れると修復されるという、そういう染色体を見つけたいものです。
【勝田班月報:6710:Transformationを来した細胞の抗原性の変化】
A.4NQO発癌実験:
4NQOによる実験は主としてRatのfibroblastsを用い(実験一覧表を呈示)、最近の実験で4NQOの濃度を3.3x10-6乗Mにあげてみたところ、これまで変異細胞の集落の発現するのに約1月要したのが、きわめて短縮され、たとえばExp.CQ#23の実験では処理後8日目に1本の培養管の中に5コの集落が発見された(その経過の映画供覧)。仮にこの集落に、A、B、C、D、Eと略名を与えたが(顕微鏡写真を呈示)、増殖細胞Cは小型で、細胞質顆粒に富んでいる。Dはやはり小型の顆粒の多い細胞が見られる。これらの集落が夫々別個に発生したものか、或は一コの集落から飛火したものか、これは現在のところでは不明である。
復元接種試験は、この最近のexpt.の細胞はまだ接種していないが、その前のものは今日までのところでは何れも陰性の結果となっている。
しかし、このように短期間で変異細胞(?)が現われるようになったので、映画でその全過程を追うにしても、これまでの4倍の能率を上げることができるようになり、うまく視野内で変異をcatchできる可能性が一段と強くなった。今後は当分この3.3x10-6乗M・30分処理でやって行きたいと思っている。
B.“なぎさ”培養によって生じたラッテ肝細胞の変異株RLH-5:
Exp.series“CN"#43でRLC-9系からRLH-5が得られた。その形態は(顕微鏡写真を呈示)肝癌AH-130に似ており、活発な運動性を示す。この変異株で面白いのは、はじめに使った細胞がRLC-9であり、これはJAR系ラッテのF29の雌の肝で、完全な純系材料を出発点としていることである。従って現在、復元の準備を進めているが、“take"される可能性がきわめて高い。
RLH-5の染色体のmodeは(図を呈示)63本と66本にピークがある。(64本が谷になっているのは、technical
failureによるものか否か、未だ不明)3倍体〜高3倍体で、その意味からも“take"されそうな感じがする。
C.正常ラッテ肝ホモジネートによるDAB代謝:
これまでrat肝をhomogenateにすると、どうもDABを代謝してくれないので困っていたが、反応液の処方を変えることによって、今回はじめて旨く行くようになった(処方を呈示)。この前の処方はMillerらのものであるが今度は安藤班員の新しく考案した処方である。
測定結果は、homogenateの作り方を、普通のWaring
blender、テフロンのホモジナイザー、フレンチプレスと3種採用して活性を比較してみた。また作ってすぐ測定したのと、4℃で2日間おいてから測ったのと、2種のデータをとった。
作って当日の測定(37℃、30分の加温)では、フレンチプレスによるhomogenateが最高の活性を示しているが、2日保存するとWaring
blenderの方が最高の活性を示している。どういう理由か、確かなことは未だ云えないが、保存中にenzymesが液中に遊離してくるためかも知れない。
D.なぎさ変異肝細胞RLH-1の復元接種:
RLH-1はこれまで何回復元しても腫瘍を作らなかったが、最近雑系ラッテとJARを交配して作っている第2系のJARのF3の生後1月のラッテに、皮下に2匹、腹腔内に2匹、2,000万個位宛入れたところ、皮下の方が2匹とも約1週後に小指大の腫瘤を作った。これは一部histology、他を培養と再接種(3匹)に用いたが次代のラッテでは腫瘤は形成せず消失してしまった。I.P.された2匹は未だ生存している。
:質疑応答:
[黒木]4NQO類による変異細胞は一般に顆粒が目立ちますね。
[吉田]復元にはF1のラッテを使う方が良いですよ。
[永井]DAB用のhomogenateを作るのにdeoxycholateを使ってみましたか。
[高岡]まだです。目下計画中です。
[黒木]4NQOは、特に細胞数が少いと毒性が強いですね。あのcolonyは少し立体的すぎる感じですね。Subcultureすると次代の形態はどうですか。
[高岡]継代しましたが形態はまだ見ていません。
[勝田]さっきお話したようにell sheetが流れて丸まったものではないかと思っています。Coloniesができたところで、早目に復元することを考えていますが、女はケチだから・・・。
[吉田]丸まったシートの中で、何かこわれた細胞から取って変異細胞が出来てくるのでしょうかね。なぎさ理論のように・・・。
[黒木]私はFull sheetになる1日前に薬剤をかけるようにしています。
[梅田]Heidelbergerの仕事では、あるcell
lineで変異株がとれても、他のでは駄目ですね。
[黒木]Colony levelの仕事に持込まなくてはなりませんね。今の所の“変異”のマーカーは?
[勝田]この場合はColony毎に性質がちがうかも知れません。マーカーとしては、いまのところは、coloniesが出来たということと、その細胞の増殖が早いということ、この二つだけcheckしています。
[吉田]悪性ということは、ネズミにつくかつかないか、だけではcheckできにくいですね。
[堀川]無処理のcell lineでも染色体の乱れはありますか。
[吉田]動物によってちがいます。マウスは変り易いですが、ラッテは維持しやすいですね。
[藤井]癌研の宇多小路氏の言によると、臓器によって染色体(数?)がちがうとのことですが、本当でしょうか。
[吉田]昔はちがうとも云われましたが、それは技術的エラーの結果で、現在ではちがわないとされています。
[梅田]4NQOの作用機序は判っていますか。
[黒木]4NQOそのものについては、どう変化するかはしらべられています。
[堀川]8アザグアニン作用後にでも、DNAに結合するということは云われています。
[黒木]杉村氏などは、蛋白への結合をいま問題にしているようですね。
[勝田]そのようなレベルの仕事は、今後培養で解明して行くべきですね。
《黒木報告》
4NQO/ハムスター胎児の組合せによるin vitro
transformationの仕事も、ようやくむつかしい段階に達し、単にin
vitroで癌を作るだけではなく、癌化の機構にせまるように内容を飛躍させねばならない段になった。
今までの技術を使ってtransformation stageのphenotypeを詳細に追いかけることも必要であるが、さらに技術を発展させるために次の三つの方針を定めた。
(1)colony-levelでtransformationを判定し、定量的にtransformationを考える
(2)synchronous culture・systemによるtransformat.からcarcinogenと生体高分子とのinteractionの問題に入る
(3)established cell lineによるtransformationの系を新たに開発する
I.Colony-levelのtransformation
びわ湖の班会議のときに報告したように、carcinogen
treated cultureを発癌剤を除いてcolonyを作らせると、total
colonyの6.0%前後に“transformed colony"がみられる。されに7月の班会議には、hamster胎児細胞をfeeder
cellsの上にまき、24時間後に4HAQOを加えると“transformed
colony"が2.0%にみられたことを報告した。そこで問題は
(1)reproducibility
(2)“transformed colony"と考えたものはun-treated
cultureには検索した範囲では、1度も発見されないものであるが、それが本当に→transformation→malignizationに連なるものか
(3)soft-agar法との関連性である。
(1)Reproducibility
feeder cells、Bov.serumのLot差の問題などのため、しばらくcolonyがうまくできないことがつづき、実験は予定よりかなりおくれてしまった。(実験結果を表で呈示)
以上今までのexp.を失敗も含めてすべてならべてみたが、dataにばらつきの大きいこと、率が前のexp.と比べると低いことがはっきりした。株細胞(HeLaなど)のplatingと異り、feeder
layerを用いるembryoのsystemは技術的にはまだ不安定で、ときには原因が分らずに低いPEを示す。PEが低いとtransformed
colonyの出現率が0となる・・・
ここで云うtransformed colonyが無処置及びnon-carcinogenic
derivativeの中には見当らないとしても、本当にtransformation→malignizationに連なるものかどうかは自信がない。目下、一つのtransf.の経過の各時期を追いかけて、colonyの形態をかんさつ中である。
なお、Sachsらのいうtransformed colonyは原著の写真をよく検討してみたところ、我々のexp.では無処置にみられるものもtransformedとして扱はれているようである。
soft agarのcolonyも平行してすすめている。現在の段階では、non-treatedのhamster胎児も、Bact-peptone
0.1%添加soft agar中では500/100,000程度に小さい(30ケ前後のcellから成る)コロニーを作ることが分った。目下exp.が進行中である。
II.Synchronous culture系
excess TdR(2mM)法で、3代目のハムスター胎児の同調培養を試みた。細胞の増殖曲線からみると、ある程度の同調は得られたようである。目下autoradiographyでDNA合成MIなどをみているところである(同時にlife
cycleの分析もおこなったがまだ結果は出ていない)。
III.BHK-21を用いたtransformation
初代培養を用いたtransformationは、正常→悪性への変化をみるのにはよいが、定量的にtransformationの機序を解析するためには不利である。
virusではBHK-21/polyoma、3T3/SV-40のような優れたsystemが開発されており、「悪性」はぬきにして、transformationの問題が解析されている。
chemical carcinogenesisでもそれと同じような系がどうしてもほしい訳で、最初に3T3/4NQOを試みた。月報6703に報告したように、giant
cellsなどの異常は確かに起こるのだが、目的とするpiled
upはおこっても不安定でgeneticな変化かどうかは確実ではなかった。また、colony-levelでanalysisにもっていけなかった。
そこでBHK-21を用いてみた。BHK-21は御承知のように、polyoma
virusで配列が乱れ、pile-upする他、mycoplasma、Rous
virus、adenovirusでもtransformすることが知られている。
最初にwildのBHK-21に10-5乗M4HAQOでtreatmentしたところ、以下に示すようなcolony
levelのtransformationを得ることができた。
cells:山根研由来のBHK-21 uncloned
Media:10%B.S. or C.S. Eagle MEM Kanamycin
30mg/lを含む
colony:20%C.S. Eagle、Falcon Petridish(60mm)
carcinogen:10-5.0乗M 4HAQO for 9days
BHK-21のcolonyはよく知られているように、規則的な配列を示す典型的な繊維芽細胞のそれである。その他に、treated
cultureには、規則的な配列を示さない中心部が厚くもり上ったcolonyが沢山みられる。このコロニーは中心部が非常にpile
upするので剥れやすく、10日以上incubateすると沢山のdaughter
colonyを作る傾向がある。これはcontact inhibitionのlossと関係あると考え、一応、transformed
colonyとして扱うと(表を呈示)、P.E.はtreatment直後はcarcinogenのcytotoxic
actionのためか、かなり低い(無処置は20%程度)が、継代とともにP.E.は上昇し、transformed
cellsの出現率も6.3→35.6→71.5→85.0と急速に上昇する。non-transformed
colonyは14.2→53.0→19.9→0と多少の消長はあるが55日後には非常に少なくなった(55日にnon-transformedが1ケみつかったが、cloningでとってしまった)。Small
unclassifiedとは小さいcolonyで細胞がパラパラと散在しているもの、transformedともuntransformedとも云えない。処理直後に多く次第に減少していくことから十分の大きさのcolonyを形成できない程度にcarcinogenでdamageを受けた細胞とも考えられる(X線照射のあとによくみられる)。このようなtransformed
colonyの増加が、(1)selective overgrowth、(2)delayed
transformation、(3)transforming agent(?)のtransmissionのいずれによるかは今後の分析によらねばなるまい。(1)のselectionと考えるときには、treated
cultureのP.E.の増加が一つのevidenceとなる。しかし、mass-cultureのgrowth
curveでは両者の間に差がない。
次の問題は、このようなコロニーの形態上の差が、geneticな変化か否かである。これをみるためにtreated
cultureからtransformed colony(Exp.#1〜#5)及びnon-transformed
colony(#6)をとり、そのprogenyを観察した(colonyをpick
up後直ちにdilutionしplateする)55daysに行った(表を呈示)。#5の例を除けばtransformedのprogenyはすべてtransformedであり、non-transformedのprogenyの93.6%はoriginalと同様の形態である。少数の例外はcolonial
cloneにつきもののcontaminantとして考えてよい(特にtransformed
colonyは剥がれやすいので、non-transf.にcontaminateする率は高い)。
この後の問題として
(1)reproducibility
(2)cloned populationの使用などである。目下、二回連続してとったcolonial
cloneを用いてexp.を開始している。また
(3)mycoplasma、virusのcontaminationの可能性も十分に否定する必要がある。
いずれにしても3T3/4NQOよりははるかに有望である。今後は、このsystemの開発に力を入れたいと思っている。
:質疑応答:
[吉田]全胎児を材料にしている場合には、当然色々な細胞のコロニーが出来ることが考えられますね。そろそろ胎児を卒業して特定の臓器を使うべきではないでしょうか。
[勝田]薬剤の処理時間を変えるとどうなるかということと、同調培養で薬剤を作用させた時の結果をにらみ合わせてみたいですね。
[堀川]Celll cycleによる発癌性の問題ということですね。
[勝田]我々としてすぐやってみるべき実験は、矢張り、同調培養で4NQOを作用させてみることです。そうすると変異率がぐっと上るはずですね。我々のdataと黒木班員のdataから想像出来ることは、cell
cycleの中での非常に短い期間に作用しているのではないかということです。
[黒木]三田氏のdataではテトラヒメナを同調培養しておいて、4NQOを作用させるとG2期にきくということです。
[堀川]放射線関係のdataでも、変異に関係のあるのはG2期といわれています。
[勝田]G2期に作用するならば、すぐDNAにむすびつくわけですね。
[吉田]そうですね。そしてすぐ染色体異常をおこすわけです。
[勝田]今度使い始めたBHK-21という株は悪性ではありませんか。悪性だとすると異常分裂が多いから、変異率が高いのではないでしょうか。
[黒木]それは考えられることです。cloneをとって凍結保存をしておいて、あまり継代せずに使うつもりです。
[安村]いくらcloneをとっても、継代を重ねるとすぐ乱れますからね。それからcolonial
cloneの場合は少なくとも2回はくり返してcloningするべきです。
[勝田]2回ぐらいやってもcloneにはならないと思います。映画で観察していると、1ケだけにされた細胞は殆ど死ぬようです。それが2ケだと割合に順調に増え出します。cloneと言うからには、矢張り1ケ釣りをしないと駄目だと思います。
[安村]1ケ釣りからふやしても、populationとして実験に供することが出来るようになる頃には、矢張り乱れてしまうのではないでしょうか。始めに吉田氏の言われた全胎児というような均一でない材料から出発すると、当然色々な細胞のcolonyが出てきて変異か、selectionかわからなくなるから、全胎児は材料として不適当と思われるということについて、私はむしろその均一でない材料を生かして、処理前にcloneをひろって、それから4NQOを各cloneに作用させてみれば、どの種類の細胞が4NQOで変異するかがわかると思いますがね。2代目で5%のP.E.ならcloneは充分ひろえるはずです。
[勝田]cloneのカミサマのお話を少しききましょう。
[堀川]確立されたcloneで分化の度合と変異の関係をしらべられそうですね。
[安村]要するに一般に言われている「培養細胞が機能を持たない」というのは、目指す細胞をひろっていないからです。機能を持たない、或は失われたかに見える時は、機能を有する細胞がselect
outされた結果にすぎないように思われます。自分の経験によれば、ステロイド産生細胞はその機能を維持し得ますが、それはcloningをしてステロイド産生細胞の系としてcloneをひろった場合です。
それからfibroblastsはcloningしやすいのですが、上皮系の細胞はむつかしいですね。
《佐藤報告》
ラット細胞←4NQO復元動物
4NQO→ラッテ培養細胞→新生児ラッテ復元(68匹)の一覧表を呈示
総括
細胞はDonryu系ラッテ全胎児より5系、同系胎児肺より2系、同系胎児肝細胞株2系。
培地:20%BS+LD及び20%BS+YLE・YLEの方が4NQO処理後の回復が早い。
4NQO:5x10-7乗Mは数日より最高62日処理。10-6乗Mは数時間、最高19回処理。10-5乗Mは数分間、最高4回処理。
対照としてDMSO処理を行った。
接種細胞数は50万個から500万個。
接種部位は脳内、腹腔内、皮下及び前眼房内。(接種細胞の顕微鏡写真を呈示)
結果:現在まで腫瘍は発見されていない。
:質疑応答:
[勝田]今の写真の肝細胞はあまり変異しているように見えませんね。無処置の肝実質細胞系でもよく見られる像です。細胞の大小はspaceの問題だと思われます。私の所で肝実質細胞に4NQOを作用させたら、cell
sheetにすき間が出来たような像がみられました。
[堀川]一つ一つの細胞がちぢんでしまったのですか。
[勝田]よくはわかりませんが、細胞表面が変るのではないかと思われます。
[黒木]ラッテ胎児肺からは、どんな細胞が培養されましたか。
[佐藤]fibroblastsと上皮様のものと両方出てきます。4NQOを作用させるとfibroblastsが残るようです。
[安村]変異しているらしく見えるものをcloningすれば、−本当に変異しているcloneがひろえた−ということも考えられませんか。
[佐藤]どうでしょうか。ハムスターの細胞は作用をうけてから、あとはひとりでに悪性化の方向へ進むように思われますが、ラッテの場合はそう簡単にゆかないようです。
[吉田]4NQOは製品による効果のちがいが大きいようですね。
[永井]毒性がちがうのですか。
[吉田]そうです。
[黒木]しかし細胞の側からみても、随分デリケートだと思います。同じ製品でも同じcell
lineでも培養のtubeによって(個体差)異なる時があります。それから毒性のことでは、feederを使うと無処置群は抵抗性を増します。
[安村]4NQO変異株には4NQO耐性があるのですか。
[黒木]釜洞氏の所のdataでは一応あるということになっていましたがあまりはっきりしないようです。私の所でもしらべてみましたが、はっきり耐性があるとは言えません。
[吉田]耐性と悪性というのは、全く別の問題だろうと思います。
[勝田]薬剤の製品むらについて一言。DABも製品によって可成り不純物の混合比がちがうようです。寺山氏から教えられて精製して使い始めました所、dataが変ってきて以前の濃度では細胞が死んでしまって困っています。
《藤井報告》
“なぎさ”培養によりtransformationを来した細胞の抗原性の変化について。
“なぎさ”培養によりtransformationをおこした細胞、RLH-5とtransformationをおこしていない対照細胞、RLC-9(何れも医科研癌細胞研のもの)について、前回の月報に記したmicrodiffusion法により抗原を比較した。
実験091367:
RLH-5、20万個を0.5%Na-Deoxycholate-PBS.・0.05mlに浮遊させ、ガラスホモジナイザーにて(30分間、氷冷して)破壊、そのホモジネートを使用。
RLC-9、40万個は同様に(0.1mlに浮遊)してホモジェネートを作る。
沈降資料:(1)(6)はRLC-9,50万個per well。(7)はnormal
rat liver tissue,50万個per well。(3)(4)はRLH-5,50万個per
well。(2)はAnti-rat liver tissue rabbit antiser.(FR51)。(5)はAnti-rat
liver tissue rabbit antiser.(FR56)。(図を呈示)する。
結果は(2)と(7)の間にみられる沈降線の中“a”が(1)と(2)の間にみられる“a'”と融合するようであるが、“a'”が(1)の周のlipoproteinに由る暈輪とはっきり区別し難い。(2)とtransformed
cellsの(3)の間に“a'”に相当する沈降線はみられない。この関係は抗血清(5)に対しても同様であるが、FR56血清(5)はFR51(2)より抗体値は低い。
この成績からRLH-5細胞は、RLC-9細胞が正常ラット肝組織と共通抗原としてもつ抗原を持っていないようにみえる。
実験092567:
(1)(6)はRLC-9,50万個per well。(7)はRLH-5,50万個per
well。(3)(4)はRLH-5,150万個per well。(2)はFR51。(5)はAnti-rat
ascites tumor(AH-13)rabbit ser.。
この実験では各細胞のホモジェネートを遠心し(2,000rpm,10min.)上清を使用した。
結果は(1)と(2)の間に明確な沈降線がみられるが、これは(2)とtransformed
cells(3)(7)の間にはみられない。(6)と(5)すなわち抗ラット腫瘍(AH-13)の間には沈降線はないが、(4)transformed
cellsと(5)との間には明快ではないが確かに沈降線がみられている。
この成績は“なぎさ”培養によるtransformed
cellsが、対照の正常培養RLC細胞の有つ抗原を失い、ラット肝癌(AH-13)と共通な抗原を獲得(?)していることを示しているようである。tumor抗原のことは、なおこの程度の沈降線では確言出来ないけれども。
(Exp.092567の写真を呈示)
:質疑応答:
[勝田]化学発癌の場合、各例性質の違うものが出来ると言われていますが、本当にそうか、抗原の点で共通のものでも持っていはしないか、ということもねらいの一つです。
[吉田]ホモの場合に沈降線は出ますか。
[藤井]大抵出ませんね。抗AH-13 rat血清と抗ラッテ肝組織Rabbit血清との間の新しい沈降線は何を意味しているのでしょうか。
[黒木]AH-13は樹立されてから、もう随分たっている肝癌ですから、現在では抗原抗体反応の系としては不適当ではないでしょうか。
[吉田]L株細胞でもまだ種特異抗原をもっている位ですから、種特異抗原のようなものは案外長くもっているのではないかと思います。
[黒木]私も4NQO肉腫を抗原にして、同種の動物で抗血清を作ろうとしているのですが、なかなか出来ないものですね。
《三宅報告》
先般来皮フのOrgan cultureをしたものに4NQOを作用させると、2週間後の形態学的観察では、変性、ヱ死が極めて著明であったことは、のべた。それで組織片が変性し始める前に、これをCell-Cultureのlevelに移しかえると、細胞のViabilityが元に戻るというWorking
Hypothesisの上に立って、Organ Cultureを4NQO作用後、Trypsinization(これ以後に、Pronaseに代える予定)及び、単にレザーによる細切をこころみ、平型試験管に移しかえてみた。Organ
Cultureとしての培養期間は7日間、このうち4NQO作用日数は4日間である。Cell
cultureに移すと、4NQO作用群は、初めでは細胞数は減少をつづけるが、5〜6日目頃から、コロニーを作り始めている、が一方対照群では増殖力は変化していない。これについてはCell-countはまだ行っていない。同様の4NQOを作用後に分散を1日早く行った群でも、その結果は同様であった。
細胞個々の形態学的な変化は著明なものはない。Piling
upとみられる像も、もちろんまだ著明なものを得ていない。
今後かかる実験をマウスやハムスターの胎児皮膚で行い、Organ
Culture→Cell Cultureという方法と皮膚の最初からCell
Cultureを行った上での実験を続けたい。
:質疑応答:
[安村]ヒトの皮膚から上皮様のcelll lineはなかなか出来ないものですね。
[吉田]この班では、ヒトの材料を扱う人がないのは何故ですか。
[勝田]ヒトの材料を扱った場合、悪性化しても復元接種して悪性化を確かめることが出来ないから困るのです。
《高木報告》
1)4NQOを作用せしめたRT株細胞について、その後も経過を観察中であるが、transformed
fociがみつかってから約2ケ月を経た今日、処理細胞のpile
upする性質も一部の培養を除き継代中に次第に消失してしまった感がする。これらの細胞の形態をスライドで供覧する。第2回目に行った実験群で、4NQO
10-6乗Mで処理した細胞については、近日中に王様ラットが出産の予定であるので100万個の細胞を復元の予定である。
2)Nitrosoguanidine(NG)のRT細胞及びWister
King A rat胸腺細胞に対する効果
RT細胞を用いて: i)まずNG 500μg、250μg、100μg、50μg/mlの各濃度の液を作り、acidicなHanksにて稀釋し、これで細胞を2時間incubateした後2倍容の培地を加えて培養を続けたところ、2日後には500μg、250μg/mlでは細胞は完全に死滅し、4〜5日後にはすべての濃度において細胞はガラス壁から脱落した。ii)次により稀い濃度50μg、10μg、1μg、0.1μg/mlにつき検討したが、この場合incubationの時間は1時間とし、その後2倍容の培地を加えて培養をつづけた。4日後には0.1μg、1μgはcontrolと変りなく、10μg、50μgではやや細胞の変化が認められたが、その後50μgでは殆どの細胞が変性し、10μgでは対照と区別つかぬまでに細胞の増殖をみた。
従って用いるべき濃度は10μg〜50μg/mlの間が適当と思われる。
iii)次いで10μg、25μg、50μg/mlの各濃度につき、1時間incubation後、薬液を捨てて、新しい培地と交換して観察した。この場合には前回の実験と異り、25μg、50μg/mlでも細胞の軽度の変性がみられるに止り、50μg/mlはその後事故のため失ったが、25μgg/mlでは細胞の変性と共に10日目頃から細胞の異型性がつよく現れ、培養19日目の現在、多核細胞、巨核細胞の出現、contact
inhibitionの消失などの像がみられている。これらの像がreversibleかirreversibleか追求したい。
W.K.A rat胸腺細胞を用いて: 純系ratの胸腺細胞の培養を8月28日に開始し、fibroblasticな細胞をえた。これを用いて25μg、10μg/mlの濃度につき検討中である。今回もNGにincubationする時間は2時間とし、これに2倍容の培地を加えて4日間おいて観察中である。現在の処、25μg/mlの約半数の細胞が変性した像がみられる。
なおWKAratの胸腺及び胃を250μg/mlのNGで約1時間incubateし、その後25μg/ml含む培地上に8日間organ
cultureして、それをcell cultureに移す試みを行ったが、はじめに処理したNGの濃度が濃すぎた為か、或いは培養の期間が長すぎたためか、細胞のoutgrowthを認めることが出来ない。更に条件を検討中である。
:質疑応答:
[勝田]この系(RT細胞)はコラーゲンを産生していますか。
[高木]染色してみていないので、わかりません。
[吉田]ニトロソグアニジンの添加実験について、濃度を高くすると、変異細胞の出現頻度が多くなりますか。
[高木]25μg/mlの群からしか、変異細胞を得ていませんので、まだわかりません。これから追試してみたいと思っています。
《堀川報告》
1)培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびにLeukemogenesisの試み(4)
月報No,6708号までにマウス骨髄細胞の培養ならびに4NQO処理によるLeukemogenesisの試みについてこれまでに行った(実験1)から(実験6)までについて大要を紹介してきた。以来今日まで(実験9)まで進めて来ているが、未だ発表出来る段階に達していない。今回のこれら3実験は、班会議の際に問題とされた点、つまり「骨髄死」の防護実験とLeukemogenesisの実験を特に区別して進め、また4NQOで処理する時の骨髄細胞の培養条件(細胞のage及びcondition)を考慮してやっており、また取り出したばかりの新鮮な骨髄細胞が培養時間とともに種類の上からも更には形態面からも移り変っていく動態を各種染色法とアイソトープの取り込みで追っている。いづれこれらは或程度、物が言える段階に来た時に紹介する。
2)培養哺乳動物細胞における紫外線障害回復の分子機構の研究(2)
Thymine dimerの生成量は紫外線照射線量と共に増加し、しかも三種の細胞(PS細胞、mouseL細胞、Ehrlich
ascites細胞)の間にはまったく差異はなく始めの低線量域を除いて直線的に線量と共に増加することを前報で報告した。では生成されたdimerの除外機構がこれらの細胞間でどの様になっているかを知る必要がある。つまりここではDark
reactivationの機序が存在するかどうかを知る必要が生じて来た。
紫外線照射後、時間経過を追ってDNA中に存在するdimer量を測定した結果、MouseL細胞は紫外線400ergs/平方mm照射後120時間までにはDNA中のdimerを除去する能力がない。つまりDark
reactivation enzymeを保持していないか、あるいは持っていてもごく微量であると推定される。次いでEhrlich
Ascites tumorでは照射後24時間において約30%のdimerがDNAから除去されることがわかった。つまりDark
reactivation enzymeを不完全ながら(100%除去出来ない)保持していることがわかる。このことは、DNAから除去されたdimerが酸可溶性分劃に放出されてくる状態をみれば、更に確固たる裏付けとなる訳で、そういう意味から紫外線照射後の時間経過に従って、Ehrlich細胞の酸可溶性分劃内のdimerの増加を調べ、Dimer/Thymine(%)は0時間1.23%、24時間36.31%、48時間71.88%、120時間104.08%と意義深い結果を得た。(夫々表を呈示)
以上の結果を総合すると400ergs/平方mm紫外線で照射された場合、mouseL細胞にはDNA中に生成したdimerを除去する能力は殆ど無いが、一方Ehrlich細胞ではDNA中に生成したdimerを約24時間後には、その一部約30%をDNAから除去し、酸可溶性分劃に放出する能力があるということである。すなわちEhrlich細胞には部分的な回復能をもっているということがわかる。では残りの50〜60%のdimerはchromosome上に残っているのか、そしてこのようなdimer残存の条件下でDNA複製を可能にさせている高等動物細胞の染色体という高次構造はどのようになっているのかという問題が生じて来る。従って当然細胞周期をめぐる動力的解析が必要となってくるであろう。
:質疑応答:
[安藤]Dark reactivationはどうやって行いますか。
[堀川]暗室で培養するわけです。カッティングエンザイム、ポリメレースが同一のものであるかどうかが問題点だと思っています。又UVと4NQOの作用の仕方に共通点があるのに興味をもっています。
[吉田]4NQO処理でdimerが出来るという論文を読んだ事があります。
[堀川]抗dimerを作ってミトコンドリアの酵素assayをしてみたいと思っています。細胞全体としてのdimerをみるのでなく、細胞の各分劃のdimerをみたいわけです。
[永井]修復促進剤はありませんか。又蛋白合成rateと修復との間にparallelな関係はありますか。
[堀川]修復促進剤は今の所見つかっていません。蛋白合成rateと修復とは関係なく行われます。
[吉田]この実験は三つの系統を使ってみている事が、複雑な結果をもたらしているのではないでしょうか。
[堀川]将来は勿論一つの系統で、耐性株と原株との比較をとりたいと考えています。
[吉田]その酵素は遺伝に関与していると考えていますか。
[堀川]そう考えています。一つの染色体をポンと入れると修復されるという、そういう染色体を見つけたいものです。
【勝田班月報:6710:Transformationを来した細胞の抗原性の変化】
A.4NQO発癌実験:
4NQOによる実験は主としてRatのfibroblastsを用い(実験一覧表を呈示)、最近の実験で4NQOの濃度を3.3x10-6乗Mにあげてみたところ、これまで変異細胞の集落の発現するのに約1月要したのが、きわめて短縮され、たとえばExp.CQ#23の実験では処理後8日目に1本の培養管の中に5コの集落が発見された(その経過の映画供覧)。仮にこの集落に、A、B、C、D、Eと略名を与えたが(顕微鏡写真を呈示)、増殖細胞Cは小型で、細胞質顆粒に富んでいる。Dはやはり小型の顆粒の多い細胞が見られる。これらの集落が夫々別個に発生したものか、或は一コの集落から飛火したものか、これは現在のところでは不明である。
復元接種試験は、この最近のexpt.の細胞はまだ接種していないが、その前のものは今日までのところでは何れも陰性の結果となっている。
しかし、このように短期間で変異細胞(?)が現われるようになったので、映画でその全過程を追うにしても、これまでの4倍の能率を上げることができるようになり、うまく視野内で変異をcatchできる可能性が一段と強くなった。今後は当分この3.3x10-6乗M・30分処理でやって行きたいと思っている。
B.“なぎさ”培養によって生じたラッテ肝細胞の変異株RLH-5:
Exp.series“CN"#43でRLC-9系からRLH-5が得られた。その形態は(顕微鏡写真を呈示)肝癌AH-130に似ており、活発な運動性を示す。この変異株で面白いのは、はじめに使った細胞がRLC-9であり、これはJAR系ラッテのF29の雌の肝で、完全な純系材料を出発点としていることである。従って現在、復元の準備を進めているが、“take"される可能性がきわめて高い。
RLH-5の染色体のmodeは(図を呈示)63本と66本にピークがある。(64本が谷になっているのは、technical
failureによるものか否か、未だ不明)3倍体〜高3倍体で、その意味からも“take"されそうな感じがする。
C.正常ラッテ肝ホモジネートによるDAB代謝:
これまでrat肝をhomogenateにすると、どうもDABを代謝してくれないので困っていたが、反応液の処方を変えることによって、今回はじめて旨く行くようになった(処方を呈示)。この前の処方はMillerらのものであるが今度は安藤班員の新しく考案した処方である。
測定結果は、homogenateの作り方を、普通のWaring
blender、テフロンのホモジナイザー、フレンチプレスと3種採用して活性を比較してみた。また作ってすぐ測定したのと、4℃で2日間おいてから測ったのと、2種のデータをとった。
作って当日の測定(37℃、30分の加温)では、フレンチプレスによるhomogenateが最高の活性を示しているが、2日保存するとWaring
blenderの方が最高の活性を示している。どういう理由か、確かなことは未だ云えないが、保存中にenzymesが液中に遊離してくるためかも知れない。
D.なぎさ変異肝細胞RLH-1の復元接種:
RLH-1はこれまで何回復元しても腫瘍を作らなかったが、最近雑系ラッテとJARを交配して作っている第2系のJARのF3の生後1月のラッテに、皮下に2匹、腹腔内に2匹、2,000万個位宛入れたところ、皮下の方が2匹とも約1週後に小指大の腫瘤を作った。これは一部histology、他を培養と再接種(3匹)に用いたが次代のラッテでは腫瘤は形成せず消失してしまった。I.P.された2匹は未だ生存している。
:質疑応答:
[黒木]4NQO類による変異細胞は一般に顆粒が目立ちますね。
[吉田]復元にはF1のラッテを使う方が良いですよ。
[永井]DAB用のhomogenateを作るのにdeoxycholateを使ってみましたか。
[高岡]まだです。目下計画中です。
[黒木]4NQOは、特に細胞数が少いと毒性が強いですね。あのcolonyは少し立体的すぎる感じですね。Subcultureすると次代の形態はどうですか。
[高岡]継代しましたが形態はまだ見ていません。
[勝田]さっきお話したようにell sheetが流れて丸まったものではないかと思っています。Coloniesができたところで、早目に復元することを考えていますが、女はケチだから・・・。
[吉田]丸まったシートの中で、何かこわれた細胞から取って変異細胞が出来てくるのでしょうかね。なぎさ理論のように・・・。
[黒木]私はFull sheetになる1日前に薬剤をかけるようにしています。
[梅田]Heidelbergerの仕事では、あるcell
lineで変異株がとれても、他のでは駄目ですね。
[黒木]Colony levelの仕事に持込まなくてはなりませんね。今の所の“変異”のマーカーは?
[勝田]この場合はColony毎に性質がちがうかも知れません。マーカーとしては、いまのところは、coloniesが出来たということと、その細胞の増殖が早いということ、この二つだけcheckしています。
[吉田]悪性ということは、ネズミにつくかつかないか、だけではcheckできにくいですね。
[堀川]無処理のcell lineでも染色体の乱れはありますか。
[吉田]動物によってちがいます。マウスは変り易いですが、ラッテは維持しやすいですね。
[藤井]癌研の宇多小路氏の言によると、臓器によって染色体(数?)がちがうとのことですが、本当でしょうか。
[吉田]昔はちがうとも云われましたが、それは技術的エラーの結果で、現在ではちがわないとされています。
[梅田]4NQOの作用機序は判っていますか。
[黒木]4NQOそのものについては、どう変化するかはしらべられています。
[堀川]8アザグアニン作用後にでも、DNAに結合するということは云われています。
[黒木]杉村氏などは、蛋白への結合をいま問題にしているようですね。
[勝田]そのようなレベルの仕事は、今後培養で解明して行くべきですね。
《黒木報告》
4NQO/ハムスター胎児の組合せによるin vitro
transformationの仕事も、ようやくむつかしい段階に達し、単にin
vitroで癌を作るだけではなく、癌化の機構にせまるように内容を飛躍させねばならない段になった。
今までの技術を使ってtransformation stageのphenotypeを詳細に追いかけることも必要であるが、さらに技術を発展させるために次の三つの方針を定めた。
(1)colony-levelでtransformationを判定し、定量的にtransformationを考える
(2)synchronous culture・systemによるtransformat.からcarcinogenと生体高分子とのinteractionの問題に入る
(3)established cell lineによるtransformationの系を新たに開発する
I.Colony-levelのtransformation
びわ湖の班会議のときに報告したように、carcinogen
treated cultureを発癌剤を除いてcolonyを作らせると、total
colonyの6.0%前後に“transformed colony"がみられる。されに7月の班会議には、hamster胎児細胞をfeeder
cellsの上にまき、24時間後に4HAQOを加えると“transformed
colony"が2.0%にみられたことを報告した。そこで問題は
(1)reproducibility
(2)“transformed colony"と考えたものはun-treated
cultureには検索した範囲では、1度も発見されないものであるが、それが本当に→transformation→malignizationに連なるものか
(3)soft-agar法との関連性である。
(1)Reproducibility
feeder cells、Bov.serumのLot差の問題などのため、しばらくcolonyがうまくできないことがつづき、実験は予定よりかなりおくれてしまった。(実験結果を表で呈示)
以上今までのexp.を失敗も含めてすべてならべてみたが、dataにばらつきの大きいこと、率が前のexp.と比べると低いことがはっきりした。株細胞(HeLaなど)のplatingと異り、feeder
layerを用いるembryoのsystemは技術的にはまだ不安定で、ときには原因が分らずに低いPEを示す。PEが低いとtransformed
colonyの出現率が0となる・・・
ここで云うtransformed colonyが無処置及びnon-carcinogenic
derivativeの中には見当らないとしても、本当にtransformation→malignizationに連なるものかどうかは自信がない。目下、一つのtransf.の経過の各時期を追いかけて、colonyの形態をかんさつ中である。
なお、Sachsらのいうtransformed colonyは原著の写真をよく検討してみたところ、我々のexp.では無処置にみられるものもtransformedとして扱はれているようである。
soft agarのcolonyも平行してすすめている。現在の段階では、non-treatedのhamster胎児も、Bact-peptone
0.1%添加soft agar中では500/100,000程度に小さい(30ケ前後のcellから成る)コロニーを作ることが分った。目下exp.が進行中である。
II.Synchronous culture系
excess TdR(2mM)法で、3代目のハムスター胎児の同調培養を試みた。細胞の増殖曲線からみると、ある程度の同調は得られたようである。目下autoradiographyでDNA合成MIなどをみているところである(同時にlife
cycleの分析もおこなったがまだ結果は出ていない)。
III.BHK-21を用いたtransformation
初代培養を用いたtransformationは、正常→悪性への変化をみるのにはよいが、定量的にtransformationの機序を解析するためには不利である。
virusではBHK-21/polyoma、3T3/SV-40のような優れたsystemが開発されており、「悪性」はぬきにして、transformationの問題が解析されている。
chemical carcinogenesisでもそれと同じような系がどうしてもほしい訳で、最初に3T3/4NQOを試みた。月報6703に報告したように、giant
cellsなどの異常は確かに起こるのだが、目的とするpiled
upはおこっても不安定でgeneticな変化かどうかは確実ではなかった。また、colony-levelでanalysisにもっていけなかった。
そこでBHK-21を用いてみた。BHK-21は御承知のように、polyoma
virusで配列が乱れ、pile-upする他、mycoplasma、Rous
virus、adenovirusでもtransformすることが知られている。
最初にwildのBHK-21に10-5乗M4HAQOでtreatmentしたところ、以下に示すようなcolony
levelのtransformationを得ることができた。
cells:山根研由来のBHK-21 uncloned
Media:10%B.S. or C.S. Eagle MEM Kanamycin
30mg/lを含む
colony:20%C.S. Eagle、Falcon Petridish(60mm)
carcinogen:10-5.0乗M 4HAQO for 9days
BHK-21のcolonyはよく知られているように、規則的な配列を示す典型的な繊維芽細胞のそれである。その他に、treated
cultureには、規則的な配列を示さない中心部が厚くもり上ったcolonyが沢山みられる。このコロニーは中心部が非常にpile
upするので剥れやすく、10日以上incubateすると沢山のdaughter
colonyを作る傾向がある。これはcontact inhibitionのlossと関係あると考え、一応、transformed
colonyとして扱うと(表を呈示)、P.E.はtreatment直後はcarcinogenのcytotoxic
actionのためか、かなり低い(無処置は20%程度)が、継代とともにP.E.は上昇し、transformed
cellsの出現率も6.3→35.6→71.5→85.0と急速に上昇する。non-transformed
colonyは14.2→53.0→19.9→0と多少の消長はあるが55日後には非常に少なくなった(55日にnon-transformedが1ケみつかったが、cloningでとってしまった)。Small
unclassifiedとは小さいcolonyで細胞がパラパラと散在しているもの、transformedともuntransformedとも云えない。処理直後に多く次第に減少していくことから十分の大きさのcolonyを形成できない程度にcarcinogenでdamageを受けた細胞とも考えられる(X線照射のあとによくみられる)。このようなtransformed
colonyの増加が、(1)selective overgrowth、(2)delayed
transformation、(3)transforming agent(?)のtransmissionのいずれによるかは今後の分析によらねばなるまい。(1)のselectionと考えるときには、treated
cultureのP.E.の増加が一つのevidenceとなる。しかし、mass-cultureのgrowth
curveでは両者の間に差がない。
次の問題は、このようなコロニーの形態上の差が、geneticな変化か否かである。これをみるためにtreated
cultureからtransformed colony(Exp.#1〜#5)及びnon-transformed
colony(#6)をとり、そのprogenyを観察した(colonyをpick
up後直ちにdilutionしplateする)55daysに行った(表を呈示)。#5の例を除けばtransformedのprogenyはすべてtransformedであり、non-transformedのprogenyの93.6%はoriginalと同様の形態である。少数の例外はcolonial
cloneにつきもののcontaminantとして考えてよい(特にtransformed
colonyは剥がれやすいので、non-transf.にcontaminateする率は高い)。
この後の問題として
(1)reproducibility
(2)cloned populationの使用などである。目下、二回連続してとったcolonial
cloneを用いてexp.を開始している。また
(3)mycoplasma、virusのcontaminationの可能性も十分に否定する必要がある。
いずれにしても3T3/4NQOよりははるかに有望である。今後は、このsystemの開発に力を入れたいと思っている。
:質疑応答:
[吉田]全胎児を材料にしている場合には、当然色々な細胞のコロニーが出来ることが考えられますね。そろそろ胎児を卒業して特定の臓器を使うべきではないでしょうか。
[勝田]薬剤の処理時間を変えるとどうなるかということと、同調培養で薬剤を作用させた時の結果をにらみ合わせてみたいですね。
[堀川]Celll cycleによる発癌性の問題ということですね。
[勝田]我々としてすぐやってみるべき実験は、矢張り、同調培養で4NQOを作用させてみることです。そうすると変異率がぐっと上るはずですね。我々のdataと黒木班員のdataから想像出来ることは、cell
cycleの中での非常に短い期間に作用しているのではないかということです。
[黒木]三田氏のdataではテトラヒメナを同調培養しておいて、4NQOを作用させるとG2期にきくということです。
[堀川]放射線関係のdataでも、変異に関係のあるのはG2期といわれています。
[勝田]G2期に作用するならば、すぐDNAにむすびつくわけですね。
[吉田]そうですね。そしてすぐ染色体異常をおこすわけです。
[勝田]今度使い始めたBHK-21という株は悪性ではありませんか。悪性だとすると異常分裂が多いから、変異率が高いのではないでしょうか。
[黒木]それは考えられることです。cloneをとって凍結保存をしておいて、あまり継代せずに使うつもりです。
[安村]いくらcloneをとっても、継代を重ねるとすぐ乱れますからね。それからcolonial
cloneの場合は少なくとも2回はくり返してcloningするべきです。
[勝田]2回ぐらいやってもcloneにはならないと思います。映画で観察していると、1ケだけにされた細胞は殆ど死ぬようです。それが2ケだと割合に順調に増え出します。cloneと言うからには、矢張り1ケ釣りをしないと駄目だと思います。
[安村]1ケ釣りからふやしても、populationとして実験に供することが出来るようになる頃には、矢張り乱れてしまうのではないでしょうか。始めに吉田氏の言われた全胎児というような均一でない材料から出発すると、当然色々な細胞のcolonyが出てきて変異か、selectionかわからなくなるから、全胎児は材料として不適当と思われるということについて、私はむしろその均一でない材料を生かして、処理前にcloneをひろって、それから4NQOを各cloneに作用させてみれば、どの種類の細胞が4NQOで変異するかがわかると思いますがね。2代目で5%のP.E.ならcloneは充分ひろえるはずです。
[勝田]cloneのカミサマのお話を少しききましょう。
[堀川]確立されたcloneで分化の度合と変異の関係をしらべられそうですね。
[安村]要するに一般に言われている「培養細胞が機能を持たない」というのは、目指す細胞をひろっていないからです。機能を持たない、或は失われたかに見える時は、機能を有する細胞がselect
outされた結果にすぎないように思われます。自分の経験によれば、ステロイド産生細胞はその機能を維持し得ますが、それはcloningをしてステロイド産生細胞の系としてcloneをひろった場合です。
それからfibroblastsはcloningしやすいのですが、上皮系の細胞はむつかしいですね。
《佐藤報告》
ラット細胞←4NQO復元動物
4NQO→ラッテ培養細胞→新生児ラッテ復元(68匹)の一覧表を呈示
総括
細胞はDonryu系ラッテ全胎児より5系、同系胎児肺より2系、同系胎児肝細胞株2系。
培地:20%BS+LD及び20%BS+YLE・YLEの方が4NQO処理後の回復が早い。
4NQO:5x10-7乗Mは数日より最高62日処理。10-6乗Mは数時間、最高19回処理。10-5乗Mは数分間、最高4回処理。
対照としてDMSO処理を行った。
接種細胞数は50万個から500万個。
接種部位は脳内、腹腔内、皮下及び前眼房内。(接種細胞の顕微鏡写真を呈示)
結果:現在まで腫瘍は発見されていない。
:質疑応答:
[勝田]今の写真の肝細胞はあまり変異しているように見えませんね。無処置の肝実質細胞系でもよく見られる像です。細胞の大小はspaceの問題だと思われます。私の所で肝実質細胞に4NQOを作用させたら、cell
sheetにすき間が出来たような像がみられました。
[堀川]一つ一つの細胞がちぢんでしまったのですか。
[勝田]よくはわかりませんが、細胞表面が変るのではないかと思われます。
[黒木]ラッテ胎児肺からは、どんな細胞が培養されましたか。
[佐藤]fibroblastsと上皮様のものと両方出てきます。4NQOを作用させるとfibroblastsが残るようです。
[安村]変異しているらしく見えるものをcloningすれば、−本当に変異しているcloneがひろえた−ということも考えられませんか。
[佐藤]どうでしょうか。ハムスターの細胞は作用をうけてから、あとはひとりでに悪性化の方向へ進むように思われますが、ラッテの場合はそう簡単にゆかないようです。
[吉田]4NQOは製品による効果のちがいが大きいようですね。
[永井]毒性がちがうのですか。
[吉田]そうです。
[黒木]しかし細胞の側からみても、随分デリケートだと思います。同じ製品でも同じcell
lineでも培養のtubeによって(個体差)異なる時があります。それから毒性のことでは、feederを使うと無処置群は抵抗性を増します。
[安村]4NQO変異株には4NQO耐性があるのですか。
[黒木]釜洞氏の所のdataでは一応あるということになっていましたがあまりはっきりしないようです。私の所でもしらべてみましたが、はっきり耐性があるとは言えません。
[吉田]耐性と悪性というのは、全く別の問題だろうと思います。
[勝田]薬剤の製品むらについて一言。DABも製品によって可成り不純物の混合比がちがうようです。寺山氏から教えられて精製して使い始めました所、dataが変ってきて以前の濃度では細胞が死んでしまって困っています。
《藤井報告》
“なぎさ”培養によりtransformationを来した細胞の抗原性の変化について。
“なぎさ”培養によりtransformationをおこした細胞、RLH-5とtransformationをおこしていない対照細胞、RLC-9(何れも医科研癌細胞研のもの)について、前回の月報に記したmicrodiffusion法により抗原を比較した。
実験091367:
RLH-5、20万個を0.5%Na-Deoxycholate-PBS.・0.05mlに浮遊させ、ガラスホモジナイザーにて(30分間、氷冷して)破壊、そのホモジネートを使用。
RLC-9、40万個は同様に(0.1mlに浮遊)してホモジェネートを作る。
沈降資料:(1)(6)はRLC-9,50万個per well。(7)はnormal
rat liver tissue,50万個per well。(3)(4)はRLH-5,50万個per
well。(2)はAnti-rat liver tissue rabbit antiser.(FR51)。(5)はAnti-rat
liver tissue rabbit antiser.(FR56)。(図を呈示)する。
結果は(2)と(7)の間にみられる沈降線の中“a”が(1)と(2)の間にみられる“a'”と融合するようであるが、“a'”が(1)の周のlipoproteinに由る暈輪とはっきり区別し難い。(2)とtransformed
cellsの(3)の間に“a'”に相当する沈降線はみられない。この関係は抗血清(5)に対しても同様であるが、FR56血清(5)はFR51(2)より抗体値は低い。
この成績からRLH-5細胞は、RLC-9細胞が正常ラット肝組織と共通抗原としてもつ抗原を持っていないようにみえる。
実験092567:
(1)(6)はRLC-9,50万個per well。(7)はRLH-5,50万個per
well。(3)(4)はRLH-5,150万個per well。(2)はFR51。(5)はAnti-rat
ascites tumor(AH-13)rabbit ser.。
この実験では各細胞のホモジェネートを遠心し(2,000rpm,10min.)上清を使用した。
結果は(1)と(2)の間に明確な沈降線がみられるが、これは(2)とtransformed
cells(3)(7)の間にはみられない。(6)と(5)すなわち抗ラット腫瘍(AH-13)の間には沈降線はないが、(4)transformed
cellsと(5)との間には明快ではないが確かに沈降線がみられている。
この成績は“なぎさ”培養によるtransformed
cellsが、対照の正常培養RLC細胞の有つ抗原を失い、ラット肝癌(AH-13)と共通な抗原を獲得(?)していることを示しているようである。tumor抗原のことは、なおこの程度の沈降線では確言出来ないけれども。
(Exp.092567の写真を呈示)
:質疑応答:
[勝田]化学発癌の場合、各例性質の違うものが出来ると言われていますが、本当にそうか、抗原の点で共通のものでも持っていはしないか、ということもねらいの一つです。
[吉田]ホモの場合に沈降線は出ますか。
[藤井]大抵出ませんね。抗AH-13 rat血清と抗ラッテ肝組織Rabbit血清との間の新しい沈降線は何を意味しているのでしょうか。
[黒木]AH-13は樹立されてから、もう随分たっている肝癌ですから、現在では抗原抗体反応の系としては不適当ではないでしょうか。
[吉田]L株細胞でもまだ種特異抗原をもっている位ですから、種特異抗原のようなものは案外長くもっているのではないかと思います。
[黒木]私も4NQO肉腫を抗原にして、同種の動物で抗血清を作ろうとしているのですが、なかなか出来ないものですね。
《三宅報告》
先般来皮フのOrgan cultureをしたものに4NQOを作用させると、2週間後の形態学的観察では、変性、ヱ死が極めて著明であったことは、のべた。それで組織片が変性し始める前に、これをCell-Cultureのlevelに移しかえると、細胞のViabilityが元に戻るというWorking
Hypothesisの上に立って、Organ Cultureを4NQO作用後、Trypsinization(これ以後に、Pronaseに代える予定)及び、単にレザーによる細切をこころみ、平型試験管に移しかえてみた。Organ
Cultureとしての培養期間は7日間、このうち4NQO作用日数は4日間である。Cell
cultureに移すと、4NQO作用群は、初めでは細胞数は減少をつづけるが、5〜6日目頃から、コロニーを作り始めている、が一方対照群では増殖力は変化していない。これについてはCell-countはまだ行っていない。同様の4NQOを作用後に分散を1日早く行った群でも、その結果は同様であった。
細胞個々の形態学的な変化は著明なものはない。Piling
upとみられる像も、もちろんまだ著明なものを得ていない。
今後かかる実験をマウスやハムスターの胎児皮膚で行い、Organ
Culture→Cell Cultureという方法と皮膚の最初からCell
Cultureを行った上での実験を続けたい。
:質疑応答:
[安村]ヒトの皮膚から上皮様のcelll lineはなかなか出来ないものですね。
[吉田]この班では、ヒトの材料を扱う人がないのは何故ですか。
[勝田]ヒトの材料を扱った場合、悪性化しても復元接種して悪性化を確かめることが出来ないから困るのです。
《高木報告》
1)4NQOを作用せしめたRT株細胞について、その後も経過を観察中であるが、transformed
fociがみつかってから約2ケ月を経た今日、処理細胞のpile
upする性質も一部の培養を除き継代中に次第に消失してしまった感がする。これらの細胞の形態をスライドで供覧する。第2回目に行った実験群で、4NQO
10-6乗Mで処理した細胞については、近日中に王様ラットが出産の予定であるので100万個の細胞を復元の予定である。
2)Nitrosoguanidine(NG)のRT細胞及びWister
King A rat胸腺細胞に対する効果
RT細胞を用いて: i)まずNG 500μg、250μg、100μg、50μg/mlの各濃度の液を作り、acidicなHanksにて稀釋し、これで細胞を2時間incubateした後2倍容の培地を加えて培養を続けたところ、2日後には500μg、250μg/mlでは細胞は完全に死滅し、4〜5日後にはすべての濃度において細胞はガラス壁から脱落した。ii)次により稀い濃度50μg、10μg、1μg、0.1μg/mlにつき検討したが、この場合incubationの時間は1時間とし、その後2倍容の培地を加えて培養をつづけた。4日後には0.1μg、1μgはcontrolと変りなく、10μg、50μgではやや細胞の変化が認められたが、その後50μgでは殆どの細胞が変性し、10μgでは対照と区別つかぬまでに細胞の増殖をみた。
従って用いるべき濃度は10μg〜50μg/mlの間が適当と思われる。
iii)次いで10μg、25μg、50μg/mlの各濃度につき、1時間incubation後、薬液を捨てて、新しい培地と交換して観察した。この場合には前回の実験と異り、25μg、50μg/mlでも細胞の軽度の変性がみられるに止り、50μg/mlはその後事故のため失ったが、25μgg/mlでは細胞の変性と共に10日目頃から細胞の異型性がつよく現れ、培養19日目の現在、多核細胞、巨核細胞の出現、contact
inhibitionの消失などの像がみられている。これらの像がreversibleかirreversibleか追求したい。
W.K.A rat胸腺細胞を用いて: 純系ratの胸腺細胞の培養を8月28日に開始し、fibroblasticな細胞をえた。これを用いて25μg、10μg/mlの濃度につき検討中である。今回もNGにincubationする時間は2時間とし、これに2倍容の培地を加えて4日間おいて観察中である。現在の処、25μg/mlの約半数の細胞が変性した像がみられる。
なおWKAratの胸腺及び胃を250μg/mlのNGで約1時間incubateし、その後25μg/ml含む培地上に8日間organ
cultureして、それをcell cultureに移す試みを行ったが、はじめに処理したNGの濃度が濃すぎた為か、或いは培養の期間が長すぎたためか、細胞のoutgrowthを認めることが出来ない。更に条件を検討中である。
:質疑応答:
[勝田]この系(RT細胞)はコラーゲンを産生していますか。
[高木]染色してみていないので、わかりません。
[吉田]ニトロソグアニジンの添加実験について、濃度を高くすると、変異細胞の出現頻度が多くなりますか。
[高木]25μg/mlの群からしか、変異細胞を得ていませんので、まだわかりません。これから追試してみたいと思っています。
《堀川報告》
1)培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびにLeukemogenesisの試み(4)
月報No,6708号までにマウス骨髄細胞の培養ならびに4NQO処理によるLeukemogenesisの試みについてこれまでに行った(実験1)から(実験6)までについて大要を紹介してきた。以来今日まで(実験9)まで進めて来ているが、未だ発表出来る段階に達していない。今回のこれら3実験は、班会議の際に問題とされた点、つまり「骨髄死」の防護実験とLeukemogenesisの実験を特に区別して進め、また4NQOで処理する時の骨髄細胞の培養条件(細胞のage及びcondition)を考慮してやっており、また取り出したばかりの新鮮な骨髄細胞が培養時間とともに種類の上からも更には形態面からも移り変っていく動態を各種染色法とアイソトープの取り込みで追っている。いづれこれらは或程度、物が言える段階に来た時に紹介する。
2)培養哺乳動物細胞における紫外線障害回復の分子機構の研究(2)
Thymine dimerの生成量は紫外線照射線量と共に増加し、しかも三種の細胞(PS細胞、mouseL細胞、Ehrlich
ascites細胞)の間にはまったく差異はなく始めの低線量域を除いて直線的に線量と共に増加することを前報で報告した。では生成されたdimerの除外機構がこれらの細胞間でどの様になっているかを知る必要がある。つまりここではDark
reactivationの機序が存在するかどうかを知る必要が生じて来た。
紫外線照射後、時間経過を追ってDNA中に存在するdimer量を測定した結果、MouseL細胞は紫外線400ergs/平方mm照射後120時間までにはDNA中のdimerを除去する能力がない。つまりDark
reactivation enzymeを保持していないか、あるいは持っていてもごく微量であると推定される。次いでEhrlich
Ascites tumorでは照射後24時間において約30%のdimerがDNAから除去されることがわかった。つまりDark
reactivation enzymeを不完全ながら(100%除去出来ない)保持していることがわかる。このことは、DNAから除去されたdimerが酸可溶性分劃に放出されてくる状態をみれば、更に確固たる裏付けとなる訳で、そういう意味から紫外線照射後の時間経過に従って、Ehrlich細胞の酸可溶性分劃内のdimerの増加を調べ、Dimer/Thymine(%)は0時間1.23%、24時間36.31%、48時間71.88%、120時間104.08%と意義深い結果を得た。(夫々表を呈示)
以上の結果を総合すると400ergs/平方mm紫外線で照射された場合、mouseL細胞にはDNA中に生成したdimerを除去する能力は殆ど無いが、一方Ehrlich細胞ではDNA中に生成したdimerを約24時間後には、その一部約30%をDNAから除去し、酸可溶性分劃に放出する能力があるということである。すなわちEhrlich細胞には部分的な回復能をもっているということがわかる。では残りの50〜60%のdimerはchromosome上に残っているのか、そしてこのようなdimer残存の条件下でDNA複製を可能にさせている高等動物細胞の染色体という高次構造はどのようになっているのかという問題が生じて来る。従って当然細胞周期をめぐる動力的解析が必要となってくるであろう。
:質疑応答:
[安藤]Dark reactivationはどうやって行いますか。
[堀川]暗室で培養するわけです。カッティングエンザイム、ポリメレースが同一のものであるかどうかが問題点だと思っています。又UVと4NQOの作用の仕方に共通点があるのに興味をもっています。
[吉田]4NQO処理でdimerが出来るという論文を読んだ事があります。
[堀川]抗dimerを作ってミトコンドリアの酵素assayをしてみたいと思っています。細胞全体としてのdimerをみるのでなく、細胞の各分劃のdimerをみたいわけです。
[永井]修復促進剤はありませんか。又蛋白合成rateと修復との間にparallelな関係はありますか。
[堀川]修復促進剤は今の所見つかっていません。蛋白合成rateと修復とは関係なく行われます。
[吉田]この実験は三つの系統を使ってみている事が、複雑な結果をもたらしているのではないでしょうか。
[堀川]将来は勿論一つの系統で、耐性株と原株との比較をとりたいと考えています。
[吉田]その酵素は遺伝に関与していると考えていますか。
[堀川]そう考えています。一つの染色体をポンと入れると修復されるという、そういう染色体を見つけたいものです。
【勝田班月報・6801】
《勝田報告》
A.H3-4NQOtoL・P3細胞の分劃:
H3をラベルした4NQOが細胞の内のどんな分劃に入るかという事は、がんセンターの杉村氏が腹水腫瘍を使ってすでにおこなっている。ここでは培養細胞を使って調べてみた。
細胞:L・P3細胞(純合成培地内継代のマウスセンイ芽細胞)
培地:合成培地DM-120。細胞約200万個/TD-40;4瓶。
H3-4NQO:1964-10-21、九大・遠藤氏より分与された2.7μc/μmoleを永井班員が珪酸カラムで再精製して下さったもの。
DMSOで10-2乗Mになるように溶き、salineDで10-4乗Mまで稀釋。
添加法:培養瓶中の培地(DM-120;10ml)のなかに10-4乗M液1.1mlを滴下。瓶をゆらして良く混和。(4NQOは終濃度10-5乗Mとなる)。37℃・2hrs加温静置。ここで2本宛2群に分ける。 1)H3-4NQOを含む培地をすて、Dで3回洗う。シートを剥し細胞を集めて分析。
2)他の2本は、4NQOを含まぬ新しいDM-120を加え、さらに5hrs.37℃静置加温。→上と同様に洗って細胞をあつめる。
測定:細胞を分劃し、Beckman液体シンチレーションカウンターで放射能を測定。
結果:各分劃のdpm数の表を呈示。
考察:1)4NQOの比活性が低いので、これ以上の細かい分劃化は不可能であった。
2)酸可溶分劃のdpmが2hrs加温后より2+5hrs加温后の方が減少しているのは、第2回目の5hrs加温中に一旦とりこまれていた4NQOが培地中へ放出されたためと思われる。(高分子とは結合していなかった分)。
3)酸不溶分劃の減少は、ほとんどが蛋白と結合した分の減少による。
4)核酸と結合した分は、比較的安定に保たれていた。
B.培養内変異細胞の動物復元接種の最近の成績:
(表を呈示)腫瘍死はなし。
《佐藤報告》
新しい年がやって来ました。皆さんお元気ですか。小生も元気でやっています。昨年はいろいろと雑事が多く不本意な年でした。今年は予定された事柄(必ずしなければならぬ事も含めて)も多いので能率よく消化して楽しい忘年会を送りたいと考えています。
◇RE-5(ラッテ全胎児)←4NQO実験動物(培養条件、4NQO処理、復元の表を呈示)。
ラッテ全胎児←4NQO実験を通覧してRE-1、RE-2、RE-3、RE-4が発癌しなかったのは、量的に4NQOが少なかった様である。RE-5の実験で、実験表の中央の5匹は全例発癌したが、左の系は発癌性は今の所認められない。(RE-5の実験の染色体数の図を呈示)。核型分析は未だ終了していないので異常染色体については未だ正確な報告はできない。non-neoplasticlineに異常染色体の記載はしていないが、明白な異常染色体が認められないという事で染色体がdiploidで正常であるという事ではない。又control
lineも現在で正常diploidではないから、この株を利用しての4NQO
lineの実験は一応終了します。
(Comparison of growth rate among 3 RE-5
lines・増殖カーブを呈示)。RE-5系control、発癌系、非発癌系の増殖率を比較したものである。非発癌系は増殖率が最も高く、形態学的にも変化がみられるが、動物復元で腫瘍を形成していない。
ラッテ全胎児に4NQOを投与する実験は目下再現性を試みている。
(表を呈示)表はラッテ肝細胞株及びラッテ胎児肺に4NQOを投与して復元した動物の表です。ラッテ肝細胞株に4NQOを処理した図表は別に示します(図を呈示)。図表中央に2例の発癌動物がみられます。動物番号No.32は、培養日数352日、4NQO処理10-6乗Mx10のもので、300万個の細胞を新生児ラッテ脳内に接種し、54日後運動障害を発見、93日後剖検により腫瘍(Hepatoma)を発見した。動物番号No.54は374日の培養日数のもの、10-6乗Mの4NQOを11回処理したもの、生后6日目のラッテに1000万個細胞をi.p.に接種した。接種后90日目に剖検し、大網部に径5cm大の出血性の腫瘍をみとめた。組織像はHepatomaの像であった。Exp.7系肝細胞の4NQO実験では未だ発癌率が低いので、4NQOで確かに発癌したかどうか未だわからない。
《高木報告》
皆様よい新年を御迎えのことと御慶び申上げます。今年もよろしく御願いいたします。昨年一年の私共の仕事を振返ってみると、まずorgan
cultureでは兎も角幼若ハムスター皮膚を2〜3週間は維持出来る処まで培養条件を検討し、更に短期間培養した組織を同種動物の背中皮膚に移植することを試みたが、1〜2回の実験に関する限り予想されるより可成り高率にtakeされた。しかし培養において短期間発癌剤を作用せしめた組織を移植したものでは、そこから腫瘍の発生はみられなかった。更に培養条件を検討し始めた処で、池上君が事情あってしばらく仕事が出来ない状態になったので、残念ながら実験は一時中断した形になった。しかし本年は再び開始する予定で、まずorgan
cultureにおける培養条件を充分に検討したいと考えている。組織の種類にもよろうが、何せ今少し長期間完全に組織が維持されなければorgan
cultureによるこの発癌実験はうまく行かない様な気がする。その目的に一歩でも二歩でも近付くべく高圧培養を開始したところである。
次にcell cultureによる実験で、ひとまずラット胸腺から分離された繊維芽細胞を用いて4NQO及び4HAQOによるmorphlogical
transformationをおこすことが出来た。現在それら細胞の復元実験の段階であるが、これまで試みた実験ではまだ腫瘍の発生をみない。cellcultureの実験に関してはここしばらくはWistar
King Aラットを用いて仕事をすすめて行きたいと考えている。ただ胸腺を用いることについて、これは私共の実験条件でconstantに細胞をうることが出来るので用いて来た訳であるが、果してこのorganが発癌実験に供するのに適しているか否かは問題がある。そこで他のorganのcell
cultureにもめをつけ、杉村氏により発表されたNitrosoguanidineによるrat胃癌及び多型腫の発生の実験から、胃の培養も試みはじめた。2回目の培養でprimary
cultureで明らかに上皮様のきれいな細胞のoutgrowthをみたが残念ながら継代に失敗した。本年は更にこの実験も進めて胃からの細胞に対するNitrosoguanidineの効果も観察の予定であるが、更に機能を有する細胞を分離し、これに発癌剤を作用せしめてその機能が如何に変るかと云うことをマークする方法により発癌剤による発癌機構の究明につとめたいと思う。
《吉田報告》
前年度の4NQOによる癌化細胞の染色体研究は主に黒木さんらとの共同でなされ、同氏らが腫瘍化した細胞株の染色体を私達が観察するという方法で進められた。その間、私の研究室の関谷君(東北大・大学院)が黒木さんの所で、培養やtransformationの技術を修得してきたので、今年度は癌化前の細胞についての染色体を徹底的に究明したいと念じている。ハムスター培養細胞が4NQO(または4HAQO)処理によって腫瘍化するまでの過程を仮に次の5期に区別してみた(図を呈示)。すなわちA(前処理)、B(処理期)、C(形態変化前期)、D(形態変化後期または悪性変化前期)、及びE(悪性変化後期)である。従来の我々の研究では、主にE期にあるいくつかの細胞株のの染色体を断片的に調べたのにすぎない。これらの研究から、癌化した細胞株の染色体変化は程度に差はあるが、いずれの場合でも形や数に変化を認めることができた。しかしE期における細胞をどんなに多数観察したところで、それが細胞の癌化とどんな関係にあるかという問題を追求する事は困難である。この問題を明らかにするにはD期、C期及びB期と逆上って追求しなければならない。特に形態変化(morphologicaltransformation)を目印として、その前後(CとD)の染色体を調べることによって染色体の変化と悪性化の関係がかなりはっきりと察知することができよう。もしその時期に何らかの変化が認められたならば、当然処理中また直後(B期)にどんな変化がおこったかという問題に帰結する。この点についてはin
vivoで我々はかなりくわしく調べているので、それらのdataは直ちに役立つだろうし、ハムスターの培養細胞においても調べてみる必要がある。
染色体の変化と癌の発生及び増殖の関係をそろそろこの辺で結論づけたいというのが今年の私たちの抱負である。諸先生方の御協力を切望する。
《黒木報告》
今後の研究方針と計画
月報6710に今後の方針として、(1)コロニーレベルのtransformation、(2)synchronous
culture、(3)BHK-21/4NQOの三つを挙げておいた訳です。これらのうち(1)は大体やるべきことをやり、あとはnormalのcloneをひろうという大きな仕事が残っています。この方法(plating後に4HAQOをtreatする)の欠点は細胞に対する毒性が非常に微妙であること、このためexp.の結果にバラツキのあることです。(2)のsynchronous
cultureはexcess TdRによる同調が思ったよりもむつかしく、目下hamster
embryo cultureのcell cycleがらやり直しているところです。(3)のBHK-21がこれまた困ったことにreproducibilityがはっきりせず、もたもたしています。イギリスのMacphersonにBHK-21/C13を送るよう依頼していますがまだ返事はありません。
今後も(2)(3)は、しっこく執念深くexp.をすすめますが、さらに新たなprojectとして、membrane
immunofluorescent antibody法の導入を考えはじめました。これで分ることは、1)transformed
cells相互間のsurface antigenのcrossの存在(spontaneous-transformed、in
vivo-induced tumorとのcrossも含)。2)(凍結保存法との併用による)malignant
cellsの出現、そのprogressionの証明です。
研究のむつかしさをしみじみと味わい乍ら迎えたお正月でした。
《三宅報告》
d.d.マウス胎児皮フについて発癌の実験をつづけている。
分娩直前の胎児皮膚について、次のように4NQOを作用せしめた(表を呈示)。
12月1日に始められた、この実験では4日目のPrimary
cultureでfull sheetとなり第二代の培養にかえ、各々3日目に夫々の濃度の4NQOを作用せしめた。10-5乗Mと5x10-6乗Mは変性に傾きdiscardした。この濃度からすると、前回に報告したヒトembryoの皮膚の方が、d.d.マウスの分娩直前のものに比し敏感でない様である。4NQO
10-6乗Mを7日間作用せしめたものでは、controlに比し、矢張り1週間位の后に、いわゆるearly
changeをみせ始め、piling upが認められ始めた。三代目に入った202Aでは核の大小不同、細胞の大小が目立ち始めている。この群についてH3-TdRのuptakeをみている一方で、同じく1週間5x10-7乗Mを作用せしめたものと、controlについて、100万個の細胞をd.d.系のマウスの背の皮下に植えてみました。まだ肉眼的に腫瘍は発生していません(1月4日現在)。
前回に報告したPiling upしたColonyは、感染のために、すべてを失う事故が起った。
また別に実験6を行って、H3-TdRのとりこみを検索中である。これは他の動物腫瘍(Walker、Birox-Pearseなど)のin
vitroとin vivoでのH3-TdRの取りこみとの比較の意味も、兼ねたものである。(202Aの写真を呈示)
《堀川報告》
学会、研究会、討論会にと多忙のうちに明け暮れた1967年も過ぎ去り、またたくうちに1968年の新春を迎えてしましました。班員の皆様、新年おめでとうございます。今年も元気でお互にうんと頑張りましょう。
過去1年を振り返ってみると私は私なりに精一杯やって来たと云う気持で満足しております。ただ学会とか研究会が多すぎる、それに研究以外のことで如何に貴重な多くの時間を無駄にしたことよ!!
今年もまた同じようにガタガタ走り廻っている内に、一年を過ごしてしまうのかと思えば、そのむなしさに年頭からうんざりしますネ。
今日の日本の研究者のように研究以外のことに時間を労費し、しかも更に出来上った仕事の成果を英語で発表し、英語で討議することが続く限り日本の研究は決して世界をリードし得ないと信じます。この2つのfactorは何としても困ったものであり、何とか解決せねばならぬ問題ではないでしょうか。
さて過去1年間私は既に月報でも報告して来ましたように次の2つの問題、(1)培養哺乳動物細胞における紫外線障害回復の分子機構の研究、(2)培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびにLeukemogenesisの試み、に取り組んで来ました。
(1)の問題は紫外線障害から如何にして哺乳動物細胞が回復し得るか、その機構を分子レベルで解明しようとするものであり、最近ではこの問題を更に発展させて4NQOの如き発癌剤処理からの回復機構を検索しております。そして広い意味での生物本来のもつerror
correcting mechanismを探知しようとしています。この問題は、最終的には4NQO等による正常細胞のin
vitroでの発癌機構を裏面から追究出来る方法として今年は殊にこの仕事を発展させるべく夢をいだいています。
(2)の問題は勿論、骨髄細胞という生体のrenewal
systemの細胞群をin vitroで培養することにより、細胞分化の問題を中心にして発癌と云うstepの解明をめざした研究課題です。昨年は基礎的な仕事にのみ時間をかけてきました。でも何とか骨髄細胞もin
vitroで培養出来るようになり、しかもこれらの培養細胞(45日間culture)は700R照射したマウス静脈中にもどしてやると骨髄死で死滅すべきマウスの生存を延長させ得るというdataも得られるようになりました。今年は更にこれらの問題を発展させin
vitroでの骨髄細胞の分化、さらにはその分化の調節機構、ひいてはin
vitroでの発癌機構(Leukemogenesis)の解明までこぎつけたいものです。あれこれと新春にあたり心に夢をえがいてはいます。これがどの程度まで実現可能になったかの評価はやはり来年のこの号の月報で報告出来るでしょう。
私のLab.のTCグループでも障害回復機構から始って、骨髄細胞を用いた分化と発癌の問題、甲状腺細胞の代謝、脾臓細胞の培養と抗体産生、初期胚の分化と機能発現、さらには胸腺細胞の培養と多くの人が集まり、種々雑多な人が討議しつつ、それぞれの仕事を進めております。これらも加えて今後ともによろしくお願いします。新春にあたり皆さんと共に今年も大いに頑張ることをお約束しましょう。
《永井報告》
何はともあれ、初春のおよろこびを申し上げます。旧年中はこの班でなければ聞けないような話を沢山聞かせていただきまして、随分と勉強になり、また励ましにもなりました。今年もひとつよろしくお願い申し上げます。昨年について一貫して云えることは、雑用の多かったこと(これはいつものことかもしれませんが)に加えて、学会が多く、それに追いまわされたことでした。段々、実の伴わないセレモニー的な学会がふえてきているように感じてなりません。論文の多くなること、研究者の多くなることは、結構なことでしょうが、日本の大都市における最近の自動車の洪水に似たことが起きたら一寸問題です。けがをするだけならまだしも、うっかりしたら生命をやられてしまいます。今年はサル年だそうで、見ざる、聞かざる、云わざる、とまではいきませんが、ひとつ腰をすえて、心を新たに出発したいものと考えております。癌征服の日の一日も早く到来せんことを祈りつつ。
《奥村報告》
「明けましておめでとうございます。昨年中の御指導に心より御礼申し上げます。本年もよろしくお願い申し上げます」
昨年は公私ともに、とくに私的な面で多忙をきわめ、落着いてじっくり仕事が出来ませんでしたことを残念に思います。1967年をふり返ってみますに、私共の研究室で公表できます成果は次の3点でしかありません。
1)初期継代の細胞をコロニーレベルで扱いうるようになったこと。この実験系の発展によって細胞のin
vitroにおける変異を多少詳細に追究できるようになった。
2)ヒト胎盤性トロホブラストの長期継代の条件を見出し、しかもそれらの細胞のホルモン産生能(HCG)をも持続させることに成功した。
3)ウサギの初期発生胚(Blastula stage)のin
vitro発生の基礎的条件(培養の)を検討し、とくに心筋細胞(?)のin
vitro differentiationらしき現象を見出すことができた。
今年はこれらの仕事をできるだけはやくまとめたいと思います。また、これまでの実験をもとに、細胞の増殖性と細胞の分化機能の発現との関連性を探ってみたいと考えております。こんな夢ものがたりをどの程度実現できるかわかりませんが、せいぜいがんばってみるつもりでおりますので、よろしく御教示下さいます様お願い申し上げます。今年は昨年以上にいろいろなことがありそうで、おそらく馬車うまの如く働かなければならないような予感がしてなりません。新春にあたり皆様の御健勝を祈上げます!!
【勝田班月報・6802】
《勝田報告》
A.L・P3細胞の増殖に対する4NQO類の影響:
L・P3細胞はL株(C3Hマウス皮下センイ芽細胞)の亜株で、合成培地DM-120内で8年以上継代培養してきた細胞です。薬剤の作用をしらべる上に、純合成培地の方が良い場合もあると考え、一応4NQO類の影響をしらべてみました。
培養法:簡易同型培養法(短試・5°静置・37℃)
培地:DM-120に発癌剤を添加。1日おきに同じ培地で交新。
発癌剤の溶かし方:[培養2日后に添加]
4NQO−これまでに報告した法と同じ。薬剤10-2乗MにDMSO原液でとく。あとの薬剤の稀釋に従い、DMSOも稀釋されたことになる。他の薬剤も上のとき方に従おうとした。
6-Chloro 4NQO−ところがこれをDMSOでといたら、大きなフワフワした沈澱が生じ、溶けそうでなかった。アルコールで溶いてみたが、これも溶けない。仕方がないのでSaline
Dにsuspendし、培地で稀釋したところ、実験の使用濃度ではどうやら溶けたと思っている。これは作用結果から見ても、そう思われる。
結果:(表を呈示)表に記したように、2日TC后にはじめて添加し、以后2日毎に換えて行くと、4NQO、6-Chloro
4NAOの場合は、10-5乗Mではっきりと抑制が示された。以下の濃度では大体添加量に比例して抑制した。
6-Carboxyl 4NQOでは、これと傾向が少し異なり、10-5乗Mでも増殖抑制は見られたが、inoculum
sizeより日と共に細胞数はふえ、9日后に10-5Mでも約7倍近い増殖を示した(これは水溶性であるが、わざとDMSOを等量加えた)。
これらの結果からみると、6-Chloro 4NQOの場合、果して期待通り溶けていたかどうかという問題があるが、どうも毒性は少いように思われる。果して発癌性と細胞毒性とは並行するものであろうか。
全体の傾向からみて、L・P3細胞はラッテセンイ芽細胞にくらべ、4NQOに対する抵抗性はたしかに強いように見える。これ以外にもセンイ芽細胞による抵抗性の相違は、我々は見出している。
《黒木報告》
In vitro transformationにおけるtransplantation
antigen又はsurface antigenを調べる目的でいくつかのpreliminary
exp.を行ってきました。
1)X線照射、制癌剤によるattenuated cellsの移植
2)移植腫瘍の除去
3)謂る結紮解放法
4)血清によるcytotoxic test
5)血清によるcolony inhibition test
6)mixed cultureによるgrowth inhibition
7)membran immuno fluorescence法。などが考えられます。
In vivoで4NQOによりinduceされたtumorの培養細胞NQT-1を用い、1)、3)をまず試みてみました(表を呈示)。なお、2,500r、2,000r、1,500r照射細胞をそのまま100万個SCに移植したときには、tumor
growthは全くみられない。500r照射ではlatentが30日位にのべてtumorを作る。1,000r照射細胞は誤ってtubeをわってしまい、exp.できず。
結紮開放法
北大病理groupの結紮開放法をattemptした。この方法は輪ゴムでtumorを24時間しばり、necrosisにおちいらせてから、challengeすると高い抗体化が得られるというものである。(表を呈示)この方法は輪ゴムのしめ方がむつかしく、4回まわしたのではすべてのtumorがとれてしまい、2回ではnecrosisにならない。
以上の如く、目下preliminary exp.の段階でつまづいています。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞における紫外線障害回復の分子機構の研究(3)
過去2回にわたる月報報告において、紫外線照射された培養細胞の障害回復に関する実験結果を報告してきました。つまり、紫外線に対して感受性株のマウスL、ブタPS細胞には、Thymine
dimer除去機構(暗回復能)は認められないが、紫外線耐性株のEhrlich細胞には不完全ながら(UVで生成されたthymine
dimerの約30%を除去し得る)自己のDNAからthymine
dimerを酸溶性分劃に放出除去する能力のあることを述べてきました。こうした暗回復機構というのは、毎度述べるように紫外線で照射された細胞を暗所に保っておくと酵素的にDNAからthymine
dimerを切出し除去し得る能力を言うのであって、文字通り暗回復酵素の存在が問題になる訳です。
今回は光回復機構の検索と4NQOに対する障害回復能について培養細胞で行った仕事の結果を報告します。
1)紫外線障害からの光回復機構の検索
光回復機構は暗回復機構とはまったくの逆で、紫外線照射された細胞を照射直後に強力な光(波長400mμあたり)で処理するとphotonの存在下で光回復酵素が働き、紫外線で生成されたDNA中のthymine
dimerが、monomerのthymineに切断され正常なものにかえるという一連の機構をいいます。現在までのところ、前記の3つの細胞株に光回復機構が存在するか否かを断言できる段階にはありません。それは紫外線照射後強力な光で処理するとcellsuspensionの温度が急速に上昇するため温度の因子が多分に結果を左右する訳です。しかし培養細胞に光回復機能がまったく無いと云うのも早計であり、そうかといってbacteriaのあるstrainでみられる光回復能のようには顕著ではないというのが現在までの成績です。 2)4NQOに対する障害回復能(耐性度)の検索
化学発癌剤としての4NQOの作用機序が、紫外線のそれと非常に類似しているというデータがこれまでbecteriaを用いた実験から報告されている。ところが上記のL、PS、Ehrlichの3種の細胞について、4NQOに対する耐性度を比較した結果の概略を示すと図のごとくなる(紫外線に対する線量−生存率曲線と4NQOに対する濃度−生存率曲線の図を呈示)(どの細胞も10-6乗M濃度の4NQOまで実験を行ったが図示されていない部分はいづれも生存率は0%となる)。
この実験系では4NQOは指定の濃度で培養期間中培地内に入れっぱなしの状態である。ある一定時間処理して後は正常培地にもどすという実験は現在進行中。
この図からわかることは紫外線の結果と4NQOの結果は必ずしも一致しない。つまり紫外線に対して最も感受性株のPS細胞が4NQOに対しては最も耐性現象を示すことがわかる。このことをどのように解釈するか。(1)紫外線障害からの回復機構は4NQO障害からのそれとはまったく異ったものである。とするか、(2)bacteriaと異ってmammalian
cellsの場合は細胞膜、細胞内成分の構造的複雑さから4NQOの透過性または取り込み量が異ると考えるか、それにしても(3)3種の細胞株でもし4NQOの透過性に差異があり、それが障害の大小に直接結びつくというような結果になると、4NQOでの発癌実験に際して動物、個体は勿論、組織、細胞レベルにおいて発癌率に差異が生じてくるのは当然であろう。
いろいろのことを思いつくままに書きならべてみたが、現段階ではいづれも作業仮説であり、最終的な結論は今後の実験に待たねばならない。
《高木報告》
1.4NQO及び4HAQO添加実験
1)NQ-2(月報6708、rat thymus株細胞に対する4NQO
10-6乗M/ml添加実験)
月報6711で報告した移植実験は、現在実験群では移植後4ケ月を経過したが腫瘤の発生は認められない。目下尚継代中であるがin
vitroでは対照の細胞に比し、よりfibroblasticでcriss-crossが認められる。new
born rat入手次第、再度移植を試みたいと思っているが、最近ratが仔を生まない。
2)HA-1移植実験
Wistar King A ratの生後3〜4週のものを使用し、実験群ではHA除去後76日目(継代4代目)の細胞100万個を5疋へ、また対照群では培養開始後95日目(継代7代目)の細胞100万個を2疋へ、それぞれ皮下に移植した。現在まで約8週間観察したが腫瘤形成を認めない。
3)HA-2(月報6712)
2ケ月間観察を続けたが、細胞の増殖なきため実験を中止した。
2.NG添加実験
1)NG-4移植実験
生後3週のWistar King A ratを使用し、実験群はNG除去後70日目(継代4代)、対照群は培養後100日目(継代7代目)の細胞をそれぞれ100万個各2疋へ移植した。7週を経過した現在なお腫瘤の発生を認めない。
2)NG-7
事故のため実験中止。
3)NG-8
Wistar King A rat(生後4日目)の胸腺細胞、培養開始後24日目継代2代目のものを使用した。NG濃度は10μg/ml、25μg/ml、添加方法は以前の実験と同様に行った(表を呈示)。現在までの処、特に細胞の形態的変化に気付かない。
4)NG-9
上記の継代3代目の細胞を使用、NGは最終濃度25μg/mlとなる様に添加した(図を呈示)。NG添加後多くの細胞はガラス壁より脱落したが、NG除去後約10日目にfocus様の細胞増殖を認めた。目下継代中であるが増殖はあまりよくない。
【勝田班月報:6803:マウスにおける4NQO誘発染色体異常の系統差】
《勝田報告》
A)L・P3細胞の増殖に対する4NQO、6-Carboxyl
4NQO、6-Chloro 4NQOの影響:
純合成培地で増殖する細胞は、いろいろな意味でモデル実験に使い易いので、上記の3種類薬剤を10-5乗、10-6乗、10-7乗Mの3種濃度に培地に加え、L・P3細胞の増殖に対する影響をしらべ、今後のための基礎的データにした。
結果の数値は前月号月報に記したので省略するが、大体いずれも濃度に比例して増殖を抑制した。10-5乗Mでは6-Carboxyl
4NQOの場合は抑えられてはいるが増殖が続いたが、他の2者は細胞が急速にこわされ、特に4NQOでは添加開始7日後には細胞数が0になってしまった。なお薬剤は隔日ごとの培地交新の際にも新しく等量加えた。
B)L・P3細胞の4NQO処理と長期観察:
1967-11-23:L・P3細胞を継代、12-17:4NQO
3.3x10-6乗Mで30分間処理し、1968-1-2再び同様の処理、1-31継代し、一部は染色標本作製、2-4さらに残りの一部を4NQO
5x10-6乗Mで30分間処理した。染色標本によると、核の異型性や断裂、micronucleiが認められた。(顕微鏡写真を呈示)
C)H3-4NQO:
H3-4NQOと細胞分劃への結合については既に報告したが、このSampleはradioactivityが低いので、新たに杉村氏の研究室で作ったH3-2methyl-4NQOをもらい、永井氏にpurityをしらべてもらった。今後の実験に用いる予定。
D)DNAの“なぎさ”培養への添加:
肝癌AH-130細胞のDNAを抽出し、これを“なぎさ”培養しているJTC-12株(サル腎)の培地に添加する実験を現在おこなっている。
:質疑応答:
[勝田]L・P3はC3Hの皮下に復元すると結節を作りますが、しばらくすると消失します。こういう細胞を発癌実験に使ってよいかどうか、問題はありますが、takeされ方が上るかどうかをparameterにする他はありません。
[高木]復元接種された動物の年齢はどの位ですか。
[高岡]生後3週〜4週です。
[安村]接種細胞数はどの位ですか。
[高岡]1,000万個/mouseです。
[勝田]話は変りますが、最近、血清から雑菌が混入して困りました。ザイツ濾過では濾液に菌が出てしまい、シャンベランL3では菌が出ませんでした。
[安村]多分L型菌でしょうね。ペニシリン添加の方が増殖の早い菌があったりします。滅菌濾過は血清の場合シャンベランを使うのが一番確実ですね。無菌テストの方法についても問題があります。細胞と一緒にすると増殖が早くなる菌もあります。
《永井報告》
§4NQO系発癌剤の純度を調べる(2)。
前回(月報No.6712)には、4NQOの2標品につき薄層クロマトグラフィー(TLC)で純度を調べた結果、殆ど差がみられないことを報告した。また、H3-4NQOについても、H3が4NQOspotに局在していることを報告した。更に4NQOは化学的にかなり安定な物質であるらしいことを述べた。今回は、吉田班員から送られた検体を加えて、6検体について、TLCで、更に詳細に調べた結果について報告する。結論を先に述べると、2検体を除いた4検体に、4NQO以外の物質が存在することを、新しい溶媒系を使用することによって確認したことで、この相当量存在すると思われる不純物が如何なる生物学的意味を有するのかを検討する必要が生じた、ということである。
『TLC PLATE』
Silicagel(KieselgelG,Merck);10x20cm
Solvent System:Ether-Benzene-Ethanol-Acetic
acid(40:50:2:0.2、v/v/v/v)
『検体No.と性状』
(1)第一化学製品4NQO;吉田班員より。全く効かないといわれているもの。(染色体の断裂をおこさぬもの)。
(2)中原製4NQO;吉田班員より。効く。
(3)Takayama4NQO;吉田班員より。効かない。
(4)勝田4NQO(最近使っている製品)。効力在り。
(5)勝田4NQO(旧い製品)。やや効かない感じ?。
(6)H3-2Me-4NQO(癌センター)
これら6検体は、前報のクロロホルム・メタノール系(90:10、v/v)では、いずれも以前と同じく1ケのspotしか与えなかったが、この新しい溶媒系では、4NQO以外にX1、X2、X3の3ケのspotを与える。X2、X3は前報と同じもので、量的にも微量とみられる。しかし、X1は全く新たに出現したもので、定量はしていないが、(3)(4)(5)には10%は含まれているものと思われ、UV下での呈色具合では、4NQOと同系の物質のように思われる。(1)(2)ではX1の量は少なくなる。殊に(1)ではtrace量となる。(1)が全く効かないといわれているのは興味深いところである。H3-2Me-4NQOはone
spotにまとまり、純度は相当よいものと今の段階の分析では云ってよいようである。H3-2Me-4NQOは癌センターでのペーパークロマトラジオスキャンでは、水飽和イソーアミルアルコールで幅の広いピークの乱れた像を与えたが、TLCでも、この溶媒系ではspotはまとまらず、長くのびて、溶媒としては不適当であることがわかる。
なお不純物の存在量については、(1)にはtrace量と云てよいが、(2)〜(5)の各々については確かなことは今のところ云えない。(図を呈示)
:質疑応答:
[黒木]それぞれの製品について、動物での発癌性はしらべてありますか。
[高岡](4)勝田4NQO新は癌センターの杉村先生の所から発癌性があるものとして分与されました。(5)勝田4NQO旧は医科研化学研究部の香川氏から発癌性ありとして分与されたのですが、何しろ10年位前の事で現時点ではしらべてありません。
[勝田]吉田先生の所ではどういう方法で、効く効かないを判定して居られますか。
[森脇]4NQOを背中に注射して、10時間後の骨髄細胞を採って、染色体のbreakをみて、breakのあったものを効いたとしています。
[黒木]薄層クロマトでの分離テストと動物実験での発癌性を同時にしらべておく必要がありますね。
《吉田報告》
マウスにおける4NQO誘発染色体異常の系統差
DMBA、MC等の発癌剤の効果はマウスの系統によって差異があることが既に研究されている。われわれは4NQOのin
vivoでの効果に系統的な差異があるかどうかを8系統のマウスを用い、chromosome
aberrationを指標として調査したので予備的な結果を報告する。
実験材料:
C57BL/6、RF、SWM、AKR、A、BALB/c、C3HeB/Dr.、DD(以上8系統)いずれも生後3日目に使用。
方法:
国立癌センターの中原博士より提供された4NQOをPropyrene
Glycol 0.5%、Gelatin 1%を含む生理的食塩水中に10-3乗Mの濃度にとかし、マウスの皮下に0.2ml(38μg4NQO)を注射した。染色体はコルヒチン1時間処理後骨髄細胞を用いて観察した。脾臓、胸腺についても観察をおこなったが、分裂像が少なくデータを得るにはいたらなかった。
結果:
4NQOの注射後の染色体異常の出現頻度を時間を追って計測した。(図を呈示)注射後10時間付近で異常が最高になることがわかったので、以後の実験ではこの時間に標品を作ることにした。また、この実験では72時間後までしらべたが染色体異常の高まりは10時間以後は現れていない。この結果は10時間で最高に達するような染色体異常をもった細胞はそれ以上分裂することできず、次の分裂に際して消滅してしまうことを示している。
(4NQOのin vivo処理後骨髄細胞に観察された染色体異常の図を呈示)
(染色体異常の頻度をマウスの系統別に調べた結果をまとめた表を呈示)
異常をおこした細胞数の比率は各系統とも大よそ同じとみてよいが、RF、C3H、BALB/c系ではmultiple
breaksが非常に多く観察されたため、細胞あたりのaberrationは他の系統よりかなり高いことになる。
なお、% of cell with chromosome aberrationの増加に対するAberration/cellの増加をグラフに表してみたが、両者は大よそ直線的な比例関係にあり、4NQOによって異常をおこしやすい特定な染色体があるという可能性は少ない。
:質疑応答:
[安村]対照として溶媒だけを接種しても染色体変異は起りませんか。
[森脇]見つかりません。
[勝田]2〜3匹を一群とした実験で23%と28%という数値は、ちがいがあるとみてよいのでしょうか。
[森脇]この場合はちがいがあるとは認めていません。
[堀川]X線を照射して骨髄に異常をきたすと、その異常は永い間残ります。今のお話では4NQOによる染色体異常は早くなおってしまうようですね。
[黒木]この異常は単に一過性の現象だと思います。勿論動物は殺さずにとってあるでしょうね。このあと何が起るかに興味がありますね。
[森脇]生かしてありますから、経過を追うことは出来ます。
[安村]AKRに異常が一番多いというのはウィルスと関係があるようですね。
[黒木]毒性と発癌性の問題とも関係づけてしらべると面白いと思います。例えば、6ca-4NQOのように毒性は少なく、発癌性のあるものの場合にも染色体異常が起るかどうか。
[森脇]一過性の異常は薬剤の毒性によるものであり、2、3年もたって出てくる異常は本当の発癌性によるものだなどということかも知れませんね。
《黒木報告》
ハムスター胎児細胞の同調培養について
Synchronous cultureを用いるtransformationの意義は改めて述べる必要もないと思います。この種のexp.は、私の知る限りでは、次の二つのみです。
1.Basilico & Marin.Virology 28,429,1966.
2.Green & Todaro ; in Carcinogenesis,a
broad critique,559.1967.
1.はBHK21/polyoma systemでG2のとき、もっともefficiencyがよいという(DNA・contentが高いため)
2.は3T3/SV40 systemでG1、G2ではなく、S
phaseにおいてtransformationするというもの(replicating
cellular DNAとviral DNAのinteractionが必要)このpaperの原著はまだでていないようです。
Chemical carcinogenesisの場合はcarcinogenのtargetがDNA、RNA、Proteinのいずれともきめかねている現在なので、そのdataは非常に興味のあるところです。
Synchronousの方法としては、excess TdR法を選びました。(Terashima法はcellの数、fibroblastであることからみてあきらめた)
Exp.577
2mM TdRを24h、及び24h(-15h休み-)24hの二種類の方法で加えた。細胞は培養11日のハムスター胎児細胞。
Samplingする前にH3TdR、1.0μc/ml 15min puls
lab.、autoradiography:NR-M2,2wks。なお、Excess
TdRのあとにmed.で3回洗った。
(図を呈示)24hrs1回処置は全く同調しない、24-(15)-24の2回処置法がLI、MIともに小さなpeakを生じた。
しかしこのdataではとても満足できないので、さらに処置法を考える必要がある。
そのためには、先ず、cell cycleの分析をはじめた。
Exp.554
培養6〜8daysのハムスター胎児細胞
H3TdR、0.1μc/ml 20min. pulse lab. 以後1時間おきに(途中から2時間おきに)48hrs.サンプリング、NR-M2乳剤、4週間露出。(図を呈示) 比較的きれいなcurveが得られた。
計算値:G1・3.6hrs.、S・7.6、G2・2.6、M・0.6、total・14.4=G.T.。G.T.は14.4時間、これはdoubling
time 30〜40時間とは大きな差があり、growthに参加していないpopulationの存在を強くsuggestする。このdataはもう一度くり返して検討中である。
このようにcell cycleが意外に短いことが分ったのでそれに合せてtreatmentの方針を改良した。
excess TdRを加えられると、S期のcellはそのままDNA合成をstopするという。従ってexcess
TdRのtreatはG2+M+G1、休みはS時間あればよいことになる。
そこで、15hrs.-(8hrs.)-15hrs.というscheduleを作った。
#583
TdR 2mM、TdR 7.5mM、AdR 2mMの三者を用い、15-(8)-15hrs.で加えた。(TdR
7.5mMを用いたのは、2mMのTdRがDNA合成blockに不十分である可能性を考えたため、AdRはAdR処置にTdR-H3を加えることによりDNA合成を測定できる利点を考えた。)
細胞は18mm cover slipeにうえこむ。
xcess TdR、AdRの洗いのとき、及び処置後のmed.には0.01mMのCdR
HClを加えた。
H3-TdRは1μc/ml 30mim.pulse labelling。
AutoradiographyはNR-M2乳剤、2wks露出、コニドールX現像、hematoxyline単染色。
結果(図を呈示)
DNA合成のsynchronyは20〜40%で低い。
AdRがもっともよくDNA合成を同調させるが、cell
damageも強くMIは上らない。恐らくRNA合成阻害のためであろう。
今後の方針としては
1.TdR 7.5mM
2.treatmentの時間は15-(15)-15位にする。(DNA合成の下降は10時間すぎにみられるところから)
3.cell populationがこのexp.では少しく大きすぎた、そのためSynchronyが悪いと思はれる。population
sizeを吟味することが必要
以上を考えながら、synchronous cultureのtransf.に入るつもりです。
:質疑応答:
[堀川]ハムスターの細胞の同調培養の場合ですが、cell
countでsynchronizeのcheckをします。mitotic
indexではinterphase deathのcheckが出来なくてかえって不正確になると思います。
[勝田]株細胞なら同調させられるが、黒木班員の初代培養の細胞では揃う方が不思議な位だと思います。
[堀川]それはそうですね。それから細胞に傷害を与えないという点では寺島法が優れていますが、細胞数が多くとれませんね。
[黒木]fibroblastsは寺島法ではうまくゆかないのではありませんか。
[安村]そうでもありませんね。L細胞でもフルクト細胞でも、振り方を工夫すれば寺島法でうまくゆきます。でも細胞の系によってどうしてもうまくゆかない系もあります。
[勝田]thymidineやコルセミドで処理して染色体の異常がおこりませんか。
[堀川]むつかしい問題ですが、少なくともコルセミドだけでは起こらない様です。とにかく今の所thymidineでDNA合成を揃えておき、コルセミドでM期に揃えるというやり方でかなりよい同調培養の成績を得ています。
《佐藤報告》
◇動物復元続き:(動物No.116〜121の復元表を呈示)
◇ラット肝の4NQOによる発癌続き
動物No.18に腹水肝癌が発生した。即ち5x10-7乗M4NQOを62日間、LD培地中に加え処理し、総培養日数326日目('67-7-1)に500万個の細胞を新生児ネズミ腹腔に接種したもので、'68-2-1に屠殺した。動物を死に至らしめるまでに約7月を要した。剖検すると、約50mlの血清腹水がみられこの中に多数の癌細胞島が浮遊していた。肝門部に大豆大の腫瘍形成があり、また腸間膜、大網部に米粒〜粟粒大の多数の腫瘍がみられた。
◇月報6801に記載したRE-5系の核型について現在までに判明した点を報告した。
(1)Control lineについては染色体数42について調べた所、正常のdiploidと思われる細胞と、染色体のTelocentricの一本が不分離現象をおこして外見上Metacentricのchromosomeを形成した細胞が見られた。今後は41本及び43本の染色体を分析してTissue−cultureにおける染色体数移動に関係するかどうかを検討する予定である。
(2)Neoplastic lineではlarge subtelocentricの異常染色体が現れた。本large
subtelocentricの異常染色体は細胞によって大きさ、その他に多少の移動がみられた。Tumorよりの再培養にも同様のsubmetacentricの異常染色体が認められた。
班会議報告のまとめ
(1)Rat Embryo cell line
a)Tumorigenic capacityとmorphological malignant
changesとは平行関係にある。
b)悪性化する細胞は少くとも2種類ある様に思える。1つは細長い細胞質で濃縮した核をもつ、他の1つは大型の細胞で楕円形の傾向の核をもつ。
c)動物復元の腫瘍像にも2つの悪性化細胞の性格がみられる。
d)Malignant cellは重なり合う傾向は少い。
e)悪性化細胞と正常細胞の比率は4NQO添加量の増加と併行して高くなるが、ある程度の添加量に達すると以後4NQO添加を停止しても悪性化が進展して行く様に思われる。
f)5x10-7乗M濃度では余り効果がない様であって、10-6乗M濃度位がラッテEmbryoの場合適当の様に思われる。
g)Control liverは今の所未だdiploid lineを保っている様に思える。
(2)Rat liver cell line
a)動物復元、3匹腫瘍(肝癌一例は腹水性腫瘍)形成。
b)Rat embryo cell lineと異り、5x10-7乗Mの場合にも発癌している。
c)培養細胞のmorphological changeと4NQO投与と余り並行関係がない。常に腫瘍形成能のない細胞が存在していて、腫瘍細胞だけが4NQO投与と共に優位になる現象が見られないとも云える。
d)目下培養日数の少い所の凍結細胞を用いて実験をくり返している。
◇本年度の研究のまとめ
培養条件で自然発癌し難いラッテ由来の細胞を利用して、その4NQOによる発癌を試み、どうやらラッテ細胞でも4NQOで発癌するらしいことが分った。即ち、ラッテ全胎児細胞と肝細胞との2系に於て、4NQOによる発癌がみられたことである。現在、この発癌の追試実験を行い、4NQOによるラッテ培養細胞の発癌モデルプランを作るべく努力中である。また、その発癌過程に於ける細胞学的変化や、4NQOの培養細胞に対する作用機構など検索している。
:質疑応答:
[堀川]Markerの大きなmetacentric chromosomeは動物へ復元してtakeされた時の腹水中にもみられますか。
[増地]今後しらべてみます。
[安村]takeされたり、されなかったりする系で、takeされたものの再培養は再びtakeされますか。というのは一度takeされたものが、ずっと悪性だとすると、動物で悪性細胞をクローニングしたとも考えられる。つまり全部の細胞が悪性化していなかったということを意味していると考えられます。それから復元する細胞がはっきりしたmarkerを持っていれば仕事がやりよいですね。私の経験ではフルクトcellは合成培地で増殖出来る系でしたから、動物へ復元して出来たtumorを合成培地で培養してみれば、接種した細胞からのtumorかどうかがすぐわかりました。
[勝田]動物へ復元して3ケ月もしないとtumorが出来ないというのは、どういうことなのでしょうか。
[藤井]それから3匹復元したうち、1匹しかtakeされないというのも変ですね。
[難波]安村さんの言われたように、悪性化したのが一部の細胞で、数が少なかったのだとも考えられます。
[黒木]腹腔内でなく、皮下か、ハムスターのチークポーチに接種して、小さなtumorを作らせて、組織像をみると、悪性の度合がわかると思います。
[安村]悪性化した細胞でも、培養内で悪性度を維持出来るという確証はないのですから、悪性化したら、なるべく早い時期にクローニングする必要あると思います。それからtakeされた細胞も再培養してクローニングし、何コで動物にtakeされる細胞かをしらべておく方がよいでしょう。
[黒木]発癌剤をこんなに長期間入れつづける必要があるのでしょうか。もっとも動物実験では長期間与えないと発癌しない例が多いのですが。
[難波]処理回数や処理量がどの位まで減らせるかまだわかりません。
[黒木]抵抗性が出来ることを期待するなら長期間入れつづけるのも意味があるでしょうが、4NQOの場合抵抗性が出来ないようですから折角増殖しはじめた細胞が変異細胞であっても、次の処理でやられてしまう恐れもあるのではないでしょうか。
[勝田]この実験はもう少し再現性を高めなくてはいけませんね。
《高木報告》
Cell cultureによるchemical carcinogenesisに関して過去1年間の実験結果をまとめてみようと思う。
細胞は一貫してrat thymus cell(雑系及び最近はwistar
king A)を使用してきた。chemical carcinogenとしては、4HAQO、4NQO、NGを用い、現在までに4HAQOにて4実験、4NQOにて2実験、NGにて9実験を行った。
1)まず雑系(OSAMA)rat由来の株細胞(RT-1)を4NQO処理したが、濃度は10-7乗、10-6.5乗、10-6乗M/mlをそれぞれ作用させて、10-6乗M/ml処理群より処理後15日にしてtransformed
fociを得、現在まで継代している。
移植は同系rat new bornに処理後90日目に100万個の細胞を皮下に接種したが、触知できる様な腫瘤は形成しなかった。
現在でもなおcontrolに比し形態的に明らかな差を認め、又growth
rateでも1週間でcontrolの細胞が3〜4倍程度の増殖を示すに対し、処理細胞は6〜10倍の増殖を示している。 以後の実験は移植に関して有利な純系ratを使用することとし、しかも自然発癌の全く認められないWistar
King Aより得たthymus cellを使用した。(培養順にRT-2、RT-3、RT-4と呼ぶ。)
2)4HAQOを使用した実験は現代まで4実験行った。
i)まずRT-2、2代目継代後3日目の細胞にfinal
10-6乗M/mlとなる様に滴下し、3日間放置したが、cell
damageが全然なかったので、次いで10-5乗M/mlとなる様に滴下し3日間放置した。
細胞はculture bottleの周辺部を残して変性脱落したが、薬剤除去後約15日にて肉眼でも明らかなfocusを2〜3ケ/bottle認めた。
移植は薬剤除去後76日及び81日目にweanling
WKA ratsの皮下へ100万個の細胞で行った。controlは同じく培養開始後95日目に移植したが、いずれも腫瘤は形成しなかった。
その後継代と共に形態もcontrolとあまり変りがなくなってきた。又growth
rateも1週間で3〜5倍程度とcontrolと差がない。
ii)次にRT-2、継代6代目の細胞を用い、4HAQO
10-5乗M/ml2回添加及び5回添加(2日おきに)の実験を行ったが、処理後2ケ月間観察して細胞のgrowthが全く認められなかった。
iii)新たに12月12日に培養開始したRT-4の3代目の細胞を用いて2実験行った。
まず4HAQO 10-5乗M/mlを添加し、2日間放置したのち一群は直ちに3〜4万個cells/mlの細胞数でP3シャーレへ継代してみた。
しかしこれはcell damageが大きすぎ、現在一枚のシャーレに1コロニーの細胞が残っているが、形態的に変化は認めない。
更に残りの処理細胞を約15日間観察し、mitosisが認められる様になった所でTD-40へ40万個の細胞で継代した。これもやはりcell
damageは強く、又生残った細胞のgrowthも現在のところあまりよくない。
3)NG添加実験は現在まで9実験行った。
最初の3実験はRT-1株細胞を用いて濃度の検討をしたが、25μg/ml以上では細胞が完全にやられてしまうし、1μg/ml以下では効果がなさそうであったので、以後は10μg/ml及び25μg/mlの濃度を使用した。
又NGは4HAQOの如く失活し易いといわれているが、我々の経験ではMed.に混合して2日間incubateすると25μg/mlでは相当なdamageを細胞に与えることがわかったので、以後はMed.と混合してfinal
concentrationを10μg/ml及び25μg/mlとなる様にして使用した。
i)まずRT-2、3代目継代後4日目の細胞をNGで処理し、10μg/mlでは6日間、25μg/mlでは3日間放置した。
25μg/ml処理群は約2ケ月間Med.を交換して観察したが、細胞のgrowthはなかった。
10μg/ml処理群は薬剤除去後約20日で継代した。
形態的にはcontrolと比し、細胞のrandom orientationが認められ、transformationと思われたので、薬剤除去後70日目controlは培養開始後100日目にweanling
WKA rats皮下に100万個の細胞を移植したが腫瘤は形成しなかった。
ii)次に同じくRT-2、3代目継代後4日目の細胞にNG
25μg/mlを添加し2日間放置、その後Med.を交換したが、やはり細胞変性が著明で1ケ月間細胞のgrowthが全く認められなかった。
iii)その後RT-2について5代目及び7代目の細胞を用いて、NG
10μg/ml及び25μg/ml添加実験を行ったが途中contamiにより中止した。
iv)新たに11月4日培養を開始したRT-3の2代目、継代後13日の細胞を使用、NG
10μg/ml、25μg/mlを2日間2回計4日間作用させた。
25μg/ml処理群にて継代2代目にfocus様細胞集塊を認めたが、その後継代中であるが、現在はcontrolと差はなく、又growth
rateにおいても差がない。
v)更にRT-33代目、継代後9日目の細胞にNG
25μg/mlを同様の方法で2日間作用させた。
現在継代中で処理後約70日であるが、controlと比較して差を認めない。
:質疑応答:
[黒木]NGについては、ハムスターの細胞にも加えてみましたが、変異細胞は出現しませんでした。適濃度の幅がせまいようですね。しかし、NGの場合、悪性化だけでなく分化の形もとる所が面白いと思います。
[堀川]NGの作用機序について、わかっているのですか。
[安藤]グアニンにつくということは、わかっています。
[堀川]胸腺とか骨髄から増殖してくる細胞は、培養3〜4日でpile
upがみられます。何も処理しない場合にもです。
[勝田]fibroblastsもそうですね。そういう細胞の変異はみつかりにくいのではないでしょうか。
《三宅報告》
今回は4NQOのDNA合成への影響をH3-TdRの取り込みからみようとした実験(あくまで予備実験)である。材料として用いたのはd.d.系マウス胎児皮膚、人胎児(14週)の皮フと腎である。皮膚は培養の第二代を、腎については初代の培養を用いた。腎を用いた理由は上皮性のものについての、取り込みを知りたいためで、鏡検に際し腎ではfibroblastを撰りわけることにした。培養液はEagle(アミノ酸、ビタミン4倍)のものと、2倍のアミノ酸ビタミン類にした時はPyruvate、Serineを添加した。H3TdR作用後、培養液で1回次いで生食で1回洗浄した。後エタノール固定、dipping、SakuraNR-M2、露出3週、現像5分DIII・18℃、Giemsa染色である。
Exp.7:マウス胎児皮フ、2代目5日後のものにH3-TdR
2.5μc/ml 45分したのではL.I=35.3%。
4NQO 10-6乗M1時間及び2時間後では夫々29.5%、21.4%のL.I.であった。
Exp.10:ヒト胎児皮フ初代4日目 Cumulative
lavelingで(H3-TdR 25μc/ml)L.Iは、3h.=23.7%、5h.=25.6%、6h=33.0%、14h.=42.3%、23h.=69.0%、26h.=70.4%。TG≒43h.。TS≒7h.。をえた。
Exp.9:ヒト胎児皮フ初代3日目のもので4NQOの濃度をかえたものを作用させると、10-8乗MではControlと同じL.I.、10-5、10-4乗Mではlabelingは零であった。
Exp.11:ヒト胎児の腎では、Exp.9のヒト胎児皮フより抵抗性がみられ、腎の上皮性細胞は10-7乗Mでは30%近くの%でControlと大差ないことを知った。
Exp.11':前のExp.11の腎の上皮についてcumulative
lab.を行い、TG、TSを求めると、L.I.は、1h.=33.1%、3h.=43.2%、6h.=44.6%、24h.=78.7%。この値からTG≒52h.。TS≒18h.と知った。
Exp.13:ヒト胎児皮フの2代目3日目に、4NQO
10-6乗Mを入れ、経時的に、短ザク硝子を取り出し、H3-TdR
2.5μc/mlを45分間作用せしめて、L.I.をしらべると、(図を呈示)2時間までは、略々正常に保たれたL.I.は、3時間目に急激におちる。4NQOのDNA合成(Thymidineの取りこみ)は2時間を経てから出現する。(後註・合成阻害ではないか?)
こうした下降の状態をさぐって行くことが、これを解明する鍵となるであろう。
なお、transformさせえた細胞については、chromosome、H3-TdRの取りこみを追究中である。
:質疑応答:
[黒木]G1からS期にはいる所を4NQOがブロックしている可能性が強いわけですね。
[三宅]そう思われますが、どうしたらはっきり証明出来るでしょうか。
[掘川]同調培養で取り込みをみればよいと思います。
[三宅]株細胞でないので同調培養はむつかしいのです。
[堀川]そうですね。それに初代培養の場合は培養日数がちがうと、ころりとちがうdataになったりして、解析にはむきませんね。
[安村]50%が同調しても、50%では同調培養という名前をつけるわけにいきませんね。初代培養で同調培養をやるのは少し無理ですよ。
[黒木]初代培養では再現性も少ないし、むつかしいですね。しかし株細胞を使っての実験の場合は、薬剤添加によって遺伝的なレベルでの変異が起ったのだというチェックをしなくてはなりませんね。
[勝田]H3-TdRの添加時間はどの位ですか。
[三宅]40分です。
《堀川報告》
培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびにLeukemogenesisの試み(4)
この研究シリーズ(3)においてわれわれはdd/YFstrain(生後31日)から得た骨髄細胞を70%TC-199+10%Tryptose
phosphate broth+20%calf serumで培養した際、培養時間の経過に従って骨髄細胞の組成(種類)が急激に変って来ることを示した。しかしdd/YEstrainはgeneticalに不安定であり、この種の研究には適した系統ではないということで、以来NCとC57BL/6Jaxの2系統を用いて仕事を進めることにした。
今回は本研究シリーズ(3)と部分的に重複した事象を報告する訳であるが、NCstrain(生後30日)から得た骨髄細胞を上記の培地で培養した際、その細胞組成(種類)が培養時間とともに次第に変化する。(表を呈示)
培養直前にみられる骨髄細胞の多種多様性は培養5日目頃にすでに失われ、特定の細胞のみが大部分をしめるようになる。そして培養30日に至ってはこれらのうちのLarge
mononuclear cellsが全体の96.5%をしめるようになることがわかる。
一方このようにしてin vitroで5、10、20、40日間培養された骨髄細胞(40日培養のものでは大部分がLarge
mononuclear cellsであると考えた方がよい)を同じNC系(60日齢)で700RのX線で照射された♂に5万個細胞づつ尾静脈から注入してやり、9日後に殺して脾臓表面に出来るコロニー数をカウントした。(結果の表を呈示)
700R照射したマウスに種々の時間培養した骨髄細胞を静注してもcontrol(700R照射しただけのもので、骨髄細胞の注入なし)と何らの有意差を示さない。勿論この段階では全体としての実験例数も少ないし、結論を出すのは早計である。そしてこのようにin
vitroで培養された骨髄細胞は脾臓表面に活発なコロニーの形成能力をもたないからといって、骨髄細胞が他の臓器や組織などに定着して増殖し、生物機構を果たし得る可能性も少ないときめつけることも出来ないだろう。なぜならばdd/YF系マウスを用いたわれわれの以前の実験で、すでに「骨髄死」を保護し、生存率を高めるというデータが得られているからである。
今後はNCおよびC57BL/6Jax系統での培養骨髄細胞の脾臓コロニー形成能とか「骨髄死」保護能といった生物学的機能の検索を急速に進める予定である。
:質疑応答:
[難波]細胞数はどの位まきますか。数をふやすとどうなりますか。
[堀川]Colonyを作らせるときは1,000コです。X線だと細胞数をふやしても同じSurvival
curveがとれますが、4NQOではどうか判りません。
[安村]4NQO・10-6乗Mで生残ったColonyをとってまき直したらSurvival
curveが変ってくるんじゃないですかね。
[堀川]判りません。この場合は薬剤を入れつづけていますからSurvival
curveになりますが、短時間作用させてから細胞をまいたときはRecovery
curveですね。
[勝田]4日間培養したとき、骨髄細胞は増殖するのですか。
[堀川]増殖します。はじめにコロニーができて、40日後にはびっしりのシートになります。
[勝田]染色体はしらべましたか。
[堀川]まだですが、予定はしています。L細胞ではSurvivalを助けないので、他の臓器、肝や腎などもやってみています。
[安村]私は脾をやったことがありますが、1,000万個入れると完全にSurviveします。
[勝田]胸腺などもぜひ入れてみて下さい。面白いと思いますから。
[黒木]脾臓の細胞がふえるようになったのは、どんな原因ですか。
[堀川]判りません。同じ様な条件だったのですが、ただ何となく・・・。
[藤井]Fibroblastsがふえてくると脾の細胞は駄目になるのですか。
[安村]Fibroblastsの方が増殖が早いからpredominantになってしまうので継代で稀釋されてしまうのです。何か撰択的な培地を考えればよいのですが。
[堀川]骨髄の面白味は、stem cellがあってそれが分化するということ、そして薬剤を作用させると分化しないでStemとして保持できるような系を作れるかも知れないという点ですね。
[安村]Ephrussiの処のは培養内でstemを保持していて、動物へ戻すと、軟骨その他ができる、というのがあるらしいです。しかし自分のやったのはどうも安定しないので、結局動物を使ってstemを保持していました。
[黒木]Sachsの仕事で、骨髄細胞を培養するとき、Feeder
layerの細胞の種類をかえると、できてくるcolonyがちがう、というのがありました。
[堀川]はじめのころ出来なかった脾臓の培養が何となしによくふえるようになったのは何故だか判りません。
[勝田]Plating Efficiencyが100%とかいてあるのは、1,000コまいて1,000コ生えるのですか。
[堀川]いや、対象を100%としたので、実際は10%です。
☆☆☆昭和43年度研究計画☆☆☆
[勝田]次年度の研究計画について少し御相談したいと思います。考える材料を提供する意味で、私案をはじめに出します。
1)培養内発癌系の確立: 次年度は班としては最後の年なので、何としてでも、少くともこれだけは仕上げたい。新鮮な細胞を使うのと、安定した株によるモデル実験と、両方を作りたいものである。
2)材料の精選: 動物はラッテ、ハムスターを中心とし、なるべく純系動物の細胞を用い、できればCell
cloneを使いたい。
3)発癌剤: あまりあれこれ手を拡げずに、4NQO類、DABに絞りたい。
4)観察: 発癌剤処理より、悪性細胞出現までの細胞の変化を、形態学的、生化学的、免疫学的にしっかり追って、そこに何らかの体系的知識を確立したい。
5)その他の発癌要因: 放射線、細胞の核酸分劃、などによる悪性化もつづけて試みたい。
6)発癌機構: この解明には、現在の時点では、株細胞を使う方が能率的と思われる。安定した、特性のあまり変化しない株を使って“機構”の方も研究する必要がある。これが当班の研究目標になっているのだから。
私案は以上の通りでありますが、まず黒木班員の場合、transformationに3期を考えておられる。そのとき、M1期からM3期にかけて、悪性細胞がpopulationとして増えるのか、或は細胞自体の特性が変るのか、これはcolony法である程度見当がつくことなので、ぜひやってみてもらいたいと思います。
[黒木]それについてですが、M1期で細胞を一部凍結保存しておき、他は培養をつづけて、M3期に入ったら、その細胞で抗体を作り、M1期の細胞を戻して、抗M3抗体で検索することにし、Kleinのmembrane
immunoflurescent法でしらべたいと思っています。
[堀川]M1とM3とでそんなにちがうのですか。
[安村]元来在ったものが増えるのか、徐々に変って行くのか、非常に鋭敏なcheckingなら有効ですが。
[黒木]理想的には、株でcloneがとれて、細胞数も一杯とれて、しかも細胞は正常でというのですね。
[安村]しかも容易に悪性化できてね。動物のspeciesとしては、ヒトはだめだから、マウス、ラッテ、ハムスター・・・というところですね。
[勝田]個体としても、胎児はだめです。早くnewbornに切りかえなくては。
[安村]素人にいちばん良い臓器は腎臓ですね。
[勝田]いやな予感ですが“mechanism"には余り入れないような気がしますね。
[堀川]Mechanismをやるには株が良いですね。primaryの必要はない。
[黒木]Lなど良いと思います。
[安村]いや、Lはむかし悪性だったという歴史があるから、あまりうまくないでしょう。寝た子を起しただけになるかもしれない。
[堀川]悪性化でなくとも、変異の機構はしらべて良いと思います。
[安村]癌の研究班である限り、やはり単なる変異だけではなく、悪性化をみる実験もやらなくてはいけませんね。
[堀川]復元した細胞の回収を図る方法として、diffusion
chamberなどはどうですか。
[勝田]あれは入れられた細胞にとっては不利な環境だと思いますね。
[堀川]Ephrussiはhybridizationで色々面白いことをやっていますが、hybridizationを使うとgene
levelでの遺伝形質の解析ができます。黒木班員の場合、変異細胞にmarker
chromosomeがあると良いですね。
[勝田]speciesのちがう動物の細胞の間ならchromosomeのcheckingはできますが、さてそれでできた細胞はどちらのspeciesにtakeされますかね。しかし同じspecies同志ではchromosomeのcheckingはできないし・・・。
[安村]薬剤耐性株をまず作って、それをmarkerにする手もありますね。
[勝田]Hybridizationがうまく行ったとして、それで何が判るでしょう。片方が癌でhybridが癌を作るというのなら、生体での癌の発生には、まずはじめに癌細胞が1コ存在していなければならないことになります。
[森脇]Chromosomeの解析として、あるmarker
chromosomeがあれば必ずtakeされる、というようなことがあれば、染色体と悪性との関係が判りますね。
[勝田]それは既にでき上った癌の解析で、発癌機構の解析にはならないでしょう。
[永井]核内の遺伝物質を追うことに全力をつくしても、それが発癌機構と直接むすびつくかどうか、問題がありますね。
[勝田]異常染色体が仮に見付かったとしても、発現していないgeneのことも考えなくてはならないし、gene
levelの問題として扱わなければならないですね。
[森脇]ヒトの癌を数多くしらべて、癌のとき欠損しやすい染色体は判ってきつつありますが、それがなくとも癌細胞は増殖できる、ということにすぎなくて、これだけ揃っているのは癌細胞だとはいえないのです。
[勝田]岡山ではラッテのwhole embryoを材料にしないで、Fibroblastsを狙っているのならnewbornの皮下組織でも使うようにして、材料をなるべく単一種の細胞にするようにして下さい。肝の実験も、もっと実験例数をふやして、再現性をはっきりさせることと、処理回数をだんだんに減らしてminimumの量を明らかにすることも必要でしょうね。
[高木]私のところはラッテの胸腺(Fibroblasts)と胃を材料にしたいと思っています。
[勝田]高木班員や我々のところの実験はどうも薬剤のかけ方が弱すぎるように思われます。今後はもっと多く、長くかけてみる必要があるでしょう。
[安村]弱い濃度で生かさず殺さずでおく方が変異は起るのではないでしょうか。
[森脇]マウスBALB/C plasma cell tumorの場合に、生後1〜2月のマウスを継代に使いますが、あらかじめマウスにX線300r(BALB/CのLD50は500r)かけておき、その直後あるいは数時間以内にtumor
cellsを接種すると、早くtakeされるようです。Cortisoneは効果がありませんでした。接種時のhostの状態が問題だと思います。
[勝田]L系の細胞を発癌実験に使うときは、たとえばC3Hマウス以外のマウスにもtakeされるようになる、という変異でも少しは役に立ちますかね。それから4NQOの作用機序についても、isotopeを使ってもっと突込んで行かなくてはなりませんね。ハムスター細胞の株で2倍体で悪性でないものはありませんかね。
[黒木]BHKも2nですがtakeされます。それから、AH-13は皮下に植えるとtakeされませんね。
[勝田]Lでもcloningすればtakeされないclonesがとれるかも知れません。
【勝田班月報・6804】
《勝田報告》
A)L・P3細胞の4NQO処理:
2月の班会議でL・P3細胞を4NQOで2回処理したあとの形態を供覧したが、その后も次のように4NQO処理をつづけてみた。
1967-11-23:細胞継代(平型回転管)。
12-17:4NQO処理(3.3x10-6乗M、30分間)
1968- 1-24:4NQO処理(3.3x10-6乗M、30分間)
2-21:これより現在まで、4NQO(5x10-6乗M)を培地に入れつづける。この時期に細胞は増殖をつづけていた。
2-29:継代。細胞の一部が死んできた。
4- 8:細胞のcoloniesが沢山形成され、ふえてきた(TD-40瓶1本にcolony100位)。 *L・P3の場合は4NQOに対する抵抗性が上ってくるのかも知れない。
B)ラッテ肝細胞株(RLC-10)の4NQO処理:
このseriesはケンビ鏡映画をとりつづけている。
1968- 1-18:細胞継代
2-26:4NQO処理(3.3x10-6乗M、30分間)
映画撮影視野内の細胞は全部死んでしまった。しかし生残りから増殖がおこった。
3- 9:4NQO処理(同上)。
やはり視野内の細胞は死んで、他の生残り細胞の内から増殖が再開された。
3-26:4NQO処理(同上)。こんどは視野内もあまり死ななかった。
*RLC-10も抵抗性が上昇するのだろうか?
*視野内の細胞が死ぬのは、癌センターの永田氏の云われる4NQOのphotodynamic
actionの為であろうか?
C)4NQO処理されたラッテセンイ芽細胞の好銀センイ形成能:
これまで既に月報で報告した4NQO実験での変異細胞の好銀センイ形成能をcheckした。判定は2ケ月間培養の銀染色によった。RLG株はラッテ肺、RSC株はラッテ皮下組織由来である。(表を呈示)表のように好銀センイ形成能の認められなくなった株がかなりあった。
《梅田報告》
今月から仲間入りさせていただくことになりました。月に一回、多少ともまとまったデータを出すことは私にはかなりむずかしい様に思えますが、せいぜい努力してみる積りで居ります。宜敷く御願い致します。
しかし早速今月分として御報告出来るようなものは無く恐縮しています。この月末、ラット新生児肝を勝田先生の方式にしたがって培養の試みを行って居りますが、なにせすべてが練習及びリピードの域を出ていません。これからも基礎条件を定めるための沢山の実験が必要なので、あわてています。私の実験の当面の目的は、新生児ラット肝片のローラーチューブ培養で生え出し得るラット齡がDAB投与により延長する勝田先生、佐藤先生のデータの理由をなんとかさがしてみたいことです。生える迄待っていては時間がかかるので、実験の方法として、H3-サイミジンの摂り込みなどが、DAB投与例とコントロール、更に癌原性のないAB投与で差が出ればと期待しています。以上御挨拶迄。
《佐藤報告》
◇ラット←4NQO実験(動物復元表を呈示)。ラット肝細胞の発癌。
動物No.49に肝癌の発生をみた。接種した細胞は培養日数413日、培地YLE、4NQO処理10-6乗Mで12回のもので、500万個cellsを新生児ネズミ腹腔に接種した。接種後205日で動物を死に至らしめた。剖検にて大網部、肝門部、腸間膜の部分に著明な腫瘍形成がみられ腹水はなかった。その組織像は肝癌の所見であった。
以上で4NQO→4ラット肝の悪性化は合計4匹となった。
◇ラット肝の培養(特にcloning)の基礎的条件の検索
ラット肝細胞を利用する発癌実験のために、肝実質細胞(出来得れば潤管構成細胞、膽管構成細胞の区別)のcloningによる検索を始めた。まづ従来使用して来たLD培地とYLE培地、Eagle培地及び199培地の比較検討を培養方法を変へて行って見た。(表を呈示)表はラット肝組織を従来の方法に従ってroller
tube cultureを行ったものである。+の下に記載された数字は一本の試験管に増殖して来た細胞の度合を示す。(+)の数字は合計である。この結果から見ると、LD及びYLE培地が略同程度の増殖を示し、Eagle、199の順で増殖率が落ちる。
(表を呈示)表は生后7日の♂ラッテを使用し、CO2incubaterでシャーレ(3.5cm)、3ml/シャーレに培養したものである。此で見るとEagle培地(千葉血清)が、Colony
formationにおいて他の3培地よりよい事が分る。
Colonyを形成する細胞の形態には6〜7種類が区別されるが、組織化学的にどの程度区別できるか検索中である。又継代できるかどうかについても目下検索中である。
(表を呈示)表はRLN-251株で(従来の通りで培養継代)現在121culture
daysのものについて実験的短試で各培地における増殖率を検討した。この結果ではYLE培地が増殖率が高いことが分った。従って閉鎖型での実験はYLE培地が有利の様に思われる。
《三宅報告》
ヒト胎児皮膚のFibroblastを用いて4NQOのCell
Cycleに与える影響をしらべてみました。(dd系、その他の動物については未完)。すなわち、前回の班会議の折、4NQOがG1の期に抑制的に働くのではないかという成績をえたためです。プロトコールの番号をそのままに、ここに記すことにします。
A)Exp.17(図を呈示)。これにCummulativeにラベルした所、次の価をえた。
Control(310) TG≒29hr.、TS≒8hr.。4NQO(311)TG≒58hr.、TS≒10hr.。
B)Exp.18(図を呈示)。この251の6代目、及び252の6代目培養についての細胞の状態については目下露光中です。が上記Exp.18の細胞については、G-3について(251)4NQO群、TG≒23hr.、TS≒7hr。Control、TG≒38hr.、TS≒6hr.をえ、表示しますと(図を呈示)。以上の実験から、4NQO作用后の短期間ではTGの延長がみられるが、作用后時間を経るにつれて、4NQO群ではCycleのspeed
upが認められる。その位相差像を示す(写真を呈示)。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞における紫外線障害回復の分子機構の研究(4)
化学発癌剤としての4NQOの作用機序、ならびにそれによる障害回復の機構が紫外線のそれと類似しているかどうかを検索するため、mouseL、ブタPS、Ehrlichの3種の細胞株について4NQOに対する耐性度を比較検討した結果を本月報のNo.6802に於いて簡単に報告した。また10-6乗Mの4NQOで30、60、90分間処理した後の3種の細胞株のコロニー形成能を調べた結果は、PS細胞のみが10-6乗Mの4NQOで30、60、90分間処理後にもコロニー形成能を持ち、他のLやEhrlich細胞ではこの程度の4NQO処理によってコロニー形成能は完全に認められない。
つまり紫外線に対して最も感受性株のPS細胞が4NQOに対しては最も耐性であり、紫外線に対して耐性で、しかも紫外線障害除去能力のあるEhrlich細胞などが4NQOに対して感受性であることが分かる。このことは我々が初めに予期した紫外線障害回復機構が4NQOの障害回復にも働くという考えを、まったくくつがえすもので、これらの間には何らの関連性のないことが分かった。(少くとも培養哺乳動物細胞に関しては。)
培養動物細胞株間の4NQOに対する感受性の差異のfactorとして、主として次の2つのことが考えられる。まず第1は、細胞株間の4NQO透過性の差異であり、第2は取りこんだ4NQOを4HAQOあるいはその他のderivativesにreduceさせる能力の差異にあると思われる。
勝田研究室から譲り渡されたH3-4NQOを使って3種の細胞株の酸溶性あるいは酸不溶性分劃内に取り込む能力を経時的(H3-4NQOを10-5乗Mの濃度に含む培地中でそれぞれ30、60、120、240分間培養した後の各分劃内えの取り込み能)に検索した結果は表の如くであって(表を呈示)、これらの結果から分かるように4NQO取り込み能は3種の細胞株間で大差なく、第1の可能性は否定される。むしろ細胞質容量の大きなPS細胞やL細胞が酸溶性分劃に4NQOを大量に取り込むことが分かる。またどの細胞株も培養時間と共に酸不溶性分劃に入る4NQOの量は漸次増えるが、一方酸溶性分劃では一度取り込まれた4NQOが時間と共に再放出されるようである。このことは勝田研究グループの報告したNo.6801号の結果と合わせ考えて興味がもたれる。いづれにしても第1の可能性を取り上げるよりも第2の可能性が、さらにはそれ以外の細胞株間の4NQOの無毒化能の差異を考える方が妥当のようである。
またこうした結果は或る面では4NQOによる発癌のさい、どの細胞にも同一の障害と変異を誘起させるのではないという可能性を示唆している。そして癌化の際のtarget
cellの存在を暗示させる。
《高木報告》
3月に新たにstartした実験を報告する。carcinogenは4NQO、NGを使用し、細胞は従来の如くWKA系rat
thymus cellと新たに同lung cellを用いた。
1.4NQO添加
1)NQ-3:RT-4(12月12日培養開始)8代目の細胞を使用した(図を呈示)。4NQOはHanks液で10-6乗M/ml、2x10-7乗M/mlに稀釋し、それぞれ2時間incubateした後、PBSにて3回荒井、Med.を加えた。10-6乗M/ml
2回添加で細胞はすべて変性脱落してしまったが2x10-7乗M/ml
2回では殆ど細胞にdamageがないため、継代后更に10-6乗M/mlを1回添加し、現在維持している。 2)NQ-4:1月31日培養開始した生后21日目のWKA
rat thymus cellの3代目に4NQO 10-6乗M/mlを2時間作用させたが、細胞は全部変性脱落してしまったので中止した。
3)NQ-5:RL-1(3月5日培養開始した生后4日目のWKA系ratのlung
cell)lungを摘出し、Pc200u/ml、SM 100μg/ml、Nystatin
100u/mlを含むHanks液中で約30分室温放置后、Explant法で培養を開始した。Med.はRTと同じくLHにEBMのVitamin
stockを1倍量加え、fetalCS 10%を添加して用いた。
(図を呈示)4NQOは同様に2時間作用させた。primaryより増殖してきた細胞はfibroblastであったが、4NQO
10-6乗、5x10-7乗M/ml1回処理にてfibroblastはすべて変性してしまった。しかしこれに代ってわずかに残存していたexplantよりepithelialな細胞がさかんに増殖をはじめた。目下経過を観察中である。
2.NG添加
1)NG-10:RT-6(3月5日培養開始した生后4日目のWKA系rat
thymus cell)3代目を使用した。NGはHanks液にて20μg/ml、10μg/ml、5μg/mlに稀釋して、それぞれ2時間作用させた。(図を呈示)NG
20μg/ml、10μg/ml、2回処理では細胞のdamageが非常に大きく、5μg/ml
2回処理でも半数程度の細胞が脱落してしまった。
今後は細胞が変性を起さない程度の濃度で頻回に作用させてみる予定である。
《黒木報告》
BHK-21細胞の寒天内増殖とBacto-peptone
先に記したようにBHK-21細胞は、Bacto-peptone存在下では、寒天内でcolonyを形成できます。このdataは従来までの所見とは一致しません。MacPherson達は、BHK-21はpolyoma
virusでtransformしてはじめてagar内growthをすること、それはcontact
inhibitionの喪失と関係あると述べています。
しかし、Bact-pepetoneの存在のもとでは“normal"BHK-21もgrowthするのですから、この問題はtransformationによって栄養要求性が変ったというように解釈すべきです。
すなはち『BP+,R-,A-,G-,S-,T- →polyoma(4HAQO)→BP-,R+,A+,G+,S+,S+,T+』(BP:Bacto-peptone
dependency。R:Random orientation。 A:polyoma
cell antigen。 G:Increased Glycolysis。S:Selective
advantage。T:Transplantability) (BPの他はStoker,M.:The
interaction of polyoma virus with hamster
fibroblasts.In :Virus,Nucleic acid andCancer
1963による)
このように考えると、BPの有効成分が知りたくなります。何故なら細胞のheritableな変化が栄養要求とはっきり結びついているというdataは少いからです(Eagleは最近Cysteineの代謝がtransformと関係しているというdateを出しています。Carcinogenesis
P617)。
Exp.576
BPの有効成分はアミノ酸ではないか、tryptose
phosphate broth(TPB)でもBPをreplaceできるか。BPなし培地、BP
0.1%培地、10%TPB培地、4xアミノ酸培地で寒天培地内コロニー形成能を比較した。(表を呈示)以上の成績から、BP中の有効成分はfreeのアミノ酸ではないこと、TPBでもある程度replaceできることが分った。
Esp.582
Bacto-peptoneのうち、どの位のmole wt.のものかを見当ずけるため、Sephadexによる分離を行いました。
column:26.4mmx40mm(Excel Column)
溶媒:Earle'BSSからNaHCO3、Glucoseを除いたもの
Sample:BP 10%、 3ml or 5ml
flow rate:30-60ml/h
1.G-25による分離
G-25によってBPをfractionateしたところ次のようなCurveを得た(図を呈示)。
peak 、 、 をBP 0.032%のO.D.280と同じ濃度(O.D.=0.56)に加え、その効果をみたところ、有効成分は明らかにpeak にあった。 でもcolonyはできるがsizeは小さい。(表を呈示)。
2.G-15による分離
G-25の有効fraction をあつめ、rotary evaporatorで約10xに濃縮し、G-15を通した。(図表を呈示)3つのpeakに分れる。このうち、有効なのは 3のみである。(現在BP
10%液をそのままG-15にかける方法でこのfractionの分離を行っている)
以上のように、BHK-21のagar内growthに必要なのは、Bacto-pepton中の比較的低分子のpeptideのようです。さらにDEAEなどのcolumn、paper
chromatographyで分ける必要がありそうです。
《山田報告》
少量細胞の細胞電気泳動度測定のための泳動管の改良
従来の細胞電気泳動度測定には四角型と丸型の泳動管が用いられているが、その測定には少くとも100万個前後の細胞を必要とした。従って培養細胞のごとく少数細胞を対象にして測定することは必ずしも容易ではなかった。
この点を改良するために泳動管の測定窓に直接少量の細胞を注入出来る装置を考案した。(図を呈示)図の示すごとく細いビニールチューブを測定窓に直接連絡して、ここから少量の細胞を注入して測定出来る様にした。
この改良により、少量細胞の細胞電気泳動度測定が可能になり、基礎実験によると、最低5000ケの細胞でも測定可能となった。しかし通常楽に測定出来る細胞量は2〜30000個の細胞が尚必要である。
【勝田班月報・6805】
《勝田報告》
A)L・P3細胞の4NQO処理と、それによる抵抗性の変化:
前月号の月報に、完全合成培地で継代しているL・P3細胞を、4NQOで長期間処理したことを報告したが、1)無処理のL・P3、2)2回処理したL・P3、3)長期処理したL・P3の3種について、4種の濃度に4NQOを添加して抵抗性を比較してみた。
1)無処理L・P3。
2)1967-12-17と1968-1-2、3.3x10-6乗M、30分間の2回処理。
3)1967-12-17、1968-1-2に同様処理後、1968-2-21より4-9まで5x10-6乗M入れつづけ。
この3群を4月20日に継代し、2日培養した后、培地を交新し、そのとき次の各濃度に4NQOを添加し、その3日后に細胞数を算定した。
4NQO:0(Control)、10-6乗M、3.3x10-6乗M、5x10-6乗M、10-5乗M。
結果は(図を呈示)、無処理、2回処理の群では、10-6乗M、3.3x10-6乗Mの濃度で細胞増殖が反って促進されている。長期処理では10-6乗Mで促進がみられる。無処理群と2回処理群とは全体の傾向が酷似しているが、長期処理群ではやや異なり、10-5乗Mでの阻害度も少く(1ケタちがう)、10-6乗Mでの増殖促進度も低い。簡単に云えば他の2群より感受性が鈍っているといえる。問題になるのは、何故増殖が促進されるのか、何故10-5乗Mでそれほど阻害されぬのか、の2点である。4NQOの結合する細胞成分については安藤班員が現在検索中で、班会議には若干のデータを報告できる見込である。
B)4NQOのphotodynamic action:
4NQOにphotodynamic actionのあることをがんセンターの永田氏(Nature.215(5104):972-973,1967)が云っておられるが、これは事実らしいデータを得た。
《佐藤報告》
◇ラッテ肝細胞←4NQO
Exp-7細胞に4NQOを投与する実験(月報No.6801)で実験群49匹中14匹に腫瘍が発生した。対照実験動物は10匹いづれも発癌していない。以下腫瘍を形成し死亡したラッテを列挙する(表を呈示)。動物No.18及び19のものは腹水型の癌でした。その他の12匹は固型のTumorでした。腫瘍の組織像は上皮性のものです。ただ1例動物No,69の腫瘍にはFibrosarcoma様の部分が混在して認められた。動物の平均生存日数は185日である。発癌と濃度等の詳細はもう少し腫瘍死動物が増して後行う予定である。又mitotic
indexと4NQOの関係も調査中である。
(表を呈示)以下は従来の報告後復元された実験動物である。
◇Exp-7系(ラッテ肝細胞)の染色体分析
Exp-7←4NQOで肝癌の発生がおこる可能性が高まったので、Exp-7の単個培養を始める計画をつくった。以下はExp-7の染色体分布である(図を呈示)。
[核型分析・Normal karyotype of Donryu-rat
strain(bone marrow cells)]上記の核型分析は生后10日のラッテのbone
marrowより作製したもので、Subtelocentric chromosomes4つと最も大きいTelocentric
chromosomeが特長です。Exp.のtotal culture
daysの212のものは染色体数分布のみで核型分析はしていない。42のものは22%。
[核型分析・Karyotipe of Exp-7 at 312 culture
days]312 total culture daysのもので、diploidは30%ですべてnormal
karyotypeのものであった。目下この附近の培養細胞から、Purecloneをつくるべく努力している。
[核型分析・Karyotype of Exp-7 at 512 total
culture days]512 total culture daysのものである。染色体数分布では、diploid
numberのものは16%であった。8ケの内5ケはnormal
Karyotypeであったが、残り3ケはpseudo diploidであった。培養における染色体の変化については後にまとめてのべたい。Exp-7では少くとも染色体分析の上で512
totalculture daysまでは正常?細胞がのこっている。
《黒木報告》
現在進行中の仕事
結論も出せないしうまくいくかどうかも分らない現在進行中の仕事について触れてみます。 1.同調培養系によるtransformation:
発癌剤をかけてから40日なので結論的には云えませんが、現在までのところではexcess
TdRと同時に4HAQO(10-4.5乗M、1.0h)をかけたのが(そのあとすぐ洗った)transformationしそうです。そこで考えられるのは、(1)4HAQOのinteractionはnon
replicatingDNAを必要とする。(2)transformationをfixationするのには、interactionのあと(直ちに?)、DNAのreplicationを必要とする。の二つです。これからreproducibilityと(1)(2)の可能性をめぐるexp.を行うところです。
2.4HAQO、4NQOとDNA合成との関係:
現在まで分ったのは4HAQO、4NQOには、G2 blockとG2
delayがある。G1 blockはなさそうだ。S期のDNA合成inhibitionはあるが、24hrsにはrecoveryする。これらの作用は、non-carcinogenic
derivativeにはない。
3.BHK-21/4HAQOの系
現在まで7つのexp.を行って6つで成功、transformet.のassayは寒天内growthが一番頼りになりそうである。普通のコロニーの形態とagarの関係は複雑、寒天内コロニーは処置後1ケ月で現れることなど、目下clone13をMoskowitzからとり寄せて再試中です。
《高木報告》
先号に記載した4NQO、NGに関する実験は、3月末から4月初めの学会中に、培地のfungus
cotaminationのため残念ながら中止のやむなきに至った。
1.4NQO添加
1)NQ-6:RL-2cells。生後4日目のWKA系ratの肺からとった細胞で、7日後に継代した2代目の細胞を用いた。primary
cultureはfibroblastで、継代後ガラス壁に附着したexplantからepithelial
cellsのわずかなoutgrowthをみたが、殆どfibroblastからなっていた。
4NQOは各濃度にHanksにといて2時間作用せしめたものを1回作用とし、さらにつづける場合には隔日に2時間ずつ作用せしめた。
対照・2代目継代後7日目に3代に継代した。3代目はfibroblastic。
10-6乗・2代目継代後4日目より隔日に2回作用せしめたが、大したcell
damageはなく、ただgrowthはややおそくなった。殆どfull
sheetの状態で4NQO除去後2日目に継代した。同様にして3回作用せしめたものは細胞は殆どdegenerationしたので、refeedして目下観察中である。
5x10-7乗・2回作用せしめたがcell damageはあまりなく、4NQO除去後2日目に継代す。その際細胞はinoculum
sizeの約5倍の増殖であった。3回作用せしめた培養もcell
damageはあまりなく継代後さらに24時間を2回作用せしめたところ可成りのcell
damageがおこった。 2x10-7乗・2回作用後継代した。その際細胞はinoculum
sizeの約6倍の増殖をみとめた。morphologicalな変化はみられなかった。3回作用後さらに24時間を2回作用せしめたが、4NQO添加開始後2週間の現在まで変化はない。
2)NQ-7:RT-7 cells。生後4日目のrat thymusよりえたfibroblastic
cellsで培養開始後10日目に2代目に継代し、継代後4日目に4NQOを添加した。
10-6乗・1回の作用でcell damageひどく、growth
mediumでrefeedしたところ10日後より恢復しはじめた。
5x10-7乗・2回作用せしめるも細胞に変化はみられず、ついで培地に4NQOを加えて96時間作用せしめたところ、ややcell
damageがおこった。4NQO除去後3日目に継代したが、その際細胞数は2代目継代した時のinoculum
sizeと同じ位であった。
2x10-7乗・2回作用せしめたが変化なく、さらに96時間培地に加えて作用せしめ直ちに継代す。その際の細胞はinoculum
sizeの7倍位の増殖を示した。
対照・1週間で7倍の増殖をみた。fibroblastic
cellsである。
2.NG添加
1)NG-11:RL-2 cellsの2代目継代後3日目のものに10μg、5μg、1μg/mlの濃度を2時間ずつ作用せしめた。
10μg/ml・1回の作用でcell damage著明。refeed後次第に恢復しつつある。
5μg/ml・2回の作用で可成りのcell damageあり。しかし10μg/mlより恢復早く、1週間後に増殖をはじめる。NGを除いて9日後に5μg/mlを作用せしめたが、今日まで特に変化を認めない。
1μg/ml・2回作用せしめるも変化なく、直ちに3代に継代し、各々に10μg、5μgおよび1μg/mlを作用せしめる。経過観察中である。
なお生後4日目のWKA ratの胃の培養をこころみているが、modified
Eagle's mediumに20%の割にCalf serumを加えた培地で前報同様epithelial
cellsの増殖をみた。しかしこの細胞の継代はきわめて困難である。このprimary
cultureに、NG 10μg/ml加えてみたが、epithelial
cellsのdamageははなはだしく、今日まで(約4週間後)恢復をみない。
《三宅報告》
本年2月21日、初代培養を行ったヒト胎児皮膚のFibroblastについて、4NQO
5x10-6乗MとH3-TdR 1.6μc/mlを同時に添加して、4NQOがはたしてG-blockに作用するものか否やを検索しようとした。その結果は図のようになって(図を呈示)、対照のlabelingは上昇せず(4NQOの濃度の高さのためか)、又実験群では2時間30分を頂点として、急激にL.I.は下降を示した。この急激な下降は、株化した細胞でなかったためであろう。(このためにL株を一度これと同じ操作の下において検索をしたいと考えている)。こうした所から、(1)G1-blockが一方では考えさせると共に、(2)Cycleがととのえられている細胞(株細胞)であれば、下降は漸減的な傾斜をもつ筈である所からみると、4NQOが細胞のphaseに作用して、(それがどのCycleにあっても)DNA-synthesisに影響を及すまでに、一定の長さの時間を要するものであるかという(1)と、(2)の場合を考えさせた。4NQO群は、3hr.目1.0%、以下24時間目が1.0%であるのを除き、すべてが0%であった。
《藤井報告》
Exp.032568,A:抗ラット肝組織兎血清による抗原分析(図を呈示)。
抗血清:a)抗AH130兎血清(癌細胞)、1/1
b)抗ラット肝組織兎血清、1/1
c)抗AH13兎血清(1964)、1/1
抗原:(1)(2)ラット肝ホモジネート(PBS)、500万個/ml
(3)(4)ラット肝ホモジネート(0.5%DOC)、500万個/ml
ラット肝組織、500万個cells/mlは抗ラット肝抗血清に対し、DOC抽出抗原では、抗血清側よりa、b、c、d、eを、PBS抽出抗原ではb、c、d、eでa-lineを欠く。
抗AH130と抗AH13は、正常ラット肝DOC抽出抗原に対し、うすい沈降線2本を示すが、これらはDOC抽出抗原の周にあらわれるhaloの辺縁とその内側にある。haloの部分はlipoproteinが染っているものと思われる。
この2本の沈降線は、不思議なことに、AH130-DOC抗原、AH7974-DOC抗原に対しては出現しなかった。即ち、抗AH130血清−AH130では沈降線が出ない(Ex.032568,C)。この場合抗原AH130は1,000万個cells/ml相当のDOC-extractであるが、これからみると、tumorの場合、細胞数で正常肝組織細胞と抗原濃度を合せると、少なくなりすぎるようである。
Ex.032568,D:ラット肝細胞下分劃の抗原性(図を呈示)。
(b)抗ラット肝組織抗血清1/1
(1)ラット肝ホモジネート(DOC)、500万個/ml
(2)AH130 in DOC、1,000万個
(3)ラット肝核(DOC)
(4)ラット肝ミトコンドリア(DOC)
(5)ラット肝ミクロゾーム(DOC)
(6)AH7974 in DOC、1,000万個/ml
ラット肝細胞下分劃は、肝を門脈より生食水を注入して充分潅流して后別出、細胞はテフロンホモジナイザーで圧挫し、1回凍結融解操作を加えてから氷水に浸しながら、ホモジナイズした。顕微鏡下に、細胞が全て破壊されているのをたしかめてから、超遠心法により、核、ミトコンドリヤ、ミクロゾームの分劃に分けた。溶液は蔗糖を含むTrisbufferである。
抗肝組織抗血清(b)に対し、ラット肝DOC-抗原(1)、核分劃(3)、ミトコンドリア分劃(4)では、同様な沈降線が出現するが、マイクロゾーム分劃(5)は、沈降線a、b、eを欠く。ミトコンドリアでは、d、eの間に1本(f)が出る。AH130、AH7974に対しては沈降線はあらわれない。
この実験の方法からは各分劃の抗原性を比較することはむつかしい。mediumがPBS-agar、PBS-DOC-agarであるかぎり、溶出して来る抗原は元の肝組織抽出液と、異なる筈がない。nuclei分劃には多分に他分劃の混入があるのでnucleiの抗原が4つ検出できたことにはならない。ミトコンドリア分劃では1本多く、ミクロゾームでは2本しか沈降線がないのは有意がどうか?
今后の問題として、Microplateではなく、普通のシャーレ法でdouble
diffusionをおこない、それぞれの沈降線を切り出して、それを以って兎を免疫して抗血清をつくることにより、正常肝細胞と癌細胞、培養細胞等の抗原の比較おこなってみたい。
《安村報告》
☆1.かえり新参のごあいさつ:ふたたびこの月報に原稿を書くようになりました。かぎられたfacilityとかぎられた研究費で最大限の効果をあげること、これが日本の研究者の与えられた宿命みたいなものです。このことはアメリカの研究者よりharder
work、morefantastic ideaをわれわれ日本の研究者に課するものでしょう。容易ならぬことだと思います。貧すれば鈍す、やすきにながれる、いろいろ先人は教えてくれています。そこで息のながい癌研究には研究者が癌細胞のごとくたくましく生きることを必要とするようです。以上は進軍ラッパです。
☆2.さて現実問題・・・勝田班長のLab.のヒサシをかりて、そのfacilityを利用する。これは身近でdiscussionの利点がある。(欠点はいまのところ問わない。)
2-1.プロジェクト:In vitroの実験材料をクローンから出発して、spontaneous
trans-formationをガッチリおさえておくこと、(このことは外来のagentによるtransformationの基礎データを提供する。)
2-2.上のプロジェクトにしたがって初代培養でクローンがとれるか?
まず実験をくんでみる。
2-3.実験材料:幼児アルビノハムスター(baby
hamsterのつもり、albinoとあるのは毛が白いからか?
医科研で維持している、ゴールデンハムスター由来のvariant
strain、もとは米軍の406研から分与、現在純系化されている?)の腎組織、および副腎組織、2匹分(両者♂)プール。
2-4.方法:腎組織は室温で10分トリプシン消化、消化液はすてる。再びふらん室で20分トリプシン消化、消化液を150メッシュを通して使う。mediumはDM-140(合成培地)+コウシ血清10%。副腎はハサミで細切して(1x1mm)直接platにまく。細胞はFalconのプラスチックプレート(60x15mm)にまいて、CO2ふらん器で培養する。
2-5.:1)腎細胞はtrypsinizationのあと、erythrosinBでviableのものを数えると47%(platingの直前)。サル腎の経験からすればまずまずというところだと考えられる。ひと稀釋あたり3枚のプレートにまき、21日後にコロニー形成をしらべた。途中2週目に一回液がえ、結果は図にみられるごとく(図を呈示)接種細胞数とコロニー数の関係がlineerになってはなはだうまくいっていますが、コロニーあたりの細胞数がせいぜい10〜30というサイズで、クローンをとることができません。このことはDM140液の塩類組成が影響しているかも知れません。(DM140は閉鎖系のためのもので、CO2培養用ではないので。)
なぜなら、予備的に実験した199+10%コウシ血清10%(ただし血清のロットは違う)の20,000/plateのものでははるかに大きなコロニーが得られている。上の実験かコロニー数だけを問題にするなら、plating
efficiencyは1.5%と予期されたより高い値を示しています。これは接種されたviable
cellsあたりです。
2)副腎細胞はcontaminationのため失敗(これはわたしの腕がわるいのではありません。もともとIncubatorがひどいcontaminationしていて、このplateは裸のままincubateしたためです。・・・腎の方は大きなガラスシャーレに2重に“いれこ"にしたので汚染をまぬがれました。)
2-6.考察:以上のことから、まずまずPlating
efficiencyはよろしいし、どうやら統計的にいってもコロニーはsingle
cellから出発しているらしいことは分ったが、隘路はコロニーサイズが小さいこと、これではクローンがひろえない。培養液の検討をしなければなりません。つぎの実験で予備的にさしあたりDM-140の塩類組成をEarle液にしてあたっています。少なくともコロニーあたり1,000〜5,000ぐらいの細胞数のコロニーを作らせないとcloningはうまくいきそうもありません。現在2代の細胞をもういちどまいて、しらべています。(以上のことがらは勝田Lab.のひさしのもとでやったものです。)
☆3.SV40を接種してできた腫瘍を培養してえられた細胞株:
この株細胞(Havito)は4年くらいまえに培養学会で発表したものです。由来はゴールデンハムスターです。特長は解糖がなみはずれて早いように思われます(Eagle-MEM+5%ウシ血清)。液がえして6時間もするとpHがさがり液が黄色になります。
このことが“もの"のorderで癌化と結びつかないかと考えています。normalのハムスター細胞とのhybridizationがいかないかetc。(ちなみにこのHavito
cellはウィルスはだしていません。)
【勝田班月報:6806:4NQOのphotodynamic
action】
A.ラッテ肝細胞の増殖期による4NQOの感受性の相違:
これまでの実験で、どうもその都度、都度で4NQOの細胞に対する影響にむらがあるように思われたので、RLC-10株(正常ラッテ肝細胞)を使って増殖のいろいろな時期に4NQOを添加し、その増殖に対する影響をcell
countingでしらべた。
結果は(増殖曲線の図を呈示)、増殖のstageによって細胞のresponseがかなり違うことが判った。しかしこれは、他の実験からも判ったことであるが、細胞のstageというより、むしろ細胞数/tubeの影響が大きいのではないかと推測される。
B.4NQOのphotodynamic action:
前月号の月報に記したが、癌センターの永田氏が4NQOのphotodynamic
actionについて報告している。我々も顕微鏡映画で観察していて、どうもそれに一致するようなデータを色々と得たので、果してそれが本当かどうか、cell
countingで定量的にしらべてみた。細胞はRLC-10株(正常ラッテ肝)で、4NQOで37℃、3.3x10-6乗M(その他の濃度もみたが)、30分間処理後すぐに365mμのマナスル・ランプで、室温で2時間照射し、増殖に対する影響をしらべた。No.6709の月報に報告したように、4NQOの特異吸収は366mμと252mμにあるので、この波長は正しいと思う。
(結果の図を呈示)おどろいたことに、正にphotodynamic
actionを4NQOの持っていることが確認された。
光だけを各種時間に照射したcontrolsははっきりとした増殖抑制は認められない。ところが4NQOで30分間処理した直後に光をあてると、照射時間の長さに比例してはっきりと細胞の破壊が起った。
同様の実験を、種々の濃度の4NQOについておこなった結果、やはり4NQOの濃度の高いほど細胞障害は強く現われた。
このようなphotodynamic actionがどんな意味をもっているか、ということであるが、永田氏はphotonによって4NQOにfree
radicalができて、それが細胞のDNAに破壊的に働く、と考えているようである。しかしそのようなDNA
levelでの障害が直接発癌に結びつくかどうか、私は疑問に思っている。photodynamic
actionは発癌作用とは関係のない、副次的な現象であるかも知れないし、あるいはきわめて重要な役割をしているのかも知れない。これは今後解明すべき問題である。
H3・4NQOを培地に入れると、4NQOは細胞内の色々な成分と結合するが、とくに蛋白との結合量は大きい。Biochemistsはすぐに核酸の方を考えたがるが、この場合、蛋白、とくにlysosomal
enzymesとの関連などについてしらべることは大変面白いのではないかと、私は思っている。そして4NQOの解毒をする酵素の誘導も大いにしらべてみたいと思っている。
《安藤報告》
H3-4NQOの細胞内への取込みのKineticsについて:
A.L・P3細胞の場合:
実験方法は月報No.6801に勝田先生が書かれている方法と基本的には同じです。即ちL・P3細胞を培地DM-120中TD-40で約500万個/bottle迄生やし、これにH3-4NQO(がんセンター川添氏より分与)10-3乗M
in 10%DMSO液を0.1ml/10ml培地/TD-40添加し、終濃度10-5乗Mとする。直ちに培養ビンは出来る限り遮光し37℃静置培養する。
その後、時間を追ってサンプリングし、培地を捨て、Dで一回洗う。
細胞を少量のDに懸濁し、酸不溶性分劃(核酸、蛋白が主成分)と酸可溶性分劃に分けカウントする。
結果及び考察:(図を呈示)
1)酸不溶性分劃への取込みは30分で止り、その後2時間迄不変のようだ。5時間目の点が下っているのは、本質的なものか実験のエラーか不明。
2)5時間目に培地中よりH3-4NQOを除くと、この不溶性分劃のラベルは再び放出されるようだ。この部分が核酸についていたものか、それとも蛋白についていたものか定めるべきだろう。
3)月報No.6804に堀川さんが記しておられるように、酸可溶性分劃への取込は非常に特異的である。即ち30分あるいはそれ以前に最大値に達し、以後、培地中に多量存在するにもかかわらず、細胞外に放出されてしまう。毒物に対する細胞の防衛機構を如実に見せられた思いである。L・P3は4NQOに対し次に調べた正常ラット肝細胞よりもより抵抗性が強いので、そのためにこのような再放出の現象があるかと思って、RLC-10についても同様な実験を行ってみた。(図を呈示)図にある通り全く同じ結果となった。
B.RLC-10細胞の場合:
4NQOに対する感受性の、より強いラッテ正常肝細胞の場合に於て異なる結果を期待したが、酸不溶性分劃への取込みも、酸可溶性分劃への取込みも、全くL・P3の場合と同じであった。但し使用培地はLDにCS・20%添加したものであり、H3-4NQOの濃度は3.3x10-6乗Mであった。
C.L・P3細胞の核酸、蛋白質分劃への取込み:
L・P3を前記条件で2時間H3-4NQO処理を行い、直ちに細胞分劃を行い、核酸分劃と蛋白分劃に分けてみた。
分劃 DPM/1,100万個cells %分布
細胞全体 170,450 100
酸不溶性分劃 8,615 6.4
酸可溶性分劃 125,910
93.6
酸不溶性分劃の内
100
核酸分劃 2,620
23.8
蛋白分劃 8,520 76.2
上記の表のような結果になった。今後の方針として、更に核酸分劃のRNA、DNAを分け、各々いかなる塩基と結合しているか、又蛋白部分についても、いかなる種類の蛋白に結合しているか、等を検索する予定である。
:質疑応答:
[堀川]4NQO処理後のwashはどの程度やりましたか。
[安藤]等張液でさっと一回洗うだけです。
[高木]4NQOの濃度はどの位ですか。
[安藤]L・P3は10-5乗M、RLC-10は3.3x10-6乗Mが終濃度です。
[堀川]細胞当りの取込み量は、L・P3とRLC-10でちがいますか。
[安藤]ほぼ同じ位です。
[堀川]私の実験でも酸可溶性分劃のcountが短時間で最高値に達し、それからすぐにすっと下がってしまうのは何故でしょうか。
[黒木]10-5乗Mで5時間も添加していると、細胞が死んでしまいませんか。
[勝田]L・P3は4NQOに対してすごく強い細胞系で、5時間位では平気です。それにRLC-10にしても映画での観察によれば、死に始めるのは5時間よりずっとたってからですね。むしろ、そういうことより細胞側の解毒作用というか、4NQO分解酵素の活性がinduceされて、その結果として酸可溶性分劃のcountが急激におちるとは考えられませんか。
[梅田]若しそうだとすると、5時間後に又4NQOを添加してももう受付ないという現象が起るはずですね。
[安藤]それは面白い考えだと思います。早速やってみましょう。
[勝田]私もその考えは面白いと思いますね。しかし、培地中に4NQOが一杯あるというのにその取り込みにピークがあり、急激な減少があるというのは又面白いことですね。
それから、うすい濃度でL・P3の増殖を促進するのですが、その時4NQOが細胞のどの分劃に取り込まれているかということにも興味があります。安藤君は核酸を追いたいというだろうが、私はむしろ蛋白の方に問題があると思い、蛋白を追え!と言っています。
[堀川]始の報告のphotodynamic actionについてですが、その機構はまだよくわかっていないのですね。
[勝田]癌センターの永田氏の話では、4NQOの誘導体の殆どが、発癌性とphotodynamic
actionが平行していますが、4HAQOだけが例外で、発癌性は高いのにphotodynamic
actionはないということです。
[佐藤]しかし動物の体内での発癌を考える時、photodynamic
actionなんで考えられないと思いますが。
[勝田]そうですね。そう考えると培養での4NQO発癌実験も光を与えてどうなるかより、真暗な中で培養するべきだということになりますね。実際に、暗くして映画を撮ってみますと、細胞のこわれ方もずっと少ないし、何か細胞の状態が明るいままで映画を撮った時とちがうようです。
[堀川]photodynamic actionは治療に利用出来そうな気もします。
[高木]最後の図は4NQOの細胞周期に対する影響というよりも細胞数に対する影響をみていることにはなりませんか。
[勝田]そうです。
[黒木]生きている細胞でなくても、レントゲン照射した細胞をフィーダーにおいても4NQOの毒性は弱まります。
[勝田]そういうことは何を意味しているのでしょうか。培地にはありあまる程4NQOがあるわけですから、細胞数が多くなっても細胞1コあたりの4NQO量がうすまるわけではありませんし。
[堀川]私の実験からは、取り込んだ4NQOを4HAQOに変える能力の違いが細胞の4NQOに対する抵抗性の違いとなって現れてくるというようなデータになりつつあるようです。
それから、又photodynamic actionの実験ですが、4NQO処理後すぐ照射する実験の他に処理後の時間をかえて照射するとどうなるかもしらべると面白いですね。
[勝田]これからしらべてみます。私達はこれからL・P3をモデル実験に使いたいと思っています。L・P3は現在の所C3Hには腫瘍を作りません。L・P3は合成培地に増殖している細胞で、血清培地で飼われている細胞とは膜の構造が全然ちがうわけです。にもかかわらず4NQOの作用(今の所取り込み)が同じだということは4NQOの作用が膜構造には左右されないといえると思います。
《佐藤報告》
◇4NQO発癌実験の現況
A.ラッテ肝(Exp.7)←4NQOはその後2匹のtakeで実験例49匹中16匹(33%)が発癌。
対照群は10匹中0となった。現在最終復元動物が7ケ月を経過したので近く全動物を屠殺処理する。
復元接種動物が腫瘍死するまでの平均日数は188日であった。
腫瘍の組織像は肝臓癌と診断されるもの12例、癌肉腫と診断されるもの2例、繊維肉腫と考えられるもの1例、残りの例は腫瘍であることは間違いないが性格(ラッテ自然発癌?)がよく分らなかった。
核型分析
Exp.7 肝細胞株の対照株については前号に報告した。この対照株の総培養日数512日に当たる実験株526日の培養時における染色体と、動物復元後発生した腫瘍の再培養細胞の染色体分析をおこなった。
(染色体数分布図と核型分析図を呈示)核型分析ではNeoplastic
line即ち4NQOを投与された総培養日数500日以上の培養細胞では41にmodeがあり、50ケのMetaphase中に22ケの44%を示した。10ケのMetaphaseの分析を行った所、略同一の核型を示した。即ちMeta-Group
12ケ、ST-Group 7ケ、T-group 18ケ及び異型染色体4ケの計41である。異常染色体4ケ以外の染色体は略正常なラッテの核型である。(異常染色体4ケの模型図を呈示)腫瘍再培養細胞の染色体数は43にModeがあるので、分析可能な43の2ケのMetaphaseについて検索した所、1つは前記同様の4つの異型染色体Groupをもっていることが判明した。他の1つは異型染色体2つをもっていたが特異なGroupは存在しなかった。然し描写による検索では前記4Groupをもつ染色体型が他の染色体数の部にも広く認められた。極めて単純に云へばこの4Groupの発生が4NQOの作用によると考える。
上記のNeoplastic lineを動物に復元し出来たTumorを再培養したものの核型は(図を呈示)異型染色体はTumor
lineの6Groupとなっていた。この場合Modeは43であった。幹細胞の数は22%であった。検索された10ケの核分析の内9つは同型であり、動物復元前時の特異的4Groupの他にsmall
sizeのTeloが2ケ増加したものであった。動物復元前の4NQO処理培養細胞の中には今の所この型は見当らないが、それは培養細胞時にはPopulation中における%が低いためであろう。この点はギムザ標本及び復元動物の生存日数からも推定できる。(対照の培養細胞に現れる異型染色体図を呈示)此等の異型染色体が個々に現われる場合が多い。今後尚詳細に検討していく積りである。
4NQO耐性の問題:
4NQOによって発癌したと考えられる株細胞(Exp.7)と、その株細胞を動物に復元接種しTumorより再培養した細胞、及び対照株について継代培養と同時に4NQOを10-6乗M、10-7乗M、10-8乗Mに添加して48時間後の細胞数を比較した。(図を呈示)結果はNeoplanstic
lineもTumorよりの再培養細胞(Neoplastic lineよりTumor
cellを取りだしたもの)も共にControlに比較して耐性をもっていた。この場合の耐性は、既にDABの場合にも述べた様に薬剤中に長く存在したための耐性で腫瘍とは関係がない様に考えられる。
B.動物復元 続き
動物番号146〜157の復元表を呈示する。
C.培養ラット肺細胞←4NQO
1967-6-1に生まれる直前のラッテの肺細胞をtrypsinizeして、20%BS+YLEで培養し、4NQO実験を行っていたものの内、10-6乗Mの4NQOを33回処理したものでラッテ新生児皮下復元にTumorを発見した。腫瘍の性格は未だよく分らない。
D.ラッテ全胎児←4NQO
(5例の実験の一覧表を呈示)
動物復元観察日数は丁度6ケ月である。従って6ケ月でTumorをつくらない場合には結果は腫瘍形成がないことになる。5例中で実験RE-5、10-6乗M、100日処理のみが+であった。
:質疑応答:
[黒木]今、呈示された表で、濃度を同じに換算して時間の統計として比較するというのは、理論的に意味ないと思われますが、どうでしょう。薬剤の濃度と処理時間というのは異質のものだと思います。
[安藤]ある濃度以下の処理では何時間処理しても効果がなく、それ以上だと10分でも効果があるといった、oll
or noneの場合もあるから、時間の総計で比較するために濃度を同じに換算するのは少し変ですね。
[佐藤]逆にそういうことを証明するのに、こういう計算をしてみた積りです。つまりうすい濃度では濃い濃度での集計時間に達する程の長い時間処理しても悪性化はおこらないのだ、ということが数字で現せると思います。
[勝田]復元例で、同系の細胞なのにtakeされたり、されなかったりするのは何故でしょうか。
[佐藤]培養だけでつづけている系と、一度復元してtakeされ再培養した系では染色体の核型が多少ちがっています。そういう点から考えられることはRatの肝細胞の場合、全部が悪性化しているわけでなく、しかもそのpopulationが培養の時期によって変わるので、takeされたりされなかったりするということです。
[梅田]基本的なことですが、LD培地とYLE培地とはイーストエキストラクトのあるないの他に、pHもちがうわけですから、要素を二つ変えて比較するのはよくないと思います。LDとYLDにするべきですね。
[黒木]コロニーを作らせることは出来るのですか。系の一部が悪性化しているのなら、悪性細胞のコロニーを拾えば、動物への復元の問題は解決されると思われます。
[吉田]動物への復元実験の対照群の匹数が実験群に比べて少なすぎるようです。このデータですと対照群の中に変異細胞がいないとは断言出来ませんね。
[佐藤]それは私も痛感しています。これ以後の実験では対照群を増しています。
[勝田]何時も云うことですが、反復実験は同じ系の培養でなく、新しい系で追試した方がよいですね。
[堀川]耐性をしらべたgrowth curveの所で、耐性についてですが、takeされるようになった時までに添加された4NQOの濃度はどの位ですか。
[佐藤]濃度は一定でなく、かなり長く処理しています。この場合耐性は悪性と平行するものではなく、4NQOを添加していた期間に平行するものと考えられます。
[三宅]復元して出来たtumorの組織像は上皮性な感じがしますね。エオジンをよくとっているのは、ケラチン様物質があるのではないでしょうか。
[吉田]染色体の核型分析についてですが、1例でははっきりしませんが、本当なら面白いですね。私自身のデータからも染色体の変化と悪性化とが関係づけられる、ある染色体のパターンがあるようだとは考えています。
[勝田]ただ、1例では何とも言えませんね。
[安村]再培養した系の場合、43本でないものでも、この5本のグループを持っていますか。
[佐藤]たいてい持っているようですが、まだ正確にはしらべてありません。
[安村]再培養した細胞系を又復元するとtakeする率がよくなりますか。又復元前の細胞の染色体の中にtakeされた細胞の染色体と同じものがありますか。
[佐藤]50コ位しらべてみた所では見つかっていません。しかし、もっと沢山エネルギッシュにしらべてみたら見つかるのではないかと考えています。又培地や培養法をかえれば、悪性細胞をセレクト出来るのではないかと思います。
[安村]動物への接種細胞数はどの位ですか。
[佐藤]だいたい100万個位です。
[安村]矢張り何コ中に1コの悪性細胞がいるのかということを調べておく必要がありますね。それから、この5本のグループの染色体が確かに悪性と関係があるのだと言いたければ、ハイブリッドを作らせて、この染色体のはいったのが悪性だということまでチェックすればよいでしょう。
[吉田]実際にはなかなか難しいことです。この染色体があるから悪性化しているのか、或は他の染色体が無くなったこととの組合わせに於いて悪性化と関係があるのか判りませんね。それから4NQOが染色体変異を起こすことは確かです。このデータもその変異の一つでしょう。しかし4NQOによる悪性化が、こういう染色体変化に集約されるとは断言出来ません。
[佐藤]変異だけでなく、次に悪性化することを考えれば、変異したものが一定の方向に集約されることも考えられると思います。
[勝田]染色体の標本をみる場合、数えられないもの、しらべられないものが沢山あり、そういうものの中に問題がある場合も考えられます。
[安村]復元前の培養細胞の中に、この5本のグループがあるのか無いのか先ずしらべてみなくてはいけませんね。その上で5本のグループの中の2本の染色体がクサイという事実があれば、それがハイブリダイゼーションという手法で確かめられるのではありませんか。
[堀川]酵素活性と関係のある染色体の場合とは違って、腫瘍性と関係のある染色体というのは、すごく複雑でむつかしいと思います。
[安村]いや、私も腫瘍性を染色体でチェック出来るなんて事は否定の方に90%位ですが、若しできるとすれば大変面白いと思います。
[勝田]何にしても1例だけでエキサイトしなさんな。
[佐藤]私も1例だけで何とか言おうとは決して思っていませんが、ただこの例は理論的に考えやすかったので出してみたまでです。私として言いたいことは、この系の培養のpopulationの中に悪性化した細胞は少ないのではないかということ、又4NQOの作用したという証拠は残っているのではないかということです。
[勝田]佐藤班員の研究室でRatそのものの自然発癌率はどうですか。
[佐藤]非常に少ないようです。
[勝田]それも一応データとしてとっておいた方がよいですね。
[佐藤]復元実験のやり方を考えてみる必要を感じています。復元して長くおけばtakeされることがわかっているわけだから、もっと短期間で対照との比率に於いて悪性度をみることにしたいと思っています。
[安村]発癌剤によって悪性化する率が低いということは、Ratは発癌実験に不適当だということではないでしょうか。
それから接種数100万個の中、1、2コの悪性細胞が居たために動物にtakeされたとするなら、復元前にその100万個の細胞を寒天へまいてコロニーを作らせれば悪性のコロニーを1、2コ拾うことが出来るのではないでしょうか。現在の手法では、寒天法は悪性のコロニーを拾うために良い方法とされているわけですから。そうすればもっと高率にtakeされる系を作れるはずです。
[勝田]コロニー法ではpureなクローンはとれませんね。肝細胞を映画に撮っていて経験しましたが、分裂した娘細胞同志が一緒に居ずに離れてしまい、他の所から別の細胞が動いてきてくっついて、あたかも娘細胞同志のような顔をしていたりするのです。
[安村]クローンについては確かにそうですが、目的によっては定量的に扱えるということでコロニー法の利点もあります。
[藤井]腫瘍細胞には同種の抗体に抵抗性があるかも知れないということから、同種の抗体で悪性化した細胞をセレクト出来ないでしょうか。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞における放射線ならびに化学発癌剤障害回復の分子機構の研究(5)
これまでの報告で培養細胞のもつ紫外線障害回復機構と4NQO処理による障害回復機構の間には何ら関連性のないことを示してきた。
つまり紫外線に対して最も感受性株のブタPS細胞が4NQO処理に対しては最も抵抗性を示し、4NQO処理による障害回復の機構は紫外線照射によって生じるThymine
dimerの除去機構では説明出来ないことがわかって来た。
第2の段階として、4-HAQOに対するマウスL細胞、Ehrlich細胞、PS細胞の感受性を比較する問題が生じてきた。黒木さんより得た4-HAQO(国立がんセンター川添豊氏合成品)を使用した範囲では(図を呈示)、三者の細胞株間には感受性の差異は認められない。(これらはいづれも4-HAQOを含んだMedium内で約2週間培養期間中、それぞれの細胞を培養した際のcolony
forming abilityからdetermineしたもので障害回復能よりもむしろ4-HAQOに対する耐性度をみたものであることに注意されたい!!)
勿論現在の段階では4-HAQOの濃度分割が大きすぎるので正確な耐性度を比較することは不可能であるとは言え、本報No.6802に示した4NQO濃度−生存率曲線と比較して大きな違いのあることがわかる。また4-HAQOのtoxicityは生存率曲線でみた範囲では4NQOの10〜100分の1であることもわかる。
従ってこれまでの結果を総合して考えると培養細胞間の4NQOに対する感受性の差異は、細胞間の4NQO透過性の差異で説明するよりも、4NQOを4-HAQOにreduceするreduction
enzymeのactivityの差異で説明する方がよさそうである。
このことは言葉をかえると、取り込んだ4NQOを4-HAQOにreductionする能力の高い細胞(つまりPS細胞のごときもの)では生存率で見るかぎりその毒性から受ける障害の度合が4NQOから受けるそれよりも少ないであろう。しかし発癌と云う立場からみると、このように4-HAQOにreductionする能力の高い細胞では発癌の可能性が高いと考えてもいい訳である。このような観点からみると、私が当初予想した考えがうまく説明出来そうで発癌のさいにtarget
cellの存在を考えるのも面白い。
:質疑応答:
[勝田]可視光線の光量をergで書いてありますが、具体的にどういう装置で照射したのですか。
[堀川](装置図を呈示)スターラーの上にのせたビーカーに水をいれて、その中にtubeを並べます。60cm離れた所から東芝500w引き伸ばし用電球で照射しました。
[勝田]可視光線で2時間照射すると、コロニーを作る能力が減少したというわけですね。RLC-10の増殖に対しては影響がありませんでした。奥村君から貰ったハムスターの細胞は悪性化しているものですか。
[堀川]それについては、はっきり知りません。
[勝田]Chick brainにP.R.activityがあることになっていますが、どういうことでしょうか。何か他の酵素のside
effectではありませんか。
[堀川]サイトクロムCなどがそうではないかと言われていたこともありますが、現在では否定されて、P.R.activityは独特のものだと言われています。放射線による断裂のrecoveryが、若し腫瘍を材料にした場合、腫瘍性を失うとか、はじめに持っていた酵素活性を失うとか、misrepairingで説明できないでしょうか。
[吉田]胎生の早い時期とadultでは、そういう修復機能がちがわないでしょうか。
[堀川・勝田]ちがうでしょうね。
[勝田]細胞の全cell cycleを通じてP.R.enzymeがあるとすれば、stageによってrepairのちがうのは?
[安藤]定性的にはいつもあってもstageによって活性の違うことも考えられますね。
《高木報告》
1.4NQO添加
i)NQ-6
10-6乗:RL-2cells 2代目に2回作用させたものはあまりcell
damageなく、2回目作用後2日後に継代した。10日後にはほぼfull
sheetの状態になったので更に同濃度で2時間1回作用させた。今回は細胞は可成りのdamageをうけて殆ど脱落したが、約20日後にfoci2ケを認めた。うち1ケはpile
upは認めないがfiberの形成がみられた。しかしこのcolonyの細胞の増殖はあまりよくない。
5x10-7乗:2回作用せしめた後継代し、更に同様にして2回作用せしめたところ殆どの細胞は脱落してしまった。約20日後にfoci 2〜3ケ認めた。一部にはやはりfiberの形成があり、またpile
upの傾向も認められるがgrowthはあまりよくない。
2x10-7乗:この群ではcell damageは著しくなく、NQ処理にてもある程度細胞のgrowthは認められるが8回作用させたものでは最近growthがおちて来た。
現在まで明らかなtransformationは認めない。
対照:controlのgrowth rateは2代目が7日間で約3.5倍、3代目が10日で約2倍で、その後は継代時のcell
damageがつよく、大体10日毎に継代しているが細胞数としては増加しない。
ii)NQ-7
10-6乗:第1回目作用後10日の間隔で2回目を作用せしめたが、約20日後に2ケのcolonyを認めた。1ケはpile
upしないがfiberの形成が著明で、また培地が非常に粘稠になる。mucopolysaccharideの分泌を思わせる。
5x10-7乗:3回作用後継代し、更に4回目を継代後10日目に2時間同濃度で作用させた。その後約20日経過するが、少数の細胞が残存しているのみでcolonyは認められない。
2x10-7乗:3回処理後2本に継代、1本はその後も同様に2時間ずつ4回作用せしめた。また別の1本はNQ
2x10-7乗Mを含む培地を使用して継代し、3日間放置した。細胞はガラス壁にはよく附着したが、その間増殖は認められなかった。3日経過後NQfreeの培地と交換し、細胞の増殖を待って更に1回2時間同濃度を作用せしめた。
現在両者共growthはおちfocusも認めえない。
2.NG添加
i)NG-11 RL-2cellsを使用
10μg/ml:1回の処理により細胞は著明なdamageをうけ約40日を経過したがfocusなど認められない。
5μg/ml:2時間ずつ4回作用せしめたがcell
damageがつよく10μg/ml処理群と同様である。
1μg/ml:2回処理後継代、更に3回処理して継代、ついで2回処理し、合計7回作用せしめたものではgrowth
rateは、5代目は7日間で1.4倍、6代目は7日間で3倍である。又2回処理後継代し、同様に5回作用せしめたものは、4代目は13日間で1倍、5代目は7日間で2倍の増殖を示している。
培養開始後60日目に固定し、giemsa染色したものでは対照に比して核の大小不同が著明である。
継代後10μg/ml、5μg/mlを作用せしめたものは、細胞のdamageがつよく現在までgrowthはみられない。
なお対照は5代目までは7日間で5〜13倍の増殖を示したが、6代目より殆ど増殖を示さなくなっている。
なおWKA ratの胃の培養については、その後検討を加えているが、培地としては可成りアミノ酸、ビタミンに富んだものがよい様で、目下系統的に検索中である。
:質疑応答:
[堀川]4NQOでラベルしたDNAを抗原にすると、抗体ができるよりさきに腫瘍ができるのではありませんか。
[勝田]今朝安藤班員から、4NQO*を細胞にとりこませた場合、acid
soluble fractionに結合する4NQO量の消長度が大きいと報告されましたが、発癌性はinsoluble
fractionの方にあるのでしょう。
[高木]抗原としてはinsoluble fractionの方を使います。DNAについた4NQOは37℃加温で簡単にとれてしまうそうです。
[黒木]できたtumorの間で共通な抗原がありますか。
[高木]それも大きな問題だと思います。
[勝田]抗血清を作っても、どういう方法で抗体をcheckするかが問題ですね。蛍光抗体法はnon
specificの抗体がどうしても混ってきてしまうし・・・。ごく最近、山本正氏からきいたところでは、ヒトのγ-globulinとマウスのそれとが交叉するものがあるそうで、immuno
electrophoresisも問題をもっていることになります。
[梅田]h2proteinsとさっきのinsoluble fractionとの関係はどうでしょうね。
[勝田]まだ判っていません。H3-4NQOで処理して、初期は細胞のどこに4NQOがあるか判っていても、その後、細胞が増殖をはじめれば放射能はうすまって、追跡が困難になりますね。
[梅田]DABとかDMBAはh2proteinsの塩基性蛋白の部分につき、4NQOはSH基につくと云われていますね。
《黒木報告》
I.BHK-21/4HAQOについて
BHK-HA-1〜HA-7までの成績を表で示す。これらは(?)→マニラ(?)の予研分室→予研→山根研からのwild
BHK、wild BHK-21より当研究室にて2回連続ひろったクローンC22、C22のクローンを3回連続のクローンC222を用いた。7例のうち配列は余り乱れず、しかし細胞はpile
up、剥れやすく、このためコロニーの中心部はもり上り、まだらとなり、daughterコロニーが多くできるものが6例、その内2例は配列が乱れてcriss-cross様となるものが混じっている。あと1例はpolygonalなcellとなり、コロニーの形は丸い。又、5/7はBacto-peptoneなし寒天内の増殖能が獲得された。寒天内のコロニー形成率は20〜30%である。寒天内で増殖できるようになるまでの日数は、HA-4の21日、HA-5の63日までかなりのバラツキがある(HA-1の77日は、そのときはじめてagar
cultureをしたので、いつから寒天内で増殖できるようになったかは明らかではない)。興味あるのは、この日数が、ハムスター胎児/4NQOのときのtransformationの日数と非常に似ていることである。
☆コロニーの形態と寒天内増殖能の間には一定の関係がみられない。またコロニーの形態も培養によって異る。HA-7にのみみられたpolygonalなコロニーは肉眼的にもはっきりと区別できる特徴的なコロニーである。HA-4#3は、寒天内のコロニーをひろったcloneであるが、寒天内で高率にコロニーを作るにも拘わらず、コロニーの形態は“normal”と区別しがたい。これをみるに至って、コロニーの形態からのtransformationの判定をあきらめ、agar中のgrowthのみにtransformationの基準を求めた。全体的に云えることは、寒天内で増殖するようになると、細胞が剥れやすくなり、daughter
colonyを作りやすいことである。寒天内増殖と剥れやすさの間に何らかの関係がありそうである。
☆4NQO、4HAQOに対する抵抗性
以前と同じように、plating(200ケ/dish)後24hrsに4NQO、4HAQOを加える方法をとった。結果を表で示すが、抵抗性は生じなかった。
☆染色体分析:寒天内growthだけでは心細いので、もう一つのmarkerとして染色体分析を試みた。結果を図に示すが、HA-4#5がmode40本である他は、すべて41本にmodeがある。数の上からでは、transformantsと“normal”の間に差はなさそうである。
従来BHK-21細胞は、44本♂の核型をもつと報告されてきた。そこで用いているcellがBHK-21細胞のvariantである可能性が生じてきたので、Moskowitzさんから、BHK-21/C13というクローンを分与してもらった。
BHK-21 clone13について
BHK-21はBaby Hamster Kidneyの培養65日に突然増殖率が上昇し、establishされたが、それから19日目(total
65+19=84days)に分離したクローンの一つがC13である。C13は24cell
generation増殖しharvestが10の8乗になったところで、大量にfrozen
stockされている。StokerのLab.でtransformationの実験に用いられているのは、この凍結アンプレからもどして間もない細胞である*。このことは、彼らのpaperの中でくり返して強調されている。このC13はwildのBHK-21に比してmalignancyの低いということもStokerらによって報告されている。当研究室にきたのは、StokerのLab.で凍結もどしてから10日(60
cell generation)経たものをMoskowitzのLab.で5日間隔で67passageしたものである。*Nature
203,1964,p1355に詳しい。
☆先ずこの細胞及びそのpolyoma virus.RSU
transformantsのBacto-peptone dependencyをみた。(結果表を呈示)
全く予想しなかったことに、C13はBacto-peptoneがあってもコロニーを形成せず、またそのpolyoma
RSV transformantsはB.P.dependencyを有しているということである。すると今まで一生懸命やってきたBHK-21細胞は、全く“variant”ということになり、すべての実験をやり直す必要となった。この他にもC13とwildはかなりの差があり(表を呈示)、例えば移植性はwildからC22は100ケでも100%takeする(C13は目下experiment進行中であるが、10万個接種3週間でtumorを触れない)、4HAQO、4NQOに対する感受性もC13とC22には差があり、C13の方が感受性で10-5.0乗M4HAQOではすべての細胞が死メツし、5x10-6.0乗Mがよさそうである。このような発癌剤に対する感受性の差はSachsらも報告している(Nature,200,1182,1963)。
由緒正しい細胞を選ぶべきであることを痛感した次第です。
II.同調培養によるtransformatione(予報)
2代目のハムスター胎児細胞をexcess TdR(7.5mM)によって(部分的に)同調させ、それぞれのphaseに4HAQO
10-4.5乗M1h.作用させることにより、発癌剤とcell
cycleの関係をみようとするものです。(図と表を呈示)
DNA合成は40%近くまで同調し、発癌剤処置はHA-50〜HA-58の9つの群をおき、それぞれの時間のときに処置した。
transformationの成否はまだ定かでないが、現在focusらしいものがみられているのは、HA-50、HA-52、HA-53、HA-54の四つである。さらに経過をみて(あと2〜3wks.)いくつもりである。
synchronousの方法もprimaryでconfluentしてG1でstopさせ、それをexcess
TdR med.の中にうえこむ方法を検討しているところである。倒立でmitosisをみている範囲では、この方がよいようだ。
III.4NQO及びその誘導体の細胞生活環に及ぼす効果
前に1)4NQOはRNA、DNA、protein合成を抑制するが、2)4HAQOはDNA合成のみ強くeffectiveなこと、3)またnon-carcinogenic
Derivatives 4AQO、3-methyle 4NQOはいずれにも働かないことを示した。それらの作用機序をさらに分析する意味で、これらの物質の細胞生活環に及すeffectをみた。
(1)分裂細胞数の変化
ハムスター胎児細胞の培養にcarcinogenを加えると著しい増殖阻害がみられる。この変化をMitotic
Indexで示した(図を呈示)。
☆第2代のハムスター胎児細胞の培養に、4HAQO、4AQOをそれぞれ10-5.0乗Mづつ加えて培養し、1時間毎にサンプリングした。
MIはcontrol及び4AQOでは0.7〜1.6%(大部分は1.1〜1.4%)の間にある。4HAQOも1時間後はcontrolと同じ幅の中におさまるが、3時間から下降し始める。
☆このような分裂阻害をコルヒチンを加え累積分裂指数で表す(図を呈示)。
前回と同じ所見が得られた。4NQOの強い分裂阻害が目につく。4HAQOは3時間後からplateauを示し、4AQOはコントロールと差がない。興味があるのは、3-methyl
4NQOが軽度の、しかしrecoverするG2blockを示すことである。
☆さらに、それぞれでG2時間を測定すると、コントロールと4AQOは3hrs.、4HAQOは4.8hrs.と、G2時間の延長が4HAQOに認められた。しかし、この程度のG2delayでは分裂阻害を説明することはできず、(G2delay)+(G2期の細胞の傷害)と考えねばならない。この成績は、前に吉田俊秀先生の得た成績と一致する。
☆次に細胞増殖に及す影響をみた(図を呈示)。細胞増殖は4HAQO添加後、3時間は全く影響を受けない。細胞数の減少は6時間より少しづつ表れ、24時間後に最底となる。このように死んでいく細胞が、MI阻害とどのような関係にあるのか問題となる。
(2)G1 blockとS期の阻害
4NQO、4HAQOはG1、S期に対してはどのように働くか。
☆C14-TdR、C14-UR、C14Leuの酸不溶性劃分へのとりこみを、細胞数の変化しない4時間に限って調べた。
ハムスター胎児2代目をFalconシャーレ当り40万個うえこみ、培養2〜3日目に4HAQOとisotopeを同時に加える。いずれも0.1μc/ml。時間後にpronase→1.0N
PCA coldを加える→0.5N PCA→遠心→Ether・EtOH・CHCl3(2:2:1)→遠心→HCOOH→Planchet→Gasflow
counter。*Leuのとりこみのときは、PCA 100℃
30minの加水分解を行う。
ここで分ったことは、最初の4時間で、すでにDNA合成の低下が起っていること、RNA合成もDNAと同じように阻害されるが、proteinはinhibitされないことである。
このうちDNA合成の低下の二つの理由としては、G1
blockと、S期のDNA合成の低下の二つの理由が考えられる。
☆そこでG1 blockをみるために、H3-TdRのcontinuous
labelingによるLIの累積曲線をとってみた。(図を呈示)
MIのときと同様に4NQO 10-5.5乗M、他は10-5.0乗M加え同時にH3-TdR
0.1μc/mlをcontinuous lab.した。4AQO(バラツキがあるが)はcontrolと差がなく、4HAQO、3-methyl4NQOはcontrolより低い。4NQOはlabeling
indexは殆んど上昇しない。ハムスター胎児細胞のG1は、約3.6hrs.であるので、4時間までLIが低いことは、G1
blockの存在を示唆する。それ以後の累積LIの低さはG1+G2
blockによるものであろう。
☆問題のS期のDNA合成阻害については、前の報告(月報6712号)から、当然予想されるところである。これからpulse
labelingによるLIとgrain countの推移をみるexp.をセットしようと思っている。
:質疑応答:
[安藤]labeled mitosisで、delayがあっても100%になるのに、G2
blockがあるといえるのですか。
[吉田]吉田肉腫に4NQO処理してもG2 blockがあります。染色体breakageという意味で。他の期にはありません。
[勝田]最後のデータで考えたのですが、4NQOが4HAQOになって働くのなら、両者のカーブは同じでよい筈ですが、ちがうのは4NQOの毒性のためでしょうかね。それからシンクロは40%位で良いのですか。
[黒木]primaryは仲々むずかしくて、これでもうまくなった方です。4NQOと4HAQOのカーブがちがうのは4NQOの毒性のためと思います。
[勝田]映画で見ると、どうもmitosisとは関係なく、細胞が死ぬように思われます。4NQO処理の場合ですが。
[堀川]mitotic deathといってもその辺を中心にして起る死、という程度の意味です。
《三宅報告》
ヒト胎児皮膚を継代して来たfibroblast様構造のものについて、0.30、1.00、1.30、2.00、2.30、3.00、4.00・・・時間4NQOを作用せしめた。その上で、各濃度の相違のある、各群に、経時的にH3-TdRをとりこませて、L.I.をプロットした。すると10-5乗Mのような高い濃度のものでは急激にL.I.は減少するが、10-6乗M、10-6乗x5では1時間後までは対照と変らない。
この10-6乗Mについて詳しく時間経過を追ってみると、4時間目まで漸減して来て、それから以後はL.I.は再び上昇してゆく。
10-6乗x5Mについては、前に月報に述べたように、3時間目に0となり、立上ることはない。
次にH3-TdRと4NQOを同時に入れてみると、10-6乗Mでは実験群のL.I.開始後数時間で少し落ちるが、爾後そのカーブは対照とかわることはない。5x10-6乗Mとなると、前に述べた様なカーブになって3時間で実験群は0となる。
これと同じことをL株細胞を用いて行った。このLのtg=21hr.、ts=8hr.、tG2=7、tG1+tM=6hr.であった。
その結果はControlにしたL細胞でも10-6乗x5Mで3時間以内にL.I.が減少したことから、4NQOはG1-blockの他にG2-block、又S-blockをきたすと考えられ、いずれとも断言しえないことになった。
目下この2つの細胞について、同調培養を行って、それを決定したいと考えている。
(各実験についての図を呈示)
:質疑応答:
[勝田]L細胞の実験で、labeling indexが最初に下るのはG2
blockを意味しているのではないでしょうか。そして、以後にcontrolよりも反って高い値を示しているのは、S期の延長を示しているのでしょうかね。
[難波]4NQOは培地に入れつづけでしょうか。
[三宅]そうです。4NQOとH3-TdRとを入れつづけたものと、4NQOは入れつづけH3-TdRは45分のflush
labelingしたものがあります。
《梅田報告》
ラット肝のprimary monolayer cultureを勝田先生の方式にしたがい、又多少条件を変えて培養を試みた。即ち(I)ラット肝細切後モチダトリプシン・スプラーゼ処理後、細胞を塩類溶液中に浮遊静置、上清を捨てて、沈殿物に塩類溶液を加え再浮遊、静置、これを繰り返して上清が綺麗になったら沈殿物をLD+20%CSに浮遊させて培養する。(II)Iの方法に殆んど同じであるがトリプシン・スプラーゼ処理後、培地を加え、ガーゼ或はメッシュ濾過後遠心し、沈渣に培地を加えて浮遊させ培養する。材料として特殊例を除き、生後3〜5日のラット肝を用いた。
(1)Iの方式では大きな細胞塊が残っており、それからの生え出しが非常に良く、特に肝細胞の増生が良い。しかし間葉系のendothelと思われる細胞も旺盛に増殖している場所もある。主にこの2種の細胞群から成っている。
IIの方式では2〜5ケ位の細胞数からなる中等大の細胞塊も沢山残っているが、一応disperseした状態からの細胞からも細胞が増生する。50万個cells/mlの接種数で6〜8日後には殆完全なmonolayerを作る。その時の肝細胞増生は全細胞の1/3〜1/2を占め島を作っており、その間を間葉系(?)の細胞が占めている。間葉系の細胞を良く見ると、大型の細胞質のひろがったエオジンに濃染する細胞で核も大型長楕円形で核小体は不規則形2〜3ケあり核全体もヘマトキシリンに淡く染る細胞(endothel?)と、やや小型で核が丸或は楕円で核小体は1〜2ケ丸くくっきりと染る肝細胞核に似た細胞(胆管上皮?)がある。
(2)培地として、MEM+20%CS、MEM+10%tryptose
phosphate broth+10%CSを使用、LD+20%CSと比較してみた所、前2者では良く細胞は増生するが殆んど間葉系細胞で占められ、肝細胞と思われる細胞は、あちこちに数ケ宛細胞質に空胞を生じ、変性して散在する。
(3)1例IIの条件で生後15日のラット肝の培養を試みた所、トリプシン・スプラーゼ処理のpipettingにより細胞の大多数が破壊され、約0.5gの肝組織からスタートして50万個cells/ml
2mlの生細胞しか得られなかった。培養開始後沢山のcell
debrisがあり、2日後にそれを培地で数回洗い去ってから培養を続けた所、生後5日肝培養と同じ様に、肝細胞も間葉系細胞も増生した。ただし、一部に生後5日肝では見られなかった敷石状の配列を示す細胞増生がみられた。
(4)IIの条件で1例生後2日のmouse肝の培養を試みたが、肝細胞の増生は良くなく、肝細胞の大型化多核化が見られ分裂障害を思わせた。
(5)IIの方法で培養した生後5日のラット肝培養細胞にDABを投与した。DABは10mg/mlの割合にDMSOに溶かし、培地で稀釋した。100μg/ml、32μg/mlで肝細胞の著明な空胞変性が見られたが、他の間葉系の細胞では変化が見られず健全に見えた。10μg/mlでは肝細胞の空胞は見られない。
(6)同じく黄変米の毒素であり、肝癌源物質であるルテオスカイリン投与を試みた。1μg/mlで肝細胞だけすべて3日後にcoagulation
necrosisが起り、間葉系細胞だけ残るのが見られた。0.32μg/mlでは萎縮した核をもち細胞質に空胞のある肝細胞が見られた。
:質疑応答:
[高木]継代するとどうなりますか。
[梅田]中間型のような細胞とendothelばかりになってしまいます。医科研の斎藤先生の仰言るには、肝のshaltstuckの細胞ではないか、というのですが・・・。
[佐藤]小型で核の丸い三角のような細胞がshaltstuckだと思います。とにかくいろんなものが出てきますね。私はcolonyにして同定しようかと思っています。
[勝田]箒星のような細胞で、細胞質に平行したセンイ状構造のみられるのは、他のorganをcultureしても出てくるので、血管の内被細胞ではないかと思っていますが・・・。映画でみるとこの細胞は動きません。
[安村]箒星というのはどんな臓器でも出てきますね。
[勝田]小さくてよく動きまわる、おそらくKupferと思われるのも見られます。
[佐藤]平たく拡がった細胞では判らないから、塊にして切ってみようか、と思っています。
[勝田]explant cultureして、反射光源で顕微鏡映画をとると、どんなところからどんな細胞が出てくるか判ると思います。
[藤井]班長のところの肝臓のcell lineは実質細胞ですか。
[勝田]株になったのはほとんど実質細胞だと思います。
[藤井]Rat肝を抗原にして作った抗体でcheckしても、培養系の肝細胞では沈降線が出ないので、どういうことなのかと思っています。
[勝田]培養で増殖系になった肝細胞を抗原にして抗血清を作ると、その結果は変るかもしれませんよ。
《吉田報告》(Abstractの提出がなかったので概略を記す)
黒木班員のところで4HAQO、4NQOでtransformさせたハムスター胎児細胞の諸系の内、今回はmodeが4n近辺の系を主にしらべた。
4nの系に通じて云えることは、全系とも染色体の数と形に異常のあることで、つまり正常の2nの2倍ではないことである。系によって異なってはいても、非常に安定した染色体と、動き易いものとが見られた。また上に記した異常というのは一定の傾向をもったものではなく、系によって異なっていた。
:質疑応答:
[難波]染色体の収縮はX以外にもありますか。
[吉田]他にもありますが、特にXに強いのです。
《安村報告》
☆1.Plating efficiencyとcolony Sizeの培養液の種類による影響:
先月の月報の2-6にふれておきました問題について、予備的にあたってみました。アルビノハムスター腎細胞の2代目の培養をふたたびPlatingしてコロニー形成をみました。細胞数は1,000、2,000、4,000、8,000個。MediumはE:DM-140培地のうち塩類溶液の組成のみEarleの液+コウシ血清10%、199:199液+コウシ血清10%、D:DM-140+コウシ血清10%。(結果の表を呈示)
1-1.コロニー形成数からは有意義の差がありません。またコロニー1こ1この大きさにも差がみとめられません。ただPlating
efficiencyが初代培養の10倍近くなっているのが誤算のひとつでした。初代と同じくコロニーの大きさが小さく、たかだか20~50/コロニーというところで、やはりクローン化できません。
1-2.mediumの種類によってP.E.に差がでなかった理由は一つには、細胞が最初の2週間D液で培養され、ついでちがっmediumにかえられ(3週後に判定、つごう5週間培養)たため、P.E.は最初のD液によって決められてしまったのかもしれません。こんごこの問題をしらべる必要があります。
1-3.Plating efficiencyの上昇はひとつには、まかれた細胞のViabilityによるものと考えられます。初代では総細胞数の50〜60%がviableで、2代めのものはほとんど100%に近くviableでしたから。
:質疑応答:
[黒木]Feederを使ったらsizeが全然大きくなると思います。
[佐藤]single cellの比率はどの位ですか。
[安村]はじめは50%位ですが、2代目になるとほとんど100%です。
[佐藤]2代目にplating efficiencyがそう上るというdataはあまり聞きません。
[安村]もう一度やってみようとは思いますが、トリプシンのかけ方などに影響されるのではないですかね。5〜80%位のひらきが、培地のlot
No.によって出るというようなこともあります。
《山田報告》
細胞表面構造を研究するために、細胞電気泳動装置を製作し、この装置で物理化学的条件並びに被検細胞の生物学的条件を種々検討して来ました。その一環の仕事として、細胞免疫に関する実験も開始しましたので書いてみます。
即ち細胞表面における抗原抗体反応を細胞電気泳動法により量的に測定するためのfirst
stepの実験です。今回は最も単純な方法としてアルブミンに対する脾細胞抗体産生の程度を調べてみました。具体的には、抗原性の異なる卵白アルブミンと牛血清アルブミン(各3mg)をFreundのadjuvantと共に週二回、それぞれラットの皮下に注入し、合計四回感作後、一週間をおき、ラットの脾臓を摘出。鋏で細切し、looseなホモゲナイザーでかるくこすり、脾細胞浮遊液を製作。この感作細胞に各々抗原であるアルブミンを37℃30分接触させた後に生食にて洗浄し、1/10Mヴェロナール緩衝液(pH7.0)をメヂウムとして細胞電気泳動度を測定した。
3回の実験結果(表を呈示)、それぞれの抗原であるアルブミンと接触した場合に選択的に感作脾細胞の泳動度は低下し、両アルブミンで感作された脾細胞は両アルブミンの接触により共に泳動度が低下しています。
しかし、この抗原アルブミンによる電気泳動度の低下は必ずしも大きくはない。従来の報告によると、脾における抗体産生細胞は数%であるとされて居ますので、実際の抗体産生細胞表面に抗原のアルブミンが結合し、その表面の荷電をマスクし、泳動度を低下させる程度は更に大きいと考えます。
従って今後、抗体産生細胞のみをえらび出して、その抗原の表面結合による荷電の低下を測定すべく工夫している所です。
今回の成績により細胞表面における抗原抗体反応を直接細胞電気泳動法により測定できるという確信を得ましたので、次に悪性化に伴う細胞表面の変化や、宿主の抗体産生細胞の認識に、この免疫細胞電気泳動法を用いようと計画中です。
【勝田班月報:6806:4NQOのphotodynamic
action】
A.ラッテ肝細胞の増殖期による4NQOの感受性の相違:
これまでの実験で、どうもその都度、都度で4NQOの細胞に対する影響にむらがあるように思われたので、RLC-10株(正常ラッテ肝細胞)を使って増殖のいろいろな時期に4NQOを添加し、その増殖に対する影響をcell
countingでしらべた。
結果は(増殖曲線の図を呈示)、増殖のstageによって細胞のresponseがかなり違うことが判った。しかしこれは、他の実験からも判ったことであるが、細胞のstageというより、むしろ細胞数/tubeの影響が大きいのではないかと推測される。
B.4NQOのphotodynamic action:
前月号の月報に記したが、癌センターの永田氏が4NQOのphotodynamic
actionについて報告している。我々も顕微鏡映画で観察していて、どうもそれに一致するようなデータを色々と得たので、果してそれが本当かどうか、cell
countingで定量的にしらべてみた。細胞はRLC-10株(正常ラッテ肝)で、4NQOで37℃、3.3x10-6乗M(その他の濃度もみたが)、30分間処理後すぐに365mμのマナスル・ランプで、室温で2時間照射し、増殖に対する影響をしらべた。No.6709の月報に報告したように、4NQOの特異吸収は366mμと252mμにあるので、この波長は正しいと思う。
(結果の図を呈示)おどろいたことに、正にphotodynamic
actionを4NQOの持っていることが確認された。
光だけを各種時間に照射したcontrolsははっきりとした増殖抑制は認められない。ところが4NQOで30分間処理した直後に光をあてると、照射時間の長さに比例してはっきりと細胞の破壊が起った。
同様の実験を、種々の濃度の4NQOについておこなった結果、やはり4NQOの濃度の高いほど細胞障害は強く現われた。
このようなphotodynamic actionがどんな意味をもっているか、ということであるが、永田氏はphotonによって4NQOにfree
radicalができて、それが細胞のDNAに破壊的に働く、と考えているようである。しかしそのようなDNA
levelでの障害が直接発癌に結びつくかどうか、私は疑問に思っている。photodynamic
actionは発癌作用とは関係のない、副次的な現象であるかも知れないし、あるいはきわめて重要な役割をしているのかも知れない。これは今後解明すべき問題である。
H3・4NQOを培地に入れると、4NQOは細胞内の色々な成分と結合するが、とくに蛋白との結合量は大きい。Biochemistsはすぐに核酸の方を考えたがるが、この場合、蛋白、とくにlysosomal
enzymesとの関連などについてしらべることは大変面白いのではないかと、私は思っている。そして4NQOの解毒をする酵素の誘導も大いにしらべてみたいと思っている。
《安藤報告》
H3-4NQOの細胞内への取込みのKineticsについて:
A.L・P3細胞の場合:
実験方法は月報No.6801に勝田先生が書かれている方法と基本的には同じです。即ちL・P3細胞を培地DM-120中TD-40で約500万個/bottle迄生やし、これにH3-4NQO(がんセンター川添氏より分与)10-3乗M
in 10%DMSO液を0.1ml/10ml培地/TD-40添加し、終濃度10-5乗Mとする。直ちに培養ビンは出来る限り遮光し37℃静置培養する。
その後、時間を追ってサンプリングし、培地を捨て、Dで一回洗う。
細胞を少量のDに懸濁し、酸不溶性分劃(核酸、蛋白が主成分)と酸可溶性分劃に分けカウントする。
結果及び考察:(図を呈示)
1)酸不溶性分劃への取込みは30分で止り、その後2時間迄不変のようだ。5時間目の点が下っているのは、本質的なものか実験のエラーか不明。
2)5時間目に培地中よりH3-4NQOを除くと、この不溶性分劃のラベルは再び放出されるようだ。この部分が核酸についていたものか、それとも蛋白についていたものか定めるべきだろう。
3)月報No.6804に堀川さんが記しておられるように、酸可溶性分劃への取込は非常に特異的である。即ち30分あるいはそれ以前に最大値に達し、以後、培地中に多量存在するにもかかわらず、細胞外に放出されてしまう。毒物に対する細胞の防衛機構を如実に見せられた思いである。L・P3は4NQOに対し次に調べた正常ラット肝細胞よりもより抵抗性が強いので、そのためにこのような再放出の現象があるかと思って、RLC-10についても同様な実験を行ってみた。(図を呈示)図にある通り全く同じ結果となった。
B.RLC-10細胞の場合:
4NQOに対する感受性の、より強いラッテ正常肝細胞の場合に於て異なる結果を期待したが、酸不溶性分劃への取込みも、酸可溶性分劃への取込みも、全くL・P3の場合と同じであった。但し使用培地はLDにCS・20%添加したものであり、H3-4NQOの濃度は3.3x10-6乗Mであった。
C.L・P3細胞の核酸、蛋白質分劃への取込み:
L・P3を前記条件で2時間H3-4NQO処理を行い、直ちに細胞分劃を行い、核酸分劃と蛋白分劃に分けてみた。
分劃 DPM/1,100万個cells %分布
細胞全体 170,450 100
酸不溶性分劃 8,615 6.4
酸可溶性分劃 125,910
93.6
酸不溶性分劃の内
100
核酸分劃 2,620
23.8
蛋白分劃 8,520 76.2
上記の表のような結果になった。今後の方針として、更に核酸分劃のRNA、DNAを分け、各々いかなる塩基と結合しているか、又蛋白部分についても、いかなる種類の蛋白に結合しているか、等を検索する予定である。
:質疑応答:
[堀川]4NQO処理後のwashはどの程度やりましたか。
[安藤]等張液でさっと一回洗うだけです。
[高木]4NQOの濃度はどの位ですか。
[安藤]L・P3は10-5乗M、RLC-10は3.3x10-6乗Mが終濃度です。
[堀川]細胞当りの取込み量は、L・P3とRLC-10でちがいますか。
[安藤]ほぼ同じ位です。
[堀川]私の実験でも酸可溶性分劃のcountが短時間で最高値に達し、それからすぐにすっと下がってしまうのは何故でしょうか。
[黒木]10-5乗Mで5時間も添加していると、細胞が死んでしまいませんか。
[勝田]L・P3は4NQOに対してすごく強い細胞系で、5時間位では平気です。それにRLC-10にしても映画での観察によれば、死に始めるのは5時間よりずっとたってからですね。むしろ、そういうことより細胞側の解毒作用というか、4NQO分解酵素の活性がinduceされて、その結果として酸可溶性分劃のcountが急激におちるとは考えられませんか。
[梅田]若しそうだとすると、5時間後に又4NQOを添加してももう受付ないという現象が起るはずですね。
[安藤]それは面白い考えだと思います。早速やってみましょう。
[勝田]私もその考えは面白いと思いますね。しかし、培地中に4NQOが一杯あるというのにその取り込みにピークがあり、急激な減少があるというのは又面白いことですね。
それから、うすい濃度でL・P3の増殖を促進するのですが、その時4NQOが細胞のどの分劃に取り込まれているかということにも興味があります。安藤君は核酸を追いたいというだろうが、私はむしろ蛋白の方に問題があると思い、蛋白を追え!と言っています。
[堀川]始の報告のphotodynamic actionについてですが、その機構はまだよくわかっていないのですね。
[勝田]癌センターの永田氏の話では、4NQOの誘導体の殆どが、発癌性とphotodynamic
actionが平行していますが、4HAQOだけが例外で、発癌性は高いのにphotodynamic
actionはないということです。
[佐藤]しかし動物の体内での発癌を考える時、photodynamic
actionなんで考えられないと思いますが。
[勝田]そうですね。そう考えると培養での4NQO発癌実験も光を与えてどうなるかより、真暗な中で培養するべきだということになりますね。実際に、暗くして映画を撮ってみますと、細胞のこわれ方もずっと少ないし、何か細胞の状態が明るいままで映画を撮った時とちがうようです。
[堀川]photodynamic actionは治療に利用出来そうな気もします。
[高木]最後の図は4NQOの細胞周期に対する影響というよりも細胞数に対する影響をみていることにはなりませんか。
[勝田]そうです。
[黒木]生きている細胞でなくても、レントゲン照射した細胞をフィーダーにおいても4NQOの毒性は弱まります。
[勝田]そういうことは何を意味しているのでしょうか。培地にはありあまる程4NQOがあるわけですから、細胞数が多くなっても細胞1コあたりの4NQO量がうすまるわけではありませんし。
[堀川]私の実験からは、取り込んだ4NQOを4HAQOに変える能力の違いが細胞の4NQOに対する抵抗性の違いとなって現れてくるというようなデータになりつつあるようです。
それから、又photodynamic actionの実験ですが、4NQO処理後すぐ照射する実験の他に処理後の時間をかえて照射するとどうなるかもしらべると面白いですね。
[勝田]これからしらべてみます。私達はこれからL・P3をモデル実験に使いたいと思っています。L・P3は現在の所C3Hには腫瘍を作りません。L・P3は合成培地に増殖している細胞で、血清培地で飼われている細胞とは膜の構造が全然ちがうわけです。にもかかわらず4NQOの作用(今の所取り込み)が同じだということは4NQOの作用が膜構造には左右されないといえると思います。
《佐藤報告》
◇4NQO発癌実験の現況
A.ラッテ肝(Exp.7)←4NQOはその後2匹のtakeで実験例49匹中16匹(33%)が発癌。
対照群は10匹中0となった。現在最終復元動物が7ケ月を経過したので近く全動物を屠殺処理する。
復元接種動物が腫瘍死するまでの平均日数は188日であった。
腫瘍の組織像は肝臓癌と診断されるもの12例、癌肉腫と診断されるもの2例、繊維肉腫と考えられるもの1例、残りの例は腫瘍であることは間違いないが性格(ラッテ自然発癌?)がよく分らなかった。
核型分析
Exp.7 肝細胞株の対照株については前号に報告した。この対照株の総培養日数512日に当たる実験株526日の培養時における染色体と、動物復元後発生した腫瘍の再培養細胞の染色体分析をおこなった。
(染色体数分布図と核型分析図を呈示)核型分析ではNeoplastic
line即ち4NQOを投与された総培養日数500日以上の培養細胞では41にmodeがあり、50ケのMetaphase中に22ケの44%を示した。10ケのMetaphaseの分析を行った所、略同一の核型を示した。即ちMeta-Group
12ケ、ST-Group 7ケ、T-group 18ケ及び異型染色体4ケの計41である。異常染色体4ケ以外の染色体は略正常なラッテの核型である。(異常染色体4ケの模型図を呈示)腫瘍再培養細胞の染色体数は43にModeがあるので、分析可能な43の2ケのMetaphaseについて検索した所、1つは前記同様の4つの異型染色体Groupをもっていることが判明した。他の1つは異型染色体2つをもっていたが特異なGroupは存在しなかった。然し描写による検索では前記4Groupをもつ染色体型が他の染色体数の部にも広く認められた。極めて単純に云へばこの4Groupの発生が4NQOの作用によると考える。
上記のNeoplastic lineを動物に復元し出来たTumorを再培養したものの核型は(図を呈示)異型染色体はTumor
lineの6Groupとなっていた。この場合Modeは43であった。幹細胞の数は22%であった。検索された10ケの核分析の内9つは同型であり、動物復元前時の特異的4Groupの他にsmall
sizeのTeloが2ケ増加したものであった。動物復元前の4NQO処理培養細胞の中には今の所この型は見当らないが、それは培養細胞時にはPopulation中における%が低いためであろう。この点はギムザ標本及び復元動物の生存日数からも推定できる。(対照の培養細胞に現れる異型染色体図を呈示)此等の異型染色体が個々に現われる場合が多い。今後尚詳細に検討していく積りである。
4NQO耐性の問題:
4NQOによって発癌したと考えられる株細胞(Exp.7)と、その株細胞を動物に復元接種しTumorより再培養した細胞、及び対照株について継代培養と同時に4NQOを10-6乗M、10-7乗M、10-8乗Mに添加して48時間後の細胞数を比較した。(図を呈示)結果はNeoplanstic
lineもTumorよりの再培養細胞(Neoplastic lineよりTumor
cellを取りだしたもの)も共にControlに比較して耐性をもっていた。この場合の耐性は、既にDABの場合にも述べた様に薬剤中に長く存在したための耐性で腫瘍とは関係がない様に考えられる。
B.動物復元 続き
動物番号146〜157の復元表を呈示する。
C.培養ラット肺細胞←4NQO
1967-6-1に生まれる直前のラッテの肺細胞をtrypsinizeして、20%BS+YLEで培養し、4NQO実験を行っていたものの内、10-6乗Mの4NQOを33回処理したものでラッテ新生児皮下復元にTumorを発見した。腫瘍の性格は未だよく分らない。
D.ラッテ全胎児←4NQO
(5例の実験の一覧表を呈示)
動物復元観察日数は丁度6ケ月である。従って6ケ月でTumorをつくらない場合には結果は腫瘍形成がないことになる。5例中で実験RE-5、10-6乗M、100日処理のみが+であった。
:質疑応答:
[黒木]今、呈示された表で、濃度を同じに換算して時間の統計として比較するというのは、理論的に意味ないと思われますが、どうでしょう。薬剤の濃度と処理時間というのは異質のものだと思います。
[安藤]ある濃度以下の処理では何時間処理しても効果がなく、それ以上だと10分でも効果があるといった、oll
or noneの場合もあるから、時間の総計で比較するために濃度を同じに換算するのは少し変ですね。
[佐藤]逆にそういうことを証明するのに、こういう計算をしてみた積りです。つまりうすい濃度では濃い濃度での集計時間に達する程の長い時間処理しても悪性化はおこらないのだ、ということが数字で現せると思います。
[勝田]復元例で、同系の細胞なのにtakeされたり、されなかったりするのは何故でしょうか。
[佐藤]培養だけでつづけている系と、一度復元してtakeされ再培養した系では染色体の核型が多少ちがっています。そういう点から考えられることはRatの肝細胞の場合、全部が悪性化しているわけでなく、しかもそのpopulationが培養の時期によって変わるので、takeされたりされなかったりするということです。
[梅田]基本的なことですが、LD培地とYLE培地とはイーストエキストラクトのあるないの他に、pHもちがうわけですから、要素を二つ変えて比較するのはよくないと思います。LDとYLDにするべきですね。
[黒木]コロニーを作らせることは出来るのですか。系の一部が悪性化しているのなら、悪性細胞のコロニーを拾えば、動物への復元の問題は解決されると思われます。
[吉田]動物への復元実験の対照群の匹数が実験群に比べて少なすぎるようです。このデータですと対照群の中に変異細胞がいないとは断言出来ませんね。
[佐藤]それは私も痛感しています。これ以後の実験では対照群を増しています。
[勝田]何時も云うことですが、反復実験は同じ系の培養でなく、新しい系で追試した方がよいですね。
[堀川]耐性をしらべたgrowth curveの所で、耐性についてですが、takeされるようになった時までに添加された4NQOの濃度はどの位ですか。
[佐藤]濃度は一定でなく、かなり長く処理しています。この場合耐性は悪性と平行するものではなく、4NQOを添加していた期間に平行するものと考えられます。
[三宅]復元して出来たtumorの組織像は上皮性な感じがしますね。エオジンをよくとっているのは、ケラチン様物質があるのではないでしょうか。
[吉田]染色体の核型分析についてですが、1例でははっきりしませんが、本当なら面白いですね。私自身のデータからも染色体の変化と悪性化とが関係づけられる、ある染色体のパターンがあるようだとは考えています。
[勝田]ただ、1例では何とも言えませんね。
[安村]再培養した系の場合、43本でないものでも、この5本のグループを持っていますか。
[佐藤]たいてい持っているようですが、まだ正確にはしらべてありません。
[安村]再培養した細胞系を又復元するとtakeする率がよくなりますか。又復元前の細胞の染色体の中にtakeされた細胞の染色体と同じものがありますか。
[佐藤]50コ位しらべてみた所では見つかっていません。しかし、もっと沢山エネルギッシュにしらべてみたら見つかるのではないかと考えています。又培地や培養法をかえれば、悪性細胞をセレクト出来るのではないかと思います。
[安村]動物への接種細胞数はどの位ですか。
[佐藤]だいたい100万個位です。
[安村]矢張り何コ中に1コの悪性細胞がいるのかということを調べておく必要がありますね。それから、この5本のグループの染色体が確かに悪性と関係があるのだと言いたければ、ハイブリッドを作らせて、この染色体のはいったのが悪性だということまでチェックすればよいでしょう。
[吉田]実際にはなかなか難しいことです。この染色体があるから悪性化しているのか、或は他の染色体が無くなったこととの組合わせに於いて悪性化と関係があるのか判りませんね。それから4NQOが染色体変異を起こすことは確かです。このデータもその変異の一つでしょう。しかし4NQOによる悪性化が、こういう染色体変化に集約されるとは断言出来ません。
[佐藤]変異だけでなく、次に悪性化することを考えれば、変異したものが一定の方向に集約されることも考えられると思います。
[勝田]染色体の標本をみる場合、数えられないもの、しらべられないものが沢山あり、そういうものの中に問題がある場合も考えられます。
[安村]復元前の培養細胞の中に、この5本のグループがあるのか無いのか先ずしらべてみなくてはいけませんね。その上で5本のグループの中の2本の染色体がクサイという事実があれば、それがハイブリダイゼーションという手法で確かめられるのではありませんか。
[堀川]酵素活性と関係のある染色体の場合とは違って、腫瘍性と関係のある染色体というのは、すごく複雑でむつかしいと思います。
[安村]いや、私も腫瘍性を染色体でチェック出来るなんて事は否定の方に90%位ですが、若しできるとすれば大変面白いと思います。
[勝田]何にしても1例だけでエキサイトしなさんな。
[佐藤]私も1例だけで何とか言おうとは決して思っていませんが、ただこの例は理論的に考えやすかったので出してみたまでです。私として言いたいことは、この系の培養のpopulationの中に悪性化した細胞は少ないのではないかということ、又4NQOの作用したという証拠は残っているのではないかということです。
[勝田]佐藤班員の研究室でRatそのものの自然発癌率はどうですか。
[佐藤]非常に少ないようです。
[勝田]それも一応データとしてとっておいた方がよいですね。
[佐藤]復元実験のやり方を考えてみる必要を感じています。復元して長くおけばtakeされることがわかっているわけだから、もっと短期間で対照との比率に於いて悪性度をみることにしたいと思っています。
[安村]発癌剤によって悪性化する率が低いということは、Ratは発癌実験に不適当だということではないでしょうか。
それから接種数100万個の中、1、2コの悪性細胞が居たために動物にtakeされたとするなら、復元前にその100万個の細胞を寒天へまいてコロニーを作らせれば悪性のコロニーを1、2コ拾うことが出来るのではないでしょうか。現在の手法では、寒天法は悪性のコロニーを拾うために良い方法とされているわけですから。そうすればもっと高率にtakeされる系を作れるはずです。
[勝田]コロニー法ではpureなクローンはとれませんね。肝細胞を映画に撮っていて経験しましたが、分裂した娘細胞同志が一緒に居ずに離れてしまい、他の所から別の細胞が動いてきてくっついて、あたかも娘細胞同志のような顔をしていたりするのです。
[安村]クローンについては確かにそうですが、目的によっては定量的に扱えるということでコロニー法の利点もあります。
[藤井]腫瘍細胞には同種の抗体に抵抗性があるかも知れないということから、同種の抗体で悪性化した細胞をセレクト出来ないでしょうか。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞における放射線ならびに化学発癌剤障害回復の分子機構の研究(5)
これまでの報告で培養細胞のもつ紫外線障害回復機構と4NQO処理による障害回復機構の間には何ら関連性のないことを示してきた。
つまり紫外線に対して最も感受性株のブタPS細胞が4NQO処理に対しては最も抵抗性を示し、4NQO処理による障害回復の機構は紫外線照射によって生じるThymine
dimerの除去機構では説明出来ないことがわかって来た。
第2の段階として、4-HAQOに対するマウスL細胞、Ehrlich細胞、PS細胞の感受性を比較する問題が生じてきた。黒木さんより得た4-HAQO(国立がんセンター川添豊氏合成品)を使用した範囲では(図を呈示)、三者の細胞株間には感受性の差異は認められない。(これらはいづれも4-HAQOを含んだMedium内で約2週間培養期間中、それぞれの細胞を培養した際のcolony
forming abilityからdetermineしたもので障害回復能よりもむしろ4-HAQOに対する耐性度をみたものであることに注意されたい!!)
勿論現在の段階では4-HAQOの濃度分割が大きすぎるので正確な耐性度を比較することは不可能であるとは言え、本報No.6802に示した4NQO濃度−生存率曲線と比較して大きな違いのあることがわかる。また4-HAQOのtoxicityは生存率曲線でみた範囲では4NQOの10〜100分の1であることもわかる。
従ってこれまでの結果を総合して考えると培養細胞間の4NQOに対する感受性の差異は、細胞間の4NQO透過性の差異で説明するよりも、4NQOを4-HAQOにreduceするreduction
enzymeのactivityの差異で説明する方がよさそうである。
このことは言葉をかえると、取り込んだ4NQOを4-HAQOにreductionする能力の高い細胞(つまりPS細胞のごときもの)では生存率で見るかぎりその毒性から受ける障害の度合が4NQOから受けるそれよりも少ないであろう。しかし発癌と云う立場からみると、このように4-HAQOにreductionする能力の高い細胞では発癌の可能性が高いと考えてもいい訳である。このような観点からみると、私が当初予想した考えがうまく説明出来そうで発癌のさいにtarget
cellの存在を考えるのも面白い。
:質疑応答:
[勝田]可視光線の光量をergで書いてありますが、具体的にどういう装置で照射したのですか。
[堀川](装置図を呈示)スターラーの上にのせたビーカーに水をいれて、その中にtubeを並べます。60cm離れた所から東芝500w引き伸ばし用電球で照射しました。
[勝田]可視光線で2時間照射すると、コロニーを作る能力が減少したというわけですね。RLC-10の増殖に対しては影響がありませんでした。奥村君から貰ったハムスターの細胞は悪性化しているものですか。
[堀川]それについては、はっきり知りません。
[勝田]Chick brainにP.R.activityがあることになっていますが、どういうことでしょうか。何か他の酵素のside
effectではありませんか。
[堀川]サイトクロムCなどがそうではないかと言われていたこともありますが、現在では否定されて、P.R.activityは独特のものだと言われています。放射線による断裂のrecoveryが、若し腫瘍を材料にした場合、腫瘍性を失うとか、はじめに持っていた酵素活性を失うとか、misrepairingで説明できないでしょうか。
[吉田]胎生の早い時期とadultでは、そういう修復機能がちがわないでしょうか。
[堀川・勝田]ちがうでしょうね。
[勝田]細胞の全cell cycleを通じてP.R.enzymeがあるとすれば、stageによってrepairのちがうのは?
[安藤]定性的にはいつもあってもstageによって活性の違うことも考えられますね。
《高木報告》
1.4NQO添加
i)NQ-6
10-6乗:RL-2cells 2代目に2回作用させたものはあまりcell
damageなく、2回目作用後2日後に継代した。10日後にはほぼfull
sheetの状態になったので更に同濃度で2時間1回作用させた。今回は細胞は可成りのdamageをうけて殆ど脱落したが、約20日後にfoci2ケを認めた。うち1ケはpile
upは認めないがfiberの形成がみられた。しかしこのcolonyの細胞の増殖はあまりよくない。
5x10-7乗:2回作用せしめた後継代し、更に同様にして2回作用せしめたところ殆どの細胞は脱落してしまった。約20日後にfoci 2〜3ケ認めた。一部にはやはりfiberの形成があり、またpile
upの傾向も認められるがgrowthはあまりよくない。
2x10-7乗:この群ではcell damageは著しくなく、NQ処理にてもある程度細胞のgrowthは認められるが8回作用させたものでは最近growthがおちて来た。
現在まで明らかなtransformationは認めない。
対照:controlのgrowth rateは2代目が7日間で約3.5倍、3代目が10日で約2倍で、その後は継代時のcell
damageがつよく、大体10日毎に継代しているが細胞数としては増加しない。
ii)NQ-7
10-6乗:第1回目作用後10日の間隔で2回目を作用せしめたが、約20日後に2ケのcolonyを認めた。1ケはpile
upしないがfiberの形成が著明で、また培地が非常に粘稠になる。mucopolysaccharideの分泌を思わせる。
5x10-7乗:3回作用後継代し、更に4回目を継代後10日目に2時間同濃度で作用させた。その後約20日経過するが、少数の細胞が残存しているのみでcolonyは認められない。
2x10-7乗:3回処理後2本に継代、1本はその後も同様に2時間ずつ4回作用せしめた。また別の1本はNQ
2x10-7乗Mを含む培地を使用して継代し、3日間放置した。細胞はガラス壁にはよく附着したが、その間増殖は認められなかった。3日経過後NQfreeの培地と交換し、細胞の増殖を待って更に1回2時間同濃度を作用せしめた。
現在両者共growthはおちfocusも認めえない。
2.NG添加
i)NG-11 RL-2cellsを使用
10μg/ml:1回の処理により細胞は著明なdamageをうけ約40日を経過したがfocusなど認められない。
5μg/ml:2時間ずつ4回作用せしめたがcell
damageがつよく10μg/ml処理群と同様である。
1μg/ml:2回処理後継代、更に3回処理して継代、ついで2回処理し、合計7回作用せしめたものではgrowth
rateは、5代目は7日間で1.4倍、6代目は7日間で3倍である。又2回処理後継代し、同様に5回作用せしめたものは、4代目は13日間で1倍、5代目は7日間で2倍の増殖を示している。
培養開始後60日目に固定し、giemsa染色したものでは対照に比して核の大小不同が著明である。
継代後10μg/ml、5μg/mlを作用せしめたものは、細胞のdamageがつよく現在までgrowthはみられない。
なお対照は5代目までは7日間で5〜13倍の増殖を示したが、6代目より殆ど増殖を示さなくなっている。
なおWKA ratの胃の培養については、その後検討を加えているが、培地としては可成りアミノ酸、ビタミンに富んだものがよい様で、目下系統的に検索中である。
:質疑応答:
[堀川]4NQOでラベルしたDNAを抗原にすると、抗体ができるよりさきに腫瘍ができるのではありませんか。
[勝田]今朝安藤班員から、4NQO*を細胞にとりこませた場合、acid
soluble fractionに結合する4NQO量の消長度が大きいと報告されましたが、発癌性はinsoluble
fractionの方にあるのでしょう。
[高木]抗原としてはinsoluble fractionの方を使います。DNAについた4NQOは37℃加温で簡単にとれてしまうそうです。
[黒木]できたtumorの間で共通な抗原がありますか。
[高木]それも大きな問題だと思います。
[勝田]抗血清を作っても、どういう方法で抗体をcheckするかが問題ですね。蛍光抗体法はnon
specificの抗体がどうしても混ってきてしまうし・・・。ごく最近、山本正氏からきいたところでは、ヒトのγ-globulinとマウスのそれとが交叉するものがあるそうで、immuno
electrophoresisも問題をもっていることになります。
[梅田]h2proteinsとさっきのinsoluble fractionとの関係はどうでしょうね。
[勝田]まだ判っていません。H3-4NQOで処理して、初期は細胞のどこに4NQOがあるか判っていても、その後、細胞が増殖をはじめれば放射能はうすまって、追跡が困難になりますね。
[梅田]DABとかDMBAはh2proteinsの塩基性蛋白の部分につき、4NQOはSH基につくと云われていますね。
《黒木報告》
I.BHK-21/4HAQOについて
BHK-HA-1〜HA-7までの成績を表で示す。これらは(?)→マニラ(?)の予研分室→予研→山根研からのwild
BHK、wild BHK-21より当研究室にて2回連続ひろったクローンC22、C22のクローンを3回連続のクローンC222を用いた。7例のうち配列は余り乱れず、しかし細胞はpile
up、剥れやすく、このためコロニーの中心部はもり上り、まだらとなり、daughterコロニーが多くできるものが6例、その内2例は配列が乱れてcriss-cross様となるものが混じっている。あと1例はpolygonalなcellとなり、コロニーの形は丸い。又、5/7はBacto-peptoneなし寒天内の増殖能が獲得された。寒天内のコロニー形成率は20〜30%である。寒天内で増殖できるようになるまでの日数は、HA-4の21日、HA-5の63日までかなりのバラツキがある(HA-1の77日は、そのときはじめてagar
cultureをしたので、いつから寒天内で増殖できるようになったかは明らかではない)。興味あるのは、この日数が、ハムスター胎児/4NQOのときのtransformationの日数と非常に似ていることである。
☆コロニーの形態と寒天内増殖能の間には一定の関係がみられない。またコロニーの形態も培養によって異る。HA-7にのみみられたpolygonalなコロニーは肉眼的にもはっきりと区別できる特徴的なコロニーである。HA-4#3は、寒天内のコロニーをひろったcloneであるが、寒天内で高率にコロニーを作るにも拘わらず、コロニーの形態は“normal”と区別しがたい。これをみるに至って、コロニーの形態からのtransformationの判定をあきらめ、agar中のgrowthのみにtransformationの基準を求めた。全体的に云えることは、寒天内で増殖するようになると、細胞が剥れやすくなり、daughter
colonyを作りやすいことである。寒天内増殖と剥れやすさの間に何らかの関係がありそうである。
☆4NQO、4HAQOに対する抵抗性
以前と同じように、plating(200ケ/dish)後24hrsに4NQO、4HAQOを加える方法をとった。結果を表で示すが、抵抗性は生じなかった。
☆染色体分析:寒天内growthだけでは心細いので、もう一つのmarkerとして染色体分析を試みた。結果を図に示すが、HA-4#5がmode40本である他は、すべて41本にmodeがある。数の上からでは、transformantsと“normal”の間に差はなさそうである。
従来BHK-21細胞は、44本♂の核型をもつと報告されてきた。そこで用いているcellがBHK-21細胞のvariantである可能性が生じてきたので、Moskowitzさんから、BHK-21/C13というクローンを分与してもらった。
BHK-21 clone13について
BHK-21はBaby Hamster Kidneyの培養65日に突然増殖率が上昇し、establishされたが、それから19日目(total
65+19=84days)に分離したクローンの一つがC13である。C13は24cell
generation増殖しharvestが10の8乗になったところで、大量にfrozen
stockされている。StokerのLab.でtransformationの実験に用いられているのは、この凍結アンプレからもどして間もない細胞である*。このことは、彼らのpaperの中でくり返して強調されている。このC13はwildのBHK-21に比してmalignancyの低いということもStokerらによって報告されている。当研究室にきたのは、StokerのLab.で凍結もどしてから10日(60
cell generation)経たものをMoskowitzのLab.で5日間隔で67passageしたものである。*Nature
203,1964,p1355に詳しい。
☆先ずこの細胞及びそのpolyoma virus.RSU
transformantsのBacto-peptone dependencyをみた。(結果表を呈示)
全く予想しなかったことに、C13はBacto-peptoneがあってもコロニーを形成せず、またそのpolyoma
RSV transformantsはB.P.dependencyを有しているということである。すると今まで一生懸命やってきたBHK-21細胞は、全く“variant”ということになり、すべての実験をやり直す必要となった。この他にもC13とwildはかなりの差があり(表を呈示)、例えば移植性はwildからC22は100ケでも100%takeする(C13は目下experiment進行中であるが、10万個接種3週間でtumorを触れない)、4HAQO、4NQOに対する感受性もC13とC22には差があり、C13の方が感受性で10-5.0乗M4HAQOではすべての細胞が死メツし、5x10-6.0乗Mがよさそうである。このような発癌剤に対する感受性の差はSachsらも報告している(Nature,200,1182,1963)。
由緒正しい細胞を選ぶべきであることを痛感した次第です。
II.同調培養によるtransformatione(予報)
2代目のハムスター胎児細胞をexcess TdR(7.5mM)によって(部分的に)同調させ、それぞれのphaseに4HAQO
10-4.5乗M1h.作用させることにより、発癌剤とcell
cycleの関係をみようとするものです。(図と表を呈示)
DNA合成は40%近くまで同調し、発癌剤処置はHA-50〜HA-58の9つの群をおき、それぞれの時間のときに処置した。
transformationの成否はまだ定かでないが、現在focusらしいものがみられているのは、HA-50、HA-52、HA-53、HA-54の四つである。さらに経過をみて(あと2〜3wks.)いくつもりである。
synchronousの方法もprimaryでconfluentしてG1でstopさせ、それをexcess
TdR med.の中にうえこむ方法を検討しているところである。倒立でmitosisをみている範囲では、この方がよいようだ。
III.4NQO及びその誘導体の細胞生活環に及ぼす効果
前に1)4NQOはRNA、DNA、protein合成を抑制するが、2)4HAQOはDNA合成のみ強くeffectiveなこと、3)またnon-carcinogenic
Derivatives 4AQO、3-methyle 4NQOはいずれにも働かないことを示した。それらの作用機序をさらに分析する意味で、これらの物質の細胞生活環に及すeffectをみた。
(1)分裂細胞数の変化
ハムスター胎児細胞の培養にcarcinogenを加えると著しい増殖阻害がみられる。この変化をMitotic
Indexで示した(図を呈示)。
☆第2代のハムスター胎児細胞の培養に、4HAQO、4AQOをそれぞれ10-5.0乗Mづつ加えて培養し、1時間毎にサンプリングした。
MIはcontrol及び4AQOでは0.7〜1.6%(大部分は1.1〜1.4%)の間にある。4HAQOも1時間後はcontrolと同じ幅の中におさまるが、3時間から下降し始める。
☆このような分裂阻害をコルヒチンを加え累積分裂指数で表す(図を呈示)。
前回と同じ所見が得られた。4NQOの強い分裂阻害が目につく。4HAQOは3時間後からplateauを示し、4AQOはコントロールと差がない。興味があるのは、3-methyl
4NQOが軽度の、しかしrecoverするG2blockを示すことである。
☆さらに、それぞれでG2時間を測定すると、コントロールと4AQOは3hrs.、4HAQOは4.8hrs.と、G2時間の延長が4HAQOに認められた。しかし、この程度のG2delayでは分裂阻害を説明することはできず、(G2delay)+(G2期の細胞の傷害)と考えねばならない。この成績は、前に吉田俊秀先生の得た成績と一致する。
☆次に細胞増殖に及す影響をみた(図を呈示)。細胞増殖は4HAQO添加後、3時間は全く影響を受けない。細胞数の減少は6時間より少しづつ表れ、24時間後に最底となる。このように死んでいく細胞が、MI阻害とどのような関係にあるのか問題となる。
(2)G1 blockとS期の阻害
4NQO、4HAQOはG1、S期に対してはどのように働くか。
☆C14-TdR、C14-UR、C14Leuの酸不溶性劃分へのとりこみを、細胞数の変化しない4時間に限って調べた。
ハムスター胎児2代目をFalconシャーレ当り40万個うえこみ、培養2〜3日目に4HAQOとisotopeを同時に加える。いずれも0.1μc/ml。時間後にpronase→1.0N
PCA coldを加える→0.5N PCA→遠心→Ether・EtOH・CHCl3(2:2:1)→遠心→HCOOH→Planchet→Gasflow
counter。*Leuのとりこみのときは、PCA 100℃
30minの加水分解を行う。
ここで分ったことは、最初の4時間で、すでにDNA合成の低下が起っていること、RNA合成もDNAと同じように阻害されるが、proteinはinhibitされないことである。
このうちDNA合成の低下の二つの理由としては、G1
blockと、S期のDNA合成の低下の二つの理由が考えられる。
☆そこでG1 blockをみるために、H3-TdRのcontinuous
labelingによるLIの累積曲線をとってみた。(図を呈示)
MIのときと同様に4NQO 10-5.5乗M、他は10-5.0乗M加え同時にH3-TdR
0.1μc/mlをcontinuous lab.した。4AQO(バラツキがあるが)はcontrolと差がなく、4HAQO、3-methyl4NQOはcontrolより低い。4NQOはlabeling
indexは殆んど上昇しない。ハムスター胎児細胞のG1は、約3.6hrs.であるので、4時間までLIが低いことは、G1
blockの存在を示唆する。それ以後の累積LIの低さはG1+G2
blockによるものであろう。
☆問題のS期のDNA合成阻害については、前の報告(月報6712号)から、当然予想されるところである。これからpulse
labelingによるLIとgrain countの推移をみるexp.をセットしようと思っている。
:質疑応答:
[安藤]labeled mitosisで、delayがあっても100%になるのに、G2
blockがあるといえるのですか。
[吉田]吉田肉腫に4NQO処理してもG2 blockがあります。染色体breakageという意味で。他の期にはありません。
[勝田]最後のデータで考えたのですが、4NQOが4HAQOになって働くのなら、両者のカーブは同じでよい筈ですが、ちがうのは4NQOの毒性のためでしょうかね。それからシンクロは40%位で良いのですか。
[黒木]primaryは仲々むずかしくて、これでもうまくなった方です。4NQOと4HAQOのカーブがちがうのは4NQOの毒性のためと思います。
[勝田]映画で見ると、どうもmitosisとは関係なく、細胞が死ぬように思われます。4NQO処理の場合ですが。
[堀川]mitotic deathといってもその辺を中心にして起る死、という程度の意味です。
《三宅報告》
ヒト胎児皮膚を継代して来たfibroblast様構造のものについて、0.30、1.00、1.30、2.00、2.30、3.00、4.00・・・時間4NQOを作用せしめた。その上で、各濃度の相違のある、各群に、経時的にH3-TdRをとりこませて、L.I.をプロットした。すると10-5乗Mのような高い濃度のものでは急激にL.I.は減少するが、10-6乗M、10-6乗x5では1時間後までは対照と変らない。
この10-6乗Mについて詳しく時間経過を追ってみると、4時間目まで漸減して来て、それから以後はL.I.は再び上昇してゆく。
10-6乗x5Mについては、前に月報に述べたように、3時間目に0となり、立上ることはない。
次にH3-TdRと4NQOを同時に入れてみると、10-6乗Mでは実験群のL.I.開始後数時間で少し落ちるが、爾後そのカーブは対照とかわることはない。5x10-6乗Mとなると、前に述べた様なカーブになって3時間で実験群は0となる。
これと同じことをL株細胞を用いて行った。このLのtg=21hr.、ts=8hr.、tG2=7、tG1+tM=6hr.であった。
その結果はControlにしたL細胞でも10-6乗x5Mで3時間以内にL.I.が減少したことから、4NQOはG1-blockの他にG2-block、又S-blockをきたすと考えられ、いずれとも断言しえないことになった。
目下この2つの細胞について、同調培養を行って、それを決定したいと考えている。
(各実験についての図を呈示)
:質疑応答:
[勝田]L細胞の実験で、labeling indexが最初に下るのはG2
blockを意味しているのではないでしょうか。そして、以後にcontrolよりも反って高い値を示しているのは、S期の延長を示しているのでしょうかね。
[難波]4NQOは培地に入れつづけでしょうか。
[三宅]そうです。4NQOとH3-TdRとを入れつづけたものと、4NQOは入れつづけH3-TdRは45分のflush
labelingしたものがあります。
《梅田報告》
ラット肝のprimary monolayer cultureを勝田先生の方式にしたがい、又多少条件を変えて培養を試みた。即ち(I)ラット肝細切後モチダトリプシン・スプラーゼ処理後、細胞を塩類溶液中に浮遊静置、上清を捨てて、沈殿物に塩類溶液を加え再浮遊、静置、これを繰り返して上清が綺麗になったら沈殿物をLD+20%CSに浮遊させて培養する。(II)Iの方法に殆んど同じであるがトリプシン・スプラーゼ処理後、培地を加え、ガーゼ或はメッシュ濾過後遠心し、沈渣に培地を加えて浮遊させ培養する。材料として特殊例を除き、生後3〜5日のラット肝を用いた。
(1)Iの方式では大きな細胞塊が残っており、それからの生え出しが非常に良く、特に肝細胞の増生が良い。しかし間葉系のendothelと思われる細胞も旺盛に増殖している場所もある。主にこの2種の細胞群から成っている。
IIの方式では2〜5ケ位の細胞数からなる中等大の細胞塊も沢山残っているが、一応disperseした状態からの細胞からも細胞が増生する。50万個cells/mlの接種数で6〜8日後には殆完全なmonolayerを作る。その時の肝細胞増生は全細胞の1/3〜1/2を占め島を作っており、その間を間葉系(?)の細胞が占めている。間葉系の細胞を良く見ると、大型の細胞質のひろがったエオジンに濃染する細胞で核も大型長楕円形で核小体は不規則形2〜3ケあり核全体もヘマトキシリンに淡く染る細胞(endothel?)と、やや小型で核が丸或は楕円で核小体は1〜2ケ丸くくっきりと染る肝細胞核に似た細胞(胆管上皮?)がある。
(2)培地として、MEM+20%CS、MEM+10%tryptose
phosphate broth+10%CSを使用、LD+20%CSと比較してみた所、前2者では良く細胞は増生するが殆んど間葉系細胞で占められ、肝細胞と思われる細胞は、あちこちに数ケ宛細胞質に空胞を生じ、変性して散在する。
(3)1例IIの条件で生後15日のラット肝の培養を試みた所、トリプシン・スプラーゼ処理のpipettingにより細胞の大多数が破壊され、約0.5gの肝組織からスタートして50万個cells/ml
2mlの生細胞しか得られなかった。培養開始後沢山のcell
debrisがあり、2日後にそれを培地で数回洗い去ってから培養を続けた所、生後5日肝培養と同じ様に、肝細胞も間葉系細胞も増生した。ただし、一部に生後5日肝では見られなかった敷石状の配列を示す細胞増生がみられた。
(4)IIの条件で1例生後2日のmouse肝の培養を試みたが、肝細胞の増生は良くなく、肝細胞の大型化多核化が見られ分裂障害を思わせた。
(5)IIの方法で培養した生後5日のラット肝培養細胞にDABを投与した。DABは10mg/mlの割合にDMSOに溶かし、培地で稀釋した。100μg/ml、32μg/mlで肝細胞の著明な空胞変性が見られたが、他の間葉系の細胞では変化が見られず健全に見えた。10μg/mlでは肝細胞の空胞は見られない。
(6)同じく黄変米の毒素であり、肝癌源物質であるルテオスカイリン投与を試みた。1μg/mlで肝細胞だけすべて3日後にcoagulation
necrosisが起り、間葉系細胞だけ残るのが見られた。0.32μg/mlでは萎縮した核をもち細胞質に空胞のある肝細胞が見られた。
:質疑応答:
[高木]継代するとどうなりますか。
[梅田]中間型のような細胞とendothelばかりになってしまいます。医科研の斎藤先生の仰言るには、肝のshaltstuckの細胞ではないか、というのですが・・・。
[佐藤]小型で核の丸い三角のような細胞がshaltstuckだと思います。とにかくいろんなものが出てきますね。私はcolonyにして同定しようかと思っています。
[勝田]箒星のような細胞で、細胞質に平行したセンイ状構造のみられるのは、他のorganをcultureしても出てくるので、血管の内被細胞ではないかと思っていますが・・・。映画でみるとこの細胞は動きません。
[安村]箒星というのはどんな臓器でも出てきますね。
[勝田]小さくてよく動きまわる、おそらくKupferと思われるのも見られます。
[佐藤]平たく拡がった細胞では判らないから、塊にして切ってみようか、と思っています。
[勝田]explant cultureして、反射光源で顕微鏡映画をとると、どんなところからどんな細胞が出てくるか判ると思います。
[藤井]班長のところの肝臓のcell lineは実質細胞ですか。
[勝田]株になったのはほとんど実質細胞だと思います。
[藤井]Rat肝を抗原にして作った抗体でcheckしても、培養系の肝細胞では沈降線が出ないので、どういうことなのかと思っています。
[勝田]培養で増殖系になった肝細胞を抗原にして抗血清を作ると、その結果は変るかもしれませんよ。
《吉田報告》(Abstractの提出がなかったので概略を記す)
黒木班員のところで4HAQO、4NQOでtransformさせたハムスター胎児細胞の諸系の内、今回はmodeが4n近辺の系を主にしらべた。
4nの系に通じて云えることは、全系とも染色体の数と形に異常のあることで、つまり正常の2nの2倍ではないことである。系によって異なってはいても、非常に安定した染色体と、動き易いものとが見られた。また上に記した異常というのは一定の傾向をもったものではなく、系によって異なっていた。
:質疑応答:
[難波]染色体の収縮はX以外にもありますか。
[吉田]他にもありますが、特にXに強いのです。
《安村報告》
☆1.Plating efficiencyとcolony Sizeの培養液の種類による影響:
先月の月報の2-6にふれておきました問題について、予備的にあたってみました。アルビノハムスター腎細胞の2代目の培養をふたたびPlatingしてコロニー形成をみました。細胞数は1,000、2,000、4,000、8,000個。MediumはE:DM-140培地のうち塩類溶液の組成のみEarleの液+コウシ血清10%、199:199液+コウシ血清10%、D:DM-140+コウシ血清10%。(結果の表を呈示)
1-1.コロニー形成数からは有意義の差がありません。またコロニー1こ1この大きさにも差がみとめられません。ただPlating
efficiencyが初代培養の10倍近くなっているのが誤算のひとつでした。初代と同じくコロニーの大きさが小さく、たかだか20~50/コロニーというところで、やはりクローン化できません。
1-2.mediumの種類によってP.E.に差がでなかった理由は一つには、細胞が最初の2週間D液で培養され、ついでちがっmediumにかえられ(3週後に判定、つごう5週間培養)たため、P.E.は最初のD液によって決められてしまったのかもしれません。こんごこの問題をしらべる必要があります。
1-3.Plating efficiencyの上昇はひとつには、まかれた細胞のViabilityによるものと考えられます。初代では総細胞数の50〜60%がviableで、2代めのものはほとんど100%に近くviableでしたから。
:質疑応答:
[黒木]Feederを使ったらsizeが全然大きくなると思います。
[佐藤]single cellの比率はどの位ですか。
[安村]はじめは50%位ですが、2代目になるとほとんど100%です。
[佐藤]2代目にplating efficiencyがそう上るというdataはあまり聞きません。
[安村]もう一度やってみようとは思いますが、トリプシンのかけ方などに影響されるのではないですかね。5〜80%位のひらきが、培地のlot
No.によって出るというようなこともあります。
《山田報告》
細胞表面構造を研究するために、細胞電気泳動装置を製作し、この装置で物理化学的条件並びに被検細胞の生物学的条件を種々検討して来ました。その一環の仕事として、細胞免疫に関する実験も開始しましたので書いてみます。
即ち細胞表面における抗原抗体反応を細胞電気泳動法により量的に測定するためのfirst
stepの実験です。今回は最も単純な方法としてアルブミンに対する脾細胞抗体産生の程度を調べてみました。具体的には、抗原性の異なる卵白アルブミンと牛血清アルブミン(各3mg)をFreundのadjuvantと共に週二回、それぞれラットの皮下に注入し、合計四回感作後、一週間をおき、ラットの脾臓を摘出。鋏で細切し、looseなホモゲナイザーでかるくこすり、脾細胞浮遊液を製作。この感作細胞に各々抗原であるアルブミンを37℃30分接触させた後に生食にて洗浄し、1/10Mヴェロナール緩衝液(pH7.0)をメヂウムとして細胞電気泳動度を測定した。
3回の実験結果(表を呈示)、それぞれの抗原であるアルブミンと接触した場合に選択的に感作脾細胞の泳動度は低下し、両アルブミンで感作された脾細胞は両アルブミンの接触により共に泳動度が低下しています。
しかし、この抗原アルブミンによる電気泳動度の低下は必ずしも大きくはない。従来の報告によると、脾における抗体産生細胞は数%であるとされて居ますので、実際の抗体産生細胞表面に抗原のアルブミンが結合し、その表面の荷電をマスクし、泳動度を低下させる程度は更に大きいと考えます。
従って今後、抗体産生細胞のみをえらび出して、その抗原の表面結合による荷電の低下を測定すべく工夫している所です。
今回の成績により細胞表面における抗原抗体反応を直接細胞電気泳動法により測定できるという確信を得ましたので、次に悪性化に伴う細胞表面の変化や、宿主の抗体産生細胞の認識に、この免疫細胞電気泳動法を用いようと計画中です。
【勝田班月報:6806:4NQOのphotodynamic
action】
A.ラッテ肝細胞の増殖期による4NQOの感受性の相違:
これまでの実験で、どうもその都度、都度で4NQOの細胞に対する影響にむらがあるように思われたので、RLC-10株(正常ラッテ肝細胞)を使って増殖のいろいろな時期に4NQOを添加し、その増殖に対する影響をcell
countingでしらべた。
結果は(増殖曲線の図を呈示)、増殖のstageによって細胞のresponseがかなり違うことが判った。しかしこれは、他の実験からも判ったことであるが、細胞のstageというより、むしろ細胞数/tubeの影響が大きいのではないかと推測される。
B.4NQOのphotodynamic action:
前月号の月報に記したが、癌センターの永田氏が4NQOのphotodynamic
actionについて報告している。我々も顕微鏡映画で観察していて、どうもそれに一致するようなデータを色々と得たので、果してそれが本当かどうか、cell
countingで定量的にしらべてみた。細胞はRLC-10株(正常ラッテ肝)で、4NQOで37℃、3.3x10-6乗M(その他の濃度もみたが)、30分間処理後すぐに365mμのマナスル・ランプで、室温で2時間照射し、増殖に対する影響をしらべた。No.6709の月報に報告したように、4NQOの特異吸収は366mμと252mμにあるので、この波長は正しいと思う。
(結果の図を呈示)おどろいたことに、正にphotodynamic
actionを4NQOの持っていることが確認された。
光だけを各種時間に照射したcontrolsははっきりとした増殖抑制は認められない。ところが4NQOで30分間処理した直後に光をあてると、照射時間の長さに比例してはっきりと細胞の破壊が起った。
同様の実験を、種々の濃度の4NQOについておこなった結果、やはり4NQOの濃度の高いほど細胞障害は強く現われた。
このようなphotodynamic actionがどんな意味をもっているか、ということであるが、永田氏はphotonによって4NQOにfree
radicalができて、それが細胞のDNAに破壊的に働く、と考えているようである。しかしそのようなDNA
levelでの障害が直接発癌に結びつくかどうか、私は疑問に思っている。photodynamic
actionは発癌作用とは関係のない、副次的な現象であるかも知れないし、あるいはきわめて重要な役割をしているのかも知れない。これは今後解明すべき問題である。
H3・4NQOを培地に入れると、4NQOは細胞内の色々な成分と結合するが、とくに蛋白との結合量は大きい。Biochemistsはすぐに核酸の方を考えたがるが、この場合、蛋白、とくにlysosomal
enzymesとの関連などについてしらべることは大変面白いのではないかと、私は思っている。そして4NQOの解毒をする酵素の誘導も大いにしらべてみたいと思っている。
《安藤報告》
H3-4NQOの細胞内への取込みのKineticsについて:
A.L・P3細胞の場合:
実験方法は月報No.6801に勝田先生が書かれている方法と基本的には同じです。即ちL・P3細胞を培地DM-120中TD-40で約500万個/bottle迄生やし、これにH3-4NQO(がんセンター川添氏より分与)10-3乗M
in 10%DMSO液を0.1ml/10ml培地/TD-40添加し、終濃度10-5乗Mとする。直ちに培養ビンは出来る限り遮光し37℃静置培養する。
その後、時間を追ってサンプリングし、培地を捨て、Dで一回洗う。
細胞を少量のDに懸濁し、酸不溶性分劃(核酸、蛋白が主成分)と酸可溶性分劃に分けカウントする。
結果及び考察:(図を呈示)
1)酸不溶性分劃への取込みは30分で止り、その後2時間迄不変のようだ。5時間目の点が下っているのは、本質的なものか実験のエラーか不明。
2)5時間目に培地中よりH3-4NQOを除くと、この不溶性分劃のラベルは再び放出されるようだ。この部分が核酸についていたものか、それとも蛋白についていたものか定めるべきだろう。
3)月報No.6804に堀川さんが記しておられるように、酸可溶性分劃への取込は非常に特異的である。即ち30分あるいはそれ以前に最大値に達し、以後、培地中に多量存在するにもかかわらず、細胞外に放出されてしまう。毒物に対する細胞の防衛機構を如実に見せられた思いである。L・P3は4NQOに対し次に調べた正常ラット肝細胞よりもより抵抗性が強いので、そのためにこのような再放出の現象があるかと思って、RLC-10についても同様な実験を行ってみた。(図を呈示)図にある通り全く同じ結果となった。
B.RLC-10細胞の場合:
4NQOに対する感受性の、より強いラッテ正常肝細胞の場合に於て異なる結果を期待したが、酸不溶性分劃への取込みも、酸可溶性分劃への取込みも、全くL・P3の場合と同じであった。但し使用培地はLDにCS・20%添加したものであり、H3-4NQOの濃度は3.3x10-6乗Mであった。
C.L・P3細胞の核酸、蛋白質分劃への取込み:
L・P3を前記条件で2時間H3-4NQO処理を行い、直ちに細胞分劃を行い、核酸分劃と蛋白分劃に分けてみた。
分劃 DPM/1,100万個cells %分布
細胞全体 170,450 100
酸不溶性分劃 8,615 6.4
酸可溶性分劃 125,910
93.6
酸不溶性分劃の内
100
核酸分劃 2,620
23.8
蛋白分劃 8,520 76.2
上記の表のような結果になった。今後の方針として、更に核酸分劃のRNA、DNAを分け、各々いかなる塩基と結合しているか、又蛋白部分についても、いかなる種類の蛋白に結合しているか、等を検索する予定である。
:質疑応答:
[堀川]4NQO処理後のwashはどの程度やりましたか。
[安藤]等張液でさっと一回洗うだけです。
[高木]4NQOの濃度はどの位ですか。
[安藤]L・P3は10-5乗M、RLC-10は3.3x10-6乗Mが終濃度です。
[堀川]細胞当りの取込み量は、L・P3とRLC-10でちがいますか。
[安藤]ほぼ同じ位です。
[堀川]私の実験でも酸可溶性分劃のcountが短時間で最高値に達し、それからすぐにすっと下がってしまうのは何故でしょうか。
[黒木]10-5乗Mで5時間も添加していると、細胞が死んでしまいませんか。
[勝田]L・P3は4NQOに対してすごく強い細胞系で、5時間位では平気です。それにRLC-10にしても映画での観察によれば、死に始めるのは5時間よりずっとたってからですね。むしろ、そういうことより細胞側の解毒作用というか、4NQO分解酵素の活性がinduceされて、その結果として酸可溶性分劃のcountが急激におちるとは考えられませんか。
[梅田]若しそうだとすると、5時間後に又4NQOを添加してももう受付ないという現象が起るはずですね。
[安藤]それは面白い考えだと思います。早速やってみましょう。
[勝田]私もその考えは面白いと思いますね。しかし、培地中に4NQOが一杯あるというのにその取り込みにピークがあり、急激な減少があるというのは又面白いことですね。
それから、うすい濃度でL・P3の増殖を促進するのですが、その時4NQOが細胞のどの分劃に取り込まれているかということにも興味があります。安藤君は核酸を追いたいというだろうが、私はむしろ蛋白の方に問題があると思い、蛋白を追え!と言っています。
[堀川]始の報告のphotodynamic actionについてですが、その機構はまだよくわかっていないのですね。
[勝田]癌センターの永田氏の話では、4NQOの誘導体の殆どが、発癌性とphotodynamic
actionが平行していますが、4HAQOだけが例外で、発癌性は高いのにphotodynamic
actionはないということです。
[佐藤]しかし動物の体内での発癌を考える時、photodynamic
actionなんで考えられないと思いますが。
[勝田]そうですね。そう考えると培養での4NQO発癌実験も光を与えてどうなるかより、真暗な中で培養するべきだということになりますね。実際に、暗くして映画を撮ってみますと、細胞のこわれ方もずっと少ないし、何か細胞の状態が明るいままで映画を撮った時とちがうようです。
[堀川]photodynamic actionは治療に利用出来そうな気もします。
[高木]最後の図は4NQOの細胞周期に対する影響というよりも細胞数に対する影響をみていることにはなりませんか。
[勝田]そうです。
[黒木]生きている細胞でなくても、レントゲン照射した細胞をフィーダーにおいても4NQOの毒性は弱まります。
[勝田]そういうことは何を意味しているのでしょうか。培地にはありあまる程4NQOがあるわけですから、細胞数が多くなっても細胞1コあたりの4NQO量がうすまるわけではありませんし。
[堀川]私の実験からは、取り込んだ4NQOを4HAQOに変える能力の違いが細胞の4NQOに対する抵抗性の違いとなって現れてくるというようなデータになりつつあるようです。
それから、又photodynamic actionの実験ですが、4NQO処理後すぐ照射する実験の他に処理後の時間をかえて照射するとどうなるかもしらべると面白いですね。
[勝田]これからしらべてみます。私達はこれからL・P3をモデル実験に使いたいと思っています。L・P3は現在の所C3Hには腫瘍を作りません。L・P3は合成培地に増殖している細胞で、血清培地で飼われている細胞とは膜の構造が全然ちがうわけです。にもかかわらず4NQOの作用(今の所取り込み)が同じだということは4NQOの作用が膜構造には左右されないといえると思います。
《佐藤報告》
◇4NQO発癌実験の現況
A.ラッテ肝(Exp.7)←4NQOはその後2匹のtakeで実験例49匹中16匹(33%)が発癌。
対照群は10匹中0となった。現在最終復元動物が7ケ月を経過したので近く全動物を屠殺処理する。
復元接種動物が腫瘍死するまでの平均日数は188日であった。
腫瘍の組織像は肝臓癌と診断されるもの12例、癌肉腫と診断されるもの2例、繊維肉腫と考えられるもの1例、残りの例は腫瘍であることは間違いないが性格(ラッテ自然発癌?)がよく分らなかった。
核型分析
Exp.7 肝細胞株の対照株については前号に報告した。この対照株の総培養日数512日に当たる実験株526日の培養時における染色体と、動物復元後発生した腫瘍の再培養細胞の染色体分析をおこなった。
(染色体数分布図と核型分析図を呈示)核型分析ではNeoplastic
line即ち4NQOを投与された総培養日数500日以上の培養細胞では41にmodeがあり、50ケのMetaphase中に22ケの44%を示した。10ケのMetaphaseの分析を行った所、略同一の核型を示した。即ちMeta-Group
12ケ、ST-Group 7ケ、T-group 18ケ及び異型染色体4ケの計41である。異常染色体4ケ以外の染色体は略正常なラッテの核型である。(異常染色体4ケの模型図を呈示)腫瘍再培養細胞の染色体数は43にModeがあるので、分析可能な43の2ケのMetaphaseについて検索した所、1つは前記同様の4つの異型染色体Groupをもっていることが判明した。他の1つは異型染色体2つをもっていたが特異なGroupは存在しなかった。然し描写による検索では前記4Groupをもつ染色体型が他の染色体数の部にも広く認められた。極めて単純に云へばこの4Groupの発生が4NQOの作用によると考える。
上記のNeoplastic lineを動物に復元し出来たTumorを再培養したものの核型は(図を呈示)異型染色体はTumor
lineの6Groupとなっていた。この場合Modeは43であった。幹細胞の数は22%であった。検索された10ケの核分析の内9つは同型であり、動物復元前時の特異的4Groupの他にsmall
sizeのTeloが2ケ増加したものであった。動物復元前の4NQO処理培養細胞の中には今の所この型は見当らないが、それは培養細胞時にはPopulation中における%が低いためであろう。この点はギムザ標本及び復元動物の生存日数からも推定できる。(対照の培養細胞に現れる異型染色体図を呈示)此等の異型染色体が個々に現われる場合が多い。今後尚詳細に検討していく積りである。
4NQO耐性の問題:
4NQOによって発癌したと考えられる株細胞(Exp.7)と、その株細胞を動物に復元接種しTumorより再培養した細胞、及び対照株について継代培養と同時に4NQOを10-6乗M、10-7乗M、10-8乗Mに添加して48時間後の細胞数を比較した。(図を呈示)結果はNeoplanstic
lineもTumorよりの再培養細胞(Neoplastic lineよりTumor
cellを取りだしたもの)も共にControlに比較して耐性をもっていた。この場合の耐性は、既にDABの場合にも述べた様に薬剤中に長く存在したための耐性で腫瘍とは関係がない様に考えられる。
B.動物復元 続き
動物番号146〜157の復元表を呈示する。
C.培養ラット肺細胞←4NQO
1967-6-1に生まれる直前のラッテの肺細胞をtrypsinizeして、20%BS+YLEで培養し、4NQO実験を行っていたものの内、10-6乗Mの4NQOを33回処理したものでラッテ新生児皮下復元にTumorを発見した。腫瘍の性格は未だよく分らない。
D.ラッテ全胎児←4NQO
(5例の実験の一覧表を呈示)
動物復元観察日数は丁度6ケ月である。従って6ケ月でTumorをつくらない場合には結果は腫瘍形成がないことになる。5例中で実験RE-5、10-6乗M、100日処理のみが+であった。
:質疑応答:
[黒木]今、呈示された表で、濃度を同じに換算して時間の統計として比較するというのは、理論的に意味ないと思われますが、どうでしょう。薬剤の濃度と処理時間というのは異質のものだと思います。
[安藤]ある濃度以下の処理では何時間処理しても効果がなく、それ以上だと10分でも効果があるといった、oll
or noneの場合もあるから、時間の総計で比較するために濃度を同じに換算するのは少し変ですね。
[佐藤]逆にそういうことを証明するのに、こういう計算をしてみた積りです。つまりうすい濃度では濃い濃度での集計時間に達する程の長い時間処理しても悪性化はおこらないのだ、ということが数字で現せると思います。
[勝田]復元例で、同系の細胞なのにtakeされたり、されなかったりするのは何故でしょうか。
[佐藤]培養だけでつづけている系と、一度復元してtakeされ再培養した系では染色体の核型が多少ちがっています。そういう点から考えられることはRatの肝細胞の場合、全部が悪性化しているわけでなく、しかもそのpopulationが培養の時期によって変わるので、takeされたりされなかったりするということです。
[梅田]基本的なことですが、LD培地とYLE培地とはイーストエキストラクトのあるないの他に、pHもちがうわけですから、要素を二つ変えて比較するのはよくないと思います。LDとYLDにするべきですね。
[黒木]コロニーを作らせることは出来るのですか。系の一部が悪性化しているのなら、悪性細胞のコロニーを拾えば、動物への復元の問題は解決されると思われます。
[吉田]動物への復元実験の対照群の匹数が実験群に比べて少なすぎるようです。このデータですと対照群の中に変異細胞がいないとは断言出来ませんね。
[佐藤]それは私も痛感しています。これ以後の実験では対照群を増しています。
[勝田]何時も云うことですが、反復実験は同じ系の培養でなく、新しい系で追試した方がよいですね。
[堀川]耐性をしらべたgrowth curveの所で、耐性についてですが、takeされるようになった時までに添加された4NQOの濃度はどの位ですか。
[佐藤]濃度は一定でなく、かなり長く処理しています。この場合耐性は悪性と平行するものではなく、4NQOを添加していた期間に平行するものと考えられます。
[三宅]復元して出来たtumorの組織像は上皮性な感じがしますね。エオジンをよくとっているのは、ケラチン様物質があるのではないでしょうか。
[吉田]染色体の核型分析についてですが、1例でははっきりしませんが、本当なら面白いですね。私自身のデータからも染色体の変化と悪性化とが関係づけられる、ある染色体のパターンがあるようだとは考えています。
[勝田]ただ、1例では何とも言えませんね。
[安村]再培養した系の場合、43本でないものでも、この5本のグループを持っていますか。
[佐藤]たいてい持っているようですが、まだ正確にはしらべてありません。
[安村]再培養した細胞系を又復元するとtakeする率がよくなりますか。又復元前の細胞の染色体の中にtakeされた細胞の染色体と同じものがありますか。
[佐藤]50コ位しらべてみた所では見つかっていません。しかし、もっと沢山エネルギッシュにしらべてみたら見つかるのではないかと考えています。又培地や培養法をかえれば、悪性細胞をセレクト出来るのではないかと思います。
[安村]動物への接種細胞数はどの位ですか。
[佐藤]だいたい100万個位です。
[安村]矢張り何コ中に1コの悪性細胞がいるのかということを調べておく必要がありますね。それから、この5本のグループの染色体が確かに悪性と関係があるのだと言いたければ、ハイブリッドを作らせて、この染色体のはいったのが悪性だということまでチェックすればよいでしょう。
[吉田]実際にはなかなか難しいことです。この染色体があるから悪性化しているのか、或は他の染色体が無くなったこととの組合わせに於いて悪性化と関係があるのか判りませんね。それから4NQOが染色体変異を起こすことは確かです。このデータもその変異の一つでしょう。しかし4NQOによる悪性化が、こういう染色体変化に集約されるとは断言出来ません。
[佐藤]変異だけでなく、次に悪性化することを考えれば、変異したものが一定の方向に集約されることも考えられると思います。
[勝田]染色体の標本をみる場合、数えられないもの、しらべられないものが沢山あり、そういうものの中に問題がある場合も考えられます。
[安村]復元前の培養細胞の中に、この5本のグループがあるのか無いのか先ずしらべてみなくてはいけませんね。その上で5本のグループの中の2本の染色体がクサイという事実があれば、それがハイブリダイゼーションという手法で確かめられるのではありませんか。
[堀川]酵素活性と関係のある染色体の場合とは違って、腫瘍性と関係のある染色体というのは、すごく複雑でむつかしいと思います。
[安村]いや、私も腫瘍性を染色体でチェック出来るなんて事は否定の方に90%位ですが、若しできるとすれば大変面白いと思います。
[勝田]何にしても1例だけでエキサイトしなさんな。
[佐藤]私も1例だけで何とか言おうとは決して思っていませんが、ただこの例は理論的に考えやすかったので出してみたまでです。私として言いたいことは、この系の培養のpopulationの中に悪性化した細胞は少ないのではないかということ、又4NQOの作用したという証拠は残っているのではないかということです。
[勝田]佐藤班員の研究室でRatそのものの自然発癌率はどうですか。
[佐藤]非常に少ないようです。
[勝田]それも一応データとしてとっておいた方がよいですね。
[佐藤]復元実験のやり方を考えてみる必要を感じています。復元して長くおけばtakeされることがわかっているわけだから、もっと短期間で対照との比率に於いて悪性度をみることにしたいと思っています。
[安村]発癌剤によって悪性化する率が低いということは、Ratは発癌実験に不適当だということではないでしょうか。
それから接種数100万個の中、1、2コの悪性細胞が居たために動物にtakeされたとするなら、復元前にその100万個の細胞を寒天へまいてコロニーを作らせれば悪性のコロニーを1、2コ拾うことが出来るのではないでしょうか。現在の手法では、寒天法は悪性のコロニーを拾うために良い方法とされているわけですから。そうすればもっと高率にtakeされる系を作れるはずです。
[勝田]コロニー法ではpureなクローンはとれませんね。肝細胞を映画に撮っていて経験しましたが、分裂した娘細胞同志が一緒に居ずに離れてしまい、他の所から別の細胞が動いてきてくっついて、あたかも娘細胞同志のような顔をしていたりするのです。
[安村]クローンについては確かにそうですが、目的によっては定量的に扱えるということでコロニー法の利点もあります。
[藤井]腫瘍細胞には同種の抗体に抵抗性があるかも知れないということから、同種の抗体で悪性化した細胞をセレクト出来ないでしょうか。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞における放射線ならびに化学発癌剤障害回復の分子機構の研究(5)
これまでの報告で培養細胞のもつ紫外線障害回復機構と4NQO処理による障害回復機構の間には何ら関連性のないことを示してきた。
つまり紫外線に対して最も感受性株のブタPS細胞が4NQO処理に対しては最も抵抗性を示し、4NQO処理による障害回復の機構は紫外線照射によって生じるThymine
dimerの除去機構では説明出来ないことがわかって来た。
第2の段階として、4-HAQOに対するマウスL細胞、Ehrlich細胞、PS細胞の感受性を比較する問題が生じてきた。黒木さんより得た4-HAQO(国立がんセンター川添豊氏合成品)を使用した範囲では(図を呈示)、三者の細胞株間には感受性の差異は認められない。(これらはいづれも4-HAQOを含んだMedium内で約2週間培養期間中、それぞれの細胞を培養した際のcolony
forming abilityからdetermineしたもので障害回復能よりもむしろ4-HAQOに対する耐性度をみたものであることに注意されたい!!)
勿論現在の段階では4-HAQOの濃度分割が大きすぎるので正確な耐性度を比較することは不可能であるとは言え、本報No.6802に示した4NQO濃度−生存率曲線と比較して大きな違いのあることがわかる。また4-HAQOのtoxicityは生存率曲線でみた範囲では4NQOの10〜100分の1であることもわかる。
従ってこれまでの結果を総合して考えると培養細胞間の4NQOに対する感受性の差異は、細胞間の4NQO透過性の差異で説明するよりも、4NQOを4-HAQOにreduceするreduction
enzymeのactivityの差異で説明する方がよさそうである。
このことは言葉をかえると、取り込んだ4NQOを4-HAQOにreductionする能力の高い細胞(つまりPS細胞のごときもの)では生存率で見るかぎりその毒性から受ける障害の度合が4NQOから受けるそれよりも少ないであろう。しかし発癌と云う立場からみると、このように4-HAQOにreductionする能力の高い細胞では発癌の可能性が高いと考えてもいい訳である。このような観点からみると、私が当初予想した考えがうまく説明出来そうで発癌のさいにtarget
cellの存在を考えるのも面白い。
:質疑応答:
[勝田]可視光線の光量をergで書いてありますが、具体的にどういう装置で照射したのですか。
[堀川](装置図を呈示)スターラーの上にのせたビーカーに水をいれて、その中にtubeを並べます。60cm離れた所から東芝500w引き伸ばし用電球で照射しました。
[勝田]可視光線で2時間照射すると、コロニーを作る能力が減少したというわけですね。RLC-10の増殖に対しては影響がありませんでした。奥村君から貰ったハムスターの細胞は悪性化しているものですか。
[堀川]それについては、はっきり知りません。
[勝田]Chick brainにP.R.activityがあることになっていますが、どういうことでしょうか。何か他の酵素のside
effectではありませんか。
[堀川]サイトクロムCなどがそうではないかと言われていたこともありますが、現在では否定されて、P.R.activityは独特のものだと言われています。放射線による断裂のrecoveryが、若し腫瘍を材料にした場合、腫瘍性を失うとか、はじめに持っていた酵素活性を失うとか、misrepairingで説明できないでしょうか。
[吉田]胎生の早い時期とadultでは、そういう修復機能がちがわないでしょうか。
[堀川・勝田]ちがうでしょうね。
[勝田]細胞の全cell cycleを通じてP.R.enzymeがあるとすれば、stageによってrepairのちがうのは?
[安藤]定性的にはいつもあってもstageによって活性の違うことも考えられますね。
《高木報告》
1.4NQO添加
i)NQ-6
10-6乗:RL-2cells 2代目に2回作用させたものはあまりcell
damageなく、2回目作用後2日後に継代した。10日後にはほぼfull
sheetの状態になったので更に同濃度で2時間1回作用させた。今回は細胞は可成りのdamageをうけて殆ど脱落したが、約20日後にfoci2ケを認めた。うち1ケはpile
upは認めないがfiberの形成がみられた。しかしこのcolonyの細胞の増殖はあまりよくない。
5x10-7乗:2回作用せしめた後継代し、更に同様にして2回作用せしめたところ殆どの細胞は脱落してしまった。約20日後にfoci 2〜3ケ認めた。一部にはやはりfiberの形成があり、またpile
upの傾向も認められるがgrowthはあまりよくない。
2x10-7乗:この群ではcell damageは著しくなく、NQ処理にてもある程度細胞のgrowthは認められるが8回作用させたものでは最近growthがおちて来た。
現在まで明らかなtransformationは認めない。
対照:controlのgrowth rateは2代目が7日間で約3.5倍、3代目が10日で約2倍で、その後は継代時のcell
damageがつよく、大体10日毎に継代しているが細胞数としては増加しない。
ii)NQ-7
10-6乗:第1回目作用後10日の間隔で2回目を作用せしめたが、約20日後に2ケのcolonyを認めた。1ケはpile
upしないがfiberの形成が著明で、また培地が非常に粘稠になる。mucopolysaccharideの分泌を思わせる。
5x10-7乗:3回作用後継代し、更に4回目を継代後10日目に2時間同濃度で作用させた。その後約20日経過するが、少数の細胞が残存しているのみでcolonyは認められない。
2x10-7乗:3回処理後2本に継代、1本はその後も同様に2時間ずつ4回作用せしめた。また別の1本はNQ
2x10-7乗Mを含む培地を使用して継代し、3日間放置した。細胞はガラス壁にはよく附着したが、その間増殖は認められなかった。3日経過後NQfreeの培地と交換し、細胞の増殖を待って更に1回2時間同濃度を作用せしめた。
現在両者共growthはおちfocusも認めえない。
2.NG添加
i)NG-11 RL-2cellsを使用
10μg/ml:1回の処理により細胞は著明なdamageをうけ約40日を経過したがfocusなど認められない。
5μg/ml:2時間ずつ4回作用せしめたがcell
damageがつよく10μg/ml処理群と同様である。
1μg/ml:2回処理後継代、更に3回処理して継代、ついで2回処理し、合計7回作用せしめたものではgrowth
rateは、5代目は7日間で1.4倍、6代目は7日間で3倍である。又2回処理後継代し、同様に5回作用せしめたものは、4代目は13日間で1倍、5代目は7日間で2倍の増殖を示している。
培養開始後60日目に固定し、giemsa染色したものでは対照に比して核の大小不同が著明である。
継代後10μg/ml、5μg/mlを作用せしめたものは、細胞のdamageがつよく現在までgrowthはみられない。
なお対照は5代目までは7日間で5〜13倍の増殖を示したが、6代目より殆ど増殖を示さなくなっている。
なおWKA ratの胃の培養については、その後検討を加えているが、培地としては可成りアミノ酸、ビタミンに富んだものがよい様で、目下系統的に検索中である。
:質疑応答:
[堀川]4NQOでラベルしたDNAを抗原にすると、抗体ができるよりさきに腫瘍ができるのではありませんか。
[勝田]今朝安藤班員から、4NQO*を細胞にとりこませた場合、acid
soluble fractionに結合する4NQO量の消長度が大きいと報告されましたが、発癌性はinsoluble
fractionの方にあるのでしょう。
[高木]抗原としてはinsoluble fractionの方を使います。DNAについた4NQOは37℃加温で簡単にとれてしまうそうです。
[黒木]できたtumorの間で共通な抗原がありますか。
[高木]それも大きな問題だと思います。
[勝田]抗血清を作っても、どういう方法で抗体をcheckするかが問題ですね。蛍光抗体法はnon
specificの抗体がどうしても混ってきてしまうし・・・。ごく最近、山本正氏からきいたところでは、ヒトのγ-globulinとマウスのそれとが交叉するものがあるそうで、immuno
electrophoresisも問題をもっていることになります。
[梅田]h2proteinsとさっきのinsoluble fractionとの関係はどうでしょうね。
[勝田]まだ判っていません。H3-4NQOで処理して、初期は細胞のどこに4NQOがあるか判っていても、その後、細胞が増殖をはじめれば放射能はうすまって、追跡が困難になりますね。
[梅田]DABとかDMBAはh2proteinsの塩基性蛋白の部分につき、4NQOはSH基につくと云われていますね。
《黒木報告》
I.BHK-21/4HAQOについて
BHK-HA-1〜HA-7までの成績を表で示す。これらは(?)→マニラ(?)の予研分室→予研→山根研からのwild
BHK、wild BHK-21より当研究室にて2回連続ひろったクローンC22、C22のクローンを3回連続のクローンC222を用いた。7例のうち配列は余り乱れず、しかし細胞はpile
up、剥れやすく、このためコロニーの中心部はもり上り、まだらとなり、daughterコロニーが多くできるものが6例、その内2例は配列が乱れてcriss-cross様となるものが混じっている。あと1例はpolygonalなcellとなり、コロニーの形は丸い。又、5/7はBacto-peptoneなし寒天内の増殖能が獲得された。寒天内のコロニー形成率は20〜30%である。寒天内で増殖できるようになるまでの日数は、HA-4の21日、HA-5の63日までかなりのバラツキがある(HA-1の77日は、そのときはじめてagar
cultureをしたので、いつから寒天内で増殖できるようになったかは明らかではない)。興味あるのは、この日数が、ハムスター胎児/4NQOのときのtransformationの日数と非常に似ていることである。
☆コロニーの形態と寒天内増殖能の間には一定の関係がみられない。またコロニーの形態も培養によって異る。HA-7にのみみられたpolygonalなコロニーは肉眼的にもはっきりと区別できる特徴的なコロニーである。HA-4#3は、寒天内のコロニーをひろったcloneであるが、寒天内で高率にコロニーを作るにも拘わらず、コロニーの形態は“normal”と区別しがたい。これをみるに至って、コロニーの形態からのtransformationの判定をあきらめ、agar中のgrowthのみにtransformationの基準を求めた。全体的に云えることは、寒天内で増殖するようになると、細胞が剥れやすくなり、daughter
colonyを作りやすいことである。寒天内増殖と剥れやすさの間に何らかの関係がありそうである。
☆4NQO、4HAQOに対する抵抗性
以前と同じように、plating(200ケ/dish)後24hrsに4NQO、4HAQOを加える方法をとった。結果を表で示すが、抵抗性は生じなかった。
☆染色体分析:寒天内growthだけでは心細いので、もう一つのmarkerとして染色体分析を試みた。結果を図に示すが、HA-4#5がmode40本である他は、すべて41本にmodeがある。数の上からでは、transformantsと“normal”の間に差はなさそうである。
従来BHK-21細胞は、44本♂の核型をもつと報告されてきた。そこで用いているcellがBHK-21細胞のvariantである可能性が生じてきたので、Moskowitzさんから、BHK-21/C13というクローンを分与してもらった。
BHK-21 clone13について
BHK-21はBaby Hamster Kidneyの培養65日に突然増殖率が上昇し、establishされたが、それから19日目(total
65+19=84days)に分離したクローンの一つがC13である。C13は24cell
generation増殖しharvestが10の8乗になったところで、大量にfrozen
stockされている。StokerのLab.でtransformationの実験に用いられているのは、この凍結アンプレからもどして間もない細胞である*。このことは、彼らのpaperの中でくり返して強調されている。このC13はwildのBHK-21に比してmalignancyの低いということもStokerらによって報告されている。当研究室にきたのは、StokerのLab.で凍結もどしてから10日(60
cell generation)経たものをMoskowitzのLab.で5日間隔で67passageしたものである。*Nature
203,1964,p1355に詳しい。
☆先ずこの細胞及びそのpolyoma virus.RSU
transformantsのBacto-peptone dependencyをみた。(結果表を呈示)
全く予想しなかったことに、C13はBacto-peptoneがあってもコロニーを形成せず、またそのpolyoma
RSV transformantsはB.P.dependencyを有しているということである。すると今まで一生懸命やってきたBHK-21細胞は、全く“variant”ということになり、すべての実験をやり直す必要となった。この他にもC13とwildはかなりの差があり(表を呈示)、例えば移植性はwildからC22は100ケでも100%takeする(C13は目下experiment進行中であるが、10万個接種3週間でtumorを触れない)、4HAQO、4NQOに対する感受性もC13とC22には差があり、C13の方が感受性で10-5.0乗M4HAQOではすべての細胞が死メツし、5x10-6.0乗Mがよさそうである。このような発癌剤に対する感受性の差はSachsらも報告している(Nature,200,1182,1963)。
由緒正しい細胞を選ぶべきであることを痛感した次第です。
II.同調培養によるtransformatione(予報)
2代目のハムスター胎児細胞をexcess TdR(7.5mM)によって(部分的に)同調させ、それぞれのphaseに4HAQO
10-4.5乗M1h.作用させることにより、発癌剤とcell
cycleの関係をみようとするものです。(図と表を呈示)
DNA合成は40%近くまで同調し、発癌剤処置はHA-50〜HA-58の9つの群をおき、それぞれの時間のときに処置した。
transformationの成否はまだ定かでないが、現在focusらしいものがみられているのは、HA-50、HA-52、HA-53、HA-54の四つである。さらに経過をみて(あと2〜3wks.)いくつもりである。
synchronousの方法もprimaryでconfluentしてG1でstopさせ、それをexcess
TdR med.の中にうえこむ方法を検討しているところである。倒立でmitosisをみている範囲では、この方がよいようだ。
III.4NQO及びその誘導体の細胞生活環に及ぼす効果
前に1)4NQOはRNA、DNA、protein合成を抑制するが、2)4HAQOはDNA合成のみ強くeffectiveなこと、3)またnon-carcinogenic
Derivatives 4AQO、3-methyle 4NQOはいずれにも働かないことを示した。それらの作用機序をさらに分析する意味で、これらの物質の細胞生活環に及すeffectをみた。
(1)分裂細胞数の変化
ハムスター胎児細胞の培養にcarcinogenを加えると著しい増殖阻害がみられる。この変化をMitotic
Indexで示した(図を呈示)。
☆第2代のハムスター胎児細胞の培養に、4HAQO、4AQOをそれぞれ10-5.0乗Mづつ加えて培養し、1時間毎にサンプリングした。
MIはcontrol及び4AQOでは0.7〜1.6%(大部分は1.1〜1.4%)の間にある。4HAQOも1時間後はcontrolと同じ幅の中におさまるが、3時間から下降し始める。
☆このような分裂阻害をコルヒチンを加え累積分裂指数で表す(図を呈示)。
前回と同じ所見が得られた。4NQOの強い分裂阻害が目につく。4HAQOは3時間後からplateauを示し、4AQOはコントロールと差がない。興味があるのは、3-methyl
4NQOが軽度の、しかしrecoverするG2blockを示すことである。
☆さらに、それぞれでG2時間を測定すると、コントロールと4AQOは3hrs.、4HAQOは4.8hrs.と、G2時間の延長が4HAQOに認められた。しかし、この程度のG2delayでは分裂阻害を説明することはできず、(G2delay)+(G2期の細胞の傷害)と考えねばならない。この成績は、前に吉田俊秀先生の得た成績と一致する。
☆次に細胞増殖に及す影響をみた(図を呈示)。細胞増殖は4HAQO添加後、3時間は全く影響を受けない。細胞数の減少は6時間より少しづつ表れ、24時間後に最底となる。このように死んでいく細胞が、MI阻害とどのような関係にあるのか問題となる。
(2)G1 blockとS期の阻害
4NQO、4HAQOはG1、S期に対してはどのように働くか。
☆C14-TdR、C14-UR、C14Leuの酸不溶性劃分へのとりこみを、細胞数の変化しない4時間に限って調べた。
ハムスター胎児2代目をFalconシャーレ当り40万個うえこみ、培養2〜3日目に4HAQOとisotopeを同時に加える。いずれも0.1μc/ml。時間後にpronase→1.0N
PCA coldを加える→0.5N PCA→遠心→Ether・EtOH・CHCl3(2:2:1)→遠心→HCOOH→Planchet→Gasflow
counter。*Leuのとりこみのときは、PCA 100℃
30minの加水分解を行う。
ここで分ったことは、最初の4時間で、すでにDNA合成の低下が起っていること、RNA合成もDNAと同じように阻害されるが、proteinはinhibitされないことである。
このうちDNA合成の低下の二つの理由としては、G1
blockと、S期のDNA合成の低下の二つの理由が考えられる。
☆そこでG1 blockをみるために、H3-TdRのcontinuous
labelingによるLIの累積曲線をとってみた。(図を呈示)
MIのときと同様に4NQO 10-5.5乗M、他は10-5.0乗M加え同時にH3-TdR
0.1μc/mlをcontinuous lab.した。4AQO(バラツキがあるが)はcontrolと差がなく、4HAQO、3-methyl4NQOはcontrolより低い。4NQOはlabeling
indexは殆んど上昇しない。ハムスター胎児細胞のG1は、約3.6hrs.であるので、4時間までLIが低いことは、G1
blockの存在を示唆する。それ以後の累積LIの低さはG1+G2
blockによるものであろう。
☆問題のS期のDNA合成阻害については、前の報告(月報6712号)から、当然予想されるところである。これからpulse
labelingによるLIとgrain countの推移をみるexp.をセットしようと思っている。
:質疑応答:
[安藤]labeled mitosisで、delayがあっても100%になるのに、G2
blockがあるといえるのですか。
[吉田]吉田肉腫に4NQO処理してもG2 blockがあります。染色体breakageという意味で。他の期にはありません。
[勝田]最後のデータで考えたのですが、4NQOが4HAQOになって働くのなら、両者のカーブは同じでよい筈ですが、ちがうのは4NQOの毒性のためでしょうかね。それからシンクロは40%位で良いのですか。
[黒木]primaryは仲々むずかしくて、これでもうまくなった方です。4NQOと4HAQOのカーブがちがうのは4NQOの毒性のためと思います。
[勝田]映画で見ると、どうもmitosisとは関係なく、細胞が死ぬように思われます。4NQO処理の場合ですが。
[堀川]mitotic deathといってもその辺を中心にして起る死、という程度の意味です。
《三宅報告》
ヒト胎児皮膚を継代して来たfibroblast様構造のものについて、0.30、1.00、1.30、2.00、2.30、3.00、4.00・・・時間4NQOを作用せしめた。その上で、各濃度の相違のある、各群に、経時的にH3-TdRをとりこませて、L.I.をプロットした。すると10-5乗Mのような高い濃度のものでは急激にL.I.は減少するが、10-6乗M、10-6乗x5では1時間後までは対照と変らない。
この10-6乗Mについて詳しく時間経過を追ってみると、4時間目まで漸減して来て、それから以後はL.I.は再び上昇してゆく。
10-6乗x5Mについては、前に月報に述べたように、3時間目に0となり、立上ることはない。
次にH3-TdRと4NQOを同時に入れてみると、10-6乗Mでは実験群のL.I.開始後数時間で少し落ちるが、爾後そのカーブは対照とかわることはない。5x10-6乗Mとなると、前に述べた様なカーブになって3時間で実験群は0となる。
これと同じことをL株細胞を用いて行った。このLのtg=21hr.、ts=8hr.、tG2=7、tG1+tM=6hr.であった。
その結果はControlにしたL細胞でも10-6乗x5Mで3時間以内にL.I.が減少したことから、4NQOはG1-blockの他にG2-block、又S-blockをきたすと考えられ、いずれとも断言しえないことになった。
目下この2つの細胞について、同調培養を行って、それを決定したいと考えている。
(各実験についての図を呈示)
:質疑応答:
[勝田]L細胞の実験で、labeling indexが最初に下るのはG2
blockを意味しているのではないでしょうか。そして、以後にcontrolよりも反って高い値を示しているのは、S期の延長を示しているのでしょうかね。
[難波]4NQOは培地に入れつづけでしょうか。
[三宅]そうです。4NQOとH3-TdRとを入れつづけたものと、4NQOは入れつづけH3-TdRは45分のflush
labelingしたものがあります。
《梅田報告》
ラット肝のprimary monolayer cultureを勝田先生の方式にしたがい、又多少条件を変えて培養を試みた。即ち(I)ラット肝細切後モチダトリプシン・スプラーゼ処理後、細胞を塩類溶液中に浮遊静置、上清を捨てて、沈殿物に塩類溶液を加え再浮遊、静置、これを繰り返して上清が綺麗になったら沈殿物をLD+20%CSに浮遊させて培養する。(II)Iの方法に殆んど同じであるがトリプシン・スプラーゼ処理後、培地を加え、ガーゼ或はメッシュ濾過後遠心し、沈渣に培地を加えて浮遊させ培養する。材料として特殊例を除き、生後3〜5日のラット肝を用いた。
(1)Iの方式では大きな細胞塊が残っており、それからの生え出しが非常に良く、特に肝細胞の増生が良い。しかし間葉系のendothelと思われる細胞も旺盛に増殖している場所もある。主にこの2種の細胞群から成っている。
IIの方式では2〜5ケ位の細胞数からなる中等大の細胞塊も沢山残っているが、一応disperseした状態からの細胞からも細胞が増生する。50万個cells/mlの接種数で6〜8日後には殆完全なmonolayerを作る。その時の肝細胞増生は全細胞の1/3〜1/2を占め島を作っており、その間を間葉系(?)の細胞が占めている。間葉系の細胞を良く見ると、大型の細胞質のひろがったエオジンに濃染する細胞で核も大型長楕円形で核小体は不規則形2〜3ケあり核全体もヘマトキシリンに淡く染る細胞(endothel?)と、やや小型で核が丸或は楕円で核小体は1〜2ケ丸くくっきりと染る肝細胞核に似た細胞(胆管上皮?)がある。
(2)培地として、MEM+20%CS、MEM+10%tryptose
phosphate broth+10%CSを使用、LD+20%CSと比較してみた所、前2者では良く細胞は増生するが殆んど間葉系細胞で占められ、肝細胞と思われる細胞は、あちこちに数ケ宛細胞質に空胞を生じ、変性して散在する。
(3)1例IIの条件で生後15日のラット肝の培養を試みた所、トリプシン・スプラーゼ処理のpipettingにより細胞の大多数が破壊され、約0.5gの肝組織からスタートして50万個cells/ml
2mlの生細胞しか得られなかった。培養開始後沢山のcell
debrisがあり、2日後にそれを培地で数回洗い去ってから培養を続けた所、生後5日肝培養と同じ様に、肝細胞も間葉系細胞も増生した。ただし、一部に生後5日肝では見られなかった敷石状の配列を示す細胞増生がみられた。
(4)IIの条件で1例生後2日のmouse肝の培養を試みたが、肝細胞の増生は良くなく、肝細胞の大型化多核化が見られ分裂障害を思わせた。
(5)IIの方法で培養した生後5日のラット肝培養細胞にDABを投与した。DABは10mg/mlの割合にDMSOに溶かし、培地で稀釋した。100μg/ml、32μg/mlで肝細胞の著明な空胞変性が見られたが、他の間葉系の細胞では変化が見られず健全に見えた。10μg/mlでは肝細胞の空胞は見られない。
(6)同じく黄変米の毒素であり、肝癌源物質であるルテオスカイリン投与を試みた。1μg/mlで肝細胞だけすべて3日後にcoagulation
necrosisが起り、間葉系細胞だけ残るのが見られた。0.32μg/mlでは萎縮した核をもち細胞質に空胞のある肝細胞が見られた。
:質疑応答:
[高木]継代するとどうなりますか。
[梅田]中間型のような細胞とendothelばかりになってしまいます。医科研の斎藤先生の仰言るには、肝のshaltstuckの細胞ではないか、というのですが・・・。
[佐藤]小型で核の丸い三角のような細胞がshaltstuckだと思います。とにかくいろんなものが出てきますね。私はcolonyにして同定しようかと思っています。
[勝田]箒星のような細胞で、細胞質に平行したセンイ状構造のみられるのは、他のorganをcultureしても出てくるので、血管の内被細胞ではないかと思っていますが・・・。映画でみるとこの細胞は動きません。
[安村]箒星というのはどんな臓器でも出てきますね。
[勝田]小さくてよく動きまわる、おそらくKupferと思われるのも見られます。
[佐藤]平たく拡がった細胞では判らないから、塊にして切ってみようか、と思っています。
[勝田]explant cultureして、反射光源で顕微鏡映画をとると、どんなところからどんな細胞が出てくるか判ると思います。
[藤井]班長のところの肝臓のcell lineは実質細胞ですか。
[勝田]株になったのはほとんど実質細胞だと思います。
[藤井]Rat肝を抗原にして作った抗体でcheckしても、培養系の肝細胞では沈降線が出ないので、どういうことなのかと思っています。
[勝田]培養で増殖系になった肝細胞を抗原にして抗血清を作ると、その結果は変るかもしれませんよ。
《吉田報告》(Abstractの提出がなかったので概略を記す)
黒木班員のところで4HAQO、4NQOでtransformさせたハムスター胎児細胞の諸系の内、今回はmodeが4n近辺の系を主にしらべた。
4nの系に通じて云えることは、全系とも染色体の数と形に異常のあることで、つまり正常の2nの2倍ではないことである。系によって異なってはいても、非常に安定した染色体と、動き易いものとが見られた。また上に記した異常というのは一定の傾向をもったものではなく、系によって異なっていた。
:質疑応答:
[難波]染色体の収縮はX以外にもありますか。
[吉田]他にもありますが、特にXに強いのです。
《安村報告》
☆1.Plating efficiencyとcolony Sizeの培養液の種類による影響:
先月の月報の2-6にふれておきました問題について、予備的にあたってみました。アルビノハムスター腎細胞の2代目の培養をふたたびPlatingしてコロニー形成をみました。細胞数は1,000、2,000、4,000、8,000個。MediumはE:DM-140培地のうち塩類溶液の組成のみEarleの液+コウシ血清10%、199:199液+コウシ血清10%、D:DM-140+コウシ血清10%。(結果の表を呈示)
1-1.コロニー形成数からは有意義の差がありません。またコロニー1こ1この大きさにも差がみとめられません。ただPlating
efficiencyが初代培養の10倍近くなっているのが誤算のひとつでした。初代と同じくコロニーの大きさが小さく、たかだか20~50/コロニーというところで、やはりクローン化できません。
1-2.mediumの種類によってP.E.に差がでなかった理由は一つには、細胞が最初の2週間D液で培養され、ついでちがっmediumにかえられ(3週後に判定、つごう5週間培養)たため、P.E.は最初のD液によって決められてしまったのかもしれません。こんごこの問題をしらべる必要があります。
1-3.Plating efficiencyの上昇はひとつには、まかれた細胞のViabilityによるものと考えられます。初代では総細胞数の50〜60%がviableで、2代めのものはほとんど100%に近くviableでしたから。
:質疑応答:
[黒木]Feederを使ったらsizeが全然大きくなると思います。
[佐藤]single cellの比率はどの位ですか。
[安村]はじめは50%位ですが、2代目になるとほとんど100%です。
[佐藤]2代目にplating efficiencyがそう上るというdataはあまり聞きません。
[安村]もう一度やってみようとは思いますが、トリプシンのかけ方などに影響されるのではないですかね。5〜80%位のひらきが、培地のlot
No.によって出るというようなこともあります。
《山田報告》
細胞表面構造を研究するために、細胞電気泳動装置を製作し、この装置で物理化学的条件並びに被検細胞の生物学的条件を種々検討して来ました。その一環の仕事として、細胞免疫に関する実験も開始しましたので書いてみます。
即ち細胞表面における抗原抗体反応を細胞電気泳動法により量的に測定するためのfirst
stepの実験です。今回は最も単純な方法としてアルブミンに対する脾細胞抗体産生の程度を調べてみました。具体的には、抗原性の異なる卵白アルブミンと牛血清アルブミン(各3mg)をFreundのadjuvantと共に週二回、それぞれラットの皮下に注入し、合計四回感作後、一週間をおき、ラットの脾臓を摘出。鋏で細切し、looseなホモゲナイザーでかるくこすり、脾細胞浮遊液を製作。この感作細胞に各々抗原であるアルブミンを37℃30分接触させた後に生食にて洗浄し、1/10Mヴェロナール緩衝液(pH7.0)をメヂウムとして細胞電気泳動度を測定した。
3回の実験結果(表を呈示)、それぞれの抗原であるアルブミンと接触した場合に選択的に感作脾細胞の泳動度は低下し、両アルブミンで感作された脾細胞は両アルブミンの接触により共に泳動度が低下しています。
しかし、この抗原アルブミンによる電気泳動度の低下は必ずしも大きくはない。従来の報告によると、脾における抗体産生細胞は数%であるとされて居ますので、実際の抗体産生細胞表面に抗原のアルブミンが結合し、その表面の荷電をマスクし、泳動度を低下させる程度は更に大きいと考えます。
従って今後、抗体産生細胞のみをえらび出して、その抗原の表面結合による荷電の低下を測定すべく工夫している所です。
今回の成績により細胞表面における抗原抗体反応を直接細胞電気泳動法により測定できるという確信を得ましたので、次に悪性化に伴う細胞表面の変化や、宿主の抗体産生細胞の認識に、この免疫細胞電気泳動法を用いようと計画中です。
【勝田班月報・6809】
《勝田報告》
A)4NQOによる培養内細胞変異:
これまでの月報で報告したように、正常ラッテのセンイ芽細胞や肝細胞の2倍体株(ヘイフリックの云うようにしだいに切れてしまう株ではない)を用いて、これまで4NQO処理をおこない、且その間の細胞形態の変化を顕微鏡映画撮影によって追究してきた。細胞に対する毒性度をしらべた結果、我々は3.3x10-6乗M・30分処理を1回の処理として与えることにしているが、1回以上、系によってさまざまの回数にわたって処理し、色々な変異株を得ている。4NQO処理を受けた正常ラッテ肝細胞の変異株の染色体数の分布図を次に示す。CQ39は4回、CQ40は1回、CQ42は2回の4NQO処理を受けていて、いずれも2nの42本から外れていることが判る(図を呈示)。
B)4NQOの光力学的作用:
4NQOがぞうり虫の類に対しphotodynamic actionを示すことは癌センターの永田氏らにより報告されている。この作用が発癌作用とどんな関係があるのかは判らないが、哺乳動物細胞に対しても4NQOがphotodynamic
actionを有するかどうかをしらべるため、正常ラッテ肝細胞株(RLC-10)、なぎさ培養によるラッテ肝変異細胞株(RLH-4)、無蛋白無脂質培地継代のマウスセンイ芽細胞L株の亜株L・P3などについて、4NQO処理の後、365mμの光(4NQOの特異吸収ピークの二つの内一つに相当する波長)を各種の時間に照射し、その影響をしらべた。結果は、これらの哺乳動物細胞に対してもやはり4NQOが、photodynamic
actionを示すことが明らかとなり、それは4NQOの濃度に正比例して細胞を障害し、4NQO無処理で光のみの照射では現われぬことも判った。これに対しL・P3細胞はきわめて特殊で、4NQOに対しては抵抗性が高く、逆に光に対してはきわめてsensitiveであった。詳細は癌学会で報告する。
C)純系ラッテの腫瘍:
日本には純系のラッテが少い。呑竜系も、一部では純系と云われても、皮膚の交換移植からも判るように、純系とは断じ難い。当研究室で15年近くBrother-Sister-matingでinbreedしてきた日本産白ラッテ(その頭文字をとってJAR系と命名)は現在F35に至っているが、F19のとき既に100%皮膚の交換移植が成立した。このラッテを使って、日本では数少い純系ラッテ腫瘍を作ろうと、今年度2月13日にF31の♀ラッテ(生后34日)4匹の皮下にメチールコラントレンを接種した。5月末に至り3/4匹に接種部位に腫瘤を発見。7月末に1匹に腫瘤の急速腫大を認め、これは下腹部に向い膨隆してきた。そこで8月24日にこれを解剖し、1)F32生后35日♀ラッテへ、皮下及び腹腔内接種、2)組織培養、3)凍結保存、4)組織標本に供した。1)は9月2日、皮下群の1/2匹に拇指頭大の腫瘤形成を認めた。他の3匹も肉眼的に同所見の腫瘍を作っていた。2)はexplantsから細胞の生え出しがはじまっている。4)の結果は肉腫、ほぼセンイ肉腫と斎藤教授により診定された。肉腫に何か名前をつけなくてはと、目下考慮中。組織像は来月号に発表する(JAR・F31ラッテにできたMCA肉腫の写真呈示)。
《佐藤報告》
§4NQO→呑竜系ラッテ培養細胞について:
全胎児、胎児肺及び肝細胞を培養して5系列7細胞系に発癌させることに成功した。各系で最初に発癌した動物の経過をまとめた(表を呈示)。この表によると4NQOの濃度10-6乗Mで100時間程度の処理、培養細胞の培養中における日数は100〜200日が必要と考えられる。詳細は10月の癌学会で発表の予定。
§ラッテ肝細胞よりのPure clone:
以上の実験でラッテ肝細胞が試験管内で発癌し、肝癌をつくることが判明したが、発癌機構解明のためには、培養で少くとも正diploidにある肝実質細胞をpure
cloneで作りあげることが望ましい。そのためラッテ肝細胞株からdiploid
Pure cloneを作ることを実施しているが、仲々成功しない。目下、培養肝細胞の適合培地の検討をおわり、CO2
incubatorでの適合条件をみつけるに止まっている。此事の詳細については11月の培養学会で報告の予定。
§今月の月報で丁度100号になるとの事で昔を一寸振返って見ました。我々の研究室は、班の“組織培養による正常及び腫瘍細胞の研究”時代にはEhrlich腹水癌、吉田肉腫細胞、C3H乳癌細胞及びDonryu系ラッテ肝細胞の株細胞化を行い、今日迄其等の株細胞を維持し、Ehrlich腹水癌細胞は日本組織培養学会に登録し、現在無蛋白培地に駲化させている。
“組織培養による発癌機構の研究”ではDonryu系ラッテ肝←3'-Me-DABの研究を行って、自然発癌に比して3'-Me-DAB投与が発癌率及び悪性度を上昇させることを見いだした。現在尚ラッテ肝←DABの培養内機作を検索すると共に4NQO発癌を行っている。
今后我々は更に研究をすすめて癌治療の目的まで出来るだけ早く到達したいと考えている。
《山田報告》
培養細胞の変異に伴う表面荷電の変化
今月は医科研及び岡山大癌研の御協力により、培養細胞の電気泳動度を種々検索することが出来ましたので、先々月の月報に報告した分も合せて、培養細胞の変異に伴う表面荷電の変化を細胞電気泳動度(E.P.M.)より考えて見たいと思います。
まず培養肝細胞と、その変異株についてのみ、比較すると次のごとくになります(図を呈示)。培養ラット正常肝細胞は図に示すごとく、E.P.M.の平均値は0.8μ/sec/v/cm前後で、いづれもシアリダーゼ処理(30単位、acetate
buffer、pH5.6、37℃、30分)(以下すべて同一条件で処理したので、この条件は省略)によりEPMの上昇がみられ、RLC-10では危険率P<0.01で、またExp7-Controlでは0.01<P<0.02の危険率で明らかに差があります。
これに対して、ラット腹水肝癌細胞の培養株は、特にAH7974TCのEPMは高く、その平均値は1.34μ/sec/v/cmの高値を示します。しかしJTC-2及びJTC-1の平均EPMは低く、変異株と大差ありません。これ等にシアリダーゼ処理を行うとかなりの平均電気泳動値の低下を示し、両株及びAH7974TCすべて危険率P<0.01で、有意の平均電気泳動値の低下を認めました。
次ぎに4NQOにより悪性化した岡大癌研株Exp(1)-1のEPMは図に示すように、その平均電気泳動値はあまり高くありませんが、シアリダーゼ処理により、EPMの有意の低下(P<0.01)を示し、またこの細胞をラットに復元して作った腫瘤細胞を再培養した細胞についても同様な結果を得ました。
この細胞系の腫瘤形成はラットに復元後136日を必要としたさうですから、腹水肝癌株より悪性の性質は弱く、それに応じたEPMの変化と考えられます。
変異肝細胞ではあるがラットに復元しても腫瘤を作らないと云うRLH-5、CQ42、CQ40、CQ39のEPMを図に示します(それぞれ図を呈示)。平均電気泳動度値はRLH-5を除き、正常肝細胞のそれにくらべてあまり差がありませんが、シアリダーゼ処理を行うと正常肝細胞と異り、EPMの上昇がみられません。この処理前後の泳動値間の差についての統計的計算ではRLH-5→P>0.5
CQ42→0.1<0.2 CQ40→P>0.5となり有意の差がなく、しかしCQ39についてはP<0.01となり平均値間ではシアリダーゼ処理により上昇すると云う結果になりました。しかし正常肝細胞のシアリダーゼ処理後の変化とCQ39のそれではかなり差があるようです。
これらの所見に基き、細胞変異に伴うEPMの変化をまとめて、次のごときシェーマとしました。これは現時点でのin
vitro培養ラット肝細胞のEPMの変化のシェーマ(図を呈示)、漸定的な考え方です。CQ系の細胞や、なぎさ培養による変異株が復元されてラットに腫瘍を形成するか否かは勿論今後の問題ですが、一応これらの細胞系を「変異して居るが悪性ではない」と云う立場に立っての話です。
ラット肝細胞を長期に培養して自然に悪性化したと云う株RLN-38-87及びそのoriginal
RLN-38-52のEPMを測定した所、両者はいづれも前記の変異株と同様な知見を得ました。これは先きのシェーマと話しが合いません。しかし、この細胞はラットに復元して腫瘍を作るのに、236日もかかったと云うことですので、悪性化して居る細胞はごく少数でEPMの測定の対象にならなかったのではないかと考えました。
この点は今後検討すべき問題点と考えます。
最後に岡大癌研のラット胎児肺細胞及び、その4NQOによる悪性化細胞のEPMの成績を加えます。この細胞はラットに復元すると、60日前後で腫瘤を作るそうですが、明らかに腹水肝癌と同一の結果をなしました。しかもそのEPMは1.40μ/sec/v/cmと云う極めて高い値を示し、またシアリダーゼにより殆んど変化がなく(0.3<P<0.4)、正常肝細胞のそれとは異なります。今後更に変異に伴うEPMの変化を追求したく思って居ります。
《三宅報告》
皮膚の器官培養を発癌に結びつけようとして、細切した胎生皮膚を皮下組織の附着したままで4NQO、メチルコラントレンなどを投与、病理組織学的に変化の推移を追ってきた。この方式を用いることで2週以内に基底層に属する細胞のHyperchromatism、細胞輪郭の変化などがみられたが、それは細胞へのToxicな影響を、除外しえなかった。Sponge
Matrix Cultureという手慣れた筈の培養方式では、培養期間の長さに隘路があることが憶測され、試験管内癌化のためには、より長期にわたる培養を続ける必要を生じ、胎生皮フを細胞単位にまで単離して、単層培養を行う以外に手がないことが判明した。
方法:
ヒト又は実験動物(d.d系マウス)の胎生15〜17日の皮フをDermisをつけて剥離、細切して、37℃でトリプシン処理、単離したものをEagle液に10〜20%の小牛血清を用いたものを用いて培養、一定時日の後に再びトリプシン処理して、平型試験管に植えつぎ、20-メチールコラントレンを培養液1mlあたり1μgを添加、直ちに正常の培養液に戻した。(経過表を呈示)。Primary
Cultureは5月14日(1968)。
結果:トリプシン処理后、植えつがれた細胞は、上皮性と考えられるものと、非上皮性と考えられるものの混在である。しばらくすると上皮性とみられるものは消失に傾き、紡錘形のFibroblastと考えられる細胞が勝ってくる。こうした紡錘形のものも、徐々に形態をかえ、偏平な星芒状に転じてゆくものが多く、形質中に顆粒を多く、たくわえた、核小体の鮮明な大きい核をもつようになる。
メチールコラントレンを作用せしめたものでは、殊に細胞が巨大、偏平化することが早い。メチールコラントレンの作用時間を30分とすると、細胞の変性が強く、2〜3日后には細胞が硝子面から、ほとんど剥脱されるので、作用の時間を極端に短くした。こうして8月17日(約2ケ月后)にNo.18の3回メチールコラントレンを3日間隔に投与したものに、異型な細胞が出現した(写真を呈示)。この細胞は、前に述べた偏平化した多くの細胞群の間に、
境界の明かな集蔟を作ることなく、かなりな範囲に広がって存在する。細胞の形態は紡錘形、大きさは略々Uniform、両端は長い突起をそなえ、相隣れるものと連絡し、時に束状に、時に網状に相つらなっている。細胞は両端から牽引せられ、そのためか豊かな胞体の周囲に位相差像では暈をしめし、重厚な形質のために核は著明にみられない。この細胞群の中には分裂像と考えられるものが散在する。経過を観察中である。
《梅田報告》
動物の発癌実験において化学剤発癌は、最低数ケ月も要するのに、ウィルス発癌はそれに較べると極端に短時日のうちに腫瘍形成にいたる。in
vitroの我々の系でも、ウィルス発癌の場合はtransformed
colony形成が簡単に認められ、定量化へと進んできたのに対し、Sunford等の仕事から、勝田先生、佐藤先生の一連の仕事、Heidelberger等の仕事等、完全に腫瘍性を獲得する迄、かなりの培養日数を必要としている。Suchs等のベンツピレン等を使用した実験に端を発し、黒木氏等の4NQOによるtransformed
colony形成をin vitroに於けるウィルス発癌実験と同じ様に短時日のうちに認め、in
vitro carcinogenesisに成功したとする報告は、私にはいささか納得がいかなかった。はからずも、黒木氏自身、彼の系でもinductionとpromotionの考え方を入れる方向に来ているのを知って、私自身気を強くしている。
私はin vitroでも化学発癌剤による発癌は、日数を要するものとの考えから、現在mono-layerに生えたprimary
rat liver cultureにDABの大量1回、或は小量常時投与を行い、培養を続けている。しかしSunford等の一番最初の発癌実験の記載とか、奥村氏の詳細な報告の如く、対照群の細胞にも生ずるspontaneous
transformationの問題が入り込んで居り、複雑な要因がからまっているのは云うまでもない。これ等を充分考慮に入れながら、目下in
vitro発癌のcellular levelでの現象を更に深くさぐる努力をしている。
もう一つ、私のやってきた、そして以后強力に続けたい研究の方向として、化学発癌剤による急性の毒性効果とか、作用機作を調べることがある。Praimaryのrat
liver cultureにDAB、黄変米毒素のルテオスカイリンを投与すると、肝細胞だけに特異的な変化を生ずるのに、同時に生えている間葉系の細胞群は障害を受けない。又DABと同じ骨格を持ち、発癌性のないABは、その様な変化を起さない。目下、之等の変化を詳細に調べ、又他の発癌剤についても調べているが、今后は、この急性変化と、発癌機構とどの様に結びついているのかを解明するのが、大きな課題と思っている。
《堀川報告》
A)培養哺乳動物細胞における
放射線ならびに化学発癌剤障害回復の分子機構の研究(7)
紫外線照射による第一義的な障害がDNA内のpyrimidine
dimerの形成にあり、さらにこうした障害回復(pyrimidine
dimerの除去)の分子機構が微生物を始めとする多くの材料を用いて次第に明らかにされて来ている。私共のgroupでもEhrlich、マウスL、ブタPS細胞という3種の培養細胞株を用いてthymine
dimerの除去機構を探索した結果、Ehrlich細胞にはUV照射でDNA中に形成されたthymine
dimerの除去機構、つまり暗回復能をもつことを発見し得た。しかし、大腸菌等でみられるUV障害に対する光回復能は、私共が使用している3種の細胞株では勿論のこと、世界の研究者もいまだに光回復能を保持する高等動物細胞を発見し得る段階に至っていない。
これまでにpublishされた結果から判断すると、光回復機構を保持するものは、どうやら微生物からはじまってウニの卵とか、特殊な魚類の細胞株、両棲類といったあたりまでのようである。高等な動物細胞には、更に別の機能が発達しているために、こうした光回復能の保持を必要としないのかもしれない。
一方X線の生細胞に対する影響、つまり障害のprincipal
sitesは未だに不明のままであり、ましてやその障害の回復機構は分からない。私共は前述のEhrlich細胞、L細胞を用いて、10KR、5KR、2KRのX線で照射した後、DNAのstrandがどのように切断され、しかも照射後15分、30分、60分と37℃のincubator中で細胞をincubateする間に、切断されたDNAがどのように、rejoiningして行くかといった過程を究明している。
正常なEhrlich細胞やL細胞からは、sedimentation
constant(S20,w)にして、210single strand DNAが分離されるが、こうした正常細胞を10KRで照射した直後ではsingle
strand DNAはS20,wは71程度の小さなものに切断される。だが照射されたこれら細胞を15分、30分とincubateしておくと殆どもとのS20,w=210までrejoining出来ることが分った。これらは勿論5〜20%のsucrose
gradient centrifugationによる解析であって、ここで興味あることはUV障害に対して暗回復機構をもつEhrlich細胞でも、さらには暗回復機構をもたないマウスL細胞でもsingle
strand DNA breaksのrejoining acivityを殆ど同じ程度もつということで、こうした結果はX線照射によるsingle
strand DNA breaksのrejoiningの機構は、UV障害からの暗回復機構とはまったくindepedentのものであることを暗示する。
一方、X線照射によって誘発されたDNAのdouble
strand breakの場合は、前述の2種の細胞を用いて調べた範囲では、rejoining
activityの見られないことも分った。 こうしたradiationによる障害回復の分子機構と、これまでやって来た培養細胞に対する4NQO処理による障害の回復機構を比例して検討している。
B)培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびに
Leukemogenesisの試み(5)
マウス大腿骨骨髄から取り出したbone marrow細胞を一定期間培養した後、X線被爆したマウスに注入し、被爆マウスの骨髄死に対する防護能とspleenへのcolony形成能を指標として培養bone
marrow細胞の生物学的活性、およびその分化と増殖の機構、ひいては、こうした系を用いてLeukemogenesisの機構を検索している。現在では30日齢のNC系マウスから得たbone
marrow細胞を70%TC-199、10%TPB、20%牛血清からなる培養液で、TD-40瓶内で静置培養し、この培養bone
marrow細胞を培養後10〜300日(300日のものは完全にcell
lineとしてestablishされた)に取り出して生後60日の700R被爆の同系マウスの尾静脈より注入して、被爆マウスの9日後のspleen表面に形成されたコロニー数と、30日生存率を求めている。同時にbone
marrow細胞の培養経過に伴う細胞種の分類、およびオートラジオグラフによるH3-TdRの取り込み能は、従来報告して来たように、経時的に解析を行っている。途中経過はこれまでの月報にて報告して来たので、最近の代表的なresultsを要約してみると以下のようになる。
(1)培養前にみられた多種の細胞群は培養10日頃までに減少、消失し、従来みられなかった巨大単核、二核細胞が次第に増殖し、培養180〜300日に至ると、これが全populationの100%を占めるようになる。(こうした巨大細胞、二核細胞の増殖能はH3-TdRの非常に高い取り込み能と、分裂係数(mitotic
index)からもうかがえる)。
(2)培養bone marrow細胞を注入して、700R被爆マウスのspleenに生じるコロニー数を調べた結果では、培養期間10日以上経過した細胞群においては、対照群(細胞非注入群)との間に有意な差は認められない。
(3)一方、培養bone marrow細胞を注入した被爆マウスの30日生存率を調べた結果は、培養30日までの細胞を注入した各群では、対照群との間に生存率向上という点で差がみられている。以上、非常に面白い結果が得られており、こうした系を用いて細胞の分化と癌化の機構を検討中である。
さらに、これに関連して私共はマウスthymus細胞、spleen細胞を培養して、その生物学的機能の検索を進めているが、最近マウスC57BL/6Jax系生後24時間のnew-bornから得た、thymus細胞を一ケ月培養し、生後10日、14日、21日目の同系マウスの皮下、腹腔内に500万個細胞づつ復元すると、非常に高率に腫瘍を作り、しかもこうした癌細胞はtransplantableであることが分って来た。培養期間の短かいこと、復元より腫瘤形成迄要する時間の短いこと、更にbone
marrow細胞とかspleen細胞と関連して、非常に重要な生物学的機能をもつthymus細胞であるが故に、この種の実験系は今後の慎重な解析を必要としている段階である。次号にてこれらの詳細を報告する予定である。
《高木報告》
1)器官培養による発癌実験
ハムスター、ラット、マウス、人などの胎児の皮膚の器官培養による発癌実験を行うにあたり、まず培養法の検討を行い、また発癌物質の添加培養培養した皮膚の移植などを試みた。
1)培養法の検討
上記動物の胎児の皮膚を培養するのに、天然培地および種々の半合成培地を用いたが、天然培地のうちwatch
glass methodによりchick plasmaとCEEを2:1に混じて凝固させたものが最も効果が良かった。この培地上では妊娠18週目の人胎児の皮膚は、培養後3週目にもなお多数のmitosisが認められた。温度に関して、ハムスターの胎児皮膚を30℃で培養したところ、37℃のものにくらべて明らかに良い結果がえられた。
2)発癌物質の添加
器官培養下の胎児皮膚に発癌物質として、4NQOを添加した。濃度は10-6乗mol程度が適当と思われたが、この濃度では殆ど変化はみられなかった。液体半合成培地を用いて培養したマウスの皮膚に10-4乗molの4NQOを添加した時、培養後72時間して表皮の一部に突起状の肥厚を認めた。またplasma
clotを用いて培養した人胎児皮膚において、4NQO
10-5乗mol添加群に幾分mitosisの増加がみられたが、これらの変化がどの程度悪性化にむすびつくか、は判らない。
3)培養した皮膚の移植
plasma clotを用いて7日間培養した雑種ハムスター胎児の皮膚をハムスターに移植した。培養中4NQOを添加した群と対照群との間に、観察した約20週の間には殆ど有意と思われる変化はみられなかった。一方移植成功率が非培養群では8/17であるのに、培養群では15/17と可成り高率である点は注目されるべきで、さらに検索したい。培養条件についてはなお検討する予定である。
2)細胞培養による発癌実験
newbornよりweanlingに至るラットの胸腺および肺の細胞を培養し、一部ラット胸腺より分離した株細胞を使用した。
発癌物質としては4HAQO、4NQO、Nitrosoguanidine(NG)を用いた。
1)4HAQO添加実験
ラットの胸腺細胞を用いて4実験行ったが、うちWistar
King A(WKA)ラット胸腺の2代目の細胞に10-5乗molの濃度を2回作用せしめたもので、処理後約15日でpile
upしたcolonyをえた。この細胞を増殖せしめて生後3週の同系ラット皮下に100万個細胞数接種したが、腫瘤の形成はみられなかった。
2)4NQO添加実験
王様系ラット胸腺より分離した株細胞を用いて2実験、Wistar
King A(WKA)系ラット胸腺のprimary cultureを用いて3実験、ラット肺のprimary
cultureを用いて2実験行った。
4NQOは10-6乗、5x10-7乗、2x10-7乗molの濃度に培地で稀釋し、種々の時間、回数を作用せしめた。うち株細胞に10-6乗mol作用せしめたものから変異細胞のcolonyをえたが、移植実験には成功しなかった。またWKA系ラット胸腺培養の2代目以後、2x10-7乗molを頻回作用せしめたものがmorphological
transformationをおこしたので現在移植実験中である。
3)NG添加実験
前記株細胞を用いて4実験、ラット胸腺のprimary
cultureを用いて10実験、ラット肺のprimary
cultureを用いて3実験を行った。
NGは1μg/mlより500μg/mlに至る濃度で種々の時間および回数作用せしめた。そのうちWKA系ラット胸腺3代目の細胞にNGを10μg/mlになるように滴下し、6日間放置したものより変異細胞をえた。この細胞を処理後約40日目に、同系のwianling
ratに100万個細胞数接種したが、腫瘤は作らなかった。しかし処理後約170日目頃より対照と比して細胞の増殖度が目立ってよくなり、対照が1週間に約5倍程度の増殖を示すのに対して処理細胞は約10倍程度の増殖を示した。形態的にも対照はmonolayerを示すのに対して処理細胞はcriss
crossが著明でpile upする傾向がつよかった。一般にNGは、細胞に変異をおこさしめる至適濃度の幅がせまいようで処理後相当長期にわたり細胞の増殖がみられず、従ってmorphological
transformationがおこるまでのincubation timeが、長いように思われる。さらにNGを作用せしめる培養組織として、幼若WKAラット胃の培養をこころみて上皮性細胞の増殖をみた。これが如何なる組織に由来する細胞か未だ同定しえないが、この細胞を用いた発癌実験を計画している。変異細胞の染色体については目下検索中である。
《安藤報告》
1)癌の遺伝子変異説の検討
いかなる機序によって癌が発生するかに関して現在二つの考え方がある。(月報6705)。すなわち発癌剤、その他の作用によって正常な細胞が変異を起すのか、あるいは初めから混在していた悪性細胞が逆淘汰されてくるのか、という考え方である。しかしながらこの癌細胞の発生の由来のいかんにかかわらず、癌細胞は正常な細胞の持つ種々な調節機構に異常をきたしている。この癌細胞の異常性は病理学的、生化学的、その他の種々の研究手段によって現在迄にかなり明らかにされている。それにもかかわらず残念なことには、明らかにされて来た事は全て正常細胞と癌細胞の表現形質の量的な差でしかなく、本質的と思われる質的な差異は見出されてはいない。したがって一歩立入って、それでは癌細胞の遺伝子はどうなっているのであろうか、DNAレベルの変異を起しているであろうか、という疑問には何も答えない。私はこの問題に何らかの手がかりを得ようと次のような計画を立て、実験を進めている。
当勝田研究室で無蛋白無脂質合成培地で8年間にわたり培養されている、マウス皮下センイ芽細胞由来のL929の亜株L・P3を使用し、これに薬剤処理をすることにより、種々の表現形質の異なる変異株を誘導する。次にそれ等の変異株及び原株の間にDNAを介しての、この表現形質の転換(transformation)が起るか否かを調べる。すなわち、その表現形質の変異は単なる細胞内調節機構の異常によるのではなく、遺伝子中のDNAの変異に由来するならば、次にこの手法を応用することによって前述の疑問−癌細胞は遺伝子変異によるか−に直接回答しうることになる。すなわち癌性がDNAによって他の細胞に移るとすれば、まさに癌は遺伝子変異によると結論出来るわけである。このような実験計画にしたがって次の予備実験を行っている。
L・P3を単個培養によりNG(N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine)処理をする。処理後増殖を回復してきた細胞からクローニングをくり返すことにより、幾つかの純クローンを分離した。現在各クローンについて栄養要求性に変異を生じているか否かを検索中である。 2)4NQOの作用機序の細胞培養による研究
4NQOは杉村らにより、生体内で4HAQOに還元される事により発癌性を獲得する事が示された。又腹水肝癌AH130のDNAに、腹水蛋白に結合する事がin
vivoで示されている。しかしながら、この核酸、蛋白、あるいはその他の生体物質の内、いずれとの結合が癌化に直接みちびく反応であるのかについては全く不明である。そこで私共は細胞培養を利用する事により、動物体という多因子系による問題の複雑化を避け、より精密な発癌過程の分析を企図した。
H3-4NQOを前述のL・P3細胞に与え、細胞中へのとりこみ、及び細胞成分との結合のkineticsを調べることにより、最も4NQOとの反応性に富む成分は何かを検討した。結果は次の如くである。4NQOと細胞内蛋白質、核酸との結合は、37℃において、30分で最大となり以後3〜4時間はほぼ一定値を保っていた。またこの結合にあずかる蛋白は、DAB及びMCで示されたような特異蛋白ではなく種々の分子量を持つ殆ど全ての蛋白を含んでいた。目下核酸との結合様式、結合物の安定性等検討中である。
《安村報告》
1.発ガンのSelection説の検討(つづき):
月報のNo.6804に勝田班長がふれておられるが、Dr.L.Diamondのシリアン・ハムスター胎児細胞の培養内自然発ガンの報告は、このいわゆる自然発ガンの原因として3つのfactorを考察していた。つまりこの癌化は1)あらかじめ生体内に存在していたかもしれないvariantで、malignantのきざしのあるものをselectionによって継代中にひろいあげたか、2)未知のtransforming
virusによるか、3)まだ不明の物理的、化学的な原因によるものか、ということであった。あるいはこれ以外の原因があるかもしれないし、これらの原因が互いに絡み合っていることも考えられよう。
月報のNo.6808では上記の原因のうち、1)の仮説の可能性の分析のためにMacPhersonらによるSoft
agar法の利用について予報された。実験の狙いは同号の討論にのべた如くです。
1-1.シリアン・ハムスター胎児細胞の初代培養では100万個、50万個/plateではSoft
agar中のColony生成はみとめられない。そのご再び初代培養と2代継代培養によるSoft
agar中のColony生成が試みられたが、いずれも結果はマイナス。
1-2.以上のデータはSoft agar法がmalignant
transformed cellをselectiveに増殖させることにあったとすれば当然のことのようにみえよう。しかしColony生成がゼロではなんとも前進のしようがない。
1-3.最近E.TjottaらがPolyoma vurusによるtransformed
cellが、Conditioned madiumを加えたSoft agarでよりよくColonyを生成するし、polyoma
virusで処置しあい宿主細胞(BHK21/C13)も同様mediumでColonyを生成すると報告した。そこでこのconditioned
mediumを加える方法をこころみた。
1-4.Conditoned mediumは初代培養細胞と2代培養上清を液かえの際にプールして集められた。初代培養細胞と2代継代細胞が出発材料、Conditioned
mediumはSoft agar中に100%(agar以外の培養液は100%Conditioned
mediumということ)、50%、0%の割合にして各群5枚のplateをつかった。結果は接種細胞数100万個に対して、3週めに初代培養細胞の群のうち、Conditioned
medium 100%のところでColony(0.1mm以下)が1コ、50%のところで1コ出現した。しかしそのごColonyの増殖はなく壊死におちいってしまった。いずれからもColonyを分離して増殖させることはできなかった。ついでなされた同様の実験ではConditioned
mediumの割合を75%、50%、25%、0%でなされた。75%と50%の群で接種細胞数100万個につき、それぞれ5枚のPlat中2枚に数コ〜10数コのColony生成をみとめた。しかしこれらのColonyが増殖可能かいなかは、実験進行中なので、詳細は次回へ。
2.AH7974TC細胞のSoft agar中での増殖:
上記のSoft agar法をつかって行われているハムスター細胞の実験のControlとして、われわれのtechnicの信頼度をしらべるとともに、基礎実験がAH7974TC細胞でなされた。接種細胞100/Plateで11〜30のColonyができ、成績は上々。(Soft
Agar中のAH7974TC細胞コロニーの写真を呈示。この実験ではconditioned
Mediumはつかっていない。)
《藤井報告》
培養ラット肝細胞とその変異株細胞の抗原について
癌抗原の存在が、宿主の免疫学的抵抗性の成り立つ基盤出あり、癌に抗原性の在ることを立証することが、癌の免疫学的研究の起点となる筈である。化学発癌のばあい、各例性質の異なる癌の発生することが示されており、それらの抗原のちがいについての発表もある。
すでに、本研究班では“なぎさ"培養によるラット肝細胞の変異(勝田)、ハムスター胎児細胞の4-NQO処理による培養内発癌(黒木)、ラット肝細胞の3'MeDABおよび4-NQO処理による培養内発癌(佐藤)に成功している。比較的単一な細胞群を扱う組織培養実験では、培養細胞の変異過程を追跡することが可能であり、有利に癌抗原の分析をすすめられる筈である。
培養内細胞の癌化にともなう抗原性の変化を検討することが、筆者に課せられたテーマであるが、今まで、ラット肝細胞、いくつかのラット肝癌、培養ラット肝細胞とその変異株等について、double
diffusion法とimmune adherence(IA)法によって、それらの抗原の検討をおこなって来た。
1.Double diffusion法による抗原分析
培養細胞を主としてあつかう関係から、少量の細胞について実験をすすめる必要があり、double
diffusion(Ouchterlony)の変法であるmicrodiffusion法(月報、No.6710に記載)を、採用した。この方法は、Ouchterlony法より抗原−抗体沈降線の検出が鋭敏に出来、20万個の少数細胞でも実験可能であることが、基礎実験で示された。
抗原液:細胞20万個に対して、0.5%Na-deoxycholate-PBSを0.5mlの割に加えて浮游させ、ホモジナイズ后、その遠沈上清(2,000rpm、20分)を抗原液として用いる。培養細胞は、医科研癌細胞研究部のものである。
抗血清:ウサギ抗ラット肝組織抗血清(RALS)、ウサギ抗ラットAH13抗血清(RATS-AH13)
の原血清を用う。
成績のあらまし:
1)ラット肝組織は、RALSに対して5本の沈降線を示すが、
2)培養ラット肝細胞(RLC-9)は、この中の1本と共通な沈降線のみをつくった。
3)培養ラット肝細胞変異株(“なぎさ")RLH-5は、RALSに対して、全く沈降線をつくらない。 4)このRLH-5細胞は、抗ラット肝癌抗血清(RATS-AH13)に対して弱いけれども、1本の沈降線を示した。
小括:培養ラット肝細胞が成熟ラット肝の抗原の大部分をもたないことは、培養ラット肝細胞が新生児ラット肝由来であることと、肝組織中の一群の細胞にかぎられることによると考えられるが、変異株では、変異以前の抗原を失い、別に肝癌の抗原(この場合AH13と共通な抗原)を獲得するようである。このような肝癌にみられる抗原が、癌の抗原によるのか、contaminationによる微生物の抗原によるのかは、今后慎重に検討されなければならない。
2.Immune adherence(IA)法による抗原分析
IA現象(免疫粘着現象、Nelson,R.A.,Jr.)は、抗原-抗体-補体複合体に人赤血球が粘着する反応で、極めて鋭敏な免疫反応である。細胞表面の抗原の検出は、抗体、補体、人赤血球を加えて反応させ、顕微鏡下に、人赤血球の粘着している細胞を識別し、算定することによって可能である。また凝集反応(免疫粘着赤血球凝集反応、immune
adherence hemagglutina-tion)-西岡-として、反応の強さを判定しうる。
方法:培養細胞を、培養の状態のまま抗体と反応させる目的で、小型の培養小角ビン中で1日培養し、TC-199液で洗滌した后、稀釋抗血清、1/5とモルモット補体用血清、1/20を、各0.25ml宛を加え、37℃で30分間反応させた后、2%人赤血球(O型)浮遊液0.1mlを添加して、さらに37℃で30〜60分反応させる。反応后、TC-199液で数回洗って、浮游赤血球を流し去ってから、倒立顕微鏡下にIAのおこっている細胞を識別算定する。
成績のあらまし:
1)培養ラット肝細胞(RLC-10)は、ウサギ抗ラット肝抗血清(RALS)によって強いIA(++++)を示すが−(double
diffusiondeha反応弱く、沈降線1本のみ)−、“なぎさ"変異種(RLH-3、RLH-4とRLH-5)は、弱いIAを少数の細胞にみとめたにすぎない(±)。しかし、これらの変異株はいづれもウサギ抗ラット肝癌AH7974(RATS-7974)には、稍ついIAを示した(+)。
2)ウサギ抗AH130抗血清(RATS-AH130)にたいして、AH130細胞−腹腔継代細胞−は33%、培養AH130(JTC-1)は68%のIA陽性細胞を示した。抗AH7974抗血清(RATS-AH7974)では、前者は27%、後者は43%の細胞がIA陽性であった。この傾向は、AH7974細胞とその培養継代細胞についても観察された。
すなわち、ラット肝細胞は、各肝癌に対応する抗体とつよくIA反応をおこす他、非対応の他の肝癌に対する抗体ともかなりつよいIA反応を示すことがわかる。
また培養ラット肝癌細胞の方が、元の腹腔継代細胞よりむしろ強いIA反応をおこしたことは興味ある点である。この点に関して、培養液中のcalf
serumが細胞に吸着され、calf serumと用いた抗血清、補体との間の自然抗体によるIA反応が、反応増強にあづかってないかどうかが問題となる。この問題は、培養AH7974細胞をcalf
serumをふくむ“199"液(10%)中においても(室温、30分)、IA反応に影響がみられなかった最近の実験から一応否定してよいと思われる。
小括:
1)IAによる実験で、培養ラット肝細胞変異株(“なぎさ")は、変異以前の抗原の多くを失内、一方、ラット肝癌に共通な抗原を獲得しているようにみえる。
2)AH130、AH7974細胞と、それぞれの培養継代細胞は、正常ラット肝抗原の多くを示さないが(この成績は上に記さなかったが)、対応する抗体の他に、非対応の抗体にもかなり強くIAを示し、ラット肝癌に共通な抗原のあることを示唆している。
培養継代細胞の方が、腹腔継代細胞よりも強いIAを呈する事実は、培養によって、細胞膜面に抗原−抗体反応がおこり易くなるような、あるいは抗原の露出を来すような変化がおこっていることを示唆する。
《永井報告》
1)Ektobiologyと糖質・脂質
細胞の機能には質的に異なる二つの面があるものとみられる。その一つは、個々の細胞そのものの生命維持に必須な機能である。これには蛋白質や核酸があづかっており、今迄の生化学の対象の中心となっていた。これが障害を受けたときには、病気よりもむしろ死を招く。いま一つは、細胞が一定の秩序のもとに集まっていとなむ、いわば、細胞の社会的な機能に関するもので、これがおかされても、前者のようには、直ちに死に至ることはない。その生物学をKalckarはEktobiologyの名で総括している。これに大きな役割をはたしていると考えられるのは、細胞表面の特異構造であり、物質的には糖質や脂質が主役になるものと予想される。我々は、癌問題をむしろこの第2の角度から把握していこうという考えで研究をすすめている。
2)研究目的
この問題に、生化学的にアプローチしていこうとして、我々がまずとりあげたことは、Ektobiologyにおける主役物質は何かということである。そこで、いうところの糖質や脂質がそうなのかどうか、これをまず明らかにしようとして実験をしくんできた。Ektobiolo-gicalな現象が典型的にあらわれてくるものの一つは、発生と分化の問題であろう。そこでは、2つの異なった生殖細胞の融合としての受精に始まって、形態形成にみられる細胞集団の完璧な秩序のうちにある特異な移動運動など、いろいろな問題がある。ここに着目して、かつ、大量の材料が入手しうるということから、さしあたってウニの配偶子およびその胚を材料として実験をおこなってきた。
まず研究の焦点を、細胞の表面に存在すると予想される糖脂質にしぼって、次の項目をとりあげた。1)実際に糖脂質が配偶子や胚に存在するか。2)それはどのような化学構造のものか。3)それらに細胞表面の特異性に関係づけてもよいような、特異的な構造上の違いが見出されるか。4)発生、分化の過程の途上において、それらに何らかの変動がみられるかどうか。
3.実験成績
それに対して現在までにえられた答は、1)ウニの配偶子(精子および卵)および胚には、確かに糖脂質が存在する。それらはシアル酸を構成分の一つとして有するもので、その糖脂質(シアロムコリピド)の数は、9種以上にも達する。
2)それらは複雑な化学構造を有するが、構造上には一定の関係があり、一連の代謝経路上にのっているものと考えられる。3)精子と卵とでは存在する糖脂質の種類に違いが実際にみられた。のみならず、ウニの種類が違えば存在する糖脂質の構造も違ってくる(種特異性)ことがわかった(月報No.6808)。4)そのうちのいくつかでは化学構造の決定がおこなわれた。すなわち、ムラサキウニ精子の糖脂質のうちの一つはセラミド-Glc(6←2)シアル酸←シアル酸であり、卵の糖脂質のうちの一つはセラミド-Gic-Glc(シアル酸一分子)であることなどがわかっている。
現在これらの脂質の化学構造の決定を更にすすめるとともに、その細胞における存在位置、発生途上における変動などの生物学的な面を追究しようとしている。
ウニ胚は一層の細胞が中空のゴムマリ状にならなだ胞胚期から、第一次間充織細胞の陥入に始って、原腸形成に向って表層が陥入していく嚢胚期を経て、発生、分化をすすめていくが、この際の細胞の陥入運動は何によるものであろうか。まず考えられるのは、細胞間の接触状態にひとつのゆるみがおきるのではないだろうか、ということである。我々はこれを、たとえば細胞表面のシアル酸が表面から脱離するためによるのではないかと考え、シアリダーゼの特異的阻害物質を陥入期直前に作用させてみたが、何等の影響もみられなかった。しかし、プロテアーゼの強力なinhibitorであるトリペプチド、Leupeptineを作用させたところ、原腸陥入が全く抑制されることを見出した。この場合、細胞はそのまま生存を続けた。このことをどのように解釈するかであるが、この陥入期に至って細胞からプロテアーゼが分泌され、それが細胞間をつないでいる基質に作用して分解し、その結果細胞間の結合をゆるめるのではないかと、現在のところ考えている。これもまた、細胞の定着、migration、といったEktobiologyの問題の一つである。Leupeptineはつまりこのプロテアーゼ作用を抑制し、それが陥入の抑制となってあらわれてくるとみるのである。
【勝田班月報・6809】
《勝田報告》
A)4NQOによる培養内細胞変異:
これまでの月報で報告したように、正常ラッテのセンイ芽細胞や肝細胞の2倍体株(ヘイフリックの云うようにしだいに切れてしまう株ではない)を用いて、これまで4NQO処理をおこない、且その間の細胞形態の変化を顕微鏡映画撮影によって追究してきた。細胞に対する毒性度をしらべた結果、我々は3.3x10-6乗M・30分処理を1回の処理として与えることにしているが、1回以上、系によってさまざまの回数にわたって処理し、色々な変異株を得ている。4NQO処理を受けた正常ラッテ肝細胞の変異株の染色体数の分布図を次に示す。CQ39は4回、CQ40は1回、CQ42は2回の4NQO処理を受けていて、いずれも2nの42本から外れていることが判る(図を呈示)。
B)4NQOの光力学的作用:
4NQOがぞうり虫の類に対しphotodynamic actionを示すことは癌センターの永田氏らにより報告されている。この作用が発癌作用とどんな関係があるのかは判らないが、哺乳動物細胞に対しても4NQOがphotodynamic
actionを有するかどうかをしらべるため、正常ラッテ肝細胞株(RLC-10)、なぎさ培養によるラッテ肝変異細胞株(RLH-4)、無蛋白無脂質培地継代のマウスセンイ芽細胞L株の亜株L・P3などについて、4NQO処理の後、365mμの光(4NQOの特異吸収ピークの二つの内一つに相当する波長)を各種の時間に照射し、その影響をしらべた。結果は、これらの哺乳動物細胞に対してもやはり4NQOが、photodynamic
actionを示すことが明らかとなり、それは4NQOの濃度に正比例して細胞を障害し、4NQO無処理で光のみの照射では現われぬことも判った。これに対しL・P3細胞はきわめて特殊で、4NQOに対しては抵抗性が高く、逆に光に対してはきわめてsensitiveであった。詳細は癌学会で報告する。
C)純系ラッテの腫瘍:
日本には純系のラッテが少い。呑竜系も、一部では純系と云われても、皮膚の交換移植からも判るように、純系とは断じ難い。当研究室で15年近くBrother-Sister-matingでinbreedしてきた日本産白ラッテ(その頭文字をとってJAR系と命名)は現在F35に至っているが、F19のとき既に100%皮膚の交換移植が成立した。このラッテを使って、日本では数少い純系ラッテ腫瘍を作ろうと、今年度2月13日にF31の♀ラッテ(生后34日)4匹の皮下にメチールコラントレンを接種した。5月末に至り3/4匹に接種部位に腫瘤を発見。7月末に1匹に腫瘤の急速腫大を認め、これは下腹部に向い膨隆してきた。そこで8月24日にこれを解剖し、1)F32生后35日♀ラッテへ、皮下及び腹腔内接種、2)組織培養、3)凍結保存、4)組織標本に供した。1)は9月2日、皮下群の1/2匹に拇指頭大の腫瘤形成を認めた。他の3匹も肉眼的に同所見の腫瘍を作っていた。2)はexplantsから細胞の生え出しがはじまっている。4)の結果は肉腫、ほぼセンイ肉腫と斎藤教授により診定された。肉腫に何か名前をつけなくてはと、目下考慮中。組織像は来月号に発表する(JAR・F31ラッテにできたMCA肉腫の写真呈示)。
《佐藤報告》
§4NQO→呑竜系ラッテ培養細胞について:
全胎児、胎児肺及び肝細胞を培養して5系列7細胞系に発癌させることに成功した。各系で最初に発癌した動物の経過をまとめた(表を呈示)。この表によると4NQOの濃度10-6乗Mで100時間程度の処理、培養細胞の培養中における日数は100〜200日が必要と考えられる。詳細は10月の癌学会で発表の予定。
§ラッテ肝細胞よりのPure clone:
以上の実験でラッテ肝細胞が試験管内で発癌し、肝癌をつくることが判明したが、発癌機構解明のためには、培養で少くとも正diploidにある肝実質細胞をpure
cloneで作りあげることが望ましい。そのためラッテ肝細胞株からdiploid
Pure cloneを作ることを実施しているが、仲々成功しない。目下、培養肝細胞の適合培地の検討をおわり、CO2
incubatorでの適合条件をみつけるに止まっている。此事の詳細については11月の培養学会で報告の予定。
§今月の月報で丁度100号になるとの事で昔を一寸振返って見ました。我々の研究室は、班の“組織培養による正常及び腫瘍細胞の研究”時代にはEhrlich腹水癌、吉田肉腫細胞、C3H乳癌細胞及びDonryu系ラッテ肝細胞の株細胞化を行い、今日迄其等の株細胞を維持し、Ehrlich腹水癌細胞は日本組織培養学会に登録し、現在無蛋白培地に駲化させている。
“組織培養による発癌機構の研究”ではDonryu系ラッテ肝←3'-Me-DABの研究を行って、自然発癌に比して3'-Me-DAB投与が発癌率及び悪性度を上昇させることを見いだした。現在尚ラッテ肝←DABの培養内機作を検索すると共に4NQO発癌を行っている。
今后我々は更に研究をすすめて癌治療の目的まで出来るだけ早く到達したいと考えている。
《山田報告》
培養細胞の変異に伴う表面荷電の変化
今月は医科研及び岡山大癌研の御協力により、培養細胞の電気泳動度を種々検索することが出来ましたので、先々月の月報に報告した分も合せて、培養細胞の変異に伴う表面荷電の変化を細胞電気泳動度(E.P.M.)より考えて見たいと思います。
まず培養肝細胞と、その変異株についてのみ、比較すると次のごとくになります(図を呈示)。培養ラット正常肝細胞は図に示すごとく、E.P.M.の平均値は0.8μ/sec/v/cm前後で、いづれもシアリダーゼ処理(30単位、acetate
buffer、pH5.6、37℃、30分)(以下すべて同一条件で処理したので、この条件は省略)によりEPMの上昇がみられ、RLC-10では危険率P<0.01で、またExp7-Controlでは0.01<P<0.02の危険率で明らかに差があります。
これに対して、ラット腹水肝癌細胞の培養株は、特にAH7974TCのEPMは高く、その平均値は1.34μ/sec/v/cmの高値を示します。しかしJTC-2及びJTC-1の平均EPMは低く、変異株と大差ありません。これ等にシアリダーゼ処理を行うとかなりの平均電気泳動値の低下を示し、両株及びAH7974TCすべて危険率P<0.01で、有意の平均電気泳動値の低下を認めました。
次ぎに4NQOにより悪性化した岡大癌研株Exp(1)-1のEPMは図に示すように、その平均電気泳動値はあまり高くありませんが、シアリダーゼ処理により、EPMの有意の低下(P<0.01)を示し、またこの細胞をラットに復元して作った腫瘤細胞を再培養した細胞についても同様な結果を得ました。
この細胞系の腫瘤形成はラットに復元後136日を必要としたさうですから、腹水肝癌株より悪性の性質は弱く、それに応じたEPMの変化と考えられます。
変異肝細胞ではあるがラットに復元しても腫瘤を作らないと云うRLH-5、CQ42、CQ40、CQ39のEPMを図に示します(それぞれ図を呈示)。平均電気泳動度値はRLH-5を除き、正常肝細胞のそれにくらべてあまり差がありませんが、シアリダーゼ処理を行うと正常肝細胞と異り、EPMの上昇がみられません。この処理前後の泳動値間の差についての統計的計算ではRLH-5→P>0.5
CQ42→0.1<0.2 CQ40→P>0.5となり有意の差がなく、しかしCQ39についてはP<0.01となり平均値間ではシアリダーゼ処理により上昇すると云う結果になりました。しかし正常肝細胞のシアリダーゼ処理後の変化とCQ39のそれではかなり差があるようです。
これらの所見に基き、細胞変異に伴うEPMの変化をまとめて、次のごときシェーマとしました。これは現時点でのin
vitro培養ラット肝細胞のEPMの変化のシェーマ(図を呈示)、漸定的な考え方です。CQ系の細胞や、なぎさ培養による変異株が復元されてラットに腫瘍を形成するか否かは勿論今後の問題ですが、一応これらの細胞系を「変異して居るが悪性ではない」と云う立場に立っての話です。
ラット肝細胞を長期に培養して自然に悪性化したと云う株RLN-38-87及びそのoriginal
RLN-38-52のEPMを測定した所、両者はいづれも前記の変異株と同様な知見を得ました。これは先きのシェーマと話しが合いません。しかし、この細胞はラットに復元して腫瘍を作るのに、236日もかかったと云うことですので、悪性化して居る細胞はごく少数でEPMの測定の対象にならなかったのではないかと考えました。
この点は今後検討すべき問題点と考えます。
最後に岡大癌研のラット胎児肺細胞及び、その4NQOによる悪性化細胞のEPMの成績を加えます。この細胞はラットに復元すると、60日前後で腫瘤を作るそうですが、明らかに腹水肝癌と同一の結果をなしました。しかもそのEPMは1.40μ/sec/v/cmと云う極めて高い値を示し、またシアリダーゼにより殆んど変化がなく(0.3<P<0.4)、正常肝細胞のそれとは異なります。今後更に変異に伴うEPMの変化を追求したく思って居ります。
《三宅報告》
皮膚の器官培養を発癌に結びつけようとして、細切した胎生皮膚を皮下組織の附着したままで4NQO、メチルコラントレンなどを投与、病理組織学的に変化の推移を追ってきた。この方式を用いることで2週以内に基底層に属する細胞のHyperchromatism、細胞輪郭の変化などがみられたが、それは細胞へのToxicな影響を、除外しえなかった。Sponge
Matrix Cultureという手慣れた筈の培養方式では、培養期間の長さに隘路があることが憶測され、試験管内癌化のためには、より長期にわたる培養を続ける必要を生じ、胎生皮フを細胞単位にまで単離して、単層培養を行う以外に手がないことが判明した。
方法:
ヒト又は実験動物(d.d系マウス)の胎生15〜17日の皮フをDermisをつけて剥離、細切して、37℃でトリプシン処理、単離したものをEagle液に10〜20%の小牛血清を用いたものを用いて培養、一定時日の後に再びトリプシン処理して、平型試験管に植えつぎ、20-メチールコラントレンを培養液1mlあたり1μgを添加、直ちに正常の培養液に戻した。(経過表を呈示)。Primary
Cultureは5月14日(1968)。
結果:トリプシン処理后、植えつがれた細胞は、上皮性と考えられるものと、非上皮性と考えられるものの混在である。しばらくすると上皮性とみられるものは消失に傾き、紡錘形のFibroblastと考えられる細胞が勝ってくる。こうした紡錘形のものも、徐々に形態をかえ、偏平な星芒状に転じてゆくものが多く、形質中に顆粒を多く、たくわえた、核小体の鮮明な大きい核をもつようになる。
メチールコラントレンを作用せしめたものでは、殊に細胞が巨大、偏平化することが早い。メチールコラントレンの作用時間を30分とすると、細胞の変性が強く、2〜3日后には細胞が硝子面から、ほとんど剥脱されるので、作用の時間を極端に短くした。こうして8月17日(約2ケ月后)にNo.18の3回メチールコラントレンを3日間隔に投与したものに、異型な細胞が出現した(写真を呈示)。この細胞は、前に述べた偏平化した多くの細胞群の間に、
境界の明かな集蔟を作ることなく、かなりな範囲に広がって存在する。細胞の形態は紡錘形、大きさは略々Uniform、両端は長い突起をそなえ、相隣れるものと連絡し、時に束状に、時に網状に相つらなっている。細胞は両端から牽引せられ、そのためか豊かな胞体の周囲に位相差像では暈をしめし、重厚な形質のために核は著明にみられない。この細胞群の中には分裂像と考えられるものが散在する。経過を観察中である。
《梅田報告》
動物の発癌実験において化学剤発癌は、最低数ケ月も要するのに、ウィルス発癌はそれに較べると極端に短時日のうちに腫瘍形成にいたる。in
vitroの我々の系でも、ウィルス発癌の場合はtransformed
colony形成が簡単に認められ、定量化へと進んできたのに対し、Sunford等の仕事から、勝田先生、佐藤先生の一連の仕事、Heidelberger等の仕事等、完全に腫瘍性を獲得する迄、かなりの培養日数を必要としている。Suchs等のベンツピレン等を使用した実験に端を発し、黒木氏等の4NQOによるtransformed
colony形成をin vitroに於けるウィルス発癌実験と同じ様に短時日のうちに認め、in
vitro carcinogenesisに成功したとする報告は、私にはいささか納得がいかなかった。はからずも、黒木氏自身、彼の系でもinductionとpromotionの考え方を入れる方向に来ているのを知って、私自身気を強くしている。
私はin vitroでも化学発癌剤による発癌は、日数を要するものとの考えから、現在mono-layerに生えたprimary
rat liver cultureにDABの大量1回、或は小量常時投与を行い、培養を続けている。しかしSunford等の一番最初の発癌実験の記載とか、奥村氏の詳細な報告の如く、対照群の細胞にも生ずるspontaneous
transformationの問題が入り込んで居り、複雑な要因がからまっているのは云うまでもない。これ等を充分考慮に入れながら、目下in
vitro発癌のcellular levelでの現象を更に深くさぐる努力をしている。
もう一つ、私のやってきた、そして以后強力に続けたい研究の方向として、化学発癌剤による急性の毒性効果とか、作用機作を調べることがある。Praimaryのrat
liver cultureにDAB、黄変米毒素のルテオスカイリンを投与すると、肝細胞だけに特異的な変化を生ずるのに、同時に生えている間葉系の細胞群は障害を受けない。又DABと同じ骨格を持ち、発癌性のないABは、その様な変化を起さない。目下、之等の変化を詳細に調べ、又他の発癌剤についても調べているが、今后は、この急性変化と、発癌機構とどの様に結びついているのかを解明するのが、大きな課題と思っている。
《堀川報告》
A)培養哺乳動物細胞における
放射線ならびに化学発癌剤障害回復の分子機構の研究(7)
紫外線照射による第一義的な障害がDNA内のpyrimidine
dimerの形成にあり、さらにこうした障害回復(pyrimidine
dimerの除去)の分子機構が微生物を始めとする多くの材料を用いて次第に明らかにされて来ている。私共のgroupでもEhrlich、マウスL、ブタPS細胞という3種の培養細胞株を用いてthymine
dimerの除去機構を探索した結果、Ehrlich細胞にはUV照射でDNA中に形成されたthymine
dimerの除去機構、つまり暗回復能をもつことを発見し得た。しかし、大腸菌等でみられるUV障害に対する光回復能は、私共が使用している3種の細胞株では勿論のこと、世界の研究者もいまだに光回復能を保持する高等動物細胞を発見し得る段階に至っていない。
これまでにpublishされた結果から判断すると、光回復機構を保持するものは、どうやら微生物からはじまってウニの卵とか、特殊な魚類の細胞株、両棲類といったあたりまでのようである。高等な動物細胞には、更に別の機能が発達しているために、こうした光回復能の保持を必要としないのかもしれない。
一方X線の生細胞に対する影響、つまり障害のprincipal
sitesは未だに不明のままであり、ましてやその障害の回復機構は分からない。私共は前述のEhrlich細胞、L細胞を用いて、10KR、5KR、2KRのX線で照射した後、DNAのstrandがどのように切断され、しかも照射後15分、30分、60分と37℃のincubator中で細胞をincubateする間に、切断されたDNAがどのように、rejoiningして行くかといった過程を究明している。
正常なEhrlich細胞やL細胞からは、sedimentation
constant(S20,w)にして、210single strand DNAが分離されるが、こうした正常細胞を10KRで照射した直後ではsingle
strand DNAはS20,wは71程度の小さなものに切断される。だが照射されたこれら細胞を15分、30分とincubateしておくと殆どもとのS20,w=210までrejoining出来ることが分った。これらは勿論5〜20%のsucrose
gradient centrifugationによる解析であって、ここで興味あることはUV障害に対して暗回復機構をもつEhrlich細胞でも、さらには暗回復機構をもたないマウスL細胞でもsingle
strand DNA breaksのrejoining acivityを殆ど同じ程度もつということで、こうした結果はX線照射によるsingle
strand DNA breaksのrejoiningの機構は、UV障害からの暗回復機構とはまったくindepedentのものであることを暗示する。
一方、X線照射によって誘発されたDNAのdouble
strand breakの場合は、前述の2種の細胞を用いて調べた範囲では、rejoining
activityの見られないことも分った。 こうしたradiationによる障害回復の分子機構と、これまでやって来た培養細胞に対する4NQO処理による障害の回復機構を比例して検討している。
B)培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびに
Leukemogenesisの試み(5)
マウス大腿骨骨髄から取り出したbone marrow細胞を一定期間培養した後、X線被爆したマウスに注入し、被爆マウスの骨髄死に対する防護能とspleenへのcolony形成能を指標として培養bone
marrow細胞の生物学的活性、およびその分化と増殖の機構、ひいては、こうした系を用いてLeukemogenesisの機構を検索している。現在では30日齢のNC系マウスから得たbone
marrow細胞を70%TC-199、10%TPB、20%牛血清からなる培養液で、TD-40瓶内で静置培養し、この培養bone
marrow細胞を培養後10〜300日(300日のものは完全にcell
lineとしてestablishされた)に取り出して生後60日の700R被爆の同系マウスの尾静脈より注入して、被爆マウスの9日後のspleen表面に形成されたコロニー数と、30日生存率を求めている。同時にbone
marrow細胞の培養経過に伴う細胞種の分類、およびオートラジオグラフによるH3-TdRの取り込み能は、従来報告して来たように、経時的に解析を行っている。途中経過はこれまでの月報にて報告して来たので、最近の代表的なresultsを要約してみると以下のようになる。
(1)培養前にみられた多種の細胞群は培養10日頃までに減少、消失し、従来みられなかった巨大単核、二核細胞が次第に増殖し、培養180〜300日に至ると、これが全populationの100%を占めるようになる。(こうした巨大細胞、二核細胞の増殖能はH3-TdRの非常に高い取り込み能と、分裂係数(mitotic
index)からもうかがえる)。
(2)培養bone marrow細胞を注入して、700R被爆マウスのspleenに生じるコロニー数を調べた結果では、培養期間10日以上経過した細胞群においては、対照群(細胞非注入群)との間に有意な差は認められない。
(3)一方、培養bone marrow細胞を注入した被爆マウスの30日生存率を調べた結果は、培養30日までの細胞を注入した各群では、対照群との間に生存率向上という点で差がみられている。以上、非常に面白い結果が得られており、こうした系を用いて細胞の分化と癌化の機構を検討中である。
さらに、これに関連して私共はマウスthymus細胞、spleen細胞を培養して、その生物学的機能の検索を進めているが、最近マウスC57BL/6Jax系生後24時間のnew-bornから得た、thymus細胞を一ケ月培養し、生後10日、14日、21日目の同系マウスの皮下、腹腔内に500万個細胞づつ復元すると、非常に高率に腫瘍を作り、しかもこうした癌細胞はtransplantableであることが分って来た。培養期間の短かいこと、復元より腫瘤形成迄要する時間の短いこと、更にbone
marrow細胞とかspleen細胞と関連して、非常に重要な生物学的機能をもつthymus細胞であるが故に、この種の実験系は今後の慎重な解析を必要としている段階である。次号にてこれらの詳細を報告する予定である。
《高木報告》
1)器官培養による発癌実験
ハムスター、ラット、マウス、人などの胎児の皮膚の器官培養による発癌実験を行うにあたり、まず培養法の検討を行い、また発癌物質の添加培養培養した皮膚の移植などを試みた。
1)培養法の検討
上記動物の胎児の皮膚を培養するのに、天然培地および種々の半合成培地を用いたが、天然培地のうちwatch
glass methodによりchick plasmaとCEEを2:1に混じて凝固させたものが最も効果が良かった。この培地上では妊娠18週目の人胎児の皮膚は、培養後3週目にもなお多数のmitosisが認められた。温度に関して、ハムスターの胎児皮膚を30℃で培養したところ、37℃のものにくらべて明らかに良い結果がえられた。
2)発癌物質の添加
器官培養下の胎児皮膚に発癌物質として、4NQOを添加した。濃度は10-6乗mol程度が適当と思われたが、この濃度では殆ど変化はみられなかった。液体半合成培地を用いて培養したマウスの皮膚に10-4乗molの4NQOを添加した時、培養後72時間して表皮の一部に突起状の肥厚を認めた。またplasma
clotを用いて培養した人胎児皮膚において、4NQO
10-5乗mol添加群に幾分mitosisの増加がみられたが、これらの変化がどの程度悪性化にむすびつくか、は判らない。
3)培養した皮膚の移植
plasma clotを用いて7日間培養した雑種ハムスター胎児の皮膚をハムスターに移植した。培養中4NQOを添加した群と対照群との間に、観察した約20週の間には殆ど有意と思われる変化はみられなかった。一方移植成功率が非培養群では8/17であるのに、培養群では15/17と可成り高率である点は注目されるべきで、さらに検索したい。培養条件についてはなお検討する予定である。
2)細胞培養による発癌実験
newbornよりweanlingに至るラットの胸腺および肺の細胞を培養し、一部ラット胸腺より分離した株細胞を使用した。
発癌物質としては4HAQO、4NQO、Nitrosoguanidine(NG)を用いた。
1)4HAQO添加実験
ラットの胸腺細胞を用いて4実験行ったが、うちWistar
King A(WKA)ラット胸腺の2代目の細胞に10-5乗molの濃度を2回作用せしめたもので、処理後約15日でpile
upしたcolonyをえた。この細胞を増殖せしめて生後3週の同系ラット皮下に100万個細胞数接種したが、腫瘤の形成はみられなかった。
2)4NQO添加実験
王様系ラット胸腺より分離した株細胞を用いて2実験、Wistar
King A(WKA)系ラット胸腺のprimary cultureを用いて3実験、ラット肺のprimary
cultureを用いて2実験行った。
4NQOは10-6乗、5x10-7乗、2x10-7乗molの濃度に培地で稀釋し、種々の時間、回数を作用せしめた。うち株細胞に10-6乗mol作用せしめたものから変異細胞のcolonyをえたが、移植実験には成功しなかった。またWKA系ラット胸腺培養の2代目以後、2x10-7乗molを頻回作用せしめたものがmorphological
transformationをおこしたので現在移植実験中である。
3)NG添加実験
前記株細胞を用いて4実験、ラット胸腺のprimary
cultureを用いて10実験、ラット肺のprimary
cultureを用いて3実験を行った。
NGは1μg/mlより500μg/mlに至る濃度で種々の時間および回数作用せしめた。そのうちWKA系ラット胸腺3代目の細胞にNGを10μg/mlになるように滴下し、6日間放置したものより変異細胞をえた。この細胞を処理後約40日目に、同系のwianling
ratに100万個細胞数接種したが、腫瘤は作らなかった。しかし処理後約170日目頃より対照と比して細胞の増殖度が目立ってよくなり、対照が1週間に約5倍程度の増殖を示すのに対して処理細胞は約10倍程度の増殖を示した。形態的にも対照はmonolayerを示すのに対して処理細胞はcriss
crossが著明でpile upする傾向がつよかった。一般にNGは、細胞に変異をおこさしめる至適濃度の幅がせまいようで処理後相当長期にわたり細胞の増殖がみられず、従ってmorphological
transformationがおこるまでのincubation timeが、長いように思われる。さらにNGを作用せしめる培養組織として、幼若WKAラット胃の培養をこころみて上皮性細胞の増殖をみた。これが如何なる組織に由来する細胞か未だ同定しえないが、この細胞を用いた発癌実験を計画している。変異細胞の染色体については目下検索中である。
《安藤報告》
1)癌の遺伝子変異説の検討
いかなる機序によって癌が発生するかに関して現在二つの考え方がある。(月報6705)。すなわち発癌剤、その他の作用によって正常な細胞が変異を起すのか、あるいは初めから混在していた悪性細胞が逆淘汰されてくるのか、という考え方である。しかしながらこの癌細胞の発生の由来のいかんにかかわらず、癌細胞は正常な細胞の持つ種々な調節機構に異常をきたしている。この癌細胞の異常性は病理学的、生化学的、その他の種々の研究手段によって現在迄にかなり明らかにされている。それにもかかわらず残念なことには、明らかにされて来た事は全て正常細胞と癌細胞の表現形質の量的な差でしかなく、本質的と思われる質的な差異は見出されてはいない。したがって一歩立入って、それでは癌細胞の遺伝子はどうなっているのであろうか、DNAレベルの変異を起しているであろうか、という疑問には何も答えない。私はこの問題に何らかの手がかりを得ようと次のような計画を立て、実験を進めている。
当勝田研究室で無蛋白無脂質合成培地で8年間にわたり培養されている、マウス皮下センイ芽細胞由来のL929の亜株L・P3を使用し、これに薬剤処理をすることにより、種々の表現形質の異なる変異株を誘導する。次にそれ等の変異株及び原株の間にDNAを介しての、この表現形質の転換(transformation)が起るか否かを調べる。すなわち、その表現形質の変異は単なる細胞内調節機構の異常によるのではなく、遺伝子中のDNAの変異に由来するならば、次にこの手法を応用することによって前述の疑問−癌細胞は遺伝子変異によるか−に直接回答しうることになる。すなわち癌性がDNAによって他の細胞に移るとすれば、まさに癌は遺伝子変異によると結論出来るわけである。このような実験計画にしたがって次の予備実験を行っている。
L・P3を単個培養によりNG(N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine)処理をする。処理後増殖を回復してきた細胞からクローニングをくり返すことにより、幾つかの純クローンを分離した。現在各クローンについて栄養要求性に変異を生じているか否かを検索中である。 2)4NQOの作用機序の細胞培養による研究
4NQOは杉村らにより、生体内で4HAQOに還元される事により発癌性を獲得する事が示された。又腹水肝癌AH130のDNAに、腹水蛋白に結合する事がin
vivoで示されている。しかしながら、この核酸、蛋白、あるいはその他の生体物質の内、いずれとの結合が癌化に直接みちびく反応であるのかについては全く不明である。そこで私共は細胞培養を利用する事により、動物体という多因子系による問題の複雑化を避け、より精密な発癌過程の分析を企図した。
H3-4NQOを前述のL・P3細胞に与え、細胞中へのとりこみ、及び細胞成分との結合のkineticsを調べることにより、最も4NQOとの反応性に富む成分は何かを検討した。結果は次の如くである。4NQOと細胞内蛋白質、核酸との結合は、37℃において、30分で最大となり以後3〜4時間はほぼ一定値を保っていた。またこの結合にあずかる蛋白は、DAB及びMCで示されたような特異蛋白ではなく種々の分子量を持つ殆ど全ての蛋白を含んでいた。目下核酸との結合様式、結合物の安定性等検討中である。
《安村報告》
1.発ガンのSelection説の検討(つづき):
月報のNo.6804に勝田班長がふれておられるが、Dr.L.Diamondのシリアン・ハムスター胎児細胞の培養内自然発ガンの報告は、このいわゆる自然発ガンの原因として3つのfactorを考察していた。つまりこの癌化は1)あらかじめ生体内に存在していたかもしれないvariantで、malignantのきざしのあるものをselectionによって継代中にひろいあげたか、2)未知のtransforming
virusによるか、3)まだ不明の物理的、化学的な原因によるものか、ということであった。あるいはこれ以外の原因があるかもしれないし、これらの原因が互いに絡み合っていることも考えられよう。
月報のNo.6808では上記の原因のうち、1)の仮説の可能性の分析のためにMacPhersonらによるSoft
agar法の利用について予報された。実験の狙いは同号の討論にのべた如くです。
1-1.シリアン・ハムスター胎児細胞の初代培養では100万個、50万個/plateではSoft
agar中のColony生成はみとめられない。そのご再び初代培養と2代継代培養によるSoft
agar中のColony生成が試みられたが、いずれも結果はマイナス。
1-2.以上のデータはSoft agar法がmalignant
transformed cellをselectiveに増殖させることにあったとすれば当然のことのようにみえよう。しかしColony生成がゼロではなんとも前進のしようがない。
1-3.最近E.TjottaらがPolyoma vurusによるtransformed
cellが、Conditioned madiumを加えたSoft agarでよりよくColonyを生成するし、polyoma
virusで処置しあい宿主細胞(BHK21/C13)も同様mediumでColonyを生成すると報告した。そこでこのconditioned
mediumを加える方法をこころみた。
1-4.Conditoned mediumは初代培養細胞と2代培養上清を液かえの際にプールして集められた。初代培養細胞と2代継代細胞が出発材料、Conditioned
mediumはSoft agar中に100%(agar以外の培養液は100%Conditioned
mediumということ)、50%、0%の割合にして各群5枚のplateをつかった。結果は接種細胞数100万個に対して、3週めに初代培養細胞の群のうち、Conditioned
medium 100%のところでColony(0.1mm以下)が1コ、50%のところで1コ出現した。しかしそのごColonyの増殖はなく壊死におちいってしまった。いずれからもColonyを分離して増殖させることはできなかった。ついでなされた同様の実験ではConditioned
mediumの割合を75%、50%、25%、0%でなされた。75%と50%の群で接種細胞数100万個につき、それぞれ5枚のPlat中2枚に数コ〜10数コのColony生成をみとめた。しかしこれらのColonyが増殖可能かいなかは、実験進行中なので、詳細は次回へ。
2.AH7974TC細胞のSoft agar中での増殖:
上記のSoft agar法をつかって行われているハムスター細胞の実験のControlとして、われわれのtechnicの信頼度をしらべるとともに、基礎実験がAH7974TC細胞でなされた。接種細胞100/Plateで11〜30のColonyができ、成績は上々。(Soft
Agar中のAH7974TC細胞コロニーの写真を呈示。この実験ではconditioned
Mediumはつかっていない。)
《藤井報告》
培養ラット肝細胞とその変異株細胞の抗原について
癌抗原の存在が、宿主の免疫学的抵抗性の成り立つ基盤出あり、癌に抗原性の在ることを立証することが、癌の免疫学的研究の起点となる筈である。化学発癌のばあい、各例性質の異なる癌の発生することが示されており、それらの抗原のちがいについての発表もある。
すでに、本研究班では“なぎさ"培養によるラット肝細胞の変異(勝田)、ハムスター胎児細胞の4-NQO処理による培養内発癌(黒木)、ラット肝細胞の3'MeDABおよび4-NQO処理による培養内発癌(佐藤)に成功している。比較的単一な細胞群を扱う組織培養実験では、培養細胞の変異過程を追跡することが可能であり、有利に癌抗原の分析をすすめられる筈である。
培養内細胞の癌化にともなう抗原性の変化を検討することが、筆者に課せられたテーマであるが、今まで、ラット肝細胞、いくつかのラット肝癌、培養ラット肝細胞とその変異株等について、double
diffusion法とimmune adherence(IA)法によって、それらの抗原の検討をおこなって来た。
1.Double diffusion法による抗原分析
培養細胞を主としてあつかう関係から、少量の細胞について実験をすすめる必要があり、double
diffusion(Ouchterlony)の変法であるmicrodiffusion法(月報、No.6710に記載)を、採用した。この方法は、Ouchterlony法より抗原−抗体沈降線の検出が鋭敏に出来、20万個の少数細胞でも実験可能であることが、基礎実験で示された。
抗原液:細胞20万個に対して、0.5%Na-deoxycholate-PBSを0.5mlの割に加えて浮游させ、ホモジナイズ后、その遠沈上清(2,000rpm、20分)を抗原液として用いる。培養細胞は、医科研癌細胞研究部のものである。
抗血清:ウサギ抗ラット肝組織抗血清(RALS)、ウサギ抗ラットAH13抗血清(RATS-AH13)
の原血清を用う。
成績のあらまし:
1)ラット肝組織は、RALSに対して5本の沈降線を示すが、
2)培養ラット肝細胞(RLC-9)は、この中の1本と共通な沈降線のみをつくった。
3)培養ラット肝細胞変異株(“なぎさ")RLH-5は、RALSに対して、全く沈降線をつくらない。 4)このRLH-5細胞は、抗ラット肝癌抗血清(RATS-AH13)に対して弱いけれども、1本の沈降線を示した。
小括:培養ラット肝細胞が成熟ラット肝の抗原の大部分をもたないことは、培養ラット肝細胞が新生児ラット肝由来であることと、肝組織中の一群の細胞にかぎられることによると考えられるが、変異株では、変異以前の抗原を失い、別に肝癌の抗原(この場合AH13と共通な抗原)を獲得するようである。このような肝癌にみられる抗原が、癌の抗原によるのか、contaminationによる微生物の抗原によるのかは、今后慎重に検討されなければならない。
2.Immune adherence(IA)法による抗原分析
IA現象(免疫粘着現象、Nelson,R.A.,Jr.)は、抗原-抗体-補体複合体に人赤血球が粘着する反応で、極めて鋭敏な免疫反応である。細胞表面の抗原の検出は、抗体、補体、人赤血球を加えて反応させ、顕微鏡下に、人赤血球の粘着している細胞を識別し、算定することによって可能である。また凝集反応(免疫粘着赤血球凝集反応、immune
adherence hemagglutina-tion)-西岡-として、反応の強さを判定しうる。
方法:培養細胞を、培養の状態のまま抗体と反応させる目的で、小型の培養小角ビン中で1日培養し、TC-199液で洗滌した后、稀釋抗血清、1/5とモルモット補体用血清、1/20を、各0.25ml宛を加え、37℃で30分間反応させた后、2%人赤血球(O型)浮遊液0.1mlを添加して、さらに37℃で30〜60分反応させる。反応后、TC-199液で数回洗って、浮游赤血球を流し去ってから、倒立顕微鏡下にIAのおこっている細胞を識別算定する。
成績のあらまし:
1)培養ラット肝細胞(RLC-10)は、ウサギ抗ラット肝抗血清(RALS)によって強いIA(++++)を示すが−(double
diffusiondeha反応弱く、沈降線1本のみ)−、“なぎさ"変異種(RLH-3、RLH-4とRLH-5)は、弱いIAを少数の細胞にみとめたにすぎない(±)。しかし、これらの変異株はいづれもウサギ抗ラット肝癌AH7974(RATS-7974)には、稍ついIAを示した(+)。
2)ウサギ抗AH130抗血清(RATS-AH130)にたいして、AH130細胞−腹腔継代細胞−は33%、培養AH130(JTC-1)は68%のIA陽性細胞を示した。抗AH7974抗血清(RATS-AH7974)では、前者は27%、後者は43%の細胞がIA陽性であった。この傾向は、AH7974細胞とその培養継代細胞についても観察された。
すなわち、ラット肝細胞は、各肝癌に対応する抗体とつよくIA反応をおこす他、非対応の他の肝癌に対する抗体ともかなりつよいIA反応を示すことがわかる。
また培養ラット肝癌細胞の方が、元の腹腔継代細胞よりむしろ強いIA反応をおこしたことは興味ある点である。この点に関して、培養液中のcalf
serumが細胞に吸着され、calf serumと用いた抗血清、補体との間の自然抗体によるIA反応が、反応増強にあづかってないかどうかが問題となる。この問題は、培養AH7974細胞をcalf
serumをふくむ“199"液(10%)中においても(室温、30分)、IA反応に影響がみられなかった最近の実験から一応否定してよいと思われる。
小括:
1)IAによる実験で、培養ラット肝細胞変異株(“なぎさ")は、変異以前の抗原の多くを失内、一方、ラット肝癌に共通な抗原を獲得しているようにみえる。
2)AH130、AH7974細胞と、それぞれの培養継代細胞は、正常ラット肝抗原の多くを示さないが(この成績は上に記さなかったが)、対応する抗体の他に、非対応の抗体にもかなり強くIAを示し、ラット肝癌に共通な抗原のあることを示唆している。
培養継代細胞の方が、腹腔継代細胞よりも強いIAを呈する事実は、培養によって、細胞膜面に抗原−抗体反応がおこり易くなるような、あるいは抗原の露出を来すような変化がおこっていることを示唆する。
《永井報告》
1)Ektobiologyと糖質・脂質
細胞の機能には質的に異なる二つの面があるものとみられる。その一つは、個々の細胞そのものの生命維持に必須な機能である。これには蛋白質や核酸があづかっており、今迄の生化学の対象の中心となっていた。これが障害を受けたときには、病気よりもむしろ死を招く。いま一つは、細胞が一定の秩序のもとに集まっていとなむ、いわば、細胞の社会的な機能に関するもので、これがおかされても、前者のようには、直ちに死に至ることはない。その生物学をKalckarはEktobiologyの名で総括している。これに大きな役割をはたしていると考えられるのは、細胞表面の特異構造であり、物質的には糖質や脂質が主役になるものと予想される。我々は、癌問題をむしろこの第2の角度から把握していこうという考えで研究をすすめている。
2)研究目的
この問題に、生化学的にアプローチしていこうとして、我々がまずとりあげたことは、Ektobiologyにおける主役物質は何かということである。そこで、いうところの糖質や脂質がそうなのかどうか、これをまず明らかにしようとして実験をしくんできた。Ektobiolo-gicalな現象が典型的にあらわれてくるものの一つは、発生と分化の問題であろう。そこでは、2つの異なった生殖細胞の融合としての受精に始まって、形態形成にみられる細胞集団の完璧な秩序のうちにある特異な移動運動など、いろいろな問題がある。ここに着目して、かつ、大量の材料が入手しうるということから、さしあたってウニの配偶子およびその胚を材料として実験をおこなってきた。
まず研究の焦点を、細胞の表面に存在すると予想される糖脂質にしぼって、次の項目をとりあげた。1)実際に糖脂質が配偶子や胚に存在するか。2)それはどのような化学構造のものか。3)それらに細胞表面の特異性に関係づけてもよいような、特異的な構造上の違いが見出されるか。4)発生、分化の過程の途上において、それらに何らかの変動がみられるかどうか。
3.実験成績
それに対して現在までにえられた答は、1)ウニの配偶子(精子および卵)および胚には、確かに糖脂質が存在する。それらはシアル酸を構成分の一つとして有するもので、その糖脂質(シアロムコリピド)の数は、9種以上にも達する。
2)それらは複雑な化学構造を有するが、構造上には一定の関係があり、一連の代謝経路上にのっているものと考えられる。3)精子と卵とでは存在する糖脂質の種類に違いが実際にみられた。のみならず、ウニの種類が違えば存在する糖脂質の構造も違ってくる(種特異性)ことがわかった(月報No.6808)。4)そのうちのいくつかでは化学構造の決定がおこなわれた。すなわち、ムラサキウニ精子の糖脂質のうちの一つはセラミド-Glc(6←2)シアル酸←シアル酸であり、卵の糖脂質のうちの一つはセラミド-Gic-Glc(シアル酸一分子)であることなどがわかっている。
現在これらの脂質の化学構造の決定を更にすすめるとともに、その細胞における存在位置、発生途上における変動などの生物学的な面を追究しようとしている。
ウニ胚は一層の細胞が中空のゴムマリ状にならなだ胞胚期から、第一次間充織細胞の陥入に始って、原腸形成に向って表層が陥入していく嚢胚期を経て、発生、分化をすすめていくが、この際の細胞の陥入運動は何によるものであろうか。まず考えられるのは、細胞間の接触状態にひとつのゆるみがおきるのではないだろうか、ということである。我々はこれを、たとえば細胞表面のシアル酸が表面から脱離するためによるのではないかと考え、シアリダーゼの特異的阻害物質を陥入期直前に作用させてみたが、何等の影響もみられなかった。しかし、プロテアーゼの強力なinhibitorであるトリペプチド、Leupeptineを作用させたところ、原腸陥入が全く抑制されることを見出した。この場合、細胞はそのまま生存を続けた。このことをどのように解釈するかであるが、この陥入期に至って細胞からプロテアーゼが分泌され、それが細胞間をつないでいる基質に作用して分解し、その結果細胞間の結合をゆるめるのではないかと、現在のところ考えている。これもまた、細胞の定着、migration、といったEktobiologyの問題の一つである。Leupeptineはつまりこのプロテアーゼ作用を抑制し、それが陥入の抑制となってあらわれてくるとみるのである。
【勝田班月報・6809】
《勝田報告》
A)4NQOによる培養内細胞変異:
これまでの月報で報告したように、正常ラッテのセンイ芽細胞や肝細胞の2倍体株(ヘイフリックの云うようにしだいに切れてしまう株ではない)を用いて、これまで4NQO処理をおこない、且その間の細胞形態の変化を顕微鏡映画撮影によって追究してきた。細胞に対する毒性度をしらべた結果、我々は3.3x10-6乗M・30分処理を1回の処理として与えることにしているが、1回以上、系によってさまざまの回数にわたって処理し、色々な変異株を得ている。4NQO処理を受けた正常ラッテ肝細胞の変異株の染色体数の分布図を次に示す。CQ39は4回、CQ40は1回、CQ42は2回の4NQO処理を受けていて、いずれも2nの42本から外れていることが判る(図を呈示)。
B)4NQOの光力学的作用:
4NQOがぞうり虫の類に対しphotodynamic actionを示すことは癌センターの永田氏らにより報告されている。この作用が発癌作用とどんな関係があるのかは判らないが、哺乳動物細胞に対しても4NQOがphotodynamic
actionを有するかどうかをしらべるため、正常ラッテ肝細胞株(RLC-10)、なぎさ培養によるラッテ肝変異細胞株(RLH-4)、無蛋白無脂質培地継代のマウスセンイ芽細胞L株の亜株L・P3などについて、4NQO処理の後、365mμの光(4NQOの特異吸収ピークの二つの内一つに相当する波長)を各種の時間に照射し、その影響をしらべた。結果は、これらの哺乳動物細胞に対してもやはり4NQOが、photodynamic
actionを示すことが明らかとなり、それは4NQOの濃度に正比例して細胞を障害し、4NQO無処理で光のみの照射では現われぬことも判った。これに対しL・P3細胞はきわめて特殊で、4NQOに対しては抵抗性が高く、逆に光に対してはきわめてsensitiveであった。詳細は癌学会で報告する。
C)純系ラッテの腫瘍:
日本には純系のラッテが少い。呑竜系も、一部では純系と云われても、皮膚の交換移植からも判るように、純系とは断じ難い。当研究室で15年近くBrother-Sister-matingでinbreedしてきた日本産白ラッテ(その頭文字をとってJAR系と命名)は現在F35に至っているが、F19のとき既に100%皮膚の交換移植が成立した。このラッテを使って、日本では数少い純系ラッテ腫瘍を作ろうと、今年度2月13日にF31の♀ラッテ(生后34日)4匹の皮下にメチールコラントレンを接種した。5月末に至り3/4匹に接種部位に腫瘤を発見。7月末に1匹に腫瘤の急速腫大を認め、これは下腹部に向い膨隆してきた。そこで8月24日にこれを解剖し、1)F32生后35日♀ラッテへ、皮下及び腹腔内接種、2)組織培養、3)凍結保存、4)組織標本に供した。1)は9月2日、皮下群の1/2匹に拇指頭大の腫瘤形成を認めた。他の3匹も肉眼的に同所見の腫瘍を作っていた。2)はexplantsから細胞の生え出しがはじまっている。4)の結果は肉腫、ほぼセンイ肉腫と斎藤教授により診定された。肉腫に何か名前をつけなくてはと、目下考慮中。組織像は来月号に発表する(JAR・F31ラッテにできたMCA肉腫の写真呈示)。
《佐藤報告》
§4NQO→呑竜系ラッテ培養細胞について:
全胎児、胎児肺及び肝細胞を培養して5系列7細胞系に発癌させることに成功した。各系で最初に発癌した動物の経過をまとめた(表を呈示)。この表によると4NQOの濃度10-6乗Mで100時間程度の処理、培養細胞の培養中における日数は100〜200日が必要と考えられる。詳細は10月の癌学会で発表の予定。
§ラッテ肝細胞よりのPure clone:
以上の実験でラッテ肝細胞が試験管内で発癌し、肝癌をつくることが判明したが、発癌機構解明のためには、培養で少くとも正diploidにある肝実質細胞をpure
cloneで作りあげることが望ましい。そのためラッテ肝細胞株からdiploid
Pure cloneを作ることを実施しているが、仲々成功しない。目下、培養肝細胞の適合培地の検討をおわり、CO2
incubatorでの適合条件をみつけるに止まっている。此事の詳細については11月の培養学会で報告の予定。
§今月の月報で丁度100号になるとの事で昔を一寸振返って見ました。我々の研究室は、班の“組織培養による正常及び腫瘍細胞の研究”時代にはEhrlich腹水癌、吉田肉腫細胞、C3H乳癌細胞及びDonryu系ラッテ肝細胞の株細胞化を行い、今日迄其等の株細胞を維持し、Ehrlich腹水癌細胞は日本組織培養学会に登録し、現在無蛋白培地に駲化させている。
“組織培養による発癌機構の研究”ではDonryu系ラッテ肝←3'-Me-DABの研究を行って、自然発癌に比して3'-Me-DAB投与が発癌率及び悪性度を上昇させることを見いだした。現在尚ラッテ肝←DABの培養内機作を検索すると共に4NQO発癌を行っている。
今后我々は更に研究をすすめて癌治療の目的まで出来るだけ早く到達したいと考えている。
《山田報告》
培養細胞の変異に伴う表面荷電の変化
今月は医科研及び岡山大癌研の御協力により、培養細胞の電気泳動度を種々検索することが出来ましたので、先々月の月報に報告した分も合せて、培養細胞の変異に伴う表面荷電の変化を細胞電気泳動度(E.P.M.)より考えて見たいと思います。
まず培養肝細胞と、その変異株についてのみ、比較すると次のごとくになります(図を呈示)。培養ラット正常肝細胞は図に示すごとく、E.P.M.の平均値は0.8μ/sec/v/cm前後で、いづれもシアリダーゼ処理(30単位、acetate
buffer、pH5.6、37℃、30分)(以下すべて同一条件で処理したので、この条件は省略)によりEPMの上昇がみられ、RLC-10では危険率P<0.01で、またExp7-Controlでは0.01<P<0.02の危険率で明らかに差があります。
これに対して、ラット腹水肝癌細胞の培養株は、特にAH7974TCのEPMは高く、その平均値は1.34μ/sec/v/cmの高値を示します。しかしJTC-2及びJTC-1の平均EPMは低く、変異株と大差ありません。これ等にシアリダーゼ処理を行うとかなりの平均電気泳動値の低下を示し、両株及びAH7974TCすべて危険率P<0.01で、有意の平均電気泳動値の低下を認めました。
次ぎに4NQOにより悪性化した岡大癌研株Exp(1)-1のEPMは図に示すように、その平均電気泳動値はあまり高くありませんが、シアリダーゼ処理により、EPMの有意の低下(P<0.01)を示し、またこの細胞をラットに復元して作った腫瘤細胞を再培養した細胞についても同様な結果を得ました。
この細胞系の腫瘤形成はラットに復元後136日を必要としたさうですから、腹水肝癌株より悪性の性質は弱く、それに応じたEPMの変化と考えられます。
変異肝細胞ではあるがラットに復元しても腫瘤を作らないと云うRLH-5、CQ42、CQ40、CQ39のEPMを図に示します(それぞれ図を呈示)。平均電気泳動度値はRLH-5を除き、正常肝細胞のそれにくらべてあまり差がありませんが、シアリダーゼ処理を行うと正常肝細胞と異り、EPMの上昇がみられません。この処理前後の泳動値間の差についての統計的計算ではRLH-5→P>0.5
CQ42→0.1<0.2 CQ40→P>0.5となり有意の差がなく、しかしCQ39についてはP<0.01となり平均値間ではシアリダーゼ処理により上昇すると云う結果になりました。しかし正常肝細胞のシアリダーゼ処理後の変化とCQ39のそれではかなり差があるようです。
これらの所見に基き、細胞変異に伴うEPMの変化をまとめて、次のごときシェーマとしました。これは現時点でのin
vitro培養ラット肝細胞のEPMの変化のシェーマ(図を呈示)、漸定的な考え方です。CQ系の細胞や、なぎさ培養による変異株が復元されてラットに腫瘍を形成するか否かは勿論今後の問題ですが、一応これらの細胞系を「変異して居るが悪性ではない」と云う立場に立っての話です。
ラット肝細胞を長期に培養して自然に悪性化したと云う株RLN-38-87及びそのoriginal
RLN-38-52のEPMを測定した所、両者はいづれも前記の変異株と同様な知見を得ました。これは先きのシェーマと話しが合いません。しかし、この細胞はラットに復元して腫瘍を作るのに、236日もかかったと云うことですので、悪性化して居る細胞はごく少数でEPMの測定の対象にならなかったのではないかと考えました。
この点は今後検討すべき問題点と考えます。
最後に岡大癌研のラット胎児肺細胞及び、その4NQOによる悪性化細胞のEPMの成績を加えます。この細胞はラットに復元すると、60日前後で腫瘤を作るそうですが、明らかに腹水肝癌と同一の結果をなしました。しかもそのEPMは1.40μ/sec/v/cmと云う極めて高い値を示し、またシアリダーゼにより殆んど変化がなく(0.3<P<0.4)、正常肝細胞のそれとは異なります。今後更に変異に伴うEPMの変化を追求したく思って居ります。
《三宅報告》
皮膚の器官培養を発癌に結びつけようとして、細切した胎生皮膚を皮下組織の附着したままで4NQO、メチルコラントレンなどを投与、病理組織学的に変化の推移を追ってきた。この方式を用いることで2週以内に基底層に属する細胞のHyperchromatism、細胞輪郭の変化などがみられたが、それは細胞へのToxicな影響を、除外しえなかった。Sponge
Matrix Cultureという手慣れた筈の培養方式では、培養期間の長さに隘路があることが憶測され、試験管内癌化のためには、より長期にわたる培養を続ける必要を生じ、胎生皮フを細胞単位にまで単離して、単層培養を行う以外に手がないことが判明した。
方法:
ヒト又は実験動物(d.d系マウス)の胎生15〜17日の皮フをDermisをつけて剥離、細切して、37℃でトリプシン処理、単離したものをEagle液に10〜20%の小牛血清を用いたものを用いて培養、一定時日の後に再びトリプシン処理して、平型試験管に植えつぎ、20-メチールコラントレンを培養液1mlあたり1μgを添加、直ちに正常の培養液に戻した。(経過表を呈示)。Primary
Cultureは5月14日(1968)。
結果:トリプシン処理后、植えつがれた細胞は、上皮性と考えられるものと、非上皮性と考えられるものの混在である。しばらくすると上皮性とみられるものは消失に傾き、紡錘形のFibroblastと考えられる細胞が勝ってくる。こうした紡錘形のものも、徐々に形態をかえ、偏平な星芒状に転じてゆくものが多く、形質中に顆粒を多く、たくわえた、核小体の鮮明な大きい核をもつようになる。
メチールコラントレンを作用せしめたものでは、殊に細胞が巨大、偏平化することが早い。メチールコラントレンの作用時間を30分とすると、細胞の変性が強く、2〜3日后には細胞が硝子面から、ほとんど剥脱されるので、作用の時間を極端に短くした。こうして8月17日(約2ケ月后)にNo.18の3回メチールコラントレンを3日間隔に投与したものに、異型な細胞が出現した(写真を呈示)。この細胞は、前に述べた偏平化した多くの細胞群の間に、
境界の明かな集蔟を作ることなく、かなりな範囲に広がって存在する。細胞の形態は紡錘形、大きさは略々Uniform、両端は長い突起をそなえ、相隣れるものと連絡し、時に束状に、時に網状に相つらなっている。細胞は両端から牽引せられ、そのためか豊かな胞体の周囲に位相差像では暈をしめし、重厚な形質のために核は著明にみられない。この細胞群の中には分裂像と考えられるものが散在する。経過を観察中である。
《梅田報告》
動物の発癌実験において化学剤発癌は、最低数ケ月も要するのに、ウィルス発癌はそれに較べると極端に短時日のうちに腫瘍形成にいたる。in
vitroの我々の系でも、ウィルス発癌の場合はtransformed
colony形成が簡単に認められ、定量化へと進んできたのに対し、Sunford等の仕事から、勝田先生、佐藤先生の一連の仕事、Heidelberger等の仕事等、完全に腫瘍性を獲得する迄、かなりの培養日数を必要としている。Suchs等のベンツピレン等を使用した実験に端を発し、黒木氏等の4NQOによるtransformed
colony形成をin vitroに於けるウィルス発癌実験と同じ様に短時日のうちに認め、in
vitro carcinogenesisに成功したとする報告は、私にはいささか納得がいかなかった。はからずも、黒木氏自身、彼の系でもinductionとpromotionの考え方を入れる方向に来ているのを知って、私自身気を強くしている。
私はin vitroでも化学発癌剤による発癌は、日数を要するものとの考えから、現在mono-layerに生えたprimary
rat liver cultureにDABの大量1回、或は小量常時投与を行い、培養を続けている。しかしSunford等の一番最初の発癌実験の記載とか、奥村氏の詳細な報告の如く、対照群の細胞にも生ずるspontaneous
transformationの問題が入り込んで居り、複雑な要因がからまっているのは云うまでもない。これ等を充分考慮に入れながら、目下in
vitro発癌のcellular levelでの現象を更に深くさぐる努力をしている。
もう一つ、私のやってきた、そして以后強力に続けたい研究の方向として、化学発癌剤による急性の毒性効果とか、作用機作を調べることがある。Praimaryのrat
liver cultureにDAB、黄変米毒素のルテオスカイリンを投与すると、肝細胞だけに特異的な変化を生ずるのに、同時に生えている間葉系の細胞群は障害を受けない。又DABと同じ骨格を持ち、発癌性のないABは、その様な変化を起さない。目下、之等の変化を詳細に調べ、又他の発癌剤についても調べているが、今后は、この急性変化と、発癌機構とどの様に結びついているのかを解明するのが、大きな課題と思っている。
《堀川報告》
A)培養哺乳動物細胞における
放射線ならびに化学発癌剤障害回復の分子機構の研究(7)
紫外線照射による第一義的な障害がDNA内のpyrimidine
dimerの形成にあり、さらにこうした障害回復(pyrimidine
dimerの除去)の分子機構が微生物を始めとする多くの材料を用いて次第に明らかにされて来ている。私共のgroupでもEhrlich、マウスL、ブタPS細胞という3種の培養細胞株を用いてthymine
dimerの除去機構を探索した結果、Ehrlich細胞にはUV照射でDNA中に形成されたthymine
dimerの除去機構、つまり暗回復能をもつことを発見し得た。しかし、大腸菌等でみられるUV障害に対する光回復能は、私共が使用している3種の細胞株では勿論のこと、世界の研究者もいまだに光回復能を保持する高等動物細胞を発見し得る段階に至っていない。
これまでにpublishされた結果から判断すると、光回復機構を保持するものは、どうやら微生物からはじまってウニの卵とか、特殊な魚類の細胞株、両棲類といったあたりまでのようである。高等な動物細胞には、更に別の機能が発達しているために、こうした光回復能の保持を必要としないのかもしれない。
一方X線の生細胞に対する影響、つまり障害のprincipal
sitesは未だに不明のままであり、ましてやその障害の回復機構は分からない。私共は前述のEhrlich細胞、L細胞を用いて、10KR、5KR、2KRのX線で照射した後、DNAのstrandがどのように切断され、しかも照射後15分、30分、60分と37℃のincubator中で細胞をincubateする間に、切断されたDNAがどのように、rejoiningして行くかといった過程を究明している。
正常なEhrlich細胞やL細胞からは、sedimentation
constant(S20,w)にして、210single strand DNAが分離されるが、こうした正常細胞を10KRで照射した直後ではsingle
strand DNAはS20,wは71程度の小さなものに切断される。だが照射されたこれら細胞を15分、30分とincubateしておくと殆どもとのS20,w=210までrejoining出来ることが分った。これらは勿論5〜20%のsucrose
gradient centrifugationによる解析であって、ここで興味あることはUV障害に対して暗回復機構をもつEhrlich細胞でも、さらには暗回復機構をもたないマウスL細胞でもsingle
strand DNA breaksのrejoining acivityを殆ど同じ程度もつということで、こうした結果はX線照射によるsingle
strand DNA breaksのrejoiningの機構は、UV障害からの暗回復機構とはまったくindepedentのものであることを暗示する。
一方、X線照射によって誘発されたDNAのdouble
strand breakの場合は、前述の2種の細胞を用いて調べた範囲では、rejoining
activityの見られないことも分った。 こうしたradiationによる障害回復の分子機構と、これまでやって来た培養細胞に対する4NQO処理による障害の回復機構を比例して検討している。
B)培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびに
Leukemogenesisの試み(5)
マウス大腿骨骨髄から取り出したbone marrow細胞を一定期間培養した後、X線被爆したマウスに注入し、被爆マウスの骨髄死に対する防護能とspleenへのcolony形成能を指標として培養bone
marrow細胞の生物学的活性、およびその分化と増殖の機構、ひいては、こうした系を用いてLeukemogenesisの機構を検索している。現在では30日齢のNC系マウスから得たbone
marrow細胞を70%TC-199、10%TPB、20%牛血清からなる培養液で、TD-40瓶内で静置培養し、この培養bone
marrow細胞を培養後10〜300日(300日のものは完全にcell
lineとしてestablishされた)に取り出して生後60日の700R被爆の同系マウスの尾静脈より注入して、被爆マウスの9日後のspleen表面に形成されたコロニー数と、30日生存率を求めている。同時にbone
marrow細胞の培養経過に伴う細胞種の分類、およびオートラジオグラフによるH3-TdRの取り込み能は、従来報告して来たように、経時的に解析を行っている。途中経過はこれまでの月報にて報告して来たので、最近の代表的なresultsを要約してみると以下のようになる。
(1)培養前にみられた多種の細胞群は培養10日頃までに減少、消失し、従来みられなかった巨大単核、二核細胞が次第に増殖し、培養180〜300日に至ると、これが全populationの100%を占めるようになる。(こうした巨大細胞、二核細胞の増殖能はH3-TdRの非常に高い取り込み能と、分裂係数(mitotic
index)からもうかがえる)。
(2)培養bone marrow細胞を注入して、700R被爆マウスのspleenに生じるコロニー数を調べた結果では、培養期間10日以上経過した細胞群においては、対照群(細胞非注入群)との間に有意な差は認められない。
(3)一方、培養bone marrow細胞を注入した被爆マウスの30日生存率を調べた結果は、培養30日までの細胞を注入した各群では、対照群との間に生存率向上という点で差がみられている。以上、非常に面白い結果が得られており、こうした系を用いて細胞の分化と癌化の機構を検討中である。
さらに、これに関連して私共はマウスthymus細胞、spleen細胞を培養して、その生物学的機能の検索を進めているが、最近マウスC57BL/6Jax系生後24時間のnew-bornから得た、thymus細胞を一ケ月培養し、生後10日、14日、21日目の同系マウスの皮下、腹腔内に500万個細胞づつ復元すると、非常に高率に腫瘍を作り、しかもこうした癌細胞はtransplantableであることが分って来た。培養期間の短かいこと、復元より腫瘤形成迄要する時間の短いこと、更にbone
marrow細胞とかspleen細胞と関連して、非常に重要な生物学的機能をもつthymus細胞であるが故に、この種の実験系は今後の慎重な解析を必要としている段階である。次号にてこれらの詳細を報告する予定である。
《高木報告》
1)器官培養による発癌実験
ハムスター、ラット、マウス、人などの胎児の皮膚の器官培養による発癌実験を行うにあたり、まず培養法の検討を行い、また発癌物質の添加培養培養した皮膚の移植などを試みた。
1)培養法の検討
上記動物の胎児の皮膚を培養するのに、天然培地および種々の半合成培地を用いたが、天然培地のうちwatch
glass methodによりchick plasmaとCEEを2:1に混じて凝固させたものが最も効果が良かった。この培地上では妊娠18週目の人胎児の皮膚は、培養後3週目にもなお多数のmitosisが認められた。温度に関して、ハムスターの胎児皮膚を30℃で培養したところ、37℃のものにくらべて明らかに良い結果がえられた。
2)発癌物質の添加
器官培養下の胎児皮膚に発癌物質として、4NQOを添加した。濃度は10-6乗mol程度が適当と思われたが、この濃度では殆ど変化はみられなかった。液体半合成培地を用いて培養したマウスの皮膚に10-4乗molの4NQOを添加した時、培養後72時間して表皮の一部に突起状の肥厚を認めた。またplasma
clotを用いて培養した人胎児皮膚において、4NQO
10-5乗mol添加群に幾分mitosisの増加がみられたが、これらの変化がどの程度悪性化にむすびつくか、は判らない。
3)培養した皮膚の移植
plasma clotを用いて7日間培養した雑種ハムスター胎児の皮膚をハムスターに移植した。培養中4NQOを添加した群と対照群との間に、観察した約20週の間には殆ど有意と思われる変化はみられなかった。一方移植成功率が非培養群では8/17であるのに、培養群では15/17と可成り高率である点は注目されるべきで、さらに検索したい。培養条件についてはなお検討する予定である。
2)細胞培養による発癌実験
newbornよりweanlingに至るラットの胸腺および肺の細胞を培養し、一部ラット胸腺より分離した株細胞を使用した。
発癌物質としては4HAQO、4NQO、Nitrosoguanidine(NG)を用いた。
1)4HAQO添加実験
ラットの胸腺細胞を用いて4実験行ったが、うちWistar
King A(WKA)ラット胸腺の2代目の細胞に10-5乗molの濃度を2回作用せしめたもので、処理後約15日でpile
upしたcolonyをえた。この細胞を増殖せしめて生後3週の同系ラット皮下に100万個細胞数接種したが、腫瘤の形成はみられなかった。
2)4NQO添加実験
王様系ラット胸腺より分離した株細胞を用いて2実験、Wistar
King A(WKA)系ラット胸腺のprimary cultureを用いて3実験、ラット肺のprimary
cultureを用いて2実験行った。
4NQOは10-6乗、5x10-7乗、2x10-7乗molの濃度に培地で稀釋し、種々の時間、回数を作用せしめた。うち株細胞に10-6乗mol作用せしめたものから変異細胞のcolonyをえたが、移植実験には成功しなかった。またWKA系ラット胸腺培養の2代目以後、2x10-7乗molを頻回作用せしめたものがmorphological
transformationをおこしたので現在移植実験中である。
3)NG添加実験
前記株細胞を用いて4実験、ラット胸腺のprimary
cultureを用いて10実験、ラット肺のprimary
cultureを用いて3実験を行った。
NGは1μg/mlより500μg/mlに至る濃度で種々の時間および回数作用せしめた。そのうちWKA系ラット胸腺3代目の細胞にNGを10μg/mlになるように滴下し、6日間放置したものより変異細胞をえた。この細胞を処理後約40日目に、同系のwianling
ratに100万個細胞数接種したが、腫瘤は作らなかった。しかし処理後約170日目頃より対照と比して細胞の増殖度が目立ってよくなり、対照が1週間に約5倍程度の増殖を示すのに対して処理細胞は約10倍程度の増殖を示した。形態的にも対照はmonolayerを示すのに対して処理細胞はcriss
crossが著明でpile upする傾向がつよかった。一般にNGは、細胞に変異をおこさしめる至適濃度の幅がせまいようで処理後相当長期にわたり細胞の増殖がみられず、従ってmorphological
transformationがおこるまでのincubation timeが、長いように思われる。さらにNGを作用せしめる培養組織として、幼若WKAラット胃の培養をこころみて上皮性細胞の増殖をみた。これが如何なる組織に由来する細胞か未だ同定しえないが、この細胞を用いた発癌実験を計画している。変異細胞の染色体については目下検索中である。
《安藤報告》
1)癌の遺伝子変異説の検討
いかなる機序によって癌が発生するかに関して現在二つの考え方がある。(月報6705)。すなわち発癌剤、その他の作用によって正常な細胞が変異を起すのか、あるいは初めから混在していた悪性細胞が逆淘汰されてくるのか、という考え方である。しかしながらこの癌細胞の発生の由来のいかんにかかわらず、癌細胞は正常な細胞の持つ種々な調節機構に異常をきたしている。この癌細胞の異常性は病理学的、生化学的、その他の種々の研究手段によって現在迄にかなり明らかにされている。それにもかかわらず残念なことには、明らかにされて来た事は全て正常細胞と癌細胞の表現形質の量的な差でしかなく、本質的と思われる質的な差異は見出されてはいない。したがって一歩立入って、それでは癌細胞の遺伝子はどうなっているのであろうか、DNAレベルの変異を起しているであろうか、という疑問には何も答えない。私はこの問題に何らかの手がかりを得ようと次のような計画を立て、実験を進めている。
当勝田研究室で無蛋白無脂質合成培地で8年間にわたり培養されている、マウス皮下センイ芽細胞由来のL929の亜株L・P3を使用し、これに薬剤処理をすることにより、種々の表現形質の異なる変異株を誘導する。次にそれ等の変異株及び原株の間にDNAを介しての、この表現形質の転換(transformation)が起るか否かを調べる。すなわち、その表現形質の変異は単なる細胞内調節機構の異常によるのではなく、遺伝子中のDNAの変異に由来するならば、次にこの手法を応用することによって前述の疑問−癌細胞は遺伝子変異によるか−に直接回答しうることになる。すなわち癌性がDNAによって他の細胞に移るとすれば、まさに癌は遺伝子変異によると結論出来るわけである。このような実験計画にしたがって次の予備実験を行っている。
L・P3を単個培養によりNG(N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine)処理をする。処理後増殖を回復してきた細胞からクローニングをくり返すことにより、幾つかの純クローンを分離した。現在各クローンについて栄養要求性に変異を生じているか否かを検索中である。 2)4NQOの作用機序の細胞培養による研究
4NQOは杉村らにより、生体内で4HAQOに還元される事により発癌性を獲得する事が示された。又腹水肝癌AH130のDNAに、腹水蛋白に結合する事がin
vivoで示されている。しかしながら、この核酸、蛋白、あるいはその他の生体物質の内、いずれとの結合が癌化に直接みちびく反応であるのかについては全く不明である。そこで私共は細胞培養を利用する事により、動物体という多因子系による問題の複雑化を避け、より精密な発癌過程の分析を企図した。
H3-4NQOを前述のL・P3細胞に与え、細胞中へのとりこみ、及び細胞成分との結合のkineticsを調べることにより、最も4NQOとの反応性に富む成分は何かを検討した。結果は次の如くである。4NQOと細胞内蛋白質、核酸との結合は、37℃において、30分で最大となり以後3〜4時間はほぼ一定値を保っていた。またこの結合にあずかる蛋白は、DAB及びMCで示されたような特異蛋白ではなく種々の分子量を持つ殆ど全ての蛋白を含んでいた。目下核酸との結合様式、結合物の安定性等検討中である。
《安村報告》
1.発ガンのSelection説の検討(つづき):
月報のNo.6804に勝田班長がふれておられるが、Dr.L.Diamondのシリアン・ハムスター胎児細胞の培養内自然発ガンの報告は、このいわゆる自然発ガンの原因として3つのfactorを考察していた。つまりこの癌化は1)あらかじめ生体内に存在していたかもしれないvariantで、malignantのきざしのあるものをselectionによって継代中にひろいあげたか、2)未知のtransforming
virusによるか、3)まだ不明の物理的、化学的な原因によるものか、ということであった。あるいはこれ以外の原因があるかもしれないし、これらの原因が互いに絡み合っていることも考えられよう。
月報のNo.6808では上記の原因のうち、1)の仮説の可能性の分析のためにMacPhersonらによるSoft
agar法の利用について予報された。実験の狙いは同号の討論にのべた如くです。
1-1.シリアン・ハムスター胎児細胞の初代培養では100万個、50万個/plateではSoft
agar中のColony生成はみとめられない。そのご再び初代培養と2代継代培養によるSoft
agar中のColony生成が試みられたが、いずれも結果はマイナス。
1-2.以上のデータはSoft agar法がmalignant
transformed cellをselectiveに増殖させることにあったとすれば当然のことのようにみえよう。しかしColony生成がゼロではなんとも前進のしようがない。
1-3.最近E.TjottaらがPolyoma vurusによるtransformed
cellが、Conditioned madiumを加えたSoft agarでよりよくColonyを生成するし、polyoma
virusで処置しあい宿主細胞(BHK21/C13)も同様mediumでColonyを生成すると報告した。そこでこのconditioned
mediumを加える方法をこころみた。
1-4.Conditoned mediumは初代培養細胞と2代培養上清を液かえの際にプールして集められた。初代培養細胞と2代継代細胞が出発材料、Conditioned
mediumはSoft agar中に100%(agar以外の培養液は100%Conditioned
mediumということ)、50%、0%の割合にして各群5枚のplateをつかった。結果は接種細胞数100万個に対して、3週めに初代培養細胞の群のうち、Conditioned
medium 100%のところでColony(0.1mm以下)が1コ、50%のところで1コ出現した。しかしそのごColonyの増殖はなく壊死におちいってしまった。いずれからもColonyを分離して増殖させることはできなかった。ついでなされた同様の実験ではConditioned
mediumの割合を75%、50%、25%、0%でなされた。75%と50%の群で接種細胞数100万個につき、それぞれ5枚のPlat中2枚に数コ〜10数コのColony生成をみとめた。しかしこれらのColonyが増殖可能かいなかは、実験進行中なので、詳細は次回へ。
2.AH7974TC細胞のSoft agar中での増殖:
上記のSoft agar法をつかって行われているハムスター細胞の実験のControlとして、われわれのtechnicの信頼度をしらべるとともに、基礎実験がAH7974TC細胞でなされた。接種細胞100/Plateで11〜30のColonyができ、成績は上々。(Soft
Agar中のAH7974TC細胞コロニーの写真を呈示。この実験ではconditioned
Mediumはつかっていない。)
《藤井報告》
培養ラット肝細胞とその変異株細胞の抗原について
癌抗原の存在が、宿主の免疫学的抵抗性の成り立つ基盤出あり、癌に抗原性の在ることを立証することが、癌の免疫学的研究の起点となる筈である。化学発癌のばあい、各例性質の異なる癌の発生することが示されており、それらの抗原のちがいについての発表もある。
すでに、本研究班では“なぎさ"培養によるラット肝細胞の変異(勝田)、ハムスター胎児細胞の4-NQO処理による培養内発癌(黒木)、ラット肝細胞の3'MeDABおよび4-NQO処理による培養内発癌(佐藤)に成功している。比較的単一な細胞群を扱う組織培養実験では、培養細胞の変異過程を追跡することが可能であり、有利に癌抗原の分析をすすめられる筈である。
培養内細胞の癌化にともなう抗原性の変化を検討することが、筆者に課せられたテーマであるが、今まで、ラット肝細胞、いくつかのラット肝癌、培養ラット肝細胞とその変異株等について、double
diffusion法とimmune adherence(IA)法によって、それらの抗原の検討をおこなって来た。
1.Double diffusion法による抗原分析
培養細胞を主としてあつかう関係から、少量の細胞について実験をすすめる必要があり、double
diffusion(Ouchterlony)の変法であるmicrodiffusion法(月報、No.6710に記載)を、採用した。この方法は、Ouchterlony法より抗原−抗体沈降線の検出が鋭敏に出来、20万個の少数細胞でも実験可能であることが、基礎実験で示された。
抗原液:細胞20万個に対して、0.5%Na-deoxycholate-PBSを0.5mlの割に加えて浮游させ、ホモジナイズ后、その遠沈上清(2,000rpm、20分)を抗原液として用いる。培養細胞は、医科研癌細胞研究部のものである。
抗血清:ウサギ抗ラット肝組織抗血清(RALS)、ウサギ抗ラットAH13抗血清(RATS-AH13)
の原血清を用う。
成績のあらまし:
1)ラット肝組織は、RALSに対して5本の沈降線を示すが、
2)培養ラット肝細胞(RLC-9)は、この中の1本と共通な沈降線のみをつくった。
3)培養ラット肝細胞変異株(“なぎさ")RLH-5は、RALSに対して、全く沈降線をつくらない。 4)このRLH-5細胞は、抗ラット肝癌抗血清(RATS-AH13)に対して弱いけれども、1本の沈降線を示した。
小括:培養ラット肝細胞が成熟ラット肝の抗原の大部分をもたないことは、培養ラット肝細胞が新生児ラット肝由来であることと、肝組織中の一群の細胞にかぎられることによると考えられるが、変異株では、変異以前の抗原を失い、別に肝癌の抗原(この場合AH13と共通な抗原)を獲得するようである。このような肝癌にみられる抗原が、癌の抗原によるのか、contaminationによる微生物の抗原によるのかは、今后慎重に検討されなければならない。
2.Immune adherence(IA)法による抗原分析
IA現象(免疫粘着現象、Nelson,R.A.,Jr.)は、抗原-抗体-補体複合体に人赤血球が粘着する反応で、極めて鋭敏な免疫反応である。細胞表面の抗原の検出は、抗体、補体、人赤血球を加えて反応させ、顕微鏡下に、人赤血球の粘着している細胞を識別し、算定することによって可能である。また凝集反応(免疫粘着赤血球凝集反応、immune
adherence hemagglutina-tion)-西岡-として、反応の強さを判定しうる。
方法:培養細胞を、培養の状態のまま抗体と反応させる目的で、小型の培養小角ビン中で1日培養し、TC-199液で洗滌した后、稀釋抗血清、1/5とモルモット補体用血清、1/20を、各0.25ml宛を加え、37℃で30分間反応させた后、2%人赤血球(O型)浮遊液0.1mlを添加して、さらに37℃で30〜60分反応させる。反応后、TC-199液で数回洗って、浮游赤血球を流し去ってから、倒立顕微鏡下にIAのおこっている細胞を識別算定する。
成績のあらまし:
1)培養ラット肝細胞(RLC-10)は、ウサギ抗ラット肝抗血清(RALS)によって強いIA(++++)を示すが−(double
diffusiondeha反応弱く、沈降線1本のみ)−、“なぎさ"変異種(RLH-3、RLH-4とRLH-5)は、弱いIAを少数の細胞にみとめたにすぎない(±)。しかし、これらの変異株はいづれもウサギ抗ラット肝癌AH7974(RATS-7974)には、稍ついIAを示した(+)。
2)ウサギ抗AH130抗血清(RATS-AH130)にたいして、AH130細胞−腹腔継代細胞−は33%、培養AH130(JTC-1)は68%のIA陽性細胞を示した。抗AH7974抗血清(RATS-AH7974)では、前者は27%、後者は43%の細胞がIA陽性であった。この傾向は、AH7974細胞とその培養継代細胞についても観察された。
すなわち、ラット肝細胞は、各肝癌に対応する抗体とつよくIA反応をおこす他、非対応の他の肝癌に対する抗体ともかなりつよいIA反応を示すことがわかる。
また培養ラット肝癌細胞の方が、元の腹腔継代細胞よりむしろ強いIA反応をおこしたことは興味ある点である。この点に関して、培養液中のcalf
serumが細胞に吸着され、calf serumと用いた抗血清、補体との間の自然抗体によるIA反応が、反応増強にあづかってないかどうかが問題となる。この問題は、培養AH7974細胞をcalf
serumをふくむ“199"液(10%)中においても(室温、30分)、IA反応に影響がみられなかった最近の実験から一応否定してよいと思われる。
小括:
1)IAによる実験で、培養ラット肝細胞変異株(“なぎさ")は、変異以前の抗原の多くを失内、一方、ラット肝癌に共通な抗原を獲得しているようにみえる。
2)AH130、AH7974細胞と、それぞれの培養継代細胞は、正常ラット肝抗原の多くを示さないが(この成績は上に記さなかったが)、対応する抗体の他に、非対応の抗体にもかなり強くIAを示し、ラット肝癌に共通な抗原のあることを示唆している。
培養継代細胞の方が、腹腔継代細胞よりも強いIAを呈する事実は、培養によって、細胞膜面に抗原−抗体反応がおこり易くなるような、あるいは抗原の露出を来すような変化がおこっていることを示唆する。
《永井報告》
1)Ektobiologyと糖質・脂質
細胞の機能には質的に異なる二つの面があるものとみられる。その一つは、個々の細胞そのものの生命維持に必須な機能である。これには蛋白質や核酸があづかっており、今迄の生化学の対象の中心となっていた。これが障害を受けたときには、病気よりもむしろ死を招く。いま一つは、細胞が一定の秩序のもとに集まっていとなむ、いわば、細胞の社会的な機能に関するもので、これがおかされても、前者のようには、直ちに死に至ることはない。その生物学をKalckarはEktobiologyの名で総括している。これに大きな役割をはたしていると考えられるのは、細胞表面の特異構造であり、物質的には糖質や脂質が主役になるものと予想される。我々は、癌問題をむしろこの第2の角度から把握していこうという考えで研究をすすめている。
2)研究目的
この問題に、生化学的にアプローチしていこうとして、我々がまずとりあげたことは、Ektobiologyにおける主役物質は何かということである。そこで、いうところの糖質や脂質がそうなのかどうか、これをまず明らかにしようとして実験をしくんできた。Ektobiolo-gicalな現象が典型的にあらわれてくるものの一つは、発生と分化の問題であろう。そこでは、2つの異なった生殖細胞の融合としての受精に始まって、形態形成にみられる細胞集団の完璧な秩序のうちにある特異な移動運動など、いろいろな問題がある。ここに着目して、かつ、大量の材料が入手しうるということから、さしあたってウニの配偶子およびその胚を材料として実験をおこなってきた。
まず研究の焦点を、細胞の表面に存在すると予想される糖脂質にしぼって、次の項目をとりあげた。1)実際に糖脂質が配偶子や胚に存在するか。2)それはどのような化学構造のものか。3)それらに細胞表面の特異性に関係づけてもよいような、特異的な構造上の違いが見出されるか。4)発生、分化の過程の途上において、それらに何らかの変動がみられるかどうか。
3.実験成績
それに対して現在までにえられた答は、1)ウニの配偶子(精子および卵)および胚には、確かに糖脂質が存在する。それらはシアル酸を構成分の一つとして有するもので、その糖脂質(シアロムコリピド)の数は、9種以上にも達する。
2)それらは複雑な化学構造を有するが、構造上には一定の関係があり、一連の代謝経路上にのっているものと考えられる。3)精子と卵とでは存在する糖脂質の種類に違いが実際にみられた。のみならず、ウニの種類が違えば存在する糖脂質の構造も違ってくる(種特異性)ことがわかった(月報No.6808)。4)そのうちのいくつかでは化学構造の決定がおこなわれた。すなわち、ムラサキウニ精子の糖脂質のうちの一つはセラミド-Glc(6←2)シアル酸←シアル酸であり、卵の糖脂質のうちの一つはセラミド-Gic-Glc(シアル酸一分子)であることなどがわかっている。
現在これらの脂質の化学構造の決定を更にすすめるとともに、その細胞における存在位置、発生途上における変動などの生物学的な面を追究しようとしている。
ウニ胚は一層の細胞が中空のゴムマリ状にならなだ胞胚期から、第一次間充織細胞の陥入に始って、原腸形成に向って表層が陥入していく嚢胚期を経て、発生、分化をすすめていくが、この際の細胞の陥入運動は何によるものであろうか。まず考えられるのは、細胞間の接触状態にひとつのゆるみがおきるのではないだろうか、ということである。我々はこれを、たとえば細胞表面のシアル酸が表面から脱離するためによるのではないかと考え、シアリダーゼの特異的阻害物質を陥入期直前に作用させてみたが、何等の影響もみられなかった。しかし、プロテアーゼの強力なinhibitorであるトリペプチド、Leupeptineを作用させたところ、原腸陥入が全く抑制されることを見出した。この場合、細胞はそのまま生存を続けた。このことをどのように解釈するかであるが、この陥入期に至って細胞からプロテアーゼが分泌され、それが細胞間をつないでいる基質に作用して分解し、その結果細胞間の結合をゆるめるのではないかと、現在のところ考えている。これもまた、細胞の定着、migration、といったEktobiologyの問題の一つである。Leupeptineはつまりこのプロテアーゼ作用を抑制し、それが陥入の抑制となってあらわれてくるとみるのである。
【勝田班月報・6809】
《勝田報告》
A)4NQOによる培養内細胞変異:
これまでの月報で報告したように、正常ラッテのセンイ芽細胞や肝細胞の2倍体株(ヘイフリックの云うようにしだいに切れてしまう株ではない)を用いて、これまで4NQO処理をおこない、且その間の細胞形態の変化を顕微鏡映画撮影によって追究してきた。細胞に対する毒性度をしらべた結果、我々は3.3x10-6乗M・30分処理を1回の処理として与えることにしているが、1回以上、系によってさまざまの回数にわたって処理し、色々な変異株を得ている。4NQO処理を受けた正常ラッテ肝細胞の変異株の染色体数の分布図を次に示す。CQ39は4回、CQ40は1回、CQ42は2回の4NQO処理を受けていて、いずれも2nの42本から外れていることが判る(図を呈示)。
B)4NQOの光力学的作用:
4NQOがぞうり虫の類に対しphotodynamic actionを示すことは癌センターの永田氏らにより報告されている。この作用が発癌作用とどんな関係があるのかは判らないが、哺乳動物細胞に対しても4NQOがphotodynamic
actionを有するかどうかをしらべるため、正常ラッテ肝細胞株(RLC-10)、なぎさ培養によるラッテ肝変異細胞株(RLH-4)、無蛋白無脂質培地継代のマウスセンイ芽細胞L株の亜株L・P3などについて、4NQO処理の後、365mμの光(4NQOの特異吸収ピークの二つの内一つに相当する波長)を各種の時間に照射し、その影響をしらべた。結果は、これらの哺乳動物細胞に対してもやはり4NQOが、photodynamic
actionを示すことが明らかとなり、それは4NQOの濃度に正比例して細胞を障害し、4NQO無処理で光のみの照射では現われぬことも判った。これに対しL・P3細胞はきわめて特殊で、4NQOに対しては抵抗性が高く、逆に光に対してはきわめてsensitiveであった。詳細は癌学会で報告する。
C)純系ラッテの腫瘍:
日本には純系のラッテが少い。呑竜系も、一部では純系と云われても、皮膚の交換移植からも判るように、純系とは断じ難い。当研究室で15年近くBrother-Sister-matingでinbreedしてきた日本産白ラッテ(その頭文字をとってJAR系と命名)は現在F35に至っているが、F19のとき既に100%皮膚の交換移植が成立した。このラッテを使って、日本では数少い純系ラッテ腫瘍を作ろうと、今年度2月13日にF31の♀ラッテ(生后34日)4匹の皮下にメチールコラントレンを接種した。5月末に至り3/4匹に接種部位に腫瘤を発見。7月末に1匹に腫瘤の急速腫大を認め、これは下腹部に向い膨隆してきた。そこで8月24日にこれを解剖し、1)F32生后35日♀ラッテへ、皮下及び腹腔内接種、2)組織培養、3)凍結保存、4)組織標本に供した。1)は9月2日、皮下群の1/2匹に拇指頭大の腫瘤形成を認めた。他の3匹も肉眼的に同所見の腫瘍を作っていた。2)はexplantsから細胞の生え出しがはじまっている。4)の結果は肉腫、ほぼセンイ肉腫と斎藤教授により診定された。肉腫に何か名前をつけなくてはと、目下考慮中。組織像は来月号に発表する(JAR・F31ラッテにできたMCA肉腫の写真呈示)。
《佐藤報告》
§4NQO→呑竜系ラッテ培養細胞について:
全胎児、胎児肺及び肝細胞を培養して5系列7細胞系に発癌させることに成功した。各系で最初に発癌した動物の経過をまとめた(表を呈示)。この表によると4NQOの濃度10-6乗Mで100時間程度の処理、培養細胞の培養中における日数は100〜200日が必要と考えられる。詳細は10月の癌学会で発表の予定。
§ラッテ肝細胞よりのPure clone:
以上の実験でラッテ肝細胞が試験管内で発癌し、肝癌をつくることが判明したが、発癌機構解明のためには、培養で少くとも正diploidにある肝実質細胞をpure
cloneで作りあげることが望ましい。そのためラッテ肝細胞株からdiploid
Pure cloneを作ることを実施しているが、仲々成功しない。目下、培養肝細胞の適合培地の検討をおわり、CO2
incubatorでの適合条件をみつけるに止まっている。此事の詳細については11月の培養学会で報告の予定。
§今月の月報で丁度100号になるとの事で昔を一寸振返って見ました。我々の研究室は、班の“組織培養による正常及び腫瘍細胞の研究”時代にはEhrlich腹水癌、吉田肉腫細胞、C3H乳癌細胞及びDonryu系ラッテ肝細胞の株細胞化を行い、今日迄其等の株細胞を維持し、Ehrlich腹水癌細胞は日本組織培養学会に登録し、現在無蛋白培地に駲化させている。
“組織培養による発癌機構の研究”ではDonryu系ラッテ肝←3'-Me-DABの研究を行って、自然発癌に比して3'-Me-DAB投与が発癌率及び悪性度を上昇させることを見いだした。現在尚ラッテ肝←DABの培養内機作を検索すると共に4NQO発癌を行っている。
今后我々は更に研究をすすめて癌治療の目的まで出来るだけ早く到達したいと考えている。
《山田報告》
培養細胞の変異に伴う表面荷電の変化
今月は医科研及び岡山大癌研の御協力により、培養細胞の電気泳動度を種々検索することが出来ましたので、先々月の月報に報告した分も合せて、培養細胞の変異に伴う表面荷電の変化を細胞電気泳動度(E.P.M.)より考えて見たいと思います。
まず培養肝細胞と、その変異株についてのみ、比較すると次のごとくになります(図を呈示)。培養ラット正常肝細胞は図に示すごとく、E.P.M.の平均値は0.8μ/sec/v/cm前後で、いづれもシアリダーゼ処理(30単位、acetate
buffer、pH5.6、37℃、30分)(以下すべて同一条件で処理したので、この条件は省略)によりEPMの上昇がみられ、RLC-10では危険率P<0.01で、またExp7-Controlでは0.01<P<0.02の危険率で明らかに差があります。
これに対して、ラット腹水肝癌細胞の培養株は、特にAH7974TCのEPMは高く、その平均値は1.34μ/sec/v/cmの高値を示します。しかしJTC-2及びJTC-1の平均EPMは低く、変異株と大差ありません。これ等にシアリダーゼ処理を行うとかなりの平均電気泳動値の低下を示し、両株及びAH7974TCすべて危険率P<0.01で、有意の平均電気泳動値の低下を認めました。
次ぎに4NQOにより悪性化した岡大癌研株Exp(1)-1のEPMは図に示すように、その平均電気泳動値はあまり高くありませんが、シアリダーゼ処理により、EPMの有意の低下(P<0.01)を示し、またこの細胞をラットに復元して作った腫瘤細胞を再培養した細胞についても同様な結果を得ました。
この細胞系の腫瘤形成はラットに復元後136日を必要としたさうですから、腹水肝癌株より悪性の性質は弱く、それに応じたEPMの変化と考えられます。
変異肝細胞ではあるがラットに復元しても腫瘤を作らないと云うRLH-5、CQ42、CQ40、CQ39のEPMを図に示します(それぞれ図を呈示)。平均電気泳動度値はRLH-5を除き、正常肝細胞のそれにくらべてあまり差がありませんが、シアリダーゼ処理を行うと正常肝細胞と異り、EPMの上昇がみられません。この処理前後の泳動値間の差についての統計的計算ではRLH-5→P>0.5
CQ42→0.1<0.2 CQ40→P>0.5となり有意の差がなく、しかしCQ39についてはP<0.01となり平均値間ではシアリダーゼ処理により上昇すると云う結果になりました。しかし正常肝細胞のシアリダーゼ処理後の変化とCQ39のそれではかなり差があるようです。
これらの所見に基き、細胞変異に伴うEPMの変化をまとめて、次のごときシェーマとしました。これは現時点でのin
vitro培養ラット肝細胞のEPMの変化のシェーマ(図を呈示)、漸定的な考え方です。CQ系の細胞や、なぎさ培養による変異株が復元されてラットに腫瘍を形成するか否かは勿論今後の問題ですが、一応これらの細胞系を「変異して居るが悪性ではない」と云う立場に立っての話です。
ラット肝細胞を長期に培養して自然に悪性化したと云う株RLN-38-87及びそのoriginal
RLN-38-52のEPMを測定した所、両者はいづれも前記の変異株と同様な知見を得ました。これは先きのシェーマと話しが合いません。しかし、この細胞はラットに復元して腫瘍を作るのに、236日もかかったと云うことですので、悪性化して居る細胞はごく少数でEPMの測定の対象にならなかったのではないかと考えました。
この点は今後検討すべき問題点と考えます。
最後に岡大癌研のラット胎児肺細胞及び、その4NQOによる悪性化細胞のEPMの成績を加えます。この細胞はラットに復元すると、60日前後で腫瘤を作るそうですが、明らかに腹水肝癌と同一の結果をなしました。しかもそのEPMは1.40μ/sec/v/cmと云う極めて高い値を示し、またシアリダーゼにより殆んど変化がなく(0.3<P<0.4)、正常肝細胞のそれとは異なります。今後更に変異に伴うEPMの変化を追求したく思って居ります。
《三宅報告》
皮膚の器官培養を発癌に結びつけようとして、細切した胎生皮膚を皮下組織の附着したままで4NQO、メチルコラントレンなどを投与、病理組織学的に変化の推移を追ってきた。この方式を用いることで2週以内に基底層に属する細胞のHyperchromatism、細胞輪郭の変化などがみられたが、それは細胞へのToxicな影響を、除外しえなかった。Sponge
Matrix Cultureという手慣れた筈の培養方式では、培養期間の長さに隘路があることが憶測され、試験管内癌化のためには、より長期にわたる培養を続ける必要を生じ、胎生皮フを細胞単位にまで単離して、単層培養を行う以外に手がないことが判明した。
方法:
ヒト又は実験動物(d.d系マウス)の胎生15〜17日の皮フをDermisをつけて剥離、細切して、37℃でトリプシン処理、単離したものをEagle液に10〜20%の小牛血清を用いたものを用いて培養、一定時日の後に再びトリプシン処理して、平型試験管に植えつぎ、20-メチールコラントレンを培養液1mlあたり1μgを添加、直ちに正常の培養液に戻した。(経過表を呈示)。Primary
Cultureは5月14日(1968)。
結果:トリプシン処理后、植えつがれた細胞は、上皮性と考えられるものと、非上皮性と考えられるものの混在である。しばらくすると上皮性とみられるものは消失に傾き、紡錘形のFibroblastと考えられる細胞が勝ってくる。こうした紡錘形のものも、徐々に形態をかえ、偏平な星芒状に転じてゆくものが多く、形質中に顆粒を多く、たくわえた、核小体の鮮明な大きい核をもつようになる。
メチールコラントレンを作用せしめたものでは、殊に細胞が巨大、偏平化することが早い。メチールコラントレンの作用時間を30分とすると、細胞の変性が強く、2〜3日后には細胞が硝子面から、ほとんど剥脱されるので、作用の時間を極端に短くした。こうして8月17日(約2ケ月后)にNo.18の3回メチールコラントレンを3日間隔に投与したものに、異型な細胞が出現した(写真を呈示)。この細胞は、前に述べた偏平化した多くの細胞群の間に、
境界の明かな集蔟を作ることなく、かなりな範囲に広がって存在する。細胞の形態は紡錘形、大きさは略々Uniform、両端は長い突起をそなえ、相隣れるものと連絡し、時に束状に、時に網状に相つらなっている。細胞は両端から牽引せられ、そのためか豊かな胞体の周囲に位相差像では暈をしめし、重厚な形質のために核は著明にみられない。この細胞群の中には分裂像と考えられるものが散在する。経過を観察中である。
《梅田報告》
動物の発癌実験において化学剤発癌は、最低数ケ月も要するのに、ウィルス発癌はそれに較べると極端に短時日のうちに腫瘍形成にいたる。in
vitroの我々の系でも、ウィルス発癌の場合はtransformed
colony形成が簡単に認められ、定量化へと進んできたのに対し、Sunford等の仕事から、勝田先生、佐藤先生の一連の仕事、Heidelberger等の仕事等、完全に腫瘍性を獲得する迄、かなりの培養日数を必要としている。Suchs等のベンツピレン等を使用した実験に端を発し、黒木氏等の4NQOによるtransformed
colony形成をin vitroに於けるウィルス発癌実験と同じ様に短時日のうちに認め、in
vitro carcinogenesisに成功したとする報告は、私にはいささか納得がいかなかった。はからずも、黒木氏自身、彼の系でもinductionとpromotionの考え方を入れる方向に来ているのを知って、私自身気を強くしている。
私はin vitroでも化学発癌剤による発癌は、日数を要するものとの考えから、現在mono-layerに生えたprimary
rat liver cultureにDABの大量1回、或は小量常時投与を行い、培養を続けている。しかしSunford等の一番最初の発癌実験の記載とか、奥村氏の詳細な報告の如く、対照群の細胞にも生ずるspontaneous
transformationの問題が入り込んで居り、複雑な要因がからまっているのは云うまでもない。これ等を充分考慮に入れながら、目下in
vitro発癌のcellular levelでの現象を更に深くさぐる努力をしている。
もう一つ、私のやってきた、そして以后強力に続けたい研究の方向として、化学発癌剤による急性の毒性効果とか、作用機作を調べることがある。Praimaryのrat
liver cultureにDAB、黄変米毒素のルテオスカイリンを投与すると、肝細胞だけに特異的な変化を生ずるのに、同時に生えている間葉系の細胞群は障害を受けない。又DABと同じ骨格を持ち、発癌性のないABは、その様な変化を起さない。目下、之等の変化を詳細に調べ、又他の発癌剤についても調べているが、今后は、この急性変化と、発癌機構とどの様に結びついているのかを解明するのが、大きな課題と思っている。
《堀川報告》
A)培養哺乳動物細胞における
放射線ならびに化学発癌剤障害回復の分子機構の研究(7)
紫外線照射による第一義的な障害がDNA内のpyrimidine
dimerの形成にあり、さらにこうした障害回復(pyrimidine
dimerの除去)の分子機構が微生物を始めとする多くの材料を用いて次第に明らかにされて来ている。私共のgroupでもEhrlich、マウスL、ブタPS細胞という3種の培養細胞株を用いてthymine
dimerの除去機構を探索した結果、Ehrlich細胞にはUV照射でDNA中に形成されたthymine
dimerの除去機構、つまり暗回復能をもつことを発見し得た。しかし、大腸菌等でみられるUV障害に対する光回復能は、私共が使用している3種の細胞株では勿論のこと、世界の研究者もいまだに光回復能を保持する高等動物細胞を発見し得る段階に至っていない。
これまでにpublishされた結果から判断すると、光回復機構を保持するものは、どうやら微生物からはじまってウニの卵とか、特殊な魚類の細胞株、両棲類といったあたりまでのようである。高等な動物細胞には、更に別の機能が発達しているために、こうした光回復能の保持を必要としないのかもしれない。
一方X線の生細胞に対する影響、つまり障害のprincipal
sitesは未だに不明のままであり、ましてやその障害の回復機構は分からない。私共は前述のEhrlich細胞、L細胞を用いて、10KR、5KR、2KRのX線で照射した後、DNAのstrandがどのように切断され、しかも照射後15分、30分、60分と37℃のincubator中で細胞をincubateする間に、切断されたDNAがどのように、rejoiningして行くかといった過程を究明している。
正常なEhrlich細胞やL細胞からは、sedimentation
constant(S20,w)にして、210single strand DNAが分離されるが、こうした正常細胞を10KRで照射した直後ではsingle
strand DNAはS20,wは71程度の小さなものに切断される。だが照射されたこれら細胞を15分、30分とincubateしておくと殆どもとのS20,w=210までrejoining出来ることが分った。これらは勿論5〜20%のsucrose
gradient centrifugationによる解析であって、ここで興味あることはUV障害に対して暗回復機構をもつEhrlich細胞でも、さらには暗回復機構をもたないマウスL細胞でもsingle
strand DNA breaksのrejoining acivityを殆ど同じ程度もつということで、こうした結果はX線照射によるsingle
strand DNA breaksのrejoiningの機構は、UV障害からの暗回復機構とはまったくindepedentのものであることを暗示する。
一方、X線照射によって誘発されたDNAのdouble
strand breakの場合は、前述の2種の細胞を用いて調べた範囲では、rejoining
activityの見られないことも分った。 こうしたradiationによる障害回復の分子機構と、これまでやって来た培養細胞に対する4NQO処理による障害の回復機構を比例して検討している。
B)培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびに
Leukemogenesisの試み(5)
マウス大腿骨骨髄から取り出したbone marrow細胞を一定期間培養した後、X線被爆したマウスに注入し、被爆マウスの骨髄死に対する防護能とspleenへのcolony形成能を指標として培養bone
marrow細胞の生物学的活性、およびその分化と増殖の機構、ひいては、こうした系を用いてLeukemogenesisの機構を検索している。現在では30日齢のNC系マウスから得たbone
marrow細胞を70%TC-199、10%TPB、20%牛血清からなる培養液で、TD-40瓶内で静置培養し、この培養bone
marrow細胞を培養後10〜300日(300日のものは完全にcell
lineとしてestablishされた)に取り出して生後60日の700R被爆の同系マウスの尾静脈より注入して、被爆マウスの9日後のspleen表面に形成されたコロニー数と、30日生存率を求めている。同時にbone
marrow細胞の培養経過に伴う細胞種の分類、およびオートラジオグラフによるH3-TdRの取り込み能は、従来報告して来たように、経時的に解析を行っている。途中経過はこれまでの月報にて報告して来たので、最近の代表的なresultsを要約してみると以下のようになる。
(1)培養前にみられた多種の細胞群は培養10日頃までに減少、消失し、従来みられなかった巨大単核、二核細胞が次第に増殖し、培養180〜300日に至ると、これが全populationの100%を占めるようになる。(こうした巨大細胞、二核細胞の増殖能はH3-TdRの非常に高い取り込み能と、分裂係数(mitotic
index)からもうかがえる)。
(2)培養bone marrow細胞を注入して、700R被爆マウスのspleenに生じるコロニー数を調べた結果では、培養期間10日以上経過した細胞群においては、対照群(細胞非注入群)との間に有意な差は認められない。
(3)一方、培養bone marrow細胞を注入した被爆マウスの30日生存率を調べた結果は、培養30日までの細胞を注入した各群では、対照群との間に生存率向上という点で差がみられている。以上、非常に面白い結果が得られており、こうした系を用いて細胞の分化と癌化の機構を検討中である。
さらに、これに関連して私共はマウスthymus細胞、spleen細胞を培養して、その生物学的機能の検索を進めているが、最近マウスC57BL/6Jax系生後24時間のnew-bornから得た、thymus細胞を一ケ月培養し、生後10日、14日、21日目の同系マウスの皮下、腹腔内に500万個細胞づつ復元すると、非常に高率に腫瘍を作り、しかもこうした癌細胞はtransplantableであることが分って来た。培養期間の短かいこと、復元より腫瘤形成迄要する時間の短いこと、更にbone
marrow細胞とかspleen細胞と関連して、非常に重要な生物学的機能をもつthymus細胞であるが故に、この種の実験系は今後の慎重な解析を必要としている段階である。次号にてこれらの詳細を報告する予定である。
《高木報告》
1)器官培養による発癌実験
ハムスター、ラット、マウス、人などの胎児の皮膚の器官培養による発癌実験を行うにあたり、まず培養法の検討を行い、また発癌物質の添加培養培養した皮膚の移植などを試みた。
1)培養法の検討
上記動物の胎児の皮膚を培養するのに、天然培地および種々の半合成培地を用いたが、天然培地のうちwatch
glass methodによりchick plasmaとCEEを2:1に混じて凝固させたものが最も効果が良かった。この培地上では妊娠18週目の人胎児の皮膚は、培養後3週目にもなお多数のmitosisが認められた。温度に関して、ハムスターの胎児皮膚を30℃で培養したところ、37℃のものにくらべて明らかに良い結果がえられた。
2)発癌物質の添加
器官培養下の胎児皮膚に発癌物質として、4NQOを添加した。濃度は10-6乗mol程度が適当と思われたが、この濃度では殆ど変化はみられなかった。液体半合成培地を用いて培養したマウスの皮膚に10-4乗molの4NQOを添加した時、培養後72時間して表皮の一部に突起状の肥厚を認めた。またplasma
clotを用いて培養した人胎児皮膚において、4NQO
10-5乗mol添加群に幾分mitosisの増加がみられたが、これらの変化がどの程度悪性化にむすびつくか、は判らない。
3)培養した皮膚の移植
plasma clotを用いて7日間培養した雑種ハムスター胎児の皮膚をハムスターに移植した。培養中4NQOを添加した群と対照群との間に、観察した約20週の間には殆ど有意と思われる変化はみられなかった。一方移植成功率が非培養群では8/17であるのに、培養群では15/17と可成り高率である点は注目されるべきで、さらに検索したい。培養条件についてはなお検討する予定である。
2)細胞培養による発癌実験
newbornよりweanlingに至るラットの胸腺および肺の細胞を培養し、一部ラット胸腺より分離した株細胞を使用した。
発癌物質としては4HAQO、4NQO、Nitrosoguanidine(NG)を用いた。
1)4HAQO添加実験
ラットの胸腺細胞を用いて4実験行ったが、うちWistar
King A(WKA)ラット胸腺の2代目の細胞に10-5乗molの濃度を2回作用せしめたもので、処理後約15日でpile
upしたcolonyをえた。この細胞を増殖せしめて生後3週の同系ラット皮下に100万個細胞数接種したが、腫瘤の形成はみられなかった。
2)4NQO添加実験
王様系ラット胸腺より分離した株細胞を用いて2実験、Wistar
King A(WKA)系ラット胸腺のprimary cultureを用いて3実験、ラット肺のprimary
cultureを用いて2実験行った。
4NQOは10-6乗、5x10-7乗、2x10-7乗molの濃度に培地で稀釋し、種々の時間、回数を作用せしめた。うち株細胞に10-6乗mol作用せしめたものから変異細胞のcolonyをえたが、移植実験には成功しなかった。またWKA系ラット胸腺培養の2代目以後、2x10-7乗molを頻回作用せしめたものがmorphological
transformationをおこしたので現在移植実験中である。
3)NG添加実験
前記株細胞を用いて4実験、ラット胸腺のprimary
cultureを用いて10実験、ラット肺のprimary
cultureを用いて3実験を行った。
NGは1μg/mlより500μg/mlに至る濃度で種々の時間および回数作用せしめた。そのうちWKA系ラット胸腺3代目の細胞にNGを10μg/mlになるように滴下し、6日間放置したものより変異細胞をえた。この細胞を処理後約40日目に、同系のwianling
ratに100万個細胞数接種したが、腫瘤は作らなかった。しかし処理後約170日目頃より対照と比して細胞の増殖度が目立ってよくなり、対照が1週間に約5倍程度の増殖を示すのに対して処理細胞は約10倍程度の増殖を示した。形態的にも対照はmonolayerを示すのに対して処理細胞はcriss
crossが著明でpile upする傾向がつよかった。一般にNGは、細胞に変異をおこさしめる至適濃度の幅がせまいようで処理後相当長期にわたり細胞の増殖がみられず、従ってmorphological
transformationがおこるまでのincubation timeが、長いように思われる。さらにNGを作用せしめる培養組織として、幼若WKAラット胃の培養をこころみて上皮性細胞の増殖をみた。これが如何なる組織に由来する細胞か未だ同定しえないが、この細胞を用いた発癌実験を計画している。変異細胞の染色体については目下検索中である。
《安藤報告》
1)癌の遺伝子変異説の検討
いかなる機序によって癌が発生するかに関して現在二つの考え方がある。(月報6705)。すなわち発癌剤、その他の作用によって正常な細胞が変異を起すのか、あるいは初めから混在していた悪性細胞が逆淘汰されてくるのか、という考え方である。しかしながらこの癌細胞の発生の由来のいかんにかかわらず、癌細胞は正常な細胞の持つ種々な調節機構に異常をきたしている。この癌細胞の異常性は病理学的、生化学的、その他の種々の研究手段によって現在迄にかなり明らかにされている。それにもかかわらず残念なことには、明らかにされて来た事は全て正常細胞と癌細胞の表現形質の量的な差でしかなく、本質的と思われる質的な差異は見出されてはいない。したがって一歩立入って、それでは癌細胞の遺伝子はどうなっているのであろうか、DNAレベルの変異を起しているであろうか、という疑問には何も答えない。私はこの問題に何らかの手がかりを得ようと次のような計画を立て、実験を進めている。
当勝田研究室で無蛋白無脂質合成培地で8年間にわたり培養されている、マウス皮下センイ芽細胞由来のL929の亜株L・P3を使用し、これに薬剤処理をすることにより、種々の表現形質の異なる変異株を誘導する。次にそれ等の変異株及び原株の間にDNAを介しての、この表現形質の転換(transformation)が起るか否かを調べる。すなわち、その表現形質の変異は単なる細胞内調節機構の異常によるのではなく、遺伝子中のDNAの変異に由来するならば、次にこの手法を応用することによって前述の疑問−癌細胞は遺伝子変異によるか−に直接回答しうることになる。すなわち癌性がDNAによって他の細胞に移るとすれば、まさに癌は遺伝子変異によると結論出来るわけである。このような実験計画にしたがって次の予備実験を行っている。
L・P3を単個培養によりNG(N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine)処理をする。処理後増殖を回復してきた細胞からクローニングをくり返すことにより、幾つかの純クローンを分離した。現在各クローンについて栄養要求性に変異を生じているか否かを検索中である。 2)4NQOの作用機序の細胞培養による研究
4NQOは杉村らにより、生体内で4HAQOに還元される事により発癌性を獲得する事が示された。又腹水肝癌AH130のDNAに、腹水蛋白に結合する事がin
vivoで示されている。しかしながら、この核酸、蛋白、あるいはその他の生体物質の内、いずれとの結合が癌化に直接みちびく反応であるのかについては全く不明である。そこで私共は細胞培養を利用する事により、動物体という多因子系による問題の複雑化を避け、より精密な発癌過程の分析を企図した。
H3-4NQOを前述のL・P3細胞に与え、細胞中へのとりこみ、及び細胞成分との結合のkineticsを調べることにより、最も4NQOとの反応性に富む成分は何かを検討した。結果は次の如くである。4NQOと細胞内蛋白質、核酸との結合は、37℃において、30分で最大となり以後3〜4時間はほぼ一定値を保っていた。またこの結合にあずかる蛋白は、DAB及びMCで示されたような特異蛋白ではなく種々の分子量を持つ殆ど全ての蛋白を含んでいた。目下核酸との結合様式、結合物の安定性等検討中である。
《安村報告》
1.発ガンのSelection説の検討(つづき):
月報のNo.6804に勝田班長がふれておられるが、Dr.L.Diamondのシリアン・ハムスター胎児細胞の培養内自然発ガンの報告は、このいわゆる自然発ガンの原因として3つのfactorを考察していた。つまりこの癌化は1)あらかじめ生体内に存在していたかもしれないvariantで、malignantのきざしのあるものをselectionによって継代中にひろいあげたか、2)未知のtransforming
virusによるか、3)まだ不明の物理的、化学的な原因によるものか、ということであった。あるいはこれ以外の原因があるかもしれないし、これらの原因が互いに絡み合っていることも考えられよう。
月報のNo.6808では上記の原因のうち、1)の仮説の可能性の分析のためにMacPhersonらによるSoft
agar法の利用について予報された。実験の狙いは同号の討論にのべた如くです。
1-1.シリアン・ハムスター胎児細胞の初代培養では100万個、50万個/plateではSoft
agar中のColony生成はみとめられない。そのご再び初代培養と2代継代培養によるSoft
agar中のColony生成が試みられたが、いずれも結果はマイナス。
1-2.以上のデータはSoft agar法がmalignant
transformed cellをselectiveに増殖させることにあったとすれば当然のことのようにみえよう。しかしColony生成がゼロではなんとも前進のしようがない。
1-3.最近E.TjottaらがPolyoma vurusによるtransformed
cellが、Conditioned madiumを加えたSoft agarでよりよくColonyを生成するし、polyoma
virusで処置しあい宿主細胞(BHK21/C13)も同様mediumでColonyを生成すると報告した。そこでこのconditioned
mediumを加える方法をこころみた。
1-4.Conditoned mediumは初代培養細胞と2代培養上清を液かえの際にプールして集められた。初代培養細胞と2代継代細胞が出発材料、Conditioned
mediumはSoft agar中に100%(agar以外の培養液は100%Conditioned
mediumということ)、50%、0%の割合にして各群5枚のplateをつかった。結果は接種細胞数100万個に対して、3週めに初代培養細胞の群のうち、Conditioned
medium 100%のところでColony(0.1mm以下)が1コ、50%のところで1コ出現した。しかしそのごColonyの増殖はなく壊死におちいってしまった。いずれからもColonyを分離して増殖させることはできなかった。ついでなされた同様の実験ではConditioned
mediumの割合を75%、50%、25%、0%でなされた。75%と50%の群で接種細胞数100万個につき、それぞれ5枚のPlat中2枚に数コ〜10数コのColony生成をみとめた。しかしこれらのColonyが増殖可能かいなかは、実験進行中なので、詳細は次回へ。
2.AH7974TC細胞のSoft agar中での増殖:
上記のSoft agar法をつかって行われているハムスター細胞の実験のControlとして、われわれのtechnicの信頼度をしらべるとともに、基礎実験がAH7974TC細胞でなされた。接種細胞100/Plateで11〜30のColonyができ、成績は上々。(Soft
Agar中のAH7974TC細胞コロニーの写真を呈示。この実験ではconditioned
Mediumはつかっていない。)
《藤井報告》
培養ラット肝細胞とその変異株細胞の抗原について
癌抗原の存在が、宿主の免疫学的抵抗性の成り立つ基盤出あり、癌に抗原性の在ることを立証することが、癌の免疫学的研究の起点となる筈である。化学発癌のばあい、各例性質の異なる癌の発生することが示されており、それらの抗原のちがいについての発表もある。
すでに、本研究班では“なぎさ"培養によるラット肝細胞の変異(勝田)、ハムスター胎児細胞の4-NQO処理による培養内発癌(黒木)、ラット肝細胞の3'MeDABおよび4-NQO処理による培養内発癌(佐藤)に成功している。比較的単一な細胞群を扱う組織培養実験では、培養細胞の変異過程を追跡することが可能であり、有利に癌抗原の分析をすすめられる筈である。
培養内細胞の癌化にともなう抗原性の変化を検討することが、筆者に課せられたテーマであるが、今まで、ラット肝細胞、いくつかのラット肝癌、培養ラット肝細胞とその変異株等について、double
diffusion法とimmune adherence(IA)法によって、それらの抗原の検討をおこなって来た。
1.Double diffusion法による抗原分析
培養細胞を主としてあつかう関係から、少量の細胞について実験をすすめる必要があり、double
diffusion(Ouchterlony)の変法であるmicrodiffusion法(月報、No.6710に記載)を、採用した。この方法は、Ouchterlony法より抗原−抗体沈降線の検出が鋭敏に出来、20万個の少数細胞でも実験可能であることが、基礎実験で示された。
抗原液:細胞20万個に対して、0.5%Na-deoxycholate-PBSを0.5mlの割に加えて浮游させ、ホモジナイズ后、その遠沈上清(2,000rpm、20分)を抗原液として用いる。培養細胞は、医科研癌細胞研究部のものである。
抗血清:ウサギ抗ラット肝組織抗血清(RALS)、ウサギ抗ラットAH13抗血清(RATS-AH13)
の原血清を用う。
成績のあらまし:
1)ラット肝組織は、RALSに対して5本の沈降線を示すが、
2)培養ラット肝細胞(RLC-9)は、この中の1本と共通な沈降線のみをつくった。
3)培養ラット肝細胞変異株(“なぎさ")RLH-5は、RALSに対して、全く沈降線をつくらない。 4)このRLH-5細胞は、抗ラット肝癌抗血清(RATS-AH13)に対して弱いけれども、1本の沈降線を示した。
小括:培養ラット肝細胞が成熟ラット肝の抗原の大部分をもたないことは、培養ラット肝細胞が新生児ラット肝由来であることと、肝組織中の一群の細胞にかぎられることによると考えられるが、変異株では、変異以前の抗原を失い、別に肝癌の抗原(この場合AH13と共通な抗原)を獲得するようである。このような肝癌にみられる抗原が、癌の抗原によるのか、contaminationによる微生物の抗原によるのかは、今后慎重に検討されなければならない。
2.Immune adherence(IA)法による抗原分析
IA現象(免疫粘着現象、Nelson,R.A.,Jr.)は、抗原-抗体-補体複合体に人赤血球が粘着する反応で、極めて鋭敏な免疫反応である。細胞表面の抗原の検出は、抗体、補体、人赤血球を加えて反応させ、顕微鏡下に、人赤血球の粘着している細胞を識別し、算定することによって可能である。また凝集反応(免疫粘着赤血球凝集反応、immune
adherence hemagglutina-tion)-西岡-として、反応の強さを判定しうる。
方法:培養細胞を、培養の状態のまま抗体と反応させる目的で、小型の培養小角ビン中で1日培養し、TC-199液で洗滌した后、稀釋抗血清、1/5とモルモット補体用血清、1/20を、各0.25ml宛を加え、37℃で30分間反応させた后、2%人赤血球(O型)浮遊液0.1mlを添加して、さらに37℃で30〜60分反応させる。反応后、TC-199液で数回洗って、浮游赤血球を流し去ってから、倒立顕微鏡下にIAのおこっている細胞を識別算定する。
成績のあらまし:
1)培養ラット肝細胞(RLC-10)は、ウサギ抗ラット肝抗血清(RALS)によって強いIA(++++)を示すが−(double
diffusiondeha反応弱く、沈降線1本のみ)−、“なぎさ"変異種(RLH-3、RLH-4とRLH-5)は、弱いIAを少数の細胞にみとめたにすぎない(±)。しかし、これらの変異株はいづれもウサギ抗ラット肝癌AH7974(RATS-7974)には、稍ついIAを示した(+)。
2)ウサギ抗AH130抗血清(RATS-AH130)にたいして、AH130細胞−腹腔継代細胞−は33%、培養AH130(JTC-1)は68%のIA陽性細胞を示した。抗AH7974抗血清(RATS-AH7974)では、前者は27%、後者は43%の細胞がIA陽性であった。この傾向は、AH7974細胞とその培養継代細胞についても観察された。
すなわち、ラット肝細胞は、各肝癌に対応する抗体とつよくIA反応をおこす他、非対応の他の肝癌に対する抗体ともかなりつよいIA反応を示すことがわかる。
また培養ラット肝癌細胞の方が、元の腹腔継代細胞よりむしろ強いIA反応をおこしたことは興味ある点である。この点に関して、培養液中のcalf
serumが細胞に吸着され、calf serumと用いた抗血清、補体との間の自然抗体によるIA反応が、反応増強にあづかってないかどうかが問題となる。この問題は、培養AH7974細胞をcalf
serumをふくむ“199"液(10%)中においても(室温、30分)、IA反応に影響がみられなかった最近の実験から一応否定してよいと思われる。
小括:
1)IAによる実験で、培養ラット肝細胞変異株(“なぎさ")は、変異以前の抗原の多くを失内、一方、ラット肝癌に共通な抗原を獲得しているようにみえる。
2)AH130、AH7974細胞と、それぞれの培養継代細胞は、正常ラット肝抗原の多くを示さないが(この成績は上に記さなかったが)、対応する抗体の他に、非対応の抗体にもかなり強くIAを示し、ラット肝癌に共通な抗原のあることを示唆している。
培養継代細胞の方が、腹腔継代細胞よりも強いIAを呈する事実は、培養によって、細胞膜面に抗原−抗体反応がおこり易くなるような、あるいは抗原の露出を来すような変化がおこっていることを示唆する。
《永井報告》
1)Ektobiologyと糖質・脂質
細胞の機能には質的に異なる二つの面があるものとみられる。その一つは、個々の細胞そのものの生命維持に必須な機能である。これには蛋白質や核酸があづかっており、今迄の生化学の対象の中心となっていた。これが障害を受けたときには、病気よりもむしろ死を招く。いま一つは、細胞が一定の秩序のもとに集まっていとなむ、いわば、細胞の社会的な機能に関するもので、これがおかされても、前者のようには、直ちに死に至ることはない。その生物学をKalckarはEktobiologyの名で総括している。これに大きな役割をはたしていると考えられるのは、細胞表面の特異構造であり、物質的には糖質や脂質が主役になるものと予想される。我々は、癌問題をむしろこの第2の角度から把握していこうという考えで研究をすすめている。
2)研究目的
この問題に、生化学的にアプローチしていこうとして、我々がまずとりあげたことは、Ektobiologyにおける主役物質は何かということである。そこで、いうところの糖質や脂質がそうなのかどうか、これをまず明らかにしようとして実験をしくんできた。Ektobiolo-gicalな現象が典型的にあらわれてくるものの一つは、発生と分化の問題であろう。そこでは、2つの異なった生殖細胞の融合としての受精に始まって、形態形成にみられる細胞集団の完璧な秩序のうちにある特異な移動運動など、いろいろな問題がある。ここに着目して、かつ、大量の材料が入手しうるということから、さしあたってウニの配偶子およびその胚を材料として実験をおこなってきた。
まず研究の焦点を、細胞の表面に存在すると予想される糖脂質にしぼって、次の項目をとりあげた。1)実際に糖脂質が配偶子や胚に存在するか。2)それはどのような化学構造のものか。3)それらに細胞表面の特異性に関係づけてもよいような、特異的な構造上の違いが見出されるか。4)発生、分化の過程の途上において、それらに何らかの変動がみられるかどうか。
3.実験成績
それに対して現在までにえられた答は、1)ウニの配偶子(精子および卵)および胚には、確かに糖脂質が存在する。それらはシアル酸を構成分の一つとして有するもので、その糖脂質(シアロムコリピド)の数は、9種以上にも達する。
2)それらは複雑な化学構造を有するが、構造上には一定の関係があり、一連の代謝経路上にのっているものと考えられる。3)精子と卵とでは存在する糖脂質の種類に違いが実際にみられた。のみならず、ウニの種類が違えば存在する糖脂質の構造も違ってくる(種特異性)ことがわかった(月報No.6808)。4)そのうちのいくつかでは化学構造の決定がおこなわれた。すなわち、ムラサキウニ精子の糖脂質のうちの一つはセラミド-Glc(6←2)シアル酸←シアル酸であり、卵の糖脂質のうちの一つはセラミド-Gic-Glc(シアル酸一分子)であることなどがわかっている。
現在これらの脂質の化学構造の決定を更にすすめるとともに、その細胞における存在位置、発生途上における変動などの生物学的な面を追究しようとしている。
ウニ胚は一層の細胞が中空のゴムマリ状にならなだ胞胚期から、第一次間充織細胞の陥入に始って、原腸形成に向って表層が陥入していく嚢胚期を経て、発生、分化をすすめていくが、この際の細胞の陥入運動は何によるものであろうか。まず考えられるのは、細胞間の接触状態にひとつのゆるみがおきるのではないだろうか、ということである。我々はこれを、たとえば細胞表面のシアル酸が表面から脱離するためによるのではないかと考え、シアリダーゼの特異的阻害物質を陥入期直前に作用させてみたが、何等の影響もみられなかった。しかし、プロテアーゼの強力なinhibitorであるトリペプチド、Leupeptineを作用させたところ、原腸陥入が全く抑制されることを見出した。この場合、細胞はそのまま生存を続けた。このことをどのように解釈するかであるが、この陥入期に至って細胞からプロテアーゼが分泌され、それが細胞間をつないでいる基質に作用して分解し、その結果細胞間の結合をゆるめるのではないかと、現在のところ考えている。これもまた、細胞の定着、migration、といったEktobiologyの問題の一つである。Leupeptineはつまりこのプロテアーゼ作用を抑制し、それが陥入の抑制となってあらわれてくるとみるのである。
【勝田班月報・6901】
《勝田報告》
皆さん新年おめでとう御座います。今年もはり切って頑張りましょう。
今年初期の研究計画:
1)癌化時までの細胞の特性の変化
ラッテ肝細胞を4NQO(3.3x10-6乗M、30分、1回)処理し、以後一定期間ごとに染色体の検索、細胞電気泳動度の測定(山田班員)、soft
agar内での増殖能の検討(安村班員)をおこなう他、連続的に顕微鏡映画撮影で形態の変化を追究する。一部はRLC-10株を用いてすでに昨年暮に開始しており、次のシリーズはなるべくprimaryに近い培養で、と準備中である。
2)Exp.#CQ39〜42の後始末
これらの実験でラッテ肝細胞が肝癌になったのであるが、ラッテに接種して結果の判らぬ内に、培養の一部は更に4NQOで何回も処理しているので、それらの群について、染色体像と腫瘍性を一通り調べてから、凍結して実験の整理を図りたい。一部は既に開始している。
3)RLH-5・P3株の検索
ラッテ肝細胞RLH-5株は、RLC-10株の“なぎさ"変異株であるが、昨秋このRLH-5が合成培地DM-120内で増殖できそうだということを発見し、一部をこの無蛋白無脂質の培地に移したところ以後順調に増殖をつづけ、現在盛んに増殖している。肝細胞としての特徴であるアルギニン非要求性をこの亜株RLH-5・P3(L・P3にそろえてこのように命名した)が示すかどうか、これからしらべる準備をしている。血清培地ではこのような検索はできないので、結果は興味を持たれる。またL・P3細胞は4NQOに対して抵抗性が強く、光に対してはきわめて弱かったので、このRLH-5・P3の4NQO及び光に対する感受性も検討してみる予定である。
4)細胞混合培養の検索
さきに、ラッテ肝RLC-10株の培養に、肝癌AH-7974細胞を添加して顕微鏡映画撮影で追究したところ、後者が前者を攻撃し、殺し、最後には貪喰してしまうらしいことを発表したが、この培養を以後そのまま継代していたところ、AH-7974株の染色体モード約88本、RLC-10の42本に対し、混合培養の子孫は、約88本のモードの他に約44本の第2ピークを示した。これが何を意味するか精査すると共に再現性もたしかめたい。
《佐藤報告》
◇新しい肝細胞株で4NQOの発癌に成功
従来、Exp.7系の発癌を月報に報告してきたが、今回は新しい肝細胞を使用して発癌に成功したので報告します。
実験に使用した株はRLN-251で、20%BS+LDで培養維持していたものを、培養250日目から、20%BS+YLEに変え、252日目より4NQOを10-6乗Mで10回間歇処理したもので、総処理時間は25時間、総培養日数314日、従って最初の4NQO処理日から動物復元までに要した培養日数は62日、動物に500万個の細胞を接種後著明な血性腹水(50ml)と大網部に腫瘍の形成を示した。動物の生存日数は99日。この実験のシェーマを示すと以下のごとくです(図を呈示)。尚、同時に4NQOの処理を受けていないコントロール細胞接種動物には発癌はみられておりません(0/2)。目下、この株を使用して発癌実験を進めており、2月の班会議までには、少しはまとまったものになるのではないかと考えます。
◇ラッテ肝細胞発癌株のコロニーの比較
使用株細胞はしばしば報告して来たExp.7-(2)で、このコントロール細胞、4NQO処理発癌細胞、腫瘍を再培養したものを使用してシャーレにまき込みました。成績は表の通りです(表を呈示)。Plating
efficiencyは、Tumor cell lineがやや高い程度です。Colonyの形態は、コントロールと4NQO処理発癌株、腫瘍株との間に著明な差がみられました。従来、肝細胞を使用してTD40などの閉鎖系で発癌実験を行う際にはあまり4NQO処理によって、その形態的差違が見い出されなかったのに較べ、少数細胞でみると、著明な差が見い出された。この事は、DAB飼育ラッテ肝(正常に近い肝より発癌にいたる迄の肝)のコロニー分析で細胞の悪性化とコロニーの形態的変化との相関にも見られたことであるが、コロニーレベルの分析は肝培養細胞の悪性変化の一つの目安になるのでないかと考えられる。
《佐藤挨拶》
新年あけましておめでとう。誠に筆無精で申訳なく思っています。我々の班も今年は新班として従来の多大の成果をいかす事になると思います。勝田班長の正月を返上しての、申請書書きですでに準備OKの態勢と思います。そのうち申請書のうつしが各自の手にとどくことでせう。いつもながらお世話様です。今度び培養関係者が集ってつくる“培養株細胞の保存維持の研究班”の班長事務をやってみて(勝田先生に大いに指導していただいて)大変だと思います。小生は全くスローモーションですので、これから申請書かきの本番にうつります。
こうして記録をのこして置くと後になってほんとによかったと思います。今年も来年も大いに頑張って発癌の機構解明に努力し、人間の癌撲滅の大目的に一日も早く到達できる様にしませう。
《藤井報告》
新年おめでとうございます。
昨年は移植免疫とマウス補体関係の仕事で追いまくられ、がんの抗原についての、この班での私の仕事の方がすすまず、申し訳ありませんでした。
本年の仕事の予定として、先づdouble diffusion、micromethodを手技的にも完全にした上で、ラット肝抗原とラット肝癌抗原の間で今までに認められた差が質的なものであるか、量的なものであるかをはっきりさせて行く。今までは、癌特異抗原という質的に異なる抗原に目をつけて来ましたが、正常抗原の量的な減少−抗原基の減少も大いに問題にあると思います。増殖の激しいがん細胞では考えられることですし、がん細胞の補体結合能、免疫溶解反応での態度などからもその可能性はあると思います。量的な、抗原の変化は実験的に容易にやれるので、早速開始しました。
培養細胞の癌化の過程での抗原性の変化は、上と併行して、癌細胞研究部の御世話になって進めて行きます。培養細胞では、細胞数(供給される)が限定されるので、正常細胞抗原の減少を質的な“欠如"と誤認する可能性があるので、上記の実験をモデルにして行く必要があります。
その他、今年は16mmムービーを何とかして入手して、正常細胞、癌細胞の免疫溶解の過程を観察してみたいと思っています。当面は、赤血球溶解と、有核細胞溶解の相異が問題ですが、溶解における抗原sitesの問題、補体要求度の問題が、こういう観察から何かヒントが得られればと思います。
もう一つは、RATアルブミンでcoatした赤血球溶解によるlocalized
hemolysis in gel法を使って、アルブミン産生細胞を計測すること等です。この方法自体は、すでにHandbookof
Experimental Immunology(ed.Weiv)に出ておりました。
《高木報告》
昭和44年の新春を御慶び申上げます。昨年は何かと騒々しい一年でしたが、今年は何とか落着いて出来るだけ研究を進めたいと考えています。
さて、昨年最後の班会議でnitrosoguanidineで処理したWKA
rat胸腺細胞を復元したところ、約70日後より生残った3疋のratすべてに腫瘤を生じたことを報告したしました。対照の細胞を接種したratがすべて死亡しましたので、その後再び対照細胞を8疋のWKAratに接種しましたが、これらは73日を経た現在何等腫瘤を生じておりません。
NG-4を接種して腫瘤を生じた3疋の中1疋は接種後105日目に肺炎をおこして瀕死になりましたのでsacrificeし、fibrosarcomaであることを確かめました。この腫瘤はexpansiveな増殖を示し、左上肢肩甲下にinfiltrationを示した外、metastasisなどはありませんでした。このtumorを再培養した結果、培養後1週間目頃からexplantより円形細胞のmigrationを認め、その後この円形細胞の下にfibroblastic
cellsの増殖がみとめられるようになりました。この2種の細胞が同一のものか、あるいは別のものか未だはっきりいたしませんが、培養と共にfibroblastic
cellsに所謂fibroblastとtumor cellとがある様に思われて来ました。1つのbottleは24日目に継代し、以後は大体2週間毎に継代して目下4代目ですが、networkを形成しやすいtumor
cellsが次第にdominantになり、現在はほとんどを占めているようです。また少数の円形細胞が、それらのtumor
cellsの上にくっついたようにしてあります。この円形細胞がprimary
cultureで認められた円形細胞と同様なものかどうか、染色標本を作っている処ですが、位相差でみたところではすべてがmitotic
cellsとは思われません。この細胞をふやしてさらに動物に接種してみるつもりです。
細胞を復元した他の1疋は巨大な腫瘤を生じ衰弱がはなはだしくなったので、134日目にsacrificeしました。腫瘤は皮下に生じたもので重量230gありました(写真を呈示)。
あと1疋のratは腫瘤の大きくなるのは一番おそかったのですが、140日目頃から両下肢と左上肢に麻痺を生じ、衰弱が加って来ましたので、160日目にsacrificeしましたが、これも可成り大きなtumorで脊髄に浸潤しているように思われました。これらについては、次回班会議の時、詳しく報告いたします。
現在NGによる発癌の再現実験を行っていますが、さらに移植実験transformed
cellsの核学的検索にも手をつけています。
《安村報告》
Akemasite omedetoo gazaimasu! Mazu aisatu
wa kono hen de. Saa sigoto sigoto. Amerika
no yatura wa ganzitu sika yasumimasen mono
ne. Makete tamaru ka!
