【勝田班月報・6501】
《勝田報告》
 A)なぎさ作戦
 RLH-4が誕生しました。前に班会議で映画をお目にかけた?印の2番目からです。経過はCN#14の実験群で、RLC-2由来です。1968-8-19にNagisa cultureをはじめ、9-4日にRLH-1のhomogenateを加えています。9-8にcoverslipだけとり出し、新しいtubeに上下逆にして入れました。初めより約1.5月后、どうもmutantができたらしいのでTD-15に継代しましたが、目指すのが仲々ふえてこないので、そのままrenewalをつづけていたところ、2.5月后になって新生coloniesを見付けました。小型円形の細胞で大小不同は余り目立ちません。固いaggregate様のcoloniesを作るのが特徴です。以后は着実に増えていますので遠からず復元接種も試みられるでしょう。
 “なぎさ"の細胞にH3-TdRでラベルしたRLH-1のcell homogenateを喰わせる実験はその后もつづけています。狙いは染色体や静止核の一部に集中してgrainの見られるような細胞を見付けることですが、今までのところでは、homogenate添加后3日、7日(3日后にrenewal)后の標本では、未だそのような細胞は見付かりません。今后はもっと細かく日を追ってしらべてみるつもりです。これがつかまえられればNagisa theorieの一つの裏書になりますから。 B)復元接種試験
 JARが仲々仔を生まないので、遂に思切って雑系ラッテを買ってnew bornの生后24時間のに2匹宛、RLH-1(500万宛)、RLH-2(700万宛)、RLH-3(300万宛)と脳内接種しました。接種日は64-12-12、その后、乳児はすくすくと成長し、がっかりしていました。所が年が明けてから、RLH-1接種の2匹のうち1匹が弱りはじめ、65-1-5に遂に死亡しました。期待に胸をふくらませ乍ら、ふくれた脳を開いてみましたら、中から水がどっとあふれ出し、診断は脳水腫、組織学的診断では腫瘍細胞の増殖は見当たらずがっかりしています。

《黒木報告》
 吉田肉腫の栄養要求(2)アミノ酸の検討
 吉田肉腫はEhrlichと並んで、もっともpopularな腹水腫瘍の一つであり、各方面の研究に使はれています。従って吉田肉腫が完全合成培地で培養出来れば、その応用面は更に広くなるものと思はれます。この仕事は最終目的としては、完全合成培地を目ざし、少しづつ、ひまをみては続けている実験です。
 月報6308に、Eagle MEM+1.0mM Pyruvate+20%B.S.が、もっともよいGrowth(primary cultureで)を示した。その后α-keto acid、aminoacidについて検討を加えSerineが有効との結果を得ました。
 なお、基本となっている考え方はpopulation and serum dependent nutrientsです。
 Basal medium:EagleMEM・1.0mMpyr.・10%CS(lot#4514)(表を呈示)表でみるようにSerineが有効という結果が出ました。

《土井田報告》
 RLH-3の染色体数
 (図を呈示)RLH-3細胞の染色体数の分布を調べた。
 最頻数の染色体数は63であった。染色体数のばらつきが、左に大きくかたよっているが、一部technicalなlossによるものが含まれているからかも知れない。しかし高倍数性の細胞が125前後に染色体数を有することにより、RLH-3の細胞集団は63に最頻数を有するものと考えてもよいと思う。
 Fragmentを有する細胞が3細胞(62、63、107)でみられた。これらの細胞はfragmentを除いた染色体数でもって図中に入れてある。
 Dicentric chromosomeも4細胞で5個認めた。
 Fragment & decentric chromosomeの出現頻度は、普通にみられる細胞集団(白血球培養や植物の根端細胞など)での頻度に比してかなり高いが、このことは、このRLH-3がなお、可成り不安定な状態にあることを示唆するものかも知れない。
 猶この細胞の標本は勝田先生より頂いたもので、明らかに染色体数がtechnicalに減っていると思はれる細胞は除き、全部観察した。観察細胞数が足りない点は今後、細胞を頂くなりして更に観察する予定である。
 RLH-3の核型分析
 RLH-3の核型分析は目下進行中である。

《高木報告》
 1965年の新年を迎え、皆様も心機一転大いにこの年へのplanを練っておられることと思います。私も長くて短かった2年間の滞米生活をおえて研究室の方も何とか準備されて来た処です。班の仕事とは全くはなれた2年間でしたけれども、この間に得た経験はこれから先の癌研究に充分役立つものと信じています。
 先の班会議の時にも申しました様に、あちらでは主に“正常細胞"のfunctionを出来る丈長くin vitroで維持し、またこのfateを追求して行く仕事をして来ました。その一部(?)としてpancreasをいじくって来た訳ですが、この問題はTissue Culturistとして非常に大切なことで、裏を返せばまたin vitroの発癌の問題にも関聯して来る事です。云い換えるならば発癌の仕事と裏表の関係にあるのではないかと思います。つまりin vitroで癌細胞とは何かと云う問題ととりくむのに、では一体正常細胞とはどんなものかと云う事を考えるのにもあたると思います。
 さて静かな正月を利用して過去一年皆様が歩んで来られた道を月報を通してふりかえらせて頂き、また癌に関する文献もよんでみたりしています。我々の班が出来てから5年目を迎えますが班員各位の御努力によって数々の興味あるdataが出つつあると思います。しかしながら、かのEarleが長年月を打込んでなおかつその念願を果し得なかったin vitroのchemical Carcinogenesisの問題は、とても一筋、二筋縄で片付く様な手合とは思われません。私共もこれまでstilbesterolとhamster kidney系を使って仕事をして来ましたが、残念ながらまず成果なしと云った処だと思います。今后は従来の方法によるこの系の仕事は打切る積りです。そして発癌実験の方法、癌細胞(発癌)のcriteria、それに我々がどれ丈の間in vitroで“正常細胞"を培養出来るかと云う事を再検討の上(この問題は5年前スタートの時皆で考えたと思いますが)取組んでみたいものだと思っています。特にin vitroにおける癌細胞のcriteriaですが、私はTCsystemでのmorphologyはあくまでも“参考"であってこれで物を云う事は危険であると考えます。一応現段階ではautoまたはinbred animalにもどしてtumorを作るか否かで判定することになるでせうが、それもtumorを作る細胞=癌細胞と考えた場合であって、若しそうでない様な事もおこるとすると全く面倒なことになります。兎も角今年班員の一人として再出発するにあたり、どの様なsystemで如何に仕事を進めて行くか検討している処です。

《高井報告》
 I)btk mouse embryo cellsの継代培養
 前回の月報に記載しましたように、control群、実験群共に増殖がかなり遅くなって来ました。特に、実験群(Actinomycin S 0.01μg/mlを含む培地)は、増殖が悪く、11月16日の継代后、1本は細胞が消滅してしまい、残り1本は12月1日以后、Actinomycinを含まない培地にかえて培養していますが、殆んどふえていない様です。control群の方は、遅いながら少しづつはふえています。細胞の形態は、control群では繊維状の突起が非常に多い細胞が全く無秩序に重なり合っており、初代培養の頃の様な紡錘形に近い細胞が方向性をもって配列している様な状態とは全然様相を異にして来ました。これに対し、Actinomycin群の方は長い突起は少い様で、膜状に広がった細胞質を、もった細胞が多い様です。
 その後の復元はまだ必要な細胞数が得られないので行っておりません。
  )bik(adult)皮下fibroblastの培養
 1)前報の母親mouseからの培養が、漸次増殖して来ました。形態は上記embryo cellsのcontrol群とよく似ています。目下第1回の継代をしたところですが、継代がうまく行けば、その一部にAcatinomycinを作用させるつもりです。
 2)プロナーゼによるadult btk mouse皮下組織の分散。12月にはbik mouseのnew bornが得られず、止むなくadult(♀経産)の皮下組織を0.05%プロナーゼ、室温、30分でやってみました。充分な細胞は得られませんでしたが、一応培養中です。(顕微鏡写真を呈示)



《佐藤報告》
 皆さんお目出たうございます。本年も頑張ってなんとか仕事の完成を祝いたいものです。新年の第1報はDAB飼育呑竜ラッテ肝の組織培養についてラッテ肝が発癌に近づき少しばかり面白い成績が出ましたので報告します。
 前号6412号に記載した◇C74(DAB投与日数192日)は、開腹に際して腫瘍らしい結節(microscopic=adenoma)を発見したので、結節部と非結節部に分けて原発動物肝の細切濾過細胞をnew bornのラッテ脳内に接種した。現在までに48日経過したがTumor(-):更に結節部の培養試験管から培養日数12日目の細胞をnew born脳内に接種。現在36日経過Tumor(-):
(写真を呈示)。写真の様に肝細胞に大小不同があり、重なり合って増殖している。核分裂末期のものも認められる。最初培養管中に多数の此等細胞を認めたとき癌細胞と考えたが、上記の様に移植性はなかった。腺腫と考えている。写真B1は非粘膜部に現われる肝細胞であり、Aに比して大きく核仁が著明である。大小不同もかなり著明である。多くの標本から考えて見るとこの細胞はDAB投与による再生結節の肝細胞と考えられる。
写真B2は同様非結節部の肝及び箒星細胞である。混合することはない。肝細胞が段階的に悪性化するとすれば、B2→B1→Aとなると推定できる。Aは此の写真のみでは明かでないが、増殖する場合索状(模式図を呈示)になって行くことが特徴であり、このものが更に悪性化すれば散在性或は瀰漫性の増殖をおこすと考えたい。
写真Cは◇C68(DAB投与149日)に認められたものであるが(勿論肉眼的、顕微鏡的に未だ癌発生はないラッテ)箒星状細胞に囲まれた中央部にB2に類似する肝細胞が認められる。細胞にかなり大小不同があり、時には異型のものも見られる。
写真DはC65(DAB投与121日)より作られた株細胞である。以上の経過から形態学的な移行がLD+20%牛血清培地でうまくとりだされたと考えれば、D→C→B1→B2→Aとなる。A細胞群の行きつくところ、即ち移植性のある肝癌細胞AHの発見のため(勝田班長からの電話によれば、佐々木研での原発肝癌からの移植率は50%)続けて実験をおこなった。
 ◇C76(DAB投与192日)以后普通食9日。64:11-28
前例同様結節部と非結節部に分けてnew bornラッテ脳内に1匹当り大凡30万細胞を接種した。現在までに38日経過したがTumor(-)。
組織培養に現われる肝細胞は74実験と略同様である。
 ◇C78(DAB投与192日)以后普通食14日。64:12-3
この例は結節部が小さかったので復元は行なっていない。細胞像は同じである。
 ◇C80(DAB投与192日)以后普通食21日。64:12-10
この例には結節は発見されなかった。第27日検索において2/10陽性である。但し箒星状細胞はかなり多く認められる。陽性例の1本にはB1〜B2の像がみ見られる。他の一本は従来DAB飼食呑竜ラッテ肝から株細胞が出きた始めの細胞である。後者の発生は従来記載した様に尚発生時期がのこっているので陽性率は未だ上昇する可能性がある。
 詳細な討論については班会議で行いたいが、C細胞が出来るまでにかなり長い年月が必要である。ある時期が来ると殆どB1〜B2細胞になる。この細胞の存在下にA細胞が現われると思われる。
 又LD+20%牛血清培地で肝癌細胞の移植性がどの様になるかを、AH-130より勝田・高岡によってつくられたJTC-2細胞でラッテnew born脳内接種実験を行っている。第2回第3回実験は未だ検索中であるが、第1の実験では10,000、1,000、100の細胞(JTC-2)脳内接種で10,000(16日、18日) 1,000(18日、19日) 100(24日、25日)で夫々死期をむかえた。屠殺后の鏡検で明かにTumorの増殖を認めた。したがってAH-130の場合、培養で其れほど移植性はおちないといえる。

《奥村報告》
 謹しみて新春の御慶びを申し上げます。
 皆様、昨年中はいろいろ御世話になりました。どうも有難度ございました。本年もよろしく御指導、御鞭撻の程をお願い申し上げます。毎年、正月には“ことしこそは"と思うのですが、なかなか予定通りの成果をあげることが出来ずに年を越してしまいます。しかし1964年までかかって一応最初の計画通りの研究室を作ることができました。1965年からは、これまでの基礎の上にどしどし成果を築いてみたいと思い、4日からスタートを切りました。どうぞ、よろしく御導き下さい!! 本報では新年の御挨拶旁々現況の概略を報告いたします。 A.HmLu細胞の無蛋白培地へのAdaptation
 過去9ケ月にわたりHmLu細胞をserum-free培地(NO.199)にadaptさせるべく努力してまいりましたが、今月4日になって、ようやく1%(calf serum)で増殖させるところまで到達いたしました。今后は、Glucose、Pyruvate、Glutamineなど主な成分を検討して、3月頃までには完全にprotein-freeにもってゆきたいと考えています。
 B.JTC-4細胞のchromosomal DNAの合成解析
 Bender & Prescottらの行った方法と似た方法を用い、JTC-4-Y(染色体数分布:30〜35)の各染色体のDNA合成をH3-TdRのautoradiographで分析をはじめています。これは昨年10月頃から行い、現在ではかなりfineなgrainを染色体上につくることが出来るようになりました。 C.ウサギ子宮内膜上皮細胞に関する研究
 昨年12月からH3でラベルしたProgesterone、Estradiolを用い内膜細胞への取り込み実験を計画、実施中です。当面しらべたいことは、1)ホルモンが細胞内に入るかどうか、2)取り込まれる場合にはcytoplasmか、又は核内まで入るがどうか、そしてその取り込まれ方の時間的推移、3)現在cotrolの細胞としてJTC-4細胞を用いているが、はたしてホルモンに対する細胞の感受性とホルモンの取り込まれ方に何らかの関係が存在するかどうか。
 以上の諸点を検討したのち、cellの増殖(ホルモンによっての)との関係など詳細に分析していくべく計画中です。

【勝田班月報・6502】
《勝田報告》
 A)発癌実験:
 (1)なぎさ培養による第4番目のMutant(RLH-4)
 1964-8-9:RLC-2より、なぎさ培養開始。9-4:RLH-1のCell homogenate添加。顕微鏡映画の撮影を開始。9-7:Mutant発生を示唆するような所見。9-8:カバーグラスを取除く。10-5:継代(平型回転管よりTD-15へ)。11-2:継代(TD-15よりTD-15へ)。12-25:新コロニー発見。映画撮影開始。その后順調に増殖をつづけているが、このMutantが果して何時ごろPopulationの中に生まれたものか、簡単には推測できない。
 RLH-4の染色体数:(図を呈示)13ケしかかぞえてありませんから、決定的なことは云えませんが、Hypertriploidのようです。RLH-3は63本がピークで頂度3nでした。
 (2)なぎさ培養細胞のフォスファターゼ染色
 Alkaline-phosphataseとacid phosphataseの2種について次の各種標本について染色を行ってみた。対照細胞のL・P3はよく染まったが、なぎさ細胞は(シート部も)何れも活性がよく認められなかった。これはさらに追試確認すると共に染色法自体も検討する必要を考えている。RLC-5:1964-12-3→1965-1-30(なぎさ培養58日)。1965-1-15→1-30(なぎさ培養15日)。1965-1-22→1-30(なぎさ培養8日)。RLC-6:1965-1-22→1-30(なぎさ培養8日)。
 (3)なぎさ培養へのlabelled cell homeogenateの添加
 RLC-5:1964-12-24:なぎさ培養開始。1965-1-12:H3-thymidine-labelled homogenate添加。添加1日、2日、3日、4日后に標本を固定してautoradiographyでしらべた。
 mitosisの細胞の染色体のどこか一部にgrainsが集中して認められないかどうかしらべたが、染色体にgrainのあるものは認められなかった。
或はもっと長期おいてからautoradiographyをおこなった方がよいのかも知れない。
 (4)Mutantsの復元接種試験
 (a)1964-12-12:雑系ラッテ生后24hrs以内のものに脳内接種。RLH-1、RLH-2、RLH-3(300万〜700万コ宛)・2匹宛。1965-1-5:RLH-1接種ラッテの1匹が死にかけたので剖検したところ、脳水腫と判明。腫瘍細胞の増殖した兆候なし。1-21:残りのラッテ全部を殺して剖検。RLH-3接種の内1匹が発育不良で脳水腫。他は全部健全。異常なし。
 (b)1965-1-22:生后1ケ月のハムスターのポーチへ次の如く接種。RLH-1、RLH-2、夫々に100万個/ハムスター。ハムスターは何れもCortisone0.1ml(2.5mg含有)を週2回接種。ポーチ内の腫瘤が大きくなったら、これをラッテへ移植してみる予定。
 B)その他の実験:
 (1)ラッテ胸腺細胞
 正常ラッテ胸腺より樹立した4種の株(RTM-1、-2、-3、-4)について、その細胞質内の特異顆粒の性状をしらべるため、DNase、RNaseをかけて、その后アクリジオンレンジで蛍光染色をおこなったが、特異顆粒がきわめて少かったため、この結果については信頼できない。(光らなかった。)
 なおこの特異顆粒中にγ-globulinが含まれているか否かを電気泳動法で証明するため、少し宛継代のたびに細胞をためて凍結貯蔵中である。
 (2)ウマ末梢血白血球の培養
 Cell countingをおこないながら、白血球、特に単球細胞の延命に好適な培地と培養法の検索につとめている。

《土井田報告》
 RLH-3の核型分析
 RLH-3の染色体数の分布は先に報告した通り、63本のところにpeakを有した。今回は核型分析の経過を報告する。(図を呈示)。2つのn=62の細胞では、telocentric chromosome(TCC)が共に42本で残り20本はmetacentric又はsubtelocentric chromosome(MCC or STC)である。これらの染色体の大きさは漸進的に変化していて、特長となるものはないが、最小の2本のMCCは他のものとは稍々目立つ程度に小さい。染色体数53本のものでは、同一細胞内に2ケのdicentric chromosome(DCC)を含む例がある。TCC以外の染色体数は22である。この例でも稍々小型の2本がみられる。
 64の例でTCC以外の染色体は19本で、1本の著るしい大型のSTCがある。
 この系統の細胞ではtelocentricでない染色体の総数は18〜22の間にある。
 RLH-1との比較
 著しい特長はTCCがRLH-1では15本前後で総体的に少ないが、RLH-3では逆にTCCが多くそれ以外の染色体数が20本前後と少なかった。
 同じ起源の細胞で、同様の処理を受けたと思はれるのに、核型構成の上に大きな変化が起り、非常に異なったものが生じたことは現象的に興味あることである。

《高井報告》
  )btk mouse embryo cells(第5代目)のgrowth curve
 10月2日より培養をつづけているControl群に、Actinomycinを作用させて見ようと考えていますので、まづそれに先立って、この細胞の増殖率を調べてみました。最初startする時、生の状態では細胞が見えにくく、又ある程度の細胞塊があり、極めて細胞数の算定が困難であったため、inoculum sizeが少なすぎました。従って、細胞数のバラツキもかなり大で、良い実験ではありませんが、lag phaseが相当長くて6日目になって漸く増殖の傾向が見えて来ました。このあと更に日を追って追求中ですが、何れにしても増殖は緩慢です。
  )mouse皮下そしきの培養。その後もくり返し、btk mouse(adult及びnew born)の皮下組織の培養を試みていますが、まだうまく行きません。又たとえうまく行ったとしても皮下そしきのみからでは極く少数の細胞しか得られないのではないかと思いますので、この方法は一応中止しようかと考えております。
 細胞に発癌剤を作用させて、腫瘍化させるのが一番大事な目的であるのに、その発癌剤を作用させるべき材料を得る段階に余りに大きな労力を費すことは、賢明とはいえないと思います。whole embryoでは得られる細胞が、色々の組織に由来することが不利だというので、皮下そしきのみを材料にしようと考えたわけですが、たとえmixed populationであっても、培養し易い材料をえらぶ方が実験の能率が上ると思います。又、発癌のmechanismがおそらくはDNA合成の何らかの過程と密接に関連していると考えられますので、DNA合成の盛んな、つまり増殖の速い細胞を材料とする方が有利と考えられます。この意味で上記I)の如き細胞は余り適当ではないと思いますので、株細胞も扱ってみようと考えています。  )btk mouse embryo cellsおActinomycinを作用させたものを、現在Actinomycin(-)の培地に戻して観察していますが、最近生残った細胞が少し増殖して来ましたので、今後更に追求して行く予定です。

《黒木報告》
 吉田肉腫の栄養要求(3)
 前報でセリンが有効との結果を得ましたが、その至適濃度の決定を行ったのがこの報告です(Exp.#248-2)。(表を呈示)すなはち、optimum conc.は0.2mMです。なお、pyruvateは本実験では2.0mMを用いていますが、その后のExp.で(Exp.#248-1)で0.5、1.0、2.0mMがほぼ同様の結果を得ました。
 血清濃度との関係は(表を呈示)表の通りです。SERINEが入っても5%ではNo growthです。5%WholeでGrowthさせるのを次の目的とします。なお、10%C.S.、1.0mM Pyr.、0.2mM SER.の条件におけるGrowthは6回測定しましたがバラツキが多く、23.0±5.9hrs.です。

《高木報告》
 in vivoの発癌実験を考えてみる時、私はOrrの仕事に興味を覚えます。彼はepidermal carcinomaを作る実験で、carcinogenをapplyした場所に隣接する部分のstromaが、この発癌に大いなる役割を果すらしい事を述べています。つまり彼はM.C.をマウスの右肩にapplyしてそこからepidermal graftをとって左肩に移植した場合にはtumorを生じないが、もとのgraftをきり出した処にはtumorを生ずると云う事・・・を行っております。
またこれは発癌実験ではないのですがGrobsteinのdifferentiationに関する興味ある仕事もあります。この場合彼はpancreatic rudimentのepitheliumからacinal differentiationmesenchymと共に培養した場合においてのみである事を述べております。・・・これらは1、2の例ですが、この様に考えて来ますと、differentiatinにせよ、dedifferentiationにせよ、これらの場合、実際に変化を被る細胞(組織)の外に上の例ではConnective tissue stroma、またはmesenchymと云ったtissueの存在、つまりこれらのtissue相互間のInteractionが大切な役割を果している様に思えます。もう一つin vivoの発癌で考慮されねばならないのは広い意味のCo-Carcinogenic factorであろうと思います。兎も角生体における発癌の過程をみる時、これは決してsimpleなものではありません。
今in vitroの発癌実験をふりかえってみると、今日までCell-medium-Carcinogenと云った比較的Simpleなsystemで実験が続けられて来ました。そして癌らしき細胞も出来るのですが、癌細胞のcriteriaがその細胞を復元して無規制な増殖を示すと云う事にあるため、その過程で今一歩と云う処かと思います。私共も、今日まで同様なsystemでStilbesterol−hamster腎を用いて仕事をして来た訳ですが、薬剤のえらび方か、臓器のえらび方か、或いはculture techniqueの問題かは知りませんが、先ずはっきりしたdataを出す事は出来ませんでした。勿論この様なsystemでも発癌する事は充分考えられますが、今后は新しいsystemで出発したいと考えています。つまりよりpotentなcarcinogenをよりorganizeされたtissueに作用させ、更にCo-Carcinogenic factorをも考慮して仕事を進めて行きたいと思い、その準備をしている訳です。

《佐藤報告》
 研究員の関係で1月は少しペースをおとしてので新しい研究はしていない。
DAB投与による発癌はDAB 10μgの投与をつづけているものにDAB消費度の減少を来たしたものが現われたので復元を準備中。
 3'-methyl-DABを投与すると投与日数によって染色体の移動3nがおこる様である。
 RLH-1:1965年1月5日、呑竜ラッテ新生児に1匹当り脳内27万、腹腔内90万、各々2匹宛注入したが、目下(-)。
 DAB飼育ラッテ肝からの肝腺腫様細胞の一部は増殖中で、なんとか株細胞にしDABの追加実験をして見たいと思っています。此の細胞をとるために一部のものはJTC-2或はラッテ肝細胞株のconditioned Mediumで培養している。
 AH-130動物株とJTC-2と比較
JTC-2は腫瘍性(復元性)は殆んどおちないが、悪性度(脳内における増殖態度が膨張性)は少くなっている。継代は可能で目下3代目。動物通過で悪性度が恢復するかは検討中。

【勝田班月報:6503:兎子宮内膜細胞に対するホルモンの影響。胸腺細胞。】
《勝田報告》
A)発癌実験
 “なぎさ”培養によって第4のMutantができ、これまでのと合せて4種のMutantsを目下hamster pouchに復元している。これでtumorができたら、それをratに接種してみる予定である。しかし同時にもっと沢山mutantsを作ることも計画しており、10種作れば1種ぐらいはtakeされると踏んでいる。またrat liverの株も、古いのは細胞の形態に若干異型が現れてきたので、なるべく新しい株、或はprimaryに近い細胞を使うように考えている。しかし細胞数をはじめに多目に入れてやる必要があるがその点が仲々困難で支障をきたしている。
 DABによる発癌実験も併行しておこなっているが成果はその内括めて発表する。
B)ラッテ胸腺細胞の組織培養(顕微鏡映画も展示)
 胸腺は免疫学的に活性のある一系の細胞を生み出すところとして注目され、またリンパ組織発育にも重要な関係を有するものと見做されている。同時に体内に生じた腫瘍細胞との間にも極めて特異的な相互作用をおこない得る可能性が感じられたので、正常ラッテ胸腺より株細胞を作ることを企て、現在までに4株とcolonial clone1種を得ている(RTM-1、-2、-3、-4、clone1A)
 これらの株について各種の検索をおこなった結果、培養細胞はおそらく細網細胞(reticulum cells)であるらしいが、その細胞質にきわめて特異的な顆粒が存在し、これは分泌顆粒と想像される。ケンビ鏡映画によると、この顆粒は核のまわりに密集して限局し(ゴルジ部は除く)、動きのきわめて少い点から推して、顆粒外に粘稠度の高い物質の在ることが想像される。映画によると、ときにより、この顆粒の内容物は培地中に放出される。顆粒及びその膜面あるいは顆粒外物質について各種の検索をおこなった結果、次のような結果が得られ、この細胞が抗体産生をおこなっている可能性が強く暗示され、今後in vitroでの抗体産生実験に用いられる見込が濃くなった。
 ラッテ胸腺細網細胞内の特異的顆粒:
HE(フォルマリン固定)で染色すると顆粒内容はエオジン好性(++)で、蛋白或いはポリサッカライド等が考えられる。
ギムザ染色は、フォルマリン固定では顆粒外物質がpurplish red(アヅール顆粒)に染まるが、メタノール固定では染まらない。
マロリー染色では、顆粒内容はpinkish redに染まる。
PAS(メタノール固定)は、顆粒内容は(−)、顆粒膜と顆粒外物質は若干(+)で(ポリサッカライド、グリコーゲン)の存在を示唆する。
ピロニン染色では顆粒内容はPink(RNA)に、顆粒膜はPinkish red(RNA)、顆粒外物質はRed granules(RNA)に染まる。
SudamIIIは(−)であるが脂肪顆粒が若干見られる。
チオニン(フォルマリン固定)では顆粒内容は(−)、顆粒膜と顆粒外物質は(+)である。Metachromasia(Hyaluronic acid,chondroitin sulfate)は(−)である。
酸性フォスファターゼは顆粒内容と顆粒外物質は(−)、顆粒膜は(+)。
Fluorochrome(アクリジン・オレンジ)で染めると顆粒内容が緑〜黄緑に染まるがDNAとは思われない。顆粒外物質は赤く染まる(RNA or degradedDNA)。
抗ラッテglobulin家兎血清-γ-globulinによる蛍光抗体で染めると(直接法)、顆粒膜と顆粒外物質は染まらないが、顆粒内物質は(+)である。これはglobulinの存在を思わせる。(但し蛍光抗体で光るのはRTM-1と-2だけです。
電顕では顆粒膜は膜の表面にribosome様の粒子がついている。

 :質疑応答(
[高木]培養日数が経つと顆粒の内容物を出してしまった死んだ細胞が増えますか。
[勝田]死ぬとこわれてしまうのか、死んだままという細胞は余り目につきません。
[黒木]位相差で見える顆粒と、電顕でみてリボゾームがまわりにくっついている顆粒と、蛍光抗体法で光るのと、皆同一の顆粒ですか。
[勝田]同じものだと思います。
[高木]この細胞ではミトコンドリアは桿状ですか。
[勝田]桿状です。
[高木]顆粒をもったまま分裂し、培養と共に顆粒が増えるのですね。
[勝田]そうです。培養と共に増えるのは一寸不思議ですが・・・。
[高木]いや、私の膵臓の株も培養につれて糖の蓄積がふえます。
[勝田]我々はこれまで細胞の内部にばかり多く目を向けてきましたが、これからは細胞外の細胞間物質についてもよく考える必要があると思います。こんど訪れた印度HyderabadのDr.Bhargavaはラッテ肝のsliceでmetabolismをしらべた時と、free cell suspensionにしてしらべた時とはmetabolismのちがうことを見出し、細胞表面或は細胞間の物質の失われることによる、と考えていました。高木君のJTC-4もあのころとしてはCollagenを作る能力を維持しているFibroblastの株として唯一のものでしたが、あれも継代期間が永いし、うちの色々なdiploidの株も継代期間が永い。余り頻ぱんにsubcultureして、細胞間物質を除いてしまうと、細胞が脱分化して変化しやすくなるのではないでしょうか。この胸腺の株にしても初代は半年もおいているのですから・・・。なお、映画で分裂をみていると、胸腺の細胞はhematopoiesisのような分裂をやっているのではないかと想像されます。
[黒木]その分裂しない方が機能と結びつくのではありませんか。
[勝田]そうかも知れません。とにかくもっと長期間映画をとりつづけてみます。なおこれまでのin vitroの抗体産生のexp.はin vivoで抗原を与えておいてから細胞をとり出してin vitroに移し、そこで抗体産生をしらべています。さっき蛍光抗体法で光らなかったとお話したRTM-3、-4のような株こそ、in vitroでの抗体産生Exp.に使えるのではないかと期待しています。
[奥村]New York Academy of ScienceのBieseleの論文で、trypsinを使って継代すると染色体数が変るというのがありますね。
[黒木]Continuous labellingをやってみれば分裂するのとしないのと判るでしょう。
[勝田]映画の方が早いですね。
[佐藤]in vitroの抗体産生のexp.のとき、培地の血清に対する抗体はどうなるのでしょう。こういう抗原過剰の場合・・・。
[勝田]この細胞に直接抗原を作用させても、抗体を作るかどうかは疑問です。むしろ、中間にリンパ球とか、組織球、白血球のようなものが介在する可能性の方が大きいでしょう。
[奥村]他にああいう顆粒を持った細胞というのは報告されていませんか。
[勝田]無いですね。このあとで気がついたのですが、蛍光抗体法で見たとき対照ラッテ肝の株を使ったら、そのなかにときたま胸腺と同じように顆粒の光る細胞が混っている。位相差でも胸腺のとそっくりで、おそらく網内系の細胞、とくにKupfferの星細胞と思います。だから網内系の細胞はみんな抗体を作る能力を持っているということも考えられます。しかし蛍光抗体法では特異性を余り強く主張できないから、いま細胞をためていますが、これをすりつぶして、電気泳動でγ-globulinを分劃証明しようと思っています。ただしこの細胞は増殖がおそいので、ためるのが大変です。
[高木]早く増殖するようになると機能がなくなってしまっているでしょうね。
[勝田]その通り。

《黒木報告》
 昨年11月末トキワの炭酸ガスフランキを一台購入したのですが、炭酸ガスの出が悪く、pHを維持できませんでした。又ボンベも急速に空になり(12日間で7.0kgボンベ2本)回路のleakが想定された訳です。2週間前の2月1日に東京から修理に来てどうやら使えるようになったところです。pHの維持は非常によくなったのですが、上下の温度差(1℃)が修正できず困っています。現在、L-cellsを用いてplating exp.の練習中です。
 炭酸ガスフランキの故障、Ratの入手難で現在のところ、まだ発癌実験に手をつけておりませんので、今回は吉田肉腫のコロニー形成法についての二三のデータを示します。
 吉田肉腫は御承知のようにsuspendの状態で増殖し、ガラス壁に附着することはありません。このためplatingが出来なかった訳ですが、寒天中に植えこむことにより、ある程度コロニーを作らせることが出来るようになった訳です。
 寒天はDifcoのBacto agarをアルコール・エーテルで脱脂し、0.3%のtryptose phosphate broth中に5%にとかし、Autoclave EagleMEM培地で1%、0.5%稀釋します。通常下側の寒天層は1%、上方には細胞を浮遊させた0.5%の寒天をおきます。炭酸ガスフランキにincubateし、コロニーを散乱光でみてcountします。
#1(2,000cells/dish、BS20%、EagleMEM、2mMPyruvate)
1.0xEagle 297、73、201、258、252 10.6%
1.5xEagle 373、320、312、367、224 16.0%
2.0xEagle 229、258、179、132 9.9%

#2(200cells/dish、BS20%、EagleMEM、2mMPyruvate)
1.0xEagle 6、0、4、4、6 2.0%
1.5xEagle 9、5、8、6、6 3.4%
2.0xEagle 4、0、2、4、1 1.1%
*1.0x、1.5x、2.0xはアミノ酸、Vitaminを1.0x、1.5x、2.0xしたもの。

 :質疑応答:
[勝田]アミノ酸分析のときの技術的問題ですが、最近うちで日を逐って標準試料の分析をやってみましたら、ニンヒドリンの発色性がかなり激しく落ちて行くことが判り、びっくりしました。こういうことを考慮に入れておく必要がありますね。
[高木]なぜ寒天を使ったのですか。
[黒木]吉田肉腫はsuspensionのままで増殖するからです。
[奥村]Puckが重曹量とpHとの関連のcurveを発表しています。それからExptl.Cell Res.に立体的にCell coloniesを作らせるというのが出ていましたね。細胞を混ぜるにしては寒天0.5%というのは濃すぎませんか。
[黒木]0.3%もやってみましたが同じでした。あとで寒天を包埋して切ってみましたら、細胞は居ましたが、バラバラでした。
[勝田]本当のpure cloneを作るのに、英国の連中がやっている方法で、流パラの中へ、培養液にsuspendしたcell suspensionを1滴宛おとし、細胞1ケ居るのを探して吸い取るという方法がありましたね。液の濃縮を防ぐ上で非常に良い方法だと思います。

《佐藤報告》
 RLN10にDABを10μg時に20μg投与してStrain cellよりDABの吸収乃至代謝の少ないCell populationを作った。即ちD2である。この細胞は形態学的には大小不同或は異型性がある。復元において腫瘍発生を期待しているものである。
D1は同様にDABを10μg投与したが、後、比較的長い間DABをのぞいて後、検索したものであるが、D2と同様DABの消耗の少いことを期待したが、現在の所予想に反して高い値を示している。
D.C.53はDABで57日飼育したラッテ肝よりとりだした株であるがラッテ肝細胞群のDAB吸収よりやや少い程度である。更に長期飼育の株ができれば、更に下がると予想される。
C44はnew bornラッテ肝をPrimary Cultureし直ちにDABを投与し変性の度合に応じてDABを除去しながらselectionして取り出した株である。
 AH-130動物株の細胞をnew born ratsの脳内に入れて腫瘍死するまでの日数と、JTC-2細胞を同様にして脳内接種した場合の比較をした。接種細胞数10ケ、100ケ、1、000ケのどの群においても延命日数はJTC-2の方が長かった。また顕微鏡的には前者が浸潤性であるに反し、後者は脳室内に膨張性に増殖する点、簡単に言えば培養によって良性化している。併し、後者の脳をすりつぶして生後32日目の呑竜ラッテ腹腔内に入れると明かに腹水腫瘍となって死亡する。このときの像は大網或は腹壁に結節が認められる点、AH-130 originalと異る。

 :質疑応答:
[勝田]DABを培地に入れたり抜いたりしている群では、入れているときも細胞は増えているのですか。
[佐藤]ケンビ鏡でみた範囲では増えている感じです。
[勝田]DABを入れたり抜いたりすることが、どうしてDAB摂取量の低下に効果があるのだろう。
[佐藤]色々な問題を含んでいると思いますので、また検討してみるつもりです。
[勝田]こういう変化が可逆性が不可逆性が、問題ですね。DAB肝癌では肝癌になってしまうとDABを代謝する酵素がなくなってしまう、と寺山氏が云って居られましたが、どういう方法でそれをしらべているのでしょう。
[佐藤]知りませんでした。
[勝田]腹がふくれる−と云われたが、それは癌細胞のふえたことですか、腹水の水がたまったことですか。
[佐藤]癌細胞がふえるのですが・・・。培養株のは腹水中に浮遊しないで、腹壁にtumorを作るのではないでしょうか。脳内でも脳組織の内部に侵入しないで、まわりにくっついています。
[勝田]JTC-1、-2の復元接種をそんなにやる目的は・・・。
[佐藤]いま発癌実験に使っている培地が腫瘍性を落すということと関係があるかどうかをしらべたかったのです。結果としては、腫瘍性は低下しないが良性腫瘍に傾くような気がします。
[奥村]勝田班長のところで以前にJTC-1、-2の腫瘍性が低下した、というデータがありましたね。
[勝田]それはデータにするほど沢山のラッテに入れたのではありません。ただ腹腔に復元して、死ぬ筈のものが死ななくなった、ということです。
[高井]脳内接種は脳室内に入れるのが本当なのですか。
[佐藤]いや、狙ったわけではなく、結果としてそこで増えていたのです。
[奥村]接種時のテクニックにもよるのではないでしょうか。
[黒木]若し培地のselectionによって腫瘍性が落ちるのならば、その先どういう培地にすれば良いのですか。
[佐藤]血清をラッテにするとか、色々考えなくてはならないでしょう。でも実際にはそう低下させるような培地ではないと思います。
・・ガヤガヤ(以後同時に何人も話し出したので速記者がこう記して以後空白)・・

《高井報告》
 btk mouse embryo cells、Actinomycin処理群のその後の状態について。
 昨年10月2日より培養をつづけているbtk mouse embryo cellsのActinomycin群は、段々増殖が悪くなり、上図の如く(継代図を呈示)11月16日の継代後、1本は細胞が消失し、残りの一方も益々心細くなったので、12月1日以後はActinomycinを含まない、対照群と同じmediumに変更しました。ところが、その後も段々と細胞が減少して来ましたが、週2回のmedium交新をつづけていました所、本年1月下旬に、2〜3コの直径3〜5mm位のcolonyが出来ているのを見付けました。このcolonyを形成している細胞は、下の写真(顕微鏡写真を呈示)の通りで、細胞及び核の形の多様性、大小不同等の特徴をもっています。
 一方、対照群の方も、増殖はかなり落ちて来ていまして、下の写真の如く、細胞は割に少ない様ですが、繊維様の突起が極めて豊富であり、一見してActinomycin処理群の細胞とは著明な違いがあります。しかし乍ら、よく探しますと対照群の方でも処理群の細胞に似た様な細胞が少数乍ら、所々に見つかります。
 従ってActinomycin処理群に見出された細胞の由来、乃至成因に関して:i)元々あった細胞が、selectされて残ったのか、ii)元々あった細胞から変化して生じたのか、更に、それらのselection乃至mutationに対して、Actinomycinが何らかの役割を演じていたのか否か、については、今の所何とも言えないと思います。又、この現象の再現性についても、今後の追求が必要です。

 :質疑応答:
[勝田]アクチノマイシン発癌の動物実験で途中経過をしらべた報告はありますか。
[高井]ないようです。
[勝田]やっておく必要がありますね。それからEvansらのデータで、mouse embryoの組織だと3月以内にみな癌化してしまうと云いますから・・・。
[高井]培養内の経過をもっと早くしなくてはなりませんね。
[勝田]染色体の標本を作る練習もしておくと良いですね。それから材料としてFibroblastだけうまく採るということ・・・。何か良い方法がないですかね。培地にはCEEを少し加えると良いでしょう。
[高井]今までの例では、培養以前の、−皮下組織を採る−という段階がうまく行きません。
[奥村]どうしてかなぁ。時間があったらまたお教えしましょう。
[勝田]前に伊藤君が印度のBhargavaたちの方法をまねて、肝実質細胞のsuspensionを作ろうとしてうまく行かないで困っていたようですが、こんど実際にやるところを見てきましたから、紹介しましょう。(Exp.Cell.Res.,27:453-467,1962)
 2〜15月rat(頭を叩いて殺し、すぐ使用)→すぐ腹を開き、門脈から環流(心のとまらぬ内)環流液は0.027MSodium citrate in Ca-free Lockeを冷やしたもの→肝は見る見る白くなって行く→50ml環流したところで肝を切り取り→(必要なら環流液で表面を洗い)濾紙で表面の液を除き秤量→シャーレの中で細切(ハサミ)→0.25M(8.5%)Sucrose6mlにLiverを1gの比でsucrose液を加え→手製ホモゲナイザー(管の内径は2.15cm、ゴム栓は赤い軟か目のゴム栓、上端の径は2.2cmとなっているがこれは数値では表現できない由)で、手で5〜6回ゆっくり強く上下してすりつぶす→金属メッシュ(200mesh)で濾す。メッシュは丸めただけのものでconnective tissueが内に残る(ガラス棒を沿えると濾過が早い)→さらにsucroseで洗い→200G(600rpm)1〜2分→free nucleiは浮き、living parenchymal cellsは沈む→再びsucroseで洗う(他のbafferで洗っても良い)→Exp.。

《奥村報告》
A.ウサギ子宮内膜細胞に対するホルモンの影響
 この実験をはじめてから今月で丁度1年になる。最初は内膜細胞を出来るだけ多く採取し、しかも活性を失わない様に培養へ移すことの条件を検討し、結局子宮摘出後すぐに細胞のTrypsinizationを行って、短時間(せいぜい摘出後2時間以内)で細胞をバラバラにして培養に移すことが肝心であることを知った。次いで培養には培地として、YLE、LE、N16、NO.199など用いてみたが中でもNO.199(塩類組成がHanks)が最も良好で、血清は牛血清、仔牛血清、ウサギ血清をテストした結果仔牛血清が比較的よく、特に2〜3週間、あるいはそれ以上培養を続けるのに一番効果的であった。しかし、同じ仔牛血清でもlotによってかなり差があって8lotsをテストして、うち2lotsだけがよく、他のlotsは普通の組織(一般に用いられるKidney、Lungなど)の培養には十分使い得るし、HeLa-S3細胞でのplatingには80%、又はそれ以上のe.o.p.を示したが内膜細胞にはあまりよくなかった。更に少数細胞の培養条件をしらべ、NO.199にcheckした仔牛血清を20%に添加(30%、時には40%でも可)した培地を用い、細胞数を10,000、5,000、1,000ケ/mlの段階で植え込み、1,000/mlでcolonyが1〜3ケ程度出来てくる条件を見出した。それは培地中の重曹を0.07〜0,1%に加え、培養開始後24〜48hrs.は炭酸ガスを10〜15%時には8%(フランキ内の炭酸ガス量)の状態におき、その後5〜7%に減少させる。勿論この種の培養条件は未だ決定的なものではないが、要するに培養初期はpH7.2〜7.4程度に保ち、あとでpH7.8前後に移す事が成功を高めるための1つのコツであることを知り、以来少数細胞を培養するときにはこの条件にしている。
 ホルモンの投与実験:Progesterone及びEstradiolを用い、内膜細胞の増殖促進を目標にいろいろの濃度をしらべ、植え込み細胞数が5,000〜10,000ケ/ml(他の細胞数2〜30,000ケ/ml、又は500〜1,000/mlの場合も畧同様の結果)でProgesteroneは0.1μg/ml、Estradiolは0.01μg/mlが夫々他の濃度に比べて、より増殖を促進することを見出した。又e.o.p.もホルモンを加えない細胞よりも高いことがわかり、次いでチューブを用いて増殖度を測定すると、controlの細胞よりもホルモンを添加したときの方が1.5〜4倍程度高く、しかも3回の実験結果からみて、内膜細胞の増殖へのホルモンの促進効果もProgesteroneとEstradiolとで若干作用機序が異なっていることを示唆するような傾向を得た。そこで、次にH3-Progesterone及びH3-Estradiolを用いて細胞内へのuptakeをみると、JTC-4細胞では10%前後の細胞にgrains(autoradiographyによる)が存在したのに対し、内膜細胞では30〜50%(ラベル-ホルモンを培地に加えて後1週間位)、ホルモン投与後10日目には15〜25%に減少していた。つまり、JTC-4細胞へのホルモンのuptakeは常に畧10%程度であるが、内膜細胞では培養期間中に取り込み細胞の頻度分布に極めて大きな変動があるらしい。なお、この実験は現在続けて進行させているので近いうちに明かな傾向を知ることが出来るであろう。以上、今年度の最後の班会議で今まで掴み得たことを報告した。
B.JTC-4Y細胞の基本染色体型の解析に関する実験
 今までJTC-4細胞から各種のクローンを分離し、最少染色体数の細胞クローン系を得るべく努力してきたが、やはり様々な困難に会い、現在までのところ染色体数分布が30〜34本のところに約80〜90%の集まっている系が最も安定であり、実験にも使い易いために、一応この系を用いて実験をすすめている。方法は各細胞に共通な核型を決定し、オートラジオグラフィーでその各染色体のDNA合成の時間的相関性を見ることを当面の目的とした。しかし、染色体上に小さな、しかも出来るだけ大きさの均一なgrainをつくることがむづかしく、ここ5ケ月間その条件を見出しつつある。少くとも、私のところで検討している範囲では低濃度のH3-TdRを長時間作用させるよりは高濃度(2μC/ml程度)で短時間作用させる方が染色体の拡がり、grainの出かたなどから比較的よい結果を得ている。この他にexposureの条件も問題があるし、乳剤なども十分検討の余地があって、未だ最適条件をみつけていないが、是非とも、はやくtechniqueを確立したい思いで奮闘中です。

 :質疑応答:
[勝田]さきの文献の、動物体内のpH、というのはどうやって変えるんですか。(子宮内膜)
[奥村]局所のpHを測ると、酵素活性の強い時は8.0位で低い時は7.2位となっています。肥厚した時が8.0位というわけです。
[高井]内膜細胞にラベルするときはContinuous labellingですか?
[奥村]そうです。
[勝田]H3だとすごい内部照射で、その影響が出る可能性も考えなくてはならないでしょう。崩壊するときすごい放射能を出すという話もききましたが・・・。
[奥村]Estradiolは0.05μC/0.01μg/ml、Progesteroneは少し多いのですが、0.2μC/0.1μg/mlで使っています。
[高木]Autographyで実際にとりこんでいるgrainsは核当りいくつ位ですか。
[奥村]Max.100位、Min.10位ですが、back groundがとても多くて定量的に物を云えません。この次はcoldのhormoneで洗ってちゃんとやります。
[高井]細胞内のどういうところに入っていますか。
[奥村]ほとんど細胞質です。核に少し入っている像もみましたが、これだけでは何とも云えません。
[勝田]問題はホルモンが本当に取込まれているのかどうか、蛋白にでも結付いているのかどうか、培地内のホルモンをcoldにおきかえて、しばらく培養してからautographyなり生化学分析なりをやって、しらべてみる必要がありますね。
[奥村]この問題は今年充分にやってみる予定です。ただ細胞が沢山とれませんので実験がむずかしいんです。それから染色体当りのgrain数はどの位が良いかというと、大体5〜6コ位でしょうね。
[勝田]染色体数の少くなった細胞というのは、染色体がその代り大きくなっているのではありませんか。
[奥村]いいえ、小さいのもあります。ラベルされた染色体は、どうもよく枝が分れません。Tritiumのせいかと思います。
[勝田]Coldでもthymidineを沢山入れると分裂を抑えるという報告がありますが、TdRによる阻害と言うことも考えられませんか。
[奥村]この濃度では無いと思います。それから、さっきの高井班員のFibroblastsですが、生後24hrs.位のハムスターですと、1腹分のハムスターから5万個/mlで25ml位とれます。皮膚を引張りすぎないことが大切で、透明な膜が張っているのをピンセットで捲きとって室温で2hrs.スターラーでトリプシン消化します。
[勝田]あまり難しかったら心臓を母培養して、出てくるFibroblastsを使う手もありますね。

《高木報告》
 発癌実験においては、1つの種類の細胞が発癌するためには、他の種類の細胞とのinterrelationshipも大切なのではないかと思う。そこで細胞をバラして培養する方法でなく、組織片をそのまま培養してそれに発癌剤を作用させる実験方法をとりたいと思う。つまりorgan cultureによる発癌実験である。この方面の研究でまず眼を引くのはLasnitzkiのprostateにMethylcholanthreneを作用させた実験である。最近のCancer Researchにも彼は発表していたが、そのhistological findingをみるとき、controlと比較して作用群にみられるepithelial hyperplasiaは如何にも上皮性細胞の癌化過程を思わしめるものがある。私はこれからしばらくの間mouseまたはrat skin←→4NQOのsystemで仕事を進めてみたいと思っている。動物のskinを培養する事が先決であるが、skinの培養についてはこれまでMcGowan、Maeyer及びJonesと云った人々の仕事がある。これらの人々の培養法及び用いた組織のageなどはそれぞれ異なるけれ共いずれも一応一週間から四週間位まで観察をしている。従って三週間位幼若動物のskinを培養することは、方法を検討するならば不可能ではないと考える。その方法として、
培養方法:1)Teflon ringを用い、nylon meshの上に組織片をのせた従来行って来た方法。2)agar mediumの上に組織片をのせるwolffなどの行っている方法を考慮している。
培地:いろいろ検討の余地があると思うけれど、basal mediaとして、1)3xEagle's medium。2)1xEagle's medium+10%CEE+10%Serum。3)LYT(又はLT)medium。を検討の予定である。なおL-15mediumもpHの点できわめてstableであるのでこれについても検討したい。(Am.J.Hyg.,75:173-180,1963)
gas phase:95〜97%酸素+5〜3%炭酸ガスで行う予定である。なお液体培地を用いる場合bubblingさせたいと思うが、現段階では一寸実施が困難である。
4NQO:0.25%benjeneにとかしたものを用いる。他の発癌剤に比較して溶解度に対する心配はない。作用濃度は10-4乗M〜10-5乗Mを考えている。

 :質疑応答:
[勝田]炭酸ガスフラン器のない場合、英国の連中はデシケーターにgasを入れてフラン器へ入れていますね。それから、いつも云うことですが、DNA以外のもののprecursorなどにラベルして組込ませる場合、本当のincorporationとturn overとの区別をつけるのが大切ですね。
 次に今年度の具体的な研究計画について、これまで話を伺ってない方に伺いたいと思います。
[高木]この1年はorgan cultureを主体とした仕事をやって行きたいと思っています。そして発癌実験もorgan cultureで、4NQ-Oと若いラッテかマウスの皮膚−という組合せをやり、それ以外の仕事としては、正常組織のorgan culture或は2種類の組織の併置培養をやりたいと思います。
[奥村]昆虫では細胞のgenic functionがホルモンで変ることを報告されていますが、私は家兎のendometriumを使って、progesteroneやestradiolの影響、特にgrowthに対する影響をしらべたいと思っています。またhormone-dependent、-independentの細胞を作り、それを発癌剤とも組合せて影響をみたいと思っています。
[勝田]女性々組織細胞のホルモンによる発癌exp.として私が可能性ありと思う方法は或期間progesteroneを次第に増量しながら与え、その後急にprogesteroneをやめてEstradiolに切換えるのです。人間で妊娠中絶したあと乳癌ができ易いことからヒントを得たのですが・・・。こんなこともendometriumでやってみてもらいたいと思います。
[高木]正常な機能をin vitroでできるだけ維持させるということも発癌exp.の裏返しとして必要だと思いますが、そういうことを奥村班員にやってもらったら如何でしょう。
[勝田]班が1年目か2年目ならばそれも良いのですが、3年目ですからもう少し積極的にやってもらわないと困ります。
[佐藤]Endometriumの細胞は培養内で上皮性ですか。
[奥村]そうです。ただとても扱い難いので・・・。
[勝田]しかし他にやっている人がいませんから有利です。
[佐藤]ヒト材料で掻把した材料で培養したらFibroblastsが出てきてしまいました。
[奥村]掻把した材料はその傾向があります。
[勝田]高井班員は・・・?
[高井]今までの方針通りやります。勿論再現性もみます。
[佐藤]私は今まで通り続けてやってみます。DAB20μgで細胞をほとんど殺してしまってからDABを抜くと、細胞が生き返ってColoniesができてきますが、この細胞をラッテへ復元してもつきません。どうしたらつく細胞が出来るものでしょうか。
[勝田]動物による実験的発癌のような苛酷な条件が人癌の発生の場合、ヒトの生体の中でも期待して良いものか、私は疑問を持ちます。むしろたとえば発癌剤とウィルス、それも非発癌性ウィルスとのsynergismのようなものを重視したい。しかし今、研究室にウィルスを持込むと、たとえ他の方法で癌ができてもcontaminationではないか、なんて云われますから、ここしばらくはこの仕事はやりません。やはり当分は“なぎさ”を続けます。DAB実験についても、なぎさ理論の上に立ったようなexp.をやって行きます。
[佐藤]発癌剤が細胞のどのstageに働くか、ということも問題だと思います。生体で云えばはじめに食わせたときのDABの作用と、一度肝細胞がやられて再生してきた細胞に対して働くDABとは異なるのではないでしょうか。【勝田班月報・6502】
《勝田報告》
 A)発癌実験:
 (1)なぎさ培養による第4番目のMutant(RLH-4)
 1964-8-9:RLC-2より、なぎさ培養開始。9-4:RLH-1のCell homogenate添加。顕微鏡映画の撮影を開始。9-7:Mutant発生を示唆するような所見。9-8:カバーグラスを取除く。10-5:継代(平型回転管よりTD-15へ)。11-2:継代(TD-15よりTD-15へ)。12-25:新コロニー発見。映画撮影開始。その后順調に増殖をつづけているが、このMutantが果して何時ごろPopulationの中に生まれたものか、簡単には推測できない。
 RLH-4の染色体数:(図を呈示)13ケしかかぞえてありませんから、決定的なことは云えませんが、Hypertriploidのようです。RLH-3は63本がピークで頂度3nでした。
 (2)なぎさ培養細胞のフォスファターゼ染色
 Alkaline-phosphataseとacid phosphataseの2種について次の各種標本について染色を行ってみた。対照細胞のL・P3はよく染まったが、なぎさ細胞は(シート部も)何れも活性がよく認められなかった。これはさらに追試確認すると共に染色法自体も検討する必要を考えている。RLC-5:1964-12-3→1965-1-30(なぎさ培養58日)。1965-1-15→1-30(なぎさ培養15日)。1965-1-22→1-30(なぎさ培養8日)。RLC-6:1965-1-22→1-30(なぎさ培養8日)。
 (3)なぎさ培養へのlabelled cell homeogenateの添加
 RLC-5:1964-12-24:なぎさ培養開始。1965-1-12:H3-thymidine-labelled homogenate添加。添加1日、2日、3日、4日后に標本を固定してautoradiographyでしらべた。
 mitosisの細胞の染色体のどこか一部にgrainsが集中して認められないかどうかしらべたが、染色体にgrainのあるものは認められなかった。
或はもっと長期おいてからautoradiographyをおこなった方がよいのかも知れない。
 (4)Mutantsの復元接種試験
 (a)1964-12-12:雑系ラッテ生后24hrs以内のものに脳内接種。RLH-1、RLH-2、RLH-3(300万〜700万コ宛)・2匹宛。1965-1-5:RLH-1接種ラッテの1匹が死にかけたので剖検したところ、脳水腫と判明。腫瘍細胞の増殖した兆候なし。1-21:残りのラッテ全部を殺して剖検。RLH-3接種の内1匹が発育不良で脳水腫。他は全部健全。異常なし。
 (b)1965-1-22:生后1ケ月のハムスターのポーチへ次の如く接種。RLH-1、RLH-2、夫々に100万個/ハムスター。ハムスターは何れもCortisone0.1ml(2.5mg含有)を週2回接種。ポーチ内の腫瘤が大きくなったら、これをラッテへ移植してみる予定。
 B)その他の実験:
 (1)ラッテ胸腺細胞
 正常ラッテ胸腺より樹立した4種の株(RTM-1、-2、-3、-4)について、その細胞質内の特異顆粒の性状をしらべるため、DNase、RNaseをかけて、その后アクリジオンレンジで蛍光染色をおこなったが、特異顆粒がきわめて少かったため、この結果については信頼できない。(光らなかった。)
 なおこの特異顆粒中にγ-globulinが含まれているか否かを電気泳動法で証明するため、少し宛継代のたびに細胞をためて凍結貯蔵中である。
 (2)ウマ末梢血白血球の培養
 Cell countingをおこないながら、白血球、特に単球細胞の延命に好適な培地と培養法の検索につとめている。

《土井田報告》
 RLH-3の核型分析
 RLH-3の染色体数の分布は先に報告した通り、63本のところにpeakを有した。今回は核型分析の経過を報告する。(図を呈示)。2つのn=62の細胞では、telocentric chromosome(TCC)が共に42本で残り20本はmetacentric又はsubtelocentric chromosome(MCC or STC)である。これらの染色体の大きさは漸進的に変化していて、特長となるものはないが、最小の2本のMCCは他のものとは稍々目立つ程度に小さい。染色体数53本のものでは、同一細胞内に2ケのdicentric chromosome(DCC)を含む例がある。TCC以外の染色体数は22である。この例でも稍々小型の2本がみられる。
 64の例でTCC以外の染色体は19本で、1本の著るしい大型のSTCがある。
 この系統の細胞ではtelocentricでない染色体の総数は18〜22の間にある。
 RLH-1との比較
 著しい特長はTCCがRLH-1では15本前後で総体的に少ないが、RLH-3では逆にTCCが多くそれ以外の染色体数が20本前後と少なかった。
 同じ起源の細胞で、同様の処理を受けたと思はれるのに、核型構成の上に大きな変化が起り、非常に異なったものが生じたことは現象的に興味あることである。

《高井報告》
  )btk mouse embryo cells(第5代目)のgrowth curve
 10月2日より培養をつづけているControl群に、Actinomycinを作用させて見ようと考えていますので、まづそれに先立って、この細胞の増殖率を調べてみました。最初startする時、生の状態では細胞が見えにくく、又ある程度の細胞塊があり、極めて細胞数の算定が困難であったため、inoculum sizeが少なすぎました。従って、細胞数のバラツキもかなり大で、良い実験ではありませんが、lag phaseが相当長くて6日目になって漸く増殖の傾向が見えて来ました。このあと更に日を追って追求中ですが、何れにしても増殖は緩慢です。
  )mouse皮下そしきの培養。その後もくり返し、btk mouse(adult及びnew born)の皮下組織の培養を試みていますが、まだうまく行きません。又たとえうまく行ったとしても皮下そしきのみからでは極く少数の細胞しか得られないのではないかと思いますので、この方法は一応中止しようかと考えております。
 細胞に発癌剤を作用させて、腫瘍化させるのが一番大事な目的であるのに、その発癌剤を作用させるべき材料を得る段階に余りに大きな労力を費すことは、賢明とはいえないと思います。whole embryoでは得られる細胞が、色々の組織に由来することが不利だというので、皮下そしきのみを材料にしようと考えたわけですが、たとえmixed populationであっても、培養し易い材料をえらぶ方が実験の能率が上ると思います。又、発癌のmechanismがおそらくはDNA合成の何らかの過程と密接に関連していると考えられますので、DNA合成の盛んな、つまり増殖の速い細胞を材料とする方が有利と考えられます。この意味で上記I)の如き細胞は余り適当ではないと思いますので、株細胞も扱ってみようと考えています。  )btk mouse embryo cellsおActinomycinを作用させたものを、現在Actinomycin(-)の培地に戻して観察していますが、最近生残った細胞が少し増殖して来ましたので、今後更に追求して行く予定です。

《黒木報告》
 吉田肉腫の栄養要求(3)
 前報でセリンが有効との結果を得ましたが、その至適濃度の決定を行ったのがこの報告です(Exp.#248-2)。(表を呈示)すなはち、optimum conc.は0.2mMです。なお、pyruvateは本実験では2.0mMを用いていますが、その后のExp.で(Exp.#248-1)で0.5、1.0、2.0mMがほぼ同様の結果を得ました。
 血清濃度との関係は(表を呈示)表の通りです。SERINEが入っても5%ではNo growthです。5%WholeでGrowthさせるのを次の目的とします。なお、10%C.S.、1.0mM Pyr.、0.2mM SER.の条件におけるGrowthは6回測定しましたがバラツキが多く、23.0±5.9hrs.です。

《高木報告》
 in vivoの発癌実験を考えてみる時、私はOrrの仕事に興味を覚えます。彼はepidermal carcinomaを作る実験で、carcinogenをapplyした場所に隣接する部分のstromaが、この発癌に大いなる役割を果すらしい事を述べています。つまり彼はM.C.をマウスの右肩にapplyしてそこからepidermal graftをとって左肩に移植した場合にはtumorを生じないが、もとのgraftをきり出した処にはtumorを生ずると云う事・・・を行っております。
またこれは発癌実験ではないのですがGrobsteinのdifferentiationに関する興味ある仕事もあります。この場合彼はpancreatic rudimentのepitheliumからacinal differentiationmesenchymと共に培養した場合においてのみである事を述べております。・・・これらは1、2の例ですが、この様に考えて来ますと、differentiatinにせよ、dedifferentiationにせよ、これらの場合、実際に変化を被る細胞(組織)の外に上の例ではConnective tissue stroma、またはmesenchymと云ったtissueの存在、つまりこれらのtissue相互間のInteractionが大切な役割を果している様に思えます。もう一つin vivoの発癌で考慮されねばならないのは広い意味のCo-Carcinogenic factorであろうと思います。兎も角生体における発癌の過程をみる時、これは決してsimpleなものではありません。
今in vitroの発癌実験をふりかえってみると、今日までCell-medium-Carcinogenと云った比較的Simpleなsystemで実験が続けられて来ました。そして癌らしき細胞も出来るのですが、癌細胞のcriteriaがその細胞を復元して無規制な増殖を示すと云う事にあるため、その過程で今一歩と云う処かと思います。私共も、今日まで同様なsystemでStilbesterol−hamster腎を用いて仕事をして来た訳ですが、薬剤のえらび方か、臓器のえらび方か、或いはculture techniqueの問題かは知りませんが、先ずはっきりしたdataを出す事は出来ませんでした。勿論この様なsystemでも発癌する事は充分考えられますが、今后は新しいsystemで出発したいと考えています。つまりよりpotentなcarcinogenをよりorganizeされたtissueに作用させ、更にCo-Carcinogenic factorをも考慮して仕事を進めて行きたいと思い、その準備をしている訳です。

《佐藤報告》
 研究員の関係で1月は少しペースをおとしてので新しい研究はしていない。
DAB投与による発癌はDAB 10μgの投与をつづけているものにDAB消費度の減少を来たしたものが現われたので復元を準備中。
 3'-methyl-DABを投与すると投与日数によって染色体の移動3nがおこる様である。
 RLH-1:1965年1月5日、呑竜ラッテ新生児に1匹当り脳内27万、腹腔内90万、各々2匹宛注入したが、目下(-)。
 DAB飼育ラッテ肝からの肝腺腫様細胞の一部は増殖中で、なんとか株細胞にしDABの追加実験をして見たいと思っています。此の細胞をとるために一部のものはJTC-2或はラッテ肝細胞株のconditioned Mediumで培養している。
 AH-130動物株とJTC-2と比較
JTC-2は腫瘍性(復元性)は殆んどおちないが、悪性度(脳内における増殖態度が膨張性)は少くなっている。継代は可能で目下3代目。動物通過で悪性度が恢復するかは検討中。

【勝田班月報・6504】
《勝田報告》
 A)なぎさ培養によって生じた変異細胞(RLH-1、-2、-3、-4)のラッテ復元接種及びハムスターポーチ接種の今日までの総合成績一覧表(表を呈示)。
以上のラッテ復元成績を纏めると次のようになった。RLH-1:0/17、RLH-1R*:0/1、RLH-2:0/10、RLH-2R*:0/4、RLH-3:0/2。計0/34。
*RLH-1Rは第1回30日間BSの代りに20%RS、その后BS培地に28日間、第2回10%RS+20%CSで70日間培養。*RLH-2Rは(10%RS+20%BS)で72日間培養したものと、90日間培養後20%BSで20日間培養したもの。
 B)DABによる発癌実験:
 RLC-1、-3、-4、-5細胞を用い、DABを比較的高濃度に与えて、変異細胞の出現を狙った。昨年秋以后のデータを次に示す。容器はすべてTD-15(カバーグラスなし)。培地は20%CS+0.4%Lh+salineD。静置培養。
 Exp.CM#25(RLC-1細胞):1964-11-10(第0日)→12-3(第23日):新鮮なRLC-1を追加→1965-1-29(第80日)まで80日間DAB 10μg/ml。2-19(第101日)→3-22(第132日)まで31日間DAB10μg/ml。細胞のpleomorphism出現。増殖はかなり阻害された。
 Exp.CM#26(RLC-3細胞):1964-11-10(第0日)→12-3(第23日)まで23日間DAB 10μg/ml。
12-7(第27日)→12-29(第49日)まで22日間DAB 10μg/ml。1965-1-8(第59日)→1-29(第80日)まで21日間DAB 10μg/ml。増殖が非常に阻害され、DABを除いても増殖再開せず。
pleomorphismあり。
 Exp.CM#27(RLC-4細胞):1964-11-10(第0日)→12-3(第23日)まで23日間DAB 10μg/ml。
12-7(第27日)→12-18(第38日)まで11日間DAB 10μg/ml。12-25(第45日)→12-29(第49日)まで4日間DAB 10μg/ml。1965-1-8(第59日)→1-29(第80日)まで21日間DAB 10μg/ml。
細胞増殖が著明に阻害され、DABを除いても増殖が再開せず。形態的pleomorphismあり。
 Exp.CM#28(RLC-5細胞):1964-11-10(第0日)→12-3(第23日)新鮮なRLC-5を追加→1965-1-29(第80日)まで80日間DAB 10μg/ml。2-19(第101日)→3-22(第132日)まで31日間DAB 10μg/ml。この細胞にこの濃度では、増殖や形態にDABが著しい影響を与えていないように見えた。3月22日の所見では変性に陥った細胞の小塊がシートのところどころに認められた。 Exp.CM#29(RLC-5細胞):1965-3-19(第0日)。3-20(第1日)→3-25(第6日)まで5日間DAB
10μg/ml。細胞シートが所々剥げ落ち、残った細胞も変性に陥りかけている。培養の半数にRLC-4のhomogenateを添加。3-26(第7日)DAB除去后、細胞に著しい回復が見られる。これはhomogenate添加群も非添加群とも特に差はない。

《佐藤報告》
 1.発癌実験(DAB飼育Donryu系ラッテ肝の組織培養)
 最近65'2−組織培養を開始した◇C82実験の復元で漸くDonryu系ラッテnewbornにTumorを作る事ができました。理論的には当然Tumorが出来る筈で、喜ぶにあたいしませんが、
Primaryに動物から動物にTumorをつくり、且つ培養に成功するものをつくってDAB発癌の移行を見ようとする企が一応終ったことになりますのでほっとしています。標本その他の詳細は班会議でお話します。この系列の実験についての概略だけメモしておきます。
    DAB投与日数  陽性率  判定日(培養開始后)
◇C52   44日     0/5    44日
◇C53   57日     3/5    81日 株化14代349日
◇C57   72日     5/14    31日
◇C58   72日     5/14    44日
◇C60   107日     5/14 42日 株化7代299日
◇C61   142日     6/11 41日 株化5代264日
以上、第1シリーズDAB投与日数と共に増殖をおこす試験管が現れるが、培養中の試験管から、或は株細胞からの復元でTumorは作らない。まだこの程度の投与日数では再生結節すら明瞭でない。株化させたものは
◇C62   65日 2/5 43日
◇C63 107日 4/10 65日
◇C65 121日 4/16 51日
◇C68 149日 6/15 27日
◇C74 191日 結節部8/8 50日 2代124日
対照部2/8 50日
Donryu newbornへ結節部をつぶして2匹、対照部をつぶして2匹両方共84日后Tumor(-)
しけん培養開始后第12日結節部を、対照部共にnewbornへ接種したが第87日Tumor(-)
結節部増殖細胞は大小不同でTumorかと思われたが復元は不成功。
対照部にも少数ながら同様の細胞群が見られる。
◇C76 199日 結節部5/5 29日 2代115日
対照部5/5 29日 2代115日
Donryu系newbornへ組織のHamks(3x)乳剤を結節部及び対照部よりこしらえ各々6匹及び
2匹移植。第90日でTumorをつくらない。
◇C78 199日 結節部2/5 43日
対照部1/5 43日
◇C80 199日 3/10 37日 本例には結節は認められない。
DAB投与日数をここで一応打きっておいたのは◇C74、◇C76でTumorが発見されたためこれ以上の投与はラッテを死亡せしめると考えたためですが、◇C78、◇C801と実験して見て結節が未だ不充分と思い、一応試験的に開腹したところ残りの動物で強い変化がなかったので更にDAB投与を再開した。
◇C82 199+38=237 結節部5/5 36日 2代41日
対照部5/5 36日 2代41日
開腹時、結節部のHanks乳液をDonryu newbornの脳内3例(1例は第13日目に脳内水腫をおこして死亡、その脳をすりつぶして腹腔へ接種、結果不明。第2例は第21日目死亡。第3例は第38日脳水腫と共に脳質腔内にTumor発見。継代中)。皮下3例(共に全例皮下Tumor発生)。
◇C83 199+66=265 結節部5/5     8日 2代13日(結節は灰白色)
結節部3/5 8日 2代13日(結節は灰白赤色)
Donryu脳内3、腹腔内3、皮下3移植。観察中。
 上述の材料をつかって実験を計画中。
 2.RLH-1の復元
 No.1(9代)418万個/mlの細胞浮游液を、脳内、3例、12万5千個 腹腔内、2例、62万4千個。胸腔内、2例、41万8千個。本例は親にくわれて失敗。
 No.2(10代)脳内1匹当り27万個cells。腹腔内1匹当り90万個cells。77日后Tumor(-)。 No.3(14代)細胞浮游液に墨汁液を交ぜて脳内接種して、RLH-1細胞の追求を行った。
2日后及び4日后の連続切片で観察した処、脳膜の蜘蛛膜下腔と思われる部に、核分裂を示す島岐状の細胞(RLH-1細胞)を発見した。
 3.JTC-2の毒力(移植性について)
 newbornに対する腫瘍性については、AH-130と比較して前回に報告したが、そのご幼若
Donryuラッテに接種を行った所、一時腹水をつくりTumor cellの増殖があったが、その后腹水が消失した。接種脳脳:JTC-2の1,000個脳内接種、18日后殺す→生后32日Donryuラッテへ全脳をすりつぶし接種、11日后→100,000個、10,000個、1,000個を接種、夫々62日Tumor(-)。2,800万個接種、生后43日ラッテ、現在62日腹水消失。同11日后→2100万個接種、現在
31日腹水はない。同11日后→16后腫瘍死。
成熟Donryuラッテに対しては移植率は低い様である。

《高井報告》
 1)btk mouse embryo cells、Actinomycin S処理群のその後の経過。
 前回の班会議で御報告いたしましたActinomycin処理群に発見されたコロニーは、その後、徐々にではありますが、大きくなって来る様です。細胞の形は前報通りで余り変っていない様に思われます。しかし乍ら、control群の方も長期間(第4代のままでMedium更新のみを続けていたもの)同一の培養瓶でmaintainしていたものでは、細胞の形態が上記Actinomycin処理群に生じたものとかなり似て来ていることに最近気がつきました。このことから考えると処理群に現れた変な細胞も単に長期間、同一の瓶で培養している間にselectされただけでmalignant transformationとは無関係かも知れないという可能性が非常に高いのではないかと思われ、ちょっと悲観しております。
 2)btk mouse、newborn皮下組織培養の試み。
 先日、奥村先生に色々操作上のコツを教えてもらい、その後、3回程試みました。第1段階の皮下そしきをピンセットで集める段階は、今迄よりかなりうまくなった様に思います。しかし、第2段階のトリプシン処理で細胞がうまくバラバラにならず、少数の細胞しか得られませんでした。又得られた細胞もErythrosineBで染まるものが極めて多く、何れも失敗に終りました。今迄、生後3日目のmouseを用いていましたが、もっと若いものでないと駄目なのかも知れないので、今后は1日目位のものを用いる予定です。
 3)btk mouse whole embryoの培養。
 2)がうまく行かないので、再びwhole embryoの培養をstartしたところです。1)に記載した細胞は大分古くなりましたので、近日全部復元してみる予定です。

《奥村報告》
 A.ウサギ子宮内膜細胞に対するホルモンの影響
 内膜細胞の培養が連続5回失敗してしまい、残念ながらH3-Progesterone、H3-Estradiolの取り込み実験をすることが出来ずにいます。近日中に再び実験を始めるつもりです。
 B.ヒト子宮内膜細胞の培養
 ウサギの内膜細胞での実験と並行させて、ヒトからの材料を用い、やはりホルモンとの関連性を探ることを試みはじめました。最初にヒトの子宮内膜細胞の採取を検討した結果、不妊症患者の細胞が汚染が少なくて培養に適していること、培養は初代から多くの細胞を植え込むと(1万個、10万個/ml)繊維性細胞ばかりが増殖してくるので、トリプシン消化后、single cell rateを40〜50%にした浮游液を1,000〜3,000ケ/mlの細胞濃度でシャーレに植え込む方法を用いた。出来てくるコロニー数は現在のところさまざまで0〜8ケ程度そのうち1ケ程度が比較的上皮性のものである。培地はウサギの場合と同様No,199に仔牛血清20%を用いる。血清濃度は30%、40%にすると若干細胞増殖が促進される程度で20%のものと余り差はない。CO2ガス量は約10%、pH7.4〜7.8に調整。
 C.当面の実験計画(子宮内膜細胞に対するホルモンの影響)
 これから数ケ月のうちに行う実験計画は主にautoradiographyを用いる実験である。
 用いる細胞:ウサギ及びヒト子宮内膜細胞、HeLa細胞、ハムスター肺からの分離株(Negative controlとして)、ヒト子宮癌からの細胞の5種類。
 標識物質:ホルモン・H3-progesterone、H3-estradiol。その他・H3-TdR、H3-UdR。
 実験方法:1.ホルモンの細胞内への取り込みを時間を追ってしらべることと、その細胞内局在性の検討、同時にホルモンの代謝をどの程度までcheckできるかをしらべたい。例えばestradiolが細胞内で代謝されて、estrial、estroneになり細胞外に出てくることがあるかどうかなど。2.ホルモン存在下での細胞のDNA、RNA合成の推移を検討すること。

《黒木報告》
 このところ種々の事情で研究の方は余り進展をみていません。今迄ためておいた実験を論文にすべく一日の半分をそれにあてていますが。慣れぬ英文故なかなか捗りません。最近行った仕事の一つに、悪性度の分析の試みがあります。これは生存率曲線に「何かものを云はせる」ために、先ず生存率をprobit変換し(実際には正規確率紙を使用)直線化した上で、傾斜、並行性等を検討し、悪性度の問題にせまろうとするものです。これは三島の組織培養学会での山田正篤先生の質問(probitの平行性の意味)への回答として行はれたものです。まだ検討が不十分ですので次の班会議までには発表出来るようにします。
 トキワのCO2 incubatorは3月12日に新品と交換、今度は順調に動いています。(5%CO2でpH7.2を維持、NaHCO3 0.7g/l)、目下L細胞でplating-efficiencyをみています。Ratのembryoを培養するのが私の発癌実験の第一歩になる訳ですが、全然ドンリュウラットが妊娠してくれず、困っています。現在、実中研固型飼料CA-1にvitaminEを添加していますが効果の程はさだかでありません。(VitaminE 1gをオリーブ油約10mlにとかし、約7kgの固型飼料とよく混合して用いる。
 (図を呈示)図は、この前の班会議で一寸述べた培地のNaHCO3とpHの適定直線です。縦軸のNaHCO3をlogにすると直線が得られます。(当たり前の話ですが)。実線はEagle MEM、破線はそのBaseのHanksです。

《高木報告》
 さて前回までintroductionを書いて来たつもりですので、今週からはいよいよ実験に入らなければならないのだが、残念ながらまだやっと着手したばかりでdataらしきものは出ていない。何せCO2incubatorなしでorgan cultureをやる訳であるから可成り無理がある様である。一応CO2 3% O2 97%ガスボンベを購入してみたが、1本4,000円で、私の現在やっているタンクからSelas filterを通して滅菌蒸留水をbubblingさせてcontainerに入れる方法では、ぶっ続けに通気すると2週間位しかもたない様である。成丈けeconomizeしてintermittentに通気している積りであるが、それでも3週間位がやっとと云う事で、可成り高くつく実験である。それともう一つの欠点はcontainerのcapacityが小さいためpHの調整が困難な点である。・・・何はともあれ強引に実験をstartしている。先達っての班会議でも御話しした様に、先ずrat skin←→4NQO系を考えて生后間もない(7〜14日)rat skinのorgan cultureを試みたが現在の処培養9日目まではまず大丈夫の様で、epidermis、Corium、subcutaneous tissue、hair follicleなど比較的良い状態に保たれている。
培養方法であるが、これは私がこれまで行って来たteflon ringの上にnylon meshをのせてその上にtissue fragmantをのせる方法、organ culture用特製のdisposable petri dishによる方法(これだと0.7〜0.8mlのmediumですむ)(図を呈示)、及びagar mediumによる方法を検討しているが、まだはっきりしたことは云えないが今日までの所見に関する限り後二者が良い様である。
mediumについてもいろいろと検討すべきであろうが、一応modified Eagle's mediaをbasalmediaとしてそれに10%CEE(1:1)と10%BSを加えたものを用いている。勿論L-15とかRPMI#1579(Moor's media)などもbasal mediaとして面白いと思うが、現段階ではあまり培養するためのfactorを多くするとかえって複雑になるので一応mediaを一定にして様子をみる事にしている。・・・amino acidsの入手の問題もあるので・・・。
それとgolden hamsterのsubmandibular gland(SMG)のorgan cultureもStartしている。
これは、SMG←→dimethylbenzanthraceneの実験に関連して行っているもので、まだ3日目のCultured tissueのstainingを行っていないので何ともいえないが、3日目のmediumを交換するためtissue fragmentをforcepsでつまむ時、ズルズルすべって中々つまめなかった。explantした時はこの様にズルズルしていなかった様で、唾液の分泌(?)をつづけているのかも知れない。これが何日つづくことか・・・面白いと思う。
次回の月報にはもう少し詳しいinformationをのせる事が出来ると思う。
 なお本月報を利用して当研究室の構成人員を御紹介します。
 ◇梶山猛浩君(入局5年生)
Cell strainの免疫学的差異を調べて行く彼の仕事も一応終りそうで、あと一息と云う処です。これからそのまとめと補足、それにferritin抗体を使った組織のEM的検索−つまりinsulin、glucagon、ACTH、growth hormonなどがどの細胞のどの部分から分泌されているか?更にin vitroでcultureしたものについては?と云った様な問題・・・を山田英智先生の協力の下に一緒にやるつもりです。目下遠賀療養所に出張中で週2日こちらに出て来ています。 ◇岡田楷夫君(入局4年生)
奥村先生の処で一応chromosomをいぢくれる様にして頂きました。現在はその方面の仕事、特にdiploid cellの培養、“functioned"cell lineの分離と云った仕事と共にantiglucagonserumを用いたpancreas & cellsの仕事もstartしています。この5月で“Bettfrei"からあけますので、彼も臨床、研究と多忙なことになります。
 ◇緒方佳晃君(入局3年生)
あと一年“Bettfrei"の期間が残っています。彼はrat pancreasを用いて(young rabbitの入手困難な事及び高価な事からratで仕事をする予定で目下ratの自給自足の態勢に入っています)、更に培養条件の検討、βcellsに対する諸種agents(hormon、diabetagenic agent・・)の検討、更にはin vitroにおけるinsulin合成の問題などやってもらいたいと思っています。 ◇池上隆君(入局2年生)
今年の5月から研究室に入ります。この人には、organ cultureによる発癌実験と癌組織のorgan cultureなど一緒にやってもらうつもりです。
 ◇藤野春代さん
昨年9月から当研究室で仕事を手伝ってくれています。
その外、3年の学生が2人位遊びに来るかもしれません。

《堀 報告》
 今年度からこの研究班に入れて頂き、in vitroの発癌の問題をratの肝を主に使って、組織化学的方法により追求させて頂くことになりました。班長の勝田先生をはじめ班員全てこの道の大先輩であり、authorityであられる方々の御指導御鞭撻を御願いする次第であります。実際にやる事としては、in vivoとin vitroにおけるhepatic cellの比較を主にしたいと存じます。hapetic cellを特徴付けるG6Pase、Phosphorylaseなどの酵素を中心として、その他種々の酵素類、その他組織化学的に特異性の確立している方法を用いて、in vivoの細胞を培養に移すとどの様な変化が起るかを、Weilerがtissue specific antigenの変化を見た様に追求したいと思います。しかし乍ら、当研究班が既に第3年目の総まとめの時期に入っているということは、新参者がのうのうと我が道を往っていたのでは申訳ないのではないかと思わせます。従って、今年はまず組織化学的方法の培養細胞えの適応をmasterした後、各先輩方の注文に応じて染色一手引受けの染色屋にならうかと思いますのでよろしく御引立て下さい。なお、染色というものは、はためには簡単の様ですが、fluorescence-antibody法に見られる様に色々なfactorsがあって面倒なものですので、一応の結論を出すのには或る程度時間を必要といたしますので、御含みおき下さい。なお、昨年秋の班会議の折に御話いたしましたexplantsの組織像の事ですが、その後色々検討した結果、使用したcoverglassの質が悪かったため、特にA20でtreatしないcontrolののび方が悪く、従ってexplantsがnecrosisを起したことが分りました。今はAdam製の良質coverを使っていますので、controlでもごく簡単にのびてくる様になりました。今迄はroller tubeを使っていましたが、CO2-incubatorが入りましたので、今後これを活用していと思っています。しかし目下の処不調で困っています。


《土井田報告》
 培養条件下での放射線誘発染色体異常のAutographyによる解析
 放射線照射後生じる染色体切断と染色分体切断の量は、用いる電離放射線の種類や線量、線量率、一回照射、分割照射などいろいろな条件によって異なるが、両者の相対的な量は照射後の時間によって変化する。即ち照射後比較的短時間で細胞を固定した場合には、染色分体切断が多く、ヒトの末梢白血球培養の場合には照射後固定までに20時間以上経過した時には、染色体切断が殆んどで分体切断は少ないという。このことの理由はヒトの白血球培養の場合、培養状態におかれたあとDNA合成を行なうので、S期以前に起った染色分体切断はすべて染色体型の異常として次の分裂で捉えられるというのである。
 しかしこの考えは少し無理なようで、私には培養後の最初の分裂である時には、やはり染色分体切断として観察される筈であると考え、この点を確かめるためAutoradiographyの方法を用い研究を始めた。
 方法はヒトの末梢白血球を常法通り分離後、0.5uc/mlのH3-thymidineを含む25%AB人血清+75%LE培地で(培養開始時より)、24、40、48時間培養し、そのあと二度H3-thymidineを含まない上記血清培地で洗い。全部で72時間になるように、AB人血清-LE培地で、それぞれ48、32、24時間培養した。細胞はこれも常法通りcolhicine処理、低張液処理、固定をしたあとair dry法で標本を作成した。
 サクラ・オートラジオグラフ用乳剤でコートし、現在露光中である。結果は次号月報に報告できるのではないかと考えている。
 猶、私のデータでは、乳癌手術後毎日250Rづつ、上胸部に照射されている患者の末梢白血球培養で平均6.12%とかなり高い染色分体切断を観察しているが、正常健康人、原爆被曝者、職業性被曝者、乳癌患者の照射前の個体においては、それぞれ1.90、1.42、1.66および0.60%とかなり低かった。

(インドの報告)

【勝田班月報・6505】
《勝田報告》
 A)“なぎさ"変異細胞の復元接種試験
 なぎさ培養でできた変異細胞、RLH-1、-2、-3、-4の内RLH-4についてはまだ復元も余り試みてないので、いろいろの方法で試みることをはじめた。その皮切りのところを報告する。 1965-3-18:RLH-1 800万個無処置のハムスターのポーチへ接種。-20(第2日):径約3mmのtumorが形成された。-22(第4日):約5mmになったので摘出して一部は固定、切片標本作製へ他は培養に移した。培養はTD-40瓶1本を用い、[仔牛血清20%+0.4%Lh+D]の培地で約10万個/mlを10ml入れ培養開始。しかし殆んどの細胞は硝子面に附着せず、培地交新の度に細胞数が減少して行った。約2〜3週后には生きている細胞はほとんど残っていないように見えた。約4週后、瓶内に小さなコロニー数コを発見。
 4-2(培養第31日):コロニーを1コ宛、先曲りピペットで各1本宛の回転培養管に移し、3本を得た。残りはまとめて他の1本に移した。しかし純粋にコロニー1コだけ宛とれたか否かは不明。この継代直前のコロニーの形態は、ほとんどのコロニーはRLH-4に似た立体的に盛上ってくるコロニーで、細胞も円形細胞が多かったが、1コだけRLH-3に似たコロニーがあり、細胞は大型で平面的に拡がり、細胞間に隙間がなく、またFibroblasticでない形態を示していた(模式図を呈示)。これらのコロニーの細胞が夫々増殖したら、またハムスターポーチやラッテへ復元してみる予定である。
 B)高濃度DAB添加実験
 RLC-1、-3、-4、-5の4種細胞を用い、DAB 10μg/mlに添加したり抜いたりする実験をおこなっているが、1965-4-25現在では培養第166日になっている。
 RLC-1:DAB(+)80日→(-)21日→(+)31日→(-)34日。胸腺の細網細胞に似たような、密集した顆粒を細胞質に持つ細胞が沢山見られ、大小不同、異型性もかなりある(なぎさに似)。増殖は緩慢。
 RLC-3:DAB(+)23日→(-)4日→(+)22日→(-)10日→(+)21日*→(-)84日→(+)2日。*3回目のDAB添加后、細胞が殆んど死滅したかのように見えたが、その后次第に細長いFibroblasticの細胞が増殖してきた。
 RLC-4:DAB(+)23日→(-)4日→(+)11日→(-)7日→(+)4日→(-)10日→(+)21日→(-)86日。細胞の形は、大小不同、異型性があり、増殖は非常に緩慢。
 RLC-5:CAB(+)80日→(-)21日→(+)31日→(-)32日*(+)2日。*RLD系よりもさらに小型の実質細胞株細胞が増殖して一面につながった細胞シートを形成した。
 DAB処理后に出てきた細胞は、上記のようにRLC-1とRLC-4とは似ているが、他のRLC-3及びRLC-5からのは、これともお互にも違っている。
 C)ラッテ胸腺株細胞内にγ-globulinが存在するか否か、細胞をすりつぶしCelluloseAcetateで電気泳動にかけたが、細胞数が足りないらしく、うまくγのbandが出ないので超遠心で19Sのピークを出すことを考え、目下準備中である。まだSalmonella typhiであらかじめchallengeしたラッテの胸腺をとって培養している。

《佐藤報告》
 (表を呈示)DAB投与ラットの経時的な培養と復元について表にまとめました。DABでこしらえた肝癌は◇C82の場合には、少なくともLD+20%牛血清培地で増殖しています。Micro像は次の班会議の節、正常肝、増殖結節肝、腺腫と共に御覧に入れる積りです。肝細胞が索状に連なって増殖して行く傾向のある事が分ります。細胞数の関係で未だ復元していませんが、近く復元して見る積りです。動物継代はoriginalの肝癌からDonryu newbornの脳内及び皮下接種をおこないました。脳内接種は13、21、31日で死亡し、31日例から又newbornへ継代しました。この場合16〜21日で前例死亡しています。細胞数との関係における毒力は、現在の所継代株をのこすのに精一杯で、行っていませんが、皮下接種に比較するとはるかに敏感の様です。又皮下では一度でまたTumorが消失する場合が認められました。又newbornとyoung ratでは矢張り前者がよい様です。
 ◇発癌実験:直接RLD10株にDABを投与する方法は目下の所続行中ですがTumorをつくったものはありません。
 前号に報告したC74株即ちDAB投与の後つくった株でラッテに対してTumorをつくらないが、形態学的にはラッテにTumorをつくるC82株に類似している細胞が増えはじめましたので、此にDABを投与して癌性を付与して見ようと考えています。
 細胞株の凍結が順調に行き始めましたから必要なもののみのこして発癌のしめくくりに全力をつくします。

《黒木報告》
 4NQO及び4HAQOの溶解法及び保存法(Exp.#287、291、292)
 4NQO及び4HAQOを使用する「発癌実験」の第一歩を漸く踏み出しました。よろしくお願い致します。4-NQO:(4-Nitroquinoline 1 oxide)癌研・高山昭三氏より分与されたもの。
4-HAQO:(4-hydroquinoline-1-oxide)予研・山田正篤氏より分与されたもの(山田三のところへは九大遠藤英也氏より来た)。いずれも、EtOHに10-2乗Mでdisolveした後、dist.waterで10-3乗Mに稀釋し、凍結保存する(滅菌はMF-HA-で濾過滅菌)。EtOHで溶けにくいときは少し加温するとよい。
 九大癌研の久米文弘氏によれば、4HAQOは37℃で極めて不安定と云う(PBS pH7.5のとき)。 そこで4NQO及び4HAQOを5x10-5乗Mにし、日立自記光電比色計にて195-700mMの範囲にわたって記録した。測定時間、0、1、3、6、24、72hrsの6段階で、保存条件は37℃。
 結果は(1)10-3乗MのStock Soln.を水で5x10-5乗Mにしたものでは、4NQO=pH5.7、4HAQO=pH4.7。(2)10-3乗MのStock Soln.をPBS(-)で5x10-5乗Mでは、4NQO、4HAQO共にpH=7.4。
 1.4NQO
 4NQOはpH5.7、7.4のいずれにおいても非常に安定である。208、251、367mMの三つにpeakがある(表と図を呈示)。
 2.4HAQO pH4.7
 4NQOと異り不安定である。しかし、pH=4.7においては比較的安定。peakは、219、256、353mMにある(表と図をを呈示)。24時間経つと可成り変化する。72hrs.后にはやや混濁、遠心后比色した。
 3.4HAQO pH7.4
 pH=7.4にすると極めて不安定になり、1時間のincubationでO.D.が354mMで17〜18%低下します。peakの位置もずれて来ます(図と表を呈示)。
 以上で明らかなことは、4NQOは安定であるが4HAQOは極めて不安定であり、pHが7.0近くのとき著しい。保存は酸性状態にしておく。使用に際しての稀釋液も酸性のものが望ましく、incubateする直前まで中性にしない。
 L-細胞のコロニー形成法について
 目下CO2-incubatorによりL-細胞のplating法の練習をしていますが、うまく行きません(Exp.#286、289)。Med.:Eagle MEM(biotin)、SER・0.2mM、PYR・1.0mM、Bovine Serum 10%、CO2 5%(CO2 1.0l/h air 19.0 l/h)。Digestion:0.005%Pronase in PBS(-)3min at 37℃。Inoc.Size:100cells/dish or bottle、single cell rate >95%。incubation:12〜14days。
 Exp.#286:NaHCO3はいずれも0.7g/l。ビン・99、92、92、86、76、74、70、68、61、28colonys。dish・64、60、54、49、48、47、41、38、35、32colonys。(いずれも培地量5ml)。colonyの大きさはビン>dish。
 Exp.#289:NaHCO3のconc.をかえてみた。NaHCO3 0.7g/lではdish 64、86。bottle 86、91、94。1.05g/lではdish 64、67。bottle 81、85、91。1.4g/lではdish 79、95。bottle 65、66、
73。いずれの場合も、dishよりbottleの方がい結果を得ています。目下、CO2-NaHCO3の関係をpH meterで調べているところです。

《土井田報告》
 細胞増殖に関する研究の予備的実験
 細胞分裂については形態的な面からはいろいろなことが判ってきているが、細胞分裂の調節機構や生化学的変化については、猶不明の点が多い。この問題は細胞増殖の問題と関連しているので、当然腫瘍細胞の増殖の機構とも関係し、大切な研究題目の一つである。最近、この面から予備的な研究をしている。
 (1)Autoradiography
 Autoradiographyのtechniqueの習得を兼ね、カバーグラス上に増殖させたL細胞のH3-
thymidineの取り込みをみた(図を呈示)。
 図は正常細胞におけるlabelled cellの割合を調べたものである。培養方法は1昼夜37℃静置状態でL細胞をカバーグラス上に培養後、0.8μc/mlのH3-thymidineで処理、その後普通のYLH液でよく洗浄(今回はcold thymidine mediumを使用しなかった)後、thymidineを含まないYLH液で培養した。各時間培養後、カバーグラス毎cellを固定し、サクラオートグラフ用乳剤に浸し15日間exposed。結果は、18hrs後を除いて常に一定の値のlabelledpercentを得た。1hrs後のものを除いてback groundは殆んどなく好結果を得た。平行的にγ線照射群でも調べたが、結果は正常の場合とかなり異なった。このことは多くの問題を含んでいるようであるので、更に研究を進めた上で報告したいと思っている。
 (2)細胞成分の分劃
 Autographyのtechniqueの習得と平行して、細胞成分の分劃も試みている。同様L細胞を用いて核蛋白分劃を取った。この分劃は260muでpeakをもっていたが、まだ定量するところ迄はいっていない(但しこの吸収は核酸と核蛋白質とがまだ結合した状態のものである)。
 RLH-3の染色体
 RLH-3の染色体については既に月報6301、6302号においてふれ、この細胞が染色体の数と形の上で、RLH-1とはかなり相異することを指摘した。その後RLH-3がLとコンタミしたのではないかという問合せが勝田先生のところに来たそうで、それについて勝田先生より私の方に電話で質問されたので解答しておきたい。
 勿もこの様は疑義が何を根拠にして起ったのか私には判らないが、推察するに、単に染色体形態が似ているという極めて単純な考えから出たにすぎないと思う。
 幸いにも、この観察に用いた標本は培養から標本作製まで、すべて勝田先生のところでなされたものであるから、私に責任がないといえばそれまでだが、一応権威のために釈明しておくのもあながち無駄でないだらう。第1に以前は兎も角、今日においてはcell contami-nationは決して起らないであらう。いい加減な研究室は知らない。私共の教室(や勝田先生のところでも恐らく)では起りようがない。第2に(私自身或る意味で細胞遺伝屋なので言いたくないのだが)染色体のもつ形態的な意義である。確かに染色体の形態には種、腫瘍などでそれぞれ特異性はある。しかし、多くの株細胞や腫瘍細胞では、そのもとの種の核型と似ても似つかぬほど変異したものもあるし、逆に私の経験からも動物、植物の間でさえ、似たものがある。現在の段階で染色体は眼でみることの出来る細胞の特徴を示す唯一のものとしての意義−だが連続的に細胞をみているときには好都合だが−以上に他の点も考慮せず染色体の意義を強調することは、あまりに無謀といわざるを得ないでろう。
 私はここで言いたいのは勝田研でRLH-3に関する限りコンタミなど起っていないだらうといいたいだけで、染色体の意義云々を強調したいのでも、それを論議しようとも思っていないのである。
 RLH-3と奥村班員と私の報告したLの核型の比較であるが、後2者の結果はどちらの観察結果も正しいと信ずる根拠が、実験結果についても又文献的考察からもあるので触れない。 染色体の形態だけで私も物が云えるという立場をとるなら、私に言えることは正常のLに比べてRLHではJ型が2本少ないという点である。
 しかし上のことは敢ていうたわけで周知のごとく、培養株細胞の染色体はモードの染色体数を中心に数に変異があるし、モードのものの間にも多少の変異があるわけで、この点だけからは結局何も言えず、もし強いて言うなら、RLH-3を勝田先生のところよりもち帰り、免疫学的その他もろもろの手段を通して同定してもらうより他はない。

《堀 報告》
 酸性フォスファターゼの分布
 β-glycerophosphateを基質とし、Gomori法によってAPaseを組織化学的に検出した場合、電顕的にはdense body、生化学的にはlysosomeとして知られているorganelleが染色されることは既に知られている。このlysosomeの代謝上の意義については色々議論されているが、その細胞内分布や種々の異った生理的条件にある細胞の観察から細胞の分泌、消化活動に参与していると考えられる。
 アゾ色素によるin vivoの発癌に関する我々の未発表dataによると、APaseは正常及び再生肝細胞においては、規則正しいperibiliaryの配列を示す多くの小顆粒として見られるが、異形性増生細胞や肝癌細胞においては全く不規則な分布を示すと共に、反応自体も明らかに弱くなる。また、最近in vitro実験のcontrolとすべく、次の5種の腹水癌;MTK- 、Yoshida、Takeda、H-96(小生が最近作ったもの)、GTD;と2種の培養株;H-99(小生が最近作ったもので、ラット復元は2度失敗)、HeLa、も染色してみた。
 その結果の概略を述べると、APase顆粒は全ての細胞に含まれているが、その細胞内分布は一様ではなく、H-99を除く他の細胞では主としてnuclear hofに散在する一方、H-99では全く不規則に細胞内に散乱している。また、HeLa以外の細胞では分裂中の細胞に(図を呈示)図の如き分布を示して存在するが、HeLaではAPase活性がない。さて、正常肝細胞を培養した場合にどうなるかというと、培養初期しか見ていないが(2週間以内)、APase顆粒の分布は全く不規則で、散乱型であり、更に分裂細胞では殆ど検出出来ない。毛細胆管えの胆汁分泌という機能がAPase顆粒のperibiliary分布を結果しているとすると、正常肝細胞をin vitroに移した場合にも、胆汁を分泌しない肝癌細胞と同様、APase顆粒の分布が散乱性になることは不思議な事ではないと考えられる。TPPase活性は主としてGolgiに検出されるのでAPaseとTPPaseを比較することは興味あることと考えられたが、残念乍ら目下の処原因不明の障害により、TPPaseを培養細胞で染色することは出来ていない。

《高井報告》
 最近1ケ月余りはどういうわけか、何をやってもうまく行かず、いささか、くさっております。以下、失敗のあらましを報告します。
 1)btk mouse embryo cells、ActinomycinS処理群のその後。
 前報で、処理群に生じたコロニーもcontrol群とよく似ていると書きましたが、よく見ると、やはり違いがある様です。即ちControl群の方の細胞は、非常にうすく広がって見えるのに対し、処理群の方はかなり細胞が暗く見え割合に境界が鮮明なものがかなり混じている様です。又、ごく短期間だけ(約2日間)、シネをとって見ましたが、処理群の方が細胞の動きも活発でmitosisも見られました。(倒立顕微鏡を他の実験にずっと使っておりますので、長期間のシネをやれませんでした。)
 そこでこれはやはり有望なのではないかと思い、何とかこのコロニーの細胞をふやしてみようと大切に扱っていましたところ、cellが少しふえてコロニーがちょっと、はがれかける傾向が見られましたので、◇4月14日:1コのコロニーをラバークリーナーではがし、pipetting→TD151本。4月20日:他のコロニーをラバークリーナーではがしてトリプシン処理→短試1本と、継代しましたが、これが失敗で殆ど細胞がガラスにつきませんでした。 現在もとのTD40に残ったわづかの細胞を、大事にふやそうと試みております。この残った細胞の中には、小紡錘形、円形の暗くみえる境界のはっきりした細胞がかなりあり、有望と考えていますが、とにかく、もっとふえてくれないことには何も出来ず弱っています。
 2)その他。
上記の如く少しは有望と思えるcellが出来て来たので、もう一度Embryo細胞を培養して同じ結果が得られるかどうかを試みる為、先日、3月8日から継代している細胞に、Actinomycinを加えたのですが、これがcontaminationで全滅し、又、ここ2回ばかりは、ニンシンしている筈のネズミが、開腹してみると全然ニンシンではなかったり、という様な具合で、一昨日やっと次のシリーズを培養しはじめたところです。

《高木報告》
 本月報で前回の実験のより詳しいdataを報告したいと思っていたが、まことに残念ながら培養がSkin、Submandibular gland共に9日目までで駄目になり、12日目には殆どnecrosisになってしまった。
 その原因はいろいろあると思うが、最大のものは混合ガスのcontrolがうまく行かなかった事にあるのではないかと思う。私の現在使っているガスボンベは6000l入りで、これに直接に普通のflowmeterがついている。これがきわめて“粗"で、私の仕事の場合、希望するbubblingを得るためには目盛の0以下の処でcontrolしなければならない。従って適当量流そうとするといつの間にか止ってしまうし、止めまいとすると強すぎてこの調子で流すと1週間もガスがもてそうにない。と云う訳で止ったり、また止ったりがつづいた事が悪かったと思う。大阪酸素に話して5日前にやっと微量ガス調整器を2万円なりで入手出来ました。これだと可成りよい様ですが、それでも目盛0の処でcontrolしなければなりません。第2にlenspaperの代りに用いた合成繊維の障子紙がtoxicであったと思う。tea bag paperとよく似ているので用いてみたが失敗であった。pancreasをこの紙の上で培養すると3日目には殆ど半分はnecrosisになってしまった。第3に日本の洗剤は意外と落ちにくい事が分った。ついあちらの洗剤と同じ様な気がしてそのつもりで洗っていたが、培養をして日が経つとteflon ringの辺り丈がalkalicになったりする事に気付いた。これはringの洗い(soapのおとし方)がやや足りなかった為かと思う。
 大体以上の3つが主な原因と考えられる。私が仕事をする上に更にもう1つの問題点は、young animalの入手困難なことである。勿論時期的なこともあるかも知れないが、先の実験以后この1ケ月全く手に入らない。業者からは全く期待出来ず、医学部の純系動物も3ケ月前からの申込みがつかえており、また日本ラッテから購入したWistar rat 4対も全く仔を生んでくれず(優遇しているつもりですが)、手の下し様がない。やっと熊本県に割によく動物を持った店をさがし出したので目下交渉中であるが、大抵の実験動物のあらゆる年齢のものは注文して2〜3時間で入手出来たあちらとは全く雲泥のちがいで、ここいらに日本のscienceのおくれる禍根もある様である。目下動物待ちと云った処で、次回は何とかdataをのせたいものです。

【勝田班月報:6506:復元成る!】
☆☆☆昭和40年5月17日午前9時30分より阪大松下講堂4階会議室に於て、この名前になってからの11回目の班会議が開かれたが、席上、岡大癌研の佐藤班員により、DABを添加したラッテ肝細胞の培養を、ラッテに復元接種したところ、腫瘍を形成した旨の報告があり、当班初の復元成功を祝うことができた。まことに記念すべき班会議であった。☆☆☆
《勝田報告》
A.発癌実験:
 “なぎさ”実験はその後も継続してやっているが、どういう訳かさっぱり変異細胞が出来なくなってしまった。もっともRLH-5に相当するのが今できかけているようであるが。なお、これまでに出来たMutantsも、ラッテにつかないという事が実に不思議なので、或はMutationによりラッテのhistocompatibility gene(R-foctor)を失って元の系のラッテにつかなくなった、という可能性も否定できないので、ウィスター系ラッテのnewbornsに数日前復元を試みた。また、これまでの復元テストでは余り長期には観察していないので、今度JAR ratsのnewbornsができ次第、それにかかる予定である。
 RLH-4をハムスターポーチに入れて少しふくれたところでまた培養に戻した系の形態をスライドで展示する。もとのRLH-4にそっくりである。これの復元も試みている。
 この他、“なぎさ”からDAB10μg/mlに移した実験があるが、これについては次回に報告する。
 復元法としては、これまで脳内接種がきわめて良いとされてきたが、吉田肉腫その他のようにestablishedの、悪性の強い腫瘍では、どんどん増殖するからそれも良いが、動物内で増殖のおそい系では、tumor cellsのふえる前に脳水腫その他でラッテが死んでしまい、反って長期観察に適さない可能性がある。伝研の山本正氏のやっておられる方法、肢の皮下から筋肉内を一旦針を通し、肩の辺の皮下に接種するという方法は、さした細胞が漏れないので非常に良い。これからはこれと腹腔内とを常用してみたいと思っている。
B.ラッテ胸腺細胞の培養:
 変なことから免疫の領域に引きずり込まれてしまったが、胸腺細胞の実験はさらに第2、第3と計画し、且進行させている。昨日の培養学会ではあまりはっきり云わなかったが、RESの細胞はみんな抗体を作る能力を持っている可能性がある。しかしとにかく増殖がおそいので、気を永くしないといけないので困る。最後にはin vitroでの抗体産生まで持って行くつもりであるが、それには細網細胞だけでなく、他の細胞、たとえばmacrophage、histiocyteのようなものの存在が必要と思われる。つまり、後者が菌なり何なり抗原をphagocytoseして、それに対応するmessageを細網細胞その他、抗体産生をおこなう細胞に伝えるのではないか、と思われる。しかし抗体を作るようになるのだから、どんな風にその為にDNAに変化が起るのか、大変面白いところと思っている。

 :質疑応答:
[高井]免疫してからTC迄どの位の日数ですか。
[高岡]2週でtitreを測って、すぐ殺し、培養します。titreの上がったところで使う訳です。
[奥村]なぎさ細胞を、thymusを除いたラッテに接種したことがありますか。
[勝田]まだありません。今準備しているのは、各種の動物細胞に対する抗血清を作って、RLHの細胞とgel-diffusionで免疫学的な関係をしらべてみようということです。案外牛なんかに合うのかも知れませんし・・・。
[佐藤]うちに来ているRLH-1はラッテnewborn脳内で4日位迄は塊を作っています。だから早い時期に次々継代すると良いかも知れません。墨汁と一緒に入れるとmeningenにたまっています。脳水腫ができるということ自体も怪しいことだと思います。
[勝田]meningenに居るといっても、生きているのですか。
[佐藤]核分裂が見付かっているから大丈夫でしょう。
[勝田]君が後でやる報告でも判るように、とにかくもっと長期観察をやらなくてはだめだということが判りました。今までは早くあきらめすぎた。
[奥村]半年は見るべきでしょう。
[高岡]腹腔に入れると、RLHの方は見えなくなってしまっても、いつ迄も反応細胞が消えませんから、やっぱりどこかに生きているのですね。
[黒木]Minimum deviation hepatomaでは7ケ月植継ぎ、というのもあります。ラッテはBuffaloなども使ってみると良いのではありませんか。
[佐藤]肝癌のstrainになっているのでも長いこと増えないで居ることがあります。
[土井田]ハムスターポーチに入れて、またTCに戻した細胞が元の細胞と同じということはどうやって・・・。
[勝田]染色体でみるつもりですが、とにかくラッテにtakeされてからの問題です。
[高木]何%位の割でハムスターにつくのですか。Cortisoneは?
[高岡]Cortisoneを使わなくても必らずつきます。使わないと後になって縮むかも知れませんが、化膿しやすいので・・・。その代りすぐ摘出したのです。
[黒木]ハムスターポーチはすごく汚染しやすいので、コーチゾンと抗生物質をやはり入れた方が良いでしょう。あれはヌカミソをかきまわすような匂がしますね。
[佐藤]RLH-1から-4の内で、rat脳に入れて一番残るのをえらんで、色々接種法のテストに使ったら良いのではないですか。他のが駄目ならRLH-1をえらぶとか・・・。
[高岡]いいえ、RLH-4がいちばん有望そうなのです。
[奥村]RLH-4をcloningしてみましょうか。
[勝田]やってもらいましょう。

《佐藤報告》
◇発癌
 1965年2月20日、RLD-10株に3'-methyl-DABを投与しつづけた細胞(RLD-10[10μg-20μg])をDonryu系ラット新生児脳内に2例(1匹当り36万個cells)腹腔内(1匹当り253万個cells)に復元した。(表を呈示)
 I.C.の内、1例は34日に脳内水腫をおこして死亡した。肉眼的に脳内Tumorは発見されなかったが念のため、生後11日ラットの皮下及び腹腔内に全脳を乳剤として注入した。このラットは目下40日観察中であるが変化はない。
 I.C.の内、1例1.2は48日後動物が左に頚をかたむけて廻る様になったが、残念ながら他の動物に喰われて死亡した。
 I.P.の1例、1.3は69日目著明な腹水を生じた。腹水塗抹標本で肝癌の島らしきもの及びpapillaryのTumor或はその移行型らしきものを認めた。この腹水は直ちにI.P.3例、I.C.3例に接種継代した。70日目、無菌的に解剖し腹水を再培養し、開腹所見で大網部に3x1x1cmのTumor、及び腹膜全面に癌性炎が起こっていた。(後に顕微鏡的にも確認)一般の腹水肝癌と異なり腹脂肪織後膜の腫瘍浸潤は殆んど認められなかった。
本例の継代動物の中、5-1日ascitesを生後26日ラットに注入したものの例は13日後、腹腔穿刺で細胞島(核分裂細胞が散見する)を発見した。
 以上、継代可能な腹水癌を培養肝細胞から3'-methyl-DAB投与によって作り得たと考えるが尚多くの確認が必要であり、再現性等について既に実験を開始した。現在までのデータの内この腹水肝癌が培養細胞からのものであると考えられる点は以下の通りである。
(1)現在当研究室で維持している腹水肝癌AH13、66、7974は全く異なっている。
(2)再培養(腹水)細胞は形態学的にRL株に類似しており、継代が容易である。(この点は培養歴を有する細胞の特性)且つ腹水中細胞の多様性が再培養においても認められ発癌細胞の多様性を暗示している。
(3)原発動物の肝臓は正常であって復元に際して入り得る3'-methyl-DABによる発癌は否定し得る。
(4)脳内接種細胞の場合は明瞭でないが明かに変化が見られる。
(5)RLDcontrol株及びこの株からの3'-methyl-DAB投与亜株については復元を精査しなければならないが目下の所では発癌していない。
(6)再培養株の染色体数パターンはRLDcontrol株とよく似ている。
 (表を呈示)表3は腹水癌を発生した細胞の歴史である。RLD-10control株より77代で分離し78代より3'-methyl-DABを10μg/mlに投与した。87代から88代までの間に(4回)20μg/mlを投与して後、動物に復元した。精確な事は未だわからないがDABを常に培地中に含むことが必要なのではならろうか。説明の足らない点は討論で補いたい。

 :質疑応答:
[勝田]少し補足ですが、培地にDABを入れて培養したあと、DABの定量をしてみると正常肝その他だとDABが消費されるが、DAB肝癌だとDABが消費されないで培地中に残っている、という訳です。この君の細胞ではDAB消費能はどうでしたっけ・・・。
[佐藤]消費が少なくなっているのです。培養後の培地中のDABをしらべますと、一般に正常ラッテ肝では消費能は(+++)、正常ラッテ心は(+)、正常マウス肝は(-)、ラッテ肝癌(DABによるもの)(-)です。はじめ消費が(+++)に相当したのをDABを与えながら継代している内に(+半)位になったのを復元したらついて、(++半)位のはつかないのですから、継代して消費の少くなったものを打ったらついた、といえます。考え方として1)DABの効果の蓄積が、細胞が分裂するとなくなってしまうのではないか、2)DAB高濃度という環境で癌細胞をselectできるのではないか、ということが考えられます。対照は今もってつかない。
[勝田]私は累積の方を考えていたが、DAB消費の点をみると、Miller & Miller(Cancer Res.,7:468-480,1947)のdeletion theoryを裏書きするような感じですね。細胞のDABに対するdose response curveをとって比較する必要がありますね。
[黒木]AH-108Aという肝癌は切片にすると中が中空になっていて、胆管上皮癌だと云われていますが、さっきのスライドにもそれに似たところがありましたね。
[勝田]腹水の中でmitosisがありますか。
[佐藤]あります。腹水中の細胞は300万個位で少いですが。
[勝田]あのスライドの顆粒のある細胞は“なぎさ”の5番目に当るMutant(?)に似ていますね。
[永井]DAB肝癌に限ってDABの消費がないわけですね。
[佐藤]他の肝癌についてはしらべてありませんが、RLH-1では消費があります。それから復元法の問題ですが、Newbornでは、脳内はtakeの時期は早いがtumorの増殖は案外低く、皮下はtakeの時期は遅くつく率が低く、腹腔はtakeの時期は遅いがtumorの増殖は案外良い?といった傾向が見られ、腹腔内接種が案外良いのではないか、と思われます。
[勝田]私もこのごろそう感じています。脳内ではtumorができない内に死んでしまう可能性があります。最近は山本正氏の方法も採用しています。それから、今の内にRLD-10とRLN-10とを復元してみておく必要がありますね。何と云っても培養期間が長かったのですから。
[佐藤]Ratに接種した場合、核の大小不同の多いことが目立ちました。それと、メチルDABで作ったのに、DABの消費能が半減しているのですね。
[高岡]3'methyl DABで作用したのにDABの吸収が減るのですか。面白いですね。
[佐藤]やはりそういうことらしいです。
[勝田]結局これで判ったことは、1)in vitroで肝癌を作り得ること、2)アゾ色素を大量に与える必要のあること、3)与え方になお考慮の余地のあること、4)復元接種した後かなり長期間観察する必要がある、などですね。
[奥村]期間が永すぎると思います。染色体への働きかけがDAB添加によって起るとするなら、もっと早い時期について良いと思います。
[黒木]細胞にはずい分混り物があるようですが、DABによるin vitroの発癌としてはこれが初めてですね。
[佐藤]Cloningをしようと思っています。
[高岡]RLD-10は染色体数が偏ってから形態が変ったのですか。
[佐藤]10μgDABのlineでは、RLD-10(DAB1gx4)に比べて顆粒が多い。形態上の変化はやはりありました。
[黒木]10μgでは増殖するのですか。
[佐藤]10μgでは死ぬことはなく、増えてきます。
[勝田]Primary cultureだと、10μgではいかれてしまうが、株化すると段々強くなります。
[高岡]株にも感受性が色々あって、10μgでもいかれてしまう株もあります。
[勝田]うちでもDABの高濃度のをやっていますが、うちの場合は一種のなぎさ式に、ショックを与えるためにやっているので少し意味がちがいますが・・・。
[高木]高濃度で半死半生ということに関してですが、TC内でも生体内に近いように、ふえない状態で発癌剤を入れた方が良いのではありませんか。もっとも10μgDABで増えない状態にするというのも、その一つの方法かとも思いますが。
[高井]DAB添加前の遊びの時期が必要なのかどうか・・・。
[佐藤]今の方法を改良してprimaryで何とか2ケ月で発癌できるようにしたいと思っています。
[土井田]こんどの株はDAB無しの期間はどの位ですか。
[佐藤]全部で3年で、10μgを時々やり出してから2ケ月です。この他にラッテにDABを食わせて、その発癌前の肝を時々とってTCに入れ、それにDABを入れてみていますが、まだうまく出来ません。何をcheckすべきかが問題で、今のままではDABの濃度の総計しか判りません。
[奥村]Cloningするにしても、時期的に色々のが必要ですから、色々のを凍結しておく必要があります。DAB-proteinの免疫血清がとれないでしょうか。
[勝田]もしdeletionならば、結合すべき蛋白はなくなってしまっているのだから、そんなものを作っても余り意味がないでしょう。
[黒木]Millerの説を、もう一度よく見ておく必要があります。H3-DABは、できていますか。
[勝田]C14-DABなら癌センター病理の馬場君が作って使っていました。
[佐藤]生物学的な方向で一応primaryの方へ行けたら、あとはisotopeで細胞の方へ進まなければならないと思います。
[奥村]ProteinやDNAというと、1,000万個以上の細胞が要るので、細胞レベルの方へ持って行けば話ができるようになるでしょう。
[黒木]Ratのcultureのspontaneous malignant-transformationの報告はありますか。
[勝田]非常に少いが、大分昔にGeyのところでfibroblastsのが報告されています。
[黒木]Goldblattらのは?
[勝田]あれはNを使っています。そして不思議なことに誰も追試していない(できない?)。
[永井]H3-DABのことですが、トリチウム化したあとの精製が問題ですね。
[奥村]話がちがいますが、細胞の保存の状態はどうですか。
[佐藤]3ケ月位前からのは一生懸命保存しています。
[奥村]前からのがあればchromosome levelでも見られます。
[佐藤]今後はいちばん見付け易いマーカーとして、核型、組織化学などをしらべて行きたいと思っています。
[勝田]細胞質のbasophiliaとか、細胞の大きさなど特徴的ですか。
[佐藤]期待していたほど差がないようですが、色々のが混っています。
[奥村]復元動物からの再培養細胞の染色体、核型と、対照のと比較してみたらどうでしょう。それからtumorの初期で染色体数をしらべると、大体どの辺のものがtumorとしてついて行くか判るでしょう。
[佐藤]動物体内のselectionは染色体にあまり関係がないのではないでしょうか。以前、はじめ三つの個体に分けてうったら、夫々別の染色体数になったことがあります。

《高井報告》
 現在、Actinomycinをかけて、維持、観察をつづけているbtk mouse embryo cellsの系列は次の通りです。Kはcontrol群、AcはActinomycin処理群です。
 bEIは'64-10-2培養開始、Kは現在第7代。Acは第3代、'64-10-3〜11-30までAc(0.01μg/ml)、その後Ac(-)とす、'65-1月下旬コロニー2コ発見、'65-4-14及び4-20の2回に継代を試み失敗、目下残った細胞を大事に育てています。
 bEIIIは'65-4-23培養開始、Kは現在初代。Acは4-30よりAc入りのmedium。
 bEIVは'65-4-30培養開始、Kは現在第3代。Acは現在第2代、5-4からAc(+)。
これまで、月報で経過を報告して来たのは、bEI.Acに相当します。
 1)bEI.Acのその後の経過:(顕微鏡写真6枚展示)
写真1)は上記の継代失敗後に残ったコロニーの一部で、かなり、つぶれた細胞も多く見られます。真中のひろがった細胞質をもった細胞はcontrol群の細胞によく似ています。
写真2)は同じコロニーの別の場所ですが、ここでは割合に小型の境界明瞭な細胞と、円形の細胞が集っております。この小型紡錘形の細胞が有望ではないかと前報に報告したわけです。
ところで、私はim vovoでActinomycinによって作られたActinomycin sarcomeからのstrain、JTC-14をもっているのですが、in vitroでActinomycinを作用させて生ずるであろうmalignant cellは、おそらくJTC-14に似ているであろうと考えてもよかろうと思います。
そこで、写真2)の細胞と比較するため、同じ倍率で、撮影したのが写真3)であります。AS.T-d26-T125というのは、JTC-14の亜株で途中ddO mouseに接種して、再びin vitroに戻したもので、現在なお腫瘍性を保持しています。写真2)、3)を比較すると、細胞の大きさは割合似ていますが、写真2)の方は核が小さいことが目立ち、写真3)の細胞を一応の目標と考えた場合、まだmalignancyを獲得したとは思い難い様です。この小さい細胞が増殖しないかと期待しつつ、大事にしていたのですが、その後の約2週間で、小紡錘形の細胞は、漸次丸くなって崩壊してしまい、写真4)、5)の如き状態になってしまいました。倍率がちがうので比較しにくいのですが、写真5)の半島状に突出した部分の中央部附近が、写真2)の場所に相当します。写真6)はcontrol群の方ですが、第7代への継代の時に細胞数が少なかった為か、こんな妙な形のcellになっています。
 2)bEIII及びIVについて:
 今の所、まだ著明な変化はありませんが、bEI.AC.で得られた様なtransformed cells(?)のコロニーをもっと多数に得たいと思い、多くの瓶を用いて、経過を見て行くつもりです。

 :質疑応答:
[勝田]使う細胞材料をもう少しきれいにしたいですね。全胎児でなく、もっとselectして・・・。
[高井]Newbornの皮下組織はピンセットで取れるようになったのですが、トリプシン消化してもうまく効きません。
[奥村]トリプシンをかけずにそのままでも生えてきますよ。必要なら培養して7日の班会議のとき持って帰れるようにしましょうか。(スライド展示)
[勝田]Mouse embryoのときは、spontaneous transformationがあるから、transformさせる前の期間をできるだけ短くする必要があります。transformを確認してからは長くかかってもかまわないですが。それから、Roller tube cultureでやったらどうですか。Newbornを使うのも良いし。embryoならlungを使ってfibroblastsを出させる手もあるでしょう。
[奥村]Newbornは3日位になるともうトリプシンが効きません。
[土井田]細胞のでてきたところが奥村氏のスライドのようでなく混った感じですね。

《高木報告》
 これまでの月報と重複する様になるが、まとめてここに記載する
Organ cultureによる発癌実験として
 rat skin→4NQO
 rat、hamsterのskin→DMBA
 rat、hamsterのSubmandibular gland→DMBA
を計画し、目下preliminary experimentにとりかかっている。まずこれらの組織を一定期間(出来れば4週間以上)in vitroで維持する事が問題である。そのため
1.培地条件は
 基礎培地としてLHがよいか或いはmodified Eagleがよいか
 血清の種類及び濃度はどれ位がよいか
 更にCEEを加えたがよいかどうか
2.培養条件は
 solid mediaの上に培養したがよいか、或いはliquid mediaを用いてそれに接して培養した方がよいか
という点について検討中である。勿論通気gasの組成、incubationの温度なども考慮されねばならぬが、現在の処、これはconstantとして実験をすすめている。これまでmodified Eagle+10%CEE+10%BSで行った実験では、通気の不充分だった事、また用いたpaperがtoxicであった事、から10日前後しかyoung ratのskin及びsubmandibular glandを培養する事が出来なかった。
通気が持続的に出来るapparatusを購入したので目下再検討中である。
これまでの文献でもfoetal animalのskinを1〜2ケ月またはそれ以上in vitroで維持しているので、young animalを使えば培養条件により3〜4週間維持する事は可能であろうと思う。
10日間培養したyoung rat skinの培養組織のslideを供覧する。
なおpancreasの仕事は目下β細胞と共にα細胞についても検討中である。α細胞については未だ定義の明らかにされていない点もあり、銀染色、chromium Hematoxylin Phloxine染色及びAnti glucagon serumを用いた蛍光抗体法により仕事を進めている。

 :質疑応答:
[勝田]Organ cultureのとき紙が悪かったそうですが、millipore filterを使ったら如何。
[高木]レンズペーパーがあれば良いのですが、仲々良いのがありません。Acetate paperはpHがアルカリになるし、tea bagはあみ目が均一でありません。
[勝田]寒天を使うと、その中の薬剤濃度が培養と共に不均一になるし、調節が効かないから液体培地の方が良いですね。
[難波]1cm位の間隔で寒天に溝を切って流すのはどうでしょう。
[高木]Agarの上にcell sheetを作るうまい方法はありませんか。
[佐藤]Agarの上ではsheetを作らないでColony状になってしまいます。岡山の村上教授がHeLaの塊を作らせています。
[黒木]吉田肉腫は、Agarを下が1%、上が0.5%の間にサンドイッチして培養しています。
[佐藤]生体の中で増えも減りもしないというのは抑制が働いて保っているのだが、この場合はふえも減りもしなくても、むしろ死んで行く傾向にあるのではないでしょうか。
[勝田]生体でも皮膚は増殖しているのだから、全然増殖しないのはむしろ不自然でしょう。問題はこのような培養で休止核に作用してくれるかです。DABでは肝に作用して増殖誘導しましたが。
[高木]Lasnitzkiはorgan cultureで変異を起すことを報告していますが、それから先、それが癌化しているところを掴まえたいのですが。

《黒木報告》
1.4NQO、4HAQOのL細胞への影響:
 4NQO、4HAQOが核内に封入体を形成させる至適濃度は久米らによれば、4NQOは1.5x10-5乗M、4HAQOは7x10-5乗Mとされています(chang liver、L等)。両者の差はStabilityの差にもとずくと考えられています。しかし、封入体を形成した細胞は死ぬらしいので、毒性のテストは別に行う必要があると考え、L細胞のPlating eff.へのeffectをみてみました。
 培地:Eagl MEM with 1.0mg/l of biotine,1.0mM・Pyruvate,0.2mM・Serine and 10% of B.S.
 培養方法:小型角ビンに5.0mlの培地、ゴム栓する。
培地を4.5ml加え、そこに0.5mlに100ケのcellが含むように稀釋された細胞浮遊液、次いで直ちに0.1mlのtest materialを加える。12日間incubationする。
4NQOはEagle MEM pH7.2、4HAQOはNaHCO3 free Eagle MEM pH4.2で稀釋。
結果は表に示した(表を展示)。B.S.のLotのためかP.E.は50%と非常に悪い。
 4NQOで10-8乗M,4HAQOで10-6.5乗M前後がP.E.50(50%plating efficiency)となりそうです。現在、half logで稀釋した液を用い、さらに実験を行っています。
colonyの細胞の形態は、特別なことはなく、もちろん封入体もみられません。
L細胞の他に2、3の細胞によりP.E.50をcheckする予定です。
2.Rat胎児肺組織の培養:
 4NQO、4HAQOを作用させる細胞としてはドンリュウラットの胎児肺組織由来の繊維芽細胞を考えています。その理由は月報6412p18にありますがもう一度その大要を記します。
(1)現在までin vitroでmalig.transformしたのはEvansらのC3H mouse liverを除いて全てfibroblastであること、fibroblastの方が変化し易いと考えられる。
(2)Embryoからdiploid cellがmaintainしやすいだろう。
(3)Ratはdiploidのままでmaintainされることが多いらしい。
(4)4NQO、4HAQOでRatに肺癌が出来る。
(5)4NQO→4HAQOの作用はドンリュウラットでは肝及び肺にもっとも著明に認められる。
(6)入手の容易さ(Ratの)
 ドンリュウラットが1匹漸く妊娠しましたので、4月22日第一回の培養を行いました。このExp.は細胞の分離法、形態、維持等の予備実験のため4NQOは作用させません。
1.妊娠後期のRat→帝王切開→胎児
2.胎児から無菌的に肺(右三葉左一葉)を剔出する(これはやさしい)
3.一匹一匹の肺を別にdishにとる(以下すべて一匹一匹を別にする)
4.ハサミ又はかみそりで細切
5.次のgroupに分ける
(i)細切した細胞をそのまま培地中に加え培養→REL-101
 (ii)型の如く組織片を管壁にはりつけ培養→REL-102
 (iii)0.1%pronasePBSで消化30min. at 37℃→REL-103、-104
 (iv)0.1%pronase 0.25%pancreatine 0.1%methylcellulose in PBS(-)でdigestion→REL-105、-106
 (iii)(iv)はstirringしたものとしないものの両者による。
結局次の如し、Rat Embryonal Lung
REL-101:細切したfragmentをそのまま→継代
REL-102:fragmentをはりつける→継代せず
REL-103:0.1%pronase・stirring→継代
REL-104:0.1%pronase・stirring→継代せず
REL-105:処方(iv) stirring→継代
REL-106:処方(iv) stirring(-)→継代せず
Cf) 各groupはそれぞれ一匹の胎児由来、それぞれ1〜3本の角ビン(5ml)又はdish(6cm)
 細胞のロ過は1/3の注射針による
 Cell countを厳密に行うことは出来なかったが大体50万個cells/ml
 培地:Autoclaved EagleMEM(biotine)、1.0mM pyruvate、0.2mM Serine、20%B.S.、重曹0.7g/l
 形態及び増殖
REL-103〜106は2日後ほぼfull sheetとなる。REL-103がもっとも良好。
Explant OutgrowthはREL-101>REL-102である。
☆細胞はfibroblastic、ところどころにepithelialの構造あり。fibroblastic cellはmultilayerのようである。「流れ」を作る。
それらの中に死んだ細胞らしいものがmix(光線を強く屈折する)。
二代目よりepithelialのcellは見あたらず殆んどfibroblast、二核、多核も僅かにみられる。
運動性は良好らしい(偽足と「足あと」がある)。密集すると配列にOrientationがある。
☆Explant outgrowthのときの形態
 前述のようにREL-101の方がGrowthはよい。これは壁につくcell fragmentの数が-102より多く、又極めて小さいのまでくっつくためと思はれます。
REL-101は10日後transfer。
primaryのうち、dishにinoc.したものは染色してみました。fragmentからoutgrowthする細胞の形はfragmentにより異なります。(1)fibroblastic cellがBHK-21のcolonyの様にでる。(2)epithelial cellがsheet状に出る。
この二種類である。(2)の方が多くみられます。これは恐らく、切り出した部分に由来するものと思はれます。
しかしこれらをtransferすると、REL-103と同様のfibroblasticになります。
継代
継代に従いGrowthは落ちるようです。Growth Curveをはっきりととっていないのでよく分りませんが、50〜70%のinitial fallののち4日で2倍程度が精々のようです。
細胞の剥離には0.1、0.05、0.01、0.005%のpronase(PBS-)を用いてみましたが、0.05%がoptimal。必要な細胞数は10〜20万個/ml。継代の鍵はpronase消化と細胞数にあるようです。
 死細胞について
full sheetあるいはそれ以前においても死細胞が目立ちます(生の標本及び染色後)。これらは娘細胞の片方だけの分裂と関係あるのか、あるいは培養条件が悪いことに由来するかは分りません。

 :質疑応答:
[勝田]吉田肉腫の50代以後の染色体数は?
[黒木]70本台から95〜102本へ移りました。ピークが98本で、これは動物へ戻してもそのままです。
[勝田]心組織を培養するとどうも上皮様みたいな細胞が残り、肺だとfibroblasticのが残りやすいですね。ただ生後のlungは雑菌が入るのでね。
[高岡]Newboarn lungでもできますよ。カビが生えますがつまんで捨てれば良いです。
[佐藤]4NQOの作用は?
[黒木]Lung、皮下のsarcomaなどです。4NQOから4HAQOになるときのEnzymeが肺、肝に多いのです。どこに4NQOを与えても肺に腫瘍のできることがあります(Gann、杉村氏)。
(炭酸ガスフランキ用シャーレについての提案あり)

《奥村報告》
Autoradiographyによる培養細胞へのホルモンとりこみ実験:
 ステロイド(Progesterone、Estradiol)ホルモンによってウサギ子宮内膜細胞の増殖が促進される事実をもとにし、ホルモンの細胞に対する作用機序をしらべるためにH3-progesterone、H3-estradiolを培地に加え、細胞内へのとり込みをしらべる実験を行った。残念ながら、現在まで満足な結果を得ていない。
 Exp.1. HeLa、JTC-4、HmLu、ウサギ子宮内膜細胞を培養し、24〜48hrs.後にH3-progesterone 0.05μc/0.1μg/ml、H3-estradiol 0.02μc/0.01μg/ml、のdoseを添加、24hrs.、37℃でincubate、その後coldのhormoneをそれぞれ5又は10倍量加えて、10、20、30、60、180、240min.の各条件で、余分のH3ラベルのhormoneを除き、次の2つの方法でオートラジオグラムを作製した。
 方法1. PBSで3回洗い→carnoy液で固定20min.→洗い→coldPCA(2%)で3min.処理→水洗→乾燥→乳剤
 方法2. PBSで3回洗い→formalin液で固定overnight→洗い→乾燥→乳剤
以上のような方法で作った場合、方法1では細胞内にみられるgrainが極めて少く細胞の種類による差はみられない。方法2ではいづれの細胞にもgrainが多くあり、細胞内のlocalizationは判然としない。又細胞周辺部にも一面にgrainがでてくる。問題はhormoneが細胞内にそのままpoolされるとすると、標本作製中に細胞外に流れ出てくるので、その場合いかに細胞内のhormoneを固定するか、という点をさらに検討しなければならない。(現在進行中)
ウサギ子宮内膜細胞の継代培養:
 現在まで24回にわたり内膜細胞の継代培養を試みた(#1〜#24)。そのうち19回はsubcultureも出来ずに絶えた。残り5回のうち2回は(#16、18)3代目(通算培養日数 #16:43日、#18:62日)で絶えた。#23の実験群が6代目(通算49日)まで継代され現在に至る。増殖は1週間に約1.5〜2.5倍。培地は#1〜#10:199+CS20%+0.01μg/mlEstradiol(E).#11〜#20:199+CS20%+0.1μg/mlProgeste.(P).#21〜#24:199+CS20%+E+P。