☆Soft Agar法(つづき)
1.AH7974TC細胞:前号の月報(No.6812)で、のべられたC1よりひろわれたSmall
colony由来の系C1-Sと、Lafge colony由来のC1-Lの両者のコロニー形成率が比較された。同時にlarge
colony(かりに径2mm以上をそう呼ぶことにしているが、この基準ははっきりした根拠にもとづくものではない)の出現の頻度に注目した。この両者の細胞系と1緒に、C6-3系(C6系よりat
randomにひろわれた系で3回寒天培地でコロニーをつくらせたもので、統計的にはクローンといえよう)もしらべられた。結果は表のごとくであった(表を呈示)。
この結果からはC1-SとC1-Lとの間にはPlating
efficiency(正確にはColony formation efficiency)が、差があるようにみえる。前者は約16%、後者は30%前後。直接の比較はできぬかもしれないが、原株C1はGBI製のmodified
Eagleで約26%であった。 今回の実験はNissuiのこれもmodified
Eagleがつかわれた。 (ただしAmino acids、vitaminsの濃度は1xです)。large
colonyの出現頻度は、C1-SとC1-Lとの間には差がみられない。奇妙なことにC6-3からは、large
colonyの出現は皆無にひとしい。しかしP.E.は3者中もっとも高く33%近くであった。
2.CO-40細胞:前号の月報(No.6812)でCQ-42細胞のSoft
agarでのコロニー形成に成功しなかったことがのべられた。今回はもうひとつ別の系CQ-40(Culb-TC)が同様の方法でこころみられた。結果は表にならずじまいで、コロニー形成はみとめられなかった。培地は前回同様GBI製のmodified
Eagle(Ammino acids、Vitaminsそれぞれ2xconc.)に、コウシ血清10%でした。1群4枚のシャーレで、接種細胞数はそれぞれ群あたり35000、17500、8750細胞でした。対照として液体培地にまかれたそれぞれの群からもコロニー形成はみられなかった。したがって今後の実験ではシャーレあたりの細胞数を増加して、コロニーをつくらせる(なんとかして)ことである。もしSoft
agar法がtumorigenicな細胞を選択すると、かりに考えるなら、すくなくとも35000細胞の集団のなかにはmalignant
cellはいないのかもしれない。あるいはin vitroの条件が、存在するかもしれないmalignant
cellをも増殖させないのであろうか。この可能性のほうが大きいかもしれない。なぜなら液体培地においてすら、この35000細胞の細胞集団からは、コロニー形成がみられなかったからである。しかし問題はもっと別のところにあって、malignant
cellであってもin vitroに適応していないためにコロニー形成のefficiencyがわるいのかもしれない。いずれにせよ、腰をおちつけてクローン分析をやって、問題をときほぐしてゆこう。(Akemasen
de medetakunai ne!)
《梅田報告》
1)前回の月報No.6812の私の報告で(3)に記載した培養は、そのまま液かえを続けているが、その后異型細胞増殖が盛んにならないまま、fibrousに見える部分(肝細胞とおもわれる)が重層化してきて、それ以上旺盛に増殖するとは思えない。
2)前回の(4)に報告した培養では、その后即ちDAB投与開始后3週間目位ではっきりとした変異増殖細胞塊が認められた。しかしそれも現在尚増殖は盛んでなく、安村先生の云われる様にうまくtrypsinizeして瓶を小さくしても尚かつ充分な細胞数が得られそうにないので、そのまま液かえを続けている状態である。 今后、前回の班会議の先生方のSuggestionを試みてみて、旨く増殖させる方法を見出す必要性を痛感している。
3)前々回の班会議で佐藤先生が、肝細胞培養にはYLE或はMEMが非常に良いと云われたのが気になって、2回程実験をしてみた。不一致の所もあり、もう一度repeatしてみたいと思っているが、先ずは2回の実験の結果を報告する。生后4日(2回共)のrat肝をいつもの様にトリプシン、スプラーゼ処理して30cells/ml
in LD+20%CSの細胞浮游液を作り(2回目の実験で始めからMEM+20%CSの培地を一部に用いた)、1ml宛Leighton
tubeに分注して2〜3日間前培養し、その后各種の培地に変えて、2日后再びそお培地に変えて4日后、型の如く画数算定をおこなった。(表を呈示)
D salineとE salineを比較した時1回目と2回目と全く違った反対の結果になって了った。
Yeast extractは明らかに加えた方が良い。
Endothelの細胞は、核の形がはっきり他の細胞と区別出来るので、別に数えてあるが、Yeast
extractを加えたことにより、Endothelialの細胞の方ののび率が、肝実質細胞、中間細胞その他の細胞ののび率より良い様である。
MEM培地は可成り良く増殖させるが、これもendothelの細胞の増殖率を上げる。
Primaryの始めからMEM培地にした時は、更にendothel細胞の増殖率が高い様である。
だいたいの傾向は以上の結論の如くであるが、細胞の増殖率も悪い実験なので、もう一度repeatする積りである。いずれにせよ、結局の所、DLでもLEでも良く増殖している時(実験2)の場合)以外、即ち、培養条件が良くない時はendothelの細胞の方が良く保たれている。
《堀川報告》
1968年を顧みて
1969年の新春を迎え皆さんおめでとうございます。今回は表題にかかげたように1968年を顧みてと題し、昨年一年の自分の仕事をふり返り、今年度の新しい出発にそなえたいと思っています。いつごろから当班に加えていただいたか判然とはしませんが、少くとも私が阪大大学院を修了して以来だと思いますから(アメリカに滞在した2年半を除いても)、今年で5年間はこの班でお世話になったわけです。これもひとえに勝田班長の加護と、班員の皆様の御理解によるものと感謝しております。脱班を機に班長に残していった黒木元班員の手紙にもあったように、この班に加はっているという事は実に有益である。発癌とその機構解明をめざして各分野から集まった同志で成るこの班から得たものは数えきれないものがありました。勝田班長の指揮と、また執念のもとに試験管内の発癌は遂に突破され、(いまや4-NQOを用いた発癌は数名の班員で立証された段階にある)、次の問題は当然発癌の機構解明にあると思われます。私もおよばずながら昨年から、(1)「培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(途中で題目変更)」と、(2)「培養された骨髄細胞の移植によるマウス[骨髄死]の防護ならびにLeukemogenesisの試み」と題して、交互に本月報に研究内容を報告してきました。(1)の問題は放射線とか4-NQOを用いて哺乳動物細胞の遺伝子の損傷と修復機構の本体を追求しようとするものであり、直接発癌実験とは関係はありませんが、制癌とか発癌を考える上にすばらしい基礎的アイディアを導き出すものとして重要であると確信しています。(2)の問題はこれとは裏腹に、骨髄細胞とか胸腺細胞という細胞再生系を用いて細胞の分化動態ひいては試験管内で最も効果的にかつ最もsimpleに発癌機構を究明しようとする(あるいは出来る)系でこれまた大いなる希望をいだいています。(こうした表現はたぶんに勝田班長への言いわけと班員各位への自己宣伝を兼ねたものになりますが悪しからずお許しのほどを)。ただ残念にもいまだりっぱな結果は出ませんが、両system共に非常によい実験系であることは間違いないと自負しています。更に発癌およびその機構を正攻法で攻めるには病理屋さんを始めとするこの道の専門家に比べて、私共にはハンデーがあります。とてもまともにはたちうち出来ないでしょう。しかし、癌には必ずや抜け道がある。遺伝屋なりが攻めるに十分な道が必ずある。またそうしてこそ、これまでに発見出来なかった所から新しい物が発見出来るにちがいないと考えるわけです。まあ癌に関しては私共は生徒にたとえれば幼稚園の園児でしょう。ほんのかけだしで専門家の皆さんから見れば実になまぬるいと云う感じを抱かれるのも当然だと思います。しかし上述しました様な次第で今年も上の2つの問題を中心にして大いに頑張ってみたいと思っています。
年頭にあたり班員皆さんの御声援と御教示を願ってやみません。
《三宅報告》
試験管内の発癌をはたしえないで、又こうして年頭の記事を書くのは何とも辛い事です。
前回12月の班会議で皆さんから、教えていただいたようにH3-MCAのBenzolを、訳なくとばすことが出来ました。これをDMSOにとかして、最終濃度2.5μc/ml(medium)にして、5℃の冷蔵庫に入れました。どうしたことか、凍結してしまいました。こんなことは、今までなかったことです。この濃度で、dd系マウスの皮膚からえた細胞に与えることについては、Auto-radiographyに出てこないことでもあると、実はケイザイ的にこまって了いますので、つつましく、L株細胞でテストすることにしたのです。こうした上で濃度や作用時間を割りだして、あらためて皮膚の細胞に、あてがう決心です。いま露光中で、銀顆粒がどの程度に、どうした条件下で、最もよく出て呉れるかと、たのしみにして待っています。
尚、本学の外科の研究室に、ラットにDABを与えて乳癌をほとんど100%に作った人がいます。その腫瘍は、興味深い態度を示すもので、Estrogenを与えないと、一旦出来た腫瘍がregressするということです。最初に出来た腫瘍が腺腫であれば、より面白いことですが、癌と考えるべき構造であると、いうことですから、腫瘍が生体の中でホルモンに依存した、Dormancyを示すと考えられます。このdormantになった細胞が、estrogenのために再び活動を起すのを、試験管のなかで、みてほしいという相談をうけました。それは直接に発癌とは結びつかないことかも知れませんが、この2つの相をもった腫瘍の前後を、単層に培養して、Autoradiographyで例によって、みつめることは、あるいは、何かのsuggestionをえられるのではないかと考えています。試験管の中での発癌を、やりおおせなかった者としては、どうも、これ位が、1つの限度でないかと自分で苦笑を禁じえません。
あまり、年頭におしゃべりが過ぎると、また、つらい思いをしなくてはなりませんので、これで筆をおきます。
《安藤報告》
班員の皆様、明けましておめでとうございます。本年も又いろいろお教えいただきますよう、よろしくお願いいたします。実験の方は先ず培養細胞に慣れる事からはじめなければならなかった昨年よりは少しでも多くの有意義なデータが出せるように頑張るつもりでおります。相変らず、4NQOと細胞との相互作用を調べ続けて行くつもりですが、今年は特に、その分子機構の段階迄すすめるべく張切るつもりです。しかしながら相互作用の分子機構がわかっても発癌の分子機構は気が遠くなる程の大きな距離を感じます。最近は医科研も東大紛争にまきこまれていますが、封鎖されない限り実験は続けます。以下最近の実験一つ記します。
H3-4NQO処理L・P3細胞の核酸の分析
先月号にH3-4NQOで10-5乗M 2時間処理のL・P3細胞のRNA、DNAの放射活性が、どのように分布するかの実験を書きました。その際2時間では長過ぎて、すでに修復反応が起ってしまっているのではないかとの疑問が出されました(堀川班員)。それに答えるべく行ったデータである。すなわちH3-4NQO添加後30分(修復反応がそれ程extensiveに起っていないで、しかも十分核酸に結合している時間)に全核酸を分離し、MAK-カラムにより4分劃に分け各々の比活性を測定した(表を呈示)。2時間の値は、先月号から引用したもの。両カラムを比較して次の事が云える。(1)tRNA、DNA、rRNAは、ほとんど同じ比活性である。(2)オリゴヌクレオチド分劃に於ては0.5時間の値の方が約30倍も比活性が高い。
以上の結果の考察は次号にまわしたいと思います。
《永井報告》
§肝癌細胞より生産されるtoxic metaboliteについて−第3報
肝癌AH-7974を培養した培地には、正常肝細胞の増殖を阻害する透析可能(コロジオンバッグ)な低分子toxic
metaboliteが存在する。前号で、このtoxic metaboliteの単離を試み、まずSephadex
G-15でのゲル濾過分劃をおこなった。その結果、得られるFr.Iと の両分劃にのみ毒性効果が検出されること、毒性効果はfibroblastに対しては全く検出されないので分劃前の培地が示す毒性作用の特性を完全に再現していること、を報告した。現在、この分劃実験を再度試み、分離されるピークのパターンはかなりよく再現し得ることを確めることができた。500mgの透析外液凍結乾燥物より得られるFr.(I+ )の得量は32.9mgであった。これを現在Sephadex
G-25で再分劃中である。又、培地のみの透析外液分劃をSephadexG-15で分劃したが、得られた分離ピークパターンはAH-7974透析外液の場合と一部違うピークパターンを示した。たとえばFr.Iと が溶出される以前に既に1つのピークが現われ、より高分子量成分の存在を示した。そのほか、Saltピークの直後に出現するピークはこの場合見出されなかった。Fr.Iと に相当すると考えられるピーク部分を集めると66.7mgの固型分が得られた。カラムには576mgの透析外液分劃をのせた。以上の結果からすると、培地中の透析可能な低分子物質のうち、分子量の比較的大きな成分は、AH-7974細胞によってとりこまれ代謝されるか、あるいは、細胞より分泌される分解酵素により分解されてしまうものと考えられる。現在、精製は進行中であり、詳細は次回以降発表の予定。
御挨拶:以上のような具合で、仕事は快調に進み出したところで、私1個人の理由から一昨年からの約束でどうしても米国に出かけなければならなくなり、仕事を中断せざるを得なくなってしまいました。もっとも仕事は私の友人の星元紀君(教養・生物)によって引きつがれます。現在分劃精製中のものについての毒性検定成績は勝田班長よりいずれ報告されるものと思います。これまで長い間私のわがままを心よく許して下さった班長および班員の皆様に心より御礼申上げます。色々学ぶことが出来たのは大きな忘れ得ない収穫でした。帰国の際には又一層の御交誼をお願い致します。皆様の御研究の躍進を祈ります。
《山田報告》
おめでとう御座居ます。昨年よりこの研究班に入れて戴き、種々御指導戴くと同時に、economical
supportを戴き、願ったりかなったりで御座居ます。
何卒今年も宜しく御指導の程お願い申しあげます。
新年号には新しい年を迎へての感想みたいなものでもとの事ですので、最近感じたことを一つ書いてみたいと思ひます。
この話しは数年前ロンドンに居た時から始まります。1965年の2月だったと思ひます。朝から曇り勝ちで、午後から雨がぱらつき人出もまばらな或る夕暮でした。ロンドンの中央にあるハイドパークのはづれに建てられている第一次及び二次の戦勝記念碑をスケッチしたことがありました。雨はやがて密度を増し、街路樹の下で雨をさけながら漸く一枚の絵を(スケッチの写真を呈示)描き終った頃は、もう吾々家族三人を除いて誰れ一人居ないひっそりとした日没だったと思ひます。指先は氷りつき、文字通り臍まて冷きってしまった頃、漸く腰をあげ、近くのナイトブリッヂのキャフェテリアに飛びこんで暖い紅茶をすすりながら、入口で買った新聞をみて驚きました。
「Winston Churchill死す!」と書いてあるのです。第二次大戦を勝利に導いた偉大なる指導者であったチャーチルの死の日の夕暮に、その戦勝記念碑を、戦争に負けた日本の一家族のみが見守って居たと云う偶然を不思議に思ったものです。
あれから4年近く過ぎました。最近、偶然その時に買った新聞Daily
Telegremを見なおしてみて驚きました。こんなふうに書いてあるのです。
『Sir Winston Churchill dead peaceful end
with wife & family at bedside.Queen's
Message:Whole world is poorer』
この新聞はあの日に読んだ筈です。あのパイパア、パイパアと叫ぶコックニイの新聞売りから買ったこの新聞は一入の感慨を持って読んだ筈です。
にもかかわらず「世界は貧しくなった」と云う女王のメッセージに何の抵抗も感ずることなく読んで居たのです。それ故この文章が記憶に残らなかったと思うのです。
勿論このWhole worldと云う意味は多分に英連邦を意味して居るとは思うのですが、その裏には依然として世界をリードして居ると云う過去の大英帝国の意識と、自信が現れて居ることは事実だと思ひます。それよりも問題だと思うのは、そして驚きに感じたのは、私自身のこの記事に対する感じ方なのです。「イギリスに住むと、知らず知らずに、イギリス人の自信が己れみづからのものになると云う心理なのです」。
そして何の抵抗もなくチャーチルが死んだことにより世界が貧しくなったと、素直に感じるのかもしれません。そして日本に帰るとそんな自信は喪失して、その言葉が奇異に感ずるのかもしれません。自信などと云うものは所詮そんなものかもしれません。
【勝田班月報・6902】
《勝田報告》
RLH-5・P3について:
これはRLC-9(正常ラッテ肝)株の亜株のまた亜株である。RLC-9はJAR-1系F24生后5日♀ラッテの肝を1965-7-21に培養に移してできた株であるが、'65-12-6から平型回転管で“なぎさ"培養をはじめ、'66-1-18からは円形管にかえ、'66-9-19から再び平型管で“なぎさ"にし、'66-12-25に変異細胞が現われてRLH-5と命名された。'68-10-15その一部(継代24代)を無蛋白無脂質の完全合成培地DM-120内に移したところ、すぐに増殖が起った。この系をRLH-5・P3と命名したが、'68-12、継代4代のとき染色体をしらべると、RLD-5より少しモードが低くなっていた(図を呈示)。
細胞の形態は細胞質突起を長く伸ばし、L・P3にやや似ているが、4NQOと光に対する感受性を'69'1-13(継代5代)にしらべると、4NQO単独でもかなり阻害を受ける点でL・P3とは異なっていた(図を呈示)。現在継代6代で酵素学的に肝と同定できないかと検索を計画中である。
《佐藤報告》
*(1)教室で飼育している呑竜ラッテの正常核型、とB-4の染色体にみられる多型について報告します。
呑竜系ラッテは1949年に佐藤隆一医博(浦和市・日本ラット株式会社)が市販の白ネズミの雌雄2匹を兄妹交配し、以后系統的に育成したもので、1959年にF20に至り、その後は拡大繁殖に移し市販されました。その際、一部はなほ兄妹交配を続行し、今日F42にまでなっています。
教室の動物は1961年に実中研から購入し、交雑により繁殖させて使用していましたが、1965年以後は専ら兄妹交配して現在に至っています。
発癌過程を染色体上でキャッチするにはまず用いている実験動物の正常核型を充分に把握しておく必要がありますので、呑竜系ラッテの正常核型を今一度調べ直した次第です。 呑竜ラッテの正常核型については吉田俊秀先生(1965)が既に報告されていますが、染色体の分類と命名法はどの方法によるのが最も簡単で分析しやすいか、又光学顕微鏡レベルでどの程度まで個々の染色体を同定識別することが出来るか等を考慮しながら調らべました。結果は(核型の図を呈示)、分類はKurita,Y.et
al(1968)の方法に従ひ、42本の染色体を動原体の位置によりA、B、Cの3つに分類し、各グループ内では大きさの順に並らべて、大きいものから順に番号をつけ、個々の染色体を分類、命名しました。
正常核型についてはB-4以外は吉田先生の報告と略一致しましたが、B-4には多型がみられました。即ち(1:ST・ST。2:T・T。3:ST・T)の3種類あります。(表を呈示)。又この表は1967年の11月から1968年の4月までの間に生れた27腹の動物につき、各腹毎に♂♀各1匹づつの染色体を調らべ、それらのB-4型につきまとめたものです。同腹のものは全て同一の型を示しました。3:の型のものはわずか1腹にすぎませんでした。
動物の尾を切って培養し、その培養細胞から染色体を作成して、その動物のB-4の型を確認しておいた上で1:と2:との型の動物を交配してF1を作り、F1の染色体を調べたところ、いずれも3:の型であった。従ってB-4にみられる多型現象はartifactでなくgeneticalに明瞭なpolymorphであることが確かめられました。
扠て当教室のものの対照として同じ系の純系動物ではどうかと考えて、日本ラット株式会社で育成している呑竜ラッテの純系動物の核型を調らべる機会を得ました。これらの動物は現在F40以上になっておりますが、今迄に一度も細胞遺伝学的検索をしていないそうです。(皮膚移植では93%だそうです)
調らべた動物はF40代の一腹とF41代の一腹だけですが、その結果は核型全般については教室のものと大差はありませんでした。B-4についての結果をまとめてみますと、下記の如くです(表を呈示)。
F40代のものは性別に関係なく1:と3:の型でF41代は2:と3:の型で、いずれも分離比は1:1でしたので、F40代の両親(F39)は1:と3:のどちらかの型であり、F41代の両親(F40)は2:と3:のいずれかであることが推定されます。(調べたF40とF41は異腹の系統だそうです)。
以上呑竜系ラッテのB-4の多型について、当教室のものと日本ラットKKのものを比較して考えてみますと、当教室のデータでは4年近く兄妹交配しており、27腹中3:のheteroの型を示したものは1腹にすぎず、他は1:及び2:のhomoの型となっています。実験的に3:の型を作ることが出来ることから考えて、STとTは対立遺伝子と考えられ、20代以上も近親交配をつづけると、ST・Tの如きheteroのものは減り、SSやTTの如きhomoのものが優勢を占めると考えられますから、日本ラットKKの純系動物のデータで3:のheteroの型が非常に多いのが理解出来ません。
呑竜以外の系でB-4のshort armにsatelliteを有しているもの、いないものがあるという報告は文献上2〜3あり、今度の呑竜での所見と最もよく似た報告はBianchi,N.O.
& Molina,O.(1966)がRattus norvegicusで発見しております。B-4のPolymorphismにつきその意義や成因について全く解ってはいませんが、今後の研究に待ちたいと思います。
話が前後しましたが、正常核型の中で光学顕微鏡レベルで形態のみから個々の染色体を同定識別する場合に、識別可能な染色体はB
groupの4対とC-1及びYのみです。染色体上で正二倍体であるという確認は前記の5対とYの同定による外にないとはお粗末な次第です。
*(2)前号で難波が報告したようにRLN-25の4NQO
10回処理のものが発癌し、腹水型の腫瘍を形成しましたが、その后20回及び25回処理のものも現在外から小腫瘤を触れる程度になって来ています。これから残りのものも次々とtakeされるものと思われます。次号ではそれらの腫瘍の染色体分析の結果をまとめて報告出来るものと考えます。
《高木報告》
前回の月報でNG-4を移植したWKAratの中生残した3疋すべてにtumor(Sarcoma)を生じ、相前後して行った剖検の所見を報告しました。そのtumorの組織学的所見について、はじめにsacrificeしたNo2.ratはfibrosarcomaと思われますが、他の2疋No3.No1.ratに生じたtumorについてはsarcomaは間違いないが、なお種々の染色を行ってみる必要があり、はっきりしたことは現在申せません。PAS、Masson染色など行ってみようと考えています。電顕用の固定もしてあります。これらのtumorは再培養、移植など行いましたが、今回は再培養の所見につき報告します。
No2.rat tumor:周辺部のnecrosisの少い部分をとり細切後plasma
clotなしでガラス面に附着せしめ、LH+Eagle's
vitamine+10%calfserumで培養を開始しました。なお培養途中からこれに、glutamin、pyruvateを加えました。growthはおそく、約7日〜10日後からround
cellのmigrationがおこり、その下にしばらくしてfibroblast-like
cellsのgrowthをみました。fibroblast-like
cellsはtumor cellと思われるものとfibroblastの2種からなり、共にgrowthしておりましたが、2代、3代と継代して行く中にtumor
cellsと思われるものがdominantになり、現在はほとんどすべてtumor
cellsと思われます。
現在growthはさかんで1週に1回は必ずtransferしなければなりません。round
cellとこのtumor cellとの関係ですが、あるいは同じものかと云う気もしています。と申しますのは継代してしばらくはnetworkを作るtumor
cellと思われるものの増殖があり、この時はrund
cellは数はわずかで、cell sheetの上にのっている感です。しかし培養日数がたち、tumor
cellsがpile upしてきますと、その様な箇所にはround
cellも集まってpile upしてきます。それとround
cellとtumor cellと思われるfibroblast-like
cellとの間に移行型と思われる様な、つまりround
cellの両極にcytoplasmがのびてガラス面に附着している様な細胞も見あたるからです。なお観察をつづけます。
No3.rat tumor:2番目にsacrificeしたNo3.ratのtumorは、大きかったため写真をとったり、移植をしたりしております間に時間がたち、培養を開始したのがおそかったためか、growthは不良で、培養10日目頃からround
cellsのmigrationがおこり、その後さらに10日位してfibroblast-like
cellsのgrowthがおこりました。培養開始後約7週間の現在bottleはきれいなfibroblastで、その上にごく少数のround
cellが附着しています。
なおround cell丈を集めて継代したものも現在少数のround
cellが浮游し、またfibro-blastと思われるものがわずかに生えています。
なおNo3.rat tumorを生後3週間のWKAratの腹腔内に移植したところ、その中の1疋に“いもずる"の如くつらなった数ケのtumorと、血性のascitesを20日後にみとめました。solidtumorは、細切して培養したところ、やはり同様なround
cellとfibroblast-like cellの、growthをみましたが、このfibroblast-like
cellは増殖おそく、colony状のgrowthを示しており、何となくreticulum
cellを思わせる形態ですが核小体の大きいことなどやはりtumorcellであろうと思います。10mlの血性ascitesはそのまま培地でうすめて100,000/ml
cellsを4mlずつpetri dishで培養しましたところ、round
cellの増殖はあまりはっきりしませんが、4週間をへた現在なお浮游しており、それらを集めて継代したところです。なお、1つのpetri
dishにはfibroblastとreticulum cell様の細胞(tumor
cellか?)のoutgrowthがみられます。
No1.rat tumor:12月31日に培養を開始しましたが、これもgrowthはきわめておそく、1週間後よりround
cellのmigrationがおこり、約2週間後からその下にreticulum
cell様細胞のgrowthをみました。現在round cell丈のbottleとreticulum
cell様の細胞がcolony状に生えて、その上にround
cellが附着したbottleとあります。その中の1本をとり継代してみましたが(細胞数を多目に)あまりgrowthはよくない様です。他のbottleはいましばらくrefeedをつづけて様子をみることにしています。
以上これまでに行いました再培養の概略を報告いたしました。文章にかきますと中々細胞形態の表現が思うにまかせず、あるいは不適当な表現もあるのではないかと思います。次回月報ではこれらの写真を供覧いたす予定でおります。なお移植の成績につきましては、班会議で報告の予定です。再現実験はinitial
changeを認めた段階で特記すべきことはありません。
《山田報告》
昨年暮より、いままで検索した成績を再確認することと、発癌過程における表面構造の変化を検索し始めました。その成績を書きます。
岡大病理株のうちで自然に発癌したと云う株RLN系の電気泳動度についてはNo.6809、No.6811号に書きましたが、その成績のうちで、長期培養株はRLN-38であり、後者はRLN-36でした。両者は全く同一の性質を有するとのことですが、改めてRLN-36について培養株と、そのラットに復元した後の再培養株について比較しました。その細胞電気泳動度の状態は、(以后それぞれに図を呈示)、図のごとくで前回のRLN-36及びRLN-38を用いた場合と全く同一でした。即ち自然に癌化した株ではその電気泳動度は低く、ノイラミダーゼ(従来と同一条件)処理により殆んど変化せず、腫瘍再培養株の電気泳動度は高く、しかもノイラミダーゼ処理により有意の泳動度の低下をみました。この成績より、自然癌化したRLN-36株のうちで悪性化している細胞密度は少く、腫瘤形成により悪性細胞が選択されるものと考える様になりました。
次ぎに同じく岡大株で4NQOにより発癌したと云うExp7-2と云う株(ラッテ肝細胞)について培養株と、腫瘤再培養株の電気泳動度を比較しました。この株は、No.6809に報告したExp7-1と極めて類似の条件で悪性化し、その性質も似て居るとの事です。
悪性化した細胞株についてはExp7-1と同じく悪性型のパターンを示しましたが、対象の株は正常のラット肝細胞の電気泳動のパターンを示さず、むしろ変異型を示しました。即ち、ノイラミダーゼ処理により泳動度は増加しませんでした。
Exp7-1とExp7-2の違ひを次回の会合で伺いたいと思って居ます。
また生体内でDABを与えた後に培養して癌化したと云う株(ラット肝細胞)d-RLA74、d-RLH84について前回と全く同じ条件でくりかへし電気泳動度を検索した所、前回と殆んど同じ結果を得ました。
悪性化したCQ42株の細胞形態
CQ42をラットに復元した所、腫瘍が発生したにもかかわらず、株全体の細胞形態は復元前後において全く変りがないと云うことですので、CQ42株のうちでどの細胞が悪性化したかを検索する意味で写真撮影式電気泳動装置を用いて、その電気泳動度と細胞形態を検索してみました。CQ42株と、その腫瘤再培養株について検索し、そのうちで電気泳動度の速いものと遅いものとにわけてみました(写真を呈示)。しかし、こうやって分類しても泳動度の速いものと遅いものとの間に形態学的な特徴を見出すことは出来ませんでした。
CQ42株の悪性化細胞密度は少いと思われますが、悪性化した細胞の形態は悪性化しない細胞のそれとは大差がないのでせうか?。
ラット肝細胞(RLC-10)の電気泳動度の6ケ月間に於ける変化:
昨年の夏にRLC-10の電気泳動度のパターンを検索しましたが、6ケ月後に再び検索しました所多少変って来ました。前回はその泳動度が単一で揃って居り、ノイラミダーゼ処理により著明に増加しましたが、今回は多少の泳動度のバラツキが出て、ノイラミダーゼ処理による泳動度の増加がやや減少しました。しかし他の株にくらべてまだ正常肝細胞方に近い型を示して居ます(図を呈示)。
4NQO投与直後のラット肝細胞の電気泳動度の変化:
4NQO投与後の電気泳動度の経時的変化を、検索し始めました。今回は3.3x10-6乗Mの4NQOを30分間、ラット肝細胞(RLC-10)に接触させた後に、メヂウムと交換した後の5日間の変化を検索しました。結果は(図を呈示)、4NQOの接触後2〜3時間後に一時僅かに電気泳動度は増加し、その後5日まで漸次低下する様です。それぞれのノイラミダーゼ処理後の泳動度をしらべますと、接触直後(2〜3時間)ではむしろ泳動度は低下しますが、その後はこの処理によって変化なく、5日目に再び低下を示して来ました。その意味づけは更に検索してから考へたいと思ひます。
(悪性化したラット肝細胞ではノイラミダーゼ処理で少くとも0.1μ/sec/v/cmの低下をみます。)
《安村報告》
☆Soft Agar法(つづき)
1.CQ-42細胞(正確にはCula-TC):前々号の月報(No.6812)での報告でこの細胞をSoft
agarでColony形成させることができなかったとのべられた。そのご、この細胞系から液体培地でえられたepithelialのcolonyを2コ、ステンレススチールのカップで拾われ、かりにQ1、Q2と名付けられた。
今回の実験でこのQ1、Q2細胞をSoft agar中でColonyをつくらせることに成功した。(結果を表で呈示)。結果をすこし大げさにP.R.しますと、Ratの細胞で化学発癌剤でin
vitroで発癌したものがSoft agar中でcolonyを形成する能力をもっていることが(たぶん初めて)立証されたということです。
Q1からの拾われたcolonyは5コとも増殖中であり次回の実験でSmall
colony、Large colonyのdissociationのrateをしらべることができよう。Q2からは10コひろわれたが、そのうち1コのみが増殖中である。このことはQ1は2xconc.の培地であるのに反して、Q2が1xconc.の培地であるために、colony形成数は多いが個々のcolonyの性状がわるく、large
colonyがひとつもなかったことと関係があると思われる。Q2からmassと集めたcolonyはTD40ビンで増殖する。Q2からのcolonyには死んでいたのがまざっているということだろう。
以上のことがらから、培地条件を考えにいれると、このSoft
agar法をつかって、化学発癌剤で処理してから時期を追って調べることによって、発癌細胞をcolonyとしてひろいあげることができそうである。今回の実験はまだその前段階であるにすぎない。というのはCula-TCはnormalのRLC-10を4NQOで発癌した細胞系CQ42、つまりRLT-1をratに接種してえられたtumorの再培養系Cula-TCであるからである。前々号の月報で、Soft
agar中でcolonyをつくらなかったのもCula-TCであった。今回の実験で異るのは前回のCula-TCからえられたEpithelialのColony
Q1、Q2が出発材料になっていることである。このことは、Tumorからの再培養中にはまだまざりものがあって前回では失敗したのかもしれない。今回の実験材料はpureといわないまでも(つまりクローンではない)、homogeneousの細胞集団から出発したので、うまくいったのかもしれない。次回からの実験では、ぜひoriginalの動物通過してないCQ42、つまりRLT-1をつかってSoft
agarでColonyをつくらせたい。
2.予備段階のもう1つの実験で前号の月報(No.6901)でのべられたCQ40(正確にはCulb-TC)の系で今回Colony形成にやはり成功したことをお伝えしたい。しかし、培地の関係で日水のmodified
Eagle MEMの1xconc.のものを使用したので、large
colonyはえられず細胞の性状はあまりよくない。次代に増殖するか?。
《梅田報告》 ここ一年間、各種化学物質の性質を調べるにあたって簡易培養法を行う必要にせまられ、Toplin等のPlate
Pannel法(Merchant等のHandbook of cell and
organ culture 2nd Ed.に出ている)を利用してきた所、いろいろ応用すると便利な点も多いので今回はその方法を紹介します。一度班会議でもお見せしたDisposo-tray
plastic製と、丁度それにびったり入る15mm位の円形カバーグラスが主役です。
(1)毒性試験:まずDisposotrayをUV照射滅菌する。別に乾熱滅菌した円形カバーグラスを各々のCup内に入れる。
毒性が皆目わからない物質の場合は、half
logで100、32、10、3.2μg/mlの4濃度を調べることにしている。先ず、水溶性の物質は直接mediumに200μg/ml液を、水溶性でない物質はDMSOに10mg/mlの割に溶解后mediumで50倍に稀釋し、200μg/ml液を作る。通常medium
2.96mlにDMSO液(10μg/ml)0.04mlを加えて作る。次にmedium
0.5mlに試験液を0.23mlを順次加えるDilutionを直接cup内で行う。
別にCell suspensionを作っておき、(HeLa細胞の場合は50万個cells/ml液)、1〜2ml用のCornwallの分注器でCup内に0.5ml宛滴下する様に分注し、plateをガラス板でcoverし、CO2incubator内で培養する。CO2incubatorがない時は、セロテープまたサランラップでも良いそうですが、そんなものを使って完全にsealして培養します。3日后にカバーグラスを取り出し、salineで洗ってCarnoy固定し、H.E.染色を施し、一枚のスライドグラスに各物質についての4枚宛を並べて封じます。
毒性の判定として肉眼的(ここらへんが大ざっぱすぎると云う批判もあると思いますが)或は顕微鏡下で補助的に次の基準で記載します。
0.controlと同程度の細胞増殖を示すもの。
1.controlより明らかに増殖率が減じているが、まだ細胞数は増加したと思われるもの。
2.細胞障害があって増加は見られないが細胞が植えこみと時と同数位残存しているもの。
3.強い細胞障害像を示すが、まだ少数ながら細胞の残存しているもの。
4.完全に細胞毒性に働き、細胞が残っていないもの。
以上を必要とあれば、0.5、1.5等のこまかい所まで記載する。わかり易く図示する時は、障害度
0.1.2.3.4.を各濃度に対してplotして、障害曲線とする。さらに本法の改良点はカバーグラスも染色してあるので、細かに細胞障害の形態を顕微鏡下で観察し、記載を足すことが出来る。
この結果を基礎として、更にdilutionを変えたりして適当な濃度を選び、Cell
countによる増殖カーブを画く様にする。
(2)H3摂り込み実験への応用:本法によると黒木さん記載の月報6712号にのっているDNA、RNA、蛋白合成に及ぼす各種薬剤の検査は、時間的に簡便で且つしごく経済的である。先ずHeLa細胞の場合は125,000cells/ml液を作り、カバーグラスに0.2ml宛を正確にのせる。表面張力でcell
suspensionが山もりになり、外に流れないのを利用し、そっとCO2incubator内で培養を開始する。1日后細胞がカバーグラスに定着したのを待って、mediumを0.7ml加える。更に1日培養して、各種物質の試験濃度の10x
concentrated液を作り、その0.1mlを加える。ここでmediumとして計1mlとなり、試験濃度となる。良く振って培養を始め、培養を止める1時間或は30分前に、H3-TdR1μg/ml、H3-UR
5μg/ml、H3-Leu 10μg/mlの0.1mlをす早く足して、時間がきた時に、カバーグラスをSaline
wash、固定后Cold PCA処理を行う。カバーグラスはWindowless
gas flow meterでそのままCountし、以下の如きcountが得られる。(controlのばらつき)
H3-TdR:7971、7902、7801、7871cpm/5'。H3-UR:14537、14095、14392、14018cpm/5'。H3-Lew:3212、2971、3356、3308/cpm/5'。必要ある場合は、この円形カバーグラスをスライドにはりつけ、Autoradiographyを行い、grain
count迄その材料で行える。
以上ですが、日本人的感覚として、disposableと云うのが気になって、このDisposotryを重クロム酸液につけてみました。驚くことなかれ、全く平気で、最近は使用后何回も重クロム酸液で洗い使用しています。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(10)
4-NQOで細胞を処理すると、X線照射の場合と同様にDNAのSingle
strandの切断が誘起される。しかも、こうした切断は処理および照射後細胞を37℃でincubateすると、経時的にrejoining(再結合)するが、これについてはすでにこれまでの月報で報告してきた。またこうした結果の意味するものは、本来細胞は外界から受けたあらゆる障害に対して修復し得る能力をもつ、つまり防御機構を保持していることも示唆するものである。
然しこうしたDNAの切断とその再結合能という現象でみたDNA障害修復機構は、その過程は勿論のこと修復機構自体も把握されていない。従ってわれわれは、5-bromodeoxyuridine(5-BUdR)を用いて、こうした観点から細胞のDNA障害修復機構の解析を進めている。5-BUdRは数年前にわれわれも実験に使用したことのあるchemicalで、放射線感受性増感剤として知られており、すでにアメリカやわが国の一部の研究室では、このchemicalを用いて癌の放射線治療を行なっているところでもある。
5-BUdRはthymidineのanalogueであり、thymineとおき代ってDNA中に取り込まれることが、これまでの実験で証明されている。また5-BUdRが、細胞内DNA中に取り込まれた結果生じる放射線増感の機構としては、(1)5-BUdRを取り込んだDNAはBrとリン酸基間でelectrostaticrepulsionが起こるため、DNA分子全体として不安定になるのが増感作用の機序であろうとするSzybalskiらの説と、(2)放射線照射により生じた細胞の障害修復系(おそらく酵素レベルの修復過程)が5-BUdRによって阻害されると考えるLettなどの考えがある。
5-BUdRの使用は以上のような仮説のいづれが正しいかも証明するためにも、さらには障害修復機構を解析するためにも非常に興味がある。培養細胞を10μg
5-BUdR/mlと、5μg2-aminopterin/mlの存在下で培養すると、細胞の分裂に伴い(勿論5-BUdRの存在下では細胞のgeneration
timeは正常培地にある細胞の夫よりも延長される)、semiconservativeなmodelに従ってDNA中に5-BUdRは取り込まれる。従って、5-BUdR存在下での培養時間に依存して放射線による感受性が増強されることがコロニー形成法で確認された。一方、X線照射後の細胞を5-BUdRで処理しても感受性の増強現象は認められない。こうした結果は、上述の(1)の可能性を示唆するが結論はこれだけでは出せない。1月はこうした仕事のための基礎実験や4-NQO処理によるDNA
double strand scissionの誘起、並びにその再結合能の検討という段階に留まっている。次回からこれらについてはっきりした結果を報告出来ると思われる。
《藤井報告》
AH130と正常ラット肝細胞の抗原の相異
最近microplateを使ってのdouble diffusion
in agarの基礎的な手技に幾分の工夫を加えてから、沈降線形成の再現性がよくなりました。何を今さらと云われさうですが、そこで新しい抗血清で表題のような解析をあらためてやってみました。結果は以前に報告したことを裏づけたことになり、きれいな沈降線として出ています。
抗血清として、AH130、AH7974、AH109A、AH7974の培養系等に対するウサギ抗血清を(それぞれ一次免疫、二次免疫血清)つくりましたが、沈降線形成の上からは、抗AH130ウサギ血清の二次免疫のもの(FR80、080968)以外は充分抗体価が上っていないようです。
Exp.010769.G3.:
抗原として:(A)AH130細胞の0.5%Na-deoxycholate-PBS抽出物、原液は600万個cells/mlに相当する濃度、(B)正常ラット肝組織の0.5%Na-deoxycholate-PBS抽出物、原液は500万個cells/mlに相当。
抗血清として:(1)ウサギ抗AH130(FR80.090869)、(2)ウサギ抗ラット肝抗血清(FR51、52) Microplateのwellに抗原液、抗血清を充し(0.02ml)、3日間冷所(4℃)で放置、plateを外した後、生食液中で洗滌、2日間、乾燥後1%アミドブラックで染色する。使用寒天はDifcoの0.2%Na-deoxycholate-PBS(DOC-PBS)にとかした。(それぞれに図を呈示)
FR51、52(抗ラット肝血清)が、ラット肝抽出液との間でつくった沈降線をL1、L2、L3と名づけ、FR80(抗AH130血清)がAH130抽出液との間でつくる沈降線をA1、A2と名付ける。
L1線はFR51、52とAH130との間の沈降線L1'とspurをつくっており、正常肝抗原の一部がAH130にもあることがわかる。しかしL2、L3はAH130には欠けている。
一方A1線はAH130、正常肝の双方にふくまれる抗原による沈降線であることが示されるが、A2はAH130にもにある抗原によるもので、正常肝500万個cells/mlにもないが、AH130では抗原の1/4濃度1500万個cells/mlでも鮮明に出ている。
この実験では、AH130と正常肝抽出液の濃度を上げ、AH130では(A
1/1)を10の8乗cells/mlとし、ラット肝では(B
1/1)を2000万個cells/mlとした。またFR51、52血清、FR80血清が、ラット肝、AH130に対してつくるそれぞれの沈降線の関係、異同を検討した。
Exp.011469のD1、D2とも抗原液、抗血清の配置は同じであるが、D1ではDOC抽出液作製直后に使用し、D2では、7日間、4℃保存后い用いた。
仮に沈降線を名付けて、FR51、52とラット肝抗原間のものをL1、L2、L3、L4とし、FR80とAH130間の沈降線をA1、A2、A3とする。
D2の沈降線についてみると、A1-lineはAH130とラット肝抗原に共通に存在する。A2-lineはD1において、正常肝と交叉するがAH130特有の抗原を示すように見えたが、D2においては、FR-51、52(抗ラット肝血清)がAH130に対してつくるL1'-lineと、不明瞭ながら連がるようにみえ、AH130とラット肝に共通する抗原による沈降線と思われる。A3-lineはこのdiffusionの結果からは、抗AH130血清が(FR80)、AH130に対してのみ示す沈降線であり、ラット肝には見当らない。
この結果からみると、保存した(DOC中で7日間冷所)抽出液の方が、沈降線の分離が良い。
D1で、AH130特有とみえたA2-lineが正常肝にもかすかに存在することが示唆された。これは該当抗原が、AH130に多く存在し、正常肝に極めて少ないことを示唆している。
抗AH130血清(FR80)がAH130のみに示す沈降線が使用抗原量を変えることによって、A2-lineと同じような結果を示すかどうかは今后の検討にまちたい。
癌細胞と正常細胞(同じ系統細胞)の抗原の差というものは、量的な差がかなり大きいのではないかという感じがふかい。
《安藤報告》
A)H3-4HAQOと培地DM120との反応
月報No.6812に報告しましたように、4NQOでL・P3細胞を処理すると短時間の間にH3-4NQOは親水性化合物にかえられる。この反応がいかなる反応であるかについては種々の可能性があるが、次のように考える事は最も妥当な考えの一つと思われる。すなわち、4NQOが細胞の酵素系によって4HAQOに還元され、このものが、それ自体、あるいは他の低分子物質と反応し、親水性化合物となる。この後の反応は4HAQOの反応性と考え合せるならば、非酵素的とも考えられる。この可能性をテストするためにH3-4HAQOと培地DM120を37℃、2時間、細胞なしに反応させた。H3-4HAQO-HClを10-4乗Mになるように、DM120
50mlに少量のDMSOにより溶解する。4HAQOは中性で不安定なため、直ちに着色をはじめ37℃、2時間後には黄色となってしまう。凍結乾燥後、少量の稀HClに溶かしセファデックスG15カラムで分劃する。
(結果図Aと、以前に報告した4NQOでL・P3細胞を処理した培地の分劃図Bを呈示)。OD230パターン、異なる部分は23-30、46-50、120-130分劃、それでも相互の対応関係がわかる。放射活性パターンについては、A図の45分劃のピーク及びその肩がB図の1、2に、56分劃のピークが3aに、120-140の山がやはりB図の130-150分劃の山に対応するように思われる。したがって4NQOと細胞の反応生成物の少くも一部は、4HAQOと培地の(あるいは4HAQO自身の中性に於ける)反応生成物と見る事が出来そうだ。この点を確認するためには、更に各放射活性ピークの対応関係を種々のペーパーで調べなければならない。
B)H3-4NQO由来の親水性化合物は再びL・P3細胞に取込まれるか?
H3-4NQOはL・P3細胞により親水性化合物に代謝される事、そして培地中に放出される事が観察されたが、この化合物はfreshなL・P3細胞に取込まれうるか否かをテストした(安村班員の疑問に対する回答)即ち、10-5乗M
H3-4NQOでL・P3細胞を37℃2時間培養した培地DM120を無処理のL・P3細胞に与え時間をおってそのとりこみを調べた。(表を呈示)結果は酸不溶性分劃へのとりこみはH3-4NQOの同濃度に於ける値の15〜20%程度である。一方酸、可溶性分劃へのとりこみは、1〜2%であった。この結果から次のように結論出来ると思われる。一たんL・P3細胞によって変化を受けた親水性化合物は細胞にもはや殆どとりこまれない形となっている。
C)コールド4NQOで前処理されたL・P3細胞は新たにH3-4NQOをとりこむか?
L・P3細胞にH3-4NQOを与えると、4NQOha急速に細胞にとりこまれ、高分子成分と結合する。この時のkineticsは30分以内にlevel
offしてしまうようなカーブだった。この事実は、細胞内の4NQO代謝物の結合部位が30分以内に飽和してしまい、もはやそれ以上の結合する、又は細胞内にとりこむ能力が細胞にはなくなってしまっている事を示しているのであろうか。これを実験的にたしかめるために次のような実験を行った。
L・P3細胞をcold 4NQO(10-5乗M)で37℃ 2時間前処理する。この細胞に培地替えすることなく、H3-4NQOを10-5乗Mに加え、その後、時間をおってとりこみを調べた。(表を呈示)
結果は、酸不溶性分劃、可溶性分劃いずれの中へのとりこみもcontrolの場合と殆ど同じkineticsを示した。いいかえるならば、細胞の4NQOのとりこみが30分以内に止るのは、細胞のとりこみ能の低下によるのではなく、培地中の4NQOが化学的に変形をうけ、4NQOそのものがなくなってしまったためである事を示している。
《三宅報告》
1.H3-MCA-Benzolを37℃の孵卵器中でBenzolをとばし、これをDMSOに溶かしてその1滴中に2μcのMCAが入ったものをMedium
1.5mlあたり1滴、2滴、次に3滴といれたもので、1時間L細胞に作用せしめたもの、次に1滴入れたものについて作用時間を1時間〜6時間まで延長せしめたもの、次に2滴入ったMediumについて2時間作用せしめた3群を、Sakura
NRM2、露出2週間、FDIII(6分間20℃)で現像したが細胞中にGrainは見なかった。
2.d.d.系マウス胎児皮膚を1968年6月中旬にトリプシン処理后培養を始め、その後トリプシン処理をさけて、継代を行わず、同一の瓶中で培養を続け、その間細胞はシートを作り、剥脱しという現象をくりかえしたが、1969年1月末、それを継代して、細胞をふやし、d.d.に戻さうとしている。培養開始后7ケ月と10を要した。細胞は、fibroblasticなものと上皮様にみえる2群から出来ている。継代後の増殖は速やかでない。(写真を呈示)
【勝田班月報:6903:培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構】
《勝田報告》
2月14日のシンポジウムで『組織培養内での細胞の化学発癌』と題し、この3年間における当班の発癌実験の結果をまとめて勝田が報告することになっているので、その予行演習をかねて、一通りスライドによって話をしたが、ここでは、その内の勝田研究室での最近の成果だけをまとめて記載することにする。
§4NQOによるラッテ肝細胞の培養内発癌:
正常ラッテ肝細胞のDiploid株RLC-10を用い、4NQOで処理した実験はこれまでに5系列あるが、その何れの系においても、ラッテの復元接種は陽性であった。
岡大の佐藤班員の実験法と異なり、我々はでき得る限り4NQOの処理時間と処理回数を少くするように努めた。また4NQOの処理は、3.3x10-6乗M、30分処理を1回とし、1〜4回の処理を行った。(実験系の略図を呈示)
#CQ-39では4回処理後約3月、#CQ40では1回処理後約3月、#CQ41では3回処理後1.5月弱、CQ42では2回処理後約1.5月の培養の後に、生後24時間以内の同系ラッテの腹腔内に接種量300〜500万個/ratで接種した。
復元接種してから腫瘍死まで#CQ39では約5月、#CQ40では約3.5月、#CQ41では約7月、#CQ42では約3月、#CQ50では約3月を要している。
腫瘍は組織学的にはいずれも肝癌であった。
このように全実験例において悪性化したということは、今後発癌過程における細胞特性の変化を追究する上に、非常に好適な実験系の得られたことを意味している。
対照として、無処置のRLC-10も同様の方法で復元接種したが、現在まで腫瘍形成をみない。しかし対照の場合には、実験群よりずっと多い数の細胞を接種する必要があると考え、目下準備中である。
《山田報告》
前回4NQO(3x10-6乗M)をin vitroで30分接触させた直後のRLC-10の細胞表面の変化を5日間追求しましたが、その後同一条件で4NQOを接触させた後70日目の細胞を検索しました。Controlの細胞の電気泳動度は0.77μ/sec/V/cm(未処理細胞)、0.75μ/sac/V/cm(シアリダーゼ処理細胞)であるにかかわらず、4NQO接触後の細胞は0.78μ/sec/V/cm(未処理細胞)、0.62μ/sec/V/cm(シアリダーゼ処理細胞)の電気泳動値を示しました。
即ち4NQO接触後70日目の細胞はシアリダーゼ処理により0.16μ/sec/V/cmの泳動値の低下を示すので、一応腫瘍型のpatternになったと云へます。しかし今回用いた細胞はどういうわけか保存が不良で、この成績から直ちに結論を出せません。次の培養世代に同一細胞について再検してから結論を下したいと思います。
細胞電気泳動値を増幅する方法の開発:
細胞電気泳動度を増幅させて、測定値を大きくし、より微細な泳動度の変化を検索出来る方法を考えてみました。まだ実用化の段階ではありませんが、その骨子を書いてみます。 そのアイデアは細胞表面の陰性荷電に、多値陽イオン物質を結合させ、二次的に多値陰イオンを結合させて、細胞表面の荷電密度(陰性)を増幅させようと云うものです。
前者としてはプロタミン硫酸、後者としてはPolyvinylsulfate
kalium(P.V.S.K.)を用いました。(いづれもコロイド滴定に用いる物質です)。
(図を呈示)種々の濃度のプロタミン硫酸を泳動メヂウム内に入れて細胞の電気泳動度を測定しますと、細胞の泳動速度は、プロタミンの加へられた濃度に応じて低下し、高濃度の状態では細胞は反対極(陰極)へ移動する様になります。即ちプロタミン硫酸の陽性荷電は細胞表面内陰性荷電にすべて結合するのではなく、その一部は遊離してくると考へられます。
この状態で二次的にP.V.S.K.を結合させると、遊離してゐるプロタミンの陽性荷電と結合して、細胞表面は強く陰性になると考へられます。
実際にこの結合を起させるために、まずプロタミン硫酸を細胞(AH62Fラット腹水肝癌)に混じた後、遠沈して細胞のみをとり出し(洗わない)その泳動度を0.0012NのP.V.S.K.を含むメヂウム内で測定した所、著明な泳動度の増加を認めました。しかしあらかじめ濃いプロタミンを加へておくと、細胞はP.V.S.K.を含むメヂウムのなかで粘液状になり測定が行われませんでした。この場合細胞の破壊が考へられますので、より安定な細胞の破壊がなく、常に安定した値が得られる条件を、これから探してゆきたいと思って居ります。
:質疑応答:
[堀川]今の段階ではメヂウムにプロタミンを添加して電気泳動値を測定しているわけですね。技術的にはむつかしいかも知れませんが、プロタミンのはいったメヂウムは洗い去って、細胞についたものだけで測定したらどうでしょうか。
[山田]そうですね。
[勝田]細胞が生きている時と、死んでからでは泳動値は違いますか。
[山田]死んでから刻々に泳動値がおちるようですが、そう急には変りません。
[勝田]生きている状態でプロタミンを作用させるのでなく、固定して死んだ細胞にプロタミンを添加する、或いは他の物質を結合させてみたらどうでしょうか。
[堀川]4NQOを処理した場合の電気泳動値の変化は、細胞が死んでゆく過程の変化ではありませんか。
[山田]今回のデータの場合はむしろ細胞のダメージが殆どない状態での変化をみています。今後同じ4NQOを処理した実験でも、もっとダメージの大きい時はどういう変化があるのか、また発癌性のないもので処理した時はどうなるのか調べてみたいと思っています。
[安藤]P.V.S.K.を作用させたら、ヌルヌルしてしまったと云われましたが、それは細胞がこわれてしまった為ではありませんか。
[山田]電気泳動値の測定の場合、ずっと形態をみているわけで、そうひどくこわれているようには見えませんが、トリプシンをかけた時と似た状態になりますね。P.V.S.K.はRNAに結合するのですか。
[安藤]P.V.S.K.は蛋白合成の阻害に使われています。核酸はマイナスチャージですから、核酸とP.V.S.K.が結合するとは考えられません。
[堀川]荷電は膜の構造の変化にだけ依存するのですか。内部の構造は影響しませんか。
[山田]コロイドによる実験では膜の変化に依存するといわれています。しかし、膜に影響なく内部だけ変化させるという条件はむつかしいですね。勝田班長の所の4NQO変異細胞は、処理が一回、佐藤班員の所は非常に回数多く処理をしています。電気泳動値からみて、佐藤班員の所の細胞が悪性腫瘍の形に近いのは、重ねて処理することによって悪性のものを選別して、だんだん悪性細胞の集団が増えているのではないかと考えています。
《佐藤報告》
☆N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(MNG)の細胞障害効果について。
ラット肝臓由来細胞に及ぼすMNGの細胞障害効果を検討した。効果の判定基準として、増殖率(増殖曲線及びコロニー形成率)に置き、形態的観察も合わせ行った。
『材料と方法』
1)細胞:生後5〜6日目の呑竜ラット肝臓由来細胞でなるべく培養初期のもの(初代〜5代、約80日迄)
2)培地:20%ウシ血清添加Eagle'sMEMを用いた。
3)MNG:滅菌再蒸留水に10-2乗Mで溶解し、4℃にて保存し、使用時適宜稀釋して使用した。
4)増殖率:増殖曲線は同型培養法によった。コロニー形成率は原則としてPetri皿(60mm)に5,000〜25,000個の細胞を植込み24時間後にMNGを添加し、そのまま1週間作用させ、直ちに固定するか更に5日間のMNG(-)の培地で培養後、固定染色し、“visible
colony”数から算定した。
5)形態的観察:主にギムザ染色標本にて観察した。
『結果』
1)溶媒の検討:(i)MEM+BS20%、(ii)MEMのみ、及び(iii)Earle's
BSSを夫々pH 7.2に調整し、それらを溶媒とした。作用条件はMNG
10-4.5乗M、37℃、2時間で、同型培養法により増殖曲線を求めた。その結果、溶媒の差による細胞増殖抑制効果は少ないことが分った。
2)pHの検討:そこで溶媒をMEMだけにしぼり、pHを(i)6.0、(ii)6.4及び(iii)7.2に調整して作用させた(10-4.5乗M、37℃、2時間)が、pHの差により、MNGの細胞増殖抑制効果はあまり影響を受けない。
3)濃度の検討:MNGの濃度を(i)10-5.0乗M、(ii)10-4.5乗M、(iii)10-4.0乗M、及び(iv)10-3.5乗Mとして、MEM+BS
20%の培地(pH7.2)に稀釋し作用させた(2時間、37℃)。(以後、実験毎に増殖曲線図を呈示)10-4.5乗M、2時間という条件で多くの場合、48時間の増殖曲線に見る限り細胞増殖は見られないことがわかった。
4)作用時間の検討:溶媒MEM+BS20%、pH7.2、MNG10-4.5乗Mという条件で作用時間をかえてみた。追試の結果も総合すると、2時間の作用で急激な増殖抑制効果が、又その後は極めて緩徐な抑制効果がみられた。
5)次にコロニー形成率で検討した結果。
5)-1。材料と方法で述べた通り10-5.0乗〜10-3.0乗Mで作用させ、再三同様な実験を行い、ほぼ一致した結果が得られ、対照を100%として10-4.0乗Mでは10%以下であった。又コロニーの大きさはMNGの濃度が高まるにつれて小さくなる。
5)-2。方法を変えて対数増殖期の細胞をトリプシン消化により浮遊状態とし、MNGを作用させた後、(作用条件は50,000cells/2ml、Hanks'BSS、pH6.4、10-5.0乗〜10-3.0乗M、30分間、37℃)一度Hanks
BSSで洗い、petri皿に植込んで、1週間後に固定染色をし、コロニー形成率をみた。結果は、10-3.0乗Mではコロニーは全然見られなかったが、5)-1の結果とちがい、10-4.0乗Mでも高頻度にコロニー形成が見られた。そこで形態的にコロニーの分類を行ったところ、上皮性細胞コロニーは極めて少数であった(約20%)。
6)形態学的観察では、今迄の条件、即ちMEM+BS20を溶媒とし、MNG
10-4.5乗M、2時間から48時間迄の間には著明な変化は見られない。詳細は目下検討中である。
以上、細胞障害作用を中心にして報告して来た。これを更に発展させMNGによる発癌実験へ持って行きたいと考えているが、未だ問題が残っている。pHの問題も、細菌学領域の突然変異誘導至適pHが酸性に傾いていることなどから、やはり再度考えねばならないだろう。またmixed
population中におけるMNGへの感受性の違いが著しいので、出来る限り早期にcloningした細胞について仕事がなされなければならないと考える。
:質疑応答:
[山田]培養日数271日の対照群と比べて、4NQO処理群は染色体の上でどの程度の変異がありますか。
[難波]正二倍体が殆ど無くなってしまいます。それからマーカーになる染色体をもったものが出現してきます。
[堀川]NGの濃度について、高木班員はμg/ml、佐藤班員の所はモルというのは、比較に困りますね。
[勝田]モルで揃えた方がよいですね。
[高木]そうしましょう。
[勝田]NGの実験を始めるのなら、その吸光度とか培養後に培養液中にどういう形で残っているかといったことも、調べておく必要がありますね。
[吉田]上皮細胞様のコロニーがやられてしまうということは、fibroblasts様のコロニーが残って悪性化するのだということになりませんか。
[難波]そのようにも考えられます。上皮細胞様、fibroblasts様、両方のクロンをとって実験をすすめてゆくべきだと考えています。
[山田]培養細胞を動物へ復元して出来た固型腫瘍の組織像をみてみますと、接種した細胞が上皮性の細胞なのに、組織像にはfibroblasts様なもの、肉腫様のものが混じるのは何故でしょうか。それから、皆さんから培養細胞を貰って実験をしていると、細胞の名前を統一してほしいと感じます。例えば医科研の細胞には必ず頭にIとつけるとか、岡山のはOとつけるとか。
[堀川]株の出来た順に通し番号をつけると、分かりやすいと思いますが、それではoriginが分からなくて困りますね。
[安村]登録名の他によび名として固有名をつけるとよいと思います。その場合、登録名と固有名の関連をはっきりさせることが必要です。
[吉田]動物の純系の場合は、作った人の名前か場所の名前をつける事にしています。
[勝田]日本組織培養学会の株細胞の登録をすればよいのですがね。
《高木報告》
NG-4の実験につきNo.6812以降記載して来ましたが。本号ではこれをまとめて報告させていただきます。なお日取りなどで、これまでの月報にやや誤りがございました。御詫びいたしますと共に本号の通りに訂正させていただきます。
1967年8月28日、生後4日目のWistar King
A rat胸腺を培養、繊維芽細胞をえて、これを継代。
9月22日、培養開始後25日目、3代目の細胞にNitrosoguanidine
10μg作用せしめた。すなわちNG10μgをacidic
Hanks(pH 約6.5)にとかして2時間作用せしめ、これに2倍容の培地(LH+Eagle's
vitamine+10%仔牛血清)を加えて計6日間培養し、その後培地を交換した。対照の細胞はNGを含まないHanks液で同様に処理した。処理した細胞はしばらくNGの障害作用によりdamageをうけていたが、次第に増殖しはじめ、12月6日、処理69日後にはcriss-crossなどのinitial
changeに気付いた。この時100万個の細胞を生後3週間目のWKArat2匹に接種したが、6ケ月たってもtumorを生じなかった。
1968年3月5日、処理後159日目、confluent
cell sheetの中にpile upする像を認め、またあちこちにfociがみられた。この頃より対照の細胞に比して増殖が良くなり、対照の4〜5倍/wに対し、処理した細胞では8〜10倍/wの増殖率を示した。
7月29日、処理後34代目、305日目の細胞100万個をnewborn
WKArat9匹に皮下に接種した。その中6匹は接種後10日以内に死亡したが、残る3匹に10月7日、接種後70日でtumorを生じているのに気付いた。対照の細胞を100万個同時に接種したrat2匹は接種後10日以内に死亡したので、10月26日、培養開始後42代目、394日目の対照細胞を100万個newborn
WKAratに皮下に接種した。この中7匹は接種後70日から90日にかけて死亡(主に肺炎によると思われる)したが、死亡時tumorの発生はなく、残る1匹は109日現在なお観察中であるが、未だtumorの発生をみない。なおtumorを生じたratは各々101日、134日、155日目に瀕死となったので剖検した。
No.2 rat tumor:pleomorphic sarcoma、3x5.5x2.5cm大、接種後101日目にsacrifice、上記主腫瘤の外、娘腫瘤もあった。
No.3 rat tumor:pleomorphic sarcoma、11x5.8x7.1cm大、230g、接種後134日目にsacrifice、expansiveなgrowth。
No.1 rat tumor:pleomorphic sarcome、9x5x4.3cm大、接種後155日目にsacrifice、脊髄に浸潤していた。
これらのtumorから再培養、あるいは移植を試みた。
再培養:
No.2 rat tumor:培養7〜10日後よりround
cellのmigrationにつづいてfibroblast-like
cellsのgrowthがみられたが、初代培養ではfibroblastとtumor
cellがまざって生えていた。継代するごとにtumor
cellが優勢となり、3〜4代、培養開始後50〜60日頃からは殆どがtumor
cellsと思われる。培養開始後76日目の細胞100万個をnewborn
WKArat4匹の皮下に接種したが、10日後にはすべてに結節をみとめた。
No.3 rat tumor:培養後、round cellのmigrationのみであったが、2〜3週後よりfibroblast-like
cellsのおそい増殖がみられた。培地中に浮遊している細胞を集めて継代し、またfibroblast-like
cellsのsheetをtrypsinizeして継代したが、現在4代目62日でいずれの培養もfibroblast-like
cellsの増殖をみている。この細胞がtumor cellかfibroblastか位相差顕微鏡で観察した処でははっきりいえないが、場所によってはoriginのNG-4
cellsとよく似たところがある。No.1 rat tumorも大体同様である。なおこのtumorを生後3週間のWKAratの腹腔内に接種して生じたtumor、No.3-TL-1
tumorの再培養を行ったが、培養開始後42日目の現在、細網細胞様形態のtumor
cellsと思われるもののcolonial growthがみられる。
移植実験:
No.3 rat tumorの移植について記載する。1968年12月10日、生後22日目のWKArat4匹の皮下、4匹の腹腔内、計8匹に移植した。
皮下移植系:移植後14日目に4/4すべてにtumorをみとめた。26日目には1/4のtumorはregressした。2/4は33日目に死亡、この中1匹のtumorを生後1ケ月のWKAratの皮下に2代目の移植を行ったがtumorの発生はみられない。残る1/4は44日目に生後3週のWKArat3匹、Wistar
rat2匹の皮下、腹腔内に移植したが、これも今日までtumorの発生をみない。
腹腔内移植系:移植後14日目に2/4にtumorをみとめた。その中の1匹は皮下に出来たtumorで(移植のさい皮下にもれた)27日目に死亡した。他の1匹は20日目に著明な血性腹水とsolid
tumorがみられたのでsacrificeし、腹水とsolid
tumorをそれぞれ生後4週間のWKA2匹および生後3週間のWistar1匹の腹腔内に2代目移植した。solid
tumorを移植したratには今日までtumorの発生をみないが、腹水を移植したWKAratの中1匹に大きな腹腔内腫瘤を生じ、23日目に死亡した。このtumorは移植しなかった。
概略以上の通りで、ある系では2代目まで移植出来たが、3代目は未だに継代出来ていない。(各系の顕微鏡写真を呈示)
:質疑応答:
[梅田]培地にパイルベイトとグルタミンを入れておられるようですが、何か理由がありますか。
[高木]特に理由はありません。多分、黒木さんのデータから引用したのだったと思います。
[堀川]コロニーフォーメションに有効だというデータですね。
[安村]それは、今では撤回したはずです。培養細胞を復元して出来た腫瘍を次に動物へ継代してつかないというのは、どういうわけでしょうか。
[吉田]少し放射線を照射した動物に植えてみたらtakeされるのではないでしょうか。
[安村]案外NGによる変異細胞が一代かぎりで、継代しにくいという型なのかも知れませんね。
[高木]動物の年齢にも関係があるかも知れません。
[勝田]動物継代の初期には若い動物を使った方がよいと思います。
[難波]私の所のtakeされた系では2〜3カ月の動物で充分移植出来ます。
[高木]NGによるin vitro悪性化はまだ他に報告がないと思いますので、腫瘍が出来たという所までを、なるべく早いうちにまとめて論文にしておきたいと思っています。
[勝田]シリーズ物はなるべく早くまとめて発表するようにしたいものですね。細胞株が出来たという論文が出来ていないと、その細胞を使った仕事の論文を書くのに困りますから。早速、山田班員の電気泳動の仕事を論文にするのに、私の所の4NQO変異株の仕事と、佐藤班員の所の仕事が必要になるわけです。
《梅田報告》
(I)諸種hepatocarcinogenをラット肝primary
cultureに投与して惹起される変化を追求してきたが、その中で2-acetylamino-fluorene(AAF)については、先年11月号でふれた。今回医科研癌体質研究部の榎本先生よりAAFとそのderivativesの分与をうけたのでそれについて実験してみた。
AAFはDABと同じく強力なhepatocarcinogenでMiller一派、Weisburger一派により詳細に研究されてきた。そして肝以外の肺、耳管、小腸等にも腫瘍を作る。そのNの位置でhydroxy化をうけたN-OH-AAFはAAFより更に強い発癌性を示す。そして皮下投与より肉腫を形成する様になりAAFのproximate
carcinogenとして理解されている。このhydroxylationはNの位置が特異的に発癌性と結びついており、例えば7の位置のOH化は発癌性の増強を来さない。又一般に投与された発癌剤の代謝は早く局所からす早く運び去られるが、金属のChelate例えばN-OH-AAFのCu-chelateは局所に長く止り、例えば皮下投与により発癌性が更に高まると云われている。
今回使用したものは上のAAF、N-OH-AAF、7-OH-AAFとN-OH-AAFのCu-Chelateの4種である。以上をDABの時と同じ様にDMSOに溶解しMediumで稀釋し、ラット肝primary
cultureに投与して形態像の変化を追求した。
DAB、3'MeDAB投与で見られたと同じ様な細胞質空胞変性、核の萎縮が肝細胞に認められ、AAFでは10-3.5乗M、N-OH-AAFでは10-4.5乗M、7-OH-AAF、Cu
Chelateは10-3.5乗Mで著明であるが、それ以下の濃度で変化は弱くなる。更にDABでは特異的に認められなかったが、AAFとそのderivativeでは間葉系、中間系細胞の核が一般に大きくなり、大小不整が著しくなっていた。特に核は膨化し、核質は淡くなり、核小体が円形化し縮少する。そしてN-OH-AAF、Cu
Chelateが特にこの傾向が強かった。今迄の経験からこれと同じ様な変化はAflatoxin投与で見られた。
肝細胞培養の対照として肺培養に同じ様な投与実験を試みた所、核の膨化、核質の淡明化、核小体の縮少化が見られ、この変化は肝細胞の障害濃度と一致していた。
(II)いろいろの問題があり発癌機構とどの程度関係があるか疑問が多いが、定量的に扱える便宜さのため、又将来是非とも肝、肺、等のprimary
cultureに応用するための練習として、之等AAF
derivativeをHeLa細胞に投与してその影響を調べた。
4者の毒性の程度は前号(I)に記載した方法により調べた。肝臓培養細胞より、ややHeLa細胞の方がsensitiveであり、AAFの10-3.5乗M、N-OH-AAFの10-4.5乗Mで強いcytotoxicityを示した。
形態学的変化としては、核の大小不整、核の膨化、核質淡明化、核小体の縮少化が見られ、特にN-OH-AAFに強かった。又変性細胞が混在し、Mitotic
cellは見られない。変性細胞の中には核膜だけが残り、核質がすっぽりぬけている様なものもある。
先月の報告の(II)で記載した高分子合成能についてN-OH-AAFを投与して調べてみた。N-OH-AAF投与後1時間でradioactive
precursorを入れ、1時間中の摂り込み率を測定した。点線で毒性濃度(3日間培養した結果)を示した(図を呈示)。DNA、RNA合成能は共に同じ率でおちるが、蛋白合成能は10-4.0乗Mでもおちない。
DAB等は10-3.5乗Mという毒性を示し始める濃度で結晶が析出するので、強い障害像を調べることは不可能である。その点AAFも同じであるが、N-OH-AAFは10-4.5乗Mでcytolyticであり、10-3.5乗Mでも結晶が析出しないため、上の実験が可能になったばかりでなく、今後の実験に良い材料と云える。
(III)6812号の(III)(IV)、6901号の(I)(II)について報告してきた培養(ラット肝primary
cultureにDAB 10-3.5乗M投与を2度行ったもの)は、肝細胞部と思われる部位に山もり状の増殖?が見られたので、subcultureした。しかし依然旺盛な増殖は見られない。
:質疑応答:
[勝田]薬剤処理してから何日後の観察ですか。
[梅田]薬剤は添加してから除かずに培養して4日後に観察しています。
[吉田]核小体が小さくなっているという表現がありましたが、実質的に小さくなるのではなく、核が大きくなったので小さく見えるのではありませんか。
[梅田]実質的に小さくなっているようです。
[勝田]顕微鏡映画をとって連続観察すればよくわかるでしょう。
[難波]電子顕微鏡でみれば核小体の内部の変化もはっきりわかるのではないでしょうか。AAFはRNA合成を阻害するので核小体が小さくなるとも考えられますね。
[吉田]DNA、RNAの合成がとまっているのに蛋白だけ合成されるというのは、どういうことでしょうか。
[梅田]それは2時間という短時間での観察だからだと考えています。
[堀川]発癌剤のスクリーニングに形態的変化だけを調べてゆくのでなく、梅田班員のデータのように取り込み実験を平行させてゆくべきだと思います。
[梅田]DABでも実験しようと思っていますが、DABは10-3.5乗Mの濃度で結晶が出てきてしまうのです。Nハイドロキシのようによく溶ける形にして実験するつもりでいます。
[勝田]細胞はHeLaを使っていると、先に進んでから困るのではありませんか。
[梅田]HeLaを使うと技術的にやさしいので使っているのですが、もちろん肝細胞で実験したいと思っています。
[勝田]スライドで見せられた、あの塊は肝細胞ですか。
[梅田]DAB処理後増殖してきたもので、肝細胞の塊だと思っていますが・・・。
[勝田]パイルアップしているものが、変異してどんどん増えてゆく細胞群だとは限りません。弱った細胞が押し上げられて塊になっていることもありますから。
[梅田]細胞をバラバラにするのに、DNaseを使うのはよい方法ですね。
[勝田]酵素は気をつけて使わなくてはいけませんね。トリプシンだって生きている細胞に作用しないと云われていますが、胸腺の細胞にトリプシンをかけると、細胞は死にませんが、グロブリンの顆粒がつぶれてしまうのです。
《安村報告》
☆Soft Agar法(つづき)
これまでの報告にCQ-42とかCQ-40とか、Cula-TC、Culb-TCとか、書いている本人もときどき錯覚するくらいですので、読者のみなさんはきっとまごついておられるでしょう。くわしいHistoryは月報のNo.6812に勝田先生がのべられていますのでもういちどがらんください。(略図を呈示)
Cula、Culbはrat tumor lineのことで、それらの再培養系はそれぞれCulaTC、CulbTCという名です。こんご命名者の書式にしたがってCulaTCとかきます(Cula-TCでなく)
1.CulbTC細胞:前号(6902)の2.でふれましたようにCulaTCにひきつづいて、このCulbTCをSoft
agarの中でColonyをつくらせることにやっと成功しました。前回の実験(月報No.6901)では35,000個/plateでは1コのcolonyもできなかったので、今回は細胞数をふやして行いました。予想に反して好成績でした。(結果は表を呈示・21日培養で82,500/plate以上は数えられないくらいに多いコロニー数)各希釈あたりplateは4枚です。mediumは日水製の変法Eagle
MEM(1xConc.)です。41,250/plateのところで21日めの判定で38コのColonyが数えられた。ところが28日めの判定ではもはや数えきれないくらいのColony数になってしまった。21日めに見落すくらいの小さなコロニーが多数あったのかもしれない。しかし、これらのコロニーはいずれも小さく径が1mm以下で、2mm以上に達するものはみとめられなかった。mediumが1xConc.のために栄養不足なのかもしれない。次回は再び2xConc.のmediumで再実験の必要があろう。これで前回のCulaTCでの成功と加えてやっとSoft
agar法の目安ができたところです。
2.C3-sとC3-l細胞のs-l dissociation:AH7974細胞からSoft
agar法でクローニングしたクローンC3系のsmall
size colony系のC3-sとlarge size colony系C3-lのそれぞれについてsmall-largeのdissociationをしらべてみた。目的はこのdissociation
rateとTD50(tumorigenic dose 50%)との関係をしりたいからである。(表を呈示)C3-s系のefficiencyはわるく、しかもlarge
colonyは1コもみられなかった。このことは前号でのべられたC1-sとC1-lのdissociation
rateに大きな開きがなかったこと、C6-3の系ではlarge
colonyができなかったことなどと比べて、クローン間の差を示すものか?
:質疑応答:
[堀川]今のスライドのコロニーは寒天の表面のコロニーですか。寒天層の中の方にあるコロニーですか。
[安村]寒天に細胞を混ぜてかためているので、寒天層の中にあるコロニーが殆どだと思います。
[堀川]C3-lのクローンからも出てくるコロニーはsmallの方が沢山出てくるのですね。つまりsmall
sizeの方がドミナントなのですね。
[安村]そうです。
[吉田]smallの系からlargeが一つも出ないのですね。smallの方の数の総計はかなりな数になりますから、その中からlarge
sizeのコロニーが一つも出ないということは、largeからはsmallが出るがsmallからはlargeが出ないということでしょうか。
[堀川]安村班員は予測として、どちらのコロニーが本当の悪性のものだと考えておられますか。しかし、それを決めるにはlargeからもlargeだけ出てくる系を樹立しないとはっきりさせられませんね。
[安村]現在large系を寒天にまいて、又large、large・・・とコロニーを拾うもの、又small系はsmall、small・・・と拾うものというやり方でクローニングを続けています。
[堀川]large sizeのコロニーの細胞と、small
sizeのコロニーの細胞と個々の細胞の大きさに違いがありますか。largeの方が大きいのでしょうか。それともコロニーを作って居る細胞の数が違うのでしょうか。
[安村]はっきり判りません。細胞の大きさはあまり違わないように見えますが。
[梅田]それぞれの系の細胞の性質についてはどうでしょうか。たとえば、山田班員に電気泳動度を調べて貰うとか。
[安村]目下動物へ復元接種して悪性度をみているだけです。そのうちに、クローンとして安定したら電気泳動も調べてみたいと思います。
☆☆☆安村報告の始めにCula-TCでなく、CulaTCとするとなっていますが、命名者は今後Cula-TCと書式を決めましたので、お間違いなく☆☆☆
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(11)
培養哺乳動物細胞が外界から受けたDNA障害を少くとも修復し得る能力をもつことはこれまで報告してきたUV線、X線さらには4NQOを用いた実験から示された。今回はやや主題から脱線するきらいはあるが、X線障害をうけたDNAの修復機構を解析するためにBUdRを用いて行なった一部の実験結果を報告する。
前報においてすでにふれたごとく、BUdRは放射線感受性増感剤として知られており、培養細胞は勿論のこと微生物のDNAの中にthymineと置換して取り込まれることが知られている。放射線に対して最大の感受性を示す状態にまでBUdRを取り込んだ際の、培養細胞および微生物におけるthymineに対するBUdRの置換率を、代表的な実験結果からpick
upしsummarizeした。(表を呈示)
またBUdRとaminopterinの存在下でmouseL
cellsを種々の時間培養した後、種々の線量でX線照射した際のコロニー形成能でみた細胞のX線感受性の違いを調べた(図を呈示)。BUdRを含むmedium内で、前もって培養する時間が長いほどX線に対する感受性が増大することがわかる。
つまりsemiconservative modelに従うDNAの複製に伴ってDNAの一本鎖にBUdRが取りこまれた際よりも、二本鎖ともにBUdRが充満された場合の方が細胞のX線に対する感受性は増大することが明らかに示された。
一方Lcellsを種々の線量で照射した直後にBUdRとaminopterinを含くむmedium内で種々の時間培養し、その後正常培地で培養してコロニー形成能で細胞の生存率をみた(図を呈示)。X線照射後に細胞をBUdRで処理した場合には、もはやX線感受性増感という現象は認められない。つまり以上の結果から考えられることはBUdRはX線照射によって障害をうけたDNAの修復に関与するenzymeのactivityあるいはその修復過程等を阻害することによってX線に対する感受性を増大させるものではなくて、どうもDNA分子自体を不安定なものとしてX線照射によるdamageを増大させる作用の方が真の感受性増感の機作のようである。これらについての明確な解答は今後の実験にまちたい。
:質疑応答:
[吉田]ジニトロフェノールなど添加するとどうなるでしょうか。放射線をかけて後、ジニトロフェノールを添加すると染色体の断裂の回復が起こらないのです。
[堀川]そうですね。4NQO処理後、低温におくとDNAの修復が起こらないことからも考えられる事ですね。カフェインなどを入れてやった場合障害部位のリンクが起こって、オリゴヌクレオタイド位の大きさで切り出そうとするのを阻害するので、回復出来ないのではないかと考えられています。修復を間違えることが発癌機構の一つになるのではないかとも考えられますね。切り出されたままでいれば、死ぬとしても変異は起こらないのではないでしょうか。4NQO処理のあとアデニンでもほうり込んでやれば、間違った修復が行われて早く発癌するというようなことはないでしょうか。
[勝田]耐性細胞で染色体が減ったものは、DNA量も減っていますか。
[堀川]DNA量も減っています。DNA量が減ることによって放射線によるヒットの回数が減るので耐性が上がると考えられています。
[安藤]X線耐性は徐々に高まるのですか。
[堀川]そうです。耐性獲得と共にカッティング酵素の活性が高くなるのではないかと考えた事もありますが、動物細胞では細菌の場合のように簡単には考えられませんね。動物細胞はダメージを受けて、それが全部回復しなくても生き延びられるので、事がややこしくなります。細菌の場合ならダメージがすぐ致死にひびいてきます。
[安藤]細菌に比べると、動物細胞では機能していない遺伝子が沢山ある、という事でしょうか。
[堀川]そうだろうと思います。今の動物細胞は生き死にでしか事を判定出来ないのが困ります。酵素活性などを取り上げて問題に出来れば、もっと面白い仕事が沢山出るでしょうのにね。
[吉田]生化学的なマーカーを持った細胞を沢山作ると面白い仕事が出来ますね。
《安藤報告》
4NQOは4NQO耐性度の高いL・P3細胞のDNAに障害を起すか。
細胞によって4NQOに対する感受性が異る。私が現在使用しているL・P3は4NQOに対して比較的感受性が低い。この原因には種々な事が考えられる。例えば(1)4NQOを速やかに代謝し、非発癌性物質にかえてしまう。(2)細胞の高分子成分、特に核酸、蛋白との結合が感受性の高い細胞に比べて弱い。又結合したとしても、与える障害がより少い。等々。今回は(2)の問題、特にDNAに対する障害作用を調べてみた。
Full sheetになったL・P3細胞に10-5乗Mとなるように4NQOを与え30分処理後、直ちにアルカリ性蔗糖密度勾配遠心法により、DNAに鎖の切断が起るか否かを調べた。結果は(図を呈示)、コントロールではsingle
strandとなったDNAは分子量が大きく、遠心管の底に沈んでしまうのに対して、4NQO処理細胞のDNAは多数の鎖切断が起り、heterogeneousな分布を示していた。すなわちDNAに対する障害作用は耐性度の高いL・P3でも起る事、したがって、耐性の原因を他に求めなければならない事を示している。又この障害の修復速度も今後検討の予定である。さらにはRLH-5についても比較してみる予定である。
:質疑応答:
[堀川]4NQO処理後、最初から30分以後はderivativeにして押し出してしまうのに、改めて4NQOを加えると、又取り込むというのはどう考えますか。
[梅田]何日かおいて4NQOを作用させるのでなく、短時間で何回も加えてやれば、4NQOの取り込み量はどんどん増やせるわけですね。押し出したderivativeは、4NQOとどう違いますか。
[安藤]大きさだけからみても、4NQOより大きいもの、小さいもの、色々とあります。
[勝田]そのものが何かということを早く調べてみなくては・・・。
[安藤]今しらべ始めた所です。
[堀川]4NQOと4HAQOとは吸光度で分けられますか。
[安藤]蛍光をみれば、わかります。
[梅田]生きた細胞でなく、細胞の抽出液に4NQOを加えて加温しても矢張り4NQOが壊されるでしょうか。
[堀川]感受性のちがいはリダクションの活性によるものだと思います。L・P3よりエールリッヒの方が耐性があるようですね。
[勝田]この前の月報に書きましたが、RLH-5・P3という合成培地DM-120でどんどん増殖する系が出来、これはL・P3より4NQOに感受性が高いから、これも並行して実験に使ってみる予定です。
[難波]in vivoの実験で、肝細胞は4NQOのターゲットcellにならないということが発表されています。
[梅田]しかし、in vivoよりin vitroの方がはっきりした結果が出ることがあります。in
vivoでの細胞レベルのことは、あまりはっきり断言出来ませんね。それから、DABとかNGとかの場合もDNAの切断があるのかどうか調べておう必要がありますね。
[安藤]NGの場合はRNAにも蛋白にも結合するが、どちらについた場合に変異を起こすか調べたデータがあります。結論は蛋白に結合すると変異を起こすということでした。
[堀川]4NQOはDNAを切断しないというデータも出ています。実際には4HAQOになって切断していると考えられます。
《藤井報告》
AH130と正常肝細胞(ラット)の抗原について:
先月の月報で、Exp.011469,D2の沈降線はAH130のhomogenate
in 0.5% Na-deoxycholate-PBSに正常ラット肝のhomogenateに存在しない抗原を示す旨を報告しました。すなわち前号でAH130-extractとウサギ抗AH130血清(FR80)の間に出来た沈降線A1、A2、A3の中、A1は正常肝extr.との間の沈降線と連なり、A2はspurをつくって正常肝抗原と共通する抗原を示すが、spurの形からは、AH130extr.にあって正常肝にない抗原の存在を示していた。A3沈降線は、AH130extr.の高濃度、すなわち細胞数1億cells/mlと5,000万cells/ml相当のところでFR80抗血清の間にみられたものであるが、正常肝extr.にない抗原を示すものであった。
AH130extr.に特有とみられたA2、A3のうち、A2沈降線は、AH130extr.の2,500万cells/ml相当濃度とウサギ抗正常ラット血清(FR51)との間に極めて弱く認められた沈降線L1'とつらなるかどうか−もし融合すれば、A2沈降線を生じたAH130の抗原が、正常肝にもふくまれることになる。しかしL1'沈降線が、正常肝extr.とFR51血清の間の沈降線L1とspurをつくり、しかもそのspurの形からL1'をつくるAH130extr.中の抗原は正常ラット肝extr.にある抗原と共通部分を有する。交叉反応性を示すような抗原ということにもなる。
この辺の事情をもう少し詳しく解析する目的で、最も明瞭な沈降線をつくる抗原の濃度を用いて(抗血清は常に1/1稀釋を用いている)、double-diffusionを行ない、かつ、沈降線の蛋白染色の他に、多糖体染色をも行なって解析の補助とした。(夫々沈降線の略図を呈示)
Exp.013169.C:
抗原:AH130、1/1、1億cells/ml。NRL、1/1、2,000cells/ml。
抗血清:FR51=ウサギ抗ラット肝血清、FR80=ウサギ抗AH130。
Exp.0131169.D
抗原:AH130、1/2=5,000/ml。NRL1/2=1,000/ml。
上の二つの実験は、前号のExp.011469.D2の右半分を再現すると共に、AH130extr.とFR80、FR51両抗血清に対する沈降線の関係を検討したものである。Exp.013169.D.はExp.013169.C.におけるAH130と正常ラット肝extr.の1/2濃度を用いた。Exp.C.D.の何れにおいても、示された沈降線は同様であり、前号で問題としたA2、A3沈降線・・AH130に特有であるかどうか・・は、L1、L2、L3と融合する像を示さなかった。
A2、A3沈降線が、NRLextr.とFR80の間につくる沈降線L4とspurをつくるか、融合しそうに見えるが、この関係は同様にしてつくった沈降線とpolysaccharide染色することによって明瞭に示された。
Exp.013169.H.多糖体染色:
抗原、抗血清はExp.013169.C.と同じ。
多糖体染色はperiodic acid-NADI reaction法によったもので、Schiff's法より簡単で特異性もつよいとされている。
染色終了後も、多糖体染色されなかった沈降線は白色の沈降線として残っており、解読が容易である。淡紫に染った多糖体(glycoprotein)の線はNRLとFR51の間のL2と、FR80との間のL4(FR51の間の線と共通する)のみで、AH130の側の沈降線は全く染っていない。すなわちAH130の沈降線形成抗原は多糖体性のものでなく、従ってA2、A3線とL4、L2とは別の抗原によって、たがいに無関係に形成されたものであることがわかった。
以上の成績から、異種血清(ウサギ抗AH130)を用いた実験に基づく限り、AH130細胞抽出液中にあって、正常ラット肝に無い抗原(群)の2ツが示された。この抗原は、多糖体性のものではないようである。ということは、この抗原が、膜抗原に起原するものでないのかもしれない。この辺は、更に検討したいところである。
しかし、異種抗血清を用いて指標とするかぎり、種特異抗原の問題もあり、癌化による抗原の変化をみるためには、現われる沈降線が複雑で、解析を誤まるおとし穴があって先人の失敗も少なくない。早急に同種および同系の抗癌抗血清を作って、発癌過程の抗原変化の解析という本番に入りたいと思っています。
:質疑応答:
[難波]抗血清のタイターは揃えてありますか。
[藤井]大体80位ですが、正確にはあわせてありません。
[梅田]細胞膜はどの分劃にはいりますか。
[藤井]どの分劃にもはいっています。
[梅田]AH-130の抗血清をRatで作れば、もっとはっきりすると思います。細胞膜の分劃を、チェックする必要がありますね。
[勝田]AH-66の培養株でRatにtakeされなくなったものがあるのですが、その抗原性がどうかも調べてみると面白いでしょう。
[吉田]培養で悪性化したものの途中経過とか、そのAH-66のように悪性だったものでtakeされなくなったものとかを、染色体のマーカーと組合わせて調べてみると面白い仕事になりますね。
【勝田班月報・6904】
《勝田報告》
動物細胞の培養内増殖に対するリゾチームの影響:
LysozymeはFlemingがヒトの涙や鼻汁のなかから見出した抗菌性物質で、もし云うならば非特異的抗体のようなものである。しかし、そのような物質が一つの機能しか持たないと考えてしまうのは早断で、何か未知の別の作用も持っているのではあるまいか、と思い、色色な細胞の培養に添加してみた。その内の若干のデータをここに示すことにする。
[第1図]ニワトリ胚心のセンイ芽細胞:(以下それぞれ図を呈示)
CEE(Chick embryo extract)を培地に入れておくと、リゾチームが細胞増殖を促進するが、CEEを抜くとその促進がさらに顕著になるので、この実験では抜いている。リゾチームを、500μg、1000μg/ml入れると明らかに増殖促進がみられている。CEEを加えた対照はさらにこれよりも増殖がよい。(CEEの中にもかなりリゾチームが含まれていることは想像できる。)2週間実験でもこの促進効果は継続した。そして培地からリゾチームを抜くと、すぐこの促進効果は消えて行った。
[第2図]ニワトリ胚心センイ芽細胞(不活化リゾチーム):
それではこの増殖促進効果が、これまで知られている“細菌を殺す"酵素作用によるものかどうか、を知るため、リゾチームの殺菌作用を失活させてみたのがこの実験で、Meはメチル化、NBSはNBS化、いずれも殺菌作用、水解作用の失われたリゾチームである。結果は、これらも同じように促進作用を有していることが示され、促進効果は既知の酵素作用によるものではないことが判った。培地のなかにはアミノ酸も蛋白もたっぷり入っているのだから、別の酵素作用も考えてみなくてはなるまい。
[第3図]ラッテ肝癌AH-130細胞:
これは株細胞ではなく、動物からとり出したばかりのAH-130である。500μg、1000μg/mlに加えてみると、500μgで明らかな抑制がみられた。これはしめた、と別のラッテ腹水肝癌にあたってみた。
[第4図]ラッテ腹水肝癌AH-66細胞(培養株):
[第5図]ラッテ腹水肝癌AH-7974細胞(培養株):
これらは何れも何年間も培養した細胞株である。
AH-7974は復元接種すると高率にラッテを腫瘍死させるが、AH-66はかなり大量に入れてもtakeされない。
ところがこの両者の場合には、リゾチームによって反って増殖が促進されてしまった。腫瘍の種類の差によるものか、新鮮な細胞と株細胞とのちがいによるものか、これだけでは未だ判らないが、前者ではありまいか。
《山田報告》
前回に引続きRLC-10の表面構造に及ぼす4NQOの直接影響をくりかへし経時的に検索した結果を図に示す(図を呈示)。No.6902に書いた同一条件の成績と、殆んど同一結果と考えます。即ち4NQOを細胞に接触させた直後4時間目には、一過性の表面の破壊(腐食?)が起るせいですが、シアリダーゼ処理により細胞電気泳動度は若干低下しますが、1日目には既に回復してこの酵素の影響は殆んどなくなり、3〜4日目頃より再びシアリダーゼ処理により泳動度は低下して来ると云う成績を得ました。
しかし従来悪性細胞にみられる様なシアリダーゼ処理による0.1μ/sec/v/cm以下の低下は認められず、この時点での悪性化の証明は出来ませんでした。
そこで振り出しにもどって4NQO処理により起される悪性変化をどの様にしたら経時的に追求出来るかを考へなほしてみました。その結果次のごとき実験の必要性を感じました。 1)現在正常細胞として用いている細胞RLC-10は既にシアリダーゼ処理によりその泳動度の増加が著明にみられないので(No.6902に報告)、original肝細胞にくらべて何らかの変化が起ってゐると考へざるを得ず、従って新らたに確立した肝細胞を用いる必要がある。
2)4NQO(3x10-6乗M)の1回〜3回の接触により発癌したCQ39(Culc)、CQ40(Culb)、CQ42(Cula)株の細胞電気泳動度はいづれも悪性型を示さず、それぞれをラットに復元して出来た腫瘍からの再培養細胞のみに悪性型の泳動度を示したと云う過去の成績から考へると、この条件で発癌するCell
populationはあまり高くないと考へられる。
従って、4NQO一回処理での表面構造の変化を細胞電気泳動法により検索する事は、技術的にかなり困難であると思われる。
しかし岡大のExp.7(1)-1或いはExp.7(2)-2株にみられる様にくりかへし長期間接触した際の悪性細胞の発生の密度はかなり高いと云う成績を得て居ますので、次回は、くりかへし4NQOを接触させる経過中の細胞の泳動度を測定すれば悪性化の時点を明らかにすることが出来るかもしれないと考へました。しかしその様なくりかへし4NQOを接触させると、細胞の破壊や増殖能の低下を来たし、細胞の泳動度の測定が困難になるかもしれません。
今月は病理学会に発表するべく、各種腹水腫瘍細胞の細胞電気泳動度を総まとめしてみました。(表を呈示)(N)はシアリダーゼで処理後の細胞、Cal.はM/10ヴェロナールメヂウムに10mM濃度にCaCl2を加へた際の細胞電気泳動度です。いづれも、増殖期と末期の細胞を測定し、更に皮下に移植して腫瘤を作り、これを鋏で細砕して測定したものです。
一般に悪性度の強い細胞程、シアル酸依存荷電量が多く、また上皮性悪性腫瘍細胞はカルシウム吸着性が増加して居ます。皮下に移植すると、細胞処理の影響もあり、一般に低下しますが相互の関係はだいたい同一です(壊死細胞があるとかなり低下します)。
《佐藤報告》
◇4NQOにより悪性変化したラット肝培養細胞の電子顕微鏡学的研究(経過図を呈示)
4NQO未処理対照肝細胞は培養476〜578日のものを使用した。
[結果]
対照ラット肝培養細胞は形態学的に肝実質細胞由来と思われるが、長期培養株ではその確定的な証明は困難であった。
4NQO処理、変性変異株の特徴は、golgi Sacの空胞化、粗面小胞体、ならびにミトコンドリアの膨化と核の軽度な不正形化である。
この変異細胞の動物復元で生じた腹水型腫瘍は、上皮性と繊維芽細胞との中間型の如き形態を示す。核の不正形が目立つが、しかし変異培養細胞にみられた細胞小器官の空胞化はみられなかった。皮下に形成された固型腫瘍は、腹水型腫瘍細胞に類似した細胞が著明に増生した結合織の中にみられた。この著明に増生した結合織産生性の繊維芽細胞が宿主に由来したものか、培養内に含まれていた繊維芽細胞の変性変化したものか現在不明である。 腹水型腫瘍の再培養細胞の形態は4NQOにより培養内で悪性変異した細胞に類似していた。また、この電顕的観察の結果、ラット肝に由来する培養細胞には、起源の異なる細胞の混在が示唆された。以上のことを模式的に示したのが以下の図である。尚、全ての細胞株に於て、virus、PPLOなどは見い出されなかった。
(それぞれに図を呈示)
コントロール株:1)動物体内の肝細胞に比べER、ミトコンドリア、golgi
complexが、やや膨化する。2)細胞が肝実質細胞に由来したか、潤管由来か、胆管に由来したものか不明。3)間葉性と思われる細胞が数%に混在。
4NQO処理変異株:1)核の不正形化。2)golgi
Sac、S-ER、ミトコンドリアの膨化著明。
復元により生じた腫瘍:腹水型・1)細胞は上皮性と間葉性との中間型を示す。2)核の不正化。3)細胞小器官の空胞化はない。4)コラーゲン繊維を含む細胞が5%ぐらいにみられる。この存在の意味は不明。 固形型・1)著明な結合織の増生。2)核の不正化。3)空胞化(-)。
腹水型腫瘍の再培養株:1)4NQO処理変異細胞に似る。2)10%以下に間葉性由来と思われる細胞が混在する。3)腹水腫瘍にみられたコラーゲン繊維を含む細胞はみられない。
《高木報告》
1.NQ-7
4NQOの実験については月報6810以後全くふれず、専らNGの実験についてのみ記載してきましたが、本号ではこれについてまず報告します。NQ-7というのは、4NQOにより明らかなmorphological
transformationをおこした実験系です。
この中4NQOを2x10-7乗mol 198時間作用せしめ、さらに10-6乗molを4時間作用せしめた(T-4)について、作用後約200日でWKA
newborn ratの皮下に200万個細胞数を接種しました。同時にcontrolの細胞も同数接種しました。transformed
cellを接種したratは約40日後に、3/4にtumorの発生を認めましたが、約20日後にregressしてしまいました。これは黒木氏の云う所謂M1に相当するものかも知れません。control
cellを接種した4疋のratには、tumorの発生は認められませんでした。またcontrolおよび4NQO
10-6乗molを計4時間作用せしめた(T-1)の細胞をLH+Eagle's
vitamins+10%CSのsoft agarに10000ケまいてみましたところ、4週間後にcontrolではcolonyなく、(T-1)では30〜50ケのcolonyがえられました。現在これらのcolonyをpick
upしているところです。
2.NG-4
1)NG-4 cellsを接種して生じたtumorのRecultureの再接種。
NG-4 cellsを接種してWKA ratに生じたtumorを再培養し、えられたtumor
cellsと思われるStrain cellsを76日目に100万個、newborn
WKA ratの皮下に接種した。接種後1週間から4/4にtumorの発生をみとめましたが、中1疋は3週後に死に、他の1疋は約5週後に肺炎で死にました。現在2疋だけ生残っていますが、この中1疋はtumorの部に潰瘍を生じ、残る1疋は左前肢の麻痺を来しています。tumorそのものはNG-4
cellsを接種した時生じたtumor程に大きくはありません。肺炎で死亡したratのtumorのhistologyはやはりpleomorphric
sarcomaでした。
2)再培養の観察
1.)No.2 rat tumorの培養
月報6903に示した写真のような細胞で、growthは4日間に7倍程度、Na
pyruvate、glutaminの添加は、特に増殖をよくするようなことはありません。この細胞を1000、500、100とP-3
petri dishにまいたところ100まいたものでは2〜3ケのcolonyが、500、1000まいたものでは可成りの数のcolonyがえられました。これらのcolonyをみると、morphologicalにいくつかに分けられます。まず、わりにflattな感でcytoplasmにgranuleをもった核小体の大きいどちらかといえば上皮性をおもわせる細胞よりなるもの、つぎにこれと大体同じようなflatt名細胞よりなるがpleomorphismのつよいcolony。さらに、networkを作りやすい繊維芽細胞様細胞よりなり、しかも円形細胞がその上にpile
upしたcolony−これは細胞がふえて来るとほとんど円形細胞ばかりのようにみえて来る−。それとごく少数の繊維芽細胞よりなるcolonyなどです。これらをisolateすることにつとめています。
2.)No.3 rat tumorの培養
growthはあまりよくなく、大小さまざまの核小体の大きい上皮様細胞とnetworkを作る傾向のつよい繊維芽様細胞よりなり、後者は円形細胞を伴っています。
3.)No1.rat tumorの培養
円形細胞と繊維芽様細胞を主体とする細胞集団が、繊維芽細胞の中にcolony状に増殖しています。前者は腫瘍細胞と思われるが、これには少数ではあるが、丁度L細胞を思わせるcolonyもあり、肉眼的に透明な繊維芽細胞のsheetの中に白いcolonyとしてはっきり認められます。腫瘍細胞の分離を試みると共に、これら細胞の共存状態についても観察中です。
4.)No.3(T1-1)tumorの培養
No.3 rat tumorを移植してえられたtumorの再培養です。これも、現在No.1
rat tumorの再培養同様、繊維芽細胞中に腫瘍細胞のcolonyが点在して増殖しています。
これら細胞の写真は次回の月報で供覧します。
《安村報告》
☆Soft agar法(つづき)
前号(月報No.6903)のdiscussionの線にそって、今回はAH7974TC細胞からえられたクローン系のSmall
colony−Large colonyのdissocitionをしらべた実験結果をお知らせします。
1.C6-3S細胞:この系はSmall colony由来です。MediumはEagle
MEM(日水)1xに10%のCS。(それぞれ表を呈示)表にあるようにわずかにLarge
colonyの出現がみられます。判定は4週間たってからです。
2.C1-SS細胞とC1-LL細胞の比較:C1-SSはsmoll
colonyからsmoll colonyへと、C1-LLはlarge
colonyからlarge colonyへとそれぞれ2回クローニングした系です。
結果は表にみられるごとく、両者にS-L dissociationのrateにはみるべき差がありませんでした。前々号(No.6901)にのべられたC1-SとC1-Lとの比較のデータを、いまいちどみくらべてください。そこでも両者の差はあまり明らかではありませんでした。どうやらこのC1系ではSmall
size colonyとLarge size colonyとの間にははっきりした違いがないようです。SとLとのtumorigenicityの違いも(そのデータもいま動物が死に始めていますので、次回に報告できるでしょう)あまりないのではないかと思われます。
3.C1-SS細胞、C3-S細胞、C6-3S細胞間の比較: C1系、C3系、C6系のそれぞれのSmall
colony由来株の比較の結果は、C6-3S系のみからはlarge
colonyの出現はみられなかった。
《安藤報告》
(1)4NQOのL・P3細胞DNAに対する障害及びその修復について
月報No.6906に書きましたように、4NQOは比較的耐性度の高いL・P3細胞のDNAにもsinglestrand
breakを起す。今回はその点を更に詳しく追究した結果を書きます。
1)4NQOによるL・P3 DNAのsingle strand breakのtime
caurse
10-5乗Mの4NQOを15分、30分、60分と作用せしめるとbreak数は増え、生ずるsingle
stradのDNAのsizeは小さくなって行く。これはいずれも4NQO一回の投与である(図を呈示)。
2)4NQOにより生じたsingle strand breakはrepairされるか
4NQOを10-5乗Mで30分処理し、細胞を洗い、新鮮な培地DM120の中で3時間回復させた。(図を呈示)30分間処理直後、1時間回復させた後、3時間回復を起させた後にそれぞれ分析した。この実験に於ては30分処理によっても前回程は切断が起こっていない。したがってその点の再現性はあまりよいとは云えない。しかしながら明らかに1時間、3時間と回復期の時間が長くなるにつれて一たん切断されたものが再結合を起している事がわかる。したがってL・P3細胞は4NQOにより生じたsingle
strand breakを修復する酵素系を持っている。又この事がL・P3細胞の耐性の基礎かもしれない。このsingle
strand breakのrepairの再現性はあまりよくない。全く同じ条件で行ったつもりの次の実験が、あまりよくは修復が起っていない。
但し、本実験に於ては分解産物の大きさを推定するために、referenceとしてbacteriophageλのP32-DNAを同時に遠心した。この結果、4NQOにより生じたsingle
strandの分解産物の最低分子量は約1.7x10の7乗くらいである事がわかった。
3)4NQOによりdouble strnadの同時切断が起るか。
以上の実験から4NQOはL・P3細胞DNAにsingle
strand breakを起し、又細胞はそれを修復する事がわかったわけだが、それではもしこのsingle
strand breakがat randomに二重鎖DNAの上に起っているのだとしたら確率的に当然二重鎖の両方の同じ場所でsingle
strandbreakが起る事もありうるわけである。すなわちdouble
strand breakが起る事になる。この点を調べてみた。今度はL・P3
DNAの二重鎖の水素結合を切らないように中性の蔗糖密度勾配遠心法で調べた。(表を呈示)control
DNA、これは底に沈む。4NQO 10-5乗M、30分処理、60分処理の結果である。図から明らかのように、4NQOはDNAの二重鎖の同時切断も起している。しかもこの時の非常に大きな特徴は、切断産物の大きさが極めて均一な事である。非常にシャープな単一ピークを与えている。又single
strand breakの時に見られたような、切断数の経時的な増加は見られなかった。すなわち一定のsizeのままとどまっている。
4)4NQOにより生じたdouble strand breakはrepairされるか。
single strand breakの場合は、これが生じても二重鎖の間の水素結合が保持されていれば、少なくも見かけ上はDNAは切断の起る前の状態を保つ事が出来るように考えられている。しかしながら二重鎖の同時切断が起った場合は、たとえヒストンの支えがあったとしても、もはや物理的にもとの状態を保てるとは考え難い。すなわち修復が極めて難しい事が予想される。しかし細胞はそれをやってのけるかもしれない。実験方法は前と全く同様に4NQO、10-5乗M、30分処理後4時間の回復を行わせ中性蔗糖密度勾配遠心法により分析した。(図を呈示)図は30分処理後、その後2時間回復、4時間回復を行わせたものである。結果は、予想通り二重鎖の同時切断は細胞にとって直すのに難し過ぎるようだ。この点再実験を行い確認された。なお今回もbacteriophageλDNAをreferenceとして共沈させた。
(2)4NQOのRLH-5・P3細胞DNAに対する障害及びその修復について:
前にも書きましたようにL・P3細胞は4NQOに対し比較的耐性度が高い。今回は、4NQOに感受性の高いRLH-5・P3細胞を用いて(1)と同様な解析を行ってみた。なお、この細胞は“なぎさ"培養により変異したラット肝由来の細胞で合成培地DM120によく増殖する。
(図を呈示)この細胞DNAも4NQO処理によってsingle
strand breakが生ずる。しかしこのbreakのrepairに関しては起っていると思われるが、この実験だけからは結論出来ない。中性密度勾配によるdouble
strand breakの誘導及びその修復をも試みた。結果は、図からも明らかなようにこの細胞に於てもbreakは生じ、しかも4時間の回復後においても修復は起ってはいないようだ。更にこのRLH-5・P3細胞のDNAの二重鎖切断により生じたDNAはL・P3のそれと比較して、かなり小さいようだ。それは図のP32-λDNAの位置と比べてみると明らかである。なおλDNAの位置よりこれ等のDNAの分解産物の分子量は容易に計算されるが、これ等の続きは次号にまわします。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(12)
放射線感受性増強剤としてのBUdRを含くむ培地内で、あらかじめ細胞を培養してからX線で種々の線量照射するとコロニー形成能でみた細胞の放射線感受性は確かに増大する。このことについての結果は前報までに報告してきた。
今回はこうしたBUdRのもつ放射線増感剤としての機構を解明するため、あらかじめ10μgBUdR/mlと5μg
aminopterin/mlを含くむ培地内でmouse L細胞を96時間培養したのち、種々の線量のX線で照射し、照射直後の細胞内DNAのsingle
strandの切断率を正常培地内で培養した対照区のそれと比較してみた。(DNA
single strandの切断の分析には例によって5〜20%alkaline
sucrose methodを用いた)。
(図を呈示)結果は図に示すように、BUdRを含くむ培地内であらかじめ96時間培養した細胞では、2,000R、5,000R、10,000R照射された直後にDNAがやや正常細胞のそれに比べて低分子のものに切断されることがわかった。然し、コロニー形成能でみたBUdRの放射線感受性増強率をこのsingle
strandの切断の上昇で説明するには、BUdRによるDNAの切断率の上昇が少なすぎるようである。このことから考えられることは、BUdRによる増感機構はむしろsingle
strandの切断率の上昇よりもdouble strandの切断率を上昇させることに起因するのではあるまいかということである。これについては次報で報告したい。同時にBUdR処理によって誘起されたsingle
strand scission(一本鎖切断)が再結合し得るかどうかについても現在検討中である。
《梅田報告》
Varidaseの影響
Rat liverの、monolayer culture作成時に、今迄trypsin及びSpraseを使用してきた。
Trypsin処理だけでは組織がねばねばになりmeshを通し難いが、Spraseの使用でねばねばが軽くなり、meshでの濾過がし易くなる。しかし、まだ充分と云えない。前々回の班会議で、難波さんにvaridaseを使用すると非常にさらっとして細胞の収量が多くなるとの指摘をうけたので、その点について検討してみた。
実験群として(1)rypsin(モチダ)3,000HuH 処理15'。
Varidase液 0.5mlを加え、更に15'処理したもの。(2)Trypsin
15'処理后Sprase(100u)を15'処理したもの。(3)Trypsi
15'処理后、Sprase 100uとVaridase 0.5mlを15'作用させたもの、3群について検討した。確かにVaridaseを加えると酵素液がさらっとなってねばねばした感じは全く残らない。正確は比較はならないが、wet
weightから細胞の収量を計算すると、(3)が一番良く、次に(2)(1)であった。しかし30万個cells/mlで培養を開始すると(medium
LE+20%CS)、(1)、(3)はgrowthが悪く、(2)が一番良いgrowthを示した。
2回目に殆同じ実験を、varidaseの量を減じ0.3mlとしrepeatしてみた。結果は酵素作用后、さらっとすることに変りなく、wet
weightから計算した細胞の収量は、この時は特にvaridase使用群に増したとは思えない。
次に生えてきた細胞をSubcultureするのに、trypsin液とvaridaseの併用を行ってみた。Trypsin単独のsubcultureに較べ数日后のgrowthは明らかにvaridase使用群が悪かった。
今の所ここ迄で、もう一度更にvaridase濃度を下げて実験してみたいと思っているが、結論的に云えることは、varidaseはかなり毒性が強く、余程注意して使わないと具合が悪い様である。更にgrowthしてくる細胞については、特に肝細胞が障害をうけ易い様にも思えないが、定量的観察でないのでなんとも云えない。
【勝田班月報・6905】
《勝田報告》
A)肝癌AH-7974の毒性代謝物質:
これは昨年度まで班員だった永井克孝博士との共同研究であるが、永井氏の渡米後、永井氏の御弟子であった東大・教養・生物の星元紀氏が、代って化学的分析を担当して下さっている。
これまでAH-7974を培養していた培地は、[20%CS+0.4%Lh+D]であった。4日間位培養した後、Collodion
bagを通して高分子を除き、それをカラムにかけるのであるが、御承知のようにLhにはポリペプチドが沢山含まれていて、分析が厄介である。そこで、このポリペプチドを含まぬ培地でAH-7974を増殖させられぬものかと、色々検討したが、CSを透析してみると(D-CSと略)、10%加えるのが至適であった。[10%D-CS+DM-120+10%D]で培養してみると、4日まではふえたが、以后は数が減ってしまった。この4日迄の旧培地を正常肝細胞のRLC-10株に加えてみても毒性が現われなかった。これは、やはりAH-7974が活発にふえている状態でなかったためと判じ、もっと良い培地を探した。
たまたまこの頃、色々な細胞についてinositol要求をしらべていたが、AH-7974がこれを要求していることが判った。
そこで[10%D-CS+80%DM-145+10%D]の培地で培養してみると、これが大成功で、実によくふえた。DM-145というのは、DM-120にinositolを2mg/l追加した培地である。そこで、この培地でAH-7974を4日間培養し、その旧培地をコロジオン膜で濾過し、外液をRLC-10の培地に添加してみた。培地は[(20%CS+0.4%Lh+D)=7容:外液3容]である。対照は外液の代りにDM-145を同容入れた。
細胞の接種量は64,000cells/tubeで6日後にしらべると、対照は1,004,000/tubeになっていたが、外液添加群はその30%位で274,000/tube。実にきれいに毒性があらわれた。
B)各種細胞株のイノシトール要求:
“なぎさ"変異肝細胞株、腹水肝癌由来の株を中心として、それらのinositol要求を[10%D-CS+80%合成培地+10%D]の培地でしらべた。合成培地はDM-120とDM-145を比較したわけである。詳細はいずれ報告することとし、結果だけを表示する。要求株はRLH-2、RLH-4、AH-7974TC、JTC-1(AH-130)。要求しないものはRLH-3、RLH-5、AH-66TC、RTH-1(RTM-1胸腺細網細胞のなぎさ変異株)であった。
C)4NQO処理後の経時観察実験
ラッテ肝RLC-10株を4NQOで処理後、経時的にその染色体の変化、復元移植性、細胞電気泳動像の変化を追い、且連続的に顕微鏡栄華撮影で形態の変化を追う実験である。
第1シリーズ(Exp.#CQ60):
1968-11-19:4NQO処理(3.3x10-6乗M、30分)
1969- 2- 7(70日后):細胞電気泳動(1)
-2-26(89日后):細胞電気泳動(2)
-3- 1(92日后):復元接種(1)(JAR-1、F32、生后1日、I.P.500万個/rat、対照とも2匹宛))
-3- 5(96日后):染色体標本(1)(見られる標本ができた最初)
-4-23(145日后):細胞電気泳動(3)(腫瘍型の泳動像が認められた)
-4-24(146日后):4NQO再処理(条件同前)
第2シリーズ(Exp.#CQ63):
1969 -3 -4:4NQO処理(3.3x10-6乗M、30分)直後より5日間、細胞電気泳動測定(0)-(5)。
-4-23(50日后):細胞電気泳動(6)(腫瘍型の泳動像が認められた)
-4-24(51日后):4NQO再処理(条件同前)。観察継続中。
《佐藤報告》
従来4NQOによるラッテ培養肝細胞(Exp.7系)については屡々報告して来たが、Exp.系の追試実験として、別の培養肝細胞(RLN-251)を使用して発癌に成功した。復元動物の一部は現在、観察中であるが、大体まとまったので整理した(表を呈示)。
以上の実験結果から結論されることは、株化された培養肝細胞は割に簡単な4NQO処理によって確実に発癌することである。今後はなるだけ若い培養のものを使用して発癌の過程を追求したい。
《高木報告》
1.No.3 rat tumor再培養の復元実験:
昨年12月10日にstartしたNo.3 rat tumorの再培養によりえられた細胞の形態は、先の月報(6904)に書いた通りですが、この100万個をWKAとWistarのhybrid
newborn rat 6疋の皮下に接種しました。約1ケ月後より6/6にtumorの発生をみとめ、現在どんどんtumorは大きくなっております。histologyは未だです。これで、No.2
rat及びNo.3 rat tumorより培養した細胞はmixed
populationであるにせよとも角tumor cellsであることがわかりました。
2.Soft agarによるNQ-7のcolony formation
NQ-7は先の月報(6811)に報じたように4NQO treated
thymus cellsで、T-1、T-2、T-3、T-4(T-5は培養中止)の4株はcontrolに比し形態の変った状態で現在も継代を続けております。これら4株についてsoft
agarによるcolony formationを試みてみました。方法は、LH1%の割にagarに加えてautoclaveして後、glucoseと重曹を加えた培地に、base
layerはagarの濃度が0.5%になるように、top
layerでは0.33%になるように、予め用意したLHにEagle's
vitamineとcalf serumをfinal concentrationの倍量および1.5倍量含む培地とまぜ合せて各soft
agarの層を作りました。
まだ1回の実験ですが、10000ケの細胞をseedして4w後の判定で、T-1
約50ケ、T-2 3〜4ケ、T-3 無数、T-4 20〜30ケのcolonyを生じました。T-1に生じたcolonyは密なものと疎なものの2種類がありますが、その他に生じたcolonyは円形の密な(図を呈示)図の如きものです。このcolonyを生ずるefficiencyと復元してtumorを生ずる能力との、相関をみたいと思っているのですが、T-1、T-2、T-3はこれまで各6、2、4疋のnewborn
WKA ratにもどして74日目の現在tumorの発生をみず、ただT-4のみ先月報の如くregressはしたけれど3/4にtumorの発生をみました。さらに検討の予定です。
《山田報告》
前回に引続きRLC-10のラット肝細胞に4NQOを投与した後の変化を追いかけてみました。 No.6904に4NQO投与直後の変化を報告しましたが、同号に検索したRLC-10細胞群を、4N-1(対象C-1)、4N-2(対象C-2)と名付けて、前者を114日目に、後者を50日目に検索した結果を報告します。(図を呈示)4N-1群の細胞は対象では殆んど変化を示しませんが、4NQO処理した細胞では、電気泳動度の僅かな増加と、シアリダーゼ処理により0.104μ/sec/v/cmの電気泳動度の低下をみました。従来、悪性化の規準を『シアリダーゼ処理により0.10μ/sec/v/cm以上低下する肝細胞』と一応定義しましたので、その意味では悪性化の規準ぎりぎりに入る成績です。しかしこの場合は丁度境界ですので、悪性化と云へるかどうかわかりません。この状態でこの4N-1をラットに復元してもらう様にお願いしてありますが、その結果がどうなりますか?
次に(図を呈示)4N-2の細胞群の成績は若干予想外です。その解釈に困って居ます。対象の細胞群C-2もシアリダーゼ処理により0.077μ/sec/v/cmの電気泳動度の低下をみました。(従来のラット肝細胞でこの様な低下をみたことはありません。勿論従来の理解に照して悪性化の成績ではありませんが。) しかも、4N-2群の細胞はシアリダーゼ処理により0.162μ/sec/v/cmの低下をみて居ます。この成績は、悪性化を示すものと思われます。しかし対象も変化して居りますので、これをどう解釈すべきかわかりません。この細胞もラットへ復元する様お願いしてありますので結果待ちです。この結果をみて考へたいと思ひます。 次に安村先生の寒天培地によりクローニングされたAH-7974TCのクローンC3-L株とC5-3-S株の細胞電気泳動度を調べてみました。これも予想外の成績です。クローニングされたにもかかわらず、両者の細胞電気泳動度には結構ばらつきがあります(図を呈示)。しかしoriginal株にくらべてややばらつきは少い様です。しかも両者の態度にはかなり差があります。C6-3-S株はシアリダーゼ処理により、その電気泳動度はあまり低下しないと云う結果は興味があります。このクローニング相互の関係については、明日再検すると同時に、他の3ケのクローン株についても検索する予定になっていますので、その成績と合わせて次号にまとめて報告し、考えてみたいと思って居ます。
《梅田報告》
1.前回の班会議(6903)で、HeLa細胞にN-OH-AAFを投与して、H3-TdR、H3-UR、H3-Leuの摂り込み率を測定した結果について報告した。前回はH3-TdR、H3-URの摂り込み率が落ちる濃度でH3-Leuの摂り込みはおちなかった。今回は経時的に摂り込み率を測定してみた。方法は前回と全く同じであるが、N-OH-AAF投与と同時に各group別に0.1μc/ml
H3-TdR、0.2μc/ml H3-UR、1μc/ml H3-Leuを投与した。30分后、1時間后、2時間后に2枚宛の培養を止めH3摂り込みをgasflow
counterで計測し、その平均値を出した。2時間后のcontrolの摂り込みを100%として夫々の値の平均値の%を算出した(図を呈示)。
H3-TdR、H3-UR摂り込みがN-OH-AAF投与と同時にstopして後少し恢復することがわかる。H3-Leuの摂り込みは前2者より良好である。故にN-OH-AAFはDNA、RNA合成系に直接佐用してimmediateな変化をもたらす様である。
2.今迄rat肝のprimary cultureにDAB等を投与して、carcinogenesisを試みてきたが、最近少し考え方を変えて、AAFなどで、今迄成功しているhamster
embryonal cellを使ったらと考えている。先生方の御意見を次回班会議でおうかがいしたい。
《安藤報告》
4NQO処理により細胞高分子は分解されるか。
(1)L・P3細胞について。
フルシートになったL・P3に4NQOを10-5乗Mに加え30分処理をする。その後washし、新鮮培地中に移し24時間観察してみる。この間顕微鏡的には何らの変化も起していないように見えた。しかしながらその細胞の中では種々な変化が起っている筈である。加えられた4NQOが代謝され、蛋白、核酸等の高分子と結合する事、その際DNAの二本鎖は切断を受け、又修復もされて行く事等を報告して来た。
今回はこの際、細胞当りのDNA、(RNA)蛋白質の総量の変化を求めた。(表を呈示)表に示されている通りDNAと蛋白質いずれも誤差範囲を考えるならば、分解を起しているとは云えない。この点確認実験中である。
(2)RLH-5・P3細胞について。
(表を呈示)次表はRLH-5・P3細胞についての同実験の結果を示してある。DNA含有量については3回の実験、RNA、蛋白質についてはそれぞれ1回ずつの実験を記載してある。この結果にするとRLH-5・P3細胞に於てもL・P3の場合と同じくDNA、RNA、蛋白質いずれも4NQO処理中及び処理後少くも24時間の間は安定に保たれているように思われる。
RLH-5・P3細胞中へのH3-4NQOのとりこみのkinetics。
L・P3細胞へのとりこみについては月報、班会議で報告して来た通りです。すなわち、H3-4NQOは細胞に与えられると15分〜30分以内にmaximumに細胞内にとりこまれ、急速に代謝され培地中に放出される。この間に細胞高分子との結合も起り、同様に15分でmaximumになり、ほぼ一定となり、培地を替え薬剤を除くと一たん結合した放射活性は失われて行く。RLH-5・P3に於てもこのkineticsは全く同様であった。
《藤井報告》
ラット抗Culb血清の作製
培養ラット肝細胞RLC-10の培養内変異過程における抗原性の変化を追求するためには、変異に伴なって獲得されあるいは消失する抗原のみに対する抗体をもった血清が必要である。これまでは、異種のウサギ抗血清を作って、double
diffusion(Microplate法)でラット正常肝組織抗原とAH130等の出来上った肝癌の抗原の比較をおこなってきたが、こういう系では、AH130細胞だけに見られる沈降線であっても、それが果して癌特異抗原であるのか、あるいは正常肝組織抗原の量的な変化であるのかは決定し得ない。
がん抗原を対象とするかぎり、syngeneic strainで得られる抗体が必要であるが、Cula、Culb等のsyngeneic
strainであるJAR-1(医科研癌細胞)は、生産が間に合わず抗体作製には使用できないので、JAR-1になるべく近い系としてJAR-2(9代兄妹交配)を用いて、Culbに対する抗血清作製を開始した。
2匹の成熟ラット(JAR-2)は、側腹部皮下2ケ所に計150万個細胞を、3月24日、4月7日に、4月19日、4月23日には各回計500万個cellsを皮下に注射され、最終注射后10日に心穿刺により5mlを採血した。注射したCulbは1回遠心後、water
shock法で赤血球の混入を防ぎ、生食水で2回洗滌後注射した。4回注射のうち、第2、3回は凍結保存(-20℃)したものである。
採血時、2匹のラットのうち1匹でCulb接種部位に径約1cmの腫瘍がみられ、13日現在は増殖傾向が見られる。他の1匹は径0.5cmの皮下腫瘍があるが、退縮の傾向にある。これから見ると、JAR-2のこの2匹は未だ充分Culbに対する抗腫瘍性を獲得していないと云える。近く増殖腫瘍の結紮をおこなって退縮させる予定であるが、ラットに抗腫瘍性を得さしめられなかった原因として、凍結保存細胞の注射がEnhancementに作用したものか、また、接種した細胞数が多すぎたためかも知れない。以上2匹のラット血清は、double
diffusion(Microplate法)でCulb抽出液(0.2%DOC-PBS、5000万個/ml相当濃度)に対して全く沈降線を示していない。
今後は、Freund's adjuvantの利用も止むを得ない手段として考えている。同種異色抗体を沈降線で示すことは非常に困難であるので、更に多くのラットで強化免疫計画をじっくり立てる他ないと思われる。
Double diffusion(Microplate法)による抗原分析を目標とする一方、現在やれる実験として、「ラット抗Culb血清、ラット抗Cula血清のcytotoxic活性、immune
adherence活性をしらべて」培養肝細胞RLC-10、#CQ39、#CQ40、Cula、Culb等の同種抗血清に対する感受性を検討して行きたい。
余談:このところ同種移植における細胞結合性抗体の他に、血清抗体の役割に目を向けて仕事をしています。マウスで腫瘍細胞を同種マウスの腹腔内に接種したとき、腹腔内の腫瘍細胞が宿主の小リンパ球に攻撃されている場面が以外に少ない(せいぜい数%以下)。細胞性免疫の能力の限度といったものを強く感じます。
そういうことからも、液性抗体の役割を再認識すべきだと思うのですが、同種移植したマウス(C3H/He)の血清から、Sephadex
G-200とDEAEカラムを用いて分けた、19S、7S、7SγI抗体についてみますと、19S、7S抗体の示すcytotoxic
activityが標的細胞(C57BLのリンパ節細胞)をあらかじめ処理(Rt、30分間)すると、抑制される成績が得られました。7SγIは抗体を結合せず、標的細胞に先に結合して、補体結合性の19S、7S抗体の細胞溶解作用を抑えるものと考えられます。7S、19S、7SγI抗体も、まだdouble
diffusion、immunoelectrophoresisで組織抗原との間に沈降線をつくってくれず、弱っています。
【勝田班月報:6906:4NQOの細胞DNAに対する障害と修復】
A)各種細胞株のイノシトール要求:(各実験毎に増殖曲線図を呈示)
先月の月報に一寸かいたが、手持の色々な株についてイノシトール要求をしらべたところ、仲々面白いことが判った。
これをしらべるには、血清を用いることを避け、(表を呈示)表のようなDM系の合成培地を使い、それだけでは増殖せね場合のみ、3日間透析した仔牛血清を10%添加した。
RLH-1〜RLH-5はラッテ肝細胞を“なぎさ”培養で変異させた株で、夫々イノシトール要求が異なり、RLH-1、RLH-2、RLH-4は要求性、RLH-3とRLH-5が全く要求していないことが判った。DM-120にはイノシトールが含まれて居らず、DM-145はその組成にイノシトールを2mg/lに加えたものである。但しRLH-3は無蛋白にするとイノシトールを若干要求している可能性もある。
次にRTH-1株はラッテ胸腺細網細胞の株を“なぎさ”変異させたものであるが、これもイノシトールを要求していない。これらの内で現在合成培地DM-120だけで培養できているのは、RLH-3、RLH-5、RTH-1の3株である。
これらを通じて感じるのは、イノシトールを要求しない株の方が、合成培地で増殖しやすいのではないか、ということと、我々の周囲の色々な株や亜株のなかには案外合成培地で増殖できる細胞があるのではないかということである。皆さんもぜひ試みて頂きたいことである。
また、ある組織の細胞を合成培地で培養したいという場合、性質が若干変っても構わぬ場合は、わざと“なぎさ”培養で変異させて、合成培地に移すという手も考えられる。
これらのイノシトール要求をしらべるとき、2mg/lに一律に加えてしらべたが、AH-7974(JTC-16)の場合のように10mg/lが、至適というような例(DM-147)もあるので、他の株の場合も一応しらべてみる必要がある。
ついで、というわけでL-929原株についてもイノシトール要求をしらべてみた。この場合は透析血清を入れた群と、入れない群と、両方についてしらべた。
結果は、透析血清を入れた場合にはイノシトールを全く要求していないことが判ったが、蛋白を入れぬときは、どうもイノシトールを入れた方が増殖を促進されることが判った。Eagleは、HeLaはイノシトールを要求するが、Lは要求しないと報告した。彼の場合は透析血清を入れていたので我々の透析血清添加と同じ結果になったのであろう。蛋白のなかからイノシトールが遊離されてくるのか、それともイノシトールの代役をするものが出てくるのか、今のところでは何とも判らないが、今後の面白い課題の一つであろう。
次にラッテ腹水肝癌由来の3株についてイノシトール要求をしらべてみた。AH-130由来のJTC-1、AH-66由来のJTC-15、AH-7974由来のJTC-16である。
結果はJTC-1は明らかにイノシトールを要求しているが、JTC-15は要求せず、むしろ培地中に含まれていない方が増殖度が高いほどであった。JTC-16はきわめて顕著にイノシトール要求を示した。
今後イノシトールの前駆体その他を用いて、イノシトール代謝をしらべて行くのには、この株は実に好適の材料といえるであろう。
B)培養内で4NQO処理されたラッテ肝細胞の復元接種試験:
肝細胞株RLC-10を用いた4NQO発癌の実験系をまとめて図にしたものと、復元成績の表およびそれをSchemaにした図を呈示する。
そのなかの#CQ60という実験は、はじめから経過を追ってしらべている系の内の第1seriesであり、4NQO1回処理だけで復元して陽性(まだ死んではいないが)になっている。その第2seriesにあたる#CQ63でも1回処理で変化があらわれているので、4NQOは1回処理で充分といえるかも知れない。
RLC-10株は最近染色体数が42本の他に41本もふえてきたので、今後はもはや発癌実験には使わず、凍結してしまい、次の若い株(RLC-11、RLC-12)を使って行きたいと思っている。またラッテ肝の“なぎさ”変異株のRLH-5が合成培地内で活発に増えるので、これをクローニングして、合成培地内での発癌実験に使う、いわばモデル実験も併行しておこなって行きたいと思っている。もちろんRLH-5がたしかにtakeされないということを確かめておく必要があるが、この株は材料が純系になってからのJAR-1なので色々と好都合である。
:質疑応答:
[高木]イノシトールを要求する細胞の場合、イノシトールの無い培地で4日間までは増殖しているのですね。4日から7日へかけて急に壊れているのは何故でしょうか。
[勝田]細胞のイノシトール消費量が非常に少ないという事ではないでしょうか。ですから培地からイノシトールを除いてしまっても暫くの間はプールで間に合うのでしょう。
[難波]濃度はどの位ですか。
[勝田]この実験では2mg/lです。しかしJTC-16で10mg/lの方がより増殖を高めるというデータが出ています。
[安村]Lの場合、合成培地だとイノシトールを添加した方が、増殖度が高いという結果が出ていますが、これは透析血清にイノシトールが入っているということでしょうか。又イノシトールが無くても増殖するが、あればなおよく増えるというのは矢張りイノシトールが何かやっているのでしょうね。私もイノシトール無しの培地でもコロニーは出来るが、イノシトールを入れた培地と比べると、コロニーサイズの上でずっと劣るというデータを持っています。
[堀川]血清の分劃中にイノシトールがあるかどうかも確かめた方がよいですね。
[山田]今のデータをみていて考えたのですが、イノシトール要求性のJTC-16、RLH-4はシアリダーゼ処理で著明に泳動度がおちる株細胞です。そしてイノシトールを要求しないJTC-15、RLH-3、RLH-5はシアリダーゼ処理では泳動度が殆ど変わりません。何か膜表面に関係がありそうですね。
[安藤]イノシトールはホスホリピドとくっついているわけですから、膜とは関係があるでしょうね。最近は核の中にもあるということが判っています。
[山田]チャージはどうなっていますか。
[安藤]イノシトールそのものはチャージはありませんが、ホスホリピドとついてマイナスチャージになります。
[安村]イノシトールの無い培地で飼うと細胞同士の附着が少なくなるようです。とにかくコロニーサイズが大きくならないのが不思議です。
[勝田]合成培地で簡単に継代出来る株細胞に共通しているのは、イノシトールを要求しないということのようです。RLH-1のような例外もありますが。栄養要求を調べるには透析血清を使ってはだめですね。結果がはっきり出ません。
[安村]合成培地で培養する時、大切なのはイニシアルpHですね。少し低い方が良いと思います。
[堀川]血清には強い緩衝能力がありますからね。
[吉田]RLC-10は樹立して、どの位たってから、実験に使い始めましたか。
[勝田]3年位でしょうか。もうそろそろ新しい株に切り替えようと考えています。
[吉田]株細胞を使うと、発癌剤による悪性化が早いようですね。初代培養ではなかなか悪性化しません。
[難波]確かに初代培養の方が悪性化の時期がおくれます。
[安村]しかし、株細胞を使うと再現性の高い実験をすることが出来ます。初代培養ではなかなかデータが一定になりません。血清の問題などが、大きな原因になっているのかも知れませんね。
[安藤]RLH-5を実験に使う場合、もとの動物−この場合ラッテの−抗原性をすでに持っていないかも知れないという難点があるのではないでしょうか。
[安村]何とか培養条件をもっと良くして、生体内と同じ条件で実験出来るように、細胞を維持したいものですね。
[勝田]肝細胞などは増殖せずに維持出来るのですから材料としては好適な訳ですね。
[梅田]しかし、黒木氏のデータが本当なら、発癌剤処理後にDNA合成をしなければ悪性化が起こらないということで、細胞が増殖せずに静止してしまっては、悪性化が起こらないということになって、都合が悪いですね。
《佐藤報告》
§RLN-251の染色体分析
この系は4NQOの処理群とその対照群について経時的に染色体分析を行っており、その間5、10、16、20、25、31、35、40の各回数処理した時点で動物復元を行っていた。今回はこれらの動物にtakeされた腫瘍の染色体分析の結果をそれぞれの同時点の対照群、処理群、と比較検討したい。(図および表を呈示)
A.対照群と処理群の染色体
対照群と処理群の染色体数の経時的変化を図にしてみると、染色体数では対照群も処理群も大した相違はみられなかった。即ち培養日数が進むに従って、染色体は正二倍体のものが減少し代りに偽二倍体が増えてくる。核型の異常と共に核型の不安定が目立ち、次いで低二倍体にモードが移る。その後低四倍体領域の細胞がみられるようになり、低四倍体と低二倍体の比率は逆転し、低四倍体が優位となってくる。以上のようなpatternが両群に等しく認められた。
異常染色体、特にMarker chromosomeについて調べてみると、対照群ではlarge
telocentric chromosomeが可成の頻度にみられたのに比し、処理群でみられるMarkerは図に示すような種類と発生頻度がみられる。即ち最も頻度の高いものはmedian-sized
dicentric chromosomで、16回処理以後のものでは40%以上に認められた。次いでlarge
metacentric chromosomeが各回のものに全般にわたり低率にみられた。対照群にみられたlarge
telocentric chromosomeは全く見当らなかった。なおこの系以外の既に報告した系に多数認められたlarge
subtelocentricのものは、31回処理のものに10%に認められただけである。
B.腫瘍の染色体
この系の復元動物に発生した腫瘍は腹水型のものが多く、一見再培養が容易で、染色体分析も楽かと思われたが、細胞の異型性が著明で思ったより染色体分析に手間どった。又充実腫瘍のみのものも二三みられたが、非常に堅く、脂肪粒が多く再培養に非常に困難をきわめた。ともかく10、16、20、31及び40回処理のものの復元動物のうち各々一匹づつの計5例の腫瘍の再培養を行い、染色体分析を行うことが出来た。
各細胞は全般にBreakageが多数にみられ、その結果として生じる、Fragment、Minute、Acentric
chromomoseが目立ち、染色体数の算定すら困難をきわめた。又更にTranslocation、triragical乃至はtetraragical
figureもしばしば認められた。特に気付いたことであるが、一つの中期像の中で他の大部分の染色体はintactであるがsingle
chromosomeがくづれたpulverizationのfigureもしばしばみられた。(以上の所見は処理群にも程度こそ軽いが認められている。)
このうち算定の可能な中期像を選び染色体数の分布を5例につきみてみると、2nから6nまで広い分布を示し、3nと4nの間にモードを有していた。
次いでMarker chromosomeについて調べてみると、処理群において半数以上に認められ、そして又この系での4NQOによるspecificなmarkerでないかと期待していたdicentric
chromosomeは、期待に反して、median-sizedのものと、又別にtranslocationにより余分のchromatidが加わってlarge-sizedのものになったものの二種類が10回と40回処理のものにそれぞれ20%、38%に認められただけで、16回及び20回処理のものには全く認められなかった。
これとは反対にlarge metacentric chromosomeのものは処理群のものより全般的に頻度は増えており、40回処理のものでは96%にも達している。次に他の系(既に報告したRLN-E-7、RE-5)において高頻度に認められたlarge
subtelocentric chromosomeは31回処理のものに18%認められたのみであった。外にmarkerとして10回処理のものではsatelliteを伴ったmedian-sized
subtelocentricが52%にも認められた。
以上RLN-251の系における腫瘍の染色体分析の一部を報告しましたが、今後は今回報告しなかったもの及びRLN-251の全般にわたっての染色体変化について報告する予定です。
:質疑応答:
[吉田]染色体の変化についてですが、マーカークロモゾームにあまりとらわれなくても、よいのではないでしょうか。4NQOの処理回数が多くなるにつれて悪性化が進む、そして染色体数のバラツキがひどくなる、そして動物にtakeされるようになる、その頃の染色体数は4倍体が多くなっている、ということで面白いと思います。
[勝田]クローニングしてみる必要がありますね。
[安村]そうですね。
[難波]現在やりつつあります。変異した系からコロニーを拾って復元してみましたが、結果はまだ出ていません。
[勝田]顕微鏡写真をみていると、悪性化したものの形態は2核以上のものが多かったようですね。本当の4倍体ではなくて2核の細胞の核が同時に分裂して4倍体のようになっているという疑いもありますね。
[安村]マーカークロモゾームを拾い出して移植すると、移植された細胞は動物にtakeされるなどということになると面白いのですがね。
[山田]4NQO処理の回数が増えると、細胞個々の悪性度が進むのでしょうか。それとも悪性細胞の集団が増えるのでしょうか。
[勝田]1回だけ4NQOの処理をしてから2群に分け、1群はそのまま培養をつづける、もう1群は何回か4NQO処理を重ねる、そして何カ月か後に動物に復元して両群の腫瘍性を比較してみると、もう少しはっきりするのではないでしょうか。
[堀川]何回も処理していると、耐性=悪性という細胞をセレクションする可能性もありますね。それから、耐性細胞の染色体数の減り方も面白いですね。私の耐性(放射線)細胞では、照射前3倍体のものが耐性を高めるにつれて2倍体までおち、暫くして4倍体に増え、そして又3倍体におちて落ち着いたというのがあります。
[吉田]生体では2倍体が必要最少限なのでしょうね。そして培養細胞では3倍体が多いようですね。
[堀川]生体では2倍体で間に合っていますがin
vitroでは2倍体では生存のために不足なのではないでしょうか。昆虫の培養だともっともっと染色体数が増えてしまいます。
[藤井]培養細胞にリンパ球を入れて、リンパ球の幼若化をみて、培養細胞が変異を起こしたかどうか知ることが出来ませんか。
[梅田]癌患者の細胞を材料にして白血球の幼若化を起こさせ、H3チミジンの取り込み実験をやってみていますが、PHAの場合に比べると数値は1/10位しか出ませんが、何とかデータは出せそうです。
[勝田]しかし培養細胞での悪性化をみたい場合ですと、変異した事はわかっても、悪性化かどうかはわかりませんね。
[堀川]デュフュージョンチャンバーを使って、復元過程を追うことが出来ると、変異した細胞の移植性や悪性度などしらべられるのではないでしょうか。免疫関係では実にうまくデュフュージョンチャンバーを使っています。
[山田]免疫のように1週間単位で勝負のつけられるものはよいけれど、何カ月という長期間の実験ではなかなか難しいと思いますね。
《高木報告》
1.NG-18実験の復元成績
この実験系は1968年6月11日、Wistar newborn
ratの胸腺を培養開始してえられたfibroblastic
cell lineを用いたものである。
培養開始後179日目、18代目の継代後5日目の細胞にNG10μg/ml、acidic
Hanksにとかして2時間、37℃で1回作用せしめ、直ちに洗ってfresh
mediumと交換して培養をつづけた。
NG作用後にはgiant cellsを多く認めたが以後形態的にcontrolと著変なく、growth
rateも作用後2代目よりcontrolと特に変りなかった。
作用後17日目にcontrolおよび処理細胞の200万個を、Wistar
newborn ratのそれぞれ6匹および2匹の皮下に接種したが、5カ月をへた今日いずれもtumorの発生をみない。
さらにNG処理後113日目の、形態的にcontrolと特に変りない16代目の細胞200万個を、同じくWistar
newborn rat6匹の皮下に接種した。接種したratはいずれも毛ばだって発育が悪かったが、controlの細胞を接種した3匹のratはすべて5週以内に死亡、また処理細胞を接種した6匹のratの中4匹も5週以内に死亡した。死因は肺炎で、死亡時tumorの発生はみられなかった。
しかし処理細胞を接種したratの中生残った2匹は、いずれも接種後50日目頃よりtumorの発生を認めた。
2回目の復元実験と殆ど同じ時期に行ったsoft
agarによるcolony formationの実験で、control、処理細胞共、10,000cellsをP-3シャーレにまいたが、6週後controlは2つのシャーレに各21、28のcolonyを生じたのに対し、処理細胞は全くcolonyを生じなかった。この点はさらに検討しなければならない。
この実験もcontrolの細胞を接種したratがすべて死亡しているので、早速追試実験にかかっているが、NG-4の実験でcontrolの細胞は培養開始後394日目でもnewborn
ratにtumorを生じなかったので、ここに用いた細胞がNG-4に用いた細胞と同種のものとすればcontrolがtumorを作る可能性は少いと思う。
NG-18がNG-4とことなる点は、培養開始後可成りたった細胞を用いたこと、NGを2時間しか作用させなかったこと、処理後113日目の形態的にcontrolと変っていない細胞を接種して50日でtumorの発生をみたことなどである。(略図を呈示)
2.No.3 rat tumor再培養の復元実験
月報6905にかいたように再培養細胞100万個を培養開始後93日目に、newborn
ratに皮下接種し6/6にtumorを生じた。現在接種後60日をすぎ巨大な腫瘤になりつつある。なおこの中1匹は60日目に死亡し、1匹は62日目にsacrificeした。割に軟いnecrosisの少いtumorでmetastasisは認められなかった。(再培養のround
cellとepithelial cellのコロニーの顕微鏡写真を呈示)
:質疑応答:
[藤井]対照群の細胞を接種した動物が早い時期に死んでしまうのは何故でしょうか。
[高木]今の所、何故だかわかりません。
[勝田]復元実験の途中で、腫瘍死するには少し早すぎる時期に、原因がわからずに死んでしまった動物は、どう記載すればよいでしょうか。
[吉田]事故死とするより仕方がないでしょうね。
[堀川]胸腺の細胞がそれ以外の細胞より悪性化しやすいということはありませんか。
[高木]胸腺以外の細胞は使っていませんので、わかりません。
[堀川]私の実験では胸腺の細胞が簡単に、短期間に、自然悪性化してしまうのです。しかし、マウスとラッテは違うかも知れませんね。
[高木]勝田班長からNG自身の動態を追うように言われたのですが、NGには特異吸収もないので、アイソトープでも使わないと調べられないので、まだ手がつかずにいます。
《梅田報告》
I.昨年来、DAB、Luteoskyrin、又AAF等をrat
liverのprimary monolayer cellに投与して惹起されるAcute
cytotoxicityを観察してきた。同時に之等はhepatocarcinogenをHeLa細胞に投与し、そのcytotoxicityの観察と更にN-OH-AAFの様な取り扱い易い物質について、その投与によって起るDNA、RNA、蛋白合成能の変化について検討してきた。之等はin
vitro hepatocarcinogenesisの実験の単なる基礎的なもので本来の目的は第一段階としてin
vitro hepatocarcinogenesisをconstantに起し得る系を作り出すことである。
それ故今迄は上の実験に加え、DAB、Luteoskyrin、又AAFを投与して(あるものはcontinuousにあるものはintermittentlyに)長期に培養を続けてきた。途中contaminationなどできれた例もあるが、少くともすべての例で2〜3ケ月位でもluxuriant
cell growthを示さなかった。培養は先細りで結局それ以上の培養を断念せざるを得なかった。
最近ではDAB肝癌が♂に出来易く♀に出来難いことから、今迄の♀♂mixと異り、♂だけから培養をstartしAAFを投与してみたが、培養1ケ月で旺盛なgrowthを認めていない。
ところでcontrolの無処置の培養ではどうか振り返ってみると、subcultureする毎にendothel様の細胞だけになっていつも継代困難であった。最近継代が旨く行った例でも3代目迄liver
cellもgrowthしてくることが認められたがそれ以後growthは遅々としており、subculture出来ない状態である。
この我々の行ってきたrat liverのprimary
monolayer cultureでは明らかにliver cellのmitosisが観察されており、liver
parenchymal cellも増えていることは確かである。しかし、培養が進むにつれて、所謂G0
stageの細胞が増えてくるのでないかという疑問が生じてきた。もしそうだとすると、黒木さんの云う発癌性変化のfixationのためにDNA合成が必要である、という考え方からすると、rat
liverの我々の系では非常に成功し難いものではなかろうか、と云うこのになる。
以上の様なことから我々の系で増生してくる各種細胞についての経時的なcellular
kineticsを追いかける必要が痛感される様になった。考えてみれば、勝田先生も、佐藤先生も、先ずconstantにgrowth可能な細胞を得て、それから発癌実験をstartしている。
II.上のいきずまりを解消したいのが一つの理由、第2に各種物質についての発癌性をin
vitroで早く見出す方法の確立、第3にDAB等のorgan
specificityが高い物質でも、そのproxmate carcinogen(例えばDABのbenzoyloxy誘導体でも)を使えばfibroblastでもtransformし得るのでないか、その証明をしたい、等の理由から、Hamster
embryo cellのtransformationに興味をもった。
N-OH-AAFを投与した時、Hamster embryo cell(5代目のもの)に対する毒性はHeLa細胞に対する濃度と殆ど同じで、10-4乗Mでかなりやられてくる。これを3日間培養後、普通の培地に戻して培養を続けていると、上皮性の大型細胞の出現をみ、細胞質の顆粒出現も特異的であった。
Tryptophan代謝産物について調べてみた所、良く溶解せずsuspensionの形で投与したことになるが、発癌性のないKynurenineでは10-2乗Mでlethal、10-2.5乗Mで軽い増殖阻害を認め、又同じく発癌性のないKynurenic
acidの場合は10-2乗Mでやや増殖阻害があり、10-2.5乗Mではcontrolと変らない。発癌性のある3-Hydroxy
Kynurenine投与では10-2乗Mでlethal、10-2.5乗Mで60〜70%の細胞が障害をうけ、3日後培地交新して培養を続けた所、9日目には明らかなcriss-cross、piling
up等の所見を見出した。
その直後、上記細胞すべてLaboratory引越しの際のincubatorの故障のため、細胞をきって了った。
:質疑応答:
[安藤]3-ハイドロキシ-キヌレニンは正常な代謝系にある物質ではありませんか。
[安村]栄養要求性の方からみて、トリプトファンの要求は大変範囲がせまいようです。ですから正常な代謝系の産物であっても、量が非生理的な量ですと、発癌に関係するのではないかということが考えられます。
[勝田]DABを動物に与えて発癌させる時、♂の方が♀よりも発癌率が高いと云われましたが、馬場氏のデータによると♀の方が発癌の時期がおくれるだけで、長期間の観察での発癌率はほとんど同じだということになっていますよ。
[梅田]私のしらべた所では、DAB発癌は性ホルモンに関係がある、それは発癌第一歩のDAB自身の変化が♀の肝ホモヂネイトより♂の肝ホモヂネイトに添加した場合の方が早く起こるというデータから考えられる、というのがありました。でも動物レベルとは多少ちがいがあるのかも知れませんね。
《安村報告》
☆Soft Agar法(つづき)
これまでモデルとして取扱ってきたAH-7974-TC細胞の系での実験の結果をふまえて、こんごは4NQOによるin
vitro malignancyとsoft agar法による細胞のcolony
formationとの関係を追って行きたい。
1.Cula-TCのLarge colony cellとSmall colony
cellの比較:
Cula-TCは、RLC-10をin vitroで4NQOで処理後、ラットに接種してえられたtumorの再培養系の一つで、これまでCQ-42と記載したことのあるものです。このCula-TCからSoft
Agarでlarge colony由来と、small colony由来の系がとれた。(正確にいえば、Cula-TCから液体培地でrandomにcolonyが2つひろわれQ1、Q2と名付けて継代され、その後Soft
Agarでひろわれたものです。ここではそのうちQ1由来のlarge
colony cellとsmall colony cellが実験に供されました。(結果の表を呈示:接種細胞数1,250ではQ1-Lは平均103コ、Q1-Sは55コ、10,000では両方とも無数のコロニーができた)
colony forming efficiencyではLの方がSより高く、約2倍ありました。できてきたcolonyのsizeはLの方がSより大きいのですが、いずれも2mm以上の径のものは見当りません。判定は4wめ。
同時に行われたCulb-TCの系では10,000/plt.のところでもcolony
formationはみられませんでした。
2.RLC-10細胞とRLC細胞:
上記1.のcontrol実験としてラット肝由来のRLC-10とRLCがsoft
agarにまかれた。前者はJAR-1inbred由来、後者はJAR-2由来(F8のあたりのもので、inbredとはもうしがたいが)です。いずれも100,000/plt.のorderでcolony
formationはみられなかった。
3.ハムスター胎児細胞:
Control実験として昨年来継代されてきているハムスター胎児細胞の8代めをつかった実験でも90,000/plt.のorderでcolony
formationはなかった。
☆AH-7974TC細胞の復元
1.C1-ss細胞、C3-s細胞、C6-35細胞間の比較:
月報6904の3で行なわれたSoft Agarによるcolony
formationの比較と同時に復元実験がなされた。つまりtumorigenicityのtitrationをやってみた。C1、C3、C6の系を0.05ml細胞浮遊液(PBS中に)/newborn
ratに接種、細胞数は650,000から10倍稀釋で650まで脳内接種では、はっきりと差が見出せなかった。(結果表を呈示)
☆Soft agar法(つづき)
(大学紛争のあおりをくらって、データをもちあるきながらも報告を書くに至らず、前号の月報6905にはシメキリに間に合わず、今月号に前号の分ものせてもらいました)。前号分のSoft
agar法の1.にのべたQ1につづいて、Q2の系の結果から始めます。
1.Cula-TC-Q2A細胞:
Q2AのAはSoft agarでひろったcolony由来で假にAgarのAをつけてあります。現在では以下の実験からえられたlarge
colony cellとsmall coloy cellの2系が分けられていますが、まだ、その2系についてのdissociation
rateの仕事は進行中です。(結果は表を呈示)Cula-TC-Q1の2倍のefficiencyでした。
2.Culb-TC細胞:
前号分のSoft agarの1で1行書きたしました時はこのCulb-TCは10,000/plt.の接種でcolony
formationがみられませんでした。今回は小さいcolonyながら(表を呈示)、接種数1,250/plt.で4週後の判定で4コ、10,000/pltなら44コと、とにかくcolonyをつくらせることができるようになりました。しかしefficiencyははるかにCula-TCの系におとることがわかりました。このCulb-TCはこれまでにCQ-40とも記載してきたものです。
☆AH-7974-TC細胞の復元(つづき)、(付)Cula-TCの復元.
1.C1SS細胞とC1LL細胞間の比較:
Small colony cellとlarge colony cellとの間にtumorigenicityの差があるかを調べてみました。(表を呈示)期待に反してあまりよい結果ではありません。いちおう差がはっきりしません。次回にはもっと接種細胞数を減らして実験をしたいと思います。細胞数の少いところでは差がでるかもしれません。
2.Cula-TC-Q2Aの復元:
1,000個で1/3の率で、tumorigenicityはかなり高いと考えられる。
3.C3-L細胞とC1-LL細胞間の比較:
(表を呈示)この結果をこれまでの復元実験の結果とくらべてみるとC3-Lはどうやらtumorigenicityが他の系より低いようにみえる。C3-Sよりも低いように出たのがどうやらぐあいがわるい。期待したところはLがSより高くあってほしかった。SとLのtumorigenicityの差をいまいちど平行して実験する必要があるかもしれない。
:質疑応答:
[安村]JTC-16のクローンの形態についての結論は、Lの方は細胞も大きくて核小体が多い。Sは細胞の大きさも小さくて核小体の数は少ないが、核小体1コの大きさはLより大きいということです。
[何人かが一度に]そうでしょうか。どうも少し混じっている感じのようだが・・・ガヤガヤガヤ。
[堀川]初めの着想では、Lの方が悪性を担っていると考えておられたようでしたが、動物への復元成績ははっきりそうだとは言えないようですね。
[安村]そうなのです。どちらの系でも600コの細胞接種で、動物が腫瘍死してしまいます。或いはもっと少ない数だと差が出るのかも知れませんが。
[堀川]完全に正常な、つまり悪性化していない細胞からLとSを拾って復元してみればどうでしょうか。
[安村]悪性化していない系からでは、軟寒天内にコロニーを作らせられないのです。
[勝田]LとSそれぞれの系の増殖度もしらべてみて、細胞が大きいのが本当か、或いは増殖が早くて大きくなるのか、結論を出す必要がありますね。
[梅田]軟寒天内で拾ったコロニーは、大きなコロニーでも小さなコロニーでも腫瘍性があるということですと、寒天では拾えない細胞を、何か別の方法でクローニングして、寒天でコロニーを作らない細胞には腫瘍性がないということを確認しておく必要もありますね。
[山田]これらのクローンは細胞1コから増えているのですか。
[安村]何回かクローニングを繰り返していますから、計算上では1コから増えていることになっています。それから軟寒天の中で増殖できるということが、腫瘍性と大体平行していると考えて、実験を初めているわけですが・・・。
[高木]腫瘍性の度合いとコロニーを作る%を比較するには、復元部位はどこがよいでしょうか。
[安村]部位は何れにしてもタイトレーションしなくてはなりません。
《山田報告》
JTC-16(AH-7974TC)のクローン5株5系について、その電気泳動度を検索しました。(結果のヒストグラムを呈示)通常のごとく、未処理細胞M/10ヴェロナール緩衝液(pH7.0)に浮かせて測定した値と、30単位/0.1ml
cell pack・37℃・30分のシアリダーゼ処理細胞の値の図です。
いづれのクローン株も予想に反し、その電気泳動値は、細胞によりかなりのばらつきがあり、クローン化しても、個々の細胞の表面の性質は直ちにばらつくものと考へました。しかし株により、その平均電気泳動値にはかなり差があり、しかもシアリダーゼ処理による泳動度の低下は株により差が著しい様です。この成績と、各株の生物学的性質に関係があると面白いのですが、残念ながら生物学的性質も不安定で比較が出来ません。
Cula、Culb株について同様にクローン株化して居るさうですから、その電気泳動度と生物学的性質の比較に期待したいと思います。同株は細胞電気泳動度からみても比較的ばらつきが少いので、そのクローン株も安定して居るのでないかと期待して居ます。
:質疑応答:
[難波]膜の表面積が泳動度に関係しませんか。
[山田]泳動度はチャージの密度に比例するのでtotalのチャージには関係しません。
[堀川]核だけにして泳動度を比較できませんか。
[山田]核だけにするために、いろいろ処理しなくてはなりませんが、その処理の仕方によって結果が違ってしまい、きちんとしたデータにならないのです。
[吉田]染色体にすれば、差がでるのではないでしょうか。
[堀川]それは核よりも難しいのではないでしょうか。再現性がないという意味で。
[山田]RLT-1とCula-TCとは寒天内でのPEはどう違いますか。
[安村]Cula-TCの方がずっとPEが高くコロニーサイズも大きいです。
[堀川]寒天内のコロニーはどうやって拾いますか。
[安村]簡単です。毛細管ピペットでコロニーを吸い取り、液体培地を入れた試験管の中で、コロニーと一緒に吸いとられた寒天をくずして、液体培地の中でコロニーをsuspensionにするというわけです。
[堀川]細菌の手法の様にレプリカは出来ないでしょうか。
[安村]とても難しいですね。
《安藤報告》
4NQOの細胞DNAに対する障害およびその修復について(前号よりの続き)
(i)4NQOの濃度変化のDNA鎖切断に対する影響
月報No.6904にひきつづき、L・P3、RLH-5・P3細胞に対して4NQOの濃度を1x10-6乗M、3.3x10-6乗M、1x10-5乗Mと三段階かえて、37℃、30分ずつ処理をしDNA鎖切断効果を調べた。
先ずアルカリ性蔗糖勾配遠心法により、single
strand breakを調べた結果(図を呈示)、1x10-6乗Mでは両種細胞ともそれ程分解が起るとはいえないが、3.3x10-6乗Mになると明らかに切断が起り始め、1x10-5乗Mでは相当激しい切断が起っている。そしてその切断の程度は両種細胞において殆ど同じであった。この事実は少くとも、このDNA鎖切断の程度というcriterionで見るかぎり、両種細胞の間には感受性の差はないように思われる。
次にDNAの二重鎖の同時切断に対する4NQO濃度変化の影響を調べた。細胞はRLH-5・P3だけである。結果は(図を呈示)、二重鎖の一方のみの切断の場合と同じく、3.3x10-6乗Mで二重鎖同時切断がはっきり観察されるようになり、1x10-5乗Mでは、分子量10の7乗オーダーにまで下ってしまった(ちなみに切断以前のDNAの分子量は2x10の10乗ダルトン)。厳密な分子量の計算は後でまとめる予定。
(ii)L・P3DNAに4NQOにより生じた二重鎖同時切断は修復されるか
月報No.6904に於て同設問を解く実験を行い、解答として修復されないと結論したが、その結論は4時間修復時間の限りでの結論であった。今回は24時間の修復時間を与えたらどうなるかをテストした。結果は(図を呈示)4時間の回復時間でははっきりしなかった修復が24時間後には極めて明瞭に起っていることが示された。この事実はsingle
strand breakの修復に要する時間(〜3時間)は比較的短い事から考えると、やはり修復可能とはいえ、二重鎖に同時に切断が入った場合には、修復は一段と困なんのようだ。核のクロマチンの中でDNAの二重鎖が切れてしまえば、おそらく、クロマチンの構造がかなり変ってしまう事が想像される。したがってDNAの大きさとして元の大きさに戻ったとしてもとうてい元の正常なDNAに戻っている可能性は極めて少いであろう。
現在私の使っている二重鎖切断の検出に使っている中性蔗糖密度勾配遠心法は寺島さん(放医研)の原法(BBA
174(1969)309-314)であるが、寺島氏自身蛋白のcontaminationがどれ程あるか調べておられないので、自分で調べてみた。
方法はH3-チミジンでDNAを、C14-リジンで蛋白質をラベルし、適当な細胞数、適当なH3/C14比率となるように調整したサンプルを中性密度勾配遠心で短時間遠心し、得られたH3-DNAのピークにC14がどの程度入っているかを測定した。
結果は(図を呈示)C14カウントはDNAピークには殆ど入って来ない。したがって扱っているものは確かにフリーのDNAであるとみてよい事になる。
(iii)4NQOにより切断されたDNA分子は、どの程度の分子サイズか直線的密度勾配遠心を行う時にReference
markerを同時に加えておくと、その位置と未知なサイズのDNAの位置関係から、分子量の計算が可能である。すなわち、Dをメニスカスからの距離、Mを分子量とすると、次の関係が成立する。D2/D1=(M2/M1)0.35・・・中性密度勾配の場合。D2/D1=(M2/M1)0.38・・・アルカリ性密度勾配の場合。
そこでλファージDNAの位置から4NQO、10-5乗M、30分処理直後および、4時間回復後のDNAの大きさを計算してみる。又single
strandにした時の分子量も計算してみる。4NQ0、10-5乗M、30分処理後、Recovery
0h、single stranded DNAとして1.0x10の7乗−5x10の8乗dalton、double
stranded DNAとして9.4x10の7乗dalton。Recovery
4h、single strandedDNAとして>10の9乗、doubule
stranded DNAとして9.4X10の8乗daltonとなった。
二重鎖DNAとしては元の正常DNAの分子(2x10の10乗dalton)よりも約200分の1小さくなっている。又一本鎖DNAとしては相当なheterogeneityがあるが、大きなピークとしては二つあり、2.7x10の7乗及び1.8x10の8乗であった。
次に問題になるのは、これ等のDNAの切断がどこで起るかと云う事すなわち特定の塩基の場所で切れたのか、又その場所は4NQOの結合場所とどう云う関係にあるのかと云う事であろう。この点に関してはただ定性的に「恐らく4NQOの結合した位置でDNAの切断が起っているであろう」と云うに止める。何故ならば次の表(表を呈示)から読みとれるDNA分子当りの結合4NQOの数と、DNAの切断数がほぼ見合っているからである。すなわち約300分子の4NQO/1分子のDNA。
:質疑応答:
[勝田]DNAの切れた端が何なのか、調べる方法はないでしょうか。それから、どのベースに4NQOが結合しているかも調べてみて若し一致したら面白いですね。
[安藤]方法はあると思います。やってみます。
[堀川]二重鎖が24hr.で回復するということを、どう考えておられますか。
[安藤]さぁ、まだどういうことかわかりません。single
strandより時間はかかりますが、回復することは確かです。
[勝田]unscheduleのDNA合成は切れた所だけを修復するわけですね。だとすると4NQOを処理したあと、チミジンやウリジン等、それぞれラベルしたものを順に入れて、取り込みをみればベースのどこがとんでDNAが切れたのかが解るのではないでしょうか。
[堀川]DNAの切れ方にもいろいろ有りますね。4NQOの場合はすぐ切れますが、UV照射の場合など、6時間もかかります。
[勝田]DNAレベルで4NQOを作用させたデータはありませんか。
[堀川]杉村氏がやっていますね。DNAレベルでは4NQOはDNAを切りません。切るのは4HAQOだということです。ですから私達の実験の場合にも与えたのは4NQOでも実際にDNAに作用しているのは4HAQOに変ったものだと思われます。
[安藤]腹水細胞の実験でも、4NQOを与えて細胞内にむすびついているのは4HAQOだというデータがありますね。ところで染色体はどういう具合に分裂するのですか。
☆☆そこで“染色体の複製の仕方、又分裂について”堀川班員から講義がありました。途中から吉田先生が救援されました。
《堀川報告》
4-NQOによる培養細胞内DNAのSingle strand
scissionsの誘導ならびにその再結合については従来、Alkaline
sucrose gradient法ならびにAutoradiographyには4-NQO処理後の細胞のunscheduled
DNA合成の検索などから証明してきた。今回は4-HAQO処理によるDNAのsingle
strand scissionの誘起とその再結合について報告する。(図を呈示)種々の濃度の4-HAQOでEhrlich細胞を30分間処理した直後のDNAの一本鎖の切断をみたものであるが、4-HAQOでは1x10-4乗Mの濃度で顕著な切断がおきる。4-NQOの場合は1x10-5乗Mで同程度の切断がおきたわけで、4-HAQOは4-NQOの約10倍の濃度で切断を起すことがわかる。
このことはcolony形成能あるいはChromosomalおよびChromatide
aberrationなどでみた4-NQOおよび4-HAQOの細胞毒性の結果とよく一致する。
また1x10-4乗M 4-HAQOで30分間処理した細胞を37℃で種々の時間正常培地中でincubateした後のDNAの再結合の様子を図に示す。incubation時間に伴って高分子のDNAにもどって行くことがわかる。
またPS細胞、Ehrlich細胞およびL細胞を10-5乗Mまたは10-4乗M
4-HAQOで30分間処理した直後にAutoradiograph法でみたUnscheduled
DNA合成の検索をした(表を呈示)。10-5乗M 4-HAQOで処理した後には3種の細胞ともにLight
labelled cellsのpercentが増加してunscheduled
DNA合成が起きていることがわかる。一方10-4乗Mで処理した場合にもLight
labelled cellsのpercentは増加するが、これはHeavy
labelled cellsのpercentが減少していることから、正常な細胞DNA合成が4-HAQOによって抑制されたことによるもので、真のunscheduled
DNA合成をみているとは言えない。
然も10-4乗M 4-HAQO処理による正常DNA合成のinhibitionはL細胞で最も顕著であり、PS細胞のそれが4-HAQOに対して最も抵抗性であることがわかる。
これらの結果は従来調べて来たcolony形成能でみた3種の細胞の4-NQOoyobi4-HAQOに対する感受性の差異とよく一致する。
いづれにしても4-NQO、4-HAQO共に細胞内DNAのsingle
strand scissionsをinduceする。しかもそのscissionsは細胞内で再結合されることがわかった。然しここで問題になるのは、4-NQOが細胞内で直接DNAのsingle
strand scissionsを誘起するのか、あるいは細胞内に取り込まれた4-NQOが4-HAQOにreduceされてからこうしたDNA
scissionsをinduceするのかということで、このことについて現在検討中である。
【勝田班月報:6907:4NQO処理L・P3DNAはTURNOVERしているか】
《勝田報告》
4NQOによるラッテ肝細胞の培養内悪性化:
昨年末より山田班員とも連絡をとりながら、4NQO処理後の肝細胞の変化を、形態、動態、染色体、細胞電気泳動、復元接種その他の面から並行的にしらべる実験をはじめ、これまで2系列の実験をおこなっているので、顕微鏡映画を供覧すると共に、その経過について説明する。実験番号はCQ#60とCQ#63である。株はRLC-10。
I)CQ#60:1968〜1969年:
11-29:4NQO-3x10-6乗M、30分処理。
2-7(70日):細胞電気泳動。
2-26(89日):細胞電気泳動。
3-1(92日):復元接種(JAR-1、F31、生後1日、I.P.、500万/rat:→6-4(95日)に1/2死)。
3-5(96日):染色体分析。
☆1968-11-29〜1969-3-10顕微鏡映画撮影。
4-23(145日):細胞電気泳動(泳動値にばらつきが現われ、シアリダーゼ処理により値が落ちる傾向を示しはじめた)。
4-23(146日):一部の培養を4NQOで再処理(復元の結果がまだ判らなかったため)。
5-26(178日:細胞電気泳動(値に非常にバラツキが多く、且、シアリダーゼ処理で低下する)。
6-22(205日):染色体標本作製。
6-25(208日):細胞電気泳動。
6-26(209日):復元接種試験(JAR-1xJAR-2、F1、新生児I.P.、400万/rat、2匹)。
7-5(218日):現在、観察中。
II)CQ#63:1969年:
3-4:4NQO処理(同上)、細胞電気泳動。
4-23(50日):細胞電気泳動。
4-24(51日):4NQO再処理。
5-26(83日):細胞電気泳動。
6-6(94日):復元接種(JAR-1♂xJAR-2♀、F1、生後4日、500万/rat、I.P.、2匹)
6-22(110日):染色体標本作製。
☆4-26〜6-23顕微鏡映画撮影。
6-25(113日)細胞電気泳動。
7-5(123日):現在観察中。
III)顕微鏡映画の所見
(a)CQ#60:
1968-11-29処理直後より12-5までの間に撮影視野内の細胞は変性に陥り、全部死んでしまった。12-5より別視野では、すでに異常分裂も見られるようになり、しだいに細胞分裂が多くなった。12-11よりのカットでは、小型細胞と大型細胞の混在がみられ、小型細胞はその後しだいに細胞質を拡げて行った。異常分裂は依然認められた。12-23ごろより細胞間の密着性の低下が見られるようになり、小型細胞がケイレン状に動いていた。12-29よりは細胞の歩行性も若干みられ、細胞間の密着性ははっきり低下していた。1969-1-12よりのカットでも、小型細胞と大型細胞が混在していたが、小型の方に分裂が多かった。1-22にいたっても、細胞は一杯のcell
sheetを作りながらpiling upは認められなかった。これらの所見は3-10(映画撮影をやめるまで)変らなかった。
(b)CQ#63:
この系は、山田班員の指摘するように、CQ#60とは電気泳動像でかなり異なる所見を示し、一旦悪性細胞のパターンを示しながら、また正常型に戻ってしまった系である。映画による動態観察でもCQ#60とはかなり異なる所見が得られた。
1969-4-26処理直後より、細胞の変性が現われ、しだいに細胞が死んで行った。5-6より異常分裂も見られ、歩行性はほとんど見られず、5-22よりのカットでは細胞集団が拡がって行くにもかかわらず、colonyから細胞が脱出しない(集団性の強さ?)状況がみられた。6-17〜23に至っても同様の所見で、形態的に肝細胞に酷似しており、分裂もかなり認められたが、歩行性はほとんど見られなかった。
:質疑応答:
[藤井]映画をみて考えたのですが、4NQOの処理をされた細胞のあの動きは悪性化した細胞と悪性化していない細胞とが混合しているために、それらが反発しあって起る動きだという風にもとれますね。
[山田]動きが非常に活発であったCQ60は電気泳動的には非常に悪性です。
[吉田]悪性化をmobilityの面からみようとするのは面白いみかたですね。4NQO処理をしていない細胞ではこういう動きは起こりませんか。
[勝田]起こりません。
[堀川]追い打ちをかけるという考え方も面白いですね。追い打ちが、すでに発癌剤処理によって悪性化した細胞の中のあるものを更に変異させるのでしょうか。それとも、その中の悪性のものをselectしてゆくのでしょうか。動物への復元実験をして、takeされるまでの期間とtakeされる率とで悪性度を測るとして、どう違ってくるか知りたいですね。
[山田]しかし動物へ復元する時は、大量の細胞を接種するので接種された細胞の中の悪性細胞の量が増している場合と、個々の細胞の悪性度が強くなっている場合との判定がつかないでしょうね。
[勝田]薬剤処理後の個々の細胞の運命と、大量の細胞を集団としてみたDNAレベルでの分析とをもっと結び合わせてみたいですね。
[安藤]L・P3の実験で1x10-6乗MではDNAが切れないが、3.3x10-6乗Mの処理ではDNAで切れてしまう。そしてRLC-10の実験では、やはり3.3x10-6乗Mで悪性化した、ということを考え合わせると4NQOでは3.3x10-6乗Mという濃度に何か意味があるように思います。
[難波]岡山での実験では1x10-6乗Mで処理していますが、1回ではだめで、最少限5回は処理しなければ悪性化しません。
[堀川]4NQOの場合、criticalな濃度は細胞数との関係が重要ですね。それも単に細胞数でなく、細胞密度が非常に問題です。
[堀川]4NQOの実験を進めてゆくと、どうも発癌に直接関係のある物質は4NQOでも4HAQOでもなく、その先のもののようですね。
[黒木]直接働いているのは、アゾ結合した物質だというデータを、遠藤さんが出していますね。
《山田報告》
先月に引続き4NQO(3.3x10-6乗M、1回30分)に接触させた後のラット肝細胞(RLC-10)の変化を検索しました。今回はこれまで報告した分も併せて成績を示し、現時点での発癌に伴う変化についての考へをまとめてみました。(実験ごとにまとめた図を呈示)
4NQOに接触させた直後の変化を二系統の肝細胞CQ62、CQ63についての検索は、接触後4時間では細胞の泳動度に変化がないか、或いはむしろ増加しますが、シアリダーゼ処理によりいづれもかなり泳動度は低下します。(これはシアリダーゼの酵素作用と云うより4NQOの直接障害により細胞表面に変化が生じて居るためと考へます。)
接触翌日より泳動度は漸次低下し5日目になお低下の傾向を示すCQ62、そしてCQ63は4日目からむしろ増加回復している所見をみました。
後者では、4NQOの直接影響がより少く、より早くその表面の変化が回復し初めてゐると考へました。
回復しつつある5日目のCQ63のシアリダーゼ感受性が、なお回復して居ない5日目のCQ62に比較して大きいことには意味があるかもしれません。しかし5日目までの変化には悪性化を思わせる所見は全くありません。
このCQ63について、引続き経時的に検索しました。
CQ62は5日目までで打切りましたが、それ以前に同一条件で4NQOに接触させたCQ60の系統についてみますと、まず対象のRLC-10は、一回だけシアリダーゼ処理により著しく泳動度が増加し、正常肝細胞を示しましたが、他はすべて、この処理により全く変化せず、また個々の細胞の泳動度にばらつきの程度が比較的少く、悪性化の泳動度のパターンは全く示して居ません。
これに対し4NQO処理群では著明な変化がみられました。まず70日目の細胞ですが、シアリダーゼ処理により泳動度が0.159μ/sec./V/cm低下して居ますが−この成績は測定した細胞の数が少くて必ずしも正しい値が得られて居るか自信がなかったので、以前には報告しなかったものです。従って直ちに細胞を増してもらい90日目に再び検索したわけです。所がこの時はシアリダーゼ処理により泳動度が僅かに増加する所見を得ましたので、この測定時にはいまだ悪性化せずとの結論を下したわけです。(この時点でラットに復元したらtakeされたとの事です。)
しかし次の145日目の測定結果では明らかに悪性型の泳動度のパターンを示す様になりました。シアリダーゼ処理により泳動度が低下すると共に個々の細胞の泳動値にばらつきが強くなったのですが、これが179日目になると更に典型的となり、211日目にはいままで、in
vitroに於いて4NQOで発癌した細胞にみられる様な悪性型の泳動度のパターンを示す様になりました。
所が145日目に、この細胞の一部にもう一度4NQOを同一条件で接触させた系統の細胞は、179日目の検索結果ではシアリダーゼに対する感受性が一回接触した細胞より低くなりました。しかし、211日目になると、両者の成績は同様になって来ましたが、依然として2回4NQO接触細胞の方が、泳動度のばらつきが少ないと云う結果になりました。4NQOの2回目の処理が悪性化細胞にSelectiveに働いたと解釈したい所です。
これに対してCQ63の態度はかなり違います。50日目に既にシアリダーゼ処理により0.162μ/sec./v/cmの低下をみましたが、この時の対象RLC-10も0.077μ/sec./V/cm低下して居ますので、その意味づけに迷って居ました。
しかも84日目にも同様な変化を認めたので一応悪性化したものと解釈しましたが、113日目の細胞はシアリダーゼ処理により泳動度の低下が少なくなり、その時の対象細胞はCQ63の対象と殆んど同様ですので、悪性化した細胞群の細胞構成に変化を生じたのでないかと推定してみました。
50日目の細胞の一部に再び2回目の4NQOを同一条件で接触させた像には、このCQ63の細胞のシアリダーゼ感受性は全くなくなり、それは113日目まで依然として反応しません。この解釈にもSelectionの考へを導入せざるを得ません。
これらのCQ60、CQ63の細胞は、これまての変化の途上で幾回かラットに復元したとのことですので、その結果を待ちたいと思います。
現時点での考へは「4NQOにより少数細胞が癌化した後に順調に増殖して非癌細胞を駆逐したのがCQ60であり、また発癌した少数の細胞が非癌化細胞の増殖により増殖を抑へられた(或いは現象した)場合がCQ63であり、また4NQOをくりかへして與へると、かへって癌化細胞を減少させる可能性がある」と云う推定を下しました。盲想(?)かも知れません。
これまでの経験では、現在の条件による4NQOのラット肝細胞の癌化による細胞表面の変化は50日目〜150日目位に起こると想像されますので、CQ63はこれから烈しい変化が起こるかもしれません。
:質疑応答:
[安村]私の方でも、4NQOで1回だけ処理をした細胞について軟寒天内でのコロニー形成能の変化を経時的に調べる予定でいます。
[勝田]一つの群の中から電気泳動度の早いものとおそいものとを、それぞれ集めてシアリダーゼ処理による泳動度のちがいをみてみる必要がありますね。
[堀川]フィコールのグラディエント法を利用して細胞を分別し、それぞれの分劃について泳動度をしらべてみるという手もありますね。それから4NQO処理の追い打ちをかけると、泳動度からみるとかえって処理前のものに近くなっているようなデータですが、これは耐性ということと関係があるでしょうか。4NQO処理回数が増すに従って細胞の4NQOに対する耐性は高まりますか。
[黒木]多少高くなるようですが、あまりはっきりした結果を得ていません。
[堀川]株細胞を使えば、クローニングをして耐性+と−の系をとり、それぞれの変異率をしらべて、耐性と変異との関連を知ることが出来るのではないでしょうか。
[難波]ハイドロカーボンを使っての実験では耐性+の細胞と−の細胞とでは変異率に差はないというデータが出ています。
[堀川]とすると追い打ちはランダムセレクションということでしょうか。
[山田]そんな感じですね。しかし、悪性度が直接加算されてゆくのか、セレクションされて強くなってゆくのかは、究明しなくてはならない問題だと思います。
[黒木]よほど計画的にやらなくては結果が出ないでしょうね。
電気泳動度測定の技術的なことについてですが、計数20コでは数が少なすぎませんか。せめて100コ位にしては・・・。
[山田]それは一応基礎実験でデータをとってあります。20コと100コでは全く同じ結果が出ます。万という単位ででも測定すればもっと何かわかってくるかも知れませんが、労力的にとても無理です。
[勝田]泳動度の違いと染色体数の違いは比較出来ないでしょうか。
[吉田]それをみるには、矢張り泳動度の違いによって、細胞を分別出来なくてはなりませんね。
[山田]エールリッヒの腹水細胞については、数値が細胞の大きさに比例するというデータが出ていますが、大きさには全く影響されない系もあります。
《安藤報告》
I.4NQO処理L・P3細胞DNAはTURNOVERしているか:
月報No.6905、6906で報告したように、L・P3、RLH-5・P3いずれの細胞に於ても4NQO
10-5乗M、30分処理後少くとも24時間以内では細胞当りの高分子DNAの絶対量は不変である。しかしながらDNAの分子鎖切断が起り分子量としては〜1/100程度に切れ、それが又4NQO除去により殆ど元の分子量に迄修復されるという、高分子DNAレベルでの変化が見出されたわけである。
以上の実験で一つの陥し穴があるのは、次の可能性を否定していない事である。すなわちDNAの分子鎖切断を調べた実験に於て、H3-TdRでDNAをラベルし、そのcountが酸可溶性となる事なく高分子DNA内に留っているのは、見かけ上だけの現象であり、実はH3-TdRのカウントは低分子になるがそれが直ちに次のDNA合成に速やかに再利用されているために或時間的な断面をとらえた場合、それが常に高分子DNAとして存在しているように見えるのではないか。すなわちTurnoverしているのではないかという事である。
この可能性をチェックするためには、4NQO処理、回復実験を行う際に大量のcold
trap、すなわちラベルのないThymidineを培地中に与え、もしラベルのチミジンあるいはチミジル酸が分解により生じて来ても、それが新たなDNA合成に再利用される方を止めてしまえばよい。すなわち大量のチミジン存在下にprelabeledDNAのカウントが低くなればTurnover+、チミジンがあってもなおカウントが落ちなければTurnover−と判定すれば良い。結果は(図を呈示)、殆ど一定値を保っていた。すなわちTurnover(−)であった。
II.BUdR(ブロムデオキシウリジン)置換L・P3細胞のDNA合成能:-4NQO処理L・P3細胞がどの程度Repair合成を行うか:
UV照射されたHeLa細胞は照射後、DNAのRepair合成を行う事が知られている(Painter等)。4NQO処理L・P3細胞においてはどの程度のRepair合成があるだろうか。これを調べるために先ず予備実験としてBU置換L・P3細胞を4NQO処理をした場合、どれ程のH3-チミジンのDNA中へのとりこみがあるかを見た。
先ずBU置換の方法は、二日(48時間)後に丁度フルシートになる程の細胞(短試)にBUdRを27μg/mlに加え、48時間incubateする。後4NQO、10-5乗Mで30分処理を行い、薬剤を洗去後、培地を2ml加えさらにH3-チミジンを0.5μc/mlとなるように加える。37℃、5時間、24時間後に短試中の全細胞をあつめH3-DNAを測定した。
(表を呈示)その結果から云える事は、先ずBU置換細胞はコントロール細胞と同程度のDNA合成能を持っている。第2に4NQO処理によりDNA合成能がそれ程低下しない。最後に50〜60万個の細胞当り60,000cpmのDNA合成があれば、更に次のステップとしてこの合成DNAの内どれ程がRepair合成であるかをCacl密度平衡遠心法で調べるに充分量である。この分析は目下進行中である。
:質疑応答:
[勝田]4NQO処理によるDNAのこわれ方がどうもきれいすぎるように思うのですがね。こわれたものが、殆ど一つのピークへ集まるというのが不思議に思えるのです。何か方法に問題があるのではありませんか。
[吉田]4NQOがDNAの或る場所を特異的に切るということではありませんか。
[勝田]そう考えたい所です。しかし、あんまり話がウマスギル時は少し警戒しなくてはね。
[吉田]染色体レベルではノンランダム、つまり特定の場所を切ります。
[安藤]それは大変有難い裏づけになります。
[勝田]処理後0時間と24時間との細胞数は同じ出酢か。映画でみていると、10-5乗Mの処理では細胞がずい分死んでしまうのですが・・・。
[安藤]この実験では24時間後の細胞は殆ど生きていました。
[堀川]X線や紫外線の照射の場合は、DNAレベルでシングルとダブルの切り方から色々解析が出来るのですが、どうも4NQOの切り方には不可解なところがあって、解析がむつかしいですね。
[梅田]G.C、.G.C.の多い所にカットが起こるのではないでしょうか。
[堀川]その考え方も面白いと思いますが、その場合はシングルのカットもユニフォームになるのではないでしょうか。
[勝田]とにかく切られたDNAの末端をしらべてみることが必要ですね。
[安藤]それは予定しています。
[勝田]それから処理後、0時間と24時間のDNAのDNAレベルでの質的な違いを、DNAのhybridizationで調べてみられませんか。
[堀川]hybridizationのような方法では、とても差は出ないと思います。それより取り込みだけでなく、酸可溶性分劃への放出も調べてみるべきではないかと思いますが。
[勝田]しかし4NQO処理によって死ぬ細胞が少しでもあると、放出でなく、細胞の崩壊によるものが酸可溶性分劃へ出てくることになりますよ。
[堀川]それは困ります。24時間で死ぬ細胞が全く無いということを確かめておかねばなりません。
[勝田]BUdRで片方のDNAシングルストランドだけを重くするというやり方ですと、BUdRと4NQOの相互作用ということも考えておかなくてはいけないと思います。
[堀川]両方ともダブルストランドをラベルする方がきれいにデータが出るように思いますが。この方法ではリペアがシングルであるかダブルであるかがわかりませんね。
[安藤]それを調べるのは次の問題だと考えています。
[難波]4NQOで変異した細胞と処理前の細胞との間に4NQO処理によるDNAの切れ方に違いがあるでしょうか。
[堀川]それは大きな問題だと思います。耐性獲得の問題が修復機構に関係があるのか、或いは毒性物質の解毒作用に関係があるのかの解明に近づけますね。
[安村]Tumorを持っている生体から採った細胞と、持っていない生体からの細胞とを比較すると、担癌生体からの細胞の方が薬剤による変異が早く起こるというデータがあります。それからラウスウィルスで悪性化した細胞は変異するとすぐウィルス産生をやめてしまうが、4NQOで処理しておいて、ラウスをかけると細胞が変異した後も長くウィルス産生がつづくというデータも出ています。
《難波報告》
◇N-1.従来4NQOを使用して培養されたラット細胞の発癌を報告して来たが、4NQOが
1.真に細胞の癌化の変異剤として働いたか
2.培養内に本来混在する、又は自然に生じた癌細胞の選択的増殖を許すように作用したのか
3.或は4NQOが細胞の増殖を誘導し、その結果、細胞癌化がおこるのか
4.もし3の事実が確かとすれば、細胞の増殖と癌化とは如何なる関係にあるのか
と云った問題については直接証明がなされていなかった。そこで本年の私の研究はクローン化された細胞を使用して上記の問題を検討する予定である。クローン化には2種類の細胞を使用する予定で目下仕事は進行中である。2種類の細胞は(1)ラッ皮下より培養化される繊維芽細胞及び(2)ラット肝より得られる上皮性の細胞である。本月報では(1)の細胞について報告する。
◇N-2.Plating efficiency of rat fibroblasts
in the primary and the first subculture.
新生児ラットの皮下組織をTrypsinにて処理し10〜100コの細胞を60mmPetri-dish(1実験に5枚)に植込んだ。培地は20%BS+Eagle
MEMを使用した。Exp.1では初代で1,000コ細胞をまいたが2週間後にconfluentになったので、この細胞を使用してPEを出した。このExp.1の結果から、初代細胞のまき込みは、10〜100コの細胞で十分であることが判ったので、Exp.2、Exp.3では細胞数を10〜100コにした。その結果初代でも十分高いPEが得られた(63、72%)ので、初代よりクローン化した細胞を使用して発癌実験を開始したいと考えている。
◇N-3.培養日数の浅いラット繊維芽細胞を使用して4NQOの濃度を検討
N-2の述べたExp.1の細胞(クローン化されていないもの)を使用した。細胞は培養日数29日4代のものである。4NQOは20%BS+Eagle
MEMの培地中に終濃度10-6乗M、10-5.5乗M、10-5乗Mに溶き30分間投与した。
4NQOの処理後は、正常培地にもどして2日目、4日目の生存細胞数を算えた。その結果、(図を呈示)4NQOは10-6乗M〜10-5.5乗Mの濃度で投与出来るのではないかと考えられる。10-5乗Mでは2日後に生存細胞は認められなかった。従って、N-2.のExp.4からクローン化された細胞を使用して4NQOの発癌実験を開始する予定である。
《佐藤報告》
◇RLN-251の染色体分析(そのII)
前回の月報にて大部分の結果について報告しましたが、今回はx25、x40回処理のデータを追加し、この系の染色体変化について全般的な検討を加えた。
そもそもRLN251系を用いた4NQOによる染色体と発癌との関係を追求しようと試みたが、満足な結果が得られず、結局、失敗に終ったようである。その理由は次の様なことが考えられる。
この系に於いて4NQO処理を開始した時点(総培養日数252日)の細胞集団は、染色体数が42を示すものが70%前後にみられたが、このうち正二倍体のものは約20%で残りは偽二倍体細胞であった。従って染色体上からみて既に正常なものから相当偏異していたと考えられる。この偏異した状態に、4NQOが処理され、その経時的変化が追求されたが、対照群と処理群との比較では、染色体数の変化及び出現した異常染色体の種類と頻度からみて、4NQOに特異的と考えられる変化を見出すことが出来なかった。
4NQOを処理したin vitroの時点で、仮にinitial
neoplastic changeが生じていたとしても、それを直ちにcatchする手立が無い現在、どうしても動物に復元し、発癌した細胞が増殖して腹水の貯溜乃至は充実腫瘤として認知出来るまでの可成りの時間(此の系では平均3ケ月間)を待たねばならない。従って我々のデータの如く、4NQO処理時点の細胞集団と腫瘍の細胞集団とに大きな隔りがあるのは当然と云えよう。それ故に腫瘍の染色体所見はinitial
neoplastic changeに近い時点のものを見ているのではなくて、腫瘍が増殖してしまった時点のものを見ているに過ぎないと考えるからである。今後前記の目的で研究するには、primary
cultureのものを用いるとか、株細胞の場合なら確実に正二倍体細胞株(少くとも75%以上の正二倍体を含むもの)を用いて、染色体上出来る限り最小偏異の腫瘍を作らねば詳細な解析は不可能である。
しかしながら最近、Hori,S.H.,Al-Saadi &
Beirewaltis,及びNowellらは正二倍体腫瘍の存在することを報告しており、染色体変化は癌化に不可欠なものでないように思えるという考え方を主張する人が増えているので、染色体というパラメーターで真に癌化に直結した変化を見つけることは大変な仕事だとつくづく思っている次第です。
扠て今回追加されたデータにつき少し説明を加えますと、x25回処理の腫瘍は充実腫瘍で今迄のものと同様に非常に堅く、脂肪粒が多く、再培養をしたが仲々生えてこずやっと2〜3ケ処から上皮性の細胞がコロニー様に急速に増殖して来た。従って外観上均一な細胞で再培養開始後26日目に染色体検査することが出来た。(結果図を呈示)モードは53(12/50)、比較的まとまった分布をしている。核型のうちで特にMarkerについてみると、median
sized or large sized decentric chromosomeは92%(46/50)と高率に含くまれ、次いでlarge
sized submeta.chro.が26%(13/50)であった。その他にも数種類のMerkerが認められた。
前報で未だ検索していなかったx40回処理時点のデータも追加しております。
なほ今回は今迄のデータを整理しなおし、訂正したり、更に詳細な分析を加えましたので、新しい図表の中のデータで前号のものと異った箇所もありますが、悪しからずお許し下さい。
特に対照群のデータを再調査したところ、median
sized dicentric chromosomeが0〜6%にも存在していることが解り、これが何等、4NQOとも癌化とも無関係であることが明確になりました。
:質疑応答:
[勝田]難波君の仕事で気がついたのですが、処理回数と処理後の日数が並行して行くような実験の組み方では、処理後ただ培養しておくだけで悪性度が加算されてゆくのか、或いは処理する度に悪性になってゆくのかが、はっきりしませんね。それから細胞の形態をみる時、本当にパイルアップしているのか、死んだ細胞が押し上げられているのか、よく見分けなくてはいけませんね。
[安村]ラッテの皮下のfibroblastsが初代でコロニー形成能63%から72%とは全くおどろき!ですね。本当かしら。一寸よすぎますね。呑竜ratが材料だという処が「みそ」なのでしょうか。初代培養だと10%でも大変よいと思う位ですのに。シャーレは何を使っていますか。
[難波]ガラスのものを使っています。
[安村]細胞が1コづつになっているという事も確かめてありますか。
[難波]数時間後に顕微鏡でみてチェックしてあります。
[安村]稀釋の仕方は・・・。
[難波]1,000コ/ml液を作ってあとは10倍稀釋です。
[勝田]安村君より腕がいいのじゃないか。・・・みんなニヤニヤ・・・。
しかし、寒天でかためていない場合のPEは、私は信用しませんね。映画でみてごらんなさい。始、確かに1コでいた細胞のそばへ、そっくり似た形の細胞が歩いて来て、くっついてしまったりします。くっついた所だけみると、正に分裂して2コになったとしか見えません。
[黒木]変異コロニーの判別に対する自信はどの位もてますか。
[難波]むつかしい質問ですね。最後的な決定はその変異コロニーを増殖させて、動物へ復元して、腫瘍性をチェックしておくつもりです。
[山田]“Transform”という言葉を使わずに“metamorphy”とか何とか云う方がよいと思いますよ。
[吉田]そうですね。単に形態的に変わったというだけで、すぐトランスフォームと言ってよいかどうか問題ですね。
[勝田]アブノーマルコロニーとでも言っておけばよいでしょう。
[山田]それから先程、勝田班長の言われた本当のパイルアップかどうかという問題、固定する前にニグロシンででも生体染色をしてみれば解ることではないでしょうか。
[勝田]映画を撮って見ればすぐ解ります。それから、染色体のことについてですが、マーカー染色体として大きなメタセントリックのもの、それからメタに近いようなサブメタセントリックの大きなものが挙げられていますね。私の方の実験では、悪性化した培養細胞にも、それを動物へ復元した再培養にもああいう形のものは殆ど出ていません。
《高木報告》
これまでに行ったNGによる発癌実験で、NG-4とNG-18の2実験系が成功したことを報告したが、今回はさらにもう1つの実験系NG-11についても復元したratに腫瘍を生じたのでこれを紹介する。
1)NG-11
1968年4月、生後3日目のWKA ratの肺をprimary
cultureし、10日目に2代に継代した。継代後3日目、すなわち培養開始後13日目にNG1μg/mlを2時間作用せしめ、以後17日間にわたり合計7回、各2回ずつ作用せしめた。最終処理後2週間で核の大小不同、核小体の増加などがみられ、細胞の増殖の低下は差程著明でなかった。最終処理後150日頃criss-crossの像が著明となり、多核、巨核細胞が多数出現した。この時の細胞のproliferation
rateは対照の細胞では15〜20倍/週に対し、transformed
cellsでは5倍/週で対照の1/2〜1/3の増殖を示した。
最終処理後288日目にWKA newborn ratに200万個cellsを接種した処、95〜130日のlatent
periodをおいて3/3に腫瘤を生じた。
対照の細胞は同時に200万個cellsを接種したが、150日を経た現在0/3で腫瘤の発生をみない。
2)NG-18およびNG-4における対照と処理しtransformした細胞との染色体数の比較
NG-18:本年5月20日、対照の細胞は培養開始後43代目、345日目のものにつき、また処理細胞の中、前月報に紹介したものは私共がT-1とよんでいるもので、NG
10μg/ml2時間作用後174日目に、T-2、すなわちT-1にさらにNG
10μg/mlを86日後2時間作用させたものでは、第2回目処理後88日目に染色体数を算定した。
(図を呈示)対照の細胞ではtetraploidに主なる分布があり、処理した細胞ではdiploid
42本に明らかなpeakを認め、少数ながらnear
diploid rangeにもあった(T1、T2共)。
NG-4はこれと全く異なり(図を呈示)対照ではmajor
rangeがnear diploidにあり、treated cellsではhypotetraploidにあった。
:質疑応答:
[堀川]対照群では染色体数があんなに変わっているのに、動物にtakeされないというのは不思議ですね。
[吉田]実験群が42本に戻ったというのも今までの報告と逆で面白いですね。しかし、核型の分析をしてみないと、どういう変異があったかわかりませんね。
《梅田報告》
今迄報告したAAFの結果も合せ、N-OH-AAFについてのdataをまとめてみる(I→IV)
I,N-OH-AAFをHeLa細胞に投与し増殖に及ぼす影響について調べた。10-4.0乗Mでlethalであり、10-5.0乗Mで軽い増殖阻害が認められた。10-4.0乗M6時間作用後control
mediumに返してやると細胞増殖能はrecoverするが24時間作用後control
mediumに戻してもrecoverしない。
N-OH-AAFをL-5178Y cellsに投与した時の増殖に及ぼす影響は、全くHeLaと同じ濃度でlethalに又増殖阻害に働いた。
前に報告した結果はrat liver cultureでは同じく10-4.0乗Mで、同じrat
lung cultureでも10-4.0乗Mで、hamster embryonic
cellのcultureでも10-4.0乗Mでlethalに働いており、今迄調べた範囲では細胞によるsusceptibilityの違いはない様である。目下吉田肉腫細胞のin
vitro細胞について調べている。
II.形態学的には今迄述べた様に(月報6903)rat
liver cultureでは肝実質細胞の細胞質空胞変性(脂肪変性)と、核・核小体の萎縮が認められ、更に間葉系、中間系の細胞も一般に大きくなり、大小不整が著しくなり、核は淡明に染り、核小体は円形化縮少する。rat
lung cultureでは、間葉系の細胞と同じ様な変化を示す。
HeLa細胞では、核の大小不整、核の膨化、核小体の縮小化が見られ、又変性細胞が混在し、Mitotic
cellが減少するのが特徴である。
III.N-OH-AAFをHeLa細胞に投与して6時間、24時間後に染色体標本を作った。10-4.0乗M投与例では6時間後2.1%、24時間後0.3%、10-4.5乗M投与例では6時間後1.4%、24時間後1.3%のmitotic
coefficientを示した。(control 3〜4%)
10-4.0乗M6時間作用後の分裂細胞の染色体像は比較的正常に近いが、24時間作用後のものはrod-shapedの染色質の集塊を示すもの、染色体のgapを示すものがあり、強い変性像を示すものが多かった。10-4.5乗M作用のもので、gapは多くは認められなかった。
IV.以前に報告した様に(月報6903)、N-OH-AAFをHeLa細胞に投与して、H3-TdR、H3-UR、H3-Leuの摂り込み率を調べた所、H3-TdR、H3-UR摂り込み率は共に10-4.0乗Mでcontrolの40%におち、H3-Leuは90%値を示した。経時的に摂り込み率を追ったのは月報6905で報告したが、これによるとN-OH-AAF投与後直ちにH3-Precursorの摂り込み率が一様に悪くなるが完全にstopすることなく僅かずつ時間と共に進行することがわかった。そのslideについてautoradiograph作成中であるが、特にH3-TdR摂り込み率の低下がlabelling
indexの低下によるものか、grains/cellの低下によるものか調べる予定である。
V.Rat liver cultureにDABを投与して2日後control
mediumに戻してやると、肝実質細胞に認められた脂肪滴が減少し、更に核が奇麗になるが、大小不整となっていることを報告した(月報6908)。これが異型細胞の出現に連なると思い、ずっとcultureを続けてもいつもtransformed
cellのluxuriant growthが認められない。この核が奇麗になったと云っても、どの程度DNA合成能をもって分裂する事が出来るかを調べる目的で次の実験を行った。rat
liver culture作成後DAB 10-3.5乗M投与、2日後control
mediumに戻し、更に2日後、H3-TdR 0.1μc/mlを投与し、2日間放置したものについてautoradiographを作った。まだlabbelling
indexとしてcountしていないが、DABを投与していないCultureのliver
parenchmal cellのlabelling数に較べ、DAB投与群では非常にlabelされた細胞が少い。大小不整で異型にはなっているが、DNAはあまり合成していないことがわかった。
:質疑応答:
[吉田]このAAFという薬剤はcell cycleを分裂期でとめてしまうのではないかという疑いをもちます。今見せて貰った染色体像には分裂前期が殆ど見られませんでしたからね。低張処理をすると染色体が少しふくらんでしまって、はっきりしなくなりますから、低張処理をせずに標本を作って分裂各時期に相当する像が見られるかどうか確かめておいた方がいでしょう。
[難波]無処置の細胞が死ぬ時期はcell cycleのどの時期が多いのでしょうか。
[堀川]G1が多いでしょう。
[勝田]M期のあと、つまりG1の初期が多いですね。
[吉田]Sに入るとG1あたりまではずっと進行してしまうのでしょうね。
[黒木]ひとしきりcycleをまわってから死ぬという場合はどう考えますか。
[堀川]合成がとまっても手持ちでしばらくはやってゆけるという事ではありませんか。エイジングの問題でしょうね。
[勝田]卵の場合、黄身を半分にすると、発生はどうなってしまうでしょうか。
《安村報告》
☆Soft Agar法(つづき)
こんど始めてin vitroで4NQOによってMalignantになったRLT-1、RLT-2の両細胞系のそれぞれからSoft
agar中にcolony形成させることに成功した。
1.RLT-1、RLT-2細胞系細胞のcolony形成:
RLT-1は#CQ42と呼ばれたことのある系で、4NQO処理によりMalignantになった(動物復元によってtumorigenicであった)細胞系である。その後in
vitroで継代を続けてきたもので動物通過を経ていない。
RLT-2は#CQ40と呼ばれたことのある系で、経過はRLT-1と同様と考えてよいものである。 結果は(表を呈示)、RLT-1は28,000コから2倍稀釋3,500コの接種でC.F.E.は2.8〜1.9%、RLT-2は40,000コから5,000コ接種でC.F.E.は0.5〜0.4%であった。
RLT-1,RLT-2とも形成されたColonyはいずれもsmallでlarge
typeは出現しなかった。RLT-1についていえば、この系の動物復元株の培養系Cula-TCと、それらのcolony
forming efficiencyを較べると(月報No.6906)前者は後者の半分以下である。またRLT-2とCulb-TCとではそのefficiencyにあまり差はない(月報No.6906)。(図を呈示)
2.Q1-SSとQ1-LLの比較:
月報No.6906にひきつづいてCula-TC-Q1-Lからlarge
colonyを、Cula-TC-Q1-Sからsmall colonyをひろい、それぞれQ1-LL、Q1-SSとして再び両者間のcolony
forming efficiencyとともにS-Lのdissociation
rateをしらべてみた。(表を呈示)前回と逆にQ1-SSの方がQ1-LLよりC.F.E.がすぐれ、またlarge
colonyの出現率がよい。原因についてはよくわからない。ひとつにはtrypsinizationに問題があるかもしれない(とくにQ1-LLの方に)。
:質疑応答:
[勝田]コロニーのSだのLだのというのは何の意味があるのですか。
[安村]大きいか、小さいかが腫瘍性と並行するかどうか調べたいのです。
[黒木]それで、SとLとでは動物への腫瘍性は違うのですか。
[安村]今の所takeの率は同じです。
[堀川]結論としてLもSも細胞の増殖率は同じだとすると、個々の細胞の大きさが違うということでしょうか。
[安藤]しかし、細胞の増殖は、液体培地内で調べているのですから、軟寒天内でのそれぞれのコロニーの増殖率はまだわかりません。
[黒木]私の最近の実験でわかったことは、動物へ復元して全くregressせずにtumorを作る「M3」にならないと軟寒天内でコロニーを形成しないということです。
《藤井報告》
培養内変異細胞の癌化に伴う抗原性の変化を追求するためには、結局、異種抗血清をもってしては決定的な結論が出ない。これは、多くの文献の教えるところであり、私自身のこれまでの成績からも云えることである。そこで培養内で変異し、復元可能なラット肝癌が次々と得られるようになった時点で、この比較的大量に得られる培養内癌化細胞に対する同種抗血清をつくり、癌化の過程における抗原性の変化を追跡することにした。このばあいは、癌化に伴って取得されると思われる抗原−おそらく癌抗原−がどの時点で、どの位のpopulationで取得されてくるかが問題となる。
抗原のdetectionの方法としては、1)Ouchterlony法等による沈降線分析が主たるものとして仕事を進めて来たが、この方法では、titerの高い抗血清とsoluble
formの抗原が必要であり、同種移植、同系癌移植のばあいに沈降線をうることが未だ成功していない現状では極めてむつかしい。同種組織移植の研究を続けているので、並行して癌抗原の抽出を進めて行きたい。2)当分はImmune-adherence、3)Cytotoxicity
test、4)mixed hemadsorption等の方法で仕事をすすめて行く予定である。
同種抗血清の作成
医科研癌細胞研究部で培養内癌化し、復元されたCulb肝癌は、近交系ラットJAR-1由来である。腹水型となったCulb細胞を同種ラット、JAR-2(JAR-1x雑系ラット)F1に接種し、免疫を試みた。Culb細胞をふくむ腹水は比較的強く血性であるため、water
shock法にて赤血球を除き、免疫に使用した。注射部位は両側側腹部皮下2ケ所である。
免疫のプロトコールは次頁に示してある(図を呈示)が、経過中、皮下に結節性の腫瘤をつくり、徐々に増大するようになった。これはCulb細胞が継代接種中悪性度が高くなったか、あるいはJAR-2ラットに接種するうちにenhancement現象が出て来たか何れかであろう。目下1cm径大になったtumorを結紮して脱落せしめている。何れにしても、この状態では、titerの充分高い抗血清は得られていそうにない。
Cytotoxicity testとIA
抗血清には、上記のCulb細胞で免疫したJAR-2のうちBが生着したCulb腫瘍(固型)に抵抗性を示しているようにみえるので、免疫開始後41日目の血清(Frat
11.B.050869)を使用した。培養小角瓶に1日間培養したmonolayer
cellsを、“199”液で3回洗滌し、抗血清0.1、モル新鮮血清0.2(1/3稀釋、ラット血球で吸収)を加え、37℃、45分間反応させ、上清を捨てたのち、0.3mlの“199”液と0.5%Trypan
Blue 0.1を加え、青く染った細胞を算定した。
IAには、洗滌monolayer cellsに、抗血清0.1ml、モル血清(ラット血球と人血球で吸収、1/25稀釋)0.2mlを加え37℃、20分間反応させてのち、2%人O血球、0.1mlを加え、60分間反応させた。反応後“199”液で3回軽く洗滌し、検鏡した。
(表を呈示)抗Culb血清に対し、培養Culb細胞は29.6%の細胞障害を示したが、培養内変異した時期のRLT-2細胞は10.0%と低い。この成績からは、RLC-10細胞が癌化に伴ってCulb-特異抗原を取得しているようであるが、RLT-2の時点ではその程度が低いか、あるいはもっと可能性のつよいことは、非変異細胞が多数混在していることを示唆している。
同じくRLC-10より変異した細胞で同じJAR-1ラットに復元された癌細胞でもCule-TCの他は、殆んど抗Culb抗体に反応しない。このような所見より、それぞれの癌にSpecificityがあるかどうかが、問題が出てくるが、今後慎重に検討したい。
IAの結果は、その反応が弱く、結論をひき出せない。
以上の成績から、同種抗血清をつかって、癌化した細胞の抗原がcytotoxicity
testで調べられることがわかったが、未だこの抗血清のtiterでは不充分である。また以上の培養小角瓶では血清需要がどうしても多くなり、多くの検体が扱えないので、平底のmicroplateを用いての方法を試みてみるつもりである。
:質疑応答:
とくには無かったが、Immuno-Adherenceについて勝田が反駁し、最近撮した顕微鏡映画によって、腫瘍細胞の周囲に附着していると見られるリンパ球が、動的に観察すると実は腫瘍細胞に貪喰されてしまうことを展示した。
§以後、今秋の癌学会への班としての演題申込が討議され、次のような順序で申込むことに決まった。
☆☆☆組織培養による発癌機構の研究☆☆☆
第27報:ラッテ肝細胞の4NQOによる培養内変異(II):勝田・他
第28報:培養内に於ける4NQO処理ラッテ細胞の経時的変化−コロニーレベルでの解析−:難波・他
第29報:培養内に於ける4NQO処理ラッテ細胞の経時的変化−染色体研究−:佐藤・他
第30報:培養内で4NQO処理により癌化したラッテ肝細胞の、動物移植により生じた腹水腫瘍の性状:難波・他
第31報:無蛋白無脂質合成培地内継代L・P3及びRLH-5・P3細胞のDNAの4NQOによる鎖切断及びその再結合:安藤・他
第32報:放射線及び化学発癌剤による哺乳動物細胞DNAの切断とその再結合:堀川・他
第33報:細胞変異に伴う細胞表面構造の変化(II):山田・他
第34報:N-methyl-N'-Nitro-N-Nitrosoguanidineによるラット肺及び胸腺細胞の培養内悪性化:高木・他
第35報:N-methyl-N'-Nitro-N-Nitrosoguanidineによる培養内悪性細胞の生物学的性状:高木・他
第36報:培養哺乳動物細胞に及ぼすN-hydroxy-acetyl-aminofluorene(N-OH-AAF)の影響:梅田・他
第37報:軟寒天法による悪性培養細胞のクローン分析:安村・他
【勝田班月報・6908】
《勝田報告》
ラッテ腹水肝癌AH-7974細胞の毒性代謝物質:
肝癌が正常細胞に対して阻害的に働く毒性代謝物質を培養液中に放出することをこれまでも報告してきたが、その物質の本体を追究中で、今月号ではその最近までの成果の中間報告をする。
(図を呈示)図は肝癌AH-7974を4日間培養した培地を、正常ラッテ肝細胞の培地に30%に添加した結果を示している。培地は1日okini交新し、その都度肝癌を培養した培地を30%添加している。この結果で判ったことは、毒性物質がCollodion
bagを通過できる低分子物質であるということである。
(図を呈示)図は肝癌培地をCollodion bagで濾過した低分子部分を、Sephadex
G25で分劃した結果を示す。まだpeakがきれいには分かれていないが[透析仔牛血清+合成培地DM-145]の培地で肝癌を培養するようになってから、polypeptidesなどのpeaksがなくなり、分析がはるかに楽になった。なお蛋白を含まぬ合成培地でもAH-7974は若干増殖するが、この場合の肝癌培地は毒性物質は現れてこない。
正常ラッテ肝細胞(RLC-10)を培養し、これに前記の各分劃を培養第2日からラッテ肝細胞RLC-10の培養に添加し、6日後の細胞数(合計第8日)を調べた。(図を呈示)#38の分劃を添加した場合、肝細胞は完全にZeroになっている。つまり毒性物質は#38の分劃に集中しているということになる。CI、C はControlで、C はCIの培地にinositolが2mg/l追加されている。
この実験は分劃を1つおきにとばしてしらべたので、#38を中心としてその前後の分劃も加えてしらべ直した。(図を呈示)Inoculum
sizeがちがうので、こんどはうまくZeroにならなかったが、37、38、39の内では38が最も阻害しており、37にも若干阻害物質の混っているらしいことが判る。
しかし分劃図からも判るように、#38は#42のピークにまきこまれて大きなピークの肩を作っているにすぎないので、#38を単独のピークとして分離することを今後つとめなくてはならない。
このような分析には、なるべく蛋白を含まない培地で肝癌を培養出来れば、以後の解析が非常に楽になる。そこで血清を除いて、合成培地+PVPだけの培地で肝癌AH-7974を培養してみたところ、第4日までは何とか増殖を示し、以後は細胞数が減少してしまった。しかしとにかく、その4日間培養した培地を透析(Collodion
bag)、肝細胞RLC-10の培地に30%に添加してみた。(図を呈示)結果は図の通りで、どういう理由か判らないが、salineDを30%加えたC よりも、合成培地を30%加えたCIの方が細胞の増殖率が低く、肝癌培地を30%加えた群と大差が見られない。
この結果から考えると、やはり肝癌が活発に増殖しているときにだけ、毒性の代謝物が作られるらしい。
《難波報告》
◇N-4:4NQO処理により発癌過程にある培養ラット胎児細胞のPlating
efficiencyと
Transformed colony出現率について
先日(1969-7-5)の班会議で4NQO処理で発案過程にあるラット胎児細胞のPEとTransformed
colony出現率とを報告した。今回はそのデータが集まったので、以下の表にまとめた(表を呈示)。実際の発癌は10-6乗Mの4NQO濃度で、間歇的に24回処理(総処理時間118時間)した細胞を動物に復元した時、腫瘍形成がみられた。この表から判ることは、1)4NQO未処理のコントロール細胞には、培養492日でもTransformed
colonyの出現はみられなかった。2)4NQO処理21回の細胞にはTransformed
colonyの出現が9%に認められた。即ち、この細胞は非常に発癌に近ずいていることを示している。3)Plating
efficiencyについては差がなかった。 先日の班会議で勝田先生から、(1)処理後ただ培養しておくだけで、悪性度が加算したのか。(2)処理する度に悪性になって行ったのか。の2点を解決する為に発癌した24回4NQOを処理した細胞を得るに要した培養日数165日を一応の基準にして4NQO処理、9、12、15、21回の細胞を培養165日以後経過した時点で動物に復元してその造腫瘍性を検索中である。
《佐藤報告》
☆N-methyl-N-nitro-N-nitrosoguanidine(MNNG)no吸収スペクトルについて。
(1)溶媒による吸収スペクトルの変化:溶媒として、1)蒸留水、2)Hanks・BSS、3)Eagle's
MEM、4)MEM+20%BSを比較した。MNNGの濃度は可視部測定の為には10-2乗M、紫外部測定には10-4乗乃至5x10-5乗Mとして吸収スペクトルを求めた。各溶媒のpHは略々7.2にしてある。その結果、溶媒による差はなく、共に279mμ及び400mμに頂を持つ吸収スペクトルが得られた。(但しMEM+20%BS中では紫外部の吸収測定は不可能であった。)
(2)MNNGの温度及び光による分解の結果見られる吸収スペクトルの変化:MNNGは温度、光、pH等の影響を受けて分解する。そこでpHを大体7.2にして、温度処理(37℃、約12時間。冷暗所保存)及び紫外線照射(室温、3時間。15w殺菌灯下50cm)後の変化を見た。その結果、279mμの頂は276mμに移行しかつ高さもやや低下していた。又400mμの頂は低下しており、特に37℃12時間処理の溶液において、その傾向が著しい。
(3)MNNGの水溶液の長期保存によるスペクトルの変化:月報No.6903に記したようにMNNG水溶液(pH7.15)を冷暗所(4℃、アルミホイルによる遮光)で約6ケ月間保存し、その後吸収スペクトルを求めたところ、279mμの頂は264mμに移行し、又400mμの頂は消失していた。 (4)、(2)の項の条件に処理したMNNG溶液をEagle'sMEMで稀釋し、最終的に10-4.5乗Mで、ラット肝臓由来細胞の増殖抑制効果をみた。その結果MNNG溶液はどれも細胞増殖抑制効果を持つが、37℃12時間処理の溶液において抑制効果が減弱している。尚実験には同型培養法を用い、MNNGは2時間37℃作用させた。
Craddock,V.M.によればMNNGの吸収スペクトルで279mμ及び400mμに吸収の頂が見られ、前者はguanidino
groupによるもので、後者はnitroso groupによると考えられる。又、MNNGを39℃(pH7.5)で分解すると279mμの頂は264mμに移行し、400mμの頂は消失する。これは本実験の(3)の結果と一致している。(2)の結果は分解の過程を示すものと思われる。
《高木報告》
月報No.6905でも報告したが、今回は4NQO treated
cellsの中NQ-7(月報No.6811参照)のsoft agar中におけるcolony
forming efficiencyについて報告する。この仕事の目的はCGEと移植による腫瘍形成能との間に、何等かの関係があるか否かを調べることにあるが、班会議でも話したように脳内接種がうまく行かないため未だdataにはなっていない。
soft agar法はNo.6905に報告したのと全く同じである。実験を繰返した結果次の様になった。(表を呈示) ここで移植は生後24時間以内のWKA
ratの皮下、移植細胞数は200万個、判定は移植後6ケ月に行った。T-4の3/4は接種後2ケ月で腫瘍の発生をみ、3週後にregressしたものである。
今回の報告ではT-2のCFEが3%と前回(No.6905)に比較して高くなっていますが、これは再検の結果でこのような値をえた訳です。この表丈でみるならば腫瘍形成能が高いと思われるT-4にCFEは低いと云うことになります。但、これは培地の問題その他techniqueの問題がからんでいると思われますので、軽率には断定出来ません。
次にこのようにして出来たcolonyの中、大きいもの(large
colony)、小さいもの(small colony)をとり出し、更にCFE、large或いはsmall
colonyから夫々large或いはsmall colonyを生じやすいが、各細胞の形態などを検討しつつあります。
(表を呈示)この表はこれまでに得られた成績の一部を示したものである。前述の如くこの実験ではすべて脳内接種を行い(10万個cells)、そのほとんどが7日〜10日後に死亡した。但しT-4のcl-3丈2/4に4週間で頭が大きくなったのでsacrificeしたが、肉眼的に出血があり、また水頭症の如き所見がみられた。組織学的に目下検索中である。
この表でみる限り
1)large colonyを作った細胞がlarge clonyを作りやすいと云った傾向はみられない。
2)large colonyを作った細胞の方がCFEが高いと云うこともないようである。例えばT-1のcl-6は高いCFEを示すが、T-3のcl-5もsmall
colony originの細胞でCFEは結構高い。
3)形態的にsmall colonyを作る細胞が小さい細胞からなり、large
colonyを形成する細胞が大きい細胞であると云うような所見はなかった。
さらにcolonyのselectionを繰返してみると共に、移植を皮下に切換えて実験を再検討してみたいと考えている。
その他NG発癌過程のchromosome numberのmodeの変化、slice
culture法の検討などを平行して行っています。
《山田報告》
引続き4NQO 3x10-6乗M一回投与後のラット肝細胞(RLC-10)の表面荷電を測定しました。条件は従来と同様で酢(図を呈示)。149日目におけるCQ63群の細胞では113日目に測定した結果と殆んど変化がなく、4NQO一回投与分野(4N1)では悪性化ぎりぎりのパターンを示して居ますが、50日目に再度同一条件で2回処理した群(4N2)では全く良性型を示しました。
4NQOを連続的に幾回も投与すると、かへって悪性化した細胞を選択的に消失させてしまうのではないかと、ますます考へる様になりました。勿論すべての例でその様な選択が起こるかどうかわかりませんですが、in
vitroでの発癌実験では、くりかへし発癌剤を投与するためには、充分なる検討が必要であろうと考へられる所見です。
細胞表面における抗原抗体反応の細胞電気泳動法による測定に関する基礎実験が一応終わりましたので、その結果だけを簡単に書いてみたいと思います。
(図を呈示)Ehrlich ascites carcinoma cellを1000万個1回、I.P.に投与(移植)した後、10日目に血清を採取して用いた実験結果です。
基礎実験に基き、この血清とEhrlichをin vitroで37℃、10分間接触させた後によく生食で洗い、通常の泳動条件にて測定しました。この血清を漸次稀釋して効果をみると、10倍稀釋で約50%のEhrlich泳動値の低下がみられますが、100倍稀釋で殆んど影響がなくなります。この場合、血清中から補体が除かれてゐませんが、100倍稀釋では抗体量の不足と共に補体の不足が考へられますので、ラット正常血清から作った補体(抗原は吸収)を加へて、抗体の影響をみますと500倍程度まで、明確なEhrlichの泳動値の低下が認められました。 補体は基礎実験により30倍稀釋のものを用いてあります。(図を呈示)図に示すごとく補体自身ではEhrlichの泳動度に殆んど影響はありません。
抗体のみの影響はまだ検索して居ませんが、抗体が表面の抗原と結合すると図のごとく、その周囲にある表面の荷電をマスクしてしまうために、その電気泳動度が低下すると考へられます(図を呈示)。
これに補体が結合すると、細胞膜の障害(穿孔?)がおこり、荷電物質がメヂウムに流出してしまい更に電気泳動度が低下するものと考へられます(図を呈示)。
この電気泳動度測定による感度は、少くとも色素透過性試験(所謂intoxication
test)と(Cytolytic reaction)と同等のものであるとの実験結果も得ています。
この反応を利用して発癌に伴う抗原性変化を将来追求したいと思って居ます。
《安村報告》
☆Softagar法(つづき)
1.Cula-TC-Q2系におけるS-L dissociation:
前号の月報(6907)でCula-TC系のうちQ1系についての結果をお知らせしましたが、今回はもうひとつの系Q2についてのS-L
dissociationの実験を報告します。
(表を呈示)結果は、Colony forming efficiency(C.E.C.)はL系の方がS系より高いが、S-Ldissociation
rateの点ではL系が稀釋に応じているのに反して、S系では不規則であった。したがってこの点で比較が困難である。前号にのべられたQ1-SS系と比べて、ともにC.E.C.は13%〜17%あたりで、Q1とQ2の間にはさしたる差はない。Q1-S系は、Q2-S系よりLarge
colonyの出現率は3倍ほど高い。(月報6907と比較)
2.Culb-TC-A系:Culb-TC細胞系をSoft agarでcoloy
formationをおこなわせ、出現したColonyを親株としてCulb-TC-A系ができあがった。しかし、この系はいまのところC.E.C.はCula系よりはるかに低く、Large
colonyの出現は見られない。(今回までのところ)。結果は(表を呈示)表の如くであった。
3.AH7974細胞系(JTC-16)とそのクローン系の増殖率:
AH7974-TC細胞の各クローンを分析してきたいままでの結果は、C6系からはSmall
colonyしかでてこないが、他のC1、C3系からはS、Lの系が出現することがわかった。しかしSからLの出現率とLからLの出現率に差があるとは思えなかった。そこでSとLとの間の増殖率をしらべてみた。結果は(図を呈示)、Lの出現は増殖率が高いためではなさそうである。
《梅田報告》
1.前回の班会議(6907)でふれたが、N-OH-AAFをHeLa細胞に投与して増殖に及ぼす影響、更に6時間、24時間処理后control培地にもどした時の、増殖能のrecoverabilityについてふれたが、その図示は図示1、2の如くである(各図を呈示)。同じくL-5178Y細胞の増殖に及ぼす影響については図3の如くである。更に吉田肉腫細胞のin
vitro系について調べた結果、図4の如くになった。
以上の結果及びrat liver、lungのprimary culture、hamster
embryonic cellのprimary cultureに投与した時、すべて10-4乗Mでlethal。10-4.5乗Mで細胞数の軽い減少があることから今迄調べた範囲では、N-OH-AAFはどの細胞に対しても同濃度で同じ様な細胞毒性効果を示している。Carcinogenic
hydrocarbonsで細胞の種の違い、transformしたか否かの違いで毒性効果が異なることから考えると、興味深い結果と云える。
2.培養細胞に発癌剤を投与してmalignant
transformationを起さしめ得たとしても、transformした細胞が増殖する機会を与えられないと、我々は実験の成功を知り得ないことになる。前回の班会議(6907)で報告した様にDABを投与され、脂肪変性を起した肝実質細胞が、DABのない培地中でpleomorphismを示すが、autoradiographicalに之等細胞はH3-TdRを旺盛に摂り込んでおらず、増殖が盛んになったとは云えない。これは、Cytotoxicな発癌剤を投与され変性した細胞にとって試験管内は良い環境でないためで、逆に増殖に良い環境が与えられれば、transformした細胞が増殖してくることが考えられる。以上の観点から生后2日目のrat
liver或はlungのprimary cultureを行い、10-4乗M
N-OH-AAFを投与し、1日培養后control mediumに戻し更に3日培養してから細胞をはがし、同腹のrats(その時生后9日目)に85万個cells
intracerebralに投与してみた。目下復元してから30日目であるが、肝、肺細胞投与例共に元気である。この種の実験も数回繰り返し試みてみたい。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構
紫外線およびX線照射による培養動物細胞の遺伝子障害と、その修復機構を中心に化学発癌剤4-NQOおよび4-HAQO処理による遺伝子障害と修復能を比較検索するのが、この研究の目的で、金沢に来てからもこの研究は続行されている。紫外線とX線照射による障害修復機構は、その障害自体がそれぞれすでに異なるだけに修復機構も部分的に異なるようであるが、加えて化学発癌剤4-NQOや4-HAQOによる障害修復は、更にこうした放射線障害の修復機構では説明出来ない点がある。またX線、4-NQOともにin
vitroの培養細胞を処理した際に、DNAのsingle
strand breaks、double strand breaksをinduceする。しかるにchemicals
4-NQOや4-HAQO処理によって特異的に正常細胞のmalignant
transformationが誘発される。一方X線照射の場合にはLeo
Sachsのデータを除いてはこうした現象は認められていないのは何故であろうか。こう云う点も考慮しつつ現在UV、X線、chemicalsによる修復機構の解明を進めている。さらにもう一つの問題はDNAの切断と再結合でみているdamaged
DNAのrepairが生物学的機構の面からみて真のrepairであるか、どうかということで、この問題を解決すべく実験系を組みかけている。
培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびにLeukemogenesisの試み
C57BL/Jax6系のmouseから得たbone marrow cellsのin
vitroでの培養を可能にして以来、NC系のmouseに切りかえてtitleに示すような実験を進めて来ている。金沢に来て以来も、mouseの繁殖は非常に良く仕事は順調に進んでいる。培養直前には、多種多様の細胞群を含んでいたbone
marrow cellsが培養が進むにつれて一定の細胞種に選択され、しかもこうした細胞は700R前照射されたマウスに注入しても「骨髄死」を防護出来そうもないことがわかって来た。それどころか、こうした骨髄細胞のうち一年以上継代培養をしたものでは100万個細胞の腹腔内注入で発癌能をもつ、つまり癌化していることが、最近わかって来た。一体ガラス器内で培養されている骨髄細胞は何者なのか。そして骨髄細胞としての生物学的機能をもたせるにはどうすればいいのか。さらにこうした培養骨髄細胞の分化と発癌の調節の機構をときあかすにはどの様に実験を進めていけばよいかなどの問題が今後の課題として残されている。今月は月報原稿として結果をまとめるだけの時間がなかったので、我々が現在やっている実験の進行状況をかいつまんで報告した。
《安藤報告》
4NQO処理L・P3細胞はRepair合成(conservative
Replication)を行うか。(中間報告)
月報No.6907にBU置換L・P3細胞は4NQO処理を受けても、無処理のコントロールと同程度のチミジンのDNA中へのとり込みが見られた事を報告した。今回はこのDNA合成が、いかなるtypeの合成であるのか、すなわち、全く新たなstrandの合成(Semi-conservative)なのか、あるいは古いstrandの中へのチミジンのとり込み(conservative)なのかを区別するために、DNAをBUdRで比重を大にしてから、4NQO処理、チミジンのとりこみを行わせ(5時間)、DNAを抽出し分析した。
L・P3をBUdR 16.0μg/mlで培養し(48時間)、洗滌、chase後、4NQO
10-5乗M 30分処理、H3-チミジンで5時間処理し、DNAを抽出した。DNAは1xSSCの中でCsCl密度平衡遠心を70時間行い、分析した。
(図を呈示)結果は図にあるようにBUなしのコントロールは軽い位置に、BUで置換されたDNAは重い位置に現れた。ラジオアクティヴィティは、4NQO処理した場合としない場合と殆ど同じであった。次にこの重いピークをプールしアルカリ性でCsCl密度勾配遠心を行えば、semiconservativeかconservativeかわかる筈であるが、これは目下進行中である。
《藤井報告》
ラット抗Culb抗血清について:
同種抗Culb抗血清の作製は難行中です。只今免疫中のJAR-2ラットは1匹となり、他の1匹は7月末、腫瘍死しました。現在生存中の1匹にもCulb細胞接種部位に皮下腫瘍をつくっており、大きさは1.5cm径で、根部を結紮して脱落を計っています。この生存中のラットの血清(Frat
11.B、050869)が、Culb-TC細胞に対して29.6%、RLT-2細胞に10.0%、RLC-10細胞に6.7%のcytotoxic
activitiesを示し、RLC-10が変異してRLT-2となり、復元後再培養されたCulb-TCに変って行く過程で感受性の変化を示したことは前号に記したとおりです。
最近Linbro製の平底型のmicroplateが手に入り、小量の培養細胞でcytotoxicity
test、agglutination test等が出来るようになりましたので、今までに得ている、抗Culb血清のcytotoxicity
testを行ってみました。
microplateは10%アルコール、蒸留水の順で洗滌后、紫外線で滅菌(30分間)します。高岡先生にCulb-TCを植えて貰いましたところ、1日で細胞はよく壁面につき培養状態は良好のようとのことです。
培養細胞の洗滌は、199液あるいは補体反応時に用いるK-GVB(KをふくむVeronal
buffer)を2〜4滴を加え、plateを逆さにして軽く下方に1回、水を切るようにして液を捨てておこないます。この操作で健常細胞は壁よりはなれません。
Cytotoxcity testの方法:
monolayer cells washed.1x 2drops of “199"sol.
1dorop of sera,1/1. 2drops of guinea pig
ser.1/3(for C') 37℃.45min. discard the reaction
mixture
add 2drop of “199"sol.then 1drop of
0.15% trypan blue count within 3minutes.
(成績表を呈示) この表に示されるように、JAR-2で現在までに得た血清は、cytotoxic
activityも低く、変異抗原を追跡しうるものではないと云えます。
遺伝研の吉田先生からWKA系ラットの分与をうけることが出来ましたので、JAR-2の免疫と平行に、鋭意同種抗血清をつくるつもりです。
【勝田班月報・6909】
《勝田報告》
A)RLC-10株について:
RLC-10細胞株(ラッテ肝)は4NQOを用いての培養内癌化実験に永く使われてきたが、最近その系列の一つが自然発癌したらしいので、その歴史の回顧と諸種の実験データを再検討してみることにする。
[起源]JAR-1系の純系ラッテF24生后11日の♀の肝を、1965-8-18に培養開始。その後、増殖率が高くなったので、発癌実験に頻用されてきた。
[系列](図を呈示)図のようにRLC-10株は、培養瓶ごとに区別して、次の3系列が作られてきた。後述するようにtakeされたのは(B)系列である。(A)と(C)については、目下検討中である。図に示すように(B)も(C)も(A)からの子わけである。
[復元接種試験]これが一番厄介な実験である。というのは、JAR-1系ラッテが子供をなかなか産まなくなってしまい、復元接種できるチャンスがきわめて少いからである。これまで4回、復元接種をおこなっている。その成績は次の通りで(C)については未だ検討がおこなわれていない。(A)は1968-7-8接種
0/2、1969-8-9接種は観察中。(B)は1969-3-1接種、0/2、1969-6-26に接種は観察中。
[染色体数モード]次に示すように各系列別に系統的にはしらべていないが、(B)は明らかに変異してきている。1968-10-4にAは42本。1969-3-5にBは40本と41本。
[細胞電気泳動像]山田班員にしらべて頂いているが、結果を略示すると次の通りである。1968-6-26
A:正常型。1969-2-7 B:中間型。4-23 B:中間型。4-23
C:少し悪性型。5-26 B:正常型。6-25 B:中間型。C:中間型。7-30
C:中間型。 型というのは、電気泳動値及びシアリダーゼ処理後の値の変化のタイプから判定。中間型は“なぎさ"変異の細胞に見られるタイプ。
B)ラッテの純系について:
JAR-1系は完全に純系であるが、産児数が少いので、この新館へ移ってから、JAR-1と雑系をかけ合わせ、第2系列の純系JAR-2を作りはじめた。外科の芦川博士に皮膚移植テストをおねがいし、次の成績を得た。JAR-2、F11(1969-6-6生)
1969-7-15植皮。
♀←→♀ 2/2。 ♂←→♂ 2/2。 ♂←→♀
2/4 takeしたと思われる(写真を呈示)。
《山田報告》
本研究連絡月報No.6906に「合成培地内培養条件でイノシトールを要求する株と、然らざる株がある」と云う現象を勝田先生が報告したが、今月はこのイノシトール要求の性質と、細胞錠面荷電との関係について細胞電気泳動法を用いて検索した。
用いた材料はなぎさ培養変異株RLH-4(要求株)と、RLH-5及びRLH-3(非要求株)で、それぞれのシアル酸依存荷電量と、カルシウム吸着性を分析した。シアリダーゼ処理は従来と同一条件であるが、カルシウム吸着性は泳動メヂウムに10mM濃度のCaCl2を添加し、カルシウムが表面にイオン結合することにより低下する細胞電気泳動度の多寡について検索した。(基礎実験によりこの条件でのカルシウムの大部分は細胞表面の燐酸基に結合するものと推定されて居る。)
(表を呈示)表に示すごとく、要求株RLH-4はシアル酸依存荷電量が多く、カルシウム吸着性が少い。非要求性RLH-5及びRLH-3は、これと対照的に、シアル酸依存荷電が極めて少く、カルシウム吸着性が多い。しかも両細胞とも、合成培地内培養条件では、それぞれのカルシウム吸着性はあまり差がない。(なおこの月報直前に行った実験では、イノシトールを要求しないRLT-1もかなりカルシウム吸着性があることを知った。)
細胞のイノシトール要求は、その増殖を中心とした細胞内代謝(栄養要求)に関係した性質かもしれないが、この成績から考へると、何か表面構造と関係するのかもしれない。特に細胞表面の燐酸基のかなりの部分がホスファチヂルイノシトールであること、また培養条件の細胞増殖が、その培養管壁との付着性と密接に関係があるから、このイノシトール要求の問題歯、或は細胞表面の問題と結びつく可能性があると考へたい。今後の検索を必要とする。
RLC-10とJTC-16(AH-7974TC)の細胞電気泳動の状態を映画にとろうと思い、種々試みましたが、失敗した。両細胞の比重が異るために、どうしても同一視野に両者を浮游させて、泳動を競走させる画面を作ることが困難であった。しかし更に工夫していつかは映画にするつもりです。
(図を写真を呈示)映画撮影のついでにRLC-10、JTC-16の泳動度を、写真記録式泳動装置にて測定した結果を表と写真に示します。RLC-10は従来の直接測定値より意外に早い平均泳動値を示しましたが、写真に示すごとく、特に大型の細胞が早い様に思われました。これに対しJTC-16は相変らず、その泳動度は早く相互のばらつきは大きい様です。しかもその細胞の型や大きさには全く無関係です。
なほRLT-1、-2、-3、-4、-5の細胞電気泳動度を再検してみました。前回測定してから、丁度1年を経過して居り、この間にcell
popultionの変化が生じて居るのでないかと思ひ測定したわけですが、その結果次回報告します。最も明らかなことは、RLT-1が明らかに悪性腫瘍型のパターンを示す様になったことです。
《佐藤報告》
☆培養細胞による培地内DAB消耗について、今度、今までのデータをまとめて次の結論を論文にして出す予定です。
[結論]
培地中にdimethylaminoazobenzene(DAB)を1μg/mlに添加して諸種の培養細胞を培養し、一定時間後、培地内のDABの消費を測定した。(夫々図表を呈示)
(1)ラッテ肝組織の初代回転培養において、1μg/mlのDABを培養開始と同時に培地に添加した場合には、4日間でその約80%が消失し、著明なDABの消費が観察された。又培養開始後16日目に培地にDABを添加した場合にも、同程度の消費がみられた。初代培養腎組織においても、肝組織と同様に4日間でDABを消費したが、その消費速度は肝組織よりやや遅かった。 (2)正常肝由来培養細胞、腹水肝癌、ナギサ変異株、肝以外の培養細胞系について、それらのDAB消費能を比較した。その結果、正常肝由来培養細胞は培地内のDABを著明に消費するのに比べ、DABによる腹水肝癌では培地内のDAB消費能が低かった。ラッテ肝由来のナギサ変異株では正常肝由来細胞と同程度の消費を示したが、しかし、ラッテ心由来細胞及びマウス・エールリッヒ腹水癌では消費能は低かった。
3)3'-Me-DABによる悪性化培養細胞株では腹水肝癌系培養細胞の培地内DAB消費能と同程度にDAB消費能は低かった。3'-Me-DABによる培養内悪性化過程にある培養株細胞と、その対照として用いられた培養内Tween20(3'-Me-DAB溶剤)長期添加培養株細胞では前者の方がDAB消費能が低くなっていた。培地内3'-Me-DAB添加による悪性化の過程では、培地内DAB消費能が漸減する傾向にあった。
《難波報告》
N-5 ラット皮下繊維芽細胞のクローン化
ラット繊維芽細胞のクローン化に成功したノデその方法について報告する。
細胞:生後1日目の雄ラットの皮下結合組織をピンセットで集め、その組織をトリプシナイズして細胞を得、それを培養に移した(初代)。
培地:20%BS+EagleMEM
クローニング:上記初代培養の継代1代目(培養6日目、8日目)のものを、クローニングに使用した。クローニングの方法は図に示した(図を呈示)。
説明:培地で細胞を100〜500コ/mlになるくらいに稀釋した細胞浮游液を、流パラを入れたシャーレ中に1滴ずつ落とし、顕微鏡で細胞をみながらsingle
cellを拾う。その拾った細胞を別のシャーレにまき、細胞がガラス面に附着する頃(だいたいまき込んで4時間前後で観察)にもう一度single
cellかどうかチェックして、状態の良いsingle
cellの生えているシャーレに培地を追加し培養を続けた。micropipettの細胞の出し入れは、図の左側のネジでesssistantの人が調節した。
結果:現在、17コのsingle cellを拾い、経時的に細胞をチェックして2コのクローンを得ている。増殖の悪いものは途中で捨てた。(増殖の悪いものは、sengle
cellから増えないもの、2〜3回程分裂してから以後増殖しないものがあった。)
現在2コのクローンの内、1コは継代可能なほど大きくなったので近日中に継代し、4NQOの発癌実験を開始する予定である。
N-6 ラット皮下繊維芽細胞のplating efficiency
月報(60-7.N-2)に報告したごとく、ラット繊維芽細胞はplating
efficiencyが高いことが判った。以後の実験成績を追加すると表のごとくなる(表を呈示)。この表から判ることは、ラットの繊維芽細胞は培養の若い時期に於いても十分高いPEが得られることが示されている。また、'69-7-5の班会議で安村先生から御指摘あったごとくまき込んだ細胞数と形成されるコロニー数との関係をみると(表を呈示)表のごとくなった。細胞は継代1代の培養8日目のものでsingle
cell rateは97%、培地は20%BS+EagleMEMを使用して2週間の培養をした。PEはだいたい30%で、かなり一定したPEが得られることが判った。
以上の実験から生後1日目のラットのFibroblastsの若い培養細胞では、PEが少なくとも30%はあるので、培養の若い時期の細胞でも十分クローニングされ得る可能性があることが判った。初代細胞のクローンでは(1)実際に1コのようにみえている細胞が2コぐらい堅く結合していることがある。(2)白血球、マクロファージ、組織球、mast
cellなど算え込む、などの危険性があるので、クローニングに使用する細胞は初代培養の細胞より少し継代したものを使用するほうが良いと思われる。現在、継代1代から5代目の細胞をクローニングに使用している。
《高木報告》
NQ-7のsoft agar内におけるColony forming
efficiencyについてその後のdataを報告します。(表を呈示)
前報(No.6908)の表に誤がありましたので訂正します。T-1からのcolonyで、Cl-3、Cl-9がlarge
colony、Cl-2、Cl-6がsmall colonyとなっておりますが、これは、large、small
colonyが逆になっておりました。本報が正しいので訂正いたします。なおT-1からのcolony
Cl-9は実験中止したためここに記載せず、T-3からのCl-1、Cl-4およびT-4からのCl-2は、その後に出たdataで追加します。また移植実験は皮下移植をやりかえましたため、まだdataが出揃っていません。
この表でみますと、1)T-1、T-3のseriesでlarge
colony由来の細胞がsmall colony由来の細胞よりCFEが高い様に思われます。T-4seriesでは、同じsmall
colony由来で可成りのCFEの違いがみられますが、このsmall
colonyは他のseriesのsmall、large colonyの中間位、すなわち径2mm位のcolonyです。
2)これまでの処、CFEの低いT-4からのCl-3に1/4に40日目に皮下に腫瘤を生じています。これは1万個cellsを脳内接種したものが生存し、皮下にもれて生じたものです。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(14)
4-NQOおよび4-HAQOでEhrlich細胞を短時間処理した場合DNAのsingle
strand breakが生じ、これらはその後の細胞のincubationによって再結合する(X線照射によるbreakの再結合ほどrapidではないが)ことについては、これまでの月報で報告してきた。
今回は4-NQOおよび4-HAQOで処理した場合のEhrlich細胞DNAのdouble
strand break動態について検討した結果を報告する。(夫々図を呈示)
第1図及び第2図は、共に種々の濃度の4-NQOまたは4-HAQOで30分間Ehrlich細胞を処理した直後のdouble
strand DNAのsedimentation profileの変化を示す。これらの図からわかるように処理濃度に依存してdouble
strand DNAは低分子化することがわかる。
一方、1x10-5乗M、6x10-6乗M 4-NQOまたは1x10-5乗M
4-HAQOでそれぞれ30分間処理した後、37℃でreincubateし、その後種々の時間に細胞を取り出してDNAのsedimentation
profileの変化を追った結果が第3、第4図および第5図である。これらの図からわかるように4-HAQO処理の場合は24時間のincubationでdouble
strand breakのそれ程顕著なrejoiningは認められないが、4-NQO処理後には24時間のincubationで僅かのrejoiningが起こっているようである。しかしこの程度のsedimentation
profileの変化が本物のrejoiningであるのか、それともDNAの単なる物理的な変化によるものであるのか、の決定は非常に重要な問題であるため、これら要因を用いては勿論のことX線照射によるdouble
strand breakの動態と比較して検討を進めている。
《安藤報告》
(1)H3-4NQOの核酸との結合解離のkinetics。
月報No.6906に報告したようにL・P3細胞の核酸各分劃への4NQOの結合は、薬剤の添加回数に依存し増加する。今回は4NQO、各10-5乗M、30分処理を3回連続的に行い、一たん結合したH3-4NQO代謝物がどのようなtime
courseでdissociateして行くかを調べた。L・P3細胞がTD40にフルシートとなった時点でH3-4NQO処理3回を行い、一部はそのままサンプリング、残りはPBSで洗った後DM120で培養を続ける。5時間目、24時間目にサンプリングをする。各サンプルから全核酸をphenol法で抽出し、メチル化アルブミンカラムによりtRNA、DNA、rRNA分劃に分ける(月報6812参照)。各分劃を濃縮し、OD260とradioactivityを測定した。
(表を呈示)結果は表の如くである。処理直後の各分劃の比活性は、以前に報告したようにrRNAが最高であった。放射性4NQO代謝物の各分劃からの解離は、やはりrRNA分劃が最高のようだった。次の問題は、(1)この両者の結合がこれ以後何日頃迄続いているか。(2)一たん結合してから解離した後の核酸と元の核酸とは同じか異るか。(3)DNAについてはこの間に鎖切断、再結合が起っているわけだが、RNAについてはそのような事が起っているか。等々である。
(2)細胞内DNAの鎖切断が起る間に細胞のコロニー形成能は如何に変化するか。
(表を呈示)フルシートの状態のL・P3細胞を4NQOの種々の濃度で30分処理をする。一部は直ちに洗滌後プレートする。残りは再びDM120培地中で回復培養24時間を行う。platingはEagleMEM+CS20%中で行った。結果は表の通りである。今回の結果は、PEが対照で4.4%でやや低い。いつもは約10%は出る。4NQO処理後の結果を見ると、薬剤濃度が高くなるにつれてPEは低下し、10-5乗Mではプレート当り3000個まいた分は0、popultion
dependencyがあるために15,000個まいた分は1.25%と出ている。一方24時間の回復培養後のコロニー形成能は各濃度とも、殆どコントロールの値に復していた。この表のコントロールのPE4.4%を100%とした時の4NQO各濃度のPEを計算し、プロットした図を呈示する。なおこの実験で注意しなければならない事は、4NQO処理直後にプレートした場合、プレート上では単個細胞であるとはいえ、回復培養をしているわけで、フルシートで24時間の回復培養をした後にプレートした場合に比して本質的な差はないのかもしれない。
いずれにしてもこの結果が意味する所は、細胞DNAに鎖切断を起すとコロニー形成能が低下し、DNAの再結合を起すと形成能も回復するという事である。
《安村報告》
☆Soft Agar法(つづき)
1.RLT-1A細胞とRLT-2A細胞: ようやくこれらの細胞系constantにSoft
agarでcolonyをつくるようになりました。しかし(表を呈示)表のごとくにそれぞれの復元再培養系であるCula-TC、Culb-TC細胞系のこれまでの結果とくらべると1order低いC.F.E.です。(RLT-1A、RLT-2AなどとAがつけてあるのはAgarを通してひろったということです。)
2.Cula-TC-Q1系とCula-TC-Q2系のS-L dissociation:
Q1系は現在S系、L系ともS→S→Sと3回、L→L→Lと3回クローニングされてきた。この段階でのS-L
dissociationがしらべられた。
Q2系はS系は2回、L系も2回クローニングされ、SS、LLとなっている。表はそれらの実験結果を示している。今回はうずれもC.F.E.がかんばしくなかった。またdissociationも、はっきりみとめられなかった。(表を呈示)
3.マウス胎児細胞系:さきにこの胎児細胞系を対照実験として10万個/pltのorderで、Soft
agarではcolony形成がみとめられなかった。それは7代めのものであった。今回は12代めのもので100万個/pltのorderでcolony形成があった。このものがmalignantであるか、どうかは今後の実験に示される。
《梅田報告》
N-OH-AAFと共に4HAQOを生后3日目のratの肝、肺、腎の培養細胞に、又hamsterのembryoniccells(3rd
gen.)に投与してその障害を生のまま観察し、更に続けて培養して、malignanttransformationを起す過程を追求している。
1)N-OH-AAF投与后の変化:rat肝培養に投与した場合、10-4.0乗Mで肝実質細胞は小さく萎縮して脂肪滴変性を示し、内皮系細胞、中間系細胞はかなり残っている。10-4.5乗M投与ではややcontrolより増殖は悪いが、肝実質細胞島も比較的きれいい見える。肺培養、腎培養に投与した場合、10-4.0乗Mで完全にlethalに働き、10-4.5乗Mではきれいでcontrolと差がない。
Hamster cellsに投与した場合、10-4.0乗Mで殆んどの細胞が障害をうけ、spindle-shapedcellsが少数残っているのみである。10-4.5乗M投与では相当数の細胞数が残っているが、旺盛に増生するとは思われない。
2)4HAQO投与后の変化:rat肝培養では10-5.0乗M投与で肝実質細胞より、その肝実質細胞島の間を埋めている内皮系細胞、中間系細胞の方が障害を強く受けている。全体として細胞は比較的強い増殖阻害をうけている。肺培養細胞にはこの濃度で弱い変化しか惹起しない。腎培養細胞には肝培養細胞と同じ程度の比較的強い増殖阻害を惹起している。
10-5.5乗M投与で上の変化は軽く残る程度である。
Hamster cellsに投与した場合、10-5.0乗Mで比較的強い増殖阻害、10-5.5乗Mで軽い障害を残す程度の変化を来している。
3)N-OH-AAF投与后長期培養例:rat肝、肺、腎については今迄に何回も繰り返し実験し、一部は報告してきた。今回もN-OH-AAF
1〜2回投与后、普通の培地で培養を続けた。肝培養では10-4.0乗M1回投与后、肝実質細胞島の萎縮が強く、又間葉系細胞は残っていても旺盛な増生を示さない。肝実質細胞部(?)より、一様な大きさの細胞質の広がった上皮性の細胞がゆっくりと生えてくる。この種の細胞はcontrolにも見られるので、特異的とは云えない。肝、腎培養では細胞の増生は認められない。
Hamster embryonic cellに、10-4.0乗M1回投与后普通の培地で培地交新を続けて培養を続けた場合、10日目頃には細胞は全部変性して残っていた細胞もはがれて了った。
10-4.5乗M2回(計4日間)投与后、培養を普通の培地で続けたものはやはり細胞が徐々にやられてはがれて行ったが、培養10日目頃にdenseなcolony形成部を認めた。顕微鏡観察によるとT-12
vessel(2ml培養)で4〜6ケ(2るのvesselで)あるcolonyのうちfibroblastic
cellから成っているものは、2ケしかなくあとはepithelialであった。fibroblastic
cellの部の写真を示すが、明らかなcriss-cross、piling
upが認められた。この培養を更に10日間2〜3日毎の培地交新で培養を続けた所、pHの下りが激しく、丁度3日間培地交新をしなかったN-OH-AAF投与后21日目に全ての細胞が顆粒変性して了った。colonyがたった数ケしかないにも拘らず、すごく増生の激しい細胞であった様で、残念な事をしたが、直ちに追試中である。
4)4HAQO投与后長期培養例:rat肝細胞に10-5.0乗M
2回投与后、control mediumで培養を続けた例で、4HAQO投与后6日目には、肝実質細胞部に肝細胞索を思わせる細胞群が集まって増生しているのが見られた。この部は更に培養日数を経て、やや縮小してきたが、30日后まだ保たれている。更に4HAQO
10-5.0乗M 2回投与したこの培養例には肝実質細胞部より、3)で述べた細胞よりやや大型で多角形のepithelialに並んだ細胞の増生が見られた。之等の培養は目下大事に培養を継続し、更に、追っかけ別の培養で4HAQO投与して追試験を行っている。
【勝田班月報:6910:合成培地系株細胞の脂肪酸】
《勝田報告》
§4NQOによるラッテ肝細胞の培養内悪性化:
これまでの実験を一応summarizeして報告する(復元成績をまとめた表を呈示)。
対照として用いたRLC-10はA、B、Cと3種ある内,Bがtakeされてしまった。以後この系は実験に用いていないが、自然発癌というのは当研究室開設以来初めてのことで、面くらっている。ウィルスが関与していないかどうかも、今後検討の要があると思われる。
染色体のモードは(分布図を呈示)、4NQO発癌の場合は、どういう訳か、2nから1〜2本減って、40本、41本というところにモードが見られる。面白い現象である。RLT-5では復元し、できた腫瘍を再培養したところ、モードがさらに1本減ってしまったことを示す。
亜系の染色体分布については、RLT-1B、CはCQ#42B、42Cに相当し、RLT-2B、B'、CはCQ#40B、B'、Cに、RLT-3CとRLT-4CはCQ#39Cと#41Cに夫々相当している。処理回数とは相関はみられず、何れも40〜41本にピークの集中している点が面白い。
核型分析はまだ本式にやっていないが、ざっとのぞいてみると、(分析図を呈示)特に長い染色体は認められず、この点岡山の所見とは若干異なっている。
:質疑応答:
[高木]復元成績の中の細胞の接種量についてですが、私の実験では100〜200万cell/ratになるようにしていますが、ここでは400万〜800万までの間ですね。400万と800万では大分延命日数が違ってきませんか。
[高岡]定量的に腫瘍性をみるには、タイトレーションをするべきですが、ラッテの生産が間に合わないので、あるだけの細胞を接種して、とにかくラッテにtakeされるかされないかをみている訳です。それで細胞数が不揃いになりましたが、実際には、この程度の細胞数の違いなら生存率や延命日数に影響しないようです。
[堀川]4NQO処理の追打ちをかけた場合、腫瘍性がやや低下するという点について、どう考えますか。実験的に重要なことだと思いますが。
[勝田]高等動物では脱癌という事は考えにくいことですね。
[堀川]Reverseということは考えられないでしょうか。Selectionだとすれば、もっと薄い濃度で処理して耐性細胞をとってしらべてみられそうですね。
[山田]CQ60の実験系の場合、電気泳動的にみますと、4NQO1度処理に比べて、2度処理したものは、泳動値がかなり揃ってきています。このデータからみるとselectionのように思えますね。
[吉田]染色体の変化が2倍体から1〜2本減っているのは面白い現象ですね。マーカー染色体の認められる佐藤班員の場合より、早い時期の変化ではないかと思います。
[難波]復元して出来た固型の腫瘍からの再培養はトリプシンで処理しますか。
[高岡]再培養は腹水細胞からだけ採りましたから、トリプシンは全く使いませんでした。再培養系の継代にはトリプシンを使っています。
[難波]RLH-5・P3をモデル実験に使うと形態的な変化が追跡できなくて困りませんか。
[勝田]とにかく映画を撮って形態変化を動的に追ってみるつもりです。それと平行して細胞電気泳動的な変化と染色体の変化をしらべる予定です。
[山田]復元成績でRLT-1が一番悪性度が高いらしいのは電気泳動の結果とよくあっていますね。
[堀川]腫瘍性が高くなると電気泳動値が乱れるというような現象はありませんか。
[山田]そういうこともありますね。
《香川報告》
§合成培地DM-120、DM-145で培養した数種の株細胞の脂肪酸:
合成培地DM-120は脂質を含まず、細胞の内の不可欠脂肪酸や脂溶性ビタミンはないと考えられる。従来の実験ではDM-120中で長期継代したL・P3細胞で不可欠脂肪酸の欠除を見出した。本報告では、その後培養可能となったRLH-1、RLH-2、RLH-3、RLH-4、RLH-5、HeLa、RTH-1につき、この結論の再現性を確かめた。
RLH-5・P3とHeLa・P3細胞についてはL・P3細胞と類似したデータを得た。すなわち18:1酸、16:1酸が多く、多價不飽和酸は認められなかった。RLH-1・P3、RLH-2・P3、RLH-3・P3、RLH-4・P3をDM-145で培養したもの、RLH-3・P3、RTH-1・P3をDM-120で培養したものではパルミトレイン酸(16:1酸)が上記の2つより更に増加していた。
RTH-1・P3にリノール酸を添加し培養した場合は、16:1酸の減少がみられたが、RLH-5・P3の場合は、16:1酸の減少はそれほど著明ではなかった。
:質疑応答:
[堀川]リノール酸とか血清を添加すると、細胞は分裂と関係なくそれらを取り込み、組み込むのでしょうか。或いは組み込みには分裂が必要なのでしょうか。遺伝子の活性化は細胞分裂に伴うのでしょうか。例えば脂肪酸の不飽和化の能力などは培地にリノール酸を添加すると瞬時に止まってしまうのでしょうか。
[香川]遺伝子がマスクされても、合成は瞬時に止まるわけではありませんね。酵素とmRNAの寿命がありますから。細胞分裂との関係については、高等動物の細胞では増殖させずに培養することが大変むつかしいので、なかなか開明出来ませんね。
[堀川]しかし面白い系ですね。この系が悪性化によってリピッドの構成がぐっと変わったりすると、更に面白いでしょうね。
[難波]リピッドの変化は即ちミトコンドリアの変化と考えてよいのでしょうか。
[香川]全部の膜の総計になります。ミトコンドリアは大体1/3を占めています。
[難波]すると変化はパラレルに起こるわけですか。
[香川]そうだと思います。
[吉田]蛋白合成の場合は遺伝子との関係がよくわかっていますが、脂肪酸の場合はどうですか。
[香川]脂肪酸を合成する酵素(7つのSubunitをもつ複合酵素)が1つだということは判っています。Polycistronicなenzymeです。
[山田]イノシトールは栄養要求の問題として考えられていますか。
[香川]動物細胞は原則としてイノシトール合成の遺伝子を持っています。培地にイノシトールを添加していなくても細胞内のイノシトールを定量するとちゃんと持っています。イノシトール要求性のあるものでも少しは合成する事が出来るはずです。
[山田]イノシトールの要求性の場合、イノシトールを除いてから4日間は増殖をつづけ、その後急に増殖が落ちていますね。必須アミノ酸でもそうですか。
[勝田]アミノ酸要求の場合は、イノシトールと同じ傾向のものと、除くと直ちにカタンと増殖が落ちてしまうものと両方あるようです。
[安村]私の細胞(vero)の場合、ビオチン、イノシトールを除いても3月位増殖がみられます。3月程すると増殖がだんだん落ちますが、その時イノシトールを入れてやると増殖は回復します。ビオチンでは回復しません。
[香川]ビオチンは動物細胞では合成出来ないことになっていますから、除いても増えるという系は面白いですね。ただ他のものから、ごく微量に混入していないかに気をつける必要があります。
《山田報告》
◇前回報告した分も併せて、その後のイノシトール合成培地内要求株の表面構造についての成績を報告します。(結果の表を呈示)
前回に認められた傾向は更に確かなものとなり、イノシトールを要求する株、RLH-1、RLH-2、RLH-4の細胞表面にはカルシウムが吸着され難く、シアル酸依存荷電量が比較的多いことがわかりました。
またイノシトールを必要とせず、合成培地内で増殖するRLH-3、RLH-5及びRTH-1の細胞表面にはカルシウムがより多く吸着され、シアル酸依存荷電量が極めて少いことがわかりました。
in vitroでの増殖には細胞内の条件と共に、培養管壁との附着性が関係することは良く知られて居ますが、後者の株がイノシトール無しに増殖出来る理由には、この表面の構造にも関係する可能性があると考へます。特にカルシウムの附着は極性結合により燐酸基と結びつく可能性が大きいことは基礎実験で確めてありますので、表面への燐酸基の露出が、合成培地内での増殖に密接に関係があると考へます。
高分子を入れた通常の培養液内では、表面の荷電の性質如何にかかわらず、無撰擇に極性結合する蛋白其の他が存在するので、管壁との附着は容易であろうと思われます。
合成培地内とOriginalの培地内でそれぞれ増殖した各細胞系の表面構造相互の差は、この成績からあまり、明確な差を見出せません。
細胞表面荷電のうちで燐酸基を擔う物質中、より可能性のある物質の一つにphosphatidyl
inositolが考へられますので、イノシトールの細胞膜への取り込みと、表面荷電の変化が今後興味ある問題として残ります。
◇4NQOにより癌化した細胞群CQ39、40、41、42、50の系の細胞電気泳動度を調べた所、昨年夏の成績では変異株ではあるが、悪性型を示さないと云う結果を得たことを既に報告しました。これは、悪性化した細胞数が少いためであり、事実この癌化株(CQ42)をラットに復元した腫瘍を再培養した後の細胞系では明らかに悪性型の泳動パターンを示すことも報告しました。今回はそれから丁度1年経ちましたので、これらの株の悪性細胞の数が増加して居るのではないかと思い、再検した結果を示します。全部の細胞系がシアリダーゼ感受性が増加し、特にCQ42(RLT-1)では明らかに悪性型を示す様になりました。この系について写真記録式泳動装置によりどの様な形態を示す細胞がシアリダーゼ感受性があるのか調べました。明らかに中型で核膜硬化があり核小体の大きい細胞がシアリダーゼ感受性があり、悪性細胞と思われ、その頻度は約30%ありました。(図と写真を呈示)
:質疑応答:
[勝田]培養日数が長くなると、細胞がひろがってくるので、ガルス面への附着が要求されると云われましたが、むしろ細胞が密集してくるので、ガラス面への附着が要求されるということでしょうね。
[山田]イノシトールがくっつくということと関係があるかどうかは、浮遊培養をしてみると、はっきりさせられるのではないでしょうか。
[安村]細胞によって、いろいろ違いがあるでしょうね。
[山田]ガラス面への附着は燐酸のチャージが関係あると思います。2価イオンなしで培養するとどうでしょうか。
[香川]カルシウムはとにかくとして、マグネシウムはゼロにすると細胞が生きていられないでしょう。
[吉田]ウニの卵ではカルシウム・マグネシウム無しの液で培養すると、細胞がばらばらになって、くっつかないで発生するという事です。
[山田]イノシトールは、直接に細胞膜の合成に使われている、とは考えられないでしょうか。
[香川]少なくともラッテでは、C14を使っての実験で、イノシトールを合成出来るという事が判っていますから、培地から直接使う必要はないと思うのですが・・・。合成出来ない系があるとすれば遺伝子がマスクされているのでしょうか。
[難波]Cellサイクルによって細胞の大きさが違ってくるのではありませんか。
[勝田]細胞の大小はcellサイクルの関係だけではないでしょう。
[香川]菌では大小が遺伝形質として分けられますが、動物細胞では分けられないでしょうね。
[安村]培養細胞の場合、形の大小は遺伝的性質ではないと思います。
[山田]多核で大きい細胞はシアリダーゼ感受性が少ないという結果が出ています。
《難波報告》
◇N-7:4NQO処理により発癌した培養ラット肝細胞のplating
efficiencyとAltered coloniesの出現率について
月報6908で、4NQO処理により発癌過程にあるラット胎児細胞のPEと変異コロニー(当時、transformed
coloniesと報告しましたが、この言葉について班会議でいろいろ論議がありましたので、以後、Altered
coloniesと云う言葉で表現したいと思いますが、皆様いかがでしょうか。)の出現率とについて報告した。同様の実験を4NQO処理ラット肝細胞で試みた。(結果の表を呈示)
培地:Eagle's MEM+20%BS。
細胞:Exp.7-2系の細胞を300cells/plt.3枚のシャーレにSeedingした。
培養:炭酸ガスフランキ中で、2週間行い、1週間目に一度培養を更新した。
判定:Altered coloniesとして、Control cellsでのcolonyにみられないcolonyを目安とした。即ち1)piling
upする細胞よりなるcolonies、2)Pleomorphic
cellsよりなるcoloniesを一応Altered coloniesと考えた。
結果:
1)4NQO処理細胞のPEはコントロール細胞に較べ高かった。
2)4NQO処理回数が増すにつれ、PEは高くなる傾向にあり、同時にAltered
coloniesの出現率も上昇しcolony sizeも増大する傾向にあった。
3)この肝細胞は、4NQO処理8回で造腫瘍性を示したもので、その時点ではAltered
coloniesが出現していない。
4)以上のことから4NQOの発癌実験にラット肝細胞を使用する場合、細胞の造腫瘍性の獲得と、その細胞のPE及びcolonial
morphologyとの間に少しずれがあるように思える。そのずれの原因として
(1)観察した細胞数が少なすぎたためか。
(2)コロニーレベルでの変化が出るまでには、発癌後ある期間が、必要なのかも知れない。
などの点が考えられるので、これらの点を今後解析してゆきたい。しかしラット肝細胞の試験管内発癌の一応の目安として
(1)PEの上昇
(2)Altered coloniesの出現率の増加
は参考になるのではないかと考えられる。
◇N-8:ラット皮下繊維芽細胞のクローニング
新生児ラットの皮下組織をトリプシン処理し遊離細胞を集め初代培養を行い、6日目に継代1代目でSingle
cellを拾い増殖してきた1ケのコロニーを培養26日目に2枚のシャーレに継代した。以後だいたい1ケ月経過したが細胞はガラス壁についたまま、あまり増殖を示していない。
その後もどんどんSingle cellsを拾ってクローニングを試みていますが、どうも細胞の増殖が良くなく、困っております。今後培地の検討を行いたいと考えますが、何かいい知恵があればお教え下さい。
:質疑応答:
・・・標本の作り方について諸々の質問があり
[難波]旋回培養して出来たアグリゲイトを試験管に集めて、以後固定→脱水→包埋まで試験管の中で行います。そして切片にして染めたのが、先程の顕微鏡写真です。
[勝田]どの系についても同じ結果が出ていますか。
[難波]2系だけですが、2系ともこういう傾向です。
[堀川]旋回培養を試みた理由は何ですか。
[難波]悪性化の同定を形態的にみる方法として使えるのではないかと考えました。
[山田]Populationの殆どが悪性化しないと、はっきりした結果が得られないのではないでしょうか。そういう点からみて余り適当な同定法でないように思われますね。
[安村]癌化と未分化ということをはっきり分けて考えないといけないと思います。癌は癌として進んでいるのであって、決して胎児の細胞のように未分化になっただけで、癌化というわけではありません。
[堀川]同定にというより、recognizationの問題として培養内に出来た大きな塊だけを拾って、動物に接種するとtakeされるという風にでも使うと、旋回培養もいい方法だと思います。
[難波]しかし、傾向としてadultを材料とした培養細胞は凝集しないのに、胎児だと大きな塊を作ります。生後1週のものでは、初代は凝集しないのに、それから分離した系では凝集塊を作る、つまり胎児に近づいたのだと言いたいのですが。
[安村・他何人か]それは言わない方がよいと思います。むしろ分化、未分化の問題なら、テラトーマなどを材料にして培養してみれば面白いのではないでしょうか。
[山田]変異コロニーの細胞は動物を腫瘍死させますか。
[難波]1,000コの細胞を接種して、1月で腫瘍死しました。
[堀川]アグリゲイトを作る物質の本体は何でしょうか。60℃で加熱して細胞を殺してから培養してもアグリゲイトを作るのではないでしょうか。
[山田]腹水肝癌を動物の腹腔内で増殖させておいて、腹腔内へアルカリなど入れると、一過性に大きなアグリゲイトを作りますね。
[梅田]脱癌というのは、元に戻ることでしょうか。
[堀川]再分化とか再変化とかではないでしょうか。
[勝田]脱癌といわずに、可移植性の消失とでも云うべきではないでしょうか。
《高木報告》
1.NG-20(再現実験)について
この実験を開始したのは昨年の11月3日で、培養開始118日目のWKArat胸腺細胞にNG
10μg/mlを作用せしめた。3系列の実験を行った。(図を呈示)
(1)seriesはNG 10/ml 2hr.作用せしめ、さらに培地を追加して3日間培養をつづけたものである。NGfreeにして49日目にinitial
changeと思われるものに気付いた。210日目のchromosomeのmodeは、controlが主としてdiploidを中心に存在するのに対し、実験群はnear
diploid rangeの数がましていた。約300日の現在形態的に可成りの変化がみられ、復元実験中である。
(2)seriesはNG 10/ml 2hr.作用せしめて培地を交換したものである。52日目にinitial
changeに気付いた。141日目のchromosomeはcontrol、実験群共に殆どdiploidにmodeがあったが、213日目のものではcontrolに比して実験群ではnear
tetraploid rangeのものの数が可成りましている傾向がみえた。形態的に約300日の現在実験群の細胞は上皮様細胞の感がつよい。
(3)seriesはNG 1μg/ml 2hr.を10日間にわたり3回作用せしめたもので、39日目にinitial
chnage特にpiling upの像がみられた。この中の1seriesは121日目にさらにNGを10μg/ml
2hr.作用せしめた。第2回目作用後55日目(初回作用後176日目)のchromosomeはcontrol、実験群共diploidとtetraploidを中心に可成り広く散在しており、両者間に有意の差はみられなかった。第2回目作用後84日目(初回後205日目)のものではcontrol、実験群共diploidとtetraploidを中心に集まり、バラツキの少くなった傾向がみられた。約300日現在形態的にはcontrolの細胞が小さくcriss-crossの感がつよい。
これら3seriesの細胞についてはNG作用後200日をすぎた頃から復元実験を試みたが、脳内、皮下接種ラットともに接種ラットが生存せず失敗をくり返し、やっと300日をすぎた時点で皮下接種ラットが生存し、目下観察中である。chromosomeについても再度検討の予定で、またsoft
agar中のcolony forming efficiencyも検討している。
2.NG-7のsoft agar内におけるCFEと移植性とについて
月報6909にCFEのみにつき表示し、移植性についてはふれなかったが、その後のdataを表示する。未だ観察期間は充分でないから中間報告と云うことになると思う。
8コロニーのCFEは0.05〜72.9%と可成りの幅があった。実験T-4は動物に腫瘍を形成した。
:質疑応答:
[難波]コロニーからコロニーへまく時、細胞をどうやってsingle
cellにしますか。
[高木]コロニーからすぐに又シャーレにまくのではなく、1度試験管で増やしてから、改めてトリプシンでばらばらにしてまきます。
[安村]コロニーのLとSの関係は矢張りはっきりしない様ですね。
《安村報告》
☆Soft Agar法(つづき)
1.AH-7974-TC(JTC-16)細胞クローンのうちS、L系の代表的なものC3-LとC6-S:
1-1.Colony forming efficiencyの比較。(図を呈示)C.F.E.はともに30%近くにあって有意の差があるようには考えられない。
月報(6908)にのべたようにこの両系間(S、L)には増殖率にも差がない。ただ形態的には液体培地でmonolayerのsystemではS系は細胞の大きさはL系より小さかった。
それではLarge colonyを形成する細胞は形態がSmall
colonyを形成する細胞より大きいために、同じ増殖率(両系とも)のもとでLarge
colonyをつくるのか?
L系の細胞はSより形態が大きいのだろうか、この問題を解明するために次の実験を試みた。
1-2.Colony sizeとColonyを形成する細胞数の関係。(図を呈示)C3-LのColonyを65コ、C6-Sのコロニーを62コひろい、それらの直径と細胞数をしらべてみた。
結果はL系がS系より形態が大きいとはいえないことを示した。
この結果の解釈には、立体構造をしたcolonyを、いちおうplateの上から測定した直径の3乗に比例すると考えている。もしこのcolonyの3次構造が不規則なものであるとしたら、それに由来する誤差を考えにいれなければならない。S系、L系のそれぞれの細胞あたりのDNA量、蛋白量もしらべてみたが、まだなんともそれらの結果からは細胞の大小について統一した相関関係をうちだすことができないようである。(このことについては次号にでも書けるでしょう)。
現在、S、Lの出現はSingle cellのSoft agar中での立ちあがりに差があると考えている。S、L形質はheritableではないことはS→S→S、L→L→Lと拾って行ってもなおかつSからLは出現するし、LからSもでてくることからもそのことはうなずける。Single
cellの増殖への立ちあがりの差というのはあるSingle
cellはplatingののちすぐ立ちあがって分裂するが、あるsingle
cellはlatent periodが長く、2日、3日、4日というぐあいに、数日後にして立ちあがる。そのような差がS、L
colonyになってあらわれるということであろう。このような現象は液体培地でもcolony
formationをさせるときにWindows techniqueなりをつかってわかっていることである。そんなわけで、少くともAH-77974-TCに関してはS、L、形質(形質と呼ぶのはふさわしくないが)はheritableでなく、phenotypicなものであると結論してよいかと思われる。またS、L形質はtumorigenicityとも有意な相関がないという結果からも以上の見解は支持されるだろう。
2.マウス胎児細胞系:
前号の月報でふれた1年間近く培養継代した(あまり熱心に継代しなかった)マウス胎児細胞系の12代めからSoft
Agar中でcolonyを得ることができた。(表を呈示)100万個細胞をまいて平均21コのコロニーができた。このコロニーを数個ひろって次代でWild
typeとC.F.E.を比較中である。100万個以下ではcolonyは出来なかった。
:質疑応答:
[堀川]コロニーLのstartが実は1コでなく2コだったという事はあり得ませんか。
[安村]そうではないとは言えませんね。しかし、もうLとSはおしまいにする積もりです。
[堀川]細胞数はどうやって数えたのですか。
[安村]コロニーを1つ1つ吸い出して、クエン酸0.1ml中に入れて、寒天をくだいて細胞の核数を数えました。
[堀川]増殖率の方は・・・。
[安村]試験管内で、培地は液体培地です。
[堀川]増殖率の違いでもない、細胞1コ1コの大きさの違いでもないとなると、寒天内での接触阻害のような影響を受けるとは考えられませんか。DNA合成をみてLの方がぐっと取り込みが多いという事でもあると面白いですね。
[安村]細胞学としては面白いかも知れませんが、腫瘍性との関係ははっきりしませんから、矢張りLとSはもうおしまいです。
[勝田]マウスの細胞についてですが、マウスではエバンスたちが半年で前例悪性化してしまったという報告をしていますね。ですから400日もおかずに早く復元してみるべきでしたね。
[安村]いや、この場合は原株と軟寒天内で拾った細胞との間に、動物に対する悪性度の違いがあるかどうかをみようとしただけです。対照として使っていたのが、いつの間にか悪性化したらしいので、軟寒天内で拾った細胞が悪性なのかどうかという裏付けにでも使おうということです。
[堀川]L→L→L、S→S→Sを捨てるのは寂しいですな。安村さんの効能書きが面白かったですから。
[吉田]遺伝形質として、LとSの本質を担っているものもあるのではないかしら。それを調べるのには3回のクローニングではだめだったのでは・・・。
[安村]1回ではダメ、2回でもダメ、3回のクローニングでもダメと言われたのでは、何時になっても仕事が終わりません。
[堀川]63才になってもね。
[安村]ですから、もうLとSはおしまいにします。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(15)
4-NQOおよび4-HAQOは濃度に依存して培養細胞内DNAの一本鎖および二本鎖切断を誘起させることについては前報で報告した。またこれらの両切断のうち一本鎖切断はアルカリ性蔗糖勾配遠心法でみた限りでは再結合することがわかったが、では一体DNA切断の際nucleotides
fragmentの酸可溶性分劃への切り出しがみられるかどうかが問題になってくる。
Ehrlich細胞をあらかじめ1μCi H3-thymidine/mlを含くむ培地中で24時間培養し、DNAをラベルする。つづいて細胞を1x10-5乗M
4-NQOで30分間処理した後に、10μg cold thymidine/mlを含くむ培地にもどして種々の時間培養後に細胞を集め酸可溶性分劃と酸不溶性分劃にわけてそれぞれの分劃に含まれるradioactivityを測定した。(図を呈示)
4-NQO未処理(対照群)の細胞では酸可溶性分劃中のradioactivityは培養時間と共に減少する。つまりこのことは細胞分裂に伴うDNA合成に利用されるか、或いは、Cold
thymidineと置き代ってmedium内に放出されることを意味すると思われる。勿論、酸可溶性分劃内のradioactivityはこの程度の培養時間では誤差範囲の変動しか認められない。一方、4-NQOで処理した細胞群においては酸不溶性分劃内のradioactivityには大きな変化は認められないが、酸可溶性分劃内のradioactivityが培養時間と共に増加することがわかる。つまり4-NQOによって切断されたDNA
fragmentが酸不溶性分劃から酸可溶性分劃に移ることが示唆された。
ここで次の問題として紫外線照射によってDNA中に形成されたthymine
dimerを切り出す能力を欠くmouse L細胞において同上の現象が認められるか否かという疑問が生じてくる。Ehrlich細胞について行なったとまったく同一の方法で処理し、この点を検討した。(図を呈示)結果は、L細胞でもEhrlich細胞同様に、4-NQOによって切断されたDNA
fragmentが酸可溶性分劃に放出されることがわかった。
このようなL細胞とEhrlich細胞の間のDNA
fragmentを放出する能力に於いて差が認められないという結果は、4-NQO処理後の細胞のunscheduled
DNA合成をみた場合の結果とも良く一致し、この場合にもEhrlichとL細胞の間にはunscheduled
DNA合成能に於いて差は認められていない。
以上のごとくUV照射の場合のdimer除去能力のないL細胞にも4-NQOで切断されたDNA
fragmentの酸可溶性分劃への放出能は認められる。またUV照射と4-NQO処理に対する(colony
forming methodでみた)細胞株間の感受性の間には何らの相関関係もみとめられないという結果から考察すると、UVと4-NQOに対する障害修復機構は同一のものとは考えにくい。少くともmammalian
cellsに於いては修復過程のどこか一部分が異なっているように考えられる。
:質疑応答:
[梅田]一本鎖の切れ方はユニフォームでなく、ばらついているのに、二本鎖では一定の切れ方をするようですね。
[堀川]そうですが、そのメカニズムは判りませんね。
[安藤]私の実験でも同じような結果です。処理後30分でもうユニフォームになってしまいます。もっと短い時間に切れてしまうのではないかと考えて、タイムコースをとってみたら5分でもうユニフォームになっていました。2分だともう少し大きなものもあるようです。
[勝田]X線で切られた場合も二本鎖切断の移行は、4NQOでの場合と同じようにユニフォームですか。つまりピークがありますか。
[堀川]4NQO処理の場合はピークですがX線照射の場合はアトランダムな切れ方です。
[安藤]熱処理をしたり、乾燥させたりすると、細胞の生命は死んでしまいますが、酵素の活性は残っています。とすると、60℃加熱後4NQO処理の実験結果を物理的にだけ、しぼったものとみてよいでしょうか。
[堀川]そういう問題は残ると思います。しかし結果としては先ず乾燥したものも、加熱したものも、DNAの切断が起こらないという、生きた細胞と違う結果が出て居るところが面白いと思っています。そして4NQOでは切れないが、次の実験として4HAQOを作用させてみて、もし、切れれば杉村さんのDNAレベルの話と合ってくるということになります。
[梅田]Ehrlich細胞だけでなく、正常細胞でも同じような実験をやってみる必要がありますね。
[吉田]この実験条件だと、4NQO無処理のものでもDNAは随分切れているのではないでしょうか。Ehrlichですと、DNAの長さは2cmもあるものがあるはずですから。
[堀川]それはそうかも知れません。しかし或る一定の操作下に処理しているのですから、4NQO無処理細胞の結果については、人によっても又時によっても、ピークは大体同じ所にくるはずだと思います。勿論生きて居る細胞のDNAに比べれば、何分の1かの長さになっているとは思います。
《安藤報告》
(I)4NQOによるL・P3DNAの二重鎖切断のkinetics
月報No.6906に4NQOはL・P3DNAの二重鎖切断を起す事、薬剤の濃度依存的に一定の分子量で小さくなる事、又薬剤除去後24時間回復培養を行うことによって殆ど元の大きさに又再結合が起る事を報告した。今回は鎖切断が起り一定の分子種になる過程で早い時間をとれば、その中間体がつかまるか否かを調べた。
4NQO処理2分、5分、15分と調べた所(図を呈示)、この切断反応は極めて速やかな反応であり、すでに2分の反応で30〜40%のDNAがこわれ始め、5分で殆ど分解は完了してしまう。但し、4NQOとの接触時間が2分、5分であって、分析迄には10〜20分はlysed
cellの状たいでいるので、この間に分解した分がどれ程あるかは不明である。
それから、4NQO、30分処理で生成した均一なDNA分子は、遠心分離の際のArtifactではなく、やはり切断産物は均一分子種である。
(II)4NQO処理L・P3はRepair合成(non-conservative
Replication)を行うか(2)
月報No.6908の続き:L・P3にBUdRを16μg/mlで48時間培養、一夜chase、4NQO、10-5乗M、30分処理、H3-チミジン5時間ラベルし、表題のような目的でDNAをCsCl中で分析したものがNo.6908の図です。今回はBUdRの濃度を下げ5μg/mlとして同様の実験を行った。
中性CsCl密度平衡遠心し、hybridDNAピークをpoolし、透析後、再びアルカリ性CsCl密度平衡遠心分析をした。一方、放射性のピークは4NQO処理した場合もしない場合も、全てlight
peakに集中していた。(分劃図を呈示)
この実験事実のRationaleは、BUdR 48時間ラベルで、大部分のDNAはhybridDNAとなる。このようなDNAを持った細胞を4NQO処理し、H3-TdRでラベルすると色々なDNA分子が出来る事が予想される(模式図を呈示)。すなわちrepair合成が全く起らないとすれば、まだらにBUdRを取り込んだ分子は生成しない。repair合成が起るとしたら、まだらな分子が生成する筈である。そこで中性CsClによりhybrid
regionを集めるとBUdRがまだらに入った分子と片方にだけ入った分子の混合物がえられる。次にこれをアルカリ性CsCl分析を行うと二重鎖が一重鎖となるので、始めてまだらに取り込んだ分子はheavy域に回収されるので、radioactivityがheavy域にあればrepair合成があった事が結論される。repair合成がなければ、片方だけにBUdRが入った分子だけなので、heavy域にはradioactivityは入って来ない筈である。
したがって本実験の条件に於いては検出可能なrepair合成はなかった事になる。しかし、4NQO濃度を上げるか、あるいは正常な半保存的なDNA合成を抑制するような手段を用いれば、あるいは検出可能となって来るかもしれない。
:質疑応答:
[堀川]私の実験と違う点は二重鎖でも修復が起こるという所ですが、これは本当の修復ではなく、L・P3が死んでしまったためにDNAが凝集して大きくなったとは考えられませんか。
[安藤]形態的にみても、細胞数を数えてみても、そんなに死んでいないのです。
[勝田]修復されたDNAはもとのものと全く同じものになっているでしょうか。DNAのハイブリダイゼーションで判りませんか。
[安藤]とても判らないと思います。
[勝田]部分的なrepairは行われないという結論ですか。
[安藤]セシウム法で検出出来る程のrepair合成はみられなかったということです。
[堀川]UV照射の実験では、同じ方法で修復合成をdetect出来る程のカウントが得られているという報告がありますね。X線の場合の修復合成もdetect出来ません。二重鎖の場合の修復は殆ど合成なしに、くっついてしまうのかも知れませんね。
[吉田]UVとは、又違った修復が起こっているのかも知れませんよ。ダイマーの出来るのは・・・。
[堀川]UVだけです。
[安村]カウントに関係のない修復合成があったとは考えられませんか。
[梅田]そうですね。ラベルがチミジンだから、取り込まれないので、カウントに出ない。例えばグアニンだと取り込まれているということも考えられます。
[堀川]4NQOの切り方が、非常に特異的選択的だとすると、そういうことも考える必要がありますね。
[難波]放射線と違って4NQOの場合、処理後に4NQOが細胞内に残っているということはありませんか。
[堀川]あり得ることです。そしてそれが放射線障害の場合のようには短時間に修復されないということの原因になっているとも考えられます。
[勝田]4NQO処理後にシャーレにまくとPEが対照より低く。コンフルエントで1日おくと対照と同じ位に回復するというのは、何を意味していますか。
[堀川]4NQO処理直後は、DNAが切られたままの状態で修復されていないので、DNA合成→分裂と立ち上がることが出来ないのでしょう。コンフルエントにしておくとDNAの修復が先ず行われるので、1日たつとDNA合成に入れる態勢になる、ということではないでしょうか。
[勝田]映画でみていると、随分死んでいく細胞が多いと思いますがね。
[安村]対照群と同じPEといっても、5%ですから、その5%は始めから4NQO耐性だったのかも知れませんよ。そして残りの95%の死んでゆく細胞の中に勝田さんの映画でみている、死ぬ細胞というのが含まれているのでしょう。
[勝田]4NQO処理によるDNAの切れ方についてですが、薄い濃度の処理でも長い時間処理すれば、濃い濃度の短時間位に小さく切れるでしょうか。
[堀川]薄い濃度の処理だとすぐ修復されてしまって、小さく切れてしまうことは無いでしょうね。
[勝田]そういう結果がでれば、それは又、薄い濃度で悪性化の起こらないことの裏付けにもなる訳ですから、ぜひ結果を出しておくとよいですね。
《梅田報告》
(1)今迄N-OH-AAFをrat liver culture、HeLa細胞等に投与した時、核が大き目になり、核質は淡明、核小体は小さくなることを報告してきた(6707-II)。Aflatoxin投与でも同じ様な変化であるが、核小体はpin
pointの様になり、更に著明な変化と云える(6811-I)。
N-OH-AAFをHeLa細胞に投与した時、H3-TdR、H3-URの摂り込みは抑えられ、H3-Lewの摂り込みは比較的良く保たれていること(6903-II、6905-I)、Aflatoxin投与では文献的にActinomycinD様の作用があると云われていることから、核質の淡明化、核小体の縮小化が、RNA合成阻害、蛋白合成持続に関係していると考えていた。更にDNA、蛋白合成を抑えるが、RNA合成は抑えない赤カビ毒素のNivalenol投与によると、細胞は小さ目であるのに核小体は丸く非常に大きくなっている。
以上の事実を今迄班会議で報告の際、吉田先生から「本当に核小体が小さいのかどうか疑問だ」との指摘をうけ、又山田先生からも「位相差で観察したら」とのsuggestionをうけた。
先生方の提案にもとずいて、rat newbornのliver、lung、kidneyの、及びHeLa細胞のタンザク培養を用意して、N-OH-AAF
10-4.0乗M、10-4.5乗M、Aflatoxin 3.2、1.0μg/ml、Fusarenon-X(NivalenolのAcetoxy化された誘導体)1.0、0.32μg/mlを投与して位相差顕微鏡観察を行った。
N-OH-AAF、Aflatoxin投与により、今迄報告した様な肝実質細胞の変性が認められ、又細胞が重ったりしていて観察は充分に行なえないが、核小体は染色標本でみる程縮少していない。これに反し、Fusarenon-X投与では明らかに核小体の増大がみられた。しかも位相差で観察した同じタンザクをCarnoy固定、HE染色してみると、N-OH-AAF、Aflatoxin投与例では核小体は小さくなっている。
細胞の摂り込み実験からすると、核小体がN-OH-AAF、Aflatoxin投与で小さくなることは説明つくと思っていたが、吉田先生、山田先生指摘の様に、固定によるartifactであるかも知れない。Aflatoxin投与による電顕的観察(Floyd
et al.:E.C.R.51:423,'68)では、その大きさは減少し、fibrillarとgrannlar
componentsがseggregateされると報告されている。それ故、上の変化がCarnoy固定によるArtifactとしても固定により核小体が縮小しやすい何かがあると考えては如何だろう。
(II)上の様なことが動機になって、作用機序のわかっている物質について、形態的変化を比較検討してみた。HeLa細胞に投与して3日目のタンザクを型の如くCarnoy固定HE染色した。物質数と観察がまだ不充分なので中間報告する。
(1)FUDR(thymidylate synthetase阻害によるDNA合成阻害剤):細胞は大きく核も大きく、核質は淡明、核小体もそれに応じて大きい。核小体は不規則形。分裂細胞殆んどなし。
(2)IUDR(DNA合成過程でTdRとのcompetitive
inhibitor。IUDR自身、DNAに摂り込まれfrandnlent(?)DNAを合成する):FUDRよりやや弱いが同じ様な変化。細胞、核、核小体すべて大き目になり、核質は淡明である。
(3)Cytosine arabinoside(deoxy cytidine合成阻害によるDNA合成阻害):FUDRと殆同じ様な変化。
(4)FUR(UridineのかわりにRNAに摂り込まれfrandnlent(?)DNA形成):細胞、核の大きさは普通。核質も普通に近い。核小体は丸くなっており、数が1〜2ケ(正常は2〜4ケ位)しかし正常と同じ位の大きさを示す。
(5)8Azaguanine(guanineのAntimetabolite):細胞は萎縮し、大小不整となり、細胞質はそざつ、核小体1〜2ケ丸く大きさはそれ程小さくなっていない。
(6)Amethopterin(Antifolic agent.DNA、Purine蛋白合成阻害に働く):細胞はSpindle-shapedになり小さ目。核はやや小さ目、核質は斑点状で一様でない。核小体は丸く、数小さい。
(7)ActinomycineC(DNA dependentRNA合成阻害):Act.DがないのでAct.Cで実験を行った。細胞は萎縮し小さくなり、核小体は0.01/ml0.0032/ml0.01/ml(8)Proflavin(9)MitomycinC(Alkylity
agent、DNA合成阻害):FUDRと似た変化を示す。
以上の変化をあまり数が多いので密着写真で示した。
:質疑応答:
[安藤]この実験の意味は、作用機作の分かって居る薬剤を作用させて、その形態的な変化を確認したということですか。
[勝田]未知の薬剤を使う前に、既知のものを使って確認したというところですね。
[難波]アクリジンオレンジで染めると、核小体はもっと綺麗に染まってはっきりすると思います。
[山田]非特異的な変性に伴う変化もあるようですね。その薬剤特有の典型的な変化が認められる場合はよいのですが、そうでもない場合はよほど対照をかっちりととっておかないと異論が出ると思いますよ。ブリリアン クレシング ブルー(B.C.B)などで染めてみるのも手だと思います。
《藤井報告》
1.ラット抗Culb血清について
医科研癌細胞研でラット肝細胞の培養内発癌を見たRLC-10→RLT-2→Culb→Culb-TC各細胞の抗原性の変化を調べる目的で、癌細胞研のラット(JAR-2系)にCulb腫瘍細胞(JAR-1ラットで腹腔内継代されたもの)を注射して免疫したが、Culb細胞は皮下接種でJAR-2系ラットにもtakeしてしまい、未だ検査に用いうる同種抗Culb血清は得ていない。現在までに2匹のうつ一匹は腫瘍死し、他の1匹は腫瘍を結紮して脱落させたところ、転移はおこらず生存中で、9月22日、されにCulb細胞で追加免疫をおこなった。
以上のラットより得ている各時期の血清について、Immune
adherence法で抗体の有無を確かめてみた。
標的細胞はRLT-2、Culb-TCで、平底のmicroplateの各wellに1日間培養した細胞である。1日培養の細胞であるためか、反応操作中に培養面からはがれて落ちる細胞が多く、成績は残った細胞について、IA像の強弱を比較するに止まった。(結果の表を呈示)
2.ウサギ抗Culb血清によるRLT-2、Culb-TCの比較:
1日培養したRLT-2、Culb-TC細胞について、ウサギ抗Culb血清(FR85〜87、051969)、ウサギ抗ラット肝血清(FR51、52、030269)によるIAのおこり方を比較した。IAの方法は既報の如くであるが、細胞の洗滌、とくに人赤血球を反応させた後の洗滌は入念にやる必要があり、Plateをmedium(K++をふくんだveronal
buffer)中で底面を上にして静置(約30分)し、非粘着赤血球を落し去った。この実験でも培養標的細胞が操作過程で脱落し、残った細胞についてIA像の強弱を、粘着する赤血球の多少で比較するに止った。(表を呈示)
microplate上でのIAの技術上の改良とくに培養細胞を底に固定させるに必要な日数の検討等がなお残されたわけであるが、上の成績から、RLT-2もCulb-TCと同じ程度にIAをおこしている。AH-130-TCもおこすが、程度は弱い。−即ち腫瘍細胞1ケに粘着するヒト赤血球の数が一様に少いことが見出された。こういう傾向は、Anti-rat
liver serumとCulb-TC、AH-130-TC等の間でも云えることで、抗体に反応する抗原のsitesが少いということであろう。Anti-Culb血清と、Culb-TCやRLT-2で強いIAを示す抗体がCulb腫瘍特異なものであるかどうかは未だはっきり云えない。Anti-Culb血清をラット肝組織で吸収したばあい、その稀釋血清はCulb-TC、RLT-2細胞に弱いがIA(1+)を示した。後日、細かく検討するつもりである。
:質疑応答:
[山田]抗Culb血清はRat liverで吸収するべきではないでしょうか。
[勝田]此の場合、抗Culb血清と抗Rat Liver血清のタイターが違っていると、比較の意味がなくなりますね。
[藤井]実は、当然抗Culb血清はRat Liverで吸収して反応をみるべきだとは考えていますが、何分タイターが低いので吸収すると何も出なくなってしまう可能性もあると考えて、先ずこのデータを出して比べてみたわけです。
[山田]判定のボーダーラインをはっきり定めてありますか。
[藤井]+以上はたいてい20%〜50%位の細胞に血球が附着しています。その附着している血球の数が数個で+、まわり中附着していると+++という風に定めています。
《吉田報告》
最近、吉田肉腫の染色体を詳しくしらべてみると、分裂中期にも、ほぐれたまま固まらない部分を持つ染色体が見出された。遺伝研の吉田肉腫では80〜90%、佐々木研でも80〜90%、岐阜では50%、東北大では5%、武田では90%のmetaphaseに見られた。なおその部分の短いものは、他の染色体と一緒にDNA合成がおこなわれるが、長いものはH3-TdRのとり込みがおくれていた。先の方がまた固まっているのも見られ、13%位に染色体と染色体の間に細く繋がっているものも見られた。これは3年前までの標本には見られない。最近認められる現象である。(模式図を呈示)
:質疑応答:
[勝田]それは染色体と呼ぶべきでなく、Chromatinではありませんか。
[吉田]そうです。或は染色糸というか。
[山田]Heterochromatinですか。
[吉田]片方はそうらしいが、片方はちがうようです。石館氏のところでは薬剤耐性の株に率が高いようです。
[勝田]特種染色ですか。
[吉田]いや、FeulgenでもGiemsaでも見られます。
[勝田]どうもVirus感染による変化かも知れませんね。
[吉田]その疑はあります。
[堀川]Telophaseまで残りますか。
[吉田]核小体と関係があるかと思ってしらべたら、Metaphaseまではlight
greenで染めると核小体が残っている。但し、コルヒチンや低張処理をすると消えます。今までは核小体はmetaphaseでは消えると云われていたのですが。
[梅田]昔は使わなかったdisposableの注射器(移植時の使用)などが原因では・・。
[吉田]いや、やはりウィルスが疑わしいですね。
【勝田班月報・6911】
《勝田報告》
完全合成培地継代のRLH-5・P3株細胞の4NQO処理:
1)4NQO処理
RLH-5株というのはラッテ肝(JAR-1系)由来の株で、なぎさ培養で変異させた株であるが、これを完全合成培地DM-120内に移した所、即座に旺盛な増殖を示し、以後その培地のなかで継代している系をRLH-5・P3と命名している。現在までのところでは、この株はラッテに復元接種しても腫瘍を作らないので、安藤班員の4NQO実験にも使っている。我々はこの株を使って一種のモデル実験をおこなうことを計画した。なおこの実験は、なぎさ変異細胞を使うので、正常肝との区別をつけるため、実験番号の“CQ"を使わず、なぎさの象徴である“H"を使って“HQ-series"とした。これまでに処理した系は次の通りである(表を呈示)。
表に示すように、HQ-2のExp.は映画でしばらく追跡したが、処理直後の培養は、1)割に大型の細胞、2)小型の細胞群、3)球形で他の細胞の上に乗っている群、の3種に別れていた。処理後6日間の観察では、視野内の細胞はどんどん死んで行くものが多く、残った細胞にも分裂は見られなかった。これが4NQOのphotodynamic
actionによったものか、どうかは未だ不明である。次の6日間、視野をかえて撮すと、前半には分裂がかなり見られた。殊に小型円形細胞の分裂がみられ、pile
upの像が顕著であった。後半に分裂が少くなったのは、培地をその間交新しなかったためと考えられる。このように変異させた細胞の場合には長時間培地無交新というのは無理であろう。
2)細胞電気泳動値の測定
実際の測定値は山田班員の報告におまかせするが、上記の実験系のどの辺でしらべたかを次に示す。系は現在のところすべてHQ#1だけである。
1)1969-10-6:RLH-5・P3無処理と→4NQO処理・HQ-1(処理25日後)
2)1969-10-30:RLH-5・P3無処理とHQ-1(処理49日後)とHQ-1B(第2回処理7日後)
HQ-1Bという系はHQ-1系を分けて、さらにもう1回4NQO処理をした系である。
3)復元接種試験
すでに報告しているように、RLH-5株はJAR-1系由来の細胞であるが、JAR-1が仲々子供を産まなくなってしまって、復元したくてもできないという状況なので、充分なデータは未だ出せないでいる。
1969-6-6:無処理RLH-5・P3を生后6日ratへ1,000万個/rat接種・0/2
欄が足りなくなってしまったのでここに補記するが、JAR-1のF33、生后6日のratsの腹腔内接種で、11月11日現在でまだ腫瘍を作っていないということである。5月以上経過しているわけだから、おそらくこのRLH-5・P3そのものは腫瘍を作らないと考えて良いであろう。
1969-10-31:HQ-1(4NQO処理1回)を生后3日ratへ500万個/ratと、HQ-1B(4NQO処理2回)を生后3日のratへ500万個/rat接種。この両例はJAR-1のF34の生后3日のratに、やはり腹腔内に接種した。どちらも未だ1月も経っていないので、結果は何も記し得ない。
このseriesの実験は今後も継続する予定であるが、完全合成培地で増殖している細胞なので、以後の化学的分析が楽であること、安定した且増殖の早い細胞であるから、取り扱いが容易である上、4NQO処理から悪性化までの期間も割にそろってくるのではないか、というのが狙いの一つである。
《佐藤報告》
☆MNNGによるラット肝臓細胞の培養内発癌実験を進めるに当ってMNNGが経口投与されると、ラット、犬等の消化管に腫瘍が発生することが知られているが、肝臓とか腎臓に腫瘍形成をみたという報告は皆無に等しい。そういうin
vivoでの所謂標的臓器でない、肝臓とか腎臓に由来する細胞が培養内でMNNG処理することによって癌化するかどうかは興味深い問題である。そこで特に肝臓由来細胞の発癌を試みるべく予備実験を開始した。今回はMNNG処理方法について検討した。
(1)解放系における処理方法:
1)細胞の培養令。2)細胞数。3)MNNG濃度。4)MNNG作用時間等について。
以上の点について、MNNG処理細胞群のコロニー形成率を対照群と比較し、MNNGに対する感受性(細胞傷害及び変異に関する)を検討した。方法は、ドンリュー系ラット肝臓由来細胞(ただし未クローン化)をガラス製ペトリ皿(三春製作所製・P-2・45mm直径)に植込み、約24時間後にMNNG溶液(Eagle'sMEM+BS20%)で液交換して1週間(37℃・5%CO2孵卵器内で)培養し、そのまま停止するか、MNNGを含まない培地で更に4日まで培養した。コロニー形成率で両者を比較する為に、対照群がシートを作らぬよう植込み細胞数は25,000コ以下とした。結果は図表に示す通りである(図1は表1を基にして、相対的コロニー形成率を求め図示したものである)。その結果、(1)細胞の培養令とともにコロニー形成率は上昇する傾向にはあるが、MNNGに対する感受性は変わらない。(2)植込み細胞数の差による感受性は変わらない。(3)MNNG
10-4.0乗M(14.7μg/ml)までは濃度を高めるとコロニー形成率は対数的な低下を示す。(4)MNNG処理時間は一応7日としているが、別の細胞系(バッファロー系ラット肝臓由来細胞)で処理時間を24時間及び15分間として試みたが、24時間と7日間との間に差が認められず、又15分間処理では、未処理対照群に比較して僅かの低下しか認められなかった。(5)変異コロニーの出現に関しては、現在までに1例の重層をする“変異コロニー"を認めたが、実験例が少ないので今後更に検討する予定である。この実験系の植込み細胞数が25,000コ以下であったこと、培養日数(MNNG処理後、停止するまでの)が長くて数日であったこと、などの点を再考する必要がある。尚“変異コロニー"はクローニングしたが後に増殖が見られず、培養を停止した。
《難波報告》
N-9:培養内で4NQO処理により癌化したラット肝細胞の動物移植により生じた
2系の腹水腫瘍の樹立と、その細胞学的性状
化学発癌剤を使用して、試験管内で悪性変化した細胞を動物に移植して腹水化した腫瘍細胞を動物に継代し株化した報告は少い。そこで、ラット肝由来の培養肝細胞を試験管内で4NQOを処理し、悪性化させ、その細胞をラット腹腔内に接種して2系の腹水型の腫瘍を得たのち、これを継代し株化した。2系の腹水腫瘍をQT-1、QT-2と命名した。
この腹水腫瘍を株化した目的は次の2点である。
1)腫瘍細胞の細胞学的検索に有利なこと。2)この腹水型腫瘍細胞の細胞学的検索から、現在の培養肝臓細胞の性格を少しは推察できること。
[材料]生後5日目のドンリュウ系雄ラット由来の肝組織を、メスにて細切し試験管壁に附けて、回転培養(8rph)を行った。継代は0.2%のTrypsin(Difco)を使用し、継代1代以後は密封静置培養した。培地はLD+20%BS(LD培地)を使用した。221培養日にこのLD培地に終濃度0.08%のyeast
extractの添加された培地(YLD)に変え、223日目より間歇的に培地中に終濃度10-6乗Mになった4NQOで、培養細胞を処理し発癌せしめた。処理期間は108日、4NQO処理回数は20回であった。以後処理を止め、実験開始後119日目(全培養日数342日)に500万個の細胞を生後48時間目の2匹の同系の新生児ラット腹腔内に接種した。2匹のラットはそれぞれ接種後104日(QT-1)、107日(QT-2)に著明名腹水を貯溜し瀕死状態になったので、屠殺しそれぞれの腹水を成熟ラット腹腔に継代すると共に、剖見した。2匹のラットには血性腹水がそれぞれ100ml、40ml溜まっていた。腹水の像は、QT-1では出血強くザラザラした感じで大きな島を示す癌細胞が多いのに比較して、QT-2では割合にサラサラした感じの小さい島を示す癌細胞、及び遊離細胞が多かった。腫瘤形成は大網、腸間膜、腹膜、肝門部に認められた。固型腫瘍の組織像は、QT-1では充実性の未分化肝癌、QT-2では、hepatoblastoma様の構造を示す部分があった。
[結果]
1.2系の樹立された移植腹水腫瘍の性状
移植継代は全てドンリュウ系成熟ラット腹腔を使用し、移植細胞数はだいたい1000万個であった。(2系の腹水腫瘍性状の表を呈示)
2.染色体の分布
QT-1:38〜78に分布し、モードは72。QT-2:60〜76に分布し、モードは70。
3.QT-1、QT-2の初代培養に於る細胞増殖
1)Simplified Replicate Tissue Culureで1週間の増殖率
QT-1(21代)のもの:9.1倍。QT-2(16代)のもの:3.4倍。
2)Plating efficiencyは、QT-1(22代):18.9%。QT-2(16代):18.5%。
4.再培養された細胞の形態
QT-1、QT-2共に上皮性のCell sheetを形成した。コロニーにまくと、きれいな上皮性のcolonyの形成がみられ中心部のpiling
upする物、異型性の細胞よりなるcolonyが多かった。
5.4NQO耐性の検討
細胞はSingle cellsの多いQT-2と、その対照として、AH66を使用した。4NQOを終濃度10-5乗M、10-4.5乗M含む、10%ラット血清加YLD液で、細胞浮遊液(1000万個cells/3ml)をつくり、37℃、30分処理後、100万個の細胞を動物の腹腔に入れ、その生存日数を比較した。対照には4NQOを含まない細胞浮遊液を使用した。対照に比べ4NQO処理群で動物生存日数が延びるほど細胞は薬剤に感受性がある訳で、細胞に耐性があれば生存日数は、対照群と変らぬことになる。(表を呈示)その結果は表の如くなり、QT-2に4NQO耐性があるとは考えられなかった。 [考察]同じように4NQO処理を受け悪性変化した細胞を、2匹のラットに移植し、生じた腹水腫瘍を動物で継代し、株化した。両者間には相違が認められた。その理由として
1)培養細胞集団内に種々の細胞が混在しており、それが4NQO処理により多中心的に発癌したものか。2)ある特定の癌細胞のみが動物体内で増殖を許されたのか。3)悪性化した細胞が動物体内で異なった方向へ分化したものか、など種々の要因が考えられる。
《高木報告》
NG treated cellsのsoft agar内におけるCFEと腫瘍形成能:
NG-4、NG-11、NG-18の3実験系においてCFEと腫瘍形成能との間の関係をみるべく実験を行った。結果は表に示す通りである(表を呈示)。
表中二重線より左は各実験系細胞について行ったもので、CFEをみるためseedした細胞数はNG-4:10000、NG-11:10000、NG-18:1000であった。また新生児rat皮下に接種した細胞数はNG-4:100万個、NG-11:200万個、NG-18:200万個であった。
二重線より右は各実験系細胞よりとったcloneにつき行ったもので、すべて1000ケの細胞をsoft
agarにseedしたものであり、また新生児rat皮下移植細胞数は100万個で、NG-18のCl-2、Cl-3のみは新生児ratの脳内に10万個cellsを移植した。
以上の結果から、NG実験系においてもCFEと腫瘍形成能との間に、相関関係はみられない事が分った。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(16)
4-NQOおよび4-HAQO処理によって細胞内DNAがsingle
strandまたはdouble strandレベルに於いて切断されることについては、これまでの月報で報告してきた。しかし細胞内でこうしたDNA鎖切断を誘起するものがはたして4-NQOそのものなのか、あるいは4-HAQOなのかについては何ら知られていない。杉村らによって従来報告されたデータによると試験管内DNAのsingle
strand breakを誘起するのは4-HAQOであって、4-NQOやその他の誘導体にはそうした能力のないことが知られている。
今回はこういった目的から培養されたEhrlich細胞をあらかじめ45℃で30分間処理し、細胞を死の条件に追いこんでから(処理直後には死んでいないだろうが、以後は生存不可能な条件という意味)、5x10-6乗M
4-NQOまたは1x10-5乗M 4-HAQOでそれぞれ30分間処理した直後のdouble
strand DNAのsedimentation profileの変化を解析した。予備的な結果を図に示す。(図を呈示)
これらの図から分かるように、4-NQOは45℃で30分間処理した細胞内DNAのdouble
strandbreakを誘起出来ないが、4-HAQOはこれを顕著に誘起出来ることが分かる。従って生細胞を4-NQOで処理した場合に誘起されるsingleおよびduble
strand breakは4-NQOが細胞内に取りこまれた後に、細胞内でreduceされて生じた4-HAQOによって誘起されるという可能性が高いようである。こうした結果は、4-NQOまたは4-HAQOによる試験管内発癌という問題を考察する場合に非常に重要な問題を提供すると思われる。
また同時にこうした結果の示唆するものは、45℃、30分間という条件で細胞を処理すると4-NQO
reductaseは失活するということである。では、こうした条件下で細胞を処理した場合DNA-polymerase、Ligase等を含くむDNA修復酵素系の細胞内活性はどうであろうかという興味ある問題が出てくる。このための実験が現在進められている。
《山田報告》
これまでin vitroの発癌過程に於ける細胞表面の変化について、細胞電気泳動法を用いて検索して来ましたが、その結果、培養細胞全体の電気泳動度の平均値を求めて追求する限り、ごく初期の発癌状態を検索出来ないと云う事がわかりました。即ち、培養細胞群のごく一部の細胞が悪性化し、大部分の細胞がいまだ悪性化しない場合は、たとへ悪性化細胞の表面荷電が変化しても、他の多くの非悪性化細胞の表面荷電のために、全体としての平均泳動度変化は極めて僅かなものとなり、悪性性質を発見することが出来ないわけです。 そこで、前回その手始めとして写真記録式細胞電気泳動装置を用いて、RLT-1(CQ42)の箇々の細胞の電気泳動度とその細胞形態を同時に検索した所、中型の細胞で核膜が肥厚硬化し、核小体の大きい細胞(写真を呈示)が特にシアリダーゼ感受性があることを発見し、前報に報告しました。
今回は、この成績に基き、ラット復元試験により悪性化が証明されたにかかわらず、依然としてその細胞系の電気泳動パターンが悪性型を示さない(シアリダーゼ感受性でない)細胞であるRLT-5(CQ50)、及び自然悪性化したと思われるRLC-10-B、また現在の所、悪性化が証明されて居ないRLC-10-A各株について、前記の中型細胞の電気泳動的な性質を検索しました。その結果を2〜4図に示します(写真を呈示)。各細胞の下に示す数字はそれぞれの細胞について測定した細胞電気泳動度であり、その単位はすべてμ/sec/v/cmです。シアリダーゼ処理は従来と同じです。
従来の成績よりラット肝細胞由来の細胞が悪性化すると、一般にその電気泳動度が高くなり、またシアリダーゼ処理により、その平均泳動度が一割以上低下すると云う事実が判明して居ますので、これを指標として、中型細胞を検索しました。
即ち次の二つの成績を示す細胞が各細胞系にどの程度存在するかを調べたわけです。
(1)細胞群の平均電気泳動度より一割以上高い泳動値を示す未処理細胞。(2)シアリダーゼ処理後、平均電気泳動度より一割以上低下する処理細胞。の出現頻度を中型細胞について検索したわけです。図2〜4は、写真記録により測定した各系の細胞全部を、大、中、小の型に分類したものですが、このうちで中型細胞中◆印を附した細胞が上記の(1)(2)のいづれかに該当する細胞です。
その結果をまとめますと、(表を呈示)表の如くなります(前報に示しましたRLT-1のデータも比較して示してあります)。各細胞群全体の、平均電気泳動度の変化からみたシアリダーゼ感受性を比較しますと、RLT-1のみが悪性型を示し、他は良性型を示して居ます。しかし中型の標的細胞のみの平均泳動度の変化からみたシアリダーゼ感受性を比較しますと、RLT-1とRLT-5のみが悪性型を示します。RLC-10Bは、ラット復元試験により悪性化が証明されて居るにかかわらず、尚ほこの比較でも悪性化を示して居ません。従って中型細胞の平均泳動度のシアリダーゼ処理による変化の追求によっても、少数細胞の悪性化の同定は出来ないと云うことになります。
そこで試みに各中型細胞のうちで前記(1)及び(2)に該当する細胞の出現頻度の積を指数として計算してみました。これは各系の中型細胞のうちで(1)(2)の条件を満足する細胞出現の最少頻度を比較したわけです。
この計算によると中型細胞のうちシアリダーゼ感受性細胞(即ち悪性と推定される)の出現頻度は25%となり、RLT-5とRLT-10-Bは殆んど同じ10%前後になりました。RLC-10-Aは、3.8%と最も少い値が出ました。RLC-10-Aのラット復元試験が完了して居ないので、最終的な判定は出来ませんが、どうやらこの様あ計算が最も現実の悪性化の認識には役にたちさうな感じがして来ました。
いまだ検索例が僅かですので、この最少悪性細胞出現頻度の数値にあまり厳密な意味をもたせることは出来ませんが、この方法をこれから当分続けて少数細胞の悪性化同定の基礎作りをやらうかと考へ出した所です。
《安藤報告》
L・P3細胞のDNA合成に対する4NQOおよびHydroxyurea(HU)の濃度効果について。
L・P3細胞に於ける半保存的なDNA合成は10-5乗Mの4NQOではそれ程抑制されない。したがって4NQO処理細胞に於けるRepair
replication(修復合成)を明らかにする事は困難であった。そこでこの点をもう少し明確にするためには、この正常な半保存的なDNA合成を選択的に抑制する方法を使わなければならない。今回はそれを検討した予備実験である。
方法は下図のように(図を呈示)シャーレに円カバーグラスを何枚か敷き、その上に0.1mlのcell
suspensionをのせ、細胞が落着いた所で培地を満しCO2
incubatorに入れる。翌日ほぼfull sheetになった所で、4NQOあるいはHU単独かcombination処理をする。ただし4NQO処理は各濃度30分処理を行い、洗ったのちにH3-TdR(チミジン)を加える。HUを加える場合はこの4NQO処理後にチミジンと共に加える。以後時間を追ってカバーグラスを一枚ずつとり出し、冷TCA処理後、乾燥し、液シンで測定する。
図はその一例である(図を呈示)。DNA合成のtime
courseをとるには非常に簡便な方法である。1mMのHUは95%も阻害してしまった。Cleaver等によるとこの抑制される部分は半保存的合成であり修復合成は抑えられないという。
次に種々の濃度の4NQOあるいはHU添加時のとり込みを調べた。
(表を呈示)結果は表の通りである。4NQO 3x10-5乗Mで約90%阻害、5x10-5乗Mで95%阻害であった。この際4NQOがHUと同じく半保存的な合成のみを選択的に抑制しているとすれば、HUを使わずとも4NQO濃度を上げる事によってのみ修復合成をclose
upする事が出来る筈である。HUのみの効果は次の欄にあるように、1x10-3乗Mにして始めて90%阻害となる。更に次の欄にあるように両者を併用した場合には、相加的にも相乗的にも働かず、各々独立に働き、効果の弱い薬剤の方がかくされてしまう。4NQO
1x10-4乗、HU 1x10-3乗の場合にはHUのみの効果が現われ、5x10-5乗、1x10-4乗Mの4NQOになると逆にHUの効果はマスクされてしまう。この結果は両薬剤がDNA合成に関して異る部位を阻害している事を示している。なお、R.L.P.Adamsらによって、HUはdeoxyribonucleotide
reductaseを阻害している事が示されている。
《藤井報告》
今月は同種移植免疫での感作リンパ球のcytotoxic
activityの定量的測定がようやくものになりそうになったので、その方の実験に忙殺されてしまいました。細胞性抗体あるいは感作リンパ球がtarget
cellsの増殖を抑制する現象は認められてきておりますが、定量的に測定することは困難でした。とくにtarget
cellとしてdonorのリンパ系細胞を用いると、攻撃する側のrecipientの細胞(リンパ節細胞)と分別がつかず困っていた訳です。この度はH3-thymidineをdonor系マウスに注射してin
vivoでリンパ節細胞、胸腺細胞をlabelし、感作リンパ球と1〜2日培養しますと、感作リンパ球の数に対応して、破壊された細胞の%がH3のcpmで表現し得たわけです。培養后、トリパンブルーを加えてみて、dye-uptakeし膨化した細胞(target
cellと考えられる)の周に、リンパ球がへばりついている像も観察出来ました。その場面をautoradiogramにもとっておりますが、未だ現像しておりません。
以上余談になりましたが、こういう状態で今月はCulb細胞に対する同種抗血清の作成と、mixed-hemadsorption法に必要なウサギ抗ラット・グロブリン血清の作製に終りました。同種抗Culb抗血清には、本年3月以来免疫をくり返し、Culb細胞が一旦生着してtumorをつくるに至ったラット(JAR-2系)と、3匹のWistar
King系ラットを用いました。前者は、takeしたtumorの結紮処理等で抵抗ができたのか今回はtakeされませんでした。両者とも2回免疫した後の血清では、microdouble
diffusion法で沈降線は認めていません。IA、mixed-hem-adsorption法でもやってみる予定です。
ところで同種移植や癌細胞の同種、同系移植の抗体を探す場合に、血清中の抗体が拒絶反応にはあまり関与しないという意見が強いのですが−target
cellsによってはかならずしもそうではありませんが−少くとも、血清抗体だけを取扱って癌の抗原を追って行くのは片手落ちということになります。最近Hellstromがcolony
inhibition techniqueなるものを発表しています。彼によると、A/Snマウス起原のleukemia
YAA-C1-C3細胞、4,000、あるいはヒトのneuroblastoma
cellsをFalcon plastic Petri dish(5.0cm diameter)中で培養し、これに100万個〜1,000万個の感作リンパ球、るいは患者の末梢リンパ球を加えると、非感作リンパ球や非患者リンパ球を加えた対照に比して、有意にcolony
formationが抑制されるというわけです。抑制率はマウスの実験では30〜90%位、ヒトのneuroblastomaのばあいで50%位と報告されています。この方法は、組織培養を実際にやったことのない私には、よく評価出来ませんので、検討していただくこととして、当面の行き詰り打開の“あがき"として、Culb、Cula、Culc・・・等を接種したラットのリンパ節細胞や血清が、Culb、Cula、Culc・・・・等に対し、またRLT-1、RLT-2、RLT-3・・・等のcolony
formationに、如何に作用するか試してみるのも一手かと考えています。
《梅田報告》
(1)Hamster embryonic cell cultureにN-OH-AAFを投与して、増殖カーブを描いた(図を呈示)。月報6908で示した様にHeLa、L-5178Y細胞、吉田肉腫培養細胞に投与した場合、10-4.0乗Mで致死的に、10-4.5乗Mで増殖阻害に働いたが、Hamster
embryonic細胞も、N-OH-AAFの各濃度に対し殆同じ様な反応を示した。
(図を呈示)図はN-OH-AAF投与、6、24時間后培地を洗いcontrol培地に戻した場合である。月報6908でのHerLaに対する実験の結果と同じ様に、6時間作用后の細胞は恢復するが、24事件作用后のものは恢復しない。
(2)Hamster embryonic cellsに、N-OH-AAFを投与して、mitotic
coefficient及び、chromosomal abnormalityの出現頻度を算出した。Hamster
embryonic cellの場合controlは0.6〜0.8%のmitotic
coefficientを示す。Gapとかbreakも、良く観察すると時々見られる。時に染色体が娘染色体にわかれ短桿状になったものがあり、これはothersに分類した。 N-OH-AF
8x10-5乗M投与例でmitotic coefficientは、14、24、48時間后すべて0を示した。4x10-5乗M投与例は表の如く、24時間で下った値が48時間で恢復している。(表を呈示)Gap、breakはcontrolに較べ高率に出現する。興味あることは、Endoreduplicationが48時間目に出現していることである。
HeLa細胞に対する作用を6907で報告したが、この方の観察は不十分であったし、48時間目の標本を作らなかったので、目下追試中である。HeLaでもendoreduplicationを起すかどうか興味がある。Hamster
embryoic cellでも追試する予定である。
尚endoreduplicationが気になったので、4HAQOをHeLa細胞に投与して染色体標本をあわてて作ってみたが、(また%を算出中であるが)多数のbreakが観察されるのに、endoredup-licationは見あたらなかった。
《安村報告》
☆Soft agar法(つづき)
1.マウス胎児細胞系:前号で(No.6910)のべられたこの胎児細胞系は、培養392日めにSoft
agarに植えこまれた際、平均21コのコロニー/接種細胞数100万個が形成された。このことはこの細胞系の細胞集団中に自然発癌(悪性化)した細胞の存在を示唆している。そこで上記のコロニーを無作為に数個ひろいMUSA系と名づけ、原株(野生株)をMUSO系と呼び、両者を区別することにした。
a)この両者についてコロニー形成率の比較を行った結果が表の如くであった。(培養開始後434日めの材料である。)(表を呈示)
MUSA系は予想を上回って原株のMUSO系よりコロニー形成率が100〜500倍高くなっている。
b)ついで、colony-formant由来のMUSA系の可移植性(腫瘍性)をしらべてみた。MUSO系は、C3H/He系マウス由来であるので同系の新生児に接種された。結果は表の如くで、100万個のMUSA系細胞の腫瘍性が確かめられた。(表を呈示)
野生株MUSO系細胞は脳内接種、皮下接種いずれのばあいも腫瘍を形成させることができなかった。しかしMUSA系のうちMUSA1は脳内接種では10万個で腫瘍を形成しなかったが、再び軟寒天培地でコロニーを形成した細胞系MUSA1/1-Lと、MUSO由来のcolony-formantの別系MUSA5-Lはともに100万個で皮下接種により径10mm内外の腫瘍を接種後10日以前に形成した。同時に接種されたMUSO細胞は100万個で腫瘍形成に至らなかった。
以上の結果は軟寒天法がbacktransplantationによって結果がえられる以前に、ある細胞集団の中に存在するかもしれない悪性細胞の存在を予言したことに大きな意味がある。例外はあるにしろ、軟寒天法が悪性細胞を(変異細胞といった方が妥当かもしれない)スクリーニングし、定量的解析に極めて有用な手段であることの証左を提供すると考えられる。こんごの問題はin
vitroにおける培養細胞の悪性化を継時的、定量的に解析するには、もし軟寒天法を利用するとして、適する材料を選択することがさしあたり必要であろう。最近、軟寒天培地における細胞のコロニー形成能と腫瘍性との関係に研究者の注意がむけられてきていることに注目しよう。(SachsらのPNASの報告に注目)
【勝田班月報:6912:NGによる試験管内化学発癌】
《勝田報告》
◇下条班員よりのデータが紹介された。医科研癌細胞より依頼された株細胞(RLC-10、RLT-1、RLT-2)のT抗原(SV40
T antigen、Adeno 12 T antigen)は陰性とのことであった。
A)各種株細胞の合成培地内培養:
細胞を合成培地内で継代できると、i)血清由来のウィルスのcontaminationが防げる。ii)細胞の生化学的分析が容易になる、などの利点がある。当研究部ではすでに10種の細胞株を合成培地内で継代しているが、さらに別種の株について検討を加えてみた。
(表を呈示)しらべた21種の内、7種は11月までに切れてしまい、6種は現在死にかけ、6種はまだ結果不明であるが、残りの2株(RLC-10由来で4NQO処理した系、CO#60とCO#60Bの2実験系)では、合成培地DM-145(イノシトール含有培地)内で増殖を続けているので、これはまず今後も継代は大丈夫と思われる。
このCO#60及びCO#60Bの対照群RLC-10Bは自然悪性化したが、少くともこの合成培地内では増殖できぬのに対し、CQ#60とCQ#60Bが増殖できるということは、同じ悪性化でもその間に質的な相違のあることを明示していると云えよう。
RPL-1(ラッテ腹膜)、RPC-1(ラッテ膵)、RLG-1(ラッテ肺)、RSP-1、-2(ラッテ脾)、と夫々の臓器より由来した細胞の株である。
B)4NQO処理のラッテ肝の実験系、CQ#60の処理後の検査歴:
この実験系はRLC-10株を4NQOで1回処理した系であるが、細胞電気泳動像が大変悪性面をしているとのことなので歴史を紹介する。3月1日に第1回の復元テストを行い、2/2に腫瘍死した(95日、135日)。3月5日には染色体のモードは41本であったが、7月及び10月にしらべたところでは、3倍体付近に移ってしまっていた。なおこの時期でも対照のモードは41であった。
C)JTC-16・P3株の培養歴:
JTC-16はラッテ腹水肝癌AH-7974由来の株で、いまだに可移植性を有している。この株を合成培地DM-145に移したのが、JTC-16・P3株である。その培養歴の概略を表に示す。この株の特徴は、合成培地で継代している株でも動物に戻せばtakeされるし、その腹水細胞はすぐまた合成培地で増えることである。
D)JTC-16・P3株細胞の形態:(顕微鏡写真を呈示)
血清培地で継代しているJTC-16は多核細胞やpiling
upの像が見られる。
合成培地で継代中のJTC-16・P3株細胞は、細胞の大きさが揃っており、核小体が若干大きい(?)。諸所にpiling
upが見られる。その細胞とシート内の細胞と形態的に違うかどうか、同じ視野でピントをpiling
upに合わせてみると、形態的にはシート内の細胞とそっくりである。☆☆この写真を今見ると、piling
upというより、MDCKの形成するドームとか、ヘミシストと呼ばれているものと思われる☆☆
:質疑応答:
[佐藤]私の経験では肝癌など合成培地になじませるには、先ず合成培地で培養し、増殖が落ちれば動物へもどし、又合成培地で培養するという事をくり返すと、合成培地で培養できる悪性腫瘍系がたやすくできると思います。
[山田]CQ60の系に関しては、染色体数に変化の起こった時期は、電気泳動値が腹水肝癌様のパターンに変わった時期と一致しているようです。
[難波]合成培地で継代出来る細胞系を作る時、20%血清培地からいきなり合成培地に切りかえるのですか。又合成培地に変えた時lagが出ませんか。
[勝田]合成培地への順応の仕方も、又lagが出るかどうかということも株によって全く違います。RLH-5のように血清培地より合成培地の方が増殖のよいものもあり、HeLaのように順応するのに何年もかかるものもあります。
[難波]合成培地の方がpHの下がり方が早いという事はありませんか。
[安藤]それも系によって違いますね。ミトコンドリアの発達と関係があるように思われます。合成培地で増殖するようになるという事は、細胞のどこが変わるのでしょうか。
[勝田]少なくとも脂肪酸の構成は変わりますね。これらの合成培地で培養できる系のうち、AH-7974の場合には正常肝細胞の増殖を阻害する毒性物質を、合成培地で培養しているAH-7974・P3でも出して居るということになると、分析がずっと楽になりますから、そういうねらいも持っているわけです。
[松村]4NQO処理によって、染色体数の分布にひろがりが出来るということはありませんか。
[勝田]私達の実験では、4NQOは染色体上の大きな変化はあまり起こさないようです。
[山田]岡山の方はどうですか。
[難波]やはり、低2倍体への変化が多いようですが、何度も作用させると3倍体になったという例もあります。
[佐藤]変化の仕方はまちまちです。ただ3倍体になると安定するようですね。
[堀川]発癌性と染色体の変化に、もし直接的な関係があるなら、統計的にしらべれば特異的な変化の答えが出るはずです。しかし、これだけやっても、どうも結論が出ないというのは、その関係が2次的なものではないのでしょうか。
《山田報告》
前報に於いて、写真記録式細胞電気泳動法により「少数細胞が悪性化したと思われる細胞集団」の分析を行い、その結果を報告しましたが、今回は同じ方法でRLH-5・P3の4NQO処理後の変化を追求しました。
まず通常の細胞電気泳動法にて、直接泳動度をカウントした成績では(図を呈示)、処理後42日までシアリダーゼ感受性は増加して居ませんが、個々の細胞の泳動度のバラツキが明らかに49日目に出現して居ます。対照の未処理細胞は全く変化なく、従来通り、この細胞系は殆んどシアリダーゼ処理に反応しません。
ところが、写真撮影記録式の方法でこの細胞群を分析しますと、種々の知見が得られました。4NQO処理後26日から小型細胞に泳動度の速いものが多くなり、シアリダーゼ感受性の増加したものが多くなって来て居ます。特に2回4NQO処理した群(HQ1B)では68日目に特にこの傾向が著明となり、また大型細胞にもこの種の変化したと思われる細胞が増加して居ます。前回で試みたごとく、細胞群を大中小に分けて、それぞれの型のうちで泳動度が全平均値より10%以上高値を示す細胞の出現頻度(%)、およびシアリダーゼ処理後、全平均より10%以上の減少を示す細胞の出現頻度(%)を計算し、更にそれぞれの型における上記両頻度の積を推定変異細胞の出現頻度として計算してみました(表と図をを呈示)。
4NQO二回処理群(HQ1B)の小型細胞の変化は前回のCQ42(RLT-1)に近い変化と考えられます。(しかしCQ42の場合には中型細胞が変化している点が異ります)
特にHQ1B群の細胞は全体として、大型になって居ることが目立ちます。
これらの変化が悪性化とどう結びつくか、ラットへの復元実験の成績を待つとこにすると共に、4NQO1回処理群(HQ1)の其の後の変化も近日中に測定の予定です。
:質疑応答:
[堀川]RLH-5・P3を4NQOで処理すると、小型細胞でシアリダーゼ処理によって泳動度のおちるものが、4倍にも増えたということは、RLH-5・P3でも悪性化の見込みがあるということですか。
[山田]RLH-5・P3が4NQO処理によって変異するという事は言ってよいと思いますが、その変異が悪性化に結びつくかどうかはあくまで動物への復元成績を待たねば判りません。
[藤井]免疫の実験についてですが、ホモの動物を使った場合なら抗血清を採った動物のリンパ球を泳動させて細胞性抗体をつけているかどうかというような事もしらべてみられますね。
[山田]基礎条件がきちんと設定できたら、色々実験してみられると思います。
[難波]この実験の場合、非働化はどういう意味をもっているのでしょうか。
[山田]補体をこわすための非働化です。
[藤井]抗体で処理しただけで、電気泳動にかけては駄目ですか。補体の処理も必要ですか。
[山田]抗血清は非働化して用いますから、別に補体を作用させて細胞表面が溶けて穴があくような変化を起こさせることが必要です。ヘテロの系を使って実験しますと、全く明らかに泳動度が変わります。
[堀川]腫瘍特異抗原というものが本当にあるのでしょうか。
[山田]免疫の方からは、腫瘍細胞とは腫瘍特異抗原をもつようになるのか、或いは臓器特異抗原を失うのかという二つの方向から攻めることが出来ると思います。
[堀川]細胞電気泳動法を免疫学的に使うということから、案外細胞の悪性化を早い時期につかまえられそうですね。それから将来、泳動度のちがう細胞を無菌的に分劃出来るようになったら、抗体をくっつけた細胞だけ拾うことなど可能になるでしょうか。
[山田]もちろん可能になると思います。
《難波報告》
N-10 4NQOで悪性化した培養ラット肝細胞の4NQO感受性について
4NQOで悪性化した細胞を試験管内で、できるだけ早く捉える試みの一つとして本実験を行った。即ち、4NQOで悪性変異した細胞が4NQOに対して、耐性を有するかどうかを集落培養法によって検討した。実験は3回行い、3回とも同一の傾向を示す結果を得たので報告する。
使用した細胞は培養ラット肝細胞系RLN-E7(4)のものでその対照細胞、10-6乗M
4NQO間歇処理20回で悪性化した細胞、及びこの悪性変異した細胞を動物復元して生じた腫瘍を再培養した細胞を使用した。4NQO感受性試験では20%牛血清加Eagle's
MEMに4NQO終濃度10-9乗、10-8乗、10-7乗M(又は10-7.5乗M)含む培地に少数細胞をまき込み1週間培養を続けた後、4NQOを含まぬ培地で培地を更新し、更に1週間培養し、形成されたコロニー数を算え、それぞれの細胞系に於て4NQOを含まぬ培地に2週間培養した場合に形成されるコロニー数を100%として、その相対的コロニー形成率を算定した。
結果:4NQOで試験管内で悪性変化した細胞、及びその動物復元で生じた腫瘍の再培養細胞に4NQO耐性は認められなかった。従って、4NQO耐性を細胞の4NQOによる悪性化の指標とすることが出来ないことが判った。(表と図を呈示)
:質疑応答:
[堀川]コロニーの形成率からみた耐性の実験は、4NQOを入れっぱなしでみていますね。4NQOを30分処理して除いてしまった場合はどうですか。
[難波]30分処理もデータがありますが、全く同じ結果が出ています。
[佐藤]前にラッテの肝細胞の増殖率でみた時は、4NQO処理の細胞は4NQOに対する耐性が出来て居るという結果ではありませんでしたか。
[難波]そうでした。増殖率をみる実験の方が培養日数がずっと短いことと、半分死にかけの細胞も核数計算では数にはいるので、そういう結果になったのだと思います。
[高木]増殖度をみることとコロニーの形成率をみることと、どちらが適切な手段なのでしょうか。
[堀川]増殖カーブでみる時は、カーブがプラトーに達した所でみなくては正確な結果が得られないと思います。理想的には両方の手段で実験した結果をみて結論するべきでしょうね。
[佐藤]コロニー形成の場合、一つ一つのコロニーの大きさはどうですか。コロニーの大きさは増殖に関係があるわけですが・・・。
[堀川]重要な点ですね。放射線での耐性細胞のコロニー形成能をみますと、形成率は大変よいが、大きさは対照より小さいということがありますね。
[佐藤]コロニー形成能だけでは耐性の正確な答えが出ないと思います。例えばコロニー形成能は同じでも生き残ったものの増殖の速度が変わっていたりすることは、チェック出来ないでしょうか。
[勝田]1週間も4NQOを入れつづけるという条件では、抵抗性をみるつもりで再変異をみているという事になりませんか。
[難波]悪性化した細胞に4NQO耐性が出来ていれば、4NQO添加の条件で悪性細胞を拾うことが出来るとも考えたのです。
[山田]4NQOの毒性に対する抵抗性をみていることになりませんか。
[松村]あのカーブは対数で書いてあるのに曲がっていますね。そのことから考えられることは、薬剤の濃度の濃い所とうすい所では細胞に対する作用の仕方が全くちがうのではないかという事ですね。
[勝田]4NQOを使っている場合、濃度を/mlで決めてよいものでしょうか。/cell数で決めるべきではないでしょうか。
[安藤]まさにその通りです。私の番の時にデータを出しますが、あのカーブが曲がるということも、細胞1コに取り込まれる4NQOの量にクリティカルな線があるからではないでしょうか。
[山田]4NQO処理を重ねるごとに、コロニーの形成率は上がりますか。
[難波]上がります。しかし対照の方も総培養日数が長くなるにつれて、だんだんコロニー形成率が上がりますから、4NQOの効果としてははっきりしません。形成率が対照よりどんどん高くなるようだと4NQO処理により変異の率が高まると考えられますが・・・。
[山田]4NQO処理の追い打ちのかけ方も問題がありますね。間をおかずにすぐ次の処理をするのと1月もたってから処理するのとでは、細胞の変わり方が違うでしょうね。
[勝田]光に対しても、もう少し気をつけた方がよいでしょう。
[堀川]光力学的効果がある場合は、暗室で実験します。ナトリウム電灯を使うのがよいでしょう。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(17)
従来われわれは紫外線またはX線照射さらには化学発癌剤4-NQOとその誘導体処理による培養哺乳動物細胞のDNA障害とその修復機構について比較解析を進めてきているが今回の班会議には時間の都合上スライドを準備することが出来ず、黒板を使用して、これれ3者の間の詳細な比較解析結果を報告し、あわせてこうした観点から私なりの発癌機構についての考えを述べ諸氏の御批判をあおいだ次第です。こういった訳で次回から詳細な実験結果を報告します。
:質疑応答:
[安藤]RLC-10では二重鎖切断の回復がないようだというデータが私の実験でも出ましたから、堀川さんと私の実験結果の違いは、血清培地で培養している細胞と合成培地で培養している細胞の違いかも知れません。
[堀川]そういう事は考えられますね。
[安藤]チミジン、ロイシンにプレラベルしておくという実験で、24時間後に培地内へ又放出されてくるチミジン、ロイシンの量は、始めに細胞内へ取り込まれた量の何%になりますか。
[堀川]今答えられませんが、計算してみます。
《安藤報告》
1)4NQO処理L・P3細胞はDNAの修復合成を行うか(3)
月報No.6910に於て10-5乗M4NQOで処理したL・P3細胞にはDNAの修復合成が検出されなかった。そこで今回は条件を少しかえて再度テストしてみた。しなわち4NQOの濃度を3x10-5乗Mとする事によってDNAの鎖切断数を増す事、及びヒドロキシ尿素を使う事により正常な半保存的合成を抑制する事という条件下に再度修復合成の有無を調べた。アルカリ性CsCl遠心の結果、フラクション数1〜20迄のHeavy域について、コントロールと4NQO処理両者を比較すると明らかに4NQO処理の場合の方が高いカウントを示している。更に定量的に重い域と軽い域のカウントの比を計算してみると、コントロールでは重い域に全体の6%あるのに対して、4NQO処理の場合は16%存在する。これは恐らく有意差であろうと思われるが、なお検討し続けなければならないと思う。もし有意差であるとすれば「4NQO処理によって起った切断が再結合される際に古いDNA鎖の中に新たなヌクレオチドの挿入が起った、すなわち修復合成が起った」と結論出来る筈である。(図と表を呈示)
II)DNAの切断及びその修復現象は細胞の癌化に直接関係があるか。
私は4NQOがL・P3、RLH-5・P3細胞のDNAを切断し、細胞はこれを修復するという現象を見て来たわけだが、果してこの現象が発癌の本質にどれ程関係があるかはわからない。そこで先ず種々の4NQOの誘導体を使って「発癌性のあるものは全てDNAを切るか」という問いをテストしてみた。もしこれに例外があればこの両者の関係は希薄となるわけである。テストは全てアルカリ蔗糖密度勾配遠心で一重鎖切断の有無を調べた(結果の表を呈示)。
4NQOから6NQO迄は発癌性とDNA鎖切断は平行しているのが見られるが、4NQO6Cは発癌性があるにもかかわらずDNA切断を起こさない。一方、4NPO、3M4NQOは逆に発癌性がないのにDNAは切る。このような結果になったわけだが、次の二つの解釈が成立つ事になる。
(1)4NQO6Cは条件を変えればDNAを切る。又4NPO、3M4NQOの発癌性は動物あるいは投与法を変えれば発癌性を証明出来るかもしれない。
(2)DNA鎖切断は発癌過程には直接の関係はない。
このいずれであるかは更に実験を重ねなければ結論は出ない。この方向の実験としては、4NQO系だけでなしに他の発癌剤、(DAB、MC、ニトロソアミン、ニトロソグアニジンetc)についても拡大検討する予定である。
III)中性蔗糖密度勾配遠心法で分析している物質は純粋な二重鎖DNAか。
今迄の分析でしばしば観察された事は、中性蔗糖密度勾配遠心で検出されるDNAのピークが、あまりにもシャープ過ぎる事、このシャープさは、markerに使用したλファージのDNAよりもシャープなバンドであった。これは恐らくフリーなDNAではないのではないかとの疑問を解くために、4NQO処理をしない細胞を大きな密度勾配にかけ大量にピーク分劃を集めた。今回は、このもののUVスベクトルを測定してみた。結果は、およそフリーなDNAとはほど遠いスベクトルを与えた。すなわち、明らかに裸のDNAではなく、細胞の何らかの成分と複合体を形成していると思われる。
この複合体はやはり4NQOによって大きさが小さくなる事は事実である。
:質疑応答:
[勝田]4NPOの発癌性はマイナスというのは、どこのデータですか。動物の種類を変えたり、薬剤の濃度をかえたりすると、発癌させられるのではないでしょうか。
[安藤]どなたかが、そういうデータを出して下さると、大変すっきりするのですが。
[勝田]ピークのDNA+αのαとは何ですか。
[安藤]まだ分析してみていませんので、わかりません。
[堀川]ピークがDNA+αということは、一寸考えられないことですね。DNAそのものだけであるはずの所ですから・・・。
[勝田]部分的修復をみるのに、チミジン以外のもの例えばグアニンなどで取り込みをみたら・・・という意見が出ていましたが、やってみましたか。
[安藤]まだです。
[松村]さっき問題になったDNA+αは何か塩濃度でも変えて、+αを分離出来るのではないでしょうか。
[安藤]まだ分離を試みてはいません。ボトムの所に出てくる物質は大変粘度の高いもので、まさに高重合DNAと思われるようなものなのですが。
[堀川]アルカリの方も調べてみてほしいですね。それからDNAを切るのは最終的に4NQOか4HAQOかという点についてはどう考えますか。
[安藤]4NQOを4HAQOへ変える酵素をおさえるDicumarolというものを入れて、そこの所をはっきりさせたいと考えています。
[堀川]私は4HAQOに特異的な作用があると考えています。Dicumarolを使っても完全には抑えられませんから、仲々シャープな結果を出すのは難しいでしょうね。
[難波]4HAQOは毒性が弱いということを、黒木さんが書いていますが、DNAを切ることとは関係がありますか。
[堀川]毒性とDNAの切れることは同じではありませんから、4HAQOは毒性が弱くてもDNA切断では主役ということも考えられるわけです。
[安藤]DNAが切れるということは、イコール発癌に結び付くと考えられますか。
[堀川]私はそう考えたいと思います。DNAが切れ、ミスリペアを起こすことが変異の可能性を高めるのではないでしょうか。
[安藤]色素性乾皮症の場合の発癌機構はそうではありませんね。
[堀川]色素性乾皮症の場合は、私達と全く反対のことを言っているわけですね。リペア出来ないから発癌するということです。私達はリペアの能力のあるものがDNAを切られた場合、ミスリペアを起こす可能性があると考えます。そしてそのミスリペアが変異の原因になると考えます。しかし、DNAの切断の実験と細胞レベルの発癌の実験の間には大きなギャップがありますね。例えば、濃度にしても1オーダー違います。
《高木報告》
1)NG-20
月報6910でNG-20(再現実験)について簡単に説明した。
その中NG-20の(1)系では200万個cellsを、処理後309日目にnewborn
WKAratの皮下に接種して観察をつづけていたが、約50日後に腫瘤の発生が2/2に認められた。腫瘤はその後も大きくなり、その中1匹は80日目に腫瘍死した。このtreated
cellsは処理後49日目頃initial changeに気付かれたが、その後著明な形態学的な変化はなく、処理後290日頃にはっきりしたmorphological
transformationに気付いている。またこの頃より細胞のproliferation
rateも急上昇し、現在ではtransformed cellsは1週間に約50倍と、これまでにあつかった細胞の中では最高の増殖を示している。
なお、NG-20の(2)、(3)系の細胞は現在も差程著明な形態学的な変化はなく、(1)系と相前後して行った復元実験でも腫瘤の発生をみない。これでNGによる発癌に成功したのは4系となった訳である。
2)NGでcarcinogenesis in tissue cultureに成功した4実験系の比較を、i)発生過程の図解、ii)4実験系、発癌経過の比較、iii)復元実験とまとめた。(図表を呈示)
4実験系では一定したruleは見出せない。即ち、形態の変化を来すものもあれば、NG-18の如く殆ど変りないものもある。増殖率もNG-20のように極端にますものもあれば、NG-11の如くかえってcontrolより低いものもある。
染色体数のmodeもcontrolよりshiftすることは間違いないようであるが、controlがhypotetraploidにあるNG-18ではむしろdiploidの方にmodeがshiftしtetraploid
rangeにもバラツイていると云った具合である。
復元実験をみると、NG-4、NG-11、NG-18をみたところではtotalの培養日数(NGを作用させるまでの培養日数+作用後復元して腫瘤を生じたまでの日数)は300日前後と思われるが、NG-20では424日かかっている。もっともNG-20は作用後長らく形態的に著明な変化がなく、309日迄に復元を行っていないので、果してこれ丈の日数が必要であったか否か疑問である。
これを要するに実験が定量的に行われていないことに問題がある訳で、今後さらにtarget
cellをかえ、またstrain cellを用いても出来る丈発癌実験を定量的な方向にもって行きたいと考えている。
:質疑応答:
[堀川]黒木氏のデータによる4NQO処理で発癌に要する期間と比べると、高木さんのNGの方が発癌までに長い期間を要するほうですね。4NQO+NGという処理をしてみるとどうなるでしょうか。
[佐藤]正2倍体の細胞が動物にtakeされるのか、或いは偽2倍体のものがつくのか、再培養をして染色体を調べてみるとわかると思いますが、どうですか。
[高木]調べてみましょう。
《梅田報告》
膀胱発癌剤として知られているtryptophan
metabolitesをHeLa細胞、ハムスター胎児細胞に投与して作用を検討してきたので、まとめて報告する(月報6906
IIで一部ふれた)。使用したmetaboliteはsKynurenine(Ky)、Kynurenic
acid(KA)、xanthurenic acid(XA)、3-hydroxy
kynurenine(3HOK)、3-hydroxy anthranic acid(3HOA)の5種類である(代謝経路図を呈示)。Mouse膀胱内にpelletの形で植え込み、1年近く経ってから、膀胱をひらいて出来ているtumorをみて、発癌性を検しているそうで、ある時は虫眼鏡で拡大してみて始めて小腫瘤を見出すとの事です。一応その様なtestで発癌性の証明されている(+)は3HOK、XA、3HOA、されていない(-)はKy、KAである。化学構造的にはo-amino-phenolic
compoundsが発癌性と関係ありとされている。
(I)HeLa細胞に対する作用: 細胞の障害度を障害の殆んどないものを0、致死的に作用したものを4と、5段階に分ける簡易的な方法で5種の物質の作用をみると、Ky、3HOK、3HOAが障害性強く、KA、XAでは弱い。(図を呈示)
形態像ではKy、3HOK、3HOAは細胞はやや大き目、核小体も大きく、不整形を呈し、KA、XAは細胞はcontrolと大差ない大きさであるが、やや異型度が強くなる像を呈する様になる。
3HOAでH3-TdR、H3-UR、H3-Lewの摂り込みをみた場合、1時間3HOAを作用させた後、H3-precursorsを入れ、更に1時間経った後のH3
activityをgas flow counterで計測した。DNA、蛋白合成の抑えられている濃度でRNA合成は続く。
染色体標本を作り、mitotic coefficientとAbnormal
mitosisの頻度を調べた。調べた4物質で、殆同じ程度の障害を示す濃度に投与した。Ky、KA投与では3〜6時間でmitotic
rateは低下するが、後回復し、control値に近くなる。この時のAbnormal
mitotic cellはcontrolで見られる頻度と殆一致している。3HOK、3HOA処理ではmitotic
rateはやや低下する濃度であるが、gap、break、fragmentationが高率に認められ、又endoreduplicationが24、48時間作用時に見出される。
(II)ハムスター胎児細胞に対する作用: 障害度をHeLaで見たと同じ様にみると、障害の程度の傾向はHeLaの結果と似ている。形態的にはKy、HOK、HOAで細胞が細長いSpindler
shapedとなり、criss cross様patternが認められ、KA、XAでは配列の乱れは少なかった。
染色体標本による異常分裂像の出現頻度、Mitotic
coefficientを3HOK、3HOAで行った。結果はcontrolに較べて高率にgap、break、endoreduplicationが出現しているのが、目立った所見であった。
(III)4HAQOのHeLa細胞染色体像に及ぼす作用: 3HOK、3HOAが高率にendoreduplicationを惹起すること、又前回の月報(6911(II))に記載した様にN-OH-AAF投与でも高率にendoreduplicationが認められたのが気になって、4HAQOを我々の使用しているHeLa細胞に、我々の方法で投与して惹起される像を観察した。結果はgap、break、fusion等著明な変化が起るのに対しendoreduplicationは認められなかった。
(IV)まとめ: 発癌性の認められている3HOK、3HOA投与でHeLa及びハムスター胎児細胞共に強い障害性を示し、特に後者にcriss
cross様形態を惹起し、更に染色体異常も高率に起させたことは興味ある。発癌性の証明されていないKyが、3HOK、3HOAに次いで障害性が強く出現したこと、ハムスター胎児細胞にearly
change様criss cross像を起させたことは、Kyが3HOK、3HOAへの代謝前駆物質であると理解して解釈し得る。弱いながら発癌姓があると云われているXAについては本実験で殆んどKAと同じく弱い阻害性を示したが、今の段階では何も云えない。
Endoreduplicationが、3HOK、3HOA、N-OH-AAF投与で、高頻度に認められたが、4HAQO投与では認められなかった。Endoreduplication出現のmechanismを考えると興味ある所見である。
:質疑応答:
[難波]トリプトファンそのものを高濃度に添加すると細胞はどうなりますか。
[安村]細胞はやられてしまうでしょう。トリプトファンは適正の幅が非常にせまいものの一つですからね。
[梅田]4NQOやNGの細胞障害の程度はどの位ですか。発癌に有効な濃度の処理の場合ですが。
[佐藤]あまり薄い濃度では細胞障害を起こさないし、又急速な悪性化の傾向はみられないようです。早く悪性化させるには、かなりの細胞障害を与える位の処理が必要だと思います。
《三宅報告》
1968年11月4日に初代の培養を行ったd.d.系マウスの全embryoについて、継代後4回に亙って4NQO、10-6乗Mを処理した細胞について。
やむをえない事情のため、その検鏡さえも行いえなかった所、本年1969年5月27日に細胞の増殖の顕著なものを認めた。その頃、対照例は既に変性に傾き、消滅した。位相差像では、増殖する細胞は紡錘型小型の、両端の鋭い原形質を持ったものであったが、継代を続けるうち、その増殖細胞の主体が、いずれにあるか判然としない位に多型性に富んでいた。即ち、増殖の強いものでは原形質の延びたfibrocyticにみえるもの、形質が周囲にのびたfibroblasticなもの、 小判状の小型のalveolarに前記の細胞に囲まれて終る細胞、この他に巨核巨細胞、多核巨細胞を混えていた。継代を続け7〜8代の頃になると、紡錘形小型の細胞を主とするものであることが、漸次判ってきた。試みに H3-TdR
0.2μc/mlのcumulative labelingを行ったところ、いずれの細胞にもlaabelされ、15時間目には100%に近い値をえた。tg≒23h.、ts=7h.と考えられ、最初にlabeled
mitosisをみたのは2h.目の標本であった。これから、Colony
formation、Cloningとすすむ予定である。
ただどの形態を持った細胞も豊かな取り込みをしたという所から、こうした細胞が同じ由来のものなのか、それとも系を全く異にしたものかで、このtransformationの意義や、考察が異なって来る。全embryoであるから、雑多な種の細胞が硝子瓶に散りしかれたことは当然で、このうちの、系統を異にしたものが、同時にtransformしたのか、同じ種の細胞が培養の条件で形態を単に変えたにすぎないのか。今となっては、不明のことが多いが、colonyを作ってゆく間に、種を異にした細胞集団がえられるかも知れない。
:質疑応答:
[堀川]4NQO処理の条件は・・・。
[三宅]10-6乗Mの濃度で3日おきに5回処理しました。
[勝田]復元接種はしてありますか。
[三宅]1月程前に同系マウスの背中へ接種してあります。
[安藤]subcultureはしなかったのですか。
[三宅]培地をかえるだけでsubcultureは7〜8月しませんでした。
《安村報告》
☆JTC-16(AH-7974TC)とそのSoftagarによるクローン群とのTrumorigenicityの比較:
(図と表を提示)結果は各クローン(C1、C3、C6)の間にはtumorigenicityの差が(125細胞の接種で、C1-Sは3/3、C6-Sは1/3、C3-Lは2/4の腫瘍死)S、Lの間には有意の差はないということを示している。
ちなみにSoftagar中におけるcolony-forming
efficiencyはその高さの順にC6-S>C3-L>C1-S>C1-L>C3-Sの如くである。C.F.E.とTumorigenicityとの間の相関関係、またS、LとTumorigenicityとの間の相関関係がclear-cutに結論を出すことができなかった。
☆AH-66(JTC-15)、AH-66A(Wild株よりSoftagarでクローン化された系)のSoftagar中のC.F.E.およびそのtumorigenicity:
Colony-forming efficiencyとtumorigenicityとの相関はまったくみられない。
原株のAH-66は100万個の細胞接種でtumorをまったく作らないが、Softagarで生えてきたクローン系AH-66Aは10,000個で動物を3/3腫瘍死させた。そのひらきは2乗のorderである。(図と表を呈示)
:質疑応答:
[高木]寒天で出来たcolonyは全部拾ったのですか。そして全部悪性だったのですか。
[安村]全部拾ってそれぞれ調べるべきでしょうが、とてもやり切れません。
[高木]私達の実験では悪性化しても寒天内でコロニーを作りにくい系なのですが、寒天で拾ったクロンはとにかく腫瘍性が高かったようです。寒天で拾うことは動物にtakeされる系を拾うという意味ではすぐれていると思います。
[勝田]MUSOは現在でもマウスにtakeされないのですか。クロン化した腫瘍性の高いものだと、2,000コの細胞でも動物を腫瘍死させ得るとします。その細胞がワイルドの系の10万個の中に2,000コ混じっている場合、ワイルドを10万個接種しても動物にtakeされないかも知れません。悪性の2,000コ以外の細胞が何をやっているか判りませんから。
[高木]寒天にまく場合、100万個の細胞を入れたのでは、startがシングルでないという事もあり得るのではないでしょうか。
[安村]あり得ます。
[堀川]100万個もまいて20コのコロニーが出来た場合、コロニーを作った細胞にはすごいセレクションがかかっていることになりますね。軟寒天内でコロニーを作らなかったものを拾って実験をする必要もあると思います。BUdR+照射という方法で増殖系を殺して、増殖しないものを拾えるのですから。
[安村]もっと簡単に、液体培地で少数まいてcriss-crossのないコロニーを拾えばよいでしょう。
[松村]寒天でコロニーを作ることがセレクションの結果かどうかは、液体培地でクロンを拾って、クロンごとの軟寒天内コロニー形成率に違いがあるかどうかみればよいと思います。
[安村]寒天でのデータは他に沢山あるのですが、長くなりますから省略します。
【勝田班月報・7001】
《勝田報告》
ラッテ腹水肝癌AH-7974細胞の毒性代謝物質(続):
昨年の月報No.6908にそれまでの研究成果を記載したが、今号ではその後の経過を報告する。これは永井旧班員の後輩の星元紀君との共同研究で、分劃は彼がおこなった。
方法については前報に詳しく書いたが、簡単に復習すると、[10%仔牛血清+合成培地DM-145]で4日間JTC-16(AH-7974)を培養し、その培地を4℃でCollodion
bag濾過する(低分子を得る)。これを凍結乾燥し、濃縮液をSephadex
G25で分劃、各tube毎に凍結乾燥した。ここまでの阻害活性については前号に記した。この分劃の内、#35〜#38のtubesの分劃に活性が強いので、これを集めてSephadex
G15で再分劃した結果を図に示す(図を呈示)。この分劃をtube毎に凍結乾燥し、1)#39-#54、2)#55-#59、3)#60-#64とまとめ、夫々Saline
D 7mlにとかしてMiliporeで濾過し、RLC-10の培地[20%仔牛血清+0.4%Lh+D+20%分劃(対照はD)]に添加し、8日間培養した結果が次の図である(図を呈示)。
阻害活性は明らかに39-54のところに現われ、55-59のpeakも若干の阻害効果を示している。分子量は1000位と推定され、アミノ酸7コ位から成ったペプチドではないかと思われる。目下その本態を追求中である。
《山田報告》
本年も宜敷く御指導の程お願い申しあげます。昨年春に法隆寺を訪れた時に描きました夢殿のスケッチを今年の年賀状にしました。最近この様な古い日本の建造物に興味を覚えて描いています。
やたらに外国の流儀や物事をそのままうのみにせず、日本的な様式や感覚を作りあげて行くことが、絵に限らず、研究にも必要ではないかと思ったりして居ます。みかけ上、同じ研究にみえても、日本人でなければ、或いは日本の風土でなければ育たない研究の進め方こそ、どこか「キラリ」と光る部分がある研究成果をもたらすのでないかと思って居ます。
今年は細胞の悪性化に伴う抗原性(Surface
antigen)の変化を、細胞電気泳動法により追求したいと思って居ます。
昨年暮に岡山からラット肝細胞の4NQOによる変異株Exp.7-1、-2を貰いましたので調べてみました。これは一昨年夏にしらべた細胞系ですが、その後一年以上経過しましたので、その後如何に変化したかを追求したかったわけです。
しかしExp.7-2の系は、その後直ちに氷結したために培養継代があまり進んで居ないことがわかりました。細胞電気泳動的にも殆んど変化がなく、悪性化株の性質がやや悪性度を増して居る(箇々の細胞の泳動度のばらつきが増え、シアリダーゼ感受性が増加)様です。
Exp.7-1の系は其の後3回氷結して居り、その間に7ケ月以上培養継代して来たさうですが、この株のControlに変化が来て居る様です。つまり発育が良くなかったので、再検の要がありますが、少くとも一年以上前の様な正常型(ラット肝細胞)のパターンを示さなくなって来た様です。近いうちに再検した成績を報告します。
尚ほHQ-1及び-2の泳動度の変化も調べましたが次号に報告します。
《難波報告》
N-11:ラット肝細胞のクローニング及びその発癌実験
従来使用してきたRLN-E7系のコントロール肝細胞を、月報6909(N-5)の方法によってクローン化した。培地は20%BS+Eagle'sMEMを使用。(表を呈示)結果は表に示すが、株化した細胞を使用した故か、クローン化の成功率は非常に高い。即ち13コのsingle
cellを拾い、その内6コのpure cloneに成功した。
目下6907(N-1)に述べた如く(1)4NQOが細胞の癌化の変異剤として作用するのか、(2)発癌の淘汰説の真偽の確認などの問題をこのクローン化した細胞を使用して検討したいと考えている。現在LC-2、LC-9、LC-10の3系で実験する予定で、その3系の増殖は目下良好である。
(図を呈示)図にこの3系の累積増殖曲線を示した。
LC-2系の細胞をEagle's MEMに終濃度10-6乗M、10-5.5乗Mになるよう4NQOを溶いて各1時間処理した。細胞は100万個cells/TD40にまき込み3日後、6日後に4NQO処理したがどちらの濃度でも、顕微鏡的に細胞障害は認められなかった。
《堀川報告》
1970年の新年を迎え班員の皆さんおめでとうございます。今年も一緒に大いに頑張りましょう。過ぐる1969年は私にとっても実にめまぐるしい一年であったように思います。京都での大学紛争に始まって以来金沢大学に落ち着くまで、本当に息つくひまもなしというのが、いつわりのないところでした。常時ならば4〜5年かけてゆっくりやるべきものを、あれよあれよと1年の内にすべてをやってしまった様な気持ちで私自身今更のようにそのプロセスをふりかえって反省もし、また新たなる希望をもやしております。
1969年は頭初に計画した仕事のうち果して何割まで消化出来ただろうか? 勝田先生はじめ班員皆さんの御支援のもとに、この金沢に落ちつくことが出来ましたが、京大での大学紛争から始って金沢での設営までに要した時間から考えると、やはり1969年は仕事という面からみれば最初に計画したもののうち数割しか消化出来ていないというのが、これもいつわりのないところだと思います。
そういった意味からも今年は、この与えられた環境をフルに動かして十二分に成果をあげたいと念願しているところですが、それも果してどの様になりましょうか。特に今年度は従来進めてきた「培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構」の研究を更に角度をかえて
(1)障害修復能という従来分子レベルと、一方ではただ単に細胞の生死を指標にしてとらえてきた現象を細胞の機能という面から浮きぼりにしながら、障害修復機構という実体の生物学的な意義づけをやってみたい。(2)更に、一方ではこれまでに再度試みて困難とされた放射線耐性細胞さらには感受性細胞を新しい技法によって分離し、これら細胞株を用いることによって、これまで得られてきた障害修復機構という実体を一段と明確なものにしたいと思っている。このあたりが私共の出来る試験管内発癌の機構解析にアタックする惟一のアプローチであろうと信じているからである。
さて最後になりましたが、以前安藤さんが4-NQO処理後の細胞には、Bacteriaでみられるようなliquid
holding repairがありそうだという結果を示され、この問題は障害修復機構の検索および解析をやっている私には、非常に興味のある現象なので、Ehrlich細胞を使って追試といえばおおげさになりますが、とにかくrepeatした結果が得られましたので、それを図に示します。(図を呈示)。各種濃度の4-NQOで30分間処理後直ちにコロニー形成をやらせたものと、各種濃度の4-NQOで30分間処理後細胞を24時間confluent状態においてからコロニー形成をやらせたものの比較です。これらの図から判るように、種々の濃度の4-NQOで30分間処理した直後に細胞をplateした方が、4-NQO処理後confluent条件下で24時間保ってから、コロニー形成のためにplateを始めたものより細胞の障害が少い。つまり生存率が高いと云う結果が得られた。どうも安藤さんのデータとは残念ながら相反する結果となったが、4-NQO障害に対するliguid
holding repairの存在を培養細胞において考えるのはどうも困難なように思われる。この点御検討いただけると幸です。どこか実験操作にでも大きな穴があったのではないでしょうか。
《高木報告》
あけましておめでとうございます。今年もよろしく御願い申上げます。皆様よいお正月を御迎えのことと存じます。こちらも御陰様でと申したい処ですが、年末来、教授会の一方的授業再開をめぐって学内事情は全く混沌としており、まずは私の経験した最悪の年のはじめのようです。連日の会合、会合で頭が中々切換らず、仕事の方は全く申訳ない状態です。今一つ困ったことは、大事をとって発癌実験の細胞をすべて保存していた九大癌研細胞部のレブコが年末に故障をおこし温度が可成り上った由、細胞がやられてしまったのではないかと憂慮しています。目下細菌学教室のレブコに移してありますので、来週早々培養にもどしてみるつもりでおります。
どうも書き出しからあまり景気のよくない年頭の言葉になりそうですが・・・・。さて今さしあたり考えている実験の計画は、1)NG実験のdataをはやくまとめること、2)発癌実験のtarget
cellをかえてみる。出来ればepithelial cellを使い、あるいは既成のcell
strainを用いてでもよいから少しでも定量的な実験系を確立すること、3)発癌剤の組合せによる発癌実験をこころみること−たとえば4NQOとNG−、4)in
vitroで発癌剤処理によりtrans-formした細胞(もしくはこれを復元して生じた腫瘍の再培養によりえた細胞)と発癌剤処理をしなかったcontrol(もしくは培養した所謂“正常細胞")をmixして復元実験を行い腫瘍または正常細胞の復元成績を比較検討してみる。・・・などと云ったところです。
これらの一部は現在手がけており、またin vitroでNG
transformed cellの復元により生じた腫瘍の動物継代もこころみております。
一方organ cultureとcell cultureの中間とも云えるslice
cultureについても昨年来実験中ですが、培養条件はまずよいとして問題はsliceの作り方です。microchopperでは腎のようなわりに硬い組織は均等な厚さに薄くきれますが、膵のような軟らかい組織はどうしても均等な厚さの切片がえられず、このような軟らかい組織を着る方法を目下検討しています。均等な厚さの切片を作るには凍結切片がよいのですが、この場合凍結、解凍による組織のdamage、従ってviabilityが問題になります。この点をさらに検討したいと考えております。皆様の御教示を頂ければ幸です。
《安藤報告》
班員の皆様、明けましておめでとうございます。昨年中はいろいろ御助言御指導いただきまして、本当にありがとうございました。私は班研究というものについては勝田班が初めての経験でしたので、入れていただいた頃は癌研究という事自体初めての事だった事もありまして、班研究のよさがよくわからなかったのですが、やっと今頃になって自分の感覚として実によいものだという事が認識出来るようになりました。一つのプロジェクトを集中してしかも分野の異る人達が種々な角度から研究討論する、実に研究体制のあるべき模範のような気がいたします。今年も若輩をどうぞ御指導御鞭撻の程をお願いいたします。以下少し本年度の研究計画の概要を記してみます。御批判下さい。
まず現段階では4NQOの種々の生物に与える変化の内、何が発癌を惹起するために必須な変化であるのかは全く不明なので、一応基本的方針としては、現象全てを細部に至る迄徹底的に調べ上げるというつもりでおります。したがって現在迄はやや核酸、中でもDNA中心の実験をして来ましたが、今年は次のゆな事を考えています。
(1)細胞が4NQOを代謝して培地中に放出する物質は4NQOのどのような誘導体か。
(2)今迄はH3-4NQOが結合する細胞の成分を調べる際に、主に細胞の化学的成分を一まとめにして分劃していた(例えば、蛋白質、DNA、RNA等)が、見方をかえて細胞内の場所の違いによって同一物質でもその4NQOとの結合性は異ると思われるので、細胞分劃をした上で各分劃内の蛋白質、RNA、DNA等の比活性を比較する。
(3)4NQOによって変化をうけたDNAが、単に分子量の変化というだけでなく、もっと化学的に見ていかなる変化をしているかを調べる。すなわち、4NQOによって切断されたDNAの物性(例えば、粘度、温度−吸収変化等々)あるいは化学的性質(例えば、切断された末端塩基に特異性があるか否か、等)を更に詳しく調べる事によって4NQOの作用を明らかにする。
《三宅報告》
井上君が帰って参り、大学院学生の顔もやっと出揃ったというところです。昨年末から、やっと落ちついた感じで、これから仕事を始めようというような次第です。お世話になった井上君が主になって、部屋の中の整理もすんだところです。
まず本年は昨年の夏にみつけた増殖の素速いd.d.マウスのEmbryoから出た細胞の細胞生物学的な検索から始めて参ります。12月にお話しできましたのはwildなものでしたから、cloningをやり、染色体をしらべ、動物に戻して、おくればせながら、みなさんについて参る決心です。
昨年末にこの細胞をSponge matrixに吸いこませて、CO2-Incubaterの中で、浮かせるようにして、培養を始めました。それは組織学的な構造をtri-dimensionalなものの中で営ませたい考えでした。嗜銀繊維が出来ているでしょうから、その像を組織標本と同じレベルでみたいと考えたからです。Spongeは、少し灰白色透明のままで、2週間をすぎて、肉眼的には細胞がSpongeの中で生きていると考えますので、これから経時的に固定・染色にうつります。これも実は、上皮性、非上皮性の細胞の区別がSpongeの中で出来れば、幸いという下心があってのことです。一方で、ヒトの悪性腫瘍の培養に努力をつづけていますために、こうした簡単な方法で、上皮性、非上皮性の区別がつけることに成功しますれば、上皮性悪性腫瘍である癌細胞を、全く古典病理学の場に立ち戻って決定づけることができると考えたからです。そうは参らぬかも知れませんが、上皮性細胞のあってはならぬ臓器・組織からSpongeの中で上皮性と考えられる像を作りあげるのをみた時は、それを癌といえるのではないかと思うのです。新年の夢かも知れません。
《安村報告》
Akemasite omedeto gozaimasu! Kotosi mo
dozo yorosiku。 一年の計は元旦にありということですが、暮れもおしつまってから猛烈なカゼにやられて10年来初めて寝こんでしまうような始末でしたので、これはタルンデイル証拠かもしれません。寝こんでいるときにふと数年前まで多少は実行したことのある日本語のローマ字書きに思いをいたしておりました。昨年中は紛争にからんでいろいろ広報活動もせざるをえないハメにおちいって忙しい思いでした。またペーパーの下書きを何度も書き直しているときに、手書きの清書に時間をつぶされるときに、日本語をタイプライターで書くためにはローマ字化されねばと思ったことでした。このことは初夢の一つとしておいてください。
ようやく12月のなかばになって学生のストライキが解除されて、ホッとしているヒマもなく、つぎつぎと授業再開問題にからんで、カリキュラムの再編、追試験等々、別の意味で多忙に追いまくられている状況です。昨年の大学紛争はいろいろ研究者にも多難であったといっただけではすまされない問題を提起しました。正直いってヤリキレないと思わせるところもございました。乱にいて治を忘れず、治にいて乱を忘れずということでしょうか。今年こそ、科学者は科学者としての任をはたすことができる年でありますように、まだ紛争の余燼(余塵?)があとを引いていますが。
さて、今年度の実験予定のことです。協同研究者として、一生けんめいやってくていた井上君が京都に帰りましたので、仕事にひとくぎりつけました。新たに昨年夏の終りごろから手がけてきたラットの肝の初代培養からのクローニングが少しは目鼻がつきそうなところにやってきましたので、それがうまくゆけば、そのクローン化細胞系で発癌過程をSoftagarでスクリーニングして解析を進めて行きたいと考えています。しかしいまのところ、このクローン系の増殖が非常にスローモーで十分な材料をうるのに苦労がいりそうです。以上が新年にあたってのアイサツがわりです。
《藤井報告》
新年おめでとうございます。
何回か年頭の御挨拶を書きながら、今年も試験管内発癌における抗原変化について一歩進んだデータを出し得ずにいることは何ともつらいことです。抗血清の作製がラットの抵抗性の問題か、Culb
cellsの抗原性の変化のためか捗らなかったり、沈降反応の感度の限界から、培養細胞でのImmune
adherenceやmixed hemagglutionあるいはmixed
hemadsorptionの応用に転向したものの、なかなかうまくいかず、ほぼ1年をその準備−抗γ-グロブリン抗体の作製など−に使ってしまい、これだけやりましたが癌抗原は化学発癌ではどうでしたと云えない状態が何とも申し訳ないところです。来年は研究費はいただかないでも今までの後始末をしようというのが、ささやかな希いです。
毎月の月報はずい分と為になり、はげまされてきましたが、こわいProf.Kattaの顔をおもいうかべながら、つい不備なことを書いたりしているのもどうかとかえりみて、自分のピースでやって行くことも考えています。
このところ、培養AH7974細胞でのIAとmixed
hemadsorptionも技術的にうまくいくようになりました。この月報でもの凄くつよいIAの写真を出すつもりでしたが、フィルムのASAを間違えてうすい写真ができてしまいましたので止めました。
さし当っては、これらの方法でRLC、RLT、Culb-TCの抗原差を、同種抗血清、異種抗血清でしらべます。
次は細胞性の免疫に関連し、抵抗性ラットのリンパ球が試験管内で変異した細胞の抗原性を区別しうる方法として使えるかどうかを検討すること。実際には、Culb-TCに抵抗性のラットのリンパ節、末梢のリンパ球が、RLC、RLT、Culb-TCのcolony形成を抑制し、その間の差が両者の抗原性の差の指標になるかどうかを調べます。これは同種異色免疫でのin
vitrolymphocyte cytotoxicity testの研究と関連してつづけたいと思っています。
《梅田報告》
あけましておめでとうございます。
昨年中は班の仕事として色々手がけてきたが、どうもぱっとした発癌実験が成功せず、急性毒性実験の結果のみで、小さくならざるを得ない様な感じで過ぎて了いました。今年度は胸をはって勝田先生の前に出れる様、是非共発癌実験を成功させたいと願っています。
昨年末、ラット肝のprimany monolayer cultureに各種発癌剤を投与して、長いのは6ケ月以上培養を続けているが、現在N-OH-AAF、4HAQO、Rubratoxin、その他、肝臓発癌剤の投与例のどれも旺盛な増殖を示していない。しかし長期培養するに従い、epithelialのpolygonal
cell growthが次第にconstantになるが、controlでも同じ様であり、又、形態的にもpiling
up等の変化を示すに至っていない。今年度も続けて之等の培養系を継代し細胞学的に検索を続けるつもりである。
同じ様にハムスター胎児培養又は新生児肝の培養に、N-OH-AAF、4HAQO、Rubratoxin、トリプトファン代謝産物を投与して長期継代を続けているが、その方は9月30日より3HOA
2.5x10-4乗M mediumを3回changeして計7日間投与した例で、11月中旬より増殖がconstantになり、1週間に3〜5xの増殖率を示す様になった。12月1日に200万個cellsハムスターのcheekpouchに移植し、現在粟粒大の小粒が多数cheek
pouchに見られる。この細胞系に関し、softagar等の検索を集中的に行う予定をたてている。その他の系は、controlと殆同じ増殖率を示し、一部の細胞のhamster
cheek pouchへの戻し実験を行っているが、まだどうなるか不明である。
【勝田班月報・7002】
培養内4NQO処理細胞の復元接種試験一覧:
復元条件は生后1〜4日のJAR-1或はJAR-1xJAR-2のF1に、400万個〜800万個/ratで腹腔内接種した。(表を呈示) 処理数の多いほど、ラッテの生存日数が短くなるとは限らないことが判る。その他の復元試験中の株は、
RLH-5・P3(無処理、対照にあたる):
生后6日のJAR-1・F33に1000万個宛2匹に復元、約10月経過、2例とも(-)。
Exp.#HQ-1(RLH-5・P3に4NQO 3.3x10-6乗M 30分1回処理):
生后3日のJAR-1・F34に500万個宛2匹に復元、現在約3ケ月、観察中。
Exp.#HQ-1B(上記HQ-1にさらに4NQO処理1回):
生后3日のJAR-1・F34に500万個宛2匹に復元、現在3ケ月、観察中。
Exp.#HQ-1:
生后3日のJAR-1・F36に1500万個宛2匹に復元(1970-2-2)、観察中。
RLT-6・P3(Exp.#CQ60):
生后3日のJAR-1・F34に1000万個1匹に復元(1970-2-2)、観察中。
《難波報告》
N-12:4NQOによって悪性変異した細胞マーカーを探す試み
−旋回培養(gyratory culture)について−
従来、試験管内で4NQOによって悪性化した細胞のマーカーを検出すべく努力して来た。現在までの結果を簡単にまとめてみると、1)4NQO処理により発癌過程にある細胞では、発癌に近ずくにつれ変異集落の出現率が増加すること−月報6908、6910、2)4NQO感受性には、差の認められないこと−月報6912、3)その他、形態学的変化、増殖率、染色体分析の結果などを報告してきた。
今回は、旋回培養法を用いた実験結果を報告する。細胞は4NQO非処理対照肝細胞(Exp.7)、その4NQO処理によって悪性化したもの(10-6乗Mで20回処理)、悪性化したものを復元して動物に生じた腫瘍(QT-2)の再培養細胞を用いた。培地はEagle's
MEM+2%BSを使用し、100万個cells/mlを3mlの培地に浮游させビーカー中にまき込み、70rpmの旋回培養を行い、24、48時間後の細胞塊の直径を計測すると共に、細胞塊のパラフィン切片を作成し、組織構築性の有無を検討した。実験は3回行いほぼ同じ傾向を示す結果を得たが、最後の実験の結果を表に示した(表を呈示)。細胞塊は写真に撮理、同じ倍率で写真にとったobject
micrometerで正確にaggregateのdiameterを算出した。それぞれの細胞塊の平均直径は、各場合20〜30コの直径の平均値である。
結論として云えることは:
1)対照細胞の細胞塊は3実験に於て常に一番小さいのに、腫瘍再培養細胞では常に大きな細胞塊を形成する。
2)4NQOで試験管内で悪性化したものは、対照細胞に比べ一般に大きな細胞塊を形成すると共に興味あることは48時間後のものを観察すると少数ではあるが、腫瘍再培養細胞にみられる細胞塊と同程度の大きな細胞塊がみられる。これを拾い出して復元してその腫瘍性をチェックすれば面白いと思う。
3)パラフィン切片によって肝臓としての組織構築がみられるかどうか検討したが、特別の構造はみられなかった。
4)72時間培養した実験を行ったが変性細胞が多くなり良い結果は得られなかった。
5)まとめとして、4NQO処理によって培養肝細胞が悪性化してゆくにつれて、旋回培養でみると、大きな細胞塊を形成する傾向を示すようになると云える。
N-13:4NQOによって悪性変異した細胞のマーカーを探す試み−4NQO耐性について−
月報6912に対照細胞と、4NQO処理細胞とについて4NQO感受性に差はないと報告した。その際は少数細胞をシャーレにまいて実験を行ったが、今回はシャーレへのまき込み細胞数を増した場合、細胞間に4NQOに対する感受性に差がみられるかどうかを検討した。まず、予備実験として、100万個、10万個、1万個、1000個の対照細胞を4NQO
10-6乗Mに含むEagle'sMEM+20%BSにまき込み1W後正常培地にかえ、さらに1W間培養してコロニー形成率をみたところ、100万個では細胞がガラス面一杯に増殖しており、10万個ではPEが0.08%であり、1万個、1000個では細胞コロニーはみられなかったので、実験はこの方法に準じた。即ち、細胞は上記N-12の3種のものを使用し、60mmのシャーレに10-6乗Mの濃度の4NQOを含む培地(5ml)中に10万個まき込みそのまま1週間培養後、4NQOを含まない培地で更に1週間培養し、そのPEをみた(PEは各系3枚のシャーレの平均値を求めた)。その結果対照細胞のPEは0.024%、4NQO処理悪性化細胞では0.012%、腫瘍再培養細胞では0%であった。以上のことより、細胞数を増しても4NQO処理群には4NQOに対する耐性獲得現象は認められないことが判った。 N-14:培養内で4NQO処理により癌化したラット肝細胞の
動物復元で生じた腹水腫瘍の性状(続き)
月報6911に、復元した細胞の歴史、腹水像、移植率、クロモゾーム、再培養像、4NQO耐性の有無については詳しく報告した。今回はこの腫瘍の組織像とG-6-Pase活性について報告する。
組織はPAS、ワンギーソン、アザンマロリー、鍍銀染色で更に詳しく検討し、病理小川教授診断を得る事が出来たので報告する。尚、診断には腹腔内に生じた固型腫瘍を主に用いた。 1.組織像
1)QT-1:Undifferentiated liver cell carcinoma。
組織全体に亙って細胞の密な増殖があり、それらの腫瘍細胞の格は中等大で類円形を示し、一般にvesicularいみえ、クロマチン中等度で、小形の核小体がみられる。原形質はところによってsyncytial様にみえ不明瞭である。鍍銀では、2〜3コの上皮性の細胞が著明に増生した毛細血管に囲まれている。PASでは粘液の産生はみられず、わずかにPAS陽性の顆粒が散見される。
2)QT-2:Hepatocholangioma。 間質の増殖を伴わない腺管の形成がみられる部分と、密に細胞の増殖した部分がある。その後者の細胞はやや紡錘型で大小不同に富むが、全体の所見はQT-1に似る。
2.G-6-Pase活性:Swanson,M.A.(1955)の方法で測定した。
生後1月のラット肝:3.0。QT-1:0.6。QT-2:0。長期培養肝細胞(Exp.7系):0.07。
単位はμgPi/min/mgProteinで、QT-1、QT-2共に活性は殆んどなく、非常に未分化な肝癌と思われる。
《山田報告》
本年初めよりtechnicianがやめたり、新しく免疫の基礎実験を始めたりしたため、思う様に研究が進まずに居ます。しかしどうやら、又少しづつ調子が出て来てゐます。
HQ系の細胞の其の後の変化:
前回報告しました様に4NQOを接触させた後、RLH5・P3の細胞の電気泳動パターンが少しづつ変化して来ましたが、今回の検査で更に変化して来て居ます。4NQOの接触後127日目の泳動パターンを図で示します(図を呈示)。これはtechnicianの手違いにより、シアリダーゼ処理の際にゆるく振盪したので、その作用が少し著明に出てゐるかもしれません。HQ-1、HQ-1B(2回4NQO接触)いづれも平均より10%以上泳動度がシアリダーゼ処理後低下してゐます。特に興味あることは、HQ-1Bの細胞構成が揃って来た事です。HQ-1については91日目に写真記録式泳動法により検査した結果でもかなりシアリダーゼに対する感受性が出て居ますので、単に処理時に振盪したためにその作用が強く出たためばかりではないと思って居ます(写真記録の成績は次号に報告します)。HQ-2はそれ程変って居ない様です。この変化が発癌とどう関係するか、後の復元成績の結果待ちですが、形態学的にもかなり大型の細胞が増加してゐます。この系は本来正常ラット肝細胞と形態学的にかなり違って居ますので、単に復元成績のみによる癌化の検出では不充分であり、免疫学的な検索を併用すべきと考へ現在この點について準備中です。
同種移植法の血清内抗体産生の細胞電気泳動法による検索:
さきに異種移植によって形成される抗体の細胞電気泳動法による検査成績を一部報告しましたが、今回は同種移植による抗体の検索の基礎実験を開始しました。同種抗体の場合は通常の方法では検出出来ず、表に示すごとくメヂウムに10mMのCaCl2を入れて検出すると抗体が検出されることが明らかになりました。(表を呈示)。これはラット腹水肝癌AH62Fを1000万個移植し、18日目に動脈血をとり、この血清を0.5mlに対しAH62F
1000万個 37℃10分接触させた場合と、この血清を56℃30分加温してそのなかの補体を非活性化した後に、同一条件でAH62Fと接触させた結果ですが、明らかに抗血清を接触させると電気泳動度が低下します。
(図を呈示)図に示すごとく、同種移植血清を作用させると、抗原の膜密度が低いために、そのままでは検索出来ないが、この抗原抗体反応に伴い表面の分子配列が変化するのか、或いは表面にあるシアル酸を始めとする多糖類が剥脱して、燐脂質の燐酸基が露出ために、カルシウム吸着性が増加するのではないかと考へて居ます。
(同種移植後血清内抗体産生の検出:1及び2表とカルシウムメヂウム内のおける細胞表面の図を呈示)しかし表1の実験では、Antiserum中の自然抗体が吸収されて居ませんので、これを吸収した後に正常血清と対比して改めて実験してみた所、表2の成績を得ました。(条件は表1と同一)。明らかに自然抗体を吸収すると、比活性化した血清を作用させた場合の泳動値の低下が少く、そかも抗血清群はカルシウム吸着性が増加して居ます。正常血清を接触させても全くカルシウム吸着性が増加しません。従ってたしかに同種抗血清をこの方法で検出し得ることが確認されました。現在この抗血清を用いて、更に細かく反応条件やら、その感度等を検査して居ます。同種移植抗血清ですから、当然用いる細胞のageによって反応が違い、移植後末期の細胞を使用した場合はこの反応がすでに宿主内で起っており、その後の試験管内での抗血清の影響が明確に出ません。今の所3〜4日目の細胞が最も反応が良い様です。急いでこの基礎実験を完成したいと思っています。
《高木報告》
今回は以前の班会議で紹介した高圧、常圧下における2〜3組織のorgan
cultureについてこれまでん成績を報告する。
用いた組織はsuckling ratの膵、腎、肺で、培地は90%199+10%CSにPC-SMを加えたものである。培養法は、径3cmのpetri
dishの中にstainless steel gridをおき、その上に重ねたlens
paperの上に組織片をならべた。培地量は約4mlで組織片が浸潤されない程度とした。培養組織片の大きさは約1x2x2mm程度とし、1petri
dishあたり12〜13片ずつとした。これまでの実験で培養温度は低い方が良い結果を示す場合もあったので、37℃、30℃につき検討した。高圧群のgas組成はO2
24%、CO2 2%、N2 74%とほぼ空気に近いもので絶対3気圧、常圧群は5%
O2+空気で1気圧とした。次の3群につきこれまで実験を行った。
1)37℃、1気圧、5% CO2+空気。
2)30℃、1気圧、5%CO2+空気。
3)30℃、3気圧、2%CO2+24%O2+74%N2。
培養は9〜12日間にわたり行い、Bouin固定後、H&E染色を行い光顕で観察した。その結果、膵では37℃群にくらべて、30℃群の方が組織はより健常に保たれており、特に培養6日目以後には可成り明らかな差があった。高圧群と常圧群との比較では、高圧群にややcentral
necrosisが少いように思われるが、きわだった違いはみられなかった。
腎では組織構造の維持の点でほぼ30℃高圧、30℃常圧、37℃常圧の順に良好な傾向がみられた。特に30℃高圧群では他群に比しcentral
necrosisが少いことが特徴的であった。
肺でも大体30℃高圧、30℃常圧、37℃常圧の順によい結果がみられたが、この場合30℃高圧群において特に肺胞の構造がよく保たれていることが目立っていた。
これの綜括およびNG発癌実験については班会議で報告する。
《藤井報告》
同種抗Culb血清
昨年来JAR-2ラットをCulb cellsで頻回免疫注射をくり返してみましたが、ついに抗体を得ることができませんでした。
今回は、JAR-1ラット由来のCulb cellsをWistar
King Aに注射(皮下)してみました。免疫注射はDMSOを10%にふくむCulb腹水を-90℃に保存しておき、注射時室温にもどし生食水で洗滌して赤血球を除き、500〜600万個cellsを腹壁皮下に、2〜3週おきに注射し、注射後8〜10日で、心穿刺により約5mlづつ採血しました。
抗血清の力価測定にはmixed hemadsorption法を用いました。方法の概要は次の通りです。 Indicator
cells:ヒツジ赤血球(SRBC)の2%浮遊液を等量のラット抗-SRBC血清(赤血球凝集値200)と混じ、室温、1時間で感作します。抗-SRBCは1/200稀釋。溶液は以下すべてK+を0.02%ふくむベロナール緩衝液(K-GVB++)。感作血球を洗滌(1,000rpm、10分間)3回。2%浮游液にし、これに等容量のウサギ抗ラットγ-グロブリン血清1/1(沈降素値、20)に混じ、室温、90分間、振盪して2nd-coatingをおこないます。このSRBCを3回洗滌し、0.4%浮游液とします。
Mixed hemadsorption:小角培養ビンに1日培養したCulb-TC
cellsを1回、K-GVB++で洗い、0.2mlの抗血清を注入、室温、1時間、ときどき揺りうごかす。反応後、細胞を充分量(3ml位)のK-GVB++で洗滌し、未反応の血清蛋白を除去する。
このあと新しく調整しておいた、上記のindicator
cells(0.4%浮游液)0.5mlを加え、室温、1時間、ときどき軽く揺りながら反応させる。
反応後、tube内液を静かに捨て、新たにK-GVB++をtube1ぱいに充し、W栓を詰め、細胞の附着している底を上にして20分以上静置させ、未反応のSRBCを底よりはなし対側面に沈ませる。
Exp.011370
昨年の3月24日以来、頻回免疫してきたJAR-2ラット(Frll.A)と、9月22日以降5回注射したWKAラットの経時的に採血して得た各血清についてmixed
hemadsorptionをおこなった。
(表を呈示)表1はその結果で、JAR-2はついにmixed
hemadsorptionによっても抗体は検出できなかった。JAR-2はCulb細胞の由来したJAR-1系ラットのhybridであり、同種移植反応はおこらなかったと考えられる。WKAラットでは、ラットにより程度のちがいはあるが抗体価の上昇がみられる。
(写真を呈示)写真1は、4+反応を示した(WKA(Fr16A)ラットの本年1月6日(010670)の血清)。写真2は抗血清なしの対照で、反応の程度は±である。
Exp.012870
ラット抗-Culb血清のCulb-TC、および培養内変異前の細胞RLC-10に対する反応。
RLC-10細胞は、最近spontaneous transformationmをきたしたと報告されている。mixed
hemadsorptionは平底の“micro disposo-tray"(Model
IS-FB-96、Gateway International製)に1日培養したCulb-TCとRLC-10細胞についておこなった。抗血清稀釋、0.025ml、indicatorcellsは0.4%浮遊液0.05mlとし、感作方法、未反応赤血球の除去などは前記と同様である。
(表を呈示)成績は表2に示すように、各血清ともに、Culb-TCに対しては1:27稀釋まで陽性であるが(2+)、RLC-10に対しては1管あるいは2管の差で低い値がえられた。すなわち変異前の細胞はCulb抗原より、質、量のいづれかはまだわからないとして、少いことが示唆されたわけである。
吸収血清についての実験成績は次回にまわします。
次の段階として、抗Culb抗体、抗ラット(JAR-1)抗体、肝抗体(できれば抗RLC-10抗体)を、isotopeで標識し、そのCulb-TC細胞、RLC-10細胞への吸収、追加吸収を測定すれば定量的に、うまくいけば抗原の質的な違いも検討できるのないかと思っています。
紙面が余りますのでmixed hemadsorptionの反応のシェーマーをFagraeus,A.ら(1965)よりコピーしてのせます。なお使用した培養細胞は医科研癌細胞研よりお受けしたものです。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(18)
細胞内に取込まれた4-NQOが直接DNA鎖切断に関与するか、それとも一度細胞内で4-HAQOにreduceされてから切断するかどうかの検定で、これまでTemp処理の細胞を4-NQOあるいは4-HAQOで処理することによって結論的にどうも4-HAQOの方がはるかに切断能の高いことを示してきたが、今回はこの点を更に確認するため以前と同様の実験方法によって処理する4-NQOの濃度を高めて行った実験結果を報告する。
(図1、2を呈示)図1は、前回同様に1x10-5乗M
4-HAQOで30分間Ehrlichを処理した直後の、double
strand DNAの顕著な切断を示す。ここで注意すべきことは、細胞の温度処理によってDNA自体が非常に高分子化するという現象である。従って4-HAQOはこの高分子化したDNAを切断したことになる。
一方4-NQOは、前回より濃度を高めて1x10-5乗M
4-NQOで30分間細胞を処理してみた(前回は5.0x10-6乗Mを使用したが、この濃度での正常細胞の30分間処理は1x10-5乗M
4-HAQOで30分間処理した時に相当するdouble
strand breaksを誘起することがこれまでの実験から確認されている)。結果を図2に示す。この図からわかるように、この濃度の4-NQOではややわづかではあるがbouble
strand breaksを起こすことがわかる。しかしいずれにせよ、こうした実験結果からいえることは細胞内でDNA切断を積極的に誘起させるものは4-NQOそのものではなくて、どうも4-HAQOであるらしい。こうした結果は杉村らの実験結果ともよく一致するようである。尚話はこの問題から少しそれるが死細胞においては4-HAQOによって誘起されたDNA切断が再結合できるかどうかは現在検索中である。
《梅田報告》
前回の班会議でふれたが、堀川、安藤両氏の行っている発癌剤投与后のDNA
strand breakについて、私の今迄取扱ってきた系について調べている。まだ基礎的な点についてもつついているので、dataとしては少い。今回はN-OH-AAFをhamster
embryonic cell、rat liver culture cell、rat
lung culture cellに投与し、1時間作用させた後の結果について述べる。 予めH3-TdRでprelabellした上記細胞にN-OH-AAF、10-3.5乗M、10-4.0乗Mを1時間作用させた後、細胞をtrypsinizeしてはがし、alkaline
sucrose gradientの上にのせ、1時間遠心后、管座より各fractionに分離し、各々のH3のcountを求めた。
N-OH-AAF 10-4乗M投与時のhamster embryonic
cellのH3のcountのpeakは、controlより2本のずれを示しているのに対し、rat
liverでは5本、rat lungではずれを示していない。10-3.5乗M投与時(hamster
embryonic cellは行っていない)、rat liverで4本、rat
lungで2本のずれを示した。以上夫々の細胞でDNA
strand breakに関して感受性に違いのあることが示された。
但し、rat liverで10-3.5乗Mと10-4.0乗M投与で、濃度の高い方でずれが少なかった。
count値が多くなったり少なかったり、しているので、もっと実験条件の設定をはかったり、techniqueの上達をはからねばならない、と考えている。又、細胞に作用させた後、細胞をtrypsinizeしていたのでは時間もかかり、どんな変化を来すかわからないので、はがし難いmonolayer
cultureでもrubber cleanerではがしても良いかどうか検討中である。
以上の様な実験で今私がN-OH-AAF投与后長期培養を続けている細胞のin
vitro malignanttransformationの指標になればと願っている(図を呈示)。
《安藤報告》
RLC-10細胞に対する4NQOの作用
(1)DNAの一重鎖切断に対する4NQOの濃度効果
4NQOによる二重鎖切断の細胞酵素系による修復現象について私の使っているL・P3と堀川さんの使っているEhrlichとLとの行動の違いが問題になっている所ですので、この点を再検討するための予備実験を行った。すなわち、L・P3、RLH-5・P3いずれも合成培地内継代細胞なので、他の細胞の要求する血清成分をも自ら合成するし、又二重鎖の切断をも修復するという超自然的(?)能力をも獲得したかも知れない。そこで、勝田班長の使ってこられたRLC-10細胞について、同様の事が観察されるか否かを調べてみる事にした。今回はRLC-10細胞DNAの一重鎖切断に対する4NQOの濃度効果を調べた。そして、一重鎖切断の再結合が起るか否かを検討した。(図を呈示)第1図にあるように、この細胞のDNAも4NQOに対して感受性であり、濃度を上げるにしたがって切断数も増していた。したがって培地中の血清の有無は、この限りにおいては影響を与えていないように思われる。
(2)次に4NQO濃度を3x10-6乗M一点を選び、切断されたDNAが再結合されるか否かを検討した。(図を呈示)結果は第2図にあるように、コントロールは遠心管の底に沈み、4NQO処理直後には相当の分解を示した。この処理細胞を3時間回復培養をした後に分析してみると、3)にあるように確かに回復はしているのが明らかにわかるが、回復は不完全であった。しかも再結合されたDNAの大きさは対照よりも小さいように思われた。念のため、全く同様な実験を行ったのが第3図に示してある(図を呈示)。但し回復培養の時間を5時間としたが、殆ど同様の結果であった。これ等の結果からL・P3、RLH-5・P3の結果と比較して次の事が云えそうだ。
1)RLC-10細胞は4NQOのより低い濃度でL・P3とcomparableな切断のpatternを示す事から、L・P3より4NQOに対する感受性がやや高いようだ。
2)一重鎖切断が回復培養で再結合されたDNAは未処理DNAよりも小さいようだ。
なお、堀川さんよりLの金沢lineをいただきましたので、この細胞について今後再検討を進めたいと思っております。
【勝田班月報:7003:抗原抗体反応による細胞膜の変化】
《勝田報告》
A)ラッテ肝の4NQO処理による変異株(RLT-1〜5)及びその対照株(RLC-10)のラッテへの復元成績:
(各実験系の結果図を呈示)これらの結果は、4NQOによる処理回数が多いからといって、復元接種後の生存日数が必ずしも短くはならない、ということを示唆している。(表現をかえれば、頻回に処理しても、必ずしも細胞の悪性度が高まるとは限らぬ、という結果である。
対照群は、初めの内は復元成績は陰性であったが、その内自然発癌してしまい、A系列とB系列は陽性となってしまった。但しその時点は処理群よりもおくれている。
これらの悪性化系の内では、RLT-1株が最高の腫瘍性を示し、山田班員の検索結果と非常に一致していた。
B)若い培養系の4NQO処理:
上記のようにRLC-10株が自然発癌してしまったので、以後はこの株を用いず、若い、まだ株化には至らぬ肝細胞系を用いた。この場合、ラッテはまだ完全には純系化されていないJAR-2系を用いたので、系の名称にはRとLの間に“2”をはさんである。
(1)R2LC-1(JAR-2、F11生後4日♀)
培養継代第2代(総培養日数87日)に4NQO(3.3x10-6乗M、30分、1回)の処理をおこない(1969-10-12)、2月12日現在で113日経過しており、TD-40瓶1本であるが、細胞の増殖を待っているところである。
(2)R2LC-2(JAR-2、F11、生後4日♀)
継代第2代(総培養日数71日)に上記と同様の4NQO処理をほどこし、現在123日経過。TD-40瓶1本。これも増殖待ちである。
(3)R2SC-1(JAR-2、F11、生後4日♀、皮下センイ芽細胞)
継代第2代(総培養日数71日)に上記と同様の4NQO処理をほどこし、現在123日経過。TD-40瓶1本。目下増殖待ち。
C)RLH-5・P3株の4NQO処理:
この株はラッテ(JAR-1)肝由来で“なぎさ”で変異し、純合成培地内で継代されている亜株である。
Ex0.#HQ-1
3.3x10-6乗Mの4NQOで30分間処理し、現在154日経過している。
復元接種試験は#HQ-1:処理50日後に復元:104日経過で?/2、144日経過は1,500万個/ratに接種し9日後に親に食われてしまったので結果不明。
対照:無処理RLH-5・P3は302日経過し0/2。
:質疑応答:
[佐藤]班長の所で自然発癌が1例出来てくれて、ヤレヤレ大安心ですよ。これで私の所の自然発癌がウィルスのためだと言われなくてすむでしょう。
[勝田]まだまだ・・・。岡山のウィルスの疑いは消えていませんよ。・・笑・・
[佐藤]私の所のデータでも4NQOを数多く処理すると細胞質に空胞や脂肪胞が多くなって、動物への復元成績が悪くなるようです。
[勝田]4NQO1回処理の場合、処理後培養を継続すると、処理された時変異した細胞がポピュレーションとして増えるのではないかと思います。それが何度も処理をくり返すと、その増え始めている変異細胞集団を叩いてしまう結果になるのではないでしょうか。
[佐藤]4NQOとDABとでは癌化の過程が大変違っているようですね。4NQOは1度処理しただけでもその後、悪性が進行するようですが、DABは変異した状態が割に安定していて、再処理によってその悪性度がcumulativeに増えてゆくのではないでしょうか。
[勝田]動物実験でも4NQOは1回の接種で癌を作ることが出来るが、DABは長期間与えなければなりませんね。ということはDAB発癌では発癌剤が或る程度、細胞内に蓄積されることが必要なのでしょうか。
[吉田]4NQOは直接にDNAに影響を与えますから、放射線に似た作用を持つと言えますね。アゾ色素にはそういう作用はないとされていますから、培養細胞に対する作用の違いは理に適っているようですね。
[山田]4NQO処理の追い打ちをかけた場合、復元成績からみると確かに動物の生存日数は長くなっていて、その点からみると悪性度は増していないように見えます。しかし接種した細胞の全部が悪性化しているのではない場合、3カ月とか4カ月とかの長期間かかって死んでいることから考えて、あまりはっきりした判定は下せないのではないでしょうか。少なくとも、細胞電気泳動のデータからみると集団としては悪性度の強いものが4NQO処理を重ねることによって増えてきます。
[勝田]4NQO処理によって少数の変異細胞が出来、徐々に変化がすすむので、動物にtakeされるようになるのか、又は少数の悪性化した細胞が出来、それが集団として増殖して動物にtakeされるようになるのか・・・。これはこれからの問題ですね。4NQO処理後の初期に軟寒天で変異細胞を拾うとか、細胞電気泳動で泳動値の異なるものを拾うとか方法を考えなくてはなりませんね。それから高木班員の宿題にしたと思いますが、悪性化した細胞に正常細胞を混ぜて復元すると、どういう結果になるか知りたいですね。
[高木]その実験は試みたのですが、実は正常細胞として混ぜたものが、自然発癌していたことが判って、全く無意味なことになってしまいました。・・笑・・
[佐藤]DAB処理の実験の場合は経時的にコロニーを拾って復元しておけば、うまくゆけばtakeされるコロニーとtakeされないコロニーとをはっきりさせられると思います。しかし4NQO処理では処理後早いうちにコロニーを拾ったとしても、クローンの増殖を待つ間に悪性化が進んでしまうから駄目ですね。
[山田]4NQOの毒性をうんと減らして、セレクションの可能性を低くする事を考えてみたらどうでしょう。
[勝田]マルチフォーカスかモノフォーカスかということを確かめる方法を考えてみたいですね。
[吉田]なるべく短期間に変異し、また変異までの期間も大体一定という系がほしいですね。しかし期間は一定にならないようですね。
[勝田]変異細胞の出現までの期間が、まちまちだということは変異説にとって有力なデータですね。それからかなり難しいことだとは思いますが、発癌剤の爪アトを見つけることも大切なことだと思います。
[佐藤]DAB発癌の実験で自然発癌の細胞とDABで発癌した細胞との間に、DABの消費について量的に違いがあるようです。動物にDABを与えて出来た肝癌もそうですが、組織培養で長期間DABを添加して出来た肝癌はDABを消費しなくなります。自然発癌の系はDABを消費します。
[吉田]それは癌と関係があるかどうか判りませんよ。耐性の問題かも知れません。
[勝田]それもこれからの問題ですね。
《山田報告》
前回報告しましたごとく、抗原抗体反応によって惹起される細胞膜の表面の変化を、カルシウムイオン細胞表面吸着性の増減により検索しています。すなわちその基礎実験としてラット腹水肝癌AH62Fをドンリューラットに1,000万個I.P.に移植し、18日目に大動脈より採血、この血清中に産生されてゐる同種移植抗体を抗原細胞(AH62F)に種々の条件で反応させ、その細胞膜の変化をカルシウムを含むメヂウム内での電気泳動度の測定により検索してゐます。その二、三の成績は既に前報に書きましたが、改めて測定の標準誤差を附した表を示します。
この実験を含めて、以後すべての実験の対照としてaliquotの血清を温度処理したものを用いてゐます。即ち56℃30分温度処理により血清中に含まれる補体を非働化したものを対照としたわけです。補体はすべて正常ラット血清を0℃で3回AH62Fを加へて自然抗体を吸着した後のものを使用しています。
結果はメヂウム内にカルシウムを加へると細胞膜の変化がより明確に検索出来ます。
Antiserumによって細胞表面へのカルシウム吸着性が増加します。
今回は更にpilotの実験を幾つか行いました。その成績を報告します。
抗原抗体反応に於ける補体量:
まず反応時の抗体量と表面の変化(カルシウム吸着性)との関係を検索したいのですが、抗血清中に含まれる補体量を簡単に検査出来ないので、その前に抗体を一定(血清0.5ml)にして補体量の増加に伴う細胞表面の吸着性の変化をしらべてみました。
(図を呈示)反応時の補体量の増加と共に、カルシウム吸着性が増し、活性の抗血清を加へた細胞電気泳動度は著明に低下しました。しかし非活性化した血清を加えた際も、その量の多少により泳動度は変化し、非特異的蛋白の細胞表面への吸着も一部にはあるものと思われます。
抗血清のSpecificity:
この抗AH62F血清のAH62Fに対する特異反応性を検索する意味で、同種のラット腹水肝癌AH414と抗AH62F血清との反応を検索してみました。AH414はAH62Fと同様な発生起源を持ち、同様に単離状にラットの腹腔内で増殖する移植性の腹水肝癌細胞です。抗AH62F血清によりAH414細胞のカルシウム吸着性は全く増加せず、抗原であるAH62Fに対してはカルシウムの吸着を増加させています。この実験ではcomplementは加へてありませんので、カルシウム吸着の増加は前実験程大きくはありません。この成績で考へられるのは、AH414の泳動度の測定誤差がAH62Fのそれより大きいのですが、既に以前に充分なる検索の結果、AH414の泳動度のバラツキがAH62Fのそれにくらべて極めて大きいことが判明していますので、免疫血清の影響がその測定誤差にひびいて居るとは思えません(実験毎に表を呈示)。
Bovine albumine-Antiserum Complexによる補体の吸収:
温度処理による補体の非活性化が果たして完全なものか、或いはこの処理により抗体までも非活性化しているか?と云う事を検索する意味で、補体をBovine
albumine-Antiserum Complexにより吸収した抗AH62F血清の影響をしらべてみました。これはablumineに対する抗体をモルモットに作らせ、その抗体にalbumineを結合させたものを(固体)、0℃の条件で抗AH62F血清に混合して補体を吸収させ、直ちに遠沈してこのComplexを除いたものです。結果は、Bovine
albumine-Antiserum Complexの方が温度処理にくらべて完全に補体を吸収する様です。少くとも温度の処理により抗体を非活性化することはない様です。またこの実験に用いた細胞の色素透過性をニグロシンにより検索した所、いづれの細胞も全く染らず、従ってこの細胞電気泳動法による検索は所謂intoxication
testより精度が良ささうです。
これら実験はすべてpilotですので、改めて細かく基礎実験を行ひ、この方法の精度、及び他の方法との比較についてしらべてみたいと思ってゐます。
4NQO処理後のRLH-5・P3株(HQ系)の其の後の変化:
前報にRLH-5・P3株が4NQO処理後徐々に変化し、殊に前回はシアリダーゼに対する感受性が増加して来たことを報告しましたが、処理後91日目に写真記録式細胞電気泳動法により検索した結果でも、その変化は著明です。一般に大型細胞が増加して居ます。しかしシアリダーゼの感受性の増加が特定の大きさの細胞のみに出現すると云うCQ系のごとき変化はない様です。従ってCQ系のごとく直ちにこの変化を悪性化に結びつけるべきか否か?解りません。
この細胞系の変化を抗原性の面からも調べてみました。まだ基礎実験が固っていないので、ほんの試みにすぎないのですが、RLH-5そのものの抗原性が本来のラット肝細胞とかなり異ってゐるのではないかと云う興味もあるので検索してみました。方法としては対照細胞であるRLH-5・P3(元来JAR-1ラット由来)を1,000万個JAR-2の皮下へ移植して18日目に採血された(医科研)ものを貰ひ、RLH-5・P3及びその変異株HQ1、HQ1Bに反応させてみました。(抗血清0.5ml、補体0.1mlに対し各細胞200〜300万個、37℃10分接触)
その結果をみますと、いづれの細胞もactiveな抗血清の作用により強く反応し、あたかも異種抗血清を反応させた様な形態を示しました。しかし計算してみると抗血清による細胞のカルシウム吸着性の増加は抗原細胞であるRLH-5・P3と、HQ-1との間に差がないか、或ひは後者に大きく、HQ-1Bのみが若干カルシウム吸着性の増加が少く抗原性が異ると云う結果が得られました。しかしこの結果はなほroughなもので、更に細かく分析する必要があり、決定的な成績とは云へませんが、どうやらRLH-5・P3の抗原性はJAR-2とは異ると云うことは云へさうです。この成績を手がかりとして、これから発癌に伴う抗原性の変化も徐々に検索して行きたいと思っています。
:質疑応答:
[難波]酵素処理で細胞はばらばらになりませんか。又死ぬ細胞はありませんか。
[山田]ばらばらになったり、死んだりする細胞はありません。それからシアリダーゼ処理で荷電がおちるということが、シアル酸の減少と、ダイレクトに言えるかどうか判りませんね。
[難波]細胞膜だけを分離して泳動度をみるとか、核だけにして泳動度をみるとかは出来ませんか。
[山田]膜の分離というのは複雑な操作が必要で、むつかしいですね。裸核のデータは持ってはいますが、裸核にするまでの操作が泳動度に大変影響します。
[藤井]同種抗体の影響は抗体の濃度を変えると、どうなりますか。
[山田]まだ、詳しいデータは持っていません。
[藤井]RLH-5・P3の抗血清はどうやって作りましたか。
[高岡]RLH-5・P3はJAR-1から出来た系なので、JAR-2の腹腔内へ1,000万個/rat生きたままで接種しました。
[藤井]CulbはJAR-2にもついてしまいます。ウィスター系ならすぐ抗体が出来るのですが、同じJAR-1から出来た系でもなぎさ変異の細胞は抗原性が違うようですね。
抗原抗体反応の感度を細胞電気泳動法と従来の色んな方法と比べてみてどうですか。
[山田]トリパン青による生死判別でのデータよりはずっと感度が高いです。
自然抗体を吸収するのはどうすればよいでしょうか。
[藤井]RLH-5・P3の出来た系−JAR-1のラッテ肝で吸収するのがよいでしょう。
[吉田]マウスではH2抗原で系特異抗原がずい分調べられていますが、ラッテについてはあまりデータがありませんね。この方法で調べられませんか。
[山田]間接的には調べられると思います。
《難波報告》
N-15:4NQOによるラット胎児培養細胞の癌化に、4NQOの処理回数が重要なのか、培養日数が必要なのかを検討
これまで、私共のところでのラット培養細胞を4NQOで癌化させる実験では、細胞を10-6乗M4NQOで頻回に処理しなければ発癌しなかった。即ち、未株化全胎児、肺細胞の場合は最低20回、株化した肝細胞を使用した場合は最低5回の処理をしなければ細胞は癌化しなかった。
今回は、全胎児培養細胞(RE-7)を使用して、細胞の癌化に4NQOの処理回数が効いたのか、処理はそれほど必要でなく培養日数を重ねることの方が重要であったのか、の2点を検討したので報告する。(図を呈示)9、12、15、20回4NQO処理当時の復元では造腫瘍性のなかった細胞を、更に培養を続け培養216〜226日目にそれぞれの細胞を復元した。なお、この系では4NQO処理24回培養165日のものを復元すると、進行性の増殖を示す可移植性の腫瘤の形成が認められている。
結果は9回、12回処理のものは造腫瘍性がなく、15回のものでは3匹中1匹に復元後2カ月後に接種部位の皮下に母指頭大の腫瘤の形成があるが、現在6カ月後腫瘍は退縮の傾向を示している。20回処理のものでは1/2に動物は腫瘍死した。以上のことから結論されることは、私共の発癌実験系では細胞の癌化に4NQOの処理回数が効いていることが判る。培養細胞の癌化の機構を考える場合、発癌剤を頻回に処理したのでは、その機構を解析する際複雑になるので、今後は発癌剤の処理回数を少くするよう努力したいと考えている。
更に、以上の現象を、4NQO処理回数を増し、細胞が癌化に近づくにつれ、変異集落の出現がどの様になるかを検討した。(表を呈示)結論されることは
1)集落形成率は4NQO処理によりやや上昇する傾向にある。
2)細胞の造腫瘍性と変異集落の出現とはよく一致している。の2点である。
では、はたして変異集落は造腫瘍性を有する細胞よりなるかどうかが問題になる。そこで変異集落の腫瘍性の有無を検討した。4NQO処理24回の培養細胞より5コの変異集落をクローニングして動物に復元した。復元に使用した動物は、生後2日目の新生仔ラットを使用し、各集落細胞の悪性度を比較するために、C-3以外は同腹のラットを使用した。その成績(表を呈示)から結論されることは
1)変異集落を形成する細胞に造腫瘍性があることが明白になった。
2)平均生存日数から各変異集落間には悪性度に差異がある。
以上のことから、間葉性由来と思われる細胞を使用して、発癌実験を行う場合、変異集落の出現破砕棒の癌化の指標になると考えられる。
:質疑応答:
[吉田]クロンの復元についてですが、もとの培養が悪性化したことが判ってからコロニーを拾ったのですか。それとも悪性化以前に拾ったのですか。
[難波]悪性化していることが判ってからです。
[勝田]軟寒天で拾ったのですか。
[難波]液体培地です。カップ法で拾いました。
[山田]細胞集塊の実験についてですが、細胞集塊の出来ることをどう考えますか。
[佐藤]どうして出来るのかは判りません。実験的にみて胎児の細胞は旋回培養で細胞集塊を作ります。成ラッテの肝細胞では細胞集塊は出来ません。そして悪性化したラッテの肝細胞も細胞集塊を作ります。悪性化ということが未分化とつながるのかとも考えています。細胞集塊を作らせ、その組織像をみることによって、悪性化の過程を追えるかと考えて始めた仕事です。
それから、胎児から出発したデータと、あとの肝細胞のクロンから出発したデータを混同しないで理解して頂きたい。クロンは株になったものから拾っています。もっと若い培養からクロンを拾いたいと努力していますが、難しいですね。
[勝田]4NQO処理のあとの形態異常は必ずしも発癌剤のせいと言えないのではないでしょうか。増殖障害に伴うごく一般的な所見のようです。
[高岡]クロン化してからの染色体数のバラツキが大きすぎるように思いますが、1コの細胞から出発しても結局あんなにバラツイてしまうのは何故でしょうか。
[佐藤]細胞自体のせいか、培地のせいか判りませんね。例えばエールリッヒの株などは、少数細胞をまいて100%コロニーが出来ます。そしてそれぞれ染色体数の違う、又きれいなピークを持ったクロンがとれるのです。それから継代法によっても細胞の性質の安定度が変わりますね。
《安藤報告》
4NQOによるL・P3細胞DNAの“二重鎖切断”の再結合について。
昨年来報告して来たようにL・P3、RLH-5・P3のDNAの4NQOによる二重鎖切断は回復培養によって再結合される。一方、堀川班員によるとEhrlich、Lいずれを使っても再結合はされないという。そこで現在この点の矛盾を解くべく実験を行っているが、先ず今回はL・P3細胞での結果の再確認実験の結果を述べる。
(図を呈示)4NQO 10-5乗M、30分処理直後にはDNAはトップから1/3に来ているが、回復培養24時間後には再びボトム近く迄移動し、大きなDNAに再結合している事がわかる。なおこの再結合の程度は少しずつ実験によって異るが、再結合が起る事は確実である。但しこの再結合が厳密な意味でDNAのデオキシリボース、リン酸結合の再結合であるか否かについては目下検討中である。
:質疑応答:
[勝田]4NQO処理によるDNAの切れ方は、何時も同じ大きさに切れますか。
[安藤]何回か同じ実験をくり返しましたが、大体一定の分子量に切れるようです。
[勝田]同じ方法で何回もくり返すだけでなく、別の方法も使って確かに何時も同じ大きさに切れるのかどうか、確かめてほしいですね。
[吉田]4NQOはDNAを切っているのでしょうか。それともリンカーのような物を取り除いているのでしょうか。あんなに、きれいにピークを作るという事は、でたらめでない切れ方をしているのでしょうね。4NQOの濃度を変えると切れる大きさは違ってきますか。
[安藤]違ってきます。
[佐藤]4NQOの濃度を上げると切れ方が小さくなる訳ですね。そこは判りますが、次に回復出来なくなる限度があるなずですね。この実験法でそこが判ると、悪性化の一番効率のよい濃度を知る事が出来るのではないでしょうか。
[吉田]DNAが出来るだけ小さく切断されて、しかも修復の出来る可能性もあるという濃度ですね。
[安藤]しらべてみる必要がありますね。
[吉田]処理後、24時間の分析は、細胞の一部がこわれ一部は増殖しているという状態のものについて、調べているのではありませんか。
[安藤]顕微鏡で調べたところでは、こわれた細胞は見当たりませんでしたが。
[佐藤]DNAに4NQOが結合したような形の場合、4NQOはDNAの修復の障害にはならないものと考えますか。
[安藤]DNAの修復そのものには障害にならないかも知れませんか、それが次々とサイクルをまわるにつれて変異の原因になるかも知れません。
[吉田]4NQO処理によって切断されたDNAの二重鎖が、24時間培養すると再結合してもとの大きさ近くになるということは判りましたが、もう1サイクル分位追ってみないと、その先細胞がどうなるかということは判りませんね。
[勝田]それから堀川班員とのデータの違いを解明するには、L・P3を血清培地で培養して、4NQO処理をしてみれば良いのではありませんか。
《高木報告》
1.NG発癌実験系 NG-11の対照細胞の自然発癌について:
NG-11、1968年4月2日に生後3日目のWKA rat肺をprimary
cultureし、以後NGを2時間ずつ7回作用させた処理群と対照群とに分けて継代して来たもので、最終処理後288日目にWKA
newborn ratに200万個細胞を接種して、95〜130日のlatent
periodをもって3/3に腫瘤を生じた系である。
以後この系の復元実験ではすべて100万個細胞をWKA
newborn ratの皮下に接種した。
対照細胞は継代を重ね、培養開始後289日目、32代、および318日目、36代でそれぞれ復元したが、0/1、0/3でいずれも腫瘤を生じなかった。その後、430日目、52代にNGの再現実験を行うべく、この対照細胞の一部を継代し、3日後、NG
10-4乗Mで2時間細胞を処理し、処理および対照群と分けて継代を続けた。(NG-21) 535日目にはさらに再現実験を行うべく対照細胞を継代し、その一部を同様NGで処理した。(NG-22)
1969年9月30日、NG-21の処理細胞の腫瘍性発現を検すべく、4匹に復元したところ1/4に腫瘤を生じた。しかし同時に培養開始後546日目に復元した対照細胞も1/2に腫瘤を生じた。ここで、はじめてNG-11系の対照細胞の自然発癌に気付いた訳である。このNG-21の処理細胞は、さらに37日後の11月6日にも復元したが、0/2で未だ腫瘤の発生をみない。一方同時に、すなわち培養開始後583日目に復元した対照細胞は、1/2に腫瘍を作っている。また自然発癌がおこる以前と思われる535日目に継代し、3日後にNG処理した細胞(NG-22)は処理後65日目の11月26日に行った復元実験成績では、今日までのところ0/4で腫瘤を生じていない。
なおこれら3系列の細胞の間に形態学的差異は認められない。私共の研究室で、rat細胞の自然発癌をみたのははじめてである。当研究室ではvirusは扱っていないが、その可能性も一応考慮して検討しなければならないと思う。
次に復元実験と大体平行して行ったsoft agarの実験で、これら細胞の間に興味ある知見がえられた。すなわち対照細胞では自然発癌がおこる以前と思われる培養開始後430日目および458日目ではCFEはそれぞれ0.02%、0.08%であり、おこった後の611日目でも0.08%と差程の違いはみられなかったが、6月10日にNG処理したNG-21では、処理後24日目には0.24%、158日目(培養開始後616日)には2.4%と漸次CFEは上昇の傾向を示し、また9月22日に処理したNG-22でも処理後65日目(培養開始後603日目)には3.5%と明らかなCFEの上昇をしめした。
soft agar内に作ったcolonyの大きさは対照群ではすべて割に大きく、処理細胞のそれは小さく、やっと肉眼で見える程度であった。さらに経過を追って検討の予定である。
2.Argan culture−培養条件の検討
2-3の組織につき、温度をかえ、気圧をかえ、ガス組成をかえて培養条件を検討中である。その一部は先の月報で報告したが、班会議では各条件下の組織の状況をスライドで供覧し、御批判をあおぎたい。
:質疑応答:
[梅田]器官培養用の組織は、どういう方法で薄切りにしていますか。
[高木]マイクロチョッパーという道具を使っています。
[勝田]チョッピングの場合の培養法は・・・。
[高木]普通の器官培養と同じように培養しています。
[勝田]圧をかけるにはどうしていますか。
[高木]三春製作所に特別に作らせました。高圧滅菌器のような構造のものを使っています。
[藤井]高圧がよいのは、組織片の中まで培地や気層が滲みこむためですか。
[高木]そうでしょうね。
[難波]温度の低い法がよいのは、代謝が低くなるからでしょうか。
[高木]そうだろうと思っています。インシュリン産生が低温の場合どうなのか調べてみたいと思っています。
《梅田報告》
目下培養中の長期継代例をまとめて累積増殖カーブを画いて比較したので、それについて述べる。
(I)(実験番号T#150)培養開始1969年5月31日。
ラット(JAR-2)生後3日目の肝を細切し、6cmシャーレに移植片として植えついだ。初代の増殖は良好で9日後の6月6日に継代。その後変性していく細胞があり、継代は79日後の8月27日更に65日後の10月31日に行った。その頃より多角形でやや細長い細胞の増殖が安定して認められる様になり、2週間毎に約2〜3.5xの増殖を示す。染色標本、位相差顕微鏡写真で観察すると、細胞質がひろがった多角形細胞で、核は丸く、時に細長い細胞である。累積カーブとして(実験毎に図を呈示)初代だけ細胞数が不正確なので、2代目のものから累積すると、4〜5代目(200日)頃より増殖がやや早くなっていることがわかる。
(II)(実験番号T#170)培養開始は1969年7月26日。
JAR-1とJAR-2のF1の♀、生後3日目の肺をトリプシン処理して植えたもので、初代は8月4日、9日後に継代出来た。その後一進一退の増殖を示し、11月20日108日後にやっと継代出来る程度になった。しかし、その後の増殖は非常に急速で、10日で5倍近くの増殖率である。形態的には、上皮性の細胞を繊維芽細胞様の細胞群がとりまいて境している様な感じを与える。上皮性の細胞は肝培養細胞から得られた細胞群と良く似ている。累積カーブで見ると培養150日目より急激な増殖を示す様になったことが歴然とわかる。
(III)(実験番号T#186)1969年8月23日に生後2日の♂、JAR-2ラットの肝をいつもの如くトリプシン処理、スプラーゼ処理した単層培養を開始した。3日後からN-OH-AAF
2.5x10-5乗M培地に変え、更に3日後無処理培地に戻した。その後、無処理培地でずっと培地交新を行っていたが、増殖は一進一退で118日後の12月22日に初めて継代可能になった。その後の増殖は急速で、2週間で5倍以上の増殖率を示す。形態的には多角形の細胞で占められている。
(IV)(実験番号T#194)1969年9月8日、生後4日目♂のラット肝(JAR-2)からいちもの如く単層培養を開始した。3日後9月11日に4HAQO
10-5乗M培地に変え、2日後に障害がかなり強く認められたので正常培地に戻した。以後正常培地で培地交新を行っているが、11月20日第1回のpass、12月30日に第2回のpassが可能になり、その後かなりconstantな増殖を示している。2W間で約3倍の増殖率である。これに対しコントロールは12月9日似第1回のpassが可能になり、更に本年2月5日に3代目のpassを行った。累積カーブはtreatedとcontrolとで極端な増殖率の差が認められる。形態的には処理群は多角形の細胞で占められているが、コントロール群はfibroblasticな細胞が主体をなしている。
(V)(実験番号N#29)ハムスター胎児細胞に3HOA
10-3.6乗M培地で2日毎3回、培地交新を行い、その後無処理培地で継代を続けている系が、累積カーブでわかる様にコントロールと明らかな増殖率の差が現れてきた。
処理群は始めやや増殖が遅かったのに2代目よりconstantになったのに対し、コントロールは50日頃より一進一退の増殖を示す様になった。途中でハムスターの頬袋に注入して、移植性を獲得しているかどうか見ているが、今の所腫瘍発生は認められない。形態的には処理群は、やや小型でfibroblastic→polygonalの移行型の様な形をとっているが、コントロールは、細胞質の先がみだれた、ひろがったfibroblastic細胞である。
以上の様な細胞質について以後、cloning、生物学的性状の検討、無処理細胞には更に発癌剤投与を行っている計画をたて、実行に移った段階である。
(VI)ラット肝のprimary cultureにDAB、N-OH-AAFを投与すると肝実質細胞に特異的な脂肪変性の生ずることは、今迄度々述べてきた。更にLuteoskyrin、含塩素ペプタイド、Aflatoxinの様な肝障害を来すと同時にhepatocarcinogenic
mycotoxinsでも脂肪変性が、肝実質細胞に強く起ることも述べた。
今回は更にRubratoxin(Pen.purpurogenineからとれたhepato-and
nephrotoxicであり、更にproliferating cell
damegeも惹起する)。Penicillic acid(かなり広範に存在するmycotoxinでmitotic
stageでとめる作用がある。hepatotoxicityはない)。Patulin(Asp.ochracene等かなり広範に存在するMycotoxin)で非常に強い毒性をもつ)について検討を加えた。(表を呈示)その結果から少くともhepatotoxic
specificの物質は肝実質細胞が特異的に侵されることがわかる。Rubratoxinはhepatotoxicでもあるがproliferating
cellにもtoxicなので障害性は各種細胞によって差が出ていない。
:質疑応答:
[安藤]ペニシリックアシドとはどういうものですか。
[梅田]ペニシリンの分解産物といったものと関係があるもののようです。
[高岡]株化したものの染色体数はわかっていますか。
[梅田]染色体やダブリングタイムについて、これからしらべる予定です。
《藤井報告》
Mixed hemadsorption法によるCulb-TCとRLC-10細胞の抗原差の検定;吸収抗血清による反応。
前回の月報で、WKAラットにCulb細胞を接種して得た同種抗血清でmixed
hemadsorptionをおこなって、Culb-TC細胞がその変異前の株であるRLC-10より有意に強い反応を示したことを報告した。
今回は、ラット抗Culb血清(WKA)を、Culb腫瘍細胞の由来したJAR-1系ラットの肝細胞で吸収し、吸収後なおCulb細胞に反応する抗体が残っているかどうかをしらべた。
抗血清の吸収:WKAラット抗Culb血清(Fr16A)、0.3mlにあらかじめ冷しておいた(氷水中)洗滌ラット肝細胞(packed
cells)0.15mlを加え、0℃、60分間、ときどき揺りながら反応させ、その後遠心して(2,500rpm、30分間)得た上清を吸収血清とした。
Mixed hemadsorption(Exp.012870):抗血清が少いのでマイクロ法を用いた。microdisposo-trayに1日培養したCulb-TCとRLC-10について、前号に記した方法でmixed
hemadsorption(MHA)をおこなった。
(表を呈示)成績は、Culb-TC細胞を標的細胞とする成績は、抗血清を正常ラット肝で吸収しても、吸収前の抗血清とほぼ同程度のMHA反応を示している。一方、RLC-10細胞を標的細胞とすると、抗血清、1/3、1/9稀釋のいづれにおいてもMHA反応の低下がみられた。すなわち、ラット抗Culb抗体(群)には、正常ラット肝組織では吸収されない抗Culb抗体のふくまれていることが示唆される。
RLC-10細胞に対する反応が、抗血清の吸収後にもなお残っていることには、次の2つの理由が考えられる。1つは、すでに勝田教授から報告があったように、この株はspontaneous
transformationをきたしており、正常ラット肝組織で吸収されにくい抗原をもっているかもしれないこと。もう一つの説明は吸収が、上記の0℃、60分館では不充分であり、特に反応後の遠心が2,500rpm、30分間であることは、溶解細胞片が除去できていない可能性がつよい。(写真を呈示)吸収血清でのMHAでは、indicator
red cellsが標的細胞の無いガラス面に附着していることが多く、反応の読みを妨げる、これは抗体を結合した溶解細胞片がガラス面や細胞に附着しその上にMHA-反応がおこった可能性がつよい。
以上の成績や、同種抗Culb血清で示唆された抗Culb-TC、RLC-10細胞の反応の強弱、異種抗Culb血清で示唆された抗Culb抗体の存在などは、未だなお決定的ではないが、in
vitro chemically induced malignanciesの抗原を示すものである。
今回の実験で、抗Culb血清のCulb細胞による吸収も試みたが、用いたCulb細胞は凍結保存していたもので、吸収操作後も細胞溶解が強く抗原を除くことが不充分であったので、除外した。同種抗血清の量が少く、吸収後の超遠心ができなかったが、この点の検討と、同種抗血清をI125あるいはI131で標識し、そのCulb-TC、RLC-10による吸収実験と追加交叉吸収実験を準備しています。
:質疑応答:
[勝田]血清を沃度のアイソトープで標識して使う場合、フリーの沃度を洗い落とすことなど、よく気をつけてください。
[藤井]はい。とにかく+−でなく数字でデータを出したいのです。
[勝田]細胞についた赤血球を集めて溶血させて数値に出来ませんか。
[藤井]そういう方法を使っている人もあります。
[高木]吸収する時、細胞はこわさなくてもよいのですか。
[藤井]今みているのは細胞表面の抗原をみているので、細胞をこわすと、又違うものが出てくると思います。
[難波]トリプシナイズしても、又変わってくるでしょうね。
[高木]吸収は0℃でする方がよいのですか。
[藤井]血清を非働化していないので、補体が働かないようにと考えて0℃で反応させています。
[難波]吸収にラッテの胎児の肝細胞を使ってみたらどうでしょうか。
[藤井]吸収についても色々考えていますが、何しろ抗体値の高い血清を作ることが先ず必要で、それが又なかなか難しいのです。CulbはJAR-2系のラッテでは抗体値の高い血清が出来ないようです。
《三宅報告》
前の班会議でのべたT10というd.d.系マウスのEmbryonic
cellのtransformしたと考えられる系について継代9代及び11代目のクロモゾームの分布をしらべた。(図を呈示)Modeの1つは60に、1つは64にあった。Karyo
typeの分析を施行中である。なおこの細胞の増殖曲線をみると、(図を呈示)7日間で約48倍となり、前にAuto
radio graphyで求めたtg=23hという数字とよく一致することを知った。
またこの細胞のCell suspensionを作り、Sponge
matrix cultureを行い、その間葉性の組織学的性格を知りたいと思ったが、Spongeの中心間隙にしみこんだ細胞は変性し、この試みの第一は失敗に帰した。
:質疑応答:
[難波]スポンジの大きさはどの位ですか。
[三宅]5ミリ〜7ミリ位の角です。
[藤井]培地は何を使われましたか。
[三宅]こうし血清+Eagle MEMです。
[高木]tumorはスポンヂの中へはいって行ったのですか。
[三宅]それは、はっきりわかりません。始めに押し込んだ分かも知れません。
[高木]suspensionの場合のやり方は・・・。
[三宅]なるべく濃いcell suspensionをスポンヂェルにしみ込ませて培養しました。
[梅田]培養の初期にはスポンヂの中に生きている細胞が居たわけですね。
[三宅]そうだろうと思いますが、途中経過を追っていないのでわかりません。
[難波]繊維は銀染色だけでみて居られるようですが、もっと他の例えばワンギーソンとかマロリーを染めてみるとよいと思います。
《安村報告》
☆ラット肝細胞の初代培養からのクローン化の試み:
In vitroのchemical carcinogenesisの研究のこれまでの実績(みなさまの)にわたしなりになにかcontributeしようと思って始めたのが初代培養からのクローン化の仕事です。できるだけ実験条件をsimpleに、variablesを最少限にする出発点は細胞の側からいえばpure
cloneでありましょう。この仕事は井上幹茂君がまだ医科研癌細胞研究部におられたときに始めたものです。
“思いは高く暮らしは貧し”のたとえの如く、これまで得られた結果はかんばしくありません。cloneがとれそうでいま一歩のところで足ぶみ状態というところです。ここでは経過報告ということになります。
(1969-8-4) 7月29日生れの(つまり生後6日めの)JAR-2(F11)の♂♀1ぴきづつの肝が出発材料です。肝を細切して、PBSで洗ってから2,000u/mlモチダトリプシリンを加え、10分、37℃におき、mediumを加え遠沈、上清をすて、沈渣にスプラーゼを1ml加え、遠沈、mediumを加えてメッシュを通してから、3たびmediumで洗い、細胞浮遊液をつくった。細胞浮遊液をしばらく(2〜5分)放置し、上清部分を♂、♀由来のものそれぞれパストゥールピペットで一滴ずつプラスチックシャーレ(径50mm)にまいた。(♂由来4枚、♀由来4枚)、もう1群は細胞浮遊液0.5ml/plateのものを♂由来4枚、♀由来4枚作った。mediumはEagle
MEM+CS 10%。
(1969-8-16) 12日めになって♂由来の細胞浮遊液1滴の群の1枚のシャーレに径約0.5mmのEpithelialのコロニーが1コ発見された(シャーレをくまなくしらべたがこの1コ以外に細胞コロニーはみつからなかった)。
♀由来の同群のシャーレ1枚に2コのコロニーがみつかった。1コはEpithelialで他の1コはfibroblast-likeであった。これらのコロニーをステンレススチールのカップで拾いあげ、♂由来のものから4枚のシャーレにまき、♀由来のものから3枚のシャーレにまかれた。
(1969-9-6) その後3週たって♂由来の4枚のシャーレのうち1枚−かりにE1系とした−から5コのepithelialの細胞コロニーが発見された。
♀由来のものではEpithelial colony(かりにE2とした)からは3コのepithelial
colonysが出現し、fibroblast-likeのものからは1コのコロニーもできなかった。(図を呈示)
そこでそれぞれのコロニーを再び拾いあげ、E1-1コロニーからE1-4までそれぞれ4枚のシャーレにまかれた。E2-1、E2-2はコロニーが小さすぎたので1本ずつの短試にいれ、0.5mlのmediumを加えて培養した。E1-5コロニーも小さいので1枚のシャーレへ、E2-3は3枚のシャーレにまかれた。
(1969-9-27) その後3週めにE1-2のシャーレ1枚より4コのコロニーをpick
upし、再び別々のシャーレにまかれた。
E1-2-1、E1-2-2、E1-2-3、E1-2-4と假の名を与えてそれぞれ2枚ずつのシャーレが作られた。
(1969-10-4) その後1週それぞれのシャーレでの細胞の増殖がよく、E1-2-1の1枚のシャーレから短試に移されHepro-1、E1-2-2の1枚のシャーレから短試に移されHepro-2、と名付けられた。E1-2-3の1枚のシャーレから5コのコロニーが拾われHepro-3-1、3-2、3-3、3-4、3-5、べつの1枚のシャーレから2コのコロニーが拾われHepro-3-6、3-7、と名付けられた。E1-2-4の1枚のシャーレからは2コのコロニーが拾われHepro-4-1、4-2と命名された。(図を呈示)
そのごは原因ははっきりしないが増殖が止って今日に至っている。
:質疑応答:
[勝田]3代目のものを一部試験管に移しておいたらどうですか。
[安村]たいていシャーレにまく時、同時に一部分試験管に入れておくのですが、試験管の方は増殖してくれませんでした。
[佐藤]私も初期の培養の肝細胞からクローンを拾おうと何回かやってみましたが、なかなかうまくゆきませんね。1コだけ釣ると増え出しません。又コロニーが出来ても何故かトリプシンではがれなくなります。
[安村]細胞が何故かうすくなってしまいますね。
《吉田報告》(概略)
バラバラにした染色体を、異種の培養細胞に取り込ませ、そこで遺伝因子としての機能を発現させ得るかどうか試みている。材料としてはハイブリッドを作る系としてよく使われているチミヂンカイネースを持たないマウスの細胞へ人由来の染色体を取り込ませようとしているが、なかなか染色体を取り込んでくれない。いろいろ実験して今までに判ったことは、染色体にプロタミンをまぶしてやると細胞へ取り込まれる効率がぐっとよくなり、又細胞内で消化されにくい。
:質疑応答:
[安藤]フリーなDNAでは変異を起こせませんか。
[吉田]この種の実験に始に手をつけた癌センターの関口君はDNAでも変異が起こると言っていますが、私としては矢張り丸ごとの染色体の形のままで取り込ませたいのです。
[安藤]細胞融合の場合は一緒になった染色体の片方だけが消化されてしまうということは少ないのに、染色体レベルで取り込ませると、取り込まれた染色体がすぐ消化されてしまうのは何故でしょうか。
[吉田]染色体をバラバラにすると、どうしても染色体がダメージを受けます。そのために取り込まれてすぐ消化されてしまうのだろうと思います。染色体まで持ってゆかずに裸核の状態で取り込ませてみようと考えています。染色体にヒストンをまぶして取り込ませることも計画しています。
[安村]取り込む方の条件と取り込まれる側の条件とがインタクトだと共存するが、取り込まれる方が壊れていると異物として消化してしまうということですね。
[安藤]核として分離すれば、インタクトだという考え方でしょうが、核が分離されたとき、すでにDNAが分離されているというデータもありますよ。
[吉田]でも染色体だけにするより、ましでしょう。又取り込まれた染色体が消化されてしまわないようにライソゾームを持たない動物の細胞を培養して使ってみることも考えています。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(19)
前報では温度処理した細胞を用いることにより、細胞内に取り込まれた4-HAQOがどうも第一義的にDNA鎖の切断に関与しているというだめ押し的な結果を報告したが、これに続いてでは45℃で30分間温度処理された細胞(つまり生存能を失った細胞)を4-HAQOで処理してDNAを切断させ、その切断されたDNAが再結合し得るかどうかを知ることは非常に興味があることである。
こういった目的から今回は温度処理した細胞を1x10-4乗M
4-HAQOで30分間処理することにより、Single
strand breaksを誘起させ、これがincubationと共に再結合するかどうかを検討してみた。(Double
strand breaksは私共の実験では再結合しないことがわかっているのでこれはあえて実験に使用しなかった。)
今回は学年末で何やかやと時間を雑務にとられ、図表をおみせ出来ないが、前述の温度処理後4-HAQOによって誘起されたsingle
strand breksは4-HAQO処理しただけの対照区と殆ど同様に再結合することがわかった。ではこの温度処理をすることによって細胞内のactivityがどの様に変っているかを調べるため、細胞にH3-leucine、H3-Uridine、H3-Thymidineを取りこませ経時的に細胞を取出し、蛋白、RNA、DNAへの取り込みを調べた結果、温度処理(45℃、30分間)した細胞でも処理後少くとも24時間以内は正常細胞に比較して非常に低い活性ではあるが、これらの分劃への前駆体の取り込みのあることが分かった。
つまり以上の結果をひっくり返して考察すると、4-HAQOによって誘起されたsingle
strand breaksの再結合のためには、その細胞は将来死すべき運命にあろうとどうであろうと、そこで既に内存する僅かのenzyme活性によって再結合は起り得るものであることを強く示唆しているように思われる。勿論こうした細胞内の分子的機構はたんに4-HAQOで誘起されたsingle
strand breaksの再結合の場合にのみ考慮すべき現象ではなくて、莫大なX線の致死総量を照射して生じるsingle
strand breaksの再結合の際にも当然あてはめて考えねばならない現象であることは言うまでもあるまい。次回には図表入りで詳しく説明したいと思います。
【勝田班月報・7004】
《勝田報告》
A)4NQO処理を受けた若い培養系の形態:
Exp.CQ#64の対照(JAR-2ラッテF11の肝)。 Exp.CQ64の処理系(小円形細胞の、piled
up colonies)。 Exp.CQ#65の対照(JAR-2・F11の肝)。
Exp.CQ#65の処理系。(写真を呈示)。
Exp.#64は、R2LC-1株を用い、4NQOで1回処理。処理、、5.5月に増殖コロニー3コ発見(1970-3月下旬)。目下復元接種の準備中。
Exp.CQ#65は、R2LC-1株を用い、同様に1回処理。写真は処理后5.5月であるが、この場合は増殖コロニーは見当らない。しかし細胞間の密着性が低下し、細胞の形態、核小体などに変化が見られる。目下復元接種の準備中。
B)RLT-1株及びCulaTC系の染色体数:
RLT-1はExp.CQ#42で4NQOによりできた変異株であり、CulaTCは、それをラッテに復元してできた腹水腫瘍を再培養して継代している系である。(染色体数の表を呈示)
RLT-1株の染色体数のmodeはかっては40本であったのが41本に移行した。核型は、検索中であるが、正常ラッテ染色体の核型をかなり維持している。
CulaTC系は染色体数のmodeがその後41本から74本に移行した。核型はやはりラッテらしく大型のmetacentricなどは見当らない。
RLT-2、CulbTC、RLT-5、CuleTCなどについては、目下検索中である。
以上の所見は、初めは染色体数にわずかな変化しか起らないが、やがて癌細胞特有の異常分裂の頻発によって大きな変化を示すことを示唆する。
《高木報告》
1.腫瘍(悪性化)細胞と正常(無処理対照)細胞を混じた移植実験:
RG18-1:NG-18(T-1)を復元して生じたtumorの再培養細胞。
NG-19K:WKArat胸腺の培養細胞。
RG18-1細胞を腫瘍細胞とし、NG-19K細胞を正常細胞として表の如く混じ、WKAnewborn
ratの皮下に移植してその結果をみた。なお36G、32G、・・・・とあるのは細胞のin
vitroでの継代数である。一番上の欄では10万個levelで調べてみたが、25日目の観察でRG18-1を10万個とNG-19Kを100万個混じた場合に1/2にtumorを生じた外はすべてにtumorを生じた。次の欄は1万個levelで実験を行った。RG-18-1のみ1万個接種した実験で50日目の判定で1/2にtumorを生じたが、その間2疋死亡しており、この死亡した2疋の観察が不充分であるため1/2とした訳である。混合群では3/4にtumorを生じた。
次の欄はRG18-1 1000個levelで実験を行ったものであるが、未だ接種後日が浅く結果は出ていない。なおNG-19K細胞だけ100万個、33G、41Gにおいて接種したが、これは各々95日、40日後にtumorを生じていない。
2.NG-18(T-1)細胞の動物継代:
昨年10月28日以来この細胞の動物による継代を試みているが、現在まで7代にわたり継代に成功している。詳しくは班会議において報告の予定である。
《難波報告》
N-16:4NQOによって悪性化した細胞のマーカーを探す試み−旋回培養について(続)−
月報7002に、旋回培養について報告した。その報告の概要はラット肝細胞が悪性変化すると、旋回培養で大きな細胞塊を形成すると云うことであった。今回は7002の月報に述べたと同じラット肝細胞を用い、その4NQO非処理対照細胞、4NQO処理によって試験管内で悪性化した細胞、この細胞の動物復元で生じた腫瘍の再培養細胞を、旋回培養で培養し続けた。培養は、最初300万個の細胞を20%BS+Eagle's
MEMの培地3mlに植え込み、以後2日おきにこの細胞浮游液(細胞塊を含む)1.5mlを新しい培地1.5mlに入れ継代した。そして、継代時ごとに浮游細胞数を数えた。一方腫瘍再培養細胞では浮游状態で増殖が維持されていることが判った。試験管内で4NQOによって悪性化した細胞は、対照細胞と同じ減少傾向を示すが、浮游細胞数は対照細胞より多かった。
以上のことから、この実験系では腫瘍細胞は浮游状態で増殖可能なので、4NQO処理細胞が浮游状態で培養可能な傾向を示すようになれば一応悪性変異したことのマーカーになり得るのではないかと考えられる。又、現在試験管内で4NQO処理をした細胞を浮游状態で培養維持しその後、浮游細胞をもう一度試験管で増し、復元てその造腫瘍性を検討しようと考えている。なお、腫瘍再培養細胞の浮游細胞塊をパラフィン切片にして染色後観察すると、月報6911に報告した腹水腫瘍細胞の島の切片に非常に類似していた。
N-17:クローン化した肝細胞での発癌実験
月報7001に述べたごとく現在、LC-2、LC-9、LC-10の3系で発癌実験を行っている。現在動物に“Take"される段階に至っていないが、この実験の経過は以下のごとくである(表を呈示)。動物復元は生後48時間目の新生児の腹腔に500〜1000万個の細胞を接種している。
N-18:若い培養の肝細胞のクローニング
現在まだpure cloneはできてないが、クローニングの為の基礎的データを集めて居る。細胞は細切肝組織を回転培養し、継代1代のものを使用しPEを求めた。その結果PEは0.2〜3.2%(細胞のまき込みは100〜2000/plt)で、培地の比較では、TC199(日水)、Eagle'S
MEM、Eagle'S MEM+Fetuin(20μg/100ml)に20%のBSを含むものではEagleが良かった。Fetuinの添加はあまり効果はみられないようである。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(20)
4-NQOと4-HAQOのうち、4-HAQOが第一義的に細胞内のDNA鎖切断を誘起するであろうことは、温度処理された細胞を4-HAQOで更に処理した場合、4-NQO処理の場合に比べて顕著に二本鎖切断を誘起するという実験的事実から暗示されたが、今回はこのように45℃で30分間温度処理した細胞、つまり生存能を失った細胞を4-HAQOで処理してDNAの一本鎖切断を誘起させ、その切断された一本鎖DNAが再結合して高分子DNAにもどって行くか否か、を検討した結果を示す。(図を呈示)第1図はそれらの結果を示すものであって、温度処理した細胞を更に1x10-4乗M
4-HAQOで30分間処理して生じたDNAの一本鎖切断は、正常細胞を4-HAQOで処理して生じたDNAの一本鎖切断と殆ど同様に、処理後の細胞を37℃でincubateすると徐々に再結合してもとの大きさのDNAにもどって行くことが分かる。ここで問題になるのは、この様に温度処理によって生存能を失った細胞ではDNA合成に関与するenzyme
systemが完全に失活されているか、それともまだ部分的に残存しているかという疑問が生じてくる。つまりもしDNA合成に関与する酵素系が完全に失活された状態下で、この様な切断DNAの再結合が起こるとすれば、それは修復酵素系の関与を抜きにした切断DNAのまったく別の重合化を考慮しなくてはならないわけである。従ってこの点を検討するため、4-HAQO処理した直後のEhrlich細胞、さらには温度処理後、直ちに4-HAQO処理した直後のEhrlich細胞内へのH3-leucine、H3-uridine、H3-thymidineの取り込み能を解析した。結果は(図を呈示)第2図に示すごとくであって、4-HAQO処理細胞あるいは温度処理と4-HAQO処理細胞内への各種前駆物質取り込み能は対照区(ここではCPMスケールの都合上はぶいてある。班会議の際明示する)のそれに比して顕著に抑えられることがわかった。またここで注目すべきは4-HAQO単独処理群に比べて温度処理プラス4-HAQO処理群のH3-leucine、H3-uridine、H3-thymidineの取り込み能は極度に抑えられているとはいうものの、少くとも処理後24時間以内は非常に低い活性ではあるが、これら前駆体の取り込み能は残存していることがわかる。またこうした結果から、温度処理プラス4-HAQO処理後に細胞内に残存する僅かのDNA合成酵素系を含くむ生物活性が、切断された一本鎖DNAの再結合にとって充分であることを示唆しているように思われる。
《山田報告》
先月より免疫の基礎実験、HQ系細胞、岡大のExp7-2細胞株の写真記録式細胞電気泳動法による分析、その他の仕事が重なり、大忙しです。
同種移植抗血清の腫瘍細胞表面における反応;今回はまず本法(細胞電気泳動法)による測定可能限界と、反応する抗血清の濃度との関係を検索しました。AH62F(ラット腹水肝癌)をドンリューラットの腹腔内移植後18日目に抗血清採取。この抗血清中よりbovine
serumalbumin-antiserum Complexにより補体を吸収、改めて一定量の補体(各0.1ml)を加へる。
この抗血清とAH62Fの反応を検索しました。すべての細胞電気泳動度測定には、ヴェロナール緩衝液に10mM濃度の塩化カルシウムを加へたメヂウムを用いて測定。即ちカルシウムの細胞表面への吸着性の変化を細胞電気泳動法により測定したわけです。用いた抗血清量と泳動度の変化は図に示します。これは前記血清0.5〜0.05mlに対し、AH62Fを200万個加へ37℃10分間反応させた後生食で二回洗って測定したものです。対照としては同一条件の血清をそれぞれ反応前に56℃30分加温することにより、その補体を比活性化したものを用いました。図に示すごとく、対照の電気泳動度と反応させた細胞のそれとの差は、加へた抗血清量に比例し、その測定可能限界は、血清量0.05ml(200倍稀釋)程度であることが判明。勿論正常血清を用いた場合は両者に殆んど差がありません。この抗血清を、0.5ml用いて反応させたAH62Fについて、トリパンブルーによるintoxication
testを行った所、全く色素に細胞は染まりません。従ってこの細胞電気泳動府により検出して居る変化は細胞膜のごく表面のものと考へられます。またこの反応と、I.A.(Immunoadherence)反応との関係をしらべてもらった所、この実験条件では殆んど反応がキャッチされないとのことです。しかしラットの血清中には人赤血球が附着することを妨げる物質があるさうですので、モルモットの補体を使って再度検索してもらう予定です。
また異種抗血清を用いて反応を検索した所、通常の細胞電気泳動法による測定法よりも、このカルシウム吸着性による変化を同法で検索する方が、約10倍の感度があることも判明しました。(Ehrlich癌細胞をラットに移植して得た抗血清を用いました。)
なほ、この検出方法を用いて腫瘍細胞と脾細胞(リンパ球)との直接免疫反応を定量的に測定する実験も行っています。良い結果が出さうです。
岡大株Exp7-2系細胞の構成分析;これまでin
vitroに於ける4NQOによる悪性化に伴う細胞表面の変化を種々の細胞系について検索してみましたが、それらを大別すると、
1)4NQO一回接触させた後に、経過を観察した医科研株CQ系の細胞にみられるごとく、宿主へ復元して初めて悪性化が証明される時点では、その細胞群の平均電気泳動度が悪性型のパターンを示さないもの。
2)4NQOをくりかえし20回或いはそれ以上接触させた岡大株Exp7にみられるごとく、悪性化の証明される時点で既にその細胞群全体として悪性型の電気泳動パターンを示すもの。
があることを認め、前者の場合を写真記録式細胞電気泳動法により細胞構成分析した所、細胞群のうちで、比較的少数の細胞が悪性化するのではないかと云う推定が得られたことを既に幾度か報告しました。この論理でゆくと、2)の場合では、悪性化の時点で既に多数の細胞が悪性化して居るのではないかという考へが生れます。そこで今回はExp7-2の株についてCQ系と同様に写真記録式細胞電気泳動法により分析してみました。その結果を図にまとめて示します(図を呈示)。
まずcontrolのラット肝細胞培養株ですが、今回初めてシアリダーゼ感受性が出て来ました。所がこの株の細胞像(写真を呈示)をみますと、約40%は繊維芽細胞と思われる細胞が混在しています。(RLC-10では全くこの様な細胞は認められません)。従って或いはこのシアリダーゼ感受性の増加は繊維芽様細胞の性質によるものかもしれないと思い、円形細胞と繊維芽様細胞を分けてヒストグラムを作ってみますと、図に示すごとく円形細胞もシアリダーゼに対する感受性がある様です。従って細胞電気泳動度の上からみると、悪性化が否定出来ません。
次にくりかへし4NQOを作用させて悪性化したExp7-2transformed株ですが、繊維芽様細胞は全く混在せず、かなりの細胞が悪性化の泳動パターンを示し、その頻度はCQ42(RLT-1)より更に多い結果を示しました。しかし悪性化の泳動パターンを高頻度に示す細胞はむしろ大型細胞で(CQ42の場合は中型細胞)あることも判明しました。
再培養株Ex7-2RTCでは再び20%前後に繊維芽様細胞が混在していますが、この株が最高に悪性型の泳動パターンを示す細胞が存在して居ました。ラットに復元すると悪性細胞がセレクトされる可能性が、この泳動的な成績からも支持されます。
HQ系のその後の変化;
RLH-5・P3に4NQOを接触させてから168日の細胞について、まず従来通り写真記録式細胞泳動法により検索した所、特にHQ1B(2回4NQOを作用させた細胞群)に著明な変化が認められました。(図を呈示)図に示すごとく、この株のなかで特に中型細胞が高頻度で悪性型の泳動パターンを示しました。
そこで前号(No.7003)に報告しました様にこの細胞株の抗原性の変化を分析してみました。その結果を図に示します。即ちRLH-5・P3細胞をラット(JAR2)に移植して18日目に採取した抗血清(0.5ml)をHQ1Bに反応させた後に、10mMのカルシウム添加メヂウム内で泳動させた状態を室温で記録したわけです。対照は全く同じ条件ですが反応前に56℃30分間比活性化したものです。図に示すごとく大型細胞及び小型細胞では、抗血清により平均泳動度が0.120及び0.133(μ/sec/v/cm)低下してゐますが中型細胞はその約半分以下0.053(μ/sec/v/cm)のみしか低下して居ません。この知見は、HQ1B細胞群のうち中型細胞が特に抗原性が変化して居る可能性を示し、図で示したシアリダーゼ感受性増加がやはり中型細胞に特に多いことと一致した所見と考へます。
《藤井報告》
1.吸収抗Culb血清による変異細胞抗原の検討
Culb細胞をWKAラットに注射して得た同種抗Culb血清(Fr16,021370,pooled)を、Culb細胞およびラット肝(JAR-2)で吸収し、吸収および非吸収抗血清についてmixed
hemadsorptionを施行した。
抗血清の吸収:凍結Culb細胞およびラット肝(JAR-2ラットを脱血後、門脈より生食水をinfusionして血液をできるだけ除いた)をテフロン・ホモジナイザーで破壊し、40,000rpm
60分間の遠心沈渣を、さらに2回洗滌(生食水で)して吸収抗原とした。吸収は抗血清を等容量の吸収抗原(packed)と混じ、0℃、60分間反応させたのち、40,000rpm
60分間の遠心でおこなった。非吸収および吸収血清について、既報の方法でmixed
hemadsorptionをおこなって得た成績を示す(表を呈示)。
被検抗血清は月報の前号に報告したものより、さらに追加免疫をおこなって得たものであるが、targetのCulb-TC、RLTおよびRLC-10のいづれに対しても>128を示しend
pointを逃してしまった。Culb抗原で吸収した血清ではCulb-TCに対してはもちろん、RLT、RLC-10に対する抗体も消失している。一方、正常ラット肝抗原で吸収したばあいに、Culb-TCとRLC-10への反応が消失し、RLTに対する抗体がなお残っていることは意外であった。すなわち、抗Culb血清にはRLTに反応し、Culb-TCには反応しない抗体があり、抗体の側からみると、RLTに変異抗原があり、Culb-TCはむしろ変異前のRLC-10に近いということになる。
この成績の説明として、抗Culb血清の作製に用いたCulb細胞が、かなり以前に凍結保存されていたもので、変異抗原をもっていたが、Culb-TCは継代培養過程でその抗原を失い、正常ラット肝抗原にちかづくか、あるいはマイナスになっている可能性があげられる。この成績はmixed
hemadsorptionと他の方法でも再検討してみる予定です。
2.動物の遺伝的均一度と皮膚移植テスト
私の課題とは話がはづれますが、最近、実験動物談話会のシンポジウムで、上のような表題で話をまとめる機会がありましたので、御参考になればと一部を書いてみます。
(表を呈示)表はGraffらの論文(1966)の中の表のさらに一部ですが、マウスでの組織適合抗原のうち、strong
antigenといわれるH-2抗原以外について、それぞれの抗原だけが異なったとき、皮膚グラフトがどのくらい生着するかを示したものです。単一な組織適合抗原のみが異なる(このばあいC57BLに対して)Congenic
resistant strainをつくり、さらに皮膚移植テストをおこなうといった仕事は、純系動物について長年の基礎をもった上でも、しかも大変なことだと思われます。ふつうH-2抗原が異なると、皮膚グラフトは10日位で脱落しますが、H-2が同じでも、H-1、H-3、H-7、H-8、H-13などが異なると、それぞれ25日、21日、23日、32日、38日のmedian
survival timeで脱落することが、示されております。H-4、H-12、H-9などは弱く、120日、259日、>300日のMSTです。このような成績からみても、皮膚移植テストで何日間生着したかという成績から、動物の均一度を検定することは、むしろ不可能のように見えます。
(表を呈示)この表は、自検例と、北大病理・相沢教授の発表されているものから引用したものです。医科研癌細胞研究部のラット・JAR-1(1967)は、同性同腹移植で4匹だけですが、>150日以上生着で、実際には>20月、>29月、>24月、>27月で死亡時なお生着していた由です。Toma-ratは23代〜28代兄妹交配を経たもので、一応90日以上の生着率をとってみると同腹同性間移植で92%ですが、異腹同性間移植では72%と下ります。相沢教授の成績は、<5日以内のtechnical
failureと思われるのも入っているようですが、一応銘柄(お酒みたいですが)の系統でも必づしも100%とはいかぬようです。いろいろ問題はありますが、100日以上のグラフト生着を許すようなweak
antigenが、問題にならぬような実験ならこの動物は先づ大丈夫といったことが、皮膚移植テストから云えそうです。癌の実験も動物次第でいろいろな成績が出る可能性ありです。
《梅田報告》
前回の班会議で報告した長期継代例以外に更に増殖が盛んとなった2系列及びSoft
agar法の結果(失敗に終っている)について記する。
(1)(実験番号N#34j)ハムスター胎児細胞培養に、昨年12月3日に10-4.0乗Mの3HOAを投与し、更に12月5日同濃度の3HOA培地で交新し、12月8日コントロール培地に戻して後長期継代している。継代初期の増殖は非常に良く形態的に、3HOA培地により、criss
crossが見られた。培養65日目頃に培地作製にミスがあり、やや増殖がおちたが、培養80日目に旺盛な繊維芽細胞の増生が認められ、このものは以后コンスタントに良好な増生を続けている。
コントロールは60日目頃より殆んど増殖しなくなった。興味あることは、前回報告したN#29実験(7003-4)も、本実験も、tryptophan代謝産物としてのKy、KA、XA、3HOK、3HOAの5種類について夫々に適当と思われる濃度について長期継代を続けたもので、2回共に3HOA処理細胞のみが良好な増生を示していることである。他の細胞系はここではしめしていないが、コントロールと同じ運命を辿っている。3HOAがtryptophan代謝産物の内で、一番proximateなcarcinogenと考えられている点と考え合せこの点を再検してみたい。
(2)(実験番号T#217) この系列はハムスターの新生児肺の培養細胞に、N-OH-AAFを投与した。即ち12月22日より7日間N-OH-AAF
10-4.5乗M培地を3回交新した後、培地をコントロール培地に戻して、長期継代を続けている。始め主にpolygonalの細胞とまれにspindle
shapedの細胞が認められていた。本例はpassageの時の記載を怠っていたため、累積カーブは画けないが、実験群が50日目頃より、コントロールのカーブより急になっている。形態的には丁度その頃より細長い細胞によって占められ、細胞質の屈折率も高まった様に感じられる。
(3)上記の細胞系について通常のplating
efficiencyと、Soft agar法を用いたコロニー形成能をチェックした。我々のtechniqueでもAH-7974で約6.5%のPEの結果を得た。
《安藤報告》
(1)4NQOによるDNA一重鎖切断に対するDicoumarol(DC)の効果
4NQOは細胞内に入って4HAQOに還元されて働く。杉村等によれば、この還元酵素は細胞上清にあり、NADH又はNADPHをCofactorとして要求する。そしてある程度精製された酵素はDCにより強く阻害される。そこで4NQOを細胞に与える時に同時にあるいは予め細胞をDCで処理しておいてから4NQOを投与したら、DNAの鎖切断はどうなるであろうか。もしもDCが細胞にとりこまれ、reductaseを阻害するならばDNA切断が起らない事が期待されるはずである。結果は図にみられるように、DC.10-6乗Mで10分、30分前処理をした後に4NQOを加えてもDCの効果は見られず、いずれの場合にも同程度の分解を示していた。次にDC濃度を10倍とし、同時あるいは5分前に加えてから4NQO処理をしてみたが、結果は同じで、DCは4NQOによるDNAの一重鎖切断を阻止しなかった。この結果はnegative
dataであるが、その理由は不明である。DCが細胞にとりこまれないのか、とりこまれても直ちに不活性化されてしまうのではないだろうか。(図を呈示)
(2)寺島法による中性蔗糖密度勾配遠心法によるDNAピークの酵素感受性
中性での、DNAの二重鎖切断を分析する際に使用している方法の検討の一つとして、このDNAピークの酵素感受性を調べてみた。すなわちこのDNAピークが100%DNAより成り、蛋白、RNA等のものは含まないとしたら、DNaseのみにsensitiveであって、pronase、RNase等にはinsensitiveである筈である。そこで先ず、pronaseの効果を調べてみた。方法はSDSを含むtop
layerと蔗糖の勾配層にそれぞれ1.5、0.5mg/mlとなるようにpronaseを加え、その上に細胞をのせ遠心する。結果は図に見られるようにcontrolが殆ど底に沈む条件下にpronase処理を受けた場合には、DNAピークは小さくなり中間に来ている。しかも同一処理をした二本の管(2、3)が同位置にピークを与えている事からもtube間の誤差でもない。したがって、この方法で得られるDNAピークにはpronase
sensitiveな箇所が含まれていると思われる。
しかしこの実験において使用したpronaseにDNase活性が含まれていない事を示さなければならない。そこで使用するpronaseに人為的にDNaseを加えて、それが働くか否かを調べてみた。pronase原液(5mg/ml)にDNaseを100μg/mlに加え、37℃、2hrs
preincubateする。その後にDNaseなしのpronaseと同様にgradientに加え細胞を遠心してみた。結果は図に見られるようにDNaseはpronaseにより全く失活している事がわかった。従って、このpronaseの効果はcontaminateしているDNaseによるのではない事が明らかである。
次にRNaseの効果を調べた。この場合top layerにはpronaseを加え、gradient
layerにRNaseを50μg/mlとDNaseを20μg/mlを加えた密度勾配をつくり、この上に細胞をのせ遠心した。結果は図のようにDNaseによってはピークが小さくなると同時にtubeのtopの方に移動しているのでDNAが分解した事を示している。RNaseの効果はややあいまいであった。(夫々に図を呈示)。第6図も同様な結果であり、明確な結論は今の所出せない状態である。したがってこの点は更に検討を続けようと思う。
【勝田班月報:7005:培養細胞8種のT抗原】
《勝田報告》
ラッテ及びサルの腎細胞の培養内4NQO処理:
ラッテとサルの腎臓細胞の培養に、4NQOをかけ、そのtransformationをしらべた。これは当研究室にきて仕事をしている昭和医大泌尿器科の落合元宏君の仕事である。
A)ラッテ腎細胞
ラッテの腎細胞は、トリプシン消化で浮遊液を作ったが、JAR-2系の生後17日の雌ラッテ6匹の腎をプールした。しかしどうも増殖率は高くなく且長く培養していると消えてしまう(彼の技術によるのかどうかは別として)。
継代第1代の培養第3日に各種濃度の4NQOを培地に加え、30分間処理し、以後は無添加の培地で培養した結果、やはり濃度に比例して細胞がこわされている(増殖図を呈示)。
(実験経過図を呈示)4NQO処理は30分1回だけである。処理後56日経ったとき、処理した培養にコロニーが一つ発見され、9日後にさらに一つ、その2日後にさらに第3のコロニーが見出された。そこでその3日後に第1(R2K-1)と第2(R2K-2)のコロニーをとって別の容器に移し、残りはそのまま、混ったまま培養を続けた。これらはいずれも増殖が活発で、継代9日後に染色体数の分布をしらべると(分布図を呈示)、高3倍体(R2K-1は67本、R2K-2は66本)に最頻値が現われた。ラッテ肝の場合とかなり異なる所見であり、今後検討の余地があると思われる。
(培養瓶の写真を呈示)対照では細胞のコロニーは全く見られないのに対し、3.3x10-6乗M
4NQO処理培養ではコロニーが形成されている。
(顕微鏡写真を呈示)培養を開始したときのラッテ腎細胞の形態であり、何種類かの細胞から成っている。変異コロニーでは、核小体の肥大が目立ち、細胞もpile
upしている。明らかに培養開始時の細胞とは異なった形態をしている。
B)サル腎細胞(JTC-12株)
以下はcynomolgus monkeyの腎由来の細胞株JTC-12を用いた実験である。
10-6乗M、3.3x10-6乗M、10-5乗Mの3種の濃度に揃え、4NQO及びその非発癌性、癌原性誘導体について、細胞増殖への影響をしらべた。(各実験の増殖曲線図を呈示)
4NQO処理:ラッテ腎の場合と同様にやはり4NQOの濃度に比例して細胞増殖が抑制され、或は細胞がこわされている。
2-Methyl-4NQO処理:これも同様に濃度に比例して抑制・阻害が現れた。
6-Carboxy-4NQO処理:この薬剤は癌原性を有しているにも拘わらず、どういう訳か、細胞増殖を抑制しない。細胞毒性と発癌性とは一致しないことを示す一つの証拠かも知れない。
4NPO処理:これは他の非癌原性誘導体と同様に細胞毒性をほとんど示さない。
6NQO(非癌原性)処理:細胞毒性は全く認められない。
4AQO(非癌原性)処理:これも細胞毒性が全く認められない。
JTC-12株をメタノール・ギムザで染色した顕微鏡写真を呈示。継代21日後の対照細胞に比して、10-5乗M・4NQOで30分間処理後、21日目のJTC-12株細胞は、核の大小不同、異型性が目立っている。また角膜の肥厚も認められる。
C)復元接種試験
i)ラッテ、サルともに、ハムスターのチークポーチとラッテの腹腔内に接種し、目下観察中である。接種量は各10万個宛である。
ii)さらに100万個〜1,000万個を接種できるように、現在細胞をふやし準備中である。
:質疑応答:
[勝田]この実験は膀胱を材料にしてまとめる計画だったのですが、膀胱から分離した細胞を長期間培養することが仲々難しくて、とうとう腎臓に乗り換えた訳です。
[難波]私の所でも腎臓を使って発癌実験を始める計画をもっています。腎臓はadultでも培養できますから、片方だけとって培養しautoへ復元できるという利点がありますね。
[梅田]ラッテ由来の系でpile upしている像がみられましたが、あの細胞は上皮性でしょうか。
[勝田]上皮様細胞です。
[難波]薬剤の毒性と発癌性との関係はどうなっているのでしょうか。6カルボキシ4NQOは発癌性があるのに毒性がないのですね。
[勝田]そこが面白い所だと思います。6カルボキシ4NQOで処理した系も早く復元してみる予定でいます。
[安藤]山田正篤先生の所で、ハムスター胎児細胞を6カルボキシ4NQOで処理して悪性化に成功したというデータを出しておられますね。
[堀川]4HAQOも毒性は弱いが、発癌性は強いものの一つですね。
[安藤]6カルボキシ4NQOはDNAを切らないのですね。10-4乗Mという濃度でもDNAの切断を起こしません。それから4NPOは毒性はないようでしたが、DNAの切断は起こします。
[梅田]DNAレベルでの切断では、切れるか切れないかの問題だけでなく、そのあと回復出来るかどうかの問題もあるのではないでしょうか。
[堀川]ブレオマイシンのように物すごく小さく切ってしまうものもありますが、そういう特別な例以外はたいてい回復すると思いますね。
[志方]腎臓に出来る癌は動物の年齢によって種類が違うということはありませんか。使ったラッテの年齢は・・・。
[落合]ラッテは生後17日の乳児を使いました。それから、腎臓癌は今の所、年齢に関わらず尿細管から発生するということになっています。此の実験の場合、使った細胞が何に由来しているものか同定する目的で、水銀ネオヒドリンの取り込みをオートラヂオグラフィでみてみる予定でいます。
[勝田]先ず無処理の対照群についてしらべてみるべきですね。
[落合]培養を開始して間のない初代培養を使って取り込みの基礎実験を始めています。培養内でどういう形態の細胞が取り込むのかを知りたい訳です。水銀ネオヒドリンは癌化した細胞にも取り込みが見られるということです。
[安村]水銀ネオヒドリンについてin vitroでの実験はありますか。
[落合]発表されているのはin vivoでのデータばかりのようです。
[安村]ポリオの例ではin vivoでは腎臓でウィルスが増殖していないのに、培養した腎細胞の中ではウィルスがどんどん増殖します。in
vivoの知識がそのままin vitroにあてはまらない場合もありますから、御注意。
[山田]膀胱癌の方がoriginがはっきりしていて面白いんですがね。
[勝田]私もそう思いますが、とにかく培養がむつかしくてね。
[安村]私もやってみましたが、だめでしたね。初代はきれいに生えるんですよ。ところがバラして2代目に移すと、消えてしまうのですよ。
《難波報告》
N-19:クローン化したラット肝細胞に及ぼす4NQOの影響
従来、4NQOによるラット肝細胞の試験管内発癌を報告して来たが、今後(1)発癌を確実にしかも定量的に起こさせる、(2)発癌の機構解析の基礎的データを集める。の2点を進める意味でもう一度出発に帰って培養肝細胞に対する4NQOの影響を検討する必要があると思われるので以下の実験を行った。使用した細胞はクローン化したLC-2系の肝細胞で、培地は20%BS+Eagle'sMEMである。
1)処理時間の検討(実験毎に図を呈示)
培養3日目、或いは2日目に10-6乗M 4NQO1時間処理した。4NQOは上記の培地に溶いた。以後経時的(30分、1、2、4、6、8、12、24時間)に4NQOを含まぬ培地で4NQO培地を更新し、実験2日目に生存細胞数を算えた。48時間のものは2日間4NQO培地で培養した。その結果、30分処理のものは細胞障害が軽いが、1時間以上48時間のものには大差ないことが判った。それから、案外24時間処理のものが細胞障害が強かった。
2)4NQO処理時の細胞数と細胞障害との関係について
4NQOの濃度を変えて細胞障害度を調べることも重要であるが、むしろそれより、4NQOの処理時の細胞数によって、細胞がどの程度障害を受けるかを検討することが重要であると考えられる。その理由は、細胞に及ぼす影響を4NQOの濃度を変えて調べるだけでは、処理時の細胞数のバラツキがあれば、なかなか一定した結果が得がたいことにある。そこで、4NQOの処理条件(10-6乗M、1hr.、37℃)を一定にし、処理細胞数を変えて、その細胞増殖に及ぼす影響を検討した。その結果は、4NQOの細胞増殖に及ぼす影響は非常に細胞数に依存することが判った。同じ実験をもう一度繰り返し、4NQO処理時の細胞数を横軸にし、縦軸に、4NQO処理後から48時間後の非処理細胞数(コントロール)に対する4NQO処理細胞数の割合(%Survival)をとると、50%Survivalになる処理細胞数はだいたい100,000コ前後になるようである。またこれらの表から全細胞が死亡する細胞数を20,000コとして、1コの細胞が死ぬのに必要な4NQOの分子量を計算すると、だいたい1コの細胞に10の10乗分子が入れば細胞は死ぬ計算になる。ただしこの場合4NQOの分子数は圧倒的に多いので、4NQOは細胞内へ必要にして十分入ったものと仮定している。
3)4NQOの残留効果:4NQOは細胞増殖を促進するか?
培養2日目に10-6乗M 4NQO1hr処理し、その後細胞を経時的に数えると共に、1週間ごとに継代し、対照細胞群と4NQO処理群との累積増殖曲線を描いた。実験はだいたい1カ月行い2つの実験から、このクローン化した肝細胞にはこの程度の4NQO処置は増殖促進作用を示さないことが判った。
また、10-6乗M 4NQO1hrの4NQO処置が、それ以後の数時間の細胞増殖にどの程度の障害を残すものか検討した。その理由は、4NQOを繰り返し処理するとすれば、その間隔はどのくらいが適当かを決めることにあった。4NQO処理後7日まで1日おきに細胞を数えてみると、処理後2日間或いは4日間細胞増殖が抑制されていることが判った。そこで、このことを更に確実にするために同型培養を行い、4NQO処理直後、及び1日目、2日目、4日目、6日目に少数細胞をシャーレにまきコロニー形成率をみた。対照としては同時期の4NQO非処理細胞をまいた。そして対照細胞のabsolutePEを100%として、そのときの4NQO処理細胞のabsolutePEを補正して、一応Recoveryの目安とすると4日目で対照細胞のコロニー形成率100%に対し、4NQO処理細胞は84%になりほぼ細胞障害は回復しているようである。6日目では遂に4NQO処理群のPEの方が対照より高いのは、対照細胞は細胞が増殖しすぎて状態が悪くなっているのに比較し、4NQOの処理群のものは障害より回復した細胞が良好な増殖状態に入っているのではなかるまいか。
なお、細胞をまき込む時、ニグロシンにて細胞の生死を判定したが、ニグロシン法ではまき込んだ細胞は対照及び4NQO処理細胞とも色素をとり込んでいなかった。
:質疑応答:
[堀川]4NQO処理後の群のPEが対照群のPEを上まわるのは6日までのデータの中では6日だけなのですが、もっと長期間追ってみるとどうなりますか。
[難波]薬剤処理によって1時期PEは落ちますが、変異して安定してしまうと対照群と差がありません。
[安藤]6日目には対照群のPEが落ちていますが、何故ですか。
[難波]対照群の場合、培養が古くなるにつれてPEが落ちます。
[堀川]アグリゲイトの問題ですが、4NQOで処理して変化したものはどうですか。
[難波]佐藤先生のデータで、4NQOで悪性化したものはアグリゲイトを作ります。
[堀川]色々な系を使って悪性度とアグリゲイトを作ることが平行するかどうか、調べてほしいですね。
[山田]アグリゲイトのことは事実としては面白いのですが、物理学的な現象なのか、生物学的な現象なのか、もっとはっきりした前提をもって実験を進めて頂きたいですね。
[堀川]細胞膜の問題だと山田先生の実験とも関連してくるわけですね。
[勝田]アグリゲイトを切片にして組織学的に調べてみましたか。細胞間に何かありませんか。
[難波]パス染色では何も染まりませんでした。
[勝田]アクリヂンオレンヂでは・・・。
[難波]みていません。
[梅田]電顕像はどうですか。
[難波]電顕所見は対照群と実験群の間に違いがみられません。
[勝田]流パラを使ってのクローニングは私も昔やってみましたが、流パラの中の水滴はレンズ効果になってしまうので、細胞が1コかどうかよく判らずに困ったのですが、どうしていますか。
[難波]流パラの中へ細胞が1匹入った水滴を一滴一滴たらすのではなく、流パラの中へたらした水滴の中には細胞が何匹も居るのですが、その水滴の縁の方の1匹を毛細管ピペットで吸い取っています。文献によれば、流パラは炭酸ガスを通すので、流パラの中に水滴を落とした状態で培養できるようですが、私がやってみた所では増殖しませんでした。
[滝井]私も流パラを使ってみましたが、1匹から立ち上がるのは難しいようですが、細胞が多ければ増えるようです。
《山田報告》
1)HQ系細胞(4NQO処理後のRLH-5・P3)の経時的変化のまとめ;
これまで各時期に写真記録泳動装置にて検索した結果を報告しましたが、今回はこれをまとめてみたいと思います。しかし現在までに移植による腫瘍性の検索は、はっきりして居ません。(尚ほ、本報に書く泳動的に悪性型という意味は、箇々の細胞の泳動度が高く、従来通りの条件でシアリダーゼ処理することにより10%以上泳動度が低下する場合です)
HQ1系;
4NQO処理後既に168日5〜6ケ月を経ましたが、(泳動度の変化図を呈示)4NQO処理後26日(1ケ月前後)では、泳動度が速く、シアリダーゼに感受性の高い小型細胞がかなり認められましたが、しかしこれと同種の細胞は対照群にもあり、しかも50日以後漸次減少し168日目では極めて少くなりました。全経過を通じfibroblasticな細胞は出現せず、また対照細胞群は174日でも全く変化がありません。
50日目頃より大型円型細胞が出現し、92日目にはかなり増加すると共に、この細胞が悪性型を示す様になりましたが、168日目にはむしろ減少して来ました。平均泳動度をみると、92日目にはシアリダーゼ感受性が高まり(-0.172μ/sec/V/cm)、また50日目より箇々の細胞の泳動どのバラツキが出現し、全体として悪性型を示しましたが、この傾向が、168にはむしろ減少する様になりました。
これに対し28日以後に再び2回目の4NQOにより処理したHQ1B系についてみると、70日目に全体として悪性型の泳動パターンを示すと共に、特に中型の細胞に高頻度の悪性型の泳動型を示し、この細胞が168日目には更に増加して来ました。168日以後に免疫学的に検索した所、この中型細胞にその対照であるRLH-5・P3に対する抗体が相対的に反応し難くなり、本来のこの細胞の抗原姓が、この中型細胞に一部失われてゐると云う推定が下されました。従って168日以後の現在では、HQ1Bが特に悪性化して居ると云う可能性を考へざるを得ません。
2)In vitro発癌過程における変異細胞の出現様式の解析;
従来in vitroの細胞発癌様式については二つの可能性、
1)癌化当初は細胞の悪性化の程度が少く、経時的に悪性度が増加する(progression
after malignant transformation)。
2)癌化当初は少数の細胞のみが悪性化し、以後経時的に漸次悪性細胞が撰たく的に増加して、細胞集団の大多数を占める様になる(Selective
proliferation after malignant transformation)。
が考へられて居ますが、これまでの細胞電気泳動による成績を綜合すると、むしろ後者の可能性が高いと思われますので、改めてその成績をまとめて書き、考へてみたいと思います。
(図を呈示)発癌当初において細胞群全体の電気泳動パターンが悪性型を示さない細胞群でも、それを宿主へ移植して腫瘤を作らせ、再培養すると明らかに悪性型(平均泳動度が高く、シアリダーゼ感受性がたかまる)を示す様になると云う成績です。宿主内で撰擇されて、悪性化細胞がより多く再培養されるとしか考へられません。
次ぎにこれまで写真記録式電気泳動装置にて、泳動的にpopulation
analysisを行った例のうちで、次の5種類の細胞群を撰んで改めて比較してみました。(いづれもラット肝細胞)
1)癌化以来、全体としての平均泳動パターンが悪性型を示さず、経時的に急に変化しない細胞群、RLT-5(CQ50)、RLC-10-A、RLC-10-B
2)癌化当初は全体として平均泳動パターンが悪性型を示さなかったが、約1年後に悪性型を示す様になった細胞群、RLT-1(CQ42)
3)癌化当初から全体として平均泳動パターンが悪性型を示す細胞群(くりかへし4NQOを接触させた岡大株Exp.7-2)
4)宿主に移植して再培養し、典型的な悪性型泳動パターンを示す細胞群(Exp.7-2RTC)
これらの細胞群について、それぞれ細胞群全体中に於ける推定変異細胞の出現率と、特にそのなかで変異細胞の出現率の最も多いと思われる細胞集団における推定変異細胞の出現率をまとめました。(表を呈示)
対照欄は培養細胞をそのまま測定した成績であり、S-処理欄はシアリダーゼ処理後の細胞についての測定値ですが、前者における推定変異細胞は、平均泳動度より10%以上の高値を示す細胞を計算し、後者は、処理前の平均泳動度より10%以上シアリダーゼ処理により泳動度が低下してゐる細胞を推定変異として計算したものです。綜合欄は対照群とS処理群のそれぞれの推定変異細胞出現率の積を100で割ったもので、最低の変異細胞出現率を示すものと考へました。
各細胞系の全細胞集団中の推定変異細胞の出現率は、前記第一群(全体として悪性型の泳動パターンを示さない細胞群)RLC-10-A、RLC-10-B、では綜合的には3、6%の変異細胞が出現して居ると推定され、高頻度にこの変異細胞のみられる中型の細胞群では5、10%の変異細胞の出現率しか認められない。同一の前記第一群中のRLT-5(CQ50)ではこれより変異細胞の出現率が高く、前者では6%、後者では16%の出現率を認める。第二群では更に増加し、(RLT-1)前者では10%、後者では25%の出現率を認める。更に第三群で発癌当初より悪性型の泳動パターンを示したExp.7-2に就いては、前者では18%、後者では25%の最高の出現率を認める。宿主へ移植後の再培養株では(Exp.7-2
RTC)特定の細胞に変異細胞が偏在してゐることはなく全体として悪性型を示す細胞が認められます。
この所見より、一群〜2群のごとく4NQOを一回接触させた場合には(自然癌化株を含む)癌化当初に少数細胞が悪性化し、経時的に悪性細胞数が漸次増加する。また数回4NQOを接触させたExp.7-2株では癌化当初から多数の細胞が悪性化して居ると云う推定が可能と考へます。
:質疑応答:
[山田]難波さんの意見では、電気泳動の撮影でひょろ長く見える細胞は平たい細胞を横に見た図で、センイ芽細胞ではないということですが・・・。
[堀川]細胞そのものに裏表があるでしょうか。かき落とすと丸くなってしまうのでありませんか。
[難波]でも、未処理の肝細胞の系を少数まいて出てくるコロニーにセンイ芽細胞は殆ど無いのです。小型の上皮性細胞から成るコロニー、中位の矢張り上皮性細胞のコロニー、大型の上皮性細胞から成る少しシートのルーズなコロニー、この3種が出てきます。
[志方]その大、中、小の細胞のクロンを取って染色体数を調べてみられましたか。
[難波]調べてはみましたが、バラツイテいてはっきり結果が出ていません。
[勝田]私の経験では映画で追跡して小型の上皮様細胞はよく分裂増殖するようです。
[安村]さっき一寸出ましたが、細胞のうらおもては本当にあるのでしょうか。生体内では細胞がきっちりつまっていて判らないでしょうが、培養内でガラス面にはりつく側が定まっているでしょうか。
[勝田]映画でみていると、MM2細胞がリンパ球を喰う時は、一定の場所があるように見えますね。
[山田]それは度々見られますか。
[勝田]或る時点でそういう印象を受けるという程度です。
[山田]セルローズ膜の上に細胞を生やすと、デスモゾームが出来るという話もありますね。そうなると方向性が無いとも言えます。
[堀川]何か、例えばアイソトープを使って確かめる方法はないでしょうかね。
[下条]免疫血清で処理をすると、泳動値が変わるという実験には、正常ラッテ血清の処理を対照にしてありますか。
[山田]正常ラッテ血清の処理では、泳動値に影響がないことは確かめてあります。
[藤井]結果としては、RLH-5・P3の抗原が、4NQO処理のHQ1Bでは減っているという事ですね。
[山田]そうです。次にHQ-1Bの抗血清を作って、RLH-5・P3で吸収してみれば、新しい抗原が出ているかどうか判ると思います。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(21)
前報では45℃で30分間処理した後に10-4乗M
4-HAQOで更に30分間処理することによって誘発されたEhrlich細胞の一本鎖切断は再結合し得ることを報告したが、この場合温度及び4-HAQO処理をうけた細胞のH3-thymidineの取り込み能でみたDNA合成能はまったく何らの処理を加えない正常細胞のDNA合成能の500分の1に抑えられている計算になるわけで、こういった意味から切断DNAの再結合のためには障害をうけた細胞内に僅かのDNA合成酵素が残存すれば充分であることが示唆された。
今回はこう云った問題をも含めて切断DNAの再結合のさいに細胞は外部から加えたDNA前駆物質を利用し、しかも再結合されて高分子化したDNA分子内にこれらDNA前駆物質が取り込まれるか否かを検討した。(図を呈示)
まず細胞DNAをH3-thymidineでラベルしておいてから、1x10-5乗M
4NQOで30分間処理して一本鎖切断を誘起させる。次いで、1μCi
C14-thymidineを含くむ培地内で6時間、24時間培養した際のC14-thymidineの再結合DNA内への入り方をみた。これらの結果から、6時間培養後にすでにC14-thymidineの1部が高分子化されたDNA分子内に入っていることがわかる。また同様の実験を4-HAQO処理によって誘発された一本鎖切断の再結合のさいについてみたのであるが、この場合は細胞をH3-thymidineでラベルしてから4-HAQO処理までの間48時間をH3-thymidine
freeの培地で培養しておいて、前駆物質プールをからっぽにしておき、4-HAQO処理後のC14-thymidineの高分子DNA内への取り込みを顕著にして追跡しようとした。結果的には、この48時間のH3-thymidine
free培地での培養がそれ程、4-HAQO処理後のC14-thymidineの取り込みを一段とchearにしているとは思われない。
しかしいづれにしても、4-HAQO処理後8時間迄は低分子DNA分劃に入っていたC14-thymidineは培養24時間目には再結合によって高分子化されたDNA分劃中に一部入ってくることがわかる。こうした実験から示唆されることは、4-NQOまたは4-HAQO処理によって切断されたDNA一本鎖の再結合の際には細胞内の素材が利用される。つまりさらに強くいえば、単なる切断DNAの物理化学的結合(重合)によって高分子DNAが現れるのではなくて、切断DNAの再結合の際には細胞内の素材を利用し得るための修復酵素系なるものが動的に関与していることを更に強く示唆するものであると思われる。
:質疑応答:
[安藤]45℃の加熱はsuspensionの状態での処理ですか。
[堀川]細胞の障害がなるべく少なくすむように考えて、monolayerの状態で処理しました。
[勝田]fragmentとそれが修復した時のDNAの分子量を計算しておいて下さい。
[難波]エールリッヒ腹水癌のような増殖の早い細胞と、肝細胞のように増殖のおそい細との間にDNAの回復について違いがありますか。
[堀川]時間的な差はあります。
[難波]24時間でDNAは回復しても、細胞としてコロニーを作る能力はどうですか。
[堀川]DNAの一本鎖では回復しても、その点が0だということに困っています。
[安藤]一重鎖の方は私も同じ実験結果を得ていますが、二重鎖の切断の回復については全く反対の立場をとっている訳ですね。実験条件の細かい点で何か違いがありませんか。私の方では炭酸ガスフランキを使っていますから、pHが少し低いかと思います。
[堀川]その位のことはあまり結果にひびかないと思いますがね。今まで細菌を使っての実験でも二重鎖の切断は回復しないというデータしか出されていません。現象としてつかんでいることは確かでしょうが、どう説明するか、そこが大変難しい所ですね。
[藤井]再結合したDNAを電子顕微鏡で確かめてありますか。
[堀川]見たいとは思っているのですが、蔗糖がじゃまをして仲々うまく標本が作れずにいます。
[梅田]4NQO処理でDNAが切断された場合、その再結合がきれいすぎますね。
[堀川]そうです。X線の場合など時間を追ってピークがだんだんと移行するのが普通ですが、4NQOは処理のあとまで細胞内に残って再結合を妨げているようですね。それが6時間後にポンともとの大きさまで戻ってしまう。そこに何かマジックがありますね。
[下条]修復酵素系を45℃で不活化してから、DNAを切断するという実験は結果として一重鎖のDNAが回復したということなら酵素は不活化されていなかったという訳ですね。
[梅田]ごく少量の4HAQOが4NQOに混じっていれば、DNA切断が起こるのだということですと、4HAQO単独の場合かえって濃度を高くしなければ切れないのは何故でしょうか。
[堀川]わかりませんね。
[勝田]4NQOの絶対量と細胞1コ当たりの取り込み量の関係をつきつめる必要がありますね。
《安藤報告》
(I)4NQOによるRLH-5・P3DNAの二重鎖切断の回復に対する血清の効果
私の方の実験結果によるL・P3でもRLH-5・P3でも4NQOにより生じたDNAの二重鎖切断は24時間の回復培養によって再結合された。一方堀川班員の使っているEhrlichおよびLではこの再結合が見られないと報告している。そこでこの食い違いの原因を種々考えてみると、第1にstrainの違いによる能力の差、第2に培養条件の違い(DM-120対牛血清入りLD)、第3に実験操作の違い等であるが先ず本実験では第2点の血清の有無を検討してみた。
RLH-5・P3細胞を仔牛血清2%を含むDM-120培地に10日間増殖させる。ちなみにL・P3細胞を血清培地で1週間養うとそのリン脂質の構成は全くL型になってしまう。その後に無血清培地中での実験と同様にH3-チミジンラベル、4NQO
10-5乗M、30分処理、洗滌、回復培養を行った。結果は(図を呈示)4NQOで二重鎖切断を起したものが回復培養24時間目には完全にコントロールと同じ所(遠心管の底)迄回復、再結合が起っていた。
もしも血清が再結合の酵素系をrepressしているとすれば、このRLH-5・P3細胞のこの培地中でのdoubling
timeから10日間の培養で40〜50倍の増殖があった事になり、逆に元の細胞の成分は1/40〜1/50に減少している筈である。ところが結果はDM-120だけの場合と全く同様であったので、この実験から結論出来る事は、安藤、堀川間の違いは血清の有無によるものではない事になる。
(II)L(金沢由来)細胞使用しての4NQOによる二重鎖切断の回復実験
第(I)項で血清添加に効果がなかったので今度はstrainの差を調べてみた。すなわち堀川さんよりいただいたL金沢lineを0.4%LDビタミン混液(DM-120の半量)、CS
10%で培養、同様に実験を行った。結果は(図を呈示)4NQOにより二重鎖切断を起したDNAは回復培養によって再結合されている事がわかった。実験は密度勾配遠心の時間を40分としコントロールDNAが底に沈まない条件で行った。念のため再度全く同じ事をくり返し、遠心はいつもの通り60分行った結果も同様であった。(図を呈示)
以上(I)(II)の実験を通して結論出来る事は、安藤、堀川両者の違いは、培養培地の差でもなく、strainの差によるのでもなく、実験操作の差によるという事になる。なお最終的結論については堀川班員と討論の予定である。
:質疑応答:
[梅田]密度勾配遠心法によるDNAのピークの分析の問題についてですが、プロナーゼで切れるというのはどういう事でしょうか。
[山田]プロナーゼを使った意味は・・・。
[安藤]何があるかがわからない材料ですから、より広く蛋白を切ることの出来る酵素として使いました。
[下条]トリプシンでは切れませんか。
[安藤]試していません。
[下条]トリプシンを使えば、トリプシンに特異的な阻害剤があるのですから、自由に酵素活性を止められて便利だと思います。
[山田]そこにあるらしい蛋白はヒストンのようなものを考えているのですか。
[安藤]リジンの取り込みのないことから、ヒストン以外のものを考えています。
[勝田]取り込み実験は何時間入れておきましたか。
[安藤]24時間です。
[勝田]24時間では取り込みなしと結論するのに短かすぎませんか。
[堀川]その位の時間で充分だと思います。リジンの取り込みがないということでヒストンではないと考えてよいでしょう。
[山田]又、堀川班員と安藤班員のデータの対立についての話ですが、培地などは違いませんか。
[堀川]仔牛血清+199です。
[安藤]仔牛血清+LD+DM-120の1/2量ビタミン添加です。
[堀川]遠沈の条件は中性の場合20,000rpm、45分間です。
[安藤]私の法は30,000rpmで、45分間か60分間です。
[野瀬]細胞の状態が片方はstationary、片方はlogarithmicという違いがあるようで、それは影響しないでしょうか。
[勝田]案外そんな所に問題があるのかも知れませんね。
[安村]それにしても、あまりに結果が違い過ぎますね。今度は堀川班員の所でL・P3を使って実験してみる必要があると思います。
[勝田]しかし、同じことをやっていて、お互いに矛盾した結果がでると、かえって解決への手掛かりがつかめる場合もありますよ。
《高木報告》
1.NG処理細胞の復元により生じた腫瘍の動物継代成績
(表を呈示)NG-18細胞−すなわちNG 10μg1回処理により悪性化したWistar
rat胸腺よりの由来細胞−を復元して生じたtumorを再培養し、その16代目の細胞を100万個cells
WKA ratに復元して生じたtumorの動物による継代移植をこころみた。
移植の方法は、tumorを無菌的に摘出した後、等量の培地を加えてteflon
homogenizerで出来るだけこまかいcell suspensionを作り、その0.1mlをnewbornから生後75日のrat皮下に移植した。移植間隔は13〜42日とまちまちであるが、3代目では移植35日たったtumorを生後12日および33日目のratにそれぞれ移植、後者に生じたtumorは移植17日後に5代目に移植した。生じたtumorは組織学的にNG-18細胞を復元して生じたtumorとよく似た肉腫であったが、継代と共にfibrousな感が強くなったようである。
7代継代の現在、未だ生後日数のたったratに移植すると成績が良くないようである。
1代目、4代目に生じたtumorの再培養を行い、その染色体を検索中である。
2.腫瘍細胞と対照(正常)細胞の混合移植実験
腫瘍細胞としてRG-18、正常細胞としてNG-19Kを用いた。前者はNG-18(T-1)細胞を復元して生じたtumorの再培養系であり、後者はWKA
rat胸腺由来の無処理培養細胞である。
月報No.7004で一部記載したが、今回はこれまで行った実験Scheduleすべてを記載した。移植にはすべてWKA
newborn ratを用い、cell suspension 0.1ml中に上記細胞数を含ませるようにして皮下に接種した。
未だ結果が出揃っていないが、腫瘍細胞10万個群では、正常細胞100万個混合した場合に1/2にtumorの発生がややおくれた(約10日)。腫瘍細胞1万個群では正常細胞、0、1、10万個混合したが結果に殆ど差はみられなかった。
なお正常細胞として用いたNG-19K、rat胸腺細胞株は100万個の復元で現在105日、50日を経ているがtumorの発生をみていない。
:質疑応答:
[下条]復元する時、正常細胞を混ぜるという実験の目的は何ですか。
[滝井]発癌剤処理で悪性化したと思われる細胞群の軟寒天内でのPEと復元成績とが平行しないので・・・。
[勝田]その細胞群の100%が悪性化したのではないと考えると、残って居る正常細胞が腫瘍化した細胞の動物へのtakeをおさえるのではないかとも考えられます。そこで実験的に、正常細胞と腫瘍細胞を色々な比率で混ぜて復元したわけです。
[安村]逆に正常細胞がfeederになっているのではないかという前提で角永氏がデータを出していますが、結局正常細胞を混ぜたことによる差は出ていません。もっとも角永氏の使った腫瘍細胞の系は、少数で動物にtakeされる系でしたから、例としてはあまりうまくありませんがね。
[勝田]正常細胞の方の比率をぐっと上げられませんか。
[滝井]腫瘍細胞の方の接種数を少しづつ下げていますので、1,000コでtakeすることが確実になれば、正常細胞の方の比率を上げられるわけです。
[山田]1,000コの腫瘍細胞で確実に動物を殺せるというデータをもっていますか。
[滝井]目下結果が出るのを待っています。
[藤井]接種数が少なくなると、動物は延命するわけですか。
[安村]そうですね。ずい分長生きしますね。
[下条]皮下接種はしないのですか。皮下接種だと日を追って経過を観察できるという利点と、再現性が高いという利点があります。
[山田]肉腫の復元は皮下もよいのですが、腹水肝癌の中には皮下につかないものもあります。接種部位によってずい分腫瘍の成長が違います。
[堀川]復元に使った動物の数が少なすぎますね。
[下条]私もそう思います。1群に2匹とか3匹では、一寸あとの数的な処理に困りますね。
[安村]ウィルス屋としてはそう思いますが、ラッテをつかって培養細胞というと、色々難しい問題があるんですね。
《梅田報告》
今迄報告してきた長期継代例の染色体について報告する。(それぞれ分布図を呈示)
(I)(T#150 of 7003-I)ラット肝の移植片から生え出した系で位相差、染色標本観察で比較的奇麗で一様な細胞群から成っていると思われた。しかし染色体数はAneuploidになり、しかも幅広い分布を示している。4倍体に近い染色体数をもつ細胞も認められる。
(II)(T#170 of 7003-II)ラット肺を継代し増生してきた系で多角形の上皮性細胞群が石垣状に並び、その間を境する様に繊維芽細胞群が増生している2種類の細胞群から成っている。染色体標本では一応42本にmodeがあり、diploidを保っていることがわかる。
(III)(N#29F of 7003-V)ハムスター胎児培養細胞に3HOA
2.5x10-4乗M、6日間作用後長期間継代を続けているもので、6代目、9代目にハムスター頬袋に移植しているが、いまだ腫瘍を作るに至っていない。形態的には最近epithelioidと云った感じの細胞になっている。20代目のものでは、数えた細胞が少いが44本にpeakがあり、更に80本の4nに近い細胞がかなり増加している。
IV.(N#29 control of 7003-V)N#29のcontrolで17代目の染色体標本である。この系は前回班会議(7003)で報告した時より増殖がコンスタントに良くなっている。N#29Fと殆同じ染色体数分布を示している。
V.(N#34J of 7004-I)ハムスター胎児細胞に10-4乗M
3HOA 5日間作用後無処置細胞で継代を重ねている系で、培養100日目11〜12代頃より増生がコンスタントになった。形態的にはN#29Fと異り明らかにfibroblastic
cellから成っている。このものの染色体数は、42本にpeakがあってhypodiploidであり、又4n近辺にかなりの細胞があることがわかる。
VI.(T#211 D)先月月報にT#217Hについて記載したが、これは標本作製に失敗して染色体数を数え得なかった。殆diploid
rangeにmodeがあり、ひどいanewploidyにはなっていない模様である。
一方今回初めて報告する系であるが、T#217Hと同じN-OH-AAFを10-4.5乗M6日間作用させたハムスター胎児細胞が最近増殖が盛んになった。累積増殖カーブを示すが、培養140日目より増殖が極端に良くなったことがわかる。染色体数の分布は42本にピークがあってhypodiploidを示している。4n近辺の細胞はN#29F、N#34Jの細胞より少ない。興味あることはbreak
fusionのあまりにも激しい変化を示すmitotic
cellが1ケであるが見出されたことである。N-OH-AAF処理は150日近くも前のことであるし、これ程著しい変化を示しているのはふにおちない感じがする。(今迄沢山の標本を観察してきたが、controlでgapは見られてもbreak、fusionがこれ程多く見られたのは初めてである。)
VII.Soft agar法をN#29F、Control、N#34J細胞系で行ってみた。いずれもcolony形成が見られず、次いで培地中に0.1%の濃度でpolypeptone(Bactopeptoneと殆同じ効力がある)を加えてみたが、これでもcolony形成は認められなかった。湿度が下り易い炭酸ガスフランキを使っての結果であるが、usual
plateでのColony countの結果は(表を呈示)、N#29F系15代のP.E.は6.5%、21代は7.6%、Fibroblastic
piled up colonyは13%と6.5%であった。N#29
controlでは18代のP.E.は4.0%、piled up colonyは0であった。N#34J系では14代のP.E.は13.4%、piled
up colonyは12%であった。N#29 controlで増殖が盛んになったと記載したが、本実験ではfibroblastic
colony形成はなく、N#29F、N#34Jとは一応異ると思われる。fibroblastic
colonyの他はepithelioid、endthelialの細胞から成るcolonyである。
:質疑応答:
[堀川]pile upしたfocusはみられましたか。
[梅田]みられました。
[勝田]染色体数の分布の最頻値が変わってきているのですから、変異したということは言えますね。腫瘍化と言えるかどうかは未だわからないが・・・。
[梅田]4NQO処理直後に染色体の断裂が多く見られました。
[山田]その場合染色体の断裂を起こしたような細胞があと生きのびて子孫を残すのでしょうかね。
[堀川]ああいう断裂を起こした状態の染色体をみていると、どういう風にreplicationするのか想像もつきませんね。
[勝田]復元してみましたか。
[梅田]復元接種はしてありますが、まだ結果は出ていません。
[堀川]あと復元実験がものを云うわけですね。
[下条]余談になりますが、湿度の下がりやすい悪い炭酸ガスフランキを使う時には、フランキの中に水槽を置いてそれに何枚ものガーゼをたらして、水を吸い上げるようにしておきます。そうするとかなり蒸気が立って、湿度を保つ事ができます。
《藤井報告》
前号の月報に掲載したデータについて更に詳細に発表。
:質疑応答:
[下条]免疫学的な実験の場合、矢張り純系同系の動物で腫瘍抗体を作らせるのでないと、結局けりがつかないのではありませんか。JAR-1系−ウィスターキングという組み合わせでは、又問題が残りますね。
[藤井]同系でも試みたのですが、どうしても抗体が出来なくて、とうとうWKAに切りかえたのです。
[下条]抗原に使う細胞をX線でたたくとか、いろいろ方法を考えてどうにか同系にもってゆくべきですね。それからMHA(mixed
hemadsorption)は非常にタイターが高く数万倍のケタだと思っているのですが・・・。
[藤井]ヘテロの系だと数万倍に出ます。でもこの場合、タイターは低いのですが、対照とは有意の差があります。
[山田]IAで反応がなくてMHAで反応が出たというのは、どういう事でしょうか。
[藤井]細胞の種類によってIAで出るものとMHAで出るものとありますね。それは細胞膜面のサイトの問題ではないでしょうか。
[堀川]丸い細胞に赤血球がついているようでしたがcell
cycleと関係がありますか。
[高岡]CulbTCでは普通の状態ではこんなに丸い細胞は多くありません。反応を起こした細胞が丸くなっているのだと考えられます。
《下条報告》
勝田先生から培養細胞のT抗原をしらべるように依頼され、44年中に8株の細胞についてadeno-virus12、SV40のT抗原をFAでしらべた。その結果SV40T抗原は全部陰性、adenovirus12T抗原は7株完全に陰性、1株のみ少し蛍光がみられたが、形態からみてT抗原らしくないので、これも陰性としてよいであろう。検査はすべて陽性対照(adenovirus12
or SV40 transformed cells)を同時においてある。
adenovirus12、SV40のanti-T conjugateは常用しているので、上の検査は簡単にできたが、研究費を少しいただいた。上の検査には費用は殆どかかっていない。そこでこの研究費を我が国では未だ誰も作っていないadenovirus7とpolyoma
virusのanti-T conjugateを作るのに使った。adeno
virus7は山本弘史君(予研村山分室)、polyoma
virusは田口文章君(北里大)に検討を依頼したので、研究費も御両人にさしあげた。現在色々の方法でハムスターを免疫し、CFでT抗体価、抗細胞成分抗体価などをcheckしている所で、未だconjugateを作るところまでには行っていない。
:質疑応答:
[堀川]発癌剤で悪性化しても知られていないウィルスとの相関性をどう考えますか。
[下条]Todaroのhypothesisではウィルスがde-depressionに働くのだとしていますね。変異するためにはウィルスが関与しても増殖にはもはやウィルスは不要だというような事実を幾つか合わせ考えるとde-depression説が正しいかなとも思いますね。しかし、九大の森氏のprogressionという説もありますしね。
[安藤]4NQOがDNAを切る、切られた所に例えばウィルスのDNAがはまり込むということで、de-depressionが起こるとは考えられませんか。
[下条]ウィルスを使うのは、あとにマーカーを残すという点がよいですね。ウィルスに対する感受性を細胞の変異をみる手段として使うのも便利だと思います。
[藤井]抗血清で細胞を処理して細胞膜に変化を与えることによって、変異を起こせないでしょうか。DNAに直接作用を及ぼさない方法という意味で・・・。
《安村報告》
この4月からいままでの教室名が細菌学教室であったのが、微生物学教室と変更してよいとの内示がありました。これで多少の気がねなく細胞をとりあつかってもよいことになりました。Cell
as microorganismとかCell as microbeというコトバが総説にあらわれる時代ですから。もちろんこのCellはMammalian
cellの意味でつかわれていることは申すまでもありません。
☆AH-7974TC細胞(JTC-16)のQ1-LLLクローンとQ1-SSSクローンの移植成績:
これまでのL-Sの比較の最後のまとめとしての移植実験の結果をお知らせします。
ラットは生後6日のJAR-2、脳内接種による6カ月観察の結果(表を呈示)、Q1-LLLのばあいはTID50(Tumor
inducing dose 50%)は約3,125コの細胞。Q1-SSSのばあいは10,000コのところで全部生きのこりでclearな結果にならなかった。大勢において、LとSの間にこれまたclrarなひらきが移植実験成績からもえられなかった。野性株のこれまでの移植成績よりおとっている。
ついで行われた4NQOによる悪性化細胞の腫瘍よりの再培養系Cula-TCとCulb-TCの移植実験の成績は(表を呈示)、Culb-TCの移植率はCula-TCのそれより大幅に高いことがわかりました。このことはSoft
agar中におけるcolony formation rateの成績(Culaの法がCulbよりもrateが高い)と逆の関係で、このことからもこれまでのSoft
agarの実験成績、つまりS−Lの関係、colony
formation rateとの関係にはcorrelationがpoorであるということになりました。はてさて最初の見込みがずれにずれてしまって、しめくくりに大変苦労することになりそうですし、さても悪性化というものは怪物であるとの感が深くなりました。markerとかparameterそのものがmultiple
orderであったようですし、一次的に“悪性化”とcorrelateするmarkerの発見そのものが絶望的に困難な様相です。とにもかくにも地道に歩兵の如く匍伏前進というところです。
:質疑応答:
[下条]復元実験のタイトレーションで100,000コと1,000コがtakeされ、10,000コがtakeされなかったという結果は必ずしも矛盾した結果とも言えません。腫瘍細胞の復元の場合、接種量が或る程度多いとImmunoresponseが起こることを抑えてしまう。少なすぎると反応が起こるに至らない。というと10,000コ位が丁度反応を起こす適当な抗原量であったかも知れませんから。そうだとするとCulaの方が免疫反応を起こしやすく、Culbは反応の少ない系とも言えます。藤井さんの実験もCulaに変えると同系で抗血清が出来るかもしれませんよ。
[堀川]HAVITOの系でBuDR、8アザグアニンそれぞれどの位耐性が出来ていますか。
[安村]8アザグアニンは未だ。BuDRは10μg/mlまでゆきました。
[堀川]まだ低いですね。
[梅田]ダウン氏症候群の場合、発癌率が高いという話がありますね。
[安村]そう、染色体XXYのものと、正常のXYのものと細胞系を作ってそれぞれ4NQOで処理して変異率を調べてみようかと考えています。
[勝田]悪性化したかどうか何で判定しますか。
[安村]ハムスターのチークポーチへの復元と軟寒天でのPEです。
《三宅報告》
前回報告したd.d.系マウス胎児由来の細胞に4NQOを処理したものT10は526日を経過し、20代となった。4NQO未処理の群でもその増殖力が強いことを発見し、この細胞がspontaneousに発癌したと考えられる節が増して来た。
処理群の染色体のmodeは60、または64であることは既報の通りであるが、未処理のものが66(10代目)であることが判明した。また後者では倍増時間が20時間(12代目)で処理群よりも短い。
液体培地(modifyed Eagle MEM+20%Calf serum)よりcloning
efficiencyを検した所(図を呈示)これでも未処理群の方が高い。
今両群について4回のcloningを完成し、細胞をTD40の閉鎖系に移し、再び染色体、増殖曲線を検索している。なお軟寒天培地での傾向を調査中である。4月3日、18代目の細胞を元の系のマウスの脳に100,000コ及び10,000コ復元接種した。
【勝田班月報・7006】
《難波報告》
N-20:クローン化したラット肝細胞に及ぼす4NQOの影響(月報7005、N-19の続き)
クローン化したラット肝細胞の各系の間に4NQOに対する感受性の差があるか?
現在、発癌実験に使用している3系のクローン化した株を使用し、4NQOの感受性の差を検討した。実験1では、4NQOを終濃度10-8乗M含むEagle's
MEM+20%BS培地に1週間培養後、4NQOを含まぬ培地に更新市、更に1週間培養を続けて、コロニーを数えた。対照実験には、4NQOを含まぬ培地で2週間培養したものをとり、この対照実験で形成されたコロニー数で、4NQO含有培地で形成されたコロニー数を割って、4NQOの感受性を有無を検討した。その結果は(表を呈示)表に示すごとく、LC-9系がやや4NQOに対して耐性を示すように思えた。しかし、他の3系の間でははっきりした4NQOに対する感受性の差がみられないので、第2の実験として、4NQOの終濃度を3.3x10-8乗Mに上げ、その他の条件は実験1と同じにして実験をおこなった。
(表を呈示)その結果は、LC-2、LC-10では4NQOを含む培地中では殆んどコロニー形成がみられないのに対して、LC-9の場合はコロニー形成が認められた。この実験はもう一度繰り返す予定であるが現在までの結果ではLC-9は他の二系に比べ、4NQOに対して、耐性がある様に思える。なお、3系のクローン化された細胞の形態、コロニーの形態は、LC-2、LC-10は類似するが、LC-9はやや異なり、小さい細胞で、コロニーも小さい。また核/細胞質比は、LC-2、LC-10では小さい細胞よりなるコロニーが多いが(即ち、細胞質が豊富)、LC-9では核/細胞質比が大きい細胞よりなるコロニーが多い。この細胞及びコロニーの形態は次回の班会議でお見せいたします。
実験1、2に使用した細胞の総培養日数は、それぞれ721、742日のものを使用した。また、クローン後の培養日数は、LC-2のものは178、199日目のもの、LC-9、LC-10のものは150、171日目のものである。
《高木報告》
腫瘍細胞とNG無処理対照細胞(正常細胞)との混合移植実験の途中で、対照細胞のみを移植したratの中1疋に腫瘍を生ずる事態がおこったため、正常細胞としての意味をなさなくなり、再び実験をくり返す必要を生じた。
今回は月報7002につづきorgan cultureの培養条件につき報告する。
月報7002ではsuckling ratの膵、腎、肺を高ガス圧下30℃で16日間器官培養して37℃のそれと比較しよい成績を得たことを述べた。その後さらに期間を延長して膵の培養を試みた。すなわち、前報と同様の方法で用意された組織を5%CO2+95%空気の下、30℃および37℃にincubateして3週間以上培養し、3、6、9、12、15、18、21、24日間に培地交換を行うと共にそれぞれ組織標本を作って鏡検し、また同時にその時点での培地中のinsulin量を二抗体法により測定した。
組織学的には前報と同様の傾向が引続きみられ、21日目のものまでは30℃群には内外分泌腺の構造がよく残っているものが多数みられる(写真を呈示)のに対して、37℃群では腺構造の破壊や繊維芽細胞の増殖した像(写真を呈示)が多くみられた。さらに、21日目から3日間培地中におけるglucoseの濃度をそれまでの1mg/mlから5mg/mlに増量したところ、24日目の培地中のinsulin量は30℃群では21日目にくらべて2倍以上に上昇したが、37℃群では殆んど上昇はみられなかった。以上の結果は30℃で培養した群が37℃に較べて長期間、組織の機能を維持していることを示すものと考える。
《梅田報告》
医科研の研究室が、4階から2階に引越すことになり、持っている細胞系を一時的にもなるべく少なくしておきたいと考え、一部の細胞をバーチスのdeep
freezerで凍結した。その直后、事故があり、結局今迄報告してきた樹立しかけのラット肝、肺由来の細胞の殆んどを切って了った。全く申しわけないことをして了って、がっかりしている。しかしハムスター由来でN-OH-AAF投与后の細胞はこの事故をまぬがれた。
(1)T#211D細胞系(月報7005)はその后も順調な増殖を示し、現在N-OH-AAF投与后200日に近くなる。1週間に約10倍近い増殖率を示す。培養148日の時にusual
plateでコロニー形成能をみた所、PEは63%、そのうち密でpile
upしたコロニーが5%に認められた。しかしsoft
agarではコロニー形成は認められず、又、180日目にハムスター頬袋に150万個cells移植したものも、腫瘤形成は認められていない。
(2)横浜の研究室で継代しているN#34J細胞(月報7004、3HOA投与例)はその后、cloningを行い4細胞系を得、J1、J2、J3、J4と名付けた。J1、J4の増殖率は早く1週間に5〜7x、J2、J3はやや遅く3〜4xの増殖率を示す。この各クローンについて、usual
plateとsoft agar法とでコロニー形成能をみた所(除J3)、usual
plateでは(表を呈示)表の如く30%を上まわり、月報7005で報告した原株の13.4%から大分上昇した。しかし、依然soft
agarではcolony形成を認めなかった。どうもsoft
agarでコロニー形成が認められず、移植しても“take"しない系ばかし得ているが、どういう理由からか、検討する予定です。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(22)
X線照射あるいは化学発癌剤(4-NQOまたは4-HAQO)処理によりDNA中に誘発されたsingle
strand breaks再結合の機序検索の一環として、今回は4-HAQO処理により誘発されたsinglestrand
breaksに及ぼす熱またはhydroxyurea処理の影響について報告する。
既に報告してきたように、1x10-4乗M 4-HAQOで30分間熱処理することによって起きた、Ehrlich細胞のsingle
strand breaksは24時間のincubationで殆ど完全に正常分子量のDNAにまで修復される。従って、この際細胞をどの様な条件におけば切断DNAの再結合が阻止されるかが問題になっている訳で、最初に手がけたのが前回報告したような熱処理法である。つまり細胞をあらかじめ45℃で30分間処理し、しかる後に1x10-4乗M
4-HAQOで30分間処理して誘発されたsingle strand
breaksの再結合はどうであろうかを見たものであった。
これは明らかなように24時間のincubationでやはり殆ど完全と言っている位までに再結合される。ではこのような熱処理に加えて4-HAQO処理を受けた細胞内へのH3-thymidineの取り込み能、つまり残存DNA合成能を調べた結果が図1であって(図を呈示)、この図は便宜上H3-thymidineを含む培地中で24時間培養された時の正常細胞(Unheated
cells)の放射活性を100とした時のそれぞれの活性(つまりH3-thymidineの取り込み能)を示したものである。この図から分かるように、熱処理さらに4-HAQO処理を受けた細胞ではDNA合成能が正常細胞のそれの1/555にまで低下している。しかるにこのような条件でさえ切断DNA鎖の再結合は可能なのである。続いてhydroxyureaは正常DNA合成をspecificに阻害することが知られているので、図2に示すごとく2.48mM
hydroxyureaを含む培地中であらかじめ48時間培養したEhrlich細胞を、4-HAQOで処理することによってsingle
strand breaksを誘起させる。次いでこの細胞を2.48mM
hydroxyureaを含む培地中でincubateすることによって、切断DNAの再結合を調べた。この図から分かるように結果はあきらかに再結合可能であることが示された。又このようなhydroxyurea+4-HAQO+hydroxyurea処理と連続的な処理を受けた細胞内のDNA合成能は、正常細胞のそれに比べて1/770にまで低下していることが図3の実験から示された。このように熱処理あるいはhydroxyurea処理と言った細胞内DNA合成能を極度に低下させた条件下(勿論これらの処理に加えて4-HAQO処理が加わるのでDNA合成能は一層低下させられる)でさえ、切断されたsingle
strand breaksの再結合は可能であることが、こうした実験から示唆された。この事は換言すれば極く微量のDNA合成酵素系(修復酵素系)が、障害を受けた細胞中に残存しておりさえすれば、切断されたDNAの再結合は可能であることを意味しているのかも知れない。
《山田報告》
先月より細胞電気泳動法による細胞表面の抗原抗体反応の定量的測定法についての基礎固めに全力を注いで居ます。漸く、その結果がまとまりさうですので、書いてみたいと思います。これで漸くin
vitroでの発癌過程における細胞の抗原性の変化について自信をもって検索出来さうです。
1.血中抗体の検索(同種移植)
同種抗血清を細胞に接触させると、抗原抗体反応が起こり、細胞表面に変化を生じます。特に燐酸基の露出状態の変化により、表面へのカルシウム吸着性が変わります。この吸着性の変化を細胞電気泳動法により定量的に測定すると云うのが本法の原理です。
この基礎実験にはすべて、ラット腹水肝癌AH62Fを用い、これをドンリュウラットの腹腔内へ1,000万個移植し、18日目の血清を採取して、この血清中に含まれる同種抗体を種々の条件で検索しました。この結果カルシウムの吸着性の変化は(増加)、
(1)抗体のみ作用させても、僅か起こりますが、これにラットの補体を追加すると、その変化は拡大される。所謂immune-lysisの初期の状態、或いはその極めて軽度の変化が、この細胞電気泳動法により検出される。
(2)このカルシウムの吸着量増加は加へた抗体量に比例する。
(3)写真記録式細胞電気泳動度で検索すると、この抗原抗体反応は特定の細胞のみに起こることはなく、細胞群全体に作用する。
(4)抗血清を分劃して反応させると、抗原抗体反応を起こす分劃は19Sの部分に主としてあり7S分劃との反応は、ごく僅かである。即ち従来の同種移植における免疫反応を含めて、所謂遅延反応と同じく、この泳動法で検出して居るのは、IgMグロブリン抗体である。
(5)免疫粘着反応(immune adherence reaction)による検索結果は、この細胞電気泳動法の結果とよく一致する。その反応感度を比較すると、細胞数当りの反応血清濃度は二者共に略々同程度まで検索出来るが、細胞電気泳動法の測定には少くとも細胞が100万個必要とするので、実際に必要な抗血清量は後者(泳動法)により多く要する。この基礎実験の条件では最低0.1ml(最終濃度20倍)である。
トリパンブルーを用いる従来の所謂intoxication
testよりははるかに、この本法は感度がよい。(但しこれは19S抗体の場合のみかもしれない。)
(6)この泳動法による検索可能な血中抗体は、AH62F一回移植後約7週間になって始めて検出される。反応するAH62Fのageと、反応との関係を調べると、増殖期の細胞が最も良く反応し、末期の細胞では反応が弱い。(生体内で同種抗体が反応して居る可能性がある。)
この抗血清(0.3ml)からtarget cellであるAH62Fにより抗体を吸収するためには、約1ml(packed
cell volume)の細胞が必要である。等々、その他幾つかの基礎データが得られました。
2.細胞結合性抗体の直接検索
次ぎに流血抗体の基礎データをもとに、リンパ球の表面に存在する抗体と、target
cellである癌細胞とを直接接触させて癌細胞に起こる変化を細胞電気泳動法により検索しました。即ち前項と同様にラット腹水肝癌AH62Fを皮下に移植した後、その脾臓をとり、鋏で細かく分割、脾リンパ球浮游液を製作。これとtarget
cellであるAH62Fと混合し、血清を加へて37℃30分、slow
agitationを行った後、遠沈法により可及的にAH62Fのみを採取した後に細胞電気泳動法により検索。対照としては正常ラットの脾リンパ球を同一条件で接触させたAH62Fを用いた。その結果種々の成績が得られつつありますが、その幾つかを書きますと、1)感作脾リンパ球は24時間接触させると、明らかに対照にくらべて、細胞表面の荷電を低下させる。2)補体を加へると30分接触後に直ちに感作リンパ球によりカルシウム吸着性が増加し、その吸着量(AH62F表面の)の増加は、リンパ球がAH62Fの5倍以上必要である。それ以上リンパ球があると、加へたリンパ球の数に比例してAH62Fのカルシウム吸着量は増加する。またAH62F1,000万個移植後3日目の脾リンパ球は既にこの反応を起こす、等の成績が得られました。これらの成績をもとに今後in
vitroでの発癌過程における抗原性の変化を追求してゆきたいと思っています。
《藤井報告》
前前号月報で培養ラット肝細胞が4NQO処理をうけてtransformationを来し(RLT-2
cells)1旦あらわれた特異抗原−癌抗原である証しはないが−が復元-再培養を経るうちに(Culb-TC)消えてしまったことをMixed
hemadsorption法で示した。
今回は、抗Culb抗体(WKAラットに凍結保存したCulb細胞を注射してつくった同種抗血清)をI131で標識し、この標識抗体が培養ラット肝細胞(RLC-10)、変異株(RLT-2)、その復元再培養株(Culb-TC)によって吸収される程度などを検討した。
1.同種抗Culb抗体の精製:抗血清はWKA rat抗Culb血清(Fr16,pool,021370)。予めCulb細胞、1.5x10の8乗個を凍結融解、テフロンホモジナイザー処理で破壊し、超遠心(40,000rpm,60分間)で6回洗滌し、Culb細胞stromaをつくった。3.5mlの抗血清をCulb細胞stromaに加え室温60分間で反応させたのち、冷生食水で3回、超遠心してCulb抗原-抗体complexとした。
このcomplexに9mlの15%食塩水を加え、37℃、1時間振盪し、超遠心して上清を分離、沈澱をさらに10mlの15%食塩水で同様に処理し、上清をpoolした。
得た上清をPBS、pH7.0に透析して等張とし、濃縮して1.5mlの試料を得た。試料は、O.D.280mμ=1.00で、Culb-TCに対してmixed
hemadsorption testは1/160で2+であった。すなわち、この試料は特異抗Culb
γ-グロブリンである。
2.抗Culb γ-グロブリンのI131Naによる標識:
約1.5mgの特異抗Culb γ-グロブリンに、抗体1分子当り2〜3ケのIが結合するように計算した量のcarrier
I3(KI 0.2M+I2 0.1N)−500μCiのI131Naを加え、pH9.2で室温、10分の反応後、Sephadex
G-50のカラムにかけて、freeのI2を除いた。得たI131-標識抗体7mlは623.420cpm/mlであった。この標識操作は、医科研生物物理研究部の加藤巌博士の協力を得ておこなった。
3.I131-標識抗体のCulb-TC細胞による吸収:
一定数のCulb-TC細胞が吸収する最大量の標識抗体を知る目的で次の実験をおこなった。
LD液に浮游したCulb-TC細胞、20万個cells(0.2ml、100万個/ml)にI131-Culb
γ-グロブリンの変量(1.0〜0.04ml)を加え、37℃、60分間反応させたのち、冷LD液で3回洗滌し、得た沈澱細胞について、その放射能をwell型測定機にかけ、吸着された抗体のcpmを求めた。図は、その結果である(図を呈示)。この図よりCulb-TC細胞20万個はI131-Culb
γ-グロブリン試料0.6mlでsaturateされることが示された。(cpmは約30,000)
4.Culb-TC、RLT-2、RLC-10の抗Culb抗体吸収度の比較:
これら株細胞のそれぞれが、あらかじめ抗Culb抗体あるいは抗正常ラット肝抗体を吸収したのち、さらにI131-抗Culb
γ-グロブリンを吸収するかどうかをしらべ、それぞれの株細胞のもつ抗原の特異性を見た。
培養細胞のLD液浮游液1.0ml(50万個cells)に、0.4mlの抗Culb抗血清(5120
mixed hemad-sorption単位をふくむ)、あるいは3mlの抗正常ラット肝抗血清(4800
mixed headsorption単位)を加え、室温、60分で吸収させた。いづれの抗体も10万個cellsが吸収しうる最大量以上である。この反応のあと、I131-抗Culb
γ-グロブリン、0.2mlを加え室温、60分間おき、LD液で3回洗滌し、吸収された標識抗体の量をcpmで求めた(表を呈示)。
表にみられるようにCulb-TC、RLT-2、RLC-10の細胞のうち、RLT-2のみが抗正常ラット肝抗体(Anti-NRL)に反応せず、Anti-Culb抗体に反応する抗原をもつことが示された。この成績は前前号で示したMixed
hemadsorptionでの成績と一致し、その考察は同月報で述べてある。同系抗体による解析は目下進行中。
《安藤報告》
4NQOはL・P3DNAに二重鎖切断を起さないのではないか?
月報No.7004に報告したように、いわゆる寺島法で分析しているDNAには、プロナーゼ感受性な結合があり、プロナーゼ作用を受けると分子量は小さくなる。このプロナーゼの分解作用はcontaminateしているDNase活性によるのではない事は、故意に加えたすい臓のDNaseIが全く働かない事(No.7004)によっても、次に述べる二つの証拠によっても明らかである。第(1)にプロナーゼの作用時間を長くしても一定限度以上にはDNAは小さくならない。(図を呈示)図にあるようにプロナーゼが存在しない時には底に沈んでしまうような条件でプロナーゼ5分、20分、30分と作用させ分析した所、5分ですでに大部分こわれ、20分では完全に限界迄行き、それ以上作用させても、もうそれ以上低分子化はなかった。第(2)にプロナーゼ量は一定にしておき、基質としてのDNA量(すなわち細胞数)を変えた場合、図にみられるように細胞数が少い方がより高分子として沈降している。したがって、DNaseによる分解ではない事が確実に云えると同時に、粘性高分子としての物性をも示している事も判った。
次にこのような設定条件のもとに細胞を4NQO処理を行い、そのDNA切断を見た所(図を呈示)図の如くなった。すなわち、4NQO
10-5乗M迄は無処理の場合と同じになってしまった。プロナーゼ存在下には4NQOの作用は全くマスクされてしまった事になる。いいかえるならば、4NQOはプロナーゼ感受性を切断していただけであり、DNAのphosphodiester結合を切っていたのではない事を示している。この点更に確かめるべくプロナーゼの代りにトリプシンを使って確認したいと実験中である。
【勝田班月報:7007:ラット肝細胞の初代培養クローン化】
《勝田報告》
1)培養内4NQO処理により悪性化したラッテ肝細胞の染色体(図を呈示)
培養内で悪性化した細胞系(RLT)はいずれも染色体数の最頻値が2nより数本減少し、これをラッテに復元接種しても最頻値は変らなかった。ところが、この腫瘍細胞を再培養し、長期間継代していると、CulaTC、CulbTCのように、染色体数にばらつきが生じ、且高3倍体がふえてきた。ラッテの移植腫瘍の、染色体数のばらつきや、3倍体附近にピークのあるものの多いことも、腫瘍化したあとの副次的は変化である可能性の大きいことを示唆する。
2)染色体核型(写真を呈示)
RLT系は核型に大きな乱れは現われず、対(pair)を作る染色体がかなり残っている。しかし正常ラッテの核型にみられないものとして、大型のSubtelocentricのpairがしばしば認められる。どんな理由か判らないが、これがpairで現われる点は面白い。
:質疑応答]
[吉田]この系は腹水型として動物でも継代できるのですね。この染色体の核型分析を見ると基本的にはラッテのセットをそのまま持っているようです。新しく出てきたように見える大きなサブセントリックの1対は2つの棒状の染色体がくっついて出来たもののようですね。
[勝田]この間の組織培養学会で出されたコルセミド処理によって生じる染色体異常についてのデータを考えると、染色体標本を作るのにコルセミドなど使っていいものだろうかと不安に思いますが、どうでしょうか。
[吉田]4時間位の短時間の処理では染色体に影響はないとされています。
[勝田]本当にG2に影響がないのですか。
[吉田]G2にはもう染色体のセットは出来ているのですから、染色体のセットには異常は起こさない筈です。しかし自然のものに比べると処理を受けた染色体は短くなっているのですから、そういう異常はあるわけです。又、処理後2回目の分裂になると染色体異常が出てきます。
[堀川]目的によって使い方を充分検討しなければなりませんね。昔は染色体の標本を作るのにコルヒチンを使っていたのですが、コルセミドが多く使われるようになった訳があるのですか。異常を起こす率はどちらが高いでしょうか。
[吉田]コルセミドは動物実験の方から使われるようになりました。コルヒチンより動物に対する毒性がずっと少ないのです。しかし組織培養に使う場合は毒性についても異常染色体の出てくる率についても大差ないようです。
[安藤]染色体の上でのブレイクとかギャップとかは、DNAレベルでも切れているのでしょうか。
[吉田]ブレイクという場合はDNAも切れています。ギャップという場合は染色体の一部に染色性を持たない他の物質が入り込んでいる時があります。
[勝田]どうして同じ染色体を複製出来るのでしょうね。不思議ですね。染色体の出来る過程を電子顕微鏡で経時的に追ったデータがあるでしょうか。
[吉田]無いと思います。実験としてむつかしいのでしょう。分裂期なら分裂期にだけ焦点をあてて調べることはできますが・・・。
[堀川]しかし、今の遺伝学では染色体がどうやって正確に同じものを複製してゆくのかもはっきりしないのですから。全く生物の中ではスゴいコンピューターが働いているのだな、というよりほかありません。
《高木報告》
腫瘍細胞と対照(正常)細胞の混合移植実験
No.7005にひき続き、同一細胞株を用いて実験をすすめた。
腫瘍細胞としてRG18は32代より45代、対照細胞としてRT-9は38代より54代の継代数の細胞を実験に使用した。
ところが対照細胞として使用したRT-9株の50代目を100万個皮下に復元したところ、44日の潜伏期で3匹中1匹に腫瘍の形成をみたので、一連の実験が一瞬にして、無意味なものとなってしまった。
又同時にRG18株のTPD50の算定を試みたが、(表を呈示)予想に反してこの細胞は非常に悪性で、現在のところ10個の細胞(細胞をtrypsinizeし遠沈後、mediumに浮遊させてcell
countを行い、100万個/ml又は10万個/mlとなる様に稀釋して再度cell
countを行う。その後は10倍稀釋で100/mlの細胞浮遊液を作り、その0.1mlを皮下に接種したもの)で腫瘍を形成することがわかった。
今後の実験にはもう少し悪性度の低い細胞を使用したいが、凍結中の細胞がレブコの事故でたえてしまい、現在手元には、この株しかないので、とりあえず10〜1,000個のレベルで対照細胞を変えて実験を続ける予定である。
:質疑応答:
[勝田]動物が腫瘍死する所まで観察していないのですか。
[滝井]腫瘍が出来た段階で殺しています。
[安村]動物を使ってタイトレーションをする場合、全部死ぬ濃度、全部生き残る濃度、その中間何段階かという風にチェックしないと後で統計的な処理が難しくなります。
[滝井]ラッテの産児数が1腹10匹位なので、2段階位しか出来ません。
[安村]10匹なら5匹5匹の2段階より、3匹づつの3段階にした方がよいでしょう。
[滝井]細胞1コの接種の成績もみる必要があるでしょうか。
[勝田]吉田肉腫の場合カバーグラスに細胞浮遊液をたらして顕微鏡でみて1コ細胞がいるのを確かめて復元していますね。
[安村]10コ位になると10倍稀釋で作った浮遊液では正確とはいえませんから、接種したものと同量の浮遊液をシャーレにまいて数えるとよいでしょう。
[勝田]対照群は悪性化した系の対照群でなくてもよいのではないでしょうか。もっと培養日数の浅い、途中で自然悪性化する心配のない系を使ったらどうでしょうか。又は別の臓器由来でもよいと思います。
[堀川]どうも組合わせがスカッとしませんね。対照として入れる方はフィーダーのように熱処理とかX線処理とかをして入れたらどうですか。
[安村]角永氏の実験では接種する細胞数を一定にして、その枠内で正常細胞と悪性細胞の比率を変えてゆくというやり方ですね。
[藤井]in vivoだけでなく、in vitroで悪性細胞に正常細胞を加えてみて、悪性細胞の増殖に最も適当な比率というのがあるかどうか調べてみる必要はないでしょうか。又正常細胞が免疫的な意味で、悪性細胞の増殖を抑えるということもあるのかどうか。
[高木]始めは勝田班長の言われたように、ポピュレーションの中に悪性化した細胞が混在していてそれが増えてゆくのか、或いは全体がだんだんと悪性化に進んで行くのか、実験的に確かめたいと思って始めた仕事ですが、正常のつもりで使った対照群が何時の間にか自然悪性化していて無駄な骨折りになりました。
[堀川]動物に接種する前に双子培養しておくというのはどうですか。正常細胞と双子管で飼われることによって、in
vitroでもう一歩悪性へ進められるかどうか。
《難波報告》
この月報では、この秋癌学会で発表予定の仕事を報告する。
N-21:クローン化した培養肝細胞の及ぼす4NQOの影響
クローン化した肝細胞を使用して標題に関連する仕事を従来の月報に報告してきた。
1.濃度の検討。
2.処理時間の検討。
3.細胞障害効果が細胞数に依存する問題の検討
4.4NQOの障害が細胞にどれほどの期間残るか。1)増殖曲線からの検討 2)PEからの検討3)H3-Thymidineのとり込みからの検討。
5.4NQO処理は細胞の増殖を誘導するか。
6.3種のクローン化した肝細胞間に4NQOに対する感受性の差があるか。
7.4NQO耐性の細胞がとれるかどうかの試み。
8.4NQOで悪性変異した肝細胞と、対照細胞との4NQOの耐性の差違(これだけはクローン化した肝細胞を使用していない)。
9.発癌実験の試み。
以上の内容である。以下1.6.7.についての実験データを記述する。
1)4NQOの濃度の検討
LC-2のクローン細胞を使用し、以下2実験を行った。まき込み2日目に10〜20万個に薬剤処理細胞数がくるように短試に細胞をまき、2日目に種々の濃度の4NQO
in Eagle'sMEM(-BS)で1時間処理後、Eagle'sMEM+20%BS培地にかえ2日間培養を続け細胞数を数えた。結果は(増殖曲線図を呈示)4NQOの濃度が10-6乗Mから10-5乗Mに上がると急激に細胞が死滅することが判った。また10-8乗Mのときには、殆んど細胞障害は認められなかった。
2)3種のクローン化したラット肝細胞の各系間に4NQOに対する感受性の差があるか
現在発癌実験に使用しているLC-2、LC-9、LC-10の3種のクローン化細胞の4NQOの感受性の相違をしらべた。その際4NQOの濃度を3.3x10-8乗Mに上げた場合にLC-9系にやや耐性があるように考えられたので、更にもう一度実験を行った。実験条件は3.3x10-8乗M
4NQOを含む培地4mlに細胞をまき込み、シャーレはFalconを使用した。前の実験では4NQOの濃度は10-8乗M、3.3x10-8乗Mで、4NQOを含む培地は5ml、シャーレはガラス製のものを使用した。(表を呈示)今回結論されることは、LC-9は、3種のクローン間では一番4NQOに対して抵抗性があり、LC-10は非常に4NQOに対して弱い、すなわち感受性が高いことが判った。LC-2はこの2者に比べ4NQOに対する反応性にバラツキがあるよう思える。この現象は、正確なことは現在判定できないが、このクローン間の染色体数の分布に一致するようである。即ちLC-2は低四倍体を中心に幅広い分布を示し、LC-9は39、40に60%のモードを示し、LC-10では42に54%のモードを示している。現在この3種で発癌実験を行っているが、もし発癌現象に差違がみられれば面白いと考えている。
3)4NQO耐性株が得られるかどうかの試み
LC-2系のクローン化した細胞を使用し、(スケジュール図を呈示)4NQOの処理を行いそしてコロニーの形成率を見た。即ち、4NQO耐性の有無をチェックする為に経時的に10万cell/plat、/10-6乗M
4NQO in Eagle's MEM 5mlまき1週間培養し、その後4NQOなしの培地で1週間培養して形成されるコロニー数を数えた。その結果は、この実験条件では4NQOに耐性を示す細胞はつくられていないように思える。この際シャーレあたり10万個の細胞をまいたので、すっきりしたデータが出なかったのではないかと考え、次に4NQO処理1回、2回、3回目の少数細胞を3.3x10-8M
4NQOを含む培地で1週間、更に4NQOなしの培地で1週間培養しPEをみた。この実験は現在2回行っているが、どうも4NQOに対して有意に耐性の増加を示していない。
もう一題の演題は
N-22:旋回培養法を利用して試験管内発癌の指標を探す試み
1.4NQO変異細胞と4NQO非処理対照細胞との細胞塊の大きさの比較
2.その細胞塊への形成と培養期間との関係
3.細胞塊の組織再形成の有無及び特種染色
4.細胞塊形成の機構、1)細胞膜に依存するか、2)細胞産生物質に依存するか
:質疑応答:
[安村]耐性をみる実験の場合、薬剤処理後に生えてきたコロニーを拾って次の処理をしたのですか。
[難波]コロニー1コを拾って次の処理をしたのではなく、生き残って増えてきた幾つかのコロニーを全部集めて使いました。
[安村]なるほど、それでは矢張り耐性が出来ていないということですね。
[難波]安村先生のAH-7974を使ってのコロニーレベルの仕事では、コロニーLとSと、それぞれ単層で増やした時の形態のちがいはありましたか。
[安村]Lの細胞の方が平たく広がっていましたね。しかし質量は差がありませんでしたし、増殖度も同じでした。もともと肝細胞は生体内でも2核細胞や大きさも大小のものがあるのですから、培養細胞でいろいろな形態をもっていても不思議はないと思います。
[梅田]他の薬剤で耐性ができるかどうかみられましたか。
[難波]みていません。
[梅田]4NQOそのものの毒性の問題があるのではないでしょうか。4NQOは細胞内に取り込まれると直ちに4HAQOになってしまう。耐性が出来るとするなら、4HAQOに対する耐性が出来るのではないでしょうか。若しこういうやり方で4HAQOに対する耐性が得られるとるすと又面白くなると思います。
[堀川]仲々難しい問題ですね。1つは4NQOか4HAQOかという問題、1つは細胞膜の問題があります。薬剤耐性の場合始から耐性のある系があって、ラベルした薬剤を使って取り込みを調べてみるとちっとも取り込んでいないという事があります。それなどは膜の問題だと思いますが、しかし4NQOでは取り込まない細胞があるとは考えられませんね。私の実験からも感受性には違いがあっても4NQOの取り込み量には違いがみられませんでした。
[安村]4NQOに対する感受性において異なる二つの系の染色体数が違うようでしたね。
[勝田]あまり染色体とは結び付けない方がいいでしょう。
[安村]いや、染色体の数のバラツキの広いものの方が4NQOに対して強いというなら、何か意味づけられるか・・・と考えたのです。
[勝田]この仕事はもともと化学発癌の爪痕を耐性という面から探そうとした訳で、そういう意味からは望みがありませんね。そろそろ我々の仕事も或る所までゆきついてしまったようです。次の段階をどうしたらよいか宿題にしますから皆さん考えてきて下さい。
《梅田報告》
(I)Hamster embryonic cellに3HOA(3-hydroxyanthranilic
acid)を投与して継代しているN#29F細胞は相変わらずコンスタントに増殖している。形態的には以前よりやや細胞質のひろがったepithelioidの細胞に変ってきた。増殖率は1週間で約2.5倍である。この系でのControlはその後増殖を示し、1週間で1.9倍になる。3HOA処理後6月21日現在で257日になるが、最近行ったSoft
agar法でもcolony形成は示さなかった。Controlでもcolony形成は示さなかった。Inoculumは10万cells/dish。Hamster
cheek pouchへ100万個cells投与により2週間でまだ腫瘤形成は認められない。Softagar法で最近HeLa細胞についてのCFUは8.2%であった。
(II)月報7004に報告した同じHamster embryonic
cellにHOAを投与した系(N#34J)の累積増殖を示す(図を呈示)。KA、XA、3HOK投与例とcontrolは培養が切れて了った。このN#34J細胞の増殖率は1週間で6倍を示し、N#29Fより早い。4月5日HOA投与、開始後123日目にplateにまいて生じたcolonyから4系列のcolonyを拾い、目下培養を続けているが、2系列は増殖が早く他の2系列は増殖がやや遅い。之等すべてsoft
agar中でcolony形成しなかった。詳しくは次号に報告の予定である。形態的には細長い典型的なfibroblastの形を保っている。Hamster
cheek pouchに100万個接種して2週間になるが、まだ腫瘤形成は認められない。
(III)7004に報告したT#217H細胞(Hamster Suckling
lung)も増殖を続けているが、N#29F細胞と似ており、増殖率は一時8.1x/wであったのが、2.1x/wと下り、それに伴い形態的にepithelioidに変ってきた。6月21日現在で177日になるがSoft
agarにcolonyを形成しない。
(IV)月報7005に報告したT#211D細胞(Hamster
embryonic cells)は非常に良好な増殖を続け、現在1週間で11倍となる。controlはその後増殖が止り切れて了った。形態的にはfibroblasticの形を保っているが、まだSoft
agar法でcolony形成は認められない。Hamsterのcheek
pouchには100万個接種して1ケ月半になるがまだ腫瘍形成は認められない。6月21日現在211日になる。目下Cloningを行い、増殖の早い系を拾うことにしてある。
(V)今回新しく報告する系で、ハムスター新生児肺培養にNitrosobutylnrea(昨年度癌学会報告、p59、小田嶋)10-3.0乗M培地を2日毎に3回交換して計6日間作用後継代を続けている細胞の増殖が盛んになった。しかし1週間に3倍で、形態的には増殖が横這いになった頃は大型の細胞質のひろがった顆粒の多い細胞から成っていたが、増殖がconstantに増えだした頃より、fibroblastic
cellが優位になった。この系はまだsoft agarでのcolony
formationはcheckしていない。
(VI)Hamster embryonic cellにrubratoxinB(肝、腎、更に増殖細胞といろいろな器官に多彩な病変を起すmycotoxin。発癌性はまだ報告されていないが検討中)を32μg/ml培地で3回培地交新した系(T#211F)もconstantな増殖を示し始めた。増殖率は1週間で2.2倍でそれ程早くないが、これから性状を検討する予定である。
(VII)以上6系列以外にも発癌性の証明されている2種の薬剤投与でconstantな増殖を示すようになった細胞系がある。(Hamster
suckling lung)
(VIII)上の結果を綜合するとtryptophan代謝産物のうち一番proximateと考えられている3HOAと、AAFのproximateの形と考えられているN-OH-AAFと、Nitrosobutylurea、更に発癌性は証明されていないが多彩な病変を惹起するrubratoxinBでgrowth-promoting
effectのあることが証明された。そのうち2系列では薬剤処理後目立ったlagがなく、constantな増殖を示した。他の4系列では一時増殖が止ったかに見える時期が続き、処理後120〜150日頃より増殖が再現し、constantな増殖を示す様になった。前者は最近epithelioid、後4者はfibroblasticな形態を示す。3HOA、N-OH-AAF処理後の4系列については再3のsoft
agar法による検査でcolony形成を認めず、Hamsterのcheek
pouchへの移植実験でも腫瘍形成に致らない。
以上の様な結果から判断するとすれば、之等物質はこのHamsterのfibroblast
in vitro系でgrowth-promoting actionしかないと云えるかも知れない。しかし我々のtechniqueの違いからこの様な結果をまねいているのかも知れない。目下4NQO処理によるin
vitro carcinogeneisisの実験を進行中であるので、その結果により上記のことがはっきりと云えると思う。(各実験の累積曲線図を呈示)
:質疑応答:
[安村]4NQOによる培養内悪性化の実験で黒木氏のデータでは、ハムスター胎児細胞はどの位の期間で悪性化していますか。
[梅田]大体1〜2カ月ですね。
[安村]これらの薬剤が動物実験のレベルで発癌性があるかどうか確かめておく必要がありますね。殊にハムスターに対して・・・。
[梅田]ハムスターに対して発癌性があるかどうか、分かっているものもあり、分かっていないものもありますから、調べておきます。
[安村]処理後、細胞の形態は変わりませんでしたか。
[梅田]増殖がモタモタしている間は平ったい形の細胞でしたが、どんどん増えるようになってからは、センイ芽細胞らしくなりました。
[安村]培養細胞が悪性化した場合、始の発見はたいてい形態変化ですね。形態変化なしに悪性化したというデータがあるでしょうか。
[勝田]ハムスター細胞を使った場合は知りませんが、ラッテ肝細胞は染色標本では全く形態変化がみつかりませんが、映画でみると動きが違います。
[安村]次に軟寒天内でのコロニー形成によって悪性化を知るには、100万個/シャーレの接種量からみないと、つかまらない場合があります。
[梅田]私の実験は10万個から稀釋していますから、もう一段多い方をみる必要があるわけですね。
[堀川]こういう種類の仕事は労ばかり多くて大変ですね。一番効率のよい発癌剤を選ぶにはどういう方法が一番よいでしょうか。コロニー形成率でみるのがよいか、形態変化でみるのがよいか・・・。
[吉田]目で見ていてパッと変化を知る方法はないものですかね。
[勝田]それは、無いことを保証しますよ。
[安村]今のところ、一義的に発癌とむすびついた現象はありませんね。たまたまハムスターではパイリング アップという現象が悪性化と平行しているらしい事が見つかったので、仕事が進んでいるわけです。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(23)
前報では熱処理またはhydroxyurea処理をうけた細胞で相当までにDNA合成能を低下させた状態においても、その後に4-HAQO処理によって切断されるDNAの一本鎖切断を再結合し得る能力をもつことを示したが、今回はこの仕事に関連してpuromycin処理後の細胞について得られた結果を報告する。
10μg puromycin/mlを含む培地中で前もって72時間培養した細胞を(10μg
puromycin/mlという濃度は基礎実験から得られた濃度であるが、ここではそれらの実験については省略する。)
1x10-4乗M 4-HAQOで30分間処理し、その後同濃度のpuromycinと1μci
H3thymidine/mlを含む培地中で培養し、各時点で細胞をとり出し、細胞内DNA中に取り込まれたH3\TdRの活性を測定した。(図を呈示)結果を、前報と同様に対照区(puromycinや4-HAQOで全く処理されていない細胞群)の24時間目における全放射活性を100とした場合の各実験の活性でみると、puromycinで前もって72時間処理され、次いで4-HAQOでDNAの切断をうけ、しかる後、puromycin存在下でDNA合成能をみたものでは、対照区の1/350にまでその活性が低下している。又同時にpuromycinのみで処理された細胞群や、4-HAQOのみで処理された細胞群(この場合はH3TdR取り込み時にpuromycinは存在しない)では対照群に比べて、取り込み能は、それぞれ1/20または1/100にまで低下している。
では、このように前もって72時間puromycin処理をうけた細胞ではその後に起こる4-HAQOによって切断されたDNAの一本鎖切断をpuromycin存在下で再結合しうるか否かということが問題になってくる。この点をalkaline
sucrose gradient法によって、検討した結果、此のような条件下では全くと言っていい位に再結合は認められない。
ここで興味あることは4-HAQO処理を含めて熱処理、あるいはhydroxy-urea処理をした場合には対照区のDNA合成能のそれぞれ1/555または1/750にまで細胞内DNA合成能を低下させることが出来た。しかるにこれらの条件下では総じて完全と言っていい位に、一本鎖切断の再結合は起り得た。一方、今回のpuromycin処理では対照区のDNA合成能の1/350にまでしか低下出来ないにもかかわらず、4-HAQO処理によって切断されたDNAの再結合は起り得ないという結果が得られた訳である。
以上の結果は正常DNA合成系と修復DNA合成系は、やはり全く別個の過程と考えるべきで、こうした条件下ではpuromycinによって修復DNA合成系に関与する酵素あるいは酵素群の生成は抑えられるために、切断DNAの再結合は進まないと考えるのが妥当ではなかろうか。
:質疑応答:
[安藤]X線とH3のβ線とを同じとみたわけですね。
[堀川]そうです。
[勝田]4NQO処理でアンスケジュールドDNAを認められるのはどの位の時間ですか。
[堀川]約1時間です。
[勝田]それでは処理後もっと短い時間の取り込みも調べておく必要がありますね。
[永井]X線の量を増してゆくとランダムになってしまうのですね。
[堀川]私共の場合、治療用のX線を実験に使っているものですから、10,000r照射するのに1時間もかかります。勿論いろいろ注意し乍ら実験していますが、そういうドースレイトの大きさから来る乱れがあるのです。しかし又化学物質の場合は、処理時の細胞濃度、処理後の残存物の問題など細かい調整が必要ですね。
[永井]4NQOの処理濃度が高くなると、DNAの一本鎖切断が時間的におくれてくることも大きな問題ですね。
《安藤報告》
SDS−プロナーゼによるDNAピークの蛋白含量について
月報No.7006に報告したように、これまで使用されて来た動物細胞DNAの分析法であるいわゆる寺島法は問題があった。すなわち連続的なphosphodiester結合をしているDNAとして分析しているのではなくpronase感受性な結合、すなわち蛋白を介してDNAが結合し一見巨大分子として遠心場で沈降しているにすぎなかった。この点は更に他の蛋白分解酵素その他の方法によって確認しつつある。詳しくは次の機会に報告します。
次にこの結合蛋白はどのような性格のものでありどのような機能をもっているのであろうか。DNAの複製、DNA上の遺伝情報の発現との関連は?等々種々の問題を提起している。先ず今回は蛋白含量を正確に測定してみた結果である。方法は蔗糖密度勾配遠心で得られたDNAピーク(プロナーゼ±で)をpoolし、ホルマリン固定をした後にCscl中で密度平衡遠心を行い、そこで測定された密度から蛋白含量を計算する方法である。(結果図を呈示)FreeDNAと各ピーク分劃の位置を比べると明らかに後者はFreeDNAよりも軽い密度の側にskewしている。したがってこれ等の蔗糖密度分劃は完全にFreeのDNAではなく、密度を軽くするような物質とのcomplexである事を示唆している。そして、この物質はpronaseの作用その他の事から考えると蛋白と思われる。蛋白とすると次の式に当てはめてその正確な含量を計算出来る。
(計算式と表をを呈示)結果はPronase±いずれの場合も蛋白含量0−2.3%となる。
Chromatinの中のDNA対蛋白比は1.0〜1.5くらいである事、この蛋白の殆ど全てはhistoneである。一方ここで分析された本物質の蛋白含量は2.3%、したがってこの蛋白はhistoneではないと思われる。今後この蛋白のより詳しい性格ずけを急ぎたいと思う。
:質疑応答:
[勝田]4NQOとプロナーゼが共存した場合、4NQOがプロナーゼを失活させるという事は考えられませんか。
[安藤]それも考えられます。しかしこの実験では先ず4NQOで30分間処理してからプロナーゼ処理をしています。4NQOは処理後30分で細胞内には4NQOの形で残っていないというデータを持っていますから、この場合はプロナーゼの失活は考えなくてよいと思います。
[勝田]4NQO処理後のアミノ酸の取り込みはみてありますか。
[安藤]みていません。
[難波]パパイン、トリプシンではどうですか。
[安藤]まだみていません。
[堀川]プロナーゼと4NQOがDNAを同じように切断するというデータは、私のデータの説明にも役に立ちます。アンスケジュールドDNAの取り込みについては、まだはっきり説明出来ませんね。
[勝田]前にも言いましたが、電顕レベルでみておく必要があります。処理後に或る種のアミノ酸を特異的に取り込むかどうかということも、アミノ酸をラベルしておいて取り込ませ電顕レベルのオートラヂオグラフィでみられるのではありませんか。
[永井]プロナーゼの阻害剤を使ってどうかということも、みておく必要がありますね。それから4NQOが直接にアミノ酸の化学結合を切るというより4NQOが附くことによって、細胞内のプロナーゼ活性のようなものがひき起こされるとも考えられますね。
[難波]アミノ酸とアミノ酸の間が切れるのですか。アミノ酸とDNAの間が切れるのですか。
[梅田]SH基の問題はありませんか。
[吉田]ヒストンとは関係ありませんか。又リンカー間のDNAの長さはどの位ですか。
[安藤]ヒストンはありません。DNAは5x10の8乗の長さに切れます。
[永井]プロナーゼは無差別に蛋白を切りますから、他の色々な蛋白分解酵素で特異的な所を切るかどうか、調べてみる必要もありますね。
[松村]プロナーゼが切ったということだけで、リンカーとしてのアミノ酸があると簡単に言い切ってよいものでしょうか。プロナーゼで切ってしまうと細胞を殺してしまいますから、そういう形でDNAが切れていると考えられませんか。
[勝田]若しアミノ酸が切られているとすると、DNAの修復はどういう形で行っていると考えますか。
[野瀬]必ずしも縦につなげるリンカーと考えなくても、DNAの束をたばねる形の蛋白かも知れません。
[堀川]リンカーとして説明する事は易しいのですが、まだ色々と問題はありますね。
[永井]4NQOとリンカーとの関係は、4NQOがプロナーゼ処理の時と同じ大きさにDNAをきるという一点だけですね。リンカーがあるというのは、うなずけますが、4NQOとリンカーとの関係は、まだはっきりしているとは言えませんね。
[勝田]4NQOで処理した場合、ヒストンは切れますか。
[安藤]ヒストンの問題は塩濃度を変えることによって除外出来ますから、この場合考えなくてよいと思います。
[梅田]アルカリの方はやってみましたか。
[安藤]やってみたいと思っていますが、技術的に大変難しいのです。どうしたら信用できるデータが出せるか問題です。リンカーの事は今までも大勢の人が問題にしながら、結論が出ないまま、過ぎてきたことなので、十分慎重にやりたいと考えています。
[梅田]二重鎖の場合の切断がバラバラにならないでピークになるということの理由は、少なくとも説明できますね。
[吉田]化学発癌剤が細胞をアタックする場合、細胞の中へ入ってライソザイムを壊すのでしょうか。
[安藤]4NQOの場合ラジカルが出来て、ラジカルを生ずるものが発癌性があるとされています。松村さんの協力で、アンチラジカルを使うとDNA切断を抑える事が出来るかどうか実験を計画中です。
《山田報告》
今月も引続き、細胞表面の抗原抗体反応を細胞電気泳動法により測定する方法を基礎的に検索し、直接培養細胞を使って居ませんので、その実験成績を簡単に書きます。
同種抗体(血清中)の検索に引続き、免疫物質を産生すると云われている感作脾リンパ球様細胞とtarget
cellとしてのAH62F(ラット腹水肝癌)とを直接接触させた後の、癌細胞の変化を細胞電気泳動法により検索しました。AH62F
1,000万個 I.P.移植後(ラット)5〜6日目に脾摘出し、前報で書いた様に脾細胞浮遊液を製作。AH62F
200万個に対し感作脾細胞4,000万個(20倍)を混合し、これに正常ラット血清(自然抗体を吸収したもの)0.5mlたしたもの、そして細胞を同様に混合した後に、56℃30分非働化した正常ラット血清を加へたもの、更に脾細胞とAH62FをそれぞれTwin
tubeの片方づつに入れ、血清を含む上澄のみが、Twin
tubeの窓に挿入されたミリポアフィルター(孔径0.45μ)を通して交通させる様にした、3つの組合せの細胞群を同一条件で37℃、30分、Slow
agitationした。其の後Slowの遠沈により可及的にAH62Fのみをそれぞれ集めて、その細胞の電気泳動度を10mMのカルシウムを含むM/10ヴェロナール緩衝液中にて測定した。それぞれの平均泳動値及び、その測定標準誤差を表に示します。(表を呈示)
非活性の血清を加へたもの、及びTwin tubeで細胞間を分離したものをそれぞれ対照として活性血清を加へて脾細胞とAH62Fと接触させた場合の電気泳動度の差は、感作脾細胞との接触によりAH62Fの泳動度は有意の差を持って低下してゐますが、正常ラット脾細胞との接触ではこの変化が起りません。
この変化は感作された脾細胞の表面に存在する抗体がAH62Fと接触することにより、その表面の抗原と反応して起きたものと考へます。しかもこの反応は補体或ひは正常血清に含まれる何かの物質を必要とすると考へられます。
従来細胞結合抗体は補体を必要としないと考へられて居ますが、この実験成績のごとく接触30分後の変化を測定観察してゐる様な成績の報告はありませんので、この反応の補体の意義についてはなほ不明な点が多く、或ひはこの実験で検出される変化は従来知られて居る細胞結合抗体と同じものかどうかわかりません。少くとも細胞電気泳動法では移植後3〜7日目の血清には流血中に抗体は検出されません。
:質疑応答:
[山田]細胞性抗体というものについて、どう考えますかね。
[藤井]細胞性免疫というのは、フモラールな抗体が細胞表面に附着することだとされていますね。
[安村]免疫と一口に言っても病気の場合にもいろいろありますね。血清抗体で話がつかなくて、リンパ球を移すことによってプロテクト出来るものもありますしね。
[勝田]マウスとかラッテ由来の培養細胞の場合、同種の血清が細胞の増殖を阻害することがあります。補体の問題以外に血清自身の細胞に対する影響も考えておく必要がありますね。脾臓からリンパ球をとるのはどうしていますか。リンパ球だけと言えますか。
[山田]脾臓をつぶして、ガーゼで濾過して小さなものを選んでいます。リンホイドcellであって、リンパ球だけではありません。
《安村報告》
☆ラット肝細胞の初代培養からのクローン化の試み(つづき):
月報No.7003に“これまで得られた結果はかんばしくありません。Cloneがとれそうでいま一歩のところで足ぶみ状態というところです”と書きました。また討論のところで“試験管の方は増殖してくれませんでした”と答えました。
3月ごろまでの経過では、それぞれの系Hepro-1,2,3,4ともシャーレにまいた細胞は増殖をつづけてきたのにどういうわけでか、コロニーの中心部からnecrosisにかかり継代が困難になってきたところでした。“かんばしくありません”と書いたときはもはや継代が絶望的であると判断したために、そう報告したのでした。そのご、九死に一生というわけか、待てば海路の日よりというか、Hepro-4-1の一部分(それも、すべてシャーレにまいたあとシケンカンの残りカスに培養液を加えておいたもの)が(試験管に残っていた部分)が増殖をはじめてきたのに気付きました。
6月11日になって思いきってトリプシン消化後その細胞をシャーレにまいてみました。予期に反して(たいへんさいわいなことに)よく増殖して再びコロニーを作ってくれました。なんと昨年10月4日以来実に8か月ぶりということです。これから順調に増殖してくれることを望んでいます。細胞形態は初代の上皮性の形態とかわっていないようです。しかしいまのところ形態以外に肝実質細胞であるという証明はなされていません。
細胞数の絶対的な不足のため、具体的な実験がまだくめない状況です。いづれ細胞増殖が進んでから報告できると希望をもっています。希望だけに終らないようにしたいと希望しています。
細胞集団の中には2核の細胞やら、細胞の大小があります。これはin
vivoでも肝に普通にみられるそうですから気にすることはないと思っています。分裂像も100xの一視野に多いところでは3〜4コもみられます。細胞質内に顆粒が多い。
:質疑応答:
[山田]昔、佐々木研の井坂氏が、動物継代のラッテ腹水肝癌の肝癌島の中にセンイが見られると言ったことがありましたね。
[三宅]本当のセンイかどうかは銀で染めて見ればすぐ分かります。
[高岡]岡山の株にしても、安村先生のクローンにしても1コから増やしたものが、染色体の面からみても、形態的にみてもずい分バラツキがあるのですね。
[安村]肝細胞の場合には、正常でも2核や何かがあります。染色体数の分布も、2倍体は60%位です。
【勝田班月報・7008】
《勝田報告》
肝癌AH-7974細胞の毒性代謝物質(続報)
ラッテ肝癌細胞が正常ラッテ肝細胞の生残乃至増殖を阻害するような毒性代謝物質を放出することをさきにparabiotic
cultureで見出し、その毒性代謝物質の本態を追究してきたが、今回さらに同じ方法で培地を分劃したところ、図のようにピークが二つになってしまった。そこでこれらを(図を呈示)2及び3と命名し、肝細胞の培養培地に添加した結果、(図を呈示)2も3も両方とも増殖阻害を示したが、これは両方のピークが相接しているため、阻害物質がどちらかに混在したということも考えられる。
そこで分劃2及び3をさらに再分劃して行った(図を呈示)。図に示すように2及び3について夫々(1)、(2)、(3)、(4)の分劃を得たので、まずその内の2の(1)、(2)、(4)について阻害効果をしらべてみることにした。
それらの生物活性については、まず2についてしらべた結果(図を呈示)、Dowex50(H+)のカラムで吸着されない分劃では、(3)、(4)ともに阻害効果が現れず(2)分劃はまだしらべていないが(微量のため)、(1)の分劃では図のようにはっきり阻害効果が示された。
これらはさらに分劃検討されなければならないので、今后の研究成果をお待ち頂くことになる。(分劃方法の図を呈示)
《難波報告》
N-23:ラット肝に由来するクローン化した上皮性細胞の4NQOによる発癌
以前に、RLN-E7系の培養ラット肝細胞の4NQOによる試験管内発癌を報告した。しかし、この発癌実験に使用した細胞はクローン化したものではなかったので、試験管内発癌の現象を解釈する上に、いろいろの問題を残した。その問題の第一は[発癌の淘汰説]である。 そこで、この問題を解決するために、3系のクローン化したラット肝に由来する上皮性の形態を示す培養細胞を4NQOによって悪性変化させることを試み、現在まで2系が癌化したので報告する。使用した細胞はRLN-E7から、月報6909に記した方法でクローン化したものである。クローニングの成績は月報7001に報告した。そして、その動物復元実験の中間報告は月報7004に記した。現在までに動物に腫瘍をつくるようになったものは、LC-2とLC-10との2系である。細胞の復元は生後48時間以内のラット腹腔に行ない6ケ月観察した。現在までに“take"された動物の4NQO処理条件、培養経過などをまとめた(表を呈示)。LC-2、LC-10系の4NQO処理を行った細胞を復元した動物は死にそうになった時期に剖検した。そして血清腹水中に浮游する癌細胞を再培養した。剖検の成績は表にまとめた(表を呈示)。
N-24:ラット肝に由来するクローン化した上皮性細胞に対する4NQOの影響
−4NQOは細胞の増殖を促進するか−(月報7007続き)
現在、4NQOの発癌実験に使用している3系(LC-2、LC-9、LC-10)の細胞を使用し、これらの4NQO処理を受けた細胞と、4NQO非処理細胞との間に増殖率の違いがあるかどうかを検討した(同型培養による)。使用した細胞は表にまとめた(表を呈示)。その結果、対照細胞の増殖に比べ、4NQOの処理を受けた細胞の増殖はいづれに於ても特別に促進されなかった。
《佐藤報告》
◇DABによる発癌実験:
長い間御無沙汰しました。7月1日学生部長を辞任し目下研究の整備に全力をあげています。発癌実験に関しては差当り46年4月医学会総会シンポジウム[細胞のTransformatinと癌化]の中で“DABによるTransformation"を受持っていますので、此に焦点をあわせて実験を行います。実験材料としては以下の肝細胞を利用する。
1)B2 line:Donryu系、生後7日♂2匹よりtrypsinizationにより、CO2中でコロニーを造らせ、上皮性のコロニーを分離培養、現在総培養日数719日になっていますが、diploid
26%を含むnear diploid系です。実験には9代で凍結したものを恢復させています。凍結期間540日、現在培養日数179日。
2)C-1-E line:Donryu系、生後7日♂1匹よりtrypsinizationによりCO2中でコロニーを造らせ、上皮性のコロニーを撰んだもの。5代培養日数73日より閉鎖系培養、11代、140日でdiploid
82%、現在培養日数207日。
3)7057 line:Donryu系、生後5日♂より回転培養。現在3代、培養日数83日。
4)E-7 line:Donryu系、生後5日♂3匹より回転培養。ナンバ君が、4NQOで発癌させた系ですが、現在、11代で凍結させてあったものから恢復させました。凍結期間909日、現在12代、培養日数245日。
以上は培養日数が比較的短く且controlとして取扱い易いことを目標としました。
生体における発癌実験で、発癌剤と溶剤の関係が論ぜられています。従来のDAB発癌実験ではTween20を使用しましたが、今回はethylalcohol、dimethylsulfoxide、propyrenglycolも用意しました。DAB(Merk)の各溶剤への最大溶解量、各溶剤の変性等目下検索中です。
《高木報告》
腫瘍細胞と対照(正常)細胞との混合移植実験
混合移植実験を繰返し行って居る。用いた細胞は腫瘍細胞としてはこれまで同様RG-18、対照の正常細胞としては本年3月16日に培養を開始したWKA
rat肺由来の繊維芽様細胞株である。この正常細胞(RL細胞)についても、今日まで培養開始後約5ケ月を経ているので腫瘍形成能を調べているが、これは今回のdataには記載しない。出来る丈同腹のratを用いるように努力したが必ずしも思うにまかせなかった。
成績は表に示す通りである(表を呈示)。この結果から、やはり正常細胞は腫瘍細胞の腫瘍形成を促進している印象をうける。即ちRG-18・10ケの場合RG-18・10ケとRL・100万個の場合のみ2/3に腫瘍を生じている。また、RG-18だけの移植では100個で2/8に48日目に腫瘍を生じているのに対し、RG-18・100個にRLを100,000個、10,000個、1,000個とまぜると、すべて28〜33日目に腫瘍を生じている。
《山田報告》
新しく医科研で樹立されたラット腎細胞の電気泳動度を測定しました(図を呈示)。
電気泳動的な性質からみると、この株は比較的均一です。やや大型なこの細胞の平均泳動度は遅く、ふんわりと動く感じです。シアリダーゼ処理(濃度の条件は従来通り)をすると、-0.175μ/sec/v/cm泳動度が低下し、10mMカルシウム添加メヂウム内で泳動度を測定すると、-0.394μ/sec/v/cmも低下していました。上皮性細胞の性質をよく示して居ます。
腎細胞の電気泳動度についての測定は、これが始めてですので、この成績の意味づけはまだ出来ません。(この株は1回だけ4NQOで処理してあるそうです。)
これから種々の発癌剤を作用させた後の変化を追ってみたいと思って居ります。この株の良い所は比較的細胞が均一であることです。しかし曾てのラット肝細胞RLC-10程の均一性はありません。
最近これまでの培養ラット肝細胞の電気泳動的な性質についての成績をまとめてみようと思い整理しています。従来の成績でたりないものを追加実験してゐます。その成績を一部報告します。
CulbTC株:以前RLT-2(CQ40)について調べましたが、この株のラット復元再培養株(CulbTC)についてみますと、Culaと同様悪性腫瘍型の流動パターンを示してゐます。(特に新しい知見ではありません。Cula株の成績から当然推定出来るわけです)
CQ60株:その後のCQ60株を調べましたが、昨年癌学会発表当時の状態と大きな差がありません。幾分細胞構成が揃って来てゐる様子があります。この株のpopulation
analysisを現在行って居ます。(図を呈示)
《安藤報告》
L・P3 DNAの蛋白分解作用に対する感受性について
(1)Trypsinによる分解
月報7004以来報告して来たように蔗糖密度勾配法によりL・P3
DNAは、プロナーゼ処理により低分子化を受けた。今回は塩基性アミノ酸に特異性を持つトリプシンによる低分子化を調べた。実験法はPronaseの場合と同様に、密度勾配層とSDS層に共にTrypsinを加えておき、細胞を破壊し遠心を行った。(図を呈示)結果は図に見られるようにPronaseの場合と同様に、Trypsin濃度を上げて行くにつれて低分子化が起っていた。しかも低分子化は50μg/mlの濃度で最大となり、それ以上の低分子化は起らなかった。
(2)2-Mercaptoethanol(ME)による分解
Pronase、Trypsinにより明らかとなったDNAの結合蛋白に、もしもS-S結合を含んでいるとしたら、MEにより低分子化その他の影響を受ける筈である。この点を次に調べてみた。
MEをSDS、蔗糖の両層に20mM、100mMを加えて、細胞を処理し、遠心をしてみた所、同様なDNAの低分子化が観察された。低分子化は20mMで充分であり、ME濃度を上げても変らなかった。この事からDNAの結合蛋白はS-S結合を含み、そのDNAとの関係は次の構造モデルで表されるようなものではないだろうか(図を呈示)。
現在迄に得られたデータを綜合すると上のような二つのモデルが考えられる。すなわち、L・P3のクロマチンの中でca
5x10の8乗〜10x10の8乗ダルトンの大きさのDNAが10の6乗〜10の7乗ダルトンの蛋白分子によりS-S結合を以って連結されている。これ等の分子間結合はcovalentであると思われる。何故ならばイオン結合をしているヒストンは完全に解離してしまっている。このDNA蛋白複合体の分子量が2x10の10乗-3x10の10乗ダルトンの巨大分子である。なお4NQO処理を受けた場合DNAの一重鎖と同時にこの蛋白に作用し、見かけ上の一重鎖切断を起していた事になる。
《梅田報告》
(1)前回の班会議でのべたN#34J(月報7007)について、その后cloningして培養を続けているので報告する。4つのcloneをとってJ1、J2、J3、J4とcodeした。J1、J4はgrowthが良く、J2、J3はややslow-growingであった(図を呈示)。形態的にはJ1、J3は細胞質がやや広がった紡錘形を示していた。染色体数の分布を調べると、J1のcloning后6代目で42本に、J2は7代目で43本、J3は6代目で既に広い分布を、J4は5代目で43本にmodeがあった(表を呈示)。その后J1、J3をrapid-and
slow-growingの代表として継代を続け、J2、J4はfreezing
stockした。ところがJ3がやや増殖が早くなり、形態的にもJ1と似てきた。
(2)今迄之等の系では、長期継代可能になったと思われるのに、soft
agar中でcolony形成なく、hamsterの頬袋に移植しても“take"されなかった。そこでJ1の細胞に4NQOを投与してみた。controlとして月報7007で報告した系のcontrol細胞に同じく4NQOを投与した。4NQO
10-5.5乗M培地を2日間入れ放しにしてその后、control培地に戻してnon-treatedのものと対比したが、処理後40〜50日迄は処理群無処理群共に増殖に差はなく、形態的にも変化なかった。その后やや4NQO処理群の方が、J1細胞、N#29
cotrol細胞共に増殖が早くなった様であるが、著しい変化はない。(表を呈示)
(3)之等の細胞についてsoft agar中でのcolony
formationをcheckしてみた。相変らずcolony形成は認められずと云った方が良いのかも知れないが、J3の細胞が培養2週間后倒立顕微鏡でcheckした所、少くとも4〜5ケの細胞からなる小colony?を作っている様な感じであった。今后のJ3の細胞のKineticsを調べたらと思っている(表を呈示)。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(24)
4-HAQO処理によって誘発される細胞内DNA一本鎖切断の再結合機構を検索する目的から、これまでに熱処理から始まって種々の化学薬剤で前処理、または後処理した時の切断DNAの再結合の動態を検討してきた。又、これらはこれまでの月報で順次説明してきた。
今回はActinomycinS3の影響も含めて、一応のデータが出そろったので、これまでの結果を総括して考察してみたい。
これらの結果を要約して表に示す。4-HAQOのみで処理した後、24時間におけるEhrlich細胞の正常DNA合成能を1、又、その時の細胞の有する切断DNAの再結合能を100として、熱又は各種化学薬剤で処理した場合の影響をまとめてある。これまで機会あるごとに説明してきたように、これらの表から総括して言えることは、熱処理、またはhydroxyurea処理は4-HAQO処理細胞の正常DNA合成を特異的に抑えるにもかかわらず、こうした条件下でも切断一本鎖DNAの再結合は可能である。
一方Puromycin処理では正常DNA合成能はそれ程までに抑えないいもかかわらず、切断DNAの再結合を殆んど不可能にしている。また、ActinomycinS3処理はこれらの中間的なeffectを示していることが分かる。
こうした結果はとりも直さず、正常DNA合成に関与する酵素系と、修復DNA合成に関与する酵素系はまったく異なったものであることを強く示唆するものと思われる。
又、こうした実験結果はいづれも結論を導くのに間接的な証明としてしか存在意義がないため、現在こうした結論を導き得るための直接的な実験systemを検討中である。
【勝田班月報・7009】
《勝田報告》
§ラッテ肝癌AH-7974細胞の毒性代謝物質についての研究続報:
前号月報に分劃2-1が顕著な阻害効果を示すと報告したが、その分劃を各種の培養培地に添加し、増殖に対する影響をしらべてみた(表を呈示)。
以上の実験においては、いずれも平型回転管を用い、静置培養によった。培地は、CS-LD培地80%に2-1分劃を20%に加えた。添加2日後に細胞を固定染色して検鏡して判定した。 RLC-10(凍)というのは、ラッテ正常肝由来の株であるが、継代の途中で凍結保存(1969-7-2)し、それから戻した株である。継代をつずけた系では、RLC-10(B)のように自然発癌をおこしてしまったが、凍結系を1970-5-6に融解し、TD-40瓶で培養していたところ、7-22に至り、瓶内にコロニーが3コ発見され、これらは別個に釣って、目下その性状を検索中であるが、コロニー以外の細胞をあつめて実験に供したのが上記の結果である。
なおなお上記3コのコロニーの染色体数については、#を附して記載すると、#1は未検索、#2は43本、#3は42本にモードを有していた。
これらの結果によると、癌化した細胞(RLC-10(B)、RLT-1、RLT-6、CuleTC、AH-66TC、AH-7974TC、RLG-1に対しては、2-1は阻害を示さないが、正常ラッテ肝由来RLC-10(凍)の培養に対しては、阻害を示すことが明らかにされた。
《難波報告》
N-25:ラット肝に由来するクローン化した上皮性細胞の4NQOによる発癌
月報7008のN-23に4NQO処理によって動物に“take"するようになったクローン化したラット肝細胞(LC-2、LC-10)の実験成績を示した。それ以後、更にLC-2系の細胞が発癌したので、その成績を追加する。(表を呈示) この成績から、LC-2系の細胞を試験管内で4NQOで癌化させる場合次のことが結論される。
1)細胞の癌化には、10-6乗M 4NQO 1hr処理2回で十分であった。しかし、この場合動物に移植した場合生じる腫瘍の増殖は遅かった。
2)10-6乗M 4NQO処理のくり返しを増すことによって、動物の生存日数は短くなる。この4NQOのくり返し処理は、(1)癌化した細胞の数を増したのか(この悪性細胞数の増加の原因は目下不明であるが、4NQOのくり返し処理がより多くの悪性変異した細胞をつくったのか、4NQOのくり返し処理がすでに4NQOで悪性化した細胞の選択的増殖に有利に働いたのか、又は自然発癌した細胞の選択的増殖に有利に働いたのか、などの理由が考えられる)。(2)癌化した細胞の悪性度(動物の生存日数を一応癌細胞の示す悪性度と仮定して)を増大させたのか。(3)或は、4NQOのくり返し処理が効いたのではなくて、それだけの培養日数が効いたのか。などの問題点が残る。現在(3)点については、4NQOの処理の少いもの(5、10、15回)を更に培養を続け少なくとも20回処理した細胞の培養日数を経過した時点で、細胞を動物に復元し、その動物の生存日数を観察中である。
3)株化したラット肝細胞をクローン化し、4NQO処理を行い細胞を動物に復元するい要する日数は、だいたい3ケ月(LC-2では82日、LC-10では93日)であった。この事実から考えられることは、上記の実験計画に従えば、試験管内発癌の仕事がかなり定量的に行える可能性があるように思われる。
N-26:発癌した2系(LC-2、LC-10)発癌に至るまでの細胞の累積増殖曲線
1)LC-2の累積増殖曲線(図を呈示)
実験を単個細胞から開始しているので、累積増殖曲線から復元時に細胞が何回分裂したか推測可能である。図に示しているように、LC-2の対照細胞は復元時までにだいたい33〜34回分裂した計算になる。4NQO処理を行った2系(10-6乗M、1hr、2回のものと、3.3x10-6乗M、1hr、2回のもの)では、薬剤処理による死亡細胞数が正確に把握できないので、分裂回数を計算できない。しかし、月報7005のN-19、7008のN-24などの事実、即ち(1)4NQO処理時の細胞障害は、細胞数が多い場合には軽度である。(2)4NQO処理は細胞の増殖を誘導しない、などの点より4NQO処理を行った2系の分裂回数も対照細胞のそれに近いと考えられる。又、10-6乗M、1hr、2回処理後から復元までの分裂回数は6〜7回程度と計算される。
この図の中の3.3x10-6M、1hr、2回処理のものは発癌しなかった。なお移植動物の観察は、細胞復元接種後6ケ月間行なった。
2)LC-10の累積増殖曲線(図を呈示)
LC-10の場合もLC-2とほぼ同じ計算になる。即ち、対照細胞と4NQO処理細胞との分裂回数はほぼ等しく33〜34回で、4NQO処理後の細胞分裂はだいたい8回になった。
《山田報告》
今年の春に、4NQO処理したRLH-5・P3株の抗原性の変化について検索して、No,7003号にその結果を報告しましたが、今回は更にこの検索を進めてみました。即ちJAR-2ラットにRLH-5・P3の変異株HQ1Bを1,500万個移植した後、19日目に採血し、その血清中に含まれるhomo-antibodyを用いて、HQ1Bの抗原性と、その原株の(RLH-5・P3)抗原性との差を追求してみました。方法としては、抗血清或いは正常血清0.5ml、補体0.1ml、細胞200万個/0.5ml、Tris-HCl緩衝液(pH7.0)1ml+CaCl2を→37℃、30分静置→2回生食にて洗滌したものを、1.0mMCaCl2を含むヴェロナール緩衝液内にて泳動させ、その細胞電気泳動度を測定しました。
まず抗HQ1B血清のtarget cell(HQ1B)に対する反応、及びこの抗血清に、同量のRLH-5・P3株を加えて吸収した後に細胞を捨て、上澄の吸収抗血清を用いました。補体比活性化は56℃
30分熱処理により行い、対象としてはJAR-2の正常血清を用いて、それぞれのHQ1B細胞の電気泳動度に対する影響を検索しました。(表を呈示)
target cellに対して抗血清はよく反応し、その泳動度を低下させますが、RLH-5・P3細胞で吸収した血清との反応は、前者の約1/2弱にまで、少くなりました。即ち、HQ1B株とそのoriginal株であるRLH-5・P3株には共通抗原があることがわかります。同一条件で正常血清と反応させると、HQ1Bの泳動度の低下は全くみられず、むしろ増加しました。
次に抗HQ1B血清を原株RLH-5・P3に反応させた所以下の結果を得ました(表を呈示)。
抗HQ1B血清はRLH-5・P3の泳動度も低下させますが、target
cellとの反応にくらべて、かなり弱く、正常血清と抗血清との反応を比較した成績からみると、前の実験と同様に抗HQ血清のRLH-5・P3に対する反応は、HQ1Bに対する反応の約半分であることがわかりました。
即ち大まかにみると、この成績は、『HQ1Bの抗原性の約半分或いはそれ以上が原株RLH-5・P3と共通抗原であり、その残りに原株にはない抗原性が変異により出現しているのではないか』と云う推定を可能にさせます。
細胞電気泳動法による抗原性の分析は今回が初めてですので、細かい検討が更に必要と思います。
《安藤報告》
(1)Pronase処理のL・P3DNAの分子量の測定
これまでの月報で報告して来たL・P3DNAのプロナーゼ処理後の単位DNAの大きさを今回厳密に測定したので報告する。
プロナーゼ存在下にL・P3細胞とP32-λDNAを蔗糖密度勾配遠心にかけた。第1図(a)は10℃、30,000rpm、2時間の遠心、(b)は1.5時間遠心を行ったものである。(a)の場合λDNAは半分くらいhalf
moleculeになっていた。図からλDNAのS20W=33Sとすると、L・P3DNAのS20W=110S(aより)、130S(bより)となる。(a)の場合は殆どL・P3DNAは底に沈んでいるので、(b)よりのデータ130Sを取る。次に同じくプロナーゼ存在下に種々の細胞数、すなわちDNA量のサンプルを遠心する。第2図に見られるように細胞数が多い程沈降速度は遅くなる。この際、第1図において用いた細胞数は第2図の黒丸のそれに相当する。したがって第2図の黒丸のピークを130Sとして白丸、三角ピークのS値を計算する。D1を1.0、130Sとすると、D2=163S、D3=187Sとなる。これ等のS値を与えた時のDNA濃度を横軸にS値を縦軸にプロットすると第3図のようになる。第3図、でDNA濃度を0にまで外插した時のS値を求めると195Sとなる。したがって、プロナーゼ処理後のDNAの沈降定数は195Sと決定された。次にこの沈降定数から式に従って分子量を計算する。M=4.26x10の9乗ダルトンとなった。
(2)プロナーゼ処理前のL・P3DNAの分子量の測定
プロナーゼ処理前の自然のL・P3DNAの沈降定数をP32-λファージを指標として求めた。
第4図に見られるようにファージの位置よりもやや遅い程度で、ファージのS20W=410SとするとL・P3DNAのそれは340Sであった。次に第5図で再びSの濃度依存性を調べた所、図のように明らかであった。第4図で使用した細胞数は第5図での白丸ピークに相当する。したがって、その沈降位置から他の二つのピークの沈降定数も求める。それぞれ272S(黒丸)、370S(三角)であった。これ等の値を第6図のようにプロット、外插してS20W=410Sが得られた。再びこれから式に当てはめ分子量を出した。M=3.98x10の10乗ダルトンであった。
前記のプロナーゼL・P3DNAの分子量と比較すると、ほぼ1/10となっている事がわかる。
《安村報告》
☆ラット肝細胞の初代培養からのクローン化の試み(つづき):
月報No.7007に記載したHepro4-1が、増殖のきざしが見えはじめました。細胞形態からは実質細胞であろうと確信しているのですが、実質細胞である確証はありません。
実質細胞としてなんらかの分化機能が維持されているとすれば、それが発癌(癌化といった方がよいかも知れない)とco-variationがあるか?
そのようなことを将来計画として頭に画きながら、まずこのHepro4-1細胞が肝実質細胞であろうかとの証明の一端にとりくんでみた。
Coonが述べているところでは、実質細胞の証明として、1)radio-immuno-electrophore-sisによって、肝細胞の産生するnormal
Serum antigensの検出、2)肝細胞に特有なenzymeactivitiesの証明、3)胆汁の産生、4)グリコーゲンの代謝等の項目をあげている。これらのなかでCoonは彼の初代分離クローン(ラット肝細胞クローン)は、数種のSerum
antigenを産生し、なお2つの肝酵素GPT(glutamic
pyruvic transaminase)、GOT(glutamic oxalacetictransaminase)のactivityを示していると報告している。
1.以上のことをふまえて、Hepro4-1クローンについて、まずGPT、GOPのassayを行なった。対照は滝沢肉腫細胞株FRUKTO、実験は2回おこなわれたが、Hepro4-1はGPT−、GOP+。FRUKTOは何れも−であった。わずかにGOTの活性が、Hepro4-1にみとめられたが、GOTはGPTにくらべて肝特異の活性は低いので、このかぎりではHepro4-1の肝特異性の有無は確証とはほど遠い。
2.ついで肝特異性酵素としてこれまで知られているうち、もっとも信頼されている(G.Sato)きわめつきの酵素のOTC(Ornithine
transcarbamylase)のassayを小口、丹羽両博士の協力によって行なった。(Archibaldの方法による)。Hapro4-1の継代を追って3回の実験がそれぞれ行なわれたが、代表例として最高値を示した結果は(もちろん対照のFRUKTOはOTC(-)であった。)
OTC specific activity(μmoles of citrulline)/mg
protein/10min.は、<0.005であった。このかぎりではラッテ肝そのもののactivityと約10-3乗のひらきがあって、Hepro4-1が肝実質細胞でないということはできないが、であるとの積極的に主張するには根拠が弱い。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(25)
前回の班会議の際一部報告し、その後月報では紹介する機会がないままになっていたX線と4-NQO又はその誘導体処理による細胞内DNA障害とその修復機構の類似性および差異を検討する為に行った実験結果をここで紹介する。
種々の線量のX線あるいは各種濃度の4-NQOとその誘導体で処理(30分間)した直後の細胞を、alkaline
sucrose gradientにかけて遠心し、得られたsedimentation
profileをもとにBurzi and Hersheyの式に基いて分子量(MW)を計算し、秤量または濃度に対するSingle
strand DNAのMWあるいはDNA分子あたりのsinglestrand
breaksno数をプロットしたものが図1と図2である(図を呈示)。これらの図から分かる様にX線の場合は照射線量に依存してMWは減少し、DNA分子当りのbreak数は増加する。一方4-NQO又は4-HAQO処理の場合には、或る濃度まで変化は認められず、それ以上の濃度になって始めてMWの減少とDNA分子当たりのbreak数の増加が見られる。こう言った点は、両者のsingle
strand breaks誘発に関しての大きな違いであると共に、両図から分かるようにDNA分子量の減少はDNA分子当りのbreak数の増加に依存していることがわかる。
同様の方法でX線照射直後または4-NQOあるいは4-HAQO処理(30分間)直後のDNAをneutralsucrose
gradientで解析し、線量又は濃度に対するdouble
strand DNAの分子量の減少と、DNA分子あたりのdoubule
strand breaksの数の増加をプロットしたのが図3と図4である。
これらの図から分かるように、X線の場合は線量に依存してdouble
strand breaksは誘発され、しかもこれらのdouble
strand breaksはsingle strand breaksを誘発出来る線量の約10倍の線量を必要とすることが分かる。還元すれば、同一線量を照射した時にはsingle
strand breaksはdouble strand breaksの10倍も多く誘発されることになる。(ちなみに、single
strand break数の線量に対する増加をSSBで示した。)
一方、4-NQO又は4-HAQOで誘発されるdouble
strand DNAのMWの減少とbreak数の増加は図2で示したsingle
strand DNAの場合と殆ど同様の傾向を示すが、興味あることは、single
strand greaksに比べて、double strand breaksの方が低濃度領域においてinduceされると言うことであり、このことはX線inducedの場合とは全く異なった現象であり、同時に安藤さん達が考えておられる4-NQOのアタックするDNAモデル等と合わせて考察する時、非常に重要な問題を提起していると思われる。(参考のために図4中には図2から得たsingle
strandbreaksの誘発を示す直線をSSBで示した。)
(尚、図2中の丸印で示したものはmain peak以外に現われたsub-peakの1/MW又はbreak数を同時に記入したものである。)
【勝田班月報:7010:各種細胞系への発癌剤処理実験】
《勝田報告》
肝癌AH-7974細胞の毒性代謝物質について:
この物質の本態を解明するため種々の生化学的方法でこれまで検索し、前月号の月報にも中間報告をしたが、その報告をくりかえすと共に、その先の研究成果も説明した。
前々月号にG-25のSephadexで分劃した#35〜#38の分劃をさらにSephadexG-15で分劃すると、II及びIIIという大きなpeaksが現われ、その両者とも正常ラッテ肝細胞の増殖を阻害すると記載したが、IIIについてはさらにそれをDowex50で分析するには至らなかった。
今回はこれを試み、(図を呈示)III-3の分劃がもっとも増殖を阻害することが明らかとなった。IIの方ではII-1が最も有害であったのに対して、これは意外な結果であったが、生物現象というものは、同じことを何回もくりかえしてみなければ何とも云えないという原則にしたがうつもりである。
:質疑応答:
[堀川]各分劃の濃度はどうやって決めていますか。乾燥重量で一定の%にしたのか、N量として一定にしたのか・・・。
[高岡]まだ物質として精製されていませんので、一番単純に分劃前の全部の活性が各々の分劃に集中したと考えて、容量での%です。ですから乾燥重量或いはN量としては一定になっていません。
[吉田]初代培養の細胞に対する影響は調べてありますか。
[堀川]対照としてもっと幅広くの細胞を調べてほしいですね。その上で同じ肝由来の細胞でも悪性化した系はやられないのだという結論がはっきり出たりすると、とても面白いですね。同じ癌でもヘテロに影響がありますか。
[勝田]なぎさ培養で変異した系についても調べてみたいと考えています。また癌細胞の方もAH-66ではどうか、AH-130は同じものをだしているかどうか。また人肝癌では・・・と、やらねばならないことは沢山あります。しかし今は先ずこの物質同定が先決問題だと思います。
[藤井]形態変化を起こすまでの日数はどの位ですか。
[勝田]今お見せしたのは、全部添加後2日の標本です。それでもう変化が起こっているのですから、かなりの毒性です。
[山田]トキソホルモンとはどう関係があるでしょうか。
[勝田]癌細胞が材料になっているという点は共通ですが、根本的にちがう点は、トキソホルモンは細胞をすりつぶして抽出しています。我々の物は試験管内で細胞がよく増殖して代謝が盛んでないと、出て来ない産物だという点です。
[永井]物が何かという仕事も大体いい線まで行っていて、有毒ペプチドのようです。
[勝田]だんだん大量に材料が要ることになって、培地を集めるのが仲々大変です。
[山田]腹水肝癌の腹水中には出ていませんか。腹水なら大量に集めるのは簡単です。
[勝田]腹水では蛋白性のいろんな物が混じっていますから、分劃が大変ですよ。我々の場合も始めは培地にラクトアルブミン水解物を使っていましたから、分劃してみたらピークが沢山出て追跡が難しくなりました。それからいろいろ培地を工夫して、今やっと単純な且つ増殖度の高い培地に辿りついた所なんですよ。
[堀川]こういう毒素のようなものを先ずアクセプトするのは細胞膜でしょうか。このものをAH-7974細胞で吸収すると、毒性が無くなりはしないでしょうか。
[山田]白血病の細胞なども出しているでしょうか。
[勝田]その他、マウスの癌の出しているものがラッテに効くかどうかなども問題ですね。どうも発癌機構をいくらやっても癌は治せないような気がしてね。この物を追う方が癌をやっつける道に近いと思います。
《難波報告》
N-27:培養内で4NQO処理によって悪性変異したラット肝に由来する上皮性細胞の動物復元によって生じた腫瘍の組織像(顕微鏡写真を呈示)
月報7008、7009に於いて、ラット肝に由来するクローン化した上皮性細胞(LC-2,LC-10の2系)の発癌成績を報告した。今回はその組織像を報告する。LC-2系の細胞によって生じた組織像は、分化した肝癌の形態を示している。この組織像から結論されることは、LC-2のクローンは肝細胞由来と考えられる。LC-10によって生じた腫瘍の組織像は未分化肝癌ではあるまいか。なお、このLC-2、LC-10系の細胞の4NQO処理条件、及び剖検の肉眼的所見は、月報7008に記した。
N-28:培養内で4NQOによって癌化したラット肝由来クローン細胞LC-10系の4NQO耐性の有無
3.3x10-6乗M 4NQO 1hr処理を2回行って癌化した細胞と、その4NQO非処理対照細胞との4NQO感受性の差をPEで比較した。4NQOの処理条件は10-8乗Mの4NQOを含む培地で1週間培養後、4NQOなしの培地で更に1週間培養し形成されたコロニー数を数えた。対照には、それらの4NQO処理悪性化細胞と、非処理細胞とを4NQOを含まぬ培地で、2週間培養して形成されるコロニー数をとった。その結果は(表を呈示)4NQOによって癌化したものに、やや耐性があるように思える。
◇DABによる発癌実験
ラット肝よりクローン化した上皮性細胞のLC-2は培養内で4NQO処理によって癌化し、動物復元で比較的分化した肝癌を形成した。そこで、この4NQO未処理対照細胞を使用してDABによる試験管内発癌を計画している。まず、その基礎的データを得る為に以下の2実験を行った。(1)種々の濃度のDABがLC-2系細胞の増殖に及ぼす影響。(2)LC-2細胞の培地中からのDAB消費能。
1)DAB濃度と細胞増殖との関係(図を呈示)は培養2日目に終濃度2.1、6.0、11.6、26.0μg/mlのDABを含む培地にかえ、培養5日目にそれぞれの細胞数を数えた。コントロールには、培地のみのものと、エタノールを1%含む培地(DAB
26.0μg/mlの培地中に、DABの溶媒として含まれるエタノール濃度)とで培養した。その結果11.6μg/mlDAB添加の培養より増殖がやや低下し、26μg/mlではコントロールに比べ増殖率が約50%阻害された。
2)上の実験で、添加したDABの3日間での培地中からの細胞による消費を調べた結果、LC-2細胞は、DAB濃度が17.4μg/1.5ml培地/33万個cellsの条件中で、添加したDABをほぼ100%消費することが分かった。
:質疑応答:
[山田]今の組織像はかなり分化した形の肝癌、モーリスの肝癌の組織像に似ていますね。それからクローン化された系では悪性化が早い、ということについて何か考えがありますか。
[難波]クローンだからというより、総培養日数が長い為だと考えられます。
[吉田]染色体の分析はしてありますか。
[難波]LC-2は3〜4倍体の辺にモードがあり、染色体数の分布はバラツイテいます。LC-10は41本にモードがあります。
[吉田]増殖度はどうですか。
[難波]LC-2とLC-10は同じ位の増殖率のようです。
[佐藤]DABの実験では昔やった実験に比べて、DABの濃度を濃くしても細胞が死なないのは、溶剤をアルコールに変えたせいだと思います。今のやり方だと3日間培養して20μg位消費できますから、ずっと手掛けてきたDAB消費の問題も何とか片付けられると思います。4NQOの実験では、クローンをとった時すでに総培養日数が600日だったということは問題があると思います。それから高濃度で処理したものが悪性化しなかったことについては、セレクトの問題があると考えています。4NQOの耐性については、処理時間を長くすると出来るようです。
[難波]4NQOに対する抵抗性は発癌とは関係がないようです。
[堀川]フィラデルフィアの山本氏の話では、HeLa細胞に仙台ウィルスを感染させたところ、4NQOに対する耐性が高まったと言っていました。ウィルスによる障害を修復しているうちに、細胞側の4NQOに対する抵抗性が強くなったと考えられます。
[下条]使ったウィルスがDNAウィルスだと、細胞のDNAにウィルスDNAが組み込まれたことで変化が起こったとも考えられますが、仙台ウィルスはRNAウィルスですから、細胞側の機構の変化だとはっきり言えるわけですね。
[堀川]しかし、ウィルスが一枚かむと事が難しくなりますね。私の経験では、ウィルス感染株のX線耐性が対照群の100倍にまで上がったことがあります。
[勝田]その場合、X線で壊されなくなるのでしょうか。或いは修復能力が高まるのでしょうか。
[難波]4NQO発癌の場合にも、潜在ウィルスの問題を考えなくてよいでしょうか。
[堀川]それを考えると、また難しくなってしまいますね。
[下条]ラベルしたウリジンを使ってウィルスの存在をかなり敏感にチェックすることが出来ますよ。
《高木報告》
1.腫瘍細胞と対照(正常)細胞との混合移植実験について
前報のその後の結果及び繰返し行った実験の結果(表を呈示)、RG-18細胞1,000コ接種ではRL細胞を100,000コ、10,000コ混じた時latent
periodが長くなるように思えたが、RG-18、56代目のものを用いて繰返し行った実験ではRG-18
1,000だけ接種した場合と殆ど変らないdataをえた。以上のdataからはRG-18
1,000コ接種でははっきりした差があるとは云えない。RG-18
100コではRL細胞を混じた方がlatent periodは短縮したと思われる。RG-18
10コではRL細胞100万個、10万個と数多く混じた方がRG-18単独より腫瘍の形成した動物においてlatent
periodは短かく思われたが、RL細胞10,000コ、1,000コ混じたものに腫瘍を作っていない点の解釈がむつかしい。
以上現在の処はっきりしたことが云えないが、これは用いたRG-10細胞の悪性度が(?)つよすぎるため1,000コではこれに混ずるRL細胞の影響をうけないと云うことも考えられる。また10コでは細胞数が少ないため、動物に接種する際の誤差が加ってdataにバラツキが出るとも思われる。従ってもう少し悪性度のよわい(?)細胞、つまり1,000コ位でやっと腫瘍を形成する位の細胞を用いた方がはっきりしたdataがえられるのかも知れない。
その外この実験の問題点として用いた細胞がcloningされていない点、移植する動物が全て同腹ではない点などがあげられる。
2.RT-10(rat thymus origin)細胞のPlating
efficiencyに及ぼす培地の影響
RT-10細胞を1,000コ、10,000コlevel Falcon
petridishにまいて、培地組成が細胞のPEに及ぼす影響をみた。すなわちconditioned
medium、Bactopeptone、牛血清濃度などのおよぼす影響である。
これまでのdataから牛血清20%群が10,000コ細胞数の時PEは最もよく、ついでconditioned
medium、Bactopepton 0.1%、牛血清10%がよかった。
ただ細胞数5,000コの時には後者の方が良い様な結果をえている。
牛血清濃度20%について、さらにBactopepton、conditioned
mediumなど検討の予定である。
3.その他
1)NG-24、NG-26の2実験をスタートしsoftagar内のcolony形成能をTumorigenicityについて時日の経過と共に追求している。
またNGを作用させる際の細胞数−NG濃度の関係をみるべく、細胞を10,000、50,000、100,000、200,000コinoculateして2月後に10-4乗MのNGをHanks液にとかして2時間作用せしめ、以後細胞の変性状況をみたが、この濃度では毒作用がつよすぎ6日後には殆ど全ての実験群の細胞は死滅した。
ただその間、細胞数による差異はみられ、10,000コでは作用せしめた翌日はすべての細胞はcell
roundingをおこしているのに対し、50,000コでは30〜40%、100,000コでは10%位、200,000コではごくわずかの細胞のroundingがみられた。さらにNGの濃度をおとして観察の予定である。
:質疑応答:
[吉田]両種の細胞を混ぜてすぐにラッテへ接種したのですか。
[滝井]そうです。
[吉田]この実験の狙いがよくわからないのですが、混ぜて培養してから接種するとどうなるでしょうか。
[勝田]混ぜて培養してしまうと、意味が変わってしまいます。この実験ではin
vitroで悪性化した細胞集団の中に、まだ悪性化しない細胞が残っていた場合、それが復元成績にどう影響するかを、人工的に正常:悪性の比率を変えて復元してみているわけです。
[安村]実験として同じ代数、同じ条件で比較出来ない処があって一寸解析が難しいのですが、全体をみわたしたイメージとしては、正常細胞を添加して復元するとtake率が良くなるようですね。
[佐藤]実験を始めた時の考えでは、正常細胞が交じっていることがラッテへのtakeを阻害しているのではないかということでしたが、これでは逆の結果が出たわけですね。悪性細胞が胸腺由来、正常細胞が肺油来ということから出た結果とは言えませんか。
[難波]再培養の系は悪性度が強くなっているので、in
vitroで悪性化した細胞の代表と言うには不適当だと思います。
[安村]今のところ、そんな事はかまいませんよ。10コで動物にtakeされる細胞というのは、なかなか貴重ですよ。
[堀川]私の興味としては、悪性化の経過を代を追って動物に復元してみて、どこでLD50がバンと上がるのかが見られないだろうかという所です。
[安村]考えとしては、誰しもそう思うのですが、実際問題として物すごく沢山の細胞が必要です。とてもとても・・・。
[下条]RG-18という細胞系は何か同定できるマーカーを持っていますか。
[勝田]マーカーとして広く使われているのは染色体ですね。
[吉田]ラッテの場合、正2倍体はどの位の期間保たれますか。
[勝田]培養の仕方によって違うでしょうね。私の所では2年位です。
[佐藤]私の所では500日位です。
[三宅]胃の培養について説明して下さい。
[高木]乳児を1日親から離しておきます。そして胃を取り出しミルクを除いてナイスタチン200u/ml、カナマイ300u/mlでよく洗います。それから粘液をよく除いてからメスで細切して炭酸ガスフランキで培養しました。
[山田]前胃と後胃は分けましたか。
[高木]どちらも一緒にしてしまいました。
[山田]ラッテの胃癌の場合前胃は癌化しやすいが、腺癌をというなら後胃の方が出来やすいというデータがあります。あとの同定のためにも分けて培養出来るとよいですね。
《安村報告》
☆ラット肝細胞の初代培養からのクローン化の試み(つづき)
ラット肝由来細胞Hepro細胞のOrnithine transcarbamylase(OTC)活性について.