 :質疑応答:
[勝田]Hormoneがcell内のどこに入るのかを知りたいのなら、むしろ細胞を生化学的に分劃した方がよいのではないかしら。
[奥村]細胞質にも核にも入っているようだが、localizationまでは未だ云えません。
[高木]Progesterone+Estradiolが一番よく株になるのですか。
[奥村]入れないのとでは大分ちがいます。やはりhormone-dependentであることは確かです。
[高木]Insulinは肝には良いが、この場合も入れてみたらどうでしょう。関係ないですか?
[永井]判りません。
[高岡]Subcultureしないと長期培養に良いことが多いです。
[勝田]Intercellular materialsの問題ですね。継代の他に、初代でホルモンを大量にやって、そのeffectsを見る手もありますね。
[高木]Intercellular materialsとは何ですか?
[勝田]何かよく判らないがRNAも入っているらしい。Bhargavaなどがラッテ肝をスライスでしらべた時と細胞をバラバラにしてみたときと、代謝がぐんと違っていると報告しています。だからもう一つの培養法としてaggregate cultureを試みるのも一法ですね。
[土井田]Autographyのとき、一旦乾燥させてからdippingしたら如何です。
[奥村]Dippingによってホルモンが外に出るのかも知れませんね。
[永井]Uterusの代謝が特異的なことは、lipid代謝の面からも明らかです。

《土井田報告》
細胞分裂に関する研究:
 前月報に記したごとくH3-TdRを用いてDNA合成を調べているが、L細胞に10,000Rのγ線を照射した場合に得られた結果について予報的に報告する。
1.H3-TdRで1hr.処理した後、直ちに固定。2.H3-TdRで1hr.処理した後、YLHで2回洗い、更に9hrs.incubateした後、固定した。
 結果は(図示)、10hrs.後固定した群で、ラベルされた細胞の%は高くなった。control群で同様処理した時に得られた結果では、H3-TdRに1時間expose後、直ちに固定した群で得られた、ラベルされた細胞の%との間に差がなかったことから、H3-TdR処理後の洗い方が悪かったために生じた差でなく、DNA合成機構の上に障害が起こったため、1hr.区と10hrs.区で差が生じたものと思われる。この点について現在改めて研究している。
in vitroでの細胞培養:
 発癌実験について、昨年度は勝田先生との間で見解を異にしたことから、NH系マウスの腎細胞についての研究は一時やめてしまったが、今回改めて、放射線との関係において研究することを目的にマウスの臓器細胞の培養を始めた。我々の動物室は手狭なので思うように材料が得られないので、先づ利用出来るものをという考えで実験を始めた。
 「研究の目的」X線発見当時からX線の投与により皮膚癌の出来ることが報告されたが、この点に着目し、軟X線を用いて皮膚の細胞に変異を誘発させ、細胞遺伝学的考察をも併行的に行ない、皮膚発癌の誘導を試みる。
 「経過」C57BLxC3HのF1から臓器細胞をとり出し、YLH80+calf serum20の培地で細胞を育てている。細胞は組織片をメスで切り刻み、小角瓶のガラス面に塗布した。
 現在までのシーリーズは次の通り
 1)生後2日目の上記F1マウスの♀、♂各1頭づつから、腎臓と肝臓をとりだし、培養している。培養開始は5月4日。
 2)1)と同腹の♀、♂各1頭のマウスの腎臓を肝臓をとりだし細切後、培養している。培養開始は生後6日目で5月8日。
 「細胞培養の経過」1)2)共、肝臓細胞はepithelioid細胞がみられ、腎臓細胞を用いた群からはfibroblast状の細胞が生えてきている。
 3)胎生後期の胎児を母体より取り出し、皮膚を中心に培養している。各個体と培養臓器は次の如くである。
 (i)皮膚、(ii)皮膚、(iii)皮膚、肝臓、腎臓、四肢、(iv)皮膚、肝臓、腎臓、培養開始は5月13日
(iii)番目の個体の四肢というのは、四本の肢丸ごとメスで細切したものであるから、その中には皮膚も筋肉、骨、骨髄などが含まれており、培養されたものである。この四個体については性別は不明である。
培地は2日乃至3日毎に更新している。

 :質疑応答:
[高木]Xrayの作用はepidermal cellsとfibroblastsとでどうでしょう。
[佐藤]Xrayによる発癌は上皮が多いですね。fibroblastsなら肉腫になるわけで、癌を狙うのならeithelだけとり出すことを考えなくてはならんでしょう。
[高木]Epidermal cellsだけのTCをGeyのところでやっていますが、旨く行かないらしい。Epidermal cellsとStromaとの間の作用をしらべたらどうでしょう。自分の場合はmixed populationですが、3代目にはfibroblastsがdominantになります。
[奥村]Subcultureのとき、トリプシンでepidermal cellsがすごくやられるのではないでしょうか。
[土井田]基底膜のところの構造は?
[佐藤](図示して)この通りです。
[高木]Agingのことを云って居られましたが、in vivoのagingをそのままin vitroにあてはめることはできないでしょう。胎児のある日数の細胞をとってきて、何日TCしたからそれに相応する胎児の日数のcellsになったとは云えないでしょう。
[奥村]Agingは 1)cell levelでのagingと、2) populationとしてのagingと、二つに分けて考えられますね。
[勝田]Cell levelでのagingの一つの解釈として、DNAのagingということを考えたい。いつかやってみたいと思っているのですが、親細胞のDNAは、もしcrossing overのようなことがDNA levelで起らなければ、いつまでも各single strandはdaughter cellsの中に、2本は元のが混っている筈です。しかしこれが再びDNAをduplicateする能力が永久につづくとは考えられない。むしろ、何回かtemplateとし使われると、すりきれてくるのではないか。これをDNAstrandのagingと考えたい。
[奥村]染色体上でlethalな変化の蓄積としても考えられる。
[土井田]agingとX-rayとの関係も考えられ、追究したい。
[奥村]それはむづかしいのではないか。SV40をかけてH3TdRのとり込み方の変化をみている仕事があるが、一番早いとり込みが、#8〜12の染色体にみられたのに、SV40をかけると#16〜18に変っている。こんなことをX-rayでやってみては如何ですか。
[勝田]先の仕事で、何故照射直後からしらべはじめなかったのですか。
[土井田]Giant cellになるのが判らなかったものですから。しかし20〜24hrs.ではgiant cellとそうでないのと区別がつきにくいので、両方mixしてしらべています。
[奥村]X-reyでは5〜7日でgiant cellsができてきますね。3日位で何とか判ります。
[黒木]Agingのことですが無菌動物ではCell cycle(G1、S、G2、M)が倍位になっているそうです。in vitroでの分裂の早さをagingと結付けて考えると面白いですね。
[勝田]KampfochmidtのEinwandに対し、Toxohormoneの一派が宮川さんに頼んで無菌動物を使って発癌させ、腫瘍系を作ろうとしています。
[土井田]無菌動物でもX-rayで、反ってよく癌ができるそうです。

《堀 報告》
G6PaseとPhosphorylase:
 今月は健康を害したり、外国からのお客があったりして、仲々仕事がはかどりませんでしたが、僅かばかりの結果を要約しますと:
G6Paseは肝組織において肝実質細胞のみに存在する酵素ですから、この酵素の消長を培養肝細胞について調べることは意味のあることだと思います。培養開始後約1週間のprimary cultureを材料とし、しかもepithelialなoutgrowthを示すもののみを対照としました。固定方法は、無固定;フォルマリンーカルシウム;フォルマリンー蔗糖;グルタルアルデヒト;etc、多くのもので0℃ 1min〜3minの固定、染色は固定材料を水、又は蔗糖液で洗滌後、30℃、60min、次の液(0.1%G6P 4ml+0.2MTris buffer、pH6.7 4ml+H2O 1.4ml+2%Pb(NO3)2 0.6ml)でincubate後、水洗、薄い黄色硫化アンモニウム液で発色、通常通り、tetrachlorethyleneに溶いた合成樹脂に封入観察しました。普通の氷結切片ではこの方法で極めて強い反応が肝細胞に現れるのですが、どうしたことか、固定、incubationの条件を色々変えてもなんとしても染ってくれないので全く困って居ります。時々出現する大型の球型細胞には反応がありますが、sheet状にきれいに伸びているものには反応がないのです。
 PhosphrylaseはG6Pよりも多くの組織に存在しますが、肝では実質細胞にのみ強く現れます。方法は、小生が1964、1965、Stain technolに発表しましたものを使いました。incubating mediumはI2法では[GIP(50mg/ml)0.2ml;AMP(5mg/ml)0.1ml;EDTA(37mg/ml)1.0ml;0.2M Acetate buffer、pH6.0、2.0ml;H2O to make 5ml]、Pb法では[GIP(同じく)0.1ml;NaF(8mg/ml)0.5ml;acetate buffer、2.0ml;H2O 2.1ml;2%Pb(NO3)2 0.3ml]。G6Paseと同じ様にこの酵素も又何としても染らないのです。方法的には全て手を尽くたので、結局、培養1週間の肝細胞には、これらの酵素が極めて低い活性を示すか、或は失われてしまっているのではないかと結論せざるをえません。これに関し、Weilerのtissue specific antigenがニワトリで培養初期に失われるという報告は興味があります。

【勝田班月報・6507】
《勝田報告》
 [なぎさ+DAB]の発癌実験:
 RLH-1〜4のNagisa mutantsの復元テストについては班会議のときにゆずり、今月は上記表題の実験について報告します。
 これはラッテ肝由来のRLC系の株(control由来)を或期間なぎさ状態で培養し、それをTD-15瓶にsubcultureし、同時にDABを高濃度に添加したものです。[なぎさ]にしておいたままDABを加える実験もやっていますが、それは別の機会に報告します。
 この実験で非常に面白いのは、TD-15にsubcultureして間も無く、DABの消費が急に減ってしまう例が多いことです。(一覧表を呈示)消費する培養よりも、しないものの方が多いのです。まだ定量的には測ってありませんが、週2回のrenewalのときに眺めても、10μgDABが、入れたときよりむしろ濃い位の感じで残っています。これは、TD-15に移して、2回目のrenewalのとき、つまり約1週間目にすでに気付くことが多いのです。
 これらの細胞の形態は一般に核小体がギムザで濃染することが目につきます。細胞質の形は、case by caseで差がありますが、一般にはcell sheetを形成して上皮様のものが多い。しかし、RLH群のようにシートの上に立体的に積重なる細胞もよく見かけます。その内、表に示した[C]群はもっとも面白く、シートを形成せず、細胞質もbasophiliaが強く、肝癌の培養像にそっくりです。
 [A]と[B]は1965-6-24に、生后約24hrsのラッテ各1匹に2万個宛腹腔内接種しました。しかし勿論まだ結果は判りません。その他のも復元したいのですが、ラッテが生まれないので待っている始末です。
 培地内のDAB消費の有無が、若し悪性化の標識たり得るとすれば、何と簡単に(この場合)悪性化してしまうものでしょう。一旦殆んど消費しないようになった培養がしばらくするとまた消費するようになったりします。populationの中でちがう細胞が交代するのでしょうか。この辺は今后に残された問題と思います。
 実験中の色々な細胞は変ってしまってから映画をとりましたが、そのせいかしばらく増殖の落ちてしまったものがあり、[C]などは従って今だに復元テストができません。
 [表:註][なぎさ]日数の+は、そこでsubcultureしたこと。[DAB消費]の(+)は消費する。(−)は消費しない。(--)は殆んど全く消費しない。RTMは現在roller tube methodで回転培養中。名称欄の[]はその固定染色標本を作ったもの。(6:+Homog.)のごとき記載は、第6日にcell homogenateを添加したことを示す。
 DABは10μg、5μg、1μgなど時々かえて添加した。処理日数は6月27日現在です。
 [M]と[Q]は、DABを高度に与えても、それに耐性があり、消費しながらどんどん増殖している。合計18本の内、上のごとく2本はDABの消費をつづけて居り、他の2本は切れてしまい、残り14本というものが、多少の差はあるが、何れもDAB消費能が低下してしまった訳である。
これは一体どうしたことなのであろう。
 顕微鏡写真その他は次の班会議の折りに展示する。

《佐藤報告》
 1.AH-TC86a(復元して出来た腹水肝癌の性状)。
 animal transplantationは現在4代を進行中です。生存日数は適当なラッテができませんので明瞭ではありませんが、20〜30日です。腹水中細胞数は2000〜3000/mlで初代より増加しています。PAS染色はInselの中心部が弱陽性です。腫瘍死した動物の腹腔内所見は初代のものと全く同様です。皮下Tumorの性状は目下準備中。
 2.AH-TC86t(前動物の腹水中の腫瘍を再培養したもの)とRLD-10 strainとの比較。
 この両者の比較での差が動的状態における癌細胞と正常(?)細胞との本質的差になる筈である。それと共に現在の段階では再現実験のMarkerになる。
 ◇酵素の組織化学で現在、 Succinic dehydrogenase:Diphosphopyridine nucleotide(DPNH)dehydrogenase:Adenosin triphosphatase(ATPase):Acid phosphatase:Alkalinephosphatase:Glucose-6-phosphatase。以上の6種類を行なって見ましたが本質的な差はありません。量的な多少の差はありますが目下の結果では未だなんとも云へません。
 ◇DABの消耗C.100(図を呈示)。縦軸はone cellが24時間の間に消費するDAB 10-8乗μg数を現わす。横軸は実験開始から24時間までを1、24〜48時間までを2、以下同様です。
左は対照、右は癌よりの再培養です。対照(RLD-10)よりDABの消耗が少い。(小生はもっと強い差を期待していました。この件については更に検討して見ます)
 ◇培養発癌細胞の癌性の決定に対する復元部位の問題。
 1)再培養細胞 2代(再培養后13日)65'5-14=0日:10,000/animalで接種。I.C.・異常なし。I.P.→2/3(+) 6-22=39日、穿刺により癌細胞がみつかった。Subcut.・観察中。
 2)再培養細胞 5代(再培養后41日)65'6-11=0日:10,000/animalで接種。 I.C.。I.P.。Subcut.。何れも観察中。
 3)再培養細胞 5代(再培養后44日)65'6-14=0日:10,000/animalで接種。 I.C.。I.P.。Subcut.。何れも観察中。
 (1)の実験が開始され30日を経て所見がなかったので細胞数を10万/animalとしたが、本日腹水の貯溜を明かにしたので、今后は細胞数を減少する。
 ◇RLD-10及びAH-TC86tに含まれる物質。
 PAS染色で弱陽性物質が核及び細胞質に認められる。Pyronin-Methylgrunn染色では、AH-TC86tの方がPyronin好性物質が多いと思われた。併し定量において下記の様な著変がみられた。RLD-10:RNA-P・5.520 picogram/cell。DNA-P・0.844 picogram/cell; RNA/DNA=6.54。 AH-TC86t:RNA-P・0.252 picogram/cell。DNA-P・0.970 picogram/cell; RNA/DNA=0.26。RNA/DNAはlife cycleにも影響されるし、細胞質の大きさにも関係するのでこの定量は今后繰返してやってみたいが、[Erwin Chargaff and J.N.Davidson: The nucleic acids chemistry and biology Volume 2 1955]の中からRNA/DNAをみて見ると、正常成熟ラッテ肝:RNA-P 3.26〜3.24picogram/cell、DNA-P 0.89〜0.87picogram/cell・RNA/DNA=4.38〜3.64。肝癌:RNA-P 1.3picogram/cell、DNA-P 1.0picogram/cell・RNA/DNA=1.3。ラッテ肝について、生后日数においてRNA/DNAを見てみると、下記の通りである。10日目(1.76)、21日目(2.29)、41日目(4.21)、182日目(4.62)で若いものほど低くなっている。前記の自家実験と比較して興味深い。
 3.RLD-10(10μg〜20μg)株、即ち2-20日復元してAH-TC86aを作ったものはその后そのまま10μg〜20μgで継続されているもの、駒込で上に浮いて見える様なもののみ継代するもの(RLD-10S)、15μgで継代するもの等の亜株になっている(図を呈示)。以下に記載するのはこれらの系から復元されたC.85において発癌したと思われるものがあるので特記した。 ◇C85 65'4-28=0日
RLD-10(15μg)8.16万個/animal I.C.2例。(1)33日目 死、脳内水腫Tumor(-)。(2)37日目Agonal脳内水腫:脳室腔内に灰白色粟粒大のTumorが数ケ、生后38日のラッテ腹腔え移植。
 RLD-10(S)9.6万個/animal I.C.2例。(1)(2)共に10日以内死亡親に喰われる。
 RLD-10(10μg〜20μg)45.6万個/animal I.C.4例。(1)15日目 脳内水腫Tumor(-)、全脳を生后21日腹腔へ。(2)32日目喰われる。(3)34日目 死Tumor(-)。(4)49日目 Agonal。
この第4例は大脳左半球に弾力性硬の0.7〜1cm位の灰白色Tumor(組織は未だみていない)。又脳底部に浸潤があった。生后28日ラッテへ継代すると共にそのTumorをきざんで回転法で再培養した(再培養后現在6日目、肝細胞らしい増殖部あり)。この例は確実に発癌していると思う。
 4.
 C.87 65'5-4=0日
RLD-10C:I.C.、I.P.各々2例、50〜100万個/animal(49日)異常なし。
 C.89 65'5-11=0日
RLD-10(control):I.C.4例 21.7万個/animal、I.P.4例 36.2万個/animal(42日)異常なし。
C.91 65'5-21=0日
RLD-10(control):I.C.2例 128万個/animal、I.P.2例 353万個/animal(32日目)異常なし。
RLD-10(10μg〜20μg):I.C.2例 75.4万個/animal 1例少しおかしい。
I.P.2例503万個/animal異常なし
 C.92 65'5-24=0日
RLN-8(control):I.C.3例 133.8万個/animal(29日目)親に喰われる。I.P.3例 312.2万個/animal(29日目)異常なし。
C.94 65'5-27=0日
injection后翌日全例死亡。
 C.96 65'6-2=0日
RLD-10(15μg)I.C.2例、I.P.2例 28万個/animal(20日目)異常なし。
RLD-10(S)I.C.2例、I.P.2例 27万個/animal(20日目)共に異常なし。
 C.97 65'6-2=0日 (20日目)
RLN-36(control)I.C.2例、I.P.2例 31万個/animal。
RLD-10(10γCo)I.C.2例、I.P.3例 27万個/animal。65'6-14日以后の復元は省略する。
 5.発癌の再現のための実験
 1)正常(?)培養肝細胞からDAB又は3'-Me-DAB投与によって発癌させるため、まづ現在保有するRLN系の細胞(RLN-21のみ箒星状)の染色体パターンを調べた。(図を呈示)表に示すように、42の所にあるものは見当らない。それでこれらの細胞からは不利と思われるので、一寸見合わせている。
 2)C.88 65'5-6=0日
RLD-10細胞をTD15に10本つくり、10μg、20μg、30μg等の組合せで投与実験をつづけている。6-8日に3例を復元した。詳細は班会議で報告。
 3)C.105 65'6-3=0日
同様の実験をRLN-21で開始。
 4)C.98 65'6-3=0日
3日目のDonryu系ラッテ。タンザク9本、経日的にギムザ染色。6-21、試験管9本→内5本を合せてTD40(培養開始后18日)。これはPrimary Cultureから出来る限り短時日に発癌させる目的で行っているもので、これが真の再現実験となる。 *教室の野田が予研でこの出発細胞のクローン化を企てているが果してうまくいくかどうか。
 6.DAB飼育Donryu系ラッテ肝から出発した株について
C-60strain(DAB 107日)、C-74strain(DAB 199日)、C-82strain(DAB 237日)の各系を脳内接種した。C-82strainのみtakeした。C-74はC-82にかなり似ているが細胞の索状増殖が少く一応Adenom或は再生結節肝細胞の株と考えられる。
そこでC-74株に3'-Me-DABを再投与すれば比較的短時日に動物復元陽性の株が出来る筈で、C.104 65'6-9=0日としてDAB投与実験を始めた。この実験でC-74に脂肪?化がおこりつつある事は興味深い。
ちなみにDABを飼食させてから、とりだされた肝細胞株の傾向は次の通りである(DAB投与日数と共に)。(1)細胞単位では細胞質に次第に空胞化が多くなり、細胞は大型し、癌になると又小さくなる様である。(2)最初は一面のシート形成をするが、次第に索状の構造をとる様になり、次いで小Inselをつくる様になり、更にバラバラの細胞となる様である。
詳細は班会議で報告の予定。

《高井報告》
 5月の班会議以后、別の学会の準備に忙殺されておりましたので、その間、新たな発癌実験を開始することは出来ませんでした。そこで、前報の三系列の観察をつづけていたのですが、これが梅雨時に入って雑菌のため相当な被害を受け、全く悲惨な状態になってしまいました。
 殊に一番望みをかけていたbEI.Ac群が殆ど全滅してしまい、残念でなりません。
 1)bEI群:control群は5月末にcontaminationのため全滅。Ac群の方は、5月23日トリプシンでコロニーの一部から短試1本に継代に成功(第4代)、その後、5月25日にその短試が破損したため、急いで第5代に継代(短試1本)、6月12日にこれを短試2本に継代(第6代)。 このTD40に残った細胞(第3代)がかなり急速な増殖を開始しました。この方の細胞の形は前月報の写真4)に近い状態と、写真2)の様な状態が交互に現われる様な傾向が見られ、大分細胞数も多くなって来たので、近い将来に復元出来るのではないかと期待していたのですが、6月19日に継代を試みたところ、雑菌のため絶えてしまい、現在上記第6代の短試2本のうちの1本のみ助っています。
 2)bE 群:control群の方は、今迄bEI.K群につき屡々記載した如き細いセンイ状の突起の多い細胞です。Ac群の方は、殆ど細胞が消失し、TD40に1カ所のみ細胞群の残っている部分があり、この部分では大部分の細胞がこわれて、前月報、写真1)、2)に見られる様なcelldebrisと思われるこまかいゴミの様なものの集まりの所々に、写真2)の細胞に似た様な細胞が散在しています。つまり、bEIAc群にみられた変化に幾分似通った様な現象がおこっている様にも思われ(bEIAc群の時より残った細胞の元気が悪い様です。)、今後の変化を興味をもって観察したいと思います。
 3)bE 群:今の所、Ac群もcontrol群とよく似た細胞です。以上の如く、bEIAc群が殆ど全滅したのは、手痛いDamageではありますが、bEIAc群におこった変化が、再現性のないものならば、全く問題にならないわけで、もし、あの変化がActinomycinの作用に関係したものならば、当然再現性がある筈なので、今後更にくり返して、実験するつもりです。

《高木報告》
 発癌実験
 Exp.I:前回の班会議の時御話しした様に、終局の目的にadult animalのskinを長期間培養してこれに対する4NQOの効果を観察し、更に同一動物への復元まで持って行く事であるが、それに至るまでの一つのstepとしてWistar ratのfoetal skinを用いて培養をこころみ、それに4NQOを作用させてみた。
 4NQOはここの癌研の遠藤教授からもらいうけたもので、時間がなかったのでabsolute
Ethanolにとかしたものを用いた。はじめ10-2乗M/mlの割にalcoholにとかし、これを1000〜10000xにうすめて最終濃度10-5乗、10-6乗M/mlとし、alcoholをこれから実験群と同様の濃度にうすめた2つの対照群をおいた。
 培地は80%Eagle's basal Media+10%BS+10%CEEで、これにagarを1%の割に加えてsolid mediaとした。
この実験は一つにはorgan culture levelにおける4NQOの毒性をみるためのものでもあったが、実験群が多くて12日目までしか観察出来ず、またtissue fragmentが小さきにすぎてhistologicalにはっきり物を云う事は出来なかったが、しかし次の様な傾向が示唆された。 1)一般にtissueの維持は、この実験に関する限り不良で、その理由としてこれまで試みたsuckling animalのtissueとちがい毛が生えていないので、培養と共に表裏を区別する事が困難になり、tissue fragmentsをtransferする際に表裏逆にした可能性のあったこと及びagarが少し軟すぎて(かたまり方不充分で)tissueがその中にうまった様な場合があった事等があげられる。
 2)4NQO 10-5乗M/ml添加群では、毒性つよく、培養6日目ですでに多くのpyknotic、又はdegenerativeな変化が細胞にみられた。
 3)4NQO 10-6乗M/ml添加群で培養と共に、original tissueに殆どみられない角化層の増加がみられたが、これは対照群でも可成りみとめられた。またZona granularと思われる細胞のhyperplasiaを思わせる部があったが、これも対照にこれと似た所見がみられる場所があり、有意かどうか断ずる事はむつかしい。
 Exp.2:mouse foetal skinを用いて、同様な液体培地より新たな実験をstartした。今回は4NQOは水にとかして、最終濃度10-6乗、10-7乗M/mlとして添加し、より大きなtissue fragmensを用いている。

《土井田報告》
 各種の放射線被曝者の晩発性障害の機構の解明を目的とし、人の体細胞−末梢白血球−に存在する染色体異常の量的変動についての観察を行なっており、此の班の研究について報告できるような結果はあまり得られなかった。
 11回班会議の時に報告したマウスの胚の細胞培養をつづけているが、此の細胞に放射線照射を始める前に細胞学的研究を行なうためsubcultureした。この際トリプシン処理を行なうと悪性化を促進するという結果が幾つか報告されているので、出来る限りこの様な影響のないようにと思いラバークリーナーで機械的にガラス面よりはなしたところ、一部の細胞で相当障害があり、相対的にみてこの処置はあまり適当でないことが判った。現在はこの細胞を大事に育てているが、出来るだけ早期に放射線照射を行なう予定である。
 既にRLH-1とRLH-3の染色体数と核型については調べ月報に報告したが、その後の両者の細胞遺伝学的研究と、調査の進んでいないRLH-2、RLH-4について細胞遺伝学的研究を行なった。材料を入手して間がないし、更に最初に記した人間の染色体調査をせねばならず、現在は図に示したごとき予報的結果しか得られていない(図を呈示)。

《黒木報告》
 Rat胎児肺組織の培養(2)
 前報でDonryu RatのEmbryo肺の培養(REL-101〜106)について報告しました。この培養はもともと、培養条件方法その他をテストするための謂ばパイロットであった訳ですが、継代3代目よりGrowthが落ちて来、現在ではやっと植え継いている有様です(培地・EagleMEM+20%Bov.S+1.0mMPyruvate+0.2mM Biotin)。
 これではExp.の材料として用いることが出来ないので、いくつかの改良を行い、6月16日及び19日より培養を開始しました。
 改良点:(1)継代をrigid scheduleのもとに行う。とりあえず10万個/ml、4日置きで継代する。(2)容器をCO2-incubator-dish系にする。三春のdish(径50mm、培地量3.5ml)を使用。位相差観察にもよい。(3)培地 EagleMEMに次のsupplementを加える。(a)Bov.alb.fract.V 1.0%w/v。(b)GLY 0.1mM。(c)PRO 0.1mM。(d)SER 0.2mM。(e)Pyruvate 1.0mM。(f)CYS 4x。(a)の1.0%Bov.alb.はTodaro、GreenらのDataによるfibroblastのGrowthとmaintenanceは、alb.により相当いよくなっている。(b)(c)のGrycin、Prolineはcollagen合成を考えて加えたももの。(d)(e)のPyruvate、Serineはpopulation dependent nutrientとしての意味。(f)Cystineの量を4倍にしたのはdiploid cellが(1)Met及びGlusose、(2)homocystine、Serから、(3)CystathionineのいずれからもCystineを合成出来ないと云う知見(H.Eagle)による。

《堀 報告》
 Explantsの組織化学的変化
 前報ではシロネズミ肝の培養初期のoutgrowthの細胞にG6PaseとPHosphorylaseが検出困難であることを書きましたが、僅か一週間位の間にこの様な大きな変化が起るとるれば、その変化の過程を見ることが重要なことと考えられます。そしてそのためには、explantより出て来た細胞丈でなくexplantに残っている細胞を調べる必要があります。従って今月は培養開始後、3、6、20時間、2日、8日の間隔で1回当り約20コのexplantをとり、-70℃のアセトンで冷却後、クリオスタットで切片としG6Pase、PAS、toluidine blue(TB)、SDH、Phosphorylase、の染色をHEと共に試みました。各種の染色は同一のexplantよりの連続切片を用いて行いました。その結果は下表の通りです。なおexplantは小さくてそのままではクリオスタットで切りにくいので、大きな肝臓片の中に埋め込んで切りました。こうすれば、台に用いた組織を染色のcontrolとすることも出来、一石二鳥です。
   3hr  6hr  20hr 2d  8d outgrowth
HE  +  +  ±  ±  −  −
PAS  − − − − ± ±
G6P ++ ++ ++ + +  +
TB + + ++ ++ ++ ++
SDH ++ ++ ++ ++ ++ ++
Phos. − − − − − −
(HE:eosinophilia。Phos.:Phosphorylase)
 以上は生き残っている細胞についてのみの結果です。今年一月三島の班会議に傍聴させて頂いた時報告しました様に、生き残っている細胞はexplantのfree surfaceに接する部分に限られて存在します。central necrosisは3hrで既に始っていて、この時生き残っている細胞が後にoutgrowingすると考えられます。今回の実験での収穫はG6Paseが弱い乍らも游出した細胞に検出出来たこと、游出する細胞中には明らかに実質細胞を含むことが判明した事です。テクニックを改良すれば、きっとPhosphorylaseも染る様になるのではないかと思います。G6PaseやPhosphorylaseが培養初期に存在することが確認出来れば、その後どの様な変化を起すかを見ることは興味ある事と思います。

【勝田班月報・6508・DABによる発癌の諸問題】
《勝田報告》
A)“なぎさ”変異細胞の復元接種試験
(1)復元接種試験成績
これまで報告した以後の復元接種試験の成績を表で示す(表を展示)。ラッテとハムスターを用いた。3-18に接種したハムスターポーチの腫瘤は、4日後に培養に移し、TC25日後にコロニーを生じたので、第32日に継代して今日に至っている。ラッテ接種例では、'64-12-12に脳内に接種した例で、RLH-1群2匹の内1匹が第24日に脳水腫で死亡した。残りは第40日に全例解剖したが、RLH-3群の2匹中1匹に脳水腫がみられた。ハムスターは、まだ技術的に馴れていないせいか、腫瘤形成率が悪い。
 ここで反省してみたのであるが、RLH-1〜4の4種の変異細胞の生じた元の細胞株は、F11頃の未だ完全には純系化していないJARラッテの肝由来の細胞である。だから現在の純系化したJARラッテへこれらを復元接種することには問題があるのではないか、と思われる点がある。つまりこれらの母細胞を得た頃のラッテと同格のラッテは今日ではすでに存在していないからである。
 そこで、反って系の異なるラッテの方がtakeするかも知れぬという観点から、ウィスター系や雑系のラッテに復元をおこなってみた。しかし今日までのところはっきり腫瘍形成を示した例は未だ得られていない。
(2)これまでの復元接種の成績から、今後は上記のように動物の種類を色々撰択してみる必要があることと、観察期間をさらに長期(少なくとも半年間)に延長する必要のあることを痛感した。
B)“なぎさ”培養とDAB高濃度添加の併用の影響
 “なぎさ”培養とDAB高濃度添加を併用すると、細胞の変化が早く起る事が最近判った。すなわち“なぎさ”培養によって変化をおこさせた細胞を、TD-15瓶その他に継代し、これに直ちにDABを10μg/mlに添加しはじめると、4日後の第1回の培地交新のときは培地内のDABの色が非常に薄くなって、DABの消費されていることを示しているが、次の3日後の培地交新のときに調べると、DABの色がそのまま残っていることが多い。試みにコールマンの比色計で培地の色を測ってみると、BlankにDABなしの培地を入れ、450mμの吸収を測った結果は表のようになった(表を呈示)。これは4日間の消費である。これによると、16例中4例だけが消費をつづけるが、他の12例は代謝能が無くなっている。但し、4例中JとQの2例は“なぎさ”培養をおこなわず、DABの前処理を施してある。これらの培養法の詳細は別表に示してある。DAB肝癌がもはやDAB代謝に関与する蛋白を失っていて且、急速に増殖している、という事実を考え合わせると、この実験法によって極めて短時間に細胞の変異をおこさせることができる、と云えることになる。
 これらの“なぎさ”→DAB処理の細胞の動態を顕微鏡映画で観察すると実に興味深い結果が得られた(映画展示)。つまり正常の肝細胞がほとんど積極的な運動を示さぬのに対し、肝癌はよく活発に運動することがこれまでの研究で判っているが、この肝癌そっくりの形態や運動を示す系も得られた。ことに(C)が著明である。これらの細胞については、目下復元接種中、あるいはその準備中であるので、成績はいずれ報告する。
 “なぎさ”培養とDAB添加を同時に平行しておこなっている実験もあるが、この成績は今後報告することにする。

 :質疑応答:
[寺山]DABを与えずに“なぎさ”培養のままだとどの位DABを消費するものでしょう。
[高岡]測ってはありませんが、肉眼的にみたところでは、DAB5μg/mlで0.16の吸収の時、0.04位になるという減り方と同じ位の消費をします。
[勝田]“なぎさ”1ケ月、DAB 2〜3週で、能率よく変異株を得られるのではないかと思っています。
[寺山]最初にDABを加えて、吸収が減ってきた時の細胞の増殖の仕方は、加える以前とちがいますか。
[高岡]subculutreするわけでなく、培地だけ変えているので、増殖の度合いははっきりわかりませんが、細胞数は減っていないし、分裂もあります。
[高木]2核細胞の“なぎさ”培養での運命は?
[勝田]Cell cheetでは、2核細胞と、単核細胞との間には、たえず移行があります。
[佐藤]“なぎさ”で変異したものをDABでselectしたということは考えられませんか。
[寺山]“なぎさ”培養での細胞のDAB消費酵素の活性の低下が、一時的なものか獲得したものかは一寸はっきりしませんね。
[佐藤]生体での変異は他方向であってもその殆どが消えてしまうのに対し、培養ではかなり残るのではないでしょうか。
[寺山]DAB添加下で増殖するような変異細胞はくさいと思いますよ。
[渡辺]DABを食わせますとネズミ肝のazoreductaseの活性が急激に低下しますが、与えるのを止めると1週間でまた回復します。homogenatesにDAB、TPNなどを加え、DABの減少でこの活性を定量します。
[寺山]450mμの所はアゾ色素の吸収だから、450mμでみた吸光度は殆ど特異的にアゾ色素のものでしょう。DABの添加は、短期間では効果がないと思います。むしろ、DAB添加下でどんどん増えるものを選んでいったら如何ですか。
[勝田]佐藤君がさっき、“なぎさ”で変異したものをDABでselectしたのではないかというように言っていましたが、私は“なぎさ”で酵素がいためられていて、DABを加えるとそれが急速にやられてしまうのではないか、と考えています。
[佐藤]しかし、アゾ色素のつく蛋白がなくなると肝癌になるのだから、矢張りその蛋白がなくなるのではないかと思いますが・・・。
[寺山]DABの消費と、蛋白との結合とは、必ずしも一致しません。マウスの肝のhomogenatesの方がRatの肝のhomogenatesよりずっとDABの消費は多いが結合は少ない。
[勝田]Demethylationで色がなくなるのですか。何段階位でなくなるのでしょう?.
[寺山]Demethylationでは色は残り、azoreducationで消えます。この二つは平行的に起るものです。そして主にmetaboliteがtoxicなのです。azoreductivityの高いのは、むしろresistantなのではないでしょうか。一時的でなく、geneticalな変化を起させる必要があります。“なぎさ”の細胞を、DAB添加下でsubcultureして、DAB存在下で増殖するものを、選んでゆくというのは面白いと思いますよ。AH系ではDAB存在下でもどんどん増殖するのでしょう。
[佐藤]10万位の単位でDAB1μg/mlでは、増えます。
[高岡]1μg/mlの濃度なら正常の肝細胞でも増えるでしょう。

《佐藤報告》
 表1〜5を展示。
 ◇表1は、復元成功第1号[RLD-10(10μg-20μg)株]を含むRLD-10株亜株の簡単な実験系図です。前月報の改定です。◇表2は復元成功(2-20 C86(88G)右)以後各亜株について行われた復元実験及びその成績表で、表1と表2を比較してみると、現在未だ確実な事は云えませんが、結論だけ書けば、RLD-10株について現在の細胞数と3'-Me-DABの量を基準にすれば、3'-Me-DABは10μgのみでは直接投与しても発癌しない。勿論間欠投与だけではだめである。10μg連続の状態で時にそれより高濃度を与えると発癌すると思いたい。一度で発癌したらLD+20%BSで存在し得ると思います。このことと10μg 3'-Me-DABの存在が必要なこととは一見矛盾するようにみえますが、別に差支えないと思います。
確実にTumorが存在し再培養でもTumorらしいものが現在増殖しつつあるもの、のみから考えますと低率ですが、死亡或は死戦期をむかえて殺し、脳内に著明な脳水腫をみとめたもの(一部のものには小さな粟粒大の灰白色、弾力性硬のTumorを数ケ認めたが腫瘍の確認が未だ出来ていないもの、このものは種々の所見或は結果からTumorが存在すると思われるものが多い)を含みますと高率となります。又C91の腹水は既に再培養されていますので、C86と比較してみた所、C91には遊離細胞が多い様にみえました。C91はC86の原株に比して更にDABが与えられた事になりますので又興味があります。
 ◇表3は、C85の復元実験における詳細であって、C86の復元成績の詳細と併せるとHydrocephalusが脳内腫瘍形成とかなり関係が深いことが分ります。
 表2には省略しましたが、他の株は未だいづれも発癌したものはありません。
 ◇表4は、RLD-10control株と、AH-TC86t株(再培養)との核の大きさの比較を写真にとってその核を切りとって秤量したものです。AH-86t(cancer)の方が明らかに大きく、山が二つある様に見えます。Microphotoで見た場合、大小不同が著しく且つ核膜に凹凸があり多形多核の多い事が目立ちます。Cineをとってみると面白いと考えています。
 ◇表5は、AH-TC86t株の毒性について動物継代によるもの及び培養細胞からの動物への再復元によって調査中でありまして現在までのところ、1万/animal接種でI.C.の例の2例が48日目に1例死亡、49日目死戦期1例であり、AH-130の例から考えますと、腫瘍性現段階ではかなり弱いと考えています。
 ◇再現実験はかなり進んでいますが、復元後、まだ判定の日数に達していません。
Primary Cultureのもの(C-98)6-3=0日には最近継代してTD40に移し、3'Me-DABを1μg/mlよりStartしました。又他の株RLN-21株(箒星状細胞)は最近投与を始めましたが3'-Me-DABに対しRLD-10株より抵抗が強いようです。

 :質疑応答:
[寺山]動物の場合、DABでも3'-MeDABでも、つづけて与えないと癌が出来ないですね。与えたり与えなかったりすると駄目です。
[堀 ]はじめに示された肝癌の判定はどうなさいましたか。殊に肝癌になるまでのものの場合は?
[佐藤]DABを与えているラッテを、3、4、5、6、7月後という具合に殺して、その肝をとり出し、一部はラッテに接種、一部は培養するわけです。勿論組織切片も作ります。そして、再生結節、腺腫、癌と判定しているのです。この実験は、動物にDABを喰わせ、その癌化の途中の細胞をとって培養し、培養内でつづけてDABを添加すると、培養内の癌化が早いのではないか、という予測のもとにはじめた実験です。
[堀 ]組織化学的にいって、同じような変化をもっている再生肝を培養した場合、そのGrowthは、それぞれ異なると思いますか。
[佐藤]それは、それぞれ違うと思います。
[堀 ]DABの投与量と、再生肝の組織化学的な像とは、必ずしも並行しないのではないかと思います。いま自分がやっているDAB給餌ラッテの実験で、G6Pの誘導を見ていると、これは30%蛋白食で誘導するのですが、どの段階でも、色々な癌化の段階の細胞がみられます。今までDABの発癌過程というのは日を追ってみていましたが、果して日を追うだけで良いか、という疑問を持ちはじめています。
[寺山]個々の細胞では、そうかもしれないが、populationとしてみるからいいのではないですか。
[黒木]ねずみ内の発癌の各段階からとった肝臓を培養した場合の増殖コロニーの形のシェーマで、はじめは丸くふえるのが、だんだん索状にふえるようになる、ということをどう考えられますか。間に空隙が出来たりするのは、細胞の運動性のせいと考えてよいか、或いはpopulationの異なったものが混っているということから起るのか、どうでしょう。
[佐藤]悪性になるとバラバラになります。
[勝田]黒木君の云うので正しいと思います。つまり色々と性質の違った細胞が生じているので、走りやすいものもあれば、そうでないものもある。そこで平均して出てこないという結果になるのでしょう。
[黒木]悪性になったもののcolonyの形が索状なのは、細胞の運動に方向性があり、次に方向性がなくなってバラバラになる、と考えられるかと思います。復元は何匹づつしましたか。
[佐藤]3匹づつさしています。
[黒木]毒力の判定は何で表現されますか。
[佐藤]死亡日数で判定しています。
[黒木](図を呈示)動物の生存日数から計算して、縦軸をプロビット展開すると直線になります。これは、正規確率グラフ用紙というのを買ってきて使えばすぐ出来ます。横軸はlog目盛と普通目盛との両方あります。薬剤効果などを記すときはlogの方が良いでしょう。この直線が平行して移動するか、それとも線の傾斜が変化するか、が問題で、前者が定量的変化を示すのに対して、後者は質的な変化を現わしていることになります。
[勝田]佐藤君の実験での問題点をあえて拾上げてみますと、まず細胞として株細胞を使っており、その培養期間が3年にも及ぶということ、次にDABを添加した期間が動物発癌に必要の期間よりもはるかに長いということ、また別の細胞系で再現性があるかどうかということ、ですね。それからこの癌が出来るまでの細胞の変化の経過をなるべく詳しく紹介して欲しいですね。
[寺山]DABの濃度は、どこまであげられますか。
[佐藤]10μgまで位です。
[寺山]動物発癌の場合、肝細胞はどの位の濃度のDABにさらされているか? 渡辺さん、どうでしょう。
[渡辺]血液中(門脈血)では非常に少ないです。平常DABは血中にはあまり遊んでいません。みんな肝臓に貯まっています。ラッテが1日6〜10mgDABを食べるとして、肝全体で1日当り数mgのDABにさらされていることになります。
[佐藤]動物の場合、沢山食べるとその時はDABは高濃度になるし、あまり食わないでいると低くなると考えられる。培養でもそういう波が必要だろうと思うのです。
[黒木]DAB発癌の場合、DAB耐性細胞を選び出すということが試験管内発癌の必須条件というわけですか。
[佐藤]DAB耐性細胞が出来るということと発癌そのものとは、直接どう結びつけられるかははっきりしないが、耐性細胞を作ることが試験管内発癌の必須条件といえると思います。
[勝田]将来のことですが、細胞1ケ当りどの位までDABを蓄積し得るのかという事をみる必要もありますね。少量の添加でもだんだん蛋白についてたまってくるということも考えられると思うが、癌化するのにどうしてあんな高濃度のDABが必要なんでしょうね。
[寺山]大部分は発癌に関係ない方向に流れ、発癌に関与するのはごく少しだからですよ。発癌にはやはりthresholdというか、或必要最少量があるのでしょう。
[佐藤]少ない量では蓄積できないのでしょう。
[勝田]DABの分解酵素がなくなるというのは、必須条件でなく、余儀なくそうなってしまうのではないでしょうか。
[奥村]分解酵素はどこにありますか。
[寺山]DABの酵素はミクロゾーム分劃にあります。結合蛋白も、はじめはミクロゾーム内ですが、後には細胞質全体にひろがります。それから復元接種ですが、肝の部分切除をおこなっておいた動物だとtakeされ易いのではないでしょうか。ホルモン的な統御を考えますと・・・。
[高木]復元した細胞をまたTC内で継代すると、いつもあんな風に多形性が強いのですか。増殖はどうですか。
[佐藤]あの写真は6代の継代です。増殖はまだおそいようです。
[高木]正常細胞を培養にうつすと、どの位で酵素活性が変りますか。
[勝田]Liebermanたちが大分前に報告しているではありませんか。大抵の酵素活性は4〜5日で低下するように云っていたでしょう。増えるのも若干ありますが。
[佐藤]DABにメタルをつけて、電子顕微鏡でみるということは出来ないでしょうか。
[寺山]オートグラフィでみる方がよいのではないですか。
[勝田]DABの蛋白結合は、強いですか。
[寺山]強いですね。
[勝田]では抗原となり得るわけですね。
[寺山]それをやっている人がいます。
[難波]抗原としてどの程度、純度がありますか。
[寺山]かなりbasicな蛋白と結合します。等電点8に近い所で割合はっきり分劃されます。この蛋白が或geneのreprsserの役割をする蛋白だと考えると、遺伝的にも解釈が成立つと思いますね。

《高井報告》
1)bEI.Ac.群: 雑菌感染を免れた短試1本の細胞を急速にふやしつつあり、7月5日現在、第8代短試5本にまでなりました。増殖もかなり旺盛になって来た様で、細胞の大きさ、形は割合に小型で、JTC-14に似て来た様な気もします。短試の垂直静置培養のため、底に細胞があって、写真がとれないのですが、もうすぐTD15に移せる位になると思います。充分な細胞数が得られれば、復元の予定です。
2)bEIII群: bEIIIAc群の細胞集団は、(写真1〜3呈示)写真1)の通りで、月報6506の写真1)2)のbEIAc群の細胞と似ていると思っているのですが、6月末にこの細胞群が剥げ落ちてしまい、現在は、写真2)の如きControl群と同様な細胞しか残っていません。継代の時期を誤った様です。
3)bEIV群: 著変なし
4)bEV群: 6月26日培養開始。今迄の群と異なり、頭部、肺、胸廓、背柱を除いた軟部組織をトリプシン処理して培養しました。又、この群は20%CS・YLH培地にしてみました。(今迄のは20%CS・LE)現在まだActinomycinを加えずに、少しふやしてから処理する予定です。
 現在までの結果は、以上の通りですが、この辺で実験方法について少し反省してみたいと思います。
 私共がこれまでやって来たActinomycinS 0.01μg/ml持続作用という方法が発癌のために果して適当かどうかは勿論大いに疑問があります。どういう濃度、作用時間が適当かは、色々試みる他ないわけですが、in vivoでの発癌実験に出来るだけ近い条件をin viatroで再現してやるのも一つの行き方といえましょう。
 川俣教授らの報告によれば、in vivoでActinomycin肉腫を作る時の実験条件は、btk mouse(生後5〜10週)に、所要濃度のActinomycinSの生食溶液を0.1〜0.4ml週2回皮下注射であり、7.5μg/kg(体重)では、平均28週で注射部位にTumorを生じ、15μg/kg、30μg/kgでは、Tumor出現までの期間が短縮される傾向がみられたとのことです。これから計算してみれば、注射する液のActinomycinSの濃度は1.5〜2.25μg/mlと思われます。
 皮下注射されたActinomycinSがどの位の時間で吸収され、どんな経過で局所の組織内濃度が低下して行くかはわかりませんが、上記の値から考えて、注射部位の細胞は少くともある一定の期間は、私共の用いた0.01μg/mlよりも、はるかに高濃度のActinomycinSに接触していることになり、これが週に2回繰返されることになります。
 従って今後は、1.5〜3μg/ml程度の高濃度のActinomycinを短期間作用させることを繰返すというsystemもやってみたいと考えています。

 :質疑応答:
[勝田]アイソトープをラベルしたアクチノマイシンSで、動物発癌の場合のアクチノマイシンS拡散のパターンを見られませんか。また、発癌経過につれての局所の組織像を一度見せてもらったらどうですか。アクチノマイシンSをとかすのに有機溶媒を使っているところを見ると、その局所に薬剤が残りやすいということも関係があると思いますが・・・。
[高井]アクチノマイシンSは、たしかに吸収がわるくて、Dに比べて局所に残ります。
[黒木]対照の増殖はどうですか。また添加は何日目位から・・・?
[高井]大変おそいです。2〜3週でやっと継代です。添加は初代から入れています。
[黒木]その時は、細胞はどうなりますか。
[高井]そんなにどんどん死んでしまうということはないが、対照と同じテンポで継代するわけには行きません。
[勝田]この組合せは有望と思います。しかし何といっても材料がマウス胎児であるという点に問題がありますから、なるべく短期間で勝負をつけるようにしなくてはなりませんね。

《堀 報告》
今迄得られた結果の総括
 前回の班会議には出席出来なかったので、4月以来やってきた、正常肝細胞の培養初期の組織化学的変化について総括的に報告します。
 Acid Phosphatase活性を示す顆粒の分布については、Hepatome-96、-99、HeLa、gTD-4、Takeda、Yoshida、MTK-IIIの既に確立された系について調査したが、癌の系統によって特異的な分布を示すということは見当らなかった。また、肝細胞の培養したものでは、in vivoの分布に極めて類似した配列を示す顆粒は観察されたが、必ずしもそれが全てではなく、種々雑多の分布を示すものが多く、結局はこのAPase顆粒をもって、肝細胞のmarkerとし、それによって培養期間中に肝細胞の変化を追求しようということは不可能であることが分った。
 次にG6PaseとPhosphorylaseの検出であるが、これが予想以上に難行して、目下の処、後者の染色は培養材料で全く成功していない。G6Paseについては、肝培養後、3、5、8、20時間、2日、8日と日を追って移植片を凍結切片として調べた処、培養開始後necroseを起さず生き残っている移植片周辺の細胞に極めて強い反応を認めることが出来たが、移植片より遊出してカバーグラスに広く伸びた細胞では極めて低頻度で弱い反応が顆粒状、或いは、Network状に見られた。目下、なおPhosphorylaseについては検討中であるが、当初の予想に反して、これら2つのglycogenolysisに関与した2つの酵素をliver cellのmarkerとしようという試みはどうも失敗のようである。この様にliver cell特有の酵素が極めて培養の初期に失活しているということは、注目すべきことであるが、活性を染められないということが、即ち、酵素蛋白の消失を意味するか否かは問題の残る処で、今後は、唯、単に種々な酵素を染色してみるということよりも、最近、Biochemistryで注目されている酵素の誘導という方向を、私の研究に取り入れて、肝細胞の酵素誘導能の変化を培養においてみてゆきたいと考える。なおG6Pdehydrogenaseの誘導については、既にin vivoでのcarcinogenesisにおける変化をみているので、これを参考として実験を進める。

 :質疑応答:
[高木]培地中のglucose濃度は?
[堀 ]0.1%の80%です。
[高木]glucose濃度をふやすと、グリコーゲンは減らないのではないでしょうか。
[堀 ]問題は、組織化学的に決まるか決まらないかということが、果してどれだけの意味をもつか、ということだと思います。
[土井田]酵素活性がin vitroで3hrでなくなるというのはどういうことなのでしょう。
[堀 ]どういうことなのかと、いま考えているところです。
[土井田]一度無くなったものがまた回復するということもあるのではありませんか。
[堀 ]培養条件によってはそういうこともあると思います。
[土井田]定量的にはいえなくても、定性的には組織化学で判断できるのではないか。
[堀 ]そう思ってやっていますが、なかなか問題があるのです。
[土井田]細胞が1ケだと染まらないのが、沢山かたまっていると染まることがあるというのは、活性があっても染め出せないという問題もあるでしょう。
[難波]glycogen染色の固定法は?
[堀 ]-70℃のアセトンです。水は全然使いません。
[勝田]培養ごく初期に酵素活性が落ちるというのは、無くなるというより、ただ忘れているだけで、何か手段を使って思い出させれば、また復活するのではないかと私は考えています。

《高木報告》
1)発癌実験
 先の実験で10-5乗M/ml濃度の4NQOはorgan culture levelで毒性がやや強すぎる様に思えるので、今回の実験では10-6乗と10-7乗M/mlを最終濃度として用いた。
 組織はfoetal mouse skinで4mm平方の大きさに切って液体培地に接したlenspaperの上において培養した。培地はModified Eagle's media+10%BS+10%CEE(1:1)である。培養7日目(現在)まで組織は良くその構造が維持されており、10-6乗、10-7乗M/ml 4NQO実験群の間ではさしたる組織学的所見の違いはなく、一部にStratum germinationの増殖及びstromaの増殖が認められたが、対照との間に有意と思われる差ではない。
 Lasnitzkiがmouse prostateに20MCを作用させてその影響をみた仕事では、natural mediaの方がsemi-difined mediaより明らかにepithelial hyperplasiaを認め得たと云う報告をしているが、これがそのままskinの発癌実験にあてはまるかどうかは問題があるとしても、一応natural mediaについても検討する必要があろう。また今回は液体培地を用いて実験を行っているが、これは前回の班会議の時にも指摘された様に代謝産物及びcarcinogenのdiffusionの問題を考えての事で、skinはsolid mediaの方がよいかも知れず、組織片の周に孔をあけるか、または溝をほってそれに培地を流してやる方法も考えており、近々検討の予定である。これまでの培養のslideを供覧する。
2)その他
 (1)膵のorgan culture:どうやら私が帰国する前の仕事のlevelまで持って行けた様でrat pancreasの培養が比較的うまく行った。Schweisthalも行っている様にrabbitと異なりratの方がAldehyde Fuchsin染色により培養後長くβ顆粒を追求する事が出来た。それらのslideを供覧する。
いよいよin vitroでラ氏島β細胞に対する種々agentの効果をみる段階に入る。効果の判定法としては蛍光抗体法、A & F染色と共にmedium中のInsulin assayも行う予定で目下rat epididymal fat tissueを用いたassay法を検討中である(I131-insulinを用いたimmunoassayは現状では実施不能であるので・・)またα細胞についても現在glucagon分泌にからんで未だ色々問題のある処でこれを解明すべく努力しているのであるが、どうやらchromium Hematoxylin PhloxineとAnti glucagon serumとによって周の切片を染色する事に成功し、まず一歩踏出したと云える。いよいよこれからFerritin抗体法による電顕所見も併せて検討することになる。またα細胞のin vitroにおけるfateの追求についてもStartした処である。
 (2)その他これまでに分離した株細胞の写真を供覧する。

 :質疑応答:
☆討論の前に、梶山氏より各種株細胞の種特異性に関する免疫学的検索のデータの展示あり。
[高木]細胞は組織培養しても種特異性抗原は変化しないとこれまで考えられてきています。しかし私はどうもその点問題があると思いますが・・・。
[堀 ]全細胞を抗原とすると、蛍光抗体法でどうしても核が染まらない。核を分劃して抗原にしても、やっぱり核は染まらない。これは不思議なことだと思います。
[黒木]種特異性でなく、系の特異性はでますか?
[堀 ]Isozymesでは、マウスの系によって差があるというデータをもっていますが・・・。
[勝田]顕微鏡写真の中でヘマトキシリンで濃く染る細胞はピクノーシスではありませんか。
[高木]そうではありませんよ。
[難波]メラニンか何かでは・・・?
[高木]細胞ですよ。増殖していますから。

《黒木報告》
 ラット胎児肺組織の培養(3)
 4NQ、4HAQOを作用させる材料としてRat(Donryu)胎児肺の培養を試みていますが、まだ思うような結果が出ないで、いささか行き詰りの状態です。
Pronase digestでGrowthしてくる細胞は(写真を呈示)photo1の如きfibroblastが一部にみられますが、大部分はep.の様です。細胞質がうすく拡がり核の周りに顆粒がみられます。
 初代では前回報告したようにAlbumin添加も非添加も同様に3〜4日でfull sheetになります。
 2代目の植えつぎは0.02%pronase5min. at 37℃で細胞を剥し、40万個/dishで5cm dishに植えこみました。24hrs.後には、alb(+)培地26.5万個/dish、alb(-)培地42.5万個/dish、更に4日後のtransfer時には、alb(+)培地36.8万個/dish、殆ど増殖の傾向がみられませんでした。(alb(-)はカビのcontami)。
 3代目は、alb(+)は35万個/dish→4日後には1.9万個/dish、alb(-)は35万個/dish→4日後には5万個/dish、細胞が殆んど増殖していないことが分ります。
特にalb.はtoxicに働くように思はれます。photo3はalbumin(-)の培地の細胞形態ですが、alb(+)培地を48hrs.作用させると、photo4の如く変性してしまいます。todaro、山根らのDataはhamsterを用いていますので、Albuminの作用がspeciesにより左右されることを示唆するものと考えられます。

《土井田報告》
RLH各系の細胞遺伝学的研究
 月報6507にRLH-1〜-4系細胞の染色体数を予報的に報告したが、この結果を多少補足するデータを得つつある。核型分析の結果はまだ報告する段階に至っていない。
 RLH-1:染色体数のモードは69で、この値は以前の報告と同じである。核型も以前の報告と同じく、meta-、sub-meta-centric chromosomeが多い。この系の細胞はかなり安定状態になっていると考えられる。
RLH-2:染色体数のモードは78であった。核型分析はまだ行っていない。
 RLH-3:染色体数のモードは58であった。此の系の細胞の染色体数については既に報告したが、その際は63にモードがあった。染色体数の減少の理由については、更に核型の方からのデータもふやし、検討することを考えている。顕微鏡的に見た限りにおいて、此の細胞はtelocentric chromosomeを多く有している。
 RLH-4:データが不充分であって、今後研究せねばならないが、染色体数のモードは一応69にある。(染色体数分布図を展示)

 :質疑応答:
[佐藤]この4ツの染色体の核型は、お互いに似ているのがありますか。
[土井田]2と4はまだ核型を調べてありませんが、1と3に関しては全く似ていません。

《奥村報告》(書面による報告のみ)
A.JTC-4Y細胞の核型分析に関する実験
 JTC-4細胞をcloningして、そのcloneの中から染色体数の少ない細胞系を分離する試みを続けてきた。現在までに分離したcloneのうちでchrom.no.が少ないものは、A:24〜28、B:27〜32、C:30〜33、D:34〜36、E:36〜38、F:38〜42である。これらのうちで継代中に、chromosomal aberrationが非常に少ないものは“D”で最終cloningから10ケ月経過した後にも、かなり高いpurityを示している。
 この“D”cloneの細胞のcell cycleをH3-TdRのpulse labelingによって分析すると、Sphaseの時間が16〜18hrs.という極めて特異的なlife cycle patternを示す。このcycle analysisは現在最後の確認実験を実施中。同時にchromosomeレベルでDNA合成のtime patternの分析も進行中。
B.Autoradiographyによる培養細胞へのホルモン取込み実験
 6月号でH3-Progesterone、H3-Estradiolの細胞内取り込みの実験でオートラジオグラフィーがうまく行かないことを報告した。その後、細胞固定、ホルモンが細胞内の蛋白と結合する場合のことを考えて蛋白沈殿剤の種類(uranyl acetate)などを検討しているが、それらのことから一応次の事柄を問題点として拾い上げることが出来る。
1)ホルモン濃度を0.1μg/ml(Prog.)、0.01μg/ml(Estrad.)のdoseでは細胞内への取り込みをautoradiographyで明瞭にみとめることはむづかしい。
2)固定、蛋白沈殿剤としては重金属含有液はbackのgrainが非常に出現しやすくて、きれいな標本を作ることはむづかしい。現在までのところcarnoy固定が至適である。

【勝田班月報・6509】
《勝田報告》
 A)“なぎさ"→DAB処理細胞の所見
 先般の班会議に於て“なぎさ"培養した細胞を継代してすぐDABを高濃度に与えると、DABを代謝しないような細胞が高頻度に得られる、と報告したが、これらの細胞のその后の形態学的特徴を記載する。(主に1μg/ml、58〜102日間処理)。A系:形のそろった小型細胞が密集のシート。B系:やや小型、形不揃、殆んど一杯のシート。C系:中型不揃、顆粒多、集落中心部厚し。D系:小型割に揃、集落形成、分裂多し。E系:死滅。F系:小型、揃、密集シート全面。G系:中型ほとんど一杯のシート、センイ芽細胞様細胞も混。H系:小型、割に揃、殆んど一杯のシート。I系:中型、不揃、顆粒多、集落形成。J、K、L系:円形回転管にて回転培養中、観察不能。M系:中型、薄、不揃、ほとんど一杯のシート。N系:中型、不揃、顆粒多、ほとんど一杯のシート。O系:やや小型、顆粒多、不揃、小さな集落。P系:円形回転管(静置)ほとんど死滅。Q系:小型、揃、密集シート全面。
その后の観察、H系:シート上に立体的集落なし、顆粒余り目立たず、動きまわりそうな細胞は見当らず。I系:顆粒の多い細胞あり(特に大きく拡がった細胞に)小型細胞群もあり(空胞なし)。R系:小型の細胞に空胞あり、シート上に塊はあるが生死は不明、異型性少し、大型少し、黒ぽい細胞質顆粒の目立つ小型細胞多し。(表を呈示) 上記の内、特にCとDは有望なので、復元接種を試みるべく、細胞の増えるのを待って居る。特にDは顕微鏡映画撮影によると、運動性がかなり活発で3極分裂のような異常分裂やEndomitosisなども記録された。 B)“なぎさ"細胞の復元接種試験
 各種の可能性を考慮した結果、純系ラッテを用いずに(JAR♂x呑竜♀)のF1を作り(65'-8-6夕方出産、11匹)65'-8-7午すぎ、腹腔内に1000~2000万個/rat宛接種した。その后各仔とも発育しているが[10日后の観察]他の無処置の家族に比べ、全般的に見て発育が良くなく、痩せて居る。そのためが腹部が大きく見えるが、腹水は採取できない。(RLH-1・2匹、RLH-2・3匹、RLH-3・3匹、RLH-4・3匹)。やっと1000万個の細胞を揃えて、F1に、24時間以内に接種してみた理想的な実験なので、少くとも6月以上は観察する予定で個室アパートも用意して、時の経つのを待っている。
 C)DAB耐性度試験
 DABに対する耐性度を細胞の側から定量的に表現するため1種の“Dose response curve"のようなものを描くために、まず対照としてRLC-5株(無処理、肝)を用いて6日間に渉りDABを3種濃度に添加して増殖曲線をとったが(図を呈示)、何の理由か不明であるが、無添加群でも増殖率が悪くデータとしては使えないような結果になってしまった。
どうして増殖が悪かったかであるが、この頃どうも一般に当室ではその傾向があるので、培地成分、特にラクトアルブミン水解物の陳旧化に因るのではないかと考慮し、新しい製品によるテストを準備中である。なお血清は春期採取の凍結保存材料を用いた。

《佐藤報告》
 (表を呈示)表は前号に記載されたものに、其の後腫瘍が発見されたものを追加しました。最上列には肝細胞株名を記載してある。その株の由来は矢張り前号に系図を書いてあります。RLD-10のみ例外的に左に書いてありますが、他のものは株の系図と同じ順序で並べてあります。この結果から見ると64'-9-5にRLD-10株より3'-Me-DABを与へたものは65'-3-4にRLD-10(10〜20μg)からpipettingによって分離されたものを除いて、すべて腹水肝癌を生じたことになります。肉眼的に脳内水腫のみでTumorをみとめられない例で全脳をすりつぶして1ケ月程度のラッテ腹腔へ動物継代したとき明かに腹水肝癌を生じて死亡した例がC85の実験のRLD-10(10〜20μg)株例に認められました。この事は先に脳水腫とTumorを同時に認めた例と併せて、脳水腫とTumorとが密接な関係にある事を示しています。脳内水腫による死亡日数は腹腔内腫瘍死に比較して約1/2ですから、明らかなTumor形成(腹水癌発生)のsignal signとなる。
 復元して出来たTumorはC86例、C91例、C96例及びC97例については動物継代及び再培養を行い比較検討中である。今の所これらの細胞の間にかなり相異がみられるやうであるから、最初の発癌剤のときより新しい癌細胞が培地中でできつつあると考えたい。現在までの復元陽性成績から考えると、RLD-10(10〜20μg)及びRLD-10(10-L2)が復元陽性の筈出、最近65'7-7 C114:i.c.3例、i.p.4例、subc.3例。65'-7-24 C125:i.c.4例、i.p.4例を追加復元した。現在までの所Tumorの発生は見られない。
 (表を呈示)C53、C60、C61、C74、C82、C84はDABをfeedingして後、株化された肝細胞名です。
C74即ちDABを191日与えられてから培養された株は、C82(DAB-feeding236日)に比して腫瘍性が弱い。 C84は復元后、日が浅いので未だ結論は出せない。
下半分は現在判明した対照株の復元成績ですべて陰性です。
再現実験は目下色々の方法ですすめていますが、未だ成功したものはありません。

《土井田報告》
 RLH各系の細胞遺伝学的研究  
 前月月報に続いてRLHの4系の染色体数の分布および核型分析の結果を報告する。
 (図を呈示)第1図はRLH-1、-2、-3、-4系細胞の染色体数の分布を示す。これらの細胞は1965-6-16に標本を作成したものである。モードの染色体数は69、78、58、69であり、月報6508号の報告とちがっていない。
 第2図はRLH-3の染色体数およびその分布を経日的に調べた結果である。標本6501は月報6501に報告したものである。此の時染色体数のモードは63にあった。染色体数は左にひずんだ分布を示している。標本283は第1図に示した結果と同じである。染色体数は58で、分布は均等で正規分布に近い型を示している。標本作成日は上記1965-6-17である。核型分析を行なう程よい標本でなかったので、1965-7-13に高岡さんの方で標本(air dry法)を作ってもらい、観察した結果が標本285に示されている。僅か1ケ月で染色体数のモードは55に移り、標本283より更に3本減少した。核分析の方が充分に進んでいないので、どの様な変化が起っているか不明であるが、極めて興味ある現象と思はれる。染色体数の違った細胞間のviabilityに差がるにしても、何故このように徐々に変化するのか。RLH-1の染色体数が安定しているのと極めて対照的であり、変異性の原因について更に考えてみたい。
 第3図はRLH-4細胞の核型である。此の細胞は染色体数69で、13本のtelo-centric染色体を有している。他はMeta-、submeta-染色体である。RLH-1は14〜15本のtelocentric染色体を有しているが、相対的に極めて核型は類似している。厳密な更に多数の細胞の核型を調べた上で検討したいと考えている。

《高井報告》
 以前から期待していたbEIは、その後増殖が極めて悪くなり、むしろ死滅する細胞が多くなって殆ど絶滅、bE の一部とbEVは雑菌感染で絶滅してしまい、結局7月末から新たに再出発の形となりました。
 1)btk mouse embryoの皮下組織の培養(bE 及びbE )
 以前からembryoを用いることの不利と、更に全胎児を材料とすることの不利を指摘されておりましたので、今回はembryoではありますが、その皮下組織のみを材料として7月30日培養開始。方法は次の通り。btk mouse embryo 7(出産直前位)。頭、手足、尾を除いてから、ピンセットで皮膚をつまんで、ちょうど服をぬがせる様にしてむきとる。
bE =この皮膚片→皮下組織(筋肉も一部入って来る)をむしりとり、トリプシン液を加え、30分間室温でstirrerにかける→1,200rpm10分間遠沈→20%CS・YLHにsuspendして、TD40 3本へ(約15万cells/ml)。bE =この皮膚片をトリプシン液中で30分間stirrerにかける→遠沈→TD40 3本へ(約15万cells/ml)。
bE の場合も、この程度のトリプシン処理では皮膚の上皮細胞はバラバラにならず膜状に残っています。得られた培養細胞は、以前よりは均一な紡錘形のもので、殆どfibroblastsと思われます。8月6日より、これらの細胞の一部に0.01μg/mlのActinomycinSの持続的な処理を行っています。
 2)bE (8月18日培養開始)
 妊娠16〜19日目のembryoを用いて、bE と同じ方法で培養開始。この時はbE の時よりembryoが小さかったので皮膚を剥がすのがやや困難でした。今後は妊娠20日位の出産間近のembryoを用いる必要があると思います。何れにしても、whole embryoを使うよりは良いと思われますので、今後はこの方法でやって行くつもりです。
 3)mouse embryo fibroblastsに対する高濃度Actinomycin短時間佐用の影響
 Actinomycin高濃度短時間の間歇的処理による発癌実験に対する予備実験として、bE 初代(3日目)の細胞を用いてActinomycinS 1μg/ml及び0.5μg/mlの15分間処理の影響をしらべてみました。(図を呈示) 分注してから、3日目にActinomycin処理を行ったのは、今迄このcellのgrowth curveを画いた時、lag phaseが割合長いことが多かった為、わざと遅らせてみたのですが、今回の実験ではlagは殆どなく(primary culture後3日目に実験した為か?)。こんなに遅くする必要はなかったと反省しています。尚、Actinomycin 15分処理後、1回Hanks液2mlで洗ってから、Ac(-)のmediumに変えました。
何れにしても、0.5〜1μg/mlの濃度では、15分間の処理で、0.01μg/ml持続作用に匹敵する位の影響があることが明かになりました。又、この場合、持続作用の時とは異り、4日目に一度減少した後、6日目で又増加していることが注目されます。しかし乍ら、週2回短時間処理で発癌をねらうためには、これではまだ少し作用が強すぎるかとも思われます。作用時間を15分間以下にすることは技術的に困難と考えられますので、今後もう少し低濃度で15分間処理の影響をしらべてみたいと考えています。

《黒木報告》
ラット胎児細胞(肺及び皮膚)への4NQの添加(1)
 細胞が発癌剤により癌化するとき、発癌剤はどのように働いているのか、この機作を研究するのが我々の目的である訳ですが、そのための作業仮説(手がかり)がうまく出来ないため、4NQの添加をのばしてきました。
 しかし、佐藤二郎先生、勝田先生の考え、成績から見て、発癌剤による細胞のdamage、それを通しての細胞の耐性かく得を一つの道標とすることができるのではないかと考えるに至り、ここにやっと4NQを添加することにこぎつけた訳です。又、2倍体細胞に関する山田先生の仕事からみても、transferするとき、死んでしまうcellが可成りあることと考え、subcultureはなるべくさける方針にしました。
 (1)RES-13(Rat embryonal Skin)
 Donryu Rat embryoのSkinをexplant outgrowth法でcultureしたものです。(図を呈示)
 Skinは1匹分を剥し、メスで細切后explant outgrowth法でcultureしました。初代はきれいなfibroblastのsheetでしたが、2代目からLungと同様の細胞質のうすい拡がった形態を示すようになってきました。
 ☆RES-13-NQ-1は10-7乗M添加后、full sheetとなったためtransferし、失敗した例です。このとき、10-7乗MではGrowthに殆んど影響のないことをMitotic index(計算法を呈示)を計算して確認しました。
 ☆そこで10-6乗Mに一度に高い濃度を加えてみたのですが(RES-13-NQ-2)、これはほとんど全メツに近く細胞がやられてしまったと云う結果に終りました。
 (2)REL-130(図を呈示)
 REL-130は6匹分のRat embryo lungsをまとめて0.1%pronase digestionにより始めたものです。培地は最初の4日間、一部にBov.alb.を1.0%添加しましたが、toxicのことが明らかになったため、それを抜き、CS 10%、Eagle MEM(GLY+.SER.、PRO.、Pyruvateを添加、CYSは4xに濃度を上げる)を用いています。細胞の形態、Growthは前報の通りです。
 ☆REL-130-NQ-1
7月29日より添加開始。はじめは10-7乗Mでしたが以后、10-6.5乗、10-6乗、10-5.5乗Mと濃度をあげて来ましたが、cell damageの様子はなく、困っています。今后更に-5.0乗までもって行く積りです。
細胞は4NQ添加にも拘らず、Growthをつづけ、full sheet−multilayerになっている状態です。形態はmultilayerのためかspindle状、格子模様がみられます。
 ☆REL-130-NQ-2
8月2日より3日間、一度に10-6.0乗Mの4NQを加えたところ、sheetの3/4位が剥れ落ちてしまい、残ったところに島状のcell sheetをみるだけになりました。4NQの添加は三日間で打ちきり現在は普通の培地で細胞をgrowthさせています。
 このように高濃度の4NQに対して耐性のかく得(又は先天的な耐性)は今までの報告になく興味ある現象ですので、今后注意していきたいと思っています。
 なお、L細胞のPE50は(50%のplating aff.を起させる濃度)は、約10-8乗Mと云う成績が出ています。遠藤英也氏のDataによると、Chang Liver cellは10-5乗Mでほとんどmitosisがみられなくなるとのことです。
《高木報告》
 梅雨以降無菌室の状態が全く不良で、moldになやまし続けられたが、8月中旬にcoolerをつけたので大分よくなり、これからの仕事に励まうとしている処です。従って仕事の方は大した進歩がなくて申訳なく思いますが、以下moldになやまされず行い得た実験についてのみ記載します。
 Exp.3 rat submandibular gland(8day old rat)
 培地80%modified Eagle+10%CEE+10%BS。
組織片をsupportするのにteflon ringに不足を来した為、Spongelを用いた。即ちSpongelの上にlens paperをおき、その上に3〜4片のsubmandibular glandをおいた。培地交換は3日毎に行い、5日毎に固定してH&E染色を行い検鏡した。
その結果、培養5日目にしてcentral necrosisがみられ、10日目に至ると実質細胞の変性がましたが導出管腔壁の細胞は割に良い状態に保たれ、これは15日目まで同様であった。なお管腔内に小円形でpicnoticな核を有する細胞塊を認めた。培養20日になると組織は殆ど壊死におちいった。全期間を通じてmitosisの像はみられず、培養と共に壊死におちいる傾向が強くなった。
 Exp.4 rat skin(4day old rat)←4NQO
 培地modified Eagle+10%CEE+10%BS。
teflon ring、lens paperを使用した。3つの群をおいた。1)Control。2)4NQO 10-6乗mol。3)agar mediaに組織片をおく。
培養5日目になると角質が大体2〜3倍に厚くなり、その後は変化がみられず、むしろ15日目になると角質は表皮からはがれて来る。表皮は一般に5日目までに幾分厚くなり、その后は厚さに変化を来さない。核の大きさは培養と共に一部のものにおいて増し、大小不同の傾向がややみられる。mitosisの像は本実験ではみられなかった。毛嚢の構造は5〜10日目で次第に失われる。10日目以後になると全実験群に壊死の像がつよくなったが、その程度は4NQO添加群においてやや強い様に思われた。
agarを用いたsolid mediaとliquid mediaとの間に明らかな差は認められないが、liquid mediaがやや良い様にも思われた。これから培地条件につき検討を加えてみる予定である。
《堀 報告》
 前報の終りに書いた事に従って、今月はin vitroにおけるenzyme inductionをシロネズミ肝細胞の培養初期に試みることにして、その手始めとして次のことをやってみました。 (1)G6Pdehydrogenaseについて:このenzymeはシロネズミを3日間絶食させ、続いて[30%casein、60%glucose、2%Yeast,4%植物油、4%粗製塩]よりなる餌を2〜3日与えると、無処理の肝では極めてうすくしか染色されなかったものが、非常に濃く染まる様になり、簡単にinductionを証明出来ます。処が、in vitroでは同じ方法がつかえないので(inductionのために)、まず上記の処理をしたネズミの血清、各種臓器をとり出し、その抽出物を作って、色々なdoseで無処理のネズミの腹腔に注入し、その肝を染色してinductionが起っているかどうかを調べてみました。もし、有効抽出物が得られたら、それを培養細胞に適用しようというわけです。処がどんなことをしてもさっぱりその有効成分を分離出来ず、この試みは目下の処失敗です。
 (2)G6Paseについて:ネズミにcortisoneを投与すると肝のG6Pase活性が3倍位上昇すること、この上昇はenzymeがinduceされたためであることが知られています。そこで、培養肝細胞のcortisone処理を行い、G6Paseの染色を試みました(培養するとG6Paseが染らなくなることは前に報告しました)。1μg/mlから上のdoseで色々やってみましたが、10μg/ml以上では短期間に細胞がやられてしまうので、結局1μg/mlで1日〜1週間処理をしてみたのですが、結局これでもenzyme inductionは不成功でした。目下、in vitroでのenzymeinductionを如何にやったらよいか困って居ります。
 上の実験とは関係ないのですが、phytohemagglutininの培養肝細胞に及ぼす影響を調べて居りますが、目下の処顕著な増殖促進効果はみられて居りません。

【勝田班月報:6510:培養肝細胞の酵素活性】
《勝田報告》
A)“なぎさ”培養からDAB処理に移して生じた変異細胞株のDAB消費について:
 1〜数ケ月間“なぎさ”培養をおこなってから、TD-15瓶に継代し、これに5 or 10μg/mlの高濃度にDABを与えると、3〜4日後の第1回の培地交新のときにはDABが消費されているが、次の3〜4日後の第2回目のとき、非常に多くの例で、DABが消費されなくなっていたことはすでに報告した。
 (表を展示)表はDABを加えてから0.5〜1月後に測った第1回のデータと、さらに約3月後に測った第2回のデータで、5μg/mlにDABを加え、約10万個の細胞を4日間培養した後、培地上清をコールマン比色計で450mμで吸光度測定したもので、Blankにはcell-freeでincubateした培地を用いている。第1回測定の際は4例だけが著しい消費を示しただけで、あとは消費能が著しく、或は中等度に低下していた。A株は第1回のときは消費せず、第2回のとき消費を示したが、これと同様のR株とを除けば、他はすべて、第1回のときと同じように、一旦失った消費能を回復していなかった。つまり、この“消費能喪失”はかなり安定した変化であったといえる。これら変異株の染色体数については現在分析中であり、ラッテへの復元接種試験も長期観察を準備している。
B)各種細胞のDAB耐性の試験
 ラッテの肝細胞は他の細胞よりDABを高度に代謝することが知られている。そしてDAB肝癌にその能力のないことも同様である。それならばDABに対する抵抗性に於ても、肝細胞は低く、肝癌は強いのかどうか。培地にDABを0、1、5、10μg/mlと加え、各種の細胞について、6日間の増殖に対する影響をしらべた。(10細胞系についての増殖測定図を呈示)
a)正常ラッテ肝細胞株(RLC-4、RLC-5・継代2代)
 いづれもDABの濃度に比例して増殖を抑えられる。同じラッテ肝といっても、株によって耐性に差のあることが判る。同じinoculum sizeで比較するとRLC-4の方がRLC-5より弱い。RLC-5のinoculumを減らしてみると、RLC-4と同じようなcurvesになってしまう。代謝する細胞の場合はinoculum sizeがものを云うのは当り前であろうが、4.1万個接種のRLC-5・10μgの線に同じ細胞系の1.2万個接種の1μの線が略一致している。継代初期(第2代)の肝は1μgでもこわされ、以上4種の内では耐性が最も弱い。
 b)“なぎさ”変異株(RLH-1)
 同じく肝由来ではあるが“なぎさ”培養で生まれた変異株の内、RLH-1について同様にしらべてみると、10μgは増殖が抑えられているが(こわされていない)5μg、1μgでは、少し抑えられるだけで、かなりの増殖度を維持している。
 c)肝以外の細胞株(ラッテ心由来上皮様細胞株RLH-2、L株)
 RLH-2で面白いのは、5μg、10μgではRLH-1よりも抑えられるのに1μgでは反って増殖を促進されていることである。L株では5μgで少し抑えられ、10μgで4日以後curveが下り坂であるが、6日以後の細胞数はまだinoculumのx3近い。
 d)DAB肝癌由来の細胞株(AH-66、AH-130、AH-7974)
 AH-66は培養の形態像は正常肝のそれによく似ているがDAB肝癌3種の内では、DABに対して最も抵抗性が低かった。AH-130、AH-7974の株はいずれもDABに対し抵抗性が強く10μgでも増殖を続けていた。
 これらの6日後の細胞数のControlに対する%を以ってdose response curvesを描いてみたが、どうもはっきりと細胞の種類別による傾向を示すような図にはならなかった。

 :質疑応答:
[奥村]“なぎさ”培養からDAB高濃度に移した場合、細胞は死ぬのですか。
[高岡]はじめは余り増えませんが死んで行くのではないと思います。だから分裂を抑えているのではないでしょうか。
[奥村]Synchronous cultureでやってみたら如何ですか。TdRで抑えて揃えて・・・。
[勝田]TdRを大量に入れて揃えるのは良い方法とは思えません/
[奥村]合成をみるだけならよく判るでしょう。
[佐藤]一番困るのはTweenの問題です。Tween0.05でももうこたえる。Tween耐性(株)をつくってやってみたが、大分作用がちがいます。Tween0.05で10μgだから、10μgDABの時のTweenがかなりのshockで、DAB量としてはこれがmaximumでしょう。動物の場合でもオリーブ油などを合わせてDABをかけると、発癌能率が良いという報告がありますよ。
[奥村]Tweenで細胞の表面が変るのですか。
[佐藤]細胞質に脂肪顆粒が出ます。Tweenだけでも出るのです。
[堀 ]Tweenではbasophiliaがなくなるだけでしょう。liver cellだけでなく腹水癌細胞にも同じ作用を示します。
[佐藤]一つ有利なことは、DABはTweenを入れないとよく吸収しない。だからDABを吸収しない細胞はまちがいない。
[勝田]“なぎさ”からDAB高濃度処理ですぐ変異細胞が現れるということは、DAB単独処理で変異細胞の現われるのに要する長い期間の内の、大部分の期間を“なぎさ”が代行するということになります。しかもその作用は似た方向への細胞変化をおこなわせている訳で、DABの作用のいくつかの内の一つは、やはりcatabolic enzymesをやっつけることかも知れませんね。
[黒木]Dose responseの解析はできますか。
[高岡]1、5、10μgDAB添加群の増殖細胞数を対照群の増殖細胞数で割って100倍という式で計算してみたのですが、細胞種による傾向分けははっきりできませんでした。
[黒木]logにとったら良いのではないでしょうかね。0〜1μgはplateauで、それ以後は下がるというような・・・。blankノ吸収はどうですか。やはり450mμにpeakが行きませんか。
[高岡]450mμというのは血清培地と、それにDABを加えたものとの間で、吸光度の差がいちばん大きなところなのです。はじめにそれを測ってから使ったわけです。
[勝田]寺山さんも、この間の班会議のとき、450mμはDABの吸収のところだから、それで良いという話をしていましたね。

《佐藤報告》
 (表及びShemaを呈示)RLD-10 Strain Cellsを材料として、3'-Me-DAB発癌の再現を行っている表を示します。動物への復元は、C99以外は未だ結果判定日(60〜90日)に達していません。C99を含めてすべての復元動物は未だTumorをつくっていません。A、C、G、以外の実験lineは現在尚実験進行中です。
 次に再現実験の観察から得られた培養ラッテ肝細胞の発癌?に到るまでの形態的変化をShamaで示します。Shamaの要点は3'-Me-DABを添加すると、顆粒が細胞質に現われる。次いで細胞に空胞が生じて変性する。他方3'-Me-DABに対して耐性をもった様に見える細胞が出現する。この細胞は細胞質に顆粒が見えない。核仁が大きくなっている。この細胞は3'-Me-DABが更に追加されると、又悪性を起す。変性の中に耐性ができ、その結果更に強い耐性細胞が形成される。上記過程を繰り返して癌細胞が形成される。
 復元成績については、RLD-10株に3'-Me-DABを添加して悪性化した細胞をラッテに復元した後、再培養した細胞AH-Te-86tについて、ラッテ(新生児)の脳内(i.c)、皮下(s.c.)に接種して生存日数を調べました。AH-66Fを培養して脳内及び腹腔内接種をおこなったもの、JTC-2(AH-130の培養株)を脳内に接種接種したものと比較してみました。

 :質疑応答:
[勝田]脳内に接種して出来た腫瘤を、ラッテの腹腔に継代接種すると、どうなりましたか。
[佐藤]2例やってみました。勿論つきますが、死ぬのにはやはり50日位かかりました。脳内接種で死ぬということと、脳の内にtumorが出来るということは、区別したい。
[勝田]腫瘍性を確めるという意味では腹腔内接種の方がたしかでしょう。脳内接種で死んだのでは、死因が不明確なのでもう一回腹腔に継代してみなくてはなりませんから。
それから、接種細胞数が少ないとき、動物の延命日数にばらつきが大きいように思われますが、理由として、1)接種細胞数にばらつきが大きいか、2)動物が純系でないため動物の個体差が大きいか、この二つが考えられますね。
[黒木]接種細胞のばらつきが大きく影響するでしょう。
[勝田]RLD-10以外の細胞も使ってみる必要がありますね。
[佐藤]だんだん細胞をかえてみたいが、まずは再現性をたしかめてみます。
[勝田]再現性を確めるには、箒星形細胞の株などより、別の実質細胞の株について確めるべきでしょう。
[佐藤]RLD-10の色々な処置群の内、(系図を呈示)左の半分の群がいづれもつかないで右半分だけがつくというのは何故か、ということですが、DABの与え方が影響するのではないかと思います。図では入れ放しのように見えるところでも、増殖具合によって、ときどきDABを抜くことがあったのです。primary cultureでもはじめていますが、1μg/mlでも細胞の消滅して行くことが多いので難しいです。
[黒木]477日→840日の変化は再現できないのが問題ではないでしょうか。また840日後の所ですでに腫瘍化しているのではないでしょうか。
[佐藤]それは考えられますね。
[黒木]primary cultureで1μg/mlが限度ということは、477日位で10μg、800日位で30μg、477−840日の間のDABなしの培養が問題になるのではないでしょうか。
[佐藤]株分けする前に癌になっていたのか、それとも細胞のcontamiがあったのか、という点ですが、枝分けしてできた細胞が夫々かなり違っているのでcontamiでないことはいえるでしょう。10μg4ケ月の方ですが、DABを与えていないからなるべく培地交換をしなかったので、これが問題かも知れません。継代をした方が癌を作り易いのではないか、といま思っています。それから細胞濃度によって、例えば10,000と100,000とで、DABの作用が違うようです。
[勝田]DABの消費具合はどうですか。そんな高濃度に加えていれば、培地交新のとき目でみても判る筈ですが・・・。
[佐藤]まだやっていません。細胞数が違うとものすごく違うから、目で見るのでは問題と思います。癌化した分も測ってみるつもりです。
[勝田]知りたいことは、あの系図のどこで消費が変ったかということですね。
[佐藤]手間がかかって今の方法では出来ません。
[勝田]君の方法は1μg/mlで測っていますが、routineに10μgも入れていれば、変化があればすぐに判るのではないでしょうか。わざわざ測らなくても作業中に判る筈です。
[佐藤]そういう意味なら、今の細胞はほとんどDABを消費していません。それから、この実験はここで中止して、今後は色々の注意を生して、再現実験をした方がいいと思っています。そして実験のときには形態、特に核に念を入れるつもりです。
[黒木]10μgに対する耐性ですが、他のlinesで長期培養したもので、DABに対する耐性がありますか。
[佐藤]primaryで1μgだから、株ならすごく耐性があるとはいえます。しかし10μgの方も完全に耐性というわけではありません。ときには抜いて細胞を増やしますし、継代にも注意しています。
[黒木]primaryからやるときも、10μgまで持って行かなくてはいけませんが、DAB(-)で数百日かかるところを、DAB(+)でどの位かかるかが問題ですね。
[佐藤]殖えるようになったらいいのではないですか。primaryを早く増殖系にもっていくにはどうしたらいいかということも同時に考えています。シャーレのコロニー法を考えています。
[勝田]寒天法はどうでしょうね。効率は悪いけれど・・・。
[高岡]DAB耐性は、株によって個体差がすごく大きいようです。そして耐性は株の培養日数とは一概に結びつきません。
[奥村]耐性とcarcinogenesisと直接関係がないということにはなりませんか。
[高岡]まだはっきり判りません。DAB肝癌ならばDAB耐性かと思ったのですが、そうとは限らないのですね。
[黒木]耐性と消費を区別しなくてはならないということになりますね。
[佐藤]培養日数を長くしたら変ることがあるのではないですか。
[高岡]RLC-5は現在使っている株のなかでは培養日数が長い方ですが、それでも他の株よりも多く消費します。
[勝田]考え方として、消費と耐性とは区別した方が・・・と思います。
[黒木]本来は区別されますね。消費そのものが細胞のdamageと同義的なものならいいのですが。
[佐藤]DABがなくなることは、DABの一定の所が切れたためとは限りません。
[黒木]azobandが切れるということではないのですか。
[佐藤]そうとも限りません。培地でみているのだから、細胞の蛋白にくっつくだけのも、分解されるのも、いろいろあります。
[奥村]耐性とはどういうことでしょうね。
[佐藤]生体でDAB肝癌が出来ることは、少くともDABでやられるような細胞なら存在できない筈で、だから生残る細胞、耐性細胞でなければ、癌細胞とは考えられないということになります。
[奥村]生残ること即ち耐性ということより、非感受性的ということも考えるべきでしょう。つまり、いわゆる耐性と、みかけ上の耐性があるでしょう。かなりgeneticな意味としての耐性と、消費しないということは、区別しなければいけないと思います。
[佐藤]耐性を遺伝的にはどういう風に考えますか。
[奥村]耐性因子の概念を考えます。
[佐藤]増殖率を耐性としてみるのかどうかを、消費の方と両方をためしてみたいと思います。
[土井田]普通は死ぬかどうかの生存率でみます。それに対し、最近bacterial geneticsの領域では、molecular levelでやっているものがあります。大腸菌にUVをかけると、thymine dymerができます。UV耐性のはこれを放り出して、あとrepairするのです。このように耐性の意味が判っているものがあります。
[佐藤]耐性というより、増殖率、消費率といった方がいいでしょう。
[土井田]resistanceということがあります。
[佐藤]生死ということを基準に耐性を云えばよいのですか。
[勝田]細胞浮遊液をシャーレにまいて、集落のでき方をみるというのも、増殖をみているわけですから、結局生死よりも増殖を基準にしている方が多いですね。
[佐藤]生きていても増えないものもあるし、DABにやられながらも殖えるものがあります。
[奥村]耐性より抵抗性の方が広い意味があるのではないでしょうか。
[勝田]生死の場合は、耐DAB生存率というような言葉を使うべきでしょうね。

《堀 報告》
 月報6507に書きました様に、培養肝細胞のグリコーゲンやphosphorylase活性は、培養後3hrs.にして全く検出不可能になってしまうことが既に判りましたが、その際用いた方法は、8立法mm位の組織片をカバーグラスにのせて回転培養し、時間を追ってその組織片をとり出して凍結切片にするというやり方でした。
 今回は比較的大きい組織片(0.1〜0.2立法cm)を作り、これを炭酸ガスフランキ中で(1)培養液を用いず、(2)LD-20にinsulin(0.1〜1u/ml)、または、phlorizin(1〜10mM)、または、cortisone(1〜20μg/ml)を添加した培地と共に静置培養し、2、4、6、8hrs.後に取り出して凍結切片とし、そのグリコーゲン、phosphorylase、G6Pase、G6PD活性を染色により調査してみました。insulin、phlorizin、cortisoneはいずれもin vivoにおいて肝グリコーゲンの増加をもたらすと同時に、cortisoneはG6Pase活性の上昇をうながすといわれています。またphlorizinはphosphorylaseのinhibitorともなりえます。
 結果は、意外なことに(1)mediumを用いず唯、単に炭酸ガスフランキ中に放置しておいた組織片が一番長く酵素活性とグリコーゲンを保持しており、(2)insulin、phlorizin、cortisoneなどの添加は殆ど何の影響もなく、無添加培地を用いたときと同程度の酵素活性の消失を示しました。更に、これら3物質を培養1週間のliver cellに作用させてみましたが、PAS、G6Pase染色の増加は全く見られませんでした。唯、G6PD(G6Pdehydrogenase)活性は上記組織片での実験では、殆ど検出不能な程の活性しか示さなかったのに反し、培養して組織片からoutgrowthした細胞では、組織片に接している部分の細胞に限り、明かに強い増加した活性を示し、組織片から遠い細胞程、弱い反応を示しました。目下の処、調査した数少い物質の中、培養した細胞で活性乃至は含量が増加したものはこのG6PDのみです。

 :質疑応答:
[勝田]薬剤の効果は投与期間にも関係あるでしょう。
[堀 ]コーチゾンでは、いろいろやってみましたが、10μg以上では変性におちいります。1〜5μg1〜2週ではG6Pは変化ありません。
[勝田]migrateした細胞の内で、植片に近い細胞の方がG6Pase活性が高いように染っていましたが、ギムザ染色などでも染まり方はそのようですね。
[堀 ]本当は肝細胞についていい染色があって、癌化したかどうかを染色でみられる方法があればいいと思います。
[黒木]G6PDHでisozyme patternはどうでしょう。
[堀 ]普通の方法では1〜2本出ます。
[黒木]isozyme patternで違うものが出ればinductionと見るのですか。
[堀 ]まだ調べていません。培養の場合は、組織量が少いので抽出してみていません。生体材料ならば簡単に抽出できるのだから、何か有効成分があっても良いのですが、それを調べると、生体でのincucerの実験になってしまうので、その点ためらっています。
[勝田]固定法はどうするのですか。
[堀 ]-70℃のアセトンで固定して脱水し、いきなり染めます。
[黒木]培養しているとisozyme patternが変ってくるということを今度癌学会で発表する報告がありますね。
[奥村]ハムスターでは1本になります。ふえるのではなくて減る方の変化ですね。
[堀 ]Minimal deviation hepatomaではG6PDHが他の肝癌より割合に高いですね。G6Paseも他のに比べると高い。肝臓の悪性化はG6PDHの活性に関係があるように考えられます。また酸性ヘマトキシリン染色で細胞を染めると、肝細胞は染まりませんが、肝癌は染まるのと染まらないのとあります。
[勝田]うちのラッテの肝細胞の株でやってみたらいいのではないでしょうかね。
[堀 ]冷アセトンで固定して送ってもらえばやりますよ。
[勝田]G6Paseもcheckしてみたいですね。
[堀 ]冷アセトン固定のほかに、1%フォルマリン固定し直した方がよいこともありますから、送り方については、もう少し検討しましょう。

《高井報告》
今回はbEVI、及びbEVIII群のその後の経過と、in vivoで作られたActinomycin肉腫(固型腫瘍)のprimary cultureについて報告します。
 1)in vivoで作られたActinomycin肉腫(固型腫瘍)のprimary cultureについて。
in vitroにおけるActinomycinでの発癌実験の際の目標をはっきりさせるために、btk mouseで作られたActinomycin-induced sarcomaのprimary cultureを行い、その形態及び復元性をしらべてみました。材料の皮下肉腫はbtk mouse(♂)に、本年1月26日より約4ケ月間Actinomycinを週2回皮下注射して、8月に生じてきた腫瘍で、トリプシン消化(約60分室温)したものを、15%BS・YLH培地で培養しました。(ASS.I→8月11日培養開始。ASS.II→9月9日培養開始。) 細胞の形態は非常にsharpな感じの境界鮮明な紡錘形の細胞がかなり多いのが注目されます。この型の細胞は、今迄屡々報告して来たところの、bEAc群に現れて来る細胞とかなりよく似ております。
ASS.Iの方は8月16日(5日目)にbtk mousu腹腔内に復元接種(100万個)し、このmouseは、28日後に腫瘍死しましたが、腹水はなく、腹壁及び腸間膜にTumorが認められました。この事からbtk←Actinomycinのin vitroの発癌をcheckする場合には、腹腔内接種よりも、むしろ皮下接種の方が適しているのではないかと思います。
ASS.IIの方は、4日目の細胞を皮下に接種し(30万個)、約1W後より皮下に結節を触れ、現在漸次増大しつつあります。
尚、ASS.Iの方は、2代目へ継代しましたが、約5日後には殆どの細胞が変性、脱落してしまいました。
 2)bEVI−K.及びAc.群について。
上記のASS群の細胞の形態を参考にしながら、in vitroの発癌実験の方を見て行くと、bEVI.K.(Ac.(-))群では既報の通りの細胞ですが、bEVIAc(8月6日以後Ac.0.01μg/ml)はAc.添加後8〜10日頃には、すでに細い紡錘状の細胞が多くなり、2W後にはsharpな小紡錘型のものと、広いcytoplasmaをもった細胞とが混在しておりましたが、8月23日第4代への継代後、突如として、全くK群とよく似た細胞ばかりになってしまいました。このことから、Ac.添加後、ASSの細胞に近い細胞が出現したら、それらが消失(selection?)してしまわないうちにmouseに復元する方が良いかとも考えられます。
 3)bEVIII−K.及びAc.群について。
8月18日培養開始。Ac群は8月25日にAc.(0.01μg/ml)処理を開始。Ac.添加後6日目に少数の細い紡錘型の細胞が出現。添加後17日目には、K群に似たひろがった細胞の所々に、小さなはっきりした境界をもつ紡錘型の細胞、円形の細胞、破壊された細胞が存在しております。これを9月13日に、btk mouse1匹の皮下に接種しましたが、現在までのところ、Tumorはふれません。接種した細胞は一応70万個でしたが、この中にはかなりdamageをうけた細胞が多く含まれており、ASSに似た小紡錘型の細胞は約16万個でした。
今後は、最初から多くの瓶で培養、Ac.処理を行って、もっと多数の細胞を復元出来る様にするつもりです。(各群の顕微鏡写真を呈示)

 :質疑応答:
[勝田]接種したマウスは、当分半年以上は観察した方が良いですね。
[高井]繰返して投与する法、その他でもう少し長く培養してみます。それからアクチノマイシン耐性も培養でしらべてみたいと思っています。これは一度やってみたのですが、余りちがいが出なかったのです。LD50でみると差が出るのではないかと思っています。DABとちがって、アクチノマイシン発癌は注射した場所からの距離によって作用が違うと思います。
[勝田]それなら耐性のできることが必要条件ではないでしょう。
[高井]割合早くできているかどうかです。
[勝田]佐藤君がDABでやったように、発癌経過を追って、逐次動物の局所を培養してみたらどうですか。
[高井]それはやってみたいのですが、どこから出来るかわかりませんので、in vivoで発癌したもののin vitroでの性格をしらべたいと思っています。奥村班員が以前に仁の数について話して居られましたが・・・。
[奥村]仁の数がハムスターの場合、増えるということですね。
[勝田]紡錘形の細胞が増えるのを待ってから復元したらどうですか。
[高井]それがあんまり増えないので困っています。
[勝田]佐藤君、in vitroでDABで肝癌になった細胞の増殖率は?
[佐藤]1週間に10〜20倍で、あまり変りません。
[高岡]発癌もしない内から、ずい分増殖するのですね。うちの正常肝細胞株は週にせいぜい5倍位です。
[佐藤]アクチノマイシン発癌で、マウスで日を追ってしらべたのがありますか。
[高井]ありません。アクチノマイシン発癌は、病理の部屋でも、まだやっていませんから。
[勝田]病理的データがないというのは困りますね。まずそれからやる必要がありますね。染色標本でもつくって詳細に見るべきですね。
[高井]癌発生の再少量なども知りたいです。
[黒木]Act.Dで出来なくて、Act.Sだけで出来るというのは、どこが違っているからでしょう?
[高井]ペプチトがついていますが、その一部が違うだけです。

《黒木報告》
 ラット胎児細胞への4NQの添加(2)
「耐性を通しての腫瘍性のかく得」という佐藤二郎先生の方針を受けついで、4NQOでも10-7乗Mから1/2〜1/4 logMolづつ濃度を増していきました。前報では10-5.5乗Mまでを報告しましたが、その後、濃度を更に1/4 logMol増加させたところ細胞変性と巨細胞の形成がみられるようになり、一応の目的を果すことが出来ました。しかし4NQO 10-5.25乗Mol添加を少しよくばり4日間続けたため、細胞の変性はなかなか回復せず(培地から4NQOを抜いても)に終ってしまいました。というのは、TD-15を炭酸ガスフランキに入れて培養すべくMetalcapしたまま普通のincubatorに入れ2日間放置するという失敗を演じたためです。(顕微鏡写真と継代略図を呈示)
 REL(Rat Embryonal Lung)の継代
 Ratのembryoからとった細胞の継代は思いの他むつかしく、継代図でも分るように1G、2GはうまくGrowthするのですが(REL-130では1G、2Gをそれぞれ6日及び8日でtransferしている)、3代目はGrowthが極端に落ちてしまいます。REL-130では、約2ケ月間transferできず(full sheetを作らず)現在に至っています。
しかし、ビンのところどころにfocusができていますので、そこから増殖度のよい細胞が増えてくることと思はれます。現在までの培養したRELの1G、2G、3Gのうえつぎは次の如くです。
 Exp#  Cell Name  1G  2G  3G  4G  5G
 #306  REL-123   3day 4day 4day nig.
 #297  REL-101   10   5   4 14 nig.
REL-103 4 4 4 nig.
REL-105 6 13 10 65 9*
*6G=15d.7G=6d.8G=18d.  nig.=no.growth
すなわち現在まで継代されているのはREL-130(これはGrowthは不安定)及びREL-105の二つです。transferしたらMetalcapで栓をし、炭酸ガスフランキに2〜3日入れるとよいようです。
 封入体の形成
 L-cells,REL-130,Yoshida Sarcomaに10-5乗M、10-7乗Mの4NQを加えたのでは封入体は見られませんでした。しかし、HeLaを用いたところ遠藤英也氏の記載のような封入体を見ることが出来ました。(写真を呈示)
4NQOよりは4HAQOの方が明瞭であり、また、24hrs.処理は3hrs.処理の方が著明です。この本態については、RNPとされています(GANN,52,173-177,1961)が、時間及び核内の場所から考えても核小体の変性物のようです。
なお、Yoshida Sarcomaは10-7乗Mの4NQで完全にdamageされます。
 今後の問題
 上述のようにラットの細胞は3〜4Gにcrisisがあるため、発癌Exp.には適さないように思はれます(4NQで、耐性からcell damageへと来ても、丁度crisisと重るため継代出来ない)。
 そこでドンリュウから純系のBuffalo、及びハムスターに動物をきりかえようとしています。特にハムスターは山根教授のところで基礎的なdataを出していますので仕事はやりよいかと思はれます(アルブミン添加培地による繊維芽細胞の継代)。
 ただし、ハムスターのin vivoのExp.がないのでそれを平行して進める積もりです。
 次の問題として、4HAQOの不安定さがあります。pH7.2で30分でこわれる程なので、Exp.に使いにくく困っています。4HAQOのAcetyl化により安定にすることを考えているところです。
 封入体の問題はcellによって出たりでなかったりするので、どれだけの意味があるか疑問ですが一応H3-TdRによるAutoradiographyを用いてDNA合成能のcheckだけはするつもりです。
 *附 継代培養された吉田肉腫のLife Cycle
 134G.1663days cultureの細胞にH3-TdR 0.04μC/ml処理し(30分間)、Life Cycleを調べました。さくらNR-M2使用、1W露出後、Konidol現像、Giemsa染色という順の操作です。
G.T.:14.0〜14.6hrs.、G1.:1.4〜2.0hrs.、S.:9.0hrs.、G2.:3.1hrs.、M.:0.5hrs.、L.I.:46%、M.I.:3.4%という成績です。Grainの分布表にもとずき10ケ以上を“positive”“labeled”としました。
1.5時間毎に48hrs.に恒りサンプリング、%Lab.mitosisの推移を表にしました(表を呈示)。二晩徹夜のおかげできれいなカーブがとれました。
今迄に発表された成績との比較では松沢氏の成績がもっともきれいです。

 :質疑応答:
[佐藤]胎児の日数はどうやって決めるのですか。
[黒木]3日位mateさせて妊娠したものを使うのです。3日位の程度差で出来ます。
[佐藤]何日ぐらいのを使うのですか。
[黒木]15〜16日以後のです。肺はピンセットで簡単にとれます。
[勝田]4NQOを増やしていった実験はまたはじめて欲しいですね。
[黒木]logで濃度を上げていくと、細胞がやられるとき、急にやられてしまいます。はじめ限界の見当がつきませんでした。
[高岡]濃度を上げたときのsubcultureは?
[黒木]していません。
[勝田]核小体が抜けるというのは、うちでもサリドマイドか何かを入れたとき同じような経験があります。
[黒木]発癌性のあるものの場合にあんなことがおきるのでしょうか。何かがとけ出すのではないかと思います。
[勝田]細胞のRNAは? Unna-Pappenheimか何かで染めてみましたか。

《高木報告》
 #5)Skin organcultureの予備実験の一つとして先ずsuckling rat skinの培養に及ぼすChick embryo extractの影響を観察した。
 方法は生後5日目のWistar rat skinを用い、70%Alcohol及びハイアミンに各々5分間づつ動物ごとつけて消毒後、Hanks駅で洗い背部のskinを切り取って3x3mmの切片を作り、Lens-paper上に二片宛置いてteflon ringで支えmediumを切片の下縁がやっと浸る程度に入れた。mediumは20%B.S.を含むEagle's basal media(但しPyruvateを含む)に10%Chick embryo extractを加えたもの及び加えないものにつき検討した。
 培養組織は、3日目毎に培地交換し、一部組織をBouinで固定し、H & Eで染色して観察した。
 9日目まで主として表皮は比較的よく維持され、これまでに報告したものと大体同様の所見で、真皮にはnecrosisが強く、核濃縮及び細胞質の染色性の低下をみた。embryo extractを加えたものと対照の間にはほとんど差が見られなかったが、9日目のものでは表皮の状態はむしろC.E.E.を入れないものの方が幾分良い様に思われた。10日以後のものでは全体にnecrosisが非常に強いので培養を中止した。
 以上の結果から生後のRatを用いる場合、C.E.E.は特にその組織を維持する上に良い影響は及ぼさない様であった。尚、生後のRat skinを培養する場合、その消毒法が問題になるが、これまで動物を70%alcohol、次いでハイアミンに約5分間つけて消毒し、組織片を切り取って、これをHanks液で洗っていたが、この最後の洗いが不充分であった様に思われる。従ってこれら薬液によるtoxicな効果が、組織片の維持を短くしていたとも思われる。次回はこの点を検討したい。
 #6)mouse skinをorgan cultureしこれに及ぼす4NQOの影響をみたが、今回は特に高濃度、即ち4NQO最終濃度10-4乗Mol及び10-5乗Molを入れた場合に組織細胞がどの様に反応をみせるかを検討すべく計画した。
 生直前と思われるfoetal mouseの背部より3x3mmの皮フ切片を取りLenspaper上に置いてstainless meshで支え、組織片の下縁にLiq.mediaが丁度達する様にして培養した。MediumはC.E.E.、B.S.を夫々10%含むEagle's basal mediaを用い、これに4NQOを10-4乗及び10-5乗Molになるように加えた二群をおいた。3%炭酸ガス97%酸素混合ガスを送気して培養後、24hrs.、48hrs.、72hrs.、5日目、7日目、12日目にBouin固定し、H & E染色にて観察を行ったが、先回4NQO 10-5乗Molで培養した時は5日目で已に組織がnecroticになった事を再検討する為とChang Liver cellに4NQO 10-5乗Molを作用させると、24時間後に已に核内封入体を生じたとの報告があるので、その点をたしかめる為、この様な短間隔で観察した。
 培養後、24時間で両群共に角質の肥厚を認め特に10-5乗群に著明であった。48時間後のものでは24時間目のものに比しあまり変化が見られず、72時間後に至り10-4乗群で表皮の一部に肥厚の傾向を認め、対照群及び10-5乗Mol群に見られた核周囲の明庭もみられず、核は一般に濃染し表皮表層部にて細胞質内空胞の増加を認めた。この傾向は5日目、7日目にても同様であったが、培養後日数の経過につれて全体的にnecroticになり、特に真皮にその傾向が強く見られた。培養12日目では、10-4乗で表皮の肥厚が見られず表皮細胞の状態は5日目、7日目のものと、ほとんど変化がなかった。10日目までで培養を中止した。Chang liver cellに4NQOを入れたとき、24時間後にみられたと云う核内封入体の如きものは認められなかったが、表皮の肥厚が培養数日中に見られ、10-4乗Mと云う高濃度でもかなり長期間培養にたえることが分った。
 動物に発癌剤を作用させる場合は、可成り高濃度のものが用いてあり(Mouseに4NQOを塗布する際は0.05mgを1回量とする。HamsterにDMBAを注射する時は5mgのPelletを用いる)この意味からin vitroでもDMBAの如くpelletの形で作用させることも考慮している。また、これまでにskinは少し小さく切りすぎた感があり、もっと大きく切ってみたい。
 これまでの成績で培養があまりうまくいかぬ原因として、先に述べた皮フの消毒の問題、組織が“しめりすぎ”になってしまう傾向があること、またskinは培養の場合まるく巻いてしまう性質があること、などが挙げられるが、上記の培養日数をへた組織の所見で表皮と真皮とが剥離する所見が見られたのは、Lenspaperから組織片を剥す際の外力による障害ではないかと考えられ、その点、rayon acetate meshの使用等も考えねばならない。

 :質疑応答:
[勝田]組織がレンズペーパーについたままで固定して薄切したら、組織がこわれずにうまくゆきませんか。
[高木]レンズパーパーがうまく薄切出来るでしょうか。
[奥村]濾紙でさえちゃんと切れます。
[高木]いろいろ試してみようと思っています。
[勝田]現在の技術では、長期間のorgan cultureが出来ないのですから、organ cultureでの発癌実験は無理ではないでしょうか。Cell cultureに切りかえるか、organ cultureで続けるなら、それをまた動物へ戻してみるという手があります。
[高木]胎児組織でなら、2〜3ケ月培養できますから、その間に勝負をつけたいと思います。Organ cultureではCell cultureでかけられないほどの高濃度がかけられるという利点があります。
[黒木]4NQOの動物での発癌実験では120〜150日もかかると云われていましたが、今では最低1回の接種で割に簡単にできるのですね。
[高木]私は3週から1ケ月の所見で発癌をみています。
[勝田]どうしてもOrgan cultureでやるのなら、Culture内で一定期間4NQOを与え、その皮膚植片を同系の動物に移植し(同系ならtakeされますから)どの位culture内で処理したのが皮膚癌を作るか−をみる。それができれば、またculture内の観察に戻って、その処理期間の間に細胞にどんな変化が起るか、をみれば良いわけです。これはぜひやってもらいたいですね。
[黒木]動物に注射して、その部位をOrgan Cultureするのはどうですか。
[勝田]それで何が判るのでしょう。in vitroでの性質の変化を追いたいのです。
[佐藤]胎児をすりつぶして同種の動物に接種したらembryomaができたという報告がありますね。また、別のことですが、発癌物質のattack後、何回か分裂がなくては発癌しない、という考えがあります。
[奥村]Geneの変化がcumulativeだと考えて良いのでしょうか。
[黒木]Heidelbergerの考えだと、DAB発癌の場合、あんなに長く期間がかかるのを説明できないでしょう。
[勝田]不思議に思うのは、発癌剤の場合、組合せで加算的に行くということです。各発癌剤は夫々ちがう処をattackしている筈なのですがね。だから非特異的な破壊作用をしているのにすぎないのではないか、とも思ってしまします。
[奥村]Polygeneの考え方がありますね。作用過程は別だが結果は同じ、ということが考えられます。
[勝田]加算説は正しいようですね。ネズミに煙草の煙を吸わせただけでは発癌しないが、これに発癌剤を少し与えると肺癌ができる、という実験がありますね。
[奥村]煙草のアルコール抽出物でラッテに100%確実に癌ができるそうです。“憩”の抽出物です。

《土井田報告》
 今月は前月にひき続きRLH各系の細胞遺伝学的研究につき報告するが、前月月報に記した以上に大きな進展はなかった。私自身の努力の足りなかった点もあるが、教室が私一人になり、その上国際生理学会のあふりを食って外人来訪が相ついだため、此の一月朝から晩まで殆んど自分の時間がなかったことにもよる。国際放射線学会に菅原教授を無事送り出し(菅原、土井田で発表)、9月にRLHの細胞遺伝学的研究を終る心算だっただけに雑用に追い廻されたことを、かえすがえす残念に思っている。
 「核型分析の結果」
 RLH-3系:染色体数が経時的に63から58、更に55と減少した。最初の63本を有する系(6501)ではMeta-、Submeta-、Subterminal-centric chromosome数は約20本(18〜22)あり、残りはTelocentric chromosomeであった。58を有する系(283)では前者が20本あり、残りはTelocentricであった。55本を有する系(285)ではMeta-、Submeta-、Subtelo-centricが25本に増しており、残りの30本は末端動原体染色体であった。核型相互間の変動についての決定的な根拠は何一つないが、Telocentric染色体の間で結合が起ったためによるかも知れない。
 RLH-4の核型分析は充分進んでいないが、RLH-1のそれに極めて類似している。Telocentric染色体数はRLH-1で14〜15本、RLH-4でも14本を示した。
 RLH-2は17本のTelocentric染色体を有し、他はMeta-、Submeta-、Subtelo-centric染色体であった。

 :質疑応答:
[勝田]RLH-4は染色体数モードも核型もRLH-1と同一です。ここで考えられるのは、RLH-4を作るとき、途中でRLH-1のhomogenateを加えていますが、このhomogenateからRLH-1がcontamiしたか−ということと、もう一つはRLH-1の核が貪食されて、いかれた核にとってかわったという、一種のtransformationの可能性とこの二つが考えられます。しかしRLH-1のhomogenateを作るときは、colchicineを一晩入れたあと、水処理を30分してから、homogenizeし、あとはそのまま保存しているのですから、生きた細胞がその中に入っているということは非常に考えにくいのです。また継代して2コに分けた内の一方の容器にだけ変異細胞が現れたのですから、homogenateの内に生きたRLH-1が混っていたとすると、期間もかかりすぎるし、少し変です。
[土井田]染色体数がふえているhybrid cellが出来てもいいゆな気がします。
[勝田]今後うちにないような細胞の核を入れてみるより他はありません。
[土井田]Natureにhybridの論文が出ていましたが、hybridは簡単に出来るが、やがて無くなっていくようです。RLH-1とRLH-4のchromosomeは全く区別がつきません。
[奥村]RLH-3はRatの染色体らしい感じがしますね。acrocentricの多いところなど・・・。RLH-1はRatらしくありませんね。
[勝田]originが違います。RLH-3はRLC-3から出来ましたが、他の3つはRLC-2から出来ています。
[奥村]RLH-2はHumanのととてもよく似ていますね。
[高岡]RLH-2は多核が非常に多い系です。
[奥村]Hybridが出来るとき、2n+2n=4nでなくて、acro→meta的な変かでnがふえ、遂にHybridとなることがあり得ると思います。
[勝田]Translocationですね。
[奥村]Ratのnormalのchromosomeをお見せしましょう。(写真を呈示)
[勝田]RLH-1ではcellのfusionは見ましたが“なぎさ”ではまだ見ていません。今後はHybridをぜひやろうと思っています。蛍光抗体でみると、HeLaとLでもhybridができるという報告がありますね。阪大微研の岡田氏の、ウィルスによる細胞質fusionを応用した人がありますが、これではあとでvirusを除けないからCO60でも使ったらと考えています。
[奥村]それだとDNAをたたいてしまうのではありませんか。virusだと一杯ついてしまうし・・・。
[勝田]子供が両方の性質を持っていなければ本当のHybridとはいえませんね。
[黒木]Hybridをselectするのにずい分低い温度(29℃)を使っていますが、これは問題ではないでしょうか。
[奥村]温度を上げるとbubblingしますね。

《奥村報告》
培養細胞の変異に関する研究
 培養細胞の変異を分析しようとする場合にある特定の形質をmarkerにする方法が一般的であるが、それはPhenotypeの変化をみるだけに止まることが大部分である。Isoantigenの様にgeneとの関連性が比較的容易に判る場合は別として、一般にはGenotypeとPhenotypeとの関連性は観念的には結びついてもそれを実証することは難しい。特に培養細胞を用いて細胞遺伝学をやろうとする場合、非常に変異の大きい細胞ばかりでなかなか細胞集団の特性を論ずることが出来ない。一応細胞の遺伝性は染色体及びDNA compositionのlevelにあると考え得るが、その染色体の変異も生体内の細胞よりも培養細胞の方が複雑であって、染色体をmarkerにした遺伝学も極めて多くの難点がある。そこで私共は培養細胞を全く別個(生体内とは)の生物という仮定を基に、培養環境内に長期間増殖しつづける細胞の遺伝的必須単位を採ってみようと考えた。それ以来6年間、先ず第1のねらいとして染色体数の少ない細胞の分離を試みた。現在まで多数の細胞株を用い、諸々の分離法を試案して来たが、なかなか思う様に進まず5年半を経過した。幸にして昨年(1964)の後半からJTC-4細胞からのcloneの中に染色体数の少ないものを見出すことが出来た。その細胞系はJTC-4/Y2と名づけられ、現在継代中である。染色体数のdistributionは狭く30〜35に集中し、核型レベルでもかなりpurityの高いものである。少くともKaryotypeのレベルで、正常核型との比較検討が比較的容易である。この細胞は染色体が少いばかりでなく、核当りのDNA量も生化学的定量、MSPによる測定のいづれに於いてもDiploid range以下であることが最近になって実証された。
 1)Chromosome number:30-35
 2)Reduction of DNA amounts in a nucleus(%):
染色体構成からの結果:15-25
MSPによる測定(With Feulgen reaction):20-45
生化学的測定(Burton's method with diphenylamine):40-55

 :質疑応答:
[勝田]Collagenをつくっていますか。
[奥村]はい、つくっています。
[勝田]JTC-4のoriginal lineの染色体数は何本ですか。
[奥村]60〜70本です。
[勝田]2nから直接少ない染色体数のものが出来たのなら2nと比較できるが、一たんふえたものから分離した染色体数の少ない系の核型を、2nから変化したと言っていいでしょうか。
[奥村]DNA量、chromosomeの長さから云えるということで、DNAの質的な点については全くわかりません。
[勝田]diploid cultureから染色体数の少いのがとれると良いですね。もっとも効率は低いでしょうがね。そうして初めて比較できます。
[奥村]Genotypeとphnotypeが問題ですが、これも行きづまるでしょう。最近HeLaやFLでもcollagenをつくるという報告がありますから、collagen産生が必ずしもmakerにはならなくなりました。
[高木]JTC-4は、S期が長いので定量が問題です。MSPでみると少し多目に出ることがあるでしょう。
[黒木]MSPでみて2つのピークとしてみる時、ピークだけで比較すれば、それで良いのではないですか。
[勝田]対照として肝細胞を使うのは考えものですね。
[奥村]肝はこれまでに、ずい分よくしらべられて、いろいろ判っているからです。
[勝田]MSPのtailingでG2期はどのぐらいですか。
[奥村]4時間位です。
[勝田]コルヒチンを入れれば良いでしょう。
[奥村]コルヒチンを入れる時間がむずかしいのです。2〜2.5時間位でやっています。
[黒木]metaphaseを測るとうまくいきます。これまで染色体数が2nより少いと云われた細胞でも、実際のDNA量は2n以上ですか。
[奥村]2nと同じ位のものもあります。
[勝田]別の話ですが、再生肝では4nが2つに分れて、それだけでふえるのではないでしょうか。
[高木]いや、やはりH3-TdRのとり込みがあると報告されています。
[奥村]肝ではG1でcell cycleがとまっています。
[勝田]4NQOをJTC-4にかけたらどうでしょう。
[奥村]もっと生化学的なことを確かめてからにしたいです。plating efficiencyが40%位で一定になるようにして・・・。
[黒木]染色体が移動することについて、そう言っている人はどの位信じていますか。
[土井田]培養細胞について、はっきり言っている人は少いです。late labelling chromosomeについては?
[奥村]やはりsex chromosomeのようです。これはWistarの♂のようです。
[勝田]土井田君、RLH-3の場合の染色体の減り方はどうですか。
[土井田]RLH-3ではSubteloが二つくっついているのがありました。
[奥村]JTC-4/Y2にもそういうのがあります。
[土井田]そのものが、分れる時、反対方向に紡錘体ができると駄目ですが、一方向ならうまく分れます。確立1/2で。
[高岡]RLH-3については、今後も定期的に染色体をしらべる必要がありますね。
[勝田]Spindle fibersは何でできているのですか。
[土井田]染色では、Carbohydrate、RNA、S-S結合があるとされています。このS-Sは、fiberのできる時期だけS-HがS-Sになり、また元に戻ります。
[勝田]分裂のとき核小体のRNAがここに行くのではないでしょうか。
[土井田]行く可能性もありますね。
[奥村]染色体のキネトコアから出てくるという説があります。素材のarrangementは、もっと前に出来ていて、chromosomeについているとみなければならないでしょう。
[勝田]これまでのendoreduplicationの定義について説明して下さい。
[土井田]1936年Geitlerがendomitosisを定義を下しました。それは、染色体はPro.、Meta.と見えてきて、Ana.、Telo.と消えていく。核膜はどの時期にも残っているが、spindle fiberはどの時期にも見られない。これをendomitosisとしました。これに対して、染色体が4本宛組になっているものばかりの時、endo-reduplictionといいます。
[黒木]Endomitotic-reduplicationといえば良いのではないですか。
[勝田]核が分れて細胞質の分れないのをendomitosisといっていいのではないかと思いますが。
[土井田]細胞質が分れないで核だけ分れるのはKaryokinesisといいます。細胞分裂をKaryokinesisとっCytokinesisより成っているとするわけです。
[黒木]Pairの内一方の染色体だけにdamageを与えるうまい方法はありませんか。
[土井田]軟X線などでやっています。そして染色体がdouble helixでできているということが、発生のモザイク卵などを使って証明されつつあります。1963年頃のNatureには、染色体の微細構造がシェーマできれいに出されていました。

【勝田班月報・6511】
《勝田報告》
 A)各種細胞のDAB消費能の比較:
 前月号に[なぎさ→DAB]による変異細胞のDAB消費能について記したが、それに対する一種の対照の意味もあって、各種の株細胞について前号と同様の方法で4日間におけるDABの消費能をしらべてみた。結果は(表を呈示)、いちばん著明に消費するのは、無処置の肝細胞株RLC-5であった。逆にいちばん消費の少いのは肝癌AH-130からの株のJTC-1で、サル腎からの株JTC-12がそれについだ。その他は頂度それらの中間に位した。同じAH-130からの株でありながらJTC-2は中等度の組に入っていた。中等度の級の中の各株を眺めると、この消費能は肝であることか、DABで処理されたことがあるかないか等ということとは、関係がないかのように思われる。Proc.N.A.S.に出ていた[HeLaやKBも少いながらcollagenを作る]という報告と同じように、株化したために細胞の性質が変ってrepressionが減少したのかも知れない。
B)“なぎさ”培養よりDAB高濃度処理に移して生じた変異細胞の染色体数:
 各種sublinesの内、今回は(N)、(O)、(Q)の3種について染色体をしらべた。算えられる細胞が少いので、とても図示はできないが、数だけ示す(表を呈示)。(Q)は2n=42本が多いが、この系は前号に記したようにDABの消費能の高い株である。その他のは消費能が低いが、染色体数には大きなばらつきが目立っている。

《佐藤報告》
 最近の発癌実験における動物(Donryu系新生児)の生存日数其の他についてデータを送ります。検討して下さい(図を呈示)。
 3'-Me-DAB添加細胞の3例は未だ生存しています。左側の細胞系は屠殺しましたが所見(-)現在の所外観上所見はありません。第3表は最初にRLD-10(Tw-10)が0.05%Tween20を添加(648日)し、培養総日数(502+648=1150日)で10万の細胞を脳内、腹腔内及び皮下に夫々3匹宛注射されたことを示しています。以下のC89、C91、C101、C147はRLD-10(発癌実験に使用した株)の復元です。C89の復元で肉眼的に異常なかった8例を接種后143日に屠殺した。この内の腹腔内接種の1匹の大網部に粟粒大腫瘤(本日の顕微鏡所見で癌細胞と認めた。)を認めた。腹水は認められない。−30日程放置しておけば腹水癌ができるかも知れない。−
3'-Me-DABによって発癌?した細胞系の復元によっておこる腫瘍死と其の発癌?に利用されたRLD-10細胞の復元によっておこる腫瘍死?例の間には圧倒的な差異があるが、正常細胞(?)から発癌したと云ひ難い。
 次はDABとは全く無関係に樹立されたDonryu系ラッテの肝細胞株、RLN-8、RLN-10、RLN-21、RLN-36、RLN-39の復元成績です。RLN-8(培養日数1109日)の腹腔内310万接種の3匹を屠殺した所、2匹に夫々腹水5mlと20mlを認めた。動物継代は成績(現在21日経過)は未だ分らない。再培養細胞及び元のRLN-8の細胞形態から考察するとspontan malignant transformationがおこったと考えられる。

《高井報告》
 今月は学会つづきのため、実験の方は余り進展していません。
 以前からactinomysin処理をつづけていたbE 、 、 は復元接種と雑菌感染のために殆どなくなったので、癌学会終了後に新たにmouse embryoの皮下fibroblastsを培養して再出発したところです。
 今回はmouse embryo fibroblastsと、actinomysin肉腫(solid)のprimary cultureについて調べはじめているactinomycin感受性について報告します。
 1)bE (btk mouse embryo皮下fibroblasts)のactinomycin感受性。
in vitroでのactinomycin処理によって細胞がactinomycinに対する抵抗性を獲得する過程を経時的に追うことを試みました。種々の濃度についてしらべて、dose-response curveを画くのが本当でしょうが、それでは必要な細胞数が多くなり、本来の発癌実験に差支えますので、actinomycinSの濃度は0.01μg/mlの一種類に限り、対照群とAc群を夫々Acを含まない培地と、Ac 0.01μg/ml入りの培地で培養してみました。(表を呈示)
結果はグラフの通りで、17日間のactinomycin処理では、まだ対照群と比べて余り差はない様です。分注後、翌日の実験開始時までに見られる細胞数の減少はAc群の方が大きく、これはactinomycinによる傷害を受けた細胞が混在しているためと思われます。培養日数が長くなるにつれ、Ac群も対照群も共に増殖が悪くなり、こういう実験に必要な数の細胞を得ることが困難になるので、これより後の時期には、今日は調べることが出来ませんでした。
 2)ASS (in vivoで作ったactinomycin-induced sarcomaのprimary culture)の、actino-mycin感受性(図を呈示)。
 primary culture時、直接、短試験管に分注して、上と同様な実験を種々の濃度のActino-mycinSを用いて行ったのが第3図です。primary cultureのため、接種した細胞の全てが、ガラス壁に接着増殖するのでないためか、妙な形のgrowth curveですが、actinomycinの反復注射によって出来たtumorではあっても、少くとも著明なactinomycin抵抗性はもっていないことがわかります。

《高木報告》
 前の月報以来、日が浅いので、その間特に報告する様なdataは出ていないが、先月までの実験のあとをふり返って今后の予定につき少しのべたいと思う。これまでの実験で長く組織を維持できなかった原因として、動物のage、培地の不適当さ、組織がtoo wetになる傾向があったこと、及び皮膚片を消毒する際の薬液の影響などが考えられる。組織片の培養中における保持及び皮膚を消毒する際の薬液の影響は、注意すれば除きうるが、培地については天然培地より合成培地に至るまで考慮してみる予定である。また、これまでの実験結果では、幼若マウスの皮膚を2〜3週間維持することが精一杯でこれではとても発癌実験が可能であるとは思われない。そこで兎も角皮膚組織を長く維持する意味で今度はfoetalmouse skinをwatch glass methodで培養することを考えている。
 すでに述べた如くBangらはFellのwatch glass methodで2.5cmのwatch glassに1:1C.E.E.3滴、chichen plasma10滴よりなるplasma clotを作り、6cmのPetri dishに入れて、37℃で空気中において、人胎児の皮膚を6ケ月近くも培養しており、若しこれだけ長くin vitroで組織を維持することが出来ればcarcinogenによる発癌もおこりうるのではないかと思う。この様に長く皮膚が維持された原因として、天然培地を用いたこと、少量の培地を用いて代謝産物があまり稀釋されない様な環境で培養したことなどがあげられると思う。具体的には3cm径のwatch glassを5cm径のPetri dishに入れて、3滴のC.E.E.(1:1)と10滴のchicken plasmaよりなる培地で培養したいと思っている。4NQOはplasmaにとかしてfinalが10-6乗〜10-4乗Molになる様にするつもりである。
 今后は、これ迄通りの液体培地を用いた幼若動物の皮膚及び肺の培養と、watch glass methodを用いた胎児組織の培養の二本立てで仕事をすすめていきたいと思っている。

《黒木報告》
 10月は、東京、博多とかけまわったため、月報にのせるべきデータの集積はありません。現在考えていることを少し記してみたいと思います。
 今度の癌学会のシンポジウムで山田さんが述べましたように、populationの中には、分裂しないで静止核の状態で止まっている細胞があると思はれます。この細胞はDNA合成の立場からみると、おそらくG1期にあるものと思はれます。(S期、G2の長さは細胞の種類を問わず大体一定ですので、S期の初めに分裂へのtriggerがあると考えてよいと思います) そしてこのG1期の細胞が分化への機能をもっていると考えるべきでしょう。
そこで、G1期のnon-proliferatingの細胞を観察する方法が問題となります。今回山田さんの発表された式、No=(2(1-P))n・[P:nonprolif.cellの頻度、n:分裂頻度]、ではno.nを入れてPを算出する訳ですが、動物体内の現象には全く適用できません。(in vitroでも実際の運用には問題が残ります)。
 今考えているのは、AutroradiographyとMicrospectrophotometryを併用し、S、G1、G2の細胞構成を計算し、更にGeneration time時間構成からの細胞構成と比較し、その差からG1期の細胞を確認しようということです。この方法により、Slow-growing tumor(例えばLY-group・吉田肉腫のLong-Survival variants)はnon-proliferatingの細胞が多く、それが分化に向う(?)と云うような成績が得られればと思っています。
 Hamsterは現在交配中です。妊娠次第、alb(+)medで継代培養→4NQO、4HAQO添加に入るつもりです。純系のハムスターのにないのが泣きどころです。

《奥村報告》
 A.ウサギ子宮内膜細胞に関する実験
 ウサギ子宮内膜細胞の培養条件に関しては以前にも報告したように、CO2ガス・フラン器を用い、培地は合成培地・NO.199に仔牛血清を20〜30%加えたものでよく、更にホルモン(Progesterone、Estradiol)を適当量加えると、無添加の場合より比較的長期間培養することが出来る。しかしホルモン添加培地でも、現在までの結果からみると(表を呈示)、5ケ月くらいがせい一杯で、次第に細胞が変性し、培養不能となる。培養中の細胞増殖は非常に悪く、H3-TdRの取り込みからみても増殖しない細胞が多い。そこで、培地中のホルモン添加量を増減したり、時には全く除いたりしたり、さまざま試みたが、今のところ細胞増殖に適当な条件を見い出していない。現在、ホルモンの他に2、3のビタミン、アミノ酸についても併行的に検討中である。
 B.ヒト子宮内膜細胞に関する実験
 ウサギの場合と並行してヒトの内膜細胞の培養を行い、その条件を検討中である。ヒトの場合には採取材料が限定されて、こちらの望むような材料が入手困難であるが、今までのところ13例中7例が2〜3週間培養可能、ただし、この場合ウサギのように細胞形態の均一性に欠け、又培地中のホルモン濃度も材料によって極めて変動しやすいので今后の実験に用いる場合にどの程度まで予備実験を生かし得るか、はなはだ疑問である。但し、ウサギのときに比べると材料によってかなり培養が順調でH3-TdRのとり込み実験においてもウサギの場合にみられなかったほど、多くのDNA合成中の細胞をみることが出来る。しかし、長期間の培養が困難であるという点では共通している。又、ヒト材料の場合には最初にplatingをしてから細胞種の選択をすることが重要で、その点から見てもウサギほど容易ではない。

《堀 報告》
 速達をわざわざ頂きまして恐縮に存じます。実は今月は教授、助教授、助手が学会で全く出払ってしまって未だに帰って来ません。
 その穴埋めと、今月より始った二年生の学生実習を加えて、学生実習が週の中4日と全く自分の事をする暇がなく、おかげで何も出来ずに終りそうです。従って月報にかくことがありませんので、申訳けありませんが、御容赦ください。来週は皆帰って来ますし、来月は少しは暇も出来るので、G6Paseなどの染色の際、遠隔地で固定して当方で染色出来る様な方法を考えて近日中に先生のsambpleを染める事をさせて頂きたいと存じます。その様な方向こそ共同研究のあり方だと思いますので。御健闘を祈ります。(せっかく時をみて肝癌を3例cultureしたら、islandによくのびたので気を良くした処、停電でCO2-incubatorがとまりcontamiというはかないことになりました)。

《土井田幸郎:挨拶》
御挨拶にかえて
 癌に父を奪はれるまでもなく生物学や医学を志すものにとって癌を征圧し、癌の発生因を知らうとすることはある意味ですべての人が考えることであります。細胞の増殖や分化の問題に非常な興味をもっている私にとっても癌というものは極めてattractiveなものでありました。ただこれだけ過去から現在まで多くの人が取り組んで猶不明の点の多いものに、いきなり私の如き門外漢がとび込んで何が出来るかという点が私をして放射線と癌にはふれないでおこうと考えた大きな理由でした。
 しかし、結局何等成果はあがらなかったものの、勝田先生をリーダーとする“組織培養による発癌機構の研究”班の班員に入れて戴いたことは、誠に有難いことでした。自分の考えていることと、他の人々の考えていることに開きがあって、何とか判ってもらおうと議論しあったことも楽しかったけれども、班員の皆さんがそれぞれ一生懸命におやりになっているのを見るのは楽しいことでした。兎も角発癌ということが成功したのを聞きえたのは実に気持のよいことでした。
 私は11月1日羽田を出発しRochester大学に留学し、二年間放射線生物学の勉強を致すことになりました。主として培養細胞を用いcell deathの問題ととり組むことになりそうです。染色体の仕事もするかも知れませんが、多少異なったやりかたをしてみたいと思っております。班を途中から抜けて皆様に御迷惑をおかけ致し恐縮致しております。その分、むこうに行って頑張ろうと期しております。
 班員の皆様の御健康をお祈りし、班の一層の発展を期待して御挨拶にかえます。