Mary Jonesらによって開発され、G.Satoによって培養肝細胞で試みられた肝細胞同定の最も信頼されているマーカーとしてOrnitine
transcarbamylase活性をHepro細胞で調べてみた。
細胞はAssayの直前24時間1mg/mlのOrnithine含有の培養液(EagleMEM+コウシ血清10%)で培養され、3度生理食塩水で洗ったのち、ラバーポリスマンでかきとり遠心し、細胞塊を0.5mlの蒸留水に浮遊し、0℃でSonicate(20KC)した。
酵素活性のassay:OTC活性は37℃、10分間の測定による。反応系は0.1Mのtriethanolamine-HCl(pH7.4)、5μmoles
L-Ornithine、5μmoles carbamyl-phosphate、細胞ホモジネート、(最終容量1.0ml)から成りたっている。Archbaldの方法によって発色。Carbamylphosphateの分解を知るために、上の反応系とは別にCarbamylphosphateを加えない反応系でassayされた。
結果(表を呈示)、Specific activityはSampleA<0.01μmoles/10min/0.4/4.8mg
prot.≒0.005μmoles/10min/mg proteinであった。
:質疑応答:
[難波]4.8mg蛋白というと、どの位の細胞数に相当しますか。
[安村]400万個で約1mgです。
[難波]培地中の血清蛋白はどうやって除きますか。
[安村]PBSで3回洗っています。
[吉田]ホルモン等を産生する機能を持った細胞でも、培養で継代していると産生しなくなるものでしょうか。
[安村]私の経験で少なくともステロイドホルモンを産生する細胞系では、ランダムに培養していると機能が低下してしまうのですが、始終クローニングをしてホルモンを産生しているものを拾っても、その中から又、産生しない細胞がでてきます。それを又クローニングで落としてゆくという訳で、そういうやり方で5年以上ステロイド産生能を維持出来ています。
[吉田]ホルモン産生はステムcellがありますか。
[安村]クローニング出来るわけですから、ステムcellがあるとは考えていません。
[堀川]ステロイドホルモン産生系の場合はそうでしょうが、他のホルモン産生系では、まだわかりませんね。
[吉田]プラスマ腫瘍の場合には、ステムcellがあります。
[安村]プラスマcellとステロイド産生細胞とでは分化の程度が違いますからね。
[藤井]ステロイド産生の場合、脳下垂体の刺戟がなくても産生しますか。
[安村]ステロイドホルモン産生については遺伝子がregulateされないでopenになってしまうので、刺戟がなくてもどんどん産生するのだろうと考えられます。
[堀川]始めにクローニングして産生細胞を拾い、その中から産生しない系が出て来た場合、その産生しない系に刺戟ホルモンを加えると機能を復活するというようなことはありませんか。
[安村]産生量においての中間的段階はありますが、全く産生しなくなってしまうと、もうどうしても復活はしませんでした。
[藤井]肝細胞のアルブミン産生能と、肝癌になったらどうなるかという事についての実験はありますか。
[安村]そういうことをin vitroの系でやってみたい訳ですね。
《山田報告》
RLC-10凍結株;培養ラット正常肝細胞が再び利用出来るかもしれないとの事ゆえまずとりあえず電気泳動度を測定しましたが、培養1日目のせいか、形態も不揃いで泳動度も曾ての如く均一ではありませんでした。あらためて増殖期に泳動度を測ってみたいと思って居ます。しかし同時に測定した他の株CulbTC、HQ1Bに比較すれば、その構成は均一で、シアリダーゼに対する感受性は極めて弱い所見です。
CuleTC;CQ50宿主へbacktransplantした後の再培養株。この株のOriginalは腫瘍性がありながら、悪性泳動パターンを示さなかった株。他のCQ40〜42等の場合と同じく、宿主へかへすと、腫瘍細胞のみが撰擇されて悪性パターンを示す所見です。
HQ1B;4NQO 3.3x10-6乗M3回処理したRLH-5・P3株、今回も明らかに悪性泳動パターンです。前回報告しました様にどうもRLH-5系の細胞の抗原性はかなり宿主(JAR-1)とは違って来ている様で、そのために宿主へbackしてもtakeされないと思わざるを得ません。
:質疑応答:
[山田]in vitroでの悪性化は、動物につくかつかないかでけで判定しているので最後まで抗原性の問題をチェックしなければなりませんね。藤井先生の方はどうですか。
[藤井]抗血清が出来なくて困っています。CulbはJAR-2系のラッテに接種してもモリモリと腫瘍を作ってしまうのです。
[下条]ウィルスで悪性化した細胞の復元の場合は、始めに細胞のホモジネイトをアジュバントと一緒に接種しておきます。そして3カ月程たってから生きた細胞を居れると、ぐっと抗体価が上がります。
[藤井]アジュバントは使いませんでしたが、凍結融解した細胞を接種し、それから生きた細胞を入れてみた事もありますが、やはり大きな腫瘍が出来てしまって抗体価は高くなりませんでした。
[堀川]山田班員の実験結果は免疫反応としてだけみてもよいものでしょうか。
[山田]特異的な抗血清が出来ていれば、抗原抗体反応としての結果がはっきりと出ています。
[下条]他の方法も使って反応をみていますか。
[山田]IAをやっています。IAでは平行した結果が出ています。腫瘍自身の抗原性ということには問題が残ると思いますが、発癌剤の処理によって細胞が免疫的にも変異して居るということは、云えると思います。
[藤井]癌と免疫という問題は難しいですね。抗体が出来て補体を覆ってしまって、細胞性抗体の働く余地がなくなってしまって、腫瘍がかえって大きくなるという事さえあります。又、皮膚移植の実験で植えた皮膚がついている間は抗体が出来ないという事があります。動物にtakeされるような腫瘍は抗体が出来ないのではないでしょうか。
[勝田]実験動物の純系の純度といったものについて、一寸・・アイソと言ってもランダムに増産した系ではどんなものでしょうか。
[吉田]又変わってしまうでしょうね。
[藤井]DDマウス等、純系といっても皮膚移植をして同腹でなければつきませんね。C3Hのように同腹のかけ合わせを何十代もやってある系は、遺伝的にはしっかり安定していますね。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(26)
前報では培養動物細胞をX線または4-NQO(あるいは4-HAQO)で処理した際のDNA切断による分子量の低下とbreaks数の増加を線量または濃度に関連づけて図説したが、今回はこうした処理によって誘発されたDNAの一本鎖切断が、その後どの様にincubation
timeと共にrejoiningして高分子化されていくかについて解析した結果を報告する。
(図を呈示)図は、10KR、5KR、2KRのX線照射後、種々の時間細胞をincubateした時のDNAの分子量の増大とbreaks数の減少を示したものであり、これからincubation
timeと共に切断DNA一本鎖は再結合されることがわかる。
(図を呈示)また同様に1x10-4乗Mと5x10乗-5M
4-HAQOで細胞を30分間処理した後、種々の時間incubateした時のDNA再結合状態をみた。
これらの結果から、X線照射または4-HAQO処理によって誘発されたDNA切断の再結合は直線的、つまり一定スピードで進行するのでなくincubation初期において非常に早く再結合の進む部分と、その後比較的ゆっくり進行する部分のあることが分かる。又、こうした結果を別の方法で書き表してみた(図を呈示)。
X線照射または4-HAQO処理によって誘発された切断DNA一本鎖の再結合状態、つまりincubation
timeに対する分子量の増加現象と、これとは逆にincubation
timeとともに1分間当たりの切断DNAの再結合能が減少して行く状態を図でみると、X線照射または4-HAQO処理によって生じたDNA一本鎖切断の再結合は殆ど同じスピードで進むことがわかる。このこのは、非常に強引かつ早計な結論かもしれぬが、X線と4-HAQOのattackするDNA上のmain
siteは比較的類似の部位であり、しかも、その修復は同じprocessによって進行するということを暗示しているのかも知れない。また急速に再結合する部分はnon
enzymaticにrepairされる部分で、その後にみられる比較的ゆっくりと進行する再結合部分がenzymatic
repairであろう等と考える説もあるが、こうした結論を導びくためには、今後更に多くの実験を必要とする。
:質疑応答:
[勝田]温度条件を変えることによって修復が進むかどうかみると、酵素活性のせいかどうかわかりませんか。
[堀川]X線照射の場合、0℃にすると修復されませんが、それでも矢張り酵素的なのかどうか分からないですね。
[安藤]UV100ergsかけたあと、なおDNAが切れて小さくなるということは、UVの直接の影響ではないということですね。
[堀川]チミンダイマーの場合、照射直後に全部切り出せているわけではありません。照射中の殆ど終わりでも、終わりころにはもう修復し始めているものもあり、まだ切り出しているものもありという時間的なずれがあって解析が難しいのです。修復のスピードからみるとX線と4NQOはよく似ています。
[勝田]DNAの修復にはunscheduled DNA synthesisは否定されますか。
[堀川]いや肯定します。ハイドロキシウレアのようなDNA合成を直接おさえる物質を添加した場合には、修復がみられ、ピロマイシンのような蛋白合成阻害物質を添加して酵素活性をおさえると修復はみられないのです。
[安藤]この実験で前処理は必要ですか。
[堀川]前処理をしないと、あとの条件をいくら変えても皆修復してしまいます。細胞が生存出来ないような条件でも処理直後にはDNAの修復はみられます。
[吉田]染色体レベルのブリッケージとDNAレベルでの切断は大体平行していますね。ジニトロフェノールも修復をおさえますね。
[安藤]バクテリアでもピロマイシンを入れると修復がおさえられます。
[堀川]ゼネラルな意味での蛋白合成阻害剤がなぜ修復酵素の活性をおさえるかということです。動物細胞でも前処理をしてプールの酵素をカラッポにしておくことによって細菌と同じようにゆく所までわかりました。
[吉田]嫌気的にすることでは影響はありませんか。
[堀川]あるでしょうね。酸素を入れると放射線の効果がぐっと上がり、逆に窒素を入れると効果をおさえます。それからUV照射の場合、今まで再現性がなくて困っていたのですが、照射後からの動きがそれぞれ違っていた事がわかって、仕事が進められるようになりました。4HAQOや4NQOがDNAを切る時は直接に切るのではなく、フリーラジカルのようなものが出来てそれから切れると考えられますね。
《安藤報告》
(I)EM3A細胞(マウス乳癌細胞)のDNAの二重鎖切断に対する4NQOの効果
従来行って来たDNAの二重鎖切断と再結合の実験はL・P3とRLH-5・P3についてだったが、今回マウス乳癌由来のFM3A細胞を使って同様の実験を行った。目的は(1)懸濁培養可能なこの細胞を使って、Cell
cycleのstageと二重鎖切断の再結合との間に何らかの関連があるか否かを調べるための予備実験として、切断再結合の様相を知る事、(2)細胞種が異っても同様の現象が見られるか、(3)4NQO濃度に、二重鎖切断の再結合が起らなくなる程の濃度限界があるか。
先ず、FM3A細胞の増殖曲線と4NQO、30分処理後の増殖の程度を調べた。1x10-6乗Mではわずかな増殖阻害、3x10-6乗M以上では全く阻害される(図を呈示)。
次に、4NQO各種濃度におけるDNAの二重鎖切断の程度と、その後の回復培養においてどれ程再結合が起るかを調べた。(図を呈示)それぞれの濃度の時に二重鎖の切断は次第に大きくなり、3x10-6乗Mの場合約50%が再結合され、残りが更に低分子化していた。1x10-5乗M、3x10-5乗Mにおいては、切断されたDNAは大部分再結合されず低分子化してしまっていた。
この事実は次の事を強く示唆している。再結合されうるための限界の大きさが在る。それ以上に4NQOで切断された場合にはもはや再結合されない。この限界の大きさは恐らく、今迄示されて来た連結蛋白(linking
protein)と連結蛋白の間のDNAの大きさに相当するのであろう。この点は更に追究されなければならない。
(II)中性蔗糖密度勾配上のDNAピークの電子顕微鏡観察
中性でDNAの大きさを分析する時に、チミジンでラベルされたピークを一応DNAピークとして取扱って来たが、100%純すいなDNAである保証はない。先にそのピークのCscl液中での浮遊密度を求めた所1.685−1.700であり2%程の蛋白の混在を示唆していた。今回は更に電顕的にどの程度純粋なDNAを扱っているのかを調べた。サンプルは(1)無処理DNA、(2)プロナーゼ処理DNA、(3)4NQO処理DNA、(4)除蛋白精製DNA、(5)メルカプトエタノール処理DNAである。(以下それぞれの写真を呈示)
無処理蔗糖勾配分劃(x20,000):
無処理のDNAも電顕観察のサンプルを調整する過程で相当な物理的障害を受け低分子化していた。これ等の写真からいえる事はここで扱っているDNAが、相当きれいなものである事、すなわちヒストンその他のDNA以外のクロマチン構成物質の混在は少ない。次に恐らくartifactと思われる中心体がある。これは濃度の高いDNAをチトクロームC法で展開した時に、からまり合った結び目である可能性が大きい。
プロナーゼ処理DNA:
プロナーゼ処理DNAの電顕写真はコントロールと比べて特に目立った特徴はない。大きさはまちまちでしかも中心体を持っている。
4NQO処理DNA:
4NQO処理DNAの特徴は、DNA鎖をよく見ると二重鎖がほどけ一重鎖となっている部分を持っている事である。それ以外は無処理と同じようだ。
精製DNA(凍結標品を融解させた直後):
クロロホルムによる除蛋白法で精製、更にCscl密度平衡遠心により精製されたサンプル。可成り小さな断片となっている。恐らくそのために、からまらないで中心体が出来ないものと思われる。
精製DNA(上記のサンプルをNH4・Acに対して一夜透析):
上記精製DNAを常法にしたがってNH・4Acに対して透析した所、上記では見られなかった中心体が現れてきた。しかしこの中心体は無処理のものとは少し異っているようだ。
無処理DNAをメルカプトエタノール処理したもの:
コントロールDNAを遠心後集めてメルカプトエタノール処理を行ってみた。メルカプトエタノールで結合蛋白が切られるためか、中心体は見当らなかった。
以上、種々な処理を行ったL・P3DNAの電顕像をお目にかけたが、これ等の事から云える事は次の事であろう。(1)細胞を直接蔗糖密度勾配上に重層して行う、この寺島法で得られるDNAピークは比較的きれいなDNAである。(2)蔗糖密度勾配の位置の違いによる分子量の差は電顕レベルではとらえる事が出来ない。(3)DNA鎖を結合していると思われる結合蛋白(linking
protein)は見る事は出来なかった。
:質疑応答:
[堀川]細胞が生きている状態でトリプシン処理をして、それから遠沈するとどうなるでしょうか。
[安藤]偶然にそういう処理をした事がありますが、パターンが乱れて結果を解析できませんでした。
[堀川]酵素処理を先にして、そのあと分劃したDNAをインタクトに回収して更に4NQOを作用させたらどうなるか知りたいのですが、このやり方では難しいですね。
[勝田]トリプシンを使って細胞を継代すると、変異をおこしやすいのはトリプシンがDNAを切るからでしょうか。
[安藤]そういう事も考えられますね。
[梅田]しかし、生細胞はトリプシンでは作用を受けないことになっています。堀川班員の考えておられるような酵素で切っておいて、4NQOで切るという実験にはメルカプトエタノール処理がよいと思います。培地に添加してみて生きた状態でDNAが切断されるかどうか先ずみてからですが。パパインはどうですか。パパインならSS結合を切ります。
[安藤]パパインもきれいな物を手に入れて、ぜひやってみたいと思っています。
[山田]細胞診でクロマチンの形だけをみていますと、トリプシン処理で変化するように思います。
[堀川]この電顕像ではDNAの切断は見られませんか。
[井出]白金でシャドーイングをするので細かい切れ目などは、はっきりしなくなってしまいます。ただ、あちこちに一本鎖らしい切れ切れのものが見られます。
[吉田]細胞のステージはインターフェイズでしょうね。
[山田]中心があるのは、インタクトな細胞ということでしょうか。
[堀川]放射線処理では、物によって電顕レベルでDNAの切断がみられるのですが、4NQOの処理の場合は無理というわけですね。
[難波]こんなかたまりが、1コの細胞の中に幾つありますか。
[安藤]6万個〜数万個という計算になります。
[吉田]電顕像とシェーマをどう繋ぎますか。
[安藤]今の所まだわかりません。
[吉田]ランプブラッシュ染色体という考え方がありますが、共通点がありますね。
[勝田]電顕像でみると、あまり小さくなっていないようですね。分劃したものでは長さが測れたのでしたね。
[井出]電顕でみたものの大きさは、10の8乗〜10の9乗です。ですが、切れ目がはっきりしないので、修復をこの方法でみるのは無理です。
[下条]ひろげてシャドーイングをする前に何か処理をして、切れ目をはっきりさせることは出来ませんか。
[井出]色々やってみましたが、膜が汚れてしまって駄目でした。
[安藤]アミノ酸をラベルして修復時に取り込ませ、電顕レベルのオートラジオグラフィで調べてみようと思います。
[堀川]X線もUVもDNAを切るのに何故4NQOだけDNAの切断が発癌に繋がるのでしょう。
[安藤]X線やUVでも生体では発癌するでしょう。
[堀川]生体に放射線をかけて、出来るのは殆どウィルス性で白血病が主です。
[安藤]切り方が同じだとは言えませんね。X線の様な場合のDNA切断は致死に働きますが、4HAQO、4NQOでは切れても又修復します。そして修復する時DNAレベルの間違いの起こる機会があるわけです。
[吉田]X線でも染色体レベルのトランスロケーションがあります。
[堀川]UVは変異を起こしますが、発癌はあまりありませんね。X線は薬剤と似た所もあります。
[難波]薬剤だと、あとに残るということはどうですか。4NQO処理の場合DNAの切れた端に4NQOがついていませんか。
[安藤]端かどうかは分かりませんが、とにかく、DNAが切れても切れたDNAのどこかに4NQOが入っているようです。それから薬剤でも、変異は起こしても発癌は起こさないものもあります。
[安村]薬剤には色々あって、DNAを切断してもそこに残らないものは変異だけを起こし、DNAに残るものは発癌剤になる。放射線は切るだけなので、変異を起こすだけという事になりませんか。4NQOで癌細胞を正常に戻せるでしょうか。
[勝田]癌センターの小山氏のデータがありますが、リバータントとは言えませんね。
[安村]悪性かどうかを復元だけで決めるというのが問題です。
《梅田報告》
(I)月報(7008)で報告したハムスター細胞のその後の培養経過についてまとめてみた。(表を呈示)N#29の無処理細胞は現在培養日数364日を数える。形態的にはepithelioidといった感じで、227日以後の累積増殖カーブでみても増殖はおそいがconstantである。培養227日目に培養をわけて4NQO
10-5.5乗M投与した亜系は、形態的に原株と大差なく、又増殖率も原株と殆ど変りない(増殖曲線図を呈示)。この系は9月26日現在、4NQO投与後約140日になるが、4NQOによるtransformationを思わせる変化は見当らない。Soft
agar中でもColony形成は認められない。
N#34J細胞は培養125日目にcloningしてJ1、J2、J3、J4と4つのcloneをとった。原株とJ2、J4は一応培養を切って、J1とJ3の2系に、更に4NQOを投与した亜系を作った。培養165日以後の累積増殖カーブは(図を呈示)、無処理J1細胞と4NQO処理J1細胞とで殆んど大差ない増殖率を示している。J1はcontaminationを起し途中で切って了ったが、4NQO処理細胞は非常に良い増殖を示し、一様なfibroblasticの形態を示し、最近criss-cross様patternが多少認められる様になった。Soft
agarでmicrocolonyが最近認められる様になった。
J3は培養252日に4NQOを投与するSublineを作った。その時以後の累積増殖カーブ(図を呈示)では無処理細胞は非常に良好でコンスタントな増殖を示している。4NQO処理細胞は始めやや増殖率が下がったが、処理後30日頃より、無処理J3細胞より更に良い増殖率を示し、Saturation
densityも上昇し、形態的に、はっきりとcriss-crossが認められる様になった。Soft
agarでは両者共にmicrocolonyを形成する様になったので、目下その定量実験を施行中である。之等細胞のhamsterへのback
transplantationも計画中である。
(II)N-OH-AAF投与例2株とRubratoxin(R)投与例の培養経過は(図を呈示)、増殖率はT253Eを除いてconstantで非常に早い。形態的には、fibroblastic
cellから成るが、T253Eのみepithelialの感じのものである。Soft
agarでT253EとT211Fの2系がmicrocolonyを形成する様になったが、まだ定量的データは出ていない。之等のbacktransplantationを行ったばかりなので、そのうちに本当に悪性化したかどうか、判明すると期待している。
(III)上の結果で問題になるのは私共の行っている培養法だと非常にtransformし難いのでないかと思われることである。N#29
control cellのconstantに増殖している系に4NQOを投与してみても増殖率は上昇せず、N#34
3HOA処理後の細胞は4NQO処理しなくてもしたものも共にSoft
agar中でmicrocolonyを形成している。T#253Eが培養150日目でSoft
agar中でmicrocolonyを形成しているのが、一番早いtransformを思わせる変化である。又、他の系で4NQOを投与して数ケ月になるものもあるが、今の所まだ非常に遅い増殖率しか示していない。私共の薬剤処理法が悪いのか、培養条件がtransform実験には適さないのか。いろいろ検討すべき段階と思っている。
(IV)Senecio alkaloidは肝・肺癌を作ることで有名であるが、化学構造としてpyrolizidine骨格が基本であり、いろいろの物質が報告されている。その中でmonocrotalineの供給をうけたので、HeLa細胞、JAR-2のsuckling
liver、lung cultureに投与して急性変化を調べてみた。
HeLa細胞は10-2.0乗〜10-2.5乗Mで細胞の著明な空胞変性、核分裂異常が認められる。空胞は脂肪染色で染らない。核はやや大きくなっている。
ラット肝細胞培養では10-2.5乗Mで同じ様な細胞質空胞変化が著明であるが、肝実質細胞の一部の空胞は脂肪で染る。核が不規則にfragmentationを起した様な細胞も出現する。
ラット肺培養細胞に投与すると細胞質の著明な空胞変性、核のfragmentation細胞、異常分裂像が観察された。この場合の空胞は脂肪染色で染まらない。
ラット肺培養細胞に、10-2.5乗Mのmonocrotalineを投与して時間を追って染色体標本を作製した。Mitotic
coefficientと、染色体の形態を表に示したが、MCは処理群でやや減ずる程度である。Gapは投与後やや増加する程度である。投与後48時間後の標本で54%の細胞に極端な染色体異常(break、fusion等)が観察された。しかし36%の細胞は正常に見えた。
目下の所dataはこれだけであるが、Autoradiographicalにでもattackの時期等調べる予定である。発癌剤としてこの様に激しい染色体異常を起すので、目下ハムスター細胞に投与してin
vitro carcinogenesisの実験を開始した。
:質疑応答:
[吉田]ちっとも悪性化しないというのは、使って居る4NQOが悪いのではありませんか。4NQOはずい分製品むらがありますから。
[梅田]私もそう考えて新しく4NQOを入手して実験を始めました。セネキオアルカロイドというのは南米産で、食べると肝癌が出来ます。
[吉田]肝臓だけに染色体断裂が起こるのですか。
[梅田]肺の細胞にも起こります。肺癌を作るという報告もあります。
[下条]ウィルス処理の場合は、先ず少量のウィルス液を入れて、何時も細胞あたりのウィルス数を定めて実験します。薬剤の場合も、細胞あたりのモル数をはっきりさせてほしいですね。
[安村]ウィルスの場合は吸着がはっきりしますが、薬剤の場合そううまくはっきり出せるでしょうか。
[下条]ラベルした薬剤を使えば、取込み量がどの位になるかは判るはずです。培地に添加する量を定めるだけでは、細胞当たりどの位の薬剤が取り込まれたかはわかりません。
《吉田報告》
クマネズミ(Rattus rattus)は染色体お呼び血清蛋白の所見よりアジア型とオセアニア型にわかれる。前者は2n=42で、N及びR型トランスフェリンをもち、後者は2n=38でC、D、E及びFのトランスフェリンをもっている。両者を実験室で交配させてF1を得た。F1の染色体は全て両者の混合型で2n=40となり、トランスフェリンも両者の混合型であった。F1同志の交配で1頭のF2を得たが、その染色体数は2n=39で、トランスフェリンと共にF1よりの分離型であった。
自然界では南太平洋上のエニュエトク島で、オセアニア型とF2型のクマネズミを採集した。すなわち、6個体のうち、4個体はオセアニア型(2n=38)、他の2個体は実験室で得たのを全く同じF2型(2n=39)であった。2n=42のアジア型はアジア全域に分布しているが、2n=38のオセアニア型は、オーストラリア、ニュージランド、ニューギニア、ハワイ、テキサス、アルゼンチン及びイタリーに分布し、エジプトには両者が混在することが報告された。しかし雑種は発見されていない。
分類学者によるとクマネズミは東南アジア原産といわれているので、2n=42のアジア型がこの種の原始型で、それが中近東よりヨーロッパへ入って染色体fusionがおこり、2n=38となり、それがヨーロッパ人と共にオセアニア、北米及び南米へ移動したと考えられた。
【勝田班月報・7011】
《勝田報告》
A)RLC-10株(正常ラッテ肝由来)の染色体数の推移
(図を呈示)図のように培養37.5月では2nが多かったが、自然発癌した以後の54.5月、58.5月では染色体数が明らかに減少して行っている。ラッテに形成された腫瘍の再培養では、最下欄のように、さらに減少している(39本)。理由は不明。
B)RLC-10株の凍結保存後の染色体数
RLC-10株は継代の中途より(A)、(B)、(C)の3系列に分けられ、(B)は自然発癌したが、(C)は電気泳動的には最も正常に近い像であった。この(C)を、ドライアイス中で10月間凍結保存し、再び培養を開始したところ、3コの集落が形成された。それを夫々分離培養し、染色体数をしらべた結果(図を呈示)、Colony(1)は73本、(2)と(3)は42本、コロニーをとったあとの残り全部からの培養Mixedは41本であった。なお、これらの腫瘍性については、すでにラッテに復元接種し、観察中である。
《難波報告》
N-29:培養内で4NQOによって癌化したラット肝由来クローン細胞(LC-10)の4NQOの耐性の有無(前月報7010
N-28の続き)
使用した細胞はN-28に記載した4NQO未処理対照細胞と、培養内で3.3x10-6乗M
4NQO 1hr処理を2回行なって悪性化した細胞、及びこの悪性化した細胞を動物に復元して生じた腹水腫瘍を再培養した細胞である。実験方法は、それぞれの系の少数細胞を4NQOを含まぬ5mlの対照培地と、3.3x10-8乗Mの4NQOを含む実験培地とに植え込み(月報7010、N-28では10-8乗M
4NQO)共に1週間培養後、4NQOを含まぬ培地で培地を更新し、1週間培養を続けた。
その結果は表に示すように、培養内で4NQO処理を受け、悪性化した細胞は、4NQO未処理細胞に比べ約2倍の耐性を示した(この結果は、月報7010
N-28に一致する)。しかし、肝心の腫瘍培養細胞では耐性はみられなかった。このことは、細胞の腫瘍化と細胞の4NQO耐性獲得との間に関係がないと結論される。
今迄、しばしば4NQO耐性の問題をコロニーレベルで検討して来たが、以上の結論が得られたので、このあたりで別の悪性化の指標を検索しようと考えている(表を呈示)。
◇DABによる発癌実験
3)DAB処理によって受ける細胞の増殖阻害はDAB処理時の細胞数に依存するか、どうか、及び、その時の培地中からのDAB消費について(以下の実験には全てクローン化したラット肝細胞(LC-2)を使用)(図を呈示)。
図に示すように、DABの及ぼす細胞増殖阻害は、細胞数が少くても軽度である(この点は4NQOと異なる。月報7005参考)。
同じ実験をもう一度行ったが同じ結果であった。そして、これらの2回の実験に於るDAB消費をまとめて次図に示した。この図ではDAB処理を受けた細胞数を横軸に、細胞1コあたりに取り込まれるDAB量を縦軸に示した。図から判ることは、この実験条件のもとで細胞あたりの培地内DAB量が増加するにつれ、細胞内にとり込まれるDAB量が増加することを示している。なお実験1.2.に使用した培地内のDAB濃度は図に示している。このDABを含む培地1.5mlを細胞の数をいろいろに変えて培養している試験管内に入れ、3日間培養後、その培地中に残存するDABを実験前の培地中のDAB量から差引いて、細胞によって消費されたDAB量をもとめた。
4)培地中のDABの経時的消費
以上の実験は、全てDAB培地を細胞に与えて、3日後に細胞によって消費されたDAB量を測定したが、DABが3日間でどのように消費されるか、経時的に調べた。その結果、DAB投与后、24hrぐらいでは、あまり培地中からDABが消費されてなく、DAB投与後2〜3日にかけて、急速に消費された。その間、細胞の増殖は続いているが、増殖率はDAB投与後2〜3日にかけて、やや低下している。
《山田報告》
癌学会に続いて病理学会があり、この所少し実験が遅れています。
今回はまず、この癌学会に発表した成績を書きます。これまでの4NQOによるin
vitro発癌過程におけるCell population analysisの総まとめの成績を報告します。全体としてみますと、4NQOを多数回接触させた系及び宿主に移植して出来た腫瘤からの再培養系の細胞群に、悪性化したと推定される細胞の頻度が多いと云う成績です。即ち典型的な良性及び悪性細胞系にみられた泳動的性格より考へて、未処理細胞群では平均より10%以上高い泳動度を示す細胞、ノイラミダーゼ処理細胞群ではこの処理により対象群の平均より10%以上低い細胞の頻度を写真記録式細胞泳動法により検索した結果です。このうちで悪性化したと推定される細胞の出現頻度の最も少い系はRLC-10A(自然悪性化株)であり、最も多いと思われるおはRLN-E7(2)(岡山株)です。
RLC-10凍結株のE.P.M.:凍結してあったRLC-10が再び増殖し、また発癌実験に使用する前にその電気泳動的性格を充分しらべてみようと云うことになり検索を始めました。まだ始めたばかりではっきりした成績ではありませんが、RLC-10clone4とRLC-10clone3とは大部性質が違う様です。RLC-10Bは前回通りです。詳しくは次号に報告します。
《高木報告》
1.腫瘍細胞と対照(正常)細胞との混合移植実験について(表を呈示):
その後RG-18 100個とRL細胞0、100、10,000、1,000,000個混じた実験を行ったが、その結果は表の通りであった。すなわちここでもRL
100万個を混じた場合にtumorigenicityを促進する如き傾向がみられた。それに対してRLを100、10,000個混じたものでは、むしろRG-18だけ100個移植した場合より抑制の傾向がみられるのであろうか?。同様な傾向は月報7010のRG-18を10個とRLを混じた実験においてもうかがわれた。ただここで問題はRG-18はwistarratの胸腺由来細胞にNGを作用させて悪性化したものを、WKA
ratに移植して生じたtumorの再培養、つまりWistar
origin。RLはWKA rat肺originの細胞で、これらを混じてWKA
ratに移植する場合、前者はhomotransplantation、後者はAutotransplanttionとなる。出来れば両方Autoになるようにした方が将来の解析を容易にすると考えられ、その方向でさらに実験の予定である。
2.RT-10細胞のplating efficiencyにおよぼす培地の影響(表を呈示):
今回の条件下ではいずれもPE 2.1%を示した。前回(月報7010)に比し1桁違うが、これが細胞の継代数の違いによるか、あるいはいずれかの培養条件の違いによるか、さらに検討せねばならない。いずれにせよこの条件下でcolony
levelの実験は可能と考えている。
《梅田報告》
(1)今迄報告してきたハムスター細胞は、長いものでは殆1年、短いものでも既に300日を越えるのに、Soft
agar中でなかなかコロニーを形成せず、前回の班会議の折、やっとmicrocolony形成が認められる様になったと述べた。之等の系の一部を更にSoft
agar中でコロニー形成率を調べた所今回は明らかなコロニー形成が認められた。即ちM#34J1に4NQOをかけたものは7.5%、J3に4NQOをかけたものは3.2%である。
しかし次に述べる別の系でコントロールもきれいなコロニー形成が認められて了った。前回の班会議では私共の系ではなかなかtransformしないと述べたが、それも確かでなくなったわけです。いろいろ反省してみると、昨年から本年の始めにかけては、培地交新、植継を1週に2回の割で行ってきた。本年の4月頃より1週に3回即ち2〜3日毎に培地交新、植継を行い始めた。こんなことが影響しているのかも知れないと考えている。
(2)今迄一度も報告しなかったが、4月13日に4HAQO
10-4.5乗Mを1回投与した系とそのコントロールを継代してきた(実験番号T#253F)。累積増殖カーブを画くと図の如くで、4HAQO投与后やや増殖は悪く、80日頃より恢復し現在に至っている(図を呈示)。コントロールは無処理K1、実験群と同じ1%DMSOsolventで処理したものK2とあるが、共に同じ様に増殖している。7月15日Soft
agarでテストした結果はコロニー(-)、9月11日のテストではFとK2にmicrocolony形成が、10月5日のテストではFとK1がmicrocolony、K2は3.9%の立派なコロニー形成を示した。コントロールの培養170前後、でかくも立派なコロニーを作ったのでは、(1)に述べた細胞においておやである。目下新しいCulture、ラット肺の実験に切りかえて出来れば100日以内にtransformする系の確立に努力している。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(27)
前報で報告したようにX線照射や4-HAQO処理によって生じた細胞内DNAの一本鎖切断は照射又は処理後の細胞を37℃でincubateした時、同じスピードで再結合される。このことはX線と4-HAQOの作用するDNA上のsiteがある程度類似した部位にあることを暗示するものである。今回は1x10-4乗M
4-HAQOで30分間処理した時、あるいは5KRのX線を照射した時に生じたEhrlich細胞の一本鎖切断の再結合におよぼす各種代謝阻害剤の影響を、検討した結果を総括して報告する。
周知のごとく生細胞内には、すでにDNA合成に関与する酵素系あるいはrepairDNA合成に関与する酵素系が含まれているので、X線や4-HAQOで処理した際に誘発されたDNA切断も、これら既存の修復酵素系によって修復される。従って照射又は処理後に各種代謝阻害剤を添加しても一本鎖切断の再結合は、もはや何らの影響も受けないと言うのが、これまでの多くの実験的事実である。従って今回は表に示すごとく、各種代謝阻害剤で前もって細胞を処理しておき、既存の修復酵素系を出来得るかぎり欠乏させた状態にしておいてから、細胞をX線あるいは4-HAQOで処理し、その後の再結合能をAlkaline
sucrose gradient法で解析した結果を総括して表に示した。尚、表中3番目のカラム中にはこうした前処理につづくfinal
24時間中のnormal DNA合成能をH3-thymidineの取り込みで解析した結果をrateとして数値で示してある。(表を呈示)
この表からわかるように2.48mM hydroxyureaはnormal
DNA合成を特異的に抑えるにもかかわらず、このような条件でX線、4-HAQOで誘発された一本鎖切断は、両者の場合ともに再結合される一方、10ng
puromycin/mlでの前処理はnormal DNA合成能を、hydroxyureaほど抑えないにもかかわらず、X線、4-HAQOによって誘発された一本鎖切断の修復を完全に抑えていることがわかる。
こうした結果は修復に関与する酵素系はnormal
DNA合成に関与する酵素系とは異なったものであることを強力に示唆するものである。又同時に、両要因によって誘発されたDNAの一本鎖切断お再結合能が同じ代謝阻害剤に対して行動を共にすると言うことは、前報で報告した両要因によって誘発されたDNA切断の再結合が、殆ど同じスピードで進むと言う現象と考え合わせて、これら両者の作用部位が、ある程度類似していることを暗示していると思われる。これについての詳細な検討は、今後の解析をまたねばならない。
尚、放射線感受性増強剤として知られるBUdRでの前処理は、X線、4-HAQOの両者によって誘発されたDNA一本鎖切断の再結合に、それ程大きな影響を示さないことも分った。
《安藤報告》
(1)L・P3細胞DNAに対するRNaseの作用
L・P3細胞のDNAがプロナーゼその他の蛋白分解作用によって低分子化する事からlinker
protein(連結蛋白)を仮定して来たが、今回は一つのコントロール実験として改めて行ったRNaseに対する感受性のデータを記す。(図を呈示)図に見られるように牛膵臓のRNaseに対してはL・P3DNAは全く感受性を持たない。したがって、DNA分子をRNAがつなげているような事はない事は明らかである。又先月お目にかけた電顕写真からもlinker
proteinの存在が強く示唆される。
(2)目下計画中ないし検討中の問題
現在の所我々が発見した上記のlinker proteinの役割に焦点をしぼって検討している。
(1)S期におけるDNA合成の開始点とこの蛋白の関係の解明。
pulse label、density labelを組合せて調べる。
(2)この蛋白が合成される時期は何時か。
synchronous cultureを行って、ラベルされたアミノ酸のこの蛋白へのとりこみがいつ起るかを調べる。
(3)4NQOがこの蛋白を切断するとすれば、蛋白のどこを切るかを化学的に解明する。又回復培養によって、再結合が起るが、どのような結合が再生されるかを検討する。等。
いずれも困難な問題ですので、いまだお目にかけるようなデータはないが、まとまり次第報告します。
【勝田班月報:7012:旋回培養による組織集塊形成能】
《勝田報告》
A)合成培地内継代細胞株の4NQO処理
たとえば安藤班員は合成培地内継代株の数種を用い、4NQOによるDNA鎖の切断と修復をしらべているが、これらの株が4NQO処理により悪性化したという実証を示さない限り、それは発癌機構の研究をしているとは云えない点に重大な弱みがある。
我々はこれらの株のなからか、JTC-25・P3株、JTC-21・P3株をえらび4NQOによる悪性化を図っている。両者ともラッテ肝由来で“なぎさ”培養で変異した株であり、前者はもとRLH-5・P3とよばれ、月報にもしばしば現れた株である。後者はもとRLH-1・P3とよばれた株で、4NQO実験は最近はじめたばかりである。
この両株をえらんだ理由は、前者はイノシトール要求を持たず、形態的には硝子面に敷石状にひろがるのに対し、後者はイノシトール要求を有し、球状の細胞が多く、硝子面への接着性も低い、という対蹠的な性状をもっているからである。
RLH-5・P3(JTC-25・P3)は、4NQOに対する抵抗性が高く、細胞電気泳動像においては“なぎさ”細胞型を示すことを山田班員が報告している。しかし、10-5乗Mの4NQOで1回30分宛、処理をくりかえすと、悪性型の像に変化したそうである。そこで処理群と非処理群とをそれぞれ2匹宛の生後24時間以内のラッテに復元接種した。しかし結果は陰性らしく、これまでのところでは腫瘍は形成されていない。そこで新しい方法でさらに復元接種をしてみているが、これについては近い内に報告する。
JTC-21・P3(RLH-1・P3)株は4NQOに対する感受性がきわめて高く、10-5乗Mと3.3x10-6乗Mの2種類の濃度で30分間処理したところ、いずれも細胞が全部死滅してしまった。もちろん前者の濃度の方がその打撃の与え方は早かった。
これらの合成培地内継代株を4NQOで悪性化できるかどうかということは、今後の研究のためにぜひ確かめておかなくてはならぬ問題であるので、これからも継続して行う予定である。
B)4NQO処理により培養内悪性化したラッテ肝細胞株の染色体分析(各々図を呈示)
i)自然発癌した系(RLC-10(B)):
染色体モードは40本にあり、あまり広いばらつきは示さないが、32本以下の数のかなり多いことは少し気にかかる。この細胞集団に異常分裂の多いことを示唆し、あるいはその内にこのモードも変わってしまうかも知れぬことを暗示している。
ii)その系を動物に復元接種し、さらに再培養して継代している系(RLC-10/R/TC):
モードは39本に減少し、30本以下のものも減少している。
(iii)4NQOによる癌化細胞系(RLT-1株):
41本がモードで、35本以下もかなり多く、ばらつきは余り広くない。
(iv)その復元腫瘍の再培養系(CulaTC株):
この系はきわめて珍しく、モードが74本に移り、しかも染色体数が広く分散している。Selectionによるものか、Mutationによるのか、或は培養内で悪性化細胞を永く継代して行くとこのように染色体数が3倍体rangeに移り易いものか、色々のことを考えさせるデータである。
(v)4NQOによる培養内悪性化系(RLT-2株):
これも他の4NQO悪性化株と同様に、モードが少し左にずれ、41本となっている。
(vi)その復元腫瘍の再培養系(CulbTC株):
これはひどいばらつきを示し辛じて40本がモードと云えるかどうかという始末である。
(vii)4NQOによる培養内悪性化株(RLT-5株):
やはり40本にモードが下がっている。34本以下も多い。
(viii)その復元腫瘍の再培養系(CuleTC株):
この培養もモードが左に移り39本である。
:質疑応答:
[難波]染色体数の少ない所にもピークがあるのは何か意味がありますか。
[高岡]このデータは染色体を主観的に選ばずに、無作為に標本を写真に撮って染色体数を数えました。ですから染色体の一部が散らばっていても残りの染色体が一塊になっていて見かけ上、分裂細胞1個分に見えるようなものが、染色体数の少ないものとして頻度数に入ったものと思います。
[吉田]そうでしょうね。大体39本とか40本位のものは染色体数としては減っていてもセットとしては減っていない場合が多いのです。例えば棒状染色体2本がくっついて1本のメタセントリック染色体になると1本減ったことになります。それ以上に非常に少ない数の染色体はたいてい標本を作る時に散らばってしまったものだと考えられます。
[難波]L細胞は何系のマウスに復元するのですか。
[勝田]C3Hです。
[堀川]L株はC3Hでもつかない方が多いですね。
[梅田]癌研の乾氏の、タバコタールで処理してtakeされるようになった、という報告があります。
[高岡]L・P3を4NQOで長期間処理したものを、C3Hマウスの皮下へ接種したら、小さなtumorを作ったことがあります。
[難波]その処理の濃度と添加期間はどの位ですか。
[高岡]濃度は3.3x10-6乗M30分を3回その後5x10-6乗Mで47日間添加し続けました。
[山田]L・P3は軟寒天内でコロニーを作りますか。
[安村]L・P3を軟寒天で培養したデータを持っていません。
[安藤]私はやってみましたが、合成培地だけではコロニーを作りません。血清を添加すれば作ります。
《山田報告》
ラット肝細胞培養中、自然発癌化前後の細胞電気泳動的構成の変動;(各々図を呈示)
凍結保存前のRLC-10株の泳動的変化;
ラット培養肝細胞RLC-10系は本来形態的に均一であり、そのTumorgenesityの証明されない時点でのヒストグラムは、電気泳動的に極めて均一な細胞集団であり、ノイラミダーゼ処理により、平均泳動度は増加して居ましたが、其の後復元接種して腫瘍性の証明された時点では泳動パターンがかなり変化して来ました。A、B、CのSublineとして維持された株について検索した所、泳動的な細胞構成にばらつきがやや生じ、しかもノイラミダーゼ処理により平均泳動度が殆んど変化しない状態になりました。この時点でpopulation
analysisをすると、明らかに4NQOで癌化したRLT-1、Exp.7-1(岡大株)等の悪性化肝細胞集団に比較して、悪性化が推定される(泳動的に)細胞の出現頻度がこの自然癌化株には少く、従って細胞群全体としての泳動パターンは悪性型を示さないことが明らかにされました。この自然癌化株RLC-10のA、B、CのSubline中、最も本来のRLC-10の泳動パターンと類似している系は“C”であることもわかりました。
凍結保存後のRLC-10(C)のクローン株の泳動パターン;
最もoriginalの型に近い(C)株の凍結保存後の培養株からのコロニー株の三系(clone1,2,3)が分離されましたので、これと更にこれらのコロニーを取り去った残りの細胞をmixした系(miced株)について、その泳動パターンを検索しました。
この三系の泳動パターンのうち、最も均一な集団と思われるものは、clone2であり、ノイラミダーゼ感受性を検索した成績ではclone1及びmixed株にその感受性が出現して来ました。clone1の染色体モードが73であり、clone2及び3のそれは42、mixed株のそれは41であると云う成績(No.7011、勝田)とこの泳動パターンの成績はよく一致して居ると考へられます。即ち
1)clone2が最もoriginalなRLC-10株によく似ている。しかしノイラミダーゼ処理による変化は異る。
2)clone1とMixed株は悪性化している可能性が大きい。
という所見です。この成績を更に写真記録式泳動装置により分析し、clone2株内に悪性化が推定される細胞があるか、若しあればどの程度の頻度で存在するかをこれから検索したいと思って居ります。
寒天培地に生じたRLT-1のコロニー株;
形態学的にoriginalのRLC-10株のそれに近いコロニーがRLT-1より得られ分離されたので、その泳動パターンを検索してみました。この株の泳動パターンは均一です。前項のclone2より更に均一です。この株は4NQOにより悪性化した時点における泳動パターンと極めて良く似て居ます。即ち悪性化した後、約1年後にかなりheterogenousな構成を示し、全体としてノイラミダーゼ処理により泳動度が低下したものが、再び悪性化直後と同様な状態の株として分離されたと云う結果です。
しかし、このコロニー株が非悪性集団であると云うより、悪性化した細胞数が少ない集団であると考へた方が妥当と思われる。この株についてもpopulation
onalysisを行いその構成をこれから調べてみたいと思って居ます。
細胞電気泳動による細胞集団分劃装置“Elphor”
(Cell electrophoretic fractionation)
漸くこの機械が手許に届きました。泳動的な性質に差のある細胞集団を分劃する機械です。約50cmの間隔にある電極の間に30-50V/cmの電圧勾配をかけて細胞を泳動させることが出来ます(従来の測定装置では3-5v/cmの電流を用いていますから約10倍の電気勾配)。
試みにこの機械を用いて、5種の酸性色素を混合した液を分劃した所、きれいに分離されました。従ってこの泳動条件を種々工夫することにより細胞集団を分劃することが出来さうです。
即ち悪性化細胞を含む細胞集団から、悪性化細胞のみを分離出来る可能性があるわけですが、しかしなお分離には種々の基礎実験が必要です。
少くとも細胞を泳動させるメヂウムの撰択、また分離された細胞を再培養するために、この機械の消毒をどの様にしたらよいか等々解決しなければならない問題が山積して居ます。なんとか努力したいと思って居ます。
:質疑応答:
[安藤]この分劃装置では途中の管の内壁に細胞が附着しませんか。
[山田]これから色々試してみます。
[藤井]この機械で実際に細胞を分劃している人が居ますか。
[山田]血球細胞を分けたデータがあります。
[藤井]赤血球と白血球はきれいに分かれますか。
[山田]赤血球とリンパ球は多少混じるゆです。白血球はきれいに分かれます。
[藤井]免疫学的なことにも活用出来ますね。
[堀川]細胞を無菌的に分けられると色々使えますね。泳動度と発癌性の問題も解決できそうですね。
[吉田]染色体の分劃はどうですか。
[山田]染色体の場合は分劃の際のArtifactが問題になりますね。
[勝田]無菌的に分劃出来るとなれば、発癌剤処理後の細胞を経時的にとって悪性化した細胞を拾い出すことも出来ますね。これは安村班員に軟寒天を使って調べてもらいたかったのですがね。
[安村]軟寒天内でコロニーを作った細胞は悪性のものが多いというだけで、必ずしも腫瘍性と平行していません。私は癌化という現象は1ステップの変化ではないと考えていますので、経時的に追ってもどこで悪性化したかを捕らえるのは難しい事ですね。
[吉田]癌化現象は1パツではありませんね。変異とセレクションをくり返して癌化に至ると思います。しかし癌化という定義をどこにおくのか、最初の1パツを癌化というのだと又話は別ですね。
[安村]悪性化したといっても動物にtakeされなければ仕方がないじゃないか−という、そこを何とかしなければ、癌化の定義といっても問題が難しいですね。非常にグロープな物差しでしか測れない所が癌の宿命でしょうか。
[堀川]高等動物の細胞では前癌状態からでもreverseできるのではないでしょうか。前癌状態から本当の癌になるのに又何段階か必要ですね。
[勝田]一度悪性化した細胞が又変異して可移植性を失っても、それはもとの正常に戻った訳ではありません。腫瘍性と可移植性とは区別して考えなければなりませんね。DNAの間違った修復が変異に関係しているとは考え難いという意見が多くなってきましたね。
[堀川]放射線屋は関係していると考えたいのですが、実際には修復能力をもたないものに癌化が多いというのが苦しい所です。
[山田]ところで、この機械で扱ってはならない細胞があったら教えてください。例えばウィルス発癌の細胞を一度かけたら、あとのものは皆そのウィルスに感染して駄目になったというような事になると困りますから。
[安村]まあ、マウスの系は危ないでしょうね。SV40などのかかったものも、やめておいた方が安全ですね。
《高木報告》
1.腫瘍細胞と正常(対照)細胞との混合移植実験について
この実験は始めに行ったものでcontrolの細胞が50代で1/3にtakeしたので、はっきりしたことは云えなくなったが、54代であ0/2でtakeされておらず兎も角これまでのまとめが出たので一応掲載することにした。(膨大な成績表を呈示)
これをみると、RG-18 10万個では特に差はなく、1万個でRT-9(control)を100万個混じた場合潜伏期が短縮され、RG-18
5,000コ、1,000コでは有意の差なく、100コではRT-9を100万個、10万個混じた場合、takeされた率および、潜伏期ともに腫瘍形成能の促進を思わせた。RG-18、10の場合もRT-9、1万個、10万個、100万個混じた場合むしろ“促進”を思わせるdataであった。
この様な傾向はつづいて行った対照細胞としてRL細胞を用いた場合にもみられることは、すでに報告したところである。現在、腫瘍細胞も正常細胞もWKA
rat originのものを用いた実験を計画中である。
2.ラット胃の培養について
これはすでに先に報告したが、今回は今少し詳細にのべてみたい。
生後0〜5日目までのラットの胃を無菌的に摘出し、漿膜は出来るだけはがして抗生物質(Pc、SM、Mycostatin)を含むHanks液中にしばらく浸し、メスで細切してplasma
clotを用いることなくTD-15型培養瓶にて培養した。LH、199、MEM、LH199、Mod.Eagle・・に10%CSをまぜた培地を用いたが、これらの中ではLH+199が最もよい様に思われた。
上皮様の核小体の比較的はっきりした細胞の増殖がおこるが、pas染色は陰性であり、これらの細胞はrefeedしている間に3〜4週で発育はとまってしまう。長期間培養出来るように検討中である。(写真を呈示)
細胞が索状にあるいは腺腔を形成するかの如くして増殖している場所もみられた。
3.l-asparagineのラット腫瘍細胞の増殖に及ぼす影響
先の班会議でl-asparagineが、ラット腫瘍細胞(spont.transformationをおこしたもの)に対して増殖促進効果はないようであると報告したが、その後の実験によりやはり効果が認められるようで、目下検討中である。
この細胞は1603+5%CSで最もよい増殖がみられ、ついでMEM+Asp.+5%CS、MEM+5%CSの順である。加えるAspragineの濃度はこれまでの報告されているように50μg/mlが一番適しているようであった。
:質疑応答:
[難波]この細胞系では何日くらい培養した時に自然発癌しましたか。
[滝井]約1年半くらいです。
[勝田]報告は最後にちゃんと結論を云わにゃいけません。動物に復元接種する時、正常細胞を混ぜてやると悪性細胞単独で復元した時よりもtakeされる率も高くなるし、延命日数も短くなる、ということですね。
[山田]其の理由について何か考えていますか。
[高木]使っている細胞をとった動物の系と接種した動物の系が、ウィスターキングAとウィスターで免疫的にやや問題がありますので、宿主側に免疫的撹乱が起こるということも考えられます。
[山田]正常細胞を混ぜた時と混ぜない時とで出来た腫瘍の像に違いがありますか。
[高木]殆ど違いがありません。
[堀川]宿主側の免疫的撹乱という事なら、生きている細胞でなくてもよい訳ですね。
[高木]混ぜる正常細胞の方を全く種の違うもの、例えば猿の細胞を混ぜてみるとか、死細胞を混ぜてみるとか、又完全にアイソの系でどうなるかとか、色々実験をしてみたいと思っています。
[堀川]単独実験で腫瘍の発現までの日数が、入れた細胞の分裂回数と平行しているでしょうか。少数細胞の方が比として早く発現しているのではないか、つまり必要以上の細胞を入れると無駄な分裂があるのではないかという感じがします。
[吉田]ウィスターとウィスターキングAとでは抗原性は余り違わないのではないかと思いますが・・・。
[梅田]培地中の牛血清に対する抗体ができることが一枚かんでいませんか。
[難波]血清に対する抗体が出来る前に腫瘍が発現すると思います。
[高木]そうですね。
[藤井]単独接種では抗原量として不足で、混合接種の方は抗原量を満たすという事は考えられませんか。抗体が出来ることで腫瘍の増殖が増すというデータもあります。
[勝田]正常と腫瘍の接種部位を変えるとどうでしょうか。
[山田]又は接種する時間を少しずらしてみると、夫々の細胞の反応がはっきりすると思います。
[三宅]胃の細胞はもとの胃のどこの部分が培養されたか判りますか。
[高木]パス陰性です。どこの部分から出たのか今はまだ判っていません。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(28)
(表を呈示)SDS法で細胞をlysisさせる際、そこにpronaseや2-mercaptoethanolが存在すると中性蔗糖勾配遠心で分析されるDNAは更に小さなものになる。さらにまた4-HAQO処理をうけた細胞をpronaseを含むSDSで処理しても、4-HAQOとpronaseの両効果は相加的に現れない。つまり4-HAQOのDNA上のattack
siteはどうもpronase sensitiveのsiteではないかとする安藤さん達の実験が追試し得た。
またEhrlich細胞蛋白をあらかじめH3-leucineでラベルしたものを用いて、このlabeled
proteinをSDS溶液中に含まれるpronaseで、あるいは4-HAQOで処理した際、pronaseはSDS中でも蛋白を分解する能力をもつが、4-HAQOはこのような能力はなく、このことから、同じ蛋白部分をattackするにしても4-HAQOの場合にはpronaseとは異なった反応で蛋白部分の切断を起こすものと思われる。
またpronaseとX線との関係を、pronaseと4-HAQOの相互関係で調べたように検索しているが、それらについての明確な結果はもう少し実験を重ねた上で報告する。
:質疑応答:
[安藤]レプリカに使った道具の作り方について一寸説明して下さい。
[堀川]プレートにキャピラリーを沢山立てて、そのキャピラリーの先にリング状のスポンジを糊で張り付けます。このスポンジがないとガラス面にキャピラリーの先が密着しないために、うまく複製することが出来ません。
[安藤]トリチウム水の濃度はどの位ですか。
[堀川]1,000μc/mlの濃度から始めました。4日間で9,000r当たっても生きた細胞が残っています。X線とβ線はやはり違うものですね。
[安藤]トリチウム水で培地をつくるわけですね。細胞の増殖に対して、影響はありませんか。
[堀川]トリチウム水が入っただけで分裂は抑えられます。しかしトリチウムを含まない培地にもどすと、すぐ又分裂増殖を始めます。
[吉田]コロニーレベルでレヂスタントがとれる訳ですね。それぞれのコロニーの染色体は調べましたか。
[堀川]まだ染色体を調べるところまで行っていません。細菌と違ってはじめからプレートにまく訳にゆきませんでしたので、今濃縮している段階です。
[藤井]X線の場合、温度とか酸素の影響はどうですか。
[堀川]温度については、はっきり判りませんが、酸素存在下ではラジカルが出来ても安定化されtoxicityが上昇するので細胞がよく死ぬと言われています。
[藤井]するとこのやり方でselectionに使えるかも知れませんね。
[堀川]それも考えられます。私としてはX線と4NQOがどうしてああいう違った切り方をするのかという事に興味があります。
[吉田]紫外線はどうですか。
[堀川]紫外線も使うつもりですが、照射してから後に又小さく切れるので、なかなか解析が難しくなります。
[吉田]X線と化学発癌剤では切る場所が違うのでしょうか。
《安藤報告》
L・P3DNAの二重鎖切断に対する還元剤の効果
メルカプトエタノール(ME)がL・P3細胞のDNAに二重鎖切断を起す事(連結蛋白の切断)を報告して来た。これに関連してMEその他の還元剤がファージλ、ポリオーマのDNAに対してヌクレオチド結合の切断を起すことが報告されている(PNAS,53,1104,1965;J.Mol.Biol.,26,125,1967)。しかしそれ等の作用は、これ等の還元剤により生ずるラジカルによる切断である事も示されている。そこで我々もMEの他にどのような還元剤がL・P3DNAに作用するかを調べた。(図を呈示)アスコルビン酸(ビタミンC)は20mMでpronaseで切断される大きさ迄分解した。ハイドロキノンも同様に切断を起したが100mMでもなおpronaseのレベル迄は分解出来なかった。次にもしもこれ等の還元剤による切断がラジカル反応によっているとすれば、いわゆるradical
scavengerによって抑制される筈である。今回はMEの作用に対してエタノールの効果を調べてみた。結果は全く効果はなかった。すなわちMEの二重鎖切断の作用は還元作用によるのであって、ラジカルによる切断ではないことを示唆している。しかしこの点は更に追究する必要がある。
:質疑応答:
[堀川]プロナーゼで最高に切っておいて更にビタミンCをかけるとどうなるでしょうか。又温度の影響も大きいと思います。
[安藤]薬剤の濃度もincubation timemo小さく切れる限度があって、それ以上濃くしても時間をかけても切断は進まないようです。
[堀川]radicalの可能性をエタノールをradical
scavengerとして用いた実験だけで否定することは出来ないと思います。その他にもcysteine、cysteaminなど用いて実験する必要がありますね。特に動物細胞の系でエタノールがscavengerだという実験はまだされていないようです。
[梅田]DNAに蛋白があり、S-S結合が切れる−という所はよいと思いますが、4NQOが本当にS-S結合を切っているのでしょうか。
[安藤]S-S結合を特異的に切っているというevidenceはありません。単に蛋白を切っているということです。
[永井]ビタミンCと4NQOではどちらがより小さく切れますか。
[安藤]濃度にもよりますが、4NQOの方が小さくまで切ることが出来るようです。ですからその作用は同じではないと思っています。
[永井]ビタミンCとか4NQOのDNA切断がfree
radicalによらないという点がまだ問題ですね。そこを何とかはっきりさせられると、もっとはっきりした見方が出来るのではないでしょうか。
[堀川]そうですね。もう切断の薬剤のほうはあまり数を増やさずにscavengerの方を増やして一つ一つ事をはっきりさせて行く方がよいと思います。
[安藤]4NQOとMEのDNA切断の違いを考えると、MEは二重鎖を切る、4NQOは二重鎖も切るが一重鎖も切る、そして濃度を上げてゆくと一重鎖切断が多くなって二重鎖の切断に近いような重なった切り方も増えてくるという事ではないでしょうか。
[勝田]4NQOでもphotodynamic actionがあるのですから、free
radicalの可能性はそう簡単に否定できませんね。
[堀川]UVの実験のように暗室でやると、違った結果が出るかも知れませんね。
[藤井]プロナーゼ、MEなどはin vivoでも作用がありますか。
[安藤]プロナーゼはまだやってみていません。トリプシンではDNAの切れ方がsingle
peakになりませんでした。
[永井]4NQOがアミノ基の末端、カルボキシ末端につくとすると非常に特殊なつき方をしていると考えられますね。DNAと蛋白との結合の様式がどんなものか考えてみるのも面白いですね。
[堀川]大場氏はDNAそのものには影響がなくても、DNAをサポートしているものがプロナーゼで切られると、現象としてDNA切断が起こるという考えです。
[梅田]DNAの中に挟まっているらしい蛋白同志の端と端がくっついているという事は考えられませんか。
[永井]それは、あまり特殊な形になりすぎます。もっとシンプルな形を考えてみたいですね。
[堀川]nucleotideの中に直接はいらずに、蛋白がprotectしているとも考えられます。ヒストン的な結合ですね。
[永井]そうだとすると、二次的な結合になりますから、何か他の方法で蛋白をはずしてみれば、DNAは小さくなるはずですね。
[安藤]みているDNA peakの蛋白含有量が問題ですね。5%以下です。ヒストンは殆ど含まれていないと思います。
[堀川]一重鎖切断が起きない程度の処理をしてサイミジンの取り込みがあるかどうかみておく必要がありますね。
[安藤]それはやってみるつもりです。4NQOを除いた回復の時、DNA合成が必要かどうか。DNA合成をblockした時の戻り方をみようと思っています。
[吉田]このDNAの中にある蛋白は塩基性ですか。
[安藤]わかりません。
《難波報告》
N-30:培養内で癌化したラット肝細胞の旋回培養による細胞集塊形成能の検討
上皮性の細胞を培養内で癌化させる場合、細胞が悪性化したか否かを、なるだけ早く培養内で捉えることが出来れば、(しかも、定量的に捉えられれば)、現在の培養内での発癌の仕事は大きく進展することが期待される。
現在まで、多くの悪性化の指標が報告されているが、いづれも悪性化の決定的な指標になり得ず、いくつかの指標がそろえば、細胞が悪性化したと推定している段階である。
今回は、旋回培養法を用いて、対照細胞、悪性細胞の細胞集塊形成能を検討し、その集塊形成能が、悪性化の指標になり得るかどうかを検討した。またDAB飼育ラッテ肝の培養細胞については、癌化と共に細胞集塊の増大することをこの秋の癌学会で報告した。
使用した細胞:1)RLN-E7系の対照細胞、4NQO処理悪性化細胞、この悪性化した細胞を復元して生じた腫瘍を再培養した細胞。2)RLN-E7系の対照細胞より単個培養してクローン化した(LC-10)4NQO未処理対照細胞。4NQO処理悪性化細胞、腫瘍の再培養細胞。3)長期培養により自然発癌したラット肝細胞(RLN-8)、培養初期に1μg/ml
DABを4日間作用させ、長期培養後、動物に造腫瘍性を示すようになった細胞(RLD-10(1μg))、この細胞に更に10〜20μg/mlの3'-Me-DABを投与し、その造腫瘍性を高めた細胞(RLD-10(10〜20μg))。
旋回培養法:月報7002に報告した。
結果:1)RLN-E7、LC-10両系では、細胞集塊の大きさは、腫瘍細胞>4NQO処理悪性化細胞>対照細胞の順になった(図を呈示)。培養24時間目、48時間目の細胞集塊の大きさを比較した結果、48時間では、腫瘍細胞の細胞集塊の大きさが減少した。このことから、それ以後の全ての実験は、24時間の旋回培養を行った。at
randomに選んだ細胞集塊を、その直径の大きさに順じて並べ、大きさの分布を示した。2)自然発癌したRLN-8系の細胞集塊はそれほど大きくなかった。これは、この細胞の悪性化の程度が低い為か、或は集団中の悪性化細胞の数が少いか、あるいは、また造腫瘍性獲得後の変化の為かも知れない。3'-Me-DAB処理細胞では細胞集塊の大きさが増大した。
以上のことから旋回培養法による細胞集塊能の増大は、細胞の培養内悪性化の指標と考えられる。
◇DABによる発癌実験
5)培養日数の比較的短い株細胞をDAB及び3'-Me-DABでtransformさせる実験
月報7008で報告したRLN-B2 liver cell lineを使用、TD40に20万/mlで10ml
inoculateし2日後、DAB及び3'-Me-DABを添加し続ける。
TD40に10ケ所印をつけて、位相差で追跡する。視野に入る広さは0.34平方mmである。細胞数をplotすると、20%BS+80%Eagle'sMEM及び+0.4%アルコール群は7日間で殆んど変らない。DAB群は添加後、添加直前の平均細胞数と変らないで23日間の添加に耐えている。3'-Me-DAB群は最初の3日間で減少したように見えるが以後20日間平均細胞数は変らない。(10ケ所の細胞数を個々に検討すると、TD40の比較的肩の部位1、2、9、10の位置で3日間の減少が著しい。従ってこれは技術的な誤りと考えた方がよいかも知れない。他の6ケ所の平均ではDABの所見と似ている)。平均細胞数では変化がないが、核分裂は少数ではあるが行われている様で目下、映画フィルムを作製中。気付いた点は下記の通り。(1)細胞の運動は発癌剤添加により極めて少くなる。(2)細胞が集まってコロニーをつくる能力がなくなり離解する。(3)細胞質が大きくなり胞体内に顆粒が増加する。
:質疑応答:
[安藤]DAB消費としてみているのであって、取り込みをみているわけではないのですね。4NQOの場合も培地中の残量という点では時間に平行して減ってゆきます。
[難波]今ラベルしたDABを使って取り込みも調べようとしています。
[堀川]細胞数が増えるのでDABの残量が減るのではありませんか。
[難波]検討してみます。
[難波]細胞集塊ではピューロマイシンを培地に添加すると出来方が抑制されます。
[堀川]添加してすぐその現象が起こりますか。
[難波]すぐです。
[堀川]大きな細胞集塊を作るようになるには、腫瘍であることが必要なのか、培養日数に関係があるのか確認してほしいですね。
[難波]それはもっときっちりやっておきたいとは考えています。しかし今までのデータでも4NQO処理で悪性化した系は大きな細胞集塊を作りますが、その対照の未処理群は同じ培養日数でも大きな細胞集塊を作りませんから腫瘍性と関係がある様に考えられます。
[佐藤]培養日数がかなり長くて培養状態の良好な系でも、takeされない系では大きな細胞集塊を作りませんから、ある程度腫瘍性と平行していると考えられますね。
[勝田]発癌剤処理して日の浅い系のものでも大きな塊を拾うと、腫瘍性のあるものが拾えるようだと、電気泳動法より簡単にクローニング出来るという事になりますね。
[堀川]初代培養からでもこの方法でふるい分けられるかも知れませんね。培養することを考えに入れると、電気泳動法より簡単にクローニング出来るという事になりますね。
[吉田]細胞集塊の出来る機構について何か考えがありますか。細胞が均一な時は皆同じように回ってくっつかないが、多様性が増すと機械的な要素でくっつくのではないでしょうか。
[難波]温度を下げると細胞集塊が出来なくなりますから、あまり機械的な要素とは思えません。
[勝田]細胞膜の問題だと思いますね。
[安藤]アグリゲイトの出来ない細胞に、トリプシンをかけて、この方法で培養するとアグリゲイトが出来るようにならないでしょうか。
[難波]株細胞はトリプシンでばらばらにして、この培養にかけています。膜の表面構造を変えるようなものを加えて実験をしてみようと思っています。膜の表面をトリプシンで処理した場合、回復するのにどの位の時間がかかりますか。
[永井]5〜6時間位でしょうか。
[堀川]発癌剤の処理後、大きな塊を作るものと小さいままのものをふり分けて、増やして電気泳動度を調べてみると面白いですね。
[難波]ぜひやってみたいと思います。
《梅田報告》
Mycotoxin投与により惹起されるDNA single
strand breakについて
発癌性の証明された又はその検索中のMycotoxin6種について、培養細胞DNAにsingle
strand breakが惹起されるかどうか、また惹起された場合の回復能の有無について検索したので報告する。
細胞はHeLa細胞を用い48時間H3-TdRでPrelabelした後、各種Mycotoxinで1時間及び24時間処理する。細胞をrubber
cleanerではがし、アルカリ蔗糖勾配遠心法(30,000rpm
90分遠心)により解析を行った。回復能の有無はMycotoxinで1時間処理した後、細胞を洗い適当な時間培養し、解析した。(以下各実験毎に図を呈示)
1)Luteoskyrin;Penicillium islandicumの生産するMycotoxinでマウス、ラットに肝癌を生ずる。HeLa細胞には1μg/mlで致死的である。32μg/ml1時間処理、1μg/ml24時間処理ともDNA
single strand breakは認められなかった。
2)Aflatoxin B1;Aspergillus flavusの生産する強力な発癌性を有するMycotoxinでラット、ヒツジ、アヒル、マスなど多様な動物に肝癌を生ずることが報告されている。HeLa細胞には10μg/mlで準致死的である。100μg/ml1時間処理、10μg/ml
24時間処理ともDNA single strand breakは認められなかった。
3)Rubratoxin;Pen.rubrum、Pen.purpurogenumの生産するMycotoxonで動物の増殖細胞及び肝、腎、に特異な病変を起こす。発癌性については目下検索中である。HeLa細胞には100μg/mlで増殖阻害に働く。1μg/ml1時間処理、100μg/ml
24時間処理ともDNA single strand breakは認められなかった。
4)Fusarenon X;Fusarium nivaleの液体培養蘆液から単離されたScirpene系化合物で腸管上皮、骨髄など動物の増殖細胞に強い障害を与え、目下白血病との関係が検索されつつある。HeLa細胞には1μg/mlで致死的である。32μg/ml1時間処理で軽いDNA
single strand breakが認められたが1μg/ml
24時間処理では認められなかった。
5)Patulin;Pen.urticae、Asp.clavatus、Asp.terreusなどの生産するMycotoxinでラット皮下投与により肉腫の発生が報告されている。HeLa細胞には10μg/mlで致死的である。32μg/ml1時間処理でDNA
single strand breakが認められ、100μg/ml1時間処理ではさらに顕著である。又10μg/ml
24時間処理でもDNA single strand breakが認められた。
続いて回復能の有無を検討したが回復は認められず、逆にDNA
single strand breakが顕著になって行く傾向が認められた。
6)Penicillic acid;各種のカビ代謝産物より分離されており、ラット皮下投与により肉腫の発生が報告されている。32μg/mlでHeLa細胞には致死的である。320μg/ml1時間処理で軽い、1mg/ml1時間処理で著明なDNA
single strand breakが認められた。又100μg/ml
24時間処理でもDNA single strand breakが認められた。
続いて回復能の有無を検討したが回復は認められず、逆にDNA
single strand breakが顕著になって行く傾向が認められた。
§結果§ 検索を行った6種のMycotoxinのうちPatulin、Penicillic
acidの2種に著明なDNA single strand breakが認められたが、ともに回復能は認められなかった。又はっきり発癌性の証明されているAflatoxin、LuteoskyrinにはDNA
single strand breakは認められなかった。
:質疑応答:
[難波]回復能の有無は薬剤の代謝速度に関係があるのでしょうか。
[堀川]或いは薬剤が細胞内に残って回復を阻害するのではないでしょうか。
[梅田]アルキレーションの作用のあるものについて回復をみようと思っています。そのほかにもアクチノマイシンDなどのように、DNAに入り込んでしまうものについてもDNAの切断があるかどうか調べてみるつもりです。でも発癌性のある物質でもDNA切断のみられないものが有ったということは大変ショックでした。色々な薬剤について幅ひろく調べてゆこうと考えています。
[吉田]染色体の切断はどうですか。DNAレベルの切断とパラレルに行っていますか。
[梅田]あまり平行していないようですね。染色体の切断の方はまだ調べていないものがありますが・・・。
[堀川]ナイトロゲン・マスタード等のデータでも切断のあと修復されないものはないようですね。ですから修復されない場合は細胞内に薬剤が残っている可能性が大きいのではないでしょうか。それから、4NQOのように一旦取り込んでから又吐き出すのか、又は細胞内に残っているのか調べてください。
[安藤]二重鎖の方も調べてください。
[吉田]生きた細胞への処理でなく、DNAレベルでの直接の処理によるDNA切断はどうですか。
[安藤]それは発癌性と必ずしも平行しませんね。
[堀川]4NQOの場合、裸のDNAでは切らないが、4HAQOだと切る、しかし細胞内のDNAですと4NQOでも切るということもあります。
☆☆このデータはDNA鎖切断の誤修復が発癌とは関与しないかも知れぬということを示唆し、その意味で非常に興味のあるところである。しかし、安藤班員、堀川班員の場合もそうであるが、これらの研究では大量の細胞を使用して分析している。細胞の発癌率から考えて、それで悪性化細胞がひっかかるものかどうかということになる。勝田☆☆
《安村報告》
§腫瘍細胞の薬剤耐性株のtransplantability
約2年ほどまえからCell hybridizationのsystemづくりの一環として、Littlefieldの法にもとづいて、一つはpurine
analogである8-Azaguanine、一つはpyrimidine
analogであるBUdRに対する耐性株づくりが始められました。
材料の細胞株は1954-4-7樹立のFRUKTO株で、マウス果糖肉腫(滝沢肉腫)由来、現在routineにはEagle
MEM+CS2%で継代されてきているものです。
8-Azaguanine 50μg/ml耐性のFRUKTO-A、BUdR
50μg/ml耐性のFRUKTO-Bの2種が現在えられております。
前者はSoft agarでcloningされています。後者は液体培地でcloningされました。予備段階でFRUCTO-Bのtransplantabilityが5,000コ/マウス脳内接種で認められなかったので今回、transplantabilityを原株とFRUKTO-Aと共に調べてみました。脳内接種で生後3日目のdd-Yマウスを用いました。
結果は(表を呈示)、8-Azaguanine耐性株がtransplantabilityを原株と比較しうるほどに維持しているのに反して、BUdR耐性株はこの実験では10,000コの接種細胞数でもTumorの発生がまったく認められなかった。このことはSilagiらのmelanoma
cellsでのBUdR実験(BUdRの存在下ではmelaninの産生、tumorigenicityともに低下する、growthには影響がない)と比較して興味ある結果であろう。
:質疑応答:
[堀川]BUdR耐性の細胞で腫瘍性が消失したものは、耐性になったことが関係しているのか、或いはBUdRによる単なる脱分化なのか判りませんね。
[安村]とにかくsingle stepの変化ではないと考えています。
[堀川]親株の中にBUdRに耐性のある細胞が混ざっていて、それは又腫瘍性もなかった、そしてその細胞がselectionで残ってきたとも考えられますね。
[吉田]この一例だけでそれを云々することは出来ませんね。先ず耐性細胞を幾系もとってみて、その腫瘍性を調べてみなくてはなりませんね。
[堀川]BUdRを除いて培養しておくと腫瘍性を再び獲得しますか。
[安村]それはまだやっていません。しかし8アザ耐性の細胞は腫瘍性を失わないので、動物にtakeされたものを再培養してみると矢張り8アザに対する耐性も失わずにいます。ですから8アザ耐性のものは動物内でその耐性を確保したまま増えるわけです。
[安藤]BUdRを除いてチミジンカイネースの無い細胞は増殖出来ない培地で選別し、増殖してきた細胞の腫瘍性について調べてみれば耐性と腫瘍性の関係ははっきりします。
[安村]私はチミジンカイネースだけが腫瘍に結びついているとは考えていません。かりにチミジンカイネースが戻ってきたら腫瘍性も戻ってきたとしても“ハイ、そうですか”というだけの事だと思っています。
[梅田]BUdRは良い抗癌剤ですし、耐性を持つ細胞が腫瘍性をもたないとすると、すごく良い治療剤で完全に癌を治せるはずですがね。
[安村]治療という場合は生命が無くなってしまうと意味が無くなります。腫瘍細胞にBUdR耐性が出来る前に人間が死んでしまうという事でしょう。
【勝田班月報・7101】
《勝田報告》
§純系ラッテの飼育
マウスやハムスターの組織細胞は培養内で自然発癌しやすいが、ラッテのはしにくい。これが潜在性のウィルスによるものか否かは別として、この理由もあって、我々の班ではラッテ材料を実験に用いることが多かった。しかしマウスと異なり、ラッテは純系がきわめて少いので、我々の研究室では、吉田肉腫や肝癌もtakeされるような、日本系のラッテの純系種を作ることをかねてから心掛け、且1系を樹立し、次の系も作り上げかけている。この近況について報告する。
1)JAR-1系
春日部の動物屋より購入した雌雄各1匹のJapanese
Albino Ratsを研究室内で記録なしに2年間交配繁殖させ、それから初めてsystematicにbrother-sister
matingで交配し、今日に至った。指標としては、"AH-130、吉田肉腫をtakeしやすい"という点を採用した。これまでの接種試験の綜合的な結果を示すと次の通りである。AH-130は
182/201匹で平均take率は90%、吉田肉腫は 47/52匹で90%、武田肉腫は
99/101で99%。
F19のとき同腹児4匹について皮膚の交換移植をおこなったが20〜29ケ月の生存期間中、植皮は脱落しなかった。顔付はやや丸型で、血液型はヒトAB型に近い。
産児回数及び産児数の少ない事が難点であったが、F37〜F38に至ってどちらも増加しつつある。現在F38になっているが皮膚の交換移植を試みたところ、順調にtakeされている。
2)JAR-2系
JAR-1♀と春日部♂の雑系とを交配し、産児数の多いことを指標にして淘汰した。この系はJAR-1と同様にAH系肝癌の腹腔内継代に使用適である。なお、産児回数、産児数はJAR-1よりはるかに多い(表を呈示)。表でF14〜F17の平均産児数の減少しているのは、動物室の温度の条件が悪かったため、出産しても仔を育てなかった♀ラッテのあったことによると思われる。実際の胎児数はかぞえたところでは、10〜17匹であった。
これらのラッテがこれからの癌研究に大いに貢献してくれることを期待する。
《難波報告》
謹賀新年 本年もよろしくお願いいたします。
N-31:Wheat germ lipase(WGL)は4NQOで培養内で癌化したラット肝細胞の増殖を抑制するか否かの検討
培養内で癌化した細胞の指標を培養内で探す試みの一つとして、WGLが悪性化細胞の増殖を抑えるかどうかを検討した。
WGLが悪性変異細胞を特異的に凝集させ、正常細胞を凝集させないとの報告は、Aubらの報告以来多数あり、表にまとめてみた(表を呈示)。
また、これらの論文のあるものの中には、WGL中の細胞凝集物質についての同定、或いは細胞側のReceptorなどについて記載されている。
WGLの悪性化細胞の増殖に及ぼす影響を検討した仕事は、私の知る限りではAmbroseのものがあるのみである。その論文では培養されたKidney
tumorの増殖は抑制されるが、正常のKidney cellの増殖は抑制されないと述べられている。
そこで、現在私共の所で培養内で4NQOによって悪性化した細胞の増殖が、WGLによって抑制されるか否かを検討した。
実験方法:WGLは50mg/10ml of Eagle's MEMに溶きミリポアーフィルターにて滅菌し、細胞まき込み後2日目に、20%BS+Eagle's
MEMの培地中に終濃度500μg/mlに添加し続けて3日間培養し、その細胞数をWGLを含まぬ培地で培養した細胞数で除し、細胞増殖抑制とした。
その結果は、培養内で悪性化したラット肝細胞の増殖はWGLによって抑制されないことが判った。
一応ネガティブデータであるが、実験結果を表に示した(表を呈示)。
なお、細胞の凝集性についても検討したが、現在までのところ悪性化細胞に特異的な大きな細胞集塊は形成されなかった。
《佐藤報告》
DAB、3'-Me-DAB in vitro発癌に関しては、現在52日〜80日経過しています。形態学的なtransformationは起っていますが、動物復元の結果が未だでていません。現在の所B2系では6μg/ml程度で添加したものが、最も早くtransformationをおこす。transformationをおこすには細胞分裂がおこっている状況で添加する方がよいように思われる。データについては1月終りか2月の班会議の予定にしています。
《高木報告》
新年おめでとうがざいます。
1970年は長くて短い一年でした。紛争およびその後におこったいろいろな事態のため起伏が多かったせいでしょうか。昨年の年頭の言葉は全くどうしようもない心況で書いたものですが、今年は未だ問題は山積しているとは云え、とも角すべては一応運行されており、少しは落着いた気持で過ぎし年を振り返られるように思います。昨年、年頭に4つの計画を書きました。その中NGのdataはどうにかまとまったものの実験に関しては混合移植実験が可成りのところまで行っただけで、外はまだこれからです。先の班会議でも御話ししたようにWistar
rat originの腫瘍細胞にWKA rat originの正常細胞を混じてWKA
newborn ratの皮下に接種した場合、tumorigenicityが促進されるように思われた訳ですが、その理由の1つの可能性として、感作リンパ球が腫瘍細胞に近付くのを周囲の多くの正常細胞がさまたげることも考えられます。両細胞を別々のsiteに接種する実験を計画しています。また本来の目的からもisologousな実験系を用いねばならない訳で、この実験はすでにスタートしています。このdataは今年中に何とか早くまとめるところまでもって行きたいと考えています。
次にsoft agarの実験ですが、これは角永、黒木氏等のdataとは異なり私共でもtumori-genicityとCFEおよびcolonyの大きさの間に、相関関係はないという成績をえました。しかしこれにはagarの固さとか培地組成の問題とかいろいろな因子がからんでおり、もっとこう云った基礎的な面を検討してみなければならないと考えております。l-asparagineなどを培地に加えたりしてさらに実験を続けたいと思います。
NG発癌実験はこれまで細胞数とNG濃度の関係はあまり考えず、またtransformationまで可成りの時間を要した訳ですが、もう少しスマートな手を検討すべく、比較的少数の細胞に低濃度のNGを作用させ効率よく発癌させる系を作りたいと考えています。なお、target
cellとしてratの胃由来の細胞を用いるべく努力していますが、とも角primary
cultureにNGを作用させて様子をみるつもりです。今年は当班も一応periodを打つ年と聞いております。私共の仕事も何とか一きりつくところまで行きたいと念願しております。
今年もよろしく御願いしたします。
《山田報告》
昨年中は大変お世話になり有難う御座居ました。今年も宜敷く御指導の程お願い申しあげます。
さて暮も押しせまって来てから、ラット肝細胞RLC-10のクローン株について、写真記録式泳動法により分析しましたが、最後のフィルムの現像に失敗してデータになりませんでした。(図を呈示)また図に示します様にラット腎由来の細胞株R2K(細胞樹立当初一回4NQOを作用させています)と、それに3.3x10-6乗Mの4NQOを2回最近作用させてから約2ケ月目の株(R2KQ)について、その電気泳動的性質についてしらべてみました。R2Kは約半年前に検査してNo.7008号に報告しましたが、その成績と比較しますと、細胞泳動度のバラツキがやや増加していますが、シアリダーゼ感受性はかへって減少している様です。これに対して、RKQの平均泳動度はR2Kにくらべてかなり速く、シアリダーゼに対する感受性はかなりある様です。
この腎由来の細胞の電気泳動的性格については、まだあまり良くわかっていませんので、はっきりしたことは云へませんが、control株(と云っても4NQOを一回作用させてありますが)と思われるR2K株は6ケ月以前にくらべると、むしろ変異細胞の頻度が減っている可能性があり、また2回の4NQO処理により再び変異細胞が増加して来たのではないかと想像されます。復元成績とこの成績を比較しなければ、決定的な推定は出来ないと思って居ます。
《梅田報告》
新年おめでとうございます。本年も宜敷くお願いいたします。
(1)昨年を振り返ってみると、ハムスター細胞ににN-OH-AAF、トリプトファン代謝産物、Monocrotaline等を投与してなんとかin
vitro carcinogenesisを成功させようと努力したのですが、結果はtransformしたと思った時にはcontrolの細胞もおかしくなりつつあったわけで、あまりぱっとしませんでした。この面での仕事はやはりなるべく早く結果の出る方法を開発しなければ意味がないわけで、本年はその線で努力してみる積りです。又ラットの細胞も使ってはいるのですが、この方は全体に細胞の生長が遅く、結果を見守っているのが現状です。
一方安藤さんに教わって始めたDNA strand
breakの仕事は、始めてからのんびりしすぎてdataの蓄積も遅かったのですが、お陰様で、強力な発癌剤でもbreakが起らず、又発癌作用のあるmycotoxinでbreakが起ったものもrepairされない例があるという興味ある結果を得ました。今迄医科研のLab.でしかこの仕事は出来なかったのですが、やっと横浜のLab.でも超遠心分離機が動く様になったので、本年はもっとspeedyに仕事を進めたいと計画しています。年頭にあたりあれもこれもと考えるのですが、以上の2つを一番大きな目標にしたいと考えています。
(2)AflatoxinB1はActinomycinDに似た作用、即ちDNA-dependent
RNA polymerase活性をおさえると報告されているので、actinomycinD投与時のDNA
single-strand breakの有無をみてみました。先ず文献的にActinomycinでのDNA
strand breakの仕事があるかどうか、一応調べてみたのですが私の調べた範囲では見当りませんでした。御存知の方があれば是非お教え下さい。
方法はいつもの如くで細胞はHeLa細胞です。図に示す如く、確かにbreakは惹起される様です。次に3.2μg/ml1時間投与后のrepairをみましたが、殆んど完全にrepairされます。この結果からするとActinomycinDはAflatoxinとは似た作用があると云うだけで、作用機作は全く異るのでしょうか。(図を呈示)
《堀川報告》
新年おめでとうございます。
好調にすべり出した1970年でしたが、後半に入ってからは学寮委員会とか学生生活委員会(1日補導委員会)で苦しめられ、相当の時間をそちらにとられたため思うように仕事がはかどらなかったというのが実情である。
それでも新講座として始めての学生を迎え、さらに大学院進学者の決った1970年はある意味で当放射薬品化学教室にとって態勢作りの出来た一年であったともいえる。
そしてまた一講座のチーフとして、また一学部の教官として教育と研究と管理に力を等分して行かねばならないむづかしさをしみじみと味あわされた年でもあった。一つの事に力を集中している時には必ず別の何かが留守になる。
こういった意味からも今後の日本の大学教育は、研究と教育という2つの独立Unitのもとに進めるべきではなかろうか。
さて、1970年は放射線、発癌剤によるDNA障害の修復機構の研究を中心に、レプリカ培養法の確立、各種放射線感受性および耐性細胞の分離といった他方面から仕事を進めてきたが、1971年も引きつづき更にこれらを精力的に発展させたいと思っている。
こういった意味からも、今年も班員の皆様の暖かい御支援と御指導のほどを期待してやみません。
《安藤報告》
新年おめでとうございます。いつまでたっても新米班員で、班長に叱られ通しの一年でした。本年も相変らずの事と思いますが皆様よろしくお付合お導きの程お願いいたします。
一年の計は元旦にありと申します。そこで本年度の計の初めに当りまして一応考えてみました。先ず基本的には「細胞の癌化とは何か」を中心に考え実験を組んで行くという点においては異存はないのですが、もう一歩具体的には「癌細胞に対する正常細胞とは一体どんな細胞か」という問題をもう少し追究する必要があるのではないかと考えています。したがって、昨年私共が見つけました細胞DNAを連結する蛋白質の化学的な構造を明らかにする事、その生物学的な機能を明らかにする事を中心に進めたいと考えております。更にこれと平行して、この連結蛋白と細胞の癌化との関連も追求したいと思います。
§メルカプトエタノール(2ME)による切断はDNAの連結蛋白の切断である。
第1図:2MEはバクテリオファージλのDNAの二重鎖切断を起さない。
第2図:バクテリオファージλの捲れ環状DNAと解放環状DNA。
第3図:捲れ環状DNAに対するプロナーゼと2MEの作用。第1表:捲れ環状DNAに対するプロナーゼと2MEの作用。第4図:L・P3DNAの構造モデル。(以上の図表を呈示)
昨年暮に行いました実験を一つ御報告いたします。月報7012に続き更に、2MEによるL・P3DNAの二重鎖切断が蛋白部分の切断による事を、ファージDNAに対する2MEの作用がない事から推定した。第1図にあるように2MEは直鎖状DNAの二重鎖切断は全く起さなかった。一重鎖切断(ヌクレオチド結合)を効率よく検出するために捲れ環状二重鎖DNA(Form1)を分離した(第2図にあるようにアルカリ性で遠心する事によりForm1が捲れ環状二重鎖DNAである事がわかる)。これに対してプロナーゼと2MEを、L・P3DNAを処理すると同一条件で作用させた所、プロナーゼでは全くForm1がForm2(解放環状二重鎖DNA)に変らなかったのに反して、2MEの場合にはやや1→2の転換が起っていた。(第3図、第1表)
このように既に報告されているように、2MEはラジカル反応によりDNAのヌクレオチド結合を切断する事は明らかであるが、これだけの一重鎖切断はとうていL・P3DNAの二重鎖切断を説明する事は出来ない。
したがって、これ等の対照実験から、2MEの作用はL・P3DNAの蛋白部分に還元的に作用し、切断を起していた事は明らかであり、第4図構造モデルをますます強く支持している。
《安村報告》
§腫瘍細胞FRUKTOの薬剤耐性株
前回の月報の討論でもうしました8-Azaguanine耐性FRUKTO細胞を接種してできた腫瘍の再培養系について、耐性の保持についての実験結果をおしらせします。
細胞系は4つ。 1)FRUKTO-A 50μg/ml 8-Azaguanine耐性原株。2)FRUKTO-Aをマウスに脳内接種してできた腫瘍の再培養系(FRUKTO-A(M))・・・Eagle
MEM+2%ウシ血清、3)FRUKTO-A(MA)上記の腫瘍を8-Azaguanine
50μg/mlで再培養した系、4)FRUKTO原株。
各系を500コ/plateの接種、各4plates、観察期間2週間、その間液がえをしない。
(表を呈示)8-Aza.耐性株はいづれも8-Aza.を含んだ培地ではP.E.が悪い。これは一つには8-Aza.をNaOHで溶解してあるのでplating当初pHがnormal
mediumよりアルカリ性であることが影響している。plating後なるべく早くCO2
incubatorに格納するのだがpHが安定するまで1時間ほどかかることによろう。とにかく動物通過後も耐性を保持していることがこの実験によってしられる。FRUKTO原株は8-Aza.(50μg/ml)含有mediumではコロニー形成は今までのところ見られない。BUdR耐性株は前回の報告のごとく動物にtakeされないので、この種の実験はできなかった。
《藤井報告》
賀春、1971、御健闘祈り上げます。
私の方、化学発癌過程での抗原性の変化の研究が中途半端のまま、また年を越してしまいました。もう追放されることは覚悟の上ですが、かれこれ5年間、いろいろやってみましたが、私としては、がんの抗原をおいかけるむつかしさを痛感しています。
これまで異種抗血清を用いたmicro-double
diffusion,同種抗血清を用いたmixed hem-adsorptionおよびIsotope標識抗体を用いた吸収試験などで、培養ラット肝細胞が4NQOで変異し発癌する過程で、癌抗原と思われるある抗原(同種抗血清による実験なのでがん抗原とは云い切れない)があらわれること、そしてこの抗原が癌化細胞の再培養過程でなくなってしまったことを見てきました。このような成績が、RLC-10→RLT-2→Culb→CulbTCのばあいだけなのか、どうかが問題ですが、同種抗血清でこういう実験をいくら他の細胞系でやってみても所詮"ありそうな"ことしか云えないので止めました。
今年は、若い元気な協力者もできましたので、抗原刺戟によるリンパ球の幼若化現象を利用して、syngeneic
systemで変異過程を調べて行きたいと思っています。リンパ球の培養にかれこれ1年近く空費してしまい、やっと本番というところです。
ところで癌細胞に自分のリンパ球が反応するかどうかは、癌に抗原があって、それに宿主が反応するかどうかを反映するわけですが、そんなことが人間でもちゃんとあるだろうか、あるとすれば、どうして癌は治らないのだろうか、というわけです。癌に対して宿主はtoleranceの状態もあるだろうし、また宿主は反応しうる時期もあるし、反応しても液性抗体によるenhancement現象で癌が増殖してしまう。免疫学的には、こういうことが考えられる訳です。同種移植実験でやっているenhancementの研究を、今年は癌の領域に持って行きたいと思っています。
【勝田班月報:7102:AH-7974の毒性代謝物質】
《永井報告》
肝癌AH-7974細胞の毒性代謝物質の化学的研究(続報)
月報6811、7008、7010号での報告に引き続いて、ラッテ肝癌細胞AH-7974によって培地中に放出される物質で、正常ラッテ肝細胞の生残乃至増殖を阻害するような毒性代謝物質について報告する。(実験毎に分劃図を呈示)
これまでに、Sephadex G25によるゲルクロマトグラフィーによってえられる活性分劃には、塩基性および酸性の2種類の毒性物質が存在することを、イオン交換クロマトグラフィーによって明らかにした。
今回は、このうち塩基性物質について、Dowex
50(H+)でのstepwise elutionクロマトグラフィーによって、精製を試みたので、報告する。アンモニアによるstepwise
elutionで、I〜VIの6つのニンヒドリン陽性分劃が得られた。活性テストは医科研癌細胞研究部でおこなわれ、その結果は別項に示されている。
それによれば分劃IIIに活性がみられ、IIに弱い活性が見出されたほかは、分劃I、IV、V、VIには活性は見出されなかった。従って活性物質は、分劃IIIに大部分が濃縮精製されたことになる。そこで分劃IIIにこの分劃にのみ存在するペプチドが検出されるかどうかを、ペーパークロマトグラフィー、高圧ロ紙電気泳動法で調べた。物質の検出はニンヒドリン法でおこなっているので、呈色スポットはニンヒドリン陽性物質の存在を示している。
分劃IIIに特徴的なペプチドが存在しているようにはみえない。分劃IIIで検出されたスポットは、IIIにのみ見られるものでなく、他の分劃にも見出されるからである。
以上の結果を考察すると、次のようなことが考えられる。
(1)活性物質は非ニンヒドリン陽性か。すなわち、ペプチドではないX物質か。
(2)活性物質は、予想したようにやはりペプチドである。(a)しかし、それは、ホルモンOxyctocinのような環状ペプチドで、アミノ基が修飾されているようなペプチドか。(b)普通のペプチドであるがアミノ基が修飾されているものか。(c)今回使ったペーパークロマトグラフィー、高圧ロ紙電気泳動法で、他のペプチドスポットと重なって、分離されなかったために、ペプチドであるが活性ペプチドスポットとして検出されなかった。
以上のような可能性が考えられるが、もしアミノ基が修飾されているならば、電荷を失うわけだから、Dowex
50(H+)には、吸着されないはずで、おかしなことになる。だから今のところ、(1)か(2)-(c)の可能性が最も高い。活性物質は、加水分解によって活性を失うから、(1)の場合でも、その化学的性質は複合物質として存在するか、強酸に弱い物質が考えられねばならない。生体に存在する物質で、このような性質をもつものは、それ程多くない。糖反応は陰性だから多糖の可能性もない。そこで現在は、なおペプチド説を考えてゆきたい。また、分劃IIIは約12mgで、活性の収量は、出発物質の345mgを考えると、あまりにも少なすぎる。このことについては、Sephadex
G-25で分劃後、Dowex 50(H+)にかけるまで、長時間経過しており、この時に、分解を活性物質が蒙ったものと思われる。活性検定についても、今後は、定量的におこなえるようにしなければならない段階に入ったものと思う。
:質疑応答:
[安藤]Sephadex G-25で分劃した時のpatternは培養前と後との間に違いがありますか。
[永井]培養前の培地を分劃した時はみられなかったpeakが培養後の培地を分劃したものにはあります。そしてそのpeakに今の所、活性があるのです。
[堀川]活性の表し方はどうしていますか。
[永井]Specific activityは出せていません。そこが少し弱いので、今、定量的にやり始めています。
[堀川]AH-7974以外の細胞系でやってみましたか。正常細胞からは出していませんか。
[永井]次の問題としてやってみるつもりです。
[山田]このJTC-16という系は電気泳動的に悪性度の最も強い系ですから、こういう問題にも適していると思いますよ。
[安藤]電気泳動の結果についてですが、IIIのpeakの物質には先端に違うものがあるように見えますね。
[永井]そうかも知れませんが、まだ何とも断定できません。
[難波]IV、V、VIの分劃のgrowthに対する影響はありますか。
[高岡]今回使った濃度ではほとんど影響はありませんでした。
[堀川]他に環状ペプチドで毒性をもつものの報告はありますか。ペプチド以外の物質だという可能性も強いですね。
[永井]毒性のあるペプチドについての報告は幾つかあります。この物質には糖の反応はありません。
[吉田]トキソホルモンとの関係はどうですか。
[永井]トキソホルモンは癌細胞そのものをするつぶして抽出していますが、この物質はAH-7974細胞の代謝産物です。
[佐藤]in vitroでなく動物の腹腔内で増殖させたらどうですか。
[永井]この実験はもう数年前からやっていて、時々御報告してはいるのですが・・・。分劃する材料がなるべく単純なものである事が必要です。始どうしても仕事が進まなかったのは、仔牛血清20%+Lh0.4%という培地で培養していた為、分劃しても無数にpeakが出て活性の所在がはっきりしなかったからです。それから色々と培地を工夫してやっとここまでこぎつけた所です。今から腹水では後戻りする事になります。
[堀川]熱には安定ですか。
[永井]100℃までは安定です。
[安藤]アルカリ、酸にはどうですか。
[永井]分劃の過程から考えて、かなり安定だと考えます。今問題なのはassay法です。
[難波]colony法など使ったらどうですか。
[梅田]colony法もよいのですが、培地が沢山要ります。私が発癌物質の毒性のスクリーニングに使っているプラスチックプレートを使う方法の方が簡便で良いと思います。
[藤井]細胞のextractにも活性はありますか。
[高岡]一番初めに培地を高分子と低分子に分けた時、高分子分劃にも阻害活性はありましたから、細胞内にもあるかも知れませんが、分劃して行くのに低分子の方が扱い易いので、培地の低分子から出発したわけです。
[堀川]大体OKですね。あとSpecific activityをきちんと出してください。
《勝田報告》
ラッテ肝細胞株RLC-10(4)の培養に、上記永井報告の分劃I〜VIを添加して各分劃の毒性度を形態学的にしらべた。培地は仔牛血清20%・ラクトアルブミン培地を80%+各分劃を塩類溶液に溶かしたもの20%、添加4日後に培地更新(同量の各分劃を含有)、添加後、計8日にメタノールで固定し、ギムザで染色した。結果は第III分劃を添加した群の細胞にのみ強い形態変化がみられた。対照群は分劃を含まない塩類溶液を等量添加した培地で、実験群と同期間培養した。(顕微鏡写真を呈示)
つづいて同細胞株の培養に分劃III及びI〜VIを含むdowex
50による分劃II-Iを添加し5.5日間連続観察した映画と、対照としてラッテ肺センイ芽細胞株RLG-1の培養に分劃II-Iを添加し、同様に観察した映画を供覧した。結果は分劃II-IはRLC-10株に対して添加2〜3日の間に細胞が殆ど死滅する程の強い毒性を示すが、センイ芽細胞株に対する毒性は軽度であった。分劃III添加群では培養初期に於いて細胞分裂がかなりみられたが、対照群に比して強度に増殖を阻害された。
:質疑応答:
[堀川]この物質の毒性はreversibleでしょうか。培地から除くと細胞は回復しますか。多分G2blockだろうと思われますが、DNA合成RNA合成のどこを抑えるのでしょうか。またこの物は細胞のどの部分にbindするのでしょうか。
[高岡]今やっと物として分劃できそうになった所ですから、それらの事はこれからの問題です。
[安藤]RLC-10がconfluentになってから、この物質を添加しても効果がありますか。
[高岡]まだやってみていません。しかしconfluentになった時という意味が、細胞が活発に増殖していない時ということでしたら、培地の血清が不良で増殖度が低かったとき、阻害効果が少なかったというデータはあります。
[安村]なぜ肝細胞に特異的に効果があるのか、という事に興味がありますね。fibroblastとの区別に使えますね。
[藤井]ラッテに接種するとどんな影響があるでしょうか。
[高岡]考えていますが、効果があったかどうかを判定する指標が難しいですね。
[安村]肝機能の検査をすればよいでしょう。
[山田]映画から作用機序がわかりませんかね。
[吉田]種特異性はありますか。
[高岡]種については解りません。今の所ラッテ由来の細胞について調べています。
[佐藤]in vitroの悪性化の実験の中に位置付けると、悪性化の過程で悪性化した細胞がこういう毒物を出して正常細胞をやっつけ、癌細胞をセレクトして残すという事になるでしょうか。
《梅田報告》
乳のみハムスター肺の培養細胞に4NQO、Nitrosobutylurea(NBU)、Monocrotalineを投与して長期継代を続けた一連の実験系について報告する。
(I) 第1の細胞系は4NQO 10-5.5乗Mの培地で1時間処理後、ハンクス液で2回洗い正常培地に戻す操作を2回行って後、ずっと長期継代を続けた(Cumulative
growth curvesを呈示)。4NQO処理後13代約110日後から急激な増殖の促進が認められ、その後は一様に早い増殖を示している。形態像は処理後しばらくの間コントロールの細胞と同じ大小様々の細胞で一様に染色性が悪く核も明るい核質をもっていた(Carnoy固定、HE染色)。
増殖の早くなったのと殆一致して今迄より小型でSpindle
shapedの細胞が多くなり、piling up、criss-crossを示して又染色性は細胞質、核共に非常に良くなり核染色質は凝塊を作る。しかし染色性の悪い明るい細胞も混在している。
染色体数を19代目で調べた所(分布図を呈示)41本にpeakがあり、全体にhypodiploidの細胞が多くなっている。4nに近いover
60の染色体数を持つ細胞もやや多くなっている。
Controlの細胞の19代目の染色体数もややhypodiploidの細胞が増加していた。技術的な不手際があるかも知れないので更に精査したい。
(II) 次の例はNitrosobutylurea(小田嶋先生、菅野先生がhematopoietic
organのMalignizationを起すとして報告している)を培地中に10-2.0乗Mとかし、その培地で2日間培養後、正常培地に戻す操作を2回繰り返した。この細胞は形態的にもcontrolと似ていて大小の染色性の悪い細胞が継代されていたが、15〜16代頃よりその様な細胞の間にはさまって小型の細胞の集団が見出される様になり、丁度24代目培養(NBU処理後)180日頃より急に増殖率が上昇した。この時点より4NQO処理と同じく、やや小型のspindle-shaped
cellからなるpile up、criss-crossの著明な形態を示す様になり、明らかな形態像のtransformationを示した。染色性も非常に良くなったが、染色性の悪い薄い細胞は徐々に消失していく様である。このものの染色体数は目下検索中である。
(III) MonocrotalineはNBUと同じ様に10-2.5乗M培地で2日間処理を2回行った(累積カーブを呈示)。処理後非常に悪い増殖率を示していたが、処理後13代、130日を過ぎた時に急激な増殖率の変化が認められた。以後は良好なconstant
growthを示している。形態的には13代に到る迄は巨大な異型細胞の出現が目立ち、又多核細胞も見出され多彩な像を示し、何時培養が不能になるかと思われる様な状態であった。之等の巨細胞の染色性も低く、核も明るかったが、13代目以後は4NQO、NBU処理と同じ様な小型spindle-shaped
cellでどんどん置きかえられる傾向を示している。
このものの染色体数は16代目で検索したが(図を呈示)、42本にpeakがありdistributionも散っているが、hyperploidのものはない。
(IV) 上記3細胞とコントロール細胞についてusual
plateでのcolony formationとsoft agar中でのcolony
formationノ率をみた。(表を呈示)
Usual plateでは4NQOとmonocrotaline処理でPlating
efficiency(PE)の上昇をみ、NBUでは調べた16代目ではまだ完全に形態的transformする前だったためPEは低い。之等のcolonyのうちで一見pile
upしている細胞よりなるdense colonyのPEだけを別に数えてみた。4NQO、monocrotaline処理で上昇しているが、全体のPEのcontrolに較べての上昇率よりずっと低い。更に代が進めばdense
colonyのPEが上昇するかどうかこれから調べたい。
Soft agarでは増殖率が早くなり、形態的にtransformationを起こした時期よりmicro-colony形成が明らかに認められる様になっている。まだ大コロニーは出現していないが、これが技術的不手際か、培養が進めば大コロニーになるのか検索中である。
動物復元に関しては接種された動物が死亡して了ったので、再び実験を繰り返すべく準備中である。
:質疑応答:
[吉田]染色体数が増えてゆく場合は、はじめに不均等分離が起こります。マウスなら39本と41本という具合に。その次に遺伝子が少なくなった39本が死んで41本が残るという事をくり返してだんだん増えると考えられますが、hypoの場合はアームの数としては減っていないという方が多いのではないでしょうか。ゴールデンハムスターのようにゲノムの上で4倍体だと考えられるようなものは、多少数が減っても生存に影響ないでしょうね。梅田さんの場合もっと行先長く経過をみてほしいですね。
[佐藤]培養細胞では最初染色体数が少し減って、それの倍数体が出来て大体3倍体あたりに落ち着くというのが多いですね。
[吉田]培養細胞でなくても腹水癌でもそういう現象はありますね。
[佐藤]発癌剤を処理する時、その濃度が発癌に対して大きく影響すると思います。それから4NQOなどは1回の処理で悪性化することが判っていますが、DABの様に効果が加算されて悪性化する発癌剤もありますから、うまくゆかないものは何回も処理するのもよいと思います。
[梅田]今回やっと変異までがうまくいった理由としては、定期的にきちんと餌がえをすることと、細胞のシートが一杯になったら必ずsubcultureをするということを守ったからかと考えています。
[山田]黒木さんのデータを参考にしてみてみると、成長曲線の上からは良性腫瘍を作るといった時期ですね。
[吉田]in vitroの悪性化では材料の年齢がどう関係するか判っていますか。in
vivoでは癌は老齢の方がなりやすいという事ですが、in
vitroでもありますか。
[佐藤]肝細胞の実験では乳児しか培養が出来ないので、比較がむつかしいですね。
[吉田]染色体の上では年を取るとアニュープロイドが多くなりますね。
[堀川]セットの上では異常なものが増えても、それは増殖までもってゆけないのではないでしょうか。
[佐藤]上皮性のものは老齢に多く、肉腫は若い時多いですね。
[山田]老齢の癌化が多いといっても、萌芽は若い時にあるのではありませんか。
[安村]癌の場合は二重の生物学になりますからね。仲々解析は難しいですよ。
[堀川]無菌動物の様に外界からの刺戟のない状態で実験してみる必要もありますね。
[安村]生体内の細胞は2倍体だということになっていますが、実際には何%位が2倍体ですか。
[吉田]90〜99%くらいです。
[安村]それは何コの分裂細胞を数えての結果ですか。1万個も数えたでしょうか。
[吉田]そう、実際に1万個も数えたデータがあります。
[佐藤]培養内で正2倍体がどの位長く保てるのか知りたいと思います。それが材料の年齢とも関係があるのかどうかも調べてみるとよいですね。生体ではとにかく正2倍体が長く続くわけでしょうから、その状態をin
vitroで再現したいと思います。
[吉田]人の2倍体の細胞の培養の場合、老齢の人から採った培養はアニュープロイドが早く出てきます。
《山田報告》
前回報告しましたラット正常肝由来の細胞RLC-10のコロニーRLC-10-2及び-4、及びRLT-1のコロニーについて、写真記録式電気泳動装置によりPopulation
analysisを行っています。写真はとってあるのですが、テクニシャンの交代で焼付が間にあわず、次回その結果を報告します。
Elphor Va PII型装置による細胞集団分劃の基礎実験;
この装置により数種の混合色素を分離することは、直ちに成功しましたが、細胞群を分離する実験はなほ幾多の問題がありさうです。
まずメヂウムの問題です。
通常の電解質では、比重が軽いため、細胞がどんどん沈下してしまいうまくありませんでした。そこで比重を高めようとすると、今度は粘稠度が高すぎて泳動が抑制されます。そこで文献を参考にして種々実験した所、次のメヂウムが良いことがわかりました。『30mM
Tris-Maleate buffer pH7.0:200mM Sucrose:10%
ficoll(分子量40万)』この液の比重は1.065であり、4℃でラット赤血球を24時間保存しておいても、このメヂウム中で沈降しません。
このメヂウムを用いて60ml/hの速度で流し、これにラット赤血球を1ml/hの割合で連続滴下し、300mMの直流電流を流して分離した所、比較的揃った所の試験管5本に集まりました(全部で50本に集る様に作られてあります)。
この状態ですと約1〜1.5hで6-7cm泳動したことになります。この時間内に流した赤血球は2x10の8乗で、きれいな分布が得られました(図をを呈示)。これで一応赤血球についてはOKと思いましたが、良くみると、分離泳動の途中で、一部の赤血球が凝集し、その地点から泳動速度が急に低下しています。
この原因を充分開明しない限り有核細胞の分析には入れないので、まずこの点について検索しています。今の所わかったことは、同一条件でB.T.B.色素を流してメヂウムのpHをしらべた所、途中の経路におけるpHは全く変化がないと云うことのみです。またこの様に一部凝集した赤血球は分離採取しても、そのViabilityが変化していないことをニグロシン染色でたしかめました。
なほこれから実用になるまで、まだ幾多の問題がありさうですが、早く解決して行きたいと考へています。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(29)
4-NQOはpronaseや2-mercaptoethanol sensitive
siteをattackするようであるということは安藤班員によって示されたが、このことは2.5x10-6乗M
4HAQOで30分間処理した細胞をpronaseで再処理した際、DNAの二重鎖切断量は相加的に増加しないという実験結果からも確認された(図を呈示)。
今回はこの方法を用いて、4-HAQOあるいはX線でEhrlich細胞を処理した後にpronaseで再処理した場合のDNAの切断量の変化、更には4-HAQO(またはX線)で細胞を処理し、DNA切断を誘起した後に、X線(または4-HAQO)で再処理した場合、DNAの二重鎖切断がどのように変化するかを解析するといった方法で、X線と4-HAQOの作用機構の相違性を検索した結果を報告する。4-HAQOまたはX線で前処理または前照射した後にpronaseで再処理した際の細胞内の二重鎖切断の変化を総括的に略図で示す。
(それぞれに図を呈示)4-HAQOで前処理し、pronaseで後処理する場合には総切断量は処理要因のうち切断量の多いいずれかに依存する。一方、X線前処理の場合は少し様子が異なり、少線量でわずかの切断を誘起した後、pronaseで多量の切断をおこさせるような条件で再処理しても、pronaseの作用はまったく現われないことが分かった。
一方、4-HAQO(又はX線)で前処理した細胞をX線(又は4-HAQO)で再処理した場合のDNAの二重鎖切断量の変化の場合にも、4-HAQOで前処理する場合に対して、X線で前照射し次いで4-HAQOで再処理する場合が問題になってくる。つまりX線で前照射した細胞を4-HAQOで再処理する場合には、DNAの二重鎖切断誘起能からみた範囲では、再処理要因である4-HAQOの作用は現れない場合が観察されたり、更にはX線で切断した二重鎖切断を再処理要因である4-HAQOが再結合させるような結果が得られたりして事態は複雑である。
しかし、いずれにしても、こうした結果はX線と4-HAQOによって誘起された一本鎖切断が同じスピードで再結合されるとか、あるいは、X線と4-HAQOによって誘起された一本鎖DNAの再結合が、同一代謝阻害剤で阻止されるという結果が示唆してきた両者の作用機構の類似性に"待った"をかけるものであり、本質的には両者の作用機序に違いのあることを物語るものと思われる。
以上の結果を総合して、これらの問題を解析するための仕事を進めている。
:質疑応答:
[佐藤]4NQO処理の場合は細胞数によってDNAの切れ方が違うわけですが、X線の場合はどうでしょうか。
[堀川]X線では細胞数に影響されません。4NQOの場合は4NQOの量に対して細胞数が多いと一度他の細胞に代謝されて形を変えられた4NQOを取り込む細胞が多くなり、細胞数が少ないと全部の細胞が4NQOそのものを直接取り込んで障害を受けるということが考えられます。放射線の場合はそういった代謝産物の影響はありませんから。
[佐藤]一次の取り込みに違いがあるのは、細胞の分裂周期に関係があるでしょうか。
[堀川]同調培養してみないとはっきり判りませんが、関係があるかも知れませんね。
[高岡]浮遊状態で4NQO処理をすると細胞数の影響が減るのではないでしょうか。
[安藤]私達はFM3Aも使って実験していますが、これは浮遊培養で増殖する系です。濃度とDNA切断に関係がありましたか。
[井出]切断についてはまだ調べていません。
[佐藤]細胞濃度より細胞のphaseの方が大きな問題だと思います。DNAの合成期とそうでない時期とでは作用の受け方が違うのではないでしょうか。
[高岡]そうとばかりは言えないようなデータを持っています。L・P3を使った実験で、細胞を浮遊状態で4NQO処理をし処理後に細胞数を変えて培養すると細胞数の少ない群の方が障害を強く受けること、そしてL・P3のdonditioned培地を加えると、その障害度を少なくすることが判っています。
[安村]30分処理では4NQOが出たり入ったりするというなら、プレートを沢山用意して一度取り込まれて放出する位の短い時間の処理をし、処理後の培地を次々と細胞にかけてゆくと何回取り込まれたら癌化作用が無くなるかが分かるでしょう。
[安藤]一度細胞にかけた4NQOは変化していて、もう細胞に取り込まれなくなります。
[堀川]その場合心配なのは、トリチウムでラベルしていると放射能で測定された取り込み量と、本当の取り込み量が平行しない事もあるのではないか、H3は水の中にとぶ事もありますから。
[安藤]入れたものは放射能として殆ど残っています。4NQOは有機溶媒によく溶けるものですが、代謝された物質は水溶液で有機溶媒に溶けなくなっています。メチールコラントレンでも同じような現象があったという文献もみました。そしてその物をSephadex
G15にかけますと、もとの4NQOの所のピークが消えて、新しく5つのピークが出てきます。
[堀川]発癌の可能性がDNAの切れることと平行しないのは何故でしょうか。4NQOの場合自分の切ったDNAの切れ目へ4NQOが入って埋めてしまうという事はありませんかね。
[安藤]4NQO処理後の細胞の核酸をとってみると、直後ではrRNAに一番多く付いていますが、処理後24時間たってDNAが修復された時期にはDNAだけに残っています。
[永井]pronaseで切れる分子当たりに4NQOは何分子付くことになりますか。
[安藤]約1,000コになります。
《安藤報告》
§4NQOにより切断されたDNAの"連結蛋白"の再結合に新たな蛋白合成は必要か。
4NQOはL・P3細胞のDNAに作用し、DNA部分のヌクレオチド結合の切断を起すと同時に"連結蛋白"部分にも作用し切断を起す事を報告した。この4NQOによる蛋白切断が4NQO代謝物による直接作用か、蛋白分解酵素の活性化によるのかは今の所不明である。これ等の両種の切断箇所は、細胞を4NQOフリーの培地中でincubateする事により再結合された。
今回はこれ等の再結合が起る際に蛋白質の新たな合成が必要であるか否かを検討した。使用細胞は実験のやり易さのためにsuspension
cultureされるFM3A(マウス乳癌由来)を使用した。先ず蛋白合成阻害剤であるcycloheximide(CH)によってどの程度蛋白合成阻害が起るかを調べた。1μg/mlで90%以上阻害された。ついでにCHによるDNA合成の阻害の程度を調べた所80%の阻害が見られた。(それぞれ図を呈示)
次にCHによって細胞の増殖がどのように抑えられるかを調べた所、細胞数約50万個/mlの時に4NQO
10-6乗M 30分処理を行い、3分する。(1)は処理後正常培地に移すと細胞数は増加し続ける(4NQO)、(2)は4NQO無処理の細胞にCHを加えると細胞数の増加は全く起らない(Cycloheximide)、(3)は処理細胞にCHを加えた場合にも細胞増殖は見られなかった(4NQO、Cycloheximide)。(図を呈示)
この事実からCH1μg/mlで蛋白合成、細胞増殖は殆ど抑制されてしまう事がわかった。次にこの4NQO処理後の三群について0時間、24時間後に於けるDNAのパターンを調べた。
中性でDNAの二重鎖切断(蛋白部分の切断)が起っていた(0時間)。アルカリ性密度勾配遠心によってDNA部分の一重鎖切断も起こっていた(0時間)。24時間、それぞれの処理を受けた細胞DNAはCH存在下にも二重鎖の再結合(蛋白部分の)及び一重鎖の再結合を受けていた。(それぞれ図を呈示)
以上の諸事実より、次のように結論する事が出来る。
(1)4NQOによりDNAの一重鎖切断、連結蛋白切断を受けた細胞は、これらの障害を修復し、増殖を継続する。
(2)これ等の二種類の障害の修復には蛋白質の新たな合成は必要ではない。しかし、この際障害を受けた蛋白がそのまま再結合されるのか、細胞内プールにあるかもしれない既製の蛋白が利用されるのかは不明である。
:質疑応答:
[堀川]Cycloheximide処理は、4NQO処理の後ですか。
[安藤]そうです。
[堀川]処理後では、もう遅すぎるのではありませんか。プールのものから補給できますから。回復のための新たな蛋白合成をしないですむと思います。
[安藤]それは言えますね。
[堀川]タイムコースを変えて4NQO処理の前にかけてみると、どうでしょうか。
[安藤]それにも問題がありますね。4NQO処理の前にかけると、全体の条件が変わりますから。
[梅田]X線の場合はどうでしたか。
[堀川]ピューロマイシンを72hr前に処理すると、回復が抑えられますが、他のものでは皆回復してしまいます。
[安藤]その場合の生死判別はどうなっていますか。
[堀川]問題を分けて生死と関係なく、回復のプロセスを追った実験です。あと4NQOがfree
radicalで作用するのかも知れないという問題が残っていますね。scavengerの事もやってみる必要があるかも知れません。
《藤井報告》
Culb-TC細胞とsyngeneic lymphocyteのmixed
lymphocyte-tumor reaction(MLTR)
Culb-TC細胞をsygeneicなJAR-1に移植して、結紮解放、摘出などを試み、JAR-1を免疫して抵抗性を賦与し、tumor
specific transplantation antigen(TSTA)を証明し、あわせて抗血清を得ようつする試みは失敗に終った。そこで、JAR-1ラットのリンパ球が、syngeneic
tumorであるCulb-TC、その他の抗原を認識して幼若化現象がおこるかどうかを検討しようと企てた。
ラット、マウスのリンパ球を培養し、その幼若化現象を見ている報告はあるが、実際にやってみると極めて困難であった。ここに報告するMLTRの予報は、ラット、マウスのリンパ球を用いたmixed
lymphocyte culture、lymphocyte target cell
destructionの手技を確立する目的で、医科研細菌感染、中野助教授と、外科研究部の藤井、西平らが協同でおこなったものである。
ラットリンパ球の幼若化にともなうH3-TdRの摂取は、培養液にRPMI1640を用い、新鮮(凍結しない)ラット血清を10%に加えることによって再現性のある成績が得られるようになった。
実験に用いたCulb-TC細胞は、8,000R照射したのちガラス面より機械的にはがし、RPMI液(10%ラット血清加)に浮遊し20万個cells/mlと8万個cells/mlに合した。(細胞をガラス面から外す前に培養液をすて、RPMI液で3回洗った。)
reactant cellsとして、JAR-2ラット♂の末梢リンパ球を用いた。ラットの腋窩動脈を切断し、直ちに2.5%citrate
in Hanks sol. 2.5mlを腋窩に注入して混和し採血する。この血液を試験管にとって静置、30分。上清を集めて遠心(700rpm、10分間)し、沈殿した細胞をRPMI+10%ラット血清に浮遊し、100万個cells/mlに調製した。
抗原用細胞に、RLC-10細胞をCulb-TC同様の操作をして用意した。
用意したreactant lymphocytes suspension、100万個cells/ml、0.5mlと抗原細胞−Culb-TC
irradiatedあるいは RLC-10 irradiatedのそれぞれ0.5mlを平底中試にとり、炭酸ガスフランキ中に入れ、37℃に5日、6日間保存した。この保存後、各tubeにH3-TdR
0.5μCiを加え、16時間後その摂り込みを測定に供した。
結果(図を呈示)、Culb-TC、10万個に対するリンパ球のH3-TdR摂取は5日−1008(cpm)、6日−2888(cpm)であり、Culb-TC、4万個に対してはこれより低く5日−1064、6日−1319であった。すなわち抗原細胞の多い程、リンパ球のH3-TdR摂り込みが高い。またRLC-10細胞も同様に抗原細胞の多い方が高いcpmを示しているが、Culb-TCのばあいより、6日のcpm値はずっと低い。
この実験は、培養Culb-TCおよびRLC-10細胞が少く、培養日数、抗原細胞数の検討ができなかったのであるが、少くとも、4NQO
in vitro induced Culb-TCがsyngeneicなJAR-1のリンパ球に幼若化刺戟を与へたことが示されたものと云える。なおCulb-TC、RLC-10細胞およびreactant
cellsだけではcpmははるかに低い。
続いて培養日数、抗原細胞数によるH3TdR摂取ピークの検討、抗原細胞のX線照射、MM-C処理の比較、autoradiogramによる幼若化現象とH3-TdR摂取の確認などをおこない、その上でCulb-TC、RLT-2、RLC-10、Cula、Cule、etc.についてその抗原性の検討をする予定です。
:質疑応答:
[高岡]いくら放射線をかけられていても、リンパ球を添加したことによって、癌細胞の方が回復してDNA合成を始めるという心配はありませんか。
[藤井]8,000rで線量は充分でしょうか。
[堀川]lethal doseということでしたら、4,000rでも充分といえるでしょう。ただ死の定義となると難しいですね。酵素活性などは残っていますし、わずかにDNA合成があることもあります。
[安藤]autoradiographyをやってみれば、摂り込みのある細胞が判るでしょう。
[藤井]勝田班長にもよく言われていますから、形態の方の裏付けもしっかりみておくつもりです。この方法にも色々問題はあります。放射線をかけただけで同系のリンパ球でも抗原刺戟があったというデータもあります。
[山田]幼若化する細胞は抗体産生をする細胞と同じ位の%ですか。
[藤井]幼若化の方がずっと少ないですね。培養中にある程度死んでしまいますから。
[山田]RLC-10は細胞電気泳動的にも大分変わっていますから、やはりもっと生体に近い系を使った方がよいでしょうね。
[佐藤]幼若化したものは増殖するのですか。
[藤井]わかりませんね。判ったようなことを書いてある文献もありますが・・・。
[佐藤]培地に仔牛血清を使っていますが、その影響はありませんか。洗った位では残ると思いますが。
[藤井]牛血清は影響がありますが、対照群も同じ条件で比較値を出していますから。
[山田]血清が問題になるなら、吸収しておけばいいではありませんか。
[藤井]そうですね、血清immunoadsorbentでgel化すれば吸収できます。
[山田]純粋にリンパ球ばかりでないのも問題でしょう。テフロンファイバーを使うとリンパ球をきれいに分離できます。
[滝井]最近の仕事でコンラキシンでリンパ球だけを分離したというのがありました。
[安藤]ラベルの条件は・・・。
[藤井]0.5μc〜1.0μc/mlで16hrラベルしました。
《安村報告》
§ラット肝由来細胞系(Hepro)のその後:
これまで数回このHepro細胞について月報に書きました。ラット肝細胞の初代培養のクローン化をその後Wistar系で試みましたが、これまで一度も成功しませんでした。そこでこのHepro細胞に再びたちかえって、実験系として使えるように育てあげることに努力を集中しました。肝実質細胞であろうとのcriteriaの一つであるOTC(Ornithine
transcarbamylase)の活性はin vivoのラット肝の10-3乗のorderで低いことはすでに報告しました。
このHepro細胞は植えつぎに大変キムズカシイのですが、とにかく増殖の程度がよくなってきました。現在routineにはウシ血清1%のEagleMEMで継代されています。2月2日から血清なしのEagleMEMで増殖させることに成功しました。(顕微鏡写真を呈示)
:質疑応答:
[梅田]8AG耐性、BUdR耐性の細胞のdoubling
timeに差がありますか。
[安村]8AG耐性の方は原株と変わりませんね。BUdRの方は大分長くなっている様です。
[梅田]BUdRの場合、増殖しないので大きくなるとは考えられませんか。
[安村]そうかも知れませんね。復元してもtakeされないというのは、その増殖しないという事のせいかも知れないとも考えています。
[堀川]BUdRそのものの影響がダイレクトにあるとは考えられませんか。
[安村]BUdRを除いても形態も増殖度も変わりませんね。
[堀川]それならOKですよ。
[梅田]私の経験でもDNA合成がおそくてdoubling
timeの長いものは、ペタッとした大きな形態をしている細胞が多いですね。
[堀川]BUdR耐性のものが動物にtakeされなくなったというのは、どういう事でしょうか。BUdRそのものがtumorの遺伝子をeliminateしてしまったのか、又はmutationなのか。BUdRが腫瘍性の弱いものをselectionしたのか。裏返すとBUdR感受性細胞は腫瘍性が高いという事になるわけですね。
[安村]私はphenotypicな変化だと思っています。ただtumorの遺伝子がマスクされているだけではないでしょうか。NG処理をしてすぐBUdR耐性を拾って腫瘍性をみるとよいかも知れませんね。
[高木]もとの細胞集団はpureですか。
[安村]出発材料としてはcloningしたものを使いましたが、もう二年もたっていますから、また変わっているかも知れません。
[安藤]BUdRは、DNA合成をとめる処理をしても影響があります。DNA合成だけに限って考えないほうがよいかも知れません。
[堀川]耐性細胞のとれる再現性はありますか。
[安村]あります。6回やって全部とれました。
[堀川]次の展開はどうなるか興味がありますね。
《高木報告》
1.腫瘍細胞と正常(対照)細胞との混合移植実験
RG-18細胞、500および50とRL細胞との混合移植実験について追加を試みた。RG-18
500の実験では(表を呈示)RL細胞10万個、1万個を混合した場合に腫瘍を形成しないものがわずかに認められたが、その他は殆ど同じ潜伏期で腫瘍を形成した。しかしこの実験では移植後一定の期間を経て生じた腫瘍がregressする場合が多く、特に対照細胞を1,000コ、100コ混合した場合には全例regressしてしまった。RG-18細胞は50代継代以後in
vitroで細胞の増殖がやや低下し、また腫瘍性が低下したように思われるので、一定の生物学的性状を有する細胞を使う意味でさらに実験を繰返す予定である。今回のdataに関する限り、大体同一levelの細胞数のRL細胞を混じたときに腫瘍の増殖は抑制されるように思われる。
現在isologousな実験系として、RRLC-11(従来No.5Cとよんでいた細胞でWKA
rat肺に由来し、in vitroでspontaneous transformationを起こした細胞の再培養株)を使った実験を開始している。なおRG-18、50の実験は移植後事故死するratが多く、未だdataになっていない。
2.NG発癌実験
9月の班会議で一部報告したNG-24、NG-26についてその後の経過を報告する。
共にWKA rat胎児の肺に由来する繊維芽細胞を使用し、NG-24は培養開始後18日目にNG
10-4乗M30分1回処理したもの、NG-26は培養開始後22日目にNG
10-4乗M30分、148日目に10-4乗M30分計2回処理したT-1、同様に10-5乗Mで2回処理したT-2、10-6乗Mで同様に2回処理したT-3である。(写真を呈示)
NG-24では処理後約100日、170日で対照および処理細胞をsoft
agarにまいたがcolonyの形成がみられず、またNG-26では処理後約100日、210日で同様soft
agarにまいたがcolony形成はみられなかった。
移植実験も試みたが共に今日まで腫瘍の形成をみない。
NG-24、NG-26共処理後約270日で、199+20%CS+0.1BP+100μg/mlKMの培地を用い、P-3
petri dishに1,000コまいたが(表を呈示)、NG-24では処理細胞に多くのpile
upするcolonyの出現をみた。
NG-26ではcontrolにおいてT-2、T-3よりむしろcolony形成能が高く出ているが、この様なデータのばらつきは用いた細胞が同じWKA
rat肺由来でもmixed populationであることが原因であると思う。この原因を取り除かねばこのdataからいろいろ推論することは危険である。現在行っているRL細胞(NG-24におけるuntreated
control cells由来)を用いたcolony levelの発癌実験の試みで、その対照細胞に少く共2〜3種のcolonyが形成されることが明らかになった。
NG-24、NG-26については兎も角目下移植実験とsoft
agarにつき再検している。なおrat胃の細胞を用いた発癌実験も近日中に再開したいと思っている。
3.Colony levelの発癌実験の試み
より定量的な実験系を組むべく、colony levelの発癌実験を試みている。
この実験に先立って細胞数のちがいによるNGのtoxic
effectの違いをみた(図を呈示)。細胞数の少い程同一濃度におけるtoxic
effectは強くあらわれた。この実験は万単位の細胞数で行っているのでさらに千、百単位の細胞に対するNGのtoxic
effectについてはcolony形成能に関して検討しなければならない。
次にRL細胞のplating efficiencyに及ぼす培地の効果をみるため、199+20%CS、199+0.1%BP+20%CS、MEM+20%CSの3種類の培地について検討している。CSを20%としたのは月報No.7010、7011でCS濃度は20%がよいと考えられたからである。現在まで1,000コの細胞をseedしたものについて、MEM、199の間に差はみられないが、199にBPを加えた培地はPEがやや良いように思われる。現在colony
levelの実験として、一応MEM+20%CSでRL cellsを5,000、1,000、500、100とseedし、NG
10-5乗Mを培養4日後に1時間作用させてさらに2週間培養をつづけ、その後一部固定染色し、一部は一緒にtrypsinizeして継代し、500ずつseedして経過を追っている。しかしRLcellsは先述の如く少く共2〜3種のcolonyを形成するので出来る丈pureな細胞集団をうるべくcolonyを拾う努力も同時に行っている。
:質疑応答:
[山田]一回の実験の群数を減らしても、一群の匹数を増やすようにして実験しないと、精度がよくありませんよ。
[滝井]なかなか動物が思うように準備できないものですから。それから接種後すぐ死んでしまって、データにならないものも多いのです。
[佐藤]正常細胞が混じっていることは、復元成績の妨げにならないのですね。
[堀川]かえって促進している傾向がありますね。正常細胞がfeeder
layerの役目をするのでしょうか。腫瘍の方を1コか2コにして接種するとどうでしょうか。
[安村]1コ接種そのものが難しいですよ。
[難波]100コのところはtakeされますか。
[滝井]まだ日数がたっていないので、分かりません。
[安藤]高木先生の仕事についてですが、NGはどこで処理するのですか。細胞が1コの時処理するのですか。
[高木]なるべく1コの時がよいと思いますが、培養開始してすぐでは障害が大きすぎるので、培養4日たってから処理しています。
[難波]コロニーの形態と感受性の関係はどうですか。
[佐藤]耐性はありますか。
[高木]growthカーブでみた所では耐性はありません。
[堀川]発癌実験には10-5乗Mがよいのですか。
[高木]いいと思います。大体増殖の50%阻害位です。
[難波]始めにコロニーを拾ってcloneにしてから、処理をすればよいと思いますが。
[高木]その計画で今拾っている所です。
《佐藤・難波報告》
N-32:培養内で4NQOによって癌化したラット癌細胞の悪性化の指標を探す試み:Concanavalin
A(Con.A)は、悪性化細胞の増殖を抑制するか
月報7101で悪性化したラット肝細胞の指標を探す試みとして、悪性化細胞の増殖に対するWheet
germ lipase(WGL)の効果を検討した。その結果、WGLは特異的に悪性細胞の増殖を抑制しないことが分った。このネガティブデータの解釈として、1)使用したWGLには、もともと細胞の増殖抑制効果がなかったのか。2)使用した濃度が不適当であったのか。3)WGLが培地中のグルコースと反応して(グルコースがHapten様の働きをする)WGLの活性が低下したのか。などの問題が残った。そこで、培地中のグルコースと反応せず、しかも癌細胞の増殖を特異的に抑制すると報告されているCon.Aを使用して、悪性化ラット肝細胞の増殖に対する影響を検討してみた。
実験方法:Con AはSigmaのjack beanから抽出した。所定の細胞を試験管にまき込み、2日目に20%BS+Eaglee'sMEMの培地中にCon.Aを終濃度425μg/mlに溶いた培地に変え、更に続けて3日培養し最終の細胞数を、Con.Aを含まぬ培地で培養した対照群の細胞数と比較した。使用した細胞は、LC-2系の対照細胞、この細胞にl0-6乗M
4NQO 1hr処理10回で悪性化した細胞、この悪性化細胞の復元で生じた腫瘍の再培養細胞を用いた。
結果:Con.Aは、この実験条件のもとでは、悪性化細胞に対して、特異的な増殖抑制効果を示さなかった。いづれの細胞に対しても、Con.Aは、細胞の増殖に対して細胞の増殖促進或いは抑制効果はみられず、Con.A無添加培地内細胞の増殖にほぼ一致していた。
◇DABによる発癌実験
5)培地内でDAB処理を受けた細胞の培地中からのDAB消費能について
DABで生じた肝癌は、DABを代謝しないと報告されている。そこで、DAB代謝能と細胞のDAB消費能とは、関係ないかも知れないが、一応DAB処理を行った細胞のDAB消費能を検討してみた。細胞1コあたりのDAB消費能は、DAB投与時の細胞数に依存することを報告した。(月報7011) 標準曲線は、クローン化した発癌剤無処理のラット肝細胞LC-2を使用して、作成した。そして、1)LC-2
DAB 20μg 30日処理。2)LC-2 DAB未処理 対照細胞。3)RLD-10
DAB 1μg 4日(培養開始時)。4)RLD-10 DAB 1μg
4日 その後3'-Me-DABを10μg〜20μgの濃度で156日間処理したもの。5)LC-10
クローン化したラット肝細胞、DAB未処理。6)培養株化されたエールリッヒ腹水癌。これらの細胞のDAB消費がどの程度か検討した。
結果:現在までのところDAB処理後の細胞のDAB消費能は低下していない。現在、検討中であるがDAB消費能は細胞の増殖具合に依存しているようである。
(図および表を呈示)B2Cell lineの累積曲線をみると、DAB、3'-Me共に27日間20μg/ml添加時最初は増殖を示さなかったが、DAB、3'-Meを無添加とし継代し再添加を行なった場合明らかに増殖することが分る。
10μgについて2回、20μg5回と4回の期間、tube当り1日に消耗されたDAB、3'-Meの量は、10μg例の場合、かなり消費が少くなっているのが特異的である。DABの消費が細胞数及び細胞の生きていることが必要などと多くのfactorに左右されるので、詳細なことは補正しなければならない。或いは高濃度の場合と低濃度の場合、細胞に与える作用(特に癌化)が相違するかも知れない。
:質疑応答:
[永井]WGLを添加した時、細胞は凝集しますか。
[難波]ローテション培養でみていますと、やや塊が大きいと思われますが、どういう表現でまとめたらよいか考えています。
[安藤]3日間添加しつづけるのですか。
[難波]レオ・ザックスのデータではglucoseを除いての処理で数時間です。それもやってみる予定ですが、今日出したデータは添加しつづけています。
[山田]癌の場合のみ凝集が大きいとすると、動物へ接種する前の変異株と動物からの再培養の系のように、正常と悪性の集団としての比率が明らかに違うものを使って、ちゃんとその比率に平行して凝集するかどうかを調べてほしいですね。
[安藤]PHAにも色々あってglucoseに関係のないものもありますから、試してみるとようでしょう。それから同じ癌でも癌ウィルスによる変異は膜構造が一定方向に変わるが、化学発癌の場合は共通性がないという事も考えられます。
[堀川]佐藤班員の仕事についてですが、DAB
20μg/ml処理の系ではDABを代謝しない細胞系ををselectしたとして、2度目にDABを添加した時はどうなりますか。
[佐藤]2度目に添加すると消費します。
[安藤]この問題は代謝酵素の活性についてと、DABの付くべき蛋白が無くなるのかどうかという事の二つに分けて、はっきりさせなければなりませんね。処理後の細胞蛋白当たりにどの位DABが付いているか、調べる必要もありますね。
[佐藤]in vitroでの現象をin vivoのものと対比してみてゆきたいと思っています。in
vitroの細胞では、培養日数が長くなるにつれてDAB代謝の活性が変わってきますね。
[安藤]4NQOで発癌させた系のDAB消費はどうですか。
[難波]対照と同じ位消費します。
[高岡]なぎさ変異の株の中にはDABと全く関係しない変異なのに、DABを殆ど消費しないものもあります。
[堀川]消費については方向がありませんね。
[安藤]極端に代謝活性の異なる細胞系を使って、細胞内に結合しているDABを調べてみる必要もありますね。それから動物にDABを喰わせながら、in
vivoでの代謝活性も調べてみたいですね。
【勝田班月報・7103】
《勝田報告》
§培養内発癌実験
A)JTC-21・P3株:
各実験ともTD-40瓶1コを用い、4NQOで処理した。
[実験1]1970-10-2;10-5乗M、30分間、1回のみ処理したが、細胞は障害が甚大で約3週后には全滅してしまった。
[実験2]1970-10-28;3.3x10-6乗M、30分間、1回のみ処理。しかし上記と同様に、約1月后に全滅。
[実験3]1970-12-10;3.3x10-6乗M、30分間、1回の処理。処理前の細胞形態は写真1のように、球状で軽く硝子面に附着している細胞と、細長く伸びている細胞、あるいは所々に見られるようにpile
upしているものも見られる。(写真1、2、3、を呈示)
写真2、3は同年12-22に撮影した写真で、細胞は一層硝子面から剥れ易くなっており、やや大型の細胞も混っている。またpiling
upの傾向も強く、その塊がぽろりと剥れ易い。
1971-1-20;継代し、円形の回転管3本に移したが増殖はきわめて緩慢である。細胞数が増えたら、復元試験をおこなう予定である。
B)R2K-1株:
JAR-2系ラッテの腎由来で、1969-12-23に3.3x10-6乗Mの4NQOで30分1回処理され、増殖を誘導されてできた株である(腫瘍ではない)。これをTD-40瓶3コ用意し、1970-10-2;3.3x10-6乗Mの4NQOで30分間処理し、10-28;再処理、12-22;山田班員に細胞電気泳動を依頼、1971-1-25;継代と共に一部を復元;JAR-2、F17、生后5日♀ラットに、対照とも各2匹宛、500万個/ratにI.P.で接種。結果はまだ不明である。
C)実験HQ系の株:
JTC-25・P3(旧RLH-5・P3)株を用いた。これはラット肝実質細胞で、なぎさ変異後、純合成培地で継代中の亜株である。1969-9-11以来、計8回4NQO処理した系を、1970-10-20;JAR-1系F38、生后1日のラットに1500万個宛I.P.で接種し、さらに11-5;1500万個宛I.P.で接種した。1971-1-27;ラッテを殺して腫瘍形成をしらべたが、結果は処理群:0/2、対照群:0/2となり、この系での悪性化は非常に困難であることが示唆された。
《難波報告》
N-33:培養内で4NQOによって癌化したラット肝細胞の悪性化の指標を探す試み−4NQO処理後の細胞の旋回培養法による細胞集塊形成能の経時的変化
旋回培養法及びその実験結果については、月報7002、7004、7012に報告した。これらの以前の報告で結論されることは、発癌剤の処理を受けた細胞が動物に造腫瘍性を得るようになると、その細胞の細胞集塊能は発癌剤を処理していない対照細胞のそれに比べ、増加することであった。そこで、今回は4NQOの処理後の細胞集塊能が、経時的にどのように変わるかを検討したので報告する。
実験方法:細胞はクローン化したラット肝細胞(LC-2)を使用し、4NQO処理は、Eagle's
MEMに終濃度10-6乗Mにし、1hr処理、3日間の間隔で計2回処理した。その後経時的に約50日まで発癌剤の処理を受けた細胞の細胞集塊能を検討した。このLC-2細胞を癌化させるに必要な4NQO処理条件は、上記の条件で充分であることを、月報7009に報告した。まだ、同月報でLC-2細胞が動物に造腫瘍性を得る最短日数は4NQO処理後から復元まで28日であったことを報告した。
実験は2回行った。最初の実験では4NQO処理後19日目に対照細胞と、処理細胞との細胞集塊は、4NQO処理細胞が対照細胞に比べ、わずかに大きくなっていた。しかし、それほど大きな差はなかった。46日目には4NQO処理では大きな細胞集塊が目立ち、その平均直径は対照細胞の約2倍に増大していた。
そこで、これほど話がうまく行くかどうかもう一度検討した。その結果は表に示している(表を呈示)。この実験から判ることは、4NQO処理細胞の細胞集塊能は、4NQO処理後、20日ごろから対照細胞のそれに比べ、1.5倍ぐらいに増大し、以後、同程度の集塊能が4NQO処理後40日目まで、続いていることである。
この20日目ぐらいから4NQO処理細胞と対照細胞との細胞集塊能に差が認められるようになることは、勝田先生が月報7101で述べられているごとく、(1)変異した細胞数の問題なのか、(2)悪性度の段階的進行(Progression)なのかに関連して、心に残る問題である。また、今後発癌剤の処理を受けた細胞の集塊能が未処理細胞のそれに比べ、どの程度増大したら、確実にその細胞が動物に可移植性を持つようになるのか、また4NQOの繰り返し処理は細胞の集塊能を上昇させるかといった問題を、検討したいと考えている(図を呈示)。
《山田報告》
前回予報しましたごとく、正常ラット肝由来の培養株を、写真記録式細胞電気泳動法により分析した結果を表に示します(表を呈示)。RLT-1のコロニー株、及びRLC-10のコロニー#2は、いづれも均一な形態を示し形の上では良性株と考へられ(今の所宿主に腫瘍を形成して居ないさうです)後者はRLC-10の凍結後に生じた一コロニーださうです。RLC-10(frozen)株は、#2コロニーを除した後のRLC-10凍結後再増殖した細胞集団で、これも今の所宿主に腫瘤を作っていないさうです。
いづれの株の泳動度分布も比較的均一ですが、RLC-10の原株程揃っていません。ノイラミニダーゼ処理を行っても、いづれの平均値の一割以上の平均泳動値の低下を認めません。しかしRLC-10(frozen)株は、検索するたびに若干泳動パターンが変化し、細胞構成が培養代数により、かなり変化する混成集団ではないかと考へられます。しかし今回も、検索した株のうちでは最もノイラミニダーゼに感受性があるのはこのRLC-10(frozen)です。
従来の計算と同様に、各未処理細胞群のうちで、平均値より1割以上高値を示す細胞、及び各ノイラミニダーゼ処理後の細胞のうち、それぞれの対象細胞の平均値より1割以上低値を示す細胞の出現率を推定変異細胞率と仮定し、更に両出現率の積を100で割った値を最終的な綜合変異細胞出現率として計算した値を表に示しました(表を呈示)。この出現率はRLT-1Colonyに最も低く0.8、RLC-10Colony#2は2.9となりました。同じ方法による従来自然悪性化株であるRLC-10-A(最も悪性細胞の構成頻度が少いと推定される株)のこの最終出現率は3.0ですから、少くともRLT-1はまず良性株であり、RLC-10Colony#2はRLC-10-Aに近いか或いは全く良性株であるか、境界線にある株と考へられます。しかしRLC-10(frozen)は、この意味では悪性化の可能性が考へられます。結論としては、RLT-1Colony及びRLC-10Colony#2はまず良性株として、今後の4NQOによる発癌実験における母細胞に使用出来るものと考へます。
《高木報告》
1.混合移植実験
(1)前回の班会議で報告した如く、従来腫瘍細胞として使用していたRG-18株の腫瘍性が低下したように思われるため、古いdataと新しいdataとは比較しにくくなった。そこで現時点の細胞を用いて、この1,000、500、100、50、10ケ、および正常細胞(RL)の100万個、1,000、0の3群について実験を行っている。
(2)以上の実験はすべて移植に関しhomologous(RG-18が)な系である。腫瘍細胞に正常細胞を混ずるとむしろtumorigenicityが促進される如き結果をえたのはこの様な実験系が影響しているのかも知れない。そこでisologousな系の混合移植実験を開始した。今回、その系の腫瘍細胞として用いるRRLC-11(従来No5Cとよんでいた細胞株、月報No7102参照)だけのtumorigenicityを示す(表を呈示)。表の如く細胞数により腫瘍発現までの日数に違いはみられるが、1,000までは100%のtumorigenicityを示した。RRLC-11細胞1,000、100、50、10とRL細胞100万個、1,000との混合移植実験を開始している。
2.Colony levelでの発癌実験について
RL細胞を用いたcolony levelの実験では14日目毎に500ケの細胞を継代しているが、現在までNG作用群と無処理群との間にplating
efficiency、transformed colony数の間に、有意と思われる差はみられていない。細胞集団を用いて実験を行うべく、目下RL細胞のColonyを拾っている。
《安村報告》
§8Azaguanine、BUdR耐性細胞株(つづき)
第10回の班会議での報告と月報の報告が前後してしまいました。ひとつには班会議にお見せした耐性細胞の形態を示す写真があまりにもできがわるく、前回の月報のわたしの部分の討論の最後の部分に〜fibroblastと上皮細胞の違いについてワイワイガヤガヤ〜と記されているとおりだったからです。その後数回写真をとり直したのですが露出はよろしいがどういうわけか、focusのあまいものばかりです。標本をケンビ鏡でのぞいた段階では、focusはよろしいのですが、できあがった写真ではピンボケということでした。原因はいまのところ不明です。ただ今回から新しく購入(まだ金は払えない)したニコンの自動露出計つきのものを使ったことが関係していることです。現在カメラボックス部分におもわしくないところがありましたので、その部分の交換を頼んであります。いちおう標準に達している写真ができたらお見せすることにします。
この2年あまりの耐性株としてとれたものは:
マウス滝沢肉腫細胞・8AG 50μg/ml耐性株
マウス滝沢肉腫細胞・BUdR 50μg/ml耐性株
ハムスター(SV40でinduceされたTumorから出発)HAVITO株・8AG
50μg/ml耐性株
ハクスター(SV40でinduceされたTumorから出発)HAVITO株・BUdR
50μg/ml耐性株
L細胞・BUdR 50μg/ml耐性株
等です。VERO細胞はBUdR 50μg/mlで継代は可能ですがはっきり耐性とはいえません。
8AG 5μg/mlのVERO細胞もはっきり耐性ではありません。こんご、班会議の討論にのべられた意見をふまえて実験を組立てていくつもりです。
《梅田報告》
今迄ラット肝を酵素処理后最初から単層培養を行って、増生してくる細胞の種類夫々に対する発癌物質の作用の違い等を検討し報告してきた。一方発癌剤投与后、普通培地に戻して長期培養を行ってきたが、培養当初増生してくる肝実質細胞は次第に重なり合って束状になる傾向を示し(コントロールを含めて)間葉系細胞の方も旺盛には増加してこない。しかしそのまま培地交新を続けて培養していると、3〜6ケ月を経過して始めて敷石状の配列をした上皮性細胞が増生してくる。この細胞は既に培養当初に増殖している肝実質細胞とは形態的に又染色性において多少異っている様である。
どうして培養当初増生している肝実質細胞が培養の途中でじり貧状態になるのか原因を知りたいと思っていたのが、この点で示唆をうけたので報告する次第です。
培養開始后約10日、増生が止ってくる様な時期にPapの鍍銀染色を施した所、写真に示す如く、丁度肝実質細胞増生部と思われる所に茶褐色に染るプラック状のものと、黒色に染る繊細な繊維が見られる様になっている。間葉系細胞の上にはあったりなかったりで、疎に生えている所には証明されない。もっと早い培養5日目では、この様な繊細な繊維形成は全く認められない。Plaque状のものは見られても小さい。Azan染色を施してみると、之等のplaque繊維は青色に染り、膠原繊維と思って良い様である。
我々の実験に関して問題は2つあり、1つはこの鍍銀染色で染る物質の同定で、本当に膠原繊維なのか、又は基底膜状のものなのか、知ることであろう。もう1つはこの繊維形成により肝実質細胞がまきこまれる様になって増生出来なくなる可能性が強いので、長期培養するためにはこの繊維形成を出来るだけ阻止して、肝実質細胞を増生させる方法を考えることであろう。
後者の問題に関して先ずSodium lactateを使ってみたが、写真の如く1%の濃度で同じ培養10日目のcultureにも拘らず、繊維形成は殆んど認められない(写真を呈示)。中央部にplaqueと称したが、そのはしりの様なものが見られるに過ぎない。この濃度では増生は抑えられており、0.5%では繊維形成はコントロールと同じ位に認められる。さらに2%では既に細胞にtoxicなので使い難い様である。目下lathycogenic
agentsと呼ばれている物質、Dr.LaightonのSuggesionでAscorbic
acidを投与してどうなるか検討中である。
《安藤報告》
4NQO処理L・P3細胞の増殖能の回復
4NQO 1x10-5Mで処理されたL・P3細胞においては中性蔗糖密度勾配遠心法で見ると、そのDNAが分子量にして約10分の1に切断されていること、しかも、その場合の切断部位はDNA部分ではなく連結蛋白部分である事を報告して来た。しかもこの蛋白部分の切断は処理後の回復培養によって容易に再結合される事も報告した。今回は、このようなDNAの動きに対応して細胞の増殖能がどのように回復するかをmass
culture法とcolony-formationで調べた(これは以前に報告した事の確認実験でもある)。
L・P3のconfluent cultureを4NQO 3.3x10-6乗Mで処理し、処理後直ちに短試に分注しcellgrowthを観察したものが第1図実線の実験であり(図を呈示)、稀釋してFalcon
dishにまいたものが第1表である(表を呈示)。又4NQO処理後24時間はそのままconfluentの状態で培養し、24時間後に同様に短試、シャーレ培養を行った。結果は第1図にあるように4NQO処理直後には直ちには増殖期に入らず、約1日のlagの後に対照と同じ増殖能を回復した。この事実は正に連結蛋白の再結合に約1日の培養が必要であった事とよく対応する。24時間回復培養後にまいた場合には全く対照と同じ増殖度を示した。これ等の事実は、4NQO処理によりDNA及び連結蛋白に受けた大きな障害は、増殖に関する限りは完全に回復した事を示している。コロニー形成能については、ややこの結果とは平行しない点があった。すなわち:(1)3.3x10-6乗Mにおいては、処理後0時間においても24時間においても対照とほぼ同じコロニー形成能を示した。:(2)4NQO
1x10-5乗M処理24時間においては、コロニー形成能は完全には回復してはいなかった。しかしながら、1x10-5乗Mの場合24時間で有意な回復があったと見なす事が出来るであろう(0.15%→3.9%)。
L・P3細胞のコロニー形成を見る場合、播き込む細胞数によって形成率が変化するのでやや結果をあいまいにしている。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(30)
X線と4-HAQOによって誘起された一本鎖切断が同じスピードで再結合されるとか、あるいはX線と4-HAQOによって誘起された一本鎖DNA切断の再結合が、同一代謝阻害剤で阻止されるというこれまでの実験結果が示唆するのは、両者の作用機構とその障害修復機構の類似性であったが、前報で報告したように4-HAQOとpronase、X線とpronase、あるいは4-HAQOとX線といった種々の組合せで行ったDNA切断量の変化でみた結果は、両者の作用機構はある未知の点で異なることが予想される。こういった意味から前回報告した結果の総てを包合し、またその結果を矛盾なく説明出来るように並べたのが図1である。勿論ここに示した2本のDNAstrand中に介在するpronase
sensitive siteには、pronase(あるいはその他のX線や4-HAQOについても同様)処理に対して切断されやすい順位がある、という想定のもとに話を進めている。従って、例えば4-HAQO処理により、まず(1)のpronase
sensitive siteが切断され、続いて処理されるpronaseによっても(1)がattackされ、余分のpronaseがあれば(2)のpronase
sensitive siteを切断するというようにして説明される。このように説明してくれば、やはり問題となるのはX線処理を先行し、続いてpronaseあるいは4-HAQO処理を行う場合であって、この際には先行のX線照射によって切断されるsito(1)以外の、pronase
sensitive siteも構造変化を起しているため、第二処理のpronaseあるいは4-HAQOの作用が無効になるということで説明される。いずれにしても、この辺りが4-HAQOとX線の作用の大きな違いであるように思われる。
またX線照射によって切断されたsiteが4-HAQOによって再結合される可能性については、現在解析中である。
【勝田班月報・7104】
《勝田報告》
A)最近の復元接種試験の成績:
RLC-10株(ラッテ肝)は4NQOによる癌化実験の対照で、継代中に自然癌化をおこしたが、これをドライアイス内で凍結保存後、TD-40瓶にまいたところ、細胞のcolonyが3コできた。これをふやして復元接種してみた。#1〜3はそれぞれクローン#4は残りを集めた混合で、接種数は300〜500万個/ラッテで、68〜103日観察後どの系も0/2であった。4NQO処理後悪性化した系から軟寒天法で拾ったRLT-1Aは500万個接種で71日には腫瘍形成2/2であった。接種部位はI.P.である。
B)上記の諸系の染色体像:
RLC-10#1は73本、RLC-10#2、#3は42本、RLC-10#4(Mix)とRLT-1Aは41本であった。核型からみると、42本のものも正二倍体ではない。また各系とも特徴がなく、正二倍体の核型からあまり変化した染色体はみられない。
C)若干株のPPLO試験:
千葉血清の橋爪氏におねがいして、若干種の細胞株について、PPLOの存在をしらべて頂いた。RLC-10#4(ラッテ肝)(血清培地継代)とJTC-12・P3(サル腎)(合成培地継代)は−であった。JTC-20・P3(ラッテ胸腺細網細胞)(合成培地継代)は+++。JTC-25・P3(ラッテ肝)(合成培地継代)は+〜++。JTC-20・P3はあまりPPLOが多いので、PPLO退治のテスト材料に好適といわれてしまった。RLC-10は(-)なので、発癌実験にPPLOが関与したという可能性は否定してよいと思われる。
《安藤報告》
4NQO処理FM3A細胞の増殖能の回復と連結蛋白の関連
L・P3細胞については、4NQO 1x10-5乗Mによって細胞DNAは、pronase処理対照DNAと同程度にS値の低下を示した。そして中性蔗糖密度勾配遠心法による限り、4NQOにより切断される結合はDNAの連結蛋白部分である事を報告してきた(図を呈示)。又、この連結蛋白の切断は容易に再結合されると同時に細胞は増殖能を回復した(月報7103)。
今回はL・P3よりも使い易いsuspension cultureされているマウスFM3A細胞を使って、この点を確認すると同時に、更に4NQO高濃度によって更に大きく切断した場合、DNA
levelで再結合が起るか否か、増殖能の回復が起るか否かを調べた。30万個cells/mlの細胞濃度を用いた場合、FM3A細胞はL・P3よりも4NQOに対し感受性が高く(図を呈示)、ほぼ1x10-6乗MにおいてL・P3に対する1x10-5乗Mに比較さるべき切断を示した。3x10-6M以上では更に大きな切断が見られた。これ等のそれぞれの濃度で30分処理された細胞を新鮮培地中で24時間処理後に同様に分析した所、1x10-6乗Mの場合はほぼ完全に再結合が起っていたが、3x10-6乗M以上では不完全であり再結合される部分とされない部分に分れ、1x10-5乗M以上では大部分が回復されなかった。この実験から4NQOによるDNA障害のうち、修復可能な部分と不能な部分がある事がわかった。次にこれ等の障害が、先にL・P3において示された連結蛋白といかなる関係にあるかを調べた(図を呈示)。図に見られるように4NQOの1x10-6乗M迄は、4NQOの障害は連結蛋白に限られていた(一重鎖切断はすでにDNA上に起っている)。しかし4NQO
1x10-5乗Mにおいては、4NQO連結蛋白切断+α切断を起していた。この場合αはDNA部部の二重鎖切断だと思われる。この事実は先に述べた修復可能な障害は連結蛋白の切断に相当し、不能な部分はDNA部分の二重鎖切断に相当する事が強く示唆される(図を呈示)。
これ等のDNA levelにおける修復加納、不能障害に対応して、細胞の増殖の能力の回復を調べた。(図を呈示)図に見られるようにDNAレベルで回復が起る場合には、すなわち障害が連結蛋白部分に限られている場合には、増殖能は完全に回復していた(1x10-6乗M
4NQO)。しかしながら、DNA部部の切断を起す3x10-6乗M以上の4NQOによってはDNA
levelの回復も起らないと同時に増殖能の回復も起らなかった。
以上の実験から、次のように結論する事が出来ると思われる。
4NQOによる細胞DNAの障害は、DNAの連結蛋白部分の切断よる二重鎖レベルの鎖切断である限り、分子レベルに於て修復が起ると同時に細胞レベルにおいても増殖能の回復となる。一方、DNA部分の二重鎖切断が起った場合には、もはや分子レベルにおいても細胞レベルにおいても回復は起らなかった。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(31)
DNA鎖中に存在するらしいResidual protein部分(pronase
sensitive site)を4-HAQOもX線も共にattackするようだが、その作用機構は基本的な点において両者間でわずかに異なるのではないかということを示唆する実験結果が得られた。これらについては前報で報告したが、今回はpronase、4-HAQO処理、あるいはX線照射によって誘起されるDNAの最大の二本鎖切断数はどのようであるかを比較検討した予備結果を報告する。
5〜20%のsucrose gradient partに0.5mg pronase/mlになるようにpronaseを加え、top
layerに5mg pronase/mlを加えて、その上からmouse
L細胞をのせ、lysisさせ、15分間種々の温度でincubateした後に超遠心にかけ、sedimentation
profileからDNA molecule当たりの二本鎖切断数を計算した(図を呈示)。
ここには2つの実験結果を示してある。これらの図から分かるようにpronaseのoptimum
temp.は50℃周辺にあり、2つの実験で違いはあるがDNA
mlecule当たり600以上の切断が入ることがわかる。
一方、種々の濃度の4-NQOを含む培地中で30分間培養したL細胞を処理直後に正常sucrosegradient
centrifugationにかけ分析した結果を図に示す。培地中の4-NQOの濃度が1x10-5乗Mに達するまでは、4-NQOの濃度に依存して二本鎖切断数は増加するが、それ以上の濃度では変化がない。この点での最大切断数はDNA
molecule当たり36個である。また5x10-4乗M〜1x10-3乗M
4-NQOになると、細胞内DNAの二本鎖切断数が減少してくるように思われる。これは4-NQOのhydration等が起きたためなのか、あるいはそれ以上のfactorが関与するのか、現時点では推測の域を脱しない。しかしこの点は発癌実験とも関連して非常に重要な問題を提起するものである。いずれにしても、4-NQOで細胞処理した際に誘起される二本鎖切断は、pronase処理で誘起される切断の一部分にしか該当しないということは非常に興味がある。つづいてX線によるDNAの最大二本鎖切断数を検討しようと計画中である。
《山田報告》
引続きラット肝細胞RLC-10のコロニー株の細胞電気泳動的分析を写真記録式泳動法により行ってみました。方法及びその計算法は前号に報告したものと全く同じです。
RLC-10の三コロニー株#1、2、3を分析した所、表に示します様に(表を呈示)、やはりコロニー#2が最も平均泳動度が低くノイラミニダーゼ処理により殆んど平均泳動度は低下せず、しかも細胞構成分析でも、推定変異細胞出現率は綜合すると2.3となりました。自然癌化株のうちで、最も推定変異細胞出現率が少いと思われたRLC-10-A株の値は3.0ですから、まずまず自然癌化細胞はこのRLC-10のコロニー#2には含まれていないと云って良いものと思います。しかしRLC-10のOriginal株のごとく典型的な良性肝細胞の泳動パターンは示しておりません。この株の細胞形態は写真に示すごとく(以下夫々写真を呈示)、揃っており中小型細胞が大部分であり、大型の異型細胞は全くみられませんでした。
これに対しコロニー#1は、ノイラミニダーゼ処理により平均泳動度は7%の減少しか示しませんが、綜合推定変異細胞出現率は3.9となりRLC-10-Aのそれより高く、自然癌化細胞の混入も考えられます。その細胞形態も写真に示すごとく、大小不同が目立ち、やや大型細胞も出現しています。しかしこの大型細胞はRLT-1〜5の系に出現した様な大きなものではなく、むしろ中型細胞です。
コロニー3は前二者の中間の性質を示し、癌化細胞の混入も必ずしも否定出来ません。
これで一応発癌実験のControl細胞の分析は終りましたが、残念ながらRLC-10
Originalにみられた様な典型的な泳動パターンはいずれの系にもみられず、その意味では多少問題が残ります。今の所、RLT-1のコロニー(前回報告)及びこのRLC-10のコロニー#2が、発癌のための実験にも最も適していると云う結論です。
《高木報告》
1.混合移植実験
(1)RG-18を腫瘍細胞として用いたhomologousな移植系での実験:
RG-18細胞が、腫瘍性が低下したように思われることは先の月報で述べた。この実験は現時点の細胞を用い、近い間隔で行われたものである。RG-18
50ケ、10ケの実験も行っているが未だ腫瘤の形成をみていないので紙面の都合もあり今回ははぶいた。
これだけのdataでは未だ推測の域を出ないが、先の実験で(No.7102)RG-18細胞500ケとRL細胞1,000ケまたは100ケ混じたとき出来た腫瘤がregressしたことを報告したが、今回の実験でもRG-18細胞500ケとRL細胞1,000ケを混じたとき、未だ1/3しか腫瘤の発生をみず、すなわちtumorigenicityがよわいように思われる。RL-18、1,000ケでは移植したratが死亡したため疋数が少くなったが追加実験を行っている。両方の細胞を同数程度混じたときtumor-igenicityが低下するのかも知れない。
(2)RRLC-11を腫瘍細胞として用いたisologousな移植系での実験:
RRLC-11細胞のみについての移植成績は、表に示す通りで(表を呈示)ある。細胞数の減少と共に腫瘍発現までの日数、腫瘍死までの日数が次第に延長し、100ケになると未だ1/3に、しかも63日かかって腫瘤の発生をみている。当然のことではあるが、細胞数とこれら日数の間には、はっきりした相関関係が成立っている。従ってこの細胞を用いた混合移植実験は細胞数100〜1,000ケを中心に行ってみる予定である。
2.Colony levelでのNG発癌実験
RL細胞(WKA rat肺由来)を用いてcolony levelでの実験を行い、3実験系についてNG
10-5乗M作用せしめた後経時的にcolony形成能、piling-up
colonyの出現率などを検討しているが、一定のdataが出ていない。いろいろな原因が考えられるが、やはり一番の問題点は、mixed
populationの細胞を用いていることと思う。RL細胞のcolonyをみると、少くとも2-3種類の細胞より成るものがあることは先に述べたが、その各々を拾ってさらにcolony形成を2-3回繰返し、現在、2系の比較的純粋と思われる細胞がとれた。この細胞をふやして実験にかかる予定である。
九大では今年度の大学院学生の採用も終り、きびしく講義(セミナー)を行うことになっていますが、その病理系学生(全体を生理系、病理系に分けて)の前期の講義に"組織培養による発癌実験"のテーマも加わることになりました。
《梅田報告》
ハムスター胎児細胞の2代細胞に、mycotoxinであるペニシリン酸(PA)及びパトリン(Pat)とトリプトファン代謝産物お3-hydroxyanthranilic
acid(3HOA)を投与して、長期継代した例を述べる。
(1)PAは10μg/ml濃度の培地で1日間処理し後継代した。ここで2系列にわけ、1回処理そのままのものと、更に2代、3代目で同じ処理を繰り返したものを作った。後者は増殖が悪く、8代目で増殖が止って了った。前者は10代目培養110日をすぎてから増殖が盛んになり、形態的にもtransformを思わせた。12代目にsoft
agar中でmicrocolonyを作る様になった。30代目200日頃より更に良好な増殖を示し(1週間で10倍以上)、形態的にはcriss-cross、piling
upの著しい像を呈する様になった。
(2)Pat 2μg/ml濃度の培地で1日間処理後継代したが、増殖悪く3代で切れて了った。因みにHeLa細胞での増殖カーブ実験で1μg/mlでは、一日間の横這いでその后増殖がresumeする。他のラット肺、肝培養も殆同じ感受性を示しているので、2μg/mlがそれ程高い濃度と思わなかった。所謂毒素なので濃度が少し上っただけで、この様な長期継代には耐え得ないのかも知れないと解釈している。
(3)3HOA 10-3.5乗M培地投与1日后control培地に戻して長期継代した。これも数回処理群を作ったが、切れて了った。(1)のPA処理と非常に似た増殖を示し、9代目110日頃より形態的transformを示し、24〜25代目180日頃より更に良い増殖を示し、4〜5日で10倍以上の増殖を示している。criss-cross、piling
upも著明になった。(図を呈示)
どうしてももっと早くtransformする系を作らないと実験にならないと痛感している。
【勝田班月報:7105:癌とは何か、判らなくなった話】
《勝田報告》
§癌とは何か、判らなくなった話:
悪性化の指標として、これまでさまざまの特性変化が追求されてきた。
1)動物への可移植性、2)軟寒天培地内増殖能、3)パラビオーゼ培養内での正常細胞に対する毒性、4)細胞電気泳動度における変化、その他、その他である。
まず可移植性と軟寒天培地増殖能が平行するか否かの問題をとりあげてみよう。(表を呈示)安村班員のデータも混ぜてあるが、正常組織由来のラット肝は培養1300日で2/2とtakeされるようになってしまったが、このとき軟寒天内ではコロニーを作らない。ところが1460日になるとコロニーを作るようになった(しかも無数に)。なぎさ培養で変異した株はtakeされないが軟寒天内P.E.はかなり高い。AH-66からの株はそのまま復元すると、腫瘍を作らないが、軟寒天に生えた細胞を拾って増やすとtakeされる。
合成培地内で継代しているRLH-5・P3株を、4NQOで1年間に8回処理し、細胞電気泳動では"まさしく悪性"と山田班員に判定された系の復元成績で、同系の生後24時間以内のラットにI.P.で接種して、いわゆるImmunotoleranceをもたせた上、再び1,500万個をI.P.で接種したがtakeされなかったという実験で、ラッテではこの時期の接種ではtoleranceをもはや作らぬのかとも思わされる。なぎさ変異株は細胞電気泳動像では悪性型のがあってもtakeされぬのは、異なる抗原性を強く持つようになったためではないかと思うが、免疫関係の班員はその辺を仲々しゃっきりさせてくれない。軟寒天内の増殖性と悪性とは平行しないことを安村班員は掴んでいるのに、それをちゃんと発表しないから、釜洞一味は平行するように述べ立てる。
(写真を呈示)正常ラッテ肝の初代8日目の培養の中には、きわめて大きな核小体を保有する細胞がおり、悪性細胞と見誤る位である。正常ラッテ脾のセンイ芽細胞の初代8日には見事なcriss-crossを見せている。形態学もあてにならない。復元も宿主をX線で叩いておいて接種すれば・・などというのでは、それが本当の癌とよべるのかどうか。
癌化したという判定を、我々はいったい、どんな指標によって下したら良いのか判らなくなってしまう。やればやるほどQuestion
markは大きくなる感じで、以て"癌とは何か、判らなくなってしまう"話である。
:質疑応答:
[吉田]動物への可移植性は組織親和性と関連していますから、可移植性だけで細胞の悪性化を知ろうとするのは問題がありますね。
[山田]in vitroでの実験は動物実験と違って宿主の影響を受けないという事が利点なのに、結局復元実験に頼らねばならないという事は退歩しているような気もしますね。
[藤井]新生児に復元しているのなら免疫的な意味では、むしろ始めのimmunotoleranceは不要だと思います。接種した細胞が増え出して宿主の反応が現れ始める頃に何か手をうつことを考えたらどうしょうか。
[安村]宿主側を始めからもっど痛めつけておくのはどうでしょうか。昔ながらの方法ですが、X線照射とかコーチゾン処理とか。それから、なぎさ変異の細胞はAH-7974の出すような毒素をあまり出さないのではありませんか。
[勝田]双子培養の結果では、なぎさ細胞も正常細胞をやっつけていますがね。
[佐藤]復元実験はどの位の期間観察していますか。
[高岡]takeされない時は、半年以上生かしてあります。
[佐藤]自然悪性化の系の場合、復元してから500日以上たって腫瘍死したというデータを持っています。もっと長く観察する必要があるのではありませんか。むしろ今までtakeされていた系でtakeされなくなったものを使って免疫現象を調べてみたらどうですか。
[堀川]癌とは、生体で起こった沢山の変異の中で、あまり生体とかけ離れた抗原性を持つ細胞は生体から排除されてしまって、生体と似たような抗原を持った細胞だけが残され、それが生体の制御から外れて増殖を始めたというものではないでしょうか。
[勝田]そういう事は考えられますし、非常に可能性はあります。しかし、どうやって証明しますか。証明できなければ意味がありません。今持っているデータ、例えばJTC-16(AH-7974)はラッテへ復元して腹水中で増殖させると、ヘキソカイネースのアイソザイムパターンが変わってくるという事や、JTC-15(AH-66)はラッテにtakeされなくなっている系ですが、軟寒天内に出来たコロニーから増やしたsublineはラッテにtakeされるという事など、問題として整理してみる必要がありますね。
[吉田]ごく僅かに混じっている細胞が問題かも知れませんね。それらの細胞に抗原性があって宿主を刺戟して免疫反応を起こさせ、結局takeされない事も考えられますね。
[藤井]癌の場合では、生体を刺戟する抗原をもっていて生体を刺戟することが、むしろ癌の成長を促進するということがあります。
[吉田]純度の高い動物を使うことですね。
[藤井]マウスではC3Hのように100代も継代して確立された純系がありますが、ラッテではありませんね。
[山田]しかし今の問題は動物の純度についてではなくて、今ある材料を使ってin
vitroで変異した細胞の抗原性をどうやってチェックするかという事ではないでしょうか。
[吉田]そこで癌化=可移植性という系で実験すると、事の開明が簡単だろうと考えたのですが・・・。
[堀川]抗原の量の問題でなく質の問題でしょうね。細胞1コで動物にtakeされるという系をin
vitroの変異で作ることが出来れば、いろいろ調べられると思います。
[山田]massとしての解釈と、その中に含まれるpopulationとしての解釈とが重なるので、事を難しくしているのですね。
[安村]どうでしょうね。in vitroの癌化の問題から、動物への復元実験というものを全く外してしまったら・・・。 ・・・全員爆笑・・・
[藤井]しかし実際問題としては、癌はin vitroの問題ではなくて、生体のコントロールの枠を外れて増殖するのが問題になるのだと思います。
[勝田]そうです。ですから復元にコーチゾンを使わなくては−、X線照射をしなくては−、takeされないというのでは困るのです。
[安村]細菌では、ふだんは無害なものが、生体のコントロールを外れたら感染症を起こす原因になるということもありますよ。変異ではなくてね。
[堀川]in vitroの系では、変異は全方向に向かって起こるが、生体では生体の中で増殖可能なものが選別されて残るので、それ以外の変異は調べる事が出来ないのですね。
[勝田]in vitroでいろんな方向への変異が出てくる時期に、生体に近い条件を与えて選別するという手もありますね。しかしラッテの細胞にラッテ血清を加えると増殖を阻害しますしね。イヤ、生体でも或るものは生存を阻止されているのだから、ラッテ血清などを使うのが自然かな。
[永井]ラッテ由来の培養細胞がラッテの血清で増殖を阻害されるとすると、ラッテの生体で癌化した細胞を培養してラッテの血清を与えると、どんな影響がみられますか。
[高岡]具体的なデータは出せませんが、増殖を促進する事は余り見られません。
[難波]ラッテの血清を使う場合、採血の条件を考える必要があります。エーテルやクロロフォルムで麻酔して採血すると、血液内に麻酔剤が入ってその影響があると思います。私の経験では、血清成分を全部ラッテ血清にすると細胞は増殖しませんが、だんだんにラッテ血清に馴らすことは出来ます。
[藤井]ラッテのリンパ球の培養には増殖させるのでなく維持するだけですが、ラッテ血清が一番適しています。それも非働化せずに又凍結もしない新鮮な物が良いようです。
[山田]標的細胞にリンパ球を加え、血清を入れて免疫反応をみる時も、凍結溶解した血清を使うと確かにリンパ球の反応が低下しますね。
[藤井]又、復元の問題ですが、新生児の胸腺を切除しておいて復元すると、なぎさ細胞でもtakeされるのではないでしょうか。
[吉田]元の個体へ戻してtakeされなくてはいけないのではないでしょうか。新生児やコーチゾン処理でやっとtakeされたものを癌といえるかどうか。
[勝田]それも、いろいろとやってみましたがね。肝臓の場合など部分切除出来る年齢のラッテではもう培養しても増殖しませんしね。
[吉田]尻尾の培養などはどうですか。どの年齢のネズミからでも簡単に培養できるし、培養するとfibroblastがどんどん増えてきますから、処理して皮下へ戻せば肉腫が出来るでしょう。
[藤井]杉村先生の言によれば、癌になった細胞は誰にでも判るが、癌になる細胞かどうかが判るのは、神さまだけですと・・・。
[山田]しかし、in vitroで発癌と取り組んでゆくには、それが重要な問題ですね。
[勝田]我々の乗り越えるべき垣・・イヤ石塀ですね。
《高木報告》
1.混合移植実験
(1)RG-18を腫瘍細胞として用いたhomologousな移植系での実験(表を呈示)
RG-18 50、10の実験群はいずれも観察日数70日を越えて未だに腫瘍形成がみられない。
RG-18 1.000、500の実験群で、始めは各々少なくとも3匹のラットを用いて実験をスタートしたが、途中で死亡し、少いラット数になったため判定がむつかしい。しかし、RL
1,000を混じた群ではこれまでの観察期間を経て未だに腫瘍の発生をみていない。
RG-18 500では、前号の報告同様RL 1,000混じた群に腫瘍形成能がよわいように思われる。またここでRL
100万個混じた方がRG-18 500接種した場合より腫瘍形成までの期間が短いように思われる。
(2)RRLC-11を腫瘍細胞として用いたisologousな移植系での実験
RRLC-11だけの移植成績は(表を呈示)、細胞数と腫瘍発現までの日数との間に明らかな相関がみられた。従ってこの細胞を用いた実験は100〜1,000の細胞数を中心に行った。RRLC-11細胞
10コの実験群はいまだに腫瘍発現をみない。RRLC-11
1,000コ群ではRLを1,000コ混じた実験のデータが未だ出ていない。またRRLC-11
500コ群では腫瘍細胞のみの移植がどうしたことか未だに0/6であるために成績の判定が出来ない。
RRLC 100コ、50コ群でもRLを1,000コ混じた時に腫瘍形成能がやや低い様にも思われるが、断ずるのは早計である。
2.Colony levelのNG発癌実験
RL細胞のColony形成を2〜3回経過し、純粋な株細胞をうる努力をした。形態的に異った2系の細胞をえたので、これを用いてNG
10-5乗M作用させた実験を行ったが、出来上がったColonyをみると、ごくわずかではあるがpopulationの大部分を占める細胞と異った細胞のcolonyがあり、完全に純化されていないことが分った。さらに純粋なcell
poputationをうる努力をつづけている。2つの系の細胞の形態をslideで供覧する。
:質疑応答:
[堀川]腫瘍化している細胞に正常細胞が混じっている方が、動物によくtakeされるという事は判りましたが、混ぜる正常細胞は生きていることが必要ですか。
[高木]殺した正常細胞がどうかはまだ実験してみていません。
[勝田]次の問題として考える必要がありますね。混ぜる正常細胞は同じ組織由来のものを使うべきではありませんか。復元実験の問題に関しては、今ある腹水癌が佐々木研のAH-7974とかAH-130とか、雑系で作ったものばかりで困りますね。純系ラッテ由来の動物継代腹水癌で使いよい系を作る必要があると思っています。
[吉田]復元はどこへ接種しましたが。
[高木]皮下接種です。
[吉田]接種した細胞は散らばりはしませんね。しかし生体から受ける影響が一番少ないという点から脳内接種の方がよいと思いますが・・・。
[高木]脳内接種も試みましたが、失敗で、1週間位でラッテが死んでしまいました。
《佐藤報告》
RLN-B2ラッテ肝細胞の培養歴史と実験を図で示す。即ちラッテ肝をtripsinizeしてコロニーを作らせ、上皮性の性格を示す細胞のコロニーをつって炭酸ガスフランキ中で継代し、171日から閉鎖系で培養されたRLN-B2cell
lineを使用した。実験は培養257日から292日にかけて出発した。DAB及び3'-Me-DABはalcoholに溶解して後、血清に混じ更にEagle'sMEMと混合する方法を採用した。濃度は計算上、ml当り10μg、20μg及び40μgになるようにしたが、培地添加時遠心を行って後添加したので実験時の添加濃度は計算値より低い。(培養細胞による培地内DAB及び3'-Me-DABの消費を換算するために培地交新時、消費量を実測した。)
10μg/ml例、20μg/ml例は連続添加、40μg/ml例は継続添加を行なった。対照として80%Eagle'sMEM+20%BS及び上記培地に0.4%(20μgAzo
dyes/mlに含まれるfinalのalcohol量)及び0.8%(40μgAzodyes/mlに含まれるfinalのalcohol量)に夫々alcholを含む培地を使用した。今回は20μg/ml例に就いて、細胞(RLN-B2)の増殖とAzo
dyesの関係を示す(累積増殖図を呈示)。Eagle'sMEM+BS、及び0.4%alcohol群の間には増殖率の変動は殆んど認められない。DAB実験群は第1回の継代までは増殖を示さなかったが、継代前後各2日間のDAB除去により以後、DAB添加によって細胞は増殖を維持した。3'-Me-DABの場合も殆んど同様の結果を示した。(第1回継代時、実験細胞が取れなかったので、次の継代まで3'-Me-DABを除去した。)
以上の結果はRLN-B2細胞ではAzo dyesに対して何らかの処置(細胞分裂?)によって、Azo
dyesに対して増殖耐性を得ることを示している。
Azo dyesの添加の増加と共にRLN-B2がコロニアルレベルでどのように変化するか。
(表を呈示)DAB 20μg/ml例の第1継代後の細胞、第2、第3、及び第4継代のものを検索した結果、P.E.がばらついているので再度実験を試みなければならないが、次第に大型のコロニーが現れ(0→7.4)、且つpiled
upするコロニー(0→6.57)が現われた。
3'-Me-DABの場合にも同様の結果が得られた。
次にDAB系についてシャーレ当り10,000コ細胞を0μg、1μg、5μg及び10μg/mlのDABを含む培地中に3日間、次いで4日間夫々0μgとし、更に0μgで3日間、計10日目のP.E.を計算し、最初の3日間の0μgに対しての%で、コロニアルのDAB増殖耐性をみた。第1継代のものは測定されなかったが、DAB添加時間(日数)の増加に比例して、DABによる変性乃至増殖阻止が低くなる結果を得た。
:質疑応答:
[堀川]大コロニー当たりの細胞数が多いというのは、本当に数が多いのでしょうか。細胞が大きくなったのでコロニーサイズが大きくなったという事はありませんか。
[佐藤]数が多いのです。細胞数を数えていますから、間違いありません。
[高木]動物実験でDABを喰わせて、発癌しない程度の肝臓を培養すると増殖しますか。
[佐藤]30日位喰わせてまだ発癌していない時の肝臓でも、トリプシン処理をして培養すれば増殖します。
[高木]続けて喰わせても発癌しない程度の低い濃度のものはどうですか。
[佐藤]それはやってみていません。
[勝田]私達が昔やった実験でなぎさ+DAB処理というやり方では、DABをどんどん消費しながら増殖する型と、DABがあっても全く消費しないで増殖する型の2種の変異株がとれました。耐性といっても、そういう両方の型があることも考えておくべきでしょうね。
[佐藤]DAB代謝には蛋白に結合して発癌に関係する代謝と、単にアゾ基を壊すというだけの代謝があると思います。
[吉田]今日報告された系はラッテにtakeされますか。
[佐藤]まだtakeされません。変異剤と発癌剤とを組み合わせて処理すると、効率よく悪性化させられるのではないかと考えたりしています。
[堀川]発癌のターゲットは他に求めて、DABはプッシュに使おうという考え方ですか。
[佐藤]DABの作用は悪性度の増強ということではないかと考えています。正2倍体を保っている系にDABを作用させても仲々悪性化しませんが、古株だと効率よく悪性化します。又、再培養系にDABをかけると腫瘍性が高められるというデータも持っています。
[吉田]2度目のDAB処理で悪性をセレクトしているという事は考えられませんか。
[堀川]DABに対する耐性は増殖度の高くなることと平行しているのですか。
[佐藤]そこまでは考えていません。2倍体で、肝細胞の機能を持っているというクローンを欲しいと思うのですが仲々得られません。今ある株について酵素活性を調べて貰ったのですが、成体のものと較べると胎児性になっているという事でした。それは前癌ということでしょうかね。
《難波報告》
N-34:培養内で癌化したラット肝細胞の悪性化の指標を探す試み−Wheat
germ lipase(WGL)は癌細胞を特異的に凝集させるか−
すでに、培養内で4NQOによって悪性化したラット肝細胞の増殖に対するWGLの影響を報告した。同時に"WGLが悪性細胞を特異的に凝集させる"ことを報告した文献を紹介した。
そこで今回は培養内で4NQOによって癌化したラット肝細胞のWGLによる凝集能について報告する。
実験方法:
細胞:PC-2・クローン化した4NQO未処理ラット肝細胞。
PCT-2・PC-2を10-6乗Mで1回の処理時間1hr.間欠的に計10回処理後、動物に復元して生じた腹水腫瘍を再培養したもの。
PC-10・クローン化した4NQO未処理ラット肝細胞。
PCT-10・PC-10を3.3x10-6乗M 4NQO、1時間処理2回で癌化させた腫瘍細胞。
単層培養された上記の細胞をトリプシン処理し、浮遊細胞にし、20%BS+Eagle'sMEMの培地で(100万個Cells/ml)旋回培養を5時間行い、トリプシン処理による細胞の膜面の障害の回復を図る。その後、細胞をEDTA-Solutionで3回洗い、WGLをEDTA-sol.に段階的に2倍稀釋した試験管内に50万個/tubeの細胞を入れ、室温に1hr放置後、試験管底に生じる細胞の凝集をみた。
結果:(表を呈示)
1.WGLの濃度が高ければ、4NQO未処理対照細胞にも凝集がみられる。
2.WGLの濃度を選べば(125〜250μg/ml)、対照細胞と悪性化細胞との凝集能に差が認められることが判った。
:質疑応答:
[勝田]piling upといっても盛り上がった部分の細胞が死んで居るように見えますが、どうですか。対照群でも培養期間の長いものは似たような像がみられると思いますが。
[難波]saturation densityも倍位違いますし、実験群の方はみるみるうちに重なってきますから、矢張りpiling
upだと考えています。脳内接種というのは難しいですね。
[佐藤]第3脳室へ入れるのが普通だときいていますが・・・。
[安村]いや脳室へ入れるのは危ないですね。大脳のhemisphereに入れます。そしてコツは針を刺して物を入れたら暫く待ってから、針を引き抜きます。その暫くという時間は、私は"いきなくろべい、みこしのまーつに"そこまで唄ってさっと針を引き抜くようにしています。 ・・・全員爆笑・・・
《梅田報告》
(I) 今迄強力なAcetyl-aminofluorene(AAF)の、よりproximateな形であるN-hydroxy-acetylaminofluoren(N-OH-AAF)投与により惹起される変化について報告してきた。動物にAAFが投与されると、Nの位置(2の位置)のhydroxylationをうけproximateになる他、1、3、5、7、8の位置にもhydroxylationをうけ、そのまま或はglucuronateの形で尿中に排泄されるという。
このAAFとN-OH-AAFとをHeLa細胞、hamster
embryonic cellsに投与して形態的変化を観察してみた。AAFでは10-3.5乗M投与で細胞は萎縮ぎみ、細胞質も少なく、HeLa細胞の場合もspindle-shapedを示し、核も小さく濃縮ぎみになる。N-OH-AAF
10-4.5乗M投与で、細胞は大型化し、核質は淡く一様に微細になる。
更にN-OH-AAFよりproximateと考えられているDiacetyl化合物が得られたので、投与してみると、HeLa細胞、hamster
embryonic cell共にN-OH-AAFと似た形態を示す。この形態の差がどれ程の意味があるのか、これから検索してみたい。
(II) Hamster embryonic cellにN-OH-AAFを投与して長期継代している例で、月報7102、7108の報告についで所謂morphological
transformationを起し、急速な増殖を示す様になった。(累積増殖カーブを呈示)第1例はN-OH-AAF
10-3.5乗M 1時間投与を2代にわたって2回おこなったもので、100日を過ぎてからpiling
up、criss-cross等の形態的変化と良好なgrowthを示す様になった。第2例、第3例のN-OH-AAF
10-4.5乗M2日間投与を3代にわたって3回投与したもの及び初代だけ1回投与したものは両例ともに、早くからpiling
up、criss-crossの形態的変化が現れたが、現在90日を過ぎて尚第1例の増殖率には達していない。
controlの細胞は実験群程criss-cross、piling
upの形態変化は著明でないが、増殖は150日を過ぎてから非常に良好になってきた。
(III) IIで述べた例、更に前回の班会議で報告した3例(7102)、又月報7104で報告した2例で観察されることであるが、morphological
transformationにも2つの時期がある様である。まだはっきりと同定していないけれども、先ず、criss-cross、piling
up等の所謂morphlogical transformationが起って時々同じくして良好なgrowthを示す様になる。さらに継代を続けていると、一段とさらに増殖率が良くなる時期が来る。そして形態的には、丁度この頃より細胞は小さめになり、核はそのまま即ち、nucleus/cytoplasm比が大となり、核では核質の濃縮が起り、所謂heterochromatinを形成する様になる。この核質の濃縮は剥離細胞学でいう癌細胞の特性の一つに数えられており、又黒木氏のいうM3期に入った時期と一致すると思われる(まだ確かめていないが)。
この核質の濃縮等の変化は昨年のJNCIにSanford等が報告しているSpontaneous
transformationを起したマウス、ラットの細胞にも認められている。そして湿固定を行っている場合にのみ、はっきりと現れてきており、methanol固定、Giemsa染色を施した標本では観察されない。
(IV) 核質の濃縮が悪性化とどの様に関連しているのか、濃縮を起した方がreplicateしやすいのか、分化と関連してこの様な形態をとるのか、説明出来れば興味があるので、その面での検索を続けたいと思っている。その第1として各細胞あたりのDNA、RNA、蛋白を測定してみた。結果は(表を呈示)あわてて測定したのでrepeatしてみてから考察を加えたい。又今迄得られている細胞のcell
cycle analysisも行ってみるべく、実験中である。
:質疑応答:
[堀川]対照群のDNA量が多くてRNA・蛋白質は少ないのですね。対照群には4倍体の細胞が多いのですか。
[山田]細胞当たりの数値と蛋白当たりに計算した時の数値が違ってきますが、それはどう読みますか。
[堀川]何をみるかという事にもよりますが、普通はDNA量と蛋白量は平行していますがね。どうも定量誤差が大きい数値のようですね。薬剤処理をして巨細胞が沢山出たり、2核細胞が増えたりすると定量値も大きくなることは考えられますが。
[梅田]定量は又やり直してみます。heterochromatinのcondensationは悪性化にどんな関係と意味があるでしょうか。
[山田]剥離細胞診断でのcondensationは細胞のpopulation内での差が大きいですね。全体に起こるというのでなく、アトランダムに見られることに意味があります。又chromatinの電気泳動をやってみますと、乾燥するとCa++の吸着が増しますし、2〜3日放置したり固定したりで、又泳動度が変わります。染色の条件ということもありますし、chromatinの事だけから、あまり大きな事は云わない方がよいでしょう。
《堀川報告》
今回は動物細胞DNA鎖中に連結タンパクの存在を示唆する最近の代表的な論文について紹介する。
☆By Alexander L.Dounce:Nuclear gels and
chromosomal structure:American Scientist,59,74-83(1971)☆
種々の細胞から得たNuclear gelについて各種薬剤、酵素等で処理した際のviscoelasticな特性の変化を特殊な装置を用いて解析するという、これまでの彼の精力的な仕事をまとめたものである。それによるとDNA二重螺旋中には或る一定の大きさのDNAを連結する連結タンパク、つまり彼の言葉をかりると"residual
protein"の存在を強力に指示している。同時にこれらのresidual
proteinのアミノ酸組成についても分析を試みている。彼によって示されたresidual
proteinの特性は以下のように要約出来る。
(1)他のタンパクに比べてresidual proteinは非常に高分子のものである。
(2)DNAとresidual proteinはcovalentにbindingしているのではないか。
(3)residdual proteinは-s-s-bondで結ばれているのではないか。
(4)種々の細胞核から得られたresidual proteinのアミノ酸組成は、非常に良く似ている。
(5)residual proteinは不溶性であるが、pH
11以上のアルカリ性、あるいは-s-s-bondを切るためにperformic
acid等で処理後、低pHにすると溶性となる。
またDounceによって示されたchoromosomal
fibersの構造の模式図を図に示す。
☆By J,T.Lett,E.S.Klusis,and C.Sun.:ON
the size of the DNA in the mammalian chromosome.Structural
subunits.:Biophysical J.,10,277-292(1970)☆
LettらはDNA連結タンパクについて直接解析を加えようとしたものではないが、放射線照射後の細胞の一本鎖DNAの再結合機構を検討する過程において細胞をアルカリ性蔗糖勾配のtop
layer(NaOHとEDTA溶液部分)にのせてlysisさせる時、細胞をのせてから超遠心を開始するまでに1〜18時間の間隔をおいた時、超遠心後に得られる沈降像が異なることを認めた。つまり細胞をNaOH+EDTA溶液にのせてから、超遠心開始までの時間が長ければ長い程single
strand DNAのSvalueは減少することを見出し、このことから培養動物細胞内のDNAは或る一定の大きさのDNA(DNA
subunit)がアルカリに不安定な蛋白かペプチドによって連結されているのではないかと推論している。
また、こうした現象はChinese hamster Ovary細胞、マウスL細胞、5178Y細胞、あるいはHeLa細胞の3種の細胞についても殆んど同じように認められると言う。
また、こうしたDNA subunit連結物質の存在は染色体のtranslocationとかinversionといった生物学的現象の説明にも不可欠であるということが両研究者によって示唆されている。その他のものについては都合により省略する。
:質疑応答:
[堀川]リンカーという考え方は昔からありますが、それがどんな形であって何の為にあるのかは、判っていないのですね。
[難波]residual proteinの長さはどの位ですか。
[堀川]判っていません。数が何本あるかも判りません。
[安藤]臓器によって量が違うようですが、大体30%程度あるようです。sucroseでみているDNA
peakの蛋白量よりはるかに多い量です。
[吉田]染色体というものはDNAで連続していると、今まで言われてきましたが、こういう構造から考えるとDNA
strandとしては切れ目がある訳ですね。
[堀川]そう考えられます。
[山田]臓器によって違うということから思い当たるのですが、形態的にもchromatin
patternが違います。アゾカルミン染色でみると、かたまり方が点状、不規則、雲状とあります。これはresidual
proteinと関係があるかも知れませんね。
[吉田]interphaseのchromatinがどんな形なのか問題です。
[堀川]発癌剤の作用によって染色体にtranslocatinやinversionが起こる場合、それが起こりやすい特別なsiteがありますか。
[吉田]あります。
[堀川]X線照射によるDNA切断はrandomなのですが、4NQOの場合はどうも特異な場所を切っているようです。そういう事が発癌と関係するかも知れませんね。よい材料を選んでDNA切断の意味をはっきりさせておかなければならないと思います。
[安藤]pronase処理では50℃が一番よく切れるという結果がでていますが、pronaseなしで50℃にするとDNAは切断がおこりますか。
[堀川]それはまだみていません。
[安藤]切断の数はX線で600、4NQOで35となっていますが、今までのデータでもそんなに大きく違っていましたか。
[堀川]そんな大きな差はありません。50℃で処理すると大きく差が出ます。
《安藤報告》
DNAの連結蛋白の再結合のKinetics:
私共は月報No.7104において、L・P3において4NQOを10-5乗Mで作用させた場合、FM3Aにおいては1x10-6乗Mを作用させた場合には、DNA部分ではなしに連結蛋白部分の切断によって、中性蔗糖密度勾配遠心上での沈降常数の低下を起すことを報告した。今回はこの連結蛋白の切断が再結合される際のtime
courseと温度依存性を調べた。
先ずtime courseを調べた場合、(図を呈示)FM3Aにおいては比較的速やかに起こり、6時間ですでに大部分12時間でほぼ完全に再結合が起っていた。次に4NQO処理後細胞を10、28、37℃に4.5時間放置した後、分析すると、10℃においては再結合は全く起ってはいなかった。28℃では中程度の回復、37℃では最も良く再結合が起っていた。この事実は連結蛋白の再結合は酵素的反応である事を示唆している。
:質疑応答:
[堀川]今まで私のデータと安藤班員のデータは、DNA二重鎖の切断→修復のところで、食い違っていましたが、今日の話ではっきりしましたね。私の場合4NQOの処理濃度は5x10-5乗Mという高濃度だったから二重鎖の修復がみられなかったということですね。
[佐藤]ところで、この実験では実際の発癌とどう繋げられますか。つまり悪性化と関係のある濃度はどこか、その場合DNAが修復されるのかどうか、という事です。もっと発癌実験と関係のある材料でやってほしいですね。
[堀川]DNAの修復のミスが発癌と関係があるのかどうかという事は、大事な難しい問題です。私自身もミスリペアを言い出した一人ですが、今は大分疑問を感じています。発癌にはactiveな増殖が必要なようですね。発癌剤処理の後、半分は増殖を抑えるpoorな培地、片方はどんどん増殖させるrichな培地で培養を継続して、どちらが発癌率が高いか調べてみると、少しははっきりするかも知れません。
[安藤]私たちはmisrepairよりも連結蛋白の組み違いからgene
expressionが変わって悪性化するのではないかと考えています。
[吉田]回復したあとのDNAの活性は処理前と同じになっていますか。
[堀川]生物学的な証明はありません。
[安藤]増殖を続けられるという事は、活性の一つの証明だと思います。
[佐藤]同じ細胞系を何回も4NQOで処理していると、切れる位置が変わってくるのではないでしょうか。DNAの切断ということが本当に発癌と関係があるのかどうか知りたいのです。癌性が高まるにつれてDNAの切れ方が違ってくるはずの様な気がするのですが。
[安藤]かりに切れる位置が変わってきても、今の方法で判るかどうか疑問です。又今日報告した実験に使ったFM3Aは癌細胞ですから、4NQOによるDNA切断の傾向としては正常、腫瘍により違いがなさそうです。
[堀川]細菌の場合はrepairの能力の大きいもの程、mutation
rateは大きいですね。しかし修復酵素が欠けているために発癌するというxeroderma-pigmentosumの例からはmis-repairが発癌に結びつくという事は否定されます。といっても癌は複雑ですから、やはりmis-repairも発癌に関与しているのかも知れません。
[安藤]mutagenは必ずしも発癌性と平行しませんね。
[吉田]変異にもいろいろありますね。遺伝子のレベルの変異、染色体のレベルでのもの、癌とはどのレベルでの変異でしょうか。
[勝田]ヒストンに対しては4NQOはどう働いていますか。DNAだけ切ってヒストンが切れなければDNAもばらばらにはならない筈だと思いますか。
[安藤]蛋白については構造の分かっているペプチド等使ってモデル実験をしてみればどこが切れるのか見当はつくと思います。
[吉田]4NQO処理した細胞を染色体レベルでみると染色体がジュズ玉の様な構造になっている事が度々あります。ヒストンの方がDNAより4NQOに対してsensitiveらしいという気がします。少なくともhistchemicalにはそういう傾向があります。
[安藤]bindする量からみても、4NQOはDNAより蛋白の方にずっと多くbindしますね。
[下条]DNAが切断されるような状態の時、細胞膜に変化がきていますか。又DNAに結合している蛋白についてはどうでしょうか(Dr.H.Green論文の紹介)。
[安藤]細胞膜については判っていません。
[下条]ウィルス発癌の場合、細胞の悪性化が確認されない感染後のごく初期(20hr位の頃)に短い期間ですが膜に変化が認められます。化学発癌の場合はどうでしょうか。
[勝田]細胞電気泳動の場合も、そんな短い期間のは調べてありませんね。
[吉田]ウィルスの場合はDNAに組み込まれるとすぐ発現するけれど、化学発癌剤の場合はすぐに変異が発現しないのではないでしょうか。
[下条]ウィルス発癌の方ではウィルスDNAの増える前に宿主のDNAが増え、又膜が変化します。そういう初期変化をウィルス感染の結果というより、後に出てくる発癌現象のモデルとして捉えようとしています。
[堀川]化学発癌剤によるdirectな発癌など本当はなくて、そこへウィルスが一役買っているのかも知れませんね。
[下条]しかしウィルスの場合もウィルスが癌をつくるということではなくて、何かgene
expressionを変えるので細胞自体が変わるのだろうと考えています。4NQOなど化学発癌剤による初期変化に興味がありますね。
[難波]化学発癌剤でもtransformした細胞はagglutinabilityが高まっています。
《山田報告》
これまでの仕事のうち、細胞電気泳動法による細胞表面の抗原抗体反応を定量的に検索する方法も開発して来ましたが、これを更に発展させて、所謂細胞結合性抗体を感作リンパ球より、また抗原癌細胞の表面より抗原をそれぞれ分離させ、これを細胞電気泳動法により検出する方法を種々工夫して来ました。漸く実用化する可能性が出て来たので、少しまとめてみたいと思います。この抗体の分離は、試験管内発癌過程における癌細胞の抗原性の定性的及び定量的な変化を測定するために役に立つと思いますので。
モデル実験としてラット腹水肝癌AH62F 1,000万個をドンリューラットの腹腔内へ移植した後4〜5日目に宿主ラットの脾臓を摘出し、これを細切、濾過してリンパ球様細胞を採取。これにデオキシコレート(DOCA)0.2〜0.05%を加えて(手順表を呈示)処理。(リンパ球様細胞10の8乗当り3mlのDOCAを混合)その上清のみを集めて、一晩セロファン膜により透析。これにより用いたDOCAを可及的に除き、上清へ遊離物質のみの浮遊液を集めます。
この様に処理した上澄2mlに、標的細胞AH62F
200万個/0.5ml生食、Tris-Hcl緩衝液(pH7.0)0.5ml、そして補体として0.5mlの正常ラット血清を加へて全量2mlとし、37℃10分間静置保存後、生食にて2回洗い、10mMの塩化カルシウムを含むM/10ヴェロナール緩衝液(pH7.0)をメヂウムとして、その標的細胞AH62Fの電気泳動度を測定。対照としては、aliquotの試料のうち補体のみを56℃30分熱処理により非働化したものを用いた。
抗体の分離;
まず上澄の透析しない前の液について検索すると、DOCAの影響が加わり、感作リンパ球様細胞上澄と、正常リンパ球様細胞上澄の標的癌細胞に対する反応はあまり差がありません。しかし、透析してDOCAを可及的に除いた上澄について検索すると明らかに感作リンパ球からの上澄は補体の存在の下に、標的癌細胞AH62Fに反応してその電気泳動度を低下させますが、正常リンバ球様細胞からの上澄は補体が存在しても反応しません。
この上澄の反応物質は従来の研究結果ではγグロブリンであろうと推定されます。そこで感作リンパ球様細胞の上澄に抗γグロブリン家兎血清(AH62Fにより自然抗体を吸収したもの)を加へ沈殿物を除いた後に、標的癌細胞と反応させると、その泳動度の低下は減少し半分以下となります。2回くりかへした実験成績は同じ結果を示しています。
次に同じ条件で感作したドンリューラットの18日目の抗血清及びこの上澄のもとである感作リンパ球様細胞の作用と、この上澄の作用を比較してみました。リンパ球様細胞のDOCA処理による上澄をあらかじめ反応させた後に、二次的に抗血清及び感作リンパ球様細胞を加へてその標的癌細胞の泳動度の変化をみると、あらかじめ感作リンパ球上澄を反応させた標的癌細胞は二次的に抗血清は反応しなくなるが、正常リンパ球上澄を反応させた場合は二次的に抗血清と反応します。感作リンパ球様細胞を用いても同様な反応が二次的に起こります。即ちこのDOCA処理により得られた上澄の作用と、抗血清及び感作リンパ球の作用は同様の反応であり、同一場所の癌細胞表面に変化を起こすものと思われます。この上澄には抗体が遊離していると考へられるわけです。
抗原の分離;
同様の方法により標的癌細胞AH62FをDOCA処理した上澄を、同一条件で感作リンパ球様細胞に反応させてみました。感作リンパ球様細胞へこの上澄は反応して、その電気泳動度を増加させますが、正常リンパ球様細胞へは反応しません。リンパ球及び、その悪性細胞の表面で抗原抗体反応が起こると、その電気泳動度はむしろ増加するという従来の知見と、この上澄の反応結果は全く一致します。この抗原の分離についてはなほ現在検討中です。抗原を分離出来る可能性は大きいと思って居ます。(それぞれ実験毎に表を呈示)
:質疑応答:
[難波]生体内のリンパ球は何かで感作されているはずだと思うのですが、蛍光抗体法で細胞表面の抗体を光らせたというデータはあまりみませんね。
[藤井]蛍光抗体で光りますよ。ただとても弱いのです。それから19S抗体をリンパ球から抽出して普通の免疫電気泳動にかけると、殆どバンドが出ません。けれども抗19S抗体にラベルしてリンパ腺への取り込みをみますと確かに取り込みがあります。
[山田]流血抗体として出る前に、細胞性抗体として早い時期にキャッチ出来るかどうかということが、実際的な目的なのです。復元の問題なども早期に解決できるのではないかと思います。
《藤井報告》
Mixed lymphocyte-tumor reaction(MLTR)によるがん抗原の研究:
月報No.7102で、Culb-TC細胞とsyngeneic rat(JAR-1)の末梢リンパ球間のMLTRがみられることを予報として話しましたが、その後Culb-TC、RLC-10細胞とJAR-1リンパ球間のMLTRを何回か試み、反応のpeak時期、用いる抗原細胞量などの検討をおこないました。
reactant lymphocytesはJAR-1の末梢白血球中のものでsodium
citrate、heparin処理血液より白血球を分離洗滌後、100万個cells/mlに調整。Antigenic
cellsは培養Culb-TC、RLC-10細胞を培養ビンのまま4,000r.照射(CO60)し、洗滌してからrubber
policemanで遊離させ、所定の細胞濃度に稀釋します。反応に用いるculture
mediumは、RPMI 1640で、新鮮ラット血清(JAR-2)を10%に、Pen.(100u/ml)、SM(100μg/ml)を加えています。
reactant cells、100万個cells/mlの0.5mlと、種々濃度の抗原細胞浮遊液0.5mlを平底中試に混合し、37℃、炭酸ガスフランキ中にて静置します。1、3、5、7日後H3-thymidine
1μCi/0.02mlを加え16時間後harvestします。
結果:(図を呈示)抗原細胞(癌細胞)が多くなりすぎると、harvestで自己吸収(放射能の)が高くなり、リンパ球によるH3-TdRとり込み値がかえって低く出ます。白血球数50万個に対して、抗原細胞は10万個以下1万個あたりが適当です。Culb-TC、12,500コ、6,300コとRLC-10、12,500コ、6,300コのMLTRを比較してみますと、Culb-TCはRLC-10細胞に比し、著明に高いcpm値をもたらしています。Culb-TC、RLC-10ともに、4,000r照射により、H3-TdRの有意なとり込みはなくかっています。反応のpeakは4〜6日で大体6日とみてよいようです。
この実験は、reactant cellsの同一なときに、そのcpm値の比較が可能なわけで、次の計画として、Culb-TC、RLT-2、RLC-10、Cula、Culeの同時比較、その他のin
vitro transformed cellsについても検討して行くつもりです。臨床癌についてのMLTRの検討は、昨年来2〜3文献にも出ており、われわれもその着手を急いでいます。
:質疑応答:
[梅田]リンパ球を採る動物の方は何か処置をしてありますか。
[藤井]ありません。
[山田]この場合の反応は異物認識ですね。
[難波]これだと対照は生体にtakeされて癌は排除されるような感じですね。
[山田]このデータで抗原性が変わったとは言えるわけですか。
[藤井]言えると思います。
[山田]なぎさ変異の細胞ではどうですか。
[藤井]まだみてありません。
[佐藤]細胞数はどの位要りますか。
[藤井]リンパ球は50万、tumorは10万位入れます。
[山田]私の実験ではリンパ球を20倍位入れます。
[佐藤]リンパ節由来のリンパ球の中に、どの位免疫反応を起こすものがありますか。
[藤井]蛍光抗体法でみて10%位です。
[山田]それは免疫反応を起こす細胞すべてではなく、蛍光抗体法で陽性の%ですね。
[勝田]山田班員の場合も含めて、免疫屋がリンパ球といっているものの全部がリンパ球というわけではありませんね。それからin
vitroでリンパ球を感作しておいて生体に戻すと、生体内で抗体を作るでしょうか。
[藤井]私の実験系の場合、抗原になる細胞とリンパ球を混ぜて培養してしまうので、感作後リンパ球だけ集めるのが困難ですね。
[勝田]その位のことは、ミリポアフィルターでも間に入れれば解決するでしょう。
【勝田班月報・7106】
《勝田報告》
A)合成培地内継代JTC-21・P3(RLH-1・P3)株の癌化実験:
細胞電気泳動像よりみて、JTC-25・P3(RLH-5・P3)は悪性型に近いが、JTC-21・P3はいわゆる"なぎさ"型で、正常と腫瘍の中間であると山田班員がかって指摘された。これまで報告してきたように、JTC-25・P3株は、かなりの回数4NQOで処理してもtakeされなかったので、今回はJTC-21株を用い、4NQO処理をおこなってみた。
JTC-25・P3株と異なり、JTC-21・P3株は4NQOによる処理で細胞障害が激しいので、正常肝株なみの濃度の4NQOを用いた。
1970-12-10:JTC-21・P3株を3.3x10-6乗Mの4NQOで30分間、1回のみ処理。
12-22(12日後):細胞が高度にpile upするようになったことを発見。
1971-5-14(155日後):復元接種。JAR-1、F40、生后5日のラットの腹腔内へ、300万個/ratで接種。現在観察中。
B)早期復元接種の実験:
発癌剤処理後、長期間培養してから復元接種するのでは、かえって生体にtakeされ難い細胞をselectしてしまうのではないか、むしろ早期に復元して動物体内でselectさせるとどうだろうか、という実験である。なお副産物として純系ラッテの肉腫を作り、これを腹水型化したいという狙いもある。
1971-4-18:JAR-1系、F40、生后7日♀ラッテより、次のような各種臓器をとりだし、メスで細切(トリプシン処理せず)、TD-40瓶にて培養。培地は(20%CS+0.4%Lh+D)。肝、肺、胸腺、胃、皮下間葉。
4-30(12日后):3.3x10-6乗M、4NQO、30分間1回処理。細胞は何れの培養に於いても、センイ芽細胞その他の混在状態。
5-23(35日后):4NQO処理より23日後にあたるが、JAR-1系、F40、生后12日のラッテの耳皮下及び背部皮下に復元接種した。細胞は、塊を作っているものが多かったので、接種細胞数は不明である。結果は現在観察中。
《高木報告》
RRLC-11を腫瘍細胞として用いたisologousな移植系での実験:
Isologousな移植系についてのみその後のdataを報告する。(表を呈示)表の如くRRLC-11細胞10,000、1,000及び500コでは有意と思われる差はみられないが、100、50コではRL細胞、100,000、1,000コ混合群ともにRRLC-11細胞だけの移植群にくらべてtumorigenicity低下の傾向がみられた。homologousな系で混合移植によりtumorigenicityの促進がみられ、iso-logousな系で低下がみられるちすれば、興味ある所見であるが、未だ断定できない。
《佐藤報告》
◇DAB発癌実験(RLN-B2)
(各実験の図を呈示)先ず前回月報の最後に図示したもの(DAB系)と同様の方法で、3'-Me-DABについて、コロニアルに検索された増殖耐性の結果である。3'-Me-DAB(20μg/ml)1回処理のものが最も高く、他は処理回数の増加と共に増殖耐性あるいは変性阻止の増強が見られる。
次図は短期間のDAB濃度影響を示したものであるが、16.4μg/ml程度で増強阻止があることを示している。
次は、3'-Me-DAB、DAB、MAB及びABについて増殖率をみたものである。2系のDABの脱メチル化物質の増殖率低下は3'-Me-DABやDABより少ない。
次は前号11号のDAB実験を再度行なったものでTD40を使用し、一定面積中(0.34平方mm)の細胞数を10カ所、写真でカウントしたものの平均値及び継続投与の細胞数を同様に測定したものである。図によると、短期実験と同様に連続投与の場合には39日にわたって細胞増減はみとめられない。
《難波報告》
N-35:DABによるクローン化した培養肝細胞の培養内発癌
従来、4NQOによる培養肝細胞の培養内癌化は屡々報告してきた。それらの報告の中でクローン化したPC-2系の培養肝細胞株は4NQOによって癌化し、その動物復元によって生じた腫瘍の組織像はminimal
deviation hepatomaに類似していた(月報7010)。そこで、このクローン化した細胞は肝実質細胞と考えられるので、この細胞とDABの組み合せで、
1)従来、動物レベルで行なわれていたDAB発癌の仕事が、培養内で、細胞レベルで、可能かどうか。
2)もし、可能ならば、培養内で培養肝細胞のDABによる発癌実験のモデルを確立する条件を求められるかどうか。
3)そのモデルを確立できれば非常に多くの動物レベルでのDABの仕事の結果を、培養内の細胞レベルの仕事と比較検討でき、DABの発癌機構を掘り下げることができるのではないか。などの目的で、DABによる培養肝細胞の癌化を試み、以下の成績を得たので、実験はまだ完全に終っていないが、まとめた(表を呈示)。
実験方法:DABは5mg/mlにエタノールに溶き、20%牛血清+Eagle's
MEM培地に終濃度5ng/mlにし、TD40に細胞がsemiconfluentに増えた時期にDAB投与を始めた。その後、3〜4日ごとに、このDABを含む培地で、培地を更新した。(3日後の培地内のDABはほぼ完全になくなっており、またこのDAB処理条件では、細胞の増殖阻止は殆んど認められない。月報7010)。表に記しているように、DABの処理が間歇的になっているのは、細胞の継代の前後の時期に、DABを含まぬ培地で培養を行なった為である。復元は、生後48hr以内のドンリュウ系ラットの腹腔内に行なった。使用した細胞数は500万個〜1,000万個。
[結果]
1.培養内でDAB処理によってPC-2系の肝細胞が癌化した。
2.17日DAB連続処理後、悪性化した細胞の腫瘍の腫瘍性は非常に弱く、計53日DAB処理を受けた細胞の腫瘍性は増強している。これは、DAB処理の増加に原因するのか、培養日数が進んだことに原因するのか目下不明である。
3.現在、同じ細胞系でDAB 20μg/ml処理群の実験系もあるが、今回の報告例の5μg/ml処理群のものに比べ、発癌率は低い。(このデータは、以後の月報に報告する予定)。従って、培養肝細胞のDABに依る発癌実験にはDABの至適濃度が存在するようである。
《安藤報告》
連結蛋白質の再結合に対するDNA合成阻害剤の効果。(予報)
月報No.7102において、蛋白合成阻害剤cycloheximideは、DNAを連結する蛋白質の再結合に影響を与えない事を述べた。今回は、DNA合成の阻害剤cytosine
arabinoside(araC)を投与した時に、4NQOで切断された連結蛋白の再結合が起るか否かを調べる事を目的としたが、結論的なデータがまだ出ていないので、予報として、DNAに対するaraCの作用のみについて記す。
araCはかなり古くからDNA合成を特異的に抑制する事が知られていた。又最近はchromo-some
breakageを起す事(Benedict et al)、DNA合成阻害様式は、DNAのdiscontinuous合成(岡崎モデル)の際のOkazaki
pieceの合成は阻害しないが、それ等の連結が阻害される事(Graham
& Whitmore)等の新たな知見が加えられている。
さて、先ずFM3Aに対するaraCのDNA合成阻害作用は図1に見られる通りである。(夫々図を呈示)。1x10-7乗Mで24%、1x10-6乗Mで77%、3x10-6乗Mで90%の阻害を示した。(24時間後の値)。第2図にcell
growthに対するaraCの作用を示した。10-5乗Mでも完全な阻害ではない。これはaraCがG2
cellに対しては分裂阻害が弱い事と一致する。
次に、araCがchromosome breakを起す事からDNAの分解も起すかもしれないと思って検討してみた所、案の掟、DNAの鎖切断も起すことがわかった。
しかしこの分解誘導はaraC処理6時間後には観察されなかったが、24時間処理後には明らかであった(図を呈示)。
このような長いlagの後の鎖切断は薬剤自身によるというよりは、薬剤処理により徐々に活性化された酵素によると考えた方がいと思われる。
いずれにせよ、表記の目的のためには数時間以内の実験ならば可能なわけである。又1x10-6乗Mでなら、24時間使用もさしつかえない事になる。この結果は次回に御報告出来るものと思う。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(32)
今回は少し話しの内容を変えて、以前の班会議の際に報告したHeLaS3原株細胞からUV(紫外線)抵抗性あるいは感受性株の分離実験の現況について述べたいと思います。
HeLaS3原株細胞を0.5μg/ml N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(MNNG)を含む培地内で24時間培養後、100ergs/平方mmのUVを照射する。UV照射直後細胞を10-5乗M
BUdRを含む培地内で48時間培養し、続いて30Wの蛍光灯で2時間exposeすることにより、UV抵抗性細胞を死滅させる。蛍光灯でexpose後、細胞を正常培地中で培養を続けることにより、出現するコロニーをisolateして増し、これをS-1M細胞と名づけた。
第1図に示すように(図を呈示)、このようにしてisolateされたS-1M細胞はコロニー形成能で見るかぎり、原株細胞に対してより感受性を増大していることが分かる。つづいてこのS-1M細胞を前回と同様にMNNG処理し、UV照射後、BUdR培地内で培養後、可視光線exposeによるphotodynamic
actionを利用して更に感受性細胞を分離した。(各種薬剤の濃度およびUV等の処理時間は第1回目と同じ。)
このようにして得られた細胞株が、第1図に示すS-2M細胞である。図から分かるようにS-2M細胞はS-1M細胞に比して更にUV感受性を増していることが分かる。
さて、このようにしてHeLaS3原株細胞から分離されてくるUV感受性株のTT除去能はどのようであろうか。ちなみに、種々のUV線量で照射された直後のHeLaS3原株細胞DNA中に形成されるthymine
dimerの割合を第2図に示した。S-1M細胞およびS-2M細胞におけるTTの生成量はどのようであるか。あるいはこれらS-1M細胞、S-2M細胞のTT除去能はHeLaS3原株細胞に比べてどのようであるかの検討が今後の問題として残されている。さらに最も興味あるのは、このようにして得られたUV感受性株がX線や4-NQO等の処理に対してどのような反応を示すか、つまりTT除去能が直接4-NQOまたは4-HAQO処理により誘発される障害の修復に関与するか否かの解析が現在進められている。
《藤井報告》
Mixed lymphocyte-tumor reaction(MLTR)による腫瘍抗原の検出:
前回にひきつづき、JAR-1ラットの末梢リンパ系細胞と同系の培養内変異肝細胞間のMLTRをおこなってきました。
反応細胞:JAR-1 末梢リンパ系細胞、50万個cells/0.5ml。
培養液:RPMI 1640、10%新鮮ラット血清、Pen.SM.。
培養は37℃、CO2incubator中でおこない、1、3、5、7日培養后、H3-TdR
1μCi/0.02mlを加え、16時間おいて、反応細胞にとり込まれたH3-TdRを計測します。
抗原細胞としてCulb-TC、RLC-10A、RLC-10・4、RLT-1A、Cule-TC等を試みました。いづれも、CO60で2,000r照射します。
図1は、RLC-10Aのばあいで、反応のpeakは6日にあり、抗原刺戟細胞5万個が最も高く、以下2.5万個、1.25万個と細胞数が減少するづつ、peakは低くなります。このようなdose
responseの関係は、試験したいづれの細胞にもみられます。
今までの実験からわかったことは、1)抗原刺戟細胞は10〜2.5万個の範囲で、抗原細胞は多いほど、H3-TdRの反応細胞へのとり込みが高い、2)抗原刺戟細胞が少なくなると、H3-TdRとり込みのpeakがおくれ、まつ低くなる。3)反応細胞の供給元となるラットの年令などで、同じ抗原刺戟細胞に対して得られるH3-TdRのとり込み値が影響される。このため、刺戟細胞の抗原性の強さを比較するには、同一の反応細胞を同時に用いねばならない。
最近のじっけんで、RLT-1A、RLC-10A、RLC-10・4、Cule-TCは、10万個、5万個、2.5万個cellsを用いたいづれのばあいでも、上記の順序で抗原刺激性の強いことが示された。いづれの実験でも、反応細胞、刺戟細胞単独では、H3-TdRのとり込みは極めて低い。cpmは大体100以下である。
blast化細胞によるH3-TdRとり込みのautoradiogramniyoru観察は、現在施行中であるが、まだ成績を得ていない。(目下exposure中)。
《梅田報告》
前回の班会議(月報7105)で報告したハムスター由来の細胞でmalignant
transformationしたと思われる細胞系について再びDNA、RNA、Proteinを定量測定してみた。DNAはインドール法、RNAはオルシノール法、Proteinはフェノール法によった。(表を呈示)
今回も前回と同じ様に全体に低い値が出た。即ちHeLaS3についても定量してみたが、以前の私のデータでもDNA
20〜25ppg/cell、RNA 30〜40ppg/cell、protein〜250〜ppg/cellであった。又ばらつきもあるので早速repeatしてみる予定であるが、はっきり云えることは、u#691のK(コントロール)の細胞は、全体に細胞が大きくなっている様である。u#694のコントロールは、発癌剤処理群とあまり変らないが、このものは増殖がやや早くなっているのでspont.transf.していないことを確かめる必要がある。DNA量を"1"とした時のRNA、proteinの比(表中括弧内)からは特に何も云えそうにない。
【勝田班月報:7107:AH-7974のヘキソキナーゼ分子種の変動】
《勝田報告》
Concanavalin A処理による細胞の凝集について
腫瘍化した細胞はConcanavalin Aで処理すると、凝集をおこすということが、とくにウィルス腫瘍を扱っている人たちから、強調されている。そこで手持の色々な細胞について、Con.A処理をおこなってみた。
細胞は、ピペットで硝子面から剥離するか、或は0.02%EDTA(PBS溶液)で室温約10分処理した。しかし、細胞がばらばらにならず、判定不能の場合もあった。Con.AはPBSに1mg/mlにとき、これを倍数稀釋して各濃度の0.05mlと等量の細胞浮遊液を混じ、振盪約30秒後室温に放置し、5分後判定した。(これは1時間後、翌日までも放置したが結果は同じであった。
(表を呈示)結局、検索した19系のうちで、はっきり凝集を示したのは、合成培地で継代しているHeLaの亜株と、ラッテ皮下センイ芽細胞由来で4NQOで1回処理を受け、以後完全合成培地で継代している株である。HQ-1B"(ラッテ肝、JTC-25・P3に4NQOを頻回に与え、山田班員の判定では悪性型)は疑陽性であった。
:質疑応答:
[難波]私の実験ではDAB処理で悪性化した肝細胞が、1,000μg/mlのCon.Aで凝集しました。対照群は同じ濃度で凝集しません。
[永井]PHAの反応の場合、Con Aのデータでマイナスでも、他のPHAでは凝集する細胞があるかも知れません。PHAの色々なグループからそれぞれ代表的なものを選んで凝集をみて欲しいと思いますね。
《野瀬報告》
培養動物細胞のアルカリフォスファターゼ
培養内発癌過程の生化学的研究の一つに、細胞の持つ形質発現の様相の変化を追う試みがある。この場合、形質として何を選ぶか問題であるが、少量の細胞で測定でき、形質の出現に関し変動の大きいものが対象として好ましいと考えられる。ここでは、上の目的のため培養細胞の生化学的指標をいくつか検討した結果、アルカリフォスファターゼ(Alk.Pase)が興味ある性質を持っていることがわかった。
まず第1に従来知られているAlk.Paseは、細胞株により活性の強さが非常に異なり、培養条件によっても変化する(I型)。
第2にこの酵素以外に性質の違うAlk.Paseが存在し(II型)、Alk.Paseがないと報告されているL-929株にも活性が検出できた。酵素的性質としては至適pHが、I型は10附近にあるのに対しII型は8.6附近にある。またいくつかの阻害剤に対する感受性が対照的で(表を呈示)、この事を利用して細胞のcrude
extract中のI型、II型をそれぞれ別に測定できる。
この他にもI型はβ-mercaptoethanolによって失活するのに対しII型は逆に活性化され、温度感受性もI型は熱不安定性であるが、II型は安定である。(表を呈示)
当研究室で継代しているいくつかの細胞株で、I、II型Alk.Pase活性を測定した。(表を呈示)
I型Alk.Paseについて見るとラッテ肝由来のRLC-10が最も活性が高く次いで腹水肝癌の培養系であるJTC-16が高い。正常ラッテ肝のextractではRLC-10ほど高くはないが活性は存在する。またAH-7974とJTC-16とを比較すると、in
vitroで継代しているJTC-16の方がI型Alk-Paseの比活性が高く、他の腹水肝癌のAH-130、LY176に比べても高いので、in
vivoからin vitroへ適応することによってこの酵素活性は上昇するのかも知れない。
一方II型Alk.Paseは文献的にはまだあまり知られていない酵素であるが、調べた限りのすべての細胞株に存在する。比活性は一般に合成培地で培養している株で高く、血清培地の株のほうが低い。同じラッテ肝由来でもRLC-10はI型があったのに対し、RLH-5・P3にはI型が全くなく、II型だけなのは興味ある点である。RLH-5・P3を血清培地で60日間培養しても、また、4NQO処理して得たHQ-1B"でもI型は出現しない。
現在、これらAlk.Paseの活性の誘導の可能性について検討中である。
:質疑応答:
[堀川]マウスとラッテの間に根本的に違いがあるという事は考えられませんか。
[野瀬]FM3Aの場合にはI型でした。必ずしもマウスにI型がないとは云えません。
[堀川]癌化のマーカーになりますか。
[高木]臨床的にはAlk.Paseが高いと肝癌を疑いますね。
[藤井]骨への転移の時も活性が上がりますが、肝とは別の型だそうですね。
[高木]別の型だと言われています。組織特異性はありますか。
[野瀬]今の所ないようです。型を培養中に変えられると面白いと思っています。
[安村]IとIIが異なる遺伝子由来かどうかを調べるだけでも重要なことですね。少ない細胞で測定できる所もいいですね。ハイブリッドなど作って調べると面白いでしょう。癌と関係なかったとしても、遺伝的に面白い問題です。
[吉田]単純に考えるとIとIIは別の遺伝子でしょう。どの染色体にその遺伝子がのっているのか。又染色体数が倍になった時、酵素活性も倍になるかどうかなど、大変面白い問題にもってゆけそうですね。
《佐藤茂秋報告》
I.吉田腹水肝癌細胞AH-7974のヘキソキナーゼ分子種の変動
哺乳動物組織のヘキソキナーゼはI、II、III、IV型の4つの分子種に分けられ正常肝はこのすべての分子種を持つ。AH-7974の細胞は、ラットの腹水型として継代されている時はI、II、III型ヘキソキナーゼを持ちこの内、II型の活性が強い。この細胞の組織培養株、JTC-16はI、II型を持ちIII型は見られない。この培養細胞をラット腹腔に戻し移植したらI、II型に加えIII型ヘキソキナーゼが出現した。ラットに戻し移植した細胞を再び組織培養に戻したところ培養1週間後ではI、II、III型ヘキソキナーゼが見られ、3週、5週にも尚I、II型に加えIII型が見られたが、III型の活性は弱くなっていた。以上の様なヘキソキナーゼ分子種のパターンの変動の機構を今後研究して行きたい。
II.組織培養されたマウス脳腫瘍細胞のアルドラーゼ分子種について
哺乳動物のアルドラーゼにはA型(筋型)、B型(肝型)、C型(脳型)の3種の分子種があり正常脳にはA型、C型及びA-Cハイブリッドが存在する。神経外胚葉起源の脳腫瘍である神経腫瘍は正常脳と同じアルドラーゼ分子種のパターンを示すが起源の異る脳腫瘍にはC型は存在しない。C57BLマウスの脳にメチルコランスレンで誘発され皮下に継代移植されている脳腫瘍でA型、C型アルドラーゼ及びA-Cハイブリッドを持つものがある。この可移植性脳腫瘍細胞を組織培養した。細胞はガラス壁に附着して増殖し、細い細胞質突起を持ってその先端が他の細胞と接着して網目構造をとり、歩行性も見られた。核は比較的小さく細胞質には多くの顆粒が認められた。培養12日後に細胞を集めアルドラーゼ分子種を電気泳動法により調べたところA型、A-Cハブリッド及び弱いながらもC型も認められ正常脳及び皮下腫瘍と似たパターンを示した。培養1ケ月後でも同様の傾向であった。経時的及び培養条件によるアルドラーゼ分子種のパターンを今後検討する予定である。
:質疑応答:
[難波]JTC-16の場合、なくなったIII型を培養内で誘導できますか。
[佐藤茂]これからやってみようと思っています。
[吉田]正常肝と較べて量的には違いがありますか。
[勝田]絶対量として比較するのは難しいでしょうね。
[佐藤茂]それぞれの型に対する抗体を作って、アイソトープをつけてやれば定量も可能だと思います。
[吉田]培養するとIII型が消えるのは、関係している遺伝子のマスクされることによる結果でしょうか。或いはpopulation
changeでしょうか。
[佐藤二」短期間で変わるのは一寸population
changeとは考えられませんね。
[堀川]gene activityの変化なのかpopulationのchangeなのかと言うことになると、仲々区別が難しいですね。
《佐藤二郎報告》
B2 lineのラット肝対照群とアゾ色素添加群の染色体を分析した(表と分布図を呈示)。Modeはすべて42で正diploidであり、アゾ色素添加のものが、むしろpeakが高くなっている。培養日数の短い場合には、染色体異同がないのか、或いは、B2
lineがアゾ色素に感受性が弱いか分らない。
《難波報告》
N-36:4NQO誘導体によるクローン化した培養肝細胞の培養内発癌実験
従来、4NQOの発癌実験に使用していたクローン化した肝細胞(PC-2系)が、クローン後1年経過したので、以前にクローン化した後に、凍結保存していた細胞を培養にもどし、再クローンを行ない、piling
upを示さぬ均一な上皮性の形態を示す細胞よりなるコロニーから、単個培養で得られた細胞(PC-14系)を、この発癌実験に使用した。この細胞の培養歴を図で示す。
使用した薬剤は4NQO、4HAQO.Hcl、2Me.4NQO、6-carboxy-4NQOである。それらの薬剤をエタノールに10-3乗Mに溶き、更にEagle's
MEMで終濃度3.3x10-6乗Mに稀釋し細胞を処理した。1回の処理時間は30分である。最初の薬剤の処理は、TD40ビンの中にほぼ一杯に細胞が生えて来たところで行なった。その結果、処理後、数時間内の観察では各薬剤の示すCytotoxicityは、4HAQO.Hcl、2Me.4NQOは強く、約1/3の細胞がガラス面より脱落した(処理後は正常の−20%BS+Eagle's
MEM−培地にした)。これに反し、6-carboxy-4NQO、4NQOではその細胞剥離はわずかに認められるにすぎなかった。しかし、処理後24hrではいづれの場合にも細胞の障害は殆んど認められず、また4HAQO、2Me.4NQO処理後に認められた浮遊細胞も殆んど認められず、ガラス面にほぼ一杯に細胞が付着していた。このことは、ほとんどの浮遊細胞が再びガラス面に付いたことを示す。第二回目の薬剤処理は、第一回目の3日後に前と同じ条件で行なった。その後に認められた細胞の変化も、ほぼ前と同じであった。
動物復元は、薬剤の最終処理後、56日、70日、98日で行なっているが(ただし、6-carboxy-4NQO、4NQO系はコンタミのため、実施出来ず)現在まで"Take"されるに至っていない。この間、いづれの場合にも細胞の形態的変化はそれほど著しくなかった。
N-37:DABで培養内で癌化した細胞の増殖に対するDABの影響
前月報(7106)でDABによる培養肝細胞の癌化を報告した。そこで、この細胞を動物に復元して生じた腫瘍の再培養細胞(DT-1は固型腫瘍から、DT-2は腹水腫瘍から再培養した)を使用し、これらの細胞の増殖がDABに対してどのように影響されるかを、growth
curve(DT-1)とplating efficiency(DT-2)とで検討した。
1) growth curveは段階的に稀釋した細胞を短試にまき込み、2日後、対照群はDABを含まぬ培地、実験群はDAB添加培地にかえ、更に3日培養を続けた後、それらの細胞数を算えた。2)
plating efficiencyは60mmのシャーレに、細胞をまき、2hr.で対照群はDABを含まぬ培地、実験群はDAB添加培地にかえ、3日間処理後、更に両群とも、DABを含まぬ培地にかえ、10日間培養を続けた後、生じるコロニーを数えた。
(図と表を呈示)DABによって癌化した細胞増殖はDABにやや抵抗性があるように考えられるが、しかし対照細胞に比べ、それほど決定的な差ではない。
:質疑応答:
[堀川]この実験結果からDABに対する耐性についての結論は出せませんね。対照群に比べてDABで悪性化した群のコロニー形成率が1ケタ低いのは困りますね。軟寒天法で調べることは出来ませんか。それから抵抗性は薬剤の処理期間が影響しますか。或いは濃度が問題なのでしょうか。
[難波]薬剤によって違うと思います。
[吉田]細胞によっても違うでしょう。
[勝田]一口に薬剤耐性といっても二つの面があります。一つは添加された薬剤に全く関与せずにいられる細胞と、もう一つはその薬剤をどんどん代謝してしまえる細胞です。
[堀川]腫瘍化すると耐性になるのか、耐性になったのが腫瘍化したのか、ですね。
[安村]今の段階では化学物質による発癌での、薬剤の毒性と細胞の変異の関係が判っていないのですから、耐性の問題はまだ難しいですね。
《高木報告》
混合移植実験
1) RG-18を腫瘍細胞として用いたhomologousな移植系での実験
i)RG-18細胞のtumorigenicity
RG-18細胞を10、50、100、500、1,000コ接種した結果(表を呈示)、この細胞のTPD50は100コと500コとの間にあると考えられる。
ii)混合移植
RG-18細胞10から1,000までとRFL細胞0、100から100万個までの混合移植実験で、RFLの0、1,000、100万個だけとりあげてまとめると(表を呈示)、RG-18細胞500、1,000ではRFL細胞を混じた事による影響はみられないが、10、50及び100ではRFL細胞を多く混じたときにtumorigenicity促進の傾向がみられた。
2) RRLC-11を腫瘍細胞として用いたhomologousな移植系での実験
i)RRLC-11細胞のtumorigenicity
RRLC-11細胞10万個、100万個についても行い、いずれも3/3に27日で腫瘍の発現をみた。少数の実験では、RRLC-11細胞のTPD50は10と50との間にあると思われる。
ii)混合移植
この実験系ではRFL細胞は0、1,000および100万個だけしか行わなかった。RRLC-11細胞100以上ではRFLを同時に移植したことによる影響は各細胞数について認めることは出来ない。RRLC-11細胞50ではRFL細胞100万個の時やや抑えているように思われるが、RRLC-11細胞10では逆のようにも思われ現時点では傾向を判断するのはむつかしい。RRLC-11細胞10から500までについては追加実験中である。(表を呈示)
:質疑応答:
[勝田]正常細胞を混ぜて復元した方がtake率が高くなるという現象の説明に、宿主に対する免疫反応だけを強調しない方がよいと思います。正常細胞がfeederになっているのかも知れませんから。
[安村]腫瘍性と可移植性とでは言葉の重みが違いますが、どう使い分けますか。
[佐藤二」その細胞が動物にtakeされるかどうかというような時、腫瘍性を使い、出来た腫瘍が移植継代できるかどうかという時、可移植性を使うのではないかと思います。
[堀川]少数の腫瘍細胞を単独で接種する場合は誤差が大きくなるでしょうね。正常細胞を混ぜて接種すると、その少数の腫瘍細胞が接種される時の誤差が減るので見かけ上、take率が上がるとは考えられませんか。
[藤井]正常細胞と腫瘍細胞を別の部位に接種してみたらどうですか。
[高木]まだ、いろいろ問題があると思います。正常細胞が生きている状態でなければならないかどうかも、調べる予定です。
《安藤報告》
連結蛋白質切断の再結合に対するDNA合成阻害剤の効果
前月号月報において、FM3A細胞に対するaraCの作用を調べた。その結果araCは3x10-6乗MにおいてはDNA合成を95%以上阻害、細胞増殖もほぼ完全に阻害した。一方araCはこの合成阻害の外に、クロモソーム断裂も惹起する事が知られているのでFM3A細胞のDNAに対して切断を起す否かを調べた所、10-5乗Mでは24時間後にそれが現れる事がわかった。しかし6時間以内には作用しない事もわかった。そこで今回は、4NQOで切断された物の回復に対する作用を調べた。先ず細胞を30万個/mlにsuspendし、10-6乗Mの4NQOを30分作用させ、直ちに洗滌し、新鮮培地中で回復培養を行った。この時にaraCを加えておく。(図を呈示)回復培養6時間でDNAはほぼ元の大きさに迄再結合されていた。この時araCが10-5乗M存在していても再結合には何らの影響をも与えなかった。araCのみではno
effect。
以上のようにaraCは連結蛋白切断の再結合に対し影響を与えない。すなわちDNA合成は不要である事になる。
:質疑応答:
[堀川]araCを添加しても4NQOによるDNA鎖切断の回復が抑えられないというのは、私達にもhydroxy-ureaを使っての実験で同じような結果を得ています。この場合pre-existing
enzymeによって回復するのではないかと考えています。
[安藤]nucleotide結合の再結合ではなく、結合蛋白による回復だとも考えられます。
[堀川]cycloheximidも添加してみたのですね。
[安藤]linker proteinのconfigurationの変化によるものだと考えますと、蛋白合成の必要はないことになります。
[佐藤茂]酸不溶性の分劃については判りますが、可溶性分劃の方はどう変りますか。
[安藤]アイソトープのカウントは殆ど残っていません。
[堀川]C14ラベルのアミノ酸を添加してみたら、取り込まないでしょうか。
[安藤]アミノ酸の取り込みを100%止めておいても、DNA切断は回復するというデータからアミノ酸の取り込みは必要ないのだと思います。DNP、KCNを加えても同じように回復するのですから、高分子の合成があるわけでなく、簡単なconfiguration変化である可能性が強くなります。
[勝田]切れた末端のアミノ酸を調べてみる必要がありませんか。
[堀川]それはもっともです。が、何分量的に少なすぎますのでね。どうやらこの仕事はやっている人達だけが信用してうまく行ったと喜んでいるのだが、第三者は一向に信じてくれないという事になりそうですね。
[梅田]メルカプトエタノールをDNAの切れる最少限の濃度で添加しておくと、細胞は死ぬでしょうか。又S-S結合にしか反応しない酵素を使ってみるのはどうでしょうか。
[難波]4NQO処理の場合、遠心操作のために切れるという可能性はありませんか。
[安藤]そういう可能性は考え難いのですが、絶対にないという確証はありません。
[堀川]杉村さんのデータでは、裸のDNAも4NQOで切れます。
[難波]生物学的に考えますと、切れたDNAの回復が良すぎると思います。これだけDNAが切れても細胞が死なないことが疑問です。
[勝田]この仕事は発癌とどう結びつくのですか。
[安藤]DNAが切れる、そして修復されるという事が、いろいろな化学発癌剤で同じようにみられる現象なのかどうか、ということがあります。
[佐藤二]材料を選ぶ必要があると思います。これだけの4NQOをかけると必ず発癌するということが判っている細胞を使ってほしいですね。
[安藤]今の所、発癌剤の作用機作を徹底的に調べようと考えています。
[佐藤二]DNAの回復があるとか、ないとかいう現象と動物にtakeされるかされないかというレベルの事が結びつく実験だと理解しやすいと思うのですが・・・。
[勝田]どうも感覚的な違いがありますね。
[安藤]そうのようですね。
[佐藤二]癌化というのは、みな機構が違うのではないでしょうか。或る発癌剤はDNAに作用しても、他のものは又全然違う作用をしている。しかも結果としてはどれも癌になるということが考えられますね。
[堀川]DNAのrepairをやっている人達も、DNA以外のすべての物質にも発癌剤の影響はあるだろうと考えています。しかし、DNAは形質発現に直接関係のある物質だし、そのrepairもつかみやすいので注目している訳です。
[安藤]初期変化は、膜やRNAにあっても最終的にはDNAまでゆかなければ、変異しないのではないでしょうか。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(33)
今回はpronase、X線、4-NQO(または4-HAQO)処理によってマウスL細胞の二本鎖切断はどのようにinduceされるかを検討した結果について報告する。勿論これまで報告してきたようにpronase処理の場合はsucrose
gradientのtop layerに細胞を移してからの処理であり、X線、4-NQO(または4-HAQO)処理の場合は培養条件下の細胞への直接の処理であって、この間に条件の違いのあることは留意されたい。
まずpronase処理であるが、前回班会議において、また月報で報告したような50℃、15分間処理で600からそれ以上のbreaks数がDNA二本鎖に誘起されるという結果は以後の実験では再現出来ず、(図を呈示)55℃で15分間処理した場合に約5個程度のbreaksが入るという結果が得られた。以前の実験と今回の実験で何故このような違いが生じてきたかについては、その原因は明瞭ではないが、使用するpronaseのLot
No.の違いによりpronase中にDNaseのcontaminationがある可能性も否定出来ない。また、4-NQO(または4-HAQO)、X線処理により誘起されるdouble-strand
breaks数について濃度あるいは線量に対してプロットしてみた(図を呈示)。4-NQO処理では最高25個程度のbreaks数が入り、(4-NQOの場合以前に月報で報告した結果と少し変っているが、これは計算の際にfraction
numberの扱い方を変えたためである)。
一方、4-HAQO処理の場合には最高15〜20個程度のbreaksが誘起されることが分った。また、X線照射の場合には、それまで使用した線量範囲内ではL細胞のDNA二本鎖切断は線量に依存して直線的に誘起される。これらの結果から同一線量照射によって一本鎖切断は二本鎖切断の約10倍も多く誘起されることが分る。
さて、こうしたpronase、X線、4-NQO(または4-HAQO)で誘起されるそれぞれの二本鎖切断は何を意味するのか、また、これらのうちどの種類の切断が再結合可能であるのか、こういった問題に関して今後検討していく予定である。
:質疑応答:
[安藤]acid solubleの変化とS-valueの変化は別の事だと思います。pronaseはpreincubateしておくとcontamiしているDNaseを失活させることが出来ます。それから温度処理はpronase
layerを作ってからの処理ですか。
[堀川]そうです。
[安藤]incubationのstartが室温だと処理前に切れる可能性もありますね。それからX線をかけた時の二重鎖切断のS値はpronaseで切れるより大きかったですね。
[堀川]あの場合は少し条件が違うのです。条件を同じにしてみると別の結果になるのかも知れません。
[永井]pronase処理の場合、SDSの問題、温度の問題、酵素の効き方と色々なファクターがありますから、このカーブを酵素活性を示すものといってよいかどうか。
[佐藤茂]処理温度によってlinker proteinのconfigurationが変るかも知れませんね。
[安藤]最高に切れた時のS-valueはどの位ですか。
[堀川]3〜4x10の9乗daltonです。
[安村]紫外線感受性のクロンについてですが、1回目の処理より2回目の処理後の方が出て来たコロニー数が少ないのですね。NGによる変異が効いていて本当のmutantを拾ったなら、二度目にはぐっとコロニー数が増えるのが当然だと思いますがね。結果だけみているとメデタシメデタシなのですが。
[堀川]私も不思議に思っています。でもとにかく感受性はずっと高いのです。X線では感受性も耐性も作れません。生物の進化のレベルで紫外線は関係があるのでしょうね。
《永井報告》
培養細胞におけるイノシトールに関する研究(1)
イノシトールは生体内で大部分遊離のかたちでコリンと同じ程度存在し、一部はリン脂質のかたちで存在する。その機能としては現在のところ下記の3つが知られている、その真の生物学的意義はまだ不明である。
1.ビタミンとしての働き:ラットではイノシトール欠乏症があり、毛がぬけ、spectacle
eyeとなる。培養細胞レベルでも今回分析したJTC-21・P3のようなイノシトール要求株が存在する。JTC-21・P3では培地中からイノシトールをぬくと四日ぐらいで増殖がみられなくなり細胞は死ぬ。
2.一般に細胞の膜系にイノシトールリン脂質としてその一部が存在するが、膵臓や海鳥の塩類腺において分泌速度とイノシトールリン脂質のリン酸基のturn
overとの間に対応関係がみられるほか、脳においては特にturn
overが速いので神経の刺激伝達機構との関連が考えられている。以上の例も含めて一般に細胞膜の機能と深い関係にあると考えられている。
3.立体的に水と同じ構造をもつことから細胞の凍結保存に使用され、またDNAの構造を保護するとも言われている。ところでイノシトールリン脂質はともかく、細胞内に大量に存在する遊離のイノシトールの存在理由については分かっていないのが現状である。
イノシトールの異性体は9種類あるがそのうち動物体に存在するイノシトール類としてはmyo-、scyllo-Inositolの異性体と代謝中間物としてのmyo-inosose-2の3種が知られている。(代謝経路の表を呈示)
今回はJTC-21・P3(イノシトール要求性)、JTC-25・P3(イノシトール非要求性)におけるmyoおよびscyllo-Inositolの比をガスクロマトグラフィーを用いて調べた。(分析結果の図を呈示)結果をまとめると、イノシトール要求性株と非要求性株ではmyo-とscyllo-Inositolの量比において逆転がみられた。これまで知られてきた生体材料の組織および臓器を用いた分析結果では遊離イノシトールの大部分はmyo-Inositolとして存在し、scyllo型はmyo型の約1/10程度にしか存在しないので、この逆転は興味深い。なお培養細胞を用いてイノシトール分析をしたのは今迄調査した限りでは、我々の場合が最初のようである。
今回は検体は2つのcell lineのみであり、Internal
standardとして入れたdextro-Inositolに問題があり定量的な結果は得られなかった。出発細胞数が1,000万個のorderで充分なので今後分析を続けて行くとともに、このような角度から生体におけるイノシトールの存在意義を解明する手がかりがえられるならばとも思っている。
:質疑応答:
[難波]myo-I.を添加してから何日位でscyllo-I.が出来るのですか。
[高岡]イノシトール要求性の方はmyo-を添加しつづけていますので、今回のデータでは判りません。アイソトープを使って調べられるとは思います。
[佐藤茂]scyllo-I.の絶対量はどの位ですか。
[永井]非要求性のmyo-I.の量とほぼ同じ位です。
[堀川]色々なstepの物質を加えてみると、パスウイェイがはっきりするでしょう。イノシトールが欠除すると膜が変わってDNA合成に変化が起こるという話もありますね。
[永井]そういう実験があります。しかし膜に関係があるとしても、細胞内には膜に必要な量の数倍にもあたる大量のフリーイノシトールが存在するのです。それらが何のために貯えられているのか、全くわかっていないのが現状です。
[安村]グルコースをガラクトースに置き換えても増殖できるVeroの系をもっているのですが、その細胞のイノシトールも調べて見て下さい。
[永井]それは面白いですね。ぜひ調べてみましょう。
[難波]培養株の栄養要求性の変化はPPLOに関係があるのではないでしょうか。
《梅田報告》
今迄行ってきたハムスター細胞のin vitro
carcinogenesisの試みのうち既に報告してきた例と、追試実験を行って丁度処理後200日に達した系とを癌学会演題申し込みのためまとめたので合せて報告する。
(I)ハムスター胎児細胞を10μg/ml PA培地で1日間処理して後継代した。(それぞれ図を呈示)10代培養110日をすぎてから増殖がやや盛んになり形態的にtransformationを起し、12代目のもので軟寒天中にmicrocolony形成を認めた。30代処理後200日頃より更に良好な増殖を示す様になり、一週間で15〜30倍の増殖率を示す。29代の細胞のハムスター頬袋への移植により腫瘤形成が認められた。
ハムスター肺培養細胞に32μg/ml液1時間処理後継代したものは、7代60日頃よりやや良好な、16代処理後140日頃より急速な増殖を示すようになって現在25代に致っている。
(II)ハムスター肺培養細胞に10-2.5乗M monocrotaline培地の2日間処理を2回行った系と、1回だけ行った系と2系を長期継代した。両者共処理後非常に遅い増殖を示し空胞を持った細胞から成っていたが、培養100〜150日を過ぎてから両者共急に1週間に10倍の増殖率を示す様になり形態的にも空胞が無くなりtransformationが明らかになった。後者は目下処理後200日になった所であるが前者は24代処理後200日以後に更に増殖率が急速になり一週間に70〜80倍に達する。目下37代300日に達している。軟寒天中でも後者はcolony形成を示し目下動物移植実験の結果を待っている。
(III)ハムスター胎児細胞にN-OH-AAF 10-3.5乗M
1時間処理を2代にわたって2回行って後長期継代を続けた系は、13代目の処理後130日頃より増殖が一様に良好になり形態的transformationを起した。目下31代処理後235日迄安定な増殖を示している。本例ではまだ軟寒天中のcolony形成は(±)の状態である。
(IV)ハムスター肺培養細胞にNBU 10-3.0乗M培地2日間処理を2回行った系は、19代処理後150日頃よりやや良好な増殖を示す様になった。24代180日より更に10〜60倍の増殖を示し、目下48代培養340日に達している。軟寒天中で25代目のものは小コロニー形成(PE
0.8%)が認められ、目下動物移植の結果を待っている。
(V)ハムスター胎児細胞に3HOA 10-3.5乗M培地で1日間処理後継代した系と、ハムスター肺細胞に10-3.0乗M1時間処理後長期継代している系と、2系培養している。前者は9代目処理後110日より形態的transformationを起し、やや良好な増殖を、培養24代180日頃より一週で10〜100倍近くの増殖を示すようになった。軟寒天中で25代目のものは0.8%のcolony形成を示した。後者の系は14代130日頃よりやや良好の、20代170日頃より更に良好な増殖を示し、現在23代に達している。目下動物移植の結果を待っている。
(VI)ハムスター肺細胞の10-5.5乗M 4NQO処理(2回及び1回の2系)による、一系は13代処理後110日より急激な増殖を30代200日を過ぎてから更に急速な増殖を示し、30代目のもののハムスター頬袋への移植で肉腫の形成をみた。他の系も処理後150日を過ぎてから良好な増殖を示し、目下23代190日に達している。
(VII)コントロールの細胞は5系列あり夫々に増殖率の消長があるが、培養200日の2例、250日の1例、300日の1例では一週間に10倍以下の増殖を示していた。もう1つの例は29代培養230日を過ぎてからやや増殖率が良くなり、明らかにtransformationを起したと思われる。
以上総括すると、我々の実験系では培養100日をすぎてから形態的transformationを起し、一週に10倍前後の増殖率の上昇を示す様になるが、一部のものは更に200日頃から一週に20〜80倍の急速な増殖を示し、2段目のtransformationを思わせる変化を起す。その様になったものに復元実験で速く腫瘍形成が認められた。形態的観察の結果では培養当初は大型で明るい核質の細胞から成っていたのが、第一段のtransformation後は一様にやや小型でcriss-cross等を示す紡錘形細胞になる。第二段のtransformationをすぎたものは、更に小型で細長く、piling
up、criss-crossの著明な細胞に変る。しかもこの様な細胞の核質はCarnoy固定、HE染色でクロマチンの凝縮が著明に認められる様になっている。
In vitro carcinogenesisの実験目的は、発癌の機構を解明するためと、又各種発癌剤、或は未知物質の発癌性をin
vitroで証明することがあろう。後者の立場からでも数多くの物質の解析から、前者に、すなわち発癌機構をchemical
structureのlevelで追求することも出来る。この後者の立場をとって、まずin
vivoで発癌性の証明されているが、in vitroで試されていない物質で、in
vitro carcinogenesisの試みを行ってみたわけである。この場合、in
vivoに比較して早期に、確実に、結果が出ないと意味が半減すると思われるが、我々の系では、その点を満足させていない。この点の改良こそ今後の最大目標と考えている。
:質疑応答:
[難波]対照群も殆ど老化現象を示さずに立ち上がっていますね。
[梅田]私の実験では対照群も殆ど株化しそうです。核質の凝縮している方が、S期が短くなっているとも考えられますね。
[堀川]オートラジオグラフの実験はもう少し技術的に考えてみたらどうですか。パルスラベルでみた方がよくありませんか。
[梅田]興味のあるのはS期の短縮かどうかという事なので、パルスラベルでは判らないと思います。
[勝田]映画を撮ってみればいいじゃないですか。
[梅田]はい。
[佐藤二]矢張り自然発癌のことが問題になりますね。glucoseの濃度を高くするとどうなるかなども考えています。
【勝田班月報・7108】
《勝田報告》
A)初代培養による培養内癌化の実験:
JAR-1系F40、生后約1月♀を3匹使用し、その肝を部分切除した。ラッテはそのまま生かしておき、切除した肝組織をメスで細切し、10rpmの回転培養をおこなった。培地は[20%仔牛血清+0.4%ラクトアルブミン+D]で、発癌剤は初めの4日間だけ培地に入れておき、以後は全く添加しなかった。実験開始は1971-7-23。発癌剤は、DAB
1μg/ml、4NQO 10-7乗Mおよび10-6乗M、DEN 10μg/ml。結果は観察中である(表を呈示)。
B)RLC-10(2)株による発癌実験:
この細胞クローンは復元してもラッテにtakeされない。山田班員による細胞電気泳動像では、悪性型ではなく、なぎさ型か、正常型に近く、軟寒天内でも集落を形成しない。この系を4NQOで処理し、以後山田班員と協同で、逐次的その変化を追っている。
1971-6-29:4NQO、3.3x10-6乗M、30分間処理。以后、7-9、7-13、7-20、7-27に、細胞電気泳動度の検査を行った。
他に軟寒天培地内増殖能も併行してしらべている。7-5:シャーレ当り、50,000、25,000、12,500、6,250コ宛を各3個のシャーレにまいたが、3週后までコロニー形成は0。
7-26:120,000、60,000、30,000、15,000コと各3枚のシャーレにまいて観察中であるが、この時点では0となりそうである。
《梅田報告》
強力な肝発癌剤aflatoxinB1のDNA single strandに及ぼす影響について月報7012でふれた。HeLa細胞に大量の100μg/mlを投与して、1時間後の検索では、DNAはbottomに沈んでいた。10μg/mlの濃度(3日后には準致死的)で、24時間作用させた後、Alkaline
sucrose gradientにかけると、bottomから3本目迄countがあり、みだれた山を示した。この点を確かめるための実験及びneutral
sucrose gradientの実験結果を示す。
(1)図1に少し濃度を上げ32μg/ml 24時間作用させた結果を示す。検索方法は今迄と同じである。bottomのradioactivityはcontrolの70%より40%と下り、bottomより2本目にもradioactivityが認められた。更にtopの方にもcountが残った。
(2)Neutral sucrose gradientでAflatoxinB1作用の検索を行った。先ず、100μg/ml1時間作用ではcountはcontrolと同じbottomに沈んで現れた。図2は、32μg/mlで24時間作用させた結果である。図で明らかな様にcountの山が6本目にずれている。又、topの方にも軽い山が認められるが、これに意味があるかどうか不明である。recoveryについては、目下検討中。(図を呈示)
《佐藤・難波報告》
N-38:クローン化した3系のラット肝細胞の若干の細胞学的特徴と、それらのクローン細胞の癌化との関係
RLN-E7より、単個培養によってクローン化した3系、PC-2、PC-9、PC-10の細胞を使用し、それらの若干の細胞学的特徴と、4NQOによる各細胞の癌化とが如何なる関係にあるかまとめてみた。(表を呈示)
結果
1.各クローンの細胞間で同じ4NQOの処理条件によっても、癌化に差がある。
2.4NQOの細胞障害に対する感受性の高いものが、やや癌化しやすい傾向にある。
3.同一の系でも、4NQOの処理条件によって、癌化する場合としない場合がある。
4.ラット肝細胞での発癌実験では、4NQOの有効濃度は一定の範囲内にある。(10-6乗M〜3.3x10-6乗M)。
5.クロモゾームの数(モード)と4NQOの細胞障害に対する抵抗性との間には、相関はなさそうである。
6.問題点として、発癌性を比較する場合に、各系の培養細胞を同じ時点で、同じ4NQO処理を行い、同じ日に、同じ動物に、しかも大量の細胞を復元することが出来ないので、厳密に結果の1〜3を比較することが出来ない。しかしPC-10のように、非常に発癌しやすい系を利用して(勿論、自然発癌の危険性も高いと考えられるが)、発癌の過程を掘り下げるのも一方法だと考えられる。
N-39:DABで癌化した細胞の増殖に対するDABの影響
−DABの細胞障害作用に癌化した細胞は抵抗性があるか−
月報7106にDABによる発癌実験の結果を説明し、月報7107に癌化した細胞にはDAB未処理対照細胞に較べ、DABの細胞障害作用に対する抵抗性の差がそれほど認められないことを報告した。この事実を確認する為に、同型培養法でもう一度growth
curveで検討した。
実験方法
月報7107に同じ。PC-2はDAB未処理対照細胞。DT-2はDABによって癌化した腫瘍細胞の再培養。
実験結果
(1)Fig 25、26にはDAB処理時の細胞数を一定にして、DAB濃度を変えて、(2)Fig
27、28には、DABの濃度を一定にして、処理時の細胞数を変えて、対照細胞と、DAB癌化細胞の増殖に及ぼすDABの影響をみた。その結果、DABによって癌化した細胞は対照細胞に較べ、DABの細胞障害作用に、特別抵抗性があるとは考えられない(図を呈示)。
N-40:培養細胞に4NQO処理を行うことは、培養内で自然発癌した細胞を選択的に増殖させるか。
クローン化したラット肝細胞PC-2がクローン後295日(総培養日数837日)で、自然発癌したので、この再培養細胞を用いて、4NQOが培養内で自然発癌した細胞の選択的増殖に働き、癌細胞の数を増加させているかどうか検討した。
実験方法
細胞:4NQO未処理対照細胞、4NQO処理癌化細胞、4NQO処理癌化細胞の動物復元で生じた腫瘍の再培養細胞、4NQO未処理対照細胞の動物復元で生じた腫瘍の再培養細胞を、100コ宛まく。対照培地は20%BS+MEM、実験培地は上記培地内に3.3x10-8乗Mの4NQOを含む培地、いづれも1週間培養後は、20%BS+MEMで培地を更新し、更に1週間培養後コロニーを算え、対照培地中のコロニー数で4NQO培地中のコロニー数を除した。
実験結果(表を呈示)
表に示すように、この自然発癌した細胞には、特別に4NQOに対して耐性が認められなかった。従って4NQO処理は培養内で自然発癌した細胞を選択的に増殖したとは考えられない。
《高木報告》
1.混合移植実験
これまで腫瘍細胞と移植動物についてhomologousな実験系(RG-18細胞とWKAラット)、およびisologousな実験系(RRLC-11細胞とWKAラット)につき、移植動物とそのoriginが、iso-logousなuntransformed
cells(RL細胞)を混じた場合の可移植性について検討した。homo-logousな系については、先述の如くRG-18細胞の少数とRL細胞多数とを混じた場合tumori-genicityはむしろ促進の傾向がみられ、isologousな系ではRRLC-11細胞50の時はRL
100万個で抑制の傾向が、RRLC-11細胞10の時はRL
100万個で促進を思わせるdataがえられており、未だ結論が出せない。このはっきりしない理由の一つには、RRLC-11細胞を10接種する際の誤差も考慮にいれなければならないと思う。さらに観察中である。
今回は本実験をスタートした本来の趣旨からはやや外れるが、RRLC-11細胞と移植されるWKAラットに対し、全くheterologousなJTC-12(MK)細胞を混じた場合の可移植性の変化をみた。動物が死亡したりして疋数が少なくまた月も浅いが、dataはJTC-12細胞によるtumori-genicityの抑制を示すものかも知れない。heterologousなJTC-12細胞を混ずることによりRRLC-11細胞の移植動物内での増殖が抑制されることは想像される(表を呈示)。
2.Colony levelでの発癌実験
月報7102から7105まで少しずつ報告して来た本実験は、先の班会議でも述べたようにどの程度までをpiling-up
colonyと判定するか、と云う点に困難を感ずる。これは、colony
selectionでえられ、実験に供した細胞の種類によるのかも知れない。すなわち、(写真を呈示)次の写真に示すようなcolonyを形成する細胞を用いたのであるが、あるいは、もっとfibroblasticな細胞を用いたならば、はっきりしたpiling-upの像がえられたかも知れない。次に呈示した写真はisologousな系の混合移植実験に用いているRRLC-11細胞で、これだとほとんどすべてのcolonyは示すような疑もないpiling-up
colonyである。
NG 10-5乗M 2時間1回処理後3-4ケ月たっても処理細胞と対照細胞の間にcolony形成能、piling-up
colony(一応私なりに判定して)の数にちがいはみられない。1seriesの実験を示す(表を呈示)。200細胞をseedした時で括弧内はpiling-up
colony数を示す。
《山田報告》
久しぶりにヨーロッパに行き、大変楽しんで来ました。従って報告書を二カ月も書かず、申訳ありません。けれど五年に一度位は、古い国へStrangerとして訪れ、仕事のことは勿論、その他諸々の事柄をのんびりと顧みることは大変有意義であると考へました。少しヨーロッパぼけ気味ですが、改めて"ネジ"を巻きなほして仕事をやりたいと思って居ます。
再び4NQO一回処理後のラット肝細胞のin vitroにおける電気泳動的変化を検索すると共に、その抗原性の変化をStep
wiseに検索し始めました。用いた細胞は、前々回の報告に書きました様に、自然悪性化していないと考へられる株、RLC-10-Colony2で抗血清としてはこの細胞を宿主ラットJAR-2に移植後19日目に採取した抗血清を用い、その泳動測定には従来通り10mMのCaCl2を含むヴェロナール緩衝液を用いました。詳細は、次号に書くことにして今回はその結果のみを書きます。(図を呈示)図に示すごとく4NQO処理後14日目に既にその泳動パターンは著しく変化し、ノイラミニダーゼ感受性が増加して来て居ます。またその抗原性も処理後10日目には既に変化し、対照細胞に対する抗血清の反応にくらべて、4NQO処理した細胞への反応は約1/3程度に減少しています。詳細は次号に書きます。
《藤井報告》
培養内ラット肝変異細胞におけるMLTR
Culb-TC、RLC-10などの細胞に対して、同系JAR-1ラットの末梢リンパ球様細胞がin
vitroで幼若化をおこすことを報告したが、今回も同様の実験をくり返し、その再現性をたしかめた。MLTR(mixed
lymphocyte-tumor reaction)は、幾つかの報告があるが、腫瘍抗原の検出、宿主リンパ球の自家、同系腫瘍への免疫学的反応能を調べる方法としては未だ新しく、確立された方法とは云えないので、なお種々の検討が必要であろう。
今回用いた抗原刺戟細胞は、Culb-TC、Cula-TC、RLC-10-R-TC(培養ラット肝細胞が自然変異し、復元して腫瘍増殖したものの再培養株)、RLC-10-4(培養ラット肝細胞)などで、医科研癌細胞研より供与されたものである。3回、RPMI
1640で洗滌したのち、CO60で8,000γ照射した。これらの抗原刺戟細胞5万個に対し、JAR-1ラットの末梢白血球50万個を加え、4、6、8日におけるH3-TdRの幼若化リンパ球による摂取を測定した。
照射Culb-TC、Cula-TC、RLC-10-R-TC、RLC-10-4のいづれにおいても培養4日あたりまでH3-TdRの摂取がみとめられたが、6日、8日で急激に減少した。顕微鏡下の観察では、照射腫瘍細胞は6日、8日までかなり残っているが、多くはガラス面より離れており、変性、死の経過をとっていると思われた。
リンパ球様細胞との混合培養において、H3-TdRの摂取は6日をピークとして、8日で急激に減少する。各細胞のMLTRを図に示したが、幼若化刺戟の強さは、Culb-TC、RLC-10-R-TC、Cula-TCと次いで対照のRLC-10-4であった。
最近マウス脾細胞と同系腫瘍細胞間のMLTRもうまくゆくようになった。(図を呈示)
《安藤報告》
連結蛋白質切断の再結合に対するモノヨード醋酸の効果
4NQOにより細胞内で切断された連結蛋白質の再結合に対して、DNA合成阻害剤(cytosine
arabinoside、hydroxyurea)、蛋白合成阻害剤(cycloheximide)は全く阻害効果を示さなかった。
今回は更に生体反応のおおもとに帰って、細胞のエネルギー産生反応に効果を持つ薬剤を選んで調べてみた。先ずモノヨード醋酸(MIA)のFM3A細胞の生長に対する効果を調べた。Fig
1に見られるように10-6乗M迄はno effect、5x10-6乗Mから阻害が現れ、10-5乗Mでは完全に阻害が見られた。
月報No.7106に記したようにaraCの場合には薬剤そのものによって、DNAの切断が起こってしまった。その点をMIAについて調べてみた所、10-5乗Mでは6時間ですでに切れ始め、24時間では相当程度切れてしまう事がわかった(Fig
2)。5x10-6乗Mではそれが見られなかった。したがって今回は5x10-6乗M
MIA存在下、連結蛋白切断の再結合実験を行った。
Fig 3に見られるように4NQO 10-6乗M 30分処理後7時間回復培養を行った所、ほぼ完全に再結合が起っていた(Fig
3a)。MIAの無処理細胞に対する切断効果はなかった(Fig
3b)。
4NQO処理細胞をMIA 5x10-6乗M存在下に回復を行わせた場合、(a)の場合と全く同様な再結合が起っていた(Fig
3c)。すなわち、MIAは本条件下では連結蛋白切断の再結合には効果はない。但しFig
1(b)に見られるように5x10-6乗MというMIAの濃度は細胞の増殖を完全に抑制する濃度ではないので問題である。この点は更に検討し細胞増殖は抑制されるが、DNAの切断は起さないような条件をさがして再実験を行う予定である。
いずれもう少しdataがそろったところで、総括する予定であるが、現在迄の所を概括すると以下のようになる。(1)4NQOによって切断された連結蛋白はDNAの一重鎖切断よりも緩慢な速度で修復される。(2)(1)の反応にはDNA合成、蛋白合成は不要である。(3)(1)の反応には生体エネルギーの産生は不要であるようだ。このような事実から一体どのような反応機構を考えたらよいのであろうか。少くともエネルギー的出納のない可逆反応の一つである事が考えられる。次の班会議ではもう少し詳しく議論したい。
《堀川報告》
毎年7月には琵琶湖で放射線生物若手研究会なるものを開催し、今年は迎えて第4回の研究会にあたりましたが、毎年この研究会は私共金沢グループが中心になって御世話するので、その方に力を取られ今月号の月報に報告すべきデータも整理出来ないままになってしまいました。悪しからず御容赦下さい。
仕事は相変らず、DNA鎖中に存在する可能性のあるresidual
proteinを追っています。これは御存知の様に量的にも非常に微量なので、その存在を決定的に示すことは非常に困難です。あの手この手と方法をかえれば、その存在を示唆するデータは次から次と出て来ますが、そうかといって最後の決め手になるものは何一つ得られません。従ってデータが蓄積すればする程、自分でも滑稽に思えて仕方ありません。しかし何とかならぬものかと暑い中を頑張っているところです。
一方、HeLa原株細胞から5-BUdRとphotonを併用しての、photodynamic
actionによって、selectしたUV感受性細胞はいよいよ本物であることが分ってきました。
これらには紫外線照射によってDNA中に出来たthymine
dimerを切り出す機構が、完全に近い程度に無いことが分ってきました。
従って人間の遺伝病として知られるXeroderma
pigmentosumの如き細胞が、HeLa細胞のようなものの中にも存在すると考えられます。しかし、もともとの生体組織中にこのようなHeteroの状態でTT
dimer除去細胞と非除去細胞が存在していたかどうか、あるいは培養瓶の中で飼うようになってからこのような細胞が出現したかどうかについては現段階では解答は出せません。また今後の問題として、UV照射によって生成されたTT
dimerを除去し得る細胞と除去出来ない細胞で、どちらが化学発癌剤処理によって発癌が容易であるかを検討するため、現在はまったく腫瘍性を示さないmouse
L細胞を使って前記のHeLa細胞と同様に、UV感受性と耐性株の分離を行っていますので、近い将来にこれらについての解答も得られるものと思っています。今回は最初に述べたような都合で、実際の仕事の結果を報告出来ませんでしたので、現在私共がやっている仕事の進行状況を報告するにとどめさせていただきます。
【勝田班月報・7109】
《勝田報告》
ラッテ肝癌AH-7974細胞の毒性代謝物質:
これまで肝癌培地をイオン交換樹脂で分析してきたが、再現性のある分劃法が得られず、苦労してきた。このたびSephadexG25→Dowex50(H+)の分劃法で再現性が初めて得られるようになった。2度の実験での分劃収量(乾燥重量)は、肝癌培地低分子凍結乾燥全重量:4g、4.7g。Sephadexによる分劃B:3.1、2.5。続いてのDowexによる各分劃・Fraction
1(H2O溶出):4.25mg、6.3mg。Fraction 2:159.4、81.6。Fraction
3-1(4N・NH4OH溶出):307.4、346.2。Fraction
3-2:9.7。Fraction 4:5.1、3.1。であった。
培養試験の結果は、細胞:(RLC-10-4株・ラッテにtakeされず)。培地:CS
20%+LD 75%・25%Dに分劃を溶解ミリポア濾過滅菌したものを含む、対照はDのみ25%)。培養は平型回転培養管(タンザク入)培養2、4日后にメタノール固定、ギムザ染色により判定。
結果は3-2及び4に阻害効果があった。この実験はなお続行中である。
《高木報告》
混合移植実験
1)homologousな移植系(RG-18−RFL細胞→WKA)この実験に用いた腫瘍細胞RG-18は、実験中途で腫瘍性が低下したことはすでに述べた。すなわち、はじめは100ケまでは全部腫瘍をつくり、10ケでも3/5につくっていたものが、現在ではTPD50は500ケか1、000ケの辺りにある。月報No.7107ではこれまでのdataすべてをまとめてみたが、腫瘍性の異った細胞を用いたdataを一緒にすることは問題である。今回は、腫瘍性の低下した時点におけるRG-18細胞を用いたdataだけをまとめてみた。ラットの疋数が少ないが現在観察中のものが各群3−4疋ずつあり、これは記載していない(表を呈示)。RG-18
1,000ケではRFL 100万ケ混ずることによりやや促進、500ケでは対照でもすべて腫瘍をつくっているので判定出来ないが、100ケ、50ケ、10ケではすべてRFLを混じたことにより促進の傾向がみられる。また、腫瘍の発現をみたラットについてその後の経過は、腫瘍死したラットについては表の如くであるが、それ以外は1疋の事故死、1疋の観察期間中生存をのぞき、他の23疋の腫瘍はすべてregressした。isologousなRRLC-11細胞を用いた実験では、腫瘍死したラットの外に腫瘍のregressしたラットは7疋にすぎない。このちがいについてRG-18細胞の腫瘍性が低いこと、RG-18細胞が移植するラットに対しhomologousであることなどの可能性が考えられる。
2)isologousな移植系(RRLC-11−RFL細胞→WKAラット)
これはNo.7107についてその後の結果である(表を呈示)。
RRLC-11細胞50ケまではすべて腫瘍をつくっており、RFL
100万個混じた場合にRRLC-11 100ケ、50ケでやや抑制しているようにみえる。しかしRLC-11
10ケの場合には有意の差がないようで、isologousな系ではRFL細胞を混ずることによる影響はないと思われる。腫瘍細胞数の多い程腫瘍死が多くみられた。
《安藤報告》
"連結蛋白"分離の試み(1):C14-アミノ酸による標識
従来私共が追究して来た"連結蛋白"なるものが、一体実体として存在するものか否かをもう少し客観性を持ったdataとして示されなければ世人を納得させる事は出来ない事を痛感しますので、本号ではC14-アミノ酸で標識する事が出来るか否かを検討した。
先ず非必須アミノ酸による標識を試みた。MEMで培養された、L・P3(中期or後期対数期)にserine、alanineを各1μCi/ml、glutamic
acidを0.1μCi/mlに加え2日間培養した。C14-ラベル細胞とH3-チミジンによりDNAをラベルした細胞を各7万個、3万個を混合し、SW25.1用遠心管中の密度勾配上のSDS層にのせ遠心した(20,000rpm
90min)。(図を呈示)、図(a)に見られるようにDNAピークにわずかのC14カウントが入っているように見える。しかしカウントが少な過ぎてあまりはっきりした事はわからない。そこで次に必須アミノ酸で標識してみた。細胞を(MEM+non
ess.+Nucleoside mixture:E2N)に培養し、くっつき合った所で、E2N-tyr-phe培地に移し、10時間後に1/20量のtyrとpheを加え更にC14-try
0.1μCi/ml、C14-pheを0.05μCi/mlとして加えた。3日後にharvest、C14-cellとH3-cellを混合し、(a)と同様に分析した。(b)図にあるようにDNAピークにわずかのC14-aaに由来するカウントが見られた。このカウントが目的とする連結蛋白質に由来するものであるか否かは更に検討されなければならない。
《梅田報告》
HeLaS3細胞DNAのSingle strandに及ぼす各種mycotoxinの作用について、寺島法により報告してきた(月報7012、7108)。今回はNeutral
suctose gradient法によるAflatoxinB1以外の他のmycotoxin投与による結果について報告する。
(1)Penicillic acid:single strandの検索(7012)では、1mg/ml投与でbottomより5から13本目に、320μ/ml投与では1〜10本目にradioactivityが認められた。1mg/ml投与后の、recovery
incubationではrecoveryは認められなかった。今回のneutral
sucroseの検索の結果は、1mg/ml投与では14本目に、320μg/ml投与では3本目にsingle
peakとして、radio-activityが証明された。又、10μg/ml(細胞増殖は抑えるがsublethalの程度)投与24時間作用ではbottomにpeakがあり、breakは全く認められなかった。
以上の結果からすると、penicillic acidでDNA
strand breakを起している時は、既に細胞にとってlethalである。裏をかえせば、penicillic
acidは、致死的な濃度で始めてDNA strand breakを惹起させると云える。
(2)patulin:Single strandの検索で32μg/ml投与では、radioactivityは全体に散っていた。32μg/ml1時間投与后のrecovery
incubationの結果、breakがrepairされるどころか更にbreakが進行した結果を得ていた。今回のneutral
sucroseによる結果は32μg/ml投与で、11本目にsingle
peakとしてradioactivityの山が現れた。3.2μg/mlの細胞にとってsublethalの濃度で24時間作用させた時は、3本目にradioactivityのpeakが現れた。
(3)Luteoskyrin、rubratoxinB、fusarenonXについて、超大量で1時間処理、比較的大量(3日間連続に投与しつづけると致死的になる)投与で24時間処理した材料では、いずれもbottomにradioactivityが証明され、single-strandの結果を同じくneutral
sucroseでも、breakは認められなかった。
《佐藤・難波報告》
前報に引き続いて、RLN-B cellでの悪性化実験中のaggregateの大きさの変動をみた。
control medium及び溶媒のみを含むmedium中でのaggregateの大きさは平均直径が、0.04〜0.05mm前後である。変化の強いのはDAB及び3'-Me-DABの10μg/ml即ち比較的低濃度の処理でaggregateが大きくなっている。aggregateの大きさの増大が悪性化に比例するという研究から考えると今後の検討を要する。(以下夫々に表を呈示)
☆DABと細胞内タンパク質との結合
資料細胞:PC-2(総培養日数917−952日)、TD40、40本、300万個/TDにまきこみ,2日後、DABmediumに替え、3日間培養。
DAB:10μg/ml Eagle's MEM+20%BS、総消費量
2.2mg。
表示の方法により細胞内タンパク質と結合したDABの量を測定した。520nmの分子吸光計数を4x10の4乗として計算すると、2.3mμmoleとなった。全タンパク量は130mgであった。in
vitroでのDAB投与も培養肝細胞内のタンパク質と何らかの結合をしていると考えられる。
他のデータと比較するためにtissue中のタンパク量を約1/6と考えて換算すると、in
vivoでliver cellに結合する量の約1/4の量が結合している。参考までに、E.C.MillerのデータとH.Terayamaのデータを合わせて呈示する。
N-41:培地中のDABの溶存状態
DABを100%EtOHに5mg/mlに溶きEagle'sMEM(無血清)に終濃度20μg/mlになるように稀釋すると、DANの沈澱が生じ完全に溶けない。この溶液を3000rpm
10分遠沈後、上清に溶けているDAB濃度は8μg/mlであった。そこで、DABによる発癌実験を培養内で企てる場合、DABを終濃度15〜20μg/mlになるよう溶かすとき、どうしても蛋白を含む培地を使用する必要がある。即ち20%牛血清加Eagle'sMEM培地には20μg/mlの濃度でDABが完全に溶ける。
そこで、蛋白を含む培地中に、DABがどのような状態で溶けているかを検討してみた。
実験方法
20%BS+Eagle'sMEM中にDABを約20μg/mlに溶かした物(DAB培地)を分析の対象にした。
実験(1)1mlのDAB培地に1mlの10%TCAを加え遠沈後、上清中と沈澱中とからトルエンでDABを抽出し、両者のDAB分布をみた。DAB培地では35.4μg/ml、沈澱では25.2(71%)、上清では11.9(33%)であった。
実験(2)DAB培地をセロファンバック中に入れ、PBSで一晩透析すると、DAB培地透析前は15.8μg/ml、内液は13.5(85%)、外液は0であった。
実験(3)1mlのDAB培地に4mlのトルエンでトルエン層に抽出されるDABは、蛋白に結合しているかどうか検討した。DABを含むトルエンを蒸発させ残渣を水に溶かし、O.D.280でみると吸収なし。O.D.440にはDABの吸収が認められる。この溶液にTCAを加えても、沈澱はみられなかった。
実験(4)DAB培地1mlを、Sephadex G100で流した。カラムの大きさは1.2x42cm、緩衝液は0.1M
Tris-HC、lM NaCl、pH8.0、流出速度0.4ml/min.。結果は蛋白分劃中にDABが溶出し、2相性の山を示す(図を呈示)。このことは(1)DABが不純なのか、(2)DABが結合する蛋白が異なるかの、いづれかであろう。この実験では、血清中のどの蛋白にDABが結合しているのか、判らなかったが、アルブミンらしいものが推定される。
実験(5)牛血清アルブミンを1%に含むMEMにDABを溶き、実験(4)と同じ条件で分析すると、アルブミンの流出分劃に一致してDABも流出した。
以上のことから結論されることは
1.血清を含む培地中に溶かされたDABの殆どは蛋白に結合して溶解している。
2.この蛋白結合DABは、トルエン抽出操作によって容易に解離し、トルエン中には遊離のDABとして存在する。
3.血清中のどの蛋白と結合しているか、現在の実験では断言できないが、少くともアルブミンにDABが結合していることが判る。
《山田報告》
引続いて、4NQO(3x10-6乗M)一回処理後のラット肝細胞RLC-10-C、clony#2の電気泳動的変化を検索しました。今回は4NQO処理後51日目の細胞を通常の円型管を用いて測定しましたが、その結果を図に示します(以下実験毎に図を呈示)。前回報告した36日目の成績と殆んど同じです。若干平均泳動度が増加している程度です。即ちノイラミニダーゼ処理により平均泳動度が対照にくらべて減少していますが、10%以上の低下は認められません。この株は処理後14日目に著しくノイラミニダーゼ感受性が高まりましたが、その後減少し、その状態が続いています。先きに行ったCQ63の実験成績と似ています。
またこの用いたRLC-10-C-clony#2は実験当初より、その細胞形態も電気泳動的にも均一ですが、4NQO処理をしても、やはり比較的細胞構成は揃っている様です。
このRLC-10、C#2の泳動的変化を写真記録式泳動装置にて分析した結果を図に示します。対照の細胞は全体に均一な形態を示し、若干の小型細胞が混在しています。平均泳動値より10%以上ノイラミニダーゼ処理により低下した細胞はこの対照群には発見出来ません。これに対し、4NQO処理細胞群では、やや大型な細胞が増加し、ノイラミニダーゼ処理後平均泳動値より10%以上の減少を示す細胞の多くは、この大型細胞であることが判明しました。これはRLT-1〜5株に認めた中型の変異細胞と類似していますので、悪性化(この株の)の可能性は大きいと考へます。
なほ免疫学的検索も併行して行っていますが次号に書きます。
《藤井報告》
リンパ球−腫瘍細胞混合培養反応における刺戟細胞の量および刺戟細胞の分劃の検討
この実験では、Culb-TC−JAR-1末梢リンパ球混合培養反応で、抗原刺戟細胞のほかに、その不溶性分劃と溶性分劃にも、抗原刺戟作用があるか否かを検討した。抗原刺戟に照射(4,000〜8,000r)しただけの腫瘍細胞を用いると、培養初期にはH3-TdRのとり込みがあり、反応リンパ球のH3-TdRのとり込みとの区別が困難なばあいのあること、また臨床癌の培養がかならずしも容易でないことから、癌組織抽出物でもMLTRができれば便利である点からも必要な検討である。
刺戟細胞Culb-TCはCO60で4,000r照射したのち、超音波処理し、そのあと超遠心(40,000rpm、30分間)で、その沈渣と上清に分け、沈渣はRPMI
1640液に浮游させ、Teflonホモジナイザーで浮游物を細かく均等にし、これを膜成分とした。
結局、用いた抗原は、A)照射Culb-TC、B)照射、超音波処理細胞、C)照射、超音波処理不溶分劃(膜成分)、D)照射、超音波処理溶性成分の4つで、それぞれ処理前の細胞濃度に合して、50万個、25万個、12.5万個、6.3万個をJAR-1末梢リンパ球(白血球として50万個)と混じ、CO2恒温器中で培養した。
成績:照射Culb-TC細胞を刺戟細胞としたばあいがリンパ球刺戟作用がもっともつよく、6日目のH3-TdRのとり込みは(夫々図を呈示)図Aのように、25万個細胞に対してcpm11,100に達した。刺戟細胞がさらに多くなるとcpmがけって減少する。しかも、刺戟細胞が多くなると腫瘍細胞によるH3-TdRのとり込みが増してくることも図A)の対照からもうかがえる。この成績および既報の成績から、MLTRには1〜10万個の刺戟細胞が適当と思われる。
超音波破壊処理したばあいの成績は、図B、C、Dにみられるように、そのリンパ球幼若化刺戟効果が激減する。
図B)は、照射−超音波処理しただけのものを刺戟抗原としたもので、抗原量が多い程、cpmは高いが、50万個相当の抗原量で、624cpmにすぎない。
図C)は膜成分、図D)は溶性分劃に対するMLTRで、いづれもcpmの最高は300以下となっている。破壊細胞が、リンパ球刺戟作用をうしなうのは、おそらくlysozome
enzymeによる抗原の変性が原因と思われる。この点について細胞の加熱処理、EDTA加液中での抗原刺戟細胞の破壊を計画している。
今までMLTRに用いてきた腫瘍細胞は、すべて培養細胞であった。そこで、in
vivoのがん細胞がautochthonous lymphoid cellsと反応するか否かが問題となる。この目的で、現在、JAR-1ラットにCulb-TCの復元を試みている。
マウスで行った実験では、C57BL系マウスの末梢リンパ球は、同系腫瘍FA/C/2(医科研制癌、小高助教授が発癌させたerythroblastoma)と反応するが、そのさい、ascitesからとってすぐ混合培養するよりも、3日間、RPMI
1640(20%にfetal calf ser.をふくむ)中で培養してから混合培養にもって行った方が、MLTRが数倍高く出ている。これは、ascites
tumoreでは、in vivoで腫瘍細胞が、宿主反応による物質、例へばγ-globulinおそらく抗体、その他で被覆され、刺戟基(site)がblockされているのではなかろうか。
《堀川報告》
DNA鎖中にresidual proteinが本当に存在するか否かを決定するのは非常に困難出ある。今回はLettら(1970)が示唆した如く、DNA一本鎖の状態でもresidual
proteinの存在が暗示されるという実験結果を別の立場からconfirmするため以下のような実験を行った。
まず、mouse L細胞をH3-TdR培地(10μgCi/ml)で3、5、8分と培養してpulse
labelした細胞をalkaline sucrose gradientのtop
layerにのせて遠心すると第1図(夫々図を呈示)に示すようなほぼ30〜35S程度の所謂Okazaki
fragmentに該当する、新しく合成された低分子のDNAが検出される。つづいて、このように5分間pulse
labelされた細胞を、直ちにH3-TdRを含まない、ただしcold
TdRを含む培地(10μg/ml)に移して、10分間、30分間、60分間と37℃でChaseする。Chase直後にそれぞれ細胞を集めて、Alkaline
sucrose gradientにかけて超遠心すると、第2図に示すごとくfragmented
DNAはchaseの時間と共に次第に大きくなり、60分間のchaseで殆んどのradioactivityはbulk
DNAに移ってしまうことが分かる。ここでもしchaseの過程にlabeledアミノ酸が存在すれば、このlabeledアミノ酸は一本鎖DNAの高分子化と共にDNA中に取り込まれて行くか否か、をみるのが本実験の主目的である。そこでH3-TdRを含む培地(10μgCi/ml)中で5分間pulse
labelした細胞を直ちにC14-L-lysine(3μgCi/ml)とcold
TdR(10μg/ml)を含む培地に移して37℃でchaseした。それらの結果を第3図に示す。これらの図から分かるように大部分のC14-L-lysineはchase
timeと共に蛋白分劃にincorporateするが、同時に次第に大きくなってゆくDNA中にも非常に僅かではあるが取り込まれることが分かる。特にchase
60分に於いてみられるbulk DNA中のC14の活性は、peakに一致して存在する。(ここで使用したvialsは総て新しいものを使い、count前に一回backgrundを測定してあるので、たとえ、取り込まれたC14のactivityが低いとはいえ、有意差はあると思われる。)
これらの結果はLettが示唆したような一本鎖DNAの状態でも、アルカリに不安定な何か特殊なsiteがあるということを別の面からsupportするものであり、一本鎖DNAの状態でみた場合にもgrowing
DNAの中にlabeled amino acidがincorporateする可能性のあることを示している。勿論、これらのlabeled
amino acidがどの様なstructureの蛋白内に入っているかは、依然として疑問のまま残されているが。尚、こうしたC14-L-lysineが単にbulk
DNAにcontaminateして検出されているのではないという可能性は、cycloheximideをchaseの、過程に入れておくとfragmented
DNAのgrowthは途中でstopされ、その際、C14-L-lysineはunlabeledのbulk
DNAのpeakには検出されない。つまり既存の高分子DNAの中にはアミノ酸はincorporateしないという別の実験からも確認された。
【勝田班月報:7110:細胞電気泳動法による膜変化と抗原性変化】
《黒木報告》
帰朝報告−アメリカでやって来た仕事のこと−
1969年9月からちょうど2年間、ウィスコンシン大学McArdle癌研究所のDr.Charles
Heidelbergerのもとで、Chemical carcinogenesis
in vitroの仕事に従事していました。仕事の内容は大きく分けて、(1)Heidelbergerのところの前立腺細胞を用いてのtransformation
(2)carcinogenic hydrocarbon(CH)の組織培養細胞核酸、蛋白質への結合
(3)CHのK-region誘導体の核酸、蛋白質への結合
(4)組織培養細胞からh-proteinの分離、の四つのテーマでした。
(1)前立腺細胞を用いたtransformation:
数種類の株細胞をC3Hマウス前立腺の器官培養から分離、樹立したが、Chenらの報告(Int.J.Cancer
4,166,1969)の一例を除いて、すべてHCによるtransformat.はnegativeであった。Chenらの細胞からcloningによって比較的高頻度(3-4
foci 1d)にMCAによってtransf.cloneを得たが(G23細胞)、これも次第にtransformationしないようになった。しかしMCA
epoxideによって高頻度にtransformするところから、この細胞はMCA→MCA
epoxideの酵素活性が低下したためtransf.しにくくなったものと思はれる。spont.transf.は比較的高頻度にみられる(培養40−50代頃に)なおこの細胞は3T3と同じようにcontact-inhibitionにsensitiveであり、形態はfibroblastsである。前立腺上皮の細胞株ではない。
Sukdeb Mondalのsingle cell transformationの実験は追試ができない。
CHのK-領域誘導体epoxide、sis-dihydrodiol、phenolを用いたtransformation実験の結果、epoxideが他よりも高い頻度でtransformationを起すことが明らかになり、epoxideがproximal
carcinogenである可能性が強くなった(Grover
et al,PUAS,68,1098,1971)。
(2)CHの培養細胞、DNA、RNA、Proteinへの結合:
H3ラベルのDBA及びBAのK-region epoxide、cis
dihydrodiol、phenolを用いて、ハムスター胎児細胞及びG23細胞のDNA、RNA、蛋白質への結合を調べた。(図を呈示)BA
epox.、diol、phenolのハムスター胎児細胞への結合である。epoxideが、特にDNAと親和性の強いことが明らかである。蛋白との結合の400μμmoles/mgはBA及び他のCHと比較しても異常に高い値である。DBAのbindingは、epoxideとphenolは同じような態度を示し、DNAに対して、特に強い結合は示さなかった。(KurokiほかCancer
Res.投稿中)。このほかMCA、BP、DMBA、DB[ah]、DB[ac]AのDNA、RNA、Proteinへの結合一般についてのpaperは目下Cancer
Res. in press。
(3)培養細胞からh-proteinの検出:
発癌剤と特異的に結合する蛋白質h-proteinはDAB投与後のラット肝、MCA塗布後のマウススキンより分離精製されている。しかし、これらの方法は多量の蛋白を必要とするため、最初にh-protein分離の手技の改善を試みた。200〜400x10の6乗(マウス一匹の背中の皮ふに相当する)からh-proteinを検出することができるようになった。その結果次のようなことが分った。(1)マウス皮ふ、前立腺細胞、ハムスター胎児、ラット胎児、チャイニーズハムスター胎児、マウス胎児などのrodentの細胞は、h-proteinをもつが、Specific
Act.には差がある。(2)h-prot.はmol.weight
22,000のsubunitより成るdimer、Ip 8.05。(3)DBA
epoxideはDBAの約8倍強くboundするが、phenol、diolは結合しない(図を呈示)。(4)transformした細胞は電気泳動的に同一の蛋白をもち、定量的には、正常細胞と差がないが、radioactivityはない。epox.を用いても変りない。(5)h-proteinの結合は、ethanol
etherで除けないところから、covalentの結合と思はれる。(6)アミノ酸のとりこみは、h-proteinが特に多い訳ではない。(7)ヒトの細胞にはradioactivityがみられない。Biochemistry投稿中。
h-proteinの精製法:
1.核の分離
2.100,000Gにより細胞質可溶性蛋白をとる。
3.Sephadex G25による脱塩。
4.DEAEセルロースによりbasic proteinをとる。
5.SDS-polyacryl-amid gel
6.scanning及びradioactivity
マウススキンのように蛋白量の多いときは、4.の後にSephadex
G-100、Isoelectro focusingを行う。シャープなシングルbandとして認る。
:質疑応答:
[安藤]h-proteinについて、酸性分劃のデータがありますか。
[黒木]一応やってみましたが、大変複雑なピークで解析が困難です。
[難波]薬剤投与してから24時間というところが、取り込み量が高いのですか。
[黒木]経時的にはまだ調べてありませんから何とも言えません。経時的に調べればもっと色んな事がはっきりすると思いますが、とにかく大量の細胞が要りますからね。
[佐藤二]in vitroのデータとin vivoの代謝機構とは平行していますか。それから薬剤に対する動物特異性と薬剤とh-proteinの結合の関係は−。
[黒木]酵素のspecific activityということでしたら、動物の種によって違います。
[梅田]発癌剤に対して耐性の出来た変異細胞の場合、薬剤の添加量を増せば、結合する量も増えるという事はありませんか。今迄は変異細胞ではh-proteinが無くなるとされていましたが、蛋白その物はあるのだという事になると何となく話がすっきりしますね。
[堀川]結合する全段階に何かあると考えるわけですか。
[梅田]そうです。h-proteinが変っていて薬剤が結合してもすぐ分解してしまうとか。
[佐藤茂]DABの場合の結合蛋白と同じものですか。
[黒木]KettererのDABのh-proteinとLitwackのcortisolのものとは同じものだと同定されています。その他mouse
skinにMCAを処理してとったもの、anionによるy-protein等も私の精製したh-proteinと蛋白として大変似ていますが、まだ同定されていません。
[安藤]DNAについてはどうですか。
[黒木]結合するということだけしか、調べていません。
[堀川]結局、in vitroの発癌では再現性のある系そのものが確立されていませんね。
[黒木]矢張り新しいシステムを開発する必要があります。
《勝田報告》
A)ラッテ肝癌AH-7974細胞の放出する毒性代謝物質について:
これまで、AH-7974を4日間培養したあとの培地を、透析膜を通し、その低分子部分をSehadex
G-25で分劃し、次にDowex 50(H+)で分劃してきたが、どうも再現性に乏しく、出てくるピークの位置が変ったり、毒性部分の分劃が変ったりで困っていたが、今回はDowex
50のelutionの方法を変えて、連続段階ではなく、はじめに水でeluteし、次に4NのNH4OHでeluteするように改めたところ、非常に再現性が高くなった。これでようやく次のStepに入れるというものである。
(分劃図を呈示)分劃は3回行ったものが、全く酷似した溶出曲線が得られたので、これでやれやれと、安心したところである。
分劃I、II、III、IV、と大別してその毒性をしらべたが、このときは各分劃間での量は一定にせず得られた量に比例して培地に添加した。すなわち、Iは0.15mg/ml、IIは0.5mg/ml、IIIは1.6mg/ml、IVは0.2mg/mlであった。結果は分劃IIIに毒性活性(±)、IVに(+)であった。
第2回目の実験では、第III分劃のところがいくつものピークにきれいに分れたので、IIIをIII-1、III-2に分けて試験した。この実験ではいずれの分劃も0.2mg/mlに統一した。
結果は(写真を呈示)第III-2分劃及び第IV分劃に著明な毒性が認められた。
なお、これらの分劃の非活性を、増殖50%阻害を指標にして、乾燥重量/培地量で計算してみると、培地filtrate20%〜40%は2mg〜4mg/ml、Sephadex分劃Bは2.5mg〜5mg/ml、Dowex分劃III-2
or IVは0.2mg以下/mlという概算値になった。
B)初代培養による発癌実験:
これまでは幼若ラット肝の増殖系を用いて癌化させてきたが、動物では成体の方が癌化する率が大きい筈である。そこで生後1月♀ラッテ(JAR-1系)を用い、肝の部分切除をおこない、培養内で次の3種の薬剤を投与してみた。i)DAB:1μg/ml、ii)4NQO:10-7乗M、iii)DEN:10μg/mlでいずれも4日間処理し、回転培養をおこなっている。現在までに約1カ月経過したが、未だに細胞増殖は開始されていない。
C)RLC-10株細胞による発癌実験:
この株には自然発癌した系やしない系や、いろいろの系ができているが、ここで用いたのはtakeされない系の内のRLC-10-4である。
1971-6-29に3.3x10-6乗Mの4NQOで30分間処理し、以後隔時的に細胞電気泳動、軟寒天培地内培養、復元試験などを併行的にしらべている。電気泳動試験の結果は山田班員から報告されるであろうが、軟寒天はこれまで2回、1971-7-5、1971-7-26にシャーレ当り50,000コでまいたがcolonyを作らなかった。復元試験は、1971-8-14にラッテ当り500万個接種した。対照は0/2、4NQO処理のは2匹中1匹に腹水のたまっていることが判った。接種後約1カ月である。なお以後の経過を観察中。
:質疑応答:
[黒木]毒性物質の判定を形態変化だけに頼るのでは、不充分ではありませんか。
[勝田]今まで再現性のある分劃が決まらなかったので、一番簡単な方法でスクリーニングしてきたのです。それに充分な実験計画を立てられる程収量がないのです。
[佐藤茂]その物質の分子量は2,000位ですね。とするとポアサイズ10,000のダイアフローの濾過で活性は充分濾液に出ていますか。
[勝田]濾過前と濾過後で活性が変わらないというデータを持っています。
[乾 ]分劃III-2とIVとは同じ物質ですか。
[勝田]今のところ未同定です。
[黒木]熱にはどうですか。高圧はかけられますか。
[勝田]60℃、100℃の加熱には活性が落ちないというデータは持っていますが、高圧はやってみませんでしたね。
[藤井]この物質は、正常細胞は全く出していませんか。
[勝田]今の所、出しているとしても確認できる程の量ではありません。
[佐藤二]発癌実験の方についてですが、私も何時までも乳児を使って実験していては仕方がないという意見です。アダルトの肝を使いたいのですが、矢張り増殖がみられませんね。乳児とアダルトではDABの代謝も違うのではないでしょうか。発癌性のない例えばABなどを或る期間喰わせたラッテの肝なども培養してみようかと思っています。アダルトでも動物のレベルで少し変化させておけば、培養できるのではないかと考えています。
[乾 ]私の研究室のデータに、ラッテの生後1週から経週的に肝細胞の分裂頻度を調べたものがあります。それによると生後7週が一番分裂頻度が高いのです。そしてその7週からDABを与え始めるとDAB給餌後2〜3週に1時的に分裂頻度が上がります。その時期を培養に使ってみるのはどうでしょうか。
[黒木]しかし、Dr.サンフォードのように自然悪性化については乳児よりアダルトの方が高いという人もいますよ。そうでないというデータもありますが・・・。
[勝田]この発癌実験については、もう少し気長に観察してみようと思っています。
毒性物質の方は、やっとこれから物の同定にかかれる訳です。ペーパークロマトや電気泳動もやっておかねばなりませんし、DNA合成、RNA合成、蛋白合成の阻害をみる取り込み実験も予定しています。
《佐藤・難波報告》
N-42.PC-2(コントロール)PCDT-2(DABにより悪性化)系細胞の培地内DABの代謝パターンの比較
DABで培養内で悪性化した肝細胞(月報7106に報告)のDAB代謝バターンは、対照細胞のそれに比べ、どのように変化しているかは、興味あるところである。その為には、DABの代謝過程、及び、終末物質の検索が重要であるが、現在のところ方法論的にどうしていいか判らない。
そこで、一応DABを細胞に与えた場合、培地内のDABは経時的にどのように変化してゆくか、光電比色法で調べてみた。細胞に投与したDABは10%BS+MEMの培地内に溶かされており、この培地を細胞(TD40にほぼconfluentに生えた時、即ち約500万個cells/TD40)投与後、24hr.48hr.後の培地内のDABの変化をみた。(図を呈示)
その結果現在までのところ、(1)対照細胞に較べDABにより悪性化した細胞に特異的なピークはみられなかった。(2)また、両者の細胞によって消費される培地内のDAB量にも差がみられなかった。即ち、DABの吸収のあるOD408mmのピークは両者で、同程度であった。
N-43.PC-2(コントロール)、PCDT-2(DABによる悪性化)系の細胞の培地内DAB消費能
DAB非処理、培養細胞とDABに処理(53日)により悪性化した細胞との培地内DAB消費能を比較した。実験は、2系統行った。
第一の実験は、細胞が対数増殖期にあるとき、第二の実験は、細胞がconfluentになって増殖が止まっている時期、の2コの系でDAB消費能を検討した。DAB培地は、10〜20μg/ml
DABを含む20%BS+MEMを使用した。結果は、対数増殖期(DAB投与、3日間)では、PC-2:52μgx10-6乗/細胞生活単位、PCDT-2:44μgx10-6乗/細胞生活単位。増殖静止期24hrでは、PC-2:87%、PCDT-2:97%。増殖静止期48hrでは、PC-2:99%、PCDT-2:100%であった。以上のことから、DABで変異した細胞に、DAB消費能が低下していない。
N-44.ConcanavalinA(Con.A)は、DABで培養内で悪性化した細胞の増殖を特異的に抑制するか。
月報7102に、4NQOで変異した細胞に対する、Con.Aの細胞の増殖に対する影響を報告した。その時の結果は、4NQOの非処理細胞に較べ、4NQOの変異細胞の増殖は、Con.Aによって有意な抑制はみられなかった。
今回の実験方法は、SigmaのJack beanから抽出したCon.Aを500μg/ml
Eagle's MEMに溶き、細胞をまき込み後2日目に、培地を捨て、上記Con.A溶液で1、2、4、6hr
37℃細胞処理後、20%BS+MEMに培地をかえ、更に続け2日間培養した実験系と、Con.Aの濃度を500、250、125、62μg/mlに段階稀釋して、6hr
37℃処理した実験系とを行った。その結果は(図を呈示)、いずれの実験系に於ても、DABで悪性化した細胞の増殖が対照細胞のそれに比べ、有意に抑制されることはなかった。
:質疑応答:
DAB関係について
[黒木]この実験ではアゾ結合の切れ方だけをみている事になって、DAB発癌とはあまり関係がないのではありませんか。培地にトロールを入れて振って水溶性のものとトロールでとれるものとを分けて吸光度をみれば差がでてくるのではありませんか。
[難波]やってみます。
[安藤]細胞に結合しているものについては、変異細胞の方はみていないのですか。
[難波]これから調べるつもりです。
[堀川]こういう実験でin vivoで起こっている事と、in
vitroでの現象を結びつけて考えるのは難しいですね。
[佐藤二]DABの代謝と、結合蛋白についてとを分けて調べられる系がほしいのです。
[安藤]生体側の解毒機能を働かせないで、発癌させるというDABがあるとよいですね。
[黒木]オートラジオグラフィで捕まらないというのは、どういう事でしょうか。
[佐藤二]どうしてでしょうか。オートラジオグラフィで正常細胞と変異細胞の間に結合の差があるかどうかみようとしたのですが・・・。
[勝田]うまく行っても結論は出ないと思います。私の5年前発表した仕事で、変異細胞の中にも、DABを代謝して死ぬ系、代謝するが死なない系、代謝しないで死ぬもの、代謝せず死にもしないもの、と色々な態度の系がある事が判っているのですから。
[黒木]色が消えるかどうかより、矢張り蛋白への結合でみるべきですね。それから非活性の低いものを使う時は、液体シンチレーションを使えばよいですね。
Concanavalin Aの実験について
[山田]Con.Aで癌細胞だけが凝集するという事、細胞膜表面の構造から考えて、そうくっきりと癌だけが凝集し、正常細胞はしないとは信じられませんね。
[藤井]αフィトグロブリンについてデータがありますか。
[難波]それもやってみようと思っています。
《堀川報告》
HeLaS3細胞をMNNGで処理し、つづいて100ergs/平方mmのUV照射、さらにBUdRを含む培地中で培養した後、光を当てるという一連の処理を繰り返すことによってS-1M細胞(1回処理群)、S-2M細胞(2回処理群)と名づけるUV感受性細胞が分離されたことについては以前に報告したが、今回はその後に得られたこれらのUV感受性細胞の特性について報告する。
HeLaS3原株細胞のUV照射に対するLD50が96ergs/平方mmであるのに対し、S-1M細胞、S-2M細胞のLD50はそれぞれ50ergs/平方mm、30ergs/平方mmであることからして、これらのUV感受性細胞はUV照射に対して著しい感受性を増大したことが分かる。一方X線照射に対する三者の感受性はどうかというと(図を呈示)、3者の間には何らかの差異は認められないで、HeLaS3細胞もUV感受性細胞もほぼ同等のX繊感受性を示す。つまり、このことはUV感受性を支配する機構とX線のそれとは無関係であることを示唆している。
またUV照射によってHeLaS3細胞あるいはS-1M、S-2M細胞内のDNA中に誘起されるTT(thimine
dimer)の量には殆ど差違が認められないが、これらTTの除去能に於いて(図を呈示)大きな差違が認められる。つまりUV照射後、6〜8時間のincubationでHeLaS3のDNA中に誘起されたTTの約50%は除去されるが、S-1M細胞、S-2M細胞では約9%しか除去されないことが分かった。
こうした結果は、我々の分離したUV感受性株は、HeLaS3原株細胞にくらべてUV照射によって誘起されたTTの除去能がすごく低下した細胞であることを示すものであり、同時に細胞間のUV感受性差はTTの除去能の差異に依存していると思われる。
尚お、その他UV感受性細胞の特性としてまず染色体数は原株細胞にくらべてそれ程大きな変化はなく(S-1M細胞に関する限り。S-2Mについては現在検討中)、ただchromosome
distributionの幅が幾分狭くなり或る程度のクローン化が行われているようである。また細胞増殖に関してはHeLaS3原株細胞のdoubling
timeが、20.2hursであるのに対して、S-1M、S-2M細胞のそれは、それぞれ28.8hoursおよび24.6hoursである。なお、こうして得られたUV感受性細胞がヒト遺伝病Xeroderma
pigmentosumの患者から得た細胞と同様のDNA障害修復機構欠損株であるか否かについては目下検索中である。
:質疑応答:
[難波]そのクロンの安定性はどうですか。そして染色体数は・・・。
[堀川]今の所安定しています。染色体のモードは大体62本位で原株と殆ど変わりませんが、distributionは狭くなっています。
[黒木]endonuclease、exonuclease活性の酵素はありますか。
[堀川]直接測定はしていませんが、そのどちらかの活性が変異株では低下しているかも知れないとは考えています。
[安藤]alkaliのgradientでDNAの大きさを調べましたか。
[堀川]まだみていません。
[安村]ergをきっちり測れる紫外線発生装置がありますか。
[堀川]モノクロームのもので、ergの計算がきちんと出来るようになっています。
[安村]始めにかける紫外線の線量をもう少し落とせば、変異株のとれる率がもっと高くなるような気がしますね。
[堀川]紫外線、MNNG、BUdR、というファクターの組合わせについては、まだ色々考える余地はあると思いますが、とにかくこの条件で感受性株が拾えたものですから。
[安村]紫外線をかける事で感受性細胞を殺してはいないでしょうか。
[堀川]それはあるかも知れません。今L株で実験をくり返していますが、LはMNNG、紫外線どちらにも比較的強い株のせいか、変異コロニー出現率はずっと高いのです。
[黒木]コロニーを作らせるのに2カ月もかかるのですか。
[堀川]変異株がとれるか、とれないかが問題なものですから、充分増殖するまで長くおきました。
[安藤]doubling timeは変わっていますか。
[堀川]原株が20.2hr、S-1Mは28.8hr、S-2Mは24.6hrとなっています。
[黒木]MNNGの処理で、変異の性質がfixする為には分裂することが必要なのですから、その処理時間は24hrより48hr位の方が変異の効率がよくなると思いますが。それからXeroderma
pigmentosumの患者は皮膚だけが感受性なのですか。例えば肝細胞などは・・・。
[堀川]それは調べられていないでしょう。
《高木報告》
1.混合移植実験
1)homologousな移植系(RG-18+RFL細胞→WKAラット)
(表を呈示)腫瘍発現率、腫瘍発現までの日数などからみた場合、RFL細胞を混ずることによりRG-18細胞の腫瘍形成能は促進されていると解釈してよいと思う。このhomologousな実験群ではRG-18細胞のみのいずれの細胞数接種群でも生じた腫瘍のregressが高率にみられた。
2)isologousな移植率(RRLC-11+RFL細胞→WKAラット)
その後の結果は(表を呈示)、RRLC-11細胞1万個、千個接種群はずべてに腫瘍の発現をみた。RRLC-11細胞
100コと50コで、RFL細胞を混ずることにより腫瘍形成能が抑制されているようにも思われるが、有意着とは考えられず、影響はないと解釈すべきであろう。
2.混合colony形成実験(in vitro)
上記の混合移植実験と平行して、これら細胞を混じてpetri
dishにまいた場合、どのような結果がえられるか試みた。まずRRLC-11細胞400コとRFL細胞1,000コとを混じてまいたところ、2週後に一部のRFL細胞のcolonyが変性におちいっているのを見出した。そこでさきにRFL細胞からcolony形成をくりかえしてえたclone
C-3とC-5細胞を用い、これら200コとRRLC細胞200コを混じてまいたところC-3細胞のcolonyはすべて変性をおこしたが、C-5細胞のcolonyは変性をおこさずC-5とRRLC-11の両細胞colonyが共存している像がみられた。一方RG-18細胞は200コまいてもcolony形成はみられなかったが、RFL
C-5細胞200コを共にまくと30コ前後のRG-18細胞colonyの形成がみられた。培地はMEM+10%CSで、さらに検討中である。
:質疑応答:
[難波]C-3のコロニーを作らせておいて、RRLC-11を添加すると、どの位の期間でC-3が死ぬか調べてありますか。またウィルスの心配はありませんか。
[高木]どの位の期間で死ぬかは今実験中です。ウィルスについては私も心配で、今電顕で調べて貰っています。ところで腫瘍細胞が出す毒性物質についてのデータを出している人は他にあるでしょうか。
[勝田]生かした状態の癌細胞が出す毒性物質というのは、私の実験が初めてで、他にはないと思います。大抵は癌の組織をすりつぶして抽出していますね。
《藤井報告》
前号の月報に報告された実験について改めて詳細に説明がなされた。
:質疑応答:
[高岡]これらの実験のカウントの絶対数で、各実験を比較する事はできませんか。
[藤井]実験毎に少しづつ条件が違うのて、或実験でのカウント数が、次の実験では同じ群が同じ数値にならないという事があります。各実験毎に比較して傾向をみています。
[勝田]血清は非働化して使っているのですか。
[藤井]ラッテの場合は、新鮮なラッテ血清を使っています。
[梅田]担癌のリンパ球ではどうですか。
[藤井]これから実験する予定です。
[梅田]そこに興味がありますね。
[佐藤二]培養液中の異種蛋白に対する反応は出ませんか。
[藤井]同じ培養液を使った対照細胞に反応が出ませんから、心配ないと思います。
《山田報告》
引続き4NQO処理後のラット肝細胞RLC-10-C、#2の電気泳動的変化ならびに、その抗原性の変化を追求して居ますが、今回はこれまでの抗原性と最近の成績と合わせてまとめて書いてみたいと思います。
電気泳動法による、細胞表面の抗原抗体反応の定量的検出方法については既に書きましたが、これを要約すると、細胞表面の抗原と結合した抗体に加へて補体の作用により起される細胞表面の顕微鏡以下の破壊(micro-dissection)を、カルシウムイオンの表面への吸着性の変化として、定量的に測定するわけです。したがって常にaliquotの抗血清を56℃30分熱処理して非活化したものを対照として用い、これに対し活性の血清と反応することにより起る泳動度の低下をカルシウムを含むメヂウム内で測定する様に実験を行っています。(以下、図と表を呈示)
この方法は既に完全な定量的測定法であることを確認して居ますが、まずin
vivoに維持されている細胞と、それを培養してin
vitroで増殖した状態の細胞との反応の違いをラット腹水肝癌AH62Fについて検索しました。結果は、培養AH62F
1,000万個を腹腔に(ドンリュウラット)移植した後、18日目の抗血清を0.5ml、細胞200万個、反応メヂウム(pH7.0
Tris塩酸緩衝液Ca、Na、Mg、K微量含む)と混合して37℃30分反応させた後に10mMのカルシウムを含むヴェロナール緩衝液内で測定した結果、明らかに培養状態では抗血清の反応が強く、5倍以上も細胞の泳動度の低下を認めました。この同種抗血清の反応を目安として4NQO処理細胞に対する抗血清の反応を検査してみました。
4NQOによる変異株の抗原性の変化:
反応条件及び抗血清製作の条件は従来と同一として検査すると、まず4NQO処理した今回のRLC-10#2の株の泳動度の低下は、そのoriginalのRLC-10#2にくらべて約1/3程度に減少しました(表を呈示)。これに対し前回検索した無蛋白培地培養したなぎさ変異株JTC-25・P3の反応は著しく高度で、しかも変異株はそれよりやや減少しています。すなわち、使用する細胞系により宿主の反応性が異なり(細胞の宿主に対する抗原性の差)しかもこれが4NQO処理により変異すると、本来の抗原性も変化することが理解されます。
次ぎに4NQOで処理した株をtarget Cellとして移植して得た抗血清について検索しました(表を呈示)。4NQO処理して得た変異細胞の抗原性はむしろoriginal
Cellのそれにくらべて弱く、特に4NQOによりin
vitroで変異し、泳動的にも明らかに悪性型であり、また宿主へ復元してtumorigenicityの証明されたRLT-1細胞では、この条件では殆んど抗原性の宿主との違いを認めることが出来ないことがわかりました。
今回の4NQO処理したRLC-10-#2に対する抗血清ではそのoriginal
Cellの反応にくらべてかなり強く、新しい抗原性の出現が考へられました。同様のことが、JTC-25・P3株の4NQO処理した細胞においても認められました。
変異した細胞が、その原株より宿主への反応が弱いと云うことは一見理解しがたいと思いますが、なほ他の変異細胞について種々検索した後に結論を出したいと思います。
いづれにしろin vitroでの悪性化の証明が、そのisologousの宿主動物へ復元移植してそのtumorigenicityを知ることによってのみ得られている現在、in
vitroにおける抗原性の変化を知らないで、今後のCarcinogenesis
in vitroの研究における発展はないと思う様になりました。
f(phenotypical change・antigenic change)=tumorigenicityであることを漠然たる理解でなしに、具体的に解析を始めるべきであると思うわけです。
:質疑応答:
[難波]なぎさ変異の細胞の様にあまりに変異しすぎてtakeされなくなった系でも、又発癌剤の処理を加えて、抗原性を変えてもとの生体にtakeされるようになるでしょうか。
[山田]腫瘍性と抗原性とは別物だと考えています。Cule-TCのように抗原性は弱くても腫瘍性はちゃんとあるという系もあるのですから。
《安藤報告》
"連結蛋白質"の分離の試み(2)
月報No.7109に報告した表記の実験の記載の不備をおぎない、今後の実験計画を立てて御批判をいただきたい。
先ずnon-essential amino acidでラベルする場合、L・P3をMEMでprecultureしてからC14-serine、-alanine、-glutamic
acidで2日間培養した。essential amino acidでラベルする場合には(図を呈示)MEMにnonessential
amino acidを7種、nucleoside5種加えた培地E2Nで3日培養し、phe、tyrを抜いたE2Nで10時間starveさせ1/20量のphe、tyrを加えた培地中でC14-phe、tyrを加え更に3日間培養した。これ等の細胞を常法通り中性蔗糖密度勾配遠心を行った結果が先月号の図であった。
今後の方針としては、ラベルの条件は今回のessential
amino acidの場合にならい、もう少しscale upして行いたい。第1にアガロースゲルカラムを使用してDNAとsoluble
proteinと分離する方法、第2に調整的Cscl遠心を行う事によりDNAと他の成分と分離する。これ等のいずれかの方法で連結蛋白の大量調整が可能であると考え実験中。
:質疑応答:
[黒木]ピークがポイント1つしかないというのは一寸不安ですね。何点かをつないてピークになるような条件にできませんか。
[堀川]私の同様な実験ではピークは何点かになっています。そして私の場合リジンでみていますが、矢張りDNAのピークにアミノ酸が入ることが判っています。単なる結合ではなく、DNAが作られる時に何か僅かな物が組み込まれているという感じですね。
《梅田報告》
(I)AAFとそのproximate carcinogensをHeLa細胞及びハムスター胎児細胞に投与して惹起される形態的変化について報告した(月報7105)。即ちAAFとそのproximateの形であるN-OH-AAF、更にproximateであるN-AcO-AAFを投与した。AAFでは細胞が萎縮ぎみでspindle-shapedになり核も濃染する。N-OH-AAF、N-AcO-AAF投与では細胞は大型化し核質は一様に微細になる。この際proximate
carcinogensでは核小体がやや小さ目で丸みを帯びていたがそれ程小さくなっていなかった。尚Nの位置でなく7の位置にhydroxylationをうけた7-OH-AAFではAAFと同じ様な形態を示した。
(II)今回はラット肝臓培養に投与してみたのでその結果を報告する。培養は今迄度々報告してきたと同じ生後5日以内のJAR2ラット肝のmonolayer
primary cultureである。
AAF投与により10-3.5乗Mで肝実質細胞は強く障害され脂肪編成を起す。間葉系の細胞は核は幾分大きくなり、核質も明る気味のか多く、核小体も小さ目である。7-OH-AAF
10-3.5乗M投与ではあまり変化が認められない。
N-OH-AAFは10-4.0乗M投与で肝実質細胞の変性壊死、間葉系細胞核の大型化、核質淡明化、核小体の縮小化が著明である。N-AcO-AAF投与では10-4.5乗Mで上と同じ様な変化が更に強く惹起された。
(III)肝培養細胞に投与した時は、HeLa或はハムスター胎児培養細胞に投与した時とAAFに対する反応性がやや異っていたわけである。その理由として肝培養細胞にはAAFを一部ではあろうがOH化してN-OH-AAFにする酵素を持つが、HeLa、ハムスター胎児培養細胞は持たないのであろうと考えられる。この考え方を証明するために培地中のAAFの変化をこれから検索したいと考えている。
(IV)ここで気になるのは斎藤守教授の下でいろいろのカビ毒の細胞毒性の検索を続けてきていると、非常に面白いカビ毒に遭遇する。その一つに細胞を大きくし核も大型化、核質微細一様に点状〜網目状、核小体は極端に縮少化させるものがいくつか見つかった(HeLa細胞に対して)。そのうちのチーズのカビpenicillium
roquefortiの代謝産物をHeLa以外の細胞に投与してみた。ところがハムスター胎児培養細胞に投与しても、ラット肝培養細胞に投与しても、核、核小体の変化は認められなかった。
(V)以上をN-OH-AAFの場合と比較してみると、HeLa、ハムスター胎児培養細胞では核小体が円形化していたが、それ程縮少化していなかったのに対し、肝培養細胞では核小体の縮少化が非常に著明であった。P.roqueforti代謝産物の場合はこれと異なり、HeLaで核小体が極端に縮少化し、ハムスター胎児細胞、肝培養細胞ではその様な現象はみられなかった。因みにaflatoxinB1の投与ではN-OH-AAF投与と同じ様な像、即ちHeLaで核小体の縮少化は著明でなく、肝培養細胞で著明な核小体縮少化がみられている。
核小体の縮少化と、核質の淡明化の現象がどの様なmechanismで起ってくるのか興味がある。(表を呈示)
:質疑応答:
[堀川]アフラトキシンで処理した細胞は核小体が大きくなっていますが、分裂増殖はしているのですか。
[梅田]アフラトキシン10μg/mlで処理したものは、初期には分裂像がみられますが、培養を長くつづけると増殖しなくなります。
[吉田]核小体が多くなったとか、小さくなったとかいうことは、本当に核小体そのものの大きさの変化ですか。染色性の問題だとは考えられませんか。
[梅田]私自身はデータを持っていないのですが、電顕レベルでみられる変化と染色してみた時の変化が、かなり一致しているという報告もあります。
[吉田]処理後どの位たつと変化が出てきますか。
[梅田]処理する物質によてまちまちです。すぐに変化するものもありますし、4日もして変化が出てくるものもあります。
[吉田]DNA合成の阻害か、蛋白合成の阻害かというようなことも調べていますか。
[梅田]取り込み実験も平行してやっています。
《佐藤茂報告》
I.マウス脳腫瘍細胞の組織培養下での変化
マウスの皮下に継代移植されていた脳腫瘍細胞を組織培養に移してから約4カ月になる。同じ培養条件下で9回の継代をくり返したが形態的な変化は見られていない。又アルドラーゼのアイソザイムパターンに於ても、培養初期の頃と変化はなく筋型(A型)、脳型(C型)及び両者のハイブリッド分子が見られる。又100万個の培養細胞をマウス皮下に戻し移植したところすべてのマウスで腫瘍形成が見られた。
種々の染色法や脳内への戻し移植による形態学的な細胞の同定を行う予定である。又生化学的な方法としてアルドラーゼパターン以外に神経膠細胞に特異的と言われるS-100蛋白質の検出も試みているが、皮下継代腫瘍にはこの蛋白質の存在する事が抗原抗体反応により確かめられた。
II.S-100蛋白質の精製と抗体の作製
1965年Moore等によって発見された脳に特異的な酸性蛋白質、S-100は、神経膠細胞に存在する事が明らかとなり、これに対する抗体は多くの動物間で交叉反応を示し、神経原性の細胞の同定には有力な指標となると思われる。細胞培養されたマウスの脳腫瘍細胞の同定及び種々の培養条件下でのS-100の消長等を調べる為、まずウシの脳よりのS-100の精製を試みた。
ウシ脳のホモジネートを10,000回転30分間遠心した上清の80%飽和(pH7.2)から100%飽和(pH4.2)硫安分劃をとり、これをデンプンブロックを用いて電気泳動する事により、電気泳動的又免疫学的にS-100と同定される蛋白分劃を得た。以後、DEAE-Sephadexによるカラムクロマトグラフィーで精製しウサギに抗体を作らせる予定である。
:質疑応答:
[勝田]S-100蛋白質の抗体が沢山作れたら、色んな培養細胞を調べてみて下さい。
[安藤]S-100という名前の由来は・・・。
[佐藤茂]100%の硫安にsolubleのSをとってS-100です。
[黒木]分子量はどの位ですか。
[佐藤茂]大体30,000位です。しかしこの蛋白は、シングルではなくさらに数本のバンドに分かれ、それぞれ少しづつ違います。
[難波]種特異性はないのですか。
[佐藤茂]牛のS-100の抗体を兎に作らせますと、その抗血清は鶏にまで反応します。脳の中にしかない蛋白なので、種特異性があまりなくても抗体ができるのでしょうね。
《吉田報告》
最近の染色体の研究の動向:
最近の動向として、分裂期の染色体を特殊な染色、又は処理をすることによって、その構成物質を染め分けようとしている。具体的な方法としては大別して3種ある。
1.キナクリンマスタードの溶液で10分間位処理して蛍光顕微鏡でみる。
2.高温処理、固定後60℃の溶液で処理して普通に染色する。
3.低温処理、0℃に12〜24r.放置してから標本を作る。(この方法は植物ではよく用いられて居る。こうして作った標本は部分的に染色性がおちている)
これらの方法で染めた染色体はバンドができて、1.では部分的に蛍光を発する。2.3.では部分的に染色性に違いが生じる。それらの違いが染色体によってそれぞれ特異的なので、どの染色体が性染色体か、又どれとどれがペアかを決定するのに便利である。
《下条報告》
Con.Aについて:
最近、Con.Aを使って実験をしていて困ったことがあった。Ni63ラベルのCon.Aを使って細胞との結合量を定量的に出そうとしたが、それがCon.Aの凝集のデータと合わない。技術的に何か問題があるのかと困っていたら、最近次のような報告が出た。「H3、I125でラベルしたCon.Aを使って調べてみるとCon.Aの細胞との結合量には差がないのに凝集は細胞によって異なった」、「仙台ウィルスには動物の赤血球を凝集するものとしないものとあるが、凝集する、しないと関係なく、細胞へのウィルスの吸着量は同じであった」。これらの報告とも合わせて考えて"Con.Aが細胞膜に結合するので細胞が凝集する"という説はどうやらウソだと思われる。
【勝田班月報:7111:4NQOによる連結蛋白切断の再結合】
A)ラッテ純系について:
当研究室では約15年前より春日部系の日本産白ラッテより純系ラッテを樹立することを計画し、1963年には皮膚の交換移植試験で全例がtakeされ、今日ではF40に至っている。この系はJAR-1(Japaneas
Albino Rat)と命名されているが、唯一の難点として、産児数及び産児回数が少ないので、実験の進捗がそれに支配されてしまうことである。(表を呈示)そこで今度は産児数の多い純系をさらに作ろうとして、JAR-1のF27の♀と春日部の雑系ラッテの♂とをかけ合わせ、兄妹交配を重ね、今夏遂にF20に達した。この系は産児数も回数も多く、実験に使用するのに極めて適している。最高産児数は18匹である。F20で皮膚の交換移植をおこなったが、これは全例がtakeされた。今後の研究に大いに貢献すると思っている。
B)JAR-2ラッテを用いての培養内発癌実験:
上記のようにJAR-2系が確立されたので、早速それを用いて実験にとりかかることにし、1971-10-3;F21生後10日の♂から、肝細胞及び皮下センイ芽細胞の初代培養をroller
tube法で開始した。
C)JAR-2ラッテを用いての動物内化学発癌:
JAR-2を用い動物継代可能の化学発癌腫瘍を早急に作りたいと目下準備を進めている。
D)軟寒天培地法によるJTC-15及びJTC-16株よりのCloning:
(表を呈示)軟寒天法を用い、JTC-15株(ラッテ腹水肝癌AH-66由来)及びJTC-16株(同AH-7974)より6及び5clonesを拾った。おそらく寒天温度が高すぎたためPEの低かった例もあり、目下再実験を計画している。また以前にJTC-15よりとった7クローンには移植性が見出されたので、今回のclonesについても移植試験を計画している。
JTC-16株のhexokinase活性(isozyme中のIII型)については佐藤茂秋氏と共同で研究を進めているところで、その説明については同氏の記載にゆずる。
《佐藤茂秋報告》
吉田腹水肝癌AH-7974の細胞は、ラットの腹水型として継代されている時は、ヘキソキナーゼのI、II、III型アイソザイムを持ち、その内II型活性が高い。この組織培養系(JTC-16)はI、II型ヘキソキナーゼのみを持ちIII型は見られないが、この細胞をラット腹腔に戻し移植すると、I、II型に加え、III型が出現する。戻し移植して腹水型となった細胞を再び組織培養し、そのヘキソキナーゼアイソザイムを経時的に調べると培養後5週間位までIII型は保持されているが、8週、23週目ではIII型は非常に弱くなった。この細胞について培養後約11週目に、軟寒天上でクローニングを行い5つのクローンを得た。その各々のクローンについてヘキソキナーゼを調べたところ、3つのクローンはI、II型のみを示したが、他の2つはI、II型の他にわずかながらIII型を持っていた。
:質疑応答:
[佐藤茂]解明するための方法の一つとしてdiffusion
chamberを使ってみたいと思って計画しています。ラッテへ復元した時出てくるIII型が宿主由来の細胞からくるものではないかどうか、ということと腹腔内でのIII型の出現を経時的に追ってみたい訳です。
[安村]培養系にはなくて、再培養系にはある。それはよいのですが、拾ったクロンの中にもっとはっきり+のものがないと困りますね。クロンを拾った時期がおそかったのではありませんか。
[高岡]クロンはIII型が+の時期の再培養系から拾いました。拾ってから酵素を調べる間でには大分時間がたっていますが。それからIII型が完全に−という系をラッテへ復元してやはり+になるかという事も問題だと思います。今まで−が+になった実験はクロンを用いていなかったので、単にポピュレーションchangeだろうと言われますから。
[山田]酵素を調べるために必要な細胞数はどの位ですか。
[佐藤茂]10の7乗です。
[山田]10の7乗の中にIII型を持った細胞が何%混じっていると、どの位の濃さのバンドになるかということは判っていますか。何だか1コの細胞を問題にするクロンを拾ったりしていながら、測定が10の7乗の細胞を要するのでは感度が違いすぎる気がしますね。
[吉田]酵素の測定法は・・・。
[佐藤茂]細胞をつぶして遠沈をかけ、上清を使っています。
[黒木]上清だけを調べているとすると、パーティクルに結合している酵素については調べられない訳ですね。
[佐藤茂]実験として液性の方がやりやすいので、先ず上清から始めました。しかしパーティクルにもまだ問題は残っていると思います。
[安村]動物継代している癌細胞の或酵素が培養系にもって行くと消失してしまう。そして動物へ戻すと又出てくる、という話は面白い材料ですが、よく考えてやらないと、結局in
vitroとin vivoの違いとして片付けられてしまう恐れがあります。私も昔ホルモン産生細胞の実験で苦労したことがあります。その場合はクローニングを重ねる事によって産生能を維持できたのでpopulationのchangeの問題でしたが。このAH-7974の系ではIII型を持っているクロンが拾えていないのが困りますね。
[佐藤二]肝癌にもっと特異的な酵素を選んだ方がよくないでしょうか。
[佐藤茂]今の所、特にこれといった酵素が見つからないのです。
[安村]このJTC-16(AH-7974)という株は材料として不適ではないでしょうか。私もこの株で大分実験をやりましたが、どうも変異の幅の広い株で、やりにくかったですね。安定した結論が得られなくて閉口したウラメシイ株ですね。
[堀川]いや、発癌の機構を調べるには、そういう変異の多い分からない材料の方が適していますよ。
[山田]AH-7974は形態をみていても変異の幅が広いようですね。矢張りもう少し変異の幅が少ない方が実験はやりいいでしょうね。
[吉田]私の扱っているγグロブリン産生系の腫瘍もとても変異の幅の広い系ですが、それなりに面白いですよ。変異が多いといっても必ず或るパターンがあると思います。それを見つければいいのです。
[高岡]この系は染色体数もやたらに多くて、調べるのが大変です。
[黒木]こういう実験では染色体は調べなくてもよいでしょう。酵素だけ追えば。
[堀川]染色体の動きも平行して調べるのは又面白いと思います。
[佐藤二]動物の問題ですが、純系の条件は何でしょうか。
[吉田]先ず20代同腹交配をすることです。そして皮膚移植が可能なことでしょうね。
[藤井]皮膚移植でも♂から♀へ植えるとつかない事がありますね。Y染色体のせいでしょうか。それから200日以上して落ちる事もありますから、長期間観察する必要があります。選び方が悪いと26代でもつかなかった例があります。
[佐藤二]私の所の呑竜系は一応同腹交配していますが、染色体がハイブリッドです。
《佐藤二郎報告》
10月30日に仙台で東北医学会例会があり、そこで培養ラッテ肝細胞のアゾ色素による発癌−その現況と問題点−と題して発表を行って来ました。その総括の一部をシェーマにしました。不完全なものと思いますが、討論の材料とします。(3つの表を呈示)(1)の表は横軸に培養日数、縦軸に培養による細胞の変化をとり、最高値でDonryu系ラッテ生後24時間乃至48時間の仔に移植するとTumorを形成する。培養細胞は培養開始後、200日前後で形態学的変化(Diploid
cellの減少)をおこし、次第にその変化を増強して造腫瘍性を獲得する。現在までのDAB発癌実験ではSpontaneous
malignant transformationが進行して動物にTakeする少し前の時期にin
vitroでDABを使用するのが、動物Takeという指標で見る限り最も効果的である。その他の時期のアゾ色素使用では形態学的変化とか生物学的な変化などの指標では変化が認められるが、動物Takeという指標では変化が認められない。(2)表は肝臓をLD培地+20%BSで組織片培養すると肝実質細胞が撰択的に増殖的に増殖する。又炭酸ガス培養でコロニー性のdiploid肝実質細胞(?)が分離されるが、このような細胞とアゾ色素の感受性は未だ明確でない。したがって細胞を均一系にすればするほど感受性の問題を重視しなければなるまい。(3)はRLD-10肝細胞系において3'-Me-DAB添加により動物ラッテ(new
born)に腹水性腫瘍をつくった。その腫瘍の再培養細胞をControlとし更に10μg/mlの3'-Me-DABを添加して動物(new
born)におけるsurvival dayを比較した。survival
dayは再添加によって短くなった。即ち腫瘍性が増殖したことを示す。(4)図は4NQOとアゾ色素の発癌機構の変化を示す。4NQOの場合には一定の濃度によって発癌のprocessがきざまれると、以後発癌剤を加へなくとも細胞の癌化が進んでTumorを復元によって生ずるようになる。アゾ色素の場合には発癌のprocessは連続的な蓄積によって生ずる。又細胞分裂だけでは発癌のprocessの進行はおこらない。
:質疑応答:
[黒木]DABでの悪性化の場合、DAB処理を1回やる毎に腫瘍性が増すということのようですが、具体的なデータとして変異コロニーを数的にチェックなさったのでしょうか。
[佐藤二]そういう事はまだみてありません。その内に調べてみるつもりです。
[黒木]同じ肝細胞系を使ってコロニーレベルで、4NQOでは変異細胞のコロニー出現率が処理をくり返さなくても増えてゆくが、DABの場合は処理毎に増えてゆく、といったデータがあれば判りますが・・・。
[佐藤二]今考えていることは動物レベルで先ずDABによるアデノームを作って、それを培養に移します。そしてその系からクロンを拾って今度は培養内でDABを添加して悪性化させ、その経過をDAB無添加と比較しようと思っています。
[堀川]ターゲットセオリーの立場からみますと、4NQOもDABもターゲットは同じで弱い強いがあるというより、それぞれのターゲットが違うのではないかと考えられます。だとすると、4NQOとDABの両方の組合せで処理すると、もっと早く強く悪性化させられるのではないでしょうか。
[吉田]私もその点に興味をもっています。ターゲットが異なると、できたtumorに差がありますか。
[難波]全く同じものが出来るかどうか判りませんが、少なくとも同じクローンを使えば、4NQOでは肉腫が出来、DABでは肝癌が出来るというような事はありません。
[堀川]ターゲットが違うかどうかという事は、腫瘍性の獲得と腫瘍性の強さとについて比較してみればよいと思います。
[勝田]話としては大変面白いようですが、実験としては難しいですね。
[黒木]4NQOは毒性が強くて有効な濃度の幅が狭いから、実験がやりにくいですね。
[安村]悪性になってtakeされていたものが、つかなくなったというのは、どういう風に考えますか。
[堀川]遺伝的にはターゲットの修復だと考えられます。
[佐藤二]脱癌は今は悪性化のゆきすぎだという事になっているようです。
[吉田]悪性化のゆきすぎとは考えられませんね。戻るとは考えられますが。
[佐藤二]考えてもよいと思いますが。なぎさ細胞などもそうではないでしょうか。
[勝田]なぎさの場合は培養内で無方向に変異して抗原性までが変わってしまったので、もとの動物にtakeされなくなったのではないかと考えています。
[吉田]遺伝的には悪性を担う遺伝子が落ちて、動物につかなくなるという考え方は明快だと思います。
[安村]悪性度が増して生体が受け入れ難いような変なものが出来たとしたら、生体側の反応が起こって処分されてしまって、takeされないという結果になる事も考えられませんか。細胞レベルの証明だけでは癌の問題はとても解決しませんね。
[吉田]しかし今議論して居るのは細胞レベルの問題です。
[難波]4NQOを何回も処理して悪性化させた場合の実験で、処理5回でも一応動物にtakeされるようになるのですが、可移植性を維持できない。しかし20会処理をくり返すと矢張りtakeされ、且つその可移植性はずっと維持できるというデータを持っています。
[勝田]発癌剤の処理後takeされるまでに何故日数が必要かという問題はどうですか。
[吉田]染色体の中の遺伝子が1コ変わっただけで悪性化する場合は、すぐ変異するはずです。ショウジョウバエの場合などその1例で実に簡単に癌化します。哺乳動物ではきっと悪性化に関係する遺伝子が1コではないので、悪性化に時間がかかるのでしょう。
[高木]私の例では培養開始後、若い時期にNGを処理すると処理後悪性化までに長くかかり、培養日数がかなり長いものを処理すると処理後短い期間で悪性化した。つまり培養する事だけで癌化への変異が少しづつ進んでいるように考えられます。
[安藤]最初の障害が次々と変異をよぶとも考えられますね。DNAポリメラーゼに変異が起こるという事は、既に知られている事でもありますから。
[勝田]しかし、癌化は或るターゲットがやられるだけとは考えられませんね。同じ場所がやられるなら、同じ癌が出来てもよさそうなものでしょうが、同じDABで処理しても色んな腹水肝癌ができるのですから。
[吉田]それも原因か結果か難しいところですね。もっともっと数多く調べると何か最少公約数が判るのではないでしょうか。
[安村]先程話の出たショウジョウバエを使って発癌機構を調べれば簡単でしょうが、哺乳動物とは大分ちがうでしょうね。
《難波・佐藤報告》
N-55 DABで悪性化した細胞の増殖及び細胞凝集に及ぼすConcanavalinAの影響
月報7102、7110にConAの実験データを報告した。それらの報告では、4NQOで変異した細胞も、DABで変異した細胞も、その増殖は発癌剤未処理対照細胞の増殖と比較してConAによって特異的に抑制されなかった。
今回、医科研癌細胞研究部よりConAの新しいLot(Calbiochem
Lot 010229)を頂いたので、そのConAの、1)DAB未処理対照細胞とDAB変異細胞との増殖に及ぼす影響。2)両細胞に対するConAの細胞凝集能に及ぼす影響。3)ConA処理による細胞の形態的変化。を検討した。
結果:
1)ConAの細胞の増殖抑制作用は(表を呈示)、対照細胞と変異細胞との間に有意の差はなかった。(500μg/mlで6時間、37℃処理後、2日培養後の結果)
2)凝集に及ぼす影響も、両者に差がなかった。ConA、wheat
germ agglutinin、rathenium red(RR)、phytogemagglutininについても調べた(表を呈示)。多糖体の染色に利用するRRは、細胞膜に結合し、細胞凝集をおこす可能性がある。しかし、この実験では1mg/mlの濃度で凝集はみられなかった。
ConAによる凝集は非常にきれいにおこる。(それぞれの写真を呈示)PBSに細胞を浮遊させたものでは、細胞の凝集はおこらない。500μg/ml、6hr、37℃処理後の所見、48時間後の変化は胞体内の空胞化が目立つがSudanIII染色で陰性であった。一部には脱核した細胞が認められる。
N-56 ConAのDAB悪性変異細胞の動物移植性に及ぼす影響
DABで培養内で悪性変化した細胞を動物に移植し、生じた腹水腫瘍の移植性に及ぼすConAの影響をみた。
10の7乗コの腫瘍細胞を2mg/mlのConAで37℃30分処理後10の7乗宛動物の腹腔に移植し、その生存日数を比較した。その対照にはConAの溶媒PBSで同処理した細胞を用いた。
実験結果は(図を呈示)両者とも差がなく、ConA処理細胞を接種された動物の平均生存日数も未処理細胞を接種されたそれも、ともに49日であった。
:質疑応答:
[永井]悪性化していない対照群も凝集するのは何故でしょうか。
[難波]初代培養と株化した細胞では膜がもう変わっているのでしょう。
[永井]ConAによる凝集が癌と正常とで違いがあるという事が本当なのかどうか。或いはウィルスによる発癌の場合だけConAに親和性のある特定の構造をもったサイトが出来るという事なのか、といった事をもっとはっきりさせたいですね。
[黒木]凝集することに違いがあるのは当たり前で、結合量の方に問題があるのではないでしょうか。
[山田]処理直後の細胞の形態的変化は、みる所表面活性剤を作用させた時によく似ていますね。
[安藤]ウィルス発癌の場合もサイトの数的な違いで、質的な違いは判りませんね。
[勝田]とにかく凝集そのものが定量的でなく定性的ですからね。
[永井]そのせいか、出して居るデータはきれいでも、その研究室に行ってやらないと同じデータが出ないという妙な事もあるようですね。それから、核の抜けてしまった像がみられましたが、あれはどういう事でしょうか。
[難波]判りません。空胞が出来るのも何故か考えてみています。
《高木報告》
1.混合移植実験
1)isologousな移植系
これまでのdataをまとめてならべかえてみた(図を呈示)。腫瘍細胞であるRRLC-11細胞1,000〜10にRFL細胞100万個、1,000個混じて移植した場合のTPD50はそれぞれ16、6及び10で、これらの間に有意の差はみられなかった。すなわちRRLC-11細胞は腫瘍形成能が強いせいがあるかも知れないが、非腫瘍細胞たるRFL細胞を混ずることにより造腫瘍性に影響はみられなかった。LD50についてみるとRFL細胞100万個混じたときやや促進、1,000個では抑制の傾向がみられた。
2)homologousな移植系
移植するラットの系に対してhomologousなoriginである腫瘍細胞RG-18の1,000〜10にRFL細胞100万個、1,000個混じた場合、および混じないで腫瘍細胞のみ移植した場合のTPD50は、それぞれ100、400および250で、RFL細胞100万個混ずるとRG-18細胞の造腫瘍性に促進の傾向が、1,000個混じた場合には抑制の傾向がみられた。RFL細胞を100万個混じた際の造腫瘍性促進についてはRG-18が移植されたhomologousな宿主に定着して増殖をはじめる間、RFL細胞が生体の免疫学的な拒絶反応からこれを守るか、あるいはfeederとしての役目を果す可能性を示すと思われる。しかしRFL細胞を1,000個混じたときむしろ造腫瘍性を抑制する傾向がみられることについては解釈が困難である。
LD50についてもRFL 1,000個混じたときやや抑制の傾向がみられる。
2.腫瘍細胞と正常細胞との培養内における相互作用
先の班会議でRRLC-11さいぼうとRFL細胞とを混合して培養内でコロニーを形成せしめるとRFL細胞のコロニーの一部に変性がおこり、さらにRFL細胞よりコロニー形成をくり返してえた純化された亜株とRRLC-11細胞とを混合して培養すると、細胞の種類によりRRLC-11細胞との共存における反応の仕方がことなり、RFLC-3細胞は殆ど完全に変性をおこすことを報じた。今回はRFLC-3を示標としてRRLC-11が培地中に放出する細胞毒性を示す物質につき、いささか検討を加えてみた。
まずRRLC-11細胞の電顕写真をとってみたが、培養7日をへた細胞でわずかながらC粒子が認められた。その培地を30,000rpm1時間超遠心してその上清について超遠心しない培地との比較において毒性を調べてみたが、毒性はわずかに低下している程度で超遠心による影響はまずないと考えられた。ウィルスによる可能性は否定してよいのではないかと考える。次いでRRLC-11細胞ならびにRFL細胞をTD-40に3本ずつ1本あたり20万個の細胞を植え込み、培養3、6、9日目に培地をあつめて各々poolしその直後にRFLC-3培地に加えたものを対照として毒性を比較した。培地は新鮮培地に50%の割に加えた。(図を呈示)培養日数が進むと共にRFLC-3の培地を加えたときのRFLC-3細胞の増殖は低下したが、RRLC-11細胞の培地を加えたときも同様培養日数と共に増殖抑制度がつよまり、RFLC-3の培地を加えたときの細胞増殖を100とした場合RRLC-11による抑制度は大体一定で90%前後であった。さらにRRLC-11培地を加える濃度による毒性作用の差異をみるため50%、20%、10%、5%と新鮮培地に加えてRFLC-3細胞の増殖に及ぼす効果をみたが、5%のときやや毒作用が劣るが10%以上では有意と思われる差はみられず、以後の実験では20%加えることとした。
またvisking tubeを用いて限外濾過し、その内、外液について毒性作用を調べたが、外液には濾過しない培地と同様な効果がみられた。なお内液にも毒性作用がみられたが、これは内液にこの物質が残っていたためと考えられ本物質は低分子であることが予想された。さらに濃度に対する影響など目下検討中である。
:質疑応答:
[山田]混合移植の実験はあれだけのデータを出すのも、なかなか大変だったろうと思いますが、どうもはっきりした結論が出ませんね。
[安村]一度に頭数を揃えて復元したデータではないので、統計的な処理も難しいと思いますが、統計の専門家に見せると又何かうまい処理法があるのではないでしょうか。
[高木]結局homologousの系では正常細胞を混ぜるとラッテへのtake率や延命日数がやや促進気味だと思われます。
[安村]まあpoor correlationという表現ならよいでしょう。
[永井]毒性物質の方の話で、その物質は癌細胞に対しても何か作用がありますか。
[高木]癌細胞にはやってみていませんが、正常細胞に何種類か添加してみました所、細胞によって影響され方に大分違いがありました。
[佐藤二]腫瘍の起源と正常の起源とに何か関係がありませんか。
[高木]全部fibroblastsです。
[勝田]fibroblastといっても臓器によって違うのではないかと常々考えています。
[高木]私も今度は他の臓器からfibroblastをとってみようと考えています。
[佐藤二]動物に接種してから又再培養にもってゆくと、よくfibroblastが混じってきますが、それなども調べてみるとよいでしょう。tumorの増殖をin
vivoで阻害して居る格好のfibroblastの働きなどもin
vitroで調べてみると面白いと思います。
[安村]いや案外tumorの中のfibroblastを拾うのは難しいですよ。
《梅田報告》
各種mycotoxinをHeLa細胞に投与して惹起されるDNA
strand breakについて報告してきた。月報7108、7109にdouble
strand breakについて述べた。今回は今迄の報告も加え、回復実験の結果を合せ報告し、総まとめしてみる。(それぞれに図、表を呈示)
(I)Patulin:月報7109で述べた如く32μg/ml投与1時間後に中性蔗糖密度勾配法で検索した所、bottomより11本目、10μg/ml投与では3本目に単ピークが現れた。32μg/ml処理1時間後、培地を洗い去って新しい培地で更に培養を続けると、この場合は1時間処理直後bottomより9本目にあったピークが、2時間後には11本目、5時間後には15本目にピークが移り、double
strand breakは更に切断が時間と共に進む様な像を呈した。
(II)月報7109で述べた如く、1mg/ml投与1時間後の検索でbottomより14本目、320μg/ml投与1時間後の検索で3本目に単ピークが現われた。この場合の回復実験の結果は、少くとも検索した3時間迄の回復培養では回復してこなかった。
(III)Luteoskyrin、rubratoxinB、FusarenonX:月報7109で述べた如く中性蔗糖の検索で、しかも24時間処理の長期間処理後の検索でもbreakは認められなかった。
(IV)aflatoxinB:月報7108で述べた如く、32μg/ml投与後24時間目にアルカリ蔗糖密度勾配での遠心結果はbottomにcountのばらつきが認められ、更に回復培養5時間24時間と経るにつれ、ばらつきはなくなり、底に放射能があつまってくることが観察された。
中性蔗糖での結果は月報7108で述べた如く、アルカリ蔗糖での結果と同じ様に、32μg/ml
24時間処理でbottomより6本目にピークが現われ、breakの生ずるためには長時間処理が必要なことがわかる。このbreakは回復実験で明らかに回復の進むことがわかる。
(V)以上の結果を昨年報告したsingle strand
breakの結果と合せまとめた。
(VI)之等mycotoxinのHeLa細胞に対する致死濃度(増殖阻害)、H3-TdR、H3-UR、H3-Leuの摂り込みによるDNA、RNA、蛋白合成をおさえる濃度を並べた(表を呈示)。致死濃度はmycotoxin投与3日後に細胞が殆んど死滅する濃度であるが、DNA、RNA、蛋白合成阻害の実験は、作用後2時間での夫々の摂り込みの50%阻害を起す濃度を示してある。したがって時間の因子を考えながら参考にする必要がある。
Patulinは投与後阻害が非常に強く早く起り致死濃度よりずっと低い濃度で合成阻害が生じている。Penicillic
acidはDNA合成が強く阻害されるが作用2時間での50%合成阻害濃度が殆3日後の致死濃度に近い値を示している。
之等に反しLuteoskyrinは致死濃度より10x以上も濃い濃度で合成阻害が現れており、このtoxinが非常に遅効性であることを示していると思われる。
RubratoxinBはPenicillic acidに近い像を示している。FusarenXはDNA、蛋白合成阻害が特異でその作用は直接的速効的に致死効果につながることを示唆している。AflatoxinB1はDNA、RNA合成阻害がやや強く、Penicillic
acidに近い像を示している。
(VII)作用の上からはVIの如くであるが、これを今回報告したstrand
breakの結果とを合せ大胆に考察してみると、Patulinは直接的速効的toxinにも拘らず致死濃度の3倍も濃い濃度を投与しないとbreakが生ぜずしかも回復が認められないのはPatulinの作用がlysosome
emzymeの活性化にあってもよい様な解釈が成り立つ。この点実証してみたいと計画している。Penicillic
acidもこの様な作用があってもよい可能性がある。
AflatoxinB1は相当高濃度1時間作用でbreakが生ぜず致死濃度附近で24時間作用させた時breakの生じたことは、AflatoxinB1がLuteoskyrinの様な遅効性作用を持っていると解釈され、標的オルガネラに達するのに時間を要するのか、又化学的修飾をうけproximateの作用物質になるのに時間を要するのか、今後の検討により解明される可能性が強い。ここでLuteoskyrinの場合も含め、AflatoxinB1の場合は生体での標的臓器が肝であることから、使用している細胞に問題があるので今後検討したい。更に大胆になればsingle
strand breakはAflatoxinB1の場合比較的軽いのにdoubl
strand breakの方がはっきりとbreakが認められしかも回復が認められた点、AflatoxinB1が実際に安藤さんの云うlinker
proteinだけに作用して切断を惹起し、本来のDNA
double strandにbreakは生じさせない(single
strandも含めて)のかも知れないと考えている。
以上の想定を作業仮説として、今後更にこの問題を追求する予定である。
:質疑応答:
[佐藤二]一重鎖は切らないが、二重鎖は切るという物もありますか。
[堀川]理論としては二重鎖が切れれば一重鎖は必ず切れるということになっています。そして二重鎖の切れ方より一重鎖の切れ方の方をもっと問題にした方がよいと思いますね。遠沈条件はもう少し工夫するとよいでしょう。アフラトキシンのデータで、24時間で少し切れるというのは一度切れてから修復されつつある所の像ではありませんか。
[勝田]DNAの一重鎖、二重鎖の切断と発癌性はpoor
correlation?
[安藤]二重鎖切断で4NQOの場合は、蛋白部分が切れると考えているわけですが、梅田班員の場合はどうか知りたいですね。それから濃度を変えると切断、回復の像も変わってきますから、それも調べてみて下さい。
[黒木]ピークがシャープすぎるのが矢張り気になりますね。方法を変えても同じデータが出るでしょうか。
[野瀬]細胞を別の試験管の中で壊しておいて、層の上にのせ、遠沈するというやり方だとシングルピークにはなりません。
[堀川]しかし、この方法で遠沈してもX線の場合はシャープなピークにならず、だらだらしたピークになります。ですからシャープなものはシャープなのでしょう。
[安藤]細胞数を減らして、塊の出来る可能性を無くしてみましたが、むしろSバリュウは大きくなりました。ピークがシャープな事は同じでした。
[勝田]培地に添加したトキシンが活性を維持できる期間もみておく必要がありますね
[佐藤茂]AflatoxinはDNAに直接に作用しますが、他の物については判っていますか。
[梅田]よく判っていないようです。
《安藤報告》
I.4NQOによる連結蛋白質の切断の再結合
4NQOは細胞内で代謝され、DNAの一本鎖切断と同時に連結蛋白部分の切断を惹起する。この切断部分は細胞の回復培養によって修復される。その修復機構を調べるために、回復培養時に種々の代謝阻害剤を加え、この切断の修復反応を調べた。先ずDNA合成阻害剤Hydroxyurea(HU)、ara
C、FUdRをそれぞれの濃度で回復培養に添加する。記載の時間培養後分析した。(それぞれ図を呈示)4NQO処理10-6乗M30分後、回復6時間後、HU、araC、FUdRについて、HUは多少問題があるが、araC、FUdRの結果から明らかにDNA合成90%以上の阻害条件下にも連続蛋白切断は修復されている。
次にactinomycinD(AcD)(RNA合成阻害90%以上)の場合には、DNA合成阻害の場合と同様に殆どcontrolのレベル迄回復していた。最後に蛋白合成阻害剤cycloheximide、puromycinの場合にも、同様に蛋白合成90%以上阻害条件において、ほぼ完全な修復が起っていた。なおcycloheximide
5μg/mlの場合にもrepairは起った。
以上の事実から、4NQOによる連結蛋白質の切断の修復にはDNA、RNA、蛋白質の新たな合成は必要でないと思われる。そこでこれ等三種類の高分子合成以外の生体成分の合成に必要なATPの産生を阻害したらどうであろうか。(図を呈示)種々の阻害剤存在下に回復培養を行った所、殆どの場合完全に修復反応は起ってしまった。したがって、細胞内の既存のATPプール以上にはエネルギーを必要としないようだ。
それでは一体この修復反応はどのような機構でなされているのであろうか。月報No.7105に記載した如く、この回復培養を低温で行った場合には修復は阻害された。
以上の諸事実を考え合せると、この修復機構としては次のような推定が出来るのではないだろうか。
(1)4NQOによる障害は連結蛋白の酸化還元、解離等による切断でありATP補給を不要として再結合が起る。(2)4NQOによって障害を受けた蛋白はDNAから離れてしまい、回復培養時に細胞内プールに在った連結蛋白が補給され修復される。
(1)の場合には障害を受けた蛋白自体が修復されるのに対し、(2)の場合には、末梢蛋白との入れ替りを仮定したものである。
II.4NQO誘導体の発癌性とDNA切断の関係
先に癌センター川添さんより分与された4NQO誘導体の発癌性とDNA鎖切断、unscheduled
DNA合成の有無の関係をみると、発癌性(川添氏により、mouseに皮下注射して調べられた)と、一本鎖切断(安藤等のL・P3によって検討されたデータ)、unsch.DNA合成(川添らの論文)の関係は非常に優れた相関を示している(表を呈示)。但し4NQO6C(4NQO
6 Carboxylic acid)の場合のみ一本鎖切断が見られていない。これは、この化合物が極めて強い水溶性を持っている事に原因するのかもしれない。更に検討する予定である。二重鎖切断に関しては今回は三種だけだが、今後はっきりする予定である。
:質疑応答:
[堀川]HUは製品によってむらがあります。精製すると効かなくなります。
[佐藤二]低温で回復しないという場合、もっと時間をかけると回復しますか。
[安藤]まだやってみていません。
[難波]回復しない10℃で細胞は死ぬのでしょうか。37℃に戻すと回復しますか。
[安藤]判りません。
[佐藤二]処理濃度が低くても矢張りシャープなピークになりますか。
[安藤]なります。
[佐藤二]もし本当に蛋白を切るなら濃度が薄くても同じように切れるのは変ですね。
[安藤]作用がランダムではないと考えている訳です。
[乾 ]染色体レベルでみても核酸に作用する薬剤をかけると、クロマチドの切断を起こすようですが、発癌剤によっては切断を起こさない物もあると言われています。
[黒木]AAFやDABはunscheduled DNA合成を起こしません。今までの発癌性、変異性、それに蛋白や核酸との結合といった問題に、更にDNA切断に、unscheduled
DNA合成と、いろいろ絡んできたということですね。
《山田報告》
4NQO処理後122日目のラット肝細胞RLC-10-C#2の其の後の電気泳動的変化は、前回に比してノイラミダーゼ感受性は増加して居ませんが、若干細胞の構成純度内低下がみられ、バラツキが出現して来ました(図を呈示)。この成績を前々回の実験で行ったCQ60と比較しますと、4NQO処理後145日のそれと今回の成績は類似しています。従ってCQ60の株と同じ様な変化をたどって居るのではないかと推定されました。今後の変化を追求したいと思っています。
電気泳動による細胞分劃装置"Elphor"についての基礎実験−その後の成績;
電気泳動的に異なる細胞を分離出来れば、変異細胞を撰択的に採取して増殖させることが出来るので、昨年購入した"Elphor"の装置についての基礎実験を重ねて来ました。しかしまだうまく実用化出来ません。(物質やSubcelluler
fractionなどは簡単に出来ます。) その理由は泳動のメヂウムに低比重液を用いると、細胞が重力により速く沈降したりまた細胞を注入する管の中で沈殿してしまいうまく分離できず、高い比重液をメヂウムとして用いると、粘稠度が高くなり、細胞の移動に対するメヂウムの抵抗が大きくなり、泳動による分離条件としては細胞の表面荷電の差よりも、むしろ細胞の大きさの差の方が重要になり、なかなかうまく分離出来ないためです。それ故なるべく低粘稠度であり、しかも高比重液を探して種々調整しました。(MT:Tris-malate
bufferの表を呈示)そして異る粘稠度液内におけるラット赤血球とEhrlich癌細胞の泳動度を通常の測定装置で測定してみますと、メヂウムの粘稠度如何では相互の泳動度の関係は逆になってしまうことがわかります。すなわち高粘稠度の液内では大きい細胞の(3〜4倍)のEhrlich癌細胞の方が、小さい赤血球より遅くなり、低粘稠度のメヂウム内では、むしろ前者の方が速くなります。通常のM/10ヴェロナール液では、ラットの赤血球は1.15μ/sec/V/cmで、Ehrlich癌細胞のそれは、1.50〜1.70μ/sec/V/cmの泳動度を示し、明らかに後者の方が速い泳動度を示します。
一夏、種々工夫して来ましたが結論としてあまり大きさの異る細胞の分離はあきらめて、むしろ類似の大きさで、しかもその表面の荷電密度の異る細胞の分離の条件をみつけることに、研究をしぼることにしました。in
vitroでの培養下において悪性化した細胞は、その母細胞より2倍以上の大きさになることはまずないと考へられるからです。類似の大きさの細胞を分離するのでしたら、その粘稠度はあまり影響して来ないので、SucroseとFicollを混合した液を用いることにしました。この液内では細胞が容易に沈降せず、分離がきれいに行くと思われるからです。
《堀川報告》
これまでにわれわれはHeLaS3細胞をMNNGで処理することによりS-1M細胞、S-2M細胞と名づける紫外線感受性細胞を分離したことについて報告してきたが、こうしたUV感受性細胞ではUV照射により、DNA中に誘起されたThymine
dimer(TT)の除去機構がnormalに進まず、HeLaS3原株細胞がUV照射後6時間までにDNA中のTTの50%を切り出すのに対して、S-1M、S-2M細胞では約9%しか切り出さないと言う結果が得られている。
さて問題は、こうしたS-1M細胞、S-2M細胞はTTの切り出し機構のどの部分が欠損しているかと言うことである。
すでにヒト遺伝病Xeroderma pigmentosumの患者から得られた細胞ではUV照射によって誘起されたTTの除去のためのfirst
stepであるnicking enzyme(endonuclease)が欠損しているためTTの切り出しが正常に進まないことがCleaver達によって証明されている。われわれの得たUV感受性細胞がこれと同じtypeの変異細胞であるかどうかを検討するため200ergs/平方mmのUVで照射した直後と照射後5時間incubateした後のHeLaS3原株細胞とS-2M細胞のDNAをアルカリ性蔗糖勾配遠心にかけて生じる切断量を調べてみた結果を図で示す。200ergs/平方mm照射直後のDNAの沈降像、200ergs/平方mm照射後5時間incubateしたのちの両者のDNAの沈降像をみると、HeLaS3原株細胞ではUV照射直後にすでにTT切り出し用のnickingが入るがS-2M細胞では照射直後ではnickingは殆んど入らず、照射後5時間目でもほんの僅かしか切断が起きないことが分かる。以上の結果はわれわれの得たUV感受性細胞はXeroderma
pigmentosumの患者由来の細胞と同じくnicking
enzymeの欠損株であるように思われる。尚おexonuclease(除去酵素)の欠損株が得られるか否か現在検討中である。
【勝田班月報・7112】
《勝田報告》
§各種細胞のLDH及びG6PDH酵素活性について
細胞が培養内で癌化したことを、少しでも早く知り得る指標があればという願いの下に、これまで様々の努力が重ねられてきたが、その一環として細胞の酵素活性、とくにisozymeの変化をしらべてきた。これは主として野瀬君と加藤嬢の労力によるものである。
分析法(表)と結果(図)を呈示する。
RLC-10Bという系は培養内でspontaneous transformationoを起した系で、originはラッテ肝細胞。JTC-16はAH-7974由来であるが、長期継代後も珍らしくも動物への復元能を維持している。JTC-21・P3とJTC-25・P3とは、ラッテ肝由来で、"なぎさ"培養で変異し、その後無蛋白・無脂質の完全合成培地内で、継代している亜株である。同じくラッテ由来でありながらも、夫々の間にきわめて相違がみられ、一貫した特性などは見出されない。
L-929と合成培地継代のL・P3とは、LDHでもG6PDHでも、いずれも似たprofileを示している。なお、JTC-25・P3とL・P3とは形態がきわめて似て居り、G6PDHでは区別がつかなかったが、LDHのisozymeではJTC-25・P3が明らかに1本多いbandを持っていた。
HeLa・P3は、当研究室でもはや原株のHeLaを維持していないので、原株との比較はできなかったが、かなり数多いbandを見せているのが面白い。
Rt muscle以下の欄は、培養細胞ではなく、動物から取出した組織の像である。従ってそこには何種類かの細胞が混在していることを承知していなくてはならない。
悪性化との関連については、目下検討を進めているが、この調子ではあまり希望がもてそうにもない。せいぜい株間の同定に使える位ではないかと考えている。
《難波報告》
N-57:癌化の指標を探す試み −DAB未処理対照肝細胞(PCC-2)とDAB処理悪性化肝細胞(PCDT-2)とに於けるH3-DABの細胞内へのとり込みの比較−
化学発癌剤によって、培養内の発癌実験を試みる場合、その発癌剤の「ツメ跡」を感化した細部に見い出すことができれば細胞の癌化の機構を解明する手掛を掴めるかも知れない。
今回は、PCC-2細胞とPCDT-2細胞とに於けるH3-DABの細胞内へのとり込みを検討した。
PCC-2:単個培養したラット肝細胞PC-2系よりのColonial
clone。
1027 total culture days。
PCDT-2:培養内で5μg/mlDABを計53日処理して、悪性化した細胞PC-2系を復元して生じた腹水腫瘍の再培養。
1)RadioautographyによるH3-DABのとり込みの比較
PCC-2及びPCDT-2細胞をカバーグラスを入れた小角ビンにまき、2日後H3-DAB(50μCi/ml、1.1x10の4乗dpm/ml、10μgDAB/ml)を含む培地にかえ、更に2日培養を行なった。(予備実験で、H3-DAB投与後の1hr、24hr、48hr、72hr後のRadioautographyを行ない、その結果実験は48hr後に終ることにした)。その後カバーグラスを37℃PBSで3回洗い、5%TCA(4℃、1hr)で固定、アセトンで3回洗い(細胞中の遊離DABを洗い出す)、Dipping、18日間Expose、現像、ギムザ染色して、200コの細胞内の銀粒子数を数えた。
その結果(図表を呈示)、DABで悪性化した細胞の方が、対照細胞に比べ、H3-DABをよくとり込んでいることが判る。
2)液体シンチレーションカウンターによる、H3-DABのPCC-2及びPCDT-2細胞へのとり込みの検討
細胞のH3-DAB処理法は1)の場合と同じである。H3-DABを48hr細胞に与えた後、37℃PBSで3回細胞を洗い、5%TCAで2回洗滌(4℃、1hr)、その後アセトンで3回細胞を洗った後、Toluen100で細胞を溶解し、トルエンシンチレーターに入れ、液シンで測定した。
その結果は、細胞1コあたりにとり込まれるH3-DABは、DAB処理悪性化細胞の方が、対照細胞に比し多かった(表を呈示)。
以上の、1)、2)の実験結果をまとめると、PCC-2、PCDT-2両系の細胞のDABとり込みには差がなかった。
一般に動物のDAB肝癌には、DAB結合蛋白が欠損していると云われているが、今回の培養肝細胞を使っての実験結果からは、細胞内のDAB結合蛋白の有無について何も云えない。その理由は、(1)PCDT-2は5μgDAB/ml
53日処理しているが、このDABの処理ではDAB結合蛋白を欠損させるのに不十分である。(2)PCC-2、PCDT-2両系の細胞中にみられるDABが実際に細胞内のDAB結合蛋白に結合したものか否か。(3)細胞中の銀粒子数及びTCApptのカウントは、DABそのものか、又は、DABの分解産物なのか。(4)培養細胞であるので、貪喰能が昂進しており、その結果、癌化の機構とは関係なく、細胞内にDABが入る。(培地中の牛血清アルブミンが、培養肝細胞に入っている別の実験データより、培地中のアルブミンに結合したDABが細胞に入っている可能性がある)。
《高木報告》
腫瘍細胞(RRLC-11)と非腫瘍細胞との培養内における相互作用:
RRLC-11細胞が培地中に放出する毒性物質に関し、これまでに判ったことをまとめてみると次のようになる。
1.virusによる可能性
培養9日を経た細胞でわずかにC粒子を認めた。培地を30000rpm1時間遠沈してその上清につき検討すると、毒性はほとんど上清中に残っている。virusなら上清に活性は残らないはずである。またC型virusでcytolyticな効果をおこすことは考えにくい。従ってvirusによる細胞毒作用と云うことは考えられないと思う。
2.培養日数による毒性のちがい
RRLC-11細胞培養のどの時期の培地をとっても毒作用に大きな差は認められなかった。
3.RRLC-11培地添加濃度による毒性のちがい
50%、20%、10%および5%について検討したが、10%までに有意の差は認められず、5%にするとやや毒性がおちるようであった。
4.RRLC-11培地限外濾過の影響
visking tube(pore size 24Å)を使用して限外濾過を行ったところ、毒性は外液において濾過しない培地と同等に認められた。すなわちこの毒性物質は低分子であることが想像される。
5.温度の影響
1)RRLC-11培地、56℃30分および56℃2時間加熱しても毒性効果の低下は認められない。
2)RRLC-11培地を4℃に保つと8日目頃迄は可成りの毒性を示すが12日目以後は低下する。
ついでRRLC-11細胞と種々細胞との混合培養を行っているが、現在までのところ、RFLC-3細胞は完全に変性、RFLC-1細胞は全く影響を蒙らず、また、LC-14細胞(ラット肝由来)は部分的に変性をうけているようである。RFLC-5細胞についてはさらに検討中である。
《堀川報告》
MNNG-UVlight-BUdR-visible light法という一連の処理を繰り返すことにより、われわれはHeLaS3細胞からS-1M細胞(一回処理群)、あるいはS-2M細胞(二回処理群)と名づけるUV-感受性細胞を分離したが、これらのUV-感受性細胞においては、UV照射によりDNA中に形成されるTTの除去能力が極度に低下していて、その原因としてTT除去の第1stepであるnicking
enzyme(endonuclease)が欠損した細胞株であることはこれまでの実験で証明してきた。
さて、こうしたUV-感受性細胞(S-1MまたはS-2M細胞)の出現機構に関してであるが、(表を呈示)第1表に示した結果からみると、S-1M細胞はMNNGで処理したHeLaS3細胞からのみ出現し(4個のコロニーとして)、MNNG未処理群からは出てこない。またS-1M細胞を繰り返し処理した場合にも、出て来るコロニー数はMNNG再処理群で有意に多いことが分かる。こうした事からわれわれの分離したXeroderma
pigmentosum likeのUV感受性細胞は、MNNG-induced
mutant、つまりsomatic cell mutationで説明出来るように思われたが、これを更に確認すべく、第2表(表を呈示)に示すように2000万個細胞をそれぞれ100万個ずつ20本の培養瓶に入れて培養し、1群(10本)は前回と同様に0.5μg/ml
MNNGで24時間処理し、以後前回とまったく同様にUV
light-BUdR-visible light法で処理すると、第2表に示すようなコロニー数が各培養瓶から得られ、平均して2.3コロニー/培養瓶という結果になった。一方残る一群(10本)は対照群としてMNNGでは処理せず、以後UV
light-BUdR-visible light法で処理することにより平均して1.6コロニー/培養瓶という結果が得られた。
この結果からみるとMNNG処理群と未処理群から出て来たコロニー数には、それ程大きな有意差は認められないで、第1回目の実験結果から示唆しようとしたMNNG-induced
muta-tionの考え方を是正せねばならないようになった。然しここで問題なのはMNNG処理群または未処理群から得られたそれぞれ23と16個のコロニーが、すべてUV-感受性であるかどうかを検討する必要性がある訳で、23個と16個のコロニーのうちには必ずしもUV-感受性細胞でないものが、isolation
procedureのどこかの過程で抜け道をみつけて出て来ている可能性もあるであろう。
こうして真にUV-感受性でないものをeliminateした上でないとHeLaS3親細胞からUV-感受性細胞の出現機構について、結論を下すことは出来ない。その為の解析が現在、replica
plating培養法で進められているので今しばらく結果をおまちいただきたい。
《佐藤茂秋報告》
吉田腹水肝癌AH-7974細胞の培養系JTC-16は、in
vitroではI、 型ヘキソキナーゼ活性しか認められないが、ラット腹腔に戻し移植するとI、 型に加え 型のヘキソキナーゼが現われ、動物で継代移植されている細胞と同じ表現形質となる。JTC-16細胞をラットに戻し移植し再び培養系に移すと時間の経過と共に 型活性が消失していく。又この再培養系をクローニングすると、 型を持つものと持たないクローンが出来た事は前回報告した。in
vivoで 型が出現する機序を調べる為JTC-16の細胞1,000万個を血清を含まないMEM培地にsuspendし、diffusion
chamberに入れてrat腹腔に挿入し、経時的に細胞をとり出し、そのヘキソキナーゼパターンを調べた。2日目では細胞数は約2倍となっており、I、 型に加え 型ヘキソキナーゼが著明に認められる様になった。4日目では細胞数は約1.3倍となっており、viabilityも低下していた。ヘキソキナーゼ活性も非常に弱かったが、 型が認められた。diffusion
chamberはintactでありdiffusion chamber内へのhost側の細胞の侵入は考えられない。以上の事実はJTC-16の細胞をin
vivoへ戻す事により、 型ヘキソキナーゼがinduceされる事を示唆するが、より確実なものとする為、クローニングした細胞を使って、観察期間をより細かくした時の実験を計画している。
《梅田報告》
月報7110に次いでラット肝及び肺培養細胞に各種物質を投与した時の核小体の形態的変化について述べる。
(1)ActinomycinD(0.0032μg/ml)を肝培養に投与すると、肝実質細胞の方がやや強くおかされる。しかし肝実質細胞は核が暗く染り、核小体はかえって大き目である。間葉系細胞の方は核は大き目で核質はややdottyになるが核小体は丸く小さい。
ラット肺培養に投与した時は肝培養の時の間葉系細胞と同じ様な反応で核は大き目で明るく核小体は小さい。
(2)Methylcholanthreneを、肝及び肺培養細胞に投与してみた。肝培養に10μg/mlの濃度で投与しても障害は強くなく、細胞の増生は対照よりやや減じている程度である。肝実質細胞も間葉系細胞も同じ程度に減じている。肝実質細胞は核質がやや濃縮ぎみの感じを与えるが核小体はそれ程小さくなっていない。丸味は帯びている。間葉系細胞の方は核はやや大き目のものが多く核質は明るく、核小体が小さくなっていた。
肺培養に投与した時も10μg/mlで肝培養の間葉系細胞と同じ反応を示している。
(3)Benzoyloxy-MABを肝培養に投与すると、10-3.5乗Mで肝実質細胞は完全に脂肪変性→壊死におちいる。間葉系細胞も4日間培養した場合は壊死におちいるが、2日目の所見では核の大小不整は著しくなり、核質は明るくぬけた様になり、核小体はやや小さい程度でそれ程小さくならない。10-4.0乗Mで殆対照と同じ位の肝実質細胞、間葉系細胞の増生が見られるが、核分裂像をみると、染色体が散ったものがあり、異常を思わせる。
ラット肺培養に投与した所、10-3.5乗Mで細胞は残っているが、異常分裂像らしきものが認められた。
(4)月報7110では、HeLa細胞の核小体を縮小化させるP.roquefortiカビの代謝産物についての結果をのべたが、同じ様にHeLa細胞の核小体を縮小させるA.Candidusの代謝産物についても試してみた。HeLa細胞の場合、A.Candidus菌体のCHCl3抽出物の100μg/ml投与で核小体は縮小化したのに、肝及び肺培養細胞では320μg/mlの投与で増殖阻害もあまりうけず、しかも核小体はそれ程小さくなっていなかった。
(5)結果をまとめてみると、肝実質細胞と肝培養での間葉系細胞と肺培養細胞では、各種物質に対する反応性が異る。HeLa細胞と比較しても反応が異る様である。ActinomycinD、Methylcholanthren投与で前者は核小体が縮小化されなかったのに、肝での間葉系細胞、肺培養細胞、HeLaでは核小体が縮小化される。強力なproximate
carcinogenであるbenzoyl-loxy MAB投与では核小体縮小現象は観察されなかった。上に反し、Aspergillus
candidusの代謝産物では、HeLa細胞の核小体は縮小化されるのに反し、ラット肝及び肺のprimary
culture細胞の核小体は縮小化されなかった。以上よりHeLa細胞の様な株細胞と、primary
culture cellの様な細胞とでは核小体の機能が大部異ることが予想される。
以上の結果を月報7110にならって表にしておく(表を呈示)。
《山田報告》
4NQO処理したRLC-10#2細胞のその後の変化(CQ68):
(図を呈示)図に示すごとく、その電気泳動的性格は122日目と殆んど変りません。前回、CQ60実験に於いては、前報にも示しました様に、この時点で更に泳動的に構成のばらつきが出現したのですが、今回はその様な変化が出現しません。なほ引続きfollow
upすると共にその抗原性の変化もしらべて行きたいと思っています。
はぎさ培養株RLH-4の無蛋白培養亜系の電気泳動的性格:
この株とそれに4NQO処理した株の泳動的性格について、従来通りの条件でしらべた所、非常に特殊な成績を得ました(表を呈示)。即ち、Cont.株はノイラミニダーゼ処理後の数値は-0.297で、4NQO処理後の株では-0.346でした。対照未処理株が既に著明なノイラミニダーゼ感受性があり、4NQO処理した株は更にこの感受性が増加し、又平均泳動度も増加するという所見です。この様な著しいノイラミニダーゼに対する感受性は、正常或いは変異株には全くなく、また悪性変異株でもJTC-16(AH7974TC)のみです。これはどうもノイラミニダーゼ感受性の増加と云うよりは膜の性質が著しく変化し、非特異的に破壊されやすいのではないかと思われます。いづれにしろこれまで調べた培養ラット肝細胞のなかには全くみられない様な表面構造ではないか?、と考へています。
Culb株の宿主血清との反応:
血清が若干少く、200万個Cellに対し宿主JAR-2の血清(接種後18日目)0.5mlを反応させたのですが、その電気泳動度は、活性血清で0.559±0.001、非活性血清で0.578±0.009となり、全く宿主ラットと反応しない様です。しかし、この成績は若干全体に泳動度が低く、そのために反応が弱いせいもあるかと思います。この成績にくらべて既に報告した如くこの株のoriginal細胞の亜系であるRLC-10#2は、宿主JAR-2の血清に反応して、-16.5%も泳動度が低下する知見とはかなり差があり、しかも藤井班員の成績とも一致します。或いは、宿主が免疫学的に拒絶反応を起さない細胞が選択的に増加しているのかもしれません。
ConcanavalinA反応機序についての細胞電気泳動的解析:
最近ConcanavalinAの悪性細胞特異的凝集作用が話題になり、またこの班会議でも若干の成績が報告されていますが、いまだこのConAの反応機序についての明解な検索がなされていない様です。ただ現象的にその特異作用が注目されているにすぎません。
このConAの作用についての研究成績で問題なことは、macroのレベルでの凝集現象と、分子レベルでのd-マンノースとの特異的結合性が、あまりにも直結して関係づけられている点だと思います。
そこでモデル実験として、ラット腹水肝癌AH62Fを用いて、若干の実験を行ってみました。次号に詳細に報告することにして、現在までの知見を書きますと、
1)25μg−50μg濃度の微量のConAを作用させると、反応した細胞の電気泳動度は明らかに上昇し、この時点では凝集が起らない。
2)100μg前後のConAを作用させると、次第に泳動度が現象し、初めて肉眼的に凝集反応が起って来る。
3)ConAの反応は細胞の増殖状態と関係があるらしく、増殖の盛んな状態で強く反応する。このAH62F細胞は増殖期にシアル酸依存荷電が増加して来るので、シアル酸の表面における変化と関係がある様に思われる。
いづれにしてもConAが仲介となって凝集が起るものではないらしい様です。
《安藤報告》
4NQO誘導体の発癌性とDNA鎖切断能との関係
先月号月報に報告した標記の問題に更にいくつかのdataがつけ加わったのでまとめて報告する。今回、新たに加えた所は2Me4NQO以下の薬剤を使ってのdouble-strand
scissionである。通覧していえる事は、発癌性と鎖切断、修復能とはだいたい平行関係にある。但し先月報にも書いたように、4NQO6Cの場合には1x10-4乗Mでは一重鎖切断を起さないのに二重鎖切断は起しているようだ。この点は更に濃度を上げて検討しなければならないと思う。又4NQO誘導体の数をもっと増やし現在検討中である。
今後更に4NQO関連化合物だけではなしに、化学的にtypeの異った発癌剤を種々集め検討の準備中である。(表を呈示)
【勝田班月報・7201】
《勝田報告》
§ラッテ肝、同細胞株RLC-10(2)、悪性変異株RLT-1(a)、その復元後の再培養株CulaTC、CulbTCについての、LDH及びG6PDHのアイソザイムの分析:
前報において各種細胞のLDH及びG6PDHのアイソザイムの分析結果を報告したが、今回は上記の細胞について検討した。
RLC-10(2)はラッテに可移植性を示さぬ系である。RLT-1(a)は、RLC-10原株より4NQO処理で悪性化した系RLT-1を軟寒天培地に移し、残生した細胞を増殖させた系である。CulaTCはRLT-1を復元して生じた腫瘍の再培養株、CulbTCはRLT-2の復元後の再培養株である。
分析法は前月号の報告と同じである。
結果は結論をさきに簡単に云えば、LDHもG6PDHもともに、細胞が悪性化しても、そのアイソザイム像に差が出ないということである。
動物の肝組織の分離の悪いのは、色々な細胞が混在しているためと思われる。またRLC-10(2)のLDHの像が前月号のRLC-10-Bの像と異なるように見えるが後者はくりかえしてみると、前者と同様な像も示し、泳動時間の影響と判った。RLC-10-Bは自然発癌した亜株である。(図を呈示)
《高木報告》
1972の新春を御慶び申し上げます。
本年度、私共は2つの実験計画をたてております。すなわち
1.RRLC-11細胞の培地中に放出する細胞毒性物質を或程度まで化学的に分析し、又この細胞と他の様々な正常細胞とのinteractionについて主としてcolony
levelで検討する。
2.培養内癌化の指標としてのsoft agarの検討、つまりsoft
agarの培地成分を検討して、せめて私共の実験系についてだけでも、悪性化した細胞をselectiveにとり出すような培養系を追求したい。
いろいろと御指導を仰ぎ、また御願いをすることもあるかと思いますが、何卒よろしく御願いします。
RRLC-11細胞と非腫瘍細胞との培養内における相互作用:
毒性物質の性状に関して現在化学的なapproachを行うべく予備実験にかかっているが、この毒性物質の放出される度合は培養条件により可成り動揺するようである。たとえば最初の報告(7110)では、RRLC-11細胞はRFLC-3細胞を変性せしめるが、RFLC-5細胞とは共存すると述べたが、この後RFLC-5細胞も変性することが分った。これが培養条件のちがいによるものか、細胞側に問題があるのか判断に困難を感ずるが、細胞のpopulationが差程動くことは考えられず、培養条件、たとえば血清のちがいと云ったことに問題のweightはあるのではないかと考えている。これまでに行った実験の中RFLC-1、C-3、C-5などの、WKA
rat肺由来細胞についてRRLC-11細胞との混合培養の結果、C-1細胞はよく共存してcolonyを作るが、時々一部変性を示すこともある。C-3細胞は最も毒性にsensitiveであり、C-5細胞は一部生残るようなこともあるが、大体変性をおこす。つぎに、岡大難波氏から分与をうけたLC-14(Donryu
rat肝由来、上皮性)については、大体共存してcolonyを作るように思われる。但、上述の如くC-3、C-5は、再現性に問題がある。写真がよくとれていることを確かめた上で、Falcon
petri dishのcolony countingを行う予定であるので正確なdataは今回は報告出来ないが、以下に写真を供覧する。
写真1〜4:混合培養のコロニー(シャーレ)と、細胞形態。
《佐藤報告》
RadioautographyによるH3-DABの細胞内とりこみについて(表を呈示)
細胞はPC-2:RLN-E7→543日single→1079日実験
PCC-2:RLN-E7→543日single→692日colonial→1027日実験
PC-14:RLN-E7→543日single→692日colonial→713日single→999日実験
RPDT-2:RLN-E7→543日single→DAB処理53日→rat
ascites→再培養919日実験
方法は前回に示したとうりで、投与後1hr、24hr、48hr、72hrの処理を行った。各100コの細胞内銀粒子数を数えた。銀粒子は核と細胞質にdiffuseにあり、局在性は認められなかった。(図を呈示)すべてピークのある分布を示し、数の多いのは細部質が大きい傾向にある。これはcell
cycle、single cellからのmutation、subculture後の日数等による影響などが考えられ今後の検討を要する。
細胞当りの銀粒子の平均値、peakの点をとってみると、DAB添加1hr.で急速に銀粒子の数を増し、24hr.以後では銀粒子数は略一定となる。一定値に達する時間、タンパク結合DABの分解時間、DAB蓄積等の問題については今後検討の予定である。
表の0hr.でBackの銀粒子が多い。今後技術的な問題として改良したい。しかし、1hr.以後の細胞外銀粒子数と0hr.でのBackと同程度であること、及び図2からTCA2回の洗滌でfreeのDABはとりのぞかれること、細胞外銀粒子の中には細胞質崩壊によるタンパク結合DABはほとんどないと解釈される。
《藤井報告》
"がん"と同種移植免疫の仕事をいくつかやってきて、この班でのがん抗原の仕事ほどうまく行かず、御役に立たなかったことはありません。移植免疫とかけ持ちでこちらの仕事に集中しなかったことは勿論、非力でありながら、うかうかとむつかしい仕事を受けて、5年もすぎてしまったことを、申訳なく思っています。あと3ケ月、何とか折角緒についたmixed
lymphocyte-tumor reactionを少しでものばしたいと思っています。宜しく。
(図を呈示)図は、Culbがんの組織培養したものCulb-TCと、それをJAR-1
rat(adult)の腹腔内に接種して、腹水型腫瘍となったもので、接種后13日と24日の腫瘍細胞を刺戟細胞とし、反応細胞として、A)Culb接種(皮下)后24日、B)Culb皮下接種后13日、C)Culb腹腔内接種后24日、D)Culb腹腔内接種后13日、E)正常JAR-1ラット、のそれぞれの末梢白血球とを、混合培養したときの、リンパ球幼若化にともなうH3-TdRの摂取です。抗原刺戟細胞には、CO60で4,000R照射したもの5万個、反応細胞には、リンパ様細胞50万個を各チューブに入れて混合培養しています。詳細は既報のとおり。
(図を呈示)図で見られるように、培養Culb(Culb-TC)を刺戟細胞としたときが、リンパ球の反応が高いが、その中でも正常ラットのリンパ球の反応が最も高く、担癌ラットのはいづれも正常ラットより低い。その順はC、D、B、Aで、Culb接種后の日数とは必ずしも関係しないようである。
腹腔内で増殖したCulb細胞を刺戟細胞とすると、リンパ球刺戟効果はCulb-TC(培養細胞)より低く、しかも接種后日数が多い24日の方が13日より低い。
担癌ラットのリンパ球のMLTR(mixed lymphocyte-tumor
reaction)が低いのは、担癌体の免疫反応性の低いことと関係づけられるようですが、担癌体の末梢血中のリンパ球が少なくなったからか、あるいはリンパ球自身の反応能が低くなったのか依然としてわかりません。最近流行のT-cell(thymus-dependent
lymphocyte)、B-cell(bonn marrow-dependent
lymphocyte)の区別がMLTRの反応系でしらべられたら、その辺もわかってくるかも知れませんので、目下思案中です。
もう一つ、in vivo tumor cellsの方がcultured
tumor cellsより、リンパ球刺戟能において劣る成績は、Culb-TCと、C57BLマウスのFriend's
virus発癌腫瘍、erythroblastoma(FA/C/2、医科研、制癌、小高助教授)でのMLTRでも以前に得ていることですが、おそらくin
vivoで、腫瘍細胞の表面に特異的に抗体が、あるいは非特異的にγ-グロブリンその他、何かが附着して、リンパ球への刺戟をブロックしているのでないかと考えられます。いわゆるimmunological
enhancement現象の立場を支持する考えで、その方から検討を進めています。(写真を呈示)写真は上記のMLTR実験のうちの、Culb-TCと正常JAR-1ラット・リンパ球の混合培養6日の細胞のオートラヂオグラムです。このtubeのH3-TdRとり込みによるcpmは、4,682で、Culb-TCのみの対照は128、リンパ球のみの対照は141です。培養6日では、残っているリンパ球は非常に減少していますが、大型の細胞と小数ながら小型の円形核の細胞にH3-TdRのグレーンがみられます。
最近、外科研究部のグループで人癌の培養と、それを使ってMLTRその他を試みています。第1例のWilms'tumorで患者の末梢リンパ球が、かなり反応した成績がえられています。紙面の都合、次回まわしにします。
《難波報告》
N-58:4NQO誘導体(4HAQO、2-Me-4NQO、6-Carboxy-4NQO)による培養ラット肝細胞の培養内癌化(月報7107に一部報告)
培養内の発癌の仕事を更に発展させる為には、培養ラット肝細胞を4NQOより効率よく癌化させる薬剤を探すことも一方法である。従って、表題に述べた3種の薬剤を用い、クローン化したラット肝細胞の癌化を検討した。
[実験方法]
1.細胞:PC-14系・RLN-E7(生後5日目のラット肝より培養)培養543日目のクローン・PC-2、途中凍結299日、713日目再クローン・PC-14→746日目に実験開始。
2.薬剤処理:4HAQO、2-Me-4NQO、6-Caroxy-4NQOをエタノールに10-3乗Mに溶き、PBSで終濃度3.3x10-6乗Mに稀釋し、TD40に細胞がほぼ一杯に生えた時期に、30分37℃処理して、その後、20%BS+MEM培地にもどし、3日後同条件で薬剤処理をもう一度行なった。
[結果]
1.各薬剤のCytocidal activity(位相差顕微鏡による形態的観察):薬剤処理直後の細胞障害は4HAQO・2-Me-4NQO>6-Carboxy-4NQO・4NQOであった。3日後の観察では、2-Me-4NQOに一番強く細胞障害が残っていた。
2.復元成績:(表を呈示)以上の実験からまだ決定的なことは云えないが、培養ラット肝細胞の発癌実験には、6-Carboxy-4NQOが有効と考えられる。この組合せは更に追求すべきと考えられる。2-Me-4NQO、4HAQO処理群のものは、処理後培養日数が長くたつと造腫瘍性の低下がみられる。
N-59:DABで培養内で癌化した細胞の増殖及び細胞凝集に及ぼすPHAの影響
月報7111にConA、WGA、RRの、DAB悪性化細胞、その他対照肝細胞の細胞凝集に及ぼす影響を報告した。今回はそれにPHAのデータを追加する。
1.細胞凝集能:実験条件は月報7111に同じ。(表を呈示)表に示したごとく細胞凝集をおこすPHAの最終稀釋濃度は、対照細胞、DAB悪性化細胞の両者に於て差がなかった。
N-60:ConA、WGA、PHAによる生後1ケ月のラット肝細胞の細胞凝集能
ConA、WGA、PHAの細胞凝集能を、生後1ケ月のラット肝細胞で検討し、培養肝細胞の成績と比較した。
肝実質遊離細胞は上西法により得た。得られた細胞をギムザ染色して検討した結果、99%以上の純度で肝実質細胞が得られた。この遊離肝細胞のConA、WGA、PHAによる凝集性は、ConA、PHAで250μg/mlで凝集した(表を呈示)。まだ、胎児、新生児、乳児ラットの肝細胞などでこの実験を行っていないが、次のことが考えられる。
ConAなどによる細胞凝集能の上昇が、細胞がより未分化な方向(状態)にあることを示すとすれば、培養された肝細胞はすでに未分化な状態になっており、この状態のもとに発癌剤を処理し細胞を癌化させても、この造腫瘍性を獲得するまでの変化は、生体内から生体外へ肝細胞が移され培養株化する迄の変化に比べ小さいと推定される。
N-61:培養内でDABで癌化したラット肝細胞の旋回培養による細胞凝集能の検討
癌化の指標を探す試みとして、従来4NQO系の実験で報告してきた方法に準じ、DABで癌化した細胞の凝集能を検討し、その結果をDAB未処理細胞肝細胞の結果と比較した。実験を2回行なった結果、いづれの場合にも細胞凝集塊の大きさは、DABで癌化した細胞>DAB未処理培養肝細胞の関係が成立した。第一回の実験で、両系のそれぞれの100コの細胞集塊の平均直径は、0.047mm(DAB悪性化)>0.041mm(DAB未処理)であった。
(第二回の実験データは現在計算中)
《黒木報告》
帰国してから早くも4ケ月たち、いくつかのprojectsをたてて実験していますが、まだ何の成果もあがっていません。研究projectsの主なものは、次の四つです。
1.in vitroにおけるNitrosobutylureaにより白血病を作ろうとしています。しかし、骨髄細胞の培養がうまくいかず、PHA、conditioned
medium、feeder cells、bacto-peptoneなど、いずれも増殖を誘導できないことが分りました。MEM+10%FCSを主として用いていますが、今後は高濃度のaspartic
acidを加えてみる積りです。
2.3T3細胞のchemical carcinogenesis in
vitro
現在Meloy Lab.におられる高野先生が、Balb3T3でDMBAによるきれいなtransformationを得ておられるので、この細胞を用いて、発ガンの細胞環との関連におけるanalysisを考えてます。Dr.AaronsonからBalb3T3をとり寄せたのですが、血清の問題で3ケ月ももたついてます。というのは、日本の血清(医科研、千葉血清のCS)ではcontact
inhibitedの3T3を維持できず、どうしてもFCSまたはColorado
Serum Co.のCSを使はねばならないことが分りました。Colorado
Serumをやっととり寄せたら、動物検疫の問題で羽田税関で差しおさえられたままの現状です。このほかNCIの井川君(癌研)を通じて、3T3FL、3T3NIH、Balb3T3も入手したので目下テスト中です。
ラット、ハムスターから3T3細胞の樹立をattemptしましたが、contaminationにより失ってしまった。
3.4NQOの高分子への結合の問題
目下H3-4NQOの合成依頼をしているところ、64万円の見積(第一化学)を三カ月ねばって、合成法をかえ21万円までに値下げしてもらいました。合成できたら、必要の方にお分けします。主にh.proteinの分離精製を行うつもりです。
4.cAMP-receptor proteinの分離
いくつかの実験事実から、癌とcAMPの関係についての新しい分野が今後開かれるであろうことが、想像されます。その実験事実とは
(1)PuckらによってcAMPにより可逆的にcotactinhibit.の回復がみられること。
(2)contact inhibitedの細胞の細胞内のcAMP量が増加すること。
(3)E.coliなどのexp.で、transcriptionにcAMPとcAMP-receptor
proteinの関与が明らかにされたこと。
(4)E.coliから分離されたcAMP-receptor proteinは分子量、Ipなどから、h-proteinに酷似していること。などです。
このため、cAMPの次のstepとしてのreceptor
proteinを考え、分離に着手しました。目下assay条件の検討中ですが、Sephadex
G25の小さいカラムを用いることになりそうです。この問題は至急、3.の4NQOのh-proteinとからみ合せながら、発展させるつもりです。
§無蛋白無脂質培地におけるコロニー形成について§
当研究室には、無蛋白、無脂質の完全合成培地で増殖できる細胞がたくさん培養されています。しかし、それらに共通しているのは、うえこみ細胞数が少くなると(約1万個/ml)まったく増殖できなくなることです。しかし、これらの細胞もfeeder
layerを用いると、10%以上のコロニー形成率を示すことがわかりました。すなはち、4,000r照射(CO60)L・P3を20万個/60mmdishにまき、翌日L・P3を500ケplateすると8%のコロニーが得られた。3%以下の血清添加は増殖を促進するようである(コロニーの大きさから)
《梅田報告》
昨年を振り返ってみるとあまり思わしい仕事をせず、おおいに反省しています。暮れになってやっと超遠心の仕事が又軌道にのってきたので、ここらで今迄の遅れを一気にとり戻そうと勢こんでいます。
昨年月報7112に、DABのproximate carcinogenと考えられているbenzoyloxy-monomethyl
aminoazobenzen(B-MAB)投与によるラット肝、肺の形態的変化について報告しました。今回はB-MABを投与した場合の核酸合成能に及ぼす影響、更にalkaline
sucrose gradient上にのせ振った場合についての結果を報告します。
(1)Flying cover glass法による摂り込み実験、即ちこの場合はハムスター胎児細胞を円形カバーグラス上に定量的に植えこみ、2日后B-MABを各種濃度で投与し、1時間後にH3-TdR、H3-Leuを夫々投与して更に1時間培養し、細胞に摂り込まれた放射能をgas
flow counterで測定する方法をとりました。
(図を呈示)図に示す様に、10-3.5乗M投与で、H3-Leuの摂り込みがやや残っている程度の差で、特異的に合成阻害を示す様な結果は得られませんでした。
(2)このB-MABを培養当初に投与后、長期培養継代したラット肝培養で、非常に奇麗な上皮性の細胞が生えている細胞系があるので、この細胞を使って超遠心の仕事をしてみました。予めH3-TdRでprelabelし、B-MABを投与1時間后にalkaline
sucrose(5〜20%)の上にのせ、30,000rpm90分で遠心してみました。
(図を呈示)図に示すごとく、10-3.0乗M投与明らかなbreakが認められませんでした。10-3.5乗Mの所は4本目にピークがあり、テクニカルにやや自信がないのですが、コントロールと較べてSingle
strand breakを起すことには違いない様です。
ハムスター胎児細胞を用いて同じ超遠心実験を行ったのですが、この方は更にテクニカルの失敗で、ここに示せる様なdataではないのですが、breakを起したと解釈して良い様なdataです。
B-MABはDABよりproximateな形になっているわけですから、当然ハムスターの繊維芽細胞でもbreakを起しておかしくないので、今后再検するかたわら、DAB投与での結果と比較してみたいと計画しています。
《山田報告》
今年は改めてin vitro発癌に伴うphenotypicalな変化を免疫学的な方面より検索して行きたいと考えて居ります。
培養細胞の抗原性の比較:培養細胞のtumorigenicityが、そのoriginal
animalに対して抗原性が異なるゆえに、宿主へのtransplantabilityによって証明出来ない可能性があることは、昨年来、この班会議上問題になって居ます。そこで12月中に種々の培養細胞の抗原性を各種培養細胞について、細胞電気泳動的に検索しました。これまでの結果を表にまとめます(表を呈示)。即ち宿主としてはJAR-2ラット(AH62F-TCのみはドンリュウラット)で、抗血清は0.5ml、細胞は200万個(水分量2ml)で、37℃、10分(抗血清)、30分(感作ラット脾リンパ球様細胞1,000万個)作用後、食塩で2回洗い10mMのカルシウムを含むMichaelis等張ヴェロナール緩衝液(pH7.0)内にて泳動速度を測定。対照としては、aliquotのSampleを測定した(56℃30分あらかじめ非活性化したもの)結果と比較。抗血清及び感作リンパ球は宿主へ移植後、18〜23日までに採取したもの。
検索した細胞のうち最も強く抗血清に反応したものは、JTC-25・P3で、次にAH62FTCです。後者は最近自分で培養したDAB腹水肝癌の培養株で、同種ラットであるドンリューへ復元していますので、反応が強いのは当然ですが、こうやって比較すると改めて「なぎさ培養株であるJTC-25・P3」は元来その抗原性がoriginalラットと著しく異なることが理解されます。次に反応の強い細胞はJTC-15(AH66)です。これは腹水肝癌の一系であるながら、一時宿主へのtransplantabilityが消失したというエピソードのある系ですので、宿主の血清と反応するであらうと云うことは理解出来ます。この三系以外は反応は若干弱くなりますが、それでもRLT系中では、CulbTC(RLT-2TC)が若干他と比較すると反応が強い様です。またその表面構造が他とかなり異ると思われるJTC-24・P3も、かなり抗血清と反応しています。これに対して興味あることは、JTC-16(AH7974)が全く反応して居ないことで、これは二回検索しましたが、略々同じ結果を得ました。
感作リンパ球との反応はすべての系について検索してありませんが、最も強く反応したのが、やはりJTC-15(AH66)であり、次にAH62FTCです。次に案外に抗血清の反応と比較してこの感作リンパ球が反応したのがCulbTCです。AH7974(JTC-16)は感作リンパ球にも反応しません。なほ、更にこの検索を続けて、抗原性と移植性、そして腫瘍性の証明にぶいて分析してみたいと思っております。
ConcanavalinAの反応機序;
前報に若干書きましたごとく、細胞電気泳動法によりConcanavalinAの細胞凝集機序を解析して居ります。ラット腹水肝癌AH62F、AH66F
200万個に対し5〜250μg/mlの濃度のCon.Aを反応させ(10分、37℃、水分量2ml、mediumは生食)、これをヴェロナール緩衝液内で測定。AH62Fはシアリダーゼに対する感受性が一般に弱く、悪性度の少い細胞であり、AH66Fはシアリダーゼによく反応し悪性度の強い(宿主ラットは平均5日〜6日で死亡)細胞ですが、両者へのCon.Aの反応度はかなり異り、AH-66Fはより微量のCon.Aに反応します。しかしいづれも図に示します様に、微量の5〜20μg/ml濃度でその泳動度が上昇し、それより高濃度のCon.Aではかへって泳動度が低下し、そこで始めて凝集が起こる様です。この反応の様式は明らかに陽イオンポリマーなどによるイオン結合による凝集とは異ります。面白いことは、予めシアリダーゼ処理を行っておくと、更に微量のCon.Aと反応し、しかも微量のCon.Aとの反応による泳動度の増加が促進されました。このことはCon.Aが反応するd-Mannoseとその末梢にあるノイラミン酸との相互の関係に一つの解析を行へる可能性が生まれました。
《堀川報告》
多忙だった1971年もあっという間に過ぎてしまい早くも1972年の新春を迎えました。毎年のことながら年頭にあたっては、いつも今年こそはあれもこれもやってみたいと思いをめぐらせていますが、その実一年をふり返ってみると常にその半分も出来ていないという結果になって、がっかりさせられます。どうせ半分しか出来ないならば、最初に思いきり計画をぐっと大きくしておけばよいではないかとも思いますが、それにも限度があって仲々できません。
さてそうもボソボソ年頭から云っている訳にもいかず、とにかく今年も大いに皆様と一緒に頑張りたいと思います。どうかよろしくお願い致します。
ところでDNA鎖中にタンパク様物質(residual
protein)の存在を思わせるデータが、このところあちこちの研究室からも出されるようになったが、今回はLettら(1970)が行った実験を追試してみた結果について報告する。つまり0.1M
NaOH、0.9M NaCl、0.01M EDTAを含む5−20%alkaline
sucrose gradient上に0.5M NaOHと0.1M EDTAから成るlysis溶液をのせ、そこにあらかじめH3-TdRでlabelしたマウスL細胞を2000〜3000個加えて、種々の時間lysisさせたのち超遠心にかけてsedimentation
profileの動きを調べた結果を図に示す。
図1と図2では僅かに異ったspeedで遠心した後のsedimentation
profileの変化示したものであるが、これからわかるように、alkaline
sucrose gradient上のlysis溶液中で細胞をlysisする時間が長ければ長い程、一本鎖DNAは低分子化することがわかる。つまりこうした結果はLettら(1970)の暗示した高等動物細胞のDNA鎖中には、アルカリに対して非常に不安定な部分、恐らく、タンパク様物質が存在するのではないかという考えを明らかに支持するものである。一方neutral
sucrose gradient上のlysis溶液中で細胞をlysisさせる時間を長くした場合にはどの様になるかを現在検討中であるので追って報告する。しかし現在までに得られた予備実験では2%SIS
lysis溶液中での細胞のlysis時間には二本鎖DNAのsizeはほとんど影響を受けないという結果が得られている。いづれにしても本年度はこのDNA鎖中に含まれるアルカリあるいは各種タンパク分解酵素に不安定な部位の本体解明を、まずおし進めなければならない。特にElkindら、あるいはLettらさえも、このような物質の存在をspeculateしている現在、その本体を適確に把握することが急がれよう。
《永井報告》
昨年はこの班でいろいろなことを学び、研究の上でもまた、それを離れた場においても、よい刺戟を受け、何かと想い出の多い一年でしたが、今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
私共の受け持っています培養癌細胞に毒性代謝物質の研究も、一つの歴史をつくりつつあるようで、昨年は勝田先生がこのテーマで内藤奨学金を授与されるなど、本研究に対して大きなバックアップが与えられていますが、今年はこれに何とか応えてゆきたいものと考えております。遅々とした歩みではありますが、化学的研究の面で毒性物質の正体に一日も早くお目にかかりたいものと張り切っているところです。毒性物質を含む培養液を多量に集められないのが、一つの問題ですが、これも何とか解決したい問題です。現在までのところ、毒性物質は数個のアミノ酸残基から成るペプチドか異常アミノ酸のようなものではないかと予想していますが、果してそのような結果になりますか。
また、昨年から始めましたイノシトール要求性株を使っての研究もあります。現在までにイノシトールに生物界における存在意義が全くわかっていないことを考えると、このイノシトール研究がどにょうな途を拓いてくれるかが楽しみです。現在までに要求性株に外から与えられたミオイノシトールが、急速にイノシトール燐脂質へと転換されること、要求性株は多量のミオイノゾーズを与えることによってミオイノシトール無しで培養を続けることができるが、シロイノシトールによっては保持できないことなどがわかってきていますが、この問題も一歩一歩攻めたててゆきたいものと思っています。
このような具合で、今年も皆様の御助言、御指導をお願いいたします。
《佐藤茂秋報告》
(1)吉田腹水肝癌AH7974細胞の組織培養系(JTC-16)はin
vitroでは、I、 型ヘキソキナーゼしか持たないが、これをラット腹腔に戻し移植すると、I、 型ヘキソキナーゼに加え 型が出現する事、及びこの培養細胞をdiffusion
Chamberに入れてラット腹腔に挿入すると24時間後に 型ヘキソキナーゼが出現する事は前回報告した。今回は、diffusion
chamberを12時間後からとり出してそのヘキソキナーゼを調べたところ、すでに12時間目で 型ヘキソキナーゼが出現していた。但し今回の実験ではdiffusion
chamber内の細胞のviabilityが低く、ヘキソキナーゼの比活性も低かったので、再度、同様の実験をくり返えしている。又in
vitroで 型を誘導する事が出来るかを、培養中にラットの腹水、血清を入れてみる事、又、培養液中のグルコーズ濃度を変化させる事等により試みる予定である。
(2)マウス脳腫瘍細胞の組織培養は一時in vitroでの増殖が悪く、継代もむずかしい事があったが、培養200日をすぎる頃から、又増殖が盛んになって来た。これについてはアルドラーゼのアイソザイムパターン、S-100蛋白質をマーカーにその表現形質を調べて行く予定であるが、同時にcyclic
AMP、BUdR等の効果も調べたい。
(3)ラット肝細胞の培養系(RLC-10)について、肝実質細胞のマーカーとされている酵素、Glucose-6-phosphataseの活性を調べたところ、正常肝の約1/2の比活性を持っていた。この酵素活性がほとんどないと報告されている吉田腹水肝癌細胞の培養系についても調べ、この酵素がin
vitroでも真に、肝細胞のマーカーとなり得るか否かを検討中である。
《安藤報告》
細胞DNAのAggregationの可能性の検討
これ迄、皆様方に指摘されて来た問題ですが、細胞DNAが中性蔗糖密度勾配遠心の際に、aggregateとして沈降しているために、DNAピークはsharpになり、4NQO作用を受けた時も、heteroなピークにならない可能性がある。この点に関する既知の知見としてはファージT4のDNAが遠心条件によってaggregateを形成する事が知られている。すなわち、DNA濃度が高い程、又遠心力が強い程、DNAはaggregateし易くなる(Rosenbloomら)。これは、10の7乗ダルトン以下のDNAには見られない。
この点を確める事と沈降式のkを求めるために、T4DNA(H3)とλDNAをrpmを変えた三つの条件下に遠心した。(図を呈示)図に見られるようにλDNAはaggregateの傾向はないが、T4DNAの場合には30,000rpm以上になると、aggregateを生じ底に沈降する分劃が現れてくる。したがって1.3x10の8乗ダルトンというT4のDNAについては、10,000rpm以下で遠心を行えば問題はないという事になる。それでは、培養細胞のDNAはどうであろうか。この問題に入る前にもう一つ解決しておかなくてはならない点は、沈降式のKを求める事である。すなわち沈降常数(s)、沈降距離(d)、遠心回転数(w)、遠心時間(t)式を立てる(式を呈示)
さて、この式からS値の未知のDNAを同条件で遠心し、w、t、dを測定すれば、S値が計算される事になる。
したがってL・P3 DNAについて次の二点を調べた。(1)我々の用いている条件で、L・P3
DNAがaggregateしているとすればrpmを下げた場合S値がより小さいmonomerの出現が観察されるか、(2)S値がrpmに依存してどのように変化するか。
結果は図に見られるように、5段階の遠心条件下のS値の変化を見ると相当なばらつきはあるが、平均値を見るとrpmが低下する程逆にS値は大きくなる。したがって、上記の第1点は満されなかった。少くも5,000rpm迄はS値は大きくなる一方で、monomerの出現はなかった。又遂にはじめからL・P3
DNAはaggregateではなくmonomerである可能性も若干残されているものと思われる。いずれにしても5,000rpm以下の遠心条件で更に検討しなければならないが、実際的には連続100時間以上の遠心は不可能である。
以上の実験から結論される事は、(1)この方法によって分析しているDNAは、著しいS値のrmp依存性を示す。この点は繊維状の高分子物質の通性である。(2)monomerかaggregateかの問題に関しては結論はえられなかった(図表を呈示)。
【勝田班月報:7202:Cyclic AMPの受容蛋白】
《勝田報告》
最近の発癌実験の経過報告:
4NQOを用いた実験と、それ以外の発癌剤を用いた例、完全合成培地内増殖系の細胞を用いた例とをまとめた。(表を呈示)CQ#67は初代培養を用いた実験であるが、何れも復元接種は陰性に終った。CQ#68は山田班員と協同しておこなっている実験で、面白い結果が得られつつある。処理1カ月位で細胞電気泳動像に変化が現われはじめたので、2カ月にならぬ内にラッテへ復元接種試験をおこなったところ、陽性成績が得られた。軟寒天培地内の細胞集落形成能は、これらの指標よりはるかにおくれ、いまだに認められない。
次のCQ#69は初代培養で、C#54と同一材料で出発したもので、変化があって現れたら本人に復元接種したいと考えているが、何れも未だに細胞の生えだしがない。NGを用いた実験C#56〜59も目下観察中である。
純合成培地内増殖系の細胞による実験も、目下継続中のが2系ある。
ラッテに肉腫を作る実験:
1972-1-24:JAR-2、F21、生後49日♂4匹、右大腿部、7.5mgMCA/0.3mlOlive油、皮下に注射。
日本では純系ラッテの腫瘍が少なく、肉腫は無いので、多産であるJAR-2系を用いて肉腫を作ることを計画し、上記のように本年1月24日にMCAを注射し、目下"腫瘍形成"待ちである。
:質疑応答:
[安藤]RLG-1はfibroblastですか。
[高岡]鍍銀法でセンイが染まりますから、fibroblastだと思います。
[山田]今日はCQ68のデータを持ってきていませんが、まだ非常に悪性という所まで行っていませんね。
[勝田]もっと処理を重ねてみましょうか。
[永井]電気泳動的にみて、変化は全体的なものですか。それとも一部の細胞が悪性化しているのですか。
[山田]バラツキはありますが、全体的に変わっているようですね。
[乾 ]NGの濃度についてですが、ハムスターを使っての私の実験では1μg/mlは薄すぎるようで変異を起こしませんでした。高木班員のデータはラッテでその濃度で変異していますね。動物によって違うのでしょうか。
[堀川]黒木班員はsurvivalを落とす事が悪性化に必要だと考えておられますか。
[黒木]必要だと思います。毒性と発癌性との関係はdose
response curveが平行しないという例のあることから、機構の上では違うのだろうと思いますが、survivalを落とす位の毒性を示す濃度でないと悪性化しないことが多いですね。
[勝田]毒性に関しては実験のやり方が少し無神経な所がありますね。4NQOはphoto-dynamic
actionがあるのに電灯の下で仕事をしたりしていますからね。
[堀川]そういう時はナトリウムランプでも使えばよいでしょうね。少し話題が変わりますが、悪性化したハムスターの細胞の再培養系からC型ウィルスが見つかったというDr.Hueberの論文についてどう考えますか。
[勝田]発癌そのものとウィルスと関係があるかどうか判りませんね。
[黒木]人間の癌にも応用しようとしているようですが、癌ウィルスだという同定もしていないし、少し強引ですね。
[勝田]癌化するとC型ウィルスに感染しやすくなるとも考えられます。
《梅田報告》
(I)高松宮妃シンポジュームの折、Dr.Heidelbergerが、ヒト、マウスの細胞はDNArepairはされ易いのに、ハムスターは非常に悪いとの発言があり、気になったので、この問題を試してみることにした。何回も実験したが失敗も多くある傾向は示していても、お見せ出来る様なデータは少いので残念であるが、安藤さんの方法に沿って20〜5%のalkali蔗糖勾配上に細胞をのせ30,000rpm
90分間の遠心条件で遠心して分劃をとった。DNA切断を惹起させるものとしては4NQOを用いた。
先ず4NQO 10-5.5乗Mをハムスター胎児培養細胞に投与すると強い切断が起る。しかし、1時間、2時間と回復培養を行っても切断が回復される傾向は示さなかった。(以下それぞれに図を呈示)更に回復培養の時間を長くして試みてみた所、培養5時間目のものに、やや回復の徴候が認められたが、更に24時間目と経つと又切断が逆もどりする結果を得た。
これに反しマウスの胎児培養細胞に4NQO 10-5.5乗Mを投与した時は大きなDNAも残ってはいるが大小様々のDNAとなることが示されている。回復培養1時間目では回復の徴候は示されないが、2時間目のものは大きなDNA分子として遠心管のbottomに沈んでいた。
今後この細胞によるrepairの違いをneutral
sucroseの結果も含め検討してみたいと思っている。
(II)前回の班会議の時報告したP.roquefortiの菌体抽出物投与によりHeLa細胞は細胞が大き目になり核小体が極端に小さくなることを、そしてH3-TdR、H3-UR、H3-Leuの摂りこみ実験ではH3-TdR、H3-URのとりこみが抑えられるのにH3-Leuはおさえられていないことを示した。同じ様な形態変化を示す2つのカビの抽出物の中、Pen.meleagriumは殆Pen.roquefortiと同じ結果を得たのに対し、Asp.candidesでは、そのCHCl3抽出物の低濃度で特異的なRNA合成の促進が認められた(図を呈示)。この現象はどの様に説明されるのか興味があるので、御紹介する次第です。
:質疑応答:
[堀川]24hrたっても回復していないのがありましたが、どういう事でしょうか。
[勝田]死んでしまったのではありませんか。
[梅田]そういう事らしいです。
[安藤]細胞によってDNAの切れ方や回復が違うというためには、矢張りgrowth
curveをとって同じ位のcytotoxicityのdoseで比較しなくてはいけませんね。
[堀川]ハムスターとマウスでは放射線に対する感受性が異なるという説は、あまり鵜呑みにしない方がよいと思います。X線では違いがないようです。UVの場合は回復の機構は違うようです。マウスはrecombination
repair型といわれています。ヒトはexcision
repairで、ハムスターはマウスとは異なり、ヒトと同じか又は別の回復機構があるのかも知れませんが、感受性には大きな差はないと考えられます。
[安藤]マウスはunscheduledDNA合成が少ないという論文もありますね。
[堀川]H3-TdRの取り込みのautoradiographyでunscheduledDNA合成を調べてみかすと、マウスは短時間の露光ではgrainが見られません。ヒトの場合は短時間の露光でgrainが見られます。同じ条件でgrainが全く見られないのがxeroderma
pigmentosumの例です。
[乾 ]autoradiographyの原理的なことですが、1週間の露光では出ないgrainが1カ月露光すれば出てくるということがあるのでしょうか。
[堀川]autoradiographyの感度は低いので、1
hitでgrain1コになるとは考えられません。複数のhitでやっと1コのgrainになると考えられます。
[安藤]すると1コのgrainといってもdiffuseなspotだという訳ですね。
[藤井]grain1コが取り込まれた物質の何分子から出来ているかは計算できると思いますが・・・。
[堀川]計算は出来ますが、正確に対応していないと思いますから、autoradiographyは定量的というより定性的なものですね。
[下条]本題にもどって、ハムスターとマウスという動物の違いより株と初代培養のとか細胞の条件の違いとは考えられませんか。
[梅田]私の実験からは矢張り動物の違いによるものだと考えたいのです。ハムスターの場合、初代培養と長期間培養したものと両方調べて見ましたが、全く同じ傾向でした。
[勝田]なかなか面白い話だと思いますから、十分地固めをして進めてください。
《安藤報告》
4NQOによる連結蛋白の切断に対するProtease
inhibitorの効果
LP3、FM3A等の細胞を4NQO処理を行うとDNAを連結していると思われるいわゆる連結蛋白質は切断される。それでは一体、この蛋白部分の切断はどのような機構で起っているのであろうか。二つの可能性がある。すなわち(1)4NQOの代謝産物が何らかの反応の機構によって蛋白の不安定な部分(例えばS-S)を切断する。(2)4NQO代謝産物が細胞内蛋白分解酵素を活性化し、その酵素が連結蛋白を切断する。これ等の可能性をcheckするために種々のprotease
inhibitorの効果を調べてみた。
調べたinhibitorはchymostatin(C)、leupeptine(L)、pepstatin(P)であり、いずれも微化研の青柳氏が分離同定したものである。Cはchymotrypsinを、Lはtrypsin、papainを、Pはpepsinをそれぞれ0.01〜0.5μg/mlで特異的に抑制する。
先ずこれ等の阻害剤の混合物のFM3A細胞の生長に及ぼす効果を調べた。(図を呈示)DMSO自体わずかに生長阻害効果を示した。しかし阻害剤の効果は見られなかった。
次にこれ等の阻害剤(I)の存在下に4NQO処理を行った時に二重鎖DNAのS値の低下の有無を調べた。Iの前処理は2、5、16時間行い、4NQO
10-6乗M30分処理を行った。結果は(図を呈示)阻害剤前処理の効果は全く見られなかった。すなわち阻害剤2時間、5時間処理後の4NQO処理のパターンはDMSOのみのコントロールパターンと同じであった。更に16時間に延長しても差は見出されなかった。したがって明確な結論はえられなかったが、一応阻害剤が細胞内にとりこまれるとすれば、この結果が示唆するところは、「4NQOによる連結蛋白の切断は細胞内酵素の活性化によるのではなく、4NQOの細胞内代謝産物による直接作用である」という事になる。更にこの点に関してはXeroderma
pigmentosum細胞を使用して検討するつもりである。
:質疑応答:
[梅田]4NQOがライソゾームを不活化するとは考えられませんか。
[安藤]わかりませんね。
[梅田]ライソゾームの阻害剤など添加してみるとどうでしょうか。
[安藤]やってみます。
[勝田]一番重要な問題はDNAの切断、そして回復時のミスリペアは癌化とどういう関係があるのかという事です。
[安藤]色素性乾皮症の細胞の場合はリペアが全く無いのに悪性化しますね。
[黒木]そうですね。高野さんの話でも正常なヒト細胞で出来なかった悪性化が色素性乾皮症の細胞を使ったらうまくいったという事でした。
[堀川]色素性乾皮症の細胞にはDNAウィルスがいるのではないかという話もあります。
[安藤]色素性乾皮症細胞はSV40にも感受性が高くて発癌しやすいそうですね。
[堀川]そしてO型の人に多いですね。
[梅田]リペアがおそいという事がウィルスが入り易い条件になっているのではないでしょうか。ハムスターは色素性乾皮症と似た性質があるのではないかと考えています。
[堀川]種が違うと色々異なることも多くて複雑になります。色素性乾皮症を使う時は対照にヒト細胞を使わないとだめでしょうね。しかしヒト細胞は悪性化の決め手がないという事が困ります。
[梅田]一本鎖切断の場合SV40のDNAのような大きいDNA分子が入り得るのでしょうか。
[下条]10の6乗分子量位はいっています。
[堀川]ウィルスの全分子がはいる必要はないのでしょうか。
《高木報告》
RRLC-11細胞の放出する毒性物質の分劃:
先に行った実験でRRLC-11細胞の放出する毒性物質は限外濾過の外液にでることが確認された。すなわち(図を呈示)RRLC-11細胞の培養液の限外濾過外液は、培養液そのものと全く同じ程度にRFLC-3細胞の増殖を抑制した。従ってこの毒性物質の分劃を試みるにあたり、まず限外濾過外液を試料として用いることとした。すなわち集めた培地をまず7,000〜8,000rpm、20分遠沈後その上清30mlをpore
size 24Åのvisking tubeに入れて限外濾過を行い、外液25mlを得た時点でこれを中止し、その20mlを試料として用いた。
外液の一部5mlはmillipore filterで滅菌後RFLC-5細胞に入れてCytotoxicityをみたが、この実験では対照が4日間に8倍以上の増殖を示したのに対して外液を加えたものはでは約5倍の増殖を示し、やや抑制がみられたが上記実験のように完全な抑制はみとめられなかった。しかし兎も角この外液を用いて実験をすすめた訳である。実験条件は、Sephadex
G25、45x270mmのcolumn、溶出液として0.005Mphosphate
buffer(pH 7.2)、flow rateは72ml/hr、10ml/tubeで4℃で行われた。
10%AgNO3と2N HNO3でCl-をcheckしたが、これは39本−51本にわたって認められた。そこで39本までを5つのfractionに分けて凍結乾燥し、その各々を5mlのphosphate
bufferにとかしてRFLC-3細胞に対する毒性効果をみたが、この際各fractionの培地に入れる濃度は10%とした。結果は(図を呈示)分劃IIIに可成の増殖抑制が認められた。しかし、II、IV、Vにもわずかながら抑制効果がみられるようである。
この際用いた外液では全く増殖抑制効果はみられなかった。この外液を培地に加える濃度のみは20%としているので、この場合、時日の経過、凍結→融解・・の操作中の不活性化が考えられる。この点検討中である。また限外濾過しない培養液そのものについても同じくcolumnを用いた分離を試みている。実験条件は上記と全く同様であるが得られた100本(1l)についてO.D.280mμで吸収曲線を調べたところ19本から29本にわたり、21本目をpeakとした吸収が認められた。またわずかながら35〜59本および77〜97本にわたっても吸収が認められた。Cl-はこの場合38本〜51本の間にみとめることが出来た。そこで一応38本までを5つのfractionに分けたが、その中蛋白が出ていると思われる19〜25を1groupとし、園前後を各々2つに分けた訳である。この結果については後日報告する。RRLC-11細胞培養液を分劃したものについての吸収曲線、RRLC-11細胞と数種の細胞との混合培養のスライドにつき供覧する。
:質疑応答:
[永井]Sephadex分劃は一度最後まで分劃して全体を調べておく必要がありますね。
[勝田]私達の実験では、肝癌は正常肝細胞、肉腫はセンイ芽細胞という組み合わせで作用があります。高木班員のは何故肉腫と肝細胞を組み合わせたのでしょうか。
[高木]始めは肉腫とセンイ芽細胞の組合わせで実験していました。今回のは肝細胞に対して調べてみました。物が不安定なのと検査する細胞の感受性が変るのが困ります。
[勝田]私達のデータでAH-7974の出す毒性はラッテにtakeされない肝細胞に対しては毒性があるが、takeされるようになった肝細胞はやっつけないということがあります。
[梅田]免疫学的な意味で生体で試みると、より強く差が出るのではないでしょうか。
[勝田]まさにそれをやりたいと思っています。
《山田報告》
ConcanavalinAの反応機序:
悪性腫瘍に特異的に凝集作用を起こすと云われるこの物質の作用機序については、多糖類マンノースに特異的に反応すると云う知見以外は細胞凝集についての解明がない。しかもその作用する分子レベルでの知見と、肉眼的レベルでの凝集と云う知見が直結している所に、この反応の弱点がある。
そこでこの反応の作用機序について昨年暮より検索してみた実験結果を綜合して考案し、この凝集反応の機序についての仮説的な説明を試みてみたい。(以下各々図を呈示)
前報に報告したごとく、微量のConcanavalinA(以下Conc.Aと省略)を細胞(ラット腹水肝癌)に混合すると、一過性に、その表面荷電密度が高くなる。より濃い濃度のConc.Aを作用させると、かえって減少する。これは明らかに、Conc.Aを介してイオン結合による細胞の凝集反応ではない。プロタミン-Sなどの陽イオンを細胞と混合すると、直ちに吸着されて、その細胞の表面荷電密度は低下して凝集が起り、決して細胞の表面荷電密度の上昇はみられない。
またノイラミニダーゼ感受性の高い細胞はより微量のConc.Aで荷電の上昇がみられる。(この現象が悪性細胞と特異的に凝集すると云う報告と関係があると思われる。勿論悪性細胞に特異的に凝集するとは思われない。)
しかも、あらかじめノイラミニダーゼ処理した細胞はより微量のConc.Aと凝集し、荷電の上昇もより微量で起こる。
Conc.Aを結合させた細胞に二次的にノイラミニダーゼ作用させると、あらかじめConc.Aにより細胞表面荷電の上昇した状態では著しくノイラミニダーゼ感受性が高まり、高濃度のConc.Aにより荷電密度の低下した状態ではノイラミニダーゼの感受性が著しく低い。しかもこの状態では、細胞表面は形態学的にみられる程に変化を生じ一部破壊していると思われる。
この結果は、細胞最表面におけるシアル酸(N-acethyl-neuraminidase)の荷電の空間的位置の状態と、Conc.Aの凝集作用が著しく関係があるものと考へる証拠を提出している。
細胞表面における糖蛋白の分子配列は勿論充分解明されていないが、従来の報告を綜合すると(図示)略々推定されている(勿論これは極めて単純化したもので、これ以外の糖類や糖脂質が実際は介在する)。この糖蛋白の構成成分中荷電をもつものはシアル酸のカルボキシ基しかなく、しかも最末端に存在する。そしてGalactose→N-acethyl-glucose→Mannose(二分子)→N-acethyl-glucoseを経て、更に幾つかの多糖類が続き(この部分はなほ不明)、最後にポリペプチドのアスパラギン酸に結合していると考へられる。更にmannoseの末端に不全糖鎖がGlc.NAC→gal.或いはGlc.NACが結合している。
この糖蛋白の分子配列から考へると、より深部にあるMannoseにConc.Aが結合するためには、末端のシアル酸が干渉する可能性がある。文学的表現を借りれば、林立するシアル酸分子をかきわけてConc.Aが入りこむと云うことになる。しかし一方末端のシアル酸がすべて表面に露出しているとは限らず、また周囲の物質によりマスクされている可能性がある。(模式図を呈示)。微量のConc.Aがより深部のMannoseと結合することにより、末端のシアル酸が露出して来て、より表面における密度が高くなると考へれば、Conc.Aによる細胞表面荷電密度の増加が良く理解される。多量のConc.Aが結合する場合には、これらの分子配列の変化と同時にConc.Aの吸着による表面のマスクにより荷電が低下し、物質の喪失も考へられる。しかし、多量のConc.Aを作用させた細胞浮遊液の上澄には、荷電物質の遊離していることを証明出来ない。(上澄中の荷電物質をコロイド滴定法により測定したが、使用した細胞量が少なかったので測定出来ないのかもしれない)
Conc.Aによる凝集はこの細胞表面の荷電密度が増加する状態では明らかでない。荷電を低下させる程の高濃度で明らかに凝集が起こる。このことは、この凝集は荷電の低下に伴う非物理的な現象の可能性が強く、ただ荷電を低下させる濃度が細胞により異るために一見特異的凝集と見える可能性がある。
なほこの凝集反応は、d-mannoseやα-methylglucosidを作用させると消失するとの報告があるが、細胞表面荷電の変化も、これらの物質により抑制される。しかも少量のConc.Aを作用させて、細胞表面荷電を上昇させた後α-methylglucosidに反応させて、表面荷電を低下させると、ノイラミニダーゼに対する感受性が低下する。このことは一度細胞表面のmannoseと結合したConc.Aがこのinhibitorによって除かれる際にシアル酸の位置の変化、或いは喪失が起るのかもしれない。
更にくわしく調べるにはラベルしたglucosamineをあらかじめ細胞表面にとりこませて実験する必要があるかもしれない。
:質疑応答:
[勝田]ノイラミニダーゼを作用させた時、出てきたシアル酸は定量できますか。
[山田]ノイラミニダーゼ作用の場合のシアル酸は定量加納です。ConAの場合もシアル酸が出ているのかどうか、これから調べてみます。ConAを使うことで今まではっきりしなかったシアル酸の位置や糖の事など解明できるのではないかと希望をもっています。
[黒木]温度は何度で作用させていますか。
[山田]37℃で10分間の作用です。
[黒木]ConAの作用は温度にも問題があるようですから、少し低温も調べてみるとよいと思います。
《堀川報告》
前報ではアルカリ性蔗糖勾配遠心法による一本鎖DNAの分析の際に蔗糖勾配上にあるlysis溶液中で、細胞をlysisする時間が長くなれば長くなる程、一本鎖DNAは低分子化されることを示した。つまり、こうした結果は、一本鎖DNA中にはアルカリに対して不安定な部分のあることを示すものであると結論した。
今回は、従来二本鎖DNAの解析に用いるSDS法でも、同様の結果がみられるか否かについて、行った実験結果について報告する。
あらかじめH3-TdRでlabelした細胞を5〜20%中性蔗糖勾配上にのせた2%SDS溶液中で種々の時間lysisさせ、しかる後、同一条件下で超遠心して得られたsedimentation
profile(図を呈示)から、SDS溶液中でのlysis時間と二本鎖DNAの低分子化は無関係であることがわかる。つまり、二本鎖DNAのsizeはSDS溶液中でのlysis時間を長くしても殆んど影響をうけないものと考えられる。このことは、ひいては、SDS溶液中にpronaseやtrypsinを加えた時に生じた二本鎖DNAの低分子化は、それらによる直接のenzymatic
actionnによったものであることを、あらためて支持するものである。
一方、培養細胞は、その細胞周期を通じてX線に対し異なった感受性を示すことが発見されて以来久しいが、未だこうした周期的感受性差を生じさせる要因の本体を解明するには到っていない。私共はこうしたX線に対する周期的感受性差ひいては紫外線、化学発癌剤4-NQOに対する周期的感受性差の原因を解明するため、従来Terasima等によって開発された採集法を改良することにより、培養細胞のための新しい同調培養法を確立した。つまり0.025μg/ml
colcemidで6時間細胞を処理し、M期で止められている細胞を採集法で、大量に集めようというのである。この方法によれば一度に大量の細胞が得られるばかりか、集められた細胞は生理的にも生化学的にも、殆んど障害をうけていないことが証明された。さて、このようにして得られた同調HeLaS3細胞における細胞周期を通じてのX線、紫外線、4-NQOに対する感受性の違いは、(表を呈示)HeLaS3細胞は細胞周期を通じて3者に対して、まったく異なった感受性を示すようにみえる。(あるいは4-NQOの周期的感受性曲線は紫外線のそれと本質的には同じものかもしれないが、この点については一応予備実験の結果としてみていただきたい。後続の実験結果が出て来次第、はっきりした結論は出ると思われる。)いづれにしてもこうした化学発癌剤4-NQO、X線あるいは紫外線に対する細胞の周期的感受性曲線の本体を解析することは、私共の別の実験系、HeLaS3細胞から分離したUV-感受性細胞を用いての発癌実験と共に、今後細胞のDNA障害の修復能と発癌との関連性を解析してゆくうえに重要なものとなろう。
:質疑応答:
[勝田]発癌実験にHeLaを使うのは一寸どうかと思いますね。
[堀川]復元実験にも困りますね。
[勝田]兎の前眼房に入れればtumorを作ります。
[乾 ]スポンジ培養をすると組織像で悪性度が多少わかるのではないでしょうか。
[堀川]Lではexcision repairがなくHeLaとは根本的に違うので、何とか人の細胞を使ってUVと4-NQOの作用機作を較べてみたいのですが・・・。
[勝田]アミノ酸としてリジンを使ったのは何か理由がありますか。
[堀川]妥当だろうといった所です。
[山田]synchronizeにcolcemidを使うのは、他にも発表されているのでは・・・。
[堀川]しっかりした基礎データがなかったのです。
[黒木]synchronous cultureというのは全く労力的に大変な仕事ですね。
《佐藤報告》
DAB代謝に関する検討
培地中のDABは培養肝細胞によって代謝されるが、発癌に関与する代謝のみの検討は仲々困難である。そこで(図を呈示)標識DABをつくり、月報7112、7201の如き処置を行った。Autoradiographyの取り扱ひ方そのものに未だ問題がのこっているようであるが、このような実験を開始したのは以下の理由による。(1)培養細胞を利用して発癌の機構を検討する場合、特にDAB発癌では投与されたDABの内極めて少量のものが、発癌に関係しているように思われる。(2)DABは蓄積的に作用すると考えられる。したがって細胞単位でこれをDABの作用として認めるためには個々の細胞への蓄積効果乃至蓄積反応をつかまえなければならない。(3)その概観を得た上で化学的に分析したい。
(図を呈示)アセトン洗滌をした場合としなかった場合のgrain数の差である。アセトンでアルブミン等の血清蛋白と結合したDABが除去された結果が見られる。
:質疑応答:
[堀川]バックグランドがどの程度かを先ずはっきりさせてほしいですね。
[佐藤]細胞の無いところで数えて細胞相当の面積当たりで13コ位でした。
[堀川]少し多すぎますね。
[黒木]TCAではfreeのDABが抽出されないのではありませんか。
[佐藤]色でみていると抽出されてくるようです。
[乾 ]TCAで固定というのは大丈夫でしょうか。
[堀川]TCAだけでは固定になりません。あとアルコールできっかり固定しなくては。比活性が高いのもバックグランドを多くする原因の一つでしょうね。
[乾 ]ラベルした発癌剤を使ってのAutoradiographyはとても難しいですね。私もバックグランドをきちんと出す事などに随分神経を使っています。
[勝田]この実験で何を狙っているのですか。
[佐藤]細胞内に結合したDABの動態を個々の細胞で追ってみたいのです。
[勝田]長期間追ってゆくとH3の行方を追うことになりませんか。分劃して液体シンチレーションにかけてみたらどうですか。
[佐藤]それでは細胞個々ではなくて平均値になってしまいます。
[黒木]細胞分劃にした方が、事がはっきりすると思いますがね。
[安藤]これだけ比活性が高いのですから、きれいに出るでしょう。
[佐藤]しかし、個々にみるとDABが蓄積される細胞もあり、分裂して減るものもあるというのを、グレイン数で表現したいのです。
[勝田]細胞質の或る部分にグレインが集まっていたりすると、二分したとき片方だけにグレインが受け継がれるという事もあり得ますね。
[佐藤]発癌というのは沢山の細胞の中から或る少数のものが悪性化してゆくのではないかと考えています。それを形態的に追跡してはっきりさせたいのです。
[堀川]矢張りH3ラベルのDABが特異的に細胞の中に入っているのかどうかを基礎がためするべきですね。それから細胞分劃もしてみた方がよいですね。
[安藤]再培養系はどうですか。
[佐藤]グレイン数の多い方へピークが移ります。
[安藤]タイムコースを取るのも必要なことですね。
[佐藤]コロニーレベルで処理すれば取込みの多いコロニーは判然とするでしょうね。
[堀川]その取込みの多いコロニーが悪性だと言えるならよいのですがね。
《黒木報告》
Cyclic AMPの受容蛋白(CRP)について(1)
先月号の月報に書いたように、いくつかのprojectsのもとに研究をすすめているが、現在までにdataが得られているのはCyclic
AMP receptor protein(CRP)に関するdataのみである。Contact
inhibitionのmediatorとしてのCyclic AMP、それを受取りtranscriptionに調節効果を与えるものとしてのCRPを考えている訳で、培養細胞にいく前に、どうしてもCRPをpurifyする必要がある。E.ColiではCRPが分離精製され、pH
9.12に等電点をもつ、分子量22,000のsubunitから成るdimerであることが明らかにされている(Anderson
et al,JBC,246,5929,1971)。これはh.proteinと非常によく似ている。しかし、動物細胞では、その存在がDEAE-cellulose
chromatographyで明らかにされていても、まだ十分には分離精製されていない。主な興味はprotein
kinaseの調節機構にあるようで、それに関するpaperは最近号のJBC、BBRC、PNASなどを開けば必ずといってもよいくらい載っている。それは次の式で表される。PK・CRP(inactive)+CAMP→ATP
Mg++←PK(active)+CRP-CAMP
材料:ラット(JAR)肝homogenate
buffer:10mM Tris-HCl pH7.4、5mM MgCl2、5mM
Z-mercaptoethanol
CRPのassay法:CRP・CAMPの結合はcovalentでないので、TCA
ppt法などは用いられない。文献的にはMillipore
filterに吸着させる方法、equilib、dialysis、Diaflow
membraneに吸着させる方法などがあるが、ここでは小さなSephadex
G-25を用いた。Columnの大きさは9x60mm、0.2mlのReaction
mixtureに10mg/mlのdextran blueとphenol redのmixtureを1drop加えcolumnを通すると、高分子fractionはdextran
blueとともにvoid volumeのところに出てくる。1sampleの所要時間は1〜2分、約10分洗うとphenol
red(分子量はCAMPとほぼ同じ)の色が完全に消失する。
Reaction mixtureは0.1mlの下記bufferと0.1mlのprotein
solu.。10mM Tris-HCl pH7.4、3mM MgCl2、5mM
Z-mercaptoethanol、6mM theophylline、0.5μM
CAMP[8-3乗H](1Ci/mmole、0.5μCi/ml)。Reactionは0℃、20分間。
(1)細胞内分布
ラット肝を0.25M sucrose standard bufferでhomogenateしてのち、核、mitochondria、microsomal、cell
sapのfractionに分けた。(分劃図と結果表を呈示)70%のCRPはCell
sap.に存在するので以後Cell sap.を用いてCRPの分離を行う。
(2)(NH4)2SO4 ppt法
Cell sap.を脱塩をかねて、硫安で沈デンさせたのちovernight透析し、Specific
activityを調べた。(表を呈示)0-50%硫安pptのみで約3倍に濃縮されることがわかった。
次のstepのDEAE・cellusoseは目下進行中である。
<3T3細胞のtransformation>
Aaronsonから得たBalb3T3と井川君(NCl)から得たBalb3T3を用いてDMBAによるtransformationを検討中である。3T3をcontact
inhibitedの状態で継代するのはむつかしく、特に血清が重要である。まだtransformationは得られていない。
:質疑応答:
[勝田]Contact inhibitionの定義がだんだん曖昧になっていますね。3T3のような細胞が特殊なのであって、大部分の細胞はcontact
inhibitionはかからないのではないでしょうか。
[堀川]Eagleが最近pHのことをさかんに問題にしていますが、そのpHによるregulationをみると血清以外にもfactorがあるようですね。
[黒木]Contact inhibitionをsaturation sensitivityとするとdensity
dependentな問題になります。これがserum factorに対する反応と考えると栄養要求の問題になるわけですね。
[山田]Contact inhibitionの定義はlocomotion、growth、overlayの三つがあげられると思います。
[勝田]3T3を使う理由は悪性コロニーを検出しやすいからですか。
[黒木]そうです。定量化できますから。
[佐藤]3T3の処理前のものの腫瘍性をチェックしてありますか。もしtakeされるのなら、発癌実験として意味がないと思います。
【勝田班月報・7203】
《勝田報告》
JTC-15株細胞(ラッテ腹水肝癌AH-66)の復元試験成績のまとめ:
この株は1963-5-22に培養に移されて、latent
periodもなくそのまま株化した細胞である。面白いのは現在までの経過中に可移植性を失った時期のあったことである。
1967-5-21、1968-11-26、1968-12-21の移植では100万個以上の接種でも腫瘍死は0であった。1969-5-5に軟寒天法で拾ったクローンは10,000コ接種まで腫瘍死した。 1971-12、軟寒天と液体と両培地にまき、前者からは6コのクローンを得たが、その内の一つが腫瘍性が低いらしく、復元接種動物がまだ死なないでいる。液体培地の方からはクローン4が得られ、目下検討中である。後者は可移植性のないクローンを取りたいという目的で試みている仕事である。軟寒天で得たクローンで動物を腫瘍死させなかった典型は、"なぎさ"変異株の細胞である(表を呈示)。
《黒木報告》
1.Cyclic AMP受容蛋白について(2)
目下DEAE cellulose chromato.を検討しています。
0.05−0.5M KClのlinear gradientのときはPKとCRPがよく分れず、またCRPもshoulderをもつため、0.1、0.2Mのtwo
step elutionを試みた(図を呈示)。図のように0.1MでeluteされるFrIにはCRPとPKが、0.2MのFr にはCRPが大部分にPKが少し含まれていることが分った。
このそれぞれをさらにDEsephadexで分け、その上Sephadex
G-100にもっていくことを考えています。
2.3T3 transformation:
まだtransformationに成功していないので、目下cloningによるcloneをひろってみることを試みています。Prostateのときも、cloningによりhydrocarbon
carcino-にsensitiveのcloneをひろい出した経験があります。この他、inbredのhamsterから、ふたたび、3H3を分離せんとしてます。問題は培養1ケ月以後のgrowthのcrisisをどのようにしてのりきれるかというところにあります。
《山田報告》
CQ68(RLC-10(2)4NQO処理後の変化);
引続いて2回、日を追って細胞電気泳動的変化を検索すると共に、これまでの成績をまとめてみました。この株は前報に班長が報告されたごとく、4NQO処理後36日目及び143日目に復元移植されて、腫瘍化が証明された(宿主はまだ腫瘍死していない)細胞株です。
前回に引続いて4NQO処理後230日目の泳動度分布、及びノイラミニダーゼ処理後のそれです。依然としてこの株は腹水肝癌を培養した株(例えばJTC-16)のごとく、典型的な悪性型の泳動パターンを示しませんが、比較的少数細胞が悪性化したと思われる泳動パターンです。この株の抗原性が宿主JAR-2とは、当初から多少異り、その免疫学的反応についても、しらべていますが次回報告します。このCQ68の細胞について4NQO処理の当初からの実験成績をまとめてみました(図表を呈示)。
14日目に既にかなりノイラミニダーゼに対する感受性が出現し、36日目に一応"take"されています。その後若干細胞構成に変化が生じ、ノイラミニダーゼ感受性が減少し、122日目に再び増加しています。細胞の構成純度も多少バラツキが出ていますが、日を追ってその程度が増加して来ているとは思えません。比較的少数細胞が変異悪性化し、変異しない細胞と培養条件で競合して増えていると云う印象です。
なほHI-1(なぎさ株)の電気泳動的性格も検索しましたが、前回と略々同様な成績を得、特別にこの細胞株の細胞膜は薄弱で、ノイラミニダーゼ処理により、著しくこわれてしまいました。その成績も次回書きます。
《安藤報告》
L・P3細胞DNA及び連結蛋白質のBleomysin(BLM)による切断と再結合について:
4NQO及びその誘導体の発癌活性と、細胞DNA及び連結蛋白質の切断能の間には強い相関性がある事を報告してきた。一方4NQOの関連化合物は強い制癌性をも持っている。そこで、DNAの切断、連結蛋白の切断がこの物質の制癌性の示す反応であるかもしれない。そこで著しい制癌剤であるBLMが細胞に対しこのような活性を示す(切断活性)か否かを検討した。
L・P3に25〜750μg/mlのBLMを添加し、3日間培養しcell
countをする(図を呈示)。濃度依存的に増殖阻害を受ける。これ等の濃度で処理を受けた場合、細胞内DNA、連結蛋白がどうなっているかを調べた。(図を呈示)図に見られるようにBLM
25、50、750μg/ml、30分処理を受けた直後においては、DNA一重鎖は種々の大きさに切断されていた。特に興味深い点は、25μg/mlにおいてはS値は小さくなるがpeakはsharpでありnon-randomな切断のように思われる。これは恐らく連結蛋白(Lett等の云うアルカリ性に不安定な結合)のみの切断に原因すると思われる。
50μg/ml以上の場合にはpeakはrandom patternを示し、nucleotide
bondの切断を意味しているゆに思われる。これ等の処理細胞を薬剤除去後、3時間回復培養をする。その後分析したのが図のパターンである。25μg/mlでは完全な修復が、50μg/ml以上では不完全な修復であった。
(図を呈示)図においては二重鎖切断とその回復を調べた。この場合にも濃度依存的な切断であり、特に注目すべき点は50μg/mlと750とあまり変りない事である。これ等の細胞を24時間の回復培養を行った後に分析した所、25、50では完全な修復、750では部分的修復であった。
次にこの二重鎖切断と見える障害が連結蛋白に対するものであるか否かをきめるために4NQOにいて行ったと同じ方法でBLMとPronaseとの組合せ実験を行った。図では各種濃度のBLM処理、それぞれの濃度のBLMとPronaseの組合せの結果を示す。25μg/mlの時はBLMのみでは不完全な連結蛋白切断、50、750の場合には、ほぼBLMのみにより完全に連結蛋白は切断されている。
以上の実験結果は4NQOの場合と非常によく似ている。但しBLM
50μg/ml以上では濃度依存性が少くなる点は異る。これ等の事実はBLMの制癌性を説明すると同時に、もしかして発癌性もあるのではないかという疑問をいだかせるに充分である。今后の検討が必要であると思う。
《佐藤報告》
(図を呈示)図は、543日でsingle cell cloneをつくり、以后コントロールとDAB
5μg/ml、20μg/mlで継続培養内添加をおこなった実験系図である。此の実験系のコントロールは、図の如く800日を経過しても腫瘍をつくらなかった。処理群は700日以降腫瘍をつくっている。組織像等については次回に報告の予定。
《藤井報告》
担癌ラット・血清及び腹水のリンパ球−腫瘍細胞混合培養反応(MLTR)に対する抑制作用
第30回癌学会総会の発表および本月報No.7201において、Culb-TC細胞の方が、Culb-TCをふたたびJAR-1ラットの腹腔内に接種して増殖した細胞よりも、MLTRにおけるリンパ球刺激能の高いことを報告した。この現象は、C57BLマウスのフレンドウィルス誘発癌においても同様に見られたが、in
vivoにおいて、癌細胞膜が何らかの液性成分の処理をうけ、その抗原刺激性が低下するものと考えられた。
今回の実験では、培養細胞を、担癌ラット血清および腹水をMLTR反応液に加え、その影響をしらべた。血清および腹水は、JAR-1ラットにCulb-TCを接種し、25日目のものである。刺激細胞:Culb-TC、5万個、4,000R照射、反応細胞:JAR-1ラット末梢リンパ球、50万個。反応液に0.1mlの血清(担癌)、1/1、1/3、1/9稀釋と、正常ラット血清0.1mlを、それぞれに加える。担癌腹水も同様におく。対照には正常血清各稀釋
0.1mlと1/1 0.1mlを加えた。培養6日目のMLTRの成績を対照に対する抑制率を表にした(表を呈示)。担癌血清は、リンパ球に対する反応もなく、用いた濃度で、何れも抑制的に作用した。担癌腹水は高濃度において、その抑制が反って低くなっているが、一方リンパ球に対する刺激が1/1、1/3稀釋で見られており腹水処理Culb-TCと、腹水のみのリンパ球刺激作用を分離して観察する必要が出てきた。
担癌血清のMLTR抑制から、担癌血清中の何らかの因子が、Culb-TC細胞表面の刺激基に附着して、刺激能を遮断しているものと考えられるが、それが抗体であるのか、他の血清成分であるかは、なおつづけて観察する予定である。現在X線照射Culb-TC、フレンドウィルス感染Culb-TCなどでJAR-1ラットを免疫中であり、抗血清ができ次第、MLTRにおける免疫学的特異性の問題について実験を組む予定でいます。
皮膚移植によるJAR-2ラットの純度検定:
勝田先生のところのJAR-2ラットのうち、F-20、46-7-21生の分は、同腹8匹あり、同性間皮膚移植をおこなったが、47-2-28日現在、>155日生着が6匹、>145日が1匹(死亡、死亡時グラフトは完全)、>95日が1匹(他の実験に用いられた。観察期間中グラフトは完全)で、minor
histocompatibility angigensもまず無いと云えます。
F-21、46-10-24生、は♂7匹、♀3匹で、♂→♀と♀→♂の組合せで皮膚移植をおこないましたが、♀→♂は47-2-28日(>76日)現在、7匹全く完全な状態でグラフトは生着しています。反対に♂→♀は3匹にうえた7つのグラフトは程度の差はあれ、いづれもchronic
rejectionを示し、グラフトの縮小、脱毛がおこってきておりY-染色体に関係するhistocompatibilityantigenによるrejectionと云えます。
《高木報告》
RRLC-11細胞の放出する毒性物質について:
先の班会議で報告したように、RRLC-11細胞の培養液を、限外濾過した外液について、sephadex-G25で分劃し、試験管に10mlずつ分注すると、NaClは39〜51本に証明された。そこで39本目までを5つの分劃とし( 〜 分劃)、各々を凍結乾燥後5mlの蒸留水にとかしてRFLC-5細胞に対する毒性を調べたところ、第 の分劃において最も強い毒性がみられた。しかし、細胞数でみればinoculum
size 45,000に対して4日後に65,000とわずかながら増殖がみられた。この際大体同一の条件で保存した外液では増殖の抑制は全くみられなかったので、この分劃に可成りの活性が集中していることが考えられる。ついで、RRLC-11細胞の培養液そのものについて、限外濾過を行なわず、Sphadex
G25により分劃したが、NaClを38〜51本の試験管に証明した。またOD280mμで吸収度を調べたところ19〜25本の間に強い吸収を認めたのでこれを1つの分劃とし、その前後を各々2つずつに分けて5つの分劃とした。凍結乾燥後5mlの蒸留水に溶かしてRFLC-5細胞に対する毒性をみた。この場合、えた溶液は透明でなくやや乳濁した感があったが、2回行った実験はいずれも同じ傾向でI分劃がもっとも毒性強く、ついで 、 、 および 分劃の順であった。この毒性をみる際の培養はどの分劃を加えたものも多少ともcell
sheetに上に沈殿物を生じており、また光顕的に細胞変性のおこり方が毒性物質によるものとやや異るようで、非特異的な毒作用の感がつよい。今後の実験は毒性の強い培養液の限外濾過外液について行い、sephadex
G25で再現性を確かめた後、毒性物質のえられた分劃についてさらに分析を進めて行きたいと考えている。またこの細胞の放出する毒性物質は培養により可成り変動がみられることを報告したが、安定性などの基礎的問題についても検討しつつある。まず−20℃における凍結保存について、現在、凍結14日目を検討中であるが、7日目では毒性に変りは全くみられなかった。その外、外液の凍結乾燥による影響、高い温度による影響、等についても調べる予定である。
培養内細胞悪性化の示標について:
培養内で細胞が悪性化した際のin vitroの示標を探すため、再度soft
agarを検討してみることにした。その培地の組成について、特にTodaroらの云うserum
factor free血清について予備的に実験を行った。20℃下に仔牛血清120mlを用い、硫安1/3飽和でγglobulinをおとし、この血清を濾紙で濾してγglobulinを除いた血清をとった。Serum
factorは硫安33〜50%飽和でおちることになっているので、この操作で部分的に除かれたものと考える。これを3日間氷室で蒸溜水、PBSで透析し、NH4+のなくなったことを確かめて濾過滅菌し、MEMに5%の割に加えて腫瘍細胞RRLC-11および正常細胞RFLC-5の増殖に対する効果をみた。これら細胞は、はじめの2日間MEM+5%CS培地で培養し、2日目に上記血清を加えた培地で交換して4日間培養を続けた訳である。結果は(図を呈示)、RRLC-11細胞では対照が2日目の14.4万個から6日目に120万個と増殖したのに対し、実験群では6日目に86万個でわずかな抑制がみられた。一方RFLC-5細胞では対照が2日目の14.7万個から6日目に107万個であるのに、実験群では6日目に20.5万個と抑制がみられた。Serum
factor free血清をうる技術的問題など残されているが、一応soft
agarに用いてみたい。
《佐藤茂秋報告》
1)マウス脳腫瘍(Glioblastoma)の培養細胞は現在培養日数260日となっている。240日目のアルドラーゼの解析でもC型アルドラーゼが検出され、その分子種のパターンもこれ迄の結果と違いはない。現在、培養液中に種々の物質を添加し、その表現形質の変化に対する効果を見ているが、dibutyryl
cyclic AMPとtheophyllineを同時に加える事により細胞の突起の数、長さが増大した形態的に分化した神経膠細胞に似たものが出現するという結果を得ている。尚、本実験は今続行中である。
2)ラット肝由来の細胞系(RLC-10)に、肝実質細胞のマーカー酵素の一つ、glucose-6-phosphatase(G6Pase)活性が正常肝の約1/2存在する事を前回報告したが、吉田腹水肝癌の培養系(JTC-1、JTC-2、JTC-15、JTC-16)及び4NQO処理したRLC-10について、同様の方法で、G6Pase活性を測定したところ、いずれの細胞系についても正常肝の1/2〜1/4の活性が認められた。この事は今の活性測定系が、非特異的なphosphataseをも測定している可能性を示唆するので、今后特異的なG6Pase測定報を考える予定である。
【勝田班月報・7204】
《勝田・永井報告》
肝癌AH-7974を4日間培養した培地を正常肝細胞の培養に添加すると肝細胞が阻害され或いは殺されてしまうところから、その毒性物質の本態を永年追かけてきたが、未だにまだはっきりしたところは判らない。しかし、これまでの経過をここで一応中間報告しておくことにする。
1)Dowex 50(H+)
いろいろのresinも試みたが、現在では培地をまずDiafilterで限外濾過し、その濾液をSephadex
G25で分劃し、そのなかの有効分劃(B)をさらにDowex
50(H+)で分劃している。その結果図のようなelution
curveが得られた(図を呈示)。これはnon-stepwiseのelutionである。これを図のように 〜 に分けて阻害活性をしらべると、 -2と に活性が認められた。 -1には活性はなかったが、これを含めて分劃のアミノ酸組成をしらべた結果が次の通りである。
2) -1、 -2分劃のアミノ酸組成
Amberlite RC-2(日本電子の特製)の自働分析器で分けた結果を図で示す。図の上はスタンダードのアミノ酸mixtureである。 -1には沢山peakが出ているが、Arg、Tyrは認められない。 -2は大きなpeakが一つ、これはアンモニアに相当するが、アンモニアが培地内にそんなに存在する筈がないので、同じ処に出る可能性のあるものとして、アミン系、とくにエタノールアミンが疑わしい。その他には小さなpeakがいくつかあるが、要するにニンヒドリン陽性物質が一般に減少しているといえる。最左端のLysのpeakが、きわめて小さいことを記憶しておいて頂きたい。
3)高圧濾紙電気泳動
-2を高圧で泳動させると図のようになった(図を呈示)。泳動后、左から2番目のように濾紙を切り、夫々をeluteして調べたが、どれにも阻害活性が認められなかった。そこでB2、B5を再び泳動させてみると、図の右の2本のようにB2ではSerに相当し、B5ではLysに相当した処にbandが現れた。Lysは第2図のように少量しか含まれていないので、B5のninhydrin-positive
bandはLys以外の別の物質を示しているかも知れない。また阻害活性のなかったのは、培養に使う前に、凍結乾燥したのでアミンが飛んでしまった為とも考えられる。
4)炭末吸着
Nucleotides類は炭末に吸着するので、 -2分劃を活性炭(武田)に吸着させた後、2%にアンモニアを含むエタノール50%でeluteし、吸着したものとしないものとに分けて阻害活性をしらべたのが、第4図で(図を呈示)、非吸着の方が少し阻害活性が強い。しかしこの実験では手順を誤って省いたところがあるので、吸着分劃に非吸着性物質が混在している可能性がある。
だがそのUV吸光度(第5図)から見ても、核酸の疑いはきわめて薄い(図ではむしろ280nmのところに肩がある。)といえるであろう。
それではpeptidesであるかどうかを次にしらべた。
5) -2分劃の加水分解
-2を18時間酸水解し、これの阻害活性をしらべた結果(図を呈示)、明らかに阻害活性を示している。従って阻害因子はpeptidesではなく、アミノ酸レベルの大きさの物質であろうと推定される。なお、この分劃の添加により培地のpH7.4から7.2位にまで下がったが、これでは障害を起すとは思われないので、HClのための阻害とは考えられない。
以上、今日までに得られたデータから綜合すると、毒性代謝物質の本態は、1)低分子物質で透析も限外濾過もできる。2)耐熱性で100℃40分ではこわれない(しかし -2については未調査)。3)糖、脂質、核酸系物質は含まない。ニンヒドリン陽性であるが、ペプタイドではないらしい。
《梅田報告》
(1)月報7201の堀川さんの報告でsucrose
gradient上にlysis液をのせ、その上に細胞をのせてから種々の時間lysisさせたのち超遠心にかけると、lysisする時間が長ければ長いほど、1本鎖DNAは低分子化されるきれいなデータが示されていた。
我々は回復実験の時など、一時に細胞を処理して時間がきたものからsucrose
gradient上に細胞をのせておいて、最后のものの時間がきてから超遠心にかけると非常に便利と思っていたので、堀川さんのデータを追試してみた。我々の条件は、0.3N
NaOH、0.7M NaCl、0.001M EDTA、0,01M Trisで、堀川さんの記載は0.1M
NaOH、0.9M NaCl、0.01M EDTAとあった。又lysis液は我々は2N
NaOHそのままを用い、堀川さんは0.5M NaOH、0.1M
EDTAとあった。我々の方法は安藤さんより教わった方法で、比較してみると我々の方がアルカリは強いがEDTA液はより低濃度を使用していることになる。
今迄のAlkaline sucroseの実験は30,000rpm
90'の超遠心を行っているが、図1に示した実験は30,000rpm
60'の遠心を行った。(図を呈示) 細胞をoverlayしてから4時間経ったもので、topの方にややカウントの増加が認められるが、大部分は低分子化していないことがわかる。図2では更に遠心条件を下げて20,000rpm
60'の超遠心を行った。2の場合、bottomと11〜12本目と山が2つ出て、どちらかがDNAのconglomerateと想像しているが、overlay後2時間経っても、その傾向は変らず、4時間経ったものは真中の山の裾がややのびているだけで、堀川さんのデータの様な著明な低分子化は起っていない。
gradientの組成の違いが問題なのであろうが、以上のデータより我々はoverlay后時間をかけても、直ちに超遠心したものも同一条件のデータとして解釈出来ると結論した。
(2)以前にAflatoxinB1の作用は回復酵素の抑制かもしれないと想定したので、その可能性を実験してみた(図を呈示)。図3の(A)は4NQO
10-6乗M1時間作用させたもので、DNAのsingle
strand breakの生じたものである。(B)は、4NQO作用后2時間回復培養を行わせたもので高分子化の進んでいることがわかる。(C)は、(B)と同じ条件でただ回復培地中にAfla-toxinB1
10μg/mlを加えた。(A)に較べ回復は進んでいるが(B)の正常培地中での回復より明らかにおくれていることがわかる。(D)はAflatoxinB1
10μg/mlを2時間作用させたもので、AflatoxinB1単独ではbreakは殆んど惹起されていない。
今後更に回復時間を長くしたもの、他の発癌剤等この種の実験を行ってみたいと計画している。
《乾報告》
現在の発癌実験の経過報告
本年度より新たに班員にして頂きました。本月報は初めての経験ですし又、当班に入れて頂きましても組織培養関係の研究として、過去の研究方法と特別に新しいProjectも早急には組めませんので、現在迄の研究の経過並びに本年度の研究計画を記述し御批判頂きたく思います。来月の月報よりは新しいDataを加えてまいります。
1)現在迄、授乳期ハムスター細胞とMNNGの系を使用し主として、染色体変異をtrans-formationの指標の1つとして、試験管内発癌機構の解析を行ない次の結果を得ました。
(1)発癌剤投与初期に出現する染色体変異は、発癌剤の種類によって、a)単純染色糸レベル切断、b)染色糸交換型切断の二つに大別された。(2)初期染色体変異は、現在の通常法による染色体観察においては、細胞の癌化と直接の関連性をもたない。即ち、再増殖集団のModeの細胞の染色体は数・構造共正常とかわらなかった。(3)染色体の数的、構造的変異は細胞の形態転換時に始めて出現し、この染色体異常細胞はその後変化することなく、その細胞が動物に移植される時期迄継続する。(4)MNNG転換細胞の染色体数は多くの例で、近或いは高2倍体であった。(5)(図を呈示)図1〜3に示した如く、MNNGで悪性転換をした細胞1例(HNG-100)を使用し、ハムスター正常肝のDNAとDNA-RNA
hybridizationを行なった結果、培養初期細胞とHNG-100細胞の間で、DNAレベル、全RNAレベルでは核酸に相異がみ認められず、Rapidly
labeled RNAのpopulaionのみに差がみとめられた。
これらMNNG transformationの系に関して、現在人間の染色体で行われているChromosomebanding
patternを解析中であり、まず癌細胞と正常細胞の染色体上のHeterochromatin分布を検索し、次いで発癌過程のchromatin分布の差の出現を、経時的に追求したいと考えている。
2)タバコタールによる発癌、ハムスター細胞にタバコ全タールを投与し細胞の悪性化に成功した。現在タール分劃、タバコの煙等を細胞に投与し、タバコ中の発癌有効成分を解析中である。
以上の実験を現在行なっているが、本年度の計画として、1)試験管内癌細胞の指標の検索、2)発癌機構の染色体を指標とした追求、3)新しい試験管内発癌の系の開発等を行ないたいと考えております。
《黒木報告》
§Balb3T3細胞によるtransformation§
NIHのDr.Aaronsonから得たBalb3T3を0.2〜2.0μg/mlのDMBAで処置し(48時間)たところ、3.5週後に、contact
inhibitionの喪失を特徴とするtransformed fociが得られた。実験条件は次の通りである。
培地:MEM plus 10%FCS(Colorad Serum Co.)。
うえこみ細胞数:5万個/dishにうえこみ、翌日DMSOに溶かしたDMBA(Eastman
Kodak Co.)を、0.2、0.5、1.0、2.0μg/ml添加、DMSOの終濃度は0.5%であった(2/24/72)。48時間後、培地交換、以後3回培地交換を行った。
現在、培養中であるので、transformation rateなどの詳細はわかっていないが、2.0μg/mlで大凡5〜10foci
160mm dishである。今後、行うべき実験として、(1)Balb/c
mouseへの移植、(2)fociの分離培養とそれらの表現形質の検討、(3)他の発癌剤特にnon
carcinogenicderivativesによる実験がある。それらののちに種々の実験が組まれるであろう。(focusの部は重なって増殖し、nontransf.の部と対照的な所見の写真を呈示)。
《堀川報告》
HeLaS3細胞をMNNGで処理することにより、S-1MおよびS-2Mと名づけるUV感受性細胞株を分離したことについては、これまでに既に報告してきたが、ここに改めて図に示すように(図を呈示)UVに対する線量−生存曲線で比較した場合、S-1M細胞やS-2M細胞はHeLaS3親株細胞よりもはるかにUVに対してsensitiveであることが分かる。一方、これら3者の間にはX線に対して有意な感受性差は示さないが、4-NQOに対してS-2M細胞はHeLaS3親株細胞よりもsensitiveであることが分かる。
このS-2M細胞は、これまでの実験からUVでinduceされたTTdimer除去機構を欠いている。つまり、TTdimerの除去修復機構の第一ステップであるendonucleaseの欠損株であることが分かっている。
今回はこのS-2M細胞およびHeLaS3親細胞を4-NQOまたは4-HAQOで処理した場合、どちらが癌化しやすいかを検討した結果について報告する。勿論、癌化といってもHeLaS3細胞はヒト由来の細胞株であり化学発癌剤で処理した後に出て来る細胞について、その癌化の程度を検討する方法もなく、多くの点で問題があるのは当然である。
この様な問題点があることを前提として以下の様な実験を試みた。つまりHeLaS3細胞およびS-2M細胞を100万個ずつTD-40培養瓶に植えこみ、24時間培養後(細胞が培養瓶に付着した時点で)、2x10-6乗M
4-NQOで1〜6日間細胞を処理するか、あるいは1x10-5乗M
4-HAQOで1〜3日間細胞を処理する。各時間処理後直ちに正常培地に変えて12日または14日後に各培養瓶に出現するコロニー数及びその中のpiled
upしていると思われるコロニー数を、それぞれ算定した(結果の表を呈示)。勿論piled
upしているという判定はあくまでも、顕微鏡的観察での判定であり、一応のindicatorという以外に特別の意味をもたない。しかし、これらの結果から分かるように4-NQOまたは4-HAQO処理の場合いずれもS-2M細胞(endonucle-ase欠損株)の方からコロニー数が多く出現する。これは前図で示した結果とは相反するもので4-NQOにsensitiveなS-2M細胞株の方から多くのコロニーが出現するということは、こうした化学発癌剤処理により、変異(発癌)を起こして出て来る細胞はS-2Mの方に多いということを示しているのかもしれない。しかし、このことについての結論は、まだまだ多くの解析をやった後出なければ、何とも言えない訳であり、あらゆる角度からの検討を現在続けている。しかし500R-preirradiateしたマウスにHeLaS3親細胞またはS-2M細胞の4-NQOで処理後出現したpiled
up colony由来細胞を100万個ずつ復元した結果はいずれも、all
negativeであることをつけ加えておく。
このように、ヒト由来細胞を用いて発癌実験で動物復元実験系の検出も、今後に残された大きな課題である。
《高木報告》
RRLC-11細胞の放出する毒性物質について:
先の実験でRRLC-11細胞培養液の限外濾過外液をSephadexG25にかけて10mlずつ分注したところ、NaClは39〜51本に証明されたので、39本目までを5つの分劃として細胞に対する毒性を調べた。その結果第 分劃において最もつよい毒性がみられた。この第 分劃をさらにSephadexG50にかけて再分劃することを計画しているが、その前に実験の再現性、この物質の安定性につき検討している。
まず再現性実験について、RRLC-11細胞培養液の限外濾過液について同一条件下に、再びSephadexG25にかけてみた。1000mlまでeluteして10mlずつうけた各試験管につき1本おきにspectrophotometerでO.D.230mμ、280mμにおける吸収を調べた(結果の図を呈示)。O.D.230mμでは吸収は20本前後と35本前後、40〜60本の間、79〜93本の間にみられたが、その程度はわずかであった。またO.D.280mμでは20本前後、30〜60本、80〜90本の間に、可成りの吸収がみられている。なお波長を220mμから320mμまで5mμ間隔で変えて吸収を調べたが、このdataは改めて報告したい。
今回はNaClは37本〜51本に証明されたので、37本目までを5つの分劃に分けたが、その際230mμで吸収のみられた17本〜25本までを1つの分劃( 分劃)とし、その前後を2つずつに分けて、それぞれ、 、 および 、 分劃とした。今回の限外濾過外液は前回に較べて毒性は弱かったが、5つの分劃の中では第 分劃に最も強い、他の分劃に比して有意と思われる細胞増殖の抑制効果がみられ、一応再現されたものと考えている。
次にこの物質の安定性について、毒性がlabileであることを先に報告したが、凍結(-20℃)の効果に関して4週間にわたり検討した。その結果、1週間後は凍結前の対照と殆んど同じ毒性を示したが、2週後には毒性は可成り低下し、しかし3週後には凍結前よりかえって強い毒性を示し、4週後はもっとも毒性は弱いと云った具合であった。この原因が毒性をテストする細胞の側にあるのか・・・同じC-5細胞を用いているが別々に継代しはじめて可成り経ている・・・、または2mlずつ分注凍結して一度とかしたものを用いた場合もあるのでその影響か、この辺りも検討しなおさねばならない。また、最近の実験ではRRLC-11培養液の限外濾過液の毒性が可成り濾過しないものに較べて低下しており、その原因が濾過だけによるものか、あるいはその間pHがアルカリ性に傾くことによるものか、pHの変化が毒性におよぼす影響についても観察中である。
培養内細胞悪性化の示標について:
現在50%硫安飽和によるserum factor free血清を用いて細胞増殖を観察中である。
《山田報告》
前報で勝田班長が報告した如く、JTC-15株細胞(ラット腹水肝癌AH-66)は現在までの過程中に可移植性を失った時期があり、最近再び可移植性が回復した株であるが、1968年に2回電気泳動法により検索した結果では、この株の電気泳動度はかなり異り、しかも箇々の細胞の泳動度のバラツキが大きく、恐らくmixed
populationによりこの株は構成されていると想像していた。
今月は、この株から最近数株のクローン(軟寒天による)が得られているので、再びこのJTC-15株細胞の電気泳動的性格を検索した。
(図を呈示)図に示すごとく、得られたクローン株(CA-4、5、6)相互にその電気泳動的性格が著しく異り、特にCA-4株はその泳動分布が比較的均一であり、しかもノイラミニダーゼ感受性がかなり大きく、CA-5は対照的に箇々の細胞の泳動値にバラツキがあり、ノイラミニダーゼ感受性が極めて少い。CA-6は上記二株の中間的性格を示した。この様なクローン間の著しい性格の違いはAH-7974(JTC-16)には見られなかったことである。
《佐藤茂秋報告》
1)マウスのglioblastomaの培養細胞は現在培養日数320日となっていて、尚、脳特異的なC型アルドラーゼを保持している。
培養液中にdibutyryl cyclicAMPを加えると細胞突起の数及び長さが増し、形態的に分化したgliaに似てくる結果を得ている。この結果はdibutyryl
cyclicAMP 1mMでも認められるが、変化が認められる迄に数日かかる。3mMの濃度では1日で変化が現われる。又、培養液からdibutyryl
cyclicAMPを除いても、一度変化した細胞の変化はもとに戻らない。今后はこの細胞をクローニングして、得られたクローンについて研究を進めて行く予定である。尚、本培養細胞のアルドラーゼについてはCancer
Researchに報告した(in press)。
2)AH7974由来の培養株JTC-16はin vitroでは 、 型ヘキソキナーゼしか持たないが、ラットに戻し移植すると、 型が 、 型に加え出現する。培養細胞をdifusion
chamberに入れてラット腹腔に挿入すると、12、24時間では 型は見られないが、48時間后には 型が出現する事を確かめた。diffusion
chamber内の細胞数は最初1,000万個であったが、この濃度では24、48時間后にはほとんど細胞数は増加していないで、むしろ死亡するものが多かった。もう少し細胞濃度を低くして増殖する条件下での実験を計画している。
《吉田報告》
がんにおける種族細胞の寿命と核型変化
がんには増殖の主体をなす種族細胞があり、その核型は常に一定であるという種族細胞説が牧野(1952、1957)によって提唱された。しかし、その後種族細胞の核型に変異の生ずる例がしばしば報告され、種族細胞の核型の一定性は否定され、それは変異と選択の連続的なeventによって常に変化すると説明された(Yosida
1966、1968)。しかし、癌細胞に連続的に変異が生ずるのになぜ一定期間種族細胞が存在するのであろうか。この矛盾を説明するために癌の種族細胞には一定の寿命があるのではないかという考えを提案したい。寿命の原因としては一定期間分裂増殖すると悪い遺伝子が蓄積するという一般生物にみられる現象と同じであると考えた。有性生殖をする生物では交雑によって遺伝子の入れかえがおこり生命が維持されるが、体細胞では交雑によるrecombinationはおこりえない。核型の変異がrecombinationに変わるcell
revivalの原因ではなかろうか。例えばA核型をもった種族細胞(A)はある期間分裂増殖するが老齢になると退化消失する。退化する前にmutant
cellsが生じそれらの間でcompetitionがおこり、B核型をもったmutant
cellが次の種族細胞となる。寿命の長さは腫瘍の種類によって異なる。例えばMYマウス肉腫は移植約100代(10年間)で変異したが、ラットの緑色腫(Shay)は2〜3年毎に変化した。マウスのプラズマ細胞腫瘍では数代毎に核型の変異がおこった。
尚、腫瘍種族細胞における核型の変異と寿命の関係についての研究の詳細は1972年3月23〜25日、ドイツDusseldorfで開かれる癌Symposiumにて発表する。ドイツ迄の旅費、滞在費は先方負担であるから、3月19日に羽田を発ち、ついでにモスクワ、スェーデン、ドイツ、フランス、英国、イタリアなどを廻り、帰えりはカイロ、カルカッタなどに立寄って、4月11日に帰国の予定。
【勝田班月報・7205】
《勝田報告》
A)培養内発癌実験:
1)月報No.7202に報告したExp.C57の実験であるが、これはラッテ腹膜細胞の株RPL-1(2倍体range)をニトロソグアニジンで1μg/ml
30分1回処理したもので、処理約1.5月后にラッテにI.P.で復元接種したところ、約2ケ月で1/2匹に接種部位の皮下に小豆大の腫瘤形成が認められた。対照群には腫瘤は見られていない。
このRPL-1:NGの実験系はさらに新しくまた開始し、これは初めから顕微鏡映画で追っている。
2)4NQO実験(Exp.CQ#68)
これはラッテ肝由来のRLC-10(2)(腫瘍を作らぬcoloinal
clone)を用いての実験で、これまでにも屡々報告したものであるが、4NQO処理群では、第1回の復元をしてから約1カ月より、腹水中に腫瘍細胞が見られるようになり、約7ケ月后に1/2が腫瘍死した。残りの1匹も腹部皮下径約3cmの腫瘤を作り、日増しに大きくなりつつある。
ところが、対照群は7ケ月迄は腹水中に腫瘍細胞もなく、腫瘤も認められなかったが、7.5ケ月頃より1/2匹に突然腹水が貯まりはじめ、8ケ月后には腫瘍死してしまった。
第2回の復元実験はやはりI.P.で、1/2匹は約5ケ月で腫瘍死し、残りの1匹も皮下に腫瘤を形成している。処理后の培養期間の長い方が生存日数が短いということになるが、これだけの実験では結論を早急に引き出すわけには行かない。他の実験でも意識的にこの点を追究してみる必要があると思われる。殊に今年度は、Cell
populationの内での腫瘍細胞の%が与える影響を一つのテーマとしているので、果して癌化の過程に段階的な悪性化があるのか、それとも細胞数の問題だけなのか、充分に検討してみる必要があると思う。殊に後者の場合には、そこに宿主の免疫学的反応を考慮に入れなくてはならないことになる。
この実験では、対照群は2匹とも現在までのとこと異常は認められない。
B)肝癌細胞の毒性代謝物質:
これまで永井班友と共同で[血清蛋白+DM-145]の培地で増殖しているラッテ腹水肝癌AH-7974(JTC-16株)についてその毒性代謝物質の本態を追究してきたが、今回は佐藤茂秋班員とも共同研究をはじめ、この方は合成培地内(DM-145)で増殖するようになったJTC-16・P3を用い、培養した培地から毒性物質を精製する試みをおこなっている。
1)Diafilter500を使って、まず培地の濃縮を図っているが、血清培地内で増殖しているJTC-16よりも毒性が弱いので、分劃して行く上に若干の苦労はある。しかし増殖阻害をおこす傾向は認められた。定量的なデータは次回に発表できる予定である。
2)JTC-16・P3について、
染色体数−
JTC-16の原株(血清培地にて継代)は染色体数最頻値が80〜90本となって居り、しかも幅の広い染色体数分布を示している。これを復元して再培養した系から、軟寒天培地で5種類のclonesを拾ったが、これらの染色体最頻値は85、80、76、73、44と夫々相異なっていた。合成培地内継代のJTC-16・P3については目下分析中であるが、どうも44本近辺に集まっている模様である。
復元接種試験−
300〜500万個のJTC-16・P3を生后約1ケ月のJAR-2系ラッテに復元接種し、7〜20日后に屠殺したところ、腫瘍細胞の一杯につまった白色の腹水の充分な貯溜を認めた。またこの細胞は合成培地に入れるとすぐ増殖をはじめた。JTC-16原株を復元した場合には出血性の腹水が貯まるが、JTC-16・P3では非出血性である点が興味深い。
継代−
同じく純合成培地内継代株で、L・P3やJTC-25・P3に比べると、JTC-16・P3はさらに極端に細胞膜が弱いので、Rubber
cleanerでこすったりすると、それだけで50%位の細胞が死んでしまう。そこで継代には、旧培地に等量の新培地を加えた上、瓶を振り、その液を次の瓶に移す方法を採っているが、これだと4日に1回はsubcultureが可能である。なお、この細胞は、顕微鏡映画撮影によると、かなりの歩行性を示し、一杯のFull
sheetになっても、川の澱みのような流動的な動きを示す。
《梅田報告》
(1)前回の月報(7204)でaflatoxin存在下で、4NQOにより切断されたDNAの回復が遅れる可能性を示した。非常に興味ある所見と思われるので更に時間をかけた時の回復の模様を調べた。3回実験を行ってみたが、あまりきれいな結果の得られないもの(2回)もあったが、どれも同じ様な傾向は示していた。一番奇麗と思われるデータを報告する。
実験はHeLa細胞を用い予めH3-TdRで前処置しておいた。4NQO処理する時の細胞数は13万個cells/mlで予定よりやや少な目になって了った。4NQO
10-6乗M 1時間処理して、細胞を洗って無処置培地に戻したものは3日后、46万個cells/ml(コントロール58万個cells/ml)となり良く回復していることを示している。これに反し、回復培養の時10μg/mlaflatoxinB1を入れておいたものは、3日后に5.5万個cells/mlを示し、極端な細胞数の減少を示している。この場合、aflatoxinB1は3日間入れ放してある。このaflatoxinB1だけの処理では9.1万個cells/mlであった。(夫々図を呈示)。
この回復の模様を4時間目、8時間目に超遠心機でまわした。いつものalkaline
sucrose gradientで遠心は30,000rpm 90'行った。4NQO1時間処理(A)で切断されたDNAは回復培養4時間后(B)では明らかな回復の徴候を示しているのに、aflaoxinB1
10μg/ml存在下では(A)より回復が進んでいると思われるものの(B)と較べると明らかな回復の遅れが認められる。回復培養8時間目のものは、底より4、7本目にピークがあって、この解釈は私にはわからないが、aflatoxinB1存在下でDNA鎖はまだより短鎖のまま残っていることがわかる。aflatoxinB1だけの処理で8時間目では(F)、やや小さなDNA断端が増している様であるが、底に40%のcountが集りまだ著明な断裂は進んでいない時期と解釈される。
目下この考え方を布延して、諸々のDNA鎖を切りそうにない発癌剤によるこの様な効果の有無を調べること、又4NQOとaflatoxinB1併用による発癌実験を組むことを考えている。
(2)以上の実験を含め、超遠心の実験を行うにあたって、どうも切断の程度が強すぎている様な結果があった。特に今、種々の細胞株による4NQOによる切断及びその回復能の違いを検討しているが、かなりのデータが失敗して了った。良くデータを検討した所、原因はH3-TdR処理が強すぎた様である。即ち、少数細胞の時にH3-TdRのかなりの量を投与したため、H3による細胞障害の弊害が出てきて了ったと考えられる。あわててH3-TdR処理をもっとmildな方法に、即ち分割投与にするべく計画変更した所である。
《乾報告》
1)試験管内Transformed細胞の指標としての染色体Banding
Patternに関する基礎研究:
試験管内癌細胞の染色体は一般に起原細胞のそれと比較して変異を示すが、その変異の方向に一定性がなく、又長期間培養による自然転換細胞の染色体変異に比して何らの特色を示さない。一方、Caspersson、Evans、Hsu等によって、キナクリンマスタード蛍光染色法、核蛋白変性法等の手技を用い人間の染色体上のBanding
Patternが明らかにされ、染色体上のHeterochromatin分布を定めることにより、一本一本の染色体の識別が可能になった。培養細胞の染色体のBanding
Patternを観察することにより、染色体の数、形態変化の起る前に、変異細胞を識別する目的で、Hsu(Chromosome
34,243)、Evans(Nature N.B.232,31)等、人間の染色体染色の方法を様々に変法し、正常ハムスター雄細胞で染色体のBanding
Patternを得た。(核型図を呈示。ハムスター細胞では、Hsuの変法、Rapid
Trypsin法が、Banding Pattern染色に適当と思われる)。Hsuの変法によると、従来識別困難であったNo.3と4、No.6〜9、No.16〜19の染色体が容易に識別出来る上、染色体各々に特色あるBandが表われた。今後これらの方法を用い癌細胞、発癌過程の培養細胞の染色体の解析を試みて行きたい。
2)黄色種タバコタール各分劃の発癌性の検定:
昨年黄色種タバコの粗タールを授乳期ハムスターに投与し、細胞の悪性化を報告した。現在、呈示した図の方法で粗タールの分劃を試み、中性、酸性、アルカリ性分劃を同様にハムスター細胞に投与しタバコタール中の癌原性物質の分析を試みている。タール各分劃の培養細胞に対する急性毒性は、アルカリ、酸、中性分劃の順で、中性分劃の細胞毒性は非常に弱く、250μg/ml作用群においても著明な毒性は認められない。現在、これら分劃を100μg/ml、50μg/ml、3時間細胞に作用し、観察中(約60日)である。作用後28日で酸性分劃投与群、36日で中性分劃投与群に細胞の形態転換がみられた。
《黒木報告》
Replica Cultureについて(1)
FM3A細胞を用いて、バイ菌の場合と全く同じようにreplica
cultureを試みた。
replica cultureを行うと思った動機はRosenkranzの制ガン剤及び発ガン剤screening法をmammalian
cellに応用したかったからである。すなわちRosenkranzの方法はDNA
damageに対するrepair(-)の菌に制ガン剤のdiscをのせ、その阻止輪の大きさからDNAに対する傷害をみる方法である。そのためには、従来の経験からFM3Aが最適のように思われた。FM3Aからrepair(-)またはUVsensitiveの細胞をとるためには、BUdR→光照射よりもreplica法の方がより容易であるし、replica
cultureとしての面白味もある。またFM3Aが寒天表面で増殖可能であることは、すでに仙台にいたとき確めてある。
1.寒天の濃度と種類
(表を呈示)表に示すように、Noble-agarの方がBacto-agarよりもはるかによいコロニー形成率を示す。特にagarの濃度をあげたとき、両者の差は著明であった。(*P.E.:60mm
dishni指示した濃度の寒天を5ml加え、ふらん室でやや表面を乾かせたのち、FM3A細胞100ケを含む培地0.1mlを添加表面に撒布した。培地は10%CSを含むMEM、寒天には0.1%Bacto-peptoneが含まれている。**100mmシャーレに12mlの寒天、その上に200ケの細胞を含む培地0.2mlを撒布した。(細胞のコロニーと位相差像の写真を呈示)。
2.Replica cultureの試み
以上のように、非常にはっきりした丁度バイ菌と同じようなコロニーを作ることができたので、バイ菌と同じ方法でReplica
cultureを試みた。
(図を呈示)図のようなアルミの台の上にビロードの布地をのせ、リングで固定する。このビロードの上にコロニーの生えた寒天を軽くのせ、コロニーをビロードの毛の間にうつしとる。次に細胞の生えていないシャーレ(0.75%寒天培地)を軽くのせて、コロニーをうつしとる。表は4種類の布地によるreplicaの率である(表を呈示)。(A)は、医科研細菌感染部で細菌replicaに用いている布地。(B)は、化せんベルベット。ベルベットは本来絹製であるが、非常に高価であり、夏場には余りおいてない。ほとんどが化センである。(C)は、木綿別珍。(D)は化せんベルベット、この布地は水を吸いとらないため、3回目以降はコロニーがspreadして、colony数のcountができなかった。
表にみるように、replica率は布地によって著しく異る。(D)がもっともよいが、この布地は水分を全く吸わないため、三枚目頃より布地上に水が残り、そのためコロニーが、spread
outしてしまう。(A)(B)(C)は何枚replicaをとっても布地はdryであり、増殖してきたコロニーもきれいであるが、何としてもreplica率が悪い。目下(D)で寒天濃度を1%にすること、(A)(B)(C)では0.5%の寒天を用いることを考えている。
このほか、FM3Aがもしserum-free mediaでgrowthできれば、amino
acidのrequirementのmutantもひろえるので、MEM
only、DM-120、F12で培養を試みた。その結果MEM、F12では最初の1代の継代のみ可能、DM120では3代まで継代したが、その後だめになった。しかし、培地をかえることにより今後serum
freeでも増殖可能の細胞のとれる可能性はある。
《山田報告》
今月は種々雑用が重なり、加えて技術員の交代があり、実験が思う様に進みませんでした。培養学会の、"細胞の変異と表層膜の関連性について"の特定演題に応募した都合上、ConcanavalinAの作用について、培養細胞を用いて検索してみました。(反応条件はNo.7207に記載したものと、同一です)。
(表を呈示)表に示すごとく、ラット培養肝癌細胞であるJTC-16(AH7974)は、5μg/mlの低濃度のConA.を加へると、著しくその電気泳動度は上昇し、20μg/ml以上の濃度のConA.により低下し、biphasicな反応を示しました。凝集は20μg/mlの濃度のConA.でやや起こり、100μg/mlの濃度で完全に起こりました。
これに対し、なぎさ培養株JTC-25は100μg/mlのConA.でも著明な凝集は起こりませんでしたが、その電気泳動度をしらべると、やはりbiphasicな変化を示しました。しかし、その泳動度の上昇する濃度は20μg/mlであり、その上昇率は低い様です。
これらの変化は腹水肝癌細胞について検索した結果(No.7207)と同一です。更に良性、悪性細胞に対比して検索してみたいと思います。
《高木報告》
RRLC-11細胞の放出する毒性物質:
この2月以来RRLC-11細胞の放出する毒性物質の毒性が低下し、実験の進捗に支障を来している。いろいろな原因が考えられるが、最近の実験に用いた牛胎児血清は培地(MEM)に加えた場合pHの可成りの低下がみられ(酸性に傾く)、この血清を用い始めたのと期を一にして毒性が低下したので、血清が主たる原因ではないかと考えている。但pHが酸性に傾くことの因果関係は分らない。一方細胞側の感受性の変化も因子として考えられるので、現在手持ちの細胞につき(RFLC-1、C-3、C-5)弱い毒性ながらも細胞増殖に対する抑制効果を調べてみた。RRLC-11細胞を培養した培地を20%の割合に、これら"正常"細胞の培地に培養開始と同時に加え、2日目に同じ培地でrefeedして4日目に細胞数を算定し、対照の細胞の4日目の細胞数に対する百分率を示す(図を呈示)。現時点ではRFLC-1細胞に最も強い毒作用がみられるようで、RFLC-3細胞は全く影響をうけず、RFLC-5細胞はその継代の系(1、3、4)により感受性が違うようである。RFLC-5細胞の中系1と系3、4を分けて継代しはじめたのが昨年8月24日、また系3と系4を分けて継代はじめたのが本年1月9日である。少くとも位相差顕微鏡による観察ではこれら細胞間に形態の相異は気ずかない。染色標本は目下作製中である。ここに用いた細胞はcolonial
cloneで単一細胞から増殖したか否かについて疑義があるが、何等かの原因で細胞集団として継代の期間中に感受性が変化したことを認めざるをえない。RRLC-11細胞の培地中の血清を変えて目下毒性の恢復を待っているが、RFLC-1細胞は増殖がおそいので、RFLC-5細胞の系1または系4を用い、また出来るだけ同じlotの血清を用いて実験を進める予定である。
RRLC-11細胞とRFLC-3細胞との混合培養:
両細胞の混合培養で混ぜる時期と細胞毒作用との関係を観察した。すなわち
1)両細胞を200ケずつ同時に植込んだ群(14日間培養)
2)RFLC-3細胞を200ケ植込み、5日後にRRLC-11細胞200ケ植込んでさらに10日間培養した群(計15日間培養)。
3)RRLC-11細胞を200ケ植込み、5日後にRFLC-3細胞200ケ植込んでさらに10日間培養した群(計15日間培養)。
4)RFLC-3細胞を200ケ植込み、10日後にRRLC-11細胞200ケ植込んでさらに10日間(計20日間)培養した群。
以上の4実験を行った。1回行っただけなので参考dataとしか云えないが、次の様な結果をえた(表を呈示)。
RRLC-11細胞とRFLC-3細胞とを同時に植込んだ場合、それぞれのコロニー数は72と82であり、RRLC-11細胞を先に植込みRFLC-3細胞を5日後に植込んだ場合のコロニー数はそれぞれ76と79で、以上1)、2)の実験では似通った結果をえた。しかし、RFLC-3細胞200ケを先に植込み5日後にRRLC-11細胞を同数植込んだ3)の実験では、RRLC-11細胞の小さいコロニー数は98でRFLC-3細胞のコロニーは27であり、それらは多少とも変性の像を示し、完全に変性をおこし脱落したと思われるコロニーの跡もみられた。予想としては、RFLC-3細胞を先に植込み、次いでRRLC-11細胞を植込んだ方がその逆の場合よりRFLC-3細胞のコロニーのうけるdamageは少いのではないかと考えたが結果はこれに反し、いささかparadoxicalな感がしないでもない。さらに検討したいと思う。実験4)は培養日数が長いためか細胞のovergrowthと培地の栄養が不足したためと思われる変性像があり、コロニー数は算定出来なかった。
培養内悪性化の示標について:
Serum factor freeの血清を用いた培地でRRLC-11細胞、RFLC-5細胞の増殖に及ぼす影響をみているが、今回は硫安1/2飽和でserum
factorを除いてみた。作製法が悪かったためか、この方法でえたserum
factor free血清を用いた培地は両細胞共に増殖を強く抑制した。さしあたり、硫安1/3飽和でえたserum
factor free血清(月報7203)を用いてsoft agarの実験を行っている。
《野瀬報告》
(1)培養細胞の形質発現の調節:
細胞の持つ形質を問題として取り上げる場合、形質そのものの量的、質的研究をする立場と、遺伝子から形質発現までの過程を調べる立場の2つが考えられる。癌研究においても、癌細胞のいろいろな形質をしらみつぶしに調べ、正常細胞との違いを見出すことにより癌を理解する方法論があるが、莫大なdataにくらべ本質はあまりわかってこなかったような気がする。これに対し、癌化を形質そのものの変化ではなく、それの背後にある調節機構の面から解析しようという方向もあり、この方向は比較的未知な事柄が多く、細胞の代謝調節も含めて癌化の研究にとって有効であると思われる。
実験系としては、細胞の形質が少量の細胞で、容易に検出できることが望ましいが、この条件を満足させる酵素の一つとしてalkaline
phosphataseがある。この酵素はHeLaで、hydrocortisone処理によって活性誘導が見られることが既に知られており、その他にも誘導する条件が見つかっていることから、酵素誘導の研究材料として適していると思われる。
alkaline phosphataseの若干の性質は月報No.7107に述べてあるが、活性の測定は表に示したincubation
mixtureを用いて行っている(表を呈示)。最初に、各種の条件下で、各種の細胞株について酵素の活性誘導が起こるかどうか検討したが、ラット肝由来のJTC-25・P3(RLH-5・P3)細胞は、dibutyryl
cAMPにより著しい活性上昇を起こすことが判った。Controlの未処理細胞は、alkaline
phosphataseI活性が比活性(mμmole p-nitrophenol/hr/mg
protein)にして100以下であるのに対し、dibutyryl
cAMP 0.25mM、Theophyllin 1mM加え、37℃で4日間培養した細胞は、約3000程度に上昇する。この活性誘導は、Actinomycin
D、cycloheximideによって阻害され、cytosine
arabinosideでは阻害されない。一方alkalinephosphatase は誘導されなかった。dibutyryl
cAMPを加えて培養するとJTC-25・P3細胞は偽足を長くのばし、紡錘型になったが、alkaline
phosphataseが誘導されないL・P3では形態的にも変化は認められなかった。JTC-25・P3はタンパク、脂質を含まない完全合成培地で増殖するため、誘導機構を細かく調べるのに有利な株を考えられる。
(2)培地中への細胞内酵素の分泌:
癌患者の血清中には正常時と較べ、ある種の酵素活性が増加したり、減少したりすることが一般に知られている。この現象は癌の診断に使われるのと同時に癌細胞の一つの特性として細胞内酵素の流出に変化が生じていることを示唆する。血清を含まない培地で培養している細胞は血清中酵素、酵素阻害剤の影響なしに細胞分泌された酵素を測定するのに有利である。
酵素としては、DNase、RNase、Alkaline phosphataseIの3種類を調べた。DNase、RNaseは、JTC-21・P3、JTC-25・P3、JTC-16・P3、L・P3などで細胞内活性とほぼ同量、培地中に検出された。この活性は単に細胞がlysisして放出されたのではないことは、acid
phosphatase、β-glucronidaseは培地中にほとんど検出されなかったことから示唆される。
現在、この分泌機構、特に細胞膜の変化との関連で研究を進行させている。
《藤井報告》
Mixed lymphocyte-tumor reaction(MLTR)の仕事が不充分であるということと、班の仕事で癌化細胞の可移植性について手伝え、ということでふたたび呼び戻されました。
それから本年から外科研究部を改め癌病態研究部となりました。診療科の方は外科診療科のままで、病院で外科をやることには変りないのですが、研究所附属病院の研究部として、研究の方向なり内容を表わす名称にしようということでこうなったのだと思います。英文名はDepartment
of clinical oncologyです。出戻りの御挨拶と共によろしくねがいます。
Culb-TC、RLT-2、RLC-10の癌化細胞から正常培養肝細胞にいたる一連の株細胞の同系JAR-1ラットリンパ球に対する幼若化刺激能に差があり、癌化(Culb-TC)、変異(RLT-2)、正常(RLC-10)の順であったが、この実験では変異株に癌抗原がないとは云えず、むしろ癌化細胞のpopulationが低いからではないかという提言が勝田教授からありました。抗原刺激細胞数を5万個としたときの成績が上のようになったわけで、変異RLT-2株細胞がRLC-10より高いことは、RLT-2にもRLC-10にない何かがあることを示唆しています。それが、Culb-TCと同じ抗原かどうかはわかりませんが、この辺りの解析を今やり始めています。Culb-TC
irradiated、Friend's virus infected Culb-TCに対するisoantibodiesができた所です。
研究部で協力して乳癌、胃癌、Wilm's腫瘍、神経芽細胞腫などについて、細胞培養、MLTRをやっています。現在まで19例ですが、MLTRが陽性と出たもの5例です。刺激細胞としては生の腫瘍細胞が主で、壊れた細胞が多く問題です。Wilm's腫瘍と、pleural
mesotheliomaでは培養細胞の方が、とり立ての細胞よりMLTRが高く出ましたが、これはラット、マウス腫瘍のばあいと同じ成績です。
《堀川報告》
HeLaS3原株細胞とこの原株細胞から分離したUV感受性株S-2M細胞を、4-NQOまたは4-HAQOで処理した後に出てくるコロニー数及び極度にpiled
upしていると思われるコロニー数を算定した結果はいづれもS-2M細胞から多くのコロニーが出てくることを前報で報告したが、今回はこうした結果を更に確かめるため次のような実験を行った。
まずHeLaS3細胞とS-2M細胞を、各種濃度の4-NQOまたは4-HAQOを含むmedium内で12〜14日間培養した後に出現するそれぞれのコロニー数から計算した濃度−生存率関係は、確かに4-NQOまたは4-HAQOに対してS-2M細胞はsensitiveであることが再確認された(図を呈示)。ついて100万個づつHeLaS3細胞およびS-2M細胞を4-NQOまたは4-HAQOで処理する段階において、(前回はTD-40瓶に細胞を植え込んでから24時間incubateした後にcarcinogensで処理をするという方法をとったが、この際もし24時間のうちにS-2M細胞の倍加がHeLaS3原株細胞よりも常に早く起きるためS-2M細胞の方から常に生存コロニー及びpiled
upコロニーが多く出現するという"ありそうもない"危険性を考慮して)今回は100万個づつの細胞をそれぞれTD-40瓶に植え込む際に2x10-6乗M
4NQOまたは7.5x10-6乗M 4-HAQOを加え、4-NQOの場合はそれぞれ1、2、3日間処理した後正常培地と交換し、また4-HAQOの場合は同様に2、4、5日間処理した後正常培地にかえて、それぞれ15日後に瓶当りに出現する総コロニー数及びpiledupコロニー数を算定した。前報を同様の方法で結果を示す(表を呈示)。
これらの結果からわかるように、carcinogens処理後に出現するコロニー及びpiled
upコロニーの数は前回の結果と同様にいづれもS-2M細胞の方から圧倒的に多く出ることがわかる。何故carcinogensにsensitiveなS-2M細胞の方から多くのコロニーが出現するか、またこのように出現するコロニーは一体何物なのかといった問題の解析が今後に残されている。
【勝田班月報:7206:培養細胞のALP誘導】
《勝田報告》
A.RLC-10株(ラッテ肝細胞)の4NQO処理実験の復元接種試験とその成績:
これまで処理群、未処理群(対照)などについて何度も復元テストをしてきたので、その結果を統括してみた。(図を呈示)この図を眺めて最も痛切に感じるのは、培養内で癌化した系に比べ、その腹水腫瘍を再培養した系の方が、動物の生存日数がはるかに短いことである。何故このような差が生まれるのであろうか。培養内で癌化したときの、その癌化細胞のpopulation
densityによるものか、動物に接種されている内に悪性度が増強されたのか、その辺を私は今年度に重点的にしらべたいと思っている。勿論この点に関しては、腫瘍細胞の抗原性の強さ、宿主の反応度などの問題もあり、今年は藤井、山田両班員にも大いに奮起をねがいたい所以である。
B.ラッテ腹膜細胞株(RPL-1)のニトロソグアニジン処理による悪性化:
前月報にも報告したが、RPL-1株の培養にNG、1μg/ml、30分を与えて悪性化を図り、動物へ復元接種した結果、1/2匹に接種部位の皮下に小さな腫瘤形成を認めたところであるが、その経過については別の機会に報告するが、用いたRPL-1株の染色体数分布をみると(図を呈示)樹立約9年後では染色体数最頻値が43本となっている。しかしこの株はこれまで正二倍体を永く維持していたので、培養内化学発癌の材料として腹膜細胞はきわめて好適なのではないか、と考えられる。
この株にNGを各種濃度に添加して増殖曲線をしらべた結果で、濃度に比例した増殖抑制がみられる。しかし1μg/mlでは全く抑制の見られないことが面白い。しかもその濃度で変異が見られたわけで、4NQOとはずい分異なる現象である。
RPL-1ははじめは非常に特異的な形態を示していた。この頃はその特徴もなかり消失したが、(写真を呈示)上皮様形態できれいなmonolayerを作る。
これを1μg/mlのNGで30分間処理し、変異した細胞にはきわめて大小不同を認め、しかも対照に比べ非常に大型の核が見出される。(処理91日後の形態写真を呈示)小型の核は対照とほぼ同じ位の大きさである。(メタノール固定、ギムザ染色)多核細胞も見られ、大型の細胞がその後も分裂増殖をつづけられるかどうかは未だ不明である。
C.JTC-16とそのclones及びsubstrainJTC-16・P3の染色体構成:
JTC-16株はラッテ腹水肝癌AH-7974から由来した細胞株で、その原株は(図を呈示)高4倍体に最頻値がみられる。しかしこれから得られたクローンは何れも染色体数最頻値が減少し、殊にclone-A-4では2倍体域のものが多くなっている。純合成培地で継代している亜株JTC-16・P3は、ほとんどが2倍体rangeの細胞だけになってしまった。
肝癌細胞の毒性物質をしらべる上に、完全合成培地継代亜株を用いたいと思い、検索してみた結果である。JTC-16・P3は動物に復元すると腫瘍を作り、毒性物質も原株より少し毒性が弱いが産生している。ラッテ腹腔内での細胞密度が高まっても、出血性の腹水にならないことが特徴的である。
:質疑応答:
[吉田]復元実験には色々問題があるのですね。接種後1年間も生体内で何をしているのでしょうか。
[乾 ]ハムスター頬袋などは割合早くに判定できますが、腫瘍死しませんしね。
[高木]腫瘍死であるという判定はどうみていますか。転移はありましたか。
[勝田]これらの系では死亡時にはたっぷり腹水が溜まっていますから、腫瘍死といって差し支えないと思います。転移はみられません。
[高木]RPL-1にニトロソグアニジンをかけた場合、初期には死ぬ細胞が少ないようですが、90日後には形態変化がみられるのですね。
[乾 ]やはりラッテの肝細胞を使った実験で、3週間培地を変えずに培養していたら、形態的変異を起こし、それはcon.Aで凝集するようになったという論文がありました。
[勝田]RPL-1の実験では、培地は週に2回更新しています。
[黒木]3週間も培地を変えずにいると死ぬ細胞もあるだろうし、培地条件もいろいろと変わるだろうし、何が起こっているか解析できないでしょう。
[山田]アメリカでは形態変化だけで悪性化を判定するのでしょうか。
[吉田]合成培地系のAH-7974(JTC-16・P3)の染色体のモードが2倍体近くに変わったというのは面白いですね。
[梅田]糖代謝は変わっていませんか。
《山田報告》(先月号記載を改めて説明)
培養学会の"細胞の変異と表層膜の関連性について"の特定演題に応募した都合上、ConcanavalinAの作用について、培養細胞を用いて検索してみました。
(表を呈示)ラット培養肝癌細胞であるJTC-16(AH-7974)は、5μg/mlの低濃度のConc.Aを加へると、著しくその電気泳動度は上昇し、20μg/ml以上の濃度のConc.Aにより低下し、biphasicな反応を示しました。凝集は20μg/mlの濃度のConc.Aでやや起こり、100μg/mlの濃度で完全に起りました。
これに対しなぎさ培養株JTC-25は100μg/mlのConc.Aでも著明な凝集は起りませんが、その電気泳動度をしらべると、やはりbiphasicな変化を示しました。しかし、その泳動度の上昇する濃度は20μg/mlであり、その上昇率は、低い様です。
これらの変化は腹水肝癌細胞について検索した結果(No.7207)と同一です。さらに良性、悪性細胞を対比して検索してみたいと思います。
:質疑応答:
[乾 ]4NQOで処理した後、2週間位では泳動度はどうでしょうか。もう無処理のものとは変わっていますか。
[山田]処理後2〜3週間位で一度変わりますね。そして何か色々な細胞が出てきている感じですね。それから一度はポピュレーションチェンジがあるようで、3カ月位たつと大体落ち着いて悪性型になるというのが普通の経過です。
[乾 ]一つの培養系の中では、それはかなり定着した経過ですか。
[山田]RLC-10系では大体そういう経過を辿るようですね。
[黒木]Con.A処理の実験ですか、このやり方だとcon.Aで凝集しない細胞の電気泳動度しか測定できないことになりますね。低温で処理するとかモノバレントのcon.Aを使うとかすれば、con.Aが結合しても細胞の凝集はない訳ですから、もっと幅広くし調べられるのではありませんか。
[山田]本当にきれいにモノバレントに出来るなら使ってみたいですね。自分として面白いと思っていますのは、泳動度がcon.A処理によって一過性に上がるということです。細胞膜の仕事にシアルダーゼ処理だけでなくこのcon.A処理の方法も平行して使ってゆきたいと考えています。
[藤井]抗血清をγグロブリンか、又19S抗体に精製して、定量的に泳動度を出すことが出来ますか。
[山田]定量的にやれます。
[勝田]In vitroで悪性化した細胞を動物へ復元しても腫瘍死するまでに1年もかかるというのは、抗原性の変化ということも考えられますね。
[藤井]始めに接種した細胞と、動物の中で増殖した細胞の再培養系との抗原性の違いなら、私のやっている幼若化の方法で調べられると思います。
《黒木報告》
<BALB3T3細胞を用いたTransformation>
月報7204にBALB3T3にDMBAを添加してTransformationの得られたことを報告した。その後この細胞の二つのcloneによるTransformationの成績を得たのでもう一度まとめて、定量的な成績を示す。
(transfromationとcytotoxicity testsのcheduleの図を呈示)60mm
Falcon dishに1〜5万個cellsをplateし翌日DMBAを添加する(細く云えば、最初は3mlの培地を加え、翌日発癌剤を含む培地を2ml加える)。48時間後に培地交換、以後transformation
expは3/wの培地交換(4ml/dish)をしながら4〜6週間培養する。通常screeningの意味でDMBA
1.0μg/ml、4.0μg/ml、DMSO 0.5%の三群をおく。各群、各10枚のシャーレを用いた。
Cytotoxicity testは200ケの細胞をまき、翌日同様に1.0μg/ml、4.0μg/mlのDMBAを添加、48時間後培地交換し、2週間培養後コロニー数をcountする。その他、
培地:MEM plus 10%CS
発がん剤:Eastman Kodak DMBA、TLCでpurityはcheckずみ
DMSO:ドータイド スペクトロゾール(和光純薬)
(表と図を呈示)clone間にtransformat.及びDMBAのcytotoxic
effectに対する感受性の差がみられた。すなはちWild
BALB3T3及びclone#1はほぼ同じ程度のcytotoxicity及びtransformation感受性を有するのに対し、clone#2は、wild及びclone#1より、はるかに感受性である。興味があるのは、どの細胞でも、ある程度細胞傷害性の現れるような濃度でtransformation率も上昇し(wildの2.0μg/ml、clone#1の4.0μg)、しかし細胞傷害性の著しい濃度例えばclone#2の4.0μgではtransformation率も低下する。最高のtransformation率は、50%前後に細胞傷害の現れる濃度のように思える(clone#2の1μg/ml)。
現在他のいくつかのclone、C1-#4、#5、#11、#13などで実験がすすめられている。同時にCl-#2の再現性、MCA、pyrene(非発がん性)によるtransformation
assayも進行中。
これらのtransformed fociからtrypsin-filter
paper法でfociをいくつかisolateした。目下、saturation
density、Agglutinability by ConAなどテスト中。saturation
densityはDMSO処置controlの2-4倍に上昇している。
この他、FM3Aのreplica培養(先月号月報)について報告した。
:質疑応答:
[吉田]BALB3T3は染色体に特色がありますか。
[黒木]染色体はまだ調べていません。復元実験も今計画中です。
[吉田]DMBAという発癌剤は面白いですね。ラッテに投与して白血病を起こさせると、染色体上でC1トリソミーを作るのです。何かラッテの培養細胞に作用させてみると面白いと思います。
[勝田]化学発癌剤で染色体に一定の決まった変化を起こさせる物は少ないですね。
[黒木]C粒子の問題もやらなくてはと考えています。それからCon.A処理では30分間37℃で振るとBALB3T3の無処理のものでも凝集してしまうので、もっと時間との関係もきちんと調べなくてはなりませんね。
[乾 ]Con.Aも+、++、+++では矢張り主観的ですね。
《野瀬報告》
培養細胞のAlkaline phosphataseIの活性誘導:
Alkaline phosphatase(以下ALPと略)は細胞をdibutyryl
cAMPとtheophyllinと共に培養すると著しい活性上昇が見られた。合成培地で継代しているJTC-25・P5、L・P3の細胞について調べたが活性上昇が見られたのはJTC-25・P5であった。この株からcolonial
clonesを6株とり、それぞれの誘導性を見た。(図を呈示)ALP.I活性は細胞をそれぞれの薬剤で4日間、37℃で処理した後測定した。Cloneにより誘導性のあるものとないものがあることがわかった。ALP-IIはALP-Iと違ってdibutyryl
cAMPによっては誘導されなかった。また、butyryl基で置換されていないcAMPは1.5mM(+Theophyllin
1mM)の濃度で細胞に加えてもALP.Iの活性に全く変化を与えなかった。
次にdibutyryl cAMP、theophyllinの濃度を変えてALP.Iの変化を見た。用いた細胞は上でとったClone1である。それぞれの薬剤濃度に対してほぼ直線的にALP-Iの活性は上昇する。活性上昇の時間的経過は、1〜2日のlagの後に見られ8〜9日でほぼplateauに達した。この時の実験はtheophyllin
1mM、dibutyryl cAMP 0.25mMで行った。
このALP-Iの活性誘導の機構を知る第1歩として各種阻害剤の影響をみた。(表を呈示)JTC-25・P5
Clone1細胞を1mMのtheophyllin、0.25mMのdibutyryl
cAMPで37℃、4日間処理し、この間、各種阻害剤を加え、ALP-Iの活性を測定した。タンパク、又はRNA合成を阻害すると誘導は抑制され、DNA合成を阻害してもほとんど影響はなかった。また、microtubulesの形成を阻害し、細胞の伸長を阻害するcolchicineもALP-Iの活性誘導にはほとんど阻害効果を持たなかった。これらの結果からdibutyryl
cAMPによるALP-Iの活性誘導には、何らかの形でde
novoのRNA、タンパク合成が必須であると言える。阻害剤として、4-NQO(10-6乗M、3x10-6乗M)、cytochalasinB(2μg/ml)なども加えてみたが、いずれも誘導には影響なかった。
Cloneによって誘導性の異なる原因として、第1に加えたdibutyryl
cAMPが分解されるか、細胞内にとりこまれないかの問題が考えられる。H3-dibutyryl
cAMPをALP-I誘導性のJTC-25・P5 Clone1とL・P3の培養液中に加え、37℃4日間incubateした後、薄層クロマトで見ると、どちらの細胞の場合もH3-dibutyryl
cAMPは分解していなかった。一方H3-cAMPはどちらの場合もほぼ完全にAMPに分解していた。細胞内へのとりこみは現在検討中である。
:質疑応答:
[佐藤茂]ラット肝にはタイプIもIIもあるのですね。IだけとかIIだけとかの臓器はありませんか。
[野瀬]あまり多くの臓器について調べた訳ではありませんが、Iが非常に強いものはありました。
[勝田]酵素活性の至適pHの違いは、その酵素の存在場所のpHの違いを示しているとは考えられませんか。
[野瀬]どうでしょうか。活性をみるのはin
vitroでやっているので、必ずしも生体内の条件と一致しているかどうか。
[山田]それにしてもこういう酵素活性をin
vitroでみる時、生理的とはとても考えられない条件で働くのはどういう事なのでしょう。
[勝田]活性のベースが0でなく、トレース程度にあった時でも活性が上昇すれば誘導といってもいいのでしょうか。
[野瀬]酵素活性の誘導の実験は菌を使って始められたのですが、その初めての実験でもトレース程度の活性から上昇させてInductionという言葉が使われていました。
[黒木・乾]言葉としての定義は別として、こういう場合にInductionというのは、ごく一般的に使われていますね。
[佐藤茂]マスクが外れるのはactivationですね。
[黒木]アクチノマイシンDとサイクロヘキシミドの作用の効果は可逆的ですか。細胞系での実験では与えた物質の毒性がからんでくる心配があると思いますが。
[野瀬]この系ではアラビノCのように毒性はあるが、活性誘導を起す物質もあります。
[勝田]細胞の分劃法を改良して、もっと活性が集中した分劃をとれませんか。
[野瀬]そうですね。今の分劃法ではどの分劃にも細胞膜が少し入ってしまいますので、そこを改良するとはっきりするかも知れません。
[勝田]ところで、癌との関係は・・・。
[佐藤茂]悪性細胞はタイプIを持っているという可能性がありそうですね。
[野瀬]そこに希望をつないています。黒木班員の3T3の腫瘍性のある系、ない系などについても調べてみたいと思っています。
[山田]機能に関係があるとすると、むしろ癌では非常に乱れて色々な結果が出るのではないかと思いますよ。
[梅田]前立腺とか骨について調べましたか。
[野瀬]まだ調べていません。
[佐藤二]肝由来の細胞系の間に違いがありますか。
[勝田]なぎさ変異のJTC-25・P3とJTC-21・P3は違います。
[野瀬]同じ系でも動物継代のAH-7974はタイプIが低いのに、培養株になったAH-7974(JTC-16)はタイプIが大変高いという違いがあります。
[吉田]染色体の分析が進むと、どの染色体にその酵素を活性化する遺伝子が乗っているか判る筈ですね。
[勝田]IとIIが同じ染色体上にあるのかどうか興味がありますね。
[佐藤二]培養の経過を追って調べてみる必要もありますね。
[黒木]cAMPの場合の問題と、活性化までの経過の分析はやれますか。
[野瀬]計画しています。
《高木報告》
培養内悪性化の示標について:
培養内悪性化の示標としてMacPherson &
Montagnierのsoft agar法をchemical carcinogenesisにも応用すべく検討して来た。しかしこれまでに用いた培地、MEM+10%CS・0.33%agarでは悪性化した細胞のみ撰択的にsoft
agar内に増殖せしめることが出来ず、ただcolony
forming efficiencyの高い細胞を拾うことは可能であった。
培地組成を考慮すればsoft agarも未だ"示標"として用いうる可能性も残っているのではないかと考え、今回はTodaroらの云うserum
factorを血清から除いて検討してみた。Serum
factor free血清の作り方はcolumnによる方法、Cohnのアルコール沈澱法、硫安による沈澱法など種々あるが、さしあたり最も簡単な硫安1/3および1/2飽和による除去を試みた訳である。
月報7203の如く硫安1/3飽和によりserum factorを除いた血清(1/3飽和血清と略)を5%の割にMEMに加えた培地で"正常"細胞RFLC-5と腫瘍細胞RRLC-11を培養2日目にrefeedし、4日後これらの細胞数を算定したところRFLC-5は殆んど増殖を示さなかったのに対し、RRLC-11細胞は対照と変らぬ増殖を示した。
次いで硫安1/2飽和でserum factorを除いた血清(1/2飽和血清と略)を5%の割にMEMに加えた培地を同様に両細胞に作用せしめたところいずれの細胞も増殖が著しく抑制されたが、その程度はRFLC-5細胞の方が大であった(図を呈示)。同時に行った1/3飽和血清については前回の実験(月報7203)と同様の傾向がみられた。1/2飽和血清を用いた時にみられる著明な抑制作用は、この血清を作製する過程に問題があり毒性を示したのではないかと考えている。さらにRRLC-11細胞をsoft
agarにまいて出来たcolony(CFE 19.5%)の中、比較的大きいもの2つを拾って増殖せしめたRRLC-11C・1、RRLC-11C・2細胞に対する1/2および1/3飽和血清の効果は(図を呈示)、RRLC-11C・2細胞の培養2日間の増殖が悪いのは問題と思うが、2日以後の増殖の度はC・1もC・2も変らないので一応これら2つを比較した場合、C・1の方が増殖がよく、すなわちserum
factorの要求が少いものと思われる。この実験は再度行う予定であるが、細胞の悪性度とserum
factor freeの血清を用いた培地による細胞の増殖の度合との間に相関があること−つまり悪性度の強い細胞ほどserum
factorのneedが少いことが確かめられれば、この血清を用いたsoft
agar内における悪性化細胞の撰択的増殖も期待出来る訳である。目下上記細胞を1/3飽和血清を用いたsoftagarにまきcolony形成能を検討する一方、RRLC-11C・1およびC・2細胞、RFLC-5細胞を1,000個および100万個newborn
ratに移植して造腫瘍性を観察している。
RRLC-11細胞の放出する毒性物質:
本年3月以降、RRLC-11培地のRFLC-5細胞に対する毒性の低下がみられたことを報じて来た。これまでの実験データを再検してみると、RRLC-11細胞を培養する際の培地中の血清が毒性物質の活性と関係があるように思われる。ごく最近、Gibco製のpHが可成り酸性に傾くFCSから、当研究室で分離作製した非働化していないFCSに切換えてみたところ、毒性の低下はさらに著明になり全くRFLC-5細胞の変性はみられなくなった。直ちに別のlotのGibcoFCSに変えて毒性の恢復を待っているところである。但しRRLC-11細胞で、これまで全く別個に継代して来た系の培地をRFLC-5系1の細胞を用いてテストしたところ、上記当研究室のFCSを使用していた4月下旬には対照の約71%は増殖していたものが、今回のGibco血清の使用により約15.2%の増殖しか示さぬようになり可成りの毒性が恢復したことが分った。この系を用いて毒性物質のColumn
chromatographyを再開する予定である。RRLC-11培地のRFLC-5細胞に対する毒性に及ぼす血清の影響を考える際、2つの可能性を想定しなければならない。すなわちRRLC-11細胞の毒性物質の産生に血清が影響する可能性と、毒性効果をRFLC-5細胞を用いて判定する際、その効果の発現に干渉している可能性とである。これまでRRLC-11細胞を培養する際にも、毒性をテストする際にも同一の血清を用いて来たが、血清を変えてこの点も検討する予定である。RRLC-11細胞の産生する毒性物質が消長するのは興味ある事実であるが、相手が血清とすれば問題はやっかいである。
《梅田報告》
(I)先月月報(7205)で超遠心の仕事をする時、我々が今迄行ってきた細胞をH3-TdRで前もって標識する方法に何か問題がありそうなことを述べた。即ちH3-TdR
0.2μc/mlで細胞を処理して2日後各種発癌剤を投与してalkaline
sucrose上にのせ超遠心機で廻してDNA切断の有無を調べているが、この条件で発癌剤処理の時には細胞はかなり障害を受けている様であった。
以上ののことを定量的に示したかったのでL-5178Y(浮遊細胞)を使ってH3-TdR、とC14-TdRの投与実験を行ってみた。(図を呈示)H3-TdR
0.2μc/ml投与で増殖カーブは対照より抑えられ、3日目には細胞数は減少している。0.1μc/mlでも増殖は対照に較べ抑えられ、3日目には横這いになる。C14-TdR
0.04μc/ml投与ではやや対照より増殖は抑えられるが、3日目迄殆直線的に細胞は増加し、0.02μc/ml投与ではほどんど対照と同じ程度の増殖率を示した。
培養2日目に浮遊培養液の0.1mlをとり、冷TCA処理してglass
fiber filter上にとり放射能を液体シンチレーションカウンターで測定した(表を呈示)。C14-TdR投与例ではH3-TdRの約1/5〜1/10量のμc数投与で摂り込まれた放射能のcpmは同じ位の値を示した。
之等のことから結論されるのは、H3-TdRよりC14-TdRの方が少量しか使わなくてすむので毒性が少なく、使い易いと判定される。更に分割投与法を用いると、数多くの細胞に摂り込まれる為、細胞あたりの摂り込まれる放射能は少なくなり、毒性は更に少くなると期待される。
(II)以上の結論の出る前に数多くの実験をし今迄報告してきた。これから示すデータもH3-TdR投与のものであり、これもrepeatする必要があると思っているが一応報告する。
ハムスター胎児培養細胞に4NQOを投与して悪性化した細胞をクローニングし既に総培養日数1年以上継代している系(P2B
cells)であるが、この細胞に4NQO 10-5.5乗M、10-6.0乗Mを投与し、1時間後培養液を洗って4時間目、8時間目の回復培養の結果を調べた。(図を呈示)10-5.5乗M投与例ではあまりはっきりした回復は認められず、10-6.0乗M投与では8時間目で回復のきざしが認められるに過ぎない。にもかかわらず。この時の細胞数計測のデータは(図を呈示)4NQO処理1hr後細胞を洗い無処置培地で3日間培養したものは明らかに回復していると云わざるを得ない。
(III)(II)のハムスター胎児培養細胞でin vitro
carcinogenesisの試みを行った時の対照の細胞がまだ増殖している。大型の細胞で細胞質空胞多く1週間で約4〜5倍の増殖を示している。この細胞に4NQO
10-6乗M投与1時間とその後の回復培養の実験データは(図を呈示)、この細胞(D2Bとcodeしてある)では明らかに回復していると云える。この時の細胞数計測は4NQO投与時が19万個で既に細胞はsemiconfluentに増生しており、4NQO
10-6.0乗M 1時間処理後回復培養を行ったものも3日目では18.8万個/ml、コントロール19.7万個/mlで共に横這いの状態であった。
:質疑応答:
[黒木]内部照射だけでDNAが切れるという可能性もありますね。H3-TdR
0.1μc/ml位で切れるでしょうか。
[梅田]この条件での実験ではDNAは切れていないようです。ボトムへ沈みますから。増殖に対する影響があるだけです。
[佐藤茂]H3-TdRはアルコールで溶液になっている筈ですが、そのアルコールの影響はありませんか。
[乾 ]この程度の濃度では全然影響なしだと思います。
[堀川]この実験系では、のせる細胞数を非常に神経質に一定にしないと、少し多いだけでも塊を作ってボトムへ落ちてしまいます。そういう事にも充分気を使って下さい。
[藤井]内部照射で細胞を殺すことの出来る線量はどの位ですか。
[堀川]はっきり覚えていませんが、大体20〜30μc位の高濃度入れてやると合成期にどっと取り込んで死んでしまうというデータがあります。同調させるのに使っていますね。
《乾報告》
1)染色体Bandding Pattern
先の月報で報告した如く、培養ハムスター細胞の染色体Bandding
Patternを観察する為には、Hsuの変法、Trypsin蛋白変性法が適することがわかった。本月報では、正常ハムスター雄細胞、MNNGによる悪性転換細胞について、PreliminaryにBandding
Patternの比較を行なったので報告する。染色体を0.25%のTrypsin処理を行なうと、各染色体に特有なBandが現われる。すなはち、X染色体の長腕、Y染色体、No.1〜4染色体の短腕、metacentric染色体及び小型のNo.16〜20染色体は、ギムザ染色に著明に染色される。その他大型の染色体では、各染色体それぞれに特色のあるギムザに濃染されるBandが出現した。(それぞれ分析図を呈示)アルカリ、熱処理を行なったHsuの変法で染色体を染めても、基本的な染色体のBandは、同様の結果を示した。MNNG
10μg/mlを作用して得た試験管内悪性転換細胞の1つで、染色体数が転換時より近2倍性を維持しているHNG-100細胞(137代)の染色体のBandding
Patternでは、(この細胞系の染色体構成はすでに発表してあるので、ここではふれないが)Bandding
Patternより推察される染色体変異は次の通りである。1)No.2染色体のtrisomy、2)No.6染色体長腕の先端部のBandの欠如、3)No.10染色体の中央部(centromereを含む)の染色性の欠如、4)No.14染色体に同様染色性欠如、5)No.20染色体のtrysomy染色体の内1本は正常であるが、他の2本の染色性の欠如、6)No.21染色体に新たに正常染色体にみられない染色性の出現等であった。
上記処理によって、染色性を示す所がHeterochromatinと同部位とすると、HNG-100細胞では、明らかに遺伝子活性の増大がみられる。この結果は、DNA-RNA
hybrydizationの結果と非常によく一致した。
前報で報告したタバコタールの中性、アルカリ性、酸性分劃の細胞毒性(LD100)、形態転換迄の日時、移植の結果をまとめた(表を呈示)。細胞の形態転換は酸、中性分劃で現われ、処理後59日現在、アルカリ性分劃では見られない。
形態転換を示した細胞を動物へ復元移植した結果は、中性分劃作用群(TN-100)で1/3(33.3%)であったが、酸性分劃作用群は現在、造腫瘍性が認められない。
:質疑応答:
[吉田]染色体のbanddingをして、黒く染まる部分全部をヘテロクロマチンと言い切ってもよいでしょうか。単に黒く染まる部分といっておいた方がよいと思います。
[黒木]ヘテロクロマチンというのは染色体屋さんの言葉ですか。
[吉田]そうです。
[黒木]トリプシン処理などで変わるものをヘテロというのはどうでしょうか。染色上の問題なのでしょうか。
[山田]再現性はありますか。
[乾 ]あります。
[吉田]しかし、少しやり方を変えると違った結果になります。きちんと一定した結果を得るにはどうやるか、というのはまだ問題の所ですね。方法としては温度処理、ウレア法などがあります。染色体分析に関してはbandding
patternでもう一度並べ直してみる必要がありますね。今まで見かけ上の分析では分からなかった新しいpatternを発見できるかも知れません。
☆ここで吉田式ウレア法によるヒトの染色体のbandding
patternが紹介された。
[山田]bandding patternで変異が判るとしても、発癌剤で変化して悪性まで進むのはほんの一部分の細胞だと思われますから、in
vitroで追跡するのは仲々難しいでしょう。
[乾 ]半分は何時も培養に残すようにして、経時的にbandを調べて比較してゆけば、何か判るにではないかと期待しています。
[勝田]ギムザでなく、何か単一色素で染められませんか。
[乾 ]フォイルゲン、ゲンチアナ紫では駄目でした。
[山田]アヅール青がよいのではないでしょうか。
[黒木]ハムスターのチークポーチの復元の所、写真でみると、もう少し白くて固い感じでないと腫瘍らしくないと思いますが、組織像はどうですか。
[乾 ]まだ見ていません。
《佐藤茂》
吉田腹水肝癌AH-7974由来の培養株(JTC-16)のin
vitro及びin vivoにおけるヘキソキナーゼ分子種の表現形質の違いについてこれ迄報告して来たが、この培養細胞10の7乗個をdiffusion
chamberに入れラット腹腔に挿入して経時的にヘキソキナーゼを解析した結果、(表を呈示)in
vitroでは見られなかったIII型ヘキソキナーゼは2日後に出現した。しかし3日目以後は非活性も低下し、その分子種のバンドも電気泳動上うすくなっていた。これは細胞の生存率の低下と一致している。又細胞数の増加は実験期間中認められなかった。
in vivoにおけるIII型ヘキソキナーゼ分子種の出現機序を追求中であるが、in
vitroで培地にラット血清を添加する事、及び培地中のグルコース濃度を0.01%にして2日間この細胞を培養した結果では、ヘキソキナーゼはI、II型のみであった。
:質疑応答:
[勝田]培養系そのものには、バンドIIIが無いのに、復元して腹腔内で増殖した細胞にはIIIがあるという結果なのですから、in
vitroで再現したいというのなら先ずJTC-16を復元した時の腹水を添加してみるとよいと思いますが・・・。
[山田]腹腔内へ接種して2日位でバンドIIIが出てくるというと、宿主の反応の非常に強い時期という訳ですね。
[佐藤二」マウスの脳腫瘍の話ですが、復元した時の組織像はどの程度の悪性度ですか。悪性の度が強いと分化は望めませんね。
[佐藤茂]組織診断はグリオブラストーマで脳腫瘍の中では悪性ですが、肝癌などに較べると悪性度は弱く、正常のグリア機能も少し有しているというものです。
[山田]脳腫瘍の場合は悪性度も細胞の種類も実に様々なので、in
vitroの実験系へ持ち込むと面白いですね。
[黒木]ヂブチルAMPで神経突起が出てくるという報告は沢山ありますが、どの方向へ持ってゆくつもりですか。それからBUdRの影響はどうですか。
[佐藤茂]BUdRはまだ見ていません。方向としてはS100など平行して見る計画です。
《佐藤二報告》
Azo色素で飼育後のDonryuラッテの培養歴及び染色体について(表と図を呈示)、明らかにDAB飼育例は共に150〜200日の培養日数では増殖誘導細胞はdiploidを示す。しかし3'-Me-DAB飼育のものではdiploidを示す細胞は極めて少ない。
形態学的にはDAB及び3'-Me-DAB増殖誘導細胞は異なっている。
DAN及び3'-Me-DABが夫々異なった細胞を増殖誘導するのか、或いは発癌過程の時期的なずれなのかわからない。
Branched chain A.A.、TransaminaseのIsozyme
patternは、一見染色体数のずれとIsozyme patternのずれが一致して興味深い。
:質疑応答:
[吉田]Controlが欲しいですね。DABを喰わしていない物か、再生肝のデータが・・。
[佐藤二]Adultのラッテ肝は、再生肝でもどうしても株はとれませんね。
[乾 ]培養できる様になる最少限のDAB給餌はどの位ですか。
[佐藤二]短い方はあまり細かくやってありませんが、大体1ケ月位です。
[佐藤茂]DAB給餌で培養する前の組織にはBranched
chain A.A.の酵素はありますか。
[佐藤二]多分調べてないと思います。私としてはIIIがtumorのつき方と関係があるのか、どうかに興味をもっています。
[吉田]正常2倍体の肝細胞と、肝癌になったものとの染色体のbanddingを比較してみて欲しいですね。
[佐藤二]問題だと思っているのは、DAB発癌の場合もDABに反応しやすい細胞と反応しにくい細胞があるかも知れないという事です。とするとクローニングした場合、その標的細胞を選んでいるかどうかが分からないのが困ると思っています。
[乾 ]In vivoでは薬剤処理→発癌の過程に可成はっきりした標的器官や標的細胞があるとされていますが、in
vitroに移した場合にはアッタクする範囲がずっと広くなるのではないでしょうか。
[黒木]In vivoとin vitroの違いといってもNGの場合などは代謝の問題だと思います。
[乾 ]In vivoの発癌実験で、同じ薬剤でも与え方や与える量によって異なったtumorが出来るという事から考えると、代謝の問題だけでは解決できないと思いますが。
[黒木]勿論色々と複雑な過程があるとは思いますが、少なくともNGに関しては病理学的にはすっかり判っているのに、生化学的分析が追いつかないのですね。
[吉田]私は悪性化するのは運命づけられた細胞という考え方には賛成できませんね。
[佐藤二]私は、同じように初代からクローニングしても、2倍体を維持できる系と、出来ない系があることから、何か運命的なものを感じます。
《藤井報告》
1.人癌のリンパ球−腫瘍細胞混合培養反応:
人癌組織を細切撹拌して得られる細胞と、これを培養して増殖するようになった細胞について、患者の末梢リンパ球との混合培養をおこない、リンパ球の幼若化がおこるか否かを、H3-TdRの摂取とオートラヂオグラフィーで検討している。20例(胃癌、乳癌、Wilms腫瘍、神経芽細胞腫)のうち混合培養反応(MLTR)の陽性だったものは乳癌のリンパ節転移細胞3例、Wilms腫瘍1例、胸膜メゾテリオーマー1例である。
(図を呈示)メゾテリオーマーの例で、胸水から遠心して集めた新鮮な細胞と、約1ケ月培養し、混合培養前々日から人血清を添加したRPMI1640中で培養した細胞を4,000R照射して刺激細胞としたものの成績は、H3-TdR摂取は培養メゾテリオーマーの方が、早期にかつ高くおこる。メゾテリオーマー単独では、何れもH3-TdRとり込みはほとんど無い。in
vivoの腫瘍細胞の方が、培養からもってきた細胞よりリンパ球幼若化刺激能が低いのは、ラット、マウスの腫瘍でも同様な成績であった。担癌動物の血清中の幼若化因子として、抗体、その他の膜免疫を被覆する物質を考えている。なお、培養メゾテリオーマー細胞は新鮮なものと、形態的に偏平な細胞質の広くひろがった同様な性格をもっている。
2.試験管内変異細胞は、復元再培養細胞(腫瘍細胞)と同じ抗原をもっているか?:
Culb-TC、RLT-2、RLC-10では、同系リンパ球刺激能は5万個細胞を刺激細胞、50万個のリンパ球を反応細胞としたとき、Culb-TC>RLT-2>RLC-10の順であった。試験管内変異株RLT-2がCulb-TCと同じ腫瘍抗原をもっていて、ただその量が少いだけならば、RLT-2の量を増したらCulb-TCの刺激値に近づくのではないか。この問題に対して、Cula-TC、RLT-1A、RLC-10-2の系列で実験をおこなった。(図を呈示)Cula-TCとRLT-1Aは12,500個〜10万個の範囲で、刺激細胞を増すとリンパ球幼若化が増加するようである。Cula-TC
12,.500個とRLT-1A 20万個が同じ効果を示すようにとれる。RLC-10-2は刺激能が高く、5万個〜10万個で抑制がある。Culaなどと抗原が異なるか? 変異を起こしたのか? この実験では抗原の特異性については何も云えない。
:質疑応答:
[勝田]RLC-10をin vivoで感作しておいてin
vitroでブースターをかけるとどうでしょうか。とにかく藤井班員に期待したい今年の課題は、4NQO処理群の動物へ復元する前の細胞と、復元して生体内で増殖した細胞の再培養との抗原性の違いが何かという事です。量的なものか、質的なものか・・・。
[藤井]やってみます。
[勝田]それから癌患者の場合、生体内ですでに反応が起こってしまっているのではないでしょうか。とするとこういうin
vitroの系へ持ってきて又反応がおこるでしょうか。
[藤井]生体内で反応が起こってしまっていてもin
vitroで又反応が起こるようです。
《堀川報告》
動物細胞におよぼす放射線および4NQOの作用機序ならびにそれらによる細胞障害修復機構の本体を解析するための1モデルとして、私共は同調細胞集団を使用して、そのcell
cycleに於ける周期的感受性差の原因となる変更要因の解析を進めているが、そのためには大量でかつ同調度の高い細胞集団を要することは言うまでもない。すでに報告したように当教室においてはcolcemidとharvesting法を併用することによりHeLaS3細胞から極めて大量かつ同調度の高い集団を得ることに成功している。(図を呈示)この方法によって得たHeLaS3細胞のcell
cycleを通じてのX線、UVおよび発癌剤4-NQOに対する周期的感受性曲線からは、周期的感受性曲線の動態は三者において、大局的には変わらないが、細部においてそれぞれ異なることが分かる。
さてこうした物理的要因に対する周期的感受性差を生じさせる細胞内変異要因の解析として、X線に対してはこれまで各期におけるDNAの切断量と再結合能においては各期の感受性差を説明出来ないが、SH含有量の多少と感受性の高低には何等かの関連性がありそうだとするデータが出されているのが実情である。
私共はこれら三者の周期的感受性曲線を説明するため、まずその作用機構の最もよく分っているUVから開始した。(図を呈示)つまりUVに対して低感受性期であるG1とG2期および高感受性期であるS期の細胞について200ergs/平方mm照射後のTTdimerの形成量を調べた。その結果、UVに対して高感受性であるS期の細胞では低感受性のG2期のDNAに比して約2倍量のTTdimerが形成されることが分った。一方G1、G2およびS期における細胞のdimer除去能には何ら差がなく、どの時期においても形成されたdimerの約50%が除去されることが分った。こうした結果はUVに対する周期的感受性差は各期において形成されるTTdimerの多少と関連性のあることが示された訳で、UV障害修復の大部分がexcision
repairに負うとされるHeLaS3細胞においては興味ある現象である。さてではどうして各期に於いてDNA内に誘起されるTTdimer量が異るか、各期における細胞全体の質的差異によるか、あるいは各期におけるDNAのconformational
changesに依存するか、それらの検討を現在進めている。
一方4-NQOに対する細胞の周期的感受性差の原因についてはH3
4-NQOを用いて現在検索中であるが感受性差の原因として各期におけるDNAを4-NQOの結合能の差違による可能性が予備実験から示されているが、これらについては更にconfirmしたうえで報告する。
:質疑応答:
[吉田]4NQOはDNAと結合していると考えているわけですね。
[堀川]そうです。DNAをTCAで洗ってもカウントが落ちないという点から考えて、4NQOはDNAに結合していると言いたいのです。
[勝田]4NQOが結合しているとDNA合成の邪魔になるのではないでしょうか。
[黒木]4NQOが結合したDNAがデュプリケイトするかどうかはBUdRを取り込ませて重くしておけば、分かるでしょう。
[堀川]理論的は分かる方法があるのですが、実際には使っているH34NQOの放射能がとても弱くて結論が出ないのです。
《吉田報告》
"癌細胞には寿命があるだろう"ステムラインにもエイジングがあり、ステムへとバトンタッチされて、世代が交替してゆくのではなかろうか。
:質疑応答:
[勝田]DNAの鋳型がすり切れることがあるのではないか、という考えは私もずっと持っていました。
[乾 ]この考え方ではもっと株細胞の樹立という事が難しいはずのように思います。たいていの培養系が切れてしまうのではないでしょうか。
[吉田]しかし、ミュテーションandセレクションだけで生き延びてゆくなら、もっと広がりがあるはずですよ。
[堀川]In vitroの系とin vivoの系とを平行してみてゆかないと、in
vitroでは宿主の影響を受けないから安定しているとも言えます。
[吉田]薬剤を使うとエイジングは短縮されるという事もあります。
[勝田]一つの細胞のエイジングという問題と、ポピュレーションとしてのエイジングの問題ということですね。
[堀川]自然界の法則ですね。猿山にもあてはまる現象です。
[黒木]政界にもピッタリあてはまりますね。
[堀川]問題は遺伝子レベルのことでしょうがね。
【勝田班月報・7209】
《勝田報告》
JTC-15株細胞(ラッテ腹水肝癌AH-66)よりのColonial
clones及びClonesの可移植性と軟寒天内増殖能との関連性について
No.7203の月報において、JTC-15の復元成績のまとめを報告したが、そのとき、クローンを作ってその性質を色々と検討中であると附記した。この実験は完全にはまだ終了していないが、かなりのデータが得られたので、今月号で中間報告することにする。
1)軟寒天法は、豊島製の径5cmpのlastic dishを用い、6系を得た。
2)液体培地法は、LINBRO製のトレー(凹みの径約8mm)を、初めは液量を各0.5ml宛のうすい細胞浮游液を各凹みに入れ、顕微鏡上で、たしかに1コだけ入っているという穴にマークし、次第に液量を増した。これからは4系のClonesが得られたが内1系は死滅してしまった。
フラン器はいずれも炭酸ガスフラン器である。
(表を呈示)原株及び軟寒天のクロンは10、100、1000個とまいた結果の平均値で、高いもので42%、低いものは8%以下であった。液体培地クローンは1000個のみコロニーを形成し、0≒、3.6%、7.4%であった。以上のように、軟寒天内コロニー形成能とは関連性が認められない。寒天コロニー4などは軟寒天で拾ったコロニーであるのに、軟寒天でPEが低く、可移植性も低いという結果になった。
《梅田報告》
安村先生の話で、Soft agar法で、100万個cells/plate位の大量の細胞数を植えこむと、normalと思われる細胞もcolonyを作るのではないかと云われていた。それ故ハムスターの胎児培養細胞に発癌剤投与後なるべく早くsoft
agar中でcolonyを作らせ、発癌の指標に出来たらと云う目的で以下の実験を行った。
ハムスター胎児単層培養を9cmのpetri dishに作成後、細胞が1/4位のガラス面をおおった培養1日目に、(A)3.4benzpyrene
10μg/ml、(B)4HAQO 10-5乗Mを夫々投与した。2日後Control培地に交新したが、その時は(A)はそれ程障害は強くなく細胞はガラス面の2/3をおおっていた。(B)は細胞障害が強く1/5をおおっていた。
Controlは培養4日后、(A)、(B)は増殖が回復した培養13日后に100万個cells/mlの細胞数でsoft
agarにうつした。Soft agarは0.3%のagaroseをbase
layerに、0.2%のagaroseをseed layerとした。(agaroseはドータイト製)
夫々2週後に観察した所共にcolony形成はなかったので、seed
layerの所を再び培地で洗い、9cm petri dishにまいた。controlの細胞の増生は良く、(A)(B)は徐々に細胞が増生し、20日后には(A)では50ケ位のcolonial
growthが認められ、うち4ケはdense colonyであった。(B)は輪かくのはっきりしないやはり50ケ位のcolonyを作り、dense
colonyはなかった。この細胞も再び同じ様な方法でsoft
agarに移し、2週間培養した。
結果は全く陰性で、colony形成はなかった。
別にsoft agarでなく継代した系では、(A)は既にmorphological
transformationが認められている。(B)ではその様な所見は今の所見られない。
以上soft agarの方法はinoculumを上げてもcolonyを作らない段階があると結論された。
《高木報告》
1.培養内悪性化について
硫安により塩析して作製したserum factor freeの血清を用いsoft
agar cultureを行ったところ、全くcolonyが出来なかったため今回は液体培地を用いてplating
efficiencyを調べた。正常細胞としてRFLC-5、腫瘍細胞としてRLC-11を使用した。
1)培地はMEM+10%CSを用い、6cmのPetri dishに180ケの細胞を植え込んだ。用いた血清は次の3種であった。 (1)1/1CS:限外濾過を行いMEMで元の量になるまでうすめたもの。(2)1/3CS:硫安1/3飽和後血清をPBSで2日間透析した後限外濾過を行い、MEMで元の量にもどしたもの。(3)1/2CS:硫安1/2飽和後、上記1/3飽和と同様に処理したもの。
(表を呈示)結果は表の如く、1/1CSを用いた場合のRFLC-5およびRRLC-11細胞のPEはそれぞれ24.0%、3.3%であり、これまでの無処理血清を用いた実験のPE、すなわちRLFC-5約80%、RRLC-11約50%と比較すると可成り低かった。これは、この実験では再生したFalcon
Petri dishを用いたことも影響したかも知れないが、血清を処理したことによる影響が主であると考える。
又この血清を用いてsoft agar cultureを行った所、先に報告したように白色の沈澱物を生じたので、次に硫安塩析後、蒸留水で透析を行い、また3種類の培地について検討した。
2)培地はMEM+0.1% Bactopepton(BP)、199、F12の3種を用い、これに血清をそれぞれ10%添加した。用いた血清は以下の如くである。(1)control
CS:無処理の血清。(2)1/1 CS:限外濾過後Hanks液で元の量にもどしたもの。(3)1/3
CS:硫安1/3飽和血清を蒸留水で2日間透析した後限外濾過を行い、Hanks液で元の量にもどしたもの。
(表を呈示)結果は表に示す通りである。RRLC-11はPetri
dishあたり180ケの細胞をまいたが、RFLC-5はPetri
dishあたり900ケの細胞をまいたので、MEM+BP培地ではcolony数は数えられなくなった。しかし199およびF12培地では、全くcolonyを生じなかった。RRLC-11細胞についてはcontCSと1/1CSとではPEには有意の差はないように思われたが、生じたcolonyの大きさは1/1CSでは明らかに小さく、限外濾過を行うことにより細胞増殖にあずかる因子がある程度失われるようである。さらに培地条件を検討中である。
2.RRLC-11細胞の放出する毒性物質
RRLC-11細胞を培養した毒性培地を56℃、65℃および75℃に30分おいてこれら温度の効果をみた。(図を呈示)図に示す如く56℃30分では活性は保たれ、65℃30分ではやや失われ、75℃30分では完全に失活した。
先に報告した如く65℃、75℃、60分ではいずれも完全失活した。
《山田報告》
この夏は、いままでの仕事の整理やら、Paper書きに追われて過して居ます。近くCell
electrophoresis(細胞電気泳動法)の単行本も出版の予定です。(小生は編集及び執筆)
従来の仕事の残務整理を兼ねて、4NQOにより発癌したラット肝培養株を材料の出来次第randomに検索しています。今回は図に示す様な三株(CQ68/RTC、C10/RTC、CulbTC)について、その後の泳動度の変化を調べてみました。今回はどういうわけかノイラミニダーゼが作用しにくく、特にCulbTCの成績はどうも理解がつきません。(ラット赤血球も同時にノイラミニダーゼ処理して、その対照として検索しています。)
C-10/RTCのみが従来の悪性化のパターンを示して居ます。
4NQO作用後かなり日数が経っていますので、Cell
polulationの変化を生じたのかもしれません。出来ればこの点もう一度調べたいと思って居ります。(図を呈示)
テレビ・ヴィデオテープ記録装置を電気泳動装置に組みこみました。この装置は従来の泳動装置に通常家庭用に発売されているヴィデオコーダーを組合せたもので、意外と便利で重宝しています。従来の細胞電気泳動度を測定する際には、すべて顕微鏡をのぞいて測定して居たのですが、その視野がテレビの画面にうつりますので、測定するのが楽であり、しかも記録されるので、幾度でもくりかへしみなほすことが出来ます。しかも細胞の動きを速くすることが出来ますので、運動の状態を細かく分析が出来ます。ヴィデオの撮影装置と顕微鏡の接着の部分を改良して従来の写真記録も自動的に出来る様にしてあります。
次回の班会議にはこのヴィデオを持参して御覧に入れたいと思って居ます。
《堀川報告》
私共は以前にマウスL細胞をγ-線で反復照射することにより放射線抵抗性細胞を分離し、その出現機構及び抵抗性細胞の遺伝的特性等の解析を試みたが、今回は材料と方法を変えてヒト子宮頚癌由来のHeLaS3細胞より、X線感受性および抵抗性細胞を分離することを試みた。これは哺乳動物細胞におけるX線感受性支配要因(障害と回復能)を解析するにあたり、最も好材料と考えられるからである。
まず感受性細胞株の分離はUV感受性細胞分離にあたって用いた方法に準じて、以下に述べる方法で行った。HeLaS3原株細胞を変異誘発剤MNNGで24hrs処理し、ついで正常培地で培養を行い、7日後に得られた細胞の各々100万個に対して、0、100、200、300または400RのX線を照射し、直ちに10-5乗M
BUdRを含む培地中で培養する。4日後に可視光線(60W)を2hrs照射したのち、再び正常培地中で培養し、3週間後に培養瓶中に形成されるコロニー数を算定する。このようにしてMNNG処理−200R照射群から7個、MNNG未処理−200R照射群から4個のコロニーが出現し、合計11個のクローンを得たが、これらについてX線に対する感受性を検討したところ、HeLaS3原株細胞に比べて高感受性を示したのはMNNG処理群から出現した1クローン(SM-1a株)のみであった。
一方X線抵抗性細胞の分離にあたっては、あらかじめMNNGで処理した1,000万個のHeLaS3原株細胞に2000RのX線を照射した。そして約2ケ月後にMNNG処理群から4個、未処理群から1個のコロニーが出現したが、これら5個のクローンについてX線感受性を検討した結果、MNNG処理群より分離した1クローン(RM-1b)のみがX線に対して抵抗性を示した。以上分離されたSM-1a株とRM-1b株の、コロニー形成法によって得た線量−生存率曲線を図に示す(図を呈示)。またHeLaS3原株細胞をも含めてX線に対する感受性を表にまとめた(表を呈示)。これら3種の細胞株について染色体数の分布を調べた結果では、Modal
numberはHeLaS3細胞では68本、SM-1a細胞では64本、RM-1b細胞では67〜69本という結果を得た。また成長曲線から各種細胞の倍加時間を求めたが、HeLaS3、RM-1b細胞で20.8時間であるのに対し、SM-1a細胞では27.2時間という長い倍加時間を示した。現在SM-1a、RM-1b両細胞株における細胞内非蛋白SH量の差違や、化学発癌財4-NQOならびにUVに対する感受性の検討等を行っている段階である。
《乾報告》
MNNG投与初期におけるRNApopulationの変化
先に月報7204号でMNNG投与によって悪性転換した細胞のRapidly
labeled populationは正常のそれと異なる事を報告した。
我々はRNApopulationの変異が、MNNG投与細胞においていつあらわれるかを追求する目的で、MNNG
10μg/ml投与後96時間の細胞についてDNA-RNA
Hybridizationを行なった。薬剤投与後4日、障害を受けた細胞の再増殖時のHybridizationの結果は次の如く要約された。MNNG-treated
cellのlabeled RNAを使用した場合は実験結果に非常にバラツキが多い。正常細胞のRNAを使用した時は、coldの正常RNAが、coldのMNNGtreated
cellのRNAより多く拮抗した(図を呈示)。
この結果よりMNNG処理後4日目の細胞のRNAは、正常細胞RNA
populationの一部を欠除していると考えたい。しかし、un-labeled
RNA/labeled RNAの高い実験は現在施行中であるので、その結果を待ち結論したい。
8月下旬より11月下旬迄渡欧致しますので、10月の月報は13回International
Congress of Cell Biologyのtopicsを御報告致したく思います。
《黒木報告》
§平板寒天Agar Plate培養について§
レプリカ培養のために開始した寒天表面コロニー形成法(以下、平板寒天又はAgar
plateと称す)が、その後、多くの細胞に応用できることが分った。
(表1、2、3を呈示する)表1は、浮游状で増殖する細胞(FM3A、L5178Y、YSC、Yosida
Sarcoma・Primary culture)の成績である。株化された細胞は70%近い高いPEを示す。吉田肉腫の初代培養では軟寒天よりもいPEである。
表2で、壁につく細胞(HeLa、L、V79、CHO、JTC-16)もふつうの液体培地のコロニー形成法、軟寒天法とほぼ同じ率でコロニーを作り得ることが明らかになった。
表3からBHK-21/C13のポリオーマ、RSVによるtransformantはコロニーを作るが、もとの細胞Revertantは作らないことが分る。この方法はtransfomationのassayにも使える。
《野瀬報告》
Alkaline Phosphataseの精製
Alkaline phosphatase(ALP)-Iに対する抗体を作るため、この酵素の精製を試みている。用いた材料は、臓器の中でも比活性の高いRat
Kidneyで、表に示した手順で精製を行った(表を呈示)。各stepでの比活性の上昇は次表に示してあるが、組織のhomogenateはかなり大きなfragmentを含むので、Deoxycholateによって顆粒に結合しているALP-Iを可溶化した方が良いようである。Triton
X-100やUreaでは可溶化できなかった。ここで言う可溶化とは6,000xg、5minの遠心により上清に残るという意味で、この上清を、Glycerol
gradient(10〜30%)の上にのせて、SW50Lローター、34,000rpmで60min遠心すると、ALP-I活性は早く沈降する部分に大部分きてしまい、完全な可溶化とは言えない。次のstepのn-Butanolによる抽出で、比活性は約2倍に上昇し(図を呈示)、図で見られるように、この条件の遠心ではTopの分劃に回収された。このn-Butanol抽出液は凍結するとaggregateをつくり、ALP-Iは沈澱するため、直ちにSephadexG-200(1.8x40cm)のカラムにかけてゲル濾過を行なった。この時の抽出パターンが図2に示されている。このカラムでBlue
Dextran(分子量約2.0x10の6乗)はFraction 9〜10にかけて溶出され、この付近がvoid
volumeであるが、ALP-Iもこの位置に回収された。
表1でpeakの位置にあるALP-Iの比活性はn-Butanol抽出液とくらべ約4.1倍に上昇しているが、Sephadexのパターンから見ると、ALP-Iはまだ完全に可溶化されてなく、分子量50万以上のparticulate又はaggregateとして存在しているようである。このため、SephadexのFraction
9〜10を更にdisc gel電気泳動(pH8.6および9.5)にかけても原点から全く動かなかった。これ以上の可溶化の試みとして、n-Butanol抽出液を、DOC、SDS、TritonX-100、Neuraminidase、PhospholipaseCなどで処理したが何れの場合もALP-I活性は、void
volumeの位置から動かず現在、これ以上の精製はできていない。今後、更に別の方法を用いて、ALP-I
complexをdissociateさせる条件を探す予定である。
《佐藤茂秋報告》
培養されたマウスのグリオブラストーマ細胞が、脳に特異的な生化学的マーカーであるC型アルドラーゼを保持している事はこれ迄報告してきた。他のグリオーマの培養株がこのマーカーを持っているか否か調べる為、N-ニトロソメチルウレアでラット脳内に誘発され、培養株となっているグリオーマ細胞、C6細胞についてアルドラーゼの分子種を電気泳動で調べてみた。この細胞も、A型とA-Cハイブリッドを示しC型もうすいが認められた。この細胞株は、グリアのもう一つのマーカーであるS-100蛋白質をもっている事は既にわかっている。又、マウスの神経芽細胞腫瘍の培養株であるC1300のクローン、N18では、A型アルドラーゼとわずかにA3C1ハイブリッドが認められるが他のA-Cハイブリッド及びC型は検出されず、グリオーマとはアルドラーゼの分子種のパターンが異っていた。ヒトの神経芽細胞腫におけるアルドラーゼのパターンもA型とA3C1ハイブリッドのみであると報告されている。従来C型アルドラーゼは脳、神経組織に特異的と言われて来たが、神経細胞起原の腫瘍細胞がC型をもたない事実は、脳組織におけるC型アルドラーゼがグリア起原であるかもしれない事を示唆する。あるいは正常神経細胞はC型アルドラーゼをもつが腫瘍化した細胞ではC型が発現しないのかもしれない。神経芽細胞腫の培養株はin
vitroで、種々の条件により生化学的又は形態学的な分化を示す事がわかっているが、C型アルドラーゼも誘導されるかもしれない。この方面への研究の展開を考えている。
【勝田班月報:7208:タバコ煙の培養細胞に対する影響】
《勝田報告》
(表を呈示)ラッテ肝細胞株RLC-10(2)を昨年6月29日に4NQO1回処理して以後、軟寒天培地内培養、細胞電気泳動、ラッテへの復元接種などを併行して、山田班員と協同してしらべてきた。細胞電気泳動に関しては、山田班員から詳しく報告があると思われるが、きわめて数多くしらべてきている。復元成績は1971-8-14にはじめて復元接種して、実験群は2/2接種後213日と285日後に腫瘍死した。しかし困ったことに対照群が246日に1/2匹が腫瘍死してしまった。これは何ともはや困り切った問題であるが、いかにcloningしようがしまいが所詮、株細胞というものは発癌実験に使うことには不適なのではないかと、この頃つくづく反省させられている。
軟寒天培地の成績は(表を呈示)今日まで全部陰性であった。対照実験として、同じ手法で肝癌AH-7974由来の株、JTC-16、をまいた成績は、P.E.50%で、手技的に悪かったのでColoniesを作らなかったのではない、ということが証明されている。また軟寒天培養24日後に通常の培養にもどしたら細胞が増殖を始めたということで、つまり、軟寒天培地内でColonyを作る能力(増殖能)が無くても、そのなかで生存して居り、適当な環境に移されれば、また増殖を再発する潜在能力を持っているということを示している。
RLC-10(2)から作った色々なclonesについては、発癌実験という意味からは、これらが果たして何の役に立ち得るであろうか。つまり、現在の時点に至っては、細胞1コの性格が、癌になり易くなっているかどうか(自然発癌の一歩手前)、それを発癌剤がチョイと手助けしているにすぎないのではないか、という疑問を解決すべき問題であり、当班としても、培養という手技を100%活用しながらも、再びまた人体内における癌の発生とその成育ということに視点を戻さなくてはならない限界点まで来ているのではないか、ということを痛切に感ずる次第である。
:質疑応答:
[佐藤二]コロニーを拾う時もっと形態の違うものとか、サイズの違うものとかを拾うと、性質の違ったクロンを拾うことが出来るのではありませんか。
[高岡]同条件下では同じようなコロニーしか出来ないのです。何か培養の条件を変えてクローニングする事を考えています。それにしても、何とか生体内での腫瘍性と平行する、培養内での指標が欲しいですね。幾つクロンを拾ってもメクラで拾うのですから、何が拾えたのか最後まで判りません。
《山田報告》
新たに4NQO(3.3x10-6乗M)一回処理した後約60日目のラット肝細胞系CQ72株と、その処理後13日目に、その株から浮遊細胞で育ったクローン株C1、2、3の細胞電気泳動度を調べました(図を呈示)。
珍しく、細胞の構成が均一で、しかもノイラミニダーゼが均一に作用している様に思います。クローン株も又殆んど原株を同様な所見を示し、原株の比較的均一性をましている様に思います。
この実験の目的は4NQO処理後早い時期にばらつきが生じ、漸次腫瘍細胞によって置換されると云う従来の成績に基き行ったものですが、どうも皮肉なもので構成分析をしようとすると、原株の構成が単一状態に近くなり、なかなかうまくゆかないものです。貴方まかせの発癌実験のつらさをここでも味っています。
RPL-1株:
腹膜由来細胞、mesothelial cellであるこの細胞系は形態的に均一であり、今後発癌実験の材料に使うという事で、その対照としての細胞の電気泳動的性格を検索しました。2回の成績は多少異りますが、増殖状態の差によるものと思われます。肝細胞よりノイラミニダーゼ感受性が強くなります。
ConA実験その後の成績:
Burger等によると、正常細胞もトリプシン処理すると、悪性細胞と同様なConAによる凝集現象があると報告されていますが、この成績を電気泳動的に検索しました(図を呈示)。0.001%のトリプシン処理後、各種濃度のConAを加えた所、トリプシン処理ラット再生肝細胞は10-20μg/mlの低濃度のConAによりその泳動度が上昇しました。トリプシン処理肝癌細胞では、ConAによりその泳動度が低下するのみです。
:質疑応答:
[乾 ]細胞周期のどこに居るかで細胞の電気泳動値は変わってきませんか。
[山田]同調培養を使って調べましたが、M期が高くS期は低いようです。
[堀川]本質的な膜の違いのせいでしょうか。
[山田]どうしてそうなのか判りませんが、M期にはカルシウムが細胞表面に呼び集められるとか、他にもM期の膜が他の時期の膜とは違う事を示唆する所見はありますね。
[堀川]Random cultureでみているからデータが乱れるとは考えられませんか。
[山田]それは同調培養が何時も使えればそれに越した事はありませんが、一応random
cultureを使っても差が出るという事も大きな事だと思っています。
[黒木]ConAの実験で再生肝をトリプシン処理して泳動度が上がるのはいいと思いますが、AH66Fの方が同じ処理で下がるのはどういう事でしょうか。
[山田]細胞膜が多少とけてしまうのかも知れませんね。
[津田]トリプシン処理からどの位の時間で回復しますか。
[山田]はっきりした時間はみてありませんが、この程度なら生死には関係なくかなり速やかに回復するはずです。
[永井]ノイラミニダーゼ→ConAではどうなりますか。
[山田]再生肝では下がり、AH-66Fでは上昇するという異なった結果を得ています。
[永井]ConAを先に処理してノイラミニダーゼをかけるとどうなりますか。ConAでは細胞内部の糖も認識することが判っていますから、ConAの処理のあとで酵素処理をするともっと細胞の性質がはっきりするかも知れませんね。
[山田]それもやってみましょう。
[永井]PHAも色々なものが使われ始めましたね。内部の糖を認識するものの方が、リンパ球の幼若化にも影響が大きいとも言われていますし、もっと色々なPHAを使って調べてみるとよいと思います。
[山田]何とかコロニーの拾い方の指標がほしいですね。
[高岡]RLC-10の系の場合、軟寒天内で増殖コロニーを作らないで生き残った細胞は、どうもおとなしい揃ったものになる傾向があるようですね。
[勝田]細胞電気泳動で分劃するというのはどうなっていますか。
[山田]色々やってみてはいますが、仲々難しいですよ。
[佐藤二]培養細胞は結局みんな自然発癌→脱癌という過程を通るのではないかという気がしています。しかし、自然発癌と化学発癌との間には何か違いがあるのではないでしょうか。例えば私のデータでは分岐鎖アミノ酸トランスアミナーゼのアイソザイムで自然発癌はIII型が出ないのです。生体での癌も化学発癌させたものも出るのですが。
[山田]しかし、自然発癌の場合、悪性化したものが少ないとも考えられますから、集団としてしかみられない酵素活性の違いを本質的な違いといえるかどうか。どうも脱癌というと、悪人がパット善人になった感じですが、生化学的指標での癌と正常は単に程度の差のようですね。
《堀川報告》
HeLaS3原株細胞ではUV照射によりDNAに誘起された総thymisine
dimer(TT)の約50%を除去する能力があり、一方この原株細胞から分離されたUV感受性細胞S-2M細胞では総TTの約9%しか除去出来ないというのが私共の従来の実験結果であった。では一体HeLaS3原株細胞におけるこの50%のTTの切り出し能というのはHeLaS3原株細胞の最大除去能力であるか否かの検討が必要になってくる。この問題を解決するために、まず従来TTの切り出し能が無いといわれているマウスL株細胞を対照として用いた。(図を呈示)L株細胞を200、400、800ergs/平方mmのUVで照射した直後DNA中にはTTがinduceされるが、その後これらの細胞を37℃でincubeteしても確かにTTの有意な切り出し能は認められない。
一方HeLaS3細胞に200、400、800ergs/平方mmとそれぞれ照射すると(図を呈示)L細胞の場合と同様に線量に依存してDNA中にTTがinduceされるが、その後のTTの除去能をみるとどの線量で照射した場合にも或る一定量しか切り出しが認められず、200ergs/平方mm照射後の50%TTの切り出し能が最大の値を示す。
この現象は酵素反応的には理解出来ないことで、もし一定量の酵素がHeLaS3細胞中に存在すれば、もっと多くのTTを除去してもいいように思われる。ところがこの点に関しては複雑な問題がからんで来ていることがその後の実験から分って来た。
つまり200ergs/平方mm以上のUVを照射した場合には細胞は死に追い込まれるらしく、そのためenzymeの存否にはかかわらず200ergs/平方mm以上のUV照射では現在検出しているTT除去能が最大の切り出し能という結果になっているようである。それでは200ergs/平方mm以下のUV照射後のTT除去能がどのようになっているかが今後の重要な実験になってくる訳であるが、200ergs/平方mm以下のUV照射では現在の検出法では正確なDNAのTT量がつかめないという苦しい問題につきあたっている。
:質疑応答:
[黒木]感受性の細胞ではD0が変わるだけでなく、shoulderが無くなったように見られましたが、どういう事でしょうか。
[堀川]shoulderについては放射線生物学の分野では、まだはっきりさせられません。
[野瀬]UV感受性株は他の発癌物質に対してはどうですか。
[堀川]4NQOに対する感受性は平行しています。昔、私のデータでマウス由来の株と豚由来の株を使ってUV感受性と4NQO感受性は平行しないというのがありましたが、それは細胞の起源が異なったためだろうと考えています。
[黒木]UV感受性と非感受性とで変異率をみたらどうですか。
[堀川]BUdRを使ってselectしていますから、TdR-kinaseの問題なのかも知れません。細胞もchinese
hamsterの方がよいという人もあります。
[黒木]HeLaに4NQOはどうも困りますね。
[堀川]人とマウスの違いを活かして実験をしたいのですが、他に再現性のあるよい系が見つかりませんのでね。
[高木]NGの濃度はどうやって決められましたか。
[堀川]30%survival doseを使いました。Dr.パックも同じ濃度を使っていますね。NG処理の直後にUV照射というのは少し問題があるかも知れません。NGで処理して3日位培養してからselectした方が色んなmutantがとれると考えられます。
[乾 ]私の所では5〜10μg/mlで処理しています。NGは1μg/ml以下の濃度では変異率はぐっと下がります。細胞が死ぬ割合は時間で変わります。
《梅田報告》
先月の月報では細胞のDNAはアルカリ性蔗糖密度勾配中での遠心パターンが細胞のlysis時間により変ってくることを示した。今回は更に細胞の種類を変えてlysis時間を1、2、4時間として遠心してみた。(以下それぞれに図を呈示)
(I)Human Embryo Skin cells:人胎児皮膚を培養して増生してきた繊維芽細胞で3代継代した元気な細胞である。Lysis時間が変っても遠心のパターンは1〜4時間の間では変化はなく底より11〜12本目にピークのある山を示している。
(II)TTG-4d cells:人の歯肉を長期培養して既に50代をすぎ増生の非常に悪くなった細胞であるが、1、2、4時間とlysisの時間を長くすると底より9、10、11〜12本目とピークが多少低い分子になる山型が見られる。
(III)Hamster embryonic cells:ハムスター胎児細胞の2代目培養であるが、この実験からフラクションを30本とることにした。lysis1時間目のものは多少ばらついて山が幾つもある様になって了ったが、lysis時間2時間と4時間のものを比較するとピークはそれ程動いていない。
(IV)K2B細胞:ハムスター胎児細胞を長期継代して1年以上培養している細胞で、まだまだ着実に増生しているが、大型の細胞で細胞質内顆粒の非常に多い細胞である。この細胞での遠心パターンは1、2、4時間と時間が経つにつれ明らかに山が右に移り、低分子化を起している。
(V)P2B細胞:先月月報にも示したP2B細胞で、K2Bはこのコントロールとして培養を共に続けているものである。今回は山が1時間より2時間目でやや重くなり、4時間で再びやや軽くなる遠心パターンを示した。
(VI)ElkindはBUdRを摂り込ませた細胞のDNAは、lysis時間を追って観察するとコントロールの細胞のDNAより早く低分子化すると報告している。我々の今回のデータはまだはっきり云えないまでも、BUdRの様な物質を加えない場合でも細胞によりlysis時間の変化に応じ遠心パターンの変化が起ることを示している。特に若い細胞、癌細胞は比較的変化を起し難く、培養上年老いた正常だった細胞は低分子化し易いと考えて良い様なデータと思われる。
:質疑応答:
[堀川]Peakはきれいですが、bottomにあるのは矢張りaggregateしたものではないでしょうか。テクニックを工夫すると完全に無くなるはずです。しかし、細胞の種類によってpeakが変わるというのは面白いですね。
[梅田]手元にある株で、ヒト、ハムスター、マウス、ラッテなど皆比較してみたいと思っています。
[黒木]Pronase処理の必要はありませんか。
[堀川]アルカリの場合は必要ありません。
[黒木]Radioactivityが試験管の壁にくっつく事はありませんか。
[梅田]Recoveryは100%です。
[堀川]しかし、本当のDNAの分子量というのは、今の技術では未だ結論がでませんね。アメリカのシンポジウムでも"神のみぞ知る"というのが結論でした。10の8乗ダルトン位が先ず正しいところでしょうか。
《高木報告》
今回はこれまでの実験dataをまとめて報告する。
培養内悪性化の示標としての軟寒天培養法の検討:
先にNGおよび4NQOを用いて培養内悪性化した細胞につき、soft
agar内でColonyを形成せしめ、えられたColonyを2mm径以上の大Colonyと、以下の小Colonyとに分けて拾い上げ、その各細胞を培養して増殖せしめた後、再びsoft
agarにまいて大、小Colony由来の細胞のCFEとtumorigenicityとの相関について調べた。この際用いた培地はLH+EBMvitamins+10%CSで、寒天濃度はbase
0.5%、top 0.33%であった。その結果、NG実験群についてはすでに報告したが4NQO実験群についても大、小コロニー由来の細胞とCFEとの間に相関はなく、またCFEとtumorigenicityとの間にも何等の関連も認めえなかった。この実験は上述の一定条件下に行われたもので、さらに培養条件を検討して実験を続けているが、その一つとして今回はTodaroらの云うserum
factor free血清を培地成分として用いてみた。Soft
agarで培養するに先立ち、まずWKA rat肺由来でspontan.transformationした細胞の再培養株RRLC-11細胞およびそれから出た2つのclone
C-1、C-2とWKArat肺由来のRFLC-5細胞についてMEM+10%血清の培地組成で細胞の増殖を調べてみた。これに血清は無処理の対照仔牛血清と、それから硫安1/3飽和および1/2飽和によりえられたserum
factor free血清とを用いた。
RRLC-11系株細胞とRFLC-5細胞との間にはこれらの血清を用いたことにより増殖に明らかな差異がみられ、RFLC-5細胞の増殖は悪く、その程度は1/2CS培地(1/2硫安飽和によりserum
factorを除いた血清を加えた培地)において著明であった。すなわちRFLC-5細胞にserum
factor依存性がつよくみられた。またRRLC-11・C-1とC-2細胞の間でも差異がみられ、C-2細胞の方がserum
factorに対する依存性が強かった。そこでこれら細胞についてserum
factor free血清を用いたSoft agar培地内におけるColony形成能とtrumorigenicityにつき検討した。
RRLC-11・C-1およびC-2細胞のsoft agar内におけるColony形成能は前報の通りでC-1、C-2はそれぞれCSを10%含むSoft
agar培地内では39%、11.9%のCFEを示したが、1/3CSおよび1/2CSを含むSoft
agar培地内ではC-1が前者培地内に1つのColonyを形成しただけであった。但し、この際soft
agarのbase、top両層間に白い沈澱物を認め、このようなこともCFEに多分の影響を及ぼすと思われるのでserum
factor free血清の作製法をかえ、血清に含まれるNH4+を蒸留水を外液として透析することにより完全に除き、これを限外濾過により充分に濃縮した後Hanks液で原量に稀釋する方法を用いて再検討している。なおこれら細胞の復元実験の成績は、現時点(復元後日数43〜57日)ではRRLC-11・C-1は100万個接種で2/2死亡、1,000個で2/3死亡、RRLC-11・C-2は100万個で2/2、1,000個で1/3、RFL・C-5は100万個で0/3であった(表を呈示)。
培養内において肉腫細胞の正常(非腫瘍性)細胞におよぼす影響:
RRLC-11細胞とWKA rat肺由来のColonial cloneの3株とを同数ずつpetri
dishにまいて2週間培養を続けた後観察すると正常細胞のColonyの変性像がみられたが、これには細胞の種類による差異があった。そこでこの正常組織由来の細胞にdamageを与えるには腫瘍細胞の接触が必要であるのか否かを調べるためRRLC-11細胞を培養した培地を正常細胞の培地に様々の濃度に加えて検討したところ、5%以上の濃度では有意差なく正常細胞の増殖は抑制された。従ってRRLC-11細胞はその培地中に正常細胞に対する毒性物質を放出しており、それに対する感受性は正常細胞の種類により差異があるものと思われる。つぎにこの毒性物質につきこれまでに調べた結果を箇条書する。
1)RRLC-11培地の毒性は、この細胞の培養日数により細胞数の増加を来すことによる差異は認められない。
2)RRLC-11培地の30,000rpm1時間遠沈上清に毒性は残る。
3)Visking tube(8/32)によりRRLC-11培地を限外濾過すると、外液に毒性を認める。
4)RRLC-11培地を-20℃に凍結保存すると4週間までは毒性はほぼ完全に保たれている。
5)RRLC-11培地を56℃、65℃、75℃で1時間処理すると、56℃では毒性は完全に残るが、65℃以上では全く毒性を失う。
6)RRLC-11細胞の培養9日目の電顕写真でわずかな数のC型粒子を認める。
7)Sephadex G25で行ったColumn chromatographyで毒性はOD230による吸収曲線の最初のpeakに一致して存在する。Sephaces
G50でも最初のpeakに一致して存在するが、この分劃には牛血清albuminもeluteされる。
:質疑応答:
[永井]透析すると外液に出るのに、G-50でvoid
volumeに出てくる物質というのは一寸考えにくいですね。
[黒木]凍結保存も失活の原因となるならグリセリン添加で凍結すればよいでしょう。
[山田]毒性物質というものは悪性細胞の代謝産物だろうと考えていましたが、この例では細胞の増殖とは関係がないのですから、代謝産物ではないかも知れませんね。
[高木]実験があまり定量的でないので、一寸はっきりした事は言えないと思います。
[堀川]細胞のホモジネイトはやってみましたか。
[高木]みていません。私の場合、出しているものだけを調べているのですが、とにかく出たり出なかったり大変不安定なのが困ります。
[藤井]他の癌細胞に対しては影響がありませんか。
[高木]まだみていませんが、これから調べるつもりです。
[黒木]コロニーが隣合って死んでいるのは、或程度どちらも増殖するのですね。
[高木]正常細胞を先にまいてコロニーを作らせておいて、腫瘍を入れた場合もやはり正常細胞はやられます。限外濾過で外液ですし、電顕でみてもそれらしい粒子が見当たらない事からPPLOは否定できると考えています。
[佐藤二]巨細胞はやられていないようですね。
[堀川]しかし障害を受けると巨細胞を作る例がありますから、何ともいえませんね。
[佐藤二]正常細胞の条件の違いが効く効かないの不安定の原因になっていませんか。
[永井]高分子と吸着しているのではないでしょうか。
[勝田]吸着しているとすると温度処理で失活するのはおかしいですね。
[永井]吸着でマスクされるという事も考えられます。pHを変えてみるとか何とか失活の条件をはっきりさせないと困りますね。
[佐藤二]低分子でありながら、熱処理で失活というのも変ですね。
[高木]とにかく理由がまるで判らなくて失活するので困ります。
《乾 報告》
1)染色体Banding Patternの検討
すでに月報No.7206で述べた如く、個々の染色体に特有のBanding
Patternが表われ、このBandは染色体のIdentificationに非常に有利な手段であると考えられている。培養細胞の癌化の指標としてこのBanding
Patternが適用できるかどうかと、検討中であるが、本号では、HCl処理・Heat
denature法(G-Band)を用いて、正常ハムスター細胞とHNG-100細胞のBanding
Patternを検討すると共に、いくつかの方法によって得た染色体Bandの比較検討を行った。
(写真を呈示)正常ハムスター(雄)のBanding
Patternの特色として、No.4、No.7、No.11染色体の長腕に顕明なBandが存在するが、他の染色体では、ヘテロクロマチンの部分が大部分を占めている。試験管内悪性転換細胞HNG-100では、No.2、10、21染色体に正常細胞にみとめられないユウクロマチン部が存在している。この細胞には正常にみられない大型の2本のmetacentric、1本のtelocentric染色体と1ケの微少染色体が存在するが、現在のところ、これらの染色体の起原はBanding
Patternより推察しえない。なお、ライツ蛍光顕微鏡を借用し、キナクリン・マスタード染色によりえられるBand(Q-Band)、前記Trypsin処理法でえられたBandの三者を正常細胞について比較したところ、Q-BandとG-bandはほぼ一致したBanding
Patternを示した。Trypsin法で得られた主なBandも又G-Bandに一致したが、この方法では、さらに詳細なBanding
Patternをえられた。しかし現在のところ、Technicalにやや不安定である。
2)タバコ煙の培養細胞に対する影響
昨年黄色種タバコタールを培養ハムスター細胞に作用し、細胞の悪性転換を報告した。タバコの有害成分として、タールと共にその煙も同様に考えなくてはならない。現在迄タバコ煙の培養細胞に対する二、三の報告がなされて来たが、いずれの研究においても作用した煙の定量化がなされていない。我々は、タバコ煙の定量化を試み培養細胞に対する影響を観察してきたのでその一部を紹介したい。
a)タバコ煙の採集:
(自動喫煙装置の図を呈示)この装置でタバコを一定条件下で吸わせ、途中ケンブリッチフィルターで粒子成分(タール)をとりさり、残余の煙成分を200mlの蒸留水にとかし込む。この条件でタールとタバコ量を対比し定量すると、タール4000μgがこの水200mlに相当した。
b)タバコ煙の毒性:
以上の条件下で煙をとかしこんだ水溶液をBalb3T3に作用したところ、タバコ煙はタールに比して細胞に対し約4倍の毒性を示した。
c)細胞転換に関する実験:
授乳期ハムスター起原の繊維芽細胞に、タール100μg/mlに相当する水溶液を作用し細胞の試験管内発癌を行っているが投与開始後約100日現在、投与細胞群に細胞増殖能の増大を認め、同時にCriss-cross、Piling
upを伴なう細胞の形態転換を観察した。この期の細胞を100〜200万個ハムスターのチークパウチに移植したところ、移植後1週間目に小豆大の結節を認めたが、2週間後には消失した。この実験の詳細は他日報告したい。
:質疑応答:
[黒木]気層とは・・・?
[乾 ]気層といっても、煙そのものを気体として吹き込んだのではありません。煙を水に溶かしたものを気層成分として添加しました。
[高木]水に溶けない部分はどうするのですか。
[乾 ]今回は調べていません。今迄はただ煙をふかっと培養瓶の中へ吹き込んだり、バブリングしたりしていたのですが、もう少し定量的に加えてみようと思いました。
[黒木]煙草を喫うのは人間だけなのですから、この実験はヒトの細胞でやるべきですね。ネズミでは同じ結果が得られるかどうか判りません。
[吉田]昔、中西君はネコを使っていましたね。
[乾 ]ネコやハムスターも使って初期の影響をみています。
[黒木]代謝酵素がヒトとネズミでは大きく違います。3T3はbenzpyrene
hydroxylase活性が低いのです。
[乾 ]ハイドロカーボンもベンツパイレンもマウス細胞を悪性化したというデータもありますし、benzpyrene
hydroxylase活性はマウスにもあるというデータもありますが。
[黒木]やはりヒトの細胞で毒性だけでも調べるべきでしょう。
[乾 ]組織培養はモデルとして実験するので、必ずしも人間でなくてもよいと思います。最後は悪性化を狙っているので、変異してからの復元の問題がヒトでは困りますから。
[吉田]染色体の変異については、初期の2倍体、数は2倍体でも核型が変わっているのではないかという事が問題です。2倍体を維持しているかに思える早い時期のものについてもう少し調べてほしいですね。
[乾 ]今やっています。
[黒木]ケンブリッチフィルターとは何ですか。
[津田]アセテート膜で繊維が絡まってタールを捕まえるものです。
[黒木]ラクトアルブミンもタールをよく吸着するそうですね。
[山田]さっき吉田先生の言われた事が調べられると、どんな変化が予想されますか。
[乾 ]ヘテロクロマチンが減るのではないかと考えています。
[吉田]逆かも知れませんよ。癌細胞ではヘテロクロマチン量は増すかも知れません。late
replicating DNAをヘテロクロマチンと考えると癌細胞の方がlate
replicatingの部分が増えています。
[乾 ]Late replicating DNAとヘテロクマチンをイコールと言えるかどうかは判りませんね。X染色体の場合だけかも知れません。
[吉田]量的に云う場合は、染色体総量の場合の違いも考えに入れるべきですね。
[乾 ]DNA当たりにしてありますから大丈夫だと思います。
《佐藤二郎報告》
月報No.7206で報告したようにDAB feeding
1ケ月、2ケ月:3'-Me-DAB feeding 2ケ月のDonryuラッテ肝よりの培養細胞について今回は細胞集塊能を検討した(表を呈示)。DAB
feeding 1ケ月より2ケ月のものの方が大きなaggregateを示し、3'-Me-DABは更に大きなaggregateを示した。腫瘍形成能については目下復元検討中である。又DAB、3'-Me-DABによる増殖誘導細胞株はTD40での培養3日間液の約10倍濃縮液中にRadioimmunoassay法で50μg/mlのαフィトプロテインを認めた。このことは増殖誘導細胞の中に肝実質細胞が存在することの証明にもなり、今後クローニン法等によって細胞を純化すれば所謂前癌細胞を取り出せる可能性を示すものとして興味が深い。
:質疑応答:
[吉田]悪性化の過程では細胞集塊がだんだん大きくなってゆき、腫瘍になってしまうと小さくなるという事ですか。
[佐藤二]そうではなくて腹水肝癌のフリー細胞の多い形のものは細胞集塊を作らないという事です。普通の腫瘍は大きな細胞集塊を作ります。
[山田]現象としてはよく判りますが、判った条件を一つ一つあてはめて、もっとはっきりさせなくては、と思われますね。
[佐藤二]電顕では細胞表面にzottenが増えているようです。
[山田]細胞表面は正常細胞では規則正しいが、腫瘍は不規則ですね。凸は少なくなるという人もあります。デスモゾームはありますか。
[佐藤二]見える所もあります。それから細胞集塊の大きさには或る単位があって、1日目に殆ど集塊が出来、それから更に育つものもあり、育たぬものもあります。
[勝田]肝細胞を4NQOで処理して映画を撮ってみますと、悪性化すると、むしろ細胞表面の粘着性は減りますね。
[山田]それが普通ですね。しかし旋回という条件で何か特殊な事が起こるのかも知れません。ラテックスの様な物でも使ってもっとその経過をはっきりさせて欲しいですね。
[佐藤二]私としては何故集まるかというより、集塊だと組織像が見られる事と、塊になる事によって何か分化機能が現れてくるのではないかと期待しているのです。
《野瀬報告》
培地中への細胞酵素の分泌(2)
完全合成培地で培養されている細胞は細胞内の酵素やmucopolysaccharideなどを培地中に放出し、"conditioning"している。細胞の種類により分泌する物質に特異性があるかも知れないし、培地中の物質が何か機能を持っているかも知れない。分泌物を定量するのに酵素は測定が容易なので分泌機構のmarkerとして酵素活性を利用した。
(1)Acid DNaseの分泌:各種の酵素を測定したが中でもacid
DNaseの活性が培地中で高かった。細胞を短試で培養し、培地交換してから各時間に培地を集め、これを酵素源としてassayした。基質としてはH3-TdRでラベルしたE.coliを用い、pH4.95の酢酸緩衝液を用いている。L・P3のDNaseの分泌の時間的経過を見た(図を呈示)。約24時間で培地中の活性がtotal(細胞内+培地中)の55〜60%にまで上昇し、以後はほぼ一定であった。同様の方法で完全合成培地で継代されている各種の細胞株について培地中DNase活性を測定した結果(表を呈示)、株により活性の大小にかなり大きな幅があることがわかった。L・P4およびL(MEM+10%CSで培養したもの)は培地中DNase活性が非常に低いが、これは培地成分(Lh、CS)がDNaseを直接抑えているためで分泌の阻害ではない。
DNase活性が培地中に多量に存在する原因として、細胞のlysisが起きて出てくるのか、特異的に膜を通過して分泌されるのかの2つの可能性が考えられる。この点の検討として、他の酵素活性を見た(表を呈示)。Acid
DNaseと同じくlysosomeにあると言われているacid
phosphatase、β-glucronidaseの活性はL・P3の培地中にはほとんど検出されなかった。この事はDNase活性が細胞のlysisによって培地中に放出されたのではないことを示唆する。更に各種阻害剤を添加した場合の培地中DNase活性をみると、DNaseの分泌はmicrotubule形成、呼吸、タンパク合成などを阻害すると阻害され、細胞の代謝と密接に関連した現象であろうと考えられる(表を呈示)。
JTC-16・P3の培地中DNase活性もL・P3とほぼ同様の挙動を示した。
次に、alkaline phosphataseIについても分泌の可能性を検討した。この酵素は検索した9種の株のうちJTC-21・P3に多量に存在するが、この株においても(図を呈示)培地中に活性が検出された。DNaseと異なり、5日間見た範囲では活性は増加しつづけた。
このような細胞内酵素の培地中への分泌は、insulin、serum
albumin、amylaseなどの分泌と似た機構によって行なわれると思われ、培養細胞の持つ一つの特性として興味ある。またtransformationと並行してよく観察される細胞表層の変化と何らかの関係がないか調べてみたいと思っている。
:質疑応答:
[津田]Exponential growthの時にもDNaseは出てきていますか。
[野瀬]出しています。
[津田]L・P3とL・P4との間にDNaseを出すか出さないか以外に何か違いがありますか。
[野瀬]膜の問題や色々本質的な事については判っていません。ただL・P4の培地に使われているラクトアルブミン水解物には、DNaseを出すことへの阻害作用があります。
[吉田]DNaseは細胞内のどこで作られているのですか。
[野瀬]サイトははっきりしませんが、膜成分のようです。
[山田]培地へだしている物の方が分子量が大きいのですね。大きな分子量のもので膜をコートするといった事でもあるのでしょうか。Dextran
sulfateは分子量とS含量によってchargeが異なります。
[梅田]コルヒチン、サイトカラシンBの処理は、細胞増殖を止めたためにaseを出さないと考えられませんか。
[乾 ]細胞を短時間でバサッと殺せるKCNの量はどの位ですか。
[野瀬]殺すといっても難しいのですが、細菌だと2mMで分の単位で呼吸が止まります。
[永井]ジニトロフェノールとかアザイドとかを使って、エネルギーを要するsecretionなのかどうかを、みておく必要がありますね。
[野瀬]モノヨード醋酸を使ってやってみましたが決着はついていません。
[高木]仔牛血清を加えて出さなくなるのはDNaseだけですか。
[野瀬]それしかみていません。
[高木]DNase分泌のaccumulationのカーブはinsulinの場合とよく似ています。negative
feedbackが効いているのでしょうか。
[野瀬]又別のプロテアーゼが出て壊しているのかも知れません。
[梅田]DNaseが他の酵素に比べて安定なので、捕まったとも考えられますね。
[吉田]何をやっているのでしょうか。
[野瀬]合目的には変な遺伝子を壊してしまうためとも考えられます。作用はendonucleaseに近いので防御機構としてはよいと思います。
[梅田]DNaseを出さない細胞にこのDNaseをかけてやると、どうなるのでしょうね。
[野瀬]それは全くやってみていません。
《藤井報告》
1.担癌宿主血清のリンパ球−腫瘍細胞混合培養反応に対する抑制作用
月報に既報の分もふくめ、ラットの4-NQO誘導肝癌細胞・Culb-TC、C57BLマウスのFriend's
virus誘導erythroblastoma、FA/C/2細胞、ヒトのpleural
mesotheliomaにおいて、培養内で増殖してきた細胞は、体腔内で増殖してきた細胞より、MLTRにおけるリンパ球幼若化刺激能が高い。また担Culbラットの血清および腹水を培養液に添加すると、培養されてきたCulb-TC細胞におけるMLTRが抑制された。ヒト神経芽細胞腫のMLTRで、培養液に添加する患者血清をあらかじめ培養神経芽細胞(と思われる)で吸収すると、非吸収血清を加えるときより、MLTRが高く出る。すなわち吸収により血清中の抑制因子が除去される成績を得た。この因子が抗体であるか、その他の因子であるかを、JAR-1ラットの生産を待って検討する予定です。
2.人癌でのMLTR
当研究部において実施してきた人癌のMLTRは、20例であるが、そのうち陽性10例であった。このうち癌あるいは転移リンパ節より細胞浮遊液をつくり、4,000R照射後そのまま刺激細胞として用いたばあいの陽性例は5例で、培養して増殖したものを用いたものでは5例が陽性を示した。
乳癌は、転移リンパ節から比較的細胞浮遊液がつくり易く、また根治手術例が多いこと、予後が比較的良好で追跡が可能などの点から、MLTRとその病期分類の関係をしらべてみた。StageII(tumor
2cm以下、脇窩メタ3ケ以下)で陽性2、陰性1、StageIV(tumor
5cm以上、脇窩メタ多数)で全例(5例)陰性であった。少数例であるので、未だ結論はできないが、何か関係がありそうな成績です。(StageI、StageIIIの症例は無かった)。
:質疑応答:
[勝田]培養系は系を新しくしてやり直してみる必要がありますね。
[佐藤二]抗血清はどういう方法で作ったのですか。6,000倍とはずい分高いですね。
[藤井]コバルト照射した細胞を1,000万個宛、2週間に1度、数回接種しました。
[山田]乳癌は5年から10年で同じものが再発する例が多いようです。人癌の方は、その辺に焦点を合わせると面白いでしょう。
《黒木報告》
<BALB 3T3細胞のtransformation>
その後二つのクローンのtransformation実験を追加した。(図を呈示)Clone-4、Clone-13とも1.0、4.0μgのDMBAによってtransformationがみられなかった。ここでoriginalのpopulationがheterogeneityであることが明らかになった。
現在進行中の実験は、transformantのcharacterizationとtransformationの再現性、他の発がん剤への拡大である。後者はcontact
inhibitedに保つよい血清のロットを探したりしているため、予定が少し遅れている。テストした範囲では、Flowの胎児子牛血清がよいことがわかった。
TransformantのCharacterizationは(1)Saturation
density、(2)ConA、(3)腫瘍性、(4)Soft agar、(5)glucoseのとりこみ、などの面から追求中である。
<ハムスターからの3T3様細胞の分離>
BALB 3T3細胞の実験と同時に、3T3様細胞を新たに分離することを試みた。Todaroらは10年程前にハムスターから3T3継代による3T3細胞の分離を試み失敗している(Todaro
G.J.,Nilausen K.,Green H.:Cancer Res.23,825,1963)。今回われわれは、医科研で維持されている純系ハムスター(F54)の1匹の胎児から出発して、一系の3T3様細胞を得ることに成功した。(累積増殖曲線図を呈示)同時にスタートした四系のうち、2系(H-1、H-2)はそれぞれ、30、80日頃に増殖がとまった(一系はContami.)。H-4は50日前後にみられたcrisisをのりこえて、安定した増殖能をかく得した。
飽和密度は5万個/平方cm前後、培養3日で増殖がとまる。染色体は45にモードをもつ。
:質疑応答:
[勝田]寒天上のコロニー形成は、岡山の村上先生がやっておられましたね。
[佐藤二]斜面寒天を使って閉鎖系でね。論文にはなっていないでしょうが。
[津田]BALB 3T3はどの程度安定なクローンが得られたのですか。
[黒木]すぐ凍結して保存しています。溶かしたら2ケ月位しか使いません。
[佐藤二]3T3を作る時、途中で落ちてゆくのは正2倍体のままではないでしょうか。奥村氏の自然発癌の実験に小コロニーは小ばかり拾う、大コロニーは大ばかりという継代をすると、小さコロニー系が大コロニーを作る時期に悪性になるというのがあります。
[黒木]私の系では3日で増殖が全く止まるという所が面白いと思っています。
[佐藤二]1週間で継代ときめておくと、1週間で増殖の止まる系が出来るかも知れませんね。
[吉田]3T3を作る、又使うことの意味とか利点は何ですか。
[黒木]自然悪性化を防ぐという意味があると思います。密集して増えるものを除外してサチュレーションデンシティの一定なものを残すことになりますが、contact
inhibitionのある細胞をとる必須条件ではありません。
[佐藤二]クローンによって変異率が違うのは、クローンの純度によると考えられませんか。変異の少ないクローンは安定性のあるもの、変異率の高いものは維持しにくいクローンとも考えられると思います。
【勝田班月報・7209】
《勝田報告》
JTC-15株細胞(ラッテ腹水肝癌AH-66)よりのColonial
clones及びClonesの可移植性と軟寒天内増殖能との関連性について
N0.7203の月報において、JTC-15の復元成績のまとめを報告したが、そのとき、クローンを作ってその性質を色々と検討中であると附記した。この実験は完全にはまだ終了していないが、かなりのデータが得られたので、今月号で中間報告することにする。
1)軟寒天法は、豊島製の径5cmのplastic dishを用い、6系を得た。
2)液体培地法は、LINBRO製のトレー(凹みの径約8mm)を、初めは液量を各0.5ml宛のうすい細胞浮游液を各凹みに入れ、顕微鏡上で、たしかに1コだけ入っているという穴にマークし、次第に液量を増した。これからは4系のClonesが得られたが内1系は死滅してしまった。 フラン器はいずれも炭酸ガスフラン器である。
(表を呈示)原株及び軟寒天のクロンは10、100、1000個とまいた結果の平均値で、高いもので42%、低いものは8%以下であった。液体培地クローンは1000個のみコロニーを形成し、0≒3.6%、7.4%であった。以上のように、軟寒天内コロニー形成能とは関連性が認められない。寒天コロニー4などは軟寒天で拾ったコロニーであるのに、軟寒天でPEが低く、可移植性も低いという結果になった。
《梅田報告》
安村先生の話で、Soft agar法で、100万個cells/plate位の大量の細胞数を植えこむと、normalと思われる細胞もcolonyを作るにではないかと云われていた。それ故ハムスターの胎児培養細胞に発癌剤投与後なるべく早くsoft
agar中でcolonyを作らせ、発癌の指標に出来たらと云う目的で以下の実験を行った。
ハムスター胎児単層培養を9cmのpetri dishに作成後、細胞が1/4位のガラス面をおおった培養1日目に、(A)3.4benzpyrene
10μg/ml、(B)4HAQO 10-5乗Mを夫々投与した。2日後Control培地に交新したが、その時は(A)はそれ程障害は強くなく細胞はガラス面の2/3をおおっていた。(B)は細胞障害が強く1/5をおおっていた。
Controlは培養4日后、(A)、(B)は増殖が回復した培養13日后に100万個cells/mlの細胞数でsoft
agarにうつした。Soft agarは0.3%のagaroseをbase
layerに、0.2%のagaroseをseed layerとした。(agaroseはドータイド製)
夫々2週後に観察した所共にcolony形成はなかったので、seed
layerの所を再び培地で洗い、9cm petri dishにまいた。controlの細胞の増生は良く、(A)(B)は徐々に細胞が増生し、20日后には(A)では50ケ位のcolonial
growthが認められ、うち4ケはdense colonyであった。(B)は輪かくのはっきりしないやはり50ケ位のcolonyを作り、dense
colonyはなかった。この細胞も再び同じ様な方法でsoft
agarに移し、2週間培養した。
結果は全く陰性で、colony形成はなかった。
別にsoft agarでなく継代した系では、(A)は既にmorphological
transformationが認められている。(B)ではその様な所見は今の所見られない。
以上soft agarの方法はinoculumを上げてもcolonyを作らない段階があると結論された。
《高木報告》
1.培養内悪性化について
硫安により塩析して作製したserum factor
freeの血清を用いsoft agar cultureを行ったところ、全くcolonyが出来なかったため今回は液体培地を用いてplating
efficiencyを調べた。正常細胞としてRFLC-5、腫瘍細胞としてRRLC-11を使用した。
1)培地はMEM+10%CSを用い、6cmのPetri dishに180ケの細胞を植え込んだ。用いた血清は次の3種であった。 (1)1/1CS:限外濾過を行いMEMで元の量になるまでうすめたもの。(2)1/3CS:硫安1/3飽和後血清をPBSで2日間透析した後限外濾過を行い、MEMで元の量にもどしたもの。(3)1/2CS:硫安1/2飽和後、上記1/3飽和と同様に処理したもの。
(表を呈示)結果は表の如く、1/1CSを用いた場合のRFLC-5およびRRLC-11細胞のPEはそれぞれ24.0%、3.3%であり、これまでの無処理血清を用いた実験のPE、すなわちRLFC-5約80%、RRLC-11約50%と比較すると可成り低かった。これは、この実験では再生したFalcon
Petri dishを用いたことも影響したかも知れないが、血清を処理したことによる影響が主であると考える。
又この血清を用いてsoft agar cultureを行った所、先に報告したように白色の沈殿物を生じたので、次に硫安塩析後、蒸留水で透析を行い、また3種類の培地について検討した。
2)培地はMEM+0.1% Bactopepton(BP)、199、F12の3種を用い、これに血清をそれぞれ10%添加した。用いた血清は以下の如くである。(1)control
CS:無処理の血清。(2)1/1 CS:限外濾過後Hanks液で元の量にもどしたもの。(3)1/3
CS:硫安1/3飽和血清を蒸留水で2日間透析した後限外濾過を行い、Hanks液で元の量にもどしたもの。
(表を呈示)結果は表に示す通りである。RRLC-11はPetri
dishあたり180ケの細胞をまいたが、RFLC-5はPetri
dishあたり900ケの細胞をまいたので、MEM+BP培地ではcolony数は数えられなくなった。しかし199およびF12培地では、全くcolonyを生じなかった。RRLC-11細胞についてはcontCSと1/1CSとではPEには有意の差はないように思われたが、生じたcolonyの大きさは1/1CSでは明らかに小さく、限外濾過を行うことにより細胞増殖にあずかる因子がある程度失われるようである。さらに培地条件を検討中である。
2.RRLC-11細胞の放出する毒性物質
RRLC-11細胞を培養した毒性培地を56℃、65℃および75℃に30分おいてこれら温度の効果をみた。(図を呈示)図に示す如く56℃30分では活性は保たれ、65℃30分ではやや失われ、75℃30分では完全に失活した。
先に報告した如く65℃、75℃、60分ではいずれも完全失活した。
《山田報告》
この夏は、いままでの仕事の整理やら、Paper書きに追われて過して居ます。近くCell
electrophoresis(細胞電気泳動法)の単行本も出版の予定です。(小生は編集及び執筆)
従来の仕事の残務整理を兼ねて、4NQOにより発癌したラット肝培養株を材料の出来次第randomに検索しています。今回は図に示す様な三株(CQ68/RTC、C10/RTC、CulbTC)について、その後の泳動度の変化を調べてみました。今回はどういうわけかノイラミニダーゼが作用しにくく、特にCulbTCの成績はどうも理解がつきません。(ラット赤血球も同時にノイラミニダーゼ処理して、その対照として検索しています。)
C-10/RTCのみが従来の悪性化のパターンを示して居ます。
4NQO作用後かなり日数が経っていますので、Cell
populationの変化を生じたのかもしれません。出来ればこの点もう一度調べたいと思って居ります。(図を呈示)
テレビ・ヴィデオテープ記録装置を電気泳動装置に組みこみました。この装置は従来の泳動装置に通常家庭用に発売されているヴィデオコーダーを組合せたもので、意外と便利で重宝しています。従来の細胞電気泳動度を測定する際には、すべて顕微鏡をのぞいて測定して居たのですが、その視野がテレビの画面にうつりますので、測定するのが楽であり、しかも記録されるので、幾度でもくりかへしみなほすことが出来ます。しかも細胞の動きを速くすることが出来ますので、運動の状態を細かく分析が出来ます。ヴィデオの撮影装置と顕微鏡の接着の部分を改良して従来の写真記録も自動的に出来る様にしてあります。 次回の班会議にはこのヴィデオを持参して御覧に入れたいと思って居ます。
《堀川報告》
私共は以前にマウスL細胞をγ-線で反復照射することにより放射線抵抗性細胞を分離し、その出現機構及び抵抗性細胞の遺伝的特性等の解析を試みたが、今回は材料と方法を変えてヒト子宮頚癌由来のHeLaS3細胞より、X線感受性および抵抗性細胞を分離することを試みた。これは哺乳動物細胞におけるX線感受性支配要因(障害と回復能)を解析するにあたり、最も好材料と考えられるからである。
まず感受性細胞株の分離はUV感受性細胞分離にあたって用いた方法に準じて、以下に述べる方法で行った。HeLaS3原株細胞を変異誘発剤MNNGで24hrs処理し、ついで正常培地で培養を行い、7日後に得られた細胞の各々100万個に対して、0、100、200、300または400RのX線を照射し、直ちに10-5乗M
BUdRを含む培地中で培養する。4日後に可視光線(60W)を2hrs照射したのち、再び正常培地中で培養し、3週間後に培養瓶中に形成されるコロニー数を算定する。このようにしてMNNG処理−200R照射群から7個、MNNG未処理−200R照射群から4個のコロニーが出現し、合計11個のクローンを得たが、これらについてX線に対する感受性を検討したところ、HeLaS3原株細胞に比べて高感受性を示したのはMNNG処理群から出現した1クローン(SM-1a株)のみであった。
一方X線抵抗性細胞の分離にあたっては、あらかじめMNNGで処理した1,000万個のHeLaS3原株細胞に2000RのX線を照射した。そして約2ケ月後にMNNG処理群から4個、未処理群から1個のコロニーが出現したが、これら5個のクローンについてX線感受性を検討した結果、MNNG処理群より分離した1クローン(RM-1b)のみがX線に対して抵抗性を示した。以上分離されたSM-1a株とRM-1b株の、コロニー形成法によって得た線量−生存率曲線を図に示す(図を呈示)。またHeLaS3原株細胞をも含めてX線に対する感受性を表にまとめた(表を呈示)。これら3種の細胞株について染色体数の分布を調べた結果では、Modal
numberはHeLaS3細胞では68本、SM-1a細胞では64本、RM-1b細胞では67〜69本という結果を得た。また成長曲線から各種細胞の倍加時間を求めたが、HeLaS3、RM-1b細胞で20.8時間であるのに対し、SM-1a細胞では27.2時間という長い倍加時間を示した。現在SM-1a、RM-1b両細胞株における細胞内非蛋白SH量ん差違や、化学発癌剤4-NQOならびにUVに対する感受性の検討等を行っている段階である。
《乾報告》
MNNG投与初期におけるRNApopulationの変化
先に月報7204号でMNNG投与によって悪性転換した細胞のRapidly
labeled populationは正常のそれと異なる事を報告した。
我々はRNApopulationの変異が、MNNG投与細胞においていつあらわれるかを追求する目的で、MNNG
10μg/ml投与後96時間の細胞についてDNA-RNA
Hybridizationを行なった。薬剤投与後4日、障害を受けた細胞の再増殖時のHybridizationの結果は次の如く要約された。MNNG-treated
cellのlabeled RNAを使用した場合は実験結果に非常にバラツキが多い。正常細胞のRNAを使用した時は、coldの正常RNAが、coldのMNNGtreated
cellのRNAより多く拮抗した(図を呈示)。
この結果よりMNNG処理後4日目の細胞のRNAは、正常細胞RNA
populationの一部を欠如していると考えたい。しかし、un-labeled
RNA/labeled RNAの高い実験は現在施工中であるので、その結果を待ち結論したい。
8月下旬より11月下旬迄渡欧致しますので、10月の月報は13回International
Congress of Cell Biologyのtopicsを御報告致したく思います。
《黒木報告》
§平板寒天Agar Plate培養について§
レプリカ培養のために開始した寒天表面コロニー形成法(以下、平板寒天又はAgar
plateと称す)が、その後、多くの細胞に応用できることが分った。
(表1、2、3を呈示する)表1は、浮游状で増殖する細胞(FM3A、L5178Y、YSC、Yosida
Sarcoma・Primary culture)の成績である。株化された細胞は70%近い高いPEを示す。吉田肉腫の初代培養では軟寒天よりもいいPEである。
表2で、壁につく細胞(HeLa、L、V79、CHO、JTC-16)もふつうの液体培地のコロニー形成法、軟寒天法とほぼ同じ率でコロニーを作り得ることが明らかになった。
表3からBHK-21/C13のポリオーマ、RSVによるtransformantはコロニーを作るが、もとの細胞Revertantは作らないことが分る。この方法はtransfomationのassayにも使える。
《野瀬報告》
Alkaline Phosphataseの精製
Alkaline phosphatase(ALP)-Iに対する抗体を作るため、この酵素の精製を試みている。用いた材料は、臓器の中でも比活性の高いRat
Kidneyで、表に示した手順で精製を行った(表を呈示)。各stepでの比活性の上昇は次表に示してあるが、組織のhomogenateはかなり大きなfragmentを含むので、Deoxycholateによって顆粒に結合しているALP-Iを可溶化した方が良いようである。Triton
X-100やUreaでは可溶化できなかった。ここで言う可溶化とは6,000Xg、5minの遠心により上清に残るという意味で、この上清を、Glycerol
gradient(10〜30%)の上にのせて、SW50Lローター、34,000rpmで60min遠心すると、ALP-I活性は早く沈降する部分に大部分きてしまい、完全な可溶化とは言えない。次のstepのn-Butanolによる抽出で、比活性は約2倍に上昇し(図を呈示)、図で見られるように、この条件の遠心ではTopの分劃に回収された。このn-Butanol抽出液は凍結するとaggregateをつくり、ALP-Iは沈澱するため、直ちにSephadexG-200(1.8x40cm)のカラムにかけてゲル濾過を行なった。この時の抽出パターンが図2に示されている。このカラムでBlue
Dextran(分子量約2.0x10の6乗)はFraction 9〜10にかけて溶出され、この付近がvoid
volumeであるが、ALP-Iもこの位置に回収された。
表1でpeakの位置にあるALP-Iの比活性はn-Butanol抽出液とくらべ約4.1倍に上昇しているが、Sephadexのパターンから見ると、ALP-Iはまだ完全に可溶化されてなく、分子量50万以上のparticulate又はaggregateとして存在しているようである。このため、SephadexのFraction
9〜10を更にdisc gel電気泳動(pH8.6および9.5)にかけても原点から全く動かなかった。これ以上の可溶化の試みとして、n-Butanol抽出液を、DOC、SDS、TritonX-100、Neuraminidase、PhospholipaseCなどで処理したが何れの場合もALP-I活性は、void
volumeの位置から動かず現在、これ以上の精製はできていない。今後、更に別の方法を用いて、ALP-I
complexをdissociateさせる条件を探す予定である。
《佐藤茂秋報告》
培養されたマウスのグリオブラストーマ細胞が、脳に特異的な生化学的マーカーであるC型アルドラーゼを保持している事はこれ迄報告してきた。他のグリオーマの培養株がこのマーカーを持っているか否か調べる為、N-ニトロソメチルウレアでラット脳内に誘発され、培養株となっているグリオーマ細胞、C6細胞についてアルドラーゼの分子種を電気泳動で調べてみた。この細胞も、A型とA-Cハイブリッドを示しC型もうすいが認められた。この細胞株は、グリアのもう一つのマーカーであるS-100蛋白質をもっている事は既にわかっている。又、マウスの神経芽細胞腫瘍の培養株であるC1300のクローン、N18では、A型アルドラーゼとわずかにA3C1ハイブリッドが認められるが他のA-Cハイブリッド及びC型は検出されず、グリオーマとはアルドラーゼの分子種のパターンが異っていた。ヒトの神経芽細胞腫におけるアルドラーゼのパターンもA型とA3C1ハイブリッドのみであると報告されている。従来C型アルドラーゼは脳、神経組織に特異的と言われて来たが、神経細胞起原の腫瘍細胞がC型をもたない事実は、脳組織におけるC型アルドラーゼがグリア起原であるかもしれない事を示唆する。あるいは正常神経細胞はC型アルドラーゼをもつが腫瘍化した細胞ではC型が発現しないのかもしれない。神経芽細胞腫の培養株はin
vitroで、種々の条件により生化学的又は形態学的な分化を示す事がわかっているが、C型アルドラーゼも誘導されるかもしれない。この方面への研究の展開を考えている。
【勝田班月報:7210:ConAによる細胞表面荷電の修飾作用】
《勝田報告》
英国(10月2〜4日)及び米国(10月31〜11月3日)に於て開かれるシンポジウムでの小生の発表について一応御説明します。
題名はどちらも"Malignant transformation
of rat liver parenchymal cells by chemical
carcinogens in tissue culture"としてありますが、内容は少し変えて話したいと思います。英国のは30分(討論は15分)の予定ですので、あとの方で4NQO処理したラッテ肝細胞の映画を見せるつもりで居ります。全体の内容としては、小生の研究室での仕事を中心として紹介するつもりです。
ラッテ肝細胞の培養内増殖を図ったが、はじめは一寸も増殖してくれなかったという所から話をはじめます。しかしDAB1μg/mlで初めの4日間だけ処理すると、増殖をはじめる率が多くなり、多数の細胞株が得られました。だがこれらを動物に復元接種しても、動物は腫瘍を作りませんでした。この増殖系の細胞をさらに発癌剤、ホルモン等を添加し、或は嫌気的条件で処理しても一向に悪性化しませんでした。増殖系の染色体モードは2nをあまりずれず、広い分散も見られませんでした。その後次第に培養法も改良され、2nを高度(例えば42%)に持つような無処理の株もできてきました。
この正常株を平型の回転管に入れ、5°の傾斜で静置培養し、培地は週2回交新するが、細胞を長期間継代しない(1〜数カ月)でおくと"なぎさ"の部分で著明な細胞形態の異常化が起り、遂にはMutant
cellsが誕生し、肝細胞のsheetの上にpile upした球形の細胞のコロニーが生じ、これがどんどん急速にpredominantになって遂にculture全体がMutantsに占められてしまいました。このようにして、これまで5系の変異株が得られましたが、形態的にはいかにも悪性細胞そのものでしたが、動物には腫瘍を作りませんでした。コーチゾン処理したハムスターのポーチに接種すると、一旦はnoduleを作るが、やがてregressしました。このnoduleは組織学的には、腹水肝癌細胞を接種してできたnoduleと酷似していました。
"なぎさ"培養を或期間したあと、TD-15瓶に細胞を移し、5〜10μg/mlのDABで処理したところ、非常に高率にMutantsが生まれ、しかもそれらの間で、DABに対する感受性〜代謝能にきわめて差違のあることが判りました。たとえば20μg/mlにDABを与えても4日間の内にそれを全部代謝してしまう株もありました。しかし動物への移植能は認められませんでした。
次に発癌剤を4NQOにかえてラッテ肝細胞株を処理しました。5系列の実験をし、1回の処理は3.3x10-6乗Mで30分間にしました。結果が動物の腫瘍死を待つ以外に判定できないので、sublinesを分けて次々と処理を加えた系列もありますが、或系列では1回処理後3.5月後に復元接種し、動物を腫瘍死させました。腫瘍は肝癌と判定されました。4NQOを次から次と与えても動物の生存日数は短縮しませんでした。悪性化した株はControlと形態的にはほとんど差がありませんでしたが、動物の腹腔に入れると、ラッテ腹水肝癌の腹水像と酷似していました。悪性化株の染色体モードは2nより1〜数本ずれているだけでした。無処置の対照は4月余後に復元したときには腫瘍を作りませんでしたが(実験群はこのごろ既に悪性化していました)、約17月に接種したときは、自然発癌してしまっていました。
山田班員は、ラッテ腹水肝癌の細胞電気泳動値は正常細胞のそれより泳動値は低いが、Neuraminidase処理するとそれの低下すること、正常肝細胞は泳動値が低いが、酵素処理により上昇すること、"なぎさ"変異の細胞は泳動値が正常のものと近いが、酵素処理によってもほとんど上昇しないこと、4NQO悪性化細胞は腹水肝癌と似た泳動像を示すことを明らかにしました。
動物への復元接種能と軟寒天培地内での増殖能とを比較しますと、これらは平行しているように見えますが"なぎさ"変異細胞は動物内での造腫瘍能を全く持たないにも拘わらず、軟寒天内では最高のP.E.を示しました。
昨年6年末から山田班員と協同ではじめた実験では、4NQO
3.3x10-6乗M、30分、1回の処理だけで、あとの細胞特性の変化を、軟寒天、復元、染色体、細胞電気泳動などの諸法を併用して追究した。その結果の内で特に注目されたのは、やはり復元接種試験が最も早く悪性化を発見できること、RLC-10(2)という悪性化していないsubstrainを使ったにもかかわらず、約1.5月後の接種で、Controlまでtakeされたこと、但し、培養日数の経過と共に、実験群の細胞を接種した動物の生存日数が短縮して行ったこと、などである。軟寒天内増殖能はこれまでの処全部陰性であった。(対照として、同手法でのJTC-16でのP.E.は50%)これらに最近のdataを追加し、英国では特に悪性化の証明法、復元能と抗原性の変化、"なぎさ"変異細胞の特異性などについて語りたいと思っています。
米国では15分の演説時間しかありませんので余り色々なことは云えませんが、その前後の数カ所のSeminarではゆっくり色々の話もできると思います。
:質疑応答:
[黒木]なぎさ変異の場合、対照群とはどういう形のものですか。
[勝田]なぎさ変異の起こる培養の特徴は平型管を使うこと、継代をしないで長期間培養を続ける、という二つの事がありますので、丸い試験管を使い定期的に継代をするという培養が対照になり、その場合の変異はゼロです。
[藤井]なぎさ変異はなぎさゾーンにコロニーが出てきてはいませんね。なぎさゾーンだけを継代してゆくと、どうなるでしょうか。
[勝田]それはやっていません。技術的に難しいですね。なぎさ変異で出来たコロニーをそのなぎさゾーンの変異に結びつけるには飛躍があって、その間の出来事は想像です。
[佐藤茂]復元して出来た腫瘍の中に肉腫様のものがあるのは、接種した細胞が未分化であったためでしょうか。
[山田]ヒトの癌の例では胃癌や食道癌で、癌のまわりに肉腫のできている組織像がよく見られます。
[佐藤二]私の処ではクローニングした系できれいな肝癌型の腫瘍を作るのがあります。しかし1コから増やしたクロンでないと、胚葉の異なる細胞が混じってしまう事もあり得ますね。旋回培養で塊を作らせるとかなり上皮性のものが選別されますね。
[高岡]腹水に浮いている細胞は上皮性で皮下にできた結節は肉腫様が多いようです。
[佐藤二]宿主の皮下の細胞がsarcomatousに増殖したとも考えられますね。原株の発癌剤処理前の染色体はどんなですか。マーカーはありますか。
[高岡]一見ラッテらしい核型です。マーカー染色体ははっきりしません。
[佐藤二]発癌実験も培養細胞そのものの取り扱いを考えるべき時期が来ていると思います。無処理の細胞が自然発癌するとすれば、化学発癌剤は単に腫瘍性の補強に働いているだけではないか、本当に発癌作用をもっているのかどうか、よく考えなくては・・・。
[勝田]その点は問題ですね。発癌ウィルスが絡んでいるかも知れませんしね。
[堀川]同調培養を使ってCellサイクルの上で化学発癌の作用の決定はできませんか。
[黒木]同調培養を使って発癌実験をやるのは失敗しましたが、DNA合成を止めると悪性変異が起こらなくなるというデータは持っています。
[堀川]そういうデータが沢山たまってくればウィルス問題も見当がつきそうですね。
[黒木]癌がウィルスを作るのではないかという説もあります。
[勝田]しかし、ウィルス発癌には方向性があるが、化学発癌には方向性がないという事実もあります。
[山田]免疫の面からみてどうですか。
[藤井]最近、化学発癌にも共通抗原があるという人が出てきました。
[黒木]Dr.Heidelbergerの仕事では共通抗原は否定していますね。C型ウィルスについては調べておくべきでしょう。
[高岡]私達のラッテ由来の細胞系については、C型ウィルスは検出されなかったというデータを持っています。RLC-10はPPLOもいません。
[佐藤二]ふだんはウィルスが潜在しているだけで、変異が起こる傾向になったときに、発癌ウィルスとして働くという事も考えられます。
[堀川]ウィルス発癌には方向性があり、化学発癌剤の変異は無選択という事ですね。頻度の問題になるかも知れませんが、化学発癌剤でも直接的に変異を起こす可能性もありますね。しかし、どんなウィルスも関与していないかというと、未知のウィルスについては調べる方法がありません。
《佐藤二郎報告》
DAB、3'-Me-DAB飼育ラッテよりの増殖誘導細胞5系の培地中におけるα-Fetoproteinを原液又は濃縮してRadioimmunoassay法で測定した(表を呈示)。測定がすべて終ってはいないがDAB系(diploid
line)では7〜10X濃縮で測定可能、3'-Me-DAB系の一系は原液で測定でき他のものに比して濃度が高いようである。蛍光抗体法では発見できない。
(表を呈示)腹水肝癌の内αfpを多量に産生するAH-70Bを培養しαfpをOuchterlony法で測定した。少くとも3ケ月は確認できた。この場合、蛍光抗体法で陽性である。
:質疑応答:
[黒木]α-fetoは血清を除いて24hr位培養すると、培地中に産生されてきませんか。
[勝田]細胞をすりつぶしてみたらどうですか。
[佐藤二]蛍光抗体法で陰性のものではだめでしょうね。まぁ、α-fetoも必ずしも肝細胞同定に有力な武器ともいえませんが・・・。
[山田]胆汁を出す肝癌は血清中にα-fetoを出さないというデータがありますね。
[佐藤二]肝炎でも出す事がありますしね。
[藤井]胃癌でも肝癌に転移するとα-fetoを出すものがあります。
[山田]とすると、もう有力なマーカーではなくなってきたという事ですね。
[佐藤二]増殖誘導した肝細胞にあるという事まで判ったので、次はその細胞に更に化学発癌剤を作用させて悪性化させてゆくと、α-fetoの産生がどう変わってゆくのか調べてみたいと思っています。
《黒木報告》
<cAMP結合蛋白の分離精製>
cAMPが細胞の増殖調整機構の一環として働いているであろうことは、これまでの報告から明らかである。この問題へのapproachの一つとしてcAMPそのものよりも、その結合蛋白に目を向け、その第一段階としてラット肝よりの結合蛋白の分離精製をすすめてきた。しかし、なかなか思うようにすすまず、目下悪戦苦闘中である。(図表を呈示)この段階でSDS-polyacrylamide
gel、high pH-discontinuous polyacrylamide
gelなどを行うと、前者は約8つのbands、後者は4つのbandsが得られた。このあとどのように分離をすすめるべきか、目下考慮中であるが、hydroxy
apatite columnを第一に行う予定である。また、disc.gelでsliceに切ったあとbinding
bandを調べる方法も進行中である。もし、この方法でbandが限定されれば、それをmarkerに分離がすすめられる訳である。
binding proteinとprotein kinaseの関係は、分離のある程度すすんだところで、調べるつもりである(γ-ATP-P32が高値なので)。
<Agar plate培養法>
ほぼdataがまとまったので、Exptl.Cell Res.に投稿すべく論文を書きはじめた。Replicaの方法としてはLederbergの方法の他に、つま楊枝の先でうえこむ方法も検討中でこの方法を用いて、auxotrophic
mutant、UV-sensitive mutantをひろうべく予備実験を開始した。
:質疑応答:
[堀川]寒天培地の上に出来たコロニーが、1コの細胞から増殖したものだという事は確認してありますか。
[黒木]single cell rateが95〜100%の細胞浮遊液を使っています。寒天上にまかれた細胞については、1コづつかどうか確認してみていませんが、顕微鏡でcheckできます。
[堀川]シャーレ当たりの細胞数はどの位まきますか。
[黒木]100コ以上です。
[堀川]私の実験で感受性細胞を拾える頻度は100万個cellで1コから2コですから100コ/シャーレで拾うとすると、ものすごい数のシャーレを使う実験になりますね。
[黒木]堀川班員の方法では始のBUdRの処理で感受性細胞を選別して殺している可能性がありますから、実際にはもう少し頻度高く感受性細胞が存在すると思いますが・・・。
[堀川]それはそうです。BUdRを使うと一番感受性の高いものが死んでしまうのが困ります。むしろnutritional
mutantととった方が良いかも知れませんね。
《佐藤茂秋報告》
1)培養されたマウスのグリオブラストーマ細胞が培地に1mMジブチリルサイクリックAMP(DBcAMP)と1mMテオフィリンを添加することにより、その形態が分化したグリア細胞に似てくることは既に報告したが、今回はDBcAMPの濃度を3mMと高くして1mMテオフィリンを同時に入れ、その効果を調べた。
変化は1日目で既に見られoligodendroglia又はfibrous
astrocyte様の細胞がみられる。3日目ではその変化が顕著であるが1mM
DBcAMP添加後2週目位に見られたMembranous astorocyte様の細胞はこの濃度のDBcAMPでは実験中にはみられなかった。
突起の長さが40μ以上の細胞のパーセントは3日目で対照群の数倍にも上昇した(図を呈示)。5日目に薬物の入っていない培地に変換すると形態変化を起した細胞は数日で、もとの突起の少ない細胞に戻ってしまった。
2)培養されたフレンド赤白血病細胞が培地にDMSOを添加する事により、ヘム合成、γ−アミノレブリン酸合成酵素の上昇を示す結果を得ているのでこれについても報告する。
:質疑応答:
[黒木]Levulic acid合成酵素は肝臓にありますか。
[佐藤茂]あります。肝組織ですと1gあれば充分測定できます。
[黒木]肝臓の同定に使えますか。
[佐藤茂]使えればよいと思います。
[山田]DBcAMPは酸性ですが、これが細胞に影響を与えることはありませんか。
[佐藤茂]中和して培地のpHを合わせて使っています。
[山田]それからDBcAMPはlipophilicだという報告もありますが、それによる膜への作用は考えられませんか。
[永井]あまり関係ないと思います。
[黒木]DMSOが何故induceするのでしょうか。
[佐藤茂]他の酵素の誘導にも使われたりしていますね。この場合特異的な誘導かどうかは判りません。他の細胞でもやってみようと思っています。
《堀川報告》
培養された哺乳動物細胞を用いての体細胞遺伝子学の研究はPuckら(1955、1956)により微生物遺伝学の分野で常用されているコロニー形成法の導入によって著しく進歩した。
例えば体細胞遺伝学の分野では以来この方法によって薬剤耐性細胞、栄養要求性細胞、温度感受性細胞等多くの遺伝的に有用な細胞株が分離されている。またこうした各種変異細胞株を用いてX線をはじめとする各種物理化学的要因の処理によって誘発される体細胞レベルでの突然変異率あるいは復帰突然変異(reversion)率の算定とか、その機構の解析がPuck一派、Chu一派、あるいはBridgesらによって精力的に進められるようになった。
だが微生物遺伝学の分野で常用されているレプリカ培養法が培養された哺乳動物細胞には適用出来ないという宿命は何とも悲しいことで、これまで体細胞レベルでの遺伝学的研究の発展を何かと邪魔し続けてきたのも事実であると云える。最近に到ってGoldsbyとZipser(1969)は培養哺乳動物細胞用のレプリカ培養法を開発したが、当教室においてはこの方法を更に改良し、より簡単に、しかもより広く使用出来る系として確立した。(この方法についてはExptl.Cell
Res.,68,476(1971)をみていただくとして)、この方法を用いるとある細胞株から変異細胞の分離とか、またそのpurificationも簡単に出来るし、更にはこうした細胞を使って体細胞突然変異の研究も容易に進めることが可能であると思われる。今回はこのレプリカ培養法の系を使用して私共が進めている体細胞突然変異の研究について簡単に紹介する。
90%Eagle MEM+N18mediumと10%dialyzed
Calf serumから成る完全培地中で培養されたChinese
hamster hai細胞をMicro Test II-Tissue Culture
Plate(Geteway International Inc.,Catalog
Mo.3040)の96個の穴の中にそれぞれ1個づつ植え込み、約10日間培養することによりmaster
plateを作る。ついで各穴の中で増殖した単層細胞をトリプシンEDTA溶液で剥がし、hand
replicatorでもって各穴の中の細胞液を新しい17枚のreplica
plateに移す。最初のmaster plateと1枚の新しいreplica
plateの各穴に前記の完全培地を加え、37℃で再度培養し、一方残る16枚のreplica
plateのうち2枚づつに完全培地からL-alanineあるいはL-proline、L-asparagine、L-aspartic
acid、L-serine、glycine、hypoxanthine、thymidineのいづれか1つを抜いた培地を加えて37℃で培養する。約10日間培養後、倒立顕微鏡下でmaster
plateからreplica plate上の同一場所(穴)に移された細胞クローンの成長を調べる。このようにして上記栄養物質に対する非要求株、あるいは個々のアミノ酸に対する要求株を分離することが出来る。
現在このようにして分離したalanine、asparagine、aspartic
acid、proline、hypoxanthine、glutamic acid非要求株をX線、UV、4-NQO、MNNGおよびその他の化学薬剤で処理することによって、出現する要求株への突然変異率の算定、およびその変異誘発の機序を解析するための準備を進めている。
:質疑応答:
[松村]穴からtransferする時はどうするのですか。
[堀川]全部拾っては大変です。このmutantはその代かぎりで捨ててprototrophだけ拾っています。この細胞にX線、4-NQOなど処理してmutantを拾うつもりです。
[勝田]非要求性といっても不要ではないのですね。アミノ酸の場合可欠アミノ酸は入れない培地でも培養後には培地に存在しています。細胞がどんどん作ってしまうのです。
[佐藤茂]透析血清の中の蛋白が分解してアミノ酸を供給していませんか。
[黒木]Dr.Eagleの論文に透析血清からアミノ酸が出てくるというのがあります。
[堀川]8コのアミノ酸を抜いてしまうと増殖しないという系がとれていますから、これがcontrolになると思います。何故初めからこんなに多くの変異株が出てくるのかが不思議です。
《山田報告》
ConAによる細胞表面荷電の修飾作用についての其の後の成績を書きます。
ラット腹水肝癌Ah66F細胞に従来通りの条件で、3種のhemagglutinatesと接触させた後の電気泳動度の増減をみました(図を呈示)。細胞表面の糖鎖の末端より若干深い位置に存在するMannose、N-acethyl
glucosamineとそれぞれへ都合すると考へられているConA及びPHAはAH66Fの表面荷電に同様な変化を與へましたが、末端のFucoseと結合すると考へられているうなぎ血清は表面荷電を低下させるのみでした(ひと赤血球の表面糖鎖分子の配列推定図を呈示)。
次にこのうなぎ血清とConAを交互にラット腹水肝癌AH66Fに作用させてみた結果(図を呈示)、ConAによる癌細胞の泳動度の増加を若干抑制するかの感がありますが、その程度は著明でなく、特にうなぎ血清をあとから作用させると、ConAの作用には殆んど影響がありません。
(But)2cAMPのConA作用に及ぼす影響:
最近(But)2cAMP−dibuthylic-AMP−が培養細胞の形態を変化させ、特に癌細胞にContact
inhibitionを生ぜしめると云う報告があり、この物質が表面膜に変化を與える可能性が考へられますので、この物質の細胞表面荷電に及ぼす直接作用を電気泳動法によりしらべてみました。
しかしただ(But)2cAMPと混合しても肝癌細胞の表面荷電には著明な変化を與へませんでした(表を呈示)。しかし、ついでにConAの細胞表面に及ぼす作用に対する影響をしらべた所、明らかにConAの作用に対して拮抗するかの成績を得ました。肝癌細胞のみならず、0.001%トリプシン処理した再生肝細胞にも同様な作用を認めました(表を呈示)。
この(But)2cAMPがConAの作用を抑制する効果が、その生物學的作用であるか否かは今後の検討によらねばなりません。或いはcAMPの本来の生理作用とは違うのかもしれません。しかし若しcAMPの生物作用による抑制ならば、この研究は面白くなりさうです。
:質疑応答:
[堀川]ConA→DBcAMPという処理をしてみましたか。
[山田]DBcAMPはあとから作用させるより、予め処理しておいた方が効果があります。
[勝田]処理後の細胞について生死判別をしていますか。
[山田]していませんでしたが、やってみます。DBcAMPで癌細胞が正常細胞に分化するというのは、信じ難いですね。
[佐藤茂]DBcAMPだけでなく、cAMP、AMPなどの作用もみておくとcAMP本来の作用かどうか判るでしょう。
[野瀬]ブチリック酸もみてみるとよいでしょう。
[山田]cAMPについてはやってみましたが、中和しないで使ったのでpHが下がってしまい、うまくゆきませんでした。
[堀川]Contact inhibitionに対するConAの作用と電気泳動でのConAの作用の間に相関はありますか。
[山田]現象としては平行しています。しかし荷電の上昇が凝集するという現象と直接関係があるかどうかは判りません。とにかく電気泳動は大変敏感なので、よほど対照をしっかりとっておかないと、はっきりした結論は得られないと思っています。
《高木報告》
培養内悪性化の示標について
in vitroで細胞の癌化を証明しうる方法を検討しているが、その1つとして培地条件、とくに血清因子の正常および腫瘍細胞におよぼす影響を観察している。
正常細胞としてRFL、腫瘍細胞としてRRLC-11を用いた。
現在までの液体培地によるPEの成績をまとめると次の通りであった。
1)培地としては検討したMEM、MEM+0.1%Bactopeptone、199、HamF12の4種のうちではMEM+BPにもっとも高いPEがみられた。
2)硫安1/2飽和血清を用いた培地では両細胞ともcolonyを形成しえなかった。
3)硫安1/3飽和血清を用いた培地を無処理の対照血清を用いた場合と比較すると、両細胞ともPEにかなりの低下がみられた。
4)透析および限外濾過を行ったのみの血清を用いた場合を、無処理の血清と比較すると、PEにはほとんど変化はみられなかったが、colony
sizeはかなり小さくなった。
serum factorを除く操作で、血清を硫安塩析後、上清を透析し、さらに限外濾過を行ってきたが、(4)の結果からこれらの両操作だけでも細胞を増殖させる因子が失われることが判った。この点をさらに検討し、はやく使用にたえるserum
factor freeの血清をえて、soft agarに応用してみたい。
さらにPEの低下に関して、本実験では、細胞をtrypsin消化後MEMに浮遊させて、serum
freeの状態で細胞数算定および稀釋など一連の操作を行った。その間の細胞の障害も考えられるためtrypsin消化後にtrypsin
inhibitorであるtrasylolを加える実験をRFL・C-5細胞について行った。(表を呈示)Trasylol
50〜500u/mlをtrypsin solutionに加えることにより、RFL・C-5の本来のPEである80〜85%へPEが回復した。
今後の実験では細胞trypsin消化後、Trasylolを応用する予定である。
:質疑応答:
[勝田]限外濾過で濃縮する時、低分子の濃度に気をつけて下さい。
[滝井]この場合は内液を使っていますから、塩については心配ないと思います。
[佐藤茂]透析もうまくやれば、そんなにvolumeは増えないはずです。
[黒木]この実験の目的は何ですか。
[滝井]Dr.Todaroのserum factorが腫瘍性のマーカーになるという仕事を確かめて使えるようなら利用したいと思っています。
[黒木]この方法でserum factorが完全に無くなったという事は確認してありますか。
[滝井]今の所Dr.Todaroの文献どおりやってみるつもりです。
《野瀬報告》
Alkaline phosphataseの活性誘導(4)
Dibutyryl cAMP(DBC)によって誘導されたalkaline
phosphatase活性は、DBC除去によりどう変化するかを見た(図を呈示)。一度上昇した活性はDBCが存在しないと直ちに減少し約4日でほぼ元のレベルに回復する。この減少の半減期は約42時間であった。このことは細胞内ではALP活性が不安定でありDBCの効果も持続的でないことを示唆する。
ALP活性そのものの安定性を見るため、JTC-21・P3培養液中に放出されたALP(月報7208)を酵素源とし、これを37℃でincubateした後、活性を測定した(図を呈示)。4日間に全く活性の変化はなく、ALPは安定であることがわかる。従って前記の結果は細胞がactiveに酵素を失活させていることを示している。
JTC-21・P3細胞はALP-I活性をconstitutiveに保持しているが、この非活性はActinomycin処理では低下せず、cycloheximideによって低下した。この事から、恐らくALP-Iに対するmRNAは安定で、細胞中に常に存在し、非活性が一定なのは分解と合成のバランスの上に成り立っていると想像される。
次にALP活性を生化学的な方法以外に組織化学的に検出する方法を試みた。染色法はBurnstoneの方法にならった。細胞の固定はまだ条件の検討中であるが、固定しなくても染まるようである。JTC-25・P3細胞をDBC
0.5mM、theophyllin 1mMで4日間処理した後、この方法で染色すると、ALP陽性の細胞は全体の15%前後しかなかった。活性として全細胞を破壊して測定すると検出できない細胞間の不均一性がこの方法で明らかになると思われる。ALP陽性細胞は、形態的に、DBCの作用で突起を長く伸ばし細胞質が丸まったものより平べったい細胞に多い傾向があった。
:質疑応答:
[堀川]ALP誘導の多相性は遺伝的な問題ですか。コロニーレベルで染めてありますか。
[野瀬]今使っている系はクローニングして生化学的に誘導がかかるものです。合成培地系の細胞はコロニーレベルでの仕事が難しいので、まだしてみていません。
[勝田]染まる染まらないが遺伝的なものか、cell
cycleの問題なのかをつきとめる必要がありますね。
[山田]どういう染色法ですか。生きているままで染まるというのは、よほど小さな色素粒なのでしょうか。
[野瀬]この酵素は膜の外側にあるので基質が細胞内に入らなくても発色するのではないでしょうか。
[山田]膜の透過性とは関係ないのですね。
[堀川]しかし、固定すると染まる細胞が多くなるというのは、矢張り細胞膜の透過性の変化によるものかも知れませんし、酵素活性そのものと発色反応との関係もよくチェックする方がよいでしょう。
[勝田]DMSOなど添加すると透過が早くなって染まりがよくなりませんか。
[野瀬]DMSOは酵素活性そのものを誘導する作用があります。
[堀川]cAMPを除いてから活性が落ちるのに4日間もかかるというのはmRNAのturn
over rateで説明するのは少し難しいですね。それからJTC-21・P3とJTC-25・P3の関係は・・・。
[勝田]なぎさ変異の1番目と5番目で、イノシトール要求とか形態とか性質が非常に異なる系です。
[堀川]Genetic transformationも試みてみましたか。
[野瀬]今のところ、まだ出来ていません。
[佐藤二]胎児の段階のALPはどうですか。
[野瀬]小腸の発生段階などALP活性が高いそうです。
[山田]ALPで癌の原発を調べられるという説もありますね。
[堀川]世代時間が30時間で、誘導のピークに達するのが6日というと条件作りにずい分時間がかかりますね。
[山田]癌と関係がなさそうだというのはどうしてですか。
[野瀬]この酵素の誘導は反応が可逆的なので、癌とは関係ないと思っています。
[山田]癌と関係がなさそうな一過性の反応だという事が判るのも癌研究の一つではないでしょうか。
[堀川]系が沢山あるのがいいですね。だんだん面白いことが判りそうですね。synchronous
cultureが出来るともっとはっきりするでしょう。
[佐藤茂]cAMPで活性を上昇させた時の細胞の増殖はどうなりますか。
[野瀬]cAMPそのものはむしろ増殖を促進しますが、一緒に添加するテオフィリンが増殖を阻害します。
[佐藤茂]増殖を止める位の濃度で処理すると全部染まったりしないでしょうか。
《藤井報告》
1.Cula-TCなどに対するsyngeneic antibodyの作製:
Culb-TCの一連の細胞のうち、controlのRLC-10細胞が絶滅してしまったので、それらの抗原解析ができなくなり、あらためてCula-TC、RLT-1A、RLC-10-2系列の細胞をふやし、JAR-1ラットに注射し、抗体をつくっているところです。この抗体で先づリンパ系細胞−腫瘍細胞混合培養の阻止実験やmixed
hemadsorption testなどをおこない、in vitro変異〜復元再培養にいたる過程での抗原の変化を追う計画です。
2.Lymphoid cell cytotoxicity against
syngeneic tumor cells by lymphoid cells sensitized
in vitro.
これまで、ラット腫瘍(Culb-TC)、マウス腫瘍(C57BLマウスのFriend's
virus誘発癌、FA/C/2、Rous sarcoma virus誘発のfibroblastoma)、ヒト癌などで、同系あるいは自家リンパ系細胞との混合培養反応をおこなった。
C57BLマウス脾細胞と、Co60照射した同系腫瘍FA/C/2、fibroblastomaを、MLTR反応と同じ割合に混ぜて6時間培養し、1回洗滌(遠心)した細胞(大きい細胞と小リンパ球様細胞をふくむ)をとって、RPMI1640(20%fetal
bovine serum)に浮遊し攻撃細胞とした。これに加える標的細胞は、1週間、腹水からとったFA/C/2とfibroblastomaを培養し、これにH3-TdRを1μCi/mlの割に加え、1時間おいて標識した。5回洗滌して遊離H3-TdRを除いた。この標的細胞25,000個にin
vitro感作処置をへたC57BL脾細胞35万個を加え、18時間培養し、残った標的細胞のH3-TdRの放射能を測定し、対照と比較して細胞毒活性を求めた。
FA/C/2では83.2%、fibroblastomaで56.4%で、このばあい標的細胞の自然溶解は24.1%であった。この反応の免疫学的特異性、dose
responseなど検討をすすめるが、癌の免疫治療の応用もできそうだ。
:質疑応答:
[佐藤茂]感作しない系ではどうですか。
[藤井]全然感作しないとリンパ球が無くなってしまいます。幼若化させるための抗原感作にPAHを使って対照にしようと思っています。
[勝田]幼若化は形態的に確認できますか。
[藤井]今の所、H3-TdRの取り込みに差があるので、幼若化だと考えていますが、形態と平行しているかどうかは判りません。
[佐藤二]培地に異種血清を使うと感作される事になりませんか。
[藤井]マウスの場合は仔牛血清を使っても対照には殆ど幼若化はありません。
[佐藤茂]H3TdRよりC14TdRの方が技術的によいと思いますから検討されたら・・・。
[堀川]しかし実験系としては、非常に敏感でいいですね。
【勝田班月報・7211】
《勝田報告:学会便り》
いまNew YorkのRockefeller UniversityのGuest
Houseにいます。すごく立派な部屋で、2.5室+トイレバスです。ホテルだと70$位だろうとのことです。昨日は一日中東大薬学卒の高野君の世話になってしまいましたが、実に色々の機械が揃っており、金工、木工などの専門家もいるので、器械はは買ったあとどんどん改造してしまい、超遠沈器のローターなどは自分のところで作ってしまうという始末です。構内は実にきれいで、木も茂っており感じの良い大学です。今朝(10月19日)起きてみたら、おどろいたことに雪が降っています。積もるかどうかは判りませんが。
ManchesterのSymposiumは、とても愉快でした。30人だけのmeetingに2日半を使いましたので、Discussionもさかんで、マイクの奪い合いという感じで、ボヤボヤしているとマイクが廻ってこない状態でした。全体の総論としてはbiologistsとbiochemistsとの論争で、とにかくさかんな討論でした。一部は録音してありますから御希望の方にはおきかせしましょう。
Heidelbergerは二題しゃべりましたが、epoxideが有効であることの主張で、[うちの黒木がハムスターembryonic
cellsを4NQOで発癌させた]などと云ったのにはおどろきました。しかしepoxideん不安定性については、ずい分たたかれていました。
ある人が、Histoneが癌細胞をやっつけるなどと云うことをしゃべったら、これも物凄くやっつけられていました。Lasnitskiは例によってorgan
cultureでしたが、histological specimenの写真が抜群にきれいで感心しました。Dr.Iypeはratのadultからliver
cellsを培養し(F-10)、色々の酵素活性ん維持を、各種にわたってしらべたもので、形態的にはうちのliver
cellsとよく似ていました。ただし、発癌実験にはまだ全然成功していません。色々な人が、carcinogenesisという言葉を使うことに遠慮して、sarcomagenesisとかonco-genesisとか云っていたのは、少くとも一歩の進歩だと思いました。Paulは癌とは何か、などと私が去年云ったようなことを別の面から云っていました。
《堀川報告》
10月は金沢での放射線影響学会、名古屋での癌学会、千葉での組織培養学会と学会がつづいたため、これといったまとまりのある仕事は出来なかったので、今回は現在私どもが体細胞遺伝学の研究の一環として突然変異の機構解析に使用している、Chinese
hamster hai細胞についてUV照射によりinduceされたTTの除去能を検索したので、その結果について報告する。
これまで度々報告してきたように、HeLaS3細胞では200ergs/平方mmのUV照射によりDNA中にinduceされたTTの約50%を切除する能力をもつが、マウスL細胞にはこのような除去機構はUV照射後まったく認められない。これに対し、Chinese
hamster hai細胞はどのようであるかを図に示した(図を呈示)。この図から分かるように200ergs/平方mm照射後12時間以内に約20%のTTを切り出す能力をもつことがわかる。つまりマウスL細胞と、HeLaS3細胞の丁度中間型であるといえよう。こうした結果は5〜20%sucrose
gradient centrifugation法によっても確認された。従って以上の実験から今後私共が体細胞突然変異の研究に各種細胞を使用する際にはUV照射による修復一つを取ってみても、このように違った性質をもつものであることを考慮しなければならないことを示していると思われる。
《野瀬報告》
Alkaline phosphatase活性の調節(5)
先月の月報ではdibutyryl cAMPとtheophyllinでALP
Iを誘導したJTC-25・P5 cl-1細胞からdibut.cAMPを除去すると、直ちにALP-I活性が減少することを報告した。ALP-Iそのものは37℃でも安定で4日間までは失活がほとんど見られないので、dibut.cAMP除去による活性低下は細胞の代謝と関連した現象と考えられる。
次に、同様に誘導した細胞に、dibut.cAMP、theophyllin存在下に、蛋白、RNA合成の阻害剤を加えて、活性の変化を見た(図を呈示)。誘導物質の作用がALP-Iの合成を促進する点にあるのなら、蛋白合成阻害剤により誘導物質除去と同様のALP-I活性低下が見られるはずである。しかし結果は、cycloheximide添加群でも活性の低下がほとんどないことを示している。このことは誘導物質(dibut.cAMP+theophyllin)が、正常細胞では起きているALP-Iの分解を抑制している可能性を示唆している。
酵素活性の変動の機構として、いろいろの可能性が考えられるが、合成過程の調節だけでなく酵素の分解反応の調節も重要であろう。細胞の悪性変異などの場合のような持続的変化も、細胞内物質のあるものが分解されず蓄積しているため生じるという可能性も考えられるからである。
ALP-Iのturnoverのうち、分解系が抑えられ、これが永続的になれば、細胞の形質として、ALP-I
constitutiveとなるであろう。JTC-21・P3細胞は何ら誘導処理を行わなくてもALP-Iの比活性が非常に高く、いわゆるconstitutiveな株である。(図を呈示)次の図では、この細胞にcycloheximide、actinomycinDを加えた時のALP-I活性の変化を見た。cycloheximide5μg/mlで蛋白合成をほぼ完全に抑制しても、ALP-I活性は対照群と変わらない。従って、Constitutiveな株ではALP-Iの分解がほとんどないことが示された。
JTC-25・P5とJTC-21・P3とは共にrat liver由来のなぎさ変異株であるが、ALP-Iのような酵素活性の調節については並列的に比較できないかも知れない。図1と2の結果は、まだ予備的レベルであり、活性だけでなく酵素蛋白の変化として見ないと断定することはできないと思われる。
(図を呈示)図3は、ALP-I constitutiveであるJTC-21・P3のALP-I活性を変化させる条件を検討した例である。ここでは5-bromodeoxyuridine存在下で培養を続けると、次第にALP-Iの比活性が低下した。JTC-21・P3のALP-I活性も、ある条件下では変動することもある。5-bromodeoxyuridineは、ALP活性を増加させることが知られているが、細胞株がちがうと全く逆の減少を起こすこともある事を示している。この例は脱分化と言われる現象に属すのかも知れない。
《山田報告》
20μg/ml濃度のConAを腹水肝癌AH62Fの各増殖時期の細胞と接触させた後の、それぞれの電気泳動度の増加率を検索しました。(図を呈示)図に示すごとく、どうやら、ConAの作用は増殖の盛んな状態(シアル酸依存荷電の増加する状態)により著明に作用することがわかりました。その後ConAの作用に対する(But)2CiAMPの抑制作用を調べていますが、まだはっきりとした結論を得て居ません。20μg/mlのConAの作用に対する(But)2CiAMP、CiAMP及びAMPの影響を表に示します(表を呈示)。少くともAMPそのものは全く効果がないと思われます。
《高木報告》
1.培養内悪性化の示標について
1)血清因子除去血清の作製
これまで血清を硫安塩析後水で透析し、セロファン膜を用いて濃縮し、塩類液で原量にもどしたものを使用したが、この方法では正常血清をセロファン膜で濃縮する操作のみで正常、腫瘍細胞ともPEが著明に低下することが判った。今回は血清を塩析、透析後凍結乾燥し、Hanks液で原量にもどしたものを用いて実験を行っている。
2)Soft agar法にかわり黒木氏の平板寒天法を使用してみた。未だ1回の実験であるが、MEM+0.1%Bactopeptone+10%FCS培地0.5%agarの条件下で、RFLC-5細胞はコロニーを形成せず、RRLC-11細胞は13%程度のPEを示した。この際、細胞数は100/petri
dishであった。無処理のFCSを用いてRFL細胞はコロニーを作らなかったが、血清因子除去血清では如何になるか検討中である。なお平板寒天法は操作が容易であるので、今後本法を用いて実験してみたい。
2.RRLC-11細胞の放出する毒性物質
その後の検索の結果、ウィルスであることが明らかになった。これまでのデータをまとめてみると、以下の通りであり、さらに検討中である。
限外濾過:毒性物質は濾過されない。はじめ外液に活性があったのは、恐らくtechniqueの問題があったのではないかと思う。
超遠心:40,000rpm 2時間で上清は完全に毒性を失う。30,000rpm1時間では上清に残る。 -20℃凍結保存:4週間は活性を失わない。
温度:75℃ 30分で失活、65℃ 30分で部分的失活、60分ではいずれも失活。
pH:酸性側で活性ややよわまる。
column cromatography:Sephadex G200でeluteしOD280でみた時、一番最初のピークに活性がある。
RFLC-5細胞にpassageするとtiterが上る。RRLC-11細胞の電顕像ではC粒子と思われるものをわずかに散見するが、RFLC-5細胞に作用させ変性しかかった時期の培地を集めて超遠心後、negative
stainingすると、ウィルスと思われるものを認める。
《黒木報告》
§化学発癌剤でトランスホームした細胞の糖輸送能§
ウィルスでトランスホームした細胞の糖輸送能の変化は、かなりよく調べられていて、大凡次のような結論が得られている。すなわち腫瘍ウィルスDNA型ではKmは一定、Vmaxは上昇、メカニズムは量的変化。RNA型ではKmは低下、Vmaxは不定、メカニズムは質的変化である。Kawai、Hanafusaによると、この変化(RNA型ウィルスの)はvirus
genomeに直接dependentしている。すなわち、ts変異株を用いて、permissive→←non-permissiveにかえると、それに伴い糖輸送能も変化する。
化学物質でトランスホームした細胞の糖輸送能をとりあげた理由は、(1)膜の変化の一つの指標として、(2)もしRNA型ウィルスが存在すれば、Km、Vmax値から推測できるかもしれない、の2点である。
(表を呈示)方法は表に記した。2-deoxy D-glucoseは膜を通ったのち、hexokinaseでリン酸化されるステップで反応がとまる。したがってとりこみの変化は膜輸送能とhexokinaseの2つの因子に支配されている。(図を呈示)図はとりこみ値(n
moles/mg protein/min)と、糖の濃度(mmoles)を、Lineweaver-Burkの方法でプロットした図である。1つはハムスター胎児細胞とその4NQO、4HAQOによるトランスホーム細胞、次はBALB
3T3とそのDMBAによるトランスホーム細胞である。図から明らかのようにKm値(X軸へのそう入値)は一定であるが、Vmax(Y軸と交わる点)はトランスホームによって上昇している。次の表はKm、Vmaxをまとめたものである(表を呈示)。
今後の問題として、(1)この成績を一般化するために、さらに多くの細胞を用いる。前立腺細胞とそのchemical
transformantsを用いるべく、Dr.Heidelbergerと交渉中である。(2)dibutyryl
cyclic AMPのとりこみに及ぼす変化。これらの実験が終り次第、BBRCにでも送ろうと考えている。
【勝田班月報:7212:RRLC-11の放出する毒性物質】
§各種ラッテ肝癌細胞の培地内に放出する毒性代謝物質:
これまで肝癌AH-130及びAH-7974と、それらの培養株細胞が、培地中に正常ラッテ肝細胞を阻害するような毒性代謝物質を放出することを報告してきた。これが両肝癌だけの特性であるのか、各種肝癌に共通した特性であるのか、を偵察するため、次の各種細胞を4日間培養した培地をSephadexG-10或はG-25で粗分劃し(その前にDiafilterで限外濾過し、低分子だけにしてある)正常ラッテ肝由来のRLC-10(2)の培養に添加して、3日間の細胞増殖度を測ってみた。
先ず、細胞を加えていない、合成培地DM-145をSephadexG-10或はG-25で分劃し、230mμでの吸収曲線をみた(図を呈示)。
<細胞>8種:JTC-1(ラッテ腹水肝癌AH-130由来)、JTC-2(ラッテ腹水肝癌AH-130由来)、JTC-15(ラッテ腹水肝癌AH-66由来・可移植性が低い)、JTC-16(ラッテ腹水肝癌AH-7974由来)、JTC-16・P3(JTC-16の完全合成培地内継代亜株)、JTC-27(ラッテ腹水肝癌AH-601由来)、CulbTC(4NQOで培養内癌化したRLT-2の復元腫瘍の再培養株)、RLC-10(2)(対照として、肝癌でないラッテ肝細胞株。テストに用いた株と同株)。
(図を呈示)結果は、縦軸に3日間の<実験群の増殖率>を<無添加の対照群の増殖率>で割った%をとった。これまで、毒性物質の分劃をすすめるとき、その非活性の計算の根拠に困っていたのであるが、今後はこの方法を採用したいと思う。
G-10、G-25で分劃したものは、Void volumeをすて塩の出てくる手前までを凍結乾燥し、乾燥重量を測って培地に加えた。判ったことは、肝癌培地は、いずれも濃度に比例してRLC-10(2)の増殖を抑えていること、但しその抑え方は、G-10とG-25とで必ずしも平行していないこと、RLC-10(2)の培地はむしろ増殖を促進していること、などであろう。
これにより、われわれの追っている毒性物質は各種肝癌に共通したものである疑が濃厚になってきた。またRLC-10(2)の培地の分劃が増殖を促進することより、いわゆるconditioned
medium中の低分子物質の役割、このような粗分劃によってもconditioned
mediumの効果を促進できる可能性などを考えさせられることになる。
:質疑応答:
[高木]限外濾過はどういう方法でしていますか。
[高岡]日本真空のdiafilterを使っています。分子量10,000以下の濾液を凍結乾燥してカラムへかけています。
[山田]RLC-10(2)を培養した培地は自らの増殖を促進するのですね。
[勝田]一種のconditioned mediumと考えられます。
[堀川]Conditined mediumだけでは説明がつかないのではないでしょうか。Homoとheteroの問題もありますから。
[黒木]これらの分劃の4mg/mlは分劃前の培地の何%に相当するのですか。
[高岡]40%です。この段階では非活性は上がっていません。
《高木報告》
培養内悪性化の示標について
血清因子除去血清の作製法として次の2つの方法を試みた。
1)硫安塩析後蒸留水で48時間透析し、凍結乾燥してHanks液で原量にもどす。(1/3FCS)
2)硫安塩析後蒸留水で48時間透析し、さらにHanks液(重曹を含まない)で12時間透析する。(1/3FCS)
牛胎児血清を用い、RFLC-5、RRLC-11細胞につき、おのおのを175cells/plateまいてPEを比較した。
なお1)の対照として無処置のFCSと、塩析せず48時間透析した後凍結乾燥してHanks液で原量にもどした1/1FCSをおき、また2)の対照としても無処置のFCSと、塩析せず48時間透析した後さらに12時間Hanks液で透析した1/1FCSの実験群をおいた。
その結果1)の方法で作製した血清では1/1FCS、1/3FCSともにPEは対照のFCSに比して非常に悪く、とくに1/3FCSではcolonyの形成はいずれの細胞についても全く認められず、1/1FCSについても両細胞間にPEの有意差は全く認められなかった。
2)では対照のFCSにおけるPEが可成り低かったが1/1FCSでも1/3FCSでも両細胞とも少ないながらcolonyを形成し、1/1FCSではRRLC-11細胞のPEがRFLC-5細胞のPEより高かったが、1/3FCSではその逆の結果であった。
これと平行して行ったinoculum size 45,000のRFLC-5およびRRLC-11細胞の増殖に対するこれら血清の影響をみた実験では、前にも報告したようにRRLC-11細胞の増殖に比し、RFLC-5細胞の増殖は著明に抑制された。すなわちこれまでに得られたdataではmass
cultureと少数細胞を扱ったPEの成績との間に不一致がみられるようである。しかし、これは技術の問題もあると思われるのでさらに検討しなければならない。
2.RRLC-11細胞の放出する細胞毒性物質
前報につづき、モルモット血球を用いて血球凝集試験を行ったが、RRLC-11細胞を培養した4〜8日の培地では32倍、この培地をRFLC-5細胞にpassageして、細胞が変性をおこしかかった際の培地では256倍まで凝集が認められた。すなわち凝集価の上昇がみられた。また4単位のウィルス液(凝集がおこる最終稀釋を1単位とし、その4倍の濃度)を用い、2、3血清を用いて凝集抑制試験を試みた。血清はHVJ抗血清と生下時WKAラットの皮下にウィルス液を接種して生残った2匹のラットより採血した血清である。その結果抗HVJ血清では抑制はみられず、2匹のラット血清ではいずれも抑制がみとめられた。この際対照のウィルス液による凝集のおこり方がやや定型的でなかったので再度検討が必要である。またラット血清による抑制も抗体によるものかInhibitorによるものか検討しなければならない。
また培地(ウィルス液)を100倍に稀釋して受精10日卵のallantoic
cavityに接種し、40時間後にallantoic fluidを集めて血球凝集をみたが3つの卵からえたallantoic
fluidはともにnegativeであった。Allantoic
cavityでは増殖しないもののようである。
このウィルスの細胞に対する感受性を検討しているが、ラット正常細胞の多くは変性をおこすが感受性にやや違いが認められ、またRRLC-11細胞をsuckling
WKAラット皮下に接種して生じた腫瘤の再培養株3株についてみると、そのいずれも全く変性を示さなかった。これら3株の再培養株の培地はRFLC-5細胞に対し毒性を示さなかった。
細胞のこのウィルスに対する感受性につき、さらに広く検討する予定である。
電顕的検索で培養8日目のRRLC-11細胞はわずかにC型粒子が散見されるのみであり、またRFLC-5細胞にこのウィルスを加えて変性をおこしかかった時点で観察したが、核の変化が著明である以外にとくに明らかにウィルスと思われる粒子は証明されていない。しかしRFLC-5細胞が変性しかかった際の培地を40,000rpm
2時間遠沈し、その沈渣につきnegative stainingを行なうと20〜30mμの連なった多くの粒子を認めえた。この粒子がはたして細胞毒性物質の本態であるか否かはさらに今後の研究にまたねばならない。
現時点では血球凝集がみられるところからMyxo、Paramyxo系のウィルスあるいはrat
virusと云ったものを想定している。
:質疑応答:
[堀川]細胞の電顕写真でみつかった粒子と超遠心で落とした粒子とで大きさに違いがありますか。又培養していない培地を超遠心にかけた物にその粒子は見つかりませんか。
[高木]遠心で集めた場合の方がずっと小さく1/4以下です。培養しない培地からは出てきません。
[黒木]今まで知られているウィルスと同定できませんか。配列などから・・・。
[高木]こんなのは見た事もないと言われました。
[山田]Ratの内皮細胞を培養して電顕でみましたら、C型ウィルスがみられました。この場合毒性物質とウィルスガ同一のものかどうか、まだ問題ですね。
[吉田]Ratに特異性はあるのですか。又ウィルスそのものの作用でしょうか。
[高木]Rat以外の細胞ではみていません。
[勝田]耐熱性がない所から、あまり低分子の代謝産物とは考えにくいですね。
[高木]化学発癌との関係が難しくなりますね。化学発癌させた細胞にCPが出るかどうかも調べてみる予定です。
《堀川報告》
HeLaS3細胞をMNNGで処理したあとBUdR−可視光線法を用いてX線感受性細胞(SM-1a)及び抵抗性細胞(RM-1b)を分離したことについては"研究連絡月報"No.7209において述べたが、今回はこれら細胞株について若干の分析を行ったので、これらについて報告する。
まず、SM-1a細胞、RM-1b細胞、及びHeLaS3原株細胞における細胞当りのsulfosalicylic
acid溶性SH(non-protein SH)量をEllman法によって培養一週間にわたり定量した(図を呈示)。増殖期においてnon-protein
SH量は抵抗性細胞(RM-1b)において多く、感受性細胞(SM-1a)では少くなっていることがわかる。
こうした結果はSHがX線のradical scavengerとして働くと考える今日の放射線細胞生物学的な考えと照合した場合、抵抗性細胞、感受性細胞の存在の可能性をうまく説明してくれる。これを反映してか、抵抗性細胞(RM-1b)および感受性細胞(SM-1a)を5000R照射した直後のDNAのsingle
strand breaksをアルカリ性蔗糖勾配遠心法で分析した場合(図を呈示)、感受性細胞の方が僅かに多くの切断が生じるという結果が得られている。勿論この程度の切断では両細胞株ともに約30分間のincubationで切断DNAは再結合されてもとのDNAに修復される。(尚感受性細胞の方が切断量が多そうだという結果については現在更に検討中)。さて、一方東大医科研癌細胞学研究部からいただいたL・P3細胞および、これからCO60、γ線の反復照射によって得たL・P3γ細胞(金沢にきてから実験の都合上適当にこの名前にしている)について同様に感受性差等を検討しているので、これらについて現在までの結果を報告する。L・P3細胞、L・P3γ細胞ともに医科研癌細胞学研究部ではMEMのみで継代されているが、これではコロニー形成法による線量−生存率曲線も仲々描けないので、金沢に来てからは5%牛血清を添加して継代及び実験を行っている。
まず結果についてであるが、5%牛血清の添加継代培養によってもL・P3細胞とL・P3γ細胞のもともとの形態的差異はそのまま保持されており、Cell
growthを調べると(図を呈示)doubling timeでみるとL・P3γ細胞の方が僅かに長く、増殖能はL・P3細胞に比べてやや緩慢である。
一方、コロニー形成能でみた2者のX線に対する生存率曲線は(図を呈示)、明らかにL・P3γ細胞がX線に対して抵抗性であることがわかる。これらの細胞株は今後上記HeLaS3細胞から得たX線抵抗性及び感受性細胞株とともに放射線感受性支配要因の解析にすぐれた材料となる。現在そのための実験が進められている。
:質疑応答:
[黒木]UVsensitiveなHeLaの感受性については、酵素の熱安定性、osmotic
shockに対する安定性を調べることなどすれば、定量的に出せるでしょう。
[堀川]そうですね。UVの場合は感受性細胞が不安定になることは無いのに、X線感受性の細胞は何かとても不安定な細胞ですね。
[吉田]L・P3CO3の染色体組成はどうなっていますか。耐性細胞の場合に、染色体数が増えるとmozaicになる。それが耐性に反映しているとは考えられませんか。
[堀川]植物細胞では耐性が出来ると染色体は増えてゆきます。動物細胞ではγ耐性株などは染色体数はずっと少なくなります。
[吉田]動物細胞では染色体のploidyはそう増えられないのですね。それでもrecombinationによって安定な耐性株が出来るのでしょう。
[堀川]植物細胞で耐性が出来ると染色体数が増えるという実験をしたスパローは、染色体が増えると遺伝子も増えて耐性になると考えています。
[野瀬]Ploidyの多い細胞はDNA量も多いのでしょうか。
[堀川]DNA量がploidyの増加と平行して増えるという事を確かめた実験があります。
[吉田]SH量の変化は面白いと思いますが、細胞のどこにあるSHですか。
[堀川]細胞全体のSH量を測っています。
[吉田]どこのSHだか調べられませんか。
[堀川]定量値1点をとるのに細胞を10の9乗必要としますから、細胞を分劃してどこのSHの変動かを調べるというのは量的に難しいですね。
[山田]定量法も難しいですね。SHの機能は判っていますか。
[堀川]Radical scavengerだという事は判っています。放射線が2次的に出すfree
radicalを減らします。Cell cycleの感受性もSH剤の添加で変化します。
[永井]物としてfreeのSHはどんな物ですか。glutathione、cysteineなどですか。
[堀川]はっきりしていませんが、そんなところです。
[黒木]Glutathioneが多いと発癌剤と結合して解毒される事がありますから、そういう効き方も考えられますね。
[山田]SHの定量にはくれぐれも気をつけて下さい。
[永井]一つのSH剤を測ってみるのもよいでしょう。
《山田報告》
細胞電気泳動的な性格と、染色体数及びその分布は密接な関係がありさうな感が前々からありましたので、今回相互を比較して検索してみたところ、やはり相関は明らかになりました。
まず腹水癌細胞三系、ラット腹水肝癌AH66F、AH62F、マウスリンパ性腹水白血病細胞L1210についてのその泳動度と、染色体分布を比較してみました(図を呈示)。電気泳動度パターンは増殖期及び移植末期それぞれの成績を示してありますが、その平均泳動度と染色体のModal
Numberは比例し、またその分布も略々平行関係にありさうです。そこで次に培養ラット肝細胞及びその変異細胞についてしらべました(表と図を呈示)。初めに染色体の分布の程度をmode周辺の分布域の幅のみをとりあげて泳動度測定時の標準誤差とを比較してみました。両者はRLT-5、Cule及びRLT-4を除くと略々平行関係にある様です。電気泳動度の分布はその増殖状態や細胞採取の技術的ミス及び細胞変性により多少変動しますので、この程度の相関は意味があるのではないかと考へました。
次に平均泳動度と染色体modal numberとを比較してみました(図を呈示)。この両者はかなり良く比例する様です。即ちこれまで測定して来た細胞の電気泳動度及びその分布はそれぞれの染色体数及びその分布とかなり密接な関係がある様に思われます。
:質疑応答:
[吉田]AH-66F、AH-62Fはラッテ、L1210はマウスですから一緒にして比較するのは一寸まずいですね。ラッテの系で染色体数の少ないものを選んで入れた方がよいでしょう。
[堀川]染色体数が多いと泳動度が早くなるという事をどう考えますか。
[吉田]染色体が多いと細胞が重くなる?
[山田]細胞表面の性質も遺伝子の支配を受けていますから、何か染色体数と膜のチャージの間に関係があるのではないでしょうか。
[堀川]とすると、2倍体、3倍体の細胞でhybidを作って実験すると面白いでしょうね。
[吉田]エールリッヒ乳癌には、2倍体、3倍体、4倍体で継代されているのがありますから、よい材料になると思いますよ。
[山田]それはいいですね。ぜひやってみましょう。
[吉田]Mouseのfibroblastを培養していると培養初期は2倍体、それから4倍体になり、次に3倍体あたりに減少した時に悪性化するという報告があります。その各時期の泳動度を染色体と一緒に調べてみるのも面白いでしょうね。
[山田]ノイラミニダーゼに対する感受性が、細胞の悪性化につれて変化するという事も同時に確認できますね。
[藤井]転移しやすい癌と、しにくい癌との間に泳動度の違いはありますか。
[山田]同じ条件で細胞を集める事が難しいので調べてありません。
[藤井]転移と染色体の間に関係がありますか。
[吉田]4倍対の方が大きいので、血管内にひっかかりやすくて転移が多くなると考えている人もありますね。転移した細胞を調べると4倍体が多いようです。
《野瀬報告》
4-NQOによる細胞膜変化
発ガン剤の細胞に対する作用の一つとして細胞膜の性質の変化が考えられている。この細胞膜変化としては、長期的には表面荷電、化学的組成の変化、能動輸送の変化などがあるが短期的変化は比較的知られていないと思われる。
今回はAlkaline phosphataseを細胞内酵素の一つとして、膜変化の検討を試みた。最初にL・P3細胞を4-QNOで処理し(処理法を呈示)、これをD-液に懸濁し、ALP-II活性の細胞外への放出を比較した。(表を呈示)無処理の細胞は細胞外にALP-IIをほとんど放出しないが、Deoxycholate、Triton
X-100などを加えると30〜130%程度の活性が細胞外に流出する。これに対し、4-NQO処理細胞は、界面活性剤を加えなくても20〜30%の活性が細胞外に検出され、細胞膜が不安定になっていることが示唆された。
次に、膜結合性酵素の一つであるALP-Iを持つRLC-10を用いて酵素の膜結合性を検討した。実験の方法は、超音波により細胞を破壊し、分劃遠心(図を呈示)を行ない、各分劃のALP-Iを測定した。ALP-Iは18,500g〜24,000gの範囲に50%以上沈でんとして回収される。この沈でんは細胞膜の破片と考えられ、ここに結合しているALP-IはTriton
X-100、0.1%の処理でほとんど上清に移行する。4-NQO、1x10-6乗M、40時間処理した細胞および無処理の細胞を同様に超音波で破壊し、24,000g30分の遠心を行ない沈でん、上清の各分劃中ALP-Iを測定した(表を呈示)。4-NQO処理細胞ではALP-Iの上清、沈でんへの分布が変化している(4NQO処理細胞のALP-I活性は上清で減少し沈殿で増加する)。この結果が膜のどんな変化と対応するのかまだわからないが、4-NQO処理後、比較的短時間のうちにこのような変化が生じるのは興味あると思われる。
:質疑応答:
[堀川]4NQOの処理を30分位にして、処理後短時間培養してから調べても同じ結果が得られるでしょうか。
[野瀬]それはみてありません。
[山田]この処理条件では細胞が非特異的な融解を起こすとは考えられませんか。
[黒木]4NQOの誘導対も調べてみるとよいでしょう。
[堀川]どのcellステージで酵素を産生するのかも調べるといいですね。ある特異的な時期に酵素が合成されるようなら、その時期に4NQOを作用させたらどうなるかといった基礎的な所をしっかりおさえておくべきですね。
[高木]しかし、組織学的にみて100%染まるのではcellサイクルに関係なく産生されている酵素ではないでしょうか。
[野瀬]私もそう考えています。
[堀川]酵素の産生だけを抑える蛋白合成阻害剤はありませんか。そういうものを使って調べることも出来ますね。
[吉田]こういう酵素活性の誘導というのはセレクションによるものではないのでしょうか。ジンレベルから考えると−が+になる所の機構は一体どうなっているのでしょう。
[野瀬]遺伝子としては皆持っているが、マスクされていると活性が無い・・・という事だと思いますが・・・。
《藤井報告》
1.ラットの試験管内4-NQO誘発癌、Cula-TCとその変異前期細胞が、contaminationで断絶したため、再びCulb-TCに代えて、isoantibodiesによるmixed
lymphoid cell-tumor cell culture reactionへの抑制実験を試みることにし、準備中である。
2.本年、ヒト癌の自家リンパ系細胞刺激能を検討したうち、子供の神経芽腫の成績について記します。(表を呈示)
症例は、国立小児病院で手術されたもの。末梢リンパ系細胞収集はAngio-conray-Ficol法によった。腫瘍細胞は、浮遊液調製後、4,000R照射。MLC(Mixed
lymphocyte culture)reactionは被検末梢リンパ系細胞の他人末梢リンパ系細胞に対する反応である。成績はH3-TdR摂取(刺激されたリンパ系細胞の)値では、各実験各個人によって、リンパ系細胞反応能が異なり、腫瘍細胞浮遊液中の細胞の分布も異なり、比較することが困難なので、混合培養とリンパ系細胞単独培養によるH3-TdR摂取値(cpm/tube)の比をとり、反応比として表した。
MLCは、患者H.F.が非常に低く、このようなばあいMLTRも低い。この例は濃厚な化学療法(Endoxan、Vincristin)が施行されており、末梢リンパ系細胞の収量も少く、その反応能も非特異的に低下しているものと判断された。全症例とも、多少の化学療法はおこなわれている。MLCの高くない患者H.K.例でも、MLTRは3.6で、とくに培養細胞を刺激細胞とすると5.0と高い。この培養細胞は、形態的にneuroblastome
cellとみられたが、その他の同定は行なっていない。H3-Dopamineとり込みによるオートラヂオグラムを計画している。
MLCが反応比31のように高いH.K.例でも、MLTRでは0.9と低く、このような例では、自家腫瘍に対するリンパ球反応はほとんど無いとおもわれる。
この成績から、神経芽細胞腫患者は、化学療法によるリンパ系細胞の機能低下があるにかかわらず、自家腫瘍に反応するもののあることがわかった。MLTRは、このばあいも、培養腫瘍細胞を刺激細胞に使った方が強い反応が得られる。
反応比3以上を陽性と仮にとると、5例中3例が陽性であった。
in vitroにおけるリンパ系細胞の自家腫瘍細胞による幼若化刺激反応の本態については、かならずしも明らかでないが、in
vitroで刺激されたリンパ系細胞の標的細胞破壊実験に成功しているので、さらに、その免疫学的特異性、in
vivoにおける抗腫瘍性についての実験を計画している。
:質疑応答:
[山田]私にも経験があるのですが、こういう実験では抗原性にもリンパ球の側にもバラツキがあって、その二つの因子の組合わせをひっくるめて結果としてみるから、解析の仕様がなくなってしまいますね。抗原性だけでも別に調べられないでしょうか。
[藤井]腫瘍特異抗原があるかどうかをみるのを目的としています。特異性、抗原の問題はヒトの癌では扱えませんね。
[山田]もう少し分析できて解析できれば、サイミジンの摂り込みが少ないが、反応はあるのだというデータも活かせるのではないでしょうか。
[勝田]動物実験では化学発癌剤で作った癌の方が、自然発癌より抗原性が強いという報告もあります。
[藤井]化学物質によるものでもMCAによる癌の抗原性は強いが、ウレアによるものは弱いというのがあります。
[山田]In vitroでの自然悪性化の場合はポピュレーションの問題も考えなくてはなりませんね。全部が同じように悪性化していないかも知れません。
[黒木]ハイデルバーガーの所でも自然悪性化系は抗原性が弱いと云っています。
[藤井]動物実験でなら、化学発癌の過程での癌に対する宿主の反応をこういう方法で調べてゆけるだろうと考えています。
[山田]癌の出来はじめ程、生体に強い反応を起こさせるという実験がありますね。
[吉田]染色体の上ではウィルス発癌のものは、たいてい宿主の正常の染色体構成からあまり変わっていないが、MCAで悪性化したものなどはdeviationが大きい。染色体の上でのdeviationが大きくなると抗原性が大きく変化するとは考えられませんか。
[勝田]そういう所をがっちりおさえて貰えると良いのですがね。
[藤井]フェリチン抗体を使って細胞膜上の抗原の分布を調べている実験がありますが、そういう事がきちんと出来るといろんな事が判りますね。
《黒木報告》
<レプリカ培養法による紫外線感受性細胞の分離>
レプリカ培養によって紫外線感受性細胞の分離を試みた。方法は次の通りである。
1.FM3A細胞、L5178Y細胞をMNNGで0.05〜1.0μg/ml/100万個cells/h
at 37℃の条件でincubateし、MNNGを除いたのち、2日間TD-40で培養する。
2.平板寒天上(0.5%Noble)に500、1,000/90mm
dishにまき2wk培養。
3.ガラス棒で4枚のシャーレにレプリカ培養する。No1、3をcontrolとし、No2、4にUV50erg照射する。7〜10日後、50erg照射で増殖できないコロニーまたは非常に小さいコロニーを探し出し、ふたたびレプリカ培養を行い、同様に50erg照射する(写真を呈示)。
4.2回目のレプリカでも50ergで増殖できないコロニーを、浮遊培養にうつし、増殖させたのち、5、20、50、100ergでdose-responseを調べる。
現在3のstepまでであるが、いくつかの感受性クローンがとれている。(表を呈示)1%前後の高率でUV感受性細胞がとれ、目下dose-responseの詳細を検討中である。また、この方法を用いて温度感受性細胞(39℃)の分離を試みている。
:質疑応答:
[堀川]UV感受性の細胞は変異率1%というと随分高い頻度ですね。UVとか温度とかで変異株を拾う場合all
or nonではないという事が問題ですね。
[勝田]33℃で増殖するようになるのはadaptationですか。selectionですか。
[黒木]Adaptationだと思っています。
[勝田]Adaptationだとすると実験中に又戻ってしまう心配もありますね。
[堀川]レプリカというからには、つま楊枝法よりビロード法の方がエレガントな気がしますね。
[野瀬]細菌のコロニーでも、つま楊枝法でレプリカをやっている人があります。
[堀川]UV感受性については、MNNG処理なしでも拾ってみましたか。
[黒木]やっていません。50ergのUVはwildのFM3Aでは20〜30survivalという線量です。
《佐藤二報告》
(染色体数分布図を呈示)JTC-11(エールリッヒ腹水癌細胞)の3080日と3108日の時点で、単個培養された12例の培養開始後21〜24日の染色体数の分布です。その中からさらに5例のものを約40日培養した時点の染色体数の分布を調べました。2例がstem
cellの変化を見、3例の分布は20日の時点と変りありません。培養内での細胞のvariationの問題、株細胞とは、細胞の恒常性等考えねばならない事が多い。
:質疑応答:
[堀川]腫瘍細胞の染色体数の分布がバラツクことは良く判ったのですが、腫瘍でない細胞ではどうですか。正常な2倍体を維持できますか。
[佐藤]B3というrat liver由来で600日以上培養している系は、腫瘍性をもっていなくて正2倍体です。しかし増殖は早くなっています。
[勝田]正2倍体のチェックはどうやっていますか。
[佐藤]簡単にスケッチしてテロセントリック、メタセントリックの数を数えます。
[山田]腫瘍の染色体分析ではin vivoの系を使った吉田先生のステムライン否定というのがありますね。1コの細胞を拾って移植しても増殖してくると、必ずバラツキが出るから腫瘍にはステムラインはないのだという訳です。
[佐藤]培養内でのバラツキは培養内での変異率とも併せて考えなくてはと思います。
[吉田]私はこのデータでは思ったよりずっと安定したものだなと感じました。in
vivoだと宿主側から色んなselectionがかかってステムが残るという事が考えられるのですが、in
vitroではもっと色んな系が出て来ても不思議はないと思います。
[佐藤]JTC-11は培養の条件に充分adaptしている系なので、もうselectされてしまっていて安定なのでしょうか。
[堀川]培養細胞の色々な変異は10-5乗〜10-6乗generationの頻度ですから、染色体レベルでも変わり得ますね。染色体の変異とchemicalな変化とが、どの程度corelateしているものでしょうか。それから正常細胞の染色体レベルの変異が腫瘍細胞の変異ほど頻度が高いのかどうか知りたいですね。
[佐藤]バラツキからみると正常細胞の方が少ないと思います。しかし正2倍体を拾ってゆくことは大変な労力がかかりますね。細胞の1コ釣は特に難しい。むしろ環境因子を考えた方が早いと思います。例えばホルモンを添加するとか。
[吉田]遺伝子のレベルの変異と染色体のレベルの変異は次元が違いますね。
[佐藤]ヒトの細胞は2倍体を頻度高く維持できますが、2倍体のまま増殖が止ります。
[堀川]生体の中での事と合わせ考えて、早く増殖させると変異が多くなるでしょうか。実験としては増殖をおとすと、例えば温度を下げるとか培地をpoorにするとかすると染色体レベルの変異が増えるでしょうか。減るでしょうか。
[勝田]増殖の問題はDNA合成の問題以外に細胞間物質の問題があると思います。どんどん増殖すると細胞間物質をためるひまがなくて、それが変異にも関係するでしょう。
[佐藤]培養細胞は癌でも正常でもない勝田班長の云う第3の細胞かも知れませんね。
《吉田報告》
クマネズミの染色体多型と世界的分布
クマネズミ(Rattus rattus)にはアジア型とオセアニア型があり、前者は2n=42及び後者は2n=38である。オセアニア型はアジア型のもつ4対のacrocentric染色体のRobertsonian
fusionによって生じたと考えられた。アジア型は東及び東南アジアに分布するが、オセアニア型はオセアニア(オーストラリア、ニュージランド及びニューギニア)、ヨーロッパ、北米、南米、及び南アフリカまでに広く分布している。クマネズミは東南アジア大陸の原産といわれているので、アジア産クマネズミはヨーロッパへ移動する途中で、染色体のfusionが起って2n=38のオセアニア型が生じたと考えられた。2n=42と2n=38の境界線を調べるためと、両者の移行型(若し棲息するとすれば2n=40)を発見する目的をもって、私達一行4名は9月27日より11月22日まで、西南アジア、中近東方面のクマネズミの染色体の調査を行った。調査の結果は(分布図を呈示)、2n=38と2n=42の境界はインド、パキスタンの中央部を走り、カスピ海附近に抜けている。またセイロン島のKandyで両者の移行型すなわち2n=40の染色体をもつクマネズミが発見された。
【勝田班月報・7301】
《勝田報告》
"培養肝細胞の遺伝子表現と発癌"についてのシンポジウムについて
表記の件について、ロスアンゼルスのカリフォルニア大学のDr.Gerschensonから新年早々に手紙が届きました。内容の概略は次の通りです。(来年3月の予定)
(手紙のコピーを呈示)
《山田報告》
今年から当研究室でも本格的(?)に細胞培養をしようかと計画して居りますが、うまく行きますか・・・。
暮に久しぶりで正常ラット培養肝細胞を梅田さんの研究室より貰ひ検査してみました。引続き数回もらへる予定でおりましたが、その後増え方が遅い様で、一回切りの実験になってしまいました。
RLC-10のごとく均一な細胞を期待したのですが、どうもうまくゆかず、"なぎさ細胞型"の電気泳動パターンを示しました。どうもその割に均一なpopulationではない様に思われます。しかし平均泳動値はかなり遅い様です。
ついでにConcanavalinAを作用させてみましたが、これは正常細胞型の反応で、肝癌細胞にみられる様な著明な泳動度の増加が10μgの薄い濃度のConAにより起こりませんでした。この株からクローン化すれば、典型的正常肝細胞株がとれるかもしれません。今後に期待したいと思います。(図表を呈示)
《堀川報告》
1972年はアメリカ放射線影響学会に出席したり、秋には金沢で日本放射線影響学会の世話をしたりして多忙な一年でしたが、今年はどのようになりますか。昨年暮には講師の二階堂君をマンチェスターのパターソン研究所に送り出したため、その分だけ仕事が多くなり、この分では今年もまた多忙な一年になりそうです。
さて今年の抱負ですが、本年こそはMutagenesisとCarcinogenesisの関係をはっきりさせたいと思っています。培養されたChinese
hamster細胞を使って、cell levelでのmutationの機構を解析することは、将来発癌機構の本体を知る上に非常に重要なことだと思うからです。ただこの仕事の泣きどころは細胞のgrowthが早いのと、実験回数が多いのとで多量の子牛血清を入手しなければならない点です。どこかに安く入手出来る子牛血清はないものでしょうか。
またこれ以外の仕事として今年こそある程度目安をつけたいものとして、cell
cycleを通じての放射線及び化学発癌剤に対する感受性支配要因の解析と、HeLaS3細胞及びマウスL細胞から分離したUV感受性細胞の、あと始末をやってしまいたいと思います。これらの仕事はいづれも最終的には発癌機構の解析と関連があるだけに何とかそこまで仕事を発展させたいと思っているところです。
毎年のことながら年頭にあたっては、今年こそはあの仕事もこの仕事もどこどこまでやってしまおうなどと大きな希望を抱くのですが、一年が終ってみると、常にその1/3位しか進んでいないでがっかりさせられます。どうか班員の皆さんの変らぬ叱咤激励を希望しております。
《高木報告》
昨年の年頭のprojectとしてRRLC-11細胞の放出する毒性物質の追求と、培養内癌化の指標としてのsoft
agarの再検討の2つをあげました。本年度は次の様に計画しています。
1.培養内癌化の指標としてのsoft agarの検討
昨年は血清を硫安で処理してserum factor
freeとし、これを用いた培地によりRRLC-11、RFLC-5細胞のgrowth
curveとcolony形成能を観察したが、作製法に問題があるのかgrowth
curveでは差異がみられたがcolony levelでは対照の培養でも充分なCFEがえられず判然とせぬままに終った。今年度は技術的な面も検討し、また細胞種も上記2種以外のものも用いて結果の如何を問わずはっきりしたdataを早く出したいと考えている。
2.RRLC-11細胞より分離された毒性物質(virus)の追求
毒性物質はvirusであることが判明し、はじめの予想とやや違った方向に展開して来た。しかし未だ本態はつかめていない。電顕写真にあらわれたいくつかの粒子の中どれが目指すvirusか検討しなければならない。そのためまずvirusの精製、物理化学的性質の究明、抗血清を用いた所謂血清学的検索などを行なわねばならない。又このvirusによりcytotoxicな効果がみられる細胞のspectrumも観察している。細胞の由来する動物の種類あるいは正常、腫瘍細胞の間に一定の傾向がみられれば、まことに興味深いと考えている。
これまでの成績ではKilhamのrat virusによく似ているように思うが、マウス由来のL細胞も変性をおこす点などは相違している。こう云ったvirusは、細胞の腫瘍化と如何に関連しているのであろうか・・・。
3.膵島細胞の悪性化実験
6-diethylaminomethyl-4-hydroaminoquinoline-1-oxide(6DEAM-4HAQO)は、ラットの尾静脈より注射すると高率に膵島に腫瘍を生じ、一方4HAQOを同様に注射すると外分泌腺に高率に腫瘍を生ずることが林により報告されている。またStreptozotocinとNicotinamideの投与でも膵島に腫瘍を生ずることがSaheinらにより観察されている。膵を手がけて来た私共もこれら薬剤を用いて膵島細胞の腫瘍化をin
vivo、in vitroで試みその生物学的性状の違いを検討したい。但し6-DEAM-4HAQOは合成がむつかしく入手がきわめて困難であり、さしあたりStreptozotocinを入手したいと考えている。
《藤井報告》
外科学研究部を癌病態研究部に改稱して、はじめての正月を迎えたところです。私共の研究部は、一方に附属病院外科診療科の要員ともなっているわけで、この点は相変らず二足のわらじをはいており、研究面でも、従来の移植免疫の仕事が残っていたりして、まだ癌ひとすじの体勢になり切れずにおります。
私共臨床家が、癌の研究を志向する以上、癌の治療を最も直接的にまた人癌を対象とした実験をやるべきであるという反省から、昨年末、癌の手術の徹底化と、その資料の整理といった臨床的研究の体勢を固めることにつとめました。充分とはいきませんが、癌を扱う外科診療科としては、何とかやっていける基礎ができてきたと思っています。一方、実験面では、癌の手術材料から人癌細胞の培養、その培養細胞を用いての自家リンパ系細胞−腫瘍細胞混合培養反応から、癌免疫発現の確認をおこない、次いで本年からはin
vitroにおける宿主リンパ球の癌による感作を、何とか治療レベルにもって行く基礎実験にかかっています。
このほか、化学発癌や自然発生乳癌の発癌過程で、宿主リンパ球の癌認識能がどう変っていくかをリンパ系細胞−腫瘍細胞混合培養反応でおっかけています。癌では、免疫反応とくに、遅延型反応が低下すると、私共も発表し、一般にもうけ容れられているのですが、それでは癌に対しての反応はどう変ってきたのか、ほとんどその報告(実験的)がないように思いますので、興味をもって進めている実験の一つです。
勝田班での仕事の命題から、ずれてきましたが、培養癌細胞(ラットの)ができてきたら、再びやるつもりです。JAR-1ラット由来の4NQO誘導培養癌細胞が、生みの親に見放され、養子先がしっかりせず飢え死にとなって、今頓挫しているところで、申し訳ない次第です。data不足で以上で新年の御挨拶にかえさせていただきます。
《乾報告》
私、昨年8月15日に離日致しまして、米国で、Pasadena
Institute for Medical Research,N.I.H.、Roswell
Memorial Instituteを訪問した後に、英国での第13回国際細胞生物学会に出席し、Karolinska
InstituteにProf.Casperssonを尋ねまして、9月中旬より11月下旬迄、約2ケ月半をSwiss
Institute for Experimental Cancer Researchに滞在して、Prof
Leuchtenbergerの所で、人間の肺培養細胞に、タバコ煙及びマリハナ・タバコ煙を作用し、初期に誘起される染色体変異の観察並びにMicroflozometryの手法を使用して、核DNAの定量を行ない、昨年暮帰国致しました。
斯様な次第で昨年は秋、一番仕事の出来ます4ケ月弱を海外で過し、研究成果を上げることが出来ずに申し訳けなく思っております。
本年は癌原性物質投与後の細胞について"Chromosome
Banding Pattern"を指標にし試験管内化学発癌の機構を少しでも解明して行くと共に、Functional
Cellの培養を心掛けて行きたいと思います。
なお、御報告が増々遅れますが、英国の学会の組織培養関係の話題、スイスで行ない、"Nature"に投稿致しました仕事の内容等は次号で書かせていただきます。
《永井報告》
新しい年がまたへめぐってきましたが、年々歳々物同じからずで、今年もまた何等かの+αをこれまで積み上げて来たものに附け加えて、眼界を広めたいものと念じております。
癌研究は、しかし、シジフォスの神話のように、折角大石を汗水たらして上の方まで押し上げても、また、ガラガラと麓まで石がころげ落ちてくるものなのでしょうか。それがわかっていながら、なおかつ山の上まで問題の解決という希望のもとに石を押し上げてゆく。「癌とは何か」が依然として謎に包まれている現在、癌研究の現状についてこうした感を深くしますが、然し、"にも拘わらず"一歩でも前へ進まねばならないという意気込みで、癌研究の皆さんが居られることと思います。私も微力ながら少しでもお役に立ちたいものと感を新たにしている次第ですので、今年もどうぞ宜敷くお附き合いの程をお願いいたします。私の新年における願いは、何とかして、癌のtoxic
metaboliteの化学的な本態を明らかにしたい、今年こそ、と思っているところです。toxic
metaboliteが、熱耐性、酸−アルカリ−耐性、塩基性の低分子で、分子量も1000以下と予想され、化学的性質についてかなりのところまで煮つまってきました。この段階までくれば、あと大きなstepは「如何にして出発物質を多量に得るか」というところにあるかに思います。このmetabolite(s)の、生物学的profileを明らかにする為にも、このことが一つのneckとなりそうです。
いま一つの私の願いは、細胞膜屋として、何とかして細胞膜の機能と脂質との関係を明らかにしたいというところにあります。どうぞ、この点でも、今年もまたお力添えをお願いいたします。啓白。
《梅田報告》
すっかり御無沙汰して了いました。予定より少し遅れ、更にロンドンの霧にたたられて、正月に入ってから帰ってきました。短期でも数年振りに国外に留学出来たことは多くの新しい知見を得ることが出来て、有意義だったと感じています。特にアメリカの留学の時と比較して、イギリスの研究生活、研究態度、その他いろいろの面で異る点が多かったので、いろいろと考えさせられました。伝統の上にあぐらをかいて勤務時間だけ仕事をする研究者が大半なのですが、それでもtop
levelの仕事が出来ているとすると、日本人の勤勉さも、少し方向を変えてしかるべき様な気がしました。
ともかく約4ケ月in vitro carcinogenesisの仕事をするには、あまりにも短期間、仲間のDr.Thomas
Iypeとがちがち東洋人的仕事をしましたが、結局ぱっとしたデータは出ませんでした。しかしSacks、DiPaolo等の仕事の限界を知ったことは事実です。
帰り、ロンドンの霧の中ですっかり風邪をひき、いまだに完全に恢復しないこともあって、イギリスでの仕事をまとめるのが苦労になっていました。早速イギリス的怠惰で申しわけないと思いながら、その報告は来月にのばさせていただくことにしました。いろいろの問題がありますので、皆様の御批判を受けたいと思っています。
《黒木報告》
年頭らしく今年の実験計画をたててみました。基本的な方針は昨年までと同じで、次の三つを目標にしています。
1.化学発癌剤による定量的トランスホーメーション
2.動物志望の変異について
3.cAMP、発がん剤の結合蛋白
これらを併行してすすめながら、そのときの状態に応じて重点を1、2、3、のどれかにうつし、研究を発展させるつもりです。
1.化学発癌剤による定量的トランスホーメーション
現在分離しつつあるハムスター胎児由来の細胞、BALB3T3、骨髄細胞などを扱うつもりです。BALB3T3は、BUdRなどでC粒子がでるのが明らかなのでウィルスとの関連も含めて実験をすすめるつもりです。
2.動物細胞の変異について
平板寒天を用いたレプリカ培養を用いて、UV、ts、auxotrophsなどの分離を行いつつあります。3つのprojectsのなかでは、これが目下もっとも順調なので、暫くの間はこのprojectに重点をしぼります。
3.結合蛋白の分離
cAMPの結合蛋白は非常に複雑で手こずっています。MCA、NQOの結合蛋白と、cAMPの結合蛋白の異同について、できるだけ早く検討し、今後の方針を得るつもりです。
どこまでできるか分りませんが、頑張ってやるつもりです。よろしく。
《野瀬報告》
今年も今迄の続きの仕事を続けてゆきたいと思っていますが、計画として下のようにまとめてみました。
(1)Alkaline phosphataseの誘導機構
この酵素はdibutyryl cAMPによって著しく活性上昇が誘起されることがわかったが、その機構はまだ全くわかっていない。機構を調べる手段としては酵素タンパクの増減、遺伝子の活性化の有無、dibutyryl
cAMPによる細胞内諸代謝の変化などの検討など多くの事が考えられる。しかしすべて網羅することはできないので、当面次のことを計画している。
(a)alkalin phosphataseを精製し、それに対する抗体を作り、活性誘導に伴なって酵素タンパクの増加があるかどうか。精製は現在rat
kidneyを材料とし、Butanol抽出など行なっているが、活性が高分子の粒子状として存在し、可溶化に成功していない。
(b)培養株により、活性の高いもの、低いものがあるので、それぞれの細胞を融合し、どちらの性質が優性かを調べる。活性の調節が核によるのか、又は細胞質に起因するかを決定したい。
(c)dibutyryl cAMP処理細胞は単に増殖が抑制されているだけでなく、タンパクのリン酸化、DNA含量、Cell
cycleなどが正常細胞にくらべ、変化していることが考えられる。これらの点を検討してみたい。
(2)細胞形質の持続的変動
(1)の活性誘導の問題は、現象として一過性のもので、誘導物質を除くと、すぐに元のレベルに戻ってしまう。この現象を永続的な性質に固定することを検討してみたい。一般に癌化は不可逆的変化だからである。現実に、rat
liver由来の細胞株の中にも、alkaline phosphatase活性が常に高いものがあり、またL・P3のγ-線耐性株でやはり高い活性を示すものがある。このような性質を再現性よく、しかも永続的に変化させる手段は興味あるテーマと思われる。
【勝田班月報・7302】
《勝田報告》
これまでかなりの細胞株を4NQOで処理してきたが、未報告の実験がかなりあるので、主に復元成績について一応整理してみた。(表を呈示)
JTC-21・P3(ラッテ肝・なぎさ変異・合成培地系)は4NQOで処理したが復元成績は0/2。
RLG-1(ラッテ肺上皮様細胞)は4NQO及びNGで処理したが、control共々復元成績は2/2。
M(ラッテ肝・なぎさ→DAB変異)の4NQO処理は1/2、NG処理0/2、controlは0/3。
RPL-1(ラッテ腹膜細胞)のNG処理は生后4日JAR-1xJAR-2のF1に接種。処理群は接種約1.5月後、2匹中1匹の腹部に小豆大の腫瘤を発見。これがゆっくりと増大、死亡時胸腔内に転移あり。死因はその転移によるものらしいが、carcinomaではなく、或いはhistosarcomaかとも疑われる。(癌体質研究部の診定)
controlは2匹中1匹が肺炎で死亡。
《高木報告》
1.培養内癌化の指標としてのsoft agarの検討
これまでも報告した通り、serum factor freeの血清を用いて平板寒天法(黒木法)により正常細胞RFLC-5細胞および腫瘍細胞RRLC-11細胞の、plating
efficiencyを調べてみた。用いた血清は無処理の対照、48時間蒸留水、24時間Hanks液で透析した血清(1/1)、硫安1/3飽和上清を48時間蒸留水、24時間Hanks液で透析した血清(1/3)、の3種である。これらをMEM培地に10%添加して各4枚のPetri
dishにつきcolony形成能を比較した。agar濃度は0.5%である(表を呈示)。結果は表の如く、RFLC-5細胞はagar内に全くcolonyを作らない。RRLC-11細胞では対照、1/1血清で殆んどcolony形成能に差はみられず、1/3血清ではそれらの約半分に低下した。以上の結果でみる限り腫瘍性の有無をみるには平板寒天法のここに用いた条件ならばserum
factorなど考慮しないでも生える、生えないで一応判定できることになる。対照の血清を用いた場合でもPEが低い(200ケの細胞をまいた)点はさらに検討しなければならない。他の2〜3正常、腫瘍細胞株についても検討している。
2.RRLC-11細胞より分離された毒性物質(virus)の追求
細胞種による感受性のちがい:一部の細胞は増殖があまりよくないのでまだ細胞種は少ないが、RFLC-5、RFLC-3、Sg(ラット唾液腺より分離)、LC-14(ラット肝細胞)、L細胞などは変性をおこす。JTC-16(7974)、RRLC-12、-13(RRLC-11の再培養株)は変性をおこさない。
Virusのpurification:VurusをRFLC-5細胞に作用させ変性した時の培地を集めて40,000rpm
90分遠心後、DEAEcellulose Columnを用い、10mM
pH7.0のphosphate bufferによりNaCl0〜1.0Mのlinear
gradient elutionを行った。O.D.280nmでみるとNaCl
0.2〜0.3Mに、peakがあり、その活性を調べている。
《堀川報告》
同調培養されたHeLaS3細胞の、細胞周期を通じての放射線および化学発癌剤(4-NQO)に対する感受性差支配要因の解析はくした各種物理化学的要因の動物細胞に対する障害作用ひいては動物細胞のもつこうした障害からの修復機構の解析にすぐれた系であるとして、私共の研究室で研究を進めているが、今回はこれまでに報告してきた結果を更にConfirm出来るような結果が得られたのでこれを追加して報告する。
(1)まずUV照射に対するHeLaS3細胞の同期的感受性曲線は、従来図1に示すような結果が得られていた(図を呈示)。つまりmiddleS期とM期が最もUVに対して感受性が高く、G1期やG2期はそれに比べて感受性は低い。こうした感受性差を説明するものとして各期の細胞をUV照射した直後、DNA中に形成されたTTの量を分析すると、S期のDNAはG1期やG2期に比べて約2倍量のTTが形成されることがわかっている。これらを更に広いPhaseにわたってUV照射し、その直後にDNA中に形成されるTT量を調べた結果が図2である(図を呈示)。これらの図からわかるようにS期の細胞ではUV照射後G1期やG2期の細胞に比べてより多量のTTがDNA中に形成されることが再確認された。しかし、一方M期のUVに対する高感受性はTT量とはそれほど明白な関係が見出されなかった。このことは、分裂期のDNAはS期のDNAとは構造的にも異なり、UV照射によってTTが形成されにくいのかもしれない。いづれにしてもUVに対する同期的感受性差支配要因として各期におけるTT形成量の違い以外に何か別のfactorを考えねばならないのかもしれない。
(2)一方、4-NQOに対しては、X線やUVとも部分的に異った周期的感受性差を示すことについては、これまでに報告してきたが、では一体4-HAQOに対してはどうであろうか。これらをまとめて3図に示す(図を呈示)。これらの図からわかるように、4-HAQOに対するHeLaS3細胞の周期的感受性曲線は、4-NQOに対するそれと、本質的に同じであることがわかる。こうした結果は、4-NQO誘導体のactive
formが4-HAQO周辺のものにあると考えれば、当然のことかも知れない。
《山田報告》
腹水肝癌培養細胞JTC-15(AH66TC)のsublineであり、腫瘍性(可移植性)の著しく異なる、AC-4、AC-5株について、細胞電気泳動的に比較検索した結果を書きます。
この細胞については、以前一回検索したことがありますが、この時の実験に不確実な所がありましたので、今回はくりかへし調べてみたわけです。
(表を呈示)表1に示します様にノイラミニダーゼ感受性は明らかにAC-5に著明です。その差は二倍もある様で、その可移植性の成績と一致します。しかし全体としてノイラミニダーゼ処理により泳動度の低下が少し強い様ですが、それは今回CBCのノイラミニダーゼ10単位を用いたせいだと思います。いままでの成績と比較するために、標準細胞(ラット赤血球)の感受性を比較して全体に補正をしたいと思って居ます。何れにしろ、相対的にはAC-4のノイラミニダーゼ感受性は低いことが確かです。
次に、この細胞系のConcanavalinAに対する反応性を検索してみました。(図を呈示)図1に示します様にAC-5は二回の検索結果が殆んど同じですが、AC-4は2回の検索結果が異ります。また1mMの(But)2cAMP及び1mMテオフィリンを37℃30分作用させた後の変化、及びあらかじめノイラミニダーゼ処理した後に(But)2cAMPを作用させた変化を、表2(表を呈示)に示します。この結果については、次回基礎実験成績を混へて考察したいと思います。
《乾報告》
今月は、X th International Cngress of Cell
Biologyで発表された組織培養関係の話題を二、三紹介すると共にSwiss
Inst.for Experimental Cancer Res.で行なった仕事の結果の概略を報告します。
International Congress of Biology:全体として私の感じでは、Cytology及びTissue
cultureに関する仕事は低張のようでしたが、その二、三を紹介致しますと、Dr.M.Harrisが主催した"Life
spane and Transformation in Cell Culture"と云うSymposiumでは、Dr.DiPaolo、Barski、Harris、その他一名のSpeakerによって討議され、培養内での細胞のLife
spaneと云う問題に関しては、白血球細胞の如く、完全にLife
spaneをもつものがあるが、一般の培養細胞では、CellのLife
spaneをどの様に定義するかは難しく結局図1(図を呈示)でA又はB、特にAの期間を培養された細胞のLife
spaneと考えては提唱されました。
次の問題としてはそれでは広義TransformationのIndicatorとして細胞、又は細胞集団のどの様な性格を取り上げれば一番いいのかと云う事が討議されましたがこれはDr.DePaoloの独断場で、彼はKaryotypeの変化、Malignancyの獲得、Plating
property、cotact Inhibi-tionの低下、Maximum
population percm2、Arrangement of fibroblast、colony
formation in agar、Growth ability in suspending
culture等を提げ細胞レベルでのTransformationと生物レベルでのTransformationは、各々分離して考えるべきだと強調していました。その他の話題として、Chemical、Viral
induced transformationの違いが話題に上り、後者はIntracellular
informationが新たにCell内にくみ込まれるに反し、前者はそれがないと理解したら整理しやすいが、この場合、Spontaneous
transformationをどのように取り扱うかが問題になり、結局広義のChemical
inductionと考えたら?と云うような事になったと理解しました。
その他Cell cycleにおける細胞内の色々な出来事に関して、Dr.BasergaがChairmanで、Dr.Tayler、Abercrombie、Moor等がBiochemical
events during the initiation of proli-ferationと云うSymposiumで話題を提供しました。ここでの一番の問題点は、Cell
cycleをG0、G1、S、M、G2期と規定し、G0からG1への移行がどの様な機構で行なわれるかと云う点が最大の論点で、何らかの機序(Stimulation)でNew
Geneのactivationが起り次いでNew M-RNAsynthesis、chromation
template activityが上り、Cellはproliferation
cycleに入って行くと云う話題がHuman normal
cell、Rat kidney cell、部分肝切除等の実験系で提供された。その他、この班に比較的関係があったと思われるSymposiumを上げると、Control
of cell diviion(E.Zeuthen)、Cell surface and
cell growth(Stoker)等であった。
Swiss Inst.for Experimental Cancer Res.:約3ケ月弱の滞在中二つの事を行なって来ました。一つは、ハムスター繊維芽細胞に煙草タールを作用してtransformationをさせる系の確立で、日本でやっていた実験の移植です。他の実験は、Normal
adult lung origineのfibroblastにPuffの型でKentucy種タバコ、マリハナタバコ煙を作用し、以後経時的に4週間、染色体観察、核DNA量の測定を行ないました。詳細なデータは現在整理中で、次号にゆずりますが、綜合データでは図2(図を呈示)に示す如くKentackyタバコ、マリハナタバコ作用群では染色体分布の巾が正常に比較し拡がります。核DNA定量でも、図3の如く同様な傾向がより強調された型で表われますが、単位核DNA量の増加は、分裂中期に比して後期細胞で著明です。
《黒木報告》
§BUdR光照射によるUV感受性細胞分離法への疑問§
堀川さんのやっているBUdR光照射法によってUV感受性細胞を分離する方法を追試しようかと考えたところ、その理論的及び実験的不確かなことに気がついた。つまり、(A)UV照射後t時間BUdRを添加し光を照射する。(B)UV照射後t'時間おいてt時間BUdRを添加する。(図を呈示)(A)(B)のいずれかのscheduleをとるかtをどの程度の時間にすべきかをきめるため、window法でUV照射後のコロニーの増殖を一つ一つのコロニーについて観察した。すなはち、0.5%平板寒天の90mmシャーレ底面に約2mmの穴を70〜80ケあけた紙をはりつけ、L5178Y細胞を2000ケまいた。一群はコントロールとし(UV無照射)、一群は2枚に50ergの紫外線を照射した。以後毎日倒立顕微鏡でコロニーの増殖をスケッチした(5日間)。典型的な例では、(図を呈示)図のように倍々とふえていった。結果を図表に示した(図表を呈示)。SchedulAでもしスクリーニングできるとすれば、A〃fractでありSchedulBではBB'fractionである。しかし、ここではBB'fractionが本当に後にgrowthが回復するかどうかみていない。
いずれにしても、感受性cloneはE(died without
division)の形で死んでいくのではなかろうか。そうするとBUdR法が適用できなくなるように思える。
細菌の場合もUV感受性細胞はペニシリン法で分離されていないようなので、やはり面倒くさくてもレプリカ法によるべきように思はれる。レプリカのdataは班会議の時に発表する。
《野瀬報告》
各種細胞のarginine要求性
肝細胞特異的な生化学的指標としていくつかの例が知られているが、現在、培養細胞でこれらを検出するのはむずかしい。指標のうちの一つのarginine合成系酵素は、尿素回路を構成する酵素で、carbanyl
phosphate+ornithine(1)→citrulline(2)→arginosuccinic
acid(3)→argineの一連の反応を触媒する。Argはほとんどの培養細胞にとって必須アミノ酸なので、Arg要求性の有無により、この系の酵素活性を推定できる。そこで細胞の遺伝情報発現を見る示標の一つとして、このArg代謝を若干検討した。完全合成培地中で継代されている細胞はこのような実験には適していると思われる。(図を呈示)図は、JTC-25・P5細胞のMEM(-Arg)中でのgrowth
curveである。培地にArgの前駆体を加え、growthに対する影響を見ると、JTC-25・P5はcitrullineをArgとほぼ同程度利用していることがわかる。従ってこの細胞は(2)(3)の代謝系は持っていることになる。carbamylphosphate又はornithine単独では-Argと全く同じで細胞は死んでゆくか、これらを同時に加えるとgrowthはないが細胞は死からある程度救われる。しかしこれら前駆体の濃度を上げてもgrwothは見られなかった。このことはJTC-25・P5細胞には弱いながらも(1)の酵素(ornithine
transcarbamylase)が存在することを示唆する。
同様の実験を次の6種の細胞について行なった。このうちRLC-10、CHO、HeLaS3はMEM(-Arg)+10%dialyzedCSで、L・P3、JTC-21・P3はそれぞれDM-120、DM-145からArgを除いた培地中で培養した。CitrullineをArgの代わりに利用できる細胞株は多いが、carbamylphosphate、ornithineを利用できる株は肝由来の細胞に関しても見つからなかった。
Arg代謝に関してはPPLOの関与が重要なので、千葉血清研の橋爪先生にこのcheckをお願いしたところ、表のように使用したすべての株において検出された。(表を呈示)。PPLOはArginine代謝系酵素をもつものが多いので、この結果から、表1の結果が細胞の性質を示しているのかどうか疑わしくなった。しかし図1で用いたJTC-25・P5はPPLOのtiterが非常に低く、3回増菌培養をくり返して初めて検出された程度なので、この細胞に関してはPPLOの代謝系の関与は無視できるのではないかと思われる。
細胞の生化学的markerとして、Arg要求性を用いようとする試みは、PPLOがこれ程広く混入している点から考えて非常に困難であると思われる。
《梅田報告》
(1)イギリスで行ったin vitro transformationの仕事の大要を報告します。結局は、DiPaoloの追試をしたに止まる実験をしてきたのですが、当初の目的は以下のような物です。
先ずDr.Iypeのアイデアだったのですが「in vitro
carcinogenesisにおいて発癌剤投与で弱って死にそうな細胞同志がhybridを作ると元気になって悪性化した細胞として増生してくるのではないか」と考えました。これに関する実験を行ってみましたが、とにかくそんな考え方で文献をしらべてみますと、丁度Eagle等がhigh
pHの培地で雑種形成が促進されると報告しているのに気付きました。更に、Eagle等は前から培地をやや高目のpHで培養するとcontact
inhibitionを示すべき細胞が、contact inhibitionを示さなくなることを報告していることもあり、pHの影響に興味をもち始めたわけです。
(表を呈示)ところが表1に示すように、DiPaolo等のハムスター胎児細胞を使っての仕事はDulbeccoのmodified
MEMを使っており、重曹量が非常に多いのです。一般のMEMのEarleのsalineは2.2g/lでこれでさえも培養操作中にpHが上昇してくるのは周知の事実です。いわんや3.7g/lの重曹量においてはどうなるか想像に難くありません。私のところではそれがいやで前から重曹量を1.1g/lにへらしています。勿論培養中は目的のpHが保たれる様、炭酸ガスのtensionを調節しています。
そんなことからin vitro carcinogenesisに短期で成功するには培養のある時期にhigh
pHが作用している可能性があっても良いのでないかとのworking
hypothesisをたてたわけです。
(2)そこで今迄報告されている中で一番短期間で実験の出来るsyrian
hamster embr-yonic cellsを使うDiPaoloの方法でこのpHの影響を調べることにしました。(Balb3T3は入手出来なかったので)
ところがそれからが大変で、Eagle等の報告によるHepes等のgood
buffer系でpHを調製するのに一苦労しました。考えてみればあたり前のことで、彼等はgood
bufferの混合を使いながら5%炭酸ガスフランキで培養しているものですから、good
buffer+重曹bufferの二重のbufferで調製していることになります。ところがgoodのbuffer系そのものが溶解後NaOH或はHCl液でpHを調製するので、重曹を入れてからではpHが調製し難いし、重曹を入れる前にpHを調製してからでも、5%の炭酸ガス圧に合う重曹量を各pHで更に求めなければならないわけで、pHの調製のためには二重手間を強いられます。しかも無菌的に行うには更に大変なことでした。とにかくEagle等の論文には表が無造作に簡単に書かれていますが、調製は大変なことに違いありません。
やっとの事で殆目的に近いpHに調製出来るようになってからわかったことはハムスターの胎児細胞(primary)はgood
buffer系には強くないことです。Plating efficiencyは全く低下します。
(3)それで今度は丁度incubator boxがあったので、これを使って普通の培地(2.2g/lの重曹)でgas相を変えて、コックを閉めてから37℃で培養を続けたらと考えました。この目的のため炭酸ガス相を10%から1%と各段階を作り実験してみました。これも思ったよりpHの調節が難しくなかなか目的のpHにconstantにもっていくことが出来ませんでした。
致し方なく今度は実験を縮少して、研究室にある2つの炭酸ガスフランキをそのまま使ってみることにしました。これは共に良好なgas
flowmeterがあるので、安定したガス混合物が得られるので、1つは5%、1つは2.5%(アルカリ側に興味があったので)で実験してみました。各pHでずっと細胞を培養する他にハムスター胎児細胞を植えこんだ時だけ2.5%に、発癌剤処理の時だけ2.5%にしたり色々の組合せも行いました。
(4)ところがgood bufferやincubator boxを使っているときの対照に、即ち5%炭酸ガスフランキでずっと普通に培養して発癌剤処理をしたものに、どうもtransformした様な形態のものがあることを見出しました。しかも以後の実験での結論は、2.5%炭酸ガス圧の処理群でtransformation
rateが著しくあがることはありませんでした。とにかく、ここらへんで気のついたことは、(1)先人のデータを検討してみると、一群のシャーレが10枚以上使われていること、(2)出てくるcolonyの形態はいろいろで、transformed
colonyとの判定が非常に難しいこと、(3)更に、時々対照にも所謂transformed
colonyらしいものが見出されること等です。
(5)(1)については、シャーレの数を多くしないとtransformed
fociの数が充分得られず、データを統計的に解釈するのが難かしくなってくるわけです。各実験でシャーレの数を多くすれば問題ないのですが、あまりにも大規模な実験となり能率的でないし、かえって実験誤差も生じやすいようです。
(6)(2)としては、われわれのこの実験の前提は始めからSachs、DiPaoloの云う形態だけで、transformしたものかどうか判定することでした。復元実験などするひまもなかったからです。ところがこの形態だけで判定するには非常に困りました。多彩な形態で移行が沢山あるからです。少くともなるべく客観的な方法で判定出来るように考え、次のように考えてみました。
Colonyの判定 S:sparse colony。M:monolayer
colony。P:piled up colony。
O:orderly oriented。R:randomly
oriented。
SOO:Sparse colony with orderly oriented
cells in the center
and orderly oriented cells at the periphery
of the colony.
SOR:Sparse colony with orderly oriented
cells in the center
and randomly oriented cells at the periphery
of the colony.
SRO、SRR、MOO、MOR、MRO、MRR、POO、POR、PRO、PRR
3つの大文字を並べて書き、最初はcolonyの細胞増殖の状態、即ちsparseか、monolayerか、piled
upかを記載し、真中の大文字はOかR、即ちcolonyの中心部の細胞のorientationを記載し、最后に又OかR、即ちcolonyの周辺部の細胞のorientationを記載しました。更にOかRの判定もいろいろの程度があって難しいのですが、我々は細胞の50%以上が、randomにあちこち向いている場合Rとしようと取りきめました。勿論これでRと判定されたものが本当に悪性かどうか復元実験をしていないので何とも云えませんが。
こうしてデータをすべて検討してみますと、多くのpiled
up colonyはすべて中心部にRfactorが多いことです。そして周辺部の細胞はorientedのものが多く、われわれの経験でが之等は悪性でないと思わざるを得ませんでした。即ちPOO、PORはあまりなく、SORとかMROがみられないこともあり、一応transformed
colonyとして判定するのはあくまでも便宜的ですが形態的にcolonyの周辺部の細胞の並び方だけに重点をおき50%以上の細胞がrandomに並んでいることを判定の基準としました。
(7)(3)は上の測定基準にしたがっても、どうしてもtransformed
colonyとして判定せざるを得ないcolonyが確かにcontrolにもあるのです。
(8)以上のような基準にしたがって沢山の失敗実験の中でややきれいなデータを集めると表4になります(表を呈示)。1.2.実験は小さな実験でシャーレ5枚宛ヲ使っています。3.4.5.実験は15枚以上のシャーレを使った大実験です。又4.5.はpHの問題をあきらめきれずに、4.ではハムスター細胞を植えこんだ時の1時間だけ、5.では発癌剤処理の2時間を、2.5%の炭酸ガス圧にした時のデータです。(終わり)
【勝田班月報:7303:SytochalasinBによる細胞の無核化】
《勝田報告》
ラット肝癌細胞の放出する毒性代謝物質についての研究
1)各種細胞からの代謝物質の毒性試験:
細胞を4日間培養した後、その培地をSephadexG-10及びG-25で分劃し、それをRLC-10(2)(ラット肝細胞、可移植性なし)、JTC-25・P3(ラット肝由来、なぎさ変異、完全合成培地内培養株)の培地に添加してみた(図を呈示)。培地はJTC-1(AH-130由来)、JTC-15(AH-66由来)、JTC-16(AH-7974由来)、JTC-16・P3(同、完全合成培地内継代)の細胞からとった。RLC-10(2)、JTC-25・P3ともに、各種肝癌培地添加によって増殖を阻害された。JTC-15は可移植率の低い細胞株であるが、培養後培地の細胞毒性も他の肝癌より低い。JTC-16・P3培地が最も細胞毒性が強い。またJTC-16培地をG-25、Dowex50、IRC50を順次にと通して得られた分劃は、G-25のみのものに較べて比活性上昇はみられなかった。
2)JTC-16細胞(ラット肝癌AH-7974由来)の培地分劃の各種細胞に対する影響:
JTC-16を4日間培養後の培地をSephadexG-25、Dowex-50H+で分劃し、そのアルカリ性分劃を採取して各種細胞の培地に添加してみた(表を呈示)。これは形態学的にしらべた結果であるが、正常ラット肝(RLC-10)は著明に阻害され、正常ラット肺センイ芽細胞(RLG-1)も若干阻害されている。しかしラット腹水肝癌JTC-15(AH-66)、JTC-16(AH-7974)、培養内自然発癌RLC-10B、養内4NQO処理による癌化CQ#60の各系は、何れも阻害されていない。
AH-7974由来で完全合成培地内継代株のJTC-16・P3の培養培地からの分劃を各種細胞の培地に添加した(図を呈示)。最高濃度の4mg/mlのところでは各種細胞いずれも阻害を受けているが、2mg/mlでは細胞の種類によって(正常肝由来は著明に増殖阻害を受ける)障害度にかなり差がみられ、肝癌細胞は障害され難いことが判る。
肝癌の毒性代謝産物が、あるいはSpermineかSpermidineではないかとの仮定の下に、RLC-10(2)細胞に対する影響をしらべた結果(図を呈示)、μgの単位で強烈な細胞毒性が示されている。しかしこの結果からすぐ同定することは困難である。
《永井報告》
§ラッテ腹水肝癌AH-7974細胞の培地内に放出する毒性代謝物質:化学的プロファイル
これまでラッテ腹水肝癌細胞AH-7974が培地内に放出する毒性物質について化学的な面から追究をおこなってきた。ここでは、これまでの研究成績を振り返って、一つの総括をおこない、今後の研究への足がかりとしたい。
*総括-1:毒性代謝物質は低分子で、その分子量は500を越えないであろう。(理由)SephadexG-10カラムでtripeptide〜depeptideが溶出される領域に現れること。
*総括-2:本物質は耐酸、耐アルカリ、耐熱性である。
(理由)6N-HCl、105℃、18hrの酸分解処理で毒性は低下しない。時には毒性力価の上昇をみる場合があり、a
complex formで存在している可能性を示唆した。4N-NH4OH、100℃、3hrのアルカリ分解処理で毒性は低下しなかった。
*総括-3:本物質は強塩基性である。
(理由)強酸性イオン交換樹脂Dowex50(H+)に強い親和性を呈したほか、弱酸性イオン交換樹脂Amberlite
IRC-50(pH4.7)に対しては、普通の中、酸性および塩基性アミノ酸の溶出される条件下で樹脂より溶離されず、強酸性下で始めて溶離されること。(注)初期の実験では、Dowex-50(H+)カラムで素通りする酸性分劃に活性を認めたことがあり、塩基性物質のみが毒性代謝物質の全てであるとは云えないかもしれない。この点は注意を要する。
*総括-4:現精製段階での毒性物質分劃には、可視、UV領域に亙って特性吸収は認められなかった。
*総括-5:毒性物質は又ヌクレオシド、ヌクレオチド、プリン系塩基である可能性は少ない。但しピリミジン系塩基である可能性は残っている。
(理由)(i)ヌクレオチド、ヌクレオシド(実験例:アデノシン、AMP、UMP)が95〜98%吸着される条件下の炭末で、毒性物質分劃を処理した時に、約50%の毒性活性しか吸着されなかったこと。(ii)6N-HCl、100℃、18hrの酸分解処理で毒性力価の低下をみなかったこと(総括-2を参照)は、この条件下でプリン系塩基が破壊を受けることから、本毒性物質がプリン系物質でないことを意味している。
*総括-6:本物質がニンヒドリン陽性物質、アミノ基をもつ化合物かどうかについては、現段階では、まだ結論は出ていない。
(理由)ペーパークロマトグラム上で、確かにニンヒドリン陽性物質が幾つか検出されるが、その各々を分離しておらず、今後の精製段階での再検討が必要である。
*総括-7:高圧ロ紙電気泳動を行った後、ロ紙各部分より泳動された物質の溶出を行い毒性力価を検定したが、どの部分からの溶出液についても、毒性は検出されなかった。この原因としては、総括-3に述べたように本物質が強塩基性であるために、泳動度が高く、泳動され過ぎてしまった(−極へ)ためロ紙より回収されなかったと考えるか、或は、その可能性は低いが、本物質が揮発性のため回収段階で蒸発消失してしまったとも考えられる。現在、前者の可能性を推定している。
以上述べたように、本毒性質の物理的、化学的性状については、一応の結論の出せる段階まで来ており、憶測ではあるが、ポリアミン系、ピリミジン系、或いはアミノ糖系の塩基性物質と予想される。精製分離系統も、Amberlite
IRC-50による系が確立されており、今後は多量のstarting
materialを得て、単離を試みる段階に到ったと云えよう。また、亜硝酸ソーダによる処理で脱アミノ反応を試み、〜NH2
group(例えばアミノ糖)の可能性があるかどうかを探ることなど、種々の計画が現在たてられている。
:質疑応答:
[堀川]この毒性物質は細胞のどこをアタックするのですか。
[勝田]合成系をやっつけるというより、もっと積極的に殺しているようですね。
[山田]合成系をアタックする場合は、先ず核に異常が起こるはずですね。
[松村]スペルミン、スペルミジンは癌細胞に対しても毒性をもっていますか。
[藤井]なぎさ変異の細胞に対してはどうでしょうか。
[高岡]まだJTC-25・P3についてのデータしか持っていません。
[永井]こういう物質で癌細胞かどうか同定できると面白いですね。
[堀川]JTC-16の培養液からとれる物は、スペルミンそのものではないが、スペルミンに一寸修飾が加えられたようなものかも知れませんね。
[永井]低分子物質の分劃は塩との分離が難しいのが難点ですね。
[勝田]今のところ、はっきりしているのはラッテの腹水肝癌由来の培養細胞は強弱はあっても皆、培地中に正常肝細胞に対する毒性物質を出しているということです。まずはJTC-16を材料にしてその毒性物質が何かを決定して、それから他の肝癌の出すものを同定しようとしているのです。
[乾 ]培地からだけとれる物ですか。細胞をすりつぶしても出てきませんか。
[勝田]そもそも端緒は双子管培養で液層を通じての相互作用をみたことから始まっているのです。ですからその液層を先ず分析したのは、その線を通している訳です。
[藤井]担癌動物の血清中にはその物質は出ていませんか。
[高岡]物質としてはっきり決定されれば、その物が血清中や腹水中に出ているかどうか調べるのは簡単でしょうね。しかし材料として血清を使うのは分劃が大変です。なるべく単純な組成のものを材料にした方が分劃は楽だと思います。
[勝田]物が決まれば、診断などにも使えるかも知れません。又動物実験にもっていって免疫機構に関係があるかどうか調べてみるつもりです。
[野瀬]スペルミンを失活させると毒性はどうなるでしょうか。
[永井]そういう実験も考えていますが、スペルミンそのものではないだろうと思っています。培地に出るものという事からホルモンのようなものも考えています。
《高木報告》
1)培養内悪性化の示評について
細胞は正常細胞としてRFLC-5細胞、腫瘍細胞としてRRLC-11細胞を使用した。
培地はMEM、199、MEM+0.1%BP、F12などについてPEにより検討したが、ここに用いた細胞についてはMEM+0.1%BPが最も適していると思われた。従ってこれに10%の血清を加えて実験を行った。
血清についてはTodaroらの云うSerum factor
freeの血清につき検討した。Serum factorを除去する方法は硫安塩析法によった。硫安1/3飽和および1/2飽和後の上清の処理法についても種々試みたが、蒸留水で48時間透析し、さらにHanks液で12時間透析する方法がPEでみた場合一番よいことが判った。
細胞の植込みはagarを用いる場合にはSoft
agar法よりAgar plate法(黒木)の方が操作が簡便であるので、これを用いることにした。
Serum factor free牛血清につきRFLC-5およびRRLC-11細胞の増殖に及ぼす影響をみると、RFLC-5では明らかに増殖の抑制がみられ、一方RRLC-11細胞は対照と殆んど同程度の増殖を示した。
Agar plate法による結果は先報に報告したが、その後行った実験では(表を呈示)、より良好なPEの成績を得た。先報のPEが悪かったのは細胞をまく際の技術的問題があったのだと思う。
RFLC-5細胞はやはりcolonyを形成せず、RRLC-11細胞についてはcontrol、1/1serumでは28.6%、29.8%と有意差なく1/3serumでは5.0%のPEを示した。この方法によればRFLC-5細胞は対照血清を用いてもcolonyを作らないため1/3serumを用いた際の差は比較出来ない。今後はRFL細胞を化学発癌剤で処理直後より1/3または1/2血清を含む培地中で培養し、悪性化した細胞をより早くselect出来るか否かを検討する予定である。
2)RRLC-11細胞の放出する毒性物質(virus)について
これまでの経過を追ってdataをまとめると、
(1)限外濾過されない。
(2)超遠心:40000rpm 2時間で上清は完全に失活する。30000rpm
1時間では部分的に上清に活性が残る。
(3)-20℃の凍結保存で少なくとも4週間は活性が保たれる。
(4)温度:75℃30分で失活、65℃30分で部分的失活、60分ではいずれの温度でも失活、56℃30分では失活しない。
(5)pH:酸性で活性やや弱目。
(6)活性は血清のlotにより影響をうけるようである。
(7)RRLC-11の培養液をRFLC-5の培養開始と同時に作用させると3〜4日で、またfull
sheetに作用させると7日位たって変性がおこる。なお変性のおこった時点で培地を集め次代のRFLC-5細胞に作用させると活性が高まり、しかもRFLC-5でこの活性は継代出来る。このことから毒性因子はvirusであることが想定される。 以下virusと記載する。
(8)変性をおこしかかったRFLC-5およびその培地を電顕的にみると、細胞の内外に連なった粒子を認める。培地の超遠心沈渣のnegative
stainingでは連鎖状につらなった20〜30mμの粒子がみられる。RRLC-11細胞の電顕像ではこのような粒子は認めえず、C型粒子がわずかに散見される。
(9)このvirusは鶏卵のallantoic cavityでは増殖しない。
(10)Plaqueは作らないようである。
(11)モルモットの血球を凝集する。継代によりtiterは32倍から最高256倍位まで上昇する。ニワトリ血球は凝集しない。37℃におくと凝集はなくなり溶血がおこる。すなわちvirusはhemolysinを有し、Neuraminidaseをもっているようである。KIO4で処理すると凝集はなくなる。血球のcarbohydrateのreceptorと結合することが分る。
(12)Suckling ratにこのvirusを注射し、生き残ったratの血清、および家兎免疫血清でHIがみられるが、抗HVJvirus血清では抑制はみられない。
(13)細胞種による感受性ではRFLC-5、C-3細胞、Sg細胞(ラット唾液腺由来)、LC-14細胞(ラット肝由来)、L細胞は変性をおこす。JTC-1、RRLC-11細胞では増殖がわずか抑えられ、JTC-16、Vero細胞では対照同様増殖する。
:質疑応答:
[梅田]このウィルスは発癌性についてはどうなのでしょうか。
[高木]私もそれを考えて動物に接種してみましたら、はっきりした結果を得られないうちに死んでしまいました。解剖してみましたが、発育不良と肝の一部に石灰化の所見があっただけでした。
[佐藤二]培養しているだけではウィルスの存在はわからないのですか。
[高木]正常な細胞とかけ合わせないと分からないのです。
[佐藤二]人とかマウスとか他の動物由来の細胞にはどうですか。
[高木]人には無害だと思います。猿由来の細胞は変性しません。マウスについてはデータはありません。
[山田]電顕はほんの一部をみるだけですから、全くウィルス粒子がないと言い切るには相当沢山の標本をみなくてはいけませんね。
[高木]そうですね。全くないとは言い切れませんね。それからこのウィルス様のものは血清の影響を強く受けます。仔牛血清では出ないが牛胎児血清では出ます。
《山田報告》
(But)2cAMPの細胞膜への直接作用についての基礎実験成績を報告します。(各実験毎に図表を呈示)細胞はほとんど腹水肝癌AH66Fです。(But)2cAMP、Neuraminidase、Trypsinを相互に作用させた結果を示します。Neuraminidaseの作用条件条件は従来通りでLBC製のものを10unit用いています。(But)2cAMPを作用させると細胞の表面荷電は上昇し、しかもあらかじめneuraminidase処理しておくと、この効果は増強しました。しかもこの効果はConAの作用とは異り、シアル酸依存荷電が新たに露出するためではないことがわかります。トリプシン処理ではこの効果は変化ありません。
またあらかじめneuraminidase処理しておいた後の(But)2cAMPの効果には定量性があり、この効果は細胞膜の特異的変化であることを確かめました。
即ち(But)2cAMPと比較の意味で、CiAMP、AMP、Trypsinをそれぞれ作用させてみますと、(But)2cAMPに特に著明に、そしてcAMPでは軽度の泳動度増加作用があることがわかりました。即ち(But)2cAMPの特異的な作用と思われます。
次にneuraminidase及び(But)2cAMP処理後のConAの作用をみました。ConAの泳動度上昇の効果は著しく阻害され、通常では既に細胞の凝集を起こす様な濃度でもその作用が極めて少く、100〜200μg/mlの濃度で若干の泳動度の増加をみるのみでした。
最後に(But)2cAMPの腹水肝癌と正常及び再生肝に及ぼす効果を比較しました。先きに示しました様に肝癌細胞は(But)2cAMPにより強く反応しますが、一般に良性の肝細胞の反応は著しく弱く、両者の最も異る點は、Neuraminidase処理後の(But)2cAMPの効果です。正常肝は肝癌に比較して泳動度の増加が著しく弱い様です。この成績はまだ荒けずりの成績ですが、これから、この作用条件を充分検討し、in
vitroにおける悪性化の指標の一つに(But)2cAMPの効果の違いが役に立ち得るか否かを検討して行きたいと考えています。
:質疑応答:
[勝田]細胞電気泳動にかける時、肝細胞はどういう方法で分離していますか。
[山田]動物から肝臓を取り出し、鋏で切ってメッシュで漉すだけです。
[梅田]生死判別はしてありますか。
[山田]してありません。
[梅田]正常肝細胞は、集め方が悪いと電顕的にみて膜に穴があく事があります。
[勝田]還流法などを利用してみたらどうですか。
[山田]私も昔ヒアルロニダーゼなど使ってみた事はありますが、酵素を使うと膜に変化が起こってよくないようです。
[堀川]しかし泳動中に色んな反応がないのは、むしろ死んだ為ではありませんか。
[山田]その点も考えて、できれば培養細胞を使いたいと思っています。
[勝田]再生肝の場合必ずしも全体が増殖している状態ではないでしょうね。
[山田]私の場合、肝臓は2/3切除して、再生というより急性肥大しているような術後2日目のものを使っています。ConAはそれ自身に荷電がないので膜の変化といっても良いと思いますが、(But)2cAMPの場合はそれ自身の荷電があるので、それが影響しているのかとも考えられますが・・・。
[梅田]Butyrateだけではどうですか。
[野瀬]Butyrateだけで起こる変化もありますね。(But)2cAMPはコルヒチンで抑えてみたらどうですか。
[堀川]というのは・・・。
[野瀬](But)2cAMPで起こる形態変化はコルヒチンで抑えられます。
[堀川](But)2cAMPを直接肝癌細胞に作用させると泳動値が減少するが、neuraminidaseで予め処理してから(But)2cAMPを作用させると上昇するというのは、(But)2cAMPの取り込み方が違ってくるからでしょうか。
[山田]そうかも知れません。
[勝田]電気泳動で捕まえられるのは本当に膜の表面の荷電だけですか。
[山田]理論的にはそのはずです。
[堀川]膜が細胞内を支配するかも知れないが、細胞内の変化が膜に影響を与える事も考えられますね。
《堀川報告》
培養された哺乳動物細胞用のレプリカ培養法を使用してChinise
hamster hai細胞から各種栄養要求株、または非要求株を分離し、これらについてforward
mutationおよびreverse mutationの機構を解析しようとする試みはこれまでに報告してきたとうりである。しかし、こうした仕事を進めて行くうえで問題になってくるのは、私共の仕事も含めて、従来のPuck、Chuたちがこの方面の研究のために使用してきた細胞はいづれもChinise
hamster由来の細胞であるということで、こうしたChines
hamster細胞から得たデータをもとにして人間細胞におけるmutation
rateあるいはmutationの機構を語るのには多少の不安がある。(図を呈示)図に示すように、紫外線照射後細胞内DNA中に誘起されたThymine
dimer(TT)の除去能が細胞間で大きく異なる。つまりDNA障害修復能が多分に異なるという結果が分かっている。mouseL細胞にはTTの除去能は殆ど認められず、Chinese
hamster hai(CH-hai N12 clone)では照射後12時間以内に約19%のTTを除去する能力をもち、ヒト由来HeLaS3細胞では50%のTTを切り出す能力をもっている。またこのHeLaS3細胞から当教室において分離したUV感受性株のS-2M細胞では照射後12時間以内に約9%のTTしか切り出さないことが分かってきている。こうした細胞間のTT除去能の有無はUV-specific
endonucleaseの有無に関係しているようで(Alkaline
sucrose gradient centrifugationの実験から示唆される)、こうした細胞株間というよりも異種起原の細胞株間のTT除去能についてみても、これ程異なるため、同一条件下でMutation
rateまたはその機構を追ってみる必要性が生じてきた訳である。こういった意味において現在私共は上記栄養要求性変異実験と併行して、HeLaS3細胞、S-2M細胞、mouseL細胞、Chinese
hamster hai(CH-hai N12 clone)細胞の4種を選び、8-azaguanine抵抗性を指標にしてmutation
rateおよびその機構の解析をはじめた。これら4種の細胞は上記のTT除去能以外にもgrowth
rate、chromosome number、UV感受性等の点で異った性質をもつため今後の解析は面白くなると思う。
学年末で多忙のため詳細は示せなかったが、次の機会にこれらについて詳細に報告する予定である。
:質疑応答:
[勝田]原株にはラクトアルブミン水解物が入っているのですか。
[堀川]それにパイルベイトが入っています。
[黒木]その株は以前私が培養していた頃は、パイルベイトとセリンを添加してラクトアルブミン水解物は入っていませんでした。
[堀川]Mutationと癌化をどう関連づけたらよいのでしょうか。化学物質による変異そのものは捕まえられると思います。その変異の機構の追跡も可能だと思いますが、発癌の機構を追うとなると、パイルアップコロニーでパッパッと数を出してゆくというようなやり方でよいものかどうか・・・。何かよい指標はないものでしょうか。
[佐藤二]この実験で使っているのは殆ど癌細胞ですね。癌細胞と正常細胞とでは、変異→発癌の機構が本質的に違うのではないかと思いますが・・・。
[堀川]少なくとも変異の機構については本質的に同じだと思います。
[勝田]培養内では色んな方向への変異が始終起こっていると考えています。それを培地中のある種のペプチドがセレクションをかけているというような事も考えられるので、さっき培地にラクトアルブミン水解物を使っているのかと質問したのです。
[黒木]最新のPNASに正常人由来のリンパ球と白血病細胞とではDNA
polymeraseの読み取りが違う。白血病細胞のpolymeraseは間違いが多いという論文が出ていました。癌というのは菌の突然変異のように一時的に起こるものではなく、何か連鎖的な変化の産物ではないでしょうか。
[堀川]私の実験も本当は正常由来の細胞を使いたいのですが、使いやすい系となると、こういう細胞になってしまうのです。
[梅田]ヒトの2倍体細胞からは8アザグアニン耐性株がとれないと聞いていますが、何か理由がありますか。
[堀川]出来ないというより取り扱いが大変難しいので、やらないのではないでしょうか。哺乳動物細胞は変異率の高いものと低いものとの差が大きいですね。
[梅田]それは何故でしょうか。遺伝子が多いからでしょうか。
[佐藤二]レントゲンで耐性株を拾っても、それがレントゲン照射によって変異したものなのか、突然変異によるものなのか、どうやって見分けるのですか。
[堀川]レントゲンにしろMNNGにしろmutantがinduceされると考えています。始からpopulation中にあることはあるでしょうが。私としては単なる変異と化学発癌とをどう結びつけるかが、当面の問題だと思っています。
《佐藤二郎報告》
Donryu系ラッテの肝臓は勝田の組織片回転培養で実質細胞を選択培養できる。然し培養日数の経過と共に染色体数の変化と核型の変化を生じて形態学的似も多型性、異型性を生じ、培養850日前後で自然発癌する。
(I)クローニング法でdiploid cellを維持できるか?
初代培養時第1回クローニング、培養268日目第2回クローニング、培養665日目第3回クローニングしてdiploid
lineを維持している(染色体数分布図を呈示)。
(II)クローニングによって得た小型石垣状細胞は自然発癌して肝癌を形成した。第1回クローニング後641日、1400万個接種のもの4例の内1匹が215日目に死亡した。
(III)培養581日目、601日及び626日で単個培養した肝細胞は染色体数、核型の変動が現われる。したがって単個培養の条件はかなりきびしいものと思われる。
今後の課題として、(A)長期培養されている正二倍体肝細胞が正常肝細胞の機能をどのように維持しているか、或いは更に維持が可能なのか、正二倍体性肝腫瘍ができるのか。(B)初代培養で分離されたクローン肝細胞はすべて自然発癌するのか。(C)培養法或いは培地を検討することによって正二倍体をクローニングしないで維持できるかどうか。等を検討しなければならない。要は正常肝細胞を培養で維持できる方法を見出さなければ真の意味のin
vitroでの化学発癌は有り得ないということである。現状では異性度?の増強を見ているにすぎない。
:質疑応答:
[高木]トリプシナイズする時の材料はどの位の大きさのラッテを使うのですか。
[佐藤]生後7日です。接種細胞数を減らすと上皮性のコロニーがとれ易いですね。
[梅田]アルブミン産生能はこの4種類の内のどの細胞にあるのですか。
[佐藤]この4種類はきちんと調べてはありませんが、小さい方の上皮様細胞に産生があったと思います。しかし今培養できているものは成熟型の肝細胞ではないようです。
[乾 ]4倍体近くのピークは正4倍体ですか。
[佐藤]違います。
[乾 ]顕微分光光度計を使ってDNA量を測ってみますと、ラッテでは生後2日には4倍体はなく、1週間では15%、1カ月では40%の4倍体がありました。
[勝田]肝細胞には2核細胞が多いのですが、その4倍体は1つの核ですか。
[乾 ]1つの核です。
[梅田]G2期のものとは考えられませんか。
[乾 ]そうかも知れません。
[黒木]細胞の継代法は・・・。
[佐藤]15万個/mlで植え込み、週2回餌かえ、3週間で継代しています。
[黒木]継代しないでおく方が2倍体の維持はいいのではありませんか。
[高岡]ラッテ腹膜由来の細胞ですが、3年以上も正2倍体を保っていたのがありますが、なるべく増殖を抑えて、継代もあまり頻々とはしていません。
[佐藤]トリプシンの影響があるでしょうが、血清も関係がありそうですね。
[乾 ]正2倍体を維持していて、染色体が乱れはじめた時期では動物に接種してもtakeされないというのは、どうお考えですか。
[佐藤]悪性化に前癌のようなものがあると考えています。それからmass
cultureでもsingleを拾ったものでも、動物にtakeされるようになるには培養日数がある長さ、何年かが必要なようです。
[乾 ]私の実験でMNNG処理の例ですが、処理後2倍体からずれて小さなピークが出来、動物にtakeされる時期にはそのずれたピークが大きくなっている、というのがありますが、先生のはtakeされる時期にあまり収斂しないようですね。
[黒木]cloningしないと2倍体の維持が出来ないのは、2倍体の方が増殖がおそくsaturation
densityが低いので、select outされるという事ではありませんか。
《乾報告》
Kentackyタバコ、マリハナタバコ煙の組織培養細胞に対する影響:
今月は、昨9月〜11月スイス国立癌研滞在中の仕事の報告を致します。タバコの煙が動物に投与した時、気管支上皮に変性をおこし、又同上皮細胞の芳香族炭化水素活性化酵素の活性の上昇を誘導することが知られております。又タバコタールは培養細胞に悪性転換をもたらすことも同時に知られ、他方マリハナは直接投与により組織培養細胞に細胞学的、染色体形態的変化を誘起しないという報告が多い現状です。
今回の実験はKentackyタバコ煙をPositive
Controlに使用し、マリハナタバコ煙の人起原細胞に対する細胞学的影響を細胞核DNA量の変化、染色体数を指標として検索してみました。
材料として25才の正常男子の肺起原繊維芽細胞を用い、DulbeccosMEM+20%CS、5%炭酸ガスの条件下で培養し、単層培養直前の状態で培地を取り去り、研究所Kentacky
Standeredタバコ、及び同タバコに一本当り0.5gのマリハナを混合したタバコ煙をStandered
Smoking Machine(Filrona CSM12)で次の条件下で作用した。作用条件は各回の露出時間を8秒とし、58秒間隔で8回のPuffを行った。Paff直後37℃のHanksで一回洗滌後、通常の培地で培養し、作用後3、6、12、28日目の細胞を固定、一部はFeulgen染色後分裂核についてmicrofluorometryを行なった。一部は低張処理後、通常の方法でAir-dry、Giemsa染色し、染色体観察を行なった。DNA測定の結果は(図を呈示)、分裂中期後DNA量の分布の幅は、正常細胞核のそれに比して大きい値を示した。Kentacky、マリハナタバコ煙火煙作用の両者を比較すると前者ではDNA量は増大の傾向、後者では減少の傾向がみられた。分裂後期核DNA量の変化は略々分裂中期細胞核のそれと同様であるがその変量の度合が大きかった事実は、タバコ煙、マリハナタバコ煙処理細胞が核分裂の際、不均等分裂の頻度が増大することを、示唆していると考えたい。タバコ煙、マリハナタバコ煙投与後の染色体数の経時的変化は(図表を呈示)、Kentackyタバコ煙投与の染色体数の変化は、投与後3日では著明でなく、12、26日と日時の経過と共に変異細胞数が増大し、染色体数変化は増加の傾向を示した。マリハナタバコ煙投与群の染色体変異は投与後3日目に表われ、染色体数45の細胞の出現頻度は時間の経過と共に減少し、投与後26日では10%であった。これに反し相対的に染色体数47以上の細胞の出現頻度が増大し、対照に比して細胞分布の幅は大きかった。
:質疑応答:
[梅田]煙りにさらす時、controlはどうするのですか。乾いてしまう心配は・・・。
[乾 ]対照は同じ時間だけ煙なしでさらしておきますが、この位の時間では乾いてしまう事はありません。
[堀川]ケンタッキーとマリハナは本質的にどう違うのですか。
[乾 ]マリハナは1本当たり0.5g加えてあり、煙の粘度が高くなりますね。
[堀川]マリハナタバコは社会的問題にはなっていないのですか。
[乾 ]一過性には精神状態がオカシクなって、窓から飛び降りたりするそうです。それから白血球の培養にマリハナの主成分を加えてやると、染色体の切断が起こることが知られています。
[堀川]染色体数変化にケンタッキーとマリハナでは結果に差がみられませんが、染色体の切断はどうですか。
[乾 ]ヒトの肺細胞では切断は起こりません。ゴールデンハムスターの肺細胞で切断が起こりますが、ゴールデンハムスターは何故か他の物質でも切断が起こり易いのです。
[黒木]成分を精製できていますか。煙より培地に溶かした方が定量的でしょう。
[乾 ]白血球にはエキスを添加しました。煙の方がマイルドです。
[堀川]タバコとX線の相乗ではすごい発癌作用があると云われていますね。
[勝田]それは細胞レベルではどうですか。
[乾 ]細胞レベルでのタバコの発癌実験が少ないので、まだ判っていませんね。
[勝田]どういう事ですかね。
[堀川]どういう事が起こるのか、ぜひ細胞レベルでの実験をやってみたいですね。
[乾 ]タバコの実験は仲々条件がはっきりしなくて、やりにくいですね。
[佐藤]吸ったり止めたりというのが、どう影響するのかデータがありますか。
[勝田]ハムスターは煙草を吸った事がないから煙草煙で染色体が切断されるのかな。
[松村]この装置は煙草の煙以外の、例えば一酸化炭素などの影響はありませんか。
[乾 ]あることは有りますが、ヒトが吸う場合と同じように・・・。
[松村]一酸化炭素があっても一向に差し支えないというわけ・・・。
[堀川]8秒吸って53秒休むというのも合理的ですね。実際そんな具合に吸ってますよ。
[藤井]煙草の煙でないもので、煙だけ吸うという対照は必要ないでしょうか。
[黒木]フィルターなしではどうですか。
[乾 ]フィルターなしでこの条件では細胞が皆死んでしまいます。
《梅田報告》
(I)先月の月報でしりきれとんぼみたいになって了ったのですが、次はあの結果を如何に表現したらいろいろの知見が得られるかと理屈で考えてみました。(夫々図を呈示)
Absolute plating efficiency(APE)=No.of
colonies produced/No.of Cells inoculated
X100。Relative plating efficiency(RPE)=APE
of the treated/APE of the control X100。Reltive
transformation rate(RTR)=No.of transformed
colonies in the same cultuures/No.of colonies
in the treated cultures X100。Relative mutation
rate(RMR)=No.of mutants colonies in the same
cultures/No.of colonies in the treated cultures
X100。
Mutationをやっている人、それにならったと思われるHeidelberger、DiPaolo等の表現はAPEとRPEとRTR
or RMRをy軸に、使った薬剤の濃度をx軸にとっています。之等の表現でははじめから細胞はtransformationを起すときは、一方で細胞が死に、plating
effciencyが下るような薬剤の濃度を使わないといけないような考え方を前提としています。
しかしこれでは(a)もし始めからtransformed
cell populationがあってこれが使った発癌剤にresistantであるとした時もこのような線が画けそうですし、更に(b)2つ以上の発癌剤のtransformation
rateを比較したい場合、各発癌剤の有効濃度が違っていると比較が非常にむずかしくなる等の問題点があります。特にcytotoxicityとtransformationの関係を云々したい場合かえって問題をむずかしくしている感もあります。即ち例えばRPEが50%になった時のTRを比較するのでないと、使った発癌剤がよりcytotoxicなのか、或はよりtransformableなのかはっきり云えないのではないかと考えたわけです。
(II)そこで発癌剤の濃度は消えてしまうけれども、y軸にtransformation
rateを、x軸にplating efficiencyをとったらどうかと考えました。
誰か先人がすでにこのような表現をしているかも知れませんが、とにかくこのようにしてみますと、理論的にいろいろのことが考えられます。
(III)先ず(a)のSelectionの問題です。理論的なので前提として次の2るのきれいなpopulationを想定します。一方の発癌剤にsensitiveで発癌剤をかけてもtransformしない細胞のpopulation、それに対しすでにtransformしている細胞のpopulationがあり、それは発癌剤に対しある濃度まではresistantでそれ以上は濃度上昇と共に第1のpopulationの細胞と同じ様に新手いくと考えたとします。
この2つのpopulationに対して実験した時のデータを我々の表現法で画いたとしますと、線(4)の如くなることが理論的に考えられます。−以後図の説明になる− 45°の直線でRTRが上昇し、RPEが(6)に達すると横にねるようになります。この耐性の程度がやや低いと即ち図3の(A)の(3)の如くですと、(B)の(5)のようになります。(4)の45°より下に傾斜がゆるやかになるわけです。そして(7)の点は無処理の時にもあるtransformation
rateで即ちSpontaneous transformation rateでもあり、又この示す値のものはresistant
tranasformed cellのsensitive untransformed
cellの比と考えられます。
ここで強調して云えることは、直線は45°以上傾斜が急にならないこと、始めからSpontaneous
transformationが認められること等です。ですから逆に45°以上にたっている場合は必ずselectionよりもinductionがあったと考えてよさそうです。もちろん後でものべますが45°より以下でもすべてがselectionと云うわけでなくinduction
rateは低い物質と考えて良さそうです。
(III)次にinductionとした場合どんな線が引けるかを考えてみました。ここでX線照射で説明されているようなtarget
theoryで考えてみました。このように考える前提は発癌剤の化学作用はいろいろ説明されていますけれど、そのある特定の化学反応がある時には細胞の死に、ある時はtransformationに導く、即ち同一の化学作用が細胞のある特定の部に作用すると死に、又別の部に作用するとtransformationに働くと考えても良さそうだからです。そうするとこの夫々の特定の部をtargetとして表現して良さそうである。そこでlethal
target(L)とtransformation target(T)を考え、hit(H)として之等targetを効果的にhitして夫々lethalに(plating
efficiencyがおちる)、あるいはtransformationに(transformation
rateがあがる)導くと考えます。
以上の前提はすべてcell cycleの関係、発癌剤の細胞内での代謝、late
effect等々無視していますが、とにかくそのように考えてT
targetに又はL targetにhitされた場合、その効果が1:1の割合で表われると考えた時は図4の(A)、Tの方は少なくてL
targetには沢山あたって始めて効果をあらわすと考えると図4の(B)、(C)その他が考えられます。
そして更に夫々に細胞の中にあるT及びLの数により傾斜が変ってくることも説明されます。このことは更にのべますが、数だけでなくtargetの大きさの違いと考えても良いわけです。
このうように考えてきますと(A)(B)(C)の3つともspontaneous
transformationのある方があたり前の線なのです。本当に理想的にSpontaneous
transformationがなく発癌剤によりinduceされてくる実験は(D)のようなカーブを画くであろうと想像されます。(この説明はちょっとわからないのでお教え願いたいと思っています。)
(IV)更に今使っている実験系の細胞のpopulationがtransformationを起して良い細胞のpopultionとtransformationは絶対に起さない細胞のpopulationの混ざったものを想定しますと図5の如く丁度selectionの時のようにある一定の時からtransformation
rateは横に寝ます。この時の(1)の値が全細胞中のtransformationを起こしても良い細胞の%をあらわしています。
(V)以上を前提として前回の月報にかいたデータをこの表現法であらわしてみますと、ややデータがばらついていてそれ程きれいではないのですが、殆直線となり、しかも45°よりずっと傾斜の急なものになっています。ですからSelectionでないことは間違いありません。実験によって直線が、おおまかに云って平行移動しており、下の方はspontaneous
transformationを起していなくて、上の方は起していることも興味があります。一部アルカリ処理した時期があるのですが、ここではデータがそれ程厳密でないので深くは考えないことにします。
(VI)又mutationをやっている人のUV照射でのmutation
inductionのデータを我々の表現法に切りかえてみますと傾斜のひくいものになりました。これは明らかにmutant
inductionより細胞のlethelityの方にUVが高く働いていることを示します。特にUV照射の場合mutation
rateがDNAの長さのうちに占める割合で決まると説明されていますし、確かにUVそのものはnon
selectiveにDNAに照射されますので、mutable
geneの率は始めから全DNAに比し少く、そのため傾斜が低くなると考えられます。
それにひきかえ我々のデータは非常に良くtransformationをinduceしていると考えて良さそうです。
(VII)ここで再びT或はL targetの数の問題にかえりますと、一つの細胞で発癌剤が変るたびにTの数が増えたり減ったりすると考えるのはどうも無理なようです。UV照射の時のnon-selective
hitと違って発癌剤の場合どうもT-Targetに親和性があり、T-targetに集まってきて作用を現わしているような感じがあり、そのため傾斜は急になると考えられます。target
and hit theoryそのものが非常に機械的なat
randomな考え方なので親和性を説明するのは無理なのですが、しかし便宜上それをtargetの大きさ(size)で考えてみると、発癌剤が決まると相手の細胞の方のT或はL
targetの大きさが夫々変り、それに応じT或はL
targetにあたり易くなる。
DiPaolo、Sacks等のtransformation実験は、形態的な判定がもしも正しいとすると、一応transformationをinduceしていると結論しても良いようである。しかし、実験により、全体にtransformation
rateが上ったり下ったりする現象もあり、まだまだ問題は解決されていないのが、我々の結論です。
:質疑応答:
[黒木]PE/変異率で現すとかえって判りにくくなるのではありませんか。個々の濃度でみた方がよいと思います。D/D0が一番信頼できるでしょう。
[堀川]考え方としてもう少しsimpleな方が良いでしょうね。
[黒木]pHを重要視したのは何故ですか。
[梅田]私自身の実験系で、どうも発表されている他の人のデータより変異の時期が遅れるのは何故か考えているうちに、pHなどが怪しいのではないかと思いました。
[黒木]培地のpHをいくら調整しても、培養を始めると簡単に変化してしまうというdataがありますね。HEPESではpHの維持が一定になるでしょうか。
[梅田]かなり安定ですが、矢張りピッタリというわけにはゆきません。
《野瀬報告》
Cytochalasin Bによる細胞の無核化
Alkaline phosphatase活性の調節機構を研究するための、一つのアプローチとして細胞融合による方向を考えている。その場合、融合する細胞の片方が無核細胞であれば、その遺伝情報を考慮する必要がなく、解析が容易になると思われる。そこで、細胞の核を抜く条件の検討を行なった。
無核化には、最近、カビの代謝産物の一つであるcytochalasin
Bがよく用いられている。この薬剤を2mg/mlの濃度でDMSOに溶かし、0.5〜10μg/mlになるように培地に加えて細胞の形態を観察した。使用した細胞株はL・P3、JTC-25・P5、RLC-10、JTC-21であるが、核が著しく細胞質から突出してきたのはJTC-21であった。この細胞は元来DM-145で継代されていたが、実験に用いる際はcalf
serumを2%加えてある。cytochalasin 2μg/mlの濃度で加え、2〜3時間37℃で培養するとかなりの数の細胞の核が突出してくる。これ以上の濃度では細胞質の縮退がおこり細胞に障害がある。無核の細胞は、cytochalasin
B処理を24時間続けても1%程度しか出てこないので、この細胞に遠心力をかけてみた。細胞をglass
cover slipに生やし、cytochalasin B処理をし、次に、Spinco
SW50Lで、1万rpm 30分の遠心を行なった。この場合、遠心管内には薬剤を2μg/mlに加えた培地を入れておく。遠心後、methanol固定し、Giemusa染色して、一定視野内の有核、無核細胞を数え無核化の頻度を測定した(表を呈示)。遠心を行なうと80%以上の細胞が核を失ない、細胞質だけになった。細胞をあらかじめ薬剤で処理せずに薬剤存在下で遠心しても同様な結果が得られたので、前処理は必要ない。遠心する場合、glass
cover slipが割れることが多いので多量の細胞を処理するのが困難である。
次に無核細胞を分劃することを試みた。有核と無核とは比重が異なることが予想されるので、Ficollの密度勾配上に細胞をのせて遠心し、細胞の分布をみた(図を呈示)。この実験では、予備実験としてL・P3細胞を用いて行なった。細胞は遠心後各Ficol層に分布し、幾つかの分劃に分れた。それぞれのDNA/proteinの比を較べると、遠心管の上層に分布している細胞の方がこの比が小さく核の有無によって分劃される可能性は十分考えられる。しかしJTC-21細胞では、まだ十分量の細胞が集められないので分劃は行なっていない。
JTC-21細胞はalkaline phosphataseIの活性が高く(比活性>10,000
units/mg protein)、その性質が安定なので、この細胞質と、この酵素活性が低い細胞とを融合して活性の変化を見たいと思っている。
:質疑応答:
[梅田]遠心沈殿中にカバーグラスが壊れませんか。
[野瀬]壊れます。色々やり方を工夫しています。プラスチックのカバーグラスでやり直してみようとも考えています。
[梅田]ローターはスヰングですか。
[野瀬]そうです。
[堀川]フィコールで分劃する他に、BUdR→光という処理を使ってみたらどうですか。
[野瀬]無核細胞は、そう長く生きていられないので、時間的に無理だと思いますが。
[梅田]サイトカラシンの処理前にBUdRをかけておけば後は光をあてるだけですね。
[黒木]サイトカラシンを処理してフィコールで沈殿させればどうでしょうか。
[梅田]脱核の機構はどうなっているのですか。サイトカラシンBは多核も出来ますね。
[堀川]細胞質だけの細胞の動きはありますか。
[野瀬]映画はまだ撮っていません。
《黒木報告》
<レプリカ培養によるUV感受性細胞の分離>
レプリカ培養方法を用いてL5178Y(DBA/2マウスリンパ球性白血病)、FM3A(C3H/HeNSaマウス乳癌細胞)よりUV-感受性細胞を分離した(分離方法の図を示す)。
1.対数増殖期の細胞にMNNGを0.05〜0.2μg/ml/h/100万個cells処置する。1時間後細胞を洗いTD-40で2日間培養する。
2.平板寒天に500〜1,000ケ/90mmシャーレにまき2週間培養、コロニーを作らせる。
3.四枚の平板寒天にレプリカし、No1、No3をコントロール、No2、4を50erg
UV照射する。1週間培養後、コントロールには存在するが、UV照射群では小さいまたは増殖していないコロニーをコントロール群よりひろう。
4.数日間短試で培養したのち、0、25、50、75ergでdose-responseカーブをとる。このとき、0.25ergは200ケ160mmシャーレ、50、75ergは2,000ケ/シャーレにまいた。四つ目シャーレ(Falcon#1065)使用。
5.2週間後にコロニー数をカウントし、dose-responseカーブで、明らかに異るクローンをUV-感受性として判定する。
<結果>
(表を呈示)最終的にUV感受性と判定されたCloneは、L5178Yから6、FM3Aから1である。このほか現在dose-responseカーブでV37、Vq、n値を測定中のものがいくつかあるので、さらにふえるであろう。FM3AとL5178Yを比較すると、後者の方が変異率が高い。その理由はよく分らない。この1%前後の率は従来の報告よりも非常に高いが、それは一つにはレプリカ培養を用いたことと、また、細胞の特殊性があるかも知れない。変異率はMNNGの濃度と関係があるかどうかは目下MNNG
0の群をおいて調べているところである。
(図表を呈示)UV感受性細胞のdose-responseカーブ及びD37、Dq、nをみると、D37値で約1/3〜1/2に減少している。9〜11ergという値はXero.derma
pigment.の細胞とほぼ等しい。現在、これらの細胞の修復のメカニズムを行いつつある。
:質疑応答:
[堀川]変異率が高いですね。このUV感受性がmarkerになるかどうかが問題ですね。Xerodermaの細胞ののように感受性が高ければはっきりします。
[勝田]安定性も問題ですね。
[堀川]感受性、耐性というのはなかなか難しいですね。栄養要求の場合はall
or noneでゆくのが取り柄です。
[勝田]耐性株もとっておく必要がありますね。
[黒木]今やっています。
【勝田班月報・7304】
《勝田報告》
長期間継代中におけるラッテ腹膜細胞株(RPL-1)の染色体構成の変化(表を呈示)
RPL-1株は生后1月のJAR-1系、F15♀ラッテの腹腔をトリプシン消化して得られた腹膜細胞の株である。1962-4-12培養開始、1963-2-9の検索では染色体数modoは42本で、核型は殆ど正常であった。ほぼ10年后の1972-4-15の核型では、正常にはないSubmetaとLargemetaが少数ながら観察された。染色体数modoは41〜44本であった。このように、核型の上からもかなり安定した細胞であるので、今後の発癌実験に大いに使いたいと考えている。
《乾報告》
化学発癌物質中、同時に突然変異誘発能を有する物質の多くは、動物実験ではもとより、試験管内においても直接的に細胞毒性を示すと共に細胞にtransforming
Activityを示す。一方、発癌性芳香族炭化水素、芳香族アミン、多くのニトロソ化合物等は生体内で代謝された後、活性化され発癌性を有する中間産物になると考えられin
vitroにおいて、発癌実験に用いるにきはめて不利な発癌剤である。
黒木班員は、芳香族炭化水素の活性化誘導体を用いて、エポキサイド型のものが培養細胞に発癌性を有することを証明した。
先に我々はニトロソ化合物の試験管内発癌実験を試みたが、ニトロソグアニジン系のものを除き、Dimethyl-、Diethylnitrosamine(DMN、DEN)での発癌実験には失敗した。
今回、初期細胞毒性と発癌性の関連を追試する目的の基礎データをとるため、DMN、DENを含む8種のニトロソ化合物の細胞毒性をハムスター細胞を使用して検定した。その結果、N-Methyl(Ethyl)-N'-nitro-N-nitrosoguanidineの2種のニトロソ化合物は10μg/mlで細胞に強い毒性を示したが、動物実験で発癌性の認められるDimethylnitrosamine、Diethylnitro-samine、l-nitroso-piperdine、nitrosdiallyamine、N-nitroso-dibuthylamine、又発癌性の認められないDenitrosoguanidineは1mg/mlの投与によいても細胞毒性が現れなかった。
一方においてニトロソ化合物、特にDimethylnitrosamine(DMN)、Diethylnitrosamine(DEN)の動物体内での活性化の機構はよく研究されており、生体の肝臓でDemethylationされ何段階かの中間物質をへてジアゾアルカンになり、この物質がDNA、RNAのグアニンの7位の位置をMethyl化して発癌性をもつとされている。
現在我々はNitroso化合物の内DEN、DMNの二つの物質を選び、試験管内でこれらの物質を活性化し、in
bitroにおいて発癌の系を確立する目的で次の実験を行なっている。
即ち細胞にHamster Fibroblastを用いMEM+10%C.S.の条件でこの細胞を培養し、表の条件でとったHamsterのLiver
FractionをDEN、DMNと混合作用し、実験を経過中で、現在の処次の結果を得ている(表を呈示)。
過去の実験でLiver Fraction自身に細胞毒性が知られているので、F1〜F3Fractionについて、1ml中の蛋白含有量を1mgより対数的に0.31μg/ml迄8段階に分け、Hamster細胞を3日間Incubateした。脱核のみした細胞質の全FractionとみなされるF1では、蛋白量1mg〜100μg/mlで明らかな毒性がみられ、31.1μg/mlでもやや毒性が出現した。
F2 Fraction作用では前者に比し、細胞毒性はやや強く蛋白量10μg/ml作用群においても細胞毒性がわずかに認められた。
F3 Fraction毒性は前二者よりさらに強く、10μg/ml作用において著明な毒性3.1μg/ml作用においても細胞毒性が表われた。
以上の結果より、添加する蛋白量を各々20μg/mlと一定にして実験を進め、これにDMN、DENを同時に1mg/mlより0.31μg/ml作用して細胞毒性を検討中であるが、F1
Fraction+DMNでは10μg/ml、31μg/mlで細胞毒性の加算が表われ、DEN投与では毒性度に変化がなかった。F2
Fractionの場合3.1μg/ml DMN投与で細胞毒性が著明で、細胞毒性効果の加算が認められた。DENではこの差が認められなかった。F3
Fraaction+DEN、DMNの系では、今の処毒性の加算効果ははっきりと認められない。
以上の結果より、生体肝の酵素系(おそらくhydroxylase)によりDMNが活性化され、細胞にActiveに働く中間物質が試験管内で生成されると考えたい。今後、蛋白量とNitroso化合物の作用量の関係を追究した上で試験管内発癌の系を確立して行くつもりである。
以上の研究と試験管内発癌過程における染色体Banding
Patternの変化を本年追究したいと思っています。
猶、この3月31日付でもって、11年間御世話になりました癌研究所を退職し、4月1日より専売公社に新設される生物実験センターの組織培養部に移ることになりました。新研究所は10月1日より発足致しますが、この間半年今迄通り癌研に研究の場を置き研究させていただくことになり、新研究所のスタッフの約1/3も癌研究所高山研究室にお世話になることになりました。本年は雑事で少々能率が落ちるかと存じますが、皆様の御好意で研究を続けられそうです。どうぞ今後共よろしく御指導下さい。
《堀川報告》
HeLaS3細胞、またこれから分離したUV感受性のS-2M細胞、マウスL細胞、さらにはChinese
hamster CH-hai N12細胞を、放射線および各種化学薬剤で処理した際、8-azaguanine抵抗性という変異細胞がどのように出現するかを解析するための予備実験として、まずマウスL細胞を用いてX線照射後、変異細胞としてfixation
and expressionされるためにどの程度の時間を要するかを決定した。
まず培養ビン当り、100万個のL細胞を500Rで照射し、その後経時的に取り出して9cmシャーレあたり10万個づつの細胞になるようにして、10μg/ml
8-azaguanine培養液中で16日間それぞれ培養する。対照群として500R照射しないものについても同様の操作をおこない16日間培養した後のシャーレ当りに出現する8-aza対抗性コロニー数を算定して、mutation
frequencyを計算した結果が図1である(図を呈示)。この図からわかる様に、未照射群に比べて500R照射群のmutation
frequencyは明らかに高くなることがわかり、同時にX線照射によって出現する8-aza抵抗性のfixation
and expressionには照射後72時間位かかることがわかった。
さてこの様にしたデータを基にして、各種線量のX線を照射した後に、マウスL細胞からどの程度8-aza抵抗性細胞が出現するかを検討した結果が図2である(図を呈示)。まず、100万個づつのL細胞を各種線量のX線で照射し、fixation
and expressionのために72時間37℃で培養した後、10万個づつの細胞を10μg/ml
8-azaを含くむ培地中で9cmシャーレ内で培養する。16日間培養した後、シャーレ当りに形成された抵抗性コロニー数を算定し、これからmutation
frequencyを計算する訳である。
この図からわかるようにX線の照射線量に依存して、L細胞の生存率は当然低下するが、一方10万個生存細胞数あたりに出現する変異細胞(8-aza抵抗性細胞)数は、照射線量に依存して増加することがわかる。しかしこれらの誘発変異率曲線は決して直線的ではなさそうである。こうした結果は、Arlettら(1971)がChinese
hamster細胞で得た結果とよく一致している。なおTTdimer除去能などの点でマウスL細胞とはまったく異なった動態を示す前記各種細胞についても同様の検討が加えられているので、これらについてはまとめて、そのうち報告する予定である。
《梅田報告》
前回の班会議で試験管内発癌の仕事をするにあたって、自然悪性転換率が高い細胞でも発癌剤投与後の悪性化率をうまく表現すると、その図から悪性化を誘発したと結論され得る可能性を報告した。そこでそのようなことが示せる細胞探しから仕事を始めた。
(1)目下我々の研究室で無処理のハムスター胎児培養細胞の長期継代例が2例ある。そこで之等についてplating
efficiencyを調べた。K2B細胞は既に2年半培養しているもので1年半前に1回cloningしたことがある。ハムスターに1年前に復元したが、腫瘤は作らなかった。
HE細胞は丁度9ケ月半培養を続けているもので、cloningしたことはない。復元実験は行ってない。共に同時に4NQO等発癌剤を投与して悪性化した又はしたと思われる細胞に比べ増殖率は遅く、1週間で3〜10倍になる。
(2)plating efficiencyは、表に示す如く(表を呈示)、既に2年半も長期継代しているK2B細胞は9日間培養で約50%を示した。小コロニーではあるが境界のはっきりした類上皮性の細胞から成る。Conditioned
med.としたものは、1日間培養のConditioned
mediumとfresh mediumと1:1に混じたものであるが却ってPEは下がった。理由はわからない。
HE細胞ではPEは悪く、又いまだmixed populationなのでコロニーの形態もまちまちで、あった。この場合conditioned
mediumにしたものでのPEは上昇した。新しく培養し始めのハムスター胎児培養細胞では、更に悪いPEを示し、形態も更に多彩な像を示した。これもconditioned
mediumにするとPEが上昇した。
(3)次に上のPEを参考にして細胞数を定め、シャーレに植えこみ、1日後DMBAを投与して更に9日間培養して後固定染色してPEと夫々のコロニーの形態を観察した。DMBAは0.2μg/ml、0.1μg/mlの2濃度を選んだが、この濃度はラットのfeeder
cellを使ってのハムスター胎児培養細胞の試験管内発癌実験の仕事ではPEは数10%下り、悪性転換率は数〜10%誘起される濃度である。
(表を呈示)表に示す如く、K2B細胞にDMBAを投与すると、PEは殆んど変らず、K2B細胞はややDMBAに抵抗性がある様な感じを与えた。コロニーの形態も観察したが、pile
upした悪性と思われるものは見出されなかった。
(4)(2)で示した如くHE細胞はConditioned
mediumを使わないとPEが低いのでfeeder cellを使うことを考えた。しかし我々の研究室ではX-rayをかけるのが不便なので、出来れば薬剤処理で同じ効果を得る方法を考えた。そこでリンパ球培養を行っている人がよく行っているマイトマイシンC処理の方法を行ってみた。
先ずラット胎児培養細胞をトリプシンではがし細胞浮游液を作り、MitomycinCを25μg/mlになる様に加え20分37℃培養し、後良く洗滌して50,000細胞/シャーレの割合でまいた。1日後再び細胞を洗ってから500細胞/シャーレのHE細胞をまき、更に1日後DMBAを投与した。表に示す如くmitomycinC処理ラット細胞があるにも拘らず、PEはfresh
mediumにじかにまいた(2)の結果と同じ程度でありコロニーも非常に小さくてfeeder
cellをひいた効果は現われていなかった。因みにラットの細胞は細胞質をひろげ丁度X-rayをかけたfeeder
cellのような形態で培養期間中保たれていた。悪性化を思わせるコロニーの形成も認められなかった。
(5)目下DMBAを何回もK2B cellに投与する実験、ラット胎児培養細胞にβ-propiola-ctineを投与してfeeder
cellになるかどうかの実験を実施中であり、更にHEなりfreshHEなりからcloningで目的にあうコロニーを拾うことを計画している。
《高木報告》
1)培養内悪性化の示標について
平板寒天法に1/3血清を用いて、医科研癌細胞部よりいただいたRLC-10、CulbTC、JTC-16細胞株についてCFE(%)をみた。培地はいずれもLD+0.1%Bactopepton+10%血清で、寒天濃度は0.5%である。結果は次の通りであった(表を呈示)。
JTC-16は処理しない対照血清を用いた場合26.6%のCFEを示したが、1/3血清ではcolonyを形成しなかった。またCulbTCは両血清ともcolonyを作らなかったが、これは植込みの際細胞をtrypsinizeしたことも影響しているのではないかと考える。正常細胞であるRLC-10は寒天内で増殖出来ないようである。以上これまでの処、寒天培養法で1/3血清を用いて培養内で癌化細胞を同定する試みは良い成績がえられていない。最近、精製した硫安を用いてきれいな1/3血清がとれたので再検する予定である。一方1/3血清を用いて化学発癌剤処理後悪性化した細胞を早期に分離できないか検討しつつある。発癌剤としてはMNNGを用い、細胞はRFLよりクローン化したC-3細胞をさらに3回colony
selectionしてとった3C3細胞を使用してMNNGの処理条件を検討している。現在行なっている方法は、20万個/MA30の3C3細胞を継代24時間後に、MNNGで2時間処理する方法で、処理時には顕微鏡下ではやっと少数のmitosisがみられる状態で、その時の細胞数は植込み時のそれと大差がないものと考えられる。MNNG
10-4乗Mと5x10-5乗Mを2時間処理したところ処理細胞は完全に死滅してしまった。MNNG
10-4乗Mは14.7μg/mlに相当しており、以前に行ったMNNGの発癌実験では10μg/ml、1μg/mlで悪性化に成功した訳であるが、今回は細胞数が少ないためがMNNGの毒性効果が強く出てしまった。さらに濃度をうすめて実験の予定である。
2)ラット膵ラ氏島細胞の悪性化実験
月報7301で一寸ふれたが6-diethyl-aminomethyl-4hydroaminoquinoline-1-oxide(6DEAM-4HAQO)をラットの尾静脈から注射すると、高率に膵ラ氏島に腫瘍を生ずることが林により報告されている。
最近6DEAM-4HAQOを入手出来たので、まず16疋の生後4週のラットに週1回20mg/kgを8回注射した。来週から生後3〜4週のSDラットに、同様に注射する予定である。10〜20mg/kgを注射後大体400日で膵ラ氏島に高率に腫瘍を生ずるが、大量にたとえば40mg/kg同様に注射すると糖尿病がおこってラットは死亡する可能性が高くなる。この催糖尿病作用と造腫瘍作用とが量的な違いによりおこると云う点はきわめて興味深い。注射が終った後約1年は大切にラットを飼育しなければならない訳で、さしあたり正常膵島と腫瘍性膵島との形態学的、もしくは機能的相違を膵ラ氏島単離法を応用して検討したい。また膵ラ氏島細胞の、organ
cultureからcell cultureをする努力をし、培養した細胞に6DEAM-4HAQOを作用させてin
vivo、in vitroを比較してみたいと考えている。
3)RRLC-11細胞の放出するvirusについて
その後行った実験で、1)C-5細胞のcell sheetに作用させても、plaqueは形成しない。2)このvirusをC-5細胞の植えつぎと同時に作用させると、細胞は1〜2日増殖を示し、3日目頃から急速に変性をおこすが、full
sheetに作用させると中々変性をおこさず少なくとも1週間は細胞はそのままの状態でガラス面に附着している。3)このvirusはetherに耐性であること。4)細胞のこのvirusに対する感受性に関して、Haylickん人二倍体細胞WI-38は全く変性をおこさないが、他部局からもらったHeLaはやや変性をおこす。この点再検中である。
CulbTCは変性をおこす。・・・などのことが判った。
《山田報告》
引続きConA及びNeuraminidase、更に(But)2
cAMPのラット肝及び肝癌細胞への作用、特に相互の作用の拮抗について検索しています。
今回は培養したAH-66F株について日を追って検索してみた結果を報告します。実験群にはioculateした翌日より0.5mM/m(But)2
cAMPをメヂウムに加えた細胞ですが、今回の細胞の増殖をみると、かえって促進されている様です。しかしConA及び(But)2
cAMPの反応は対象群にくらべてかなり異りました(表1、2を呈示)。
(But)2 cAMPを含むメヂウムで培養されたAH-66Fは、ConAに対する反応が弱く、対象細胞ではその泳動度が上昇するにかかわらず、むしろ低下しました。即ち、悪性腫瘍細胞とは異る反応を示しました。また低濃度のConAの反応はその細胞の状態により反応する至適濃度が異ることも知りました。
次にin vitroで1mMの(But)2 cAMPを反応させますと、対象細胞は3、4、7日目に著しく反応して居るにかかわらず、(But)2
cAMPを含むメヂウム内培養のAH-66Fではかへって減少して居ります。
Neuraminidase処理後、1mMの(But)2 cAMPを反応させると対象細胞と共にいづれも泳動度が上昇しますが、その程度は対象細胞に特に著明です。
(But)2 cAMPが膜にどの様な変化を惹起するのか、いまだ明らかではありませんが、特に悪性化に伴う変化の一つとして、(But)2
cAMPの感受性の変化が悪性の指標になる様に思えて来ました。現在培養正常ラット肝細胞について検索中です。その結果ならびに基礎実験を続けて、(But)2
cAMPの膜に対する直接作用を更に分析したいと考えています。
《藤井報告》
凍結から戻したCulb-TCが一向に増殖せず、じっと養いつづけている状態で、この班での仕事ができておりません。
リンパ球-腫瘍細胞混合培養反応で、マウスのMC-発癌過程で宿主リンパ様細胞が、MC腫瘍に対して、どのような腫瘍抗原認識反応を示すかを調べていますので、その結果を述べます。実験は、C57BLの皮下にMC
0.1ml(ラッカセイ油にとかす)を注射し、注射后1、2・・・5月のマウスの脾細胞と、発癌MC肉腫細胞(8,000R照射)と混合培養し、その后、被刺激リンパ系細胞のH3-TdR摂取をみます。
結果:(1)同系腫瘍に対し、脾細胞は反応する。(2)MC注射后1月辺りで、MC肉腫細胞に対する反応が低下するが、その后発癌前期、発癌期(触知しうる意味で)に上昇する。(3)発癌后(担癌期)に低下する。(4)非担癌期の反応はおそく、担癌、発癌期の反応ピークは早期にある。これらは、免疫学的認識機構と発癌に関し、一応面白い成績ですが、さらに確かめてみます。(図を呈示)
《黒木報告》
L5178Y細胞及びその紫外線感受性クローンの傷害修復機構について
紫外線によるDNA傷害の修復をみる技術として
(1)thymine dimerの測定
(2)unscheduled DNA合成(autoradiography)
(3)H3-BUdRなどのsemi-conservative DNA合成以外へのとりこみ
(4)single strand excisionの検出
などがあるが、これらのうち(1)と(3)が理論的にもはっきりした技術と云える。そこで(3)のH3-BUdRのとりこみから実験をすすめた。
その原理は図を呈示する。図のようなreplicating
forkで、semi-conservative DNA合成にとりこまれたBUdRは、その量が多いため比重が約1.750になる。しかしrepairにとりこまれたBUdRは、その量が全体に比して小さいため、比重はnormal(ρ=1.700)である。したがってもしexcision
repairがあればH3-BUdRのradioactivityはρ=1.700附近に見出されるはずである。実験のscheduleを図で示す(図を呈示)。
DNA抽出:cell pelletをSSCで1度洗ったのち、1%SDS
in SSCで10分間lysisさせる。pronaseを1mg/mlに加え37℃に1時間おく。-20℃に冷やした2ethoxy
ethanolを等量、重層させ、ガラス棒で静かにかきまぜると、DNAはjelly状に析出、ガラス棒でつりあげSSC中に溶解させる。完全にとけたのち、等量のクロロフォルム:イソアミルアルコール混合液(24:1)を加え、shaking遠心して除蛋白する。この方法できれいなDNA(OD
260/280:1.8〜2.0)を、500万の細胞から約50μgとることができる。
CsClで28,000rpm 65時間分離後、30〜40分劃にbottomより分劃する。radioactivityは、ガラスfiver
filterに吸着(5%TCA ppt)させて測定した。比重は、屈折率より計算した(ソニーcomputer)。
結果は50、100、250、500ergの照射のいずれでも、ρ=1.70附近へのピークがみられなかった(図を呈示)。このことはL5178Y細胞が切り出し修復以外のメカニズムで修復しているものと思晴れる。例えば、post
replication repairなども考えねばならない。なお、FM3A、L5178YSB-3、L5178YSB-5の三種の細胞も同様のprofileを示した。ただし、HeLa細胞はρ=1.70附近にpeakを示すので、Cleaverらの云うように切り出し修復をもつのであろう。
考えてみると、皮ふを直接日光にさらす動物はヒト以外にはないわけで、もしあったとしても例えばカバ、ゾウ、サイなどのように厚い皮ふをもつか、キリンなどのように体毛におおわれている。マウスが天井とか穴のなかに住んでいるために、切り出し修復を必要としないのかも知れない。
《野瀬報告》
誘導されたalkaline phosphatase-Iの安定性について
月報No.7210に、But2 cAMPによって誘導されたAlkaline
Phosphatase(ALP)-Iは、But2 cAMPを除くと、半減期約42時間で減少してゆくことを報告した。ALP-Iの細胞内での安定性は、誘導機構の面からも重要な問題と考えられるので、更に実験を行なった。
JTC-25・P5Cl-1細胞にBut cAMP(0.25〜1mM)およびtheophyllin(1mM)を加え4日間培養し、培地を除いてこれらの薬剤を含まない培地を加え、更に培養する。tube当たりのALP-I活性は図1のように減少するが(図を呈示)、同様な4回の実験の結果から半減期は、85、95、98、110時間となり、No.7210の結果より長い値が得られた。従ってBut2
cAMP除去の際のALP-Iの安定性は平均97時間の半減期をもって減少するものと考えられる。But2
cAMP除去により、ALP-Iの合成又は活性化が直ちに停止するのかどうかはこの結果からは決定できない。しかしALP-Iの減衰曲線は数回の実験で、すべて最初の2日間位で勾配が急で以後次第になだらかになってゆく傾向をもっている。従ってBut2
cAMP除去の効果は、直ちに発現されていると考えている。
次に、やはりNo.7211で報告したタンパク合成阻害剤の作用を追試した。But2
cAMP(0.25mM)+theophyllin(1mM)で4日間細胞を処理し、(1)+But2
cAMP、(2)But2 cAMP+cycloheximide(2μg/ml)、(3)+cycloheximideの3群に分け培養を続ける。図2に見られるように(図を呈示)ALP-Iの比活性は、-But2
cAMPでもcycloheximide添加により低下せず、また
+But2 cAMP+cycloheximideでも-cycloheximideと同じく低下していない。しかし図2の結果で、tube当りの結果とすると、+cycloheximideによりALP-I活性は低下し、この低下がタンパクの低下とバランスを保つため、比活性は一定になったと考えられる。cycloheximideは細胞毒性が強いので、このような20時間以上の培養に加えても意味がないのかも知れない。その点を考慮しても、cycloheximide添加(-But2
cAMP)でALP-Iの比活性が40時間以内には、ほとんど変化しないことは、この酵素が細胞内で非常に安定な酵素であると言える。
酵素の安定性を他のタンパクの安定性と比較するためH3-Leuで細胞をラベルし、多量の"cold
"Leu存在下でlabeled proteinsの減少を見たのが図3である。cycloheximideの有無に関係なく、半減期はそれぞれ58時間、84時間であった(図を呈示)。
【勝田班月報・7305】
《勝田報告》
各種培養細胞株の増殖に対するSpermineの影響について:
これはまだ実験を継続中のデータである。
(図を呈示)縦軸は3日間のTC中におけるControlの増殖率に対する、Spermineを添加した実験群の増殖率の比である。培地は3日間交新しなかった。
横軸はSpermineの各種濃度である。
1図のRLG-1は正常ラテ肺由来のセンイ芽細胞であるが、自然発癌し、かなりの悪性を示すようになった。その下の2種はsecondary
cultureである。
2図はラッテの肝細胞由来の各種の株であるが、悪性度の高い株ほど阻害のされ方の少い傾向がある。
この所見から考えて、確定的には云えないが、1)同じ濃度で比較すると、上皮系よりもセンイ芽細胞の方が抵抗力が強いらしい。2)腫瘍性の強い細胞ほど抵抗性も強い、という傾向がうかがえる。
《山田報告》
その後引続き(But)2 cAMPの表面荷電に与へる影響について、検索して居りますが、漸くその作用の条件がわかって来ましたので、その幾つかをまとめてみます。
1)(But)2 cAMPは一見調節的に作用するごとく思われる。すなわち図に示すごとく(図を呈示)、AH-66Fに対し、増殖の盛んな状態(表面荷電密度の増加の状態)では抑制的に働き、その荷電を低下させるが、増殖の衰へた状態(表面荷電密度の低下の状態)では促進的に働き荷電密度を増加させる。あらかじめNeuraminidase処理しておくと、この傾向は助長されるが、荷電を低下させることはない。なほこの作用はButylic
acidそのものにはないことを確認。
2)この(But)2 cAMPの作用はConAの作用とuntagonisticである。
3)Nueraminidase処理後(But)2 cAMP作用をうけた細胞の膜は、対照無処理細胞に比較してニグロシン色素の透過性が減少する。(But)2
cAMPのみを作用させても、同様なことが云へる。即ち単なるCytolyticな反応ではない。
4)更に興味あることは、phospholipaseCに対する感受性をしらべた所、このNeuramini-dase処理後(But)2
cAMP作用をうけた細胞は、phospholipaseCに対する感受性が減弱して居る。即ち対照細胞がcytolysisを起こす濃度のphospholipaseCでも、依然として細胞は破壊されず、しかもその泳動度の減少がより少い。
5)Neuraminidaseに対する感受性も、カルシウムイオンの吸着性もあまり差がない。またPhospholipase-A及び-Dに対する感受性には差がない。
6)陽イオン、カルシウム、プロタミン-Sの存在下でも、(But)2
cAMPは反応する。ホルマリン固定細胞でも反応する。
この様な結果から、更に荷電の分布の変化についてしらべてみようと思って居り、準備中です。
《高木報告》
Nitrosated arginine derivativeによる培養内発癌実験:
今月から本実験についても少し触れてみたいと思う。この実験は、九大癌研の遠藤教授が合成したnitrosated
arginine derivativeの中の1つにつきin vitroの発癌性を検討しているものである。このderivativeにつき遠藤教授の諒解の下に簡単に紹介すると、次の通りである。Benzoyl-L-arginine(BAA)やAcetyl-L-arginine
amide(AAA)は、突然変異誘起性があることが知られている。この中nitrosated
BAAについては、近日中にpaperになる由であるが、このもののactive
principleは、4-benzoylamido-4-carboxamide-n(N-nitroso)Butylcyanamideで、E
coli、Salmonella typhi muriumに対してMNNGの約30倍のmutagenic
activityがあることが判った。現在実験に用いているものは後者すなわちnitrosated
AAAであるが、そのactive principleは、4-acetylamido-4-carboxamide-n(N-nitroso)Butyl-cyanamide(AAACN)である。このものは図の如き構造式を有することが判り(図を呈示)、融点113〜115℃、pale
yellowの針状の結晶で、水、アルコールによくとける。RFLC-5細胞に対する毒性は図の通りで(図を呈示)MNNGと比較すると、MNNGは10-4乗MでRFL細胞の増殖を明らかに抑制したのに対して、AAACNでは同一濃度で可成りの増殖を示している。毒性は、MNNGより弱いことが明らかである。mutagenic
activityの強いこのAAACNがCarcinogenic activityもあるか、否か、RFLC-5細胞を用いて検討している。10-4乗Mを作用させて、観察中である。
《梅田報告》
(1)先月の月報についでK2B細胞に何回もDMBAを投与する実験を行った。500ケの細胞をシャーレにまいた1日後よりDMBAの0.4、0.2、0.1、0.05μg/mlを5日間続けて投与し、6日後に正常培地に換え、更に7日間培養してコロニーを観察した。
(表を呈示)表に示すごとく、投与量が多いと毒性も現われてくるが、形態的に観察すると、criss-cross等、悪性化を思わせるような形態の変化を示すコロニーは見出せなかった。
(2)我々の研究室のある場所では、X-線照射を行うのが非常に不便なので、薬剤による処理でfeeder
cellを得ることを考えて、今回はβ-propiolactoneを使用してみた。β-propiolactoneを0.001%培地中に加えると、細胞はコントロールと同じ程度に増生する。0.003%で細胞は障害をうけ、シャーレ面にfeeder
cellのように附着しているが、殆んどの細胞は増していない。ところが、細胞20ケ位からなる小コロニーの形成も10数ケ見出され、前回に報告したMitomycinC処理と同じように、すべての細胞をattackするわけではないようである。0.01%では細胞は強く障害され、シャーレ底面に細胞はついていない。
(3)以上なるべく将来使うために簡単であることを目標に、試験管内発癌実験のための細胞さがし、feeder
cellの作り方を検討してきたが、すべて失敗したことになる。やはり、もとのハムスター胎児のprimary
culture、X線によるfeeder cellの系にかえらざるを得ない結果となった。
(4)昨年の癌学会に発表した、細胞種の違いによるアルカリ液中でのtime-dependent
DNA degradationの違いについて最近のデータを報告します。
あの時の結論は、若い細胞はdegradationがあまりなく、Hayflikのいう老化の進んだ細胞はdegradationが速く進むという結果を得ていました。又、腫瘍細胞は丁度その中間位のdegradationを示していたことにも興味がありました。
(5)ところが、その後このtime-dependent
DNA degradationは温度による影響が強いことに気付きました。このことは班会議のとき、一度堀川さんに指摘されていたのですが、つい室温で実験を続けてきた私の手落ちなわけです。
HeLa細胞をアルカリ性蔗糖密度勾配上の上にのせ、以後室温(この時は13℃)と、25℃に保った時(24時間目しか行っていませんが)のデータを図で示します(図を呈示)。13℃で、lysisを行わせた場合、24時間後もDNAのピークはbottomより13本目のフラクションにあり、1時間lysisの時よりdegradationが進んでいないのに、25℃でlysisを行わせた場合は24時間後には24本目のフラクションにDNAのピークが移り、degradationが進んだことを示しています。
同じような実験を人の2倍体細胞で、24代目の、以前のデータでは24時間lysis後には、bottomより26〜27本目にDNAのピークのきていた細胞、TTG-4d細胞で行ってみました。因みに、以前の実験は気象台で調べた所、最高気温が31.8℃、最低気温が24.9℃、平均27.5℃の時に行った実験でした。図の示すごとく13℃でのlysisでは1時間から24時間のlysisでピークに移動はなく、25℃のlysisでは24時間後に23本目にピークがきています。そこでいろいろと以前のデータを調べた所、確かに夏に行った実験ではdegradationが強く、冬になるにつれdegradationが少くなっていました。
(6)そこでこの細胞種によるアルカリ液中でのtime-dependent
DNA degradationが本当にあるのかないのか、もう一度始めから洗い直す必要にせまられました。37℃と19℃を選び、1時間、2時間、4時間、24時間とlysisさせた後、遠心にかけていますが、幸なことに、やはり細胞種による違いはあるようです。この結果を次の班会議で報告する予定ですが、結論的に云えそうなことは、正常細胞と悪性細胞ではdegradationのパターンに違いがあり、しかし、若い細胞と老化の細胞とでははっきりした差として出てきていないと云うことです。
《堀川報告》
今回は当教室においてUV障害修復機構を調べようとしている蚊の細胞についてその基本的性質を報告する。この蚊の細胞は、♀のCulex
molestus mosquitoesの卵巣から三重県立医大・医動物学教室の北村四郎教授により、数年前にCell
line化された日本での代表的な昆虫細胞株である。この細胞は1図に示すように染色体は6本であり、しかもcell
lineのmodal chromosome numberも6本を維持していることがわかった。したがって今後のUV障害に対する分子レベルの修復機構の解析と、染色体レベルの解析を関連させて進めるのに容易であると思われるが、問題な点は、この細胞の増殖率は非常に低いということにある。 (それぞれの図を呈示)2図に示すように、種々のcell
numberを短試にinoculateした後の細胞の増殖から計算したdubling
timeは46〜65時間位で、平均して約55時間位になる。従ってこの細胞についてコロニー形成能でUVに対する感受性を調べるには、少くとも炭酸ガスインキュベーター内に最低3週間は保置せねば、カウント可能なコロニーを得ることは困難な状態にある。
こうした困難を克服して、種々のUV線量に対する生存率曲線を予備的に描いた結果が3図である。この図からわかるように従来の哺乳動物細胞のD0値に比べて、それはそれほど大きな違いを示してはいないが、少しばかりD0が大きく、UVに対して抵抗性の傾向を示しているということが出来るかも知れない。さてこうした特種な細胞株を使用してUV照射によるDNA障害に対して暗回復、光回復などのうちどのような修復機構を有しているだろうか。そして微生物と哺乳動物細胞に比較して、進化学的にどのような位置におさまるだるかを調べようとするのが、本実験のこれからの問題である。
《乾報告》
一昨年来、我々はNewboon Hamster Lung CellをMacCoy's
5A+20%C.S.の系で培養し、この系にMNNG 10μg/mlを24時間作用し、処理後約1カ月でMorphological
Transformation、約200日で動物に腫瘍を作る系を確立した。In
vitro Carcinogenesisの過程での、染色体Banding
Patternの解析を行なうことが本年の課題の一つである故、出来る限りにおいて単純な系の開発を行なう為、MNNGの作用時間の短縮及び作用dosesの減少を試みてMorpholog-ical
Transformation迄の経過を観察して2、3の結果を得た。
培養系はGolden HamsterのEmbryoをMEM(日水)+10%C.S.で培養し、培養2代目の細胞(30〜50万個cells/ml播種)の対数増殖期の細胞にMNNGを作用した。
(表を呈示)MEM+10%C.S.の系ではMacCoy's
5A+20%C.S.の系に比して細胞毒性が強く表われる。現時点ではMNNG1μg/ml、3hrs処理が適当と思われるが、更に時間、Dosesの短縮によりMNNGでのTransformationの系が出来ると考えられる。
《黒木報告》
§紫外線感受性細胞の感受性そう失について§
前回の班会議において、レプリカ培養法を用い、L5178Y、FM3Aの細胞より紫外線感受性細胞の分離を報告した。しかし、その後、さらに約3ケ月間培養したのち、感受性を再テストしたところ、すべての細胞がもとにもどっていることが明らかになった。
例えばFM3Aより得たUV感受性細胞S-1は次のようである。11/15/72:MNNG
0.1μg/ml/100万個cells/h→11/17/72:plating→11/30/72:replica
plating→12/9/72:S-1colony(50ergUV-sensitive)ひろう。(結果表を呈示)。以上のように、予想及び期待に反して感受性は不安定であった。目下V79を用いてふたたび感受性細胞の分離をchallengeしている。そのためのreplica培養の基本的な技術の検討もほぼ終了した。詳細は班会議で。
《野瀬報告》
Alkaline phosphatase-positve cellを単離する試み
これまでALPの活性誘導の解析を行なってきたが、単なる一時的な活性の上昇でなく、活性が安定に維持できる細胞株をとり、その細胞の性質を調べることが重要であると思われる。そのような性質の変化は広い意味でのsomatic
geneticsにもつながり、また、形質を一つの示標としたtransformationとも考えられるからである。
まず、実験として、JTC-25・P5細胞をmutagen処理し、適当な時間のincubateした後、ALPの組織化学的染色を行なう。低倍率の顕微鏡下で、染色された細胞の数を数え、ALP-positive細胞の出現頻度を推測してみた。(表を呈示)表1に見られるようにnitrosoguanidine濃度により、ALP-positive細胞の数が増加することがわかる。表2は同じ実験をMNNG処理後の培養時間を変えて行なったものである。処理後のincubationが長い程、ALP-positive
cellが多くなる傾向が見られた。
次に、同様な実験をCHO細胞を用いて行なった結果が図1である(図を呈示)。MNNG処理後の培養時間が1〜3週間までの間はcontrolと処理群の間に、ALP-positive細胞の頻度に関して10〜50倍の差があるが、5週間目にはほとんど差がなくなった。この点では約5x10-4乗の頻度でALP-positive細胞が集団の中にあるはずであるが、この細胞をtrypsinizeして、まきなおしてからALPの染色を行なうと、positive細胞は10-6乗の頻度になってしまった。従ってここで見られたALP-活性は安定な性質ではないと考えられる。しかし、初期にはMNNG処理群との間に、はっきりした差があるので何らかの変化が細胞におきていると思われる。ALP-positiveの性質が安定した"constitutive"細胞をとることを現在試みているが、まだ成功していない。その様な細胞に特異的な選択法がないので、むずかしいと思われる。
【勝田班月報:7306:スペルミンの影響】
《勝田報告》
§培養細胞に対するSpermineの影響について
はじめに顕微鏡映画によってスペルミン添加後のRLC-10(2)(ラッテ肝)の形態変化を示した。映画では第1カットに無処理のJTC-16(AH-7974)の増殖する状況を示した。映画の第2カットはJTC-16の培養にSpermineを3.9μg/mlに加え、以後5.5日間no
renewalで撮影したものであるが、濃度が高いので、肝癌であるにも拘わらず、死ぬ細胞がみられた。もちろん、かなりの細胞は生残った。
第4のカットはRPL-1株(ラッテ腹膜細胞)にSpermineを3.9μg/mlに加えたもので、細胞は2〜3hrs.以内に全部死んでしまった。第5カットは同じ株を低濃度で処理(0.975μg/ml)したもので、死ぬ迄の時間は延長するが、全部死んでしまうことに変りはなかった。第6カットは<なぎさ培養→高濃度DAB処理により得られた変異株>ラッテ肝の"M"株を1.95μg/mlで処理したもので、細胞は全部死んでしまった。第7カットは、それまでのカットがSpermineを培地に入れたままでincubateしたのに対し、1.95μg/mlで30分間処理後、その培地をすて、培養を洗い、以後無添加の培地で培養したもので、細胞は殆んど死なず、分裂すら見られた。但し、映画では展示しなかったが、1時間以上処理すると、その後新鮮培地に移しても細胞は死んでしまった。
Spermineによる細胞の死に方には特徴がいろいろとある。
1)肝癌細胞と共存させたとき、或は肝癌培地を添加したときと異なり、死ぬ前に細胞質のbubblingを見せず、いきなりキュッと丸くなって死んでしまう。その後、細胞質の一部が膨化することもある。(細胞膜の透過性が関与?)
2)死ぬ時は、時間的に前後しながら死ぬのではなく、全部の細胞が一せいに揃ってパッと死ぬ。
3)細胞密度の低いところの細胞の方が、高いところの細胞よりも死にやすい。
4)死んだ区域と生き残った区域との境界がきわめて明瞭に分けられている。
:質疑応答:
[堀川]死んだと思われる細胞を洗って培養を続けると生き返ることはありませんか。
[高岡]とても駄目ですね。
[高木]増殖の早いものが抵抗性が強いということはありませんか。
[高岡]増殖率と感受性との間には、殆ど関係がないようです。
[山田]この細胞の死に方は物理的な感じがありますね。一次的な生物学的作用の結果の死とは考えられませんね。先ず物理的に何かがやられて、二次的に細胞内の生物学的な変化が起こるといった二段階の死に方のようです。ソーダガラスでないガラスに培養して添加してみたらどうでしょうか。それからリパーゼなどと比較してcytolyticな影響もみるべきでしょうね。
[堀川]膨化=浸透圧の影響と考えられますか。
[山田]必ずしもそうではありませんね。
[堀川]生死の境界線がはっきりしている点について、どう考えられますか。
[山田]密集している所は液にふれる面が少ないので影響が少ないのでしょうね。
[黒木]接種細胞数を変えてみましたか。
[高岡]一定の液量あたりの細胞数よりガラス壁へ附着したときの密度の方が死に方に関係があるようです。
[山田]スペルミンの毒作用について何か報告がありますか。
[永井]毒作用については殆どありませんね。最近ポリアミンについての報告が沢山だされていますが、みんな増殖促進とかDNAに対する影響についてです。ポリアミンによって合成系の酵素活性が敏感に動かされるといった報告もあります。しかし殆どのものがイーストなど菌を材料にした実験で哺乳類の細胞レベルで調べたものは見当たりませんね。
[梅田]JTC-16でスペルミン添加後生き残っている細胞は形態が少し変わっていますね。核小体が大きくなっているようです。
[堀川]人工的に癌細胞と正常細胞を混ぜてスペルミン処理するとどうなるでしょう。
[高岡]発癌実験の途中段階でスペルミンを作用させると、腫瘍性の強いものだけが生き残るという具合に使えればよいのですが・・・。
[永井]死ぬまでに90分もかかるというのは、何かaccumulationされて作用が始まると考えてよいのではないでしょうか。
[堀川]普通の細胞はスペルミンを持っていますか。
[黒木]作用濃度は10-2乗M位ですね。細胞内にあるのはおよそ10-8乗M位ですね。
[永井]ポリアミンは最近注目されています。生体では脳や肝臓に多いようです。動物に直接接種した場合はかなりの高濃度でも動物を殺すことはないようです。
[堀川]本当にcell cycleと関係ないでしょうか。映画でみていると低濃度の方がかえって一斉に死んでしまい、高濃度の方は何かバラバラと死んでゆくような印象でした。それから例の毒性物質との関係はどうなっていますか。
[永井]現在追跡中です。
《山田報告》
cAMPの細胞表面に與へる影響について、幾回か報告して来ましたが、今回はこれをまとめてみたいと思います。いまだ完全な結論を得たわけではありませんが、一応の見通しがついた所です。
ConcanavalinAによるラット肝癌細胞の表面荷電密度の増加作用は、その後の検査により細胞の増殖の状態でかなり異り、増殖期には反応が強く、抑制された状態では反応が弱いことがわかりました。この増殖の状態によりConAの反応が変化すると云う知見より、ConAと、cAMPの作用を検索しました(図表を呈示)。ConAを反応させる前或いは後に1mMの(But)2cAMP(pHは7.0に調製)37℃30分作用させると、このConAの細胞表面荷電密度増加作用が著しく抑制される。あらかじめ1mM(But)2cAMPを作用させた後に各種濃度のConAを反応させると、ConAにより荷電密度は著明に増加しないが50μg〜100μg/mlのConAにより相対的に多少高値を示す様になることがわかりました。
これらの知見を解析する意味で、(But)2cAMPの細胞膜に及ぼす影響を調べました。
(But)2cAMPの細胞膜に及ぼす影響;(各実験毎に図表を呈示)
まず(But)2cAMPが特異的に作用するのか否かを検査しました。(But)2cAMP、cAMP、AMP各々1mMの反応をみますと、AMPは全く反応がありませんが、cAMPはやや表面荷電密度の増加が起こり、(But)2cAMPでは更にその作用が強くなりました。即ち(But)2cAMP単独でも細胞の表面荷電密度を増加させるにかかわらず、ConAの作用に対してantagonisticに作用すると云うことです。これらの物質を作用させた後にConAを反応させました。同様にAMPは全く影響をあたへていませんが(But)2cAMPでは明らかにConAの荷電密度増加作用を抑制し、かへって対照にくらべて、荷電密度を低下させます。lyticなeffectが(But)2cAMPにあるのではないかと思ひ、0.001%trypsinを反応させても、この様な細胞荷電密度の増加は全く起りません。
また(But)2cAMPの作用が、解離するbutylic
acidによるものではないかとも考へ、検索しましたが、butylic
acidにはこの(But)2cAMPの作用が全くありません。
(But)2cAMPの作用を種々の増殖状態のAH66Fに作用させた所、その電気泳動度の高い場合、即ち、増殖の促進された状態では、その荷電密度を低下させ、泳動度の低い増殖能の弱い状態では、荷電密度を増加させる作用があることがわかりました。更にあらかじめ10単位のノイラミニダーゼ(C.B.C)37℃30分処理を行なっておくと、(But)2cAMPにより荷電密度は増加するが、増殖能の弱い状態では、特にその増強作用が著明であることも判明しました。これだけでは勿論充分な知見ではありませんが一見cAMPの増殖調節作用が細胞膜にも変化をあたえていることを予想させます。
次に(But)2cAMPの作用条件を検索しました。各種濃度の(But)2cAMPを反応させた後の泳動度の変化ですが、0.5mM〜1.0mM濃度で初めて反応が始まる様です。あらかじめノイラミニダーゼ処理後の(But)2cAMPの反応は、0.1mM程度の薄い(But)2cAMPでは若干泳動度の低下を来たす様です。
種々の濃度のノイラミニダーゼ後の(But)2cAMP(1mM)の反応も検索しました。
(But)2cAMP処理後の表面構造の分析;
(But)2cAMP処理後の表面を解析する意味で、ノイラミニダーゼ処理、ホスホリパーゼ処理、カルシウム吸着性、色素透過性、等電点の変化等をしらべましたが、ノイラミニダーゼ処理では対象との間に差がみられず、細胞の等電点もあまり差がありませんが、特に著しい差としてはホスホリパーゼ処理により泳動度の低下に差がみられました。即ち(But)2cAMP処理後の細胞はホスホリパーゼCに対する感受性が増加、ニグロシン色素の膜透過性が高まりますが、あらかじめノイラミニダーゼ処理してから(But)2cAMP処理すると、かへってホスホリパーゼC感受性が低下し、対象未処理細胞が融解する様な濃度のホスホリパーゼCでもこの様な処理により融解しない様になりました。即ち明らかにノイラミニダーゼ(But)2cAMPの処理により膜構造が変化することを知りました。
これらの(But)2cAMPによる膜の変化が直接作用によるものか、或いは一度膜を通過した後に細胞内のcAMP濃度が高まり、その結果内部からの指令により変化が膜に起こるのか、これから検索してみたいと思って居ます。
:質疑応答:
[堀川]ホスホリパーゼAとCの違いは・・・。
[永井]Aは脂肪酸を1コはずします。Cは中和してチャージが無くなります。
[山田]まぁこういう系だけでは限界があるでしょうが、他の現象との関連で面白くなるかも知れませんね。膜の立体構造と関係してくるのではないでしょうか。
[野瀬]cAMP処理でサイクロヘキシミドに抵抗性になるというデータがあります。
[山田]cAMPが膜に直接アタックして変化を起こすのか、膜の透過性をましておけば細胞内へ入って二次的変化を起こすのか、時間を追ってやってみたいと思っています。
[堀川]究極的には癌と膜の変化を繋ごうというあたりに狙いがあるのでしょう。
[山田]癌化の機構そのものというより、癌化した細胞の膜について調べていたら、膜の変化と増殖の関係などが判ってきたのですね。癌化による変化を掴みたい訳です。
[永井]時間経過をみる場合ノイラミニダーゼは膜にくっついて洗っても除去されずに作用が続きますから気をつけて下さい。グルコシダーゼも時間経過をとるべきでしょう。
[山田]考えてはいますが、time courseの問題はポジティブならいいのですが、ネガティブではどうしようもないものですから。
[勝田]ノイラミニダーゼで処理した細胞にシアル酸を加えておくと、酵素が遊離してきませんか。
[山田]作用してから6時間位で大体もとに戻ります。
[永井]戻り方が100%までゆかないでしょう。ノイラミニダーゼでsialic
acidが30%減ったとして、回復させても70%位までしか戻らないのです。それで膜に残ったノイラミニダーゼが作用を継続していると思うわけです。
[山田]増殖系で作用させますと、ノイラミニダーゼは増殖も止めますので、その影響があるのではないでしょうか。
[永井]ウィルス感染で細胞をノイラミニダーゼで処理しておくと感染力の強いウィルスが出て来てその性質は遺伝的なものです。トリプシンでも同じような事が起こりますが、その変化は続かないのです。
[堀川]こういう膜の問題は腫瘍、正常、ハイブリッドなど使って発癌の機構解析に繋がらないでしょうか。
[山田]次には矢張り腫瘍、正常という所へもってゆくつもりですがね。
《高木報告》
1)Nitrosated Acethyl-L-Arginine amide(AAACN)によるin
vitro発癌の試み
この化学物質については先の月報に報じた通りである。Mutagenic
activityはMNNGに比較しても極めてつよく、carcinogenic
activityも期待してこの実験を行っている。RFLC-5細胞に対する細胞毒性はMNNGより弱く、10-4乗Mで細胞増殖が対照に比してはっきりと抑制される程度である。但し前報に記載したAAACNの毒性は、細胞の培養2日目から3日間培地に加えたままで観察したもので、2時間作用の場合には毒性はもっと低いと予想される。
現在手許にある試料は10-2乗Mでethanolにとかしてあるため10-4乗M以上の濃度ではethanolの影響が出ることが考えられ、今回の実験では10-4乗M以下の濃度を使用した。RFLC-5細胞は培養開始より680日を経たもので、培地はMEM+10%FCSを使用した。MA-30に20万個の細胞を植込み24時間後に10-4、10-5、10-6乗Mで2時間処理し、終ってHanks液で洗い新鮮培地と交換した。AAACNは10-2乗Mの濃度でehtanolに溶解し、-20℃に保存、使用にあたりHanks液で10倍稀釋し、millipore
filter(0.45μ)で濾過しさらにHanks液で稀釋して作用させた。細胞処理後今日まで60日を経たが、ここに用いたいずれの濃度でも細胞の増殖度、形態に変化を認めえない。
つぎに培養開始より720日目のRFLC-5を用いてAAACN
10-4乗Mで繰返し処理をしてみた。20万個の細胞をMA-30に植込み、24時間後にAAACNで処理、以後継代ごとに同様の処理を繰返して現在まで4回の処理を行なっている。作用開始後約30日を経た今日、処理した細胞は対照に比して紡錘形を呈するようになり、giant
cellが目立って来た。増殖もやや抑制されているようである。この化学物質は毒性が低い。したがって細胞に中等度の障害を与える濃度で最も高頻度にtransformationが期待されるとすれば、ここに用いた濃度はやや低すぎるかも知れない。細胞数との相関においてtransformationをおこすに至適と思われる濃度を検討し、実験を繰り返してみたい。
2)6-DEAM-4HAQOによるin vivoの実験
林氏によれば、4HAQO、6-DEAM-4HAQO、streptozotocin投与によりラットがあらわす症状および膵内、外分泌腺腫瘍の発生状況を表にした(表を呈示)。以上のように4HAQOとそのderivativeである6-DEAM-4HAQOでは、膵の内、外分泌腺に腫瘍のできる率が違っており、すなわち臓器親和性の相違が認められる。また6-DEAM-4HAQOは投与量により多ければ糖尿病の発生をみ、より少ない量ではラ氏島を主とした腫瘍を生ずる点も興味深い。(もっとも出来る腫瘍はがんではないが・・) そして生じた腫瘍からはinsulin、もしくはProinsulinが分泌されていると考えられる。この様にして生じたラ氏島腫瘍と正常のラ氏島とを培養に移して、それらの形態学的、生物学的性状の相違を比較検討したいと考えている。
現在4週令のWKAラット16匹に6-DEAM-4HAQO
20mg/kg 8回静注しおえた。また同じく4週令のSprague
Dawleyラット19匹にも20mg/kg 4回静注し終ったところである。Streptozotocinについては未だ実験に着手していないが、この抗生物質は抗菌、抗癌作用と糖尿病誘発作用を有しており、Nicotinamideとの併用でラ氏島腺腫を高率に生ずることは興味深い。NicotinamideはStreptozotocinの抗癌作用には影響を与えず、糖尿病誘発のみ抑制するとされている。
:質疑応答:
[山田]ラ氏島腫はインスリンを産生しますから、糖尿病の逆ですよね。同じ薬剤が少量投与か大量投与かで正反対なものを作る、その理屈も判るし、面白いですね。
[乾 ]ラ氏島由来でインスリン産生の細胞がNIHにあります。未発表のようです。
[山田]そういう細胞系も長期間培養して増殖がさかんになると、産生が止まってしまうのではありませんか。
[乾 ]現在は1年位培養していて、まだインスリンを産生しているそうです。
[黒木]4HAQO大量投与の場合でもニコチナマイドを入れてやると、糖尿を抑えてラ氏島腺腫を作るのかも知れませんね。
[勝田]遠藤氏の新しい発癌剤の動物実験の結果は判っていますか。
[高木]現在やっています。
[黒木]In vivoでの発癌性がはっきりしていないものをin
vitroで使う時は、ポジチィブな対照が必要ですね。
[高木]MNNGを対照におく予定でいます。
《乾(津田)報告》
亜硝酸ナトリウムのハムスター培養細胞に対するTransforming
activityを検討した。
生後2日以内のシリアンハムスターの頭足内臓を除去した組織をハサミ、トリプシンで細かくし、培養に移した。培養2代又は3代目の対数生長期にある細胞(20万個/TD15)に、NaNO2
50mM/l又は100mM/lを24hrs作用させた後、normalメディウム(McCoys'5A+20%F.C.S.)中で培養観察を続けた。NaNO2
50mM/lでは細胞はほとんど障害をうけず、100mM/lだと約1/3(顕微鏡視野下)が生き残った。
Control区は終始normalメディウムで培養しつづけた。Control区は実験開始15〜20日後までは良好な増殖を示したが、それ以後は次第に増殖が落ち、平らな巨大細胞となり細々と生きつづけた。
一方、NaNO2処理区では、処理20〜60日後に増殖の盛んな小型の細胞群が出現した。この時点をtransformationの起きた時点としたが、その指標としては、(1)顕微鏡写真、(2)Colony
formation rateの上昇、(3)累積増殖曲線、(4)染色体数の変異を用いた。
更にtransformした細胞のmalignancyは100万個の細胞をhamsterのcheek
pouchへ移植することによってできる(あるいはnegative)tumourを観察することにより検討した。Transformation、colony
formation rate、Transplantabilityの数値を以下に示す(表を呈示)。(変異は6例中5例が+。コロニー形成率は処理後72日では0.5〜2.2%、204日では64%と70%。腫瘍性は処理後46日以後殆どが陽性)
以上、高濃度のNaNO2により、新生ハムスター細胞がtransformationすることは確実と思われる。
現在、transformした、又、malignantになった細胞の染色体を分析中である。
一方、種々株化細胞を用いて、NaNO2によるmutation
rateの上昇(?or negative ?)を検討中である。
☆追伸:班会議後、浸透圧はさっそく測定してみました。McCoys'5A+20%FCS=288mOsm/kg。0.1M
NaNO2+5A+20%FCS=454mOsm/kg。100%Fetal
Calrf Serum=435mOsm/kg。0.1M NaCl+5A+20%FCS=465mOm/kg。1mOsm/kg=−1.859x10-3乗℃。
やはり、御指摘のように、0.1M NaNO2だと、かなり高浸透圧を示します。今後、等浸透圧で、しかも透過性がNO2-に類似した物質(Cl-はあまり適当でない)を探して、controlとしたいと思っています。
:質疑応答:
[黒木]100mMの亜硝酸ナトリウムは培地中の食塩濃度とほぼ同じですから、浸透圧が問題になりますね。
[津田]浸透圧とpHについて心配していました。
[黒木]対照に同浸透圧、同pHの群が必要ですね。
[梅田]私も別な実験で亜硝酸ナトリウムを培地に入れてみたことがありますが、10mM位で充分細胞に傷害を与えたように記憶しています。
[堀川]Confluentなcell layerでfocusが見つけられますか。
[津田]実験群にきれいなfocusが発見されたというより、controlは継代するうちに巨細胞が出てきて死んでしまうが、実験群は変異して増殖系細胞が出現したという事です。
[高木]実験群3コの中1コにfociが出て、それを3本に継代したのですね。
[津田]そうです。そしてその3本全部に又fociが出てきました。
[堀川]そうすると変異率として定量的な数値には出来ませんね。
[乾 ]始に形態的な変異−piling up−のみられたtubeに由来するtubeには全部piling
upが見られたという事です。
[堀川]対照の復元実験はどうなっていますか。
[津田]殆どのcontrolは死んでしまうのですが、生き残ったものを集めて実験群と同じ接種数で復元したのがありますが、takeされませんでした。
[堀川]変異するまでの日数の短い事は意義がありそうですね。とにかくもう少し処理の形式を確立して定量化することと、黒木班員の意見のように、浸透圧やpHに関する対照をきちんとする事ですね。
[梅田]染色体の変化についてはどうですか。
[津田]まだ詳しくみたありません。
[乾 ]染色体の変異は一般に、直接的な発癌剤は染色体切断を起こしますが、代謝産物で発癌するものでは切断などは見られませんね。
[黒木]In vivoでは発癌例がないのに、in vitroで出来たという所に、特異的な変異ではないような気がします。
[勝田]しかし、全部のtubeから変異細胞が出ているのではないから、やはり何か特異的な変異も考えられます。
[堀川]このデータで定性的可能性が示唆されているので、定量化してほしいですね。
[黒木]それから、復元実験と並べてconA凝集性とか、軟寒天内でのコロニー形成能とか、もっと色々な指標についてのデータも欲しいですね。
[永井]亜硝酸をアミノ酸で処理したものなど、第2controlにどうですか。
[梅田]硝酸ソーダだとずっと毒性が弱まりますから、これもcontrolによいでしょう。
[津田]動物にtakeされるかされないかという事は、in
vitroの発癌実験にどの位意味がるのでしょうか。
[勝田]現在はtakeされるかどうか以外に確実な悪性化の指標がありません。
[堀川]しかし、この実験はin vitroで変異が認められ、それがtakeされたのですから、恵まれた例ですね。
《梅田報告》
(I)Elkind等はChinese hamsterの繊維芽細胞の一株を用いて、アルカリ性蔗糖勾配での遠心パターンの実験を行い、之等の細胞は光、BUdRとりこみ、X線照射により、degradationが進むと報告している。更に無処理の細胞は60分lysisで軽い方、165分lysisで重い方に沈んでくることを報告している。彼等の実験条件は25℃でlysisを行わせている。我々はすべて彼等の方法にしたがい、ただlysisを室温で行わせてきた。したがって空調のない我々の研究室では夏は30数度、冬は0℃近くにまで温度の幅が出来て了った。ところが前回の月報で報告したように、この方法でのDNA
degradationが温度にも影響されることがはっきりとしてきた。もう一つ疑問に思っていたことに、我々のいろいろの細胞も使ったデータでは60分lysisと240分lysisとでElkindのいうようにDNAが重くなるようなことは見出されなかったことである。
今回はまだすべてのデータが出そろってはいないけれども、時間、温度の影響を再検討している間に見出した正常細胞と悪性細胞のdegradationの違いを報告する。
(II)実験条件は前にも報告した(表を呈示)組成のgradient及びlysis液上にC14-TdR(0.07〜0.12μc)でlabelした細胞を5,000ケ静かにのせ、各温度の条件の暗箱中で1、(2)、4、24時間lysisさせ、5,000rpm
15分前回転後、36,000rpm 90分(12℃)遠心した。
(III)第一回はHeLa細胞で(図を呈示)、37℃でdegradationが早く進んでいることがわかる。17℃では1時間目から重い方にDNAのピークがあり、4時間24時間と時間が経つにつれ軽くなっていくことがわかる。即ちElkindのいうChinese
hamsterの繊維芽細胞でみられた傾向は見られない。
(IV)第2回はマウス胎児細胞の3代目のものを25℃でlysisを行わせたものである。ここでは1時間目と4時間目とで軽い方から重い方にDNAのピークが移り、更に24時間目には軽い方に移ったことがわかる。即ちElkindがChinese
hamsterの繊維芽細胞でみた現象が見られたことになる。
(V)同じような結果は人の胎児肺継代34の細胞にも見られたので、更に同細胞の37代継代のもので、遠心を行ってみた(図を呈示)。19℃で明らかに軽い方から(1時間lysis)重い方(4時間lysis)更にそれからはあまり変化のない(24時間lysis)ことがわかった。
因みに37℃では殆HeLa細胞と同じような遠心パターンを示している。
(VI)L細胞での実験では、各時間の遠心パターンは、19℃で1時間lysisで12本目、2時間lysisで14と19本目に2コ、4時間で13〜17本、24時間で18本目のフラクションにピークが移り、HeLa細胞と同じく、始めから重い方から軽い方に移行していることがわかる。
(VII)人間の胎児より剔り出して培養している繊維芽細胞の4代目、11代目は(図を呈示)細かい点の読みはともかく、之等diploid
normal細胞と考えられる細胞は、19℃lysisでは軽いもの(1時間lysis)から重いもの(4時間lysis)更に軽いもの(24時間lysis)になる傾向を示している。
(VIII)人間の歯肉からとり出して培養し、35代目継代で所謂培養内老化を起しつつある細胞では、多少の遠心パターンの違いはあるが、大殆上記胎児繊維芽細胞に似た像を示した(図を呈示)。
(IX)Elkindは1時間lysisではDNAのcomplexとして沈殿してきて、それが軽いピークをもたらし、次にそのようなcomplexがDNAのunitとしてはずされ重くなるとしている。そのcomplexとしてDNAを結びつけているものが、核膜としたら、核膜のない細胞では遠心パターンが異ってくる筈である。特に正常の細胞では始めから重い所に沈澱してくる筈であると想定した。先ずHeLa細胞のMitotic
cellのみを集めて実験してみた。(図を呈示)19℃のlysisで1時間目、2時間目のlysis後の遠心パターンは殆同じであり、4時間目でやや軽くなっている。24時間後のデータは今計測中である。来週は是非正常細胞で実験してみる予定である。
:質疑応答:
[堀川]傾向としてはよくまとまっていると思いますが、核膜の有り無しによる差についてはどうでしょうか。重要な問題ですね。
[乾 ]年とった細胞というのは?