【勝田班月報:6512:3'-Me-DABによる培養内発癌は果たして成功だったのか】
☆☆☆今回は特に、佐藤班員の最近の業績(3'-Me-DABによるラッテ肝細胞の培養内悪性化)について、若しそれが本当に3'-Me-DABの作用による変異であるのならば極めて重要な業績であるだけに、そして且それが班の共同研究の一部であるだけに、果して本当に3'-Me-DABによったのかどうかを各班員が納得できるように理解するため、大部分の時間を佐藤班員の報告とそれに対する質疑にあてることにした。☆☆☆
《勝田報告》
A.“なぎさ”培養よりDAB処理に移して生じた変異細胞について:
 前回にも報告したが正常ラッテ肝細胞を“なぎさ”状態で1〜数カ月間培養し、これを継代してTD-15瓶に移し、DABを5或いは10μg/mlに与えると1週間以内に培地のDABを消費しないようにそのCell populationの性質が変化する。“なぎさ”培養だけの場合に比べ、この処置をおこなった場合の特徴として、非常に高率に変異細胞の現れることと、非常に短期間のDAB処理でpopulationとしての変化があらわれることである。この際の“変異”のcriterionとして“DABの消費能”に注目したが、これは結果的には消費能だけでなく、染色体数のモードにも変化のあらわれていることが後にわかった。また“消費能の低下あるいは消失”はかなり安定した変化で、第1回の測定(DAB処理約1月後)のさらに3月後にもほとんどの細胞群がそれを回復していなかった。Sublines、A、K、P、R、TはRLC-5よりできたものであり、BはRLC-6、CはRLC-7からできた(各系の染色体数分布図を呈示)。
この場合問題にしなくてはならないのは、RLC-5の原株である。Rができるころまではよかったが、以後染色体のモードに変化があらわれ、継代とともにしだいにモードの本数が減少して行ってしまった。Tは減少しはじめてから実験にかかったものである。これらの変化はあとになってから染色体数をかぞえてみて判ったことで、やはり株を継代しているとき、特に実験に用いているときには、時々染色体用の標本を作っておくばかりでなく、その数もなるべく早くかぞえておいた方が良い、ということが判った。ともあれ、RLC-5の原株がこのようにかぞえるたびにモードの染色体数が減って行くのは面白い現象で、今後どの位まで減ってしまうか、別の意味で期待されるところである。
 他の発癌実験では、これまですべて、染色体モードが42にあり、細胞の形態も異常のない株を我々は使ってきた。そして少しでも大小不同とか異型性のあらわれた場合は、これはみな凍結してしまった。今後の実験でもやはりこの方針は守り、且、なるべく生体から取り出した以後の日数の少い内に実験に用いるようにしたいと思っている。
B.Tween20の細胞増殖に対する影響:
 Azodyesをとかすのにtween20を用いてきたが、このtween20のcytotoxicityが問題になるのではないか、つまりazodyeで悪性化したとしても、そこにterrn20が一役買っていると事が面倒になるので、RLC-7(正常ラッテ肝)とJTC-2(ラッテ肝癌AH-130)の両株を使い、DABを5μg/ml finallyになるように揃えて、tween20の濃度を0.005%、0.01%、0.025%、0.05%とかえ、7日間の増殖に対する影響をしらべた。RLC-7では、薄い3濃度では細胞増殖を抑え、3者間にあまり差がない(controlの増殖度が低いため)が、0.05%で著明に細胞がこわされて行った。つまりtween20がDABの増殖阻害を促進している。JTC-2では濃度に比例してはっきり増殖抑制がみられ、殊に(DAB5μg/ml+Tw.20:0.025%)の群と(DAB5μg/ml+Tw.20:0.05%)との間に(DABなし、Tw.20のみ0.05%)の群が入ったほどであった。

 :質疑応答:
[奥村]Tween20は、どの位まで濃度を下げられますか。
[高岡]加熱してうすめれば1/10まで下げられます。その代りすぐ培地で稀釋しなくてはなりません。
[奥村]佐藤先生の所は?
[佐藤]定量する時には、もっとTween20の濃度をあげないと、はかれません。血清が入っていると溶解しやすいように思います。寺山氏の所ではアルコールで溶すそうです。
[黒木]山田先生のHeLaでのコロニー形成に対するTween20の影響は、どんな結果だったでしょうか。
[奥村]Tween20添加で細胞増殖をおさえるということは、動物での発癌と培養での発癌との間に、大きな違いがあるということですね。細胞表面などに変化があるだろうと思われるし、直接に働く所などもちがうでしょうね。
[黒木]保存中に析出するのは、どの濃度からですか。
[高岡]低温保存で1/2稀釋までは析出しません。
[黒木]3'メチルDABの場合も同じように溶かすのですか。
[佐藤]同じです。
[奥村]3'メチルDABの方が少しは溶かしやすいのではないでしょうか。
[佐藤]そんな気もしますが、よく分かりません。勝田先生の株で2nを保つのは2年位ですね。
[奥村]九大の高木先生の株などは、わりに早く多い方へ移ったようですね。
[黒木]腹水癌は(ラッテの場合)低2倍体へ移ることが多いようですね。

《佐藤報告》
 班会議で最近の実験について纏めて話す様、連絡がありましたので、一部はコピーにして持参します。できる限り御了解いただける様、説明いたしますが、完全に理解いただけるかどうか心配です。
RLD-10細胞に20〜10μgを添加して最初に出来た腹水癌の腹水所見、その再培養細胞の所見。更にin vitroで20〜10μg添加をつづけた後、復元して出来た腹水癌細胞AH-TC91aの腹水所見、その再培養細胞の所見。RLD-10細胞から15μgDAB添加により出来た腹水細胞(AH・TC-97)とその再培養細胞の所見。RLD-10細胞に10μgDABを添加した後出来た腹水癌細胞(AH・TC-96)とその再培養細胞の所見。(顕微鏡写真を呈示)
それらの4系の腹水中にある癌細胞の島を構成する細胞の数を比較すると、1個が主流のものが3系、AH・TC91a系だけが、1個と11個以上とが同数でした。
 次に4系の腹水癌の動物継代の所見をみると、いづれの系でも継代によって生存日数が短縮しています。例えばAH・TC-97aでは、復元第1代は73日生存していますが第6代は11日生存です。
 (染色体数分布図を呈示)染色体は親株RLD-10(in vitro)をはじめ、どの系も正2倍体ではありません。
 RLD-10の対照系であるRLN-10に3'-Me-DABを添加した場合は、RLD-10に比して3'-Me-DABに対する抵抗が弱いこと。核仁の増大の殆んどないこと。等が特長です。20μgの3'-Me-DABを添加すると殆んどの細胞が変性するが、少数のtransform or selectionの細胞がのこる。

 :質疑応答:
[奥村]染色体数の分布図を拝見しましたが、検索してあるのは数だけですね。
[佐藤]そうです。
[黒木]復元接種したときはやはり途中経過をみるべきだと思います。
[佐藤]途中でtumor cellが見つけられたのに、結局死なないで生きているという例がありますから・・・。
[黒木]その経過について説明して下さい。
[佐藤]途中で腹水をとってみたら、tumor cellがあったのに、その後60日以上も生き続けているのがあるのです。
[黒木]では癌がなおったというのではないのですね。
[奥村]RLN-8のラッテについたというのが、動物の既成の腹水癌の混入でないという根拠は形態だけのことですか。個人的にコンタミの可能性があると思いますか。
[佐藤]形態でだけのことです。コンタミということは考えられません。
[勝田]RLN-8の動物に復元して、増えたものの染色体数は?
[佐藤]未だ調べていません。
[黒木]剖検所見をみると、悪性の腹水癌の像に似ていて、緩慢に増えるものとは似ていませんね。非常に長い潜伏期があって、増え出してからは急速に増えたのではないでしょうか。
[佐藤]それは充分考えられます。そしてそれを動物へ継代すると、2代目は早くなって20日位で死ぬようになります。なぜこんなに長い潜伏期があるのかは、わからないのですが。
[黒木]他のcontrol lineの形態は?
[佐藤]今日は持ってきていませんが、RLN-8は他のlineに比べて、増殖は速く細胞質の塩基性も強くシートの出来方についていうと、それぞれの細胞同志の間のつながりが弱いように思えます。
[黒木]RLD-10のことですが「3'-Me-DABで出来た肝癌と、無処置の培養からの肝癌との間には圧倒的なちがいがある」というのは生存日数のことですか。
[佐藤]生存日数のことと、発生率のことです。
[勝田]圧倒的な差異といっていいのでしょうか。
[佐藤]takeする率が非常にちがいます。RLD-10のcontrolは2/9、150日死亡、DAB長期投与群は22/25、70〜80日で死亡です。今後の実験では、復元試験の観察を2ケ月で打切ろうかと思うがどうでしょうか。
[奥村]矢張り死ぬまでみるべきだと思います。
[勝田]この2/9と22/25という分母のとり方は接種量を一定にしなければ意味ないのではありませんか。
[高井]しかし、それぞれを詳細にみると、22/25という方が接種細胞数の少ないものが多いのだから、悪性が強いのだろうとはいえますね。
[黒木]復元接種試験の結果からすると、脳内での復元は意味ないということですね。細胞数を揃えて腹腔内に接種すれば、実験的にはもっと整理できますね。
[勝田]死亡表の黒丸の基準は?
[佐藤]死んだものを黒丸にしてあります。124だけは、他のものと異って死なないうちに調べたら腹水がとれたので死ぬことを予想して黒にしました。しかしそのあと、まだ生きているので結局、白に戻しました。
[高井]その当時は腹水中に細胞があれば当然死ぬと思ったわけですね。
[勝田]一つの表の中で基準のちがうものが一緒の記号で混在しているのは、一寸変なセンスですね。
[高木・奥村]斜線にでもして、他と区別すればよいのではありませんか。
[勝田]RLD-10の系図の真中の所もtakeされたのですから黒になるわけですね。
[佐藤]程度のちがいはありますが、黒にするべきかも知れません。
[奥村]程度の差は別として、つくかつかないかの判定では黒にすべきですね。基準をどこにおくかの問題ですが、この場合何匹中の何匹であろうが、つけば黒にするべきと思います。
[黒木]この表は、定性的な問題を表しているのですから、黒にすべきですね。
[佐藤]訂正します。
[高井]今の判定基準でゆくと、この表に出ている65.2.20以前にもついていたかも知れませんね。
[佐藤]そうです。ですから、プライマリーから始めて、3年間のこの実験の再実験をやるべきだと思っています。
[黒木]9.15に枝分けして10μg加える以前の復元実験はないわけですね。
[佐藤]ありません。
[勝田]そうすると、定性的にいうと、中心の線の真中辺で細胞が変った可能性があるわけですね。我々として知りたいのは、その後の各系の染色体はどうなのか、ということですが。
[佐藤]動物へ復元して腹水系化したものについての染色体についてだけしかしらべてありません。
[高木]ついた系を、DABを除いて培養すると腫瘍性がおちるかどうか、わかっていますか。
[佐藤]それはやってみていません。
[勝田]その問題は、2次的なことと思います。
[奥村]生後24hr.の動物への復元では、トレランスということも考えねばならないのですね。
[高井]ついた例をみると、トレランスが成立するには、接種量が少なすぎると思いますが・・・。
[黒木]トレランスについて、説明して下さい。
[奥村]新生児に1,000万個以上の細胞を接種すると、immunotoleranceが成立して、癌細胞でなくてもつくという事を考えねばならないということです。
[佐藤]成ラッテにも、つけてみています。その方が悪性度の強弱に、ふるいがかけられて、判りよくなると思うのです。
[奥村]幼若ラッテの場合は、抗体産生能がないという意味で、成ラッテにコーチゾン又は、放射線処理した場合とは意味が異うと思いますね。
[高井]今後は、成ラッテへ復元テストする事にすればよいのではないでしょうか。
[奥村]幼若ラッテへの接種の場合、動物内で再変異して増殖するという可能性があるのではないかと思います。immunotoleranceの場合は1千万〜1億という大量の細胞を入れますが、この場合は入れた数がそれよりずっと少ないから、不完全なトレランスが成立しているとも考えられるようです。こういう実験の場合は、どの位の細胞を入れれば、どういう風にトレランスが成立するのか、をcontrolにおかなければならないと思います。
[黒木]アデノによる癌化細胞の場合も、成ラッテにはつかず、乳児に復元してtakeされる、というのはどう考えますか。矢張りimmunotoleranceの成立とみるのでしょうか。
[奥村]当然ひっかかってくると思いますね。
[黒木]奥村さんの言ったのがうなずけるのは、あの剖検例からは、そう考えると、その過程が説明できますからね。
[奥村]ハムスターなら生後3日、マウスは2日、ラットも2日位の間ならimmunotoleranceが成立するそうです。
[高井]immunotoleranceの問題にあまりかかわると、問題が複雑になると思います。抗原性が違うということで、ふるわれるものがあるにしても、復元は成体ラッテに限るという風にすればどうでしょうか。
[高岡]染色体数が34本になってからの再培養lineはtakeされますか。
[佐藤]やってみていません。
[勝田]このlineはさっき高木班員の言った「takeされた系をDABなしで培養継続すると、どうなるか」という質問の答になりますね。
[高木]そうですね。真中の線の途中、丁度枝分れしたあたりで、染色体数が変ったのではないか、ということが考えられますね。
[黒木]この変化は重大ですね。RLD-10にDABを添加する再実験のことですが、実験3と4との開始時期はRLD-10 control群がtakeされる前後ということになりますね。
[佐藤]そうなると思います。
[勝田]染色体数のばらつく時期の意味は・・・?
[奥村]一般的に考えると、いろいろな性質のものが、わっと出てきていると思われますね。
[勝田]低3nといっているものの間に、核型にちがいがあるかどうか、調べなくてもよいのでしょうか。
[奥村]しらべるべきでしょうね。
[佐藤]此頃は、永久標本にしていますから、この次までには核型を並べて来るつもりです。
[奥村]お宅の以前の染色体のしらべ方は、標本の作り方や計数の対照とするものの選び方について非常に問題があって、あまり正確なデータが得られていないのではないかと思います。
[佐藤]私もそう思います。
[奥村]いくつ宛算定していますか。
[佐藤]50ケです。
[奥村]染色体の数え方及び分析というのは、矢張りかなりのキャリアが必要と思います。50コという頻度は、非常になれた人が結論を出すために必要な最少限ですね。なれない内は、少なくとも200コ位数えないと、このピークがはたしてそれぞれの特徴かどうか、はっきり言えないと思うのです。
[勝田]佐藤班員は、この仕事の結論を自分でどう考えますか。
[佐藤](1)まず3'メチルDABによって細胞の形態が変るということは云えると思います。(2)controlの分のtakeされる率や生存日数の長いことから考えて、3'メチルDABはtakeされる率を高め、生存日数を短くする働きがあると思います。再培養細胞に3'メチルDABを加えた場合も生存日数を短くすることを確めています。
[黒木]ということは、もともと或る程度腫瘍性をもっているものに対して、3'メチルDABが腫瘍性を増す働きをするということですね。
[奥村]とすると、このRLD-10の系の実験について、この真中の系が、どこで、何故腫瘍化したかが、クローズアップされねばならないですね。
 *黒木班員が黒板に系図を書き、日数を入れて解説を試みるが、判らなくなり中途で挫折する。
[勝田]実験のやり方が乱雑すぎるから、他人に納得させにくいんです。
[佐藤]RLD-10にDAB添加しての再実験の系がtakeされない件ですが、今日は云わなかったが、それらの群で、当然DABを消費しなくなっていると思われる系が依然消費することがわかっています。
[高岡]RLD-10のoriginal lineの維持の仕方は・・・?
[勝田]1本のものから分けて使っているのですか? 我々の実験では、同じように継代していても二つのtubeの間に違いが出て来たということがあります。そういうことはありませんか。
[佐藤]もとのものは1本の瓶で、実験の度に分けて使っています。
[高井]継代時の接種細胞数は?
[佐藤]700〜1,000万個/TD40をとって5〜10万個/mlつまり100万個/TD40位にして使います。週に10〜20倍に増えます。
[高井]復元したねずみの腹水の細胞濃度は?
[佐藤]1,000万個/ml位です。
[高井]3'-Me-DAB処理群とcontrol群のtakeの差は、腫瘍細胞全体の性質がちがうことと、腫瘍性のある細胞が少数まざっていたということと、二つ考えられますね。継代時に二つ或は三つに分けた時、その少数の腫瘍細胞が入った瓶と、入らなかった瓶が出来たということは考えられませんか。
[奥村]今日聞いた限りでは、これらのデータで定量的に討論することは全く出来ないと思います。自分の考えでは、これらの実験は予備実験として、これから本実験に入らねばならないのではないかと思います。
[佐藤]これからの実験予定としては、これらの株についてはもはや発癌実験には使えないと思っています。初代培養を使うこと、特に完全な純クローンを使って実験を始めようと思っています。一番困ることは、つかなかった場合にもつかないということが言い切れない点です。
[黒木]cloneでもすぐ変った細胞が出てくるので、絶対とは言えませんね。
[高岡]材料を厳選することも必要と思いますが、例数を増やすこと、再現性を高めること、を先に考えるべきだと思います。
[奥村]これを予備実験として生かすには、3年間constantにcontrolを培養出来るようにして、この実験を再現してみるべきだと思います。それができて初めて、発表するべきでしょうね。
[佐藤]そこで聞きたいことは、どういう材料を使えば、もっときれいな実験がやれるかということについて教えて欲しいです。血清などは、大量にプールして始めるよう、またcloneのことも計画しています。CSとBSのちがい、トリプシンとかき落すのとのちがいも検討する予定です。
[勝田]班の研究の一端として、この実験の将来計画について、皆さんから御意見を伺いたいと思います。
[高木]もう一度新しく再出発して、一つの系はこの実験と同じことをくり返して再現性を確かめてみるべきだと思います。
[黒木]Exp.IIIとIVとの結果を待ってみて、それがIIを再現するか否かで、佐藤結論が正しいかどうかが決まると思います。この実験をどうやってやりなおすかという事になると、いま云われたCSとBSのちがい、トリプシンとかき落し、DABの+と−、という風な実験プランにすると、又もっと複雑になるのではありませんか。どちらにしても何時かは、自然発癌する系で実験している訳ですね。ですから関与する条件を簡単にすること、DAB添加条件も簡単にすること、cloneに必ずしも頼らなくてもよい、系を枝分けする時は必ず一部を凍結保存することと検査する必要があると思います。
[勝田]この実験系図をみていると、Exp.IIに関しては、他の系とは非常に異った或るfactorが加わっているのではないかと思われます。例えば、ウィルスの感染があるとか・・・。それからRLD-10以外には、こういうDAB添加実験をやっていないのですか。
[佐藤]他にはやっていません。
[勝田]どんなCell lineを使っても再現性がなくてはいけないですね。
[奥村]それは必ずしもそうでなくてもよいのではないですか。DABの実験に入る前にもし変異していたりすると、同じ結果にはならないと思います。
[勝田]勿論、100%でなくても、50%でも再現性がなければね。
[黒木]この実験をどう評価するか、何を追求するかですね。
[奥村]途中経過をちゃんとみて、杭をきちんきちんと打っておかずに、どんどん進んでしまった観がありますね。
[黒木]3'メチルDABだけで細胞に癌化を起すことは出来ないが、或る変化を起した細胞に3'メチルDABヲ加えると、腫瘍化する、ということはいえますか?
[高木]系図の左側の方がつかないというのは、どう説明しますか。
[勝田]問題はもはや佐藤個人ではなく、班としての態度の問題です。癌学会で発表して、試験管内で3'メチルDABで腫瘍化成功、という印象を与えていますから、何とか論文ででもありのままを発表したいところですが、1例報告ということではどうも問題がありますね。
[高木]厳密に言えば何も言えないのではないですか。事実としては、何となくDABが腫瘍化を促進しているというように思えても・・・。
[黒木]使うcell lineが安定するにはどの位かかりますか。
[佐藤]1年半位かかると思います。
[高井]私は高木班員と同じような意見です。進行中の実験IIIとIVとの結果をみて、この実験を打ち切る方がよいと思います。自分自身の感じとしては、こんなに厳密に時々染色体や復元をチェックし、その時々の細胞の保存も必要となると、とても自分にはやってゆけないような気がします。
[高木]今まではとにかく復元してtakeされる細胞をと、そこに焦点をあわせていたが、こうなると又だいぶむずかしくなるわけですね。
[勝田]ついたついたといっても、それがまず自分で再現でき、また他人も追試できなくては科学とはいえませんね。
[高木]継代はあくまで1本から1本ですか。
[佐藤]1本です。TD-40、1コです。
[勝田]枝分けする前の染色体分布が広い幅の場合、その途中の処置をちがえた事でselectされるとは、必ずしも云えないのではないでしょうか。つまり分けた時すでにちがった細胞が分注されているという事なら、最後に染色体数のちがう系が出来ても当たり前ではないでしょうか。
今後の我々の方針としては、もっと短期間の発癌実験をねらうべきですね。それから癌学会で発表したことの後始末はどうしましょう?
[佐藤]提出原稿には、control群もtakeしたということをはっきり書いて出しました。
[黒木]Exp.IIIとIVの結果を待ってから論文にしておくべきだと思います。
[勝田]Exp.IIIとIVの結果は何時わかりますか。
[佐藤]来年4月か5月です。
[奥村]何れにしても正式に発表するべきだと思います。来年の癌学会には出すべきでしょう。
[高井]黒木班員の云うように、学会に出すだけでなく、事実を事実として論文にすべきだと思います。他の問題と一緒でなく、この問題だけ、独立した論文にすべきだと思います。
[勝田]結論として、今は論文にしない、少なくともIIIとIVとの結果がわかってから、もう一度討論して決める、ということですね。佐藤班員が今後補足すべき実験として、どんなものが考えられますか。それからもはややめるべき実験も・・・。
[黒木]動物継代、再培養はやめてよいと思います。10μgL2というlineがつくかどうかはみて欲しいですね。
[高木]真中のlineのtransformationについて、確めることと、DABを長い間添加した系は復元するとどうか、ということをみて欲しい。
[黒木]これは重要ですね。こんなに長い間DABを入れて、それが何の役にも立っていないとすると妙ですね。
[勝田]染色体は全部みておくことが必要ですね。黒木君の云った10μgL2の復元成績をみることも必要でしょう。こうしてみると、RLN-8とRLD-10が自然腫瘍化を起した。それからRLD-10のDAB添加実験については幾つも系があるが、結局元は一つだから、元の一つが自然腫瘍化した・・・ということになりますね。

《高木報告》
 前報の如くwatch glass methodによるplasma clot上のorgan cultureを少し宛始めた。結論から云うと、初回の事なので不慣れの為か、Liquid Mediaを用いたこれまでの培養より寧ろ悪い様であった。以下、その方法を記する。
 1)生後約3ケ月の雄鶏を1日絶食させてHeparin加採血後Plasmaを分離する。11日発育卵よりChick embryo extract(1:1)を得て、3.5cm watch glassにplasmaを6滴、C.E.E.を2滴、滴下して撹拌後、放置するとclotを生ずる。ついでこのcolt上にサージロンをおき、その上に組織片をならべて培養した。
 サージロンは最近入手した合成繊維のmeshで組織を移し換える時の障害を防ぐ為に用いたもので、あらかじめ蒸留水、エタノール、エーテルにて清浄後、高圧滅菌を行い1x1cmの小片に切ったものを用いた。Watch glassはそのまま6cmのpetri dishに入れ、全体をmoist 炭酸ガス Chamberに入れて培養した。
 MaterialはSwiss mouseの生直前と思われる胎児の皮フで、胎児を無菌的に摘出後、Hanks液で数回洗って、ハサミで背部の皮フを剥ぎ取り、2x3mmに細切してplasma clot上に置いた。4NQOを10-5乗Mol最終濃度に入れたものと、controlを設けたが、4NQOはあらかじめplasmaに加えて所定の最終濃度になる様にした。これらは夫々3〜4日毎に培地の更新を行い、この時meshと共に持ち挙げて移したので、組織に対する外力による物理的障害は比較的軽度で済んだと思う。培養開始後、9、13、19日目に夫々固定染色して観察したが、始めに触れた様に結果については全く期待はずれで、培養19日目のものではほとんど全滅の状態であり、13日目のものでも現在までに行ったLiquid mediaによる培養結果に比べてかなり生きが悪かった。
 惟、最初から懸念された様に、サージロンにかなり硬く附着しているものもあるので、これ等は剥す際に大部分の健常な組織がmeshの方に残って了うのではないかと考えられるので、その点、工夫を要する。またBang等の報告ではHeparinはtoxicであるとしてこれを用いず、siliconをcoatした注射器でplasmaを得ているが、この点も更に検討すべき問題であると思う。
 現在、更に多数のものについて、出来るだけ長期間培養する様に新たな実験を行っている。
 2)上記の実験と同時に牛血清の影響をみる為、Liquid Mediaによる高濃度B.S.含有培地によるfoetal mouse skinの培養を行った。方法はEagles basal mediumを用い、これに夫々B.S. 20、40、60%を含む三群を置き、C.E.E.は全く加えなかった。他の点についてはこれまで報告したLiquid mediaによる方法と同じで、refeedingの時mediumの半量宛を交換した。培養後、9、13、19、23日目に夫々固定染色して観察したが、19日目のものを見ると、B.S.60%を加えたものが最も組織が健常に保たれ、40%、20%と濃度が低くなるにつれて壊死の度合が強くなる様に思われた。しかし何分にも例数が少く、今後更に例数を殖すと同時に一層多くの血清濃度の段階を設けて検討する予定である。
 3)次いで11月10日より予備的にC3Hmouse乳癌組織の培養をWalffの方法に従って行ってみた。方法は周知の如くEmbryo extract、Bovine serum、Hanks soln.を3:3:6の割合に取り、0.5%にagarを混じたもの2mlを3.5cmのpetridishに入れ、固った後に2x3mmの組織片と、8日目のchick embryoより摘出した1〜2mm径のmesonephrosを相接して培養した。
 またこれと比較する意味でEagle's basal medium、B.S.、C.E.E.を6:3:3に含むLiquid mediaを用いたstainless mesh上の培養も併せ行った。両者共に4〜5日毎にmedium changeを行い、特にLiquid mediaのものはその半量宛を交換し、夫々5日、12日目に固定染色後、観察した。培養5日目のものではcentral necrosisを中等度に認めるのみで、両群共に大差はなかったが、12日目に至るとmesonephrosを共存させたものではcentral necrosisは可成り強くみられたが、未だ周辺部に健常な細胞群が認められるのに反し、mesonephros−のものでは腫瘍組織はほとんど溶解した様になり細胞構造が全く認められなかった。

《黒木報告》
 ハムスター細胞の培養(1)
 4NQOのhost cellとして今までRat embryoのlungを用いて来ましたが、3-4 transfer generationでgrowthがstopし、又細胞の形態も、epithelial(むしろRES originを思はせる)であったため、ハムスターに切りかえてみました。
 ハムスターの場合はTodaroらによりAlbuminの高濃度添加がGrowthを維持する旨報告され、又、山根研においても追試されていますので、その培地を用いる事にしました。培地の構成はEagle MEMにアミノ酸PRO. 0.1mM、GLY. 0.1mM、SER. 0.2mMと、Pyruvate 1.0mM、Bacto-Peptone 0.1%、Bov.Albumin(Armour Bov.Alb.Fract.V)1.0%を加えBov.Ser.を20%添加しました。現在はC.S.を用いています。(山根研の培地はPRO.とGLY.を除いてあります)
13/XI'65 生後1週間のハムスター♀から、肺、肝、腎を剔出、Explant outgrowth法でdish、TD-15、TD-40にてcultureした。細胞の名は次の如し。Hai-11(肺由来)、Kan-11(肝由来)、Jin-11(腎由来)。それぞれ一週間後にはほぼfull sheet近くなった。
 GrowthをBov.Alb.のあるなしで比較すると、肝を除き、Alb.のある方がGrowthはよい、肝ではAlb.の有無に拘らず同じ様に増殖する。
 興味あるのは細胞の形態である。Kan-11はBov.alb.(+)でfibroblastic、(-)ではepithelial。Jin-11は(+)でpureなfibroblast、(-)では少しep.及び丸い細胞がmixするがFib.が多い。Hai-11は(+)でfibroblastは少しでepith.及び丸い細胞がmixしている、丸いのはsusp.でもgrowthするようである、(-)ではgrowthがみられなかった。
 すなわち、Kan、JinではBov.alb.の存在がセンイ芽細胞を選択するように思はれます。特にKanではこの傾向が著明です。(この機序が同一細胞の表現の差によるものか、又は違う細胞のSelectionによるかは明らかでありませんが)
 又Rat Embryo Lungのときのようにmultilayer格子模様が今回もJin株においてみられました。Contact inhibitionの概念も少し修正される必要がありそうです。
 ともかく、培地、臓器により、細胞に差のあることは確かですので、これらの組合せから目的にあったcellをとりたいと思っています。
 ハムスターの他に純系のバッファローラットが手に入りましたので、これでも試みてみる積りです。BuffaloはMorrisのminimum deviation hepatomaのhostとして有名です。
 4NQの添加はとりあえず、Jin-11のセンイ芽細胞から始めます。(顕微鏡写真を呈示)

《高井報告》
 in vivoで作ったActinomycin肉腫(固形)の細胞と、in vitroでActinomycin処理を行っている細胞との、ギムザ染色による比較について報告します。(夫々写真を呈示)
 1)固形Actinomycin肉腫のTrypsin処理細胞浮遊液の塗抹標本。
 ActinomycinSを4カ月間皮下に注射して、btk mouseに作ったActinomycin肉腫を、primary cultureするために、Trypsinによって細胞を分散せしめた時に作った塗抹標本です。従って、細胞質はかなりdamageを受けています。大部分が腫瘍細胞と思われます。細胞の大小不同が著明であり、非常にbasophilicに染る細胞質をもつものと、basophilicではああるが、かなり淡く染る細胞質をもつものとの2種類の腫瘍細胞が、ほぼ同数位の割で混在しています。核は大きく長円形乃至腎臓形で、核小体は大きくて数コあります。
 2)ASS.IV.培養細胞(上記 1)をprimary cultureせるものの2代目)。
 上記の細胞浮遊液を培養し、2日目にTrypsinでタンザク入小角に継代したものの、継代後2日目の標本では、細胞は多形性に富み、突起の多い多角形、紡錘形のものが多く、大小不同も著明である。細胞質はbasophilicであるが、1)にのべた非常にbasophilicな細胞質をもつものは殆どない。核は長円形で核小体も大きい。
 3)bEIX K.3代目(通算34日目)(control群)。
 btk mouse embryoの皮下fibroblastのcontrol群であるが、これでも細胞の大小不同、多形性は著明で、核小体もかなり大きいが細胞質が明るくてbasophilicityが弱いことが2)に比してはっきり異っている。
 4)bEIX Ac.2代(通算33日目、Ac.0.01μg/ml持続、28日間処理)。
 2)に比べると、多形性がまだやや少い感があり、どことなく違っている様にも思われるが、核、核小体の形態も2)に似ており、殊に細胞質のbasophilicなことが2)によく似ている。この細胞を、btk mouse皮下に約200万個、ごく最近復元接種してあります。
他に、C57BL mouseのembryo皮下fibroblastを培養して、同様なActinomycin処理を行っている系列もありますが、この方はまだ4)の如き2)に似た細胞にはなって居りません。
 5)ASS.IV細胞の移植実験。
 Actinomycinによって悪性化した細胞が、最少限何個あればtakeされるのか?又、その場合、Tumorが発見されるまでにどの位の期間が必要か?を知るための一つのモデルとして、上記1)の細胞を1,000コ、100コ、10コづつ、各群5匹のbtk mouse(♂)の皮下に移植しました。1週間後の現在までには、まだTumorは見出せません。もし、10コでもtakeされる様なら、今後in vitroの実験群の復元も容易になるのではないかと思います。

 :質疑応答:
[勝田]この細胞はよく動きますか。
[高井]これから映画をとってしらべようと思っています。
[黒木]培養細胞は何時ごろから肉腫細胞に似てきましたか。
[高井]それがよく分からないのです。

《奥村報告》
A.JTC-4細胞の染色体機能の解析:
 JTC-4(ラッテ由来)細胞株からのclone分離の結果、染色体数の極めて少ない系を得たことは以前に報告済みである。その後、この細胞を生物学的モデルとして、いくつかの実験を計画しているが、その中の1つとして染色体の機能、つまり細胞の形質と染色体の関連性を探る実験として、2つのcloneを用い、1〜2本の染色体を利用し、それらの染色体(DNA)によって作られる抗原物質を見出す実験をスタートした。方法は、
 細胞:Normal rat heart(primary)、JTC-4/Y-A2、JTC-4/Y-B2。
 動物:Hamster(syrian)、mouse C3H/He。
 免疫方法:各動物の生後24時間以内に各細胞を5千万個〜1億個/個体に接種(この際死亡するbabyは20〜50%)、1〜5週後に免疫用細胞を接種し、CPで抗体価を測定する。
B.ウサギ子宮内膜細胞の培養(ステロイド系ホルモンとの関連性)
 Progesterone、Estradiolの各ホルモンを或濃度で作用させると、細胞増殖の促進が認められることは既報の通りであるが、濃度を高くすると、細胞質に空胞あるいは液胞状のものが出現する。これはホルモンに対する感受性細胞の特異的反応であるかないかは今後検討する予定である。ホルモン濃度を更に高くすると、一見非特異的と思われる変性像がみられる。細胞増殖促進濃度はProgesteroneで0.05μg〜0.5μg/ml、Estradiolで0.002μg〜0.01μg/ml。特異的反応(?)はProgesteroneで1.5μg〜2.5μg/ml、Estradiolで0.8μg〜1.5μg/ml。変性非特異的反応(?)はProgesteroneで3.5μg/ml以上、Estradiolで2.0μg/ml以上である。

 :質疑応答:
[高木]Toleranceの作り方を教えて下さい。
[奥村]生後24時間以内に、5千万個〜1億個の細胞を接種します。これでtoleranceが成立します。
[高木]免疫はどうしますか。
[奥村]生後7日後、14日後、30日後と細胞を接種して作ります。そのときtoleranceを、一つのcloneの細胞で作っておき、あとから同じ動物に他のcloneの細胞で免疫しますと、重複しない染色体の分の抗原に対する抗体ができます。早ければ1月位に抗血清がとれます。
[勝田]腫瘍抗原が核にあるというのは確かですか。
[奥村]SV40腫瘍の場合は文献にもありますし、自分たちの実験でもそうです。

☆☆☆次期の研究班の申請について☆☆☆
[奥村]存続した方がよいと思います。形は培養を中心においてもよいから、レパートリーをもっと広げて、直接発癌でなくても、生化学的な面から攻めてゆくし、免疫学的、或はウィルス発癌などをやる人を含めていったらどうでしょう。
[黒木]班長がそんなにいやならやめても、と一時は思いましたが、佐藤班員の問題の解明のためにも、ぜひ班という組織の中で解決してゆきたいと思うので、存続を希望します。それと、もう少し広い知識をとり入れるように図ることを希望します。もっともあまり拡げると、discussionが漫然としてしまうので、どの位拡げるかは問題ですが・・・。
[高木]黒木氏と同意見です。佐藤班員の仕事が、予備実験として終ったところですので存続した方がよいと思います。班の構成としては、virus屋も1人位良いのですが、核酸や蛋白に詳しい人も欲しいと思います。発癌というテーマにしぼりながら、もう少し幅をもたせるやり方がよいと思います。
[高井]前の方々と全く同意見です。
[佐藤]存続を希望します。個人的には、今後は量的には仕事量を減らし、もう少し質を上げたいと思っています。
[勝田]癌のことを知っていて、核酸、蛋白、に詳しい人間を探すのはむずかしいが・・・。
[高木]自分の所に居る高橋君も、核酸、蛋白に詳しいので、協力者として班会議に出席させて欲しいと思います。永井氏などはどうでしょう。
[勝田]小野氏、杉村氏なども考えられます。ただあまりあちこちの班に沢山入りすぎているのでね。
[黒木]大橋氏などは如何でしょう。
[勝田]奈良医大の螺良氏がこの班に入りたい希望をもっておられますが、如何でしょう。ウィルス発癌をやっておられますが・・・。
[高木・黒木・奥村]賛成です。
[奥村]各方面の専門家を入れるのは、協力者としてでなく、正式班員にするべきであると思います。それでないと傍観者的になる可能性が考えられます。
[勝田]では結論として、次期も班を継続することに決めましょう。そして今伺った皆さんの御意見を加味して、新しく入班して頂く方々について御意向を伺ってみます。結果は後から御報告します。☆☆☆

【勝田班月報・6601】
《勝田報告》
 A)“なぎさ"培養よりDAB高濃度処理に移して生じた変異細胞株の染色体数モード:
 (表を呈示)すでに報告したように、TLC-5はすでに2nより減ってしまったが、これから得られた変異株は2n前后が多い。結果の表をみると有望そうに見えるが、何れも母株の方が不安定で今にも変わってしまうのではないかと思われるので、これら変異株は凍結保存してしまうことにした。
 B)ラッテ肝細胞株RLC-9に対するDAB-amin-N-oxideの影響:
 前回の班会議のとき報告したように、DABの溶解補助剤として使っているTween20は、それ単独でもかなり細胞毒性を有し、これで発癌させたのではあとの解析が厄介になるので、水溶性の形のDABを探したところ、寺山氏の主張するDABの中間代謝物であるN-oxideがそれに相当することが判ったので、今后のアゾ色素による実験は全部これに切換えることにした。1mg/mlでもよく溶け、高圧滅菌できる。増殖に対する影響は図の通りで濃度に比例して抑制する(図を呈示)。

《佐藤報告》
 昨年はいろいろの実験をしましたが、どうもはっきりしませんでした。研究の中心をどこに置くかが漸くわかりかけた処です。今年はじっくり落着いて仕事にかかります。
 本年の計画としては次のように考えています。
 (1)昨年度の実験を整理する。2月号月報には無理と思いますが、3月号月報から少しづつ纏めて報告。
 (2)昨年度迄の細胞はできる限り凍結保存して手間を省く。研究室の人事異動が有りさうなので対策をかねて考えています。凍結は現在7割強完了しました。
 (3)復元動物は長期観察が必要なので動物ケージ及び動物小屋を整理しました。
 (4)ラッテ肝からのPrimary Cultureを始めていますが未だ材料として使用できません。 (5)CO2-Incuvatorが漸く使用できる段階になりました。JTC-11 srain cellを使用して予備実験を行いました。(現在迄の処この細胞は、極めてPlating efficiencyが高いので、Pure cloneが容易いと考えています)。
CO2-Incuvatorの使用はラッテ肝細胞のPrimary Culture及びStrainからPure cloneを作って実験する為です。今月はデータを書くことがとぼしく申訳ありません。 

《高井報告》
 1)復元実験:昨年後半に下記の如き復元実験を行いましたが、現在(1966年1月9日)までの所、何れも陰性です。
細胞 接種日 接種細胞数
処理群
bE Ac.1代  11月25日(通算36日目、Ac.0.01μg/ml.31日作用)  200万個/mouse1匹
C57I.Ac.1代  12月6日 (通算61日目、Ac.0.01μg/ml.58日作用) 50/万個mouse1匹
bE Ac.間歇3代 12月10日(通算49日目Ac.0.1μg/ml.週2回30分間) 90万個/mouse1匹
対照群
bE K.2代 12月4日 (通算45日目) 150万個/mouse2匹
bE K.3代 12月10日(通算51日目) 90万個/mouse2匹
C57IK.3代 12月4日 (通算59日目) 150万個/mouse2匹
bE K.2代 12月10日(通算49日目) 100万個/mouse2匹
 上記の内、12月4日に復元せるbE K(対照群)は、復元接種後5日目に2匹共5x4mm位の腫瘤をふれましたが、その後漸次縮小し、接種後13日目には、全く触れなくなってしまいました。尚、復元実験に使用したmouseは、何れもbtk adultで、接種部位はS.C.です。
 2)ASS 細胞(in vivoで作ったactinomycin肉腫をトリプシン消化せるもの)の少数個移植実験:
 Actinomycinの作用によって細胞の悪性化が仮におこったとしても、初期には多数のnon-malignant cellsと混在した状態だと考えられます。従って、復元実験に100万個のorderの細胞を使ったとしても、その中に含まれる悪性細胞は、10個位ということもあり得ると思います。その場合に、果して動物にTumorが出来るかどうか? 又、どの位の期間でTumorとして認められる位に増殖して来るか? という様な問題について手掛りを得ようと考え、次の実験を行いました。即ち確実に悪性であって、しかも私の実験の場合に、最も近いと考えられるものとして、in vivoでActinomycinによって作られた固形肉腫をえらび、これをTrypsin処理でバラバラにした細胞を培養することなく、直接にbtk mouse(adult male)に接種しました(1965年11月18日)。接種細胞数は1,000コ/mouse、100コ/mouse及び10コ/mouseとし、各群5匹つづに、皮下接種しました。
 細胞浮游液は、0.2ml中に所要の細胞数が含まれる様に倍数稀釋で調整しましたので、厳密に10コとか、100コであったかどうかは疑問ですが、orderとしては合っているものと思われます。
 結果は1,000個を接種したものは22〜26日で、100個を接種したものは34〜40日で、夫々Tumorを生じ、以後かなり急速に増大しつつあります。10個を接種したものは47日目までは全例陰性でしたが、52日目に1例にTumorを発見しました。(尚1,000コ及び100コ移植群も、夫々2匹つづは、まだTumorが出来ていません)。
 まだ1回の実験で、はっきりしたことはいえませんが、私の実験systemの場合、in vitroでActinomycin処理を行った細胞の復元のrouteとして、adult btk mouseの皮下接種も充分使用可能と思われます。又この場合、前回の班会議でも指摘された様に、充分長期の観察期間が必要であることが、再認識されたわけであります。
 3)今年度の方針:これまでやって来たtissue culture→Acatinomycin処理→復元という実験だけでなく、出来るだけin vivoでのActinomycin肉腫の誘発実験に近い様な受験をin vitroで模倣するということを考えています。具体的な方法については目下考慮中です。
《黒木報告》
 昨年1年の仕事を振りけってみますと、思ったほどの成果は上っていないようです。むしろ、今后の何年間かの仕事への基礎作りを行ったものと思っています(寒天によるcloing、移植性、生存日数の推計学的処理、4NQ・4HAQOの基礎、ラット・ハムスター胎児の培養等々)。
 今年はこれらの基礎の上に立って飛躍してみたいと思っています。具体的には次の仕事が予定されています。
 (1)In Vitro Transformation
 最近のNCI.J.にBerwald YとSachs Lの二人の名で、In vitro transformation of Normalcells to tumor cells by carcinogenic hydrocarbonなる論文があります。
これはhamster embryo(whole)にBenzpyren(BP)、3'-Methyl-cholanthren(MCA)等を作用させ、72日后にadult hamster subcutanにtumorを作らせ得たという成績で、きれいな仕事のようです(controlはtumorを作らない)。mouseでは52日で発癌しています。
 ただ少し気になるのは、colonyの形、その他の経過(transformationの)がpolyoma virusによるそれと酷似していることです(Sachsはpolyomaの仕事も可成り行っている)。又、余りdataがきれいすぎることです。
 いずれにせよ、今は誰かが追試する必要があるでしょう。
4NQO・4HAQOの仕事はすこしづつ進んでいます。細胞は前回の班会議で御紹介した、ハムスターsucklingの腎由来(Jin-11)です。これをcontrol、4NQO、4HAQOの三つの群に分け、継代しています。4NQOは10-5.25乗Mでcell degeneratが起り、最近recoveryして来たところです。4HAQOは10-5乗Mでも大きな変化がなく、継代されてきています。
 形態学的変化は現在の処いずれのGroupにも見られていません。又、継代の時に凍結保存しています(Liquid air)ので、再現性のその他でも有利に運べると思います。
今后、Exp.の数を増し、又cloningを行う積りです。(Sachsはrat-embryo cultureのfeederの上にcloningしている)
(2)肺上皮細胞の培養
これは今度新たにみつかった培養法です。上述のJin-11と同時に、ハムスターの肺からHai-11と云う細胞を培養していましたが、このとき丸い細胞がmixしている旨、前回の月報に報告し、又写真ものせました。この細胞は容易にガラス壁から剥れ、あるいは、はじめから附着しないでfloatしているようです。倒立でみて、浮いている細胞も真でいないように思えたので、それらのみを分離し、継代を続け現在に到っています(約二カ月)。
 形態的には核が小さく、細胞質の大きな、喀痰の細胞診のときの剥離細胞に極めて似ています。ここから肺胞上皮という推測が生れた訳です。phagocytosisは盛んのようです。
 増殖はほとんどないようです。今后H3-thymidine、wridine、leucineでDNA、RNA、proteinの合成を調べる予定です。
 (3)腹水腫瘍のpopulation analysis(吉田班の仕事)
 寒天を用いて行はれます。薬剤感受性等がマーカーになる予定です。
 大体以上の三つの仕事に重点をおきます。その前に仕上げるべき論文もいくつかあります。来年の1月号の月報「昨年は予期した以上の成績を出した」と書きたいものです。

《高木報告》
 1月1日午前零時四十五分、私の病棟の一人の患者が癌にたおれました。autopsyは明日行われますが、Hepatomaと思われます。私の1966年は一癌患者の死でスタートした訳です。何となく鞭打たれる思いがいたします。
 癌の研究を思い立ったのがかれこれ10年前、その間どれ丈の仕事が出来たかを懐古してみますと全く恥かしい気がします。勿論私は私なりに努力してきたつもりですが、その成果たるやとるに足らぬもので、改めて眼前に立ちふさがる巨岩(癌)の征服の困難さを思い知らされています。
 帰国以来、皆様の御好意で再び之の班に復帰させて頂きましたが、他の班員の方々にくらべ、私はまだ努力が足りなかったと反省させられています。特に班長勝田氏と佐藤氏のファイトには敬服いたします。しかし敬服している丈では駄目なので何とか今年は私もこの御二方について行きたいと考えています。
 佐藤氏の御仕事は、未だ種々の問題があるとしても、一応対照と有意と思われる差で培養細胞を復元(移植)出来たと云う事は、in vitroの発癌実験に曙光をもたらすもので、これからがいよいよ本腰をすえてかかるべきepochに入ったのではないでせうか。いずれにせよ班のためにもこれはプラスであったと思います。
 さて此の一年の私の計画ですが、癌の正体が中々つかめない事の裏には、“正常"とは何であるかと云う事が未だよく理解されていない点があげられると思います。そこで“培養における細胞(正常)機能の維持"と云う事にまず努力してみたいと考えています。しかしこの問題をかたずけてから改めて発癌の仕事にとりかかると云った悠長(?)なことは云っておれませんので、これと平行してin vitroの発癌も行います。その方法ですが、私はいましばらくorgan cultureで押してみたいと考えています。と申しますのは私には一つの細胞の発癌には、それと関係のある他の細胞の介在も必要ではないかと思われるからです。丁度細胞分化のGrobsteinの仕事にみられる様に・・・。目下の問題はまず何とかorgan fragmentを長くin vitroに維持したいと云う事です。これは現在行われているorgan cultureの泣き処でもあります。つまり基本方針は昨年と同じで、何とかこれを推進したいと考えています。幸い今年度から我々の班はレパートリーが広くなり、生化学、ウィルス、移植と云った専門の方々も参加して頂ける事は御同慶にたえません。よろしく御指導御鞭撻の程御願いいたします。

《堀 報告》
 G6Pdehydrogenase isozymeについて:
 ようやく待望のacrylamideがEastmanより届きまして、gel electrophoresisを始めました。手始めに3日絶食、3日[30%protein-60%glucose]食を与えてG6PDをinduceしたシロネズミ肝の1:1 H2O homogenateをsampleとして、3mA/tube、2hrの泳動を試み、展開したものを、次の基質で染色してみました。 :G6P(50mg/ml)0,1ml、 NitroBT(1mg/ml)0.25ml、NADP 2mg 、EDTA・0.1M 0.1ml、Tris buffer・pH7.2・0.2M 0.25ml、KCl・0.1M 0.1ml、 H2O 0.2ml。これに適量のphenajine methosulfateを加えたものと加えないものを作りました。(結果図を呈示)。
 赤血球のG6PDについての文献では、他の動物ですが2〜3本の帯しかでないので、これ丈分れたことは予期以上の成果でした。この仕事の目的は、培養肝細胞で色々な酵素活性の低下が見られるのにG6PDのみは明らかに増加しているという前報の知見をもとにして、では果してこの増加はin vivoにおけるinductionによる増加と同じ性質のものか否かをDISCELECTROPHORESISで確めようというのです。もし同じ様な性質のものであれば、肝細胞の同定にもなるし色々の面で面白いと思います。なお、培養細胞については目下test中ですが、試料の量が少いのを何とか克服しなくてはなりません。
 以前考えた遠隔地での標本の固定、保存に関する方法については目下の処、冷アセトン(-70℃)固定1日、後、風乾、直ちに-10℃に保存したものでは少くとも1ケ月は各種脱水素酵素の活性が残っていて染色可能であることが判ったのですが、G6Paseはアセトンでよく保存されずまだよい方法がみつかりません。またAPaseは冷ホルマリン(10%+1%CaCl2)で数分固定してから、冷水で洗って、0℃の冷水に保存可能です。
 今1つの報告しなくてはならないことは、昨年秋に行った実験の残りの肝細胞が、今迄増えたり減ったりし香ばしくなかったのですが、最近極めて確実な増殖を示す様になり、strain化出来そうだということです。近い中に正確なdataを作りお知らせします。1年もたったものを今更strain化しても、あまり意味がないとも思いますが、もともと残ったものをそのままただmediumのみ更新しておいたものですので、これからの仕事の上に何か役に立つことでもあればよいと思っています。
 昨年はさっぱり仕事がはかどらずに、班員としての義務を果すことが出来ず真に申訳無く思っております。今年も教授の還暦に関連した事業や、5つも学会の世話など、でとても仕事は出来そうもありませんので、この研究班の活躍を期待するとともに、今後も機会のあるときには、色々御教示を賜ったり討論に加えて頂くことが出来れば幸と存じます。

【勝田班月報:6602:器官培養による発癌実験の試み】
《勝田報告》
A)DAB-N-Oxideについて:
 DABの発癌性中間代謝物としてDAB-N-Oxideが寺山氏によって主張されていますが、これはきわめてよく水に可溶で、1mg/mlでも溶け、高圧滅菌が可能でした。そこでまずRLC-9株(正常JAR系ラッテ肝細胞)を使って、その増殖に対する影響を1、5、10、20μg/mlの各種濃度でしらべました。こういう薬剤の効果をしらべるとき、細胞をsuspensionでinoculateするときから加えるのと、細胞がmonolayerを作ってから加えるのとではかなり効果に差があることが判っていましたので、今回はその両方を試み、且比較してみました。
 (増殖曲線の図を呈示)細胞をまくとき同時にN-oxideを入れた例と、細胞をまいてから2日おいて、細胞が硝子面にくっついてからN-oxideを加えた例とを比較すると、何れも濃度に比例して増殖を抑えていますが、やはり初めから加えた方が抑え方が強くなっています。
 次にN-oxideを加えた培養の細胞の形態変化を顕微鏡映画で追いましたのでそれをお目にかけます。(映画供覧)10μg/mlに加えても、分裂する細胞はどんどん分裂しますし、一方、こわれてしまう細胞もあります。こわれる場合は、分裂の直後ではなく、間期にこわれるのが多いようです。
 ところで困ったことに、DAB-N-oxideはヘモグロビンやFeがあると簡単に分解してしまい、MABやDABなどになってしまいます。水溶液は320mμにmaxの吸収があり、220〜230、420〜440mμのところにも吸収があるのですが、培地に加えて2日間低温で保存しただけでも、このpeakは消えてしまい、410mμに移りました。この410mμのpeakは培養すると低くなりました(おそらくDABでしょう)。N-oxide単液ですとHClを加えて酸性にしても赤色にならないのですが、培地と混合したものは赤変しました。培地は20%CS+0.4%Lhです。ですからN-oxideを加えても、それがN-oxideとして働いている時間はごく短くて、別のものに変って働いているわけで、これもどうも余り具合の良い道具ではなさそうです。昨日の合同報告会で癌研の高山氏がニトロソアミンの話をされ、これは水溶性で具合が良さそうなので、今後はニトロソアミンも試み、その他4NQOなども要に応じて使ってみます。こうなったら手当り次第です。
B.AH-7974、RLC-8に対するアルコール、Tween20の影響:
 表面活性剤の細胞増殖に対する影響をしらべる一端として、まずこれらをしらべましたが、Tween20はかなりtoxicでした。アルコールは不思議ですが余り抑制効果がなく、エタノール0.01%では明らかに増殖促進が認められました。非水溶性の発癌剤をとかすにはTweenよりもアルコール(エタノール)の方が良さそうです。
C.ラッテ胸腺・細網細胞によるin vitro抗体産生の実験:
 4月の病理学会の小グループ討論会に映画で展示するべく、目下さかんに実験をすすめています。先日、細網細胞のなかで作られて貯められている抗体を、新生児ラッテの胸腺リンパ球にtransmitさせる実験をやって、うまく成功しました。生後24時間以内の、まだ抗体の見出されないthymocytesを細網細胞と一緒にしてincubateし、映画をとりましたら、thymocytesがreticulum cellsに近寄り、細胞膜にくっついたり乗ったりしました。2.5時間後にAnti-rat-β-γ-rabbit serumで、蛍光抗体法でしらべたところ、thymocytesがきれいに光るようになっていたのです。

 :質疑応答:
[黒木]in vivoで抗体を作らせた細網細胞を使ったのですか。それともin vitroで抗体を作らせたのですか。
[勝田]うちでラッテ胸腺から作った4細胞株の内、抗ラッテβγグロブリン家兎血清で光る3つのものを抗体産生をしているとして使うのです。
[黒木]乳のみラッテの、その胸腺リンパ球は光らないわけですね。
[勝田]光らないことを確かめました。
[高木]PPLOの共通抗原のデータがありましたね。
[勝田]PPLOというのは、なかなか種類が多くて知られているのも知られてないのもあるから困ります。
[杉村]RLC-9が肝実質細胞ということは、何か生化学的特質で、証拠付けられていますか。
[勝田]生化学的にはまだ確かめていません。形態学的にそうだと思うのです。
[佐藤]エチルアルコールで溶けるDABの量は、非常に少いので、高濃度のDABは使えません。
[勝田]ニトロソアミンは、4℃保存といいますが、37℃であたためるとどうなりますかね。
[杉村]コダックの瓶には、暗い所に保存とかいてあるだけで、冷やしておけとは書いてありません。
[奥村]DABはプロピレン・グリコールで溶けないでしょうか。
[勝田]映画でお見せしたように、DAB-N-oxideを10μg/mlに入れても平気で細胞分裂しますし、一方そのN-oxideの吸収ピークが消えてしまったりするのですから、薬剤の選択では、その濃度と共に分解あるいは変性の問題も考慮に入れる必要があります。
[藤井]常に培地中になくても、一旦細胞に薬剤が入ってしまえば、それで作用しないでしょうか。
[勝田]それでは細胞が分裂するたびに薄まってしまいますね。
[黒木]しかし薬剤を除いたあとも影響がつづくという例もありますね。Leo Sacksはある程度コロニー形成をさせてから最後の2日位に薬剤を添加すると変異コロニーが現れるという、つまり非常に短期間の内に細胞の運動性などが変り得るということですね。N-oxideでは肝癌ができますか。
[勝田]ラッテに呑ませて6ケ月で11/13匹にできたと寺山氏は云っておられます。
[黒木]呑ませてだと結局DAB-N-oxideの形でというより、変った形のが効果があるのではないでしょうか。
[杉村]変異したことをあとで確認するためには純系株を使うべきではありませんか。
[勝田]勿論そうです。しかし純系株を作るのは非常に面倒なので、まず誰にもできる方法でやってみようという訳です。
[藤井]ある程度以下の薬剤濃度だと、一方ではやられ、他方は反って促進されたりするかも知れませんね。

《高井報告》
 1)bE.IX.及びbE.II.群のその後の経過:
 前回の班会議に於て、bE.IX.Ac.(通算33日目、Ac.0.01μg/ml28日間処理)が、ASS.IV.(in vivoで作ったActinomycin肉腫の培養細胞)によく似ていることを報告しました。その後、これがどうなるかを興味をもって見ていたのですが、bE.IX.Ac.は培養40日目(Ac.35日間処理)頃からだんだん小形の紡錘形の細胞が多くなって来ました。この小形の細胞は、Control群の細胞に比し、細胞の突起が非常に少いこと、及び細胞質のbasophiliaが強い点で、はっきり異っていますが、同時に又、目標であるASS.IV.の細胞ともかなり異っています。即ち、ASS.IV.に比し、小さく、又、形も整っていて、大小不同も少く、ずっとおとなしい感じの細胞であります。このbE.IX.Ac.群は、その後、漸次、増殖がおとろえ、培養67日目(Ac.62日間処理)以後、Ac.を含まない培地にかえましたが、遂に絶滅してしまいました。今から考えると、ASS.IV.に似ていた時期に、Ac.処理を中止した方が良かったのかも知れません。
 bE.II.群は12月26日培養開始、1月4日よりActinomycin処理を始めました。bE.II.Ac.はAc.処理(0.01μg/ml)10日目までは殆どControl群と変りのない細胞であり、Ac.処理22日目には既に、上記bE.IX.Ac.40日目(Ac.処理35日間)に似た小型の紡錘形細胞が多くなっており、ASS.IV.に似た時期をとらえることは出来ませんでした。
 2)ASS.IV.細胞(in vivoで作ったActinomycin肉腫をトリプシン処理で、バラバラにしたもの)の少数移植実験:
 前月号の月報に書きました実験における、各Tumorの増殖速度を計測したDataを表示します(表を呈示する)。移植部位(皮下)に生じたTumorを、皮膚の上から計測したもので、かなり測定誤差も大きいと考えられ、とても定量的な取扱いは出来ないものと考えられますが、接種細胞数が1/10になると、Tumor発見までの時期が約2週間位おくれる傾向が見られます。又、1,000個移植した群でも5匹中2匹takeしなかったものがあり、100個移植せる群では、Tumorがregressionしてしまったものがあることは、このbtk mouseが、まだgeneticallyに充分homogeneousでない事を示すものとも考えられます。
 しかしながら、このDataと実際にin vivoでactinomycinによって肉腫が生ずるのに要する日数(actinomycinSを週2回、4カ月注射した場合、早いものでも、注射終了後60〜70日してからtumor触知)を考え合せると、実際にin vivoでmalignant transformationをおこす細胞は、多くても100個以下、おそらく10個位ではないかと考えられます。10個接種群、1/5でその1例は接種後52日に発見。100個接種群は2/5で接種後40日に発見。1,000個接種群は3/5で接種後26日に発見。

 :質疑応答:
[黒木]これは細胞学的には肉腫ですね。
[高井]そうです。
[勝田]in vivoで出来たアクチノマイシン肉腫を長期培養するときれる−ということは、in vivoのアクチノマイシン肉腫細胞と同じような性質に細胞が培養内で変った場合、その細胞もやっぱり切れてしまう可能性を示しているでしょう。ですから、in vivoの肉腫細胞をよく増殖させられるような培養条件をまず検討する必要があるでしょう。
それからマウスの胎児組織は自然癌化率が高いから、短期間で勝負をつけなくてはいけないですね。
[難波]復元箇所をもっといろいろ試してみたら如何でしょう。
[奥村]対照の細胞をもっと、きれいに保持できるようにすると、差をよむことがもっとはっきり出来ると思う。それから少数細胞移植の時は動物の系のこともよく考えておくべきだと思います。
[螺良]マウスはどんなマウスですか。btkというのは?
[高井]C57BLの亜系でTとの近親系のようなものです。
少数細胞のとき、その稀釋法には自信がありませんが、井坂先生の所などは稀釋法はどうやっているのでしょう。
[黒木]稀釋法はよく知りませんが、少数の時はうすめてから接種までの時間をなるべく短かくすることに気を使っているようです。
[奥村]この薬品は、他の動物にも発癌剤として有効ですか。もしハムスターでも使えるのなら、ハムスターの皮下細胞を使うといいですね。これなら培養条件は大分調べてありますから。
[藤井]自分の実験(皮膚移植)の結果では、DDDマウスでは27代ものinbreedingでも10匹中数匹は移植した皮膚のおちることがあります。F1の場合にもつくまでに期間がかかるし、数多く動物を使うとバラツキがずい分できます。それから腫瘍復元場所の問題も、皮下はバラツキが多いが腹腔は割に少ないとか、いろいろ考えるべきことがありますね。
[奥村]H-2因子ということだけで解決できないことが多くあるが、生まれてからの感染なども問題になります。
[藤井]皮膚移植では全部つくのに、その系でできたtumorを植えるとバラツクというのは、どういうことでしょうね。
[勝田]高井君の仕事での問題をまとめてみると、培養条件の問題と、期間を短期間でやらねばという問題、多種の動物、ハムスターなどにつけてみること、それから発癌剤の濃度の問題ということになりますね。
[黒木]今の濃度で細胞が変性しますか。
[高井]増殖はずっと落ちます。
[勝田]増殖が落ちる位で驚いてはいけないよ。ガシャッとやっつけなくてはならないんじゃないですかね。
[奥村]in vitroのことだけ考えるなら、僕の所のハムスターのfibroblast株を持っていって実験すれば良いのではないかと思いますね。

《佐藤報告》
◇発癌実験
 ラッテ肝←3'-Me-DABの組合わせにおいての発癌実験をstartがら始めました。(1)培養に使用するDonryu系のラッテは乳児ラッテ♂としました。(2)使用するBovine serum又はCalf Serumはpoolして一系列の少くも2年継続可能のように準備しました。(3)培地更新は更新する試験管に対しコマゴメを1本づつかえて行ひました。(4)継代して静置培養するとき試験管を直立させて液境界面に細胞が現れないようにする。(5)培養日数の比較的早い時期から、染色体数、核型、形態に関する永久標本及び凍結保存を行う。(6)出来れば上皮様実質細胞のcloningを行う。
 進行状況:現在(1月31日)で培養73、56、24、17、12日の計5つの初代培養が行われている。73日目のものはぼつぼつ実験のための材料になると思います。
◇DAB飼育ラッテ肝臓の組織培養
 2月4日の特定研究「ガン」綜合研究16班報告会及びシンポジウムで班長報告の後、纏めて報告しました。此の論文は勝田班長の多大の援助により完成し、Japan.J.Exp.Med.Vol35,491-511に掲載される予定です。後程おわたしします。要点のみ記載します。
 (1)DAB飼育を行うと飼育が57日をこすと、ラッテ日齢が30日をこえても初代培養で増殖型肝細胞が現れる。
 (2)初代培養で現れる増殖型肝細胞は前癌I、前癌II、癌I、癌IIの4つのtypeに分けられ、互に移行像がある所から、この様な段階を経て発癌すると考えられる。
 (3)DAB飼育57日、107日、142日、191日、236日、312日の肝臓から株細胞をつくり形態を比較した。DABの飼育日数が長くなるほど核及び細胞質の異型性が増加、核仁の総量が増加、核仁の配列が不規則化、又細胞質面積に比し核の面積増大が見られた。191日、236日、312日DAB飼育の3匹のラッテ肝臓よりの株細胞は腫瘍性があった。

 :質疑応答:
[奥村]最初からin vitroでDABをかけた場合、in vivoでDABを与えて経時的にとった培養の細胞の形態の変化と似ていますか。
[佐藤]ある程度似ていると思います。形態でみて、或程度の悪性度の判断はつけられると思います。
[黒木]連続的に変化していると思いますが、顆粒の出てくるのだけ前後とつながらないような感じですね。
[難波]♂の方が発癌率が高いのは♂の方が餌をよく食べるからではないでしょうか。
[佐藤]そういうこともあると思います。
[杉村]馬場氏のデータだと♀が発癌は遅れるが、終局的には同じになっていますね。
[勝田]後の方のやり方のことですが、このやり方だとその時期々々の増殖「可能」細胞はつかまえられるが、それが連続していると断定することは危険だと思います。
[佐藤]発癌していない肝から取った培養も、長期培養した場合に自然発癌するという問題もあります。
[勝田]populationとしての形態の変化を、あのように言って良いでしょうかね。正常肝の培養でもあの中の悪性という略図に似ている場合もあります。
[難波]発癌していない肝の培養でも増殖してくるというのは、増殖誘導されているのでしょうか。
[堀 ]正常の肝では1/10,000位の分裂頻度です。部分切除すると、それが3%位になり、その内tetraが60%、diploidが30%位です。DABを与えて部分切除すると、diploidが60%、tetraが30%と、逆になります。5日位の短期でもそういう現象が起っています。
[勝田]Tetraの場合、endoreduplicationのような形になっていませんか。2核の肝細胞の核が同時に分裂形式に入って、1核宛の細胞2ケに分れることがありますので。
[堀 ]それは調べられていません。初代培養で得られるのは、tetraでなくdiploidだと思います。Azo色素を喰わせて、出てくるのもdiploidが多いだろうという感じですね。

《黒木報告》
 ハムスター腎細胞に対する4NQO、4HAQOの効果:
 昨年12月号の月報で、生後7日の♀ハムスターの肺、腎、肝からexplant outgrowth、albumin mediumにより培養細胞を得たことを報告しました。
 今回はこれらのうち、腎由来のセンイ芽細胞(Jin-11)に4NQO、4HAQOを加えた結果を述べます。
 結論から先に記しますと、4NQO 10-5.25乗M、4HAQO 10-5.0乗Mの濃度で細胞変性を起したのですが、細胞増殖回復後も、形態学的変化(細胞の配列も含めて)がみられず、培養後80日の現在(1966年1月31日)では、control、4NQO、4HAQOのいずれの群も増殖がとまり細胞変性を来たしつつあります。
 (培養の大凡の経過を図で呈示)初代12日目にいくつかのbottleをpoolし、TD-403本に培養、その他コロニー形成観察のため三春P-3シャーレに10,000個、1,000個、100個/dishでinoculum(TD-40の接種細胞は175,000個/mlx10ml)、コロニー形成はみられなかった。
 2G、5日目(5Y30、17days)に4NQO、4HAQOをそれぞれ10-6.0乗M,24hrs.contact、形態学的な変化はみとめられなかった。
 3Gへの継代は、7日培養後に行はれた。10,000個/ml、TD-40にinoc.残りは凍結保存する。3Gでsheetがきれいに形成されてから4NQO、4HAQOを10-6.0乗M、10-5.5乗M→10-5.25乗Mと段階的に濃度を上げ、10-5.25乗Mで4NQOは細胞変性をみる。4HAQOは10-5.0乗Mで変性が出現、この細胞変性は4NQO、4HAQOを除いてからもしばらくつづく。(特に4NQOは長引く)
 細胞変性は細胞の剥離及び細胞が大きく丸くなり(形は不正)、しかし、細胞内構造は位相差で明瞭にみえる、というような形態を経たのちに死メツすることが特徴的のようです。
 細胞の剥離変性は(特に4NQOの場合)は細胞配列の中心部に著明、帯状に残ったところから又、細胞がmigrateするようです。(略図を呈示)細胞が流れの上に配列していると→その中心部がまず変性し→網目状に残った細胞から中に新しくcellが出る。
 4HAQO群は回復がはやく、39daysに4Gへ継代、sheetを作ってから10-5.0乗M添加1d、変性なし(このあと正月休み)。
 培養56日目に4NQO群も相当程度回復したので、再び10-5.25乗M、及び4HAQO 10-5乗M添加。
 しかし、この頃からcontrolの増殖はとまり細胞変性剥離がみられた。同時に4NQO、4HAQOもcell damegeから回復出来なくなり、現在に到っている。
 なお、以上の経過の中で、継代後3日間、及びcell degenerationのみられたときは、TD-40にアルミホイルでcapし、炭酸ガスフランキに入れた。他のときはsealed。
 この次は凍結した細胞と新たな培養によりはじめるつもりですが、どのような方法をとるべきか迷っています。
(1)4NQO、4HAQOの段階的添加はやめる。
(2)いきなり10-5.25乗M,10-5乗Mでexp.する(あるいはもう少し低濃度)
(3)形態学その他のマーカーがほしい。
(4)feederを用いたcolony形成はどうか。
(5)target cellは何か、等々。
 浮いて培養できる肺細胞の培養:
 前回の月報でも報告しましたように、初代から浮いている細胞がハムスター肺からとれました(Hai-11、7day suckling。 Hai-21、embryo)。この細胞の特徴は
(1)浮いているか、又はガラス壁に伸展せずに附着している。位相差で核など内部構造がよくみえない。
(2)Smear preparationでは、剥離細胞の如く核が小さく、うすい細胞質をもっている。核は一方に偏していることが多い。
(3)PAS(+)。
(4)分裂像がみられない。
(5)軽く圧力をかけて位相差でみると、phagocytosisを行っているように細胞内に小さい顆粒が沢山みえる。(顕微鏡写真を呈示)
(6)培養後80日の現在、細胞は大分へってしまったが、依然として生きている(もちろんtrypan blueには染まらない)
(7)肺以外からはとれない。
(8)ラットではみられなかった(もう一度やりなおす積り)
この細胞の本態はalveolar epithel(肺胞上皮)か又はalveolar macrophageと云はれている細胞と思はれます(血液由来ではないだろう)。
 今後、phagocytosisの研究、Harzfehler zellenとの関連性などの研究に使えそうです。DNA、RNA、Protein合成をH3-TdR、H3-UdR、H3-Leucinでみると同時に墨によるphagocytosisをみて、細胞の機能との関係に入りたいと思っています。

 :質疑応答:
[勝田]その肺からの細胞はセン毛をもっていませんか。
[黒木]ありません。
[杉村]4NQOをtetrahymenaに与えて異型細胞が出来る場合、cell cycleの或る時期にしかその遺伝形質に作用しない、ということがあります。培養細胞の場合は、いろんな状態の細胞が混っているから、遺伝的変化をおこすものと、単なる変性とが混っているようですね。
[黒木]4NQOはその作用がずい分後まで残りますから、かけ方に注意が必要ですね。
[勝田]この細胞は、1世代どの位の時間ですか。若し非常に長いとすると、G1でブロックされるのかも知れませんね。
[杉村]封入体の出来た細胞の運命はどうですか。
[黒木]処理後、3hrs.がいちばん見やすいが、その後だんだんよく見えなくなってしまいます。どうなるのでしょうね。
[堀 ]あれは本当に封入体ですか。仁が消えたみたいに見えますが・・・。
[勝田]そうですね。しかし、以前報告した連中が、あれを封入体様と言っているんですよ。
[杉村]あれが発癌のレールにのっているものか、死んでゆくものか、疑問ですね。
[高木]遠藤氏は死んでゆくものだと言っています。
[黒木]ただ、同じ副産物としても、発癌性のあるものに特異的に出るというので重要視されています。問題は今後どういうsystemで進めてゆくか、ということですが、難しいことだと思います。
[杉村]肝臓の場合は、4NQOから4HAQOを作る酵素がはっきり判っていて、purifyされています。この酵素はdiacoumarol(?)を少し与えると特異的に阻害されて、4HAQOができなくなります。
[黒木]段階的に添加してゆくというやり方も、時間のロスが多くて効果的でないですね。それと4NQOでハムスターに癌が出来るのですか。
[杉村]伝研の青山君が以前にハムスターポーチに4HAQOを入れていましたが、そのときは出来ませんでしたね。DABを少しやっておいて、あと4NQOを注射すると、肝癌発生率が高まります。注射は皆やっているが、食べさせるというのはやってませんね。森さんは、レシチンにとかして与えて色々なtumorを作っています。ただし、一度に沢山注射すると、局所が肉腫になってしまいます。
[螺良]局所に出来てしまうと、それを切除しているようです。肺ガンや何かが出来るまで・・・。
[杉村]4NQOの水溶性のがありますよ。発癌性は少し落ちますが・・・。

《高木報告》
 今回はこれまでの結果をとりまとめて、更にその後の若干の発展について報告します。実験初期のものは大体Eagle's Basal Medium又はModified Eagle's MediumにBovine serum、C.E.E.を加えた液体培地又は寒天培地を用いて、マウス、ラットの皮膚、肺、腎、顎下腺等を培養し、一部のものに発癌剤として4NQO 10-4乗〜10-7乗Molを添加してみましたが、いづれも、10日かせいぜい2週間維持するのがやっと、と云う有様で認むべき成果は得られませんでした。
 その中で、マウスの皮膚を高濃度の4NQO(10-4乗Mol)中で短期間培養したものに幾分の変化がみられたかと思います。
 その後Plasma clot methodにより主として人胎児(4〜5ケ月のもの)、マウス、ハムスター(胎児或は新生児)の皮膚及び腎を培養することを試みました。先ず皮膚について、生直前と思われるスイスマウスの背部の皮膚を用いてPlasma clot上で30日間培養しました。Medium作成法は前に述べた通りですが、今回は14日目以後のPlasma採取は全部シリコンを塗布した注射器を用いて行い、他に抗凝固剤は一切使用しませんでした。4NQOは10-5乗Molを13日まで加え、その後何も加えない群と、対照群とをおきました。
 培地交換は大体3〜5日に行いましたが、これは新しいplasma clot上に組織片を移してから3〜4日になると、組織片の下及びその周辺部にclotの融解がおこり始めるからです。培養後5日目毎に固定してH & E染色により30日目まで観察しました。このシリコン塗布注射器により採血したPlasmaはMc-Gowan等が人胎児皮膚のorgan cultureに用いて好成績を得ているものですが、ヘパリン等の抗凝固剤を加えて採血する場合と異り採血後凝固し易く、その点、技術的にかなり困難が伴います。培養結果、5日目のものではこれまで種々の培養法において等しく認められた様に、角質の増生が目立ち、この傾向は、4NQO群と対照群との間に差を認めません。
 その後は、角質のそれ以上の増生はあまり起こらない様です。これに反して、表皮、真皮についてはこれまでの合成培地との相違が目立ち5日目の組織において已に核の濃縮がかなり認められますが、その程度はその後も変らず、又、両群共に同様で4NQOの影響は認められません。
今回の実験は30日目で打切りましたが、30日目のもので核の濃縮は5日目のもの同様に可成り認められますが、表皮全般の状態はあまり変りなく依然として組織は生存し続けていると思われます。この結果より見ますと、更に長期の培養も可能であろうとの希望が持たれます。
 続いて約6ケ月と思われる人胎児の腎を同様Plasma clotにより培養して22日目まで一応organizeされた状態に維持出来ました。
 今回は最初からシリコン塗布注射器により得たPlasmaを用いました。
 培養8日目、已にcentral necrosisはかなり目立ちますが、周辺部の細胞はほとんど変化がなく、12、17、22、27日と固定しましたが、22日目のものまで一応健常に保たれており、glomerulusらしき構造が認められます。但し、27日目のものではglomerulusの構造はほとんど認められず、少数の尿細管を認める他にFibroblast増殖が強くなっています。他に人胎児の皮膚も現在培養中ですが、無菌的な皮膚はなかなか入手困難で、今までのところ成果は上っていません。次回位にはなんとかきれいな写真を載せたいものと思っています。 顕微鏡写真を呈示:マウス胎児(生直前)の皮膚。同胎児皮膚を80%EBM、10%B.S.、10%C.E.E.、4NQO 10-4乗Molにて3日間培養後。約6ケ月の人胎児腎組織。同人胎児腎組織をPlasma clot methodにより22日間培養後・glomerulus及び尿細管はかなりよくその構造を保っている。

 :質疑応答:
[勝田]Epidermisが、とび出してくる時期に、そこだけ切り取って培養するということは出来ませんか。
[高木]大変むつかしいと思いますが、やってみられるとは思います。ただ、添加後3日位なので、そんな短期間で本当に変化が起きたかどうか自信がありません。
[黒木]発癌にそういうstromaが必要だということも考えられるでしょう。
[高木]ネズミの背の皮膚にぬって、発癌前にその部分の皮膚をきれいに取って隣へ移したら、移した方でなく、取った後に癌が出来たという実験があって、stromaの重要性を強調している人がいます。
[勝田]高木君の場合だけでなく、他の発癌剤にでも、dimethyl sulfoxideを混ぜて与えると、発癌剤の浸透が促進されて面白いと思いますね。
[高木]発癌ということにも、異った細胞の間の相互関係を重要視したいので器官培養をやっていますが、器官培養は長期間行えないという欠点があります。
[杉村]長く維持出来ないというのは?
[高木]栄養分や酸素の補給が不充分だからです。
[杉村]サイズの問題ですね。
[螺良]器官培養では細胞は生きているだけなのですか。分化しているのですか。プラス・マイナス・ゼロということですか。
[高木]増えたり、死んだりで、プラス・マイナス・ゼロというのが理想的ですが、なかなかそうは行かないのです。骨みたいに、丸ごと培養して分化もさせるというのもありますが、今やっている培養は組織片で、液相と気相の境界線で培養しているという所がミソです。
[勝田]別の話ですが、肝の再生の指令はどこから出るのでしょうね。正常ラッテ肝由来の株を正常肝の初代培養とparabiotic cultureすると、前者の増殖が抑えられるので、これは後者からrepresserが出ているためかと思って、後者の代りに再生肝を使ってみたことがありますが、やっぱり前者の増殖が抑えられてしまいました。それから、肝に4nが多いというのは、G2で止まっているのがあるからではないでしょうか。
[奥村]いや、肝細胞はG1で止まっていると云われていますよ。
[杉村]in vivoで再生肝を作って、器官培養をやると、再生肝らしく維持されますか。
[勝田]肝臓を丸ごと器官培養するということはまだやっていないと思います。やってみないと判りませんね。

《堀 報告》
 G6Pdehydrogenase isozymes:
 まずnormal male ratのliverと前報の如くinductionを行ったrat liverにおけるZymogramの比較を行うべく実験を始めました。第1に染色液が極めて高価なので成可く経済的であること、材料に培養細胞を使う場合資料が少いので出来る丈装置を小さくすること、第2にnormalと誘導された肝では酵素活性が著しく異り、前者では極めて活性が低く、両者を同様の方法で泳動にかけることは出来ないことなどの点を考慮して、try & errorで結局、次の如く方法を定めました。
 (1)homogenateは1:2の水で作り、10,000gで30分遠沈、上清を取り、正常のものに限りこれを凍結乾燥で脱水、後、元の量の5分の1の水で溶かして5倍濃度液を作った。
 (2)正常、誘導肝共に材料0.01mlを0.1mlのspacer gelに混ぜ、その適当量(0.05〜0.1ml)を泳動にかけた。
 (3)泳動には・・3mm〜5mmのガラス板にスライドグラスを細く切ってエポキシ樹脂ではりつけ、これに上からガラス板をかぶせセメダインで貼りつけ、泳動後はこれをはずしてゲルを取出す様にした・・手作りのtrayを用い、Ornstein & Davis法により17〜20℃、2hrs.通電(tray1本当り2.5mA)。
 (4)前述の如き染色液にて37℃、2hrs.染色。初めは、泳動の都度、異ったZymogramが得られ、その原因が不明で大分苦労したが、どうもhomogenateが古くなると酵素活性が落ちてパターンに変化をきたすらしい。
 Spacer gelやSmall pore gelの濃度や量を色々調節してみたが、結局、Small poreは7.7%、Spacerは3.1%0.3mlがよいことが分った。殺して直ちに泳動にかけた場合より、数日凍結保存後に泳動した場合の方がzymogramの差が極めて明瞭となる。
 結論としてはバンド4と5がinduced liverではっきり出るのに、normalでは5がうすくなる。この事はnormalの資料を多くしても同じであることから、単なるspecific activityの差ではなさそうである。
 さて、培養肝細胞であるが、初期培養1週間の肝片90〜100コ位、2週間のものを60コ位、水でhomogenateとし、凍結乾燥後、出来る丈少量のspacer gelに溶かして泳動した。結果は全くのNegativeで明らかに手法上の誤りがあったと考えられる。即ち、組織片が少なすぎたのかもしれない。今後、更に検討する。
 前報の培養約1年の肝originのcell lineであるが、極めて増殖が遅くTD-15に1ぱいにsheetを作るには数ケ月もかかると考えられる。カバーグラスの小片を染色して観察した結果、極めて形態的多様性を示す細胞の集りで、核はおとなしいものからhyperchromatismを示す巨大なものまで雑多であることが分った。細胞質の染色性もまちまちである。細胞同志はきわめて密な接触を保っている様で、中には黄紅色の色素顆粒を有するものもある。また、可成り多くのものが変性壊死の過程にあった。これらのことから、これらの細胞はまだ悪性化の途上にあると考えられる。

 :質疑応答:
[勝田]培養細胞の場合、細胞数が非常に少ないのではないのですか。
[堀 ]そうなのです。
[奥村]どの位の数がありましたか。大体10,000,000個必要だそうです。
[勝田]生化学屋さんは定量の感度を一桁上げて欲しいものですね。
[奥村]100,000位でできればいいですね。
[難波]展開剤は何ですか。
[堀 ]TRIS燐酸緩衝液です。実験群と対照群とでバンドの出方が違うので、何かいいinhibitorを加えて、バンドを消すことができれば・・・。Inhibitorが見つかれば面白いと思います。

《奥村報告》
A.ウサギ子宮内膜細胞に対するホルモンの影響
 現在までにえられた結果ではProgesterone、Estradiolとも細胞増殖に対し促進的に働くことが判ったが、その作用機序については全く不明である。そこでH3をラベルしたホルモンを用い、細胞への取込み実験を行ない、はたしてホルモンが細胞内へどの程度、又どこに入るのかをAutoradiographicalに検べてみた。しかし結果はなかなかclear-cutに出ず、或程度の傾向を掴むことに止まった。細胞内におけるホルモンの局在性に関しては不明であるが、細胞内に取り込まれることでかは確かのようで、次のような結果から推論出来ると思う。Estradiol(0.01μg/ml)添加では1細胞当たりのgrain数は平均6.7、Progesterone(0.1μg/ml)添加では1細胞当たり平均6.9であった。
 又更にProg.とEst.の2種のホルモンをそれぞれ適当な濃度で組み合わせ細胞の増殖をみた結果は、Estradiolを0.1、0.05、0.01、0.005μg/mlとProgesteroneを0.1、0.05、0.01μg/mlの組み合わせにおいて、controlの増殖を1として、Estradiol 0.01μg添加でProgestrone 0.05μg/mlでは1.8、0.01μg/mlでは3.2であった。またEstradiolを0.005μg/mlにProgesteroneを0.1μg/ml添加すると3.8となり、少くとも増殖促進を指標とした場合に、この組み合わせが効果的のようである。(培養20日後に算定)
B.JTC-4細胞のDNA量の測定
 JTC-4細胞(予研亜株)のDNA量が正常細胞(体細胞)のそれよりも少ないことが推測されてきたが、その事についてその後2度測定した結果やはり正常体細胞(2n)のDNA量よりも少ない結果を得た。それぞれの細胞のNucleiについてのDNA量は10-12乗g/N値として、Spermは5.5、Heartは11.9、Liverは24.7、JTC-4(対数増殖期の細胞でG2期及びS期の半分(後期)にある細胞が全体の約35〜40%であることが観察された)は9.2であった(Standard deviationは1.1〜3.8)。この結果をMSP(DNA-Feulgen)及びchromosome compositionの分析と比較すると、やはりいづれの分析からもDNA contentの減少(2nより)が見られ、その減少の量については未だ正確なことは判らない。
 なおこの細胞がchromosome karyotype、plating efficiency、colony sizeなどからみて、従来の株細胞などと比較して相当purityが高いことが想像されるので、細胞生物学的材料としてかなり有効なものであろうと考えている。

 :質疑応答:
「杉村]チミヂンなどと違って、ホルモンの場合は構造物にとり込まれずに、作用しているので、coldを入れるとすぐおきかわってしまうおそれがありますね。
[勝田]細胞当りのDNA値から換算して、JTC-4-Yはploidyにすると何nになりますか。
[奥村]1.3〜1.6n位になると思います。
[杉村]最少単位のDNAはあるのですか。ハプロイドの染色体は維持しているのですか。
[勝田]染色体のペアでないのがあるということは、分裂したあと、片方の娘細胞の死ぬ、或は増殖しないことがある、という可能性も示しますね。H3-TdRを長く入れ放しでautographyをやってみましたか。細胞の何%位がラベルされるか・・・。
[奥村]それは、やってみませんが、flush labellingですと、第1ピークでmitosisの95%がラベルされ、第2のピークも90%位です。S期は14〜18時間で普通より長いです。シャーレにまくと、colony sizeはよく揃うのですが、plating efficiencyが60%位で余りよくありません。一般に培養細胞は、遺伝的解析という面で大変わずらわしい、という事をこれまで感じているので、この細胞によってその点を克服できるかと期待しています。
[黒木]Phenotypeはどうですか。
[勝田]JTC-4というのは異常な位collagenを作ります。こんなに作る細胞は他にあまりないでしょう。

《堀川氏より勝田班長への手紙》
 御無沙汰致しております。御変りございませんか。いつもながら月報や連絡書御送りいただき厚く御礼申しあげます。
 私の方もいよいよ帰国を前にあわただしい毎日を送っておりますが、本来ガタガタとあわただしい生活の好きな私には、これが何よりも大きな刺戟で楽しんでおります。過去2年と少しばかり当地に来て出来た仕事をふり返っておりますが、結局は習うことより教えることに追い廻され、加えてTissue Cultureの設備のない所で自分でsetし、新しいInsect tissue-cultureに体当りした訳で、まあこれ位いの所で満足せねばと云う段階でMadisonを離れます。しかし、これからいよいよ本格的な実験に入ろうとする所でここを離れて行く事は、組み立てたSystemを後の人々に残して行く様ではがゆい感じです。日本の京大の医学部という所で、Insectを主体としたGeneticsをどこまでのばすべきか、またはどこでmammalian cell或いは他のmaterialsに転向すべきかなど思いをめぐらしているのが現在のいつわりのない私の気持です。しかしGenetics出身の私にしてみれば、やはり現在の仕事を発展させて1968年東京で開かれる国際遺伝学会にそなえたい気持で一杯です。いづれ、こうした問題は帰国後ゆっくり考えて見たいと思いますし、また勝田先生にも御相談する機会を持てることを希望しております。・・・後略・・・

【勝田班月報・6603】
《勝田報告》
 A)DAB-amine-N-oxideについて:
 前月号にこのDAB-N-oxideが実に不安定であることを報告しましたが、それは培地中のヘモグロビン、特にFeがcatalystになって、MABやDABに変ってしまう為と、寺山氏から聞かされていました。そこで血清蛋白のpureなものと一緒にすれば、それと結合して安定化するのではないかと考え、ArmourのBovine albuminの結晶(FractionV)を再蒸留水にとかし、それにDAN-N-oxide 10%溶液を等量すなわち終量5%になるように加えた。これを37℃で20分間incubateした后、約6時間室温に保存した后、分光光度計で吸収をしらべた。対照としてalbuminと混ぜないN-oxideの5%再蒸留水溶液を作り、同じような処理をした后、吸光度をしらべたが、対照の方は低いピークではあるが320mμに鈍い山を示し、N-oxideの存在することをあらわすと共に410mμに山がなくDABはほとんど含まれていないことを示していたが、前者のalbuminと混ぜた方は、280mμのproteinの吸収から急速に下降し、少しは肩は示すが、320mμにはピークは消失し、その代り410mμにピークができて、DABに変ったことを示した。
 そこでこんどはDAB-N-oxideの20μg/ml再蒸留水液3mlと、FractionVの1%再蒸留水溶液1mlとを室温で混じ、BlankにはFractionV1%液1mlと再蒸留水3mlを入れ、その吸光度の320mμにおける経時的変化を連続的にしらべたところ、0→100までの吸光度の目盛で、10分間に1目盛宛continuouslyに吸光度が落ちて行くことが判った。
 これらの所見は、DAB-N-oxideがきわめて不安定なことを示して居ると共に、寺山氏がN-oxideを動物に呑ませて肝癌を作った場合にも、体内の血中でN-oxideはDABに変り、DABが肝癌を作っていたことを示唆している。つまり寺山氏が[N-oxideの作用と思ったのは、実はDABそのものの作用であった]という可能性が大きい。
 しかしごく短時間に細胞内の物質と結合して作用をはじめる可能性もあるので、RLC-9株(正常ラッテ肝)を使い、DAB-N-oxideの濃度を次第に上げながら連続的に与えておく実験もおこなっており、現在30μg/mlと40μg/mlの2群がある。
 B)Nitrosodiethylamine(DEN、Tokyo-kasei)・(C2H5)2N-NO・(M.W.:102.14)について:
 ラッテ肝細胞株に長期投与しているが、映画でしらべるとどうも細胞増殖が反って促進されている感じなので、cell countingをやってみたら次のような結果が出ました。
 (表を呈示)細胞:RLC-9株、RLC-10株。Culture medium:20%CS+LD。 addition of CEN:From the 2nd day。添加濃度:1〜80μg/ml。細胞はどちらも正常ラッテ肝由来ですが、反応に少し差があるようです。RLC-10では80μg/mlが添加7日后にmax.になってしまいましたので、今后さらに高濃度をしらべてみます。
 C)DABによるラッテ肝細胞の増殖誘導:
 前にやったことですが、らってが純系になったので、2月18日、F25♀生后10日のラッテの肝を使い、DABを1μg/mlに第0日→第4日だけ用いたところ、第14日にExp.:8/8。Cont.:5/6に増殖を得た。これらは今后DENの実験に用いる予定です。

《佐藤報告》
 皆さんに対して研究の責任を感じていますが、思う様にはかどりません。正常ラッテ肝の培養(Primary)から実験に使用できる細胞が未だできません。従って今月は月報を遠慮した方がよいかとも思ったのですが、現在までの進行状況を書き送ります。
 C163 11-19=0日 生后6日♂。現在96日、もうすぐ使用できると思います。
 N.7 1-19=0日 生后5日♂。本日継代した所ですので未だよく分りません。染色体標本とギムザ標本をつくるようにしました。
 上記2例以外に、Primary cultureしていますが、未だ継代していません。実験にBovineSerumとCalf serumのロットを各々2本使用しましたが、増殖はBovine Serumの方がよい様です。
 ◇難波君は主として免疫と、培養肝細胞のBilirubin代謝に主力をおいて毎日やっていますが、未だ充分の結果がでません。

《黒木報告》
 2月はハムスターの出産がなく、4NQO関係の実験は進行していません。
 目下feeder layerの為にMouse embryoのcultureをしています。出来るだけ多くcultureしcell batchとして凍結する積りです。又、ハムスターも生れたときに出来るだけ培養し、凍結保存し、以后必要の際にとり出す方針です。
 そこで凍結のためのいくつかの予備実験をしましたので、御参考のために記します。凍結温度は液体空気-196℃、容器はLinde LR10-6型、硬質ガラス特製アンプレ使用。
 (1)DMSOとグリセリンの比較及び凍結方法:
 L1210(マウスの腹水型白血病)使用。凍結期間60日(表を呈示)。-80℃の温度は大西製のfreezerによる。凍結後の腫瘍性確認のための移植はCDF1マウスへ生細胞を1万個i.p.移植。生死判別は0.25%のtripan blue染色。
以上の実験から、1)DMSOの方がGlycerolよりもはるかによいこと。2)凍結の方法が重要であること、-80℃に入れる方がよい(3時間)。それから液体空気に入れる。
 (2)DMSOの濃度の検討:
 上の実験の凍結方法3、すなはち、+4℃ 2hrs.-80℃ 3hrs.。次に液体空気に入れる方法により、DMSOの濃度の決定を行いました。細胞は吉田肉腫、凍結期間は4日、細胞浮遊液は10%Bov.Ser.、EagleMEM、生死判定はtrypan blue。
 (表を呈示)。0%の41.8%の生細胞という成績はsmearを作ってみた結果、ほとんどが裸核のことがわかりました。すなはち、細胞質が非常にもろくsmearのときにこわれたものと思はれます。(DMSOもグリセリンも添加せずに凍結-40℃可能というhauschka T.S,Levan,Aの論文があります。) 以上の結果から、90%以上の生存率で、安心して−停電断水の心配なしに−凍結することが出来ることが分り、目下実用に入ったところです。
 寒天培地内におけるコロニーの形成について:
 寒天内のコロニーの切片標本が出来ましたのでその形態について記します。固定はBouinです。これを用いると寒天が固るので以后の操作がしやすくなります。
 (表を呈示)Invasion(+++)は、倒立顕微鏡又は切片で細胞が寒天の中に入りこんでいくもの、Invasion(-)は細胞が塊をなし外に出ていこうとしないものです。(+++)には、YoshidaS、PolyploidYS、AH13、AH13M、AH13C、AH7974F、AH66F、AH130F(Si)、AH130F(G)、AH131B、 CulturedYSがあります。AH39、AH423、HeLaは(-)でした。自由細胞率との間の相関に御注目下さい。Invasionと云うよりは運動能かも知れませんが。

《高木報告》
 その后も人胎児組織をPlasma clot methodで培養しています。
 1)人胎児皮膚の器官培養
 約6ケ月と思われる人胎児の背部より皮膚を切り取りP.C.200u/ml、S.M.200μg/mlを夫々含むHanks液に1時間宛3回液を換えて浸した後、6x7mm程度の切片を作る。Plasm clot作製法は前報のものと全く同じでシリコンコート注射器による採血も大分うまく行くようになった。実験群はC.E.E.に入れた4NQOが10-5乗Molの最終濃度になる群と、何も入れない対照群とを置き、夫々4、8、12、17日目にBouin固定、H & E染色にて観察し、対照群のみ21日まで培養した。
 培養後の変化として両群共にこれまで種々の培養法において等しく認められた様に角質層の増生が起り、経日的にその程度が増すと共にParakeratosisを認めたが両群間に有意差はなかった。
 同様に培養前2〜3層であった表皮層も経日的に厚さを増し、12日目のものでは両群共に6〜7層と可成り厚くなったが、両群とも同様で特に対照群の皮膚組織は3週間殆んど謙常に保たれたと云てよいと思う。また培養前の組織には全く認められなかったMitosisの像が、培養4日目のものに両群共可成り多数認められるようになり、この傾向は12日目までほとんど同程度に継続されたが、17日目のものでは4NQO添加群の組織で核が急にややPicnoticになりMitosisを全く認めなくなった。
 この変化が4NQOの影響によるものか、もっと他のfactorによるものかは今後の検討を要するところです。対照群は21日目まで培養を続けたが17日目のものと殆んど同様にMitosisが認められた。12日目までのものに見られたMitosisの数量的な差については、4NQO添加群の方が幾分多いのではないかとの感じをうけるが、確定的なことは云えない(写真を呈示)。 2)人胎児腎の器官培養
前の腎組織培養に引続き今回はPlasma clot method及び液体培地(70%199、20%BS、10%C.E.E.)の比較を行うと同時に相方共に4NQO 10-5乗Mol添加群と対照群をおいて培養した。 用いた腎組織は約6ケ月の人胎児より得たもので、摘出后P.C.100u/ml、S.M.100μg/mlを含むHanks液に約3時間浸した後、4x5x3mm程度に細切し、前報同様のPlasma clot上及び、Stainless meshにより、培地に接するようにした液体培地により培養した。その結果は、Plasma clotによるものでは対照群は1月号に写真を載せたものとほとんど同程度であり、4NQO添加群では培養后8日目頃からcentral nectosisと共に全体的に核のPicnosisが目立ち、この傾向は経日的に増強して17日目のものでは組織の大部分はnecrosisの像を呈しており、4NQO群は培養を打切った。対照群は引続き27日目まで培養したが、27日目のものにも前報、写真、培養22日目の人胎児腎と同程度に可成りよくorganizeされており、一部にはglomerulusの構造も認められる。液体培地を用いたものでは、夫々対応するPlasma clot cultureに比べて培養後8日目より全体的に核のPicnosisが強く組織固有の構造がほとんど認められなくなる。この傾向は矢張り4NQO添加群に強く12日目のものでは両者ともに、殆んどの核がPicnosisを呈する。しかしいずれの実験群においても培養前、培養後の全期間を通じてMitosisは認められず、又、4NQO添加に対する反応と思われる何らの所見も得られなかった。液体培地については血清濃度などに今後検討すべき問題点があると思う。

《高井報告》
 今月は公私共に雑用が極めて多く、実験の方が殆ど進まず困っています。
 1)bE11Ac.群のその後の経過:
 前月報に報告した様に、小型紡錘形の細胞が殆どを占める様になった後、かなり細胞数が減少して来たので、2月7日(培養44日、Ac処理35日間)からアクチノマイシンを含まない培地に変更してみました。Ac(-)にしてから約1週間で細胞はかなり回復し、cell sheetを形成して来ましたが、同時に細胞の形態も対照群と酷似したものになりました。
 要するに、この群の細胞に見られた形態学的変化は、まだ可逆性であったわけで、いわゆるtransformationはまだおこっていないと考えらると思います。この群のcellは、もう一度アクチノマイシンを作用させてみるつもりです。
 2)ASSV(in vivo固型アクチノマイシン肉腫のprimary culture):
 前回の班会議で勝田先生から指摘されました、in vivoのアクチノマイシン肉腫細胞の培養条件の検討にとりかかりました。今回はprimaryのtumorがありませんでしたので、btkマウスで継代せる腫瘍(前月報の実験の100個移植群のNo.1のマウス)を材料としました。培地は20%CS・YLHと20%BS・199の2種とし、細胞数の測定でなく、顕微鏡による観察のみにしました。現在1週間目ですが、20%CS・YLHの方はかなり細胞の変性が強く、20%・BS199の方が(やはり変性の傾向はありますが)細胞は少しキレイな様です。
 3)btkマウスについて:
 先日の班会議でbtkマウスについて、御質問がありましたので、ここにあらためて記載します。余り詳しい文献は見当らないのですが、「アクチノマイシンの発癌性に関する研究。I.アクチノマイシン皮下注射によるハツカネズミにおける肉腫発生実験」中林登:大阪大学医学雑誌11(7)、1959、の中に次の様に記載されております。すなわち「・・・btk系とは、C57BL系ハツカネズミ雄と、螺良、赤松らによって分離された乳癌好発系ハツカネズミtaの雌を交配し、そのF1からC57BL系ハツカネズミに似た黒色の毛色を選別して兄妹交配を行い、現在第15代に到っているもので・・・」とあります。前月報のDiscussionの項の私の答えを上記の如く訂正させて頂きます。

《奥村報告》
 A.ウサギ子宮内膜細胞に関する研究
 前月報(班会議)で報告した結果以上のものは未だデータとして得ておりませんが、オートラジオグラフィーでホルモンの細胞内への取り込み実験がある程度可能であることが判明したのでその后の確認実験を近いうちにするつもりです。その具体的計画について若干述べてみます。
 用いる細胞:ウサギ子宮内膜、ヒト子宮内膜、その非感受性と思われる1〜2の細胞(現在考えているものは“in vitro"cell lineとnon-target cellのprimary culture)。
 ホルモン:Progesterone、Estradiol、TeststeroneとこれらのH3ラベルしたもの。
 培養条件:CO2及びO2gasの量を調節できるincubatorを用い、少数細胞(500〜1000/ml)をplatingし、コロニーレベルで行う。optim.pHは現在まで得られたデータから7.4〜8.0の範囲を用いる。serumは仔牛とヒトのものを用いる。synthetic mediumはNo.199とEagle'sbasal medium、F-10、他に特別のconditioned mediumを用いる。
 以上の実験を再開するに先立ち、予備実験として生化学関係の人と共同で37℃で種々の培地条件(例えば、血清入り培地、又は各細胞のあるフラクションの添加された状態)での各種ホルモンのstabilityを時間に追ってしらべる計画を立てている。
 ウサギに比べてヒト子宮からの細胞採取はいろいろな点から困難であって、実験条件を十分検討しなければならないと思う(age、その他)。材料については最近ある病院から手術材料として子宮全部(傷つけずに)をまるごと入手出来る様に話がついたので大いに助かります。おそらく来月ぐらいから月に一度ぐらいはもらえると期待しております。
 B.JTC-4細胞のDNA、染色体に関する研究
 前号までに数回にわたりJTC-4のchromosome complement及びDNA contentについて報告しました。その結果、この細胞のDNA contentがdiploid cell(大部分はG1 phaseにあると考えられているもの)より少く、haploid量(sperm)より多いことがほぼ確かであろうということが判った。さらに、来月(3月)から伝研の積田教授に入門してDNAのbase compositionをしらべることにした。その方法については先日、積田先生と話し合いましたが、当面2つの方法を用いることになる様です(詳細は省略)。
 いづれにしても、“in vitro"cellとしての非常に好材料として考えている、この細胞のcharacterizationを主眼にし、その中からspecificでstabilityの高いmarkerを見出して行こうと計画しております。予備的実験としてはcollagen formation ability、LDH isozymepatternなど2〜3のものを、その専門家に依頼して結果は出ております。またauto-immuneとGuinea pigのheteroのsystemの両方で、immunologicalな実験の材料作りをはじめてもいます。
 C.発癌の研究班に入って直接の発癌実験をすることが出来ず残念に思います。内分泌学的研究という“大げさな"課題に取り組んですぐ発癌の仕事というのは私自身の能力から考えて非常に無理なことであることに気がついた次第です。私はホルモンを扱うにしてもやはりBiological problem(ホルモンと細胞増殖、ホルモンと細胞の形質の関連性など)についつい魅惑されてしまって“ともかく何とか発癌を!"という一本のレールに乗れない様に思いました。しかし、今后もう少し生物学的課題の整理がついたら、そのレールに乗かることも可能かと思いますので、その時はどうぞよろしく御教示下さい。私にとっては現在発癌を実験的に行い、かつ生物学的課題をも併せて解析出来るのはウィルス−細胞というsystemが最も手がけやすいように思います。ですからしばらくは発癌に関しては、sponta-neous transformationか、ウィルス−細胞という系で追ってみたいと思います。それにつけても極度の人手不足で参りました。皆様の御発展をお祈りします!!。

《堀 報告》
 組織培養による発癌機構の組織化学的研究
 主たる目的としたことは肝組織片の培養によって得られる細胞群が組織化学的にどの程度肝細胞としての特徴を保持しているかを調査することであった。
 (1)Primary culture(1〜2wks)でacid phosphataseの活性と分布を調べた。
 APaseはin vitroではbile canalの両側に沿ってきれいな分布を示す顆粒に検出される。この様な特異的細胞内分布を示すのは肝細胞以外にない。従ってこれをmarkerとして実質細胞を区別せんと試みた。
MTK  、吉田、武田肉腫、GTD、H-96、HeLa、H-99培養株を比較のため用いた。
 確立された移植癌または培養株細胞においては、主としてnuclear hofにAPase顆粒が局在しているが、肝培養細胞では、in vivoにおける如きpericytoplasmな配列を示すものが多く見られた。しかし乍ら、このことは全細胞に共通したことではなく、このAPase顆粒のみによる細胞の分類、同定は不可能であった。
 (2)同じくG6PaseとPhosphorylaseの活性について。
 この2つのglycogenolytic enzymesは肝細胞を特徴付けるに充分な肝実質細胞に特異的酵素と考えられるが、そのいずれも培養細胞では検出不可能であった。
 (3)培養初期の組織片の変化。
 G6PaseとPhosphorylaseの検出が不能であったことから、培養初期の組織片の変化を調べることにした。
 培養開始から、時間を追って組織片を取り出し切片として、G6P、phosphorylase、glycogen、RNA、succinic dehydrogenaseの染色を行い、各々の消長を調べた。その結果、RNAやSDHは培養時間と関係なく、或いは次第に強く検出されるにも拘らず、glycogen、phosphorylaseは急激に減少、G6Paseも1日以上では検出不可能になることが判明した。
 (4)CO2incubatorでの組織片の変化。
 G6PaseやPhosphorylase、glycogenなどが何故この様に急激に検出不能になるかを更に調べるために、肝組織片を(1)培養液を用いず(2)LD-20にinsulin、Phlorizin、cortisoneを添加した培地と共に培養、2〜8hrs.後の組織変化を調査した。その結果、培地なしで只放置した組織片で一番酵素活性の消失が遅いことが分った。一方、添加物の効果は全く認められなかった。
 (5)酵素のin vitro inductionの試み。
 in vivoではcortisoneが肝G6Paseのinduceを結果することが分っているので、培養細胞にcortisone(1μg/ml)を1〜7日作用させてG6Paseの染色を試みたが不成功に終った。
 また、in vivoでは30%casein食により肝G6PDHのinductionが可能であるが、その培養えの適用は不能である。
 (6)G6PDHisozymeについて。
 培養肝細胞はin vivo肝より強いG6PDH活性を示す事が染色で判った。これはin vitroにおける酵素活性の上昇の唯一の例であった。そのため、電気泳動を用いて、正常肝、30%casein食投与肝、培養肝細胞のisozyme patternを調べることを計画した。
 正常肝では5〜6bands、30%casein食肝で6〜7bandsのzymogramが得られ、前者は後者の3〜4番目のbandに相当するものが極めて活性が弱く、5〜6番目が欠けていることが判明した。しかし乍ら培養肝では材料の不足のため満足なzymogramが得られなかった。
 培養肝細胞のzymogramが正常肝と異るとすれば、肝細胞の代謝の変化が示されることになり、興味のあることと思われる。

【勝田班月報・6604】
《勝田報告》
 1.Nitrosodiethylamine(DEN)による培養内発癌実験:
 DENがラッテ肝細胞の増殖を促進するらしいと前月号の月報にかきましたが、cell countでDEN各種濃度の肝細胞増殖に対する影響をしらべたところ、低濃度では明らかに増殖を促進して居り、阻害にはmg orderに入れなければならないことが判った。(DENは、2日培養してcell sheetのできたところで添加した。) (表を呈示)μg orderでしらべた結果では、2日后、4日后には40μg/mlが最も促進したが、7日后になると80μg/mlがピークになった。7日后(総計第9日)には100μg/mlがピークになった。これらの濃度を細胞数あたりに換算してみると、0.5μg〜0.2μg/1,000 cellsのとき最も増殖を促進し、1μg/1,000 cells以上になると抑制するらしいという結果になった。
 2.“なぎさ"培養→DAB高濃度添加の実験:
 “なぎさ"培養からDAB高濃度添加に移すと、変異細胞株が短期に高率にできると前に報告しました。その内SubstrainMというのは一寸変った細胞でRLC-3由来ですが、DABを異常に消費します。20μg/mlにDABを加えても3日間でほとんど完全に消費してしまいます。これは染色体数のピークは77本になっています。

《佐藤報告》
 発癌実験
 月報NO.6602の計画に従って実験中です。現在私の研究室で飼育中のDonryu系ラッテの染色体の核型をつくりました。方法は『Yosida,T.H. and Amano,K.:Chromosoma:1965』に従いました。ラッテ体重3.5μg/gr.のコルヒチンを使用(文献には一律ラッテ当り400μg)2時間后殺して大腿部骨髄からair-drying法で標本作製。(♂♀の核型図を呈示)。
 標本での疑問点・(1)大きさの順位にならべてあるが、非常によく似ているものがある。実測はどの様にしてするのか? (2)(1)の理由により、♀のX染色体は区別がむつかしい。♂のY染色体は周囲にacrocentric chromosomeがないので発見が容易。
 C.163−前報NO.6603に報告したC.163株は現在5th、Subculture、122日。染色体標本は4thSubculture、培養112日のものを材料として使用した。タンザク培養后3日目に培地交新、翌日コルヒチンを1μg/mlと4μg/mlに最終的になる様にして、6時間、12時間、24時間を検索した。1μg/ml 12時間が最もよく、次いで1μg/ml 24時間がよかった。
染色体数は核型分析が可能のものは13個、いづれも42であった。無理をして数えると以下の通りである。染色体数42以上のものはない。25本:1、33本:1、39本:2、40本:5、41本:1、42本:20。C.163はRLN-163と名付け以后cloningを行う予定。

《黒木報告》
 ハムスター胎児細胞に対する4NQOの効果
 今までラット胎児肺細胞、ハムスター新生児腎細胞を培養し、4NQO or 4HAQOを添加する実験をくり返して来ましたが、すべて発癌又は形態学的変化をみないままに終ってしまいました。今まで用いていた4NQO、4HAQOを吸光度曲線により検討したところ、かなり吸光度が低下していることがわかりましたので、新たに作り直すと同時に培養細胞も新たに、実験を再開しました。(4NQO、4HAQOは今后2w毎に作り直す予定です)。
 細胞:golden hamster、whole embryo(ただし、頭部及び肺、心は除く)Zen-1と略する。
培養方法:Explant outgrowth法による。培地:Eagle+1.0mMpyruwate、0.2mMSerine+
1mg/l af biotine & 20%B.S.(但し血清は培養17日以降は10%にした。節約のため)。
digestion:0.02%pronase、37℃ 4〜5min.。Bottle:主としてTD-40、P-3dish(三春、45mm)。Incubator:主としてCO2-incubator、growthが安定になれば、閉鎖ガス環境。
 発癌剤:4NQO、4HAQO 10-2乗MにEtOHに、水を加えて10-3乗でstock soln.とする。
milipore filtration。
 培養は3月5日に開始した。(角ビン10本、TD-40 1本、90mm dish 1枚、計12本)。5日後full sheet。pronase digestion後、(表を呈示)表の如く培養を行った。(TD-40 4本、dish 20枚)inoc.sizeは1万個/ml、dishは10,000、1,000、100/dishでコロニー形成をみる。残りは凍結(10本、5万個/amp.DMSO 10%、液体空気)、今后thawingして使う予定。
 4NQOは前回までの実験からみて4x10-6乗M(10-5.4乗M、0.76μg per ml)で与えた。
 Controlの細胞はepithelialのものが多く、細胞質はうすく核の回りにgranulaのあるものが多くみられた。なかにfibroblastがmixしている。継代を重ねると、特にひんぱんに継代したcontrol-2、-3ではきれいなfibroblastだけのsheetとなる。
 4NQOを加えると細胞の大部分は剥れおち、残った細胞はspindle、配列はcrisscrossし、multilayerになる。肉眼的にみると、その部分はフェルトのようにみえる。controlでも
crisscrossはみられるが、それはfibroblastの流れの重り合ったところに限られているようである。(図を呈示)図はZen-1-NQ-1に4NQOを1w加えた後のcellの残った部分で、あたかもtransformed fociの如く思はれる。
 ここに残った細胞はいずれもspindleでcrisscrossしています。他の4NQOを加えたびん(NQ-2)でも同様の変化がおこっています。45mmのdishで4NQOを添加したのは16日目、(4NQO添加後10日)で染色したところ直径8mmのfocusが5つ程みえました。
4HAQOは4x10-6乗Mでは変化なく、10-5乗Mでmultilayerになります。
 このような変化が細胞のSelectionによるのかどうかはわかりません。しかしmultilayerはcontrolにはみられない所見ですので、何らかの変化を考えてもよいと思はれます。
 Zen-1-NQ-1は4NQOを1w加えてから4NQO free med.で培養していますがfocusからmigrateする細胞は初めのうち(2〜3日)は、focusと同じようなspindleのcellでしたが、6〜7日後にはフラットの細胞で核が大きく、核小体の明瞭な細胞をみるようになり、今后も注意深く観察する積りです。
 Zen-1-NQ-2、Aen-1-HA-1は10日、12日間4NQO、4HAQOを加えましたが、今后(継代后)carci-nogenを加えつづけるのと、中止するものに分けてみるつもりです。
 今後の方針として、
 (1)transformationを明確にするため、colonial colonyレベルの仕事にもっていく、そのためfeederlayerの作り方を検討しています(softex使用)。
 (2)継代による変化:1.controlは3つおく。2.4NQO、4HAQOは加えつづけるものと、途中で中止するものの二つにする。3.適当なときにまずcheek pouchにinoc.してみる。4.形態の観察。5.必要に応じて凍結アンプレからとり出し、再現性をみる。等です。
 また4NQOの種々のderivativeも手に入り次第実験に用いていきます。

《高井報告》
 1)bEII.Ac.群のその後の経過:
 前月報に間に合わなかった写真を、お目にかけると共に、その後の経過について報告します。(写真を呈示)写真1)はbEII.K群、即ち対照群の培養30日であります。写真2)はbEII.Ac.群の37日目(Ac.0.01μg/ml.28日処理)で、小型紡錘形の細胞が大部分を占めていた時期です。ところが、44日目(Ac.処理35日)からアクチノマイシンを含まない培地にかえたところ、その後わずか3日間で、写真3)の如くcontrol群に極めてよく似た形になってしまいました。 そこで3月1日(66日目)から、再びアクチノマイシンを添加したところ、TD40、4本のうち、2本において高度のdegenerationがおこり、この2本は3月10日(75日目)から再びAc(-)にして様子を見ています。
 細胞の形態は(図を呈示)図の如くで、顆粒が多くて、丸くかたまった細胞があちこちに細々とガラス壁についています。この状態はbEI.Ac.(月報6503〜6506参照)の時に見られた最初の変化と似ている様に思われますので、目下、大切に育てています。残りの2本では、こういう変化もおこってはいますが、なお、その他に対照群の細胞と似た細胞もかなり残存しており、まだアクチノマイシンを含んだ培地で飼っております。
 同様な処理をしているのに、どうして、この様な異った経過(程度の差だと思いますが)をとったかについては、よく分りませんが、培地のLot(contamiをおそれて、2群に分けている)によってアクチノマイシンの濃度が少し異るのかも知れません。(非常に稀釋しなければならないので、多少の誤差は避けられないと思います。)
 2)in vivo固形アクチノマイシン肉腫のprimary culture:
 前回報告したASSVは雑菌(カビ)のため絶滅。
 あらためてASS をstartしました。(材料はASS  10個移植で生じたTumor)。今回は接種細胞数が少かったためか、余り調子よく増殖しなかったのですが、(写真を呈示)写真4)は20%BS・199の9日目、写真5)は20%CS・YLHの同じく9日目です。どうも199の方が少し良さそうですが、何れの培地でも約3週間で変性が強くなり、充分な培地では無い様です。

《高木報告》
 (1)引続いて人胎児皮フの長期培養を試みた。方法は前報と全く同じでPlasma clotを用い、胎児の月数もほぼ同じ6ケ月位と思われる。培養后12日目までは健常に保たれmitosisも認められたが20日目に固定してみると4NQO添加群、対照群共に殆んどの細胞がPicnoticになっていた。また2週間遅れて培養開始したハムスター胎児の皮フも4日目ですでに全部変性におちいっていた。
 この様に今回の実験で壊死が早く起った原因として採血の際、シリコンをコートしたばかりの新しい注射器を用いたので何かtoxicなものが附着していたのではないかと考えています。このことはシリコンコート注射器を使いはじめのPlasma clotによる培養の結果が非常に悪く、その后日を経るに従ってうまくいきだした点とを考え併せると、何か意味がありそうです。目下、人胎児を用いた実験を再出発しています。
 (2)ハムスター胎児のorgan cultureを三回に亙り行った。第1回目は(1)にも書いた様に途中で駄目になった。第2回は生下前2〜3日と思われるハムスター胎児の皮フ及び腎の培養で、これは復元実験の一つの足がかりとして行ったものです。培養方法はこれまでのPlasma clot法と全く同じで夫々4NQO 10-5乗Mol.添加群及び対照群をおいて4、9、15日目にBouin固定H.& E.染色して観察した。
 a)皮フ:培養前のものにはかなり多数のmitosisを認める。4日目のものでは角質の増生、及び表皮の肥厚(2〜3層のものが4〜5層になる)、及び基底細胞層の規則正しい配列をみるに至るがmitosisは非常に少くなり、又真皮には幾分Picnosisが認められる。9日目のものでは角質、表皮共に4日目以上の肥厚はなく表皮に幾分のPicnosisを認め、mitosisは全くない。更に15日目のものでは、全層殆んどnecroticとなり表皮層にpicnoticな薄い層を認めるのみです。従ってここまでで培養を中止した。
 b)腎:a)で皮フを取った同じハムスター胎児より腎を取り出し、約1x2x1mmの腎をそのまま前記同様のPlasma clotにて培養し、矢張り4、9、15日目に観察した。培養4日目central necrosisを認めるが辺縁部は殆んど健常に保たれている。9、15日目のものでは、管腔が少し拡大してはいるが、尿細管の構造は大体正常に保たれている。培養前の組織には多数のmitosisを認めたが、培養4日目以后mitosisは全く認められない。
 この実験でも4NQO 10-5乗Mol.添加群、対照群の間に特別な差を認めなかった。a)b)の実験を通じてみると15日目の皮フが腎に比べて非常に状態が悪いと云うことがどうも納得出来ない。今后いろいろ検討すべき問題がある。先ずその一つとしてclotの成分について、C.E.E.の代りにHamster embryo extractの使用、又ハムスター血漿の使用、或は現在用いている3%CO2、97%O2ガスをO2又はAirに変えること、又は温度の問題等色々考えられる。
 (3)ハムスターを用いた3回目の実験は上記同様生下前2〜3日のハムスター胎児の皮フをPlasm clot及び液体培地を用いて培養した。Plasma clotは上述のものと同じで、液体培地はi)70%199+20%B.S.+10%C.E.E.よりなる半合成培地、及びii)70%B.S.+30%C.E.E.よりなる天然培地を用いた。両者のうち天然培地は血清源は異るが、Plasma clotを液体にした状態に近いと考えることが出来ると思う。現在8日目までの培養結果はPlasma clotを用いた皮フでは(2)において記したものと大同小異であるが、液体培地によるものでは両者とも4日目からすでに全くnecroticであり、これらの胎児組織を培養するには液体培地はどうも適当でなかった様に思われる。使用した血清、C.E.E.については、同時に培養したハムスターの顎下腺が健常である点からみて、それほど問題があるとは思われず、他の点につき更に検討の余地があると思われる。

《永井報告》
 3年程前に、伝研から現在の職場に移ったのですが、此処は発生学のひとつのセンターでもありますので、私の興味もいつか脳の生化学からこの方面に移って現在に至っています。これまで物質の上では、リピドや糖質の化学にたずさわってきた関係で、発生学へのアプローチの仕方も、こういた物質の研究をもとにしたものとなっている次第です。癌については、伝研時代に少しいじくったことがある位で、現在は全く離れています。それでどの程度お役に立てるかと内心気がかりです。現在おこなっています仕事は、1)ウニの配偶子のスルホリピドの研究、2)ヒトデの卵巣物質の研究、3)ウニ胚を用いてのcell aggregationの生化学的研究の3つです。1)の研究は、従来植物にしかないといわれていたスルホン酸結合のリピドがウニの卵と精子に存在することをみつけたので、目下その化学構造決定と生理的意義を追求中です。このリピドは精子の呼吸を倍に高めるとともに、精子の凝集作用を示します。またこのリピドで前処理すると授精率が急速に低下します。これらは、しかし癌と関係がつきそうにないようです。ちょっとでもありそうなのは、2)と3)でしょうか。2)はヒトデの卵が、他の動物の場合と違って、卵巣中にあるときは全く分裂せず、神経ホルモンによって海水中に放卵されると直ちに成熟分裂をおこすという現象にヒントを得た仕事です。つまり、卵巣中には分裂を抑制している物質があるのではないか、この物質を追求中といったところです。3)は、これはちょっとやそっとでは片附きそうにない問題で、皆様からお智慧を拝借してじっくりやっていこうと考えていますので、どうぞよろしくお願い致します。ウニ卵は、嚢胚期までの発生途上では、EDTAなどでmetalを除くと、cellがばらばらになり、これを元の海水に戻すとaggregateをspecificにおこない、もとの姿を回復し、また発生をつづけていきます。これは昔から知られた事実で、発生学者によっても時々とりあげられる問題ですが、生化学的な研究、その物質的基盤を明らかにする研究は、全くやられていない現状です。Cell再構成の実験はMosconaなどがやり始めているところですが、ウニ卵の方がSystemとしてSimpleで取り扱いやすい(もっとも現実は仲々きびしく、思ったとほりのようでもなさそうですが)し、卵も多量に入手できますので、やる気も動いたといったところです。目下、ウニ卵発生の同調培養、実験系の確立などに大わらわといった有様です。ばらばらにcellをしたのち、海水に戻してやると直ちにくっつき合って塊をつくり、やがてその中でSpecificな結びつきが成立していくのか、互に区別できる組織像が成立していくゆです。cell同志があまりにも早くくっつき合うのに驚かされるとともに、おれがまた何かと問題をひきおこします。まだ安定した実験系をつくりあげるにのは程遠いようです。もう春ウニのシーズンも終りに近づいてきました。すると、夏までおあづけとなります。これが別の悩みの種です。生物学の根本問題のひとつは形態形成にあると私は思っていますので、何とかしてこの問題に対して私なりの突破口を開きたいものと思っています。

《藤井報告》
 組織培養のこの研究班では、勝田教授はじめ、みなさんなかなかときついスケジュールでやっておられるので、臨床をやりながらのhalf-dayペースでやっていてついていけるかどうか危ぶんでいます。場違いのところに出て来た感しきりです。今回は私のやっている事を御紹介して御挨拶としたいとおもいます。移植免疫の仕事を始めたのは、そもそも癌の免疫をやる予備として、私の所の石橋教授から与えられたテーマだったわけですが、癌の免疫はあまりにむつかしく、その方はついつい手うすとなり、移植免疫の方がおもしろくなって凝っている恰好です。
 同種移植では、ふつう血清の中に抗体がなかなかみつからず(Gorer等の血球凝集系は別として)、細胞性あるいは細胞結合性抗体の概念が導入され、遅延型反応と関連して今だに重要な免疫学と課題になっているとおもわれます。MiamiのDr.R.A.Nelsonが細胞結合性抗体の成立機序について仮説を立てており、そのその研究室で仮説の実験的証明の仕事をやってきましたが、その仮説というのはdonorとrecipientが互いに共通な抗原をもっておって交差反応性を示すとき、産生抗体がrecipient自身の細胞に交差反応して、そこに細胞結合性の抗体が成立するというものです。同種移植反応を、抗原と宿主の相対的関係からみる、魅力ある考え方です。(J.Exp.Med.,118,1037,1963) 最近同種移植でも血清中の抗体がCytotoxicテストや、Immune-adherence法できれいに証明出来るようになりましたが、その出現の仕方も、donorとrecipientの組合せ関係によっていることが示唆されています。細胞結合性抗体の本体をと、考えながらも、今1度、血清抗体の方を整理しようとやっています。19S、7S抗体とcytotoxcity等の関係など面白い成績が出かかっています。
 この他、研究室の2〜3人と担癌宿主の免疫反応性、とくにその低下する原因についての実験と、補体、とくにマウスの補体が測れるようになりましたので、癌や移植の免疫と関連して研究をすすめています。

《三宅報告》
 ヒト胎児皮膚のSponge matrix cultureにみられる表皮のMitosisと、H3-TdRの取りこみの分布地図について:
 この号から参加させていただくことになりました。何とぞよろしくお願い申し上げます。相変らずのヒトの胎児の皮フをみています。材料にしたのは胎生3ケ月のものです。分裂をみたのはSpongeに容れて4〜5日目の廻転培養を行ったものです。H3-TdRの取りこみは培養2〜3日の後に2時間させたものです。同じ材料についてその両方を行ったものではないのです。表題にかかげた2つのものは、いわばこのCultureの方法についての重大な批判ともなる訳です。固定、Paraffin包埋して、最初の一枚から連続切片にすればよかったのですが、一応H.E染色をしてからという方法をとりました為に連続切片をしたと申しましてもParaffineblockの後2/3位の厚さしかないものです。(図を呈示)これを図のように標本の上で5つに分け、表皮の部を層状にa、b、cの3層にわけて、MitosisとH3-TdRのLabelingをみたのです。
 分裂は、もちろんBasal cell layerに見られ、この上のSupra-basal cell layerにもみとめられました。その広さは“AとE"の辺縁部、及び“C"に少いことが判りました。Labelingは、組織片(2〜3mm角)の中心では“B、C、D"に少く、組織片の辺縁部では“A、B、C、D、E"に瀰漫性にあることが判りました。これは当然のことかも知れません。これを組織片の全体から立体的にながめますと、MitosisもLabelingも共にドーナツ型の分布地図を示しその大きさを比較するとMitosisのしめす型が、Labelingのもつ型よりも、分厚く、中心に片よっていることが判りました。またどうしたことか、Mitosisが辺縁部に少くてドーナツの型からいえば、Mitosisのものが全体からいえば少し小型であるといえます。
 実は皮膚がCultureの間に分化を示すとすれば、上方に角化層を作りあげて行くばかりでなくてRete pegs(釘脚)を作るために、Basal layerの中でMitosisとLabelingが所々に局在して来ると考えたのです。それが連続切片を作って見た動機になったのですが、そのようなことはありませんでした。このCulture methodでは胎生の表皮は、上方に向って一途にProliferationをして、角化傾向をみせるのですが、Basal cellのDown growthは見られないのです。皮膚の分化という点からすれば、考えねばならぬ点と思いました。
なお後になりましたが、Spongeは山内製薬のGelfoam Sponge(Spongel)です。培養液は、Eagleに牛血清と鶏胚抽出液を添加したものです。Spongeは硝子壁にPlasmaでclottingしてあります。

【勝田班月報・6605】
《勝田報告》
 A)当室に於て樹立或は分離した培養細胞株の一覧表:
 過去17年間に於て伝研組織培養室に於て新たに樹立した株、或は他の既製株より分離した亜株(無蛋白培地継代可能の亜株)を示す(表を呈示)。
胸腺よりの株は上皮性細網細胞と思われる細胞がはじめはかなり多い。しかし継代と共にこの%が減少して行く傾向がある。容器によっては細網細胞が再び主位を占めることもある。この他RTM-1よりのClonAもある。
 新生児の内より故意に育ちの悪い1仔をえらび胸腺を採取した。胸腺は萎縮状態であったが、その経過を知るため培養したところ、果して中途で退行変性を呈し、継代培養できなくなった。
 B)微分干渉位相差顕微鏡による培養細胞の観察:
 日本光学で最近開発した微分干渉位相差というのは、これまでの位相差がいわば細胞の内部を透視しているのに対し、頂度細胞の表面から細胞膜の表面の凹凸ぶりを眺めているような感じである。(写真を呈示)下の写真はRTM-10(ラッテ胸腺細網細胞)の微分干渉写真で、細胞質内の顆粒が非常に立体的にみえ、核膜の辺端や核小体が隆起しているのも判る。この顕微鏡で観察した結果、硝子面に附着して広く細胞質を拡げている細胞の断面形態は下図のようであることが判った(模式図を呈示)。細胞質や核の辺縁が盛上っているのは、氷嚢に水を少し入れて密封して机の上においたときと同様の所見で、細胞質や細胞膜の物質的特性を暗示している。

《佐藤報告》
 ◇正常ラッテ肝細胞株のラッテ復元による腫瘍発生状況(表を呈示)。各細胞株の形態については5月の班会議でスライドにして持参の予定です。腫瘍性のあるRLN-8株は形態学的に癌細胞と考えられます。他のもの6細胞株は多型性、異型性がわづかです。たびたび報告しました様に復元してラッテを腫瘍死させた場合には復元株が癌であることは間違ありませんが、腫瘍をつくらなかった場合、復元された細胞株が癌ではないとは云ひ切れません。最近でも接種后235日たって腫瘍死した例がありました。極端に云へば接種動物が自然死するまで観察しなければならないと思います。即ち動物へ復元して腫瘍をつくる能力の弱いものは敢えて人工的な線(例えば100万接種で5ケ月観察、或いは500万で3ケ月)を引き、その線以上の腫瘍性をつかまえる事が現実的だと思ひます。培養肝細胞の発癌に関しては形態学的悪性度(核が大きく或は数が多くなる。核膜が肥厚する。細胞質境界が明瞭となる。多型性、異型性が増加する。異常核分裂が見える)と動物への腫瘍移植率がよく一致していました。
 RLD-10株(RLN-10株と同じラッテ肝より初代培養し最初の4日間のみ1μg/mlにDABを添加した細胞株)の腫瘍発生率(表を呈示)。この株細胞は私が3'-Me-DABの培養内発癌実験に主として使用した。培養1235日目の実験でi.p.に腫瘍発生率が100%であり且つ死亡までの日数が短いことが判明した。1313日、1337日ではそのような事はおこっていない。3'-Me-DABで発癌?させた場合にはi.c.が最も早く死亡する。この点は1235日目のRLD-10には見られない。然しどうしてこの様な高い腫瘍発生率が現れたかについては現在の所分らない。
 月報6510の復元については班会議で報告の予定。
 200日程度の3'-Me-DAB投与は腫瘍発生率及び死亡日数を短縮した。
 RLN-10及びRLN-21への3'-Me-DAB投与は今の所発癌への効果がない。
 RLN-35、36、38及びRLN-39には今后3'-Me-DABを投与して見る積である。

《黒木報告》
 ハムスターWhole Embryoへの4NQO、4HAQO(2)
 前報においては培養20日までの成績を報告しましたが、その後継代は順調にすすみ、現在(4月22日)は培養48日に達しています。
 現在までに得られた成績をまとめると次のようになります。
 (1)4NQO、4HAQOを、それぞれ4x10-5乗M、10-5乗M加えると、明らかなmorphological
transformationが起る。
 (2)morphologicalの変化はLeo Sachsの報告と非常によく一致している。fusiformな細胞がcrisscrossし、multilayerを形成する。
 (3)controlは培養40日目前后から増殖がおち、形態的には、うすい、顆粒を多く持った細胞から成るGiemsa染色すると、collagen様のものがintercellularに沢山みえる(これが「分化」 とどう結びつくか目下考えているところです。) このようなcollagenの合成?は4NQO、4HAQOを加えた方にはみられない。
 (4)controlha40日頃に増殖がとまるのに対し、4NQO、4HAQO添加群は活発に増殖している。継代に伴い混在していたcontrolと同じ形態の細胞は少くなって来た。
 (5)山根、松谷によるmodified Eagleを用いれば1%前后にコロニーが形成される(4NQO、4HAQO添加群の細胞)。今日これからクローンをとった。
 (6)feeder layerも目下検討中(細胞をsuspendにして5,000rのCo60をradiationする方法が、簡単のようです。
 (7)第二回目の実験群もスタートした。4NQO 4x10-6乗M、4HAQO 10-5乗Mをそれぞれ2日づつ培地交新と同時に加え、10日間で中止の予定。
 (8)動物(ハムスター)への4NQO、4HAQO注射による発癌実験も開始した。
 大体以上です。詳しくは班会議のときに。

《三宅報告》
 ヒト胎児皮フの培養(Sponge Matrix)にみられる表皮のH3-TdRの標識細胞
及び標識率の差(部位的な)について
 in vivoではヒトのadultの大腿部と足蹠部の皮フの間には有核層の厚さ、角質層の肥厚、更にはまた細胞の増殖状態の間に著しい差が認められます。この皮フをin vitroに培養すると、はたして同じことが生れるかということをしらべてみたのです。培養の方法は前回に記したのと同じです。材料は3〜4ケ月のヒトの胎児の大腿と足蹠の皮フです。それを8日間Roller cultureで培養した後にH3-TdRに2時間、5μc/mlの割合で取りこみをみました。最も長いのが8日間で、それまで各時間に同じことをやりました。大腿部の表皮では培養直後のものでは標識細胞(L.C.)は大体基底層に一致して出現します。ただ僅かに例外的にその上の中間層にも見られますが、標識率(L.I.)は大体20%と概算することが出来ました。このL.C.とL.I.の関係は、培養6、12、18時間の後も略々同様の価を示します。培養の時間が24時間以上になりますと、この価はだいぶ異って参ります。24時間目になるとL.C.は明らかにSuprabasalの部にまで拡がり、L.I.も45%に高まります。30時間の培養をへますと、L.C.は表皮の最上層にも出現します。この時のL.I.は50%にもなります。しかし36、42、54、60時間の培養の時間が長引くにつれてL.I.は下降してきます。それは51、44、35、26%と漸減して来ます。所が培養を更につづけて、4、5、6、7、8日目になりますとL.I.は20%と落ちて、横ばいの状態になります。がL.C.の出現部位はbasal layerのみでなく、Suprabasalの部位にも認められるのです。
 一方、足蹠部の表皮では培養1〜2日目では、L.C.の出現は前者と異って、basal layerにしか出て来ません。L.I.はまだ計算しえなかったのですが、とても前者の50%などという高い価は出て来ません。その後時間を経たもので、L.C.はSuprabasalの部にみられますが、その后、Labelingはbasal layerに落ちついてしまうのです。このように表皮の細胞の増殖はin vitroでも著しい差があるのです。