[梅田]2倍体細胞で老化がきたものというような意味です。
[堀川]DNAのすり切れが老化の原因かと考えられていても、なかなか実態が捕まらないでいます。培養細胞で差が出るかどうか、難しいでしょうね。
[梅田]老化した細胞はTdRを取り込まなくなるので技術的に難しいです。
[堀川]年とったネズミと若いネズミを使って、DNAのすり切れをみようとしたのがありますが、仲々結果が出ないようですね。それから、梅田さんの狙いは、細胞によるlysisの仕方の差をみる事ですか。
[梅田]そのつもりです。
[堀川]そうすると何をみているのでしょうか。DNAを繋いでいるものの切断か、DNA鎖の切断なのか。今のところの結論は・・・。
[梅田]膜からのはずれ方が、正常と腫瘍とで違うのかも知れない、つまり悪性になると膜と付いたり離れたりが簡単に出来るが、正常細胞ではピタッと付いているというような事を考えています。
[乾 ]Chromosome-DNA.RNA hybridizationをやっていて判ったのですが、濃い濃度でバカンとラベルしたのと、薄い濃度でゆっくりラベルしたのとではhybridizeする場所が変わるようです。
[堀川]Hybridizationではありませんが、DNAレベルでH3を高濃度に添加すると、それだけで切断が起こります。こういう実験では条件を2段階の濃度でやるべきですね。
《堀川報告》
(a)レプリカ培養法による栄養要求性および非要求性変異細胞の分離。
以前にも述べたように私共は培養細胞用のレプリカ培養法を用いることによってChinese
hamster hai N12 clone細胞は各種栄養要求性および非要求性変異細胞から構成されていることを示した(表を呈示)。つまりclon17から38までの8cloneはAsn、Pro、Asp、Ser、Gly、Hyp、TdRなどを要求しない非要求株であるが、一方clone36はPro要求株で、clone6、29、33はgly要求株、clone10、11、27はそれぞれTdR要求株である。またこのようにして以下多数多種の非要求性および要求性細胞から構成されていることを示した。ここで問題になるのはChinese
hamster hai N12 clone細胞は果してこのようなHeterogeneousな細胞集団から構成されているか、またこのような結果は何度実験を繰り返しても再現性ある結果として得られるか否かといった疑問である。こういった問題を明らかにするため、その後同様の実験を4回繰り返した。計5回の実験に於いて個々の変異細胞数の点で僅かの違いはあるが、傾向としては第1回の実験結果とまったく同じような結果が得られた(従ってここではそれらのデータハ省略する)。こうした結果はChinese
hamster hai N12 clone細胞は確かに種々のHetero-geneousな細胞集団から構成されていることを強力に示している。現在こうして得られた栄養要求性および非要求性細胞のpurification、そしてそれらを用いてのmutationの実験を進めている。
(b)X線およびUV照射による変異誘発。
TT除去能のまったくことなる、HeLaS3細胞、それから分離したUV感受性のS-2M細胞、マウスL細胞、Chinese
hamster hai N12 clone細胞に種々の線量のX線を照射した際、前3者では照射線量に依存して8-aza抵抗性の突然変異細胞が高率にinduceされるが、Chinese
hamster hai N12 clone細胞でのこの変異誘発率は非常に低いようである。これはChinese
hamster hai N12 clone細胞のもつ特異的なX線抵抗性と関係がありそうである。つまりX線抵抗性細胞ではpremutational
damageを修復し得る能力があるということで説明出来るのかもしれない。一方UV照射に対してはこのChinese
hamster hai N12 clone細胞は線量に依存して高率に8-aza抵抗性の変異細胞が誘発されるのに対し、前3者ではその誘発率は非常に低いようである。こうした結果もまたChinese
hamster hai N12 clone細胞のもつUVに対する特異的な高感受性と関係がありそうである。しかし、こうした結論を導びき出すには現状ではデータが貧弱すぎ、今後のたび重なるダメ押しが必要であるため、今回はあえてデータを示さないことにした。
いづれこれらについての実験結果は近い内に報告する予定である。
:質疑応答:
[勝田]放射線を使ったin vitroの発癌実験にはまだ信頼できるものがありませんね。こういう関係をよく睨んで実験計画を立てればよいのですね。
[堀川]3T3を加えて発癌実験にも関連させてゆきたいと考えています。
[梅田]8-AG処理はこの条件でこんなに多くのコロニーが拾えるのは不思議ですが、全部耐性ですか。
[堀川]8-AG存在下でコロニーを作ったのですから、耐性細胞と考えてもよいと思います。8-AGについては、こういうデータは沢山ありますから大丈夫だと思います。
[黒木]L5178Yで0.数%の頻度で8-AG耐性がとれます。
[津田]コロニーを計数する時どの位の径のものまで数えますか。
[堀川]対照は10コ以下という条件でやっていて、処理後動かさずに16日間培養します。その間培地は更新しません。コロニーの径は肉眼的に認められる大きさは皆数えます。
[津田]8-AGは何で溶かしますか。
[堀川]アルカリで溶かしています。
《野瀬報告》
Dibutyryl cAMPによる細胞周期の変化
But2cAMPを用いてJTC-25・P5細胞のalkaline
phosphataseの誘導を見ているうちに、処理された細胞が細胞周期の中のある時期でblockされている可能性が出てきた。その基礎となるdataはimpulse
cytophtometerの結果である(図を呈示)。細胞をtheophyllin又はtheophyllin+But2cAMPで4日間処理し、裸核にした後、Ethydium
bromide染色しcytophotometerにかけた。結果は明らかに、But2cAMP処理細胞の集団の中にはDNA/cellの相対値がbasal
valueの約2倍の細胞が増えていた。染色体標本を作ってみても、対照細胞のmodo61本に対しBut2cAMP処理細胞はほとんど同じであった。従ってBut2cAMPによりG2で止った細胞が増加すると考えられる。
この点を確認するため、これらの細胞を、fresh
mediumに移し、経時的にmitotic indexを測定した。その結果(図を呈示)、But2cAMPを除くと直ちにmitotic
indexは上昇し2時間で最大となり、次後、元のレベルに戻った。この結果から、But2cAMPはlate
G2のblockをすることが示唆された。
次に同様な条件下でlabeling Indexを測定した。対照およびBut2cAMP処理細胞とを、それぞれfresh
mediumに移し経時的にH3TdRのpulse labelingを行った。その結果(表を呈示)、Labeling
IndexはBut2cAMP処理細胞では低いが、それを除いて5時間後にはすでに17.6%に上昇している。このことは、G1のblockもあることが示唆される。But2cAMPは一般に"contact
inhibition"をかける薬物と考えられ、G1 blockをすると主張している論文もあるが、以上の結果から、G1、G2の両方の点をblockしていると思われる。
先月の月報(No.7305)で報告したAlkaline phosphataseの変異に関する仕事は、その後まだ進展なく、次の機会に報告したい。
:質疑応答:
[堀川]アルカリフォスファターゼ陽性の細胞は細胞数で数えているわけですね。時間がたつと分裂して増えてしまって、定量的にはゆかないでしょう。
[野瀬]塊一つをfociとして数えた方がよいでしょうか。その方が数も少なくて数えやすいのですが・・・。
[堀川]MNNG処理の場合、処理直後とfixationの後とではsurvivalカーブが違ってくる事については私達も随分討論しました。
[野瀬]マーカーとしては抵抗性の方が良さそうですね。
[堀川]それも仲々難しいですよ。アミノ酸要求性が良いと思うのですが、それも手間がかかりますしね。
[野瀬]私の場合、同じ細胞系でアルカリフォスファターゼ活性+のものと−のものを使って酵素活性の出かたなどを調べたいと思っています。
《黒木報告》
(図表を呈示)FM3AS-1細胞の培養各時期におけるUV感受性をみると、培養を重ねるに従い、shoulderがでてきている(Dq及びnの増加)。しかし傾斜(D0値)は、それ程変化していないので、ある程度感受性を伴っているという希望的なみ方もできる。
また、それらから指摘されるべき問題点はコントロールのdose-responseカーブが72年5月2日、6月19日測定のものと、本年5月のものとで著しく異ることである。(D0
280ergが21ergに減少)。これが細胞の変化によるものか、測定方法の未熟によるものか今後早急に検討したい。
このように、L5178Y、FM3A感受性細胞が不安定であったため、新たにChinese
hamsterのV79細胞からのUV-感受性細胞の分離を試みつつある。それに先立って壁に附着する細胞に適するようなレプリカ培養法の改良を試みた。V79細胞をベルベッチンを用いたときのレプリカ率は非常に低い成績であった(表を呈示)。これを改良するため、コロニーをin
situで分離する方法を考えた。つまりコロニーの増殖しているマスタープレートに、ペーパークロマト用のスプレイで酵素(プロナーゼ
0.1%、トリプシンDifco 0.25%及びモチダ トリプシン200u/ml)を撒布し、10分間incubateしたのち、ガラス棒でうつしかえた(表を呈示)。その結果、プロナーゼによってほぼ100%にV79、CHOのレプリカが可能になった。(目下HeLa細胞をテスト中)。現在この方法でV79で29ケのUV-sensitive
cloneをひろい、さらに定量的に検討している。
:質疑応答:
[堀川]感受性株のPEをみる時、必ず同時に対照の原株のPEもみておくべきですね。
[黒木]実験を始めたころ、2回原株のドーズレスポンスカーブをとってみたら、大変きれいでしたので、安心して後は実験群だけしかみていませんでした。この細胞は原株でもかなりのUV感受性なので細かい実験はやりにくいですね。
[堀川]UVの実験は細かい事に気をつけてやらないと失敗します。例えば照射時間、線量を一定にするのにランプが安定する時間をみておかなくてはなりません。私たちは紫外線ランプは点灯したら実験が終わる迄消しませんし、電源も単独にしています。
《藤井報告》
Lymphoid cellsの腫瘍によるin vitro感作と、その中和試験:
比較的大量のlymphoid cellsとコバルト照射腫瘍細胞を混合培養し、その後、生きた腫瘍細胞に対する抗癌作用を調べるために、in
vivoでやる中和試験をおこなった。
C57BLマウスの脾のlymphoid cells、8,000万個と、Friend'sウィルスで発癌したFA/C/2腫瘍、800万個(8,000R照射)を混合培養し、6日後に新しく80万個の生きたFA/C/2腫瘍細胞を加え、1日培養して、2匹のC57BLマウスの腹腔内に接種した。接種したFA/C/2細胞は40万個/mouseである。
接種後3週の現在、in vitro感作脾細胞と混合して接種された2匹では、腹水貯溜は全く認められない。対照としておいた2匹は、照射FA/C/2と生きたFA/C/2を混合したもの、および他の2匹は脾細胞だけを培養し、これに生きたFA/C/2細胞を混合したものを、接種されたが、明らかに腹水型腫瘍の増殖を示す、腹水の増加がみられている。
この実験は、大量のlymphoid cellsをin vitroで感作する、予備的なものとしておこなったものであるが、以前におこなった感作リンパ球の試験管内抗癌効果の成績を、in
vivoの中和試験で裏づけできたと考えている。さらに、感作の条件や、関与する細胞についての解析をすすめる予定である。
:質疑応答:
[乾 ]こういう実験にtarget cellとしてvirus
originの腫瘍を使うのは問題です。
[藤井]たまたま手元にあったので使いましたが、本当はCulbTCを使いたいと思っています。
【勝田班月報・7307】
《勝田報告》
培養細胞に対するSpermineの影響
肝癌細胞を培養すると培地中に正常肝細胞を阻害するような毒性代謝物質を放出することについてこれまで報告してきた。この物質の本態を追究している内に、その物質が分子量約200以下で、どうもpolyamineに似ていることが判ってきた。そこでpolyamineの代表としてspermineの各種細胞に対するeffectsをしらべてみた。今回は、spermineを0.97から、250μg/mlんで倍数稀釋して添加した。そして細胞が100%死んでしまう濃度を求めた。薬剤は継代時に添加し、培養後3日目の成績で判定した(結果表を呈示)。
結果は表の通りで、悪性の細胞の方が抵抗性がはっきり強く、まことに都合の良い結果が得られた。あまり具合が良すぎるので反って警戒しているところである。
《堀川報告》
X線照射に対する感受性支配要因の1つとして、radical
scavengerである細胞内、non-proteinSH量が関係するであろうことは、これまでに当教室でHeLaS3原株細胞から分離したX線対抗性のRM-1b細胞、あるいは東大医科研癌細胞研究部からいただいた(CO60γ線の反復照射によりL・P3細胞から分離された)γ線抵抗性(仮称L・P3γ)細胞を用いた実験から、示唆されていたが(月報No.7212参照)、今回はこれを更に発展させて細胞周期を通じてのX線に対する感受性曲線が、このSH含量の差異で説明出来るかどうかを検討した結果について報告する。
当教室で確立したColcemid and harvesting法を用いてHeLaS3細胞をM期で同調させ、その後各時期で400Rづつ照射し、その後に形成されるコロニー数から感受性曲線を描くと図で示すように(図を呈示)、M期とlate
G1〜early S期がX線に対して最も高感受性であることがわかる。一方各時期の細胞を集めてnon-proteinSH(NPSH)量およびapparent
total SH(APSH)量をEllman法で測定し、それぞれ細胞当りのSH量として図に示した。
この図からわかる様に、X線感受性曲線とNPSH量の増減はよく一致し、細胞内に含まれるfreeのSH量がX線感受性ときれいな関連性をもつことがわかる。つまり高感受性期のM期およびlate
G1〜early S期においてはradical scavegerとしてのfreeのSH量が少くなっている。しかしAPSH量とX線の周期的感受性曲線の間には、それ程きれいな関連性は認められない。こうした結果はOhara
and Terasimaの結果とよく一致している。
《梅田報告》
8AG耐性細胞を得るためにわれわれは以前、吉田肉腫細胞(YS)を低濃度の8AG処理をして培養を続け、段階的に濃度を上昇させる方法をとってみた。最初の接種細胞数が10万個のオーダーの細胞だと、どうしても10-5.0乗M迄耐性をあげることが出来なかった。そこで前回の班会議での堀川さんに対する質問になったわけであるが、あれだけ高い耐性コロニーの出現率があれば、われわれの以前の実験で8AG耐性細胞を得ても良い筈である。このことが使う細胞種の違いによる場合もあろうが、とにかくYS細胞で得つつあるわれわれの実験結果を御紹介する。
(1)YS細胞に対する8AGの増殖に及ぼす影響:使用しているYS細胞は、in
vitroで1年以上継代しているもので、培地はMEM+10%CS+polypeptoneを使用している。培養最初の日に8AGの各濃度を加え、以後4日間の増殖カーブを画くと図の如くなる(図を呈示)。10-5.0乗Mでも細胞は完全に死なない。10-5.5乗Mで増殖がやや抑えられる程度である。因みに最近使っている仔牛血清のlotが非常に悪く、コントロールの増殖もさほど良いと言えない。
(2)YS細胞の軟寒天内コロニー形成:軟寒天としてはbase
layerに0.5% seed layerに0.33%のagarose液を使用した。細胞の接種数は、8AG投与群は50万個細胞/シャーレと10万個細胞/シャーレの2つとし、コントロールは200ケ6cm径のシャーレを2枚宛用いた。結果は10-4.0乗M
8AGで、小コロニーがあっても変性した細胞が多く、一部にきれいな細胞がある様なものからなり、結局コロニーとして数えられるものはなかった。10-4.5乗M
8AGでは50万個 cells/dishのものでも多数のコロニーが出現しており、全部を数えきれなかった。全く概算として300〜500ケのコロニーがあったとすると約0.3〜0.5%のPEと云うことになる。コントロールは32%のPEを示した。
(3)10-4.5乗M軟寒天中に出来たコロニーの8AG耐性試験:上の実験の10-4.5乗Mでの、数えきれない程あったコロニーの中から完全にcloneを拾えない事は承知で5ケのコロニーを(出来るだけ単一のもの)培養に移した。夫々の増殖するのを待って液体培地で10-4.5乗M、10-5.0乗M
8AG培地に入れて培養した。コントロールのYS細胞も同様にした。4日間培養で10-4.5乗M投与例は全例変性に近い形態を示した。10-5.0乗M投与例はかなり元気そうな細胞から成っていた。しかしコントロールも同じようであった。そこで遠心後上清を捨て、又新しい10-5.0乗M
8AG培地を加えて培養を続けた。この操作の繰り返しのうちに、3回程でほとんどのso
called cubclonesは細胞は変性していった。今、4回目の交換で1cloneだけ元気そうな細胞が残っているが数は少ない。
(4)10-4.0乗M 8AGでinoculum数を多くした場合:(2)の実験で10-4.0乗M
8AGで、コロニーを作らなかったが、所謂spontaneous
mutation rateが10-6乗〜-7乗のオーダーとすれば、沢山のシャーレを使用し沢山の細胞をまけば、耐性クローンがとれて良い筈である。沢山のYS細胞を増殖させ、結局全細胞数930万個を10枚の9cmシャーレにまいて調べた所、コロニーは1つも現れなかった。コントロールは8AGを加えてないものは30%のPEで、実験培地その他にぬかりはなかった筈である。
以上まだ結論は出ないが、他のHeLa、L-5178Y細胞でも同様の耐性試験を行ってみる予定である。
《山田報告》
(But)2cAMPが細胞膜にも変化を与える、特にConAの細胞膜に対する反応性を変化させることを前回報告しましたが、今回はこの(But)2cAMPの反応機序を解析してみました。
用いた細胞はAH66Fで、いづれも37℃30分反応後1回生理食塩水洗滌後細胞電気泳動度を検索した結果です。但し、ConcanavalinAの反応のみ37℃10分保温した後に洗滌せずに測定することは従来通りです。
(But)2cAMPが膜に直接変化を与えるものか、或いは細胞内のcAMP濃度を高め、二次的に細胞内からの指令により変化するのかを検索した結果を報告します。
肝細胞内のcAMP濃度を高めると云われるGlucagon(10μM/ml)、そして逆に低下させると云われるInsulin(0.1units/ml)、そして(But)2cAMPの細胞形態に与える変化をブロックすると云われるColcemid(0.7μm)をin
vitroで作用させた後に、各種濃度のConcanavalinAを反応させた結果が図1です(図を呈示)。
(But)2cAMP及びGlucagonは、ConAの反応を完全に阻害しますが、Colcemidは全く変化を与えません。InsulinもかなりConAの反応を抑制します。即ち、この濃度では、GlucagonとInsulinもかなりConAの反応を抑制します。即ち、この濃度ではGlucagonとInsulinはanta-gonisticに働きません。しかし次の実験でInsulinの作用は濃度如何で逆の作用があることがわかりました。
次に各種濃度の(But)2cAMP、Glucagon、Insulinを反応させた後に、ConAを反応させたのが図2です(図を呈示)。
(But)2cAMP、Glucagonは濃度と共にConAの反応抑制が増加して来ますが、Insulinは0.05unitの濃度で、かえってConAの反応を増加させ、Glucagonとantagonisticな作用を示しました。この三者の反応はColcemidを付加的に反応させることにより消失して来ることもわかりました。
これらの結果は、(But)2cAMPの作用が細胞内cAMP濃度を高め、二次的に細胞膜が変化することを思わせるものと思われます。しかもColcemidによる反応性の消失は、(But)2cAMPが細胞内microfilamentを介して作用しているかの如き印象を与える成績です。
《佐藤報告》
◇培養内発癌実験:
アゾ色素による培養内発癌実験は、実質的には、RLD-10株について培養日数850日ないしは1086日の3'Me-DAB添加により悪性化を認めた実験に始まる。この時の復元腫瘍からの再培養株AHTC-86aは3'Me-DABの再添加により悪性化の増強を示した。最近、単個クローン株のPC-2でも同様の結果を得た。以上の結果から、アゾ色素が発癌因子となったか否かは、尚、明らかではないが、肝細胞の悪性化の増強作用を示したことは確実らしいと考える。この点を更に明確にすることを当面の研究目標としたい。
使用する細胞は、DAB飼育日数191日のラッテ肝由来細胞dRLa-74とする。本細胞は、復元腫瘍像、あるいは旋回培養法による凝集塊の組織像から、腺腫様とみなされ、悪性化の増強の検討には好材料と考える。本細胞の培養技術上の難点は、通常の0.25%トリプシン分散法では殆んど分散されない事で、クローンレベルの実験は殆んど不可能に近い。このため、現在、各種細胞分散剤(トリプシン、EDTA、コラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼなど)を用い、単離細胞を得る条件を求めている所である。(文献を呈示)
《乾報告》
専売公社へ身柄を移しましてから、満3ケ月の日が過ぎました。予期せぬ出来事の連続と明けても暮れても金の計算ばかりで、仕事が出来ず、近頃の天候のようにゆううつな毎日です。この間ぼつぼつやっておりました仕事につきまして、二、三御報告致します。
1)チャイニーズハムスター細胞の培養
生後6日目の雄チャイニーズハムスターの肝、肺、皮膚を0.25%のトリプシン(pH7.2)で30分消化後MEM(日水)、Dulbecco's
Modifie Eagle液で培養し、現在6〜9代目の細胞を6系分離しました。(いずれも20%C.S.)染色体は5代目(35、37日)に調べた所5系は正常核型を示し、肺由来のMEMの細胞はNo2がMonosomyの21本です。細胞形態は、肺由来細胞が培養3代約半月後、表皮系の形を示しましたが、現在は残念ながらすべて繊維芽細胞様です。
私はこれらの細胞を使って染色体バンドの仕事をしていくつもりですが、この細胞が皆様のお役に立ったらと思っております。
2)杉村先生の所で、一連のニトロソグアニジンの誘導体(Methyl-、Ethyl-、Butil-、Isobutil-、Propil-、Hexyl-)を合成され、バクテリアの系で側鎖の長い程、Mutagenecityの低いことを見つけられました。やっとこれらの薬品を分けていただきましたので、この一連の物質で、DiPaolo、Takano法のTransformation
Test、染色体変異誘導性の実験を始めます。次々回には御報告出来ると思います。
《高木報告》
AAACNによるin vitro発癌の試み
月報7306に報じたようにAAACNは細胞に対する毒性が比較的に弱く、培養に3日間入れっぱなしでも細胞の増殖抑制は著明でなかった。今回はAAACN
10-1乗Mをethanolにとき、これをHanks液で10-3乗、10-4乗、10-5乗Mに稀釋してその各々を培養2日目の約9万個のRFLC-5細胞に1時間作用せしめ、直ちにこれを洗って培地と交換してさらに6日間培養した。結果は図に示すように10-4乗Mでごく僅かな細胞増殖の抑制がみられ、10-3乗Mでははじめの3日間は著明な細胞数の低下をみたが以後の3日間は生存した細胞の増殖を思わせる所見であった。従って10万個以上の細胞数に作用させる場合、10-3乗M程度の濃度が適当かと思われる(図を呈示)。
次に前報の実験の続きを報告する。約20万個の細胞に、AAACN
10-4乗、10-5乗、10-6乗M 2時間1回の処理では、処理後150日をへた現在も形態的変化を認めていない。処理後26、63、104日に100万個の細胞をsuckling
rat皮下に移植したが、各124日、87日、46日をへても腫瘍の発生は認められない。処理後103日目に0.45%のsoft
agarに200ケ細胞をまいて4週間観察したがcolony形成はみられなかった。AAACN
10-4乗M 2時間ずつ1週間隔で8回作用させた実験群でも、処理後45日をへて形態学的変化はみられず、4、6回処理後の復元でも腫瘍の発生をみない。
《黒木報告》
V79細胞からの紫外線感受性細胞分離の試み
前回までの実験でFM3A、L5178Y細胞から分離したUV感受性細胞が不安定であることがわかった。そこで動物の種をかえて、ふたたびUV-sensitive
cloneの分離を試みた。動物の種をかえて、安定なcloneを得たというPackらの例があるからである(順天堂大・野沢氏の話によると、Packのところでは最初HeLaからauxotrophの分離を試みたが、すべて不安定であったので、chinese
hamsterにきりかえたところ、CHOから安定な細胞を得た。)
§実験方法§
前回と同様にMNNG処理後Agar plateにコロニーを作らせ、replica法で分離した。レプリカの際には0.1%
pronase前処理を行った。MNNGは1.0μg/ml/h。expresionは2日間おいた。(表を呈示)。表1に示すようにレプリカで100erg照射でコロニーを作らないかあるいは増殖のおそいクローンは29ケ発見できた。その率は9.8%であった。このクローンを、100erg照射のsurvival
fractionで第一回screeningを行ったところ、表2のようにVS-3、-11、-13、-15に、明らかな感受性がみられた。このなかで、例えばVS-3、-15は100ergで1/50〜1/100の感受性を示した。またVS-19、-20は逆に紫外線に対して抵抗性のようにみえた。
これらのクローンを、25、50、100、150ergでdose
responseカーブを出したところ、すべてのクローンがもどってしまったことが明らかになった(表3)。どうして、このように不安定なのかはよく分らない。geneticというよりは、epigeneticの変化のためであろう。目下、VS-3、VS-15にもう一度MNNGを添加してsensitive
cloneをひろうべく準備中である。
《野瀬報告》
今月は3週間ほどアメリカ旅行をしたため、あまり実験の方は進展しませんでした。しかし向うの研究の現状を、いくつかの研究室を訪問して直接かいま見たことは大変有意義だったと思います。
私は培養細胞の表現形質(広い意味で癌化も含む)をできるだけ分子レベルで機構の解析をしたいと思い、そのマーカーの一つとしてalkaline
phosphataseを取り上げてきましたが、一つだけではなく、別のmarkerとしてsucraseを少しつついて見ようと考えました。その理由は(1)alk.p.aseより臓器特異性が強く、ほとんど小腸粘膜に局在すること、および(2)胃癌に伴なうintestinizationの際、胃にも検出され、癌化と密接に関連しているように思われることのためです。
そのため、まず初代培養からsucroseをglucoseの代わりに利用できるcell
lineをとることを試みました。その方法は以下の通りです。
rat embryo(約15日目、4匹)をtrypsinでバラして、炭酸ガスフランキで培養する。培地は、アミノ酸、ビタミンが2倍濃度の、Eagle's
MEM(Glucose-free)+5%FCS+0.1%sugarである。初代は3月16日に開始し、6日間glucoseの培地で培養した後、sucroseを糖源とした培地に移し、更に培養を続けた。glucoseからsucroseにかえて5日目に培地交換を行なったら、対照のglucose培地の細胞はconfluent
monolayerであるのに対しsucrose培地の細胞はsheetがはがれ、大部分の細胞が失われた。しかし、残った細胞が次第に増殖し、6月30日現在、共に5回のsubcultureを行なって、まだ細胞は健在である。
途中で、増殖曲線、染色体分析、など行なった。sucrose培地中で継代している細胞は、培養開始後、少なくとも5週目ではsucroseを利用しえたが、最近growthが次第に悪くなってきている。5週間たっても増殖したことから、glycogenのような貯蔵物質によって生存していたのではないと考える。この細胞がcell
lineになるかどうか今後に期待したい。
《山上報告》
この度、新らしく、班に所属させていただく事になりました。よろしくお願いいたします。昨年4月より高木良三郎教授のもとで、組織培養を習っています。それ以前は九大癌研(化学)及びTemple大癌研にて、もっぱらBacteriaとPhageを扱っていました。トンチンカンな事も多いと思いますので、色々御教示下さいますよう、お願いいたします。
当研究室では先にMNNGのin vitroでの発癌実験があり、現在もtransformed
cellの特性に関する研究がありますので、それらに関連して研究して行きたいと考えています。
Transformed cellの内、もどし移植出来て動物を癌死させる性質とin
vitroでの性質の相関を見つける為に培養の条件についての検索が色々されていますが、細胞がtakeされるに当っては細胞の悪性度と云う事以外に細胞の抗原性と云う因子も強いと考えられます。ある型の無制限増殖とある膜の抗原性の変化に一定の因果関係があるかどうか、化学発癌の場合は、はっきりしないと思いますが、無制限の増殖と云う増殖形態の為に、機能上あるgeneがopenとなる様な場合も含めて、この両者には直接の関係はない、つまり培養内でcontact
inhibitionのとれた細胞は全て癌であり、takeされるか、どうかは癌の本質には関係がない、と云う立場で進めてみたいと考えています。この場合は、免疫的に膜の変化の大きいものほどrejectされやすい事になります。そしてrejectionはhomograft
rejectionのtypeで中和抗体よりも細胞性免疫機構、つまり胸腺由来の感作リンパ球が主体となると思われますので、まず、株細胞より胸腺摘出動物と摘出しない動物にtakeされ方の差のあるstrainのisolationから始めたいと考えています。
【勝田班月報:7308:Colcemid法による異数性クローン誘発】
《勝田報告》
種々の細胞の増殖に対するスペルミン及びその前駆体の影響:
肝癌細胞の培地中に放出する毒性物質の本態として、スペルミンが疑わしいことをこれまで報告したが、今回は種々の細胞に対するそれらの影響をしらべた。テストは3日間の培養である。
まず肝細胞系の細胞、肝癌及び移植性のない肝細胞などに対するスペルミンの影響をしらべると(実験毎に図を呈示)、悪性度の強い細胞ほど抵抗性が強く示された。RPL-1株だけは肝由来でなくラット腹膜細胞であるが、これはわずか1μg/mlの添加でも全滅した。
次にfibroblasts系の細胞に対する影響をしらべた。正常肝に比べるとやはり抵抗性は高く、培養内で自然発癌したRLG-1はもっとも抵抗性が高かった。
これは双子管での培養による結果とかなり似た結果になっているが、スペルミンの毒性の方がセンイ芽細胞に対して少し強いという"印象"を受ける。
合成培地内で継代中の諸株に対するスペルミンの影響をしらべた。結果は各株ともスペルミンに対する抵抗性が比較的強いということである。それがどういう理由によるのかは未だ不明である。このなかでJTC-16・P3はラットの腹水肝癌AH-7974由来であり、いまだに合成培地内継代株でも、動物への可移植性を保持している細胞である。
各種ポリアミンの代謝経路に関しての図を示す。
次にラット肝細胞株RLC-10(2)株の増殖に対するスペルミン及びその前駆体の影響をみたが、スペルミンとスペルミジンがはっきりと増殖抑制を示しているのに対し、プトレシンとアグマチンが全く抑制効果を示さぬということは興味が深い。これまで前駆体と考えられていたものが実はそうではなかったのか。哺乳動物細胞にはこの経路の酵素が無いのか。色々なことが考えさせられる。
生体内に存在する各種のポリアミンについての表を示す。
:質疑応答:
[永井]前回の班会議の時、in vitroでの増殖阻害とin
vivoに生理的に存在すると思われる濃度との関係をきかれましたので、その後調べてみました。生体内では脳とか腎臓とかにかなり大量のスペルミンがある事が知られていてin
vitroでの阻害濃度に匹敵する位の濃度を細胞内に持っていることもあるようです。それから、今心配しているのは、肝癌の出す毒性物質=スペルミンでは決してないので、スペルミンに関しては毒性物質とイコールのつもりで追ってはならないという事です。
[山田]スペルミンの作用はノイラミニダーゼの影響と大変よく似ていますね。強塩基性の物質なので細胞膜との結合の問題を第一に調べてみることが必要だと思います。
[永井]膜の酸性の部分に結合する事が考えられます。肝癌の毒性物質とスペルミンの違いで気になるのは映画に出てくる死に方の違いです。毒性物質の場合は激しいバブリングがあって死ぬのですが、スペルミンはバサッと死んでしまう。増殖の促進物質を追うのは大体間違いがなくて安心ですが、阻害物質を精製するのは罠が多くて難しいですね。
[黒木]ドーズレスポンスカーブをみていて気がついたのですが、死ぬ濃度がとても急激ですね。一段前では50%位なのが次に0になったりして・・・。
[高岡]濃度を倍々稀釋にしているのがよくないのかも知れません。
[黒木]スペルミンの定量は簡単にできますか。
[永井]普通、蛋白質などに使うアミノ酸分析の方法では定量できません。ガスクロでやるより他ないでしょうね。準備はしているのですが、樹脂にすごくよく吸着するので、溶出が困難です。もう一つの方法は高圧電気泳動ですが、これもまだ確立されていません。
[黒木]動物に対する毒性は調べられていますか。
[永井]はっきり知りませんが致死濃度はかなり高いと思います。
[勝田]何れは動物実験にもってゆく予定ですが、何を指標にするか問題です。致死か免疫能か、あるいは他の何か。
[永井]癌患者の血清中のポリアミン量の定量などのデータはありますか。
[勝田]無いのではないでしょうか。それから、このデータをみていて不思議に思うのは、スペルミン、スペルミジンは毒性があるのに、プトレッシンには全く無いという事です。プトレッシンがスペルミンの前駆体だとすると、どうしてこうなるのか。或いはプトレッシンの場合はもっと長過間観察をするべきかも知れません。
[高岡]スペルミンが細胞内で合成される場合には無毒なのに、細胞外から与えられると細胞を障害するとは考えられませんか。今プトレッシンに放射能をつけたものを注文していますので、それを使えば合成については、はっきりさせられると思います。
《高木報告》
AAACNによるin vitro発癌の試み
1) AAACN 10-4、10-5、10-6乗M 2時間1回作用
処理後170日を経ても未だに形態の変化はみられない。処理後26、63、104日目に同系suckling
ratの皮下に移植したが各々144日、107日、66日を経て腫瘍の発生をみない。
処理後103日に0.45%soft agarにまいたがcolonyの形成はみられず、その後はsoft
agarの実験は行なっていない。
2) AAACN 10-4乗M 2時間ずつ1週間隔で8回作用
処理終了後65日を経て形態の変化はみられず、4〜6回処理後、同系suckling
ratの移植実験でも腫瘍の発生をみない。先の月報7307に書いたRFLC-5細胞に対する2時間作用の際の毒性効果から3.3x10-4乗Mについても検討をはじめた。Positive
controlとして3.3x10-5乗MのMNNGをおいている。
動物実験で腫瘍が出来たと云う話は未だ遠藤教授から聞いていないが、以上のin
vitroの実験でも現在まで未だnegativeである。
Xeroderma pigmentosum患者皮膚生検組織の培養について
最近、11才の女児で顔面にerosion、その他皮膚部位に悪性化もみられるXP患者の例があったので、日にさらされない健常と思われる部分の皮膚を生検して培養を試みた。培地はMEM+15%FCSである。現在4ケ月半、13代を経ているがfibroblasticな株細胞をえている。この細胞がUVsensitiveか否かは、対照となるべき正常人皮膚繊維芽細胞の増殖が思わしくないためcolony形成能でも、growth
curveでも未だ比較されておらず、確実な証明はない訳であるが、肉眼的には差があると思われるので、少し早すぎる感はあるが今後の計画も含めて一応の報告をしておく。なおUVは、15Wのgermicidal
lampを点燈後安定してからランプの直下中央100cmの距離に培養シャーレをおいて照射している。Ergometerがないため測定は出来ていないが出来るだけ同一条件で照射するよう心がけている。
この細胞がUVsensitiveとした場合、これを用いた発癌実験を行いたいと考えている。すなわちMNNGその外当研究室で従来取扱って来た発癌剤を作用させて、形態的な変化、soft
agar内のcolony形成能、移植実験などを行なってみたい。この際一番問題になるのは移植実験であるが、これはFranksら(Nature,243,91,1973)の方法により行なう予定である。彼等は生後4週令の雌CBAマウスにthymectomyをほどこし、2週後に900r照射してその直後にsyngeneic
bone marrow cellsを静注し、その動物の皮下に人の腫瘍を移植しているが、可成りの大きさになるまで発育しているようである。この実験系はラットでも同様に応用出来るのではないかと考えている。因にMNNG各濃度のXPcellsに対する効果をみた(図を呈示)。10日培養の結果では3.3x10-6乗Mではやや増殖阻害、10-5乗M以上では細胞の増殖はみられなかった。PEで観察する積りであったが、この細胞はcolonyを形成しにくく、少数をシャーレにまいても少し増殖するとすぐにsheetを作る傾向がある。従ってシャーレにまいてMNNG作用後、一定の期間毎にtrypsinizeして細胞を集めcountしたものである。
その他、6-DEAM-4HAQOを静注したラットはいずれも外観は全く変りなく飼育している。現在注射終了後3ケ月を経過した。またRRLC-11細胞の産生(?)するvirusについて電顕写真を供覧する。
:質疑応答:
[勝田]ヒトのtumor cellの復元法として、マウスに抗マウスリンパ球血清を打っておいて、ヒトのtumor
cellを接種するというのが流行っていますね。
[乾 ]Heterotransplantationはtakeされれば問題ありませんが、takeされなかった場合、腫瘍でないとは言えませんね。それからXP細胞が紫外線感受性をもっているかどうかという事は、はっきりさせておくべきですね。
[黒木]H3 BUdRを使ってunscheduled DNA合成を調べてみればよいでしょう。XP細胞のMNNG感受性が正常と同じだということは期待出来るデータです。
[高木]対照に使う人由来の二倍体細胞も自分の所で作って使いたいと思っているのですが、仲々成功しなくて困ります。それからXP細胞は凍結保存にも弱いようですね。
《山上報告・若い研究者》
前号に記しましたような立場にしたがって、培養内でtransformしたcloneを出来るだけ多くrandomにisolateするために、次の二つをためしています。一つはthymectomyした動物にNG処理した細胞を植え、出来たtumorを再培養して、thymectomyしない動物には着かないcloneをさがす方法で、thymectomyを練習しています。胸骨の一部を切開してthymusを吸引する方法で慣れると非常に確実に出来るようです。
もう一つは全く培養内で最初からcloneとして採れないかを考えています。このため植継がずに長期培養出来るように、又条件も簡単で広くcover出来るように考えてみました。9cmのシャーレにcellを植えsemiconfluentになってから、0.6%のsoft
agar mediumをcoverし一方の端からNGを72時間拡散させて処理し、その後soft
agarを捨て、数回シャーレを洗ってから、liquid
mediumでrefeedしながら観察しています。Soft
agar 30mlでNG 2-3mgですと、9cmシャーレ中に6cmほどのnecrosisの円が出来、その外に月形の細胞のzoneが残ります。(NGは72時間以前に分解消失すると考えられます)。NGを置いた対側ではcell
growthが盛んでここからはげ落ちる恐れがありますので、定期的に外周をトリプシン処理するが、かき取っています。現在2Wになるものもありますが、まだfocusは認めません。移行部では数日内に巨大化や多形、線形等の強い形態変化がみられます。この方法はNG以外でも色々やってみるつもりです。副産物に薬物resistantがとれる可能性もありMutagenと組合わせて拡散させる事も可能ですので。
:質疑応答:
[勝田]此の場合、変異とはどういう事だと考えているのですか。
[山上]接触阻害がとれて、コロニーが盛り上がってくる事を指標にしています。
[山田]基本概念として変異=癌化だと割り切るには何か根拠がなくてはいけないと思います。そこを皆が何時も悩んでいる所ですから。そう気軽にとび越えられない筈の大きな壁を無視して、その先をスイスイとやっている感じがしますね。
[黒木]接触阻害がとれる事が変異の条件だとするからには、その系は何時もちゃんと接触阻害を保っている事が大切です。
[勝田]それから胸腺を除去した動物で腫瘍性をチェックしていると、本当の腫瘍から遠ざかっていくのではないでしょうか。
[吉田]癌化のeventをみるという事で、初期変化のチェックをする為の手段としてなら、これでよいのではありませんか。簡単に短期間でチェックできるのは有利ですから。
[山田]それにしても免疫学的に処理した動物にtakeされるかされないかということだけで悪性化をチェックするのは問題だと思いますね。
[勝田]生体内でも変異は始終起こっているが、たいていは排除されてしまう。その中で生き残って生体内で増殖できるものを癌というのだと思っています。
[乾 ]細胞が癌化することと、癌という病気とは分けて考えるべきなのですね。
[高木]変異した細胞が生体内で増殖する場合、宿主の方に問題があるのでしょうか。それとも細胞側の問題でしょうか。
[勝田]細胞の側に主体性があると思います。
[高木]胸腺切除の方法を使うのは、in vitroでの形態変化からin
vivoでのtakeされるまでの期間を少しでも短縮できるのではないかと考えての事です。
[吉田]組織培養を使って癌化を研究する利点はin
vivoの実験では捕まえられない早い時期の細胞変異をみられる事だと思います。その意味ではこの方法はよいと思います。
[勝田]二つの問題があります。一つは変異した細胞が生体内ではどうやって排除されているのか。もう一つは悪性変異した細胞がtakeされるまでに黒木説の三段階の順をふまなくてはならないのか。それは単に量的変化でなく細胞の質的変化なのかという事です。
[黒木]例の三段階説は移植のステップにすぎず、細胞レベルの変異はもっと複雑でしょう。移植性と100%同じという指標はないと思います。培養したハムスター細胞に4NQOを処理して得られる変異細胞は、動物にtakeされてすぐ動物を殺すもの、takeされないもの、takeされるが宿主の動物と同じ位の大きさの腫瘤になってもまだ動物を斃さない毒性の弱いものなどと色々なものがとれます。恐らく生体では排除されてしまう運命にあるものがin
vitroでは生き残るからでしょう。そういうin
vitroの特徴を生かすべきですね。
[勝田]In vitroの特徴はあらゆる変異を捕えられる可能性をもつ反面、宿主を斃すのが癌という病なのに、その宿主の反応を組合わせてみる事のできない弱みがありますね。
[黒木]癌は形態変化+αだとすると、形態変化を初期指標にするのは自然でしょう。
[佐藤]+αかどうか。発癌剤は始から癌性変化の方向を決めているとも思われます。
[黒木]経験的には形態変化なしの悪性変化はありませんでした。
[乾 ]形態変化と染色体レベルの変化は時期的に関係があるようです。しかし染色体に限ってみると、変異初期に主体だった集団が動物にtakeされるとは限りません。
《山田報告》
前々報でラット腹水肝癌AH66Fを10unitsのノイラミニダーゼ処理後、1mMの(But)2cAMPで処理するとその表面荷電が増すことを報告しましたが、その後その増加する荷電を担う物質を検査した所恐らくは酸性ムコ多糖類が細胞表面に露出して来るのではないかと云うことを思わせる知見を得ました。即ち、シアリダーゼ感受性も、カルシウム吸着性も、この処理によって増加せず(図を呈示)、酸性ムコ多糖類に特異的に結合すると考へられているRuthenium
redの吸着性が、ノイラミニダーゼ→(But)2cAMP処理された細胞に増加することを発見しました。Hyaluronidase感受性もこれと同様感受性が増加することも、併せて知りましたので、まずは酸性ムコ多糖類に依存する荷電が新たに露出して来るものと推定しました。
ConA反応性に対する(But)2cAMP、Glucagon、Insulinの干渉:
ConAのAH66Fに対する反応性が、これら三者により阻害されることを前回報告しましたが、今回は三者の反応を経時的に追求してみました(図を呈示)。そして前報を裏付ける成績を得ました。
即ち(But)2cAMPの作用は細胞膜直接の影響ではなく、細胞内のcAMPレベルを含め、二次的に細胞表面の荷電を変化させるものと思われます。この所見は、細胞増殖時期と休止期における細胞内cAMPの変動が間接的に膜の荷電を変化させると云う推定を可能にさせます。
代謝阻害剤によるConA反応性の変化:
Puromycin、actinomycin及びCytochalasinB其の他呼吸阻害剤いづれもConAの細胞に対する反応性を阻害しました(表を呈示)が、しかしpuromycin、cytochalasinBが特に著明でした。2-4dinitrophenolの場合は、使用量が少いのでなんとも云へませんが、NaN3でも著しく阻害しました。この成績の意味づけについては今後考へてみたいと思って居ります。
:質疑応答:
[野瀬]泳動値が変化するのは、細胞膜の荷電密度の変化だとすると、細胞の形の変化とも関係があるのではありませんか。
[山田]それは関係ありません。膨潤なども泳動値とは関係ありません。
《乾 報告》
ニトロソグアニジン系誘導体8種の毒性、突然変異誘導性及び発癌実験:
先月の月報でニトロソグアニジン種々の誘導体のバクテリアに対する突然変異誘導性は側鎖が長いものほど少ないと云う実験結果を文献的に報告し、細胞水準での毒性、突然変異誘導性及び発癌性についての検索を計画しつつある事を前回報告した故、その結果の一部と、将来の計画について報告します。
実験にはN-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(MNNG)、N-ethyl-N'nitro-N-nitrosoguanidine(ENNG)、N-n-prophyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine、N-n-buthyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine、N-iso-buthyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine、N-n-penthyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine、N-n-hexyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(HNNG)及びN-methyl-N-nitrosoguanidine(Denitrose-MNG)の8種のnitrose-化合物誘導体を使用し、各物質を細胞100μg、31.1μg、10μg、3μg、1マイクロ・・・のlogarismic
scaleで投与し、その細胞毒性の検索を行なった。作用Doses決定の為のfirst
stepの実験とし、MEM+10%C.S.の条件下で上記8種の化合物を100μg、31.1μg・・・の条件下で培養3代目のハムスター線維芽細胞に48時間作用した。MNNG作用群においては3.1μg/ml作用群で細胞はLD100を示し、1μg/ml作用群はLD50以下であった。それに反し、発癌性の全くみとめられないDenitrose-MNG作用群では、100μg/mlにおいても細胞毒性は認められなかった。実験計画の意に反し、ENNG〜HNNG作用群間上においては、各作用群に上記条件下において細胞毒性度について差はみとめられなかった。
今後、適当な条件を設定し、R-(CnHm)基側鎖の大小による初期細胞毒性の変異(化)を検索すると共にMNNG
0.5、1μg/mlと同じ毒性の条件下で、Heiderberger等、Sacks等のfeeder
layer+Hamstaer Embryonic cellの系を用い、各誘導体の突然変異誘発率を、算定し、合せてMNNG〜Denitrose-MNG間で2、3の物質を選出し試験管内発癌実験を行ない、同一誘導体間での側鎖の大きさと発癌率の関連について検索したい。
:質疑応答:
[黒木]Feederの細胞が1週間から10日で剥がれるのはいいのですが、ハムスターの細胞まで剥がれるのは変ですね。容器が悪いのか、feeder
cellの数が多すぎるのか・・・。
[梅田]100万個は少し多いですね。
[吉田]毒性の判定は何でみていますか。Killingですか。
[乾 ]そうです。毒性ではメチルとエチルの間に一段差がありますが、killingが変異と平行している訳ではありません。
[吉田]染色体にもdirectに働きますか。
[乾 ]Chromatid levelのbreakは起こします。
[吉田]変異率と染色体のbreakの関係をみると面白いでしょうね。
[黒木]アルキル基はDNAにくっつき、グアニジド基は蛋白にくっつく。突然変異はアルキル化と関係があるようですね。
《佐藤報告》
T-1) dRLa-74の性状について:
dRLa-74は(N-1-1)、0.06%DAB飼育(191日)ラッテ肝由来の細胞株である。今回報告の実験は総培養日数603〜664日の間で行われたものである。
a)細胞形態:上皮様細胞、核の異型性認める。核は細胞質に比して大きい。細胞は網眼をつくって増殖する。
b)増殖率:6日間で約10倍(6.6万個/1.5ml/tue植込み)
c)アルブミン、α-フィトプロテイン:培養液(BSfree、48hrs)の約100倍濃縮液で検出されなかった。
d)腫瘍性:100万個、10万個、1万個/rat 復元。現在観察中。
T-2) dRLa-74の分散実験:
dRLa-74は0.2%Trypsin 5〜10分処理では殆んど遊離生細胞が得られないため、クローニングその他の実験が不可能に近い。Trypsin(Difco)、EDTA(Sigma))、Hyaluronidase(Sigma)の単独ないしは組合せによる分散条件を検討した(図を呈示)。処理時間は60分、0.1%Trypsin+0.1%EDTAの組合せで20%以上の遊離生細胞を得た。更に、Trypsin
0.05、0.4%+EDTA 0.02、0.5%の組合せを行った(表を呈示)。一応いずれも遊離生細胞を得たが、0.5%EDTA使用の場合、生細胞は全く得られなかった。0.05%Trypsin+0.12%EDTAの場合で明らかな如く、殆んどの細胞が4個以内の細胞として分散されていることがわかる。
☆前月報でも少し記載したが、勝田班長を中心として組織培養を応用して発癌機構の研究にかなり永い間従事して来た。その間Donryu系ラッテ肝の培養とDAB、4NQOの組合せを中心に研究した。現在世界の研究は肝特に成熟ラッテの肝の培養に関して急速な発展が見られるようになった。我々は今心新たに研究の速度をあげなければ最後の勝利を自らの手中におさめることは不可能に思われる。−己への反省− 成熟Donryu系ラッテ肝の培養については大学院ツタムネが従事してきたので次回月報でまとめて報告の予定。
発癌機構の問題で詳細な検討が必要であり又重要であると思われるのは、勝田さんが最初に見つけた発癌剤による増殖誘導の問題(1)と、正常細胞(真の意味の)の癌化と所謂前癌状態の癌化の区別(2)であろう。(1)に就いては私も追試し確認したし、又次癌学会でも報告の予定である。(2)に就いては差当たり、弱いけれども造腫瘍性の確実にある細胞が発癌剤でどのような態度を示すかを検討しようと試みている。本月報の報告は後者の実験の出発である。
:質疑応答:
[黒木]Singl cellと生細胞と両方の表現がありましたが、どう違うのですか。
[佐藤]この細胞系の場合、single cellにするためにトリプシンやEDTAを使うとsingle
cellは増えますが、死んだ細胞も増えますので、特にsingle
cellの中の生きているものだけを数えています。
[黒木]1ml注射器で吸ったり出したりするとsingle
cell rateがぐっと高まります。
[佐藤]上皮系の細胞は機械的な刺戟に弱いのです。
[山田]pHも影響するでしょう。
[佐藤]pHについては調べてありません。
[吉田]なぜ腫瘍細胞に発癌剤をかけるのですか。
[佐藤]正常細胞由来といっても何時悪性化するか分からないのですから、性状が不明です。それより、まだ非常に悪性とまではゆかないが、動物に接種すればこの程度の腫瘍を作るということが分かっている材料を使って発癌剤を与えることで、腫瘍性の増強だけでもはっきりさせたいと考えています。
[吉田]Single cellにするわけは・・・。
[佐藤]元がsingleでないと、発癌剤で腫瘍性が増したのか、腫瘍性の強いものをselectしたのかが、分からなくなりますから。
[山田]腫瘍性の強弱は、増殖度とも関係がありますし、死亡日数と必ずしも平行しませんね。組織像でも判定できませんし、仲々難しい問題ですよ。
[佐藤]私の系の場合、生体内で同じDABを与えつづけて悪性に移行して行く段階のものを指標に持っています。
[津田]発癌剤が変異剤として働いて腫瘍性が無くなることもありますね。
[黒木]復元実験の場合、動物の系、年齢、部位など一定にすれば生存日数が悪性度を示すと思います。
《梅田報告》
(I)前回の班会議(月報7306)でアルカリ蔗糖勾配上で直接細胞をlysisさせる方法でのDNA崩壊が時間、温度に影響されること、又崩壊のパターンは正常細胞と悪性細胞で異っているらしいことを報告した。前回のデータはまだ整っておらず、いろいろの試みの結果を報告したので、温度の条件、lysisの時間も同じでないものが混っていた。
一応、ヒト由来の正常細胞と悪性細胞、マウス由来の正常細胞と悪性細胞について同じ条件(lysis
19℃と37℃、時間1、2、4、24時間)で比較したいと考えたので、前回報告したヒト由来二倍体細胞、HeLa細胞、マウス由来L細胞に加えてマウス由来胎児細胞、L-5178Y細胞とも実験してみた。
(II)(図を呈示)マウス由来胎児細胞の遠心パターンのデータは19℃lysisでは1時間2時間でcomplexの山がみられ、4時間lysisでBottomより13〜14本目のmain
peakが一番高くなっている。37℃lysisでは1時間lysisで既にmain
peakが現れている。
(図を呈示)L-5178Y・マウスlymphoblastoma
originは今迄HeLa細胞、L細胞でみられたように、1時間lysisで既にmainpeakが12本目に現れている。
(III)前回ふれたことであるが、このDNA崩壊のパターンに核膜の有無が関係している可能性があるので、核膜の消失しているmetaphaseの細胞のみ集めてアルカリlysis液中にのせ同じ条件で遠心してみた。(図を呈示)HeLa細胞の結果(先回月報7306で24時間目のみ欠)と、ヒト由来2倍体細胞のmetaphase細胞の結果は、両者共、1時間lysisで13本目にピークが現われ、19℃lysisにも拘らずcomplexの出現は見られなかった。
:質疑応答:
[山田]Degradationが起こる場合、癌細胞と正常細胞とでどう違うのですか。
[梅田]癌細胞はcomplexにならず、正常細胞は小さいけれどcomplexになりやすいと考えています。正常細胞はDNAが核膜に強くついているのではないでしょうか。
[松村]分子量の変化は超遠心以外にもfilterにかけるとか、、電気泳動とかでもみられるので、そういう方法も平行してやった方がよいと思います。S値の変化は色々な原因で起るので、この結果からだけでstrand
breakageと断定は出来ないのではないでしょうか。
《黒木報告》
<cAMPの糖アミノ酸輸送能への影響>
前からすすめてきた細胞の膜輸送能研究の一環として、cAMPの糖、アミノ酸輸送能への効果を調べた。実験材料として、主にハムスター胎児細胞(HE)を用いた。
dibutyryl cAMP(dbcAMP)及びtheophyllineを1mMに24時間処置したのち、2-deoxy-D-glucoseとα-aminoisobutyric
acid(AIB)のとりこみをみた。とりこみの測定はMartinの方法に従った。とりこみは20分まで直線的に増加する。glucoseのみのとりこみはdbcAMP+theo.で促進されるのに、AIBのとりこみは抑制されるという、一見矛盾した成績を得た。
(図を呈示)theoph.を1mMにして、dbcAMPを0.1、0.3、1.0、3.0mMとかえたときのとりこみでは、theo.もdbcAMPも含まないときの値を100%として、glucoseのとりこみ促進、AIBの抑制はともに、dbcAMPの濃度に依存している。特に、theo.のみでglucoseとAIBのとりこみが抑制されている。theo.の単独では、抑制的に働くことを示している。
HE以外の細胞について調べたところ、dbcAMPによるglu.とりこみ促進はHEとHA-15のみで、他の細胞では無効か、あるいは逆に抑制的に働いた。
この成績は複雑であり、clearcutな説明を与えることは困難である。ただ云えることは、transport
siteとそのregulatory mechanismは、基質によって、また細胞によって異っているであろうことである。
:質疑応答:
[吉田]UV感受性の問題で、golden hamsterはどうでしょうか。
[黒木]調べてありません。
[松村]Reversionが起こるのはUVをかけてからでなく、MNNG処理してからの時間の方が問題なのかも知れません。MNNG処理後変異が安定してからUVをかけたらどうでしょう。
[津田]cAMPでAIBのとり込みが落ちるのは何故でしょうか。
[黒木]Theophyllin単独で低下しますから、cAMPの作用ではないのかも知れません。
《野瀬報告》
Sucrose利用性細胞を単離する試み:
前報に報告したようにrat embryoから、培地のglucoseをsucroseと置換してその中で細胞を継代してきた。この細胞(RESと命名)のgrowth
curveを示す(図を呈示)。培養開始後1カ月たっているがglucoseの代わりにsucrosを利用してかなり良く増殖できる。lactoseはあまり良い糖源とはならないようである。糖を全く含まない培地では増殖が全くなく細胞は死んでゆくので、糖を要求しないのではなく、sucroseを利用していると考えられる。そこで、一般に細胞内へは取込まれないと言われているsucroseが、この細胞には取込まれるのかどうか検討した。H3-deoxy-O-Glc.およびH3-Sucroseの細胞への取込みをみた結果、deoxy-Glc.は取込まれるが、Sucroseはほとんど入らないことがわかった。従ってもしこの結果が正しければRES細胞は細胞外でSucroseを分解してから単糖類を取込むのではないかと考えられる。
Sucrose及びglucose培地で継代した細胞の染色体数の分布は、ほぼdiploidで、modeは40〜42本であった。
次にestablished cell lineから同様にsucrose利用性細胞がとれるかどうか検討した。HeLaS3とCHO-K1をglucose中、sucrose中およびno
sugerでの増殖をみた。基礎培地はglucose-freeのEagle'sMEM(2xAAs
Vitamins)+5%透析FCSである。どちらの細胞もsucrose中では増殖できなかった。これらの細胞をmutagen処理し、適当な期間培養した後、sucrose培地に移し、生育できるcloneができるかどうか調べてみた。HeLaS3では数回の実験ですべて細胞は死滅し、目的の細胞はとれなかったが、CHO-K1では(表を呈示)sucrose培地中でいくつかcolonyが形成された。これを単離しようとしたが、うまくゆかず、本当にsucroseを利用できる株なのかどうかまだ確実ではない。
その後何回か同様な実験を行なったがsucrose培地でcolonyができたのはこの一度だけで、あとはすべてnegativeであった。しかしcolonyのでき方が、全体にまばらに細胞がいる中にはっきりできていたので、この実験は確かと思われる。colonyのでき方は発癌剤によって形態的transformationを起こした場合と似ているので、この実験系を確立してin
vitro発癌実験のモデルとしたいと考えている。
:質疑応答:
[吉田]自然には、こういう変異細胞は出て来ないのですか。
[野瀬]出てきません。
[吉田]染色体数の分布、対照の方にモードが少しずれているのがありましたね。
《吉田報告》
Colcemid reversal法によるラット肺細胞の異数性クローンの人為的誘発:
染色体の変異と細胞の癌化との関係を明らかにする目的で、Colcemid
reversal法によりLong-Evans系ラットの肺培養細胞を用いてトリソミーやモノソミーなどの異数性クローンを多数作成した。クローン作成のprocedureは次の通りである。
Long-Evans(♂)Lung culture→11代subculture→cylinder
methodによりCloningを2回くり返しdiploid cloneを分離→同クローンを-80℃で冷凍保存し、以後使用時溶解する→(9cm)plastic
cishに細胞をまき1day culture→colcemid 0.02〜0.06μg/ml加え37℃で2〜6hrs
culture→pipettingによりmetaphase cellsをはがす→washing
by centri.2回→Metaphase cells collected→(9cm)plastic
dishに50〜100cellsをまく→about 10days culture→cylinder
methodによりcloning。
<結果>
Metaphase cellsをシャーレにまいて1doubling
time(15〜20hrs)後、染色体標本を作成した時、anewploid
cellsの頻度は約10〜20%で、モノソミーとトリソミーは約等頻度で得られる。2m=40以下の細胞は2n=44以上の細胞より得られにくい。クローンとして得られる異数性頻度は約5〜10%である。(作成されたモノソミー及びトリソミーのクローン
15系の表を呈示)。
:質疑応答:
[佐藤]Colcemideを加えて出てくるcloneで、染色体41本と43本の関係は、42本から1本減ったのが41本で、その1本が42本に加わると43本になるということでしょうか。
[吉田]ラッテではそう簡単にゆきませんね。Monosomyになると致死的になるという事があるのかも知れません。
[高岡]Cloneでtrisomyを維持できる期間はどの位ですか。
[吉田]よく判りませんが、1カ月から1年位は大丈夫だと思います。とにかく、癌化に関係のある染色体はどれかを追跡する手段にしたいと思っています。
《堀川報告》
以前にも報告したように、当教室で開発したレプリカ培養法を用いることによって、Chinese
hamster hai細胞株(山根研究室より入手)の個々の細胞について栄養要求性を調べた結果、この細胞株は各種栄養要求性変異細胞から構成されていることがわかったが、この方法によって現在1種類の栄養非要求性細胞株(Ala+、Asn+、Pro+、Asp+、Hyp+、Glu+:この細胞はCH-hai
N12と名づけた)、および2種類の栄養要求性細胞株(Asn-、Pro-、Asp-、Ser-、TdR-とAla-、Asn-、Pro-、Ser-、Gly-、TdR-)を分離して継代している。これらのうち前者の栄養非要求性細胞株(Prototroph)を使用すれば前進突然変異を解析することが出来るし、後者の栄養要求性細胞株(Auxotrophs
a)とb))を使えば復帰突然変異を調べることが出来るのは当然のことである。
さて、今回はこれらのうちで前者つまりPrototrophを用いることによってX線照射した場合のAuxotrophの出現率、つまり前進突然変異の誘発率を算定することを試みた実験系について報告する(表を呈示)。
このさいPrototroph中に出現したAuxotrophを選別する方法がまず必要な訳であるが、現在の段階ではこのための完全な方法は確立されていない。従って本実験ではPuckとKao(1967)によるBUdR−可視光線法(表を呈示)を応用した。(個々の処理時間、BUdR処理濃度などの決定には別の基礎実験から得たデータをもとにして定めたものであるが、ここではそれらについての詳細は省略する。)
いづれにしても100万個の細胞をmutagen(X線)で処理したあと、完全培地中でfixation
and expressionのために48時間培養し、ついで10万個づつの細胞をシャーレに植えこみDeficient
medium中で更にstarvationのために24時間培養する。ついで3x10-6乗M
BUdR中で24時間培養したのち、120w可視光線で60分間照射することによりPrototrophのみを殺し、Auxotrophを選択的に生かせて、その後完全培地中でコロニーを形成させることによってその数を算定しようとするものである。
さて、この方法によって前記のPrototrophを各種線量のX線で照射した際の線量−生存率曲線ならびに10万個生存細胞数あたりの誘発突然変異率をまとめた(図を呈示)。このCH-hai
N12細胞となづけたPrototrophはX線に対して比較的抵抗性細胞であって、n=4.6、D0=200R近辺にある。一方、突然変異の誘発(Prototroph→Auxotroph)は低線量域では非常に低く、400R位から急激に増加してくるが、高線量域では横ばいの型になる。このような型の誘発突然変異率曲線が何故得られるのかについての解析は今後に残されている。なお今後の問題としてこのBUdR−可視光線法によって得たAuxotrophと思われるもののうち果して、どれ程が本物のAuxotrophであるか、つまりBUdR−可視光線法の本実験への有用性の検討をレプリカ培養法を使って検討する必要があるであろうし、一方この実験系で得ている誘発突然変異率とazaguanine抵抗性を指標にして解析を進めている誘発突然変異率、さらにはAuxotrophを用いた場合の復帰突然変異率との関係がどのようであるかといった比較検討が残されている。
【勝田班月報・7309】
《勝田報告》
Spermineのラッテ肝細胞増殖阻害について
1)SpermineでRLC-10(2)(肝細胞)を、色々な時間に処理したあとの細胞増殖をみた結果を図に示す(図を呈示)。90分以上処理すると、著明な阻害がみられた。
2)以後の実験はspermineの細胞阻害作用を何かの薬剤で阻止できないか、という企てである。まずspermine
0.97及び1.95μg/mlを添加し同時にchondroitin
sulfate 500μg/ml、poly L glutamic acid 500μg/ml、lysozyme
1mg/ml、N-acetylglucosamine 1mg/ml、N-acetylglucosamine
1mg/mlの添加を試してみましたが、spermine
1.95μg/mlにlysozyme 1mg/mlの併合のときに増殖阻害がやや緩和された。これ以外の組合せでは全く阻止効果がなく、spermineの単独添加の場合と同程度の阻害がみられた。
3)Chondrotin sulfate、poly L glutamic
acid(soda)、lysozyme、N-acethyl-D-glucos-amineなどを各1mg/mlに別個に添加し、培養1日后にspermineを1.95μg/mlに添加してみたが、どの薬剤についても阻害の阻止効果は全く見られなかった。
4)Spermine 1.95μg/mlに添加した培地でRLC-10(2)(ラッテ肝)、JTC-16・P3(ラッテ肝癌AH-7974の完全合成培地内継代株)を1日間培養した後、その培地をRLC-10(2)の培養培地に添加してみた。結果として、JTC-16・P3を培養した培地では、阻害が相変らず起ったが、RLC-10(2)を培養した培地では阻害が若干緩和されていた。何を意味するのか、現在では全く判らない現象であるが、色々考えさせられる所見である。
《梅田報告》
(1)月報7307で、YS細胞での8-azaguanine(8AG)耐性実験について述べた。その後の実験では以下の表の如き結果を得た(表を呈示)。Group(A)の小さなcolonyを5つ程cloningし、正常培地で培養を続けた。増殖しなかったもの、又contaminationもあって結局たった1コのcloneしか残らなかった。このcloneが3週間培養後やっと増殖してきたので、細胞を2つの培養瓶にわけ、一方に10-5乗M
8AGを入れてみた。今迄の実験で、mass cultureでは10-5乗M
8AGでsensitiveな細胞はすべて死滅し、耐性細胞のみ残存増殖を続けることがわかっているが、本細胞は8AGを入れてなかった培養と同じ様な増殖を続け、明らかに胎生のあることがわかった。
(2)前回の報告では10-4.5乗Mのagar medium中より拾った細胞は、すべて耐性がない(10-5乗Mの培地で)ことを報告しているので今回の結果と合せると、YS細胞をsoft
agar培地中でcloningする我々の実験方法では10-5乗M
8AG耐性細胞を得るには、10-4乗Mと云った10倍も濃い8AGの入ったsoft
agar medium中で選択しなければならないとの結論になる。
(3)因みに文献をあたってみるとChuら(1968)では、generation
time 12時間と云う増殖の非常に早いChinese
hamster cell lineを使って、Selective agentである8AGを何回も投与している(表を呈示)。
即ち我々の場合、YS細胞が浮遊細胞故、soft
agar法でコロニーを作らせざるを得ず、その為、何回もselective
agentである8AGを投与出来ないのが、我々のdataの原因とも受けとれる。
更に気になるのは、8AG抵抗性にはpartialとtotalと度合いに差があるとの報告が見出された。Littlefild(1963、1964)。そうなると、我々のデータで10-4.5乗Mで生ずるコロニーはpartial
resistanceのものなのかどうか更に検索が必要になったと思われる。いずれにせよ、この種の実験では物事が非常に複雑にからんでいると云わざるを得ない。
《乾報告》
今月は専売公社へ参りまして、初めて扱った、タバコに関しての二、三の報告をします。 ◇シートタバコの毒性、癌原性についての予備実験
ここ二、三年国内産タバコ葉の不足から、タバコ葉の葉脈、裁断小片を再生し、これら原料を一旦粉末化した上、紙すきの工法でのり、香料を添加し、シートを作り、これを再裁断し、紙巻タバコを作る方法が考案され、実用化がめざされている。
今回は公社で試験的に加工したシートタバコ標本(B)タール毒性、突然変異誘導性を、標準タバコ(C)と、黄色種巣葉試験タバコ(A)のそれと比較した結果を報告します。
1)検定細胞にHeLa細胞、ハムスター胎児起原の繊維芽細胞(2代目)を使い、梅田らの考案したラブテックチェンバー法で、上記3種のタール100、31、10、3.1、1、0.3、0.1μg/mlを10万個/mlの細胞とMEM+10%C.S.下で72時間作用し、タールの細胞に対する作用を、増殖、形態変化を指標として検定した結果は表の如くであった(表を呈示)。以上の結果より細胞に対するGrowth
Inhibitionは、黄色タールが一番強く、標準タバコが弱く、検体であるシートタバコは二者の中間であった。
なおAryl-hydrocarbone hydroxdase(A.H.H.)を産生していると考えられるHamster
Cellでは、障害が強く表われ、A.H.H.マイナスのHeLa細胞では障害が弱く表われた事から、タール物質中、細胞毒性物質として働くものの大部分が、芳香族炭化水素の活性型であることが推察される。
タバコタールによっておこる細胞の形態異常は大部分が多核細胞、巨核細胞の出現、核のPiknosis、多極分裂で三者の間に差はなかった。
2)突然変異誘導テスト
検定細胞に前記同様ハムスター細胞を用いFeaderの細胞としてラット胎児源の繊維芽細胞を使用した。
実験はHeidelbergerやSachsらの方法と略々同様である。即ち、MEM+10%CSでラットの細胞をあらかじめ単層培養し、この細胞にX線5500γ照射後、同種メデュウム5mlに10万個の細胞を浮遊し、同時に未処理ハムスター細胞を300ケ加え、シャーレに播種した。12〜24時間後、細胞がシャーレ底に定着した時期に、10、5、2、1μg/mlのタールを添加した培地を加え48時間培養をつづけ、後、Hanks液で3回洗い、通常培地で2週間培養後、シャーレ中の細胞を固定、HE染色後、Colony数の算定、変異Colonyの算定を行った。
結果はTar A GroupのControlの失敗があった故、一部のみ上げると表の如くです。(表を呈示)。即ちControlのPEは9%、TarBは6.4%、TarCは5.6%。変異Colony出現RateはControlは0、RarBは0.33%、TarCは0.75%。
《山田報告》
今回は肝癌細胞から作られると思われる毒性物質の分析の一環として、Spermine、Spe-rmidine、Putrescineの細胞表面に与える直接影響について細胞電気泳動法により検索しました。(図を呈示)。結果は図に示すごとくで明らかです。
Spermineは興味あることに低濃度(0.1〜0.65μg/ml)を用いると、その表面荷電が高くなり、それ以上の濃度では急烈に減少して来ました。
これに対し、Spermidineは3.9μg/mlまでの濃度を用いた限りでは殆んど、影響がなく、Putrescineは125μg/mlの高濃度で、若干細胞の電気泳動度を低下させるのみです。用いた細胞はすべてRLC-10(2)です。
Spermineの反応態度をみると、丁度neuraminidase処理と似て居ります。恐らくは肝癌細胞に対しては低濃度を用いて荷電の上昇をきたすことになると思います。
いづれにしろSpermineは1μg以下の極めて低濃度に於いて、細胞膜に変化を与えることは事実の様です。
《佐藤報告》
(STI)Normal Adult Rat liver由来のEpithelial
Cell Lineの樹立:
P.T.Iype(1971)が、Normal adult rat liver
cellsのIn vitro cultureに成功し、それを用いて、CarcinogenとCell
surface antigenic changeの関係を、最近報告している。又Aromatic
amine carcinogensによりinduceされたPrimary
hepatoma、及びTransplantable hepatomaからEstablishされたLines、並びにそのCotrolとしてNormal
adult rat liver由来のEpithelial cell linesが報告されている。
我々もP.T.Iypeと同様にEpithelialのNormal
cell systemを確立し、Chemical carcino-genesis
in vitroの研究をする目的で、Normal adult
rat liver由来のEpithelial cell lineの樹立を試みてきたので現在までの結果を報告する。
§材料と方法§
Adult rat liverの細胞分散にはCollagenaseとHyaluronidaseを用いた報告が多いが、我々は従来用いてきた0.2%Trypsin
in PBS(-)による細胞分散により、得られた細胞よりcultureした。
(1)Rat age、Sex(表を呈示)。
(2)Ethyletherにてマスイし、以後asepticに行う。
(3)開腹後、V.portalにCatheterを挿入し、U.C.inf.を切断し、CatheterよりSyringeで50mlのPBS(-)を注入し、完全に脱血する。
Not perfusedはDecapitationにより脱血したものである。
(4)Liverを取出し、メスで細切、0.2%Trypsin消化し、TD40、TD15、Petridish(PI)等に表に示した細胞数でうえ込む。
Medium;Eagle's MEM80%+Pc100u/ml+SM50μg/ml。Passage;0.1%〜0.05%Trypsin
in PBS(-)。
§結果§
(1)5例中5例に増殖型のEpithelial cellが優勢のcell
lineが得られた。
(2)RAL2 lineより9代、63培養日数にてColonial
cloningを試み、Epithelial 6 sbulineを得た。
(3)Passage:1回/5〜10日、1:2分割。
RAL 3:5代、6代が1:1分割。
RAL 4:1代、4代が1:1分割。
(4)PAS染色:弱陽性。G6Pase染色:陽性の結果を得ていない。
(5)Chromosome、Serum Protein産生(特にAlbumin産生)etcを現在検索中である。
(T-3)dRLa-74分散実験(続き)
前報(No.7308)で示した如く、dRLa-74はTrypsinとEDTAの組合せにより、遊離細胞を得る事を知ったが、今回はこの組合せにより、更に高率に遊離細胞を得る事を目的として、二三の条件を検討してみた。
(1)濃度:Trypsin(0.2%〜0.05%)、EDTA(0.05%〜0.002%)の範囲ではTrypsin
0.2%、EDTA 0.05%の組合せが、最も高率に遊離細胞が得られたので、以下の実験は、この濃度で行った。
(2)時間:(表を呈示)20分間の処理で20%前後の遊離細胞が得られるが、時間を延長しても特に大きな増加はない様である。
(3)温度:(表を呈示)37℃(フラン器)、27℃(室温)、4℃(冷蔵庫)、処理は60分間。4℃、27℃では10%以下。37℃はほぼ30%。
(4)pH:(表を呈示)図から明らかな如く、pH8.2で高率に遊離細胞を得た。興味ある事は、このpHでTrypsin、EDTAの各々の単独でも遊離細胞が得られる事である。pHは、0.02MTris-HCl
buffer(0.1M sucroseを含む)により調整した。処理時間は60分。
この様にして得られた遊離細胞のクローン化を現在試みつつある。
《高木報告》
AAACNによるin vitro発癌の試み:
これまで行なって来たAAACN処理実験は、一回処理群で処理後6ケ月、8回処理群で各処理後2ケ月を経過していずれも形態の変化を認めず、実験を中止した。さらに検討するため、新たにMNNGをpositive
controlとしてAAACNの実験を再スタートした。3系に分けて実験を行なったが、用いた薬剤の濃度をまとめるとAAACNは3.3x10-4乗、2x10-4乗、1.6x10-4乗、10-4乗M、controlのMNNGは3.3x10-5乗、2x10-5乗、1.6x10-5乗、10-5Mである。細胞はRFLC-5を用い、20万個/bottleでMA-30にまいて2日後subconfluentの状態の時にcell
sheetをPBSで2回、MEMで1回洗ってMEMに溶かしたAAACN、MNNGを2時間作用させた。終って再びPBSで2回、MEMで1回洗って培地を交換し経過を観察した。初期の変化をのべると、AAACN
3.3x10-4乗、2x10-4乗、1.6x10-4乗Mでは作用直後より細胞の変性像が著明で、わずかに少数の円形化した細胞が、ガラス壁に付着しているだけであり、4週間の観察期間恢復の兆はみられない。10-4乗Mでは作用直後の細胞は細胞質に顆粒多く、周辺の不整がみられ、それらの変化は1〜3日後まで強まり、円形化した細胞の数も増加した。1週後より生き残った細胞(foci?)の増殖がみられ、以後この細胞は次第に増殖する傾向を示した。これらの初期の変化は再現性があったが、2度目に行なった実験の方が変化は強かった。これら薬剤の細胞毒作用は、細胞数のみならず母培養の状態その他のfactorによっても影響をうけるようである。
対照のMNNGは3.3x10-5乗Mでは作用直後より4〜5日後に変性が最も強く、そのままの変性した細胞がガラス壁に付着した状態が続いている。2.0x10-5乗M、1.6x1-5乗Mでも4〜5日後にもっとも変性像が強かったが疎につらなったspindle
shaped cellsが6日目にはpiling upの傾向を示し、10日をすぎて増殖を示すfociが認められ、細胞は次第に増加の傾向を示している。変性のおこり方はAAACNとMNNGでは明らかに異なる。次回の班会議に、これらのスライドを供覧する。
XP細胞についても報告する予定である。
《藤井報告》
Culb-TC細胞に対して、in vitroで感作されたリンパ系細胞の標的細胞破壊作用:
Culb-TCその他の培養ラット肝細胞の、in vitro悪性化細胞やいくつかの人癌について、mixed
lymphocyte-tumor cell culture reaction(MLTR)を実施してきました。MLTRで刺激され、H3-TdRのとり込みの昂まる、リンパ系細胞の反応が、in
vivoでおこるリンパ球の、immunoblastの形成に連る反応であるかどうかは、類推として正当にみえるが、とくに癌免疫のばあいの確証はないと思う。
そこで、Culb-TC細胞を用いて、この細胞に対して、反応した同系のJAR-1
ratリンパ系細胞が、標的細胞に対して細胞障害性に作用するか、否かを検討してみた。この種の実験は、マウスの腫瘍では、一応in
vitro感作リンパ球の細胞障害活性をin vitroおよびin
vivoで示し、報告してある。(以下、表1、2、3を呈示)
1.JAR-1ラット、脾および末梢白血球のin
vitro感作:
脱血后の脾の細胞浮遊液と末梢血中のリンパ系細胞はAngio
conray-Ficol法で集めてあり、リンパ系細胞は80〜90%に含まれる。刺激細胞、Culb-TCは予め4,000R照射した。反応細胞(リンパ系細胞)と刺激細胞を5:1の割で混合し、炭酸ガスフランキ中で培養した。容器はプラスチックプレート(FB54、Limbro)を使用した。培養のプロトコールは、表1のとおりで、5日間培養の后では、Culb-TCと混合培養した脾細胞のうち、その24%が生残り、その50%が大型のblastoid
cellsであった(blastoidという確証はないが)。同じく、末梢白血球では、35%が残り、その27%が大型細胞であった。これらの細胞を、rubber
policemanではづし、1回RPMI 1640液で遠心により洗った后、標的細胞破壊実験に供した。
2.標的細胞の標識:
Culb-TCおよび、対照の同系細胞として、JAR-1
rat由来の肺上皮細胞と思われる、RLG-1strainを、癌細胞研のDr.高岡より分与され試用した。RLG-1はJRA-1
ratに復元可能な悪性化株とのことである。
これら細胞株を、semi microplate(Limbro、FB48TC、1wellの容量、0.4ml)、および小ガラス試験管(径0.6mm)を、5,000cells/0.25ml/tube
or wellの割で分注した。1日間培養后、浮游細胞を吸引により除き、I-125-iododeoxyuridineを5μgCi/mlの濃度で、また5-FUDRを10-6乗Mの濃度になるように調整したMEM
0.4mlを加え、20時間のlabeling incubationをおこなった。標識の成績は表2に示した。
3.in vitro cytotoxicity test:表2に示したように、I-125-IDU(iododeoxyuridine)で標識后の各孔およびチューブ中の標識細胞数に対して、in
vitroで照射刺激細胞と5日間混合培養されてきたリンパ系細胞を100、10の割に加え、24時間培養した。このさいは、90%RPMI
1640、10%ラット血清の培養液で、5%炭酸ガスフランキ中で培養した。
24時間における標的細胞破壊は、表3のようになった。plate法では、障害〜溶解細胞を、Pasteur
pipettで吸引して(3回)、生残標的細胞の放射能をWellタイプ放射能測定機で測定したものであり、tube法では遠心(1000rpm、5分)3回で障害〜溶解細胞を上清と共に除いた。 Plate法、tube法とも、大体同じ傾向の成績を示した。in
vitro感作リンパ球は、標的細胞に対し、細胞障害性に作用しているようである。対照のRLG-1に対しては、ほとんど細胞障害活性がない。感作リンパのdose
responseや、免疫学的特異性は、incubation時間を長くすると、はっきりするかも知れない。ふつうリンパ球のin
vitro cytotoxic actionは24〜48時間で高くなる。末梢血中リンパ系細胞のcytotoxic
activityが脾細胞より低くなった。これは、脾細胞群にマクロファージなどが混入しているためか、リンパ球自身の活性の差か、検討する要がある。この実験やマウスの同様の実験から、MLTRでのリンパ球反応が、免疫学的であると云えよう。
《堀川報告》
今年の夏は暑かったためか、仕事の上でもそれほど大きな成果を得ることは出来なかった。従って今回も前回につづいて体細胞突然変異の研究結果を報告する。
例によって、Chinese hamster hai細胞からレプリカ培養法によって得た栄養要求性細胞(Ala+、Asn+、Pro+、Hyp+、Glu+)を各種線量のUVで照射した後、完全培地中で48時間fixation
and expressionの為培養したのち、BUdR−可視光線法によって栄養要求性細胞(Auxotrophs)のみを分離して、induced
mutation frequencyを調べた。
各種線量のUVで照射した際の線量−生存率曲線ならびに10万個生存細胞数あたりの誘発突然変異率をまとめて示したのが第1図である(図を呈示)。
この実験に関してはまだ実験例が少ないのではっきりしたことは云えないが、前回の月報で示したX線による誘発突然変異率の結果(参考のため第2図に再度示した)と大きく違っている。つまりUVの場合にはX線の場合と異ってlagがなく、25ergs/平方mmという低線量照射においてすでに多くのAuxotrophic
mutant cellが誘発される。しかし、高線量域にいてはX線の場合とほぼ同様な傾向を示すようである。変異誘発能がX線とUVで大幅に異なるのか、それともこれは本実験に使用しているChinese
hamster hai(CH-hai N12)細胞独特のものであるのかといった解析が今後に残されている。いづれにせよ、これらについての総合的な結果は次回の班会議で報告する予定である。
《野瀬報告》
Alkaline phosphatase活性誘導の機構(6)
dibutyryl cAMP(DBC)により、JTC-25・P5細胞のALKphosphatase(ALP)活性が上昇することは既に報告した。この活性上昇(誘導)がALP酵素蛋白そのものの増加によるのか、それとも既存の酵素の活性化によるのかは、まだ結論が出ていない。cycloheximide、actinomycinDにより誘導は阻害されたが、これらの薬物は毒性が強いためdataの信頼性が低い。そこで、他の蛋白合成阻害剤としてpactamycinを用いてみた。この物質は、mammalianの蛋白合成のinitiationを阻害することが知られている。
JTC-25・P5細胞にpactamycinを加え、37℃で1時間のH3-LeuのTCA-insoluble分劃へのとりこみを見たのが表1である(以下、図表を呈示)。1μg/mlの濃度で約93%の蛋白合成阻害が見られた。DBC
0.25mM、theophyllin 1mMでALP-Iの誘導を起こし、ここにこのpactamycinを添加して影響を見たのが表2である。cycloheximideは、確かに誘導を阻害しているが、pactamycinは阻害せず、むしろ若干の促進が見られた。細胞増殖に関してもpactamycinは図1に見られるように完全に抑制しているので、4日間の培養中に活性を失ったとは考えられない。
ALP-Iはplasma membraneに結合して存在すると考えられ、JTC-25・P5細胞でも誘導されたALP-I活性のsubcellular
distuributionは表3のようにsup.にはほとんどなくparticulate-boundであった。また、この酵素を精製する際も、Butanol抽出を行なった後でも非常に大きなcomplexとして活性が存在し、恐らくlipidと結合していると想像される。
以上の事から、DBCによるALP-Iの誘導の機構として
(1)de novo蛋白合成は必要なく、誘導は既存の酵素蛋白の活性化による。
(2)pactamycinはinitiationだけを抑えるので、ALP-I酵素蛋白の合成が開始していては、その合成の阻害はない。従って、誘導する以前から、細胞内にALP-I蛋白の"initiation
complex"ができていて、DBCによりその読み取りが開始される。
の2つの仮説が考えられる。現在、このどちらであるかは決定できないし、ALP-I蛋白が完全に精製されるまでは、これ以上進展できないように思われる。
《黒木挨拶》
9月3日、羽田発で出発します。行先はフランス・リヨン市にあるWHOの、International
Agency for Research on Cancer(IARC)Unit of
Chemical Carcinogenesis(Dr.L.Tomatis)のところです。
仕事の内容はおそらく肝細胞、腎細胞を用いたNitrosoamineによるtransformationと、mutagenesis関係の仕事になることと思います。前者の仕事はすでにTomatisのところで成功している実験系を用い、あるいは新たに、肝、腎細胞の分離からはじめるかも知れません。 第二の仕事であるmutagenesisは、3ケ月という短期間の間に、できるだけ成果を挙げるべく行うわけで、こちらで分離したFM3AのHGPRT-→←HGPRT+変異をみるつもりです。ただこれだけではoriginalityに乏しいので、Agar
plate Cultureと組合せて、新しい実験系の開発も試みるつもりです。
このほか、IARCの組織培養関係のconsultantとしての役割も、向うでは期待しているように思われます。
帰りに、ベルギーで行はれるWorkshop on Approaches
to assess the significance of experimental
chemical carcinogenesis data for manという会議に出席します(12月10〜12日)。これにはAmes
Conney、Gelboin、Grover、Huberman、Magee、Vasiliev、それに杉村さんなどの人達が出席するので、得るところが多いであろうと期待しています。12月末の研究室の大そうじまでには帰るつもりです。
【勝田班月報:7310:栄養非要求性株の復帰突然変異】
《勝田報告》
培養哺乳動物細胞の増殖に対するSpermineの影響:
前号にひきつづいてSpermineの話であるが、各種の細胞について、その培地中にSpermineを添加し、細胞増殖への影響をまずしらべてみた。
(図を呈示)結果は、動物に対する可移植性(悪性度)に反比例して増殖阻害度が大きいことは、大変興味をひかれるところである。(あんまり話がうますぎるので慎重にしなくてはならないが)。
次にspermineの細胞増殖阻害効果を抑制する物質がないかと色々の物質についてしらべてみた。(各実験毎に図を呈示)poly-L-glutamic
acid、chondroitin sulfate、N-acetyl-D-glucosamineをRLC-10(2)の培地に添加した結果、阻害抑制効果は全く見られていない。lysozyme(chick
eggより精製、エイザイ)では少し、その効果がみられた。そこで希望をもって、lysozymeを各種濃度に培地に加えてみたが、今度はspermineの濃度が高かったためか、全く効果がみられなかった。
ここまではspermineと各種物質を同時に添加したときの所見であるが、あらかじめ各種薬剤を添加し、1日後にspermineを添加してみたが、用いた限りの薬剤では何の抑制効果もみられなかった。
Spermineのeffectが細胞膜に関与しているのではないかという可能性を考え、RLC-10(2)を1日培養後にtrypsinで5分間処理し、それにspermineを3.9μg/mlに添加した実験では、結局trypsin処理はspermine阻害効果に何の影響も与え得なかった。
次にspermine自体を、培地あるいはsalineDに入れ、あらかじめ37℃、4℃などで24時間処理したあと、細胞の培養に添加した。血清を含む培地に混ぜて37℃においた群が増殖阻害をかなり抑えているのは注目に値する。その他の群では全く効果がなかったが、血清の(おそらくその蛋白の)役割と、なぜ37℃という温度が必要なのか、ということは今後さらに研究してみる必要のあるところである。
Spermineの存在下でRLC-10(2)を各種濃度で培養し、その後その培地をRLC-10(2)の培養に加えてみた。JTC-16(AH-7974)の培養後培地も加えられている。この結果は、細胞濃度の高いほどSpermineによる増殖阻害を予防しやすいことを示していた。
Spermineが肝癌の毒性物質そのものか否かは判らない。しかし非常に似通った特性を持っていることだけは確認できた。
:質疑応答:
[堀川]前処置する細胞が多い程、阻害効果が減るのは物が吸着するためでしょうか。
[勝田]代謝されるという事も考えられると思います。
[堀川]スペルミンの効果は可逆的ですか。
[高岡]死ぬか生きるかの濃度の限界がとてもcriticalなのですが、処理後生き残った細胞は増殖可能です。
[野瀬]肝癌からの毒性分劃は血清とのpreincubationで毒性が低下しますか。
[高岡]それはまだ調べてありません。
[勝田]培地と37℃加温すると毒性が減りますが、生体内ではいつも37℃なのですから、その面からもやはりスペルミンそのものが毒性分劃のすべてとは思えませんね。
[山上]死に至る経過が早いという面から考えますと、呼吸阻害のような物ですか。
[野瀬]障害を起こす濃度で処理してもチミジン、ロイシンの摂り込みは抑えません。
[永井]Energy産生系に作用しても、そんなに早く効果は出ないでしょうね。Cell
freeの系での実験ではむしろ促進傾向のようです。
[勝田]細胞がどうして死ぬかが問題です。映画でみたスペルミンの添加による死に方は、肝癌の毒性分劃添加の時のようなbubblingがみられませんでした。
[山田]酵素を作用させたときに、スベルミンのような死に方をするかと思います。
[永井]プトレッシンに全く阻害作用がないのも問題ですね。
[乾 ]RNA合成阻害剤なども使ってみたらどうでしょう。
[堀川]それが効果があったとしても間接的でしょうね。
[勝田]毒性物質の本体とスベルミンとのギャップを埋めるのがこれからの問題です。
[山田]スペルミンとスペルミジンの生物活性の違いはどうですか。
[永井]程度の差だと思いますね。動物細胞でプトレッシン→スベルミジンという合成経路がはっきり証明されれば、もう少し問題がはっきりしてくるでしょう。ペニシリンのように細胞膜の生合成系の阻害を起こすのではないかとも考えられます。
[山田]私のデータからみても膜に関係のある作用のように思いますね。トリプシンを作用させたときのトリプシン濃度はどの位ですか。
[高岡]普通継代するために使う濃度で、モチダのトリプシリン、200u/mlです。
《山田報告》
ConAによる癌細胞表面荷電に及ぼす影響を検索していますが、今回はInsulin、EpinephrinがConAの表面荷電に及ぼす影響を増強し、(But)2cAMP及びGlucagonは抑制することを明らかにしました。いずれも細胞内のcAMPの変動を介しての変化と考へています(図を呈示)。
:質疑応答:
[乾 ]復習になりますが、細胞電気泳動値は細胞の分裂周期にどう影響されますか。
[山田]分裂期には上がります。S期が一番低いのです。
[高岡]スペルミンを作用させた時の細胞数はどの位ですか。致死濃度は細胞数によって少し違ってきます。
[山田]200万個の細胞で0.1μg/mlで効いています。
[高岡]培養でのデータは1〜20万個の細胞に約2μg/mlが致死量ですから、膜の変化はもっと敏感なのですね。
[野瀬]スペルミンがただ膜にくっついたという事ではないのですね。
[山田]ノイラミニダーゼを作用させると、マイナスチャージは上がりますがノイラミン酸は遊離してきます。膜全体のシアル酸の総量が泳動値になるのではなくて、膜表面に出ているシアル酸の荷電が値になるのです。泳動値の変化は膜表面のシアル酸を潰すという事と中にあるシアル酸をむき出しにするという事から起こる訳です。
[堀川]スペルミン高濃度の処理で落ちてくるのはどう考えますか。
[山田]1.マイナス部分に更にプラスの物質がくっついてmaskされる。2.膜の変化が更に進む。一応変性を考えています。膜の透過性も変わってくるのかも知れません。
[藤井]肝癌培地の毒性分劃の膜に対する影響は調べましたか。
[勝田・山田]まだみていませんが、ぜひ調べてみたいですね。
[堀川]ConAの実験でインスリンの効果をどう考えられますか。
[山田]cAMPを介しての変化だと考えています。
[佐藤]正常に近い肝細胞ではどうかという事が知りたいですね。是非調べて下さい。
[梅田]cAMP処理でuridine取り込みが促進するといわれていますが、私の実験では核小体が小さくなるという指標でみるとcAMP、ATP、ADP、TPN、adenineまで似た作用があります。
[野瀬]Uridine取り込み促進のdataはありますが、それはadenosineがuridine輸送を促進するようです。私はP32ラベルで調べてみましたが取り込み量は変わりませんでした。
《佐藤報告》
ST-2.RAL.cell linesのChromosomeについて(I)
Normal adult rat liver由来のCell lineのChromosomeについては、すでにD.A.Miller、P.T.Iype及びL.E.Gerschensonの報告がある。D.A.Miller
et.al.の報告したLineは、G-band,orQ-bandにてdiploidを38ケ月間保っており、nutritional
stressでtransformするとaneuploidになると云う。P.T.IypeのRL16
lineは初めはdiploidであるが、後になるとnear
diploid(no hyperploid)となる。L.E.GerschensonのRLC
cellsは60(58)及び120のchromosomeNo.付近にpeaksがありwide
distributionであると報告している。
<材料と方法>
RAL2、RAL3、RAL4、RAL5(RAL6は検索中)
染色体標本の作成:air drying法、又はflame
drying法、Giemsa染色標本の中より50コのMetaphaseをrandomに撰び、visual及びgraphicalに各chromosomeを識別しhistogramを作成した。
<結果>
継代数、培養日数が一定していないので何とも云えないが、予想外に早期よりchromosome
No.及びKaryotypeの変化が起っていることが解る。又増殖する上皮様細胞は位相差写真で見られるように従来我々が増殖継代して来たものとよく似ている。継代培養に際して上皮様の細胞のPopulationが増しているように思われる。
従来の方法(Fragment culture LD+BS)では回転培養で上皮様細胞がselectiveに増殖する。比較的多量の上皮細胞があれば繊維芽細胞はselect
outされるのだろうか。
又肝組織から分離培養される初代の培養材料で既に幼若型肝細胞がselectされるのか。今後発癌の問題とからんで検討しなければならない問題であろう。
T-4.Trypsin+EDTAによって分散されたaRLa-74の増殖率とコロニー形成能ならびに単個クローン分離の試み。
A)増殖率:(図を呈示)細胞植え込み後、2日目にTrypsin+EDTAにより20分、60分、120分処理し、Replicate
cultureを行った。処理群では明らかに増殖阻害があるが、6日目でほぼ回復した。次にコロニー形成能について、検討した(表を呈示)。Trypsin+EDTAで20分、60分処理(この時のSingle
cell rateは各々25.7%、33%)し、10日間培養した。計測されたコロニーは必ずしもSingle
cell由来ではない。
B)単個クローン:
(表を呈示)分散実験の初期の目的に帰り、dRLa-74の単個培養を試みた。Trypsin+EDTAにより得られた単離細胞をマイクロキャピラリーで釣り上げシャーレ内(MEM+20%BS)で培養した。現在(15日目)6系のクローンの増殖を認めている。未だ継代を行うに至っていないが、各クローンは増殖度、形態上、異なる。なおクローニングに際し、Conditioned
mediumないしはFeeder layerなどは使用していない。
:質疑応答:
[吉田]アダルトラッテ由来細胞の染色体は培養何日位の時しらべたのですか。
[佐藤]40日位です。
[吉田]アダルトの生体内では2倍体より4倍体が多いですね。再生肝だと2倍体が増えますが。培養日数がもっと短いうちに調べると4倍体がみつかるでしょうか。
[佐藤]そうかも知れません。しかし培養開始の時のトリプシン処理などで酵素活性まで変わってしまう事もありますから、培養条件下では生体内とはかなり違うでしょう。
[吉田]肝細胞であることは確かですか。
[佐藤]調べていません。しかし、正2倍体の細胞であれば、肝の酵素活性の誘導などが出来ると思っています。
[吉田]培養できるものは、皆、未分化になるのでしょうか。
[佐藤]培養で生体の条件からかけ離れているものの一つとしてホルモンがありますから、これからホルモンの影響で分化させる事でも考えてみようと思っています。
[堀川]吉田先生の質問にあるように生体内では肝臓に4倍体が多いとすれば、肝の培養初期に拾えば4倍体の系が採れるわけですね。
[乾 ]DNA量でみていきますと、生後48hr.には2倍体だけ、それが72hr.で急に4倍体になります。算術で考えても急に4倍体になると思えませんから、4倍体のDNA量をもつ細胞の中にG2期の細胞が混っていると思います。佐藤先生の系では4倍体もあったのですか。
[佐藤]調べてみます。
[梅田]肝臓を培養していますと、もう一種大型の増殖しない細胞があるようですね。
[佐藤]そうですね。それが成熟型の肝細胞と思えますね。
[山田]胎児性とするとαフィトはどうですか。
[梅田]αフィトは産生しなくてアルブミンの産生はあるというIypeの報告があります。
[佐藤]私がこの細胞は肝細胞だと思うのは、この細胞を悪性化して動物に復元しますと、立派な肝癌を作るからです。
[吉田]アダルト由来のものの方が発癌は早いでしょうか。
[佐藤]今はまだ判りません。しかし、今持っている系はアダルト由来でも胎児性ですからね。何とか成熟型肝細胞の培養系を維持したいと思っています。
[山田]しかし生体内でも胎児性のものから癌化していると思われていますから、案外、培養でやっていることが、生体内で起こっていることと近いかも知れませんよ。
[佐藤]培養内での変異率は物すごく高いと思います。
[吉田]しかし分子レベルでの変異がそう多く起こっているのでしょうか。
[堀川]変異が現象として引っ掛かるものは多いでしょうが、遺伝子レベルでの変異はそう多くはないでしょう。
[乾 ]何でもmutationというのがおかしいですね。Mutationは遺伝子レベルのものだけとするべきです。
[堀川]これでいいのですよ。漠然としている方が・・・。
[勝田]Transformationにしても100vの電圧を6vに下げるのもtransformationですからね。その単語の上に形容詞をつければよいと思います。
[山上]大腸菌の場合もmaskの問題が遺伝子レベルの変異と間違われることがあります。突然変異の頻度が高すぎるという事から、染色体レベルで染色体の片方だけの"ぶちこわし"などが遺伝子の発現に影響することなども考えられます。
[梅田]選択培地で拾った変異細胞が、増殖させてみたら変異した性質を失っていたという場合、reversibleだというのも変ですね。
[堀川]薬剤作用の影響が一時的に代謝活性にあとを残して居る場合もあります。
[梅田]単に手技的なことではないでしょうか。
[堀川]対照群には出ない条件で出てくるのですから、矢張りmutantだと思います。
[野瀬]はっきり性質の決まっていない変化ならvariantでよいのではないでしょうか。
《高木報告》
AAACN、MNNGによるin vitro発癌の試み:
AAACNの作用による細胞の形態学的変化を3週間ないし1カ月、3つの実験系について連日観察してみた。MNNGはAAACNのpositive
controlとしておくと同時に、よりrefineされた実験系を見出すためにこの実験系を計画した。
RFLC-5細胞をMA-30瓶に20万個/bottle植込み、2日後subconfluentの状態になった時cell
sheetをPBSで2回さらにMEMで1回洗い、MEMに溶かした各濃度の薬剤を37℃の炭酸ガスフランキ内で2時間作用させた。作用終了後はcell
sheetを再びPBSで2回MEMで1回洗ってrefeedした。実験1)を除き薬剤を作用させた最終濃度の溶液中に含まれると同一濃度のethanolを含んだMEM液を同一時間作用させたものを対照とした。
1)AAACN 3.3x10-4乗M、10-4乗M。MNNG3.3x10-5乗M、10-5乗M。作用実験:
AAACN 3.3x10-4乗Mでは作用直後より細胞の変性脱落著明で、9日目にはごく僅かな変性細胞がガラス壁に付着しているのみであった。AAACN
10-4乗Mでも直後から可成りの変性がみられたが9日目には生残った(?)あまり対照と形態の変らない細胞の増殖をみ、11日目にはtransformed
fociを思わせる境界鮮明な小型細胞の増殖をみた。12日目に継代したが継代後は対照とあまり形態は変らなくなった。
MNNG 3.3x10-5乗Mではむしろ2〜3日後における細胞の変性像が著明で、細胞質に顆粒、空胞を有する奇怪な形の巨大細胞があちこちにみられ、それらはそのままで4週後まで増殖の兆はみえない。MNNG
10-5乗Mでは2〜3日後約半分の細胞は変性したが、11日後頃より細胞増殖盛んになり12日目に継代、継代後も巨核細胞、円形細胞の存在がやや目立ったが、21日目3代に継代してからは対照とそう変らない形態を示した。これらのデータを参考にして次の実験を行なった。
2)AAACN 2x10-4乗M、1.6x10-4乗M。MNNG
2x10-5乗M、1.6x10-5乗M。作用実験:
AAACN 2x10-4乗M、1.6x10-4乗Mでは作用直後より細胞は変性脱落し、円形の細胞がガラス壁に付着していた。その後refeedして観察をつづけているが26日を経た今日全く恢服の兆はない。
MNNG 2x10-5乗M、1.6x10-5乗Mでは作用直後の変化は軽微であったが、1日、3日、4日と日を経るに従い細胞の変性が著明になった。しかし5日後には疎なspindle
shaped cellsが認められた。6日目にはpile upした細胞が変性した細胞の間にみられ、criss
crossが著明で所謂initial changeがあり、しかしfociと云ってよい場所はみられなかった。10日をすぎると細胞の増殖がはじまり多くのmitosisもみられるfociと思われる箇所がいずれの薬剤濃度でも3〜4ケ認められた。fociは以後数をまし、細胞の形態は明らかに異なったspindle
shapedのものもあればC-5細胞の小型なものがpile
upした箇所もあった。これらの箇所の細胞はさらに増殖し、ガラス壁から剥げ落ちそうになったので、その各々をcapillary
pipettで拾って21日目に継代した。継代後はC-5細胞と同様の形態の細胞が増殖しているものと、形態の変ったspindle
shapedの細胞の増殖がみられるものもある。
3)AAACN 10-4乗M、MNNG 10-5乗M
この系は実験2)で薬剤を作用させて数日間の細胞変性像が強かったため濃度をおとして再び上記の濃度で実験したものである。
AAACN 10-4乗Mでは作用直後より軽い変性像がみられ、1〜2日後には円形の変性細胞がふえ、ガラス壁には細胞質に顆粒を有する細胞が疎に付着している程度であった。7日をすぎる頃からspindle
shaped cellsが認められ、その数は次第に増加した。10日後よりfociらしき箇所が出現しその場所に細胞の増殖をみた。18日目にpile
upした2つの場所を剥ぎ落して継代した。細胞の形態が明らかに異ったfociと思われるものは20日後にみられ、その数は次第に増加し、23日目には数個となったが、先の実験2)のMNNGに比較すれば形態の明らかに異なったfociの出現頻度は少ないようであった。実験1)に比較してAAACN
10-4乗Mによる変性像が強かったのは、この実験では母培養のRFLC-5細胞の培養日数が可成りたっていた事にもよると考えられる。
MNNG 10-5乗Mでは実験1)と同様の結果であった。
次にAAACNでもMNNGと同様処理細胞の形態の変化は認められた。この変化が一過性のものか、永続するものか今後とも観察を続けねばならない。またこの形態の変化と悪性化との関係についてもCytochalasinBに対する反応の違いや移植実験で検討したいと考えている。(各実験の顕微鏡写真を呈示)
:質疑応答:
[佐藤]この細胞はどんなtumorを作るのですか。
[高木]多型肉腫です。
[乾 ]初代培養ですか。
[高木]株細胞です。
[山田]変性すると丸くなりますか。
[高木]丸くならずに、そのままの形で変性します。
[乾 ]MNNG処理の時、もう少し血清濃度を濃くすると使い易くなると思います。
[高木]血清を入れた方が使える濃度幅が広くなって確かに使いよいのですが、又他の問題が起こるので、私たちは血清をいれずに処理しています。
[乾 ]しかしin vivoでは血清もありホルモンもありという条件で発癌剤が作用するのですから、in
vitroでも生体内に近い条件で検討する方がよいのではないでしょうか。
[勝田]培養系で実験する利点はin vivoの実験では出来ないより単純な条件を設定できる事にあります。先ず単純化して実験し後で複雑な条件を加えてゆけばよいでしょう。
[吉田]私も賛成です。
[堀川]この薬剤は大腸菌では変異性があるのですね。前の実験より少し濃度が薄いようですが、悪性化をねらう場合、少しダメージがある方がよくはありませんか。
[高木]この濃度でもかなり影響があります。今回は実験条件を改めてきっちりと設定してみました。
[吉田]In vivoでの作用が異なることが判っている二つの薬剤が、in
vitroではどうかという事の試みは面白いですね。次にはin
vitroで血清存在下で作用させて比べてみるのも面白いでしょうね。
《山上報告》
Soft agar下に培養し、agarにMNNGを拡散させて作用させた場合、MNNGの濃度が、ほとんど0から非常に高濃度まで、連続的に作られるため、もし、あるcriticalな濃度では効率よくtransformed
cellが発生するならば、一定の距離でいくつかのtransformed
fociが出来て来るのではないかと期待して植継ぎをせずに観察しています。
現在使っていますC-5と云う株細胞は非常にきれいにmono-sheetを保つのですが、御指摘がありましたように密に生えすぎて脱落する事とpile
upしたfociが出た場合にわかりにくい欠点があります。が、密に生えうることは一方ではMNNGを作用させたあとtransformationに必要かも知れない何回かの分裂をつづけるにはかえって好都合ですし、他にすぐ使える株細胞がない事もあってC-5を使っています。
作用後に十分分裂のspaceが残るように20万個/9cm
dish植え込み24時間後より3日間agar medium下で処理し、後5日ごとにmedium交換して観察しています。
処理後22日の各部分は写真でおみせしました様な状態です。顕微鏡的にはtransformed
cellかと思われる部分もありますが、肉眼的なfociは認めにくい状態です。生下時thymectomyした動物にはtakeされ普通の動物にはrejectされるようなtransformed
cellをとることが目的ですので、有望な部分をthymectomized
ratに植えて、screeningしたいと考えています。
《乾報告》
ニトロソグアニジン誘導体8種の癌原性:
今回は8種のニトロソグアニジン誘導体、即ち
N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(MNNG)
N-ethyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(ENNG)
N-n-propyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(PNNG)
N-n-buthyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(nBNNG)
N-i-buthyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(iBNNG)
N-n-pentyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(iPenNNG)
N-n-hexyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(nHNNG)
N-methyl-N'-nitrosoguanidine(Denitroso-MNG)
及び対照の9.10-Dimethyl-1.2-benzantracene(DMBA)の毒性、Transformation誘導性をハムスター胎児細胞を使用して比較したので報告します。
<実験方法及び結果>
毒性テスト:
毒性テストはLab-Tek社製の4チャンバースライドによる方法を用いた。各チャンバーに検査濃度の2倍の検査物質を溶解した培地を0.5ml宛分注し、その上に20万個cell/ml細胞浮遊液を0.5ml加えた。各物質についての検査濃度はhalf
log稀釋で100μg/mlより5段階とした。3日間炭酸ガスフランキ内で培養後、固定、染色し、観察した。
障害度の判定は染色標本でcontrolと同程度増殖したものを(0)、1/2増殖障害のものを(2)、細胞が完全に変性、壊死したものを(4)とし各々の間を(1)、(3)と表わした。
一連の誘導体の毒性は(表を呈示)、MNNGに最大に現われ、0.3μg/ml作用群においても増殖阻害が現われた。細胞の増殖障害は、メチル基の側鎖の長さにほぼ平行して現われ、n-HNNG作用群では100μg/mlで(3)32μg/mlで(1)であった。癌原性がなく安定な物質であるDenitroso-MNGでは細胞毒性はほとんど現われなかった。
P.E.は対照で約8%、MNNG、DMBAは1〜1.5%。ENNG→HNNGの順で略々側鎖の長さに応じて低くなっていった。Transforming
Rateも同様MNNG、DMBAで高く、HNNGが低く発癌性のないDenitroso-MNGでは0%であった。ここで注目すべきことはBNNGの異性体であるiso-BNNGではP.E.が低くTransforming
Rateがnormal-BNNGに比して2倍以上の値を示した。
(表を呈示)MNNG、HNNG、Denitroso-MNG、DMBA作用群についての濃度変化によるTransforming
Rateは、in vitro、in vivoで発癌性の強いMNNG、DMBAでは作用濃度に比例してTransforming
Rateが上がり、発癌性の弱いかないと推察されるHNNGでは、Transforming
Rateは濃度に比例しなかった。
Transformation Rateの測定
この実験には同様ハムスター胎児細胞とMEM+10%FCSを培地に使用し、Feeder
layerとして10万個/dishのラット胎児細胞を使用した。実験方法は前号タバコタールの場合と同様で各物質を0.25、0.5、1.0、2.0μg/ml
48時間使用後正常培地で12日間incubationした後、固定、ギムザ染色後colony数の算定、Transformed
colonyの定量を行なった。
:質疑応答:
[佐藤]なぜfeederを使うのですか。
[乾 ]この系ではP.E.が低くて、feederを使わないとcolonyを作りません。
[高木]私たちの使っているC-5細胞は株細胞ですがP.E.も高く、無処理でもこういうcolonyが出てきます。
[乾 ]本当にcolonyの判定の段階が問題ですね。果たしてこういうcolonyがイコール悪性化細胞のcolonyなのかという事に未だに問題があります。
[梅田]そうです。この方法でみた悪性変異率について既に発表されたもので高いのは10%です。私たちのデータデハ8%位。colonyの判定法によって変異率は異なってくるのですから、かなり主観的ですね。
[乾 ]位相差顕微鏡では判定できませんね。一度は全colonyを復元する予定です。
[勝田]それはぜひやって欲しいですね。
[吉田]使った動物は何ですか。
[乾 ]ハムスターです。
[吉田]ハムスターは純系が少ないですね。復元実験には純系動物が必要でしょう。
[乾 ]ハムスターにはチークポーチへの復元という利点がありますから、かえって純系動物より使いやすいと思います。しかし、この実験では矢張りcolonyの形態で悪性化の判定をするという事が難しいですね。
[梅田]乾さんのは少し変異率が高すぎるようですね。矢張り復元実験で腫瘍性を確かめる必要がありますね。細胞は3T3のようにもう少しで悪性化というような細胞で、ぎりぎりの所で接触阻害を保っている系を使う方が能率的ですね。
[勝田]3T3の細胞を使うのにも問題はありますね。3T3での発癌機構かも知れません。
《梅田報告》
(I)増生させる細胞によってFCSとCSの要求が異るらしいことを見出した(表を呈示)。HeLa細胞およびハムスター胎児細胞(ラット胎児細胞のfeederを使用)はコロニー形成で、L-5178Y細胞は3日間培養後の細胞数で比較した。ラット肝細胞は5日間培養後染色標本として観察した。
HeLa細胞では仔牛血清が良いplating efficiencyを示し、これに反しハムスター胎児細胞では胎児牛血清が良いPEを示した。これに対し生後11日目のラット肝の培養では肝実質細胞(LPC)、中間細胞(IMC)、内皮系細胞(ELC)と形態的に区別できる細胞が増生してくるが、胎児牛血清ではLPCは変性壊死傾向を示し、ELCが良く増生した。仔牛血清ではLPC、IMCが良く増生し、ELCの増生は少なかった。
(II)前々回、前回の班会議でアルカリ性密度勾配上で細胞を溶解させる方法でのDNA超遠心パターンを調べた結果を報告してきた。それによるとヒト2倍体細胞、マウス胎児細胞では19℃
1〜2時間lysisで超遠心パターンの山が2つあり、4時間後には重い方(底より12〜13本目)に収斂してくる。更に時間がたつと軽い方に移行する。それに対しHeLa細胞、L細胞、L-5178Y細胞では19℃
1時間lysisで正常細胞の重い方と同じ位置(底より12~13本目)に高い山が現われ、以後4時間lysisでそれが低くなって丁度正常細胞と同じような山の高さになることを示した。
今回はハムスター胎児細胞の3代目を正常細胞の代表とし、P2B細胞(4NQO処理後長期継代して悪性化した細胞)を悪性化細胞としてこのハムスター由来の2細胞について1、4、24時間lysisで実験してみた。(図を呈示)結果は今迄と殆同じ遠心パターンを示した。
(III)この仕事は今迄の寺島方式で得られた遠心パターンでは、それから計算するとDNAの分子量が大きすぎることが一つの大きな理由で、Elkindが遠心条件の検討を行い、納得のいく分子量を示す遠心条件を求め、我々もその条件方法に準拠して行ってきたものである。ここで気になることは、Elkindは蔗糖勾配の組成、lysis液の組成、細胞数、lysis時間、遠心条件をいじっているが、それらのどれが遠心してDNAが遠心管の底に沈むようなaggregateの原因であったか示していないことである。即ちDNAaggregateを作る原因は何なのか、知りたくなった。そこで細胞数と、lysis時間だけを変えて、あとは今の方法で実験してみた(図を呈示)。5,000cells(Elkindの方法)、150,000cells、50,000cells(以前この位の細胞数をのせていた)をのせて、60分lysis、20'lysisのパターンは、非常に鋭いピークを示し、以前の遠心パターンに近づいているが、今迄堀川、安藤両氏が報告してきたように、DNAが底に沈むようなことはなかった。更にこの点について検討中である。
:質疑応答:
[堀川]ハムスターで正常細胞と悪性化細胞との差をみておられますが、lysisの時間が長くなると同じになってしまうのは何を意味しているのでしょうか。DNA構造に差があるのでしょうか。それとも膜の何かが違うのでしょうか。
[梅田]ElkindのデータではDNAは膜にくっついているとなっていますし、膜に関係があると考えている人が多いですね。
[堀川]微量な物質なので難しいでしょうが、どの程度膜がついているのか、はっきり出しておく必要がありますね。
[梅田]正常細胞でも分裂期の細胞ではピークが一つしか出ません。
[堀川]Lysisしにくいという事はありませんか。
[梅田]ありません。
《堀川報告》
Chinese hamster hai細胞株よりレプリカ培養法によって分離したAla+、Asn+、Pro+、Asp+、Hyp+、Glu+という栄養非要求性細胞(prototroph)をX線および紫外線で照射した場合の栄養要求性変異細胞(Auxotrophs)の出現率つまり誘発前進突然変異率を検索した結果についてはこれまでに報告してきたが、今回は同様の方法で分離したAla-、Asn-、Pro-、Ser-、Gly-、TdR-というauxotrophを使って、これにX線および紫外線を照射した場合に誘発されるPrototrophへの復帰突然変異率を算定した結果につき報告する。実験にさきだち一定期間をおいて上記Auxotrophの栄養要求性を詳細に検討した結果、Ala-、Asn-、Pro-、Ser-、Gly-というマーカーは非常に不安定でTdR-のみが遺伝的に安定なマーカーとして使用可能なことがわかった。従ってこの実験系は結果的にはTdR-→TdR+への復帰突然変異を調べることになった訳である。
さて、このauxotrophに種々の線量のX線および紫外線を照射し、fixation
and expressionのために48時間おいた後、thymidineを欠いたselection
mediumに移して出現するコロニー数から誘発復元突然変異率(TdR-→TdR+)を算定した。
(図を呈示)(TdR-→TdR+)をマーカーにして調べたX線および紫外線による誘発復帰突然変異率は非常に低い。これまでにたびたび報告してきた(1)8-azaguanine抵抗性を指標にして調べたX線および紫外線による誘発前進突然変異率、あるいは前回まで報告してきた(2)Ala+、Asn+、Pro+、Asp+、Hyp+、Glu+というPrototrophを用いてX線および紫外線によるauxotrophへの誘発前進突然変異率にくらべてはるかに低率であることがわかる。
こうした違いが何に起因するのか、つまり(1)それぞれの実験系における誘発突然変異検出能の差違に原因しているのか、あるいは(2)前進突然変異と復帰突然変異の機構は本質的に異ったものであるのか、といった重要な問題の解析が今後に残されている。
:質疑応答:
[山上]2倍体の細胞は遺伝子が2倍ですから、分析が難しいと思いますが・・・。
[堀川]難しいですね。haploidでもまだ問題はあります。2倍体でもWI-38などは細胞の維持が大変で、とてもmutationの仕事には使えません。
[吉田]もちろんhaploidの系がとれれば遺伝子を調べるには理想的ですが、とても維持できる系はとれないでしょう。2倍体なら何とか維持できますが。
[野瀬]Auxotrophをとる場合でPrototrophが大部分を占めている場合、完全に拾うことは出来ないのではないでしょうか。
[堀川]BUdR→光という方法にも問題はあります。この方法自体が変異を起こすというような。今の方法で要求性細胞を拾うのは確かに非常に困難です。
[山上]全部TdRマイナスだったというのは何故でしょうか。
[堀川]判りません。
[吉田]感受性細胞も耐性細胞もdependent mutantも出てくる事をどう考えますか。
[堀川]Inducerに作用するとか、色々な事が考えられます。
[乾 ]Deletionの形でmutationが起こった場合、元に戻ったらreverse
mutationではなくて、forward mutationという訳でしょう。
[堀川]その点はmolecular levelで実験して調べてみないと判りません。
[吉田]自然変異率はどの位ですか。
[堀川]2〜5x10-5乗くらいです。
[吉田]1000rかけると・・・。
[堀川]1x10-2乗くらいになります。
[勝田]8-AGの作用は細胞を浮遊状態でさせるのですか。
[堀川]そうです。
《野瀬報告》
Alkaline Posphatase変異株の分離:
ALP活性発現の機構をDibutyryl cAMPによるinductionを生化学的に解析することによって知ろうとしているが、もう一のアプローチとして遺伝的解析も試みている。そのためにはP.E.が高く、growthの早い細胞株が有利なのでCHO-K1細胞を用いた。この株はcloneであり、ALP-Iの活性はnot
detectableであった。Fast Red Violetとα-Naphthylphosphate
AS-MXとで組織化学的染色を行なうと、ごくわずか(1x10-6乗)ALP陽性に染まる細胞が集団中に検出され、この頻度はMNNG処理により上昇した。そこでmutagen処理後at
randomにcolonyをひろいALP活性を見てゆめば10,000〜100,000に1個の割合でALP陽性のcloneがとれることが期待された。
方法は、CHO-K1をMNNG(0.1〜0.5μg/ml)又はEMS(400〜2000μg/ml)で2hr.処理し、0〜10日incubateした後、90mmのdishにca500cells/mlでまきこみcolonyを作らせ、その上からP-nitrophenylposphate
1mg/mlを含む1.5%agar(Hanks、Tris)を重層し黄色く色づくcolonyを探す。上の組織化学染色では細胞が死んでしまうので染色はpNPPが良いようである。この結果、MNNG処理は5/33116、EMS処理は1/12496の頻度で黄色く染まるcolonyが検出された(表を呈示)。これらをpick
upし、更にsecondary cloningを行なってpure
cloneをとろうとしている。今迄とれた6コのALP+coloniesからcloningできたのは3コで、それぞれAL-1、AL-3、AL-4と名づけ、これから更にcolonyをひろったのがAL-12、AL-15、AL-32、AL-43である。これらの細胞集団中のALP+cellの頻度は、single
colonyを拾った段階ではまだかなりALP(-)の細胞が混っているが、更にcloningするとかなりpureになり大部分ALP+細胞となった。このcloningには約1カ月半経過しているので、ALP+の性質は安定であると考えられる。(表を呈示)
次にここで得られたcloneの酵素活性を見た(表を呈示)。親株のCHO-K1にくらべ、これらのcloneは数千倍のALP-I活性をもっていることがわかる。ALP-IIおよびacid
phosphatase活性にはそれ程大きな差はない。
S.Barbamの論文によると2-deoxy Glucose耐性株はALP活性が高いというので、ここで得られたALP-constitutive株の2-d-Glc感受性を調べた。(図を呈示)そのgrowth
curveではALP+細胞でも2-d-Glcには耐性になってなく、逆は成りたたないようである。
ALP+株はCHO-K1とALP-I活性が大きく異なる以外、形態的にもdoubling
timeも、また染色体数にも違いはない。染色体組成には若干差があり、ALP+細胞には1本片側のarmの分裂がおそい染色体があるが、これがALP+の性質と関連するかどうかは今のところわからない。
一つの酵素活性がない細胞から、ある細胞がとれたということは、元の細胞にはおの酵素の遺伝子があるが発現できず、何らかの機構でde-repressされたと考えられる。これがmutationによるのか、epigeneticな機構によるのか今後の問題である。
:質疑応答:
[吉田]ハムスターは動物レベルではALP活性があるのですか。
[野瀬]遺伝子としてはあるはずです。
[吉田]人間の細胞では染色体のどの部位にどんな遺伝子がのっているかが、かなり確かに解っています。人間の細胞を使うと有利だと思いますが・・・。
[野瀬]必ずしも遺伝子レベルの変化とも思えません。酵素活性がなくてもその遺伝子がないとは言い難いのです。蛋白合成を阻害しても酵素活性の誘導はかかります。
[佐藤]細胞の種類、又腫瘍と正常という事が酵素活性と関係していますか。
[野瀬]同じ系の細胞でも酵素活性の殆どないものと高いものとがありますから、あまりはっきりした関係はないと思われます。
[堀川]2-d-Glc.耐性とALP活性の関係を調べたデータをみましたが、面白いですね。
《吉田報告》
1.RatのStandard karyotypeについて:
バンディング法によってラットのStandard
Karyotypeが国際的に決定した。これはStandard
Karyotypeのcommittee(筆者もその一人)の意見によったもので、最近Cytogenet.Cell
Genet.12:199-205(1973)に発表された。
2.クマネズミの核型進化について:
去る8月20日から30日まで米国カリフォルニア州のバークレーで行なわれた国際遺伝学会議に出席し、クマネズミの核型進化について発表した。クマネズミにアジア型(2n=42)、オセアニア型(2n=38)及びセイロン型(2n=40)の3型が発見され、これらはインド南部で分化したと考えられた。尚constitutive
heterochromatinを染色するといわれるC-バンディングパターンにも多型がある。血清蛋白トランスフェリンのアミノ酸分析などからクマネズミの核型進化の方向性が論じられた。
【勝田班月報・7311】
《勝田報告》
培養ラッテ肝細胞へのSpermineの影響
これまでも肝癌の毒性代謝物質の研究の一環として、Spermineの培養細胞に対する作用をこれまでも報告してきたが、今回はその続報である。
1.細胞の接種量によるspermineの影響の相違:
細胞を継代し、同時にspermineを添加する場合、細胞のinoculum
sizeによってspermineから受ける傷害効果に差があるかどうかをしらべたのが、次図である(図を呈示)。
4種のinoculum sizeで、3日間に渉って培養してみた結果、図のようにinoculum
sizeの少ないほど傷害を受ける度合の大きいことが示された。最少数の8万個の群では細胞数が、きわめて著明に減少させられているが、50万個以上では極端な障害は見られなかった。
2.Spermineの細胞毒性に対するPoly-L-glutamic
acid、chondroitin sulfate、lysozyme、N-acetyl-D-glucosamineなどによる前処理の影響:
37℃で24時間前処理してから、1日培養后の培地に添加した。結果として、培地(含血清)と前処理した群が最も毒性を消したというのは不思議でもあり、皮肉なものである。
3.この所見から、血清蛋白が解毒作用を強く持っているのではないか、という疑がおこり、Bovin
serumのFractionV(Armour)とSpermineを24時間前処理したの結果が次図で、点線のようにspermineの阻害効果がきわめて大きく、抑制される結果となった(図を呈示)。他の血清分劃にも同様の作用があるかどうか、目下材料の入手を急いでいるところである。しかしAlbuminはかなり決定的な解毒要素であるだろう。
4.Spermineと同時に添加したときの血清蛋白分劃の影響:
上記の実験により、あらかじめspermineと血清或はFractionVを混在させて24時間37℃でincubateしておくと、spermineの毒性が低下されることが判った。それでは同時に添加したらどうなるか。血清のときは同時に添加すると、前処理の場合とは逆に、毒性を増強した。血清蛋白分劃ではどうであろうか。
これをしらべ結果、spermine単独ではあまり強い阻害効果が現われなかったが、そこにAlbuminが共存すると、細胞はすっかりやられてしまった(図を呈示)。
毒性の発揮を助けるという意味ではFraction があまり効果を見せなかったことは興味深い。上のAlbuminの行動は血清の場合と全く同じで、なぜ前処理するとspermineの毒効果を消し、同時に添加したときにはなぜ毒効果を助けるのか、これは今后の大きな問題と思われる。また図のように血清蛋白のfraction は毒性効果をほとんど助長しなかった。これもまた今后の問題である。どういう訳であろうか。
なお、上の実験では培地はDM-145で、血清蛋白を加えてない培地である。
《山田報告》
Spermineの影響について細胞電気泳動法を用いて検索していますが、今回はJTC-16を検索しました。意外なことに図に示すごとくその程度は若干少いですが(図を呈示)、3.9μg/mlのSpermineはJTC-16の泳動度を低下させました。
しかし、0.19μg/mlの薄いSpermineでもJTC-16の泳動度を低下させていますので、その理由は一回だけの実験でははっきりしません。RLC-10(2)の実験でも、その増殖の状態如何ではSpermineの影響がかなり異るので、くりかえし検索してみたいと思って居ます。このSpermineにLDメヂウム+10%BS及び10%FCSを加へて処理した所、図に示すごとくJTC-16の泳動度の低下が著しく阻害されました。即ち泳動度の低下は少いという結果です。
《高木報告》
AAACN、MNNGによるin vitro発癌の試み:
前報で、可成り詳しくこれら薬剤による培養細胞の形態学的変化につき述べた。次後、transformed
fociと思われる箇所の細胞を拾って継代培養を続けている。しかし、2代目以後形態は再び対照の細胞と区別出来なくなっている。MNNG処理群については形態が違ったと思われるものもあるが、selectionの可能性は勿論考えなければならない。ラットが夏バテ以後中々立ちなおらずやっと最近繁殖の兆をみせはじめた状態で、動物実験が出来ないため一部の細胞をのぞき凍結保存している。動物が生れ次第移植を試みるつもりである。
正常細胞及び腫瘍細胞に対するCytochalasinBの効果:
最近、Kelly、SambrookらはNature 1973で、CytochalasinBの3T3とSV3T3に対する効果の違いを発表している。すなわち、cytochalasinB
5μg/mlをこれらの細胞に作用させて、12時間から84時間後んで24時間間隔で調べているが、3T3細胞はこの観察期間を通して1〜2核の細胞で占められるのに対して、SV3T3細胞は時間の経過と共に3、4核および4核以上の細胞が増加することをみている。
化学発癌剤によるin vitroのtransformationをみる上にも、この様な相違が1つのindi-catorとして用いられるか否かをみるために、RFLC-5細胞、RRLC-12細胞(RRLC-11細胞の再培養株)、XP細胞およびWI-38細胞に対するCytochalasinB、1μg、2.5μg、5μg/mlの影響を観察した。正常細胞のつもりで用いたRFLC-5細胞は長く培養した株細胞であるためか、細胞あたりの核数の分布はRRLC-12細胞と殆ど変らない結果をえた。すなわち、培養日数と共に多核の細胞が増加した。XP細胞はなお観察中であるが、1、2核の細胞が殆んどを占めるようである。次に正常細胞としてWI-38、腫瘍細胞としてラット由来のRRLC-12細胞における結果を示す(図を呈示)。培養後日の浅い"正常"細胞を用いてさらに検討してみたい。
《佐藤報告》
ST3)RAL Cell LineのChromosome追加
ST2)にRAL-2、-3、-4、-5は報告した。RAL-1の染色体分布は図の通りである(図を呈示)。
次図はRAL-3の172C.D.の染色体分布図である。RAL-3は前月月報で報じたように、89C.C.D.では高いDiploidwo示していたが、3ケ月程度で著く変化したことになる(モードは48本)。
ST4)RAL Cell Linesの核型について
(図表を呈示)一般的にB1 trisomyが目立つ。
Diploidよりくずれた細胞では一見B1 trisomyと考えられるものが目立つ。
In vitroの細胞増殖に関係があるのだろうか?。
Morphologicな成因についてはBanding法にて検討予定。各Lineの代表的核型は次図の通りである(図を呈示)。
RAL-4はB1 trisomyが0/7であるが、培養日数が経過すると出現するかも知れない。
T−5)dRLa-74から分離された単個クローンの継代培養
dRLa-74から分離された単個クローンの継代は図の如くである(図を呈示)。Clone-1を除いて、いずれも上皮様である。Clone-1は上皮様とは言いがたい上、増殖性も悪く(未継代)、株細胞として使用し得るか否か、現在の所疑問である。上皮様クローンの位相差写真を示した(写真を呈示)。lone-2、-4、-5、-13はコロニー分析により、コロニーの大きさから2つのグループに大別され(表を呈示)、Clone-2、-5は大型のコロニー、Clone-4、-13は小型のコロニーの形成率が高い。この意味については現在模索中であるが、腫瘍性を確認する為に復元接種実験を試みている。原株のdRLa-74は腫瘍形成(3/3)を認めたが、腫瘍死は未だである(70日目)。
《梅田報告》
(1)今迄8AGを大量加えた軟寒天中で生存YS細胞のコロニーを作らせ、8AG耐性細胞を拾う実験を行ってきたが、今回は大量のYS細胞から出発し8AG処理を行った後、生存した細胞を軟寒天中で選択する方法をとった。1,000万個の細胞を、8AG
10-4.5乗M或は10-5.0乗M培地で隔日4回処理した後、軟寒天中(8AGは加えなかった)に播いた。10-4.5乗M培地処理したものに、小コロニーが多数出現し、PEはCa
0.01%であった。このコロニーを5ケ拾って培養を続けた。しかし充分の数の細胞が増生してから10-5.0乗M培地で培養すると、やはり死滅するようである。
(2)月報7309に10-4乗M 8AG加軟寒天中でとれた1クローンの細胞を8AG
10-5.0乗Mで培養を続けて耐性であるように記したが、これもその後あまり増生してこなくなった。この細胞をAGr-1と名づけ、以前から大量の培養細胞より8AG培地で選択した耐性細胞をAGr-2と名づけた。
(3)以上の各細胞についてHGPRTの直接の測定にはならないがC14-hyproxanthineの取り込みを調べた。各細胞の一定細胞数中にとりこまれたC14-hypoxanthineの放射能をコントロールYS細胞の取り込みの比として表に表した(表を呈示)。
表からAGr-1のみC14-Hypoxanthine取り込みが抑えられていることがわかる。しかし、コントロールYS細胞の35%も保持されており、完全な耐性ではないようである。その他の細胞は相当高濃度の8AG培地から選択されているのに非常によくhypoxanthineを取り込んでいる。以上どうもYS細胞では8AG耐性細胞が得られ難いようである。
《乾報告》
ニトロソグアニジン誘導体8種の癌原性
先月の月報でN-methyl-N'-nitrosoguanidineより順次側鎖をのばした一連の誘導体の毒性、突然変異誘導性を観察した結果、isobutyl-NNGを除いてCH3基の数の少ないもの程、これらの性質が弱いことがわかった。
Butyl NNGではnormal、isotypeの間で毒性、特に突然変異誘導性に大きな差が認められた。今月は、これら二つの誘導体について、変異コロニー発生率のDoses
depedencyを調べた。(表を呈示)表に示す如く、0.5μg/ml作用群を除いては、毒性について両異性体の間に大きな違いがなかった。変異誘導性については、normal-異性体に対してiso-異性体が明らかに大きかった。両異性体共変異コロニー誘導率にDoses
dependencyが明らかに認められる事から、これらの物質に発癌性のあることが考えられる。また以上の結果より発癌性(変異誘導性)がCH3基の数の絶対数より、むしろ側鎖の長さにより多くdependすることは注目すべきことと考える。残る四つの同異性体DMBAについて、Doses
dependencyについて、検索中であるが、現在の所変異コロニーの定義が形態学的にむずかしく、この点を併せて検討して行きたい。
《野瀬報告》
Alkaline phosphatase-Constitutine株の性質
前回の班会議で、CHO-K1からalkaline phosphatase活性の高い変異株が分離できたことを報告した。3株の独立な変異株は2回cloningを行ってもまだ一部ALP活性のないcolonyがでてきて、細胞集団が不均一又はこの性質が戻りやすいのかわからなかった。更にもう一回cloningを行ってみたら、(表1、2を呈示)表のようにほぼ100%のcoloniesがALP-陽性であった。カッコ内は20日後にそれぞれのcloneからre-cloningした結果であるが、わずかにALP-陰性のcoloniesがふえている。しかしほぼ安定な性質であると考えられる。
これらのclonesはALP-I活性はparentにくらべ高くなっているがALP- 、Acid
phosphataseに関してはあまり差が認められなかった。表2は更にLDH活性を測定した結果であるが、やはり互いに大きな差はなかった。
CHO-K1はcloneなのでここで、得られたALP-陽性株はparentのALP-Igeneのde-repressionを起こしたものと考えられる。しかし、cloningしてからかなり時間がたつので、popula-tional
heterogenesityがあって、単なるselectionによって分離された可能性は否定できない。CHO-K1のALP-I活性はnot
detectableだが、cellをhistochemicalにALP染色を行うと10-5乗のorderでALP-陽性細胞が存在する。従ってCHO-K1をrecloningし、それから同じようにALP-陽性細胞がとれるかどうか確認する必要があり、現在、その実験が進行中である。CHO-K1細胞の中にALP-I
geneが存在しmaskされているだけならばmutagen処理ではなく、何らかのinducerで活性をinduceする事が可能と考え、(1)1mM
But2cAMP+0.1M theophyllin(2)4mM n-butyrate
(3)23μg/ml hydrocortisone (4)4x10-5乗M BUdRなどの処理を行なってみたが、いずれも全く活性上昇は見られず、この細胞は今の所un-inducibleである。
【勝田班月報:7312:サイトカラシンBの効果】
《勝田報告》
ラッテ肝細胞の初代培養法について:
ラッテ肝の初代培養をはじめるのに、どんな方法で細胞を分散させるか、ということが、いつも大きな問題であった。従来のメスで細切して回転培養する方法を第1法とし、本報では第2法としてIypeの変法、第3法は新たに開発した新しい方法を紹介する。
第2法は0.05%のCollagenaseでPerfusionした後、0.25%のTrypsinでdigestionする。特徴は、生きている細胞の率は低いが、adult
ratの肝の培養には適しているということである。またセンイ芽細胞の混入率が低く、ほとんどが上皮様細胞である。培養開始後2〜4週間すると、細胞の生え出しが見られるようになる。(表を呈示)
第3報では、新しく開発中のenzyme、細菌中性proteinase(商品名:Dispase;合同酒精)を用いている。これは細胞障害性が低く、長期間培地に入れ放しでも大丈夫なので振盪培養などには適するど思われる。Subcultureのとき上皮性細胞の方が短時間の内に剥れるので、細胞の撰別にも便利である。それに1月以内に大量の上皮性細胞が得られるという利点もある。(表を呈示)
このDispaseとTrypsinとの効果の相違を表に示したが、Dispaseの方が培養内の増殖率も高く、ほとんどの細胞が上皮性であることが判る。
このような方法で作ったラッテ肝細胞の培養株RLC-14〜RLC-21の詳細を表に示す。
:質疑応答:
[佐藤]Adultラッテ肝を材料にすれば、分化型の肝細胞とれるかというと、そうではありませんね。初期の生存率の低い事から考えてかなり撰別されて幼若型のものばかりが増殖してくるようです。私達の方法はトリプシンだけで充分大量に上皮細胞がとれます。
[高岡]ラッテの肝細胞の培養法については、既に沢山の方法が報告され、使われているのですが、今日の報告では、材料を胎児、乳児、離乳後からそれぞれ株を作りたい事、誰にでも出来る簡単な方法で、培養に移してからなるべく短い期間に大量の上皮性細胞を使えるようにする、という事に焦点をおきました。
[吉田]酵素を全く使わないで培養するとどうなりますか。
[高岡]若い、たとえば胎児とか初期の乳児ではセンイ芽細胞が優勢になりますし、離乳後では上皮性の細胞がなかなか生え出してきません。
《佐藤報告》
T-6) I:DABの溶解
II:DABに対するクローン細胞の感受性(その2)
Ia: DABの高濃度溶液を作製しようとする場合、一番問題になるのはDABの溶解時の溶媒濃度であるが、(表を呈示)実験の結果からアルコール(溶媒)濃度を可及的に低く、DAB濃度を高くする組合せは、100%アルコールでDAB
5mg/ml程度と考える(例えば、medium中でFinal
conc.50μg/ml DABでAlcohol conc.は1%)。実験はMerlk社DABを使用し、24〜48hr、37℃での結果で、完全に溶けた濃度は80%アルコールでは3mg/ml、100%アルコールで5mg/mlであった。
Ib: DABの溶解は最終的には水(medium)であるため、高濃度のDABの再遊離はまぬがれなく、種々の実験から好ましいと考えられる溶解方は、例えば50μg/mlのDABを作製する場合、5mg/ml
100%BS稀釋→500μg/ml 20%BSmedium稀釋→50μg/mlの如くと考える。この場合でも、実際のDAB(Toluene抽出、410mμ測定)は理論値よりかなり減少している(表を呈示)。しかも、この事は用いた血清のLotにより大いに異なることが判る。血清中のLipid様のものの量によると思われる。
II: DABに対する細胞の感受性を今後、検討して行く予定であるが、今回はDAB濃度と細胞増殖に対する毒性との関係をみた。併せて3'Me-DAB、ABについても検討した。
実験は40μg、10μg、1μg/ml(アルコール濃度1%、0.25%、0.005%)について行い、細胞植込み後、24hr後に、上記濃度のmediumで置き換え、その後48hr培養した。1μg/mlではいずれのAzodyesも殆んど毒性を示さないが、10μg/mlではややtoxicである。40μg/mlではDABについては、ほぼ50%阻害を認めた。尚、本実験は最も上皮様と見られたClone-5について試みられたが、追試実験でも同様の結果を得た。
ST-5) RAL cell linesの核型について(続き)
前号No.7311において、RAL-4がB1Trisomyが0であったが、(表を呈示)培養74日で67%、培養115日で98%になった。従って成熟ラッテ肝細胞の培養では5例とも、少なくとも100日前後の培養で、高率のB1Trisomyが出現したことになる。発生の機構についてが今後、検討する必要があるが極めて興味のあることである。
(図を呈示)RAL-4の染色体分布は培養74日では42本、培養115日で43本であった。(核型を呈示)培養115日目の染色体数43の核型を示す。現在の検索では光顕的形態によって、並べられているので、今後、Banding等を利用して、更に詳細に検討されねばならない。
:質疑応答:
[堀川]B1にtrisomyがあるという事をどう考えますか。
[吉田]事実であれば大変面白いですね。しかしB1だけでなく他にもtrisomyが出ているのではありませんか。Adultラッテを材料にした場合の特徴でしょうか。或いはトリプシンによるセレクションなどは考えられませんか。DMBA処理でC1にtrisomyが出てくるという報告はありますね。ラッテの系特異性ということはどうでしょうか。
[乾 ]自然悪性化の時の変化にtrisomyはありませんか。
[佐藤]2倍体を拾っていってもtrisomyが出てくる事もあります。幼若系でB1以外のtrisomyを見つけてもいます。2倍体は大体増殖が遅く従って2倍体を拾っていると、増殖の早いものを捨てていく事になりますので、もし増殖の早いものを拾ってゆけばB1trisomyが多くなるという事も考えられます。
[吉田]Colcemid reversal法でtrisomyを拾う事が出来ますが、ラッテでは大きな染色体のtrisomyが頻度高い様です。Adult
liverの特異的な現象でなく、ラッテ細胞ではこのtrisomyをもった細胞がin
vitroのgrowthに適しているのかも知れませんね。
[乾 ]In vivoで発癌剤を処理すると小さい方の染色体が異常を起こす様ですね。
[吉田]In vivoの癌化とin vitroへのadaptationとは違うでしょうね。
[勝田]矢張りbandingをやってみないとはっきりした事は言えませんね。
[高岡]DAB給餌のラッテ肝から培養した弱い腫瘍性をもつ株細胞は、その腫瘍性に変化はないのですか。
[佐藤]培養開始して2年位になりますが、その間腫瘍性は変わらないようです。大体4NQOは一度傷を与えたらそのまま癌化へと転がり出すが、DABは給餌或いは培養内添加を中止すると、その時点で悪性化が止まってしまうのではないかと考えています。
[高木]その株を使った場合、どの位の期間で実験を終わる予定ですか。
[佐藤]処理しないものが90日で腫瘍を作りますから1カ月位で実験を着る予定です。
[勝田]In vitroでの発癌実験の問題点として、(1)発癌剤を処理してから動物にtakeされて腫瘍を作るようになるまでに数カ月という長い時間がかかるのは何故か。悪性化そのものに時間がかかるのか。それとも悪性化した細胞が少数でそれがtakeされる数に達するまで増殖するのに時間がかかるのか。(2)動物へ復元接種してからその動物が腫瘍死するまでに時には1年以上という長い時間がかかるのは何故か。動物の体内で更に2段3段の変異が起こるのか。(3)Spontaneous
transformationとは何なのか。といった事があると思います。
[吉田]ラッテは42本、マウスは40本という染色体数が生体内では厳密に維持されるのに、in
vitroでは変わってくるのは何故でしょうか。In
vivoでは何らかの変異があるとselectされてしまう。そういう環境の中で変異して、なお生き残るから癌は悪性度が強いのだと言えませんか。
In vitroではそういうselectionがないので、悪性度の度合いが弱いものから強いものまで色々あっても不思議はないのかも知れません。
[佐藤]そういう考え方から培養にもラッテの血清を添加するとか、何か抗血清を使って抗原性の変わったものを除外するような方法を考えています。
[勝田]昔、なぎさ変異の実験をしていた頃、ラッテにtakeされる方へ変異の方向をもってゆこうとして色々と試みましたが、みな失敗しました。
[藤井]In vitroで悪性化したものでも、一度動物にtakeされたものの再培養は、ずっと早く動物をたおすようになりますね。
[勝田]復元の条件はなかなか複雑ですね。昔、雑系継代AH-130由来の細胞をウィスター系のラッテへ植えてみました。初代はtakeされて動物は死ぬのに、その腹水を次のウィスターに植えますとtakeされないという現象にぶつかったことがあります。
《藤井報告》
培養ラット肝細胞株(RLC-10)の培養過程ならびにin
vitro発癌後の同系リンパ系細胞刺激能について:さる11月の、京都での培養学会研究会シンポジウムに発表するのを機に、今まで折々に施行してきたRLC-10系の肝細胞株とその4NQO発癌後の株細胞についてのリンパ球腫瘍細胞混合培養反応を、勝田教授のつくられたculture
courseにあてはめてみました(図を呈示)。各細胞株は、医科研癌細胞研究部より貰ったあと、私共の研究室で維持してきたもの。培養液はRPMI
1640でfetal calf serumを10%に添加。混合培養反応2日前よりラット血清に代えて培養した。
対照のRLC-10およびin vitro変異株RLT-1はリンパ球刺激能(リンパ球の反応係数で示されたもの)が低いが、Cula-TC、Culb-TC、Cule-TCなどは高い。Culb-TCは培養日数を経るにつれリンパ球刺激能は高くなるが、その腫瘍性−移植生着能−は依然として高い。この高いリンパ球刺激能が、腫瘍拒絶にはたらくリンパ球(T-cells)のものか、あるいは液性抗体をつくるリンパ球(B-cells)のものかを区別することによって、リンパ球刺激能と腫瘍性の一見矛盾する関係がわかると思われる。
:質疑応答:
[永井]長期間培養したCulbTCでリンパ球の刺激が高くなるというのは、培養期間の問題で、正常細胞でも培養していれば矢張りリンパ球の刺激が高くなるような気がします。この方法で免疫的にひっかかる細胞と腫瘍細胞とを関係づけられるでしょうか。
[高岡]単純に考えて、昔のCulbTCを抗原にした抗血清を使って、現在のCulbTCが免疫的に変わったかどうか調べる事は出来ませんか。
[吉田]免疫に関する面白い動物で"かやねずみ"というのがあって、これはどんな異種の動物の腫瘍もtakeして死んでしまうそうです。
《高木報告》
1.CytochalasinBの培養細胞に対する効果:
前報に引きつづきCytochalasinBのXP、WI-38、RLC-10、Sg、RFL-N2、RFL-5およびRRLC-12細胞に対する効果を報告する。これらの細胞につき簡単に説明すると次の通りである。
XP細胞:Xeroderma pigmentosumの患者の生検皮膚より培養した線維芽細胞、培養期間約100日
WI-38細胞:Heyflickのhuman diploid cells
RLC-10細胞:勝田研究室の正常ラット肝細胞
Sg細胞:WKAラット唾液線由来の線維芽細胞、培養期間は約1年1カ月で増殖は遅い
RFL-N2細胞:WKAラット胎児肺由来、培養期間約3カ月
RFL-5細胞:WKAラット胎児肺由来細胞のcolonial
clone、培養期間約3年半
RRLC-12細胞:WKAラット胎児肺由来細胞の自然悪性化細胞の再培養株RRLC-11を移植してえた腫瘍の再培養株
CytochalasinBはDMSOに500μg/mlに溶かし、それをさらに1、2.5および5μg/mlに培地で稀釋して使用した。実験にはLabtec(Rux社)を使用し、1、2、3、4日間に1区画ずつ固定して最後にまとめてgiemsa染色をほどこし、細胞100ケの核数を算定した。
XP細胞:5μg/mlでは核は凝縮し、1、2、3日目は算定出来なかった。1、2.5μg/mlおよび5μg/ml
4日目についてみると単核の細胞が多く2核の細胞はこれに次いだが、それ以上の核数の細胞はほとんどなかった。
WI-38細胞:各濃度ともほとんどすべて1、2核細胞よりなり、培養日数と共に2核細胞にやや増加の傾向がみられた。2核細胞の数は5μg/mlにおいてやや少なかった。
RLC-10細胞:2.5および5μg/mlでは細胞の凝縮、核凝縮がつよく算定出来なかった。1μg/mlではほとんどすべて1、2核細胞よりなり1核細胞の方が多かった。
Sg細胞:5μg/mlでは細胞の凝縮が強く算定不能であったが、1、2.5μg/mlでは1、2核の細胞が多く、培養日数と共に2核の細胞が増加する傾向を示した。なお多少の3、4核細胞もみられた。
RFL-N2:固定染色後あやまって細胞面を拭ったため2.5、5μg/mlは算定出来なかったが、1μg/mlではすべて1、2核細胞で、2核細胞は培養日数と共に増加した。
RFL-5細胞:5μg/mlでは核の濃縮があり算定しにくかったが、1、2.5μg/mlでは培養日数と共に多核細胞が増加し、7、8核の細胞もわずかにみられた。
RRLC-12細胞:各濃度とも算定出来た。培養日数の経過と共に多核細胞も増加し、RFL-5細胞と同様のpatternを示した。
以上調べた範囲でまとめると、培養期間の比較的短い、あるいは所謂正常細胞と考えられるWI-38、RLC-10、Sg、RFL-N2および培養期間の短いXP細胞では大体2核までにとどまり、正常組織由来であるが培養期間の長いRFL-5および肉腫細胞株のRRLC-12では2核以上の核数の細胞が多数みられた。RFL-5細胞は現時点では移植して腫瘍は形成しないが長期間培養しているので所謂transformed
cellsと考えてよいのかも知れない。さらにいくつかの細胞種について検討し、移植成績と比較してみたい。
2.XP細胞のUV感受性について:
上記XP細胞につき、正常人皮膚の生検材料からえられた細胞との比較においてUV感受性を調べてみた。XP細胞は少数シャーレにまいてもすぐゆ合して個々のcolonyを形成しにくいためUV照射して1週間後の増殖曲線で比較する方法をとった。
UVは15wの殺菌燈を100cmの距離で照射し、時間は5"、10"とした。正常細胞では5"照射で2日目まで増殖しなかったが、以後7日目まで対照と同様の増殖を示した。10"では2日目まで細胞数は一時減少したが以後立ちなおり増殖した。XP細胞では5"照射で細胞数は7日目まで接種時の2.1万から1.1万と次第に減じ、10"では4日目まで急速に減じ以後やや恢復したが対照とは明らかな差異が認められた。UV感受性がXP細胞において高いと考えられる。
:質疑応答:
[吉田]サイトカラシンBの作用は核だけが分裂して細胞質が分かれないのですね。
[堀川]多核になった細胞と腫瘍性との関係はどうですか。それからサイトカラシンBのもう一つの作用の脱核と、多核が出来ることとの関係はどうなっていますか。
[高木]濃度が高いと脱核を起こします。
[梅田]多核が出来る濃度でも4核になってから、その中の1コが脱核して3核細胞になるという事もありました。
[藤井]多核細胞の運命はどうでしょう。
[高木]サイトカラシンBを除いてしまえば元に戻って、又正常に分裂できるようですが、私達はそこまでみていません。
[吉田]この多核化は分裂期阻害でしょうが、写真でみると後期の阻害のようですね。
[高岡]無添加の対照細胞の核数は・・・。
[高木]どの細胞系も多分1コの所にピークがあるとは思いますが、調べていません。
《梅田報告》
(I)前回の班会議で細胞の種類により胎児性牛血清(FCS)と仔牛血清(CS)とで細胞の維持に適・不適のあることを報告した。すなわちFCSは線維芽細胞の増殖に適しており、CSは上皮性細胞に適しているような結果を得た。そこで上皮性細胞、特に肝実質細胞(LPC)が、CSより成牛の血清(BS)により適するかどうか確かめる実験を行った。北星製の3ロットのBSを用いさらに非働化を行ったもの、行わないものとについて検した。方法は前回と同じようで、HeLa細胞とP2B細胞(ハムスター胎児細胞に4NQOを投与して長期継代し悪性化した細胞)ではコロニー形成法により、ラット肝培養細胞については染色標本を顕微鏡観察して測定した。
HeLa細胞に関しては前回の結果と同様な結果を得た。すなわちFCSは悪く、CS又はBSの良いロットでコロニー形成率が高かった。P2B細胞はハムスターの悪性線維芽細胞であるが、それも前回のハムスターの線維芽細胞(前回は正常のものであったが)の結果と似ていた。すなわちFCSが良く、CS、BSはそれよりややおちる。ラット肝培養ではFCSとCSについては前回と同じような結論を得たが、CSとBSを比較するとBSの良いlotはCSと同じ程度の細胞増生を促すがlot差があること、しかしCSよりずばぬけて良いlotはなかった。
興味をひく点は非働化を行ったもの行わなかったものとの比較でLPCには非働化を行わなかったものの方が明らかに良かった点である。
(II)このFCSとCSの細胞維持の違いが血清中に含まれる低分子物質の多寡による可能性を考え、夫々の血清にEagleのnon-essential
amino acidを加えて、HeLa、P2B細胞のplating
efficiencyにおよぼす影響をみた。結果はnon-essential
amino acidを加えてもコロニー形成率が促進されることは1例以外なく大抵は減ずる傾向のあることがわかった。
(III)前回の班会議の時、核小体縮小現象の話からadenine誘導体について簡単に紹介した。今回はこの関係の我々の今迄のデータを整理し紹介し、御教示を得たい。
(実験毎に表を呈示)各adenine derivativeのHeLa細胞への障害度と核の変化の有無についてまとめたものである。同一時期に実験していないものもあるので相互の障害度の差にやや厳格性に欠ける所もあるが、調べたうちdibutyryl-c-AMPが最も少量で変化を惹き起し、ADP、ATP、TPN、FAD、c-AMPが10-3乗Mで障害を示した。そしてadenine
derivativeのうちdBcAMPを除いて調べた全ての物質で核の変化が認められた。
(IV)TPNのH3-TdR、H3-UR、H3-Leuの取り込みに及ぼす影響を調べると、TPN投与後1時間、6時間、24時間目より1時間の取り込みを調べてあるが、すべてTPNの各濃度でH3-URの非常に高率なとりこみ促進を示した。H3-TdRが24時間後で取り込み促進を示したが、H3-Leuは徐々に減少の傾向を示した。48時間後から1時間の取り込みでは10-4.0乗Mではコントロールに近く恢復しているのに10-3.5乗M以上では細胞代謝の激減が目立った。
(V)このH3-UR取り込み促進の現象はadenine、DPNにおいても認められた。cAMPではその傾向はあるが程度は低かった。すなわち上記3物質で150%以上のH3-UR取り込み率であったのにcAMPでは120%であった。
dBcAMPでは上記諸物質と全く異り、H3-TdR取り込み阻害が著しく、H3-URも10-3.5乗Mで80%、10-2.5乗Mで35%の取り込み阻害があり、H3-Leuは対照と同じ位の取り込み率を示した。
(VI)今迄のデータはすべてHeLa細胞についてであるが、他の細胞にこれら物質を投与した場合どうなるかみてみた。
L細胞に投与した場合、原則的にHeLa細胞でみたと同じ取り込みの傾向が認められた。しかしL5178Y細胞でみるとTPN投与にも拘らずH3-UR取り込み促進は認められなかった。
(VII)以上のH3-UR取り込み促進はRNA合成促進を示しているのではなく、adenine
derivative大量投与により細胞内代謝の機構が変ってURのderivativeの細胞内poolが減ずるため、見かけ上のH3-UR取り込み促進であると考えると非常に説明しやすい。
そこで先ずTPN 10-3.5乗MとUR 10-4乗M、10-5乗Mの夫々の濃度を同時に投与して3日間培養してみた。TPN単独では今迄得たように、細胞増殖抑制と核の変化を認めた。TPNとUR
10-4乗M或は10-5乗M同時投与では細胞は完全に恢復し、コントロールと同程度の増殖を示し、形態的にも変化が見出されなかった。TPNと10-6乗M
UR同時投与では形態的にTPN単独投与に近い像を示し、増殖もやや抑えられていた。
(VIII)上の結果に力を得てURによる恢復をpurineの取り込みを指標にしてデータを出そうと考えた。C14-hypoxanthine、H3-guanine、ついでにC14-orotateの取り込みに及ぼすTPNの影響をみた。C14-orotateではTPN
10-4乗M投与で100%近くの、10-3.5乗Mで20%の取り込みを示したのに対し、C14-hypoxanthine、H3-guanineは10-4乗、10-3.5乗M
TPNで全く取り込みを示さなかった。しかもこの低い取り込み率はcold
UR 10-5乗M同時投与によっても全く恢復されなかった。
(IX)今の所ここまでで結論は出せないで残念であるが、以下のように考えている。TPN投与で核小体は縮小化するので、RNA合成に著明な変化があり、H3-UR取り込み促進が認められるが、却ってRNA合成が抑えられている可能性が強い。すなわち、TPN投与によってpurineのみならず、pyrimidine代謝の異常も生じ、CTPpoolは上昇するが、UTPpoolは欠の状態になるのでH3-UR取り込み促進の現象が観察されるのではないか。purine代謝の方はhypoxanthine、guanineの取り込みが非常に低くなることから、ATP、GTPpoolも非常に増加している可能性が考えられる。
:質疑応答:
[堀川]放射線照射後の回復物質も追ってゆくとnucleosideらしいという所まではきていますが、まだはっきりしてはいません。
[梅田]形態的にはきれいに回復しているのですがね。
[堀川]効いたり効かなかったりするのは、細胞の状態によるようです。
[吉田]核小体が小さくなる時はヘテロクロマチンも少なくなりますか。
[梅田]分布状態が変わってきます。
[吉田]ヘテロクマチンが消えてしまうのですか。又は染まらなくなるのですか。
[梅田]一様にプツプツと小さくなるようです。
《堀川報告》
細胞が細胞周期を通じてX線、紫外線あるいは化学発癌剤4-NQOなどに対して感受性に大きな違いを生じることは、これまでの私共のColcemid-採集法を用いて得たHeLaS3細胞の同調細胞集団を使った実験結果からも明らかにされている。しかしこうした各種物理化学的要因に対する細胞の周期的感受性変化の原因となるものについて、その本体はまだ明らかにされていない。例えばX線についてはOhara
and Terasima(1970)はnon protein(acid-soluble)sulfhydrylsの細胞内含量変化がX線の周期的感受性と密な関連性をもつようだという実験結果を出しており、このことは最近私共の研究室においても再確認されている。しかし、これでX線に対する同調的感受性曲線のすべてを説明出来る訳ではなく、秘められた多くの問題を残していると思われる。
さてこういった意味から本実験ではさきに当研究室で確立したcolcemid-採集法を用いて得たHeLaS3細胞の同調細胞集団を用いて紫外線に対する細胞の周期的感受性変化、さらにはこうした周期的感受性変化の原因となる要因解析を試みているのでこれについての結果を今回は報告する。
(図を呈示)100ergs/平方mmのUV照射に対してM期とmiddleS期の細胞がコロニー形成能でみると最もsensitiveであることがわかる。これに対して200ergs/平方mmのUVを照射したとき細胞内DNA中に形成されるthymine
dimer(TT)はこれらsensitiveなM期とmiddleS期において最も多くinduceされることがわかった。
一方、このようにしてDNA中に形成されたTTがどの様に除去されるか、つまり細胞周期によってTT除去能に差違があるか否かを検討した(図を呈示)。各時期の細胞をUV照射した直後のTT除去率を0とおいた時、種々のincubation後にどのように細胞からTTが除去されるかについては、TTの除去能に関して各時期の細胞間には大きな差違は認められない。
またこれまでの実験結果が示してきたようにヒト由来のHeLaS3細胞においてはどの時期においても全TTのうち約50%のTT除去がmaximumである、ということもこれらの結果から再確認された。
以上の結果はUV照射に対する細胞の同期的感受性差はDNA中に形成されるTT量の多少に依存しており、TTの除去能の差違には依存しないことを暗示していると思われる。ではM期及びmiddleS期の細胞内DNAに何故特異的にTTが形成されやすいか、その原因解析は今後の問題として残されている。
:質疑応答:
[乾 ]細胞周期間での感受性の変化の報告はかなり沢山出ていますが、種による差はありませんか。
[堀川]同じだとみてよいでしょう。細胞周期の違いはあるでしょうが。
[乾 ]では、もし違う結果が出て来た時は何か技術的にまずかったという事ですね。
[堀川]各時期におけるchromatinの構造変化、DNAのlocalizationの差などが問題になるでしょう。もう一つは"filter"的な役割をもつ蛋白の変化などが考えられます。
[乾 ]4NQOの結合がlateSでほとんど無いというのは面白いと思います。
[吉田]X線ではどうですか。
[堀川]G2レジスタントという意味では、X線、UV、4NQOみな同じです。
[吉田]G2では染色体が1本になっていて、感受性が高まるような気がします。どちらかといえば、何か弱々しい感じのする時期ですがね。
[堀川]染色体レベルでtranslocationが多いから感受性も高いとはいえないと思います。変異や発癌はresistantのstageに多いのではないでしょうか。sensitiveのstageはkillingに働くのではないかと思います。
[乾 ]DNAレベルで何らかの影響を受けていて、それがG2期で染色体異常として出てくるのかも知れません。
[吉田]組み替えも起こるでしょう。
[乾 ]全細胞を分母にすれば、G2は変異率が高いと出るでしょうが、survivalの細胞数を分母にしてみても矢張りG2の変異が高いのでしょうか。
[堀川]大抵survivalの細胞数を分母にして計算しています。
《野瀬報告》
Alkaline Phosphatase(ALP)-Constitutive
Strainの安定性について:
CHO-K1からMNNG、EMSの処理により、元々なかったALP-I活性を持つ株がとれたことを既に報告した。これらの株を継代して、経時的にALP-I活性と、colonyをつくってALP-染色を行ない、ALP-陽性colonyの頻度を見てみた(表を呈示)。3つのALP-陽性株のうちAL-151は、最初、高い比活性をもっていたが、colonyを単離してから80日目くらいから活性が下りはじめ、同時に、ALP-陽性colonyの頻度も減少してきた。AL-323、AL-431は、少なくとも90日間は活性は安定に保たれ、ALP-陽性colonyも97〜99%であった。AL-151のみが見かけ上、ALP-活性に関して不安定で、継代してゆくうちに陰性細胞の割合が増加してくることがわかった。この増加は本当にALP-陽性細胞は陰性になったためなのか、それともはじめに少量混在していた陰性細胞が増殖してきたためなのか現在のところ何とも言えない。増殖曲線の上でCHO-K1とAL-151との間にdoubling
timeの差はなかったが、壁への付着力の差などの違いによりpopulation
changeが生じることは考えられる。
ALP-以外の形質の安定性の比較をするため、8-Azaguanine耐性、Proline-prototrophへの変異率を比べてみると(表を呈示)、AL-151が特に変異しやすいとは言えない。
次にCHO-K1からcolonial cloneをいくつか単離し、それぞれの細胞集団中のALP-陽性細胞の頻度を見たが(表を呈示)、量的差はあるが、どのcloneにも10-6乗〜10-5乗の頻度でALP-陽性細胞が混在していることがわかる。従ってALP-陽性細胞はCHO-K1(ALP-陰性)のALP-遺伝子のactivation(又はderepression)によるのか又はpoint
mutationのback mutationによって生じたもので、CHO-K1がALP-遺伝子欠損であるとは考えられない。現在ALP-Iに関して安定なAL-323、AL-431を用いてcell
hybridization法によってALPの調節機構を研究したいと考えている。
ALP-Iの精製について:
ALP-IがdibutyrylcAMPによって誘導されることがわかったが、その機構はde
novoの酵素合成によるのか、単なる活性化によるのか、まだ不明である。その点を明らかにするためALP-Iを精製し、抗体を作って抗体による滴定を行なおうとしている。材料はrat
kidneyを用い、Butanol抽出、Sephadex G-200、DEAE-cellulose、DEAE-Sephadexによって精製していった(図を呈示)。G-200のelution
profile、DEAE-cellulose上でのelution profileを示す。A-50のpeakの段階で約450倍に精製された。この最終産物をdisc
gel電気泳動を行なうとタンパクのbandは2本あり、そのうち一本はALP-活性と一致するが他の一本は一致しなかった。従ってまだ完全な精製はできていない。また、活性も2つのbandに分れてしまい、chromatoでは単一のpeakでも、ALP-Iには2つのisozymeが存在するのかも知れない。(精製法の要約図を呈示)収量に関して、DEAE-celluloseのstepで下るのが今後の問題である。
:質疑応答:
[堀川]クローンは1コから拾ったのですか。
[野瀬]コロニアルクローンです。
[吉田]酵素活性の落ちた方は出発時の陽性コロニーが98%で、活性の維持されている方は100%というのが一寸ひっかかりますね。つまり落ちた方は出発時の陽性2%と言うのが増殖したとは考えられませんか。
[佐藤]染まるものと染まらないものとは、形態的に違いがみられますか。
[野瀬]少し違うような気もします。
[堀川]ALP活性マイナスの株はその酵素活性を誘導できますか。
[野瀬]CHO-K1については誘導できません。
[堀川]だとすると原株の−から変異させた+の中から又−に変わったものは、原株の−とは違う性質をもつ可能性もありますね。私の拾ったアミノ酸要求性株の場合と似ています。+と−の中間タイプかも知れません。
[吉田]染色体はどうですか。
[野瀬]一寸特徴があるようですが・・・。
[梅田]CHOは悪性ですか。
[野瀬]そうです。
《山田報告》
Spermineの細胞表面に及ぼす影響について検索していますが、細胞が思う様に増えてくれず充分なる成績は出ていませんが、今回はJTC-16に対する影響について報告します。
RLC-10(2)についても同様なことが云えますが、Spermineの影響はそのtargetの細胞の増殖状態如何によりかなり異ります。一般にその平均電気泳動度の速い状態、即ち増殖の盛んな状態ではSpermineの影響が強く出る様です。JTC-16について一回目、二回目の実験では、低濃度のSpermineにより、やや電気泳動度は増加しましたが、RLC-10(2)にみられた様な高値ではありません。3.9μg/mlの高濃度のSpermineにより10〜15%の表面荷電密度の減少が生ずる様です。これはRLC-10(2)のそれよりも、やや低下の程度は少ない様です。培養時にみる様な両者の差はない様です。(repairのことも考慮する必要があるかもしれない)(図を呈示)
Spermineを加へるメヂウムに1/2濃度のLD-mediumを加へた所、このSpermineの細胞表面に及ぼす影響は完全にブロックされました。なほ作用機序の詳細はラット腹水肝癌を用いて検索する予定です。
《乾報告》
ニトロソグアニジン誘導体8種の癌原性:
月報7310、7311に引きつづき、本月もENNG、nPen、NNGの毒性、変異誘導性の濃度依存性を観察した。
前2回の報告でニトロソグアニジンの一連の誘導体では、CH3-基の側鎖の長さに略々比例して毒性変異誘導性が弱くなっていくこと、この方法では変異コロニーの同定がむずかしく、これらのコロニーに判定基準を与える必要があることが分かった。
今回は動物実験、培養で発癌性、バクテリヤで突然変異誘導性のあるENNGと、発癌性の証明がなく、バクテリヤでの変異誘導性が(±)であるnPen、NNGの2者についての実験を行なった(表を呈示)。明らかな発癌性物質であるENNGはnPen、NNGに比して、変異コロニーの形成率が高く、P.E.がDosesに依存して、低下すると共にTransforming
Rateは逆に作用Dosesに依存して上昇するが、現時点では投与DosesとTransforming
Rateの間に数学的な平行関係はないようである。
これに反しnPen、NNGではPE、Transforming Rate共にDoses依存性が殆ど認められない。以上の結果、及び前号迄の報告を併せて考察すると、毒性、変異誘導性がDosesに依存する物質には発癌性があり、依存しない物質には、これがないのか?と推察される。これらの結果は染色体切断、修復が投与Dosesに依存して現れる物質はバクテリヤに対し強いMutagenであり、Doses依存性のないものはMutagenesityがないか少ないと言う結果によく一致している。今後この一連の化合物について、染色体切断頻度も併せて検討したい。
次の問題として、変異コロニーの判定の難かしさがある。同一人物が判定の基準をきびしくした時と、ややあまくCriss-Cross、Piling
upの判定をした場合とを、4種の物質(0.5μg/ml)について表にしてみた。この数値の違いをみても、この種の実験では、今一つ厳格なtransformed
colonyの形態的定義が必要と思われる。
【勝田班月報・7401】
《勝田報告》
新年を迎えて
初頁にもかきましたが、今年の新春は本当に目出たくないですね。東京ではもう2月以上雨が降らず、重油の輸入難と相まって、節電、節水・・・の御命令で、暖房も禄にこず、いまに動物室やフラン室、低温室などの電源をきられたら、我々はお手上げです。また戦后の苦難時代に帰らなくてはならないかも知れません。そうなっても、しかし、我々は研究を続ける義務があります。非常事態を一応考えておきましょう。
当研究部では、昨年はラッテの肝細胞の培養を、なるべく早く、且なるべう純粋に作ることを努力しました。色々な方法で試み、何株かを作りましたが、それについては、いずれ月報なり班会議なりで報告いたします。今年はそれらを使って(自然発癌しない内に!)化学発癌の実験をすすめる予定です。
また昨年入室した許君はラッテ腸管の上皮細胞の株を作りかけています。これも発癌実験に用いることになるでしょう。
今年はしかし、私は肝癌の放出する毒性物質の本態の追究に主力を注ぐつもりです。どうもそれがpolyamineらしいということは昨年つきとめた訳ですが、本当にそのもの自体かどうかを今年ははっきりさせたいと思っています。これは許君も手伝ってくれています。 Polyaminesの内で、spermineがいちばん疑わしいのですが、少し変なところもあります。この辺もはっきりさせたいと思っています。生物学的細胞毒性作用では、各種の細胞についてしらべた結果、肝癌毒性物質の作用と非常に近い特性を示していますので、spermineがいちばん怪しいということは推定されます。
若しspermineが本番ということになれば、今年はその動物実験にかかり、対応策を考えて行きます。
《山田報告》
おめでとうございます。今年も宜敷く御指導の程お願い申しあげます。
小生今年四月から独協医科大学第一病理学教室にまいります。(スケッチを呈示)スケッチに描きました様に、栃木県宇都宮の在ですので大変のどかな所です。春には雲雀の急降下もみられますし、秋には紅葉も美しい所です。
今年は教室作りに追われると思いますが、これに負けないで、研究の方も休みなく続けたいと思って居ります。
ラット肝細胞培養初期におけるConAの反応性;新たに樹立された正常ラット肝培養株RLC-20、及びRLC-21のConAに対する反応性を調べてみましたが、in
vivoにおける再生肝と多少異なる結果を得ました。低濃度のConAにより僅かではありますが、その表面荷電密度は増加する点です。しかしAH-7974の培養株であるJTC-16の反応性とは明らかに異なります。
《高木報告》
今年のprojectとして次のことを考えています。
1.培養内癌化の指標の検討
昨年はsoft agarにおける培養条件を検討してみましたが、ついに結論らしき処まで到達せず中断してしまいました。暮から、CytochalasinBの種々細胞に対する効果を検討していますが、或程度のdataは出つつあり、本年はこの問題をもう少しつっ込んでみたいと考えています。すなわち細胞種によるCytochalasinBに対する反応性の違いが、その細胞のin
vitroの所謂non-viralなtransformationとどの程度の相関があるかと言うことを追求したいと考えています。
2.膵ラ氏島細胞の培養について
発癌実験系をつくるにあたって、如何なる細胞を用いるかと言うことは最も大切な問題で、適当なmarkerをもった正常細胞の分離は誰しも考えていることだと思います。私共は以前より膵の培養を試みて、特にラ氏島に由来する細胞の分離培養を心掛けて来ましたが、本年は発癌実験にも用いうる正常膵ラ氏島に由来するfunctioning
cell lineを、とる努力を一歩一歩重ねたいと考えています。これと比較する意味で、islet
tumor cellsの培養を考えて、昨年6DEAM-4HAQOの注射をラットに行いましたが、現在7〜8ケ月を経過したところであり、まだ少なくとも6ケ月は経過を追わなければなりません。先日、注射したラットの血糖値を測定してみましたが、異常値を示したものはありませんでした。最近成熟ラット膵ラ氏島の培養をmicroplateを用いて行ない、約2ケ月半insulinを分泌しつづけさせることに成功しました。しかしgrowthは示さないようです。さらに培養条件を検討したいと考えています。
3.RRLC-11細胞より分離されたvirusについて
このvirusの生物学的性状は可成りのところまで追求できました。さらにこのvirusの存在意義について検討したいと考えています。まずは、ラットのこのvirusに対する抗体保有性状を広く調べたいと思います。
《梅田報告》
(1)昨年度は試験管内発癌の本来の仕事が思うようにはかどらず、又YS細胞を使っての8AG耐性細胞を得る実験ではさんざんな目に会わされました。やっと培養細胞のDNA索検索の仕事が面白く展開してくれたこと、又横道と知りながら培養細胞により血清要求が異ることとか、adenine誘導体投与がRNA、DNA代謝に強く影響していること等でお茶をにごさせていただきました。
(2)本年はどうしても本業の試験管内発癌の仕事に精出さざるを得ないと思うのですが、社会の要請もあり、繊維芽細胞のしかも株化したものの悪性化であっても化学物質投与後、試験管内でなるべく容易に悪性化を測定出来る手技のルーチン化に心がけることを目標にしたいと思っています。そのために3T3細胞、C3H2K細胞を候補にして、目下培養を続けているのですが、その両細胞共になかなか培養のむずかしい細胞で、特に前者はすぐ悪性化してしまうような感じを与えます。C3H2Kの細胞も、一部の細胞は既に悪性化しているようで、DMBA投与により形態転換はするものの、定量化にはこのままでは使えそうにない段階です。目下これら細胞をcloningして使い易い細胞を自分で選ぶことにして培養中です。
(3)YS細胞の8AG耐性細胞を得る仕事は全くお手上げだったので、暮になってからFM3A細胞を貰ってきて、黒木さん方式の寒天の上にcolonyを作らせる方法で8AG耐性の細胞を拾う実験を行ってみました。この方は全く簡単で、10万個orderできれいな耐性colonyの出現を見ました。あまりきれいなので、これとそっくりの方式でもう一回YS細胞で実験した所、この方はやはり全くcolonyを作ってくれませんでした。こうなるとYS細胞は、8AG耐性になり難い細胞なのであって、今迄我々がYS細胞にだけ固執して耐性細胞を得ようとしていたことが、真違いのもとであったと思うようになりました。逆にYS細胞で8AG耐性になり難い理由を探ることも、重要で興味ある仕事と考えています。
本年はこんな所を先ず解明しながら進みたいと念じています。
《堀川報告》
1973年もあわただしいうちに過ぎてしまいましたが、とりわけ暮からは石油不足に端を発して紙不足、薬品不足など研究生活においても、また家庭生活においてもあらゆる面で困らされました。この分だと今年は更に物価の値上りは必須とみられ、節約々々という言葉はあらゆる面で呼ばれるだろうと思いますが、もともと貧乏国に育った我々日本人がここ10年ばかりのうちに異常な程の贅沢を身につけていた事にも大きな間違いがあった訳で、現在の政府のやり口にも大いに疑問を感じますが、同時に我々自身反省すべき時期にあると思います。さてこうした中で当班での仕事として何とか本年中にはある程度決着をつけたい思っている課題、次の2つについて抱負を述べます。
(1)培養哺乳動物細胞における突然変異の研究。
レプリカ培養法によりChinese hamster hai細胞から分離した、栄養要求株(TdR-)および栄養非要求株(Ala+、Asn+、Pro+、Asp+、Hyp+)を用いてX線、UV、4-NQO、NGにより誘発される、前進突然変異率、復帰突然変異率を算定する。
一方、各種細胞株について8-azg抵抗性および感受性を指標にして前進および復帰突然変異率を算定する。
こうした2系の実験から得た結果をもとにして培養動物細胞における従来の多くの人々により発表された前進および復帰突然変異率の妥当性を検討する。
(2)放射線および化学発癌剤に対する細胞の周期的感受性変更要因の解析。
HeLaS3細胞を0.025μg/ml colcemidで6時間前処理後、harvesting法によって大量かつ高純度のM期細胞を得ることに成功したが、こうして得た細胞集団についてX線、UV、4-NQOに対する周期的感受性変更要因の解析を更に進める。そして、最終的にはマウス3T3細胞のようにContact
inhibitionがきれいにかかり、一応の癌化の指標を上手にもつ細胞を用いることにより細胞−癌化・変異−DNA障害とその修復能の関係を明らかにしたい。
以上が本年度の私のねらいであるが、さて、これが夢として終らないよう頑張らなければならない。
《乾報告》
年の始めに当り本年こそは"癌という病気"の原因を解明するため、ほんの半歩でも前進したいと考えております。
私は昨年10月当研究所へ移りまして以来、発癌剤は使えない、Mutagen、重金属化合物の使用は出来ず、実験手技として、RI、生化学的分析を用いることの出来ない状態で細胞を培養しております。この様な状態で新しい年を迎えたわけですが、発癌のメカニズムを解析するべき基礎研究の最低の極限において、我々が何が出来るかと云う事に挑戦して見たいと思います。
出来うる限りに早く本来の基礎研究の場に復帰するべき努力を致しておりますが、それ迄の間、当地においても一日一日を大切に一歩一歩前進したいと存じます。
諸先生方の御援助をおねがい致し、年頭の言葉にかえさせて頂きます。
《永井報告》
旧年中は大変御世話になりました。石油ショックの為世の中は暗いものがありますが、研究の方はそれに負けずに進めたいものと思っております。皆様の御仕事の発展を御祈りいたします。本年が諸先生におかれましても終り善しという年となります様に。
私共の毒性代謝物質の研究も、旧年中にpolyaminesとの関係へと一歩足を踏み入れましたが、今年は是非ともこの関係をより明らかにするとともに、可及的に速やかに毒性物質の化学構造を明らかにしたいものと念じております。思わぬ角度からpolyaminsとtumorという問題が浮上して参りましたが、気がついてみると世の中の方は細胞の分裂、あるいは、増殖度とpolyaminesとか、リンパ球のブラスト化とpolyaminesといった点に次第に関心が集りつつあるようで、論文とかconferenceの数とかもpolyaminesについてのものが増加しつつあるような気配がうかがわれます。また、これも流行するテーマとなるのでしょうか。それはさておき、私共は自分たちの中から自ずと生れてきた問題を大事に育てあげ、所期の目的に向って進みたいものと思っておる次第です。
石油問題から、硫酸や苛性ソーダ、アセトン、クロロフォルム、ブタノールといった薬品溶剤類が入手不能になり、私共物質屋にとっては大変な年明けとなりました。苛性ソーダが無くて苛性カリが入手可能というのですから、どうなっているのかと云いたい所です。おそらくどっかに貯蔵されて眠っているのでしょう。敗戦時のあの時のように。どうも芳しくない年明けですが、雨にも負けず風にも負けずでやってゆきたいと思っております。本年もよろしく御指導下さいます様、お願い申し上げます。
《黒木報告》
12月24日にLyonより戻ってきました。3ケ月間のフランス滞在は、色々な意味で有意義でした。Lyonで行った仕事は肝細胞の培養と、6OH・BPの突然変異性などが主なものです。
1.肝細胞の培養:
目的はヒトの肝細胞を培養し、環境中に見出される発癌剤、例えばnitrosamineのヒトにおける発癌性を調べること。また、発癌剤の代謝能を調べることなどです。
ヒト材料が手に入らなかったため、ラットから肝細胞を得た。生後10日及び8週間のBD ラットの肝を細切し、トリプシン消化後、Williamsの方法で上皮細胞を得た。混在する繊維芽細胞は、エーゼで殺した。4つの株細胞(安定した増殖を示すという意味で)と、3つのpure
cloneを得た。pure cloneはmicroplate法で得た。これらの細胞は形態的に上皮様でその生化学的特徴はこれから調べるところである。染色体はdiploidに70%がある。
2.肝細胞のtransformation
nitrosoguanidine、dimethylnitrosamine、aflatoxin
B1、K-region epoxide of BAで、transformationを試みた。目下移植テスト中。
3.6・OH・BPの突然変異性
種々の事故が重り、experimentはスタートできなかったが、protocolは作った。Amesの系で6・OH・BP、4・OH・BP、3・OH・BP、5.6epoxide
of BP等の変異性をテストするつもりである。
《野瀬報告》
一年をふり返ってみて、一年たってもこれだけだったかという自らの非力に絶望的になりますが、今年はもう少しましな一年にしたいと努力するつもりです。年頭にあたり、今年の目標をたててみました。
(1)癌研究の一環として、酵素を細胞形質の発現機構の研究材料とするのは一応意味あることと思います。今迄Alk.phosphataseをやってきましたので、もうしばらくこの酵素を続けたいと思っています。一過性の誘導ではなく、長期間見かけ上はgeneticalに性質が変化し、高い活性を保持している細胞株がとれましたので、この株のcharacterizationを行ない、なぜ活性が上ったかを明らかにしてゆきたいと思います。このような酵素活性の持続的変化は本当に遺伝的な変異なのか、単なる調節機構の変化なのか興味ある問題です。最近HGPRT-欠損株がcell
fusionにより発現するという報告がいくつかありますので、活性がなくても遺伝子がmaskされているだけという例は多いのかも知れません。これらの現象は形質発現に関するtransformationと言っても良いと思われます。
(2)化学発癌剤の作用を、酵素以外の広い生物現象について調べてみたいと思っています。細胞の癌化も何らかの遺伝子発現が持続的に変化させられたものなら、単純な系でこの変化を見られれば、発癌剤の作用機作がはっきりするのではないかと思います。HGPRT、栄養要求性などの細胞の性質をmarkerとして発癌剤の効果を見てゆく予定です。
(3)Alk.phosphataseは、rat kidneyを材料として精製が進んできました。I型と酵素活性から呼んでいるものが、DEAE-celluloseでは単一だったのが、電気泳動によって2つに分れてきました。I-A、I-Bと仮に呼んでいて、等電点がそれぞれ5.1、5.6にあります。それぞれに抗体を作り、inductionによってどちらが上るのか、また、de
novoの合成によるのかどうかを見る予定です。
《藤井報告》
今年はラットのin vitro癌化細胞と同系リンパ様細胞の混合培養反応に、ある程度の区切りを打ちたい。そのために、関与するリンパ系細胞の種類と、それら細胞に関連する免疫反応の型−細胞性か、活性かなどを明らかにしてゆきたい。
つぎに、腫瘍による自家リンパ系細胞のin
vitro感作を利用した癌免疫療法の基礎実験。癌手術の補助療法として領域リンパ球刺激能。その他物質のリンパ球刺激能をたしかめて癌患者のリンパ球の増加と活性化をはかるなどを進めてゆくつもりです。
癌の手術を的確に遂行することは極めてむつかしいことですが、少しでも癌の外科医として進歩したいこと、癌の外科医として考え、応用できる免疫療法をつくってゆきたいというのが年頭の希いです。
《山上報告》
昨年中は班会議や月報で色々と皆様に勉強させて頂き、有難うございました。本年も、よろしくお願いいたします。昨年より、培養細胞を処理して戻し移植する時、動物の免疫の有無により、着いたり着かなかったりを、control出来る系を作ろうと努力しています。in
bredの動物とセットですぐ使えると云う事で、研究室に長くmaintainされている肺由来のfibroblastを使って始めたのですが、その後色々と問題が出て来て、この細胞は目的に向かない事がわかって来ました。今年は細胞の分離からはじめて、なんとか目的の系を作れるよう努力するつもりです。
【勝田班月報・7402】
《勝田報告》
§肝癌の毒性代謝物質関係:
1.各種培養細胞のSpermine含量を定量すべく、永井班員の指導の下に進行中である。
2.ラッテ肝RLC-10(2)株を無蛋白合成培地に移し、これにSpermineと同時にCohnの牛血清分劃Vを添加すると、Spermineの毒性がさらに強化された。この結果を図に示す。2.0mg/mlのところに最も強く見られたのは面白い現象である。
3.肝癌の毒性代謝物質の活性がpolyamine
oxidaseで不活化させられるかどうか、目下実験の準備をしている。
§発癌実験関係:
復元接種時に、正常細胞の混在が悪性細胞のtake率に如何に影響するかを調べるため、CulbTC株を動物に継代して使用し正常としてはRLC-10(2)を用いるべく目下準備中である。
《高木報告》
CytochalasinBの培養細胞に対する効果
引き続き実験を行なっている。前報の細胞の補充実験と、新たに3T3、L、JTC-11(Ehrlich)癌細胞株)細胞につき同様の1、2.5、5μg/mlのCytochalasinを入れて調べてみた。
ここでは正常細胞としてWKAラット肺由来培養3ケ月のRFL-N2細胞と腫瘍細胞としてJTC-11細胞に対するCytochalasinBの効果を示す(図を呈示)。大体予測の通りRFL-N2細胞は2核にとどまっており、JTC-11細胞では多核細胞の増加が著明である。3T3、Lについては、Lは多核細胞の増加、3T3は一応2核細胞までが多いが、それ以上の多核も認められた。これは、3T3の継代期間がやや不正確であったこと、recloningを行なっていないこと、など関係していると思われる。
《堀川報告》
HeLaS3細胞の細胞周期を通じてみられる紫外線感受性変化(つまり周期的感受性変化)はどうもUVによってDNA中にinduceされるTTの量の違いで説明できるようで、除去能の周期的違いによるものではなさそうであるということについては、すでに報告してきたが、今回は同様のことを4-NQOおよび4-HAQOについて行った実験結果につき報告する。
例によって、colcemid-harvesting法によって得たHeLaS3細胞の同調細胞集団を用いて、4-NQO、4-HAQOに対する周期的感受性を調べると、図1および図2(図1、2、3を呈示)に示すように、両発癌剤に対してともにM期からmiddleS期までが感受性期で、その後つまりmiddleS期からearlyG2期にかけて感受性は低下することがわかった。さて、これが何に依存するかを検討するため、H3-4-NQOまたはH3-4-HAQOを同調培養された各期の細胞に取り込ませ、DNAと結合するこれら両発癌剤のactivityを調べると、これも図1及び図2に示すように4-NQOまたは4-HAQOに対してsensitiveなM期からmiddleS期までの細胞内DNAと特異的に結合することがわかった(90分まで処理時間とともにactivityは上昇する)。
では、このように各期の細胞内DNAと結合したH3-4-NQOがどのように除去されて行くかを調べた結果が図3である。この場合2.5x10-5乗M
H3-4-NQOで、各期の細胞を30分間処理した際、どのようにH3-4-NQOがDNAから除去されて行くかを示してある。この図からわかるようにDNAと結合したH3-4-NQOはどの期の細胞からも除去されるが、特にH3-4-NQOと結合しやすい時期の細胞から多く除去される。
従って、H3-4-NQOのpercent releaseをみるとどの期の細胞からも殆んど同じようなrateで切り出される。しかし、最終的にはH3-4-NQOは感受性期のG1期、earlyS期の細胞内DNAに多量に残るようである。何故なら、36時間以上の回復培養をしても、もうこれ以上の除去は認められないから(尚M期についてはH3-4-NQOの処理が30分であるため分析出来なかった。)こうした結果は紫外線の場合と同様に4-NQO、または4-HAQOに対するHeLaS3細胞の周期的感受性差はDNAと結合するこうした発癌剤の量的差異に依存していることを暗示している。従って4-NQOのDNAからの除切には除去修復機構が関与している可能性が高い。尚ここで問題になるのは、今回の実験ではDNAはphenol法で抽出したものについて結果を出してあるが、これをもう少しmildな抽出法に変えて検討する必要があり、現在その方法を使って再確認中である。
《山田報告》
リンパ球表面における抗原抗体反応とConAの反応:
細胞電気泳動法による細胞結合性抗体の定量的測定については既に報告しましたが、最近Edelman及びYahara等の報告からヒントを得て、膜表面における抗原抗体反応を全く違った角度から分析しようと思いたちました。
即ち、蛍光抗体法及び細胞凝集性の検索よりみると、ConcanavalinAと抗原抗体反応はリンパ球の表面上で相互に干渉しあうと云う報告から幾つかのヒントが生れて来ました。両反応は膜の共通部分で反応するのか?
或いは間接的な影響か? 若し相互に干渉するならば、ConAの反応性の変化により逆に抗原抗体反応を推定出来ないか?と云う疑問を基に、まず実験を始めました。
細胞凝集作用を起さない低濃度のConAを肝癌細胞に接触させると、その表面荷電はbiph-asicに変化し、低濃度のConAによりその表面荷電密度が増加することを報告しましたが、同様な現象が正常細胞である脾リンパ球にも程度は少いですが起こりました(図を呈示)。
そこで0.001%トリプシン処理(37℃、30分)すると、ラット胸腺リンパ球は図に示すごとく、再生肝細胞以上にConAによる表面荷電密度が増加しました。このトリプシン処理したラット胸腺リンパ球に、家兎抗ラット胸腺リンパ球血清(胸腺細胞10の9乗個x2回感作、200倍稀釋、56℃、30分比活性化)を更に作用させ(36℃、30分)た後の、ConAの反応性をみたのが図2です(図を呈示)。抗血清(比活性)処理したラット胸腺リンパ球の方がより低濃度のConAに反応して、その表面荷電密度がより増加しました。この現象は、ラット肝癌細胞にインシュリン前処理後のConAの反応性によく似ています。
まだこの種の実験を始めたばかりですので、どの様に発展して行くかわかりません。続けたいと思って居ります。
《梅田報告》
前々回の班会議以後進んだ細胞DNAのアルカリ蔗糖勾配での分析結果を御報告します。
(1)今迄Elkindの方式にしたがって分析してくると、lysis時間を変えることにより、遠心パターンの動くことが我々の仕事の骨子だったわけですが、DNAとして安定なT
even phageではこの条件でどうなるかを調べました。この方法で得られる哺乳動物細胞のDNAの分子量測定の目的もありました。T
even phageとしてT4 phageをH3-TdRでラベルしたものを安藤氏より分与を受けました。
(2)PhageはDNA抽出をせず、そのままlysis液上にのせ、今迄と同じ遠心条件すなわち36,000rpm
90分遠心しました。(夫々図を呈示)図1がその結果で、19℃でlysis、1、2、4、24時間のものです。これでみると2時間迄殆んど遠心パターンが変らず、20〜22本目にピークがあります。すなわち細胞でみられたような遠心パターンの動きは無く特に注目をひくことは、細胞では24時間lysisの時は低分子化を起し、山がtopの方に動くのにphageでは殆んど動きのないことです。
(3)つぎに37℃でlysisさせる実験を行うと図2の如くで、4時間迄は全くピークが動きません。19℃ではピークが20〜22本目なのに、この実験では25〜26本目にピークがあります。24時間後にはtopに、すなわち28本目にピークが移るようです。
(4)つぎに分子量を決定する目的もあり、main
peakの現れる19℃4時間のlysisと、さらに時間をのばして24時間lysisでどうなるか、C14でラベルしたHeLa細胞と、H3でラベルしたphageとを同時にのせて実験してみました。図3でみる如く、この実験結果では19℃4時間lysisの時のHeLaDNAの山が、やや急峻に過ぎる感じですが、phageの山は20〜22本で図1と同じ様な結果です。24時間経つとHeLa細胞のDNAは今迄得ていた結果と同じように山がtopに移るのですが、phageは図1の結果と同じ様に22本目にピークをもったまま動きません。
(5)さらに37℃lysisで1、2、4、24時間とlysisさせてみりますと(図4)、今迄得たように1〜2時間lysisで細胞DNAの山は動きませんが、4時間、24時間で山は徐々にtopに動きます。一方のphageの山は、図2と同じように、24〜25本目のピークが4時間迄続き、24時間で28本目に動くことがわかりました。常法にしたがって37℃1時間lysisの時のHeLa細胞DNAの分子量をphage
DNAの山 (アルカリ蔗糖勾配故、phageDNAが1.3x10の8乗daltonとして、2で割り、6.5x10の7乗がphageの山として計算しました)から計算すると4.6x10の8乗daltonとなりました。
(6)以上の結果で色々の問題が新しく提起され、説明に困っています。(a)PhageDNAが低分子化を起さない条件なのに、細胞DNAは徐々に低分子化を起していたこと。(b)PhageDNAの山は、19℃lysisでは20〜22本目なのに、37℃では24〜26本目に移っていること。
(b)の問題は37℃lysisの時、時間がくるとそのまま直ちに遠心機にloadしていて温度が冷えきらないうちに遠心されている可能性を懸念して夫々の時間がきてすぐ19℃で始めからlysisさせたtubeと一緒に遠心してみました。しかし上の傾向はそのままでした。また、37℃に一晩おいたgradientを19℃に下げ、一方では4℃で一晩おいたgradientを19℃に上げ、phageをのせてから遠心してみました。これも変化がないようです。
諸先生からの御助言を着に望んでいます。
《佐藤報告》
T-7)次表はdLa-74(原株細胞)の復元移植実験の結果である。造腫瘍性の程度について、培養日数の浅いもの(219日)と、最近のもの(培養628日以降)を比較して見ると、前者については生存日数が不明であること、100万個以上の細胞数では実験が行われてないこと等から確かなことは云えないが、変化は小さいのではないかという印象である(表を呈示)。
尚、ラッテはいずれも生後48時間以内のものを使用。
現在、dRLa-74から得た単個クローンについて、(CL-2株、復元移植中)DAB処理(in
vitro)により、悪性度の増強なるか、否か、実験中である。DABの最終濃度は10μg/mlないしは40μg/mlとし『DABはアルコールに4mg/mlに溶き、100%牛血清にて400μg/mlとし、遠心後、その上清を培地MEM+20%BSにて上記の濃度とする』又、悪性度の増強性の判定は、(1)同系ラッテ復元後、腫瘍死に到るまでの日数、(2)腫瘍重量、(3)組織像、(4)転移性などについて、処理群と非処理群(コントロール)との比較により行う。
《黒木報告》
今年重点的に行なおうとしているprojectは、次のようなものです。
(1)cAMP結合蛋白とMCA結合蛋白の異同
10月末のflorenceの第11回国際がん学会で「化学発がん剤の核酸蛋白質との結合」というテーマで、panelistに指名されたので、それに間に合せるべく結合蛋白の分離精製の仕事をふたたびはじめました。前に何度か報告したように、塩基性蛋白は他のホルモンなどの結合蛋白と類似し、ligandinと総称されるものと思はれます。しかし酸性蛋白は、cAMP結合蛋白と2-3stepsのカラムまでは、同一の流出してきます。それから先を、今後、iso-electrofocusingなど使って分離するつもりです。
(2)紫外線感受性細胞の分離
FM3A、L9178Y細胞から、レプリカ法によって、7株の紫外線感受性細胞を分離しましたが、それらが不安定であることは、すでに班会議で報告した通りです。現在すすめている仕事の目的は、感受性細胞のなかから、ふたたび、MNNG処理でより安定な細胞を分離すること、chinise
hamsterの株であるV79、CHO-K1からUV感受性細胞を分離することです。
(3)10T1/2を用いたtransformation
Heidelbergerらによって新たに分離されたcontact
inhibitionに感受性で、chemicalsによってtransformableの10T1/2を用いて、AF-2、6OHMP等のtranformabilityをみる積りです。
《野瀬報告》
ラッテ腎アルカリフォスファターゼの精製
ALP-Iをrat腎から精製する方法は、前回の班会議で報告したようにn-butanol抽出液を、Sephadex
G-200、DEAE-celluloseにかけ、比活性が約250倍に上昇した。この段階では活性のpeakは単一だが、蛋白をdisc
gelで泳動させた後、染色すると3〜4本のbandが現われ、酵素として均一ではなかった。DEAE-celluloseの分劃を更にAmpholineによる等電点電気泳動にかけると図1のように2つのpeaksに分れた。最初のpeakはpI
5.1、後のpeakはpI 5.6であった。これらをALP-IA、ALP-IBと呼び、酵素的性質を若干検討した。至適pHはA、B共に、pH9.5、阻害剤に対する感受性は表のようにほぼ似通っていた。β-mercapto
ethanolはALP-Iの阻害剤であったが、この酵素では逆に低濃度で促進が見られた。desc
gel上でALP-IBはほぼ単一のbandを示した(図表を呈示)。
【勝田班月報:7403:MLTRにおける反応細胞の検討】
《勝田報告》
ラッテ肝由来RLC-10(2)、CulbTC、JTC-15の復元について:
ラッテ腹水肝癌のAH-66由来株JTC-15から軟寒天法を用いて拾ったクロンの中、可移植性マイナスであったAC-4と高い可移植性をもっていたAC-5の現在の可移植性を調べた。1年間の経過の間に低可移植性であったAC-4も生後4日のラッテでは100万個の細胞接種で100%腫瘍死するという結果であった。生存日数を比べるとAC-5の方が短い。しかし、同系のラッテでも生後1.5カ月のものでは、AC-4、AC-5ともにtakeされなかった。
乳児ラッテではRLC-10(2)もCulbTCも動物にtakeされる事はすでに報告した。生後1カ月以上のラッテではRLC-10(2)はtakeされないが、CulbTCはtakeされる。
(表を呈示)RLC-10に4NQOを作用させ悪性化した系の再培養系CulbTCを、JAR-1系ラッテの腹腔内で継代移植した。動物での継代数が増すにつれて、ラッテの生存日数が短くなる傾向がある。
今後この動物継代CulbTCとRLC-10(2)の混合復元実験を予定している。
:質疑応答:
[梅田]RLC-10、Culbの系では細胞の接種量と動物の生存日数に比例関係はないですね。
[山田]RLC-10(2)が乳児ラッテではtakeされ、アダルトラッテではtakeされない。乳児とアダルトとの復元条件の違いは免疫の問題でしょうかね。
《山田報告》
ヘマトキシリン代用色素としてのGallein及びPyrocatecholについて;
最近急にヘマトキシリンが品不足になり、今後の入手が危ぶまれています。本来ヘマトキシリンは中米のマメ科の木の幹から抽出した天然物であり、現在の所、合成は難しいのださうです。
そこで合成色素で何かヘマトキシリンの代用になるものはないかと探してみました。
即ちヘマトキシリンと同様な染色機構を持つ色素が好ましいわけですが、今回試みたのは(図を呈示)6種類の色素でいづれもキノイド環を持つ物質です。これにアンモニウム明礬を加へて、これらの物質とラックを作らせ発色性をみた所、Gallein及びPyrocatecholが最もヘマトキシリンに近い色を示しました。これらの色素の細胞及び組織切片の染色性をしらべた所、Galleinは赤紫色であるので、細胞質をライトグリーンで染める(Papanicolaou染色)と良く、Pyrocatecholは青紫色であるので、細胞質をエオジンで染める(HE染色)と良いことがわかりました。ヘマトキシリン程鮮明ではないにしてもこれに代用することができると思います。この色素の染色機構はヘマトキシリンと同様です。
:質疑応答:
[永井]細胞電気泳動で薄いConAで処理した時、泳動値が高くなるのをどう考えますか。
[山田]抗原抗体反応的なものかと考えています。
[永井]経時的にはどうですか。
[山田]濃度や時間を増してみても、どんどん進行するという事はないようです。
《高木報告》
CytochalasinBの培養細胞に対する効果:
CytochalasinB(CCB)につき、1、2.5、5μg/mlの濃度で次の各種細胞に対する効果をみた。結果はWI-38、XP(培養100日)、RFL-N2(培養90日)、Sg(培養1年)、RLC-10、3T3は殆どが2核であったが、RFL-5、L、RRLC-12(ラット肉腫細胞株)、JTC-11(エールリッヒ癌細胞株)は多核を形成した。これはKellyらが3T3とSV3T3について行なった成績から予想された結果であった。すなわち一応"正常"細胞とみなされるWI-38、XP、RFL-N2、RLC-10、Sgでは4日間の作用期間を通じて2核どまりであり、腫瘍細胞であるRRLC-12、JTC-11では多核細胞が多数みられた。とくにJTC-11細胞では、ここに用いた濃度の範囲では高濃度(5μg/ml)でも多核細胞が多くみられた。ここに用いた3T3細胞は継代間隔が不正確でまたcloningもしていないためかpiling-upがみられ、3〜4核細胞もやや認められた。長く培養し、形態的にも可成りの変化があったRFL-5、L細胞では多核細胞が多くみられたが5μg/mlではその数は2.5μg/ml以下に比し、少なかった。今後細胞の増殖度、DNA、蛋白合成などとの関係を調べたい。
膵ラ氏島細胞培養について:
これまでorgan cultureを中心に研究を続けて来たが、最近単離したラ氏島細胞の長期培養に努力している。すなわちラット膵をcollagenase処理することにより単離しえたラ氏島をそのまま、あるいはさらにEDTA、Trypsinで処理して細胞単位として"mini"の環境で培養してみたが、ラ氏島のままでは約2ケ月半、細胞の培養では1ケ月以上可成りの量のinsulinを分泌しつづけた。形態学的に光顕、電顕で検索の予定であるが、今回は簡単にそのスライドを供覧したい。
:質疑応答:
[黒木]2カ月半もインスリンを出し続けたのは塊の方ですか。単層の方ですか。
[高木]塊の方です。単層の方は40日位は出してしますが、それ以上みていません。塊の方が1コで2万単位ものインスリンを出しているのでびっくりしています。
[山田]素人でもラ氏島の分離は出来ますか。
[高木]慣れるまで少し難しいですね。
[山田]CCBで多核細胞が出来る機構については、よく判っているのですか。
[高木]細胞膜に影響を与えるという事が言われていますね。ミクロチューブルスに作用するとかD-glucoseの取り込みの問題とか色々言われていますが、全部がはっきりしている訳ではありませんね。
[黒木]小さな核が沢山出来ている所見がありましたが、どういう機構で多核細胞が出来てくるのでしょうか。核分裂そのものにも影響があるのかも知れませんね。
[高木]多核細胞では核の全部が同調して分裂に入らない場合もありますね。一部だけが分裂したりします。
[山田]CCBは何に溶かしますか。
[高木]DMSOです。
《乾報告》
タバコタールのハムスター細胞に及ぼす影響:
粗性黄色種タバコタールをハムスター起原細胞に100μg/ml作用し、約120〜180日で細胞が癌化することをすでに報告した。今回はTransformation
rateを定量化する目的で、3種のタール(即ち先に使用した黄色種A、在来種B、シート化工タバコC)を使用し、こられタールの細胞毒性、コロニーレベルでの変異誘導性を報告したい。
(材料及び方法)
急性毒性実験にはHeLa、培養3代目のハムスター胎児起原細胞を使用し、梅田等のラブテックチェンバー法でタール100μg/mlより半対数稀釋で8段階稀釋した。培地はEagleMEM+10%血清で5%炭酸ガス、95%空気中で72時間培養し、固定HE染色後検鏡した。
(変異誘導実験スケジュールの図を呈示)タール作用量は10、5、2.5、1.25μg/mlとし、作用後4日ごとに培地交換を行い12日目に固定染色した。
(結果)
1)急性毒性テスト;タバコタール三種の急性毒性の結果は(表を呈示)、タールの毒性はHeLa細胞に比してハムスター細胞に強く表われた。この結果はタールに含まれている芳香族炭化水素(発癌性、非発癌性を含めて27種検出されている。)が、ハムスター細胞に存在するArylhydrocarbon
hydroxdaseで活性化され細胞に作用したと考えたい。
細胞毒性は対照に使用した黄色種Aに強く表われた。TarB、Cについては、Hamster細胞ではC>B、HeLa細胞ではB>Cで表われた。以上の結果はTarA、B、Cに含まれている、ベンツピレン、ニコチン、農薬(特にBHC、DDT)の問題と関連して今後の課題としたい。参考迄にタール中のベンツピレン、ニコチン、農薬含有量を表に示す。
2)ハムスター細胞の変異誘導実験;
10、5、2.5、1.25μg/mlのタールを48時間作用したが、2.5、1.25μg/mlでは変異コロニーの出現はみられなかった。無処理細胞のplating
efficiecnyは6.33%で変異コロニーはみられなかった。
(表を呈示)10、5μg/mlタール処理による変異率を示した。変異誘導率はTarAが明らかに高く、TarC、TarB順でχ2乗検定の結果3者の間に明らかな差が認められた。又ハムスター細胞に限れば、細胞毒性と、変異誘導性が平行して表れれた。
以上の結果からみて、コロニー判定の基準に問題はのこるが、タバコタールの如き互いに近似した物質間で毒性、変異誘導性に差がみられたことから、コロニー形成率を指標とした実験が今後細胞単位の癌化の問題の定量化の一つの試みとして応用されることを希み、課題の一つとしてとり組んでいきたい。
:質疑応答:
[勝田]こういう物質のスクリーニングには人の細胞を使うべきですね。
[黒木]Feeder cellに人の細胞を使うといいでしょう。
[梅田]この場合のfeederはPEにのみ効いているのではありませんか。
[黒木]いや、矢張りfeederの細胞に何を使ってスクリーニングするかというのは、作用させる物質の代謝の問題として考える必要があると思います。それから、コロニーの判定は誰がやっていますか。人が代わると判定の結果も異なるでしょう。
[乾 ]判定は自分でやっています。前回の班会議の折りにも問題になりましたが、形態で判定するのは、どうも基準が難しいですね。
[佐藤]コロニーレベルでのクリスクロスは細胞の接種数や増殖に関係ありませんか。
[梅田]ハムスター胎児の場合、クローニングして使うわけではありませんから、いろんな細胞が出てきて、コロニーの形態もいろいろですね。
[佐藤]使う材料は矢張りクローニングしておくべきですね。それから、こういうスクリーニング法ですと、+は捕まえられるが−は安全と判定されます。その−の中で或る細胞では−だったが、他の系では実は−ではなかったというような問題が起きてきませんか。
[乾 ]前回の班会議の折りに勝田先生に言われましたが、コロニーレベルでの判定と動物レベルでの腫瘍性がどの程度平行しているかというデータをきちんと出す予定です。
[佐藤]天然物のスクリーニングの場合は、細胞の系をもっときちんとして、どの細胞にはどんな影響があるかを調べておくべきですね。
[梅田]当然そうあるべきでしょうが、実際的にはすごく大変な仕事です。
[津田]ハムスター胎児細胞をつかった場合のコロニーレベルで悪性と判定されたものでも、増殖させていく時間をかけなければtakeされないと思います。理論的には10日位ではtakeされないでしょう。
《梅田報告》
(I) 先月の月報ではT4phageを用い今迄の我々の方式で超遠心した結果を報告した。すなわち19℃と37℃でlysis時間を変えて遠心した所同じT4phageDNAなのに19℃ではbottomより20〜22本目、37℃では24〜25本目にピークのある分布を示すことがわかった。この違いの説明としては以下の実験を行ってみた。37℃でlysisさせる時はやや温度が高いため作製したgradientに多少の乱れが生ずるのではなかろうか。と考え、先ずgradientを作製してから4℃と37℃で2日間保った後、19℃としてそれからlysis液をのせ、又T4phageものせて1時間lysisさせてから遠心した。(図を呈示)4℃に47時間おいたgradientでT4phageを遠心すると、bottomより28本目にピークのあることがわかる。37℃に47時間おいたgradientでT4phageを遠心すると、bottomより29本目にピークがある。以上の所見からgradientを作製後あまりにも長期間経たものを使用することはgradientの乱れを起している可能性もあり、注意しなければならないことがわかった。又gradient作製後lysis液をすぐのせ、T4phageとHeLa細胞を同時にのせて48時間後遠心したものは、24時間37℃でlysis後遠心したもの(今迄のデータ)とそれ程動いていないことがわかった。
(II) TPN障害について述べてきたが、H3-Adenine、C16-hypoxanthine、H3-cytidineのとりこみを調べてみた(実験毎に表を呈示)。
Ad、HXではとりこみは完全に抑えられているが、CRでは逆に促進が認められる。同時にorotic
acidのとりこみをみると、10μci/mlと大量のH3-OAを投与したにも拘らず200cpm前後であまりにも少量しか摂り込みがなく確かなデータと云えない。
前よりURの大量同時投与でTPN障害は形態的に恢復することを見ているので、TPNとcoldURその他pyrimidine同時投与でHXのとりこみが恢復されるかどうかみてみた。予測に反し、pyrimidineの同時投与でHXのとりこみはrecoverされなかった。
同じ目的でみたGuのとりこみは、TPNにより阻害されるが、URの同時投与によっても恢復されなかった。Mycophenolic
acid(MPA)はIMPよりGMPにいたる合成系の阻害剤である。URとMPA同時投与によりTPN障害の恢復を期待したが恢復は認められなかった。
Thymidineのとりこみはやや阻害される程度であるが、TPN、URの同時投与でのTdRとりこみの恢復をみたがこれも恢復しなかった。以上purine、pyrimidineの生合成系の異常をとりこみ実験でみる時のむずかしさを痛感させられた。
(III) 前に明らかにTPN障害がURにより恢復されることをみているので、系統的に標本を作り形態的に観察した。核小体の形態のみみても、URの投与でTPNの障害が恢復し、しかもdose
dependentであることが判った。
(IV) 増殖カーブでみるとTPN 10-3乗MでHeLa細胞には致死的であり、10-4乗Mでは細胞数は投与後2日間は横這いであるが、3日目には恢復している。TPN
10-3乗MとURの同時投与では、UR 10-4乗Mでは完全に、10-5乗Mで2日目迄、恢復している。10-6乗Mでは恢復されない。以上よりTPNによる障害はpyrimidine生合成のうちUMPにいたる迄のどこかで強く障害していることによることが示された。
:質疑応答:
[黒木]超遠心分劃の図をみますとメインピークの鋭さが安藤氏と梅田氏のデータに違いがあるようですが、何か技術的に違いがありますか。
[梅田]こまかい点で幾つか違いますね。
[野瀬]Lysisの条件の中、使用した薬剤の不純物がDNAを切る原因になっていませんか。
[梅田]試薬は一応特級だけ使っています。
[勝田]もうそろそろDNAが切れるかどうかというのに、けりをつけた方がいいですね。
[梅田]始めはスクリーニングに使うつもりでしたが、やってみると手技の上で色々と問題が起こってしまって、仲々手が切れずにいます。
[勝田]DNAが切れるという事が発癌に必要なことなのかどうか、という原点に帰って考えてみる必要があります。
[乾 ]Lysisの問題ですが、T4DNAは時間をかけても変わらないのに、mammalian
cellのDNAは時間をかけるとT4DNAのレベル迄小さくなるのは、どう考えますか。
[梅田]今言われているmammalian cellのDNAの最小単位の大きさが必ずしも最小ではないのだと言えるのではないかと考えています。
[永井]なぎさの変異では色んな方向へ変異するのに、悪性化は捕まらなかった。DNAレベルの変異といっても色々あって、どれが悪性化へ結びつくものとして、捕らえられるのか、という所が悩みですね。
《藤井報告》
1.Mixed lymphocyte-tumor culture reaction(MLTR)における反応細胞の検討:
従来おこなってきたMLTRには末梢血中白血球を、ラットではAngioconray-Ficol法で80〜90%にリンパ球様細胞をふくむ細胞を使用したが、MLTRにおいて反応し、H3-TdRをとり込むリンパ系細胞が、Mφをふくむのか、T-リンパ球か、B-リンパ球か、そのいづれをも必要とするのか、などが問題となってきた。
今回はJAR-1ラットの末梢血より、リンパ様細胞を多くふくむ細胞浮遊液、1,000万個細胞/mlをAngioconray-Ficol法で調整し、これをさらにcarbonyl
ironの上に重畳して、37℃、1時間静置してMφに鉄微粒子を貪喰あるいは鉄粒子に附着させ、これを磁力で沈めて除去する方法により、Mφを除いたリンパ様細胞をつくった。
このようにして調整したリンパ様細胞と、非処理の元のリンパ様細胞とのMLTRを、8,000R照射Culb-TC細胞でおこなってみると、Mφ除去リンパ様細胞とMφをふくむ細胞群とは(表を呈示)、ほぼ同程度のH3TdRのとり込み値を示したが、対照のリンパ系細胞だけでのとり込みが、後者で高く、反応係数で比較すると、Mφを除き、リンパ球の純度の高い方がMLTRが高い結果となった。この成績からMφのH3TdRのとり込みはあるとしても、MLTRにおける反応細胞はリンパ球であろうということになる。
2.マウスにおけるMC肉腫発癌に対するZnSO4投与の影響:
Znは、ふつう肉類に多くふくまれており、正常には食物とともに充分摂取されている。Znがリンパ系組織の恢復に有効であり、Zn欠乏で、リンパ系組織不全がきたりするという報告がある。また宇多小路博士(癌研)によると、Znはin
vitroでリンパ球の幼若化反応をもたらす。癌患者の末期ではリンパ球の著しい減少をきたす例が非常に多い。これは、末期では、食事とくに肉類などの摂取が低下することと関係があるかも知れない。
Znの投与が、MC発癌に対して影響するかどうかを試してみた。Zn投与がリンパ球反応を促進し、発癌における免疫学的監視機構を強めて発癌を抑制するかどうかをみるのが狙いであるが、その実体はわからない。
C57BL♀マウス、4週齢に、MC1mg(ラッカセイ油にとかした)を皮下注射し、局所にTumorがふれ始める頃、68日目より、ZnSO4溶液(1g/l)を連日飲用させた。この投与量は、マウス1日の飲用水量6mlとして6mg/day/mouseで、文献上みられたヒトへの投与量150mg/50kgの100倍である。
(表を呈示)tumor incidence、平均腫瘍サイズ(タテxヨコ)は非投与群より低い。しかしtumor
sizeのばらつきが大きいのが難点である。末梢リンパ球数は(表を呈示)、ほとんど影響なく、非投与群、MC(+)群ではtumorの潰瘍化、感染で却って倍加している。(マウスは充分Znを食餌より摂取しているためか)
:質疑応答:
[黒木]発癌性が強すぎると、はっきりした結果が出なくなるとも考えられますね。
[津田]マウスの体重は、亜鉛を飲ませた群と飲ませない群とで違いがありますか。
[藤井]亜鉛を入れた水は苦いので、その水に慣れるまで飲まないようです。そのために痩せてしまいますが、後は別に変わりがありません。それから、Tumorの大きさの検定に何かよい方法はありませんかね。バラツキが多くて・・・。
[乾 ]動物の発癌実験ではバラツキがあるのがあたり前ですね。ペインティングでパピローマを狙うのはどうですか。
《佐藤報告》
T-8) DABによるdRLa-74由来クローン(主としてCl-2)の増殖阻害について。
i) クローン間のDABに対する感受性の比較(図表を呈示)。
1.8x10-4乗MのDAB、2日間処理により増殖に対する影響を検討した結果、CL-4以外のクローンは、ほぼ同程度の感受性を示した。CL-4の増殖阻害はアルコールの毒性によるものと考えられる(なお、CL-4は細胞の形態上、他のクローンとやや異なる)。なおDABの1.8x10-4乗Mは計算上、0.8%アルコールのコントロールをとった。
ii) CL-2の増殖に対するDAB、3'Me-DAB、ABの影響(図を呈示)。
1.8x10-4乗MのDABでは増殖阻害があるが、4.4x10-5乗M以下では影響は少ない様である。3'Me-DABもDABとほぼ同傾向である。しかし、ABの阻害率は大きく、この系CL-2の特徴である。
iii) CL-2の増殖に対するDABの影響(植え込み数の検討の図を呈示)。
植え込み細胞数33万個/tube、13万個/tube、4万個/tubeで細胞数を少くした場合、DABによる増殖阻害率は上昇傾向である。
iv) CL-2のコロニー形成能に対するDABの影響(図を呈示)。
300cells/dishの細胞植え込み後、2日、コントロール(0.8%アルコール)、4.4x10-5乗M(0.2%アルコール)、1.8x10-4乗M(0.8%アルコール)DABで7日間処理し9日目に元の培地(MEM+20%BS)に戻した。1.8x10-4乗MのDAB処理により有意にPEの減少を認めた。又、各々コロニーの大いさはDAB処理群で、全体的に小さくなっており、ここでも、増殖阻害(抑制)が認められた。
:質疑応答:
[梅田]クローニングの時期は・・・。
[佐藤]かなり培養になれてから拾っています。
[梅田]それでもこんなに色んなものが拾えるのですね。
[高木]脂肪滴をもった細胞はDABを食わせた細胞に多いのですか。
[佐藤]いちがいには言えませんが、そういうものもあります。細胞質にDABの溶けた脂肪滴が一杯つまって、真黄色になってみえる細胞もあります。
[黒木]DAB 40μg/mlという高濃度でよく溶けていますか。
[佐藤]DABをアルコールに溶かしてから、全血清で薄めて沈殿を遠沈で除去して使います。その時の溶液を定量してみたら40μg/mlという数値になりました。
《永井報告》
Polyamineの定量分析について
癌細胞より産生される毒性代謝物質の化学的本態がpolyamine類似の化合物である可能性が強くなってきた。また、最近になってSpermine、spermidine、putrescineといったpolyamineが細胞増殖との関聨において、強い関心を呼びつつあり、"Polyamines
in normal and neoplastic growth"といったNCI
symposium(1973)の記録も出版されたほか、幾つかのpolyamineの生理活性についての綜説も現われ始めている。そこで、現在おこなわれているpolyamine定量分析法について以下に概観してみた(表を呈示)。
《野瀬報告》
ALP-変異株の性質について
前回の班会議で、ALP-活性の高いsubcloneのうち一つは性質が不安定で長期間(約100日)培養するとALP-陰性細胞が出現することを報告した。この出現が元々陰性細胞が一部混在していたのか、又は陽性細胞がspontaneousに変化したのか決定するため、Single
cell cloneを拾ってみた。(表を呈示)結果はcolonial
cloneだけでなく、single cell cloneでも、colonyを単離してから43日目にすでにALP-陰性細胞が出現してきた。従って、ALP-活性の高い状態は2〜3カ月は安定だが、たえずcloningを行っていないと次第に活性の低い細胞の比率が増えてくるように思われる。この様な不安定性は、ALP-活性の変化が遺伝的変異によるのではなく、何かepigenetic
controlによって誘起されたことを示唆している。
次にALP-陽性細胞はdeoxy glucoseに対する感受性が変化しているというBarbanの報告にならい、CHO-K1からd-Glc耐性株をとってALP-活性をみてみたが(表を呈示)、全く活性は変化していなかった。また逆に、ALP-陽性細胞も、dGlc耐性となっていないようである。
細胞のALP-活性が上昇する機構を知るために、陽性細胞の性質が優性か劣性かを調べることが重要である。そこで、陽性、陰性細胞のhybridを作りその細胞の活性を比較しようとしている。Hybridの作り方はCHO-K1-P33(ALP-、Pro+、8AZs)とAL-343AGr(ALP+、Pro-、8AZr)とを、HVJで融合させ、Pro(-)8AZ(+)の培地で選択する。(図を呈示)この実験のためCHO-K1(-Pro)から分離したPro-prototrophのP.E.では、確かにPro(-)で増殖できる。現在、まだこの方法でhybridはとれていない。更に融合の条件を検討したいと考えている。
:質疑応答:
[勝田]この仕事をどうやって癌に結び付けるつもりですか。
[野瀬]癌の共通性というのは未だ見つかっていないのですから、こういう酵素活性の一つを癌の一部を代表しているものとして考えてみたいと思っています。
[勝田]吉田一門の仕事で判ったことは、癌には共通性がないという事ですね。これからの癌の研究で大切なのは、その共通性を探してゆくことですね。
[佐藤]ALPの活性は細胞の種類に関係はないのですね。ALPの変異は元へ戻ることがあるが、腫瘍化の変異は決して正常に戻らない点が違いますね。
《黒木報告》
班会議の席上で報告したのは、Lyon滞在中に分離したラット肝細胞とそれを用いたtransformation及び今後の実験計画、特に結合蛋白の精製、replica法による紫外線感受性細胞の分離、及び最近Heidelbergerらによって分離された10T1/2細胞を用いたtransformationなどであった。これらはすでに1月号、2月号の月報に報告したので、その詳細は重複するので省略する。その後、肝細胞(IAR-series)と10T1/2があい次いで、フランスとアメリカから届いたので、その位相差像を以下に示す(顕微鏡写真を呈示)。Druckreyによって樹立されたBD-IVラット(白黒のブチ)の生後10日の肝より得た細胞IAR-20、分離法はWilliamsに従った。培地はWilliams'med+15%FCS、この細胞からmicroplateによりpure
clone(PC)-1、-2、-3を得た。また、生後8週のラットより分離したIAR-22もある。
10T1/2細胞Clone8、passage6:C3Hマウス胎児より得た10T1/2細胞のconfluent
sheetでは、細胞はうすく広がり、細胞質内に顆粒をもつ。5万個/60mm
dishで10日おきに継代、5日目に培地交換、培地はEagle's
basal med. plus 20%FCS。飽和密度は75万個/60mm
dish(3.6万個/平方cm)。
:質疑応答:(前号月報の報告について)
[乾 ]UV感受性細胞などの変異は本当に遺伝子変異といえるのかどうか疑問ですね。
[黒木]変異率が1〜10%というのは高すぎる、とかねがね思っています。
[野瀬]癌そのものが変異なのかどうか判りませんね。
[黒木]しかし発癌剤とされているものは、殆どが変異剤です。
《堀川報告》
これまでChainese hamster hai細胞から分離したprototrophおよびauxotrophを用いてmutation
inductionを調べる実験について主として報告してきたが、今回は薬剤感受性をマーカーにして復帰突然変異を検索するため、Chinese
hamster hai(CH-hai cl23)細胞より70μg/ml
8-azaguanineに抵抗性の細胞2株を分離したのでこれにつき報告する。これら8-azaguanine対抗性の8-azg70γ-Aおよび8-azg70γ-B株は(表を呈示)、70μg/ml
8-azaguanineを含む培地で培養した時(それぞれシャーレ当り500個または10万個細胞を植え込む)、CH-hai
cl23親細胞に比べてはるかに8-azaguanine抵抗性であることがわかる。
一方、これら8-azaguanine resistant cell
linesから生じるreverse mutantのselectionのためにはGHATのmediumでselectする必要がある。そのためCH-hai
cl23細胞および8-azaguanine抵抗性の8-azg70-Aおよび8-azg70-B株を1x10-4乗M
hypoxantine、1.9x10-5乗M thymidine、1.0x10-4乗M
glycineと種々の濃度のaminopterineを含むGHAT培地中で培養した際の(この場合もシャーレ当りそれぞれ500個または10万個細胞を植え込む)コロニー形成能を調べた(表を呈示)。その結果、CH-hai
cl23親細胞はHGPRT enzyme活性をもつため各種濃度のaminopterinを含くむGHAT培地中でもコロニーを形成し得るが、HGPRTを欠く2つの8-azaguanine抵抗性株では4x10-7M
aminopterinを含むGHAT培地中ではたとえ10万個の細胞を植えこんでもコロニー形成はまったく認められない。したがって、これら2つの8-azaguanine抵抗性株は今後induced
reverse mutationの研究を進めるうえでよき実験系として使用することが出来る。
尚、これら2つの8-azaguanine抵抗性株およびCH-hai
cl23親細胞におけるHGPRTenzymeの比活性は現在測定中である。
(堀川班員は当日欠席されましたので、討論はありません。)
【勝田班月報・7404】
《勝田報告》
§純系ラッテの腹腔内接種で継代できる腹水肉腫を作る試み:
我々は腹水肝癌の出す毒性物質について、ながらく仕事を続けて来たが、同時に腹水肉腫についても同様の実験を進めたいと考え、培養の容易な腹水肉腫を作る努力を重ねて来た(表を呈示)。表1に示すようにメチルコラントレンを大腿部に接種して、動物にtumorを作る所までは簡単であったが、tumorは容易に培養に移すことが出来なかった。又細かく刻んで、或いはトリプシン処理をして、新しいラッテの腹腔内へ接種すると、浮游状の腹水癌として増殖せずに、うずらの卵位の大きなかたまりを作ってしまって、動物継代も失敗してしまった。
そこで今度は長期間培養して自然悪性化した細胞を動物に復元し継代する事を試みた。使った細胞はJTC-19で、JAR-1系ラッテのF20生後13日♀の肺由来のものである。培養開始は1964-2-13なので現在まで約10年間培養されている。この細胞は、培養内で好銀センイを形成する。(表を呈示)表2はJTC-19の復元実験の結果である。500〜700万個の接種で119〜222日で100%腫瘍死した。Exp.2の腹水をJAR-1生後1.5ケ月のラッテ2匹の腹腔内へ植えついだ所、それぞれ40日、42日で腫瘍死し、現在3代目にはいっている。この腹水は大変出血性で、腫瘍細胞は小さな島を作って増殖している。今后、動物継代を重ねて腹水肉腫として実験に使う予定である。(JTC-19のギムザ染色像、センイ染色像の写真を呈示)
《堀川報告》
8-azaguanine抵抗性細胞から感受性細胞へのreverse
mutationを調べるため、Chinese hamster hai(CH-hai
Cl 23)細胞より分離した8-azg 70γ-Aと8-azg
70γ-Bの2つの細胞株はそれぞれ70μg/ml 8-azaguanineに抵抗性であるが、一方これらの細胞株はGHAT培地中では生存し得ないことも前報で報告した。
今回は此らの細胞株についてHGPRT(hypoxanthine-guanine
phosphoribasyl transferase)活性がどのようであるかを、Cell
free extractを用いて、またオートラジオグラフ法によって調べた結果について報告する。まづ関口ら(1973)が用いた方法に準じて、各細胞株から得たCell
free extractに、50mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)、5mM
MgCl2、1mM sodium 5-phos-phoribasyl-1-pyrophosphate、0.24mM[C14]-8-hypoxanthineを含む反応液30μlを加えて、30℃で60分間反応させた際の各細胞株のenzyme
activityを表1に示す。(夫々表を呈示)これらの表からわかる様に2つの8-azaguanine抵抗性株は、CH-hai
Cl23親株に比べてHGPRT活性が極度に低下した細胞株であることがわかる。
つぎに、対数増殖期にあるCH-hai Cl23親細胞、又は2つの8-azaguanine抵抗性株を5μCi/ml[H3]-hypoxanthineを含くむ培養液中でそれぞれ24時間培養した後(それぞれ小スライドグラスで短冊培養してある)cold
PBSで3回、Cold 1%PCAで10分間づつ3回洗い、absolute
methanolで固定後、Sakura NR-M2 emulsionを塗布してオートラジオグラフにかけてHGPRT
enzyme活性を定性的に調べた結果が写真1および2である。
写真1は、HGPRT positiveなCH-hai Cl23親細胞のオートラジオグラムであり、H3-hypo-xanthineをactiveに取り込んでいることがわかる。一方、写真2はHGPRT
negativeな8-azg 70γ-B細胞株のオートラジオグラムであって、HGPRTを欠くためhypoxanthineを利用することが出来ず、放射能はまったく認められない(同様の結果は8-azg
70γ-A細胞株についても得られたが、ここでは省略する)。
以上、2種の実験結果よりわれわれの分離した8-azaguanine抵抗性細胞株はHGPRT
enzyme活性が極度に低下した細胞株であることが完全に実証された訳であり、これらの細胞株を用いてreverse
mutationの実験が現在進められている。
《梅田報告》
In vitro carcinogenesisの実験の際に、物理的因子特に培地のpHの影響がどれ程あるか調べる実験を計画していたが、旨い実験系が組めなかったので、FM3A細胞を使って8AG耐性の出現率でみる実験系でのpHの影響を調べる事にした。その基礎データについて述べる。
(1)FM3A細胞はMEMに10%FCSで培養している。我々の所のMEMは重曹1g/lとしているので炭酸ガス圧は通常3.5%流している。それでpHは7.2前後を保っている。(以下図表を呈示)
図1に3.5%炭酸ガスと、0.35%炭酸ガスと、特に炭酸ガスを流さないでairだけを送る培養チャンバー内で培養した増殖カーブを示す。3.5%炭酸ガス中と比較して、0.35%炭酸ガス圧中でもFM3A細胞は非常に良く増生している。0.35%炭酸ガス圧中では、初めpH7.7と高いが次第にpHが下り、本細胞が酸産生の高いことを物語っている。air中では増殖がおさえられ、2日迄はpHは8.0近くを保っていた。
(2)Hepesを基礎としたGoodのbuffer系を使ってpH7.2、7.6、8.0の培地を作り、気相は空気として培養してみた(図2)。図1のcontrolに較べ増殖はすべての条件で非常に悪く、本細胞が、之等のbuffer薬剤に弱いことが示された。
以上の(1)(2)の実験より気相を変えてpHの違った培地を得る実験系を使用することに決めた。
(3)表1は、3.5%炭酸ガスとairの気相中で細胞を培養し、24、48、72時間後と、H3-thymidine(T)finalで0.1μCi/ml、H3-uridine(U)0.2μCi/ml、H3-leucine(L)1.0μCi/ml、を投与し、正確に1時間後Acid
insoluble分劃にとりこんだcpmをその時の細胞数で割った値である。わかり難いので()内に3.5%炭酸ガス中24時間培養した時のT、U、Lの夫々のとりこみを100%としてその他全部のとりこみの%を計算した値を示す。それを図3にグラフにしてみた。
3.5%炭酸ガスflowの48時間後ではDNA合成が、次いで蛋白合成が減少している。RNA合成は比較的良く保たれている。72時間後では細胞がmaximumに増生し、栄養物減少の故か、又overgrowthの故か、DNA合成は0に近く、RNA、蛋白合成も非常におちている。これに対しair中で培養したものは、24時間の時の比較でDNA合成は22%と強くおさえられ、蛋白合成は71%と軽く阻害をうけている。RNA合成は、非常によく保たれていることがわかる。この傾向は48時間、72時間后のとりこみでも変らないと結論される。因みにこの時の細胞数は、ここには示さないが、図1とそっくりの増殖カーブを画いていた。
(4)まだpreliminaryの実験であるが、細胞をagar
plate上に播種し、1群は1日間静置の3.5%炭酸ガスflow中で、他群はair内で培養後全体で20μg/ml
finalになるように8AGを入れたagar medium或はcontrol
agar mediumを上からそっとoverlayした。20日間、培養後(3.5%炭酸ガスflow中)コロニー数をみると(表を呈示)表の通りで、agar
plateにまいたFM3AのPEは(200ケまいて115ケ故)約50%であることがわかる。空気中に1日おくだけでPEは1/10に下る。
8AG耐性コロニーは3.5%炭酸ガスflow中で平均3.5ケと少なく、又、air中のも1ケと非常に少ないが、とにかく数字のマジックかも知れないが、生き残ったcolony形成細胞数から計算すると、表で示す如く3.5%炭酸ガスflow中では3.5万個に1ケの耐性細胞が、air
flow中では10万個に1ケの耐性細胞が生じたことになる。
《乾報告》
ニトロソグアニジン誘導体8種の癌原性(3)
ニトロソグアニジン誘導体の染色体切断(1):先にニトロソグアニジン誘導体8種のハムスター繊維芽細胞に対する細胞毒性変異コロニーの誘導性につき報告した。その結果、毒性、変異誘導性は、ニトロソグアニジンのCH3-基の数に比例して減少するが、N-butyl-N'-nitrosoguanidine(butyl-NNG)の二種の変異体で、n-型に比してiso-型が明らかに毒性変異誘導性が高かった。
一方、細胞遺伝学的に、Mutagen、Carcinogenは染色体に切断、転座等の異常を誘起することがしられている。
今回は、ハムスター繊維芽細胞に、i-,n-butyl-NNGを投与し、染色体異常を観察したので報告する。材料にハムスター胎児起原の繊維芽細胞(4代目)を使用し、細胞が単層培養に達する前に、i-,n-butyl-NNG
10μg/mlをMEM+10%CS中で、3時間作用後、正常培地にもどし、24時間目にAir
drying法で標本を作製し、検鏡した。
染色体数分布は図に示した如く、butyl-NNG
3時間投与で、正常2倍体細胞の出現が明らかに減少したが、iso-,n-型での差は現われなかった。
観察した全細胞中染色体異常をもつ細胞の出現頻度を表に示した(図表を呈示)。表で明らかな様に、ニトロソグアニジン投与で染色体に異常をもつ細胞の出現の頻度が増加した。又異常細胞の出現は明らかに、iso-butyl-NNGが高かった。
表に観察した全染色体についての異常染色体の出現頻度を表わした。表の如く、未処理細胞に比して、butyl-NNG投与群の異常染色体出現率は明らかに高かった。特に対照群では、Translocation、Dicentric、Acentric
chromosome、Fragmentation等の異常は見られなかった。n-,i-型投与群相互間では、染色体分体を母数とした異常、又は両染色体分体に同時におこされた異常、即ち、染色体レベルの異常共に明らかな差は認められない。
以上の結果を総合すると、butyl-NNGを投与すると、1)投与後24時間で明らかに、染色体異常、異数染色体の出現率が増加した。2)iso-型投与の場合、n-型投与に比して異常染色体をもつ細胞が増加する。3)染色体、染色体分体当りの異常はn-型、iso-又投与の間に差はなかった。
本実験のみで、n-,iso-型の細胞毒性、変異誘導性の差は、説明しにくいが、異常の強弱に関係なく異常染色体をもつ細胞の出現率のみが、細胞変異に関与するのかも知れない。今後一連の誘導体について同様の観察を行ない、この点を追求したい。
《高木報告》
CytochalasinBの培養細胞に対する効果:
先の月報でCytochalasinB(CCB)の1、2.5、5μg/mlに対して種々の培養細胞でどのような核数の細胞が出現するかを観察し、正常細胞と腫瘍細胞との間には一応の差異があることを認めた。これら多核細胞の出現がDNA合成を伴ったものか否かをみるため、予備的に次の実験を行った。すなわち正常細胞RFL-N2、変異細胞RFL-5および腫瘍細胞CulbTC似つき、培養1日目に2.5μg/mlのCCBと1μCi/mlのH3-TdRを加え、3日間培養後に細胞数、H3-TdRのとり込みを調べた。核数に関しては同時に標本を作らなかったが、先の実験でRFL-N2は2核どまり、RFL-5は2核以上の多核が多く、またCulbTCもRFL-5と同様の傾向であった。以下細胞数およびH3-TdRのとり込みを表に示す(表を呈示)。
CCB処理後3日目の細胞数は処理前に比し、RFL-N2では減少他の2株ではやや増加を示した。各細胞株について細胞あたりのH3-TdRの取込みを対照、処理細胞で比較すると、RFL-5細胞では処理細胞は対照の0.91倍、RFL-5、CulbTCで略々3.76、3.75倍であった。RFL-N2細胞では処理群は2核細胞が多かったが、CCBのCytotoxic
effectにより可成りのdamageをうけていることが関係して取込みは対照より低値を示していると思われる。RFL-5、CulbTC細胞では細胞の増殖は処理群で処理前をわずかに上廻る程度であるにかかわらず、H3-TdRの取込みは対照の3.75倍程度であり、これは多核細胞の出現がDNA合成を伴ったものであることを示唆するものと思う。
《山田報告》
漸く国立がんセンター研究所を辞職して独協医科大学病理学教室に移ることになりました。3月に入ってから数回の引越しやら、住宅の世話やらでろくに仕事が出来ず、細々と残りの実験を整理して居ます。
全くのゴフル場から医科大学が出来たのですから、ピペット一本から揃えねばならず、加えて田舎の業者を相手では能率もあがりません。
夏までには、またなんとか軌道にのせた仕事をやりたいと思って居ります。
試験管内発癌の仕事は再び出発点にもどり、これまで得た知見をもとに抜かりなく、また始めたいと思います。その意味で、昨年末、教室の角屋君が勝田、高岡先生のお世話になり培養の技術と、肝細胞のprimary
cultureの株を樹立すべく努力して来ました。今回引越すにあたり下記の三株を持参することが出来ました。この株細胞を使って発癌の仕事をすすめたいと思って居ります。(いろいろ有難う御座居ました)。
(RLC-18、RLC-20、RLC-21の初代培養開始日、ラット年齢、分散法、染色体の表を呈示)。
《野瀬報告》
8-azaguanine耐性株分離の諸条件について:
8-azaguanine(8AG)耐性というmarkerは、somatic
geneticsの研究に広く用いられて居る。私も、ALK
phosphatase constitutive株のcell fusionに利用するため、8AG耐性株をいくつか分離したが、その途中で、この分離にはいくつか注意すべき点があることに気がついた。それはCHO-K1細胞をtrypsinizeし、8AG
20μg/ml含む培地でspontaneous 8AG耐性株の出現率を見ると、1図に見られるようにcell
densityが10万個cells/90mm dish以上になると減少することである。(図を呈示)対照として、Proline
prototrophへのreversionの頻度を見ると、30万個cells/dishまではまき込んだ細胞数とrevertant出現率との間にはほぼ直線的関係がある。
一定の細胞数以上になると、8AG耐性株の出現率が減少する原因として、(1)medium中のgrowth
factorが消費され尽す、(2)8AG耐性細胞が、周囲の感受性細胞とのinteractionによってHGPRT+となる、の2つが考えられる。図2は8AG耐性株を一定数シャーレにまき、感受性細胞数を変えて8AG耐性株のP.E.をみたものだが、1万個cells/平方cm以上でP.E.が0となった。従ってmutation
frequencyを出す場合にはシャーレ当りの細胞数を厳密に一定にしないといけないと思われる。
《黒木報告》
§紫外線感受性細胞の分離について§
フランス行で一時中断していたUV感受性細胞の分離を再開した。そのpointは、大凡次の二つである。1)UV感受性細胞が培養数ケ月で次第に感受性を失うことはすでに報告したが、そのような細胞からMNNG処理あるいは未処理によってよい安定な感受性細胞を得る。2)今までのexp.はマウス由来の細胞を用いていたが、他のspesiesからも試みる。replicaの容易さ、なども考慮に加え、CHO-K1細胞で試みている。
1)FMS-1細胞からのUV感受性細胞分離の試み:
FMS-1は以前に報告したようにFM3Aから分離したUV感受性細胞である。この細胞にMNNG
0.1μg/ml/100万個cells/h処理し、あるいはcontrolとしてDMSO
0.5%処理し、→2日間培養→平板寒天上コロニー形成(2週間)→replica培養(50erg・1週間培養後判定)→UV感受性candidate分離→生存率曲線(2週間)という方法で調べた。(表を呈示)
これらの5株の分離クローンについて生存率曲線で検討したところ、次のような成績を得た。すなわち、D0値でこれらのsubcloneのうち、クローン分離後30日以前にテストした2、5、6は10〜13ergで感受性であったが、30日以降にテストした1、3、4は18・20ergでもとのFMS-1と同じであった。(図表を呈示)紫外線量は吉倉広氏の紹介により、新たにLatarjetのLabより購入した。この機械と従来用いていた吉倉氏のdosimeter(Latarjet)と比較した結果、従来のメーターは約1/3低いdoseを示すことが明らかになった。これは、Standard
curveに用いたsystemの差と思われる。吉倉氏に問合わせた結果、新しい器械の方が正しいとのこと(図を呈示して装置を説明)。
2)CHOよりの紫外線感受性細胞分離のための予備実験
CHO-K1のMNNG感受性を調べたところ、FM3Aと同様、非常に感受性であることがわかった。(表を呈示)。今后0.1μg/mlを用いる予定。MNNGで処理しないCHO-K1からreplicaでUV感受性細胞の分布を試みた。0/220であった。
【勝田班月報・7405】
《勝田報告》
§合成培地の新処方(DM-151〜154):
我々の研究室では、かねてよりDM-120、DM-145などという完全合成培地を考案し、血清或は蛋白脂質を全く添加せずに、完全合成培地内で各種の細胞を継代培養してきた。今般のDM-151〜154という新処方は、株の継代やprimary
cultureに適しており、しかしこれに血清を10%添加することにより、従来の混合培地、例えば20%CS+LD、10%FCS+HamF12、10%FCS+MEMなどで継代されている細胞株のほとんどすべての系をほぼ同率の増殖率で容易に継代培養できる。また、塩類溶液をEarleの処方にしたので、開放系の培養にも使用できる利点がある。
初代培養では、10%FCS+90%DM-153を用いると、chick
embryo fibroblasts、newborn rat由来の肝上皮細胞などは、10日以上生存させる事ができる。
DM-151〜DM-154間の組成上の相異点は、そのglutamine量で、DM-151は100mg/l、DM-152は200mg/l、DM-153は300mg/l、DM-154は400mg/lである。(組成表を呈示)表でわかるように、合成培地DM-120のアミノ酸総量は他のどの合成培地よりも多いが、酸アミドだけを取り上げてみると、glutamineの100mg/lしかない。血清を添加した場合、増殖の盛な細胞では酸アミドの要求も大きくなる事を考慮してglutamine量を増した。またこれら4処方とDM-120及びDM-145との大きな組成上の差異はビタミン組成である(組成表を呈示)。
《梅田報告》
今回は今迄報告してきた血清の問題と、adenine
derivativeによる細胞の障害の2つのその後のデータを記します。
(1)各種の細胞をFBS、CS、BSで培養してみると、夫々に適したものがあるらしいことを月報7310、7312で述べた。これが例えばHeLa細胞の場合CSで良くFBSで悪く、逆に同じ血清のlotを使っていながらハムスターの繊維芽細胞の増殖ではFBSで良くCSで悪い結果に興味がひかれた。そこでこれらの血清の細胞増生の維持能力が血清中に欠乏因子がある可能性を考え、先ず一番ポピュラーなEagleのnon-essential
amino acidsとfetuinを添加してみる実験を行った。(表を呈示)結果は表の如くで、non-essential
amino acidsを加えるとPEの上昇どころか、却って低下する傾向もあり、又fetuin添加はほとんど影響を及ぼしていないと結論される。故にCS、FBSの増殖維持能力は、之等2つの因子以外の影響であることがわかる。
(2)Adenine誘導体によりHeLa細胞の核小体が小さくなり、核質がfine
reticularになりhomogeneous distributionを示すことを月報7312で報告した。この現象がNADP投与の場合はURの同時投与で回復することも月報7403で述べたが、その後各種adenine誘導体で調べた所、意外にも回復の程度が物質により異ることが判明した。
(表を呈示)表にその結果を示すが、障害はadenine、adenosineはUR同時投与により回復しない。しかし、形態的に核小体の大きさはUR同時投与で正常大に回復している。dBcAMPでは確かに核小体の変化もあるが、形態的に大型で核質もよりhomogeneousで、他のadenine
derivativeっと異っていたが、URの同時投与では障害は全く回復されず、形態的にも核小体の大きさは回復の傾向が認められたが、核質の変異等はそのまま残されていた。
ATP、NADP、cAMP投与では、その典型的な障害が、UR同時投与で殆完全に回復されていることが示されている。
《佐藤報告》
T- )発癌実験
DABによる発癌実験(厳密には癌性の増強実験)をdRLa-74由来の単一細胞クローンCL-2について試みつつある。
今回の報告は、(1)DAB短時間処理後の変化。(2)DAB間歇的処理による変化を累積曲線、形態、腫瘍性(検索中)などについて調べた。結果、(2)の間歇処理による場合において、コロニーの形態上から、DABによる変化と思われる傾向を認めた。しかしながら、増殖率やDABに対する耐性などに関しては、非処理群(コントロール)との間に差違は見い出されなかった。
現在、第3の実験系として、DABをできるだけ頻回に、かつ長時間処理する実験を行いつつある。(累積増殖曲線の図、感受性試験の表を呈示)
表1は実験(2)の場合の、DAB処理群とコントロールとの間のDABに対する感受性の比較を検討したものである。実験は発癌実験をスタートして40日目に、100細胞/ml、3mlをシャーレに接種し、24時間培養後、DAB(10μgor40μg)を含む培地で交換し、以後9日間培養した結果、処理群とコントロールの間には、著明な感受性の差はないが、40μgに対しては処理群にやや耐性があるように見える。
表2、3はDAB処理群と秘書李郡についてコロニー分析を試みた結果である。表2ではpiled-up
colonyが増加し、又、表3では、同様に処理群に多形性、異型性が増大傾向である(表3は、主として多核巨細胞、巨核細胞に注目した)。
発癌実験スタート75日目に処理群(10μg、40μg)、非処理群の増殖率を比較した。差異は全く見られない。三者のDoubling
timeにも差は見られない。
《堀川報告》
今月号には特にまとめて報告するほどのデータがないので現在の仕事の進展状況を報告する。まず
(1)放射線および化学発癌剤に対するHeLaS3細胞の周期的感受性変更要因の解析。
紫外線(UV)照射に対するHeLaS3細胞の周期的感受性曲線は、各期の細胞のDNA中に誘起されるTTの量的違いにある程度説明出来るようであるが、一方、これらTTの除去能には各期の細胞間で大きな違いのないことがわかった。これらについての結果は近々BBRCに掲載される予定である。他方、4-NQO、4-HAQOに対する周期的感受性曲線もUVの場合と同様、各期の細胞のDNAと結合する4-NQOまたは4-HAQOの量的違いと関係がありそうである。しかしこれらの除去能に関しては各期の細胞間で差違のないことがわかってきたが、これらの実験はすべて同調細胞集団と云う限られた細胞を使っての仕事であり、従ってDNAの抽出法も、phenol法によってきた。この方法では抽出の過程でDNAと結合した4-NQOあるいは4-HAQOもきりはなされる可能性があるので、現在はよりmildなDNA抽出法としてMarmurの方法(1961)にきりかえ、これまでの結果を再検討中である。しかしこの方法でDNAを抽出する限り1点、1点の実験に多量の同調細胞集団が必要であり、思うように仕事がはかどらないのが現状である。
(2)培養哺乳動物細胞における突然変異の研究。
レプリカ培養法によって、Chinese hamster
hai細胞から分離したTdR-株および栄養非要求株を使ってX線、UV、MNNG、4-NQO等による前進および復帰突然変異率の算定を進めている。一方、Chinese
hamster hai細胞から分離したHGPRTの8-azaguanine抵抗性株を使ってX線による復帰突然変異率の算定も進められているが、これらの実験には時間がかかり、現在報告出来るようなhotなデータはまだもち合わせていない。
《高木報告》
CytochalasinB(CCB)の培養細胞に対する効果:
前報にひきつづき多核細胞の出現がDNA合成を伴ったものか否かを検討するため、次の実験を行なった。
径3cmのplastic Petri dish(Lux製)にRFL-5細胞を植込み、1日後に細胞数を算定し、次いでCCB
5、2.5および1μg/mlを含む培地でrefeedすると同時に、H3-TdR
1μg/mlを加えて、1、2および3日とcontinuous
labelingを行ないH3-TdRの取込みをみた。なお、growth
curveをみる意味でH3-TdRを加えないCCBだけの実験群とCCBを加えない対照群とをおいた。結果は表の通りであった。(表1、2を呈示)
表1は培養日数によるH3-TdRの取込みの経過を示す。表2はこの間の細胞のgrowth
curveでこの実験ではH3-TdRは加えていない。対照では明らかな増殖が認められ、以下CCBの濃度に比例した増殖の抑制がみられたが、増殖は認められた。一方H3-TdRの取込みは、各濃度で1日をすぎるとplateauに達し、対照でも同様な傾向がみられた。これは1μc/mlのH3-TdRにより細胞の増殖の抑制があったとみるべきか、培地中のTdRを1日で細胞が使い果したとみるべきであろうかと思うが、いずれの可能性ともいいがたく今回の結果の判定は困難である。ひとまずH3-TdRと共にcoldのTdRを加えて再検の予定である。
《山田報告》
新しい教室作りに意外と手間どって居ります。培養室がいまだ使へず医科研のお世話になりなんとかつないでいる状態です。
前回にも一部は書きましたが、こちらに来てあらためて試験管内発癌の仕事をふりだしにもどって考へなほし実験を始めたいと思って居ります。
それにはまず正常の肝細胞の株を作ることですが、昨年より医科研でお世話になりました教室助手の角屋君に四系のラット肝細胞株を樹立し、これを持参してもらいました。今回新たにもう一株RLC-16が出来ましたが、この染色体の形態及びパターンは正常の様ですので(図を呈示)、これを中心にRLC-18、RLC-21の三系を用いて行きたいと思って居ます。残りの1系RLC-15は繊維芽細胞が混在して居り核型パターンも正常肝のそれとは異なります。
《乾報告》
ニトロソグアニジン誘導体8種の発癌性(4)
ニトロソグアニジン誘導体の染色体切断(2):
n-、iso-butyl NNG 10μg/mlを細胞に3時間作用し、染色体異常をもつ細胞の出現頻度がそれぞれ29.28%、42.65%であることを前号月報で報告した。今回は、propil-NNG
5μg/ml(10μg/ml投与では細胞増殖が著明に抑制され染色体観察が困難である。)投与後の染色体異常について報告する。投与条件は前号とまったく同じである。(表を呈示)
表1に異常染色体をもつ細胞の出現頻度を示した。異常染色体をもつ細胞の出現頻度は、i-butyl-NNG
5μg/ml作用と略々同様で、染色体切断能はbutyl-NNGに比してpropil-NNGがはるかに強いと考えられる。
表2に観察した全染色体について、異常染色体の出現頻度を示した。Propil-NNG
5μg/ml投与群では、前号で報告したn-、i-butyl
NNG 10μg/ml投与に比して、染色糸切断が明らかに高く、特に両染色糸(染色体レベル)切断が著明に増加した。この事実は、すでに報告した一連の誘導体の毒性、突然変異誘導性の結果と一致する。
《野瀬報告》
Alkaline phosphatase変異株の細胞融合。
CHO-K1から分離したALP-活性の高い細胞で、活性を発現するようになった機構が、posi-tive
controlなのか、negative controlなのかを調べるため、細胞融合による解析を試みている。変異株は8-azaguanine(AG)感受性なので、ALP-活性を持たないFM3A・8AG耐性株(黒木先生より分与)との間で融合を行なった。選択培地は、MEM+5%FCS+non-essential
amino acidに8AG 20μg/ml加えたものを用い、変異株は8AGで殺され、FM3Aは浮いているので、シャーレをPBSで洗って除き8AG存在下で増殖し、しかもシャーレに附着するものをcell
hybridとして単離しようとした。
融合を起こすには、UV不活化のHVJを300HAU/ml〜3000HAU/mlで加えた。この際、培地のpHが非常に大きく融合率に影響し、Croceらの言うようにpH
8.0付近が能率が良いようである。また、serumを含まない培地に細胞をsuspendしてHVJを加えた方が融合が起きやすい。融合させた後、細胞を選択培地にまいて、一晩たってから位相差顕微鏡で観察すると、二核以上を持つ多核細胞は、19〜26%で、HVJ未処理群(数%)にくらべてはるかに高かった。
何回かくり返して実験を行なったが、spontaneous
8AG-耐性株の出現率が高く、hybridらしい細胞はなかなか拾えなかったが、形態的にCHO-K1(fibrobrast)とFM3A(round)との中間の形をもったcloneがいくつか拾えてきた(写真を呈示)。写真の示すように、これらは中心が丸く、spindle状に長い突起を出して、特徴的な形をしている。染色体分析ではまだはっきりhybridであるという証拠は得られていない。現在まで独立に5つの同じようなcloneを分離し、ALP・I活性を測定してみたが、いずれも全くこの活性を持っていなかった。この様な細胞は染色体構成はほとんどFM3A型と同じで、CHO-K1からの染色体は存在するかしないか、はっきりしない。しかし、HVJ処理をやってはいるが、完全に丸い形のFM3A細胞が、このような突起を出すということは興味あることと思われる。この細胞はBut2cAMP処理をしてもALP-の誘導はおこさなかった。
《黒木報告》
10T1/2細胞のトランスホーメーションについて
McArdle LabのHeidelbergerらによって樹立された10T1/2細胞を、DMBA
1μg/mlで処理した(48時間)ところ、写真のようなdenseなfocusが、処理後3〜4週間後にみられた(写真を呈示)。今後C3Hマウスへの移植、寒天培地、細胞密度などからtransformationのcharacter-izationなどの基本的なdataを得るようにしたい。
【勝田班月報:7406:ヒト細胞の化学発癌剤による癌化実験】
§各種細胞の旋回培養による細胞集塊形成像の比較:
細胞のsuspensionを旋回培養すると、細胞の種類にもよるが、沢山の小さな細胞集塊(aggregate)を作りながら増殖するものが多い。
この細胞塊の数や大きさが、その細胞の動物へのbacktranplantabilityに平行するという説を立てるもののもあるので、本報では各種の細胞について、果してその造腫瘍性と関係があるか否かをしらべた。
装置はフラン室のなかに、池本製の旋回器をおき、その上に沢山の三角コルベンをおいただけのことで、きわめて簡単なものである。
しらべた細胞は、ラッテ由来の株が大多数で、可移植性のあるもの、ないもの、正常細胞、腫瘍由来などを含めて、25種類、イヌ、マウス由来を加えると計27種類であった。培地別では血清培地継代が19種、無蛋白合成培地株が8株であった。
結果は、ある特定の細胞の間、例えば、正常ラッテ肺由来のRLG-1株の培養内で自然悪性化した株<それを動物に復元してできた肉腫の再培養株というように、細胞塊が同系列内では、悪性度の強いものが密な大きなものを作る平行関係も認められたが、一般化してその説を肯定するデータは得られず、極端な例としては、ラッテ腹膜細胞由来のRPL-1株は動物に腫瘍を作らぬが、固く密な大細胞塊を作った。
(写真を呈示)悪性度との平行関係が認められた例として、RLC-10(2)・ラッテ肝由来で移植性の弱い株と、その株を4NQO処理で悪性化し再培養した株を示す。
:質疑応答:
[佐藤]私も旋回培養では色々な経験をもっていますが、胎児性の細胞は大きな集塊を作ります。また腫瘍になると集塊を作るのですが、腹水型になると、又腫瘍性とは平行しなくなるのです。最初入れる細胞数が集塊形成に影響します。それから培養瓶をシリコンコートすると、ガラス壁に付くか付かないかがはっきりします。
[高岡]腹水肝癌の自由細胞型のものが集塊を作らないというのは初代培養でしょうか。腹水肝癌も培養系になると大分パターンが変わってくるようです。AH-130(自由細胞型)由来のものとAH-7974(肝癌島型)由来のものの間に差が無くなってきています。
[山田]この問題は昔一度考えた事がありますが、癌化が始まると組織の構造がルーズになるのに、塊りやすくなるのは何故か、どうも矛盾しているように思えました。しかし細胞集塊を作るのは腹水肝癌の島とは違って、細胞が均一になると大きな集塊を作るのではなかろうかとも考えられます。最初のきっかけは矢張り細胞膜の荷電に関係があると考えたいですね。一寸趣きは変わりますが、腹水肝癌の細胞が増えつつある腹腔内に苛性ソーダとか塩酸をいれてやると肝癌自由細胞が大きな島を作ります。
[佐藤]Microvilliの問題もあって荷電だけでは説明できないと思います。Microvilliと腫瘍性とは関係がありそうです。
[翠川]増殖速度と細胞集塊の大きさに関係はありませんか。
[高岡]細胞集塊の中ではあまり増殖していないようですし、増殖の早いものが大きい集塊を作るという事はありません。
[翠川]壁への附着性とは平行しますか。
[高岡]そういう尺度から見れば、壁への附着性の強いもので大きな細胞集塊を作るものもありますが、必ずしも平行していません。
[高木]膵臓isletをバラバラにして培養しておくと、何もしなくても、ただ静置培養しておくだけで、きれいなアグリゲイトを作る事があります。
[佐藤]Single cellから増やしたクロンは細胞集塊を作りやすいようです。細胞の均一さが問題でしょうか。
[堀川]細胞のorigin、種の問題など少し複雑で悪性化の指標には一寸無理ですね。
《佐藤報告》
T-10) 発癌実験
月報(7405)に示したCL-2(dRLa-74細胞由来)に対するDABの処理歴と、その実験系を基礎に、現在進めているDABの処理状況を示す(図を呈示)。コントロールに比べ、DAB処理群はいずれの処理方法の場合も、細胞の重層度が増大していると思われる。
:質疑応答:
[黒木]3'Me-DABでは変異、染色体異常はおこらないが、aminofluorenを作用させると変異、染色体異常が起こるというデータがありますね。acetylaminofluoreneを使ったらもっと良い結果が出るのではないでしょうか。
[佐藤]DABの場合は人の肝臓では代謝されないが、ラッテでは代謝されるという事が判っています。DABで変異が起こらないというのは使った細胞系が悪いのではありませんか。DABについては、日本で動物実験での仕事が沢山報告されていて、肝癌も数多く出来て居るので、これを試験管内の発癌の系にと思って執念を燃やしているのです。もっとスマートにというなら、他に考えられる発癌剤4NQOなどもありますけれど。
[黒木]変異、染色体異常は大腸菌とヒトリンパ球でみています。
[翠川]発癌剤と変異剤は必ずしも一致しないでしょう。
[堀川]いや、今や殆ど一致しかかっていますよ。
[佐藤]しかし菌を使った実験の結果が必ずしも発癌実験と一致するとは思えませんね。発癌剤と臓器の親和性は発癌実験の第一歩として考えることだと思います。
[黒木]DAB 40μg/mlというのは少し濃度が高すぎると思いますが溶けていますか。
[佐藤]解毒作用のことも考えなくてはなりませんし、加えた濃度のすべてが作用しているかどうか判りません。
[堀川]変異を指標にするのは良いと思いますが、感受性とは一致しません。DABへの抵抗性の実験は何回やりましたか。
[佐藤]三回です。
[黒木]この条件なら必ず悪性化するというpositive
controlをとって実験すると、もっと事がはっきりすると思います。
《乾 報告》
核酸・染色体hybridizaion I(予報)
先に我々は、生化学的手法でハムスター正常肝DNAと、正常肝細胞由来、MNNGでtransformした細胞由来のRapidly
LabeledRNAをhybridizeし、MNNG transformed
CellのRNAが正常のそれより多くDNAにCompeteする事を報告した。その後、正常細胞、Transformed
CellよりRapidly LabeledRNAを抽出し、各々の染色体上でのhybridizationを試み、遺伝子の発現部位の相違を追求して来たが、仲々成功しなかった。今回の報告では、hot
labelした細胞よりLabeledRANを抽出し、染色体上にhybridizeする手法に光明を見出したので報告したい。
実験方法:実験には、MNNGでtransformしたHNG-100、ハムスターterminal
embryoの初代〜3代細胞を使用した。細胞はいずれもMacCoys5A+10%C.S.、37℃、5%炭酸ガス条件下で培養した。
標識RNA抽出には、各細胞の単層培養直前に40μCi/mlのH3-UdRを45分作用し、作用直後氷室内でHanks液で3回洗い過剰のH3-UdRを除去した後、細胞をとり上げ、Scherrer
and Darnellの方法でRNAを抽出した。
染色体標本は同様単層培養直前の培養に5x10-7乗Mのコルセミドを3時間作用後、0.9Mクエン酸ソーダで20分(一般より長め)ハイポトニック処理を行い、空気乾燥法で(Flameをもちいず)標本を作製した。
染色体−RNA hybridizationは、染色体標本作製後直ちに標本を0.07M
NaOHで3分間処理し、水洗後エタノールシリーズで乾燥し、2倍のSSC中で2.0、0
D/mlのH3-RNAを標本当たり10μl、67℃、18時間作用した。作用後2倍のSSCでよく洗い、RNaseで過剰のRNAを洗滌後標本を乾燥し、Radio
autographyを行った。
結果は(写真を呈示)、染色体上にH3-RNAのgrainが認められるが、Single
chromatid上に1ケのgrainのみであり、Sister
chromatidの両腕の同位置にGrainが認められない点、又grainをもつ染色体が全染色体中でわずかである点等、問題が多い。
今後、手法の改良を行い、染色体上での遺伝子発現部位の解析を試みて行きたい。
:質疑応答:
[難波]この方法ではヒストンはどうなっていますか。
[乾 ]NaOHの変性処理をしていますから、ヒストンはとれているはずです。
[黒木]どういう組み合わせでやっていますか。
[乾 ]今は同種だけですが、いろいろ組み合わせてみるつ;もりです。
[堀川]アイデアとしては大変面白いのですが、染色体上のgrainがもっとシャープでないと説得力に欠けますね。手法そのものの特異性をはっきりさせて、これがartifactでないと証拠づけておく必要もありそうですね。
[乾 ]E.coliのRNAとは殆ど附きませんし、生化学的な数値では明らかに差が出ます。
[黒木]DNA-DNAの方が出易いですか。PolyA
H3を使ってautoradiographをやればypolyT sequenceの染色体上の存在が判るのではないでしょうか。(その後文献を調べた結果、mRNAのApolyA
sequenceは、核内にあるpolyA plymeraseによってRNAの3'OHに合成されて行くことが判った。従ってpolyAのtemplateとしてのpolyTなるものはDNAに存在しないらしい)
[堀川]この場合、DNAはむき出しになっているのですか。
[乾 ]ある程度むき出しになっています。
[野瀬]変異細胞で余分なRNAが出来ているのは他の細胞を使っての例がありますか。
[乾 ]SV40で変異した細胞で同じような報告があります。しかし、肝癌で反対にRNAが減ってしまったという報告もあります。
[堀川]技術的にカッチリやっておくと面白い仕事になりますね。Chromosomeからの蛋白のはずれ方によってartifactが出る可能性がないかも、見て置いてください。
[難波]Hybridizationの差は増殖の差ではありませんが。増殖との関係は・・・。
[乾 ]何とも言えません。なるべくlog phaseの後期にラベルしていますが。
《山田報告》
新しく樹立された7系のラット正常肝由来培養株について主として形態学的に比較検索した。RLC-15、-17は(各々顕微鏡写真を呈示)明らかにfibrocyteが混入して居り、染色体もばらつきが最も著しい。従ってこの二株は正常肝細胞株としては最も不適当であると思われる。RLC-16、-19、-20、-21、-18はいづれも比較的均一な細胞像を示し、多核細胞も巨核細胞も殆んどない。RLC-16、-19はadultラットから得られた系であるが、RLC-16は培養びん硝子壁との接着性がより弱く、細胞はいづれも収縮して居り、他の株と異り、しかもその染色体モードの百分率はやや低いので多少問題がある。RLC-19、-20、-18は極めて正常肝細胞を思わせる細胞株であるが、RLC-18は変性が強く、今後継代が困難と思われる。RLC-21は全体としてやや紡錘状の細胞形態を示す。
従ってadultラット由来としてはRLC-19、newbornラット由来としてはRLC-20、embryo由来としてはRLC-21を今後の発癌実験の材料として用いていきたい。(一覧表を呈示)
:質疑応答:
[佐藤]肝臓の上皮細胞をとるには、少数にしてまくと、上皮はコロニーを作り、線維芽細胞はコロニーを作りませんから、割合簡単に上皮細胞が拾えます。しかし、2核の細胞はなかなか増殖しないので継代できませんね。
[山田]これらの系からクロンを拾って実験したいと考えています。
[翠川]しかし細胞の機能はin vivoからin vitroへ移して1日たつともうがらりと変わってしまうという説もありますね。
[山田]それではin vitroの発癌実験はやれないことになりますね。
[藤井]形態だけみていると、系によってそれぞれ特徴があるようですが、発癌性に差はあるのでしょうか。
[山田]これからやる予定ですから、今はまだ判りません。
[佐藤]In vitroでの自然発癌は染色体上の変異が起こってから3カ月ほどして動物にtakeされるようです。2倍体→2倍体と拾っていっても矢張り染色体のmodeはずれるようですね。他にラッテの脾臓を培養したものでグロブリンを産生している株があるのですが、これは190日位でラッテにtakeされました。
[高岡]自然発癌の早い例では、ラッテの腎臓の培養で3カ月培養してautoの皮下へ復元したら、大きな腫瘤を作ったものがあります。
[黒木]ヒトの細胞のagingはどんな細胞でもあるのですか。
[難波]リンパ球のBcell以外は殆どすべての細胞にagingがあるようです。遺伝病のものにもあります。ただ上皮性の細胞についてはdataがありません。
[堀川]細胞のaggregateと電気泳動度の間に何か関係がありますか。
[山田]逆の関係があると思います。
[堀川]細胞によって培地の条件が異なるということが泳動度に影響しませんか。
[山田]泳動にかける前によく洗って、泳動させる時は共通の人工的medium中で行いますから、問題はないと思います。
《難波報告》
1.ヒト細胞の化学発癌剤による癌化実験:
現在までに知られている正常ヒト2倍体細胞(リンパ球系の細胞は除く)を培養内で確実に発癌させるものはSV40のみであり、SV40以外の腫瘍性ビールスを使用しての正常ヒト細胞の癌化の報告は細胞が本当に癌化しているかどうかの点で、全て不確実である。またヒトの体内に発生した腫瘍からは、SV40もその他の腫瘍性ビールスも見い出されていない。最近、HuebnerらはOncogene説を提唱して、ヒトの癌もビールスによっておこるのではないかと考え、彼等のグループで現在知られている種々の細胞由来のOncogenic
virusesを使って、ヒトの細胞の癌化を試みているが、まだヒトの細胞を癌化させるビールスは発見されていない。
そこで、ヒトの癌の原因は、はたしてビールスなのか、それともかってロンドンの煙突掃除人に多発した皮フ癌の例以来多くの疫学的観察から推定される化学発癌剤によるのか、それとも両因子によるのか、とにかく実験的にビールスなり化学発癌剤でヒトの細胞を癌化させてみる必要がある。
ヒトの癌をどのように直すかが、癌の細胞を相手に悪戦苦闘している研究者の夢と希望で、反対にヒトの細胞を癌化させることを企てることは夢も希望もない。むしろ人類に罪悪をなすものではないかと、私自身大変心苦しい思いをした。
しかし、とにかくヒトの細胞をまず化学発癌剤で確実に癌化させ、そしてもし癌化した細胞が得られれば、その癌細胞にビールスを発見できるかどうか(この場合、化学発癌剤がビールスを誘発したことになる)の計画の下に実験を開始した。
使用したヒト細胞は正常なヒト由来の細胞のみならず遺伝的に異常なヒト由来の細胞である。それらを下に列記すると
1.正常なヒト由来: 1)胎児肺由来の線維芽細胞(WI-38)。2)全胎児由来の細胞。3)胎児肝由来細胞。4)成人肝由来細胞。
2.遺伝的に異常なヒトからのもの: 5)Xeroderma
pigmentosum(Adult)・XP-cells。6)Down's syndrome(Newborn)。7)Fanconi's
anemia(6-year-old)。8)Trisomy O(embryo)。9)Lesck-Nyham。
使用した化学発癌剤は: 1)MNNG。2)4NQO、6-Carboxy-4NQO。3)BUDR。4)DMBA。
ヒトの細胞の培養内での癌化の基準としては: 1)Indefinite
proliferation in vitro。2)Abnormal karyotypes。3)Transplantability
into animals(Anti mouse lymphocyte rabbit
serumを注射し、thymectomizeされたsuckling
mouse使用)。
この3条件が満たされれば十分である。正常のヒト2倍体細胞は胎児由来のもので50±10分裂、成人由来のもので20±10分裂後Agingのために死んで行き、私の2年間の発癌実験中、発癌剤無処理の対照細胞から無限に増殖し続けることのできる細胞株は得られなかった。即ちヒトの細胞で株化したもの=癌化と考えると、自然発癌したものはなかった。また、正常ヒト細胞のクロモゾームは非常に安定でAging現象のおこるphaseIII(この時期で細胞分裂は殆んどおこらなくなる)に入るまで2nが保たれる。そしてこの正常細胞を動物に移植しても腫瘍をつくらない。
現在までに得られた結論は、1)ヒトの細胞は、マウス、ラット、ハムスターなどの細胞に較べ、非常に癌化し難い。しかし、2)胎児肝由来の細胞と4NQOとの組み合わせでは癌化に成功した。従って、従来推定されていた化学発癌物質がヒトの癌の原因となり得る可能性を示した。またこれは化学発癌剤によるヒト細胞の癌化の世界最初の仕事である。3)遺伝的に異常なヒトはある種の癌を多発することが知られている。私の行なった発癌実験では現在までのところ遺伝的に異常なヒトからの細胞の発癌に成功していない。しかしFanconi's
anemia+4NQO、Lesck-Nyham+4NQOの2つの組み合わせで、発癌の可能性がありそうで現在実験を続けている。XPcells+4NQOも有望な発癌実験系と考えられる。その理由は、XPcellsは他の細胞に較べ、1桁4NQOに対して感受性が高くこの関係は丁度UVの細胞障害に対してXPcellsが非常に感受性の高いのと非常に似ている。この私どものデータは、Stich
et al.の報告した4NQO処理XPcellsのDNA repair
cynthesisは非常に抑制されていることを示したデータと一致していた。
以下の月報で詳しい実験データを報告する予定である。(この仕事はDr.Leonard
Hayflickとの共同研究の一部である)
:質疑応答:
[堀川]ヒトの細胞を使って発癌実験をするのは理想ではありますが、悪性化の指標をはっきりさせなくてはなりませんね。
[難波]先ずagingを脱すること、これは最少限2年間100代位は継代できないとだめですね。それから染色体が異常になること、マウスやラッテと違ってヒトの細胞は2倍体をよく維持します。それから異種の動物への可移植性を得ること、抗リンパ球血清を注射したハムスターやヌードマウスを使うことになります。
[佐藤]Agingの原因をどう考えるのですか。
[難波]今それを検討している所です。
[藤井]個体の寿命と細胞のagingとの関係なども興味がありますね。
[佐藤]栄養要求性とは関係ないでしょうか。接種細胞数との関係はどうでしょうか。
[難波]細胞数や培地には関係ないようです。ヒトの細胞は殆ど100%のagingがありますが、マウスやラッテは簡単にagingを脱することができます。Dr.Hayflickは株化は変異だと考えています。
[山田]生物の進化の系統図とagingのあるかないかとは関係がないでしょうか。
[野瀬]進化の途上にある生物は変異を起こしやすいでしょうね。
《高木報告》
CytochalasinB(CCB)の培養細胞に対する効果:
先の月報でのべたように、CCBによる多核細胞の出現がDNA合成を伴ったものであるか否かを調べる目的で、H3-TdRの細胞による取込み実験を行なうため、まずcontinuous
labelingを検討した。しかし結果は細胞の増殖がみられるにかかわらず培地にH3-TdRを加えて1日目以降の取込みは全く増加しなかった。この原因として培地中のH3-TdRが細胞の有する酵素により比較的短時間に分解される可能性が考えられるので(梅田氏による)次にpulse
labelingによる予備実験を行なった。すなわちCCBを2.5μCi/ml
3日間入れたままの群と、入れない対照群とについて0.5μCi/ml
2時間、培養1、2および3日目にpulse labelingして細胞による取込みをcountすると、CCB実験群では1日目の取込みが最も高く、以後漸減する傾向を示し、対照群では1、2および3日目と取込みは急増した。CCB
2.5μg/ml入れ続けると細胞は3日間わずかに増殖はするが、DNA合成は次第に減少することが判った。この実験の目的には上記pulse
labelingが適していると思われるので、この方法を用いてH3-TdRの細胞による取込みを観察し、それと細胞の増殖および多核細胞の出現頻度を比較することにより、多核細胞の出現がDNA合成を伴うものか否か検討する予定である。
一方CCB 2.5μg/ml作用させたRFL-5細胞の16mm映画をとってみた。これまでの観察では大体次のようなことが判った。i)CCBを作用させている間は細胞の動きは悪いが、CCBを除いてrefeedすると細胞は活発に動きはじめる。ii)2核になった細胞が次にさらに分裂する時には同調的に同時に分裂期に入る。iii)2核の細胞で同時に分裂期に入るが分裂しきれずまた元の2核に戻る場合がある。iv)多核細胞(4核以上)はCCBを除いて観察しても現在の処変化はみられない。この映画を供覧する。
また佐藤氏より提供された増殖のおそい肝癌細胞株にCCBを1、2.5および5μg/ml作用させて観察したが、多核細胞は他の腫瘍細胞と同様、高い頻度に出現した。従って多核細胞の出現が、増殖の盛んな細胞において高頻度であるとは単純には解釈出来ないようである。さらに観察を続けたい。
:質疑応答:
[黒木]CCBはglucoseの取り込みを抑えますが、Tymidineはどうですか。
[高木]やや抑えるようですね。
[黒木]Acid solubleもみておいた方がいいでしょうね。
[堀川]この実験の狙いはどこにありますか。
[高木]2核細胞がDNA合成をしているかどうかを見たいのです。
[難波]Dr.Hyflickの処の実験では、CCBを入れると多核が出来るが抜くと又単核に戻ってしまう。Heteroploidを作るのにCCBが使えるのではないかと思って試みたのですが、結局とれなかったようでした。
[堀川]Thymidineの取込みがなくても、do novo合成があればDNA合成が起こります。
《梅田報告》
今迄アルカリ蔗糖密度勾配上で細胞をlysisさせDNAの遠心パターンを解析した場合、悪性細胞は19℃、1〜2時間のlysisで単一のhigh
peakからなるDNA遠心パターンを、4時間lysisで所謂DNA
main peakとしての滑らかな山を示すこと、胎児由来の正常細胞は1〜2時間で2峰性のpeakがあり、4時間lysisでmain
peakとして滑らかな山に収斂してくりことを報告した。さらに36℃ではmain
peakは1時間lysisで現れることも示した。
(I)今回はこれらpeakの性状をさらに解析するため、C14-TdRとH3-cholineあるいはH3-アミノ酸混合物で同時に標識した細胞で実験を行った。H3-アミノ酸混合物中にはH3-グリシン、−アスパラギン酸、−グルタミン酸が含まれており、これらがde
novo合成によりpurine、pyrimidineに組みこまれる可能性を考え、これによる標識の場合はATPとuridineを同時に加えた。月報7405で報告したように、この処理によりde
novoのpurine、pyrimidine合成は抑えられ与えられたATPとuridineがpurine、pyrimidine
sourceになっていると考えた。
悪性細胞であるHeLa細胞の場合、25℃ 1〜2時間lysis後遠心すると(実験毎に図を呈示)C14の鋭いDNA
peakに一致してH3-cholineあるいはH3-アミノ酸のpeakが現れ、4時間lysisでは消失した。36℃1時間lysisではC14に一致するH3のcountは認められなかった。
(II)ヒト胎児由来線維芽細胞の解析では、25℃
1〜2時間lysis後遠心したものは2峰性の遠心パターンを示すが、この2つ共にH3のコリンあるいはアミノ酸のpeakが共存していた。25℃
4時間のlysisではC14のpeakに一致するH3countは消失した。36℃1時間lysisでもC14のpeakと一致するH3countは認められなかった。
(III)以上の所見は25℃ 1〜2時間のlysisでは充分に膜成分からDNAが解離されていないことを示しており、DNA索そのものを解析する場合、少くともmain
peakの得られる条件迄lysis時間をかける必要性を示唆している。
(IV)HeLa細胞のmetaphaseの細胞を集めて解析すると、これでも25℃1時間lysisでH3-choline、H3-アミノ酸labelがC14のcountと一致して認められた。このH3のpeakの高さはrandom
populationを解析した時のpeakの高さの約半分であることは興味がある。ともかくmetaphase
cellでも膜成分が残っている。chromosome中に保存されていると解釈して良い所見である。
:質疑応答:
[堀川]実際のDNA分子は、こういう遠沈操作で分劃されるDNAの分子量と比べるとずっと大きいですね。それからアルカリで分劃した場合にも電顕でみると二重鎖の部分が見える事がありますね。方法として大変便利ではありますが、問題もあります。
[難波]誰の方法が一番よいのでしょうか。
[堀川]何とも言えません。それぞれ長所も短所もありますから。
[難波]遠沈している時の温度も大切な条件でしょう。
[堀川]哺乳動物のDNAには蛋白などの膜成分がくっついている事もあります。Linkerなのかも知れませんが、何にしてもはっきりした方法の確立が第一でしょう。
《堀川報告》
化学発癌剤4-NQOおよび4-HAQOに対する細胞の周期的感受性変更要因の解析の一環として、従来同調培養されたHeLaS3細胞を用いてH3-4-NQOまたはH3-4-HAQOで各期の細胞を処理した際、これらの発癌剤に対して高感受性のM期〜middle
S期の細胞のDNAは特異的にこれらの発癌剤と結合する。しかも結合した4-NQOおよび4-HAQOの細胞内DNAからの除去能に関しては各期の細胞間で大きな差異のないことを示してきた。しかしこれらの実験ではDNAの抽出にPhenol法を用いた。そのためDNAの抽出時に結合したH3-4-NQOあるいはH3-4-HAQOがDNAからはづれてしまう可能性があるので、この点を更に再検討すべく今回はMarmurの方法(1961)によってDNAを抽出することにした。
結果は(図を呈示)同調培養された各期のHeLaS3細胞を2.5x10-5乗M
H3-4-NQOで30分間それぞれ処理した際、DNAと結合するH3-4-NQOの量は実験群によって相当のばらつきのあることがわかる。しかし、同一実験群の結果を考慮して、それぞれの実験群のG1期のcpmを100として各期のカウントを%で示すと(図を呈示)、これまでの実験結果と同様、4-NQOに高感受性のM期〜middle
S期の細胞のDNAがより多くのH3-4-NQOと結合することがわかる。ついで、同様にして細胞内DNAと結合したH3-4-NQOが各期の細胞でどのようにDNAから除去されるかを調べた(図を呈示)。この場合にも従来の結果と同様に各期の細胞間でDNAからのH3-4-NQOの除去能に関してはまったく差違のないことがわかる。
このようにDNAの抽出法をよりmildな方法に変えて、前回の実験結果を再検討した訳であるが、結果的にはまったく同一の結果が得られた。では何故、M期〜middleS期のDNAはより特異的に4-NQOや4-HAQOと結合するのかといった問題が(UV照射した際何故S期のDNAに特異的にTTが形成されるのかという問題と同様に)今後の重要な解析課題として残されている。
: 質疑応答:
[黒木]S期にはDNAが裸の筈ですが、その時に感受性が一番低いというのはどうしてですか。TransformationではS期が一番高いとされていますが、mutationではどうですか。
[堀川]Mutation frequencyの高いのはG2です。Chemicalと放射線とでは感受性のパターンが全く逆になります。Damageが大きくないとmutation、transformationは起こらないのではないでしょうか。
[津田]紫外線ではdoseを落とせばmutantが出てくるのでしょうか。
[堀川]それはまだ判りません。
[黒木]Hydrocarbonの結合はnon-replicateDNAの方が高いというdataがあります。
《野瀬報告》
(1)FM3Aの形態的変異株について:
CHO-K1由来のALP-I活性の高い亜株とFM3Aとのhybridをとる実験の途中で、先月の月報に示したような、紡錘形をしたcloneが単離された。このcloneの染色体数および核型を調べると、(図を呈示)元のFM3Aとほとんど差がないようである。CHO-K1の染色体らしきものは、1本も検出できなかった。従ってここで得られたcloneはFM3Aが、何らかの変異をうけて、浮遊状から壁に付着して増殖し、しかも細胞質突起を伸ばすようになったものと考えられる。このcloneの形態は一見glia
cellのように見えるので、現在PTAH-染色を試みている。乳癌由来の浮遊細胞が、紡錘形に変わったという現象は興味あると思われる。
(2)ALP-1誘導に対するDimethylsulfoxideの影響:
dibuthyryl cAMPによるALP-Iの誘導はタンパク、RNA合成阻害剤によって抑制されるので、de
novoのタンパク合成が必要と考えられる。しかし、タンパク合成阻害剤の一種のpactamycinは誘導を阻害しなかった。そこで、But2cAMPは、細胞内に存在するALP-I合成ポリゾームのpeptide-elongationを促進することにより、ALP-I活性誘導を起こすのではないかと考えられる。この点を確かめるため、次の実験を行なった。
ポリゾームは、細胞をDimethylsulfoxide(10〜12%)で10〜30min処理すると破壊される(図を呈示)。ポリゾームをこの様に破壊してからBut2cAMPを加えると(表を呈示)、ALP-I誘導は著しく阻害され、更にpactamycinを同時添加すると完全に抑えられた。
これらの実験は間接的ではあるが、細胞形質の発現機構として、新しい機構が存在することを示唆していると考える。
:質疑応答:
[堀川]形態的に変異した細胞が染色体の上では、もとのFM3Aと殆ど同じでCHO-K1の染色体を1本も持っていないということですが、一度ハイブリッドになってからCHO-K1の染色体が落ちてしまったとは、考えられませんか。
[野瀬]処理後4週間位でコロニーを拾って、それを増やして大体1カ月半位後に染色体分析をしました。でも片方が1本もない雑種という事はあまり考えられませんから、やはり雑種ではなく、FM3Aが癌から肉腫様形態に変異いたのではないかと考えています。
[佐藤]形態的に変わっても本質的に変わることはないのだから、"癌が肉腫になる"などと言ってはいけませんよ。
《黒木報告》
月報7404で報告したFMS-1からのsubcloneのUV感受性を培養日数を追いながら調べた。(表を呈示)FMS-Aは、20−24ergにほぼ安定し、それから得られたsubcloneは最初10−13ergの感受性を示したが、60日以後はsucl.#2、5は15−24ergにおち着いたように思われる。今後、しばらく、安定性を追ってみるつもりである。
CHO-K1からはMNNG 0.1μg/ml処理後replica
cultureでUV-sensitiveを1clone分離した。Do.、n値は37ergでoriginalのDo=60
N=1.0と比べて明らかに異る。現在経過をみている。
:質疑応答:
[梅田]マウスではだめだからハムスターでというのは何か根拠がありますか。
[黒木]CHO-K1は他の遺伝子は安定だからというだけです。
[堀川]紫外線感受性ならヒトの細胞を使う方がよいと思います。切り出し能のあるのはヒトだけですから。
[難波]マウスも胎児には切り出し能がありますが、培養につれて無くなるようです。
[佐藤]2度目の変異では感受性の高い方向と低い方向の両方に変異するのでは・・・。
[黒木]3回拾っても結局紫外線感受性はとれなかったのです。
[堀川]しかし安定なmutantも確かにあると思います。今とれているのは本物ではないのでしょう。それから実験の度にcontrolをとらなくては何とも言えませんね。
[梅田]紫外線感受性細胞にphotosensitivityはありませんか。
[黒木]XPの細胞の場合どうですか。特に光を避けますか。
[堀川]別に暗い所へおくわけではありません。
[山田]FM3Aという細胞はいわくつきの細胞で安定しない株ですね。
【勝田班月報・7407】
《勝田報告》
A.HeLa株について:
HeLaの最初のreportと思われるpaperは、学会報告の抄録にしかなく、このときは、しかしまだHeLaとは文中に云っていないが、とにかく参考のため、ここに引用しておく。Dr.Geyは余りpaperを書かない人だった。(Scientific
Proceedings,American Association for Cancer
Research,April 11-13,1952,New Yorkの全文を呈示)。HeLaという語をいつから用い初めたか、これは目下調査中です。
B.亜株HeLa・P3について:
HeLaはLについで世界で第二の古い株であるが、その合成培地内で継代できる亜株はまだ無かった。我々ははじめ、長い期間[0.1%PVP+0.4%Lh+0.08%Ye+salineD]の培地でHeLaを継代してきた。培養開始は1959-9-23で、これは亜株HeLa・P1とよばれる。
1968-1-6から純合成培地DM-145に移し、これが遂に高い増殖を示すようになって、継代できている。HeLa・P3と呼ぶ亜株がこれである。
血液型は、原HeLaはO型だったと云われているが、日本に入っているのはO型とB型である。予研のはB型であるが、当研究室のHeLaは予研から分与されたから、HeLa・P3はB型である。細胞形態は、一時、球状のが多くなっていたが、いまはしだいに上皮様形態を取戻してきている。
《高木報告》
CytochalasinBの培養細胞に対する効果:
CCBによる多核形成がDNA合成を伴ったものか否かを調べる目的で、細胞数の算定、多核細胞の数、H3-TdRのとり込みを比較するのが主眼であるが、H3-TdRのとり込み実験で難渋している。RFL-5およびRFL-N2細胞をLux
petridish(35mm)に5万個植込み、24時間後、CCB
1、2.5、5μg/ml加えて3日間作用させた。24、48、72時間後にpulse
labeling(2時間、0.5μc/ml H3-TdR)を行なった。(図を呈示)図の如く、いずれの細胞でも増殖に比し、H3-TdRのとり込みが日数と共に急に減ずることは予期せぬ結果で、technicalな問題が、さらに検討を要する。
《高木報告》
培養哺乳動物細胞を用いての体細胞突然変異の研究の一環として、当教室ではChinese
hamster hai細胞から分離した栄養要求株あるいは栄養非要求株を用いてX線、UV照射による前進および復帰突然変異の算定を行ってきたが、それらの結果本月報No.7309とNo.7310に報告した様に、一般に栄養非要求株(Ala+、Asn+、Pro+、Hyp+、Gln+)を用いた場合の方が、栄養要求株(TdR-)を用いた場合よりもX線、UV照射による突然変異率ははるかに高いことがわかっている。こういった結果を生じさせる原因として、(1)使用するgene
marker数の違い、(2)前進および復帰突然変異の機構の本質的違い、等が考えられる。これにもまして前進突然変異率を高くする原因として、前進突然変異体を選別するために使用するBUdR-可視光線法に欠陥のある可能性が考えられる。
つまり、X線およびUV照射により、栄養非要求株中に生じた栄養要求株を選別するには、BUdR処理により非要求株にのみBUdRをとり込ませ、これを可視光線照射によって焼殺する。そして残った栄養要求株をsufficient培地中でコロニーを形成させ、それを算定するという方法をとっている訳であるが、ここで問題になるのは、種々の放射線を照射した場合、mitotic
delayなどが生じる。従って、24時間のBUdR処理時間は高線量照射されたどの栄養非要求株にもBUdRをとり込ませるのに充分だっただろうかという疑問が生じてくる。
こういった問題を根本的に解決するには完全なBUdR−可視光線系を確立する以外に方法はないが、これは或る程度不可能にも近いので、とりあえず以下の方法で再検討することにした。つまり前述の栄養非要求株を各種線量のXおよびUVで照射後48時間のexpression
timeを置いたのちBUdRをとりこませ、つづいて可視光線を照射してやる。その後細胞を2群に分け、一方はsufficient培地の入ったシャーレで培養し(A)、他方はdeficient培地の入ったシャーレで培養してやり(B)、(A)に出来たコロニー数から、(B)で出来たコロニー数を差し引いたものを誘発された前進突然変異細胞(Auxotrophic
cells)数として、10万個生存細胞当りの突然変異率を求めた結果が図1および図2である(図を呈示)。
これらの図からわかるように、以前にこの栄養非要求株を用いておこなった実験結果に比べて、X線およびUV照射による前進突然変異率ははるかに低いことがわかる。ただしこのようにして得られた前進突然変異率がはたして本物であるかどうかの検討はいづれにしても今後に残されている。またこうした結果から考察されるのは、あるPrototrophic
cells集団からAuxotrophic cellsを選択分離するためのBUdR-可視光線法には問題があり、これに代るすぐれた系を確立する必要性のあることであろう。
《乾報告》
染色体−Rapidly labeled RNA hybridization(in
Situ hybridization) 2:
先月、班会議でMNNGでtransformした細胞、正常ハムスター細胞よりRapidly
labeled RNAを抽出して、各々の染色体とhybridizationを行なった結果を報告した。その時の、染色体(hybridizeされた)の核蛋白の問題、染色体上でのDNAの存在状態について質問をうけた。
今月はhybridizeされる染色体の条件を再検討する目的で、染色体のdenatureを色々の方法で行ない、染色体中のDNAの状態をしらべた。
前号発表と同条件で染色体標本を作製し、
1)0.07M NaOH、25℃、3分作用
2)0.2N HCl、20℃、30分作用後、10μg/ml RNase
37℃、60分作用
3)x2 SSC、65℃ over night作用後RNase作用
4)0.025%トリプシン、室温、50秒作用後RNaseの作用
の4種の前処理した細胞について、アクリジン・オレンジ染色、ギムザによる染色を行ない、アクリジン・オレンジ染色標本を蛍光顕微鏡発色を行ない、DNAが一重鎖が二重鎖かを検討した。
染色体Bandは、4群トリプシン処理群でG-bandが著明に現われ、次いで3群に現われた。
第2群ではG-bandは現れず、C-Bandがわずかに現われ、NaOHではC-Bandのみ現われた。
アクリジン・オレンジ蛍光染色では、トリプシン処理では、DNAは二重鎖特有の黄緑色蛍光を強く発した。x2
SSC作用群の蛍光は前者に比して、やや長波長(赤色がかって)に見られ、HCl、NaOH処理でアクリジン・オレンジはRNA、DNA一重鎖特有の橙赤色の蛍光を発した。以上の結果より染色体上のDNAは、in
Situ hybri-dizationに使用したNaOH処理の条件で大部分が一重鎖になっていると推察される。
現在のアクリジン・オレンジの蛍光染色では、励起後、一重鎖、二重鎖特有の蛍光は、30〜35秒しかもたず、すみやかに退色し、1分後にはいずれも一様に白光となるので、写真を撮ることが出来ず、又蛍光定量MSPがない現在、以上の結果を写真あるいは表に示すことが出来ない。
染色体上での蛋白の存在状態が問題として残るが、ミロン化反応、First
greenF染色等で、染色体染色を行い、これらの色素で染色体が染らないことを次の段階で証明したい。
染色体Bandの染色体条件とアクリジン・オレンジ染色の結果より、推察すると、トリプシン+NaOH
denatureがin Situ hybridizationに適していると考えるが、併用した時、染色体が原形をとどめない程、変形するので、これら二者の併用処理の検討を行いたい。
《黒木報告》
§ヒト肝細胞の培養§
Lyonにいたとき、ヒト肝細胞の培養を試みようとしたが、カソリックの国のため、胎児材料を得ることができなかった。ヒトの肝細胞培養を試みた理由は
(1)現在まで信用できるヒト肝由来上皮細胞株がないこと
(2)transformation、metabolic activationなど化学発癌研究の材料となること
(3)isozymeなど、分化の研究材料となること
(4)HB抗原、αFGなどの研究材料となること。などである。
最近2例の胎児(7ケ月)を入手したので、実質細胞の培養を試みた。
方法は、メスで細切→0.25%trypsin in PBS
or 1,000u crude dispase in MEM+10%FCS室温10分かくはん、後上清をすて、次いで室温20分間かくはん(magnetic
stirrer)→等量の10%FCS添加Williams med加え、2mlコマゴメで15回ピペッティング→#150
mesh→遠心後→Williams培地にsuspend→Williamsの方法で15分、60分、とFalconシャーレにSerial
trans-ferした。
培養後1週間で(写真を呈示)写真のような上皮細胞のfociを見出した。分裂像も多く、周囲の繊維芽細胞とは明らかに区別された。
fociの数は(表を呈示)表のように、dispase処理群に非常に多く、平均2.55foce/d、それに対してtrypsin処理群では1..0foci/dであった。dispase処理群では第2回transfer
dish(15-75分)がもっとも多く平均6.33/dであった。さらに1週間培養後、0.1%Pronase/ロ紙で3つのfociをpick
upしたが、すべてfibroblastsのcontamiがみられた。そこで、micro-plateを用いて同様の方法でpick
upした10ケのfociを20分-20分-2時間のserial
transferをしたがすべての例がfibroblastsでおきかわってしまった。
《梅田報告》
今問題になっているAF2のFM3A細胞におよぼす影響を調べた。FM3A細胞を使った理由は、本細胞で8AG耐性の突然変異率を比較的簡単に調べられるからである。
(1)(夫々図表を呈示)図1はFM3Aの増殖におよぼす影響で、AF2
10-5.0乗Mで増殖が抑えられ、10-4.5乗Mで、増殖は横這いから致死的になることがわかる。図2は10-4.5乗M投与1時間後、6時間後に細胞を洗ってcontrol培地に戻した場合の細胞の回復能をみたもので、両者共に回復することがわかる。ここには示してないが、別の実験で24時間を経たものは回復しなかった。
図3は細胞接種数を増し20万個/mlとしたので、前2者とはやや異なるが、AF2
10-3乗M投与では致死的であるが、1時間洗ってcontrol培地に戻すと一部の細胞と思われるが、回復してくることが示されている。6時間では全く回復しない。
(2)FM3AのH3-TdR、H3-UR、H3-Leuの取り込みにおよぼすAF2の影響をみると、図4の如くなる。10-4.5乗MでH3-TdRの取り込みが特に抑えられている。濃度を明けると、H3-UR、H3-Leuの取り込みも抑えられるが、H3-TdR取り込み阻害にはおよばない。
(3)染色体標本を作製すると、10-4乗M 6時間、24時間処理後のものはややgapの出現が増していること、時にpulverization像が認められるが数は少ない。48時間処理のものは、breakage、fusion等の著しい変化がmetaphaseの1/3に認められ、一見して非常に著明な変化である。10-5.0乗Mでは48時間処理後の標本でも著変は認められなかった。
この実験は染色体が散ったこともあり、定量的につかめなかったので、目下繰り返し実験を計画している。
(4)AF2 10-4.5乗M、10-5.0乗M、10-5.5乗Mで2日間FM3A細胞を処理した後、8AG
20μg/mlを入れた寒天平板上に100万個細胞を接種し、又control培地の寒天平板上に2000又は200細胞数をまいて生ずるcolony数を調べた。
実験は2回行っており、夫々でやや違った値を示しているが、10-4.5乗M処理でmutation
rateの著しい増加が認められる。
《山田報告》
ConcanavalinAと抗体の細胞膜に対する反応性の類似について、ラット胸腺リンパ球を用いて検討して来ましたが、今回は癌細胞に対する反応性をAH-66Fラット腹水肝癌細胞について検索してみました。あらかじめConA(5μg/ml)に10分37℃飯能された後に、各種濃度の抗血清(同種抗血清、熱による非働化したもの)を反応させて、その表面荷電の変化をしらべた結果が図です(図を呈示)。
対照として測定した抗血清のみによる変化が、2回の実験でかなり異りますが、いづれの場合でもConA前処理により、低濃度のConAによる表面荷電の上昇が増加する結果を得ました。2回の実験の抗血清の抗体価が異るために、著しく対照細胞のE.P.M.の変化が異って居るものと思いますが、これからその点について確かめた後に最終結論を出したいと思って居ます。
《野瀬報告》
Alkaline Phosphatase変異株の諸性質について
Sela & Sacksの報告によると、Hamster
embryonic cellsはALP-陽性であるが、virus又はchemicalで"transform"した細胞は、ALP-陰性になるという。ALP-活性と腫瘍性との間に相関性があることになり興味のある事実である。そこで、前に単離したALP活性の高い亜株と原株CHO-K1との間の生物的性質をいくつか比較してみた。(図表を呈示)
表に各株のALP-活性、doubling time、液体培地とsoft
agar中のP.E.をそれぞれ示した。この表からは、活性の高い細胞が増殖が遅いとか、soft
agar中のPEが低いとか、一般的に言えないようである。また図にALP-I活性とsaturation
densityとの相関を示したが、やはり両者の間に単純な相関は認められない。
以上の結果と平行して、hamster cheek pouchに細胞を移植してtumorをつくるかどうか、現在検討中である。
【勝田班月報:7408:10T1/2細胞の化学発癌】
《勝田報告》
§ヒト・リンパ系細胞の培養
ヒト・リンパ系細胞は免疫関係の研究にしばしば用いられてきたにも拘わらず、それらのリンパ球系各細胞の分類及び動態について詳しい記載がなされていない。その点をもう少し正確にしたいと思ってこの仕事をはじめた。分劃はFicoll-Conray法により、最後の沈渣を培養すると、7日間culture後に生きていると判定された細胞はクエン酸+クリスタル紫の処理では78%、エリスロシンでの判定では77%が生きていた。これらの細胞の塗抹、その他のギムザなどの染色標本、及び16mmケンビ鏡映画撮影による動態を示した。
:質疑応答:
[堀川]H3TdRの添加時間が6時間だとgeneration
timeの長い細胞ではS期に合わないために取り込みがないという事もあり得ますね。
[高岡]もっと長時間の添加実験が必要ということですね。
[難波]Monocyteの世代時間は1〜3日ですね。
[藤井]In vivoでも小リンパ球が1〜2カ月生存していることがあります。
[堀川]私のデータですが、マウスの脾臓の培養でリンパ球様の細胞は初期に死滅してしまい、monocyteらしい細胞が3ケ月位増殖せずに生存していて、100〜150日位経って増殖が始まって株化し悪性化してしまいました。株化した細胞には貪喰性がありました。
[勝田]この実験を始めた目的の一つにリンパ球様の細胞の中でどの細胞が分裂するのか、映画の視野の中でとらえたいという事があります。
[高岡]PHAを入れると塗抹標本での分裂像は確かに沢山みられるのですが、映画の視野では細胞が凝集してしまって、うまく分裂をとらえる事が出来ませんでした。
[山田]PHAを使うのでしたら、血球の凝集の濃度より分裂を起こさせる濃度の方が1ケタ位低かったと思いますから、そこを変えてみればよいでしょう。
[永井]PHAでなく亜鉛や沃度を使えば凝集させずに分裂だけ起こさせられます。
[藤井]Ficoll-Conray法の分劃では、沃度の刺戟があって幼若化する事があります。
[翠川]人のリンパ球の培養の場合、癌患者だと手術前に採ったものか術後に採ったものかで、随分違ってきますね。条件を一定にしなければなりませんね。
[勝田]人間は雑系だから、実験材料としては扱いにくいですね。
[吉田]癌患者の血流中に癌細胞はいませんか。
[藤井]問題になっていますが、今の所確実な同定法がないのです。
[勝田]幼若化したから分裂するのでしょうか。分裂したから幼若なのでしょうか。
[藤井]形態的に見て大きくなった所謂幼若化細胞は分裂するとしても小さい細胞にもTdRの摂り込みはありますし、何とも言えません。
[山田]リンパ球の幼若化の問題はさんざん研究されてきた問題ではありながら、その形態学はあまりはっきりしていないから、今からやっても新しいと言えますね。
《佐藤報告》
T-11)発癌実験(Exp.III)
CL-2細胞の実験開始時点での総培養日数930日、継代数94代。(表を呈示)10μg/ml
DAB処理群ではDABによる障害は少なく、DABの連続投与が可能である。40μg/ml
DAB処理群では細胞障害度は大きく、従って連続投与はできない。40μg/mlをできるだけ長期間与える事を目的とするため短時間処理をくりかえした群、細胞障害を大きくしたため全処理期間は短くなっている群がある(累積曲線を呈示)。
コントロールとDAB処理群のコロニー形成率を検討した(表を呈示)(発癌実験開始後71~73日で実施)。コロニー形成率では有意の差は認められないが、コロニーの大きさを比較した場合、処理群では大きなコロニーが出現する傾向がある様に思われる。
前回の実験で、DAB処理に対する耐性を得ているらしいことを見たが、今回の実験系でも処理群に耐性傾向を認めた。コントロールの細胞についてDABの処理時間(2日、7日)を検討した。またDAB
7日間処理の各群の増殖を検討した(増殖曲線の図を呈示)。
他に染色体分析を行ったが、染色体数の上ではコントロールと処理群との間に差を認めない。現在、腫瘍性についての検討を進めている。
:質疑応答:
[難波]コロニーの大小によるDABの耐性の差はありますか。
[常盤]特に差はありません。
[堀川]耐性をみる時、細胞数はどの位入れますか。
[常盤]100コ/mlにしています。
[乾 ]40μg/ml添加の群は50%の増殖阻害という事でしたが、増殖曲線をみると直線的にのべているのは何故でしょうか。
[吉田]耐性の仕事の狙いはどこにあるのですか。
[佐藤]In vitroの発癌実験では自然悪性化が起こるので実験が難しくなります。今まで長らくラッテの細胞とDABという組合せの実験をしてきて判ったことは、低濃度のDAB添加では増殖誘導が起こるという事です。その後に悪性化の問題があるのですが、正常な肝由来の細胞では対照の方も必ず悪性化してしまって不安定で困るので、増殖誘導の所は省いてしまって、in
vivoでのDAB投与によって良性腫瘍になっていてその性質がin
vitroでは安定しているという系を使って実験しようとしています。その場合の一つの指標として耐性をみているのです。
[翠川]良性腫瘍になったものに、又同じ発癌剤をかけて更に悪性になるという事があるでしょうか。私は良性であれ悪性であれ、一度癌になったものは、それで癌化の過程が終了したものと考えています。
[佐藤]DAB発癌については、私は段階的に悪性化すると考えています。
[黒木]動物への復元成績で悪性度をみる場合は、移植抗原が絡んできますね。
[佐藤]組織像と転移などで悪性度をみようと思っています。
[黒木]それにしても接種後100日でラッテを斃す細胞を良性とは言えませんね。
[勝田]腫瘍性の問題を話す時は、色々の問題を一緒くたにしてしゃべっては駄目ですね。個々の細胞の悪性度の問題、集団の中での細胞相互作用の問題、宿主との免疫の問題と整理して考えなければ。それから、DABに対する耐性とは何でしょうか。私達の実験ではDABを無視して増殖する型と、DABをどんどん代謝して無害にする型とありましたが。
[佐藤]どちらも含めて、要するにDAB添加で死なない細胞を耐性細胞としています。
《難波報告》
2.4NQO処理による癌化過程のヒト培養細胞の染色体の変化:
月報7406にヒト胎児肝由来の細胞を4NQOで処理し癌化させることに成功したことを報告した。その癌化したと思われる一実験系(SUSM1〜4)の細胞のクロモゾーム数を調べてみると(図を呈示)、全部Hypodiploidを示していた。これは勝田教授らのラット2n体細胞を4NQOで癌化させた実験で報告されているクロモゾームの変化に一致していて興味深い。
牧野らはヒト腫瘍の染色体はHyperdiploid〜Triploid
modalityを示すものが一番多く次いでHypotetraploidが多いと報告した。又、培養化されたヒト腫瘍細胞の染色体が3n附近にモードを持っていることはよく知られている。
我々がここに示すような癌化した細胞の染色体の変化を報告した折、何故モードが2n〜4nの間にないのかと云う質問があったので我々はその当時次の様なことがおこるのではないかと答えておいた。Diploid→Hypodiploid→Hypotetraploid(around
triploid)。そしてそのような変化がおこるのではないかと予想していた。そこで最近この癌化した実験系の内、SUMI1のクロモゾームを調べてみると、(分布図を呈示)Hypodiploidを示すものはもう殆どなく染色体はHypotetraploidに移行していた。
以上のことから結論されることは
1)牧野らの云う癌化の重要な要因はHyperdiploid〜Triploid
or Hypotetraploidへの染色体の変化が重要であると云う結論と我々の結論は一致し難い。牧野らの報告にあるようなそれほど大きな染色体の変化は細胞の癌化の時点で起こっていないのではないかと考えられる。染色体の大きな変化はむしろ腫瘍細胞の増殖の過程で生じたものであろう。
2)Hsuらは染色体のHeteroploidへの変異として、(1)2n→4n→Hypotetraploid。(2)2n→Hypodiploid→Hypotetraploid。の2つの過程を考えたが、我々の実験データは(2)に一致している。
3)SUMI1の染色体を調べた時期は、47th PDLと52nd
PDLであった。染色体のバラツキは、癌化の時期以来急速におこるものと予想される。
:質疑応答:
[吉田]この染色体数の変化はどの位の期間で起こったのですか。
[難波]47代の時の最頻値が42本、帰国して52代で70〜80本です。日数は43日間です。
[吉田]本数の変わり方が激しすぎますね。核型はみてありますか。トランスロケーションによる本数の変化ではありませんか。
[難波]42本の時はdicentricの染色体がありました。
[乾 ]42本でdicentricが出たなら、それをマーカーに4倍体の分析をすべきですね。
[佐藤]染色体上の変異は培養内では簡単に起こります。人の場合でも条件を変えたら自然悪性化も起こり得るのではないでしょうか。
[黒木]軟寒天内のコロニー形成能や、conAの凝集などについてはどうですか。
[難波]まだみてありません。
《掘川報告》
今回は現在新しく進めている2つの実験について報告する。
(1)放射線および化学発癌剤による突然変異誘発とCell
cycle dependency:
同調培養されたHeLaS3細胞を使って、X線、UV、または化学発癌剤4-NQO、4-HAQOに対する細胞周期的感受性曲線の本体が何に起因するかの解析を進めているが、現在までにUVに対してはその感受性曲線は細胞内DNAに誘起されるTT量に依存し、その除去能には関係がなさそうであるという結果が得られている。一方、化学発癌剤4-NQOおよび4-HAQOについても、それらの感受性曲線は細胞内DNAと結合するこれら4-NQOあるいは4-HAQO量にそれぞれ依存するようで、DNAと結合した4-NQOや4-HAQOの除去能には関係がなさそうであるという結論が得られている。
さて、つぎの問題として、こうした各種物理化学敵要因に対する細胞の周期的感受性曲線と、これら要因により誘発される突然変異の細胞周期的依存性の関係を把握する必要がある。この際、細胞周期と突然変異誘発能の関連性は勿論のこと、同時に細胞の癌化能と細胞周期の関連性を追究出来れば最も理想的であるが、そのような系は見わたしたところどうも簡単に入手出来そうにもない。従って本来のHeLaS3細胞を使って、とにかく細胞周期と上記の各種要因による突然変異誘発能の関連性だけでもまず解析することにした。各stageにおける誘発突然変異のマーカーは最も単純な系として、15μg/ml
8-azaguanineに対する抵抗性を指標にしている。
さて、こうしたHeLaS3細胞を使っての実験系が走りだすと、どうしてもマウス由来のL細胞を使っての同様の実験系が慾しくなる。何故ならばHeLaS3細胞はTTの除去修復能を不完全ではあるが(約50%のTTを除去し得る)保持している。一方、マウスL細胞にはこのような除去修復能は見出されていない。さっそく、この細胞も新たに実験に加えた。され、HeLaS3細胞とL細胞で同様の結果が得られるか、それともまったく異った結果が得られるか、今後の研究に待たなければならない。
(2)マウスL細胞は本当にpost replication
repair能を保持するか:
除去修復能をもたないマウスL細胞が何故除去修復能をもつHeLaS3細胞とUVに対する感受性において大きな差違を示さないか。こういった基本的な事象をもとにして、今やこのマウスL細胞において存在するであろう未知の修復機能の探索が多くの研究者によりなされているのが現状である。つまりE.coliなどで見出されているrecombination
repairと類似の機構がマウスL細胞に存在するであろうことが、Lehman、Regan、Fujiwara等によって示唆されているが、今だにその本体を究明する段階には致っていない。このマウスL細胞等に存在するであろう未知の修復機構は現在post
replication repairとよばれ、recombination
repairから一応区別されている。こうした未知の修復機構の本体を追究すべく当教室でもマウスL細胞、HeLaS3細胞を用いることにより、UV照射後に新生されるDNAのelongationがどのようになされるか、更にはこうしたpost
replication repairを特異的に抑えるCaffeineがDNAのelongationの過程をどのようにブロックするか、あるいはlabeled
caffeine等を使用することにより、これがUV照射されたDNAとどのように結合するかなどの解析を開始したところである。いづれこれらについての結果は近い将来報告出来るものと思う。
[梅田]変異率をsurvivalで割っているようですが、2日間のexpressionの後、またsurvivalをみていますか。
[堀川]みています。
[黒木]Back mutationの頻度が低いのは、forwardで過ぎた同じ所に変異が起こらなければならないからでしょう。False
positiveもあります。
[堀川]単純に考えるとそうです。
[勝田]どの位の期間、変異した性質を維持し得るかという事も問題になると思います。言葉についてですが、遺伝子が眠ってしまう方向への変異をforward
mutationとはどうも納得できませんね。
[吉田]染色体上の変化はありませんか。
[堀川]色々と調べてみましたが、数の上にもbandingにも変化はありません。染色体変異より遺伝子変異だろうと考えています。
[佐藤]正常細胞より癌細胞の方が変異率は高いですね。培養細胞も株化したものは癌に準ずると思います。2倍体の細胞を使った方が変異率は正しく出るのではありませんか。
[黒木]Spontaneous mutationは癌の方が高いかも知れませんが、誘導する場合は同じかも知れません。
[堀川]初代培養の方が変異実験の材料に適していることは私も承知しているのですが、技術的に使いにくいので株細胞で実験しています。
[吉田]生体での2倍体の安定性は、長い年月の間に人間なら46本が残って来たという意味で安定なのですね。変異に関しては8倍体より4倍体、4倍体より2倍体、2倍体よりハプロイドがより直接的です。
《高木報告》
CytochalasinBの培養細胞に対する効果:
本実験はSV40 virusでtransformした細胞と、その原株の正常細胞との間にみられるCCBによる多核細胞形成の違いが、chemical
carcinogenによりtransformした細胞とその原株正常細胞との間に認められるか否か、認められるとすればこれをin
vitro carcinogenesisの1つの示標として用いられないか・・と云う発想の下にスタートした。これまでの結果をまとめてみると、これまでに調べた13種の正常細胞、長期培養株細胞、腫瘍細胞およびchemical
carcinogenによりtransformした細胞についての結果は、正常細胞では2核細胞、それ以外の細胞では2核以上の多核細胞が出現する傾向がみられた。ただ復元実験により腫瘍を形成しなかった長期培養株細胞についても多核細胞の出現頻度が高かった。
この多核細胞の出現について、これがDNA合成を伴ったものであるか否かを検討するため、細胞の増殖曲線、培養日数による核数の変化、およびH3-thymidineの取込み実験を平行して行ってみた。H3-TdRの取込み実験はpules
labelingで行った。
(実験毎に図を呈示)4,000細胞を植込んだ時の実験では、各濃度に比例した細胞増殖の抑制がみられる。その際のH3-TdRの取込みも濃度に比例した抑制がみられる。各日数における核数は1、5μg/mlでは48時間まではcontrolとほぼ同様の増加がみられるが、以後は可成り低下が認められる。これらのdataをそのまま解釈する限りH3-TdRの取込みは可成り低下しDNA合成を伴っていないように思われるが、CCBが細胞によるH3-TdRのとり込み自体に影響を与えると云うdataもあるので、その影響も加味しなければならない。
蛋白量、DNA量の直接の測定を現在行っている。またCCBを入れた時の多核細胞の状況および、CCBを除いた後の多核細胞の運命についても映画撮影中である。
:質疑応答:
[吉田]多核細胞は時間と共に増えるのですか。DNAの合成は伴わないのですか。又多核になった時の核の大きさはどうですか。
[高木]DNA合成を伴うのかどうかを調べたのですが、H3-TdRの取り込みをCCBが阻害するらしいのではっきりしませんでした。核分裂は抑えられています。核の大きさは2核までは1核と変わりませんが、それ以上の多核になると小さくなります。
[難波]核数と細胞数を数えれば分裂増殖があったかどうか判るでしょう。
[高木]全核数は増えています。
[黒木]融合は起こりますか。
[高木]起こりません。2核細胞になったものもCCBを除くと1核になるというのは、どういう風に分裂するのでしょうか。
[梅田]HeLaでは分裂にないって1核づつになる事があります。
《山田報告》
最近、当班でも人間の悪性腫瘍細胞を用いる班員が増えて来て居り、しかも人間の腫瘍の細胞像についてfamiliarでない人も居るので、今回は人間の悪性腫瘍のうちで、癌細胞と肉腫細胞との形態学的違いをスライドに示しながら説明した。その特徴を以下に示す。しかしこれは極めて一般的な差であり、殊に肉腫は多彩な分化を示すことがあるので、case
by caseにかなり異ることがある。(この細胞学的特徴は湿潤エーテル・アルコール固定、HE染色像にみられるものである。)
<細胞配列>
上皮性悪性腫瘍細胞(癌細胞):上皮性配列(シート状)を示し、細胞相互に結合する。
非上皮性悪性腫瘍細胞(肉腫細胞):一般に遊離散在性。但し筋原性及び神経性肉腫の一部には上皮様の結合(epitheloid
arrangemant)を示すことがある。
<基質>
上皮性悪性腫瘍細胞:粘液その他の物質を分泌することもあるが、一般には少い。
非上皮性悪性腫瘍細胞:類骨物質、軟骨物質、粘液等を多量に産生する肉腫がある。従って細胞と共にこれらの基質がみられることがある。
<核の形態>
上皮性悪性腫瘍細胞:核膜は一般に不規則に肥厚硬化することが多い。クロマチンは一般に粗大で不規則。核小体はその分化度に応じて異る。多核細胞が出現しても、その頻度は多くない。
非上皮性悪性腫瘍細胞:一般に核膜は円滑で薄く、極端な核辺の陥入がみられることあり。クロマチンは微細顆粒状で、その量が著しく多いのが普通。極端に大型な核小体がみられることあり。多核細胞が極端に増加する腫瘍(特に骨原性腫瘍)がある。
:質疑応答:
[翠川]集団としは診断できますが、1コの細胞を取り出して見ると判りませんね。
[堀川]肉腫は肉腫であって癌種に変わらないのは起原の違いがあるからですか。
[山田]肉腫とか癌とかいうのは、人間が造った約束事なので、それを反古にされると学問は成り立たなくなります。
[勝田]細胞診で診断がついたものを培養すると像がくずれますか。
[山田]培養すると判りにくくなることがありますね。
[吉田]分化した細胞は癌化しないと考えてよいのでしょうか。
[山田]概念的にはそうなっていますが、筋道を追った明確な仕事はありません。
[吉田]培養して増えてくるものは皆未分化なのですか。
[翠川]ずっとそう思われて来ましたが、リンパ球が幼若化して分裂するという現象が見つけられて驚異だったわけです。
[山田]そうですね。我々の心胆を寒からしめましたね。
《吉田報告》
現在、遺伝学研究所で維持されている実験動物についての説明。
:質疑応答:
[難波]野生ネズミではC型ウィルスに感染しているものが75%あるというデータがありますが、その点は大丈夫ですか。
[吉田]野生のものにどれ位どんな微生物がいるのかは調べてありませんが、野生のものは純系動物から完全に隔離して飼育しています。
[勝田]我々が貰う場合は、その点を注意しなくてはなりませんね。
《乾報告》
ニトロソグアニジン誘導体8種の癌原性(V)
昨年後半及び本年の月報No.4、No.5でニトロソグアニジン誘導体の変異誘起性、細胞毒性、染色体切断等について報告した。一般的にこれら誘導体の細胞毒性、変異誘導性は、この一連の化合物においては炭素数の少ないものほど強いことがわかった。
本報告では、MNNG、PNNG、nBNNG、iBNNG、Pent-NNG、HNNG、の6種のN-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine誘導体について染色体切断を観察したので報告する。
ニトロソグアニジン誘導体6種を、0.5〜10μg/ml対数増殖期のハムスター胎児起原細胞に3時間作用後、Hanks液で洗い、正常培地で24時間培養して染色体標本を作製し、観察に供した。
ニトロソグアニジン投与後の細胞の染色体数分布は(図を呈示)、Controlに使用した培養3代目のハムスター細胞では、正常の2倍体の細胞のしめる割合が86.2%と、極めて高かった。MNNG
0.5μg/ml作用群では、正常2倍体細胞は35.1%で、細胞分布も41〜50と広く、4倍体細胞も出現した。PNNG
5μg/ml作用群も同様2倍体細胞の出現は35.3%であった。ニトロソグアニジン誘導体の炭素原子数が増すにつれ細胞分布の幅は狭くなり、HNNGの染色体分布は正常のそれと変らなかった。
薬剤投与後の異常染色体をもつ細胞の出現率は(表を呈示)ニトロソグアニジンの炭素数の増加と共に減少し、HNNG投与群では正常細胞の示す染色体異常細胞の出現頻度と変わらなかった。N-butyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(BNNG)投与群ではn-型、iso-型で異常細胞の出現が著しく異なり、n-BNNG投与群ではPNNG投与群に比して明らかに低かったが、iso-BNNG投与群ではPNNG投与群のそれと同等かむしろ高い値を示した。この結果は、これら2種の物質の変異誘導性の結果とよく一致する。
観察した総染色体について、染色絲切断、染色体切断、転座染色体出現率を中心として、異常染色体の出現率は(表を呈示)、MNNG投与群で1.81%できわめて高く、BNNG投与群で1%以上であった。Pent-NNG、HNNG投与群では0.41%、0.17%で前のグループに比較すると異常染色体の出現率は低かった。染色体異常をisochromatidレベルの異常のみでみると、上記傾向は増々著明になり、MNNGで3.11%、HNNGで0.13%であった。現在迄の予備実験の知見を綜合すると、細胞毒性、変異誘導性、染色体切断能は、ニトロソ化合物においては、側鎖の長さと密接な関連をもつことがわかった。
今後、作用Dosesを数段階とり、これらの事実について更に追求したい。
:質疑応答:
[翠川]使われた細胞は何ですか。
[乾 ]培養2〜3代のハムスター由来の細胞です。
[難波]側鎖の長さと細胞内への取り込み量に関係はありますか。
[乾 ]調べてはいませんが、分子量も殆ど違わないので関係はないと思います。
[翠川]Marker chromosomeがみられますか。
[乾 ]Marker chromosomeはまだみていません。異常はrandomに起こっています。
[吉田]菌でのmutationと、培養細胞のtransformationやchromosome
breakageとの関係はどうなっているのですか。
[乾 ]一般に炭素数が少ないほど、変異性、毒性は強いようです。
[吉田]菌でmutationを起こすのに、培養細胞でtransformationや染色体異常を起こさないものはありますか。
[乾 ]今の所、殆ど平行しています。
[堀川]細胞に対する毒性をcolonyでみた場合は・・・。
[乾 ]染色体異常と平行しています。
[堀川]とすると矢張り取り込み量はきちんとみておくべきですね。
[黒木]変異コロニーと正常コロニーの写真を見せてほしいですね。
[吉田]変異コロニーは全部悪性化していると考えてもよいのですか。
[乾 ]まだそこまでは言えません。
[吉田]動物レベルでの発癌実験はやってありますか。
[山田]発癌物質であるのか、そうでないのかを決める基準はあるのですか。
[乾 ]確立されてはいませんが、例えば菌での変異実験と動物細胞での染色体異常が両方陽性に出れば、まず陽性だとするとか・・・。
[吉田]しかし、カフェイン−アルコールでも染色体異常がでますよ。
[翠川]染色体異常を起こすものは矢張り変異剤でしょうか。
[吉田]しかし、遺伝子レベルの変異で染色体異常にひっかからない場合もあります。
《梅田報告》
今迄に報告されているin vitro transformationの実験系の中で、定量的に判定出来るのはハムスター胎児細胞や、3T3細胞を用いたtransformed
colonyでみる方法と、3T3細胞や10T1/2細胞等を用いたtransformed
fociでみる方法である。これらは線維芽細胞を用いており、いろいろの問題はあるが、発癌性物質のscreeningのような実用面では捨てきれない面がある。もちろんtransformationの基礎的な解析にも重要な手段となり、今迄は主にこの方面での報告がされてきた。われわれもこのうな系を先ず確立しておいていろいろの実用的実験を行うかたわら、その経験が別の新しい定量的transformation実験への確立に展開すると信じて実験を行ってきた。ところが大分長いことこの問題に取り組んできたのにどうも旨く実験が進行しないので、私の方のtechniqueの問題があるかも知れないし、皆様の御批判を仰ぎたく報告することにした。
(I)3T3細胞:角永氏より分与を受けた3T3細胞を使って角永氏の方法、高野先生の方法によりcolonyを作らせてみた。しかしcontrolのcolonyも中心部が盛り上り、mitosisも中心部に認められ、本細胞が接触阻害を受けているとは思われなかった。又細胞接種量を上げて培養しmonolayerを形成させても分裂が続き、簡単にovergrowthの状態となり、transformed
fociを見るに致らなかった。さらにDMBAに対する障害性をみてもかなり高濃度の1μg/mlでPE35%を示し、controlのPE34%と変らなかった。すなわちDMBAに対しinsensitiveであり、本細胞はtransformation実験の目的には使えないと判断せざるを得なかった。
(II)C3H2K細胞:予研の広川さんがC3Hマウス腎より培養して樹立したこの細胞は接触阻害がきき、SV40でtransformされると報告されている。この細胞はcolony
formationでみる限り、DMBAに非常にsensitiveでcontrolは58%のPEを示す時、0.1μg/ml
DMBA処理で約20%のPEを示す。Colony levelでのtransformationははっきりしなかったが、inoculum
sizeを上げ、長期培養してtransformed fociでみる実験ではdense
cell growthのfociが認められた。しかしControlでも小さいながらその傾向が認められたので、すでにmixed
cell populationの可能性が認められた。
そこでcloningを行って数ケのcolonyを拾った。そのうちcloneEとFを現在使用している。ともにfusiformで一様な細胞からなる。この2cloneを使用して予めtoxicityをRPE(relative
plating efficiency)でみた(表を呈示)。
細胞を5,000c/9cm dishに播いた後、AflatoxinB
1.0μg/ml、MNNG 5μg/ml、4NQO 10-7.0乗と10-7.5乗M、N-OH-AAF
2x10-5.0乗Mで2日間処理した。培養5週間後に固定染色してみた所、はっきりとしたtransformed
colonyが4NQO 10-7.5乗M処理群に1ケ認められた。その他のdishでは盛り上った様なところはあっても、はっきりとしたtransformed
fociと云えなかった。
これは本細胞のtransformation rateが低い為とも解釈されるのでこの点を補う目的で以下の実験を行った。Inoculum
sizeを上げ5万個c/5cm dishとして、4NQO 10-7.0乗M、10-7.5乗M処理を2日毎に3回行い、その後2%Calf
serumにして(普通は10%CS)培養を続けた。現在培養25日を経過して生の細胞観察のみ可能であるが、処理群は細胞の配列に乱れは生じてくるが、今の所、transformed
fociの出現は観察されない。
(III)Donryuの胎児細胞を別の目的で培養継代しているうちに非常にconstantに増生していることに気付いた。しかも一部に細胞配列の乱れみたいな所が観察されるが、一応contact
inhibitされているようなのでこれもtransformed
fociを形成するかどうか発癌剤処理の実験を行ってみた。これは現在20日を過ぎた所で更に培養を続ける計画であるが生の観察ではtransformed
fociの出現をみるに致らない。一方で一応cloningを行ってcontact
inhibitされる細胞のみを得るべく継代している。
(IV)培養数代目のマウス胎児培養細胞:以上の実験が思わしくないこともあり、自分で3T3細胞を樹立する計画を立てた。DDDを使うことにして培養を始め、現在9代目で、これから培養が難かしくなる所である。
それはともかくとして、継代に余ったdishを数回培地交新して培養を続けた所、細胞がかなりおとなしい形態を保ちながら増生を続けていることがわかった。一部に2%Calf
serumにおとして培養を続けると、これは全くcontact
inhibitされる。そこでcell lineにならない以前でも培養の初期にtransformed
foci形成の実験に使用出来ないかと重い実験はstartした。ところが本細胞はinoculumを下げると(1万個cells/dish)、細胞増生が充分でなく、なかなかcell
sheet形成にいたらない。目下5万個c/dishのinoculumとして追試をstartした所である。
(V)培養数代目のハムスター胎児培養細胞:マウス胎児細胞と同様、ハムスター胎児細胞でも3T3継代でCell
lineが得られないかどうか試みる実験をstartした。本細胞でも継代で余ったdishの培養を続けてみたが、10%FCSで培地交新を続けると培養4週間後には細胞は全くmultilayerとなり、spindle-shaped
cellが悪性細胞形態像と区別つかなくなる。2%FCSで培地交新を行うと、培養4wでも綺麗なcell
sheetのまま止まっていることが認められた。
培養3代目の細胞を使って1万個c/dish inoculumで実験をStartし、DMBA、4NQOで処理した所、細胞の配列の乱れは認められるがtransformed
fociとしては今の所認められない。そこで培養7代目の細胞で同じような実験をrepeatした所、今回は培養1週間目の観察で既にcontrolにも悪性とおぼしき配列の乱れた細胞増殖巣が数多く認められた。
ハムスター胎児細胞が非常に特異的なものであることがわかった。
:質疑応答:
[黒木]3T3を使った実験では、高野氏も角永氏もきれいなデータを出しているのですが、誰も追試が出来ないのですね。
[堀川]追試出来ないというのはどういうことですか。
[黒木]3T3の場合接触阻害がかかる状態に細胞を維持することが難しいのです。
[佐藤]角永氏も始終cloningして使っているようです。
[山田]3T3という細胞は細胞電気泳動法でみると、癌細胞以上に荷電密度が高いのです。それが動物にtakeされないというのは不思議なようですね。
[吉田]形態的変異コロニーの典型的なものとはどういうのか見せて欲しいですね。
[黒木]所謂criss-crossは継代すると消えてしまう事が多いですね。Denseになるのが信頼できる変化だと思います。
[乾 ]Feeder layerに少数細胞をまいてcolony形態で判定するのがよいと思います。
[堀川]梅田さんの実験での確かな変異colonyというdenseなものの写真はありますか。
[梅田]残念なことに容器の縁でどうしても写真に撮ることが出来ませんでした。
[翠川]癌か正常かという事の形態的判断は、病理では主観で判定していますね。今討議されているcolony形態の変異についても、申し合わせで決めてもよいのでは・・・。
[勝田]しかし、どの形態のcolonyが悪性化したものか決めるには、それぞれのcolonyを復元実験で確認しておかなくてはなりません。
《野瀬報告》
ラッテ腎Alkaline phosphataseに対する抗血清
ALP-I活性の上昇が酵素蛋白のde novo合成を伴なうか、どうかを決定するため抗血清を作ることを試みた。抗原として用いたALPはラッテ腎から部分精製したALP-Iである。この標品はdisc
gel電気泳動で若干不純蛋白を含んでいる。(免疫方法の図を呈示)この抗血清はOuchterlony法で腎ALP-Iとは沈降線を作った。
ラッテ各種臓器をブタノール処理して得たextractのALP-Iに対する抗血清の中和活性は(表を呈示)腎、脾臓のALP-I活性は中和されるが、肝、小腸の活性はほとんど中和しない。But2cAMPで誘導されたALP-Iもやはり全く中和されなかった。
従って腎から精製したALP-Iは、小腸やJTC-25・P5などに存在するALP-Iとは異なる蛋白であると考えられる。
:質疑応答:
[佐藤]大量の細胞が必要な実験には、腹水肝癌のようなものを使えばよいでしょう。
[野瀬]私は今まで使ってきた細胞で片を付けるつもりです。どうやら、この仕事もやっと癌と関係が出来て来るようです。
《藤井報告》
in vitro感作リンパ球の標的癌細胞破壊作用:
ラット、マウス、ヒトの末梢血あるいは脾リンパ様細胞と、同系あるいは自家腫瘍細胞(Co60照射)を混合培養すると、培養6〜7日をピークとして、刺激されたリンパ様細胞のH3TdRのとり込みの著明な上昇がみられる。このリンパ様細胞−腫瘍細胞混合培養反応(MLTR)については何回か記してきました。in
vitroで腫瘍細胞により刺激されたリンパ様細胞−幼若化反応をおこしたリンパ様細胞が、どんな機能をもつか、単的に云えば免疫学的に感作されたリンパ球になるのかどうかは重要な問題である。同種移植実験では、in
vitro感作リンパ球の標的細胞破壊能が報告されており、腫瘍でも2〜3そのようなペーパーがみられる。
今回は今までに報告した分と重複もあるが、Culb-TC細胞でおこなったin
vitro感作リンパ様細胞の標的癌細胞破壊について述べてみます。
1.JAR-1ラットの脾リンパ様細胞と、同系Culb-TC細胞(8,000R)とを5:1の比で混合培養し、5日目に細胞を採取、1回遠心洗滌操作をおこなって後、リンパ球細胞10万個と、あらかじめI125-Iododeoxyuridine(I125-IDU)で標識しておいたCulb-TC細胞、1万個を混合し、培養する。このような混合培養を、10、20、32時間おき、2回遠心洗滌して、残った未破壊Culb-TC細胞の放射能をはかり、対照より、Culb-TC細胞の溶解率を求めた。(図を呈示)非感作リンパ球の標的細胞破壊に比して、明らかに、時間的経過を追って上昇する細胞破壊能を示しています。
2.(表を呈示)C57BLマウスの腫瘍FA/C/2(Friend's
virus導入のerythroblastome)と、Culb-TCおよびヒト肺癌培養細胞についておこなったin
vitro刺激リンパ様細胞の標的破壊能を示しました。FA/C/2とCulb-TC腫瘍は同系動物脾リンパ様細胞でヒト肺癌細胞では、自家末梢リンパ様細胞によるものです。Culb-TC(8,000R)で、in
vitro刺激された同系リンパ様細胞は同系の肺細胞悪性化細胞(RLG-1)(医科研癌細胞)に対しては、破壊作用はないとは云えないがずっと低くなります。すなわち、このリンパ様細胞の細胞破壊作用には選択性があるようです。(これだけでは云えませんが)
3.(図を呈示)in vitroで刺激されたJAR-1ラット脾リンパ様細胞600万個(5日間混合培養)と、Culb-TC細胞30万個を混ぜ、JAR-1ラット皮下に接種、6日後、接種部位に、同様にin
vitro刺激された脾リンパ様細胞800万個を注射して、腫瘍の増殖に対する影響をしらべた成績は、in
vitroで刺激されたリンパ様細胞はCulb-TCだけ接種した群(3匹)、非感作リンパ様細胞で処理された群(3匹)よりも明らかに腫瘍の増殖を抑制しております。
これらから、MLTRで幼若化したリンパ様細胞は標的細胞破壊能を獲得したeffector
lymphocyteになることが云えると思います。
このようなin vitro感作リンパ球を、がんの免疫治療に応用しうるかどうかを、しきりに考えていますが、その効果の限界、リンパ球の供給、さらに効率よくリンパ球感作をすることなど難問があります。
《黒木報告》
<10T1/2細胞のChemical transformation>
HeidelbergerのLab.で樹立された、contact
inhibitionに感受性の細胞10T1/2を用いてchemical
transformationをすすめている。5,000ケ/60mm/4mlにまき翌日DMSOに溶かした発癌剤を20μlマイクロピペットで添加、48時間後に培地交換、以後週2回の培地交換をつづけ、7週後に固定染色した。(写真を呈示)写真にみるようなdenseなfucusがみられた。
focusはReznikoff et al,Cancer Res.32 3239.1973に従って、以下のように分類した。I:tightly
packed cells,not scored as malignant transformation。II:a
focus showing massive piling up into virtually
opaque multilayers。III:a focus composed
of highly polar,fibroblastic,multilayered
criss-crossed arrays of densely stained cells.。(表を呈示)II型、III型のfocusの細胞はsaturation
densityが著明に増加している。コロニー形成率も高いがagar
plate上では、コロニーを作らない。reconstruction
experim.として、confluentの10T1/2の上に、細胞をまいたが、II型はコロニーを作らず、III型が1%にコロニーを形成した。現在移植(200万SC)実験中。
(表を呈示)MCA、DMBA、BP、6OHBP、4NQO、4HAQOによるtransformationを示す。この細胞はhydrocarbonsで高い頻度にtransformationするが4NQO、4HAQOでは比較的transformationが少い。6OHBPのpossible
proximate corcinogenであるが用いたdoseではBPよりも低かった。
問題は、DMSO処理群にも1および6ケ/10dishにspontaneous
transformationのみられたことである。現在、cloningによってspontaneous
tr.のないcloneの分離を試みている。
:質疑応答:
[高木]Colony formation on cell sheetというのはどういうことですか。
[黒木]変異前の細胞がfull sheetになった上に変異細胞の浮遊液をまきます。変異細胞がcontact
inhibitionを失っていればコロニーを作るはずです。
[高木]Contact inhibitionがないというのは、どういうcriteriaなのでしょうか。
[黒木]Saturation densityだけでみています。
[吉田]10T1/2は培養を始めてからどの位たっているのですか。
[黒木]1971年8月に開始しています。もとの動物のC3Hに復元してtakeされません。
[吉田]染色体は・・・。
[黒木]染色体数は70本位です。
[吉田]DMSOだけでも変異コロニーが出るのですね。
[乾 ]DMSOを入れなければ出ませんか。
[黒木]DMSOを入れなくても出ます。もう一歩で悪性という危ないバランスの上にある細胞を使っている訳です。復元実験も細胞が正常のの方へ僅かにでも寄っていればtakeされないようです。
[吉田]マウスで染色体70本というのはhypotetraploidで、transformationの一歩手前のようです。マウスは染色体の変異は見難いですね。
【勝田班月報・7409】
《勝田報告》
§新しい合成培地DM-153:
この組成についてはNo.7405の月報にかいたが、その後色々な細胞についてcheckを続けている。細胞の種類によっては、DM-120、-145、-153何れでも略同程度に増殖するものもあるが、RLC-10(2)のように、はっきり差のつく株もあった。(図を呈示)この図でMEMよりDM-145の法が落ちているのはビタミン量、グルタミン量などが大いに影響していると思われる。
《高木報告》
CytochalasinBの培養細胞に対する効果:
前報につづきCCBのRFL-5細胞に対する効果を観察するため、TD-40に100万個細胞を植込み後1日目の培養にCCB
1、2.5、5μg/mlを作用せしめ、作用後1日、2日の細胞数、総核数、総蛋白量およびDNA量を測定して蛋白あたりのDNA量、細胞あたりのDNA量および核あたりのDNA量を測定した(表を呈示)。
すなわち以上の結果からみれば、蛋白あたりのDNA量は0.63〜0.89=0.76≒20%、細胞あたりのDNA量は1日目では+20%〜60%であるが、2日目では+0%、平均核数は1日目で+50%以上、2日目では+200%以上、核あたりのDNAは-23%〜+12%であったが、2日目では-64%以下を示した。2日処理後においては多核細胞の1核あたりのDNA量は無処理対照より著明に減少している。2日目の細胞あたりのDNA量がほぼ一定であることは、多核細胞の形成があるにかかわらずDNAの合成は伴っていないことを意味するものとも考えられる。
なお追加検討中である。
《山田報告》
既報のごとくin vitro carcinogenesisの研究のために、改めて数種のラット肝(胎児、新生児、成熟)から正常肝細胞培養株を樹立しましたが、これを栃木の田舎へ持って来た所、さっぱり増えて来ません。或いはメヂウムが不適当なのか、観察が不充分で適切なメヂウムがえをしなかったのか現在検索中です。なんとか早く増やして実験を再び開始したいと考えています。
そこで今回は、これまで、その一部を報告しましたラット胸腺リンパ球表面における抗血清とConcanavalinAの反応の相互干渉についての成績を、最近のデータを含めてまとめてみたいと思います。
ConAと抗体との膜における相互干渉:
異種抗体(ラット→兎、恐らくは同種或いは同系抗体も同じと思います)のreceptorとConAのreceptorが、胸腺リンパ球表面において同じ或いは近い位置の表面糖鎖に存在し、それぞれの反応が相互に干渉しあう可能性を示す所見です。
(図を呈示)図1は種々の濃度のConA処理により、胸腺リンパ球の電気泳動度は著明な二層性を示さないが、0.001%の薄いトリプシン処理により、また10unitsのノイラミニダーゼ(NANAase)処理することにより、二次的にConAを加えると著明な電気泳動度の二層性変化を示す様になると云う所見です。
図2、種々の濃度の異種抗血清に対する胸腺リンパ球の反応は、低濃度のConAによりその電気泳動度が増加すると云う所見です。これに、あらかじめ0.001%のトリプシン前処理しておくと明らかに電気泳動度の二層性の変化を示す。(この反応は癌細胞の様な上皮性細胞ではみられません。)
即ち、ConAも抗血清も膜の荷電に与える影響に類似な点があると思われます。
図3は0.001%のトリプシン処理をした胸腺リンパ球に、まず一定濃度のConA(2.5μg/ml、25μg/ml)処理し、最後に各種濃度の抗血清を加えてその電気泳動度の変化をみたものです。ConA前処理により抗血清の反応より低濃度の抗血清ににより強く反応し、泳動度の低下を来たす濃度もより薄い濃度の抗血清で起って(反応が強く発現される)来ることを示すものです。但し薄い濃度の抗血清による泳動度の増加率はそれ程に強調されません。
図4は、あらかじめ薄い濃度の抗血清(1/100〜1/200)の前処理後各種濃度のConAを加えると、その泳動度の増加がより薄いConAで起こり、その増加率が著しく高まることを示すものです。
この所見についての解釈は必ずしも容易ではないが、最近発表されたSinger
& Nicolson等の膜の流動性説から理解すると、どうやらConAの反応も抗体の反応も、その反応の始まりにおける膜の変化が共通であり、相互に干渉しあうと考えられます。なほいくつかの免疫反応を加えてまとめてみたいと考えています。昨年、報告したinsulin、glucagon、cAMP等の反応にも類似な現象があり、これらの現象を一元的に解釈出来ないかと考えています。今後の発展が期待できる様に思っています。
《梅田報告》
組織培養を行っていると出るデータはすべて動物実験のデータと平行するので、微量でしかも手早く行える培養法が有益であると強調したくなる。勿論平行しなくてもそれ相応の理由があり、却ってその理由を見出すことが作用機作を解明する手助けになることもあるようで、それ程神経質にならなくても良さそうであるが。この平行しなかった例を御報告します。
(1)AflatoxinB1は、Aspergillus flavus等により産生される有名な発癌性カビ毒ですが、より毒性が低いが、構造上非常に良く似ている発癌性カビ毒にSterigmatocystinがあります。これは、Asp.nidulans、Asp.versicolor、Bipolaris
sp.より産生されると云われていますが、この中でAsp.versicolorは米等に産生しているので、日本では食品衛生学的にAflatoxinB1よりも重要視されています。
急性毒性はAflatoxinB1はrat経口でLD50 7.2mg/ml(♂)、SterigmatocystinはP.O.LD50
166mg/kg(♂)です。
(2)(図を呈示)この物質をHeLa細胞に投与すると、図の如く殆同じような毒性を示します。2つ共非常に強い染色体の変化を示します。gap、break、translocation数を調べると表の如くで1つでも異常染色体を持ったmetaphase像の%をみると次表の如くになります。(表を呈示)ややSterigmatocystinの方が強く障害を与えている感じを与えます。
(3)肝(ラット)の初代培養に投与して増生してくる細胞の障害像をみると、この場合はAflatoxinB1の方が障害されているようです。
以上、非常に興味があるのですが、この差の理由は今後の研究課題と考えています。
《野瀬報告》
細胞融合法によるALP-活性調節の解析
前にCHO-K1細胞から、ALP-I活性の高い亜株を分離したことを報告した。活性を持たない細胞が活性を持つようになる機構として、(1)"nonsense"structural
geneがmutationによって"sense"となる。(2)repressor
geneの失活。(3)operator geneの変異によりrepressor-resistantとなる。(4)positive
vegulatorの活性化、の4つが一応考えられる。これらの可能性をある程度checkする手技としてcell
fusionによる解析が有効と思われた。
実験に用いた株は、高ALP-活性株としてAL-431-10G、無活性株としてFM3A
AGr5であり、前者はPro要求性、8AG-感受性で、後者はPro非要求、8AG-耐性である。それぞれの細胞を、500万個ずつとって混ぜ、1mlのpH
8.0のMEM(UV-不活化Sendai Virus 1000HAU/ml含有)にsuspendする。これを0℃・15min.、37 ℃・30min.処理してからシャーレにまき、一日後に選択培地に換えた。選択培地としては、MEM+可欠アミノ酸-Proline+5%dyalyzedFCS+HAT(hypoxanthine+aminopterine+thymidine)を用いた。約2週間後に、生き残っている細胞をcolonial
cloneとして3個分離し以下の実験を行なった。
CHO-K1由来のAL-431-10Gの染色体は、Mode numberが20で、そのうちMetacentricが8、Sub-centricは10であり、FM3A
AGr5はmodeが42でMeta 5、Submeta 0である。ここで得られた、hybrid
cellsの平均染色体数は表に示した(表を呈示)。
これらのhybrid cellはscolonial cloneのためか、染色体数のばらつきが非常に大きい。しかし、平均として大体の傾向を見ると、hybridの89-C1はChinese
hamster 2+Mouse 3のfusionからいくつか染色体がdeleteしたもの。89-C2は1+2、23-C1は1+2から数本deleteしたものと考えられる。
ALP-I活性を見ると、23-C1はFM3Aと同じくほとんど検出できず、89-C1、89-C2は有意な活性が検出された。比活性が低いのは染色体数が多く、合成タンパク量/細胞が多いためALP-I活性が稀釋されているのであろう。23-C1で活性がないのは、AL-431-10Gの染色体(恐らくALP-1のStructural
jeneを持つ)が、何本かdeleteしたためと考えられる。これらの結果から、初めの可能性のうち、少なくとも(2)は否定出来ると考えられる。
《黒木報告》
§AF-2及びニトロフラゾンの10T1/2への毒性§
AF-2などニトロフラン系化合物のtransformabilityをテストするための第一段階として10T1/2を用いて毒性をテストした。
細胞:10T1/2 P12、200/160mm dish。
物質:DMSOに溶解後、DMSO final 0.5%に加えた。2日後med.change、以後10日間培養。
(図を呈示)図にみるように、AF-2はnitrofurazoneよりも、毒性である。
2週間後のコロニーの形態からtransformationは判定できなかった。
《乾報告》
生物体自身に投与した場合に、生物体に強い毒性および発癌性を有するが、これを試験管内で直接細胞に投与すると細胞になんら影響を与えない物質が存在する。これらの物質はおそらく体内で代謝されての代謝産物が活性化癌原性物質として作用し、培養細胞ではこの代謝系が欠除している故、毒性、発癌性が示されないと考えられる。
一つは環境変異原、Carcinogenを適確に且つ迅速にスクリーニングする目的と突然変異と細胞癌化の関係を解析する目的で、種々の化学物質を動物体内で代謝させ、これを直接細胞に作用させる一連の仕事の一つとして、DiPaulo等のIn
vito-In vitroの実験の追試を強い癌原性がin
vivo、in vitro、transplacentaで知られている4NQOを使用しておこなった。
Esterial Cycleの中期の雌ハムスターに一夜だけ雄をmateし、翌朝Spermを確認したものについて、(図を呈示)図の如くmate後11日目に、あらかじめDMSOに10mg/mlに溶解した4NQOを20mg/kgの割合で腹腔内注射した。注射後、48時間目に胎児をとり出し、胎児一匹毎に、0.25%トリプシンで消化後、Dulbecco's
MEM+20%仔牛血清培地、5%炭酸ガス存在下で培養を開始した。(通常胎児5匹、内2匹は培養24時間で染色体標本を作製した。また培養当初から5T5系式の細胞を樹立するつもりで10万個/TD-15播種し、5日目毎にSubcultureを行ったが、Culture
2代目で培養に失敗した)。培養開始後5日目に一部細胞を1万個/シャーレの割合でシャーレ10枚播種し、他の1部を継代培養し(5万個cell/ml)、残りを形態観察用にフラスキットにまき順に固定した。シャーレは、培養を続け顕微鏡下でColony形成が明らかに認められた。播種後9日目に固定染色した。フラスキットによる形態観察で、初代培養細胞に4NQOを直接投与したと同様な細胞毒性が表れたが、著明ではない。
(表を呈示)シャーレに播種した細胞のP.E.およびTransformed
rateは表の如くで、培養開始後14日で変異コロニーが発現した。2代目に出現したコロニーは3・4・・・と、同程度に出現した。他の化学物質、対照のDMSO注射群の結果、染色体切断の結果、変異コロニーの写真は次回御報告する。
《堀川報告》
当教室で確立したコルセミド−採集法を用いることにより、HeLaS3細胞から得た同調細胞集団の細胞周期を通じてのX線に対する感受性の違い、ならびにX線照射による誘発突然変異率の違いを調べた結果について報告する。
(図を呈示)図1に示すように細胞周期の各期の細胞に400Rづつ照射した際のコロニー形成能でみた感受性曲線は、これまで報告してきたようにM期とlate
G1〜early S期の細胞が最も高感受性であるという、いわゆる2相性の曲線が得られている。
一方、同調培養された各期の細胞に400RつづのX線を照射し、その後72時間のfixation
and expression timeをおいたのち、10万個づつの細胞を、15μg/ml
8-azaguanineを含くむ培養液10mlづつを加えた90mmシャーレに入れて約2週間培養し、シャーレ当りに出現するコロニー数を基にして、10万個生存細胞当りの8-azaguanine抵抗性細胞の出現率を調べた結果を同じく図1に示した。
これらの図からわかるように8-azaguanine抵抗性細胞は、late
G1〜early S期の細胞をX線照射した時に最も高率に誘発されるようである。勿論、ふらつきが相当大きいので最終的な結論を導びき出すには今後の実験にまたなければならない。ともあれ、こうした結果はγ線照射によりチャイニーズハムスター細胞に誘発される8-azaguanine抵抗性細胞はG2期の細胞を照射した時に、最も高率にinduceされるというArlett
and Potter(1971)の実験結果と大きく相反しているが、一方、マウスC3H/10T1/2
CL18細胞を、N-methyl-N-nitro-N-nitrosoguanidineで処理した際、G1-S
boundaryの細胞が最もmalignant transformation
frequency(コロニーのmorphological classificationで判定している)が、高そうだとするBertram
and Heidelberger(1974)の結果とある程度類似している。
しかし、本実験で得たlate G1〜early S期の細胞が何故X線照射による誘発突然変異率が高いのか、そして、これはMNNGとかX線特有の現象なのかといった疑問が生じてくるが、こういった問題に対するはっきりした回答は、今後UV照射とか4-NQO
or 4-HAQO処理による細胞周期を通じてのinduced
mutation frequencyが明らかになるまで待たなければならない。
【勝田班月報:7410:ALP活性と腫瘍性】
《勝田報告》
ラッテ肝癌細胞の復元接種試験の諸問題:
TC内の発癌実験で、発癌剤で処理後、ある日数が経たないと動物に復元しても腫瘍死させないということに、二つの原因が考えられる。1)腫瘍細胞自身の癌化が未だ不十分
2)細胞集団中での腫瘍細胞の%が低いので、接種したとき、非腫瘍性細胞の抗原が宿主の拒絶反応を促進するのではないか。この二つである。
今回はこの後者の可能性を確かめようとしたのであるが、結果的にはまだデータが不足ではっきり物を云えないのと、もう一つ新しい要因が大きくクローズアップしてきた。それは接種する動物のageによって結果がまるで変る、ということである。(表を呈示)RLC-10(2)株はTC内で自然癌化した株であるが、日齢7日以下のラッテへ復元すると、高率にtakeされるが、22日以後のラッテでは全くtakeされない。CulbTCはRLC-10原株をTC内で4NQO処理し、それをラッテに復元接種してできた肝癌の再培養株である。CulbTCをさらにラッテで7代継代した後の再培養がCulbTC/R/TCである。(図を呈示)動物をpassageする回数が増えるほど腫瘍細胞の悪性度が高くなる(動物の延命日数が短縮する)。
混合復元接種試験:
(図を呈示)肝癌細胞とRLC-10(2)とを混合してラッテに復元したときの成績では、生後14日のラッテにI.P.でいれたが、この位のageのラッテでは1匹に0.2mlしか入れられず、その上接種後にもれてきたりするので、成績がバラついたものと思われる。離乳時(21日)以後のラッテでは1匹に1mlは入れられ、皮膚も丈夫になるので漏れることも少なく、成績は揃ってくる。生後22日のラッテではCulb-TC/R/TCの単独もRLC-10(2)との混合も、全部接種19日後に腫瘍死した。つまり混合による影響は全く見られなかったことになる。
(図を呈示)生後31日のラッテでは、CulbTC/R/TC単独では8日、RLC-10(2)との混合では10日と、混合によるDelayが見られた。
これらの結果から、今後は離乳期前後のところをもう少しこまかくとってしらべてみる必要があると思われる。
観察期間は100〜120日間もみれば充分と思われる。接種後ずっと症状を示さずに生きていて、1年位たってからぽこりと腫瘍が出来るなどと云うのは、むしろ別の原因を考えるべきだとも思われる。
また一方において、離乳以前の動物にできた腫瘍は本当に腫瘍と考えて良いのかどうか、これもまた一考を要する問題であろう。新生児では非腫瘍細胞でもtakeされてしまう可能性がある。
:質疑応答:
[堀川]RLC-10(2)を混合して復元すると、CulbTC復元ラットの死亡時がやや遅れるのは、どう考えておられますか。Dilutionでしょうか。
[勝田]宿主の免疫力をstimulateするのでしょうか。
[山田]接種した細胞が生体内で壊されて抗原となり得ますね。
[高岡]生後24時間以内(新生児)と24時間以後の動物との免疫的な違いは判っているようですが、離乳期までの動物と離乳後のものとの免疫能の違いについてはどうでしょうか。
[吉田]よく判っていませんね。発癌実験では年齢は重要な問題です。AF-2を与えた動物のchromosome
breakageなども50〜100gのラッテではbreakageが出るが、300gのラッテでは全く出ないというデータを持っています。
[山田]細胞接種後、短期間で死亡する実験では死因を確かめておく必要があります。
[高岡]死亡したラッテは全部解剖して、癌細胞を含む出血性の腹水が溜まっていることを確認しています。
《黒木報告》
<10T1/2クローンのMCAによるTransformation>
HeidelbergerのLab.から送られてきた10T1/2のclone8を用いて、transformationを行ったが、そのとき、DMSO処理のcontrolにもtransformed
fociが出現した。Spontaneous transf.のない細胞を分離するため、11代の細胞から、microplate法で9ケのcloneを分離し、それぞれのMCA
10μg/mlによるtransformationを調べた。方法は、5,000ケ/4.0ml/60mmにまいた翌日、20μlのDMSOあるいはMCA
200μg/ml soln.を加え、2日後、培地交換以後週2回の培地交換を行い5週間培養した。
(表を呈示)foci出現数はクローン間で大きな差があり、clone4でもっとも高かった。いずれのクローンでもspontaneous
transf.はみられなかったが、clone3は非常にdenseであった。しかし、非常に残念なことに、これらのクローンは凍結保存に失敗し、切れてしまった。何故凍結に失敗したかはよく分らない。他のクローンは目下テスト中、現在、新たにcloningが進行中である(顕微鏡写真を呈示)。
:質疑応答:
[吉田]Cloneの選び方は・・・。
[黒木]Randamです。一応saturation densityの高さを目安にしていますが。
[吉田]染色体は調べてありますか。
[黒木]何も調べないうちに凍結に失敗して、これらのcloneは切れてしまいました。
[吉田]最近私の研究室で動物レベルのウィルス感染によるらしい染色体異常が出ています。ウィルスにも気をつけねばなりませんね。
《野瀬報告》
ALkaline phosphatase活性と腫瘍性について
先にCHO-K1細胞からalkaline phosphatase(ALP)活性の高いcloneを分離したことを報告した。ALP活性が低い細胞は腫瘍性が高く、活性が高いと腫瘍性が低いという報告もあるので(J.Cell
Physiol.83,27,1974)、単離した各クローンの腫瘍性を比較してみた。腫瘍性の検定は東大病理の榊原耕子先生にお願いし、抗リンパ球血清を注射したSyrian
Hamsterのcheekpouchに細胞を接種することによって行った。
結果は、原株CHO-K1はcheek pouch内で盛んに増殖し、やがて約3cmの腫瘤を作り、5週間で動物は腫瘍死した。肝、肺、脾などに転移も見られた。それに対しALP-活性の高いクローンを3種同様な条件下で接種しても3週間後に腫瘤は退縮し、転移も認められなかった。ALP活性の高い細胞から、活性のほとんどないクローンを拾うと、腫瘍性は原株CHO-K1と同程度であった。
これらの結果から、ALP-I活性と腫瘍性との間には、この細胞系に限れば相関性が存在すると言える。ALP-活性のないクローンをcheek
pouchに接種して5週間後の組織像と、肝転移の像を呈示する。
:質疑応答:
[乾 ]Cheek pouchの中で増えたもののALP活性はどうですか。
[野瀬]調べてありません。
[梅田]分化したものは本当に吸収されてしまうのですか。
[野瀬]これから調べてみます。
[翠川]分化したかに見える細胞、あれは環境が悪くなって消えかけて形態が変わったのか、分化して形態が変わってtakeされなくなったのか、どちらが原因でしょうか。
[黒木]私もハムスターの胎児細胞を4NQOで処理したものを復元したら、軟骨が出来た例をもっています。
[吉田]黒木さんのは全胎児ですから元々軟骨細胞が混じっていたとも考えられます。
[勝田]一つの酵素活性が腫瘍性を左右するということは、大変重要な事だと思いますから、もっと多角的に確かめなくては公表すべきではありませんね。
《堀川報告》
私共は現在Chinese hamster hai細胞から分離したCH-haiCl
3細胞(auxotrophs;TdR-)、CH-haiCl 23細胞(prototrophs;Ala-Asn-Pro-Asp-Hyp-Glu-)および8-Azg70γB細胞(8-azgR)を用いて放射線および各種化学物質処理により誘発される前進および復帰突然変異率を調べているが、今回はこれらのうちX線およびUV照射後の前進および復帰の誘発変異率がまとまったのでこれらにつき報告する。
(図を呈示)上記の3種の変異細胞をそれぞれ各種線量のX線およびUVで照射した後、48時間のfixation
and expression timeをおいたのち、prototrophs→auxotrophsへの突然変異率および8-azgR→8-azgSへ、またauxotrophs→prototrophsへの復帰突然変異率を調べた。3種の突然変異検出系において変異の誘発率に大きな違いがあるが、3者のX線とUV照射後のinduced
mutation frequency curvesは同じような傾向を示すことがわかった。誘発率におけるこのような大きな違いが感度(解像力)の違いによるものなのか、あるいは使用するmarkaer
genesの違いによるものかどうかは今後の解析によらなければならない。
:質疑応答:
[吉田]X線の場合変異率が上昇中ですが、更にdoseを上げれば変異率は下がりますか。
[堀川]多分下がるでしょうが、これ以上線量を増すとkillingに働きます。Survivalとmutation
inductionとは違います。
[黒木]Colony形成でみていてcurveが下がってくるのは、mutationを起こした細胞が死にやすいという事でしょうか。
[梅田]毒性に対する変異頻度を表してみないと、その点ははっきりしませんね。
[黒木]8AG 70γ/mlはずい分高い濃度ですね。
[堀川]マウスの細胞はHGPRT活性が低いからか高濃度でないとうまく行かないのです。
《難波報告》
3.4NQOによるヒト胎児肝由来細胞の培養内癌化
(表を呈示)ヒト胎児肝から得た細胞を、4NQOで頻回処理することによって、Exp.2の内、31回処理の系が癌化に成功した。その癌化した細胞をSUSM1としてその染色体の数の変化を月報7408に報告した。即ち染色体の数の変化は、癌化の初期の段階で低2倍体を示し、その後1ケ月半ほどで3n〜4nに亙って巾広い分布を示すようになった。
この癌化した系(SUMI1)と、その対照細胞の培養日数とPopulation
Doubling Lebel(PLD)との関係をみた(図を呈示)。SUMI1は20PDL頃から急に細胞の増殖がよくなったので23PDLで4NQOの処理を中止した。その後細胞増殖は非常に良好だったが、40PDL前後で増殖の低下がみられ、その状態は約3ケ月ほど続きその後又増殖が良くなっている。(60PDL前の第2の増殖低下はアメリカより日本への細胞の運搬の為)
このことは、1)ヒトの細胞の癌化にはいくつかの段階があるかも知れない。あるいは、2)ヒトの細胞の癌化(これはSUMI1で20〜30PDLでおこっていると考えて)とヒトの細胞の株化とは別の機構が働いているのか。などの問題を提起している。なおこのSUMI1は現在も、順調に増殖を続けており(PDL:66)、Agingの現象は全くみられない。その他の(対照群及び4NQO処理群)実験系では癌化に成功しなかった。(表を呈示)
結論
1.ヒト胎児肝由来の細胞を4NQOで処理して癌化させることが出来た。
2.しかし癌化はそれ程容易には起らなかった(これがヒトの発癌の真実かも知れない)。
3.4NQOの処理回数が少なくても、あるいは多くても癌化はおこらなかった。
4.面白いことはExp3群では4NQO、32回、45回、67回処理のものは、細胞の形態変化が著しく、増殖も昂進し、しかもALS-処理動物に移植性を示したが最終的にいずれの細胞もAgingに入り株化には至らなかった。ヒトの細胞の発癌の指標を厳格に1)株化、2)染色体の異数化、3)移植性の3条件を満たすものとすべきかどうか班員各位のご意見を伺いたいと思います。
5.2年間いろいろとヒトの細胞の培養を行なったが自然発癌はみられなかった。
4.ヒト肝臓の器官培養
肝臓としての組織構造と或る程度の細胞の分化機能とを保っている肝細胞を培養してそれを発癌剤で処理する事は興味がある。その一方法としてヒト肝臓の器官培養を試みた。
材料と方法:慢性肝炎の患者(30才、男)より、バイオプシーにて肝組織を入手した。この組織をメスで1〜2立方mmほどの小片に切り、Falconの器官培養用ディッシュを使用し、そのグリッドの上に組織を置いた。培地はMEM+10%FBSで0.8ml/well。液更新は3日目、6日目に行なった。炭酸ガスフラン器(5%炭酸ガス+95%air)使用。
結果:培養前の肝及び培養9日目までの培養肝組織像は班会議でスライドで示す。結論として、培養1日目のものが組織学的に一番元の組織に近く、経時的に組織は変性してゆく。しかし培養9日目の組織中にも肝実質細胞が残在しており、かなり長い期間器官培養で肝組織が生存する可能性がある。
なお、この患者の血清から、オーストラリア抗原が証明されていたが、この培養液3日目及び6日目の中にも同抗原が証明された。しかし現段階ではこの抗原が産生されたものか、組織に存在していたものが放出されたのか決定出来ない。現在、正常肝組織を器官培養し、オーストラリア抗原を処理し、その肝細胞の核内の同抗原の増殖を電顕的に調べ、その増殖を培養組織の機能維持の一指標として肝組織の器官培養法を確立し、発癌実験に使用することを考えている。
:質疑応答:
[勝田]オーストラリア抗原はとても危険ですよ。実験者自身よく気を付けて下さい。
[山田]オーストラリア抗原の一番よい消毒剤はホルマリンです。
[翠川]ウィルス肝炎のものは肝実質細胞の状態が悪いですから、むしろ転移などの手術の時の正常部分を貰う方が培養に適していると思います。
《高木報告》
CytochalasinBの培養細胞に対する効果:
CytochalasinBの培養細胞に対する効果について、糖類の細胞内への取込みをブロックする多くの報告があるが、核酸前駆物質およびアミノ酸のとり込みについては、短時間の実験であまりブロックされないという報告がある。
CytochalasinBによる多核形成がDNAの合成を伴ったものか否かを解明するため、本実験ではH3-TdRのDNAへのとり込みについて検討した。使用したRFL-5およびRFL-6細胞(WKAラット胎児肺に由来し、in
vitroの継代数の少ない増殖のおそい細胞)ともに培養期間を通じてCytochalasinBの濃度、作用時間に応じてH3-TdRのとり込みは著明にブロックされていた。その原因の一つとして糖質の場合と同様に細胞膜における透過性の変化が考慮されねばならない。この点を検討するためTrisine-Earl
buffer内で細胞が全く増殖しない状態で、短時間におけるH3-TdRの細胞内へのとり込みを観察した。実験は次のように行った。
Plastic Petridishに1万個以下の少数細胞をまき、CytochalasinBを1、2.5、5μg/mlの各濃度1、2および3日間作用させてTrisine
Earl bufferで1回洗い、37℃でH3-TdR 2-3μCi/mlを含むbufferで10分間incubateし、終って直ちに0℃のbufferで60秒間に5回洗い細胞内にとり込まれたH3量をcountした。培養期間を通じCytochalasinB作用群では各濃度とも対照に比してとり込みの減少する傾向がみられたが、DNAへのとりの減少ほどは著明でないと考えられる。(実験毎に表を呈示)
また先の月報でも報告したように、netのDNA量もCytochalasinB作用により生じた多核細胞では減少の傾向がみられており、多核細胞の出現は正常のDNA合成を伴った核分裂によるものではないように思われる。さらに検討の予定である。
:質疑応答:
[翠川]CCBの作用についてはどう考えられていますか。
[滝井]TdRの取り込み実験の結果からみて、DNA合成阻害が起きているようです。今までの報告で多いのは糖の取り込みの阻害に関するものです。
[翠川]CCBを作用させた時の附着性は、正常細胞と腫瘍細胞とで違いませんか。
[滝井]全体にCCB処理細胞はトリプシン作用が効きにくくなるようです。
[堀川]取り込み値は何で出してありますか。
[山上]Count数ですが、細胞100コ当たりの数値に概算してあります。
[堀川]DNA合成がなくて分裂しているのですか。
[滝井]映画で追ってみた所では、核分裂は普通に行われるが細胞質の分裂は結局せずに2核になるようです。
[山上]DNA量からみますと多核細胞になったものも、細胞1コ分のDNA量としては1核のものと殆ど同じです。
[堀川]常識的にはDNA合成→分裂ですがね。この方法でハプロイドがとれませんか。
[梅田]核あたりのDNA量は分裂する程、減ってゆくのですね。
[滝井]核は多核になるにつれて確かに小さくなっています。
[勝田]映画でみると、一応染色体形成はあるようですね。
[吉田]Amitosisが起きているのではないのですか。
[梅田]CCBは除いて洗ってしまって、2〜3日培養しておけば、又多核が単核に戻りますから、その時期の染色体がどうなっているか調べる必要がありますね。
[堀川]In vitroでの増殖度との関係はありませんか。それから簡単に腫瘍性と結びつけてよいのか、どうでしょうか。
[高木]今までのデータだけではまだ腫瘍性とは結び付けてはいけないと考えています。増殖度とは関係がなさそうです。
[黒木]同調培養をしてG2に投与するとどうなりますか。
[梅田]G2が伸びるだけです。
[吉田]使った培養株それぞれのプロイディと多核形成度に関係がありそうですね。
《梅田報告》
前回の班会議(月報7408)で定量的試験管内発癌実験の悪銭苦闘の様子を報告した。ともかく株細胞を用いたすべての実験が思わしくなかったので、マウス、ハムスター胎児細胞の3T3継代を始め、その間に余った細胞に、DMBA、4NQO処理実験を行った。全くあてずっぽーに行った実験であったが、はからずも確かにtransformしたと思われるfociが出たようなので報告する。
(I)実験は月報7408に記したものの延長で、生で倒立顕微鏡で観察した限りでは思わしい結果を得ているとは思われず、悲観的な報告をしたのであるが、培養6週目に染色同定したものの中に、1cm径以上にも及ぶdense
focusの出現が認められた。
実験IはDDDマウス胎児細胞培養2代目のものを、1万個cells/6cm
dish接種して1日後DMBA、4NQOを加え、更に2日後コントロール培地で液交新を行い、以後週2x液交新を行って6週間後に固定染色した。
実験IIは同じマウス細胞培養4代目のものを5万個cells/6cm
dishまいて実験Iと同じように処理した。
実験IIIはシリアンハムスター胎児細胞培養3代目のもので1万個cells/6cm
dish接種してこれは培養3週目に止めて了ったものである。
実験IVは実験IIIと同じ細胞の7代目のものを実験IIIと同じように処理し、培養6週目に固定染色した。
之等の実験はpreliminaryと云うこともあり、各群シャーレ2枚でスタートしたもので、途中contaminationを起したものもあり、シャーレ一枚となって了った群もある。
(II)培養開始後、数代目の細胞を用いたこともあり、コントロールのシャーレにも沢山のfocusが肉眼で認められた。これは比較的小さく(径3〜4mm以下)、Giemsa染色では赤紫気味になる。一方発癌剤処理のシャーレは見事なものは1cm径以上にも及ぶ大きなfociでGiemsa染色で青紫となる。顕微鏡で観察すると、形態的悪性度を容易に判定出来そうなものが多いが移行形もあるのでどうしても判定基準を設ける必要が感ぜられた。
<Classification of foci(Reznikoff et al.:Cancer
Res.,33,3239(1973))>
Type I is a focus composed of tightly packed
cells.
Type II is a focus showing massive piling
up into virtually opaque multilayers.The
cells are only noduately polar:thus,criss-crossing
is not pronounced.
Type III is a focus composed of highly polar,fibroblastic,multilayered
criss-crossed arrangs of densely stained
cells.
上の表はReznikoff等が10T1/2細胞でのfocus基準としたものである。われわれの場合、さらにmodificationが必要になってくる。すなわち、コントロールのシャーレに良く現れる赤味がかって染る小さ目のfocusは中心部はすごくpile
upしているが、周辺部の細胞は元気がなく、細胞の周りにはeosinopilic
substrateと云うか、matrixが産生されている、どうみてもおとなしそうなものをどう扱うかである。一応これらをtypeIに入れてみることにした。
(III)以上の判定基準で実験IからIVの判定を行なうと(表を呈示)、やはり典型的なのはfocus
typeIIIのもので、これは誰がみても悪性と云える顕微鏡観察でblueに強く染る細胞質を持った典型的fibroblastic
cellの集りである。TypeIIは移行形が多く判定し難い。特に実験IVのコントロールのものは前回の班会議で生で観察した時「コントロールにも悪性とおぼしき配列の乱れた細胞増殖巣がある」と報告したが、丁度それがtypeIIのfocus2ケであった。顕微鏡観察によるとtypeIIIと異り不整形と云うか、より円形に近い小細胞が集った感じを与える。TypeIIIのfocusが大部分1cm径以上の大型のものであるのに対し、このExp.IVのtypeIIのfocusは夫々4mm、2mm径であった。これが本当に悪性かどうか今後の検索に待たざるを得ない。先にあげたReznikoff等のdataではtypeIIの50%、typeIIIでは85%のfucusからの細胞がbacktransplantationでtumorが出来たとされている。
尚培養3週間で止めた実験IIIでははっきりとした悪性のfocusは認められなかった。この結果からすると3週から6週の間の培養期間の間に細胞増生が旺盛になり、大きなfocus形成が認められると考えられる。
(IV)以上まだ問題点は沢山残っており、これから確立されなければならないのであるが、悪性のfociを得たことは確かなようである。欠点として6週間も培養しなければならないこと、typeI、II
focusがコントロールにも沢山出現すること等であり、又逆に利点も多いと思う。早く方法を確実なものに仕上げたいと思っている。
:質疑応答:
[難波]発癌剤は入れ続けですか。
[梅田]培養開始してから1日後に添加して2日間入れ続けます。この方法は株細胞を使うようにきれいには行きませんが、初代培養ですから動物の系の差なども出てくるかも知れないと期待しています。
[乾 ]正常のcolonyは赤っぽいが悪性化すると青くなるというのは一般的ですか。
[黒木]染め方にもよりますが、そういう傾向はありますね。
《乾報告》
先号で、in vivoのTransplacental carcinogenesisの手法を併用した、in
vivo-in vitro assay systemを紹介し、妊娠動物に4NQOを作用した胎児を摘出培養し、そのTransformationの結果について報告した。
今回は、環境変異原物質として問題視されているフリールクラマイド(AF2)、4NQO、DMN、DABを妊娠11日目のハムスターに20mg/kg腹腔内注射し、48時間後の胎児を培養し、培養開始後24時間の染色体変異、培養2代目の細胞のTransforming
Rate、同細胞を200万個ハムスター・チークパウチに復元移植した結果を報告した。母体に化学物質を投与した胎児の培養細胞の染色体観察の結果(表を呈示)DMSO0.5/Animal4Gapchromatid
exchange typeDMNDAB20mg/kgGap4NQO154NQORingAF223.1TypeGapDMNDAB4NQO2/dish()4NQODABDMNAF271Plating
Efficiency(P.E.)4NQO0.70.8AF22AF224NQO5DMNAF222.245.8DABDMN200/Animal17DAB3/6DMN1/6
【勝田班月報・7411】
《勝田報告》
新しい合成培地DM-153について
すでに報告したように合成培地の新処方DM-153を作った。この処方の特徴はDM-120、DM-145などに比べ、アミノ酸ではamido系のアミノ酸、特にグルタミンの量を3倍にふやしたこと(表1、3)(以下夫々図表を呈示)、ビタミン類の組成をがらりと変えたこと(表1)、bufferedsalt
solutionとして、salineDの処方をやめ、phosphate
bufferから重曹bufferにきりかえ、炭酸ガスフランキでも使えるようにしたことである。Vitaminでは、biotinの量をぐんと増やしてあり、その他のvitaminも測りやすい量に変えてある。
第3表は各アミノ酸をグループ別に分けたもので、DM-120に比べ、DM-153がいかにAmido
groupで多くなっているかが判るであろう。Totalのアミノ酸量にしても相当なものである。 培地の浸透圧はいつも気になるものであるが、試みにOsmometerを使って測ってみると、第4表のように、かなりの差があることが判った。
このようなOsmotic pressureの差がgrowthにどの位影響するかという問題であるが、これはあまり関与していないようである。培養瓶の天井に霧が沢山たまっていることが、よく見られるが、これは液の浸透圧がかなり上昇していることを示している。それでも結構細胞はふえているのだから、強いものだと思わされる。
第1図はラッテ肝細胞RLC-10(2)株について、色々な培地を比較したものである。これは継代には[10%FCS+LD]の培地を使っている。培地は、培養第2日にtest培地にかえ、第9日に培地交新をおこなっている。DM-153は継代用のLDよりはるかに高い増殖率を示した(P<0.01)。EagleのMEMが落ちているのは、non-essential
amino acidsを含んでいない為と思われる。DN-145の劣っているのは、グルタミン量とビオチン量の少ない為であろう。
第2図はラッテ肝由来、なぎさ変異株(JTC-25・P3)、何年間も完全合成培地内で継代してきた株である。やはり第2日にtest
mediumにかえ、第9日に培地交新をした。この株はこのテストのためにDM-120ではなく、とくにDM-145で継代してきた亜株である。結果はDM-153とDM-145との間には全く有意の差がなく(P>0.05)MEMは2週間は細胞増殖を支えられなかった。 第3図はヒト末梢血のリンパ系細胞のprimary
cultureで、初めからtest mediumで培養している。培地交新は第7日にだけ行なっている。比較した培地は、血液細胞の培養によく使われているRPMI-1640で、10%FCSを添加している。これはクエン酸処理による総核数と、エリスロシン染色でかぞえた死細胞の数を減じたものと、両方の数を示してあるが、明らかにRPMI-1640よりもDM-153の方が好成績を示している。
以上のように、DM-153は普通の細胞株(血清を含んだ培地で継代している)にも、完全合成培地継代株にも、初代培養細胞にも好成績をしめしているので、非常に多目的的に使える良い処方であると自負している次第である。
なおDM-153は極東製薬から混合粉剤を発売しはじめた。10l用(塩類なし)4,800円。1l用のもあり、Earleの塩類を混ぜたのもある。詳細は極東製薬・荻 良晴氏宛。
《高木報告》
CytochalasinBに関する仕事はなお進行中で、現在、多核を形成するRFL-5細胞を30万個前後TD40に植込み、24時間後にCytochalasinBの各濃度を作用させて以後1、2、3日目に各々TD40
4本ずつからの細胞を集めてnetのDNA量を測定中であるが月報には間に合わなかった。従って、今回は本年度の計画の1つであった膵ラ氏島細胞の培養につき、suckling
ratのpancreasを用いたmonolayer cultureに関する報告をする。
膵ラ氏島細胞の培養:これまでに試みた方法を表示する(表を呈示)。
表で、EDTD treatmentは0.2mg/ml EDTAを室温で5分間作用させた。またDispase
digestionはDispase 1000pu/mlを37℃20分間magnetic
stirrer使用下に作用させた。
これらの方法を1、2、3、4とすると、4の方法はLanbertらによるもので、これではfibroblastの増殖が早期におこり、培養間もなくislet
cellsがfibroblastに取囲まれてしまう。4mg/mlのcollagenaseでpancreasをdigestし、isolateしたisletをwire
loopで掬い上げて培養したislet culture(1)でも多くの場合培養数日後よりfibroblastの増殖が目立つようになる。Isolateしたisletを多数掬集めて、これをEDTA、引続きDispaseで処理すると、純粋なislet
cellsがえられるが、この方法(2)は手間がかかり収量の少ない欠点がある。これらに対して4mg/mlのCollagenaseでdigestしたあと、isolateしたislet
cellsを掬い上げず、外分泌腺組織のまざったままEDTA、つづいてDispaseで処理して単離した細胞を植込み、14-17時間後に浮游細胞を集めて別のPetri
dishに植込むと(3)、結局はislet cellsと思われるものが生残り、またfibroblastの増殖も比較的少ないことが判った。従って、幼若動物膵から増殖系の細胞をうるにはこの方法でもあり、2、3の方法で現在までFalcon
Petri dishに少なくとも2週間はB細胞と思われるgranulated
cellsを追求することが出来、また培地中にinsulinを証明することが出来た。Fibroblastの増殖を如何にして抑えるか、ということと目的とする細胞の継代法が今後に残された課題である。10年前渡米中にadult
rabbitpancreasより4系統の形態の異った株細胞を分離し、その中の1株はglycogenをたえず合成しており、B細胞である可能性が強いと思われたが、この時に用いた方法は4のLambert法に似たものであった。さらに培養法を検討して、少しでも長くislet
cellsを増殖させうる実験系を追求したい。培養細胞の写真は紙面の関係でまたの機会に供覧したい。
《梅田報告》
FM3A細胞を用いて8AG耐性細胞出現率でみるfoward
mutationの系を使った実験のその後のデータを報告する。
(1)方法はFM3A細胞を各種濃度の試験物質で2日間処理後、耐性細胞を検出するためには20μg/mlの8AG、細胞の生存率をみる為には8AGの入っていないMEM+10%CS+0.5%agarose寒天培地平板上に前者は100万個細胞、後者は100〜200細胞数を接種し、10〜14日間培養後、平板寒天上に出来るコロニー数を算定した。
(2)基礎実験として8AGを入れた寒天平板上に生じたコロニーが、本当に耐性があるかどうか調べた。培養12〜14日で直径5mmに及ぶコロニーが出現する。しかし、非常に小さいコロニーも出現する様でありどの大きさ迄算定すべきであるか迷う。大、中、小のコロニーに分け、その夫々から4つ宛コロニーを拾い、20μg/ml
8AGの入った液体培地で培養した。
大(5〜4mm径)、中(3〜2mm径)のコロニーからの細胞は全部8AG培地中で増生し、継代可能であった。1.5mm以下のものは明らかに微小のものが多く、之等は拾った4クローン全部が8AG培地で継代不能であった。
このことは8AG寒天平板上で耐性の細胞は増殖が可能である故、次第に大きなコロニーを形成するようになるが、8AG感受性細胞も一部は生存し、培養初期の8AGの活性のある間はそのまま、培養が進んで8AGが分解されるかして後、増生を始めるので、そのような細胞が微小コロニーを形成していることが示唆される。
以上のようなわけで耐性コロニー数の算定には充分気をつけることが必要である。因みに細胞の生存をみる方はコントロール平板寒天上のすべてのコロニーを算定することにしている。
(3)FM3A細胞population中にheterogeneityがあるかどうか調べる目的で、コントロールの無処理細胞が寒天平板上に造ったコロニーを3ケ拾って、之等についてsuviving及び、resistantのコロニー出現率を調べ、mutation
frequencyを算出した。
(表を呈示)表に示すごとく、かなりheterogeneityのあることがわかる。
(4)各種myotoxicについて行っているデータは以下の如くである(表を呈示)。
《難波報告》
5.ヒト正常2倍体細胞の発癌実験
ヒト正常2倍体細胞を化学発癌剤(4NQO)の処理し、よって培養内で癌化させる実験に成功したが、しかし科学発癌剤によるヒト細胞の癌化については、我々以外の他の例はまだ報告されていない。
そこで、我々は同じ実験を追試して、化学発癌剤によるヒト細胞の癌化を確認する必要がある。我々は新たに発癌実験を開始したので、この月報では、この実験に使用している細胞の性状について報告する。
◇細胞の性状
細胞は正常な6ケ月目の男の胎児の肝臓及び脳から培養して得た。培養開始は1974-8-28である。この2系の細胞の形態は、繊維芽細胞様であるが、両者には少し違いがある(次回の班会議でスライドをおみせいたします)。
肝由来の細胞のクロモゾームを、培養21日目、3rd
PDLで調べると(表を呈示)、2n(46)にシャープなモードを有し、核型も(図を呈示)図に示したように正常である。
Dexamethason処理(0.1mg/animal two times/w)の2匹のハムスターのCheek
pouchに、5th〜7th PDLの細胞を集め600万個cells/animal移植し、2週間後の剖検で腫瘤の形成を認めなかった。
脳由来の細胞のクロモゾーム、移植性などは現在調べている。
また2系の細胞を4NQOで処理し、発癌実験を続けているが、まだ癌化した細胞を得るに至っていない。
6.ヒト肝臓の器官培養(月報7410に続く)
前回に報告したと同じ実験を繰り返した。その結果は、前回とほぼ同じで、器官培養された肝組織中に肝実質細胞は培養7〜9日目にもまだ生存しており、生存している細胞の核内には明確な核小体も認められる。以上のことから、器官培養された肝組織は1週間はだいたい大丈夫なようなので、近いうちに発癌剤を処理してみたいと考えている。
また、器官培養した肝組織の所見で、glisson氏鞘部の結合組織が肝実質より早く変性に陥っているようで、面白い。
《野瀬報告》
CHO-K1由来変異株のAlkaline Phosphataseの諸性質について
Alkaline Phosphatase(ALPと略)活性のないCHO-K1から、同活性の高いクローンを分離したところ、これらのクローンは原株と較べて腫瘍性が低下していることが示唆された(月報7410)。この定価の一つの原因として、繊維芽細胞が軟骨又は腎細胞へと分化したことが考えられた。mesenchymはin
vivoにおいて、屡々同様の分化をすることが知られている。
ALPは臓器特異性を持ち、各臓器によって酵素的性質が異なるので、分離されたクローンのALP活性の性質を比較することによりどの臓器のALPに類似するか推定できると考えた。
Chinese hamster(♂adult)から小腸、肝、腎臓、大腿骨をとり出し、蒸留水中でhomogenizeし、n-ブタノール抽出したものを、酵素標品としてこれらALPの熱安定性、およびL-homoarg-inineによる活性阻害を比較した。
(夫々図を呈示)図1はassayの際、homoarginineを各種濃度加え、0mMの時の活性を100%として表わしたものである。腎臓、骨のALPは強く阻害されるのに対し、小腸、肝臓のALPはほとんど阻害されない。ALP陽性クローンのALPは、同条件下で強く阻害され、腎、骨のALPと似ている。
次に酵素標品を50℃で加熱し、活性の低下を見たのが図2である。図1の阻害実験と丁度逆に、小腸、肝臓のALPは熱に対し不安定で急速に失活するのに対し、腎臓、骨のALPはほとんど失活しなかった。細胞のALPは熱安定性に関しても腎、骨の酵素と類似している。
以上、2つの実験でendoderm由来の臓器のALPはhomoarginine耐性、熱不安定性であり、mesoderm由来ではその逆という傾向がありそうである。CHO-K1からのクローンはいずれもfibroblastなので骨と由来は共通と考えられ、これらの結果はreasonableである。培養細胞のALPが腎又は骨型なので、骨細胞に分化することは十分予想できることである。また、得られたクローンすべてが同一のALP活性を示したことから、CHO-K1からのALP-陽性細胞は一定の方向性を持っていて、変異のようなrandomな変化ではなさそうである。
《山田報告》
漸くラット正常肝細胞培養株(RLC-20)が増え始めましたので、これを使い各種のプロテアーゼ処理後の表面荷電の変化を追ってみました。膜表面における糖蛋白が肝細胞増殖のinitiatorとしての機能があることは幾つかの論文報告により明らかになって居ますので、まずはプロテアーゼ処理後に膜表面の荷電がどの様に回復して来るかを知ろうと思ったわけです。トリプシンとディスパーゼ(0.001%〜0.25%)を用いた所意外な結果が出ました。トリプシンを用いた結果は多少乱れて居り、その結果の読みはむづかしいのですが、ディスパーゼ処理後10時間目に、明らかに表面荷電密度が増加することを発見しました(図を呈示)。これは表面の蛋白除去後に起った細胞増殖の開始に基くものか、或いは膜の修復過程における変化であるのかわかりません。これから処理後10時間以内における変化を、もう少し細かく追いかけてみたいと思って居ます。そして悪性化に伴うこの荷電の変化がどの様に違ってくるかも知りたいと思って居ります。細胞の増殖と表面荷電の変化を新しい角度から追求する一つの指標が得られさうな気がして居ます。
《乾報告》
先月の班会議でin vivo-in vitro transplacental
assayの結果を、4NQO、DAB、DMN、AF2を作用した細胞の2代目について報告しました。
今月は、その続きでこれらの細胞が4代になりましたので、体内処理、培養後4代目の変異率と、対照としたDMSO注射個体より得た細胞について報告します。
(表を呈示)表でわかる様に、4代目の細胞を播種した場合にも、2代目と同じようにDMN、DAB投与群でTransfomed
Colonyが出現します。その出現率は、DAB投与群ではAF2の場合と同様、代を重ねるにしたがって増しましたが、DMNでは反対に低下しております。DMSO(0.5ml/Animal)投与群5代目の細胞で、10枚のシャーレ中2枚に変異コロニーを観察しました。7代目の細胞を播種したシャーレには、10日間の観察でコロニーが出現したことから、この方法にもまだまだ問題があります。
癌原性物質投与群では、観察は終了しておりませんが、6代目の細胞でコロニー形成があります。
《黒木報告》
10月21日〜26日にFlorence市で行われた第11回国際がん会議に出席し、一昨日(11月5日)帰国したところです。学会参加者は8,000、日本からは350人程出席したのではないかと思います。もっともヨーロッパ屈指の観光地のため、会議に出席した人は約1/3〜1/4位でしょうか。勝田班からは、乾さんと私が参加しましたが、二人とも、非常に真面目に会議に出席したことを、あえてここに記します。
会議の構成は10月21、22日、Florence近くの都市で10に主題に関するconterenceが行われた。われわれに関係あるものとしては、Cell
Biology(Pisa)、Chemical carcinogenesis(Perccgia)があります。私は後者で、化学発がん剤と核酸蛋白質との結合について報告した。(以下プログラムを呈示)
【勝田班月報:7412:経胎盤in vivo-in
vitro化学発癌】
《勝田報告》
§ラッテ肝細胞株の樹立について:
最近、培養技術の進歩によって、ラッテ肝の細胞株が容易に作れるようになってきた。もはや百発百中で作れるので、株を維持する必要がなくなったとも云える。したがって発癌実験にも継代初期の細胞が使えるわけである。
培地は10%Fetal calf serum+DM-153。はじめの頃は10%FCS+F12を用いた。(株一覧表を呈示)各種酵素による分散法はDispersion法は、初代を作るときの方法で、継代にはrubber
cleanerやtrypsinを用いている。
Ratのageを段々と大きくしても増殖できることの判ったのも収穫の一つである。RLC-16などは生後42日のratからの肝である。これは現在もっとageの大きいratからの材料を次々と追ってみているところである。
一つの試みとして、アルギニンを加えない培地での肝細胞の培養も試みている。培地は<10%FCS+F12>であるので、当然血清からのArg.が混在する訳で、今後は透析血清をせめて用いなくてはならない。結果は、RLC-16はこの培地で初めから増殖を示し、現在1.5月継代している。RLC-18は一部の細胞が死滅してしまったが、残りが増殖している。RLC-19は初めから増殖している。RLC-20もやはり、初めから増殖を示している。RLC-21は一部が死滅し、残りが増殖した。一方、古い株であるRLC-10(2)はこの培地ではほとんどが死滅してしまった。(各系の顕微鏡写真を呈示)
これまでの方法では株が実験に使えるまでに半年以上かかったので、その間に色々なcell
selectionが行われていたと考えられるが、たとえば初めからArg(-)のような培地で培養することによって、狙っている細胞だけをとる、ということも可能になるかも知れない。
なお、RLC-22とRLC-23はDENによる発癌実験にすぐに使用中であり、RLC-24は4NQO実験に用いている。RLC-24は目下cloningを試みている。
:質疑応答:
[堀川]ラッテの肝上皮細胞の培養が容易に出来るようになった理由として、培地にラクトアルブミン水解物を使わなくなったからかと云われましたが、ディスパーゼを使用し始めたからとは考えられんせんか。
[高岡]トリプシン消化でも容易に上皮細胞の株がとれているようですから、そうとは言えないと思います。それから、ラクトアルブミン水解物の培地では、株化の率は低いのですが、株化したものは皆同じような形態でした。
[乾 ]培地中のグルコース濃度によってPAS染色の成績が左右されませんか。
[高岡]今日のものは皆1g/ll濃度で培養しています。
[勝田]培地中のglucose濃度を高めると解糖系の酵素活性も上昇しますし、肝細胞でなくてもPAS陽性になります。同定には使えませんね。
[山田]Glucose濃度を下げたらどうなりますか。
[高木]500mg/l以下には下げられません。
[藤井]肝臓がどの位あれば培養できますか。一部切除をして培養し、発癌剤を作用させてautoへ復元というのは出来ませんか。
[勝田]昔は乳児しか培養できなかったのでautoへの復元は無理でしたが、今度はできます。是非やってみたいですね。
[山田]これだけ材料が揃ったのでっすから、ぜひ形態的に細胞同定をやりたいですね。Definitionを決められるかも知れませんよ。
《難波報告》
7.ヒト細胞を癌化させる薬剤として、4NQOが非常に有効である可能性を示す理由
ヒト由来の正常2倍体細胞を化学発癌剤で癌化させる場合どの発癌剤が最も有効なのかをまず調べる必要がある。その為にはそれぞれの発癌剤でヒトの細胞を癌化させて、その発癌率を比較すれば良いがその仕事は膨大な時間と金がかかりそれほど簡単には行かない。
そこで今回は、下に記したそれぞれ化学発癌剤の、(1)Cytotoxicity、(2)DNA
repai、(3)Chromosomal changesに対する影響を調べてみた。現在までの結論は4NQOが最も強いcytotoxicityと、DNA
Repairとを示し染色体の変化も一番よくおこしている。この4NQOのデータを発癌に直接に関連づけることは、やや問題があるが、しかし、使用した薬剤中のうちで4NQOが細胞のDNAレベルで最も有効に作用していることを示している。(1)4NQO、(2)NG、(3)DMBA、(4)BP、(5)MMSの薬剤を使用した。
1)Cytotoxicity(図を呈示)
4NQO、NG、DMBAの濃度と細胞障害の関係を調べた。培地は10%CS+BMEである。発癌剤は培地に溶かした。4NQOが最も強い細胞障害を示した。発癌剤処理後、3日目の細胞数は処理による直接の細胞障害とみなし、さらに、その2-3日後の最後の細胞数を、薬剤の障害から細胞が回復したかどうかの目安とした。NGは割に長く細胞障害が残る。今処理後3日目の処理群の細胞数を発癌剤未処理対照群の細胞数で割り、生存率を求めると、10-5乗M
4NQOでは細胞がほとんど死滅するのに、同じ濃度のDMBAでは細胞障害は全然みとめられない。
BP、MMSの細胞障害は、それほどのToxicityを示さない。この最後の実験では川崎大病理で培養を開始したヒトの肝臓由来の細胞を使用した。
2)DNA repair
化学発癌剤がDNAに作用しているならばそのDNAは、何んらかの障害を受けることが予想され、当然の結果として、その障害を受けた部分が修復されることが予想される。即ち、修復が大きいほど発癌剤はDNAに入っていると予想される。実験方法は下に示したように2つの方法で行った。『Schems
of experiment of DNA repair synthesis。 1)H3-TdR,10μCi/ml,30min→Treatment
with chemicals,10-5乗M,60min→H3-TdR,10μCi/ml,60min。2)Hydroxyurea,2.6mM,2days→Treatments
with chmicals and HU,60min→H3TdR,10μCi/ml,60min,2.6mM
HU→Autoradiography。』
1)の方法では正常にDNA合成を行っている細胞は非常に多数のグレインが核に認められ、修復下にあるDNAは少数のグレインが核に認められる。2)の方法では正常なDNA合成を止めているのでDNAの修復をしている核は軽くラベルされる。(DNA修復を行っている細胞の写真を呈示)。実験の結果は4NQOが最も著明なDNA修復が認められる(表を呈示)。その他、3回の実験を行ったが、いずれの場合にも4NQOが最高の修復率を示しており、DMBA、MMS、BPなどは非常に低い修復率を示した。
3)染色体の変化
この実験では、ヒト末梢血のリンパ球を使用した。リンパ球をRPMI1640+30%FBS+PHAの培地で培養し48hr.目に10-5乗M
BP、10-6.5乗M 4NQOで1時間処理し、その後正常培養液にして12時間後クロモゾーム標本を作った。(表を呈示)
その結果、4NQOが非常に多くの染色体異常を示していることが判った。それに較べBPでは染色体の変化はほどんど認められない。
:質疑応答:
[黒木]Grain countをした方がよいのではありませんか。
[堀川]そうですね。そしてヒストグラムをとればもっとすっきりまとまるでしょう。
[梅田]夫々の薬剤のkilling doseを合わせて比較した方がよいと思いますが。
[難波]DMBAのように溶解限度の濃度でもkillingがないものもあって難しいですね。
[堀川]私も梅田さんと同意見です。細胞の障害度を同じ位にして修復をみるべきでしょう。それからHydroxyureaを使ってsemiconservative
replicationを止めるには作用時間はなるべく短い方がよいでしょう。
[黒木]BPとDMBAによる障害はリンパ球とWI38との間に差がありますか。
[難波]どうでしょうか。
[黒木]水虫の薬のグリセオホルビンで人細胞を変異させたという報告がありました。
[梅田]グリセオホルビンは妙な薬ですね。添加すると物すごく多核細胞が出ます。
[難波]使ってみたいですね。
《高木報告》
CytochalasinBの培養細胞に対する効果:
RFL-5細胞を用いてCCB 1、2.5及び5μg/ml作用させた場合に生ずる多核細胞のDNA合成に関して、再度検討を加えた。細胞の蛋白あたりのDNA量は各濃度ともCCB添加後1日目、2日目ででは無処理の対照に比してやや増加する傾向がみられた。核あたりのDNA量については、対照細胞の細胞数が培養日数とともに増加の傾向が著明であったためか、対照細胞の1、2及び3日目の核あたりのDNA量が低い値を示し、これと比較した場合実験群の核あたりのDNA量が高い値を示した。前回の実験では実験群の核あたりのDNA量は対照よりむしろ減少しており、これと相反する結果になったがさらに検討中である。
膵ラ氏島細胞の培養:
現在行っている膵ラ氏島細胞の培養の中、幼若ラット膵を材料とした場合の概略については先の月報でのべた通りであるが、今回はhuman
fetal pancreas(5M)の培養を試みたのでその報告をする。方法は月報No.7411の方法によった。すなわちPancreatic
tissueを細切後0.5%Trypsin、0.02%Collagenase
in PBS(glucose 5mg/mlを含む)5mlとともに10mlのErlenmeyer
Flaskに入れて10分ずつ6回magnetic stirrerでdigestし、浮遊した細胞をその都度集めてModified
Eagle's medium+20%FCSで植込んだ。培養17時間後に浮遊している細胞を集めて別の新しいPetri
dishに植込んたが、digestionの4回目以後にえられた培養においてB細胞を思わせる細胞の増殖がみられた。しかし2週後にはfibroblastの増殖が著明となり上皮性細胞の増殖をはばんだ。培養6日目および11日目にrefeedし、その時集めた培地に含まれているIRI量はそれぞれ540μu/ml以上および195μu/mlであった。如何にしてfibroblastの増殖を抑制しepithelial
cellsの増殖を助長するか、また如何にしてepithelial
cellsのみ拾ってこれを継代するか、と云った点が今後の課題である(写真を呈示)。
:質疑応答:
[勝田]浸透圧の影響というのは案外少ないのではないでしょうか。今使われて居る色々な培地の浸透圧を調べてみると、かなり差があります。という事は培養細胞はかなりの幅の浸透圧に耐えられるということでしょう。
[高木]培地に蔗糖を加えるとsheetになりやすい傾向があります。膵臓の細胞もglucose濃度が高いとsheetをよく作ります。そういう事から浸透圧の影響かと考えたのです。
[山田]Pancreasは生体内でもisletだけ残るような状態になっている事がありますから、そういう状態のものを取り出して培養してみたらどうでしょう。
[高木]薬剤で実験的にpancreasにadenomaを作ることが出来ます。それも培養してみていますが、それもなかなか長期間の培養にもってゆけません。
《山田報告》
In vitro発癌過程における細胞の本質的変化を探るために新らたに樹立されたラット肝細胞培養株を用いて実験を開始しました。
しかし今回は発癌剤を與えた後に起る細胞の変化をしらべる前に、細胞の増殖分化そして形態に干渉する非特異的な要素をまず検討し正常細胞がどの程度まで変化するかを検索してみようと思いました。まず文献をしらべてみた所、最近この種の報告が案外に多く、それらの結果を大掴みにまとめてみました(表を呈示)。
増殖を促進する因子としてplant lectin、insulinそして細胞膜の蛋白性表層のCoatの除去による作用があり、これらはcontact
inhibitionなる良性細胞増殖の特徴をも変化させる可能性を示唆する成績もあることを知りました。そこでこれらの因子の正常ラット肝細胞由来株への影響を検索する意味でまず細胞表面蛋白除去後の細胞増殖への影響及び表面荷電の変化について検索してみました。
前報で報告しましたごとくDispase(0.25%)處理後10時間後RLC-20肝細胞の表面荷電は増加し、表面蛋白除去後の補修現象のみならずactiveな増殖に伴う変化が観察されました。そこで今回はラット正常肝RLC-16を用い、0.25%、0.01%のdispase處理(37℃15分)後、日を追ってその増殖性と荷電の変化をしらべてみました。
用いたうちでは、最も濃い濃度のdispase(0.25%)処理細胞が最も増殖が著しく(図を呈示)、しかしそれに一致して細胞電気泳動度は変化せず、泳動度の増加ピークは対象にくらべて一日遅くしかもより低い(図を呈示)という結果を得ました。この成績の意味がわからず考へている所です。
:質疑応答:
[高木]DispaseIIの0.25%というと何単位になりますか。
[山田]単位の換算が出来ませんが0.1〜0.2%が細胞をガラス壁から剥がす濃度です。
[梅田]Dispaseも細胞表面の蛋白を切ることが判っているのですか。
[勝田]Dispaseは色々な所を切ります。こういう実験にはIの方を使った方がいいですね。IIも酵素としては単一のようですが、何といってもIの方が精製されていますから。
[堀川]Growthをみる時、細胞はsingleになっていましたか。
[山田]なっていませんでした。
[堀川]そうだとすると現象が複雑になりますね。細胞表面の面積が変化して、growth
rateが変わるのかも知れません。
[高木]ガラス壁から剥がされた事で死んでしまう細胞と、浮いたままでも増殖できる細胞とありますから、dispaseそのものの毒性をみるのは難しいですね。
[野瀬]電気泳動度がdispase処理後に上昇しているのは何故でしょうか。
[山田]処理前が0.8位で処理直後には0.7位に一度落ちます。その数値を0として計算しています。上昇は回復+activeな増殖に伴う変化だと考えられます。
《乾 報告》
本年9月より、経胎盤in vivo-in vitro chemical
Carcinogenesisについて一連の報告を致してまいりましたが、本号もその一端として経胎盤的にAF-2、4NQO(20mg/kg)、DMSO(0.5ml/Hamster)投与後48時間目の胎児を培養し、培養初回の分裂の染色体を詳細に観察したので報告します。
既に報告した如く、これら物質を投与した動物胎児細胞のTransformation
Rateは(表を呈示)、培養2代目で1.07%(AF-2)、3.20%(4NQO)、0.17%(DMSO:6代目)であった。全観察細胞中で、染色体に少なくとも1ケの異常が現われた細胞の出現頻度は(表を呈示)、異常染色体を持つ細胞はAF-2>4NQO>DMSOの順で出現した。
各化学物質投与後、染色体異常の型を表に示す。
4NQO投与群では、Gap、Breaks等のSingle chromatid
typeの異常は0.42%、Translocationを含むiso-chromatid
typeの異常は0.24%であった。AF-2では前者が高く1.27%で、後者は0.12%でiso-chromatid
typeの出現は比較的少ない。対照のDMSO投与群の異常のほとんどはSingle
chromatid typeで,iso-chromatid typeの異常はほとんど表われなかった。異常形成の機構のよく解明されていないか、または2つ以上の原因によって誘起されると考えられるminute
chromosome、Fragmentation等のいわゆるnon-specific
typeの異常は4NQO>AF-2で表われDMSO投与群では出現しなかった。
(表を呈示)全異常染色体中の単純異常とみられるGap、Breaks、2本以上の染色体の異常によって始めて誘起されるExchange
type(G1-S期にDNAに影響があると思われる)の出現を比較すると、4NQO、AF-2にのみExchnage
typeの異常が表われた。
以上の結果を綜合すると、経胎盤chemical
carcinogenesisでTransformed Colony形成率は4NQO、AF-2投与群においては培養直後の染色体異常の出現率、特にiso-chromatid
typeの出現と高い相関があった。今後細胞癌化と初期染色体切断の関連性を解析するアプローチとして、この手法が使えると考えられる。また細胞に4NQO、AF-2を作用した場合と同様の異常が経胎盤的に、これら物質を投与した時表われたことは、ニトロソ化合物、ある種の芳香族炭化水素、アミン類等培養系に作用して、試験管内癌化のむずかしい物質のin
vitro carcinogenesisの解析のための一つの手法になると考えたい。
追記:すでに報告した様にDMNで同様Transformed
Colonyの出現を認めていると共に、メチル水銀投与ではin
vitroで投与した場合と同様、培養初代に高頻度の多核細胞が出現する等の結果から、経胎盤法はin
vitro直接投与の場合と非常に相関があると考えられる。
:質疑応答:
[梅田]コロニーレベルの変異の基準の判定が難しいですね。もう少し、厳しくすると対照のDMSOの変異値は減るのではないでしょうか。
[難波]接種後数日でこんなに変化があるなら生まれるのを待ってから培養すると、もっと悪性化が進んでいるのではありませんか。それから生まれて来たハムスターの発癌率はどの位でしょうか。
[乾 ]将来みる予定ですが、もう2〜3年続けないと使えるデータにならないでしょう。
[黒木]発表する時にはin vitroとin vivoのデータを対比させて染色体異常の結果を出した方がよいでしょうね。Doseの差もあるかも知れません。
[乾 ]AF-2はまだ発癌実験の中に入れない方がよいかも知れませんね。
[梅田]AF-2は投与後、1日目にchromatid変化が多く見られます。薬剤によって投与後何日でchromosome上のどんな変化が起こってくるかという事も違ってきますね。
[堀川]動物によって全く結果が違ってくるようですね。Activating
enzymeの問題はきちんとしておかなければならないでしょうね。
[乾 ]ハムスターでは胎児の発育にも随分影響があるようです。
[黒木]妊娠11日目に接種というのは少し早すぎるのではありませんか。どういう意味で11日にしたのですか。
[乾 ]ハムスターはラッテより妊娠期間は短いのです。ハムスターでは11日がorganogenesisがはっきりする時期なので選びました。次には生まれてすぐの物も調べたいと思っています。変異コロニーを拾って復元接種をしていますが、接種後4週間位まではtumorが出来ていたのですが、その後消えてしまいました。
《野瀬報告》
Alkaline Phosphatase-陽性細胞を分化させる試み
ハムスターのチークポーチ内にAlkaline phosphatase-陽性細胞を接種したらosteocyteらしい細胞が出現した。この様な細胞形態の変化がin
vitroでも起きないかどうか若干検討してみた。
まず、LDHのisozyme型を比較すると、ALP-陽性、-陰性細胞の間に違いは見られず、またその型は肝、腎、心、筋肉、骨などの組織のLDHisozyme型とも異なっていた。monolayerで生えている細胞をtrypsinで分散し、Ca45の細胞への取込みを見たが、やはりALP-陽性、-陰性の間に差は認められなかった(表を呈示)。
次に細胞のaggregateを作る培養条件下で何か変化が起きないか検討した。trypsinizeした細胞をMEM+5%FCS(+Non
essential amino acids)に懸濁し、75rpmの速度、37℃で旋回培養を行なったところ、細胞は1日後に小さなagregateを作った(図を呈示)。このaggregateは1週間に2回培地交換をしながら10日間培養してもこれ以上大きくならず、また、ALP-陽性、-陰性との間に差は見られなかった。
(図を呈示)細胞をRose chamber(久米川変法)内で13日間培養してできたaggregateは、旋回培養とくらべaggregateの大きさはかなり大きいが、ALP-陽性、-陰性の間に大きさの差は見られなかった。
これらのaggregateを遠心して集めglutaraldehyde固定し、切片にして見たが、すべて単なる細胞の集塊で、組織らしい構造は全く存在しなかった。aggregateを作った時のALP-I活性は、Rose
chamber中で13日間培養すると低下する傾向にある。以上、in
vitroでcheek pouch内の変化を再現することは、まだできていないが、培地中にホルモン、ビタミンなどを加えたり、いろいろ工夫してやってみたいと思っている。
:質疑応答:
[梅田]Ca沈着については、Caは基質に沈着するのですから、単なるCaの取り込みがなくても、骨であるということはあり得ると思いますが・・・。
[山田]細胞表面のチャージからみるとCaはすぐ吸着しますが又簡単に離れます。
[勝田]何にしてもCaの取り込みをみても余り意味がなさそうですね。出来た骨らしきものにCaのカウントがあるかどうかみる方がよいのではありませんか。
[梅田]旋回培養で何か添加して塊を大きくすれば分化も起るのではないでしょうか。
[高木]ローズチャンバーでも塊ができるのですか。
[野瀬]塊ができるものは2日間位で出来ます。
[高木]CHO-K1を採った動物の年齢は・・・。
[野瀬]知りません。
[山田]卵巣由来の細胞なのですから、卵巣らしくなる事が分化ではないでしょうか。骨化することを分化として余り深追いしない方がよいと思いますよ。
《梅田報告》
発癌剤や突然変異原の代謝活性化の問題が論議されてきたが、この現象をin
vitroの反応として捕えることが、バクテリアの突然変異誘起の系では可能になっている(In
vitro metabolic activation assay)。即ちpromutagen或はprocarcinogen、マウス又はラット肝の薬物代謝酵素、助酵素、及び指示バクテリアとを混じて培養後バクテリアに生じた突然変異を見る方法である。この実験系を哺乳類動物細胞の突然変異、或は悪性転換の実験に持ち込むことは重要なもとである。今回はこの代謝活性化現象をFM3A細胞の突然変異誘導を指標にして得た結果について報告する。
(I)まずFM3Aの突然変異の系であるが、先月の月報7411で述べたように8AG耐性獲得を指標にしている。耐性コロニーの算定には充分気をつけている。
(II)このin vitro metabolic activation実験をバクテリアの突然変異の系で最初に報告したのはMallingである。(表を呈示)我々は基本的にこの系を踏襲することにした。しかしバクテリアと哺乳動物では培養条件も異るので数ケ所修飾することにした。我々のとった方法と原法を比較して表にした。
(III)(表を呈示)以上の実験条件で行った実験結果を表で示す。この場合完全反応系から各要素を1つ宛欠いた反応系を作って比較してある。MgCl2はEarleの液中に入っているのでgroupの(-MgCl2)の所は完全にMg++欠の条件ではない。
(IV)以上の実験は反応後所謂expression timeとして2日間細胞を培養しているが、このexpression
timeの必要性について検討した。即ち完全反応系で処理30分後直ちに、2日間培養後、又4日間培養後、8AGのagarose
plate上に細胞を植えこんで、突然変異出現率をみた。まだ1回しか実験を行っていないが、このdataからexpression
timeは必要ないことがわかる。
(V)次に薬物代謝酵素その他との反応時間について検討した。各factorを氷冷中で混和後、37℃water
bathのshaking incubationに移し、一定時間後、細胞を培養に移し、2日後8AG
agarose plateに接種して耐性コロニーの出現を調べた。反応時間は30分が適当との結果を得た(表を呈示)。
:質疑応答:
[難波]シャーレ当りの接種数が多すぎてcontrol値が低く出るのではありませんか。
[堀川]細胞数を色々変えて基本的なテストをしておいた方がよいでしょう。
[黒木]寒天上にコロニーを作らせる場合は、細胞は丸くなりますから、かなり多くの細胞を播種しても隣の細胞とは接触しないだろうと思います。
[梅田]私もそう思います。
[黒木]BSSを使うとpHが変わります。Activationを行う実験ではHEPES
bufferを使った方がきれいな結果が出るのではないでしょうか。
[梅田]HEPESを使う事も考えましたが、toxicityの問題がありますのでBSSを使って炭酸ガス量でpHを調整しました。
[黒木]酵素反応をみる実験ではpHはよほど厳重にするべきでしょう。短時間ならHEPESでも大丈夫でしょう。
[梅田]まだ色々考えてみたいと思っています。NADPH濃度が高いのでNADPH
generating systemを使ってみたいとも考えています。
[黒木]Induceをかけたratのmicrosomeを使ってみたらどうでしょうか。
[難波]Expression timeを4日間もとると、その間に細胞が増えてしまって、複雑なことになると思いますが、どう考えますか。
[乾 ]なぜexpression timeが必要なのかよく判っていませんね。
[堀川]仲々難しい問題ですね。簡単に説明をつけてみますと、DNAの片方のstrandのdamageが、何回かの細胞分裂によって両方のstrandにその変化を受け渡された細胞が出て来て、初めてmutationとして発現するという事になります。
[野瀬]Expressionの説明はそれでよいとして、変異率が下がるのは何故でしょうか。
[堀川]異常分裂を考えます。
[難波]4日間のexpression timeは単に細胞が増える事を待つのではなく、そういう遺伝子レベルのことの進行を待っているのですね。
《堀川報告》
従来われわれが復帰突然変異(reverse mutation)の実験系に使用しているChinese
hamster hai細胞から分離したCH-hai Cl3細胞はthymidine(TdR)要求株であるが、この細胞は何故TdRを要求するのか、またこのCH-hai
Cl3細胞を放射線照射した際に生じる復帰突然変異体(revertant)はTdR欠損培地中でも増殖するようになるのはどのような機作によるのか?