《高木報告》
 最近は人胎児の入手がなくもっぱりハムスターを使って実験しています。今回はハムスター胎児の皮フをいろいろ条件の異るPlasma clotを用いて培養してみました。
 1)Plasma及びEmbryoextractの割合について。
 生直前のハムスター胎児背部の皮フを切り取り、3x5mmに細切して、サージロン上より、Plasma clotの上に置いた。Plasma clotの組成としては、(1)今までに用いたChick Plasma(C.P.と略)6滴、C.E.E.2滴(3:1)よりなるもので、これに4NQO 10-5乗Mol添加群及び対照群をおき、(2)C.P.5滴、C.E.E.3滴(5:3)、(3)C.P.4滴、C.E.E.4滴(1:1)、の以上4群に別けて3%CO2・97%O2通気下に、37℃で培養した。Medium更新は3〜4日毎とし、4、8、14日目に夫々Bouin固定、H.& E.染色にて観察した。
 培養前のものでは表皮層とは画然と区分されMitosisを可成りの程度に認めるが、角質層は全く認められない。培養4日のものでは各群共に2〜3層の表皮に相当する厚さだけ角質の増生を認めるが表皮と真皮の画然とした区別が出来なくなり表皮に相当する部分にもMitosisは認められない。真皮には幾分核のPicnosisを認めるが全般的にみて組織は殆ど健常に保たれている。8日目のものでは3:1群では4NQO群、対照群共に4日目のものと殆ど変らないのに比べて5:3、1:1群は共にPicnosisが可成り強く認められ、14日目に至るとこの傾向はますます強く、5:3、1:1群では全層殆どnecroticになっている。Plasma clotはC.E.E.の量が多くなるにつれて柔かくなり、1:1のものでは時には組織片が少しclot内に埋没して了う状態もみられたことが、この様な結果になって現れたのではないかと思われる。
 2)Embryoextractの種類及び気層についての予備実験。
 ハムスターの皮フを培養するのにハムスター胎児抽出液(H.E.E.と略)を用いることは以前からの懸案だったので今回予備的に用いてみた。同時にC.P.・C.E.E.を用いた培養を空気中で行ってみた。使用した材料は1)と殆ど同程度のものを同じ方法で採取して用いた。Mediumは、(1)C.P.6滴:H.E.E.2滴(妊娠中期のハムスター胎児を、Hanks液1:1にて抽出)。(2)C.P.6滴:C.E.E.2滴(従来のものと同じ)の二群とし、(1)は更に4NQO 10-5乗Mol.添加群及び対照群を置き、3%CO2・97%O2混合ガス通気下に37℃にincubateし、(2)は空気中で37℃にincubateした。
 その結果(1)においては4日目のもので表皮と真皮はなお、かなりはっきりと区分され、数は少ないが明らかなMitosisを両群共に認めた。8日目のものでは何故か原因ははっきりしないが、両群共に全体的に核がPicnoticであり、この点につき今後更に検討していきたい。 いずれにしてもハムスター皮フの培養で培養後Mitosisが認められたのは初めてであり、矢張りH.E.E.の使用については今後十分検討すべきであると思う。
 (2)の空気中で培養したものについては、これまでのガス通気によるものとの間に殆ど差を認めなかった。

《高井報告》
 今月は別の仕事に忙殺されてしまい、発癌の仕事は全くはかどらず困っております。従って残念ながら、今までから維持している細胞系についての観察以外に報告すべきものがありません。
 1)bE Ac.群:前月報に報告しましたように、細胞変性が強くなった状態からの、恢復→transformed colonyの出現を期待しているのですが、未だその傾向はみられません。前に記載した変性の少かった2本の瓶も、その後やはりひどくなって来ましたので、4月9日からAc.(-)のmediumにかえて、観察をつづけています。
 2)in vivo固型アクチノマイシン肉腫の培養:ASS の培養のうち、20%BS・199の方も20%CS・YLHの方も、夫々1本のみ細胞増殖がおこって来て、かなり元気になって来た様です。20%BS・199の方がやや細胞が幅が広い以外には、特に著明な差はないように思われます。この細胞のprimary cultureに適当な培地の検討に関しては、馬血清その他の多種の血清を試みる様、勝田先生からAdviceを受けているのですが、今のところin vivoで作ったアクチノマイシン肉腫がすぐに使えるものがないので着手出来ない状態です。
 3)復元実験:月報6601に記載しました復元実験については、現在までのところ、全く陰性のままです。

《永井報告》
 バフンウニの季節が今月初旬でおわり、あとは7月のムラサキウニまで待たねばならないので、材料を仕込む意味で今月前半は三崎に行き受精膜を集めるのに精を出した。これを溶解する酵素もウニ孵化時に分泌されるので、embryoをmass cultureし、これを集めた。この酵素は従来蛋白分解酵素とみられて来たが、よく調べてみると、確固とした証拠なしの提言とみられる。それで、むしろグリコシダーゼ系の酵素でないかとにらんで仕事を始めているわけです。一応精製した受精膜にcrudeの酵素を加えて、還元値が上昇するかどうかをみた。糖質が遊離してくれば、アルデヒド基の露出によって、還元値が増す。実験の結果は、どうやら時間とともに還元値が増加するようです。これをもとに膜の化学構造の決定まで行ければと目下夢を描いています。ウニと同時にヒトデも集めました。今年はどうやら調子がわるいらしく、卵巣と精巣をwet wt.で夫々1kgと600g程ようやく集めることが出来ました。これから、前報の意図のもとに、減数分裂を抑制している物質がとれればよいのですが。今月の後半は、先ず第一段階として糖脂質の抽出と分離にとりかかっています。ケイ酸カラムクロマトでは、糖脂質として検出されるものは(図を呈示)、図の と とか主要部である。HCl水解で、糖のガスクロを試みると、 からはFucoseとXsugarが、 からはFucose、Xylose、Galactose、Glucose、Xsugar( の場合と同じ)が検出された。このXsugarがどんなものか仲々わからず困っていたのです。メチル化糖かと思って脱メチル反応(BCl3処理)を試みても全く変化しないといった有様でした。所が今月後半に入って、ふとしたことから、東大農化・水産化学教室で、ヒトデの体表から分泌される毒性物質を研究していることを知り、早速paperをもらって読んだところ、水溶性のサポニン系物質として単離しており、これが毒性の本体だと書いてあります。非糖部分は未同定ですが、糖部分としてFucoseとQuinovoseとが存在しているとあるので、もしかすると我々のSugarXもこの珍しい糖Quinovoseではないかと思い、早速出かけて水産化学からQuinovoseをもらい験してみました。現在のところ、SugarXはBuOH:Pyridine:H2O(6:4:3)でのペーパークロマトでQuinovoseに一致したspotを与えました。我々はウニ卵から新しい型のリピドでスルホン酸型のキノボースと思われる糖をもっている糖脂質を見出しています。またナマコからやはりQuinovoseが得られています。ヒトデ、ウニ、ナマコは棘皮動物門(Echinodermata)に属するわけで、いずれも同じくQuinovose typeの糖をもつことになり、面白いことになるのですが、果してどうか。ヒトデの問題のリピドが水産化学の人々がとりだしたSaponinに似ているようでもあるので、目下この点を追及中です。もっとも彼らのものは、水に可溶、有機溶剤に不溶ですが、我々のものは水に不溶ですので、一応違うものとみれるのですが、何とも云えません。彼らは7月の卵をもっていないヒトデ全体からとっているのですが、我々は卵からこのものを得ています。Saponin様物質だとすると、我々のものは新物質ではなくなりますが、それにしてもこの様な一般にCellに対して毒性を有する物質が、何故精子にはなく、卵に多量に存在するのかが依然として謎のまま残ります。我々の物質のCell分裂に対する効果如何の問題もまだ残っています。

【勝田班月報:6606:ハムスター胎児細胞への4NQO・4HAQOの作用】
DENによる培養内発癌実験について:
 前月にひきつづいてラッテ肝細胞の培養にDEN(ディエチルニトロソアミン)の添加をつづけている。最近、肝細胞のシートに縞模様があらわれ、これは三種類の細胞(何れも肝細胞ではあるが)が集団をつくり合っている為にできたものと判った(略図を呈示)。
 中型細胞は、細胞質が明るく、余裕のある限り互いに密着しない。顕微鏡映画で観察すると(供覧)非常によく動く。しかし分裂はきわめて低頻度である。大型の細胞は硝子面に広く伸展し、細胞質が灰色に見える。これは変性しかけた細胞ではないかと思われる。小型の細胞は互いに強く密着し、ほとんど立体的に押上げ合っているかのように見える。これも余り動きはなく、何れにせよ変性への過程に入っている細胞ではないかと想像される。
 これらの培養はDENを50μg/mlから、100μg/ml、現在は1,000μg/mlまで上げて連続的に投与している群である。先般も報告したようにDENはμgレベル(100μg/ml位)で明らかに肝細胞の増殖を促進し、DAB発癌とDEN発癌とでは機構がかなり異なることを示唆している。
 今後はさらに若い株の肝細胞を用い、短期間での変異を狙いたいと思っている。
 胸腺細網細胞の培養による抗体産生の実験は、昨日報告したので省略する。今後はできた抗体の特異性について証明することに努力したい。

 :質疑応答:
[螺良]DENの作用で、映画に見られたような動きの活発な細胞と、そうでないのとに分れたのですか。
[勝田]そうだと思います。分れたというより変ったということです。
[黒木]継代すれば分離できるのではないでしょうか。
[三宅]変性細胞と、動きの早い細胞の島との間に、膜があるように見えましたが、膜でしょうか。
[勝田]そんな風に見えましたね。しかし本当のところはまだ判りません。
[黒木]DENは安定ですか。pHの変化その他に対して・・・。
[勝田]光以外に対しては安定だそうです。
[黒木]DMNではどうですか。動物実験ではDENと同じような結果が得られているそうですが・・・。
[勝田]DMNも使ってみたいのですが、水に易溶性の点でDENから使いはじめました。癌研・高山氏の話では、DENも水にとかして与えると胆管上皮癌が多く、油にとかして与えると肝癌が多くできるそうですね。
[黒木]杉村先生の話では4NQOでも水にとけるのができたそうです。
[螺良]DENは1mg/mlで細胞変性はどうですか。
[高岡]1mg/mlでは増殖は抑えますが、変性は少いようです。
[勝田]DEN発癌の肝臓は、DABのときのような激しい破壊像が少くて、出血巣があって、その周囲に増殖像がみられるということです。しかし、DABに比べ、動物発癌のレベルでもデータが少いので困っています。
[堀川]2種の発癌剤を組合せて試みてみましたか。
[勝田]薬剤で2種というのはやっていません。“なぎさ”培養のあと高濃度DAB処理−というのはやってみました。今後はDABをはじめに投与し、次にDENというのはやってみる予定で居ります。

《佐藤報告》
発癌実験:RLD-10(Donryu系ラッテ生後14日の肝をprimary cultureし、最初の4日間のみ1μg/mlのDABを添加し、以後DABを除いて増殖株となった細胞)に3'-Me-DABを添加して発癌させる実験は計4回行われた。そのうち2回は既に報告した。第3回目については昨年暮ラッテの復元成績判定日が来るまで待って報告する様お約束していました。
 現在(66'-4-30日)でみると(復元表を呈示) A)RLD-10細胞に3'-Me-DABを添加しないで復元すると、培養1091日で所謂spontaneous transformationがおこっているのが分る(腹腔内接種のみ)。培養1235日の復元接種では極めて強い癌性が認められたが、培養1313日、1337日両培養細胞の復元接種では現在までの所腫瘍は認めれない(127日及び108日経過)。この間の癌性の低下の理由は分らない。 B)RLD-10細胞に3'-Me-DABを添加した場合を見ると添加日数が160日を越えた場合、癌性の増強が明かに見られる(この点は第II回実験と同様である)。腫瘍をつくったものとつくらないものについて、投与方法を検討して見ると、3'-Me-DABを連続投与するか、極めて変性が強くなる迄投与するかの方法が有効であり、10μg/mlと0μg/mlを交換する方法では効果が少い様に思われた。復元接種の方法としては、100万個細胞接種→3ケ月屠殺開腹、500万個細胞接種→死亡まで(少くとも1年)観察の方法が最適と考えられる。
 培養上の自然発癌について
 (I)RLN-8(正常Donryu系ラッテ生後9日の肝より株化されたもの)が自然発癌したことは前号の記録を参照していただきたい。記録中、復元時培養日数1192、接種細胞数100万個、観察中の3匹の内1匹は149日で腫瘍発生、この細胞は培養日数1268日で生後31日のラッテ腹腔に100万個、500万個、1,000万個復元接種したとき、復元後178日の屠殺開腹で夫々0/1、0/2、2/3の腫瘍腹水の発生を見た。
 又、RLN-8培養日数1109日でnew born Donryu系ラッテに復元接種し、復元後130日たって出来た腫瘍腹水を再培養しSp-1と名付けた。再培養後55日に1,000万個の細胞を生後34日のDonryu系ラッテに移植した場合には、49、64、75日で3/3腫瘍死した。
 (II)RLN-39細胞の自然発癌
 前号RLN-39細胞の復元表中、287日死亡頭部化膿と記載のものは病理組織標本検索の結果、腫瘍細胞を確認、又i.p.303観察中0/3の内1例は腹腔中にTumor発見310日死亡。従ってRLN-39は発癌していたことになります。

 :質疑応答:
[堀川]Tumorの区別は簡単にできますか。
[佐藤]それは出来ます。それから、ラッテ継代も出来ますから、間違いはないと思います。
[螺良]はっきりしないもののassayのためには、1,000万個位接種する必要があるわけですか。
[佐藤]新生児では1,000万個の必要はありません。100万個で100日で殺せばcheck出来る、という方式でやろうと思っています。
[螺良]少数細胞で長期間見るより、大量接種して早くみる方に揃えた方がよくありませんか。
[佐藤]少数で長くかかってつくということで、腫瘍性の低いものをcheck出来ます。
[黒木]100万個の方は省略して、500万個だけでデータを出した方がよいのではないでしょうか。
[佐藤]100万個の方は途中で殺して、中間の低い腫瘍性をしらべ、500万個は死ぬまでおくという、ちがう方法のつもりです。
[堀川・黒木・螺良]実験方式は出来る限り簡潔に確実にすべきですね。
[高井]100万個で3ケ月のもので、どの位の%に判別出来るとお思いですか。
[佐藤]つくべきものなら100%判ります。
[勝田]自分のこれまでのデータをよく整理して、接種量、観察期間、take率などに関する一つの表を作ってみて下さい。
[螺良]対照に腫瘍性があるかどうかのcheckを気にしているのか、対照と3'-Me-DAB処理群との差をみることに重点をおいているのかどちらですか。
[佐藤]両方とも考えています。
[勝田]細胞への復元接種について我々の間でこれまで問題になってきたことを、新しい方々も居られますので、簡単に要約してみますと、(1)培養内での変異細胞を少数の内に確実に捕えるため、色々な復元接種法を試みた結果、佐藤班員の経験では、新生児腹腔内接種が最高の成績を示しました。(2)次に接種した動物を何時まで観察すべきか・・という問題があります。Evansなどは1.5年はみるべきと云っていますが、1.5年もおいてはじめて出来た腫瘤が果たして接種細胞の作ったものかどうか、という問題が残ります。佐藤班員が「私は今後こうやろうと思う」と云っても、そうやりたいということの根拠をもっと皆にはっきり判るように説明しなくてはならないと思います。実際的には100万個で3ケ月ということで、変異細胞のchecking、500万個で死ぬまでということで、使った正常細胞の悪性のcheckingということになりますかね。
[黒木]腹水腫瘍細胞を動物に接種した場合の細胞数と、生存日数の関係は図示できます。また図から計算した結果はautoradiographyで調べたgeneration timeと一致しました。
[佐藤]この図でみると、100万個で死ぬまでみて、500万個で1ケ月という方がよいということでしょうか。
[高井]腫瘍細胞のgeneration timeで死亡日数が決まるわけですね。すると100万個が500万個にふえるのに必要な日数が、100万個と500万個の死亡日数の差になるわけですか。
[黒木]ただ佐藤先生のような場合、接種した細胞100万個が皆同じような悪性細胞というわけではないのですから、この腹水腫瘍のデータが必ずしもあてはまるわけではないでしょう。
[勝田]もう一つの問題はRLN-39(9日ラッテ)のように、2年以上培養しただけで、ラッテにtakeされたものがあるのですから、実験は2年以内、出来れば1年以内にすませなくてはならないということですね。
[佐藤]はっきりは云えませんが、材料をとったラッテの年齢が若いほど早く悪性化するように思えます。とにかく、人工的でも或る形式を定めて、復元実験をやろうと思っています。
[高井]結局、佐藤先生のplan通りでよいようですね。

《高井報告》
HVJ(Hemagglutinating Virus of Japan)による細胞融合現象を細胞のmalignancyの有無の判定に利用する試み:
 われわれが組織培養内での発癌をねらって仕事を進める場合に問題になる重要な事柄の一つは、細胞のmalignancyの判定であります。もちろん、この問題は最終的にはgeneticに適当なhostに復元接種を行うとすれば、非常に多くの動物を要し、時間的、空間的、並びに経済的にかなりの負担になります。そこで、簡単なsystemでmalignancyの有無が短時間内に、たとえ大ざっぱにしても判定出来て復元接種のための目安が得られれば有用であろうと思われます。
 ところで、御承知の様に、阪大微研の岡田等は、数年来HVJによる細胞融合現象を詳しく追求しておられますが、この現象を上記の目的に使用できる可能性もありそうに思えます。すなわち、彼等の報告によれば、mouse腹水腫瘍(Ehrlich、Sarcoma180、Sarcoma37、SN36、Actinomycin Sarcome、MH-134)、組織培養株細胞(KB、HeLa、FL、Chang Liver、MS、ERK、L)、並びに人間のmyeloid leukemia cellsは高いfusion capacityを有するのに対し、monkey kidney、mouse embryo fibroblast、chick embryo fibroblastの2代目ではfusion capasityは極めて低く、正常leukocytesはfusion capacityを有しないとの事です(Okada et al.,Exptl.Cell Res.32,417-430,1963)。彼ら自身「Fusion capacityが細胞の癌化のindicatorになり得るかを正確に検定してみる必要がある。」とも述べています。(岡田その他、細胞化学シンポジウム、15巻、159-177、1966)。
 そこで、この現象が私の現在維持しているbEIIK(9代目)(btk mouse embryo fibroblasts、対照群)並びにAS.T-d26-T(JTC-14株−actinomycin induced sarcomaのstrain−の株でmalignancy(+))について、おこるかどうかを試してみました。なお、必ずfusionをおこす筈の細胞としてHeLaも同時に使用しました。岡田等のroutineに使用している方法はcell suspensionの状態でHVJと混合し、37℃で60分間振盪する方法ですが、これでは1,000万個のorderの細胞数を必要とします。上記の復元接種のための予備試験という意味に使うには、とてもこれだけ多くの細胞は使えないので、今回はタンザク入りの小角ビンを使用し、cellがガラス壁に附着したままの状態でHVJと接触させてみました。
 最初は小角ビンに1mlの新しいmediumを入れたところへ、HVJ液0.1mlを加え、10分間iced waterで冷してから、incubtor(37℃)に入れ、24時間後固定染色してみましたが、これではHeLaでさえ余りfusionしていませんでした。
 そこで、Newcastle Disease Virusで同様な現象を観察しているKohnの方法(A.Kohn,Virology 26,228-245,1965)に準じて、mediumを捨てた後、HVJ液0.1mlを直接cell sheetに添加し、30分間37℃にincubate後、新しいmedium0.9mlを加えて24時間更にincubateしてみました。この方法によれば、HeLaはfusion(++)ですが、AS.T-d26-Tは(-)、bEIIKは(±)〜(-)といった状態でした。当然fusionするだろうと思っていたAS.T-d26-Tがうまく融合しないので困っています。
 何れにしても、この現象は今までcell suspensionでの解析はずい分詳しく検討されて来ていますが、cell sheetでの反応の条件については、今まで殆ど検討されていない様です。殊に融合をおこすのはイキの良い細胞に限られ、degenerateしたcellは融合しないということもあります。更にVirusの量の問題もあり、当然、細胞数も問題になる筈です。これらの色々な問題について、もう少し検討しないことには、目的は達せられないわけですが、この現象のspecificityについて、まだはっきり「正常のものは融合しない、悪性のものはする」と言い切れるかどうか疑わしい現在では、余り深く追求することは、本来の発癌実験をやる上で、望しくないかも知れません。しかし、もう少しだけ、この問題を検討してみたいと考えています。

 :質疑応答:
[堀川]高井さんの場合、このHVJを腫瘍化を見付ける手段に使うつもりですね。
[高井]これが非常に簡単にできるのなら使えると思いますが、なかなか難しいかもしれません。
[堀川]Ideaとしてはよいが、本当に使おうと思うなら、やはり、その作用機構がはっきりわかってからでないと、使うのは無理ではないでしょうかね。
[勝田]岡田氏のDataをみると、正常細胞の実験が不足ですね。
[高井]私のcontrolの細胞で代を追ってcheckしようかとも思っていますが、細胞の条件が非常によくないとよくくっつかないそうなので、negativeを決定するのが難しいと思います。

《螺良報告》
 現在組織培養の研究は次の3つの系列で行っている。
 (1)マウス乳癌の組織培養
これは一昨日のシンポジウムで発表したように、培養細胞とその戻し移植におけるウィルス様粒子の産生を電顕的に調べているものである。とくに戻し移植をするマウスについては乳因子のあるDD系、乳因子のない(C57BLxDD)F1、及びDDfBの3系について比較している。勿論電顕的なスクリーニングは非常に粗い網目であり、またその粒子は必ずしも乳因子を意味しないが、ともかく最も迅速なスクリーニングとして電顕をねらった。今迄の結論は
(1)培養によってもHistocompatibilityは不変である。
(2)培養細胞ではほぼ成熟ウィルスはみられなくなった。
(3)乳因子のある系統への戻し移植ではウィルス様粒子を認めることがあった。
(4)乳因子のない系統への戻し移植では今迄のところ確実なウィルス様粒子らしいものは見つかっていない。
(2)(3)(4)の順でこの結論は不確かさが多い。従って今後これらを確かめると共に、発癌物質を用いてウィルスの成熟が促進されることがないかも確かめたい。
 (2)マウス肺腺腫の組織培養
 A系マウスの肺腺腫は移植につれて腺癌様の形態に移行する。この移植性肺腫瘍からYLH或はYLE培地に10%〜50%コウシ血清を加えて、トリプシナイズした組織から静置培養を試みたが、今まで数回反覆しても常に最初の2週間はかなりの増殖を見るものの以後発育の停止を来すことが常であった。
 マウスの肺腺腫は組織学的に段階を追って腺癌に移行するもので、もし正常組織が培養できた場合、in vitroの発癌実験を行い癌化の過程を追求する上に好適な材料と考えられるが、その為には先ず移植性肺腺腫の培養を物にしてから、正常肺の培養そしてそのTransformationという方向へ仕事を進めたい。
 (3)マウス及びラットの睾丸間細胞腫の組織培養
 (1)Wistarラット
 このラットは生後2年以上で自然発生腫瘍が多く、しかもそれらは内分泌系由来のものである。之からYLHに10%コウシ血清を加えた培地で単層培養を試みたところ、睾丸間細胞腫2例、乳腺繊維腺腫1例、下垂体腫瘍1例は、初代培養で発育を認めた。しかし乳腺繊維腺腫以外は継代の見込みがない状態となった。(顕微鏡写真を呈示)
 (2)KFマウス
 之に自然発生した睾丸間細胞腫は前記の培地によく発育し、現在継代しているものは1965年1月4日から培養したものである。この培養細胞のもとの原発腫瘍は、移植に関してホルモン依存性があり、たとえ同系のKFマウスでも女性ホルモンを投与していないものには移植できない。ところが一旦培養すると初代培養7日目でホルモン依存性なく移植でき、しかも動物に継代可能である。(表を呈示)
この腫瘍で問題となることは、原発がホルモン産生臓器であるが、その機能が培養で維持されているか、また培養或は戻し移植で電顕的にウィルス様粒子が認められたが、これはこの腫瘍に如何なる関係があるかという2点である。之等についての現在のデータを示すと以下の通りである。
 i)ホルモン産生能
 生物学的な方法と化学的な方法の2つがあるが、戻し移植したマウスの雌雄について各臓器とくに卵巣、子宮と睾丸、精嚢を無処置のものと比較した。子宮及び精嚢重量が増加しているが、これらは去勢動物を用いて確かめる必要があろう。
 また戻し移植腫瘍を阪大医学部・森君に組織化学的に調べてもらった。
Histochemistry of Re-inoculted Testicular tumor
Alkaline phosphatase -
Acid phosphatase -
Aminopeptidase -
β-Glucuronidase +++〜++++
Non-specific Esterase ±〜+
Succinic dehydrogenase ++++
Lactic dehydrogenase +++
Malic dehydrogenase ++
Glutamic dehydrogenase +
β-Glycerophosphate dehydrogenase +
Isocitrate dehydrogenase ++
Glucose-6-phosphate dehydrogenase ++
ホルモン産生細胞ではGlucose-6-phosphate dehydrogenaseと3-β-ol dehydrogenase活性との間に平行関係があるが、この場合G-6-P dehydrogenaseしか行えなかった。然しその部位と活性程度からみても、ステロイドホルモン産生能はない様だとの見解であった。
 また移植腫瘍2gを阪大医学部遺伝の関さんに化学的に分析してもらったが、ステロイドホルモン(Testosterone、Androstendione、Estradiol、Estrone、Estriol)はかかってこなかった。
従って原発がどうであったかは別問題であるが、少くとも培養の戻し移植でもホルモン産生能はなくなっていて、培養細胞でも同様消失しているという可能性が強くなった。
 ii)ウィルス様粒子
 戻し移植から電顕的に100mμ大の細胞表面から遊離されヌクレオイドをもつウィルス様粒子が認められた。京大翆川氏もA系に誘発し移植性とした間細胞腫を培養し、培養細胞にウィルス様粒子を認め、発癌性乃至はホルモン産生との関係を暗示した。しかし私の見解では之が乳因子ではないかと考えている。(電顕像を呈示)
その根拠はA系、KF系とも乳癌の発生があり、乳因子をもっていることが確かで、それらに同様のウィルス様粒子を見ること、また乳因子は或程度carrier stateで培養されるが多くの成績では半年以後次第に消失してゆくようであって、翆川氏のもその様な傾向にあること、また私の場合、培養10月で電顕的にウィルス様粒子のないものに乳癌をcontact cultureすると乳癌細胞は培養されなかったのに、間細胞腫は4月後にもなお電顕的にウィルス様粒子がみられ、乳因子が感染してcarrier stateで維持されているのでないかと考えられるという結果が出たからである。
 尤も造腫瘍性を確かめるには、生物学的な方法によらねばならぬので、ウィルス様粒子のある移植腫瘍からcell-freeのextractを作って新生KFマウスの皮下及び腹腔と、幼若KFマウスの1側睾丸内に接種を行ったが、約6ケ月を経過して腫瘍の発生は未だない。
以上ホルモン産生及びウィルス様粒子とも何れも否定的な方向に結果がゆきそうであるが、この培養細胞が乳因子或は白血病ウィルス等の持続感染系に使えないかという点に、腫瘍ウィルスの研究をしている者として興味をもっている。

 :質疑応答:
[高木]戻し移植は、Testisを除去した動物へ戻しているのですか。
[螺良]いいえ、無処理の動物に戻しています。
[勝田]これから、どういう方面へ仕事を進めて行きますかね。肺のepthelをうまく培養出来れば、adenomaの実験など面白いのではありませんか。私達の経験では、使う動物の年齢が培養内増殖に非常に影響しますから、年齢を追って培養に移してみて、どういう条件で上皮の培養ができるか、という所をまず調べてみることですね。ただ、この場合のadenomaは自然発癌したから、培養内ではどういうやり方をするか、問題がありますね。
[螺良]肺の上皮細胞は特異顆粒があるので良いマーカーになります。
[勝田]私達の班として希望するるのは、マウスの肺の上皮細胞を培養することから始めて頂くことでしょうね。
[螺良]正常な細胞と、発癌したものとでは、どちらが培養しやすいでしょう。adenomaを培養してみても2週間位しか生えていないのです。
[黒木]培地からYEをぬいて、Eagleのビタミンを加えてみたらどうでしょう。
[勝田]Yeast extractは、大抵の細胞に増殖抑制的ですね。
[堀川]腫瘍ウィルスでの発癌機構は、どのウィルスでも同じようなものと、考えて居られますか。
[螺良]RNA型、DNA型でちがいますが、余りはっきりはしていません。

☆☆☆ 各班員の今年度の研究計画についての話合い:
[勝田]今年は大別して次の三つの仕事をしたいと思います。
(1)ラッテ肝を使い、DENなどによるin vitroの発癌実験。
(2)正常細胞と癌細胞との間の相互作用、特にその作用因子を物質的に追うこと。
(3)胸腺の培養内抗体産生の仕事をもう少しはっきりさせる。
[佐藤]ラッテを使います。
(1)古くからある正常肝由来の株細胞に3'-Me-DABを添加する。
(2)初代培養に3'-Me-DABを添加する。
(3)培養肝細胞の機能について調べる。
[高木]HVJの問題をもう少しやりたいと思っています。
[螺良]主に次の三つです。
(1)乳癌の継代培養で、ウィルス粒子が出てくるか、否か、発癌物質でたたいた場合どうか。
(2)マウス、ラッテの睾丸間細胞腫の培養。
(3)A strainマウスの肺のadenomaの培養。正常から段階を追って培養し、in vivoとの比較をしたい。
[勝田]正常の肺上皮が癌化した場合、どうなるかを知っておくために、adenomaを培養して慣れておくのはよいことですね。
[三宅]胎児の皮膚の器官培養の検討です。強く増殖させないで、正常の状態で調べたいと思います。それからメチルコラントレンを使って電顕レベルまで持って行きたい。アイソトープをラベルしたメチルコラントレンを使って、どこへはいるか位は調べてみたいと思います。
[堀川]
(1)ショウジョウバエを使って、細胞の分のregulationをみること。
(2)mammalian cellsでUVやX線などの生細胞への影響、特にrepairingの問題。
(3)発癌の仕事については考慮中です。
[勝田]堀川氏の場合には、放射線を使っての発癌を狙うとか、或はもっと基礎的なところを調べてもらうと良いですね。
[勝田]遠藤君、メチルコラントレンの定量は簡単ですか。
[遠藤]培地を有機溶媒でふって、O.D.で見られる筈です。結合したものはとりにくいかもしれませんが、Heidelbergerは、C14、H3をラベルしたメチルコラントレンを使っていますね。

《黒木報告》
 Hamster Whole Embryo Cellへの4NQO・4HAQOの作用(3)
 (継代のoutlineの図を呈示)全部で10のsublineから出来ています。
 1.Control:
Zen-1・1、1・2、1・3、1・4の4つに分けて維持、このうちZen-1・1は継代間隔を比較的長くしてあります。
 2.4NQO:
NQ-1:7日間培養後、4x10-6乗Mの4NQOを7日間加え、以後4NQO free med.
NQ-2:9日間培養後、4NQO 4x10-6乗M 10日間加え、1日おいて継代
NQ-3:NQ-2のsubline、3Gで4日おいて再び4NQO 4x10-6乗M 10日間添加
 3.4HAQO:
HA-1:7日間おいて、4x10-6乗M 4HAQO 2日間加え、つづいて10-5乗Mを10日間加える(total 12日)
HA-2:HA-1のsubline、3Gで再び10-5乗M 14日間加える
 4.6-chloro-4NQO:
Cl-NQ-1:Ca 4x10-6乗Mの6-chloro 4NQOを1回、12日間
 発癌剤の添加方法:
 4NQOは血清と室温で30分間おくと発癌性がなくなることが知られています(中原、福岡、Gann,50,1〜15,1959)。また4HAQOはpH7.0近くではきわめて不安定で、室温30分間でその吸光度曲線は著しく変化します(PBS(-)中)。月報6505に詳述。
 これらの点を考慮に入れると、4NQOはSH基及び血清のない状態で細胞と接触させるのがよく、4HAQOはpH4.0で接触させるのがよいことになります。しかしpH4.0は無理ですし、Goldblatt、CameronのごとくあとでEinwandの入るキケンもあるという訳で、もっとも簡便な方法に統一しました。すなはち(略図を呈示)培地をびんの先の方にあつめておき(瓶を傾けて)細胞の上に培地のないようにしておきます。そこに0.1mの先端目盛のメスピペットで一定量の4NQO、4HAQOを吹きつける訳です。
(なお4NQO、4HAQOは10-2乗MにEtOHに溶解後、dis.waterで10-3乗Mとし、millipore filtration、この原液をそのまま加えます。4x10-6乗Mのときは0.036ml、10-5乗Mのときは0.08ml、4HAQOは塩酸塩ですのでこの原液のpHは4.0前後です。発癌剤は、1週間〜10日毎に作りなおし、保存は0.5mlづつ小分けにして凍結-20℃しておきます。なお、光に対しては特別の注意を払っていません。)
 Carcinogenの添加は、2日に1回とします。従って、前に記したそれぞれの群の添加回数は、NQ-1;4、NQ-2;5、NQ-3;10、HA-1;6、HA-2;13、6-Cl-NQ;1(溶液の作り方が失敗したため1回きり)となります。このことはCarcinogenの有効時間との関係で問題になるでしょう。
 Carcinogenを除くときには、前のresidual effectにこりてPBS3回、complete med.1回と回数をふやしました。
 Carcinogenの濃度:4NQO 4x10-6乗Mの濃度は、以前のrat、ハムスター腎のときの経験からきめました。10-5.25乗M(5.5x10-6乗M)は強すぎ、10-5.5乗M(3.16x10-6乗M)は弱いという経験から、その中間をとった訳です。4NQO 4x10-6乗Mは0.76μg/ml、4HAQO・HCl 10-5乗Mは2.25μg/mlになります。
 その他の培養手技:
 培地はEagle MEM(autoclaved)+1.0mM Pyruvate+0.2mM Serine+1.0mg/l of biotine+10%of Bov.Ser.(Lotは統一)。
 酵素は0.02%Pronase。
 継代のinoc.Sizeは10万個/ml。
 うえかけ後3〜4日はアルミホイルでsealし、炭酸ガスフランキ、cell sheetが出来たらゴム栓にする。
 培地交換は週2回。
 培地はControl用とExp.用に分け、ピペットも一本毎にかえ、cell contaminationには十分気をつけた。
 培養経過:
 1.Control
 初代から2〜3代まではきわめて活発に増殖する。
 細胞の形態は比較的よくそろっており、培養2代1週間前後のときは、fibroblastともepithelialともつかないようであった。培養20日目にはGiemsa染色すると(写真を呈示)きれいなfibroblastのmonolayerであった。細胞の配列は方向性をもったfibroblastのそれであった。細胞の大きさもよくそろっている。しかし、10日後(29日)にはこの細胞の形は変り、細胞質はうすく広がり、細胞の形からはfibroblastとは云えないようになっていた。さらに10日経て、40日位になるとintercellularにCollagen(?)様のものが網状に形成されて来る(写真呈示)これは細胞質のしわのように思われる。位相差では細胞質のうすく広がった細胞から成っている。細胞がこのように変る前(30日前後)に細胞質内の顆粒の増えた時期があった。増殖は継代の略図からも分るように、30日すぎはほとんどとまってしまっている。現在(70日すぎ)は、やっと細胞を維持している状態でとても継代は出来ない。
 2.4NQO添加群
 4x10-6乗M(10-5.4乗M、0.76μg/ml)の4NQOを添加すると細胞変性と配列の乱れが起って来ます。その結果、月報6604に記した如く、フェルトのような厚い部分と細胞の変性脱落の二つの部分が、一本の培養びん中に同時に出現します。
 NQ-1は4NQO free med.にかえてから20日間培地交換をつづけ、継代しました。継代時にはフェルトの部分はますますあつくなり、そこから細胞のない部分へのmigrationはほとんどありません。継代後の細胞はmultilayerになる傾向が少く、培養3G 49d.(7-7-35)にはflatなepithelialのcellから成るように変化しました。
 NQ-2は(9-10→)のスケジュールでcarcinogenが加えられたのですが、3代目へ継代後には、あちこちにfusiform cellのcriscrossした像から成るfocusが出現して来ました。このfocusのbackgroundにはcontrolと同じような細胞がみられます。focus以外の部分にも、細胞の大小不同が目につきます。しかし、細胞の形は培養50日すぎから余り特色がなく、multilayerを形成する傾向も少くなり、また同時に増殖も低下して来ました。
 NQ-3は(9-10-5-10→)と二回に恒って4NQOを加えたのですが、2回目の4NQO添加がoverであったらしく、小さなfocus(直径5mm前後)を1ケとそのまわりのうすい細胞層を残すのみで、増殖はまだおこりません。
 以上のように4NQO添加群は最初の40日位までは明らかなmorphological transformationがみられるのですが、それ以後、またもとに逆もどりするようです。4NQOの添加方式等も考慮に入れて再実験を行うつもりです。
 ただ、4NQOそのものにcarcinogenecityはなく、4HAQOがmetabolic activityと一般に云はれ、4NQO→4HAQOは酵素的に反応がすすむとされていますので、用いている細胞にその酵素がなければ発癌しない訳です。
 3.4-hydroxy amino quinoline-1-oxide 4HAQO添加群
 4HAQOは、4NQOのごときcytopathic effectが少なく、10-5乗Mでも細胞変性はみられません。
 HA-1(7-2(4x10-6乗M)-10(10-5乗M)→)、4HAQOを加えて3日目には一部分に4NQOと同じような細胞の配列の乱れがみられましたが、他の部分はcontrolと同じような細胞から成っています。3代目に移しかえるとき(7-12-1)には肉眼的にmultilayerのfocusのごときものがみられるようになりました。3代目に継代してから最初の一週間は、細胞はcontrolと同じようで特別の変化はみられなかったのですが、その後培養びんのあちこちにtransformed fociの出現をみました。このfocusはfusiformな細胞のcrisscrossした像から成ります。そのbackgroundには、controlにみるような細胞のsheetがみられます。継代をつづけるに従い、このcontrolのような細胞はselection or dilutionされ、現在(76日)では、ほとんどが、このtransformed cellから構成されています。増殖度はcontrolにみられた30〜40日頃からのcrisisにおちいることもなく、活発に増殖つづけております。
 HA-2(7-12-5-14→)、1回目の4HAQO添加後、再び4HAQOを10-5乗M 14日添加したものです。HA-1と同じように、継代3代目にtransformed fociが出現し、backgroundにはcontrolと同じような細胞がみられます。HA-1と同じように継代に従い、transformed cellがselectionされ、またgrowthも低下することなく現在に及んでいます。
 このように、HA-1とHA-2は、細胞の形態、増殖度からみても全く同じ経過をたどっています。二回目の4HAQOを14日間添加したことの意味は現在のところなさそうに思えます(将来悪性化したとき、悪性度の差などで現れないとは限りませんが)。
 以上の4HAQO添加群の結果をまとめると次のようになります。
1.紡錘形の細胞が無方向性に配列するtransformed fociの出現。
2.培養40〜50日までは、コントロールにみられるようなフラットな大きく拡った細胞のmix.、それ以後はなくなる。
3.増殖は途中で落ちることなく、3〜4times/Wのわりで増殖をつづける。
4.Giemsa染色でもtransformed cellにはintercellularな物質はみられない。
5.培地のpH低下が早い(これはphenol redからみた感じにすぎないのですが、24hrs.後には黄色くなっています)。
 4.6-chloro-4NQO添加
6-chloro-4NQOが手許にあったので、4NQOと同じように加えてみました。これは非常にとけにくく、とけても(EtOH、propylene glycol)水を加えるとたちまち沈殿がでます。このため一度加えただけですが、はじめは4NQOと同じように細胞の乱れと、multilayerが出現しました。しかし継代50日頃には、flatなepthelialなcell sheetにもどってしまいました。
 コロニー形成の試み:
 上記の如きmorphological transformationがおこったにしても、cloneレベルで仕事をしない限りはpopulationのselectionといううたがいが残ります。また、morphlogical transformationのおこっているのを確定し、人を納得させるためにも、矢張りcolony formationは絶対に必要です。
 このため、培養当初より、cloneあるいはコロニー形成のための予備実験をつづけて来ました。
 最初に行ったfeeder layerなし、Standard med.(20% or 10%Bov.S.、Eagle MEM)では全くcolonyは作られません。100コ、1,000コでは増殖せず、10,000コ、100,000コでは培養11日でfull sheetになりました。
 そこでfeeder layerの作成方法と培地の検討に着手しました。
 feeder layerとしてはsoflex(軟X線)照射を行ってみたのですが、cell growthをとめるには致らずに終ってしまいました。止むを得ず、少し離れた大学病院に行き、コバルト60照射2,500r〜5,000rによりauthenticなfeeder layerを作りcolony形成に用いました。(コバルト60のかけ方はdishにmonolayerにまいたものと、suspensionの二つの群に分ける、どちらも同じ)
 培地としては、山根教授のところで改良されたmodified Eagle(bov.albumine fract,V 0.75%、Bact-peptone 0.1%に含む)を用いてみました。その結果は、この培地がハムスター細胞には非常によい結果を与えることが分りました。
NQ-2のコロニー形成: Cells:NQ-2,3G,34days in vitro,10days incubation
cells/dish Modified Eagle Eagle
100、000 full sheet full sheet
10,000 colonial sheet sparcely
1,000 15,18,21,25 no growth
100 3, 3, 5, 0 no growth

HA-1のコロニー形成: Cells:HA-1,3G,34days in vitro,10days incubation
cells/disy Modified Eagle Eagle
100,000 full sheet full sheet
10,000 colonial sheet sparsely
1,000 1,2,2,5, no growth
100 no growth no growth
 予想に反して、feeder layer群には全くコロニー形成はみられません(modified Eagle)(NQ-2,4G,46days、HA-1,4G,46days)。
 コロニーの形態:
 HQ-2、HA-1のどちらでも、transformed cellから成るコロニーが多くみられます。
 コロニーの形はfusiformなcellがcrisscrossしmultilayerを形成するものや、multilayerは形成せず、典型的なfibroblastのコロニーを示すもの、細胞がお互いに連絡し合ず、パラパラと散布するものなど様々です。またcontrolのようなflatな拡ったcellから成るコロニーもあります。これらのコロニーの形態とその分類についてはまだ十分に検討しておりませんので詳しいことは次にゆずります。(写真を呈示)
 培養細胞の移植実験について:
 ハムスターnewborn皮下、adult SC、ch-p.へ培養細胞各100万の移植を行い、腫瘍形成能をみた。
 結果はHA-1、5G、56d.ではnewborn SC 9匹は、移植後7日、20日目腫瘤形成なし。adult SCではNo.41は7日目に2x2mmの硬い腫瘤形成をみたが20日目には消失。No.42は7日目には2x4mm、20日目には4x4mmで皮膚とユ着。adult.ch-p.No.43は7日目に3x4mm硬、20日目には3x2mm。
NQ-2、5G、56d.ではNo.53、ch-p.は7日目には2x2mmの硬く白い腫瘤をみたが、20日目には(-)。
 Zen-2-1、4G、26d.はNo.54、ch-p.で7日目に2x2の赤く軟い腫瘤をみたが、20日目には(-)。
 HA-2、5G、65d.はNo.55〜63でnewborn SCは13d.に腫瘤なし。No.65、adult SC.は11日目には8x5mmのよく動く硬い腫瘤があり13日目には6x6とやや縮小。No.66はadult ch-p.、11日目に7x7x5mmの硬い白色の腫瘤。No.67、adult ch-p.、11日目に7x7x5mm剔出して組織標本を作る。
 4NQO、4HAQOによるハムスターの発癌実験:
 4NQO及びそのderivativesの発癌性は今まで、マウス、モルモット、ジュウシマツなどで確認されていますが、どういう訳かハムスターを用いた成績は出ておりません。そこで、ハムスターの細胞を用いている都合上、動物でも(又はでは)発癌するというdataがほしく、実験を開始した訳です。今までのいろいろの文献を参考にし、solvent of carcinogenはpropylen glycol、4NQO及び4HAQOをそれぞれ1.0mg、5.0mgづつ10匹のハムスターに接種しました。部位は右ソケイ部、10日おきに5回、皮下注射(0.2ml)です。
 4NQO、4HAQOはかなり強い作用があるらしく、局所にはnecrosis ulcerをみます。5回目の注射を終った現在では、4HAQO群に特にひどいulcerが残っています。いずれの群でも、皮下に硬結を触れるようになりました。

 :質疑応答:
[佐藤]発癌剤を入れない対照のものでも、コロニーを作らせると、transformedと同じ様なコロニーが出来るのではありませんか。
[黒木]対照では、増殖がわるいので、その点は調べられませんでした。
[佐藤]Collagenなんかを出している様な細胞は、mesenchymalなものの様です。何日の胎児を使いましたか。
[黒木]15〜16日で、産まれるにはまだ間のあるものです。
[佐藤]15〜16日というと、肝や肺など、上皮性の細胞もあるわけですが・・・。
[遠藤]東京に居た頃、Changのliver cellの株を4NQOで10-5乗Mで、24hrs.作用させてみたことがあります。そして、やはり増殖の早い細胞群も現れてきたのをみたことがあります。巨細胞や、多核細胞は見られませんでしたか。
[黒木]みられないようでした。
[遠藤]4HAQOというのは、すごく扱いにくい薬品です。0.4%位のHClで、保存するのが一番良いと思います。実験のとき中性のbufferに吹き込んで使います。細胞のない培地だけで、培地に吹き込んでどの位4HAQOがもつかを調べてみると、4HAQOの形では、10分位しか存在していない。みている間に酸化をうけて、赤い沈殿ができてきます(但しNgas中ではできない)。細胞内で酵素に還元され、activeの形に変って行きます。4NQOは比較的安定ですが血清特にSH量にdependentです。Cystineはよいが、Cysteineとglutathioneが問題です。
[高木]窒素と炭酸ガスで調節しながら(対照も)実験すれば、かなり良いわけですね。
[遠藤]そうですね。とにかく4HAQOの場合、何日間添加しても効いていたのは10分間だけということを、考慮に入れてやって下さい。何日入れたと云わず、何回入れたと書いた方がよいと思います。4NQOの場合は培地中では安定で、細胞内で4HAQOに変って作用します。PRを入れているとわからないが、入れていないと、赤い沈殿がよくわかります。
[堀川]4HAQOがcell内のどの分劃に結び付くか、調べてありますか。
[遠藤]4NQOでやってみたことがあるが、はっきりしませんでした。
[黒木]癌研の高山先生が、Autoradiographyで調べて、核の中にあると言って居られました。
[高木]4NQOは水溶液で低温におくとどの位保ちますか。
[遠藤]3週間位保ちます。高木氏の云われた様に酸素に触れないようにしておくと、4HAQOの効果が出ないということも考えられますね。
[勝田]染色体の標本は作ってありますか。
[黒木]途中、凍結してはあるが、標本にはしていません。
[勝田]対照が生えにくいというのは、クローニンなどに困りますね。
[黒木]しかし、途中で対照が消えてしまうというのが、利点でもあります。
[遠藤]4NQOでもっと低濃度(影響が形の上に表れない位)で長くやるというのも、やってみたらどうですか。
[勝田]発癌剤を使うとき、2種類の方法があります。DABみたいに、どかんとCell damageと起こさせるというやり方と、死なせずに低濃度で長く作用させるというやり方ですね。遠藤氏に伺いますが、水に溶けないという物質も、実際は少しは溶けるものでしょう。
[遠藤]水に溶けていなくてもいつの間にか沈殿がなくなるということはありますね。
[螺良]ガラスに塗って添加するということも出来ますね。
[勝田]胎児より新生児を使った方が良いと思います。ハムスター胎児組織の培養で、自然発癌のデータが出てきましたからね。それと材料をはっきりさせないと、変異でなくて、始めからあったものが、selectされたのではないかということも指摘される恐れがあります。
[黒木]私の変異株の場合は、pHがすごく下ります。
[佐藤]私の場合は、takeされる細胞では脂肪顆粒が出てきます。
[黒木]今の実験方式で、詳細に検討、及び再現実験を試みたいと思います。復元もしっこくやるつもりです。また、発癌性のない4NQOもやってみたいと思います。変異細胞のcloningももっとうまくやらなければ、と思っています。
[勝田]もし腫瘍を作るようになったら、逆にさかのぼって、何回処置をすれば変異させられるか、最少回数と量を調べなければね。
[螺良]ハムスターを使った理由は?
[黒木]いろいろありますが、細胞を同種のcheek pouchにもどせることと、ハムスター胎児については、山根先生が培養材料及び条件の検討をしていられるので、便利だからです。
[遠藤]横へひろげるにも、余り無計画でなく、薬品をよく選ぶようにして下さい。ある構造のものは細胞内に取り込まれても還元されず、発癌しません。

《高木報告》
 再びハムスター皮フの培養条件について
 先月はハムスター胎児皮フの培養にハムスター胎児抽出液(H.E.E.)を用いて可成りの効果があったことを報告しましたが、その後の2〜3の試みについて報告します。
 1)胎生中期ハムスター皮フの培養
 動物の大きさによる培養の難易をみる為、胎生中期ハムスター背部の皮フを、皮下組織と共にハサミで切り取って培養しました。Mediumとしては、C.E.E.とChick plasma1:3からなるclotを用い、その上にサージロンを置いて皮フ片を載せ、37℃、3%炭酸ガス、97%酸素通気下に培養し、4日毎に固定染色して観察しました。培養前の組織は胎生末期のものに比べてかなり未分化の状態にありますが、培養後4日目のものでもこの傾向がみられ、表皮、真皮の区別はあまりはっきりしませんが8日目になると、H.E.E.を用いて胎生末期のものを培養したときに似て、表皮、真皮ははっきり区別され基底細胞層の配列も規則正しく明らかなMitosisも認められます。更に13日目までこの傾向が同様にみられますが、17日目あたりになると角質層は表皮層からやや剥離した状態になり、表皮細胞の配列もくずれてきました。以前行った胎生末期の組織の培養では4日以後は殆んど組織を維持することが出来なかったのに比べ、この結果はMediumの条件もさること乍ら培養される組織の側の条件(特に胎生時期の問題)もかなり大きいことを暗示しています。
 2)H.E.E.を用いたハムスター胎児皮フの培養
 先月報のものと同じH.E.E.を用いたPlasma clotにより先のものより更に出生が間近いと思われるハムスター胎児を培養しました。
 今回は固定染色を2日毎に行い頻回に観察しましたが、その結果培養後2日目ですでに角質層の増生を認め、表皮層も培養前の1〜2層に比べて3〜4層と徐々に厚くなって基底細胞層もその形を整えて来ますが、この実験では期待されたMitosisは殆んど見られませんでした。4日目、6日目、8日目と日を追って少しづつ表皮の厚さを増し、多いものでは5〜6層にまで達しますが矢張りMitosisは認められませんでした。

 :質疑応答:
[高木]今後の問題ですが、1)PancreasはRabbitのβCellは片付いたので、ratやhumanのβcellをやっています。2)発癌関係は増殖の肥大の起らぬ状態で長く培養することを心掛けたいと思います。ハムスターのskinとkidneyのorgan cultureをやりたいと思いますが、hamster embryo extractが良さそうに思われます。DNBAも使いたいと考えています。またcell levelでの仕事もやりたいと思います。
[勝田]Embryo extractにはいろんな酵素が入っているから、それを入れた培地で4NQOがどの位失活しないでいられるか、問題がありますね。それからハムスターとなると、その培養条件についても、検討を始めなくてはなりませんね。
[遠藤]器官培養の場合、もっとよく維持させるために、ホルモン添加とか、培地の検討とか、考えられているのですか?
[高木]それも考えていますが、それより組織片の大きさ等が問題だと思います。
[勝田]発癌実験を皮膚の器官培養でやる利点は何でしょう。
[三宅]組織レベルで調べられることですね。
[勝田]動物での発癌過程の組織像をよくつかんでおく必要がありますね。
[遠藤]動物の場合なら皮膚癌を作らせるとき、paintingなどの方法があるが、器官培養の場合のそういう考慮は?
[三宅]パラフィンで固めた小さな塊をのせてみたことがありますが、与える期間の問題などが不適で、全部necrosisになってしまいました。
[黒木]4NQOを器官培養で与えた場合、epithelの方にも変化は起こりませんか。
[高木]余り起りません。
[三宅・高木」皮膚の器官培養の場合、大きさが大きすぎると、内部がnecrosisに陥るので困ります。
[黒木]発癌剤は下から吸い上げられるわけですか。
[高木]そうです。動物の時のように注射してみたらとも考えていますが。
[黒木]注射だと肉腫になるのではないでしょうか。
[遠藤]4HAQOの場合は、paintingでは成功せず(白洲がマウスで成功)1回注射でラッテに肉腫ができました。fibrosarcomaで癌にはなりにくいですね。たった一回、それも10分の作用でsarcomaが出来るという利点があります。4NQOは中原先生がpaintingでマウスに癌を作っておられるし、マウスの肉腫もあります。4NQO単独では肝癌は出来ません。DABをまず喰わせておいて皮膚に4NQOを塗って肝癌を作った例はあります。森さんは肝癌を作っておられます。
[勝田]methylcholanthreneはlotによって活性の低いのがあると云いますが、4NQOは?
[遠藤]ベルゾールにとかして、アルミナのクロマトを通して精製して使います。1時間もたたない内に出来ますよ。
[勝田]我々は精製ということに慣れないから、つい億劫がるのだね。発癌剤は強力なものを使った方が良いですね。
[遠藤]強力であり、水溶性で、作用機序のはっきりしているものであることが必要ですね。

《三宅報告》
 皮膚のOrgan Cultureについて、その将来。
 これから、ここに書きますことは実験についての所見ではありません。先般の福岡でのSymposiumの際に皆様からいただいたsuggestionについて、帰京して頭が落ちついて考えた私なりの考えなのです。この前の班会議の際にも申しましたように、皮膚のOrgan Cultureをしていて、我々を刺戟したものは、この中で類上皮癌が出来ないかということでした。そのために増殖を高めるということが、私共の第一の目標になったのです。その点では九大の高木先生のお考えとは少しづれていたようです。増殖をたかめてはならないという考え方が、どうした理念から出たものか、詳しく聞くことは出来ませんでしたから、まっこうにそれに相対してゆくことは、私には出来ませんが、若し、高木先生のお考えが、私が想像するように、癌細胞とは生体の中で決して増殖率が速くないものであるから、増殖率を細胞にたかめるという方法では、よしそれがin vitroでたかめられても、それだけでは決して癌とはいえないというものでしたら、私には反対の意見があります。私は癌とは増殖率が遅速があってもそれは問題ではなくて、それが無制限でなくてはならないと考えています。growth control mechanismのはずれが癌の特質と考えています。
 私達の皮膚のOrgan cultureの場合、Symposiumで表皮層の増殖曲線でお見せしたように、in vitroに移された3〜4日までの間に、激しいBasal layerの分裂があり、10〜11日目になると表皮の層の厚さは横ばいになります。どうやら角化層というendproductが出来るとBasal layerへのfeed backが働くと考えられるのです。それは、想像にすぎませんが、酵素的なものかも知れませんし、あるいはGeneがテンプレートを作るという所で、抑制をうけているのかも知れません。こうした考えからすると、皮膚のOrgan Cultureをして、それから無制限な増殖である癌を作ろうとするためには、培養条件を、少し落して、増殖をひかえさせるという方法よりも、むしろ逆にますます培養条件をよくして、このfeed back的なものを取り除くという方法をとるのも、決してあやまった方法でないと考えているのです。この道筋にそって、やり度いのです。

【勝田班月報:6607:4HAQOによるmalignant transformationの成功】
《勝田報告》
 今回は渡米のための準備に追われて、あまりお話できる材料がなくて申しわけありません。
 前に報告した“なぎさ”培養→DAB高濃度の実験の中のDABを異常に消費するMというsubstrainとDABに全然接していないRLC-10という正常肝由来の株細胞との相互作用を双子培養を使ってみてみました。DABの入っていない培地とDAB5μg/ml添加培地でしらべましたが、どちらの場合もRLC-10は双子の方が抑制をうけています。またMはDAB5μg/ml添加によって、増殖を殆ど抑制されないということも、この実験によってわかります。
 現在“なぎさ”培養→DABによるsubstrainが11種、DEN高濃度添加約5ケ月経過のsubstrainが10種ありますが、そのそれぞれについて、正常肝細胞との相互作用をしらべてみたいと思っています。

 :質疑応答:
[吉田]DABの消費について、正常肝細胞は培養内でも消費するわけですね。
[勝田]そうです。そして生体内での実験でDAB肝癌は全然消費しなくなるというデータがあります。
[田波]Mの形態は変っていますか。
[吉田]染色体が増えているそうだから、大きくなっているでしょう。
[高岡]細長く大きくなっているようです。
[螺良]肝癌細胞はDABを取り込まないからDABの害はうけないということはあるでしょうが、Mの場合こんなに消費してなお害をうけないのは何故でしょうか。
[勝田]分解酵素の働きが非常に強いのでしょうね。
[吉田]消費が+の場合は分解してもしきれなくて害をうける、−の場合は全然うけつけない、+++となると分解して更に平気で増殖するということですね。
[田波]HeLaやLなどにDABを加えると、どういう態度を示しますか。
[高岡]消費は少し±位です。20μg/mlの添加では増殖は非常におさえられます。
[勝田]私共の実験計画としては、この他に、純系ラッテでtumorを作ろうと思っています。JARは現在26Fになっています。19Fの時、藤井班員に皮膚移植をやって頂いて成功しています。

《佐藤報告》
 発癌実験(つづき)
 1)RLD-10(DAB処理群)由来の実験系は、月報6512では動物に癌を作っていなかった系も、controlを含めて全部が悪性化し、長期間観察の結果、復元動物は腫瘍死しました。接種後、腫瘍死までの日数は、213、276、287、303、315及び357日でした。従って10μg/mlの3'-Me-DAB長期連続投与(670日及び687日)の場合にも悪性化が認められた。
 2)RLN-10(control群)細胞に3'-Me-DABを加えると細胞の形態にtransformが見られるが、今の處、動物接種で癌をつくらない。理由は解らない。
 3)ラッテ肝のprimary cultureからclone化を行っているが未だ使用できない。染色体の核型については、遺伝研の吉田先生の所に習いにいきました。其の内正確な結果がでるでせう。

 :質疑応答:
[勝田]4NQOで肝癌が出来ますか。
[黒木]今までの報告にはないようですが、4NQO→4HAQOに働く酵素は肝臓に非常に多いので、肝癌の出来る可能性は充分あると思います。
 別の質問ですが、DABを加えて肝癌になったものと、加えずになったものとの間に腹水肝癌としてみた時、違いがありますか。
[佐藤]DABを加えずに腹水癌になったものの方が継代がむつかしいようです。又、再培養すると、それぞれ形態に違いがあるように思います。
[吉田]染色体の面では、今までの腹水肝癌に比べてバリエーションが非常に多いですね。生体で発癌したものとちがって培養されていた各種の細胞が発癌しているような感じです。つまり生体でのセレクションがかかっていないように思われます。
[勝田]in vitroでセレクトされると、復元してもつかなくなっている可能性があるのですね。
[堀川]もとから生体内の癌細胞であったエールリッヒの場合でも培養すると染色体数のばらつきが非常に多くなって、それを又動物で継代するようになると、染色体数のピークがかなり集約されてきます。
[黒木]形態変異の場合、クロンとまでゆかなくても、コロニーをとってしらべると、もっと悪性度については、はっきりするのではないでしょうか。
[佐藤]私もそう考えて手をつけてはいますが、なかなかうまくゆきませんので、今先づ炭酸ガスに馴らしています。

《高木報告》
 前の班会議で御指摘をうけたCarcinogen添加の方法について今回は、これまでのMediumに加える方法にかえて皮フ表面からの添加を試みた。
 培養基には前報に同じハムスター胎児抽出物よりなるPlasma clotを、又、培養材料は生下2〜3日前と思われるハムスター胎児の皮フを用いた。今回の実験で異る点は新しく入った炭酸ガスフランキを用い5%炭酸ガス加Airを用いたことと、4NQOを添加する時は皮フ片をシャーレ上に置いてその上から4NQO含有Hanks液を一滴々下してclot上に移したこと、及び、DMBAはpowderを皮フ片の一部にふりかけたことである。実験群は夫々4NQO 10-4乗Mol.、10-5乗、10-6乗、DMBA、及び対照群をおき夫々、3日、6日目に固定、染色して観察した。
 結果:培養前のものでは今回の材料は表皮は2〜3層で、基底細胞層の配列は規則的でなく、角質は認められず、Mitosisも殆んどみられない。
 対照群:3日目表皮は3〜4層になり幾分厚くなる。角質も表皮と同じ位の厚さに増生して錯角化を中等に認める。真皮にはかなりのPicnosisをみる。全体にmitosisは殆んどみられない。6日目のものもほぼ同様である。
 4NQO 10-6乗Mol.トフ群:3〜6日とも対照群に比べて殆んど差がない。
 4NQO 10-5乗Mol.トフ群:3日目のものは対照に比べて角質増生少く錯角化もほとんどなくてむしろ培養前の状態に近いが、6日目に至ると対照と同程度に角質層の増生を見、錯角化はこの群の方が強い。一部にMitosisを認め、特にPicnosisが強いとは云えない。
 4NQO 10-4乗Mol.トフ群:3日目のものでは10-5乗群同様むしろ培養前のものに近い状態であるが6日目のものでは角質層の厚さは対照よりやや薄く全層に錯角化を認める。Mitosisはない。
 DMBA群:3日目の角質層の増生は全くなく、全層に亙りPicnosisの傾向あり。6日目表皮層は1〜2層と薄くなり、これと同じ位の厚さの錯角化を伴う角質層を生ずる。表皮の細胞も巨大な核を持った細胞が多くなり基底層の配列も乱れる。

 :質疑応答:
[吉田]4NQOはどういう方法で処理していますか。
[高木]継代毎に組織片にたらして、しずくを切ってから、プラスマクロットの上にのせてやります。動物の皮膚に塗布するのと同じような感じにやっているわけです。
[黒木]4HAQOも使ってみられたらどうですか。
[堀川]どの位の期間培養できますか。
[高木]2〜3週位です。
[吉田]対照群はどう処理していますか。
[高木]対照群には4NQOの代りに溶媒としての塩類溶液をたらしてやります。
[堀川]培養できる期間を3週より長くできませんか。
[高木]それはむつかしいですね。
[勝田]梅田君からの手紙にあるのだが、器官培養→細胞培養というやり方を利用したらどうだろう。
[高木]それはいいですね。やってみましょう。
[堀川]要は3週後の問題ですね。

《三宅報告》
 ヒト胎児皮フ(Organ Culture)へのMethylcholantren Pelletの添加
 Organ cultureをした皮フへ試験管内でM.C.がどの様な作用を及すかをしらべてゆこうとする手始めに、(ハムスターはまだつかっていません)ヒトの胎生皮フを用いて、体外にうつした最初からM.C.のPelletを附着させて、短時日ですが、変化をしらべました。
 PelletはMerckの組織用のパラフィンに5%の割に溶解させて滅菌、シャーレの中に薄く流しこんで、メスでゴバンジマに細切したものです。出来上ったPelletは1mm以下の厚さの1.5〜2.0mm平方のものになりました。Spongeの中へE.E.をしみこませて、さきにこのPelletを入れ、組織片をこの上にのせてclottingをしたものと、Pelletを皮フの上にのせてclottingをしたものの2通りを作りました。このたびは時間を長くかけたものを、しらべることが出来ませず、9日目に固定、組織標本をつくりました。
 溶媒に用いたparaffinは、もちろん標本作製の途中でなくなりますが、M.C.の名残りと考えられるものは2通り像としてみられました。その1つはうすい褐色の色のついた標本の中での拡がりと、も1つはM.C.の結晶と考えられる構造が残っていました。結晶となったものが、もともと、この姿のままで、はじめからパラフィンの中にあったのか、標本作製の途中で再びこの像になったのかは判りません。組織所見としては、2年前にやった時と同じでNecrosisが強いことです。Organ cultureという方式の欠点は組織の中心がNecrosisになることが多いのは御承知の通りですが、M.C.の場合のNecrosisは拡がりが強いことです。上皮性細胞の乱れが強いということは、これからよく考える必要があります。間葉性のものは割合に抵抗が強く、殊に軟骨はそうでした。
 これからも、もうしばらくこの様な実験を続ける所存ですが、M.C.を適切な培養時間に添加したり、又それから抜きとったりする必要があると思います。その様な、ためにはパラフィンのPelletでは都合が悪いので、Berwald,Y. et.al.(J.Nat.Cancer Inst.35,641,1965)の知恵にならってM.C.をミリポアフィルターにとかしこんで、適当な大きさに切りとって、Pelletの代用に用いることを試みています。

 :質疑応答:
[高木]ネクローゼが起るというのは、物理的な、例えばパラフィンが重いためというようなことからでしょうか。
[三宅]パラフィンを乗せた部分だけでなく広汎なネクローゼがみられるので、矢張り薬品のせいだと思われます。
[吉田]対照として、薬品を含まないパラフィンのかたまりだけをのせたものもやってみるとよいですね。
[三宅]発癌剤の%が高すぎるかも知れないということも考えています。発癌剤を作用させる時間も検討してみようと思っています。
[堀川]これだけの仕事をやられるなら、材料は矢張りハムスターとかマウスとかを使った方が復元に有利ではありませんか。それから高木班員と同様、器官培養→細胞培養というやり方がよいと思います。ミリポアフィルターは発癌剤をしませてのせることの利点は・・・。
[三宅]パラフィンは37℃でやわらかくなるので、取り除くのがむつかしいのですが、ミリポアフィルターは固型なので楽に動かせます。
[黒木]メチルコラントレンには発癌性のないものもあるが、発癌の作用機序はわかっているのでしょうか。
[勝田]はっきりしていないようですね。それからメチルコラントレンはロットによって発癌性がちがうそうですから、確かに発癌性が強いとわかっているものを貰って使う方がよいですよ。
[三宅]皮膚の場合、ベイサルレイヤーだけに分裂がみられます。ケラチン層はむしろその抑制に働くと想像して、10日目位から除くようにしています。成人の皮膚の場合もケラチン層を除いてやると培養しやすくなりますね。
[螺良]培養期間1ケ月では発癌させるのに短かすぎませんか。生体では2ケ月はかかると思いますが。
[三宅]勿論もっと長くしたいのですが、むつかしいですね。
[吉田]こういう実験の場合、材料の年齢ということも考慮に入れる必要がありませんか。私は年とった細胞のほ方が発癌しやすいのではないかと思いますが。
[堀川]発生学的にいえば、未分化の細胞の方がどの方向へも変異できるという意味で、発癌しやすいともいえませんか。
[勝田]さっきも螺良班員がいわれましたが、メチルコラントレンの場合、生体ではかなり長期間かかって発癌するのですから、培養1ケ月以上はつづけるようにするべきでしょうね。純系動物を使えば、培養後の皮膚を動物へ移植できるのではないでしょうか。
[藤井]皮膚は非常に強いものですから、培養したものでも移植できると思いますね。

《藤井報告》
 皮膚移植の技法について:別刷を配布。

《堀川報告》
 御存知のように過去2年6ケ月間、MadisonのDepartment of Geneticsに滞在してショウジョウバエを使って発生遺伝学的研究に従事してきました。こうしたショウジョウバエと云う発癌実験とはかなり縁遠い材料での仕事であるが故に、この月報にも投稿するような機会にめぐまれませんでしたが、この度帰国と共に再度班員の一人に加えていただきました事を嬉しく思っております。ただ現在の私の立場として直接発癌実験と取り組んで勝負することは不可能ですが、おかれた環境でこれから私がやろうとする仕事を通じて直接的にも皆様のやっておられるin vitroでの発癌実験の研究にお役に立つことを心から念じております。
 幸い4月以降研究室の再整備も一応完了し、以下に述べます2つの問題を中心に仕事を進めております。
 (1)細胞の分化と機能の遺伝的制御機構の研究
 Madisonでやったショウジョウバエでの仕事を更に発展させようとする系で、第1の問題は特定のenzyme合成に関与するm-RNAの抽出と、それをmediumに加えることによりenzyme activityをもたないembryonic cellsに合成をinduceさせようとする試みです。
第2の問題はin vitroで作ったCell agregatesを種々の組み合わせでもって幼虫体にtransplantし、出来てくる組織、ならびに器官の同定をやる。この問題を通じてcellのdifferentiationを追うつもりです。
 幸いこれらの実験に使用するショウジョウバエの各strainsもMadisonからとどき、新しく出来上った飼育室で調子よく殖えております。
 (2)哺乳動物細胞における放射線障害の回復機構の研究
 この問題は少しいじくりかけた所で日本を出発したと云う、中途半端になっている仕事です。今回もLcellsとEhrlich ascites tumor cellsを使用して、それぞれからXray,UVrayに対するresistant cellsを再度分離し、sensitive cellsとresistant cellsを比較検討しつつ回復の機序をSubcellular levelで見ようとするものです。
 今回はむしろDNAまたはRNA levelに主眼をおくことなく、emzyme levelで回復の機構を調べたいと思っています。それぞれのOriginal cellsから少しづつ耐性の度合が増したCellsが分離されて来ているのが現状という所です。

 :質疑応答:
[奥村]酵素レベルのものをどうやってしらべる計画ですか。
[堀川]硫安分劃→カラムという手法でしらべようと思っています。
[吉田]染色体数の減少と耐性獲得とは平行していますか。
[堀川]平行しているとははっきりいえません。
[黒木]耐性の測定にはどういう方法を使っていますか。
[堀川]いろいろな線量をかけて、生存細胞数を数える方法です。
[勝田]細胞のホモジネイトを使う時は、生きているのが残らないように、よほど注意する必要がありますね。
[堀川]今度は、分劃して使おうと思っています。
[黒木]2,000r1回で残った細胞と、500r4回で残った細胞とでは、耐性の点で違いますか。
[堀川]しらべたいと思っていますが、まだ手がつけられていません。
[吉田]ちがうだろうと思いますね。それから染色体が変らないうちは耐性ができていないように思います。

《螺良報告》
 培養乳癌の戻し移植
 現在MCと称しているDD系マウス乳癌の組織培養は、1963年6月12日にF20代の5819♀マウスから培養を初めたものである。原発は腺癌であった(写真を呈示)。今日まで3年余りYLH培地に継代しているが、培養或は形態上では変化はない。巨細胞が多いが、その間にある敷石状にならぶ細胞が主体をなしているものである(写真を呈示)。ただ核型分析は行う余裕がなかったので、専ら戻し移植によって培養細胞をチェックしてきた。原発が腺癌であったので、培養後の戻し移植でどの様な形が再現されるのかということとともに、乳癌はウィルス腫瘍であるので、培養及び戻し移植でウィルス粒子がどうなるかを電顕的に調べている。
原発と同系のDD系マウスは乳因子をもっているので、之のないものとして(C57BL♀XDD♂)F1も用いた。培養の戻しをDDからF1へ再移植して電顕的にウィルス様粒子がどうなるかを見ている。
 (復元成績の表を呈示)移植の成績を要約すると、DD系及びそのF1には100%移植性があるが、C57BLにはつかない。即ち3年前後も培養してもHistocompatibilityは不変であった。(但しDD系はF1へ戻し移植したものからの再移植による)。
さて之等の戻し移植及び再移植について、電顕的にウィルス様粒子がみられるかどうかを現在追求中であるが、少くとも原発にみるようにもりもり粒子が出る所見は乳因子のあるDD系に戻しても見られなかった。しかしそれらしい粒子も少数みられることもあるので、形態的にはっきりした形でたしかめてみたい。それと共に戻し移植では未分化な中に腺腔を作る部分がある(写真を呈示)。粒子の産生もこの様な形態に関連があるかも知れず、今後その点に留意して電顕をみてゆくことにしている。

 :質疑応答:
[勝田]L株で培地から蛋白を除くと、コラーゲン産生を復活するという報告がありますが、この細胞でも生活条件をかえると、又ウィルスのインダクションがみられるようになるということは考えられないでしょうか。
[堀川]紫外線によるインダクションなども試みられると、面白いのではないかと思います。

《黒木報告》
 Hamster Whole Embryoの細胞への4NQO・4HAQOの作用(4)
 (1)培養細胞の移植
 Hamster Whole Embryoの無処置(control)細胞(Zen-1・1、Zen1・2、Zen1・3、Zen1・4)及び4NQO・4HAQOによるtransformed cellは順調に継代されています。
 Transformationであることは次の二点から確かです。
 (1)形態学的に、transformed cellは多層で増殖し、細胞の配列は乱れ、いわゆるcotact inhibitionを失った所見です。これに対してコントロールは20日頃までは典型的なfibroblastの像ですが、以後はgranulated flatな細胞のmonolayerになります。
 (2)増殖:controlは培養30日頃から増殖がとまり、その後はただ維持状態にすぎません。しかし、transf.cellsは、この30〜40日頃のcrisisをのりきり活発に増殖をつづけています。(この増殖の変化を模式的に図で示す)
以上の二つの点からみてmorphological transformationであることは明らかです。これに加えるに、移植陽性であれば、一応Malignant trasformationと云える訳です。
 移植には生後24時間以内のnewbornハムスターの皮下、及び体重80〜100gのadultハムスターcheek pouch及び皮下を用いました。(詳細は表で示す)
 HA-1の移植:培養56日にはnewborn、adultのいずれでも不成功でした。すなはち、1週には小さい硬い腫瘤(2mmx4mm程度)が出来たのですが、移植後20日目頃にregress、この腫瘍の硬さ、regressの日数は対照のそれとは異るので、このころすでにある程度の悪性化は行っていたと考えてもよいでしょう。しかし、7G77日にはch-p.、SCのいずれでも硬い腫瘤を生じ、現在もどんどん大きくなっています。これらの腫瘤は移植後1週間目には直径5mm位の大きさに達しています。まだ動物は死にません。
移植に必要な細胞数(LD50)はch-p.では10万個以下と思はれます。
 HA-2細胞:培養65日にはじめて移植を行いました。newborn、adultのいずれでもHA-1と同様硬い腫瘤を作りました。生後24時間以内のハムスター皮下に100万個移植後49日目、腫瘤は注射針に沿ってるいるいと生じています。肢にできているのは筋肉内の腫瘤のようです。(復元動物の写真を呈示)
 6G87d.の動物が腫瘤を生じながらも、regressしたのはcontamiのうたがいのある細胞を用いたためと思はれます。
 これらの腫瘤はいずれも移植後1週間目には硬い腫瘤として触れることが出来ます。いわゆるspontaneous transformでは、移植と腫瘤の発生の間にかなり長いlatent periodが必要です。たとえば先号に紹介されたGotlieb-Stematskyの例では、3〜16週のLatentがあります。またSacksのtransformationの仕事のLatentは30〜50日のようです(一度生じたtumorが消え30〜50日後に現れる)。これらと比較すると、移植後1週で5mmX5mm程度の大きさのtumorを触れることは、この65日という期間をさらに短かくし得ること、及びtransformationの率の非常に高いことを示唆していると云えます。
 組織学的にはfibrosarcoma、浸潤性増殖の傾向は少く、ch.-p.の筋層を破る程度のようです。転移の有無はまだ調べてありません。特徴的なことは、腫瘍組織の中に沢山のeosino、plasma、Langhans巨細胞のみつかることです。
 腫瘍の継代移植は容易です。現在3代目に達しています。
 これに対して、4NQOによる細胞はすべてregressしています。コロニーの形態、増殖度などから考えて、transformationは明らかであるに拘らず、melignant transformationはまだのようです。これは再現実験のNQ-4においても同様です。
 この事実は、4NQO→4HAQOの変化が、用いた細胞では起りにくいことを示唆しているものと思はれます。4NQO→4HAQOの酵素の測定も必要のようです。
また、このようなmorphological transformat.とmalignant transformationの間のgapは、それぞれが別なgeneの変化によることを、又は(morpholog.transformation+α)=malignantを示唆しているようでもあります。
 今後、4NQOの細胞の移植性はしっこくくり返すつもりです。
 対照の細胞もすべてnegativeです(表を呈示)。移植後1週には赤い軟いtumorが出来ますが1週には全くみえません。目下組織標本作製中。
 (2)再現性
 以上のごとく4HAQOによるmalignant transformationに成功しました。目下、その再現性を確認中です。詳しくは次号にでますが、4HAQOは1回の接触(有効時間10分)でもtransformationをおこすようです。現在のところExp.の系列は19系統、培地交換と継代におはれて大変です。

 :質疑応答:
[吉田]生体へ4HAQOを作用させると、どの位の期間で発癌するのですか。この実験では大変早い時期に変異しているようですが。
[黒木]生体では120日位です。
[堀川]対照の復元実験が少し弱いのではないでしょうか。
[黒木]対照は増殖しないので、復元実験を沢山やるだけ細胞数を集めることがむづかしいのです。
[吉田]細胞が組織培養の条件に馴応しないうちに変異が起ったとも考えられますが、その点が大変面白いですね。
[黒木]4HAQOをかけて非常に早い時期に変異したかどうかの見当がつく所も利点です。
[堀川]対照群の問題ですが、細胞数が集められないなら、対照群2群、実験群1群の割合で出発してでも、対照群の復元例を増すべきだと思います。
[奥村]もっと初期に変異を起こしているかも知れないわけですし、早い時期にコロニーを作らせて、コロニー単位の解析をするべきではないでしょうか。対照群が長期継代困難とすると、コロニーレベルでの変異の特徴はつかめていないわけですね。ハムスター新生児の肺の場合、早いのは3ケ月位で動物につくことがありますから、自然悪性化をどの程度考慮するか問題ですね。
増殖性の獲得と悪性化の関係はどうなっているのでしょうか。
[黒木]私にとっては、対照群は増殖しない方が都合がよいと思いましたので、対照の増殖をよくすることには熱を入れないできました。Leo Sacksの場合も対照群は増殖がとまっています。
[勝田]奥村君の所では対照群の増殖度は安定していますか。
[奥村]2、3代まではよく増殖します。それから少しおちて、又増え出して安定するという順をたどります。そして大体4ケ月で動物にtumorを作るものが出来てしまうことがあります。
[勝田]問題はハムスターの場合、自然悪性化の条件がわかっていないことだと思います。黒木君の仕事の場合も、この自然悪性化を4HAQOが助けたのだということかも知れませんね。
[黒木]発癌性のない、同じ様な薬剤を添加する群を、対照にとってみたいと思っています。
[堀川]数を多くして、統計的に処理すればよいと思いますが。
[黒木]それも考えていますが、なかなかむづかしいですね。
[佐藤]増殖しない状態のものが、こういう風に増え出すということは4HAQOに増殖誘導という働きがあるとも考えられます。
[勝田]対照に増殖系のものを使ってみたらよいのではないでしょうか。
[奥村]199+CS10%〜20%という培地を使えば、完全に増殖させられます。勿論CSの質的検討が必要ですが。
[勝田]これから先の解析のために、4HAQOに本当の発癌因子としての作用があったかどうかを確かめておくべきですね。
[奥村]対照が増えなくなった時に、実験群が増殖して変異を起すということは差ではなく、有と無の違いだと思います。対照というものは、先々にもちゃんと取っておいて実験群との差をみなくてはいけないと思います。
[堀川]せっかく、うまくゆきそうなのですから、ここでぐっとおさえるべき所はおさえておくべきですね。増殖系でどうかということもみておく必要があると思います。
[藤井]動物に復元したものは継代できますか。
[黒木]出来ます。
[藤井]生体内で発癌したtumorには癌特異抗原ができるといわれていますが、組織培養で変異した場合ももとの組織との共通抗原を失って、癌の特異抗原をもつようになっているということはありませんか。そういう問題が復元実験にひっかかってきませんか。
[黒木]この系が確立すれば免疫学的にも、いろいろ探求出来ると思いますが、今の所はまだ・・・。
[勝田]そこを藤井君にやって貰うんですね。
[吉田]株化しない前にこういう変異が起ったという所がとても面白いと思います。他の発癌剤との併用も考えてみるとよいと思います。
[黒木]総括しておさえるべき点としては、対照群をもっと多角的にということですね。今の増殖しない系で長くおくと実験群と同じようなフォーカスが出来るかどうか、増殖系の対照でどういう変化が起るか、発癌性のない同種の薬品でどういう変化が起るか等、早速しらべてゆきたいと思います。ただ対照が株化する条件におくと対照が4ケ月で自然悪性化するということになり、なお解析がむつかしくなると思います。
[勝田]とにかく、この実験は非常に有望そうで楽しみですね。薬剤としても日本で開発したものでもありますし。班としては、発癌の研究ではなくて、発癌機構の研究なのですから、何とかして早く機構の方へはいりたいものですね。そういう点からみても増殖系の細胞を使う時はクローニングをして使う方がいいですね。 

【勝田班月報・6608】
(勝田班長はアメリカへ出張・《巻頭言》にアメリカ便)
《佐藤報告》
 RLD-10細胞については既に度々報告しました様に自然癌化があります。3'-Me-DABを投与すると200日位で復元の陽性率が上り、及びラテ生存日数が短縮されます。
 RLN-10細胞はRLD-10細胞の起源のラッテと同じ肝臓からDABに全く関係なくつくられた株細胞です。この細胞に対する3'-Me-DAB投与実験は図を呈示します。現在までの所Tumorを形成したものは有りません。
 従って現在までの所RLN-10細胞には3'-Me-DABは発癌?という機転については作用していない。併し形態学的にはかなり強いtransformationをおこしている。然しtransformationの形はいづれの系統でもよく似ている。したがってRLN-10細胞では3'-Me-DABで癌化の一段階までには達するが完全な癌化にはいたらないとも考えられる。

《高木報告》
 人胎児の皮フを用いた2〜3の実験について報告する。
 1)約5ケ月と思われる人胎児背部の皮フを切り取り、P.C.1000u/ml、S.M.2000μg/ml、fungizon5mg/20mlを含むHanks液に約3時間浸して後、3x5mm似細切してPlasma clot及び液体培地を用いて5%CO2gas含有空気よりなるCO2incubator中で培養した。
 実験群はPlasmaclotを用いたものでは、a)4NQO 10-5乗Molを含むHanks液を2/w、表面より塗布したもの、b)control、液体培地を用いたものでは、c)75%199+20%B.S. d)75%199+5%C.E.E.+20%C.S.よりなるもの、以上4群とした。
 結果:培養前野組織では表皮は大体3層で角化層は認められず、一層の規則正しく配列した基底細胞層をみる。培養3日目、a)b)両群とも表皮は4〜5層に肥厚し、その上に薄い(1〜2層)錯角層を伴う角質層を認める。基底細胞層の配列も整然として両群間に特記すべき差異を認めない。12日目に至ると表皮は5〜6層と更に幾分厚さを増し、4NQO添加群では対照に比べ角化層形成がかなり抑えられている。この時期までnecrosisも殆んどなく、組織は健常に保たれているが、先般のものに見られた程のmitosisはなく全体に少い。c)d)群では3日目まではPlasma clotによるものと殆んど同程度に保たれており、C.S.、B.S.使用により特別の差を見ないが、9日目のものでは両群共全くnecroticであり途中incubatorの温度が上りすぎるという事故はあったが概して液体培地はよくないと思われる。この実験で初めてfungizonを用いたが特別toxicでもなく好結果であったと思う。
 2)無菌的に取り出された約5ケ月目の人胎児の皮フを1)と同様な方法で培養した。この場合fungizonは用いず実験群は、a)4NQO 10-5乗Mol in Hnaks塗布群及び、b)対照群とし長期培養を目指した。培養前の組織は時期的にも、組織学的にも、1)のものと殆んど同様である。培養4日目、両群共表皮は5〜6層と幾分厚くなり薄い角化層(1〜2層)を認める。4NQO添加群では基底細胞層の配列が不規則でこの点、対照と著しく異なるが両群同様に健常である。8日目表皮は6〜7層と幾分厚くなり2層程度の薄い錯角化を伴う角化層を同様に認める。この時期のものでは基底層は正しく配列しており、4日目のものであの様な乱れを生じたのは偶然か有意なのか俄かに断じ難い。今後の検討にまちたい。この1)2)を通じて云えることは前の同様な実験に比べてmitosisが非常に少ないことである。培養条件で変った点と云えば、O2gasを空気に変えただけなので、高O2濃度が分裂を促進したのではないかと考えている。尚目下、継続培養中である。

《黒木報告》
 Hamster Whole Embryo細胞への4NQO及び4HAQOの作用(5)
 (1)移植実験
 ついにハムスターが「腫瘍死」を遂げました。死んだハムスターは先月の月報に写真をのせた新生児皮下100万個移植群で現在6匹中3匹が死にました。生存日数は74日、80日、80日です。残りの3匹もかなり弱っていますので間もなく死ぬと思います。
 腫瘤は非常に大きく最大のものは50x40x50mm、小さいものでも35x25x20mm位あります。このようなのが3〜4ケあるのですから、恐らくハムスターの体重よりもTumorの方が重いと思います(両方合せて140g)。
 転移は肝に小さい白色結節が1つみつかっています(組織像はまだ)。又腹腔内、胸腔内にも腫瘤は浸潤性に入り、肝、腎などに癒着しています。これらの所見から考えてこの腫瘍が悪性であることは間違いがないことと思っています。
 その他の群、例えばadultの皮下、ch.P.移植群はまだ死ぬ気配はみられません。(tumor自身はどんどん大きくなっている)。
 (2)新たに始めた実験について
 4NQO及び4HAQOのtransformationの再現性をみるため、及び4HAQOの最少必要量をみるために、次の三組の実験をstartしました。
 1)Exp.345(Zen-2、NQ-4、HA-3)(図を呈示)。
 この実験は前回の4NQO、4HAQOの実験のそのままのくり返しです。4NQOは、NQ-2と同様にmorphological transformationがおきたのですが、これまたNQ-2と同様に動物にtumorを作ることは出来ません(現在培養117日)。増殖は活発です(10x/w)。
 4HAQOは最初からcrisscrossのpatternがみえず、現在までだらだらと継代されています。最近growthがよくなって来たので移植したのですがtumorは出来ませんでした。この4HAQOによるtransformationのreproducibilityの失敗は、4HAQOのstock soln.として前に作り、-20にて保存したのを、その度thawingして用いたことにあると思われます。
 2)exp.378(図を呈示)
 前回のHA-3にこりて、少し面倒でも4HAQOは実験の直前に作り、保存したものは用いないことにしました。また1回実験する度に残ったcarcinogenを光電比色計にかけ、その吸収度曲線を記録として残すことを励行しました。
 実験の目的は4HAQOの必要量を知ることにあります。もし1回の処置でtransformationがおこるのなら、発癌機構の分析は非常にし易くなるはずです。
 carcinogen処置後2日目には、一部に細胞の配列の乱れがみえて来ました。この所見は、carcinogenを取った後もつづき10日目頃には、transformed focusらしきものがあちこちにみえるようになって来、有望のようです。これに対して4HAQOを4回8回とかけた群(AH-6、HA-8)は、細胞のdamageがひどく現在に到るも継代出来ない状態です。
 3)Exp.403(図を呈示)
 この実験の目的は二つあります。一つには4HAQOの作用時間を思いきって短くし、10分間あるいは1時間とすること。他はnon-carcinogenic carcinogenである4-amino quinoline-N-Oxideの作用をみることです。
 4HAQOは非常に不安定で培養液中では10分間位しかもたないだろうという遠藤英也先生の意見にもとずき、4HAQO 10-5乗M添加後10分及び1時間後にcarcinogenを除きました。(除き方は前にも記したようにPBS 3回、medium 1回で洗います)。まだ培養後僅かしかたっていませんが、初期のmorphologicalな変化(criss cross、multilayer)はHA-8、HA-9のいずれにもみられました。今後が期待されるところです。
 4AQO(図を呈示)はreduceされるときのproductで、発癌性はないといはれています。この4AQOを杉村先生にお願いして分けて頂きtransformationの有無を調べています。途中、吸収度曲線のとり方のエラー(pHのadjustの忘れ)から癌センターに問合せたりして、連続投与は出来ませんでした。4HAQOとは異るようですが、morphological transformationはおきているようです。10月までにはある程度わかることと思います。
 いずれの実験でも継代の度毎にコロニーの形成を試みています。

【勝田班月報・6609】
(勝田班長は前月につづきアメリカ出張中・《巻頭言》にアメリカ便)
《永井報告》
 ウニはシーズン・オフになったので現在はchemical workをやっています。受精膜の化学成分は、予期に反して90%が蛋白、残りは糖及びアミノ糖から成っていることがわかって来ました。蛋白は酸性アミノ酸(Glu、Asp)に富見、酸性蛋白のように思われます。アミノ糖はグルコサミンとガラクトサミンとが約1:1のモル比で存在し、従来云われていた9:1と異なった知見を得ました。9:1というのは15年程前のデータですから、どうでしょうか。糖はマンノースが少量のみ。(1)これらのアミノ糖及び糖が蛋白に結合(covalent bonding)して糖蛋白をつくっているか、(2)それとも糖類は蛋白とは別個にpolymerを形成して、このcationic polimerと酸性蛋白とがイオン結合で結合して膜を作っているのか、二つの可能性が考えられます。受精膜形成のメカニズムから考えると、後者の可能性の方が面白いのですが、果してどうか。一応後者の可能性を頭において実験を進めたいと思っています。ウニのスルホリピドの基本糖成分であるスルホシュガーの結晶化を試みていますが、強酸性の為うまくいかず、trial and errorを続けています。ヒトデ卵のX-Sugar(No6605)はガスクロマトグラフィーによってもQuinovoseであることが判明しました。(図を呈示)
 この頃のガスクロマトグラフィーの進歩は見るべきものがあります。最初は脂肪酸の分析が主でしたが、段々、糖類、アミノ酸、ステロイド、糖アルコール、etc、かなりの種類の生体成分が分析できるようになって来ているのが現状です。アミノ酸などはまだ、標準的な方法の確立までいっていませんが、それも時間の問題だと思います。ガスクロマトグラフィーをうまく使いこなせば、μg単位のサンプルについて分析可能となるわけですから、相当なものです。ラジオガスクロマトグラフィーが発達すればもっと微量の物質の分析が可能になるでしょう。糖質化学などの分野もガスクロマトグラフィーの出現により、随分と影響を受け始めています。組織培養など、生化学者からみれば物質的には甚だ微量なものを扱っている人々にも、いずれ有力な手段となってくるに違いないと思っています。cell1個当りの分析もやがて夢でなくなる時が、そう遅くない時に訪れるでしょうが、ガスクロマトグラフィーなどさしづめその突破口となるのではないかと思います。
 勝田班長の米国からの報告によれば、イノシトールを培養細胞の保存に(凍結保存)使うと、ジメチルスルホキシドやグリセロールなどよりも、細胞の抗原性の変動が少いとのことです。私もリピドをやっている関係から、イノシトールリピドには7〜8年とりつかれていたことがあります。5〜6年程前に、また2年程前にも、イノシトールを凍結保存剤に使ったらどうか、ということを提案したことがありましたが、あまり取り上げられませんでした!。イノシトールは代謝回転の速いリピド成分として、リピド生化学では随分研究されて来ましたが、遊離状態のイノシトールも生体組織にはかなり存在しています。例えば、組織100g当りのイノシトール(fee-type)のng数を表にしてみれば、下記のようになります。Plasma : 1.14 whole blood : 1.25
Liver : 12.1 Lung :17.1
Heart : 7.1 Kidney cortex :61
Testes : 28 Ovary :32
Thyroid :121 Pituitary :96
Adrenal cortexs: 16 Salivary gland:19
Brain(cerebral cortex):− Spleen :22
Diaphragm : 6.2 Pancreas :12
Adipose tissue : 3.1 Eye(lens) :−
thyroidとpituitaryには、特に多く注目されています。またplasma中には少く、tissueにplasmaからactive transportによって蓄積されるものと考えられています。上記glandsではhomogenateを遠心分劃するとcytoplasmic fractionに局在するそうですが、最近非水溶液で遠心分劃をおこなうと、むしろ核分劃に多いそうです(胸腺組織についての伝研・積田氏の最近の知見:私信)。これがどのような意味をもっているのか興味のあるところだと思います。組織培養に使うとよいということはEagle et al(1957)が云っており、これの代謝がかなり速いことからそのpathwayがCharalampous et al.により現在まで研究されてきています。いずれにせよ、イノシトールは生体組織にはかなり在ってわるさをしないらしい、ということは云えると思います。分り切ったことのようですが重要だと思います。S.J.Webbはvirusやbacteriaの乾燥保存の際に添加することにより、好結果を得ています。またイノシトールを加えてやるとultra-violet irradiationに耐えるようになることから(Rous sarcoma virus)、nucleoproteinの構造を保っているwater-structureと密接な関係があり、このstructural waterとinositolとがその-OHを媒介に置換するのではないかと考えています。(inositol、ソルビトールの化学構造を図示)。またこれはイノシトールとは一応無関係ですが、化学的には同類のソルビトールについて茅野氏(1962年)の興味深い研究があります。即ちカイコ休卵の時期に休眠して冬を越すが、その際グリコーゲンの殆どがこのソルビトールに転換され、また春になって休眠がやぶられると、ソルビトールがグリコーゲンに再転換されるという研究です。卵にはその際wet weightにして5%ものソルビトールが蓄積され、なめてみても甘く感ずる程だそうです。茅野氏はこのようにして昆虫卵は耐寒性を獲得し、又エネルギー保存を同時におこなっているものと考えています。自然の巧みさに驚きます。これらの糖アルコール類は培養の保存について、もっと考慮されてよいのではないでしょうか。

《螺良報告》
 乳癌培養細胞にMoloney白血病細胞をcotact cultureした場合の戻し移植
 培養乳癌細胞は継代3年を経過し、電顕的にはウィルス粒子フリーとなている。之に白血病ウィルスをかけて培養できないかということで、cell-freeの白血病ウィルスを加えたが、その培地には造腫瘍性はなかった。
 そこでcontact cultureに望みを託し、C57BLにMoloney白血病ウィルスで誘発した白血病細胞とcontact cultureを試みた。その培養細胞は下図の如くで、白血病細胞(脾、リンパ節)は培養されて居ず乳癌のみ敷石状に増殖しているものと思われた。
 [DDの培養乳癌にC57白血病をcontact culture]
 (写真呈示・乳癌培養細胞の特長をもち白血病細胞は認め難いが)
そこでもし乳癌細胞だけになっていたら、之から電顕的に粒子が出れば白血病ウィルスでないかという可能性がある。この検索は目下遂行中であるが、一方、果して乳癌細胞だけになっているかを確かめるのに戻し移植を行った。乳癌はDD系由来、白血病はC57BL由来であるので、(C57♀xDD♂)F1・・・BDF1へ戻した。培養細胞はcontactしてから6ケ月、4〜6代を継代培養したものである。
 1)BDF1への戻し移植
 3匹に移植何れも陽性で局所に腫瘍を作ったが、同時に脾及び肝腫を伴った。移植后50〜62日で殺したが、下の写真のように局所の乳癌と共に、肝、脾、腎に白血病の浸潤を認めた。 [BDF1への戻し]
 (写真呈示・接種部の腫瘍、肝への白血病細胞浸潤)
 之が培養細胞で乳癌、白血病の2つが培養されていたのか、或は白血病の方はウィルスで誘発されたかが問題で、2月という期間は潜伏期としてかなり短い。
 2)BDF1からDD又はC57BL屁の再移植
 培養細胞でhistocompatibilityが不変だという結果をえているので、もしcontactした培養細胞に2種がまじっていたなら、DD由来の乳癌とC57由来の白血病はBDF1なら両者がつき、DDへなら乳癌だけ、C57へは白血病だけがつく筈である。目下の所C57への移植はついていないが、DDへの戻しでは41〜71日後に乳癌だけがついていて白血病は発生しなかった。 [DDへの戻し]
 (写真呈示・培養部の腫瘍、肝−正常)
 考察:今の所実験途中で結論に至らないが、BDF1の白血病はウィルスでなくて培養細胞によると思われる。そうすると培養に2系統の細胞が混っていたのではないかと思われ、之等が系統を異にする場合は、夫々の系のマウスを戻し移植に使って、細胞の選別ができないろうか。
 まとめ
 以上中間的な所ではあるが要約すると(図を呈示)、というところで、C57に白血病が2月で未だ出来ないで完全に系統による選別ができた所まではいっていない。
 しかし培養細胞を系統別にしておくと戻しによって之を選別することが出来そうである。
《高木報告》
 先報、実験2)のその后の経過について記します。培養8日目までの所では、4NQO添加群及び対照群の間に目立った差は認められませんでした。15日目4NQO群では表皮は3〜4層でむしろ薄くなりますが、表皮真皮共に健常に保たれており、角質層の著明な肥厚はありませんでした。
 対照群では表皮5〜6層で幾分厚く、細胞の形は培養前のものに似て、胞体の明るい細胞が並んでいます。両群共mitosisは殆んど見られません。15日目までで4NQOの添加を中止し、その后は同じmediumにて培養を続けました。23日目のものでは15日目とはむしろ逆に、4NQO群では2〜3層の表皮と規則正しく配列した一層の基底細胞層を認め、角質層は表皮よりやや厚めと云う程度で、それ程著明な肥厚は認められませんが、対照群では表皮の厚さは殆んど変らず、表皮と真皮の区別ははっきりしているのですが、基底細胞層の規則正しい配列は全くみられず、若干の錯角化を伴う角質層は表皮に相当する程度ですが、更にその角化層の上にfibroblastの増殖がみられます。概して4NQO群の方が健常に保たれているように思えます。29日目のものでは4NQO群は4〜5層の表皮と同程度の厚さの角化層よりなり、基底細胞層の配列は崩れて了っていますが、真皮の細胞と共にかなり健常に保たれている感じです。
 これに比べて対照群では、表皮2〜3層で基底層は認められず、真皮は毛嚢を除いて全くnecrosisになっており、23日目のものと同様薄い角質層の上にfibroblastの増殖を認めます。両群共mitosisは認められません。今回の実験では特に23、29日目のもので外観上サージロンの表面一面にoutgrowthがみられ、この為サージロンが曲って了う程でした。主としてこの為と思われるのですが、その部のclot融解が早く、その融解物の中に組織片が埋れて了う傾向がみられました。それが特に4NQOを塗らない対照群に強く、この為にむしろ対照群の方の健常さが早く失われる結果になったのではないかと思います。今回はincubtorがやや不調で30日前后で培養を止めましたが、次の機会にもっと長期の観察を行う予定です。
《三宅報告》
 ヒト胎児皮膚からDD系マウス成熟皮膚へと、対象の切りかへを一部で始めたのです。20-Methyl cholanthrenをペレットにした方法をかえて、これを5%の割合にParaffinに溶かして、ミリポアフィルターにしみこませ、固型化した後に2mm角位の小片に切り、培養直後のマウスの皮膚にのせ、3〜6日間放置しました。コントロールとしては、そのフィルターの小片を成熟マウスの背の皮膚に3日間のせたものと、フィルターにParaffinだけをしみこませたものを培養皮膚に添付したものについて検索しました。また、この実験に用いた20-M.C.はin vivoの実験でBenzenに溶かしたもの、1回塗布后皮膚癌を発生したものと、同じボトルからのものです。培養皮膚に添付する時間がどの位で充分であるかを知りたいのが、この実験での目的になったのです。結論をさきに云えば3〜6日間もフィルターを放置したことは長きに失したと考えられます。これから、もっと短時間で、しかも対象の皮膚を胎生のものに再び戻してやり度いと思います。
 その結果を述べますと、in vivoでは3日間の添付で、表皮は4層位になります。基底層の細胞は極めてactiveとなり、核は大きく泡状を呈して来て、Dermisの上に並んで来ます。表皮の最上部には薄い、Eosinで染まる角化層が積みかさねられてくるのです。
 培養皮膚では、3〜6日に亘るフィルターの添加で、なる程培養されたコントロールの皮膚にくらべると、基底層細胞は少し増殖して来ますが、散在性に強い変性からまぬかれることは出来ず、核は泡状、時には空泡を形成して来ます。また、こまったことには、Paraffinだけのfilterを添加した皮膚のコントロールに、表皮の変化が出現することです。
 以上の結果から、これからの実験を、すこしかえてゆく必要があると思われることです。 それは胎生の動物の皮膚に戻るということ。
 M.C.の作用時間をもっと短くしてゆくということ。
 ヒトの胎児での実験を、併用してゆくということ。だと考えています。

《佐藤報告》
 (表を呈示)表はDonryu系ラッテに生体でDABを191日飼食させ、その肝臓を(特に肥大性結節)培養したのち、新生児ラッテに復元してTumor形成能をみたものです。詳しくは別刷を参照して下さい。このTCstrainは現在の所、中等度(?)のTumor-producing capacityがありますが、3'-Me-DABを10μg/mlに連続或は間歇的に投与すると、比較的早く(66日〜79日)でTumor-producing capacityを増加する様に見えます。実験そのものにも未だ追加等必要ですが発癌剤の機作の内に腫瘍性の増強(Selection?)がある様に見えます。実験は下記の通りです(図を呈示)。
 (表を呈示)次はRLD-10株に3'-Me-DABを投与して悪性化した腹水肝癌を再培養し、それに3'-Me-DABを再投与すると腫瘍性が増強したことを示す。

《堀川報告》
 今月号にもまだ改めて紹介出来るようなデータを得ていない。
 帰国後早々にデータが得られるなどあまりにも虫のいい話かもしれないが、それにしても日本には学会やその他の会合が多すぎる。
 8月10日から札幌で遺伝学会が開催され、それに出席したり、あちこちの談話会に引っぱり出されているうちに8月も過ぎてしまった感じである。仕事の方もさぼっているわけではない。事実今夏も学会や談話会に出席した日以外は一日も休みなく頑張ったつもりである。 幸い、放射線障害回復機序の実験に使用するX線、ならびにUV線耐性細胞もぼつぼつではあるが、きれいな形で分離されつつある。然し、現在のところ、肝心の装置がなくてどうにもならず、東芝から購入する部品の到着を待っているところである。
 一方ショウジョウバエもいつでも仕事が開始出来るようになっておりながら、Madisonのボスが未だにOriginal Note Booksを返送してくれない。(Paperにまとめるためボスに必要)といったところで、これもハエと共に手ぐすね引いて待っているところである。
 Madisonの勝田先生から便りをいただいた。元気で頑張っておられ、あちこちで大分好評を博しておられるようで何よりだが、せめても9月の班会議までに少しでも自分の仕事を進めておきたいと思うものの、今のように八方ふさがりでは、どうにもならないというのが現況である。

《黒木報告》
 Malignant transformation of hamster whole embryonic cells by 4NQO
and its derivatives in tissue culture(6)
 前報に記した4HAQOのdoseをかえた実験は目下運行中ですので詳しいdataは、班会議にまわしたいと思います(4HAQOの再現性はあるのですが、そのpatternが少し異なっている)。 今回は主に4NQO、6-chloro 4NQOの移植実験について記します。
月報6607号に4HAQO処置細胞はmorphological & malignant transformationしたのに拘わらず、4NQO、6-chloro-4NQOによるそれはmalignantにならずmorphological transformationのlevelにとどまっていると報告しました。その後くり返してハムスターcheek pouch、SC(adult & newborn)に移植した結果、培養110日以降にmalignantになりました。4HAQOの2倍近くの日数を必要とした訳です。この結果は4NQO→4HAQOのenzyme activityが、hamsterにおいては低いことを示唆しているのかも知れません。
 この反応は次の如くです(図を呈示)。
 4NQO及び6-chlo-4NQO処置細胞には次の5つがあります(図を呈示)。これらのうち、NQ-1は培養134日にカビのcontamiにより切れてしまった、growthはよく、非常に有望であった。NQ-3は前にも記したように2回目の4x10-6乗Mがoverぎみで、その後growthはとまってしまった。結局現在継代しているのはNQ-2、Cl-NQ-1、NQ-4の三系である。
 NQ-2の移植成績は次表に示すように、培養56日には、ch.p.で2つともregressionし、(1wに小さいnodule、2wに消失)negativeでした。その後しばらくgrowthがよくなかったので、移植を手控ていたのですが、115日にch.p.とSC.に移植したところ、SC.はregression、ch.p.には硬いtumorがregressionせずに、しかしきわめて徐々に大きくなるtumorが得られました(図を呈示、histolog.は目下製作中)。しかし、その10日後(125日)には皮下にも移植可能となり、培養131日には新生児の全例(10/10)にtumor、165日はch.p.、SC.のいずれでも安定したようです。(NQ-2の移植成績表を呈示)
 このように、NQ-2のmalignant transformationは培養120日前後におこったようです。なお、125日のch.p.のtumorは組織学的にfibrosarcomaでした。
 NQ-4の移植成績
 NQ-4は、NQ-2と似た細胞像と活発な増殖性を有するに拘らず、現在に到るまでmalignantになっていません。NQ-2と同様にmorphol.tr.とmalig.tr.のgapがみられます。
 cheek pouchで一時的に増殖した結節の組織像は、necrosisとcell reactionでcontrolのそれと同様でした。(移植成績の表を呈示)。
 6-chloro 4NQO処置細胞の移植
 6-chloro 4NQOは以前にも記したように、ただ1回のみの処置です。しかし、その培地は12日間放置しておき15-12のscheduleです。現在まで移植は1回のみですが培養125daysにはhistologicalにfibrosarcomaとして確認されました(表を呈示)。
 コントロールの移植
 前回の班会議のとき、コントロールの移植実験の足りないことが指摘されましたので、その後何回かくりかえして試みました。結果は次表に記しますが、SC of newborn、ch.P. of adultのいずれでも陰性です。Zen-2では長く培養した細胞を用いています(表を呈示)。コントロールの移植は大体この位でよいと思いますが、いかがでしょうか。
 ☆以下は武田薬品の小冊子「実験治療」にのった一文です(執筆者はK.O.生)。
《癌は自然に発生するか?》
 1941年Geyがラットの繊維芽細胞を培養しつづけていると、永い間には元のラットに戻し移植すると肉腫のかたちで増殖することを認めたが、その後マウスの胎児から得られた細胞系には、このようなことがかなり頻繁にみられるという事実が知られてきた。このような細胞の体外培養を、時々嫌気性の条件下においてやるとやはり同様の事実がみられたので、Warburgの嫌気解糖系が優先するようなselectionが、癌を発生せしめると考えた学者もある(Gold-blatt-Cameron)。
 In vitroの条件というものは、in vivoとことなって、ある意味で有限の因子からなるから、人工的に調節可能であると考えると、すべての条件が知られているにもかかわらず、多くの細胞は通常の状態で増殖してゆくのに、突然その仲間に悪性化したものができるということになる。
 それでは、癌化ということは、まったく内在的な条件だけでおこりうる、いわめて気ままな、分析不可能な現象だとして、癌の研究は無意味になったと考える学者もできようというものである。
 Polyomaのような、また他の殆ど遍在性と考えられるウィルスの関与を除外し、また宇宙線のような普遍な物理学的条件を除外してもこのようなin vitro癌化がおこりうるものか否かは、考えようによってははなはだ重大な問題である。
 上に述べたように一体in vitroの条件はすべて分析可能で有限であるかというにまだまだそうはいい切れないであろう。勝田はin vitroで培養液と試験管壁とのなす境界に近いところに、一見癌に近いかと思われる細胞群の出現をみとめている。この部のガス圧、表面張力その他の特異性ということも頭におかねばならない点であろう。
 一面から考えるとin vitroは増殖の場であって、細胞と細胞との隣り合せの関係は、invivoのように複雑でない。増殖しても増殖しても、植えかえられる培養細胞のコロニーにとっては、終点のないむなしい増殖がつづく。この系ではin vitroで一種類の細胞の増殖を停止させるnegative feed back機構を欠いていると考えてもよいであろう。
 再生と潰瘍化を繰り返すin vivoの場と、この意味では一種の類似がなり立つ。この
negative feed backを免疫学的機構におきかえるとBurnerやGreeneの癌の免疫学説が成り立つであろう。
 最近、一方ではHeidelbergerのように癌化と分化とを類似に置いて考える学説を主張する学者もあるが、一方ではまたsomatic mutation(体細胞突然変異)として解釈する根拠も多くでてきている。もし後者の説の立場に立つならば、例えば、化学的発癌における癌原物質の作用は、きわめて特異的に突然変異条件をつくりだす場合もあろうし、または単に自然発癌の機会を増強するにすぎない場合も考えられよう。
 癌は果たしてまったく自然の条件でも発生するものであろうか?。学者は必ずしも、生物は細胞分裂の機会ごとに自然に癌を生じうる危険をもっているとは考えていない。癌になる程の変異には何かある特異なmotiveが必要であって、そのmotiveはきわめて一部ではあるが判っている。Motiveを共通にする物質、エネルギー、ウィルスなどを考え、その全面的な解明を求めているというべきであろう。
 In vitroの自然癌化は、その面からいうと、いまだ解決されるべき手がかりもつかめていない特種な分野かも知れない。

【勝田班月報:6610:アメリカ組織培養学会の話題】
《勝田報告》
 The Second Decennial Review Conference of Tissue Cultureに出席して
 “Waymouth”のは合成培地での培養ですが、すごくlagがあって、死んだ細胞の成分が使われているのではないか、と思われました。“Amos”のは細胞の分化を維持するのに、アミノ酸、ビタミン、ホルモンなどの他に、未知の物質が必要だという話でした。“Bell”の話は、主にchick embryoを使っての実験で、lens placodeのoptic cupの形成に阻害剤やC14uridineのとり込みなどから、普通のribosomeの他に、蛋白合成をする他の新しいribosomeを見付けたということでした。“Sutton”はLeighton tubeにAralditeを入れてそのまま包埋してしまい、60℃から0℃に急に冷やして合成樹脂を剥し、それからブロックを切り出して電顕用の標本を作っていました。Golgiでlysosomeの合成が盛であり、細胞膜からlysosome内のenzymesが外へdischargeされること、2核の細胞には核の間の細胞質に細胞膜が残っているのが認められたこともあるなどが面白いところでした。“Pitot”は細胞の色々な酵素活性、殊にtyrosine transaminaseやserine dehydoraseについて、RueberH-35を用い、in vivoとin vitroとの比較をしていました。“Gartler”は色々な株18種(ヒト由来)についてG6Pdehydrogenaseその他の活性をしらべ、ニグロはstarch-gelで分けるとG6PDがslow bandとfast bandの2本に分れる、つまりtypeAはニグロにだけ見られるもので、HeLaはニグロ由来であるから(+)。ところがchangのliver、Detroit-6、HEp6その他、殊にHeLa樹立から以後5年間に作られた株は、しらべた18株すべてにtypeAがあって、HeLaのcontamiらしいと発表し、大変な反論を買いました。“Earnes”はHistochemistryで細胞の特性をしらべようとし、adult human tissue、主にbone marrowのprimary cultureを使い、Histochemistryで示せるものとして、AIK.P.、AcP.、Est(dNA)、Est(NANA)、β-gluc.(NASBI)、β-gluc.(8-HQ)、AtPase、AminoP.(β-LN)、Dehydrs:SD、LD、β-OHBD、G6PD.、GlutD.があるがmacrophage(monocytes)ではAIK.P.以外は全部存在すること、図のような(箒星状?)細胞にはAIK.P.が(+)、glycogenはfibroblastその他色々の細胞にみられるからmarkerにはならない、などと主張しました。“Westfall”はC3H由来で合成培地で継代している6clonesについて、その自然発癌について報告しました。“Grobstein”の仕事はやはりがっちりしていました。Epithelio-Mesenchmal interactionを培養内でしらべOrganogenetic interactionのtime courseを追っていました。“Abercrombie”は相も変らずcontact inhibitionで、大分皆からやっつけられました。“Herrmann”はchick embryo muscle(leg)のcultureで、胎生日齢の進むにつれてin vitroの増殖は落ちるが、DNA当りのmyosin合成量はふえることなどを紹介しました。“DeMars”はヒトの細胞、とくにfibroblastsを用い、X染色体の行方を追い、G6PD.との関連にふれ、inactiveXもFeulgenでうすく染まり且replicateされること、静止核のheterochromatinはG2期の細胞にだけ見られたことなどを報告しました。“Hayflick”はspontaneous transformationの大部分はウィルス感染によるものであると力説し、“Sanford”は培地組成を重視、FCSよりHsSの方が細胞が変り易く、embryoではmouse>hamster>ratの順にtransformしやすいと述べました。

《佐藤報告》
 培養上の発癌を確認するためには種々の条件が必要である。従来解明できたことは培養肝細胞は長期培養になると発癌する(最近RLN-10株も癌性が現れた)。動物接種後、腫瘍発生迄には400日を越えるものがある。発癌剤にはTumor-producing capacityと所謂malignancyを増強する作用があるらしい。
 然し細胞のレベルで発癌を論ずるには正常(?)肝細胞のcloningを行って後、発癌剤を作用さす事が望ましい。
 最近まで炭酸ガスフランキを使用して肝細胞のpure cloneをつくるべく努力したが未だ成功していない。
 RLN-10細胞は培養1501日と培養1529日でシャーレに培養した。dish当り100で培養を始めると6%位の細胞が増殖する。10個細胞で2から7程度である。
 RLN-39細胞は培養1225日と培養1239日でシャーレに培養した。dish当り1,000個乃至100個で5%程度のコロニー増殖である。
 RLN-187(生後8日のラッテ♂)は培養124日で、シャーレに培養されたが10,000個ではコロニーを発生しない。
 N-7(生後5日のラッテ♂)は、培養167日で前者同様10,000個細胞ではコロニーを作り難い。
 RLN-163(生後6日のラッテ♂)は培養229日及び270日で10,000でいくらかのコロニーができる。
 今後、培養日数の比較的短いものからpure cloneをつくって発癌実験に用いる予定。

 :質疑応答:
[黒木]コロニーの形態はどうですか。
[佐藤]丸い形をしています。顕微鏡でみると上皮性の細胞です。
[黒木]大きさはどの位ですか。
[佐藤]1〜2週で判定して1ミリ位です。
[勝田]コロニーを作らせる場合、まいた直後に位相差でしらべると1ケだけになっていない細胞がありますね。そういう事にもよく気をつけなくてはいけないと思います。
[佐藤]今までの実験経過からみても、どうしてもクロンを使って実験を始めたいと思っています。培養総日数の短い系の場合は1万個の細胞をまいて1ツ位はクロンがとれるだろうと思います。
[堀川]コロニーの中での染色体数のばらつきはどうですか。
[佐藤]まだしらべてみていません。
[黒木]前に奥村さんがしらべたと思いますが・・・。
[勝田]分離後初代は揃っているが、継代を重ねると、ばらついてくるということだったと思います。
[堀川]in vitro発癌の場合、ウィルスはいないのだという事はどうやって証明すればよいのですか。
[勝田]病原性のないウィルスや未知のウィルスとなると検出出来ないのではないかと思います。ウィルスと発癌剤が何かの形で組合わさって発癌することもあろうかと考えられますが、現在の段階では何とも云えませんね。
[永井]再現性をみることが、非常に大切なことだと思います。
[堀川]そうですね。条件を変えて再現性をみるのが大事ですね。
[黒木]in vivoでも、発癌が、作用させた発癌剤だけによるものだという確証はないですね。
[勝田]セレクションではないということと、再現性があるということが、きめてになるでしょうね。
[螺良]佐藤班員の実験で、自然悪性化と3'メチルDAB添加群の悪性化の間に差がありますか。
[佐藤]復元成績には差がみられます。けれどもセレクションではないという確証はありません。染色体数が42本の2倍体を保っている系の中にも悪性化したものがあるかどうか、しらべてみたいと思っています。
[堀川]DABを動物へ接種して、in vivoで蛋白と結合した形のものを抽出して、in vitroへ添加してみるというのはどうでしょうか。
[佐藤]今日お話したデータの他に、電子顕微鏡的にもしらべ始めていますが、今の所ウィルスは見つかっていません。又発癌前とあとでは細胞の微細構造に少し違いがあるようです。

《三宅報告》
 前回に述べたようにD.D.系マウスの成体皮膚の試験管内保持が、うまく参りませんでしたので、同系の新生仔(6匹)にかえて、従前からの方法に従って培養を始めました。もっとも感染の事を考えて、新生仔といっても、出産前1日目のもの、体長約2cmのものでした。この背の皮膚と、大脳を培養開始と同時にMCA-ミリポアフィルターを直接組織にのせ、24時間後にFilterを取り去り培養を続けました。別の一匹を正中線で縦断する面で組織標本を作りました。この組織検査で意外なことを知りました。
(1)背の皮膚といっても、皮膚附属器の発育の様相によって、部位的に相違の大きいことが判りました。すなわち、附属器のない所では基底層細胞は美しく円柱状のものがならんで、その上に4〜5層の棘細胞層がならんでいますが、附属器が豊かに出来た部では基底層は密集した不整形の細胞から出来ていて菲薄な棘細胞層と、同じく薄い角化層がみられます。背の皮膚全体としては、後者の占める率が高く、培養に用いたのは後者の方が多いものと考えました。(2)同じD.D.の成体の皮膚は、この様な部位的な差がなくて一様に基底層の粗な層と、その上に、たかだか2層の棘細胞層と、うすい角化層から出来ています。前述の胎生のものの方が、Adultのものより、形態学的にはHyperplasicであるという感をうけたのです。
 この胎生の背の皮膚出実験を続けました所、現在、培養10日目という結果しかないのですが(すべての組織片について連続切断を作らせるものですから、これがネックになっているようです)、この胎生(新生仔)の背の皮膚も長期の培養に適しない様です。棘細胞層も、角化層も、ヒト胎児(3〜4ケ月)にみられるような肥厚もなければ、基底層での爆発的なMitosisもないのです。24時間MCA-Piltwを作用せしめたものに、棘細胞層の僅かな核成分の増加があって、角質層の直下にまで及ぶとみられるものがあるのみです。H3-20-MCAはBenzolに溶解されていますので、この同位元素を用いて、皮膚細胞への取りこみを、しらべる考えでしたので、このD.D.マウスの背の皮膚へ、培養前にcoldのMCA-Benzolを滴下、よく洗って、後培養を始めたものでは、9日目で皮膚は全体がNecroseという非運にあいました。新生仔の皮膚を用いた間違いは、その組織像からも指摘出来ると思います。反省して、より幼若なD.D.、ハムスターへと一応仕事をすすめます。

 :質疑応答:
[勝田]ケラチン層があると増殖が起こらないというのは面白いですね。
[三宅]成体皮膚の場合、セロテープをはっては剥がすということを40回くり返してケラチン層を剥がします。
[堀川]胎児皮膚に成体皮膚のケラチン層をはりつけるとどうなりますか。
[三宅]それはしたことがありませんが、胎児皮膚を培養して、出来たケラチン層を剥がそうとしてみましたが、どうしてもとれませんでした。
[永井]ケラチナーゼのような酵素を作用させてみたことはありますか。
[三宅]ありません。
[勝田]ネズミの年齢との関係もしらべてみると面白いでしょうね。この仕事では発癌実験よりケラチン層との相互作用をしらべる方が面白そうですね。
[永井]物質としてとっておいて、ないものにつけたり、どんどん剥がしたりしてみても面白いですね。
[堀川]メチルコラントレンの作用時間はどの位ですか。
[三宅]24時間です。
[堀川]もし、うまく発癌したら、どうやって復元するつもりですか。
[三宅]そのまま、つまりスポンジごと植え込むつもりです。
[勝田]スポンジに血漿を使って組織をはりつけ、培養液に浮かして培養すると、32℃では組織がスポンジへはいってゆかないが、37℃ではどんどんはいってゆくというデータがありますね。

《高木報告》
 現在進行中のハムスター全胎児よりの培養について報告します。
1)7月29日スタート
Medium:90%199+10%CS+0.5mg/ml Pyruvate+0.3mg/ml Glutaminを用いて、Leo Sacksの方法に従い、胎生末期ハムスター全胎児よりTrypsin(N.B.C. 1:300 0.25%)消化により得た細胞を100万個/8ml宛TD-40Flaskにとり、初代のみアルミフォイルで覆って5%炭酸ガスAir、37℃の炭酸ガスフランキにて培養し、2代目継代後3日目より14日間に計5回に亙る4HAQOの添加を黒木氏(HA-2)の方法に従って行い、除去の際にはP.B.S.で3回洗って培養液に変えました。
 4HAQO添加群には翌日より細胞のdamageがみられ、日毎に強くなってFlask中央部の細胞は全く剥げ落ちて了います。14日目にも尚、周辺部に残った細胞はcarcinogen除去後1週間目頃より徐々に増殖が起り、10日目を過ぎる頃より、一部criss-cross.multilayerを思わせる像を呈してきました。17日目にやっと3代へ継代しましたが、細胞数が少く、10日目にやっとsheetを作ってきました。コントロールも殆んど同時期に継代していますが、1G、2G、3G共に著明な変化は認められません。目下継続培養中です。
2)9月8日スタート
 1)と全く同様な方法で得たものをMediumを変えて培養しています。Medium:0.5%Lactalbumin Earle90%+CS10%+0.5mg/ml Pyruvate+0.3mg/ml Glutamin。今回は対照として無処置コントロールと共に4HAQOの溶媒に用いた10%Ethanolを同量加えた群をおきました。2代目継代後、2日目に4HAQO及びE-OHsolnを夫々添加しましたが、添加後2日目に既に4HAQO群では中央部の細胞が剥離しますが、E-OH群でも4HAQO投与群と無処置群の中間程度の変化がみられました。目下carcinogen添加を続けています。
3)次に前報に記しました人胎児皮フの器官培養の写真を載せます。

 :質疑応答:
[黒木]再増殖してきた細胞のシートは薄いですか。厚くなりますか。
[高木]厚くなります。黒木班員の実験で得られたものとよく似ていると思います。
[黒木]細胞の形は少し違うように思いますが・・・。
[高木]4HAQOの添加は何回位が効果的でしょうか。アルコールの影響についてはどう考えますか。
[黒木]アルコールだけの対照群をとってみていないので、わかりません。
[勝田]4HAQO溶液のたらし方について少し説明して下さい。
[黒木]今やっている方法は、培養液を全部すてて、4HAQO溶液をたらし、すぐ培地を添加しています。局所は矢張りひどくやられますね。

《黒木報告》
 Malignant Transformation of Hamster Embryonic Cells by 4-NQO and its derivatives in Tissue Culture
 (7)再現性について
 この種の実験においてまず第一に重要視されるのは再現性でしょう。再現性をみるべくいくつかの実験がstartしています。
 結論から先にいいますと前のHA-1 or -2の確実な再現性は得られていません。しかし、これらの実験からtransformationの起り方が少し訳ったような気がしますし、また、今後の培養状の問題点も掴めたように思はれます。
☆NQ-4はNQ-2 or NQ-1と同様の経過をたどり、現在は増殖も安定し、P.E.も15%前後、colonyの大きさもそろっている。細胞はP.E. である。しかし、再度にわたる移植にもかかわらず、悪性化の所見は得られていない。
☆HA-3はNQ-4と同時にスタート、しかし凍結保存したCarcinogensを使ったためか、初期の変化も(criss-cross and necrosis)もみられなかった。90日すぎに細胞の形はfibroblast様にそろってきたが、growthは悪く謂るtransformed cellとは明らかに異なる。(班会議から帰って来たらcontamination!!)この失敗にこりて、以後の実験はすべて使用のたびに4HAQOを新たにpreparationし、使用後、残りを光電比色計(auto-recording)にかけ、4HAQOであることをconfirmするようにした。
☆HA-4、-5、-6、-7
 これは1x(2d.)2x(4d.)4x(8d.)8x(16d.)と4HAQO処理回数をかえたsiriesの実験である。これらのうちHA-4、HA-6、HA-7にtransformed fociが出現した。(HA-4は班会議から帰って来てfociを発見)(写真を呈示)
transformed fociの出現まで要した日数は、HA-4=total 85d.(添加後76d.)ただしtransformed fociであるのがはっきりと確認できたのはそれより15日後。HA-6=total 59d.発癌剤後50日。HA-7=total 59d.発癌剤後50日。
これらのtransformed fociの細胞はactiveに増殖している。polynucleated cellの多いこともその一つの特徴である。(HA-5にまだtransformed cellが出現しない)
現在まで得られた所見をまとめてみるとtransformationの経過は次のようになりそうです。・・Carcinogensを2 or 3d.数回処理→Early Changesが起こる(1)cell necrosis(2)fusiformedcells criss-crossed arrangement→この間の時間は実験毎にまた発癌剤によって異るらしい→Transformed Foci出現(1)densefoci(2)active growth。

 :質疑応答:
[勝田]動物に復元して出来たtumorを、培養に移した時の細胞はどんな形をしていますか。
[黒木]大量培養では始の変異細胞にそっくりです。コロニーでは上皮様細胞はありません。それ以外は同じようなコロニーが出来ます。
[勝田](1)Early Changesと(2)Transformの間の期間が一定でないということは、発癌剤を使っての実験では当然のことで心配する必要はないと思います。
[高木]結果からみると、4HAQOは6〜8回加えた方がよいということのようですね。
[黒木]なるべく作用回数をへらしたいと思ったのですが、結局は回数の多い方がよいようです。
[勝田]この実験を発表すると、どういう異論が出ると思われますか。
[黒木]4HAQOの方はよいと思うのですが、4NQOは変異までに長くかかりすぎるので、セレクションという事を指摘されるかも知れないと思っています。それから胎児の細胞を使うのは悪性化を知るのにはよい材料だと思いますが、コロニー法でセレクションか本当の変異かをしらべたりするのには、安定した株の方が材料として適していると思います。
[佐藤]対照が増殖しないということは問題がありませんか。発癌剤が発癌因子として効く前に、急激な株化への誘導因子として効いたということは考えられませんか。
[勝田]ポリオーマとPPLOだけは調べておく必要がありますね。
[堀川]in vivoで発癌剤として知られている薬品が、皆、in vitroでもこのような変異を起こさせるのでしょうか。
[奥村]in vivoでは発癌剤として知られているものであっても、in vitroでは発癌剤として効いたのか、変異因子としてだけ効いたのか、はっきりさせておく必要があると思います。
[堀川]しかし、それは大変むつかしいことですね。発癌剤として効いたものでも第一段階では変異因子として作用しているのではないでしょうか。
[黒木]化学発癌剤を使っての動物発癌の実験の経過も決して一定とはいえませんね。ということは何段階もかかって発癌するということだと思われます。そして矢張り第一段階は変異因子として作用しているのではないでしょうか。私の場合、培養細胞がin vivoでも増殖できる細胞へと変異するのは非常に短期間の間のような気がしています。
[勝田]そうでしょうか。
[藤井]復元してから長い期間がたってつくものには、宿主側に何か反応細胞、浸潤細胞といったものが、沢山出てきていますか。
[黒木]そういう所はまだみていません。今度の実験で感じたのですが、復元してtumorが出来たら、2ツあれば1ツは途中で採取して、組織像をみておくことが、悪性度を知るのに確実な方法ですね。
[勝田]話が少し変りますが、イノシトールを凍結保存に用いると、凍結された細胞の抗原性が変わらないという仕事が出ています。なかなか面白い仕事だと思います。
[藤井]ラッテのtumorを凍結しておいたら、マウスにもtumorを作る細胞に変わったという仕事が出ていましたね。
[勝田]細胞を凍結すると、抗原性が減るということになるわけですね。

《螺良報告》
 戻し移植の再培養
 乳癌及び睾丸間細胞腫の組織培養は、戻し移植によってその生物学的特性をチェックして来たが、それから更に再培養することによって、もとの培養細胞が再現されるかを調べた。
1.乳癌
 DDF30.10104♀に培養乳癌細胞MC10582と10590を7月16日に皮下移植し、41日後の8月26日に摘出して再培養した。培養方法は最初と同様にトリプシン処理し、10%コウシ血清加YLH培地を用いた。移植癌はかなりもとの培養細胞に似た未分化癌で大部分を培養に使った為になお1部に腺管状の構造があるかどうかは確かめられなかった。
 再培養とともに、その腫瘍の一部から同系のDD系への移植を行ったが現在ほぼ1月で何れも移植されている。ただし動物はすべて生存中である。(復元成績の表と顕微鏡写真を呈示)
 <目標>
再培養でもほぼもとの培養細胞と類似した敷石状の配列がみられる。しかし多方向に突起を出す細胞も再培養でみられた。
再培養のねらいは、戻し移植によって電顕的にB粒子がみられないか、そうして再培養によってこれがどれ位維持されるかを見ること、戻し移植を再び行ってなお腺癌様構造をとる能力があるかどうかを調べてみることにある。
2.睾丸間細胞腫
 睾丸間細胞腫はその移植性に関してホルモン依存性があるが、培養によって依存性は消失して雌雄を問わず移植しうる様になり、しかもこれをマウスからマウスへ継代することによって腫瘍増殖の潜伏期がかなり短かくなった。
 この移植腫瘍の特性が再培養によってどう変るかを見るために再培養を試みた。
 <目標>
再培養から再び戻し移植をして、ホルモン依存性の如何及び形態の如何を、もとの戻し移植と比較する。おそらく同様であろうと思われる。
 はじめの戻し移植では乳癌ウィルスのB粒子がみられたが、再培養でこれがどれ位維持されるか、そうしてたとえB粒子が消失しても再び戻し移植をするとまた出てくるかどうかを調べたい。既にKFマウスの正常睾丸にも電顕的にB粒子を見出して居り、乳癌ウィルスは乳腺ばかりでなく正常の睾丸にも産生されている証拠があがっている。

《永井報告》
次のシーズンまで、しばらく受精卵の化学分析を続けています。(アミノ酸分析結果と化学組成の表を呈示)
表からわかるように蛋白が90%近くで、蛋白部分は酸性基に富んでいる。残りの10%が何に由来するかは、まだはっきりつかめていません。Hexose+Hexosamineで1.7%にしかなりませんから。Sugarのgas chromatogramは、mannoseとglucoseが検出された。
受精卵の外側にあるjelly coatの糖はfucoseであるが、これは検出出来ず、jellyのcontaminationがないことがここでも云えると思います。但しφ-OH-H2SO4法でtestすると、3N-HCl、100゜水解物について試みた場合、7hr.以上の水解ではλmaxが485μmから480μmに移り、その他の(mannose、glucose以外の)Sugar-like substanceの存在が予想されます。これについては、reducing value及びφ-OH-H2SO4法でhydrolysisのtime courseをとってみると、20hrs.以降に、何か新しくSugar-like Substanceが遊離されてくるように思われる。普通Sugarは、3N-HCl、12hrs.の水解で殆どつぶれて、反応が消失するのが殆どである。赤外吸収図では受精膜は所謂蛋白の吸収図を呈し、SO4``1もSugarも少ないことを示しましたが、Jelly coatはSO4``1もSugarのOH吸収も強く出しており、主要部がSulfated Polysaccharideであることがよくわかります。
 
【勝田班月報・6611】
《勝田報告》
 パラビオーゼ式細胞培養法による各種変異細胞株の特性の検討
 これまで報告したように[なぎさ培養后のDAB高濃度処理]、[ダイエチル・ナイトロソアミン(DEN)による処理]などによって、正常ラッテ肝由来の細胞から色々な変異株が得られてきたが、これらの細胞が正常ラッテ肝細胞に対してparabiotic culture内でどんな態度を示すか、肝細胞株RLC-9及び-10を用いて検討した。その結果、次に記すように、3株とも夫々に相異なる反応を示した(夫々に図を呈示)。
 (a)なぎさ培養后DAB高濃度処理により生じた変異株“O":
 RLC-9とparabiotic cultureしたところ、2日后には変異の増殖促進、正常株への抑制が認められたが、日と共にその傾向が消失し、7日后にはほとんど相互作用が認められなくなってしまった。つまり無反応型と呼べるであろう。
 (b)DEN処理による変異株(Exp.DEN-2):
 RLC-10と組合せたところ、RLC-10の増殖はparabiotaic cultureにより阻害されたが、変異株の方は促進されなかった(図では反って若干の阻害を受けたように見えるが、推計学的には有意の差があるかどうか判らない。未検定である)。これはかってDABを4日間使って増殖を誘導したRLD-1株の特性と似ている。
 (c)DEN処理による変異株(Exp.DEN-13):
 変異株の増殖が反って阻害され、正常肝細胞株(RLC-9)の方が反って促進されてしまた。不思議な現象であるが、事実であるから何とも致し方ない。
 とにかく、変異株によってさまざまに特性が異なるということは、当然とは云え、面白いことである。最近癌毒素の研究を再開したので、色々と考えさせられているところである。
《黒木報告》
 ICCC、UICC、それに名古屋の腫瘍ウィルス・シンポジウムとききまわりやっと仙台にもどったところです。UICCは本部附にされたため、殆んど演題をきいてないのですが、名古屋ではたっぷり3日間腫瘍ウィルスの先端的な仕事に触れてきました。
 そこで感じたのはアメリカのものすごい精力的な仕事に比べて日本のそれが、いかに小さく箱庭的であるかということです。アメリカのこのウィルスの仕事を支えているのは、polio uirus以来築かれたtissue cultureの「幅広い」しかもかなりレベルの高い技術ではないでしょうか。日本の組織培養が、ともすると「組織培養家」の間に閉じこめられ、「秘技」的扱いをされていたことには反省の余地がありそうです。このことは組織培養学会をより広い分野の人達が参加出来るようにしていくこととあわせて考えてみたいと思っています。
 Chemical carcinogenesisもin vitroのtechniqueを十分に利用していかないと、virusからますますとり残されそうな感じです。その為にはin vitroのchemical carcinogenesisを組織培養家の間にだけ閉じこめておかず、広く生化学者(例えば九大の遠藤教授)が自由自在に取り扱えるようにする必要がありそうです。もちろん生化学者の人達にも勉強してもらはねばなりませんが、我々組織培養をやっているものも、より普遍的な技術を求めて研究する必要がありそうです。
 以上のことを考へながら、今後の仕事の方針を探し続けているところです。次の4つの点にfocusを合せる積りです。
 (1)発癌剤添加方法の改良
 先日のICCCの混乱のもととなった発癌剤の添加の方法について改良を加えたいと思っています。具体的にはPBS or 0.9%NaCl Soln.にcellをsusp.させ、そこにcarcinogenを加え、30min.程度contactさせ、次にcultureする方法です。又はMonolayerのうえにPBS or 0.9%NaCl soln.with carc.をのせ、しばらくしてからmediumとreplaceする方法です。
water solubleの4NQO 6-carboxylも用いる予定です。
 (2)Established cellによるtransformation
 Primary cultureによるtransformationはmalignancyをはっきりとcheckできても、celllevelの分析では劣ることは確かです。そこで、transformat.を容易に用いられるsystemにするためにも、established cell lineを上手に利用することが望しい訳です。具体的にはBHK-21、3T3を考えています。
 (3)Albumin mediumの使用
 Controlがspontaneous transformationせずにLimited growthを示す点にも、種々の質問が集中しますので、albumin med.を用い、もの点を追求します。なお、従来のlimited growthを「分化」と結びつけて考えるつもりです。
 (4)transformed cellの発癌剤に対する耐性
 化学発癌剤により発癌したとき、その細胞がそのagentによる変化したという直接の証拠はどこにもありません(virusではT抗原、核酸のhomologyをあげることができる)。一つのMarkerとなり得る可能性のあるのは、発癌剤に対する耐性です。この分析はH3-TdR、Ur、LEU、を用いて12日の癌学会までにdataを出す積りです。

《高木報告》
 1)器官培養による制癌剤スクリーニングの検討
 器官培養は細胞培養にくらべて組織細胞を一定期間ならばよりin vivoに近い状態に保つことが可能であり、また細胞培養では困難な人の悪性腫瘍組織などもごく短期間ならば維持しうると云う利点を有する。若し患者からbiopsyでえられた組織片を器官培養して、それに制癌剤を作用させ、その効果を適確に判定することが出来れば、至適な制癌剤を見出すにあたり、きわめて有用な方法であると云うべきであろう。本実験はこの様な考えの下にスタートした。
 ただここで問題になるのは器官培養においてはその効果の判定にあたり、細胞培養における細胞数算定と云う様な簡単ではっきりした指標が得られるかどうかと云うことである。この種の試みとして1964年にM.YARNELL等の報告があるが、彼等はこの指標として組織WetWeight 10μgあたりにとりこまれるP32のカウントをもってしている。しかしP32は、非常に非特異的汚染度の強いアイソトープであり、僅少量のWet Weightの測定では誤差が大きくて精度が悪いので、私達はP32の代りにDNAのSpecificの前駆物質であるH3をラベルしたThymidineを用いて非特異的汚染を除く工夫をし、組織の重量を測る代りに、用いた組織のDNA量と蛋白量を測定し、細胞活性を表現する指標として、DNA 1mg中にとりこまれたH3-Thymidineのカウントを以て表わす方法について検討を加えた。
 続いてこの系を用いてクロモマイシンA3やCHS等、二、三の抗癌剤についてDNA合成に対する抑制効果がどの様に発現されるかを観察し、制癌剤スクリーニングの為の基礎的な二、三の実験を行ってみた。
 培養に使用した細胞はヒヨコとハムスターの正常組織で、DNA合成の盛んな胸腺と脾とである。組織片は大体3x3mmに細切し、Stainless-steel mesh上より5%仔牛血清を含むE.B.M.に接するようにして気相は5%CO2 Gas、95%O2、又は空気、37℃の中で40数時間培養し、その間各種制癌剤を作用せしめた。作用后、組織片をH3-Thymidineと共に4〜6時間incubateし、反応中止后、Schmidt-Thannhauser-Schneiderの変法によりDNAを抽出した。 DAN量はDiphenylamine法により求め、液体シンチレーションスペクトロメーターにより放射能を測定してDNAの比放射能を求めた。蛋白量はビューレット法により定量した。
 先ず次の点につき検討した。
 a)培地中に加えられたH3-Thymidineがincubationの時間につれて如何に培養組織のDNA合成に利用されているかについて検討したが、DNAの比放射能とincubationの時間とに関しては、半時間から1時間位のlag phaseのあと6〜8時間までは直線的にDNAの合成がすすみ、それ以后、合成はやや低下する傾向がみられた。この低下した理由としてはincubationの際、組織片を集めて培地中に浸漬したこと及び、この培地より血清を取り去ったことも考えられる。従ってこの系の実験では4時間(時に6時間)のIncubation timeを用いた。
 b)培養組織片の大きさについて検討したが、これは肉眼的に大体同じくらいのものであればDNAの比放射能に大差ないことが判ったが、故意に小さくすると矢張りDNAの比放射能が大きくなる傾向がみられた。
 ついで制癌剤効果観察の一例として、A3及びCHSを1μg/mlの濃度で40数時間作用せしめたが、DNA合成抑制の程度はA3で50%、CHSで57%となり、CHSの方がA3よりもやや強い抑制効果を示した。この場合、ヒヨコとハムスターによる種類、胸腺、脾の別による差異は認められなかった。
 細胞培養法によれば、L細胞でA3の方がCHSよりも大体10倍程度も強い抑制作用を示しており、またHeLa細胞を用いても同様の傾向がみられている。即ち現在までの処、organ cultureではcell cultureとは異った成績がえられた訳で、この相違について更に検討中である。
 2)発癌実験
 先報に記した7月29日スタートのハムスターcell cultureは現在約90日を経過しcontrolは6代目、4HAQO添加群は5代目であるが細胞は広く伸びており増殖悪くなかなか移植出来そうもない。9月8日スタートの実験は20日目すぎてから急に細胞のdegenationが強くなり、回復不能の為中止した。
 10月12日新たに同様の実験をスタートした。方法は先月報のものと殆んど同じであるが、今回は3代でcarcinogenを添加したこと及び、継代細胞数を10万/mlと少くしたところ現在、carcinogenを除いて4代目へ移るところであるが、4HAQO・E-OHによるdamageが少くなった。まだcriss-crossやmultilayerの像はみられない。controlの細胞は3代に入り増殖が悪いが、それに反してcorcinogen添加群では可成りの増加をみている。

《三宅報告》
 先般来のDD系マウスの19日目の胎児についての皮膚のSponge法、意にまかせぬ結果に終りましたので、それより若い胎児を用いることにしました。妊娠日数と胎児の大さについての関連が、結果のもののついでではありませんが、みつかったのです。これに従えば、16〜17日の胎児の大さのものが、もっとも適しているように考えられたのです。数字で示されているところでは16〜17日目のものは888.7±13.55mgということです(図を呈示)。この時期の背の皮膚は培養3日目で次のような所見を呈しました。
 (1)最上層にperidermを押上げ、その下に角化層(恐らく不完全角化)を作り、その下には顆粒層を作りあげました。(2)Basal cellの核は培養前の対照にくらべて、極めて泡状で大きく、核小体も大形化しています。(3)Basal cellの配列に乱れがみられます。(4)この胎生の皮膚を切片にするに際し表皮が伸展してDermisの下に廻るという、技術上のArtifactが起る事があります。そのために興味のある所見が生れました。即ちDermisの裏に廻った表皮はSpongeの側につけられて、気体に接しないためか、ここでは角化が起る事が少く、表皮細胞がSpongの間隙に侵入します。原形質はbasophilicで核も大形化します。核小体も大きいようです。上皮細胞が創傷に際して、アメーバ様の運動をして傷害部を被覆するといいますが、このSpongeの中への移動もそれに類するものでしょう。 (5)以上の通りのBasal cellの配列の乱れ、Dysplasia(?)など、これから、16〜17日目のDD系マウスの胎児を対称に仕事を続ける理由が得られたように思うのです。

《螺良報告》
 系統別戻し移植による培養細胞の撰別
 月報6609号の実験が一応完了したので、まとめて報告する。これはもともと、DDの乳癌培養にC57BLの白血病細胞をcontact cultureして乳癌細胞に白血病ウィルスを感染できないかを目的としたものであった。しかし結果はDDの乳癌とC57BLの白血病の共存となり、しかも戻し移植によって夫々の腫瘍が系統別に再現された。前回ではC57BLの戻しの結果がなかったが、今回はそれが出たのでその組織像を示す(戻し移植のC57BL脾臓・写真を呈示)。
 さて問題は培養細胞であるが、その条件は下のようなものの4本をプールして3系統のマウスに戻し移植したものである(培養細胞と移植動物の表を呈示)。
 [まとめ]
 前回にはC57BLの結果が未だであったが、出来たのは白血病であった。期間が短いので細胞性のウィルスによる可能性は少い。小生らの他の実験に関連して考えるべきことが多いが、とにかく8ケ月培養しても細胞はHybridにならず、夫々のcompatibilityと腫瘍性を維持していたと思われることが今の結論である。

《堀川報告》
 哺乳動物細胞における放射線障害回復機構の分子生物学的研究。
 紫外線照射された大腸菌において、その主な障害の1つにthymine dimerの形成があることはDr.R.B.Setlowをはじめとする多くの分子生物学者によって見出された。この紫外線照射によって大腸菌のDNA鎖内に形成されるthymine dimerは、DNAの複製を阻止することから細胞の死をまねき、同時に試験管内の実験からもDNAえの紫外線照射は形質転換能(transforming)を失わせることが証明された。また一方ではこうした紫外線照射によって生じたthymine dimerを切り出し、もと通りの正常なDNA鎖に復元されるSplitting enzymeが同じく大腸菌のある特定のstrainにおいて見出され、それ以来紫外線を中心とした放射線照射による障害からの回復機構の研究はにわかに活況をおびて来た。
 これにともなって当然考えられることは、このような回復機構のSystemが哺乳動物細胞にも存在するか否かという問題であり、これが勿論今日の放射線分子生物学の中心問題となって来たことはひとり我田引水ではあるまい。
 こういう意味から帰国後はmouse L cells、Ehrlich Ascites tumor cellsをはじめとするCultured mammalian cellsを中心にして紫外線さらにはX線耐性細胞を再度分離し、それらのものについて大腸菌でみられるような現象、さらには、Splitting enzymeのごとき存在があるかどうかを追求しているが、最近になって非常に面白い回復現象がみつかって来た。すなわち紫外線照射されたEhrlich Ascites tumor cellsがある一定時間後に完全に回復してしまうというのである。この現象が微生物でのSystemとまったく同じ機構で説明できるかどうか(私としてはむしろ微生物のそれとは別の機構であることを望むわけだが)、またこういった回復現象はEhrlich Ascites tumor cellsのような上皮性細胞にのみ特異的にみられる現象なのか等々・・・は今後の実験にまたねばならない。場合によってはこれから2、3の細胞株を寄せ集めて比較実験をせねばならないだろう。いずれにしてもやることは山のようにあるが、今日のように学会、学会に毎日をついやしているようでは仕事にありつけるのはむつかしい。学会が一日も早く終り、再度実験がstartできることを願っているのが、いつわりのない現在の心境である。
 次号からは落ち着いてもう少し学問的に話しを進めます。

《藤井報告》
 何はともあれ、先日のICCCの成果の上ったこと、おめでとうございます。勝田班長のタレント(マスコミ・タレントの意ではありません)にも驚きましたし、皆さんの組織培養における研究レベルもよくわかって、門外漢乍ら、うれしく思ったことです。癌における組織培養学が根をおろしてきていることを眼のあたりみることが出来ました。癌における組織培養学が発癌という問題ととり組んで、確たる地歩を進め、成果の上ってきたことは、大きな光明でもありますが、このように組織培養学が一つの研究の手段から独立した学問になりつつあるときに、この方面の恐らくは大先輩である筈の欧米の国々から、私からみてかなりグローブな臨床材料の組織培養化の試みや成果が、堂々と発表されていることは、驚きでもあったし、ああいう地道な仕事を今だにやっている、あるいはやっていける国柄に感心もした訳です。そういえば勝田班の面々は、エキスパートでありすぎて、当初は、今でも近より難い感がないでもありません。
 同種移植免疫でcell-bound抗体の本体が未だにはっきりせず、血清抗体の方を整理して、cell-boundの抗体と関係づけようとやって来ている現状ですが、今までのところ19S抗体より7S抗体にcytotoxic活性があまりにはっきり出ています。一方、モデル実験(同種免疫の)でcell-bound抗体が19S抗体らしいというデータを持って居て、血清中のそれと関係づけるのに些か弱っています。私の場合、cytotoxicityテストも短時間(30〜60分)の判定なので、せめてリンパ節細胞の短期培養の上で、これ等抗体の活性をしらべてみたいと思っています。特にcell-bound抗体の活性試験などは、この培養がうまく出来ないと駄目のようです。 最近、抗体が抗体産生を抑える、例えば19S抗体を注射すると、7S抗体の産生が抑えられるという論文がありましたが、またK.T.Brunner等(Swissの実験癌研究所、ExperimentalHematology,No.11.1966)は、cell-bound immunityが血清抗体を注射あるいは培養液に附加すると抑えられることを言っております。血清抗体にもいろいろありますが、移植免疫屋からみると面白い話。

【勝田班月報:6612:ラッテ肝癌細胞の放出する毒性物質】
《勝田報告》
A)ラッテ肝癌細胞の放出する毒性物質:
さきに、双子管を使って肝癌細胞と正常ラッテ肝細胞のparabiotic cultureを初代あるいは第2代で試みると、AH-130でもAH-7974でも何れもその増殖が促進され、正常肝が壊されて行くことを見出して報告した。腫瘍と正常センイ芽細胞との間ではこのような相互作用は認められず、センイ芽細胞は影響を受けなかった。
 この肝癌細胞の放出する毒性代謝物質の本体が判れば、そしてそれに対抗できる物質を得ることができれば、癌患者を悪液質から防いで死期をおくらせ、それによって時をかせいで、或は免疫学的抵抗力の発生によって癌が癒るかも知れない。これが狙いで、毒性物質の本体を追究することにしたが、道具としては初代培養より株を用いた方が成績が安定するので、正常ラッテ由来の2倍体肝細胞株RLC-10を用い、初代のAH-130(母培養数日後)との間の相互作用を確かめたところ、左図(増殖曲線を呈示)のようにやはり特異的な相互作用が現れたので、このRLC-10を今後の解析に持ちいることにした。
 「仔牛血清20%+Lh0.4%+塩類溶液」の培地で肝癌AH-130を2〜4日母培養した後、同組成の培地で実験培養し、2日後に培地交新し、第2日から第4日までの2日間AH-130を培養した培地(これを“肝癌培地”と略稱)を分析に用いることにした。
 まず、RLC-10単独の培養に、培地内のsalineの代りにこの肝癌培地を20〜40%に添加して、増殖に対する影響をしらべると、肝癌培地によって明らかにRLC-10の増殖が阻害される、ということが判った。(以下、各実験毎に増殖曲線を呈示)
 そこで今度は肝癌培地の分析にかかった。肝癌培地を透析した場合のテストは、無添加の対照に比べ、無処理の肝癌培地を20%添加すると著明な増殖抑制が見られた。透析内液(高分子)はそれに反し、7日間を通じ、増殖を反って促進した。透析外液は2日後、4日後には抑制していたが、7日後には反って促進に変ってしまった。培地は1日おきに全量を交新したが、これは阻害物質の他に促進物質も含んでいること(或は培地組成由来の)を意味するかも知れない。
 透析後、外液と内液を再び混和したのでは、2日後には抑制を見せたが以後は作用が消え透析という処理によって失活するものがあることを暗示している。これは本来ならば、無処理の肝癌培地と同じカーブになる筈のものであるから。
 次に肝癌培地の透析外液、つまり低分子の方を、色々の温度処理してみた結果で、透析もせず、無処理の培地は7日間を通じて増殖を抑えている。そして透析外液(無加温)は2日後、4日後には抑えているが、7日後になると対照と差が無くなってしまった。2日後の成績が温度に反比例して抑制しているのは面白い。ところが7日後になると揃いも揃って皆、対照とほとんど差のないところまで上ってしまった。これが何を意味するか、は今後の問題であろう。とにかく毒性物質は低分子であるらしいことは云えよう。
 Parabiotic cultureの成績では、肝癌は正常センイ芽細胞細胞には影響を与えなかった。だからいま物質レベルで追うときにもno effectsでなければならぬ筈である。この意味の対照実験で、正常ラッテ皮下組織のセンイ芽細胞に対する影響をしらべた。無処理の肝癌培地は、対照とほとんど同じ増殖曲線となり、正常センイ芽細胞に対しては毒性を示さないことが判った。そして透析外液は著明な増殖促進を見せた。今後は無血清の合成培地で肝癌培地を作ってみたいと考えている。
B)肝癌細胞に対する放射線(コバルト60γ)照射の影響(増殖曲線と映画を展示):
 映画は500r、700r、1,000rと3種を撮したが、ここでは1,000r照射後1日後より4週後まっでを連続的に示す。ここでは特に多核巨細胞が如何にして照射後に生じ、且その運命はどうなって行くかを検索した。
 その結果明らかになったことは、コバルト60の1,000r照射によりAH-66肝癌(培養株)の細胞分裂は抑えられるが、数日経つと再開する。しかしこの場合、分裂直後に細胞質融合をおこなうものが多く、2〜3核の細胞ができてくる。これらは更にまた分裂をおこなうが、以後は多極分裂が多くなり、しかもまた分裂直後に細胞質融合をおこなうことが多い。こうして次第に大小不同の異型性の強い沢山の核を持った巨細胞が形成されて行く。細胞の致死的現象は瞬間的に起るが、分裂直後に起ることが多い。多核巨細胞も分裂をおこなおうとし、分裂直後に死ぬか或は再融合して延命する。
 これらの所見を基にして、あえて空想的作業仮説を立てるならば、放射線照射後によく見出される癌の再発には、二つの原因があるのではあるまいか。つまり、一つははじめから耐性の高い細胞が混っていて、それが淘汰されて残るということと、もう一つ、多核巨細胞からの健全な癌細胞の再形成である。
 若し細胞の生存と増殖に必須のgenesが、放射線照射によって障害を受けると、一部に機能欠損部をもつgenesになる。G1期よりG2期の方が障害を受け易いという人があるが、G2期にはgenesは倍加されているので、これは考えにくい。G1期にgenesに機能欠損部をもつ細胞は早晩は死んで行かなければならないが、G2期の片方に機能欠損部をもつ細胞は分裂しない限り生存できるし、分裂しても娘細胞の一つは健全にまた分裂をつづけられる。また機能欠損部をもつ細胞も健全な細胞と融合すれば生存できる。Genesが倍加しているものでは、それぞれに欠損部があってもお互いに欠損部を補い合って延命するが、分裂すると欠損部が致命的になって死なざるを得ない。照射された細胞に分裂後の細胞融合が多いというのは、このような理由からではあるまいか。
 ともあれ、このようにして次第に多核巨細胞が形成され、これが多極分裂した場合、機能欠損部をもつ細胞は個々には延命できない。そこでまたすぐに融合しようとする。しかし、非常に低い確立であろうが、全く健全なgenesだけを抜きとって組上げる細胞が生まれないとは限らない。そのような細胞が生まれたとき、これが活発に増殖して再発の因になるのではあるまいか。
 堀川班員、北大の放射線科、そして私たち自身の実験でも、照射後の耐性細胞は染色体数が減っている。この減少がどんな理由によるものか、その辺を探るということは、耐性のmechanismを明らかにする上の一つの鍵になるかも知れない。何種類かの探索法による所見を総合して考えるということは大変有益であると思われる。

 :質疑応答:
☆毒性物質について
[黒木]その毒性物質というのは濃縮できますか。
[勝田]濃縮できると思いますが、低分子物質らしいので、塩濃度の点で問題がありますね。
[永井]Collodion膜を使って透析に代る良い方法があります。しらべておきます。
[黒木]AH-130の方がstationary phaseに入ったときの培地ではどうでしょう。
[勝田]やってみないと判りませんが、Parabiotic cultureのときのカーヴから考えて、抑制しなくなる可能性はありますね。
[三宅]正常のセンイ芽細胞と正常肝との間の相互作用はどうですか。
[勝田]増殖しているセンイ芽細胞の方が抑えられていました。
[藤井]抗体産生細胞に対するAH-130の影響はどうですか。
[勝田]胸腺の株とAH-130とのparaではAH-130の方が抑えられていました。
[藤井]マウスに癌性の腹水を接種しておいて、免疫のため抗原を与えると、正常血清を接種しておいた場合よりも抗体産生能が落ちていました。
[勝田]増殖に対する影響と分化機能に対するのとでは違っているかも知れませんね。
☆コバルト照射について
[黒木]この細胞は継代していますか。
[勝田]照射後は継代していません。
[螺良]細胞質の廻るというのは、照射していないのも廻りますか。
[勝田]照射しないとこんな巨細胞が出来ないから判りません。
[堀川]細胞の種類によって、多核になる細胞と一核のまま大きくなる細胞とあると思いますが・・・。
[勝田]一核のまま大きいと云っても、その経過を映画にとってみないと判りません。二核の細胞が分裂に入って、染色体を形成して、そのまま大きな一核になってしまうのもありますから。
[堀川]多核の場合、全部の核が染色体を形成し得るかどうか・・・。
[勝田]多核ではH3-TdRを長時間入れてみても、とり込んでいない小核もあり、DNA合成の非同調と、不能が考えられます。
[黒木]多核の場合、染色体形成が映画で見られますか。
[勝田]見えるように思われるが、大きく球状になるので、はっきりしない場合が多いです。
[堀川]正常と癌の細胞を、混ぜておいて照射すると、Hybridが出来るのではありませんか。
[勝田]Hybrid形成は面白いと思いますが、正常と癌とではどういう面白味がありますかね。
[堀川]Geneの問題に入るわけです。
[勝田]Hybridの仕事はマーカーが大切ですが、照射によってmaskされていたgene機能のmaskが外れるという可能性もありますし、酵素レベルのマーカーも解釈が難しいし、困りますね。
[掘川]それは対照がちゃんとしていれば・・・。放射線でそこまで変えるというなら大変なことです。
[永井]照射によって融合のfactorが出来るということは考えられませんか。
[勝田]細胞膜の荷電の変化とか、いろいろ考えなくてはならないでしょうね。
[螺良]放射線だけで変異が起せますか。またこの線量は生体より多いですか。
[堀川]遺伝的レベルでAをBに変えるということは出来ないでしょう。この線量は生体より大分多く、L細胞では1,000rですと1回の分裂で死んでしまいますね。
[佐藤]生体へかける場合は線量の合計だけでなく照射法もずい分ちがいますね。センイ芽細胞と上皮細胞とでもちがいます。
[堀川]同線量でも分割照射の方が影響が少ないですね。しかもセンイ芽細胞は障害回復が早いとされています。

《黒木報告》
 ハムスター胎児細胞の4NQO及びその誘導体によるin vitro transformation
 (9)HA-1〜HA-7、NQ-1〜NQ-4のまとめ
 再現性については、前回までの報告では、はっきりとdataをもって示しませんでした。しかし、その後、移植実験をくり返した結果、かなりreproducibilityの高いことがわかりましたので、ここにまとめて報告します(以下ぞれぞれに、詳細な復元表を呈示)。
 4HAQO処置群のまとめです。この表でMorphologicalとMalignant transformationをわけてあるのはmalignantでないtransformationが得られたからです。HA-7がそれにあたります。Morphological transformationのみられなかった(transf.fociが出現しなかった)のは、HA-5の1本とHA-6の1本のbottleのみです。totalでは11/13ということになります。また、1回処置群でもtransformationが得られています。このことは4HAQOのphage inductionの有効時間は15分であるという遠藤さんのdataと比較して興味のあることです。(10分間作用させたgroupは現在観察中です)
 以下にHA-4、HA-6の移植成績を示します。組織学的にはいずれもfibrosarcomaでした。これに対し、HA-7ではくり返しの移植にもかかわらずtumorは形成されません。形態学的には、growth speed colonyの形からみても、他のHA-6などと区別は出来ません。
 次に4NQO及び6-chloro 4NQOによるtransformationの結果をまとめて示します。NQ-3は20日間にわたり4NQO処置をしたため、growthがとまったとICCCでもreportしましたが、UICCから帰って来たら、小さいtransformed fociがみられました(230日)。これは、4NQOにより、bottleのほとんどの細胞がdamageを受けたため、このようにおそくtransformat.したのであろうと想像しています。前に述べたEarly changeとTransformed Fociの間の時間の重要な因子としてこのcell damageの程度をあげることができそうです。また、興味あることは、HA-7と同様、NQ-4がくり返しの移植にも拘わらず、tumorを形成しないことです。移植は79日から219日まで6回にわたり、25のcheek pouchまたはSCに移植していますが、すべての例でnegativeの成績です。(histologicalにはgranuloma)
 このようなnon-malignant morphlogical trasformationが何を意味するのか(NAGISAの場合も含めて)今後考えてみる必要がありそうです。例えば移植抗原の変化による移植拒否の可能性も否定できません。今後に残された問題点の一つでしょう。
 以上の現在までの成績をまとめ、schemaを考えてみました。Controlはcollagen(fibre)を形成する点からdifferentiationとして理解しています。(schemaを呈示)それはNormal CellsはDifferentiationへの道とSpontaneous transformationへの道へ分かれる。CARCINOGENSを作用させると、Morphological Transformationを経て、Malignant transformationへと進むが、not malignantのままでいるものもある。

 :質疑応答:
[高木]最後のスライドにある対照群の分化ということと、実験群の中に途中でそれに近い状態がありながら、長い時間たってから増殖しはじめたものがあるということ、とをどう考えて居られますか。
[黒木]対照群も同じように培地を変え培養をつづけているのに、未だに増殖しはじめるものがないということから、この場合の分化は対照群に特有の現象だと考えています。
[勝田]対照群は繊維を作っていますか。
[黒木]まだ染色してみていません。
[高木]どの系の場合も、一時繊維を作るような状態を経過して、変異細胞が出現したのですか。
[黒木]そうです。しかし変異細胞の出現する時期は一定ではありません。
[勝田]対照群の分化ということについてですが、培養0日のものが分化していない細胞だという証明をしておかないと、培養内で分化したと断言するのは危険だと思います。我々の仕事の中に鶏胚心の初代培養で、ハイドロキシプロリンの定量と鍍銀染色と平行してみたものがあります。その場合、ハイプロの量は初期から細胞当りにすると同量位でしたが、銀繊維はstationary phaseにはいって初めて現れてきました。つまり材料は作っていたが、プールしていたということです。
[三宅・堀川]この実験方式では、分化ということは強調しない方がよいと思います。
[堀川]この方式で、adultでもうまくゆくでしょうか。
[勝田]僕も胎児という点にひっかかります。
[黒木]自分の方針としては、もう少しハムスター胎児で実験をつづけて安定した実験方式を立てたいと思っています。
[勝田]たしかDr.Sanfordだったと思いますが、ハムスター胎児の株を作ることも出来るのに、黒木氏の場合どうして対照群が増殖しないのだろう、と不思議がっていました。
[黒木]自分が不思議だと思うことは、形態が全く同じなのに、ハムスターに復元してもつかない系があるということです。
[勝田]我々の“なぎさ”の時、話したことですが、変異の方向にはかなりの幅があり、決して同じものばかりが出来るのではないと思います。
[佐藤]僕もずい分時間と手間をかけて実験してきましたが、今にして思えば復元してつくとかつかないとかいうことに余りこだわると、どうしようもなくなるようです。クローンを用いるとか、何とか方法を変えなければ、行詰まってしまうと思います。
それから引きつづいて、DABの吸収について調べているうちに、細胞の種類によってだけでなく、状態によってDABの吸収度が違うということを経験しました。増殖状態で++のものが、冷蔵庫内におくと−、ホモジネイトにしたり、超音波でこわしたりすると±、になってしまうのです。このことから、発癌剤をどういう状態の細胞にかけるかということも問題だと思います。
[勝田]酵素レベルではDABを吸収しないということですね。面白い仕事ですね。
いうまでもないことですが、ここで一言、佐藤班員の今までの手間のかかった仕事のすべてが、今度の黒木班員の仕事の成功の土台になっているということを、黒木班員は自覚すべきですね。
[藤井]変異の方向が異種へ向かった為に、復元してもつかなくなったということも考えられますね。抗原性の問題です。
[勝田]そういう面から考えると、この細胞系の場合、凍結保存しておくことはよくありませんねん。凍結すると抗原性が変わるということをDr.Morganが言っています。イノシトールを使うと抗原性が変らないというデータも出していますから、その点研究してみるとよいでしょう。
[藤井]復元してつかなかった動物の、リンパ腺の細胞が、復元細胞への抗体をもっているかどうか、調べてみるのも面白いと思います。
[勝田]先程の佐藤班員のデータについてですが、超音波は、酵素をこわしてしまいますか。
[永井]直接こわしてしまうということは無いと思います。しかし、遊離させるということは考えられます。
[佐藤]まだデータが不充分ではっきりしたことは云えませんが、蛋白合成をやっている時にだけ吸収するように思われます。
[勝田]我々の班もそろそろ発癌機構に入ってゆかねばなりませんね。DABの実験についても、もう一度あともどりして、静止期の肝細胞にDABがどう働いているかも調べたいものです。
[永井]黒木班員の4HAQO又は4NQOで変異した細胞系は、それぞれの薬剤に耐性をもっていますか。
[黒木]今しらべている所です。成長カーブの上で違いがあるのかどうか、コロニーを作らせるレベルでどうか。もう一つは、予研の山田先生の方法で薬剤作用後のH3TdR、H3UR、H3Argの取り込みがどうかという三点で調べています。
[勝田]薬剤の添加法について、もう少し工夫した方がよいと思います。
[黒木]考えています。癌センターの杉村先生のデータに4NQOを4HAQOにもってゆくのを、アルブミンが促進しているということがあり、一方東北大の山根先生のデータからアルブミンはハムスター胎児の細胞の増殖を促進するというのが判っていますから、アルブミンを使おうと考えています。
[勝田]染色体について、調べてありますか。僕が気にしているのは、同じ傾向が出るかどうかということです。来年度は4NQOを班として集中的にやってもよいと思います。もちろん他のものもやりますが・・・。

《佐藤報告》
自然発癌:
 1.Tumor-producing capacity of tha strains :RLN-8,RLN-10,RLN-35,RLN-36,RLN-38, andRLN-39.
 2.Days of tumor production of the straoms :RLN-8,RLN-10,and RLN-39.
 3.Rats died of tumor formation by the culture cells(RLD-10) treated without 3'-Me-DAB. についての膨大な表を呈示。
 1.は現在約1,000日になるnormalラッテ肝組織からの培養細胞のTumor-producing capacityです。観察中のものが多数有りますから、更に陽性のものが出る可能性があります。
 2.はTumor takeのもののみを集めました。RLN-8は腹水型の肝癌です。RLN-10及びRLN-39は上皮性の動物もありますが、sarcomatousの部分も見えます。
 3.はRLD-10株の自然発癌に当るものです。復元動物13/36が陽性です。復元細胞のculture dayは1091から1235日までです。

 :質疑応答:
[黒木]復元して出来た結節の組織像の中に未分化様の像がありましたが、あれは、腹水肝癌の遊離細胞を復元した時の組織像、又Dr.Evansの肝由来の培養細胞が自然悪性化したのを復元した時の組織像と似ていますね。
[佐藤]上皮性細胞と思われるものを復元して出来た腫瘍の組織像が、肉腫様にみえることもあるが、今の所どういうことなのか、はっきりわかりません。
[勝田]細胞の継代はどうしていますか。
[佐藤]0.2%のトリプシンで浮遊させ、遠心沈殿して細胞を集めます。大体2週間に1度継代しています。
[勝田]Dr.Hayflickが培養内の変異は殆どウィルスによるものだと云っていますが、佐藤班員の場合、培養の総日数に関係なく、或る時期にどの系もつづけて変異するということはありませんでしたか。
[佐藤]そういうことは経験していません。若い年齢の動物から培養すると早く培養内悪性化が起るという傾向があるように思いますが、データが少ないので確信はありません。又、悪性化は徐々に起こっているようです。
[勝田]では培養0日に悪性細胞がいるという事は考えられませんか。
[佐藤]それも考えられると思うので、今しらべてみています。
[堀川]復元後400日なんて長い日がたつと、動物体内で又何が起こっているかわかりませんね。もう少し短い期間に勝負出来ないと、解析することがむつかしいですね。
[勝田]さっきの培養0日に悪性細胞がいるのではないかということについてですが、培養初期にクローニングすると、悪性細胞のクロンがとれるというデータがある位ですから、よく調べてみないといけませんね。
[黒木]最初から悪性細胞が混ざっているのか、或いは悪性化しやすい細胞が混ざっているのか、どちらでしょうか。
[勝田]調べてみないと判りませんが、どちらの場合も可能性があると考えられます。それについても、42年度には高等な細胞でもクローニング出来る方法を確立したいものですね。それも確実に1匹からのクロンをね。松村氏のレジンを使う方法も皆で開発したいものです。
[黒木]コロニー形成の頻度の高い状態で、クロンをとれば、それぞれ特性のあるクロンがとれると思いますが、その頻度の低い状態の場合は、増殖の早いものだけを拾うことにならないでしょうか。
[勝田]何とかクロンを取るのに、奇抜な方法を考え出したいですね。
[黒木]培養瓶に小さなカバーグラスを沢山入れておいて、少数の細胞をまき、培養1日後に顕微鏡で調べて、細胞が1個だけついているカバーグラスを拾い出して培養している人がありますね。
[勝田]初めが1個だということを確認する点ではよい方法ですね。
[佐藤]さきに勝田班長が云われた初期にクローニングすると悪性細胞のクロンがとれるというデータは、炭酸ガスフランキで長期間培養してコロニーを育てていますから、その間に悪性化したとも考えられませんか。そう考えると、こういう方法で分離したクロンを使うのも又こわい気がします。
☆4HAQOの添加法については濃度と回数をどう調節すればよいか、炭酸ガスフランキについてその効用と弊害、癌と免疫について本当の所はわからないが癌免疫というものがあると思ってやりましょうという段階だということ、等々の雑談。

《高木報告》
 最近試みたハムスター胎児皮膚の低温低湿における器官培養で、可成りの成果を得たので報告する。用いた材料は生下2〜3日前のハムスター胎児背部の皮膚で、これを切取った後3x3mm程度にメスで細切後、これまでに何度も用いたハムスター胎児抽出液(H.E.E)2滴、鶏血漿(C.P)6滴よりなるPlasma clotにサージロンの上から置いて次の3群に分けて培養した。1)37℃群でa.は対照群、b.は4NQO 10-5乗Mol添加群、2)30℃群は4NQO(-)、湿度をincubatorのガラス戸内面に水滴が付くか付かないかの程度に調節したもの。
 低温だけでなく低湿としたのは、既報にある如く湿度が高いとPlasma clot融解物と水滴とのmixした液の中に組織片が沈没して了う為に、組織の壊死が早められるのではないかと思われるふしがあった為である。これらを炭酸ガス10%空気90%の気相にincubateして3〜4日毎に培地交換を行い、その度に4NQO 10-5乗Mol含有Hanks液を滴下し、対照群にはHanks液のみを滴下して培養し、夫々3、7、10、14、20日目に標本を作って観察した。培養前の組織では表皮層は2〜3層よりなり基底細胞層は規則正しく配列しており、極く僅かな角化層を認める。Mitosisは殆んどみられない。3日目のものでは各群共に表皮は3〜4層と幾分厚さを増すが、夫々の間に著明な差異は認められない。7日目になると俄然著明な差が現われ、37℃群では表皮と真皮は可成りはっきり区別出来るが、表皮は2〜3層で薄くなり、又基底細胞層は認められずmitosisもない。これに反し低温低湿群では表皮は5〜6層と厚さを増し、整然と並んだ一層の基底細胞層を持って、真皮と区分されておりmitosisも可成り見られる。
 尚4NQO群は対照に比べて著明に悪く表皮と真皮の区別もあまりはっきりせず、表皮層にあたる場所には長楕円形の核を持った細胞を少数みとめるのみで勿論mitosisはない。
 10日目になるとこれらの差は更に顕著になり、37℃群では基底細胞層は勿論表皮層も定かでないのに比べて30℃群では7日目のものと全く同様、組織はきわめて健常に維持されている。
 14日目のものでも上記の傾向は変らず、37℃のものでは組織の一部に僅かの細胞が生残している程度であるのに反して、30℃群では基底細胞層が乱れ、表皮が2〜3層になり幾分薄くはなるが、依然として表皮と真皮は画然と区分されており、mitosisこそみられないが明らかな差がある。
 20日目になると、30℃群にも構造の乱れがやや強くなり基底細胞層は殆んど認められないが表皮真皮の区別は可成りはっきりしている。
 又、この時期のものでは角質が表皮5〜6層に相当する厚さになり著明な錯角化を認める。37℃群では14日目同様、組織の一部に細胞が生残している様な状態である。
 以上、この実験に関する限り、低温、低湿と云う環境が皮膚組織の培養に対し、明らかな好条件を与えるものと思われる。この条件を用いて現在進行中の実験でも8日目までの所、全く同様の結果が得られており、今後は温度と湿度との関係についても更に検討したいと思っている。尚、本実験では4NQOの効果については目新しい所見は得られなかった。
(各時期の顕微鏡写真を提示)

 :質疑応答:
[三宅]低温で培養したものの組織像は、非常にきれいですね。気層はどうなっていますか。
[高木]炭酸ガス10%にしています。
[三宅]酸素が多いと角化に影響がありますか。とくに厚さについてどうですか。
[高木]角化層の厚さは一週間ではっきり差がつく位厚くなります。
[堀川]低温、低湿で培養しようというアイデアはどうして得られましたか。
[高木]生体での皮膚の条件から考えました。
[三宅]皮膚温のきめ方は、どういう方法を用いましたか。
[高木]そのための器具があります。今の実験では胎児を使っていますが、次からは生まれて直後のものを使う予定です。器官培養で三週間維持出来れば、発癌剤を作用させる実験が始められると思います。
[勝田]材料が胎児なら皮膚温37℃として培養してもよいように思いますが。
[池上]生まれる直前なので、培養中に分化して、生まれて直後と同じ状態になっているのではないでしょうか。
[三宅]ケラチン層が気体にふれる所と、ふれない所では、その厚さが違うという経験はありませんか。私は1例だけ、気体にふれる所の方が厚くなったというデータを持っています。
[螺良]培養に使われたのは皮膚のどの部分ですか。
[池上]背中です。
[三宅]組織片は液中にあるのですか。
[池上]Plasma clotの上にのっていて、正常な状態では空気にふれています。clotが液化してしまうと良くないようです。

《三宅報告》
 D.D.系マウスのMCA-filterに際してみられた基底層の活動的な細胞とSponge Matrixの中に侵入してゆく、アメーバ状の細胞、及びヒト胎児皮膚のMCA-Filter添付でみられたAtypismを思わせる間葉系の細胞(これは対照の培養でのH3-TdRを3μC/ml・2時間作用させると、強いuptakeをしめす細胞−筋細胞か、それとも結合織母細胞であるかは判明しがたいもの)が、このような型態に変ってゆくと考えられるのです。この3系のものに着目して追ってゆこうとしました。ところが、これを、そのままのSpongeに入れたままに培養しましても、永くmaintainを続けることが不可能であると知りました。そうした細胞が強い分裂像をSpongeの中ではしめして呉れないことでも、それと判ります。勿論又このようなSpongeで細胞がAtypicalな姿をみせたとて、これを悪性などとは考えられないことです。これから、この細胞を追う上に肝要であることは、何かの方法で、Spongeの外に取り出して、別の試験管なり、平板の上に置きかえて、増殖を期待することと、形態の変化をながめてゆくことにあると考えています。そのために小さい角瓶を用意して、上の3系の細胞が出来た時間をみはからって、Spongeを、丸ごとそのままに細切して平面上に移して、時間をかけて、その増殖を期待することにしました。これは難しい−少なくとも私たちの技術では−ことと覚悟しています。(顕微鏡写真を呈示)

 :質疑応答:
[勝田]これは1時間10廻転の廻転培養ですか。
[三宅]1時間12〜13廻転位の廻転培養です。2代目には静置培養にしたいと考えています。
[勝田]組織片のついているのは“なぎさ”の所ですか。
[三宅]いいえ、液中です。
[堀川]変異細胞と思われるような細胞が出ていて、大変面白いと思われますが、あの細胞については、どう考えておられますか。
[三宅]今の所、まだはっきり変異細胞とは言えないと思っています。
[勝田]一つの方法として、Dr.Heidelbergerのように、変った細胞の部分をバラバラにして細胞培養で増やす、というのも試みるとよいでしょう。
[三宅]皮膚の器官培養をしていて、さっきお見せした様な変異細胞を見られたことがありますか。核仁が大きくて、細胞質の染まり方が青い、というような細胞です。
[高木]あまり見かけませんね。
[勝田]その細胞のDNA合成については調べてありますか。
[三宅]まだ調べてみていません。次の計画として、メチルコラントレンにH3ラベルしたものを用意してありますから、使ってみるつもりです。

《堀川報告》
 A.組織培養による哺乳動物細胞の放射線障害回復の分子機構
 1)数年前われわれは、培養された哺乳動物細胞における変異性の問題を解明する目的から、組織培養されたマウスL細胞を用い、それから各種物理化学的要因(MitomycinC、8-azaguanine、UV線、γ線)に対する耐性細胞を分離し、その出現過程の解析並びに耐性細胞のもつ遺伝的特性の究明に主力を注いて来た。そしてこれから耐性細胞のもつ特性をgenetic markerとして耐性細胞間の形質転換(transformation)を試みてきた。
 2)次いで放射線照射により、マウスL細胞の貪喰性(Cytosis)が促進されるという現象を利用して、放射線障害を受けた細胞への正常核の取り込み、更にはhighly polymerized DNAの取り込みによる障害回復の研究へと仕事は発展した。
当時、Petrovic et al.(1963-1965)、Djordjevic et al.(1962)もこの種の研究を精力的に進めていた。
 3)ショウジョウバエの細胞を用いて分化の問題を追求していたマディソンでの2年半の生活の間に、細胞レベルにおける放射線生物学の中核的問題は一転した。
即ちThymine溶液を冷凍して、UV照射すると、2個のthymine monomerが結合して1個のdimerを生ずるというBeukersら(1959,1960)の発見が契機となり、大腸菌を用いた多くの放射線生物学者(Setlowら(1964)、Rupert(1962,1964)、Paul Howard-Flanders(1964)、Rorschら(1964)、Elderら(1965)、Jaggerら(1965)その他)により、微生物における紫外線障害回復の分子機構の研究は急速に進展した。そして最近にいたり、その研究分野はウニ卵(Setlow(1966))やショウジョウバエにまでおよんできている。
一方、高等生物細胞におけるこの方面の研究は(Troskoら(1965)の培養されたChinese hamster cellsを用いた局部的な仕事が現在の段階で知られる唯一つのものである。)電離放射線による障害回復の分子機構と共に今後に残された大きな問題である。
このような目的からわれわれは、マウスL細胞、マウスエールリッヒ腹水腫瘍細胞を中心とする培養細胞を用いて、放射線による障害回復機構の研究に着手した。今回はその予備的結果を報告するにとどめる。分析的研究は今後にまちたい。
 B.in Vitro発癌実験(計画)
 実験Aの方も比較的順調に進み出したのでやっと発癌実験の方にも手が出せるようになった。出来れば成体から得た細胞をin Vitroで癌化させ、それを成体にもどして勝負したいと思う。したがってマウスのBorn marrow Cellsか、Spleen Cellsをin Vitroで種々の物理的科学的要因で処理し、それを同系のマウスにもどし、白血病死をおこさせたいと願っている。このSystemの最も弱い点はウィルス関与をどのように処理するかという点にある。もう少し頭をひねってから出発したい。

 :質疑応答:
[勝田]エールリッヒ細胞の放射線障害の場合、成長カーヴでみると、3日後に増殖がおちて、1週間後には回復してしまうというと、3日〜1週間の間は増殖が早くなっているわけでしょうか。
[堀川]いいえ、1週間近くなると対照群はstationary phaseにはいってしまいますから、logarithmic phaseの傾斜としては平行しています。ですからgeneration timeは変っていないと思います。
次にやろうと思っている発癌実験のプランは、ネズミの骨髄と脾臓から血液細胞を採取して培養に移し、PHAを添加して幼若化させます。その細胞をXray、UV、DAB、4HAQOの組み合わせで処理し、もとの動物へ復元して、(1)細胞数の増減、(2)脾臓表面の細胞コロニーの形成等について調べようというものです。
[永井]X線、UV処理は白血病との関連性において考えているわけですね。
[勝田]面白い計画ですね。
[堀川]自分でもうまくゆけば面白いと思っていますが、ウィルス感染ということについては、きっと問題が残ると思います。
[藤井]骨髄とか脾臓とかを培養した場合、或る種の細胞群しか残らないということはないでしょうか。
[堀川]そういう心配もありますが、とにかく来年1年の宿題としてやってみたいと思っています。

《螺良報告》
 腎エステラーゼから見た睾丸間細胞腫のホルモン産生
 KF系マウスの睾丸間細胞腫を組織培養した場合、ホルモン産生能が培養で維持されているかどうかが問題となるが、培地よりも先ず細胞そのものについて調べたところでは化学的に検出できる様な量はなかった。そこでいろいろな方法の中で腎エステラーゼが雌雄で異ったZymogramをとる所から、培養の戻し移植をしたマウスについて調べてみた。
 (表を呈示)接種部位や動物の性は余り影響がないが、潜伏期はかなり長いので、接種動物は充分長く観察する必要がある。なおこれらから更にKFマウスに継代してゆくと、かなり潜伏期は短かくなっている。これは継代によって潜伏期の短いものを選択したことと共に、KFマウスも近親交配を重ねてよりhomogeneousになった為ではないかと考えられる。こうしてかなりのKFマウス及び担癌動物がえられる様になったので、無処置雌雄、去勢雌雄及びそれらの担癌動物の腎エステラーゼのZymogramをしらべることができるようになった。
腎からエステラーゼのZymogramを作る方法は、荻田善一氏の方法「薄層電気泳動法」I 代謝、2:78-87、同 II、2:246-256に従った。
(Zymogramの写真を呈示)写真は基線に近い方が一寸カブったが、濃い帯と中央に左右にやや薄い帯がある(♂)。雌にはそれがないが、担癌動物では雌雄とも去勢如何をとわず、同様の帯が出現している。
 問題はZymogramのホルモン産生に関する意義と、in vitroでどう応用するかということにあるが、それらは今後勉強してゆきたい。

 :質疑応答:
[堀川]Enzyme assayはどうやっていますか。去勢するとどんと変るのですね。
[勝田]他の動物でもそうです。Tumorになってもこの違いが残るものと、残らないものとがあるのですか。
[螺良]他の動物でもそうです。Tumorになったものと、なっていないものとでは、腎と肝でははっきり区別がつきません。血清ではどうか、やってみようと思っています。
[永井]Tumorを植えて、どの位で変動が出てくるのですか。
[螺良]このTumorは出てくるのがおそくて、はじめ2〜3カ月は触れないので、初期はとっていません。はっきり大きく腫大した動物でしか測ってありません。
[永井]Tumorの量との関係は判らない訳ですね。
[勝田]あのTumorが男性ホルモンを出しているのではないか−ということを云いたい訳ならば、去勢した雌に男性ホルモンを注射しておくという、群も作らなくてはなりませんね。
 :一般討論:
[永井]Keratinのことについてですが胎児と成人とではKeratinの組成が違いますか。
[三宅]電顕でFibrilの並び方の濃さがちがう、というのを見ましたが、あとは余り違いが無いようです。
[永井]Hormone-dependencyで、Keratinができたり、できなかったり、というのを聞いたことがありますが・・・。
[堀川]放射線の感受性のことですが、核酸のGC含量の多い細胞ほど感受性が高いという説があります。

【勝田班月報・6701】
《勝田報告》
 A)“なぎさ"→DAB処理により出現した変異細胞のAzodyes代謝能:
 10月のICCC及び月報でも報告しましたが、“なぎさ"培養后に通常の静置培養に移し、ラッテ肝細胞に高濃度にDABを与えたところ、非常に高率に変異細胞亜株ができました。これらは培地にDABを添加しても代謝しなくなってしまった株が多いのですが、なかに数株、とくに“M"という亜株は反ってきわめて活発にDABを代謝するように変ってしまい、20μg/mlにDABを与えても、増殖しながら3日の内にこのDABをほとんど完全に消費してしまうのです。この消費は光電比色計で、培地をblankにしてDABの最大吸収である450mμでのO.D.でしらべました。
 それではこの培地を生化学的に分析したらどうか、ということから、東大の寺山氏に依頼して、数種の亜株についてその培養后の培地を分析してもらいました。結果は下の表の通りですが、分別定量法について一応、彼の記載をそのまま下に記してみます。
[Benzene(5)+Aceton(2)の混液でAzodyesを抽出し、solventを蒸発させた后、dyesをalminachromatographyにかけ、DAB、MABその他を分別し、各分劃について2N HClで吸収スペクトルを夫々測定し、一応分子吸収度を(max,wave lengthにおける)40,000として計算した。]
 細胞数は夫々50万個/ml、20%CS+0.4%Lh+Dで37℃、4日間培養后の培地。DABは20μg/ml(実際にはもっと少かった)に添加しました。Tweenは0.01%。(表を呈示)
[B、T及び培地では多少、水酸化体乃至polymerらしいazodyeがありましたが、これは培地にもある点から、代謝によって生じたというより、元の使用したDABが不純だったためと思います。その点MABについても同じで、これも混在していたものでしょう。]
 亜株Tは代謝能を失った亜株の典型的な例です。培地だけ(20μg/mlに入れたつもりが、実際は13.5μg/mlだったようですが)のsampleより、むしろ多い位です。Mと比べて非常に対照的です。
 これによって教えられたことは、このような分析の場合には、やはり精製したDABを使わなくてはならないことです。
 今后は、この亜株Mについて、DAB分解酵素の追究に入って行きたいと思っています。
 B)4NQOについて:
 4NQOと4HAQOの吸収について黒木班員がかって月報にかいて居られましたが、我々は4NQOをアルコールではなく、dimethyl sulfoxideで溶くことにしたため、一応その吸収と消長をしらべてみました。
 4NQOはdimethyl sulfoxide(DMSO)できわめて迅速に室温で溶解し、沈澱も生じなかった。これを少量のPBSとさらに塩類溶液Dで稀釋して、日立の自記分光光度計でしらべた処、252mμ(紫外部)と366mμ(可視部)に特異吸収が認められた。Blankには4NQOを含まぬ同様の混液を用いた。終濃度(5x10-5乗M・4NQO)。
 次に4NQOい対する血清及びLhの影響をしらべた。4NQOをDMSOで10-2乗Mにとき、これに9倍容のPBSを加え、さらにこの混液に9倍容のDを加えて、10-4乗Mの4NQO溶液を作った。これに等量のD或は培地(20%CS+0.4%Lh+D)を加えて、一定時間おきに252mμと366mμでの吸収の変化をしらべた。但し、252mμでは培地自体の吸収もあるので、Dを加えた場合のsampleしか測定できなかった。
 (表を呈示)BlankはPBS・5容+D・95容+DMSO(0.5%)で、4NQOの終濃度は5x10-5乗Mであった。中原氏の報告では4NQOを血清と混和すると、SH基にすぐ結合し、4NQOの活性が失われるとされたが、こうしてみると仲々失われないようである。SH基の培地中での数と4NQOの投与量の関係もあるかも知れない。釜洞氏の報告もまんざらホラではないかも知れないことになる。(投与日数の影響について)。

《高木報告》
 私共の月報もすでに80回目を迎える様になったことは誠に感無量である。その間班員各位のうまざる努力の累積が昨年黒木氏のin vitroにおける発癌系を生み出し、今年はこれからいよいよ次のstepにふみだす新しいepochと云えよう。今年の私共の研究室の目標は (1)organ cultureによるcarcinogenesisの実験
 organを出来る丈長くin vitroで培養すべくガス組成、ガス圧、培養温度、培地組成などの基礎的培養条件を再検討する。この為、新たに機械を試作して検討中であるが、一方現在至適であると思われる条件で皮フを培養して、これにcarcinogenを作用させたものを移植までもって行き、その変化を観察したい。すでに移植実験はtraining中であるので、まもなくこの実験は軌道にのるものと思う。
 (2)黒木氏の発癌実験を再現して、その上で発癌機構の究明に一歩踏出す
これ迄4HAQOを用いた追試は未だcarcinogenesisを起すに至っていない。これはtechniqueの問題もあると思うが、一つにはCO2 incubatorのtroubleがあまりにも多すぎたことによる。ここ当分は安定した癌研のCO2 incubatorで仕事をすすめる予定である。発癌実験を追試しえたならば、その機構を明らかにするため次の方向にすすむことを考えている。
 即ち、高橋の協力の下に、一まず癌化の各時期におけるRNA、DNA含量の変化を観察し、つぎにメチル化アルブミンカラム法によるRNAの分別を試みて癌化と各種RNA合成との関係を明らかにし、癌化の本質の追求に努力する。これまでに正常細胞から癌化の本質をさぐると云う意図の下にDNA及びRNAにつき、その含量や塩基組成の差をみるといった仕事は可成り古くから行われて来たが、これらの成績は癌化へ至る中間の過程についての知識はきわめて乏しい。この意味でin vitroの黒木氏の発癌系は細胞の癌化と核酸代謝の関係を追跡する上に一つの手段として期待出来る。いろいろな問題はあると思うが少しでも目的に近ずきたい。  次に12月来の実験データを記載する。
 1)ハムスター胎児皮フのorgan cultureを再び低温・低湿で行い前報の結果を確かめた。 培養方法は前報と殆ど同様であるが主体を30℃群におきこの群に
 a)H.E.E.2滴、chick plasma 6滴よりなるclotを用いた対照群
 b)同上に4NQO 10-5乗Mol添加(塗布)
 c)同上に組織片支持にサージロンの代りにミリポアフィルター(HA)を用いたもの
 d)同上を空気中においたもの
 e)H.E.E.の代りにC.E.E.を用いたもの
等に分け、これに対する対照として
 f)37℃、高湿度のものを置いた。
d)群を除く全群を10%CO2・90%空気中で培養し、d)群のみは底に水を容れたポリエチレン製の容器に入れて密封し、同じCO2 incubator内に置いて温度を一定にした。培地交換は最初の一週間は行わなかった。それはH.E.E.を用いたplasma clotがなかなか出来なかった為であるが、この点種々検討した結果H.E.E.plasmaをmix后、5〜10分間30℃にincubateすることによりclotingが完全に起ることが分った。室温が下った為にこの様なことになったのではないかと思われる。
 培養結果
 培養前の組織は、今回はすでに出血の始まっている全く生下直前の動物であった為、可成りの分化を示しており、2〜3層の表皮層の上には既に表皮層の1/2程度の厚さに角化層を認め、真皮には多数の毛嚢と少数の毛根をみる。培養4日目のものでは殆ど全群共に規則正しい一層の基底層を持つ3〜4層の表皮層を持ち角化層も1.5倍程度に厚さを増しているが、予想された様に唯37℃群のみ幾分表皮層が薄く基底層の配列も乱れている。4NQO添加群にも特別の差を認めない。8日目に至り上記の差は一段と著明になり、30℃群では全群角化層及び表皮層は更に幾分厚くなり、基底層の配列も規則正しいのに反し、37℃群では表皮はかなり薄くなり、基底層も殆どみられない。
 30℃群間ではH.E.E.、C.E.E.間にも又、サージロン、ミリポアフィルター間にも4NQO添加群にも特記すべき差異を認めなかった。尚、空気中に置いたものは5日目にカビのcontaminの為に培養を中止した。
 今回は前にも記した様に培地交換に失敗した為か、12日目のものではいずれも前回に比しあまり健常でなかったので、これを比較することを止めるが、8日目までの所見からも低温、低湿が皮フ培養に適していることは裏付けられたと思う。
 2)ハムスターの皮フ移植
 培養皮フのハムスターへの復元に至る予備実験として無処置ハムスターの皮フ移植を試みた。用いたハムスターは生后7〜8週のもので体重は約100g、1昨年秋より一腹のハムスターより出発して雑婚により繁殖したものである。方法としては前の班会議で藤井氏により供覧されたマウスの皮フ移植法をそのままハムスターに応用したものであり、graftの大きさは約13mmである。
 a)5匹宛2腹計10匹のハムスターのうち同腹同志移植したもの8匹につき、2匹は繃帯の締すぎで翌日死亡、4匹は繃帯が抜けてgraftは既に落ちていた。繃帯の抜けなかった2匹は1週間后に繃帯を取り去ったが2匹ともgraftはtakeされていた。異腹同志移植2匹のうち1匹は呼吸困難で死亡、残る1匹はtakeした。
graftのtakeされたものでは2週間をすぎた現在、2〜3mmの発毛を認める。graftは頭尾の方向を逆にしてあるので発毛が完成しても見分けられるであろう。結局この群では3/10死亡、残る7匹のうち、3/7がgraftをtakeした。
 b)次に異腹同志3匹宛、計6匹を夫々移植したが呼吸困難で死亡2匹、繃帯が抜けてgraftが落ちたも2匹、残2匹は10日をすぎた現在、大体graftはtaeされたようである。生残ったもののうち2/4はtakeしたことになる。今後更にテクニックが向上すればtakeされる率はもっと高くなると思う。

《佐藤報告》
 新年お目出度得。今年も仲よく元気で頑張りませう。
 発癌実験についてDABの方はい結果は未だでませんが、今年はなんとか区ぎりをつけようと思っています。研究室で難波君がラッテ細胞←4NQOを試み始めましたので、少し報告しておきます。
 ◇1.4NQOをエタノール及びDimethyl sulfoxide(DMSO)を溶媒としてみました。DMSOの方がよくとけ5x10-2乗Mで美麗に溶けます。此より高濃度は未だ実験していません。溶媒そのものの毒性も未だ調べていません。10-2乗Mでエタノール及びDemethyl sulfoxideにとかされた4NQOをPBSで1000倍稀釋し日立分光光電比色計で吸収をとると、Peakは共に251〜252と360〜364との間にありました。(現在機械に少しノイズがあるため正確なPeakはもう一度調べます)。
 ◇2.ラッテ胎児組織の培養
 生まれる直前のembryoの頭をとり、ハサミで細切後Trypsin法で細胞を集め、TD15一本宛200万個の細胞を入れ、0.4%LD+20%BSで培養を始めた。
 ◇3.Primary culture後、72時間にエタノールにとかされた4NQOをPBSで稀釋して30分37℃に投与した。10-4乗M、10-5乗Mではdegenerative cellsの方がliving cellsより多く、10-6乗M、10-7乗Mではliving cellsの方が多かった。10-4乗Mのものは投与後3日の観察で殆んど全部の細胞が死亡。10-5乗Mのものでは残った細胞が増殖して来た。controlは増殖しており観察中。
 長期観察及び復元実験は細胞形態の短期観察を終って後行う予定。
 胎児のfragment培養は実験材料を得る迄に日数がかかるので今の所行っていない。
 ◇4.動物実験によると4NQOをとかす溶媒によって発生してくるTumorが異るといわれている。念のため、ラッテ新生児の皮下に下記の如く4NQOを接種しておいた。
 50μg(溶媒エタノール)3匹。100μg(溶媒DMSO)3匹。

《三宅報告》
 ヒト胎児皮膚のSponge Mtorix Cultureに際して、発育する角化層の厚さ、量の問題、時間の問題について、ここしばらく、発癌物質を与えることとは別に検索して来ました。Rollerdrumを用いる廻転培養で、培養液と気体(95%O2+5%CO2)ではみて来たのですが、これを静置培養にかえて、気体に触れているものと、終始培養液に触れているものとの差をみるために、tubeの中に植片をtandemに並べて、37℃と30℃(高木博士にならって)の2つの孵卵器で1週間の培養の後固定、HEの染色をみてみました。この方法ではRoller drumを用いる培養にくらべて、角質層の菲薄さが目立ちました。殊に気体にばかり角質の表面がふれて、MtrixになるSpongeが湿潤している状態のものが最も悪い結果を得ました。温度については、これからtestをかさねる決心ですが、30℃の方が悪い様です。これから気体をNにかえたりすることで、角化が気体や温度と、どの様な相関に出現するかということを追いたいと考えています。
 発癌物質を作用させることについては、皮膚の培養の条件をよりよくするために、昨年末以来、考案して来たのですが、spongeをplasma clotで硝子壁に附着する方法では、何の打開の道をえませず、Rat tail collagenに植えて、これに発癌物質を加えようとしています。一度Spngeに植えて、これに発癌物質を作用させ、その上で、また、この間、班会議で、少し触れました様なatypicalな細胞を、これから切り離して、新しく培養をするという迂遠な道を省略したいと思ったのです。昨年末から、このCollagenを硝子壁に親和性を保たせることに何度か失敗をくりかえしました。
 本年は、何とか、このatypicalな細胞を取り出したい一心です。角化をみてゆかうというのは、本筋からはなれて了うことです。発癌物質を添加する方法も、溶媒をかえ、濃度をかえ、細胞をみてゆく方法も、光学顕微鏡から、電顕のレベルに入り、用いる同位元素も、ととのえて、やりとげたいと考えています。

《黒木報告》
 明けまして、おめでとうございます。
昨年は後半を学会台風に吹き荒らされ、何が何だか分らないうちに終わってしまったような気がします。しかし、前半には仕事も調子にのり、ともかく第一段階の発癌に成功した年でもありました。丁度、登山に例えれば、班の仕事はpolar method(極地法)に似ているのではないかと思っています。勝田隊長のもとでbase campを築き、attack campまで次々に積み重ねる、そして、最後に何人かがattackするという方式に似ていると思っています。
 しかし、登山と異るのは、われわれの目的とするものは、独立峰ではなく、山脈のごとき、あるいは山塊のような、大きな相手であり、attackよりもrouteの重要視される事でしょう。 ともあれ、今後2〜3年の間にchemical carcinogensによるin vitro transformationは急速な発展を予想されます。UICCの発表のみでも、McArdleのDr.Heidelberger、NCIのDr.DiPaolo、Sloan-KetteringのDr.Borenfreundらがかなりのところまで来ています。私としても彼らに遅れをとらないよう頑張るつもりです。そのためにも、日本にいた方が得と思い、Dr.Heidelbergerその他からの招待は一応断りました。
 仕事の方は、established cell lineを用いる実験系を開発することに重点をおいています。現在もっている細胞は、Todaro,G.J. and Green,H.によってestablishされた3T3cellsです。まだ4NQOは添加していませんが、2月の班会議までには何かdataが出るかも知れません。初代培養を用いている限りは、実験も限られ、進歩もおそいと思いますので、何とかして3T3で成功させたいものです。
 もちろんhamsterの初代へcarcinogenを添加する実験も続けていきます。この方は技術のstandardを作ることに努めます。すなはち、もっとも短期間で悪性化させる方法は何か、HA-1〜HA-7の時間(transformする)のばらつきを少くすること、cloneによる分析などです。carcinogenのmarker(VirusのT antigenのようなもの)も何とかみつけたいものです。これがあれば、spontaneous transformationもこはくありません。
 ともかく能率よく余り学会にかきまはされず、落ちついて仕事をすすめたいものです。
《螺良報告》
 新年おめでとう御座います。昨年は何やかにやと忙しい年でしたが、今年はもっと静で能率の上る年になってほしいと思っています。
 さて今年どう仕事を進めるかということよりも、今の所昨秋留守勝の後片づけの仕事の方が多いようです。当方も本来は癌ウィルスの動物レベルの仕事から細胞レベルへと進路を求めて培養に入ってきたので、本業をどうするかはよく考えるべき問題だと思ひます。乳癌や白血病ウィルスを培養するという試みも昨年の結果では必ずしも有望とはいえないと思っていた矢先、モロニー白血病ウィルスからdefectiveな肉腫ウィルスが分離されて、先般彼がこのウィルスを置いてゆきました。之を用いると細胞レベルの仕事ができるのですが、既に米国ではかなりやっているので、私の場合どの様な進路を見出すかを目下考慮中ですが、とにかくこのウィルスに用いる為に、乳癌のmono-layerの培養系と、動物としては黒木君の所からもらったBALB/cをふやして次の仕事に準備中です。
 というわけでウィルスによるtransformationに力を入れると、とても化学物質にまで手がまわらないので、42年度は一応勝田班と離れるのが妥当ということになりますが、勿論培養の仕事は今後も続けてゆきますから、どうか従前同様に皆様の御教示を賜りたいと思って居ります。
 しかしながら化学物質も全く諦めたわけでありません。というのはこちらでA系による肺腺腫誘発の動物での仕事があり、それに合せた細胞レベルでの癌化の仕事をしたい目標をもっているのです。ただし昨年1年は之は夢に終ってしまいましたが、ただ年末にやった事を一寸報告しておきます。
 乳癌や睾丸間細胞腫はYLHで割に容易に生えるのに、肺腺腫はかなり困難なことは福岡での班会議の時にお話し、それについていろいろの提案を頂きました。その後Y抜き等でやってみて目ぼしい結果は得られませんでしたが、12月20日にA10432♀に移植した肺腺腫を摘出(移植後171日目)して、Eagle MEMにコウシ血清を10%加えて培養したところ、翌日から既に単層に発育を認めた。之はTD-40を5本用いてすべて同様の結果がえられた。
 (写真を呈示)写真に示すように、やや細長い細胞が並んでいて宛も腺細胞のようにみえる。この様な細胞は今までの培養でみられなかったものである。
 今までは平らにひきのばされた細胞質の大きな細胞をみることが大部分であった。尤も培養細胞の中には濃縮したものや、顆粒がでたものもあって、之等が今迄と同様の結果をとるか、或はそうでなくうまく発育をつづけてくれるかは今の所見込はわからない。
 しかし12月30日には5本のうち、1本のPA7-10005をA系の1匹に戻し移植をする所までこぎつけた。
 残念乍らこの時に他の培地で培養していないので、果してEagle培地がYLHよりよかったかどうかはわからないし、また今までより肺腺腫も継代世代が進んでいるので、細胞側の条件も同一でない。従って比較の材料がないが、とにかくPrimaryだけは上皮性らしいものが生えたことまでで年を越した次第である。

《堀川報告》
 1967年の新春をむかえ、班員の皆さんおめでとうございます。過去3度の正月をアメリカで過ごしてきた私にとっては、今年の正月は久し振りに日本の地で、しかも郷里の松山において少くとも3日間は総べての雑念を忘れてむかえることが出来たということで、満足感にひたっております。
 じっと静かに目を閉じて過ぎ去った1966年をふり返ってみるとき、それは実に多忙な一年だったと思います。自分の実験計画をたて、給料の値上げをどのように成功させるかだけを熟考し、客分として扱われていたアメリカの生活は特別としても、日本での研究生活には余りにも雑事が多すぎる。帰国後はこれが日本だ、とにかくどのような多忙をもきり抜けて研究面において立派な成果を出すのが日本での真の立派な研究者であると自分の心に云いきかせつつ、ここまでやって来たような訳ですが、あまりにもひどすぎる。これではユニークな仕事も生まれようがない。とにかく何とかしてほしいものですね。これだけは年頭に当って大いに叫びたいですよ。と云って日本のような貧乏国ではいくらガタガタ言ったところでどうなるものでもない。現在の段階では文句を云う前にまあ残っている雑事でも片付けて実験にとりかかるのが賢明な策のようです。さて新春をむかえるに当り、私も私なりに夢を抱いています。まず今年は培養細胞を用いて[放射線障害回復の機構]をとことんまでつついてみたい。この仕事はこれまで機会のあるごとに報告をしてきたので、皆さんの記憶の内にも少しはとどめていただいていると思います。昨年の予備実験から一応の方向がついてきたのでグングンと押して行きたい。ところで第2の仕事はin vitroでの[発癌実験]です。この問題はこれまで幾度かやろうやろうと考えながらもいろいろの事情から出発出来なかった仕事ですが、今年こそは是非着手して出来得る限り良き成果をおさめたいと念願しています。私にとっては未知の分野だけに、これから一歩一歩地固めをしながら前進させていかねばならない難問でしょう。とにかく夢は夜にまかせるとして、頑張らねばならない。今年ももう一年あれこれと不平を言う事なしに、もくもくと仕事をやり、稔り多い一年であるよう頑張ることを新年にあたり、ひそかに願っている次第です。皆さん今年もよろしくお願いします。そしてうんと頑張りましょう。

【勝田班月報・6702】
《勝田報告》
 A)4NQOの活性持続性:
 4NQOは中原氏らによれば、血清と混ぜるとSH基とただちに結合して失活する−とされている。しかし釜洞・角永氏らは5x10-7乗M・8日(これ以下はダメ)処理した群だけが悪性化したと報告している。そこで[20%CS+0.4%Lh+SalineD]の培地に等量の[10-4乗M4NQO+0.5%DMSO+SalineD]を混ぜて隔時的にO.D.の変化をしらべてみた。(結果表を呈示)。4NQOの終濃度は5x10-5乗Mとなり、血清は10%となる。これ以上血清をふやすと紫外部の吸収がみられなくなる。どうも結果表をみると、37℃・7日間加温でも4NQOは血清中で失活しないらしい。もっともこの場合、血清中のSH基の数と4NQOのモル比が問題になり得る。一桁ちがえば差は認めにくくなる。血清中の蛋白が10%として上の液中では1%(10g/l)。これを全部仮にアルブミンと考えてみると(分子量7万)、1/7000M。アルブミン1MにfreeのSH5コとして(牛6コ、ヒト42コ)、SHは1/1400M、つまり7x10-4乗Mとなり、5x10-5乗Mの4NQOを充分に収容し得る筈である。DMSOの関与は考えにくいので、血清内で4NQOがSH基にくっついて失活するという推論には、なお検討の余地がありそうである。
 なお釜洞氏らは4NQOを10-4乗Mに水に溶いたと報告されたが、これは本当に溶けているか否か疑問である。もっと低濃度ならば直接水だけでも溶けるらしい。
 B)RLC-10株細胞(正常ラッテ肝)の増殖に対するdimethyl sulfoxideの影響:
 これは昨年2月におこなった実験のデータであるが、最近班内でDMSOを溶剤として使うのが流行りはじめたので、お庫から出してお目にかけることにする。
 DMSOは培養2日后に添加をはじめ、以后7日間の増殖をしらべた。この細胞では2%だとはっきり第4日以后に阻害を示し、1%でも増殖を抑制しているが、0.5%では対照との間に有意の差がない。我々の実験に用いている終濃度はこれ以下であるから、増殖という点に関しては、まず心配はいらないと考えてよいであろう(図を呈示)。

《黒木報告》
 4NQO及びその誘導体のハムスターへの発癌性(in vivo)
 ハムスター胎児細胞を用いて4NQOのin vitro transformationをすすめるに当って気になるのは、4NQOがハムスターに発癌性を有するかどうかということです。現在までに4NQOによる発癌はマウス、ラット、モルモット、ジュウシマツ(Uvolonca domestica)で調べられていますが、ハムスターの成績はどういう訳か、昨年初めまではありませんでした。しかし月報6607に紹介したように英国のParish,D.J.and Searle,C.E.らによりhamsterもtumorの出来ることが明らかにされました。その成績を再び要約してみます。
☆Carcinogen:4NQO:0.5% aceton soln.(0.5mg/ml)
☆Animals:male golden 11匹使用、6〜7週
☆treatment:0.5mlを週2回、whole backに塗布(5mg/w塗布したことになる)
☆Results:この量はtoxicではない。Papilloma:14w(1匹)17w(2匹)27w(3匹)
(表を呈示)このSearleらの報告の他に、森和雄氏(昭和医大)がhamsterで発癌に成功しているそうです(未発表、私信による)。(阪大の釜洞教授のところでは癌学会のときにはまだ出来ていないとのこと)
 私が動物の発癌実験を始めたのは1966年4月11日ですが、in vitroが中心なので、in vivoは簡単の方がよいと思い、文献の中でもっとも手間のかからない方法を選びました。すなはち、中原・福岡のGann 50 、1959及び久米:医学研究 34、1964の方法に準じて、(1)Solventとしてはpropylene glycolを用いる。(2)皮下inj.によりfibrosarcomaの発生をねらう。これはin vitroで成功した場合fibrosarcomaがもっとも考えられるからです。(部位は右鼠蹊部)。(3)10日おき5回、total 1.0mg & 5.0mg。(4)4NQO、4HAQOの両者で行う。(5)動物は動物不足のためage sexをそろえられなかった。以上の方針でExp.を開始した訳です。
[結果]
 発癌物質の局所に対するdamageは著しく、注射部位はulcer necrosisをおこし、しばしばinfectionをみました。
 長期間にわたる実験のため途中死亡、脱出ハムスターも多く、完全なdataは得られませんが、現在までは1匹にtumorの発生をみています。(表を呈示。7匹のうち1匹は295d.にtumor・小豆大、あり)。このうちの発癌例は4NQO 5.0mgの1例のみです。この例は10月4日(177d)のときにはなく、学会嵐の吹き終った後、12月14日(249d)には巨大なtumorとして発見されました(写真を呈示)。発癌したのはその中間の200日頃と推定しています。
 組織学的にはfibrosarcoma、肺に転移巣(顕微鏡的・写真を呈示)がありました。
 この成績は、中原らによる同様の実験(雑系マウス使用、propylene glycolにとかし、皮下inj.、5回10日おき)と比較すると、非常に悪いことが分ります。
 このtumorを培養したところ、写真に示すような細胞及びコロニーが得られました(写真を呈示)。criss-crossに配列するところはin vitroのtransformed cellによく似ています。なお、動物継代にも成功しています。

《佐藤報告》
 A)自然発癌
 正常ラッテ肝組織から培養され株化された6株の内3株が夫々培養850日、1109日、1160日よりTumor-producing capacityをもった事を報告した。[月報6612]
 Tumor-producing capacityを示さなかった残りの3株の内、1株が最近になって、Tumor-producing capacityをもったと思われるので報告しておく。
 RLN-35(ラッテ日齢20日)で、(表を呈示)培養日数910日にi.p.接種、接種後313に腫瘍発生。また培養日数1009日i.p.では接種後184に腫瘍発生を認めた。
 B)4NQO→Embryo all
 (1)(図を呈示)1)Controlは39日現在尚増殖中と思われる。2)10-5乗Mのものは細胞変性がかなり強かったが、現在TD-15瓶に一杯になったので復元の予定。3)10-6乗M、30分投与をうけた細胞は培養7日目に継代し培養24日目に再投与を行った。一本には4NQO 30分、他の1本いは4NQOを連続投与した。連続投与では2日間で変性が強くなり以后4NQOを除いたが除去後7日目で細胞は完全消失した。
 (2)(図を呈示)略図説明。Rat Embryo(生れる直前)をExplant culture(RE-1)でスタート(TD40静置)。培養11日目に継代しTD-40 2本に分注、培養32日目にDMSOに溶かした4NQOを培地中に5x10-7乗Mになる様に入れた(7日間)。ControlとしてDMSOを7日間、同濃度に入れた。10-7乗では連続投与に耐える様である。

《高木報告》
 その後行ったハムスターの皮フ移植について報告する。
 先月報に記した皮フ移植は、panniculusを除いたgraftを、 panniculusを残して作ったrecipient側のbedに移植したもので同腹、異腹共に約半数がtakeされると云うまずまずの成績を示したが、実際に胎児の皮フを培養する場合panniculusを除去することは不可能なので今回はgraft側にもpanniculusを付けて、これをpanniculusを残したbedに移植することをa)adult→adult、b)suckling→adultの二つの場合について試みた。
 a)adult→adult
 生後、約8週間の1腹のハムスター6匹の背部に、約11mm径のbedを作りほぼ同時期の異腹のハムスターより約13mmのgraftを取って移植した。この際panniculusをつけた皮フではかなり厚く、又、硬くrecipient側に生体接着剤(alon alpha)で接着固定するのが幾分困難であった。9日目繃帯除去。現在14日目まで観察した限りではgraftの部分は痂皮様となり未だ発毛はみられない。しかし先回の移植実験でtakeされなかったものでは、bedの部分が瘢痕性の収縮を示して小さくなったのに比べて未だその傾向がみられないので、表皮の剥離した跡にこれから発毛がおこるのではないかと思っている。
 b)suckling→adult
 生后、6日目約2〜3mmの明らかな毛を持ったハムスターより径13mmのgraftを取り生後約8週目の1腹のハムスター7匹の背部に作った径11mmのbedに移植した。9日目繃帯除去。14日目の現在、途中麻酔死した1匹を除く6匹は、表皮はうすい痂皮状になって脱落したが、そのうち2匹はその跡に明らかに頭尾逆方向の発毛がみられ、graftはtakeされた。他の1匹はgraft全体が脱落して瘢痕状収縮をみとめ、残る3匹については目下の所不明である。 次に先報の結果についてその後の経過を追加する。月報6701に報じた移植群では5週を経過した現在、抜毛部の毛は完全に生え揃って、他の部分と区別がつかずgraftのtakeされたものでも、その部の毛は必ずしも逆方向にはならないで、takeされたものとされないものの区別が殆んどつかない。これはハムスターの毛はマウスと違って長くて柔らかい為と思われる。
 唯一匹だけ偶々graftの部分に白い毛が生えた為に現在でもはっきりtakeされたことが判るものがあり、今後はgraftの毛色を変えるように工夫したいと思う。

《三宅報告》
 H3-Methylcholanthren、H3-Uridineを用いて、培養皮膚に作用させた後に、光顕的に、その取り込みを追うよりも、電顕Autoradiographyにのせて、それに成功すれば、形態学をやるものが、発癌の機構を追うことに一歩近づくことになることを話したことがあります。ColdのMethylcholanthrenをさえ、うまく使用出来ないために、labeledのものは、長くfreezerの中に眠ることになっていました。H3-Methylcholanthrenを用いるステップになっていないままでは、仕方がありませんので、H3-TdRについて、その電顕Autoradiographyを第一病理の藤田博士のもとで、開始された方法を用いて、同教室の北村君がやって呉れたのがこのphotosです。H3-Methylcholanthrenの取りこみに取りかかる第一stepと考えています。
 (写真を呈示)核の中に濃く、不規則な、毛糸の切端の様にみえるのが、銀顆粒です。核の中の濃厚なopaqueのあるところに局在するかに見えます。核外に見られる銀顆粒状の濃いものは、人工産物です。形は明らかに違います。

《永井報告》
 4NQOと-SHgroupが反応しやすいこと、或は発癌物質と蛋白質-SHgroupとの関連性について、これまで得られている知見などを想い出してみたときに、これから述べることが何等かの示唆を与えはしないかと思って記してみた。それは細胞分裂と蛋白-SHgroupとの関連性について、日本の動物学者(団、坂井ら)によって得られている知見である。彼らによると(ウニ卵を使っての研究であるが)、細胞内蛋白の-SHgroupは細胞が分裂する直前に最大値に達し、それが減少し始めると分裂がおきる、という。この両現象は殆ど完全に同調しており、逆に云えば、-SH含量の変化を知れば、細胞分裂の時期を知り得る程である。
然も、この現象がみられるのは、0.6M-KClで抽出される蛋白についてであって、単に水で抽出される蛋白については、(図を呈示)図に示したように、丁度反対の動きがみられる。胚全体の蛋白は-SHでは全く変化がみられない。この0.6M-KCl-soluble蛋白は、水に不溶な性質をもっている。また、分裂卵細胞の内容物を、卵細胞からとり去って、いわゆるCortex部分と内容物部分とに分けるとCortex部分の-SHについて上記のSHサイクルがみられるが、内容物ではみられない。更に、Cortex部分にみられるSHサイクルについては、やはり0.6M-KCl可溶蛋白についてみられるだけで、今度は水可溶蛋白については、図にみられるような鏡像関係にある反対サイクルはみられなかった。次にSHサイクルは、トリクロール酢酸可溶性の蛋白についてもみられる。この場合、TCA-insoluble蛋白のSHは、図のような反対サイクルを描く。とにかくこのSHサイクルは丁度分裂との関聯のもとに一種のBiological clockのような現象として捉えうるわけである。もう一つわかっている興味深い事実は、1%エーテル含有海水で卵を処理すると、卵は分裂しないで、核分裂のみが進行する。そしてSHサイクルの方は、エーテル海水で処理した時点におけるレベルで止まってしまう。次にこの卵を普通海水に戻すと、卵は今度は細胞分裂を開始する。と同時にSHサイクリの方も、前に停止したレベルから回復を始め動き出す。そしてこの場合も、SHサイクルと細胞分裂とは同調している。この際、長時間エーテル海水にさらしておくと、核分裂の進行に応じているかのように、いっぺんに4分裂、或は8分裂を起こす(図を呈示)。このことが何を意味しているかについては、いろいろ後論はあるが、とにかく面白い事実である。団らは、細胞分裂機構との関連のもとにこの現象の研究を現在もすすめている。蛋白質のSH→←S-Sの変化と、蛋白物性の変化(即ち分裂機構の生成)とを結びつけようとしている。発癌剤との関連はどうであろうか。

《堀川報告》
 Leukemiaを指標とした発癌実験の第1歩として次の実験を開始した。
 1.まずマウスRF系♀(生後40日)からbone marrowを分離し、
 2.注射針でbone marrow cellsを無菌的に分離。
 3.分離されたcellsを3群にわけて次のように処理する。
 A群)20%牛血清を含むEagle minimum mediumでT-30フラスコ中でCultureする(23時間)。 B群)Pytohemagglutinin(PHA)を含む前記Eagle mediumでcultureする(23時間)。
 C群)4-NQO*をfinal concentrationで10-5乗Mに含む前記Eagle mediumでcultureする(23時間)。*Ethanolに溶かした4-NQOをmediumに加わえて最終濃度10-5乗Mになるよう調整した。溶液中の4-NQOのactivityは30分位で失活するというから、実際に23時間の処理でも、その作用時間は初期の瞬間的なものであると思う。
 4.23時間処理後、3群ともにnormalなEagle medium(20%牛血清を含む)にもどし、それぞれ6日間cultureする。この間cell numberのcountは行っていないが、cellのconditionはいたって良好。ただPHAを含んだ培地で処理したものは最後までcellが凝集する傾向にあった。(従って以後の実験にはPHAを加える必要なしと見る。)
 5.6日間正常培地でcultureした3群のcellsをそれぞれ900RのX線をあらかじめ照射したdd/YF系♀(生後40日)に一匹あたり40〜70万個cellsで静注する。
これは900R照射されたマウスのSpleen上に形成するcolony数から、injectしたbone mrrow cellsの生存率を検定するためのものである。
 (結果)。 今回の実験はみごとに失敗した。それは900R照射したマウスが、Spleen上にcolonyを形成する前に死亡したためである。今回の実験には一群に5匹ずつのマウスを使ったが、次回は少くとも10匹から15匹を使って生存マウス数を高める必要がある。
 現在の段階では全くfundamental ideaを得るための実験であるが、これなくしてはSecond stepに向う事が出来ない。次の実験を続行中であるが、同時に皆さんの御批判をこう。

【勝田班月報:6703:各班員4NQOによる発癌実験開始】
 A)4NQO類による培養内発癌実験:
 (1)ラッテ肺センイ芽細胞の4HAQOによる処理
 細胞はJAR系F20生後13日♀の肺組織由来のセンイ芽細胞RLG-1の培養内継代30代を用い、4HAQOは0.01N・HClで保存、PBS及びDで稀釋して2μg/ml(約10-5乗M)で用いた。TD-15の培養をこの液で37℃・10分間処理し、その後培地で洗って培養しています。処理は1966-9-8、10-3、10-6と3回おこなったところ、徐々に細胞がやられてしまった。しかし12月になって数コのコロニーが出来て、これを継代したが増殖はあまり早くない。復元の準備中である。
 (2)ラッテ皮下センイ芽細胞の4NQOによる処理(顕微鏡映画)
 JAR系ラッテがどうも続かないかも知れないと思われたとき、また同系統のラッテの雑系を元にして純系を作る企てをはじめたが、仮にこれをJAR2系と名付けると、JAR2・F1生後3日、同F2生後9日♀などの皮下組織からセンイ芽細胞をとり出して培養し、これを4NQOで処理しながら顕微鏡映画で連続的に形態の変化を追った。その一部を供覧する。はじめの実験では4NQOは塩類溶液Dで5x10-5乗Mに稀釋し、37℃、30分〜1時間処理した。次は映画をとりながら、そのまま培地に5x10-5乗M及び5x10-6乗Mに加え、24時間37℃で加温した。10-5乗Mのレベルでは細胞がほとんどやられてしまって、その後も細胞が生えてこないことが多い。この種の細胞では10-6乗Mのレベルが適当らしい。九大癌研の遠藤らは処理後に世代時間5時間などという細胞の出現を報告しているが、我々はまだそんな細胞は見出していない。
 4NQOが細胞内のどんな処へ局在するかをしらべるため、H3-4NQOを用い、H3TdRの場合と略同様の方法でRadioautographyを試みた。しかしどうも3日という露光時間は短かすぎたらしく、grainsが見られずに終った。
 また遠藤らの記載している核内封入体というのを確かめるため、10-6乗M、2x10-6乗M、10-5乗Mの3種で24時間処理して、原法通りに固定染色してみたが、封入体様の存在はほとんど認められなかった
 (3)4NQOの培地内安定性
 中原らは4NQOがSHと結合して不活化することを報告しているが、培地内で血清その他から由来するSHのために、4NQOが忽ち不活化してしまうかどうか4NQOを培地と混合し、20℃及び37℃で7日間、その366mμ及び252mμにおける吸光度の変化を追究したが、不活化は全く認められず、4NQOは培地に直接添加してもかなり長時間安定であることが判った。
 B)DAB代謝:
 “なぎさ”→DAB高濃度処理、DEN処理或はDAB-N-oxide処理後のDAB高濃度処理などによって、ラッテ肝細胞の色々な変異株が作られてきたが、それらのDAB代謝能を同時に比較してみた。1月号の月報に報告したように、寺山研で培地を生化学的に分析して頂いた結果と、我々のやっている培地を直接比色する方法の結果とが非常によく一致したので、ここでは450mμでの吸収を直接測ることにした。培地にDABを20μg/mlに4日間加えて培養したあとの培地の吸光度によって判定した。
 DEN群は、ジエチルニトロソアミンを10μgから1,000μgまで次第に増量しながら与えたあと(3ケ月)、さらに3カ月間高濃度DABで処理した株である。N-oxideは10μg/mlから50μg/mlまで4カ月与え、高濃度DABでさらに2月間処理した株である。
 大部分の変異株では代謝能を失ってしまっている(培地内のDABが減らずに残っている)が、MとDEN12、13とは反って代謝能が昂進し、4日間にほとんど完全に20μg/mlのDABを代謝してしまう。(ラッテ肝由来の各種変異株のDAB代謝能の表を呈示)
 何とかこの代謝に関与する酵素蛋白を分離したいと考え、細胞をhomogenate levelでまず粗く分劃し、DAB代謝が行われるかどうかをしらべた。細胞はDEN-13を用い、凍結融解3回、2,000rpm 15分の上清と沈渣とに分けた。容器は比色管を滅菌して用い、実験の終りまで同一容器にゴム栓で密封したまま加温し、そのままで比色した。反応液は次の組成であった。「ATP 10-3乗M、DPN 10-5乗M、MgCl2・6H2O 10-3乗M、ニコチン酸アミド 10-2乗M」を0.25M-Sucrose液に溶いたもの3容と「DAB 20μg/ml」を培地にといたもの1容の混合液である。すなわちこの場合、DABの終濃度は5μg/mlになった。結果は培地だけにDABを加えた場合には吸光度が反って増えて行ったが、沈殿の方ではわずかながら減少がみられた。今後反応液の組成を改良することによって分劃レベルで代謝を活発に行わせられるように努めたいと思っている。

 :質疑応答:
[堀川]凍結融解3回だけで細胞が全部こわれるでしょうか。
[勝田]無菌的に処理しなければならないので、この方法をとったのですが、回数その他、もっと検討してみましょう。
[永井]時間と共に「培地」のO.D.が上って行くのは、どういうことでしょう。
[高岡]実は低温で液を保存していたので、DABが一部析出していて、それが37℃加温と共に少し宛溶けて行ったのではないか、と想像しています。
[永井]DABの代謝産物も出ているかも知れませんから、全吸収カーブをとってみると良いですね。
[勝田]話が変りますが、永井班員のおすすめで、Collodion bag(ドイツ製)というのを買って先日使ってみましたが、透析とちがって外液でうすめられないから、低分子と高分子を分けるとき、とくに低分子を必要とするとき非常に便利のようです。
[堀川]Transformatin rateは計算できますか。
[黒木]現在のところはまだ・・・。
[堀川]4NQOで処理するとgeneralには作用を及ぼしますが、大きな変異がつかまるのは頻度の問題になりますね。
[黒木]封入体のことですが、月報No.6510にかきましたが、私の経験では、L、rat肺、吉田肉腫では出ません。HeLaでは出ます。
[勝田]封入体は、はじめは遠藤氏はRNAではなくdegraded DNAであると云っていましたが、その後訂正してRNAらしいと報告しています。どうも核小体の変性ということが一番可能性がありますね。
[黒木]そう、はじめはたしかにRNAを否定していましたね。封入体はfibroblastsでは出なくて、epithelで出るのではありませんか。

《螺良報告》
うっかりしている間に1月が過ぎ、月報の原稿を忘れたことは大変残念でした。
 さて年末に今まで生えにくかったマウスの肺腺腫がEagle培地で生えて継代できた事に勇気を得て、正常肺の培養のin vitro carcinogenesisにとりかかって見ました。とくに肺を選びマウスを用いた理由はA系マウスの生体でメチルコラントレン及び4NQOによる誘発実験をやったことがあるからです。尤もこの実験には以下のような問題があることも承知の上で計画しました。
 1.マウスは特にspontaneous transformationが多いが、in vitroでin vivoより速にtransformさせることを第一の目標とすること。
 2.今の所、TD-15及びTD-40しか設備がないので之でやって、transformationは主に戻し移植に頼ってチェックする。
 3.肺腺腫好発系のA系が充分得られないので、繁殖のよいICRで先ずスタートする。
 4.4NQOは10-5乗位までなら培地にとけるということで(微研・釜洞、愛知がんセンター・田中)投与を簡単にする為に直接血清にといた後に培地に溶いた。濃度は10-7乗〜10-8乗をねらった。
 5.正常肺として、胎生16〜17日のICR胎児肺を用い、10%コウシ血清加Eagle培地を用いた。4NQOとの接触は継代株を用いず、培養1日後から開始、細胞の変性を目標に正常培地に切りかえる。
 6.無処置の培養正常肺は継代して、時々ICRマウスへ戻し移植を行ってspontaneous transformationをチェックする。
 目下の所、培養は4週間程度で、TD-40を用いて培養した正常ICR胎児肺5本のうち、10-7乗を1本、10-8乗を1本4NQOを投与しました。
 「無処置群」NEP-1、NEP-2、NEP-3
 (顕微鏡写真を呈示)培養1日後、割に速かに発育し、1日後でコロニーの形成が認められる。細胞は敷石状の配列をとるものもあるが、培養日数を経るに従って遊走魚群状に並ぶ紡錘型の細胞もみられる。これら2種の細胞は互に移行しない様で、後者の中に前者が島状にとりこまれている所もある。
 培養2週間では主に後者の細胞が互に方向性を失って交錯したcriss-cross状の配列もみられるので、4NQO処置による変化に之が特異的かどうかは問題であろう。なお脂肪染色では変性顆粒以外に特に脂肪滴は明かでないが、PAS及びムチカルミンでは細胞質の染るものがある。
 「10-8乗処置群」NEP-5
 培養1日後から4NQOを2.7x10-8乗モル濃度に培地に加えたものでは細胞の変性が全く起らないようで、対照群と同様な発育がみられる。従って2週間後に継代し、さらに1週間後3代目の継代を行い、成熟ICRマウスに戻し移植を行った。
 (顕微鏡写真を呈示)初代培養5日目の位相差像は、大部分は敷石状にならぶ上皮性様の細胞であるが、一端に紡錘状の細胞もみられる。培養日数が進むにつれてcriss cross状の所見もみられるが、特に対照群との差異はみられない。
 「10-7乗処置群」NEP-4
 初代培養1日後に4NQOを2.7x10-7乗培地に加えると、既に12時間後に著明な細胞の変性を来すので、4NQOは一応溶解して作用しているものと考えられた。
 (顕微鏡写真を呈示)添加3日目には、細胞変性が著しい為に5日目で添加を打切り、正常の培地に切りかえた。変性の著しいコロニーがあるが、中には余り影響をうけないコロニーもあったので、その後培養を継続しているが、増殖が余り良くないので継代しうるに至っていない。
 「まとめ」
 以上、ICRマウスの胎児肺を用いて4NQOの添加を行ったが、添加は直接血清にとく方法によった。細胞変性が10-7乗と10-8乗の間で起っているので、之が今後の添加量の一応の目安になろう。今の所、生体で肺腺腫が顕微鏡的にみられる8週から12週を一応in vitroで添加の期間の最大限としてみたい。
 今後の方針としては復元経験でどうなるかを対照群と共に確かめることにあるが、さらにICR以外に、肺腺腫好発系のA系について同様の実験を試みたい。

 :質疑応答:
[勝田]細胞質全体に脂肪顆粒が拡がるのですね。Follic acidかATPを入れてみると防げるのではないでしょうか。銀染色は何日間培養後の染色ですか。
[豊島]2週間です。
[勝田]それなら普通ならば染まる筈ですね。4NQOの10-8乗Mは入れ放しですか。
[豊島]そうです。10mgを40mlにとかして、それから順に終濃度にします。
[堀川]復元はどこへやりましたか。
[豊島]皮下です。生後1週の仔、newborn、adult・・・いろいろやりましたが、newbornは翌日死んでいました。1週のは生きています。
[吉田]ICRはどの程度純系なのですか。
[豊島]判りません。
[堀川]Criss-crossのカテゴリーはどうですか。何層位に重なるのですか。
[黒木]うすい時にはよく判りますが、細胞が平行して重ならないで、直角に重なり合い、かなり厚くなります。
[勝田]しかしセンイ芽細胞は無処置でも上に重なったりしますね。
[黒木]24時間培養で処理となると、増殖した細胞だけでなく遊走してきたのもかなり混っていますね。初代24hrということは大変結構と思いますが、組織片でなくトリプシン処理して均一な細胞群にして使うべきと思います。4NQOはfibroblastsには強く作用しますが、epithelにはそれほどでありませんからね。それでepithelが残ったのでは・・・。
[勝田]あとにひとつ残った組織片から生えだしたのはどうもepithelのような感じでしたね。4NQOを抜いてから何日経って見付けたのですか。
[豊島]次の日です。
[勝田]作用中にも生えていて生き残ったのか・・。どうもselectionみたいですね。
[吉田]こういう実験のときは細胞の種類を一定にしておいてやらないと、はっきりしませんね。耐性獲得にしてはどうも期間が短かすぎるようです。
[永井]4NQO処理による変異細胞は、4NQOに耐性がありますか。
[黒木]他の発癌剤ではみな耐性があるとされていますが、4NQOの場合は無いようですね。4NQOを血清にとかすというのは少しおかしいですね。3x10-3乗Mまで水にとけるというデータがあります。6-chloro-4NQOはPBAによく溶けます。
[勝田]がんセンターの千原氏のデータに、4NQOが核酸の色々な組成の内、guanineに特異的に結合することを癌学会で発表していましたね。
[堀川]DNAもsingle strandだと結合しない。guanine以外だという説もあります。

《黒木報告》
今回は次の4つの点について報告をします。
(1)hamster embryonic cellsに対する4NQO、4HAQOの添加方法及び濃度の検討
(2)3T3を用いた4NQO transformationの検討
(3)凍結保存添加剤としてのinositolの使用経験
(4)NQ-3、NQ-4、HA-7の追加
 (1)ハムスターembryonic cellsへの4NQO、4HAQOの作用、特に濃度及び添加方法について
発癌剤の添加方法を
1)Monolayer growthの細胞にかける
2)Suspensionの状態の細胞にかける
の二方法に分け、また濃度も4NQOでは10-5.5乗、10-6.5乗、10-7.5乗また4HAQOでは10-5.0乗、10-6.0乗、10-7.0乗とそれぞれ3段階をおいてtestしてみました。
 ☆Exp.#433(1966.12.13開始)
 5日間cultureした初代培養のハムスター胎児細胞を100万個/B.づつ遠心管(池本40ml)にとる。cellsはPBSにsuspend、incubator(37℃)で2時間、4HAQO 10-5.0乗、10-5.5乗、10-6.0乗、10-6.5、10-7.0乗とcontactした。遠心でcarcinogenを除いたのち、TD-40に継代した。
 結果:Carcinogen contact groupとcontrolの間に何らのgrowthの差、形態の差はみられなかった。すなはち、cell necrosis、criss-crossed arrangementなどの“Early Changes”はいずれにも見られず、現在はpractically no growth。
 ☆Exp.442(1967.1.19開始)
 4NQO及び4HAQOをmonolayer growthの細胞に、溶かした濃度は4NQOで10-5.5乗、-6.5乗、-7.5乗M,4HAQOでは10-5.0乗、-6.0乗、-7.0乗Mである。
pronase処理で得られた初代培養細胞4日目にcarcinogenを添加した。
 4NQOはmed.中に吹きこみ、4HAQOはcell cheetに吹きつける方法をとった。(diluentは4HAQOは0.9%NaCl Soln.に0.1N HClを1/10量加えたもの、4NQOは生食である)
 処置回数は、4NQO 10-5.5乗Mが1日おき2回、他はすべて5回である(4NQO 10-5.5乗M群のみ2回なのはcell damageが甚しいため)。
 Carcinogen添加後19日(2月7日)現在では、4NQO 10-5.5乗、4HAQO 10-5.0と10-6.0乗にEarly change(criss-cross)あり、他は不明、目下継代かんさつ中。
 ☆Exp.447(図を呈示)
 初代の細胞を培養5日目に継代するとき、suspensionの状態で、4NQO、4HAQOを添加した。実験方法は次の通り。100万個/B.で培地中にsuspend、そこにcarcinogensを吹きこみ、最終conc.、4NQO 10-5.5乗、-6.5乗、-7.5乗、4HAQO 10-5.0乗、-6.0乗、-7.0乗とする。37℃のwater bath中で80回/mim振盪させながら処置。遠心してcarcinogenを除き、100万個/TD-40の濃度でinoc.した。
 結果:10-5.5乗M 4NQOはガラス壁に附着する細胞はない。10-6.5乗Mでも、10-7.5乗M or controlの1/10程度、4HAQOは細胞障害がほとんどみられなかった。
 Criss-crossed arrangementは10-6.5乗M 4NQOにみられたのみ、4NQO 10-7.5乗、4HAQO各群もcontrolと同じようであった。
 ☆Exp.451(図を呈示)
 Exp.447のdataから、4NQOの濃度とうえこみcell濃度に改良すべき点が明らかにんったので、次の組合せで実験を行った。4NQO 10-6.0乗M 300万個/TD-40、4NQO 10-6.5乗M 200万個/TD-40、4NQO 10-7.0乗M 200万個/TD-40、前回と同様、37℃、2hr.、80/m.でShaking。8日後(2月10日)継代のときは10-6.0乗Mに多くのfociがみられた。
 ☆以上のcarcinogenの濃度とsuspension contactの方法は実験後日も浅く、まだEarly changesの段階ですが、次のことは云えそうです。
1)4HAQOはsuspension contactでは全く効果がない。
2)Suspension contactのときは、half or one log 4NAOの濃度を下げる必要がある。そうしないと細胞が皆やられてしまう。またうえこみ細胞数も濃度に合せて加減する。
3)4NQOの濃度は10-5.5乗M〜10-6.5乗M(3.2x10-6乗〜3.2x10-7乗M)、4HAQOは10-5.0乗〜10-6.0乗Mがよいらしい。 
 (2)3T3細胞の4NQO transformationについて
 3T3細胞はNew York大学のTodaro、GreenらによりestablishされたSwiss mouseの胎児由来の株細胞です。Todaro→奥村→山根のrouteで我々の研究室にも入ってきました。この細胞が有名になったのは、SV-40のtransformationに対して非常に高いtransformabilityを有すること、aneuploidyであるにも拘わらず、contact inhibitionが強くかかり、50,000 cells/平方cmの濃度でgrowthが完全にstopしてしまうことです。
 tumor virusのin vitro transformationの仕事の発展をみていると、最初はprimary cultureからのmalignant transformationが行はれ、次いて、established cell linesを用いたtransformationの解析に入っていくことが分ります。chemical carcinogenでも、当然このstepは踏れることが予想され、そのための準備として3T3を取り上げた訳です。(進行図を展示)
添加方法
 I :従来の如く、cell sheetに直接吹きつける
 II :med.の中に吹きこむ
 III:PBSの中に吹きこみ、2時間後に普通の培地にかえる
Carcinogenとしては、はじめて水溶液の4NQO6Cを用いた(6-carboxyl 4NQO)。この物質は、PBS中に(Na+があるので)非常によくとける。発癌性はラットで証明されている(Kawachi T. et al,Gann,56,415-416,1965)。しかし国立癌センター川添豊氏の話ではmouseにcarcinogenecityはないとのことであり、私は目下は使用を中止している。
濃度(final) 4NQO6C:10-6乗M,4HAQO 10-5乗M,treatしたときのcellsはsubconfluent(logarithmic growth)の状態であった。
 結果:cell damageを2時間後にみたところ実験群III(PBSにcarcinogenを加える)はcell damegeが甚しかった。2日後には4NQO6Cは、かなりdamageからrecoverしてきたので、2日後ふたたび4NQO6Cを同じ方法で加えた。4HAQOはcell damageが強いので2回目の添加は行はなかった。その後回復の様子がみえないので、培地交換せずにtotal 19日間放置した。処置後21日後にcriss-crossed arrangement(写真を呈示)を発見、その他、巨核細胞、多核細胞を散見した(シェーマ呈示)。このような多核細胞はハムスターの胎児細胞を4NQO、4HAQOで処置したときにも認められた。
 さらに1週後(処置してから28日)にはMacroでもややdenseなfocusとして認められるようになった。focusの数は次の如きである。4HAQO I(cell sheet):7/TD40、II(medium):2/TD40、III(PBS):3/TD40。4NQO6C I(cell sheet):17/TD40(一部felt状)、II(medium):8/TD40、III(PBS):13/TD40。目下carcinogenのconcentなどをかえて検討中である。
 (3)凍結保存のときの添加剤としてのInositol
 Joseph Morganのdetaによると、inositolは細胞凍結保存のとき抗原性の変動を防ぐということが、勝田班長のお土産話として、班会議のときに報告されました。(文献では不明のため目下Morganに問合わせ中です)
 routine workには現在、DMSO 10%luquid airシステムで行っていますが、inositolに切りかえるべくその予備実験をしました。
 Inositolは水には15%(V/W)程度しかとけません。濃度を上げて20%までとかしても凍結すると析出してしまいます。
方法及び材料:吉田肉腫(ascites)。:medium、 Eagle 10%Bov.S.。:4℃に2h、-80℃に3h、以後liquid airに移し、3日後細胞の生存をtrypan blueで計る。
結果:
(% W/V or V/V) 20   15   10   7   5   3   2
inositol     25.2  56.0  73.0  80.0  76.8  −   51.5D
MSO 76.5 80.0 93.5 91.0 91.0  86.5  −
 上表の如く、DMSOと比較すると、生存率の低いのが気になります。凍結speedなどもDMSOとかえる必要があるのかも知れません。
このため、現在はDMSO愛用中です。
 (4)NQ-3、NQ-4、HA-7についての追加
☆NQ-3:継代し、目下動物移植をしているところです。
☆NQ-4☆HA-7:not malignant transformationとして報告しましたが、その後非常に長いlatentをへてtumorが発生、histologyはまだですがやや訂正の必要がありそうです。tumor発生動物は次の通りです。
#131 NQ-4 500万個SC移植(adult)培養95日の細胞、移植後206日に母指大のtumor発生
#212 HA-7 ch.p 200万個 148d. 移植後70日ch.pにtumor。

 :質疑応答:
[勝田]Cell sheetに発癌剤溶液を吹き込んで、どの位の時間おくのですか。
[黒木]20〜30秒位が濃い濃度で接触する時間です。後は培地でうすめられます。
[勝田]Criss-crossというのは、顕微鏡でみていて、或ピント面ではタテに細胞が並んでいて、ピントをずらせるとこんどは横に走っている−というようなことでしょう。
[黒木]そうです。そういうことです。
[勝田]振る場合は何時間ふるのですか。その間に4HAQOは失活してしまうでしょう。
[黒木]2時間ですから活性はなくなっていしまうと思います。
[勝田]3T3という株は、いつもFull sheetにならない内に継代してやらないと、性質が変ってしまうのではありませんか。
[黒木]Establishされてからはその必要はないときいたのですが、一部重なったりするのが見られるのはその為なんでしょうかね。
[佐藤]発癌剤がよく効くのは細胞の増殖が良いときで、growth Curveの落ちている時には効かないのではないでしょうか。
[黒木]Logarithmic phaseのときの方がきれいにtransformationが出るという報告がSV40-3T3の実験で出ています。
[勝田]振盪培養をする理由は何ですか。
[黒木]細胞を硝子壁につかせないためです。Cell sheetで処理すると、はじめ居た細胞の内、大半がやられて減ってしまいますが、これだとあとの培養開始のとき、中途半端にやられた細胞までも着かないから、Selectされてしまいます。
[佐藤]3T3は無処理では変異しませんか。
[黒木]形態をみているだけで、悪性度は見ていないようです。
[佐藤]復元後の所見は自分の場合と同じようですね。復元後長期間たって出来たtumorでも、再培養して元と同じような形態の細胞が出てくるので、接種した細胞がtumorを作ったと思います。しかし時々良性悪性の混ったようなのもあります。
[勝田]Heterochromatinが変異細胞に残っていれば、別の性の動物に復元して鑑別可能ですね。
[吉田]いや実はそれで問題があるのです。
☆吉田俊秀氏・4NQO変異細胞の染色体分析:
 黒木氏の4NQOによる変異細胞の染色体分析を仙台に赴いて行ないました。4NQOはmutagenic actionがあるとされていますが、変異細胞は何れも2nよりも染色体数が増えていました。無処理の細胞にはXXとXYのが混っていて、初めの材料が両性の胎児を混ぜて使っていることが判りました。
吉田肉腫に4NQOを1.6x10-3乗M・0.8ml腹腔内注射し、30分後に染色体の異常をしらべると、1)直後には染色体がばらばらに切断され、2)その後も切断が多くなり、3)48時間後にはtranslocationも認められました。H3-TdRを使ってみると、Breakageを起している細胞にだけラベルがあるので、G2 stageに効いているかと思われます。吉田肉腫の染色体の核型を大別してA、B、C・・・のように染色体群を分けると、A、G、B群の染色体に切断の起り易いことが判りました。切れ易い群と殆ど切れない群がありました。
[勝田]HA-7の染色体モードが2nと云われましたが、動物に戻したときは如何ですか。
[吉田]しらべて見たいとは思っていますが・・・。2倍体数の染色体の核型が正常のとは違っているのでほっとしました。元の材料に♀♂の混っているのはまずいですね。
[奥村]皮下の細胞を使えば20代位まで2倍体を維持できます。Spontaneousに悪性化した場合は2n-rangeのものが多いですが、この場合は非常にdamegeを受けた後の変異だから4n近くが出来たのではないでしょうか。G6Paseの活性は性染色体にあると云われますが、増殖に関するgeneと分化に関与するものと、分けられないものでしょうかね。
[黒木]Transformationは注意深く見ていれば細胞が少数の内にも見付かりますが、復元には数が要るので、増える迄待たなくてはなりません。
[吉田]癌の場合は増殖に関与する染色体だけが残るのではないでしょうかね。Plasma cell tumorを使って、染色体とγ-globulin産生との関連をしらべていますが、染色体数が倍加すると、γ-globulin産生量も倍加するというデータを持っています。今後、増殖と染色体との関連性も見ようと思っています。
[堀川]Hybridizationを使って、染色体レベルで倍になったとき、機能的に双方100宛のこともあり、50,50のこともあり、染色体と機能の問題はなかなか難しいと思います。癌化もgene levelで考えられると良いのですが、これが難しいことですね。細菌などの例から見ても、DNAを直接attackしなくても、ミトコンドリアに何か着くということで逆にgeneを変えるというようなことも考えられますからね。

《佐藤報告》
 (ラッテ胎児←4NQO実験系図を示す)RE-1とRE-3実験は4NQOをDimethyl-sulfoxideに溶かしたものを投与、RE-2はエタノールに4NQOを溶解した。形態学的に見ると、4NQOの影響を受けたと思われる細胞は小型で細胞質に顆粒を生じて来る。又、重なり合ふ傾向が現われる。Controlの細胞は外形質が広い。一般に認められる細胞はfibroblast like cellである。復元動物は目下の所Tumorをつくっていない。
 又、この実験で10-6乗〜10-5乗M程度が細胞の耐え得る濃度と想定できたので、5x10-6乗M(DMSO)で細胞を処理後、2、3、及び5日目に生死を観察した。
◇自然発癌:RLN-21 箒星状細胞の株を復元した例、10例中1例が復元後367日にTumorを形成した。粘液を分泌する株に見える。目下再培養して更に復元し性状を確める予定。
RLD-10及びRLN-21を含めてラッテ肝組織を起源とする細胞株8株中6株がTumor-producing capacityをもったこととなる。
◇DAB吸収実験は目下精査中。

 :質疑応答:
[永井]DABの消費がゼロになった時の細胞を顕微鏡でみると、どんな状態ですか。
[佐藤]すっかりこわれていました。
[堀川]低温では酵素が働かないのではないでしょうか。
[永井]酵素の働きを見るなら低温にして実験するのは意味がないと思いますね。
[佐藤]DABの消費が色素が蛋白に吸着することの結果なら、低温でもみられると思うのですが。
[永井]細胞レベルでの話と酵素レベルでの話とは区別して考える必要がありますね。
[勝田]佐藤班員の場合は、酵素レベルでしらべるつもりではなく、細胞レベルで、ただ細胞が増殖しない状態での消費をみたいと思ったわけですね。
[佐藤]そうです。増殖している状態で消費をみていると、増殖度が一定でないと消費量(細胞当り)が一定でなくなり、相互の比較が出来なくなるので、低温におけば細胞が増殖しない状態での消費がみられると考えたわけです。
[勝田]増殖している時期と増殖していない時期との消費のちがいを、同じ細胞で先ずしらべてみるべきではないでしょうか。それから4NQOの仕事の方ですが、何故胎児を使ったのですか。
[佐藤]培養が容易だということと、黒木班員と同じ方法で追試したいと、考えたからです。
[勝田]自然悪性化の頻度の高い胎児はなるべくさけて、新生児か乳児を使うようにした方が良いと思います。我々は乳児の皮下からfibroblastsをとっていますが、簡単に培養出来ますよ。我々の所では、なかなか細胞が悪性化しなくて困っていますが、材料にラッテを使っているからではないかと考えたりしています。ラッテの細胞というのは悪性化しにくいのではないでしょうか。
[佐藤]私の所で悪性化した系も、3年以上培養したものばかりです。悪性化するとは思いますが、しにくいといえるかも知れませんね。

《三宅報告》
 発癌剤を作用せしめて、その電顕のAutoradiographyを追究するというのが私共の目的の一つでした。前回の月報でも書きました通り、その目的をはたす前にTestとしてやった電顕のphotosの方が一足先に出来ました。それはヒトの胎児の(12週前後の)皮膚をSponge-Matrixで培養したものです。Spongeがあるという事が電顕の包埋後の薄切処理に障害を残すのではないかというのは単なる「キユウ」に終りました。この頃になると(培養1週間)、立派な角質層ができていて、その下の棘細胞層も4〜5につみかさねられています。角質層の部は、切片の中に出にくかったのですが、Basal cellsと棘細胞は、美しい像を現わしました。Basal layerでは、まだTonofibrilesが出来ていないのです。これは成人のこの部の細胞との大きい差です。棘細胞層では細胞間にDesmosomeが作られていますが、これから細胞質内に延びるべきtonofibrilesの走行は充分ではありませんし、又このTonofibrileの上に  して出来て来るKeratohyaline granuleの形成も不充分です。それらしく見えるのはMelanin顆粒と  されました。又正常の成人の棘細胞と異る所は形質が如何にも明快でOrganellaの形成の僅少なことでした。以後、20-MCAのlabelしたものについての、電顕Auto radiographyにほぼあしがかりが出来たことを申しのべたいと思うのです。また、先般から、tubeの壁に直接、Spongeをつけて、炭酸ガス+酸素のgasで培養を行い、培養液にふれる部と、ふれない部について、37℃と30℃の下で培養しました。これでは、液に全く  した所の液層が最も適していました。37℃と30℃とでは、差があって、皮膚付属器の出来上っている時期(九大の高木博士が前にしめされたハムスターの皮膚のような)では30℃がよくて、それ以前の未熟な皮膚については37℃が適当であるとの成績をえました。これから、しばらく、gasを(炭酸ガス+酸素)からNにかえること、30℃で廻転させてみて、皮膚の角化の差をみたい所存です。

 :質疑応答:
[勝田]高木班員のデータでは低温低湿がよいということでしたね。
[高木]そうです。そして実験をくり返してみましたが、同じ結果を得ています。しかし、結果は正反対のようでも、三宅班員の使われた材料は、まだ本当に未分化な3ケ月のヒト胎児の皮膚であり、私の所で使ったのは生まれる直前のハムスター胎児であることを考えると、むしろ理屈にあっていると思います。
[勝田]培養内でうまく分化したものですね。in vivoでの各時期の標本を電顕でとっておいて、培養内で分化したものと対比させてみる必要がありますね。
[高木]分化の度合いはin vivoよりin vitroの方が急速なようですね。
[勝田]どの位の期間、培養を維持できますか。
[三宅]1ケ月位は維持できます。

《堀川報告》
 (実験 2)前報の(実験 1)に続いて今回は同様の方法でマウスdd/YF系(♀)(生後49日)から得たBone marrow cellsを2群に分けて培養し、In vitroでの観察を続けることを主目的とした。第1群は70%YLH、10%Tryptose phosphate broth、20%牛血清を含む培地でcultureし、第2群は同培地に4NQOを1x10-5乗Mのfinal concentrationに含む条件下で22時間処理し、その後は第一群同様にNormal mediumで継代を続けている。
Controlは培養後5日頃から細胞数は次第に減少し、しかも残存する細胞はそのsizeを次第に増して行く、一方4NQOで処理した群はその形態もそれほどに大きく変化することなく浮遊状態で細胞数を次第に増してくるようであり、培養開始後8日目において、一本のculture bottleからそれぞれ2本のbottleにdivideした。現在培養開始後13日目になっている。
 (実験 3)同じくdd/YF系(♀)(生後56日目)のbone marrow cellsを分離、(実験 2)と同様の方法で培養を始めた。ただ、この実験では4NQOで処理する時間を2時間にとどめ、以後はnormal mediumで継代している。継代期間中の細胞形態の変化はcontrol、実験区ともに(実験 3)のそれとほとんど同一である。
☆今後の実験としてはcontrolさらには4NQOで処理した群の細胞のtransformationの追求さらには細胞の同定が必要である。同時にいい時期に同系のマウスにtransplantして白血病を起こさせる能力があるかどうかも確かめなければならない。

 :質疑応答:
[高木]4NQOで処理しない群の細胞が、だんだん大きくなって行くのは、若い未分化な細胞が残っていたのだとは考えられませんか。
[堀川]出発点では見られない細胞です。どうしてこういう細胞が出てくるのか、今の所全くわかりません。
[黒木]PHAを添加するとどうなりますか。
[堀川]骨髄系の細胞の場合、PHAを添加すると細胞が凝集してしまいます。
[吉田]細胞は増殖しているのですか。
[堀川]対照群の大きい細胞も増殖してはいますが、まだbottle1本を2本に分けられる程にはなっていません。4NQO添加群は培養開始後8日目に2本に分けられました。
[黒木]生きたままの状態で観察するだけでなく、塗抹標本を作ってきちんと細胞の同定をしなくてはいけないのではないでしょうか。
[堀川]細胞がもう少し多くなったら、ぜひ標本を作ってしらべてみなくてはと考えてはいます。
[勝田]しかし大変面白いアイデアですね。こういう系が確立できると白血病にも手がつけられますね。

《高木報告》
 月報6702に報じたハムスターの皮フ移植実験のその後の経過及び4週間目の結果について。 a)adult→adultの系では6匹のうち2匹死亡、残る4匹のうち1匹に3週目頃よりgraftの部分の発毛をみとめ約4週目の現在graftはtakeされた。他の3匹には瘢痕性収縮をみとめ結局この系では1/4がtakeされた。 b)suckling→adult、この系では先般の2週目までに6匹中2匹がtakeされていたが、その後20日目頃には他の1匹にも発毛をみとめ、残る3匹は4週目の現在、瘢痕性収縮をみとめ、結局この系では3/6にtakeされた。以上の結果よりみて、ハムスター胎児又はsucklingの皮フをpanniculusと共に培養しても移植復元には差支えないものと思われる。上記のものと月報6701に報じた移植実験の結果をまとめてみると、各系とも大体半数近くがtakeされたとみられる。今後、S(suckling)→A(adult)系につき種々検討していきたい。
 次にcell cultureについて、1月26日実験開始、方法は既報の如くLeo sachsの方法に従い、4日目に継代して翌日より2日毎に4HAQO 10-3乗Mol in E-OHを黒木氏の方法に従って添加(10-3乗Molを0.08ml/8ml添加で10-5乗Molになる)し、実験群は2、4、8日間添加群及び無処置対照群の4群とした。carcinogen添加翌日にはこれまで同様Flask中央のcarcinogen通過部位の細胞は大部分剥離し辺縁部のものは対照とあまり変りなく残っている。各群からcarcinogenを除くにあたりHanks液で3回、complete mediumで1回洗った。carcinogen添加後早いものでは2日目頃より残存せる紡錘状細胞のcytoplasmaが部分的に他細胞に重なり合う傾向がみえはじめ、その後次第に紡錘形の細胞が数を増してくるが7日目に至り、4及び8日添加群の一部にcriss-crossを認め、9日目には添加全群にこれをみとめたがあまり勢いよく増殖しているとは思われず著明なfocusも作っていない。controlは現在3Gにあるが胞体の広く拡った細胞が殆んどで増殖はよくない。

 :質疑応答:
[吉田]このデータでは同腹と異腹との間に差がないようですね。これは純系度合によるのではないでしょうか。
[黒木]純系動物を使うべきですね。
[藤井]移植成功率がこの程度の動物を使って、復元実験をするということは問題があると思います。
[吉田]そうですね。ただ非常に悪性化した培養組織だとtakeされるでしょうが。そうでないとなかなかtakeされなくて実験としては大変でしょう。新生児を使うのも一つの方法ではないでしょうか。
[高木]4NQOの実験の方へ移りますが、変異コロニーはパッと出てきますか。
[黒木]毎日見ていて出てくるか出てくるかと待っていると、イライラするので5日目位に観察して、変異したかしないか決めるようにしています。ですから別に4日目にはなくて5日目にパッと出てくるというわけではありません。
[吉田]癌化した時の判定の一つにcontact inhibitionの消失ということがあげられているようですが、それについてどう考えられますか。
[勝田]判定基準の一つに含まれてもよいと思いますが、contact inhibitionがなくなったから必ず癌化しているとは言えません。
[奥村]形態的変異の場合、どんな細胞からどんな細胞へ変るのですか。
[黒木]私の場合にはpile upするということと、増殖が早くなるということで判定しています。
[奥村]細胞レベルでの変化ですか。例えばセンイ芽細胞が上皮細胞に変るというような。或いはコロニーレベルですか。
[黒木]コロニーレベルです。
[勝田]“なぎさ”の場合には、全然別の形の細胞がcell sheetの上にコロニーを作るのですが、黒木班員の場合もcell sheetの上に変異細胞のコロニーをもっていくと見分けがつきますか。
[黒木](顕微鏡写真のスライドを呈示)このように見分けがつくと思います。
[奥村]しかし、センイ芽細胞様の形態のものが上皮細胞様形態に変化したのではないようですから、形態変異はあまり強調せずに増殖の方を強調した方がよさそうですね。
[勝田]これは班全体としての宿題だと思いますが、変異を問題にするからには、クロンをとる技術を習得して使いこなすようにしなくてはなりませんね。

【勝田班月報・6704】
《勝田報告》
 A)4NQO類による培養内発癌実験:
 4NQO類を用いたこれまでの実験を一覧表にしてみました。細胞はすべてラッテ由来、CQ-4以后はセンイ芽細胞、特にCQ-5以后は皮下組織由来のきれいなセンイ芽細胞を用いています(きれいな−とは如何にもセンイ芽細胞らしい形態の細胞という意味)。(表を呈示)。
細胞変異の出現度について記すと、どうもラッテの細胞は変異が起り難いようでdramaticな変異はあまり見られず、これならまあ変ったかなアと思われるのに、CQ-4とCQ-13があります。前者は4HAQO、後者は4NQO処理です。
 CQ-13の実験は、大変面白いことには、処理のはじめから全部連続して映画をとってあることです。但し同一視野とは行きません。何故かというと、撮している視野以外のところに変異集落ができてしまったので、途中で視野を切換えたからです。1967-2-10午后(雪がふっていました)から11日午后(まだふっていました)まで24時間・10-6乗M・4NQOで処理したところ、12日午后には核の内部に網目状のfiberが見られるような変化を示し、死ぬ細胞が多くなり、19日にはほとんどの細胞が死んでしまいました。そこで20日から別視野をえらんでとりはじめたところ、26日迄の間に分裂した細胞が2コ見付かりました。2-26から3-4にかけては、分裂は起りませんでしたが、細胞が特徴のある活発なlocomotionを示していました。3-4から3-10にかけては、相変らず細胞が活発に動きまわり、criss-crossを思わせるところが認められ、そこでは小型細胞の分裂が3コ認められました。この視野では3-10から3-12までの2日間に、さらに3コの細胞が分裂しました。この日、別視野にできかけと思われるcolonyが認められましたので、そちら(周辺部)に切りかえたところ、16日までの4日間に非常に沢山の分裂がひきつづき、generation timeをかぞえられない始末(多層になって追跡できなくなってしまう)でした。そこでその日にsubcultureし、また映画をとりはじめたのですが、まちがえてcoverslipの下の細胞を狙ってしまい、これは1回しか分裂せず、この間のフィルムは使えないことになってしまいました。3-30からまた別視野で撮影をつづけています。以上の所見を略図にかいてみますと次のようになります(図を呈示)。
B)“なぎさ”培養によるラッテ胸腺細網細胞の変異:
 前回の班会議のとき、Rat thymusの細胞株を“なぎさ"状態において、固定染色してみたら、形態上明らかに変異を示す細胞が沢山現れていた事をお知らせしましたが、このときは生きた細胞を残さずに全部染色してしまいましたので別の実験で胸腺の株の各系を“なぎさ"培養してみましたところ、3/10例に約1月以内に変異細胞が出現しました。(経過の表を呈示)(RTM-1A株・RTM-1よりのclone、RTM-2株、RTM-8株よりの変異細胞の写真を呈示)。
 何れも円形小型化し(細胞質が硝子面にうすく拡がらないため)、立体的にpile upして増殖している。肝細胞の“なぎさ"のときのようにdramaticなcolony形成は見られず、いつの間にかこんな細胞が出てきた、という感じであった。グロブリン顆粒をたたえた、元のelegantな姿は消え失せてしまった。復元結果を観察中。

《黒木報告》
 4月の病理学会総会で佐藤春郎教授が宿題報告「癌転移」をやるため、その準備に追はれています。2月以降に行った実験は次の6つです。
 (1)Transformationの表現としての累積増殖曲線。(2)Exp.433、442、447、451のその後。
(3)4HAQOの15分間処置。(4)3Methyl 4NQO、4NQOによるtransformation。(5)normal hamstercellsのcloning。(6)3T3のcloning。
 (1)Transformationの表現法としての累積増殖曲線
 transfromationのcriteriaとしては今までgrowthが活発なことと、形態の変化(pile up)を挙げてきました。しかしただ、それを散文的に表現したのでは説得性に欠けるため増殖のよいことを累積増殖曲線の形で表現することを試みた訳です(山田正篤氏のsuggestionによる)。古いdataのHA-1、HA-2、NQ-2などをひっくり返し、第2代のうえかえ時を1として、それ以後のgrowthを累積していくという簡単な方法です。このためには、うえこみsizeとharvestのきちんとした記載、一定の継代方法が必要ですが、HA-1、HA-2、NQ-2、cl-NQ-1では、きれいなcurveが得られました(図を呈示)。controlが途中でcellが少くなるのは(累積に拘ず)うえこみsizeよりもharvestの少いためです。今後はこの方法でtransformationを表現する積りです。
 (2)4NQO、4HAQOの濃度と添加方法
 前号の月報に記したように、carcinogenをsuspensionでcontactさせる方法とmonolayerでcontactさせる法、又carcinogenの濃度を、4NQO:10-5.5乗、10-6.5乗、10-7.5乗。4HAQO:10-5.0乗、10-6.0乗、10-7.0乗の三段階で実験をすすめました(Exp.433、442、447、451)。現在60日程度すぎたのですが、これまでの結果では、1)Monolayer cotactだけにtransformationが起る。 2)濃度は4NQOは10-5.5乗、4HAQOは10-5乗Mのみ有効という結果がでています。またtransformed cellsは、CO2 incubatorを用いたときに生じやすい、or selectされやすい所見も得られたので、目下分析中ですが、確かなことは云えません。4HAQO 10-5乗M(HA-8と略)、4NQO 10-5.5乗M(NQ-5と略)は、それぞれ発癌剤処置後28日、23日にcheek pouchにtumorを作り剔出標本はfibrosarcomaでしたが、3wでregressしてしまいました。目下tumorの再培養と染色体の分析中です。(このような実験のときには、ハムスターが純系でないことが悩みの種です。Histologにはsarcomaなのですが、immunological failureのためにrejectされるのでしょう。発癌剤処置後の短時間の実験は方法としてはまだ改良すべき点が沢山あります)。
 (3)4HAQO 15分間処置
 以前に行った4HAQO 10分間及び1時間処置は、現在までのところtransformat.していません(Exp.403)。15分間という時間は遠藤先生のE.Coli(λphage)を用いた実験で示された4HAQOの有効時間です。やり直しの実験(Exp.464)は、1匹のembryoから得られたhamster cellsを用いて行いました。conc.は次の通りです。1.10-3乗M・・・すべてのcellがやられて剥れてしまった。2.10-5.0乗M・・・1G培養3日目に添加。3.10-4.5乗M・・・2G培養7日目に添加。4.10-5.0乗M・・・2G培養7日目に添加。5.10-5.5乗M・・・2G培養7日目に添加。
処置方法は従来のごとく、100xのconc.(1.を除く)の4HAQOをcell sheetに直接添加し、30秒後にmed.で100xにdilut.、final concent.にする方法です。15分後にPBSで3回、med.で1回washし、standard med.にかえてcultureします。
現在は処理後2wですが、4HAQO 10-4.5乗Mに変化がみられました。
 (4)3Methyl 4NQO、4AQOの処置
 (3)の15分間処置と同じcellsを用い、併行してすすめています。10-5乗M 5回処置です。cytotoxicな作用はありません。目下かんさつ中。
 (5)hamster embryonic cellsのcloning
 ハムスターのembryoでcolonyを作ることができるようになりました。1,000ケまいて70ケ前後(P.E.7%)です。Petri dishを三春P-3からFalconのplastic dishにかえたことも重要なfactorのようです。Med.もalbuminがなくとも、standard med.20%C.S.でも5%はcolonyを作ります。しかしalbuminのときは、denseなcolony、またはfibroblasticなcolonyのみとれることなど、思いがけない所見も得られましたので、目下調べているところです。
 (6)3T3のcloning
 3T3の実験はcloneをとってから本格的にはじめる積りでcolonyを作るpreliminaryのexp.をすすめています。途中でCO2-incubatorの故障などで少しおくれましたが、現在までの所見では、1)20%C.S. Eagleで30%のP.E.(これはもっと上がるはず)。2)Agar法ではseedlayerを0.3%、0.4%、0.5%寒天濃度及びcell数を100、1,000、10,000のいずれでもcolonyを作らないという所見を得ています。
 4月になったらcylinder法でcloneをとり、本格的に始める積りです。

《佐藤報告》
 第5回班会議6703号で、培養肝細胞株処理とDAB消費(試験管内)に就て若干述べました。今日までに判明したデータを記載しておきます。(表を呈示)
 判定:細胞に超音波を与えて破壊し、DABを含む培地中でincubateしても細胞核がcountされない程度(培養しても生きた細胞が認められない)に破壊されるとDABの消費は全くおこらない。
 4NQO→ラットEmbryo
 10-6乗M 4NQOと投与時間の関係
 4NQO 投与時間を30分、1、2、4、8、24、48、72時間後に正常培地にもどした場合、4時間迄の投与では変化に乏しい。6時間〜72時間投与後、4NQOを除去したものでは残存細胞が増殖する。今后の復元はこの辺りを目標にする。
 RE-3(2代 20日目)細胞に5x10-7乗Mの濃度で4NQOを5、10、15、20、25、30日間投与し、投与后は正常培地にもどして35日間細胞の変化を観察した。20日間以上投与したものでは細胞は殆んどみられなくなるが、残存した細胞は核小体が大きくなっており、30日間投与したものでは巨大な細胞が出現している。従って5x10-7乗M濃度の実験では20日間以上の投与が必要と思われる。
 動物復元は復元后最高22日で未だ結果はわからない。

《三宅報告》
 試験管内で、ヒト、マウス、ハムスターの胎児皮膚に発癌物質を作用させるまでの処置と操作について、永い間の困難と低迷があった。Sponge Matrixを用いた立体培養のみに終始したのでは、結果の見通しは、方法は異なるがHiebert(Cancer,12,633,'59)のAKマウス胎児皮膚の立体培養(Strange way)同様、暗いものが暗示され、Matrixを鶏の血漿からCollagen gelにかえたり、Spongeをはぶいて、組織を直接、血漿-clotやCollagenの上にのせて、表皮やその下のDermisからの細胞発育をみてきた。それは、それでもまだOrgan Cultureから離れまいとする作業でしかなかった。どうやら、今結論敵に、plasma clotに直接うえたものからはfibroblastが、またCollagen gelに直接うえたものからは上皮細胞が多くでて来ることがわかった(写真を呈示)。一方では、上記の皮膚をトリプシンを用いないで、dissecting(機械的に)をやって硝子面にのせたものからは同じくfibroblastが多くでて来ることも判ってきた。いまこの最後の方法でえた平板上の細胞(マウスとヒト胎児の写真を呈示)に、4x10-6乗Mの4NQOと20-MCA(5μg/ml)を作用させたもの、及び、一方でまづ最初Spong Cultureをおこなって、上記同様の方法で発癌物質を隔日に3回作用させた後に、これを動物に戻す方法を取り出した。このOrgan-Culture-transplantationという方法について、私共はこの間に、Pronaseを作用させて個々の細胞を平面に増殖させる方法をとらなかった。それはPronaseの入手が遅れたことと、Organ cultureをした組織をdissectして何度も平面にまいても細胞がうまく、はえて呉れなかったという、技術上の失敗によるものであった。そのためにorgan cultureされた組織から、出来るだけSpongeをのぞいて直接マウスの背の皮膚に戻してみた。この実験はまだ日が浅くて結果はのべられない。がこの方法については反省が必要である。古い論文であるがRous,P.が、C系マウスのembryoの皮膚を20-MCAと一緒にAdultのマウスの大腿の筋の中に戻して4週間以内という早さでPapilomaとCarcinomaの発するのをみたという、二つの実験を少しmodifyしたにすぎないのではないかという反省である。が、この古い実験での追試に近い発癌の機構については、後で、各種の方法を用いて、かえりみることとして、ともあれ、先をいそごうとしている。