ということを生化学的レベルで説明するため(図を呈示)DNA合成に関与するmetabolic
pathwaysに従ってthymidylate synthetaseをまず調べることにした。Thydidylate
synthetaseの活性測定はC14-dUMPを用いてDe
Wayne Roberts(1966)の方法をmodifyして測定した。結果は(表を呈示)CH-hai
Cl3細胞は同じChinese hamster hai原株細胞から分離したTdR非要求株のCH-hai
ClT2細胞に比べてthymidylate synthetase活性は約10分の1に低下していることがわかる。(ちなみにCH-Don
13細胞についてのデータも表に示す)
一方、CH-hai Cl3細胞をX線の600R、1000Rで照射した際、およびUVの100ergs/平方mmで照射した際に誘起されたそれぞれの復帰突然変異体、CH-hai
Cl3-R2、CH-hai Cl3-R7およびCH-hai Cl-R15細胞では完全とまで行かないまでもCH-hai
ClT2細胞(TdR非要求株)のレベルにまでthymidylate
synthetaseの活性はもどっていることがわかった。
こうした結果からみるとTdR要求性とか非要求性という細胞の性質は少くともわれわれの使用している細胞ではthymidylate
synthetase活性の増減でもって説明出来るようである。ただしCH-hai
Cl3細胞がCH-hai ClT2細胞に比べてthymidylate
synthetase活性が僅かに10分の1に低下しているだけでこれ程きれいにTdR欠損培地内では増殖出来ないというcharacterを示すか、つまりthymidylate
synthetase以外のDNA合成に関与するpathwaysを調べてみる必要もあるだろう。
:質疑応答:
[難波]Thymidine要求性はBUdRresistantでしょうか。
[堀川]調べてありません。
[難波]Auxotrophはどうやって採ったのですか。
[堀川]Replicaで採りました。
《黒木報告》
CaffeineのUV感受性の増強作用
Caffeineはpost replication repairを阻害すると云われている。
しかし、その作用は複雑でUV-誘発変異を促進する(Arlett
et al.Mut.Res.14,431,1972)dataもあれば、抑制する成績も発表されている(Trosko
at al.Chem.Biol.Interaction 6,317,1973)。化学発癌についても抑制のdata(角永、医学のあゆみ
86、746、1973)と促進のdata(Donovan,DiPaolo,Cancer
Res.34,2720,1974)の相反する報告がある。
FM3Aから分離したUV-sensitive clone FMS-1、FMS-1-2を用いて、CaffeineのUV感受性の効果についてしらべた。(表を呈示)Caffeineを0.5、1.0、1.5、2.0mMに含む平板寒天上で2wk.培養したときのコロニー形成率では、1mMのCaffeineは細胞障害作用がないために、以下の実験には1mMを用いた。
(表を呈示)FMS-1、S1-2のCaffeine存在下のUV-生存曲線から明らかのように、CaffeineはUV感受性を増強させる。もしCaffeineの作用がpost
replication repairの阻害にあるとすると、FMS-1、S-1-2細胞もまだかなりのpost
replication repair能を残していることになる。
:質疑応答:
[難波]ヒト細胞に4NQOとCaffeine両方をかけましたが、すごくgrowthを抑制しました。
[黒木]Caffeineについては今の所データがまちまちですね。角永氏は変異を抑制すると言っていますし、DiPaoloのデータではむしろ促進しています。
[堀川]私もLを使ってCaffeineの影響をしらべた事がありますが、黒木さんのと大体同じ結果でした。Caffeineは新しいDNA
strand elongationを抑えるようです。しかしDNAとCaffeineの結合は非常に弱いのでbindしている状態が捕まらないのです。それから兎の耳を使ったUV発癌実験でCaffeine処理をすると、処理群は遅れて発癌し、しかも発癌の%は高いというのがあります。我々の場合も、今摂取している量の30倍も飲めば、変異剤になり得るということですよ。
[藤井]Caffeine単独でもですか。
[堀川]そうです。しかし変異といえば重クロム酸カリでも細菌にとっては変異剤であり得るのですからね。
【勝田班月報・7501】
《勝田報告》
今年もしっかり頑張りましょう。
去年後半にはラッテ肝の容易な培養法を開発し、株を沢山作りました。それらの酵素活性を城西歯大の久米川君のところで測ってもらっています。その一部を下に示します(図を呈示)。最右欄は培養してない肝の数値です。胎児由来の株の活性は、生体内の胎児肝の活性に似ているそうで、もう少し実験を続ければ何らかのpatternとしての特徴が掴めそうだとのことです。
《高木報告》
1974年は全く変動の多い年でしたが、仕事の方はまずの状況でこれも皆様の御指導、御協力のおかげと年頭にあたり厚く御礼申し上げます。本年もよろしく御願いいたします。いよいよ昭和50年代に入りましたが、これを契期に思いを新たに頑張らねばならないと考えております。
昨年の年頭に書いたprojectの中、CytochalasinBに関するものと、RRLC-11細胞より分離されたvirusについては一応のけりがつきましたので、まとめの段階に入っています。膵ラ氏島細胞の培養については現在6週令のラット膵ラ氏島の単離培養と、幼若ラットよりの細胞の分離培養につとめていますが、中々壁は厚いようです。本年度進行させたいprojectとして次の2つを考えています。
1.膵ラ氏島細胞の培養とその“がん"化の試み
正常膵ラ氏島に由来する細胞をとり発癌実験に供したい。成熟ラット膵では2〜3ケ月細胞の維持が可能であり、また幼若ラット膵ではラ氏島細胞を選択的に2代目までは継代出来るようになった。さらに培養条件を検討したい。またDMAE-4HAQOを注射したラットにおいて約20ケ月を経て剖見した4疋中3疋に腫瘍の発生をみた。その培養には成功していない。現在行なっている膵ラ氏島の培養系においてもDMAE-4NAQOを作用させて形態学的変化ならびに分泌されるinsulinの性状に差異がみられるか否か、in
vivoで生じた腺腫の比較において検討したい。
2.培養細胞の可移植性と免疫抗原性の解析
培養ないの発癌実験において、癌化過程の細胞を移植した際に移植が成立する細胞と成立しない細胞では、その細胞の宿主に対する抗原性が大きく影響していることが考えられる。まず種々の培養内発癌過程の細胞を移植したさい、宿主の免疫動態の変化をcheckしうるin
vitroの実験系を樹立すべく努力したい。
《堀川報告》
今年の正月は金沢でも久し振りに暖かく、本当にすごしよいお正月でした。雨こそ降っていましたが雪もなく、おそらく私が金沢に来て以来雪のなかった正月は今年がはじめてだったのではないかと思います。
さて、年頭にあたっての今年の抱負ですが、ここ数年来私共の研究室でやってきている培養哺乳類細胞における突然変異の研究を今年も中心に進めます。チャイニーズハムスター肺細胞から分離した栄養要求株、栄養非要求株、8-azaguanine抵抗株および8-azaguanine感受性株を使っての前進および復帰突然変異を各種物理化学的要因について十二分に検討したいと思います。
また、同調培養したHeLaS3細胞を使ってX線、UV、4NQOおよびその誘導体に対する細胞周期的感受性変更要因の解析を進めているが、これと並行してこれらの要因による変異誘発を細胞周期を通じて追ってみる予定である。さて、この仕事と関連して、是非欲しいのはマウスL細胞を使っての仕事です。UV傷害修復能としての除去修復をもつHeLaS3細胞と、対照的なこのマウスL細胞を使っての仕事は、各種要因に対する細胞周期の感受性変更要因の解析に、ひいては細胞周期を通じての変異誘発の機構解析のために、われわれに多大の知見を提供してくれるものと思っています。
さて、最後にもう一つの問題として、今年はマウスL細胞のもつ秘めたるUV傷害修復能の解析にも力をそそぐつもりです。ヒト由来の細胞と違い、何故マウスL細胞のような齧歯類由来の細胞には除去修復能がないのか。また、そのくせUV感受性においてはヒト由来の細胞と差がないか。これが私にとって大きな疑問となるからです。
年頭にあたり、適当なことを書きました。夢があうまで夢で終らないよう努力したいと思います。皆さん共に頑張りましょう。
《梅田報告》
年頭にあたり昨年を反省し、本年進むべき方向を展望してみたいと考えます。昨年前半はadenine
derivativeの作用機作の仕事、培養細胞DNA索の検索、その他AF2の作用機作の仕事等、試験管内発癌の仕事とは直接関係無いことを多く扱っていました。後半になってFM3A細胞を用いると、突然変異原投与により8AG耐性細胞が誘導される実験系がうまく働くようになったので、各種の物質についての突然変異誘導能を調べ始めました。同時に肝ホモジネート及び助酵素を加えてDMNのin
vitro metabolic activationの仕事が旨くいくことがわかりました。突然変異誘導と発癌の関係が云々されている折から、この突然変異誘導能と、更にin
vitro metabolic activationを加味した哺乳動物細胞を使うこの実験系は多いに活用し、発展させたいと願っています。
また継代数代目のマウスはハムスター胎児細胞を用いて、発癌剤処理後5〜6週間培養すると、形態的に悪性化した細胞増殖巣が検出されることを見出しました。さらにDDD、AKR、C3Hマウス胎児細胞の3T3継代を行って株化を試みています。この仕事も本年重点的に進めたいと思っています。
ところで本班の研究主題である上皮細胞の悪性化については、そろそろ定量化の実験を行う必要があるのではないでしょうか。しかし今迄上皮細胞については悪性化してもすぐわかるような特徴が無いので困っていたわけです。やはり発想の転換も必要で、癌だから盛り上って増殖しているだろうと考えること自体間違っているかも知れません。今迄当研究室ではラット肝由来上皮細胞、ラット唾液線由来上皮様細胞を培養してみましたので、之等を使って何かpilot
experimentをしてみたいと考えています。
《難波報告》
本年度の研究は次のように進めたいと思っています。
1)正常ヒト2倍体細胞の化学発癌による試験管内発癌;昨年までの仕事の追試とより確実な発癌の実験系の確立
2)ヒト肝細胞の培養とその発癌実験への利用;上の実験系では、主に繊維芽細胞を利用しているが、ヒト由来の正常な上皮系の細胞も発癌実験に用いたいので、まずヒトの肝から上皮性の細胞の培養を試みたい。
研究報告
8.ヒト肝細胞の培養
昨年秋以来、ヒトの肝細胞の培養を続け、その器官培養については簡単に7410、7411の月報に報告した。
今回は予備的な実験の報告であるが、26才の正常な男子の肝よりBiopsyで得た肝組織から上皮性の肝細胞と思われる細胞が増殖して来ているので写真に示す(写真を呈示)。培地は、MEM:RPMI
1640(1:1)+10%FBSである。写真は培養開始後、17日目。
《山田報告》
昨年は独協医大に転任し、いろいろと大学の建設と整備のために追われ、充分な研究の成果があがらず申譯なく思って居ります。しかし昨年末には、研究室の体勢も固り、培養室には、研究室も調子が出て来ましたので、今年からは、従来通り研究に力を入れたいと思って居ります。今年は、秋の培養学会を独協医大でやることになりましたので、宜敷く御指導の程お願い申しあげます。出来るだけ努力をいたし栃木の田舎に培養学会を持って行って良かったと云われる様に準備したいと思って居ます。
これまでin vitroにおける悪性化に伴う細胞の表面構造の変化についてのみ検索して来ました。今後も勿論この面での仕事を続けたいと思いますが、今年は年頭に一つの発癌実験をやってみたいと思っています。従来得られた成績のうちで、細胞膜の反応性の変化に最も興味を引かれています。細胞膜の分子が固定したものでなく生物学的反応に伴いその表面糖鎖が流動すると云う現象です。この現象を更に解析すると共に、発癌剤による膜の反応性変化をも解析し膜の流動性と発癌剤の作用との関係を明らかにしたいと思います。
その意味でPHAやConAの作用と発癌剤の作用が細胞膜上でどの様に反応するか、そして、その結果として癌化が促進されるか、或いは抑制されるかを知りたいために発癌実験を思いたちました。この実験によりin
vitro発癌の現象のうち、増殖と悪性化を分離して考える成績が得られるかもしれませんし、また、かえって(?)な成績により解析をさらにむづかしくするかもしれません。とにかくやってみたいと思っています。
《黒木報告》
昨年は思うように仕事がすすまず、その他の低レベルの問題でも精神的に悩まされた一年でした。今年はこのような問題に頭を使わず、楽しく仕事をしたいものです。
AF-2などの問題にみるように、この数年間、化学発癌の研究は好むと好まざるにかかわらず、社会的問題とかかわらざるを得ない状況になりました。ここで、組織培養の実験システムがこの問題にどのように貢献できるか改めて考える必要があるでしょう。発癌剤のscreening法としては、AmesらのS.typhymをはじめとする突然変異による検出法、組織培養細胞を用いたtransformationあるいはmutagenesis、さらに、従来の動物実験の三者に大別できそうです。このうち、細菌の変異検出法は簡便なこと、迅速な点で組織培養の優位に立ち、動物実験はその成績の動かしがたい発癌性の確証という点で、これまた、組織培養よりも優れています。結局、組織培養は両者の中間にあり、positiveにしても、negativeにしても、結果の評価はそれのみでは出来にくい欠点があります。他に例を求めるとすれば、A系マウスの肺腺腫の生成などに似ているように思えます。もし、組織培養が、この間にあって独自の立場を築くことができるとしたら、それはヒトの細胞を用いた実験系ではないでしょうか。その方針のことに、目下ideaをためているところです。徐々に手をつけたいと思っております。
《野瀬報告》
昨年一年間をふり返ってみると、あまりたいした進展がなく、お恥かしい次第と反省しております。今年はもう少しましな年になるよう以下の目標で努力したいと思います。
(1)Alkaline phosphataseと腫瘍性との相関について。
CHO-K1由来の高alkaline phosphatase活性亜株は、ハムスターチークポーチ内での腫瘍性が低下していた。この事から逆に腫瘍性の低下した細胞は、同酵素活性が上昇しているかどうか試してみたい。腫瘍性の低下した細胞を単離することは、むすかしいが、glutar-aldehyde固定したmouse
embryo cells上に腫瘍細胞をまいて、できたcolonyを拾うL.Saksらの方法で可能かも知れない。一回やってみたが、このようなfeeder上では細胞はcolonyを作らなかった。またAH-7974由来のJTC-16細胞は同酵素活性が高く、最近腫瘍性が低下しているらしいので、この細胞集団から同酵素活性に差のあるクローンを分離し、腫瘍性と相関があるかどうか見てみたい。
(2)培養肝細胞の特種機能発現について。
今まで細胞の機能としてalkaline phosphataseばかりに固執していたので、もっと別の機能も並行して調べてみたい。臓器特異性のはっきりしている細胞機能として、肝細胞のalbumin産生とarginase活性の2つを取り上げた。抗ラッテalbumin血清ができたので、各肝細胞株でのalbumin産生を定量的に測定し、産生しない細胞から産生するクローンを分離することなどを試み、この機能発現の機構を研究したいと思う。また、arginaseはほとんどの株細胞では活性が検出できず、RLC-10ではラッテ肝抽出液の1/10の活性が見られた。この酵素の誘導、変異株の分離などを試みてみたいと思っている。
《藤井報告》
癌の免疫療法をなんとか臨床にもってゆきたいと願って1昨年あたりから試みてきた線は、一つは、外科的療法(手術)の補助しての免疫療法をつくることであり、他の1つはin
vitro感作リンパ球の受身移入による特異的癌免疫療法であった。
前者は、我が国で既感作の患者が多い結核免疫の遅延型皮内反応を皮膚転移癌などに誘起して、集まってきたリンパ球、マクロファージなどによる制癌作用を期待したものであった。すでに外国でDNCBなどで試みられていたが、医科研の細胞化学で結晶化されたツベルクリン反応誘起抗原(KT抗原)をつかって、ある程度の効果、すなわち注射された局所の癌の縮小あるいは消失をみることができた。しかし全身的な抗癌効果はまだみられていない。この仕事では、研究室の関口助教授が大変努力をつづけているし、基礎実験では黒沢君や森君も加わった。世の癌研究者や、とうに癌免疫研究者は、局所の癌を縮小することの意義はあまり無いと仰言る。たとえ局所でも癌を切らずに小さくすることは大変なのである。とくに切ってとれないところにある癌を縮小させることは、外科医にとって大切なのであることが、先づわかってほしいのだが。
後者は、癌患者リンパ球をin vitroで自家癌抗原で刺激し、in
vivoであるよりは強く感作して、これを患者にもどすことを考えたわけである。ラットの実験腫瘍では、一応の抗癌効果はえられたが、臨床応用は、未だにふみ切れないでいる。in
vitro感作に用いる培養癌細胞の非働化(?)−が完全にできるかどうか。たとえ、少数でも生きた癌細胞を宿主にもち込む危険がないかどうか。in
vitro感作中に微生物の混入と増加を来し、それを患者にもちこむ危険はないか。この2つのために折角の一例は、臨床応用実行前に断念した。最近、米国で同じような試みが3例試みられている報告を読んだ。極めて簡単な、同種移植拒絶反応のin
vitroモデル実験をやっただけでである。
今年は、soluble antigenを使ってのin vitro感作を何とかできるようにしたい。臨床応用は、あまり急がないようにするつもりである。
《永井報告》
この班もこの3月が最后になりますが、振り返ってみますと、研究上の相互連絡がこんなに緊密でお互いに得るところの多い班はそうざらにはないのではないかと思っております。班友としての席を与えられたことを心より感謝いたします。勝田班長並びに高岡さんの陰での御努力も並み大抵でなかったことを想うと、深く脱帽する次第です。また、研究室の皆様方のお世話に対しても心から感謝いたします。
癌問題は前人未踏の巨峰として依然として聳え、人々の登攀を固く拒否しております。しかし、今年も少しでも上の方にキャンプを設営すべく幾多の労力が積み重ねなれようとしており、その一端でも担わしていただければと念じております。
毒性物質の化学的本態の解明が私に課せられた第一次目標点です。分劃法上の目途もたってきましたので、今年こそ何とかと思っております。日暮れて道遠しというところまでは持ち込みたくないと念じております。皆様の御援助を今年もお願いする次第です。
皆様の一層の御活躍をお祈りいたします。
《佐藤報告》
T-14)DAB発癌実験−タンパク結合色素量−
DAB処理過程においてDABのつめ跡を求めるべく、検討を進めているが、今回、DAB処理細胞と非処理細胞(コントロール)について、タンパク結合DAB量の測定を行ったので報告する。
実験方法:細胞は非処理細胞(I=control)とDAB処理細胞(V)で、TD40びん、それぞれ15本に植え込み、subconfluentの時点でDAB
1μg/mlを含む培地(MEM+10%BS)にて交新し2日間培養した。タンパク結合色素量の測定は寺山等の方法に従った。
(表を呈示)結果は表の通りであるが、(1)本細胞はDABを結合し得るタンパクを有していると推定される。(2)コントロールと処理細胞の間で、結合色素量に殆んど差が見られなかった。結合タンパクが同じであるかどうか、という問題に関しては今後の問題である。
月報7109で、佐藤らによって測定されたPC-2細胞の場合と、今回の実験結果は近似している。
《乾報告》
私にとりましては、苦難の49年が過ぎ去りこの1月6日で喪もあけ、文字通り新らしい再出発の年にこの新しい年を致すべく心に念じております。皆様方の相変らずの御指導、御鞭撻の程おねがい致します。
さて、本年の研究の計画ですが、私自身の研究の場が本年中に研究を主体とすることが出来るか、またはスクリーニングのかたわらで細々と基礎実験を続けていかなくてはならないかと云う不安定の要素が根幹にありますが、次にあげる実験を考えております。
1)Transplacental in vivo-in vitro chemical
carcinogenesis:
昨年にひきつづいて、上記の問題を主として純系ハムスターを使用して行ない問題点として、a)母体に化学物質投与後の胎児細胞の染色体切断と変異コロニーの出現率とその移植率、b)胎児発生の各段階における化学物質を投与された胎児細胞の変異コロニー形成率の差、c)同様、肝、腎、肺等の臓器細胞を標的として、臓器発生過程におけるこれら細胞の癌化率等、少々発生、分化、癌化の基本的な諸問題に挑戦したいと思います。
2)ニトロソグアニジン等、一連の誘導体の側鎖の長さと、発癌性の問題:
主としてニトロソグアニジン系化学物質で、化学構造式その物質の変異誘導性、発癌性の問題をもうしばらく追求していくつもりです。
【勝田班月報:7502:高張処理による細胞の変化】
《勝田報告》
A)ラッテ肝細胞の培養:
1)再現性の高い簡単な肝培養法が確立された。Dispaseで処理し、これを<10%FCS+90%DM-153>の培地で培養すると、大体2週間で上皮様細胞のFull
sheetになる。
2)材料の動物のageはAdultでも充分に生えてくる。しかし生後2〜4wのratが最も良好な結果を示す。
3)細胞の同定については、組織化学的検討は一部を山田喬班員に依頼し、顕微鏡映画撮影は進行中であり、動物へ接種しての組織像検査は東大病理の榊原先生に依頼して、抗リンパ球血清処理したハムスターに接種したところである。機能的検討としては、酵素活性を久米川氏に依頼してしらべてもらっている所であり、アルブミン産生は野瀬班員の作った抗アルブミン血清をFITCでラベルして蛍光抗体法で検索すべく目下進行中である。これらの細胞のアルギニン産生能については、アルギニン(-)の合成培地(10%FCS加)で3カ月連続培養し、増殖はしないが生存している(写真を呈示)。なお4日間この培地内で培養した後の培地を日本電子でアミノ酸分析してもらったが、アルギニンは全く出ていなかった。この培地でセンイ芽細胞などが死滅して行く(RLC-22の亜系で継代時Dispase処理で上皮細胞は早く剥れるが、その時残った細胞(Fibroblasts)をアルギニン(-)の培地で101日培養して、死んで行くところの写真を呈示)。肝細胞を選択的に培養するには、アルギニン(-)の培地は非常に適していると思われる。目下の問題はセンイ芽細胞がやられ、肝細胞は生存しているという、適当な期間を見出すことである。現在までのデータでは大体100日以上経てば淘汰されると考えられる。
B)若い培養を使っての発癌実験:
上記のようにラッテ肝の培養が非常に容易になったので、これらの株の若いものを用いて化学発癌の実験をおこなうことを試みた。
1)Exp.DEN-16:
JAR-2系、F31、生後14日♀のラッテ肝由来のRLC-23株を用いた。これは1974-10-20培養開始、11-10平型回転管にSubculture、11-15より1975-1-12まで58日間DENを50γ、100γの2種、培地に添加し続けた。添加初めの1週間は100γ群のみが増殖を抑えられた。形態的には無添加の対照群と差違が見られなかった。染色体数は42本が多いが、目下詳しく分析中である。
2)Exp.CQ-75:
JAR-2系、F31、生後28日♀のラッテ肝由来のRLC-24株を用いた。これは1974-11-3に培養を開始した。11-17に6cmファルコンシャーレに3種のinoculum
sizesでまいた。3週後の結果では、25万/dishではFull
sheetになっており、2.5万/dishでも同様、2,500コ/dishで35〜50コのcoloniesを作っており、P.E.
1.4〜2%となった。実験群は11-17に、3.3x10-6乗M、4NQOで30分、37℃で処理後トリプシンで分散させ、3種のinoculum
sizesでシャーレにまいた。約2.5月後の成績では75万コ/dishでは2〜5colonies、7.5万/dishでは1〜2coloniesができた。この両群では上皮細胞が揃っていて、目下染色体を分析中である。7,500/dishでcolony形成は見られなかった。
:質疑応答:
[堀川]Arginine-free培地で培養すると、上皮細胞が生き残って、fibroblastは死んでしまうというのは、何を意味しているのでしょうか。
[勝田]合成能力の違いだろうと考えています。
[佐藤]要求性の面からみますとモーリス肝癌の中にはArginine要求の非常に高いものがありますね。正常肝細胞も要求性はあります。
[勝田]可欠アミノ酸を含まない培地でどんどん増殖を続け、且つその可欠アミノ酸を自分で合成しては培地中に放出しているといった系でも、外からその可欠アミノ酸を添加してやるとそれを消費するし、又増殖もより盛んになります。その場合、きっと細胞は培地にあれば使うし、無ければ合成するという事ですね。能力さえあれば。
[堀川]Arginine-freeにして、fibroblastが先に死んでしまうのは増殖が早いために手持ちのArginineを先に使い切ってしまうとは考えられませんか。
[高岡]この場合は、むしろ上皮の方が増殖度は高いようです。
[佐藤]ラッテの肝細胞の培養では色んな条件が判りました。例えば回転培養をするとfibroblastより上皮に有利だとか、ラクトアルブミン培地の方が合成培地より上皮細胞選別に優れているとか、炭酸ガス培養にする時は少数でまいた方が上皮が残るが閉鎖培養の場合はなるべく多い細胞数をまいて継代する方が上皮細胞が維持されるとか。しかしこれらの事はヒトの肝細胞の培養には殆ど当てはまりませんでした。
[高岡]このディスパーゼを使う初代培養法では、もとの組織の中にあった種々の細胞があまり選別されずに培養に移され、しかもかなり長期間共存しているようです。
《山田報告》
培養ラット正常肝細胞の微細構造:
培養されたラット正常肝細胞の形態学的特徴を調べてみようと思い、まず、H.E.、Giemsa、Mallory。PAS等の染色標本を作製して詳細に観察してみましたが、光学的レベルでの形態によっては、それぞれの特徴を見出すことが困難でした。しかし大掴みにみますと、
Embryo由来の細胞は、かなり混合した細胞集団であり(RLC-21、RLC-18)、Adult由来の細胞の方がむしろ単調な細胞像であり(RLC-16)、多核細胞も少なく、大部分は肝細胞由来と考へられますが、ごく一部にはkupffer
cellが混合している様に思いました。PAS染色ではどの細胞系でもグリコーゲンは染まらず、またMallory、銀染色を施した標本から、あまり特記すべき所見は得られませんでした。そこで電顕的に観察した所(模式図と写真を呈示)、RLC-16、-20には幾つかの特徴がみられました。
RLC-16、RLC-20培養肝細胞のME所見の特徴:
一般的特徴:
1.肝細胞hapatic parenchymal Cellよりなる細胞が大部分であるが星細胞が少数混合。
2.正常ラット肝組織細胞にくらべて核優勢が著しく、かつ核辺の陥入が著しい。(培養条件における相互の巻きこみのためか?)
3.Mitochondriaのcristeの形成が不良(低酸素状態によるものか?)
4.Glycogen顆粒のaggregate化が少く分散している。
RLC-16とRLC-20の相互の差:
RLC-16:glycogen顆粒はより少く星状aggregate少い。Smooth
contact少い(Desmosomeが極めて少い)。lysosomeは殆んどない。
RLC-20:glycogen顆粒はより多く星状aggregate少い。Smooth
contact多い(desmosomeがより多い)。lysosomeは若干認められる。
まだ二系統の細胞の微細構造しかみていないので細かい特徴を決定的に云うことは出来ませんが、少くとも形態学的に肝細胞を同定するにはやはり電顕で見る他はない様な気がして来ました。
今後の観察には、1)グリコーゲン顆粒の星状凝集の程度。2)lysosomeの発達の程度。3)平滑な接触面の残存の程度(正常肝細胞の微細構造内シェーマにみる様な平滑接触とデスモゾームの形成の程度)とmicrovilliの発達の程度との比較。4)星細胞を初めとする混合細胞の形態。等の所見をポイントにして他の株を観察して行きたいと思って居ます。
これらの電顕像は2%glutaraldehydo(Cacodylate
buffer pH7.3)で前固定(1.5h)した後に1%OSO4により本固定した細胞を観察して得たものです。そして細胞はガラス管壁についたものを機械的に削り落として得たものですが、次回から準備の出来次第、テフロン(?)の上に増殖させてそのまま薄切してみたいと思って居ます。
:質疑応答:
[佐藤]培養細胞の電顕像をもっとよくみるという方針には賛成です。しかし株になったものだけをみるのは自然悪性化への経過をみる事になるかも知れません。もっと培養の若いところが見てほしいですね。
[山田]今は色んな細胞をなるだけ数多く電顕でみたいと思っています。
[佐藤]ラッテにDABを喰わせて悪性化してゆく、その各時期の肝細胞の電顕像をみた仕事がありますが、悪性度が増すについれてmicrovilliが増えるようです。細胞の接触面は培養法によって、例えば細胞集塊の状態とcellシートの状態では違うでしょうね。
[難波]私達の実験でも悪性化した培養細胞はmicrovilliが発達していて、mitochondoriaが少ないですね。
[高岡]Glycogen顆粒は培地のglucose濃度を上げると出てくるはずです。
[勝田]しかし、それは肝細胞特有の現象ではありません。培地のglucose量を増やすとHeLaでもglycogen陽性になるというデータがあります。
[乾 ]PAS染色でみるには、0.5MのHClで加水分解してから染めるとよく染まります。
[加藤]Glycogenはembryonic epithelialを培養すると、どの組織でも出てきます。そしてprimaryのglycogen
granuleが消えないと分化しませんね。
[難波]Chick embryo liverの場合は培養するとglycogenが急激に増えますね。
[堀川]それを継代するとどうなりますか。
[難波]消えてしまいます。
《佐藤報告》
T-15) DAB発癌実験−復元実験−
これ迄、in vitroで、くりかえしDAB処理の続けられて来た細胞が非処理細胞(コントロール)との間に、造腫瘍性の上で、何らかの差を見い出し得るか否かを検討した。実験はDAB処理細胞、非処理細胞の各々の100万個細胞/0.1ml/48hr以内newborn
rat、を皮下移植し、移植後30日間を観察期間(予備実験より決定)とし、腫瘍の触診を行った。
この結果は(図を呈示)、CD#3.C-1(コントロール)、CD#3.10(10μg/mlDAB処理細胞)、CD#3.40-1(40μg/mlDAB処理、細胞障害少なく)、CD#3.40-2(40μg/mlDAB処理、細胞障害大きく)。結果より、DAB処理群では、コントロールに比し、腫瘍発見迄の日数の短縮が明らかとなった。このことから、必ずしも速断は出来ないが、in
vitroでのDAB処理は、本細胞の悪性化(増強)を十分、進め得るものと推定される。一方、DAB処理群の間ではCD#3.10とCD#3.40-2が類似したパターンをとり、CD#3.40-1との間でやや異なる様相を示しているが、この点に関しては現在検討中である。
尚、復元実験は発癌実験開始後246日と264日の間で行われた。
:質疑応答:
[黒木]Tumorを作るようになったのは培養何日目位からですか。
[常盤]250日です。
[堀川]DAB処理群はDABの結合蛋白に違いがあると考えているのですか。
[常盤]いいえ、違いはないのではないかと考えています。
[梅田]性質が変わるのは何時頃からですか。Saturation
densityはどうですか。
[常盤]性質は150日位から変わります。増殖度やsaturation
densityは変わりません。
[佐藤]DABの様に長期間の間に段階的に変化してゆくような発癌剤での、増殖誘導ということと、悪性化ということを別々に調べてみようとしています。
《乾報告》
経胎盤In vivo-in vitro試験管内発癌(小括)
昨晩春より手掛けて参りましたTransplacental
in vivo-in vitro chemical carcinogenesisの仕事について、2、3の化学発癌物質(MNNG、DMBA、2FAA等)を除き一応一段階のスクリーニングを終わり、2月7日“癌の基礎的研究班”のシンポジュウムで話すことになりましたので、現在得ておりますDataを小括し、御批判していただきたいと思います。
実験方法:
実験方法は再三申し上げている通り妊娠11日のハムスター(純系、APG、雑系)母体にDMSO、Bp、3'm-DAB、DMN、DEN、NMU、4NQOおよびAF-2の8種の化学物質を20〜2000mg/kg腹腔内注射し、24あるいは48時間後胎児を培養し、その一部は24時間以内に染色体標本を作製、他の一部はそのまま培養を継続し、培養2、4、6代目の細胞をシャーレ一枚当り、1万個播種しTransformed
Colonyの判定に使用した。一部の薬品を投与した動物の細胞については、ハムスターのチークポーチに200万個もどし移植をおこなって3週〜6ケ月間観察した。使用した化学物質の培養細胞染色体への直接の影響を観察する為、各物質を細胞が再増殖し得るminimum
Dose(0.5〜1000μg/ml)3時間作用し、24時間以内に染色体標本を作製した。
結果:
培養後2、4、6代目の細胞をシャーレに播種後形成したTransformed
Colony形成率およびシャーレ1ケ当りのTransformed
Colony形成率(図を呈示)は、対照に使用したDMSO投与群ではTransformed
Colonyはほとんど出現しなかった(シャーレ30枚中3ケ)。それに反し、Transplacental
Carcinogenesisが動物実験で著明に知られているNMU投与群ではTransformed
Colonyの出現率は高かった。DEN、DMN等in vitroで直接細胞に投与した場合Carcinogenesityの非常に弱い物質投与群においても同様の結果を得た。
動物実験においてTransplacental Carcinogenesisが証明されていない3'm-DAB投与群において、早期に高頻度のTransformed
Colonyが観察された。純系ハムスター(APG)を使用して行った実験のうち、DEN(4代)、NMU(4、6代)、Bp(8代)投与群の細胞をハムスターチークポーチにもどし移植した結果(200万個/Hamster)Bp投与群では、移植細胞は2週間以内に消失した。DEN投与群の一系列でも同様に消失したが、他の一系列では移植後18日、細胞の残存が認められた。NMU投与群(G-4)では、3匹中2匹のハムスターに小腫瘤が形成され、内1匹においては移植後3週間目に血管造成を伴う暗血色、米粒大の腫瘍が残存している。現在DEN、NMU、6代目(培養後23日)、Bp
11代目の細胞を移植観察中である。雑系ハムスターを使用した実験中、DMN、3'm-DAB投与群2代目の細胞を同様ハムスターに移植した各2系列中、各々1系列において移植後2週迄、DMN(1/3)、3'm-DAB(3/3)に腫瘤残存が観察されたが、移植後5カ月の現在腫瘤形成は認められない(移植Dataの詳細は次月報以降に報告の予定)。
経胎盤的或いは直接細胞に前記化学物質を投与した場合の染色体切断を中心にした異常細胞の出現率をまとめた(表を呈示)。
DMSO(500μg/kg)直接投与群の異常染色体をもつ細胞の出現率は3%、経胎盤(20mg/kg)投与群のそれは、6.5%であった。DMN、DEN、3'-DABを経胎盤、直接投与した群で出現する染色体異常をもつ細胞の出現率は低く、10%以下であった。
経胎盤的にこれら物質を投与した場合の異常細胞の出現の頻度は直接投与群のそれに比して高く、特にDEN投与では経胎盤投与群11%、直接投与群3.4%とその差は著しかった。
Bp投与群でも同様の傾向を示したが、異常細胞の出現率はいずれも30%以上であった。これに反し、NMU、4NQO、AF-2、投与群では直接投与群に現われる異常細胞の出現頻度は経胎盤投与群のそれに比して高かった。これら3化学物質投与群における異常染色体をもった細胞の出現頻度は著しく高く経胎盤投与で15〜23%、直接投与群で34.2〜55%であった。観察全染色体当りの異常染色体の出現頻度についてまとめた(図を呈示)。
異常染色体の出現頻度はBp、3'm-DAB、DMN、DEN、投与群では直接投与群に比して経胎盤投与群で明らかに高かった。これに反しNMU、4NQO、AF-2、投与群の異常染色体は直接投与群に高頻度出現した。
以上の結果を総括すると(図を呈示)、Transformed
Colony形成率は、NMU、4NQO、に高く、DMN、DEN、3'm-DABがこれに次ぎ、Bp、AF-2、投与群で低かった。
DMSOを経胎盤的に投与した場合、Transformed
Colonyはほとんど出現しなかった。
もどし移植の結果は、現在迄明らかでないが、純系ハムスターを使用したNMU作用群で培養後、13日目の細胞を移植した例において血管造成を伴う腫瘤が認められている。
染色体異常はBp、3'm-DAB、DMN、DEN、投与群では経胎盤投与の場合高頻度に出現し、NMU、4NQO、AF-2、投与では直接投与群に高く現われた。以上の事実に基ずき、Bp、3'm-DAB、DMN、DEN、等の物質は母体において代謝活性化され経胎盤的に胎児細胞に作用すると考えたい。
なお、移植実験結果、Transformed Colony出現率、染色体異常の型の詳細な結果は次号以下に報告したい。
:質疑応答:
[難波]Bpはin vivoで24時間以内に活性化され代謝されるには時間が短すぎませんか。
[黒木]Inductionではないから、24時間で充分のはずです。
[堀川]染色体異常のデータはin vivo、in vitroを分けて纏めた方が判りよいですね。
[黒木]内容はin vitroとin vivoで違った点がありますか。
[乾 ]染色体型での変化とchromatid typeの変化という見方で違ってきます。
[堀川]そこはどう考えますか。
[乾 ]Activationを考えています。Placental
barrierは無さそうです。
[堀川]Mutation frequencyをみたらどうですか。
[乾 ]それはぜひやってみたいと思っています。それか今回のは全胎児を使ってのデータですが、次には臓器別に培養してみたいと思っています。
[梅田]このシステムではこんなに高率に変異コロニーが出るのに、経胎盤的に発癌剤を与えても産ませて発癌率としてみると、ずっと低率で、しかもずっと日が経ってからしか掴まえられないのは何故でしょうか。
[堀川]In vivoでは免疫とかselectionがあるからでしょう。
[加藤]Teratogenesisはembryoのage-dependencyがあります。胎生17日まではin
vitroに移してもteratogenesisが起こります。色んな日数の胎児を培養したものに発癌剤を処理した時の染色体変異と、経胎盤的に発癌剤を与えた胎児の培養の染色体変異との間に何か共通の傾向がありますか。
[乾 ]まだみていません。11日の胎児を使った理由は各organが出来る第1日目だとされているからです。
[佐藤]変異細胞の染色体は調べましたか。
[乾 ]まだです。
[黒木]In vitroとin vivoのdoseはどうやって決めたのですか。
[乾 ]In vivoでは24時間動物が死なずに耐えられる最高濃度を使うようにし、in
vitroでは細胞が死滅せずに再増殖を起こすことの出来る最高濃度を使いました。
[黒木]そういう決め方でin vitroとin vivoの変化を対応させていいでしょうか。In
vitroとin vivoの変異の違いがそういうdoseの違いから出るとも考えられませんか。
[乾 ]その点に問題は残っています。しかし、どういう決め方をするかという事は大変難しいですね。
《難波報告》
9.ヒト正常2倍体細胞の4NQOによる発癌実験経過報告
昨年、ヒト肝由来の細胞を4NQOで癌化することに成功したが、その結果を一層確実にするために追試実験を進めている。現在まだこの追試実験でヒト細胞の癌化には成功していないが、しかし4NQO処理細胞は癌化にかなり近づいているようなので経過中の実験結果について報告する。報告の内容は、細胞の形態、増殖、染色体についてである。
1)細胞の形態
現在使用している細胞は、6カ月のヒト胎児の肝および脳由来の線維芽様の形態を示す細胞である。肝由来の4NQO未処理の対照細胞は細胞に多数の顆粒が出現し変性死亡しつつあり、これはヒト培養細胞のAgingに特徴的な形態である。4NQO処理細胞は(写真を呈示)、このAgingの現象を示すことなく、増殖を続けている。しかしまだ癌細胞としての特徴的な形態を示していない。ヒト肝由来の線維芽細胞の4NQOで癌化した細胞の形態は、細胞の配列は乱れ、細胞は上皮様の形態を示し、多数の核小体が認められる。
2)細胞の増殖
肝由来の対照細胞は増殖が止っており、PhaseIIIに入っている。しかし、4NQO処理のものは目下順調に増殖を続けている。
3)クロモゾームの変化
ヒト肝及び脳由来の対照細胞と4NQO処理細胞との染色体分布を調べた(図を呈示)。
肝からの4NQO処理細胞の染色体の分布にはそれほどの変化はおこっていない。
脳由来の4NQO処理細胞の染色体の分布は、2nの山の低下がおきている。そして異常な核型も出現している。この核型は班会議でスライドで示す。
:質疑応答:
[堀川]ヒトの細胞の悪性化の最終決定は何ですか。
[難波]ヌ−ドマウスの抗リンパ球血清で処理した動物への移植性で見る積もりです。
[佐藤]染色体数の少ない方への変異は問題があるかも知れません。DNA量としても少なくなっているという細胞系はありましたか。
[乾 ]人細胞系で1系ありましたが、染色体数の変化とDNA量の変化は平行しません。
[堀川]種が違ってさえDNA量は同じなのだという人もありますね。
[乾 ]1本少ないというような時は、核型も検討してみる必要がありますね。
[黒木]ビタミンEでlife spanが延びるという実験データの真偽はどうでしょう。
[難波]あまり信頼性がありません。
[佐藤]Agingの原因は今どう言われていますか。物質の欠乏ではないようですね。
[堀川]消耗説は否定されています。物質がdeficientになってagingになると考えると、細胞内に収まりきらない程の量を始に持っていなければならない計算になりますから。
[勝田]DNAの擦り切れ説とか、酵素活性の低下に伴うという説は残っていますね。しかし、もっと理想的に培地を改良すれば、agingもなくなると思いますがねえ。
[堀川]それはそうかも知れませんが、これはこれで良いシステムですよ。
[難波]現在の培地なら対照は必ずagingを起こすので実験群の変異がはっきりします。
《高木報告》
1)DMAE-4HAQO注射ラットに生じた膵腫瘍
生後4週のWistarラット16匹にDMAE-4HAQO 20mg/kg週1回計5回注射し、また生後3〜4週のSDラット19匹にも同様に注射して以後経過を観察していた。
WKAについては20ケ月をへて生き残った4匹中3匹に膵腫瘍の発生をみた。他は経過中に死亡したり、採血中に死亡したりしたが、その中3匹の剖見所見は肺炎を思わせるもので、膵には特に変化は認められなかった。また17ケ月目に調べた6匹のラットの血糖値は3匹において低値がみられた。SDについては14ケ月後に10匹につき血糖値を測定したが80mg/dl以下の低血糖を示したものはなかった。現在5匹生存中である。
WKAより摘出した腫瘍はラ氏島腺腫と考えられるが、大きさは3〜4mm径であった。1つの腫瘍につき7.9mg
wet weightをmillipore filter上においてorgan
cultureし、残りをModified Eagle's medium+20%FCS(glucose
300mg/dl)で培養した。
Organ cultureでは1時間のpreincubation後glucose
100mg/dlおよび300mg/dl各1時間ずつ作用させて、その間の培地中のIRIを測定すると各々1200μu/mlおよび1530μu/mlがえられた。なおこのIRI測定のstandard
curveの作製にはhuman insulinを用いており、ラットのinsulinを用いればさらに多量のinsulinの分泌が証明されたと考える。
他の腫瘍についてはcollagenase処理により培養を試みたが、残念ながらラ氏島細胞の増殖はえられなかった。
これらの腫瘍の電顕像ではB顆粒をもった細胞が多数みられ、ラ島細胞腫と思われた。
幼若ラット膵ラ氏島細胞にin vitroでDMAE-4HAQOを作用させる実験を計画中である。
2)培養細胞の免疫抗原性の解析
培養内発癌実験においてtransformed cellの同定に免疫学的な手法を導入した実験系をつくる目的で基礎的条件の設定につとめている。
培養内で細胞性免疫抗原性を認識させるには、リンパ球を少なくとも5〜8日間培養しなければならない。そのため種々の条件につき検討しているが、その間におけるリンパ球の反応性をみる示標としてPHAによるblastoid
transformationを用い、H3-thymidneのとり込みを検討した。RPMI1640+10%FCSの培地でヒトリンパ球を培養し、これに48時間PHA
10μg/mlを作用させ、さらにこれにH3-thymidine1μCi/mlを24時間加えてそのとり込みをみると、対照に比し約20倍のとり込みがみられた。しかしラットリンパ球につき同一条件で検討したところ、対照に比し僅かな差異が認められたにすぎなかった。そこでヒトおよびラットリンパ球につきPHAの濃度による反応性を同様な実験系で検討した(表を呈示)。ヒトではPHA
10μg/mlでH3-thymidineのとり込みはplateauになるのに、ラットでは濃度とともに175μg/mlまで上昇した。すなわちラットリンパ球の反応性をPHAを用いてみる場合、ヒトリンパ球より高濃度を用いなければならないことが判った。さらに長期間良好な反応性を示す条件を検討中である。
:質疑応答:
[難波]プラスチックシャーレの滅菌法によって細胞の増殖が違うというのは困ったことですね。X線滅菌というのも出ていますが、どうですか。
[高木]紫外線滅菌でなくては駄目だそうです。
[山だ]PHAでラッテの血球が反応しにくいというデータは私も持っています。あと腫瘍細胞とリンパ球との混合比とか、反応させてどの位の時間で測定するかとか、いろいろ気をつけてやらないと失敗しますよ。
《堀川報告》
ヒト由来のHeLaS3細胞とマウス由来のL細胞に各種線量のUVを照射した際、(夫々に図を呈示)両細胞ともに線量に依存してDNA中にTTが誘起される。ところが例えば200ergs/平方mm照射されたHeLaS3をその後repair
incubationすると、約50%のTTがDNAから除去されるが、マウスL細胞においてはこのようなexcision
repairはまったく認められない。しかるにコロニー形成能による線量−生存率曲線を求めた両細胞間には感受性の差異は全く認められない。これは不思議なことである。TTのexcision
repair能を欠くL細胞がHeLaS3細胞とUVに対する感受性を一にするにはマウスL細胞には何か秘めたるrepair機構をもつに違いないことを示唆している。この問題を解析しようとするのが本実験の趣旨である。
幸い、caffeineがこの方面の秘めたるrepair機構をblockすることが以前から知られているので、このcaffeineを使ってこの分野の検索を行うことにした。未照射の正常L細胞を各種濃度のcaffeineを含む培地中でコロニー形成させると、caffeineの高濃度のところでコロニー形成能は低下するが、低濃度域ではそれ程大きなeffectをうけない。一方、200ergs/平方mmのUV照射されたマウスL細胞を同様に各種濃度のcaffeine培地中で培養するとコロニー形成能は更に一段と低下する。こういった実験をマウスL細胞とHeLaS3細胞について行い、それぞれのpercent
inhibitionを求めると、200ergs/平方mm照射されたマウスL細胞の生存率はHeLaS3細胞のそれに比べてcaffeineによりはるかに抑制されることがわかる。これを更に線量−生存率曲線を求めてconfirmしてみた。L細胞の生存率はcaffeineの濃度に依存して低下する。L細胞とHeLaS3細胞について行った実験結果をもとにcaffeine濃度に対してDo値の変化をプロットしてみると、これからも照射されたL細胞の生存率はcaffeineにより大きく影響されることが判った。(以下、次号)
:質疑応答:
[勝田]ハイドロキシウレアそのものは紫外線で影響を受ける事はありませんか。
[堀川]ハイドロキシウレアという物は精製すると効果がなくなるとか、色々と問題もあります。紫外線照射で何か起こるということも考えられますね。
[黒木]ConservativeDNA replicationにカフェインが取り込まれるのは何故ですか。
[堀川]カフェインはプリンのanalogですから入るのかも知れません。結合しているかどうかは判りません。
[黒木]紫外線照射でカフェインの取込みが下がるのはDNA合成が下がった為ですか。
[堀川]そう考えています。DNAの取り方についてはもっと検討する必要があります。
[黒木]Bagで透析するとnonenzymaticにカフェインがくっついてしまうのでは・・・。
[堀川]カフェインはnonenzymaticにbindするという方が考え易いでしょう。
[黒木]酵素的にではなく入ったカフェインが再生に関係するというのは、一寸考えにくいのですが、どういうことでしょうか。
[二階堂]カフェインのinsertionはどうなっているのですか。
[堀川]全く判っていません。まき込みというような表現で詳しい説明を逃げています。
[黒木]BUdRはなぜdimerの所へ入るのですか。
[堀川]DNAに紫外線を照射してdimerを作り、新たなDNA合成を起こさせて、dimerの所へgapを作りBUdRを取り込ませるという訳です。
《梅田報告》
前々回の班会議(月報7410)で報告した試験管内発癌実験のその後の実験と、前回の班会議(月報7412)で報告したin
vitro metabolic activationの仕事について報告する。
(I)マウス又はハムスター胎児細胞の継代数代目の細胞を1万個のオーダーで6cmのシャーレに接種し、1日後発癌剤を投与してさらに2日後正常培地に戻し、5〜6週間培地交新を続け培養することにより、悪性の形態のコロニーが出現することを報告した(月報7410)。その後数多くの実験を行ってみたが、結論はこの方法でもTransformation
rate(morphological)は非常に悪いと云うことである。以下に夫々のデータを記す。
(II)本方法は株細胞を作らなくてもいろいろのマウスの系統の細胞を得て試験管内発癌実験が出来る筈であり、そこが利点と思われたので、早速発癌性炭化水素により発癌率の高いと云われるC3Hマウスと、それの低いと云われているAKRマウスの胎児細胞を培養して実験を行った。(表を呈示)DDDマウスでは月報7410で報告したRaznikoff等のfocusの判定に従うとTypeII、IIIの悪性形態を示すfocusが出現しているにも拘らずC3Hマウスでは殆んどfocus出現が認められず、AKRマウスでは皆無であった。それは同じように1万個cells/dish接種して培養を始めたのであるがDDD、C3H、AKRの順に細胞増殖が悪くなり、後者では接種数が少なすぎたからである。しかしDDDマウスのデータにしてもシャーレ5枚を使っているのにTypeII+IIIのfocusの数が少なすぎる。
(III)次にDDDマウス胎児細胞を用い細胞接種数の問題、継代数の関係を調べてみた(表を呈示)。2nd
gen.で5万個、10万個cells/dish接種した場合は4NQO処理群、コントロール群で増生が良すぎる位なので培養の途中で血清濃度を2%に下げたものを作った。下げなかった培養では細胞はovergrowして一部はがれ始めたものがあった。しかし下げたものも結局は増生が途中で止ったようになりfocal
growthは示さなかった。
この実験でもII、IIIのタイプのfocus出現率は非常に悪く、しかもコントロールでも出現したものがあり、判定を困難にした。
(IV)そこでもう1回始めに報告した条件(月報7410)でシャーレ数を多くして実験を繰り返してみた(表を呈示)。明らかに悪性とおもわれるfocusの出現はあるが率は低い。
(V)一方で、以上の実験方法では悪性化する細胞の種類がわからないこと、又それ故悪性化し易い細胞を得れば悪性転換率も高くなる可能性を考え、その目的に合うか合わないかはわからないが、先ずハムスター新生児肺からの培養細胞を得て実験を行った(表を呈示)。この実験ではかなり高率にII、IIIのタイプのfocusが出現しているが、細胞層は赤染するfocusがnetworkを作り非常に見難い。特に2nd
gen.で著しく、しかもtypeIIIのfocusまで出現している。しかし5th
gen.でこの赤染するfocusは少くなり、typeII、IIIのfocusは見られなかった。
(VI)以上形態的に見る限り、細胞はいろいろな様相を呈しており、判定を困難にするし、又悪性転換率が非常に小さく、問題は山積の感を深くしている。一方でやっとDDD、C3H、AKR胎児からの3T3継代の細胞が株化したようなので目下この細胞の性質調べ、クローニング、発癌実験をstartしている。
(VII)前回の班会議で報告したDMNにliver microsomeを加えFM3A細胞と30分処理してFM3A細胞中の8AG耐性細胞出現度の上昇をみる実験のその後のデータを報告する。
前回はexpression periodの必要性のデータを報告したが(月報7412)、もう一回繰り返し実験した所(表を呈示)、2日前後が適当であるとの結果を得た。
(VIII)最近のMallingの報告(Mut.Res.1974)ではNADPHの量を減じても良いとされている。NADPHは高価な試薬故その濃度と反応の関係を調べた(図を呈示)。今迄の実験では3.6mM量を使っていた。調べた結果からみると、0.3mM以上ならば同じような効果を示すとの結論を得た。そこで以後の実験は経済的のことも考え、0.5mM
NADPHを使うことに決めた。
(IX)試験管内発癌実験でも気にしていることであるが、マウスの系統により発癌率の異る報告があり、これがenzyme
levelで証明されることを期待して実験を行った。DDD、C3H、AKR各マウスの肝ホモジネートを用いてDMNの3濃度に対する突然変異惹起率をみた。DDD、C3Hマウスは殆んど同じ率のmutation
frequencyを示したのに対し、AKRでは低率を示した。
:質疑応答:
[堀川]マウスの年齢による違いはありませんか。
[梅田]今の所一定の年齢を使っていて、年齢を変えてのデータは持っていません。
[黒木]3T3継代の細胞のcontact inhibitionはどうですか。
[梅田]AKR系からの系はかかりますが、DDD系由来株はかかりません。
[堀川]AF-2ではどうですか。
[梅田]Mutationが起こります。Liver homogenateによるactivationもあります。
《黒木報告》
1.10T1/2細胞及びそのクローンの形質転換
10T1/2細胞を用いて化学物質による形質転換を試みてきたが、原株はその率が比較的低く、またcontrolにも形質転換がみられた(図を呈示)ので、クローン化を試みた。最初にひろったクローン4株のうち一つ(clone
No.4)は非常に高い形質転換を示したが、不幸にも凍結の失敗により細胞が切れてしまった。このため新たに16ケのクローンについて形質転換を試みた。
クローニング:10T1/2 Cl-8 継代10代の細胞をmicroplateにうえこみ、接触阻止現象に鋭敏なクローンをひろった。
形質転換:5,000ケ/60mm dish/4mlにまき翌日、MCA
200μg/ml DMSO液を20μl添加した(最終濃度、MCA
1μg/ml、DMSO 0.5%)対照にはDMSO 20μl加えた。48時間後培地交換、以後週2回培地交換、6週後に固定染色した。実験、対照とも一群シャーレ8枚。形質転換はfociの形からII、IIIに分類した。
結果:(図を呈示)検索した20クローンのうち7つのクローン(Cl-6、7、10、16、18、19、20)はMCA処理、対照ともに形質転換しなかった。しかし残りは、その率に大きな幅があるがMCAによって形質転換した。Cl-3、4(切れた)に次いでCl-13の形質転換率が高い(6.3foci/d)ので、今後このクローンを用いて実験をすすめたい。DMSO処理対照群の形質転換はCl-17、21にのみ認められた。なお20クローンの平均形質転換率は,MCA処理群で2.1
foci/dishで原株よりも2倍近く高い。DMSO処理群の平均は0.0285
foci/dで原株(0.6)の1/21である。
2.培養肝細胞の発癌剤代謝能
一昨年IARC滞在中に分離した肝細胞(IAR-20、及びそのpure
clone PC-1、-2、-3及びIAR-22)を用いて、liver
cell-mediated mutagenesis、carcinogenesisを行う目的でこれらの細胞のcharacterizationを行った。
IAR-20:BD-IV rat生後10日肝よりトリプシン消化、Williams法を用いて分離した。PC-1、2、3はmicroplateで分離した。
IAR-22:BD-IV rat生後8週間肝より分離。いずれも、Williams
med.+10%FCSで培養。(10日おき1/10稀釋5日目に培地交換、トリプシン消化−rubber
polishmenでは細胞が死んでしまう)
染色体構成は(図を呈示)、IAR-20、PC-2、-3でdiploidであった。しかし、PC-1は低四倍体に、IAR-22は二倍体付近に幅広く広がっている。核型、bandingはまだみていない。(染色体分析は培養後約1年2ケ月内の時点で行った)
(表を呈示)Aldolase isozyme patternはB型でない。FDP/FIP比は肝型に近いが肝型そのものではない。(表を呈示)この時の測定ではglucoki.が検出されたが、その後は出ない。glucoki.はsubstrateの濃度差から算出した(城西歯大・中村氏測定)。生化学的には肝型からの偏位している。branched
chain a.a.transaminaseはIAR-20は胎児型、-22は癌型である。tyrosine
transaminase(TAT)も、traceしかない。dexamethasoneで誘導されない。アルブミン合成もオクタロニーで検出できなかった。(図を呈示)branched
chain a.a.transaminase(DEAEクロマト)はIAR-20、22ともII型(成熟肝型)はない。(表を呈示)dex.処理のとき15−16%にII型があるように書いてあるが有意でない(いずれも徳島大・市原氏測定)。II型をもっている培養肝細胞は、現在のところMorris肝癌7316Aのみである。しかし、それも長期間培養中に消失した(市原氏・私信)。
そこで、この細胞の発癌剤代謝能を調べたところまだかなり保持していることが明らかになった。炭化水素系発癌剤代謝に関与する酵素としてはbenzpyrene
hydroxylaseまたはaryl-hydrocarbon hydroxylase(AHH)が知られている。しかし、この酵素系は単一の酵素ではなく、mixed
function oxidaseであり、おそらくhydroxylase(例えばepoxide
hydroxylase)とcoupleしているものと思われる。AHHの測定法の代表的な方法はBPから3-hydroxy
BPの形式をみるのであるが、重要なことは、この測定の産生物である3OHBPに発癌性の証明されていないことである。そこで、AHHの測定法としては、もっとも簡単なしかし、非常に多くの(その大部分は不明であるが)代謝過程を含んでいると思われる水溶性代謝産物への代謝能を用いた。
<測定法>:Huberman,E et al Cancer
Res.31,2161,1971. Diamond,L.:Int.J.Cancer
3,838,1968。(1)H3-MCA(Amersham、ベンゼン溶液を蒸発後DMSOに溶解し、500mCi1mmoleにadjust)を加える。0.25μCi/ml(500pmole)〜1.0μCi/ml(2,000pmole)に加える。DMSO最終濃度0.5%以下。(2)1〜3日後に培地0.2mlを短試にとる。細胞層を培地と等量の1%SDS(PBS)で溶解後、その0.2mlを同じ短試にとる。その一部(20μl)をとりradioactivity測定。(3)短試に3.6ml(9vol.)のクロロホルム/メタノール混合液(2:1)を加え、よく、かくはん後遠心、水層及びクロロホルム層の一部(100μl)をとり放射活性を測定する。
radioactivityのrecoveryは100±5%に入る。
(図を呈示)IAR-20、22ともに添加したMCAの30%を3日間に代謝する。(図を呈示)代謝能(%)と添加MCA量との間の関係、1,000pmole(0.268μg/ml)以上では、MCAは過剰になり、代謝産物量はplateauになる。(図を呈示)代謝効率と細胞数の間には直線関係が成立する。(表を呈示)FM3A細胞には代謝能がないので、IAR肝細胞mediated
FM3A mutagenesisまたは10T1/2transformationのSystemを作ることが可能である。
:質疑応答:
[堀川]肝細胞をfeeder layerにする時はX線などをかけて使うのですか。
[黒木]FM3Aと合わせて使う時は何も処理せずに、そのまま使おうと思っています。肝細胞はガラスによく張り付き、FM3Aは全く張り付かずに浮いて増殖する細胞ですから。
[堀川]3T3法で接触阻害のかかる細胞がとれるというのは、何か意味がありますか。
[黒木]Confluentになってから長くおくとovergrowthする細胞をselectする結果になるのではないでしょうか。3T3法ですとそういう状態にならずに継代する訳です。
[佐藤]私の経験では接種細胞数を大きくして継代するとmarker染色体が出て来ず、小さくするとspontaneousな悪性化が起き易いようです。一定の接種細胞数にしてあまり少なくならないようにして、きちんと継代するとかなりよく2倍体を保てます。
[黒木]肝細胞ではsaturationが低い時に継代する必要がありますか。
[佐藤]ある程度cell sheetが出来た時、倍位に薄めて継代すれば2倍体が保てます。
《野瀬報告》
高張処理による細胞の変化
細胞の表現形質を変化させる方法としては、変異剤が広く用いられるが、それ以外にも染色体構造にある種の変化を与えれば何らかの機能変化が起こるのではないかと考えている。そのため、細胞を高張処理をした時の生理条件をいろいろ検討してみた。
用いた細胞は主にCHO-K1で、これに各濃度のurea、KCl、NaCl、sucroseなどを加え37℃で60min処理した後、trypsinizeしplating
efficiencyを見た。KClの場合0.2〜0.3Mの間で細胞の生存率は急激に下り、ureaでは0.8〜0.9Mが生死の境になる。この傾向は再現性あり、CHO-K1以外でもJTC-16を用いても同様の傾向だった。NaClの効果はKClと同じだったが、sucroseは0.4〜0.5Mで致死的でureaよりやや毒性が強かった。
これらの濃度の塩を含む培地の浸透圧は(表を呈示)最高1416mOsであった。大体800mOs程度まで上ると細胞は生存率がほとんど0となるが、この濃度は等張とくらべ2.5〜3倍であり、かなり高張の条件でも細胞は生存できることを示している。高張処理して、トリプシン処理をした細胞は、ureaの場合は細胞質が突出していたり、KClの場合は浮遊状態なのにfibroblasticになったりかなり形態が変化していた。
コロニー形成で見た生存率は下ってもerythrosinBによる染色でみると(表を呈示)ほとんど変化がなく、染色によって生死を判別する方法はこの場合使えない。
urea処理した細胞の増殖をみたところ、生存率が0になれば全く増殖はなかったので、細胞の分裂能は失われているといえる。しかし、処理直後のタンパク合成能は残っているので、生死判別の結果と考え合わせると、urea処理直後の細胞は分裂以外の生理機能はある程度残っていると考えられる。
以上の高張処理が細胞機能にどんな影響を与えるか予備的に調べてみた。8-aza-guanine耐性の出現率には全く変化を与えなかった。またラッテ筋由来のfibroblastには多少形態的変化を与えたがあまり大きな変化とは言えない。今後更にいろいろの細胞を用いて機能変化の可能性を検討し、malignant
transformationに結びつかないか調べてみたい。
:質疑応答:
[梅田]UreaやKClを添加する時、培地そのものの塩は調整していますか。
[野瀬]培地は正常に調整して、物を添加しています。添加物0状態が等張です。
[佐藤]浸透圧は培養後に変化していませんか。
[高岡]殆ど変わりません。
[堀川]アルコールの影響なども調べて下さい。
[野瀬]今回の実験では高張から低張にもどす時のショックで死ぬようでした。戻し方を工夫すればもっと生存するのかも知れません。
【勝田班月報・7503】
《勝田報告》
A)培養内発癌実験
最近開発した新しい方法でラッテ肝の株がどんどん出来ているので、これらを使っての発癌実験をはじめている。発癌剤としては4NQOを用い1回処理で以後顕微鏡映画撮影で細胞の動態の変化を追うのと共に、その時期の生化学的変化をしらべることを目的としている。観察は処理後初期の2カ月間で、現在RLC-16株を用いて実験中であるが、RLC-18、-19、-20、-21も順次に使用する予定である。
B)肝細胞株の道程
上記のように続出してきた肝細胞株を肝細胞として同定する一端として、酵素活性及び形態の上から久米川君に、復元試験については東大病理の榊原君に協力してもらっている。後者はハムスターに抗リンパ球血清を接種して、細胞をポーチに入れるのであるが、その形成塊の組織像を3週間で見られるというのが利点である。
C)ヒト末梢血の単球の培養
ヒト末梢血から単球を主体とする分劃をとり出し、自家血清10%+DM-153の培地で培養しながら顕微鏡映画で追ってみると、1週間後頃より単球がしだいに肥大しはじめ、2週以後には巨大多核細胞となることが判った。単球は増殖しないが、少くとも3カ月間は生存していることも認められた。この巨大化、多核化がCell
fusionによるものか分裂異常によるものかはまだ確認できないが、Cell
fusionによるのではないかと想像される。それは、特殊な場合を除いてはH3-TdRのとり込みが見られないことと、多核でも核の大きさが皆揃っていて大小不同の無いことからである。特殊な場合というのは微生物感染ではないかと思われるが、大量にH3-TdRとり込みを見出したのである。この点については、いわゆるblast-formationとの関係について、今後さらに研究を続けるつもりである。
《高木報告》
CytochalasinBの培養細胞に対する効果
これまでCCBの培養細胞に及ぼす効果を観察していたが、多核の形成がDNA合成を伴ったものか否かをみるため、CCBを作用させると同時にH3-thymidineの取り込み、およびnetのDNA量の測定を試みた。H3-thymidineの取り込みは実験ではCCBが細胞膜に作用してthymi-dineの透過性を抑制する可能性が考えられるので、netのDNA測定実験を行ったが、2回の実験で成績の不一致をみたので、再度RFL-5細胞を用いて実験をくり返し、表の如き結果を得た(表を呈示)。この実験では対照の細胞の増殖はきわめて良好で、3日間に約32倍の増殖を示し、CCB処理細胞は1.8倍の増殖であった。対照の細胞あたりのDNA量が、培養日数とともにやや低下しているのは、培養初期ではexponentialな増殖を示すためS期の細胞が培養中に多く含まれているためと考えられる。表に示す如くCCB処理細胞では明らかにDNA量は多く、このことは多核の形成過程のどこかの段階までは、DNAの合成が行われていることを示唆するものと考える。
《堀川報告》
UV照射されたマウス細胞の生存率は、Lcaffeineによって特異的に抑えられることを前報で報告した。こうしたcaffeineの作用が、DNAレベルではどの様な作用としてみられるかを検討するため、マウスL細胞およびHeLaS3細胞を1x10-6乗M
FUdRと5x10-5乗M Uridineを含む培地中で16時間培養することによりpartiallyに同調した細胞を、200ergs/平方mmのUVを照射し、ついで45分間5μCi
H3-TdR/mlを含む培地中で培養することによって、新しく合成された小新生DNAをラベルしてやる、(この場合、対照群の未照射細胞は15分間だけラベルしてやると同じ大きさの小新生DNAがつくられる)。ついでこれらの細胞を正常培養液に移して培養した場合、これら細胞内DNAの伸長がcaffeineの存在によってどのように影響をうけるかを、5〜20%アルカリ性蔗糖勾配遠心法で調べた結果が、図1および図2である(以下夫々図を呈示)。
これらの図からわかるように、マウスL細胞、HeLaS3細胞ともに未照射細胞は勿論のこと照射された細胞でも正常培地中での培養によって新生DNAは伸長し、約6時間の培養で正常DNAの大きさに達する。正常細胞のDNAは2mM
caffeineの存在中でも殆ど影響をうけることなくincubation
timeとともに伸長するが、200ergs/平方mmUVで照射されたDNAの伸長は、caffeineの存在によって抑制される。これはマウスL細胞において特に顕著である。また、HeLaS3細胞のDNAの沈降像からわかるように、H3-TdR処理直後においてすでにbulk
DNAの方に放射活性が認められるが、これは除去修復能をもつHeLaS3細胞ではrepair
replicationによってH3-TdRをbulk DNA中にもとり込んだものと思われる。
以上の結果、つまり図1、図2に描かれた沈降像をもとにしてWeight-average
molecular weithtを計算してまとめたものが図3および図4である。これからわかるように照射されたマウスL細胞において新生された小DNA鎖の伸長はcaffeineの存在によって特異的に抑えられることがわかる。
では、このようにUV照射されたマウスL細胞において作られた小新生DNA鎖の伸長が何故caffeineによってblockされるのかといった問題の解析が今後に残されている。
《山田報告》
引続いて電顕的に培養ラット肝細胞の形態を検索した結果を報告します。
今回はまずグリコーゲン顆粒の正常像を分析する意味でラット正常肝を検索した所、そのグリコーゲン顆粒は従来の文献にみられる様に、図1のごとき、きれいな星状の凝集像がみられました。(夫々電顕像を呈示)
培養したラット肝正常細胞には、この様な典型的なグリコーゲン凝集像が殆んど消失して、微細な粒状になってしまう様です。従って光学顕微鏡下のグリコーゲン染色では陰性になるわけです。
RLC-18(Embryo由来のラット正常肝細胞):
グリコーゲン顆粒は極めて微細で、また細胞により、その出現の度合が極めてバラバラです。図2に示す様にある細胞では極めて密集してグリコーゲンがあるにかかわらず、他の細胞では極めて平等に分布する細胞があったりして、或いはmixed
populationの度合いが著しいのかもしれません。通常の暗調なライソゾームが殆んどなく、その代りに大型な明調なライソゾームらしき物質が散在している。全体に相互の結合性が弱く、microvilliのある辺縁が多く、平滑なデスモゾームのある接触は極めて少いと思われます。
RLC-21(Embryo由来ラット正常肝細胞)
グリコーゲン顆粒が微細で極めて平等に分布し、RLC-18にみる様な密集はない。通常の暗調のライソゾームが若干みられる。平滑な接触面がRLC-18より多くみられるが、RLC-20(Newborn)程にはない。
Embryoの二系の間には若干差があり、超微形態はどうもCase
by Caseに異る様です。
《乾報告》
経胎盤in vivo-in vitro chemical Carcinogenesis:
先月の月報で、Transplacental in vivo-in
vitro Chemical Carcinogenesisの総括的な結果を報告致しました。本号では使用した7種の癌原性物質投与によるColony
Formation Rate、染色体分析のやや詳細なデータを報告します。
1)経胎盤投与によるTransformal Colony形成率
経胎盤的に癌原性物質を投与した胎児繊維芽細胞を培養後のColony形成率、TransphomedColony出現率及び、Transformed
Colonyの細胞のハムスターへの移植実験の結果を表1〜3に示した。(表を呈示)
経胎盤癌原性物質投与後の胎児細胞をシャーレ当り、1万個播種後のPlating
Efficencyは、培養2代〜6代目で各代共略々1%内外であった。しかし、対照に使用したDMSO投与群では、培養7代目に0.02%と、著しく減少した。Bp投与群では実験に使用した2系列共Plating
Efficiencyは他の物質投与群に比して明らかに低く0.3〜0.9%であった。
Morphological Transformed Colonyの出現率は、対照のDMSO投与群では、1系列では0%、他の1系列で0.08、0.15%であった。Bp投与群の1系列では、培養2、4代で、Transformed
Colonyは出現しなかったが、他の1系列では1%以上のTransformed
Colonyが出現した。表1〜3であきらかな様に、経胎盤で胎児に癌原性物質を投与後の培養胎児繊維芽細胞におけるTransformed
Colonyの出現はNMU、4NQO投与群に高くBp、AF-2投与群で低かった。Trans-formed
Colonyの細胞を200万個ハムスターを使用したDMN、3'm-DAB投与群では移植後2週間迄DMN投与群で1系、3'm-DAB投与群で1系で、移植細胞が残存したが、その後消出した。各群の他の1系では細胞の増殖はみられなかった。純系ハムスターAPG使用群では、Bp投与群で移植マイナス、NMU、DEN投与群で血管造成をともなう小豆大の腫瘤が残存している。
2)染色体分布
培養細胞に直接最大量癌原性物質を投与した場合と経胎盤的に物質を投与した時、出現する染色体異常を表4、5に示した。表4で明らかな如く、使用した物質中、NMU、4NQO、AF-2投与群で染色体異常に高頻度に表われ、Bpでは中等度、3'm-DAB、DMN、DEN投与群では低かった。NMU、4NQO、AF-2投与では直接投与群の染色体異常が経胎盤投与に比して高く、Bp投与群では略々同定度、DMN、DEN、3'm-DAB等体内代謝を受け始めて活性化される物質では、経胎盤投与群で、直接投与に比して、著明な染色体切断が観察された。表5にこれら癌原性物質投与で出現した染色体異常の型の解析の結果を示した。NMU、4NQO、AF-2投与群では直接投与では、染色体型異常が多く、経胎盤投与では、染色体型異常が著明に出現した。
他方、3'-DAB投与では、直接、経胎盤投与共、染色体型異常が多く、DMN、DEN投与では、経胎盤投与で、染色体分体型異常が高頻度出現した。
今後Non-Carcinogenic hydrocarbone、アミン類の経胎盤試験管内発癌実験を加えたい。
《難波報告》
10.ヒト正常2倍体細胞の癌化:変異コロニーの検討
昨年以来、ヒト細胞の化学発癌剤を使用して発癌実験を続けているが、しかしまだ発癌に成功していない。
今回は4NQOを処理したヒト胎児肝由来の繊維芽細胞で10-6M
4NQOを間歇的に25回処理し、133日培養、15th PDLのものを20万個/60mmシャーレ6枚にまき、以後、週2回培地更新し、3枚のシャーレは40日後、残り3枚は47日後、ギムザ染色して調べたが変異コロニーは見い出せなかった。また、この段階でクロモゾームの変化もなかった。
このことは、以上の4NQO処理では120万個cellの中1コの癌化細胞も、まだ出現していないようでヒト細胞の癌化のむつかしさを痛感する。
11.ヒト細胞の癌化に有効な化学発癌剤の検討
癌化が細胞のDNAレベルでおこると仮定すれば、化学発癌剤はDNAに何んらかの障害を与えているであろうし、その結果、DNAの修復がおこっているであろう。従って、修復の大きいほど化学発癌剤はDNAによく効いていることになる。
いま、Autoradiographyで修復を調べた結果は図1の通りで4NQO処理の細胞が最も高い修復を示している。この実験条件は細胞はWI-38を使用し、2.6mM
Hydroxyurea(HU)、4.8hr→10-5乗M Chemicals1hr→5μCi/ml
H3-TdR 1/2hr処理で標本を作製した。(実験方法は月報7412に参照)(図表を夫々呈示)
Killing effectをだいたい同じにした薬剤濃度、即ち10-5乗M
BP、10-6乗M NG、10-6乗M 10-7乗M 4NQOで、Autoradiographyを行ったところ、ラベルされた細胞/数えた細胞は、BP
1/1000、NG 2/500、10-6M 4NQO 1/500、10-7M 4NQO
0/500であった。この実験では実験の何処かにミスがあるようで、ラベルされた細胞が少ないのでもう一度繰り返す予定である。
上のAutoradiographyの結果を液シンで検討した。
実験1.細胞は培養された単球性白血病細胞(ヒト由来)。2.6mM
HU1hr→10-5乗M Che-micals 1/2hr→1uCi/ml
H3-TdR 1/2hrでH3-TdRの取り込みをみると、表1のごとく、4NQOでH3-TdRのとり込みが一番高い。(HUは発癌剤及びH3-TdR処理中も常に投与している。)
実験2.は実験1と同じ細胞を使用。2.6mM HU
12hr→10-5乗M Chemicals 1/2hr→1uCi/ml H3-TdR1hrで行った。結果は表2の通りで、この実験でも4NQO処理の細胞が一番高い修復を示している。
《梅田報告》
月報7411に次いでFM3A細胞を用いて8AG耐性出現率でみるfowerd
mutationの系を使ったその後のデータを報告する。
(1)各種物質について試みているが、Mycotoxinのデータを表に示す。OchratoxinAは肝障害を起す事が知られているが発癌性は証明されていない。Penicillic
acid、patulinは共にalkylationの作用があると云われ、皮下投与での肉腫形成が報告されている。Myco-phenolic
acidは、IMPからCMPの合成を阻害する物質でguanine投与でrecoverする。一時、antiviral
agent或はantitumor agentとしての可能性が考えられ研究されたが、結局は実用にいたらなかったようである。(表を呈示)
(2)表でみるごとく、OchratoxinAでは増殖阻害を起す濃度で調べて突然変異率は上昇しなかった。Penicillic
acid、Patulinは、共に軽い上昇が認められるようである。Myco-phenolic
acidに関しては、非常に強い突然変異が誘導されたことになる。この結果からするとmycophenolic
acidに関しては、単なるIMP→GMP阻害としての代謝阻害以上の作用が細胞に働いていることを示唆していると思われる。
突然変異が誘導されたものも、されなかったものも、更にin
vitro metablic activationを使っての突然変異率を検討する予定である。
(3)以上のような実験にしろ、更にin vitro
metabolic activationの実験にしろ、バクテリアの系では良く報告されている事柄である。そして、突然変異のassayとしてはバクテリアの方がより手早く、経済的である。すなわち、多数の物質について突然変異性を調べるような場合、その有用性は覆うべくもない。勿論、バクテリアと哺乳動物細胞では細胞構築、代謝が異るからバクテリアで証明されたことを哺乳動物細胞の系で証明しても、それだけでも意義はあるが、このような実験に携わる者として、哺乳動物細胞を使った故に判明するような、もっと大きな利点があればと思っている。これからはそのような方向も模索しながら実験を進めていきたいと思っている。
《黒木報告》
10T1/2細胞の各クローンについてMCA代謝能を調べた(表を呈示)。
この結果から次の二つがかわった。 (1)10T1/2は株化fibroblastであるにも拘わらずMCA代謝能が非常に高い。(2)clone間に代謝能の差がない。従ってclone間のtransformabilityの差を代謝の差で説明することは出来ない。
《野瀬報告》
Alkaline phosphatase(ALP)誘導のまとめ
これまで、ラッテ肝由来細胞JTC-25・P5のALP活性をcAMPによって誘導する現象をいろいろな面から解析してきたが、活性上昇が酵素蛋白の新生によるのか、又は不活性酵素の活性化によるのかは不明であった。この点を明らかにするため、ALPに対する抗血清を用いて検討した。
But2cAMP処理してALP活性の上昇したJTC-25・P5細胞を大量培養により約12g集め、この細胞からn-ブタノール抽出、Sephadex
G-200によってALPを部分精製した。これを抗体として、Freund's
complete adjuvantと共に、ウサギに6回注射して抗血清を得た。得られた抗血清は、ラッテ各臓器のALPのうち、liver、kidney、boneのALP活性を中和するが、intestineのALPは全く中和しなかった。従ってJTC-25・P5細胞の発現するALPは、intestineの酵素とは抗原性が異なり、liverなどに存在するALPと、類似のものであると結論できる。この結論は月報No.7411に報告したALPの阻害剤に対する感受性の差と一致する。
次に、誘導をかけていないJTC-25・P5細胞中に、ALP活性の中和を阻害する物質があるかどうか検討した。もしALP-活性のないJTC-25・P5細胞が、ALP抗体と交差する物質を持たなければ、誘導によっれALP活性の増加するのは、de
nvo酵素合成により、逆に交差する物質があれば、この物質がALP酵素蛋白の前駆体であると推定できる。
実際の実験では、JTC-25・P5のクローンのうち、誘導性のCl-1と、非誘導性のCl-2とを用いた。各細胞から、n-ブタノール抽出液を作り、これを、誘導して出てきたALPと混合して、抗ALP抗体と反応させ、遠心して沈降物を除いた後、上清のALP活性を測定した。
(図を呈示)結果は図1に示すように、誘導していないCl-1細胞内には抗ALP血清と交差する物質があり、Cl-2細胞にはなかった。このことから、cAMPは細胞内にすでに存在する不活性のALP蛋白を活性化することによってALP誘導をおこすと結論できる。細胞の機能の発現機構として、このような現象は非常に興味ありALP以外の機能の発現にも同様な機構が働いていると思われる。図2はラッテ腎のALPに対する抗血清の効果であるが、やはりintestineのALPは抗原性が異なっていることがわかる。
ALP-活性に関する変異株を分離し、そのALPの酵素的性質は、小腸のALPとは異なっていて、肝、腎、骨のALPと類似していた。誘導されたALPにも、このような臓器特異性が見られることは、ALPの誘導という現象が、分化機能発現の一つと考えられると思われる。その発現機構として、予め不活性型として存在する酵素の前駆体が活性化すること、および、新たな蛋白合成によらないとうことは興味ある現象である。
以上3年間にわたって、培養細胞の酵素(特にALP)の調節機構を研究してきたが、癌と直接結びつかなかったことを申し訳けなく思っています。酵素の発現機構の解析が、いつか、細胞の癌化過程の解析にも示唆を与えるようになることを期待しています。
【勝田班月報・7504】
《勝田報告》
ラッテ肝細胞(RLC-10(2)株)に対するスペルミンの影響
[10%Fetal calf serum+Lactalbumin hydrolysate(0.4%)+SalineD]の培地でRLC-10(2)は継代されているが、継代後1日間この培地で培養した後、血清を含まぬ合成培地[80%DM-145+20%PBS]にきりかえる。このときPBSの中にスペルミンを加えておくと、1.95μg/ml、3.9μg/mlのスペルミンで、培養1日以内に強い致死的な細胞障害が起る。このとき、培養前にスペルミンを前処理し、その毒性を弱めることを試みた。
スペルミン1.95μg/mlに各種物質を添加し、37℃、24時間加温した後、上記の培養法で用いてみた結果は次の通りである。(表を呈示)。数値はスペルミン無添加群の1日間の増殖率に対する実験群の増殖率の%である。(但し各対照群には添加物質は同濃度に加えた。)
これらの内でスペルミン毒性に対する緩和効果を最高に示したのは、Bovine
albumin、FractionVであった。Chondroitin sulfateもやや効果があったので、濃度を2mg/mlに上げてみたところ、沈澱が生じて計数できず失敗。Tween80も試みたが、Tween80のみの添加群が全滅し、これも失敗した。
《高木報告》
CytochalasinBの培養細胞に対する効果
CCBによる培養細胞の多核形成がDNA合成を伴ったものであるか否かをみるため、先の月報では増殖能がつよく可移植性もあり、また2核以上の多核を形成するRFL-5細胞について検討した。今回は同じくラット肺由来であるが、増殖能が悪くCCBにより2核形成に止まるRFL-6細胞につき観察した。この細胞の増殖能は3日間で約5.3倍であり、CCBで処理した場合1.4倍を示した。用いた濃度は2.5μg/mlである。結果を表示すると、次の通りになる(表を呈示)。
無処理対照細胞、CCB処理細胞ともに培養につれて細胞あたりのDNA量は減少の傾向を示したが、全体として両者を比較するとCCB処理細胞の方が対照細胞より細胞あたりのDNA含量は多く、このことは2核細胞の形成がDNA合成を伴っていることを示した。
ラットリンパ球培養の基礎的条件の検討
ラットの脾よりあつめたリンパ球につき無蛋白培地および1640+10%FCS培地でFCSのlotの違いによるPHAに対する反応性の相違をみている。
《乾報告》
4月号の月報を提出すると云うことは、向う三年間“組織培養による発癌機構の研究”と云う班で、勝田先生を中心として、諸先生方と御一緒に、仕事をして行く事が出来ると云う解釈を致し大変うれしく存じております。
2月末より3月一杯、期限付の毒性検定が15検体程まいりまして、基礎の仕事は細胞を維持するのがやっとで、又々業務研究所の悲しさをいやと云う程、味あわされました。その様な理由で本月は御報告するデータがありませんが、現在公社で開発中の紙パルプを素材とした未来の“たばこ"の原料の主物毒性についてふれてみます。
現在、製品として使用されている“たばこ"の原料としては、ヴァージニア黄色種(BY)、バーレー種を中心に、たばこの葉脈、細蓋等を粉細して、シート工法で再生したシートタバコ(Sh)等ですが、これを対照として、ハムスター細胞に対する合成タバコ原料を検定しますと表の如くです(表を呈示)。
同時に行なったSalmonellaのTA1538株を使用した遺伝毒性を0.5mg/dish投与でBYに対し人工原料は3倍のMutantを出現させます。
《山田報告》
RLC-19株細胞のEM像
Adult rat liverより培養したRLC-19株を電顕的に検査しました。他の株と比較すると、やはりadult
rat liver由来のRLC-16に似ていますが、よりSmooth
contactが多く、非凝集性のグリコーゲン顆粒が若干多い様です。しかしembryo又はnew-born由来の肝細胞よりは少いと思われます。この株では、暗調のlysosomeが稀に発見され、mitochondriaのCristaeがはっきりして居ます。またGolgi
bodyが、他の検索したすべての細胞系より、よく発達して居ました。
正常肝由来細胞の検索はこの位にして、4NQOによる癌化株及び、腹水肝癌培養株を検索して比較したいと思って居ます。
《堀川報告》
前報では、紫外線照射されたマウスL細胞において作られる小新生DNAの伸長がCaffeineによってblockされることを報告した。このようにみると、Caffeineはどのような機作で新生されたDNAの伸長を阻害するかということが問題になってくる。可能性としては、(1)親DNA鎖中に誘起されたTTにCaffeineは結合することによりgap
fillingを阻害する。(2)新しく作られたDNAの伸長部位にCaffeineは結合して伸長を阻害する。(3)修復DNA-polymeraseを始めとした修復に関するenzymesの活性をCaffeineは阻害する、等々が考えられよう。これらのうち、まず(1)の可能性を検討するため、各種線量のUVを照射されたL細胞を5μCi
H3-Caffeine/mlを含む培養液中で培養し、その都度Marmur(1961)法でDNAを抽出し、affeineの結合量を調べた。結果は(夫々図を呈示)図1に示すごとく、予想に反して高線量照射された細胞のDNAほどCaffeineの結合は少く、semi-conservativeにDNA複製を行っている未照射細胞内DNAと積極的に結合することがわかる。これでは、TTの誘起されたDNAとCaffeineの結合を正確に把握することが出来ないため、あらかじめ3x10-3M
hydroxyrureaで150分間前処理することにより、semiconservative
DNA合成を完全に止めた状態のL細胞に各種線量のUVを照射し、その後、hydroxyurea存在下で5μgCi
H3-Caffeine/mlを含む培養液中で各種時間培養した際のマウスL細胞内DNAと結合するCaffeine量を調べた。結果は、図2に示すごとくCaffeineはTTの誘起されたDNAとは勿論のこと、semi-conservative
DNA合成を止められた未照射細胞DNAとも結合しないで、UV照射後5時間目に培養液からhydroxyureaを除去すると未照射細胞のDNAと再度活発に結合することがわかる。
図3は、hydroxyureaで150分間前処理したL細胞を、更に高線量のUVで照射し、それらをhydroxyurea存在下で、50μgCi
H3-Caffeine/mlを含む培養液中で、それぞれ3時間培養した際のDNAと結合するCaffeine量を調べた結果である。この場合にも、照射線量に依存したCaffeineの結合量の有意な増加は認められない。以上の結果はCaffeineはsemi-conserva-tiveに合成されているDNAとは積極的に結合するか、あるいはその中に取り込まれるようであるが、TTの誘起されたDNA鎖とは活発に結合しないことを物語っているようである。しかし、DNA抽出法としてのMarmur法では結合が切れるような弱い結合である可能性もあるであろうし、確かなことは更に今後の研究に待たなければならない。例えば、平衡透析法によってDomonら(1970)はUV照射されたDNAにCaffeineは結合する可能性のあることを示唆する結果を得ているので、この点は将来更に慎重に検討する必要があるようである。
《梅田報告》
各種物質についてその後出た突然変異性の実験結果を報告する。今迄と同じようにFM3A細胞の8AG耐性獲得の突然変異を指標とした。
(1)4NQO、4HAQOについては非常に高い突然変異性が認められる。有機水銀剤のmethylmercuric
chloride(MMC)は突然変異を惹起しないと結論して良さそうである。
(2)大気汚染物質であるSO2、NOの塩NaSO3、NaNO2、更にAcroleinについて調べた。Na2-SO3はSO3イオンのラジカル反応が知られ、DNAと結合するとされている。我々のデータでは突然変異は起さないと結論される。NaNO2はバクテリアの突然変異の系では、有名な突然変異原であるが発癌性の証明されていない物質である。我々の今回の哺乳動物細胞を用いた系でも突然変異性が認められた。Acroleinは光化学公害の原因の一つと考えられているが、生体では中間代謝産物として肝で生成されているもののようである。バクテリアの系では突然変異原として報告されている。本実験のデータでは突然変異性が殆んど認められないと結論出来る。さらにrepeatして確かめる予定である。
(3)3,4 benzpyreneについてのデータは濃度しか調べてないが突然変異性があるようである。FM3A細胞が悪性細胞であるのにAHHを持っているとすると興味があるので、さらに確かめたいと思っている。(表を呈示)。
《難波報告》
12:ヒト細胞の癌化に伴う形態的変化:繊維芽細胞→上皮性細胞への変化
ヒト細胞を確実に培養内で癌化させることが出来るものは、SV40のみであり、SV40での癌化の報告は、いずれもSV40処理前の細胞は繊維芽細胞様の形態を示すが、癌化すると上皮様の形態を示す細胞に変化している。この事実より、ヒト細胞の癌化の指標の一つとして、繊維芽様細胞から→上皮性細胞への変化が重要なことと考えられている。
ヒト以外の動物の繊維芽細胞を使っての発癌実験では癌化に伴う細胞の形態的変化で上皮性細胞への変化はあまりない。私が以前使用したラット肺、胎児由来の繊維芽細胞は癌化後も繊維芽様形態を持っていたので、ヒト由来の繊維芽細胞の癌化を試み始めたとき、癌化後も繊維芽細胞様の形態を維持するだろうと予想していた。Dr.Hayflickは、細胞が上皮性に変化すれば癌化だとよく話していたので、繊維芽細胞が上皮性に変わるのは細胞(しばしばHeLa)のコンタミではと私は考えていた。
ヒト肝由来の繊維芽様形態を示す細胞を4NQOで処理いて癌化した細胞の形態的変化を考えると、1)繊維芽様細胞:実験開始時及び対照細胞。2)繊維芽様細胞と上皮性細胞の中間的性格:癌化を確認した時点癌化の確認は、(1)Agingそ示さない、(2)クロモゾームの異数性、(3)動物への可移植性。3)より上皮性細胞に近ずく(HeLaに似る):癌化してから培養を続けると(100代以後)。3段階の変化を示している。このことは発癌の段階で細胞はやや上皮性のものに近ずくが、その後培養を続けると徐々に上皮性の方向に変化してゆくことを示している。そして癌化した時点でのEMでは、グリコーゲン顆粒など認められなかったのに(写真を呈示)、現在では胞体内に多数のグリコーゲン顆粒を認める。細胞は癌化によって分化したのであろうか?
とにかく繊維芽様細胞→上皮性細胞への変化はヒト細胞の癌化の指標に重要であるのみならず、細胞の分化機能の発現の上でも重大な変化がおこっているようなので、癌化の初期の細胞を凍結からもどし、クローニングとグリコーゲン合成能やその他の分化機能の検索も行なってこの変化をより詳しく解析しようと考えている。
13:発癌実験の続き
現在、次の4系を4NQOで処理して発癌実験を試みているが、しかしまだ癌化に成功していない。1)ヒト胎児由来肝よりの細胞:形態は繊維芽、培養日数215日。2)ヒト成人肝よりの細胞:形態は繊維芽細胞と上皮細胞との中間、培養日数76日。3)ヒト成人腎よりの細胞:形態は繊維芽細胞と上皮細胞との中間、培養日数34日。
4)ヒト胎児脳よりの細胞:形態は繊維芽細胞、培養日数215日。
《野瀬報告》
Rat Serum Albuminの精製
培養細胞の生化学的マーカーとして、これまでもっぱらアルカリフォスファターゼを調べてきたが、一つだけではあまり発展性がないので、これ以外にアルブミンを取り上げてみた。勝田班においては多くの肝由来培養株が樹立されているので、アルブミン産生能を肝細胞の特異機能としてそれぞれの株で比較するのは意義あることであろう。また、特異蛋白質がin
vitroの細胞でどのように生合成されるかという問題は生化学的にも非常に興味のある問題で、今迄の酵素誘導、酵素活性変異などの仕事の延長としても、適当と思われる。この仕事が直接癌の問題と結びつくとは考えられないが、発癌過程の分子機構を考える上に、何らかのヒントになれば幸いと考えています。
アルブミンは酵素活性などを持たないので、その定量はどうしても免疫学的手段を用いなければならない。そこでまず、純粋なアルブミンを調製することを試みた。市販のRat
Serum albuminのFraction VはSDS-ポリアクリルアミドゲルの電気泳動で見ると図1のNo.1のように少なくとも4種類の蛋白質が混在し、かなり不純である。(以下図表を呈示)。このFraction
Vを出発材料として、以下の方法で純粋なアルブミンを調製した。(Taylor
& Schimke 1973)。Franction Vのアルブミンを10mg/mlになるように0.15M
NaClに溶かし、硫安50%飽和にする。できた沈澱は、主にグロブリンで、捨て、上清に酢酸を加えてpH
5.0にするとアルブミンが沈澱してくる。この沈澱を、0.01M
Tris、pH 7.4;0.15M NaClにとかしてSephadex
G-100のカラムにかけてゲル濾過を行なうと、2つのピークに分れる。低分子のピークがアルブミンで、このピークを集め、3%TCAにしてから4M
NaClを加えてアルブミンを沈澱させる。できた沈澱は、5M
ureaに溶かし、一度変性させてから、0.03M Tris
pH 7.4に対して透析し、DEAE-celluloseのカラムにかけて塩濃度をかえて溶出し、アルブミンのピークを集める。これを濃縮してSDS-ゲル電気泳動で調べると図1のNo.4のようになった。かなり不純物が除かれているが、まだ不純物が存在する。更にもう1回、G-100でゲル濾過したものが図1のNo.5で、ほぼ純粋なアルブミンになっていることがわかる。300mgのFraction
Vを用いて最終的に75mgのアルブミンが得られた。
Radioimmunoassayには、標識したアルブミンが必要なので、H3-ラベルしたアルブミンを次に調製した。約200gのラッテの尾静脈にH3-ロイシン2.0mCiを注入し3時間後に全採血し血清を作る。これを50%飽和の硫安にして上清から先の方法でアルブミンを調製した。図2はG-100の抽出パターンで、(a)が1回目、(b)が3回目である。(b)のピーク標品は、SDSゲルで単一蛋白であった。この方法で、4.0x10の4乗cpm/mg
proteinの標識されたアルブミンが得られた。
《久米川報告》
Morris hepatoma 7316Aの分化度:Pyruvate
Kinase Isozymeを中心にして
肝臓の分化した機能を示すL-type pyruvate
kinase(PK)isozymeを、肝臓の分化度を示す指標として、Morris
hepatoma 7316Aがどの程度の分化レベルに位置づけられるかを、吉田腹水肝ガンの一種であるAH66やRhodamine
sarcomaなどのisozyme patternを比較し検討した。またこの7316Aを単層培養条件下に移した場合、PKに如何なる変化が起きるか調べた。
(各々表、写真を呈示)。解糖系の酵素は表1に示すように、いずれもガン細胞の増殖度の速いほど高い活性を示す。他方、一般にガン化によって肝臓のhexokinase(HK)とglucoki-nase(GK)に起こる変化は、“GKの低下ないし消失とHKの増加”と要約されている。Morris
hepatoma中最も増殖の遅いhighly-differentiatedな7794AにはGK活性が認められる。しかしMorris
hepatoma中で中程度の増殖速度を持つ7316AにはもはやGK活性が認められない。しかし、7794Aおよび7316Aの電顕像はいずれも著しく正常肝細胞に類似している。
Morris hepatoma 7316AのPK isozyme patternは、表2に示すように。正常ラット肝臓のpatternと類似している。このうちPI
7.4のM-type PKの比率が高くなっているが、これは筋肉中に移植されるため、摘出したガン組織中に含まれるわずかの筋肉に基づく活性である(位相差顕微鏡により確認)。この点を考慮すると7316Aのisozyme
patternは正常ラット肝臓とほぼ同様であると考えられる。したがってPK
isozyme patternから推察する限り、Morris hepatoma
7316Aは正常肝臓に近い分化レベルにある。他方、吉田腹水肝ガンの一種であるAH66はPI
7.8のK-type PKをmainに含んでおり、分化型のL-type
PKを全く含んでおらず大変低い分化レベルにある。
7316Aを2週間単層培養すると、2種類の形態的に異なる細胞集団が得られた。1つは繊維芽細胞のみからなるシャーレと、もう1つは繊維芽細胞中に島状に上皮細胞(肝ガン実質細胞)が混合した状態のシャーレである。表2で示すように、前者は、すべてK-type
PKからなり、後者は、もとの7316Aと同様L-type
PKをmainとするisozyme patternを持っている。繊維芽細胞のみからなる前者の結果は、7316A中の結合組織由来の繊維芽細胞のみが単層培養下でSelectionされたためであると考えられる。後者はin
vivoに比べ繊維芽細胞の割合が単層培養下で約2倍程度に増し、その結果、K-type
PKの割合も12%から23%に増加している。しかし全体として肝ガン実質細胞に基づくと考えられるL-type
PKがmainであり、もとの7316Aとほぼ同様なpatternを示す。したがって、7316Aのガン実質細胞は初代単層培養によって短期間は脱分化せずもとのPK
isozyme patternを維持していると考えられる。
2.Roseの培養法による肝由来細胞の培養
Roseの還流培養法は生体内特性を維持したまま胎児組織を長期間培養できる。また、この系においては株細胞はその増殖が抑制され、しかもdramaticな形態的変化を示す。したがって今後、肝由来細胞をこの系に移し、単層培養下の細胞と形態的(電子顕微鏡)、機能的(酵素活性、Albumin合成能)に比較検討してみたい。
【勝田班月報・7505】
《勝田報告》
ラッテ肝細胞(RLC-10(2)株)に対するスペルミンの影響(続):
前月号にスペルミンの細胞毒性を弱めるのに、Bovine
fraction Vの有効性について書いたが、今月はその続きである。
1)スペルミン3.9μg/mlにfraction Vを添加して、37℃で何時間加温すると毒性を弱める効果が出てくるか(表を呈示)。
数値は先月号と同様、スペルミン無添加の増殖率に対する実験群の増殖率の%を示す。即ち、8hrでは未だ毒性をごく僅かしか弱めないが、24hrではかなり効果があった。今后、8hrと24hrとの間をしらべる予定である。
2)Fraction Vを前処理してから、スペルミン3.9μg/mlと混合した場合(表を呈示)。
(処理したfraction Vとスペルミンとの混合後の加温時間は24hr)
アルブミンのスペルミン毒性を弱める効果は、60℃、30分加温では全く失われず、100℃2分(ほとんど固型状に変性)でも完全には失活しない。トリプシン消化では、過熱変性化の場合より失活、37℃2hr加温したトリプシンは単独で培地に添加しても増殖に影響しない。37℃、2hr加温したトリプシンをスペルミン3.9μg/mlと混合し、37℃、24hr加温するとスペルミンの毒性は弱められた。
《高木報告》
今回は発癌とは直接関係ないが、免疫学的アプローチに習熟する意味から、ピリン過敏症の患者の皮膚生検材料からえられたfibroblastの培養を応用したin
vitroの抗原検出法につきpilot experimentを報告したい。
患者皮膚よりえたfibroblastはMEM+10%FCSで約3ケ月培養したものを用いた。3万個/tubeを植込み同時にMMC
10μg/ml加えて24時間作用させた。24時間後培地を交換するとともにlymphoprepにより分離したlymphocyteを120万個/tube植込み、同時に薬剤を加えて培養をつづけた。4日後にH3-TdR
0.5μCi/mlを加えて48時間labelし、5%TCAを加えて遠心法で3回洗い、その沈渣をscintillation
vialに移してcountした。なお培地は1640+20%FCSとし、培養tubeとしては平底短試験管を用いた。
ピリン過敏症患者についてえた結果は次の通りであった。
アミノピリン+患者Fibroblst+患者lymphocyte(表を呈示)
表で、Aminopyrin(-)でもlymphocyteおよびfibroblast+lymphocyteで、可成りのcountがみられたが、後でこの患者はICGtest(無機・Iodを含む)の時、過敏反応を示すことが判り、lymphoprep中のIodに対する反応とも考えられる。従って、Aminopyrinを加えた場合の反応はIodに対する反応が加算されているとも考えられるが、いずれの場合もFibroblastを培養した系に高いcountがみられることは、この患者については細胞性免疫が一役かっていることを示唆すると思われる。
《梅田報告》
4年も前に培養を開始したラット肝由来上皮性細胞のクローンについて、株化したと思われてから一時Aflatoxin
B、DAB処理などを行って変化を観察していたが、はっきりとした変化を生じなかったので報告もせず、ただコントロールの細胞のみ継代を続けていた。ところがこの細胞が形態的に変化を起しているのに気付き、改めて凍結してあった細胞を培養して4NQO処理を行ってみた。はっきりとした悪性転換は認められなかったが、興味ある形態像が出現していた。今回はこの細胞の継代過程を報告し、次回の班会議の折にその実験を報告する。
(1)JAR-2 ♂sucklingの肝をトリプシン・スプラーゼ処理して培養を開始した(1971-4-19)。培地はLE+10%CS。増殖は遅かったが、週に2回培地交新を続け、上皮性の細胞増生が認められるようになった。6ケ月後(1971-11-1)にトリプシン処理して6cm
Falconシャーレに、1,000、300、100、30ケの細胞を夫々接種した。1,000ケ播いたシャーレに、colonial
growthが認められ、(1971-12-13)に3つのcloneを拾い、BA、BB、BCと名付けた。そのうちBAは増生せず、BB、BCが現在残っている細胞である。(以下、夫々図表を呈示)
(2)途中で切れ、凍結保存のものから再培養した所もあるが、約1,000日の間の累積増殖カーブは図の如くなった。5代目毎にプロットしてある。BBの13代目、BCの15代目迄は、LE+10〜20%CSで培養していた。この頃の増殖は非常に悪く、0.5〜2ケ月に1回継代する状態が続いた。丁度400日前後で、培地をF12+10%CSに切り替えた所、増殖はずっと良くなり、更に200日を過ぎた頃よりは両クローン共ずっと旺盛に細胞が増生するようになった。
(3)この2コのクローンをタンザク培養してHE染色を行った。BBの4代目のものは大小不整の細胞から成っており、上皮性を示す。細胞質はエオジンに淡染しているものが多いが好エオジン色をとる細胞、顆粒状エオジン好性物質を入れる細胞が散在している。核も大小不整、類円〜楕円形で、核小体は円形1〜数ケある。BB
16代の細胞では核小体がより不整形となり、また、培養日数を経たもので細胞変性像の出現していることが特徴的であった。すなわち細胞が密に増生している部の一部の細胞がはがれ、残った細胞はpyknoticの像を呈している。BB
84代目のものは、核クロマチン凝集がより明らかとなり、核小体は不整形で大き目、細胞質は好エオジン色をとる。培養日数を経ると細胞密集増生像がはっきりとなり、さらにそのような部より細胞がはがれ去ってcell
sheetに穴があいたようになる。そのような部に残っている細胞は核膜が明瞭になり、pyknotic
cellの状態になっている。一部細胞同志が凝集している所もある。
(4)BCの20代目の細胞形態は、BBより大き目の細胞で、上皮様配列をとり、密生した細胞は互いに接着して石垣状になる。核もBBより大き目で、大小不整であり、類楕円形を呈し、核質はクロマチン小凝塊が多数認められ、核小体は小さ目で、クロマチン凝塊と区別し難い位のものが数ケある。
BC 87代目のものでは核小体はやや大きくなり、核クロマチン凝集はより著明になった感じを与える。培養日数を長くしたものは細胞が重なり合う所が増しているが、BBの様に変性し、はがれ去るようなことはない。
(5)BB 17代目の時およびBC 21代目の時の増殖カーブは図に示す如くである。BBではlagが著明で、log
phaseの時のdoubling timeは約24時間である。BCの増殖カーブはよりスムーズに増生し、doubling
timeは約31時間と計算される。
(6)plating efficiencyは表に示す如くで、BBの39、35%よりBCの55%とBCの方が高い。BBはコロニーは小さく11日培養で1mm径位であるが、BCは大き目のコロニー(1〜2mm径)を形成する。両者共にコロニー中心部のpiling
up等の変化は認められなかった。
特にBBについては培養80代頃に悪性転換を起している可能性を考えagar
plate cultureを行ってコロニー形成をみたが、コロニーは一つも形成されなかった。
《乾報告》
先月の月報で梅田先生が亜硝酸ナトリュウムによる培養細胞での非常にみごとな突然変異誘導を書いておられましたので、我々も数年来やって一部は発表済ですが、亜硝酸ソーダによる、ハムスター細胞のTransformationの仕事を小括しておきたいと思います。
“亜硝酸ソーダによるハムスター繊維芽細胞のTransformation";
亜硝酸は御承知の様1930年代からバクテリアに対して強い変異性を示す突然変異剤であり、広く自然界に存在すると共に、各種食品に含まれている物質である。高等生物に対する癌原性、突然変異誘導性は早くから予想されていたにもかかはらず現在迄、我々のDataを除いては、その癌原性は明らかでない。本号では報告は亜硝酸ソーダ(NaNO2)を培養ハムスター細胞に作用し、細胞のMalignant
Transformationをみたので、それを報告し二三の問題点についてふれたい。
実験には、生後24〜48時間のゴールデンハムスター新生児の肺、背部皮下組織由来の繊維芽細胞をMacCoys
5A培地に20%FCS(v/v)で培養し、培養2〜3代のものを使用した。
NaNO2は細胞1〜10万個のFlaskに50mM、100mM、24時間作用し、Hanks液で洗滌後、正常培地で培養を継続した。対照は未処理細胞を実験区と同一条件で培養を継続した。
その結果表に示すごとく(表を呈示)、NaNO2処理群では、一例をのぞき処理後20〜60日でMorphological
Transformationを示し、そのうち2例で更に培養を継続した細胞(200万個/Hamster)を、成熟ハムスターチークポウチに移植すると、腫瘍形成が認められた。一方未処理対照群では、培養後30日以上で増殖速度の低下がみられ多くの群で100日前後で死滅する(図を呈示)。対照群中2例では、細胞が生き残ってSpontaneous
Transformationがみられたが、いずれもNaNO2処理群のTransformationに比して、約10週以上以後であった。
(表を呈示)表2に、Transformeした細胞のコロニー形成率を示した。変異細胞を200ケ播種した時のコロニー形成は1.5%であったが、対照細胞は1000ケ播種してもコロニー形成は認められなかった。現在軟寒天中でのコロニー形成能について、同様な細胞を使用して検索中である。6月の培養学会には何らかの知見を発表出来ると思っている。
以上NaNO2をハムスター細胞に作用して細胞のMalignant
Transfomationを観察した。多量のNaNO2とメデュウム中のアミンと反応して、ニトロサミン形成の問題の定量分析の結果0.1μg/ml以上のDMN、DENが存在しないことをたしかめた。
《野瀬報告》
JTC-16クローンの腫瘍性とAlkaline Phosphatase活性
以前にCHO-K1由来のAlkaline Phosphatase(ALP)活性変異株(高ALP活性)が、原株CHO-K1と比較して腫瘍性の低下していることを報告した(月報7410)。ALP-活性の上昇と腫瘍性の低下との間にどんな相関があるかわからないが、他の株細胞でも同じような関係が見られるかどうか検討した。
AH-7974由来のJTC-16からALP-1活性の異なるクローンをいくつか分離した。(図表を呈示)表1に示すようにClones1、13は活性が高く、Clones
8、9は低い。これらの各クローンの細胞をそれぞれ12万個ずつ、new
born rats(JAR-2、9-day-old)の腹腔内に接種した。その後のratの運命を観察した結果が図1である。ALP-活性の高いClones1、13を接種したラッテの各1匹が15、21日目に死んでいるのは、腫瘍以外の原因で死んだと思われる。接種後80日目までの観察では、むしろALP-活性の高いクローンの方が腫瘍性が高いように見える。しかし、その差はCHO-K1とその亜株で見られた程明確でなく、上の相関とは特種な例と考えられる。
《久米川報告》
ラット肝細胞(RLC株)の酵素活性
勝田研で樹立された多数の肝由来の細胞株の内から5種類のRLC細胞を選び、その酵素活性を測定、肝の生体内特性を維持しているかどうかを検討した。結果を表示すると次の通りである(表を呈示)。
pyruvate kinase、G-6-Pdehydrogenaseは若い動物由来の細胞ほど高い活性を示し、生後のものは非常に低い値を示した。一般にPK、G-6-PDHは増殖が盛んな組織において高い活性を示すことが知られている。肝臓においても胎児期には成体肝の2〜3倍の値を示す。したがって胎児期ラット由来細胞は盛んに増殖しているものと考えられる。しかし、成体肝のmarker酵素であるglucokinase活性は非常に低く(成体の1/8〜1/20)、またcatalase活性も成体肝の1/10程度である。したがってこれらの結果からはRLC細胞は、すべて肝の特性を維持していないものと考えられる。
《加藤報告》
発ガンの問題は発生生物学を考究する者にとって極めて基本的な重要な問題を提起する。我々の研究室では、(1)胚発生における細胞:組織間の相互作用の解析、(2)胚発生及び関連領域における細胞周期の統御の解析、及び(3)in
vitro及びin vivoにおける分化形質の発現、保持、消失の機構の生化学的解析を主要なテーマにしている。このうち、本研究班においては、上記テーマに関連して細胞培養系を用いて胚細胞の正常分化、化生及び発ガンの問題を発生生物学的観点から進めたい。出発点の材料として、培養系に於けるニワトリ胚軟骨細胞の正常発生をとりたい。
[研究テーマ]
軟骨細胞の細胞培養系を用いて正常及び異状の分化を解析する。
1.ニワトリ胚の軟骨細胞の浮遊培養系の確立
軟骨細胞の分化過程を生化学的見地から解析するためには、軟骨細胞(ニワトリ胚胸骨)を浮遊培養系が適当と思われるので、この培養系確立を第一の目的としたい。現在までに当研究室の安本茂・山形達也両君により、かなりの程度の成功を収めている。尚、其の他の細胞培養の系も合せて試みている。
2.細胞培養下の軟骨細胞のstability及びinstabilityの解析
細胞の分化形質の恒常性の問題、特にその原因の解明はガン化の問題に深く係り合っていると思われる。我々は、軟骨の生化学的、細胞学的なマーカーを用いてこの問題を考えてみたい。
3.Chinese Hamster胚の軟骨細胞を用いての染色体の解析
国立遺伝研の吉田俊秀氏の御厚意により分けて頂いたチャイニーズ・ハムスターのコロニーの樹立を一応終えたので、染色体解析の容易なこの種の軟骨細胞の培養系の樹立を前提とし、その上で染色体の変化(banding等)を化生(例えばビタミンAによる)ガン化の過程で調べてみたい。
以上は軟骨細胞の培養系についてであるが、其の他2〜3の発生系を用いての実験を考慮中である。
【勝田班月報:7506:ラット肝由来細胞の走査電顕像】
《勝田報告》
A)培養内発癌実験
(a)ラッテ肝由来細胞:
最近できた株を用い、4NQO処理(3.3x10-6乗M、30分)したあと顕微鏡映画撮影で細胞動態の変化を追究している。(表を呈示)細胞間の接着性が低下し、ぬるぬると泳ぎまわるような変化がみられる。
(b)Kyonセンイ芽細胞:
4NQO処理後、染色体の変化をしらべたい。Kyonの染色体は2n=6本であるが継代中に3nが増えてくる。これがmodeとなっているが、'75-4-19、3.3x10-6乗M
4NQOで30分間処理した。処理後9cmシャーレに15万/シャーレ、3万/シャーレに分注した。約1月後にcolony別に染色体分析をする予定である。
(c)ヒト末梢血由来のリンパ系細胞分劃:
Ficol、Conrayを用いての分劃で、20〜40%の細胞はmonocytesである。これを色々の薬剤(発癌剤を含む)で処理したautoradiographyでDNA合成をしらべようという計画である。
B)Autoradiography with H3-TdR of human
lymphoid cells:その予備実験の結果(表を呈示)、血清はすべて10%であるがFCS(fetal
calf serum)又はautoserumを添加した。材料はすべて健康人であるが、Exp.#33でのみ、無処置でもDNA合成が起った。(これは高岡君の血球である。)
その他の例はすべてH3-TdRのとり込みは認められなかった。
C)Back-transplantation tests of rat liver
cells into rats:(表を呈示) これはラッテへの復元接種試験とALS接種ハムスターポーチ内の成績とを比較しようという企てである。ラッテの方はやっと接種というときにハムスターの方はどんどん結果が出てしまうので仲々ピッチが合わない。しかしこの所見で面白いのは“なぎさ”培養で変異したJTC-21・P3株がラッテには腫瘍を作らないのに、ハムスターには立派に作ることと、RLC-19株は全然無処置なのにハムスターに作ることである。
この実験は結果がまだ出揃っていないので、はっきりしたことは云えないが面白い試みであったと思う。
:質疑応答:
[久米川]ハムスターポーチ内の組織像で間質の細胞はラッテの培養細胞由来ですか。
[榊原]宿主のハムスター由来のものと考えられます。
[遠藤]人の末梢血由来の細胞の細胞質にみられた封入体の如きものは何ですか。
[高岡]AF-2を添加した群にだけみられるのですが、何か判っていません。
[遠藤]ハムスターチークポーチにできた腫瘍は、接種するのは細胞浮遊液の状態で入れるのでしょうが、あの様な組織構造をとるのは、集合によるのですか。増殖してあの様になるのでしょうか。
[勝田]両方とも起こり得ると考えています。始に集合し次に増殖して構造を作ると。
[藤井]胆管の細胞が悪性化したものもhepatomaと言いますか。
[榊原]現在はそう言われています。
[藤井]RLC-19を4NQOで処理すると、チークポーチ内でどういう腫瘍を作りますか。
[高岡]まだみていません。今の所ハムスターチークポーチ内にtakeされる条件をもっと基礎的にデータを揃えたいと思っています。
《高木報告》
膵ラ氏島細胞の培養
膵癌による死亡率は最近増加の傾向にある。昭和26年の統計にくらべると昭和47年では約6倍の死亡率の上昇がある。
その組織型をみると、Millerによれば、膵管上皮癌が大部分の81.6%を占め、ついで腺細胞癌13.4%、起源不明なものが5%となっている。しかし実際に病理組織診断をするさいに膵管上皮由来の膵癌か、腺細胞由来かを判定できにくいことが多いので、石井は腺癌を腺管腺癌、未分化癌、乳頭腺癌に分類して、腺管腺癌が80%を占めており、また膵島細胞腫は0.4%であると報告している。
一方外科の統計によれば、昭和8年から昭和45年までのinsulinomaの手術122例中、悪性と思われるもの16例で(悪性の定義がむつかしいらしい)その中、明らかに転移を認めたものが8例あったとされている。
またglucagonomaについては昭和17年以降15例の報告があるが、記載によれば、その多くのものが悪性と思われる。
従ってもしin vitroで膵の発癌実験を行なうとすれば、膵管を培養してこれに化学発癌剤を作用させれば成功する可能性はもっとも高いことになるかも知れないが、腺管を含め、外分泌腺細胞の培養はきわめて困難である。私共が膵の培養を手がけて約10年になるが、その間、膵組織片の器官培養、単離ラ氏島の培養、さらにラ氏島細胞の培養と進展して来た。しかし外分泌腺細胞の培養は低温における器官培養が可能であるが、長期培養は成功していない。成熟ラットのラ氏島およびラ氏島細胞の培養では2〜3カ月の長期間維持することが可能なので、兎も角この実験系に発癌剤を作用させてみることはできる。
一方このようなin vitroの実験系と平行してラ氏島腫を撰択的につくると云われるDMAE-4HAQOをWKAおよびSDラットに注射してinsulinomaを生ずることができた。ただ腫瘍が発生するのに長時間を要するため動物の管理が充分に行き届かず、最後まで生存して観察できた動物は実験開始時の1/4〜1/5であったことは残念であった。発生した腫瘍の多くはラ氏島腫を思わせたが、小さいために培養に移すと切片をつくって形態的観察をする余裕がなかった。腫瘍の1つを供覧するが、Aldehyde-Fuchsin染色によれば腫瘍はほとんどB細胞よりなっていた。これを器官培養すると、1時間のpreincubationの後の各1時間に3mg/mlのブドウ糖存在下では155ng/ml、1mg/mlでは116ng/mlのIRIが証明された。長期の培養には成功していない。
さらに最近はnude mouseを使ってヒト癌細胞の移植が可能になったのでヒト細胞の発癌実験を試みるべく、ヒト膵ラ氏島の培養も試みた。20才代の男性でinsulinomaの疑いで手術されたがinsulinomaははっきりしなかった。摘出した膵をもち帰り月報7411のIIIの方法をmodifyして培養を行った。すなわち組織を細切後まずcollagenase35mg、hyaluronidase20mg/8ml
CMFで約40分間magnetic stirrerにより処理したが、ラ氏島は完全に単離出来なかった。そこで遠沈後これに0.04%EDTA
5分間、ついでDispase2000pu/ml CMF 15分ずつ3回作用させsupernatantをあつめた。遠沈後、細胞をmixed
populationのままTD401本に植え込んだ。(顕微鏡写真を呈示)
培地はDM-153にthymidine 7.2mg/l、hypoxanthine
4mg/lとZnSO4・7H2O 2.0mg/l補ったものに20%FCSを加えて用いた。15時間後に浮遊した細胞をdecantしてこれをFalconの35mm
plastic petri dishに植込んだ。植込み1日後はcell
aggregateのままで底面に附着していたが、2日目よりきれいなcell
sheetを作りはじめ、7日間位はsheetが広がり細胞は増殖するかにみえた。7日後にはfibroblastの増殖もややみられたので、8〜10日にかけて早めにdispaseを用いて継代した。継代した培養ではfibroblastはきわめて少なく、ラ氏島細胞は再びsheetを形成したが増殖はみられず培養約40日目に消滅した。培養10日目の培地には18ng/mlのIRIが証明された。さらに材料入り次第培養を検討する予定である。
:質疑応答:
[榊原]山上さんの実験についての質問ですが、リンパ球の培養で、形態的な幼若化とH3TdRの摂り込みは平行しているのですか。
[勝田]リンパ球の幼若化については、私もその事を常に疑問に思っています。
《山田報告》
Culb/R/TC細胞の超微形態;
(写真を呈示)正常ラット肝細胞由来株にin vitroで4NQOを加へて癌化した細胞株であるCulb/R/TCの超微形態をしらべ、正常対照細胞のそれと比較した。
細胞間の結合は全体としてlooseでdesmosomeを介して結合するSmooth
Contactな面は極めて少い。核辺の陥入が著しく多くの細胞核には眼網状の構造を示す核小体がみられる。正常肝細胞ではこの様な核小体をみることは少い。organellaは少く、lysosomeは殆んどみられない。グリコーゲンの顆粒状凝集は殆んどない。しかしその分布は各細胞により異る。その差が特に著しい。正常肝細胞よりむしろ過剰にみられる細胞があるかと思うと、分散している細胞もある。
即ちこの株の超微形態の特徴のうちで最も正常細胞のそれと異る所は、細胞相互の形態に著しい差があると云う点であり、光学顕微鏡にみられるpleomorphismは超微形態でも同様に見られることになる。
その意味では限られた少数の癌細胞の超微形態の観察結果は、稀ならず誤った知見を得ることになる可能性があると云へよう。
:質疑応答:
[久米川]Microbodyについてはどうですか。
[山田]それらしき物があるのもありますが、同定が難しいので今回は報告しません。
[久米川]Contactの問題は培養日数にかなり影響されますね。
[高木]グリコーゲン顆粒なども培養状態に影響されます。日数で揃えるか、或いはfull
sheetになった所という風に揃えるかした方がよいですね。
[久米川]RLC-20の分化度が高いのは、fibroblastsが混じっているためとは考えられませんか。分化するには何か細胞の相互作用が必要なのではないでしょうか。
[高岡]株細胞というのは、元は同じものでも、誰がどういう培養の仕方で維持しているかによって随分変わりますね。
《久米川報告》
ラット肝由来細胞(RLC株)の走査電子顕微鏡像(夫々写真を呈示)
先月の月報に引続きラット肝由来細胞の形態的観察結果について報告します。位相差、電顕像についてはすでに報告されているので、ここでは走査電子顕微鏡による観察結果について述べます。
カバーグラス上にまいた細胞がほぼ一層になった時、グルタールアルデヒドにより固定、臨界点乾燥後Anで蒸着、走査電子顕微鏡(25KV)で観察、写真を撮影した。
RLC-16(生後6w)およびRLC-19(生後4w)は、ほぼ一種類の細胞からなっていると思われる。偏平な上皮様の細胞で、しかも大変大きく、お互いに密着している。細胞の表面は多数のmicrovilliによっておおわれている。
RLC-20(生後11日)には、前者と同様な上皮様細胞がみられ、この上に(?)あるいはとり囲むように紡錘形の細胞が観察される。後者の細胞は線維芽細胞と思われる。
RLC-18(胎児肝)は上皮様細胞は少なく、小さくてぶ厚い細胞が多数みられる。RLC-20と異なり、両細胞は混在している。
上皮様の細胞の表面はmicrovilliでおおわれているが、若いラット由来の細胞では比較的少なく、しかも太くて短いmicrovilliが存在する。これに反して、RLC-16とかRLC-19では非常にmicrovilliの数は多く、しかも細くて割合に長いmicrovilliにおおわれた細胞がみられる。
以上のようにRLC株細胞は動物の年齢によって異なっており、少なくとも4種類の細胞が観察された。即ち2種類の上皮様細胞、小さくてぶ厚い細胞、網目状に連なった紡錘形の細胞である。
:質疑応答:
[遠藤]HK、GKのisozymeはみてありますか。
[久米川]これらの細胞ではまだ調べてありません。
[高木]HeLaの様な細胞がRose chanber法で構造が出来るのは何故ですか。
[久米川]微小環境の変化によると考えます。
[山田]普通の液体培地の中で培養されている細胞をみている時とセロファン下の細胞をみている時とでは培養環境の違いを何時も考えていなければなりませんね。物理的に圧迫されている事、高分子物質と接していないことなど。
《梅田報告》
前回に報告したラット由来肝上皮細胞の2系列の細胞につき、行った古い実験データト最近のデータについて報告する。
(I)2年前の実験であるが、この2つの株細胞が得られたので、この細胞を使っての発癌実験を行う目的で、先ずAB、DAB、3'-Me-DABの障害性を調べた。BB細胞ではAB=DAB<3'-Me-DAB、BC細胞ではDAB<AB<3'-Me-DABの順であった。(表を呈示)
一筋縄ではうまく発癌に持っていけないと考えていたので、3'-Me-DABの10-4.0、10-4.5、10-5.0乗Mの3濃度で、日曜を除く毎日投与の実験を行った。すなわち、10倍濃い3'-Me-DAB培地を作り毎日培地量の1/10を加え3〜4日毎に全体の培地を新しくする方法をとった。
(図を呈示)BB細胞、BC細胞の累積増殖カーブを示すが、両者共に10-4.0乗Mでは増生しなかった。10-4.5乗M投与で、BB細胞では30日を過ぎて増殖率がコントロールに近くなった。BC細胞では継代が進むと増殖が落ちる傾向が示されている。10-5.0乗Mでは両細胞共に増殖に影響はなかった。
この3'-Me-DAB処理細胞を、培養数代目と50日培養後にSoft
agar中に植え込んでコロニー形成能をみた。BB細胞で非常に小さいコロニー出現が認められたが、コントロールでも同じ位のコロニーを形成していた。BC細胞は陰性であった。
(II)同じような方法でN-AcO-AAF、aflatoxinB1の毎日投与実験も行った。(表を呈示)この場合は4週間、植え変えをしないまま培養を続けたが、生の顕微鏡観察で異常に思えるような細胞増殖像は認められなかった。しかも4週培養後に、Soft
agar中に植え込んだ細胞もBBの一部の細胞を除いてコロニー形成は認められなかった。
(III)前回の月報に記載したように、上の実験を行った頃より2年間80代位迄継代を続けた所、BB細胞に特異変性細胞巣の出現することを見出した。このような像が悪性化と関係しているかも知れないと大胆な想定を行った。
そこで凍結してあった細胞を融解して、代数の若い細胞で4NQO一回処理、6週間植え継ぎを行わない実験を行った。(表を呈示)10-6.0乗M以上では細胞は殆んど生存しない。期待したBB細胞での変性細胞巣は、継代26代目の比較的若いコントロールの細胞でも非常に小数ではあるが出現しており、その程度は4NQO処理細胞でも増加していなかった。
一方肉眼でも数mm径位のGiemsaで青に濃く染る部分が認められ、検鏡すると、細胞が青く染る小細胞が石垣状に密生して並び、中心部の盛り上っている部分もある。しかしこれも4NQO処理群と、コントロール共に殆等しく見出され、4NQO処理による発癌とは考えられなかった。
(IV)BC細胞31代では、6週間培養Giemsa染色しても6cm径Luxシャーレを肉眼でみると、コントロールで染り方が細かい濃淡の島模様を作っていた。4NQO処理群ではさらに大きな島模様を形成していた。検鏡すると小型細胞群、中型細胞群、大型細胞群とあり、すでにいろいろの細胞群より成ることを思わせるが、これらが先の染り方の差を作り、島模様を作っていることがわかる。小型細胞、中型細胞群の中に、索状配列を示し、あるいはrosette形成を示すものが認められ、しかも索状の間にrosetteの中心部に黄金色の分泌物(bile?)を溜めている像に遭遇する。この傾向は各細胞群の島の大きい4NQO処理群、特に10-7.0乗M処理群に著明であった。
一部のシャーレを処理3週後に継代してそれから6週間培養を行う実験を試みたが、それでは4NQO処理群でもコントロールと同じように、小さい島を形成するようになった。悪性化を疑わせるような変化としては認め得るものはなかった。
(V)以上の形態変化に興味を持ち、古いシャーレを引っばり出してBB細胞では変性細胞巣、密生小細胞巣の出現に、BC細胞では索状配列に焦点を合せてまとめてみた(表を呈示)。BB細胞では変性像の出現は同一シャーレ内で培養日数を長くすると出てくる傾向があり、継代数が進むと著明になった。密生小細胞巣も培養日数の長い場合に出現するようである。
BC細胞では、8日培養でもFCSで培養した時一様な索状配列を示していたものが、見出された。しかし分泌物の形成はなく、やはり同一シャーレで42日も培養するような特殊な培養方法で出現することがわかる。
(VI)さらに古いデータであるが、北大の塚田先生にお願いしてalbumin、α-fetoprotein、transferinの測定をしていた(表を呈示)。始めのテストでは同時に培養していた肝由来上皮性細胞を多数お願いしてテストしていただいたが、これもalbumin、α-fetoproteinを産生していなかった。このBB細胞、BC細胞のみalbumin産生が認められた。このようにこの2系列の細胞を長く培養した理由、その為でもある。
以前の実験でもあり、stationary cultureと云ってもせいぜい培養10数日しかテストしていない。今後更にいろいろの条件を加えて検討してみたいと思っている。
:質疑応答:
[山田]培養細胞での並び方と胆汁の出し方は組織標本でみる物とは大分違いますね。
[梅田]血管が全然ないのですから、構造は当然違ってくると思います。
[山田]胆汁かどうかは同定出来ますね。
[梅田]今染色してみています。
《佐藤報告》
T-16) DAB発癌実験−移植性と染色体数について−
移植性:DAB処理細胞とコントロール細胞の復元移植後、腫瘍の発現に到る迄の日数で前回の報告に、更に追加実験を加えて60日間の観察をした。(図を呈示)コントロール細胞(CD#3.C-1)に比し、DAB処理群(CD#3.10→10μg/ml処理、CD#3.40-1、40-2→40μg/ml処理)の方が腫瘍発現に到る迄の日数の短縮、腫瘍発現率も高くなっていることより、培養内DAB投与による細胞の悪性化の増強性が強く示唆される。
次に上記の60日目の腫瘍について重さと体積を計測した(表を呈示)。処理群の方がコントロールよりも、明らかに大きくなっている。この結果は上記のそれと良く符号する。
染色体数:(図を呈示)発癌実験開始後105〜6日、327日の結果、処理群の方が高倍性域に偏位する傾向がある様でもあるが、DABの効果によるものと考えるのは困難と思われる。
:質疑応答:
[高岡]対照群と処理群のin vitroでの増殖度は違いますか。
[常盤]増殖度はほぼ同じです。コロニーでのPEは処理群の方が高いようです。
[山田]悪性度が高くなったといっても、個々の細胞の悪性度が高まったのか、細胞の増殖率が上がったのか、悪性度の高い細胞が優勢になったのか、問題が多いですね。
[榊原]Tumorの転移はありますか。
[常盤]無処理群には転移はありません。処理群に関してはまだ調べてありません。
[乾 ]In vitroでの増殖度が同じなのに、動物に復元すると10倍もの大きさのtumorが出来るのは何故でしょうか。
[高岡]In vitroでの増殖率がin vivoでも同じだとは言えないと思います。
[山田]細胞電気泳動法を使って膜の変化をみますと、発癌剤の処理回数が多いほど、泳動度のバラツキが広くなります。そして変化した細胞も多いようでした。悪性度が高まるというより、悪性細胞が増えたのかも知れませんね。
[吉田]発癌剤が腫瘍のセレクションをしているのかも知れませんね。
《野瀬報告》
培養肝細胞の生化学的マーカーについて
培養肝細胞の特異機能の一つとしてアルブミン産生を見ることを試みていたが、各種肝細胞株を調べたところJTC-16が何らかの血清蛋白を出していることがわかった。この血清蛋白の同定を佐々木研の長瀬先生にお願いした。結果は(図を呈示)、JTC-16(AH-7974由来)は、血清培地中で継代されており、ウシとラッテの血清蛋白はcross
reactするものがあるので血清蛋白の産生を見るには、無血清培地に細胞を移さなければならない。細胞のmonolayerをPBSで2回洗い、血清-freeのDM-153に移し、3日間培養し培地を集め約70mlの培地上清をコロジオン膜で0.5mlに濃縮して免疫電気泳動を行なった。無血清培地に移し、2回培地交換を行なった後でも、培養後の培地中に抗ラッテ血清と反応する物質が見られた。全血清に対する抗体と反応する物質は、電気泳動のパターンから少なくとも3種類あり、このうちの1つは抗ラッテトランスフェリンと反応するのでトランスフェリンであると同定された。他の2種は未同定である。
このように、肝癌由来で長期間in vitroで継代されている細胞が肝の特異機能を発揮していることは興味あるので、他の肝に特異的酵素活性も調べてみた。肝特異酵素には多くの種類があるが、培養内で誘導されることの知られているarginaseとtyrosin
aminotransferaseを測定した(表を呈示)。各種臓器とくらべると、この2つの酵素活性は肝臓で最も高い。JTC-16細胞は肝ほどではないが、若干活性を持っていて弱いながら誘導もうけるようである。Arginase活性はRLC-10にも少しあり、Nagisa変異のJTC-21、JTC-25細胞には検出されなかった。従って弱いながらもJTC-16に活性があるのはある程度肝機能を発現していると言って良いのではないかと思う。
:質疑応答:
[榊原]復元して死んだ動物が腫瘍死であった事は確認してありますか。
[野瀬]腫瘍細胞が豊富な腹水が大量に溜まっていましたから、腫瘍死だと思います。
☆このあと吉田俊秀班友から、たった6本しか染色体をもたないインドホエジカ(Kyon)の染色体分析について、遠藤英也班友からは試験管内発癌実験の草分けともいうべき4NQOによる核内封入体発見時の、興味あるお話しがありました。
☆この日は交通ストのため欠席された方があり、以下はレポートのみの記載です。
《堀川報告》
放射線防護剤として知られるSH化合物が放射線および化学発癌剤で誘起されるCell
killing、遺伝子損傷さらには突然変異誘発をどのように防護するかを知るための第一歩として、今回は(表を呈示)8種のSH化合物(更に4種類を追加する予定なので最終的には12種類となる)について、まず照射されたmouseL細胞の生存率を防護する能力を比較した。これら8種のSH剤のうちAET、cystein、cysteamineは従来防護剤としてよく知られた化合物である。また、MPGおよびその誘導体(MPG-amide、MPPA、MPPG、3-MPG)の5種は最近参天製薬K.K.から解毒剤として発売されており、MPGは特に毒性が少く、マウスに対して効果的な放射線防護剤であることが報告されている。
さて、(a)未照射のL細胞を各種濃度のSH剤で15分間室温で処理した後の細胞のコロニー形成能でみた各種SH剤の細胞毒性、さらには(b)500RのX線を照射する前15分から照射直後まで各種濃度のSH剤を含む培地に保ち、照射直後に正常培地に返して、コロニー形成能でみた各種SH剤の放射線防護効果、などからみて、使用した8種のSH剤は(図を呈示)3groupに分類出来る。
まず第1groupはcysteamine、cysteineで、これは低濃度域では防護効果がなく、中濃度で毒性を示し、毒性の消えた高濃度で顕著な放射線防護効果を示す(図を呈示)。これに次ぐ、防護効果を示すものとしてgroup2のAETとMPG-amideがある(図を呈示)。これらも中濃度域で僅かに細胞毒性を示すが、その効果が消えた高濃度域で防護効果がみられる。第3のgroup、つまりMPG、MPPA、MPPG、3-MPGはまったく細胞毒性も示さないが、また殆ど防護効果も認められない。強いていえば、マウスに対して放射線防護効果のある0.02mM周辺でMPGが僅かに防護効果を示し、またMPG、MPPA、3-MPGが10mM周辺で僅かに防護効果を示す。
(図を示す)以上の実験から放射線防護効果の認められたCysteamine、MPG-amideおよびAETを選び、それらの最適濃度で各種線量のX線照射前15分から照射時にかけて処理しておいたmouseL細胞の線量−生存率曲線を示す(図を呈示)。これらの実験からも、やはりsysteamineが最も効果的な放射線防護剤であることがわかる。ただし、X線照射後のL細胞をcysteamineで処理しても防護効果は認められない。このcysteamineを使って放射線および化学発癌剤による突然変異誘発の防護testを現在進めているので、これらについては次号で報告する。
《難波報告》
15:各種化学発癌剤のヒト末梢血白血球に対するDNA修復率の比較
ヒト細胞の癌化を企てるとき、使用する細胞と発癌剤との組み合せを決定する必要がある。そのスクリーニングの目的のために、発癌剤処理後に於るヒト細胞のDNA修復を検討する実験系を確立した。
実験方法:ヘパリン化した血液を試験管に入れ、試験管を立てたまま、2〜3hr放置し、上澄みの血漿中の白血球を集め、20〜40万個cells/tube/1ml
MEM+2.6mM Hydroxyurea(HU)1/2hr→発癌剤処理1/2hr→H3-TdR(1μCi/ml、5Ci/mM)1/2hr→5%TCAで洗い→pptのcpmを測定(発癌剤、H3-TdR処理中もHU添加)。
発癌物質:MMS、BP、DMN(Dimethylnitrosoamine)、MNNG、4NQOである。実験の結果(図を呈示)、4NQOのみが高いDNA修復をおこさせ、その他の発癌物質は、DNA修復をおこさせていない。4NQOは、10-5乗〜10-7乗Mの濃度の間でほぼ同程度の修復率で、高い濃度の場合、濃度に比例してDNA修復率は増加しなかった。これは細胞障害の強い場合はDNA修復も低下するのかも知れない。
結論:上記の実験系からでは4NQOのみが高いDNA修復率を示した。即ち4NQOが細胞のDNAによく作用していることが分る。白血球以外の細胞及び発癌剤の処理法を変えれば、4NQO以外のものでもDNA修復をおこさせるものがあるかも知れない。またある発癌剤のみに強い感受性のある個体差の問題もある。これらの問題を今後検討したいと考えいる。
【勝田班月報:7507:セロファンシートによる培養】
《勝田報告》
ラット肝細胞の培養内4NQO処理の顕微鏡映画撮影による観察
肝細胞を4NQOで処理して、その形態変化をしらべることはこれまで多年続けてきた。しかしこの頃どんどん若い株が作れるようになったので、それを4NQO処理してしらべて見ようということになった。
映画は2分1コマで撮ったが、長期間はとらず、4NQO処理後数週間位にした。これは、目標が細胞形態、動態の変化などを捕えることにより、悪性化を早く見出す指標にしようということにあったからである。4NQOは3.3x10-6乗M、30分。
3例の観察で、第1例は生後6週のラッテの肝から由来したRLC-16株。第1回4NQO処理6日後に第2回処理をおこない、13日後(第1回からは19日目)から映画をとったカットに細胞動態の異常化が認められた。すなわち細胞表面の性状に変化が起こり、一杯の細胞シートにもかかわらず、細胞がお互いに密着せず、ぬるぬると、まるで泳ぐように動いていた。かってRLC-10(ラット肝)を4NQOで処理したあと、顕微鏡映画で半年間追跡したときに得られた所見とよく似ている。第2例は生後4週ラットの肝、RLC-19株でこれは処理前のcontrolの細胞がすでにぬるぬると泳いでいた。しかし面白いことに、ハムスターのチークポーチに榊原君が復元実験をしたところ、立派な腫瘤を作り、その組織像は肝癌に相当していた。第3例は生後11日のラットの肝由来のRLC-20株である。これは4NQO処理14日後に第2回処理をし、その8日後からとった映画カットに細胞のぬるぬる現象を見出した。
以上の所見から、顕微鏡映画による検索では、処理後大体3週間以内に細胞の変化をdetectできるらしい、ということが判った。今後は材料のラットのageをもっと次第に下げて行く予定である。
:質疑応答:
[難波]今日の映画では処理前の細胞がすでに培養開始から2年もたっているのですね。これらの株細胞の培養へ移してからもっと初期の細胞の動きはどうでしょうか。
[高岡]初期の頃の映画も撮ってありますが、今日は4NQOを処理した事で起こる変化だけにしぼりました。初期のものは又の機会にまとめてお見せします。
[堀川]4NQOをかけてすぐのカットでは細胞がどんどん消えてゆくようですが、photodynamic
actionによるのでしょうか。
[高岡]大分昔にphotodynamic actionについては定量的にデータを出して報告しました。今日ご覧になったように、映画を撮ると初めの視野では殆どの細胞が死にますが、光の当たらなかった視野には生存した細胞が沢山いて、しかもどんどん分裂しています。
[堀川]癌化する細胞がtargetとして存在すると考えると、動きの変わった細胞は、全体からみるとほんの一部とは言えませんか。
[高岡]視野は無作為に選んでいて、しかも視野内の細胞はみな同じような動きを示しますから、動きが変わる頻度はかなり高いと思います。
[佐藤]処理後、細胞内の顆粒が多くなっている感じがしますね。
[久米川]あの顆粒はlysosomeではありませんか。
[吉田]Ageの異なるラッテの肝から樹立された株の染色体のploidyに興味がありますね。Tetraploidは出てきませんか。
[佐藤]どのageからとっても増殖してくる細胞は殆ど2倍体ですね。
《乾報告》
2-アセチル・アミノフローレン(2FFA)投与による経胎盤試験内発癌
前号迄の報告で、ニトロソ化合物、芳香族炭化水素、4-ニトロキノリン、バターイエロー等を妊娠母体に投与後、胎児を摘出し、培養開始後15日以内にTransformed
Colonyの発現を観察したが、代表的な化学発癌物質群で芳香族アミン類が同法を使用しての実験系として現在迄報告していなかった。
今月は、ハムスター妊娠母体に、2FFAを前回迄と同様の方法で投与しIn
vitro-in vivo Transplacental Carcinogenesisを観察し、同時に同一母体より摘出した胎児細胞について、Transplacental
Mutagenesis実験を行ない二、三の知見を得たので報告する。
経胎盤発癌実験、これ迄の報告と同様に、妊娠11日の♀ハムスター腹腔内に2FFA
20mg/kgを投与し、24時間後胎児を摘出培養し、培養24時間以内に染色体標本を作製し、培養2、4代目の細胞をシャーレに播種、変異コロニーの検索を行なった。今回は、これに加え、残余の胎児をトリプシン処理し、培養2日後(2FFA投与後72時間)に、細胞を50万個perシャーレ播種、14〜15時間目より、8-アザグアニン(20、10μg/ml)6-チオグアニン(5、2.5、1.25μg/ml)を含んだMEM+10%v/v培養液で培養した。8-AG、6TGを含んだ培地の交換は、初めの3日間は連日、以後1日おきとし、15日間培養を継続後シャーレを固定、染色し、8-AG、6-TG耐性コロニーの出現を観察した。対照にはHanks-0.5ml、DMSO-500mg投与した母体より摘出した胎児細胞及び、ハムスター全胎児(妊娠14日目)由来の線維芽細胞(G-3)を用いた。
(表を呈示)2FFA投与後2代目、4代目の細胞による変異コロニー出現頻度は、実験に使用した3個体共、培養2代目より変異コロニーが1〜2%前後出現した。ニトロソ化合物、芳香族炭化水素と同様の結果である。
(表を呈示)ハムスター線維芽細胞、経胎盤Hanks液、DMSO、2FFA投与胎児細胞の8AG、6TG耐性コロニーの出現率をしらべた。培養2日目の細胞を2000ケ/dish播種した場合の生存細胞率は、ハムスター線維芽細胞のそれを100%とした場合いずれも95%以上であった。耐性コロニーは中、大型コロニーの出現率は2FFA経胎盤投与細胞群、8AG-10μg/mlで明らかに高く、同型コロニーは対照群では出現しなかった。小型コロニーの出現は対照に使用したハムスター線維芽細胞に比して、2FFA投与群では3倍であった。6-TG耐性コロニーは、中大型は2FFA投与群のみに出現した。小型コロニーは、対照線維芽細胞、DMSO経胎盤投与群に各1ケずつ出現した。現在これらコロニーをクローニングし、HAT培地での生存率、逆変異コロニーの出現率等を検索中である。
以上二つの結果より、経胎盤的に化学物質を投与することにより、試験管内発癌と細胞水準での突然変異との関連を追求する糸口がつかめたと考えられる。現在、染色体変異誘導のデータと組み合せて、癌化←→突然変異←→奇型誘導(催奇型)、の関係を同一実験系で解析出来ないかと云う、とほうもない夢を見ながら一つの実験をやっております。
もう一方で、変異コロニーの造腫瘍性の問題、動物実験での標的臓器と経胎盤的に化学物質を投与した場合、各固有臓器を別々にとり出して試験管内発癌を試みるつもりでおりますが、純系ハムスターの繁殖がむずかしくこの問題は進展せず困っております。
同系を使用してのもう一つの問題は化学物質の投与時期と、妊娠期間の問題です。ある薬品を妊娠前期に投与したら、出生時においては見られない染色体異常細胞が出現したら人間の自然流産児の染色体分析の結果と照らし合せて奇型発生の機序の解析にも役立つかも知れません。
又現在やっている全器官形成終了時に物質を投与し器官毎の培養を行ないその癌化を短期間にテェックし、投与時期を前にすることによって、器官形成と発癌の問題のかいけつの糸口にならないかと考えております。
来月以後に2FFA投与細胞の染色体分析の結果と共に突然変異誘導に関するデータを発表して行きます。
:質疑応答:
[勝田]母体への薬剤投与の時期と培養へ移す時期をどう選ぶかは難しい問題ですね。
[乾 ]今いろいろ調べているところです。
[難波]播種細胞数が多すぎませんか。多いと死細胞からの酵素交換が問題になります。
[梅田]50万個/dishなら細胞接触はないと思いますから、この位で良いと思います。
[堀川]Total frequencyはどの位ですか。
[乾 ]対照では10の7乗で0、処理群では10の7乗で6コ位出ます。耐性コロニーの中小さいものは本当のmutantではないようです。
[堀川]処理の期間の問題ですが、fixation
and expressionに必要な時間を考えると、8AGを加えるまでの培養時間1日で充分でしょうか。
[乾 ]体内で24時間、培養に移して48時間たって薬剤を加えています。処理後は3回分裂しています。
[堀川]よいのかも知れません。8AG、6TG耐性になった細胞は悪性化していませんか。
[乾 ]まだ復元していませんが、形態的には悪性にみえません。
《梅田報告》
3T3様株細胞の樹立は、それがcontact inhibitionという正常細胞としての性質をもっていること、定量化が可能なことなどにより試験管内での化学発癌に有効な手段を提供し得るように思われます。
昨年9月より私達は種々の発癌剤による試験管内発癌の系統差を調べる目的で、3種の近交系マウス(DDD、AKR、C3H)より3T3様細胞株の樹立を試みて来ました。方法はTodaroらの方法に準じ、マウス胎児躯幹をトリプシン処理後、15〜30万個/6cm
dishのinoculumで3〜4日毎に継代をつづけました。培地としてMEM+10%FCSを使用しました(表を呈示)。3系統の細胞とも4〜6代目頃(9〜16日目)より増殖率は一旦ゆるやかになりましたが、17代目頃(54日目)より立ち上がりはじめ、30代以降にはほぼ一様の増殖をつづけるようになりました(図を呈示)。しかしDDDとC3H細胞株については(表を呈示)、増殖率が51代以降では明らかに増加の傾向を示しました。増殖曲線は19代目で調べてありますが、saturation
densityはDDDが一番高く(7万個/平方cm)、C3H、AKRの順になっています。(表を呈示)saturation
densityを各世代でしらべました。方法は30万個/dish播種し3日毎にmedium
changeを行ない12日後の細胞数を求めました。contact
inhibitionのきいている細胞はsaturation densityが5〜10万個cells/平方cmとされていますが、DDDに関しては22代7万個cells/平方cm、36代11万個cells/平方cm、53代16万個cells/平方cmと漸増の傾向を示しましたが、AKR、C3Hに関しては53代まではそれぞれ6.8〜7.5万個cells/平方cm、9〜10万個cells/平方cmと比較的低値を保っていました。染色体のモードは(図を呈示)、少ないのですが一応50ケのmetaphase
cellを数えました。DDD、AKR、C3Hの細胞とも、17、18代目で調べた時にはdiploidとtetraploid付近に2つのモードをもっていました。しかし40代目になるとDDDはhypertetraploidになっており、AKRとC3Hはtetraploid
rangeにありました。
次にこれらの細胞株を用いて試験管内発癌実験を行ないました。判定の容易さという点ではfocus
assayによる方法がcolony法に比べ優れていると思われたので、DiPaolo &
Takanoのfocus assayを採用しました。即ち1万個の細胞を播種したのち、翌日発癌剤を種々の濃度で処理し2日間培養後medium
changeを行ない、以後週2回medium changeを繰り返し4〜6週後に固定、染色して出現してくるtransformed
focusを算定しました。(表を呈示)DDDでは無処置対照群に平均8.5ケ/dishのfocusが見られ、DMBA
0.25、0.5μg/ml処理ではそれぞれ平均37.0、41ケ/dishの多数のfocusが観察されました。AKRでは対照群及び4NQO処理群ではtransformed
focusは見られず、DMBA 0.05μg/ml処理群では4枚のdish中1ケ、MNNG
1μg/ml処理群では2枚のdish中3ケ認められました。C3Hに関しては培養5週後の対照群はcontact
inhibitionがきいておらず、この細胞株は発癌実験に使うには不適当と判断されました。DDDに関しては対照群にも少数transformed
fociが観察されたので、現在cloningをすすめている段階です。
KouriらはAryl Hydrocarbon HydroxylaseのInducibilityがマウスの系統により異なること、例えばBalb/C、C3H、C57BLなどはhigh
responderに、AKR、DBAなどはlow responderに分類され、high
responderのマウスはin vivoの実験でMethylcholanthreneによる発癌率も高いと報告しています。私達はlow
responderに属するAKRマウスから得られた細胞株を用いて試験管内発癌実験を行なったところ、transformed
fociの出現率が低いような結果を得ました。AKRに関するかぎり我々の結果はKouriらの報告を一部supportしているように思われます。DDDについてはAHHのInducibilityは測定されておらず、系統差を論ずるには充分ではないのですが、今回の試験管内発癌実験の結果をもとに実験を集めていきたいと思っております。
:質疑応答:
[乾 ]DDDマウスはSWISSとC3Hのどちらに近い系統ですか。
[宮沢]よく判りません。これからメタボリズムを調べます。
[吉田]動物のデータが充分調べられている系統を使った方が良いですね。
[堀川]Assay systemとしてback groundが高くても変異の多く出る方が良いのでしょうか。或いは変異率は低くてもback
groundのないのを使うべきでしょうか。
[乾 ]Back ground 0が理想です。
[勝田]我々がマウスを敬遠するのはマウスの細胞は大体bakc
groundが高いからです。
[乾 ]AHHをまだ持っていますか。
[梅田]持っていると思います。
[吉田]これらの系ではin vivoのデータとin
vitroのデータが一致するかどうかという所が面白いですね。
[乾 ]DDD由来の培養系の染色体が5倍体というのは珍しい、安定していますか。
[勝田]顕微鏡映画で分裂様式を観察してみる必要がありますね。
[吉田]5倍体はまだ安定していないのでないでしょうか。もう少したつと減少してきて、安定するのではないでしょうか。
《堀川報告》
前報ではCysteamine、Cysteine、AETを始めとする8種のSH化合物について、それらの放射線防護効果をX線照射されたマウスL細胞のコロニー形成能を指標にして調べた結果について報告した。その結果、従来放射線防護剤として知られていたCysteamineとCysteineが最もすぐれた防護効果をもつことがわかったので、今回はX線照射または4-HAQO処理されたHeLaS3細胞の生存率でみたCysteamineの致死防護効果、あるいはこれらX線および4-HAQO処理により誘発される8-azaguanine耐性細胞出現頻度のCysteamineによる防護効果をテストした結果を報告する。
まず、各種線量のX線で照射前または各種濃度の4-HAQOで20分間ずつ処理する前15分から照射及び処理後まで、短試4ml当り60万個細胞という条件下で、50mM
Cysteamineでもって処理されたHeLaS3の生存率を対照群と比較した(図を呈示)。X線照射細胞の生存率をCysteamineは極度に防護するが、一方Cysteamineは4-HAQO処理細胞の生存率をも防護することがわかる。
また、前述と同様の条件でCysteamine存在下でX線または4-HAQO処理された細胞を5ml当り50万個細胞づつになるように小角瓶に分注し、72時間のそれぞれmutation
expression timeをおいたのち、15μg 8-azaguanine/mlを含む9cmペトリ皿に10万個細胞づつ入れて2週間培養した後に出現する耐性細胞のコロニー数から突然変異率を求めた(図を呈示)。
結果は、X線照射による突然変異誘発の上昇は生存率の場合と同様にSH化合物によって顕著に防護されるが、一方4-HAQO処理による突然変異誘発もCysteamineによって防護されることがわかった。こうした結果は4-HAQOには部分的にX線の作用と類似したfree
radical的な間接作用をもつことを示唆するものであり、同時に細胞の生存率の上昇と誘発突然変異率の低下は裏腹の関係にあることを示している。
こうした基礎的実験から得たCysteamineの効果を今後は細胞周期を通じての生存率でみた感受性変動ならびに誘発突然変異率におよぼす効果として調べたいと思っている。
:質疑応答:
[梅田]Surviving rateで合わせてmutation
rateをみないと、inductionの比較は出来ないのではありませんか。
[堀川]変異としてみるにはkillingとの関係が難しい問題になりますね。Chemicalの場合は2剤を同時に入れるのはよくないと思っています。
[勝田]培地の中には血清が入っているのも問題を複雑にするでしょうね。
[吉田]変異率はやはりkillingを差し引いて計算した方が良いと思いますね。
《高木報告》
1.発癌実験について
今年度から当班ではできるだけヒトの細胞を用いて実験を組む方針なので、その方針に沿い実験をすすめたいと思っている。
いきなりヒトの膵ラ氏島細胞を用いたいが、その培養の維持が現時点では30〜40日、培地中のinsulineは約4週にわたり証明されている段階で、植込み直後の分裂があると思われる時期に発癌剤を作用させれば成功させうる可能性もあるが、材料の入手が中々困難であり、培地条件を検討してできるだけ長期の生存につとめる一方、まずラット膵ラ氏島細胞を用いて4NQOによる影響を観察してみた。
生後8週のラットラ氏島細胞を前述の方法で細胞培養し、培養3日目の形成直後のpseudoisletと、培養18日目のpseudoisletを用い、これらを池本のconical
tubeに入れてHanks液にとかした4NQO各3.3x10-6乗Mと3.3x10-7乗M
0.5mlを1時間作用させ、Hanks液で1回洗ってmicrotest
II tissue culture plateの各穴に分注した。対照は4NQOを含まないHanks液で同様に処理して植込んだ。培地はDM-153+20%FCSとしブ糖濃度は3mg/mlとした。3.3x10-6乗Mでは処理3日目にはすでにpseudoisletの構造はくずれ、細胞は変性におちいったものと思われる。
3.3x10-7乗Mでは7日目にややpseudoisletのくずれたものもあったが、全体として形態はよく保たれていた。10万個程度のラ氏島細胞には3.3x10-7乗M
0.5ml位を作用さすのが適当かと思われるが、細胞は以後分裂しなければin
vitroの発癌はむつかしいと考えられるので、如何にして分裂させるかが問題である。ラ氏島のB細胞はPancreozynin
Caernlein及び高濃度のブ糖で分裂するといわれており、そう云ったものと発癌剤との組合せも考慮しなければならないと思う。
一方ヒトの細胞で、正常人皮膚の生検によりえられたHF細胞とXeroderma
pigmentosumの患者の正常皮膚部分よりえられたXP細胞に4NQOを作用させてみた。作用させるにあたり、まず4NQOのこれら細胞に対するcytotoxicityをみた。すなわちHF細胞では5万個植込み2日後に、XP細胞では5万個植込み3日後に細胞数を算定し、cell
sheetをHanks液で1回洗い、10-5乗〜3.3x10-8乗MまでHanks液にといた4NQOを1時間作用させ、終ってHanks液で洗い、MEM+10%FCSでさらに4日間incubateして細胞数を算定した。XP細胞について植込み3日後に作用させたのは細胞の増殖がおそいためである。
結果はHF細胞では3.3x10-6乗Mで作用後4日間細胞の増殖は認められず、XP細胞では3.3x10-7乗Mで作用後ごくわずかな細胞数の増加がみられ、10-6乗Mでは減少した。すなわち両細胞の4NQOに対する感受性に10-1乗M程度の差異が認められ、XP細胞により強い細胞毒性がみられた。そこで培養後2〜3日のconfluentになる以前のHF細胞に3.3x10-6乗M、XP細胞には3.3x10-7乗Mの4NQO
in Hanksを1時間作用させ、終ってHanks液で洗いrefeed後観察を続けているが、14日後の現在XP細胞にわずかな変性細胞がみられる程度で著名な変化はみとめられない。
2.免疫学的実験について
リンパ球に関する基礎データを少しずつそろえているが、山根のserum
free medium(SF medium)を用いてラット脾よりえたlymphoid
cellsを培養し、各濃度のPHAに対する反応を比較した。対照として1640+10%FCS培地を用いた。細胞数は100万個/mlとしPHA添加3日目にH3-TdR1μc/ml加え、24時間incubateしてstimulating
indexで比較した。PHAに対する反応性は1640培地では75μg/ml、SF培地では25μg/mlで最高を示した。またSF培地を用いた場合のstimulating
indexは1640培地の約3倍であったが、これはH3-TdRのとり込みの増加とともにPHAを作用させない対照細胞に非特異的な取込みの減少が著明であり、これもstimulating
indexの上昇に一役かっていることは見逃せない。
:質疑応答:
[堀川]ヒトの線維芽細胞とかXP細胞に4NQO処理をして何か変異がでましたか。
[高木]まだ出ていません。
[難波]私の所でも何も出ません。
[乾 ]XPの細胞のagingはどうですか。
[高木]正常より早くagingがくるようです。
[堀川]培養内でXPの方が正常より悪性化が早いというデータはまだ無いのですね。
《難波報告》
16:グリセオフルビンのヒト染色体に及ぼす影響
ヒトの染色体に対して4NQOが高い異常をおこすことをこの班会議で報告した折に、黒木先生からグリセオフルビンでヒトの染色体が高率に変化おこったという報告があることを教えて頂いた。この報告は1974年の国際癌学会でLarizza
et al.が“Simulated heteroploid transformation
by griseofulvin and streptolydigin"という題で報告している。
もし、4NQOより高度のクロモゾームの変化がグリセオフルビンでおこれば、それはヒト細胞の培養内癌化の仕事に使えると考え、グリセオフルビンのヒトクロモゾームに対する影響を調べた。臨床的には血清中レベルは、0.25〜3g飲むと4hr後0.3〜1.7μg/ml、毎日0.5gで数日続けると血中濃度は1.4〜1.72μg/mlで有効濃度は1μg/mlである。
1)グリセオフルビンの細胞増殖に対する影響
細胞は川崎医大で樹立された単球性白血病細胞を使用した。グリセオフルビンはDMSOに溶した(10mg/ml)。(夫々図を呈示)5〜20μg/mlで4日間作用させれば細胞の増殖は対照に比べ約50%ぐらい低下する。高濃度(25μg/ml)でも短時間だけ細胞を処理したのでは、増殖阻害はない。
2)クロモゾームの構造上の変化の検討
(夫々表を呈示)著明な変化はおこらない。月報7505に報告した4NQOでのクロモゾームの変化は3.3x10-6乗M(0.66μg/ml)1hrの処理で全染色体数に対する異常染色体は平均0.466%(9実験の平均)であった。グリセオフルビンでは4NQOより高濃度、長時間の処理でも4NQOほどのクロモゾームの変化をおこしていない。観察されたクロモゾームの変化としてBreaks、Gaps、Dicentricsなどが主なものであった。
3)クロモゾームの数の異常があるかどうかについては、正常なヒト由来のリンパ球細胞で検討中である。
:質疑応答:
[乾 ]染色体レベルでbreakageのようなdamageが起こることは癌化へどう繋がるのでしょうか。癌化を起こすdoseと染色体異常を起こすdoseとは必ずしも一致しないですね。
[吉田]グリセオホルビンで処理された細胞の染色体数は変化していますか。
[梅田]異常分裂も多くて多核細胞が出て来ませんか。
[難波]そういうことは、まだ調べてありません。ヒトのリンパ球の培養を使ってグリセオホルビンの影響をみたいと思っていますが。
[勝田]変異剤と発癌剤との平行性をみるばかりでなく、この班ではもっと毎日の生活に密接に関係のあるものを、どんどん手掛けていきたいものですね。
[梅田]そういう点ではグリセオホルビンはマイコトキシンでもあり、水虫の薬でもありますから、適していますね。
[難波]何とかしてヒトの細胞を使って、確実に悪性変化を起こさせるような物質を探したいと思っています。
《佐藤報告》
T- )3'me-DAB発癌実験−基礎的実験−
今回より、DABを3'Me-DAB(より強力な発癌剤と云うことで)に切り替え、アゾ色素によるin
vitro発癌実験に対し、方法論的にも有意義な実験系をめざして努力して行きたいと考えております。まず今回の報告は、3'Me-DABの二、三の肝細胞に対する細胞障害性の検討と、それら肝細胞の3'Me-DAB消費能について調べた結果であります。(図と表を呈示)
細胞障害性:5万個/ml〜10万個/mlの細胞植え込み後2日、3'Me-DABを含む培地でさらに2日培養し、増殖曲線を描き、0.8%alcohol(control)に対する比率をもとめた。(RLD-10は実験中)現在の所RAL-5が高い細胞障害を受けた。
3'Me-DAB消費:3'Me-DAB(3.8μg)添加後、4日間培養しO.D.=410mmより各細胞の消費率をもとめた。RAL-5、CL-2が高い消費能を示した。
:質疑応答:
[吉田]J-5-2は正2倍体ですか。
[常盤]そうです。
[佐藤]過去に使ったものの中から整理して適当な系を選んで実験を始めています。
[吉田]発癌剤処理によって、すべての細胞が悪性化するのか、そしてどんな染色体をもったものが悪性化したのか、検討してほしいですね。
《山田報告》
ConAによる前処理により、4NQOの発癌性効果を修飾できるか
−ラット培養肝細胞RLC-16−? ;
従来の発癌実験における電気泳動的検索の、最も大きな隘路は発癌剤による細胞の悪性化の頻度(Cell
population)が極めて低いことにあります。従ってrandom
samplingにより撰んだ細胞の表面を検索する細胞電気泳動法によっては、発癌初期の表面構造を検索することが困難になります。そこでなんとか悪性化の頻度を高める方法がないかと考えていた所、次のような事実に思いあたりました。
各種の植物凝集素(plant lectins)が細胞の増殖(幼若化)や、変異を促進する場合に、細胞膜で特異な変化が起ります。反応した物質が膜上で、そのreceptorと共に移動し、しかも全く異る生物作用を持つ反応物質(例へば抗体、ホルモン等)が植物凝集素と膜免疫上で相互に干渉しあう(stero-specificfunction)現象が知られて居ます。
この事実から考えて発癌剤4NQOが細胞膜上で反応する時に、ConAと相互に干渉しあい応じないかと思い、新しい実験を開始してみました。
即ち(図を呈示)肝細胞(RLC-16)を処理した(ConA;37℃30分、4NQO;3.3x10-6乗M
37℃30分、PBS、pH7.2)後にそれぞれ培養し、経時的に検索してみました。こまかい考察はさらに進めて成績が充分出来た段階でまとめてみたいと思いますが、現在の所、最も興味ある成績は、ConA→4NQO処理の細胞が、24時間以内に最も電気泳動度が低下(最も表面の変化が大きい)、しかも8週目には極めて泳動度が増加したことです。(図を呈示)この経時的検索の際同時にConAに対する反応性(37℃30分)の変化をしらべました(図を呈示)。あまりはっきりした差は出て居ませんが、4NQO→ConAとConA→4NQO、ConA単独群に13週目にConAの反応(即ち泳動度の反応性増加)が出現しつつある様な気がします。
:質疑応答:
[難波]ConAを添加すると細胞が凝集しませんか。
[山田]この濃度では凝集しません。
[堀川]対照でConAに対する感受性が下がるのをどう考えておられますか。
[山田]あまり多くの事は言えませんが、少なくとも肝癌の反応とは違っています。
[難波]ConAはどの位強く結合しているのでしょうか。
[山田]はっきり判りませんが、洗うだけでも大分落ちるようです。
《久米川報告》
I.セロファン・シート法による培養
1.RLC細胞:
RLC-19、RLC-20両細胞の培養を行った。RLC-19細胞はセロファン膜の下では2〜3日以内に細胞は死滅した。
(写真を呈示)RLC-20の細胞は円形で密着し、細胞間にphase-whiteの間隙があり、還流培養した胎児の肝臓の像に近い。移植片の辺縁から紡錘形細胞のout-growthがみられる。10日前後までにRLC-20細胞は膜の下では次第に変性した。
2.KB細胞:
(写真を呈示)KB細胞は円形となり、細胞はお互いに密着している。細胞は核が割合大きく、原形質の占める割合が小さく、ぶ厚い感じがする。ときに細胞は腺様構造をとることもある。10日以上培養を続けると多核細胞が非常に多くなる。ときには10数コの核をもった細胞も見られる(図を呈示)。電顕による観察では細胞はお互いに200〜300Åの間隙で密着している。
II.細胞とセロファン膜および血清の関係
セロファン・シート法では細胞はセロファン膜にcompressされ、しかも血清を含んだ液とセロファン膜を介している。シート法の下における細胞の変化が、セロファン膜のcompressのためか、血清中の高分子成分が欠除したためかKB細胞を用いて調べてみた。
その結果をまとめると、透析血清成分+セロファン膜の圧縮なし:細胞の変化なし。透析血清成分+セロファン膜の圧縮:細胞の変化なし。透析血清成分+セロファン膜の圧縮:細胞の変化。即ち両因子が同時に働いたときに始めて細胞に形態的な変化が現れることがわかった。
膜の下に最初血清成分を加えた状態でKB細胞を培養すると、KB細胞は2〜3日目までは細胞は紡錘形で盛んに増殖する。しかし4日後には細胞の増殖は次第に低くなり、細胞はお互いに密着してくる。さらに培養を続けると細胞は集まり島状となる。通常のセロファン・シート法より細胞は小型でお互いの細胞間は強く結合しているように感じられる。今後セロファン膜における肝由来RLC細胞の動態を形態的機能的に調べてみたい。
III.RLC細胞の酵素活性
5月の月報でRLC細胞の解糖系酵素について報告したが、酵素活性は種々の培養条件により左右されるのではないかと考え、RLC-20を選び経時的に測定してみた。増殖と関係しているであろうと考えられるPK、G-6PDHは培養とともに次第に活性が低下した。GKが以外に高く、2日目の値は成体の肝に近い。この結果については現在追試中である。
次いで、これらの酵素がインシュリンに対する応答性をもっているか、どうか調べた。培養4日目に0.1u/mlのインシュリンを添加、2日後に測定したものであるが、PK、G-6PDHは誘導されている。しかし、GKは逆に低く、インシュリンに対する応答性については今後の追試を必要とする(表を呈示)。
:質疑応答:
[難波]培地の条件が変わると酵素活性は変わるのでしょうね。
[高木]インシュリン処理はどの位ですか。
[久米川]0.1uで48時間です。
[佐藤]旋回培養ではKBは大きな塊を作ります。ラッテの肝細胞は作りません。
[吉田]セロファン下の細胞は分裂像がみられませんね。
[久米川]分裂は殆どみられませんが、系によっては400日も生存して培養を続けられるものもあります。
[難波]ラッテ肝細胞でmonolayerに増殖している時と、aggregateを作らせた時とそれぞれ組織化学的な染色で酵素活性をみたらどうでしょうか。
[久米川]組織化学は今の所まだ手をつけていません。
《加藤報告》
軟骨細胞の浮遊培養系における分化形質の保持
ニワトリ胚の軟骨細胞を従来常法とされている単層培養ではなく、浮遊状態で培養することにより、軟骨細胞の分化形質の一つであるコンドロイチン硫酸の分子種と細胞あたり合成量が安定に保たれることを見出したので、培養法と細胞の性質について報告したい。(写真を呈示)従来の単層培養された軟骨細胞(ニワトリ13日胚胸骨)培養開始後1週間では細胞間物質が明瞭で又軟骨のnoduleの形成が見られる。我々の方法で培養し、浮遊して来た軟骨細胞培養18日目の浮遊細胞は、色素(エリスロシンB)の排出能と寒天培地によるplating
efficiencyから90%以上が生きている細胞と判断される。またトルイジン・ブルー染色によるメタクロマジーを示す物質(酸性ムコ多糖)の生産、35S-無機硫酸によるラジオオートグラフィー、生産物の生化学的分析などの結果から軟骨細胞の性格を保持することを確認した。(図を呈示)これ等の浮遊してくる軟骨細胞を再現性よく得るために、いくつかの条件を検討したが、培養1日目に全培地を更新、以後は1日おきに1ml/dishずつ新鮮な培地を添加すると、シャーレに播かれた細胞数に依存した浮遊傾向を示すことが判った。細胞数/シャーレに依存して増殖速度も変化するが血清濃度を変えて増殖を調節しても浮遊してくる傾向には変化が認められないため、一義的に細胞濃度に依存した性質であると思われる。このようにして得られた浮遊細胞を、高頻度に浮遊状態を維持させながら継代することは可能で、培養開始後7週たったものでも、ほぼ80%の細胞が浮遊状態を維持している。増殖度は継代と共に低下してくるが、軟骨細胞が多量に合成するコンドロイチン硫酸の合成能力は安定に保たれており、合成されるコンドロイチン硫酸の分子種(Ch-6SとCh-4S)にも変化が認められない。(表を呈示)浮遊して増殖している軟骨細胞から1部プラスチック面に付着してくる細胞(stellate
cell)が現れるが、BUdRやHyaluronic Acid処理でプロテオグリカンの合成を抑えると同様のstellate
cellが現れることから浮遊状態から脱落してくる細胞は軟骨細胞としての機能が低下或いは消失したものらしいと思われる。その意味でこの培養系は、常に軟骨細胞の機能を活発に持っている細胞のみを常にselectしている系と云えよう。
:質疑応答:
[山田]何もしなくても浮いているというのは何故でしょう。比重が軽いのでしょうか。
[堀川]細胞のまわりに何か出していて、それで浮いているのでしょうか。
[吉田]骨細胞はアメーバ様突起を持つと考えていましたが、この細胞は丸いのですね。
[加藤]浮いているときは丸くて、下に落ちると形が変わります。
[吉田]Agingの時はどうなりますか。
[加藤]下へ落ちて死んでゆきます。
[長瀬]ラッテの腹水肝癌ではfree cellと島を作る型の細胞とではムコ多糖の組成が違っています。この場合、下に落ちる細胞のムコ多糖についてもしらべてほしいですね。
[堀川]浮いて居る細胞が落ちてくるというプロセスは再現性がありますか。
[加藤]全く同じように起こります。
《野瀬報告》
コラゲナーゼを用いた肝実質細胞の培養
これまでに樹立されたラッテ肝細胞株の、肝特異機能をいくつか調べてみたが、いずれも機能を失っているようだった。そこでIypeの方法にならってprimaryの培養肝細胞を用いて機能を検討した。
Adult ratの門脈からCa・Mg-free Hanks BSSを約40ml注入し潅流し、次に20mlの0.05%Collagenase(Worthington;typeII)で潅流する。liverを取出し、0.05%Collagenase中でピンセットを用いて組織をバラバラにし、Cell
suspensionを得る。meshを通した後、低速遠沈(300rpm≒50xg、5min)を繰返し、“parenchymal
cell"を分離した。1匹のラッテから約9x10の7乗個の細胞がとれ、viabilityは65%であった。Dispase処理で得られた上皮様細胞のarginase、tyrosine
aminotransferase(TAT)活性は非常に低くセンイ芽細胞とあまり変わらない(表を呈示)。しかしCollagenase処理で得た細胞は両酵素活性が肝臓のhomogenateとほぼ等しく、dexamethason感受性も保持していた。Dispase処理で得た実質細胞はerhthrosinBで見たViabilityが1.5%と極わめて低く、肝実質細胞の調整にはCollagenaseが優れていると言える。
Collagenaseで得た肝実質細胞の培養には、DM-153+20%FCSを用いたが、5%FCSではシャーレに付着する細胞が少なかった。(写真を呈示)培養4日目の実質細胞は、形態的には株となったラッテ肝細胞とは全く異なっている。この細胞はほとんど増殖せず、培養7日以後は徐々に死滅していった。
使用する酵素が違うとこのように全く異なる細胞がとれてくるのは興味ある事実だが、株化された上皮様細胞と実質細胞とがどんな関係にあるかはまだわからない。低速で沈殿してくる細胞はsucklingの時期のラッテ肝からはとれないので、上皮様細胞は未熟な肝細胞なのかもしれない。各ageのラッテ肝で、TATとarginase活性の変化を調べたら、TATは生まれるとすぐに成熟ラッテと同じ活性まで上昇したが、arginaseは生後20日くらいまで徐々に上昇した。従って若いラッテの肝臓はいろいろな成熟段階があり、それぞれに特徴的細胞があるのかも知れない。
:質疑応答:
[梅田]アフラトキシンの処理は13分では少し短くありませんか。
[野瀬]濃度が少し濃いのですが。
[梅田]ディスパーゼで還流してみたらどうでしょうか。
[野瀬]やってみます。
[梅田]フェノバルビタール2mMは少し濃いと思いますが・・・。
[野瀬]濃いです。
[加藤]生まれた時、又は生まれる直前のものを培養して、培養中に成熟型の酵素活性に変わってくるというような現象はありませんか。
[野瀬]今の所ありません。
【勝田班月報:7507:セロファンシートによる培養】
《勝田報告》
ラット肝細胞の培養内4NQO処理の顕微鏡映画撮影による観察
肝細胞を4NQOで処理して、その形態変化をしらべることはこれまで多年続けてきた。しかしこの頃どんどん若い株が作れるようになったので、それを4NQO処理してしらべて見ようということになった。
映画は2分1コマで撮ったが、長期間はとらず、4NQO処理後数週間位にした。これは、目標が細胞形態、動態の変化などを捕えることにより、悪性化を早く見出す指標にしようということにあったからである。4NQOは3.3x10-6乗M、30分。
3例の観察で、第1例は生後6週のラッテの肝から由来したRLC-16株。第1回4NQO処理6日後に第2回処理をおこない、13日後(第1回からは19日目)から映画をとったカットに細胞動態の異常化が認められた。すなわち細胞表面の性状に変化が起こり、一杯の細胞シートにもかかわらず、細胞がお互いに密着せず、ぬるぬると、まるで泳ぐように動いていた。かってRLC-10(ラット肝)を4NQOで処理したあと、顕微鏡映画で半年間追跡したときに得られた所見とよく似ている。第2例は生後4週ラットの肝、RLC-19株でこれは処理前のcontrolの細胞がすでにぬるぬると泳いでいた。しかし面白いことに、ハムスターのチークポーチに榊原君が復元実験をしたところ、立派な腫瘤を作り、その組織像は肝癌に相当していた。第3例は生後11日のラットの肝由来のRLC-20株である。これは4NQO処理14日後に第2回処理をし、その8日後からとった映画カットに細胞のぬるぬる現象を見出した。
以上の所見から、顕微鏡映画による検索では、処理後大体3週間以内に細胞の変化をdetectできるらしい、ということが判った。今後は材料のラットのageをもっと次第に下げて行く予定である。
:質疑応答:
[難波]今日の映画では処理前の細胞がすでに培養開始から2年もたっているのですね。これらの株細胞の培養へ移してからもっと初期の細胞の動きはどうでしょうか。
[高岡]初期の頃の映画も撮ってありますが、今日は4NQOを処理した事で起こる変化だけにしぼりました。初期のものは又の機会にまとめてお見せします。
[堀川]4NQOをかけてすぐのカットでは細胞がどんどん消えてゆくようですが、photodynamic
actionによるのでしょうか。
[高岡]大分昔にphotodynamic actionについては定量的にデータを出して報告しました。今日ご覧になったように、映画を撮ると初めの視野では殆どの細胞が死にますが、光の当たらなかった視野には生存した細胞が沢山いて、しかもどんどん分裂しています。
[堀川]癌化する細胞がtargetとして存在すると考えると、動きの変わった細胞は、全体からみるとほんの一部とは言えませんか。
[高岡]視野は無作為に選んでいて、しかも視野内の細胞はみな同じような動きを示しますから、動きが変わる頻度はかなり高いと思います。
[佐藤]処理後、細胞内の顆粒が多くなっている感じがしますね。
[久米川]あの顆粒はlysosomeではありませんか。
[吉田]Ageの異なるラッテの肝から樹立された株の染色体のploidyに興味がありますね。Tetraploidは出てきませんか。
[佐藤]どのageからとっても増殖してくる細胞は殆ど2倍体ですね。
《乾報告》
2-アセチル・アミノフローレン(2FFA)投与による経胎盤試験内発癌
前号迄の報告で、ニトロソ化合物、芳香族炭化水素、4-ニトロキノリン、バターイエロー等を妊娠母体に投与後、胎児を摘出し、培養開始後15日以内にTransformed
Colonyの発現を観察したが、代表的な化学発癌物質群で芳香族アミン類が同法を使用しての実験系として現在迄報告していなかった。
今月は、ハムスター妊娠母体に、2FFAを前回迄と同様の方法で投与しIn
vitro-in vivo Transplacental Carcinogenesisを観察し、同時に同一母体より摘出した胎児細胞について、Transplacental
Mutagenesis実験を行ない二、三の知見を得たので報告する。
経胎盤発癌実験、これ迄の報告と同様に、妊娠11日の♀ハムスター腹腔内に2FFA
20mg/kgを投与し、24時間後胎児を摘出培養し、培養24時間以内に染色体標本を作製し、培養2、4代目の細胞をシャーレに播種、変異コロニーの検索を行なった。今回は、これに加え、残余の胎児をトリプシン処理し、培養2日後(2FFA投与後72時間)に、細胞を50万個perシャーレ播種、14〜15時間目より、8-アザグアニン(20、10μg/ml)6-チオグアニン(5、2.5、1.25μg/ml)を含んだMEM+10%v/v培養液で培養した。8-AG、6TGを含んだ培地の交換は、初めの3日間は連日、以後1日おきとし、15日間培養を継続後シャーレを固定、染色し、8-AG、6-TG耐性コロニーの出現を観察した。対照にはHanks-0.5ml、DMSO-500mg投与した母体より摘出した胎児細胞及び、ハムスター全胎児(妊娠14日目)由来の線維芽細胞(G-3)を用いた。
(表を呈示)2FFA投与後2代目、4代目の細胞による変異コロニー出現頻度は、実験に使用した3個体共、培養2代目より変異コロニーが1〜2%前後出現した。ニトロソ化合物、芳香族炭化水素と同様の結果である。
(表を呈示)ハムスター線維芽細胞、経胎盤Hanks液、DMSO、2FFA投与胎児細胞の8AG、6TG耐性コロニーの出現率をしらべた。培養2日目の細胞を2000ケ/dish播種した場合の生存細胞率は、ハムスター線維芽細胞のそれを100%とした場合いずれも95%以上であった。耐性コロニーは中、大型コロニーの出現率は2FFA経胎盤投与細胞群、8AG-10μg/mlで明らかに高く、同型コロニーは対照群では出現しなかった。小型コロニーの出現は対照に使用したハムスター線維芽細胞に比して、2FFA投与群では3倍であった。6-TG耐性コロニーは、中大型は2FFA投与群のみに出現した。小型コロニーは、対照線維芽細胞、DMSO経胎盤投与群に各1ケずつ出現した。現在これらコロニーをクローニングし、HAT培地での生存率、逆変異コロニーの出現率等を検索中である。
以上二つの結果より、経胎盤的に化学物質を投与することにより、試験管内発癌と細胞水準での突然変異との関連を追求する糸口がつかめたと考えられる。現在、染色体変異誘導のデータと組み合せて、癌化←→突然変異←→奇型誘導(催奇型)、の関係を同一実験系で解析出来ないかと云う、とほうもない夢を見ながら一つの実験をやっております。
もう一方で、変異コロニーの造腫瘍性の問題、動物実験での標的臓器と経胎盤的に化学物質を投与した場合、各固有臓器を別々にとり出して試験管内発癌を試みるつもりでおりますが、純系ハムスターの繁殖がむずかしくこの問題は進展せず困っております。
同系を使用してのもう一つの問題は化学物質の投与時期と、妊娠期間の問題です。ある薬品を妊娠前期に投与したら、出生時においては見られない染色体異常細胞が出現したら人間の自然流産児の染色体分析の結果と照らし合せて奇型発生の機序の解析にも役立つかも知れません。
又現在やっている全器官形成終了時に物質を投与し器官毎の培養を行ないその癌化を短期間にテェックし、投与時期を前にすることによって、器官形成と発癌の問題のかいけつの糸口にならないかと考えております。
来月以後に2FFA投与細胞の染色体分析の結果と共に突然変異誘導に関するデータを発表して行きます。
:質疑応答:
[勝田]母体への薬剤投与の時期と培養へ移す時期をどう選ぶかは難しい問題ですね。
[乾 ]今いろいろ調べているところです。
[難波]播種細胞数が多すぎませんか。多いと死細胞からの酵素交換が問題になります。
[梅田]50万個/dishなら細胞接触はないと思いますから、この位で良いと思います。
[堀川]Total frequencyはどの位ですか。
[乾 ]対照では10の7乗で0、処理群では10の7乗で6コ位出ます。耐性コロニーの中小さいものは本当のmutantではないようです。
[堀川]処理の期間の問題ですが、fixation
and expressionに必要な時間を考えると、8AGを加えるまでの培養時間1日で充分でしょうか。
[乾 ]体内で24時間、培養に移して48時間たって薬剤を加えています。処理後は3回分裂しています。
[堀川]よいのかも知れません。8AG、6TG耐性になった細胞は悪性化していませんか。
[乾 ]まだ復元していませんが、形態的には悪性にみえません。
《梅田報告》
3T3様株細胞の樹立は、それがcontact inhibitionという正常細胞としての性質をもっていること、定量化が可能なことなどにより試験管内での化学発癌に有効な手段を提供し得るように思われます。
昨年9月より私達は種々の発癌剤による試験管内発癌の系統差を調べる目的で、3種の近交系マウス(DDD、AKR、C3H)より3T3様細胞株の樹立を試みて来ました。方法はTodaroらの方法に準じ、マウス胎児躯幹をトリプシン処理後、15〜30万個/6cm
dishのinoculumで3〜4日毎に継代をつづけました。培地としてMEM+10%FCSを使用しました(表を呈示)。3系統の細胞とも4〜6代目頃(9〜16日目)より増殖率は一旦ゆるやかになりましたが、17代目頃(54日目)より立ち上がりはじめ、30代以降にはほぼ一様の増殖をつづけるようになりました(図を呈示)。しかしDDDとC3H細胞株については(表を呈示)、増殖率が51代以降では明らかに増加の傾向を示しました。増殖曲線は19代目で調べてありますが、saturation
densityはDDDが一番高く(7万個/平方cm)、C3H、AKRの順になっています。(表を呈示)saturation
densityを各世代でしらべました。方法は30万個/dish播種し3日毎にmedium
changeを行ない12日後の細胞数を求めました。contact
inhibitionのきいている細胞はsaturation densityが5〜10万個cells/平方cmとされていますが、DDDに関しては22代7万個cells/平方cm、36代11万個cells/平方cm、53代16万個cells/平方cmと漸増の傾向を示しましたが、AKR、C3Hに関しては53代まではそれぞれ6.8〜7.5万個cells/平方cm、9〜10万個cells/平方cmと比較的低値を保っていました。染色体のモードは(図を呈示)、少ないのですが一応50ケのmetaphase
cellを数えました。DDD、AKR、C3Hの細胞とも、17、18代目で調べた時にはdiploidとtetraploid付近に2つのモードをもっていました。しかし40代目になるとDDDはhypertetraploidになっており、AKRとC3Hはtetraploid
rangeにありました。
次にこれらの細胞株を用いて試験管内発癌実験を行ないました。判定の容易さという点ではfocus
assayによる方法がcolony法に比べ優れていると思われたので、DiPaolo &
Takanoのfocus assayを採用しました。即ち1万個の細胞を播種したのち、翌日発癌剤を種々の濃度で処理し2日間培養後medium
changeを行ない、以後週2回medium changeを繰り返し4〜6週後に固定、染色して出現してくるtransformed
focusを算定しました。(表を呈示)DDDでは無処置対照群に平均8.5ケ/dishのfocusが見られ、DMBA
0.25、0.5μg/ml処理ではそれぞれ平均37.0、41ケ/dishの多数のfocusが観察されました。AKRでは対照群及び4NQO処理群ではtransformed
focusは見られず、DMBA 0.05μg/ml処理群では4枚のdish中1ケ、MNNG
1μg/ml処理群では2枚のdish中3ケ認められました。C3Hに関しては培養5週後の対照群はcontact
inhibitionがきいておらず、この細胞株は発癌実験に使うには不適当と判断されました。DDDに関しては対照群にも少数transformed
fociが観察されたので、現在cloningをすすめている段階です。
KouriらはAryl Hydrocarbon HydroxylaseのInducibilityがマウスの系統により異なること、例えばBalb/C、C3H、C57BLなどはhigh
responderに、AKR、DBAなどはlow responderに分類され、high
responderのマウスはin vivoの実験でMethylcholanthreneによる発癌率も高いと報告しています。私達はlow
responderに属するAKRマウスから得られた細胞株を用いて試験管内発癌実験を行なったところ、transformed
fociの出現率が低いような結果を得ました。AKRに関するかぎり我々の結果はKouriらの報告を一部supportしているように思われます。DDDについてはAHHのInducibilityは測定されておらず、系統差を論ずるには充分ではないのですが、今回の試験管内発癌実験の結果をもとに実験を集めていきたいと思っております。
:質疑応答:
[乾 ]DDDマウスはSWISSとC3Hのどちらに近い系統ですか。
[宮沢]よく判りません。これからメタボリズムを調べます。
[吉田]動物のデータが充分調べられている系統を使った方が良いですね。
[堀川]Assay systemとしてback groundが高くても変異の多く出る方が良いのでしょうか。或いは変異率は低くてもback
groundのないのを使うべきでしょうか。
[乾 ]Back ground 0が理想です。
[勝田]我々がマウスを敬遠するのはマウスの細胞は大体bakc
groundが高いからです。
[乾 ]AHHをまだ持っていますか。
[梅田]持っていると思います。
[吉田]これらの系ではin vivoのデータとin
vitroのデータが一致するかどうかという所が面白いですね。
[乾 ]DDD由来の培養系の染色体が5倍体というのは珍しい、安定していますか。
[勝田]顕微鏡映画で分裂様式を観察してみる必要がありますね。
[吉田]5倍体はまだ安定していないのでないでしょうか。もう少したつと減少してきて、安定するのではないでしょうか。
《堀川報告》
前報ではCysteamine、Cysteine、AETを始めとする8種のSH化合物について、それらの放射線防護効果をX線照射されたマウスL細胞のコロニー形成能を指標にして調べた結果について報告した。その結果、従来放射線防護剤として知られていたCysteamineとCysteineが最もすぐれた防護効果をもつことがわかったので、今回はX線照射または4-HAQO処理されたHeLaS3細胞の生存率でみたCysteamineの致死防護効果、あるいはこれらX線および4-HAQO処理により誘発される8-azaguanine耐性細胞出現頻度のCysteamineによる防護効果をテストした結果を報告する。
まず、各種線量のX線で照射前または各種濃度の4-HAQOで20分間ずつ処理する前15分から照射及び処理後まで、短試4ml当り60万個細胞という条件下で、50mM
Cysteamineでもって処理されたHeLaS3の生存率を対照群と比較した(図を呈示)。X線照射細胞の生存率をCysteamineは極度に防護するが、一方Cysteamineは4-HAQO処理細胞の生存率をも防護することがわかる。
また、前述と同様の条件でCysteamine存在下でX線または4-HAQO処理された細胞を5ml当り50万個細胞づつになるように小角瓶に分注し、72時間のそれぞれmutation
expression timeをおいたのち、15μg 8-azaguanine/mlを含む9cmペトリ皿に10万個細胞づつ入れて2週間培養した後に出現する耐性細胞のコロニー数から突然変異率を求めた(図を呈示)。
結果は、X線照射による突然変異誘発の上昇は生存率の場合と同様にSH化合物によって顕著に防護されるが、一方4-HAQO処理による突然変異誘発もCysteamineによって防護されることがわかった。こうした結果は4-HAQOには部分的にX線の作用と類似したfree
radical的な間接作用をもつことを示唆するものであり、同時に細胞の生存率の上昇と誘発突然変異率の低下は裏腹の関係にあることを示している。
こうした基礎的実験から得たCysteamineの効果を今後は細胞周期を通じての生存率でみた感受性変動ならびに誘発突然変異率におよぼす効果として調べたいと思っている。
:質疑応答:
[梅田]Surviving rateで合わせてmutation
rateをみないと、inductionの比較は出来ないのではありませんか。
[堀川]変異としてみるにはkillingとの関係が難しい問題になりますね。Chemicalの場合は2剤を同時に入れるのはよくないと思っています。
[勝田]培地の中には血清が入っているのも問題を複雑にするでしょうね。
[吉田]変異率はやはりkillingを差し引いて計算した方が良いと思いますね。
《高木報告》
1.発癌実験について
今年度から当班ではできるだけヒトの細胞を用いて実験を組む方針なので、その方針に沿い実験をすすめたいと思っている。
いきなりヒトの膵ラ氏島細胞を用いたいが、その培養の維持が現時点では30〜40日、培地中のinsulineは約4週にわたり証明されている段階で、植込み直後の分裂があると思われる時期に発癌剤を作用させれば成功させうる可能性もあるが、材料の入手が中々困難であり、培地条件を検討してできるだけ長期の生存につとめる一方、まずラット膵ラ氏島細胞を用いて4NQOによる影響を観察してみた。
生後8週のラットラ氏島細胞を前述の方法で細胞培養し、培養3日目の形成直後のpseudoisletと、培養18日目のpseudoisletを用い、これらを池本のconical
tubeに入れてHanks液にとかした4NQO各3.3x10-6乗Mと3.3x10-7乗M
0.5mlを1時間作用させ、Hanks液で1回洗ってmicrotest
II tissue culture plateの各穴に分注した。対照は4NQOを含まないHanks液で同様に処理して植込んだ。培地はDM-153+20%FCSとしブ糖濃度は3mg/mlとした。3.3x10-6乗Mでは処理3日目にはすでにpseudoisletの構造はくずれ、細胞は変性におちいったものと思われる。
3.3x10-7乗Mでは7日目にややpseudoisletのくずれたものもあったが、全体として形態はよく保たれていた。10万個程度のラ氏島細胞には3.3x10-7乗M
0.5ml位を作用さすのが適当かと思われるが、細胞は以後分裂しなければin
vitroの発癌はむつかしいと考えられるので、如何にして分裂させるかが問題である。ラ氏島のB細胞はPancreozynin
Caernlein及び高濃度のブ糖で分裂するといわれており、そう云ったものと発癌剤との組合せも考慮しなければならないと思う。
一方ヒトの細胞で、正常人皮膚の生検によりえられたHF細胞とXeroderma
pigmentosumの患者の正常皮膚部分よりえられたXP細胞に4NQOを作用させてみた。作用させるにあたり、まず4NQOのこれら細胞に対するcytotoxicityをみた。すなわちHF細胞では5万個植込み2日後に、XP細胞では5万個植込み3日後に細胞数を算定し、cell
sheetをHanks液で1回洗い、10-5乗〜3.3x10-8乗MまでHanks液にといた4NQOを1時間作用させ、終ってHanks液で洗い、MEM+10%FCSでさらに4日間incubateして細胞数を算定した。XP細胞について植込み3日後に作用させたのは細胞の増殖がおそいためである。
結果はHF細胞では3.3x10-6乗Mで作用後4日間細胞の増殖は認められず、XP細胞では3.3x10-7乗Mで作用後ごくわずかな細胞数の増加がみられ、10-6乗Mでは減少した。すなわち両細胞の4NQOに対する感受性に10-1乗M程度の差異が認められ、XP細胞により強い細胞毒性がみられた。そこで培養後2〜3日のconfluentになる以前のHF細胞に3.3x10-6乗M、XP細胞には3.3x10-7乗Mの4NQO
in Hanksを1時間作用させ、終ってHanks液で洗いrefeed後観察を続けているが、14日後の現在XP細胞にわずかな変性細胞がみられる程度で著名な変化はみとめられない。
2.免疫学的実験について
リンパ球に関する基礎データを少しずつそろえているが、山根のserum
free medium(SF medium)を用いてラット脾よりえたlymphoid
cellsを培養し、各濃度のPHAに対する反応を比較した。対照として1640+10%FCS培地を用いた。細胞数は100万個/mlとしPHA添加3日目にH3-TdR1μc/ml加え、24時間incubateしてstimulating
indexで比較した。PHAに対する反応性は1640培地では75μg/ml、SF培地では25μg/mlで最高を示した。またSF培地を用いた場合のstimulating
indexは1640培地の約3倍であったが、これはH3-TdRのとり込みの増加とともにPHAを作用させない対照細胞に非特異的な取込みの減少が著明であり、これもstimulating
indexの上昇に一役かっていることは見逃せない。
:質疑応答:
[堀川]ヒトの線維芽細胞とかXP細胞に4NQO処理をして何か変異がでましたか。
[高木]まだ出ていません。
[難波]私の所でも何も出ません。
[乾 ]XPの細胞のagingはどうですか。
[高木]正常より早くagingがくるようです。
[堀川]培養内でXPの方が正常より悪性化が早いというデータはまだ無いのですね。
《難波報告》
16:グリセオフルビンのヒト染色体に及ぼす影響
ヒトの染色体に対して4NQOが高い異常をおこすことをこの班会議で報告した折に、黒木先生からグリセオフルビンでヒトの染色体が高率に変化おこったという報告があることを教えて頂いた。この報告は1974年の国際癌学会でLarizza
et al.が“Simulated heteroploid transformation
by griseofulvin and streptolydigin"という題で報告している。
もし、4NQOより高度のクロモゾームの変化がグリセオフルビンでおこれば、それはヒト細胞の培養内癌化の仕事に使えると考え、グリセオフルビンのヒトクロモゾームに対する影響を調べた。臨床的には血清中レベルは、0.25〜3g飲むと4hr後0.3〜1.7μg/ml、毎日0.5gで数日続けると血中濃度は1.4〜1.72μg/mlで有効濃度は1μg/mlである。
1)グリセオフルビンの細胞増殖に対する影響
細胞は川崎医大で樹立された単球性白血病細胞を使用した。グリセオフルビンはDMSOに溶した(10mg/ml)。(夫々図を呈示)5〜20μg/mlで4日間作用させれば細胞の増殖は対照に比べ約50%ぐらい低下する。高濃度(25μg/ml)でも短時間だけ細胞を処理したのでは、増殖阻害はない。
2)クロモゾームの構造上の変化の検討
(夫々表を呈示)著明な変化はおこらない。月報7505に報告した4NQOでのクロモゾームの変化は3.3x10-6乗M(0.66μg/ml)1hrの処理で全染色体数に対する異常染色体は平均0.466%(9実験の平均)であった。グリセオフルビンでは4NQOより高濃度、長時間の処理でも4NQOほどのクロモゾームの変化をおこしていない。観察されたクロモゾームの変化としてBreaks、Gaps、Dicentricsなどが主なものであった。
3)クロモゾームの数の異常があるかどうかについては、正常なヒト由来のリンパ球細胞で検討中である。
:質疑応答:
[乾 ]染色体レベルでbreakageのようなdamageが起こることは癌化へどう繋がるのでしょうか。癌化を起こすdoseと染色体異常を起こすdoseとは必ずしも一致しないですね。
[吉田]グリセオホルビンで処理された細胞の染色体数は変化していますか。
[梅田]異常分裂も多くて多核細胞が出て来ませんか。
[難波]そういうことは、まだ調べてありません。ヒトのリンパ球の培養を使ってグリセオホルビンの影響をみたいと思っていますが。
[勝田]変異剤と発癌剤との平行性をみるばかりでなく、この班ではもっと毎日の生活に密接に関係のあるものを、どんどん手掛けていきたいものですね。
[梅田]そういう点ではグリセオホルビンはマイコトキシンでもあり、水虫の薬でもありますから、適していますね。
[難波]何とかしてヒトの細胞を使って、確実に悪性変化を起こさせるような物質を探したいと思っています。
《佐藤報告》
T- )3'me-DAB発癌実験−基礎的実験−
今回より、DABを3'Me-DAB(より強力な発癌剤と云うことで)に切り替え、アゾ色素によるin
vitro発癌実験に対し、方法論的にも有意義な実験系をめざして努力して行きたいと考えております。まず今回の報告は、3'Me-DABの二、三の肝細胞に対する細胞障害性の検討と、それら肝細胞の3'Me-DAB消費能について調べた結果であります。(図と表を呈示)
細胞障害性:5万個/ml〜10万個/mlの細胞植え込み後2日、3'Me-DABを含む培地でさらに2日培養し、増殖曲線を描き、0.8%alcohol(control)に対する比率をもとめた。(RLD-10は実験中)現在の所RAL-5が高い細胞障害を受けた。
3'Me-DAB消費:3'Me-DAB(3.8μg)添加後、4日間培養しO.D.=410mmより各細胞の消費率をもとめた。RAL-5、CL-2が高い消費能を示した。
:質疑応答:
[吉田]J-5-2は正2倍体ですか。
[常盤]そうです。
[佐藤]過去に使ったものの中から整理して適当な系を選んで実験を始めています。
[吉田]発癌剤処理によって、すべての細胞が悪性化するのか、そしてどんな染色体をもったものが悪性化したのか、検討してほしいですね。
《山田報告》
ConAによる前処理により、4NQOの発癌性効果を修飾できるか
−ラット培養肝細胞RLC-16−? ;
従来の発癌実験における電気泳動的検索の、最も大きな隘路は発癌剤による細胞の悪性化の頻度(Cell
population)が極めて低いことにあります。従ってrandom
samplingにより撰んだ細胞の表面を検索する細胞電気泳動法によっては、発癌初期の表面構造を検索することが困難になります。そこでなんとか悪性化の頻度を高める方法がないかと考えていた所、次のような事実に思いあたりました。
各種の植物凝集素(plant lectins)が細胞の増殖(幼若化)や、変異を促進する場合に、細胞膜で特異な変化が起ります。反応した物質が膜上で、そのreceptorと共に移動し、しかも全く異る生物作用を持つ反応物質(例へば抗体、ホルモン等)が植物凝集素と膜免疫上で相互に干渉しあう(stero-specificfunction)現象が知られて居ます。
この事実から考えて発癌剤4NQOが細胞膜上で反応する時に、ConAと相互に干渉しあい応じないかと思い、新しい実験を開始してみました。
即ち(図を呈示)肝細胞(RLC-16)を処理した(ConA;37℃30分、4NQO;3.3x10-6乗M
37℃30分、PBS、pH7.2)後にそれぞれ培養し、経時的に検索してみました。こまかい考察はさらに進めて成績が充分出来た段階でまとめてみたいと思いますが、現在の所、最も興味ある成績は、ConA→4NQO処理の細胞が、24時間以内に最も電気泳動度が低下(最も表面の変化が大きい)、しかも8週目には極めて泳動度が増加したことです。(図を呈示)この経時的検索の際同時にConAに対する反応性(37℃30分)の変化をしらべました(図を呈示)。あまりはっきりした差は出て居ませんが、4NQO→ConAとConA→4NQO、ConA単独群に13週目にConAの反応(即ち泳動度の反応性増加)が出現しつつある様な気がします。
:質疑応答:
[難波]ConAを添加すると細胞が凝集しませんか。
[山田]この濃度では凝集しません。
[堀川]対照でConAに対する感受性が下がるのをどう考えておられますか。
[山田]あまり多くの事は言えませんが、少なくとも肝癌の反応とは違っています。
[難波]ConAはどの位強く結合しているのでしょうか。
[山田]はっきり判りませんが、洗うだけでも大分落ちるようです。
《久米川報告》
I.セロファン・シート法による培養
1.RLC細胞:
RLC-19、RLC-20両細胞の培養を行った。RLC-19細胞はセロファン膜の下では2〜3日以内に細胞は死滅した。
(写真を呈示)RLC-20の細胞は円形で密着し、細胞間にphase-whiteの間隙があり、還流培養した胎児の肝臓の像に近い。移植片の辺縁から紡錘形細胞のout-growthがみられる。10日前後までにRLC-20細胞は膜の下では次第に変性した。
2.KB細胞:
(写真を呈示)KB細胞は円形となり、細胞はお互いに密着している。細胞は核が割合大きく、原形質の占める割合が小さく、ぶ厚い感じがする。ときに細胞は腺様構造をとることもある。10日以上培養を続けると多核細胞が非常に多くなる。ときには10数コの核をもった細胞も見られる(図を呈示)。電顕による観察では細胞はお互いに200〜300Åの間隙で密着している。
II.細胞とセロファン膜および血清の関係
セロファン・シート法では細胞はセロファン膜にcompressされ、しかも血清を含んだ液とセロファン膜を介している。シート法の下における細胞の変化が、セロファン膜のcompressのためか、血清中の高分子成分が欠除したためかKB細胞を用いて調べてみた。
その結果をまとめると、透析血清成分+セロファン膜の圧縮なし:細胞の変化なし。透析血清成分+セロファン膜の圧縮:細胞の変化なし。透析血清成分+セロファン膜の圧縮:細胞の変化。即ち両因子が同時に働いたときに始めて細胞に形態的な変化が現れることがわかった。
膜の下に最初血清成分を加えた状態でKB細胞を培養すると、KB細胞は2〜3日目までは細胞は紡錘形で盛んに増殖する。しかし4日後には細胞の増殖は次第に低くなり、細胞はお互いに密着してくる。さらに培養を続けると細胞は集まり島状となる。通常のセロファン・シート法より細胞は小型でお互いの細胞間は強く結合しているように感じられる。今後セロファン膜における肝由来RLC細胞の動態を形態的機能的に調べてみたい。
III.RLC細胞の酵素活性
5月の月報でRLC細胞の解糖系酵素について報告したが、酵素活性は種々の培養条件により左右されるのではないかと考え、RLC-20を選び経時的に測定してみた。増殖と関係しているであろうと考えられるPK、G-6PDHは培養とともに次第に活性が低下した。GKが以外に高く、2日目の値は成体の肝に近い。この結果については現在追試中である。
次いで、これらの酵素がインシュリンに対する応答性をもっているか、どうか調べた。培養4日目に0.1u/mlのインシュリンを添加、2日後に測定したものであるが、PK、G-6PDHは誘導されている。しかし、GKは逆に低く、インシュリンに対する応答性については今後の追試を必要とする(表を呈示)。
:質疑応答:
[難波]培地の条件が変わると酵素活性は変わるのでしょうね。
[高木]インシュリン処理はどの位ですか。
[久米川]0.1uで48時間です。
[佐藤]旋回培養ではKBは大きな塊を作ります。ラッテの肝細胞は作りません。
[吉田]セロファン下の細胞は分裂像がみられませんね。
[久米川]分裂は殆どみられませんが、系によっては400日も生存して培養を続けられるものもあります。
[難波]ラッテ肝細胞でmonolayerに増殖している時と、aggregateを作らせた時とそれぞれ組織化学的な染色で酵素活性をみたらどうでしょうか。
[久米川]組織化学は今の所まだ手をつけていません。
《加藤報告》
軟骨細胞の浮遊培養系における分化形質の保持
ニワトリ胚の軟骨細胞を従来常法とされている単層培養ではなく、浮遊状態で培養することにより、軟骨細胞の分化形質の一つであるコンドロイチン硫酸の分子種と細胞あたり合成量が安定に保たれることを見出したので、培養法と細胞の性質について報告したい。(写真を呈示)従来の単層培養された軟骨細胞(ニワトリ13日胚胸骨)培養開始後1週間では細胞間物質が明瞭で又軟骨のnoduleの形成が見られる。我々の方法で培養し、浮遊して来た軟骨細胞培養18日目の浮遊細胞は、色素(エリスロシンB)の排出能と寒天培地によるplating
efficiencyから90%以上が生きている細胞と判断される。またトルイジン・ブルー染色によるメタクロマジーを示す物質(酸性ムコ多糖)の生産、35S-無機硫酸によるラジオオートグラフィー、生産物の生化学的分析などの結果から軟骨細胞の性格を保持することを確認した。(図を呈示)これ等の浮遊してくる軟骨細胞を再現性よく得るために、いくつかの条件を検討したが、培養1日目に全培地を更新、以後は1日おきに1ml/dishずつ新鮮な培地を添加すると、シャーレに播かれた細胞数に依存した浮遊傾向を示すことが判った。細胞数/シャーレに依存して増殖速度も変化するが血清濃度を変えて増殖を調節しても浮遊してくる傾向には変化が認められないため、一義的に細胞濃度に依存した性質であると思われる。このようにして得られた浮遊細胞を、高頻度に浮遊状態を維持させながら継代することは可能で、培養開始後7週たったものでも、ほぼ80%の細胞が浮遊状態を維持している。増殖度は継代と共に低下してくるが、軟骨細胞が多量に合成するコンドロイチン硫酸の合成能力は安定に保たれており、合成されるコンドロイチン硫酸の分子種(Ch-6SとCh-4S)にも変化が認められない。(表を呈示)浮遊して増殖している軟骨細胞から1部プラスチック面に付着してくる細胞(stellate
cell)が現れるが、BUdRやHyaluronic Acid処理でプロテオグリカンの合成を抑えると同様のstellate
cellが現れることから浮遊状態から脱落してくる細胞は軟骨細胞としての機能が低下或いは消失したものらしいと思われる。その意味でこの培養系は、常に軟骨細胞の機能を活発に持っている細胞のみを常にselectしている系と云えよう。
:質疑応答:
[山田]何もしなくても浮いているというのは何故でしょう。比重が軽いのでしょうか。
[堀川]細胞のまわりに何か出していて、それで浮いているのでしょうか。
[吉田]骨細胞はアメーバ様突起を持つと考えていましたが、この細胞は丸いのですね。
[加藤]浮いているときは丸くて、下に落ちると形が変わります。
[吉田]Agingの時はどうなりますか。
[加藤]下へ落ちて死んでゆきます。
[長瀬]ラッテの腹水肝癌ではfree cellと島を作る型の細胞とではムコ多糖の組成が違っています。この場合、下に落ちる細胞のムコ多糖についてもしらべてほしいですね。
[堀川]浮いて居る細胞が落ちてくるというプロセスは再現性がありますか。
[加藤]全く同じように起こります。
《野瀬報告》
コラゲナーゼを用いた肝実質細胞の培養
これまでに樹立されたラッテ肝細胞株の、肝特異機能をいくつか調べてみたが、いずれも機能を失っているようだった。そこでIypeの方法にならってprimaryの培養肝細胞を用いて機能を検討した。
Adult ratの門脈からCa・Mg-free Hanks BSSを約40ml注入し潅流し、次に20mlの0.05%Collagenase(Worthington;typeII)で潅流する。liverを取出し、0.05%Collagenase中でピンセットを用いて組織をバラバラにし、Cell
suspensionを得る。meshを通した後、低速遠沈(300rpm≒50xg、5min)を繰返し、“parenchymal
cell"を分離した。1匹のラッテから約9x10の7乗個の細胞がとれ、viabilityは65%であった。Dispase処理で得られた上皮様細胞のarginase、tyrosine
aminotransferase(TAT)活性は非常に低くセンイ芽細胞とあまり変わらない(表を呈示)。しかしCollagenase処理で得た細胞は両酵素活性が肝臓のhomogenateとほぼ等しく、dexamethason感受性も保持していた。Dispase処理で得た実質細胞はerhthrosinBで見たViabilityが1.5%と極わめて低く、肝実質細胞の調整にはCollagenaseが優れていると言える。
Collagenaseで得た肝実質細胞の培養には、DM-153+20%FCSを用いたが、5%FCSではシャーレに付着する細胞が少なかった。(写真を呈示)培養4日目の実質細胞は、形態的には株となったラッテ肝細胞とは全く異なっている。この細胞はほとんど増殖せず、培養7日以後は徐々に死滅していった。
使用する酵素が違うとこのように全く異なる細胞がとれてくるのは興味ある事実だが、株化された上皮様細胞と実質細胞とがどんな関係にあるかはまだわからない。低速で沈殿してくる細胞はsucklingの時期のラッテ肝からはとれないので、上皮様細胞は未熟な肝細胞なのかもしれない。各ageのラッテ肝で、TATとarginase活性の変化を調べたら、TATは生まれるとすぐに成熟ラッテと同じ活性まで上昇したが、arginaseは生後20日くらいまで徐々に上昇した。従って若いラッテの肝臓はいろいろな成熟段階があり、それぞれに特徴的細胞があるのかも知れない。
:質疑応答:
[梅田]アフラトキシンの処理は13分では少し短くありませんか。
[野瀬]濃度が少し濃いのですが。
[梅田]ディスパーゼで還流してみたらどうでしょうか。
[野瀬]やってみます。
[梅田]フェノバルビタール2mMは少し濃いと思いますが・・・。
[野瀬]濃いです。
[加藤]生まれた時、又は生まれる直前のものを培養して、培養中に成熟型の酵素活性に変わってくるというような現象はありませんか。
[野瀬]今の所ありません。
【勝田班月報:7509:可移植性テストとしての異種移植】
《勝田報告(報告者・榊原)》
培養細胞の悪性・良性を決める唯一の信頼できる実験的手段は戻し移植試験であるとされているが、この方法には幾つかの難点があり、特に結果が判明する迄1年にも及ぶlatent
periodを要する点は問題である。
近年、ヌードマウスの発見や免疫抑制剤として抗胸腺細胞血清(ATS)の再評価によって、異種移植は比較的容易となった。例えば、吉田肉腫細胞をシリアンハムスターの頬袋に移植した上、ATS処置を行なうと、広汎な遠隔臓器転移をともなって短期間のうちに動物は腫瘍死する。又、人癌由来培養細胞株をこの異種移植系に植えると、4週間以内に検索した凡ての株が局所に腫瘍を形成する。
我々は今回、主としてラット肝由来培養細胞24株について、戻し移植結果とATS処置ハムスター頬袋への異種移植結果とを比較検討した。両者の間に、高い正の相関が見出せるなら、可移植性テスト法としてこの異種移植実験系を利用することが可能であると考えたからである。
実験動物としては、純系シリアンハムスター(adult)を用いた。ATSはMedawarらのtwo
pulse methodの変法により作製した。ATSによるconditioningは移植当日より始め、以後週2回づつ、1回投与量0.5ml/animal,S.C.とし頬袋切除まで続けた。移植後3週間経たのち頬袋を引き出して、腫瘤形成の有無をしらべ、個々の腫瘤について病理組織学的検索を行なった。若しそこに細胞の腫瘍性増殖が認められたなら、これを“take"されたと判定することにした。
結果は(表を呈示)、戻し移植によって宿主を腫瘍死させ得る12株のうち6株はハムスター頬袋にtakeされた(残る6株中5株も9月18日現在、頬袋に“腫瘤"を形成している)。可移植性のない、あるいはないと考えられる12株中8株はハムスター頬袋にもtakeされなかった(残る4株中の1株も9月18日現在“腫瘤"形成がない)。結局結果の不一致をみた細胞株はRLC-10(2)、RLC-19及びRLC-19(4NQO)、JTC-21・P3の4株のみのようである。しかもこれらの株細胞は、戻し移植結果にも多少問題のある例である。即ち、RLC-10(2)は、生後1ケ月以内の幼若ラットに戻した場合のみ宿主を殺すが、成熟ラットならびにハムスター頬袋にはtakeされない。RLC-19とRLC-19(4NQO)はハムスター頬袋に癌を作ったが、戻し移植後4ケ月の現在、ラットでの造腫瘍性は証明されない。但し結論を下すには時期尚早の段階であろう。JTC-21・P3は精力的な戻し移植実験にも拘らず、常に結果はnegativeであったが、ハムスター頬袋では腫瘍を作る。in
vitroでの形態及びbehaviorからは悪性が示唆され、なお黒白のつけ難い細胞株である。
以上の結果から、ATS処置シリアンハムスター頬袋への異種移植法は、3週間という短期間で結果が判明し、しかも戻し移植結果との相関度がたかく、可移植性テスト法として応用の価値あるものと考えられる。
:質疑応答:
[佐藤]ハムスターにはtakeされるのに同系のラッテにはtakeされないという系の場合、抗原性の変異とも考えられますが、腫瘍性の弱い例については接種されたラッテが死ぬ迄に1年もかかるのですから、その間にin
vivoで二段目の変化が起こるとも考えられますね。Carcinosarcomaとなっている肝細胞由来の系は実はcarcinomaなのだがin
vivoでsarcoma様形態になるのか、又は元の培養に混じっていたfibroblastが腫瘤を作るのか、或いはハムスターの細胞がはいってきているのか、調べてみたいですね。
[乾 ]Diploidの細胞はどうですか。
[榊原]今までの所全くtakeされていません。
[榊原]ハムスターにはtakeされるのに同系のラッテにtakeされないという系については、復元接種の部位に問題があるのではないかとも考えています。
[山田]しかしbacktransplantationの根本問題として、異種移植は前進になるでしょうか。それから組織像にはこだわりすぎない方がよいと思います。
[堀川]腫瘍性の解析という点で矢張り前進といえるでしょう。
[勝田]ヒトの細胞のように同種移植の不可能なものには異種移植は必要です。
[吉田]ATS処理ラッテなら、takeされなかったラッテの系がtakeされませんか。
[高岡]なぎさ変異のJTC-21・P3で試みましたがtakeされませんでした。
[翠川]胎児の細胞はtakeされませんか。
[榊原]胎児肝を酵素でバラバラにしてから接種しましたがtakeされませんでした。
[梅田]組織のままで入れるとどうなりますか。
[榊原]Takeされないものは、どんどん反応細胞に処分されてしまうようです。
[翠川]形態だけで癌種と肉腫を判別するのは、仲々難しいですね。何か生化学的に区別がつきませんかね。
[遠藤]それはまだ無理ですよ。生化学では正常か悪性かで分けられる程度ですよ。組織化学的な同定はどうですか。
[翠川]それも試みています。
[勝田]酵素活性というのは誘導がかかりますからね。培養細胞では何とも結論が出ないと思います。
[遠藤]しかし形態もいろんな条件で変化するから、当てになりませんね。ある種の薬剤耐性の違いなどで同定できるといいですね。
[翠川]そうですね。化学療法の対象として、癌と肉腫がそれぞれ異なるという可能性はありますね。それから、ハムスターの頬袋とヌードマウスと比較してどうですか。
[勝田]ヌードマウスは飼育が困難だし、この方法より宿主の反応が強いようです。
[難波]抗リンパ球血清の投与をやめるととか、長期観察もしてほしいですね。
[山田]生体での癌を考える時こういう免疫的抑制下の腫瘤を癌といえるでしょうか。
[勝田]こういうものを癌とすると云う事ではなくて、細胞の悪性化を早く見つける方法として開発したいと考えています。
《乾報告》
Transplacental in vivo−in vitro carcinogenesis
and mutagenesis of AF-2:
ここ2、3年、妊娠ハムスターは、化学発癌剤を投与した後胎児を摘出Colony
levelでのTransformationの仕事をやって来ましたが、Transformed
Colonyをcloningして、増殖させハムスターに戻し移植の実験がなかなかうまく行かず、実験動物を今年始めより純系ハムスターにかえましたら、妊娠動物を使用してしまうと云うこともありまして、ハムスターの繁殖がなかなか思うようになりません。
真の意味での培養内発癌実験のつなぎの実験として前回の班会議で2FAAでTransformationとMutationを同一細胞で行ない8-AG、6-TG耐性コロニーの出現をみました。
今月は環境変異原としてさわがれ、染色体切断能も強く、In
vivo-in vitro chmical carcinogenesisの系でTransformed
Colonyを作り、動物実験においても発癌性のあるAF-2で、mutationとin-vitro
carcinogenesisの関係を少し系統的にやりつつあるのでそれについて報告いたします。
実験方法:(図を呈示)妊娠11日目、器官形成の終了時にDMSOに溶解したAF-2を20〜200mg/kg腹腔内注射した。注射後、24時間(20mg/kg投与群では6、24、48時間)に母体より胎児をとり出し、Transformed
Colony形成の為にはDulbecco'sMEM+20%FCS、mutagenesis実験にはMEM+10%FCSで培養した。
Transformed Colony形成には、培養2、4、6代目の細胞を5,000〜10,000/dish接種し、培養5〜10日後固定した。突然変異コロニーのSelectionには胎児細胞をMEM+10%FCS正常培地で48時間培養後8アザグアニン(8-AG)10、20、30μg/ml、或いは6チオグアニン(6TG)5、10μg/mlを含んだ培地に移し(50万個/dish)15日間培養後、固定染色し8AG、6TG耐性コロニーを算定した。
結果:(表を呈示)AF2 20mg/kg投与後のTransformed
Colonyの出現率を示した。培養2代目では、ControlのHanks
500mg/kg投与群、AF-2投与後6、24、48時間に培養を開始した細胞共に1〜1.8%のTransformed
Colonyが出現したが4代目では、AF-2投与後24時間、6代目では6、24時間群にTransformed
Colonyの出現が著明であった。この事実は今後同実験を行なう上に、化学物質投与後培養開始迄の時間が後のTransformed
Colonyの形成率に影響があることを示している。
(表を呈示)ハムスター細胞に培養内で直接MNNG、AF-2投与後の8-AG耐性コロニーの出現率を示した。MNNG
1〜2x10-6乗M 3時間投与後細胞で対照の無処理に対して8-AG耐性コロニーの出現率は明らかに増し、AF-2
1〜2x10-4乗M投与群でも同様の結果をえた。なおAF-2投与群の8-AG耐性コロニーの出現率に濃度依存性が見られた。6-TG耐性コロニーの出現はMNNG、AF-2共に強い濃度依存性があった。上記実験はTransplacental
Applicationに対する対照実験として行なったが、ハムスター初代細胞における8-AG、6-TG耐性細胞を得た始めての報告と思う。又AF-2投与後の8-AG耐性コロニー形成は人間2倍体細胞でKuroda、チャイニーズハムスター細胞で、Wildが報告しているが、6-TG耐性細胞の報告は現在ない。
(表を呈示)AF-2をTransplacental投与の胎児細胞の8-AG耐性コロニーの出現率では、AF-2投与細胞で明らかに耐性コロニーの出現率は増し、その誘導率は直接投与のそれより高く、20〜100mg/kg投与群では投与濃度依存性が認められた。同様6-TG耐性コロニーの出現がAF-2経胎盤投与細胞で出現した。
:質疑応答:
[堀川]8-AGrのmutation とtransformationのrateではmutationの方が高いのですね。
[勝田]Transplacentalの発癌実験は面白いideaですね。
[翠川]Transplacentalは通る通らないがあると思いますがAF-2は通るのでしょうか。
[乾 ]最近はplacentaにbarrierはないと考えられているようです。ヒトの自然流産を調べてみると、染色体奇形が物凄く多いという事が判っています。
[翠川]母体の酸素欠乏が胎児の変異を起こすとは考えられませんか。直接の化学物質による影響とは区別して考える必要があると思います。
[遠藤]与えた化学物質が母体に作用して酸素欠乏を起こし、それが胎児の変異の原因になるとすると与える物質が何であっても同じ結果が出る事になります。もし結果に差なり違いなりがあれば、それは与えた薬剤の直接の影響とみてよいでしょう。
[乾 ]結果からみて薬剤が直接に作用していると考えています。次には標的臓器別にtransformationをみたいと思っています。
[堀川]胎児への影響をみるのには良いsystemですね。
[勝田]Screening用の実験よりmechanismをやって欲しいですね。それから復元をもっとどんどんやって腫瘍性をみておかなくてはいけませんね。
[梅田]8-AG耐性のコロニーは継代出来ますか。
[乾 ]出来ます。そして5x10-6乗でrevertantが出ます。
[佐藤]Diploidとheteroploidとではmutation
rateは異なりますか。
[乾 ]株細胞に比べますとtransplacental実験では変異率は大体1ケタは低いです。
[勝田]Transplacentalでは生体での代謝は受けませんか。
[遠藤]殆どの薬剤が受けていますね。ウレタンなどはそのまま通るようですが。
[乾 ]アイソトープラベルの物質を使って物質その物の取り込みもみるつもりです。
[遠藤]ラベルした物質を使ってもカウントがあったというだけでは、そのまま入ったかどうかは判らないし仲々大変ですよ。Screening法として確立すれば良いでしょう。
[勝田]いやいやscreeningだけでは当班業務は満たせませんからね。
《佐藤報告》
ヒト(1歳男子)肝芽腫の培養とその培養系の形態及び機能について
(報告のみで原稿の提出はなし)
:質疑応答:
[遠藤]α-Fの産生は培養を続けていても低下しませんか。
[佐藤]ラッテの場合は1年や2年では変わらない系もあります。系によっては時間がたつにつれて低下するものもあります。ヒトの場合single
cellからのクローニングが出来ませんので、系によって違うのはselectionがあるのかも知れません。
[吉田]染色体数46本、48本のものだけですか。又46本と48本は混在していたのですか。
[佐藤]始は混在していたのですが、今は48本が主になっています。又46本、48本以外のものは今のところ見当たりません。
[榊原]α-Fを産生している細胞をハムスターに接種してtumorが出来ると、ハムスターの血清中にヒトのα-Fが出てくるでしょうか。
[佐藤]出るでしょうね。ラッテの肝由来の系の中には培養内ではα-Fを作っていないのに動物に接種すると、その動物の血清中にα-Fが検出されるというものもあります。
[久米川]正常ヒト肝からも培養系がとれますか。
[佐藤]今の所まだ出来ていません。
《翠川報告》
§マウス間葉系細胞(線維芽細胞、細網細胞、組織球)の長期培養について
マウスの肝、肺、腎等の臓器を細切して、特別の操作を加えることなく長期継代培養を続けた場合いずれも紡錘形細胞の増殖が優勢となり、この紡錘細胞の株化をみる場合が多い。この様な株細胞に対してこれまでは単に紡錘形細胞あるいは線維芽様細胞と呼称し大部分はfibroblast由来とみなした余りその起源は問題にされなかった。
しかし、間質に存在する間葉系細胞でその形態が紡錘形を呈するものは決して線維芽細胞のみではなく、組織球、細網細胞あるいは血液由来の単球等多彩であり、それらの鑑別は必ずしも容易ではない。人によっては線維芽細胞と組織球は相互に移行しうるともいい、また組織球と細網細胞は全く同一細胞種で細胞のおかれた条件下でその形態機能を一見異にするようにみえるのにすぎないという説も有力である。
私たちはA/K系マウス(マウスは非常にtransformationを来たしやすい。その性質を利用するその目的でマウスを選んだ)脾、可移植性腫瘍を培養してその間質の間葉系細胞を長期にわたって培養し、その間いろいろの細胞系を分離して、線維芽細胞より由来するもの、細網細胞とになされるもの及び組織球の株化、長期培養に成功し、いずれも5〜10年にわたっている。
その結果、線維芽細胞、細網細胞そして組織球はそれぞれ生物学的にも性質が全く異なる独立した細胞でin
vitroでは決して互いに移行しあうことのないのを確めつつある。
(1)マウスの線維芽細胞は周知のごとく最も培養し易く、容易に株化し、また早期に試験管内発癌をみる。形態学的には完全に紡錘形で、Van
Gieson染色に赤染、Azan染色で青染し貪喰性は少なくこの基本的性質は10年間in
vitroでも保持されている。
(2)細網細胞はこれに較べてやや株化が困難であり、自然発癌に要する期間もやや長い。紡錘形の度合いは少なくVan
Giesonで赤くそまらずAzanでも青染をみない。貪喰性能も中等度陽性。
(3)組織球は最も株化が困難で、10年にわたる培養でも、自然発癌はおこらず細胞のdoubling
timeも7日以上と非常に長い。そして最も特長的である旺盛な貪喰能は10年間以上全く変ることがない。5年以上培養を続けた上記三種細胞の写真を呈示する。それぞれの細胞の基本的特長は長期培養にさいしても決して失われることなく、また相互移行も全く認められない。
:質疑応答:
[勝田]Reticulum cellとhistiocyteとでは映画撮影での動態も全く違いますね。
[難波]Histiocyteが悪性化すると浮遊状になりませんか。
[翠川]壁への附着性が非常に強いですね。
[難波]Hodgikinはhistiocyteが悪性化したのではないでしょうか。
[翠川]Hodfikinはreticulum cellに近いかも知れません。
[遠藤]Histiocyteとmacrophageはどこが違うのですか。
[翠川]Macrophageの一部がhistiocyteだとか、同じものだとかいう人もいます。
[遠藤]市川氏の仕事ではmyeloid leukemic
cellがmacrophageに分化するようですね。
[翠川]もとの細胞が本当にmyeloid cellでしょうか。血球系の細胞の同定はなかなか難しいものです。
[吉田]株化した細胞の染色体はどうですか。
[翠川]染色体核型も染色体数も正常ではありません。しかし、腫瘍性がないと判断したものは、胸腺切除の乳児に植えてもtakeされなかったものです。
《佐藤報告》
◇軟寒天内コロニー形成について
発癌実験に使用する為、細胞のクローン化を進めていますが、原株とクローン化された株の性状の比較の一つとして、軟寒天内でのコロニー形成能を検討いたしました。本実験に入る前に軟寒天培養の手技の確立のためJTC-11細胞を用い予備実験を試みました。
◇(植え込み細胞数について)、細胞数をシャーレ(60cm・ファルコン)当り、80万個〜800個まで変化させ軟寒天内でのコロニー数を計測した。実験条件は、0.5%seed
Agar、1%BaseAgar(Agar:Special Noble Agar・Difco)とし、10日間観察した。JTC-11細胞では多数のコロニー形成を見たが、一応1mm直径以上のものを計測した。8万個の細胞数以上では、コロニーが多く計測不可能であった。
◇(寒天の濃度について)、細胞数を一定にし(8,000個/dish)、寒天濃度を変え、コロニー形成に変動があるかどうか調べた。Base
Agarについては0.5%より1%の方が多くのコロニー数を得た。結果から、以後の実験は0.5%Seed
Agar、1%Base Agarで行うこととした。(夫々表を呈示)
JTC-11細胞の予備的実験を参考にして、本実験として、4系のラッテ肝細胞株、ならびにそれらからトリプシン−ろ紙法によって得たクローン株について寒天内でのコロニー形成能を検討した。実験条件は、0.5%Seed
Agar、1%Base Agarで15日間の観察である。まず原株(J-5-2、AL-5、RLD-10、CL-2)ではRLD-10細胞のみがコロニーを形成した。この場合、RLDのコロニーはJTC-11のそれに比しはるかに小さく、最も大きいもので1mm程度の直径であった。次にクローン株についても同様の実験を試みたが、原株と同様、RLD由来クローンのみがコロニーを形成した。RLD-10とCL-2は同系ラッテに可移植性を有することが別の実験で明らかとなっているが、寒天内でのコロニー形成能は前者のみが有していた。ここでも、寒天内でのコロニー形成能と腫瘍性との直接関連性は示されなかったと考える。
次に染色体数モードについては、原株のJ-5-2、AL-5は42にモードがあり、RLD-10、CL-2は異数性であることがわかっているが、得られたクローンについても検討した結果(現在の所は、AL-5、RLD-10のクローンについてのみ)では、AL-5クローンは42、RLDクローンは54−56にモードを示した。(表を呈示)
:質疑応答:
[難波]RLD-10は100%腫瘍細胞ですか。
[常盤]文献的にはそうなっています。
[高岡]腫瘍性のある細胞、殊にJTC-11については100万個/シャーレというのは細胞数が多すぎると思います。1,000コ、100コ、10コが普通に使われています。
《高木報告》
1.DMAE-4HAQO注射ラットに生じた腫瘍の培養
先報のSDラットに生じた肺腫瘍および膵腫瘍ならびに腹水の培養を試みたのでその成績をのべる。
膵腫瘤の培養はDM-153とAL+EV培地に20%FCSを加えた培養液で行なったが、上皮様細胞の増殖はほとんど認められなかった。肺腫瘍の培養も同様の培地を用いて行なったが、explantから上皮様細胞が次第に出現し、同時に線維芽細胞の増殖がみられたので40日目にrubber
policemanで継代した。継代後も組織片の周囲に上皮様細胞の増殖がみられ、45日位がもっとも盛んであったが以後は増殖を示さず、線維芽細胞のovergrowthにまけて65日目で培養を中止した。
腹水細胞はDM-153と1640培地に20%FCSを加えた培養液で培養した。培養数日間は血液細胞(単球など)の集落がみられたが、以後偏平な線維芽細胞とそのsheetの上の小型の細胞質に多くの顆粒を有する細胞と、さらにcell
sheetに軽く付着したようにみえる球形の細胞が共存して培養が続けられた。球形の細胞はそれだけ集めて培養したのでは増殖がみられず漸減したが、他の細胞と共に培養するとわずかに増殖するかあるいはそのままの状態で培養がつづけられた。しかし培養70日目の現在では球形の細胞の数は可成り減少し、線維芽細胞が優勢のようである。これらの写真を供覧する。
2.XP細胞およびHF細胞(人皮膚線維芽細胞)に対する4NQOの作用
月報No.7507に報告したようにXP細胞とHF細胞に4NQOを3.3x10-7乗Mと3.3x10-6乗M作用させてその後の経過をみているが、XP細胞は培養開始後160日、4NQO作用後70日目の現在、対照、作用群ともに完全に増殖が止っている。HF細胞は対照、作用群ともさかんに増殖を示しているが、形態的に特に変化は認められない。
:質疑応答:
[堀川]Human adultの膵臓細胞が40日位で絶えてしまうのは何故でしょうか。世代時間はどの位ですか。
[高木]調べてありません。
[遠藤]胎児の膵臓ならadultより長期間維持できるだろうという見込みですね。
《難波報告》
19:グリセオフルビンのヒトの染色体に及ぼす影響.その2
月報7507に、グリセオフルビンがヒトの染色体の異常をおこす可能性のあることを報告した。今回は、この実験をまとめるために新しく実験を行ない、データを詳細に分析した結果、グリセオフルビンが確かにヒトの染色体の異常を起こすという結論に達した。そのデータを下に記す。
◇実験条件
細胞:健康な女性(23才)からのリンパ球。 培養:RPMI1640+30%FBS+0.2%PHA
M。300万個リンパ球/3ml培地、3日間培養。 薬剤処理:DMSOに溶き、3日間処理。 クロモゾーム:培養3日目に作成。
◇結果
(図表を呈示)10μg/ml処理群の方が20μg/mlのものより高度なクロモゾームの数の異常をおこしている。Heteroploidへの変化の方がBreaksとかgapsなどの構造の異常より発癌の機構に重要だという考えがあるので、以上のデータの結果は重要だと考えられる。20μg/ml群は、薬剤のToxicityのために、多くの細胞が死んだのかも知れない。
20:ヒトのクロモゾームに及ぼす4NQO、BPの影響
化学発癌剤が、ヒトの細胞を癌化させる可能性があるか否かを測定する指標の1つとして、正常なヒトに由来する2倍体細胞の、発癌剤処理後におけるクロモゾームの変化の検討がある。
月報7505に、4NQO、BP、NG、MMS、DMBAなどの発癌剤のヒトクロモゾームに及ぼす効果を報告した。今回は4NQO、BPだけを使用し、多数の個体より得たリンパ球のクロモゾームに、両薬剤がどのような変化をおこしているかを詳細に検討した。
◇実験方法:ヘパリン処理の血液10mlを試験管に入れ、立てたまま2〜3hr放置。上清に浮遊するリンパ球を使用。約100万個のリンパ球/3ml培地(RPMI1640+20%FBS+PHA・Gibco)。2日目、10-5乗M
BP、3.3x10-6乗M 4NQOで1hr処理。3日目クロモゾーム標本作製。
◇実験結果:(表を呈示)。
1)Ploidyの変化は、コントロール<BP<4NQOの順で大きくなっている。
2)クロモゾームの構造の変化の順も上と同様である。
3)BP、4NQOによるクロモゾームの変化には個体差がみられる。
4)同時に作製する薬剤未処理のコントロール群のクロモゾームの変化と、BP、4NQOによる変化とは相関関係はない。
◇考察:ある種の化学発癌剤のヒト染色体に及ぼす影響を検討するとき、個体差のあることを考えて、実験を進める要がある。
:質疑応答:
[乾 ]こういう実験の場合の染色体分析は150コほしいですね。50コは少なすぎます。
[山田]細胞電気泳動でみたヒトの赤血球も、個体差が大きいですね。
[翠川]ヒトの場合、薬を使ったりすることも影響するのかも知れません。
[勝田]人間は実験動物に比べると、全くの雑系ですからね。
《堀川報告》
先月号の月報で簡単にふれた2つの実験結果を改めて詳細に報告します。
(1)低線量放射線照射による誘発突然変異
私共のもっている4種の突然変異検出系のうちで最も鋭敏な系である栄養非要求株prototroph(Ala+、Asp+、Pro+、Asn+、Glu+、Hyp+)を用いた検出系は(図を呈示)、0〜1000Rの中等度のX線を照射した際に誘発されるauxotrophを容易に検出することが出来る。つまり、この栄養要求性前進突然変異系はX線により誘発される突然変異を鋭敏に検出することが出来る。では、この系を使えば低線量のX線照射により誘発される突然変異も検出出来るかどうかを再検討するため、100R以下のX線照射をした際の突然変異の誘発をこの系で調べてみた。この問題は低線量放射線のlate
effectがどのようなものであるかを知るために非常に重要であるが、結果は(図を呈示)negativeで、100R以下の線量で誘発されるmutationを検出することは出来なかった。この事はわれわれの検出系の感度がまだにぶいのか、それとも低線量域で誘発されるmutationには回復があるのか、いづれかであろう。この問題の解決は今後に残されている。
(2)AF-2の突然変異誘発能
一方、この栄養要求性前進突然変異系を使って、従来食品添加剤として広く用いられてきたAF-2のmutagenicityをtestした結果は、これ迄にも報告してきたように、UVやX線に比べて突然変異誘発能は弱いという結果を得ていた。これは前報でも述べたように、AF-2をDMSOに溶かした後、15lbs(120℃)、20分間オートクレーブで滅菌したものをmediumに加え、細胞を2時間処理した場合の結果であった。
今回はDMSOに溶かしたAF-2をオートクレーブ滅菌なしで直接mediumに加えて細胞を同様に2時間処理した際の誘発変異率を調べてみた。結果は(図を呈示)これまでと違ってAF-2には強力なmutagenicityのあることがわかった。このことは従来比較的熱に安定とみなされていたAF-2も熱によってまったく異ったproductを作ることを意味していると思われる。案外とtrans型のAF-2が熱によりcis型AF-2に変型する事に関係があるのかもしれない。
《山田報告》
培養肝細胞及び培養肝癌細胞の超微形態:
これまで7系の細胞について電顕的観察を続けて来ましたが今回はJTC-1(AH-130)について調べて来ました。今回は固定の方法を若干変更し、平等に細胞が固定される様に工夫した所、いままで試みた方法のうちで最も良い結果を得る方法であることが、今になってわかりました。(写真を呈示)
AH-130の超微形態はJTC-16やCulb/TCとかなり似ていますが、特に異る所は、部分的にdesmosomeの密に分布する結合面が少数みられることです。グリコーゲン顆粒はCulb/TC程に多くはありませんがかなり存在して居ます。しかし癌細胞と非癌細胞間の形態学的差はあまり大きくない様な気がします。そこで最後にこれまで調べて来た電顕所見を相互に比較し(表を呈示)、その結果をまとめると次の様になります。
1)正常ラット肝由来細胞は生体のoriginalの肝細胞とはかなり異り、特にグリコーゲンの星状顆粒の凝集はいづれにも殆んどみられない。
2)胎児、新生児、成体ラットそれぞれから由来の細胞間に特に形態学的な差はあまりない。むしろその由来細胞の差よりもat
randomにその形態学的差が出現する様に思われる。
3)癌細胞に特徴的な點は、細胞相互の結合が弱く、マイクロビリは単純であり粗面小胞体が少く単純で核小体が大型である。しかしこれらの特徴の多くは光学顕微鏡でも観察し得る特徴である。現時点で決定的に悪性を立証する超微形態は一つもない。
《梅田報告》
今迄FM3A細胞が8AG耐性獲得の突然変異を生ずる実験系を用いて各種物質の突然変異性を報告してきた。一方で細胞DNAを蛋白、リピドを含まない状態で解析する方法についても報告してきた。今回は各種物質の突然変異性が、このDNA切断の惹起作用、さらに染色体標本での染色体異常惹起作用と相関するかどうか調べている中間報告を行う。
(I)突然変異惹起作用に関しては月報7411、7503、7504等で報告してきた。新しいデータをまとめる(表を呈示)。
(II)DNA単鎖の解析法も報告してきた。この方法で各種物質投与時の超遠心パターンを示す(図を呈示)。
(III)染色体標本は各種物質処理後、型の如く低張液処理、固定、脱水して作製した。Metaphase像を通常100ケを調べ、その異常について検索した。
(IV)これらの結果をまとめた(表を呈示)。Mycophenolic
acidで高い突然変異性があるのに染色体異常は他の例に較べ低いようである。その他は突然変異性と染色体異常惹起度は高い相関があるように見える。これに反してDNA単鎖切断誘起作用は高濃度で現れる傾向にあり、さらにNaNO2やMycophenolic
acidのように調べた最高濃度でも切断のはっきりしていないものが存在した。
:質疑応答:
[堀川]一本鎖切断をみる場合、処理時間をmutation実験と合わせていますか。24時間処理では物によってはrejoiningするかも知れませんね。時間を変えてみる必要があります。
[乾 ]染色体変異をみる時は1〜2回目の分裂ははずした方がよいと思います。NaNO2のように発癌、mutation、染色体異常を起こすのに、DNAが切れないのはどう考えますか。
[梅田]DNA切断はinsensitiveなためだと思っています。
[堀川]遠心のパターンで動くのは相当なbreakeがないと見られませんね。染色体レベルの方がsensitiveなのかも知れません。
[難波]BPではunscheduled DNA合成は出ません。4NQOは出ます。
[遠藤]培養細胞ではunscheduled DNA合成はどうやってみますか。
[堀川]DNA合成をhydroxyureaなどで止めておいて、摂り込みをみます。
《野瀬報告》
培養ラッテ肝細胞の生化学的機能
前回の班会議で、Collagenase-潅流法によるラッテ肝細胞の分離について報告した。今回はDispaseで潅流して得た肝細胞の機能およびCollagenaseで得たprimary
cultureを長期間培養した結果について述べる。
血清アルブミン検出はradioimmunoassayにより行なった。rat
serum albumin(RSA)fractionVから硫安分劃、酸沈澱、DEAE-cellulose、Sephadex
G-200などの操作でほぼ均一のRSA蛋白質を得た。これにI125でラベルし、抗RSA血清存在下でtitrationを行ない、試料中のRSA量を測定した。(表を呈示)4種の培養(培地:DM-153+10%FCS)で細胞をPBSで3回洗い、FCSを含まないDM-153を加えて2日間培養し、培地を集め、約40倍に濃縮してから測定した。Collagenaseで得た細胞も、Dispaseによる細胞も、初代培養後3日目ではRSAの合成が見られた。しかしcollagenaseによる細胞は36日後には全くRSAを培地中に出していなかった。Dispase-shakingで得られた細胞は培養後18日たってfibroblastsのみになってもBSAを分泌していた。その量は初代培養とほぼ同レベルであった。まだ実験例が少なくて何とも言えないが形態的には全く上皮様でない細胞がアルブミンを合成しているのは興味ある結果である。
次にTyrosine amino transferaseの誘導性を見た(表を呈示)。上皮様の株細胞はいずれもデキサメサゾン8.5x10-7乗M、24時間処理でTATの誘導を起こさなかった。しかし、Collagenase、又はDispase-潅流によって得た初代肝細胞は有意な誘導を起こした。初代培養を更にin
vitroに保ち12〜23日経過したものは誘導性を失なっていた。一方、Dispase潅流法で得た肝細胞をデキサメサゾン存在下で培養すると、46日経過(subculture3回)しても、初代培養に誘導をかけた程度のTAT活性を保持していた。この細胞の形態は上皮様でもなく、またセンイ芽細胞でもなく、細胞質内に特異な構造を持つ細胞であった。このような細胞がcollagenase潅流でもとれるかどうか現在検討中である。
:質疑応答:
[高岡]形態の違ってみえる2種類の細胞、両方とも肝実質細胞ですか。
[野瀬]わかりません。いくらselectionしても完全に純粋には出来ません。
[遠藤]調べた酵素活性はTATだけですか。
[野瀬]アルギナーゼもやってみたいのですが、アルギナーゼはHeLaでも誘導されるのて不適当かとも思います。
[高岡]TAT活性はin vivoのレベルと比較するとどうですか。
[野瀬]肝ホモジネイトより高い位です。
[乾 ]酵素活性は、適当な誘導をすれば何でも出てくる可能性がありませんか。
[遠藤]しかし分化して、夫々の活性をもつのが生体での常識じゃありませんか。
[乾 ]培養すると何が起こるか、やってみなければ判りませんよ。
【勝田班月報・7510】
《勝田報告》
§各種培地の比較検討(1.特に各種細胞についての比較):
A.各種培地での各種細胞の比較
表の数値は、培地を交新しないで7日間培養した場合の増殖率を、各継代培地内増殖率を100としての比である。DM-150はDM-153の塩類蘇生がDで、他は同じ合成培地。
株名 MEM F12 DM-120 DM-150
3T3 10%FCS+ 100* 85.1 100
CHO-K1 10%FCS+ 82.7 100* 98.6
L - 97.7 96.8 100* 97.9
JTC-25 - 100 88.9 100* 95.4
B.培地はDM-150で、各種塩類濃度の比較
6000mg/l 6800mg/l 7600mg/l 8000mg/l
3T3 10%FCS+ 100.9 100* 94.0 96.5
CHO-K1 10%FCS+ 83.5 86.1 100* 97.1
ラット肝2代 10%FCS+ 75.8 92.1 107.7 100*
L・P3 - 108.8 114.0 104.5 100*
JTC-25・P3 - 101.9 107.9 118.2 100*
A表では対照以上のものが無かったが、B表の実験では、特に合成培地継代細胞において現れた。なお上のNaCl濃度は次のカッコ内の培地に相当している。6000mg/l(RPMI-1640)、6800mg/l(MEM、DM-153)、7600mg/l(F12)、8000mg/l(DM-150)。いずれも、低張気味の方が増殖が良いというのは面白い知見であった。
《高木報告》
10月1日、長崎市公会堂で日本消化器病学会と同時に第6回日本膵臓病研究会が行なわれ、“膵ラ氏島細胞の培養"の講演を依頼されました。臨床家ばかりの学会ですが、臨床研究におけるTCの応用について少しでも裨益するところがあればと考え、主としてtoechicalな問題を紹介した次第です。
膵ラ氏島細胞の培養について
ヒトあるいはラット膵ラ氏島細胞を培養してこれに発癌剤を作用させる場合、作用後細胞が分裂しなければ実験が成功する可能性はまず考えられない。そこで、ここしばらくラ氏島細胞、特にB細胞の分裂に関する仕事を進めてみたいと思う。
ラ氏島細胞の分裂促進物質に関する研究がはじまったのは、比較的最近のことである。Chickは、生後1〜3日のラット膵のmonolayer
cultureについてoutoradiographyを行ない、glucose
3mg/dlおよびtolbutamide 100μg/mlでは対照のglucose
1mg/dlに比し、H3-TdRの取込みは3〜4倍に増加し、growth
hormone、glucagonは効果を示さず、dexamethasoneは逆に抑制することを報告している。またAndersonらは成熟マウスの単離ラ氏島の培養についてautoradiographyを行ない、glucose
3mg/mlの場合にのみH3-TdRの取込みの増加を認めている。私どももラ氏島のorgan
cultureでglucose 3mg/mlの時にB細胞の分裂像を確認している。また藤田らは、in
vivoでceruleinもB細胞の分裂を促することを示している。一般にhormoneの分泌促進物質は、そのhormoneを分泌する細胞の文れるを促進するとされているが、ラ氏島B細胞についてもそれらの物質につき培養系で検討を加えてみたい。
また発癌物質としてDMAE-4HAQOの外、Streptozotocinは単独では催糖尿病作用があるが、Nicotinamideとともに用いると腺腫の発生することが判っており、これをin
vitroで用いてその作用機序を解析してみたいと考えている。
《梅田報告》
(1)月報7410、7502にマウスまたはハムスター胎児細胞の、継代数代目の培養細胞を用いての発癌実験についてのべた。この時悪性転換増殖巣の出現頻度が少ないことと、コントロールのシャーレに(6週間も培養を続けるので)、Giemsa染色で赤染する細胞間分泌物質のものならなるnetworkがあり、判定が困難なことのあることを報告した。この点を改良するため、また単一細胞集団を得て実験した方が宜敷かろうとの考えから、マウス或はハムスター胎児肺の培養細胞について実験を行ったが、密な赤染するnetworkはさらに強調されることを報告した(月報7502)。
(2)今回は胎児肺を得た時と同じ目的ですなわち、単一細胞集団を得、しかもadultでも実験出来る可能性も考えて、マウスの腎細胞培養について行っている培養経過について述べる。生後4週雄のDDDマウス腎を剔出後、皮質部と髄質部に分けてからそれぞれについてcollagenase、hyaluronidase(混液)処理を行った。髄質部は細胞のばらばらになり方、収量が悪く、増生も悪かった。皮質部の培養では、上皮様細胞と繊維芽様細胞とが増生してくるが、これを継代して、1万個、5万個、25万個/6cmシャーレに播いて6週間培養した所、比較的上皮様細胞の増生が多くなった。1万個播種したものでは、6週間培養でやっとシャーレ底面を一杯におおう程度の増生であった。5万個、25万個細胞播種したシャーレでは、固定染色標本でうすい染色像を呈した。25万個播種のシャーレで、やや細胞分泌物様のもので密に盛り上ったnetworkが出来ていたが胎児細胞を使った時よりも少なくて見易かった。
(3)以上のように比較的きれいな染色像が得られたので、この細胞(培養46日目、一度も継代しなかった残りのシャーレより継代した)を継代して、C14-BP代謝能を測定した。試験管に25万個cells/mlの細胞浮遊液の0.25mlを接種し、培養2日目にC14-BPの2n
moles/mlを投与し3日間培養して、water solubleになったC14-BPの放射能を測定した。同時に別の試験管に別の培養を用意し、cold
BP(2n moles/ml)を投与し、3日後の細胞数を数えた。
(表を呈示)表に示すように、水層と有機層と両方に回収された放射能は投与放射能の93%で、水層に認められた放射能は46.3%であった。これを100万個あたりの細胞数に換算すると、15,938p
moleのBPを代謝したことになる。
(4)以上の実験から腎培養細胞は上皮様細胞が増生し、しかも1ケ月半近く培養した細胞でもBP代謝能のあることがわかったので、早速発癌実験をスタートした。
《乾報告》
AF-2投与妊娠ハムスター由来細胞のTransformation及び染色体変異;
先月の月報で、AF-2投与妊娠ハムスター由来の細胞の8-Az、6-TG耐性突然変異コロニーの出現について報告した。本号では同細胞のTransformation及び染色体変異誘導について報告する。
(表を呈示)表1に示した如く、変異コロニーは、Subculture1、3、5代目に出現した。1代目では、対照のDMSO、Hnks投与群においても、1.17〜1.58%とやや変異コロニーは高率に出現するが、3、5日には急速に減少する。これに反しAF-2投与群では変異コロニーは、培養5代目迄一定の出現率を示し、その頻度は投与量依存性を示した。染色体変異は、表2、図1の如くAF-2
20mg/kgで著明に誘導され、その出現率は明らかに投与量依存性を示した。対照に使用したAF-2直接投与群では図1の如く、投与後48時間で著明な減少を示した。
《難波報告》
21:各種化学発癌剤のヒト正常細胞に及ぼす細胞障害性
細胞毒性を示す化学物質が必ずしも発癌性を有するとは限らないが、しかしヒトの細胞に対する発癌性がありそうかどうか簡単に、しかも迅速に決定する一方法として細胞の増殖に及ぼす化学発癌物質の影響をみることは有意であろう。
(表を呈示)表に示したように、現在までに検討された化学発癌剤で4NQOが最もヒトの細胞増殖を阻害する。ヒトの細胞は10-5乗M
BP 4日間処理でも、びくともしないが、培養内でBPによって発癌するC3Hマウス由来の10T1/2細胞は著明な細胞増殖阻害を示している。
《久米川報告》
セロファンシート法によるラット肝実質細胞の培養
肝実質細胞は野瀬氏の方法(7507)に従って、adult
ratの門脈からCa-Mg-free hanks BSSを潅流、次いで、20mlの0.05%
collagenaseを潅流した後、liverを取出し、0.05%
collage-nase中で細胞をバラバラにし分離した。
こうして得た肝実質細胞と思われる細胞はシャーレ培養では、野瀬氏の写真とほぼ同じ像、および経過を示した。
分離した肝細胞を遠沈(1,000rpm、5min)し、ローズチャンバーでセロファンシート法での培養を試みた(培養液の還流なし)。なお、培養液はDM-153+15%CSによる。セロファン膜の下では、細胞は円形で、辺縁部ののびがなく、ぶ厚い感じである。(写真を呈示)写真は培養5日目の細胞であるが、細胞は数個単位となり、その細胞間にはphase-whiteの間隙が出来る。多分bile
canaliculusが形成されたものと思われる。膜の下の細胞は丁度、胎生マウス肝臓を培養したときに見られる肝実質細胞像に非常によく似ており、セロファンシート法で培養した株化したラット由来肝細胞像(RLC、JTC-25・P3、IAR)とは、大分異なっているように思われる。
《堀川報告》
現在、われわれはChinese hamster hai細胞から分離した栄養要求性変異あるいは8-aza-guanine抵抗性または感受性細胞を用いて4系の突然変異系を確立し、それらのうちで突然変異検出能の最も鋭敏なPrototrophic
cellsを用いた前進突然変異系を使って種々の詳細な解析を進めているが、これらとは別に更にまったく違った突然変異検出系を確立すべく準備を進めているので今回はそれらについて報告する。
現在組み立てようとしている突然変異系は、Xeroderma
pigmentosumの患者から得た細胞を用いる系で、この系ではUV高感受性型から正常感受性へのreverse
mutationを追うものである。幸い突然変異実験に使用可能な、SV40でtransformされたXP20S細胞というのを阪大武部氏より入手することが出来た。この細胞は元来7才の幼女から得た細胞で、UV照射後のunscheduled
DNA合成能をtestした結果からはGroup Aに属するUV高感受性細胞である。種々の基礎実験の結果、培地としては75%Eagle
MEM+10%TC-199+15%calf serumを用いるのが最適で、この培地ならガラス、シャーレ中でも10〜15%のPlating
efficiencyを示す。又、この培地中での細胞のdoubling
timeは約36時間である。残念ながらSV40でtransformさせているだけに、Chromosome
numberのdistributionは大きいようである。ともあれ、このXP細胞を用いた突然変異検出系は、変異のマーカーとしてendonuclease活性を指標と出来るだけに、従来われわれが確立した各種突然変異検出系と対比して、今後種々の検討が出来るものと思われる。
《野瀬報告》
上皮様細胞のGrowth Regulation (1)
培養細胞の増殖に関しては、主にfibroblastsを用いて研究が進行している。肝細胞を培養して得られたepithelial
cellsで変異や酵素誘導を研究する上に、上皮様細胞の増殖についての基礎的知識が必要と考えられる。またfibroblastsとepithelial
cellsとの間に、細胞増殖の調節機構が異なっているかもしれないので、各種の上皮様細胞の増殖の様相を調べてみたいと思っている。
(図を呈示)図はconfluentになった細胞を、fresh
medium(5%FCS・MEM)で培地交換してから、各時間に、H3-TdR、H3-Urdで1hrのpulseを行ない、cold
TCA pptへのとりこみを見た結果である。H3-Urdのとりこみは培地交換直後に上昇し、H3-TdRへのとりこみは12〜20hr後にピークとなった。細胞株によって培地交換後のH3-TdR取込みには差が見られた。12〜20hrで見られたH3-TdRのピークは、G1期の細胞がS期に入ったためと考えられるが、0hrにH3-Urd又はH3-TdRのとりこみが上昇するのは興味ある。恐らく膜の透過性の変化と考、、現在、検討中である。
《山田報告》
正常肝由来細胞を長期に培養すると容易に変異し、悪性化することは従来よく知られた事実ですが、経時的に染色体がどの様に変化するかを幾つかの細胞系を用いて検索しました。その結果を図にまとめて記載しますが、その主な結果は、
1)染色体モードは経時的に変化し、約2〜3年の間に42本から最高57にまで変化した。
2)polyploidyの染色体も出現するが、経時的に増加して行く傾向はない。
3)核型の変化のうち主要な変化は、大型のmetacentricの染色体が出現し(その或る系ではNo.1の染色体に由来すると思われる)、また小型のtelocentricの染色体が増加する例が多かった(RLC-15、-16、-18、-19、-20、-21の染色体数分布と核型分析の図を呈示)。
《佐藤報告》
この報告は人癌の組織培養の班研究として行われているものである。材料は定型的な1才男子のHepatoblastomeである。手術材料で、血清中にαFを生産していた。0.1%trypsinで細胞分散して培養され、現在RPMI-1640にBSを20%、Lact.hydro.0.4%混じた培地で生育している。初代培養及び培養日数の短い時期には染色体分析で46本と48本が見られ、又形態学的にもFibroblast
like cellとEpithelial cellが認められた。
Paper濾紙法でコロニー分離に成功し、現在3つのコロニアルクローン、Clone
1、Clone 5、Clone 6がある。形態学的には三つのクローンに大きな差異は認められないが、αFの生産量、Albuminの産生量に差異があって、Clone
1はAFP(+)、他の2系は(++)。Albuminの産生はClone
5のみ。染色体のモードはいずれも50〜68%の頻度で48本である。PASはいずれも++陽性である。
Double immuno duffusion in agar gelで90倍濃度培地程度で他の原発肝癌のαF及び当患者血清のαFと反応するが、免疫電気泳動ではやや速度が異って見られる。Radioimuno-assayでも同様に測定可能であるが未だcell当りの量は決定していない。
これらの細胞はATS処理の新生児又は若いハムスターに移植可能である。組織像は、患者材料に比しやや腺癌状の構造を示すのが特徴であった。又Rotation
cultureでも同様の構造が認められた。現在Clone
5よりの再クローン、ヌードマウス移植等を準備中である。
【勝田班月報・7511】
《勝田報告》
§各種培地の比較検討(とくに塩類組成):
(図表を呈示)今月は、表に示すように、各種の塩類組成を比較してみた。アミノ酸、ビタミンはすべてDM-153と同じで、塩類だけを変えてある。D、Hanks、Gey、Hanks-Hepesの処方である。
第1図は、無蛋白無脂質合成培地内継代株JTC-25・P3(ラッテ肝なぎさ変異株)を用いた実験で、1日間継代培地DM-153で培養した後、各種実験培地にきり換えた。結果は、処方によりかんりの差のあることが示され、塩類といって軽視できないことが判った。
第2図は血清含有培地内継代株(ラッテ肝)RLC-10(2)を用いた実験で、継代培地で2日間培養した後に実験培地に切換えている。この場合にも、やはりかなりの差があらわれた。Geyの処方が最も増殖が低かったが、合成培地のJTC-25・P3では(図は省略)、実験培地に移して2日間はごくわずかに増殖が認められたが、以後は急速に細胞数が減少し、細胞がこわされてしまった。
無細胞で培地だけを37℃2日間加温してpHの変化をしらべると、DM-153(0日:7.30→2日后:7.51)、DM-159(7.51→7.71)、DM-161(7.23→7.50)、DM-162(7.05→7.34)、DM-163(7.1→7.1)であった。
《乾報告》
ヒト神経芽細胞肉腫(GOTO)由来細胞の染色体;
10月初め癌学会からもどって以来、人工タバコの検定、検定、検定で、培養器をすべて占領され、基礎研究が出来ず毎日研究所へ行くのがいやになってしまいます。10月一ケ月で、10数倦怠とはまったくもって何をか云わんやです。スクリーニングセンターのスクリーナーは、検定の合間に研究をする運命にあるのでしょう。
今月は、医科研の関口先生が樹立された神経芽細胞腫の染色体について報告致します。
(核型と染色体数頻度分布の図を呈示)染色体数は図の如く44本で、特定の標識染色体は存在せず、No.1染色体のモノソミー、No.2染色体のトリソミー、C群の染色体、G群の染色体の一本欠除で代表されます。
染色体数分布は図2の如く染色体数44にモードがあり、モードの細胞の出現頻度は26.2%で、大部分の染色体が近2倍域に存在した。染色体数80以上の4倍体の細胞の出現率は、16.1%で、染色体数84の細胞の出現があったが、染色体数88の2倍性の細胞はみられなかった。
なお起原が、1年1ケ月の男児副腎であるので、Y-body、Sex
Chromatin、Rate replicat-ing X Chromosomeの出現をみた所、Y
body>90%、Sex Chromatin<15%、Rate replicatingX(-)で、性染色体異常の存在はないことがはっきりした。
《難波報告》
22:BPに対するヒトのリンパ球の感受性の差違の検討
環境中に存在する発癌性炭化水素の発癌性に対して、ヒトには個体差があると考えられており、その個体差は各自の持つAHH活性の違いによるのではないかと予想されている。実際に動物実験レベルではAHHの高い動物ほど、発癌性炭化水素に対する発癌率が高いことが知られている。
個々のヒトの発癌性炭化水素の発癌性の差違を検討することは非常に困難であるので、BPに対する感受性の個体差を、ヒトの末梢血リンパ球を使用して、1)細胞の増殖阻害度、2)DNA合成阻害度、3)クロモゾームの変化、で検討した。
1)細胞の増殖阻害度
末梢血リンパ球をRPMI1640+20%FCS+PHA培地中にまき込み、24hr後、コントロール群に、0.1%エタノール、実験群に10-6M乗BPを添加、更に2日培養して生存するリンパ球数を算えた。結果は表に記した(表を呈示)。まだ実験例数が少いが、細胞の増殖阻害度を細胞数を数える方法では、BPに対する感受性の差違を見い出し難い。
2)DNA合成阻害度の検討
1)の場合と同じように細胞をまき込み、BPで処理。72hr後、1μCi/ml
H3-TdR 1hr投与して、DNA中にとり込まれたH3-TdRを調べた(表を呈示)。
BPに感受性の高いと考えられるヒトからのリンパ球をBPで処理すると、著明なDNA合成阻害がおこっている。1)の方法でははっきりしなかったBPに対するヒトの個体差が、2)の方法では、比較的よく見い出されているようである。
3)クロモゾームの変化
Exptle.No.3由来のリンパ球を、RPMI1640+20%FCS+PHAで培養し、2日後10-6乗M
BP 1 hr処理、3日後にクロモゾーム標本作製。10.9%の細胞が異常な核型を示した。その他のものは目下検索中である。月報7509に報告したごとく10%以上の細胞に染色体の異常が見い出されるようなら、その個体はBPに対して感受性が高いと云ってよいにではなかるまいか。
発癌性炭化水素に対して感受性の高いヒトと低いヒトに由来する細胞を培養し、発癌性炭化水素で発癌実験を行ないたいと考え、目下その方法を考慮中である。
《梅田報告》
(1)FM3A細胞の8AG耐性獲得の系を使っての、突然変異誘起実験のその後の結果について報告する。方法は度々述べてきたようにFM3A細胞をMNNGの各濃度で2日間処理し、8AG
20μg/mlを入れたものと入れないagarose plate上に細胞を播種し、12日間培養後に生じてきたコロニー数を算えて突然変異率を計算した。Doseを変えて2回実験を行ったが、MNNGによりこの系でも突然変異の誘起されることがわかる(表を呈示)。
(2)これも以前から報告してきた方法で、DNA単鎖切断に及ぼす影響を調べた。FM3A細胞をC14-TdRでprelabelしてからMNNG或いはHN2処理を行い、24時間後にAlkaline
sucrose gradient上に処理細胞をのせ、37℃1時間
lysisさせた後、遠心した。
MNNG 10-5乗、10-5.5乗Mで切断が起っている。HN2では、10-5乗Mで切断が起っているようなパターンを示しているが、10-4乗M、10-6乗M処理では、fract.No.5本目と、2〜3本目に異常な大きなDNAのピークを示している。HN2がbifunctionalの故と思われる。
《野瀬報告》
潅流法で分離したラッテ肝細胞の形態
Collagenase(0.05%)又はDispase(1000u/ml)でラッテ肝を潅流し、分散された細胞を長期間培養し、形態、増殖、生化学的性質について検討している。細胞の分散法は月報No.7507と同じで、低速遠心(50xg、5min)の沈澱部分と上清部分のそれぞれから細胞をとって炭酸ガスフランキ中で培養した。初代培養の3〜4日目の細胞形態は月報7507に示したが、更に培養を続けると次第にこの細胞は消滅し、別の形態をもった細胞が増殖してくる。図1〜4はDispaseでとった細胞で、それぞれ9日後、9日後(デキサメサゾン添加)、20日後、20日後(デキサメサゾン添加)であり、図5〜8はCollagenaseで分離し同様の培養条件下の細胞である。これらはすべて低速遠心の沈澱部分からの細胞で、上清からは上皮様細胞は全く出てこなかった。従って上皮様細胞は大型細胞(恐らく実質細胞)から由来しているのではないかと考えている。Dispaseを用いた場合、石畳状の上皮様細胞が容易にとれるが、Collagenaseではホルモンを加えないと、培養3週間目頃にはホーキ星状細胞が主になってしまう。デキサメサゾンを加えて培養を続けると、増殖はやや低下し、形態も多少変化する。特にColla-genase法の細胞で、添加群と非添加群との間の差が大きい。図7の細胞にホルモンを加えても図8のようにはならないので、この差は培養内のSelectionの結果であろう。
《佐藤報告》
◇3'Me-DAB発癌実験
3'Me-DABによる細胞の癌化実験を開始した。第一弾はJ-5-2cl(2倍体性細胞)用いる実験系である。
(1)3'Me-DABの細胞毒性(コロニー形成率より。)
J-5-2cl、300cells/plastic dish(60mm)植え込み、24時間後、各種濃度の3'Me-DABを含む培地で置き換え、9日間培養(その間一回3'Me-DABを含む培地で培地交新)。コロニー形成率を求めた(表を呈示)。3'Me-DABは、J-5-2clのPlatingに対する阻害は比較的少ない様であるが、コロニーの大きさについて見ると抑制が著るしい。このことから、3'Me-DABは分裂阻害的に働くものと思われる。
(2)3'Me-DABの処理
3'Me-DABの長期間投与を試みた(つつある)。3'Me-DABの濃度は毒性試験の内の、4.8μg/ml程度を使用した。途中経過であるが、3'Me-DABを約20日投与した時点での、DAB未処理のコントロールの細胞との比較では、コロニー形成率、DAB消費能、染色体核型分析のいずれについても、ほとんど差が現われていない。更に3'Me-DABを40日、60日投与した時点での分析を進めている。
《高木報告》
培養膵ラ氏島細胞の分裂促進因子
前報の計画にのっとり実験をスタートした。方法として、成熟ラット膵を膵管よりHanks液を注入後摘出し、これをハサミで細切する。次いでCollagenase
30mg/8mlで、magnetic stirrerにより約10分間処理し強くpipetingした後単離したラ氏島を実体顕微鏡下にwire
loopで拾い上げる。集めたラ氏島をDispase 1000u/ml
3〜4mlで15分ずつ3〜4回magnetic stirrerで処理して細胞を分散し、2万個/wellとして0.15mlの培地とともにmicroplateに植込む。数時間後より細胞は次第に集塊を形成しはじめ、1週間後には完全な集塊となる。細胞の培養開始直後と、1週間を経た集塊形成後に培地のブドウ糖濃度を100mg/dlより300mg/dlにあげ、同時にH3-thymidine
1μCi/mlを加えて1週間continuous labelingを行う。終って細胞集塊を遠沈してcell
pelletをつくり、それをそのままでBouin固定して包埋し、切片を作成して型の如くdipping法によりautoradiographyを行う。この方法ではB細胞が、aldehyde-fuohsin染色されるか否かが問題で、分裂細胞がB細胞であることを証明するためには電顕切片も同時に作成することが必要かも知れない。
成熟ラット膵では分裂を示す細胞が可成り少いことが予想されるので、幼若ラット膵のcell
sheetについても検討したい。すなわち、この場合細胞は植込み後3週間はcell
sheetが形成されるのでこの時期の細胞についても諸因子の影響をみたい。(写真を呈示)写真は成熟ラット膵ラ氏島の“organ
culture"でブドウ糖300mg/dlの時みられたB細胞の分裂像を示すものである。
《山田報告》
最近(日本癌学会当日)培養保温器が故障し、保存している細胞株、及び実験中の細胞が全部死滅してしまい、がっかりして居ます。しかし再び改めて細胞を培養しなおし、実験を計画して居ます。この事故の直前に測定した成績を書きます。
Indian muntjac株の電気泳動度
インド吠え鹿indian muntjacの培養繊維芽細胞の電気泳動度の増殖に伴う変化をしらべたのが、図です。この成績をみますと、Ind.muntjac細胞の表面荷電密度は、これまでしらべたラット、マウスの繊維芽細胞のそれと大差がない様です。今後この成績を基にして、染色体の変化とその表面荷電密度の関係を検索したいと考えて居ます。
【勝田班月報・7511】
《勝田報告》
§各種培地の比較検討(とくに塩類組成):
(図表を呈示)今月は、表に示すように、各種の塩類組成を比較してみた。アミノ酸、ビタミンはすべてDM-153と同じで、塩類だけを変えてある。D、Hanks、Gey、Hanks-Hepesの処方である。
第1図は、無蛋白無脂質合成培地内継代株JTC-25・P3(ラッテ肝なぎさ変異株)を用いた実験で、1日間継代培地DM-153で培養した後、各種実験培地にきり換えた。結果は、処方によりかんりの差のあることが示され、塩類といって軽視できないことが判った。
第2図は血清含有培地内継代株(ラッテ肝)RLC-10(2)を用いた実験で、継代培地で2日間培養した後に実験培地に切換えている。この場合にも、やはりかなりの差があらわれた。Geyの処方が最も増殖が低かったが、合成培地のJTC-25・P3では(図は省略)、実験培地に移して2日間はごくわずかに増殖が認められたが、以後は急速に細胞数が減少し、細胞がこわされてしまった。
無細胞で培地だけを37℃2日間加温してpHの変化をしらべると、DM-153(0日:7.30→2日后:7.51)、DM-159(7.51→7.71)、DM-161(7.23→7.50)、DM-162(7.05→7.34)、DM-163(7.1→7.1)であった。
《乾報告》
ヒト神経芽細胞肉腫(GOTO)由来細胞の染色体;
10月初め癌学会からもどって以来、人工タバコの検定、検定、検定で、培養器をすべて占領され、基礎研究が出来ず毎日研究所へ行くのがいやになってしまいます。10月一ケ月で、10数倦怠とはまったくもって何をか云わんやです。スクリーニングセンターのスクリーナーは、検定の合間に研究をする運命にあるのでしょう。
今月は、医科研の関口先生が樹立された神経芽細胞腫の染色体について報告致します。
(核型と染色体数頻度分布の図を呈示)染色体数は図の如く44本で、特定の標識染色体は存在せず、No.1染色体のモノソミー、No.2染色体のトリソミー、C群の染色体、G群の染色体の一本欠除で代表されます。
染色体数分布は図2の如く染色体数44にモードがあり、モードの細胞の出現頻度は26.2%で、大部分の染色体が近2倍域に存在した。染色体数80以上の4倍体の細胞の出現率は、16.1%で、染色体数84の細胞の出現があったが、染色体数88の2倍性の細胞はみられなかった。
なお起原が、1年1ケ月の男児副腎であるので、Y-body、Sex
Chromatin、Rate replicat-ing X Chromosomeの出現をみた所、Y
body>90%、Sex Chromatin<15%、Rate replicatingX(-)で、性染色体異常の存在はないことがはっきりした。
《難波報告》
22:BPに対するヒトのリンパ球の感受性の差違の検討
環境中に存在する発癌性炭化水素の発癌性に対して、ヒトには個体差があると考えられており、その個体差は各自の持つAHH活性の違いによるのではないかと予想されている。実際に動物実験レベルではAHHの高い動物ほど、発癌性炭化水素に対する発癌率が高いことが知られている。
個々のヒトの発癌性炭化水素の発癌性の差違を検討することは非常に困難であるので、BPに対する感受性の個体差を、ヒトの末梢血リンパ球を使用して、1)細胞の増殖阻害度、2)DNA合成阻害度、3)クロモゾームの変化、で検討した。
1)細胞の増殖阻害度
末梢血リンパ球をRPMI1640+20%FCS+PHA培地中にまき込み、24hr後、コントロール群に、0.1%エタノール、実験群に10-6M乗BPを添加、更に2日培養して生存するリンパ球数を算えた。結果は表に記した(表を呈示)。まだ実験例数が少いが、細胞の増殖阻害度を細胞数を数える方法では、BPに対する感受性の差違を見い出し難い。
2)DNA合成阻害度の検討
1)の場合と同じように細胞をまき込み、BPで処理。72hr後、1μCi/ml
H3-TdR 1hr投与して、DNA中にとり込まれたH3-TdRを調べた(表を呈示)。
BPに感受性の高いと考えられるヒトからのリンパ球をBPで処理すると、著明なDNA合成阻害がおこっている。1)の方法でははっきりしなかったBPに対するヒトの個体差が、2)の方法では、比較的よく見い出されているようである。
3)クロモゾームの変化
Exptle.No.3由来のリンパ球を、RPMI1640+20%FCS+PHAで培養し、2日後10-6乗M
BP 1 hr処理、3日後にクロモゾーム標本作製。10.9%の細胞が異常な核型を示した。その他のものは目下検索中である。月報7509に報告したごとく10%以上の細胞に染色体の異常が見い出されるようなら、その個体はBPに対して感受性が高いと云ってよいにではなかるまいか。
発癌性炭化水素に対して感受性の高いヒトと低いヒトに由来する細胞を培養し、発癌性炭化水素で発癌実験を行ないたいと考え、目下その方法を考慮中である。
《梅田報告》
(1)FM3A細胞の8AG耐性獲得の系を使っての、突然変異誘起実験のその後の結果について報告する。方法は度々述べてきたようにFM3A細胞をMNNGの各濃度で2日間処理し、8AG
20μg/mlを入れたものと入れないagarose plate上に細胞を播種し、12日間培養後に生じてきたコロニー数を算えて突然変異率を計算した。Doseを変えて2回実験を行ったが、MNNGによりこの系でも突然変異の誘起されることがわかる(表を呈示)。
(2)これも以前から報告してきた方法で、DNA単鎖切断に及ぼす影響を調べた。FM3A細胞をC14-TdRでprelabelしてからMNNG或いはHN2処理を行い、24時間後にAlkaline
sucrose gradient上に処理細胞をのせ、37℃1時間
lysisさせた後、遠心した。
MNNG 10-5乗、10-5.5乗Mで切断が起っている。HN2では、10-5乗Mで切断が起っているようなパターンを示しているが、10-4乗M、10-6乗M処理では、fract.No.5本目と、2〜3本目に異常な大きなDNAのピークを示している。HN2がbifunctionalの故と思われる。
《野瀬報告》
潅流法で分離したラッテ肝細胞の形態
Collagenase(0.05%)又はDispase(1000u/ml)でラッテ肝を潅流し、分散された細胞を長期間培養し、形態、増殖、生化学的性質について検討している。細胞の分散法は月報No.7507と同じで、低速遠心(50xg、5min)の沈澱部分と上清部分のそれぞれから細胞をとって炭酸ガスフランキ中で培養した。初代培養の3〜4日目の細胞形態は月報7507に示したが、更に培養を続けると次第にこの細胞は消滅し、別の形態をもった細胞が増殖してくる。図1〜4はDispaseでとった細胞で、それぞれ9日後、9日後(デキサメサゾン添加)、20日後、20日後(デキサメサゾン添加)であり、図5〜8はCollagenaseで分離し同様の培養条件下の細胞である。これらはすべて低速遠心の沈澱部分からの細胞で、上清からは上皮様細胞は全く出てこなかった。従って上皮様細胞は大型細胞(恐らく実質細胞)から由来しているのではないかと考えている。Dispaseを用いた場合、石畳状の上皮様細胞が容易にとれるが、Collagenaseではホルモンを加えないと、培養3週間目頃にはホーキ星状細胞が主になってしまう。デキサメサゾンを加えて培養を続けると、増殖はやや低下し、形態も多少変化する。特にColla-genase法の細胞で、添加群と非添加群との間の差が大きい。図7の細胞にホルモンを加えても図8のようにはならないので、この差は培養内のSelectionの結果であろう。
《佐藤報告》
◇3'Me-DAB発癌実験
3'Me-DABによる細胞の癌化実験を開始した。第一弾はJ-5-2cl(2倍体性細胞)用いる実験系である。
(1)3'Me-DABの細胞毒性(コロニー形成率より。)
J-5-2cl、300cells/plastic dish(60mm)植え込み、24時間後、各種濃度の3'Me-DABを含む培地で置き換え、9日間培養(その間一回3'Me-DABを含む培地で培地交新)。コロニー形成率を求めた(表を呈示)。3'Me-DABは、J-5-2clのPlatingに対する阻害は比較的少ない様であるが、コロニーの大きさについて見ると抑制が著るしい。このことから、3'Me-DABは分裂阻害的に働くものと思われる。
(2)3'Me-DABの処理
3'Me-DABの長期間投与を試みた(つつある)。3'Me-DABの濃度は毒性試験の内の、4.8μg/ml程度を使用した。途中経過であるが、3'Me-DABを約20日投与した時点での、DAB未処理のコントロールの細胞との比較では、コロニー形成率、DAB消費能、染色体核型分析のいずれについても、ほとんど差が現われていない。更に3'Me-DABを40日、60日投与した時点での分析を進めている。
《高木報告》
培養膵ラ氏島細胞の分裂促進因子
前報の計画にのっとり実験をスタートした。方法として、成熟ラット膵を膵管よりHanks液を注入後摘出し、これをハサミで細切する。次いでCollagenase
30mg/8mlで、magnetic stirrerにより約10分間処理し強くpipetingした後単離したラ氏島を実体顕微鏡下にwire
loopで拾い上げる。集めたラ氏島をDispase 1000u/ml
3〜4mlで15分ずつ3〜4回magnetic stirrerで処理して細胞を分散し、2万個/wellとして0.15mlの培地とともにmicroplateに植込む。数時間後より細胞は次第に集塊を形成しはじめ、1週間後には完全な集塊となる。細胞の培養開始直後と、1週間を経た集塊形成後に培地のブドウ糖濃度を100mg/dlより300mg/dlにあげ、同時にH3-thymidine
1μCi/mlを加えて1週間continuous labelingを行う。終って細胞集塊を遠沈してcell
pelletをつくり、それをそのままでBouin固定して包埋し、切片を作成して型の如くdipping法によりautoradiographyを行う。この方法ではB細胞が、aldehyde-fuohsin染色されるか否かが問題で、分裂細胞がB細胞であることを証明するためには電顕切片も同時に作成することが必要かも知れない。
成熟ラット膵では分裂を示す細胞が可成り少いことが予想されるので、幼若ラット膵のcell
sheetについても検討したい。すなわち、この場合細胞は植込み後3週間はcell
sheetが形成されるのでこの時期の細胞についても諸因子の影響をみたい。(写真を呈示)写真は成熟ラット膵ラ氏島の“organ
culture"でブドウ糖300mg/dlの時みられたB細胞の分裂像を示すものである。
《山田報告》
最近(日本癌学会当日)培養保温器が故障し、保存している細胞株、及び実験中の細胞が全部死滅してしまい、がっかりして居ます。しかし再び改めて細胞を培養しなおし、実験を計画して居ます。この事故の直前に測定した成績を書きます。
Indian muntjac株の電気泳動度
インド吠え鹿indian muntjacの培養繊維芽細胞の電気泳動度の増殖に伴う変化をしらべたのが、図です。この成績をみますと、Ind.muntjac細胞の表面荷電密度は、これまでしらべたラット、マウスの繊維芽細胞のそれと大差がない様です。今後この成績を基にして、染色体の変化とその表面荷電密度の関係を検索したいと考えて居ます。
【勝田班月報・7601】
《勝田報告》
§合成培地の新しい処方:
当研究室の合成培地はこれまでアミノ酸組成が19種で、アスパラギンが含まれていない。そこでアスパラギンの要求性をしらべてみた。ここに示すのは2種の細胞株である。
a)無蛋白完全合成培地内継代株JTC-25・P3(ラッテ肝)の増殖に対する影響(表を呈示):この場合は図のようにアスパラギンの有無は増殖に影響がなかった。Aspの要求もない。
b)結成培地継代株RLC-10(2)(ラッテ肝細胞)の増殖に対するアスパリギンの影響:
この細胞は図のように(図を呈示)、アスパラギン酸を要求しているが、そこにさらにアスパラギンを添加すると、明らかに増殖率が高くなった。培地は継代培地で1日間培養した後、実験培地にきりかえた。
DM-160の処方はDM-153にアスパラギンを25mg/lに加えたもので、割に万能的と思われるので、当研究室では今後当分DM-160をroutine
workに使って行きたいと思っている。なおこの培地は近い内に極東製薬から市販される予定になっている。
《難波報告》
24:ラット肝細胞(RLC-18)のコロニーの解析
月報7512にRLC-18のクローニング及び、そのクローン化した細胞について述べた。その中でこのRLC-18中には少なくとも2種類の細胞即ち、(1)小型の円形ないし正方形の細胞で、核/細胞質比は小さくギムザによく染り旺盛な増殖を示し、細胞のぎっしりしまった辺縁のシャープなコンパクトなコロニーを形成し、肝小葉状のパターンを示すようになるもの、1型(仮称)。(2)大型の細胞で一見上皮様である。核/細胞質比は大きく豊かな細胞質はギムザで淡く染まり、増殖はあまりよくなく、肝小葉状のパターン形成を示さぬもの−網内系の細胞か? 2型(仮称)(写真を呈示)。の2種類の細胞が混在する可能性があると記した。今回はRLC-18のmother
cultureの中でどの様な割合で(1)(2)が含まれるか、クローニングしていないRLC-18をシャーレにまいて11日間培養後、ギムザ染色し、生じたコロニーを全部顕微鏡下で調べて以下のデータを得た(表を呈示)。
表に示すように、RLC-18中にはほとんど(1)型の細胞よりなるコロニーが含まれるが、しかし、2型の細胞も5%程度含まれている。繊維芽細胞よりなるコロニーは全くみられなかった。(1)型の細胞と(2)型の細胞とが(1)→←(2)型のゆに相互に変換するのか、あるいは全く別々の細胞がRLC-18の中に存在するのか今後検討したい。
◇本年の希望
(1)今年こそはヒトの細胞の確実な培養内発癌系を確立したいと思っています。
(2)それに、非常な困難が予想されますけれども、ヒトの正常な上皮系の細胞株の樹立も努力したいと思います。
(3)また、ヒト細胞での癌化が現在の培養条件で何故困難なのか、ヒト細胞のAgingの現象を考えながら、その原因を追求したいと思っています。この原因の解明は裏をかえせば、ヒト細胞の発癌機構の解明にアプローチできるのではないかと考えています。
《堀川報告》
さて、まず最初に先月号で報告出来なかった一部の実験結果について報告します。
私共は、UV照射により細胞内DNA中に誘起されたTTの少なくとも50%までは除去修復可能なヒト由来HeLaS3細胞の同調細胞集団を用いて、細胞周期を通じてのX線、UVおよび4NQO(4-HAQO)によるDNA損傷の修復能の違いとか、さらにはこれら各種物理化学的要因の処理により誘発される(8-azaguanine抵抗性の獲得でみた)突然変異率の違いを調べてきたが、これらのことをTTの除去修復能が極度に低下しているマウスL細胞について調べることにした。こうした実験は細胞の有するDNA損傷修復能の違いが、前述の各種物理化学的要因で処理した際にみられる周期的感受性曲線の違い、されには同期的突然変異誘発率曲線の違いとして現れるかどうかを検討するためのものである。
同調細胞集団はHeLaS3の場合と同様に0.025μg/ml
Colcemidで6時間L細胞を処理したのち、M期の細胞を採集法で集めるという方法を用いた。このようにして得られた細胞集団が何らの障害なくcell
progressionすることは図1のHeLaS3細胞と比較した細胞動態の解析結果(DNA合成、細胞数、Mitotic
index等の同期的変化)からもよくわかる。ただHeLaS3細胞に比べてL細胞の場合はColcemidによるM期でのblockが弱いようで、Colcemidを除き、正常培地に移したM期の細胞は直ちにG1期に移行してしまう。そのため図1でわかるようにL細胞においては採集直後の0時において、Mitotic
indexが非常に低く、細胞数の増加もみかけ上見られない。この点を確認するためColcemidを含んだ培地のままで採集法により細胞集団を集め、Mitotic
indexを求めた結果が図1の挿入図であるが、これよりL細胞の場合もHeLaS3細胞の場合と同様、Colcemid-採集法によって得られる細胞集団のMitotic
indexはほぼ90%もあることがわかる。
さて、この同調法によって得られた細胞集団を使って、X線、UV、4-HAQOに対する周期的感受性曲線を調べた結果が図2である。図3のHeLaS3細胞でも結果と比べて傾向的にはよく類似しているが細部において異るようである。特にL細胞の場合、M期においてUVと4-HAQOに対して抵抗性を示すのが特徴的である。現在、こうした周期的感受性曲線を生じさせるL細胞内の要因の解析、細胞周期を通じての突然変異誘発率の違い等の解析を進めている。
[今年の抱負]
細胞のもつ損傷修復能と突然変異誘発ひいては細胞癌化の関連性を把握することが従来のわれわれの大きな目的であった。幸い、上述のようにヒト由来HeLaS3細胞とマウス由来L細胞を用いて細胞周期を通じての解析も着実に進んでいるので、今年こそは損傷修復能と細胞癌化の関連性を追究する方向に仕事を進めたい。梅田班員より細胞も譲渡されるようになっており、現在その受け入れ準備中である。(図を呈示)
《高木報告》
昨年一年をふり返ってみますと、膵の培養ではいささかの進展はあったものの未だしの感深く反省しております。今年は辰年でもあり頑張らねばならないと考えています。
この5月には丁度10年ぶりに博多で組織培養研究会が開催されることとなりましたが、よろしく御願いいたします。
本年度の研究プロジェクトも昨年と変るところはありませんが、次の様に考えています。 1.膵ラ氏島細胞の培養とその"がん"化の試み
1)ラ氏島細胞の分裂促進物質について
高濃度ブドウ糖がB細胞の分裂促進作用があると云う1、2の報告はある。一般に内分泌腺細胞では、そのホルモンの分泌促進物質が細胞の分裂を促進することも想定されるが、詳細は判っていない。radioautographyを応用し、発癌剤を含めた諸物質の分裂促進作用を検討する。さらに培養条件と併せて株細胞の樹立につとめる。
2)ラ氏島細胞の培養形態について
用いる動物の年齢、細胞の分散法および培養条件などの違いにより、ラ氏島細胞はsheetを形成したり細胞集塊を形成したりする。この培養細胞の形態と機能との間には関連がある。形態に影響する因子につき追究したい。
3)ラ氏島細胞に対する発"がん"剤について
DMAE-4HAQOにつき再度in vivoの実験を行ない、生じた腫瘍をATS処理動物、またはヌードマウスに移植し、それの再培養を試みて正常ラ氏島培養細胞と比較検討したい。
StreptozotocinとNicotinamideとの組合せについても考えてみたい。
2.培養細胞の可移植性と免疫抗原性の解析
発癌過程の細胞を移植した際の、宿主の免疫動態の変化をcheckしうるin
vitroの実験系を見出すべく努力する。まず株細胞を用いた地道な基礎実験から行ってみたい。
《梅田報告》
昨年度を振り返り、本年度の仕事の方向を概観してみますと、先ず定量的発癌実験の試みではデータの出るのに時間がかかることもあり、昨年度は細胞の選択の問題で、また正常細胞の株化のむずかしさなどで大きな発展をみませんでした。暮になって、DDDマウス胎児細胞より樹立した株細胞の1クローンが接触阻害を良く示すことがわかったので、本年度はこの細胞株のクローンを使っての仕事の発展を期待しています。
突然変異の仕事は発癌実験よりデータが早く出ることもあり、昨年度は数多くの物質でテストしてきました。また物質の代謝活性化を実験系に持ち込むことが出来たのは成功でした。ここでえられる諸々の結果が培養内発癌実験の基礎知識となることを目標にして今後もデータの蓄積に心がけるつもりです。
肝細胞培養の方は発癌実験に使うためには今迄取っ掛かりが少なかったのですが、DL1と名付けた細胞がaflatoxinB1に高い感受性を示したことは、今後の一つの研究手段になることを示し、面白い展開が望めると思っています。直接発癌実験とは関係ないのですが、上皮細胞が本当に繊維を作るかどうか、これは皆様の御協力を得て証明していきたいと考えています。
《山田報告》
学会その他で大忙しの1975年でしたが。班研究そのものについては、昨年中それ程に前進出来ずに終ったことを反省して居ます。加えて初めて病理学の講義、実習を担当しましたので、その準備もあり、その点でも研究の時間が少くなってしまいました。
今年は、教育の方もだいたい軌道が敷かれましたので、細胞電気泳動法を主として用い、癌細胞表面の検索を続けたいと思って居ります。特に今年のテーマは、Muntjakの細胞の染色体変化と、その細胞表面の変化との相関をしらべてみたいと思っています。
《乾報告》
私は、一昨年、昨年は研究生活を送るのに極めて不利な立場に心ならずもおかされました。新年を迎えて今年こそは研究が本命である場を得たいと心から思っております。
それと共に年頭に当たり一つの決心を致しましたので、皆様にお聞き頂き、又多くの先生方の御助力をおねがい致します。私、1974、1975年の年号のついた論文がありません、(Dataはあるのですが)。
今年は研究所内で、どの様な問題がおこりましても英文の論文を書き発表致すつもりですので、皆様の御協力を切におねがい致します。
今年の年頭にあたっての実験の計画ですが、やっと純系のハムスターの繁殖が順調になりましたので、1)DMN、2FAA、BP、MNNG、MNUr等を使用して、Transplacental
ApplycationのSystemで、a)移植出来るTransformationの系を作る。b)動物での標的臓器と培養内での標的との関係の開明。c)又同系におけるCarcinogenesis、Mutagenesis、Teratogenesisの関係を研究したいと思っております。
当所にいる以上、検定の間にどれだけ仕事が出来るかが心配です。
《野瀬報告》
昨年暮には英国行きのfellowshipの面接などが何度もあり、落着かない状態でしたが、British
CouncilのScholarshipが内定したので今年はJ.Paulの研究室に行けそうです。今までの仕事を整理し、更に発展できるよう頑張りたいと思っております。仕事はこれまでの続きで、(1)培養肝細胞の生化学的形質。(2)肝細胞の増殖の調節。の2つを主体にする、つもりです。
培養肝細胞は、Collagenase-潅流、Dispase-潅流で得た初代培養、および株化した細胞を用いて各種の機能を見ています。I125-アルブミンを使ったradioimmunoassayで、Colla-genase-潅流でとった初代肝細胞は、細胞タンパク当り1mg当り4〜6μg/24hrのアルブミンを培地に分泌し、bilirubinの抱合、Tyrosine
aminotransferase(TAT)誘導などの機能を持っています。Dispase潅流法でも、収率は比較的低いのですが、形態的、TAT誘導性などの点でCollagenaseで得た細胞と良く似ています。この細胞は、長期間dexamethason存在下で培養すると再現性よく上皮様細胞の状態で増殖し、Collagenaseの場合と違うので、増殖する細胞で機能を見たいと思います。株化した肝細胞と初代の"parenchymal
cell"との相関も大きな問題です。
上皮様細胞のgrowth regulationは、センイ芽細胞と比較して似ている点と異なっている点がありそうなので、もう少しはっきりさせたいと思います。各種の株化した肝細胞の間でも、confluentになって培地交換した後のuridine、thymidineのとりこみに違いがあるので、腫瘍性との相関についても検討したいと思います。また、いわゆるconfluentという状態がセンイ芽細胞と上皮様細胞とでは、いくつか異なる点があるようなので、上皮様細胞での基礎実験が大切と思われ、細胞周期のどの時期で止まるのか、また培地交換後の細胞の高分子合成能の変化などを調べてゆく予定です。
《久米川報告》
ラット肝由来細胞(clone BC)の電顕的観察
梅田先生が分離、約50代継代されたラット肝由来細胞(clone
BC)の電顕的観察結果について報告します。この細胞については前回の班会議でふれたが、さらに約10代継代培養されたものである。上皮細胞群を網目状に紡錘形の細胞および銀染色で染る繊維が存在する。これらの繊維がcollagen
fiberであるかどうか、さらに繊維と細胞の関係を明らかにするため、細胞をpetri
dishに植えた状態で固定、脱水後はくりし、ペレット状にして包埋、重合した。前回と同様細胞にはtight
junctionがあり、上皮細胞と思われるが、肝細胞の特性はみられなかった。しかし、細胞の結合部近くには、ほぼ全細胞に陥凹部がみられ、homogeneousまたは繊維状の物質がみとめられた。特に今回は、陥凹部ばかりでなく細胞の表面にもfibrousな物質が認められ、cross
bandをもった明瞭なcollagen fiberが観察された。電顕写真の用意ができなかったため、2月の班会議で詳しくは報告したい。
《永井報告》
不況のためか、新しい年の気分も市井ではいまひとつぱっとしませんが、研究の方はやはり今年一年期するところをもって出発したいと考えております。これまでの御友誼に感謝いたしますと共に、今年も皆様より御教示を賜りたいと念じております。
勝田先生より依頼されております、癌細胞の毒性代謝物質の単離と構造決定の仕事は、仲々思うようには進んでおらず、これを今年こそは"もの"にしたいものと思います。勝田先生の医科研での活動もあと残すところ2年程ですので、時間一杯というところ。
toxohormoneの仕事が難破してしまっていることを思うと、こうした問題に内在する容易ならぬものの姿を感ずる時もありますが、ここは是非突破してゆきたいと、また意気五味を新たにしている次第です。
《佐藤報告》
昨年に引き続き、今年も又DAB癌化実験を進める予定ですが、特に考慮したい点について、1、2略記して見ました。
1)DABそれ自体で、単一の細胞系(クローン)を癌化させることができるかどうか?
DABの標的細胞が判明していない現在、クローン系を適当に決めてしまう事の是非はあるが、当面はDABを代謝する能力を指標に細胞種を選択し、又代謝能力の欠如に対し、DABのactivemetaboliteを少し検討し、それらの適用を考えて見たいと思います。
2)in vitroでのDAB癌化は、Diploid cellでは非常に難しく(効率が悪い)、むしろAneu-ploid
cellないしは自然発癌せんとする細胞でなければならないのかどうか?
DABの癌化は長期培養株についての報告が多いが、この場合にはどうしても、DABの効果が細胞のMutationなのか、自然発癌しつつある(した)細胞のSelectionなのか問題が残る。本年は、悪性度増強の問題で以前に使用した事のあるdRLa-74細胞(DAB-feeding
rat liver由来、動物への可移植性、生存日数などに関し、培養過程での変化が比較的小さい)を再登場させ、主にDAB耐性の問題と癌化について考える。次に、Diploid
cellの癌化は困難であるという点に関し、染色体変異などを指標とする限り、やはり有用と思われるので、特に、初期変化に的をしぼり、昨年に引き続き実験を進めて行きたいと考えております。
【勝田班月報・7602】
《勝田報告》
新浮游培養法の考案
これまで試用した浮游培養法の共通した欠陥は、撹拌によって培養液に泡立ちが起り、細胞の均等な浮游化が得られないということであった。この点を改良するため各種の培養瓶、撹拌法などを検討し、光研社と共同で図のような装置を作った(図を呈示)。これは撹拌子の尖端が上下に揺れて液を撹拌する機構であり、血清培地でも泡が立たず、細胞も均等に撹拌できる。この方法で各種の細胞の浮游培養を試みているが、JTC-1株(ラッテ腹水肝癌AH-130)細胞を用いての結果を表に示す(表を呈示)。これは、一定液量内の細胞を算定し、培養開始時の細胞数に対する、培養4、3日后の細胞数をしらべ、増加倍率で示した。またエリスロシンを用いて全細胞数中の死亡細胞%もしらべた。培地は10%FCS+90%合成培地DM-153。振盪は撹拌子の尖端が250〜300回/分でtappingする。そこでTapping
SuspensionCultureと命名したが、愛称はSnoopy
Cultureである。
表に示したように、旧来のmagnetic stirrer法よりも、新法の方がはるかに細胞の増殖率も高く、死亡率も低いことが認められた。これは泡立ちを防止したことと、細胞に機械的障害を与える程度が減ったためと思われる。
《難波報告》
25:ヒト及びマウス細胞の4NQO処理に対する反応に差違があるかどうかの検討
−細胞増殖及びDNA合成に関して−
化学発癌剤によって、ヒトの細胞は培養条件で発癌し難く、マウスの細胞は発癌し易い。
何故ヒトの細胞の癌化がマウスの細胞の癌化に比べて困難なのか? その原因がもし分れば発癌機構の一部が分るかも知れないと考え、化学発癌剤として4NQOを用い、ヒト細胞と、マウス細胞との反応性の差違の有無を検討してみることにした。
今回は4NQO処理後の、(1)細胞の増殖率、(2)経時的DNA合成能を調べた。
◇細胞の増殖率(夫々に図を呈示)
図1にヒト細胞(WI-38、29代のもの)、図2にマウス細胞(C3H由来、diploid
3代)、4NQO処理後の増殖率を示した。4NQOによる増殖阻害は両者でほぼ等しい。
◇4NQO処理後のDNA合成
3.3x10-6乗M 4NQO 1hr 37℃処理後、6、24、48hr後のDNA合成を調べた。ヒト細胞の結果は図(3)、マウスの場合を図(4)に示した。4NQO処理後のヒト細胞のDNA合成阻害は、マウスのそれに比較して著しい。
Agingしてゆくヒト細胞はPDL(Population Doubling
Level)が進むにつれて、DNA合成能が低下して行くことが知られているので、使用した29th
PDLのWI-38の4NQO未処理の対照細胞のDNA合成能自体がマウス細胞のそれに比べ低いので4NQO処理はヒト細胞のDNA合成はより強く阻害するのかも知れない。
4NQO処理後も図4に示したマウス細胞の場合のように高いDNA合成を示すものは、培養内で癌化し易いのかも知れない。
また増殖カーブとDNA合成をみると、マウスの細胞は4NQO処理後に多くの細胞が死滅し、生存している細胞が急速に増殖しているのではなかるまいか。
《梅田報告》
(1)発癌性物質の代謝活性化による突然変異誘起を報告してきた。本月報では、DMNの代謝活性化について1年前(月報7502)に報告した。その後は本月報では報告しなかったが、昨年春の培養学会でDMBAでもFM3A細胞の8AG耐性獲得の突然変異を起す事を示した。しかしAAFでは同じように代謝活性化の諸要素を加えても突然変異は起らなかった(表1を呈示)。
AAFの場合、薬物代謝酵素により水酸化を受けN-OH-AAFとなりこのproximate
carcinogenが、さらにsulfotransferaseのような酵素によりesterificationを受けてultimate
formになると云われている。この時ATP、sulfateなどが関与している。この説が正しければN-OH-AAFとATP、sulfate、肝1,500g遠心上清(Sulfotransferase)を加えれば、N-OH-AAF単独より突然変異が上昇することを考えた。
何回も実験を繰り返したが今の所positiveなdataを得ていない。AAFのようなprecarci-nogenでも代謝活性化させることにより突然変異、さらには試験管内発癌実験でpositiveなdataになるよう執念めいて実験系の開発に頭を痛めている。
(2)上はnegative dataの経過報告であるが、代謝活性化反応を組み合わせることにより、DMNの染色体異常も惹起されている事実を見出したので報告する。
代謝活性化をうけた発癌性物質で、突然変異を起しているとすると、細胞は同時に諸々のDNA障害を受けている筈で、当然染色体異常も起していると考えられた。DMN、肝ミクロゾーム、NADPH、MgCl2、O2をFM3A細胞と30分反応させた後、良くあらって正常培地で1、2日間培養し、染色体標本を作製した。表2に結果を示すが、ややdose-responsibilityに難があるので、目下再実験がすみ、標本の検索中である。(表2を呈示)
《山田報告》
正常ラット肝細胞由来の培養株の経時的変化を追求し、Spontaneous
transformationの解析を試みていますが、その一環の仕事としてchromosomeの変化をしらべて来ました。今回は先きに報告した経時的なchromosomeの変化をBanding
methodにより解析してみました。0.025%トリプシン処理後染色したものです。
RLC-20(New bornラット由来株); 染色体modeはdiploid→hypertriploidy→hypotetra-ploidyに変化して来た。今回は3回目の検索ですが、特に42本の染色体が一時減少後再び増加して来たことが特筆される。そのBandの形態は図1に示すごとくで、マーカー染色体はいままで認められない。
RLC-16(Adultラット由来株);前回マーカー染色体(Metacentric)が認められたが、今回は消失した。しかし41本の染色体をもつ細胞が44%も出現した。
RLC-21(Embryoラット由来株);前回大型なマーカー染色体が認められたので、その染色体構成を特に重点的に検索した。大型なV型のマーカー染色体はBandingをみてもやはり1番目の染色体の長腕部がお互に融合したものと思われる。そして、その短腕部は8番目と13番目のtelocentric染色体に転位(translocation)している。次に大型なマーカー染色体は3番目と5番目のtelocentric染色体の融合と思われる。
RLC-18(Embryoラット由来株);42本染色体をもつ細胞が52→36→14→0%と変化し、今回は全くみられなかった。同時にhyperdiploidの細胞が増加し、現在染色体モードは51本で、その数は幅広く分布している。この株はマーカー染色体がみられない。
RLC-19(Adultラット由来株);前回までは略々正常パターンを示していたが、57本にモードを持ち、hypotriploidyに変化して来た。
《翠川報告》
容易に可移植性の変異をみる脂肪細胞の試験管内自然発癌
前回に報告したごとく、私たちはA/J系マウスに継代移植されている腫瘍(睾丸間細胞腫)の間質に浸潤している組織球の長期培養細胞株(Ma
cell line)の樹立に成功したが、この細胞は増殖が非常に緩慢で細胞のdoubling
timeも7日以上であった。そして10年以上にわたる培養でも自然発癌はおこらなかった。
組織球の悪性化によってどの様な腫瘍が招来されるかを調べる目的で、この組織球の試験管内自然発癌実験をくりかえし、いろいろの腫瘍間質に存在するマウス組織球の長期培養を行っている。この実験の中で当初組織球とも繊維芽細胞とも判定がつきにくい培養細胞株がえられたが、この細胞は培養1311日目に試験管内自然発癌をみた(HT
cell line)
HTの特長は、in vivoに継代移植をされている腫瘍の組織像をみても、in
vitroで培養されている細胞を観察しても非常に像が多彩で異型性に富み、巨細胞の出現が顕著にみられる。同時に長期間継代培養を続けている過程で容易に可移植性に変異がみられることも特長的である。はじめに可移植性の変異に関する条件の検討を試みた。
(1)同系A/J系マウスに継代移植を行ってみると本腫瘍は移植部位に腫瘤を形成するまでの期間が比較的長く(5〜7週)、一旦腫瘤が触れられるようになると急激に腫瘤の増殖は旺盛となり、移植後おおむね8〜9週で宿主を腫瘍死させる。この腫瘍を継代移植し続けている限り、腫瘍細胞の性質には余り変異はみられないし、可移植性はかわらない。
(2)HT cell lineはin vitroでの継代培養にあたってcloningを行ったり、細胞密度の低い培養を続けていると可移植性の急激な消失をみる場合が多い。このような細胞はかなり多量100万個〜1,000万個を移植しても同系成熟マウスにはもちろん、新生児マウスにも腫瘤形成がみられない。可移植性の消失をみた細胞は一般に大型なものが多く、類上皮様配列をとり、かなり巨細胞の出現も多くみられる(写真を呈示)。
(3)このように可移植性の消失した細胞も細胞密度を高くして、dense
cultureを続けていると約半年ないしは1年の間に再び可移植性が回復する場合が多い。
(4)培養にさいしてdense cultureのみをくりかえしていると比較的可移植性は保持されている。可移植性を保持している細胞は全般的に小型であり、紡錘形を呈し、繊維芽細胞様の形態を示している(写真を呈示)。
(5)大型類上皮様細胞と小型繊維芽細胞様細胞との間には、その中間とみなされる細胞群があり、とくに可移植性消失細胞のdense
cultureを行っている過程でしばしばみられる。
(6)HT cell lineは現在までのところ無血清培地では6ケ月以上培養することはできないが、その間形態に多彩の変化がみられる。
HT cellはSudan可染性脂肪顆粒を原形質に多量充満しており、組織化学ならびに電顕所見を綜合して、lipoblast由来と考えられた。[これは12月6日の班会議の時の報告です]
《乾報告》
経胎盤培養内発癌実験は、今春に入ってから、やっと純系アルビノハムスターが実験に使える様になりました。3,4ベンツピレン、ジメチルニトロサミンを、使用して、In
vivo transplacental carcinogenesisの標的臓器と、In
vivo-in vitro carcinogenesisの標的臓器の関係、造腫瘍性のあるTransformed
Colonyの選択の仕事に入りましたが、次回の班会議には、解析的な研究の第一報を御報告出来ると思いますが、早速問題点が出て来ました。まず問題点を上げますので、2月16日に皆様の御教示を頂ければ幸いです。
1)上記2物質共、In vivoでの標的臓器が、肺、肝、腎とかなりはっきりしております。妊娠12日目の胎児から、上記臓器より、上皮と繊維芽細胞と別けて、培養初代(開始後、24時間で)少なくても1,000万個の細胞をとりたいのですが、これが難かしいのです。
2)培養24時間で、染色体観察をするのですが、上皮、繊維芽細胞の混在中で分裂している細胞がどれかわかりません。Primary
Culture前に上皮、非上皮細胞を純粋に分けて、培養することは、無理でしょうか。
以上の2点です。この問題は、来月お教え頂くとして、今月は2つの報告を致します。
(1)経胎盤投与胎児起原繊維芽細胞長期培養による細胞癌化:
昨年5月28日、AF-2 20mg/kg投与胎児よりDMEM+10%FCSで、培養を開始し、週1回、1:4のSplitで培養を継続した。10月初旬、培養開始後130日前後で主たる形態変化なしに、増殖率が上昇し、次いで約20日後、明らかな形態変化がおこったが、造腫瘍性はなかった。Criss
Cross、Piling up、Ramdom Orientationと定形的であった。その後、造腫瘍はなかったが、1月8日、1,000万個の細胞をハムスターに戻し移植した所明らかな造腫瘍性が認められた。
しかし、経胎盤法の最大の欠点である、同一細胞の対照をとれないことから、発癌剤投与による発癌か、Spontaneous
Transformationかのきめ手はない。又、初期の経胎盤細胞の長期培養故、染色体の経時的観察も行なっていないが、現時点でも近2倍体細胞で特別なマーカー染色体も存在しない。詳細な染色体観察分析結果は、後程報告したい。
一般的な印象からすると、経胎盤的に発癌剤を投与した細胞は、自然に切れる事が少なく、長期培養が極めて容易のようである。
(2)コロニー形成率、等、培養実験の定量的解析に対する統計手法導入の試み:
現在我々が行なっている、たばこの毒性検定、経胎盤in
vivo-in vitro chemical-carci-nogenesis、-mutagenesis等ほとんどすべてを、コロニー形成率及び、Transformed
Colonyの出現率に指標を求めている。以下に、実例で有意差計算を行ない、数字的、有意差と、生物学的有意差の問題を考えてみたい。
実験方法:実験には、極めて性質の類似した10種のタールを作用した。検定細胞として、HeLa-S3、CHOK-1をもちい、それぞれの細胞をシャーレ(6dm)に100〜200ケ播種した。同時にNo.1〜No.10のタールを50〜10μg/ml添加して、培養液を交換することなく10日間培養を継続後、シャーレを洗滌、固定、染色後コロニー数の算定を行なった。
コロニー出現率の一部を表1、2及び図1、2に示す(図表を呈示)。
以上、各群5枚のシャーレを使用し、HeLa細胞を使用して、もう一度、計3回、CHOK-1細胞を使用して3回の実験を行なって表1、2と同様な、表を合計6表えた。この表よりコロニー形成率を図示したのが図1、2である。表1、2、図1、2より
1)HeLa細胞、CHOK-1のコロニー形成率は、タール濃度に比例する。
2)細胞間でタール感受性に違いは見られない。
3)グラフ上で10種タール相互間に有意な差が明らかでない。
4)実験により同一濃度でタール間にコロニー形成率に差が見られる。
以上の結果より上記データ(付記しないものを含む)を用いて、統計解析を行なった。
統計解析はまず実験中、細菌感染等で実測値を得られない所、シャーレ枚数の異なる所を、ハートレ法をもちいて推測値で補充した。
次に得られた実数すべてについて、1)タール濃度(5)、2)細胞数(2)、3)うり返し実験数(各3回)、4)タール数(10)を変量として、"多変量4元配置分散分析"を横河ヒューレットパッカードMode
20コンピューターを用いて行なった。結果を図3、4に示した。図3、4より、無処理を1.00とおいた時X印が相対平均で、矢印の範囲が95%信頼限界である。上限、下限の矢印が1/3以上オーバーラップするものについては有意差はない。以上の解析結果
1)No.5は、他のタールに対して有意差をもち毒性度がよわい。
2)No.10、No.7も同様有意差をもち毒性が弱い。
3)No.3、No.9は毒性度が強いという結果を得た。
すなわち実験を繰しの変量模型として解析した場合
No.5≦No.7、No.10 <No.1、2、No.4、No.6、No.8
<No.3、No.9と云うように、タールの細胞毒性度に関する順序付けが出来た。
しかし、コンピューターを使用して、多くの数字を処理し、一応数学的解析をしてみて、とにかく数学的有意差を求めるに少なくもコロニーレベルの解析には、多変量多元配置の解析法が使用出来ることがわかった。
しかし、今思うに、我々生物医学者としては、データを解析する前に、解析して、こねまわさなくてもよい、"実験系"を使って実験する方がより大切であると考える。
《野瀬報告》
ラッテ肝細胞によるビリルビンの代謝
ビリルビンは赤色素のヘムが肝のKupffer cellで分解されてでき、parenchymal
cell内で抱合をうけて胆汁中に分泌される。肝細胞の特異機能の一つとして、このビリルビン抱合を見てみた。方法はprimaryのラッテ肝細胞又は株化した肝細胞の培地に、33〜67μg/mlのビリルビンを加え、炭酸ガスフランキ中で20〜48時間培養する。培地および細胞内のビリルビン、抱合型のビリルビンをそれぞれ定量した(Weber
& Schalm 1962)。
Collagenase又はDispaseで潅流して分離した肝細胞では、初代培養後2日目にビリルビンを加えると、図のように抱合型が検出された(図を呈示)。Collagenaseで分離した肝細胞の方がDispaseで得た細胞より抱合能が高いようである。
一方、株細胞ではRLC-10、RLC-19、RLC-23、JTC-16、CulbTCを用いて同様の実験を行ったが、どの株もビリルビン抱合の活性を全く持っていなかった。初代培養では、ビリルビンの細胞毒性は認められなかったのに、株細胞ではかなり毒性が認められた。これは、恐らく代謝能の違いによるのであろう。株化された肝細胞は、やはり肝機能を失っているようである。
《高木報告》
膵ラ氏島細胞の分散法の検討
膵ラ氏島細胞の培養にあたり、ラ氏島を構成するA、B、D細胞を、別々に分離して純粋に培養したいと考えている。そのためには、まずラ氏島細胞を生存したまま機能をできるだめ損うことなく完全にsingle
cellに分散することが必要である。種々検討したが、以下の方法が現時点ではもっともよいようである。
Collagenase処理により単離したラ氏島を集め(通常100〜200ケ)、これに0.04%EDTA
in CMFを約5分間作用させ、1000rpmで2〜3分遠沈後、CMFで1回洗う。ついでmagnetic
stirrerで軽く撹拌しながらDispase 1000pu/mlで15分ずつ2ないし3回処理する。これで、ラ氏島細胞はほとんど完全に分散する。この際のsingle-cell
rateは84.6±1.3%で、viabilityは96.2±0.7%であった。Dispaseのかわりに0.25%trypsinを用いても、single
cellはえられるが、この時viabilityを良好に保つと、single-cell
rateは可成りおちる。すなわち、viability 94.8±1.5%の時のsingle-cell
rateは67.9±2.1%であった。細胞の分散後これを一定数植込み、1時間毎に5時間目まで培地中に分泌されたinsulinを定量すると図の通りであった(図を呈示)。ブドウ糖100mg/dlで1時間目にinsulin量が多いのは、おそらく処理された細胞からのinsulinのleakage、あるいは、incubateした際の培地の急激な変化(CMF→Mod.EM+20%FCS)によるものであろう。2時間目以後は分泌は安定し、ブドウ糖300mg/dlに比し有意の差がみられた。EDTA-trypsin処理では3時間目以後安定した。細胞の生存率、分散度、機能などの面からEDTA-Dispase処理の方がすぐれている。
【勝田班月報:7603:培養細胞の復元接種法の比較】
《勝田報告》
培養細胞の復元接種法の比較
1)ラッテの若い株をラッテ腹腔内接種し、その成績を調べると共に榊原女史によるハムスターポーチへの接種結果とを比較した(表を呈示)。RLC-16とRLC-20はラッテにtakeされずハムスターポーチにも腫瘤を造らない。RLC-18はラッテを2/2腫瘍死させるが、ハムスターに2回接種し、初回は腫瘍形成(-)、2回目はtakeされた。RLC-19はラッテでは(-)、ハムスターポーチでは(+)である。
2)ラッテ腹水肝癌AH-601由来のJTC-27株の復元成績は(図を呈示)、I.C.では9/9腫瘍死、I.Pは4/5腫瘍死、S.C.0/6と、接種部位による差がみられる。なおハムスターポーチでは1回目(-)、2回目(+)であった。
3)ラッテ腹水肝癌AH-130由来のJTC-1株の成果は(図を呈示)、接種部位によらずI.C.、I.P.、S.C.共全部(+)で腫瘍死し、ハムスターポーチも(+)であった。
4)(表を呈示)佐々木研のデータでは、肝癌の種類によってtakeされる率が部位によってかなり差のあることを示している。
:質疑応答:
[乾 ]L-929はハムスターにtumorを作りますか。
[高岡]作りました。
[山田]皮下接種の場合、接種細胞数をうんと多くするとtakeされる筈ですよ。AH-601の組織像もみてあります。佐々木研で皮下につかなかったというAH-7974とAH-66Fについても私の実験ではちゃんと皮下でtumorを作りました。
[高岡]動物継代のものと培養株になったものとでは異なるかも知れませんが、培養細胞で1,000万個という接種量は多い方ですが。
[乾 ]ハムスターの培養細胞を抗リンパ球血清で処理したハムスターへ接種したデータがありますか。
[難波]ハムスターのメラノーマの復元実験があります。復元する部位によってtakeされ方が違うのは免疫の問題でしょうか。
[藤井]免疫もからんでいるでしょうが機械的な問題もあるのではないかと思います。
[山田]そうですね。皮下の場合など免疫よりその部位の環境が接種した細胞に合うかどうかという事でしょうね。
[高岡]3T3をビーズ玉にくっつけて皮下へ復元するとtakeされるという報告にならって、culbTCをプラスチック板に培養して皮下へ入れてみましたがtumorは全然出来ませんでした。復元の問題はとても複雑なのですね。
[久米川]組織片を植えるのに腋の下がよくついたというデータを持っています。前眼房もよくつきますね。
[乾 ]昔、肝臓に出来た固型癌を腹水化するという実験を70例くらいやってみましたが、腹水化しない系はとうやっても駄目でした。腹水系を固型にするのは簡単ですが。
[梅田]皮下へのtakeの問題は細胞のコラーゲン産生と関係しませんか。
[永井]関係無いでしょうね。
《難波報告》
26:Griseofulvin(GF)のヒト正常細胞のクロモゾームに対する影響
Larizza et al(1973)は第11回の国際癌学会で(GF)がヒト正常線維芽細胞およびリンパ球の染色体のHeteroploid
transformationを高率におこすことを報告した。即ち、40μg/ml1回処理または5μg/ml継続処理で45〜75%のHeteroploid
transformationを起こす。
私共の行なっている現在までの成績ではヒト正常2倍体細胞の発癌実験に使用した化学発癌剤のうちで、4NQOが最も有力なことを、次の3点即ち、1)Cytotoxityが強いこと。2)DNA-repairをつよくおこすこと。3)Chromosomal
aberrationsもよくおこること。などの事実によりしばしば述べてきた。
この内でクロモゾームの変化は(表を呈示)、ヒトリンパ球をPHA添加培地で2日培養後3.3x10-6乗M
4NQOで1hr処理、更に1日培養した後のHeteroploid
transfromationは約15% GapsとかBreaksとかの構造の異常を示す割合は10%前後であった。
実験は各人より得たリンパ球を培養しコントロール群、BP-処理群、4NQO処理群の各50コのクロモゾームを数えた。数値は各20例の平均値。培養2日眼に10-5乗M
BP、3.3x10-6乗M、4NQO、処理。3日目に染色体標本作製。
今回はWI-38と健康人より得たリンパ球を使用しGFの、1)細胞の形態的変化。2)細胞の増殖。3)細胞のDNA
RNA合成に対する影響。4)クロモゾームの変化を調べた。(表を呈示)
GFの臨床的に使用される血中レベルは、1〜2μg/mlと考えられる。そこで5mg/mlにDMSOの溶き、実験には0.1〜20μg/mlになるよう培地で稀釋して使用した。クロモゾームは、各実験群で100コ解析した。
その結果、GFは20μg/mlでWI-38の軽度の形態的変化をしめした。即ち、紡錘形の細胞がGF処理により、一見上皮様の形態をとり、平べったく、肥大した胞体内に空胞が目立つようになった。10μg〜20μg/ml
GFで細胞の増殖及び、DNA合成阻害がみられた。20μg/ml
GFはRNA合成を阻害しなかった(表を呈示)。0.2〜20μg/mlで軽度のクロモゾームの変化がおこることが判った。Heteroploidを示したすべて(28例)を核型分析したが、特別のクロモゾームだけの変化はなかった。その1核型ではC1が1本欠損し、2本の異常な染色体があった。(図を呈示)
私共の実験結果ではLarizzaの報告ほどの高率の変化はなく、またGFはヒト細胞の発癌実験には4NQOほど有効ではないと云う結論に達した。しかし、GFがDNA合成阻害作用のあること、クロモゾームの変化をおこすので、発癌性を示す可能性は否定できない。
:質疑応答:
[乾 ]GFで処理するとunscheduledDNA合成が増加する事はありませんか。
[難波]みてありません。
[梅田]GFはマウスに投与すると肝癌を作る事が判っていますから、肝細胞を使えば形態的変化や変異が起こるのではないでしょうか。私の実験ではラッテの肝細胞の多核形成がみられました。
[難波]私もいずれは肝細胞を使うつもりでいます。が、今の所ヒトでは線維芽細胞しか使えませんので。
《佐藤報告》
1)3'Me-DAB処理にともなう染色体数モードの変化
3'Me-DABの処理によって染色体数41の細胞が優位となる(未処理のものでは40の細胞)事を月報7512に記述いたしましたが、ここに41と40のG-バンディングを試みました結果を報告いたします。染色体標本の作製後2ケ月程度放置したものに、20℃で0.2%Trypsin
5秒、10秒、15秒処理し、直ちにGiemsa染色した(10秒間処理のバンディング図を呈示)。
41では、No.3とNo.14の欠失が見られたが、それらは、No.3にNo.14の短腕部分がtranslocateした形のマーカーを作っている様に思われた。一方、40では、No.3とNo.14に加えてNo.19(No.20かも知れない)の欠失が見られたが、上記と同様、No.3とNo.14でマーカーを形成しているらしい。No.19の行方は不明であるが、ここがDAB処理効果の決め手となっているのかも知れない(詳細は検討を進めるつもりです。)
2)耐性実験
40の細胞と41の細胞の間に3'Me-DABに対する感受性の差(耐性)があるのではないかと考え、3'Me-DAB処理、未処理細胞についてそれらの増殖曲線から検討を加えました。
その結果、Controlと3'Me-DAB処理群との間に(図を呈示)3'Me-DABに対する感受性の差を見い出しました。
次に、この耐性問題に関して高分子合成に於ける検討を試みました。条件は3'Me-DAB
2.8、5.4、10.8μg/mlを24時間処理し、H3-TdR
1μCi/ml、H3-UdR 0.5μCi/ml、C14Leu 0.5μCi/ml
30分パルスラベルしたものを(細胞は20万個/ml、0.2mlをカバースリップに植え込んだ)Gas
flow counterによりcountした。DNA、RNA合成で耐性を示す様な結果が得られました。
:質疑応答:
[乾 ]PEとコロニーサイズは別の現象だと考えるべきではないでしょうか。
[常盤]PEは変わらないのにコロニーサイズが小さくなりましたので、それがDAB処理での一つの性質かと考えています。
[高岡]折角精密な染色体分析が出来るのですから、実験期間だけでも対照が変異しない細胞系を選べば、実験群の変化がもっと正確に捕らえられるのでははないでしょうか。
《梅田報告》
(I)前回の班会議でDL1細胞がaflatoxinB1に感受性の高いことを報告した。この細胞を10万個/mlでLuxシャーレに播き1日後20μg/ml、5μg/mlのaflatoxinB1を投与し、更に2日後コントロール培地で液交換を行い、以後週に2回液交換を行って6週間培養した。AflatoxinB1投与で両群とも強い障害を受けたが次第に回復し、6週後には細胞がシャーレ底面に殆全域をおおうように増生した。メタノール固定、ギムザ染色を施して観察すると、両群とも非常に不規則な模様を作り、すなわち、密な細胞がギムザで濃く染る所と、非常に薄く染まる細胞の所と、中間に染まる所が入れ混っていた。薄く染る部は細胞が殆占有しているが、細胞質の明るい細胞から成り、一部線維が認められた。この濃く染まる部が悪性転換した細胞からなるものがどうか皆目見当がつかない。
(II)上の実験で10μg/ml処理したものを細胞の増生を待って、aflatoxinB1処理13日目にトリプシン処理して新しいシャーレ10枚に1万個cell/mlのinoculaで接種した。4W培養後固定染色して観察すると、殆一面のcell
sheetの中に1〜2mm径の密に染まるfocusが見出された(表を呈示)。
一方でこの細胞はsubcultureした時余ったものを、そのままルーチンの継代を行い培養を続けた。しかしcumulative
growthでみる限り、この細胞の増殖はcontrolの細胞の増殖と全くと云って良い程変りない。
(III)(I、II)の実験の障害が強すぎたのでaflatoxinB1
3.2μg/mlと1.0μg/ml処理実験も行なった(処理法の図を呈示)。4日後の細胞数でaflatoxin処理により細胞が強く障害を受けていることがわかる。(II)と同じように4週後focusが観察された(表を呈示)。コントロールにも小さいながら存在している。しかしその大きさはaflatoxinB1
1.0μg/ml処理ではかなり大きかった。これが悪性のfocusがどうか更に検討を進める積もりである。
(IV)今迄FM3A細胞の8AG耐性獲得の突然変異を指標にした実験を報告してきた。この実験系はFM3A細胞が浮遊細胞故、軟寒天か、寒天平板かを使ってコロニーを作らせる方法しか無かった。これではSelection
mediumである8AG培地を途中で交換するわけにはいかない欠点がある。そして実際、8AGに耐性でない細胞からなるコロニーも形成される。
この難点をなんとか克服して培地交新の出来る方法を考えていたが、最近glass
fiber filterを使えば何とかその目的に適うとの結論を得たので、それらについての今迄得られたデータを御報告する。
(V)まずagarose plate(0.5%)を作り、その上に滅菌したglass
fiber filter(Whatman)をのせ細胞を接種して12日間培養し固定染色した。(表を呈示)glass
fiber filterを蒸留水で良く洗ってからのものとそのままのものと、細胞をinoculateするのをagarose
plateにのせる前とのせてからのと条件を変えた。Colony形成はglass
fiber filterをagarose plateに先ずのせてから細胞をのせるのが良かった。しかし直接agarose
plateに細胞をまいたものと比較すると、colonyの数、大きさ共に劣ることがわかった。
次に目的の8AGシャーレに細胞をのせる実験を行なった(表を呈示)。培養開始後1定日後にfilterをピンセットでつまみ上げ新しいagarose
plateへtranferした。この2つの実験で結論されることは何回もfilterをtransferしなくても、培養5日目位で1回transferすれば事足りるようであることであった。Control
agarose plateでも5日間培養後filterをtransferしたものがColonyの大きさも大きくなっていた。これは培地の栄養が12日培養間保たれていなかった可能性を示唆している。
また各種filterを使用してみた(表を呈示)。Whatmanのglass
fiberと類似品の東洋濾紙のGA-100、GB/60は共にややアルカリ性であり、同じように処理してもGA-100ではコロニーを一つも形成しなかった。GB/60ではコロニー形成は認められたが、東洋濾紙のこのglass
fiber filterは共にもろく、固定、染色の過程でピンセットの持ち運び中にちぎれて了う。普通のセルローズの濾紙でもコロニーを形成した。Sizeも大きいものも作られたが、filterによってはコロニーが小さいのが2つしか出来ないものもあり、まちまちであった。Membrane
filterはSartoriusのものもMilliporeのものも液とのなじみが悪く、したがってcolonyも形成されなかった。
Colonyは普通の透過光源では観察出来ない欠点がある。しかし横にすかすと光っているのが見える。又金属顕微鏡を用いるとその存在が確認出来る。
:質疑応答:
[高岡]寒天の上へ、液層は全く無しで濾紙をおくのですか。
[梅田]そうです。
[堀川]濾紙の上から細胞浮遊液をまくのですね。細胞は濾紙から下へ抜けませんか。
[梅田]コロニーは全部、濾紙の上に出来ます。
[山田]死細胞の方がヘマトキシリンで染り易いのですが、死細胞はどうなりますか。
[梅田]うまい具合に固定すると死細胞は浮いてしまいます。始の想像では濾紙を新しい培地へ移してやれば、小さいコロニーが無くなるのではないかと期待したのですが、実際には大きいものも消えてしまったので、そこをもっと工夫しなくてはと思っています。
《高木報告》
膵ラ氏島細胞の分裂促進物質について
前報で、現時点でもっとも高いsingle-cell
rateとcell viabilityがえられるラ氏島細胞の分散法を報告した。この方法で分散した細胞は機能的にも障害がきわめて少なく、植込み1時間後には実験に供せられる。培養をつづけると細胞は再び集塊を形成するが、これにinsulinの合成もしくは分泌を促進すると思われる物質を作用させてDNAの合成をRadioautographyにより観察した。
前回の実験では(月報7512)、生後3ケ月のラット膵を材料として集塊形成後の細胞におけるH3-thymidineの取込みを検討したが、取込んだ細胞はきわめて少なく、ブドウ糖1mg/mlでは1%以下であった。ラ氏島細胞をうる動物のageおよび培養に諸物質を作用させH3-thymidineを加える時期などを検討しなければならないが、今回はin
vivoでラ氏島のvolumeが急激に増大するとみなされる時期のラット膵(6週齢)を用い分散した細胞の植込み直後から諸物質を作用させ同時に1μc/mlのH3-thymidineを4日間加えてDNA合成をみた。
対照としてブドウ糖1mg/mlを用い、実験群はleucine
13mM、theophyline 0.5mM、5mM、Tolbutamide 100μg/ml、Secretin(Pancreozynine-Secretin
testに用いるcrudeなブタ上部消化管抽出物)1単位/mlを加えた。細胞500ケあたりH3-thymidineを取込んでいる細胞数を算定し、対照のブドウ糖1mg/mlの場合の取込み細胞数に対する割合を出した。この場合対照のブドウ糖1mg/mlでは4.3〜8.8%の細胞に取込みがみられた。結果は(表を呈示)、Secretinをのぞき他の物質ではDNA合成細胞数の抑制がみられた。これらの細胞の同定を光顕的にA&F染色で行なうと、Radioautography後は染色性悪く判定が困難である。電顕的観察が必要である。
:質疑応答:
[堀川]H3-TdR 4日間添加でこの程度のラベルというのは随分低いですね。
[加藤]それからラベルされた細胞は島の縁の方に多いようですが、島の内部の細胞は分化しているのでしょうか。
[高木]よく判りません。H3-TdRを取込んだ細胞を同定したいと思っています。
[山田]島の表面に内皮細胞がいて、H3-TdRを取り込んでいるとは考えられませんか。
[高木]それも考えられます。
《乾報告》
◇純系ハムスター使用の経胎盤培養内化学発癌(I)
今回は、1)経胎盤的にBpを作用して、可移植性のMalignant
transformed Colonyを観察する目的、2)In vivoの経胎盤化学発癌実験の標的臓器と胎児を培養に移した場合の臓器におこる、染色体切断、Transformation
Rate、Mutation Rateの間の関係を解析する第1段階の実験を行なった。
妊娠11日目のアルビノ・ハムスターにBp 100mg/kgを投与24時間後、胎児を摘出、Back
skin、Total body、Lungは0.25%トリプシンで、分散、胎児肝は1000unit/mlのディスパーゼで消化分散した後、先とまったく同様な方法で培養した。結果は(表を呈示)培養2代目の細胞のTransformation
RateはIn vivo chemical carcinogenesisの標的臓器である肺起原細胞(上皮様細胞と線維芽細胞の混合集団)で著明に高く(3.70%)、線維芽細胞では中間の値を示し(1.45%、0.93%)、肝起原細胞ではTransformed
colonyが見られなかった。しかし、肝起原細胞は、上皮様細胞が多く、形態的にTransformationを判定するにむずかしい。
培養後1回目の染色体解析は、本実験では、細胞数が少なく一般に困難であるが、Total
body起原細胞で著明に増加した。突然変異細胞も同様、34ケ/1,000万個cellで、Bp投与の場合も対照に比して著明な誘導がみられた。今後初代培養における各臓器よりの培養細胞の増加を考え、Hepato
carcinogenであるDMN、神経系に作用するMNU等を併用して、In
vivoとIn vitroの標的臓器における発癌性の解析を行なっていきたい。
◇AF-2経胎盤投与による胎児細胞の突然変異の濃度依存性
すでに前号迄の月報でAF-2経胎盤投与による、Transformed
Colony出現率、染色体切断率、Mutation誘導率を報告して来たが、本報告でMutation誘導率に非常に著明な濃度依存性がみとめられたので付記する。
(両対数グラフによる図を呈示)母体へのAF-2投与濃度に依存して、突然変異コロニーが出現した。しかし、現在AF-2投与にOトレーランスが存在するかはっきりしない。なおAF-2の経胎盤投与の場合図に示したのは、注射による結果であるが、100mg/kg投与では経口投与の場合より高い変異コロニーが出現した。
:質疑応答:
[難波]上皮様細胞と線維芽細胞のコロニーの割合はどの位ですか。
[乾 ]50:50です。
[難波]HGPRTはX染色体上にあるとすると、胎児をまとめて使った場合、♂♀が混じるのは問題がありませんか。
[堀川]♀のXXのうちの一つは酵素活性が不活化されていますから問題ないでしょう。8-AG耐性と悪性化との相関はどうでしょうか。
[乾 ]計画してはいますが、まだ調べられていません。
[堀川]どういうマーカーが悪性化と平行しているのでしょう。
[勝田]経胎盤投与の場合もっと母体に長時間投与するとどうなるでしょうか。
[乾 ]胎生8日より前では胎児が死んでしまう率が大変高いのです。胎生期間が短いので、なかなか長時間投与は難しいですね。
[堀川]経胎盤投与では殆どの薬剤がバリアなしに通ってしまうのですね。
《山田報告》
正常ラット肝由来の培養細胞の染色体の変化について
前報で報告しましたが、今回はこの染色体の変化とその細胞電気泳動的な性質とを比較してみました。(表を呈示)未処理の細胞をみるとRLC-16とRLC-21の平均泳動度がより高く、また(図を呈示)その分布が広く、そしてノイラミダーゼ(5単位、30分37℃)感受性が比較的高く、悪性化株に近い感じがします。RLC-21は従来教室で維持した株にも、また今回改めて戴いた株にも(図を呈示)marker
chromosomeがり、最も変異した株であることは確かです。RLC-16は今回の株にはmarker
chromosomeはありませんが、従来維持してきた株には一度出現した株であり、またこの株は電子顕微鏡でもこの5株のうち最も単純な細胞内構築を示したものです。RLC-19はノイラミダーゼ感受性は高くありませんが、その分布が広く、しかもこの株のみが、ConA(10μg/ml)により泳動値は高値を示しました。すなわちこの株が次に変異の可能性があると思われました。RLC-18と-20が最も変化のない株と思われます。
:質疑応答:
[乾 ]In vitroで発癌剤処理した場合、ラッテでは1〜10番の染色体には変異が少なく、17〜20番に動きが多いようですね。
[吉田]1番はトリソミーになり易いですよ。小さい方の染色体にはあまり重要な遺伝子が乗っていないのではないでしょうか。
[山田]染色体に出てくるマーカーが細胞の電気泳動度に関係すると面白いのですが。
[乾 ]Mutantが出た時の泳動度の変化をみた事はありますか。
[山田]まだありません。
[吉田]染色体の変化が先行して変異が起こるようですね。細かい分析は矢張りクロンを作る必要がありますね。
《堀川報告》
従来、私共はChinese hamster hai細胞から分離した栄養非要求株prototroph、栄養要求株auxotroph、さらには8-azaguanine感受性株、および8-azaguanine抵抗性株を用いて2組の前進突然変異系と2組の復帰突然変異系の都合4種の突然変異検出系を組みたてた。そして、放射線、各種化学発癌剤および変異剤による誘発突然変異の検出能をテストした結果、prototrophを用いた前進突然変異検出系が最も鋭敏な突然変異検出系であることが判った。
今回はこれらより更に確実で鋭敏な系、しかもDNA損傷修復能と突然変異誘発能の関連性が把握できる系として除去修復能を欠くXeroderma
pigmentosum細胞を用いることにした。このXPの細胞は阪大、武部氏により6才のXP患者の女の子から得た細胞であるが、突然変異の研究等に適するよう、これも同じく阪大、微研、羽倉氏によってSV-40virusでtransformedされagingの防止がなされている。名づけてXP20Sとよばれる細胞である。これまでの基礎実験からこの細胞の培養には75%Eagle's
MEM+10%TC-199+15%calf serumが最も適していることがわかった。それでもこの培地でのXP20S細胞のgeneration
timeは約36時間であり、plating efficiencyは10〜15%である。SV-40でtransformedしただけに染色体数は異常で80本近くにモードをもって広く分布する。しかし、紫外線に対する高感受性という特性は(図を呈示)いまだに保持しており、対照のHeLaS3細胞に比べて極度の高感受性を示す。これはこのXP細胞がendonucleaseを欠くためであって、これこそこの系に使用出来る大きなmarkerである。つまりこのXP20S細胞のend-がend+にrevertする変異をこの突然変異系に使用しようとするものである。これに加えて8-azaguanine抵抗性獲得という突然変異系を併用し、除去修復能を欠くXP細胞が事実変異性が高いかどうかを検討するための基礎実験を現在進めている。
:質疑応答:
[乾 ]XP細胞のlife spanはどうですか。
[掘川]正常とあまり差がありません。
[乾 ]6TGでは5μg/mlの濃度で8AG 20μg/mlの毒性と同じ程度ですね。耐性の出来方もかなり違いますね。
[堀川]この濃度も細胞によって大幅に違います。
《久米川報告》
BC細胞の(Rat肝臓由来)電子顕微鏡像
梅田先生の分離されたBC細胞の電顕的観察結果については、1月の月報で一部報告しましたが、その後の観察結果を加えて報告します。
前回までの報告ではこの細胞は上皮様(tight
junctionが見られる)であるが、肝実質細胞の特性は認められない。細胞の結合部に陥凹があり、この部分にfibrousな物質が観察される。ときにはcollagen様の構造が見られると報告して来た。
その後の観察結果から、BC細胞には、内皮様細胞が含まれているのではないかと思われる。(写真を呈示)petri
dishの底面とほぼ直角に切ったと思われる超薄切片から撮った電子顕微鏡像でみると、BC細胞は2層になっている。細胞は非常にうすく、tight
junctionで隣の細胞と結合し、接合部にはmicro
villiが観察される。細胞の内側表面には不完全ではあるが、basal
lamina様構造が所々に見られる。しかも細胞表面には多数のpinocytotic
vesiclesが認められ、内皮細胞の特性をそなえている様に思われる。さらに2層の細胞間にはfibrousな物質が存在している。この物質は明らかにcollagen
fiberである。
以上の観察結果から、BC細胞は少くとも2種類以上の細胞から成っており、その1つは線維芽細胞(collagenの存在)であり、他の1つは内皮様細胞ではないかと考えられる。
:質疑応答:
[野瀬]この細胞のアルブミン産生はどうですか。
[梅田]過去に+だった系ですが、今は−です。
[山田]内皮細胞は沢山見られるのですか。又は一部に見られるのですか。
[久米川]あまり多くはないようです。切り方が断層をみるやり方なので、確かな頻度は判りません。
[山田]いわゆる線維芽細胞らしいものは見られませんね。
[久米川]しかしcollagenがあるので、どこかに線維芽細胞がいると考えたのです。
[勝田]線維芽細胞だけがcollagenを産生するとは断言できないでしょう。
[梅田]昔の話ですが、ラッテ肝由来の系をクローニングする前に大きな形の上皮細胞と小さな上皮細胞が混じっていることに気づき、小さい方が肝実質だと私は考えていました。この系はその小さい方から出ていたので、細胞間に溜まっている物質は胆汁ではないかと思ったのですが、その物質がcollagenだったという事でした。
《野瀬報告》
Collagenase又はDispaseで分離したラッテ肝細胞の比較
rat肝をcollagenase又はdispaseで潅流して実質細胞が分離でき、どちらの方法でも形態的には似た細胞が得られる。今回は主に機能の面から比較検討した。
(表を呈示)1匹のadult ratからとれるviable
cells(erythrosinBで染まらない)の数を数回の実験で比較してみると、dispaseの場合collagenaseとくらべて細胞の収量は約1/5程度であるが、viabilityには差が見られなかった。
次にTyrosine aminotransferaseの誘導性を見た(表を呈示)。2つの方法で分離した肝細胞をシャーレにまき、培養後2〜8日各時点でdexamethasonを8.5x10-7乗M加え24時間後の細胞のTAT活性を測定した。collagenaseの場合は6日目までは誘導性が残っているが、dispaseの場合4日目ですでに誘導性が低下している。またTAT活自身もやや低い。またTAT誘導は細胞密度によっても変化するので多少問題はあるがdispaseで分離した肝細胞が誘導性を保持していることは間違いないことと考えられる。
albuminの生合成能は培養した肝細胞の培地にH3-leuを加え、培地に抗ラットアルブミン血清を加え、免疫沈降物中のカウントを測定して見た。細胞タンパク当りのH3-アルブミンの合成量はdispase、collagenaseどちらを用いて分離した細胞でもほぼ等しかった。以上の結果から2種の方法でとった肝細胞は機能の上からはほぼ等しい活性を持っていると結論できる。細胞の収量はcollagenaseを用いた場合の方がはるかに高いので、一般的にはdispaseは肝細胞の調整には不適当と考えられる。しかし長期間の培養で増殖してくる細胞をとるにはcollagenaseより優れている。例えば(図を呈示)初代培養の初めからdexamethasonを加えておくと、上皮様の細胞が増えてくる。今後は増殖系になった肝細胞の機能を再び発現させることを試みてみたい。
:質疑応答:
[梅田]株細胞の場合も継代してから2日位がアルブミン産生が高い時期です。
[高岡]アルブミン値については培養0日の基準値を知っておく必要がありますね。
[久米川]再生肝ではどんな細胞がとれますか。
[野瀬]正常なものと全く同じでした。
[関口]この場合デキサメサゾンはどういう作用をしているのでしょうか。
[野瀬]機能の活性化に働いていると考えています。又ステロイドホルモン添加でアミノ酸輸送が変わるようですから、その作用もあるかも知れません。
[山田]この実験の材料は成熟ラッテですが、生後数日の乳児肝から培養した時は造血細胞もかなり混じっているでしょうね。
【勝田班月報・7604】
《勝田報告》
§いんどほえじかの組織培養
学名はIndian Muntjac、Muntiacus muntjak
voginalis、♂。1976-3-3午後、乾、許、安本、角屋と医科研の研究動物施設からの6人で10人がかりで、おさえつけ、やっと血液5ml(ヘパリン加)、耳タブ3cm角位、内股の皮下組織1.5cm角位を採取した。培養には血液(全血)1容に対し、[10%FCS+90%DM-160]4容とPHAを加え培養4日後に染色体分析に使用、染色体が7本であることを確認した(♀は6本)。内股皮膚はそのまま細切し、トリプシン消化。耳は皮膚と皮下組織、軟骨とに分けて細切し、トリプシン消化。初代はFalcon
plastic dishと、TD40(ステンレスキャップ)を用い、[10%FCS+90%DM-160]及び[10%FCS+90%F12]を入れ、炭酸ガスフランキで培養した。
培養経過は、1日に壁に附着した細胞集団一コを発見、その後どの容器からも生え出したが、生え出しはおそく7日目位からだった。15日に第1回subculture、16日に加藤班員に分譲、25日に乾班員に分譲。細胞はfibroblasticのが主体で、上皮様細胞も若干混っている。増殖度はかなり良いので、御希望があれば、班員、班友に限り分譲します。
なお当研究室で継代中の系はMm/1と命名しました。(染色体の写真を呈示)
《高木報告》
膵ラ氏島細胞の分裂促進物質について
前報においてラ氏島B細胞のinsulin分泌を促進する数種の物質の、培養ラ氏島のDNA合成細胞数におよぼす影響をみたが、さらにブドウ糖300mg/dlとCerulein(合成されたPancreo-zymin-chole-cystochinin様物質)につき観察した。
結果はブドウ糖100mg/dlの時のH3-TdRのとり込み細胞数を100%とすると、ブドウ糖300mg/dl、Cerulein
10-7乗Mでそれぞれ62.6%および68.0%でやはり抑制が認められた。しかし、H3-TdRとり込み細胞の実数は500コあたり10数コといった少数であるので、このようなdataの処理をいかにすべきかが問題である。
次にH3-TdRとり込み細胞の同定に関して、前回はRadioautography後にAldehyde-Fuchsinによる染色を行ったが、染色性が悪く同定不能であった。そこで先に染色してRadioauto-graphyを行ってみたが、後染色にくらべて染色性は良かった。しかし、これら物質はすべてinsulin分泌促進物質であるためB細胞に脱顆粒がみられ、当然ながらA
& Fによる染色性は低下し同定は困難であった。また先の実験ではgrainの数が多すぎたので、これを減らすように条件を工夫しなければならない。電顕のRadioautographyは、乳剤の入手まちであるが、これに先立ちブドウ糖100mg/dl下に形成された"Pseudoislet"について、その構成細胞を電顕的に観察中である。B細胞が主であるが、A、D細胞もあり、内皮細胞、繊維芽細胞の有無についてはさらに数多く観察せねばならない。
またヒト膵より株細胞をうる目的で材料入手次第培養を試みているが、今回5ケ月のヒト胎児膵を1000単位Dispaseで処理して植込み、24時間後にdecantして3xEagle's
mediumで、Falconのplastic dishに植込んだ。植込み2〜3日後より上皮様細胞の増殖がはじまり、現在21日目であるが変性像はほとんどみとめられない。形態的に以前にヒト摘出膵を培養した時みられた上皮様細胞と類似している。繊維芽細胞もみられるが、あまり活発な増殖はみられない。
《難波報告》
27:ヒト細胞とマウス・ハムスター細胞との4NQOのとり込まれ方と
とり込まれた4NQOの運命の差違の検討
現在、4NQOがヒト細胞の培養内発癌剤として非常に有効であることを、しばしば述べてきた。しかし、この4NQOをもってしてもヒト細胞の発癌はマウス・ハムスターのそれに較べ非常に困難である。その理由の解明は裏を返えせば発癌機構の解明に近ずけるのではないかと考えられる。月報7602で4NQOのヒト及びマウス細胞の増殖抑制効果、及びDNA合成抑制には差がみられぬことを報告した。
今回は4NQOのとり込み能にヒト、マウス及びハムスター細胞との間に差違があるか否か検討した。
実験方法
4NQO-H3(Sp.Act.27mci/mM)を10-3乗Mになるようアルコールに溶き、培地で終濃度3x10-6乗Mに稀釋して1hr.37℃細胞処理後、ただちにPBSで3回細胞を洗い、5%冷TCAで2回洗い、TCA不溶性分劃にくるcpmを測定した。24hr.後のカウントは、4NQO-H3で1hr.処理したものを、4NQOを含まぬ培地にして、24hr.培養して上記のごとくTCA不溶性分劃のcpmも測定した。使用したヒト、マウス、ハムスター細胞は全部diploid
cell strainsである。
結果:表に示したように
1.とり込まれる4NQOの量は、同じヒト細胞でも、細胞の種類、4NQO処理時の細胞数によってかなり変動している。細胞数によってとり込まれる4NQOの量が変ることは次回に報告するが、細胞数が少ないほど、1コの細胞にとり込まれる4NQOの量は増加する。
2.同じ動物由来の細胞でも、4NQO-H3投与時の細胞数が違えば、とり込まれる4NQO量が異なるので、ヒト、マウス、ハムスターのどの細胞によく4NQOがとり込まれるか比較できなかった。
3.しかし4NQO-H3 1hr処理後と、その後24hr目に細胞内に残る4NQO量との割合は、ヒト、マウス、ハムスターでほぼ等しく、ヒトの細胞にとり込まれた4NQOが特別早くなくなるとか、長く存続するとかはしないようである。(表を呈示)
28:ヒト細胞による4NQOによる培養内発癌実験
−Focus AssayでTransformed fociが出現するか否かの検討
1/13/76に約10W目の全胎児をトリプシン処理して培養を開始した細胞を使用し
実験1;1/14〜2/4に亙って2x10-6乗M 4NQOで1回の細胞処理時間1hrで計7回処理した細胞を10万個/60mmシャーレに計5枚まき、週2回培地更新、25日目にギムザ染色した。その結果Transformed
fociはなかった。
実験2;1/14〜2/25に亙って実験1と同じ条件で4NQOを計12回処理。10万個/60mmシャーレ、計7枚まき、22日培養後、Transformed
fociは見い出されなかった。
(実験1、2の結果をまとめた図を呈示)
《乾報告》
メチル・ニトロソシアナミド(MNC)のハムスター胎児細胞に対する変異原性及び癌原性・ 第1報:バクテリアに対して強い変異原性を示し、マウス前胃に癌原性を持ち、人間の胃癌の形成要因の一つと考えられているMNCの培養細胞に対する変異原性を調べた。
妊娠12日目の胎児由来の繊維芽細胞(MEM+10%FCSで培養)の培養4代目のものを実験に使用した。細胞を50万個/mlで培養瓶に播種後24時間目に5、10、50x10-7乗MのMNCで3時間処理し、処理後ハンクス液でよく洗い、正常培養液へもどし、72時圏培養した。(図を呈示)図の如く72時間に6-チオグアニン(6TG)5μg、10μg/mlを含む培地へ細胞を再播種(10万個/dish)し、始めの3日間は毎日、以後、3日ごとに6-TGを含む培養液でmedium
changeをした。培養20日後固定染色し、6-TG耐性コロニーを算定した。
6-TG耐性コロニーの出現は(表を呈示)表の如く、MNC投与で明らかに出現し、6TG
5μg/mlで、Selectionした場合、5x10-7乗Mで約2倍、1x10-6乗Mで4倍、5x10-6乗で5.3倍であった。この値は、(MNNG)よりやや低い値を示した。
現在、同物質投与直後のハムスター胎児細胞の染色体変異、ハムスター胎児細胞での変異コロニーの出現率、Focus形成率、及び同物質投与による長期培養内発癌実験を継続中である。染色体変異はまだデータの整理はしていないが、MNNGに比しておこりにくく、長期発癌実験も本日で42日目になるが、4系統共、形態変異はおこっていない。
純系アルビノハムスターを使用した経胎盤発癌実験のデータモDMN、Bp投与群で、標的臓器との関係が、少しづつまとまりつつある。来月か班会議には中間報告をしたい。
《梅田報告》
(1)Filter cultureで各種細胞のfilter上での増殖具合、コロニー形成率を調べている。Monolayer
cultureと書いた方は200万個細胞数をfilter上にのせて培養し、2日後と4日後に固定、ヘマトキシリン染色して観察した。増殖具合を程度に応じて+で表した。コロニー形成の方は100或は1,000コの細胞をfilter上にのせて培養を始め、1x/3〜4日に、agar
plateをtransferして計12日後に固定染色して観察した。
(表を呈示)結果は表に示すごとくで、HeLa、L、L-5178Y、FM3A、YSでは細胞は密集して増生可能であった。但しコロニー形成でみるとHeLa細胞ではコロニー形成は認められるものの非常に小さなコロニーから成っており、Lcellでは一つもコロニー状細胞は認められなかった。Lcellのmonolayerの方でも細胞はばらばらに散って増生していた。L5178Y、FM3A、YSでは本実験のテクニカルな問題もあり、plating
efficiencyは必ずしも満足できるものではないが、コロニーとしては大きな立派なものが出来ていた。
ここでCHO細胞だけがmonolayerでも増生が悪く、コロニー形成は0であった。悪性化している筈なので、増生の悪い理由がわからない。本細胞はMEM+5%FCSにnon-essentialアミノ酸を加えて培養しているが、現在FCSの濃度を上げた培地での実験を行っている。
一応正常であろうと考えているラット肝由来のBB、BC、DL1の3株では20万個cells/filter播いているにも拘らず、monolayerに細胞は殆ど生えない。しかし、4日目のfilterを固定染色してみると、まばらに細胞が残っていることがある。コロニーは全く形成しない。DDDマウスの胎児細胞を3T3継代して樹立したD49細胞はmonolayer状にはならないが、細胞が散在して残っていた。C3Hマウス胎児細胞培養2代目の細胞も殆ど細胞増生は認められなかった。 (2)8AG、6TG耐性細胞の出現が、用いる血清によって異なってくることがあるのでチェックした(表を呈示)。FCS
lot AとBでは耐性コロニーが出現するが、lot
Cでは出現しない。又dialyseしたものは1つもコロニー形成しなかった。
《堀川報告》
私共の確立した4系の突然変異検出系のうち栄養非要求株Prototrophsを用いた最も鋭敏な検出系を用いれば低線量放射線によって誘発される突然変異を検出することが出来るかどうかを知るため、100R以下のX線、および50ergs/平方mm以下の紫外線を照射した際に誘発される突然変異率を調べた。(図を呈示)第1図は前回にも報告した、100R以下のX線を照射した際の結果であって、この線量内では生存率も殆ど低下しないかわりに、突然変異の誘発も認められない。一方、第2図は50ergs/平方mmのUVを照射した際の突然変異の誘発を調べた結果である。X線の場合にみられたように、細胞の生存率が殆ど低下しない20ergs/平方mm迄は殆ど突然変異の誘発は認められないが、30ergs/平方mm以上の線量で生存率が低下するようになると、突然変異の誘発が認められる。こうした結果は、突然変異はある程度の細胞損傷が起きるような線量でなければ誘発されないことを示すものであり、換言すれば細胞の回復能と突然変異誘発の間にはある密接な関連性のあることを示していると思われる。 つづいて、この栄養非要求株Prototrophsを用いた突然変異検出系が、何故他の3系に比べて突然変異の検出に鋭敏であるかを検討した。このPrototrophsは、既にこれ迄何度となく報告してきたように、Ala+、Asp+、Asn+、Pro+、Glu+、Hyp+という性質をもっているが、この細胞が突然変異として検出されるためには、これらのマーカーのうちのどれか1つのものが−(マイナス)に変異すればよい訳である。さて、これらの6個のマーカーがlinkしたものであるか、あるいは1個1個独立したものであるかを確かめるため、800RのX線あるいは150ergs/平方mmのUVを照射した際に誘発される種々の突然変異の割合を調べた結果が第3図および第4図である。これらの図からわかるように、6個のマーカーのうちどれか1つが変化しても突然変異として検出される場合(6substance)に比べて、Ala+、Asp+、Asn+、Pro+、Glu+、Hyp+のうちどれか1つが変異する割合はマーカーによって大きく違うことがわかる。つまり、Hyp+という性質は、X線またはUV照射によってHyp-に変り易いが、Ala+の性質は容易にAla-には変異しないということである。こうした結果は6個のマーカーは、完全にlinkedのものではなく、まったく独立したものであることを示唆しているとも思われる。
☆☆以上、これが私の最后の月報原稿となりました。どうも長い間お世話様になりました。皆さんの研究発展を祈って止みません。
《山田報告》
培養ラット正常肝細胞の電顕的形態について数回報告しましたが、そのうちで特に重要な所見は、培養された肝細胞の細胞質内にグリコーゲンの顆粒の星状凝集像が殆ど消失し、散在性にグリコーゲンが存在することである事を報告した。
今回はこの電顕的所見における分散したグリコーゲンと思われる粒子が、本当にグリコーゲンであるか否かを確かめるために一つの実験をした。即ち培養メヂウム内にグルカゴンを添加したら、このグリコーゲンと思われる顆粒が減少しないかと思い実験したわけです。電顕写真が間に合いませんが、透視下でみると、グルカゴン添加された肝細胞(RLC-16)の細胞質内顆粒は減少している様です(詳細は次号に報告します。)
この実験と同時に、培養メヂウム内のグルコースを測定した所、(図を呈示)図に示す様に、グルカゴン添加した細胞メヂウムにグルコースの減少がより少なく(増殖率には差がない)またその細胞表面の荷電の状態にも変化が出て来ました。これも次回に報告します。
《久米川報告》
1.マウス胎児肝臓の培養
Roseの還流培養法でマウス胎児肝臓を培養した場合、糖新生系の酵素G-6-Paseの活性は高くならなかった。しかし現在用いているチャンバー法では、チャンバーをroller
tubeに入れ、air(95%)+炭酸ガス(50%)下で回転培養することによりG-6-Pase酵素活性が高くなることがわかった。なお培養液はDM153である。血清を加えない場合でも2倍位の酵素活性があった。血清(10%)を加えた場合は2日目より無血清群より高くなり、培養6日目では培養前の約4倍の活性値が得られた。Prednisolone(5.0mg/100ml)、glucagon(1.3mg/100ml)を添加した場合は培養2日目にその影響がみられ、培養4〜5日目では血清添加群の約2倍の活性値がみられた。一方、insulinを添加した場合は酵素活性はやや抑制された。
ヒト胎児を手に入れることができるようになったので、肝臓由来細胞の培養を試みたい。9w〜12w胎児肝臓はまだ組織構築が完成していないので、消化酵素を用いないで細胞がバラバラになる。多角形で原形質に顆粒(ミトコンドリア?)の多い細胞(肝実質細胞?)が得られる。この細胞は数個単位の集塊を形成し、浮遊している。くわしくは次号に報告します。
《榊原報告》
今年度は勝田班で勉強させて頂けることになりました。復元の問題を突っ込んでやれとの班長の御命令ですが、御期待に応えられるかどうか。目下実験計画を練っている段階です。班員、班友の諸先生方の御指導、御鞭撻をお願い申し上げます。
培養細胞のコラーゲン産生:
コラーゲン繊維は専ら間葉系細胞によって作られると信じられているが、角膜上皮細胞、平滑筋細胞、更にはHeLa細胞やKB細胞も微量ながらhydroxyprolineを含む蛋白を合成することが、既に報告されている。肝臓に関しては、成熟ラット肝を単離し、実質細胞分劃と間葉系細胞分劃とに分けて、各々のprolyl
hydroxylase活性を測定したところ、前者の方が、後者の100倍に当る高い活性を有していたとの報告がある。
横浜市大で樹立されたラット肝由来上皮様細胞株BCが、in
vitroでコラーゲン繊維を形成することは、形態学的には既に班会議で報告済みと思われるので、ここではhydroxypr-olineの定量結果をお示しする。
BCとそのsubcloneであるBC・S1、BC・S2、BC・S3、ラット全胎児の初代培養、Embryo、BALB3T3、HeLaS3、約100万個cells/tube、TD40に播いたのち、21日間(但しHeLaS3は10日間)subcultureせずに維持する。培養液を捨て、Hank's
sol.で2回培養を洗い、rubber cleanerで細胞をかき落し、screw
cap付き培養びんに集め、6N,HClを加え110℃、24h加水分解する。
Cell countはreplicate cultureで行なう。その後ProckopとUdenfriendの方法でHy-Proの定量をするのだが、要はChrolamineTを加えた上、toluen層に溶出する物質をあらかじめ除去しておき、次いで加熱してHy-Proを酸化、Pyrroleとし、これを再びtoluenで抽出、Ehrlich試薬で発色させ、560mμの吸収を読む。
(表を呈示)結果は表の通りであって、BCとそのsubclone間にばらつきはあるが3T3の5倍以上の量のHy-Proが検出された。興味あることは微量だがHeLaS3もHy-Pro
positiveであったことである。
さらに医科研化学研究部にお願いして、上記と同じ条件下で培養した細胞のアミノ酸分析を行なった。但しここではBB、BC、DL-1の3株についてのみしらべ、BCについては特に培養3日、10日、14日、21日と経時的に細胞を集め分析に供した。その結果、Hy-Proにかんしては他の細胞蛋白に由来するアミノ酸との量的較差が大きすぎる為、clearなデータは得られなかったが、BCとDL-1に関してのみ、LysineとArginineとの間に特異なpeakがみとめられ、しかも培養日数の増加とともに増す傾向のあることが分った。DL-1は梅田先生が樹立されたラット肝由来上皮様細胞株で、まだclone化はされていないが、現在Albumin産生があり、しかも特定の条件下でcollagen
fiber formationがあるらしいと云われているものである。このpeakに相当する物質については、D-galactosamineであろうと推定されている。
従来、collagen産生細胞は同時にムコ多糖を分泌するらしいと云われ、又soluble
col-lagenが分子架橋によってinsolubleな、所謂native
collagenとなる為にはこうした多糖類の存在が必要であると考えられている。Clone
BCが肝実質細胞かどうかといった議論はさておき、この細胞がコラーゲン研究の貴重なtoolとなるであろうことは間違いないようだ。
【勝田班月報・7605】
《勝田報告》
細胞内ポリアミン量の定量
定量法:(三菱生命研)大島博士法による。ResinはCK-10S。泳動緩衝液は、0.4M醋酸緩衝液。ニンヒドリン発色定量。
細胞:Stationary cultureしたものを0.4M
PCAを加えSonication、上清。
結果:正常肝由来の4系より、腹水肝癌由来の5系(JTC)の方がポリアミン量が多い。系によってSpd.とSp.の対比が夫々異なる。培地中に添加されたスペルミンに対する抵抗性は、JTC-16>JTC-27>JTC-1>JTC-15、JTC-2であり細胞内スペルミン量と略平行することになる。
問題点:この定量法は感度があまり良くないので、細胞数10の8乗を必要とする。もう少し感度の良い微量定量法を開発中。CulbTCが他の正常肝とほぼ同程度の量であるが、もう少し感度を上げれば差が出るかどうか。(図を呈示)
《高木報告》
膵ラ氏島細胞の分裂促進物質について
乳剤の入手が予定よりおくれ、未だ電顕切片のradioautographyによるDNA合成細胞の同定はできていない。細胞集塊("Pseudoislet")につき、その構成細胞をさらに観察したところでは、集塊中にB、A、D細胞が含まれることは確かであるが、顆粒の認められない細胞についてはこれを同定することは困難で、その外の細胞が含まれていないと断言はできない。また月報7603において調べた物質を再度in
vitroで作用させて、その際のH3-thymidine取込み細胞数を、物質を作用させないcontrolの取込み細胞数と比較して検討したが、Secr-etinをのぞき再現性があった。Secretinは今回のdataではcontrolの有意差なく、さらに再検討の予定である。In
vivoとことなり、高濃度glucose、Tolbutamideなどのinsulin分泌促進物質はin
vitroでは分裂を促進しないようである。
またヒト胎児膵の培養で、3x Eagle's mediumが適していることを前報でのべたが、培養35日でも培地中にinsulinが認められ、40日までは形態的に良好に保たれた。しかしそれを過ぎると細胞は次第に脱落しはじめる。更に工夫が必要である(培養21日の写真を呈示)。
《難波報告》
29:ヒトおよびマウス細胞の4NQO処理に対する反応の差違の検討−RNA合成−
ヒトの細胞が動物の細胞に比べて4NQOで癌化し難い理由を見い出すために、今回はRNA合成を検討した。(DNA合成に関しては月報7602、4NQOのとり込みについては月報7603に記した)
使用したヒト細胞は32代のもの、マウスの細胞はC3H由来11代のものである。
実験結果:(図を呈示)図1〜4に示したように細胞の増殖はヒト、マウス細胞共に3.3x10-6乗M
4NQO 1hr処理で同程度に阻害される。しかし4NQO処理後にシャーレに附着して残る細胞の経時的RNA合成は阻害されていない。
《乾報告》
先々月の月報で、純系アルビノハムスターに、3・4ベンツピレン(Bp)を経胎盤的に投与し、胎児各臓器由来細胞のTransforming
RateはIn vivo transplacental carcinogenesisの標的臓器である肺で著明に高いことを報告した。
(表を呈示)表1でみる如く、通常の方法で10μg/mlの8-アザグアニンで、Selectionを行うと、Total
body由来細胞の耐性コロニー出現率は高いが、次いでLung由来細胞で高く、肝由来細胞ではこの1回の実験では、耐性コロニーは出現しなかった。但し肝由来細胞は、細胞数が少なく、充分の細胞数を得るために7日間の培養を行なったので、このDataを直接の比較に用いてよいか一抹の不安が残っている。しかし現在Dataの集計中であるが、DMN
200mg/kg投与ハムスターより得た胎児肝由来細胞では、同様のSelectionで37ケの耐性コロニーが出現した。Target
Organの細胞のMutation Rateが高く又Transforming
Rateも高い所から、細胞癌化のfirst stepで突然変異が何らかの形で関与していることが証明出来そうなので純系を使用し、標的臓器、Mutation、Transformation、細胞癌化の問題を追及したい。 DMN
200mg/kg(LD50量)投与ハムスター胎児の臓器別Transforming
Rateを表2に示した。表より明らかな如く、DMN投与では、Liver
Cellで耐性コロニーの出現が高く、TransformingRateも高く現われたが、周辺のPiling
up、Criss-Crossを指標としているので、残念ながら、肝実質(或は上皮)細胞のTransformationと云えない。
現在、Liver cell由来、Total body由来のコロニーをクローニングして、増殖中である。後者は、形態的に長期培養内癌化実験のTransform
fociと同様であり、同細胞を1,000万個/Hamsterで移植し10日目の本日、アルビノハムスターチークパウチに米粒大で存在している。これがパウチ内で増殖をつづけ、腫瘤を形成すれば、勝田先生からの宿題のほんの一部をやったことになる。あと2、3週がたのしみです。
《久米川報告》
ヒト胎児肝臓の培養
ヒト胎児の肝臓の器官培養を行った。培養材料は9週と6ケ月胎児の肝臓を用いた。mil-lipore膜をはさんだ器官培養用チャンバーに4個の組織(1〜2mm程度の大きさ)を植込んだ。ローラーチューブ(直径35mm)に2チャンバーつづ入れ、5mlの培養液を加え、シリコーン栓をした後炭酸ガス(5%)+air(95%)の気相中で回転培養(3回/1時間)した。培養液は10%の割合でcalf
serumを加えたDM-153を用い、2日毎に液の交換を行った。現在培養1.5ケ月である。5日毎に培養組織片をmillipore膜とともに電顕用に固定、エポン厚切り切片をトルイジンブルー染色を行い、光学顕微鏡で観察するとともに、超薄切片を電顕で観察した。
9週令の胎児肝臓は、培養10日目までは10数層の厚さ(細胞)で、肝細胞は(H)数個単位の構造を示している。肝細胞間にはsinusoid(S)も見られる(写真を呈示)。
現在組織学的に25日まで観察しているが、培養10日以後は次第に組織片の厚さは減少するが、肝細胞は集団を造って残存している。haemato
poetic cellsは培養5日目位までに、変性消失してしまうようである。
電顕像では、肝細胞間にはbile canaliculus(B)が見られ、細胞内には粗面小胞体、micro-body等の肝細胞の形態的特性が観察される。培養15日のものでは、更にglycogen
granuleも見られた。
6ケ月ヒト胎児肝臓は9週令のものにくらべ、組織の中央部に変性像が見られた。しかし組織の周辺部の細胞は9週令も肝臓と同様、肝細胞の特性を維持している。
回転が速いと培養組織片の表層細胞は傷害を受けているため、通常の回転培養(5〜12回/hour)よりさらに回転を遅く、1時間に3回転で培養している。ほとんど表層細胞に傷害はみられないようである。
《山田報告》
前報でその結果の一部を報告しましたが、其の後引続き行った実験成績と一緒にまとめて報告します。培養肝細胞(RLC-16、RLC-20)の二系を用いて、その電顕所見上みられた細胞質内グリコーゲン顆粒と思われる顆粒が果してその推定通りであるか否かを検討するために行ったのですが、意外な結果がでました。
いづれも培養4日目に約250万個per tubeの細胞に対し、1.3〜13.0mg/ml濃度のグルカゴンを添加し、24時間の間に起る顆粒の変化を観察したのですが、用いた二系の細胞の所見にかなりの差がみられました。
RLC-16は元来グリコーゲン顆粒様物質が少いのですが、前報に記載した様に、グルカゴン投与後glucose消費は減少し、その増殖能はむしろ促進しました。電顕所見は(写真を呈示)図2のシェーマと図3、4の写真に示すごとくグリコーゲン様顆粒の密度は減少し、粗面小胞体が膨化しました。これに対しRLC-20は元来グリコーゲン顆粒と思われる物質は多いのですが、グルカゴンを添加することにより、むしろglucose消費量は増加、その増殖能は著しく減退しました。電顕所見では、グリコーゲン様の顆粒の密度はあまり変化なく、しかしその顆粒の大きさが減少して居ました。また粗面小胞体はRLC-16より更に膨化、不整形化して居ました。
この結果は直ちに理解出来る点もありますが、インシュリンを投与して起る変化を観察した後に、綜合的に今後dicussしてみたいと思って居ます。
《梅田報告》
血清に関するデータを2つ報告する。
(1)今迄報告してきたJAR2ラット肝由来上皮様細胞BB、BC細胞と呑竜ラット肝由来上皮様細胞DL1細胞について、血清を変えた時のα-fetoprotein(AFP)とalbumin(ALB)産生を、北大の塚田先生に測定していただいた。今回からは、ALB測定にもradioimmunoassayを行なったのでかなり低値まで測定出来、またFCSを使った時のAFP産生は非特異的な反応かも知れないとの事です。
F12培地に各血清を10%の割に加え、6週間培養した。週2回培地交換を行なった。(表を呈示)表の中で培地No.としたのは、培地を始めた時から順の培地交新時の意味で、その夫々の順に使い古しの培地を遠心し沈渣を分離し去ったものである。
BB細胞ではALB産生はなかった。BC細胞で低値ながらALB産生が認められたことは意味がある。各細胞により、異なる血清でAFPやALB産生が認められていることに興味がある。
(2)先月の月報で無処理のDM3Aを8AG(20μg/ml)、6TG(5μg/ml)を入れたagarose
plate上の濾紙(GF/A)上でコロニーを形成させた実験を報告した。この時FCSのlotを変えると異なる結果の出ることを示した。今回は異なるFCSのlotでMNNG処理を行ない、それぞれのFCS培地のagarose
plateで濾紙上にコロニーを作らせた。
(表を呈示)表に示すようにMNNG処理2日後の細胞数は血清(A)と(C)では似かよっており、それをcontrol
agarose plate上でコロニーを作らせたsurvivors
per 100 cells(platingefficiencyと同じ)も大差無い結果である。しかし8AG、6TG耐性細胞の出現は表でみる限り(A)血清の方が能率が良い。(B)血清は非常に悪い血清である。
この結果で示したように血清により耐性細胞の出現率が異なってくるとすると突然変異率とはどう解釈したら良いのであろうか。
《榊原報告》
§抗胸腺細胞抗体(ATS)の作用点について:ATS出処理したハムスター頬袋粘膜内に異種培養細胞を移植すると同系動物への戻し移植結果に近い成績が比較的短期間で得られることは既に報告した。今後はATSの作用機序、力価、検定法、適性投与法について詳しく吟味してゆきたい。
殺細胞力価 1:760のATSを生後20週、雌、成熟ハムスター10匹に1回投与量0.5ml、週2回づつ4回連続皮下投与したのち、採血、屠殺して末梢血球数、血液像、血清総蛋白量、血清蛋白電気泳動像、諸臓器の病理形態学的変化等の検索を行なった。対照群10匹には、週2回づつ0.5ml生食の投与を行なった。(表を呈示)表に示す通り、ATS処理群は対照に比して赤血球、白血球、リンパ球数の凡てが有意差を以て減少している。とくにリンパ球数は、対照の1/10以下である。血清総蛋白量は両群ともほぼ同じ値であるが、Albumin、α1-globulinの減少と、α2及びγ-globulinの増加が有意である。平均臓器重量から明らかなように、胸腺を初めとするリンパ性臓器の萎縮は見られない。病理組織学的にも胸腺に異常は見出せなかったがリンパ節は増殖性で、二次濾胞の拡大と髄質の形質細胞増生が顕著であり、脾では白脾髄辺縁の繊維化が目立った。以上の所見は、ATSの作用点が末梢血中のリンパ球、とくにT-cellであることを推定させ、今後更に精製したATSを用いて末梢血リンパ球数の変動を経時的に検べる予定である。又参考までにヌードマウスについても、生理的bockgroundを明らかにしておきたいと考えている。
【勝田班月報:7606:ヌードマウスの生理的背景】
《勝田報告》
A.スペルミンの細胞毒性の中和(つづき)
(おさらい)ポリアミンの内ではスペルミンが最も細胞毒性が高い。良性な細胞ほどスペルミンに弱い。FCS、Bovine
serumのalbumin分劃を同時に添加するとスペルミンの毒性が助長される。ところがスペルミンにあらかじめ血清その他を添加して37℃、24時間加温してから培地に添加するとスペルミンの毒作用が著明に減少される。この作用は大体Bovine
albumin分劃によるらしく、他の高分子物質では消退されなかった。Armourのbovine
fractionVでしらべると60℃、30分の処理ではfractionVの中和作用は消えず、100℃、2分では少し消えた。トリプシン消化(37℃、2hr)ではさらに消えた。Fattyacid-freeのfractionV(mils)は中和作用を有していた。
そこでSpermineはFractionVに吸着されて毒性を失うのか、それとも別のものになるのか、という疑問がおこった。
FractionV(NBC製)3mg/mlとH3-Spermine 20μCi/ml(PBS)を混合し、これを37℃、24hr加温するのとしないのと比較を試みた。これは0.4M
PCAで除蛋白し2,500rpm10分→上清に0.4M PCAを加え、CK-10Sのレジンをつめた0.8cm径x7cmのカラムで60℃、0.6ml/minでeluteした結果(図を呈示)、FractionVとincubateすると無処理のSpermine自体に相当するpeakは消え、別の処にpeaksが現われた。つまりSpermineが変性して別のものになったのである。
B.スペルミンの毒性に関与したアルブミンの役割:
FBS、Bovine serumのalbumin分劃をスペルミンと同時に添加するとスペルミンの毒性が助長されることはすでに報告したが、Bovine
serum albuminから脂質を除くと、その毒性助長の効果は弱くなる。そこでスペルミンの毒性助長には脂質が関与しているのではないかと、スペルミン+Bovine
albumin+脂質の実験を行った(表を呈示)。結果は、脂肪酸freeのBovine
albumin(MILES)にコーン油0.02%添加又はコーン油のみ0.02%添加で、スペルミンの毒性助長がみられた。しかし、対照のスペルミン無添加、コーン油のみ添加群にも増殖阻害がみられた点に問題を残している。次にBovine
serumのalbuminをクロロフォルム・メタノール処理で溶出する物質と溶けないで粉末のまま残る物質とに分けてスペルミンと同時に添加した。結果は矢張り溶出した物質のほうが毒性助長の作用を強く持っていた。
:質疑応答:
[翠川]脂質を溶かす為にはアルコールを使ったのでしょうが、その影響はどうですか。
[高岡]対照群の1つにアルコールのみの添加群がありますが、使用した濃度では全く増殖に影響ありません。
[乾 ]ある一つの脂肪酸の働きだと考えていますか。
[高岡]次にそれぞれの脂肪酸を一つづつ添加してみるつもりです。
[高木]超音波処理のコーン油とアルコールで溶かしたコーン油で違いがありますか。
[高岡]超音波処理したコーン油はみてありませんが、コーン油を使ったのは検討をつける為で、次はきれいな脂肪酸を一つ一つ加えて結果を出さないと、毒性助長の機構は判らないだろうと思っています。
[梅田]解毒の方はalbuminによる変性として判りやすいのですが、毒性促進の方は脂肪酸とどういう相互作用を考えていますか。
[高岡]スペルミンと脂肪酸が物として反応して毒性が増すというより、細胞膜に対するスペルミンの影響に脂肪酸が何か関与しているのではないかと考えています。
[山田]昔、スペルミンの細胞膜に対する影響を電気泳動法で調べ始めたことがあったのですが、スペルミンと肝癌毒性物質の関係がはっきりしなかったので中止していました。又やってみましょう。
《難波報告》
30:ヒトとマウスの正常2倍体細胞の4NQOに対する反応性の差違
化学発癌剤による癌化が非常に困難な正常ヒト2倍体細胞と、癌化しやすいマウスの細胞とを4NQOで処理した場合、どこに一番大きな差が出るか検討した。
その結果は(表を呈示)、クロモゾームの変化の項にのみ両細胞間に著しい差のあることが判った。マウスの細胞では、3.3x10-6乗M
4NQO 1hr処理、24hr後の染色体標本で30〜68%の細胞に異常がみられるのに対して、ヒトの場合は(表を呈示)10%前後の異常しか見い出されない。マウスの細胞はもともと培養によってクロモゾームが変化しやすい傾向があり、それに4NQOの効果が重なって著しい染色体の変化をおもすのかも知れない。
ヒトの細胞は培養条件で染色体は非常に安定でそれにAging現象と重なってヒト細胞の培養内癌化を困難にしているのかも知れない。
31:ヒトの染色体をなるだけ変化させるものは何か
(30)の項に述べたように染色体の変化を強くおこすものほどヒトの細胞の癌化を起す可能性がある。ヒト末梢血リンパ球を培養し、種々の方法で処理し、染色体の変化を調べた。(表を呈示)現在までの結論はレントゲン線のみが有意な染色体の変化を起す事が分る。
:質疑応答:
[吉田]このデータでは4NQO処理群の染色体異常がとても少ないですね。普通、染色体異常をおこすポジティブな対照として4NQOを使っている位ですがね。
[難波]私も意外でした。
[乾 ]リンパ球が他の細胞とは大変違うのかも知れません。
[翠川]リンパ球を使った理由は何ですか。
[難波]ヒトからの材料としては簡単に採れるからです。
[梅田]リンパ球は分劃して使っていますか。
[難波]赤血球を沈殿させ、血漿部分の全白血球の培養ですが、分葉核などは早いうちに死んでしまいます。
[乾 ]AF-2は佐々木、殿村のデータでは染色体異常が出ていますね。
[難波]私の実験では濃度が薄かったのか、出ませんでした。
[乾 ]ヒトの細胞は仲々染色体異常を起こさないのは何故でしょうか。
[難波]ヒトの進化はもう極まっているとか。そういう事でしょうかね。
《梅田報告》
今回の組織培養学会研究会で発表したfilter
culture法で先々月迄の報告に加わった新しい知見についてのみ記載する。さらに発癌性芳香族炭化水素による培養内発癌実験の際知っておきたい使用細胞のarylhydrocarbon
hydroxylase(AHH)活性の簡便な測定法について報告する。
(I)先々月の月報(7604)で各種細胞のfilter上の増生について報告したが以後試したものの中に人のリンパ球がある。浮遊株細胞の増殖にfilter法が良いとわかったので、normalで浮遊して増生する細胞としてリンパ球を試みた。末血をコンレイフィコール法によりリンパ球を分離しPHA加寒天平板上glass
fiber filter上に接種した。細胞数を多くした場合も、培養日数を多くした場合も細胞の増生は認められなかった。
(II)Replicaを数回試みたが、今の所成功していない。
(III)8AG培地で本当に抵抗性細胞のみ選択出来るとすると、filter上に生残している細胞はHAT培地にtransferした時すべて死滅する筈である。(表を呈示)6日迄8AG培地、以後HAT培地で培養したグループは期待に反しcolonyは無くなるどころか、却って小コロニーが多数出現した。このことは6日迄では8AG感受性細胞が死滅しておらず、6日後HAT培地に切り変えられたことにより之等が増生を開始したものと理解された。
(表を呈示)12日間8AG培地で培養し、以後HAT培地に移したグループは、16日間8AG培地で培養しHAT培地に移さなかったグループの25.3のPEに対し、4.3ケと明らかにコロニー数が減じているが、いまだコロニーガ残っていることは問題を潜めている。尚このグループにはまだ非常に小さいコロニーが生残していた。更に実験を繰り返す必要を感じている。
(IV)先の班会議でAHH測定法としてC14-benzo(a)pyrene(BP)の水溶性代謝物産生をみる時、0.25ml培養といった微量で簡便に測定可能であることを報告した。今回はこの方法を用いての基礎的条件を検討したので報告する。
Kouriらの報告によるとC3HマウスはAHH誘導能が高くmethylcholanthreneによる発癌性も高いとされている。AKRマウスでは両者ともに低いとされている。
(図を呈示)細胞の増殖とBP代謝との関係を調べてみると、C3Hマウス胎児細胞はBPに対する感受性が高くBPの代謝も盛んである。一方AKRマウス胎児細胞はC3Hマウス胎児細胞のそれに較べBP感受性は低くBPの代謝も低い。このデータを細胞あたりの代謝として換算してみると(図を呈示)、明らかにC3Hマウス胎児細胞の方がBPを代謝していることがわかる。
(V)(図を呈示)細胞数と水溶性代謝産物との関係を、C14-BP投与後24時間目の代謝で調べてみると、細胞数の一定範囲内では、細胞数に比例して代謝量が増加しているので、個々の培養条件の多少の違い、例えば細胞の増殖具合などは直接結果に影響することのないことが判明した。
(VI)上の結果はあったが、各種細胞について、一応以下の条件を定めてAHH代謝能を測定した。すなわち、10万個細胞/ml宛細胞をまいた後1日培養しC14-BPを加えさらに1日培養後に水溶性代謝産物の測定を行なった。(表を呈示)各種細胞について3回行なうことを目的としているが、大体において夫々の測定時におけるばらつきは少ないようである。
Y-CH、Y-AK、DL1で高値を示したことが興味ある。今後の発癌性芳香族炭化水素による発癌実験はこのような細胞を用いなければいけないと考えられる。
:質疑応答:
[遠藤]6TG耐性の細胞をHAT培地で培養するとどうなりますか。8AG耐性細胞の中には膜の透過性が無いために生存できるという形のものがあります。
[乾 ]8AG→HATで生残るコロニーを梅田さんの場合はどう考えますか。
[梅田]リバータントとは考えていません。真の耐性を拾っていないと考えています。
[難波]技法としてですが、200万個の植え込みは多すぎませんか。死んだ細胞の酵素が濾紙に残って作用することはありませんか。
[梅田]細胞数は確かに多すぎたと思います。しかし死んだ細胞については濾紙法では洗い流されるので軟寒天法より優れていると思います。
[山田]膜の透過性についてですが、細胞を殺さずに透過性を高める方法はありますか。
[遠藤]ある種のポリエンなど加えれば高められるでしょう。
[山田]以前そのことで苦労しました。透過性が増すと細胞死が多くなるのです。
[吉田]耐性の問題は単に生死の判定では無くて、遺伝的にどうかという事を調べるべきですね。染色体構成をよく調べてそのレベルで安定したものを使い、その変化と耐性とを結びつけて確認すれば、耐性になったり又消失したりはしないでしょう。
[勝田]ヒトの細胞で安定した系がほしいものですね。
《高木報告》
1.ラ氏島細胞の培養
今回はヒト胎児膵ラ氏島細胞の培養につきのべる。7605にも記載したが、その後も4〜5ケ月の胎児膵が入手できたので実験をくり返している。
方法は膵をはさみで細切後、50mlのナス型コルベンを入れた1000pu/ml
Dispase 10mlに浮遊し、これを37℃の恒温器内で20分間振盪した。終って1000rpm3分間遠沈して上清をすて、培地で1回洗ったのちTD401本に植込んだ。24〜48時間後に上清をdecantしてこれをFalconのPetri
dishまたはTD15に植込んだ。培地として3x modified
Eagle's mediumとF-12を用いたが、3x Eagle's
mediumでは良好な増殖がえられたがF-12ではラ氏島細胞の増殖はきわめて乏しかった。すなわち培地による細胞増殖のちがいが明らかに認められた。
3x Modified Eagle's mediumでは細胞はdecant後2〜3日してsheetを形成し増殖したが、insulinの分泌は3週すぎまでみられ、又形態的には40日までよく保たれた。しかし50日以上維持することは出来なかった。くり返し行った実験でも同様な成績を示した。
2.6DMAE-4HAQOによる膵ラ氏島腫の発生について
昨年の実験でSDラット、WKAラットに6DMAE-4HAQOを投与し、腺腫の発生を試みたが、SDラットよりWKAラットの方が発生率が大でった。しかし薬剤を静注で投与しなければならないために、生後2カ月のラッテを用い、腺腫の発生までに400日を要した。
In vivoでB細胞の増加は胎生18〜22日に著しく、生後のB細胞の分裂増殖は比較的少い。従ってこのB細胞に増加の盛んな胎生期に経胎盤的に薬剤を投与することを試みている。しかし現在までのところ、投与量20mg/kgでは母児ともに死亡し、妊娠中の薬剤感受性の変化について検討しなければならない。
:質疑応答:
[乾 ]経胎盤的に薬剤を投与した場合、24時間生きていれば使える筈ですよ。
[高木]産ませたいのです。
[勝田]ヒト膵培養を何とか長期間維持するためにホルモン添加など試したら・・・。
[高木]一時的にインスリンの産生を抑えたらどうかと考えて、培地中にインスリンを添加してみましたが、効果はありませんでした。
[吉田]分裂機能を高めるか・・・。
[遠藤]分化の方を止めることを考えるのですね。
[勝田]もう一息という感じになってきましたね。
[高岡]x3MEMはどんな培地ですか。
[高木]アミノ酸とビタミンが3倍で、但しグルタミンは1倍です。それに核酸とZnSO4とが加えてあります。
《乾報告》
AF-2投与によるハムスター胎児細胞の癌化
過去数回にわたりAF-2による染色体切断、突然変異、同物質経胎盤投与によるハムスター胎児細胞の形態転換を報告した。
本号で、ハムスター線維芽細胞にAF-2を直接投与して、細胞の培養内癌化を観察したので報告する。
実験方法と材料:実験には妊娠12〜13日のハムスター胎児由来の線維芽細胞、培養2代目を使用した。培養条件は、Dulbecco's
MEM+20%FCSの培地を使用し、5%炭酸ガス添加空気中で細胞を培養した。3種のニトロフラン(化合物の図を呈示)の他にBenz[a]pyreneを使用した。化合物は培地中で1x10-5乗〜1x10-6乗
6、24時間投与した。
実験結果:AF-2投与後の細胞の累積増殖曲線の一部を図に示す。
対照のDMSO投与細胞は、投与後50日前後で増殖を停止した。
AF-2、5x10-6乗M投与群は、投与後30数日で形態転換し、10日以内の細胞をハムスターに移植した所、ハムスターチークパウチに腫瘤を形成した。ニトロ・メチルフラン、ニトロ・フリルチアゾール投与細胞も1例をのぞいて、増殖能を獲得したが、形態転換は起こさなかった。Bp投与群の一例投与後、80日で形態転換を示した。(図を呈示)AF-2投与細胞群のAF-2投与後の増殖曲線を示した。対照の6例は1例をのぞいて投与後30〜50日で増殖能を失った。AF-2
1x10-6乗M投与群の細胞も同様の結果を示した。AF-2
5x10-6乗M、1x10-5乗M投与細胞11例中6例は増殖を継続し、投与後60日以内に内3例が形態転換し、その内1例が悪性転換し、ハムスターチークパウチに腫瘤を形成した。
(表を呈示)形態変換した細胞の生物学的特性を記す。対照のDMSO投与細胞に比してコロニー形成率は著しく増大した。Population
doubling timeは短縮し、対照のそれに比して1/2になった。Saturation
densityは5〜10倍に上った。AF-2投与群の5x10-6乗M投与群の1例(AF564)の細胞を10万個ハムスターに投与した所、ハムスターに腫瘤を形成した。他の2例は、移植後腫瘤形成はみられなかった。ハムスターに腫瘤を形成したAF564細胞は軟寒天中でコロニーを形成した。(表を呈示)5,000〜10,000個シャーレに播種後形成したコロニーの形態転換率は、短期実験でも5x10-6乗M以上投与群で形態転換コロニーの出現率が増加した。
:質疑応答:
[翠川]AF-2の場合、多量、長期間添加すれば変異率が高くなるとは言えないのですね。
[乾 ]一つには死ぬ細胞が多くなって変異率が下がります。
[翠川]ハムスターを使った理由は何故ですか。
[乾 ]ハムスターは染色体についてのデータが沢山ありますし、染色体レベルの変異をみやすい利点があります。マウスはウィルスの問題が引っ掛かりますし、ラッテは変異しにくいようです。それにハムスターにはチークポーチという便利なものがあります。
[吉田]しかしゴールデンハムスターはもう古いですよ。チャイニーズハムスターの方が染色体分析の上から有利です。
[乾 ]チャイニーズでの発癌実験は報告例が少ないです。それに飼育が難しい。
[吉田]雄が逃げ込む場所を作ってやれば、今では飼育もそう難しくありません。
[乾 ]染色体だけでいうなら、ムンチャクの方が良いでしょう。
《山田報告》
1.Muntiacus muntjak vaginalis;chromosomeの表面荷電を検索すべく、現在より多くの細胞を得る様努力しています。現在の所この株は大部分fibroblast様の細胞ですが、一部に偏平な細胞が混じて居り、以前に測定した同種の細胞株(肺組織由来)に比べて増殖率はよく平均泳動度は高い様です。1〜2カ月中に同調培養を行いchromosomeを採取の予定。
2.RLC-21のclone株;染色体の変化に伴って起る表面荷電の変化を検出する目的で、この株のcolonial
cloningを65ケ行い、2〜3ケの株が採取されさうです。あまり効率が良くない様な気がしますので、もう一工夫の必要があると考えています。
3.Glucagon or Insulin培養メヂウム内添加24h後の表面の変化(ラット培養肝細胞及び肝癌細胞);前報で報告しましたごとく、電顕的に見えるRLC株の細胞質内グリコーゲン顆粒が培養メヂウム内にグルカゴン添加により変化することを見出しました。そこで今回は、JTC-16(肝癌細胞)と、RLC-20、RLC-16の三株について、改めて検索すると共にメヂウム中のグルコースの消費量、表面荷電の変化、そして電顕的観察を同時に行い検討しました。その成績のうち、現在まで成績の出ている電気泳動的変化についての結果を報告します。
(図を呈示)方法としては植えこみ後4日目にglucagon(1.3及び6.0mg/dl)及びInsulin(0.5及び1.0mg/dl)をそれぞれ加え、24時間後に細胞を採取し、その電気泳動度(E.P.M.)を測定すると共にその一部をConA
2μg/ml処理及びNeuraminidase(5u)(ラット赤血球のE.P.M.を10%低下させる濃度)処理した後の変化を併せて検討しました。
上記の前処理(24時間Insulin or Glucagon添加)によってはそのE.P.M.は著明な変化を生じませんが、それぞれの状態における膜表面の性質はかなり異って来ました。
特筆すべき點は、JTC-16(培養肝癌細胞)と、RLC-20、RLC-16の非癌細胞の間にConAに対する反応性が全く逆な変化が出たことです。即ちConAによるE.P.M.の変動についてみると、肝癌細胞の場合には、あらかじめGlucagon
6.0mg/dl添加した場合に最も反応性が高まり、約10%前後の高値を示す。ところがRLC-20、-16の場合は同じ条件でむしろConAに対する反応は減少する點が注目されます。その際肝癌細胞では特にNeuraminidaseの感受性が高まる(すなわちシアル酸依存の荷電密度が高まって居る)ことも従来のこの種の変化と一致した成績です。RLC-20、-16相互を比較すると、前者ではグルカゴン1.3mg/dlにより後者ではインシュリン0.5mg/dlにより、ConAの反応性がより低下して居ました。このことは前報の電顕写真の所見にもみるように、同じ非癌細胞でもグルカゴンに対する反応性がかなり異ることを示すものと思います。更に検討してその意義を明らかにしたいと思って居ります。
:質疑応答:
[久米川]グルカゴンは処理後、何時間で電顕写真を撮られましたか。
[山田]グルカゴンはシグマ製で、1.3mg/dl、24時間処理しました。
《久米川報告》
酵素を用いないで分散した胎児肝臓のmono
layer culture
妊娠14〜19日に至る各年齡のマウス胎児肝臓をハサミを用いてできる限り細切した後、培養液を加え軽くポンピングし、メッシュをとおして組織片を除去した。細胞浮遊液に培養液(DM-153+10%Calf
serum)を適当に加え、シャーレに分注、炭酸ガスフランキで培養した。1/5程度の培養液を2〜3日毎に追加し、培養した。
培養2〜3日間はほとんど赤血球から成っているように見えるが、赤血球の死滅後、2種類の細胞が観察される。
その1つは紡錘形の細胞で、シャーレに付着する(線維芽細胞様)。他の1つの細胞は赤血球より少し大きく、形は円形で浮遊している。培養とともに円形の細胞は紡錘形の細胞の上に集まり付着する。さらに培養を続けると、ときにはあたかもorgan
cultureした肝臓と同様の構造が見られる。
付着した円形細胞は、ポンピングのみでは剥離することはできないので両細胞を一緒にホモジネートし、2〜3の酵素活性を調べた。(表を呈示)organ
cultureしたものに比べ活性値は低いが、培養20日後でも、それぞれの酵素活性は維持されていた。
胎児の年齢によって特に差は認められなかった。円形をした細胞が肝細胞だろうと考えられるが、今後酵素組織化学(G-6-Pase)および蛍光抗体法(albumin)によって細胞の同定または円形細胞の分離、継代を試みてみたい。
:質疑応答:
[加藤]培養前のマウス胎児肝の酵素活性とも比較してほしいですね。
[吉田]それから再生肝のような未分化な細胞の活性とも比べるといいでしょう。
[翠川]肝細胞の機能の同定にビリルビンのことを余りみていませんね。胆汁を作るかどうかも調べればよいと思うのですが。
[乾 ]肝にはステム細胞のようなものがありますか。
[翠川]あります。
《関口報告》
人癌細胞の培養 1.胃癌細胞株の樹立
わが国では、胃癌の発生頻度の高いことを反映して、胃癌の培養も多く試みられ、私が調べた範囲でも9細胞株の樹立の報告があるが、多くは現存せず、また細胞の同定の不充分なものもあって、確かに胃癌由来であると考えられる培養細胞株は極めて少ない。
私は各種人癌の培養を試みているが、胃癌由来と同定しえた1細胞株を樹立した。
患者病歴:55才の男子、昭和41年5月、胃体部の鶏卵大の癌に対し胃全摘手術を川崎市立川崎病院で受けた。組織像はSignet
ring cell carcinomaであった。昭和49年3月医科研付属病院に入院。鎖骨上窩に転移を認めた。左胸腔に胸水貯留。4月死亡。
培養法:昭和49年4月10日胸水中に浮遊する細胞を遠沈し集めて培養を開始した。培養液は40%RPMI1640+40%MEMに20%FCSまたはヒト臍帯血清を加え、あるいは25%RPMI1640+25%MEMに50%自家胸水を加えたものを用いた。容器は径45mmのガラス・シャーレを用いた。1つのシャーレに約100万個の細胞を植込み、炭酸ガス培養器内で培養を開始した。
培養経過:10日目頃よりガラス面に付着した細胞の上に球状の浮遊細胞が増殖し始めた。12日目に浮遊細胞を集めて初めてsubcultureを行ない、以後6〜10日おきにsubcultureを行なった。FCSを用いた培養細胞KATO-Iは6カ月目にcontaminationにより全滅。自家胸水を用いた培養は2カ月で増殖低下し消滅。臍帯血清を用いた培養細胞KATO-IIは良好な増殖を続けており、現在2年1カ月、78代になる。KATO-IIの11代より血清をFCSに変えて維持した細胞KATO-IIIは、IIを上廻る増殖を示し、現在90代に至っている(図を呈示)。
生物学的性状:KATO-II、29代のgrowth curveより計算したdoubling
timeは77時間、KATO-III、60代のdoubling timeは36時間であった。染色体数のモードは89にあり34%を占める。異種移植による細胞の同定では、ATS処理ハムスターに1,000万個移植した場合腫瘤を形成したが、その組織像は原発巣とよく類似したsignet
ring cell carcinomaであった。
:質疑応答:
[勝田]これらの株細胞は何に使うつもりですか。
[関口]私の研究室での主な仕事としての癌免疫の実験に使う予定です。
[翠川]RPMI1640を使ったのには何か理由がありますか。
[関口]人癌培養によく使われていたので使いました。私の場合はRPMI1640
50%+MEM 50%で使っています。
[遠藤]この例以外にも復元が成功した胃癌細胞株がありますか。
[関口]大分調べてみましたが、どうも私のが初めてのようです。
[山田]培養の成功率はどの位ですか。
[関口]例が多くないのではっきりはしませんが、腹水からの成功率が高いようです。
《榊原報告》
ヌードマウスの生理的背景について:
医科研実験動物施設でspecific pathogen freeのもとに飼育されたヌードマウス(BALB/C-nu/nu)と、conventionalな条件下に飼育された対照(BALB/C-nu/t)各10匹ずつにつき、体重、臓器重量、末梢血球数、血液像、血清総蛋白量、血清蛋白分劃比をしらべ、全臓器の病理形態学的検索を行なった。動物のAgeは8週令、性は雄である。(表を呈示)先ず対照に比し、体重が少ない。だが各臓器の体重比をとってみると殆ど差はない。ただ、胸腺を完全に欠如していることは解剖で確認できた。血清総蛋白量は対照と有意差はないが、その内訳には顕著な差が認められる。即ち総じてglobulin量が少くalbumin量が多い。とくにγ-globulinは、対照の8.3%に対し、3.5%と著しく低値である。白血球数及び赤血球数が著明に少い。とくにリンパ球数は血液像から算出すると対照の5752/立方mmに対して2517/立方mmと半数以下の値である。病理形態学的所見としては、脾の白脾髄中心の動脈周囲及びリンパ節の傍皮質領域のlymphoid
cell depletionが目立った。5月の月報に報告した通り、ATS投与ハムスターでは血清globulin分劃の増加、とくにγ-glob.値が著明に上昇している。この点を除けば−勿論thymusの有無という大きな違いはあるが−検索した範囲内でヌードマウスとATS投与ハムスターとは対照からの偏りに共通性が認められる。一見相反する結果とみられるγ-globulin値についても、Tcellが、Bcellに対してhelper
actionとsuppressor actionという相反する作用をもつことを考慮に入れるなら、必ずしも矛盾するデータとは思えない。ヌードマウスに関して、現在その意義が不明とされている点は幾つかあるが、とくにathymicであるにも拘わらずB抗原陽性のリンパ球が常に数%存在していること、免疫監視機構の不全があるにも拘わらず、自然発癌率が対照マウスと同一であること、胸腺液性因子が内分泌器官の発育を左右していると云われるにも拘わらず、内分泌機構は全く正常であること等々が挙げられている。
【勝田班月報:7606:ヌードマウスの生理的背景】
《勝田報告》
A.スペルミンの細胞毒性の中和(つづき)
(おさらい)ポリアミンの内ではスペルミンが最も細胞毒性が高い。良性な細胞ほどスペルミンに弱い。FCS、Bovine
serumのalbumin分劃を同時に添加するとスペルミンの毒性が助長される。ところがスペルミンにあらかじめ血清その他を添加して37℃、24時間加温してから培地に添加するとスペルミンの毒作用が著明に減少される。この作用は大体Bovine
albumin分劃によるらしく、他の高分子物質では消退されなかった。Armourのbovine
fractionVでしらべると60℃、30分の処理ではfractionVの中和作用は消えず、100℃、2分では少し消えた。トリプシン消化(37℃、2hr)ではさらに消えた。Fattyacid-freeのfractionV(mils)は中和作用を有していた。
そこでSpermineはFractionVに吸着されて毒性を失うのか、それとも別のものになるのか、という疑問がおこった。
FractionV(NBC製)3mg/mlとH3-Spermine 20μCi/ml(PBS)を混合し、これを37℃、24hr加温するのとしないのと比較を試みた。これは0.4M
PCAで除蛋白し2,500rpm10分→上清に0.4M PCAを加え、CK-10Sのレジンをつめた0.8cm径x7cmのカラムで60℃、0.6ml/minでeluteした結果(図を呈示)、FractionVとincubateすると無処理のSpermine自体に相当するpeakは消え、別の処にpeaksが現われた。つまりSpermineが変性して別のものになったのである。
B.スペルミンの毒性に関与したアルブミンの役割:
FBS、Bovine serumのalbumin分劃をスペルミンと同時に添加するとスペルミンの毒性が助長されることはすでに報告したが、Bovine
serum albuminから脂質を除くと、その毒性助長の効果は弱くなる。そこでスペルミンの毒性助長には脂質が関与しているのではないかと、スペルミン+Bovine
albumin+脂質の実験を行った(表を呈示)。結果は、脂肪酸freeのBovine
albumin(MILES)にコーン油0.02%添加又はコーン油のみ0.02%添加で、スペルミンの毒性助長がみられた。しかし、対照のスペルミン無添加、コーン油のみ添加群にも増殖阻害がみられた点に問題を残している。次にBovine
serumのalbuminをクロロフォルム・メタノール処理で溶出する物質と溶けないで粉末のまま残る物質とに分けてスペルミンと同時に添加した。結果は矢張り溶出した物質のほうが毒性助長の作用を強く持っていた。
:質疑応答:
[翠川]脂質を溶かす為にはアルコールを使ったのでしょうが、その影響はどうですか。
[高岡]対照群の1つにアルコールのみの添加群がありますが、使用した濃度では全く増殖に影響ありません。
[乾 ]ある一つの脂肪酸の働きだと考えていますか。
[高岡]次にそれぞれの脂肪酸を一つづつ添加してみるつもりです。
[高木]超音波処理のコーン油とアルコールで溶かしたコーン油で違いがありますか。
[高岡]超音波処理したコーン油はみてありませんが、コーン油を使ったのは検討をつける為で、次はきれいな脂肪酸を一つ一つ加えて結果を出さないと、毒性助長の機構は判らないだろうと思っています。
[梅田]解毒の方はalbuminによる変性として判りやすいのですが、毒性促進の方は脂肪酸とどういう相互作用を考えていますか。
[高岡]スペルミンと脂肪酸が物として反応して毒性が増すというより、細胞膜に対するスペルミンの影響に脂肪酸が何か関与しているのではないかと考えています。
[山田]昔、スペルミンの細胞膜に対する影響を電気泳動法で調べ始めたことがあったのですが、スペルミンと肝癌毒性物質の関係がはっきりしなかったので中止していました。又やってみましょう。
《難波報告》
30:ヒトとマウスの正常2倍体細胞の4NQOに対する反応性の差違
化学発癌剤による癌化が非常に困難な正常ヒト2倍体細胞と、癌化しやすいマウスの細胞とを4NQOで処理した場合、どこに一番大きな差が出るか検討した。
その結果は(表を呈示)、クロモゾームの変化の項にのみ両細胞間に著しい差のあることが判った。マウスの細胞では、3.3x10-6乗M
4NQO 1hr処理、24hr後の染色体標本で30〜68%の細胞に異常がみられるのに対して、ヒトの場合は(表を呈示)10%前後の異常しか見い出されない。マウスの細胞はもともと培養によってクロモゾームが変化しやすい傾向があり、それに4NQOの効果が重なって著しい染色体の変化をおもすのかも知れない。
ヒトの細胞は培養条件で染色体は非常に安定でそれにAging現象と重なってヒト細胞の培養内癌化を困難にしているのかも知れない。
31:ヒトの染色体をなるだけ変化させるものは何か
(30)の項に述べたように染色体の変化を強くおこすものほどヒトの細胞の癌化を起す可能性がある。ヒト末梢血リンパ球を培養し、種々の方法で処理し、染色体の変化を調べた。(表を呈示)現在までの結論はレントゲン線のみが有意な染色体の変化を起す事が分る。
:質疑応答:
[吉田]このデータでは4NQO処理群の染色体異常がとても少ないですね。普通、染色体異常をおこすポジティブな対照として4NQOを使っている位ですがね。
[難波]私も意外でした。
[乾 ]リンパ球が他の細胞とは大変違うのかも知れません。
[翠川]リンパ球を使った理由は何ですか。
[難波]ヒトからの材料としては簡単に採れるからです。
[梅田]リンパ球は分劃して使っていますか。
[難波]赤血球を沈殿させ、血漿部分の全白血球の培養ですが、分葉核などは早いうちに死んでしまいます。
[乾 ]AF-2は佐々木、殿村のデータでは染色体異常が出ていますね。
[難波]私の実験では濃度が薄かったのか、出ませんでした。
[乾 ]ヒトの細胞は仲々染色体異常を起こさないのは何故でしょうか。
[難波]ヒトの進化はもう極まっているとか。そういう事でしょうかね。
《梅田報告》
今回の組織培養学会研究会で発表したfilter
culture法で先々月迄の報告に加わった新しい知見についてのみ記載する。さらに発癌性芳香族炭化水素による培養内発癌実験の際知っておきたい使用細胞のarylhydrocarbon
hydroxylase(AHH)活性の簡便な測定法について報告する。
(I)先々月の月報(7604)で各種細胞のfilter上の増生について報告したが以後試したものの中に人のリンパ球がある。浮遊株細胞の増殖にfilter法が良いとわかったので、normalで浮遊して増生する細胞としてリンパ球を試みた。末血をコンレイフィコール法によりリンパ球を分離しPHA加寒天平板上glass
fiber filter上に接種した。細胞数を多くした場合も、培養日数を多くした場合も細胞の増生は認められなかった。
(II)Replicaを数回試みたが、今の所成功していない。
(III)8AG培地で本当に抵抗性細胞のみ選択出来るとすると、filter上に生残している細胞はHAT培地にtransferした時すべて死滅する筈である。(表を呈示)6日迄8AG培地、以後HAT培地で培養したグループは期待に反しcolonyは無くなるどころか、却って小コロニーが多数出現した。このことは6日迄では8AG感受性細胞が死滅しておらず、6日後HAT培地に切り変えられたことにより之等が増生を開始したものと理解された。
(表を呈示)12日間8AG培地で培養し、以後HAT培地に移したグループは、16日間8AG培地で培養しHAT培地に移さなかったグループの25.3のPEに対し、4.3ケと明らかにコロニー数が減じているが、いまだコロニーガ残っていることは問題を潜めている。尚このグループにはまだ非常に小さいコロニーが生残していた。更に実験を繰り返す必要を感じている。
(IV)先の班会議でAHH測定法としてC14-benzo(a)pyrene(BP)の水溶性代謝物産生をみる時、0.25ml培養といった微量で簡便に測定可能であることを報告した。今回はこの方法を用いての基礎的条件を検討したので報告する。
Kouriらの報告によるとC3HマウスはAHH誘導能が高くmethylcholanthreneによる発癌性も高いとされている。AKRマウスでは両者ともに低いとされている。
(図を呈示)細胞の増殖とBP代謝との関係を調べてみると、C3Hマウス胎児細胞はBPに対する感受性が高くBPの代謝も盛んである。一方AKRマウス胎児細胞はC3Hマウス胎児細胞のそれに較べBP感受性は低くBPの代謝も低い。このデータを細胞あたりの代謝として換算してみると(図を呈示)、明らかにC3Hマウス胎児細胞の方がBPを代謝していることがわかる。
(V)(図を呈示)細胞数と水溶性代謝産物との関係を、C14-BP投与後24時間目の代謝で調べてみると、細胞数の一定範囲内では、細胞数に比例して代謝量が増加しているので、個々の培養条件の多少の違い、例えば細胞の増殖具合などは直接結果に影響することのないことが判明した。
(VI)上の結果はあったが、各種細胞について、一応以下の条件を定めてAHH代謝能を測定した。すなわち、10万個細胞/ml宛細胞をまいた後1日培養しC14-BPを加えさらに1日培養後に水溶性代謝産物の測定を行なった。(表を呈示)各種細胞について3回行なうことを目的としているが、大体において夫々の測定時におけるばらつきは少ないようである。
Y-CH、Y-AK、DL1で高値を示したことが興味ある。今後の発癌性芳香族炭化水素による発癌実験はこのような細胞を用いなければいけないと考えられる。
:質疑応答:
[遠藤]6TG耐性の細胞をHAT培地で培養するとどうなりますか。8AG耐性細胞の中には膜の透過性が無いために生存できるという形のものがあります。
[乾 ]8AG→HATで生残るコロニーを梅田さんの場合はどう考えますか。
[梅田]リバータントとは考えていません。真の耐性を拾っていないと考えています。
[難波]技法としてですが、200万個の植え込みは多すぎませんか。死んだ細胞の酵素が濾紙に残って作用することはありませんか。
[梅田]細胞数は確かに多すぎたと思います。しかし死んだ細胞については濾紙法では洗い流されるので軟寒天法より優れていると思います。
[山田]膜の透過性についてですが、細胞を殺さずに透過性を高める方法はありますか。
[遠藤]ある種のポリエンなど加えれば高められるでしょう。
[山田]以前そのことで苦労しました。透過性が増すと細胞死が多くなるのです。
[吉田]耐性の問題は単に生死の判定では無くて、遺伝的にどうかという事を調べるべきですね。染色体構成をよく調べてそのレベルで安定したものを使い、その変化と耐性とを結びつけて確認すれば、耐性になったり又消失したりはしないでしょう。
[勝田]ヒトの細胞で安定した系がほしいものですね。
《高木報告》
1.ラ氏島細胞の培養
今回はヒト胎児膵ラ氏島細胞の培養につきのべる。7605にも記載したが、その後も4〜5ケ月の胎児膵が入手できたので実験をくり返している。
方法は膵をはさみで細切後、50mlのナス型コルベンを入れた1000pu/ml
Dispase 10mlに浮遊し、これを37℃の恒温器内で20分間振盪した。終って1000rpm3分間遠沈して上清をすて、培地で1回洗ったのちTD401本に植込んだ。24〜48時間後に上清をdecantしてこれをFalconのPetri
dishまたはTD15に植込んだ。培地として3x modified
Eagle's mediumとF-12を用いたが、3x Eagle's
mediumでは良好な増殖がえられたがF-12ではラ氏島細胞の増殖はきわめて乏しかった。すなわち培地による細胞増殖のちがいが明らかに認められた。
3x Modified Eagle's mediumでは細胞はdecant後2〜3日してsheetを形成し増殖したが、insulinの分泌は3週すぎまでみられ、又形態的には40日までよく保たれた。しかし50日以上維持することは出来なかった。くり返し行った実験でも同様な成績を示した。
2.6DMAE-4HAQOによる膵ラ氏島腫の発生について
昨年の実験でSDラット、WKAラットに6DMAE-4HAQOを投与し、腺腫の発生を試みたが、SDラットよりWKAラットの方が発生率が大でった。しかし薬剤を静注で投与しなければならないために、生後2カ月のラッテを用い、腺腫の発生までに400日を要した。
In vivoでB細胞の増加は胎生18〜22日に著しく、生後のB細胞の分裂増殖は比較的少い。従ってこのB細胞に増加の盛んな胎生期に経胎盤的に薬剤を投与することを試みている。しかし現在までのところ、投与量20mg/kgでは母児ともに死亡し、妊娠中の薬剤感受性の変化について検討しなければならない。
:質疑応答:
[乾 ]経胎盤的に薬剤を投与した場合、24時間生きていれば使える筈ですよ。
[高木]産ませたいのです。
[勝田]ヒト膵培養を何とか長期間維持するためにホルモン添加など試したら・・・。
[高木]一時的にインスリンの産生を抑えたらどうかと考えて、培地中にインスリンを添加してみましたが、効果はありませんでした。
[吉田]分裂機能を高めるか・・・。
[遠藤]分化の方を止めることを考えるのですね。
[勝田]もう一息という感じになってきましたね。
[高岡]x3MEMはどんな培地ですか。
[高木]アミノ酸とビタミンが3倍で、但しグルタミンは1倍です。それに核酸とZnSO4とが加えてあります。
《乾報告》
AF-2投与によるハムスター胎児細胞の癌化
過去数回にわたりAF-2による染色体切断、突然変異、同物質経胎盤投与によるハムスター胎児細胞の形態転換を報告した。
本号で、ハムスター線維芽細胞にAF-2を直接投与して、細胞の培養内癌化を観察したので報告する。
実験方法と材料:実験には妊娠12〜13日のハムスター胎児由来の線維芽細胞、培養2代目を使用した。培養条件は、Dulbecco's
MEM+20%FCSの培地を使用し、5%炭酸ガス添加空気中で細胞を培養した。3種のニトロフラン(化合物の図を呈示)の他にBenz[a]pyreneを使用した。化合物は培地中で1x10-5乗〜1x10-6乗
6、24時間投与した。
実験結果:AF-2投与後の細胞の累積増殖曲線の一部を図に示す。
対照のDMSO投与細胞は、投与後50日前後で増殖を停止した。
AF-2、5x10-6乗M投与群は、投与後30数日で形態転換し、10日以内の細胞をハムスターに移植した所、ハムスターチークパウチに腫瘤を形成した。ニトロ・メチルフラン、ニトロ・フリルチアゾール投与細胞も1例をのぞいて、増殖能を獲得したが、形態転換は起こさなかった。Bp投与群の一例投与後、80日で形態転換を示した。(図を呈示)AF-2投与細胞群のAF-2投与後の増殖曲線を示した。対照の6例は1例をのぞいて投与後30〜50日で増殖能を失った。AF-2
1x10-6乗M投与群の細胞も同様の結果を示した。AF-2
5x10-6乗M、1x10-5乗M投与細胞11例中6例は増殖を継続し、投与後60日以内に内3例が形態転換し、その内1例が悪性転換し、ハムスターチークパウチに腫瘤を形成した。
(表を呈示)形態変換した細胞の生物学的特性を記す。対照のDMSO投与細胞に比してコロニー形成率は著しく増大した。Population
doubling timeは短縮し、対照のそれに比して1/2になった。Saturation
densityは5〜10倍に上った。AF-2投与群の5x10-6乗M投与群の1例(AF564)の細胞を10万個ハムスターに投与した所、ハムスターに腫瘤を形成した。他の2例は、移植後腫瘤形成はみられなかった。ハムスターに腫瘤を形成したAF564細胞は軟寒天中でコロニーを形成した。(表を呈示)5,000〜10,000個シャーレに播種後形成したコロニーの形態転換率は、短期実験でも5x10-6乗M以上投与群で形態転換コロニーの出現率が増加した。
:質疑応答:
[翠川]AF-2の場合、多量、長期間添加すれば変異率が高くなるとは言えないのですね。
[乾 ]一つには死ぬ細胞が多くなって変異率が下がります。
[翠川]ハムスターを使った理由は何故ですか。
[乾 ]ハムスターは染色体についてのデータが沢山ありますし、染色体レベルの変異をみやすい利点があります。マウスはウィルスの問題が引っ掛かりますし、ラッテは変異しにくいようです。それにハムスターにはチークポーチという便利なものがあります。
[吉田]しかしゴールデンハムスターはもう古いですよ。チャイニーズハムスターの方が染色体分析の上から有利です。
[乾 ]チャイニーズでの発癌実験は報告例が少ないです。それに飼育が難しい。
[吉田]雄が逃げ込む場所を作ってやれば、今では飼育もそう難しくありません。
[乾 ]染色体だけでいうなら、ムンチャクの方が良いでしょう。
《山田報告》
1.Muntiacus muntjak vaginalis;chromosomeの表面荷電を検索すべく、現在より多くの細胞を得る様努力しています。現在の所この株は大部分fibroblast様の細胞ですが、一部に偏平な細胞が混じて居り、以前に測定した同種の細胞株(肺組織由来)に比べて増殖率はよく平均泳動度は高い様です。1〜2カ月中に同調培養を行いchromosomeを採取の予定。
2.RLC-21のclone株;染色体の変化に伴って起る表面荷電の変化を検出する目的で、この株のcolonial
cloningを65ケ行い、2〜3ケの株が採取されさうです。あまり効率が良くない様な気がしますので、もう一工夫の必要があると考えています。
3.Glucagon or Insulin培養メヂウム内添加24h後の表面の変化(ラット培養肝細胞及び肝癌細胞);前報で報告しましたごとく、電顕的に見えるRLC株の細胞質内グリコーゲン顆粒が培養メヂウム内にグルカゴン添加により変化することを見出しました。そこで今回は、JTC-16(肝癌細胞)と、RLC-20、RLC-16の三株について、改めて検索すると共にメヂウム中のグルコースの消費量、表面荷電の変化、そして電顕的観察を同時に行い検討しました。その成績のうち、現在まで成績の出ている電気泳動的変化についての結果を報告します。
(図を呈示)方法としては植えこみ後4日目にglucagon(1.3及び6.0mg/dl)及びInsulin(0.5及び1.0mg/dl)をそれぞれ加え、24時間後に細胞を採取し、その電気泳動度(E.P.M.)を測定すると共にその一部をConA
2μg/ml処理及びNeuraminidase(5u)(ラット赤血球のE.P.M.を10%低下させる濃度)処理した後の変化を併せて検討しました。
上記の前処理(24時間Insulin or Glucagon添加)によってはそのE.P.M.は著明な変化を生じませんが、それぞれの状態における膜表面の性質はかなり異って来ました。
特筆すべき點は、JTC-16(培養肝癌細胞)と、RLC-20、RLC-16の非癌細胞の間にConAに対する反応性が全く逆な変化が出たことです。即ちConAによるE.P.M.の変動についてみると、肝癌細胞の場合には、あらかじめGlucagon
6.0mg/dl添加した場合に最も反応性が高まり、約10%前後の高値を示す。ところがRLC-20、-16の場合は同じ条件でむしろConAに対する反応は減少する點が注目されます。その際肝癌細胞では特にNeuraminidaseの感受性が高まる(すなわちシアル酸依存の荷電密度が高まって居る)ことも従来のこの種の変化と一致した成績です。RLC-20、-16相互を比較すると、前者ではグルカゴン1.3mg/dlにより後者ではインシュリン0.5mg/dlにより、ConAの反応性がより低下して居ました。このことは前報の電顕写真の所見にもみるように、同じ非癌細胞でもグルカゴンに対する反応性がかなり異ることを示すものと思います。更に検討してその意義を明らかにしたいと思って居ります。
:質疑応答:
[久米川]グルカゴンは処理後、何時間で電顕写真を撮られましたか。
[山田]グルカゴンはシグマ製で、1.3mg/dl、24時間処理しました。
《久米川報告》
酵素を用いないで分散した胎児肝臓のmono
layer culture
妊娠14〜19日に至る各年齡のマウス胎児肝臓をハサミを用いてできる限り細切した後、培養液を加え軽くポンピングし、メッシュをとおして組織片を除去した。細胞浮遊液に培養液(DM-153+10%Calf
serum)を適当に加え、シャーレに分注、炭酸ガスフランキで培養した。1/5程度の培養液を2〜3日毎に追加し、培養した。
培養2〜3日間はほとんど赤血球から成っているように見えるが、赤血球の死滅後、2種類の細胞が観察される。
その1つは紡錘形の細胞で、シャーレに付着する(線維芽細胞様)。他の1つの細胞は赤血球より少し大きく、形は円形で浮遊している。培養とともに円形の細胞は紡錘形の細胞の上に集まり付着する。さらに培養を続けると、ときにはあたかもorgan
cultureした肝臓と同様の構造が見られる。
付着した円形細胞は、ポンピングのみでは剥離することはできないので両細胞を一緒にホモジネートし、2〜3の酵素活性を調べた。(表を呈示)organ
cultureしたものに比べ活性値は低いが、培養20日後でも、それぞれの酵素活性は維持されていた。
胎児の年齢によって特に差は認められなかった。円形をした細胞が肝細胞だろうと考えられるが、今後酵素組織化学(G-6-Pase)および蛍光抗体法(albumin)によって細胞の同定または円形細胞の分離、継代を試みてみたい。
:質疑応答:
[加藤]培養前のマウス胎児肝の酵素活性とも比較してほしいですね。
[吉田]それから再生肝のような未分化な細胞の活性とも比べるといいでしょう。
[翠川]肝細胞の機能の同定にビリルビンのことを余りみていませんね。胆汁を作るかどうかも調べればよいと思うのですが。
[乾 ]肝にはステム細胞のようなものがありますか。
[翠川]あります。
《関口報告》
人癌細胞の培養 1.胃癌細胞株の樹立
わが国では、胃癌の発生頻度の高いことを反映して、胃癌の培養も多く試みられ、私が調べた範囲でも9細胞株の樹立の報告があるが、多くは現存せず、また細胞の同定の不充分なものもあって、確かに胃癌由来であると考えられる培養細胞株は極めて少ない。
私は各種人癌の培養を試みているが、胃癌由来と同定しえた1細胞株を樹立した。
患者病歴:55才の男子、昭和41年5月、胃体部の鶏卵大の癌に対し胃全摘手術を川崎市立川崎病院で受けた。組織像はSignet
ring cell carcinomaであった。昭和49年3月医科研付属病院に入院。鎖骨上窩に転移を認めた。左胸腔に胸水貯留。4月死亡。
培養法:昭和49年4月10日胸水中に浮遊する細胞を遠沈し集めて培養を開始した。培養液は40%RPMI1640+40%MEMに20%FCSまたはヒト臍帯血清を加え、あるいは25%RPMI1640+25%MEMに50%自家胸水を加えたものを用いた。容器は径45mmのガラス・シャーレを用いた。1つのシャーレに約100万個の細胞を植込み、炭酸ガス培養器内で培養を開始した。
培養経過:10日目頃よりガラス面に付着した細胞の上に球状の浮遊細胞が増殖し始めた。12日目に浮遊細胞を集めて初めてsubcultureを行ない、以後6〜10日おきにsubcultureを行なった。FCSを用いた培養細胞KATO-Iは6カ月目にcontaminationにより全滅。自家胸水を用いた培養は2カ月で増殖低下し消滅。臍帯血清を用いた培養細胞KATO-IIは良好な増殖を続けており、現在2年1カ月、78代になる。KATO-IIの11代より血清をFCSに変えて維持した細胞KATO-IIIは、IIを上廻る増殖を示し、現在90代に至っている(図を呈示)。
生物学的性状:KATO-II、29代のgrowth curveより計算したdoubling
timeは77時間、KATO-III、60代のdoubling timeは36時間であった。染色体数のモードは89にあり34%を占める。異種移植による細胞の同定では、ATS処理ハムスターに1,000万個移植した場合腫瘤を形成したが、その組織像は原発巣とよく類似したsignet
ring cell carcinomaであった。
:質疑応答:
[勝田]これらの株細胞は何に使うつもりですか。
[関口]私の研究室での主な仕事としての癌免疫の実験に使う予定です。
[翠川]RPMI1640を使ったのには何か理由がありますか。
[関口]人癌培養によく使われていたので使いました。私の場合はRPMI1640
50%+MEM 50%で使っています。
[遠藤]この例以外にも復元が成功した胃癌細胞株がありますか。
[関口]大分調べてみましたが、どうも私のが初めてのようです。
[山田]培養の成功率はどの位ですか。
[関口]例が多くないのではっきりはしませんが、腹水からの成功率が高いようです。
《榊原報告》
ヌードマウスの生理的背景について:
医科研実験動物施設でspecific pathogen freeのもとに飼育されたヌードマウス(BALB/C-nu/nu)と、conventionalな条件下に飼育された対照(BALB/C-nu/t)各10匹ずつにつき、体重、臓器重量、末梢血球数、血液像、血清総蛋白量、血清蛋白分劃比をしらべ、全臓器の病理形態学的検索を行なった。動物のAgeは8週令、性は雄である。(表を呈示)先ず対照に比し、体重が少ない。だが各臓器の体重比をとってみると殆ど差はない。ただ、胸腺を完全に欠如していることは解剖で確認できた。血清総蛋白量は対照と有意差はないが、その内訳には顕著な差が認められる。即ち総じてglobulin量が少くalbumin量が多い。とくにγ-globulinは、対照の8.3%に対し、3.5%と著しく低値である。白血球数及び赤血球数が著明に少い。とくにリンパ球数は血液像から算出すると対照の5752/立方mmに対して2517/立方mmと半数以下の値である。病理形態学的所見としては、脾の白脾髄中心の動脈周囲及びリンパ節の傍皮質領域のlymphoid
cell depletionが目立った。5月の月報に報告した通り、ATS投与ハムスターでは血清globulin分劃の増加、とくにγ-glob.値が著明に上昇している。この点を除けば−勿論thymusの有無という大きな違いはあるが−検索した範囲内でヌードマウスとATS投与ハムスターとは対照からの偏りに共通性が認められる。一見相反する結果とみられるγ-globulin値についても、Tcellが、Bcellに対してhelper
actionとsuppressor actionという相反する作用をもつことを考慮に入れるなら、必ずしも矛盾するデータとは思えない。ヌードマウスに関して、現在その意義が不明とされている点は幾つかあるが、とくにathymicであるにも拘わらずB抗原陽性のリンパ球が常に数%存在していること、免疫監視機構の不全があるにも拘わらず、自然発癌率が対照マウスと同一であること、胸腺液性因子が内分泌器官の発育を左右していると云われるにも拘わらず、内分泌機構は全く正常であること等々が挙げられている。
【勝田班月報:7608:ヒトリンパ系細胞の顕微鏡映画】
《勝田報告》
§ヒトリンパ系細胞の顕微鏡映画撮影
免疫学者の云う通りに、リンパ球のblastformationが本当にあるのか無いのか、自分の目の前でそれを確かめたいと、何年も前からヒトの末梢血のリンパ球を培養し、顕微鏡映画で追究した。しかし、PHAその他を入れると、細胞が凝集してしまってその内部で何が起っているのか見られなかった。H3-TdRのとり込みからみてもたしかにDNA合成は起っているが、それがどの細胞によるものかが判らない。
昨年の暮ごろ、当研究所臓器移植研究部の秋山君が何も添加しないて、異なる2人のリンパ系細胞を混合して培養してみたら如何、というアドバイスをしてくれた。早速やってみると、きわめて成績がよくて、細胞の凝集はほとんど起らず、細胞(リンパ)は硝子面に広く拡がりはしないが、1コ1コがはっきり見分けられ、使用に耐えることが判った。
そこで何回もその撮影をくりかえしてみた。今お目にかけるのは次の9カットである。1)混合培養、培養3〜6日。2)混合培養、培養6〜9日。3)単独培養、2〜5日。4)単独培養5〜8日。5)混合培養、13〜16日、細胞1コから2コに分裂。6)混合培養9〜12日、細胞1コから2コに分裂。7)以下6)の同一カットの連続撮影、12〜15日、細胞1コから2コに分裂。8)15〜18日、2コ→4コ。9)18〜21日、4コ→7コ。
混合したどちら側の細胞が分裂したかをしらべるため、男と女とを混合し、染色体のXYでしらべるように準備している。なお、細胞のgeneration
timeは約3日であった。
:質疑応答:
[梅田]分裂した細胞をよく見て居ると、どの場合も細胞の廻りに何かくっついていましたね。あれは血小板ではないでしょうか。血小板も刺戟になると云うことが言われていますから、他人の血小板だけ添加してみるのも面白いと思います。
[勝田]今の所はリンパ球の幼若化の真偽性を確かめたにすぎませんが、これから色々と実験してみる予定です。
[山田]PHA添加ではH3-TdR取り込みのピークは5〜6日ですがこの方法ではどうですか。
[高岡]少し遅れて10日位のようです。
[関口]総細胞は増えますか。
[高岡]今回は計数していませんが、映画の視野でみる限りでは死ぬものが可成りありますから、全体としては増えていないようです。
《難波報告》
33:ヒト皮膚上皮細胞の培養
ヒトの上皮細胞を用いて、培養内化学発癌実験を行なうための基礎実験として、比較的簡単に材料の得られるSkin
biopsyから上皮細胞の培養を試みている。現在、初代培養ではほとんど確実に上皮性細胞(表皮細胞)の増殖が得られるようになったので報告する。
◇実験方法:ヒト成人からBiopsyされた皮膚組織の真皮部分の結合組織を、ハサミかメスを用いてできるだけ除去する。そして、次の2方法で培養した。
1)Explanted culture法;表皮部分をさらにメスで細切(1〜2立方mm)して、60mmシャーレ表面に付着させ、DM-153+20%FCS+4.2x10-6乗M
Dexamethasone(Dex.)で培養。
2)Tripsinisation法;この方法は、Rheinwald
& Green(Cell,6:331-344,1975)に倣った。すなわち、細切した表皮を0.2%トリプシン(Difco
1:250)で処理し、分散した細胞を3,000〜4,000γ照射した。マウス細胞(BALB3T3
or 当研究室で培養しているC3H由来の線維芽細胞)上にまく。この実験の培地はMEM+20%FCS+4.2x10-6乗M
Dex.(顕微鏡写真を呈示)
1)、2)はいずれの方法でも上皮細胞の増殖を得ることができる。またこの上皮細胞が表皮細胞であることは、培養内で角化していることから明白である。
今後この培養系を利用して発癌実験を行ないたいと考えているが、まだこの培養方法自身にも以下に別記するような多くの問題があるので、それらの問題を検討して行きたい。
1.上皮細胞の培養にDexamethasonが必要なのかどうか?