《高木報告》
 ハムスター胎児皮フの培養及び復元実験
 器官培養開始以来の懸案であった培養組織の復元にやっと一歩を踏み出し、先ず手始めに培養1週間目の皮フを復元した。培養にはこれまでと同様C.E.E.2滴、chick plasma 6滴からなるplasma clotを用い、30℃可及的低温にincubateした。
 今回は移植に用いる為に約10x10mmと、これまでのうちでは最大の皮フ片を直接clot上に置いて培養し、carcinogenとして4NQO 10-5Mol.in Hanks.を皮フ表面に1滴滴下し、対照群にはHanks液のみを滴下して、この処置を培養開始時及び3日目の培地交換時の計2回行った。用いた組織片は妊娠末期の雑婚ハムスター胎児の背部より皮フ全層を採ったもので1匹から2片を得るのがやっとである。この期の皮フは肉眼的には白っぽく、発毛はみえないが、組織学的には1〜2層の表皮層及びその厚さに相当する角化層を認め真皮における毛嚢や、毛の発生もadultのそれとあまり変わらない程度に分化している。
 7日間培養後、肉眼的には培養前に比べて幾分白っぽくなり光沢がなくなった様にも見え、in vivoのこの時期に相当するものでは肉眼的に明らかな発毛を認めるにも不拘、培養皮フ片には少くも肉眼的には認められない。
 組織学的には4NQOの添加群と対照群の間に殆んど差を認めず、相片とも2〜3層の表皮層よりなるが、細胞は可成り大型になり核も大きくなって、淡染する核質と数個の核小体を認めるようになり表皮全体の厚さは培養前に比べて2倍程に厚くなり角化層も約2倍に厚さを増して著明な錯角化を認める。この培養組織片をHanks液で洗った後、径7mmの円形のgraftを採り、adult Hamsterの背部に作った径6mmの移植床に移植した。
 4NQO群、対照群夫々4匹宛を用いたが、早いものでは移植後3週目にgraftの部分に発毛を認め、4週目には途中逃亡した対照群の1匹を除く7匹全部に白毛を認めた。
今回の実験では移植した動物の全てに白毛を生じたが、周囲が有色毛の中にgraftの大きさに相当して白毛を生じたのであるからtakeされた(?)と考えて良いのではないかと思っている。この点更に検討したい。
 現在5週目であるが、4NQO処理群においてgraftの部分に腫瘤形成などの変化はまだみられない。

《奥村報告》
 *ふたたび班員となるに際して
 またまた皆様の仲間に加えていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。班の主題となっている発癌機構の解明は、あまりにも難問すぎて、とてもとても私ごとき学徒には手のほどこしようがありません。恐らく、これからの1年間に目ざましい成果なぞ100%期待できないと思います。
 班に入るに際して、こんな弱気では途中で落馬してしまうかも知れません、よろしく御寛容の程!。昨年1年間のうちに“発癌"に関してさまざまな夢想を試みました。その中には極めてさまざまな計画があります。思考実験でけでダメになったものも数多くあります。また、一度は試みたいと思うものもあります。しかし、結論として、私ははやり“発癌"という山の裏側に廻り、発癌を成立させる因子を1つ1つ覗きながら仕事を進めてみることにしました。要するに、細胞が悪性になったかどうかという問題には一応無関心でいたいと思います。したがって、ことしは“Cell transformation"と云う課題について実験を組んでみます。そのための小道具は次のようなものです。
 Transforming factors:Simian virus 40
            Rous sarcoma virus
            4NQO、その他
 Cells:Hamster、mouseのfibroblasts
     humanのtrophoblasts、その他
以上の道具のうち出来るだけ多くのものを用いたいと思います。また、Cellは出来るだけsynchronizeした状態で用い、T-factorに対するTarget phaseがあるかどうかを探りながら仕事をすすめてみたいと考えております。

《堀川報告》
 今月の月報にはまとめて報告出来るような結果を持ち合わせていません。どの実験も丁度時間まちのところにあり、ちょびり、ちょびり報告していたのでは読んでいただく皆さんの方で理解に苦しむと考え、次号にまとめて結果を報告することにしました。この点御了承下さい。したがって今回は面白そうな文献の紹介にとどめます。
 1)By Carmia Borek and Leo Sachs:In Vitro cell transformation by X-irradiation.Nature 210:276-278(1966)
2)By Carmia Borek and Leo Sachs:The difference in contact inhibition of cell replication between normal cells and cells transformed by different carcinoges.
Proc.Nat.Acad.Sci.56;1705-1711(1966)

【勝田班月報・6705】
 A)4NQO類による培養内発癌実験:
 ◇細胞:ラッテ皮下センイ芽細胞
 ◇今実験の特徴:これまでの実験では、映画に撮すため、平型回転培養管を用いていたが、黒木班員の実験でもTD-40瓶を使って変異コロニーが数コだけしか出来ないのであるから、平回管では細胞数が少なすぎるかも知れないと思い、TD-40瓶を用いた。
 Exp.CQ#16
 (1)RSC-1株細胞(1966-9-29、生后3日雑系F1ラッテ、皮下センイ芽細胞より培養の株)
1967-3- 8:TD-40へ継代(継代第5代となる)。
3-18:10-6乗M・4NQO(DMSOに10-2乗Mにといて使用)。
24時間だけ処理。以后細胞はどんどん変性壊死。
3-25:顕微鏡写真撮影、細胞はほとんど死滅していた。
   4-20:瓶の頸部近くに比較的大きなコロニーを1コ発見。観察中。
 (2)RSC-2株細胞(1967-1-21、生后9日雑系F2ラッテ、皮下センイ芽細胞由来)
1967-3- 8:TD-40へ継代(継代第3代となる)。
3-18:上と同処置、同所見。
3-25:ほとんど細胞は死滅。
5- 4:コロニー未だ認めず。
Exp.CQ#17
(1)RSC-4株細胞(1967-3-23、生后4日の(JARx雑)F1の皮下センイ芽細胞由来)。
1967-3- 8:TD-40へ継代(継代第3代となる)。
4-14:上と同条件で4NQO処理。 細胞は以后どんどん変性壊死に陥った。
5- 1:コロニー1コ発見。現在観察中。
 (2)RSC-5株細胞(RSC-4と同条件で培養した株)。継代、処理は上のRSC-4と同じ。
   5- 1:未だコロニーを認めず。
 ◇以上の所見よりみて、たしかにTD-40瓶の方が効率が良さそうである。
 B)“なぎさ"及びDEN処理后、高濃度DAB処理により生じた変異株の3'-メチルDAB消費能: なぎさ培養あるいはジエチルニトロソアミン処理后、20μg/mlDAB処理により多数の変異がラッテ肝細胞の培養に現われたが、これらの亜株の3'-Me-DAB消費能をしらべると、DAB消費能とは全く平行せず、両者の代謝系の別個であることが暗示された。(表を呈示)この所見は今后の展開にとって大変有益な知見であると思われる。
 C)“なぎさ"→DAB高濃度処理による変異株(M)のDAB耐性:
 亜株MはDAB消費能が異常に高い亜株の一つであるが、Growth Curveをとってみると(図を呈示)、20μg/mlでも7日間に約2.4倍増えることが判った。

《佐藤報告》
 4NQO→ラットEmbryoの実験
 ☆N-10:その後、Rat胎児を培養材料として2系列(RE-4及びRE-5)をスタートした(図を呈示)。
 ☆N-11:RE-5の培養6日目の細胞を使用し、DMSOに稀釋された5x10-7乗Mの4NQOを添加した場合の細胞増殖は殆ど起こらず、6日后は死んでいく(図を呈示)。
 ☆N-12:RE-1、RE-2及びRE-3の動物復元実験では現在まだ発癌を見ていない。
DAB発癌
 先月の月報では超音波及び凍結融解で培養肝細胞を破壊してDAB消費能がどうなるか報告した。今回は培養肝細胞の増殖率とDAB消費能との関係について検索するための予備実験を行った。実験材料はRLN-10及びRLN-163。細胞増殖阻止にはPuromycinを使用した。
(図を呈示)培養2日后0.2μg/ml及び1μg/mlのPuromycinを添加、5日后0.2μg/mlを1μg/mlの増加、その1日后Puromycinを除去。培養2日后Puromycin添加。培養と同時にPuromycin添加し2日后除去。等の実験を行った。

《黒木報告》
 HA-8の移植性について
3月〜4月上旬は病理学会−宿題報告にかかりきりになり、また、3月にハムスターの交配を忘れたため、胎児が得られず、新しいExp.の開始はありません。
 3T3は第一回のcloningを終り現在Re-cloning中です。mass-cultureでも、colonyの形からみても、3T3はいくつかのpopulationのmixであるようです(形態学的に)。念には念を入れて、2回cloningを行い、selectionの可能性をなくしてから、exp.開始の予定です。それにしても2回cloningをすると、exp.に使えるようになるのは、2ケ月後になります。(第一回のcloning 14日、とったコロニーがsheetを作るのに10日、第2回も同じく24日、さらにExp.に使えるまでにするのに10日位growthさせる)
 今回は前報で述べたHA-8(4HAQO 10-5.0乗M 5x treat)の移植性について記します。
HA-8のcumulative growth curveを示します(図を呈示)。
継代の各時期において移植を行った結果、(1)処置後28日、35日には、、h.p.及びSCでtumorを作り、histologicalにはfibrosarcomaでしたが、20日後にregress。 (2)51日には、一旦regressするように思はれたが、やがて増殖。(3)60日はregressなうgrowthです。
 もっとも興味のあるのは、41日において、染色体核型に異常のないことです。
 目下、tumorを作るようになった後の標本を製作中ですが、何らかの手がかりが得られるかも知れません。
 このような、regression→takeのような進行の形は以前にもみました(HA-1のとき)。これが何を意味するかは、興味のあるところです。
常識的に考えて、(1)malignant cellのselection。(2)progression(細胞の質的変化)の二つが考えられます。いずれにしてもcloningが絶対必要な条件となります。(2)のときは、malignancyへのstepwiseの変化の他、surface antigenの変化も考慮に入れる必要があります。(移植成績の表を呈示)
 この細胞は、培養13日目、発癌剤の最初の処置から9日後に1アンプル凍結してありますので、これから、染色体の変化を詳しく追うことができると思います。
 ☆carcinogenとcellとのsuspensionでのcontactは、全て失敗におはりました。
cumelative growth curveは次回の班会議のときに示します。

《高木報告》
 月報6704に記した培養皮フ片の復元後の経過について
 先報では移植後4週目を終った所で7匹中全部にtakeされたらしいことを報告したが、その後6週目を終った時期の写真を示す(写真2枚を呈示)。写真1)では7匹中右の3匹が対照群、左の4匹が4NQO添加群であるが、動物によって白毛の量に幾分の差はあるが他に目立った変化はみられない。写真2)は4NQO添加群の1匹を拡大したものであるがgraftの部分の白毛は他の部位に比べて明らかに密生している。この後、8週を終る頃より4NQO添加群のみ背部の脱毛がみられはじめたが、白毛の部分では脱毛が軽度である。10週目に入り脱毛は止った様である。これらが単なる毛変えかどうか今後の結果に待ちたい。
 前回と全く同様の実験を新たに開始したが、移植後2週間を経過した現在、前回同様他の部分は発毛したのにgraftの部分のみ発毛しないで残っている。

《堀川報告》
 前々号で途中まで紹介した(実験2)(実験3)の経過から報告すると、
 (実験2)dd/YF系(♀)(生後49日目)マウスから得たBone marrow cellsを2群にわけて培養、第1群は70%YLH、10%Tryptose phosphate broth、20%牛血清を含む培地でCultureし、第2群は同培地に4NQOを1x10-5乗Mのfinal concentrationに含む条件下で22時間処理し、その後は第1群同様にnormal mediumで7〜10日おきに培地交換して継代を続ける。
 Controlの方は培養後次第に細胞数が減少し、cell sizeも次第に増大していく。そして培養開始後50日前後にはほとんどの細胞は退化して消失して行く。一方4NQOで処理した群はその形態もそれほど大きな変化もなく、継代されて行く。その間、細胞数においてもそれほど大きな増加もみられないが、そうかと云って減少することもなくほとんどconstantに保たれて行くようである。このことは換言すると4NQOで処理した群はinactiveではあるが、常にあるcellは分裂して細胞数を増し、medium交換のさいに失われるcell numberをおぎなっていると考えてもよさそうである。培養を開始してから丁度50日目においてdd/YF系(生後21日目)に復元する。controlの方は死細胞(?)も含めて187万個cells/mouseの条件で2匹のマウスに、また4NQO処理群も187cells/mouseの細胞濃度で4匹のmouseにもどす。復元後31日になる今日になってもcontrol、4NQO処理群ともに白血病で倒れるものは一匹もみられない。またそれらしき症状を呈するものはまだ認められない。
 (実験3)dd/YF系(♀)(生後56±1日目)のマウスのBone marrow cells分離、(実験2)と同様の方法で培養を始めた。ただ、この実験では4NQOで処理する時間を2時間にとどめ、以後はnormal mediumで、7〜10日間おきに培地交換して継代を続けた。培養開始後59日めに、Bacterial contaminationをおこして残念ながら放棄した。
 培養59日間における細胞の変化は逐次photgraphsにもとらえたが、controlおよび4NQO処理群ともに(実験2)とまったく同じであり、大きな差異は認められなかった。
 (実験4)dd/YF系(♂)(生後35±1日目)マウスのBone marrow cellsを分離、これを前回同様2群に分けて培養、第1群は70%TC-199、10%Tryptose phosphate broth、20%牛血清を含む培地でcultureし、第2群は同培地に4NQOを1x10-5乗Mのfinal concentrationに含む条件下で2.5時間処理した。その後は第1群同様にnormal mediumで7〜10日おきに培地交換して継代を続ける。
 4NQO処理群は培養経過とともに(実験2)(実験3)で示したとまったく同様の様相を示すが、controlの方はやや異っている。勿論次第に細胞数は減少してくるが、それ程に顕著ではなく、大半の細胞はガラス壁に付着して生存を続けるようだ。そのことはaciveなmedium colorの変化から推測し得る。またこれらの事実は(実験4)で使用したmediumがBone marrowcells cultureのために(実験2、3)で使ったそれよりさらに適していることを示している。
 こうして継代47日後にcontrol cellsは380万個cells/mouseの条件で、500R照射した生後23日目のdd/YF系マウス3匹にかえす。また一方4NQO処理群は760万個cells/mouseで500R照射した同6匹のmouseにかえした。さらに500R照射したmouseで無処置のもの(細胞を返していないもの)をもう1つのcontrolとした。今回500R照射したmouseをhostに用いたのは、返したBone marrow cellsの体内増殖をactiveにし、白血病化を容易にする目的と、さらにはBone marrow deathに対する長期培養されたBone marrow cellsのfunctional activityをtestすることにある。だが復元後11日になる今日まで上記の目的を果し得るなんらの結果も得られていない。
 以上が今日までに得られている結果であるが、発癌への積極的な手がかりが得られていないのが現状である。

《奥村報告》
 1)Human trophoblastsの培養
 昨年からはじめている仕事で、現在までのところ継代細胞系6種を得ている。cultureは種々条件を検討した結果、199にcalf serumを30%に添加した培地を用い、単層培養、材料は週齢6〜12の物を用いた。Prim.cult.時の植え込み細胞数は10〜100万個cells/ml10%CO2ガス下では1000コ/mlまで落すことが出来る。細胞の増殖度は未だ不安定であるが、大体2〜3/2週、seed時のlag phaseは継代時によって異るが、我々の培養条件下では、約40〜60時間(H3-TdRがとりこまれはじめる時間)。しかし、継代7代目頃からは30〜40時間に短縮。
 2)継代培養におけるtrophoblastの性質
 継代3代目頃まではepithelial cellが大部分であるが、その后spindle-likeの細胞が出現。しかし、いづれの場合でもconfluent sheetの状態ではcotact inhibitionがきく。この細胞系の最大の特徴は、培養開始后長いものでは4ケ月近くになるが、いぜんとして、ホルモン(HCG)を分泌し続けていることである。(ホルモン産生能はimmuno-assayとしてsero-test、又bio-assayによって確認)
 3)SV-40ウィルスによるtransformationの実験
 この継代trophoblastsにSV-40(PFU 10-8乗/0.2ml)を0.1〜0.2ml/10万個cellsでinfect.させると、少くとも3〜4週后にtransformed cellを見ることが出来る。現在なお進行中。

《三宅報告》
 1)前回に記したd.d系マウスの胎児皮膚をOrgan Cultureをして、4NQO及び20-MCAを、作用させたものを、再び動物に戻したものは、いまだ移植部位に腫瘤の発生を、みない。
 2)ヒト胎児皮膚のOrgan Cultureをしたものについて培養后、3日目、5日目、7日目に最終濃度4x10-6乗M 4NQOをさせたもの、及び20MCA 5μg/mlを1週間連続に作用させたものについて組織所見をみると夫々次のような変化がみられた(写真を呈示)。
 図1は4NQOを3回、30秒はたらかせた後、2週間に亙って培養を続けたものである。表皮の増殖は著しく、角化も甚だしい。----- reteの部には壊死は認められないばかりか、ここに分裂像がみとめられる。ことに目立った所見は表皮下のDermisであって、fibroblastは緻密なまでに増殖し、核は大きく、またHyperchromatismを呈していることである。図2はその部の強拡大である。図3は20MCAを1週間に亙って5μg/mlの濃度で作用させたものである。みられる通りの表皮及びDermis共にNecrosisが強い。

【勝田班月報:6706:ハムスター胎児細胞の培養内自然悪性化】
《勝田報告》
 A)“なぎさ”→DAB処理により生じた変異株MのホモジネートのDAB代謝の測定:
 ラッテ肝由来の変異株MはDAB代謝能が異常に高いので、その代謝酵素を分離すべく、Cell homogenateのレベルでの代謝能をしらべているが、今回はJBC.176:535,1948に記載されたMueller,G.C. & Miller,J.A.の反応液を試用してみた。(組成表を呈示)
 原法では肝組織のhomogenateなので、10%にできるが、こちらは培養細胞なので、500万個/2mlにsuspendしてhomogenizeし、これを約200万個/0.8mlで用いた。添加量は0.8mlである。
37℃ for 30〜60min.加温というのが原法であるが、我々は2.5時間37℃で加温、20%TCA in aceton-EtOH(1:1) 3mlを加えて反応を止め、発色させ、520mμのO.D.を測った。結果は稍減少が認められたが、原法の1/10〜1/100の細胞数なので、もっと減少をはっきり掴むためには反応時間を延長させるか、細胞数をふやす(きわめて困難であるが)ほかはないことが判った。
 B)4NQOによる培養内発癌実験
 a)TD-40瓶による実験
 Exp#CQ16:1967-3-18 ラッテ皮下センイ芽細胞の培養、TD-40・2本の培地に4NQOを10-6乗Mに添加、24時間加温後通常の培地にかえた。細胞の変性壊死が目立ったが、その内の一本に4月20日に新細胞集落を発見。集落は一コの独立集落ではなく、比較的小さな、いくつかの塊の集合であった。細胞は比較的小型で、無方向性に多層性に配列していた。5-21継代し、ラッテに復元接種を試みるべく、目下細胞を増殖させているところである。(顕微鏡写真を呈示)
 Exp#CQ17:同じくラッテ皮下センイ芽細胞の継代第2代(CQ16は第5代)のTD-40瓶・2本に1967-4-14、4NQOを3x10-6乗M、1時間加温の処理を加えたところ、5-1にその内の1本に新細胞集落を発見した。やや小型で顆粒の多い細胞から成り、十字状にきわめて多層に増殖していた(写真を呈示)。5-21継代。復元接種準備中である。
 b)顕微鏡映画撮影による長期観察(Exp#CQ13)
 ラッテ皮下センイ芽細胞の培養、平型回転管(coverslip入り)1本を1967-2-10、4NQO 10-6乗Mで24hr処理したが、添加直後より撮影を開始し、毎2分1コマの間隔で34日間連続撮影した。培地交新の都度、同一視野あるいは別視野を撮した。第0日より第1日まで4NQO処理、第2〜3日に死ぬ細胞が多く、第3〜10日には視野内の細胞はほとんど死んでしまった。第10〜16日に分裂1コが見られ、第16〜22日には細胞の運動が目立ちはじめ、第22〜28日にはきわめてよく動き、小型細胞の分裂も3コ見られた。第28〜30日にも分裂3コ。第30〜34日に、できかけの集落と思われる部位の周辺を狙ったら、小型細胞の無数の分裂が認められた。その後この細胞を復元接種したが、ラッテに腫瘍は形成されなかった。

 :質疑応答:
[黒木]形態的には自分のところの変異細胞ととてもよく似ていますね。
[堀川]処理後4週も経ってまだこわれる細胞のあるのは、まだ薬剤の効果が残っているのでしょうか。放射線の場合などは、もっと早く片がつくと思いますが・・・。
[勝田]Cell cycleのまわり方にすごいdelayが起って、あるところまで廻って死ぬのかも知れませんね。
[黒木]形態の変異よりおくれて悪性度が出てくることがありますから、映画の細胞ももう少しすると、つくかも知れません。
[奥村]変異細胞の出現頻度が低いというのは、むしろ変異の幅が狭いことを意味しているのではないでしょうか。また、分裂が関与しなくても、もっと分子レベルでの変化が先行することも考えられます。
[吉田]映画で核小体の大きいのが見える時期があって面白いですね。
[黒木]ハムスターでは、変異は1カ月で見られ、悪性化は2カ月で判ります。
[勝田]変異が先行するというのは、まだ変異の方向が一定していないで、その後培養内で淘汰されて行くのが悪性度の高い細胞だということでしょうかね。
[安藤]変異した時、悪性と良性の細胞が混っていて、それがしだいに選別されるのか、或は悪性まで行かなかったのが以後の培養期間中に悪性化するのか、沢山実験してみれば判る筈です。
[勝田]変異の時期で細胞をばらしてまいてcoloniesを作らせ、夫々のclonesをしらべればよいが、大変な仕事です。
[安藤]変異した細胞が全例悪性とは限らぬ−ということは確かですか。
[勝田]黒木班員の場合、1例takeされないのが出来たわけです。
[吉田]形態変異と、悪性化、という風に言葉を区別すべきでしょうね。映画の最後のカットで、分裂の多い時期、あのときは変異が一杯できているでしょうね。
[勝田]Leo Sachsたちの、放射線による変異細胞が、はじめはハムスターに腫瘤を作るが、やがてregressしてしまう。あんなのも悪性化といっていいんでしょうかね。
[黒木]私はこのごろあれも悪性化と思うようになりました。少し甘くなった。最近DABの誘導体で皮下にうって肉腫を作ったのを見附けました。(Miller & Miller;Pharmacological Review,18(1):805-838,1966)。喰わせて発癌させるのでは、どういう分解産物が効くのかまで考えなくてはならないので、こういう直接的作用のあるものを使う方が良いですね。

《黒木報告》
今回は次の事項について報告します。
1.hamster whole embryo cultureのcolony形成について、特にalbumin med.について
2.treated cultureのcolony
3.3-methyl 4NQO、4HAQO及びsuspend contact with carcinogenのcumulative growth
4.4NQO、4HAQOのdoseをかえたときのcumulative growth curve
5.15分間処置のcumulative growth curve
6.spontaneous transformation(Zen-4)について
 1.hamster whole EmbryoのColony形成いついて
 前号の巻頭言の「変異か淘汰か」の問題にとりくむためにも、また、colonyの形態からtransformationを判定し、transformabilityをcountするためにも、正常細胞のcolony形成実験は重要な意味をもちます。
そこで、次の条件で“normal cells”のcolony形成実験にとりくみました。
1.細胞:4〜7日培養したhamster whole embryonic cells(初代pronase digestionによる)
2.培地:20%BS添加(orCS)albumin med.又はEagle MEM(albumin med.はbovine alb.fract.V 0.75% & Bacto-peptone 0.1%を含むものです)
3.Petri皿:Falcon Plastics、60x15mm or 35mmx10
4.Feeder cells:20日間程度培養したBALB/Cの胎児細胞をsuspendedの状態で5,000r(コバルト60)かけ、10万個/dishにまき、1〜2日後にhamster cellsをseedする
 §Exp450§
 この実験ではalbumin med.を用いて、feeder layerの検討を行った。また、次に示すHA-8、NQ-5のcontrolでもある。(表を呈示)feeder layer(+)10,000個/dは数えきれないcolony(正確に云えば、colonyの間もcell sheetで、colonyであるとはっきり云えない)が生じたが、feeder(-)10,000個/dのcolony数はfeeder(+)1,000/dにほぼ匹敵し、それぞれ、1.0%、6.0%前後である。他の実験でもfeeder(+)1,000個/d≒feeder(-)10,000個/dの関係が認められた。これは後者ではcolonyを作り得ない細胞が丁度feeder lay.の如く働いていることを示すのかも知れない。
colonyの形は(スライド及びpetri dish供覧)比較的transformedの如く“dense”にみえる。しかし、実体顕微鏡等により詳しくみると、colonyの1/4は方向性をもったfibroblastのcolonyから成っていることが分る。残りの3/4はflatの細胞のcolonyであった。このセンイ芽細胞から成るcolonyは細胞の増殖が極めて活発であり、かつ方向性を保ったまま重るためにdenseにみえるのであろう。random orientationのcolonyは、total 434ケのうち、1例もみられなかった。
しかし、このように“dense”のcolonyが出現することは、transformationのかんさつを困難にすることが明らかである。
そこで、oriented fibroblastsはalbumin med.により特異的に選択されるのではないかという予想のもとにalbuminとStandard med.の比較をおこなった。
 §Exp465§
 この実験ではfeeder layerを用いずalbuminとstandard med.の比較に限った。Falcon Plasticsの35mmφPetri dishを用いた。
(表を呈示)colonyの数はalb.でもstd.med.でも、また1,000個/dでも500個/dでも大差はないが、albuminの方がsizeは大きく、また形もそろっている。
fibroblasticのcolonyはalbumin med.では1/7に認められた。しかも、この細胞は増殖がよく、前回のExp.と同様にdenseにみえるものもある。std.のmed.では、fibroblastic colonyは少く、またgrowthもalbuminよりは低く“thin”である。
現在、さらに、feeder layer、albumin med.、standard med.の組合せで実験が進行中である。予備実験の結果からstandardになるようなcolony形成法をみつけ出し、cloningなどの実験に入りたく思っている。
 2.発癌剤処置のコロニー
 前回のExp450と同時に行った。
 細胞はHA-8:発癌剤処置9日、終了直後。NQ-5:4NQO 10-5.5乗M4日、終了後5日。
(表を呈示)colony形成率、そのうちのoriented fibrobl.のしめる割合はcontrolと大差がない。しかしcontrolにはみられなかったrandom orientation colonyがみられた。
このcolonyの形は、Sachsらのいうtransformed colonyと同一のものか、あるいは、発癌と関係あるものかは、現在のところ不明であるが、一応transformed colonyとして扱うと、4HAQOでは10-4乗、4NQOでは10-5乗でtransf.していることになる。
これが正しいかどうかは、更にいくつかの実験により確かめる必要があろう。
 残されたもう一つの問題は、ここに示したrandom orientat.のcolonyが本当に悪性化に連るものかどうかである。というのは、HA-8が悪性化したときのcolonyはrandomというよりは、むしろ方向性のある配列を示しpile upしているdenseなcolonyだからである。
この問題は、このcolonyをひろってさらに継代する膨大な実験によって解決されるものと思はれる。(colonyの写真を呈示)
 3.4NQO、3-methyl 4NQO処置細胞について
 transformationであることの証明には、いくつかの事項が考えられますが、例えば、
1)そのagentにより再現性をもってtransformationすること
2)そのagentのmarker(例えばvirusにおけるT-抗原)を有すること
3)agentのdoseとresponseの間に一定の関係のみられること
4)Spontaneous transformationと、はっきり区別のつくだけ十分な時間の差異をもっていること
5)cloneを用いた実験に成功すること
6)clone分析により遺伝的に安定であることの証明
7)他のsystem(例えばin vivo)のdataとよく一致すること
ここで最後の項目は必ずしもtransformationの確証とはなりませんが、重要な所見となることは確かです。
 そこでin vivoで絶対に発癌性がないことが明らかであり、4NQOの対照としてふさわしいものを国立癌センターの川添豊氏に選んで頂き、またsampleも少量恵与して頂いた。10-5乗Mの濃度で5回処置を行ったが、transformationは得られなかった。(図を呈示)
この物質は全体に毒性も少く、10-5乗Mでもcytopathic effectはなく、また“early changes”もみられなかった。この実験から、4NQO及び4HAQOによるtransformationはその物質の発癌性によることが強く示唆された。
 4.浮遊状態の細胞と発癌剤の接触
 ウィルスによるtransformationは、virusと細胞をmonolayerかあるいはsuspended stateのどちらかで接触感染させている。これはvirusのとりこみが細胞のpinocytosisによるため、両者の衝突の頻度(確立)が感染率を決定するというvirusの特異性によるのかも知れない。しかしchemicalでもsuspended stateの処置がいくようになれば、技術的には一つの進歩であると思はれるので、次の実験を行った。
logarithmicに増殖している細胞を0.025%pronaseで剥離し、培地中に10万個/ml〜50万個/mlにsuspend、種々の濃度の発癌剤を加え、37℃で2時間振盪した。2時間後、遠心により発癌剤を洗い、TD-40に培養した。結果は、4HAQOでは、細胞の変性、criss-crossなどのEarly changesさえも全くみられなかった。
細胞の変性のほとんどみられないのは、4HAQOが毒性の低いことの他に、不安定であるためであろう。(図、表を呈示)
結局、4NQOは非常に毒性が強く、ほとんどの細胞がやられてしまう。
この方法が全て失敗した理由としては、transformationに向う変化よりも、細胞の死に到る変化の方を強く起すことによるのであろう。
また、細胞からみても、damageを受けたうえに、さらにガラス壁に附着しなければならないことになり、selectionの機会が一つ増えることになる。
以上の理由から、4NQO、4HAQOは、suspension contactでtransformしなかったものと思はれるが、今後、処置時間を短かくするなどの方法ではtransformationにもっていけるかも知れないと思っている。
 5.4HAQOのdose-responce-relation ship
 4HAQO 10-5.0乗M、10-6.0乗M,10-7.0乗Mの3段階、各5回9日間処置により、transformationの成否をみた。結果はcumulative growth curveで示すように、HA-8のみがtransformした。10-6.0乗M、10-7.0乗Mは、controlと同じようなgrowth curveを示した。なお、このHA-8は前号の月報に示したregression→growthの経過を示した培養細胞である。(図を呈示)
 6.4NQOのdose-response relation shipについて
 4NQO、10-5.5乗M,10-6.5乗M、10-7.5乗Mで調べた。10-5.5乗Mは2回処置のとき、cell damageが強いので以後の処置を中止した。他は4HAQOと同様に5回9日間つづけた。(図を呈示)cumulation growth curveでは、10-5.5乗M処置のNQ-5のみがtransformした。興味あるのは、NQ-5が培養27日、発癌剤処置後23日で動物移植によりfibrosarcomaの像を示したがregressしたことである。
またNQ-5のcumulative growth curveに変曲点の認められることも、興味をひく。とくにhistologicalにmalig.featureを示しながらも、in vitroの増殖が次第に低下し、そのあとで“transformed focus”が出現して、growthが急速に上昇したこと、さらに、focus出現後も、動物に移植するとregressすることは、増殖能と悪性化は分離して考えるべきものであることを示唆しているように思はれます。今後、経験を重ねるに従って、種々のtransformationの様相が明らかにされ、そこから何らかの知見がひき出されるように思はれます。
また、以上の実験で、dose-responseがはっきりしないように(doseがcriticalに働くように)みえますが、これは、1/1、0/1の判定基準ですので、さらに多くの例を重ねる必要があると思っています。
 7.15分間処置によるtransformation
 4HAQOはneutralで15min.で失活するという遠藤さんのdataから考えて、4HAQO 15分間処置でtransformが起るように思はれました。
そこで、短時間処置によるtransformationを、くり返し試みてみたところ、cumulative growth curveでみて、濃度を3倍上げた10-4.5乗M群にのみ、transformationがみられたのです。(図を呈示)
(なお10-4.5乗Mは24h.処理すると、細胞は強く傷害を受け、増殖不能になる。このことは、4HAQOが15min以上、少なくとも細胞にdamageを与えるという活性は保持していることを示している)
このHA-15はvacuolusをもったcellとfibroblastの共生状態がつづき、pile upの傾向も少いようです。まだmalignantにはなっていません。
さらに経過を追う必要がありそうです。
 8.Spontaneous transformationについて
hamster whole embryoを培養すると、増殖はやがてとまり、fibre、meshwork arrangementなどの変化がおこること、また、このようなlimited life spanがtransformation(induced)のselectionに対して都合のよい条件であることは、すでにくり返しのべてきました。これに対して、一部では「establishできないような培養法」は、悪い条件の培養であるという考え方もあり、establishする培養法にきりかえるべきであるとの意見も聞かれた訳です。(この考え方には少し疑問があります。機能を維持する培養、あるいは目的に沿った培養法が、establishすることよりも重要なのではないでしょうか)
4NQO-transformationの対照細胞はすべてgrowthが止っても、定期的にmedium changeをつづけ、経過をかんさつしてきたところ、そのうちの一つZen-4が培養後311日にestablishしました。
この細胞のhistoryを少し詳しく記します。
1966.3.5  explant outgrowthで培養
  3.10  liquid airに凍結保存
  6.24 liquid airよりthawing、凍結106日(thawingのときの細胞生存率85%)
7.3 第3代
7.9 第4代
7.15 第5代
7.22 第6代、以後うえかえせずに1967.5まで維持(増殖はみられなかった)
1967.4.26 focusを発見、継代、以後denseなlayerを形成し、活発に増殖
5.4 染色体標本
5.4 移植→sarcoma
以上の結果から、hamster胎児細胞は300日以降にはSpontaneous transformationの起る可能性のあることが明らかになりました。
従って、induced transformationは100日以内に起させないとまずいようです。

 :質疑応答:
[奥村]あのスライドのcoloniesの写真は培養何日位ですか。
[黒木]12日頃です。
[奥村]それであの大きさでは、初めが1コではなく100コ位づつかも知れませんね。
[勝田]映画をとっていて思うのですが、2〜3コの塊からはすぐどんどん増え出すのに、本当の1コからは仲々生え出してきませんね。
[吉田]Mutation rateは普通は10-6乗位のorderです。10-3乗位というのは4NQOが変異に有効に働いていると思いますね。
[安藤]細菌だと10-8乗位ですが、薬品を使うと10-2乗位にまで上げられます。
[奥村]一つのcolonyがいくつ位の細胞から出発しているかを考え、あの数値は1order上げておいた方が良いのではありませんか。
[黒木]3T3が変異の最高で60%位にもなります。
[勝田]Mouseのfeeder layerを使うと、それとのHybridができてしまうのでは・・・。
[黒木]Feederを使わないと細胞数を10倍位にしなくてはならないし、出発が1コでないという問題も起ります。
[奥村]Conditioned mediumを使うことを検討すべきでしょうね。
[勝田]復元したらtumorを作ったがregressし、その後は本当にtakeされたという、その2時期の間に細胞は何回位分裂した計算になりますか。
[黒木]10回位でしょう。
[堀川]はじめの頃は対照群が300日も保たなかったわけですね。若し300日保てば自然悪性化してしまうものかどうか・・・。
[黒木]この1例だけですが、とにかく300日たったら悪性化していたわけです。とすると実験は100日以内に勝負をつければよいと思います。
[奥村]100日でも長すぎるのではありませんか。
[堀川]4NQOが悪性化を促進しているだけですか。
[黒木]発癌剤というものは、そういう働きを持っているのではありませんか。
[佐藤]DABの実験からも思うのですが、発癌剤は発癌を促進またはselectするのだと思います。
[奥村]発癌のためにはどの遺伝子を何回どう叩けばよいかがはっきるするような実験法を用いるべきでしょう。
[黒木]現在の時点でそんなことができますか。実験法について色々検討したのですが、Rafajko,R.R.:JNCI,38:581-591,1967にHamster whole embryoにAdenoをかけるのに、5%炭酸ガスを使うと変異が非常に高率になるといいます。炭酸ガスフランキは癌化に何らかの役目を果たしているのではないでしょうか。
[奥村]自分の所で自然悪性化した例は、みな炭酸ガスフランキで培養したものです。
[黒木]できるできないではなく、頻度が上るのではないでしょうか。
[勝田]私のところで仲々癌化しないのは、炭酸ガスを使わないためですかね。
[吉田]炭酸ガスが変異の頻度を上げるということを蚕で実験している人があります。
[安藤]炭酸ガスで変異促進というのは、培地のpHを下げるという意味もあるかも知れません。他のmildな酸で酸性にしてみたらどうでしょう。
[奥村]pHを上げないようにすると自然悪性化の頻度を上げられると思います。
[堀川]こういう発癌とウィルス発癌とは同じ機構でしょうか。
[奥村]同じとは云えないが、似ていることもありますね。昔ウィルス発癌がうまく行かなかった頃の条件をしらべてみると、pHが高すぎたようです。
[堀川]変異のprimaryの変化は、duplicationの時のbaseの読みちがいですか。
[安藤]そうですね。たしかにbase changeでしょうね。
[吉田]4NQOは吉田肉腫に与えるとheterochromatinの部分を特異的にattackします。
[黒木]特異的といっても細胞質だってやられるでしょう。
[堀川]それは放射線でも同様です。
[奥村]Synchronous cultureでやってみると、もっとどういう時期にヒットするか判るでしょう。
[吉田]染色体レベルでみて、SでもG1でも染色体異常は起らず、G2期にあったものだけが異常を起すということを、私は発表しています。
[安藤]Double-strandのDNAにはよくつくが、Sinleではつかない。その考からだけ行けばG1、G2両方に効くように思えますが・・・。
[勝田]生化学者にしても染色体研究者にしても、或薬剤が効いたということのcriterionとして、DNAがきれたとか、染色体に異常が起ったとかを重視していますが、それで良いのでしょうかね。むしろそんな細胞は増えられずに死んでしまい、別のが増えるのではないでしょうか。
[堀川]染色体レベルの変異をみるのならhybridのやり方を採用するのが良いと思いますね。
[奥村]黒木氏の今の目的は変異の機構を整理したいのか、悪性化させたいのか、どちらですか。前者ならSynchro.など、後者ならそれだけに攻め方をしぼるべきでしょう。
[勝田]過程としては処理後、変異→悪性化となる、その変異のところでcloningをやって悪性化への過程をしらべることも必要ですね。

《高木報告》
 1)2つのハムスター培養皮フ片の移植実験について
 月報6704及び6705に報じた2つの実験群で相方とも同じ培養条件を用いた。即ち培地としてはC.E.E.2滴、chick plasma6滴からなるplasma clotを用い30℃可及的低湿にincubateした。用いた移植片は生直前と思われるハムスター胎児の背部及び側腹部より皮フ全層を取り、約10x10mm角に切り直接clot上に置いて培養した。carcinogenとして4NQO 10-5乗Mol.in Hanksを皮フ表面に1滴滴下し、対照群にはHanks液のみを滴下してこの処置を培養開始時及び3日目の計2回行った。
 培養後7日目の皮フ片は非常に健常に保たれており、これらより7mm径の移植片を切り取って成熟ハムスターの背部に設けられた6mm径の移植床に移床した。
 第1回目のものでは4NQO群4匹、対照群3匹の全部に移植後4週目に移植部位に白毛を生じた。白毛を生じた部分の範囲は各個体により夫々径7mmから2〜3mmまでのばらつきがある。8週目頃より4NQO群では背部に毛代えと思われる脱毛がみられ、かなり高度の脱毛を呈したが、白毛の部分だけは脱毛は軽度であった。
 11週目にはこの脱毛も殆んど恢復し、現在14週を経過したが、対照、4NQO群とも白毛は充分維持されている。両群とも白毛部の皮フに腫瘤形成や、皮下との癒着などの変化はみられず、動物は元気である。
 第2回目のものも全く同様の方法で培養されたものを同様に移植したが生残った対照群4匹、4NQO群6匹のうち4週目には対照群3匹に白毛を生じ、4NQO群3匹に白毛、1匹に褐色毛を生じた。その後対照群の残る1匹に白毛を生じ対照群は全部発毛した。結局2回目の実験では10匹中8匹にtakeされた?ことになる。7週目を経過した現在、対照と4NQO群の間に著明な差はみられない。2回の実験を通じてみて現段階では培養皮フ片の移植成功率の高いことと、take?されたgraftが白毛を生ずるらしい点が興味深い。尚、今後は培養片の移植率に関する対照の意味で培養しない胎児皮フの移植、又適当な純系動物を用いての移植実験を是非行いたい。
 2)cell cultureによる発癌実験として、ハムスター胎児がなかなか生れないので、ratのthymusから分離したfibroblasticなcell lineに4NQOを作用させたが、10-6乗Mol以上の濃度では、24時間作用させただけで翌日から細胞の障害が強く現われ、1週間後には殆んど完全に細胞は無くなって了う。一方、10-8乗Mol以下では3日間作用させたのち、10日経っても何の変化もみられなかった。従って今後は10-7乗Molを中心に検討してみたいと思う。

 :質疑応答:
[三宅]白い毛が生えたことについてですが、組織標本はありますか。
[梶山]まだありません。
[藤井]皮膚移植ではそういうことがあります。神経を切ってしまうためでしょうが、C57BLでも白毛が出てくることがあります。
[勝田]移植直前まで発癌剤を添加し放しでは、発癌剤のついたまま移植することになります。
[加納]Autoの動物に戻したらどうですか。
[藤井]この実験は、つきすぎる位よくついています。培養したためでしょうかね。技術的に云いますと、もっと大きなgraftを使った方が良いと思います。
[黒木]発癌実験をcell levelでなくorgan cultureでやる利点は何ですか。
[三宅]組織として、夫々の細胞集団での変化が見られます。
[勝田]組織レベルでの変化を見て、復元してまた組織学的に検討できます。その意味で、組織像をみていないのはうまくありませんね。
[藤井]培養したバラバラの皮膚の細胞を移植するという技術も開発されています。ハムスターは雑系ですから、マウスの純系を使って実験した方が良いと思いますね。

《三宅報告》
 試験管内での発癌が変異であるのか、それとも混在していた既存の悪性乃至は準悪性の細胞のSelectionによるものかという、前回の月報の巻頭にかかげられた言葉は私達、胎生のOrganを対象に用いるものにとっても、大切なsuggesionであると考えた。Organizeのpatternでの悪性腫瘍に馴れて来た私達が、良性の細胞のComponentから出来ていると信じきっていた胎生の組織の中に悪性か、それとも、まことに不安定(形態学的にも、機能的にも)な細胞を、それと名ざすことは、まことに困難であるが、皮膚という組織の構成成分について、そのどれが最も不安定な細胞であるかを、推察することぐらいのことはできそうである。
 皮膚の表皮では解剖学的にはBasal layerのみでしか分裂をみることがないこと、これを培養に移すと、角化という現象は、素晴らしい勢でのびるがDowngrowthが無いこと、又この上皮性細胞はDedifferentiationという言葉で示される通りアメーバ様の性格を持って来るが、決して異型性を示さぬこと、またもっと大切なことはBasal layerの細胞が僅少であることなど、4NQO、MCAの添加によっても、こちらの目的通りには、動いて呉れない、と考えるようになった。所が表皮の下にあるdermis以下の細胞−それは神経もあり、血管もあるが、その主体となるfibroblast likeな細胞は、Andresen(J.N.C.I.,38,169,1967)によるC3H発癌実験でも知られる通り、すこぶるmultipotencyを持っていて、C3Hの前眼房の中に戻されると、骨や軟骨を作る性格をあらわして来る。私達の皮膚のOrgan cultureでも4NQO(10-6乗M/ml)を黒木氏の方法で作用させたものでも、表皮は極めて温順で角化を示す反面、fibroblast likeの細胞は核の大さが増し、Hyperchromatieになって、細胞の濃度も増して来るという具合いにAtypismを示して来るのである。もちろん、これだけで悪性云々の言葉を、さしひかえるべきであるが、今これにH3-TdR、H3-Ur.、H3-Conpundをtakeさせる、一方でHeidelbergerの方法に従って、platingをやるかたわら、動物に戻す実験を行いつつある。
 Fibroblast like cellという細胞系といっても、まことにアイマイな表現になることを、おそれるが、胎生のWharton's jellyを作る細胞というようなものに関連のふかいものと、お考えいただき度い。

 :質疑応答:
[吉田]Epidermisの細胞がsponge内に入りこんでくるのはorientationを失った為ですか。またそういうものが悪性化とつながりますか。
[三宅]初期段階としてはそう考えたのですが・・・。
[勝田]Heidelbergerのように、あの変異したようなセンイ芽細胞をcell cultureに移してふやし、復元してみたら如何ですか。彼の場合は上皮性の変化があったのに肉腫になりましたが。
[三宅]今試みております。上皮性のものでも肉腫状所見を呈してもかまわないと私は思います。
[黒木]あのセンイ芽細胞はcell cultureすると、criss-crossを呈するんではないでしょうか。それから溶媒としてプロピレングリコールも良いと思いますが。
[吉田]あれは毒性がありますよ。新生児には無理でしょう。
[奥村]ホルモンの実験に使った限りでは、培地でうすめると細胞にあまり影響はないようです。
[勝田]Sponge中へactiveに入って行く細胞の方が、より悪性、ということはありませんか。
[三宅]今まであまりしらべてみて居ません。なお瓶は5%炭酸ガスを入れ、ゴム栓をしています。

《佐藤報告》
 ◇RLN-187細胞及びRLN-E7細胞を使用してPuromycinで細胞増殖をおさえた場合、DAB吸収(48時間1細胞)がどの様に変化するかを実験しました。
 1)Puromycinで増殖を阻止し破壊した場合にはDAB吸収は寧ろ増加する。
 2)0.2μg/ml、Puromycin2日後、Puromycinを除いて増殖を亢めてもDAB吸収には余り影響がない。
3)細胞崩解の方法をうまくやれば細胞増殖に関係なくDAB吸収をおこすことが出来そうである。
 ◇DAB発癌
 3'-Me-DABをdimethylsulfoxideに溶解して培養肝細胞に添加する方法で20μg/ml1ケ月位で形態学的な変化がおこるが未だ復元までいっていない。
 ◇4NQO→ラッテ
 N-13:4NQO→生れる直前のラッテ胎児肺。
トリプシン法でprimary cultureして2日目、7日目、12日目に4NQOを10-6乗Mの濃度で1時間、5時間、12時間投与した。ラッテ全胎児に4NQOを投与した場合に比して肺細胞は抵抗が強い。
 N-14:前号に続きRE-4、RE-5の2つの系で実験中です。
1)RE-4、5x10-7乗Mのものでは、細胞の増殖が悪くなり、それ以後4NQOの投与を行っていません。
2)RE-5、5x10-7乗Mのものでも17日間続けて投与後8日間正常培地にもどし、再び7日間4NQOを投与したところ、以後細胞の増殖が悪くなった。細胞の形態学的変化は少い。
3)RE-5で10-6乗M、4〜6時間、時々4NQOを投与している系(現在まで7回)形態学的にかなり細胞が変化しており、また増殖もかなり保たれているようです。
 N-15:動物復元でtumorを形成したものはまだ見当らない。

 :質疑応答:
[奥村]炭酸ガス条件下では肺がいちばん自然発癌しやすいのですが、肺の細胞は炭酸ガスフランキで培養してみたら如何ですか。
[勝田]私のところのラッテ肺由来の株に4HAQOをかけてみたら、以前報告したようにコロニーはできたのですが、ラッテにtakeされませんでした。炭酸ガスではありません。
[黒木]移植しなくても増殖度の一変したコロニーのできたことなどでcheckして、どんどんやれば良いのではありませんか。
[吉田]動物はやはり純系をえらばないと、復元するのに不利だと思います。純系もあるのだから・・・。
[佐藤]自分のところは呑竜を使っていますが、とくにbrother-sister-matingはやっていません。DAB肝癌が呑竜で継代できるからえらんだのです。
 ☆呑竜が純系か否かの議論しばらく続く☆
[勝田]DAB消費の測定で、実際のO.D.としてはどちらの群の方が減っているのですか。
[佐藤]Tube当りでみると同じ位です。
[堀川]Puromycin処理した細胞は大きくなっていませんか。つまり蛋白当りの数値でみると、結果がまたちがってくるのではありませんか。
[佐藤]私はこの場合、細胞のfragmentsなどが消費しているのではないかと考えています。細胞をこわすのに、凍結融解や超音波では、消費が0になってしまうのに、この場合のようなこわれ方では何故消費があるのか、いま考えています。
[安藤]細胞をこわして細胞内のものを全部外へ出してしまうと、酵素が働かなくなるが、Puromycinを加えた場合は、細胞の増殖は止まっていても、生きていれば、酵素は活性の状態で外へ出されているのかも知れません。何時間incubateして見ているのですか。
[佐藤]48時間です。
[難波]Puromycinでやられる時までに貯えていた酵素が働いていると考えても良いわけでしょうか。
[勝田]Cellを入れないcontrolにPuromycinを入れましたか。つまりPuromycinがDABと直接作用するという可能性はないのですか。
[安藤]DABそのものにPuromycinを加えて対照をとる必要がありますね。
[堀川]培地内だけでなく、細胞内のDAB量はしらべられないでしょうか。
[佐藤]濃度の点で不可能ですね。Colchicineでcell cycleをとめてみるのも試みたいと思っています。
[奥村]Colchicineよりコルセミドを使う方が良いでしょう。
[勝田]いずれにしてもmetaphaseで止まってしまうから、どういうものでしょうね。

《堀川報告》
 前号までに実験(1)から(4)までの経過を報告してきた。同様にしてこれまでに実験(7)まで逐次進めてきたが、いづれも御存知のようにマウスBone marrow cellsを用いたIn vitro cultureによるLeukemogenesisをねらったものである。これらの7つの実験系はいづれも使用するマウスstrainを変えたり、mediumの組成をかえたり、4NQOの濃度さらには処理する時間を変えたりしてきたわけである。順序から行けば実験(4)につづいて(5)(6)(7)と内容を紹介すべきだと思うが、すでに班会議でも述べたのでこれらは省略し、もう少し結果が動きだしてからまとめて整理してみたい。
 今は丁度これらの実験を進めてから結果まちの時期のようなので、今回はこれまでの実験系について反省してみたい。思うに発癌実験のような仕事は他の実験にはみられない(少なくともcell levelの仕事で)忍耐を要することがわかった。アイディアよりもむしろねばりである。勿論アイディアなくして仕事は出来っこない。私の云っているのは比重からみてである。とにかく出発した実験の結果まちには他の仕事にはみられない長い時間を要する。これには非常に緻密な排列と整理を必要とする。
 さて次に実験の系であるが、私の実験系は発癌実験の系としてどうしてもスッキリした系ではなさそうだ。しかし前号の月報の巻頭に述べられていた内容が強く私の心をうったように、それは時期的にみて非常に重要なものを意味すると思う。もし発癌だけをねらい、その機構を知ろうと思えば、色メガネをかけて最もシンプルな系をもくもくとまい進すべきであろう。いつかはその系についての機構も少しづつでも明らかにされてくるにちがいない。
 しかし癌には色々の種類のものがある。すべてを同じレベルで同じ機構で説明出来るものだろうか。ある場合にはウィルスの如き作用で・・・。ある場合には化学薬剤の如き作用で・・・。ある場合には両者の如き作用が組み合わさって作用し、種々の癌を誘起させるに違いない。とにかくあらゆる分野の人が、あらゆる角度から攻撃せねば、とうてい陥落出来そうもない。まことに癌は学問の上でも癌である。
 白血病もうわさにたがわず、その1つで正真正銘の癌だ。この癌は我々の如き放射線遺伝学屋にとり関係なきにしもあらずだし、加えて癌畑に素人なものの最もアタックし易い方向と思い一寸足をすべりこませてみたものの、とてもとても手ごわい相手のようだ。しかし色々の意味から一度喰いついたら、とてもあきらめて離すことの出来ない味のある癌のようでもある。さあこれからどのように喰いついた部分をかみ切ってやろうかと頭をひねっているのが現状である。

 :質疑応答:
[安藤]UV照射して回復したなかに、dymerがどの位残っていますか。
[堀川]まだしらべてありません。
[奥村]復元接種部位はどこですか。
[堀川]尾静脈です。
[奥村]死ぬまでには行かなくても脾臓などの腫脹がみられるのではありませんか。
[堀川]なるべく永く生かしておくつもりで、殺してしらべてはありません。
[黒木]このマウスの系はレントゲン照射などで白血病ができませんか。
[堀川]あまり出ない系です。
[吉田]放射線をかけるのはspleenにcoloniesを作らせるためでしょうが、目的が4NQOで白血病になれば良いのなら、放射線をかけなくても良いのではありませんか。
[堀川]両方をねらっていますから・・・。
[吉田]胸腺は白血病を起す場として大切だということが、いま大分唱えられています。だからあまり色々ねらうと、何を見ているのか判らなくなるのではありませんか。脾臓のcoloniesを見る方にもっと力を入れたら如何でしょう。
[黒木]白血病ができたとすると、Virusの心配も起ってきますね。

《奥村報告》
 A.In vitroにおけるcell transformationの実験系に関する一考察
 日頃、私は哺乳動物の扱い方のむづかしさを痛感しております。しかも、バクテリヤ←→ファージの実験系でみられるようなclearな実験結果、さらにそれから導き出されるさまざまな現象解析に比べると、哺乳動物細胞が極めてやっかいなものであることを痛感します。しかし、そのむづかしいことにより一層の魅力を感じていることも云えます。私の興味がcell transformationにあるだけにbacteria-phageの実験系は色々な意味で刺戟となります。今迄も幾人かの人から親切な助言をもらいましたし、さらには私自身も多少微生物遺伝のことを勉強しましたが、その都度考えさせられることは、哺乳動物細胞には、それなりの独自の実験方法論がなければならないということです。ある一部の実験を除いては、簡単にbacteriaを扱うときの手法をそのままもってくることは出来ないように思います。
 しかし、さまざまな従来のin vitro cell transformationの報告をみますと、結論的にはbacteriaでみられる結果、あるいは方法論にうまくツヂツマを合せようとしているものが多いようです。中には相当無理な筋道を立て、いくつもの飛躍した考えをつなぎ合せているものがあるようです。私は、今までに約30種のcell lineを得て(cell lineをつくることが目的の場合もありましたし、他の実験の副産物としてcell lineが出来てしまった場合もありました)。その都度、哺乳動物細胞の不思議さに接し、いつも空しい感じが、心の片隅から消すことの出来ない経験をしてきました。その最も代表的なものがspontaneous cell transformationです。そこでこれらの細胞を中心に(文献にみられるものを加えて)、色々とデータの整理を試み、あな埋め実験をして、縦軸に染色体のmeta-submetacentric chrom.数を取り、横軸にAcrocentric chrom.数を取った図を作成してみました。細胞はハムスターです(図を呈示)。さらに、cell transformationを解析していく一つの手がかりとして(spontaneouslyの場合にも、experimentallyの場合にも)コロニーレベルの解析方法をいろいろと試みてきましたが、最近はどうやらうまく行くようになりました。つまり細胞の増殖能を指標にした実験系です。ここしばらくは、人為的なcell transformationもこのシステムにしたがって進行させてみたいと考えております。つまり、初期の培養がコロニー単位で増殖の速いものおそいものを分離し、それらの細胞を追っていく方法、現在までに得た結果からみますと、一つの傾向として、small colonyの中からでてくるlarge colonyのcellがかなり大きく質的変化を示しているように思います。又、large colonyからのsmall colonyは非増殖性になることが多い。
 B.ヒトtrophblastsのSV・40によるtransformation
 m.o.i. 100~300ぐらいでinfect.させると約3〜5週後にstransformationがみられることが判りました。詳細は次報でします。

 :質疑応答:
[黒木]Cloningされる場合の、シャーレのサイズと培地は何ですか。
[奥村]サイズは4mm〜90mm、液量に注意する必要があります。0.1ml〜。培地は10%〜50%Calf serumとM・199、Eagleです。血清はよくえらぶ必要があります。私は北海道から取寄せていますが、それでも何割のロットしか使えません。
[勝田]増殖の早いコロニーを拾ってまくと、次の代は全部早いのですか。
[奥村]100%ではありません。小さいのも少し宛出るので意識的にそういうのも拾ってみました。
[黒木]Coloniesの大きさだけでなく、性質はみてありますか。
[奥村]今は見ていません。
[吉田]Plating efficiencyはどの位ですか。
[奥村]1/100%のレベルです。1〜2カ月経つと数%になってきます。
[難波]4mmシャーレでは最後まで0.2ml位でつづけるのですか。
[奥村]そうです。
[黒木]Hamsterの場合、flatなcoloniesもfibroblastsというのですか。
[奥村]形態については余り断言しないことにしています。
[加納]TakeされたということのCriterionは何ですか。また部位や量は?
[奥村]1,000〜10,000皮下か脳内に入れます。脳内の方がよくつきます。病理で組織学的所見で診断を下してもらっています。
[勝田]人間材料を発癌実験に使うそうですが、悪性化をどうやってcheckするつもりなのですか。
[奥村]培養内の形態や、ホルモン産生能、増殖などが、mole(竒胎)の培養のそれらに似ているか否かで判定したいと思っています。
[堀川]それだけでは決定的でないでしょう。
[黒木]チークポーチなども良いのではありませんか。それより、ウィルスと化学物質の組合せの場合、発癌性のないウィルスとの組合せをみるべきではないでしょうか。
[奥村]SV40などは癌化に40〜100日かかります。それに化学物質を加えてどうヒットするかを見たいのです。
[堀川]4NQO発癌の場合も、ウィルスが何の関与もしていないという証拠は今のところありません。という意味で、しらべてみる価値はありますね。
[黒木]ウィルスの発癌の場合はVirus genomが組込まれることが判っているし、4NQOなどの場合はDNAのbase changeのあることが判っています。この二つが組合わさると、実際にどういうことが起ったのか判らなくなってしまうと思います。
[吉田]両方とも発癌性のないものを組合せて、それで発癌するような系を見附けられれば、それは大変意味があると思いますね。
[勝田]私もかねてからそれを主張しているのですが・・・。

【勝田班月報・6707】
《勝田報告》
 ラッテ肝ホモジネートのDAB代謝:
 前回の班会議で[なぎさ培養→DAB高濃度処理]によって生じた変異株のhomogenateによるDAB代謝について報告したが、homogenateレベルにすると、どうもDAB代謝量がはかばかしくなかった。この原因をつきとめるため、培養細胞ではなく、ラッテから取出したばかりの肝組織について、そのhomogenateの濃度を色々と変えてDAB代謝能をしらべた。
 1)10%Liver homogenateの作り方:
Rat liver tissueを細切して、これを0.5M・KCl水溶液9倍容に入れ、ホモジナイザー(Waringblender)で15秒間homogenizeする。さらにドライアイスと37℃温湯で凍結融解を2回くりかえし、3,000rpm 5分の遠沈后、その上清を10%homogenateとみなした。
 2)反応:
(表を呈示)反応液は前号にも記載してあるが、今回はこの処方によった。これらの液を短試に入れ、よく混和させてから37℃の湯浴で、0時間、2時間、18時間后に夫々20%TCA(アセトン・エタノール1:1溶液)を加えて反応を停止させ、比色計で吸光度をしらべた。
 結果(表を呈示)は表の通りで、Cell homogenateが10%、5%の場合には37℃・2時間后の吸光度はきわめて有意に低下していたが、2.5%以下になるとO.D.の減少は非常に少く、はっきり消費されるとは云い得ない値であった。
 またCell homogenateを1%にして、時間を延長してみても、18時間后にも吸光度の減少は全く認められなかった。
 5%以上のhomogenateでないとdetect出来ないという結果になったことは、培養細胞を分劃しして、その活性を検討して行こうという現在、非常に困ったことである。
 さらに高価にはなるが、ATPその他の添加など、反応液をいろいろ検討してみる必要があるかも知れない。

《佐藤報告》
 Donryu系ラッテ肝の組織培養株(7)が長期間になりましたので一応纏める事にしました。(表を呈示)表のようにRLN-36とRLN-38は腫瘍形成能がない。培養細胞の形態では異型性多型性が見られる。この2つの株は培養を継続し復元を続けている。
 腫瘍形成ラッテは総数27匹である。(表を呈示)性状は表の通りである。表での復元は培養細胞をラッテ新生児へ接種した。被接種ラッテが腫瘍死するまでの平均生存日数は228日である。RLN-8はまづ定型的な肝癌で腹水性腫瘍も同時に有していた。動物への移植継代で腹水肝癌を生じた。RLN-21は箒星状の細胞であってまづ肉腫と考えられるが細胞が並列する部があって、血管内皮系の細胞を想起させる。この系も動物移植継代が陽性であった。他の3系は癌腫の部分と肉腫の部分の併存があった。

《堀川報告》
 [実験]培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防御
ならびにLeukemogenesisの試み
 今回は先日の班会議の際御紹介したうちの最後の実験系、つまり(実験6)についてその後の結果を報告したい。
dd/YF系マウス(生後39±1日)♂5匹のBone marrowから得たBone marrow cellsを2群に分け、(a)一群は培養直後10-5乗M4NQOで2時間処理、その後はnormal mediumで44日間culture。(b)一方他群は最初からnormal medium内で44日間cultureした。培養45日目に500R・X線照射したdd/YF系♂♀混合(生後20日)にもどした(図を呈示)。この図からわかることは、
 (1)500R照射したマウスは半数が死んだが、cultured normal crllsを移植したものでは全数生存している。つまりcultureされたnormal Bone marrow cellsがX線照射されたマウス内で機能的に働き、死亡から防護している可能性を示している。
 (2)一方4NQO処理細胞をもどしたマウスでは同様に半数が死亡した。これは勿論防護能力のなかったことを示している。
更にLeukemogenesisの問題であるが、4NQO処理細胞をこれらマウスにもどしてから46日目には(死亡したマウスを含めて生前の結果を綜合)末梢の白血球数をcountすると、3〜5万/平方mmに達するものが出て来た(正常は5〜7千/平方mm)。しかも正常値では60%をしめるリンパ球が15〜30%に減少して完全に白血球組成をかえたかにみえ、一瞬Leukemogenesisを思わせた。しかし白血球の組成は分節核が多く、幼芽球の少なかったこと、しかも更にわるいことには、その後9日目に生存マウスについて再検すると殆ど正常白血球数および組成にもどっていることから、どうもこの段階では理解に苦しむ点が多い。とにかく何かが変って来ていることは確かなようだが、更に更に次次の実験を要するようだ。それに前回の班会議でも問題になったように、「骨髄死」防護とLeukemogenesisの実験系は、2つに完全にseparateして進めるのがデータの整理上、妥当のように思われる。

《高木報告》
 1)ハムスター培養皮フ片移植実験その後の経過について
 a)月報6704に報じた移植群は現在4ケ月を経過したが、両群の生存せる全動物は健常と思われgraftの部分にも目立った変化は認められないが、唯4NQO添加群で生存せる4匹の動物のうち1匹に、最近takeされたgraftの辺縁部と思われる部位に約3x3mm程度の偏平なわずかな隆起をみとめた。表面平滑で硬さも変りなく発毛もあるので、これが有意な変化かどうかは今后の観察にまちたいと思う。他の3匹及び対照群にはこれに類似する変化は、まだみられない。
 b)月報6705に報じた実験群では、2ケ月半を経過した現在、生存せる10匹は全て健常であり、graftの部分の変化をみとめない。
 復元実験を考える場合、純系動物を用いるか或いはautotransplantationを行うのがよい事は班会議でも度々指摘され、また私共も充分に考慮している処である。我々はさしあたりautotransplantationについて検討しているが、そのためには現在行っているfoetal又は、newborn animalでは皮フを剥離した時に動物は死ぬ事になるので、その目的を達することは出来ない。adult animalの皮フを培養する事が出来れば、発癌実験の目的にもまたauto-transplantationが可能な意味でも一層理想的と云えよう。Gilletteらは、adult mouseの耳介の皮フをcortisonを加えた培地で可成り長期間培養しているが、我々もハムスターを用いてこの方法に準じて、ハムスターに発癌物質を作用させて培養した皮フのautotrans-plantationを試みるべく計画している。
 2)ハムスターがなかなか妊娠しないので引続きrat thymus由来のcell strainを用いて4NQOによる実験を行っている。今回は25代目subculture后4日目に夫々4NQO 10-7乗Mol.10-8乗Mol.を24時間作用させて後、8日間観察したが対照に比べて全く変化のみられないままfull sheetを作ったので、夫々subcultureして26代目に移った。2日後4NQO 10-6.5乗Mol.及び10-7乗Mol.を夫々2日間又は8日間作用させたところ、NQI及びNQ (2日間作用)は4NQOによるdamageを全くうけず、5日目には27Gに移り、その後も対照に比べて全く変化を示さない。一方NQ 及びNQ の8日間添加群は4日宛2回、Refeedの時に4NQOを添加したが、添加後8日目頃より徐々にdamageをうけて剥れる細胞が増し、除去後10日目を経た現在、NQ では極く少数の変性しかかった細胞が残ってだけであるが、NQ では可成り多数の細胞が生き残って密集する傾向にあるが未だtransformed fociはみられない。

《三宅報告》
 d.d.系マウスの17日目の胎児について、皮膚のOrgan Cultureの第2日目、4日目、6日目にわたり4NQO・10-6乗M/mlを3回、作用せしめ、第8日目に、(1)そのH.E.による組織増、(2)H3-TdRの取りこみのAutoradiography、(3)Dissecting后PronaseB(0.25%sol.)による単細胞化后培養、(4)組織片をSpongeからはずしてd.d.系マウスの背部皮下への移植をこころみた。
HEの像では(写真を呈示)、角化層の形成については両者に差はない、が棘細胞の核の膨化、淡明化が実験群に強い、Dermisの結合織母細胞も変性に傾き、前回のヒトの胎児のDermisの細胞とはかなり違っている。
 Pronaseによる単離細胞も硝子面で変性に似たものが多いのは、この組織像によるものか、あるいは、800rpmという遠沈の不手ぎわによるものか不明である。H3-TdRの取りこみについては次回に述べる。

《黒木報告》
 Transformation前後の呼吸解糖について
 in vitro transformationは発癌機構を探ぐる上で重要な手段となり得るが、その他に発癌過程の分析においても従来には、出来なかったような材料を提供するにちがいない。例えば染色体の研究である。その他に生化学的phenotypeの分析にも役立つであろう。ただ生化学分析において困るのは、それが多くの(1,000万個以上)細胞を要求することである。startの細胞数が少いと、細胞を集める間に発癌してしまうことにもなりまねない。
 生化学的表現形質研究の手はじめとして、最初に呼吸解糖の分析を抗研生化学部・佐藤清美氏との実験にて開始した(Glycolysis and Respiration of Hamster Embryonic Cellsの表を呈示)。Crabtree effect(glucose添加による呼吸抑制、癌細胞に特異的と云われている)は次のようになる。
 (1)呼吸基質(pyruvate)を加えない場合
   O2 uptake in G(+)/O2 uptake in none=2.37+(2.32÷2)/2.37=0.993≒1.0
(2)Pyruvateを加えたとき
O2 uptake in G(+) & Pyr(+)/O2 uptake in Pyr(+)=2.62/2.53=1.04>1.0
すなはちglucoseによる呼吸抑制はなく、Crabtree(-)である。
(Glycolysis and Respiration of Transformed Cells(HA-2)の表を呈示)。
transformed cellsでもCrabtree effectをcount.すると
(1)Pyruvate(-)のとき
O2 uptake in G(+)/O2 uptake in none=2.08+(1.95÷2)/1.61=2.02/1.61=1.25
(2)Pyruvate(+)Pyr.+Gluc.(+)/Pyr.(+)=2.24/3.00=0.75<1.0
即ち呼吸をPyruvateで促進させてglucoseを添加すると呼吸が抑制されc.effect(+)となる。 この他normalとtransformed cellsの違いは、
 (1)乳酸産生
   normalではg(+)のとき1.29〜1.31であるのに対し、transformed cellsは8.7〜8.84とはなはだしく高い。
(2)O2 uptake
normalは2.32〜2.37と比べるとtransformedは1.95〜2.08と幾らか低い。 
(3)Hexose monophosphate pathway(HMP)の依存度
G-1-C14のC14-CO2はHMP及びTCAcycleにより生じ、G-6-C14のCO2-14はTCAcycleのみから作られる。従って、両者の比はHMPの依存度を表す。
 normal:CO2←G-1-C14/CO2←G-6-C-14=0.069/0.015=4.6/1
 transformed:CO2←G-1-C14/CO2←G-6-C14=0.125/0.040≒3/1
すなはち、normal cellでもtransformed cellsはHMPが活発である(両者の増殖はどちらも同じくらい活発であった。細胞はlog phase)。なおYS(Yoshida sarcoma)ではこの比は11.0/1.0でこれらの細胞に比較するとはるかに高い。
 呼吸解糖は細胞の基本的な営みであるが、もう一つ細胞の機能と関係したmarkerを用いて生化学的な分析を行うべきであろう。従来この種の研究の材料であった肝癌では糖代謝が同時に肝臓の特異性をも反映していた。繊維芽細胞ではcollagen合成にこれを求めたい。

【勝田班月報:6708:Leukemogenesisの試み】
 A)4NQO実験:
 4NQO関係の実験では、これまでRLG-1株(ラッテ肺由来)、RSC-1〜5株(ラッテ皮下組織)を用い、19実験をおこなってみた。(この内RLG-1による1実験は4HAQOであるが) そして変異細胞らしいもののコロニーは約半数の培養に出現し、その内9系を継代培養している。しかしこれらはラッテに復元接種しても、不思議なことにどの系もtumorを作らない。変異集落の出現過程はいずれも似ていて、4NQO処理後ほとんどの細胞は変性壊死に陥ってしまい、その後新しくコロニーが生じてきた。その数は容器1コにつきコロニー1コ〜数コである。復元は50万個/ratで、乳児の皮下に接種した。
 その後これらの実験に用いた株細胞をしらべたところ、RLG-1は銀センイをわずか作っているが、RSC系の細胞の培養は鍍銀染色をしてもセンイが染まらない。若しセンイ芽細胞でないとすると、皮下組織からどんな細胞が得られたかということになる。またそれなら、いくら4NQOで処理しても肉腫にならないのは当然ともいえる。(復元は実験#CQ-4と13を夫々1匹入れたが4カ月(-)で殺した)
そこで最近の株をいろいろ当ってみると、ラッテ膵由来の株、RPC-1が見事に好銀性センイを作っていることが判った。これならばセンイ芽細胞といえるから、これからの4NQO実験にはこのような株を使うことにした。現在使いはじめたところである。なお、RPC-1というのは、生後6月の♀の膵を1963-11-10から培養しはじめた株である。(RPC-1株細胞の鍍銀染色写真を呈示)
 B)ラッテ胸腺細胞株の“なぎさ”培養:
 RTM-1、1A、2、3、4、5、6、7、8、10の10種の胸腺細胞株(何れも細網細胞)を平型回転管に入れ、1967-2-1から3-8んで“なぎさ”式に静置培養したところ、RTM-1A、2、8の3系に変異細胞が現われた。しかしこの内RTM-1Aと2とは母株にも自然変異が現われたように思われたので、対象から除き、RTM-8の変異株について検討した。
 これらの変異細胞は何れも増殖が早く、Contact inhibitionを示さず、pile upして増殖する。そして諸々の形態的特徴が“なぎさ”培養でラッテ肝細胞から生じた変異株RLH-1に似ている。その染色体数分布は(分布図を呈示)、59〜62本のHypotriploidyで、これならtakeされるのではないかと秘かにねがっている(顕微鏡写真を呈示)。
 復元試験は、JAR系x雑系ラッテのF1の生後2日仔にI.P.で50万個宛、2匹宛接種したがtakeされなかったので、2.5月後に再び接種した。その内RTM-8変異株を接種したラッテが、学会に出張中に死亡してしてしまった。即日診られなかったので断定はできないが、腹水はたまっていなかったようで、恐らく肺炎のための死亡かと思われた。これは細胞数をもっとふやしてわらに復元試験をおこなう予定である。
 C)DAB代謝異常株:
 ラッテ肝細胞を“なぎさ”培養からDAB高濃度処理に移して作った変異株の内、M株はDABを高度に消費するが3'-Me-DABを与えると代謝しない。そこでDABの代わりに3'-Me-DABを20μg/mlに1月与えつづけ、その後培地をすてて(subcultureせずに)再びDAN 20μg/mlに戻したところ、はじめの8日間(その間に培地交新一回)はこんどはDABを代謝しなかった。しかし8日以後はまた高度に代謝するようになった。代謝酵素の機能の切換えがすぐにはできなかったわけである。
 Cell homogenateによるDAB代謝の仕事は培養細胞を使うと量的に大変なのでまずラッテの肝組織を使って見当をつけ、それに従って培養細胞の分劃に入りたいと考えている。

 :質疑応答:
[黒木]銀で染まらなくてもHyproでかかってくれば良いでしょう。
[勝田]Hyproの定量にかかる位ならば鍍銀法で染まると思います。
[高木]Transformするとセンイを作らなくなる−というようなcheckingをなさるおつもりですか。
[勝田]Collagen fiberを作っていないのではfibroblastsかどうか判らないから4NQOで処理しても肉腫になるまい、ということで、transformしたらfiberを作らなくなるかどうかは副次的な問題で、そのときどきで色々のができるだろうと思います。
[吉田]DABを消費するというのは、DABを分解しているのですか。
[勝田]そうです。比色で特異吸収が4日間でほとんど零になってしまいます。
[安藤]ラッテ肝のDAB代謝は、i)脱メチル化、ii)(N)のメチル化、iii)(ベンゼン核の)メチル化、iv)アゾ基の還元的分解、v)それらの生成物のNのアセチル化、等が知られている。この内、M株では培地内のDABの色が消失するのですから、アゾ基の分解の起っていることは間違いないでしょう。その他にどんな分解物ができているかは、詳しくしらべてみないと判りません。
 それからM株ではDABを高度に消費し、3'-Me-DABは消費しないと云われましたが、ラッテの肝組織が若し3'-Me-DABは消費しないとすれば、DAB分解酵素を追いやすいですが、するとなると分劃が厄介になってきますね。
[永井]発癌物質相互間の関係が、そういうことで少し判ってくると面白いですね。
[吉田]その分解能と発癌との関係は?
[勝田]直接的関係は未だ判りませんが、DAB発癌による肝癌はDAB分解能が落ちていると報告されています。
[黒木]抵抗性と代謝能とは平行的ですか。
[勝田]代謝能がなくても抵抗性の高い場合はあります。
[吉田]DABがないと増殖しないような株ができると面白いですね。
[佐藤]自分のところでDAB消費をしらべたのは、肝細胞の同定のためです。つまり正常肝細胞と自然発癌の肝癌は消費するが、DAB肝癌は消費しない、培養内DAB処理による肝癌細胞も消費しない−という具合にです。
[勝田]むかしDABを初代培養のはじめ4日間だけ与えて肝細胞の増殖を誘導しましたが、あの辺の変化はもう一回詳細にしらべてみる必要があると感じます。
[佐藤]モルモットはDAB肝癌ができないとされていますので、モルモットの肝細胞を培養してDAB消費をしらべてみるのも面白いと思います。
[吉田]DABを代謝してしまうということと、発癌との間の関係はどうもパラレルではないようですね。
[勝田]他の発癌とは関係はない、或は少いでしょうが、DAB発癌の場合には間接的にせよ何らかの関係のある可能性がありますね。

《佐藤報告》
◇DAB吸収について
    吸収量(μg/ml)  平均細胞数(10,000個/ml)  DAB/cell(x10-6乗μg)
対照    0.32         6.2              5.1
1μgP.対照 0.37         4.4             8 4
1μgP.上清 0        −            −
1μgP.沈渣 0.35        4.1              8.5
100μgP.上清 0 −              −
100μgP.沈渣 0.15        1.2             12.5
 上の表はDABの吸収を示す。又DAB液に1μg及び100μgのPuromycinを添加して2日後に測定したmediumでは共にDABの消費はおさえていなかった。100μg Puromycin及び1μg Puromycin処理後、Trypsinで細胞を浮遊させて1,000rpm5分で上清と沈渣にわけてDAB消費を見た。上清ではどちらの場合もDAB吸収はなかった。Puromycin処理による細胞は100μgの場合も1μgの場合も細胞質核共に小型化し、100μgの場合には細胞質の中に顆粒が発生する。
◇4NQO発癌実験
現在までに復元したラッテを記載する。
動物番号 接種日 培養細胞 培養日数 細胞数 接種場所 4NQO処理
1 5-16 ラッテ肝 472 500万個 i.p. 5x10-7乗M、25日(1)(2)
2 7-1 ラッテ肝 488 500万個 i.p. 5x10-7乗M、62日
3 7-1 ラッテ肝 488 500万個 i.p. 5x10-7乗M、62日
4 7-1 ラッテ全胎児 93 500万個 s.c. 5x10-7乗M、34日
5 7-10 ラッテ肝 497 500万個 i.p. 10-6乗M、8日
6 7-10 ラッテ肝 497 100万個 i.p. 5x10-7乗M、62日
7 7-10 ラッテ胎児肺 39 500万個 s.c. 10-6乗M、4回
8 7-10 ラッテ胎児肺 39 100万個 s.c. 10-6乗M、4回
9 7-10 ラッテ全胎児 131 500万個 s.c. 5x10-7乗M、33日
10 7-10 ラッテ全胎児 131 500万個 s.c. 5x10-7乗M、33日
11 7-11 ラッテ胎児肺 64 100万個 s.c. 10-6乗M、2回

 (1)5x10-7乗M 4NQO投与方法は、培地中に4NQOを5x10-7乗Mになるように溶かして連続して投与している。
 (2)この動物は7/17日肺炎で死亡、剖見にて腫瘍(-)。
 (3)10-6乗M 4NQOの投与方法は4NQOがこの濃度で溶かされた培地で4〜6時間処理後正常培地にもどした。だいたい週2回処理した。
 (4)それぞれの実験にはコントロール実験として4NQO未処置の細胞を500万個乃至100万個接種した。
 (5)実験に使用した動物は呑竜系ダイコクネズミである。

 :質疑応答:
[安藤]沈渣と上清というのは?
[佐藤]Puromycinでこわれかけた細胞そのものが沈渣です。intactな細胞も入っています。
[安藤]その状態からもう少し分劃して、intactな細胞をなくすことができませんか。
[勝田]Trypsin処理でこわして、DAB代謝活性が上るということは、trypsinが逆にinhibitorをこわしている為かも知れませんね。それからextractを作るとき、たいていsalineを入れてhomogenateを作りますが、我々の場合でもhomogenateにすると代謝活性が落ちるというのは、DABのような水に溶けない物質に対する酵素の場合は、それがlipidと結合したlipoproteinの形で、細胞内に存在している可能性も疑ってみる必要があると思いますね。
[安藤]沈渣と上清に分けた意味はpuromycinで細胞がこわれているという前提ですね。
[永井]そのあとtrypsin処理するのだと、puromycinを作用させる意味がないように思われますが・・・。
[堀川]あとで結合の状態などを見るのなら、puromycinなどよりもむしろX線とか紫外線をかけてみた方がよいと思われますね。
[永井・堀川」もう少し焦点を絞って、細胞の生きた状態でみたいのか、蛋白としてみたいのか、はっきりさせたら如何ですか。
[佐藤]これは増殖しない状態の細胞で、一定した条件を設定して実験をはじめたいということからはじまった仕事です。
[堀川]熱変性させた蛋白ではDABを吸着しますか。
[佐藤]見ていません。
[安藤]細胞が増殖しないという条件でみても、それではabnormalですから必ずしも増殖状態のときと同じように酵素が働いたとは云えないかも知れません。
 ☆☆☆これまでの記載分では、佐藤班員の説明不充分と他班員の誤解により、討論が完全に空廻りしてしまっている。科学的発表の場合には、自分の考えたこと、行なったことを、完全に誤解の生じないような表現で、他人に話すことが必要であることの、典型的な一例である。☆☆☆
[佐藤]DABは血清ならば100μg/mlにとけますので、そのなかで肝細胞株を3日間培養しますと、細胞が沢山こわれてしまいます。そこで20μg/mlにかえて、そのあとまた100μg/mlのDABで3日間という具合に処理したところ、培養66日後に新しく細胞集落が出現してきました。
[黒木]変異を起させるには細胞が完全にはやられないが、ほとんど全部やられてしまう、という条件が必要と思います。
[高岡]DABを加えない全血清だけではどうなりますか。
[佐藤]やってみていません。
[藤井]皮膚移植の場合、とり出したskinを他種動物のDNAと一緒にしておいてからもう一度自分のskinに戻すと、takeされない、という報告があります。自分自身のDNA(同系)とならばtakeされます。処理は37℃1時間です。
[勝田]私のところでも実はDNA-transformationの実験にかかっています。これはラッテ肝細胞を“なぎさ”培養しておいて、他種、つまりヒトのDNAをくわえるのです。まだはじめたばかりです。
[吉田]取込ませる技術が難しいでしょう。
[勝田]とり込ませるのはわけないのですが、消化されないようにすることが大切で、それで“なぎさ”培養を使うわけです。Criterionはヒトの蛋白合成です。
[永井]Cell levelでのtransformationの仕事が沢山出ていますが、どの程度追試が成功しているのですか。真偽性などは・・・?
[堀川]細胞レベルではなかなか確実なものはないと云って良いでしょうね。班長の云われた、マーカーを何にするかという所に難点があるのです。昆虫細胞の仕事では少しできているようですが・・・。
[勝田]さきほどの藤井班員の話ですが、逆の実験もやってみたらどうでしょう。つまり普通ならばtakeされない他系のskinを、同系のDNAで処理してtakeされるようにならないかどうか・・・。

☆このあと、藤井班員によるmicrodiffusion plateでのオクタロニー分析法の解説があり、実物も展示された。これは小さなplastic plateに小孔を明けて使うもので、結果は染色後顕微鏡で判定する。少数の細胞で沈降線があらわれるので、培養細胞の検査には好適である。その内データとしてまとまったら話して下さる由、その日を楽しみにしよう。

《黒木報告》
6月はpaper(Carcinogenesis in tissue culture VIII)を一つ書き、そのためexp.の方はお留守になってしまった。しかし、このpaperの中で、大体重要なことは網らし、云いたいことも云ったので、前の短いpaper(Proc.Japan Acad.及びTohoku J.)の欲求不満はいくらか解消できた。
 6月から7月にかけて、コロニーレベルのexp.に重点をおく積りであったが、7月18日によく調べなかった新しい血清により培地交換を行ったところ、すべてがcontamin.し、約1ケ月〜2ケ月損したことになった。今回はコロニーによるtransformationを、発癌剤の毒性への抵抗性に関するdata及び文献について報告する。
 (1)Plating後の4HAQO処置によるtransformation
 Berwold、Sachsらのpaperではplating後にBP(最近はX・ray)を加え10〜14日後にfixしてcolony levelのtransformationをみている。4NQOでも同様のExp.を試みた。
 Exp.#505
 feeder cells:C3H mouse embryonic cells・2G、5,000r照射(332r/min. Co60)10万個/d.にFalcon 60mm Petri dishに撒布、2日後、hamster cellsをseedした。
 hamster cells:1G 5days in vitro、1,000/d.にseed。
 medium:20%BS+Eagle MEM(GLU、PYR、SERはfilter、他は高圧滅菌)
albumin med.はfibroblastic cellsのselectionを行うので、使用を中止した。
 carcinogen:4HAQO・HClをseeding第1日に10-5.0乗、10-5.5乗、10-6.0乗、10-6.5乗Mに加えた。
incubation:14days 炭酸ガスフランキでcultureし、MtOH固定、Giemsa・stain、実体顕微鏡でcolonyかんさつ。
§Results§
 Carcinogenは前述通り、各群のPEは対照9.6%、10-6.5乗9.9%、-6.0乗10.3%、-5.5乗7.75%、-5.0乗0.98%で、transformed comonyは10-5.0乗群にのみ1/49出現した。
このうち10-5.0乗Mは5枚のdish故、seedしたcellsに対しては7/5000すなはち2x10-4乗のtransformation rateになる。この率は前回のHA-8のtransformatin rate 5x10-4乗とほぼ一致する。
なお、Sachsらの場合は、10μgのBPでPE 0.9%、transformed colony 16.8%(denseのcolonyだけにとると4.3x10-4乗)、したがって1.61x10-3乗のrateになる(PRONAS.56-4,1123,1966.Huberman and Sachs)。
 (2)発癌剤4NQOに対するtransformed cellsの抵抗性
 上記のExp.を4NQOで行はずに4HAQOでtreatした理由は、4NQOが、特に、少数細胞レベルのときに、強い毒性を示すことが分っているからである。次表に示す(図を呈示)ように10-7乗Mの濃度でcolony形成率は0になる。このために、plating後のtreatmentによるtransformat.は4HAQOでないとできない。
 4NQOのcolony形成に及ぼす影響を調べてみたろころ(表を呈示)、transformed cells(CL-NQ-7、NQ-2、HA-1)にはnormal、Lcellsに比して4NQOに対する特異的な抵抗性は得られなかった。
そしてplating法でみられた「抵抗性」の欠除はmass・cultureに4NQOを加え、growth curveをみたときにも得られた(図を呈示)。
「抵抗性」の欠除は今までに得られた多くの成績とは一致しない。すなはち、1938のHaddowの仕事以来調べた範囲のすべての仕事は、chemicalで発癌した細胞はその物質に対して抵抗性を有している。しかしspecificityはない。すなはち、Methylcholanthreneで発癌した細胞はMCAだけでなく、DMBA、BPにも抵抗性を有する。これらの事実をもとに、Prehnは、発癌機構を発癌剤に対する抵抗性をもったpopulationのselectionと考える“clonal selection theory”を提出し、またVosilieuも、それにもとずく発癌機構の解析を行った。(発癌剤に対する抵抗性の文献を呈示)
4NQO-transformationにおいてtoxicityへの抵抗性のないことは、恐らく、4NQOがcarcinogenであると同時に強力なcarcinostatic agentでもある事実によるのであろう(Sakai,et al Gann 46,605-616,1955)。また、この抵抗性の欠除の事実は、「transformed cellsは4NQOのtoxicityに対してselectionされて生じたのではない」ことを示唆している。
4NQOのproximateのcarcinogen 4HAQOでは、この抵抗性はどうなるか、これから試みるつもりである。(Normal cellsに対する4HAQOのtoxicityは、最初の表に示した)

 :質疑応答:
[堀川]Synchronous cultureで実験を進めたい理由は?
[黒木]Cell cycleのどのstepで発癌剤が働くのかを知りたいのです。
[堀川]抵抗性をしらべるためgrowth curveを作るときは、もう少し長い日数みるべきでしょう。
[黒木]発癌剤に耐性があるかどうかは、これまではcell levelやPlating efficiencyで見ている報告は少いですね。
[勝田]耐性の問題は、実験的にわりだしたものですね。
[黒木]これまでの化学発癌の場合も、その薬物だけへの耐性でなく、交叉耐性もできているようですね。
[堀川・吉田]発癌と抵抗性とは関係ないようですね。
☆ここで吉田班員が、黒木班員の4NQO−ハムスターの実験の染色体分析の結果をスライドにより展示した。
[堀川]染色体のgroupによって傾向があるように見えますね。
[吉田]Trisomieの起り易いgroupなどあります。
[黒木]最近の検索ではmodeが44本のが多いですね。
[吉田]処理後早い時期をみているからでしょう。もっと進むと、或時期に染色体数が倍加して、それから不要なものが落ちて、Hypotetraploidになるのではないか、と思っています。Ratの白血病でも大きなtelocentricがtrisomieになるようです。Hamsterの場合仲々一定のものにならないのは、材料がembryoだからtarget cellsが多すぎるのだと思います。ヒトではモンゴリズムのとき21番目の染色体がtrisomieを作ります。白血病では21番に欠損のできる例があります。
[堀川]吉田班員は染色体数が2倍になったとき、γglobulin産生に関与する染色体の数が倍になっていることを確めたかったわけですね。
[黒木]染色体の数のresponse relationshipというようなことは、知られているのですか。
[堀川]Ephrussiのhybridの仕事が沢山ありますが、markerによって全然ちがう結果が出ています。必ずしも1+1=2とならないようです。
[黒木]私の場合、transformation rateが10-3乗〜10-4乗というのはどうでしょう。
[吉田・堀川]その位で良いと思いますよ。自然発癌の場合が10-6乗だし・・・。
[勝田]この場合は、まいた細胞数の何%というより、増殖可能細胞の何%という方が良いですね。
[吉田]いまお話した私の結果から考えて、培養内の方が反って細胞がselectされ、動物の体内では変な細胞も受入れられて或程度ふえるようです。どうも今まで私の考えていたのとは反対のように思われます。
[勝田]胎児組織を動物体内に移植して、それをさらに体内あちこちに移植し直していると悪性化したという古い報告をきいたことがあります。
[吉田]形態での変異と悪性変異との間に、染色体レベルでどういう関係があるのかをもっとしらべたいと思います。また冷血動物では核の入れかえの実験がありますが、高等動物細胞でもそのような核あるいは染色体の入れかえなどが出来ると面白いと思います。
[勝田]核の入れかえは堀川班員が以前に狙っていたね。
[堀川]Transformationの問題の場合、入れたDNAを採る時期、入れられる細胞のcell cycleの時期によってrateがぐっと変るでしょう。
[黒木]そこまで行かなくても、培養をはじめて何日目の細胞を使うか、cell sheetがどの位のとき発癌剤を作用させるか、pH、温度など条件を一定にしてやらなければと思うのですが、色々判らないことが多くて・・・。

《高木報告》
 1)月報6707の2)に報じたrat thymus由来の株細胞に対する4NQO添加後の経過について、NQ I及びNQ IIIは27代継代後も殆ど形態的な変化はみられず、full sheetを作ったので培養を打切った。
NQ IIは4NQO除去後、約3週間たった7月5日に生じたcell colony2ケの中cell densityの高い1ケを、機械的に剥がしてtrypsin・EDTAで処理後3本のCarrel瓶とP-3シャーレに植継ぎ(27代)炭酸ガスフランキに入れた。Carrel瓶に継代した3本は翌日培地が強くアルカリ性に傾いたので、その中の1本は炭酸ガスフランキに移した。現在炭酸ガスフランキ中のP-3 2枚とCarrel 1本とはcontrolとあまり形態の異ならない細胞が生存しているが、rubber stopperをほどこしたCarrel 2本は培地がアルカリ性に傾いたためか細胞はすべて変性したので培養を中止した。
7月10日には7月5日に継代したfocusの残りの細胞をP-3 2枚に植継いだが、継代に失敗し、現在ごう少数のfibroblastic cellsが附着して残っている。継代した元のTD40にも少量の培地を加えて炭酸ガスフランキに入れた処、4〜5日して2〜3ケのcolonyの発生をみた。これらが7月10日に継代の際剥げ落ちて移動した細胞の作ったcolonyか、或いははじめからそこに残っていた細胞がtransformして生じたものかは分らない。
NQ IVは生存した細胞数が多く、それらが次第に恢復して殆どsheetを作った。このsheetはcontrolの細胞と同様な形態のもの及び上皮様細胞で、細胞質に顆粒の多い細胞が入りまじっていた。このsheetはtrypsinizationにより7月10日、TD15とP-32枚に植つぎ、TD15はrubber stopperをほどこし、P-3は炭酸ガスフランキに入れたが、controlの細胞と似た形態の細胞が主で、その中に処々上皮様の上記の細胞が混在している。これらの細胞は適当な時期に復元してみる積りであるが、以上の実験ではNQ IIにみられたcolonyの発生が果して本当のtransformed fociかどうかやや疑問がある。更に次の実験を行った。
 2)6月20日27代目のrat thymus(RT)細胞を用いて実験を開始、今回ははじめから炭酸ガスフランキに入れて4NQO 10-6乗M/mlを28時間及び10-7乗M/mlを7日間夫々作用させた。
10-6乗M/ml添加した培養では殆どの細胞がdamageをうけてガラス面より脱落して了ったが、その後約2週間たった7月14日、明らかにpile upした細胞のtransformed fociが2〜3ケあるのに気付いた。RTcellsは如何にcell densityがましてもpile upすることはなく、またcell sheetは透明感が強く培養瓶のガラス越しに肉眼的にこれをみることはきわめて困難である。生じたfocusは肉眼的に白っぽく認められ、細胞はpile upし又形態もcontrolの細胞とは異っている。これはtransformed fociと云って間違いないと思う。
10-7乗M/ml添加した培養ではcontrolに比較して何等の変化も認められなかったので培養を中止した。(実験経過の図を呈示)
上記の実験に用いたRTcellsは、今日迄約10ケ月間in vitroで継代培養されているものであるが、これらの細胞の10,000個及び100,000個を含む浮遊液0.2mlを、夫々2匹づつのhamsterのcheek pouchに移植したが、3週間を経た今日腫瘍形成などの変化は全くみられない。
 3)先報に記したautotransplantationの準備としてadult hamsterのauricular skinのorgan cultureを試みた。培養方法は大略Gilletteの方法に準じて行った。即ち耳介を水洗後ether及び70%ethanolで数回洗い、耳介の皮膚を剥ぎとって(10x10mm)これをNystatin200u/ml、SM 250ng/ml、PC 2,000u/mlに溶かしたHanks液に各90分、30分、30分と浸した後、皮膚表面の水分を吸取紙で吸いとり、P-1シャーレ内でEagle'sMEM+10%calf serum+hydrocortisone10mg/lにPC・SMを加えた約3mlの培地上に浮かせて37℃のincubatorで培養した。培養4日までは組織は可成りhealthyな状態に保たれている。なお今後培養条件を検討したいと思う。

 :質疑応答:
[吉田]RTcellsは培養をはじめてからどの位たちましたか。
[高木]約10カ月です。
[黒木]Pile upするという性質は、継代してもそのまま続きますか。
[高木]まだsubcultureしたばかりで判りません。
[吉田]移植成績は? 対照の移植は?
[高木]Controlはhamster cheek pouchで未だ腫瘍を作っていません。
[吉田]材料がラッテだからラッテへ復元する方が良いと思いますか・・・。細胞の種類は何ですか?
[高木]まだ同定できていません。勝田班長のところの細網細胞とは違うようです。

《三宅報告》
 d.d.系マウスの胎生15日目の皮膚について、器官培養の直後から、4NQO、MCA-Benzol(その対照及びethanolのみによる対照を含めて)を作用せしめ、1週間の後、H3TdRを1μc/ml、2時間、37℃のもとに取りこませ、Radioautographyを検索した。その結果、labeling indexを皮膚の各部についてしらべた所、次のようなバラついた結果をえた。
        MCA-Benz.  Ethanol  Cotrol  Control  4NQO
Basal layer   31.0%   26.0   29.7   30.0   0
Hair follicles 11.7     6.3 26.3 8.8 0
Dermis 5.2 7.9 15.3 15.0 0
このAutoradiographyは、同時に同じ感光材料を用いて、行われたものである。4NQOを作用させた皮膚に、Grainが全く見られなかったというのが、ethanolのためでないのは、ethanolのみを用いた対照に豊かに入っていることで、判明する。4NQOを作用させた皮膚のepidermisやdermisの皮膚に核の濃縮や、形質の中での空胞形成がみられる所からみると、3回の4NQOの作用に誤りがあったのか、それとも1週間という培養時間に、組織の退行性病変からの立ち上りのためには、不足したのか、いろいろのことが考えられる。
対照例についても、この3ツの皮膚の部分のL.I.にバラツキがみられるのは、この実験が2系のsiblingの皮膚について行われたためかも知れない。即ち、胎生発育の微妙な差が、この系の間に生れたものかも知れない。今後、この実験をくりかえして、誤差を少くするように努力したいと考える。

 :質疑応答:
[藤井]Rat embryoのskinですか。毛の生える時期との関係はどうでしょう。
[三宅]マウスの15日胎児です。但し1日2日は誤差があるかも知れません。
[吉田]Hair-lessのマウスを使ったらどうでしょう。必要なら差上げますよ。
[堀川]Thymidineの加え方はどうしていますか?
[三宅]培地に加え、一定時間後すぐに組織切片を作ります。Cold-TdRは使いません。4NQOは10-6乗M与えましたが、organ cultureでは一般に薬剤の高濃度に耐える筈なのですが、4NQOでは毒性が強すぎるようです。

《堀川報告》
 培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびにLeukemogenesisの試み(2)
前報で報告した(実験6)につき詳細が得られましたので、それを追加します。大筋は前報をみていただくとわかるように
1)500R照射しただけのControlマウスは8匹中4匹、つまり半数が死亡し
2)Cultured normal bone marrow cellsを移植したものでは全数(3匹)生存。
3)4NQO処理bone marrow cellsをもどしたマウスでは6匹中3匹つまり半数が死亡。
これらの結果から少くとも2)のcultureされたnormal bone marrow cellsがX線照射されたマウス内で機能的に働き、死亡から防護している可能性を示すと前報で結論したが、今回は特に3)の系につき重点的に追ってみた。すなわち、4NQO処理細胞をマウスにもどしてから47日目にそれぞれのマウスの末梢血をとり白血球数をしらべると、「Mice transplanted 4NQO-treated bone marrow cells」群は、「Mice trasplanted normal bone marrow cells」群や「Control mice(X-irradiated and non-transplanted mice)」群ではみられないような白血球数の異常増加があるマウスにみられた。(勿論どれもX線がかかっているので正常値5000〜7000立法mm白血球数より幾分増えてはいるようだが)
また同時にこの際、末梢血の白血球を分類してみると(表を呈示)、正常マウスでは全白血球中の50~60%をもしめるリンパ球が、4NQO処理細胞をもどしたマウスでは極減し、そのリンパ球は10〜20%しか存在しない。
とにかくここまでの段階では4NQO処理したbone marrow cellsをマウスにもどすことによって何かが変ってきたとは言えるようである。
ただその後9日目に生存マウスについて再検するとほとんど正常白血球数および組成(分類した結果にもとずく)にもどっていることから、どうも何かがおこりつつあるようであるが、それはLeukemiaという段階にまでは達していない。
しかも4NQO処理細胞群をもどしたマウスがControlマウス(500Rされたもの)と同様に半数死ぬことから、これが単に機能的な細胞を与え得なかったために現象的にはControlマウスと同じ機構で死んで行ったのだと考えるのが正しいのか否かについては未だ決定的なデータを得ていない。

 :質疑応答:
[藤井]復元接種をする実験のときは、動物材料は純系を使うべきだと思います。
[吉田]そうですね。X線をかけているから良いようなものの、それでも500rでは回復しますからね。純系があるのだから、良い純系をえらんで使うべきですよ。
[堀川]4NQOのかけ方ですが、無処理の細胞でColoniesを作らせたところで、4NQOをかけた方が良いか、とも思っています。
[黒木]無処理ではColoniesができるわけですね。そして4NQOを作用させるとColoniesができなくて、浮遊状態で少し宛増えているわけですね。生体での白血病の場合も余りふえないが、分化しないので幼若がたまって行くということがありますが、それと同じような現象かどうかは、4NQOを作用させた細胞の形態をしらべてみると判るのではないでしょうか。
[堀川]いましらべているところです。
[勝田]培養細胞が機能を維持しているかどうかを、動物のrecoveryを目途にして見るというのは良い方法だと思いますが、それだけ大切な実験にしては動物の数が少なすぎますね。
[藤井]X線の照射量をもっと増やして、対照が全部死ぬいうdoseにした方が良いのではありませんか。
[永井]4NQO処理細胞が正常な骨髄細胞の機能を有していないのか或は処理細胞が白血病に変っているのかを知るのに、正常骨髄細胞と半々にして接種してみたら如何ですか。
[吉田]入れた細胞が増えたほか、hostの細胞がふえたのか、どちらですか。
[勝田]入れる細胞と、recipientと性をかえれば良いでしょう。

《奥村報告》奥村班員の抄録が提出されなかったので班長のメモによって概略で記す。
 ウィルス発癌の実験はまだ予備実験の段階であり、化学発癌には着手していないので、現在行なっている仕事について報告する。
1.trophoblastsの培養にSV40をかけると、100%transformationが起る。増殖度は数倍〜数十倍上昇、ホルモン産生量も上昇する。
2.ハムスター新生児細胞を種類別にisolateして、武田薬品のtest薬剤を加えると、臓器の種類によりeffective doseに差が見られた。
3.Rabbitのmorula(桑実胚)は数千個の細胞から成るが、これをtrypsinizeして静置培養すると、急増殖を示した。その内シートの一部が盛上り、beatingを示した。5〜6日からはじめて3週間以上beatingは続き、最高毎分140搏位であった。胚の受精膜のみを培養すると、塊をあちこちに作ったが、その中にも高く盛上った塊が見られた。これらは心を作っていくものと思われる。

 :質疑応答:
[堀川]はじめの薬剤の話は、細胞と薬剤の関係が一定でない、ということですね。つまり、たとえばCHSだと腎上皮は完全にやられてしまうが、心センイ芽細胞は影響を受けない。だが他の薬品だとまた違う結果が出る、ということですね。
[奥村]そうです。
[吉田]1コの卵から1コの心ができるのですか。
[奥村]大体そうです。
[堀川]材料にした胚はまだ心など判らない時期のものでしょうから、心の原基のようなものが分化して行くわけですね。
[吉田]どのstageになると分化が起るか、ということが大切ですね。
[奥村]Trophoblastsを別にわけると、一緒においた時よりも、心のでき方が悪いようです。
[永井]beatingしている細胞塊の内部構造は?
[奥村]いましらべています。
[永井]Inductionが起きていると考えますか。
[吉田]もちろん起っている筈ですね。

☆☆☆癌学会に提出予定の題名(仮題)☆☆☆
第15報:4NQO類による培養内transformation(黒木)
第16報:4NQO類発癌ハムスター細胞の染色体分析(吉田)
第17報:培養内4NQO処理ラッテセンイ芽細胞の顕微鏡映画観察(勝田)
第18報:4NQO類発癌剤の毒性に対する抵抗性(示説)(黒木)
第19報:培養内自然発癌のラッテ肝細胞について(2)(佐藤)

【勝田班月報・6709】
《勝田報告》
 A)ラッテ肝各分劃のDAB消費:
 ラッテ肝を潅流后、細切し、10mM MgCl入りの0.25M sucrose液中でテフロンホモゲナイザーでhomogenizeし、超遠心で核、ミトコンドリア、ミクロゾーム、上清と、4分劃に分け、反応液を加え、37℃1時間加温后に520μで吸光をしらべた(表を呈示)。結果は、分劃していないhomogenateでは代謝がみられるが、このなかには生細胞の混在している可能性もある。そして各分劃はほとんど似たような結果で、ミクロゾームとSupの混液がわずかに代謝しているかに見える。
今后は反応液の処方の検討と、分劃法の検討をおこなう予定で準備している。
 B)“なぎさ"変異細胞株RLH-1のラッテ復元試験:
 RLH-1を思切って大量にラッテへ復元するテストをおこなってみた。
 細胞数:2x1000万個/ラッテ。 ラッテ:JARx雑系のF3、生后約1ケ月。
 接種部位:皮下2匹、腹腔内2匹。
 結果:腹腔内接種では、第7日には腹水中に分裂細胞の存在が認められた。皮下接種では、7日に径1cm位のtumorが接種部位の皮下に認められ、第10日に1匹だけ腫瘤をとり出しメスで細切して3匹のラッテの皮下に再接種を試みた。これは第7日にtumorをふれたが、以后regressしてしまった。
 考察:ラッテのhistocompatibility gensはかなり強固なものらしい。だから純系動物細胞を用い、同系(しかも同じ親の子)に戻すことが必要。RLH-1はJARの純系にならぬ内の肝細胞が起源だが、純系化以后のJAR或いは雑系には戻りにくい。今回もどしたのは雑系と純系をかけ合わせたF3ということも遺伝的に面白い。

《藤井報告》
 組織培養でtransformationを来した細胞を、免疫学的に元の細胞と比較して異同をみつけられないものかどうか、がテーマである訳です。具体的にはtransformed cellsに元の細胞とは異なる抗原がみられるかどうか、あるいは元の細胞にあった抗原が減っているようなことがあるかどうかをみつけることです。
 こういう実験には、immunodiffusionが適する訳ですが、この方法は抗原あるいは抗体をみつける免疫学的方法としては最も感度の低い沈降反応に頼る訳で、自信はあまりありません。幸い勝田班長が渡米土産の一つに実物を持って帰られたMicrodiffusion methodのmicroplateがあり、これを使っていろいろ基礎実験をやっている段階です。これを使いますと、非常に微量の抗原、抗体で足り、感度はかなり良いようで少なくとも沈降反応の毛細管法の2〜3倍は行きそうです。抗原に使う細胞は50〜100万ケ位で一応1回分はありますので、組織培養レベルの仕事にも向くと思います。最終的には、cultured transformedcellsを検討する訳ですが、培養はamateurなので、変な細胞をつくり勝ちで危いから、これも勝田先生におんぶしてやって行きます。
 現在までにやったのは、抗原にマウス血清、抗血清に兎抗血清で、泳動の支持体にセルローズアセテート膜(PBS、pH 7.0)でやってうまく行き、次いでラット肝(抗原)と兎抗ラット肝細胞の系でみて、抗原のdiffusionが膜のmilliporeの大きさの関係でうまく行かず、結局agar1%にして5本の沈降線をはっきり認めています。
 次に、勝田先生の所で、AH-130に抵抗性となったラットがあり、その血清と、AH-130の細胞および正常ラット肝細胞(非培養)の間に、沈降線が現れるかどうかをみました。血清は5回AH-130を接種し、各回とも拒否反応を示したもので、最終接種后8日で採血してあります。-16℃保存、稀釋しないで使いました。抗原になるAH-130細胞は、6000万個/mlを凍結融解后、テフロンホモジナイザーで、破壊(氷冷中、60分間、PBSに浮游)しました。破壊后1%Na-Deoxycholate(DOC)の等量を加へ、再びホモジナイズし、lipopolysaccharide系の膜抗原の遊離を企図しました。この方がPBSで抗原抽出をおこなうより多くの沈降線が出ることをみています。支持体は1%agar(difco)、in 0.2%DOC、厚さは市販のビニールテープ(薄い方)2枚相当で極めてうすい。泳動はcold roomで3日間。泳動后、水洗1日。乾燥してAmid Blackで染色し顕微鏡下に検討します。(各well内液量は0.01ml位)
 抗血清−兎抗ラット肝血清 1/1。抗原にAH-130とラット肝細胞をおいたもの。
 抗血清にAH-130抵抗性ラットの血清、3xconc。抗原にAH-130と正常ラット肝細胞。
 抗血清にAH-130対抗性]らっとの血清1/1。抗原にAH-130のExtract in 0.5%DOC。
(夫々の図を呈示)このように、一応、iso-、homo-、の間で線が出ています。方法として抗γ-Gl抗体や蛍光ラベル抗体の利用や、沈降線と細胞分劃抗原との関係等がわかってくれば、transformed cellsの相手になれるかと思っています。

《高木報告》
 1)前報1)2)両実験とも4NQO処理後に生じたtransformed fociを、trypsinで処理して継代した処、継代1代目では実験群の細胞はcontrolの細胞に比し、細胞の境界が明瞭で核は比較的大きく、その中にはっきりした核小体が2〜3ケ認められた。しかし細胞がpile upして増殖する像はみられなかった。この様な細胞を更にsuckling ratへの移植を考えて継代した処(2代目)、倒立顕微鏡下では形態的にあまり差異が認められなくなった。目下染色体標本を作製中で、suckling ratの入手出来次第、移植を試みる予定である。
 2)Nitrosoguanidine(NG)の培養細胞(RT)に対する効果を観察すべく、まずその濃度を検討した。NG 5〜10mgを1mlのethanolにとかし、それをNaHCO3を加えないacidicなHanks液(pH6.3位)で稀釋して、500μg、250μg、100μg、50μg/ml濃度の液を作り、ControlとしてHnaks液にethanolをNG 500μgのものに相当する丈加えたものをおいた。
 MA-30培養瓶に培養したRT細胞に、2mlずつ各濃度の液を加えて、CO 2incubatorに2時間incubateし、その後4mlの培地(LT+Eagle's vitamin+10%calf serum)を加えて培養をつづけた。2日後には500μg、250μg加えた細胞は完全に死滅し、100μg、50μgでは細胞が丸くなり、短い突起で網状につながった様な形態を呈したので、NGを全く含まない培地で交換した。しかしこれらの細胞も2〜3日後には殆ど脱落してしまった。
 次いで50μg、10μg、1μg、0.1μg/mlの濃度につき検討を加えた。上記の実験と同様にして、ただ今回はNGをとかしたHanks液によるincubationを1時間とし、それに2倍容の培地を加えて経過を追っているが、4日目の今日、0.1μg、1μg処理群では殆どcontrolと変りなく、10μg、50μgでは細胞の変性がみられ、とくに50μgでは顕著である。refeedして観察をつづけると共に次回は10μg〜100μg/mlを中心に再度実験を繰返してみたいと思う。また純系ratのprimary cultureに対する効果も観察すべく準備中である。

《黒木報告》
 colony-levelのtransformationのtechnique上の見通しがついたので、7月になって、いくつかの実験をstartさせた。しかし、それが全部失敗に終った。P.E.が1/10程度におち、またsizeが小さく、colony-transformationも見られないようになった(血清のlotは同じ)。この原因がfeeder cellsのlot差によるものであることが最近になって分った。このためマウス胎児を培養したら、それをまずlotテストし、残りを凍結、よいlotをもどして使うSysemに最近きりかえたところである。
 9月末の班会議にはcolony-levelの仕事を多分報告出来ると思う。
 HA-15の移植
 15分間 10-4.5乗M 4HAQO treatmentでtransformした細胞が最近やっとtranspl.(+)となった。delayed malignizationにぞくするものかも知れない(表を呈示)。

《三宅報告》
 前回に引き続いてd.d.系マウスの胎生(17日)の皮膚をOrgan Cultureして、MCA 4μg/ml、4NQO 10-6乗Mを作用せしめた。両者共に7日間の間、同じ濃度のもとに放置し、後H3-TdR 1μc/mlを2時間incorporateしてAutoradiographyで追ったのである。L.I.はBasal layerとSupra basal layerについて600個の細胞について計算した処、MCAでは28.1%(対照24.5%)となり、前回を下廻る結果をえた。この前回31%のものが、下廻る数字をえた理由は、計算上の技術上の差があるかもしれない。というのは前回は、標本をすべてphotoに撮影した後の計算であったが、この度は顕微鏡の直下での計算であった。4NQOについては前回と同様にCell damageが強い。この理由は、判らない(写真を呈示)。
 ヒトの胎児皮膚(12〜14週)のCulture(MCA)をしたものを、dd系マウス及びハムスターのポーチに移したものについては、米粒大の腫瘤が残っているものがある。

《堀川報告》
 1)培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護
   ならびにLeukemogenesisの試み(3)
 この実験は培養方法をかえたり4NQOの濃度、処理時間をmodifyして実験を進めている段階で、その結果については今月は特筆すべきものがないので次回にゆずることにする。従って今月は以下の問題について結果を簡単に報告する。
 2)培養哺乳動物細胞における紫外線障害回復の分子機構の研究(1)
 紫外線照射によるThymine dimerの形成、さらにはこれらの障害からの分子レベルでの回復機構はE.coliを中心とする微生物において次第に明らかにされてきているが、こうした微生物で見出される分子過程の回復機構が哺乳動物細胞にも存在するかどうかということは、生物の進化の過程の究明さらには臨床医学への直接的応用という面から最も重要かつ興味を呼ぶ問題である。
 こうした目的からわれわれはmouse L cells、Ehrlich ascites tumor cells、PS(ブタ腎細胞)を用いてCO2 incubatorによるコロニー形成法で、これら三種の細胞株のX線に対する線量−生存率関係(線量効果曲線)を調べた(表を呈示)。その結果は、三種の細胞ではX線感受性にまったく差のないことがわかった。
 しかるに一方紫外線に対する線量−生存率関係を調べた結果では(表を呈示)、三者でまったく異った感受性を示し、紫外線照射に対してPS細胞が最も感受性が高くEhrlich ascitestumor cellsは最も抵抗性細胞でL細胞はこれらの中間であることがわかった。
 このように細胞種によるX線感受性には大きな差異は存在しないが(耐性細胞は別問題、これはいつかの機会に報告する)、紫外線に対する感受性は起源を異にする細胞株の種類によって大きく異なることがわかる。こうした結果は発生学的見地から見た際、非常に重要な問題を提供し、同時にある特殊な細胞株では紫外線障害回復能あるいはまたこうした回復能では説明し得ない紫外線抵抗機構をもつものと推測される。
 つづいて紫外線照射線量に対するDNA内のthymine dimer生成率を三種の細胞株でみると(図を呈示)、照射線量の増加と共にthymine dimer生成量は増加し、しかも三種の細胞間にはまったく差異はなく始めの低線量域を除いて直線的に線量と共に増えることがわかった。こうした3種の細胞株で照射線量とともに生成するdimer量の間に大差がみられないことは、Schneider(1955)やChargaff(1955)の報告したMouse、Mouse ascites carcinoma、PigなどでのDNA塩基組成にそれほど大きな差異がないという結果からも一応うなずけられる。ではこのようにDNA中に紫外線照射によって生成するdimerの除去機構が3種の細胞間でどのようにおこなわれているか、ということが以後の大きな問題となってくる。

《奥村報告》
 SV40ウィルスによるハムスターfibroblastsの増殖誘導
 Spontaneous cell transformationの実験で、既に報告しましたシステムを用い、今度はtransforming agentとしてSV40ウィルスを組み合わせてみました。細胞はnewborn hamsterの皮下のfibroblastsです。初代はplaque bottleで培養、2代目にシャーレへ移し(1000〜5000/3ml/dish)、約2w后にsmall colonyをisolateして、再びplateする。従ってtransform-ationの実験には3代目のものを用いたことになります(培養通算日数は17〜20日)。agentsを加えるときのcolony数は実験シリーズによって異りますが、現在まで3回行った結果では20〜35ケ/dishです。SV40ウィルスは777strainをGMK(primary)でpassageしたもの、titerは10-7.5〜8.0乗 TCID-50/0.2。
 実験成績(1)3代目plateと同時にinfectさせた場合(m.o.i.50)と、実験成績(2)plate后5日にinf.(m.o.i.50)の結果表を呈示。なお、実験条件の詳細な検討は進行中です。

【勝田班月報:6710:Transformationを来した細胞の抗原性の変化】
 A.4NQO発癌実験:
 4NQOによる実験は主としてRatのfibroblastsを用い(実験一覧表を呈示)、最近の実験で4NQOの濃度を3.3x10-6乗Mにあげてみたところ、これまで変異細胞の集落の発現するのに約1月要したのが、きわめて短縮され、たとえばExp.CQ#23の実験では処理後8日目に1本の培養管の中に5コの集落が発見された(その経過の映画供覧)。仮にこの集落に、A、B、C、D、Eと略名を与えたが(顕微鏡写真を呈示)、増殖細胞Cは小型で、細胞質顆粒に富んでいる。Dはやはり小型の顆粒の多い細胞が見られる。これらの集落が夫々別個に発生したものか、或は一コの集落から飛火したものか、これは現在のところでは不明である。
 復元接種試験は、この最近のexpt.の細胞はまだ接種していないが、その前のものは今日までのところでは何れも陰性の結果となっている。
 しかし、このように短期間で変異細胞(?)が現われるようになったので、映画でその全過程を追うにしても、これまでの4倍の能率を上げることができるようになり、うまく視野内で変異をcatchできる可能性が一段と強くなった。今後は当分この3.3x10-6乗M・30分処理でやって行きたいと思っている。
 B.“なぎさ”培養によって生じたラッテ肝細胞の変異株RLH-5:
 Exp.series“CN"#43でRLC-9系からRLH-5が得られた。その形態は(顕微鏡写真を呈示)肝癌AH-130に似ており、活発な運動性を示す。この変異株で面白いのは、はじめに使った細胞がRLC-9であり、これはJAR系ラッテのF29の雌の肝で、完全な純系材料を出発点としていることである。従って現在、復元の準備を進めているが、“take"される可能性がきわめて高い。
 RLH-5の染色体のmodeは(図を呈示)63本と66本にピークがある。(64本が谷になっているのは、technical failureによるものか否か、未だ不明)3倍体〜高3倍体で、その意味からも“take"されそうな感じがする。
 C.正常ラッテ肝ホモジネートによるDAB代謝:
 これまでrat肝をhomogenateにすると、どうもDABを代謝してくれないので困っていたが、反応液の処方を変えることによって、今回はじめて旨く行くようになった(処方を呈示)。この前の処方はMillerらのものであるが今度は安藤班員の新しく考案した処方である。
 測定結果は、homogenateの作り方を、普通のWaring blender、テフロンのホモジナイザー、フレンチプレスと3種採用して活性を比較してみた。また作ってすぐ測定したのと、4℃で2日間おいてから測ったのと、2種のデータをとった。
 作って当日の測定(37℃、30分の加温)では、フレンチプレスによるhomogenateが最高の活性を示しているが、2日保存するとWaring blenderの方が最高の活性を示している。どういう理由か、確かなことは未だ云えないが、保存中にenzymesが液中に遊離してくるためかも知れない。
 D.なぎさ変異肝細胞RLH-1の復元接種:
 RLH-1はこれまで何回復元しても腫瘍を作らなかったが、最近雑系ラッテとJARを交配して作っている第2系のJARのF3の生後1月のラッテに、皮下に2匹、腹腔内に2匹、2,000万個位宛入れたところ、皮下の方が2匹とも約1週後に小指大の腫瘤を作った。これは一部histology、他を培養と再接種(3匹)に用いたが次代のラッテでは腫瘤は形成せず消失してしまった。I.P.された2匹は未だ生存している。

 :質疑応答:
[黒木]4NQO類による変異細胞は一般に顆粒が目立ちますね。
[吉田]復元にはF1のラッテを使う方が良いですよ。
[永井]DAB用のhomogenateを作るのにdeoxycholateを使ってみましたか。
[高岡]まだです。目下計画中です。
[黒木]4NQOは、特に細胞数が少いと毒性が強いですね。あのcolonyは少し立体的すぎる感じですね。Subcultureすると次代の形態はどうですか。
[高岡]継代しましたが形態はまだ見ていません。
[勝田]さっきお話したようにell sheetが流れて丸まったものではないかと思っています。Coloniesができたところで、早目に復元することを考えていますが、女はケチだから・・・。
[吉田]丸まったシートの中で、何かこわれた細胞から取って変異細胞が出来てくるのでしょうかね。なぎさ理論のように・・・。
[黒木]私はFull sheetになる1日前に薬剤をかけるようにしています。
[梅田]Heidelbergerの仕事では、あるcell lineで変異株がとれても、他のでは駄目ですね。
[黒木]Colony levelの仕事に持込まなくてはなりませんね。今の所の“変異”のマーカーは?
[勝田]この場合はColony毎に性質がちがうかも知れません。マーカーとしては、いまのところは、coloniesが出来たということと、その細胞の増殖が早いということ、この二つだけcheckしています。
[吉田]悪性ということは、ネズミにつくかつかないか、だけではcheckできにくいですね。
[堀川]無処理のcell lineでも染色体の乱れはありますか。
[吉田]動物によってちがいます。マウスは変り易いですが、ラッテは維持しやすいですね。
[藤井]癌研の宇多小路氏の言によると、臓器によって染色体(数?)がちがうとのことですが、本当でしょうか。
[吉田]昔はちがうとも云われましたが、それは技術的エラーの結果で、現在ではちがわないとされています。
[梅田]4NQOの作用機序は判っていますか。
[黒木]4NQOそのものについては、どう変化するかはしらべられています。
[堀川]8アザグアニン作用後にでも、DNAに結合するということは云われています。
[黒木]杉村氏などは、蛋白への結合をいま問題にしているようですね。
[勝田]そのようなレベルの仕事は、今後培養で解明して行くべきですね。

《黒木報告》
4NQO/ハムスター胎児の組合せによるin vitro transformationの仕事も、ようやくむつかしい段階に達し、単にin vitroで癌を作るだけではなく、癌化の機構にせまるように内容を飛躍させねばならない段になった。
今までの技術を使ってtransformation stageのphenotypeを詳細に追いかけることも必要であるが、さらに技術を発展させるために次の三つの方針を定めた。
(1)colony-levelでtransformationを判定し、定量的にtransformationを考える
(2)synchronous culture・systemによるtransformat.からcarcinogenと生体高分子とのinteractionの問題に入る
(3)established cell lineによるtransformationの系を新たに開発する
 I.Colony-levelのtransformation
 びわ湖の班会議のときに報告したように、carcinogen treated cultureを発癌剤を除いてcolonyを作らせると、total colonyの6.0%前後に“transformed colony"がみられる。されに7月の班会議には、hamster胎児細胞をfeeder cellsの上にまき、24時間後に4HAQOを加えると“transformed colony"が2.0%にみられたことを報告した。そこで問題は
(1)reproducibility
(2)“transformed colony"と考えたものはun-treated cultureには検索した範囲では、1度も発見されないものであるが、それが本当に→transformation→malignizationに連なるものか
(3)soft-agar法との関連性である。
 (1)Reproducibility
feeder cells、Bov.serumのLot差の問題などのため、しばらくcolonyがうまくできないことがつづき、実験は予定よりかなりおくれてしまった。(実験結果を表で呈示)
 以上今までのexp.を失敗も含めてすべてならべてみたが、dataにばらつきの大きいこと、率が前のexp.と比べると低いことがはっきりした。株細胞(HeLaなど)のplatingと異り、feeder layerを用いるembryoのsystemは技術的にはまだ不安定で、ときには原因が分らずに低いPEを示す。PEが低いとtransformed colonyの出現率が0となる・・・
ここで云うtransformed colonyが無処置及びnon-carcinogenic derivativeの中には見当らないとしても、本当にtransformation→malignizationに連なるものかどうかは自信がない。目下、一つのtransf.の経過の各時期を追いかけて、colonyの形態をかんさつ中である。
 なお、Sachsらのいうtransformed colonyは原著の写真をよく検討してみたところ、我々のexp.では無処置にみられるものもtransformedとして扱はれているようである。
 soft agarのcolonyも平行してすすめている。現在の段階では、non-treatedのhamster胎児も、Bact-peptone 0.1%添加soft agar中では500/100,000程度に小さい(30ケ前後のcellから成る)コロニーを作ることが分った。目下exp.が進行中である。
 II.Synchronous culture系
 excess TdR(2mM)法で、3代目のハムスター胎児の同調培養を試みた。細胞の増殖曲線からみると、ある程度の同調は得られたようである。目下autoradiographyでDNA合成MIなどをみているところである(同時にlife cycleの分析もおこなったがまだ結果は出ていない)。
 III.BHK-21を用いたtransformation
 初代培養を用いたtransformationは、正常→悪性への変化をみるのにはよいが、定量的にtransformationの機序を解析するためには不利である。
virusではBHK-21/polyoma、3T3/SV-40のような優れたsystemが開発されており、「悪性」はぬきにして、transformationの問題が解析されている。
chemical carcinogenesisでもそれと同じような系がどうしてもほしい訳で、最初に3T3/4NQOを試みた。月報6703に報告したように、giant cellsなどの異常は確かに起こるのだが、目的とするpiled upはおこっても不安定でgeneticな変化かどうかは確実ではなかった。また、colony-levelでanalysisにもっていけなかった。
そこでBHK-21を用いてみた。BHK-21は御承知のように、polyoma virusで配列が乱れ、pile-upする他、mycoplasma、Rous virus、adenovirusでもtransformすることが知られている。
 最初にwildのBHK-21に10-5乗M4HAQOでtreatmentしたところ、以下に示すようなcolony levelのtransformationを得ることができた。
cells:山根研由来のBHK-21 uncloned
Media:10%B.S. or C.S. Eagle MEM Kanamycin 30mg/lを含む
colony:20%C.S. Eagle、Falcon Petridish(60mm)
carcinogen:10-5.0乗M 4HAQO for 9days
 BHK-21のcolonyはよく知られているように、規則的な配列を示す典型的な繊維芽細胞のそれである。その他に、treated cultureには、規則的な配列を示さない中心部が厚くもり上ったcolonyが沢山みられる。このコロニーは中心部が非常にpile upするので剥れやすく、10日以上incubateすると沢山のdaughter colonyを作る傾向がある。これはcontact inhibitionのlossと関係あると考え、一応、transformed colonyとして扱うと(表を呈示)、P.E.はtreatment直後はcarcinogenのcytotoxic actionのためか、かなり低い(無処置は20%程度)が、継代とともにP.E.は上昇し、transformed cellsの出現率も6.3→35.6→71.5→85.0と急速に上昇する。non-transformed colonyは14.2→53.0→19.9→0と多少の消長はあるが55日後には非常に少なくなった(55日にnon-transformedが1ケみつかったが、cloningでとってしまった)。Small unclassifiedとは小さいcolonyで細胞がパラパラと散在しているもの、transformedともuntransformedとも云えない。処理直後に多く次第に減少していくことから十分の大きさのcolonyを形成できない程度にcarcinogenでdamageを受けた細胞とも考えられる(X線照射のあとによくみられる)。このようなtransformed colonyの増加が、(1)selective overgrowth、(2)delayed transformation、(3)transforming agent(?)のtransmissionのいずれによるかは今後の分析によらねばなるまい。(1)のselectionと考えるときには、treated cultureのP.E.の増加が一つのevidenceとなる。しかし、mass-cultureのgrowth curveでは両者の間に差がない。
 次の問題は、このようなコロニーの形態上の差が、geneticな変化か否かである。これをみるためにtreated cultureからtransformed colony(Exp.#1〜#5)及びnon-transformed colony(#6)をとり、そのprogenyを観察した(colonyをpick up後直ちにdilutionしplateする)55daysに行った(表を呈示)。#5の例を除けばtransformedのprogenyはすべてtransformedであり、non-transformedのprogenyの93.6%はoriginalと同様の形態である。少数の例外はcolonial cloneにつきもののcontaminantとして考えてよい(特にtransformed colonyは剥がれやすいので、non-transf.にcontaminateする率は高い)。
 この後の問題として
 (1)reproducibility
 (2)cloned populationの使用などである。目下、二回連続してとったcolonial cloneを用いてexp.を開始している。また
 (3)mycoplasma、virusのcontaminationの可能性も十分に否定する必要がある。
いずれにしても3T3/4NQOよりははるかに有望である。今後は、このsystemの開発に力を入れたいと思っている。

 :質疑応答:
[吉田]全胎児を材料にしている場合には、当然色々な細胞のコロニーが出来ることが考えられますね。そろそろ胎児を卒業して特定の臓器を使うべきではないでしょうか。
[勝田]薬剤の処理時間を変えるとどうなるかということと、同調培養で薬剤を作用させた時の結果をにらみ合わせてみたいですね。
[堀川]Celll cycleによる発癌性の問題ということですね。
[勝田]我々としてすぐやってみるべき実験は、矢張り、同調培養で4NQOを作用させてみることです。そうすると変異率がぐっと上るはずですね。我々のdataと黒木班員のdataから想像出来ることは、cell cycleの中での非常に短い期間に作用しているのではないかということです。
[黒木]三田氏のdataではテトラヒメナを同調培養しておいて、4NQOを作用させるとG2期にきくということです。
[堀川]放射線関係のdataでも、変異に関係のあるのはG2期といわれています。
[勝田]G2期に作用するならば、すぐDNAにむすびつくわけですね。
[吉田]そうですね。そしてすぐ染色体異常をおこすわけです。
[勝田]今度使い始めたBHK-21という株は悪性ではありませんか。悪性だとすると異常分裂が多いから、変異率が高いのではないでしょうか。
[黒木]それは考えられることです。cloneをとって凍結保存をしておいて、あまり継代せずに使うつもりです。
[安村]いくらcloneをとっても、継代を重ねるとすぐ乱れますからね。それからcolonial cloneの場合は少なくとも2回はくり返してcloningするべきです。
[勝田]2回ぐらいやってもcloneにはならないと思います。映画で観察していると、1ケだけにされた細胞は殆ど死ぬようです。それが2ケだと割合に順調に増え出します。cloneと言うからには、矢張り1ケ釣りをしないと駄目だと思います。
[安村]1ケ釣りからふやしても、populationとして実験に供することが出来るようになる頃には、矢張り乱れてしまうのではないでしょうか。始めに吉田氏の言われた全胎児というような均一でない材料から出発すると、当然色々な細胞のcolonyが出てきて変異か、selectionかわからなくなるから、全胎児は材料として不適当と思われるということについて、私はむしろその均一でない材料を生かして、処理前にcloneをひろって、それから4NQOを各cloneに作用させてみれば、どの種類の細胞が4NQOで変異するかがわかると思いますがね。2代目で5%のP.E.ならcloneは充分ひろえるはずです。
[勝田]cloneのカミサマのお話を少しききましょう。
[堀川]確立されたcloneで分化の度合と変異の関係をしらべられそうですね。
[安村]要するに一般に言われている「培養細胞が機能を持たない」というのは、目指す細胞をひろっていないからです。機能を持たない、或は失われたかに見える時は、機能を有する細胞がselect outされた結果にすぎないように思われます。自分の経験によれば、ステロイド産生細胞はその機能を維持し得ますが、それはcloningをしてステロイド産生細胞の系としてcloneをひろった場合です。
それからfibroblastsはcloningしやすいのですが、上皮系の細胞はむつかしいですね。

《佐藤報告》
ラット細胞←4NQO復元動物
4NQO→ラッテ培養細胞→新生児ラッテ復元(68匹)の一覧表を呈示
 総括
細胞はDonryu系ラッテ全胎児より5系、同系胎児肺より2系、同系胎児肝細胞株2系。
培地:20%BS+LD及び20%BS+YLE・YLEの方が4NQO処理後の回復が早い。
4NQO:5x10-7乗Mは数日より最高62日処理。10-6乗Mは数時間、最高19回処理。10-5乗Mは数分間、最高4回処理。
対照としてDMSO処理を行った。
接種細胞数は50万個から500万個。
接種部位は脳内、腹腔内、皮下及び前眼房内。(接種細胞の顕微鏡写真を呈示)
結果:現在まで腫瘍は発見されていない。

 :質疑応答:
[勝田]今の写真の肝細胞はあまり変異しているように見えませんね。無処置の肝実質細胞系でもよく見られる像です。細胞の大小はspaceの問題だと思われます。私の所で肝実質細胞に4NQOを作用させたら、cell sheetにすき間が出来たような像がみられました。
[堀川]一つ一つの細胞がちぢんでしまったのですか。
[勝田]よくはわかりませんが、細胞表面が変るのではないかと思われます。
[黒木]ラッテ胎児肺からは、どんな細胞が培養されましたか。
[佐藤]fibroblastsと上皮様のものと両方出てきます。4NQOを作用させるとfibroblastsが残るようです。
[安村]変異しているらしく見えるものをcloningすれば、−本当に変異しているcloneがひろえた−ということも考えられませんか。
[佐藤]どうでしょうか。ハムスターの細胞は作用をうけてから、あとはひとりでに悪性化の方向へ進むように思われますが、ラッテの場合はそう簡単にゆかないようです。
[吉田]4NQOは製品による効果のちがいが大きいようですね。
[永井]毒性がちがうのですか。
[吉田]そうです。
[黒木]しかし細胞の側からみても、随分デリケートだと思います。同じ製品でも同じcell lineでも培養のtubeによって(個体差)異なる時があります。それから毒性のことでは、feederを使うと無処置群は抵抗性を増します。
[安村]4NQO変異株には4NQO耐性があるのですか。
[黒木]釜洞氏の所のdataでは一応あるということになっていましたがあまりはっきりしないようです。私の所でもしらべてみましたが、はっきり耐性があるとは言えません。
[吉田]耐性と悪性というのは、全く別の問題だろうと思います。
[勝田]薬剤の製品むらについて一言。DABも製品によって可成り不純物の混合比がちがうようです。寺山氏から教えられて精製して使い始めました所、dataが変ってきて以前の濃度では細胞が死んでしまって困っています。

《藤井報告》
 “なぎさ”培養によりtransformationを来した細胞の抗原性の変化について。
 “なぎさ”培養によりtransformationをおこした細胞、RLH-5とtransformationをおこしていない対照細胞、RLC-9(何れも医科研癌細胞研のもの)について、前回の月報に記したmicrodiffusion法により抗原を比較した。
 実験091367:
 RLH-5、20万個を0.5%Na-Deoxycholate-PBS.・0.05mlに浮遊させ、ガラスホモジナイザーにて(30分間、氷冷して)破壊、そのホモジネートを使用。
 RLC-9、40万個は同様に(0.1mlに浮遊)してホモジェネートを作る。
沈降資料:(1)(6)はRLC-9,50万個per well。(7)はnormal rat liver tissue,50万個per well。(3)(4)はRLH-5,50万個per well。(2)はAnti-rat liver tissue rabbit antiser.(FR51)。(5)はAnti-rat liver tissue rabbit antiser.(FR56)。(図を呈示)する。
 結果は(2)と(7)の間にみられる沈降線の中“a”が(1)と(2)の間にみられる“a'”と融合するようであるが、“a'”が(1)の周のlipoproteinに由る暈輪とはっきり区別し難い。(2)とtransformed cellsの(3)の間に“a'”に相当する沈降線はみられない。この関係は抗血清(5)に対しても同様であるが、FR56血清(5)はFR51(2)より抗体値は低い。
この成績からRLH-5細胞は、RLC-9細胞が正常ラット肝組織と共通抗原としてもつ抗原を持っていないようにみえる。
 実験092567:
 (1)(6)はRLC-9,50万個per well。(7)はRLH-5,50万個per well。(3)(4)はRLH-5,150万個per well。(2)はFR51。(5)はAnti-rat ascites tumor(AH-13)rabbit ser.。
この実験では各細胞のホモジェネートを遠心し(2,000rpm,10min.)上清を使用した。
 結果は(1)と(2)の間に明確な沈降線がみられるが、これは(2)とtransformed cells(3)(7)の間にはみられない。(6)と(5)すなわち抗ラット腫瘍(AH-13)の間には沈降線はないが、(4)transformed cellsと(5)との間には明快ではないが確かに沈降線がみられている。
 この成績は“なぎさ”培養によるtransformed cellsが、対照の正常培養RLC細胞の有つ抗原を失い、ラット肝癌(AH-13)と共通な抗原を獲得(?)していることを示しているようである。tumor抗原のことは、なおこの程度の沈降線では確言出来ないけれども。
 (Exp.092567の写真を呈示)

 :質疑応答:
[勝田]化学発癌の場合、各例性質の違うものが出来ると言われていますが、本当にそうか、抗原の点で共通のものでも持っていはしないか、ということもねらいの一つです。
[吉田]ホモの場合に沈降線は出ますか。
[藤井]大抵出ませんね。抗AH-13 rat血清と抗ラッテ肝組織Rabbit血清との間の新しい沈降線は何を意味しているのでしょうか。
[黒木]AH-13は樹立されてから、もう随分たっている肝癌ですから、現在では抗原抗体反応の系としては不適当ではないでしょうか。
[吉田]L株細胞でもまだ種特異抗原をもっている位ですから、種特異抗原のようなものは案外長くもっているのではないかと思います。
[黒木]私も4NQO肉腫を抗原にして、同種の動物で抗血清を作ろうとしているのですが、なかなか出来ないものですね。

《三宅報告》
先般来皮フのOrgan cultureをしたものに4NQOを作用させると、2週間後の形態学的観察では、変性、ヱ死が極めて著明であったことは、のべた。それで組織片が変性し始める前に、これをCell-Cultureのlevelに移しかえると、細胞のViabilityが元に戻るというWorking Hypothesisの上に立って、Organ Cultureを4NQO作用後、Trypsinization(これ以後に、Pronaseに代える予定)及び、単にレザーによる細切をこころみ、平型試験管に移しかえてみた。Organ Cultureとしての培養期間は7日間、このうち4NQO作用日数は4日間である。Cell cultureに移すと、4NQO作用群は、初めでは細胞数は減少をつづけるが、5〜6日目頃から、コロニーを作り始めている、が一方対照群では増殖力は変化していない。これについてはCell-countはまだ行っていない。同様の4NQOを作用後に分散を1日早く行った群でも、その結果は同様であった。
細胞個々の形態学的な変化は著明なものはない。Piling upとみられる像も、もちろんまだ著明なものを得ていない。
今後かかる実験をマウスやハムスターの胎児皮膚で行い、Organ Culture→Cell Cultureという方法と皮膚の最初からCell Cultureを行った上での実験を続けたい。

 :質疑応答:
[安村]ヒトの皮膚から上皮様のcelll lineはなかなか出来ないものですね。
[吉田]この班では、ヒトの材料を扱う人がないのは何故ですか。
[勝田]ヒトの材料を扱った場合、悪性化しても復元接種して悪性化を確かめることが出来ないから困るのです。

《高木報告》
 1)4NQOを作用せしめたRT株細胞について、その後も経過を観察中であるが、transformed fociがみつかってから約2ケ月を経た今日、処理細胞のpile upする性質も一部の培養を除き継代中に次第に消失してしまった感がする。これらの細胞の形態をスライドで供覧する。第2回目に行った実験群で、4NQO 10-6乗Mで処理した細胞については、近日中に王様ラットが出産の予定であるので100万個の細胞を復元の予定である。
 2)Nitrosoguanidine(NG)のRT細胞及びWister King A rat胸腺細胞に対する効果
RT細胞を用いて: i)まずNG 500μg、250μg、100μg、50μg/mlの各濃度の液を作り、acidicなHanksにて稀釋し、これで細胞を2時間incubateした後2倍容の培地を加えて培養を続けたところ、2日後には500μg、250μg/mlでは細胞は完全に死滅し、4〜5日後にはすべての濃度において細胞はガラス壁から脱落した。ii)次により稀い濃度50μg、10μg、1μg、0.1μg/mlにつき検討したが、この場合incubationの時間は1時間とし、その後2倍容の培地を加えて培養をつづけた。4日後には0.1μg、1μgはcontrolと変りなく、10μg、50μgではやや細胞の変化が認められたが、その後50μgでは殆どの細胞が変性し、10μgでは対照と区別つかぬまでに細胞の増殖をみた。
 従って用いるべき濃度は10μg〜50μg/mlの間が適当と思われる。
iii)次いで10μg、25μg、50μg/mlの各濃度につき、1時間incubation後、薬液を捨てて、新しい培地と交換して観察した。この場合には前回の実験と異り、25μg、50μg/mlでも細胞の軽度の変性がみられるに止り、50μg/mlはその後事故のため失ったが、25μgg/mlでは細胞の変性と共に10日目頃から細胞の異型性がつよく現れ、培養19日目の現在、多核細胞、巨核細胞の出現、contact inhibitionの消失などの像がみられている。これらの像がreversibleかirreversibleか追求したい。
 W.K.A rat胸腺細胞を用いて: 純系ratの胸腺細胞の培養を8月28日に開始し、fibroblasticな細胞をえた。これを用いて25μg、10μg/mlの濃度につき検討中である。今回もNGにincubationする時間は2時間とし、これに2倍容の培地を加えて4日間おいて観察中である。現在の処、25μg/mlの約半数の細胞が変性した像がみられる。
 なおWKAratの胸腺及び胃を250μg/mlのNGで約1時間incubateし、その後25μg/ml含む培地上に8日間organ cultureして、それをcell cultureに移す試みを行ったが、はじめに処理したNGの濃度が濃すぎた為か、或いは培養の期間が長すぎたためか、細胞のoutgrowthを認めることが出来ない。更に条件を検討中である。

 :質疑応答:
[勝田]この系(RT細胞)はコラーゲンを産生していますか。
[高木]染色してみていないので、わかりません。
[吉田]ニトロソグアニジンの添加実験について、濃度を高くすると、変異細胞の出現頻度が多くなりますか。
[高木]25μg/mlの群からしか、変異細胞を得ていませんので、まだわかりません。これから追試してみたいと思っています。

《堀川報告》
 1)培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびにLeukemogenesisの試み(4)
 月報No,6708号までにマウス骨髄細胞の培養ならびに4NQO処理によるLeukemogenesisの試みについてこれまでに行った(実験1)から(実験6)までについて大要を紹介してきた。以来今日まで(実験9)まで進めて来ているが、未だ発表出来る段階に達していない。今回のこれら3実験は、班会議の際に問題とされた点、つまり「骨髄死」の防護実験とLeukemogenesisの実験を特に区別して進め、また4NQOで処理する時の骨髄細胞の培養条件(細胞のage及びcondition)を考慮してやっており、また取り出したばかりの新鮮な骨髄細胞が培養時間とともに種類の上からも更には形態面からも移り変っていく動態を各種染色法とアイソトープの取り込みで追っている。いづれこれらは或程度、物が言える段階に来た時に紹介する。
 2)培養哺乳動物細胞における紫外線障害回復の分子機構の研究(2)
Thymine dimerの生成量は紫外線照射線量と共に増加し、しかも三種の細胞(PS細胞、mouseL細胞、Ehrlich ascites細胞)の間にはまったく差異はなく始めの低線量域を除いて直線的に線量と共に増加することを前報で報告した。では生成されたdimerの除外機構がこれらの細胞間でどの様になっているかを知る必要がある。つまりここではDark reactivationの機序が存在するかどうかを知る必要が生じて来た。
 紫外線照射後、時間経過を追ってDNA中に存在するdimer量を測定した結果、MouseL細胞は紫外線400ergs/平方mm照射後120時間までにはDNA中のdimerを除去する能力がない。つまりDark reactivation enzymeを保持していないか、あるいは持っていてもごく微量であると推定される。次いでEhrlich Ascites tumorでは照射後24時間において約30%のdimerがDNAから除去されることがわかった。つまりDark reactivation enzymeを不完全ながら(100%除去出来ない)保持していることがわかる。このことは、DNAから除去されたdimerが酸可溶性分劃に放出されてくる状態をみれば、更に確固たる裏付けとなる訳で、そういう意味から紫外線照射後の時間経過に従って、Ehrlich細胞の酸可溶性分劃内のdimerの増加を調べ、Dimer/Thymine(%)は0時間1.23%、24時間36.31%、48時間71.88%、120時間104.08%と意義深い結果を得た。(夫々表を呈示)
 以上の結果を総合すると400ergs/平方mm紫外線で照射された場合、mouseL細胞にはDNA中に生成したdimerを除去する能力は殆ど無いが、一方Ehrlich細胞ではDNA中に生成したdimerを約24時間後には、その一部約30%をDNAから除去し、酸可溶性分劃に放出する能力があるということである。すなわちEhrlich細胞には部分的な回復能をもっているということがわかる。では残りの50〜60%のdimerはchromosome上に残っているのか、そしてこのようなdimer残存の条件下でDNA複製を可能にさせている高等動物細胞の染色体という高次構造はどのようになっているのかという問題が生じて来る。従って当然細胞周期をめぐる動力的解析が必要となってくるであろう。

 :質疑応答:
[安藤]Dark reactivationはどうやって行いますか。
[堀川]暗室で培養するわけです。カッティングエンザイム、ポリメレースが同一のものであるかどうかが問題点だと思っています。又UVと4NQOの作用の仕方に共通点があるのに興味をもっています。
[吉田]4NQO処理でdimerが出来るという論文を読んだ事があります。
[堀川]抗dimerを作ってミトコンドリアの酵素assayをしてみたいと思っています。細胞全体としてのdimerをみるのでなく、細胞の各分劃のdimerをみたいわけです。
[永井]修復促進剤はありませんか。又蛋白合成rateと修復との間にparallelな関係はありますか。
[堀川]修復促進剤は今の所見つかっていません。蛋白合成rateと修復とは関係なく行われます。
[吉田]この実験は三つの系統を使ってみている事が、複雑な結果をもたらしているのではないでしょうか。
[堀川]将来は勿論一つの系統で、耐性株と原株との比較をとりたいと考えています。
[吉田]その酵素は遺伝に関与していると考えていますか。
[堀川]そう考えています。一つの染色体をポンと入れると修復されるという、そういう染色体を見つけたいものです。

【勝田班月報:6710:Transformationを来した細胞の抗原性の変化】
 A.4NQO発癌実験:
 4NQOによる実験は主としてRatのfibroblastsを用い(実験一覧表を呈示)、最近の実験で4NQOの濃度を3.3x10-6乗Mにあげてみたところ、これまで変異細胞の集落の発現するのに約1月要したのが、きわめて短縮され、たとえばExp.CQ#23の実験では処理後8日目に1本の培養管の中に5コの集落が発見された(その経過の映画供覧)。仮にこの集落に、A、B、C、D、Eと略名を与えたが(顕微鏡写真を呈示)、増殖細胞Cは小型で、細胞質顆粒に富んでいる。Dはやはり小型の顆粒の多い細胞が見られる。これらの集落が夫々別個に発生したものか、或は一コの集落から飛火したものか、これは現在のところでは不明である。
 復元接種試験は、この最近のexpt.の細胞はまだ接種していないが、その前のものは今日までのところでは何れも陰性の結果となっている。
 しかし、このように短期間で変異細胞(?)が現われるようになったので、映画でその全過程を追うにしても、これまでの4倍の能率を上げることができるようになり、うまく視野内で変異をcatchできる可能性が一段と強くなった。今後は当分この3.3x10-6乗M・30分処理でやって行きたいと思っている。
 B.“なぎさ”培養によって生じたラッテ肝細胞の変異株RLH-5:
 Exp.series“CN"#43でRLC-9系からRLH-5が得られた。その形態は(顕微鏡写真を呈示)肝癌AH-130に似ており、活発な運動性を示す。この変異株で面白いのは、はじめに使った細胞がRLC-9であり、これはJAR系ラッテのF29の雌の肝で、完全な純系材料を出発点としていることである。従って現在、復元の準備を進めているが、“take"される可能性がきわめて高い。
 RLH-5の染色体のmodeは(図を呈示)63本と66本にピークがある。(64本が谷になっているのは、technical failureによるものか否か、未だ不明)3倍体〜高3倍体で、その意味からも“take"されそうな感じがする。
 C.正常ラッテ肝ホモジネートによるDAB代謝:
 これまでrat肝をhomogenateにすると、どうもDABを代謝してくれないので困っていたが、反応液の処方を変えることによって、今回はじめて旨く行くようになった(処方を呈示)。この前の処方はMillerらのものであるが今度は安藤班員の新しく考案した処方である。
 測定結果は、homogenateの作り方を、普通のWaring blender、テフロンのホモジナイザー、フレンチプレスと3種採用して活性を比較してみた。また作ってすぐ測定したのと、4℃で2日間おいてから測ったのと、2種のデータをとった。
 作って当日の測定(37℃、30分の加温)では、フレンチプレスによるhomogenateが最高の活性を示しているが、2日保存するとWaring blenderの方が最高の活性を示している。どういう理由か、確かなことは未だ云えないが、保存中にenzymesが液中に遊離してくるためかも知れない。
 D.なぎさ変異肝細胞RLH-1の復元接種:
 RLH-1はこれまで何回復元しても腫瘍を作らなかったが、最近雑系ラッテとJARを交配して作っている第2系のJARのF3の生後1月のラッテに、皮下に2匹、腹腔内に2匹、2,000万個位宛入れたところ、皮下の方が2匹とも約1週後に小指大の腫瘤を作った。これは一部histology、他を培養と再接種(3匹)に用いたが次代のラッテでは腫瘤は形成せず消失してしまった。I.P.された2匹は未だ生存している。

 :質疑応答:
[黒木]4NQO類による変異細胞は一般に顆粒が目立ちますね。
[吉田]復元にはF1のラッテを使う方が良いですよ。
[永井]DAB用のhomogenateを作るのにdeoxycholateを使ってみましたか。
[高岡]まだです。目下計画中です。
[黒木]4NQOは、特に細胞数が少いと毒性が強いですね。あのcolonyは少し立体的すぎる感じですね。Subcultureすると次代の形態はどうですか。
[高岡]継代しましたが形態はまだ見ていません。
[勝田]さっきお話したようにell sheetが流れて丸まったものではないかと思っています。Coloniesができたところで、早目に復元することを考えていますが、女はケチだから・・・。
[吉田]丸まったシートの中で、何かこわれた細胞から取って変異細胞が出来てくるのでしょうかね。なぎさ理論のように・・・。
[黒木]私はFull sheetになる1日前に薬剤をかけるようにしています。
[梅田]Heidelbergerの仕事では、あるcell lineで変異株がとれても、他のでは駄目ですね。
[黒木]Colony levelの仕事に持込まなくてはなりませんね。今の所の“変異”のマーカーは?
[勝田]この場合はColony毎に性質がちがうかも知れません。マーカーとしては、いまのところは、coloniesが出来たということと、その細胞の増殖が早いということ、この二つだけcheckしています。
[吉田]悪性ということは、ネズミにつくかつかないか、だけではcheckできにくいですね。
[堀川]無処理のcell lineでも染色体の乱れはありますか。
[吉田]動物によってちがいます。マウスは変り易いですが、ラッテは維持しやすいですね。
[藤井]癌研の宇多小路氏の言によると、臓器によって染色体(数?)がちがうとのことですが、本当でしょうか。
[吉田]昔はちがうとも云われましたが、それは技術的エラーの結果で、現在ではちがわないとされています。
[梅田]4NQOの作用機序は判っていますか。
[黒木]4NQOそのものについては、どう変化するかはしらべられています。
[堀川]8アザグアニン作用後にでも、DNAに結合するということは云われています。
[黒木]杉村氏などは、蛋白への結合をいま問題にしているようですね。
[勝田]そのようなレベルの仕事は、今後培養で解明して行くべきですね。

《黒木報告》
4NQO/ハムスター胎児の組合せによるin vitro transformationの仕事も、ようやくむつかしい段階に達し、単にin vitroで癌を作るだけではなく、癌化の機構にせまるように内容を飛躍させねばならない段になった。
今までの技術を使ってtransformation stageのphenotypeを詳細に追いかけることも必要であるが、さらに技術を発展させるために次の三つの方針を定めた。
(1)colony-levelでtransformationを判定し、定量的にtransformationを考える
(2)synchronous culture・systemによるtransformat.からcarcinogenと生体高分子とのinteractionの問題に入る
(3)established cell lineによるtransformationの系を新たに開発する
 I.Colony-levelのtransformation
 びわ湖の班会議のときに報告したように、carcinogen treated cultureを発癌剤を除いてcolonyを作らせると、total colonyの6.0%前後に“transformed colony"がみられる。されに7月の班会議には、hamster胎児細胞をfeeder cellsの上にまき、24時間後に4HAQOを加えると“transformed colony"が2.0%にみられたことを報告した。そこで問題は
(1)reproducibility
(2)“transformed colony"と考えたものはun-treated cultureには検索した範囲では、1度も発見されないものであるが、それが本当に→transformation→malignizationに連なるものか
(3)soft-agar法との関連性である。
 (1)Reproducibility
feeder cells、Bov.serumのLot差の問題などのため、しばらくcolonyがうまくできないことがつづき、実験は予定よりかなりおくれてしまった。(実験結果を表で呈示)
 以上今までのexp.を失敗も含めてすべてならべてみたが、dataにばらつきの大きいこと、率が前のexp.と比べると低いことがはっきりした。株細胞(HeLaなど)のplatingと異り、feeder layerを用いるembryoのsystemは技術的にはまだ不安定で、ときには原因が分らずに低いPEを示す。PEが低いとtransformed colonyの出現率が0となる・・・
ここで云うtransformed colonyが無処置及びnon-carcinogenic derivativeの中には見当らないとしても、本当にtransformation→malignizationに連なるものかどうかは自信がない。目下、一つのtransf.の経過の各時期を追いかけて、colonyの形態をかんさつ中である。
 なお、Sachsらのいうtransformed colonyは原著の写真をよく検討してみたところ、我々のexp.では無処置にみられるものもtransformedとして扱はれているようである。
 soft agarのcolonyも平行してすすめている。現在の段階では、non-treatedのhamster胎児も、Bact-peptone 0.1%添加soft agar中では500/100,000程度に小さい(30ケ前後のcellから成る)コロニーを作ることが分った。目下exp.が進行中である。
 II.Synchronous culture系
 excess TdR(2mM)法で、3代目のハムスター胎児の同調培養を試みた。細胞の増殖曲線からみると、ある程度の同調は得られたようである。目下autoradiographyでDNA合成MIなどをみているところである(同時にlife cycleの分析もおこなったがまだ結果は出ていない)。
 III.BHK-21を用いたtransformation
 初代培養を用いたtransformationは、正常→悪性への変化をみるのにはよいが、定量的にtransformationの機序を解析するためには不利である。
virusではBHK-21/polyoma、3T3/SV-40のような優れたsystemが開発されており、「悪性」はぬきにして、transformationの問題が解析されている。
chemical carcinogenesisでもそれと同じような系がどうしてもほしい訳で、最初に3T3/4NQOを試みた。月報6703に報告したように、giant cellsなどの異常は確かに起こるのだが、目的とするpiled upはおこっても不安定でgeneticな変化かどうかは確実ではなかった。また、colony-levelでanalysisにもっていけなかった。
そこでBHK-21を用いてみた。BHK-21は御承知のように、polyoma virusで配列が乱れ、pile-upする他、mycoplasma、Rous virus、adenovirusでもtransformすることが知られている。
 最初にwildのBHK-21に10-5乗M4HAQOでtreatmentしたところ、以下に示すようなcolony levelのtransformationを得ることができた。
cells:山根研由来のBHK-21 uncloned
Media:10%B.S. or C.S. Eagle MEM Kanamycin 30mg/lを含む
colony:20%C.S. Eagle、Falcon Petridish(60mm)
carcinogen:10-5.0乗M 4HAQO for 9days
 BHK-21のcolonyはよく知られているように、規則的な配列を示す典型的な繊維芽細胞のそれである。その他に、treated cultureには、規則的な配列を示さない中心部が厚くもり上ったcolonyが沢山みられる。このコロニーは中心部が非常にpile upするので剥れやすく、10日以上incubateすると沢山のdaughter colonyを作る傾向がある。これはcontact inhibitionのlossと関係あると考え、一応、transformed colonyとして扱うと(表を呈示)、P.E.はtreatment直後はcarcinogenのcytotoxic actionのためか、かなり低い(無処置は20%程度)が、継代とともにP.E.は上昇し、transformed cellsの出現率も6.3→35.6→71.5→85.0と急速に上昇する。non-transformed colonyは14.2→53.0→19.9→0と多少の消長はあるが55日後には非常に少なくなった(55日にnon-transformedが1ケみつかったが、cloningでとってしまった)。Small unclassifiedとは小さいcolonyで細胞がパラパラと散在しているもの、transformedともuntransformedとも云えない。処理直後に多く次第に減少していくことから十分の大きさのcolonyを形成できない程度にcarcinogenでdamageを受けた細胞とも考えられる(X線照射のあとによくみられる)。このようなtransformed colonyの増加が、(1)selective overgrowth、(2)delayed transformation、(3)transforming agent(?)のtransmissionのいずれによるかは今後の分析によらねばなるまい。(1)のselectionと考えるときには、treated cultureのP.E.の増加が一つのevidenceとなる。しかし、mass-cultureのgrowth curveでは両者の間に差がない。
 次の問題は、このようなコロニーの形態上の差が、geneticな変化か否かである。これをみるためにtreated cultureからtransformed colony(Exp.#1〜#5)及びnon-transformed colony(#6)をとり、そのprogenyを観察した(colonyをpick up後直ちにdilutionしplateする)55daysに行った(表を呈示)。#5の例を除けばtransformedのprogenyはすべてtransformedであり、non-transformedのprogenyの93.6%はoriginalと同様の形態である。少数の例外はcolonial cloneにつきもののcontaminantとして考えてよい(特にtransformed colonyは剥がれやすいので、non-transf.にcontaminateする率は高い)。
 この後の問題として
 (1)reproducibility
 (2)cloned populationの使用などである。目下、二回連続してとったcolonial cloneを用いてexp.を開始している。また
 (3)mycoplasma、virusのcontaminationの可能性も十分に否定する必要がある。
いずれにしても3T3/4NQOよりははるかに有望である。今後は、このsystemの開発に力を入れたいと思っている。

 :質疑応答:
[吉田]全胎児を材料にしている場合には、当然色々な細胞のコロニーが出来ることが考えられますね。そろそろ胎児を卒業して特定の臓器を使うべきではないでしょうか。
[勝田]薬剤の処理時間を変えるとどうなるかということと、同調培養で薬剤を作用させた時の結果をにらみ合わせてみたいですね。
[堀川]Celll cycleによる発癌性の問題ということですね。
[勝田]我々としてすぐやってみるべき実験は、矢張り、同調培養で4NQOを作用させてみることです。そうすると変異率がぐっと上るはずですね。我々のdataと黒木班員のdataから想像出来ることは、cell cycleの中での非常に短い期間に作用しているのではないかということです。
[黒木]三田氏のdataではテトラヒメナを同調培養しておいて、4NQOを作用させるとG2期にきくということです。
[堀川]放射線関係のdataでも、変異に関係のあるのはG2期といわれています。
[勝田]G2期に作用するならば、すぐDNAにむすびつくわけですね。
[吉田]そうですね。そしてすぐ染色体異常をおこすわけです。
[勝田]今度使い始めたBHK-21という株は悪性ではありませんか。悪性だとすると異常分裂が多いから、変異率が高いのではないでしょうか。
[黒木]それは考えられることです。cloneをとって凍結保存をしておいて、あまり継代せずに使うつもりです。
[安村]いくらcloneをとっても、継代を重ねるとすぐ乱れますからね。それからcolonial cloneの場合は少なくとも2回はくり返してcloningするべきです。
[勝田]2回ぐらいやってもcloneにはならないと思います。映画で観察していると、1ケだけにされた細胞は殆ど死ぬようです。それが2ケだと割合に順調に増え出します。cloneと言うからには、矢張り1ケ釣りをしないと駄目だと思います。
[安村]1ケ釣りからふやしても、populationとして実験に供することが出来るようになる頃には、矢張り乱れてしまうのではないでしょうか。始めに吉田氏の言われた全胎児というような均一でない材料から出発すると、当然色々な細胞のcolonyが出てきて変異か、selectionかわからなくなるから、全胎児は材料として不適当と思われるということについて、私はむしろその均一でない材料を生かして、処理前にcloneをひろって、それから4NQOを各cloneに作用させてみれば、どの種類の細胞が4NQOで変異するかがわかると思いますがね。2代目で5%のP.E.ならcloneは充分ひろえるはずです。
[勝田]cloneのカミサマのお話を少しききましょう。
[堀川]確立されたcloneで分化の度合と変異の関係をしらべられそうですね。
[安村]要するに一般に言われている「培養細胞が機能を持たない」というのは、目指す細胞をひろっていないからです。機能を持たない、或は失われたかに見える時は、機能を有する細胞がselect outされた結果にすぎないように思われます。自分の経験によれば、ステロイド産生細胞はその機能を維持し得ますが、それはcloningをしてステロイド産生細胞の系としてcloneをひろった場合です。
それからfibroblastsはcloningしやすいのですが、上皮系の細胞はむつかしいですね。

《佐藤報告》
ラット細胞←4NQO復元動物
4NQO→ラッテ培養細胞→新生児ラッテ復元(68匹)の一覧表を呈示
 総括
細胞はDonryu系ラッテ全胎児より5系、同系胎児肺より2系、同系胎児肝細胞株2系。
培地:20%BS+LD及び20%BS+YLE・YLEの方が4NQO処理後の回復が早い。
4NQO:5x10-7乗Mは数日より最高62日処理。10-6乗Mは数時間、最高19回処理。10-5乗Mは数分間、最高4回処理。
対照としてDMSO処理を行った。
接種細胞数は50万個から500万個。
接種部位は脳内、腹腔内、皮下及び前眼房内。(接種細胞の顕微鏡写真を呈示)
結果:現在まで腫瘍は発見されていない。

 :質疑応答:
[勝田]今の写真の肝細胞はあまり変異しているように見えませんね。無処置の肝実質細胞系でもよく見られる像です。細胞の大小はspaceの問題だと思われます。私の所で肝実質細胞に4NQOを作用させたら、cell sheetにすき間が出来たような像がみられました。
[堀川]一つ一つの細胞がちぢんでしまったのですか。
[勝田]よくはわかりませんが、細胞表面が変るのではないかと思われます。
[黒木]ラッテ胎児肺からは、どんな細胞が培養されましたか。
[佐藤]fibroblastsと上皮様のものと両方出てきます。4NQOを作用させるとfibroblastsが残るようです。
[安村]変異しているらしく見えるものをcloningすれば、−本当に変異しているcloneがひろえた−ということも考えられませんか。
[佐藤]どうでしょうか。ハムスターの細胞は作用をうけてから、あとはひとりでに悪性化の方向へ進むように思われますが、ラッテの場合はそう簡単にゆかないようです。
[吉田]4NQOは製品による効果のちがいが大きいようですね。
[永井]毒性がちがうのですか。
[吉田]そうです。
[黒木]しかし細胞の側からみても、随分デリケートだと思います。同じ製品でも同じcell lineでも培養のtubeによって(個体差)異なる時があります。それから毒性のことでは、feederを使うと無処置群は抵抗性を増します。
[安村]4NQO変異株には4NQO耐性があるのですか。
[黒木]釜洞氏の所のdataでは一応あるということになっていましたがあまりはっきりしないようです。私の所でもしらべてみましたが、はっきり耐性があるとは言えません。
[吉田]耐性と悪性というのは、全く別の問題だろうと思います。
[勝田]薬剤の製品むらについて一言。DABも製品によって可成り不純物の混合比がちがうようです。寺山氏から教えられて精製して使い始めました所、dataが変ってきて以前の濃度では細胞が死んでしまって困っています。

《藤井報告》
 “なぎさ”培養によりtransformationを来した細胞の抗原性の変化について。
 “なぎさ”培養によりtransformationをおこした細胞、RLH-5とtransformationをおこしていない対照細胞、RLC-9(何れも医科研癌細胞研のもの)について、前回の月報に記したmicrodiffusion法により抗原を比較した。
 実験091367:
 RLH-5、20万個を0.5%Na-Deoxycholate-PBS.・0.05mlに浮遊させ、ガラスホモジナイザーにて(30分間、氷冷して)破壊、そのホモジネートを使用。
 RLC-9、40万個は同様に(0.1mlに浮遊)してホモジェネートを作る。
沈降資料:(1)(6)はRLC-9,50万個per well。(7)はnormal rat liver tissue,50万個per well。(3)(4)はRLH-5,50万個per well。(2)はAnti-rat liver tissue rabbit antiser.(FR51)。(5)はAnti-rat liver tissue rabbit antiser.(FR56)。(図を呈示)する。
 結果は(2)と(7)の間にみられる沈降線の中“a”が(1)と(2)の間にみられる“a'”と融合するようであるが、“a'”が(1)の周のlipoproteinに由る暈輪とはっきり区別し難い。(2)とtransformed cellsの(3)の間に“a'”に相当する沈降線はみられない。この関係は抗血清(5)に対しても同様であるが、FR56血清(5)はFR51(2)より抗体値は低い。
この成績からRLH-5細胞は、RLC-9細胞が正常ラット肝組織と共通抗原としてもつ抗原を持っていないようにみえる。
 実験092567:
 (1)(6)はRLC-9,50万個per well。(7)はRLH-5,50万個per well。(3)(4)はRLH-5,150万個per well。(2)はFR51。(5)はAnti-rat ascites tumor(AH-13)rabbit ser.。
この実験では各細胞のホモジェネートを遠心し(2,000rpm,10min.)上清を使用した。
 結果は(1)と(2)の間に明確な沈降線がみられるが、これは(2)とtransformed cells(3)(7)の間にはみられない。(6)と(5)すなわち抗ラット腫瘍(AH-13)の間には沈降線はないが、(4)transformed cellsと(5)との間には明快ではないが確かに沈降線がみられている。
 この成績は“なぎさ”培養によるtransformed cellsが、対照の正常培養RLC細胞の有つ抗原を失い、ラット肝癌(AH-13)と共通な抗原を獲得(?)していることを示しているようである。tumor抗原のことは、なおこの程度の沈降線では確言出来ないけれども。
 (Exp.092567の写真を呈示)

 :質疑応答:
[勝田]化学発癌の場合、各例性質の違うものが出来ると言われていますが、本当にそうか、抗原の点で共通のものでも持っていはしないか、ということもねらいの一つです。
[吉田]ホモの場合に沈降線は出ますか。
[藤井]大抵出ませんね。抗AH-13 rat血清と抗ラッテ肝組織Rabbit血清との間の新しい沈降線は何を意味しているのでしょうか。
[黒木]AH-13は樹立されてから、もう随分たっている肝癌ですから、現在では抗原抗体反応の系としては不適当ではないでしょうか。
[吉田]L株細胞でもまだ種特異抗原をもっている位ですから、種特異抗原のようなものは案外長くもっているのではないかと思います。
[黒木]私も4NQO肉腫を抗原にして、同種の動物で抗血清を作ろうとしているのですが、なかなか出来ないものですね。

《三宅報告》
先般来皮フのOrgan cultureをしたものに4NQOを作用させると、2週間後の形態学的観察では、変性、ヱ死が極めて著明であったことは、のべた。それで組織片が変性し始める前に、これをCell-Cultureのlevelに移しかえると、細胞のViabilityが元に戻るというWorking Hypothesisの上に立って、Organ Cultureを4NQO作用後、Trypsinization(これ以後に、Pronaseに代える予定)及び、単にレザーによる細切をこころみ、平型試験管に移しかえてみた。Organ Cultureとしての培養期間は7日間、このうち4NQO作用日数は4日間である。Cell cultureに移すと、4NQO作用群は、初めでは細胞数は減少をつづけるが、5〜6日目頃から、コロニーを作り始めている、が一方対照群では増殖力は変化していない。これについてはCell-countはまだ行っていない。同様の4NQOを作用後に分散を1日早く行った群でも、その結果は同様であった。
細胞個々の形態学的な変化は著明なものはない。Piling upとみられる像も、もちろんまだ著明なものを得ていない。
今後かかる実験をマウスやハムスターの胎児皮膚で行い、Organ Culture→Cell Cultureという方法と皮膚の最初からCell Cultureを行った上での実験を続けたい。

 :質疑応答:
[安村]ヒトの皮膚から上皮様のcelll lineはなかなか出来ないものですね。
[吉田]この班では、ヒトの材料を扱う人がないのは何故ですか。
[勝田]ヒトの材料を扱った場合、悪性化しても復元接種して悪性化を確かめることが出来ないから困るのです。

《高木報告》
 1)4NQOを作用せしめたRT株細胞について、その後も経過を観察中であるが、transformed fociがみつかってから約2ケ月を経た今日、処理細胞のpile upする性質も一部の培養を除き継代中に次第に消失してしまった感がする。これらの細胞の形態をスライドで供覧する。第2回目に行った実験群で、4NQO 10-6乗Mで処理した細胞については、近日中に王様ラットが出産の予定であるので100万個の細胞を復元の予定である。
 2)Nitrosoguanidine(NG)のRT細胞及びWister King A rat胸腺細胞に対する効果
RT細胞を用いて: i)まずNG 500μg、250μg、100μg、50μg/mlの各濃度の液を作り、acidicなHanksにて稀釋し、これで細胞を2時間incubateした後2倍容の培地を加えて培養を続けたところ、2日後には500μg、250μg/mlでは細胞は完全に死滅し、4〜5日後にはすべての濃度において細胞はガラス壁から脱落した。ii)次により稀い濃度50μg、10μg、1μg、0.1μg/mlにつき検討したが、この場合incubationの時間は1時間とし、その後2倍容の培地を加えて培養をつづけた。4日後には0.1μg、1μgはcontrolと変りなく、10μg、50μgではやや細胞の変化が認められたが、その後50μgでは殆どの細胞が変性し、10μgでは対照と区別つかぬまでに細胞の増殖をみた。
 従って用いるべき濃度は10μg〜50μg/mlの間が適当と思われる。
iii)次いで10μg、25μg、50μg/mlの各濃度につき、1時間incubation後、薬液を捨てて、新しい培地と交換して観察した。この場合には前回の実験と異り、25μg、50μg/mlでも細胞の軽度の変性がみられるに止り、50μg/mlはその後事故のため失ったが、25μgg/mlでは細胞の変性と共に10日目頃から細胞の異型性がつよく現れ、培養19日目の現在、多核細胞、巨核細胞の出現、contact inhibitionの消失などの像がみられている。これらの像がreversibleかirreversibleか追求したい。
 W.K.A rat胸腺細胞を用いて: 純系ratの胸腺細胞の培養を8月28日に開始し、fibroblasticな細胞をえた。これを用いて25μg、10μg/mlの濃度につき検討中である。今回もNGにincubationする時間は2時間とし、これに2倍容の培地を加えて4日間おいて観察中である。現在の処、25μg/mlの約半数の細胞が変性した像がみられる。
 なおWKAratの胸腺及び胃を250μg/mlのNGで約1時間incubateし、その後25μg/ml含む培地上に8日間organ cultureして、それをcell cultureに移す試みを行ったが、はじめに処理したNGの濃度が濃すぎた為か、或いは培養の期間が長すぎたためか、細胞のoutgrowthを認めることが出来ない。更に条件を検討中である。

 :質疑応答:
[勝田]この系(RT細胞)はコラーゲンを産生していますか。
[高木]染色してみていないので、わかりません。
[吉田]ニトロソグアニジンの添加実験について、濃度を高くすると、変異細胞の出現頻度が多くなりますか。
[高木]25μg/mlの群からしか、変異細胞を得ていませんので、まだわかりません。これから追試してみたいと思っています。

《堀川報告》
 1)培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびにLeukemogenesisの試み(4)
 月報No,6708号までにマウス骨髄細胞の培養ならびに4NQO処理によるLeukemogenesisの試みについてこれまでに行った(実験1)から(実験6)までについて大要を紹介してきた。以来今日まで(実験9)まで進めて来ているが、未だ発表出来る段階に達していない。今回のこれら3実験は、班会議の際に問題とされた点、つまり「骨髄死」の防護実験とLeukemogenesisの実験を特に区別して進め、また4NQOで処理する時の骨髄細胞の培養条件(細胞のage及びcondition)を考慮してやっており、また取り出したばかりの新鮮な骨髄細胞が培養時間とともに種類の上からも更には形態面からも移り変っていく動態を各種染色法とアイソトープの取り込みで追っている。いづれこれらは或程度、物が言える段階に来た時に紹介する。
 2)培養哺乳動物細胞における紫外線障害回復の分子機構の研究(2)
Thymine dimerの生成量は紫外線照射線量と共に増加し、しかも三種の細胞(PS細胞、mouseL細胞、Ehrlich ascites細胞)の間にはまったく差異はなく始めの低線量域を除いて直線的に線量と共に増加することを前報で報告した。では生成されたdimerの除外機構がこれらの細胞間でどの様になっているかを知る必要がある。つまりここではDark reactivationの機序が存在するかどうかを知る必要が生じて来た。
 紫外線照射後、時間経過を追ってDNA中に存在するdimer量を測定した結果、MouseL細胞は紫外線400ergs/平方mm照射後120時間までにはDNA中のdimerを除去する能力がない。つまりDark reactivation enzymeを保持していないか、あるいは持っていてもごく微量であると推定される。次いでEhrlich Ascites tumorでは照射後24時間において約30%のdimerがDNAから除去されることがわかった。つまりDark reactivation enzymeを不完全ながら(100%除去出来ない)保持していることがわかる。このことは、DNAから除去されたdimerが酸可溶性分劃に放出されてくる状態をみれば、更に確固たる裏付けとなる訳で、そういう意味から紫外線照射後の時間経過に従って、Ehrlich細胞の酸可溶性分劃内のdimerの増加を調べ、Dimer/Thymine(%)は0時間1.23%、24時間36.31%、48時間71.88%、120時間104.08%と意義深い結果を得た。(夫々表を呈示)
 以上の結果を総合すると400ergs/平方mm紫外線で照射された場合、mouseL細胞にはDNA中に生成したdimerを除去する能力は殆ど無いが、一方Ehrlich細胞ではDNA中に生成したdimerを約24時間後には、その一部約30%をDNAから除去し、酸可溶性分劃に放出する能力があるということである。すなわちEhrlich細胞には部分的な回復能をもっているということがわかる。では残りの50〜60%のdimerはchromosome上に残っているのか、そしてこのようなdimer残存の条件下でDNA複製を可能にさせている高等動物細胞の染色体という高次構造はどのようになっているのかという問題が生じて来る。従って当然細胞周期をめぐる動力的解析が必要となってくるであろう。

 :質疑応答:
[安藤]Dark reactivationはどうやって行いますか。
[堀川]暗室で培養するわけです。カッティングエンザイム、ポリメレースが同一のものであるかどうかが問題点だと思っています。又UVと4NQOの作用の仕方に共通点があるのに興味をもっています。
[吉田]4NQO処理でdimerが出来るという論文を読んだ事があります。
[堀川]抗dimerを作ってミトコンドリアの酵素assayをしてみたいと思っています。細胞全体としてのdimerをみるのでなく、細胞の各分劃のdimerをみたいわけです。
[永井]修復促進剤はありませんか。又蛋白合成rateと修復との間にparallelな関係はありますか。
[堀川]修復促進剤は今の所見つかっていません。蛋白合成rateと修復とは関係なく行われます。
[吉田]この実験は三つの系統を使ってみている事が、複雑な結果をもたらしているのではないでしょうか。
[堀川]将来は勿論一つの系統で、耐性株と原株との比較をとりたいと考えています。
[吉田]その酵素は遺伝に関与していると考えていますか。
[堀川]そう考えています。一つの染色体をポンと入れると修復されるという、そういう染色体を見つけたいものです。

【勝田班月報:6710:Transformationを来した細胞の抗原性の変化】
 A.4NQO発癌実験:
 4NQOによる実験は主としてRatのfibroblastsを用い(実験一覧表を呈示)、最近の実験で4NQOの濃度を3.3x10-6乗Mにあげてみたところ、これまで変異細胞の集落の発現するのに約1月要したのが、きわめて短縮され、たとえばExp.CQ#23の実験では処理後8日目に1本の培養管の中に5コの集落が発見された(その経過の映画供覧)。仮にこの集落に、A、B、C、D、Eと略名を与えたが(顕微鏡写真を呈示)、増殖細胞Cは小型で、細胞質顆粒に富んでいる。Dはやはり小型の顆粒の多い細胞が見られる。これらの集落が夫々別個に発生したものか、或は一コの集落から飛火したものか、これは現在のところでは不明である。
 復元接種試験は、この最近のexpt.の細胞はまだ接種していないが、その前のものは今日までのところでは何れも陰性の結果となっている。
 しかし、このように短期間で変異細胞(?)が現われるようになったので、映画でその全過程を追うにしても、これまでの4倍の能率を上げることができるようになり、うまく視野内で変異をcatchできる可能性が一段と強くなった。今後は当分この3.3x10-6乗M・30分処理でやって行きたいと思っている。
 B.“なぎさ”培養によって生じたラッテ肝細胞の変異株RLH-5:
 Exp.series“CN"#43でRLC-9系からRLH-5が得られた。その形態は(顕微鏡写真を呈示)肝癌AH-130に似ており、活発な運動性を示す。この変異株で面白いのは、はじめに使った細胞がRLC-9であり、これはJAR系ラッテのF29の雌の肝で、完全な純系材料を出発点としていることである。従って現在、復元の準備を進めているが、“take"される可能性がきわめて高い。
 RLH-5の染色体のmodeは(図を呈示)63本と66本にピークがある。(64本が谷になっているのは、technical failureによるものか否か、未だ不明)3倍体〜高3倍体で、その意味からも“take"されそうな感じがする。
 C.正常ラッテ肝ホモジネートによるDAB代謝:
 これまでrat肝をhomogenateにすると、どうもDABを代謝してくれないので困っていたが、反応液の処方を変えることによって、今回はじめて旨く行くようになった(処方を呈示)。この前の処方はMillerらのものであるが今度は安藤班員の新しく考案した処方である。
 測定結果は、homogenateの作り方を、普通のWaring blender、テフロンのホモジナイザー、フレンチプレスと3種採用して活性を比較してみた。また作ってすぐ測定したのと、4℃で2日間おいてから測ったのと、2種のデータをとった。
 作って当日の測定(37℃、30分の加温)では、フレンチプレスによるhomogenateが最高の活性を示しているが、2日保存するとWaring blenderの方が最高の活性を示している。どういう理由か、確かなことは未だ云えないが、保存中にenzymesが液中に遊離してくるためかも知れない。
 D.なぎさ変異肝細胞RLH-1の復元接種:
 RLH-1はこれまで何回復元しても腫瘍を作らなかったが、最近雑系ラッテとJARを交配して作っている第2系のJARのF3の生後1月のラッテに、皮下に2匹、腹腔内に2匹、2,000万個位宛入れたところ、皮下の方が2匹とも約1週後に小指大の腫瘤を作った。これは一部histology、他を培養と再接種(3匹)に用いたが次代のラッテでは腫瘤は形成せず消失してしまった。I.P.された2匹は未だ生存している。

 :質疑応答:
[黒木]4NQO類による変異細胞は一般に顆粒が目立ちますね。
[吉田]復元にはF1のラッテを使う方が良いですよ。
[永井]DAB用のhomogenateを作るのにdeoxycholateを使ってみましたか。
[高岡]まだです。目下計画中です。
[黒木]4NQOは、特に細胞数が少いと毒性が強いですね。あのcolonyは少し立体的すぎる感じですね。Subcultureすると次代の形態はどうですか。
[高岡]継代しましたが形態はまだ見ていません。
[勝田]さっきお話したようにell sheetが流れて丸まったものではないかと思っています。Coloniesができたところで、早目に復元することを考えていますが、女はケチだから・・・。
[吉田]丸まったシートの中で、何かこわれた細胞から取って変異細胞が出来てくるのでしょうかね。なぎさ理論のように・・・。
[黒木]私はFull sheetになる1日前に薬剤をかけるようにしています。
[梅田]Heidelbergerの仕事では、あるcell lineで変異株がとれても、他のでは駄目ですね。
[黒木]Colony levelの仕事に持込まなくてはなりませんね。今の所の“変異”のマーカーは?
[勝田]この場合はColony毎に性質がちがうかも知れません。マーカーとしては、いまのところは、coloniesが出来たということと、その細胞の増殖が早いということ、この二つだけcheckしています。
[吉田]悪性ということは、ネズミにつくかつかないか、だけではcheckできにくいですね。
[堀川]無処理のcell lineでも染色体の乱れはありますか。
[吉田]動物によってちがいます。マウスは変り易いですが、ラッテは維持しやすいですね。
[藤井]癌研の宇多小路氏の言によると、臓器によって染色体(数?)がちがうとのことですが、本当でしょうか。
[吉田]昔はちがうとも云われましたが、それは技術的エラーの結果で、現在ではちがわないとされています。
[梅田]4NQOの作用機序は判っていますか。
[黒木]4NQOそのものについては、どう変化するかはしらべられています。
[堀川]8アザグアニン作用後にでも、DNAに結合するということは云われています。
[黒木]杉村氏などは、蛋白への結合をいま問題にしているようですね。
[勝田]そのようなレベルの仕事は、今後培養で解明して行くべきですね。

《黒木報告》
4NQO/ハムスター胎児の組合せによるin vitro transformationの仕事も、ようやくむつかしい段階に達し、単にin vitroで癌を作るだけではなく、癌化の機構にせまるように内容を飛躍させねばならない段になった。
今までの技術を使ってtransformation stageのphenotypeを詳細に追いかけることも必要であるが、さらに技術を発展させるために次の三つの方針を定めた。
(1)colony-levelでtransformationを判定し、定量的にtransformationを考える
(2)synchronous culture・systemによるtransformat.からcarcinogenと生体高分子とのinteractionの問題に入る
(3)established cell lineによるtransformationの系を新たに開発する
 I.Colony-levelのtransformation
 びわ湖の班会議のときに報告したように、carcinogen treated cultureを発癌剤を除いてcolonyを作らせると、total colonyの6.0%前後に“transformed colony"がみられる。されに7月の班会議には、hamster胎児細胞をfeeder cellsの上にまき、24時間後に4HAQOを加えると“transformed colony"が2.0%にみられたことを報告した。そこで問題は
(1)reproducibility
(2)“transformed colony"と考えたものはun-treated cultureには検索した範囲では、1度も発見されないものであるが、それが本当に→transformation→malignizationに連なるものか
(3)soft-agar法との関連性である。
 (1)Reproducibility
feeder cells、Bov.serumのLot差の問題などのため、しばらくcolonyがうまくできないことがつづき、実験は予定よりかなりおくれてしまった。(実験結果を表で呈示)
 以上今までのexp.を失敗も含めてすべてならべてみたが、dataにばらつきの大きいこと、率が前のexp.と比べると低いことがはっきりした。株細胞(HeLaなど)のplatingと異り、feeder layerを用いるembryoのsystemは技術的にはまだ不安定で、ときには原因が分らずに低いPEを示す。PEが低いとtransformed colonyの出現率が0となる・・・
ここで云うtransformed colonyが無処置及びnon-carcinogenic derivativeの中には見当らないとしても、本当にtransformation→malignizationに連なるものかどうかは自信がない。目下、一つのtransf.の経過の各時期を追いかけて、colonyの形態をかんさつ中である。
 なお、Sachsらのいうtransformed colonyは原著の写真をよく検討してみたところ、我々のexp.では無処置にみられるものもtransformedとして扱はれているようである。
 soft agarのcolonyも平行してすすめている。現在の段階では、non-treatedのhamster胎児も、Bact-peptone 0.1%添加soft agar中では500/100,000程度に小さい(30ケ前後のcellから成る)コロニーを作ることが分った。目下exp.が進行中である。
 II.Synchronous culture系
 excess TdR(2mM)法で、3代目のハムスター胎児の同調培養を試みた。細胞の増殖曲線からみると、ある程度の同調は得られたようである。目下autoradiographyでDNA合成MIなどをみているところである(同時にlife cycleの分析もおこなったがまだ結果は出ていない)。
 III.BHK-21を用いたtransformation
 初代培養を用いたtransformationは、正常→悪性への変化をみるのにはよいが、定量的にtransformationの機序を解析するためには不利である。
virusではBHK-21/polyoma、3T3/SV-40のような優れたsystemが開発されており、「悪性」はぬきにして、transformationの問題が解析されている。
chemical carcinogenesisでもそれと同じような系がどうしてもほしい訳で、最初に3T3/4NQOを試みた。月報6703に報告したように、giant cellsなどの異常は確かに起こるのだが、目的とするpiled upはおこっても不安定でgeneticな変化かどうかは確実ではなかった。また、colony-levelでanalysisにもっていけなかった。
そこでBHK-21を用いてみた。BHK-21は御承知のように、polyoma virusで配列が乱れ、pile-upする他、mycoplasma、Rous virus、adenovirusでもtransformすることが知られている。
 最初にwildのBHK-21に10-5乗M4HAQOでtreatmentしたところ、以下に示すようなcolony levelのtransformationを得ることができた。
cells:山根研由来のBHK-21 uncloned
Media:10%B.S. or C.S. Eagle MEM Kanamycin 30mg/lを含む
colony:20%C.S. Eagle、Falcon Petridish(60mm)
carcinogen:10-5.0乗M 4HAQO for 9days
 BHK-21のcolonyはよく知られているように、規則的な配列を示す典型的な繊維芽細胞のそれである。その他に、treated cultureには、規則的な配列を示さない中心部が厚くもり上ったcolonyが沢山みられる。このコロニーは中心部が非常にpile upするので剥れやすく、10日以上incubateすると沢山のdaughter colonyを作る傾向がある。これはcontact inhibitionのlossと関係あると考え、一応、transformed colonyとして扱うと(表を呈示)、P.E.はtreatment直後はcarcinogenのcytotoxic actionのためか、かなり低い(無処置は20%程度)が、継代とともにP.E.は上昇し、transformed cellsの出現率も6.3→35.6→71.5→85.0と急速に上昇する。non-transformed colonyは14.2→53.0→19.9→0と多少の消長はあるが55日後には非常に少なくなった(55日にnon-transformedが1ケみつかったが、cloningでとってしまった)。Small unclassifiedとは小さいcolonyで細胞がパラパラと散在しているもの、transformedともuntransformedとも云えない。処理直後に多く次第に減少していくことから十分の大きさのcolonyを形成できない程度にcarcinogenでdamageを受けた細胞とも考えられる(X線照射のあとによくみられる)。このようなtransformed colonyの増加が、(1)selective overgrowth、(2)delayed transformation、(3)transforming agent(?)のtransmissionのいずれによるかは今後の分析によらねばなるまい。(1)のselectionと考えるときには、treated cultureのP.E.の増加が一つのevidenceとなる。しかし、mass-cultureのgrowth curveでは両者の間に差がない。
 次の問題は、このようなコロニーの形態上の差が、geneticな変化か否かである。これをみるためにtreated cultureからtransformed colony(Exp.#1〜#5)及びnon-transformed colony(#6)をとり、そのprogenyを観察した(colonyをpick up後直ちにdilutionしplateする)55daysに行った(表を呈示)。#5の例を除けばtransformedのprogenyはすべてtransformedであり、non-transformedのprogenyの93.6%はoriginalと同様の形態である。少数の例外はcolonial cloneにつきもののcontaminantとして考えてよい(特にtransformed colonyは剥がれやすいので、non-transf.にcontaminateする率は高い)。
 この後の問題として
 (1)reproducibility
 (2)cloned populationの使用などである。目下、二回連続してとったcolonial cloneを用いてexp.を開始している。また
 (3)mycoplasma、virusのcontaminationの可能性も十分に否定する必要がある。
いずれにしても3T3/4NQOよりははるかに有望である。今後は、このsystemの開発に力を入れたいと思っている。

 :質疑応答:
[吉田]全胎児を材料にしている場合には、当然色々な細胞のコロニーが出来ることが考えられますね。そろそろ胎児を卒業して特定の臓器を使うべきではないでしょうか。
[勝田]薬剤の処理時間を変えるとどうなるかということと、同調培養で薬剤を作用させた時の結果をにらみ合わせてみたいですね。
[堀川]Celll cycleによる発癌性の問題ということですね。
[勝田]我々としてすぐやってみるべき実験は、矢張り、同調培養で4NQOを作用させてみることです。そうすると変異率がぐっと上るはずですね。我々のdataと黒木班員のdataから想像出来ることは、cell cycleの中での非常に短い期間に作用しているのではないかということです。
[黒木]三田氏のdataではテトラヒメナを同調培養しておいて、4NQOを作用させるとG2期にきくということです。
[堀川]放射線関係のdataでも、変異に関係のあるのはG2期といわれています。
[勝田]G2期に作用するならば、すぐDNAにむすびつくわけですね。
[吉田]そうですね。そしてすぐ染色体異常をおこすわけです。
[勝田]今度使い始めたBHK-21という株は悪性ではありませんか。悪性だとすると異常分裂が多いから、変異率が高いのではないでしょうか。
[黒木]それは考えられることです。cloneをとって凍結保存をしておいて、あまり継代せずに使うつもりです。
[安村]いくらcloneをとっても、継代を重ねるとすぐ乱れますからね。それからcolonial cloneの場合は少なくとも2回はくり返してcloningするべきです。
[勝田]2回ぐらいやってもcloneにはならないと思います。映画で観察していると、1ケだけにされた細胞は殆ど死ぬようです。それが2ケだと割合に順調に増え出します。cloneと言うからには、矢張り1ケ釣りをしないと駄目だと思います。
[安村]1ケ釣りからふやしても、populationとして実験に供することが出来るようになる頃には、矢張り乱れてしまうのではないでしょうか。始めに吉田氏の言われた全胎児というような均一でない材料から出発すると、当然色々な細胞のcolonyが出てきて変異か、selectionかわからなくなるから、全胎児は材料として不適当と思われるということについて、私はむしろその均一でない材料を生かして、処理前にcloneをひろって、それから4NQOを各cloneに作用させてみれば、どの種類の細胞が4NQOで変異するかがわかると思いますがね。2代目で5%のP.E.ならcloneは充分ひろえるはずです。
[勝田]cloneのカミサマのお話を少しききましょう。
[堀川]確立されたcloneで分化の度合と変異の関係をしらべられそうですね。
[安村]要するに一般に言われている「培養細胞が機能を持たない」というのは、目指す細胞をひろっていないからです。機能を持たない、或は失われたかに見える時は、機能を有する細胞がselect outされた結果にすぎないように思われます。自分の経験によれば、ステロイド産生細胞はその機能を維持し得ますが、それはcloningをしてステロイド産生細胞の系としてcloneをひろった場合です。
それからfibroblastsはcloningしやすいのですが、上皮系の細胞はむつかしいですね。

《佐藤報告》
ラット細胞←4NQO復元動物
4NQO→ラッテ培養細胞→新生児ラッテ復元(68匹)の一覧表を呈示
 総括
細胞はDonryu系ラッテ全胎児より5系、同系胎児肺より2系、同系胎児肝細胞株2系。
培地:20%BS+LD及び20%BS+YLE・YLEの方が4NQO処理後の回復が早い。
4NQO:5x10-7乗Mは数日より最高62日処理。10-6乗Mは数時間、最高19回処理。10-5乗Mは数分間、最高4回処理。
対照としてDMSO処理を行った。
接種細胞数は50万個から500万個。
接種部位は脳内、腹腔内、皮下及び前眼房内。(接種細胞の顕微鏡写真を呈示)
結果:現在まで腫瘍は発見されていない。

 :質疑応答:
[勝田]今の写真の肝細胞はあまり変異しているように見えませんね。無処置の肝実質細胞系でもよく見られる像です。細胞の大小はspaceの問題だと思われます。私の所で肝実質細胞に4NQOを作用させたら、cell sheetにすき間が出来たような像がみられました。
[堀川]一つ一つの細胞がちぢんでしまったのですか。
[勝田]よくはわかりませんが、細胞表面が変るのではないかと思われます。
[黒木]ラッテ胎児肺からは、どんな細胞が培養されましたか。
[佐藤]fibroblastsと上皮様のものと両方出てきます。4NQOを作用させるとfibroblastsが残るようです。
[安村]変異しているらしく見えるものをcloningすれば、−本当に変異しているcloneがひろえた−ということも考えられませんか。
[佐藤]どうでしょうか。ハムスターの細胞は作用をうけてから、あとはひとりでに悪性化の方向へ進むように思われますが、ラッテの場合はそう簡単にゆかないようです。
[吉田]4NQOは製品による効果のちがいが大きいようですね。
[永井]毒性がちがうのですか。
[吉田]そうです。
[黒木]しかし細胞の側からみても、随分デリケートだと思います。同じ製品でも同じcell lineでも培養のtubeによって(個体差)異なる時があります。それから毒性のことでは、feederを使うと無処置群は抵抗性を増します。
[安村]4NQO変異株には4NQO耐性があるのですか。
[黒木]釜洞氏の所のdataでは一応あるということになっていましたがあまりはっきりしないようです。私の所でもしらべてみましたが、はっきり耐性があるとは言えません。
[吉田]耐性と悪性というのは、全く別の問題だろうと思います。
[勝田]薬剤の製品むらについて一言。DABも製品によって可成り不純物の混合比がちがうようです。寺山氏から教えられて精製して使い始めました所、dataが変ってきて以前の濃度では細胞が死んでしまって困っています。

《藤井報告》
 “なぎさ”培養によりtransformationを来した細胞の抗原性の変化について。
 “なぎさ”培養によりtransformationをおこした細胞、RLH-5とtransformationをおこしていない対照細胞、RLC-9(何れも医科研癌細胞研のもの)について、前回の月報に記したmicrodiffusion法により抗原を比較した。
 実験091367:
 RLH-5、20万個を0.5%Na-Deoxycholate-PBS.・0.05mlに浮遊させ、ガラスホモジナイザーにて(30分間、氷冷して)破壊、そのホモジネートを使用。
 RLC-9、40万個は同様に(0.1mlに浮遊)してホモジェネートを作る。
沈降資料:(1)(6)はRLC-9,50万個per well。(7)はnormal rat liver tissue,50万個per well。(3)(4)はRLH-5,50万個per well。(2)はAnti-rat liver tissue rabbit antiser.(FR51)。(5)はAnti-rat liver tissue rabbit antiser.(FR56)。(図を呈示)する。
 結果は(2)と(7)の間にみられる沈降線の中“a”が(1)と(2)の間にみられる“a'”と融合するようであるが、“a'”が(1)の周のlipoproteinに由る暈輪とはっきり区別し難い。(2)とtransformed cellsの(3)の間に“a'”に相当する沈降線はみられない。この関係は抗血清(5)に対しても同様であるが、FR56血清(5)はFR51(2)より抗体値は低い。
この成績からRLH-5細胞は、RLC-9細胞が正常ラット肝組織と共通抗原としてもつ抗原を持っていないようにみえる。
 実験092567:
 (1)(6)はRLC-9,50万個per well。(7)はRLH-5,50万個per well。(3)(4)はRLH-5,150万個per well。(2)はFR51。(5)はAnti-rat ascites tumor(AH-13)rabbit ser.。
この実験では各細胞のホモジェネートを遠心し(2,000rpm,10min.)上清を使用した。
 結果は(1)と(2)の間に明確な沈降線がみられるが、これは(2)とtransformed cells(3)(7)の間にはみられない。(6)と(5)すなわち抗ラット腫瘍(AH-13)の間には沈降線はないが、(4)transformed cellsと(5)との間には明快ではないが確かに沈降線がみられている。
 この成績は“なぎさ”培養によるtransformed cellsが、対照の正常培養RLC細胞の有つ抗原を失い、ラット肝癌(AH-13)と共通な抗原を獲得(?)していることを示しているようである。tumor抗原のことは、なおこの程度の沈降線では確言出来ないけれども。
 (Exp.092567の写真を呈示)

 :質疑応答:
[勝田]化学発癌の場合、各例性質の違うものが出来ると言われていますが、本当にそうか、抗原の点で共通のものでも持っていはしないか、ということもねらいの一つです。
[吉田]ホモの場合に沈降線は出ますか。
[藤井]大抵出ませんね。抗AH-13 rat血清と抗ラッテ肝組織Rabbit血清との間の新しい沈降線は何を意味しているのでしょうか。
[黒木]AH-13は樹立されてから、もう随分たっている肝癌ですから、現在では抗原抗体反応の系としては不適当ではないでしょうか。
[吉田]L株細胞でもまだ種特異抗原をもっている位ですから、種特異抗原のようなものは案外長くもっているのではないかと思います。
[黒木]私も4NQO肉腫を抗原にして、同種の動物で抗血清を作ろうとしているのですが、なかなか出来ないものですね。

《三宅報告》
先般来皮フのOrgan cultureをしたものに4NQOを作用させると、2週間後の形態学的観察では、変性、ヱ死が極めて著明であったことは、のべた。それで組織片が変性し始める前に、これをCell-Cultureのlevelに移しかえると、細胞のViabilityが元に戻るというWorking Hypothesisの上に立って、Organ Cultureを4NQO作用後、Trypsinization(これ以後に、Pronaseに代える予定)及び、単にレザーによる細切をこころみ、平型試験管に移しかえてみた。Organ Cultureとしての培養期間は7日間、このうち4NQO作用日数は4日間である。Cell cultureに移すと、4NQO作用群は、初めでは細胞数は減少をつづけるが、5〜6日目頃から、コロニーを作り始めている、が一方対照群では増殖力は変化していない。これについてはCell-countはまだ行っていない。同様の4NQOを作用後に分散を1日早く行った群でも、その結果は同様であった。
細胞個々の形態学的な変化は著明なものはない。Piling upとみられる像も、もちろんまだ著明なものを得ていない。
今後かかる実験をマウスやハムスターの胎児皮膚で行い、Organ Culture→Cell Cultureという方法と皮膚の最初からCell Cultureを行った上での実験を続けたい。

 :質疑応答:
[安村]ヒトの皮膚から上皮様のcelll lineはなかなか出来ないものですね。
[吉田]この班では、ヒトの材料を扱う人がないのは何故ですか。
[勝田]ヒトの材料を扱った場合、悪性化しても復元接種して悪性化を確かめることが出来ないから困るのです。

《高木報告》
 1)4NQOを作用せしめたRT株細胞について、その後も経過を観察中であるが、transformed fociがみつかってから約2ケ月を経た今日、処理細胞のpile upする性質も一部の培養を除き継代中に次第に消失してしまった感がする。これらの細胞の形態をスライドで供覧する。第2回目に行った実験群で、4NQO 10-6乗Mで処理した細胞については、近日中に王様ラットが出産の予定であるので100万個の細胞を復元の予定である。
 2)Nitrosoguanidine(NG)のRT細胞及びWister King A rat胸腺細胞に対する効果
RT細胞を用いて: i)まずNG 500μg、250μg、100μg、50μg/mlの各濃度の液を作り、acidicなHanksにて稀釋し、これで細胞を2時間incubateした後2倍容の培地を加えて培養を続けたところ、2日後には500μg、250μg/mlでは細胞は完全に死滅し、4〜5日後にはすべての濃度において細胞はガラス壁から脱落した。ii)次により稀い濃度50μg、10μg、1μg、0.1μg/mlにつき検討したが、この場合incubationの時間は1時間とし、その後2倍容の培地を加えて培養をつづけた。4日後には0.1μg、1μgはcontrolと変りなく、10μg、50μgではやや細胞の変化が認められたが、その後50μgでは殆どの細胞が変性し、10μgでは対照と区別つかぬまでに細胞の増殖をみた。
 従って用いるべき濃度は10μg〜50μg/mlの間が適当と思われる。
iii)次いで10μg、25μg、50μg/mlの各濃度につき、1時間incubation後、薬液を捨てて、新しい培地と交換して観察した。この場合には前回の実験と異り、25μg、50μg/mlでも細胞の軽度の変性がみられるに止り、50μg/mlはその後事故のため失ったが、25μgg/mlでは細胞の変性と共に10日目頃から細胞の異型性がつよく現れ、培養19日目の現在、多核細胞、巨核細胞の出現、contact inhibitionの消失などの像がみられている。これらの像がreversibleかirreversibleか追求したい。
 W.K.A rat胸腺細胞を用いて: 純系ratの胸腺細胞の培養を8月28日に開始し、fibroblasticな細胞をえた。これを用いて25μg、10μg/mlの濃度につき検討中である。今回もNGにincubationする時間は2時間とし、これに2倍容の培地を加えて4日間おいて観察中である。現在の処、25μg/mlの約半数の細胞が変性した像がみられる。
 なおWKAratの胸腺及び胃を250μg/mlのNGで約1時間incubateし、その後25μg/ml含む培地上に8日間organ cultureして、それをcell cultureに移す試みを行ったが、はじめに処理したNGの濃度が濃すぎた為か、或いは培養の期間が長すぎたためか、細胞のoutgrowthを認めることが出来ない。更に条件を検討中である。

 :質疑応答:
[勝田]この系(RT細胞)はコラーゲンを産生していますか。
[高木]染色してみていないので、わかりません。
[吉田]ニトロソグアニジンの添加実験について、濃度を高くすると、変異細胞の出現頻度が多くなりますか。
[高木]25μg/mlの群からしか、変異細胞を得ていませんので、まだわかりません。これから追試してみたいと思っています。

《堀川報告》
 1)培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびにLeukemogenesisの試み(4)
 月報No,6708号までにマウス骨髄細胞の培養ならびに4NQO処理によるLeukemogenesisの試みについてこれまでに行った(実験1)から(実験6)までについて大要を紹介してきた。以来今日まで(実験9)まで進めて来ているが、未だ発表出来る段階に達していない。今回のこれら3実験は、班会議の際に問題とされた点、つまり「骨髄死」の防護実験とLeukemogenesisの実験を特に区別して進め、また4NQOで処理する時の骨髄細胞の培養条件(細胞のage及びcondition)を考慮してやっており、また取り出したばかりの新鮮な骨髄細胞が培養時間とともに種類の上からも更には形態面からも移り変っていく動態を各種染色法とアイソトープの取り込みで追っている。いづれこれらは或程度、物が言える段階に来た時に紹介する。
 2)培養哺乳動物細胞における紫外線障害回復の分子機構の研究(2)
Thymine dimerの生成量は紫外線照射線量と共に増加し、しかも三種の細胞(PS細胞、mouseL細胞、Ehrlich ascites細胞)の間にはまったく差異はなく始めの低線量域を除いて直線的に線量と共に増加することを前報で報告した。では生成されたdimerの除外機構がこれらの細胞間でどの様になっているかを知る必要がある。つまりここではDark reactivationの機序が存在するかどうかを知る必要が生じて来た。
 紫外線照射後、時間経過を追ってDNA中に存在するdimer量を測定した結果、MouseL細胞は紫外線400ergs/平方mm照射後120時間までにはDNA中のdimerを除去する能力がない。つまりDark reactivation enzymeを保持していないか、あるいは持っていてもごく微量であると推定される。次いでEhrlich Ascites tumorでは照射後24時間において約30%のdimerがDNAから除去されることがわかった。つまりDark reactivation enzymeを不完全ながら(100%除去出来ない)保持していることがわかる。このことは、DNAから除去されたdimerが酸可溶性分劃に放出されてくる状態をみれば、更に確固たる裏付けとなる訳で、そういう意味から紫外線照射後の時間経過に従って、Ehrlich細胞の酸可溶性分劃内のdimerの増加を調べ、Dimer/Thymine(%)は0時間1.23%、24時間36.31%、48時間71.88%、120時間104.08%と意義深い結果を得た。(夫々表を呈示)
 以上の結果を総合すると400ergs/平方mm紫外線で照射された場合、mouseL細胞にはDNA中に生成したdimerを除去する能力は殆ど無いが、一方Ehrlich細胞ではDNA中に生成したdimerを約24時間後には、その一部約30%をDNAから除去し、酸可溶性分劃に放出する能力があるということである。すなわちEhrlich細胞には部分的な回復能をもっているということがわかる。では残りの50〜60%のdimerはchromosome上に残っているのか、そしてこのようなdimer残存の条件下でDNA複製を可能にさせている高等動物細胞の染色体という高次構造はどのようになっているのかという問題が生じて来る。従って当然細胞周期をめぐる動力的解析が必要となってくるであろう。

 :質疑応答:
[安藤]Dark reactivationはどうやって行いますか。
[堀川]暗室で培養するわけです。カッティングエンザイム、ポリメレースが同一のものであるかどうかが問題点だと思っています。又UVと4NQOの作用の仕方に共通点があるのに興味をもっています。
[吉田]4NQO処理でdimerが出来るという論文を読んだ事があります。
[堀川]抗dimerを作ってミトコンドリアの酵素assayをしてみたいと思っています。細胞全体としてのdimerをみるのでなく、細胞の各分劃のdimerをみたいわけです。
[永井]修復促進剤はありませんか。又蛋白合成rateと修復との間にparallelな関係はありますか。
[堀川]修復促進剤は今の所見つかっていません。蛋白合成rateと修復とは関係なく行われます。
[吉田]この実験は三つの系統を使ってみている事が、複雑な結果をもたらしているのではないでしょうか。
[堀川]将来は勿論一つの系統で、耐性株と原株との比較をとりたいと考えています。
[吉田]その酵素は遺伝に関与していると考えていますか。
[堀川]そう考えています。一つの染色体をポンと入れると修復されるという、そういう染色体を見つけたいものです。

【勝田班月報・6801】
《勝田報告》
 A.H3-4NQOtoL・P3細胞の分劃:
H3をラベルした4NQOが細胞の内のどんな分劃に入るかという事は、がんセンターの杉村氏が腹水腫瘍を使ってすでにおこなっている。ここでは培養細胞を使って調べてみた。
 細胞:L・P3細胞(純合成培地内継代のマウスセンイ芽細胞)
 培地:合成培地DM-120。細胞約200万個/TD-40;4瓶。
 H3-4NQO:1964-10-21、九大・遠藤氏より分与された2.7μc/μmoleを永井班員が珪酸カラムで再精製して下さったもの。
DMSOで10-2乗Mになるように溶き、salineDで10-4乗Mまで稀釋。
 添加法:培養瓶中の培地(DM-120;10ml)のなかに10-4乗M液1.1mlを滴下。瓶をゆらして良く混和。(4NQOは終濃度10-5乗Mとなる)。37℃・2hrs加温静置。ここで2本宛2群に分ける。 1)H3-4NQOを含む培地をすて、Dで3回洗う。シートを剥し細胞を集めて分析。
 2)他の2本は、4NQOを含まぬ新しいDM-120を加え、さらに5hrs.37℃静置加温。→上と同様に洗って細胞をあつめる。
 測定:細胞を分劃し、Beckman液体シンチレーションカウンターで放射能を測定。
 結果:各分劃のdpm数の表を呈示。
 考察:1)4NQOの比活性が低いので、これ以上の細かい分劃化は不可能であった。
    2)酸可溶分劃のdpmが2hrs加温后より2+5hrs加温后の方が減少しているのは、第2回目の5hrs加温中に一旦とりこまれていた4NQOが培地中へ放出されたためと思われる。(高分子とは結合していなかった分)。
    3)酸不溶分劃の減少は、ほとんどが蛋白と結合した分の減少による。
    4)核酸と結合した分は、比較的安定に保たれていた。
 B.培養内変異細胞の動物復元接種の最近の成績:
(表を呈示)腫瘍死はなし。

《佐藤報告》
 新しい年がやって来ました。皆さんお元気ですか。小生も元気でやっています。昨年はいろいろと雑事が多く不本意な年でした。今年は予定された事柄(必ずしなければならぬ事も含めて)も多いので能率よく消化して楽しい忘年会を送りたいと考えています。
 ◇RE-5(ラッテ全胎児)←4NQO実験動物(培養条件、4NQO処理、復元の表を呈示)。
ラッテ全胎児←4NQO実験を通覧してRE-1、RE-2、RE-3、RE-4が発癌しなかったのは、量的に4NQOが少なかった様である。RE-5の実験で、実験表の中央の5匹は全例発癌したが、左の系は発癌性は今の所認められない。(RE-5の実験の染色体数の図を呈示)。核型分析は未だ終了していないので異常染色体については未だ正確な報告はできない。non-neoplasticlineに異常染色体の記載はしていないが、明白な異常染色体が認められないという事で染色体がdiploidで正常であるという事ではない。又control lineも現在で正常diploidではないから、この株を利用しての4NQO lineの実験は一応終了します。
 (Comparison of growth rate among 3 RE-5 lines・増殖カーブを呈示)。RE-5系control、発癌系、非発癌系の増殖率を比較したものである。非発癌系は増殖率が最も高く、形態学的にも変化がみられるが、動物復元で腫瘍を形成していない。
 ラッテ全胎児に4NQOを投与する実験は目下再現性を試みている。
 (表を呈示)表はラッテ肝細胞株及びラッテ胎児肺に4NQOを投与して復元した動物の表です。ラッテ肝細胞株に4NQOを処理した図表は別に示します(図を呈示)。図表中央に2例の発癌動物がみられます。動物番号No.32は、培養日数352日、4NQO処理10-6乗Mx10のもので、300万個の細胞を新生児ラッテ脳内に接種し、54日後運動障害を発見、93日後剖検により腫瘍(Hepatoma)を発見した。動物番号No.54は374日の培養日数のもの、10-6乗Mの4NQOを11回処理したもの、生后6日目のラッテに1000万個細胞をi.p.に接種した。接種后90日目に剖検し、大網部に径5cm大の出血性の腫瘍をみとめた。組織像はHepatomaの像であった。Exp.7系肝細胞の4NQO実験では未だ発癌率が低いので、4NQOで確かに発癌したかどうか未だわからない。

《高木報告》
 皆様よい新年を御迎えのことと御慶び申上げます。今年もよろしく御願いいたします。昨年一年の私共の仕事を振返ってみると、まずorgan cultureでは兎も角幼若ハムスター皮膚を2〜3週間は維持出来る処まで培養条件を検討し、更に短期間培養した組織を同種動物の背中皮膚に移植することを試みたが、1〜2回の実験に関する限り予想されるより可成り高率にtakeされた。しかし培養において短期間発癌剤を作用せしめた組織を移植したものでは、そこから腫瘍の発生はみられなかった。更に培養条件を検討し始めた処で、池上君が事情あってしばらく仕事が出来ない状態になったので、残念ながら実験は一時中断した形になった。しかし本年は再び開始する予定で、まずorgan cultureにおける培養条件を充分に検討したいと考えている。組織の種類にもよろうが、何せ今少し長期間完全に組織が維持されなければorgan cultureによるこの発癌実験はうまく行かない様な気がする。その目的に一歩でも二歩でも近付くべく高圧培養を開始したところである。
 次にcell cultureによる実験で、ひとまずラット胸腺から分離された繊維芽細胞を用いて4NQO及び4HAQOによるmorphlogical transformationをおこすことが出来た。現在それら細胞の復元実験の段階であるが、これまで試みた実験ではまだ腫瘍の発生をみない。cellcultureの実験に関してはここしばらくはWistar King Aラットを用いて仕事をすすめて行きたいと考えている。ただ胸腺を用いることについて、これは私共の実験条件でconstantに細胞をうることが出来るので用いて来た訳であるが、果してこのorganが発癌実験に供するのに適しているか否かは問題がある。そこで他のorganのcell cultureにもめをつけ、杉村氏により発表されたNitrosoguanidineによるrat胃癌及び多型腫の発生の実験から、胃の培養も試みはじめた。2回目の培養でprimary cultureで明らかに上皮様のきれいな細胞のoutgrowthをみたが残念ながら継代に失敗した。本年は更にこの実験も進めて胃からの細胞に対するNitrosoguanidineの効果も観察の予定であるが、更に機能を有する細胞を分離し、これに発癌剤を作用せしめてその機能が如何に変るかと云うことをマークする方法により発癌剤による発癌機構の究明につとめたいと思う。

《吉田報告》
 前年度の4NQOによる癌化細胞の染色体研究は主に黒木さんらとの共同でなされ、同氏らが腫瘍化した細胞株の染色体を私達が観察するという方法で進められた。その間、私の研究室の関谷君(東北大・大学院)が黒木さんの所で、培養やtransformationの技術を修得してきたので、今年度は癌化前の細胞についての染色体を徹底的に究明したいと念じている。ハムスター培養細胞が4NQO(または4HAQO)処理によって腫瘍化するまでの過程を仮に次の5期に区別してみた(図を呈示)。すなわちA(前処理)、B(処理期)、C(形態変化前期)、D(形態変化後期または悪性変化前期)、及びE(悪性変化後期)である。従来の我々の研究では、主にE期にあるいくつかの細胞株のの染色体を断片的に調べたのにすぎない。これらの研究から、癌化した細胞株の染色体変化は程度に差はあるが、いずれの場合でも形や数に変化を認めることができた。しかしE期における細胞をどんなに多数観察したところで、それが細胞の癌化とどんな関係にあるかという問題を追求する事は困難である。この問題を明らかにするにはD期、C期及びB期と逆上って追求しなければならない。特に形態変化(morphologicaltransformation)を目印として、その前後(CとD)の染色体を調べることによって染色体の変化と悪性化の関係がかなりはっきりと察知することができよう。もしその時期に何らかの変化が認められたならば、当然処理中また直後(B期)にどんな変化がおこったかという問題に帰結する。この点についてはin vivoで我々はかなりくわしく調べているので、それらのdataは直ちに役立つだろうし、ハムスターの培養細胞においても調べてみる必要がある。
 染色体の変化と癌の発生及び増殖の関係をそろそろこの辺で結論づけたいというのが今年の私たちの抱負である。諸先生方の御協力を切望する。

《黒木報告》
 今後の研究方針と計画
 月報6710に今後の方針として、(1)コロニーレベルのtransformation、(2)synchronous culture、(3)BHK-21/4NQOの三つを挙げておいた訳です。これらのうち(1)は大体やるべきことをやり、あとはnormalのcloneをひろうという大きな仕事が残っています。この方法(plating後に4HAQOをtreatする)の欠点は細胞に対する毒性が非常に微妙であること、このためexp.の結果にバラツキのあることです。(2)のsynchronous cultureはexcess TdRによる同調が思ったよりもむつかしく、目下hamster embryo cultureのcell cycleがらやり直しているところです。(3)のBHK-21がこれまた困ったことにreproducibilityがはっきりせず、もたもたしています。イギリスのMacphersonにBHK-21/C13を送るよう依頼していますがまだ返事はありません。
 今後も(2)(3)は、しっこく執念深くexp.をすすめますが、さらに新たなprojectとして、membrane immunofluorescent antibody法の導入を考えはじめました。これで分ることは、1)transformed cells相互間のsurface antigenのcrossの存在(spontaneous-transformed、in vivo-induced tumorとのcrossも含)。2)(凍結保存法との併用による)malignant cellsの出現、そのprogressionの証明です。
 研究のむつかしさをしみじみと味わい乍ら迎えたお正月でした。

《三宅報告》
 d.d.マウス胎児皮フについて発癌の実験をつづけている。
 分娩直前の胎児皮膚について、次のように4NQOを作用せしめた(表を呈示)。
12月1日に始められた、この実験では4日目のPrimary cultureでfull sheetとなり第二代の培養にかえ、各々3日目に夫々の濃度の4NQOを作用せしめた。10-5乗Mと5x10-6乗Mは変性に傾きdiscardした。この濃度からすると、前回に報告したヒトembryoの皮膚の方が、d.d.マウスの分娩直前のものに比し敏感でない様である。4NQO 10-6乗Mを7日間作用せしめたものでは、controlに比し、矢張り1週間位の后に、いわゆるearly changeをみせ始め、piling upが認められ始めた。三代目に入った202Aでは核の大小不同、細胞の大小が目立ち始めている。この群についてH3-TdRのuptakeをみている一方で、同じく1週間5x10-7乗Mを作用せしめたものと、controlについて、100万個の細胞をd.d.系のマウスの背の皮下に植えてみました。まだ肉眼的に腫瘍は発生していません(1月4日現在)。
 前回に報告したPiling upしたColonyは、感染のために、すべてを失う事故が起った。
また別に実験6を行って、H3-TdRのとりこみを検索中である。これは他の動物腫瘍(Walker、Birox-Pearseなど)のin vitroとin vivoでのH3-TdRの取りこみとの比較の意味も、兼ねたものである。(202Aの写真を呈示)

《堀川報告》
 学会、研究会、討論会にと多忙のうちに明け暮れた1967年も過ぎ去り、またたくうちに1968年の新春を迎えてしましました。班員の皆様、新年おめでとうございます。今年も元気でお互にうんと頑張りましょう。
 過去1年を振り返ってみると私は私なりに精一杯やって来たと云う気持で満足しております。ただ学会とか研究会が多すぎる、それに研究以外のことで如何に貴重な多くの時間を無駄にしたことよ!! 今年もまた同じようにガタガタ走り廻っている内に、一年を過ごしてしまうのかと思えば、そのむなしさに年頭からうんざりしますネ。
 今日の日本の研究者のように研究以外のことに時間を労費し、しかも更に出来上った仕事の成果を英語で発表し、英語で討議することが続く限り日本の研究は決して世界をリードし得ないと信じます。この2つのfactorは何としても困ったものであり、何とか解決せねばならぬ問題ではないでしょうか。
 さて過去1年間私は既に月報でも報告して来ましたように次の2つの問題、(1)培養哺乳動物細胞における紫外線障害回復の分子機構の研究、(2)培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびにLeukemogenesisの試み、に取り組んで来ました。
 (1)の問題は紫外線障害から如何にして哺乳動物細胞が回復し得るか、その機構を分子レベルで解明しようとするものであり、最近ではこの問題を更に発展させて4NQOの如き発癌剤処理からの回復機構を検索しております。そして広い意味での生物本来のもつerror correcting mechanismを探知しようとしています。この問題は、最終的には4NQO等による正常細胞のin vitroでの発癌機構を裏面から追究出来る方法として今年は殊にこの仕事を発展させるべく夢をいだいています。
 (2)の問題は勿論、骨髄細胞という生体のrenewal systemの細胞群をin vitroで培養することにより、細胞分化の問題を中心にして発癌と云うstepの解明をめざした研究課題です。昨年は基礎的な仕事にのみ時間をかけてきました。でも何とか骨髄細胞もin vitroで培養出来るようになり、しかもこれらの培養細胞(45日間culture)は700R照射したマウス静脈中にもどしてやると骨髄死で死滅すべきマウスの生存を延長させ得るというdataも得られるようになりました。今年は更にこれらの問題を発展させin vitroでの骨髄細胞の分化、さらにはその分化の調節機構、ひいてはin vitroでの発癌機構(Leukemogenesis)の解明までこぎつけたいものです。あれこれと新春にあたり心に夢をえがいてはいます。これがどの程度まで実現可能になったかの評価はやはり来年のこの号の月報で報告出来るでしょう。
 私のLab.のTCグループでも障害回復機構から始って、骨髄細胞を用いた分化と発癌の問題、甲状腺細胞の代謝、脾臓細胞の培養と抗体産生、初期胚の分化と機能発現、さらには胸腺細胞の培養と多くの人が集まり、種々雑多な人が討議しつつ、それぞれの仕事を進めております。これらも加えて今後ともによろしくお願いします。新春にあたり皆さんと共に今年も大いに頑張ることをお約束しましょう。

《永井報告》
 何はともあれ、初春のおよろこびを申し上げます。旧年中はこの班でなければ聞けないような話を沢山聞かせていただきまして、随分と勉強になり、また励ましにもなりました。今年もひとつよろしくお願い申し上げます。昨年について一貫して云えることは、雑用の多かったこと(これはいつものことかもしれませんが)に加えて、学会が多く、それに追いまわされたことでした。段々、実の伴わないセレモニー的な学会がふえてきているように感じてなりません。論文の多くなること、研究者の多くなることは、結構なことでしょうが、日本の大都市における最近の自動車の洪水に似たことが起きたら一寸問題です。けがをするだけならまだしも、うっかりしたら生命をやられてしまいます。今年はサル年だそうで、見ざる、聞かざる、云わざる、とまではいきませんが、ひとつ腰をすえて、心を新たに出発したいものと考えております。癌征服の日の一日も早く到来せんことを祈りつつ。

《奥村報告》
 「明けましておめでとうございます。昨年中の御指導に心より御礼申し上げます。本年もよろしくお願い申し上げます」
 昨年は公私ともに、とくに私的な面で多忙をきわめ、落着いてじっくり仕事が出来ませんでしたことを残念に思います。1967年をふり返ってみますに、私共の研究室で公表できます成果は次の3点でしかありません。
 1)初期継代の細胞をコロニーレベルで扱いうるようになったこと。この実験系の発展によって細胞のin vitroにおける変異を多少詳細に追究できるようになった。
 2)ヒト胎盤性トロホブラストの長期継代の条件を見出し、しかもそれらの細胞のホルモン産生能(HCG)をも持続させることに成功した。
 3)ウサギの初期発生胚(Blastula stage)のin vitro発生の基礎的条件(培養の)を検討し、とくに心筋細胞(?)のin vitro differentiationらしき現象を見出すことができた。
 今年はこれらの仕事をできるだけはやくまとめたいと思います。また、これまでの実験をもとに、細胞の増殖性と細胞の分化機能の発現との関連性を探ってみたいと考えております。こんな夢ものがたりをどの程度実現できるかわかりませんが、せいぜいがんばってみるつもりでおりますので、よろしく御教示下さいます様お願い申し上げます。今年は昨年以上にいろいろなことがありそうで、おそらく馬車うまの如く働かなければならないような予感がしてなりません。新春にあたり皆様の御健勝を祈上げます!!

【勝田班月報・6802】
《勝田報告》
 A.L・P3細胞の増殖に対する4NQO類の影響:
 L・P3細胞はL株(C3Hマウス皮下センイ芽細胞)の亜株で、合成培地DM-120内で8年以上継代培養してきた細胞です。薬剤の作用をしらべる上に、純合成培地の方が良い場合もあると考え、一応4NQO類の影響をしらべてみました。
 培養法:簡易同型培養法(短試・5°静置・37℃)
 培地:DM-120に発癌剤を添加。1日おきに同じ培地で交新。
 発癌剤の溶かし方:[培養2日后に添加]
4NQO−これまでに報告した法と同じ。薬剤10-2乗MにDMSO原液でとく。あとの薬剤の稀釋に従い、DMSOも稀釋されたことになる。他の薬剤も上のとき方に従おうとした。
6-Chloro 4NQO−ところがこれをDMSOでといたら、大きなフワフワした沈澱が生じ、溶けそうでなかった。アルコールで溶いてみたが、これも溶けない。仕方がないのでSaline Dにsuspendし、培地で稀釋したところ、実験の使用濃度ではどうやら溶けたと思っている。これは作用結果から見ても、そう思われる。
 結果:(表を呈示)表に記したように、2日TC后にはじめて添加し、以后2日毎に換えて行くと、4NQO、6-Chloro 4NAOの場合は、10-5乗Mではっきりと抑制が示された。以下の濃度では大体添加量に比例して抑制した。 6-Carboxyl 4NQOでは、これと傾向が少し異なり、10-5乗Mでも増殖抑制は見られたが、inoculum sizeより日と共に細胞数はふえ、9日后に10-5Mでも約7倍近い増殖を示した(これは水溶性であるが、わざとDMSOを等量加えた)。
 これらの結果からみると、6-Chloro 4NQOの場合、果して期待通り溶けていたかどうかという問題があるが、どうも毒性は少いように思われる。果して発癌性と細胞毒性とは並行するものであろうか。
 全体の傾向からみて、L・P3細胞はラッテセンイ芽細胞にくらべ、4NQOに対する抵抗性はたしかに強いように見える。これ以外にもセンイ芽細胞による抵抗性の相違は、我々は見出している。

《黒木報告》
 In vitro transformationにおけるtransplantation antigen又はsurface antigenを調べる目的でいくつかのpreliminary exp.を行ってきました。
 1)X線照射、制癌剤によるattenuated cellsの移植
 2)移植腫瘍の除去
 3)謂る結紮解放法
 4)血清によるcytotoxic test
 5)血清によるcolony inhibition test
 6)mixed cultureによるgrowth inhibition
 7)membran immuno fluorescence法。などが考えられます。
 In vivoで4NQOによりinduceされたtumorの培養細胞NQT-1を用い、1)、3)をまず試みてみました(表を呈示)。なお、2,500r、2,000r、1,500r照射細胞をそのまま100万個SCに移植したときには、tumor growthは全くみられない。500r照射ではlatentが30日位にのべてtumorを作る。1,000r照射細胞は誤ってtubeをわってしまい、exp.できず。
 結紮開放法
 北大病理groupの結紮開放法をattemptした。この方法は輪ゴムでtumorを24時間しばり、necrosisにおちいらせてから、challengeすると高い抗体化が得られるというものである。(表を呈示)この方法は輪ゴムのしめ方がむつかしく、4回まわしたのではすべてのtumorがとれてしまい、2回ではnecrosisにならない。
 以上の如く、目下preliminary exp.の段階でつまづいています。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞における紫外線障害回復の分子機構の研究(3)
 過去2回にわたる月報報告において、紫外線照射された培養細胞の障害回復に関する実験結果を報告してきました。つまり、紫外線に対して感受性株のマウスL、ブタPS細胞には、Thymine dimer除去機構(暗回復能)は認められないが、紫外線耐性株のEhrlich細胞には不完全ながら(UVで生成されたthymine dimerの約30%を除去し得る)自己のDNAからthymine dimerを酸溶性分劃に放出除去する能力のあることを述べてきました。こうした暗回復機構というのは、毎度述べるように紫外線で照射された細胞を暗所に保っておくと酵素的にDNAからthymine dimerを切出し除去し得る能力を言うのであって、文字通り暗回復酵素の存在が問題になる訳です。
 今回は光回復機構の検索と4NQOに対する障害回復能について培養細胞で行った仕事の結果を報告します。
 1)紫外線障害からの光回復機構の検索
 光回復機構は暗回復機構とはまったくの逆で、紫外線照射された細胞を照射直後に強力な光(波長400mμあたり)で処理するとphotonの存在下で光回復酵素が働き、紫外線で生成されたDNA中のthymine dimerが、monomerのthymineに切断され正常なものにかえるという一連の機構をいいます。現在までのところ、前記の3つの細胞株に光回復機構が存在するか否かを断言できる段階にはありません。それは紫外線照射後強力な光で処理するとcellsuspensionの温度が急速に上昇するため温度の因子が多分に結果を左右する訳です。しかし培養細胞に光回復機能がまったく無いと云うのも早計であり、そうかといってbacteriaのあるstrainでみられる光回復能のようには顕著ではないというのが現在までの成績です。 2)4NQOに対する障害回復能(耐性度)の検索
 化学発癌剤としての4NQOの作用機序が、紫外線のそれと非常に類似しているというデータがこれまでbecteriaを用いた実験から報告されている。ところが上記のL、PS、Ehrlichの3種の細胞について、4NQOに対する耐性度を比較した結果の概略を示すと図のごとくなる(紫外線に対する線量−生存率曲線と4NQOに対する濃度−生存率曲線の図を呈示)(どの細胞も10-6乗M濃度の4NQOまで実験を行ったが図示されていない部分はいづれも生存率は0%となる)。 この実験系では4NQOは指定の濃度で培養期間中培地内に入れっぱなしの状態である。ある一定時間処理して後は正常培地にもどすという実験は現在進行中。
 この図からわかることは紫外線の結果と4NQOの結果は必ずしも一致しない。つまり紫外線に対して最も感受性株のPS細胞が4NQOに対しては最も耐性現象を示すことがわかる。このことをどのように解釈するか。(1)紫外線障害からの回復機構は4NQO障害からのそれとはまったく異ったものである。とするか、(2)bacteriaと異ってmammalian cellsの場合は細胞膜、細胞内成分の構造的複雑さから4NQOの透過性または取り込み量が異ると考えるか、それにしても(3)3種の細胞株でもし4NQOの透過性に差異があり、それが障害の大小に直接結びつくというような結果になると、4NQOでの発癌実験に際して動物、個体は勿論、組織、細胞レベルにおいて発癌率に差異が生じてくるのは当然であろう。
 いろいろのことを思いつくままに書きならべてみたが、現段階ではいづれも作業仮説であり、最終的な結論は今後の実験に待たねばならない。

《高木報告》
 1.4NQO及び4HAQO添加実験
 1)NQ-2(月報6708、rat thymus株細胞に対する4NQO 10-6乗M/ml添加実験)
 月報6711で報告した移植実験は、現在実験群では移植後4ケ月を経過したが腫瘤の発生は認められない。目下尚継代中であるがin vitroでは対照の細胞に比し、よりfibroblasticでcriss-crossが認められる。new born rat入手次第、再度移植を試みたいと思っているが、最近ratが仔を生まない。
 2)HA-1移植実験
 Wistar King A ratの生後3〜4週のものを使用し、実験群ではHA除去後76日目(継代4代目)の細胞100万個を5疋へ、また対照群では培養開始後95日目(継代7代目)の細胞100万個を2疋へ、それぞれ皮下に移植した。現在まで約8週間観察したが腫瘤形成を認めない。
 3)HA-2(月報6712)
2ケ月間観察を続けたが、細胞の増殖なきため実験を中止した。
 2.NG添加実験
 1)NG-4移植実験
 生後3週のWistar King A ratを使用し、実験群はNG除去後70日目(継代4代)、対照群は培養後100日目(継代7代目)の細胞をそれぞれ100万個各2疋へ移植した。7週を経過した現在なお腫瘤の発生を認めない。
 2)NG-7
 事故のため実験中止。
 3)NG-8
 Wistar King A rat(生後4日目)の胸腺細胞、培養開始後24日目継代2代目のものを使用した。NG濃度は10μg/ml、25μg/ml、添加方法は以前の実験と同様に行った(表を呈示)。現在までの処、特に細胞の形態的変化に気付かない。
 4)NG-9
 上記の継代3代目の細胞を使用、NGは最終濃度25μg/mlとなる様に添加した(図を呈示)。NG添加後多くの細胞はガラス壁より脱落したが、NG除去後約10日目にfocus様の細胞増殖を認めた。目下継代中であるが増殖はあまりよくない。

【勝田班月報:6803:マウスにおける4NQO誘発染色体異常の系統差】
《勝田報告》
 A)L・P3細胞の増殖に対する4NQO、6-Carboxyl 4NQO、6-Chloro 4NQOの影響:
 純合成培地で増殖する細胞は、いろいろな意味でモデル実験に使い易いので、上記の3種類薬剤を10-5乗、10-6乗、10-7乗Mの3種濃度に培地に加え、L・P3細胞の増殖に対する影響をしらべ、今後のための基礎的データにした。
 結果の数値は前月号月報に記したので省略するが、大体いずれも濃度に比例して増殖を抑制した。10-5乗Mでは6-Carboxyl 4NQOの場合は抑えられてはいるが増殖が続いたが、他の2者は細胞が急速にこわされ、特に4NQOでは添加開始7日後には細胞数が0になってしまった。なお薬剤は隔日ごとの培地交新の際にも新しく等量加えた。
 B)L・P3細胞の4NQO処理と長期観察:
 1967-11-23:L・P3細胞を継代、12-17:4NQO 3.3x10-6乗Mで30分間処理し、1968-1-2再び同様の処理、1-31継代し、一部は染色標本作製、2-4さらに残りの一部を4NQO 5x10-6乗Mで30分間処理した。染色標本によると、核の異型性や断裂、micronucleiが認められた。(顕微鏡写真を呈示)
 C)H3-4NQO:
 H3-4NQOと細胞分劃への結合については既に報告したが、このSampleはradioactivityが低いので、新たに杉村氏の研究室で作ったH3-2methyl-4NQOをもらい、永井氏にpurityをしらべてもらった。今後の実験に用いる予定。
 D)DNAの“なぎさ”培養への添加:
 肝癌AH-130細胞のDNAを抽出し、これを“なぎさ”培養しているJTC-12株(サル腎)の培地に添加する実験を現在おこなっている。

 :質疑応答:
[勝田]L・P3はC3Hの皮下に復元すると結節を作りますが、しばらくすると消失します。こういう細胞を発癌実験に使ってよいかどうか、問題はありますが、takeされ方が上るかどうかをparameterにする他はありません。
[高木]復元接種された動物の年齢はどの位ですか。
[高岡]生後3週〜4週です。
[安村]接種細胞数はどの位ですか。
[高岡]1,000万個/mouseです。
[勝田]話は変りますが、最近、血清から雑菌が混入して困りました。ザイツ濾過では濾液に菌が出てしまい、シャンベランL3では菌が出ませんでした。
[安村]多分L型菌でしょうね。ペニシリン添加の方が増殖の早い菌があったりします。滅菌濾過は血清の場合シャンベランを使うのが一番確実ですね。無菌テストの方法についても問題があります。細胞と一緒にすると増殖が早くなる菌もあります。

《永井報告》
 §4NQO系発癌剤の純度を調べる(2)。
 前回(月報No.6712)には、4NQOの2標品につき薄層クロマトグラフィー(TLC)で純度を調べた結果、殆ど差がみられないことを報告した。また、H3-4NQOについても、H3が4NQOspotに局在していることを報告した。更に4NQOは化学的にかなり安定な物質であるらしいことを述べた。今回は、吉田班員から送られた検体を加えて、6検体について、TLCで、更に詳細に調べた結果について報告する。結論を先に述べると、2検体を除いた4検体に、4NQO以外の物質が存在することを、新しい溶媒系を使用することによって確認したことで、この相当量存在すると思われる不純物が如何なる生物学的意味を有するのかを検討する必要が生じた、ということである。
 『TLC PLATE』
Silicagel(KieselgelG,Merck);10x20cm
Solvent System:Ether-Benzene-Ethanol-Acetic acid(40:50:2:0.2、v/v/v/v)
 『検体No.と性状』
(1)第一化学製品4NQO;吉田班員より。全く効かないといわれているもの。(染色体の断裂をおこさぬもの)。
(2)中原製4NQO;吉田班員より。効く。
(3)Takayama4NQO;吉田班員より。効かない。
(4)勝田4NQO(最近使っている製品)。効力在り。
(5)勝田4NQO(旧い製品)。やや効かない感じ?。
(6)H3-2Me-4NQO(癌センター)
 これら6検体は、前報のクロロホルム・メタノール系(90:10、v/v)では、いずれも以前と同じく1ケのspotしか与えなかったが、この新しい溶媒系では、4NQO以外にX1、X2、X3の3ケのspotを与える。X2、X3は前報と同じもので、量的にも微量とみられる。しかし、X1は全く新たに出現したもので、定量はしていないが、(3)(4)(5)には10%は含まれているものと思われ、UV下での呈色具合では、4NQOと同系の物質のように思われる。(1)(2)ではX1の量は少なくなる。殊に(1)ではtrace量となる。(1)が全く効かないといわれているのは興味深いところである。H3-2Me-4NQOはone spotにまとまり、純度は相当よいものと今の段階の分析では云ってよいようである。H3-2Me-4NQOは癌センターでのペーパークロマトラジオスキャンでは、水飽和イソーアミルアルコールで幅の広いピークの乱れた像を与えたが、TLCでも、この溶媒系ではspotはまとまらず、長くのびて、溶媒としては不適当であることがわかる。
なお不純物の存在量については、(1)にはtrace量と云てよいが、(2)〜(5)の各々については確かなことは今のところ云えない。(図を呈示)

 :質疑応答:
[黒木]それぞれの製品について、動物での発癌性はしらべてありますか。
[高岡](4)勝田4NQO新は癌センターの杉村先生の所から発癌性があるものとして分与されました。(5)勝田4NQO旧は医科研化学研究部の香川氏から発癌性ありとして分与されたのですが、何しろ10年位前の事で現時点ではしらべてありません。
[勝田]吉田先生の所ではどういう方法で、効く効かないを判定して居られますか。
[森脇]4NQOを背中に注射して、10時間後の骨髄細胞を採って、染色体のbreakをみて、breakのあったものを効いたとしています。
[黒木]薄層クロマトでの分離テストと動物実験での発癌性を同時にしらべておく必要がありますね。

《吉田報告》
 マウスにおける4NQO誘発染色体異常の系統差
 DMBA、MC等の発癌剤の効果はマウスの系統によって差異があることが既に研究されている。われわれは4NQOのin vivoでの効果に系統的な差異があるかどうかを8系統のマウスを用い、chromosome aberrationを指標として調査したので予備的な結果を報告する。
 実験材料:
 C57BL/6、RF、SWM、AKR、A、BALB/c、C3HeB/Dr.、DD(以上8系統)いずれも生後3日目に使用。
 方法:
 国立癌センターの中原博士より提供された4NQOをPropyrene Glycol 0.5%、Gelatin 1%を含む生理的食塩水中に10-3乗Mの濃度にとかし、マウスの皮下に0.2ml(38μg4NQO)を注射した。染色体はコルヒチン1時間処理後骨髄細胞を用いて観察した。脾臓、胸腺についても観察をおこなったが、分裂像が少なくデータを得るにはいたらなかった。
 結果:
 4NQOの注射後の染色体異常の出現頻度を時間を追って計測した。(図を呈示)注射後10時間付近で異常が最高になることがわかったので、以後の実験ではこの時間に標品を作ることにした。また、この実験では72時間後までしらべたが染色体異常の高まりは10時間以後は現れていない。この結果は10時間で最高に達するような染色体異常をもった細胞はそれ以上分裂することできず、次の分裂に際して消滅してしまうことを示している。
 (4NQOのin vivo処理後骨髄細胞に観察された染色体異常の図を呈示)
 (染色体異常の頻度をマウスの系統別に調べた結果をまとめた表を呈示)
 異常をおこした細胞数の比率は各系統とも大よそ同じとみてよいが、RF、C3H、BALB/c系ではmultiple breaksが非常に多く観察されたため、細胞あたりのaberrationは他の系統よりかなり高いことになる。
 なお、% of cell with chromosome aberrationの増加に対するAberration/cellの増加をグラフに表してみたが、両者は大よそ直線的な比例関係にあり、4NQOによって異常をおこしやすい特定な染色体があるという可能性は少ない。

 :質疑応答:
[安村]対照として溶媒だけを接種しても染色体変異は起りませんか。
[森脇]見つかりません。
[勝田]2〜3匹を一群とした実験で23%と28%という数値は、ちがいがあるとみてよいのでしょうか。
[森脇]この場合はちがいがあるとは認めていません。
[堀川]X線を照射して骨髄に異常をきたすと、その異常は永い間残ります。今のお話では4NQOによる染色体異常は早くなおってしまうようですね。
[黒木]この異常は単に一過性の現象だと思います。勿論動物は殺さずにとってあるでしょうね。このあと何が起るかに興味がありますね。
[森脇]生かしてありますから、経過を追うことは出来ます。
[安村]AKRに異常が一番多いというのはウィルスと関係があるようですね。
[黒木]毒性と発癌性の問題とも関係づけてしらべると面白いと思います。例えば、6ca-4NQOのように毒性は少なく、発癌性のあるものの場合にも染色体異常が起るかどうか。
[森脇]一過性の異常は薬剤の毒性によるものであり、2、3年もたって出てくる異常は本当の発癌性によるものだなどということかも知れませんね。

《黒木報告》
 ハムスター胎児細胞の同調培養について
 Synchronous cultureを用いるtransformationの意義は改めて述べる必要もないと思います。この種のexp.は、私の知る限りでは、次の二つのみです。
 1.Basilico & Marin.Virology 28,429,1966.
 2.Green & Todaro ; in Carcinogenesis,a broad critique,559.1967.
 1.はBHK21/polyoma systemでG2のとき、もっともefficiencyがよいという(DNA・contentが高いため)
 2.は3T3/SV40 systemでG1、G2ではなく、S phaseにおいてtransformationするというもの(replicating cellular DNAとviral DNAのinteractionが必要)このpaperの原著はまだでていないようです。
Chemical carcinogenesisの場合はcarcinogenのtargetがDNA、RNA、Proteinのいずれともきめかねている現在なので、そのdataは非常に興味のあるところです。
 Synchronousの方法としては、excess TdR法を選びました。(Terashima法はcellの数、fibroblastであることからみてあきらめた)
 Exp.577
 2mM TdRを24h、及び24h(-15h休み-)24hの二種類の方法で加えた。細胞は培養11日のハムスター胎児細胞。
Samplingする前にH3TdR、1.0μc/ml 15min puls lab.、autoradiography:NR-M2,2wks。なお、Excess TdRのあとにmed.で3回洗った。
(図を呈示)24hrs1回処置は全く同調しない、24-(15)-24の2回処置法がLI、MIともに小さなpeakを生じた。
しかしこのdataではとても満足できないので、さらに処置法を考える必要がある。
そのためには、先ず、cell cycleの分析をはじめた。
 Exp.554
 培養6〜8daysのハムスター胎児細胞
 H3TdR、0.1μc/ml 20min. pulse lab. 以後1時間おきに(途中から2時間おきに)48hrs.サンプリング、NR-M2乳剤、4週間露出。(図を呈示) 比較的きれいなcurveが得られた。
 計算値:G1・3.6hrs.、S・7.6、G2・2.6、M・0.6、total・14.4=G.T.。G.T.は14.4時間、これはdoubling time 30〜40時間とは大きな差があり、growthに参加していないpopulationの存在を強くsuggestする。このdataはもう一度くり返して検討中である。
 このようにcell cycleが意外に短いことが分ったのでそれに合せてtreatmentの方針を改良した。
excess TdRを加えられると、S期のcellはそのままDNA合成をstopするという。従ってexcess TdRのtreatはG2+M+G1、休みはS時間あればよいことになる。
そこで、15hrs.-(8hrs.)-15hrs.というscheduleを作った。
 #583
 TdR 2mM、TdR 7.5mM、AdR 2mMの三者を用い、15-(8)-15hrs.で加えた。(TdR 7.5mMを用いたのは、2mMのTdRがDNA合成blockに不十分である可能性を考えたため、AdRはAdR処置にTdR-H3を加えることによりDNA合成を測定できる利点を考えた。)
 細胞は18mm cover slipeにうえこむ。
xcess TdR、AdRの洗いのとき、及び処置後のmed.には0.01mMのCdR HClを加えた。
H3-TdRは1μc/ml 30mim.pulse labelling。
 AutoradiographyはNR-M2乳剤、2wks露出、コニドールX現像、hematoxyline単染色。
 結果(図を呈示)
 DNA合成のsynchronyは20〜40%で低い。
 AdRがもっともよくDNA合成を同調させるが、cell damageも強くMIは上らない。恐らくRNA合成阻害のためであろう。
 今後の方針としては
1.TdR 7.5mM
2.treatmentの時間は15-(15)-15位にする。(DNA合成の下降は10時間すぎにみられるところから)
3.cell populationがこのexp.では少しく大きすぎた、そのためSynchronyが悪いと思はれる。population sizeを吟味することが必要
 以上を考えながら、synchronous cultureのtransf.に入るつもりです。

 :質疑応答:
[堀川]ハムスターの細胞の同調培養の場合ですが、cell countでsynchronizeのcheckをします。mitotic indexではinterphase deathのcheckが出来なくてかえって不正確になると思います。
[勝田]株細胞なら同調させられるが、黒木班員の初代培養の細胞では揃う方が不思議な位だと思います。
[堀川]それはそうですね。それから細胞に傷害を与えないという点では寺島法が優れていますが、細胞数が多くとれませんね。
[黒木]fibroblastsは寺島法ではうまくゆかないのではありませんか。
[安村]そうでもありませんね。L細胞でもフルクト細胞でも、振り方を工夫すれば寺島法でうまくゆきます。でも細胞の系によってどうしてもうまくゆかない系もあります。
[勝田]thymidineやコルセミドで処理して染色体の異常がおこりませんか。
[堀川]むつかしい問題ですが、少なくともコルセミドだけでは起こらない様です。とにかく今の所thymidineでDNA合成を揃えておき、コルセミドでM期に揃えるというやり方でかなりよい同調培養の成績を得ています。

《佐藤報告》
 ◇動物復元続き:(動物No.116〜121の復元表を呈示)
 ◇ラット肝の4NQOによる発癌続き
動物No.18に腹水肝癌が発生した。即ち5x10-7乗M4NQOを62日間、LD培地中に加え処理し、総培養日数326日目('67-7-1)に500万個の細胞を新生児ネズミ腹腔に接種したもので、'68-2-1に屠殺した。動物を死に至らしめるまでに約7月を要した。剖検すると、約50mlの血清腹水がみられこの中に多数の癌細胞島が浮遊していた。肝門部に大豆大の腫瘍形成があり、また腸間膜、大網部に米粒〜粟粒大の多数の腫瘍がみられた。
 ◇月報6801に記載したRE-5系の核型について現在までに判明した点を報告した。
 (1)Control lineについては染色体数42について調べた所、正常のdiploidと思われる細胞と、染色体のTelocentricの一本が不分離現象をおこして外見上Metacentricのchromosomeを形成した細胞が見られた。今後は41本及び43本の染色体を分析してTissue−cultureにおける染色体数移動に関係するかどうかを検討する予定である。
 (2)Neoplastic lineではlarge subtelocentricの異常染色体が現れた。本large subtelocentricの異常染色体は細胞によって大きさ、その他に多少の移動がみられた。Tumorよりの再培養にも同様のsubmetacentricの異常染色体が認められた。
 班会議報告のまとめ
(1)Rat Embryo cell line
 a)Tumorigenic capacityとmorphological malignant changesとは平行関係にある。
 b)悪性化する細胞は少くとも2種類ある様に思える。1つは細長い細胞質で濃縮した核をもつ、他の1つは大型の細胞で楕円形の傾向の核をもつ。
 c)動物復元の腫瘍像にも2つの悪性化細胞の性格がみられる。
 d)Malignant cellは重なり合う傾向は少い。
 e)悪性化細胞と正常細胞の比率は4NQO添加量の増加と併行して高くなるが、ある程度の添加量に達すると以後4NQO添加を停止しても悪性化が進展して行く様に思われる。
 f)5x10-7乗M濃度では余り効果がない様であって、10-6乗M濃度位がラッテEmbryoの場合適当の様に思われる。
 g)Control liverは今の所未だdiploid lineを保っている様に思える。
 (2)Rat liver cell line
 a)動物復元、3匹腫瘍(肝癌一例は腹水性腫瘍)形成。
 b)Rat embryo cell lineと異り、5x10-7乗Mの場合にも発癌している。
 c)培養細胞のmorphological changeと4NQO投与と余り並行関係がない。常に腫瘍形成能のない細胞が存在していて、腫瘍細胞だけが4NQO投与と共に優位になる現象が見られないとも云える。
 d)目下培養日数の少い所の凍結細胞を用いて実験をくり返している。
 ◇本年度の研究のまとめ
 培養条件で自然発癌し難いラッテ由来の細胞を利用して、その4NQOによる発癌を試み、どうやらラッテ細胞でも4NQOで発癌するらしいことが分った。即ち、ラッテ全胎児細胞と肝細胞との2系に於て、4NQOによる発癌がみられたことである。現在、この発癌の追試実験を行い、4NQOによるラッテ培養細胞の発癌モデルプランを作るべく努力中である。また、その発癌過程に於ける細胞学的変化や、4NQOの培養細胞に対する作用機構など検索している。

 :質疑応答:
[堀川]Markerの大きなmetacentric chromosomeは動物へ復元してtakeされた時の腹水中にもみられますか。
[増地]今後しらべてみます。
[安村]takeされたり、されなかったりする系で、takeされたものの再培養は再びtakeされますか。というのは一度takeされたものが、ずっと悪性だとすると、動物で悪性細胞をクローニングしたとも考えられる。つまり全部の細胞が悪性化していなかったということを意味していると考えられます。それから復元する細胞がはっきりしたmarkerを持っていれば仕事がやりよいですね。私の経験ではフルクトcellは合成培地で増殖出来る系でしたから、動物へ復元して出来たtumorを合成培地で培養してみれば、接種した細胞からのtumorかどうかがすぐわかりました。
[勝田]動物へ復元して3ケ月もしないとtumorが出来ないというのは、どういうことなのでしょうか。
[藤井]それから3匹復元したうち、1匹しかtakeされないというのも変ですね。
[難波]安村さんの言われたように、悪性化したのが一部の細胞で、数が少なかったのだとも考えられます。
[黒木]腹腔内でなく、皮下か、ハムスターのチークポーチに接種して、小さなtumorを作らせて、組織像をみると、悪性の度合がわかると思います。
[安村]悪性化した細胞でも、培養内で悪性度を維持出来るという確証はないのですから、悪性化したら、なるべく早い時期にクローニングする必要あると思います。それからtakeされた細胞も再培養してクローニングし、何コで動物にtakeされる細胞かをしらべておく方がよいでしょう。
[黒木]発癌剤をこんなに長期間入れつづける必要があるのでしょうか。もっとも動物実験では長期間与えないと発癌しない例が多いのですが。
[難波]処理回数や処理量がどの位まで減らせるかまだわかりません。
[黒木]抵抗性が出来ることを期待するなら長期間入れつづけるのも意味があるでしょうが、4NQOの場合抵抗性が出来ないようですから折角増殖しはじめた細胞が変異細胞であっても、次の処理でやられてしまう恐れもあるのではないでしょうか。
[勝田]この実験はもう少し再現性を高めなくてはいけませんね。

《高木報告》
 Cell cultureによるchemical carcinogenesisに関して過去1年間の実験結果をまとめてみようと思う。
 細胞は一貫してrat thymus cell(雑系及び最近はwistar king A)を使用してきた。chemical carcinogenとしては、4HAQO、4NQO、NGを用い、現在までに4HAQOにて4実験、4NQOにて2実験、NGにて9実験を行った。
 1)まず雑系(OSAMA)rat由来の株細胞(RT-1)を4NQO処理したが、濃度は10-7乗、10-6.5乗、10-6乗M/mlをそれぞれ作用させて、10-6乗M/ml処理群より処理後15日にしてtransformed fociを得、現在まで継代している。
 移植は同系rat new bornに処理後90日目に100万個の細胞を皮下に接種したが、触知できる様な腫瘤は形成しなかった。
 現在でもなおcontrolに比し形態的に明らかな差を認め、又growth rateでも1週間でcontrolの細胞が3〜4倍程度の増殖を示すに対し、処理細胞は6〜10倍の増殖を示している。 以後の実験は移植に関して有利な純系ratを使用することとし、しかも自然発癌の全く認められないWistar King Aより得たthymus cellを使用した。(培養順にRT-2、RT-3、RT-4と呼ぶ。)
 2)4HAQOを使用した実験は現代まで4実験行った。
 i)まずRT-2、2代目継代後3日目の細胞にfinal 10-6乗M/mlとなる様に滴下し、3日間放置したが、cell damageが全然なかったので、次いで10-5乗M/mlとなる様に滴下し3日間放置した。
 細胞はculture bottleの周辺部を残して変性脱落したが、薬剤除去後約15日にて肉眼でも明らかなfocusを2〜3ケ/bottle認めた。
 移植は薬剤除去後76日及び81日目にweanling WKA ratsの皮下へ100万個の細胞で行った。controlは同じく培養開始後95日目に移植したが、いずれも腫瘤は形成しなかった。
 その後継代と共に形態もcontrolとあまり変りがなくなってきた。又growth rateも1週間で3〜5倍程度とcontrolと差がない。
 ii)次にRT-2、継代6代目の細胞を用い、4HAQO 10-5乗M/ml2回添加及び5回添加(2日おきに)の実験を行ったが、処理後2ケ月間観察して細胞のgrowthが全く認められなかった。
 iii)新たに12月12日に培養開始したRT-4の3代目の細胞を用いて2実験行った。
 まず4HAQO 10-5乗M/mlを添加し、2日間放置したのち一群は直ちに3〜4万個cells/mlの細胞数でP3シャーレへ継代してみた。
 しかしこれはcell damageが大きすぎ、現在一枚のシャーレに1コロニーの細胞が残っているが、形態的に変化は認めない。
 更に残りの処理細胞を約15日間観察し、mitosisが認められる様になった所でTD-40へ40万個の細胞で継代した。これもやはりcell damageは強く、又生残った細胞のgrowthも現在のところあまりよくない。
 3)NG添加実験は現在まで9実験行った。
 最初の3実験はRT-1株細胞を用いて濃度の検討をしたが、25μg/ml以上では細胞が完全にやられてしまうし、1μg/ml以下では効果がなさそうであったので、以後は10μg/ml及び25μg/mlの濃度を使用した。
 又NGは4HAQOの如く失活し易いといわれているが、我々の経験ではMed.に混合して2日間incubateすると25μg/mlでは相当なdamageを細胞に与えることがわかったので、以後はMed.と混合してfinal concentrationを10μg/ml及び25μg/mlとなる様にして使用した。
 i)まずRT-2、3代目継代後4日目の細胞をNGで処理し、10μg/mlでは6日間、25μg/mlでは3日間放置した。
 25μg/ml処理群は約2ケ月間Med.を交換して観察したが、細胞のgrowthはなかった。
 10μg/ml処理群は薬剤除去後約20日で継代した。
形態的にはcontrolと比し、細胞のrandom orientationが認められ、transformationと思われたので、薬剤除去後70日目controlは培養開始後100日目にweanling WKA rats皮下に100万個の細胞を移植したが腫瘤は形成しなかった。
 ii)次に同じくRT-2、3代目継代後4日目の細胞にNG 25μg/mlを添加し2日間放置、その後Med.を交換したが、やはり細胞変性が著明で1ケ月間細胞のgrowthが全く認められなかった。
 iii)その後RT-2について5代目及び7代目の細胞を用いて、NG 10μg/ml及び25μg/ml添加実験を行ったが途中contamiにより中止した。
 iv)新たに11月4日培養を開始したRT-3の2代目、継代後13日の細胞を使用、NG 10μg/ml、25μg/mlを2日間2回計4日間作用させた。
 25μg/ml処理群にて継代2代目にfocus様細胞集塊を認めたが、その後継代中であるが、現在はcontrolと差はなく、又growth rateにおいても差がない。
 v)更にRT-33代目、継代後9日目の細胞にNG 25μg/mlを同様の方法で2日間作用させた。
 現在継代中で処理後約70日であるが、controlと比較して差を認めない。

 :質疑応答:
[黒木]NGについては、ハムスターの細胞にも加えてみましたが、変異細胞は出現しませんでした。適濃度の幅がせまいようですね。しかし、NGの場合、悪性化だけでなく分化の形もとる所が面白いと思います。
[堀川]NGの作用機序について、わかっているのですか。
[安藤]グアニンにつくということは、わかっています。
[堀川]胸腺とか骨髄から増殖してくる細胞は、培養3〜4日でpile upがみられます。何も処理しない場合にもです。
[勝田]fibroblastsもそうですね。そういう細胞の変異はみつかりにくいのではないでしょうか。

《三宅報告》
 今回は4NQOのDNA合成への影響をH3-TdRの取り込みからみようとした実験(あくまで予備実験)である。材料として用いたのはd.d.系マウス胎児皮膚、人胎児(14週)の皮フと腎である。皮膚は培養の第二代を、腎については初代の培養を用いた。腎を用いた理由は上皮性のものについての、取り込みを知りたいためで、鏡検に際し腎ではfibroblastを撰りわけることにした。培養液はEagle(アミノ酸、ビタミン4倍)のものと、2倍のアミノ酸ビタミン類にした時はPyruvate、Serineを添加した。H3TdR作用後、培養液で1回次いで生食で1回洗浄した。後エタノール固定、dipping、SakuraNR-M2、露出3週、現像5分DIII・18℃、Giemsa染色である。
 Exp.7:マウス胎児皮フ、2代目5日後のものにH3-TdR 2.5μc/ml 45分したのではL.I=35.3%。
4NQO 10-6乗M1時間及び2時間後では夫々29.5%、21.4%のL.I.であった。
Exp.10:ヒト胎児皮フ初代4日目 Cumulative lavelingで(H3-TdR 25μc/ml)L.Iは、3h.=23.7%、5h.=25.6%、6h=33.0%、14h.=42.3%、23h.=69.0%、26h.=70.4%。TG≒43h.。TS≒7h.。をえた。
 Exp.9:ヒト胎児皮フ初代3日目のもので4NQOの濃度をかえたものを作用させると、10-8乗MではControlと同じL.I.、10-5、10-4乗Mではlabelingは零であった。
 Exp.11:ヒト胎児の腎では、Exp.9のヒト胎児皮フより抵抗性がみられ、腎の上皮性細胞は10-7乗Mでは30%近くの%でControlと大差ないことを知った。
 Exp.11':前のExp.11の腎の上皮についてcumulative lab.を行い、TG、TSを求めると、L.I.は、1h.=33.1%、3h.=43.2%、6h.=44.6%、24h.=78.7%。この値からTG≒52h.。TS≒18h.と知った。
 Exp.13:ヒト胎児皮フの2代目3日目に、4NQO 10-6乗Mを入れ、経時的に、短ザク硝子を取り出し、H3-TdR 2.5μc/mlを45分間作用せしめて、L.I.をしらべると、(図を呈示)2時間までは、略々正常に保たれたL.I.は、3時間目に急激におちる。4NQOのDNA合成(Thymidineの取りこみ)は2時間を経てから出現する。(後註・合成阻害ではないか?)
こうした下降の状態をさぐって行くことが、これを解明する鍵となるであろう。
なお、transformさせえた細胞については、chromosome、H3-TdRの取りこみを追究中である。

 :質疑応答:
[黒木]G1からS期にはいる所を4NQOがブロックしている可能性が強いわけですね。
[三宅]そう思われますが、どうしたらはっきり証明出来るでしょうか。
[掘川]同調培養で取り込みをみればよいと思います。
[三宅]株細胞でないので同調培養はむつかしいのです。
[堀川]そうですね。それに初代培養の場合は培養日数がちがうと、ころりとちがうdataになったりして、解析にはむきませんね。
[安村]50%が同調しても、50%では同調培養という名前をつけるわけにいきませんね。初代培養で同調培養をやるのは少し無理ですよ。
[黒木]初代培養では再現性も少ないし、むつかしいですね。しかし株細胞を使っての実験の場合は、薬剤添加によって遺伝的なレベルでの変異が起ったのだというチェックをしなくてはなりませんね。
[勝田]H3-TdRの添加時間はどの位ですか。
[三宅]40分です。

《堀川報告》
 培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびにLeukemogenesisの試み(4)
 この研究シリーズ(3)においてわれわれはdd/YFstrain(生後31日)から得た骨髄細胞を70%TC-199+10%Tryptose phosphate broth+20%calf serumで培養した際、培養時間の経過に従って骨髄細胞の組成(種類)が急激に変って来ることを示した。しかしdd/YEstrainはgeneticalに不安定であり、この種の研究には適した系統ではないということで、以来NCとC57BL/6Jaxの2系統を用いて仕事を進めることにした。
 今回は本研究シリーズ(3)と部分的に重複した事象を報告する訳であるが、NCstrain(生後30日)から得た骨髄細胞を上記の培地で培養した際、その細胞組成(種類)が培養時間とともに次第に変化する。(表を呈示)
 培養直前にみられる骨髄細胞の多種多様性は培養5日目頃にすでに失われ、特定の細胞のみが大部分をしめるようになる。そして培養30日に至ってはこれらのうちのLarge mononuclear cellsが全体の96.5%をしめるようになることがわかる。
 一方このようにしてin vitroで5、10、20、40日間培養された骨髄細胞(40日培養のものでは大部分がLarge mononuclear cellsであると考えた方がよい)を同じNC系(60日齢)で700RのX線で照射された♂に5万個細胞づつ尾静脈から注入してやり、9日後に殺して脾臓表面に出来るコロニー数をカウントした。(結果の表を呈示)
 700R照射したマウスに種々の時間培養した骨髄細胞を静注してもcontrol(700R照射しただけのもので、骨髄細胞の注入なし)と何らの有意差を示さない。勿論この段階では全体としての実験例数も少ないし、結論を出すのは早計である。そしてこのようにin vitroで培養された骨髄細胞は脾臓表面に活発なコロニーの形成能力をもたないからといって、骨髄細胞が他の臓器や組織などに定着して増殖し、生物機構を果たし得る可能性も少ないときめつけることも出来ないだろう。なぜならばdd/YF系マウスを用いたわれわれの以前の実験で、すでに「骨髄死」を保護し、生存率を高めるというデータが得られているからである。
 今後はNCおよびC57BL/6Jax系統での培養骨髄細胞の脾臓コロニー形成能とか「骨髄死」保護能といった生物学的機能の検索を急速に進める予定である。

 :質疑応答:
[難波]細胞数はどの位まきますか。数をふやすとどうなりますか。
[堀川]Colonyを作らせるときは1,000コです。X線だと細胞数をふやしても同じSurvival curveがとれますが、4NQOではどうか判りません。
[安村]4NQO・10-6乗Mで生残ったColonyをとってまき直したらSurvival curveが変ってくるんじゃないですかね。
[堀川]判りません。この場合は薬剤を入れつづけていますからSurvival curveになりますが、短時間作用させてから細胞をまいたときはRecovery curveですね。
[勝田]4日間培養したとき、骨髄細胞は増殖するのですか。
[堀川]増殖します。はじめにコロニーができて、40日後にはびっしりのシートになります。
[勝田]染色体はしらべましたか。
[堀川]まだですが、予定はしています。L細胞ではSurvivalを助けないので、他の臓器、肝や腎などもやってみています。
[安村]私は脾をやったことがありますが、1,000万個入れると完全にSurviveします。
[勝田]胸腺などもぜひ入れてみて下さい。面白いと思いますから。
[黒木]脾臓の細胞がふえるようになったのは、どんな原因ですか。
[堀川]判りません。同じ様な条件だったのですが、ただ何となく・・・。
[藤井]Fibroblastsがふえてくると脾の細胞は駄目になるのですか。
[安村]Fibroblastsの方が増殖が早いからpredominantになってしまうので継代で稀釋されてしまうのです。何か撰択的な培地を考えればよいのですが。
[堀川]骨髄の面白味は、stem cellがあってそれが分化するということ、そして薬剤を作用させると分化しないでStemとして保持できるような系を作れるかも知れないという点ですね。
[安村]Ephrussiの処のは培養内でstemを保持していて、動物へ戻すと、軟骨その他ができる、というのがあるらしいです。しかし自分のやったのはどうも安定しないので、結局動物を使ってstemを保持していました。
[黒木]Sachsの仕事で、骨髄細胞を培養するとき、Feeder layerの細胞の種類をかえると、できてくるcolonyがちがう、というのがありました。
[堀川]はじめのころ出来なかった脾臓の培養が何となしによくふえるようになったのは何故だか判りません。
[勝田]Plating Efficiencyが100%とかいてあるのは、1,000コまいて1,000コ生えるのですか。
[堀川]いや、対象を100%としたので、実際は10%です。

☆☆☆昭和43年度研究計画☆☆☆
[勝田]次年度の研究計画について少し御相談したいと思います。考える材料を提供する意味で、私案をはじめに出します。
 1)培養内発癌系の確立: 次年度は班としては最後の年なので、何としてでも、少くともこれだけは仕上げたい。新鮮な細胞を使うのと、安定した株によるモデル実験と、両方を作りたいものである。
 2)材料の精選: 動物はラッテ、ハムスターを中心とし、なるべく純系動物の細胞を用い、できればCell cloneを使いたい。
 3)発癌剤: あまりあれこれ手を拡げずに、4NQO類、DABに絞りたい。
 4)観察: 発癌剤処理より、悪性細胞出現までの細胞の変化を、形態学的、生化学的、免疫学的にしっかり追って、そこに何らかの体系的知識を確立したい。
 5)その他の発癌要因: 放射線、細胞の核酸分劃、などによる悪性化もつづけて試みたい。
 6)発癌機構: この解明には、現在の時点では、株細胞を使う方が能率的と思われる。安定した、特性のあまり変化しない株を使って“機構”の方も研究する必要がある。これが当班の研究目標になっているのだから。
 私案は以上の通りでありますが、まず黒木班員の場合、transformationに3期を考えておられる。そのとき、M1期からM3期にかけて、悪性細胞がpopulationとして増えるのか、或は細胞自体の特性が変るのか、これはcolony法である程度見当がつくことなので、ぜひやってみてもらいたいと思います。
[黒木]それについてですが、M1期で細胞を一部凍結保存しておき、他は培養をつづけて、M3期に入ったら、その細胞で抗体を作り、M1期の細胞を戻して、抗M3抗体で検索することにし、Kleinのmembrane immunoflurescent法でしらべたいと思っています。
[堀川]M1とM3とでそんなにちがうのですか。
[安村]元来在ったものが増えるのか、徐々に変って行くのか、非常に鋭敏なcheckingなら有効ですが。
[黒木]理想的には、株でcloneがとれて、細胞数も一杯とれて、しかも細胞は正常でというのですね。
[安村]しかも容易に悪性化できてね。動物のspeciesとしては、ヒトはだめだから、マウス、ラッテ、ハムスター・・・というところですね。
[勝田]個体としても、胎児はだめです。早くnewbornに切りかえなくては。
[安村]素人にいちばん良い臓器は腎臓ですね。
[勝田]いやな予感ですが“mechanism"には余り入れないような気がしますね。
[堀川]Mechanismをやるには株が良いですね。primaryの必要はない。
[黒木]Lなど良いと思います。
[安村]いや、Lはむかし悪性だったという歴史があるから、あまりうまくないでしょう。寝た子を起しただけになるかもしれない。
[堀川]悪性化でなくとも、変異の機構はしらべて良いと思います。
[安村]癌の研究班である限り、やはり単なる変異だけではなく、悪性化をみる実験もやらなくてはいけませんね。
[堀川]復元した細胞の回収を図る方法として、diffusion chamberなどはどうですか。
[勝田]あれは入れられた細胞にとっては不利な環境だと思いますね。
[堀川]Ephrussiはhybridizationで色々面白いことをやっていますが、hybridizationを使うとgene levelでの遺伝形質の解析ができます。黒木班員の場合、変異細胞にmarker chromosomeがあると良いですね。
[勝田]speciesのちがう動物の細胞の間ならchromosomeのcheckingはできますが、さてそれでできた細胞はどちらのspeciesにtakeされますかね。しかし同じspecies同志ではchromosomeのcheckingはできないし・・・。
[安村]薬剤耐性株をまず作って、それをmarkerにする手もありますね。
[勝田]Hybridizationがうまく行ったとして、それで何が判るでしょう。片方が癌でhybridが癌を作るというのなら、生体での癌の発生には、まずはじめに癌細胞が1コ存在していなければならないことになります。
[森脇]Chromosomeの解析として、あるmarker chromosomeがあれば必ずtakeされる、というようなことがあれば、染色体と悪性との関係が判りますね。
[勝田]それは既にでき上った癌の解析で、発癌機構の解析にはならないでしょう。
[永井]核内の遺伝物質を追うことに全力をつくしても、それが発癌機構と直接むすびつくかどうか、問題がありますね。
[勝田]異常染色体が仮に見付かったとしても、発現していないgeneのことも考えなくてはならないし、gene levelの問題として扱わなければならないですね。
[森脇]ヒトの癌を数多くしらべて、癌のとき欠損しやすい染色体は判ってきつつありますが、それがなくとも癌細胞は増殖できる、ということにすぎなくて、これだけ揃っているのは癌細胞だとはいえないのです。
[勝田]岡山ではラッテのwhole embryoを材料にしないで、Fibroblastsを狙っているのならnewbornの皮下組織でも使うようにして、材料をなるべく単一種の細胞にするようにして下さい。肝の実験も、もっと実験例数をふやして、再現性をはっきりさせることと、処理回数をだんだんに減らしてminimumの量を明らかにすることも必要でしょうね。
[高木]私のところはラッテの胸腺(Fibroblasts)と胃を材料にしたいと思っています。
[勝田]高木班員や我々のところの実験はどうも薬剤のかけ方が弱すぎるように思われます。今後はもっと多く、長くかけてみる必要があるでしょう。
[安村]弱い濃度で生かさず殺さずでおく方が変異は起るのではないでしょうか。
[森脇]マウスBALB/C plasma cell tumorの場合に、生後1〜2月のマウスを継代に使いますが、あらかじめマウスにX線300r(BALB/CのLD50は500r)かけておき、その直後あるいは数時間以内にtumor cellsを接種すると、早くtakeされるようです。Cortisoneは効果がありませんでした。接種時のhostの状態が問題だと思います。
[勝田]L系の細胞を発癌実験に使うときは、たとえばC3Hマウス以外のマウスにもtakeされるようになる、という変異でも少しは役に立ちますかね。それから4NQOの作用機序についても、isotopeを使ってもっと突込んで行かなくてはなりませんね。ハムスター細胞の株で2倍体で悪性でないものはありませんかね。
[黒木]BHKも2nですがtakeされます。それから、AH-13は皮下に植えるとtakeされませんね。
[勝田]Lでもcloningすればtakeされないclonesがとれるかも知れません。
   