2.Trypsinisationで分散した細胞をまくとき、Feeder
layerを使用しないで可能かどうか? Conditioned
mediumでは無理かどうか?
3.Feeder layerは角化を誘導するために必要なようである。この角化をconditioned
medium or培地にホルモンやビタミンを添加して、Feederなしに誘導できないか?
4.現在の培養条件で増殖してくる細胞はほとんど上皮細胞であるが、少数の線維芽細胞も混在している。したがって培養のスタートで、できる限り純粋な上皮性細胞の集団を得るよう現在努力している。Fuseniy
et al(Exp.Cell Res.,93:443-457,1975)はFicollでマウス表皮細胞を集めている。しかし班会議で報告したように、表皮は大きさも機能も違う細胞から成り立っているようなのでFicollで表皮細胞と線維芽細胞とを分散することはむつかしそうである。またFicollはマウス胃上皮細胞の分離に際してToxicだとの報告もある。(Munrs
et al.Exp.Cell Res.,76:69-76,1975)。
5.増殖している上皮細胞を継代することは現在むつかしい。ヒトのFibroblastsのように継代して増殖を続けさせる条件を検討中である。
6.現在の培養方法で、肝細胞などの上皮細胞も培養可能かどうか検討したいと考えている。
:質疑応答:
[吉田]培養内で角化が起こることを必要とする実験を考えているのですか。
[難波]発癌実験そのものには角化は必要はありません。細胞同定にと考えています。
[榊原]病理解剖の材料からでも100%培養出来たというデータを持っています。培地は牛胎児血清10%とイーグルMEMで、角化も起こりました。
[加藤]毛根も入っていませんか。
[難波]そのうちに毛も生やしたいものです。
[乾 ]角化までにどの位かかりますか。
[難波]3週間位です。
[榊原]メラノサイトはどうですか。
[難波]時々生えてきますね。
[山田]角化を簡単にみるにはパパニコロウ染色がいいですね。
[加藤]発生の実験に使うのに、上皮細胞層と基底細胞層をきれいに分ける方法を色々と試みてみましたが、常識的な濃度の10倍位濃いEDTAを使って成功しました。
[難波]今度やってみます。
《榊原報告》
§Collagen fiber formationはfibroblastの特異的機能か?
Clone化されていないwildのepithelioid cell
strainの培養から形態学的あるいは生化学的にcollagenが検出されると、其の原因をfibroblastのcontaminationに帰するならわしのようである。epithelioid
cell strainとは、仮りにfibroblastのコンタミがあったにせよ、epithelial
cellがmajor populationを占める細胞集団であり、fibroblastic
cell strainはその逆のものと考えられるから、collagen
fiber formationがfibroblastの特異的機能であるとすれば、後者からは前者に比べてはるかに高頻度、かつ多量のcollagenが検出されて然るべきであろう。だが四月の月報に報告した通り、有名なfibroblastic
cell strainである3T3は、極めてlow level hydroxy-proline産生を示すに過ぎなかった。一方、cloningされたのち、肝の分化機能を保有していることを証明された2つのepithelioid
liver cell strainがcollagenを産生する事実も再三報告してきた。かくて今回は、表題の如きテーマに取り組むことになったのである。すなわち、クローン化されていない各種のepithelioid、non-epithelioid
cell strainについてreticular fiber formationをmarkerとしてcollagen産生の有無を調べてみた。材料は凡て高岡先生が樹立、維持しておられる(或いはおられた)細胞株の主としてGiemsa染色標本で、20日以上継代なしに維持されたものである。方法は約2日間、キシロールに浸して封入剤を溶かしたのち、純メタノールに2〜3日浸して完全に脱色し、次いで渡辺の変法による鍍銀染色を施した。結果はepithelioid
cell strain13のうち11までがreticular fiber形成陽性であり(95%信頼限界54.55〜98.08%)、non-epithelial
cell strainでは5つのうち2つが陽性である(95%信頼限界0.51〜71.64%)。検索したfibroblastic
cell strainの数が少ないこと、epithelioid
cell strainがliver originのものに偏り過ぎているきらいはあるが、"fibroblastic
cell strainの方がepithelioid cell strainよりreticular
fiberを形成するものの頻度が高い"と云えないことは明白である。そして若し、epithelioid、non-epithelioid各30sampleについて各々11/13、2/5という割合でcollagen産生が証明できたとすれば"epithelioid
cell strainの方がfibroblastic cell strainよりもcollagen
fiberを形成するものの頻度は有意に高い"と云うことが推計学的に可能になる。勿論、表題の問いに答える為、そこまで云えなければならぬわけではない。既にBB、BC、RLC-18(1)、RLC-18(2)、RLC-18(3)、RLC-18(4)と6つの肝細胞クローンが、その機能を有することは証明済みであり、加うるに横浜市大で樹立、クローン化された肝細胞株DL1の12のsublineもすべてreticular
fiberを形成することが明らかになった。肝細胞株が培養内で形成するcollagen
fiberがfibroblastのコンタミによることを裏付けるいかなる証拠があるであろうか。(鍍銀線維の出来方と分布の分類法、と結果一覧表を呈示)
:質疑応答:
[遠藤]肝細胞のクロンが肝臓の機能を代表し得るということなのでしょうか。例えば培養の中で肝硬変を起こすというような事を狙っているのでしょうか。
[山田]今の所ではまだ形態的にみて、肝硬変に似たパターンをとるが本当の肝硬変は大分遠い所にあるのではないでしょうか。それから私の所見では、RLC-10(2)系が一番細胞が揃っていて肝実質細胞に近いように思っています。RLC-10(2)には嗜銀性センイは見られないのですね。
[佐藤]鍍銀染色をして線維が染まってくるまでに1カ月以上もの培養日数が必要だというのは、接種細胞数とは関係がありませんか。細胞数を多くまけば早く出てくるのではないでしょうか。それからA型とB型というタイプも接種細胞数によると思いますが。
[梅田]私もそう思っています。A型とB型は根本的な違いではなくて、接種細胞数の違いから来るものではないかと。
[山田]決定的に事を論じるには、矢張りクローニングをしなければなりませんね。
[高岡]当然クローニングをした系も多く使っています。RLC-18からはクロンを4コ拾っていますが、4コとも線維を作るという点では全く共通しています。そしてRLC-18は1コから増えた系でも、もとの原株と同じような模様の細胞シートを作るので不思議に思っています。又、クローニングしていない株でも継代法によっては、かなり均一な細胞集団になっていることもあるようです。しかし、ラッテの肝を材料にして同じ培養法で培養していても、樹立された原株それぞれには形態的な違いと特徴がありますから、なるべく数多くの株からそれぞれ代表的なクロンを拾いたいと思っています。
[勝田]クロンは、1コ釣という条件で増えやすい細胞ばかり拾ってしまう可能性もありますね。
[佐藤]私の所では長期間継代して悪性化した肝細胞系から1コ釣でクロンを拾って、色々な形態のものがとれています。
:質疑応答:
《乾報告》
Methylnitrosocyanamideによるハムスター胎児細胞の染色体切断、突然変異、形態転換:
前月報(No.7607)でMNC投与によるハムスター胎児線維芽細胞のMorphological
transformationの予備実験について報告した。MNCは班友の遠藤先生が発見され、バクテリアに強い変異原性、ラットの前胃に癌をおこす物質である。本報告では、MNCを使用し、ハムスター細胞に種々の変化を与えたので二三の知見を述べたい。
実験材料と方法;
(表を呈示)。実験には、培養2代目の細胞を使用し、MNNG、MNCを種々の濃度で3時間作用した。染色体標本は通常のAir-drying法で、薬品作用後24時間以内に作成した。残余の細胞を正常培地で3日間培養後、Transformation判定のためには、Feeder
layerなしでシャーレ一枚当り、1000ケの細胞を播種、8日間培養後細胞を固定、染色観察した。8AG、6TG耐性変異コロニー選択のため、作用後72時間の細胞を、8AG、6TGを含む培地に50万個/シャーレ播種し、15〜20日同培地で培養後、変異コロニーを算定した。
結果:
MNNG、MNC投与後誘発された染色体異常の結果は(表を呈示)、MNC
2.5x10-5乗M、1x10-5乗M MNNG投与細胞群に明らかな染色体異常が出現した。上記濃度作用に表われる異常は、Chromatid-、Isochromatid
Exchange及び染色体切断であった。異常染色体の出現は物質の投与量に相関をしめした。
MNCはHamster Cellに明らかに強い毒性を示した。(表を呈示)MNNG、MNC投与による細胞のMorphological
Transforming Rateは、MNC投与で対照の5〜20倍、MNNG投与で7〜17倍であった。又Transforming
Rateは投与量に比して増大するが、投与量とTransforming
Rateの間には、強い相関関係は認められなかった。
(表を呈示)MNNG、MNC投与後の8AG耐性突然変異コロニーの出現率はMNC
1x10-5乗M、8AG 10μg/ml選択で変異コロニーの出現率は56〜76倍に増大し、MNNG
5x10-6乗Mで40倍の変異コロニーの出現が観察された。変異コロニーの出現率は、MNNG、MNCの投与量に比例して増大した。
(表を呈示)MNNG、MNC投与後の細胞を6TGでSelectionした結果、変異細胞の出現の形態は、8AG
Selectionの場合と略々同様であった。8AG 10μg/mlに比して、6TG
5μg/ml Selectinの場合、突然変異細胞の出現は著明に増加した。
(表を呈示)MNNG、MNCを投与したハムスター胎児細胞に出現したMorphological
transformation、Gene mutation、Chromosome aberrationの結果は、MNCは上記異常をMNNGと略々同様に誘起した。
:質疑応答:
[吉田]Chromosome aberrationを高頻度に起こすような濃度で処理したのでは、細胞が死んでしまって変異までゆかないということですね。
[乾 ]そうです。
《山田報告》
Indian Muntjac(いんどほえじか)の染色体;
Indian Muntjac細胞の染色体の表面を検索すべく、その基礎実験を行いました。まずDoubling
timeを約30時間と推定し、excess thymidine(final
2mM)を2回(9h、5h)そしてColcemidを1回(0.025μg/ml)接触させて分裂細胞を採取した所、1.6%(mitotic
index)しか分裂像を採取し得ず、またthymidinの接触を延長した所(24h、11h)分裂細胞は4.5%にしか増加しませんでした。しかも分裂細胞像に著明な変化が出現し、thymidineはこの目的には不適当であることがわかりました。(図を呈示)Colcemidのみを作用させて得られた染色体数分布(対照)は7本に80%のピークがあり、excess
thymidineとColcemidを作用させると6本のピークは50%に減り12〜13本に第2のピークが現れます。そこで改めて増殖曲線よりdoubling
timeを求めた所(図を呈示)70〜83時間と云う長い時間であることがわかり分裂像を高頻度に得られなかった理由がわかりました。そこでこの次にはこの分裂時間に合せてcolcemidのみを用いて、その接触時間を調節することにより、高頻度の分裂細胞集団を得たいと思い計画中です。
Spermineの細胞表面に與える影響;
前回の班会議に於いて、Spermineの正常肝細胞への撰擇的破壊性とbovine
SerumのfractionVがこの破壊性を促進あるいは抑制すると云う報告が医科研よりありましたので、以前に行ったSpermine等の細胞表面に與える影響についての実験成績をもう一度まとめてみました。(図を呈示)その類似物質であるSpermidine及びPutrescineはRLC-10(2)の表面荷電にあまり著明な変化を與えないが、Spermineのみが特有な変化を示すことを見出し、特に興味あることは、0.19〜0.65μg/mlの低濃度のSpermineがRLC-10(2)の電気泳動度を増加させることです(図を呈示)。しかもJTC-16(肝癌細胞)にはこの作用がなく、これはConA、PHAの作用とは逆の関係であり、この點について今後更に検討したいと思って居ます。さらに反応後に10%Calf
serum及びbovine Serumを加えた所SpermineのJTC-16に及ぼす影響が消失して居り、この成績についても今後改めて確かめたい。特にRLC-10(2)について検討してみたいと思って居ます。以上この成績は以前に行った実験のまとめです。
グルカゴン・インシュリンのRLC-16の電顕像に及ぼす影響(続);
今回はRLC-16を用いた成績のみを報告します。グルカゴン(13μg/ml)およびインシュリン(10μg/ml)を24時間培養メヂウム内に添加した後に採取して電顕的に観察したものですが、全体としての変化はJTC-16にくらべて少ない様です。(表を呈示)グリコーゲン顆粒のみについてみますと、グルカゴン添加により顆粒密度が増加しましたが、インシュリンではあまり著変がみられませんでした。
:質疑応答:
[榊原]RLC-10(2)には腫瘍性がありますから正常肝細胞の代表としては問題でしょう。
[永井]スペルミン添加で細胞電気泳動度に影響がある濃度は、培養結果では増殖に影響のない濃度ですね。
[乾 ]チミジンは染色体に影響がある事が判っているのですから、使い方をよく考えた方がよいでしょうね。
《佐藤報告》
◇ラット肝由来細胞のクローニングについて
既報のクローニング法によって分離、樹立された20系のクローンについて二、三の性状を検討した。なお得られたクローンは、RAL-5由来のものはAc6E、Ac2F・・・と、RNL-B2由来のものはBc10C、Bc6D・・・と、RAL-7由来のものはCc12G・・・と仮称した。
(1)形態について。
原株のRAL-5、RNL-B2は上皮性であるが、RAL-7は非上皮性と上皮性細胞の混合型である。得られたクローンは、全部、上皮性である。RAL-7からは、非上皮性細胞も、クローニングで分離されたが、数回の分裂後消失した。
(2)増殖能について。
クローニング2〜3ケ月後、増殖曲線を描き(ml当り1万個細胞を植え込み一週間培養)対数期で倍加時間を求めた。又、一部の細胞について飽和細胞密度を求めた。その結果、(表を呈示)1、2の例外はあるが、40時間〜50時間前後の倍加時間となった。飽和密度との関連についてはAc7Eの様に倍加時間の長いものが、低い飽和密度を示す例が認められた。又、ここにはデータはないが、細胞1ケからの分裂速度(クローニング時観察)と、細胞集団としての倍加時間との間にはかなりの差が見られた。
(3)染色体分析
まず原株RAL-5は2n=42に染色体数のモードがある。クローンは42にモードを有するグループと低四倍体のグループに分かれた。RNL-B2は二倍体域にモードがあるがクローンは、マーカー、トリソミーなどを有する偽二倍体細胞か四倍体域にかなり広く分布するものなどが認められた。RAL-7は42と46の二峰性である。クローンは非常に高い割合で42のモードが認められた。なお、これらの染色体については現在バンディング法によって確認中。
(4)生化学的機能の検索
各クローンについて、培養上清はα-フェトプロテインの検出(Radioimmune
assayによる)、細胞についてはG-6-Paseを調べた。一部のクローンにα-フェトプロテイン陽性とも思える結果をえた。
:質疑応答:
[吉田]染色体数をみて2倍体の頻度の高い系は、形態的にみても均一性があるように見えましたが、そうでしょうか。
[佐藤]そう言っても良いと思います。形態的にきれいに揃っている間は2倍体が多いのですが、形が乱れてくると染色体数も乱れてきます。
[吉田]ラッテの2倍体にも老化現象はありますか。
[佐藤]2倍体→2倍体とクローニングをしてゆくと3年位までは2倍体を維持できます。
[吉田]ヒトの場合は50代ですね。
[佐藤]ヒトでは2倍体から外れた細胞は消えてしまうので、2倍体を維持し易いのですが、ラッテは染色体変異を起こすと増殖系になるものが多いので難しいです。
《高木報告》
ラ氏島細胞の培養におけるDNA合成細胞の同定
No.7603では、6週齢のラット膵より単離したラ氏島の分散細胞を培養した場合、ブドウ糖1mg/ml存在下でH3-thymidineを4日間加えて4〜8%の細胞に取込みがみられることを報告した。このDNA合成細胞を同定する為autoradiographyを光顕レベルで検討したが、染色性に問題があり同定は不可能であった。ついで電顕レベルで検討したが、DNA合成細胞の数が少ないため同定は困難であった。しかし今回超高圧電顕が使用できるようになったので、これを用いて観察したところ、DNA合成細胞がB顆粒を有することをつきとめることができた。すなわち、6週齢のラット膵ラ氏島細胞を分散してブドウ糖1mg/mlの下にDM-153+10%FCS培地を用いて培養し、培養後2日目の"pseudoislet"の形成過程において25μCi/mlのH3-thymidineを培地に加えて12時間incubateした後0.5μの切片を作製してautoradiographyを行い超高圧電顕下に観察した。実験条件についてはさらに検討の余地があるが、スライドに供覧するようにH3-thymidineにlabelされた細胞にB顆粒を見出すことができた。
ラット胸腺由来の線維芽細胞に対するethylmethanesulfonateの効果
Ethylmethanesulfonate(EMS)をヒトおよびラット由来の細胞に作用させて効果を検討しているが、今回はラット胸腺由来の線維芽細胞に作用させた結果を報告する。生下直後のWKAラット胸腺をLD+20%FCSで培養し、培養開始後70日目の線維芽細胞にEMS
10-3乗Mを培地にとかして4日間作用させ、以後MEM+10%FCSで培養をつづけた。EMS除去後も細胞に著明な変化像など認められなかったが、培養とともに作用群は対照に比して良好な増殖を示すようになり、培養開始後198日(EMS作用後125日)目の現在、形態的には作用群に有意の変化はみられないが増殖では明らかな差異が認められる。mixed
populationに作用させたので対照がselectionされた可能性もあり、これがEMSによる有意な効果とするにはさらに検討が必要である。
:質疑応答:
[難波]EMSの処理はどの位の期間ですか。
[小野]10-3乗Mで4日間です。
《梅田報告》
ドンリュウラット肝由来のDL1細胞はaflatoxinB1(AFB1)感受性が高く(月報7512)、C14-benzo(a)pyrene(BP)を用いた代謝の実験で、water-soluble
metabolitesへの代謝能の高い(7606)性質のあることを報告した。さらにこの細胞はcloningを行なっていなかったのでcolonial
Cloneではあるが2回続けてcloningを行なって20数ケのクローンを得て、その各クローンについてのC14-BP代謝能についての結果を月報7607で報告した。
その後、C14-BP代謝能の結果と形態から性質の異なる7ケのCloneについて実験を進めることにした。今回の報告は、C14-BP代謝能を測定し、さらに直接BPを作用させた時の毒性をチェックし、同時にAFB1も作用させて毒性を調べ、結果を比較したものである。
(表を呈示)Clone2、5は共に上皮性の細胞であるが、C14-BP代謝能は低く、BPの毒性の方は「0」で殆んど障害を示さなかった。Clone1は今回の測定ではやや低い値が出たが、BPの毒性は「0.5」で形態変化が認められた。Clone8以下はC14-BP代謝能も高く、障害も「1〜2」を示し形態変化も強く現われた。すなわち、小不整形核を有する多核細胞の出現と核の膨大化が特徴的であった。以上の結果より、C14-BPの代謝能と、BPの毒性とは大よそ平行関係にあることがうかがえた。
一方AFB11μg/ml投与より上皮性CloneであるClone2、5も中等度おかされ、Clone20のようにC14-BP代謝能の高い細胞が特にAFB1にも侵されている例もあるが、BPの変化とAFB1の変化とはそれ程平行していないことがわかった。AFB1の形態変化の特徴は核の膨大化、核質の微細化、核小体の縮小化などであった。
以上の結果より、Clone20のようなBP、AFB1共に感受性を示す細胞も得ることが出来たので、今後この細胞を使って実験を進める計画をしている。
:質疑応答:
[難波]薬剤の処理時間はどの位ですか。
[梅田]3日間です。
[乾 ]Water-sol.metabolitesの産生とBPやAFB1の毒性の関係はどうなのでしょうか。
[梅田]BPの場合は平行してもよいのではないかと考えていますが。
[乾 ]クロン20はBPにもAFB1にも感受性があるという結果ですね。
[榊原]これらのクロンはトリプシンに対する感受性も異なるようですね。クロン20はトリプシンに対しても弱いようです。
《関口報告》
人癌細胞の培養 2.ヒト神経芽細胞株SYMの樹立
ヒト神経芽細胞としては海外で7株、国内で4株の報告があるが、私は40回培養学会で報告したGOTO株に次いで、2例目のSYM株の樹立に成功した。
患者病歴:2才5カ月の女児。1年前に発病。植込材料は昭和50年9月19日、右胸壁を占める主腫瘍の切除材料よりえた。患児の尿中VMA(vanil-mandelic
acid)は19.2〜31.5mg/gCreatinin(40代正常値)であった。
培養法:植込組織の処理には3法を併用した。(1)細切→Explant。(2)細切→pipetting。(3)細切→1,000U/ml
Dispase消化60分。
培養液は(a)80%DM-153+20%FCS。(b)80%DM-153+20%ヒト臍帯血清。
(1)(2)、特に(2)からは細胞の生え出しは良好であったが(3)は不良であった。(a)(b)ともに細胞の生え出しがあったが、やや異った増殖形態の細胞がえられた。初め小シャーレ中にて炭酸ガスフランキ内で培養を行なったが、10代以後はTD-40に移し閉鎖系で維持した。(写真を呈示) FCSを用いた培養からは、小型多角形細胞で、互に接着し、シート状にガラス面にのびるSYM-I株がえられた。ガラス面への付着性はかなりわるく、継代後2〜3日間は細胞塊として浮遊している。位相差像では核はみえない。ヒト臍帯血清を用いた培養からは、細胞集塊として浮遊状に増殖するSYM-IIがえられた。
生物学的性状:SYM-IIはtapping cultureで比較的良好な増殖を示す。このgrowth
curveより計算したdoubling timeは約4日であった(図を呈示)。SYM-IIの6代目で調べた染色体数は66にモード(26%)があった(図を呈示)。
異種移植実験では、ALG処置ハムスターの頬袋に腫瘍の形成をみた。組織像は、かなり典型的な神経芽細胞腫を示している(写真を呈示)
生化学的性状:カテコールアミン系の酵素として、Tyrosine-hydroxylaseの活性は殆んどなく、カテコールアミン系の活性はほとんどないものと思われる。これに反してcholine
acetyltransferaseの活性はかなり高く、cholinergicな性格の細胞であることを示している。
:質疑応答:
[難波]継代後2〜3日はガラス壁に付かないそうですが、その間の細胞は1コづつバラバラになっていますか。それとも塊になっていますか。
[関口]塊になっています。それがその後ガラス壁に付着してきて増えています。
[山田]解剖材料をハムスターのチークポーチへ接種して膨れてきた所をとって培養したら、うまく増え出したという話もきいています。
[関口]人癌の培養の場合そういう方法も使えます。私もヌードマウスを使って同じような経験があります。
【勝田班月報・7609】
《勝田報告》
§ラッテ肝細胞のAldolase活性:
ラッテ肝培養の同定の一法としてAldolaseその他の酵素の活性の測定が重視されている。 目安として、F-1-6-Dep/F-1-P:の数値は生体では、肝は1〜10、Fibroblastsは50以上。培養細胞では、肝上皮培養1年以内は1〜10、以后は次第にその数値が大きくなる。肝由来でもFibroblastsは培養1ケ月でもこの数値は大きい。
TAT活性(Tyrosine Aminotransferase):成体肝をCollagenase又はDispaseで潅流して採取できる初代細胞はTAT活性を持っているが増殖しない。株は成、乳、胎、何れの由来のものでもTAT活性は認められない(表を呈示)。
《難波報告》
34:ヒト、マウス、ハムスター、ラット由来の細胞の4NQO処理後のDNA修復能と染色体の変化との関係
ヒト細胞が培養内で発癌し難く、またAgingを来たして細胞の株化がおこり難いのに反して、動物の細胞は一般に癌化し易く、株化しやすい。従って、ヒトの細胞と動物の細胞との4NQOの作用の違いの解明が、細胞の癌化の機構を知る手掛りを与えるのかも知れない。
今回は、人及び種々の動物の細胞を4NQOで処理した後、DNA修復能とクロモゾームの変化とを検討し、修復能の良いヒト細胞は、クロモゾームの変化が最も少ないと云う結論を得たので報告する。
実験方法
実験に使用した細胞はすべて全胎児由来の繊維芽細胞の形態を示す細胞である。動物はマウスはC3H、ラットはSD、ハムスターはSyrian系のものである。培養は、トリプシン分散で開始した。培地はMEM+10%FCS+10mM
Hepas使用。そしてDiploid cell strainsのみ使用した。DNA合成能は10mM
hydroxyurea(HU)で1時間細胞を処理後(正常のDNA合成を止め)HU存在下で10-5乗M
4NQO、1時間、4NQOを捨て、H3-TdR 1μCi/mlで4時間処理し、DNAの修復部分に入ったH3-TdRを液シン測定した。クロモゾームは対数増殖期にある細胞を3x10-6乗M
4NQOで1時間処理後、4NQOを捨て24時間後標本を作製した。
結果
4NQO処理後にみられる細胞のDNA修復能は図1にみられるように(夫々図表を呈示)、ヒト、ラット、ハムスターでは4NQO処理群の方に、H3-TdRが多くとり込まれている。4NQO未処理のものに比べ4NQO処理群にとり込まれる割合はヒトの場合が最も高かった。マウスでは4NQO処理後の除去修復はみられない。理由は不明であるが、10mMのHUで動物細胞の対照群への細胞の酸不溶性分劃へのH3-TdRのとり込みは完全に抑えられていない。動物由来の細胞が2n株であるものを実験に使用したかったので、ヒト細胞に比べ比較的培養日数の若いもの(1ケ月以内)を使用したためか、または動物細胞に存在する腫瘍性ウィルスの存在のためかも知れない。
クロモゾームの変化(構造上の変化でBreaks、Gaps、dicentric
etc)は、ヒト細胞で最も少なく、動物細胞の変化はいずれもっヒトの約2倍以上であった。
《高木報告》
培養細胞に対するEMSの効果
先の班会議でラット胸腺由来の繊維芽様細胞にEMSを作用させた場合、対照の細胞に対し形態的には著明な変化はみられなかったが、増殖率、Plating
efficiencyともに上昇したことをのべた。染色体数については対照細胞の増殖がきわめておそいため分裂細胞が少なく正確な比較はできていないが、作用群の方がhypotetraploid、100以上の多数のものが多いようである。
cloningした細胞を用いてこの実験を反復すべく努力しているが、ヒト由来の細胞はほとんど繊維芽細胞でcloningが難しい。先に膵癌の患者の腹水をModified
Eagle's mediumで培養したところ、3ケ月を経て少なくとも形態的に2種類の細胞が継代されている。flatな細胞は癌細胞とは考えにくいが、これらの細胞のATS注射ハムスターに対する可移植性をたしかめた上で、非腫瘍性であると判ればEMSをはじめ他の発癌剤を作用させてみたいと考えている。その際にもcloningした細胞をできるだけ用いてみたい。
ラット膵ラ氏島細胞の悪性化の試み
5月の班会議でも話したように、膵ラ氏島に特に親和性の強い6DMAE-4HAQOを胎児に経胎盤に投与することを考えて、妊娠ラットの尾静脈から2mg/0.2mlを注射し、これを出産まで繰返した。8疋の妊娠ラットに注射したが、注射回数は2〜5回であった。注射が終了して現在まで約1ケ月を経過したが、2回以上注射したラットは体重の増加が悪く、毛並もよくない。5回注射したラットを剖見したが、肉眼的には、膵やその他の臓器に著変は認められなかった。
また注射を2回したラットの仔について、生後3日目と7日目の膵の培養を試みた。即ち、膵を細切後、0.02%EDTAと持田のTrypsilin
200HUMを連続的に作用させ、magnetic stirrerを用いて処理して植込んだ。24時間後に浮遊細胞をdecantして培養をつづけた。培地は今回はDM153+20%FCSを用いた。生後3日目のラット膵では、decant後2〜3日より上皮性細胞からsheetを形成したがその数は少なく、繊維芽細胞の増殖が盛んにおこり、これを除く目的でcystine-free
MEM+20%FCSを12時間および24時間作用させた。繊維芽細胞は変性をおこしたが、上皮性細胞の増殖も悪くなり、やがて再び繊維芽細胞の増殖が盛んになったので2週後に培養を中止した。7日目のラット膵では、decantして1日後に上記培地を作用させた。繊維芽細胞は変性したがホーキ星状の細胞は変性をおこさず残った。上皮性細胞はその形態からラ氏島細胞と思われるが、2週後の現在sheetはわずかにひろがりつつある。(膵癌患者の腹水の培養からえられたflatな細胞と、小型で短紡錘形の細胞とflatな細胞の混合集団、どちらも培養63日目の顕微鏡写真を呈示)。
《梅田報告》
われわれの培養している肝由来の細胞が、いくらかでも起源である肝組織の機能を保持していることが望ましいので、培地中のα-feto-protein(AFP)とalbumin(ALB)産生を北大塚田先生に測定していただいてきた。今回は血清の違い、いろいろの処理によるこれら蛋白の産生について報告する。細胞は今迄度々報告してきたJAR2由来のBB、BC株、呑竜ラット由来のDL1株である。培地はF12に10%の割で血清を加えたものである。
(1)先ずわれわれは各種血清を用いるので、その違いによる産生状況について調べる。200万個cells/5cm
dishの接種数で細胞をまいた後、1週2回培地交新を行ない、6週間培養した時の各used
mediumのAFP、ALBを測定した。(表を呈示)表に示すように仔牛血清2
lot、胎児牛血清1lotで調べた所、BBはAFPを産生しやすく、BCはALBを産生することがあり、DL1はALB産生のあることがわかった。しかし、全体に血清により産生が異なり、一定の傾向は認められなかった。
(2)次に200万個cells/5cm dishの接種数で、CS(医科研7424)を20%にして産生を調べた。この条件では、3細胞共にこれら蛋白の産生は認められなかった。この20%で培養した後にSerumlessにした時のAFP、ALB産生を調べたのが表2である(表を呈示)。この時F12は正常のものとarginineの入っていないF12を用いて実験した。各細胞夫々2回の培地交新時のserumless培地中のAFP、ALB産生量を示した。表から明らかなようにAFPはserumlessにすると明らかに産生が認められるようになる。おしなべてarg-培地の方が産生が高かった。
(3)以前からAFP、ALBの産生が、4NQO処理時に認められることを報告してきた。発癌剤も含め何らかの刺戟で之等蛋白の産生が誘導されると想定して以下の条件で実験を行った。4NQO処理、AFB1処理、Phenobarbital処理、benzo(a)anthracene処理、cAMP
5mM +thephyllin 0.1mM処理である。これら処理後培養を続け、培地は3回の交新時のもの迄測定した。
結果はBC細胞で4NQO 10-6乗M処理した時にAFP
23ng/mlの産生が、DL1細胞aflatoxinB1 0.32μg/ml処理した時にAFP
21ng/mlの産生が認められた。その他の処理ではすべてAFP、ALBの産生は認められなかった。発癌剤がこれら蛋白に何らか関与しているらしいこと、普通のenzyme
inducer処理では本蛋白はinduceされないことが判った。今後更に別の条件でのAFP、ALB産生を測定する計画である。
《乾報告》
MMNGを使用したハムスター繊維芽細胞のFocus
Assayの試み:
コロニーレベルでのTransformationには、Colonyの判定の問題、播種細胞数に比して、Transformation
Rateの異常に高いこと等の問題がある。3T3、或いは10T1/2等、Contact
inhibitionの非常によくかかる細胞を使用して、Focus形成を指標に、細胞の悪性化に関する研究がなされているが、これらの細胞はいづれも正常細胞でなく、又細胞系の維持も困難である。
今回Transformaed細胞の血清要求性を選択の指標に、Hamster
Fibroblastを使用して、Focus Assay Systemを検討したので報告したい。
実験方法と材料;
実験材料として、培養3代目のHamster Cellを使用し、1万個/mlの割合でTD-40に播種後、24時間、5〜50x10-7乗MのMNNGをMEM+10%中で3時間作用した。3時間後MNNGをHanks液で洗滌、正常培地で培養を3日間続けた。培養3日目、それぞれの細胞を、血清1.2、2.5、5、10、20%添加したMEMに浮遊し、5,000コ/6cm
dishシャーレに播種、同培地で、週2回Medium Changeを行ない、5週間培養を継続、固定、染色後、形成したFocusを算出した。
結果;
MNNGを投与した細胞の5週間培養後形成されたFocusを次表に示した(表を呈示)。血清濃度1.2%ではFocusは形成されなかった。2.5%血清添加では、1x10-6乗M、5x10-6乗M
MNNG投与群で、Focus形成がみとめられたが、形成率は非常に低かった。10、20%血清添加群ではFocus形成は著明に増加するが、対照群にもFocusが形成された。
5%血清添加群では、対照群ではFocusは形成されず、MNNG投与群で0.40、0.33、0.33ケのコロニーが形成された。以上の結果より血清濃度5〜10%で適当にSelectionすれば、HamsterCellによるFocus
Assayが可能であるかも知れない。
《榊原報告》
§培養肝細胞の細網繊維形成:
7月の班会議で、正常ラット肝由来上皮様細胞株11のうち、唯一の例外を除いてすべての細胞株が鍍銀(又は細網)繊維を形成することを報告した。その例外はRLC-10(2)であるが、この細胞株は可移植性があり、"正常"とは云えないにせよ、微細形態学的に肝実質細胞の特徴をよく備えているとのことであり、しかもクローン化されている。今回は結果の再現性をRLC-10(2)について検討すべく、Giemsa染色標本からの戻し鍍銀染色ではなく、タンザク上に培養された細胞を経時的にメタノール固定し、直ちに鍍銀染色をほどこした。其の結果は案に相違して、培養32日目の標本で明らかに細網繊維が染め出された(写真を呈示)。繊維の形成は他の場合と同じく、局部的に始り、次第に培養全体へと拡がってゆき、結節を取り囲むようなパターンをとる。
一方、cloneBCのsister cloneBBが、最近になって膠原繊維形成陽性となったことも報告したが、培養初期に果して繊維形成がなかったと云えるかどうか、改めて疑問に思い、梅田先生にお願いして、凍結されていた培養18代目のBBcellをいただき、タンザクに播いて44日間培養後、鍍銀染色を行った。その結果、非常に限局された部分のみではあるが、細網繊維は矢張り形成されていた(写真を呈示)。但し最近のBBcellと異って繊維の所謂、膠原化は認められなかった。
又、7月の班会議では結果を示すことのできなかった、横浜市大で樹立された肝細胞クローンDL1-20についても、細網繊維形成は明瞭に示されたことを附記しておく。
前回及び今回のデータから、少くとも細網繊維形成能に関する限り、肝由来培養上皮様細胞株は凡てこれを有していると想像される。そして検索した株の一部は、細網繊維のみか膠原繊維をも形成する。細網繊維は正常の肝組織Disse腔に常在するが、何らかの機転でこれが、膠原繊維にまで発育、増加を続けるようになった状態が、肝繊維症であり、構造の改築をきたす迄に進展した状態が肝硬変症である。肝細胞によるコラーゲン蛋白産生の調節機構が、In
vitroの系で解明されるなら、肝硬変症のpathogenesisも明らかになるであろうし、ひいては治療法の開発にもつながりはしないかと、想像は飛躍せざるを得ない。
《山田報告》
細胞表面の性質と染色体との関係を解析するために、正常ラッテ肝由来のうち、Marker
chromosomeの出現したRLC-21株のcolonial cloning株を多数作り検索中です。いまだ途中ですのでデータのみを報告します(図を呈示)。
【勝田班月報・7610】
《勝田報告》
Tapping Culture:
新しい浮游培養法"Tapping culture method"を用いて色々な細胞の浮游培養を試みた。その一部を紹介する。
結果は、1)静置培養で硝子壁への附着性の少ない細胞はTapping
culture内での増殖率が高い。2)腹水肝癌系の細胞はいずれも、従来のmagnetic
stirrer法よりもtapping法の方が増殖率が高い。3)合成培地内継代株は多くの株が浮游せずに、硝子面に附着して増殖する。血清を添加して培養すると浮游する。硝子壁をsiliconでcoatすると、細胞は浮游するが、増殖しない。4)吉田肉腫細胞は初代培養でもtapping
culture内でどんどん増殖する。
Tapping culture法では細胞障害も少なく(エリスロシン法)、液も泡立ちがすくないので、従来の方法よりも遥かにすぐれている。(増殖曲線図を呈示)
我々はこの方法に"Snoopy Culture"というnick
nameを与えた。
《難波報告》
35:ハムスター肝由来の上皮性細胞の増殖に対するDexamethasoneとInsulinとの効果
ハムスターの肝細胞の培養株を作るために、12/16/75に生後2日目の♂のハムスターの肝臓をとり、トリプシンで処理して培養を開始した。培地はMEM+10%FCSに4.2x10-6乗Mデキサメサゾン(Dex)を含むものを使用。培養はラット肝細胞の場合と異なり、(写真を呈示)写真に示すように増殖した繊維芽細胞の中に島状に上皮性の細胞が増殖してくる。培養27日、4代目の細胞(繊維芽細胞と上皮細胞との混じたもの)の増殖に対するDex.の効果をみると、4.2x10-5〜4.2x10-7乗Mの濃度で細胞の増殖阻害はみられなかった。培養126日、5代目の細胞をシャーレにまき、継代2日後に上皮性のコロニーを1枚のシャーレあたり8〜10コマークして写真をとり、1枚のシャーレには4.2x10-6乗M
Dex.、別のシャーレには4.2x10-6乗M Dex+1u/ml
Insulinを加え、週2回同じ培地で液更新を行ない、15日目にマークした。同じコロニーを写真にとり、上皮性コロニーの増大率を検討した。その結果図に示すようにDex.を加えないMEM+10%FCSのみでは、上皮性のコロニーは増殖が非常に悪いことが判った。その後、上皮性のコロニー部分のみを8コ
クローンして繊維芽細胞を分離しようと試みた。現在までの成績では上皮細胞のみを分けると、上皮細胞の増殖が非常に悪く、ある程度増殖した後、増殖しなくなり、やがて徐々に死亡してゆく。ハムスターの上皮性細胞の増殖は繊維芽細胞との共存で維持されているように思える。目下上皮性細胞のみの分離と、その増殖可能条件とを検討中である。(写真、図を呈示)
《山田報告》
RLC系、培養株のtumorgenicity;従来電顕及び細胞電気泳動法及び染色体について調べて来たRLC系培養ラット肝細胞Tumorigenicityについて、しらべて来ました。今回そのうちRLC-18がHost
rat JAR-2にI.P.移植後56〜66日目にI.P.に腫瘤を作りました。腹腔内及び腹膜、横隔膜、前腔壁に著明な浸潤性発育を示す癌腫を6/8例に形成しました。他の四系は、現在の所全く腫瘤形成の傾向はみられません(図表を呈示)。
各系の移植後のJAR-2の生存日数と、その使用頭数は図2に示します。腹腔内で増殖した細胞(RLC-18)の電気泳動度を検索したのが図1ですが、その細胞のばらつきの程度はあまり変りませんが表1に示すごとくその平均泳動度はかなり高くなりノイラミニダーゼ感受性はかなり増加しました。腹壁の筋肉内に浸潤した腫瘤をみるとあまり特有な構造を示さない部分もありますが、この写真にみるごとく、多少索状に配列する部分があり、heptocarci-nomaと思います。少なくとも肉腫ではない様です。このRLC-18は樹立後893日(去年の12月頃)の時点で、その染色体がhyperdiploidからhypotriploidへ移動した様ですが、その時点ではmarker
chromosomeは出現していません。
《梅田報告》
ラット肝・腎の初代培養に臓器毒性を示すマイコトキシンを投与した実験の結果を示す。 (1)AflatoxinB1(AFB1)、(-)luteoskyrin(LUT)、sterigmatocystin(STC)は肝発癌性が、証明されている。(AFB1、LUTについては大部前に報告している。)
OchratoxinAは肝臓毒であるが発癌性は証明されていない。又腎臓毒でもある。ChaetoglobosinA(CGA)はcytochala-sinsの一種でMicrofilamentの障害が考えられている。Citrinin(CTT)は腎臓毒である。生後4〜5日のラット肝或は腎を0.05〜0.025%
collagenase処理して得た細胞を培養した。
(2)肝培養では増生してくる細胞は肝実質細胞(LPC)、内皮様細胞(ELC)、中間細胞(IMC、これはkupffer細胞と思われる)である。表1に夫々のマイコトキシン投与した際の各細胞の障害度を示した。Dは殆んど障害のないもの、4は細胞が完全に変性剥離したもの、1から3は順次障害の強くなったものを示してある。(以下、夫々表を呈示)
AFB1、LUT、STCではLPCの障害がELC、IMCのそれよりも強かった。CGA、OTAでは、障害性の差は認められなかった。CITでは内皮様細胞がより強く冒された。
ここで興味あることは、AFB1、STC投与の際、ELC、IMCの細胞もHeLaとか、次に述べる腎細胞より強く冒されていることである。すなわち、HeLa細胞には3.2μg/ml以上で増殖阻害が認められるようになるのに、肝培養のELCは0.32μg/mlで強い障害を受けている。
(3)腎培養を行なうと各種の上皮細胞が増生してくる。同定は困難であるが、一応形態的に見分けのつく細胞群を3つにわけて観察した。すなわち、上皮性のsheetを作って増生してくる中等大細胞をEpi(1)、このEpi(1)のsheetの中に塊を作って増生してくる小型細胞をEpi(2)、より小さい細胞より成り、中心部は塊を作って盛り上るように増生する細胞群をEpi(3)とした。
又腎培養では正常の塩類濃度の2倍濃い培地で培養しても残存する細胞があるが、これは形態的にはEpi(1)が主で、一部Epi(2)が生き残るように観察された。
表2に示すように、AFB1、STCでは細胞間の障害差は無く、しかもこれらマイコトキシンでは肝培養で障害を与えた濃度の10倍以上の3.2μg/mlでも障害を与えていなかった。
CGAではhypertonic mediumにした時著しく障害性を増していることが興味あった。このことは細胞が外部の高張性に対し当然起る水分の脱失をmicrofilamentの作用で抗していることを示唆している。
CITでは肝に投与した時にも見られたように、上皮性細胞が(特にEpi(1)が)より障害を受け難いことがわかった。またhypertonic
mediumで生き残るEpi(1)(2)と、isotonic mediumでのEpi(1)(2)の障害性を比較すると、hypertonic
mediumの方がより障害を受けていた。
OTAでは上皮細胞が繊維芽細胞よりより強く障害を受けていたが、差は小さく、この程度の差で腎臓毒性が説明されるかどうか疑問であった。
《高木報告》
培養細胞に対するEMSの効果
先の月報でものべたEMSを作用っせたSRT細胞(suckling
rat胸腺由来)と無処理の対照細胞につき、無処理110日目に100ケの細胞についての染色体数を算定すると図の如くなった(図を呈示)。
無処理の対照細胞では2倍体の細胞が62%を占め、残りの38%はすべて76〜84本の間の、hypotetraploidであるのに対し、EMS処理細胞では2倍体は35%で、100本以上のpolyploidが30%あり残りの35%は74〜82本の間のhypotetraploidであった。すなわち、処理細胞を対照細胞と比較すると、形態には著明な変化は認められなかったが、増殖率が良く、染色体数のバラツキが大きいことが分った。移植成績についてはATS処理ハムスターcheek
pouchに200万個の細胞を接種して観察中である。
新たにsuckling ratの胸腺よりとった細胞に、EMSを同様に処理して観察をくり返すとともに、cloningした細胞に対する効果をみるべくRFL細胞株(ラット肺由来)と上記の対照のSRT細胞のcloningを試みているが、RFL細胞については数種のcloneがとれた。これは単一細胞より出発したcloneである。染色体数、可移植性を確かめた上で実験に供したい。
《乾報告》
妊娠ハムスターにAF2経口投与による胎児細胞の突然変異:
昨年、妊娠ハムスターの腹腔にAF-2を注射し、胎児細胞に染色体異常、8-Azaguanine耐性突然変異、Transformationが起ることを報告しました。
癌原性化学物質が、人体に作用する経路は、主として経口、或は経呼吸器であるので、AF-2を2〜100mg/kg経口投与し、胎児細胞の突然変異を見ました。
方法は、妊娠11日目に胃ゾンデを使用して、AF-2を投与する他は、前回迄とまったく同様です。
(以下夫々に表を呈示)表1、2にAF-2投与後、胎児細胞に現われた、8AG、6TG-耐性突然変異を示しました。表で明らかな様に、変異コロニーは、投与量に依存して出現しました。2mg/kgで変異誘導がみられることは、日本人が過去10年間、1mg/day/Man平均AF-2を摂取していたことと考え合わせると、約1日量の1/51回で胎児細胞に異常がおきております。
表3に、絶食後のハムスターに同様AF-2を経口投与した後に出現した変異コロニー数を示しました。表で明らかの様に突然変異コロニーの出現は絶食により急激に減じます。
この結果は、胃中のpHの変化でAF-2が活性を失なうのか、又低pHで活性化酵素の活性が落ちるか、又は胃中バクテリヤの活動に関係しているか、今の所わかりませんが、日本人が長期AF-2を使用していただけに、今後AF-2に関する代謝の研究は必要と思われます。
同時に異常染色体の出現もみていますが、まだDataがまとまっておりません。しかし10mg/kg投与で染色体異常は出現しない様です。
こと事からTransplacental in vivo-in vitro
conbination chemical mutagenesis or carcinogenesisは、Bioassayとしてもかなり感度の高い系と考えられます。
同系を使った標的臓器の解析と、Back transplantationの仕事の方も、ようやく一すじの明光がみえて来ました。In
vivo-transplacental carcinogenesisと、この系の標的臓器は略々一致するようです。次の班会議ではその報告が出来ると思います。
《榊原報告》
§RLC-18 cell tumorの病理組織像:
医科研癌細胞研究部で樹立された正常ラット肝由来上皮様細胞株のうち、in
vitroでの膠原繊維形成が最も著明なRLC-18cellを、同系ラットの皮下に移植して生じたtumorの組織像について報告する。RLC-18は成熟JAR-2ラットの腹腔に移植すると200日前後で宿主を殺すことが既に分っているが、今回の材料は皮下移植後、同部に生じたtumorとして高岡先生より組織学的検索を依頼されたものである。tumorの大きさは2.5x2.0x1.5cm大、非常に硬く、ヒトの子宮筋腫に似た感触である。割面は白色均質、中心部に出血を伴わないnecroticなareaがある。被膜はないが、周辺組織とはsharpに境されていた模様である。組織学的には間質に多量の膠原繊維を有する低分化型の肝癌と考えられ、写真1はそのH.E.染色像、写真2は鍍銀染色像である(写真を呈示)。
一般にラット肝由来の低分化癌は写真の如く立派な索状配列を示すcarcinomatous
ele-mentと、一見sarcomatousなelementが混在し、carcinosarcomaかと迷うものが多い。だがRLC-18cell
tumorはこの細胞がcollagen産生能を有することが明らかである故に、こうした迷いの対象にならない。sarcomatousに見えてもそれは上皮性性格をもち、而も腫瘍間質の形成に関与していることが推定できるからである。
【勝田班月報:7611:ラッテ肝細胞のDENによる悪性化】
《勝田報告》
§ラッテ肝細胞のヂエチルニトロソアミン(DEN)による悪性化
この実験にはJAR-2系ラッテ肝由来のRLC-23を使った。培養を開始したのは1974年10月20日である。
(表を呈示)DEN処理は、継代2代総培養日数21日〜28日までの間、培地中に添加した。濃度は50μg/mlと100μg/ml。
悪性化の検討としては、染色体分析、ラッテへの復元、CCB添加による多核形成をみた。
染色体の分析は培養5カ月、21カ月に行った。結果は(図を呈示)、培養5カ月には対照群とDEN
50μg/ml処理群は染色体数の最高頻値は42本であり、核型も殆ど正2倍体を維持していた。しかしDEN
100μg/ml処理群は染色体数の最高頻値が40本に移行していた。21カ月後には対照41本、DEN
50μg/ml群40本、DEN 100μg/ml群は3倍体付近へと移行した。
形態的にみると、50μg/ml処理群はかってのなぎさ変異細胞JTC-21に似た形態に変化していたが、100μg/ml処理群は対照群と見分けのつかない上皮形態を保っていた。しかしこれら各群をサイトカラシンB1μg/mlを含む培地で6日間培養して、顕微鏡映画撮影とギムザ染色によって観察すると、対照群は殆どの細胞が2核でとまったのに反し50μg/ml処理群、100μg/ml処理群は異常分裂をつづけて多核となった。
ラッテへの復元は培養約22カ月に生後4週のJAR-2ラッテ皮下へ接種した。接種後3カ月を経過した現在、50μg/ml処理群は4匹とも小豆粒大から鶉の卵大の腫瘤を形成し、100μg/ml処理群も2匹とも小豆大の腫瘤がふれる。これらに反して対照群2匹には全く異常が認められなかった。復元成績はもう少し長期間にわたって観察をつづけ、又出来た腫瘤の組織像も調べねばならないと思っている。
:質疑応答:
[佐藤]1週間添加し続けたのは、何か理由がありますか。
[高岡]DENが培地内でかなり安定だという事と、細胞に対する毒性が非常に低くて100μg/mlの添加でも殆ど障害を受けなかったので、添加を続けました。
[乾 ]以前やっておられた実験では1mg/ml位の濃度ではなかったでしょうか。
[高岡]株細胞での実験では10mg/mlの高濃度で細胞が死に始めたので500μg/ml、1mg/mlという濃度を使ったのですが、今度は培養初期の処理なので薄い濃度にしました。
[吉田]サイトカラシンBを添加すると癌細胞が多核になるのは何故でしょうか。
[梅田]アンカープロテインの量の差によるのでしょうか。
[吉田]そこが面白いですね。
[乾 ]ミトコンドリアに対する影響はどうでしょうか。
[翠川]判っていないでしょう。現在の知見としては膜に先ず作用することと、マイクロチューブルに作用することですね。
[梅田]この種の物質の多核形成は、細胞によって経過が違います。分裂後の融合もあり、多極分裂もありますね。
《高木報告》
培養細胞に対するEMSの効果
培養70日目のラット胸腺由来細胞にEMS 10-3乗M
4日間作用させた実験についてこれまでの成績を報告します。
EMS処理後90日頃より処理細胞が対照細胞に比し増殖がよいことに気付いたが、124日目の増殖曲線では対照細胞は7日間で2倍であるのに対し、処理後細胞では11倍の増殖を示した。形態的に著変はみられなかったが、処理後180日目に調べた染色体数の分布では両者間に差異がみられた。すなわち対照細胞では2倍体が62%で残りは低4倍体に分布しているのに対し、処理細胞では2倍体が35%で100本以上のものが30%、残りが低4倍体であった。処理200日後に160万個の細胞をATS処理ハムスター頬袋に接種した。対照細胞では2〜3mm程の腫瘤を形成して6日目にはregressしたが、処理細胞では腫瘤は6〜7mm径まで増大し、10日をすぎてregressした。従って本移植実験でみる限り両者の可移植性にやや差異が認められたが、EMS処理細胞の腫瘍化がおこったとは未だ云い難い。なお処理後200日で調べた増殖曲線では、対照細胞は8日間に7倍と可成りの増殖を示すようになり、これに対し処理細胞は12倍と前回と殆んど変りなかった。saturation
densityは対照、処理細胞それぞれ23,000コおよび32,000コ/平方cmであった。なおこの実験ではEMS
10-3乗Mを用いたが、これは50%colony形成抑制濃度が10-3乗M前後と思われるからである。しかしsubconfluentなcell
sheetにこの濃度を作用させた場合には、細胞の変性像は殆んど認められなかった。さらに濃度を変え、細胞を変えて実験を重ねている。
DMAE-4HAQOによる膵ラ氏島腫の発生について
7606にのべたように妊娠ラットの尾静脈より、出産まで3〜5回10mg/kgを投与した。出生後32日目のラットを剖見したところその1匹の膵に腫瘍の形成を認めた。組織学的にラ氏島由来と考えられる。また出生3ケ月後のラットについても剖見を試みたが肉眼的には膵に著変はみられない。切片の作製を急いている。
:質疑応答:
[翠川]生後10日と生後3カ月の膵ラ氏島の大きさの違いといっても、それぞれ大きさのバラツキがあるでしょう。
[高木]勿論バラツキはありますから平均的な大きさをお見せしました。
[山田]ラ氏島腫の場合、インシュリンの分泌はどうですか。
[高木]分泌しています。
[吉田]ラッテの細胞ならラッテへ復元する方がよさそうに思いますが、ハムスターへ復元されたのは何故ですか。
[翠川]この場合は本当に可移植性の悪性腫瘍になっているかどうかは問題ですね。ハムスターの頬袋では膨れても、同種同系に復元して腫瘍ができるかどうか。
《山田報告》
ラット培養肝細胞株の染色体及び電気泳動度の経時的変化:
ラット正常肝由来培養株RLC-16、-18、-19、-20、-21の経時的な染色体及び細胞電気泳動度の変化をまとめて、中間報告します。
比較的よく両者が平行して変化したのがRLC-21です(図を呈示)。(この系のみにmarker
chromosomeが出現しています−既報)すなわちRLC-21は培養後100〜130日目の頃染色体はdiploidに80%以上もあり、その電気泳動度も比較的均一でしたが、800〜900日目にその構成にバラツキが出現しており、この性質は染色体と電気泳動度の両者に平行しています。1154日では両者のバラツキがさらに著しくなりました。
RLC-20は(図を呈示)773日目に染色体数がバラツキ、これよりややおくれて1023日目に電気泳動度もバラツイて来ました。879日目に再びdiploid周囲に染色体が減少したのにつれて1038日目に電気泳動度も再び均一になりました。
この二系はよく両者の成績が平行した例ですが、残りのRLC-18、-16、-19は染色体測定と電気泳動度の測定時期が必ずしも対応出来ませんので現在得られている成績を示すに留めます(図を呈示)。
次ぎにRLC-21から多数のクローニング株を作り検索中です。今回は電気泳動度の差とConA
2μg/ml処理後の変動についての比較した値を示します(図を呈示)。その構成純度もConAに対する反応性も細胞系により異りますが、この性質と染色体の成績及びその細胞形態について次回にまとめて報告します。
:質疑応答:
[佐藤]ラッテの肝由来の培養細胞の染色体は私達も随分調べましたが、たいてい400〜600日位培養すると2倍体から崩れてしまいます。この培養株の場合、数は42本でも核型は正2倍体ではなくなっているのではありませんか。
[角屋]系にもよりますが、500〜700日培養しても42本の核型はほぼ正2倍体でした。
[吉田]42本が一度崩れて又42本になるというのは、どういう機構によるのでしょうか。或いは始めのは正2倍体で後のは違うのでしょうか。しかし又テラトーマで長期間継代されていたものが、正常な組織を発生し得るという話もありますね。それなどは正常性も保持しながらテラトーマとして継代されていたということでしょうか。
[山田]ヒトの場合ですと、テラトーマというのは本当の腫瘍なのか奇形なのか問題だと思いますよ。
[翠川]腫瘍性はありますよ。
[山田]しかしin vitroでの単一な細胞集団とは違うでしょうね。
《永井報告》
ラッテ肝癌細胞AH-7974の毒性代謝物質
ラッテ正常肝細胞に細胞毒性を示すラッテ肝癌細胞AH-7974の毒性物質については、これまでに比較的低分子の物質で、耐熱性、耐アルカリ、耐酸性であることがわかっています。又、強酸性イオン交換樹脂Dowex50に強く吸着し、4Nアンモニアで溶出される劃分に強い活性が現われ、弱酸性イオン交換樹脂Amberlite
IRC-50でも0.6N HClで活性分劃が得られることから、本物質は強塩基性の物質と考えられる。この活性物質の単離精製を試みていますので現在の研究状況を報告いたします。
Amberlite IRC-50で得られた劃分をDowex50にかけて、脱塩し、水洗後4Nアンモニアで溶出する。溶出液を濃縮後再びDowex50により同様の操作をおこなう。この際に樹脂に吸着しない劃分(F-1)と4Nアンモニア溶出劃分(F-2)を各々毒性試験しました(表を呈示)。
樹脂に吸着されない劃分にもかなりの活性があることがわかりました。F-2劃分をTLCで調べたところ、ニンヒドリン陽性物質を8〜9スポット検出した。この中にはAla、Leuに一致するスポットがみられたが、これらはAmberlite
IRC-50により完全に除去されていなかったものと思われる。次にこのF-2劃分をセルロースカラムクロマトグラフィー(溶媒:n-BuOH-HOAc-H2O)により分劃した後のTLCの結果は(図を呈示)、F〃-1劃分に強い活性がみられていることがわかりました。この劃分にはLeu、Valに相当するスポットがみられます。またF〃-6〜F〃-8劃分で、試験の前に高圧滅菌をおこなった場合と濾過滅菌の場合に差があることがわかり、熱安定性について再検討する必要もあると思われます。
F〃-1劃分の残りを再びカラムクロマトグラフィー(溶媒;n-AmOH-Pyr-H2O)にかけ、分劃し、毒性試験したところ、(表を呈示)F〃-3に強い活性がみられた。この劃分にはTLCでLeuとさらにもう一つの未知のニンヒドリン陽性物質がみられました。この物質が毒性物質であるかはさらに精製し、検討する必要がある。
以上に述べたように、分劃によって活性の高い劃分も得られた反面、活性の劃分が分散している傾向がみられ、又精製の回数を多くした割に比活性が上がらない事等が問題点として残った。
:質疑応答:
[高岡]最終的なもののスポットはロイシンと何かが混じっているのですか。それともロイシンに似た何かなのですか。
[新村]混じっているようです。
《加藤報告》
インド・キョン細胞の培養
1976年3月4日、班員によってIndian Muntjac(♂)の耳の皮膚より得られた細胞は、直ちに初代培養を行ない、その後継代4代目に50%conditioned
medium(2日間培養した培地を遠心して上澄使用)を用いて、コロニー形成のための少数培養を行った。約一カ月後、できたコロニーから、トリプシン濾紙で細胞を拾い、やはり50%conditioned
mediumで1ケ月間培養し、ほぼ均一な線維芽細胞のcolonial
cloneを得た。そのうち形態の異なる3種類のcloneが現在まで維持されており、それぞれMm-14/cl1、Mm-14/cl5、Mm-14/cl6と呼ばれている(写真を呈示)。
培養条件は5%炭酸ガス、95%空気からなる混合ガスの解放系で、10%または15%の牛胎児血清(GIBCO)を含むHamF12(日水)を使用、容器は35mm及び60mmのFalconプラスチック・シャーレを用いている。培地交換は1日おきに行なひ、8日毎に1枚のシャーレを5枚に継代している。継代時のcell
densityは20〜30万個cells/φ60mmである。
得られたcloneのdoubling time(D.T.)は、mixed
populationの細胞の50〜60時間に較べ、かなり短かい。D.T.は血清濃度の影響をうけ、10%では約40時間、15%ではおよそ30時間であった。更に15%の血清濃度で毎日培地交換することによって約20時間に短縮された。
それぞれのcloneにおける2n染色体の比率は(表を呈示)、cl1については99%と特にその比率が高い。またcl1はconfluent
stateに達したのちしばらく放置しても正常の形態を崩すことなく、浮遊してくる細胞もほとんどないことからcontact
inhibitionのかかり易い細胞であると考えられる。
9月20日現在、cloningから6代目の細胞を維持しているが、growth
rate、核型ともに大きな変化はみられない。
《乾報告》
経胎盤In vivo-in vitro combination chemical
carcinogenesisにおける標的臓器の解析−1−
昨年来行なっている経胎盤的に化学発癌剤を投与して胎児細胞を培養、Transformationを観察する系を使用して、経胎盤in
vivo carcinogenesisの発癌標的臓器の比較を、Morphological
transformation、Mutation、Chromosome breaksを指標に行なった。
使用した発癌剤はin vivoの実験で、肺がTargetであるBp、肝の血管腫を作るDMN、脳、及び神経系がTargetであるMNUを使用し、100〜200mg/kgの薬剤を妊娠11日目のハムスターに投与、24時間目に胎児を摘出、従来の方法で、Transformation、Mutation、Chromosome
breaksを観察した。
(各々表を呈示)Bp 200mg/kg投与ではTransformationは肺に高率に出現し、肝、腎ではほとんど表われなかった。Mutation、Chromosome
aberrationも略々同様の結果が表われin vivoのTargetと一致した。
DMN 200mg/kg投与の結果は、Transformation、Mutation、Chromosome
aberration共肝起原細胞に明らかに高かったが、第2のTargetである腎起原細胞には、これらの変化がほとんど表われなかった。
MNU 100mg/kg投与では、細胞変異は脳由来細胞に著明に高く出現した。
以上の結果を綜合してみた。問題点として、肺、肝、腎、脳等を培養した場合、培養されてくる細胞は、実質細胞は少なく、多くの場合、線維芽細胞様の細胞である。したがって、標的臓器を解析する場合出来る限り多量初代培養を行なって、解析をつづけていきたいと考えている。
結果:
動物で経胎盤発癌実験とIn vivo-in vitro transplacental
assay法の標的臓器を比較する目的で、妊娠ハムスターに、Bp、DMN、MNUを投与し、胎児臓器を培養して次の結果をえた。
1.Bp200mg/kg投与群では、morphological transformation、mutation、Chromosome
breaks共に肺起原細胞で著明に高く、腎、肝及び脳由来細胞では、その出現頻度は低かった(In
vivo実験と同結果)。
2.DMN 200mg/kg投与群では、Transformationは肝起原細胞のみに出現したが、mutationは脳細胞に異常に高く、以下肝、肺、腎の順であった。
3.MNU 100mg/kg投与群では、Transformation、mutation共に脳由来細胞に高く、肝ではみとめられなかった(In
vivo実験と同結果)。
以上の結果から、本手法による標的臓器はラット、マウスにおける経胎盤化学発癌の標的臓器と略々一致した。
:質疑応答:
[難波]Bpの代謝は母体で起こっているのですか。
[乾 ]胎児にも18日位だとAHH活性はあるようです。活性化された物質の細胞との親和性は問題があります。
《難波報告》
36:培養ラット肝細胞のグリコーゲン合成
60mmのシャーレに細胞が一杯に増殖したとき(800万個cell/plat)5ml
MEM(1g/glucose)+10%FCSの培地にかえ、経時的に培地中のグルコース消費を調べてみると、培地更新後、急速に培地のグルコースがなくなり、24hr後ではほとんど0に近くなる。(図を呈示)また培地中に1u/mlでインシュリンを添加しておくとグルコースの消失は著しい。この急速に培地が消失するglucoseはglycogenになるとすれば、培地更新後4〜6hrでグリコーゲンを調べればよいことになる。
いま、タンザクを入れた培養ビンを傾けて、しばらくの間、肝細胞を培養すると細胞密度勾配ができて、まだ増殖できるスペースがある部分の細胞は大きく、反対にビンの底に近ずくにつれて細胞密度が高く細胞は小形になる。この培養の培地を更新して4〜6hr後タンザクをPAS染色すると、密度の薄い部分の細胞にはglycogenがよく認められるのに反して、タンザクの底に近いところの細胞密度が高い部分の細胞には、ほとんどglycogenが認められない。ただもっとも底にくるタンザクの端の部分にはグリコーゲンが認められる。PAS陽性顆粒は唾液で消化されるのでグリコーゲンと思われる。
いまプラスチックのカバースリップを使用し電顕写真を撮った。グリコーゲンと思われる顆粒が胞体内に多数存在するが生体内の肝にみられるグリコーゲン顆粒と少し所見が異なる。細胞は胎児ラット由来の培養肝細胞(RLC-18)、グリコーゲン顆粒が胞体内に散在する(写真を呈示)。このグリコーゲンの出現が、1)細胞密度に依存しているのか。2)細胞の増殖時期に依存するのか。を検討するために、2枚の60mm径のシャーレの一方には非常に多くの細胞を、他の一枚には少数の細胞をまき込み、3日後多くまいたシャーレの中の細胞は十分密度が高まり、また少数の細胞をまいたシャーレの細胞が対数的に増殖している時期に培地を更新して、4hr後、PAS染色した。上記のタンザクの実験結果より少数まいたシャーレによくグリコーゲンが出現すると予想していたが、結果は予想に反して、グリコーゲンの出現はそれほど著明でなかった。また多くまいた方もグリコーゲンの出現は殆どない。
これは何を意味するのであろうか? その条件を目下検討中である。この条件を検討するために、培養肝細胞のグリコーゲンの定量を以下の方法で行なった。
37:グリコーゲンの定量
上記の実験を進めるためにグリコーゲンを定量する必要があるので以下の方法で培養肝細胞のグリコーゲン定量を行った。この方法で0.2〜5μgのglycogen量、10万個以下の細胞数で十分測定できる。
細胞のシートを冷PBSで3回洗う→冷蒸留水1ml/60mmシャーレを加えラバークリーナーで細胞をはがす→凍結(-20℃)→融解後100℃5分→14000g
15分遠心→上清0.1mlに1N HCl 0.9ml加え100℃1hr、1ml1N
NaOHで中和して、この0.4mlを使用→1.33ml Tris
buffer(0.1M、pH7.8)、0.66ml MgCl2(10mM)、0.1ml
ATP(10mM)、0.01ml NADP+(10mg/ml)、0.01ml G6PDH(0.2mg/ml)、0.01ml
Hexokinase(1.0mg/ml)、30℃、30分→測定(蛍光分析)(測定原理の表を呈示)。いま60mm径のシャーレ内で対数増殖期にあるRLC-18
Rat肝細胞のグリコーゲン量を上記の方法で測定すると、1μg/10万個cellsであった。いま、この定量法で種々の培養条件でのRLC-18
Rat肝細胞のグリコーゲン合成を調べている。
:質疑応答:
[高木]グリコーゲン合成は細胞の分裂周期には関係なく行われているのでしょうか。
[難波]これから調べてみたいと思っています。
[乾 ]グルコース量を変えるとどうなりますか。こういう微量定量にはイムノ・マイクロ・スペクトロ・フォトメーターなどを使うといいでしょうね。
[高木]定量値は細胞当たりの数値ですか。
[難波]細胞当たりがよいのか蛋白量当たりがよいのか考えています。
《梅田報告》
(I)Cytochalasinは細胞質分裂、endocytosis、exocytosis、cytoplasmic
streaming、等の阻害、脱核現象など、生物現象に興味ある作用を及ぼすことが知られているが、これらはすべてmicrofilamentの作用阻害に連なると云われている。最近の生化学的研究によるとこのmicrofilamentは収縮蛋白であるactinとmyosinそのものから成るものと考えられるようになった。先月の月報でラット腎培養にcytochalasinsの一つであるchaetoglobosinA(CGA)を投与した時高張耐性の腎細胞が高張培地中で生存するためにはmicrofilamentの作用が必要でであることを裏書きしており、その意味で非常に興味ある所見であったと云える。
(II)上で述べたようにmicrofilamentがactinとmyosin系から成っているとすると、cytochalasinsはmuscle
cellにも作用する筈であると考えた。我々はラット新生児大腿より細胞を得、培養を開始して筋肉細胞を増生させてCGAを投与した。すなわち生後1〜2日のSDラット新生児の大腿部筋肉を剔り出し、細切後トリプシン処理を施こし、単細胞浮遊液を作り培養を開始した。培地はMEM+10%FCS。文献には培養瓶底面にcollagenとかgelatinのcoatをひくと良いとされているが、我々は之等も使用しなくともmyotube形成をみた。
(III)培養2日目頃よりmyoblast(線維芽細胞よりやや小型短紡錘形細胞で細胞質が線維芽細胞よりエオジン好性を示すもの)の融合が始まるようで、培養5日目には大きな細長い多核巨細胞であるmyotubeを形成する。
培養2日目にCGAを投与するとmyotube形成は極端に抑えられる。培養5日目にすなわちmyotubeが形成されてからCGAを投与した折、myotubeは短縮し、サツマイモ状或は円形の多核巨細胞となる。強拡大で観察するとコントロールのmyotubeに横紋の形成は認められないが、微細な細線維がtubeに平行に走っている。培養5日後CGAを投与して短縮したmyotubeでは細胞内の細線維は粗雑で不規則の配列をしている。顕微鏡映画で観察するとこの短縮は5時間程で既に短かくなっている。又CGAの作用で短縮したmyotubeはCGAを洗って正常培地に戻すと24時間程で再び細長いmyotubeを形成し回復性のあることがわかった。
今の所本結果の結論は以下のように考えている。横紋の出来ない位の条件で培養されている若いmyotubeはCGAにsensitiveで細胞質中に形成されているであろうactinとmyosinの線維状構造がCGAでdepolymerizeされる。それ故、線維構造がなくなったmyotubeは短縮して円形に迄なる。しかしこの反応はrecoverableでCGAを除くと再びactin
myosinがpolymerizeし、細長い線維を形成する。
:質疑応答:
[高木]高張にするには何を使いましたか。又カルシウムの影響はどうですか。
[梅田]カルシウムについてはみていません。高張にするにはNaClを使うかウレアを使うかで大分違う結果になるでしょうね。
《常盤・佐藤報告》
◇単個培養されたクローン数系について3'Me-DABの細胞毒性効果を検討した。主として、diploidのクローンと、heteroploidのクローンとの間に3'Me-DABに対する反応に違いがあるかどうか、diploidのクローン間ではどうか、などを知ることを目的とした。3'Me-DABはDMSOに溶解し、種々の濃度に調整し、4日間処理した。
(図を呈示)生存曲線をみると、使った濃度範囲では、3'Me-DABに対する反応は、クローン間で大差ないと思われる。傾向として、diploidのクローンの方が、若干heteroploidのクローンよりDABに対し低い感受性を示したが、この事実がどの程度意味をもつものかは不明である。
◇(図を呈示)Inoculum size(10万個/ml、20万個/ml、40万個/ml)と3'Me-DABの細胞毒性効果の関係を調べてみた。終濃度30μg/mlの3'Me-DABを4日間処理し、コントロール(0.4%DMSO)に対する比率をもとめた。Bc12E(diploid)がDABに対し、低抗性を示したが、その他のクローンはほぼ同じ抑制傾向を示した。
◇Cc11E細胞は3'Me-DAB(3.6μg/ml)4日間処理で形態的な変化の特徴として、細胞質内に空胞形成を認めた。他のクローンについては検索中である。
(図を呈示)Cc11E細胞を使用し、3'Me-DABとABの毒性効果の比較を試みた。高濃度の3'Me-DAB(7x10-5乗M)では未検のため比較できないが、それ以下では、ABと3'Me-DABは同程度の抑制率であった。
:質疑応答:
[乾 ]この仕事の狙いは何ですか。
[常盤]2倍体の細胞系でもDABに対する感受性が同じかどうかを調べたいのです。
[佐藤]培養70日という若い系からも単個からのクロンが拾えるようになりました。
《榊原報告》
§培養肝細胞によるコラーゲン及び酸性ムコ多糖産生:
BCcloneがcollagenに加えてacid mucopolysaccharide(AMPS)を培養内で産生することは既に報告したが、今回はこれらの量的変化について検索した結果を述べる。BCcloneは培養100代目。500万個cellsを500ml入り培養びんに入れて回転培養し、10、24、31、38日目と経時的に2本づつより機械的操作を以って細胞を集め、AMPS及び、hydroxyproline(Hy-Pro)の定量を行なった。培地はHam'sF12+CS(10%)。集めた細胞はacetone及びmethanol・chloroform処理により脱脂した上、乾燥粉末化し、秤量する。次いでPronase-Pにより蛋白分解を行ない、Cetylpyridinium
Chloride(CPC)を加えてAMPSとのcomplexを作る。遠沈により得られた上清部分はHy-Proの定量に、沈降部分はAMPSの定量に用いる。沈降物を洗った上、冷TCA処理を行って、蛋白のコンタミを取り除く。ここで得られる蛋白もHy-Proの定量にまわす。以後、AMPSについては透析、濃縮、電気泳動へともってゆき、電気泳動図はAlcian
blueで染色した上、densitometryにかける。Hy-Pro定量はProckopらの方法に準じて行う。結果は(図表を呈示)densitometryは各出発材料0.53mgより抽出されたAMPSについてのものである。検量線の作成が遅れた為、吸光度を平方mm単位で表した。要約すると、
1)培養日数の増加と共にcollagen量も増加する。但しfull
sheetとなる迄は緩徐に、full sheetとなった後は急勾配を描いて増加し、plteauに達するらしい。
2)collagenの増加にともない、totalAMPSも増加する。
3)主なAMPSはdermatan sulfate(DS)とheparan
sulfate(HS)である。
4)とくにDSは、collagenと平行して増加する。
以上の結果はヒトの肝硬変症及びラットの実験的肝線維症について得られた分析値とよく一致する。
:質疑応答:
[翠川]鍍銀染色は何法ですか。
[榊原]アンモニア銀法です。
[翠川]マッソンはどうですか。
[榊原]出ます。出ないのはエラスチカだけです。
[翠川]線維芽細胞は混じっていないのですね。
[榊原]クローニングしてあります。
[佐藤]腫瘍性はありますか。
[榊原]ハムスター・チークポーチには今までtakeされませんでした。
[佐藤]総培養日数はどの位ですか。
[梅田]約3年です。
《翠川報告》
§A/Jax系マウス脾臓線維芽細胞の長期試験管内培養によって樹立された自然退縮性腫瘍株について
生後150日のA/Jax系オスマウス脾臓線維芽細胞をHank's
BSS、Eagle vitamin、Lactalbumin hydrolyzate、L-glutaminならびに15%コウシ血清を加えた培地で静置培養を行って経過を観察していたが、培養142日で新生仔マウスに移植可能となった。この細胞を成熟マウスに移植した場合、移植直後からかなり急速に腫瘤を形成し、移植8日前後で最も大きくなる(2.0x1.3cm)(写真を呈示)。ところが移植10日頃より腫瘤は縮少しはじめ18〜24日の間にこの腫瘍は完全に消失するにいたる。私たちはこの細胞系に対して現在m-cellと命名しているが、このm-cellを新生仔マウスに移植したもの、あるいは成熟マウス移植7〜9日例の組織学的所見では細胞の異型性が強く、有糸分裂像も多くみられ、典型的な線維肉腫像であった(写真を呈示)。
しかし移植10日頃から腫瘍の中心部が急激に融解壊死におちいる所見が出現し始め、同時に浮腫性変化が強くなるとともに腫瘍の壊死像も著しくなり、これに対して軽度の組織球ならびに好酸球反応がみられるとともに最後はすべての腫瘍が完全に結合織細胞によって置換されるにいたる(各々写真を呈示)。
腫瘍の壊死のみられる初期には何等細胞反応がみられないこと、ならびに全過程を通じてリンパ球の浸潤のみられないことも注目された。
なおこのm-cellを移植する場合、腫瘤形成の大きさに性差がみられ、一般にメスマウスに移植された場合より大きな腫瘤形成がみられ、自然退縮に要する日数もメスマウスの方が約4日長かった。
この様なm-cellにみられる形質は培養をさらに長く続けることにより、(1)いわゆる悪性の程度が強くなり、成熟マウスをすべて腫瘍死させるようになるか、(2)このままの状態が続きうるのか、(3)あるいは可移植性がむしろ完全に消失するにいたるかを検討すべくcloningを行いながら、長期にわたって観察を行い現在まで約8年経過している。その中の1つのcloneは、実験開始6年頃より腫瘤を形成しなくなり、新生仔マウスに移植を行っても可移植性がみられなくなっている。しかしこのcloneも現在ヌードマウスに移植したさい、腫瘤形成がみられ移植腫瘍は大きくなり1ケ月を経過しても自然退縮像をみていない。
なおm-cellについては多くのcloneを分離し、それぞれの長期培養をくりかえしているが、現在まで正常成熟マウスを腫瘍死させるclone、すなわち典型的な悪性腫瘍細胞株はいまだえられていない。
:質疑応答:
[関口]復元に使ったマウスの年齢は・・・。
[翠川]3カ月です。始の間は乳児にはtakeされましたが、今では乳児にもつきません。
[佐藤]結節が出来たら消えない内に取って再培養して次へ植えたらどうですか。
[翠川]やってみましたが、つきませんでした。
[佐藤]脳内接種はどうですか。
[翠川]それはまだです。やってみましょう。
[佐藤]私も復元実験を色々試してみましたが、接種部位による違いは大きいですよ。
《久米川報告》
癌細胞chromatinの培養肝細胞への影響
担癌動物では肝臓の酵素活性に変動があることは古くからよく知られている。さらに癌組織から抽出した物質によって肝臓のcatalase活性は低くなり、一方pyruvate
kinase(PK)活性は高くなる。中村等は癌細胞のchromatinが同様の性質を持っていることを明らかにした。すなはちchromatinの接種によってcatalase活性は正常肝の約70%となりPK活性は165%となる。さらにPKのisozyme
patternでもPI 7.8と6.1の値が高くなる。今回はRhodamine
sarcomaから得たchromatinの培養肝臓への影響について調べた結果を報告する。5日間培養したマウス胎児肝臓にchromatin(0.5mg/ml)を2日間添加した場合、catalase活性は対照群の82%と低下し、一方PK活性160%とin
vivoと近い結果を得た(表を呈示)。
さらにPKのisozymeを調べてみた(図を呈示)。培養前胎生13〜14日目マウスの肝臓はSがmainでLはみられない。培養8日後ではSはまだ残っているがLもみられるようになった。しかしまだ完全に肝臓型には移行していない。培養肝臓に6日目から2日間chromatin(0.5mg/ml)を加えて培養した場合、PI
6.1とPI 7.9の値が高くなり、in vivoとPKのisozymeの上でも同様の結果が得られた。従って癌組織のchromatinはdirectに肝臓(酵素)に影響をもたらすことが明らかになった。
【勝田班月報:7612:ヒト胎児性癌の培養】
《松村出張報告・勝田報告に代えて》
1974年11月より1976年10月まで米国に出張を命ぜられ、諸先生の御指導のもとに、このほど無事に任務を終えました。ここに出張の内容を御報告し御礼にかえたいと思います。
目的:
1.人正常組織由来細胞の老化と変異の組織培養による研究。
2.米国における組織培養細胞の供給体制についての調査。
3.米国における組織培養実験の安全対策に関する調査。
主たる滞在地:カリフォルニア州スタンフォード大学、医学部微生物学教室。
内容:
1.(a)人正常組織由来線維芽細胞(WI-26、WI-38)が培養内で分裂増殖の限界に達してからの長期継代培養の試みと、細胞の特長づけ
この期間で6ケ月以上の継代培養が可能となった。従来しばしば報告されて来たような増殖停止から死滅へという過程を少くともこの期間内では認めなかった。細胞のDNA合成、RNA合成、タンパク合成は程度は異なるが維持された。この期間に細胞融合、核の移植等の方法で検索した。
(b)分裂中の細胞集団に含まれている増殖しない細胞の定量
細胞の増殖率とオートラジオグラフによるチミジンの取り込みの同時測定による方法を開発した。分裂増殖中の細胞集団に含まれている増殖しない細胞と、集団として分裂増殖の限界に達した細胞は対応するものであるという仮説を支持する2、3の知見を得た。
2.米国における培養細胞の供給は次の4つの水準で行なわれている。即ち:
(a)American Type Culture Collection
充分特長づけられた典型的な細胞株、細胞系を維持、供給する。
(b)数ケ所の専門機関
癌、老化、遺伝学等、各専門分野での目的に応じて必要な細胞株、細胞系の樹立、特長づけ、供給を行う。
(c)各研究室
a.b.以外個別的な研究対象として興味のある細胞株、細胞系で各研究室で維持されるものをATCCを中心として情報交換し、交換を助ける。
(b)企業
3.NIHが中心となって進めている安全対策の要点は次のようである。
(a)実験に供する細胞を、潜在的な危険の可能性に応じて区分けする。
(b)実験者、及び環境の汚染をさけるために層流式のエアカーテンを必要な場所に設ける。
(c)使用済みの液体、器具を酸化処理、又は加熱処理することによって危険因子がもれることを防ぐ。
感想:
1.研究を通じて異国の人々と共通の話をすることができるということは、あらためて申すまでもなく、愉快なことでありました。米国に滞在することによって、かえって日本における研究グループのすばらしさ、特に研究会議を中心とした討論の場の意義を感じました。もっとも米国でこういうことをしたら、さすがの金持国も破産してしまうでしょう。
2.今後の癌研究の方向として人細胞の培養内変異の研究、及び人上皮細胞の培養が課題に含まれると感じます。今後ともこの方向で努力したいと思っています。
:質疑応答:
[難波]培養日数が長くなってから出てくる2核細胞のDNA量は調べましたか。
[松村]興味あるところで、予定はしていますが、まだデータを持っていません。
[遠藤]寿命に限界のある且つ正常増殖性の細胞が、寿命に限界がなくなり異常増殖する悪性細胞になるには、ダブルミュテーションを起こさねばならないということですね。そうすると物凄く低い頻度でしか悪性化は起こりませんね。
[松村]変異がどのように起こっているかは判りませんが、動物によって例えばマウス等は寿命に限界が無くなる所までは短期間に頻度高く変わるようです。
[遠藤]その変異を起こすのに必要なのは何でしょうか。
[松村]そこはまだ判っていない空白な所ですね。
[翠川]正常増殖性の正常は何を意味していますか。
[松村]単純に3T3のような増殖をさしています。
[難波]結論として所謂agingはDNA合成の異常より分裂異常によるということですか。
[松村]まだ−そう思いたい−という程度です。
《難波報告》
37:培養ラット肝細胞(RLC-18)のグリコーゲン合成は細胞密度に依存する
月報7611にグリコーゲンをグルコースに1N
HClで加水分解してグリコーゲンを定量する方法を記したが、今回はamyloglucosidaseでグリコーゲン→グルコースに変化させグリコーゲンの定量を行なった。この方法で0.5μg〜5μgのグリコーゲン量を測定できる。NADPHを蛍光で測定する。(表と図を呈示)。
上記の方法でAdult ratのliverを0.2%トリプシン液で潅流し、分散した肝細胞数を横軸に、グリコーゲン量を縦軸にとると、5万個の細胞で充分定量できることが判った。
いま、5mlのMEM+10%FCSの培地(1g/lグルコース)で10万個cell/60mm
plateまき、6日後、培地2ml(グルコースの終濃度3g/l)にして、RLC-18のグリコーゲンの合成をみると8時間まで経時的に増加し、以後合成速度はゆるやかになる。
グリコーゲン合成は培地中のグルコース濃度(1〜5g/l)に依存しなかった(表を呈示)。
重要なことは、RLC-18細胞のグリコーゲン合成が細胞密度に依存していて、細胞の密度が高まると合成は低下する(表を呈示)。
:質疑応答:
[久米川]他の細胞についてデータがありますか。私はKB細胞でグリコーゲン顆粒が沢山出ていたというデータを持っています。
[佐藤]RLC-18は腫瘍性をもっているのですから、この系で調べたことが肝細胞の一般的な特性とは言えないでしょうから、そのことを考えにいれておくべきです。
[翠川]生体内のラッテ肝臓の切片でも周辺部のうすくなった場所の方がグリコーゲン顆粒が多いですね。
[佐藤]グルコース量とグリコーゲン量に相関がないとはどういう事でしょうか。
[難波]培地のグリコース量を増やしても細胞内のグリコーゲン量は変動しなかったという事です。
[高木]インスリンを添加するとどうですか。
[難波]これからやってみる予定です。
[山田]私も電顕でグリコーゲン顆粒の動きをみようとしましたが、細胞によってまちまちの所見で、あまり得る所がありませんでした。こういう方法で定量的にみれば、何か判るでしょうね。
[翠川]細胞分裂周期とは関係がありませんか。
[難波]今H3TdRでラベルしてみています。
《乾報告》
Methylnitrosocyanamideの投与条件について
前回の班会議で、Hamster embryonic cellにMNCを投与して、染色体切断、8AG耐性突然変異、コロニー水準でのMorphological
transformationを報告した。
次いで、同細胞にMNCを投与して、Massレベルのlong
term transformationを試みているが成功していない。又染色体切断に要するMNC濃度も我々の研究室の濃度と梅田班員の報告した濃度とhalf
logのちがいがある。
今回はMNC投与の基礎的Dataをとるいみで、DMEM+10%FCSのmedium中で、MNCの効果をCell
killingを指標に検討した。(表を呈示)mediumのPhを正確に7.0とし、mediumにMNCを稀釋後、直ちに処理した場合5x10-5乗Mで約90%の細胞が死んだ。次に同濃度のMNC溶液を作成し、Ph7.0を保ち時間経過をおいて細胞を処理した(表を呈示)。MNCはPh7.0常温中で極めて急速に失活する。次にMNCのPhによる失活性をしらべた(表を呈示)。MNCは中性附近で明らかに効果を示し、アルカリ性でより失活した。
以上の結果よりMNCの投与条件は、中性のmedium中で、稀釋後直ちに作用することが必要と思われる。今後この条件下でmalignant
transformationの実験を継続していくつもりである。
:質疑応答:
[遠藤]MNCを作用させる時の溶液はどんな組成のものですか。
[乾 ]血清の入った培地です。
[遠藤]とするとこの失活は血清との作用によるものですね。血清を除いた液を使ったらどうですか。
[乾 ]血清を入れないと物凄く毒性が強くなって、作用させるのに使える濃度の幅がとても狭くなります。
[遠藤]いかに毒性が強くて使いにくくても、やはり血清を入れない液中で作用させてほしいですね。血清無しで中性なら、少なくとも数時間は安定に保つ筈です。
《高木報告》
培養細胞に対するEMSの効果
EMSを培養開始後70日目にsuckling rat thymus由来の細胞(SRT)に作用させて、約200日にわたって観察した結果を報告した。これは現在もそのまま培養を続けている。
別のseriesの実験として、培養開始後259日目の細胞にEMS
10-3乗Mを4日間作用させ、さらに284日目から再度同様にEMSを作用させて、1回作用させた細胞と2回作用させた細胞につき2回目作用後50日を経て観察した。
形態的には特に変りなく、saturation densityを2回作用させた細胞と、今日まで培養だけを330日つづけて来た対照の細胞とで比較すると、前者は57,000/平方cm、後者は47,000/平方cmであった。染色体数は1回、2回作用細胞とも月報7610の分布に比して2倍体が減少し、60〜80本、100本以上の細胞がふえてバラツキがひどくなったが、両作用群の間に差異は認められなかった。
1回、2回作用した細胞を各々12,000コATS処理ハムスターのcheek
pouchに移植したが、著明な腫瘤の形成は認められていない。さらに細胞をかえて検討中である。
ヒト2倍体細胞に対するMNNGおよび4NQOの効果
用いた細胞は2カ月のヒト胎児皮膚組織からえられた線維芽細胞で、培養後25日目に作用させた。
MNNGは100万個をTD40に植え込み、その増殖期に1、2および4μg/mlを24時間作用させ、洗って3日後には各の細胞数が740万個、320万個、130万個と濃度に逆比例した増殖を示したので、その各々10万個をMA30培養瓶に植込んだ。9日後には110万個、170万個および56万個となったので再びそれらの1,000コを9cmのPetri
dishに植込んだ。しかし9日を経た現在無処理の細胞を含めてcolonyの形成はみられない。
4NQOは500万個植込んだTD40のcell sheetに0.5μg/ml(2.6x10-6乗M)を24時間作用させ、2日後にtrypsinizeして生残った全細胞を9cmのPetri
dishに植込んだ。4日後には400万個となったのでその10万個を9cmのPetri
dishに植込んだところ、さらに4日後には14万個となった。その1,000コおよび10,000コを9cmのPetri
dishにまき込み2週間観察したが、10,000コでは細胞はfull
sheetを形成し、1,000コでは可成り多数の疎及び密な線維芽細胞よりなるcolonyの形成が認められた。これらのcolonyを位相差顕微鏡下に観察すると、transformed
cellsとは考えにくいが、一応染色体数、可移植性などを調べてみたい。transformed
cellsではないとしても未処理の対照細胞が1,000コでは全くcolonyを生じないのに対して4NQO処理細胞では可成りのcolonyが生じた訳であり、4NQOによりplating
efficiencyの高い細胞がselectionされた可能性も考えられるので、このcolonial
cloneを用いてさらに実験をすすめたい。
ラット膵ラ氏島細胞から純粋なB細胞集団を分離する実験はFicoll
gradientを用いて検討中であるが未だ他のラ氏島構成細胞のcontaminationを除外しうるには至っていない。
:質疑応答:
[乾 ]EMSの変異に関する実験はありますが、発癌実験についてはあまり報告が無かったと思いますが・・・。
[高木]報告があまり無いので、自分でやり始めた訳です。
《梅田報告》
発癌性炭化水素がその作用を発揮するにはmixed
function oxidaseによる代謝が必要であり、この代謝能を持つ細胞が却って自ら発癌性炭化水素の毒性なり発癌作用の影響を受けることが知られている。培養内発癌実験の際も、発癌性炭化水素を扱う限り、この酵素を持つ正常細胞しか使えない。以上の観点から培養細胞の本酵素活性を簡単に測定する方法を開発し、各種培養細胞についてその活性を調べ報告してきた。目的は正常細胞で本酵素活性の高い細胞をさがし発癌実験に使うためで、そのような細胞がtransformableな細胞であろうとの想定をたてているからである。
われわれの測定法は0.25mlの培養で行なえるmicroassay法である。すなわちC14-BPを投与して1〜3日間培養した時のBPがwater-soluble
productsに代謝される量を放射能で測定する方法である。しかし本酵素は誘導酵素であり、われわれの方法ではconstitutive
enzymeの酵素活性を測定しているのか、induced
enzymeの活性を測定しているのか、区別がつかなかった。
月報7606で報告したように(図を呈示)、C3HとAKRマウス胎児細胞で測定したwater-soluble
productsの経時的値の変動は、C3Hマウス胎児細胞では1日目から真直ぐ直線的に反応しているが、AKRマウスの代謝は2日以後に特に誘導がかかっているような傾向を示している。
有名なinducerであるbenz(a)anthracene(BA)の10、3.2、1.0μg/mlを1日間処理してからC14BPを投与して2、4、6時間の間に代謝した量を調べた(図を呈示)。前処理しなかった群に比べ3.2μg/ml
BA前処理群で、2.6倍から3.2倍の高い値を示した。
以上の実験からC3Hマウス胎児細胞でも1日間のBA処理により誘導がかかることがわかった。
この誘導の率がbenzo[a]pyrene(BP)処理のものでどのようになるかを調べるために以後の3つの実験を行った。これらは先に報告したBP代謝能の非常に高いラット肝由来の上皮細胞の1クローン(DL1cells、clone20)を用いることにした。
もし投与したC14-BPそのもので誘導がかかるならば数時間後から調べれば始めは代謝が低いが誘導がかかってから急激なあるいは徐々にでも代謝が促進されるであろうと考えた。(図を呈示)先の実験よりやや時間を細かく区切って代謝を追ってみた実験結果は、6時間値が低く、以後代謝率が上昇していることがわかる。
そこでcoldのBP或はBAで22時間或は24時間処理した後、C14-BPを投与して2時間の間に代謝したBP量を測定してみた。BPそのものの処理で22時間後には無処理のものの4.8倍もの高い代謝能を持っていることが示された。20時間処理した時はC14-BP
4時間の代謝をみると、BP及びBA共に前処理した方が代謝が促進されているが、22時間前処理して2時間取り込ませた群に較べるとその誘導の率は3.2倍或は2.3倍と低くなっている。このことはC14-BPの摂り込み代謝が4時間の間で既に誘導が始まっていると考えると説明しやすい。
以上の仮説を証明するため、すなわちBPによる誘導は何時間位から起り始めるかを調べる目的でC14-BPとactinomycinD或はcycloheximideを同時に投与する実験を行なった。すなわち、新しく合成される酵素を抑えることによりconstitutive
enzymeの活性を知り、阻害剤を入れないコントロールと比較することにより誘導の率をみようとした実験である。(図を呈示)結果は、2時間迄はAct.D、CH投与群もcontrolと殆同じ値を示し、その後、controlの代謝率は上昇しているのに対しAct.D、CH投与群は代謝率が同じである。この結果から前の想定のように、本酵素誘導はBP処理2時間目頃より始まっていることがわかる。
以上まだ基礎的なデータであるのでさらに実験を重ねてはっきりとした誘導の様相を知り、発癌実験のための基礎データとしたい。
:質疑応答:
[乾 ]動物レベルでこの酵素の誘導を試みる場合は何日間もかかりますし、薬剤接種も1回ではだめなのですが、培養細胞では処理後2時間で酵素活性が上り始めるのですね。
[梅田]培養細胞の場合は直接に作用するから効果が短時間で出てくるのでしょうか。しかし活性が上がり始めるのが2時間後でその後も時間をかけて徐々に上昇を続けます。
《常盤・佐藤報告》
◇3'Me-DABで処理された細胞の性状。
3'Me-DAB処理過程は(図を呈示)、細胞としては3カ月齢ラット由来の肝上皮性クローン(Ac2F、Cc11E、Cc12G)を使用した。3'Me-DABはDMSOに溶解した。コントロール群(CD-C、CD-DMSO)に対し、3'Me-DAB処理群(CD-DL、2.2μg/ml;CD-DH、32.0μg/ml)からは適当な時期に3'Me-DABを含まない培地で置き換える群を作った。尚、継代は、10万細胞/ml、10日間隔ですべて解放系にて進めた。
3'Me-DAB処理による形態変化。途中経過ではあるが以下の様な特徴が認められた。
Ac2F(CD#7)の場合:低濃度の3'Me-DAB(CD-DL)で、空胞形成が顕著、これは3'Me-DABを除去した後も認められた。高濃度の3'Me-DAB(CD-DH)では、20日間処理以降、細胞数の激減を見た。
Cc11E(CD#8)の場合:低濃度の3'Me-DAB(CD-DL)で、コントロールには認められなかった細胞密度の高い部分が何カ所が認められた。又高濃度の3'Me-DAB(CD-DH)では、Ac2Fと同様、細胞数の激減を見たが、DABを含まない培地に移されたものでは、大きさのかなり異なる細胞群を認めた。
Cc12G(CD#9)の場合:本細胞は、異形性のかなり見られる細胞で、コントロールとしては余り適切ではないかも知れないが、2倍体性が高く、又、安定の様なので使用した。低濃度の3'Me-DAB(CD-DL)では、コントロールに比しむしろ整った上皮性を示した。
(図を呈示)Ac2F、Cc11E、Cc12Gの増殖に対する3'Me-DABの濃度の影響を調べた。DMSO(0.4%)は、殆んど毒性を示さなかった。いずれも、添加3'Me-DABの濃度に比例した増殖阻害を示した。なお、実験は、解放系でシャーレを使用した。
:質疑応答:
[吉田]この実験の目的は何ですか。今迄にも繰り返された実験のようですが。
[常盤]クローンを使ってもDABによる変異が可能かどうか実験しました。
[佐藤]成ラットから単個細胞由来のクローンを拾って、2倍体が維持されている状態で発癌実験をするという事に意味があります。そうすると従来問題にしてきた変異か選別かがはっきり出来ると思います。それから、自然悪性化を起こしている系や又起こす可能性のある系で発癌実験をしても結論が出ないと思います。
[吉田]培養を開始して何日目にクローンを拾いましたか。
[常盤]71日目です。
[高岡]成熟ラッテからと乳児ラッテからとの系に何か際立った違いがありますか。
[佐藤]成熟由来の系の方が、機能の維持能力の幅が広いように思います。例えば酵素活性をより多く維持している系は成ラット由来です。
《山田報告》
長期培養ラット肝細胞(RLC-21)のclonal cloning株7系の染色体分布と細胞電気泳動的性格を比較しました(図を呈示)。
C1、C6、C12株はtetraploidy領域に染色体が変化しましたが、それぞれの平均泳動度はC2、C21、C22、C23のdiploid領域の染色体を持つ細胞系にくらべて速くなりました。分布幅についてはC6の系が、最も良く染色体の分布と電気泳動度のバラツキが出現し両者は平行しましたが、その他の系はこの點については相関がみられませんでした。
サイトカラシンBの細胞表面への影響について検索を始めました。まず直接作用をみました(図を呈示)。サイトカラシンB
1000μg/ml(DMSO原液)の濃度に溶してこれを稀釋して用いましたが、37℃、10分保温後の各濃度処理細胞の泳動度の変化をみますと、用いた細胞C1498(腹水白血病)とJTC-16(培養肝癌細胞)により反応が異なりました。しかしいづれも二相性の変化を示しました。更にこの変化を追求中です。
:質疑応答:
[乾 ]クローンの染色体数の分布をみると、2倍体、4倍体になっているようですが、DNA量でみるとどうでしょうか。
[山田]DNA量は調べてありません。
[吉田]電気泳動後の細胞が回収できるなら、電気泳動度とDNA量を同じ細胞で測定できるでしょうね。
[山田]多分やってみられると思います。
[勝田]電気泳動といえば、昔、癌センターで分劃もできる装置を入れましたね。今、活用されていますか。
[山田]私が居なくなってからは余り使われていないようです。細胞の電気泳動装置も大分進歩していますね。最近はリンパ球のBcellとTcellの分離に使われているそうです。
[高木]図の中でJTC-16・DMSOの説明が無かったのですが・・・。
[山田]サイトカラシンBを溶かすのにDMSOを使いましたので、同濃度のDMSOを添加したものを対照にしました。殆ど影響がないというデータです。
《榊原報告》
§BCcellの電顕像
BCcell cultureの電顕像(ネガティブ染色像)について報告する。culture
generationは45代。plastic dishに細胞を播き、confluentに達してから3週間目のものを用いた。2.5%glutaraldehydeで1時間前固定し、osmic
acidによる後固定を行わず、alcoholで脱水、methanol飽和phosphotungstic
adidで30分間collagen染色を行ない、eponで包埋する。cell
sheetに対してhorizontalに薄切し、ウラン、鉛による二重染色を施して検鏡した。その結果、1)鍍銀染色で紫黒色に染まる線維は、640Å〜670Åの周期性のシマを有するnative
typeのcollagen fiberである。(以下各々に写真を呈示) 2)collagen
fiberに隔てられた細胞同志間には構造上の連絡がない。3)細胞同志がdesmosome、tight
junction、zonula adherence等によって連絡している部位にはcollagen
fiberは見出せない。4)胞体はmitochondria、roughE.R.にとみ、intracellular
canaliculiが散見され、cell surfaceにはpinocytotic
vesicleが多数認められる。5)光顕レベルで細胞がロゼット様配列をとり、中心にeosinophilic
amorphous materialを分泌しているかに見えた部分はcollagen
fiberのpoolとも云うべきものである。
今後更に電顕標本の作製技術をみがき、詳細な検討を行ないたいと思っている。
:質疑応答:
[梅田]細胞膜がはっきり出ないのはグルタルアルデヒドだけの固定だからでしょう。
[松村]単にコラーゲンかどうかというなら、アミノ酸の分析値でグリシンが全アミノ酸の1/3あり、プロリンとハイプロが認められ、電顕像でみてコラーゲンと同定される縞目模様が出ていれば充分だと思います。しかし、電顕にしても、位相差にしても、形態から上皮細胞かどうか同定できますか。
[榊原]今の所、形態所見だけで上皮か非上皮か断言できません。この細胞の場合は、かって肝細胞の機能を有していたクローンなので、上皮細胞と考えています。
《関口報告》
人癌細胞の培養 3.胎児性癌の培養
睾丸腫瘍を培養し、α-foetoproteinとalkaline
phosphataseを産生する長期継代培養細胞の2系を得た。(臨床経過の表を呈示)
手術材料の一部(左睾丸の腫瘍部)をメスにて細切、pipetting及びdispase処理(1000u/ml、60分)にて細胞浮遊液を作り、DM-160に20%FCSまたは20%ヒト臍帯血清を加えて、45mmガラスシャーレ内にて、炭酸ガスフランキを用いて培養した。
FCS使用の培養では、石垣様にガラス面に付着したコロニーが得られた。コロニーの中心部は重層する傾向が強く、中心部はやがて剥離する(写真を呈示)。Human
cord serum使用の培養では、細胞はガラス面に付着することなく、cell
aggregateとして浮遊増殖する(写真を呈示)。両細胞とも増殖速度は極めて遅い。
生前の患者血清中には高いα-foetoprotein活性が認められたが、培養細胞の濾液中にもα-FPの活性が認められ、培養日数の経過とともに上清中に増加していることが確められた。また、両細胞にはアルカリホスファターゼ活性が認められ、Homoarginineにより抑制されることから、肝・骨にみられるtypeであった。(各々図表を呈示)
:質疑応答:
[山田]どうやら本物の胎児性癌が増殖しているようですね。
[松村]この細胞系は、あのころころしたアグリゲイトのまま増えているのですか。
[関口]そうです。内側の方は死んでゆくようです。継代はピペッティングでします。
[吉田]あの塊をみていると内側の方はどんどん分化していそうに思いますがね。普通の状態では分化していなくても、ホルモンなど加えて分化させられませんか。
[乾 ]ラッテのテラトーマとは少し違うようです。
[榊原]ハムスターに腫瘤を作るか作らないかという事については、印象の程度ですが、臍帯血清添加培地で継代している細胞系は、ハムスターに腫瘤を作りにくいようです。
[吉田]塊を作って浮いて居る系でもガラス壁には張り付かせる事が出来ますか。そしてガラス壁に張り付くと中心部はどうなりますか。
[関口]血清をGFSにすればガラス壁に付きます。中心部はもり上がって剥がれてきますが、剥がれたものを新しい容器へ移すと又張り付きます。
【勝田班月報・7701】
《勝田報告》
あっと云う間に1年が経ちましたね。その間にどれだけの仕事ができたか、省みると誠に恥しい次第です。
急がなくても良いけれど、今年こそ何とか良い成果をあげたいものです。
今年は5月19、20日と川崎医大で、木本・難波組により組織培養学会が開かれます。盛会であることを望むと共に、我々の発表の準備も着々とやっておかなくてはならない時期です。
6月には当研究所で当研究部担当の談話会があります。9月26日は小生が担当で組織培養学会を開き、翌27日に国際シンポジウム"Nutritional
Requirement of Mammalian Cells in Tissue
Culture"というのを開きます。アメリカから4人を招待する予定ですが、そのうち、NCIのDr.K.K.Sanford、アルバート、アインシュタインのDr.H.Eagleから出席する旨返事がありました。あとはDr.WaymouthとDr.Hamの返事を待っているところですが、こちらは目下金を集めるのに悪戦苦闘です。
《山田報告》
今年は学会関係其の他の事柄で大変多彩な年になりさうな感じがして居ます。なんとか努力によって乗り切りたいと思って居ります。
新しい大学に赴任し、教室を作り始めてからもう四年目になりました。もう仕事が思う様に進まないとは云えません。漸く細胞培養も調子よく行く様になりました。
今年の計画は
1)ラット肝細胞のin vitroにおける染色体の変動と細胞電気泳動的性格の関係の仕事をしあげたい。
2)CytochalasinBの作用機序、特にConAの作用との比較、多核細胞出現に伴う膜の変化を解析したい。
3)Muntjac細胞の染色体をなんとか採取し、その電気泳動的性格を調べたい。
これらの検索をしながら、細胞変異、特に悪性変化に伴う変異の本質を考えて行きたいと思って居ます。
また、今年こそは一昨年から訳していたBorst著"腫瘍の病理学"(1902年刊)を出版したいと思って居ます。この獨逸語の著書は現代の腫瘍病理学の最も基本となったもので、癌とは何か?と云う現代でも未解決の問題を最も基本的に解析したもので、むしろ哲学的な著書です。
《高木報告》
昨年一年一応仕事はつづけたつもりでしたが、結果らしい結果はえられず、反省の材料ばかりです。今年こそは"カケ声"だけに終らぬように頑張りたいと考えております。
今年は2つのprojectをかかげてみたいと思います。
1.ヒト胎児細胞の変異に関する研究
昨年度からヒト胎児の培養細胞を用いて、これにEMS、MNNG、4NQOを作用させ、細胞の変化を観察してきたが、今年度もこの仕事をつづけてみたい。まず繊維芽細胞を培養し、これに上記諸薬剤を作用させて、
1)無制限の増殖性を有する細胞。
2)クローニング効果のよい細胞。
3)低血清培地で増殖する細胞。
4)soft agarで増殖する細胞。などをとることにつとめる。
そしてsingle stepのmutationで、これらの内の少なくとも1つの性質をもった細胞がとれるかどうか、とれるとすればその頻度はどうか調べてみたい。さらにこれらの性質をもった細胞をmutationで順にselectすれば癌の性質をもった細胞がとれるかどうか検討したい。さしあたり、No.7612で書いた2)の性質をもったcloning
efficiencyのよいと思われる細胞が増殖しはじめたので、これにつき検討して行きたいと考えている。
2.膵ラ氏島細胞の長期培養の試み
昨年度はラ氏島細胞"がん化"の試みの一端として、ラ氏島細胞の分裂促進物質について検討したが、現在までの処、実りある結果はえられていない。兎も角細胞株がえられねば仕事は進展しない。本年度はまず、正常ラ氏島、insulinomaを問わずfunctioning
B cellsの長期間の培養に努力したいと考えています。
《梅田報告》
さて本年の抱負を考えてみますと、やることの多い割に身の動きがますます制限されそうな感じもあり、重点的に仕事をしなければと思っています。
まず第一の課題としては定量的培養内発癌実験の系のルーチン化です。長くこの問題に足をつっこんできたのですが、データの出るのが遅いこと、他の実験の忙しさにまぎれて今迄遅々とした歩みであったと反省しています。本年は少なくとも使用する細胞、血清の問題で何か結論を得たいと考えています。
第二は広い意味での細胞の体質といったものです。以前から突然変異を起し易い細胞があるのではないか、そのような細胞は8AG耐性の場合はHXのとりこみが始めから低い細胞でないかと主張してきましたが、この考えからtransformし易い細胞があっても良いと考えています。これを何とか証明したいと思っています。一方でC14-BPの代謝の問題で人の肺癌になり易い体質をリンパ球培養を使って検索を進めていけたらと計画しています。
第三はラット肝上皮細胞培養ですが、この方は何かの刺戟で肝らしさを発揮してくれることを期待して実験を進めたいと考えています。他面肝の機能の一部でもその機能を持ったcloneを取り出して有効に使うことを企てています。
その他mutationの実験、初代培養細胞を使っての各種化学物質の毒性checkなど続けていくつもりです。
《乾報告》
年月の経つのは早いもので、私48年4月にタバコ屋へ移りましてからこの3月で満4年になります。就任早々より今年こそは、今年こそは、仕事をしても叱られない所へ移りたいと願いながら4回目の正月を迎えてしまいました。今度こそは今年こそはが本当になることを祈る気持です。
仕事の方は、梅田先生にヒントを頂き勝田先生の御指導で手掛けたTransplacental
in vivo-in vitro combination chemical carcinogenesisの仕事が3年目を迎えてしまいました。昨年は定量的のあつかいが楽なMutationに力をそそいてしまいましたが・・・。本年は、この系がどれだけの化学物質に適用出来るか?。動物実験での標的臓器とこの系の反応の関連は?。又この系のtransformed
colonyの造腫瘍性は?。等の問題に終止符を打つべき努力致します。
昨暮もつまりましてから、母体にPCB、Phenobalvitalを前処理することにより、同系の感度が1オーダーは少なくても上ることがわかりました。近いうちに御批判を得たいと思っております。
《榊原報告》
"復元接種試験法の検討"という大きなテーマを頂きながら、昨年は肝細胞の繊維形成の問題にかかり切って何もできませんでした。今年は本来のテーマに戻っていささかなりとも成果をあげなくてはならないと思っています。だが考えてみると、in
vitroに於ける癌化の同定手段が可移植性テストをおいて他にないという現状こそ、癌研究の行き詰りを物語るものではないでしょうか。可移植性とは癌である為の十分条件であり、確立された実験系として要求される性質ではあっても必要条件であるという保証はなく、そのテスト方法、成績判定基準も一定でないように思われます。いかに精密、定量的に行われた試験管内発癌実験も、大詰めに来てこうした未知の要素が複雑にからみ合うbioassayに持ち込まねば物が云えないことは、誠に歯がゆいことではないでしょうか。十分条件が充たされることによって、少くとも癌でないものを癌とするおそれはなくなるわけですが、一方癌を見逃す危険のあることを意識したいと思います。
ともあれ、癌細胞同定法としての可移植性テストが不用になる時は、恐らく癌の問題は解決している筈だと思えば、それ迄は何とかしてこれを改良し、精度の高いものとする努力が必要かと考えています。
《難波報告》
38:ラット肝細胞(RLC-18)の培地更新後のグリコーゲン出現の経時的変化
5万個cells/60mm plate 5ml MEM+10%FCSの培地でまき、6日後(400万個cells/plate)この使用した培地2mlを捨て、新しい培地2ml追加(全体の培地中のグルコース濃度を1mg/mlになるよう調節)以後経時的にグリコーゲンを定量したのが次のグラフである(図を呈示)。細胞内へのグリコーゲンは急速に蓄積し、以後減少する。シャーレ当りのグリコーゲン量は12時間目から72時間んでほぼ一定の値を示した。その間細胞数は24時間目850万個/plt.、48、72時間目では1,000万個/plt.であった。
12時間から72時間に亙って、シャーレ当りのグリコーゲン量が一定なのは、1)グリコーゲンの新生と解糖のバランスがとれているのか。2)グリコーゲンの解糖が止まっているのか、検討を要する。
39:静置および回転培養したラット肝(RLC-18)の電顕像:
培地更新後では静置培養に比べリボゾーム顆粒が急速に増加する。
月報7612にRLC-18細胞のグリコーゲン顆粒の出現は細胞密度に依存し、密度が低い方が高いときに比べグリコーゲンの出現はよいことを報告した。
そこでグリコーゲンの出現するような機能を細胞が示すことのできるような培養条件、培地更新を行なうという条件の下で細胞を静置培養と回転培養し、培地更新後、経時的(0、2、6、12、24時間目)に電顕で観察した。細胞はプラスチックのカバースリップの上に生やし、そのまま包埋し、切った。結果は(写真と表を呈示)、ラット肝細胞(RLC-18)培地更新後2時間目、リボゾーム顆粒が著しく増加している。時間を追ってみると、回転培養ではリボゾームは2時間目に顆粒の増加が著明、6時間目には増加したリボゾームは減少し、その後は変わらず。グリコーゲンは0時間にはほとんどないが、6時間目にはよく出現していて、以後はそのまま陽性。静置培養ではリボゾームは著変なし。グリコーゲンは、0時間にはほとんどないが、2時間目には出現し始め、その後は陽性。
ミトコンドリアはそれほどの変化を示さなかった。()
【勝田班月報・7702】
《勝田報告》
§当研究室で保管している培養細胞株及び亜株:
それらのInitial day of culture、Origin、Medium、Tumorigenicityについての一覧表を呈示する。無蛋白無脂質完全合成培地継代株20株、血清添加培地継代株42株、合計62株である。
《難波報告》
40:各種化学発癌剤の及ぼす正常ヒトリンパ球のクロモゾームの変化
培養内で容易に癌化するマウスの細胞と、癌化しがたいヒト細胞との両者に対する4NQOの反応性の差違を検討した結果、1)細胞増殖阻害度、2)DNA、RNA、蛋白合成阻害度、3)細胞内への4NQOのとり込みと、4NQOの細胞内残存率などの点においては、両細胞間に差がなかった。しかし、4)4NQOの処理後のDNA修復合成能、5)クロモゾームの変化の2点において、両細胞間に著しい差がみられた。すなわち、ヒト細胞はDNA修復合成が良く、クロモゾームの変化が少いのに、マウスの細胞では修復合成が悪く、クロモゾームの変化が多かった。
いま化学発癌剤による細胞の癌化の機構を考えるとき、上記の1)、2)、3)の条件の上に、さらに4)、5)の要因も加わらなければ細胞の癌化がおこらないと考えると、ヒト細胞の化学発癌剤による発癌実験を成功させる要因としてつぎの点を考えることが必要となってくる。 a)ヒトのクロモゾームの変化を高率におこす発癌剤
b)クロモゾームの変化のおこりやすい細胞
c)クロモゾームの変化をよくおこす培養条件
今回は各種の化学発癌剤の、正常なヒト由来の末梢血リンパ球のクロモゾームに及ぼす変化を調べた。4NQO、MMS、MNNG、DMBA、BPについては、以前の月報で報告した。リンパ球の培養法は月報7505に記した。
この報告の結果は、現在までに調べた薬剤の内で、4NQOより強くクロモソームの変化をおこす薬はなかった(表を呈示)。参考までに、4NQOは観察したmetaphasesの10%程度のmeta-phasesにGap、Break、Dic.などの変化を生じた。
《高木報告》
ヒト胎児細胞の変異に関する研究
ヒト胎児細胞にEMS、MNNG、4NQOなどを作用させて変異を研究するにあたり、モデル実験としてRFLC-5/2(ラット胎児肺由来繊維芽細胞のclone)を用いて仕事をすすめている。
この細胞のplating efficiencyは100コの細胞を60mmのFalcon
Petri dishにまいた時に約60%である。100/dishのcell
densityで植込み、これに各種濃度のMNNG、EMS、4NQOを2時間作用させた後、Hanks液で充分に洗い、Killing
Kineticsを求めている。これらの濃度におけるKillingの効果を調べた上で、TD40に植込んだ細胞に各薬剤を作用させて6日間のreco-veryとexpression
timeをおいた後、さらに10〜100万個cellsをplatingして6TG耐性細胞の出現を観察する予定である。
また先の月報7612に書いたように、ラット由来のSRT細胞を培養259日目にMES
10-3乗Mで4日間処理し、さらに284日目に同様に2回目の処理をしてその50日後にCCB
2μg/mlを作用させ、無処理の対照細胞との間の多核形成能の相違を観察した。結果は(図を呈示)図の如く、多核形成能は対照細胞と殆んど変りなく、2核の細胞がもっとも多く、3、4核細胞もみとめられた。さらに培養を継続中であるが、復元成績についても培養385日目の現在検討中である。
次にこれから発癌実験を行なうにあたり、処理したヒトの細胞をATS処理ハムスターに接種して造腫瘍性をみるため、ハムスターのthymocyteでモルモットを免疫して抗血清を作った。方法は榊原氏法によった。免疫後にえられた抗血清の、ハムスターthymocyteに対する抗体値をCr51-release
testで行なった。方法は次の通りである。
1) 800万個/mlのハムスターthymocyte浮遊液3mlに100μCiのCr51を加えて、37℃で90分incubateする。この際の培地としてはMEM+10%FCSを用いた。
2)終って5分間氷水中で冷却する。
3)PBSで3回洗滌し1000rpmで5分間遠沈する。
4)RPMI1640で再浮遊し、4℃で30分間放置する。
5)ハムスターthymocyte 40万個/mlに調整し、この浮遊液0.5ml(20万個cellsを含む)と2倍段階稀釋したATS
0.5mlを混じ、さらにそれにモルモット血清(補体)0.5mlを加える。
6)各試験管を60分間37℃でincubateする。
7)これを遠沈し上清を1ml採取してその放射活性をwell
typeのscintillation counterで測定する。かくしてえられたCr51-releaseと稀釋抗血清との関係は図の曲線の如くであった。50%
Cr51-releaseは512倍稀釋で抗体価としては充分と思われたので採血して凍結保存している(図を呈示)。
《山田報告》
CytochalasinBの細胞表面に与える影響について、JTC-16を用いて検討しました。Cyto-chalasinB(CB)0.5〜1.0μg/mlを培養メヂウムに入れて、その増殖能を細胞数の増加により検索すると、明らかに増殖抑制がみられました(以下、夫々図を呈示)。しかも、7〜8日目にはむしろその数の減少が若干みられ、それは1.0μg/ml
CBにより、より著明でした。このCBによる多核化をみると、細胞の大きさが4日目より増加し、5〜7日には対照とくらべて二倍以上の細胞が50〜60%も出現しました。(これは二核、多核化に伴う細胞容積の増加と考えられますが、現在のaliquotの細胞を染色して検討中です)。
この細胞の大型化(多核化)に伴う細胞のE.P.M.の変化をみたのが、図2ですが、CB処理群では明らかにE.P.M.の減少がみられました。
しかしCBの溶媒であるDMSOでは著しい影響はない。このCBによる変化は、その増殖抑制による二次的な結果であるのか、あるいは多核化の進行に伴う変化であるのか次に検討したいと思いますが、この成績のみでは、この点がはっきりしません。
次にCBを培養メヂウムに入れて培養した後、経時的に採取した細胞に二次的に、ConA及びNeuraminidase処理した後のE.P.M.の変化をみました(図3・対照、図4、図5)。
現在まだその成績の整理が充分出来て居ませんが、0.5μg/mlのCB処理細胞をみると、CB処理後大型化の経過中の膜はConAに対する感受性が昂進して居る様な感があります。
Neuraminidaseに対する作用は、はっきりしません。さらにこの膜の変化を解析する実験が必要と考えています。次回に続けて検討してみたいと思います。
《梅田報告》
Filter cultureについてその後のデータと考えていることを報告する。
今迄FM3A細胞が8AG耐性を獲得する実験のためにfilter法を開発したつもりであるが、すべて3.5cm径dishを使用していた。すなわち、8AG耐性コロニーをみる実験にも3.5cm径dish中の8AG
agarose plate上にfilterを置き、100万個cells
overlayしていたことになる。この時どうも数日培養で培地が非常に黄色くなっている、すなわちpHが下っていること、が気になっていた。そこで6cm径のdishを用いて実験を繰り返してみることにした。
そこで(表を呈示)表のようにMNNG 10-5.5乗M
2日間処理した細胞と処理しないcotrol細胞とをtransfer
scheduleを変えて、12日目にfilterを固定染色してfilter上のコロニーを数えた。MNNG処理したものでは(A)、(B)、(C)群の差は無いようにみえるが、control細胞の方では頻回にtransferした(C)群が一番colony数が多いことがわかった。
これは今迄考えていたのと逆の結果である。すなわち今迄はtransferの回数が少ないと8AGの活性が徐々に落ちるので、耐性でない細胞がうまく生き延びてcolonyを作る可能性があり、大小様々のcolonyを沢山作るのであろうと考えていた。今回の結果から考えられることは、そうではなくて8AG
agarose plate上に100万個の細胞も播くので2〜3日液交換を行わないと、まだ殺されていなかった細胞が代謝をまで行っていて、全体として栄養不足になり細胞が殺される。逆に(C)群のように始めか頻回に液交換を行なっていくと、細胞はだんだん死んでいくので栄養不足になることなく、耐性の細胞はそのまま生き残るという可能性である。MNNG
treated cellsはviabilityが始めから低いわけであるから、100万個の細胞をまいても1.2万個cellsしか生きた細胞を播かなかったことになる。因に、controlの方はPEが24故、24万個の生きた細胞をfilter上にまいていることになる。
以上のことはmetabolic cooperationという考え方にも疑問をなげかけるようなので、さらに実験を繰り返し行ってみる計画である。
《乾報告》
1)放射線によるin vivo-in vitro combination
carcinogenesis(予報)
放射線によるin vitro carcinogenesisは、Barek一派のみが、Hamster
embryonic cellsとCBH 10T1/2mouse細胞で報告しているが、他の研究室での追試が成功していない。ここ二三年、化学物質で広くMorphological
transformtioninが起った我々の系でvivo-in
vitro combinationで、放射線によるTransformationを化学物質によるtransformationの解析と共に試みているので、第一段階を報告したい。
妊娠11日目のハムスターに、全身照射でCO60を250r、500r、1000r、照射し、24時間目全胎児を摘出培養、24時間目に染色体標本製作、培養開始後48時間、72時間目の細胞を8-アザグアニン含有培地に再播種、72時間〜12時間目の細胞をシャーレ1ケ当り、5000個で播種trans-formed
colony出現迄培養した。
化学物質の場合に反して培養24時間以内では染色体はほとんど観察されなかった。現在培養時間の延長を行なっている。8AG-耐性突然変異は、(表を呈示)表の如く著明に出現した。突然変異コロニーは250rで出現し、500rでAF-2
40mg/hamster投与の場合とほとんど同様に出現するが1000r照射ではかえって出現が減少した。
実験に使用したHamsterの例数も少なく、又投与Doseも、3段階で充分とは云えないが、放射線大量全身照射で8AG耐性突然変異は誘発された、(1000r照射で変異細胞の出現率が低下するのは細胞の生存率の低下によるものと考えている。)
Morphological transformationは、一部のシャーレを培養後10日目固定したが、わずかに変異コロニーが観察された。現在大部分のシャーレの培養は継続中であるので、次回の班会議では御報告出来ると思う。
2)Tupaia belangeriの培養
昨暮、勝田先生、山本正先生のお骨折りで、西独のBattele研究所よりPrimateで一番下等で、しかもビールス感受性、Isoemzyme
Pattern等が同綱の中で一番人間に近い、体長20cm位の猿を一匹輸入していただいた。同猿は妊娠後期のもので、日本到着後10日目の12月8日に出産したが、出産仔は、9日、11日に残念ながら死亡した。
人間の細胞は御承知の様にTransfomationをしにくいので、そのモデルとして、これらの仔より肺、腎、肝、皮フ、心、脾臓の培養を開始した。出生仔死亡後、親が仔を大部分食べているので、こまかい染色体分析をしていない現在では♂♀は、わからないが、染色体数62でA〜G群に分類出来そうである(C群が少なくD群が多いと思われるが人間並に並べられそう)。現在培養後50日、F12+FCS
10%で培養したものが7代目に達し、どうやら培養出来相なことがわかったので、若い細胞をもどして、そろそろTransformationの実験にかかろうと思っている。
次回の班会議では、同細胞の今迄得たDataを御紹介する予定でいるが、Life
Spaneは、in vitroである臓器とない臓器由来細胞があるようである。
《永井報告》
今年は勝田先生が医科研で過される最後の年に当りますが、先生の御研究のまとめの成就と、これを一里塚として、今後益々御研究の上で新境地に進まれますよう期待する次第です。
私はこれまで、勝田先生の御仕事のうち、毒性代謝物質の化学の方を担当してきましたので、この方向の仕事を今年中に或る段階にまではもってきたいものと念じています。精製単離については数種類の物質の混合から或る分劃まで追いつめて来ていますが、最後の単離のところで、奇妙な現象が起って、腰くだけになってしまっているのが現状です。これを何とかして乗り越えたいというのが願いです。物質の同定の仕事は、一歩一歩進まなければならぬことから成っているのが、泣きどころです。
《榊原報告》
これ迄、30系統を越える肝臓由来の上皮様細胞株につき、in
vitroでのcollagen形成の有無をしらべ、その結果がpositiveであることを報告したが、これらの細胞は、
(1)所謂established cell lineであること、(2)少くとも現時点では肝特異的分化機能を失っていること、などから、その結果を以て正常肝実質細胞の機能とすることは早計かとも考えられた。そこで今回は、培養開始後3ケ月ならびに4ケ月目の上皮様培養肝細胞について、鍍銀繊維形成をしらべ、また現にrat
albuminを産生しつつある3つの肝細胞クローンにつき、これを60日間confluent
cultureしたのち、鍍銀、Mallory-Azan、弾力繊維の各染色を行い、かつ電顕敵観察を行った結果を報告する。
1976年9月19日及び1976年10月15日に、それぞれ乳呑みラット肝からdispase消化法で培養が開始された細胞は、各々RLn-2、RLn-3と名付けられている(癌細胞学研究部・新田さんより分与された)。細胞は定型的な上皮様形態を示し、島状に増生する。これらを1977年1月6日よりタンザク上に播き、21日間培養の末、型の如く鍍銀染色を行った。(写真と表を呈示)写真1は培養3ケ月目のRLn-2であり、明らかに繊維の形成がある。4ケ月目のRLn-2にも同様の所見が認められた。
次にBCの35代目、BBの20代目、そしてDL1-5の3つのCloneにつき、3日間培養したのちの培地を北大生化学教室の塚田助教授に送り、Albumin、α-fetoproteinの有無をしらべていただいた。表1がその結果である。AFPはどのcloneもnegative、AlbuminはBB、BC、DL1-5のみが陽性とのことである。なお、培地の濃縮は行なわれていないそうである。これらを60日間、subcultureなしで培養下のち、光顕、電顕的にcollagenの有無をしらべたが、やはり陽性であった。弾力繊維は認められなかった。
さてこうした結果に対し、特に培地成分が影響を及ぼしているとの証拠はもたない。写真2に示す通り完全無血清培地(DM160のみ)で培養されているM・P3はかくの如く旺盛に繊維形成を行なう。皮下の繊維芽細胞の作る繊維とは、比較にならない程量的に多いようである(写真3はRSC-5の鍍銀染色像)。培養のoriginであるratのageも、胎児からadultまであって、とくにcollagen産生と関聯づけられるものはない。
【勝田班月報:7703:ラッテ肝上皮細胞株の動態】
《勝田報告》
§ラッテ肝由来上皮細胞株の動態
1962年から1976年までの14年間に、我々の樹立したラッテ肝由来の上皮細胞株は、原株だけで29株に達した。これらの細胞株については殊にその機能について多くの問題が残されているが、今日は最近樹立した数株の動態を紹介する。(顕微鏡映画を供覧)
使用した細胞はRLC-15(4カ月)、-16(1年2ケ月)、-18(2年1カ月)、-19(6カ月)、-20(1年)、-23(1カ月)、()内はそれぞれ映画撮影時の培養日数である。顕微鏡倍率は10x10、撮影速度は1コマ2分(RLC-19のみは10x20、2コマ1分)。
映画で観察すると、同じ上皮様形態の細胞であっても、異なった特徴や動態をもっていることが判る。例えばRLC-16は核の周りに密集した顆粒をもっている。又細胞間の結合はやや弱い。RLC-18は多極分裂が多い。
:質疑応答:
[吉田]株化の定義は・・・。又どの時点から株化したか判りますか。
[高岡]誰が培養しても、安定して永久に試験管内で継代が続けられる細胞系が株細胞だと思っています。ラッテ肝由来の株については株化の時期ははっきりしません。培養1ケ月位の頃、上皮細胞の増殖がみられる系の殆どは株化するようです。
[山田]RLC-16は電顕的にみても、細胞間の結合が弱いですね。
[吉田]RLC-18は異常分裂が多いが、異常分裂した細胞が生存してゆくとは考えられませんね。ステム細胞があるのでしょう。
[梅田]映画では2核細胞は次の分裂をしませんでしたね。それから、分裂前に核が廻るものと廻らないものとがありました。
[遠藤]分裂前に核が廻るのは何故ですか。
[勝田]私のもっている仮説として、分裂前に核は細胞質との縁を切るために廻るのではないかと考えています。それで核膜は2重になっているのではないかと・・・。
[梅田]核の内容物を放出しているという説もありますね。
[遠藤]しかし、あれだけぐるぐる廻るには相当のエネルギーが要るでしょうね。そして細胞としては、それだけのエネルギー放出しても核が廻らねばならない必要性があるということになりますね。
《難波報告》
41:RLC-18(ラット肝細胞)のグリコーゲン合成
1)インシュリン効果の検討
MEM+10%FCSに1U/mlのインシュリン(Sigma)を含む培地でglycogen合成を掲示的に検討した。その結果、インシュリンはglycogen合成を高めなかった(図を呈示)。
2)細胞の増殖とglycogen合成との関係
培養器内に1杯に生えた細胞を20万個/60mm
pltにまき、細胞の増殖とグリコーゲン合成との関係をみた。培養3、5、7日目に培地を更新し、6時間後の細胞内グリコーゲンを測定した。その結果(図表を呈示)、細胞の増殖に伴って細胞当りの蛋白、グリコーゲン量が減少していた。グリコーゲン合成は細胞の対数増殖期の早期に盛んである。
:質疑応答:
[吉田]ヒト由来の正常細胞で株化したものは、本当にありますか。
[難波]無いはずです。今までに株化したと報告された系の殆どは、HeLaのコンタミネーションという事のようです。
[榊原]今呈示されたヒト細胞復元組織像は、線維肉腫と断定できないでしょうね。
[吉田]ヒトの細胞だけが株化しないのは何故でしょうか。
[難波]何故でしょうね。私も動物細胞しか扱っていなかった頃は、ヒト細胞の老化現象など半信半疑でしたが、自分でヒト細胞を培養してみると矢張り株化できないのです。
[高木]ラッテの細胞では、4NQOの摂り込み量や毒性は処理時の細胞数に影響されるようですが、ヒトの細胞でも同じですか。
[難波]ヒトでも同じです。
[松村]化学発癌に使う細胞は、クローンを使うように出来ませんか。
[難波]クローンを使いたいのは山々ですが、1匹拾ってもそれが実験に使えるまでに増やそうとすると、人細胞ではもう老化現象が起きてしまします。
[松村]寿命がつきかかった細胞の変異については、ウィルスによる変異の場合も分裂能力を残している時期でなければ起こらないようです。
《梅田報告》
(I)先月の月報に次いでfilter culture法のその後のデータを報告する。Filter
culture法を考えたのはagar plate cultureで8AG
agar plate上に大小の様々のコロニーが形成され、判定にまぎらわしさを伴ったからであった。すなわち小コロニーを作る細胞は8AG抵抗性のないことがわかり大コロニーだけを数えねばならなかった。Filter法で8AG
agar plateへ数回のtransferをうまく行えば生ずるコロニーはすべて大き目で8AG抵抗性であろうことを期待した。
ところが実際に形成されるコロニーは小さ目のものも形成された。そこでfilter上からコロニーを10ケ(大コロニーより4ケ、小コロニーより6ケ)拾い、8AG、HAT培地中で8AG抵抗性の程度を調べた。各クローンの増殖はすべて8AG培地中でコントロールの増殖よりはやや落ちるが増生しており、一方HAT培地中の増生はなく、8AG抵抗性であることが証明された(表を呈示)。
先月の月報で報告したようにtransferの問題が尚気にかかるので更に実験を追加した。(表を呈示)Control
cellの方でtransferの回数が少ないものは8AG抵抗のコロニー出現頻度は少ない傾向があるようである。しかしまだ有意の差かどうかわからないので今後尚検討する予定である。
(II)人での実験に制限がつきまとう以上、リンパ球などを培養した組織培養の系で発癌剤その他の作用を調べることは、われわれ培養屋に課せられた重要な実験方法の一つである。しかし、リンパ球を使用しての突然変異実験、悪性転換の系が開発されていない現在、染色体異常を指標にした検索法が今すぐ利用出来る遺伝毒性を調べる手段となる。そこで所謂promutagen、procarcinogenが代謝活性化されれば人リンパ球の染色体にも異常を起し得るかどうか調べる目的で以下の実験を行った。
今迄にマウス又はラットの肝ホモジネートとNADPH、MgCl2をDMNとFM3A細胞と共に30分間反応させてから正常培地で2日間培養後、8AG抵抗性獲得突然変異を調べると、DMNの濃度に依存して突然変異率が上昇することを見出していた。そこで先ず同じ実験を組み、FM3A細胞の染色体に異常を起すかどうか調べた。(表を呈示)一応濃度に依存して染色体異常が増加している。
そこでConray-Ficoll法により分離したリンパ球を直ちにDMNと代謝活性化酵素と反応させてからPHA添加培地で培養する系と、PHA培地で3日間培養後反応させてから更に24〜48時間培養する系との2つで染色体標本を作製し検索した。
今迄に実験を3回行った。すなわち、反応を行わせてからPHA賦活したものと、PHAにより芽球化した細胞に反応させてから染色体を調べたものは、共にDMNの濃度に依存して異常が増加している。しかしFM3A細胞のデータに較べ、exchangeなどの出現頻度は低い。以上のデータをまとめた(各々表を呈示)。
:質疑応答:
[吉田]この場合の対照群はどういうものですか。
[梅田]DMNを添加していないものです。
[難波]染色体レベルの変化で癌化へと進むものは何でしょうか。
[吉田]Exchangeでしょうね。
[難波]Exchangeはヒトの細胞ではなかなか見られませんね。
[吉田]分裂を2度繰り返すと出てきますよ。
[難波]すると24時間培養して染色体標本にするのは短かすぎますね。
[松村]梅田さんの実験では同じヒトからの細胞を使っていますか。
[梅田]今のところ、意識して二人のヒトのを使っています。もう少しはっきりしたら、もっと多くの人の細胞で調べたいと思っています。
[難波]本当にヒトは個体差が大きいですね。
[山田]細胞電気泳動度からみても個体差が大きいです。ヒトの材料での基礎実験は難しいですね。
《山田報告》
今回はCytochalasinBをin vitroで作用させた(1.0μg/ml、0.5μg/ml)後、1日目及び6日目に細胞(JTC-16)を採取し、二回洗滌後各濃度のConAを接触させた後の変化を検索しました。2日目(多核細胞の出現し始める状態)にConAを加へると、ConA
1μg/ml濃度によって、その荷電密度が上昇し、6日目(多核細胞が多数出現した状態)では2μg/ml濃度での著明な荷電密度の上昇がみられました(図を呈示)。この成績より、in
vitroでCBを加えることにより細胞(JTC-16)の平均荷電密度が下降しますが、その状態でConAに対する反応性が昂進すると理解しました。しかし完全に多核化した大型細胞よりも、多核が生ずる前段階でその様な変化が起ると考えられます。何故ならば、ConAによって荷電密度が増加する現象は、各サンプルの比較的小型の細胞により著明に認められるからです。
:質疑応答:
[梅田]大きい細胞は重いはずですが、電気泳動度には影響しませんか。
[山田]電気泳動度は荷電密度の問題なので、或る物理的条件下では重さの違いは殆ど問題になりません。
[遠藤]サイトカラシンB処理で染色体はポリプロイディになりませんか。
[山田]多核にはなっていますが、染色体のプロイディは判りません。
☆☆☆吉田班友から、"ドブネズミとクマネズミのかけ合わせについて"のお話があった。
[勝田]ドブネズミとクマネズミとをかけ合わせると、発生はするのに途中で死んでしまうのは、抗体の問題ではありませんか。抗リンパ球血清などで処理したら・・・。
[吉田]それも考えています。トレランスにするとどうかなどと・・・。
[関口]着床の段階でも差が出ているのは何故でしょうか。
[吉田]判りません。
《乾報告》
先月の月報で報告致しましたZupaia belangeisの細胞の性格について報告します。
昨暮12月9日出生後死亡した新生児(2匹)の肺、肝、心、脾、皮膚の細胞をトリプシナイズ後培養にうつした。
前記動物は、Primateのうち一番下等で、体長20cm、成熟迄の期間は6ケ月で、実験動物として飼育しやすい最下等の猿(原猿類)である。しかも特色として、Isoemzyme
pattern、Virus感染のSpectrumが極めて人間に近い。当班では難波先生が研究をつづけられているが、衆知の如くケッシ類の細胞に比して人間の細胞は極めて癌化しにくい。
我々は人間細胞の癌化を解析する手始めとしてZupaiaの細胞の培養にとりかかったが、現在、肺(10代)、心、腎(8代)、脾、皮フ(6〜7代)でFibroblasticな細胞が増殖している。これらFibroblasticな細胞のContact
inhibitionはきはめてよくかかるが、培養後63日目いづれも増殖はいい。
腎細胞には現在、FibroblasticとEpithelial
likeの二種の細胞をカップ法、高しんとう圧で分離した。
細胞の性質として肺起原細胞で現在わかっていることは、1)Colchicine感受性がハムスター(0.3μg/ml)に比してきわめて高い(0.02μg/ml)。2)8AZ耐性がハムスター、人間(20μg/ml)に比して極めて高い(100μg/ml以上、マウスと同等)。3)ウワバイン耐性は非常に低く人間と同じ(Zupaia、人間・1x10-6乗M、ケッシ類
3x10-6乗M)。4)肺起原細胞のDoubling timeは27時間である。
現在薬物代謝能力等を、人間、ハムスター、マウス起原細胞と比較している。
これらが、難波先生のしらべられた人間型であったなら、transformationの実験に入る計画である。
:質疑応答:
[難波]ウワバインはヒトの線維芽細胞だと10-6乗Mで死にます。
[乾 ]ツパイアは10-5乗M 3日で死にます。ハムスターだと1x10-3Mです。
[梅田]接触阻害はどうですか。
[乾 ]強くかかっている系です。
《高木報告》
ヒト胎児細胞の変異に関する研究
ヒト胎児細胞を用いた変異の実験をする場合、まずその実験系に適した細胞を用いねばならない。ヒト胎児の種々の組織を培養して、あきらかにcolonyを形成し、またplating
efficiencyの比較的高い細胞を撰別する努力をしている。2〜3の細胞を供覧する。
一方先報の如くRFLC-5細胞のcloneであるRFLC-5/2を用いて、mutagenであるが未だ癌源性のみとめられていないEMS、最もつよいcarcinogenとして知られているがmutagenicityの低い4NQOおよび、つよいmutagenでありまたcarcinogenでもあるMNNGによる実験を試みている。
まずRFLC-5/2細胞に対するEMS、4NQO、MNNGのcytotoxicityをみるために細胞を100コ/60mm
Petri dishに植込み、2時間後に上記薬剤の各種を培地にとかして作用させ、洗って後7日間培養してcolony数を算定した。37%survivalを示すmean
lethal dose(Do)はEMSでは2時間の作用で1.1x10-2乗M、3日間で1.6x10-3乗M、7日間で6x10-6乗Mであった。またMNNGでは2時間で4x10-6乗Mであったが、4NQOは0.05μg/mlでも本実験条件ではcolonyの形成はみられず、さらにこれ以下の濃度で検討中である。
これらの薬剤を作用させ、6TG耐性株の出現をみるべく計画して実験をすすめている(実験計画図を呈示)。EMS
10-2乗M、MNNG 6.8x10-6乗Mについて行った実験では目下selection
mediumに入れ8日目であるが、明らかなcolonyの形成はみられていない。
ヒトinsulinomaの培養
3x2cm大のinsulinomaの培養を試みた。組織を細切しcollagenase
20mg/10ml CMF液で15分間magnetic stirrerを用いて処理し、2回目以後はtrypsilin(持田)200HUM液で15分ずつ数回処理して細胞を集めた。集めた細胞は35mm
Petri dish 4枚にF-12とD-MEM培地に20%FCSを加えた培養液で植込んだ。F-12培地を用いた場合、細胞はsheetを形成したが約4週間で器壁から脱落しはじめた。D-MEMでは細胞は塊まってなかばsheetを形成したような状態で培養されたが、53日目にDispase処理してCarrel瓶1本に継代、現在sheetにならず集塊のままで培養がつづけられている。
培養液中に4日間に分泌されたinsulin量は、培養3週目までは15mu/mlであった。
:質疑応答:
[乾 ]経験の少ない細胞の場合は、薬剤の処理濃度と細胞のまき込み数についてもう少し検討した方がよいと思います。
[難波]株化した古い細胞で実験にselection
mediumを使う時は、細胞にマイコプラスマが感染していて結果が違ってくることがあります。
《榊原報告》
BCcell cultureから抽出される酸性ムコ多糖について、酵素消化試験を行った結果、これまでHeparansulfateと考えていたものは、実はHyaluronic
acidらしいことが判った。Heparan sulfate(HS)と推定した根拠は電気泳動所見である(図を呈示)。0.1M酢酸バリュームを用いた場合のものである。ところが、0.2M酢酸カルシュームで泳動させてみると、泳動度の遅いbandはHyaluronic
acid(HA)と同じ位置にあり、HSとは明らかに異る。若しHAであればこのbandはchondroitinaseABC、testicular
hyaluronidase、streptomyces hyaluronidaseのいづれによっても消化される筈であり、HSであればいづれの酵素によっても消化されてはならない。そこで先づchondroitinaseABCでsampleを消化した上泳動させてみたところ(図を呈示)、bandは2本とも全く消失した。このことは、2本のbandに相当する物質がHyaluronic
acid、dermatan sulfate、chondroitin sulfate
a or cのうちのいづれかであることを意味する。さらにtesticular
hyaluronidaseで消化したところ、dermatan sulfateのbandは残ったがHSと考えたbandは消失した。このことは消えたbandがhyaluronic
acidか、あるいはchondroitin sulfate a or
cであることを物語るが、後者である可能性は電気泳動図からみてあり得ないであろう。streptmyces
hyaluronidaseによる消化試験によって、この問題も解決する筈であり、目下準備を進めている。電気泳動図のdensitometryを行った結果、単位乾燥重量当りのムコ多糖の経時変化を半定量的に表わすことができた(図を呈示)。Hydroxyprolineの変化と極めてよく似たパターンを示している。
:質疑応答:
[遠藤]カルシウム・アセテートで流した方の図では、同定されたバンド以外にもう1本あるようですね。
[梅田]デルマタン硫酸の増え方は肝硬変と同じ位ですか。
[榊原]増え方というより、正常肝には殆どありません。
[遠藤]ブレオマイシンは肺のセンイ化の促進剤として知られていますから、in
vitroでも添加してみると面白いでしょう。
☆☆☆遠藤班友から"食い合わせの中から発癌因子を探る"お話があった。発癌性がないとされている物質でも、胃袋の中で現実的に起こる可能性のある組み合わせを、試験管内で再現してみたら、予期された如く発癌性をもった恐ろしい物質が生まれてきたということであった。
[山田]生理的条件では胃が酸性だと簡単に言えないのではないでしょうか。
[遠藤]それは考えなくてはならないと思っています。ですから試験管の中でも、物を食べたあとのpHが上昇した状態に似た条件も加えたという訳です。
[山田]母地になっている状態についても考える必要がありますね。胃癌については実際に出来てくる時の情況と実験的に作る時の情況にずれがあるように思います。
[遠藤]たしかに母地の問題は重要ですね。
《常盤・佐藤報告》
DABが培養細胞内高分子と、どの程度、どの様に結合するかは興味ある所である。本報告は、タンパク質との結合に限定して、いわゆるprotein-bound
dyeを種々の培養細胞について求めたものである。
方法はアゾ色素を含む培地で2〜3日間培養した細胞を(TD40瓶数十本)、ホモゲナイズし、TCAで沈殿させ、エタノール・エーテルで沈殿を洗浄し、ついでこれを1〜2mlのギ酸に溶かし、可視部の吸収スペクトルを求め、タンパク結合色素量を測定した。
(1)単個クローン、Ac2F、Bc12E、Cc11E(いずれも2n域に染色体モードを有する)の中で、Cc11Eが、肝ホモゲネートよりは低値ではあるが、培養細胞としてはかなり高い値を示した。(なお、Cc11Eは、増殖率が極端に低い)
(2)初代培養では、株化した細胞とは異なり、薬物代謝酵素活性も高いと考えられ、bound
dyeを求めたが、予想に反して、株細胞並の低値となった。この実験は2、3度試みたが同傾向であった。DABの濃度が高すぎるため毒性が出ているのかも知れない。
(3)DAB飼育ラット由来肝細胞株dRLN-53、dRLh-84は、ほぼ同値を示した。(dRLN-53は種々の点で正常に近く、dRLh-84は肝癌由来である) H3-DABのとりこみに関する教室の宮原のデータ(核病理誌
Vol.14、65、1973)によると、両細胞系はオートラジオグラフィーで見る限り、同程度のとりこみを示した。bund
dyeのデータはこれと同様の結果となったわけであるが、これは長期培養の結果、両細胞系が生物学的に近似の状態となったと解釈するか、ないしは両者の結合タンパク質の異なることによるか、いずれかが考えられる。
(4)長期間DAB処理された細胞と、コントロールについて比較した所、DAB処理細胞の方がより低値を示した。コントロール自身の値が低い為、解釈は難しいが、このケースは、肝癌ではprotein
bound dyeが低下するという例に入るのかも知れない。
実験(1)19.2μg/ml 3'Me-DAB 3日間処理後測定。実験(2)トリプシンで分散されたラット肝を48hr、96hr培養(8.4μg/ml
3'Me-DAB含)。実験(3)8.4μg/ml 3'Me-DAB 3日間処理後測定。dRLN-53は、0.06%DAB
57日飼育ラット肝由来細胞。dRLH-84は同31日飼育ラット肝由来細胞。実験(4)1.0μg/ml
DAB 2日間処理後測定。 (各実験についての表を呈示)
【勝田班月報・7704】
《勝田報告》
Muntiacus muntjak(ほえじか)
これはインドホエジカとも呼ばれるが、染色体数が♂7本、♀6本という、細胞学者にとってはこたえられない動物である。
第1回の培養は、1976-3-3:♂より血液細胞、耳、内股皮下組織であった。
第2回は1976-8-15:死産した胎児を動物室で凍結してしまった。8-21にそれをとかして培養したが、やはり増殖はおきなかった。
第3回は1977-4-4 am11:40出産。4-5 pm2:30新生児をネムブタールで眠らせて開腹;心、肺、胸腺、膵、胃、膀胱、脾、胸骨、皮下の諸組織をとって培養に移した。恐らく、♂と推定される。材料の分配は班員に限った:梅田、榊原、乾、加藤、永井、山田、勝田であった。同日夕方、親の♀は死亡した。親♂は返還するように手配した。腎は上皮様の細胞が活溌に増殖している。これはすぐにも実験に使える。胃はbacterial
contaminationを起してしまった。脾は形質細胞様の形態を示す細胞がふえている。胸腺は細網細胞様の細胞が増殖している。肝は残念ながら大変のぞみ薄である。
§合成培地DM-160に最近駲化した細胞株について:
1)JTC-27・P3株:
これはラッテ腹水肝癌AH-601由来のJTC-27株が原株である。1972-5-12に、血清を含まないDM-160に移した。血清を除いてから初期2年間はほとんど増殖がみられず、第1回の継代は1973-5-19、第2回は1974-7-24。その後徐々に増殖率が上昇し、現在30代で、形態的には原株と似て、上皮様のcell
sheetを作る。Piling upも見られる。
2)M・P3株:
ラッテ肝由来で[なぎさ+DAB]変異株Mが原株である。原株はDABを高度に代謝消費する。1973-11-19に血清を除いて現在21代。形態は、よく揃った上皮様の細胞で、密集したCell
sheetを作っている。
3)RLC-10(2)・P3:
原株はラッテ肝由来のRLC-10(2)で、現在まで約1年半継代。継代10代でまだDM-160に充分駲化したとは云えないが、確実に増殖し、継代も順調に進んでいる。
4)CulbTC・P3:
原株はCulbTC(ラッテ肝−4NQOで悪性化)で、RLC-10(2)と同日に無血清培地にきりかえたが、RLC-10(2)より駲化は難しく、現在までに6代しか継代していない。継代直後に死ぬ細胞が多い。
この4種の株に共通して云えることは、血清培地内継代の原株との間に形態的変化がほとんど無いことと、増殖率が原株より低いことである。
《乾報告》
Zupaia細胞の2、3の性質について;
昨年12月11日に、培養を開始したZupaia新生児由来細胞(肺、心、腎、皮フ)が現在約100日(12〜15代)培養されている。
培養はHamF12培地+10%FCS、Dulbeccos MEM+10%FCSで開始したが、前培地では培養開始後90日前後(10〜11代目)で増殖がおとろえ核/細胞質比が減少し、累代培養が不可能になった。同培地条件ではAgingがあるものと考え現在4代目の細胞をもどし再実験を開始した。これに反し、Dulbeccos
MEM培地で培養細胞は、今日も順調に増殖している。この細胞の肺由来細胞(Zp/Lu
M1211)9代目について、人間、ハムスター、マウス細胞との種々の性質の類似性、相似性を検索中であるが、本報告では、8-アザグアニン(8AG)ウアバイン耐性、MNNGによるウワバイン(Oav)耐性突然変異誘導の一部のData(整理済のみ)を報告する。
8AG耐性は当研究室の常法にしたがい、50万個cells/dish播種後初めの3日間は毎日、以後3日間隔で8AG含有培地で培地交換を行ない20日培養した。(表1、2、3を呈示)
表1に示すように、Zupaia細胞は8AG感受性について、ケッ歯類細胞と大幅に異なっていた。
一方同様細胞をシャーレに播種後1週1回の培地交換を行ない、1ケ月間培養後固定、細胞観察を行なった結果を表2に示した。Zupaia
cellは、ウワバイン(Oavaine)に対して非常に感受性が強い(人間は1x10-6M)。
次にZp/LuM-10 Zp/He M-10(心由来細胞)を使用、MNNG投与後のOavaine耐性突然変異を観察した(Expression
time 72h)。表3から明らかな様にZupaia細胞は、MNNG投与により誘発突然変異率は究めて少ない(同濃度MNNG投与によるHamster細胞のそれは10〜40倍であった)。又心起原細胞ではMNNGによる突然変異はみられなかった。現在難波氏より分与された人間の細胞も使用し、各種発癌剤に対する反応等を検索しているが、ある種の化学薬品については人間に近い反応を示し、又ある発癌剤にはケッシ類に近い値を示している。Data整理の上報告するつもりであるがケッ歯細胞より人間のモデルになりうる細胞系でああることを期待している。
《難波報告》
42:培養ラット肝細胞(RLC-18)のグリコーゲン合成
月報7611、7701、7703にRLC-18のグリコーゲン合成を報告した。現在までに得られた結論はRLC-18のグリコーゲン合成は、細胞密度に依存し、細胞密度の低い方が高い場合に比べ、細胞当りのグリコーゲン合成能が高かった。
そこでRLC-18細胞を細胞密度を低くして培養し、培地を更新し、細胞にグリコーゲンのよく出現するまで(約5時間)のRLC-18細胞のDNA、RNA合成、培地の中のグルコース消失を、培地を更新しない培養(この場合はグリコーゲンは出現しない)と比較した。また細胞密度の低い場合と高い場合とでは、それらの培地更新によってDNA、RNA合成、グルコース消失が、どのようになるかを検討した。(蛋白合成は検討中)
その結果は図1、2、3に示すように
1.培地更新後のRLC-18細胞では、更新しないものに比べRNA合成の点で、著明な差がみられ、更新後のものでは、1時間よりRNA合成は高まった。培地を更新しなければRNA合成は高まらなかった。このRNA合成の上昇とグリコーゲン合成とは一致する(図2)。
2. DNA合成は、更新後5時間以内では、培地の更新に無関係であった。すなわち、DNA合成とグリコーゲン合成とは関係なかった(図1)。
3. 細胞当りのDNA、RNA合成、グルコース消費は、細胞密度の低い場合の方が高い場合に比べ圧倒的に高かった(図3)。
4. 細胞密度が高まると物質の細胞内へのとり込みが低下するようである。
図1:培地更新後、1、2.5、5時間後、H3-チミジン(0.5μCi/ml)で30分ラベルして、その細胞内へのとり込みを液シンで測定。
図2:培地更新後、0、1、2.5、5時間後のH3-ウリジン(0.5μCi/ml)で30分ラベルしてその細胞内へのとり込みを液シンで測定。
図3:培地更新後、1、2.5、5時間目のグルコース消失を測定し、細胞当りに利用されたグルコース量を求めた。
《高木報告》
ラット細胞(RFLC-5/2)の変異に関する研究
前報につづきEMS 10-2乗M、MNNG 6.8x10-6乗Mを作用させた実験でEMS
10-2乗Mでは6TG耐性細胞はえられなかったが、MNNGについては60万個cellsにつきやっと1コの耐性colonyをえた。4NQOについてはこの細胞を100コまいた際のKilling
Kineticsを調べ、1図のような成績をえた。(図を呈示)。これを参考にして耐性細胞の出現頻度を調べているが、いずれにしてもこの細胞では6TG耐性の出現頻度は可成り低いことがわかった。
そこで薬物のKilling作用を抑えて、Mutationの相対的頻度を上げることはできないかと考えている。scheduled
DNA replicationを抑え充分なrepairの時間を与えれば、survivorを増加する可能性があり、そのため血清濃度を下げた状態で薬物を作用させることも検討している。図2は血清濃度を1%に下げた場合のscheduled
replicationの量を比較したものである。
培養細胞に対するEMSの効果:
昨年の月報に報告して来たように、培養70日目(E1)および266日(E3)のWKAラット胸腺由来繊維芽細胞に、EMS
10-3乗M1回、4日間作用させ、以後継代をつづけて来たが、これら細胞の可移植性につき生後3ケ月前後のATS処理hamsterのcheek
pouchに移植を試みたので報告する。平均直径は、腫瘤の縦、横、高さ(mm)の平均である。実験1、2、3の3回いずれもEMS処理細胞の方が無処理細胞に比して大きい腫瘤を形成した。すなわち、形態、染色体数などでは差異は認められなかったが、可移植性はやや違うようである。これが有意か否か、さらに検討の予定である。(図を呈示)
《梅田報告》
現在のわれわれの培養条件では、feeder cellの役割りは大きく無視出来ないものとなっている。しかしX-rayをかけることの煩雑さからなるべくfeeder
cellを使わない実験が試みられているといっても過言でなかろう。すなわち、どうしてもfeeder
cellを使いたい時も、使用する数日前から細胞を用意し、前日にX-rayをかけてから播種し、当日やっと培養したい目的の細胞をまくといった具合であるから、ルーチンにfeecer
cellを使う所ならばいざ知らず、ちょっとためし培養の時などは用意の方が大変ということになる。
そこでX-rayを照射した細胞を凍結しておいて、それを融解して使用した時も、feeder
cellの役割を果すかどうか調べた。
(1)先ずシリアンハムスター胎児細胞にX-rayをかけて、直ちに一定のinoculumでラブテックチャンバースライドにまいて4日間培養後、固定染色した。一方で同じ細胞をX-ray照射後常法によって凍結し、4日後そのアンプルをとり出して細胞を調整後ラブテックチャンバースライドにまいて、同じように培養後固定染色した。両者のスライドを観察した結果が表1である。顕微鏡観察するとfeeder
cellは4日間培養で非常に大きくなるが、別の実験で増生させたハムスター細胞と比較すると、表の如く3倍、5倍の大きさになる。しかし凍結後使用したものは、凍結しなかったものに較べ明らかに小さい。細胞数は10x10の顕微鏡視野内の細胞数を20視野数えて平均したものである。1万個/mlまいた群でみるように凍結したものの方が却って細胞数が多く、X-ray照射後も細胞は凍結処理に対しOKであることがうかがえる。
(2)同じようにシリアンハムスター細胞を使ってコロニーを形成させる実験を行った。X-ray照射後の細胞と、照射後凍結しておいた細胞を6,000ケあて6cmのシャーレにまき、さらに一日間培養後ハムスター細胞(未照射)を500ケまいて7日間培養した。培地はD-MEM+20%FCSを用いた。メタノール固定ギムザ染色後、コロニー数を算定した。コロニー数は表2に示す通りで、やや照射直後すぐに使用したfeeder
cellを用いた方のコロニー数の方が多いが、使用したシャーレ数のこともあり、凍結がコロニー形成に悪い影響は与えていないように考える。実際にコロニーの大きさは両者差はなく、凍結した細胞もfeederとしての役割りに充分使用に耐えるものと考えられる。(表を呈示)
《榊原報告》
§BC cloneによる可溶性collagen産生:
BC clone 100代目のcell layerに於るHy-Pro及びムコ多糖の経時的変動については、度々報告してきた。この実験の際、spent
culture fluidをpoolして保存しておいたが、このうち200mlから、アミノ酸自動分析機を用いて、directにHy-Proを定量することを試みた。
medium 200mlに、10%の割合でTCAを加え、90℃、60min加温したのち、遠心して沈澱を除去する。上清を透析tubeにつめてruning
waterに対してTCAを除いたのち、rotary evoporatorを用いて乾固、6N
HClを加え、110℃、24hrs加水分解し、再び乾固したものを、日本電子液体クロマト研究室に送ってアミノ酸分析を行って貰った。帰ってきたチャートから、WH法で全アミノ酸のmole数と1000残基中の比率を計算した。Hy-Proは、1646μmole、1000残基中約11.3の割合で含まれている。mediumは3日間cultureされ、500mlの培養びんを4本分であるから、細胞数は10の8乗見当である。cell
layerに不溶性collagenとして沈着するものに比べて、かなり多くの量が可溶性蛋白の形でmedium中に分泌されていることが分った。ムコ多糖の量も検量線を作製し、そのものの値として算出できたので、この研究の最後のまとめに当るグラフを示す(図表を呈示)
【勝田班月報・7705】
《勝田報告》
Tapping Cultureによる長期浮游培養
ラッテ腹水癌数種について検討した。
1)吉田肉腫はテストした細胞系の内では増殖率がもっとも高く、3日間で30〜50倍の増殖率を維持した。細胞密度の上限も最も高く、200万個/mlにまで達した。
2)AH-109Aは、しらべた腹水肝癌のなかでは安定した増殖率を保つ系の一つであり、細胞密度上限も70万個/mlである。
3)AH-66は増殖率も浮游状態も良好であるが、細胞密度の上限はやや低く50万個/ml。
4)AH-130は、細胞がガラス壁に附着する傾向があり、浮游細胞の細胞密度は低く、20万個〜30万個/ml。
5)AH-7974も硝子壁に附着する傾向が強く、浮游細胞も島を作っている。
これらの細胞系はラッテ腹腔内から採取した細胞を初代からTapping
Cultureで継代、現在5〜7ケ月間になるがほとんど増殖率の低下することなく増殖しつづけている。
写真は浮游培養装置で30、100、500ml容の最新式の水車型である(写真を呈示)。
《難波報告》
43:正常ヒト細胞の培養内癌化の指標
我々の環境中の多くの物質が、ヒトに対して発癌性をしめすかどうかを決定するための一方法として、培養された正常ヒト細胞の発癌実験が考えられる。
正常ヒト細胞の癌化の指標としてHayflickは細胞の、1)Indifinite
proliferation。
2)Abnormal karyology。3)Tumorigenesis in
immunosuppressed animals。の3条件を充たせば十分と考えた。しかし私はこれ以外の指標もあればヒト細胞の培養内発癌実験をさらに能率よく行うことが出来ると考えて種々の指標を検討した。
使用した細胞は正常ヒト胎児由来の細胞(繊維芽細胞と思われる)の4NQOで癌化したものである。対照としては、全胎児由来または、成人皮膚由来の繊維芽細胞で、出来るだけ増殖のよい細胞を用いた。
[結果]
1.形態変化:繊維芽様→上皮様細胞に変化。
2.増殖・分裂頻度・Doubling time:やや増加。
3.Suturation density:正常細胞は10万個cells/平方cm、癌化細胞は20万個cells/平方cm。
4.増殖に対する血清要求性:1%含血清培地で増加。5.Aging:なし。 6.クロモゾーム:Heteroploid。 7.寒天内コロニー形成性:あり。
8.CAMP:10mMでも増殖阻害なし。9.移植性:目下検討中
実際のデータについては5月の班会議で報告する予定。
《梅田報告》
Filter培養法でくだらない問題が生じ、もたついていた実情を報告する。
(1)その後実験を続けているうちに、どうもコントロールの細胞もコントロール寒天培地上のフィルターにコロニーを作らなくなったことに気付いた。すなわち8-azaguanine(AG)培地の選択がどの程度必要か調べる目的で(以下表1、2、3を呈示)表1の実験を行った。group1から4まではMNNG処理細胞を100万個フィルター上にoverlayした。このgroup1〜4のコロニー形成の結果は問題の多いものと思われるが、次のgroup5、6での結果がさらに問題が多い。
すなわちgroup5、6はMNNG処理した細胞を500ケまいた。この数は今迄の経験では、数10ケのコロニーを形成する筈の数である。結果でみるようにgroup5で数ケのコロニーしか、形成しなかった。
(2)上のようなデータが続くのでいろいろと吟味した所、フィルターのlotが変っていることに気付いた。以前から東洋ロシの製品は駄目で、Whatmanが良いとのデータは得ていた。そこで当然Whatmanのロシを使っていたのであるが、Whatmanの別々のロットのフィルターを証してみた。
すなわち表2に示す(a)から(g)の各lotの異なるWhatmanのglass
filterを0.5x1cm角に切り、FM3A細胞を入れた培地中に浮遊させて、培養し、2日後に細胞数を算定した。コントロールの培養の細胞数を100%として実験群の%growthをとると表2のように、lotにより増殖抑制を示すfilterのあることがわかった。Exp.1とExp.2でlot(e)は多少ばらつきはあるが、大よその結論は、lot(b)、(c)、(d)が特に悪いと思われる。因に表1の実験はlot(d)を用いて実験していた。
(3)その後は表2のlot(g)を用いて実験を行っている。やっとデータが又出始めたが、例えば、表3では8AG耐性と思われるクローンを拾ってinoculumを変えてfilter上にコロニーを作らせた結果である。Dose
responseのあるきれいなdataと云える。
《山田報告》
培養条件における肝細胞の増殖に伴う表面荷電の変化を細かく追求しました所、予期以上に、きっちりとした成績を得ました。ラット肝癌培養細胞(JTC-16)及び、肝由来細胞で長期培養状態で自然に悪性化したRLC-18、そして現在の所Tumorigenicityが認められないRLC-21について増殖率、細胞電気泳動度、そしてconcanavalineAに対する反応性を経時的に検索した結果を図1、2、3に示します(図を呈示)。
その結果を整理すると以下の様になります。
1)植込み直後から1日目では、細胞調製に伴う恐らく細胞表面の変化(損傷)の影響が出現し、一過性に荷電密度が高まる。これは、その細胞系の性質と表面損傷の程度に応じてかなり異る。(この状態は薄いトリプシン処理後にDNA合成が高まると云う従来の知見と一致する)。
2)悪性化細胞株ではfull sheetになった後もなほConAに対する反応が著しく起るが、非癌細胞ではfull
sheetになると、直ちにConAの反応性が低下し、荷電密度も低下する。このことは恐らく良性細胞のcontact
inhibitionの現象が、その表面荷電の面でも表現されると云うことでないかと考えられます。
《乾報告》
Sanders(1968)以来、非癌原性物質である2、3級アミンと、亜硝酸がpH2〜3の条件でニトロサミンを生成することが知られ、又この反応は生体内(胃内)でも進行されることが報告されている。しかし、現在ではそれらニトロサミンを含む、反応生成物の癌原性の有無を生体でテストするためには、2年余の動物実験が必要である。従来我々がおこなっており再三報告して来た経胎盤試験管内化学発癌の系はN-ニトロソ化合物によく反応する。
今回2種以上の非癌原性物質の早期テストの一方法として、経胎盤法が使用できるか否かを確めるための予備実験を行なった。
第1段階テストとして、ハムスター胃内でアミンとNaNO3でニトロソ化合物の生成をみた。成熟ハムスター雄を使用し、エーテル麻酔下で開腹胃幽門部(12指腸の胃接続部)を軽く結紮し、胃ゾンデを使用してNaNO3
150mg、モルホリン150mg混合生食水を胃内に注入、直ちに食道基部を結紮し、一応開腹部をとじた後、30分、1時間後に屠殺、直ちに大湾に沿って胃を開き、胃内容物を5mlの生理的食塩水で洗い出し、-20℃で凍結した。一部については内容物摘出後の反応を完全に停止するため、300mg/5mlのスルホン酸を含んだ生食水で内容物を洗い出した。対照としてNaNO3
150mg、モルホリン150mg投与後、無処理胃内容物を使用した。
ニトロサミンの生成は国立衛試谷村研と共同で行ない、高速液体クロマト、及び薄層クロマトグラフィーで定性、定量した。
表にハムスターに投与後30分の胃内に存在したニトロソモルホリンの量を示した。
以上の結果、明らかな、N-ニトロソモルホリン生成が認められたので、経胎盤試験管内実験を開始した。
《高木報告》
ラット細胞(RFLC-5/2)の変異に関する研究
先報にのべたように、薬物による細胞のKilling作用を抑えてmutationの相対的頻度を上げるべく、scheduled
DNA replicationを抑え充分なrepairの時間を与えてsurvivorを増加することを計画し、まず血清濃度を下げてみた。すなわち細胞を径3cmのPetri
dishに100コまいて3〜4時間後定着してから実験群は1%牛血清加MEMで交換し、EMSを1〜3x10-3乗M
2時間作用させた後、再び同上培地で交換して8日間培養をつづけてColony
countを行った。対照は10%牛血清加MEMで培養し、実験群と同様に処理した。
両者のsurvival fractionを比較した(図を呈示)ところ、各濃度とも1%牛血清培地の方が低かった。無処理対照の1%牛血清加培地でも10%牛血清加培地に比較してPEが約半分程度であり、血清濃度の低下によるcolony形成の遅延が8日後のcolony
countに大きく影響していると考えられるため、これがそのままsurviving
fractionを反映しているかどうか、可成り疑問がある。さらにarginine(-)の培地を使って検討中であるが現在までのところ、増殖に関しては可成りstationaryな状態にあるようである。
培養細胞に対するEMSの効果:
先の月報で、EMS処理ラット細胞のATS処理ハムスターcheek
pouchへの移植成績を報告したが、組織切片も作製しおわった。班会議の時供覧して御意見を頂きたいと思う。
《榊原報告》
§Human embryonal carcinoma cell lineの異種移植:
昨年第9回班会議で当研究所外科の関口先生が27才男子のtestisに生じたcarcinomaの細胞株を樹立されたことを報告された。この細胞をhamster
cheek pouchに移植したところ、3週間後に腫瘍形成が認められたのでその病理組織像について述べさせていただく。
浮遊状態で培養されているhuman embryonal
carcinoma cell line・ITO- を1,000万個cells/cheek
pouchの割合でadult golden hamster 3匹の左右のcheek
pouchに移植し、かたの如くATS処置を行った。3週間後に移植部位を検べると最大径1.5cmに及ぶtumorが、100%(6/6)形成されていた。
病理組織像は写真に示す如く(写真を呈示)、乳頭状腺管腺癌で、embryonal
carcinomaとして矛盾のない特徴的なpatternを示し、一部に所謂、embryoid
body様の構造もみられる(写真2)。この細胞は培地中にα-fetoprotein及びalkaline
phosphataseを分泌しているとのことであり、腫瘍組織の大部分は今後の検索にそなえて、-180℃に凍結保存してある。我国で最初の胎児性癌の株と考えられる。
【勝田班月報:7706:正常ヒト細胞の発癌の指標】
《桧垣報告・勝田報告にかえて》
正常骨芽細胞系の培養株の樹立
骨細胞の培養は古くより行なわれてきたが、従来の仕事は、organ
cultureが多く、single cellの培養の仕事は少い。Binderman
et al(1974)はRat calvariaを培養し、in vitroで石灰化を見ているが、4週間の培養で観察し、cell
line迄は至っていない。 今回、JAR-2 Ratの頭蓋骨(New
born)をDispaseで処理することにより、更にAL-P-ase陽性の細胞を拾う事により骨芽細胞形のcell
line(RHB)を樹立した。
この細胞株は、染色体分析を行うと42にmodeを持ち正二倍体の核型を示す(図を呈示)。Doubling
Timeは27.6時間であり(図を呈示)、AL-P-ase陽性で、その熱失活を見ると、骨腎臓型を呈し(図を呈示)、ムコ多糖産生では培地に酢酸を滴下してできたムチンを電気泳動することによりヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、Bを作っていた(図を呈示)。
しかしながら、ムコ多糖産生能、AL-P-ase陽性と骨芽細胞に類似した機能を持ちながらも、in
vitroのmonolayerでは現在の所石灰化を見ていないが、diffusion
chamberで腹腔に入れると、osteoid様物質を認めた。石灰化を見ない原因としては、培養条件下では生体に比しCalcium、Phosphate濃度が1/3位に低いこと、あるいは可溶性Collagenが培地中に流出していくのかも知れない。今後とも、この細胞の性質について検討していく予定である。
:質疑応答:
[難波]Diffusion chamber内の塊にカルシウムの沈着はありませんか。
[桧垣]カルシウム沈着は見られませんでした。
[難波]ホルモンとかDMSOとかを添加して分化させることは出来ませんか。
[桧垣]これからそういう実験を始めたいと思っています。
[関口]Diffusion chamberは細胞が永持ちしなくて困るのですが、他に骨形成を促す方法はありますか。
[桧垣]皮下へ直接入れると他の細胞まで骨形成を起こすことなどあって困ります。
[榊原]方法はchamber法でよいと思うのですが、骨だという確証が見られませんね。さっき呈示された写真では、死んだ細胞の成れの果てではないかとも思えます。
[乾 ]発生学をやっている人達の方法では、72時間位腹腔内へ入れておけば、あと試験管内へ戻しても骨形成が進行するということがあるようです。
《難波報告》
44:放射線(Co60)による正常ヒト細胞(WI-38)の培養内発癌
放射線による培養細胞の発癌実験は現在までのところ以下の2例報告があるにすぎない。Neoplastic
transformation of cells by X-irradiation。(1)Borek
and Sacks:Hamster cells(primary)、Nature
210;276;1966。(2)Terzaghi and Litter:Mouse
cells(10T1/2)、Nature 253;548;1975。
我々は正常ヒト細胞の癌化をおこす可能性のあるものは正常ヒト細胞の染色体の異常を高率におこすものほど、その可能性が高いことを指摘し、多くの化学発癌物質を用い、染色体の変化を検討してきた。検討した化学発癌物質のうちでは、4NQOが最もヒトの染色体異常をおこすことを報告した。この研究の過程で、放射線が4NQOよりさらに高率の染色体異常をおこすことが判ったので(月報7606に一部報告)、WI-38をCo60で照射して発癌させることを試み、一応、発癌したと思われる細胞系を得たので報告する。
ヒト細胞を癌化させるSV40による染色体の変化を参考にした(表を呈示)。
発癌実験を行なうに当り、染色体に高度の異常をおこすとされている、また細胞増殖曲線(図を呈示)からも、300〜400γの照射を行うことにした。
1976.9月より実験を開始し、細胞が一杯に生えた時期でCo60照射を行い、4〜6時間後細胞を継代した。照射は4回行ない総線量は1400γであった。以後、細胞の継代を続け観察していたところ、1977.1月頃になって、細胞の形態が線維芽様→上皮様になってきたので、染色体を検索した。
染色体に非常に激しい変化をおこしており、正確な分析は、ほとんど不可能であるがだいたい結果は、圧倒的に<2nのものが多い。また、ほとんどの細胞にExc、Min、Ring、Trans、Dicなどが認められる。染色体検索時はまだ増殖は遅く、形態的変化もそれほどなかったが、その後、1カ月半頃より、急に増殖のよい上皮様の細胞が出現し、現在に至っている。老化傾向のWI-38と現在癌化したと思われるWI-38の写真を呈示する。
癌化実験は、その他1000γ照射のものを3回行なったが、この場合は細胞の増殖阻害が著しく、癌化に成功しなかった。
また、変異率を定量的に求める試みとしてウワバイン耐性コロニー出現率をみる実験および軟寒天内にコロニー形成する細胞をとる実験を続行中である。
文献としては、100γ5回分割照射で、ヒト細胞は癌化しないで老化が早まったという報告がある。したがって1回の照射が200〜400γぐらいが細胞の癌化に適当であるような感じがする。また、1回だけの照射で癌化するのか、あるいは数回の分割照射で総量を増やすことが癌化に必要なのかの問題点を現在検討中である。
45:正常ヒト細胞の発癌の指標
現在指標として上げられるものは、
1. Morphology。
2. Proliferation(Doubling time、Mitotic index)。
3. Plating efficiency。
4. Colony formation in soft agar。
5. Saturation density。
6. Growth in the medium with 1% serum。
7. Aging。
8. Chromosome。
9. Growth inhibition with cAMP(10mM)。
10.Transplantability。
その中で役立つものは、
1)形態的変化、4)軟寒天内コロニー形成能、5)細胞密度、6)増殖に対する血清依存性、7)Agingのないこと、8)染色体の変化などであろう。移植性については検討中。
1)形態変化:(前述)。2)増殖率:(図を呈示)正常細胞も癌化細胞もそれほど著しい差はない。3)PE:癌化した細胞も、PEは低い。SUSM-1、10%以内、正常ヒト細胞も多くは10%以内である。4)軟寒天内コロニー形成性:対照細胞は0、4NQO→癌化した細胞は約0.1%。6)血清要求性:(図を呈示)1%血清添加培地でも癌化した細胞はよく増殖する。9)CAMPによる増殖阻害はない。
:質疑応答:
[乾 ]ウワバイン耐性をみる時のエックスプレッションタイムはどの位ですか。
[難波]4日です。
[乾 ]短かすぎませんか。
[松村]放射線の線質をいろいろ変えて実験できると面白いですね。
[難波] 次に色々やってみたいと思っています。殊に中性子をかけてみたいですね。
[榊原]形態と染色体が変化した訳ですね。何となく勝田先生のなぎさと似ています。
[難波]Wi-38ではなぎさ変異は起こらないようです。
[勝田]軟寒天で培養するのは細胞にとって可成り酷な条件だと思いますよ。処理後しばらく普通に培養してから軟寒天へ移した方がよいのではありませんか。
[梅田]対照群の細胞も軟寒天内でコロニーを作っているということですか。
[難波]正常と思われる細胞でも顕微鏡的に数えられる程の大きさのコロニーは作ります。しかし100コ以上には増殖しないので肉眼的に見える程に大きくはならないようです。
[松村]WI-38についての問題はクローニングしていないので、変異が起こったのか、セレクトによるものか、はっきりしない点ですね。
[難波]しかし、1匹拾って増やしても50回分裂するともう使えなくなるのですから、こういう実験に使うのは困難ですね。
[松村]何とかしてクローニングした新しい実験系がほしいですね。
[難波]そうですね。
[松村]ウィルスによる変異の場合、痕跡は残っていますか。
[難波]SV40の場合はT抗原を調べてあります。C粒子はみられません。
[乾 ]母体に放射線をかけての経胎盤法では、変異細胞が出てくるのは500r位です。
[難波]培養内の場合、線量が多すぎても死んでしまって変異を起こしませんし、少なすぎても老化現象を促進するだけで変異を起こさないというデータがあります。
[高木]スライドで示された像では、変異した部位には分裂像が多いように見られたのに、変異系と元の系との増殖率を比べると差がないのは何故でしょうか。
[難波]スライドでお見せした変異を起こした部位は、周辺の細胞が老化しているので変異細胞の分裂が目立っています。しかし、まだ老化現象を起こしていない若い細胞と比べると、変異細胞の分裂頻度も増殖率も殆ど同じだということです。
《高木報告》
1.培養細胞に対するEMSの効果
培養70日目および266日目のsuckling rat thymus由来の線維芽様細胞に、EMS
10-3乗M1回 4日間作用させて以後培養をつづけ、それぞれ作用後350日および150日前後にATS処理hamsterのcheek
pouchに移植して、形成された腫瘍の大きさを経過を追って測定し前報に報告した。その腫瘍の組織所見を標本及びslideで供覧する。
2.ヒト胎児細胞の変異に関する研究
胎生8週のヒト胎児より線維芽細胞を培養し、これに4NQOおよびEMSを作用させて経過を追っている。
4NQOでは3x10-6乗M1回作用群、2x10-6乗M
6回作用群および10-7乗M〜2x10-6乗M 11回作用群をおき、またEMSは10-3乗M1回作用群と10-3乗〜2x10-3乗M
8回作用群をおき観察をつづけている。培養60日では細胞の染色体数に変化はみられない。また培養70日の細胞の形態は、4NQOおよびEMS頻回処理群で対照群に比して細胞の配列のdisorientationが強い様に思われるが、対照にもcriss-crossがみられはっきりした変化とはいいがたい。現在exponential
phaseにあると思われるが、頻回作用群ではさらに薬剤を作用させ続ける予定である。
3.薬剤(carcinogen、mutagen)作用時の培養条件の検討
Exponentially growing cellsとstationalまたはstarved
cellsにcarcinogenやmutagenを作用させる際に、repairの時間を充分に与えられたstational
cellsの方が同じ薬剤の濃度に対してsurvivorが増加することが期待される。事実bacteriaにおいてもmammalian
cellにおいてもsurvivorが増加すると考えられる報告が多い。
Mis-repairが発癌やmutationに関係するという考えもあるが、bacteriaでは一般にsurvivorが増加してもmutation
frequencyは増加しないとされており、excision
repairやpost-replication repairとmis-repairが単純に相関しているかどうかは判らない。Mammalian
cellにおいてsurvivorが増加した場合、発癌やmutationの頻度に変化がみられるかどうかが問題であるが、その前段階として種々の発癌剤やmutagenについてexponential
cellsとstational cellsでsurviving curveがどのように変化するか検討している。
培地中の血清濃度を下げる方法はRFLC-5/2細胞ではあまりよい結果はえられなかった。Essential
amino acidであるArginineを培地からぬくと細胞はG1期で停止し、この方法はrepair
capacityを調べる目的でしばしば用いられよい結果をあげている。この実験でもarginine-depleted
MEM(ADM)をRFLC-5/2細胞の植込み時より用いて、細胞の増殖およびDNA合成をH3-thymidineの取込みにより調べてみた。 (図を呈示)MEM+10%FCSでは6日間に約40倍の増殖を示すのに対し、ADM+10%FCSでは培養2日後までやや増殖を示すが、以後は次第に低下した。
この際培養2日目および3日目にarginineを加えてやると2日目では直ちに増殖を開始したが、3日目では1日おいて増殖を開始した。
(図を呈示)RFLC-5/2細胞をMEM又はADM+10%FCS培地で培養した際のH3-TdRの取込みをみた。3cm径のPetridishに2万の細胞数で植込んだが、培地はtrypsin処理直後よりMEMとADMとに分けた。結果は144時間まで観察したが、MEMでは72時間までさかんにH3-TdRの取込みがみられるのに対し、ADMではこの観察期間を通して培養開始時の取込みのlevelが維持された。また72時間でarginineを加えた場合、再びつよいH3-TdRの取込みがみられた。この成績は生の細胞増殖曲線をよく反映するものである。以上Arginine-depletedMEMを用うれば、細胞のDNA合成に関してはrestingな状態がえられる。この方法を用いて諸薬剤の効果を観察したいと考えている。
:質疑応答:
[難波]リペアを抑えて、変異率が上がる方法があるとよいのですが。カフェインなどはどうですか。
[高木]カフェインは役に立ちません。
[難波]低温例えば30℃位にするのはどうですか。
[高木]それも考えられますね。
[難波]合成阻害剤を薄い濃度でかけてみるのはどうでしょうか。
[梅田]細胞によって変異の仕方も随分異なりますね。その細胞によく合った組み合わせを探さなくてはなりませんね。
[難波]動物の系によっても異なります。
[勝田]同系のラッテ肝由来でも細胞系によって変異し易い系、し難い系があります。
《梅田報告》
I. Feeder cellを使うと人の表皮から上皮細胞を増生させ得ることをRheinwaldとGreenが報告し、難波氏によりきれいな上皮細胞培養の可能なことが示された。われわれは接触阻害のきく3T3細胞が手許に無かったので、Syrian
hamster embryo cellのfeeder cellを使い人の皮膚を培養してみた。確かに上皮細胞がきれいに増生してくる。Rhodanile
blue(RhodamineBとNile blueの0.2%液で染色する)で角化細胞はきれいなRhodamineBの赤色をとる。
II. 人の皮膚の時と同じ理由で上皮細胞が生えるのではなかろうかとの想定の下に、Syrian
hamster embryo skinの培養を行ってみた。先ずembryoの皮膚をtrypsin処理して初代培養を行い、増生してきた細胞を凍結保存した。この細胞を融解後、もう一回mass
cultureを行い、次に5,000rかけたSyrian hamster
embryo cellを6万個cells/dishまいたfeeder
cellの上にまいた。6cmφのplastic dishを用い培地はDulbecco
modified MEMに20%の割にFCSを加えたものを用いた。(表を呈示)Inoculumを500、5,000、50,000cellsとして、7日、20日目に細胞をRhodanile
blue染色した。結果はepithelial sheetは形成するが人の皮膚で見られたような角化傾向は無く、20日培養でやっとRhodamineBの赤色がうかがえる程度であった。
III. Syrian hamsterの皮膚の細胞を(II)で述べた同じ方法でfeeder
cellの上に500ケ播いて培養し、翌日DMBA 0.1μg/ml処理を行ってみた。FCSのlotによる違いを考慮に入れ、3lotのFCSで夫々に血清の非働化したgroupとしないgroupを作った。各groupは4枚宛のdishを用いた。培養9日目に固定染色(この場合はgiemsa染色を行った)して形成されたcolonyの数と形態を観察した(表を呈示)。
LotCでinactivateして無いものは非常に悪いPEを示したが、inactivateすると恢復していることがわかる。
Controlでは全体に上皮性の細胞のcolonyを形成した。一部のコロニーは中心部は密に盛り上っているが、周辺部はきれいな上皮性細胞から成っていた。又一部のコロニーで変性細胞?の凝塊をみるものがあった。線維芽細胞のコロニーは一つも無かった。
DMBA処理群では血清による違いはあるが、PEが下り、毒性が出ていることがわかる。しかしコロニーの形態はコントロールに近いものが多く、悪性転換を起したものかどうかの判定は全く困難であった。一部は上皮様配列の細胞の中にspindle-shaped
cellの混入が認められたが、元気に増生するような細胞とは思えなかった。
IV.(II)と同じようにsyrian hamster cellのfeederの上にrat
embryoのskin cellを培養してみたが、この方は所謂線維芽細胞のみ増生し上皮細胞の増生は今の所みられない。
:質疑応答:
[難波]培地にコーチゾンを添加していますか。
[梅田]入れてありません。
[難波]角化現象をみる時は入れた方がよいと思います。皮膚科の人の意見ですが、モルモットの耳を使うと人の皮膚を使った場合に近い実験ができるそうです。
[梅田]動物による違いがあるようですね。ラッテでは成功しなかったのですが、ムンチャクではきれいな上皮が出てきました。
[難波]動物によって上皮細胞の層の厚いものと薄いものがあるでしょうから、培養材料として採取するときにも差がつくのでしょう。
[乾 ]フィーダーに使う細胞は凍結したものでよいのですね。
[梅田]そうです。充分です。
[榊原]表皮だけとるのですか。それとも真皮までですか。
[梅田]真皮まで採ります。
[乾 ]フィーダーに使う細胞を凍結しておけるのは、とても実用的でいいですね。
《乾報告》
我々は過去2年余にわたり、経胎盤in vivo-in
vitro chemical carcinogenesis、mutagenesisの仕事をやって来た。現在迄同系は、芳香族炭化水素、アミン、N-ニトロソ化合物、アゾ色素等広範な化学物質に適用が可能である。但しこれら物質に同法を適応する為AF-2を除いて20mg/kgの投与が必要である。同量はある物質(例えばたばこタール)投与に際し、動物に急性毒性死をもたらす欠点を有している。
今回同系の感度をたかめる為AF-2を使用して実験を行なった。
妊娠11日目のハムスターにPhenobarbital(Phb)40mg/kg腹腔内注射、24時間後AF-2(20〜200mg/kg)を同じく投与した(Phbは野村らにより妊娠母体に投与した時奇型誘起率を上げることが知られており、又ハムスターはPhb、Bpを投与した時薬剤代謝酵素の一種であるAHHは12時間目より上昇し始め24時間で最大になり30時間では減少する。岡本ら)。AF-2投与後24時間に胎児を摘出Dulbecco'sMEM+20%FCSで培養、24時間以内に染色体標本を作製した。対照には無処理、AF-2単独投与の母体より得た胎児を使用した。
200中期細胞核中の異常染色体を含む核板の出現頻度をまとめた(図表を呈示)。
AF-2 50、100、200mg/kg投与群でPhenobarbital前処理群でAF-2単独投与群に比して、染色体異常をもった核板の出現が高かった。100核板当りの異常染色体の出現頻度では、明らかにPhb前処理群で異常染色体の出現が増加した。Exchange型のみの出現では、Phb前処理群でExchangeの出現は同様高く表われた。以上の結果、Phb処理で染色体異常は明らかに増加するが、その増加率は2倍には達しない。"Enhancement"効果をさらに明らかにするために、今後指標をMutation、Morphological
transformation等を使用していくとともに、前処理物質の検討を行う予定である。
:質疑応答:
[乾 ]フェノバルビタールを使ったのは、ハムスターではシングルショットで代謝酵素の活性の上昇がみられるという唯一のデータがあったからですが、薬剤による代謝酵素の活性の上昇は、特異的にあるものだけが上がるのでしょうか。複数の活性がみな上がるのでしょうか。
[永井]それは、色々な場合があるでしょうね。
《榊原報告》
§Human ovarian cancer cell lineの異種移植
Embryonal carcinoma cell lineに続いてovarian
cancer cell lineのHamsterへの異種移植について報告する。関口先生よりヒトovarian
cancer由来培養細胞株"Chikaraishi"cellをお預りし、golden
hamster 2頭の左右頬袋、ならびに1頭の右頬袋に500万個cells/ch.p.の割合で移植を行ない、ATS処理を施しつつ、24日を経たのち頬袋を切除し、tumorの組織像を調べた。腫瘍形成は4/5に認められ、最大径は0.8cm、小さいながら反応や壊死の殆どない、良いtumorであった(写真を呈示)。serous
cyst adenocarcinomaを想わせる特徴的な腺癌で、処々にcysticなlumenを形成し、内部にeosinophilieな物質を分泌す性質があるようだ。初代培養後6ケ月目という若い細胞株である故であろうか、構造分化はもとより、機能の面でもoriginの性格を保有している可能性が考えられる。
なお異種移植の成績を左右する要因の1つに植え込み細胞数がある。人癌細胞に関する限り、takeされなかった場合にinoculum
sizeを大きくして再度試みると、必らず良い結果を得ているので、最近は初回から出来る限り大量、即ち1,000万個程度を植えるよう心がけている。
:質疑応答:
[梅田]この方法で悪性度も判りますか。例えば増殖の早いものは悪性度も高いとか。
[榊原]増殖率に違いはありますが、悪性度は組織像で判定しています。
[関口]ヌードマウスへの移植の場合でも、悪性度と増殖率には関係がないようです。
[高木]動物へ移植する時、細胞はよく洗うのですか。
[榊原]PBSなどに換える必要はありません。培地のままで濃縮して接種しています。
《久米川報告》
マウス顎下腺の線状部には形態的、生化学的な性差が見られる。雄マウスでは思春期以後、線状部の細胞に電子密度の高い分泌顆粒が形成され、この顆粒内にはNGF、EGFといったものが含まれているようである。またマウスの顎下腺にはG-6-PDH活性にも性差がみられる。
この顆粒の形成はandrogensの支配下にあることが、明らかにされているが、発生過程のマウスに5α-Dihydrotestosteroneを投与しても顆粒の形成は起らない。しかし、線条部はすでに生後4日頃形成されており、またandrogenのreceptorも線条部の形成と一致して存在している。5α-Dihydrotestosterone(DHT)の他に何かが関与しているのではないかと考え、生後20日前後血清中の濃度が上昇するホルモンThyroxine(Thy)、Insulin(In)、Hydrocortisone(Hy)をDHTとともに生後4日から投与した。(図を呈示)DHT投与群では線条部の径の拡大は起らないが、DHT+Thy+In+Hy投与群では径の拡大が早期にみられた。
次いでDHT以外のホルモンの内、何が顆粒の形成に関与しているか、色々組合せて投与した結果、Thyが関与していることが明らかとなった(表を呈示)。
顎下腺にはproteaseが産生されるが、この酵素にも性差がみられる。生後4月からDHT+Thy投与群では、正常雄マウスに比べ約10日早くprotease活性の上昇が起る。しかし、DHT又はThy単独投与群では活性の上昇はみられない。これらの結果から分泌顆粒の形成にはAndrogens以外にThyroxineが関与しているのではないかと考えられる。
:質疑応答:
[難波]雄に誘導がかかるのですね。
[久米川]そうです。サイロキシンを打つと出てきます。
[高木]インスリンは関係ないのですね。
[久米川]そうです。
《山田報告》
前回に引続いてラット肝細胞のin vitroにおける細胞増殖とその表面荷電及びConcanavalinAに対する反応性を経日時にしらべてみました。
今回はTumorigenicityのないRLC-21のclone株の一つであるRLC-21-C12株、Tumorigenicityは証明されるが、前回検索したRLC-18にくらべてTumorのbacktransplantabilityが低く、しかも腫瘤形成までの期間の長いRLC-19を検索しました。(RLC-19系における悪性細胞のpopulationはかなり少いと思われます)
RLC-21-C12はその母細胞RLC-21と略々同様な変化を示し、その泳動度の高い状態はむしろ移植後1〜2日にあり、ConAに対する反応性も同一時期に昂進しました。しかしfull
sheetになる6日目以後は急速にConAに対する反応性が低下しContact
inhibitionの影響による表面の変化がこの系にも出現しているものと考えられました。
これに対しRLC-19はその増殖率もあまり高くならず、特にfull
sheet後にはConAの反応性が急速に低下しむしろRLC-21と同様な変化を示しました。すなわちRLC-19は悪性細胞のpopulation
densityが低いために反応性、非悪性の型を示したものと解釈しました。
移植初期の一過性の表面荷電の変化とfull
sheetにまで増殖した後の表面の変化を分けて更に分析したいと考えています。(図を呈示)
【勝田班月報:7707:AFB・AAFによる発癌実験】
《勝田報告》
培養細胞におけるポリアミン代謝
スペルミンを組織培養の培地に添加したとき、細胞の種類によってその増殖に対する影響にはかなりの差異が認められる事はすでに報告した。
それに続く実験として、ポリアミンに対する抵抗性の最も強い系としてJTC-16、弱い系の代表としてRLC-10(2)を使ってポリアミンの細胞内での代謝をしらべた。
(図を呈示)H3-プトレッシンを培地中に添加し、30分後に除去して後、経時的に細胞を集めて、細胞内の放射能を追った。
ポリアミンの定量、分劃法は、大島法、レジンはCK-10Sを用いた。先ずJTC-16をみると30分間に細胞内に取り込まれたH3-プトレッシンは18,000cpm/mg蛋白とかなり高い値を示して居る。スペルミジンへの移行も少量みられるが、スペルミン分劃にカウントは無かった。24時間後になるとプトレッシン分劃のカウントは著しく低下し、スペルミジンが上昇、スペルミンも少量ではあるが検出された。48時間以降はスペルミジンは徐々に減り、代わってスペルミンが上昇している。RLC-10(2)については、蛋白量あたりのcpmがJTC-16に較べてずっと低い。代謝の傾向としてはJTC-16とほぼ同様であるが、96時間までにはスペルミン代謝のカウントの上昇がみられなかった。
H3-スペルミンを1時間添加した後、同様に時間を追って各分劃のカウントを記録してみるとJTC-16では、添加1時間で細胞内スペルミン分劃に高い取り込み値がみられ、スペルミジンへの移行も著明であった。時間と共にスペルミン、スペルミジンは減少するが、プトレッシンに相当する位置にカウントは無く、アルギニンかと思われる分劃に高いカウントがみられた。RLC-10(2)は傾向としてはJTC-16と同じであるが、各分劃への取り込みは半分以下であった。
これらの結果は定量的にはかなり辻褄の合わない所もあり、未同定の分劃もあって、まだ検討を要する。
:質疑応答:
[遠藤]この実験では、調べた細胞の中からスペルミンに耐性のある細胞系と感受性のある細胞系を選んで、その代謝を比較しているのですね。それより感受性株の中から耐性のクローンを拾って調べてみると、耐性、感受性といった性質と代謝の問題との関連がよりはっきりするでしょう。
[高岡]この実験は正常肝細胞と肝癌細胞の相互作用についての流れで、正常細胞は感受性、肝癌は耐性という傾向だったので、それぞれの代謝について調べました。つまりポリアミンの代謝の違いと腫瘍性との関連性をみたいと思っています。
《高木報告》
Mammalian cellsにおいて突然変異あるいは発癌をmisrepair
modelにより研究しようとするとき、同一細胞でrepair
activityの異ったrepair欠損株をとる必要がある。ヒトの細胞ではXP細胞がexcision
repair欠損株と考えられているが、ヒト正常細胞とXP細胞とを使用してmutationの発現頻度とrepairとの関係を調べた報告は多い。われわれは細胞のrepair
activityとmutation(carcinogenesis)との関係をみるために、同一の細胞につき培養条件をかえてrepair
activityに差をつくり、これに対するUV、mutagen(carcinogen)の影響をみたいと考えている。同一細胞でrepairの差をつくり出すために、まず細胞をarginine-depleted
MEM(ADM)で培養してDNA複製を止めた状態におき、これにmutagenを作用させ、その後も一定時間この状態に細胞を保持し、これとMEM培地で同様にmutagenを作用させた細胞とのmutation
rateを比較する計画をしている。
その第一歩として今回はRFLC-5/2およびV79細胞をMEMおよびADMで培養してこれに種々濃度のmutagenを作用させ、Dose
survival curveよりpotentially lethal damege
repairを検討した。(実験scheduleの表を呈示)
細胞をtrypsin処理し、ADM+10%FCSで2回洗って35mmのFalcon
Petri dishにまいた。細胞数は形成されるcolony数が100コ程度になるようにRFLC-5/2細胞ではMEMで150コADMでは300コ、またV79細胞ではいずれも100−200コまき込んだ。
培養はmutagen作用後7日目に固定し、染色し、colony
countを行って各mutagen濃度に対するsurvival(%)を出してsurvival
curveをえがいた。RLFC-5/2細胞につきMNNG、UV(GL10、slit
1cm、距離30cm)作用させた場合、ADMの方がMEMよりsurvivalの上昇をみた。UVの場合のDose-Survival
curveを示す。
またV79細胞ではRFLC-5/2細胞とことなり、exponential
growthを示す細胞をまき込み、直後からDNA合成をH3-TdRのとり込みを示標としてみた場合、ADMでもわずかながらDNAの合成が認められた。そこでconfluentになった細胞をまき込んで同様に観察したところ、(図を呈示)ADMでは大体一定のDNA合成のrestingな状態がみられた。従ってこの条件下で実験をすすめているが、UVの影響をみるとやはりADMにおいてsurvivalの上昇がみとめられた。さらに両細胞についてさらにEMS、4NQO、aflatoxin、Nitrosamineなどの影響を観察中である。また細胞のDNA合成をrestingな状態におく条件としてconditioned
mediumについても検討したい。DNA合成のrestingな状態ではexcision
repairのみがはたらいていると考えられる(他にも何らかのrepair
systemが働いている可能性はあるが・・・)。従ってequicytotoxic
doseを作用させた上でADMとMEMにおける細胞のmutation
rateを比較すればexcision repairのerrorがmutationに関係しているか否かを検討することで出来る。mutationの実験は6TG耐性株の出現で観察しているが、RFLC-5/2では頻度がきわめて低いためV79を用いる予定で現在準備をすすめている。
:質疑応答:
[難波]アルギニンの無い培地の方が修復が良いということですね。
[梅田]本当に修復が良いのでしょうか。アルギニンの欠除で細胞が増殖出来ないために修復をする時間が充分あるということではありませんか。
[高木]私もそう思っています。分裂をしないでいる時間を延長させる事によって修復ができるので、見かけ上修復が良いという結果になっているのでしょう。
[梅田]H3-TdRの実験の時confluentになった細胞を使わないとDNA合成がrestingにならないという事ですか。
[高木]そうです。増殖期の細胞を使うとDNA合成がゼロにはなりませんでした。
[勝田]日本の培養屋はconfluentという語をよく使いますが、どういう状態を意味しているかを、明確に意識して使わないといけませんね。
[遠藤]このシステムでは変異率は落ちるでしょうね。
[高木]同様なことを細菌で実験すると変異率は落ちるそうです。
[遠藤]そうでしょう。
[高木]私達の細胞については、これから検討するところです。
[難波]Excision repair以外に何かよいrepairは無いものでしょうか。
[勝田]培養屋が癌の研究をすすめる時に、mutationは何の意味をもつのかよく考えないといけませんね。Mutationを起こした細胞は試験管の中では拾う事ができますが、生体内で同じ現象が起こった場合、変異細胞はどんどん増えて癌になることが考えられるでしょうか。むしろ生体内の機構の中では排除されてしまうのではないでしょうか。培養細胞を使うことの利点と欠点を培養屋は充分意識するべきですね。
《梅田報告》
必ずしも良い結果とは言えないが、2つの目論みの現在進行中の仕事を紹介し、御批判を仰ぎたい。
(I)DL1細胞がaflatoxinB(AFB1)に反応性があり、benzo(a)pyrene(BP)代謝能が高いことからこの細胞をクローニングして性質を調べてきた。その中でclone2は典型的上皮細胞で、AFB1には反応するが、BPには反応せず、BP代謝能も低かった。それに反し、clone20は類上皮性細胞で、AFB1、BPに強い反応性を示し、BP代謝能は非常に高かった。この事実からclone20は薬物代謝酵素活性が特に高い可能性が考えられた。
以前から2-acetylaminofluorene(AAF)はHeLa細胞などに高濃度で毒性は示すが、その惹起する形態像はsmall
cellを形成し、proximate、ultimate formであるN-OH-AAF、N-acetoxy-AAFを投与した時の大型で明るい細胞出現と異なることを報告してきた。
以上のことからDL1 clone20の薬物代謝能を生物学的に調べる指標としてAAFを投与して、そのproximate、ultimate
formで惹き起されると同じような反応をcone20が示すかどうか調べてみた。cone2を対照として使用した。
(II)先ずclone2とclone20細胞にAAF、N-OH-AAFを投与してみた。ラブテックチャンバーに各細胞をまき、3日間各発癌剤に接触させてから固定染色して、毒性と形態を調べた。
(表を呈示)毒性はAAFではclone20がcone2よりやや強く障害を受けている結果であった。形態的にはclon2では細胞はそれ程大きくならないが、clone20では大型細胞の出現、多核細胞の出現が認められた。この大型化はN-OH-AAF投与でclone2もclone20も共に認められた。N-OH-AAF投与ではcone2の方がcone20よりより強い障害を受けていた。
同時にDAB、4NQOを投与する実験も行った。DABではやはりclone20で大型細胞が出現し、大小不整が著明であった。両clone共に散在性に巣状細胞壊死部が認められた。4NQO処理では核は大きくなり核質は微細になっていた。
(III)上の毒性実験でclone20にAAFを投与した時、細胞の大型化が認められたので、このcloneはAAFをactivecarcinogenに代謝する酵素を持ち合わせている可能性もあると考え、その証明のため、AAF投与後染色体標本を作製し惹起される異常を観察した。
結果は(表を呈示)、clone20はcontrolにも主にgapではあるが7%の分裂異常像があった。10-3.5乗MAAF投与で24、48時間処理で17、16%の異常があった。Clone2の方も10-3.5乗MAAF投与で24、48時間処理後、9、12%の異常があった。10-3乗M投与では分裂像が少なく結論は出せない。さらにいろいろの濃度でテストする必要性を感じている。
(IV)Syrian hamsterの上皮細胞コロニー形成を前回の班会議で報告した。この上皮形態の細胞を利用しようと思い、penicillin
cupによるcolonial cloningを試みた。
増生してきた細胞をすぐラブテックチャンバーにまき(クローニングしてから2代目の細胞)、20-methylcholanthrene(MCA)、4NQO、MNNGで処理した(表を呈示)。Clone4は典型的な上皮細胞でclone7は対照としてクローニングした典型的な線維芽細胞である。この実験の期待の一つは特にMCAに感受性の高い細胞を選ぶことでもあった。
予期に反し、両細胞ともにMCAに反応せず、4NQOにわずかに反応したのみであった。しかしこれらの両細胞共に大型細胞となり、分裂増殖能は極端に落ちていることを想定させた。すなわち所謂agingを起したような細胞でこの時期には既にMCAを代謝する酵素のAHHは消失している可能性を示している。
:質疑応答:
[勝田]この場合、細胞が大きいとか小さいとかは、どういう基準ですか。
[梅田]形態的にみて決めています。
[高岡]細胞あたりの蛋白量とか核酸量とかの増減もありますか。
[梅田]定量はしていないのですが、蛋白合成とか核酸合成の阻害と、細胞の大小とは相関があります。
[勝田]細胞の形態変化で薬剤の効果を断ずる場合は、その与えた薬剤が細胞の増殖に対してどの位影響するかを明確にしておく必要があるでしょう。
[梅田]今のやり方では、これらの物質の急性毒性をみているにすぎません。
[勝田]培養屋として形態で物を云う場合、おもてに出ないデータ、たとえば変化の起こったポジティブな所の他にネガティブな所がどうなっているかが大切な問題ですね。
[松村]これらの形態変化は細胞分裂を介して起こるのでしょうか。
[梅田]細胞分裂との関係はみていませんが細胞は分裂を続けている状態での観察です。
[乾 ]そしてクローンは感受性が落ちているという事ですね。
[梅田]クローニングした細胞の方が早くエイジングを起こす為かも知れません。
[勝田]エイジングについてどんな意見をもっていますか。
[梅田]私の実験の場合、細胞が大きくなっていることなどから、蛋白合成は続けられているが、分裂装置がおかしくなっているのではないかと考えています。
[勝田]エイジングとは何か。培地を進歩させれば今みているエイジング現象など無くなるのではないか、とも考えられます。昔、なぎさ変異を調べていた時、多核細胞でDNA合成が同調できないまま分裂を始めた細胞が死に至る現象をみました。一つの細胞の中で合成のバランスが崩れると死に至ることは当然だと思います。
[吉田]今みているエイジング現象は、ある限られた培養条件下のものと思われますね。しかし、クローンを拾う過程でエイジングがは早まるというのは何故ですか。
[梅田]この系の場合はクローンの方が世代時間が短いせいかと考えています。
[乾 ]エイジングを起こした細胞の薬剤感受性はどうですか。
[嶋田]エイジングを起こしたというのではありませんが、老齢のヒトから採った細胞でのMNNG処理では、この濃度で何の変化もありませんでした。
《榊原報告》
§ムコ多糖の培養内局在について:
培養肝細胞はin vitroでコラーゲンが線維を形成すると共にムコ多糖を産生することは、特にcloneBC細胞について詳しく報告したが、今回はムコ多糖の培養内局在を組織化学的方法により明らかにすることを試みた。BC、M、RLC-18(3)及びRLG(1)の各株細胞をタンザク上に播き、3週間後に酢酸カルシウム2%含有10%ホルマリンで固定、3%酢酸溶液に10分浸してから1%alcian
blue(pH2.5)で30分、ムコ多糖染色を行ない、脱水、封入、検鏡した。一部はalcian
blue染色後PAS染色を施し、或いはトルイジンブルー染色をも試みた。(写真を呈示)alcian
blue陽性物質はコラーゲンと同じpatternをとってみられ、PASによる重染色により、コラーゲン線維上、又は周辺に無構造の物質として沈着している事が明らかになった。鍍銀線維形成陰性であるRLG(1)株では、alcian
blue陽性物質は細胞膜に接してかすかに見られるのみで、細胞間隔に沈着する像は全く認められなかった。古くからコラーゲン、ムコ多糖間には何らかの相互作用があると考えられている。肝細胞によって産生されるコラーゲン、ムコ多糖間にも同様の想定がなされてよいように思われる。
:質疑応答:
[嶋田]メタクロマジーはどうですか。
[榊原]陽性です。
[松村]コラーゲン線維とムコ多糖の関係はどうなっていますか。
[榊原]電顕でみるとコラーゲン線維の周りにアモルファスな物がみられます。それがムコ多糖のようです。
[松村]各種のムコ多糖を同定できますか。
[榊原]出来ます。
[松村]今のスライドで染まっていたのは何ですか。
[榊原]あの染色では皆染まっています。
[桧垣]コラーゲンの型はどうですか。
[榊原]これから調べる予定です。
[佐藤]線維芽細胞や血管内皮細胞はコラーゲンを作りますか。
[榊原]不思議なことに、線維芽細胞株はコラーゲンを作り難く、L株も作りません。
[佐藤]L株は血管内皮由来かも知れないそうですね。
《乾報告》
亜硝酸(NaNO2)、モルホリン(Mo)同時投与によるハムスター胎児細胞のTransformation、Mutation:
経胎盤in vitro-in vivo chemical carcinogenesis(Mutagenesis)の仕事を数年来やって来て、既知の発癌剤のほとんどの物質が、この系によって検知出来ることがわかって来ました。今回はSandersらが発表したアミンとNaNO2の食い合せで、胎児細胞が変化を起すかどうかを試みましたので報告致します。
実験方法;妊娠11、12日目のハムスターにNaNO2
500mg/kg、Mo 500mg/kgを水で稀釋して、胃ゾンデで強制投与後、24時間目に胎児を摘出、従来の方法で、8アザグアニン耐性突然変異、Morphological
transformationの出現を検索しました。
一方前月報でも報告した如く、投与ハムスターの胃内にN-nitrosomorpholine(N-Mo)が生産されている事を直接証明するため体重150〜180gのハムスターをエーテル麻酔下で開腹、12指腸最上部を軽く結紮、直視下で胃ゾンデでNaNO2、Moを各500mg/kg投与、直ちに食道下部を結紮し、投与物質の逆流をふせぎ、一端閉腹後、30分、1時間後に動物を屠殺、胃内容物より、薄層クロマトグラフィーでニトロソ化合物の定量を行なった。
(表を呈示)結果は明らかに、耐性突然変異はMo単独投与では、ほとんど出現しなかった。NaNO2投与群では約7.5倍の変異コロニーが出現したのに反して、NaNO2、Mo同時投与群では、その出現は対照に比して、18.9倍(8AG
10μg/ml)、29.2倍(8AG 20μg/ml)であった。N-Mo単独投与での変異コロニーは、約5倍であった。胃内のN-Moの成生は2.32〜3.18mg/Head(30)分1.85mg/Headであった。NaNO2単独投与のニトロサミンは0.44mg/Head、対照の胃内物質、Mo投与群および餌(日本クレアCA-2)ではニトロサミンは検出出来なかった。以上の結果より、1)NaNO2自身にtransplacental
Actionがある。2)NaNO2+Mo同時投与により、N-Moが成生され同物質が胎児細胞に強い変異原性をもち、反応残物のNaNO2と同時に作用し高い突然変異を示すこと。3)N-Mo
100mg/kg投与は、ハムスター一頭当り、15mgに相当し、NaNO2+Mo
500mg/kg投与における、24時間の反応成生物より少ないことが推察される。
(表を呈示)投与後のMorphological Transformationの出現率は、突然変異の出現と同様、Mo単独投与ではTransformed
Colonyはほとんど出現せず、NaNO2では5倍、NaNO2+Mo同時投与群では9.2倍のTransformed
Colonyが出現した。現在同コロニーをクローニングし、復元移植をこころみている。
:質疑応答:
[吉田]NaNO2+Moと比べるとN-Moを直接やった群の変異がかなり低いのは何故ですか。
[乾 ]NaNO2とMoを混ぜた投与の方が胃の中で長時間、より多量の処理をしたということになると思います。つまり量的な違いが変異率にひびいたと考えています。
[山田]時間と共に胃の中の薬物の量が減っているのは、吸収されるのでしょうか。或いは壊れるのでしょうか。
[乾 ]吸収されると考えています。
[山田]亜硝酸とアミン類が結合する条件は、既にin
vitroで決定されていますか。
[乾 ]In vitroではかなり早い時期から結合し始めて、すぐプラトーに達し、プラトーの状態が長く続くことが判っています。
[山田]始めに吸収されるのが胃であることが必要なのでしょうか。又は胃の中の条件たとえばpHが低いという事が必要なのでしょうか。
《難波報告》
45:培養ラット肝細胞(RLC-18)のグリコーゲン合成に及ぼす種々の薬剤の影響
RLC-18のグリコーゲン合成は、1)細胞密度と、2)培地更新との、2原因に依ることを従来の月報に報告してきた。すなわち細胞密度を下げて細胞をまき込み(約5万個/60mmシャーレ)、5〜7日培養後、培地更新を行うと、4〜6時間後に、コロニー状に増殖している細胞集団の辺縁部分の細胞が著明なグリコーゲン蓄積を示し、コロニーの中心部の密に増殖している細胞は、グリコーゲンの蓄積を示さない。
何故、細胞密度の低い場合にグリコーゲン合成が盛んなのかの理由を知るために、細胞密度の低い培養と高い培養とを用意し両者の細胞当りのDNA、RNA、蛋白合成をみると、細胞密度の低い方がこれらの高分子物質の合成が盛んであることが判った。さらに、細胞密度の低い場合、培地更新後からグリコーゲン出現までの5時間までに培地更新によってRNA、蛋白合成が高まることが判った。
これらの事実は、細胞のグリコーゲン合成には新しい蛋白の合成が必要なことを示している。この事をさらに確かめるために、DNA、RNA、蛋白阻害剤を用いて実験を行なった。
実験方法は60mmシャーレに5万個細胞をまき込み、5日後培地(MEM+10%FCS)を更新し、同時に上記の阻害剤を添加し、5時間後にグリコーゲンを定量した。結果はRNA、蛋白の合成阻害は、グリコーゲンの蓄積阻害を示している。(表を呈示)
インシュリン、高濃度のグルコース、プレドニゾロンは、RLC-18のグリコーゲン合成に影響がなく、一方、CAMPはグリコーゲン量は低下させるように有効に働いていることを示している。
細胞密度が高い場合、何故DNA、RNA、蛋白合成が低下するかの理由として、1)細胞が小さくなるので、細胞当たりのRNA量、蛋白量は低下すると予想されるので当然、培地更新後、RNA蛋白合成は低いであろう。2)細胞が密になり接触することによって培地中のものの取り込みが出来なくなる。3)グリコーゲン合成に必要な培地中あるいは(血清中)の微量物質が、細胞が増加するにつれて、細胞当りで減少する。などの理由が考えられる。
:質疑応答:
[榊原]ヒト細胞の変異の場合、復元実験はしてありますか。
[難波]まだです。
[山田]RLC-18でグリコーゲンのアグリゲイトが電顕的に見えるのは、パス染色が陽性になるのと同じ時期ですか。
[難波]そうです。
[山田]インシュリンを添加するとどうですか。
[難波]インシュリンは全く効果がありません。cAMPでグリコーゲン量は減ります。
[高木]ホルモンの影響はありませんか。
[難波]ホルモンについても幾つか実験しましたが、結論が出ていません。
[高木]血清濃度は・・・。
[難波]今の所20%までです。
[乾 ]細胞が一杯になった時、血清濃度を上げたらどうなりますか。
[難波]RLC-18でなく別の細胞でのデータですが、細胞が一杯になってから、血清濃度を50%にしてみて全く効果がありませんでした。
[榊原]パス染色陽性というだけではクリコーゲンとは言えませんね。
[難波]アミラーゼ消化で消えますから、グリコーゲンと言っても良いと思います。
《山田報告》
NO.7705およびNO.7706の報告において培養ラット肝細胞及び肝癌細胞の増殖に伴う表面荷電の変化を報告しましたが、そのなかで、platingしてから1〜2日目にいづれの細胞株の表面荷電密度も一過性に一度増加することを見出しました。この現象は恐らく細胞調整の際に細胞表面が損傷するために、修復のためか、あるいは従来トリプシン処理の場合にみられた様な僅かな細胞表面物質を取除くと、反応性に増殖機構に刺激が加えられて、その結果表面荷電にも変化が起るのかいづれかであらうと考へて、この現象を解析してみました。
方法としては、細胞をplatingする際に、あらまじめ通常の方法により細胞を採取した後に2、10、30回それぞれpipettingし、細胞表面に変化(損傷)を与えました。
そして、それぞれのCell sampleをplatingし、その後の細胞電気泳動度の変化を2日目まで検索し、さらにそれぞれの状態におけるConA(1、2、50μg、37℃、30分)に対する反応をも調べてみました。(図を呈示)
その結果、RLC-18では、そのpipettingの回数に応じてその電気泳動度は低下し、とくに30回pipettingした細胞では0.001%トリプシン処理(pH7.0、37℃、30分)後と同じ程度(-7%)に低下しました。これらの処理細胞をplattingしました所、2日目にこれらの細胞は15〜20%に電気泳動度は増加し、各細胞群間にその電気泳動度の差がなくなりました。すなわち2日間でpipetting処理による表面の損傷が回復したにすぎないと云う結果を得ました。
ところがJTC-16の場合は結果が異り、pipetting処理により表面の損傷を適当に起こさせると、反応性に電気泳動度が増加し、単なる表面損傷の修復以上の変化が現れて来ました。pipettingを行った所、10回処理群の細胞が最もその電気泳動度が低下し(2回処理に比べて-8.2%)、しかもこれがplating後2日間でその電気泳動度が25%も増加してきました(これに対し2回処理群では10%の増加)。
これは明らかに反応性に泳動度が増加したと云う結果と思います。同時に行った0.001%のトリプシン処理でもこれに近い成績を得ました。
ConAの反応性はJTC-16の10回処理細胞群のみ僅かに出現し他の細胞群にはConAの反応性が全く出現しませんでした。
:質疑応答:
[勝田]細胞膜を問題にする実験の場合は、浮遊培養方を使うとよいと思いますが。
[山田]やってみたいと思っています。
[難波]物質の取り込みと膜のチャージには、どんな関係がありますか。
[山田]細胞膜の透過性との関係となりますと、チャージのある物質なら殆ど何らかの影響があるはずです。
[乾 ]細胞の分裂周期による違いはどうですか。
[山田]前に話しましたが、HeLaでM期に40%も上昇するというデータがあります。
☆☆☆吉田班友から、実験動物として開発中のMusplatythricsについてお話しがありました。この動物はインドマウスとでも名付けようかというもので、染色体数は2n=26で、どんどん繁殖するし、感染にも強くて丈夫だし、培養細胞にしても扱いやすいという事です。純系化も進行中で今8代目だそうです。
その他にも信州に居て年の半分は完全冬眠ですごすヤマネを飼育して実験に使いたいことや、ラッテと違って染色体レベルでも血清学的にも不安定なクマネズミの純系化を試みているなど、興味深い訓話の数々でした。
【勝田班月報・7708】
《勝田報告》
§ラッテ肝細胞のジエチルニトロソアミン(DEN)による培養内悪性化の実験−復元成績
RLC-23(対照群)、RLC-23・DEN50(培養第2代にDENを50μg/ml、1週間連続投与した群)、RLC-23・DEN100(培養第2代にDENを100μg/ml、1週間投与した群)について、動物への復元実験をおこなった。
接種動物は、同系ラッテ(JAR-2)、接種部位は皮下、接種細胞数は1,000万個〜4000万個cells/rat。
対照群は腫瘤を作らなかったが、処理群は2群とも腫瘤を形成した。DEN50処理群は1ケ月半で親指大の腫瘤を作ったがDEN100処理群の腫瘤は4ケ月の観察でも急激な増大はなく、小豆大にしかならなかった。しかしその組織像は悪性像であった(写真を呈示)。
《難波報告》
47:チャイニーズハムスター(CH)の肝臓より培養株化した上皮細胞と繊維芽細胞
従来、ラット、マウスの肝臓由来の上皮性細胞の培養株については多くの報告がある。そして、それらの培養株のあるものについては、1)アルブミン産生、2)
Tyrosine Amino-transferaseや、Ornithin transcarbamylaseなどの肝細胞に特異的な酵素の存在、3)培養内で癌化させて動物に移植し肝癌であることを確認する、などの諸点から肝実質細胞が培養されていることが証明されている。
私共はCHの肝細胞の培養株化を目的として、1975-12-16より、培養を開始した。当初の私どもの研究の目的は、1)CHの肝細胞の培養の報告がまだない、そして、2)もし、培養化に成功すれば、CH由来の多くの株化細胞のクロモゾームは長期間の培養条件下でも、比較的安定で、near
2nに保たれる利点があるので、細胞遺伝学的仕事に役立つであろうと考えた。
培養の開始:生れる直前の2匹の♂胎児の肝を細切し、トリプシン処理で細胞を分散し、シャーレにまき込んだ。
培地:1)MEM+10%FCS+10mM Hepes。
2)MEM+10%FCS+10mM Hepes+4.2x10-6M
Dexamathasone
培養の経過と結果:培地1)を使用した場合には、Fibroblastsがovergrowthして、Epithe-lial
cellsの増殖がみられなかったので、培養を中止した。培地2)ではFibroblastsnocellsheetの中にEpithelial
cellsがColony状に点在し、徐々に増殖して来た。この上皮性の細胞の増殖はFibroblastのcell
sheetの上、あるいはFibroblastswo押しのけてゆっくり増殖しているようにみえた。Epithelial
cellsがシャーレ一杯に充分に増殖するまで、2/wの割合で培地の更新を行い、なるだけ上皮性の細胞を増した状態にしておき、トリプシンで細胞を剥がし、少数細胞をシャーレにまき、クローニングによって繊維芽細胞と、上皮性細胞とを分離した。培養の経過は図に示した(図を呈示)。
現在、上皮性細胞、繊維芽細胞ともに、Agingを示すことなく活発な増殖を続けている。Plating
Efficiencyは、Epithelial cellsで5〜10%、Fibroblastsで30〜50%である。
Epithelial cell lineの確立のためには、クローニングは必須であるが、次の2点も重要と考えられる。1)Dexamethasone含有培地の使用。2)Epithelial
cellsが充分Fibroblastsの上に一杯に増殖するまで継代を行わない。Epithelial
cellsが充分増殖していない培養初期に継代を行えば、Fibroblastsがただちにovergrowして、Epthelial
cellsが消失する。
CH肝由来上皮性細胞と繊維芽細胞との応用:
肝臓に由来した、上皮性細胞と繊維芽細胞とが種々の化学発癌剤に対して、1)感受性に相違があるか否か、2)Mutation
rateに差があるか、どうかの2点を現在検討中である。
1)HepatocarcinogenであるAflatoxinB1に対しての、感受性の検討(表を呈示)の結果は、AFB1の毒性に対して、上皮性の細胞は感受性が高く10-6乗Mで、急激に細胞が死亡していることが判る。
2)Benzopyreneに対する両細胞系の感受性の比較(表を呈示)では、両細胞はBPに抵抗性で、感受性の差はない。
《高木報告》
V79細胞に発癌剤(mutagen)を作用させる前後の条件につき検討すべくpilot
experimentを行った。200cellsをplateに植込み、6時間後に4NQO
4x10-8乗〜1.6x10-7乗Mを2時間作用させて後、24時間arginin
deprived medium(ADM)またはconditioned mediumでincubeteし、以後MEM(ADM+Arg)+10%FCSでincubateして7日目にcolony
countを行った。
Scheduleは図の通りである(図を呈示)。Aは対照で終始MEM+10%FCSを用いたもの。
B、C、DはそれぞれX印の期間だけADM+10%FCSを用いたもの。
E、Fは△印の期間conditioned mediumを用いたものである。この場合には、24時間後に培地をMEM+10%FCSで交換し、B、C、D、の場合には24時間後に100倍濃度のArginine液を滴下した。conditioned
mediumはV79がconfluentになった直後に培地を交換し(MEM+10%FCS)、24時間incubateした後、これを集めてmillipore
filterで濾過したものである。
図の如き結果であった(図を呈示)。(A)の対照に比し、4NQOに関しては細胞植込み直後からADMをもちいた場合(D)は、Survivalがむしろ減少し、植込み後4NQOを作用させるまではMEMを用いた方が増加の傾向がみられた。またconditioned
mediumを4NQO作用時、および作用直後より用いた場合はさらに増加のの傾向がみられた。
この(B)、(E)、(F)などの条件につき、さらに4NQOの作用時にHanks液を用いて細胞のDNA合成の状態をH3-TdRを用いて検討している。
ヒト胎児細胞にEMSを作用させる実験も6ケ月を経て依然培養をつづけている。
《乾報告》
先月の班会議で亜硝酸(NaNO2)とモルホリン(Mo)を妊娠ハムスターに同時投与し、胎児細胞に8AG耐性突然変異、形態転換が出現することを報告しました。又投与動物の胃内には、ニトロソモルホリン(N・Mo)の生成がみとめられました。
今回は、NaNO2、Mo各一回500mg/kg投与動物の胎児細胞の変異がN・Mo何mg/kgに相当するかをしっらべるため、動物にN・Moを投与し、Morphological
transformation、8AG mutationをみたので報告します。
Morphological transformationの出現結果を表1に示しました(表1、2を呈示)。NaNO2、Mo同時投与による胎児細胞のtransforming
rateはN・Mo 200mg/kg投与と略々同じであることがわかりました。表2で明らかな様に8AG
mutationの出現率も又、200mg/kg N・Mo投与の結果とよく一致します。
前号No.7707で報告した様に、N・Moの胃内生成は、15.9mg/kg/30min.で、もし生成量が減ずることなく6時間形成が継続すると、全形成量は190.8mg/kgとなり、結果をよく説明出来ますが・・・。
現在Transformed coloniesをcloningして復元移植を試みております。
《梅田報告》
金属化合物について検索しているが、今回は発癌性金属化合物の突然変異誘起実験の結果を報告する。
(1)突然変異誘起実験の系として、今迄報告してきたFM3A細胞が各種金属化合物と2日間の接触により、8-azaguanine耐性を獲得する突然変異をみる方法によった。現在迄に調べた金属化合物は、Cr化合物としてK2Cr2O7、CrO3、K2CrO4、Cr(SO4)3、Mn化合物としてMnCl2、KMnO4、その他の化合物としてNiCl2、CdCl2、さらに発癌性のはっきりしないHgCl2の9種類である。
(2)得られたMutation frequencyから実験群とcontrol群の比をとり、(表を呈示)表にその全実験結果をまとめて示した。各化合物について2回から4回実験を行っているが、ほぞ再現性のあるデータが得られている。すべて半対数稀釋の濃度を用いているが、各化合物で調べた以上の濃度では毒性が強く、突然変異率を観察出来なかった。
表でみるように、明らかに突然変異性を示したものは、6価のCr化合物のK2Cr2O7とCrO3であり、他の化合物は全てはっきりとした突然変異性を示さなかった。すなわち、同じ6価のK2CrO4では毒性はあったが、突然変異性ははっきりせず、3価のCr2(SO4)3は、毒性は非常に弱く、しかも突然変異性も証明されなかった。発癌性の証明されているNiCl2、CdCl2でも本実験条件では突然変異性は証明されなかった。
(3)今後の問題として次のように考えて実験計画を立てて居る。上の実験では数多くのサンプルを扱うことに主眼をおいているため、金属化合物は2日間の接触と定め、直ちに8AG耐性細胞検出のアッセイに入っている。投与した金属化合物のbiotransformtionとか、障害されたDNAの修復などを考えると、さらに接触時間と、8AG添加の時間即ち、wxpression
timeの検索の必要性がある。
《榊原報告》
§Studies in progress:培養ラット肝細胞による
1.Collagen形成の事実から類推すると、ヒト癌組織に屡々みられる著明なfibrosisも単に正常間葉系細胞の癌細胞に対するreactionの結果と見做すべきか否かは疑問となる。特に、adenocarcinoma
mucocellulare scirrhosumと呼ばれるtypeの癌では、癌細胞自身がcollagenを産生している"らしい"と主張する病理学者のgroupがある。この問題は、非常に魅力的なテーマであって、現在次の様な実験を計画し、既に着手進行中であるが、未だ結果を報告する段階に至ってはいないことをお断りしなければならない。;ヒトcollagenの可溶性分劃を免疫原として家兎を免疫し、種特異的な抗コラーゲン抗体を作製する。培養人癌細胞をATS処置したhamster頬袋に移植してtumorを作らせ、凍結切片を作り、切片上で抗ヒトコラーゲン家兎抗体と反応させる。次いで同一切片上で抗家兎IgG・山羊蛍光抗体を反応させて、蛍光色素の局在を観察する。更に別の切片では、抗家兎IgG・山羊peroxidase標識抗体を二次抗体として反応させ電子顕微鏡下に特異的シマ目模様に一致してperoxidaseの沈着が認められれば決定的証拠となる筈である。問題は、collagenのantigenicityが弱い為に十分な力価を有する抗体が得られるかどうかである。免疫に要する期間も2〜3ケ月と長く、目下boosterを繰り返している。
2.免疫と発癌の間には密接な関係があるように想像されているが、積極的証拠は意外に少ない。ATSでT-cellをsuppressしたgroupと無処置groupの間に於る発癌過程の差をACIラットを用いて検べている。発癌剤としては、MAM
acetateをi.p.投与している。癌化に至るlatent
periodの短縮のみられることが望ましいが、今は虚心坦懐に経過を観察するのみである。
【勝田班月報・7709】
《勝田報告》
Tapping cultureによる長期浮游培養(月報7705のつづき)
1)吉田肉腫はあまり増殖が速すぎて、手がかかるので、培養を中止した。
2)3)AH-109A、AH-66は安定した増殖率を保って継代されている。
4)AH-130の浮游細胞は細胞密度がだんだん高くなって、安定した増殖率を保っている。
5)AH-7974も浮游細胞の細胞密度が高まってきた。現在も、腹水の塗抹でみられるようなAH-7974特有の肝癌島を形成している。
JTC-16がTapping cultureで浮游状に増殖している時の形態と、AH-7974のTapping
cultureによる培養9ケ月の形態を示した(写真を呈示)。何れも浮游液を遠沈、塗抹し、ギムザ染色したものである。
《高木報告》
1)Mutagen(Carcinogen)で細胞を処理した後の、incubationの条件を変えることによってDNA修復の差をつくり、これとMutation(Carcinogenesis)の頻度との関係を研究することを目的として、主としてV79細胞を用いて実験をしているが、種々検討の結果、処理条件を図の様に決定した(図を呈示)。
1)Preincubationは播いた細胞がPetri dishに定着し、操作できる最短時間として6時間をとった。
2)ここに用いるMutagen(Carcinogen)はchemicalであるので、処理終了まではcontrolの細胞の条件と差がつかず、一定の等しいdamageを与えるように全てMEM+10%FCSを用いた。
3)ADMを用いる意味は、細胞のDNA合成を止めることにあるので、dialyzed
FCSの濃度も5%とした。
4)conditioned mediumはこの種の実験でsurvivorを上昇させることが知られているので、これも用いてみた。conditioned
mediumはV79を播き込み、2〜3日後full sheetになってから培地を交換し(MEM+10%FCS)、24時間incubation後これを集めて、membrane
filterで濾過し、凍結保存したものである。
この条件の下にsurvivorについての実験結果は次図の如くであった(図を呈示)。播き込む細胞数は150〜200/plateで6cmのFalconのPetri
dishを使用した。
4NQOについては上記の3条件、UV、MNNG、MESについてはADM+5%dialyzed
FCSで、conditionedmediumについては目下検討中である。
図1.4NQO:各濃度30分の処理。処理後ADM培地でincubateした方が、MEMよりsurvivorが多く、conditioned
mediumではさらに多かった。
図2.UV:15W slit 2cm 距離25cm 0〜100secの照射条件。処理後、ADM培地でincubateした方がMEMよりsurvivorが多かった。patternは再現性をもって4NQOとよく似ている。
図3.MES:各濃度120分の処理。ADMでincubateしたものと、MEMでincubateしたものとの間に有意なsurvivorの差は認められない。
図4.MNNG:各濃度120分処理。4NQOおよびUVとは異なり、ADMでincubateした方がMEMでincubateしたよりsurvivorが低下した。この点さらに検討の予定である。
2)本年2月に開始したヒト胎児細胞の培養は6ケ月を経た現在殆ど死滅し、EMS処理細胞だけは生残っている。しかし形態的には特に変化はなく、近日中ATS処理ハムスターに移植を予定している。新しい培養でさらに追試の予定である。
《難波報告》
48:チャイニーズハムスターの肝臓より培養化された上皮細胞と繊維芽細胞とに対するDexamethasonの効果
肝細胞の培養に際して、ステロイドホルモンが有効との報告がかなりある。それらの報告は2つに分けられるようである。すなわち、
1)ステロイドホルモンが肝細胞の増殖を促進する、あるいは培養内での肝細胞の分化機能の発現に役立つ。
2)培養内に共存する上皮性細胞と繊維芽細胞とを選別するために、上皮性細胞の増殖を促進させ、繊維芽細胞の増殖を抑える。
我々は、チャイニーズハムスター肝より得た上皮細胞と繊維芽細胞とのplating
effic-iencyに対するDexamethasonの効果を検討した結果、表のごとくなった(表1、2を呈示)。その結果を列記すれば、
1)4.2x10-7乗〜4.2x10-6乗M濃度のDex.は両細胞のPEを有意に上昇させた。
2)4.2x10-5乗Mの高濃度のDex.はあまり効果がない。
3)Dex.は検討した範囲内の濃度ではFibroblastsの増殖を抑制しない。
49:Chinese Hamsterの肝より得た、上皮性細胞と繊維芽細胞とのアルギニン不含培地中での増殖能の検討
Arg(-)のMEM+10%dialyzedFCSで両細胞を培養し、7日間の増殖を次図に示す(図を呈示)。7日間では両細胞とも増殖したが、しかしFibroblastsの方は4〜7日間で増殖の低下傾向がみられるのに対して、Epithelial
cellsの方は、同時期に増殖の立ち上がりがみられる。Arg(-)培地の両細胞に対する効果は、もう少し長くArg(-)の培地で細胞を培養してみる必要がありそうなので、目下その実験を進めている。
50:Chinese Hamster liversより培養化された、Epithelial
cellsとFibroblastsに対する種々のChemical
Carcinogensの影響
前月報(7708)にEpithelial cellsのPlating efficiencyは5〜10%、FibroblastsのPEは30〜50%と報告した。したがって、今回の実験では、Epithelial
cellsは3,000〜5,000コ/60mm dish、Fibroblastsハ300〜600コ/60mm
dishをまき込んだ。24時間後、種々の化学発癌剤を添加し、そのまま4日間培養を続け、その後、発癌剤を含まぬ対照培地(MEM+10%FCS+4.2x10-6乗M
Dex.)にして、7〜10日間培養後、そのPEを求めた。表3にその実験結果を示した(表を呈示)。それぞれの薬剤で、種々の濃度を用いて、Toxicityを検討したが、表にはEpithelial
cellsとFibroblastsとに対する、Toxicityのはっきり出た薬剤の濃度のみ記した。+は、それぞれの薬剤のToxicityに対して感受性の高い方の細胞に記した。また,Ser-vival%は、薬剤非処理の対照群のPEで、薬剤処理群のPEを割ったものである。
結果はDimethylnitrosoamine(DMN)、AFB1などのHepatocarcinogensのToxicityに対して、Epithelial
cellsの方がFibroblastsよりsensitiveであることを示している。
《山田報告》
ラット培養肝細胞のConAの反応性と細胞密度との関係を引続いてしらべて居ます。
今回は従来Tumorigenicityの証明されていないRLC-20について検討しました。方法は従来通りです。
最近RLC-20は長期培養中に一見悪性化を思わせる様なコロニーを形成したので、これを分離して別に培養系としRLC-20Bと名付け、残った細胞をRLC-20Aとして継代して居ます。
RLC-20Aは増殖速度も遅く、細胞を採取するのに容易でないので、増殖率の高いRLC-20Bについてまず検討してみました。
RLC-20Bでは図に示すごとく、full sheet後、荷電密度は著しく低下し、非悪性の型を示しましたが、ほんの少しばかりConAに対する反応性が残り、悪性型と云うより、良性型の変化を示しました。次はRLC-20Aを検討の予定です(夫々図を呈示)。
RLC-20B細胞株と同じ系の細胞で発育の著しく遅いRLC-20Aについて経時的にその変化をしらべました。この株は最も正常に近い状態を保っていると考えられる株ですが、予想通りの結果となりました。
すなわち植え込み直後の1〜3日目に反応性に一時期その表面荷電が増加し、その時期に1μg/mlのConAに反応して荷電の上昇がみられ、その後full
sheet(この場合は増殖性が遅いので16日目以後)になった時期では完全にConAに対する反応性がなくなり、むしろConAにより荷電密度が低下する様になりました。これで一応この実験を終了しましたので、全体の知見をまとめて次回に考察したいと思っています。
なほSuspension cultureで増殖する肝細胞株について追加実験をしようとおもい、現在準備中です。
《梅田報告》
先月の月報で発癌性金属化合物の突然変異性について報告したが、今回は染色体異常誘起性について調べた結果を報告する。
(1)細胞は突然変異性を調べたと同じFM3A細胞を用いた。金属化合物を加えた培地で培養後24時間目、48時間目に染色体標本を作製した。染色体標本作製前2時間に、Colcemidを加え分裂像を蓄積させた。現在迄に調べた金属化合物は、突然変異実験で調べたと同じK2Cr2O7、CrO3、K2CrO4、Cr(SO4)3、KMnO4、MnCl2、NiCl2、CdCl2、HgCl2である。
(2)結果を表に示す(表を呈示する)。K2Cr2O7については3回、CrO3、K2CrO4、KMnO4については2回の実験を行った。その他については、1回の実験しか行っていない。それぞれの化合物について、これ以上の濃度を用いると細胞は変性壊死する、ぎりぎりの所迄調べてある。
(3)Cr化合物についてはK2CrO7とCrO3で強い、K2CrO4で軽い染色体異常惹起が認められた。異常の内容はgap、break、exchengeであった。48時間処理で24時間処理より異常が増加していた。48時間処理のこれら3化合物の異常の%を両logのグラフに画くと図のようになる(といってもK2CrO4では一点しかないが。図を呈示)。この図からK2Gr2O7はCrO3の約2倍の強い染色体異常惹起能のあることがうかがえる。すなわち、Crあたりで考えると、両者は殆同じ毒性を現していることがわかる。これに対しK2CrO4の異常惹起能は、K2Cr2O7と較べると約10倍の差のあることがわかる。
Cr化合物でもCr2(SO4)3では異常惹起作用が殆んど認められず、10-3乗M処理でもcontrolと同じ異常のレベルであった。
(4)その他の化合物の中では、KMnO4処理で多少異常が増加しているが、その他の化合物では異常の増加は認められなかった。
(5)前回の突然変異の結果と比較すると、突然変異を起しているものは染色体異常も惹起していることがわかる。そして染色体異常の頻度は、両logのグラフ上にプロットすると直線にのるらしいこと、直線にのるとするといろいろの比較、spontaneous
aberration rteとの関係などの解析がた易くなることがわかる。
(6)なお、動物実験では発癌性の証明されているNi化合物で培養細胞での実験で、突然変異性、染色体異常共に認められなかったことは重要である。何らかの理由によると思われるし、その理由解明の研究がなされるべきと考えている。
《乾報告》
亜硝酸ナトリウムの経胎盤効果
先に我々は亜硝酸ナトリウム(NaNO2)を培養ハムスター細胞に投与し、細胞のMalignant
Transfomation、染色体切断を観察した。今回は、同物質の経胎盤効果をみる目的で従来の方法で、妊娠ハムスターにNaNO2を、125、250、500mg/kg投与して、胎児細胞を培養、細胞のTransformationを観察した。
実験方法は、過去数回にわたって報告して来たので省略するに、結果を表に示した(表を呈示)。表で明らかな如く、NaNO2
500mg/kg投与では著明なTransformation Rateの上昇がみられた。
《榊原報告》
蛍光抗体法によるコラーゲン同定:ラットのコラーゲンに対する種特異的抗体を作成した。Wister系雄性ラットにペニシラミンを4週間経口投与してコラーゲンのcross-linkageを阻害しておいてから、皮膚を剥いでhomogenizeし、型の如く0.4N酢酸を用いてコラーゲンの酸可溶性分劃を単離した。得られたsompleの純度は、アミノ酸分析により、ほぼ100%pureだという(都老研生化・益田博士による)。これを、0.05%酢酸に10mg/mlの割合で溶解し、等容ののFreund
complete adjuvantを加えて乳化させ、家兎のfoot-padに5mg/animalの割合で免疫した。2週間後及び更に2週間後と2回にわたり、追加免疫をadjuvantぬきで腹腔内に行い、最終投与後27日目に試験採血した。培養ラット肝細胞株RLN36をconfluentのまま3週間培養、PBSで3回洗ったのち、ドライヤーで乾燥させ、未固定のまま抗血清をかけて37℃、1時間incubateした。PBSで5分間づつ3回振盪しつつ洗い、再び乾燥させてから、Hyland製抗兎IgG、FITC標識山羊7Sγ-globulin分劃をPBSで20倍に稀釋してcell
layerにかけ、再び1時間37℃でincubateしたのちPBSで3回洗い、無蛍光グリセリンで封入して蛍光顕微鏡下に観察した。鍍銀繊維の細い網目の上に、強い特異光が認められた。細胞核はことごとく黒く抜けていたが、胞体には淡い蛍光が、又一部の細胞の細胞膜上に繊状に特異蛍光が認められた。各種対照試験の結果、及び実験結果の写真は班会議で発表するが、有効な力値を有する種特異的な抗コラーゲン抗体が得られたことは間違いなさそうである。又今回の結果は、鍍銀繊維がコラーゲンであることを明らかに示している。ヒトコラーゲンに対する抗体も得られて居り、特異性のcheckを行なう予定でいる。
[勝田班月報のワープロ化:1998-11-26〜2001-5-2]
【勝田班月報・7710】
《勝田報告》
アルギニン(-)培地におけるラッテ肝由来細胞株の長期培養(月報7502のつづき)
(表を呈示)上記のようにラッテ肝由来の上皮細胞はアルギニン(-)培地で3年間は生存、緩慢ではあるが増殖出来る。RLC-16、-18、-19、-20、-21、-22、-24、-27、-28、-29の各系である。fibroblast系は一年以上は生存するがやがて死滅する。
《難波報告》
51:Chinese Hamster Embryosのliverより樹立された繊維芽細胞株と上皮性細胞株との性質
月報7708、7709に、クローニングにより樹立された両細胞株の、1)培養経過、2)両細胞に対する4.2x10-6乗M〜4.2x10-7乗MのDexamethasoneの細胞増殖促進効果、3)Cytotoxicityの比較を記した。今回は両細胞株のその他の細胞学的特徴を記した(表を呈示)。
《高木報告》
細胞の癌化または変異に関連してDNAの修復機構を検討する場合、培地条件で修復の差を作り出すにあたって、種々の問題点があることがこれまでの実験結果より分った。
同一薬剤を用い、培地条件を変えて細胞のsurvivalを検討する実験を繰返し行った場合、dataが一定しないことがあったので、その原因を植込み前の細胞の状態に求めてみた。これまでの実験にはexponential
growthを示す細胞を用いたつもりであったが、V79はgene-ration
timeが9.5時間と増殖が早いため、時にはconfluentに近い状態の細胞も用いていたようである。そこで厳密にexponential
growthを示す細胞を植込み、薬剤を作用させる際と同様6時間おいて3種の培地に交換し、以後10時間にわたり細かく時間を区切ってDNA合成を調べてみた。(図1、2、3を呈示)。図1に示すように、MEMでは植込み直後よりDNA合成は上昇し、またconditioned
mediumでは終始低いlevelの一定したDNA合成がみられたが、ADMでは2〜3時間後にDNA合成が上昇し、以後そのままか、あるいはやや下降して、constantな状態がつづくことが分った。このADMにおける2〜3時間後のDNA合成の上昇は再現性があり、実験誤差とは考えられない。この様なDNA合成の変動が、植込み前の細胞の状態により起るか否かは細胞のrepairひいてはsurvivalに影響を与えることが当然考えられるので、以後は一定してexponential
growthの細胞を実験に用いることにした。
月報7708では4NQOにつき3つの培地条件で検討したが、今回はMNNG、EMSにつき検討してみた。図2の如くMNNGではconditioned
medium>MEM>ADMの順にsurvivalがよく、またEMSについても図3の如くMNNGと同様の結果がえられた。
これを4NQOと比較すると、MEMとADMのsurvivalが逆の結果であった。
その理由として、(1)細胞の蒙るdamageの性質が異り、repairのおこり方が違うということが考えられる。因に細菌ではEMS、MNNGはrec
systemで4NQOはUVと同様hor systemでrepairされることが知られている。(2)薬剤作用後培地を切換えると、ADMでは2〜3時間たってDNA合成が高まるので、この時期に細胞の死滅する可能性も強いと考えられる。従って、4NQOの如くrepairが長時間にわたり続く場合には、細胞のsurvivalが多く、EMS、MNNGのようにrepairが短時間におこるとされる場合に、DNA合成の上昇する時期に死滅する細胞が多く、MEMよりむしろsurvivalが低下することが考えられる。
ヒト細胞にEMSを作用させる実験はなお続行中である。
《梅田報告》
(1)前回の班会議でシリアンハムスターの胎児細胞をクローニングし、上皮性と繊維芽細胞株の2クローンを得、これらに及ぼすMCAの毒性を調べた所、両細胞共に分裂増殖能は極端に落ち、同時にMCAに反応しなくなっていたことを報告した(月報7707)。このクローンについてその後調べた所、primary
cultureを行い増生してきた細胞を凍結保存し、それを解凍して培養に移してから、丁度Cl4では23日から26日、Cl7では21日から24日に発癌剤処理をしていたことがわかった。
(2)上の増殖しなくなった現象を、前回の班会議ではagingと説明して、勝田先生からcommentを受けたが、この所謂寿限有現象は、この程度の培養日数で起るのが一般的かどうか、mass
cultureで調べてみた(図を呈示)。図に累積増殖カーブを画いた。(これは、細胞数を正確に数えたのが培養3代目だったので始めの部分に多少の修正を加えてある。)
丁度10代目、培養40日頃より増殖が落ち、15代目位で細胞増殖が止り、培養が続かなかったことを示している。
(3)MCAの感受性についてAHH活性を調べれば良いので、今迄度々報告したC14-benzo(a)pyreneを水溶性代謝産物に代謝する酵素を、凍結細胞を別に融解して調べてみた。すなわち、図にこの結果を同時に記入することは正式には妥当でないが、比較の意味で、記入してみると、培養20日迄の培養細胞ではC14-benzo(a)pyrene代謝活性は落ちていないことがわかる。現在この実験は進行中である。
(4)上の2つの実験からmass cultureの場合、少なくとも培養20日迄は、C14-benzo(a)pyrene代謝活性を持った元気に増殖する細胞が得られていることが結論される。
クローニングしたことにより20〜25日で増殖能も、MCA感受性も落ちて了う現象は、何かクローニングに伴う現象か、われわれのテクニックの問題か、今後の検討課題として残った。
《乾報告》
先月の月報で、妊娠ハムスターに亜硝酸ナトリウム(NaNO2)を投与した母体より得た胎児細胞において著明なMorphological
transformationがえられた事を報告しました。現在これらTransformed
Colonyのいくつかをcloningし、移植の為培養をつづけております。今月はtransformationに関連した現象として、同胎児細胞の染色体異常、micronucleusの出現の結果を報告致します(表を呈示)。
以上の如く、妊娠ハムスターにNaNO2を単独投与では、著明なTransformationが観察されるにもかかわらず、有意差のある染色体異常は出現しません。
次に昨年Schmidが提唱した、動物体内で、癌化性物質と関連がきわめて深いと云われているMicronucleus
Testを行なった結果が表2です(表を呈示)。
表の如く、NaNO2単独投与で、micronucleusを持つ細胞が著明に増加し、NaNO2
500mg/kg投与では、DMN 200mg/kg投与の場合と同様なInductionがあります。
Micronucleus自体の成因が現在論議されておりますが、染色体観察より、標本作製、観察共に容易ですので、今後少し、細胞癌化又は癌原性物質とMicronucleusの関連も見ていくつもりです。
《山田報告》
前号まで報告して来た成績は、培養細胞の培養条件におけるその増殖と表面荷電との関係についてですが、そのなかで培養細胞の植込み直後に一過性に荷電密度が高まり、ConAに対する反応が変化する成績がありました。その原因の一部は細胞の分離による表面の損傷が刺激になっているのではないかと推定されました。
そこで、この現象を解析する意味で、植込みの際に細胞間を分離する必要のない浮遊培養細胞株(AH-7974)について、植込み後の細胞電気泳動度、ConAに対する反応性、増殖率を経時的に検索してみました。(Tapping
Culture法)
(図を呈示)図に示すごとく植込み直後の1日、2日目には全く電気泳動度のピークがなく、増殖率は著しく速く、5日目に急激に泳動度が減少しました。そしてConA
1/ml 37℃30分処理により植込み後1〜8日間は常にその電気泳動度は増加しました。このConAに対する反応性は、これまでの培養ラット肝由来細胞ではみられない所見で、むしろin
vivoのAH-7974に類似の所見です。
【勝田班月報:7711:肝臓の還流後の培養について】
《許報告・勝田報告に代えて》
純系ラッテ(JAR-2)の腺胃から、植片法ないし酵素消化法により上皮様細胞株を樹立した(表を呈示)。間葉系由来細胞の除去は、trypsinによるselective
digestion、rubber policemanによる機械的除去、コロニーレベルでの分離の3つの方法を併用して行なった。
それらの細胞は典型的な敷石状配列をとって増殖を続け、最長2年4ケ月、最短9ケ月培養内で維持されている。染色体数は、培養1年以内ではdiploidにモードを持つことが多いが、その後は次第にhypodiploidやhyperdiploidに移行してゆく。population
doubling timeは20数時間から50時間まで様々で、培養期間と増殖速度には一定した関係がみられない。
培養の比較的初期、2〜3ケ月頃に上皮様細胞のmonolayerが集団的に死滅し、一方同一培養器内の他の部分の上皮様細胞や間葉系細胞は健全で増殖を続けるという現象がみられた。私達の部屋で長期間、多種類の細胞を培養してきた経験では、こうした特徴的な死にかたは上皮細胞にのみ見られるということである。東北大の橋本先生が膀胱癌上皮の培養中に記載した"contact
death"も類似の現象だと思われる。いずれにしても上皮細胞のひとつの特性といえるかも知れない。
RGS-8細胞は、継代をしないで数週間培地交新のみを行なっているとhemicystを形成する。RGS-2、RGS-4A、RGS-5の各細胞も数は少なく、形成に長時間かかるが、やはりhemicyst形成能を持つ。顕微鏡映画で観察すると、hemicystは単層の上皮様細胞で被われ、形成されて数日で内容物を徐々に放出して退縮してゆくようであった。hemicyst形成には細胞層と培養器面との間に何らかの物質を分泌ないし輸送する能力を持ち、同時に内圧に抵抗するに充分な細胞間の密接な結合が必要で、それはそのまま上皮細胞の特徴と言えよう。文献的にもhemicyst形成は、上皮細胞か、その悪性化したものである癌種に由来する細胞に限ってみられるようである。RGS-8細胞のhemicyst形成に対するdibutyryl
cyclic AMP(But2cAMP)とtheophillineの影響をみた(表を呈示)。結果は、細胞密度はcontrolと大差ないにもかかわらず、But2cAMPないしtheophillineによってhemicyst形成が著明に促進された。促進の機序は不明だが、細胞内で種々の機能の統御に重要な役割を果たしているcyclicAMPによってhemicyst形成が促進されるということは、hemicystが細胞の変性過程等でたまたま形成されるといったものではなく、積極的な機能の反映であることを示唆している。
以上に述べた事実から、私達のとった上皮様細胞株は、実際に腺胃の粘膜上皮に由来した可能性が強いと考える。
RGS-3、BRGS-6細胞では上皮様細胞の上に嗜銀性の線維形成がみられ、その線維はcollagenaseですみやかに消化される。これらの細胞はsingle
cell cloningを行っていないので、上皮様細胞自身が線維を産生するのか、混入している間葉系細胞が可溶性の状態で培地中に放出しそれが上皮様細胞中で不溶化され線維としてみえるようになるのかは現在のところ不明である。single
cell cloningにより9系のクローンをとって現在検討中である。
当初の目的に従って、これら腺胃由来の細胞を化学発癌剤で処理して経過を追っているが、現在のところ腫瘍性を獲得するに至らず、培養内の性質にも大きな変化はみられない。今後方法に改良を加えて、培養内での悪性化の指標の問題、培養内での細胞の性質と動物に移植した時の組織像との関連性等を追求してゆきたい。
:質疑応答:
[乾 ]映画で観察すると判ると思うのですが、ヘミシストは同じ場所で膨れたり潰れたりするのでしょうか。
[許 ]現在まだはっきりした証拠をつかんではいないのですが、同じ場所に出来るとは決まっていないようです。
[乾 ]ヘミシストを形成するのは特種な細胞ですか。
[許 ]特殊な細胞ではないようです。
[梅田]ヘミシストを形成している細胞の形態はいわゆる上皮性ですね。ヘミシストを作るから胃由来上皮という説明になりますか。
[許 ]今までの報告ではヘミシストを形成する細胞は上皮性の細胞だと言われています。しかし胃由来以外に腎由来、肝臓由来、乳腺由来でもヘミシストを作る細胞系があることが知られています。
[榊原]ヘミシストを形成する細胞が上皮細胞だという事の根拠をもっとはっきりさせた方が良いですね。
[山田]胃由来の細胞だという同定がもう少しあるといいですね。ムチンの産生はどうか、アルシアン・ブルーで染まりますか。
[許 ]今まで色々と調べて来ましたが、よい結果が得られていません。
[難波]ヘミシストの部分を電顕で観察したことがありますか。
[許 ]是非みたいのですが、まだです。
[難波]プラスチックシャーレならシャーレごと垂直に切ってみると、ヘミシストを形成している細胞の特性が判ると思います。
[許 ]そうですね。
《難波報告》
52:Chinese hamsterの胎児肝より樹立された肝細胞に対するインシュリンの効果
MEM+10%FCS+4.2x10-6乗M dexamethasonの培地中にインシュリン(Sigma)を0.01〜1U/ml加え、肝細胞のplating
efficiencyに対する効果を検討した。
(表を呈示)Insulinは肝細胞のPEを高めなかった。Dexamethasonを含まぬ培地を使用してインシュリンの効果を調べれば、インシュリンはある程度の効果があるのかも知れないが、しかし、DexamethasoneのPEに対する効果をインシュリンが一層増強するようなことはなかった。
:質疑応答:
[乾 ]ハムスター肝の初代培養はどういう方法を使いましたか。
[難波]トリプシンで撹拌して組織を分散するという、ごく当たり前の方法です。
[梅田]発癌剤はBPとBMBAですね。
[乾 ]チャイニーズ・ハムスターで4倍体のクロンは初めてですね。
[難波]その点は面白いことだと思いますが、染色体分析が大変です。
[佐藤]クローニングをして、他のコロニーと比べてサイズの大きなものを拾うと4倍体だったということがありますね。
[難波]大きなコロニーの方が拾い易いので、つい大きなコロニーを拾いましたが、今度は小さいのを拾ってみます。
[加藤]肝由来だということと4倍体になったこととに関係がありますか。
[難波]それはまだ判りません。
[乾 ]チャイニーズ・ハムスターの細胞は染色体が変異すると元へ戻そうとする働きがあるので、マウスやラッテに比べるとかなり安定して2倍体を維持出来るのだという報告もありますね。
[佐藤]次はヒトの細胞の変異についてですが、化学発癌剤や放射線を使った場合の変異はSV40で変異させた場合のものと同じですか。
[難波]殆ど共通しています。染色体が変異すること、形態が上皮性になることなどです。異なる点はウィルスゲノムが入っているかいないかという事ですから、そこは調べてみるつもりです。
[佐藤]SV40で変異させると細胞の増殖率は上がりますか。
[松村]始めに増殖促進があり、しばらくして増殖が止まります。それから変異細胞が出て増え出すという経過です。
[乾 ]染色体が変異するということは同じでも、癌ウィルスによる染色体変化、化学物質による変化、放射線による変化、それぞれ染色体個々の変異の仕方が違うのではないでしょうか。
[難波]ウィルスとは比較していませんが、4NQOとコバルト照射では変異の度合いが違います。コバルト照射の方が激しいようです。ただ、それは一次的なものを調べていますから、それらの変異がどれだけあとに残るのかは判っていません。
《梅田報告》
(I)先月の月報7710でハムスター胎児細胞の累代継代を試みた所、培養15代目で増殖が止り、培養が続かなくなって了ったことを示した。この時各継代毎に2枚のシャーレを用意し、次代に継代しなかった残りのシャーレを液変えのみ行って夫々6週間培養を続けた後、固定染色を行い形態的観察を行ってみた。染色はギムザ染色によった。
だいたい3〜4日で継代したのであるが、継代7代目迄は小型細胞集団で中央部がシャーレ面より盛り上り、ギムザ染色で青色に染るだけのfocusが多数認められた。同時にエオジン好性の細胞間物質を産生し、細胞の増殖は旺盛とは思えないfocusがdish一面に多数認められた。丁度培養8代目で前者のfocusは消失し、後者のfocusが奇麗なnetworkを作っているのが観察された。これをさらに良く観察すると6代目頃にははっきりしなかった小型の上皮様細胞の増生が網目の間に認められた。継代10代では細胞間物質産生部と上皮様細胞巣とがお互に網目を作り、ぎっしり一面を被っていた。
この10代目のdishで良く観察すると一部の上皮様細胞巣中に細胞質が濃く青色に染り、核も核小体も大き目になった悪性を思わせる10数ケの細胞の増殖している部分が1ケ所認められた。培養11代目のdishは全体像は培養10代目のdishと似ているが、1ケ所、明らかに悪性細胞を思わせる細胞増殖を伴ったfocusの出現があった。細胞1ケ1ケの形態は10代目のdishで記載したようなものである。培養13代目では細胞間物質産生部も少くなり、全体に細胞増殖力は衰えた感じを与えた。
(II)先月の月報(7710)で報告したC14-BPの代謝の仕事はその後28〜29日、37〜38日目の代謝のデータが出た(表を呈示)。まだそれ程代謝能が落ちていないことが判った。
(III)(I)の観察で得られた結果で少くとも形態的には培養10、11代目に悪性形態を思わせる細胞の増殖をみたことは興味ある。この様な細胞が上手に継代されればspontaneous
transformationを起すのかも知れない。またこの時期でも尚発癌剤代謝能が落ちていなければ(IIのデータの続きに期待している)、もっと能率よいtransformation実験が出来るかも知れない。今後このような方向の仕事を少し続けてみたい。
:質疑応答:
[乾 ]株化していない細胞系を使う時、継代6〜7代位で薬剤感受性ががらりと変わってしまう事があります。その辺のデータがはっきりしていると、スクリーニングに使うのに助かりますね。
[梅田]クローニングをしたら感受性が、がたっと落ちてしまったというデータを出した事もあります。感受性のある細胞を拾いたくても指標がないので困ります。
[難波]材料は全胎児ですか。
[梅田]そうです。そこに問題があります。いずれは特定の臓器から系を作りたいと考えています。
《乾報告》
亜硝酸ソーダ(NaNO2)のハムスター胎児細胞に対する経胎盤効果(総括)
衆知の如く、NO2はバクテリヤ、カビ、ショウジョウバエ幼虫等に強い突然変異効果をもち、組織培養細胞に染色体異常、Malignant
Transformationを誘起する。
しかし、動物に対する急性毒性がきわめて強く(2mg/マウスLD50)、動物実験によっての発癌性は証明されていないのみか、動物体に対するBiological
effectの知識もきわめてとぼしい現況である。今本報は従来より報告しているIn
vivo-in vitro combination Chemical Carcinogenesis(Mutagenesis)の系を使用し、Nucleus
Test、Chromosome Aberratin、8AGr、Ouar-mutation、Morphological
Transformationを観察したので報告する。
方法は数回にわたって報告したので、省略するが、NaNO2(500、250、125mg/kg)、NaNO3(500mg/kg)、Nitrosomorpholine(N-Mo)、DMNを11、12日目に妊娠ハムスター母体に投与しえた胎児を使用した。
(表を呈示)胎児細胞における、染色体異常の出現はNaNO2の投与により染色体異常の著明な増加をみなかった。但し、N-Mo
200mg/kg投与群のみに、Isochromatied aberration
を含む染色体異常がみられた。
(表を呈示)薬品投与後、少なくても1回の細胞分裂を終了した静止核細胞において、著明な小核が出現した。現在これらの小核は、染色体切断によってとりのこされた染色体小片が、分裂終期→静止期(G1)にいたる過程で、小核化するか、又は染色体或はDNA自身の障害には関係なく、紡錘絲に対する障害の結果のどちらかを反映している細胞障害と考えられている。
(図表を呈示)8AGr-mutationの出現頻度をまとめると、8AGrコロニーの出現は、NaNO2
125mg/kg投与では3.3倍、250mg/kg投与では4.3倍、500mg/kg投与では10.4倍と増加しているが、NaNO3投与では8AGrコロニーは増加しなかった。又正の対照に使用したN-Mo、DMN投与では明らかな8AGrコロニーの増加(3.9〜16,9倍)がみられた。(図を呈示)NaNO2投与群における8AGrコロニーは、NaNO2の投与濃度に依存して増加した。
(表を呈示)Ouabain r(Ouar)耐性の出現は8AGrコロニーと同様に投与濃度に依存して、著明な耐性コロニーの増加が観察された。(表を呈示)NaNO2投与母体より得た胎児細胞のMorphological
transformationの結果は、NaNO2 500mg/kg投与群でtransformedコロニーの出現は約15倍増加した。N-Mo
100mg投与では約4.5倍、NoNO3投与ではtransformedコロニーの増加はみられなかった。
(表を呈示)NaNO2 500mg/kg投与におけるハムスター胃中に成生されたN-nitrosamineの成生量は、ハムスター1頭当りの全nitrosamineとして約0.5mgである。200mg/kgのDMN投与での一頭平均DMNは最大1.02mgである。
8AGrコロニーの出現はNaNO2 500mg/kgで約10倍、DMN投与のそれは16倍であった。故にNaNO2直接投与による8AGrコロニー、その他のBiological
effectは、成生されるNitrosamineによる部分もあることは否定出来ないがNaNO2それ自身のそれによるところが多いと結論される。
:質疑応答:
[山田]小核というのは脱核は起こらないで壊れた核が残っているということですか。
[乾 ]そうです。
[難波]どんな風に見えますか。
[乾 ]エリスロサイトでは細胞質にフォイルゲン陽性に染まります。
[難波]フォイルゲン染色の場合、加水分解はどの位ですか。
[乾 ]1N塩酸で60℃、7分やっています。DNAに関係のある物質のチェックとしては敏感ですが、ひっかかった物が何かまでは明言できません。
《山田報告》
昨年末培養ラット肝細胞の電顕的形態について検討して来ましたが、種々の細胞の変化のうちで、細胞質内グリコーゲン顆粒が培養細胞では、はっきり認められず、その理由がわかりませんでした。そこで新たに同一のラット肝細胞を用いて培養開始してから何時までグリコーゲン顆粒(特に星状凝集)が残っているかを検索しました(写真を呈示)。
JAR-2ラットの肝臓の一部をそのままスライスしてまず電顕的に観察し、次にdispaseII
0.25% 15分x3処理して細胞間を分離した後に、それをF-12+10%FCSに入れて培養した後に経時的にその変化を電顕的に観察しました。ところが、dispaseで処理しただけでもグリコーゲン顆粒は一般に減少し、培養29日目には全くグリコーゲンの星状凝集が見られなくなりました。その他の変化は以下の通りです。
生体内ラット肝細胞は、細胞形は多角形、細胞結合は密であらゆる部分が滑らかに接し、核は円又は楕円形、Mit.は円または楕円形で数多く粒子をもち、グリコーゲンは豊富で細胞Matrixにaggregateし、Microbodyは細胞内に数個。
dispaseにより分離した肝細胞は、細胞形は円又は楕円形、細胞結合は疎で二〜三ケ所で接し、核は円又は楕円形、Mit.は円又は楕円形で粒子を持ち、グリコーゲンは数が減少し細胞Matrixにaggregateし、Microbodyは細胞内に数個でやや大きく、その他の所見として細胞内に空胞が出現。
29日間培養した肝細胞は、細胞形は不定形、細胞結合は疎でMvを隔てて接し、核は不定形、Mit.は細長く数は減少し粒子を持たず、グリコーゲンはaggregateが全く無し、MicrobodyはMit.と区別不能で、その他の所見は細胞内に空胞が多い。
:質疑応答:
[難波]私の経験ですが、RLC-18株では培地を更新してから24時間以上おくとグリコーゲンが無くなってしまうようです。
[山田]電顕像でみる星状のものが無くなるのですか。
[難波]定量値としてのグリコーゲンが無くなります。
《関口報告》
人癌細胞の培養 4.卵巣癌由来CKS株の樹立
卵巣癌由来株としては、国外に4株、国内に3株あり、本例は8番目に当る。(臨床経過の概略の表を呈示)
腹水中の細胞(写真を呈示)を集め、DM-160+20%FCS、又は20%ヒト臍帯血清を加え、45mmガラス・シャーレを用いて、炭酸ガス培養器内で培養を開始した。FCS使用の培養では、Fibroblastのovergrowthによって上皮性コロニーは消失した。ヒト臍帯血清使用の培養では、ガラス面に付着増殖する上皮性コロニーがえられた(写真を呈示)。ハメ絵様、あるいは小型紡錘形の細胞の集合よりなる。
染色体数はhypodiploidで、44本にモードがある(図を呈示)。
ALS処置ハムスターノ頬袋内移植では腫瘤を形成し、その組織像は繊細な間質で囲まれた大小の小葉形成と、それに伴って一列に配列して増殖する腫瘍細胞で、一部は甲状腺濾胞様構造の分泌もみられる、serous
cystadenocarcinomaである(写真を呈示)。
:質疑応答:
[難波]川崎医大でも卵巣癌から2系、株化しています。
[乾 ]牛胎児血清とヒト臍帯血清とはどう違うのですか。
[関口]ヒト臍帯血清を使うと線維芽細胞の増殖が少し抑えられます。染色体のバラツキは牛胎児血清で樹立した系の方が少ないようです。免疫実験に使うにはヒト血清を使いたいという訳です。
[榊原]培養初期の方が復元して出来る腫瘤の分化程度がよいようですね。
《榊原報告》
§蛍光抗体法によるcollagenの同定(続):
ラット酸可溶性コラーゲンに対する家兎R血清を前号で報告した方法に基いて作成し、蛍光抗体間接法にてラット肝由来培養細胞及びハムスターの各種臓器を染色すると鍍銀染色で陽性に染まる構造が凡て特異蛍光を発する。(写真を呈示)岡大で樹立された肝細胞株RLN36を染めると、蛍光陽性の線維状構造物が細胞を結節状にとり囲んでいる。(写真を呈示)ハムスター腎組織をホルマリン固定・鍍銀染色すると、黒染したコラーゲンが間質を埋めている。同一の腎組織を蛍光抗体で染めると(写真を呈示)、鍍銀染色と同様に間質が蛍光陽性を示している。糸球体メサンジウムも同様に光り、又肝ではグリッソン鞘、中心静脈周囲、及び肝細胞索にそって蛍光が認められた。この抗血清をヒトcollagen、ヒト肝アセトン粉末で吸収し再び蛍光抗体法を試みたところ、結果は吸収前と殆ど変わらなかった。
:質疑応答:
[佐藤]ハムスターとラッテのコラーゲンは抗原性がクロスするということですね。
[榊原]そうです。
[佐藤]そしてヒトとはクロスしないのですね。
[榊原]そうです。
[山田]材料に使う人由来の癌の培養株に線維芽細胞が混入していませんか。
[榊原]本実験に入る前にクローニングします。
《佐藤報告》
肝臓の還流後の培養について
(1)最初の肝細胞浮遊液には2核細胞が多い。
(2)培養3〜4日で肝細胞索様の構造がみられる。
(3)培養8日位になると成熟型の肝細胞は少くなって株細胞類似の細胞が増加してくる。
(4)インシュリン及びデキサメサゾンを加えると細胞の接着が極めてよい。
(5)アルブミン産生は徐々に低くなるが、約1週間位は認められる。
(6)成熟型肝細胞から幼弱型肝細胞への集団転換は還流液酵素のトリプシンの方がコラゲナーゼより速い。
(7)還流直後直ちに病理組織標本をつくると、還流不充分の場合は肝小葉周辺部の肝細胞解離が悪い。尚非常に興味があるのは解離した肝細胞の細胞質辺縁に銀線維がからまって見られることであり、培養肝細胞が好銀線維をつくることと関係があるのであろうか?
:質疑応答:
[佐藤]培養前の細胞周辺にコラーゲンがあるようですね。興味深い事だと思います。
[山田]コラゲネースを作用させて細胞をバラバラにした場合、一見細胞障害もなくきれいにバラバラになりますが、細胞は大変壊れ易くなっています。
[梅田]パパインなどは使えるでしょうか。
[佐藤]やってみていません。還流には流速、温度、pHに気をつけねばなりません。
[高岡]2年前に野瀬さんが報告した事からみて、方法としてはあまり進歩したことが無いのですね。還流法が一般化したのが進歩でしょうか。
[久米川]増殖する細胞と元の細胞と大きさは同じですか。
[佐藤]大きさも形も違います。
[野瀬]低速遠沈で分劃すると小型の方が増殖する細胞が多いです。
[乾 ]肝には単核でもDNA量からみて4倍体の細胞があって、それらは分裂しません。小さいのは2倍体、大きいのは4倍体細胞かも知れませんね。
【勝田班月報:7712:試験管内化学発癌実験まとめ】
《勝田報告》
§試験管内化学発癌実験のまとめ−ラッテ肝細胞について−
勝田班の歴史は、1959年、申請メンバーの中の3人だけが放射線班に拾われた時から始まる。1960年には釜洞班を折半して一年を過ごし、1961年はじめて独立した勝田班として発足した。爾来、16年間活動を続けてきたことになる。
(表を呈示)大まかな実験経過をまとめてみたが、1960年には生後2〜4カ月の成ラッテの肝を摘出し、廻転培養法、又は廻転培養法→同型培養法を用いて2週間以上、良好な培養状態を保つことができた。この細胞系は増殖しない。
次いでこの系にDABを添加することによって増殖の誘導に成功した。DAB添加で増殖を誘導された細胞は何れも上皮様形態で染色体数は2倍体であった。又その増殖性は維持されて17系が株化した。しかし同系のラッテへの復元はすべてネガティブであった。
そこで更に第二次の刺戟を加えた。DAB処理の反復、サリドマイドの添加などでは形態的変化、染色体変異などが認められたが、ラッテを腫瘍死させ得る細胞系は得られなかった。
1964年には偶然に"なぎさ"現象を発見した。この場合は発癌剤も添加せず特別な処理もしない。平型試験管をやや傾斜させ静置培養する。1カ月以上の間、培地は更新するが継代はしないで培養を続けると、培地のなぎさ部位に細胞の異型性、異常分裂が数多く出現する。やがて正常な上皮細胞の細胞シートの上に接触阻害を失った増殖の速い細胞集団が現れ、急速に増殖を続けて培養内の正常な形態をもつ細胞集団を完全に駆逐してしまう。こういう経過をたどって5系のなぎさ変異細胞株が樹立された。これらの系は相互の間には染色体数の違い、イノシトール要求性の違い、形態的な違いなどあるが、染色体は2倍体から大きく変異すること、形態的には所謂病理学的にみて悪性細胞の様相をしめすこと、培地から血清を除いても増殖は維持され合成培地継代株となること、など共通した特徴をもっている。これらの細胞もラッテに腫瘍を作らなかった。
そこで、なぎさ培養にDABを添加して長期間培養を継続した結果、DABに耐性をもち、又DABの代謝能力に差のある変異株30種が得られた。しかしラッテに腫瘍を作る細胞は得られなかった。
1965年からは、4NQOによる悪性化の実験にとりかかった。この実験にはラッテ正常肝由来、上皮形態、染色体正2倍体の株細胞を用いた(RLC-10)。結果は4NQO
3.3x10-6乗M 30分 1回の処理で細胞が悪性化することがわかった。今度こそ同系のラッテ腹腔内で増殖して宿主を腫瘍死させ得る細胞へと変異したのである。そこで悪性化の過程における細胞電気泳動度の変動、染色体数、染色体核型の分析、4NQOに対する耐性など、悪性化の機構解析につとめた。しかし、やがて何の処理も加えていない対照群の細胞もラッテに腫瘍を作るようになった。
それからの数年間は、試験管内における悪性化の指標について検討をつづけた。従来、悪性化の指標として調べられている事項を表で呈示する(Morphology:
Growth Rate: Interaction with Normal Cells:
Resistance to the Carcinogen: Adhesiveness
betwee Cells: Concanavalin A: Cytoelectrophoretic
Mobility: Growth in Soft Agar Medium: Backtransplantability)。これらの指標は一部の細胞系については、その細胞の腫瘍性と平行するが、なぎさ変異株のように、これら殆どの指標について悪性細胞の様相を示しながら、宿主のラッテに腫瘍を作らない細胞がある。復元実験にも問題がある。宿主のラッテには腫瘍を作らないが、異種のハムスター・チークポーチに腫瘤を作る細胞系がある。
1974年には、培養開始から3週間後にDENを添加した。濃度は50μg/ml、100μg/mlで1週間処理した。この系では継代約半年後に実験群の染色体に変異が認められ、1年後には同系ラッテの皮下に腫瘤を形成した。対照群の細胞は腫瘤を作らなかった。しかし、培養2年近くから染色体数が乱れ始め、何れは対照群も自然悪性化の道を辿るであろう。この研究を始めて17年、依然として自然悪性化の問題は解決されていないのである。
:質疑応答:
[乾 ]復元の問題ですが、前処置をして復元してみたことがありますか。
[高岡]コーチゾン投与とか肝切除とかやってみました。皆takeされませんでした。
[乾 ]亜株の性質はそれぞれ異なりますか。或いは同じですか。
[佐藤]動物にDABを食わせた場合に、一匹のラッテの肝にも形態的に異なる幾つかの腫瘤ができる事があります。培養内の亜株も、色々違ったものが出来て当たり前でしょう。それから、DABの耐性で、DABを代謝するものと代謝しないものとの、どちらが本当の耐性でしょうか。
[遠藤]どちらも耐性と言えるでしょう。代謝する方は酵素の問題でしょうが、長期間たつと消失することが多いので、今でもまだ代謝能があるかどうか調べてみると面白いですね。代謝しない方は薬剤を取り込まない方向へ膜が変わったと言えるでしょうか。
[吉田]膜だけの変化でも遺伝的変化と言えます。
[堀川]薬剤の処理は1回でよいのか、数回処理が必要か、どうでしょう。
[高岡]薬剤の作用の仕方とか、安定性の問題とか、使う細胞系とかで、それぞれ異なりますから多くの予備実験をして決めています。
[乾 ]耐性と染色体の関係の結論はどうなったのですか。
[吉田]系によって異なります。耐性を獲得することと平行する染色体変異もあります。
[堀川]試験管内の変異は、遺伝的に安定しているものと不安定なものとありますね。
[勝田]今まで培養細胞を使ってきて、今思うことは、もっと発生学を勉強する必要があることです。1コの細胞が分化して個体を作るのは面白いことですね。
[堀川]細胞生物学はそこへ立ち戻るべきですね。
《梅田報告》
(I)ハムスター胎児細胞が発癌物質処理により悪性転換しやすいとすると、今迄の方法はmixed
cell populationで実験しているので、何処かに特に悪性転換しやすい細胞があると考えて良い。この考え方を証明するために胎児の各臓器を別々に培養して次の実験を行ってみた。(MCA=20-methylcholanthrene)
(II)胎生13〜14日のSyrian hamster carcassの4lotについて先ずMCA処理によるPienta法のアッセイを行った(表を呈示)。コロニー数でみる限り、MCAの濃度に依存して毒性が現われている。しかし悪性形態コロニーの出現はコントロールにも出たりしてはっきりとしたデータにはならなかった。
(表を呈示)胎生14日のハムスターの臓器由来細胞で調べた結果、Brainおよびsubcutisでは毒性はembryo
carcassをつかったものと殆同じであった。しかしbung、liver、kidney由来の細胞は極端にMCAの感受性が高く、PEは0.5μg/mlMCA処理でコントロールの10%以下であった。Brain、lungの細胞は小型で、コロニーも辺縁部が円形をとらない不整形の小型のものであった。Subcutisでは細胞が一面に増生し、nearly
confluentになっていた。これら全体に悪性形態コロニーは認められなかった。
(III)乾先生の所でPienta法でなく、feederを使わないでtarget
cellを5,000ケまくと同じようなコロニーアッセイが出来ると報告している。その追試を行ってみた。
Embryo carcassを使ったものはPienta法よりPEは良くなっているが、悪性形態コロニーはここでも出たり出なかったりして一様なデータは得られなかった(表を呈示)。
各臓器由来の細胞もBrain、epidermis、subcutis由来のものはPienta法よりコロニー数が多くなっている他、liver、kidney由来の細胞はホーキ星状になってコロニーとしては数えてあるが、コロニーらしくないものであった(表を呈示)。
(IV)Benzo(a)pyreneが細胞により水溶性に変る反応を調べてみた。一部はまだ実験がすんでいないが、liver、lung、一部のcarcass細胞が代謝能が高く、次いで他のcarcass
cell、kidney、Subcutisの細胞であった。Brain、epidermisの細胞の代謝能は低かった。
(V)Subcutisの代謝能はそれ程低くないのに、transformationの方であまり反応していなかったことは説明がつかない。Lung、liverでMCAでの毒性が強かったのは、BP代謝能が高いのと一致する。CarcassのLotDの細胞でBP代謝能が高いにもかかわらず特に悪性転換率が増加していないのは気になる。(表を呈示)
:質疑応答:
[難波]シャーレ当たりの細胞数はどの実験でも同じですか。
[梅田]大体同じ位にしています。
[堀川]各臓器を除いた残りの胎児でも実験結果を出して欲しいですね。それはcell
mediateの結果が出るのではないでしょうか。
[梅田]今日報告したようなピエンタの系では細胞数を少なくスパースな状態でないと結果がきれいに出ませんし、cell
mediateをみる時は密にセルシートを作っている状態が要求されますから、同時に実験するのは無理です。
[難波]メチルコラントレンの処理法を教えて下さい。
[梅田]フィーダーレーヤーの細胞をまいて1日後にメチルコラントレンで処理した細胞を少数まきます。
[堀川]発癌剤で処理する時、フィーダーレーヤーごと処理するのとコロニーを作らせる少数細胞だけ処理のとでは結果が違うでしょうね。
《乾報告》
In vivo-in vitro combination assayのX-ray
effectへの応用:
現在迄、妊娠ハムスターに種々の化学物質を投与して、Mutation、Transformationを観察してきた。これら化学物質の生物活性を標準化する目的で、X-ray
equivarent doseに換算するための実験を化学物質と同様の手法で行なった。Micronucleus
formationの結果は、照射量に比例して、小核をもった細胞の出現は急激に増加した(表を呈示)。
染色体切断を含む異常も投与線量に比例し、特に高線量照射群ではExchange型の異常が多く出現した(表を呈示)。
コロニータイプのTransformationは、62.5〜250Rの間で明らかに比例し500Rではやや低下した(図表を呈示)。
MutationもTransformation同様62.5〜500Rの間で明らかな増加がみられた。但し、62.5R以下の線量では、現在Dataにふれが多いが、これらの生物的反応は8Rで現われる(図表を呈示)。
:質疑応答:
[吉田]放射線をかけてから、どの位の時間をおいて胎児を採りましたか。
[乾 ]1日後です。
[堀川]G0バリューの出る所まで線量を幅ひろく調べておいた方がいいですね。照射後24時間で胎児を採るのなら、培養した胎児細胞に直接照射したものとの比較もみておくとよいですね。トランスフォーメションの方の頻度は良いようですが、ミューテーションは頻度が大きすぎますね。トランスフォーメション・コロニーの腫瘍性はどうですか。
[遠藤]胎児を取り出して培養したものに照射するより、胎児のまま照射する方が感受性が高いのですか。
[乾 ]培養してから照射するのと、あまり変わらないと思うのですが、経胎盤法による他のデータと比較できる形としてやってみました。
《高木報告》(前班会議欠席のため2回分を報告)
11月分:ヒト細胞に対するEMSの効果
本年2月9日に培養を開始したヒト線維芽細胞について、今日まで8カ月を経過した。この間ガラス器具の洗滌をクロム硫酸からエキストランに切換え、不慣れなための汚れが充分にとれない培養器もあったためか偶発的に死滅した培養もあり、data通りに受取る訳にはゆかないが、一応の経過を述べておく。
(1)対照の無処理細胞は約7カ月で死滅してしまった。
(2)培養開始後14日目にEMS 10-3乗M1回作用させた培養は今月31代を経て増殖をつづけている。
(3)培養開始後4ケ月を経て3x10-3乗MのEMSを3回作用させた培養も同様に増殖をつづけている。
(4)培養開始後14日目より6カ月にわたり、3x10-3乗M〜10-3乗MのEMSを13回作用させた培養は、培養開始後6.5カ月で死滅してしまった。
以上の通り(2)(3)の系では現在も増殖をつづけているが、増殖度は培養開始後1カ月から4カ月にわたる時期にくらべると可成り低下している。近日中に両実験の細胞をATS注射ハムスターに移植する予定である。
現在8月に培養開始したヒト線維芽細胞と5月から培養を開始したラット胸腺由来細胞についてもEMSによる実験を行っているが、ヒトの材料については培養前にPPLOの汚染を除くべく抗生物質で充分に洗って使用している。
細胞を発癌剤処理する際の培地条件の検討
1)月報7710で植込み前の細胞の状態が培地条件によるsurvivalに影響することをのべ、原則としてexponential
growthの細胞を用いることとし、この際植込み6時間後に所定の培地に交換してからのDNA合成を経時的に図示した。今回はこれと比較の意味で、confluentな状態の細胞を植込みに用いた時のDNA合成patternを示す(図を呈示)。この際controlのMEMもDNA合成の上昇はおそい。conditioned
mediumではやはりDNA合成は一番低く、6時間にわずかの上昇があるだけである。またADMについてもexponential
growthを示す細胞を用いた場合にみられた2時間後の上昇はみられず、以後もcontrolよりわずかに低くゆっくりと上昇する。このような培地交換後早期のDNA合成patternのちがいは発癌剤などを作用させた際の細胞のsurvivalにも多分に影響を及ぼす訳で、例えば月報7710に示したEMS、MNNGによるsurvivalについても、confluentな細胞を用いた場合にはMEMとADMとの違いがみられなくなる。
2)これまで4NQO、EMS、MNNGについて培地条件によるsurvivalの相違を報告したが、4NQOと似通ったrepairを示すUVについては(図を呈示)、4NQOと同様のpatternを示す。すなわちいずれの培地でも低いdoseでshoulderをもったcurveをえがき、これはsublethal
doseではrepairがおこっていることを表わすと思われる。conditiond
mediumではsurvivalは著明に増加し、shoulderが大きくなりdoseの増加とともにcontrolと平行な直線となる。
12月分:ヒト細胞に対するEMSの効果
本年2月9日に培養を開始したヒト線維芽細胞に対するEMSの効果につきその経過を先に報告した。
EMSを3回作用させ今日まで培養のつづいている群では、形態的にややcriss-crossが多いが著明な変化は認められず、11月中旬までは1:4で継代をつづけている。10月20日にATS注射hamster
cheek pouchに300万個移植を試みたが、腫瘤の形成が認められ7〜10日でregressした。7日目に作製した腫瘤の組織像では差程の異型性はみられなかった。これらの経過につきslideで供覧する。
その後も2つの系について実験をくりかえしており、現在2〜3カ月を経過したところである。その中EMSを3回作用させ3カ月を経過した細胞を300万個hamster
cheek pouchに移植したがこの際生じた腫瘤は小さくregressするのも早かった。2月に培養開始した細胞とは可移植性に差がみられるようである。
なおEMSはmutagenとして広く知られているが、carcinogenとして腹腔内に注射して腎腫を生じた報告があったので飲水にまぜて3カ月投与をつづけてみた。その中一頭に腎腫を生じた。さらにsystemicに実験をくり返している。
細胞を発癌剤処理する際の培地条件の検討
これまでの実験で大体基礎的条件はきまったように思われる。すなわちexponential
growthを示すV79細胞を用い10万個cells per
plate植込み、6時間後にMEMで諸薬剤を作用させ、その後18時間MEMあるいはconditioned
mediumでincubateする。conditioned mediumを用いた系は細胞のDNA合成がその間抑制される訳であり、以後MEMにもどして適当なexpression
timeをおき、mutantの出現は6TG 5μg/ml耐性細胞の出現でcheckすると云う条件である。4NQO、MNNG、EMS、UVいずれについても処理後conditioned
mediumを用いた方がMEMを用うるよりもsurvivalは増加することが分ったが、これまでのdataより以下のことが推測される。
1)DNA損傷後の早期DNA合成とsurvivalとは逆相関を示す。この際conditioned
mediumの方がarginine depleted mediumよりきれいにDNA合成を抑制するのでこれを用いることにした。
2)4NQOとUVとはそのsurvival curveのpatternが酷似しており同じrepair
systemで修復されていると考えられる。
3)4NQOとUVのrepair systemはある程度で飽和に達する。これはある一定以上のdamageが加わるとsurvivalの上昇がMEMとdonditioned
mediumで一定となることから推測される。
4)EMSとMNNGはsurvival curveが似ており、4NQO、UVのそれとは異っている。この両者は同じrepair
systemにより修復されているのではないかと考えられる。
5)MNNGおよびEMSのDNAdamageのrepairは4NQOとUVにくらべて比較的早期におこり早目に終ってしまうと考えられる。現在これら培地条件のmutant出現頻度に及ぼす影響について観察しているが、これまでの6TG耐性の出現でみたpreliminaryなdataでは、薬剤作用後conditioned
mediumを用いてDNA合成を抑制した方がmutantの出現はおちるようである。ただ実験により6TG耐性colonyの出現頻度にバラツキがみられるので一定のdataがえられるようさらに検討中である。
:質疑応答:
[難波]ハブリッドの細胞の増殖度はどの位ですか。
[高木]大変おそくしか増えません。
[堀川]照射量はエルグで表すべきですね。処理後のサバイバルカーブの差は何を意味しているのでしょうか。
《難波報告》
53:ヒト正常2倍体細胞の培地の検討
ヒト2倍体細胞を利用して、コロニーレベルの仕事を行う上で最もむつかしい点はコロニー形成率が低いことである。
種々の培地を検討した結果、目下成績はダルベッコ変法MEM+20%FCS+10-6乗M
Dexamethasone+10μg/mlインシュリン+1mM
Pyruvateが最適のようである(表を呈示)。
コロニーサイズはダルベッコのものが一番大きく、数え易い。そこでダルベッコMEM+20〜30%FCSの培地に種々の添加物を加えPEを検討した(表を呈示)。その結果よりDexamethasone、インシュリン、Pyruvate添加培地を採用した。
:質疑応答:
[乾 ]培地の血清量20%と30%とでは違いがありますか。
[難波]30%添加した方ががっちりしたコロニーができます。しかし経済的にみて20%を主に使っています。
[高木]In vitroで何代継代できましたか。
[難波]5、6代です。やってみて判ったのですがデキサメサゾン添加は実に有効です。
[桧垣]デキサメサゾンを添加した場合、増殖が落ちるという事はありませんか。
[難波]全く変わりません。対照群と同じ増殖度です。
[山田]インシュリンの濃度はかなり濃いと思いますが生理的濃度からみてどうですか。
[高木]生理的濃度からみると大いに濃いです。
[難波]但しインシュリンは培地内ではガラス壁に附着しますので、細胞に接して居る正確な濃度は判りません。
[堀川]エイジングはどうですか。
[難波]これからやります。
《山田報告》
今月から蛍光標識したConA(FITC-ConA)を用いて、従来われわれの観察したConAによる表面荷電の変動と、報告された細胞膜上のConAのpatch
formation and Cap formationとの相互の関係を検索し始めました。
(表を呈示)方法は4℃においてFITC-ConAと細胞(今回はすべてJTC-16)を混合し、40分保存した後に37℃に温度をあげて、反応を進行させ、その後アセトンで固定した後に観察しました。
結果:まだ基礎段階ですので、はっきりとした成績が出ていませんが、少くとも次の点のみは明らかになりました(写真を呈示)。
1)ConAによりその表面荷電密度が高くなる時期は、ConAによりCap
formationが起る以前である。
2)シートを作る細胞塊の中心部にある細胞では、細胞の遊離面の中心に集まり辺縁部の細胞におけるCap
formationとは異る。
(写真説明:FITC-ConA 20μg/ml 8分後、遊離細胞、蛍光は一方に集り所謂Cap
formationを示している。培養5日目、FITC-ConA
20μg/ml 10分後、細胞集団の周辺の細胞はCap-formationが細胞の辺縁に起っている。FITC-ConA
50μg/ml 細胞集団の中心部、蛍光は細胞の中心に集まって居る、従来のCap-formationにはみられなかった集合像。)
:質疑応答:
[堀川]こういう光り方をどう解釈されますか。
[山田]まだ何とも言えませんね。ただ始めは光らなくて、時間と共に光り始めます。
《榊原報告》
§培養肝細胞に於るγ-GTPの組織化学
γ-gulutamyltranspeptidase(γ-GTP)はglutathion分解のinitial
reactionを触媒する酵素で、ラット肝実質細胞では胎生期ならびにneoplastic
changeを遂げた際、その活性が組織化学的に陽性となることが知られている。一方、胆管、腸管、腎尿細管、膵外分泌部等の上皮細胞では、normal
adultで常に陽性とされている。これらγ-GTP陽性細胞が凡てepithelial
cellである点は注目に値しよう。生体組織についてのγ-GTPの組織化学はかなり綿密にしらべられているが、培養細胞についての結果は、知る限り報告がない。そこで丁度手許にあった2系統のラット肝由来上皮細胞クローンについて、生体組織に対し用いられている手法をそのまま適用してみた。細胞は岡大で樹立されたRLN-38及びRLNB2のクローンでタンザク上に播いて3週間培養したものである。両株ともcollagen
fiber形成は鍍銀、Azan染色及び蛍光抗体法のいづれでも陽性である。細胞はacetonで1時間固定、N-γ-L-glutamyl-α-naphthylamide、Fast
garnetGBC saltから成る基質溶液に1時間浸漬ののち、CuSO4液に2分、hematoxylin液に10分入れ、水洗、アルコールによる脱水は行なわず、グリセリンで封入、検鏡した。その結果RLN38株はγ-GTP活性negativeであったが、RLNB2株では陽性細胞が多くはcolonyを成して培養のあらゆるareaに散在していた。γ-GTP陽性細胞は大型で、複数個のbizarreな核を有し、胞体全体が赤褐色に染まり、とくにcell
membraneが際立った染着を示す傾向がみられた。両株ともラット及びハムスターに可移植性がありながら、in
vitroでのγ-GTP活性に相違がみられるのは何故であろうか。今後更に多くの細胞株について、in
vitroとin vivoでの染色性の異同や分布を調べたいと思っている。なおこの染色はアセトンで脱水しパラフィン包埋した組織切片でも可能である。monolayer
cultureを染める場合は、アセトン固定も3日行なうと活性が低下することも判った。
:質疑応答:
[高木]γ-GTPは酒飲みの人が高いですね。
[榊原]動物によって違います。兎では肝細胞も染まりますが、ラッテでは正常な肝細胞は染まりません。
☆☆☆次に吉田班友からのお話しがありました。
染色体数の違うクマネズミをかけ合わせると性染色体に異常のあるF1ができる。現在判っているだけでもクマネズミには染色体数42本のアジア型、40本のセイロン型、38本の欧州型がある。それらの中、アジア型は他の2種とかけ合わせるとF1が出来るがfertileではない。しかし、40本と38本のかけ合わせはfertileである。そして、そのF2の中にX染色体の欠除しているものとXXYのものとがあった。これは減数分裂の時の不平等な分裂の結果かと思われるが、現在いろいろとかけ合わせてみて検討中である。
☆☆☆翠川班友からも"ちっとも悪性変異を起こさないマウス組織球の長期培養について"お話しがありましたが、原稿提出はありませんでしたので、討論のみ記載します。
[難波]墨汁の貪喰は何時間位添加したのですか。
[翠川]6時間です。
[遠藤]発癌剤で処理しても全く変わらないのですか。
[翠川]変わらないか、死ぬかです。
[高木]染色体は正2倍体ですか。
[翠川]染色体は変わっています。
[難波]倍加するのに120時間かかるとすると普通の細胞の5倍ですから、10年培養しても分裂回数ではまだ2年分位、とするとそろそろ自然悪性化の起こる時期ということになりませんか。
[高木]悪性化しないのは何故だと考えられますか。
[翠川]分化度の高いせいかと考えています。
[堀川]同じような細胞系の出来る再現性はどうですか。
[翠川]100例くらい試みてみましたが、600日位生存したものはありましたが、株化したのはこの1例だけです。
[吉田]癌化しやすい細胞とのハイブリッドを作ると面白いですね。
[高木]培地は何を使っておられますか。
[翠川]血清+MEMというあたり前の培地です。
[桧垣]巨細胞との関係はどうですか。
[翠川]判っていません。組織球が線維芽細胞になるという説の真偽を確かめたいと思っています。
[難波]腫瘍性については、ヌードマウスの脳内にしかtakeされないという系もありますからもう少し検討して下さい。
【勝田班月報・7801】
《勝田報告》
今年は私の俊(ウマ)で、還暦となります。そしてこの班の月報で新年のあいさつをお送りするのは、これが最後です。大変残念なことですが仕方ありません。皆さんはまだ年に余裕があるでしょうが、定年なんてものは、あっという間にやってきますから、油断しないで、しっかり仕事をつみ重ねて行って下さい。本当に時の経つのはすばやいものですから、私が伝研にきたときの教授は宮崎先生で、55才のころ狭心症で急逝され、このとなりの癌体質学研究部の斎藤教授は定年の半年位前に脳溢血で倒れ、いずれも仕事の最後のまとめができなかった。お陰様で私はいままだ元気ですので、なんとか後片附けができそうです。皆さんの御協力を深謝します。
《高木報告》
これが勝田班における最後の正月の月報であると思うと感無量です。今、私の目の前にN0.6001の研究連絡月報があります。発行は1960年6月17日となっています。初刊における勝田班長の《巻頭言》は次の通りです(要約)。
『癌研究にあたり我々の第1目標とすべきもの:
・・・そして我々としてはやはり組織培養の利点を最高度に発揮し、正常細胞と腫瘍細胞との、きわめて広い意味での各種の性質の相違を追求し、基礎的にしっかりデータをつかんでから攻撃点を決めるべきであろう。・・・次にこれと平行して我々がなすべき仕事は組織培養内での"細胞の腫瘍化"の問題であろう。・・・正常の細胞を培養しておき、これに発癌剤その他の悪性化の原因となりうる刺戟を与えて培養内で細胞の悪性化をおこさせることができれば、組織培養は腹水腫瘍に代って次の10年間での研究陣を風靡することができるであろう。そのためには、1)まず正常の細胞を相当長期間培養できること(増殖でも維持でも)、2)それに刺戟を与えて一定期間後に必ず悪性化するようなコースを見付けること(動物に復元して腫瘍死すること)この二つを先決しなくてはならぬのである。
・・・ここに我々のなすべき二つの命題をかかげたが・・・本当の第一の命題はむしろ後者にあると考えて頂きたい・・・』
"Production of malignancy in tissue culture"これが班長のかかげた目標でした。以来実に17年間月報を出しつづけ、班は続いて来たのです。そして今年3月、正確には17年9ケ月でその幕を閉じようとしています。その間、班長、班員の努力により一応の目標は達成され、いくつかのin
vitroの発癌系を樹立することが出来ました。しかし幾多の問題は未解決のまま残されております。勝田班は一応periodを打とうとも研究は永劫に続きます。"初心忘るべからず"ここで再び原点に立ちかえって、これから進むべき道を充分に見きわめたいと考えています。私共も22年間住みなれた第一内科の組織培養室を後に、新臨床研究棟に移ります。また私自身、4月から新しいpositionに転出することになります。勝田班と共に歩んで来た私にとって何か宿命的なものを感じます。何もかも新しくスタートしなければならないのだと自分に言いきかせています。今後共よろしく御願いいたします。
《難波報告》
54:本年度の研究の方針
1)従来どうり、正常ヒト2倍体細胞の化学発癌剤による癌化の実験を続ける予定です。いままで行って来た結果を反省してみると、正常ヒト2倍体細胞の癌化は、3T3、10T1/2、V79などの動物の細胞系に比べて非常に困難なことが判りました。この困難さの原因として、次の2点が考えられます。
(1)ヒトの細胞そのものによるのか
(2)ヒト正常2倍体細胞の培養条件が正確に決定していないためによるのか
この2点に焦点を絞って
(1)の点は、発癌剤処理後のヒト細胞のDNA修復合成の検討から、あるいは、培養ヒト細胞での発癌剤の活性化、不活性化の動態の検索などからアプローチしてみようと考えています。
(2)の点は、HamのMCDM102培地の追試を行いながら、ホルモンその他の添加物の効果を調べ、正常ヒト2倍体細胞のコロニー形成率が少くとも、50%程度になるような方法を考えて行きたいと思っています。
2)同時に、ヒト正常細胞の発癌実験を定量的に進めるためには、ヒト細胞の癌化の指標を考えながら、癌化した細胞と正常細胞とを選別できる方法を開発しなければならぬと思っています。
《梅田報告》
早いもので勝田班に入れていただいてから本年で丁度10年過ぎたことになります。本年が勝田先生の御退官の年であり、個性的な勝田班も遂に解散の年が来て了ったことを思うと感無量であると同時に、その間ずるずるとして目立った仕事の出来なかったことを心から申しわけなく反省しています。
勝田先生には本年以降も何かにつけ御指導、御指示を受けなければならないのですが、勝田先生が率先して実行してきた行動は私共への見本、手本としてこれからの指標にしたいと思っています。
勝田先生が成し遂げる計画のうち、成し遂げ得なかった癌制圧に向けては私なりに今迄よりもっともっと真剣に取り組まねばと思っています。特に培養内発癌の仕事はすっきりとした形で解答を出すべく、最善の努力をすることを今後の私の目標にする積もりです。
《乾報告》
本年は勝田先生が昨暮、新しい班を御申請なさらなかったので"勝田班・月報"を通しての最後の新年の御あいさつになりそうです。
年の始めに当り、しめっぽい事は書きたくはありませんが、私自身班を通じて、ずい分勉強させて頂きましたし、又先生方からずい分おしかりをうけながら仕事をして参りました。要するに、楽しく又きびしい班でしたが、私には、大切な大切な班でした。
班員のほとんどの先生方とは、多分新しい組織のもとで、御一緒に勉強が出来ることと信じております。
私自身、In vivo-in vitro combination chemical
carcinogenesis(Mutagenesis)の系をもう一度見直し、系の完全な確立をめざすと共に、欠点をのぞいて行きたいと思っています。又本年からは、人間の細胞を含めて細胞レベルでの種の違い、個体の差、年令の差と云うような仕事にも、足をふみ入れたいと思います。
《山田報告》
漸々今年は班会議、勝田班の最後の年になりました。考えてみますと、随分長い間お世話になりました。仕事の上だけでなくお世話戴いた事々は山の様に積っている感がします。そして教えて戴いた多くの事々を土台として、これから自分自身で展開し、発展させていかねばならぬ様な気がしています。その意味では漸々、予備校を卒業して、これから大学生活に入る様な感慨です。
昨年は仕事の余暇にMaxBorstの腫瘍の病理学総論(1902)を翻訳しましたが、これを完成するに当っていろいろな癌の研究の在り方を考えさせられました。細胞をあつかって癌を研究する者にとって(実は基礎癌研究者は多くの場合このなかに属すると思う)、とかく忘れがちな事は、Cancer
Cell Reseachに終始してしまい、Tumor-host
relationを忘れがちだと云う事です。この一見当然の事実が、現在最も要求されている事ではないかと思います。培養法を用いた研究をより有効に生かしながら、それを常にCancer
diseaseの解析の手段として用いて行きたいと今年は特に考えています。
《榊原報告》
今年は癌細胞学研究部で仕事をさせて頂くことになりました。心おきなく組織培養の実験ができると喜こんでおりますが、勝田先生の御退官があまりにも間近かであることが残念でなりません。せめて後に残った者としては、先生の御業績の真価を更に広く世に知らしむべく、先生の樹立された多数の細胞株を活用して、意義ある仕事をしてゆかねばならないと思っています。
今年度の研究の方向としては、細胞機能のあらわれ方をin
vivoとin vitroの両面から形態学的に検討してみたいと思っています。例えば培養人癌細胞の膠原繊維形成能、あるいは培養ラット肝細胞のγ-GTP活性などについては、既に若干の興味あるデータが得られています。肝硬変症を初めとする臓器繊維症の病理形態発生の問題は、組織培養だけでは解決がつかず、免疫学的方法でやれるだけやってみたいと考えています。
【勝田班月報:7802:肝癌の放出する毒性物質についてのまとめ】
《勝田報告》
ラッテ腹水肝癌細胞の放出する毒性物質についてのまとめ:
試験管内に細胞間の相互作用の場を実験的に作りたいという目的から双子管を考案したのが1961年である。その双子管を使って種々の細胞の間の相互作用をしらべてゆくうちに、腫瘍細胞とその母組織の正常細胞との間には、腫瘍細胞は増殖を促進され正常細胞は阻害されるという特異的な相互作用の発現されることがわかった。
また、ラッテ腹水肝癌由来細胞は、培地中にラッテ正常肝由来培養上皮細胞に対する毒性物質を放出していることが認められたので、その毒性物質の本体の化学的追求に入った。この場合、正常肝細胞を阻害するが、正常センは阻害しない、という二つの指標を分析に用いた。
まず、セファデックスG25で分劃すると、塩の溶出してくる直前の分劃に毒性が認められた。ラッテ腹水肝癌株数種の培地をしらべてみると、どの肝癌培地もその分劃に毒性があった。しかし正常肝由来細胞株の培養後培地の同様な分劃は、正常肝由来細胞株の増殖を促進した。
次いでセファデックスによる分劃を更にダウェックス50、濾紙電気泳動法などで精製し、毒性物質が分子量2,000以下の塩基性の強い物質であることがわかった。
肝癌培地はJTC-16から採り、スクリーニングにはRLC-10(2)を使った。
分劃は2、2'、4群と1、3、3'、5、6、7群の2群に分かれる。
1) 1、3、3'、5は弱酸性陽イオン交換樹脂Amberlite
IRC-50(acetate buffer、pH4.7で平衡化)を用いて得られた塩基性物質分劃を、更に、強酸性陽イオン交換樹脂を用いて分劃し、4N-NH4OHで溶出される分劃である。1、3、3'はDowex50(H+)、5はAmberlite
IR-120(H+)でのクロマトグラフィーで得られた。
2) 4は最も活性の強い分劃でUltrafiltrationで得られた分子量10,000以下の物質を含む濾別液を、セルローズカラムクロマトグラフィを用い、先ずn-ブタノール/ピリジン/酢酸/水の溶出系で得られた活性分劃を、更に、n-アミルアルコール/ピリジン/水の溶出系でクロマトを行って得られた活性分劃である。
3) 2、2'はスペルミン標準物質を、1)と同じ条件下で分劃し、ただし、Dwex50(H+)クロマトグラフィで、アンモニアでの溶出液、6N-HCl(ポリアミンを溶出する条件)で溶出される分劃でスペルミンを含んでいる。
4) 6、7は今迄と全く視点を変えて分劃を行ったもので、Ultrafiltrate(<MW、10,000)にエタノールを35%(v/v)になるまで加えてゆくと、白色結晶性物質が得られる(900mlのUltrafiltrateより150ngの収量で得られる)。これをエタノール/水で再結晶して得られた物質が6であり、6をDowex-1(Acetate
form)カラムにかけ0.1N酢酸で溶出される分劃が7である。
6の分析成績は、C:1.14%、H:1.62%、Ash:84.7%、糖反応(Molish、アンスロン・硫酸)陰性、P陽性、KMmO4に対して強い還元性を示す。Ca++:0.5ppm、Mg++:0.6ppm以下(原子吸光分析法)であったが、スパーク分析法でAl:52%を検出した。IR、NMRスペクトル分析では、特異スペクトルを与えなかった。このアルミニウムが何に由来するかは不明である。
以上をまとめると、活性物質は分子量10,000以下の低分子性の物質であり、強塩基性(あるいは陽イオン性)で、6N-HCl、105℃、24時間の処理に耐える物質である。
活性物質が一種類かどうかは不明であるが、そのうちの一つはポリアミン系の物質である可能性は否定出来ない。ただし、毒性物質とスペルミン、スペルミジンなどのポリアミンとでは、細胞に対する毒性効果の"あらわれ方"が質的に異なっている(即ち、毒性活性物質は添加後効果が遅れて出現するが、ポリアミンは即効性である)。この点は今後も注目すべき点であろう。今後の分劃法としては、イオン交換樹脂法では物質の不可逆的損失が大きいのでセルコースカラムクロマトグラフィが有望と思う。
:質疑応答:
[遠藤]低分子のアミンを扱うのは仲々難しいですよ。簡単なように思いがちなものですが。6N-HClで毒性活性が増すのは多少不思議ですね。
[永井]ポリアミンそのものとも言えない行動のある物質です。
[高岡]分劃4と6は別のものですか。
[永井]1種類ではないかも知れませんね。塩酸処理で活性が増すという現象は、実は活性分劃がだんだん不溶性になってゆくのを塩酸処理で塩酸塩となって培地に溶けるようになるので、活性増ということになるのかも知れません。
《難波報告》
54)Co-60ガンマー線による正常ヒト細胞(WI-38)の癌化
放射線によるin vitroの発癌実験の報告は、動物細胞を用いたものでは若干の報告があるが、まだヒト細胞の報告はない。
実験は29代のWI-38で実験を開始し、コバルトガンマー線を照射した。コバルトを使用した理由、照射線量の決定は月報7706に記した。照射後は文献に従って4〜5時間目で細胞の継代を行った。照射後200日目頃50代目でAgingしかけた線維芽細胞の中に一見上皮様にみえる細胞集落が出現し、この細胞は、その後、現在に至るまで盛んに増殖を続けている。この変異した細胞のG-6-PDアイソザイム パターンは、WI-38と同じBタイプを示し、クロモゾームは著明なHeteroploidyである。そして低濃度の血清を含む培地中でも旺盛な増殖を示す。(図表を呈示)
:質疑応答:
[佐藤]復元はヌードマウスですか。
[難波]ハムスター・チークポーチへ接種しました。
[乾 ]変異細胞が全部エイジングを乗り越えている訳ではないのですね。
[難波]そのようです。変異すると形態が上皮様になるのは確かなようですが、形態変異だけでは何とも言えませんね。
《高木報告》
1969年6月、勝田班結成以来今日まで17年8カ月班員として参加させて頂きました。この月報ではこれまで当班において行って来た仕事について経過を発表させて頂きます。
1960〜1962年
まず最初にマウスMY肉腫よりDNP、RNPを抽出し、これを培養正常細胞に作用させてtransformationを試みました。またStilbesterol
0.1〜1.0μg/mlをラット腎細胞やJTC-4細胞に作用させましたが結果はnegativeでした。さらにDABをJTC-4細胞に作用させて9カ月間観察し、cortisone処理ハムスターのcheek
pouchへの移植も試みました。
1962〜1964年
Stilbesterol 1〜10μg/ml、DAB 1μg/mlを4〜10日種々な日齢のラットやハムスターの肝、腎細胞に作用させて経過を観察しましたが、明らかなtransformationはおこしえないまま、1962年11月高木は渡米、代って杉が班員に加わりました。杉は1964年までDiethylstilbesterol
10μg/mlをハムスター腎の培養にさまざまな条件下に作用させ、33シリーズの実験を行いましたが、ついにpositiveな成績をうることは出来ませんでした。
その間、高木はアメリカにあって膵の培養にとりくみ、organ
culture、cell cultureでfunctional cultureの目的を一応達成することができました。すなわちorgan
cultureでは家兎の膵を15日培養し、その間insulinを分泌しつづけていることをimmunoassay、蛍光抗体法で証明しましたし、またcell
cultureでも膵から4つの形態的、機能的に異った細胞株の分離に成功しました。
1965〜1967年
1964年11月高木が帰国しまして再び班員に復帰しましたが、これまで行って来たStilbesterolの実験は打切り、4NQO、4HAQO、DMBAなどをラット、ハムスターの皮膚、顎下腺などのorgan
cultureに作用させてその変化を観察しています。すなわち例えば4NQO
10-5乗Mをorgan cultureした組織に培養開始時と3日目に滴下し、あとは培養をつづけて形態的な変化を観察しています。しかし、1966年の終りからハムスター胎児皮膚の癌化を指向して長期間organ
cultureするため培養条件すなわち温度やガス圧などをこまかく検討しています。またハムスター皮膚の移植実験を試み、in
vitroで発癌剤を作用させた培養皮膚の復元を試みていますが発癌するには至りませんでした。
1967〜1969年
4NQOとMNNGを細胞培養したラット胸腺細胞に作用させています。濃度、作用時間をかえて検討し、1967年には一応transformed
fociなどの形態的変化を認めています。1968年に入ってMNNGを中心にラット胸腺由来細胞に対する多くの実験をくり返し、ついにその悪性化に成功しました。その後再現実験として、細胞の培養開始から発癌剤を作用させるまでの期間をかえて20シリーズの実験を行いましたが、その中4シリーズにおいて復元に成功しました。つづいて4NQOについてもラット胸腺細胞の悪性化に成功しました。
1970〜1972年
細胞の発癌剤による悪性化の指標として、復元による腫瘤形成が惟一のものです。細胞集団の中で何個かの細胞が悪性化したとして、その際どの程度悪性腫瘍があれば"take"するか、あるいは復元の際悪性化していない正常細胞はどのような態度をとるのかなどを知る目的で、正常細胞、腫瘍細胞を種々の比率で混合してisologousあるいはhomologousな系で移植を試みました。しかし要は腫瘍細胞の可移植性によるのであり、正常細胞は大した影響を与えないと云った結果でした。
その際in vitroでも同様の細胞の混合培養を試みましたところ、正常細胞が変性することが分りました。はじめ腫瘍細胞の産生する毒性物質ではないかと考えたのですが、これはDNA
typeのvirusであることが分りました。rat virusとよく似ているのですが血清学的検査結果はこれとやや異なっています。なお九大におけるラットは調査した範囲ではすべて、このvirusに対する抗体をもっていました。
一方in vitroの細胞悪性化の指標としてserum
factor freeの血清を用いたsoft agar内の培養を検討しましたが釈然とした結果はえられませんでした。
1973〜1974年
AAACNのRFLC-5細胞に対する効果を検討しました。3.3x10-4〜1.6x10-4乗Mを用いて長期間観察し、morphological
transformationは認められましたが、復元成績はnegativeでした。
一方6DEAM-4HAQO 10-4〜10-6乗Mラットに注射してinsulinomaをつくり、この培養を試みましたが長期培養はできませんでした。また培養ラ氏島細胞に直接作用させて増殖の誘導を試みましたがこれも成功していません。
さらにin vitroの細胞悪性化の指標としてCCBの種々培養細胞に対する効果を観察しました。腫瘍細胞では2核以上の多核細胞、正常細胞では2核細胞の形成がみられたが一部株細胞に例外があり、復元成績と比較した場合、絶対的な指標と云うには問題が残っているように思われました。
1975〜1978年
ラットおよびヒト膵ラ氏島細胞の長期培養、純粋なラ氏島細胞populationの培養、ラ氏島細胞分裂促進因子の検討およびDNA合成細胞の同定などを行っています。現在までのところラ氏島細胞の機能を保ったままcell
aggregateの形で、あるいはcell sheetの形で2〜3カ月は培養可能となりましたが、未だ細胞株の樹立には至っておりません。さらに培養細胞のDNA合成あるいは分裂を促進することが出来ればfunctional
cultureにおける発癌実験が可能となると考えています。
また細胞にcarcinogenまたはmutagenを作用させた直後にDNA合成を抑制するような培養条件(conditioned
medium)にしてやると細胞のtransformationの頻度が下ることが分りました。さらにcaffainの影響など観察していますが、このような実験ではどのようなrepair機構がcarcinogenesis、mutagenesisに関係深いか知ることが出来ます。
なおEMSの発癌性が高いことを動物実験で証明することができましたので、これを用いてヒトの細胞の発癌実験もつづけています。
:質疑応答:
[吉田]MY肉腫はマウスに自然発生した肉腫で、Mは牧野先生のM、Yは私のYなのです。こんな所で研究に使われていたとは大変驚きました。
《梅田報告》
勝田班に入れていただいて10年になる。今振り返ってみると、その時々にそれなりに重要と思いながら実験を進めてきたのではあるが、仕事の内容は大きく振れ動いている。もっとconcentrateして仕事をすべきだったと反省している。Techniqueのあるものを新しく開発し、自分のレパートリに加えたことがせめてもの収穫である。といってもこれらの中には班員の皆様に教わり、触発されて進めた仕事も多い。改めて勝田班に感謝している。
このまとめを反省材料にして今後の方向を見定め、仕事をしていきたいと思っている。
(I)Toxicity experiments
勝田班に入る前に黄変米の仕事をしてきたこともあり、発癌剤の殊に肝発癌剤の毒性を形態的に調べることが始めの仕事になった。当初はHeLa細胞などを使っていたがこれではらちがあかないので、高岡さんからラット肝のprimary
culture法を教わり、その培養に肝発癌剤を投与した。その結果増生する肝実質細胞に著明な脂肪変性の起ることを見出した。今考えればこの脂肪変性はこれら脂溶性発癌物質自身の肝実質細胞親和性に関係があると思われる。
(II)ラット肝培養細胞
ラット肝の培養をかなり長い間手がけた。多少片手間的な仕事の展開でまとまりは少なかったが、2つの収穫があった。
一つは上皮性の樹立細胞系を得てから発癌実験の積りで発癌剤処理に6週間培養してみたものである。所謂focus
assayであるが、悪性の形態focusが出ないで、細胞間に索状物の存在を見出した。榊原さんの実験でこの物質がコラーゲンであることが証明され、さらに展開された仕事である。
もう一つは樹立された細胞系について調べているうち、aflatoxinB1、benzo(a)pyreneに感受性の高いもののあることを見出したことである。この系はそれ迄クローニングされていなかったので、20ケ近いクローンを拾ってこれらに対する感受性を調べた所、非常に高い感受性を示すクローンが含まれていることを見出した。このものはC14-benzo(a)pyreneを水溶性代謝物にする能力も高く、特種機能を保持した細胞系という意味で興味がある。
(III)試験管内発癌実験
Serial passageによる方法、colonyレベルで検索する方法、focusレベルで検索する方法と3つの異る方法で実験してきた。
Serial passageによる方法では、シリアンハムスター胎児細胞を発癌剤処理してずっと継代維持し悪性形態転換の起る迄待つものである。用いた発癌剤は4NQOなどそれ迄に培養内で発癌作用の報告されたいたもの、内因性発癌物質と云われる3-hydroxy
anthranilic acidであった。この実験では4NQOを用いても4〜5ケ月を過ぎないと悪性転換を起さなかった。その頃発癌剤処理により1〜3ケ月で悪性化すると報告されており、4〜5ケ月もかかるものは恥かしくて報告出来なかった。また繰返し実験を行うには手間がかかりすぎるので、そのままになって了った。
Sachs、DiPaoloらのfeeder cellの上に少数のハムスター細胞をまき悪性形態コロニー出現をみる方法も大部以前に手がけたものである。この方法はシャーレの数を20枚前後にしないと充分な数の悪性形態のコロニーが出現しないこと、形態判定が主観的であること、コントロールにも時におかしな形態のコロニーが出現することなどが、当時の結論であった。しかしこの実験から毒性と悪性転換率の関係を示す表し方を考えたりした(以上Manchesterでの実験)。その後のPientaの方法については現在検討中である。
コントロールのハムスター細胞、またはマウス細胞の数回継代したものを用いて発癌剤処理し、6週間培地交新のみで培養を続ける所謂focus
assayを行った所、見事な悪性形態focusの出現することを見出した。この実験はしかしながら、その後何回も繰り返してきたが、Controlにも盛り上るfocusが現れてうまくいかなかった。現在尚検討中である。残念なことに昨年10月号にDiPaolo等がこれに似た方法を報告した。
(IV)Y-AK、Y-CH、Y-DD株の樹立
(III)の実験がうまくいかなかったし、報告されているBalb/3T3細胞を使った発癌実験もうまくいかなったので、われわれの研究室で、3T3と類似の継代法で新細胞系の樹立を企てた。その結果、AKRマウス細胞よりY-AK、C3HマウスよりY-CH、DDDマウスよりY-DDと名付けた3系の細胞株を樹立した。これら細胞について、focus
assay法で悪性転換実験を行った所、Y-CH、Y-DDは発癌剤で処理しない細胞でも悪性形態focusが多数出現した。Y-AKは接触阻害もあって良い細胞と思われたが、ここでも低率ではあるが、focusを形成した。
(V)発癌剤代謝
発癌剤が代謝活性化される事は以前から知られていた。毒性でみていた頃もAAFと、N-OH-AAF、N-AcO-AAF、7-OH-AAFを用いて毒性の違い惹起される形態像の違いについて調べた。
発癌剤芳香族炭化水素についてはその活性化にはarylhydrocarbon
hydroxylaseなる酵素の存在が必要とされている。この酵素のおおよその活性を測定するのに、C14-benzo(a)pyreneが水溶性代謝産物になるのをみる方法がある。われわれは今迄の方法をmicroassay化した。そして種々の細胞で同活性を測定し、興味ある結果を得た。この方法は芳香族炭化水素による発癌実験を行う際の細胞の選択などに簡単に調べられるので今後もおおいに利用出来ると思っている。
(VI)遺伝毒性
DNA単鎖切断能の探索は興味があり、突込んで仕事した。それ迄の方法で納得のいかなかった点(DNAが1ピークになり遠心管底に沈む)をかなり改良したassay法を確立した。その方法は発癌剤などがDNAに作用したことを知る目的では手間がかかりすぎるがnitrogen
musterdのような2本鎖DNAにまたがって結合する物質の作用の検索には威力を発揮した。
染色体の検索は見様見真似で化学物質処理により生ずる異常をスコアするようになった。各種化学物質で検索した所、DNA鎖切断をみるよりは検索が容易であった。次で述べる突然変異を起す物質は調べた範囲ですべて染色体異常を起していた。
FM3A細胞を用いて多くの物質について8-azaguanine耐性獲得の突然変異を調べてきた。今迄の検索ではバクテリアのmutationにかかる物質はほとんど哺乳類細胞でもmutationがかかり、バクテリアでかからないものの中に時に哺乳類細胞のmutationのかかるものがあるようであることが分った。今後も続けて検索する必要があると思っている。Precarcinogenの突然変異実験の際、ラット肝ホモジネート遠心上清と補酵素を組み入れて所謂metabolic
activation実験が可能であることを示した。
《山田報告》
ラット肝細胞およびその悪性化培養株を用いて行った研究の主なる成績
1.細胞表面荷電と細胞の生物学的態度(Biological
behaviour)との関係
a) In vitroにおける細胞増殖に伴う変化:
i)細胞表面荷電の周期的変化(cyclic changes
during cell cycle)特に分裂期における荷電密度の急烈な上昇
ii)細胞表面損傷に伴う荷電密度の反応性上昇と増殖(initial
change after cultivation in vitro)
iii)試験管内細胞密度依存の表面荷電の変動(contact
inhibition)
b) In vitroにおける悪性変化に伴う変化:
i)細胞表面荷電密度の上昇(増殖能の昂進に伴う変化)
ii)細胞相互の表面荷電密度の不均一性の出現
iii)シアル酸依存荷電の上昇
iv)ConAおよび、その他の植物凝集素のreceptorの細胞膜におけるmotilityの昂進
v)試験管内細胞密度に無関係な、細胞表面荷電密度の変動(loss
of contact inhibition)
C) 細胞集団としての悪性化とその証明:
i)試験管内における発癌物質(4NQO)を投與すると、構成細胞の一部の細胞が悪性化し、漸次その細胞集団構成が変化し、全体として悪性の性質を示す表面荷電密度及びその性質を示す様になる。自然発癌株においては、特に悪性細胞の構成頻度は特に低い。
ii)悪性化の指標であるhostへのbacktransplantationの成立は、単にそれぞれの細胞が悪性化するか否かと云うだけでなく、それぞれの抗原性の変化、特にhisto-Compatibilityの変化により左右される。従ってba.transplantabilityの有無と細胞表面の変化とはparadoxicalな関係になることもある。
2.染色体の変化と細胞表面荷電
i)In vitroにおける発癌過程において、染色体は直ちにheteroploidyへと変化するとは限らず、その初期にhypodiploidになる時期がある。marker
chromosomeの存在は必ずしも悪性化を意味しない。
ii)染色体のmode数と細胞表面荷電密度は、略々平行的関係にある。染色体の分布幅の変動は、その細胞集団の個々の細胞の表面荷電密度のバラツキと略々比例する。
3.肝癌細胞表面におけるConA receptorの流動性の変化
ConA receptorの膜における流動性は植物凝集素と全く関係のない作用を有するインシュリン、グルカゴン、dibutyl
cAMP、そして異種抗体、抗血清等により著しく作用をうける。
その他膜の損傷或いは変化の指標として細胞荷電密度の変化についても種々検討した。
《乾報告》
私の培養の仕事は、勝田先生に拾っていただいてからやっと軌道にのせて頂いた様なものです。L929細胞にたばこタールを添加して"L細胞の悪性化"と話して、さすがの先生も怒りを忘れて大笑いされて以来、私の培養細胞とのつき合いは、次の三つの時期に区分されると思う。
1.培養細胞の癌化を試みた時代(1972〜1974、今でもやっています)
2.試験管内で癌化した細胞を使って、その性質等を分析しようとした時期(1972〜1974)
3.In vivo-in vitro combination systemを行なった時代(1974〜現在)
以下、それぞれについて、反省の意味を兼ねて要約を書いて行きたいと思う。
1.培養内で癌細胞を作った時代
1968年後半から、それ迄の染色体観察、DNA測定のための培養から脱却して、培養細胞の癌化を手がけ出した。化学物質として、ようやく日の目を見いだしたMNNGと当時専売公社から大量の研究費をもらっていた関係でたばこタールを使用したが、すでにSachsら、勝田先生らの報告があるにもかかはらず、これが非常にむずかしく、高山先生に叱られる日が2年位つづいた。たまりかねて、ハムスター胎児細胞を使っていたのを中断し、勝田先生からL929を頂き、これにタールを投与したら、L細胞の増殖増進、造腫瘍性の強化を観察した。これを報告した時、勝田先生から笑われたのちあれは"癌"だよと云われて再びハムスター細胞に挑戦した。この年に正式に班員にしていただいた。まもなく新生児ハムスター胎児由来の線維芽細胞にたばこタールを処理し細胞のMalignant
transformationに成功した。はからずもこれがタールのin
vitroのtransformationの世界で第一報であった現在でも引用されている。一つ成功するとつづくもので翌年MNNGでのtransformation、この頃共同研究者として津田君がやって来て、急性毒性が強いため発癌性の証明されなかったNaNO2でのtransformationに成功した。その後は生物実験センターにうつり西君がAF-2でのTransformationに成功して現在に到っている。以上が我々の癌作りの歴史であるが、"今さらin
vitroで癌を作っても"と云う声があるが、私はin
vitro transformationは、まず注意深く細胞を培養する練習になり、組織培養の基礎的手法の大部分をマスターしないとこれが出来ないと思うので、又新人が来たら適当な物質をえらんでin
vitro transformationの実験をやってもらおうと思っている。
2.In vitro transformed Cellを使用した実験
MNNGでTransformeした細胞を使用して2つの実験をまとめた。一つはtransformeした細胞のDNAは正常のそれより、m-RNAのtranscription
siteが大きいと云う仕事で、余分に読みとられる部分のRNAがハムスターのどの染色体のどの部分であるかと云うchromosome-RNA
hybrydizationの仕事が宿題として残っている。もう一つは杉村先生との共同実験で、同じくMNNG-transformed
cellで、Metaphase arrestを98%以上同調させて、Poly
ADP Riboseの酵素活性の細胞周期での消長を調べG2で活性の高いことを報告した。
3.In vivo-in vitro combination system
1973年秋、専売公社へ移って検定は多いし、動物と、細胞をかう設備と顕微鏡しかなく、何をやっていいか途方にくれている時、梅田先生から"Medical
News"にこんな記事が出ていたから少しこの仕事を考えてみないかと云うSuggestionを受けたのが始まりで、AF-2を標準サンプルに母体に同薬品を投与、胎児細胞のTransformation、Mutation、染色体異常、小核テストを同時にしかも短期間に観察する系をまずまず成立させた。私自身この実験手法にギ問を持っており、半信半疑の時、一早くPromorteして下さったのが勝田先生で、班員の先生方から一から十まで教えをうけ、この系がやっとこれからと云う時班が終るのは残念である。この系がまだ完成しない時、2月の綜合シンポジュウムで話す機会を与えて下さり、その時、判って下さったのは、班の諸先生方と、愛知がんセンターの田中達也先生、阪大の近藤宗平先生位だったと思う。それが、ようやく認められつつある時・・・。私は系をRefineし、開花させることを勝田班に対する義務と感じている。
:質疑応答:
[難波]ウワバインの濃度1x10-3乗Mというのはずい分濃いですね。
[乾 ]ウワバインの濃度は動物によって適正濃度が何オーダーも違います。
《榊原報告》
§培養ラット肝細胞のγ-GTP活性:
医科研癌細胞学研究部で樹立、維持されているラット肝由来上皮様細胞株16系統についてγ-glutamyltranspeptidase(-GTP)の組織化学的活性をしらべた。これらの細胞株はその形態から肝実質細胞であることが推定され、既に多数の論文でそのように記載されているので改めて問わないことにする。細胞をタンザク上に播き、約3日後(対数増殖期)及び2週間後(増殖静止期)の2度に亙り所定の方法で染色した。染色後直ちに検鏡、写真撮影を行った。注目すべきことは、検索した細胞株の80%強(13/16)が陽性という結果である。最近、肝に於ても癌化の2段階説を裏付けるデータが集りつつあるが、H.C.Pitotoらは癌化の初期にG-6-P
ase陰性、canalicular ATP ase陰性、γ-GTP陽性といったenzyme-altered
fociが多数出現すること、これらはdormant initiated
cellのclonal growthによると推定できることをのべている(Nature,271,1978)。今回検索した株細胞の中には可移植性を証明し得ないものも含まれているが、ともかくそれらの大部分が癌化を方向づけられた細胞であるという漠然とした推定を、この結果は支持するこのではなかろうか。一方、RLC-18の如く、可移植性のある癌細胞でありながら、γ-GTPが陰性のものもあるわけで、培養肝細胞の悪性化をγ-GTP染色のみで同定することは危険であることを示している。
《吉田報告》
ウィスター系ラット各亜系の由来と毛色遺伝子および染色体特性
ウィスター系ラットは世界各国で医学生物学の研究のために数多く使用されている。我が国においてもこの系統は第2次大戦前より飼育されており、現在もその子孫を各地で繁殖し有用な実験動物として使用されている。我が国では古くからのウィスター系の外に、戦後新たにウィスター研究所より高度に兄妹交配されたWistar-king-A系が移入され(北大・牧野1953)、また最近別のルートからウィスター系やWistar/Lewisと呼ばれる系統が入っている。我が国在来のウィスター系から高血圧系として知られるSHR(京大・岡本ら)が生じ、その系統は世界各地に配布されていることは周知のとおりである。ウィスター系ラットの毛色はアルビノで外部形態から他のアルビノラットと識別することは殆んど不可能である。したがってこの系統の遺伝子組成や染色体の特徴をはっきりさせておく必要がある。ここでは我が国で飼育されているウィスター系ラットの由来とその分布、および遺伝学的ならびに細胞遺伝学的特徴について調査したのでその結果を報告する。
ウィスター系ラットの由来:我が国で戦前から飼育されていたウィスター系は東大農学部にてクローズドコロニーとして維持されていたものである。昭和19年(1944)に北大理学部動物学教室へ5頭(♀3:♂2)が分譲され、そのうち1対の交配からWistar/Mk、Wistar/Hokが育成された。昭和26年(1951)に兄妹交配7代でこの系統の一部が国立遺伝研へ移され、ここでWistar/Ms系として現在兄妹交配77代を継続した。東大農学部よりはその後、塩野義製薬(昭和27年)、名大農学部(近藤・昭和28年)、日本獣医畜産大(今道・昭和32年)等へ分譲されている。北大理学部からは京大医学部や北大医学部等へ分譲され、京大医学部に入ったWistar/KyoからSHR系ラットが樹立されている。日本獣医畜産大においてはWistar/Imamichi系が育成され、広く実験動物として使用されている。
前述のWistar-King-A系はウィスター研究所(米国)のKing女史により近親交配がラットにおよぼす影響を研究するために高度に兄妹交配された系統で、同女史の死後同研究所のAptekman氏がそれを引きついだ。我が国へは兄妹交配148代で北大理学部へ入り(昭和28年)、これをWistar-King-A系と名づけた。この系統は同年に国立遺伝研に入り、兄妹交配を継続して現在204代になっている。Wistar-King系統はその後昭和44年に昭和医大内科でラット緑色腫瘍の移植のため新たに入手し、昭和50年よりそれを遺伝研にてWistar-King-S系として兄妹交配を継続した(現在22代)。また故吉田富三博士が別にWistar研究所より入手し、それは松本実験動物飼育所で飼育されている。欧米で主に使用されているWistar/Lewis系が最近日本に移入され、東大医科研、その他2、3の飼育業者によって維持されている。Wistar/Furth系はコロンビア大学のFurth教授が白血病系として育成したもので、広島大医学部(横路)がこの系統を維持している。英国よりヨーロッパのウィスター系ラットを輸入し、実験動物中央研究所で系統維持が行われている。
毛色遺伝子:これについてはすでにいくつかの報告があるが、ここでは遺伝研の系統について調査したのでそれに関係する部分のみを報告する。Wistar/Msは兄妹交配76代の調査で毛色遺伝子はaacchhであった。この系統については私が北大在職中に東大より入手して兄妹交配数代以内で調査した記録があるが、その当時も毛色遺伝子はaacchhで、これは現在も変わりがない(吉田1951)。東大農学部より塩野義製薬(昭和28年)に入った系統の毛色もaacchh。北大より京大へ入ったWistar/KysおよびSHRもaaccBBhhで毛色に関しては遺伝研のそれと一致した。唯Wistar/Mkの最近の調査では毛色遺伝子がAAcchhであり(東海林1976)、最近京大へ入った同系統もAA遺伝子をもっている(山田1977)。北大のMk系統に突然変異が起ったのか、それとも他の系統の混入があったのかは今のところ明らかでない。Wistar-King-Aは兄妹交配201代(遺伝研)でAAcchh、Wistar-King-Sはaacchhであった。
染色体調査:染色体の形の違いが系統の識別のマーカーとなることは私が第12回実験動物談話会(昭和40年)で報告した。すなわち第3染色体が系統によってテロセントリック(T)またはサブテロセントリック(S)である(吉田1964)。Wistar/Msの第3染色体はT/T対で、この性質は昭和40年および現在でも変りはない。Wistar/KyoおよびSHRもT/Tである。Wistar-King-A系およびWistar/Mkは共にS/Sで類似の形をしている。最近異質染色質のみをC-バンドとして染め分ける方法が開発され、C-バンドの特徴から系統をマークすることができる。この方法によるとウィスター系の中でも亜系によりNo.4染色体にC-バンドの有無がある。Wistar/Ms、Wistar/KyoおよびSHR系のNo.4染色体にはC−バンドはみられないが、Wistar-King-AおよびWistar-Mkにはそれがある。なおNo.7染色体も系統により異なる。遺伝研のWistar-King-AのNo.19染色体の長腕部の先端に著明なC-バンドがあってこの系統の特徴となっている。
これらの系統を使用する研究者は上記のようなラットの系統の特性を充分把握して研究を進めることが重要であると思うのでここに報告した。
:質疑応答:
[難波]毛色遺伝子と染色体の相関はどうなっていますか。
[吉田]まだ判っていません。三番目の染色体にのっているという説もありますし、ないというデータもあるようです。
《加藤報告》
当研究班により昨年度、オスのインドホエジカからのFibroblastの培養細胞(耳の皮膚由来)を得ることができた(既報)。そのうちの一つのクローンは、population
doubling timeが20時間、diploidyは98〜99%であるので、このクローンを用いて、個々の染色体のDNA合成の時間、そのパターンを解析した。細胞をH3チミジンでパルスラベルしその後1時間ごとにコルセミド処理して染色体標本を作製せいた。1本1本の染色体での標識頻度から、染色体全体及び染色体の各セグメントでのTsを求めた。また銀粒子類を算定することにより、染色体の相対的な合成速度を求めた。
主要な結果は、
1)Tsについて、核全体は8時間。No.1 Autosomeは8時間。No.2
Autosomeは7.5時間。No.3 Autosomeは7.5時間。X染色体は5.5時間。Y染色体は4.5時間であった。
2)性染色体はおくれてDNA-合成を開始し、Autosomesより早く、おわる。故に一般の細胞と異りlate-replicatingではない。(cf.,Comings,D.E.,'71)
3)染色体の各部は特有の複製パターンを持つ。例えばAutosomeのcentrometric
regionはTs=5.2時間である。等。
4)第3染色体のペアは片方にX染色体(母方由来)、片方はXを缺く(父方由来)ので、相同染色体同志、確実に見分けられる。今、この第3染色体上のDNA-合成速度を相同染色体同志で比べると(30例)、等しい速度でDNA-合成が行われている。
同様な試みをDon6(チャイニーズ・ハムスター由来)の培養細胞でも行っている。
《久米川報告》
ホルモンによるマウス耳下腺の分化
マウスの耳下腺は生後急激に分化し、L-amylase活性が上昇し、その分化の機構はまだ明らかでない。in
vivoで生後6日目のマウスにhydrocortisone(100μg/g
body int.)、thyroxine(10μg/g body int.)、insulin(2μg/g
body int.)連日投与すると、amylase活性の誘導が起った(図を呈示)。この結果から生後20日頃上昇する血清中のglucocorticoidsによって離乳期頃、耳下腺の分化がもたらされるのだと思う。
これらホルモンの作用をさらに明確にするため、耳下腺を完全合成培地で培養し、ホルモンの影響を調べた。
ホルモンを添加5日間培養しamylase活性を調べた(表を呈示)。DM-153にprednisolone(Pr)だけ添加してもamylase活性の顕著な誘導はないが、Prにinsuline(In)thyroxine(Thy)を加えて培養するとamylase活性は著しく上昇した。Prに両ホルモンを添加するとさらに上昇した。
次いて、これらホルモンの作用を明らかにするため、Th又はInの濃度を一定にし、Prの濃度を変え、添加した(図を呈示)。amylase活性は10-7乗mg/ml以上のPrの濃度に依存性を示した。逆にPrを一定にし、In、Thの濃度を変えた場合amylase活性の濃度依存性はみられなかった。これらの結果から、glucocorticoidsがマウス耳下腺の分化に関与し、InおよびThはその作用を補助しているのではないかと考えられる。
『後記』
勝田班月報をワープロで転写始めてから1年あまり、やっと一くぎりがつきました。
"試験管内化学発癌"の研究班はほぼ18年つづき、その間参加した班員と班友は39人、月報は休むことなく発行され、214号をもって終わっています。
今回、このホームページに投稿したのは、その214冊のうち班会議号のみ87冊です。勝田班の班会議は年5回招集され、班員は発表内容の原稿を提出する決まりになっていました。その各自筆の原稿に発表後の討論を付記して班会議号を編集発行しました。
今回、改めて読んでみますと、発表されたものと提出原稿とは必ずしも一致しておらず、従って原稿にはない実験についての討論がありますが、特に注釈は付けませんでした。又、図表は省略しましたが、本文で一応の解釈ができるように挿入しておきました。
ワープロ転換に際しての誤字もあるかと思いますが、基本的には原文に忠実に転換したつもりです。研究者それぞれに、好みの単語、おくり仮名、句読点の使い方などが、おありのようで、現代では?と思われることもあるかも知れません。
組織培養技術が未熟であった頃、若い助手と大学院生だけで申請し発足した班でしたから、殊に初期の班会議に提出された問題点は組織培養の基本的な技術に関するものが多く、今現在、組織培養技術を使いたい方々にも参考になるかと存じます。
なお、学会出版センター(1983年)の『癌細胞を撮る・勝田甫と組織培養』に「勝田班と月報」という項がございます。興味のおありの方は参考になさって下さい。2000年1月
【勝田班月報・7803】
《勝田報告》
さようなら号:
長い間続いた研究月報も、今号でいよいよ廃刊です。忙しいなかを皆さんよく書いて下さいましたね。大変な努力でしたが、お互の研究のうえに裨益するところは大きかったと思います。この号で勝田班は事実上解散です。これでも癌研究班の内では永く続いた方です。 みなさん、よくやって下さいましたね。仕事というものは、やはり適当なところで一区切をつけるべきものでしょう。また若い研究者たちが力を合わせてその上のStepに進んでもらいたいものです。
思い返してみますと、1959年に初めて班を申請したところ、その内の3人だけが放射線の班に組込まれた。その次の年にまた申請したところ、ウィルスの釜洞さんと半分宛の合成班が認可されました。1961年からは遂に組織培養研究者だけの、しかも全員助手級のメンバーから成っている綜合研究班として勝田班が発足しました。
これらの研究は"Carcinogenesis in tissue
culture"のシリーズとして今日までに28篇が発表されました。その抄録集は主な班員にはお送りしました。癌をなおすところまで行きつけなかったいま、まるで甲子園の土を拾って帰るような気持ですが、とにかくうちの班はよくやりました。また次の戦を考えましょう。
《高木報告》
これが当班における最後の月報になると思うと感無量です。
勝田先生との出会いは昭和33年癌学会であったと思いますが、以後たえざる御指導を頂き、昭和35年からは班員の末席をけがさせて頂きました。今日まで何とか歩んで来られたのも勝田先生をはじめとして班員の皆様の御力添えがあったればこそと厚く御礼申し上げます。臨床片手間の研究を続けて参りましたが、皆様から研究に対する取組み方を学び、またそのきびしさを知ることが出来ました。今後共よろしく御願いいたします。
2月27日に医療短大、28日、3月1日には第一内科の研究室がそれぞれ新棟へ移転しました。内科の建物は昭和47年に病棟が移転しましたが、第一内科の病棟のあとに医療短大が入り、研究室はそのまま今日まで残っていましたので、結局私はこれまで建物を移ることなく24年間過して来たことになります。すすけてはいましたが"住めば都"の半地下の研究室に別れをつげ、新しい規格化された1スパンずつの部屋に移りました。第一内科全体がこれまでのスペースの40%の場所に入ったのですからその狭さは言うに及ばず、無菌室は1.5スパンありますがクリーンベンチを6台入れて組織培養、血液、化学、遺伝、4研究室の共用となります。共用というのは便利がよいようで中々運営がむつかしく、目下使用のルールを作っているところです。近代的な設備とはいえ、ここも"現代"の象徴であり"旧きよき時代"は去った感がつよくいたします。しかし建物は如何に規格化されようと、そこで仕事をするスタッフまで規格化されるようなことがあっては困る訳で、規格をはずれたスケールの大きい人材の養成が必要と思われます。
4月1日から大分医大の内科学講座を担当することになります。とは申しましても未だ教養部の建物しかない訳で、臨床研究棟の完成は来年2月の予定と聞いております。その間研究は第一内科で行わざるをえませんので、大分と博多を行ったり来たりの生活になりますが、兎に角細胞とのつき合いは絶対にたやさないつもりです。
《難波報告》
とうとう最後の月報になってしまいました。昭和44年に勝田班に加えていただき、今年で丁度10年目、その間、ほんとうにいろいろ勉強させていただき感慨無量です。ほんとうに有難うございました。
この10年間のことを振り返ってみると、私の仕事は1969〜1971の前期と1974〜1978の後期とに分れています。前期ではネズミの肝細胞の培養とその癌化が中心で、4NQO、DABなどで癌化に成功しました。後期ではヒトの細胞の化学発癌剤による仕事を始め、4NQO、Co60-γ-Raysなどで、ヒトの細胞の癌化に成功しました。
しかし、いま、これらの仕事を回顧してみると、恥しい限りです。前半の仕事も後半の仕事もまだ片付いてないことが一杯です。ネズミの肝の仕事では、細胞の培養内癌化の有効な指標すら掴めず、勿論、肝細胞を迅速に定量的に癌化させることも出来ずじまいです。ヒト細胞の発癌の問題は、ネズミ肝細胞でと同じ困難性があると共に、さらに、ヒト細胞の培養条件の検討、Agingの問題、など解決しなければならぬ、むつかしい問題が山積しています。
以上の様な種々の問題を、この10年間勝田班で教わったことを基礎にして、これから掘り下げてみようと考えています。
《梅田報告》
先月の月報に感想を書いて了ったので、本月報には私の今後の研究計画を記します。
(1)良しにつけ悪しきにつけ繊維芽細胞は悪性化すると著明な形態変化を起すことが判明してきている。この現象を指標にして今迄多くの研究がなされてきたが、発癌機構解明のためには今一歩足りない。私としては、この繊維芽細胞の系も捨て難い魅力がある。特に世にもてはやされているPientaの系を中心に研究を進める班を持たされたので、この機会も活用して、先ず実験系の洗練化、その洗練された系を使っての発癌のinitiation、promotionの関係を解明していきたいと考えている。とは言っても、実験系の洗練化のために、すなわち、技術面での改良に関して問題は山積みである。さしあたっては悪性転換実験に都合の良い細胞捜し、アッセイ系の改善が目標である。
(2)月報7706で報告したヒトの表皮の培養がうまくいっている。遅ればせながらこの上皮細胞の同定、発癌実験を続けていきたい。ヒトの繊維芽細胞と同じように発癌剤の作用に抗するのか、今迄の上皮細胞での発癌実験の時のように悪性化の同定に苦労があるのか、これからの問題ではある。
(3)突然変異とか、染色体異常をみる所謂遺伝毒性に関する実験は、今迄やや無節操に数多くの化合物についてただテストしてきた嫌いがある。今後は突然変異のメカニズムに焦点を合せ、哺乳類細胞での実験結果が、バクテリアで得られている常識と異る点、合う点等も浮き堀りにしながら実験を進めたい。当面はexpression
timeの問題で、哺乳類動物で2gen以上必要らしい原因も追求したい。
《山田報告》
お陰様で何んとか、今日まで当班の末席に連り仕事をさせて戴きましたことを感謝いたします。癌の問題を根本的に解決しようなどと大それた考えは持って居ませんが、せめてもう少し、癌の生物学的態度の解明、そしてその認識に、小生のやって居ります細胞電気泳動法がお役に立てばと思いましたが、ついに至らずにしまいました。
私事にわたって恐縮ですが、思い出してみますと、小生が大学を卒業して4年間外科の修業を積み、学位論文が終って後に、吉田富三先生の下で癌の研究を始めさせて戴いたのは昭和34年でした。当時はまだまだ再び外科に戻ろうと思って居たのですが、運よくエリノア・ルーズヴェルト基金により英国のチェスターベティ癌研究所に留学することが出来たのが昭和39年の秋でした。ロンドンでは経済的にも研究の面でも、あまりにも恵まれすぎて、吉田富三先生がロンドンに来られた時「あまりにも恵まれすぎて怖い位だ」と申しあげたものでした。そしたら先生は「そんなことはない。いままで君はたくさんの努力をしたから、そのボーナスの様なものだ。けれど日本に帰ったら癌の研究をやめてはいけないぞ」と云われました。その時はっと目が覚める思いでした。「そうだ。もう外科なぞと云うまいぞ」と心にきめたのはこの時でした。その後国立がんセンターでまたまた恵まれた研究生活を送り、そしてまもなく当班に入れて戴き、山の様な御指導を戴くことになりました。もう癌の研究をやめるどころか、今後残された小生の仕事は癌の仕事しかなくなりました。けれ獨協医大に赴任してからは必ずしも思う様に仕事が出来ずにしまったことを残念に思って居ます。しかし本学も今年は卒業生が出ます際に、スタッフも充実して来ると思います。また再び癌研究に専心出来る日も、そう遠くはないと思っています。その前に当班が終ってしかうことが本当に残念です。
《乾報告》
昭和52年度も3月を迎えました。同時に、勝田先生の御退官を期に18年間続いた勝田班も終わると云うことになりまして、培養の仲間が一年に何回も一堂に会して、討論する場がなくなることは、非常にさびしい思いが致します。
私は班の後半の1/3余を班に入れて頂きましたが、先生にも色々お教え頂き、今日やっと細胞が培養出来る様になりました。
先月の月報と少々ダブリますが、私はこの班で、前半は主として繊維芽細胞(ゴールデンハムスター)ノMalignant
transformationを色々な化学物質を使用して行なって来ました。おかげ様で、タバコタール、亜硝酸投与のTransformationの仕事は、世界で一番速いReportでした。
後半は主として、経胎盤法を使い、Transformation、Mutationの仕事をやってまいりましたが、まだまだ未完成でやらなくてはならないことが沢山あります。この系だけは近いうちに完成させたいと思っております。
勝田班に長い間、御世話になりまして、私がなまけ者故に収得しえなかったことに"表皮系細胞"の培養があります。これは非常に残念ですが、これで培養の仕事が全部終るわけではありませんので、これから勉強し直します。
《榊原報告》
愈々最後の月報を書く段となり、感無量です。
病理形態学という、全く定性的な学問の巣窟から出てきた私にとって、毎月の月報書きは苦痛でしたが、それをしたことによって論文を書く際ぐっと能率が上ったように思います。誠に有難い修業をさせて頂いたと感謝して居ります。これからも月単位で実験データの整理をする習慣を続けてゆきたいと思います。
勝田班に入れていただいた当初は、班員の諸先生方の歩んでこられた研究の道筋も判らず、自分の進むべき方向もさだかではありませんでしたが、二年経った今、それらのことがかなり明瞭になってきたように思います。これからは右顧左眄することなく、自分の仕事に打ち込みたいと考えます。
個人的なことになりますが、私はまだ実績のなにもない医学部卒業したての頃より勝田先生に可愛がっていただき、その御恩を深く感じています。与えられた知に報いるには知を以てする以外はないでありましょう。良い仕事をして、それを勝田先生に捧げたいと思います。
《関口報告》
最後にあたり、勝田班最後の2年間、班に加えていただき、私自身は何も貢献できませんでしたが、班員の皆様からは色々と教えていただきましたことを感謝しています。
文集にも書きましたが、臨床家の私が組織培養に入るようになったのは、勝田先生の一言がきっかけでした。勝田研究室で伺いながら、見よう見まねでやって来て、とうとう人癌培養に深入りすることになりました。昨年から厚生省の班の御世話をする破目になって、勝田先生の班長としての御苦労がやっと分かりました。長い間、本当にありがとうございました。
2001年5月2日終了