【勝田班月報・6804】
《勝田報告》
 A)L・P3細胞の4NQO処理:
 2月の班会議でL・P3細胞を4NQOで2回処理したあとの形態を供覧したが、その后も次のように4NQO処理をつづけてみた。
 1967-11-23:細胞継代(平型回転管)。
    12-17:4NQO処理(3.3x10-6乗M、30分間)
 1968- 1-24:4NQO処理(3.3x10-6乗M、30分間)
    2-21:これより現在まで、4NQO(5x10-6乗M)を培地に入れつづける。この時期に細胞は増殖をつづけていた。
    2-29:継代。細胞の一部が死んできた。
    4- 8:細胞のcoloniesが沢山形成され、ふえてきた(TD-40瓶1本にcolony100位)。 *L・P3の場合は4NQOに対する抵抗性が上ってくるのかも知れない。
 B)ラッテ肝細胞株(RLC-10)の4NQO処理:
 このseriesはケンビ鏡映画をとりつづけている。
 1968- 1-18:細胞継代
    2-26:4NQO処理(3.3x10-6乗M、30分間)
映画撮影視野内の細胞は全部死んでしまった。しかし生残りから増殖がおこった。
    3- 9:4NQO処理(同上)。
やはり視野内の細胞は死んで、他の生残り細胞の内から増殖が再開された。
    3-26:4NQO処理(同上)。こんどは視野内もあまり死ななかった。
 *RLC-10も抵抗性が上昇するのだろうか?
 *視野内の細胞が死ぬのは、癌センターの永田氏の云われる4NQOのphotodynamic actionの為であろうか?
 C)4NQO処理されたラッテセンイ芽細胞の好銀センイ形成能:
 これまで既に月報で報告した4NQO実験での変異細胞の好銀センイ形成能をcheckした。判定は2ケ月間培養の銀染色によった。RLG株はラッテ肺、RSC株はラッテ皮下組織由来である。(表を呈示)表のように好銀センイ形成能の認められなくなった株がかなりあった。

《梅田報告》
 今月から仲間入りさせていただくことになりました。月に一回、多少ともまとまったデータを出すことは私にはかなりむずかしい様に思えますが、せいぜい努力してみる積りで居ります。宜敷く御願い致します。
 しかし早速今月分として御報告出来るようなものは無く恐縮しています。この月末、ラット新生児肝を勝田先生の方式にしたがって培養の試みを行って居りますが、なにせすべてが練習及びリピードの域を出ていません。これからも基礎条件を定めるための沢山の実験が必要なので、あわてています。私の実験の当面の目的は、新生児ラット肝片のローラーチューブ培養で生え出し得るラット齡がDAB投与により延長する勝田先生、佐藤先生のデータの理由をなんとかさがしてみたいことです。生える迄待っていては時間がかかるので、実験の方法として、H3-サイミジンの摂り込みなどが、DAB投与例とコントロール、更に癌原性のないAB投与で差が出ればと期待しています。以上御挨拶迄。
《佐藤報告》
 ◇ラット←4NQO実験(動物復元表を呈示)。ラット肝細胞の発癌。
 動物No.49に肝癌の発生をみた。接種した細胞は培養日数413日、培地YLE、4NQO処理10-6乗Mで12回のもので、500万個cellsを新生児ネズミ腹腔に接種した。接種後205日で動物を死に至らしめた。剖検にて大網部、肝門部、腸間膜の部分に著明な腫瘍形成がみられ腹水はなかった。その組織像は肝癌の所見であった。
 以上で4NQO→4ラット肝の悪性化は合計4匹となった。
 ◇ラット肝の培養(特にcloning)の基礎的条件の検索
 ラット肝細胞を利用する発癌実験のために、肝実質細胞(出来得れば潤管構成細胞、膽管構成細胞の区別)のcloningによる検索を始めた。まづ従来使用して来たLD培地とYLE培地、Eagle培地及び199培地の比較検討を培養方法を変へて行って見た。(表を呈示)表はラット肝組織を従来の方法に従ってroller tube cultureを行ったものである。+の下に記載された数字は一本の試験管に増殖して来た細胞の度合を示す。(+)の数字は合計である。この結果から見ると、LD及びYLE培地が略同程度の増殖を示し、Eagle、199の順で増殖率が落ちる。
 (表を呈示)表は生后7日の♂ラッテを使用し、CO2incubaterでシャーレ(3.5cm)、3ml/シャーレに培養したものである。此で見るとEagle培地(千葉血清)が、Colony formationにおいて他の3培地よりよい事が分る。
 Colonyを形成する細胞の形態には6〜7種類が区別されるが、組織化学的にどの程度区別できるか検索中である。又継代できるかどうかについても目下検索中である。
 (表を呈示)表はRLN-251株で(従来の通りで培養継代)現在121culture daysのものについて実験的短試で各培地における増殖率を検討した。この結果ではYLE培地が増殖率が高いことが分った。従って閉鎖型での実験はYLE培地が有利の様に思われる。

《三宅報告》
 ヒト胎児皮膚のFibroblastを用いて4NQOのCell Cycleに与える影響をしらべてみました。(dd系、その他の動物については未完)。すなわち、前回の班会議の折、4NQOがG1の期に抑制的に働くのではないかという成績をえたためです。プロトコールの番号をそのままに、ここに記すことにします。
A)Exp.17(図を呈示)。これにCummulativeにラベルした所、次の価をえた。
Control(310) TG≒29hr.、TS≒8hr.。4NQO(311)TG≒58hr.、TS≒10hr.。
 B)Exp.18(図を呈示)。この251の6代目、及び252の6代目培養についての細胞の状態については目下露光中です。が上記Exp.18の細胞については、G-3について(251)4NQO群、TG≒23hr.、TS≒7hr。Control、TG≒38hr.、TS≒6hr.をえ、表示しますと(図を呈示)。以上の実験から、4NQO作用后の短期間ではTGの延長がみられるが、作用后時間を経るにつれて、4NQO群ではCycleのspeed upが認められる。その位相差像を示す(写真を呈示)。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞における紫外線障害回復の分子機構の研究(4)
 化学発癌剤としての4NQOの作用機序、ならびにそれによる障害回復の機構が紫外線のそれと類似しているかどうかを検索するため、mouseL、ブタPS、Ehrlichの3種の細胞株について4NQOに対する耐性度を比較検討した結果を本月報のNo.6802に於いて簡単に報告した。また10-6乗Mの4NQOで30、60、90分間処理した後の3種の細胞株のコロニー形成能を調べた結果は、PS細胞のみが10-6乗Mの4NQOで30、60、90分間処理後にもコロニー形成能を持ち、他のLやEhrlich細胞ではこの程度の4NQO処理によってコロニー形成能は完全に認められない。
 つまり紫外線に対して最も感受性株のPS細胞が4NQOに対しては最も耐性であり、紫外線に対して耐性で、しかも紫外線障害除去能力のあるEhrlich細胞などが4NQOに対して感受性であることが分かる。このことは我々が初めに予期した紫外線障害回復機構が4NQOの障害回復にも働くという考えを、まったくくつがえすもので、これらの間には何らの関連性のないことが分かった。(少くとも培養哺乳動物細胞に関しては。)
培養動物細胞株間の4NQOに対する感受性の差異のfactorとして、主として次の2つのことが考えられる。まず第1は、細胞株間の4NQO透過性の差異であり、第2は取りこんだ4NQOを4HAQOあるいはその他のderivativesにreduceさせる能力の差異にあると思われる。
 勝田研究室から譲り渡されたH3-4NQOを使って3種の細胞株の酸溶性あるいは酸不溶性分劃内に取り込む能力を経時的(H3-4NQOを10-5乗Mの濃度に含む培地中でそれぞれ30、60、120、240分間培養した後の各分劃内えの取り込み能)に検索した結果は表の如くであって(表を呈示)、これらの結果から分かるように4NQO取り込み能は3種の細胞株間で大差なく、第1の可能性は否定される。むしろ細胞質容量の大きなPS細胞やL細胞が酸溶性分劃に4NQOを大量に取り込むことが分かる。またどの細胞株も培養時間と共に酸不溶性分劃に入る4NQOの量は漸次増えるが、一方酸溶性分劃では一度取り込まれた4NQOが時間と共に再放出されるようである。このことは勝田研究グループの報告したNo.6801号の結果と合わせ考えて興味がもたれる。いづれにしても第1の可能性を取り上げるよりも第2の可能性が、さらにはそれ以外の細胞株間の4NQOの無毒化能の差異を考える方が妥当のようである。
 またこうした結果は或る面では4NQOによる発癌のさい、どの細胞にも同一の障害と変異を誘起させるのではないという可能性を示唆している。そして癌化の際のtarget cellの存在を暗示させる。

《高木報告》
 3月に新たにstartした実験を報告する。carcinogenは4NQO、NGを使用し、細胞は従来の如くWKA系rat thymus cellと新たに同lung cellを用いた。
1.4NQO添加
 1)NQ-3:RT-4(12月12日培養開始)8代目の細胞を使用した(図を呈示)。4NQOはHanks液で10-6乗M/ml、2x10-7乗M/mlに稀釋し、それぞれ2時間incubateした後、PBSにて3回荒井、Med.を加えた。10-6乗M/ml 2回添加で細胞はすべて変性脱落してしまったが2x10-7乗M/ml 2回では殆ど細胞にdamageがないため、継代后更に10-6乗M/mlを1回添加し、現在維持している。 2)NQ-4:1月31日培養開始した生后21日目のWKA rat thymus cellの3代目に4NQO 10-6乗M/mlを2時間作用させたが、細胞は全部変性脱落してしまったので中止した。
 3)NQ-5:RL-1(3月5日培養開始した生后4日目のWKA系ratのlung cell)lungを摘出し、Pc200u/ml、SM 100μg/ml、Nystatin 100u/mlを含むHanks液中で約30分室温放置后、Explant法で培養を開始した。Med.はRTと同じくLHにEBMのVitamin stockを1倍量加え、fetalCS 10%を添加して用いた。
 (図を呈示)4NQOは同様に2時間作用させた。primaryより増殖してきた細胞はfibroblastであったが、4NQO 10-6乗、5x10-7乗M/ml1回処理にてfibroblastはすべて変性してしまった。しかしこれに代ってわずかに残存していたexplantよりepithelialな細胞がさかんに増殖をはじめた。目下経過を観察中である。
 2.NG添加
 1)NG-10:RT-6(3月5日培養開始した生后4日目のWKA系rat thymus cell)3代目を使用した。NGはHanks液にて20μg/ml、10μg/ml、5μg/mlに稀釋して、それぞれ2時間作用させた。(図を呈示)NG 20μg/ml、10μg/ml、2回処理では細胞のdamageが非常に大きく、5μg/ml 2回処理でも半数程度の細胞が脱落してしまった。
 今後は細胞が変性を起さない程度の濃度で頻回に作用させてみる予定である。

《黒木報告》
 BHK-21細胞の寒天内増殖とBacto-peptone
 先に記したようにBHK-21細胞は、Bacto-peptone存在下では、寒天内でcolonyを形成できます。このdataは従来までの所見とは一致しません。MacPherson達は、BHK-21はpolyoma virusでtransformしてはじめてagar内growthをすること、それはcontact inhibitionの喪失と関係あると述べています。
 しかし、Bact-pepetoneの存在のもとでは“normal"BHK-21もgrowthするのですから、この問題はtransformationによって栄養要求性が変ったというように解釈すべきです。
すなはち『BP+,R-,A-,G-,S-,T- →polyoma(4HAQO)→BP-,R+,A+,G+,S+,S+,T+』(BP:Bacto-peptone dependency。R:Random orientation。 A:polyoma cell antigen。 G:Increased Glycolysis。S:Selective advantage。T:Transplantability) (BPの他はStoker,M.:The interaction of polyoma virus with hamster fibroblasts.In :Virus,Nucleic acid andCancer 1963による)
このように考えると、BPの有効成分が知りたくなります。何故なら細胞のheritableな変化が栄養要求とはっきり結びついているというdataは少いからです(Eagleは最近Cysteineの代謝がtransformと関係しているというdateを出しています。Carcinogenesis P617)。
 Exp.576
 BPの有効成分はアミノ酸ではないか、tryptose phosphate broth(TPB)でもBPをreplaceできるか。BPなし培地、BP 0.1%培地、10%TPB培地、4xアミノ酸培地で寒天培地内コロニー形成能を比較した。(表を呈示)以上の成績から、BP中の有効成分はfreeのアミノ酸ではないこと、TPBでもある程度replaceできることが分った。
 Esp.582
 Bacto-peptoneのうち、どの位のmole wt.のものかを見当ずけるため、Sephadexによる分離を行いました。
 column:26.4mmx40mm(Excel Column)
溶媒:Earle'BSSからNaHCO3、Glucoseを除いたもの
Sample:BP 10%、 3ml or 5ml
flow rate:30-60ml/h
1.G-25による分離
G-25によってBPをfractionateしたところ次のようなCurveを得た(図を呈示)。 peak 、 、 をBP 0.032%のO.D.280と同じ濃度(O.D.=0.56)に加え、その効果をみたところ、有効成分は明らかにpeak にあった。 でもcolonyはできるがsizeは小さい。(表を呈示)。
 2.G-15による分離
 G-25の有効fraction をあつめ、rotary evaporatorで約10xに濃縮し、G-15を通した。(図表を呈示)3つのpeakに分れる。このうち、有効なのは 3のみである。(現在BP 10%液をそのままG-15にかける方法でこのfractionの分離を行っている)
 以上のように、BHK-21のagar内growthに必要なのは、Bacto-pepton中の比較的低分子のpeptideのようです。さらにDEAEなどのcolumn、paper chromatographyで分ける必要がありそうです。

《山田報告》
 少量細胞の細胞電気泳動度測定のための泳動管の改良
 従来の細胞電気泳動度測定には四角型と丸型の泳動管が用いられているが、その測定には少くとも100万個前後の細胞を必要とした。従って培養細胞のごとく少数細胞を対象にして測定することは必ずしも容易ではなかった。
 この点を改良するために泳動管の測定窓に直接少量の細胞を注入出来る装置を考案した。(図を呈示)図の示すごとく細いビニールチューブを測定窓に直接連絡して、ここから少量の細胞を注入して測定出来る様にした。
 この改良により、少量細胞の細胞電気泳動度測定が可能になり、基礎実験によると、最低5000ケの細胞でも測定可能となった。しかし通常楽に測定出来る細胞量は2〜30000個の細胞が尚必要である。

【勝田班月報・6805】
《勝田報告》
 A)L・P3細胞の4NQO処理と、それによる抵抗性の変化:
 前月号の月報に、完全合成培地で継代しているL・P3細胞を、4NQOで長期間処理したことを報告したが、1)無処理のL・P3、2)2回処理したL・P3、3)長期処理したL・P3の3種について、4種の濃度に4NQOを添加して抵抗性を比較してみた。
 1)無処理L・P3。
 2)1967-12-17と1968-1-2、3.3x10-6乗M、30分間の2回処理。
 3)1967-12-17、1968-1-2に同様処理後、1968-2-21より4-9まで5x10-6乗M入れつづけ。
 この3群を4月20日に継代し、2日培養した后、培地を交新し、そのとき次の各濃度に4NQOを添加し、その3日后に細胞数を算定した。
 4NQO:0(Control)、10-6乗M、3.3x10-6乗M、5x10-6乗M、10-5乗M。
 結果は(図を呈示)、無処理、2回処理の群では、10-6乗M、3.3x10-6乗Mの濃度で細胞増殖が反って促進されている。長期処理では10-6乗Mで促進がみられる。無処理群と2回処理群とは全体の傾向が酷似しているが、長期処理群ではやや異なり、10-5乗Mでの阻害度も少く(1ケタちがう)、10-6乗Mでの増殖促進度も低い。簡単に云えば他の2群より感受性が鈍っているといえる。問題になるのは、何故増殖が促進されるのか、何故10-5乗Mでそれほど阻害されぬのか、の2点である。4NQOの結合する細胞成分については安藤班員が現在検索中で、班会議には若干のデータを報告できる見込である。
 B)4NQOのphotodynamic action:
 4NQOにphotodynamic actionのあることをがんセンターの永田氏(Nature.215(5104):972-973,1967)が云っておられるが、これは事実らしいデータを得た。

《佐藤報告》
 ◇ラッテ肝細胞←4NQO
 Exp-7細胞に4NQOを投与する実験(月報No.6801)で実験群49匹中14匹に腫瘍が発生した。対照実験動物は10匹いづれも発癌していない。以下腫瘍を形成し死亡したラッテを列挙する(表を呈示)。動物No.18及び19のものは腹水型の癌でした。その他の12匹は固型のTumorでした。腫瘍の組織像は上皮性のものです。ただ1例動物No,69の腫瘍にはFibrosarcoma様の部分が混在して認められた。動物の平均生存日数は185日である。発癌と濃度等の詳細はもう少し腫瘍死動物が増して後行う予定である。又mitotic indexと4NQOの関係も調査中である。
 (表を呈示)以下は従来の報告後復元された実験動物である。
 ◇Exp-7系(ラッテ肝細胞)の染色体分析
 Exp-7←4NQOで肝癌の発生がおこる可能性が高まったので、Exp-7の単個培養を始める計画をつくった。以下はExp-7の染色体分布である(図を呈示)。
[核型分析・Normal karyotype of Donryu-rat strain(bone marrow cells)]上記の核型分析は生后10日のラッテのbone marrowより作製したもので、Subtelocentric chromosomes4つと最も大きいTelocentric chromosomeが特長です。Exp.のtotal culture daysの212のものは染色体数分布のみで核型分析はしていない。42のものは22%。
[核型分析・Karyotipe of Exp-7 at 312 culture days]312 total culture daysのもので、diploidは30%ですべてnormal karyotypeのものであった。目下この附近の培養細胞から、Purecloneをつくるべく努力している。
[核型分析・Karyotype of Exp-7 at 512 total culture days]512 total culture daysのものである。染色体数分布では、diploid numberのものは16%であった。8ケの内5ケはnormal Karyotypeであったが、残り3ケはpseudo diploidであった。培養における染色体の変化については後にまとめてのべたい。Exp-7では少くとも染色体分析の上で512 totalculture daysまでは正常?細胞がのこっている。

《黒木報告》
 現在進行中の仕事
結論も出せないしうまくいくかどうかも分らない現在進行中の仕事について触れてみます。 1.同調培養系によるtransformation:
 発癌剤をかけてから40日なので結論的には云えませんが、現在までのところではexcess TdRと同時に4HAQO(10-4.5乗M、1.0h)をかけたのが(そのあとすぐ洗った)transformationしそうです。そこで考えられるのは、(1)4HAQOのinteractionはnon replicatingDNAを必要とする。(2)transformationをfixationするのには、interactionのあと(直ちに?)、DNAのreplicationを必要とする。の二つです。これからreproducibilityと(1)(2)の可能性をめぐるexp.を行うところです。
 2.4HAQO、4NQOとDNA合成との関係:
 現在まで分ったのは4HAQO、4NQOには、G2 blockとG2 delayがある。G1 blockはなさそうだ。S期のDNA合成inhibitionはあるが、24hrsにはrecoveryする。これらの作用は、non-carcinogenic derivativeにはない。
 3.BHK-21/4HAQOの系
 現在まで7つのexp.を行って6つで成功、transformet.のassayは寒天内growthが一番頼りになりそうである。普通のコロニーの形態とagarの関係は複雑、寒天内コロニーは処置後1ケ月で現れることなど、目下clone13をMoskowitzからとり寄せて再試中です。


《高木報告》
 先号に記載した4NQO、NGに関する実験は、3月末から4月初めの学会中に、培地のfungus cotaminationのため残念ながら中止のやむなきに至った。
 1.4NQO添加
 1)NQ-6:RL-2cells。生後4日目のWKA系ratの肺からとった細胞で、7日後に継代した2代目の細胞を用いた。primary cultureはfibroblastで、継代後ガラス壁に附着したexplantからepithelial cellsのわずかなoutgrowthをみたが、殆どfibroblastからなっていた。
 4NQOは各濃度にHanksにといて2時間作用せしめたものを1回作用とし、さらにつづける場合には隔日に2時間ずつ作用せしめた。
 対照・2代目継代後7日目に3代に継代した。3代目はfibroblastic。
 10-6乗・2代目継代後4日目より隔日に2回作用せしめたが、大したcell damageはなく、ただgrowthはややおそくなった。殆どfull sheetの状態で4NQO除去後2日目に継代した。同様にして3回作用せしめたものは細胞は殆どdegenerationしたので、refeedして目下観察中である。
 5x10-7乗・2回作用せしめたがcell damageはあまりなく、4NQO除去後2日目に継代す。その際細胞はinoculum sizeの約5倍の増殖であった。3回作用せしめた培養もcell damageはあまりなく継代後さらに24時間を2回作用せしめたところ可成りのcell damageがおこった。 2x10-7乗・2回作用後継代した。その際細胞はinoculum sizeの約6倍の増殖をみとめた。morphologicalな変化はみられなかった。3回作用後さらに24時間を2回作用せしめたが、4NQO添加開始後2週間の現在まで変化はない。
 2)NQ-7:RT-7 cells。生後4日目のrat thymusよりえたfibroblastic cellsで培養開始後10日目に2代目に継代し、継代後4日目に4NQOを添加した。
 10-6乗・1回の作用でcell damageひどく、growth mediumでrefeedしたところ10日後より恢復しはじめた。
 5x10-7乗・2回作用せしめるも細胞に変化はみられず、ついで培地に4NQOを加えて96時間作用せしめたところ、ややcell damageがおこった。4NQO除去後3日目に継代したが、その際細胞数は2代目継代した時のinoculum sizeと同じ位であった。
 2x10-7乗・2回作用せしめたが変化なく、さらに96時間培地に加えて作用せしめ直ちに継代す。その際の細胞はinoculum sizeの7倍位の増殖を示した。
 対照・1週間で7倍の増殖をみた。fibroblastic cellsである。
 2.NG添加
 1)NG-11:RL-2 cellsの2代目継代後3日目のものに10μg、5μg、1μg/mlの濃度を2時間ずつ作用せしめた。
 10μg/ml・1回の作用でcell damage著明。refeed後次第に恢復しつつある。
 5μg/ml・2回の作用で可成りのcell damageあり。しかし10μg/mlより恢復早く、1週間後に増殖をはじめる。NGを除いて9日後に5μg/mlを作用せしめたが、今日まで特に変化を認めない。
 1μg/ml・2回作用せしめるも変化なく、直ちに3代に継代し、各々に10μg、5μgおよび1μg/mlを作用せしめる。経過観察中である。
 なお生後4日目のWKA ratの胃の培養をこころみているが、modified Eagle's mediumに20%の割にCalf serumを加えた培地で前報同様epithelial cellsの増殖をみた。しかしこの細胞の継代はきわめて困難である。このprimary cultureに、NG 10μg/ml加えてみたが、epithelial cellsのdamageははなはだしく、今日まで(約4週間後)恢復をみない。

《三宅報告》
 本年2月21日、初代培養を行ったヒト胎児皮膚のFibroblastについて、4NQO 5x10-6乗MとH3-TdR 1.6μc/mlを同時に添加して、4NQOがはたしてG-blockに作用するものか否やを検索しようとした。その結果は図のようになって(図を呈示)、対照のlabelingは上昇せず(4NQOの濃度の高さのためか)、又実験群では2時間30分を頂点として、急激にL.I.は下降を示した。この急激な下降は、株化した細胞でなかったためであろう。(このためにL株を一度これと同じ操作の下において検索をしたいと考えている)。こうした所から、(1)G1-blockが一方では考えさせると共に、(2)Cycleがととのえられている細胞(株細胞)であれば、下降は漸減的な傾斜をもつ筈である所からみると、4NQOが細胞のphaseに作用して、(それがどのCycleにあっても)DNA-synthesisに影響を及すまでに、一定の長さの時間を要するものであるかという(1)と、(2)の場合を考えさせた。4NQO群は、3hr.目1.0%、以下24時間目が1.0%であるのを除き、すべてが0%であった。

《藤井報告》
 Exp.032568,A:抗ラット肝組織兎血清による抗原分析(図を呈示)。
 抗血清:a)抗AH130兎血清(癌細胞)、1/1
     b)抗ラット肝組織兎血清、1/1
     c)抗AH13兎血清(1964)、1/1
 抗原:(1)(2)ラット肝ホモジネート(PBS)、500万個/ml
    (3)(4)ラット肝ホモジネート(0.5%DOC)、500万個/ml
 ラット肝組織、500万個cells/mlは抗ラット肝抗血清に対し、DOC抽出抗原では、抗血清側よりa、b、c、d、eを、PBS抽出抗原ではb、c、d、eでa-lineを欠く。
 抗AH130と抗AH13は、正常ラット肝DOC抽出抗原に対し、うすい沈降線2本を示すが、これらはDOC抽出抗原の周にあらわれるhaloの辺縁とその内側にある。haloの部分はlipoproteinが染っているものと思われる。
 この2本の沈降線は、不思議なことに、AH130-DOC抗原、AH7974-DOC抗原に対しては出現しなかった。即ち、抗AH130血清−AH130では沈降線が出ない(Ex.032568,C)。この場合抗原AH130は1,000万個cells/ml相当のDOC-extractであるが、これからみると、tumorの場合、細胞数で正常肝組織細胞と抗原濃度を合せると、少なくなりすぎるようである。
 Ex.032568,D:ラット肝細胞下分劃の抗原性(図を呈示)。
 (b)抗ラット肝組織抗血清1/1
 (1)ラット肝ホモジネート(DOC)、500万個/ml
 (2)AH130 in DOC、1,000万個
 (3)ラット肝核(DOC)
 (4)ラット肝ミトコンドリア(DOC)
 (5)ラット肝ミクロゾーム(DOC)
 (6)AH7974 in DOC、1,000万個/ml
ラット肝細胞下分劃は、肝を門脈より生食水を注入して充分潅流して后別出、細胞はテフロンホモジナイザーで圧挫し、1回凍結融解操作を加えてから氷水に浸しながら、ホモジナイズした。顕微鏡下に、細胞が全て破壊されているのをたしかめてから、超遠心法により、核、ミトコンドリヤ、ミクロゾームの分劃に分けた。溶液は蔗糖を含むTrisbufferである。
 抗肝組織抗血清(b)に対し、ラット肝DOC-抗原(1)、核分劃(3)、ミトコンドリア分劃(4)では、同様な沈降線が出現するが、マイクロゾーム分劃(5)は、沈降線a、b、eを欠く。ミトコンドリアでは、d、eの間に1本(f)が出る。AH130、AH7974に対しては沈降線はあらわれない。
 この実験の方法からは各分劃の抗原性を比較することはむつかしい。mediumがPBS-agar、PBS-DOC-agarであるかぎり、溶出して来る抗原は元の肝組織抽出液と、異なる筈がない。nuclei分劃には多分に他分劃の混入があるのでnucleiの抗原が4つ検出できたことにはならない。ミトコンドリア分劃では1本多く、ミクロゾームでは2本しか沈降線がないのは有意がどうか?
 今后の問題として、Microplateではなく、普通のシャーレ法でdouble diffusionをおこない、それぞれの沈降線を切り出して、それを以って兎を免疫して抗血清をつくることにより、正常肝細胞と癌細胞、培養細胞等の抗原の比較おこなってみたい。

《安村報告》
 ☆1.かえり新参のごあいさつ:ふたたびこの月報に原稿を書くようになりました。かぎられたfacilityとかぎられた研究費で最大限の効果をあげること、これが日本の研究者の与えられた宿命みたいなものです。このことはアメリカの研究者よりharder work、morefantastic ideaをわれわれ日本の研究者に課するものでしょう。容易ならぬことだと思います。貧すれば鈍す、やすきにながれる、いろいろ先人は教えてくれています。そこで息のながい癌研究には研究者が癌細胞のごとくたくましく生きることを必要とするようです。以上は進軍ラッパです。
 ☆2.さて現実問題・・・勝田班長のLab.のヒサシをかりて、そのfacilityを利用する。これは身近でdiscussionの利点がある。(欠点はいまのところ問わない。)
 2-1.プロジェクト:In vitroの実験材料をクローンから出発して、spontaneous trans-formationをガッチリおさえておくこと、(このことは外来のagentによるtransformationの基礎データを提供する。)
 2-2.上のプロジェクトにしたがって初代培養でクローンがとれるか? まず実験をくんでみる。
2-3.実験材料:幼児アルビノハムスター(baby hamsterのつもり、albinoとあるのは毛が白いからか? 医科研で維持している、ゴールデンハムスター由来のvariant strain、もとは米軍の406研から分与、現在純系化されている?)の腎組織、および副腎組織、2匹分(両者♂)プール。
 2-4.方法:腎組織は室温で10分トリプシン消化、消化液はすてる。再びふらん室で20分トリプシン消化、消化液を150メッシュを通して使う。mediumはDM-140(合成培地)+コウシ血清10%。副腎はハサミで細切して(1x1mm)直接platにまく。細胞はFalconのプラスチックプレート(60x15mm)にまいて、CO2ふらん器で培養する。
 2-5.:1)腎細胞はtrypsinizationのあと、erythrosinBでviableのものを数えると47%(platingの直前)。サル腎の経験からすればまずまずというところだと考えられる。ひと稀釋あたり3枚のプレートにまき、21日後にコロニー形成をしらべた。途中2週目に一回液がえ、結果は図にみられるごとく(図を呈示)接種細胞数とコロニー数の関係がlineerになってはなはだうまくいっていますが、コロニーあたりの細胞数がせいぜい10〜30というサイズで、クローンをとることができません。このことはDM140液の塩類組成が影響しているかも知れません。(DM140は閉鎖系のためのもので、CO2培養用ではないので。) なぜなら、予備的に実験した199+10%コウシ血清10%(ただし血清のロットは違う)の20,000/plateのものでははるかに大きなコロニーが得られている。上の実験かコロニー数だけを問題にするなら、plating efficiencyは1.5%と予期されたより高い値を示しています。これは接種されたviable cellsあたりです。
 2)副腎細胞はcontaminationのため失敗(これはわたしの腕がわるいのではありません。もともとIncubatorがひどいcontaminationしていて、このplateは裸のままincubateしたためです。・・・腎の方は大きなガラスシャーレに2重に“いれこ"にしたので汚染をまぬがれました。)
 2-6.考察:以上のことから、まずまずPlating efficiencyはよろしいし、どうやら統計的にいってもコロニーはsingle cellから出発しているらしいことは分ったが、隘路はコロニーサイズが小さいこと、これではクローンがひろえない。培養液の検討をしなければなりません。つぎの実験で予備的にさしあたりDM-140の塩類組成をEarle液にしてあたっています。少なくともコロニーあたり1,000〜5,000ぐらいの細胞数のコロニーを作らせないとcloningはうまくいきそうもありません。現在2代の細胞をもういちどまいて、しらべています。(以上のことがらは勝田Lab.のひさしのもとでやったものです。)
 ☆3.SV40を接種してできた腫瘍を培養してえられた細胞株:
 この株細胞(Havito)は4年くらいまえに培養学会で発表したものです。由来はゴールデンハムスターです。特長は解糖がなみはずれて早いように思われます(Eagle-MEM+5%ウシ血清)。液がえして6時間もするとpHがさがり液が黄色になります。
 このことが“もの"のorderで癌化と結びつかないかと考えています。normalのハムスター細胞とのhybridizationがいかないかetc。(ちなみにこのHavito cellはウィルスはだしていません。) 

【勝田班月報:6806:4NQOのphotodynamic action】
 A.ラッテ肝細胞の増殖期による4NQOの感受性の相違:
 これまでの実験で、どうもその都度、都度で4NQOの細胞に対する影響にむらがあるように思われたので、RLC-10株(正常ラッテ肝細胞)を使って増殖のいろいろな時期に4NQOを添加し、その増殖に対する影響をcell countingでしらべた。
 結果は(増殖曲線の図を呈示)、増殖のstageによって細胞のresponseがかなり違うことが判った。しかしこれは、他の実験からも判ったことであるが、細胞のstageというより、むしろ細胞数/tubeの影響が大きいのではないかと推測される。
 B.4NQOのphotodynamic action:
 前月号の月報に記したが、癌センターの永田氏が4NQOのphotodynamic actionについて報告している。我々も顕微鏡映画で観察していて、どうもそれに一致するようなデータを色々と得たので、果してそれが本当かどうか、cell countingで定量的にしらべてみた。細胞はRLC-10株(正常ラッテ肝)で、4NQOで37℃、3.3x10-6乗M(その他の濃度もみたが)、30分間処理後すぐに365mμのマナスル・ランプで、室温で2時間照射し、増殖に対する影響をしらべた。No.6709の月報に報告したように、4NQOの特異吸収は366mμと252mμにあるので、この波長は正しいと思う。
 (結果の図を呈示)おどろいたことに、正にphotodynamic actionを4NQOの持っていることが確認された。
 光だけを各種時間に照射したcontrolsははっきりとした増殖抑制は認められない。ところが4NQOで30分間処理した直後に光をあてると、照射時間の長さに比例してはっきりと細胞の破壊が起った。
 同様の実験を、種々の濃度の4NQOについておこなった結果、やはり4NQOの濃度の高いほど細胞障害は強く現われた。
 このようなphotodynamic actionがどんな意味をもっているか、ということであるが、永田氏はphotonによって4NQOにfree radicalができて、それが細胞のDNAに破壊的に働く、と考えているようである。しかしそのようなDNA levelでの障害が直接発癌に結びつくかどうか、私は疑問に思っている。photodynamic actionは発癌作用とは関係のない、副次的な現象であるかも知れないし、あるいはきわめて重要な役割をしているのかも知れない。これは今後解明すべき問題である。
 H3・4NQOを培地に入れると、4NQOは細胞内の色々な成分と結合するが、とくに蛋白との結合量は大きい。Biochemistsはすぐに核酸の方を考えたがるが、この場合、蛋白、とくにlysosomal enzymesとの関連などについてしらべることは大変面白いのではないかと、私は思っている。そして4NQOの解毒をする酵素の誘導も大いにしらべてみたいと思っている。

《安藤報告》
 H3-4NQOの細胞内への取込みのKineticsについて:
 A.L・P3細胞の場合:
 実験方法は月報No.6801に勝田先生が書かれている方法と基本的には同じです。即ちL・P3細胞を培地DM-120中TD-40で約500万個/bottle迄生やし、これにH3-4NQO(がんセンター川添氏より分与)10-3乗M in 10%DMSO液を0.1ml/10ml培地/TD-40添加し、終濃度10-5乗Mとする。直ちに培養ビンは出来る限り遮光し37℃静置培養する。
その後、時間を追ってサンプリングし、培地を捨て、Dで一回洗う。
 細胞を少量のDに懸濁し、酸不溶性分劃(核酸、蛋白が主成分)と酸可溶性分劃に分けカウントする。
 結果及び考察:(図を呈示)
 1)酸不溶性分劃への取込みは30分で止り、その後2時間迄不変のようだ。5時間目の点が下っているのは、本質的なものか実験のエラーか不明。
 2)5時間目に培地中よりH3-4NQOを除くと、この不溶性分劃のラベルは再び放出されるようだ。この部分が核酸についていたものか、それとも蛋白についていたものか定めるべきだろう。
 3)月報No.6804に堀川さんが記しておられるように、酸可溶性分劃への取込は非常に特異的である。即ち30分あるいはそれ以前に最大値に達し、以後、培地中に多量存在するにもかかわらず、細胞外に放出されてしまう。毒物に対する細胞の防衛機構を如実に見せられた思いである。L・P3は4NQOに対し次に調べた正常ラット肝細胞よりもより抵抗性が強いので、そのためにこのような再放出の現象があるかと思って、RLC-10についても同様な実験を行ってみた。(図を呈示)図にある通り全く同じ結果となった。
 B.RLC-10細胞の場合:
 4NQOに対する感受性の、より強いラッテ正常肝細胞の場合に於て異なる結果を期待したが、酸不溶性分劃への取込みも、酸可溶性分劃への取込みも、全くL・P3の場合と同じであった。但し使用培地はLDにCS・20%添加したものであり、H3-4NQOの濃度は3.3x10-6乗Mであった。
 C.L・P3細胞の核酸、蛋白質分劃への取込み:
 L・P3を前記条件で2時間H3-4NQO処理を行い、直ちに細胞分劃を行い、核酸分劃と蛋白分劃に分けてみた。
 分劃       DPM/1,100万個cells  %分布
 細胞全体      170,450       100
  酸不溶性分劃    8,615        6.4
  酸可溶性分劃   125,910        93.6
 酸不溶性分劃の内             100
  核酸分劃      2,620        23.8
  蛋白分劃      8,520      76.2
 上記の表のような結果になった。今後の方針として、更に核酸分劃のRNA、DNAを分け、各々いかなる塩基と結合しているか、又蛋白部分についても、いかなる種類の蛋白に結合しているか、等を検索する予定である。

 :質疑応答:
[堀川]4NQO処理後のwashはどの程度やりましたか。
[安藤]等張液でさっと一回洗うだけです。
[高木]4NQOの濃度はどの位ですか。
[安藤]L・P3は10-5乗M、RLC-10は3.3x10-6乗Mが終濃度です。
[堀川]細胞当りの取込み量は、L・P3とRLC-10でちがいますか。
[安藤]ほぼ同じ位です。
[堀川]私の実験でも酸可溶性分劃のcountが短時間で最高値に達し、それからすぐにすっと下がってしまうのは何故でしょうか。
[黒木]10-5乗Mで5時間も添加していると、細胞が死んでしまいませんか。
[勝田]L・P3は4NQOに対してすごく強い細胞系で、5時間位では平気です。それにRLC-10にしても映画での観察によれば、死に始めるのは5時間よりずっとたってからですね。むしろ、そういうことより細胞側の解毒作用というか、4NQO分解酵素の活性がinduceされて、その結果として酸可溶性分劃のcountが急激におちるとは考えられませんか。
[梅田]若しそうだとすると、5時間後に又4NQOを添加してももう受付ないという現象が起るはずですね。
[安藤]それは面白い考えだと思います。早速やってみましょう。
[勝田]私もその考えは面白いと思いますね。しかし、培地中に4NQOが一杯あるというのにその取り込みにピークがあり、急激な減少があるというのは又面白いことですね。
それから、うすい濃度でL・P3の増殖を促進するのですが、その時4NQOが細胞のどの分劃に取り込まれているかということにも興味があります。安藤君は核酸を追いたいというだろうが、私はむしろ蛋白の方に問題があると思い、蛋白を追え!と言っています。
[堀川]始の報告のphotodynamic actionについてですが、その機構はまだよくわかっていないのですね。
[勝田]癌センターの永田氏の話では、4NQOの誘導体の殆どが、発癌性とphotodynamic actionが平行していますが、4HAQOだけが例外で、発癌性は高いのにphotodynamic actionはないということです。
[佐藤]しかし動物の体内での発癌を考える時、photodynamic actionなんで考えられないと思いますが。
[勝田]そうですね。そう考えると培養での4NQO発癌実験も光を与えてどうなるかより、真暗な中で培養するべきだということになりますね。実際に、暗くして映画を撮ってみますと、細胞のこわれ方もずっと少ないし、何か細胞の状態が明るいままで映画を撮った時とちがうようです。
[堀川]photodynamic actionは治療に利用出来そうな気もします。
[高木]最後の図は4NQOの細胞周期に対する影響というよりも細胞数に対する影響をみていることにはなりませんか。
[勝田]そうです。
[黒木]生きている細胞でなくても、レントゲン照射した細胞をフィーダーにおいても4NQOの毒性は弱まります。
[勝田]そういうことは何を意味しているのでしょうか。培地にはありあまる程4NQOがあるわけですから、細胞数が多くなっても細胞1コあたりの4NQO量がうすまるわけではありませんし。
[堀川]私の実験からは、取り込んだ4NQOを4HAQOに変える能力の違いが細胞の4NQOに対する抵抗性の違いとなって現れてくるというようなデータになりつつあるようです。
それから、又photodynamic actionの実験ですが、4NQO処理後すぐ照射する実験の他に処理後の時間をかえて照射するとどうなるかもしらべると面白いですね。
[勝田]これからしらべてみます。私達はこれからL・P3をモデル実験に使いたいと思っています。L・P3は現在の所C3Hには腫瘍を作りません。L・P3は合成培地に増殖している細胞で、血清培地で飼われている細胞とは膜の構造が全然ちがうわけです。にもかかわらず4NQOの作用(今の所取り込み)が同じだということは4NQOの作用が膜構造には左右されないといえると思います。

《佐藤報告》
 ◇4NQO発癌実験の現況
 A.ラッテ肝(Exp.7)←4NQOはその後2匹のtakeで実験例49匹中16匹(33%)が発癌。
対照群は10匹中0となった。現在最終復元動物が7ケ月を経過したので近く全動物を屠殺処理する。
 復元接種動物が腫瘍死するまでの平均日数は188日であった。
 腫瘍の組織像は肝臓癌と診断されるもの12例、癌肉腫と診断されるもの2例、繊維肉腫と考えられるもの1例、残りの例は腫瘍であることは間違いないが性格(ラッテ自然発癌?)がよく分らなかった。
 核型分析
 Exp.7 肝細胞株の対照株については前号に報告した。この対照株の総培養日数512日に当たる実験株526日の培養時における染色体と、動物復元後発生した腫瘍の再培養細胞の染色体分析をおこなった。
(染色体数分布図と核型分析図を呈示)核型分析ではNeoplastic line即ち4NQOを投与された総培養日数500日以上の培養細胞では41にmodeがあり、50ケのMetaphase中に22ケの44%を示した。10ケのMetaphaseの分析を行った所、略同一の核型を示した。即ちMeta-Group 12ケ、ST-Group 7ケ、T-group 18ケ及び異型染色体4ケの計41である。異常染色体4ケ以外の染色体は略正常なラッテの核型である。(異常染色体4ケの模型図を呈示)腫瘍再培養細胞の染色体数は43にModeがあるので、分析可能な43の2ケのMetaphaseについて検索した所、1つは前記同様の4つの異型染色体Groupをもっていることが判明した。他の1つは異型染色体2つをもっていたが特異なGroupは存在しなかった。然し描写による検索では前記4Groupをもつ染色体型が他の染色体数の部にも広く認められた。極めて単純に云へばこの4Groupの発生が4NQOの作用によると考える。
 上記のNeoplastic lineを動物に復元し出来たTumorを再培養したものの核型は(図を呈示)異型染色体はTumor lineの6Groupとなっていた。この場合Modeは43であった。幹細胞の数は22%であった。検索された10ケの核分析の内9つは同型であり、動物復元前時の特異的4Groupの他にsmall sizeのTeloが2ケ増加したものであった。動物復元前の4NQO処理培養細胞の中には今の所この型は見当らないが、それは培養細胞時にはPopulation中における%が低いためであろう。この点はギムザ標本及び復元動物の生存日数からも推定できる。(対照の培養細胞に現れる異型染色体図を呈示)此等の異型染色体が個々に現われる場合が多い。今後尚詳細に検討していく積りである。
 4NQO耐性の問題:
 4NQOによって発癌したと考えられる株細胞(Exp.7)と、その株細胞を動物に復元接種しTumorより再培養した細胞、及び対照株について継代培養と同時に4NQOを10-6乗M、10-7乗M、10-8乗Mに添加して48時間後の細胞数を比較した。(図を呈示)結果はNeoplanstic lineもTumorよりの再培養細胞(Neoplastic lineよりTumor cellを取りだしたもの)も共にControlに比較して耐性をもっていた。この場合の耐性は、既にDABの場合にも述べた様に薬剤中に長く存在したための耐性で腫瘍とは関係がない様に考えられる。
 B.動物復元 続き
 動物番号146〜157の復元表を呈示する。
 C.培養ラット肺細胞←4NQO
1967-6-1に生まれる直前のラッテの肺細胞をtrypsinizeして、20%BS+YLEで培養し、4NQO実験を行っていたものの内、10-6乗Mの4NQOを33回処理したものでラッテ新生児皮下復元にTumorを発見した。腫瘍の性格は未だよく分らない。
 D.ラッテ全胎児←4NQO
 (5例の実験の一覧表を呈示)
 動物復元観察日数は丁度6ケ月である。従って6ケ月でTumorをつくらない場合には結果は腫瘍形成がないことになる。5例中で実験RE-5、10-6乗M、100日処理のみが+であった。

 :質疑応答:
[黒木]今、呈示された表で、濃度を同じに換算して時間の統計として比較するというのは、理論的に意味ないと思われますが、どうでしょう。薬剤の濃度と処理時間というのは異質のものだと思います。
[安藤]ある濃度以下の処理では何時間処理しても効果がなく、それ以上だと10分でも効果があるといった、oll or noneの場合もあるから、時間の総計で比較するために濃度を同じに換算するのは少し変ですね。
[佐藤]逆にそういうことを証明するのに、こういう計算をしてみた積りです。つまりうすい濃度では濃い濃度での集計時間に達する程の長い時間処理しても悪性化はおこらないのだ、ということが数字で現せると思います。
[勝田]復元例で、同系の細胞なのにtakeされたり、されなかったりするのは何故でしょうか。
[佐藤]培養だけでつづけている系と、一度復元してtakeされ再培養した系では染色体の核型が多少ちがっています。そういう点から考えられることはRatの肝細胞の場合、全部が悪性化しているわけでなく、しかもそのpopulationが培養の時期によって変わるので、takeされたりされなかったりするということです。
[梅田]基本的なことですが、LD培地とYLE培地とはイーストエキストラクトのあるないの他に、pHもちがうわけですから、要素を二つ変えて比較するのはよくないと思います。LDとYLDにするべきですね。
[黒木]コロニーを作らせることは出来るのですか。系の一部が悪性化しているのなら、悪性細胞のコロニーを拾えば、動物への復元の問題は解決されると思われます。
[吉田]動物への復元実験の対照群の匹数が実験群に比べて少なすぎるようです。このデータですと対照群の中に変異細胞がいないとは断言出来ませんね。
[佐藤]それは私も痛感しています。これ以後の実験では対照群を増しています。
[勝田]何時も云うことですが、反復実験は同じ系の培養でなく、新しい系で追試した方がよいですね。
[堀川]耐性をしらべたgrowth curveの所で、耐性についてですが、takeされるようになった時までに添加された4NQOの濃度はどの位ですか。
[佐藤]濃度は一定でなく、かなり長く処理しています。この場合耐性は悪性と平行するものではなく、4NQOを添加していた期間に平行するものと考えられます。
[三宅]復元して出来たtumorの組織像は上皮性な感じがしますね。エオジンをよくとっているのは、ケラチン様物質があるのではないでしょうか。
[吉田]染色体の核型分析についてですが、1例でははっきりしませんが、本当なら面白いですね。私自身のデータからも染色体の変化と悪性化とが関係づけられる、ある染色体のパターンがあるようだとは考えています。
[勝田]ただ、1例では何とも言えませんね。
[安村]再培養した系の場合、43本でないものでも、この5本のグループを持っていますか。
[佐藤]たいてい持っているようですが、まだ正確にはしらべてありません。
[安村]再培養した細胞系を又復元するとtakeする率がよくなりますか。又復元前の細胞の染色体の中にtakeされた細胞の染色体と同じものがありますか。
[佐藤]50コ位しらべてみた所では見つかっていません。しかし、もっと沢山エネルギッシュにしらべてみたら見つかるのではないかと考えています。又培地や培養法をかえれば、悪性細胞をセレクト出来るのではないかと思います。
[安村]動物への接種細胞数はどの位ですか。
[佐藤]だいたい100万個位です。
[安村]矢張り何コ中に1コの悪性細胞がいるのかということを調べておく必要がありますね。それから、この5本のグループの染色体が確かに悪性と関係があるのだと言いたければ、ハイブリッドを作らせて、この染色体のはいったのが悪性だということまでチェックすればよいでしょう。
[吉田]実際にはなかなか難しいことです。この染色体があるから悪性化しているのか、或は他の染色体が無くなったこととの組合わせに於いて悪性化と関係があるのか判りませんね。それから4NQOが染色体変異を起こすことは確かです。このデータもその変異の一つでしょう。しかし4NQOによる悪性化が、こういう染色体変化に集約されるとは断言出来ません。
[佐藤]変異だけでなく、次に悪性化することを考えれば、変異したものが一定の方向に集約されることも考えられると思います。
[勝田]染色体の標本をみる場合、数えられないもの、しらべられないものが沢山あり、そういうものの中に問題がある場合も考えられます。
[安村]復元前の培養細胞の中に、この5本のグループがあるのか無いのか先ずしらべてみなくてはいけませんね。その上で5本のグループの中の2本の染色体がクサイという事実があれば、それがハイブリダイゼーションという手法で確かめられるのではありませんか。
[堀川]酵素活性と関係のある染色体の場合とは違って、腫瘍性と関係のある染色体というのは、すごく複雑でむつかしいと思います。
[安村]いや、私も腫瘍性を染色体でチェック出来るなんて事は否定の方に90%位ですが、若しできるとすれば大変面白いと思います。
[勝田]何にしても1例だけでエキサイトしなさんな。
[佐藤]私も1例だけで何とか言おうとは決して思っていませんが、ただこの例は理論的に考えやすかったので出してみたまでです。私として言いたいことは、この系の培養のpopulationの中に悪性化した細胞は少ないのではないかということ、又4NQOの作用したという証拠は残っているのではないかということです。
[勝田]佐藤班員の研究室でRatそのものの自然発癌率はどうですか。
[佐藤]非常に少ないようです。
[勝田]それも一応データとしてとっておいた方がよいですね。
[佐藤]復元実験のやり方を考えてみる必要を感じています。復元して長くおけばtakeされることがわかっているわけだから、もっと短期間で対照との比率に於いて悪性度をみることにしたいと思っています。
[安村]発癌剤によって悪性化する率が低いということは、Ratは発癌実験に不適当だということではないでしょうか。
それから接種数100万個の中、1、2コの悪性細胞が居たために動物にtakeされたとするなら、復元前にその100万個の細胞を寒天へまいてコロニーを作らせれば悪性のコロニーを1、2コ拾うことが出来るのではないでしょうか。現在の手法では、寒天法は悪性のコロニーを拾うために良い方法とされているわけですから。そうすればもっと高率にtakeされる系を作れるはずです。
[勝田]コロニー法ではpureなクローンはとれませんね。肝細胞を映画に撮っていて経験しましたが、分裂した娘細胞同志が一緒に居ずに離れてしまい、他の所から別の細胞が動いてきてくっついて、あたかも娘細胞同志のような顔をしていたりするのです。
[安村]クローンについては確かにそうですが、目的によっては定量的に扱えるということでコロニー法の利点もあります。
[藤井]腫瘍細胞には同種の抗体に抵抗性があるかも知れないということから、同種の抗体で悪性化した細胞をセレクト出来ないでしょうか。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞における放射線ならびに化学発癌剤障害回復の分子機構の研究(5)
 これまでの報告で培養細胞のもつ紫外線障害回復機構と4NQO処理による障害回復機構の間には何ら関連性のないことを示してきた。
 つまり紫外線に対して最も感受性株のブタPS細胞が4NQO処理に対しては最も抵抗性を示し、4NQO処理による障害回復の機構は紫外線照射によって生じるThymine dimerの除去機構では説明出来ないことがわかって来た。
 第2の段階として、4-HAQOに対するマウスL細胞、Ehrlich細胞、PS細胞の感受性を比較する問題が生じてきた。黒木さんより得た4-HAQO(国立がんセンター川添豊氏合成品)を使用した範囲では(図を呈示)、三者の細胞株間には感受性の差異は認められない。(これらはいづれも4-HAQOを含んだMedium内で約2週間培養期間中、それぞれの細胞を培養した際のcolony forming abilityからdetermineしたもので障害回復能よりもむしろ4-HAQOに対する耐性度をみたものであることに注意されたい!!)
 勿論現在の段階では4-HAQOの濃度分割が大きすぎるので正確な耐性度を比較することは不可能であるとは言え、本報No.6802に示した4NQO濃度−生存率曲線と比較して大きな違いのあることがわかる。また4-HAQOのtoxicityは生存率曲線でみた範囲では4NQOの10〜100分の1であることもわかる。
 従ってこれまでの結果を総合して考えると培養細胞間の4NQOに対する感受性の差異は、細胞間の4NQO透過性の差異で説明するよりも、4NQOを4-HAQOにreduceするreduction enzymeのactivityの差異で説明する方がよさそうである。
 このことは言葉をかえると、取り込んだ4NQOを4-HAQOにreductionする能力の高い細胞(つまりPS細胞のごときもの)では生存率で見るかぎりその毒性から受ける障害の度合が4NQOから受けるそれよりも少ないであろう。しかし発癌と云う立場からみると、このように4-HAQOにreductionする能力の高い細胞では発癌の可能性が高いと考えてもいい訳である。このような観点からみると、私が当初予想した考えがうまく説明出来そうで発癌のさいにtarget cellの存在を考えるのも面白い。

 :質疑応答:
[勝田]可視光線の光量をergで書いてありますが、具体的にどういう装置で照射したのですか。
[堀川](装置図を呈示)スターラーの上にのせたビーカーに水をいれて、その中にtubeを並べます。60cm離れた所から東芝500w引き伸ばし用電球で照射しました。
[勝田]可視光線で2時間照射すると、コロニーを作る能力が減少したというわけですね。RLC-10の増殖に対しては影響がありませんでした。奥村君から貰ったハムスターの細胞は悪性化しているものですか。
[堀川]それについては、はっきり知りません。
[勝田]Chick brainにP.R.activityがあることになっていますが、どういうことでしょうか。何か他の酵素のside effectではありませんか。
[堀川]サイトクロムCなどがそうではないかと言われていたこともありますが、現在では否定されて、P.R.activityは独特のものだと言われています。放射線による断裂のrecoveryが、若し腫瘍を材料にした場合、腫瘍性を失うとか、はじめに持っていた酵素活性を失うとか、misrepairingで説明できないでしょうか。
[吉田]胎生の早い時期とadultでは、そういう修復機能がちがわないでしょうか。
[堀川・勝田]ちがうでしょうね。
[勝田]細胞の全cell cycleを通じてP.R.enzymeがあるとすれば、stageによってrepairのちがうのは?
[安藤]定性的にはいつもあってもstageによって活性の違うことも考えられますね。

《高木報告》
 1.4NQO添加
 i)NQ-6
 10-6乗:RL-2cells 2代目に2回作用させたものはあまりcell damageなく、2回目作用後2日後に継代した。10日後にはほぼfull sheetの状態になったので更に同濃度で2時間1回作用させた。今回は細胞は可成りのdamageをうけて殆ど脱落したが、約20日後にfoci2ケを認めた。うち1ケはpile upは認めないがfiberの形成がみられた。しかしこのcolonyの細胞の増殖はあまりよくない。
 5x10-7乗:2回作用せしめた後継代し、更に同様にして2回作用せしめたところ殆どの細胞は脱落してしまった。約20日後にfoci 2〜3ケ認めた。一部にはやはりfiberの形成があり、またpile upの傾向も認められるがgrowthはあまりよくない。
 2x10-7乗:この群ではcell damageは著しくなく、NQ処理にてもある程度細胞のgrowthは認められるが8回作用させたものでは最近growthがおちて来た。
 現在まで明らかなtransformationは認めない。
 対照:controlのgrowth rateは2代目が7日間で約3.5倍、3代目が10日で約2倍で、その後は継代時のcell damageがつよく、大体10日毎に継代しているが細胞数としては増加しない。
 ii)NQ-7
 10-6乗:第1回目作用後10日の間隔で2回目を作用せしめたが、約20日後に2ケのcolonyを認めた。1ケはpile upしないがfiberの形成が著明で、また培地が非常に粘稠になる。mucopolysaccharideの分泌を思わせる。
 5x10-7乗:3回作用後継代し、更に4回目を継代後10日目に2時間同濃度で作用させた。その後約20日経過するが、少数の細胞が残存しているのみでcolonyは認められない。
 2x10-7乗:3回処理後2本に継代、1本はその後も同様に2時間ずつ4回作用せしめた。また別の1本はNQ 2x10-7乗Mを含む培地を使用して継代し、3日間放置した。細胞はガラス壁にはよく附着したが、その間増殖は認められなかった。3日経過後NQfreeの培地と交換し、細胞の増殖を待って更に1回2時間同濃度を作用せしめた。
 現在両者共growthはおちfocusも認めえない。
 2.NG添加
 i)NG-11 RL-2cellsを使用
 10μg/ml:1回の処理により細胞は著明なdamageをうけ約40日を経過したがfocusなど認められない。
 5μg/ml:2時間ずつ4回作用せしめたがcell damageがつよく10μg/ml処理群と同様である。
 1μg/ml:2回処理後継代、更に3回処理して継代、ついで2回処理し、合計7回作用せしめたものではgrowth rateは、5代目は7日間で1.4倍、6代目は7日間で3倍である。又2回処理後継代し、同様に5回作用せしめたものは、4代目は13日間で1倍、5代目は7日間で2倍の増殖を示している。
 培養開始後60日目に固定し、giemsa染色したものでは対照に比して核の大小不同が著明である。
 継代後10μg/ml、5μg/mlを作用せしめたものは、細胞のdamageがつよく現在までgrowthはみられない。
 なお対照は5代目までは7日間で5〜13倍の増殖を示したが、6代目より殆ど増殖を示さなくなっている。
 なおWKA ratの胃の培養については、その後検討を加えているが、培地としては可成りアミノ酸、ビタミンに富んだものがよい様で、目下系統的に検索中である。

 :質疑応答:
[堀川]4NQOでラベルしたDNAを抗原にすると、抗体ができるよりさきに腫瘍ができるのではありませんか。
[勝田]今朝安藤班員から、4NQO*を細胞にとりこませた場合、acid soluble fractionに結合する4NQO量の消長度が大きいと報告されましたが、発癌性はinsoluble fractionの方にあるのでしょう。
[高木]抗原としてはinsoluble fractionの方を使います。DNAについた4NQOは37℃加温で簡単にとれてしまうそうです。
[黒木]できたtumorの間で共通な抗原がありますか。
[高木]それも大きな問題だと思います。
[勝田]抗血清を作っても、どういう方法で抗体をcheckするかが問題ですね。蛍光抗体法はnon specificの抗体がどうしても混ってきてしまうし・・・。ごく最近、山本正氏からきいたところでは、ヒトのγ-globulinとマウスのそれとが交叉するものがあるそうで、immuno electrophoresisも問題をもっていることになります。
[梅田]h2proteinsとさっきのinsoluble fractionとの関係はどうでしょうね。
[勝田]まだ判っていません。H3-4NQOで処理して、初期は細胞のどこに4NQOがあるか判っていても、その後、細胞が増殖をはじめれば放射能はうすまって、追跡が困難になりますね。
[梅田]DABとかDMBAはh2proteinsの塩基性蛋白の部分につき、4NQOはSH基につくと云われていますね。

《黒木報告》
 I.BHK-21/4HAQOについて
BHK-HA-1〜HA-7までの成績を表で示す。これらは(?)→マニラ(?)の予研分室→予研→山根研からのwild BHK、wild BHK-21より当研究室にて2回連続ひろったクローンC22、C22のクローンを3回連続のクローンC222を用いた。7例のうち配列は余り乱れず、しかし細胞はpile up、剥れやすく、このためコロニーの中心部はもり上り、まだらとなり、daughterコロニーが多くできるものが6例、その内2例は配列が乱れてcriss-cross様となるものが混じっている。あと1例はpolygonalなcellとなり、コロニーの形は丸い。又、5/7はBacto-peptoneなし寒天内の増殖能が獲得された。寒天内のコロニー形成率は20〜30%である。寒天内で増殖できるようになるまでの日数は、HA-4の21日、HA-5の63日までかなりのバラツキがある(HA-1の77日は、そのときはじめてagar cultureをしたので、いつから寒天内で増殖できるようになったかは明らかではない)。興味あるのは、この日数が、ハムスター胎児/4NQOのときのtransformationの日数と非常に似ていることである。
 ☆コロニーの形態と寒天内増殖能の間には一定の関係がみられない。またコロニーの形態も培養によって異る。HA-7にのみみられたpolygonalなコロニーは肉眼的にもはっきりと区別できる特徴的なコロニーである。HA-4#3は、寒天内のコロニーをひろったcloneであるが、寒天内で高率にコロニーを作るにも拘わらず、コロニーの形態は“normal”と区別しがたい。これをみるに至って、コロニーの形態からのtransformationの判定をあきらめ、agar中のgrowthのみにtransformationの基準を求めた。全体的に云えることは、寒天内で増殖するようになると、細胞が剥れやすくなり、daughter colonyを作りやすいことである。寒天内増殖と剥れやすさの間に何らかの関係がありそうである。
 ☆4NQO、4HAQOに対する抵抗性
以前と同じように、plating(200ケ/dish)後24hrsに4NQO、4HAQOを加える方法をとった。結果を表で示すが、抵抗性は生じなかった。
 ☆染色体分析:寒天内growthだけでは心細いので、もう一つのmarkerとして染色体分析を試みた。結果を図に示すが、HA-4#5がmode40本である他は、すべて41本にmodeがある。数の上からでは、transformantsと“normal”の間に差はなさそうである。
従来BHK-21細胞は、44本♂の核型をもつと報告されてきた。そこで用いているcellがBHK-21細胞のvariantである可能性が生じてきたので、Moskowitzさんから、BHK-21/C13というクローンを分与してもらった。
 BHK-21 clone13について
 BHK-21はBaby Hamster Kidneyの培養65日に突然増殖率が上昇し、establishされたが、それから19日目(total 65+19=84days)に分離したクローンの一つがC13である。C13は24cell generation増殖しharvestが10の8乗になったところで、大量にfrozen stockされている。StokerのLab.でtransformationの実験に用いられているのは、この凍結アンプレからもどして間もない細胞である*。このことは、彼らのpaperの中でくり返して強調されている。このC13はwildのBHK-21に比してmalignancyの低いということもStokerらによって報告されている。当研究室にきたのは、StokerのLab.で凍結もどしてから10日(60 cell generation)経たものをMoskowitzのLab.で5日間隔で67passageしたものである。*Nature 203,1964,p1355に詳しい。
 ☆先ずこの細胞及びそのpolyoma virus.RSU transformantsのBacto-peptone dependencyをみた。(結果表を呈示)
全く予想しなかったことに、C13はBacto-peptoneがあってもコロニーを形成せず、またそのpolyoma RSV transformantsはB.P.dependencyを有しているということである。すると今まで一生懸命やってきたBHK-21細胞は、全く“variant”ということになり、すべての実験をやり直す必要となった。この他にもC13とwildはかなりの差があり(表を呈示)、例えば移植性はwildからC22は100ケでも100%takeする(C13は目下experiment進行中であるが、10万個接種3週間でtumorを触れない)、4HAQO、4NQOに対する感受性もC13とC22には差があり、C13の方が感受性で10-5.0乗M4HAQOではすべての細胞が死メツし、5x10-6.0乗Mがよさそうである。このような発癌剤に対する感受性の差はSachsらも報告している(Nature,200,1182,1963)。
 由緒正しい細胞を選ぶべきであることを痛感した次第です。
 II.同調培養によるtransformatione(予報)
 2代目のハムスター胎児細胞をexcess TdR(7.5mM)によって(部分的に)同調させ、それぞれのphaseに4HAQO 10-4.5乗M1h.作用させることにより、発癌剤とcell cycleの関係をみようとするものです。(図と表を呈示)
 DNA合成は40%近くまで同調し、発癌剤処置はHA-50〜HA-58の9つの群をおき、それぞれの時間のときに処置した。
transformationの成否はまだ定かでないが、現在focusらしいものがみられているのは、HA-50、HA-52、HA-53、HA-54の四つである。さらに経過をみて(あと2〜3wks.)いくつもりである。
synchronousの方法もprimaryでconfluentしてG1でstopさせ、それをexcess TdR med.の中にうえこむ方法を検討しているところである。倒立でmitosisをみている範囲では、この方がよいようだ。
 III.4NQO及びその誘導体の細胞生活環に及ぼす効果
 前に1)4NQOはRNA、DNA、protein合成を抑制するが、2)4HAQOはDNA合成のみ強くeffectiveなこと、3)またnon-carcinogenic Derivatives 4AQO、3-methyle 4NQOはいずれにも働かないことを示した。それらの作用機序をさらに分析する意味で、これらの物質の細胞生活環に及すeffectをみた。
 (1)分裂細胞数の変化
 ハムスター胎児細胞の培養にcarcinogenを加えると著しい増殖阻害がみられる。この変化をMitotic Indexで示した(図を呈示)。
 ☆第2代のハムスター胎児細胞の培養に、4HAQO、4AQOをそれぞれ10-5.0乗Mづつ加えて培養し、1時間毎にサンプリングした。
MIはcontrol及び4AQOでは0.7〜1.6%(大部分は1.1〜1.4%)の間にある。4HAQOも1時間後はcontrolと同じ幅の中におさまるが、3時間から下降し始める。
 ☆このような分裂阻害をコルヒチンを加え累積分裂指数で表す(図を呈示)。
前回と同じ所見が得られた。4NQOの強い分裂阻害が目につく。4HAQOは3時間後からplateauを示し、4AQOはコントロールと差がない。興味があるのは、3-methyl 4NQOが軽度の、しかしrecoverするG2blockを示すことである。
 ☆さらに、それぞれでG2時間を測定すると、コントロールと4AQOは3hrs.、4HAQOは4.8hrs.と、G2時間の延長が4HAQOに認められた。しかし、この程度のG2delayでは分裂阻害を説明することはできず、(G2delay)+(G2期の細胞の傷害)と考えねばならない。この成績は、前に吉田俊秀先生の得た成績と一致する。
 ☆次に細胞増殖に及す影響をみた(図を呈示)。細胞増殖は4HAQO添加後、3時間は全く影響を受けない。細胞数の減少は6時間より少しづつ表れ、24時間後に最底となる。このように死んでいく細胞が、MI阻害とどのような関係にあるのか問題となる。
 (2)G1 blockとS期の阻害
 4NQO、4HAQOはG1、S期に対してはどのように働くか。
 ☆C14-TdR、C14-UR、C14Leuの酸不溶性劃分へのとりこみを、細胞数の変化しない4時間に限って調べた。
ハムスター胎児2代目をFalconシャーレ当り40万個うえこみ、培養2〜3日目に4HAQOとisotopeを同時に加える。いずれも0.1μc/ml。時間後にpronase→1.0N PCA coldを加える→0.5N PCA→遠心→Ether・EtOH・CHCl3(2:2:1)→遠心→HCOOH→Planchet→Gasflow counter。*Leuのとりこみのときは、PCA 100℃ 30minの加水分解を行う。
ここで分ったことは、最初の4時間で、すでにDNA合成の低下が起っていること、RNA合成もDNAと同じように阻害されるが、proteinはinhibitされないことである。
このうちDNA合成の低下の二つの理由としては、G1 blockと、S期のDNA合成の低下の二つの理由が考えられる。
 ☆そこでG1 blockをみるために、H3-TdRのcontinuous labelingによるLIの累積曲線をとってみた。(図を呈示)
MIのときと同様に4NQO 10-5.5乗M、他は10-5.0乗M加え同時にH3-TdR 0.1μc/mlをcontinuous lab.した。4AQO(バラツキがあるが)はcontrolと差がなく、4HAQO、3-methyl4NQOはcontrolより低い。4NQOはlabeling indexは殆んど上昇しない。ハムスター胎児細胞のG1は、約3.6hrs.であるので、4時間までLIが低いことは、G1 blockの存在を示唆する。それ以後の累積LIの低さはG1+G2 blockによるものであろう。
 ☆問題のS期のDNA合成阻害については、前の報告(月報6712号)から、当然予想されるところである。これからpulse labelingによるLIとgrain countの推移をみるexp.をセットしようと思っている。

 :質疑応答:
[安藤]labeled mitosisで、delayがあっても100%になるのに、G2 blockがあるといえるのですか。
[吉田]吉田肉腫に4NQO処理してもG2 blockがあります。染色体breakageという意味で。他の期にはありません。
[勝田]最後のデータで考えたのですが、4NQOが4HAQOになって働くのなら、両者のカーブは同じでよい筈ですが、ちがうのは4NQOの毒性のためでしょうかね。それからシンクロは40%位で良いのですか。
[黒木]primaryは仲々むずかしくて、これでもうまくなった方です。4NQOと4HAQOのカーブがちがうのは4NQOの毒性のためと思います。
[勝田]映画で見ると、どうもmitosisとは関係なく、細胞が死ぬように思われます。4NQO処理の場合ですが。
[堀川]mitotic deathといってもその辺を中心にして起る死、という程度の意味です。

《三宅報告》
 ヒト胎児皮膚を継代して来たfibroblast様構造のものについて、0.30、1.00、1.30、2.00、2.30、3.00、4.00・・・時間4NQOを作用せしめた。その上で、各濃度の相違のある、各群に、経時的にH3-TdRをとりこませて、L.I.をプロットした。すると10-5乗Mのような高い濃度のものでは急激にL.I.は減少するが、10-6乗M、10-6乗x5では1時間後までは対照と変らない。
この10-6乗Mについて詳しく時間経過を追ってみると、4時間目まで漸減して来て、それから以後はL.I.は再び上昇してゆく。
10-6乗x5Mについては、前に月報に述べたように、3時間目に0となり、立上ることはない。
次にH3-TdRと4NQOを同時に入れてみると、10-6乗Mでは実験群のL.I.開始後数時間で少し落ちるが、爾後そのカーブは対照とかわることはない。5x10-6乗Mとなると、前に述べた様なカーブになって3時間で実験群は0となる。
これと同じことをL株細胞を用いて行った。このLのtg=21hr.、ts=8hr.、tG2=7、tG1+tM=6hr.であった。
その結果はControlにしたL細胞でも10-6乗x5Mで3時間以内にL.I.が減少したことから、4NQOはG1-blockの他にG2-block、又S-blockをきたすと考えられ、いずれとも断言しえないことになった。
目下この2つの細胞について、同調培養を行って、それを決定したいと考えている。
(各実験についての図を呈示)

 :質疑応答:
[勝田]L細胞の実験で、labeling indexが最初に下るのはG2 blockを意味しているのではないでしょうか。そして、以後にcontrolよりも反って高い値を示しているのは、S期の延長を示しているのでしょうかね。
[難波]4NQOは培地に入れつづけでしょうか。
[三宅]そうです。4NQOとH3-TdRとを入れつづけたものと、4NQOは入れつづけH3-TdRは45分のflush labelingしたものがあります。

《梅田報告》
 ラット肝のprimary monolayer cultureを勝田先生の方式にしたがい、又多少条件を変えて培養を試みた。即ち(I)ラット肝細切後モチダトリプシン・スプラーゼ処理後、細胞を塩類溶液中に浮遊静置、上清を捨てて、沈殿物に塩類溶液を加え再浮遊、静置、これを繰り返して上清が綺麗になったら沈殿物をLD+20%CSに浮遊させて培養する。(II)Iの方法に殆んど同じであるがトリプシン・スプラーゼ処理後、培地を加え、ガーゼ或はメッシュ濾過後遠心し、沈渣に培地を加えて浮遊させ培養する。材料として特殊例を除き、生後3〜5日のラット肝を用いた。
 (1)Iの方式では大きな細胞塊が残っており、それからの生え出しが非常に良く、特に肝細胞の増生が良い。しかし間葉系のendothelと思われる細胞も旺盛に増殖している場所もある。主にこの2種の細胞群から成っている。
 IIの方式では2〜5ケ位の細胞数からなる中等大の細胞塊も沢山残っているが、一応disperseした状態からの細胞からも細胞が増生する。50万個cells/mlの接種数で6〜8日後には殆完全なmonolayerを作る。その時の肝細胞増生は全細胞の1/3〜1/2を占め島を作っており、その間を間葉系(?)の細胞が占めている。間葉系の細胞を良く見ると、大型の細胞質のひろがったエオジンに濃染する細胞で核も大型長楕円形で核小体は不規則形2〜3ケあり核全体もヘマトキシリンに淡く染る細胞(endothel?)と、やや小型で核が丸或は楕円で核小体は1〜2ケ丸くくっきりと染る肝細胞核に似た細胞(胆管上皮?)がある。
 (2)培地として、MEM+20%CS、MEM+10%tryptose phosphate broth+10%CSを使用、LD+20%CSと比較してみた所、前2者では良く細胞は増生するが殆んど間葉系細胞で占められ、肝細胞と思われる細胞は、あちこちに数ケ宛細胞質に空胞を生じ、変性して散在する。
 (3)1例IIの条件で生後15日のラット肝の培養を試みた所、トリプシン・スプラーゼ処理のpipettingにより細胞の大多数が破壊され、約0.5gの肝組織からスタートして50万個cells/ml 2mlの生細胞しか得られなかった。培養開始後沢山のcell debrisがあり、2日後にそれを培地で数回洗い去ってから培養を続けた所、生後5日肝培養と同じ様に、肝細胞も間葉系細胞も増生した。ただし、一部に生後5日肝では見られなかった敷石状の配列を示す細胞増生がみられた。
 (4)IIの条件で1例生後2日のmouse肝の培養を試みたが、肝細胞の増生は良くなく、肝細胞の大型化多核化が見られ分裂障害を思わせた。
 (5)IIの方法で培養した生後5日のラット肝培養細胞にDABを投与した。DABは10mg/mlの割合にDMSOに溶かし、培地で稀釋した。100μg/ml、32μg/mlで肝細胞の著明な空胞変性が見られたが、他の間葉系の細胞では変化が見られず健全に見えた。10μg/mlでは肝細胞の空胞は見られない。
 (6)同じく黄変米の毒素であり、肝癌源物質であるルテオスカイリン投与を試みた。1μg/mlで肝細胞だけすべて3日後にcoagulation necrosisが起り、間葉系細胞だけ残るのが見られた。0.32μg/mlでは萎縮した核をもち細胞質に空胞のある肝細胞が見られた。

 :質疑応答:
[高木]継代するとどうなりますか。
[梅田]中間型のような細胞とendothelばかりになってしまいます。医科研の斎藤先生の仰言るには、肝のshaltstuckの細胞ではないか、というのですが・・・。
[佐藤]小型で核の丸い三角のような細胞がshaltstuckだと思います。とにかくいろんなものが出てきますね。私はcolonyにして同定しようかと思っています。
[勝田]箒星のような細胞で、細胞質に平行したセンイ状構造のみられるのは、他のorganをcultureしても出てくるので、血管の内被細胞ではないかと思っていますが・・・。映画でみるとこの細胞は動きません。
[安村]箒星というのはどんな臓器でも出てきますね。
[勝田]小さくてよく動きまわる、おそらくKupferと思われるのも見られます。
[佐藤]平たく拡がった細胞では判らないから、塊にして切ってみようか、と思っています。
[勝田]explant cultureして、反射光源で顕微鏡映画をとると、どんなところからどんな細胞が出てくるか判ると思います。
[藤井]班長のところの肝臓のcell lineは実質細胞ですか。
[勝田]株になったのはほとんど実質細胞だと思います。
[藤井]Rat肝を抗原にして作った抗体でcheckしても、培養系の肝細胞では沈降線が出ないので、どういうことなのかと思っています。
[勝田]培養で増殖系になった肝細胞を抗原にして抗血清を作ると、その結果は変るかもしれませんよ。

《吉田報告》(Abstractの提出がなかったので概略を記す)
 黒木班員のところで4HAQO、4NQOでtransformさせたハムスター胎児細胞の諸系の内、今回はmodeが4n近辺の系を主にしらべた。
 4nの系に通じて云えることは、全系とも染色体の数と形に異常のあることで、つまり正常の2nの2倍ではないことである。系によって異なってはいても、非常に安定した染色体と、動き易いものとが見られた。また上に記した異常というのは一定の傾向をもったものではなく、系によって異なっていた。

 :質疑応答:
[難波]染色体の収縮はX以外にもありますか。
[吉田]他にもありますが、特にXに強いのです。

《安村報告》
 ☆1.Plating efficiencyとcolony Sizeの培養液の種類による影響:
 先月の月報の2-6にふれておきました問題について、予備的にあたってみました。アルビノハムスター腎細胞の2代目の培養をふたたびPlatingしてコロニー形成をみました。細胞数は1,000、2,000、4,000、8,000個。MediumはE:DM-140培地のうち塩類溶液の組成のみEarleの液+コウシ血清10%、199:199液+コウシ血清10%、D:DM-140+コウシ血清10%。(結果の表を呈示)
 1-1.コロニー形成数からは有意義の差がありません。またコロニー1こ1この大きさにも差がみとめられません。ただPlating efficiencyが初代培養の10倍近くなっているのが誤算のひとつでした。初代と同じくコロニーの大きさが小さく、たかだか20~50/コロニーというところで、やはりクローン化できません。
 1-2.mediumの種類によってP.E.に差がでなかった理由は一つには、細胞が最初の2週間D液で培養され、ついでちがっmediumにかえられ(3週後に判定、つごう5週間培養)たため、P.E.は最初のD液によって決められてしまったのかもしれません。こんごこの問題をしらべる必要があります。
 1-3.Plating efficiencyの上昇はひとつには、まかれた細胞のViabilityによるものと考えられます。初代では総細胞数の50〜60%がviableで、2代めのものはほとんど100%に近くviableでしたから。

 :質疑応答:
[黒木]Feederを使ったらsizeが全然大きくなると思います。
[佐藤]single cellの比率はどの位ですか。
[安村]はじめは50%位ですが、2代目になるとほとんど100%です。
[佐藤]2代目にplating efficiencyがそう上るというdataはあまり聞きません。
[安村]もう一度やってみようとは思いますが、トリプシンのかけ方などに影響されるのではないですかね。5〜80%位のひらきが、培地のlot No.によって出るというようなこともあります。

《山田報告》
 細胞表面構造を研究するために、細胞電気泳動装置を製作し、この装置で物理化学的条件並びに被検細胞の生物学的条件を種々検討して来ました。その一環の仕事として、細胞免疫に関する実験も開始しましたので書いてみます。
 即ち細胞表面における抗原抗体反応を細胞電気泳動法により量的に測定するためのfirst stepの実験です。今回は最も単純な方法としてアルブミンに対する脾細胞抗体産生の程度を調べてみました。具体的には、抗原性の異なる卵白アルブミンと牛血清アルブミン(各3mg)をFreundのadjuvantと共に週二回、それぞれラットの皮下に注入し、合計四回感作後、一週間をおき、ラットの脾臓を摘出。鋏で細切し、looseなホモゲナイザーでかるくこすり、脾細胞浮遊液を製作。この感作細胞に各々抗原であるアルブミンを37℃30分接触させた後に生食にて洗浄し、1/10Mヴェロナール緩衝液(pH7.0)をメヂウムとして細胞電気泳動度を測定した。
 3回の実験結果(表を呈示)、それぞれの抗原であるアルブミンと接触した場合に選択的に感作脾細胞の泳動度は低下し、両アルブミンで感作された脾細胞は両アルブミンの接触により共に泳動度が低下しています。
 しかし、この抗原アルブミンによる電気泳動度の低下は必ずしも大きくはない。従来の報告によると、脾における抗体産生細胞は数%であるとされて居ますので、実際の抗体産生細胞表面に抗原のアルブミンが結合し、その表面の荷電をマスクし、泳動度を低下させる程度は更に大きいと考えます。
 従って今後、抗体産生細胞のみをえらび出して、その抗原の表面結合による荷電の低下を測定すべく工夫している所です。
 今回の成績により細胞表面における抗原抗体反応を直接細胞電気泳動法により測定できるという確信を得ましたので、次に悪性化に伴う細胞表面の変化や、宿主の抗体産生細胞の認識に、この免疫細胞電気泳動法を用いようと計画中です。

【勝田班月報:6806:4NQOのphotodynamic action】
 A.ラッテ肝細胞の増殖期による4NQOの感受性の相違:
 これまでの実験で、どうもその都度、都度で4NQOの細胞に対する影響にむらがあるように思われたので、RLC-10株(正常ラッテ肝細胞)を使って増殖のいろいろな時期に4NQOを添加し、その増殖に対する影響をcell countingでしらべた。
 結果は(増殖曲線の図を呈示)、増殖のstageによって細胞のresponseがかなり違うことが判った。しかしこれは、他の実験からも判ったことであるが、細胞のstageというより、むしろ細胞数/tubeの影響が大きいのではないかと推測される。
 B.4NQOのphotodynamic action:
 前月号の月報に記したが、癌センターの永田氏が4NQOのphotodynamic actionについて報告している。我々も顕微鏡映画で観察していて、どうもそれに一致するようなデータを色々と得たので、果してそれが本当かどうか、cell countingで定量的にしらべてみた。細胞はRLC-10株(正常ラッテ肝)で、4NQOで37℃、3.3x10-6乗M(その他の濃度もみたが)、30分間処理後すぐに365mμのマナスル・ランプで、室温で2時間照射し、増殖に対する影響をしらべた。No.6709の月報に報告したように、4NQOの特異吸収は366mμと252mμにあるので、この波長は正しいと思う。
 (結果の図を呈示)おどろいたことに、正にphotodynamic actionを4NQOの持っていることが確認された。
 光だけを各種時間に照射したcontrolsははっきりとした増殖抑制は認められない。ところが4NQOで30分間処理した直後に光をあてると、照射時間の長さに比例してはっきりと細胞の破壊が起った。
 同様の実験を、種々の濃度の4NQOについておこなった結果、やはり4NQOの濃度の高いほど細胞障害は強く現われた。
 このようなphotodynamic actionがどんな意味をもっているか、ということであるが、永田氏はphotonによって4NQOにfree radicalができて、それが細胞のDNAに破壊的に働く、と考えているようである。しかしそのようなDNA levelでの障害が直接発癌に結びつくかどうか、私は疑問に思っている。photodynamic actionは発癌作用とは関係のない、副次的な現象であるかも知れないし、あるいはきわめて重要な役割をしているのかも知れない。これは今後解明すべき問題である。
 H3・4NQOを培地に入れると、4NQOは細胞内の色々な成分と結合するが、とくに蛋白との結合量は大きい。Biochemistsはすぐに核酸の方を考えたがるが、この場合、蛋白、とくにlysosomal enzymesとの関連などについてしらべることは大変面白いのではないかと、私は思っている。そして4NQOの解毒をする酵素の誘導も大いにしらべてみたいと思っている。

《安藤報告》
 H3-4NQOの細胞内への取込みのKineticsについて:
 A.L・P3細胞の場合:
 実験方法は月報No.6801に勝田先生が書かれている方法と基本的には同じです。即ちL・P3細胞を培地DM-120中TD-40で約500万個/bottle迄生やし、これにH3-4NQO(がんセンター川添氏より分与)10-3乗M in 10%DMSO液を0.1ml/10ml培地/TD-40添加し、終濃度10-5乗Mとする。直ちに培養ビンは出来る限り遮光し37℃静置培養する。
その後、時間を追ってサンプリングし、培地を捨て、Dで一回洗う。
 細胞を少量のDに懸濁し、酸不溶性分劃(核酸、蛋白が主成分)と酸可溶性分劃に分けカウントする。
 結果及び考察:(図を呈示)
 1)酸不溶性分劃への取込みは30分で止り、その後2時間迄不変のようだ。5時間目の点が下っているのは、本質的なものか実験のエラーか不明。
 2)5時間目に培地中よりH3-4NQOを除くと、この不溶性分劃のラベルは再び放出されるようだ。この部分が核酸についていたものか、それとも蛋白についていたものか定めるべきだろう。
 3)月報No.6804に堀川さんが記しておられるように、酸可溶性分劃への取込は非常に特異的である。即ち30分あるいはそれ以前に最大値に達し、以後、培地中に多量存在するにもかかわらず、細胞外に放出されてしまう。毒物に対する細胞の防衛機構を如実に見せられた思いである。L・P3は4NQOに対し次に調べた正常ラット肝細胞よりもより抵抗性が強いので、そのためにこのような再放出の現象があるかと思って、RLC-10についても同様な実験を行ってみた。(図を呈示)図にある通り全く同じ結果となった。
 B.RLC-10細胞の場合:
 4NQOに対する感受性の、より強いラッテ正常肝細胞の場合に於て異なる結果を期待したが、酸不溶性分劃への取込みも、酸可溶性分劃への取込みも、全くL・P3の場合と同じであった。但し使用培地はLDにCS・20%添加したものであり、H3-4NQOの濃度は3.3x10-6乗Mであった。
 C.L・P3細胞の核酸、蛋白質分劃への取込み:
 L・P3を前記条件で2時間H3-4NQO処理を行い、直ちに細胞分劃を行い、核酸分劃と蛋白分劃に分けてみた。
 分劃       DPM/1,100万個cells  %分布
 細胞全体      170,450       100
  酸不溶性分劃    8,615        6.4
  酸可溶性分劃   125,910        93.6
 酸不溶性分劃の内             100
  核酸分劃      2,620        23.8
  蛋白分劃      8,520      76.2
 上記の表のような結果になった。今後の方針として、更に核酸分劃のRNA、DNAを分け、各々いかなる塩基と結合しているか、又蛋白部分についても、いかなる種類の蛋白に結合しているか、等を検索する予定である。

 :質疑応答:
[堀川]4NQO処理後のwashはどの程度やりましたか。
[安藤]等張液でさっと一回洗うだけです。
[高木]4NQOの濃度はどの位ですか。
[安藤]L・P3は10-5乗M、RLC-10は3.3x10-6乗Mが終濃度です。
[堀川]細胞当りの取込み量は、L・P3とRLC-10でちがいますか。
[安藤]ほぼ同じ位です。
[堀川]私の実験でも酸可溶性分劃のcountが短時間で最高値に達し、それからすぐにすっと下がってしまうのは何故でしょうか。
[黒木]10-5乗Mで5時間も添加していると、細胞が死んでしまいませんか。
[勝田]L・P3は4NQOに対してすごく強い細胞系で、5時間位では平気です。それにRLC-10にしても映画での観察によれば、死に始めるのは5時間よりずっとたってからですね。むしろ、そういうことより細胞側の解毒作用というか、4NQO分解酵素の活性がinduceされて、その結果として酸可溶性分劃のcountが急激におちるとは考えられませんか。
[梅田]若しそうだとすると、5時間後に又4NQOを添加してももう受付ないという現象が起るはずですね。
[安藤]それは面白い考えだと思います。早速やってみましょう。
[勝田]私もその考えは面白いと思いますね。しかし、培地中に4NQOが一杯あるというのにその取り込みにピークがあり、急激な減少があるというのは又面白いことですね。
それから、うすい濃度でL・P3の増殖を促進するのですが、その時4NQOが細胞のどの分劃に取り込まれているかということにも興味があります。安藤君は核酸を追いたいというだろうが、私はむしろ蛋白の方に問題があると思い、蛋白を追え!と言っています。
[堀川]始の報告のphotodynamic actionについてですが、その機構はまだよくわかっていないのですね。
[勝田]癌センターの永田氏の話では、4NQOの誘導体の殆どが、発癌性とphotodynamic actionが平行していますが、4HAQOだけが例外で、発癌性は高いのにphotodynamic actionはないということです。
[佐藤]しかし動物の体内での発癌を考える時、photodynamic actionなんで考えられないと思いますが。
[勝田]そうですね。そう考えると培養での4NQO発癌実験も光を与えてどうなるかより、真暗な中で培養するべきだということになりますね。実際に、暗くして映画を撮ってみますと、細胞のこわれ方もずっと少ないし、何か細胞の状態が明るいままで映画を撮った時とちがうようです。
[堀川]photodynamic actionは治療に利用出来そうな気もします。
[高木]最後の図は4NQOの細胞周期に対する影響というよりも細胞数に対する影響をみていることにはなりませんか。
[勝田]そうです。
[黒木]生きている細胞でなくても、レントゲン照射した細胞をフィーダーにおいても4NQOの毒性は弱まります。
[勝田]そういうことは何を意味しているのでしょうか。培地にはありあまる程4NQOがあるわけですから、細胞数が多くなっても細胞1コあたりの4NQO量がうすまるわけではありませんし。
[堀川]私の実験からは、取り込んだ4NQOを4HAQOに変える能力の違いが細胞の4NQOに対する抵抗性の違いとなって現れてくるというようなデータになりつつあるようです。
それから、又photodynamic actionの実験ですが、4NQO処理後すぐ照射する実験の他に処理後の時間をかえて照射するとどうなるかもしらべると面白いですね。
[勝田]これからしらべてみます。私達はこれからL・P3をモデル実験に使いたいと思っています。L・P3は現在の所C3Hには腫瘍を作りません。L・P3は合成培地に増殖している細胞で、血清培地で飼われている細胞とは膜の構造が全然ちがうわけです。にもかかわらず4NQOの作用(今の所取り込み)が同じだということは4NQOの作用が膜構造には左右されないといえると思います。

《佐藤報告》
 ◇4NQO発癌実験の現況
 A.ラッテ肝(Exp.7)←4NQOはその後2匹のtakeで実験例49匹中16匹(33%)が発癌。
対照群は10匹中0となった。現在最終復元動物が7ケ月を経過したので近く全動物を屠殺処理する。
 復元接種動物が腫瘍死するまでの平均日数は188日であった。
 腫瘍の組織像は肝臓癌と診断されるもの12例、癌肉腫と診断されるもの2例、繊維肉腫と考えられるもの1例、残りの例は腫瘍であることは間違いないが性格(ラッテ自然発癌?)がよく分らなかった。
 核型分析
 Exp.7 肝細胞株の対照株については前号に報告した。この対照株の総培養日数512日に当たる実験株526日の培養時における染色体と、動物復元後発生した腫瘍の再培養細胞の染色体分析をおこなった。
(染色体数分布図と核型分析図を呈示)核型分析ではNeoplastic line即ち4NQOを投与された総培養日数500日以上の培養細胞では41にmodeがあり、50ケのMetaphase中に22ケの44%を示した。10ケのMetaphaseの分析を行った所、略同一の核型を示した。即ちMeta-Group 12ケ、ST-Group 7ケ、T-group 18ケ及び異型染色体4ケの計41である。異常染色体4ケ以外の染色体は略正常なラッテの核型である。(異常染色体4ケの模型図を呈示)腫瘍再培養細胞の染色体数は43にModeがあるので、分析可能な43の2ケのMetaphaseについて検索した所、1つは前記同様の4つの異型染色体Groupをもっていることが判明した。他の1つは異型染色体2つをもっていたが特異なGroupは存在しなかった。然し描写による検索では前記4Groupをもつ染色体型が他の染色体数の部にも広く認められた。極めて単純に云へばこの4Groupの発生が4NQOの作用によると考える。
 上記のNeoplastic lineを動物に復元し出来たTumorを再培養したものの核型は(図を呈示)異型染色体はTumor lineの6Groupとなっていた。この場合Modeは43であった。幹細胞の数は22%であった。検索された10ケの核分析の内9つは同型であり、動物復元前時の特異的4Groupの他にsmall sizeのTeloが2ケ増加したものであった。動物復元前の4NQO処理培養細胞の中には今の所この型は見当らないが、それは培養細胞時にはPopulation中における%が低いためであろう。この点はギムザ標本及び復元動物の生存日数からも推定できる。(対照の培養細胞に現れる異型染色体図を呈示)此等の異型染色体が個々に現われる場合が多い。今後尚詳細に検討していく積りである。
 4NQO耐性の問題:
 4NQOによって発癌したと考えられる株細胞(Exp.7)と、その株細胞を動物に復元接種しTumorより再培養した細胞、及び対照株について継代培養と同時に4NQOを10-6乗M、10-7乗M、10-8乗Mに添加して48時間後の細胞数を比較した。(図を呈示)結果はNeoplanstic lineもTumorよりの再培養細胞(Neoplastic lineよりTumor cellを取りだしたもの)も共にControlに比較して耐性をもっていた。この場合の耐性は、既にDABの場合にも述べた様に薬剤中に長く存在したための耐性で腫瘍とは関係がない様に考えられる。
 B.動物復元 続き
 動物番号146〜157の復元表を呈示する。
 C.培養ラット肺細胞←4NQO
1967-6-1に生まれる直前のラッテの肺細胞をtrypsinizeして、20%BS+YLEで培養し、4NQO実験を行っていたものの内、10-6乗Mの4NQOを33回処理したものでラッテ新生児皮下復元にTumorを発見した。腫瘍の性格は未だよく分らない。
 D.ラッテ全胎児←4NQO
 (5例の実験の一覧表を呈示)
 動物復元観察日数は丁度6ケ月である。従って6ケ月でTumorをつくらない場合には結果は腫瘍形成がないことになる。5例中で実験RE-5、10-6乗M、100日処理のみが+であった。

 :質疑応答:
[黒木]今、呈示された表で、濃度を同じに換算して時間の統計として比較するというのは、理論的に意味ないと思われますが、どうでしょう。薬剤の濃度と処理時間というのは異質のものだと思います。
[安藤]ある濃度以下の処理では何時間処理しても効果がなく、それ以上だと10分でも効果があるといった、oll or noneの場合もあるから、時間の総計で比較するために濃度を同じに換算するのは少し変ですね。
[佐藤]逆にそういうことを証明するのに、こういう計算をしてみた積りです。つまりうすい濃度では濃い濃度での集計時間に達する程の長い時間処理しても悪性化はおこらないのだ、ということが数字で現せると思います。
[勝田]復元例で、同系の細胞なのにtakeされたり、されなかったりするのは何故でしょうか。
[佐藤]培養だけでつづけている系と、一度復元してtakeされ再培養した系では染色体の核型が多少ちがっています。そういう点から考えられることはRatの肝細胞の場合、全部が悪性化しているわけでなく、しかもそのpopulationが培養の時期によって変わるので、takeされたりされなかったりするということです。
[梅田]基本的なことですが、LD培地とYLE培地とはイーストエキストラクトのあるないの他に、pHもちがうわけですから、要素を二つ変えて比較するのはよくないと思います。LDとYLDにするべきですね。
[黒木]コロニーを作らせることは出来るのですか。系の一部が悪性化しているのなら、悪性細胞のコロニーを拾えば、動物への復元の問題は解決されると思われます。
[吉田]動物への復元実験の対照群の匹数が実験群に比べて少なすぎるようです。このデータですと対照群の中に変異細胞がいないとは断言出来ませんね。
[佐藤]それは私も痛感しています。これ以後の実験では対照群を増しています。
[勝田]何時も云うことですが、反復実験は同じ系の培養でなく、新しい系で追試した方がよいですね。
[堀川]耐性をしらべたgrowth curveの所で、耐性についてですが、takeされるようになった時までに添加された4NQOの濃度はどの位ですか。
[佐藤]濃度は一定でなく、かなり長く処理しています。この場合耐性は悪性と平行するものではなく、4NQOを添加していた期間に平行するものと考えられます。
[三宅]復元して出来たtumorの組織像は上皮性な感じがしますね。エオジンをよくとっているのは、ケラチン様物質があるのではないでしょうか。
[吉田]染色体の核型分析についてですが、1例でははっきりしませんが、本当なら面白いですね。私自身のデータからも染色体の変化と悪性化とが関係づけられる、ある染色体のパターンがあるようだとは考えています。
[勝田]ただ、1例では何とも言えませんね。
[安村]再培養した系の場合、43本でないものでも、この5本のグループを持っていますか。
[佐藤]たいてい持っているようですが、まだ正確にはしらべてありません。
[安村]再培養した細胞系を又復元するとtakeする率がよくなりますか。又復元前の細胞の染色体の中にtakeされた細胞の染色体と同じものがありますか。
[佐藤]50コ位しらべてみた所では見つかっていません。しかし、もっと沢山エネルギッシュにしらべてみたら見つかるのではないかと考えています。又培地や培養法をかえれば、悪性細胞をセレクト出来るのではないかと思います。
[安村]動物への接種細胞数はどの位ですか。
[佐藤]だいたい100万個位です。
[安村]矢張り何コ中に1コの悪性細胞がいるのかということを調べておく必要がありますね。それから、この5本のグループの染色体が確かに悪性と関係があるのだと言いたければ、ハイブリッドを作らせて、この染色体のはいったのが悪性だということまでチェックすればよいでしょう。
[吉田]実際にはなかなか難しいことです。この染色体があるから悪性化しているのか、或は他の染色体が無くなったこととの組合わせに於いて悪性化と関係があるのか判りませんね。それから4NQOが染色体変異を起こすことは確かです。このデータもその変異の一つでしょう。しかし4NQOによる悪性化が、こういう染色体変化に集約されるとは断言出来ません。
[佐藤]変異だけでなく、次に悪性化することを考えれば、変異したものが一定の方向に集約されることも考えられると思います。
[勝田]染色体の標本をみる場合、数えられないもの、しらべられないものが沢山あり、そういうものの中に問題がある場合も考えられます。
[安村]復元前の培養細胞の中に、この5本のグループがあるのか無いのか先ずしらべてみなくてはいけませんね。その上で5本のグループの中の2本の染色体がクサイという事実があれば、それがハイブリダイゼーションという手法で確かめられるのではありませんか。
[堀川]酵素活性と関係のある染色体の場合とは違って、腫瘍性と関係のある染色体というのは、すごく複雑でむつかしいと思います。
[安村]いや、私も腫瘍性を染色体でチェック出来るなんて事は否定の方に90%位ですが、若しできるとすれば大変面白いと思います。
[勝田]何にしても1例だけでエキサイトしなさんな。
[佐藤]私も1例だけで何とか言おうとは決して思っていませんが、ただこの例は理論的に考えやすかったので出してみたまでです。私として言いたいことは、この系の培養のpopulationの中に悪性化した細胞は少ないのではないかということ、又4NQOの作用したという証拠は残っているのではないかということです。
[勝田]佐藤班員の研究室でRatそのものの自然発癌率はどうですか。
[佐藤]非常に少ないようです。
[勝田]それも一応データとしてとっておいた方がよいですね。
[佐藤]復元実験のやり方を考えてみる必要を感じています。復元して長くおけばtakeされることがわかっているわけだから、もっと短期間で対照との比率に於いて悪性度をみることにしたいと思っています。
[安村]発癌剤によって悪性化する率が低いということは、Ratは発癌実験に不適当だということではないでしょうか。
それから接種数100万個の中、1、2コの悪性細胞が居たために動物にtakeされたとするなら、復元前にその100万個の細胞を寒天へまいてコロニーを作らせれば悪性のコロニーを1、2コ拾うことが出来るのではないでしょうか。現在の手法では、寒天法は悪性のコロニーを拾うために良い方法とされているわけですから。そうすればもっと高率にtakeされる系を作れるはずです。
[勝田]コロニー法ではpureなクローンはとれませんね。肝細胞を映画に撮っていて経験しましたが、分裂した娘細胞同志が一緒に居ずに離れてしまい、他の所から別の細胞が動いてきてくっついて、あたかも娘細胞同志のような顔をしていたりするのです。
[安村]クローンについては確かにそうですが、目的によっては定量的に扱えるということでコロニー法の利点もあります。
[藤井]腫瘍細胞には同種の抗体に抵抗性があるかも知れないということから、同種の抗体で悪性化した細胞をセレクト出来ないでしょうか。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞における放射線ならびに化学発癌剤障害回復の分子機構の研究(5)
 これまでの報告で培養細胞のもつ紫外線障害回復機構と4NQO処理による障害回復機構の間には何ら関連性のないことを示してきた。
 つまり紫外線に対して最も感受性株のブタPS細胞が4NQO処理に対しては最も抵抗性を示し、4NQO処理による障害回復の機構は紫外線照射によって生じるThymine dimerの除去機構では説明出来ないことがわかって来た。
 第2の段階として、4-HAQOに対するマウスL細胞、Ehrlich細胞、PS細胞の感受性を比較する問題が生じてきた。黒木さんより得た4-HAQO(国立がんセンター川添豊氏合成品)を使用した範囲では(図を呈示)、三者の細胞株間には感受性の差異は認められない。(これらはいづれも4-HAQOを含んだMedium内で約2週間培養期間中、それぞれの細胞を培養した際のcolony forming abilityからdetermineしたもので障害回復能よりもむしろ4-HAQOに対する耐性度をみたものであることに注意されたい!!)
 勿論現在の段階では4-HAQOの濃度分割が大きすぎるので正確な耐性度を比較することは不可能であるとは言え、本報No.6802に示した4NQO濃度−生存率曲線と比較して大きな違いのあることがわかる。また4-HAQOのtoxicityは生存率曲線でみた範囲では4NQOの10〜100分の1であることもわかる。
 従ってこれまでの結果を総合して考えると培養細胞間の4NQOに対する感受性の差異は、細胞間の4NQO透過性の差異で説明するよりも、4NQOを4-HAQOにreduceするreduction enzymeのactivityの差異で説明する方がよさそうである。
 このことは言葉をかえると、取り込んだ4NQOを4-HAQOにreductionする能力の高い細胞(つまりPS細胞のごときもの)では生存率で見るかぎりその毒性から受ける障害の度合が4NQOから受けるそれよりも少ないであろう。しかし発癌と云う立場からみると、このように4-HAQOにreductionする能力の高い細胞では発癌の可能性が高いと考えてもいい訳である。このような観点からみると、私が当初予想した考えがうまく説明出来そうで発癌のさいにtarget cellの存在を考えるのも面白い。

 :質疑応答:
[勝田]可視光線の光量をergで書いてありますが、具体的にどういう装置で照射したのですか。
[堀川](装置図を呈示)スターラーの上にのせたビーカーに水をいれて、その中にtubeを並べます。60cm離れた所から東芝500w引き伸ばし用電球で照射しました。
[勝田]可視光線で2時間照射すると、コロニーを作る能力が減少したというわけですね。RLC-10の増殖に対しては影響がありませんでした。奥村君から貰ったハムスターの細胞は悪性化しているものですか。
[堀川]それについては、はっきり知りません。
[勝田]Chick brainにP.R.activityがあることになっていますが、どういうことでしょうか。何か他の酵素のside effectではありませんか。
[堀川]サイトクロムCなどがそうではないかと言われていたこともありますが、現在では否定されて、P.R.activityは独特のものだと言われています。放射線による断裂のrecoveryが、若し腫瘍を材料にした場合、腫瘍性を失うとか、はじめに持っていた酵素活性を失うとか、misrepairingで説明できないでしょうか。
[吉田]胎生の早い時期とadultでは、そういう修復機能がちがわないでしょうか。
[堀川・勝田]ちがうでしょうね。
[勝田]細胞の全cell cycleを通じてP.R.enzymeがあるとすれば、stageによってrepairのちがうのは?
[安藤]定性的にはいつもあってもstageによって活性の違うことも考えられますね。

《高木報告》
 1.4NQO添加
 i)NQ-6
 10-6乗:RL-2cells 2代目に2回作用させたものはあまりcell damageなく、2回目作用後2日後に継代した。10日後にはほぼfull sheetの状態になったので更に同濃度で2時間1回作用させた。今回は細胞は可成りのdamageをうけて殆ど脱落したが、約20日後にfoci2ケを認めた。うち1ケはpile upは認めないがfiberの形成がみられた。しかしこのcolonyの細胞の増殖はあまりよくない。
 5x10-7乗:2回作用せしめた後継代し、更に同様にして2回作用せしめたところ殆どの細胞は脱落してしまった。約20日後にfoci 2〜3ケ認めた。一部にはやはりfiberの形成があり、またpile upの傾向も認められるがgrowthはあまりよくない。
 2x10-7乗:この群ではcell damageは著しくなく、NQ処理にてもある程度細胞のgrowthは認められるが8回作用させたものでは最近growthがおちて来た。
 現在まで明らかなtransformationは認めない。
 対照:controlのgrowth rateは2代目が7日間で約3.5倍、3代目が10日で約2倍で、その後は継代時のcell damageがつよく、大体10日毎に継代しているが細胞数としては増加しない。
 ii)NQ-7
 10-6乗:第1回目作用後10日の間隔で2回目を作用せしめたが、約20日後に2ケのcolonyを認めた。1ケはpile upしないがfiberの形成が著明で、また培地が非常に粘稠になる。mucopolysaccharideの分泌を思わせる。
 5x10-7乗:3回作用後継代し、更に4回目を継代後10日目に2時間同濃度で作用させた。その後約20日経過するが、少数の細胞が残存しているのみでcolonyは認められない。
 2x10-7乗:3回処理後2本に継代、1本はその後も同様に2時間ずつ4回作用せしめた。また別の1本はNQ 2x10-7乗Mを含む培地を使用して継代し、3日間放置した。細胞はガラス壁にはよく附着したが、その間増殖は認められなかった。3日経過後NQfreeの培地と交換し、細胞の増殖を待って更に1回2時間同濃度を作用せしめた。
 現在両者共growthはおちfocusも認めえない。
 2.NG添加
 i)NG-11 RL-2cellsを使用
 10μg/ml:1回の処理により細胞は著明なdamageをうけ約40日を経過したがfocusなど認められない。
 5μg/ml:2時間ずつ4回作用せしめたがcell damageがつよく10μg/ml処理群と同様である。
 1μg/ml:2回処理後継代、更に3回処理して継代、ついで2回処理し、合計7回作用せしめたものではgrowth rateは、5代目は7日間で1.4倍、6代目は7日間で3倍である。又2回処理後継代し、同様に5回作用せしめたものは、4代目は13日間で1倍、5代目は7日間で2倍の増殖を示している。
 培養開始後60日目に固定し、giemsa染色したものでは対照に比して核の大小不同が著明である。
 継代後10μg/ml、5μg/mlを作用せしめたものは、細胞のdamageがつよく現在までgrowthはみられない。
 なお対照は5代目までは7日間で5〜13倍の増殖を示したが、6代目より殆ど増殖を示さなくなっている。
 なおWKA ratの胃の培養については、その後検討を加えているが、培地としては可成りアミノ酸、ビタミンに富んだものがよい様で、目下系統的に検索中である。

 :質疑応答:
[堀川]4NQOでラベルしたDNAを抗原にすると、抗体ができるよりさきに腫瘍ができるのではありませんか。
[勝田]今朝安藤班員から、4NQO*を細胞にとりこませた場合、acid soluble fractionに結合する4NQO量の消長度が大きいと報告されましたが、発癌性はinsoluble fractionの方にあるのでしょう。
[高木]抗原としてはinsoluble fractionの方を使います。DNAについた4NQOは37℃加温で簡単にとれてしまうそうです。
[黒木]できたtumorの間で共通な抗原がありますか。
[高木]それも大きな問題だと思います。
[勝田]抗血清を作っても、どういう方法で抗体をcheckするかが問題ですね。蛍光抗体法はnon specificの抗体がどうしても混ってきてしまうし・・・。ごく最近、山本正氏からきいたところでは、ヒトのγ-globulinとマウスのそれとが交叉するものがあるそうで、immuno electrophoresisも問題をもっていることになります。
[梅田]h2proteinsとさっきのinsoluble fractionとの関係はどうでしょうね。
[勝田]まだ判っていません。H3-4NQOで処理して、初期は細胞のどこに4NQOがあるか判っていても、その後、細胞が増殖をはじめれば放射能はうすまって、追跡が困難になりますね。
[梅田]DABとかDMBAはh2proteinsの塩基性蛋白の部分につき、4NQOはSH基につくと云われていますね。

《黒木報告》
 I.BHK-21/4HAQOについて
BHK-HA-1〜HA-7までの成績を表で示す。これらは(?)→マニラ(?)の予研分室→予研→山根研からのwild BHK、wild BHK-21より当研究室にて2回連続ひろったクローンC22、C22のクローンを3回連続のクローンC222を用いた。7例のうち配列は余り乱れず、しかし細胞はpile up、剥れやすく、このためコロニーの中心部はもり上り、まだらとなり、daughterコロニーが多くできるものが6例、その内2例は配列が乱れてcriss-cross様となるものが混じっている。あと1例はpolygonalなcellとなり、コロニーの形は丸い。又、5/7はBacto-peptoneなし寒天内の増殖能が獲得された。寒天内のコロニー形成率は20〜30%である。寒天内で増殖できるようになるまでの日数は、HA-4の21日、HA-5の63日までかなりのバラツキがある(HA-1の77日は、そのときはじめてagar cultureをしたので、いつから寒天内で増殖できるようになったかは明らかではない)。興味あるのは、この日数が、ハムスター胎児/4NQOのときのtransformationの日数と非常に似ていることである。
 ☆コロニーの形態と寒天内増殖能の間には一定の関係がみられない。またコロニーの形態も培養によって異る。HA-7にのみみられたpolygonalなコロニーは肉眼的にもはっきりと区別できる特徴的なコロニーである。HA-4#3は、寒天内のコロニーをひろったcloneであるが、寒天内で高率にコロニーを作るにも拘わらず、コロニーの形態は“normal”と区別しがたい。これをみるに至って、コロニーの形態からのtransformationの判定をあきらめ、agar中のgrowthのみにtransformationの基準を求めた。全体的に云えることは、寒天内で増殖するようになると、細胞が剥れやすくなり、daughter colonyを作りやすいことである。寒天内増殖と剥れやすさの間に何らかの関係がありそうである。
 ☆4NQO、4HAQOに対する抵抗性
以前と同じように、plating(200ケ/dish)後24hrsに4NQO、4HAQOを加える方法をとった。結果を表で示すが、抵抗性は生じなかった。
 ☆染色体分析:寒天内growthだけでは心細いので、もう一つのmarkerとして染色体分析を試みた。結果を図に示すが、HA-4#5がmode40本である他は、すべて41本にmodeがある。数の上からでは、transformantsと“normal”の間に差はなさそうである。
従来BHK-21細胞は、44本♂の核型をもつと報告されてきた。そこで用いているcellがBHK-21細胞のvariantである可能性が生じてきたので、Moskowitzさんから、BHK-21/C13というクローンを分与してもらった。
 BHK-21 clone13について
 BHK-21はBaby Hamster Kidneyの培養65日に突然増殖率が上昇し、establishされたが、それから19日目(total 65+19=84days)に分離したクローンの一つがC13である。C13は24cell generation増殖しharvestが10の8乗になったところで、大量にfrozen stockされている。StokerのLab.でtransformationの実験に用いられているのは、この凍結アンプレからもどして間もない細胞である*。このことは、彼らのpaperの中でくり返して強調されている。このC13はwildのBHK-21に比してmalignancyの低いということもStokerらによって報告されている。当研究室にきたのは、StokerのLab.で凍結もどしてから10日(60 cell generation)経たものをMoskowitzのLab.で5日間隔で67passageしたものである。*Nature 203,1964,p1355に詳しい。
 ☆先ずこの細胞及びそのpolyoma virus.RSU transformantsのBacto-peptone dependencyをみた。(結果表を呈示)
全く予想しなかったことに、C13はBacto-peptoneがあってもコロニーを形成せず、またそのpolyoma RSV transformantsはB.P.dependencyを有しているということである。すると今まで一生懸命やってきたBHK-21細胞は、全く“variant”ということになり、すべての実験をやり直す必要となった。この他にもC13とwildはかなりの差があり(表を呈示)、例えば移植性はwildからC22は100ケでも100%takeする(C13は目下experiment進行中であるが、10万個接種3週間でtumorを触れない)、4HAQO、4NQOに対する感受性もC13とC22には差があり、C13の方が感受性で10-5.0乗M4HAQOではすべての細胞が死メツし、5x10-6.0乗Mがよさそうである。このような発癌剤に対する感受性の差はSachsらも報告している(Nature,200,1182,1963)。
 由緒正しい細胞を選ぶべきであることを痛感した次第です。
 II.同調培養によるtransformatione(予報)
 2代目のハムスター胎児細胞をexcess TdR(7.5mM)によって(部分的に)同調させ、それぞれのphaseに4HAQO 10-4.5乗M1h.作用させることにより、発癌剤とcell cycleの関係をみようとするものです。(図と表を呈示)
 DNA合成は40%近くまで同調し、発癌剤処置はHA-50〜HA-58の9つの群をおき、それぞれの時間のときに処置した。
transformationの成否はまだ定かでないが、現在focusらしいものがみられているのは、HA-50、HA-52、HA-53、HA-54の四つである。さらに経過をみて(あと2〜3wks.)いくつもりである。
synchronousの方法もprimaryでconfluentしてG1でstopさせ、それをexcess TdR med.の中にうえこむ方法を検討しているところである。倒立でmitosisをみている範囲では、この方がよいようだ。
 III.4NQO及びその誘導体の細胞生活環に及ぼす効果
 前に1)4NQOはRNA、DNA、protein合成を抑制するが、2)4HAQOはDNA合成のみ強くeffectiveなこと、3)またnon-carcinogenic Derivatives 4AQO、3-methyle 4NQOはいずれにも働かないことを示した。それらの作用機序をさらに分析する意味で、これらの物質の細胞生活環に及すeffectをみた。
 (1)分裂細胞数の変化
 ハムスター胎児細胞の培養にcarcinogenを加えると著しい増殖阻害がみられる。この変化をMitotic Indexで示した(図を呈示)。
 ☆第2代のハムスター胎児細胞の培養に、4HAQO、4AQOをそれぞれ10-5.0乗Mづつ加えて培養し、1時間毎にサンプリングした。
MIはcontrol及び4AQOでは0.7〜1.6%(大部分は1.1〜1.4%)の間にある。4HAQOも1時間後はcontrolと同じ幅の中におさまるが、3時間から下降し始める。
 ☆このような分裂阻害をコルヒチンを加え累積分裂指数で表す(図を呈示)。
前回と同じ所見が得られた。4NQOの強い分裂阻害が目につく。4HAQOは3時間後からplateauを示し、4AQOはコントロールと差がない。興味があるのは、3-methyl 4NQOが軽度の、しかしrecoverするG2blockを示すことである。
 ☆さらに、それぞれでG2時間を測定すると、コントロールと4AQOは3hrs.、4HAQOは4.8hrs.と、G2時間の延長が4HAQOに認められた。しかし、この程度のG2delayでは分裂阻害を説明することはできず、(G2delay)+(G2期の細胞の傷害)と考えねばならない。この成績は、前に吉田俊秀先生の得た成績と一致する。
 ☆次に細胞増殖に及す影響をみた(図を呈示)。細胞増殖は4HAQO添加後、3時間は全く影響を受けない。細胞数の減少は6時間より少しづつ表れ、24時間後に最底となる。このように死んでいく細胞が、MI阻害とどのような関係にあるのか問題となる。
 (2)G1 blockとS期の阻害
 4NQO、4HAQOはG1、S期に対してはどのように働くか。
 ☆C14-TdR、C14-UR、C14Leuの酸不溶性劃分へのとりこみを、細胞数の変化しない4時間に限って調べた。
ハムスター胎児2代目をFalconシャーレ当り40万個うえこみ、培養2〜3日目に4HAQOとisotopeを同時に加える。いずれも0.1μc/ml。時間後にpronase→1.0N PCA coldを加える→0.5N PCA→遠心→Ether・EtOH・CHCl3(2:2:1)→遠心→HCOOH→Planchet→Gasflow counter。*Leuのとりこみのときは、PCA 100℃ 30minの加水分解を行う。
ここで分ったことは、最初の4時間で、すでにDNA合成の低下が起っていること、RNA合成もDNAと同じように阻害されるが、proteinはinhibitされないことである。
このうちDNA合成の低下の二つの理由としては、G1 blockと、S期のDNA合成の低下の二つの理由が考えられる。
 ☆そこでG1 blockをみるために、H3-TdRのcontinuous labelingによるLIの累積曲線をとってみた。(図を呈示)
MIのときと同様に4NQO 10-5.5乗M、他は10-5.0乗M加え同時にH3-TdR 0.1μc/mlをcontinuous lab.した。4AQO(バラツキがあるが)はcontrolと差がなく、4HAQO、3-methyl4NQOはcontrolより低い。4NQOはlabeling indexは殆んど上昇しない。ハムスター胎児細胞のG1は、約3.6hrs.であるので、4時間までLIが低いことは、G1 blockの存在を示唆する。それ以後の累積LIの低さはG1+G2 blockによるものであろう。
 ☆問題のS期のDNA合成阻害については、前の報告(月報6712号)から、当然予想されるところである。これからpulse labelingによるLIとgrain countの推移をみるexp.をセットしようと思っている。

 :質疑応答:
[安藤]labeled mitosisで、delayがあっても100%になるのに、G2 blockがあるといえるのですか。
[吉田]吉田肉腫に4NQO処理してもG2 blockがあります。染色体breakageという意味で。他の期にはありません。
[勝田]最後のデータで考えたのですが、4NQOが4HAQOになって働くのなら、両者のカーブは同じでよい筈ですが、ちがうのは4NQOの毒性のためでしょうかね。それからシンクロは40%位で良いのですか。
[黒木]primaryは仲々むずかしくて、これでもうまくなった方です。4NQOと4HAQOのカーブがちがうのは4NQOの毒性のためと思います。
[勝田]映画で見ると、どうもmitosisとは関係なく、細胞が死ぬように思われます。4NQO処理の場合ですが。
[堀川]mitotic deathといってもその辺を中心にして起る死、という程度の意味です。

《三宅報告》
 ヒト胎児皮膚を継代して来たfibroblast様構造のものについて、0.30、1.00、1.30、2.00、2.30、3.00、4.00・・・時間4NQOを作用せしめた。その上で、各濃度の相違のある、各群に、経時的にH3-TdRをとりこませて、L.I.をプロットした。すると10-5乗Mのような高い濃度のものでは急激にL.I.は減少するが、10-6乗M、10-6乗x5では1時間後までは対照と変らない。
この10-6乗Mについて詳しく時間経過を追ってみると、4時間目まで漸減して来て、それから以後はL.I.は再び上昇してゆく。
10-6乗x5Mについては、前に月報に述べたように、3時間目に0となり、立上ることはない。
次にH3-TdRと4NQOを同時に入れてみると、10-6乗Mでは実験群のL.I.開始後数時間で少し落ちるが、爾後そのカーブは対照とかわることはない。5x10-6乗Mとなると、前に述べた様なカーブになって3時間で実験群は0となる。
これと同じことをL株細胞を用いて行った。このLのtg=21hr.、ts=8hr.、tG2=7、tG1+tM=6hr.であった。
その結果はControlにしたL細胞でも10-6乗x5Mで3時間以内にL.I.が減少したことから、4NQOはG1-blockの他にG2-block、又S-blockをきたすと考えられ、いずれとも断言しえないことになった。
目下この2つの細胞について、同調培養を行って、それを決定したいと考えている。
(各実験についての図を呈示)

 :質疑応答:
[勝田]L細胞の実験で、labeling indexが最初に下るのはG2 blockを意味しているのではないでしょうか。そして、以後にcontrolよりも反って高い値を示しているのは、S期の延長を示しているのでしょうかね。
[難波]4NQOは培地に入れつづけでしょうか。
[三宅]そうです。4NQOとH3-TdRとを入れつづけたものと、4NQOは入れつづけH3-TdRは45分のflush labelingしたものがあります。

《梅田報告》
 ラット肝のprimary monolayer cultureを勝田先生の方式にしたがい、又多少条件を変えて培養を試みた。即ち(I)ラット肝細切後モチダトリプシン・スプラーゼ処理後、細胞を塩類溶液中に浮遊静置、上清を捨てて、沈殿物に塩類溶液を加え再浮遊、静置、これを繰り返して上清が綺麗になったら沈殿物をLD+20%CSに浮遊させて培養する。(II)Iの方法に殆んど同じであるがトリプシン・スプラーゼ処理後、培地を加え、ガーゼ或はメッシュ濾過後遠心し、沈渣に培地を加えて浮遊させ培養する。材料として特殊例を除き、生後3〜5日のラット肝を用いた。
 (1)Iの方式では大きな細胞塊が残っており、それからの生え出しが非常に良く、特に肝細胞の増生が良い。しかし間葉系のendothelと思われる細胞も旺盛に増殖している場所もある。主にこの2種の細胞群から成っている。
 IIの方式では2〜5ケ位の細胞数からなる中等大の細胞塊も沢山残っているが、一応disperseした状態からの細胞からも細胞が増生する。50万個cells/mlの接種数で6〜8日後には殆完全なmonolayerを作る。その時の肝細胞増生は全細胞の1/3〜1/2を占め島を作っており、その間を間葉系(?)の細胞が占めている。間葉系の細胞を良く見ると、大型の細胞質のひろがったエオジンに濃染する細胞で核も大型長楕円形で核小体は不規則形2〜3ケあり核全体もヘマトキシリンに淡く染る細胞(endothel?)と、やや小型で核が丸或は楕円で核小体は1〜2ケ丸くくっきりと染る肝細胞核に似た細胞(胆管上皮?)がある。
 (2)培地として、MEM+20%CS、MEM+10%tryptose phosphate broth+10%CSを使用、LD+20%CSと比較してみた所、前2者では良く細胞は増生するが殆んど間葉系細胞で占められ、肝細胞と思われる細胞は、あちこちに数ケ宛細胞質に空胞を生じ、変性して散在する。
 (3)1例IIの条件で生後15日のラット肝の培養を試みた所、トリプシン・スプラーゼ処理のpipettingにより細胞の大多数が破壊され、約0.5gの肝組織からスタートして50万個cells/ml 2mlの生細胞しか得られなかった。培養開始後沢山のcell debrisがあり、2日後にそれを培地で数回洗い去ってから培養を続けた所、生後5日肝培養と同じ様に、肝細胞も間葉系細胞も増生した。ただし、一部に生後5日肝では見られなかった敷石状の配列を示す細胞増生がみられた。
 (4)IIの条件で1例生後2日のmouse肝の培養を試みたが、肝細胞の増生は良くなく、肝細胞の大型化多核化が見られ分裂障害を思わせた。
 (5)IIの方法で培養した生後5日のラット肝培養細胞にDABを投与した。DABは10mg/mlの割合にDMSOに溶かし、培地で稀釋した。100μg/ml、32μg/mlで肝細胞の著明な空胞変性が見られたが、他の間葉系の細胞では変化が見られず健全に見えた。10μg/mlでは肝細胞の空胞は見られない。
 (6)同じく黄変米の毒素であり、肝癌源物質であるルテオスカイリン投与を試みた。1μg/mlで肝細胞だけすべて3日後にcoagulation necrosisが起り、間葉系細胞だけ残るのが見られた。0.32μg/mlでは萎縮した核をもち細胞質に空胞のある肝細胞が見られた。

 :質疑応答:
[高木]継代するとどうなりますか。
[梅田]中間型のような細胞とendothelばかりになってしまいます。医科研の斎藤先生の仰言るには、肝のshaltstuckの細胞ではないか、というのですが・・・。
[佐藤]小型で核の丸い三角のような細胞がshaltstuckだと思います。とにかくいろんなものが出てきますね。私はcolonyにして同定しようかと思っています。
[勝田]箒星のような細胞で、細胞質に平行したセンイ状構造のみられるのは、他のorganをcultureしても出てくるので、血管の内被細胞ではないかと思っていますが・・・。映画でみるとこの細胞は動きません。
[安村]箒星というのはどんな臓器でも出てきますね。
[勝田]小さくてよく動きまわる、おそらくKupferと思われるのも見られます。
[佐藤]平たく拡がった細胞では判らないから、塊にして切ってみようか、と思っています。
[勝田]explant cultureして、反射光源で顕微鏡映画をとると、どんなところからどんな細胞が出てくるか判ると思います。
[藤井]班長のところの肝臓のcell lineは実質細胞ですか。
[勝田]株になったのはほとんど実質細胞だと思います。
[藤井]Rat肝を抗原にして作った抗体でcheckしても、培養系の肝細胞では沈降線が出ないので、どういうことなのかと思っています。
[勝田]培養で増殖系になった肝細胞を抗原にして抗血清を作ると、その結果は変るかもしれませんよ。

《吉田報告》(Abstractの提出がなかったので概略を記す)
 黒木班員のところで4HAQO、4NQOでtransformさせたハムスター胎児細胞の諸系の内、今回はmodeが4n近辺の系を主にしらべた。
 4nの系に通じて云えることは、全系とも染色体の数と形に異常のあることで、つまり正常の2nの2倍ではないことである。系によって異なってはいても、非常に安定した染色体と、動き易いものとが見られた。また上に記した異常というのは一定の傾向をもったものではなく、系によって異なっていた。

 :質疑応答:
[難波]染色体の収縮はX以外にもありますか。
[吉田]他にもありますが、特にXに強いのです。

《安村報告》
 ☆1.Plating efficiencyとcolony Sizeの培養液の種類による影響:
 先月の月報の2-6にふれておきました問題について、予備的にあたってみました。アルビノハムスター腎細胞の2代目の培養をふたたびPlatingしてコロニー形成をみました。細胞数は1,000、2,000、4,000、8,000個。MediumはE:DM-140培地のうち塩類溶液の組成のみEarleの液+コウシ血清10%、199:199液+コウシ血清10%、D:DM-140+コウシ血清10%。(結果の表を呈示)
 1-1.コロニー形成数からは有意義の差がありません。またコロニー1こ1この大きさにも差がみとめられません。ただPlating efficiencyが初代培養の10倍近くなっているのが誤算のひとつでした。初代と同じくコロニーの大きさが小さく、たかだか20~50/コロニーというところで、やはりクローン化できません。
 1-2.mediumの種類によってP.E.に差がでなかった理由は一つには、細胞が最初の2週間D液で培養され、ついでちがっmediumにかえられ(3週後に判定、つごう5週間培養)たため、P.E.は最初のD液によって決められてしまったのかもしれません。こんごこの問題をしらべる必要があります。
 1-3.Plating efficiencyの上昇はひとつには、まかれた細胞のViabilityによるものと考えられます。初代では総細胞数の50〜60%がviableで、2代めのものはほとんど100%に近くviableでしたから。

 :質疑応答:
[黒木]Feederを使ったらsizeが全然大きくなると思います。
[佐藤]single cellの比率はどの位ですか。
[安村]はじめは50%位ですが、2代目になるとほとんど100%です。
[佐藤]2代目にplating efficiencyがそう上るというdataはあまり聞きません。
[安村]もう一度やってみようとは思いますが、トリプシンのかけ方などに影響されるのではないですかね。5〜80%位のひらきが、培地のlot No.によって出るというようなこともあります。

《山田報告》
 細胞表面構造を研究するために、細胞電気泳動装置を製作し、この装置で物理化学的条件並びに被検細胞の生物学的条件を種々検討して来ました。その一環の仕事として、細胞免疫に関する実験も開始しましたので書いてみます。
 即ち細胞表面における抗原抗体反応を細胞電気泳動法により量的に測定するためのfirst stepの実験です。今回は最も単純な方法としてアルブミンに対する脾細胞抗体産生の程度を調べてみました。具体的には、抗原性の異なる卵白アルブミンと牛血清アルブミン(各3mg)をFreundのadjuvantと共に週二回、それぞれラットの皮下に注入し、合計四回感作後、一週間をおき、ラットの脾臓を摘出。鋏で細切し、looseなホモゲナイザーでかるくこすり、脾細胞浮遊液を製作。この感作細胞に各々抗原であるアルブミンを37℃30分接触させた後に生食にて洗浄し、1/10Mヴェロナール緩衝液(pH7.0)をメヂウムとして細胞電気泳動度を測定した。
 3回の実験結果(表を呈示)、それぞれの抗原であるアルブミンと接触した場合に選択的に感作脾細胞の泳動度は低下し、両アルブミンで感作された脾細胞は両アルブミンの接触により共に泳動度が低下しています。
 しかし、この抗原アルブミンによる電気泳動度の低下は必ずしも大きくはない。従来の報告によると、脾における抗体産生細胞は数%であるとされて居ますので、実際の抗体産生細胞表面に抗原のアルブミンが結合し、その表面の荷電をマスクし、泳動度を低下させる程度は更に大きいと考えます。
 従って今後、抗体産生細胞のみをえらび出して、その抗原の表面結合による荷電の低下を測定すべく工夫している所です。
 今回の成績により細胞表面における抗原抗体反応を直接細胞電気泳動法により測定できるという確信を得ましたので、次に悪性化に伴う細胞表面の変化や、宿主の抗体産生細胞の認識に、この免疫細胞電気泳動法を用いようと計画中です。

【勝田班月報:6806:4NQOのphotodynamic action】
 A.ラッテ肝細胞の増殖期による4NQOの感受性の相違:
 これまでの実験で、どうもその都度、都度で4NQOの細胞に対する影響にむらがあるように思われたので、RLC-10株(正常ラッテ肝細胞)を使って増殖のいろいろな時期に4NQOを添加し、その増殖に対する影響をcell countingでしらべた。
 結果は(増殖曲線の図を呈示)、増殖のstageによって細胞のresponseがかなり違うことが判った。しかしこれは、他の実験からも判ったことであるが、細胞のstageというより、むしろ細胞数/tubeの影響が大きいのではないかと推測される。
 B.4NQOのphotodynamic action:
 前月号の月報に記したが、癌センターの永田氏が4NQOのphotodynamic actionについて報告している。我々も顕微鏡映画で観察していて、どうもそれに一致するようなデータを色々と得たので、果してそれが本当かどうか、cell countingで定量的にしらべてみた。細胞はRLC-10株(正常ラッテ肝)で、4NQOで37℃、3.3x10-6乗M(その他の濃度もみたが)、30分間処理後すぐに365mμのマナスル・ランプで、室温で2時間照射し、増殖に対する影響をしらべた。No.6709の月報に報告したように、4NQOの特異吸収は366mμと252mμにあるので、この波長は正しいと思う。
 (結果の図を呈示)おどろいたことに、正にphotodynamic actionを4NQOの持っていることが確認された。
 光だけを各種時間に照射したcontrolsははっきりとした増殖抑制は認められない。ところが4NQOで30分間処理した直後に光をあてると、照射時間の長さに比例してはっきりと細胞の破壊が起った。
 同様の実験を、種々の濃度の4NQOについておこなった結果、やはり4NQOの濃度の高いほど細胞障害は強く現われた。
 このようなphotodynamic actionがどんな意味をもっているか、ということであるが、永田氏はphotonによって4NQOにfree radicalができて、それが細胞のDNAに破壊的に働く、と考えているようである。しかしそのようなDNA levelでの障害が直接発癌に結びつくかどうか、私は疑問に思っている。photodynamic actionは発癌作用とは関係のない、副次的な現象であるかも知れないし、あるいはきわめて重要な役割をしているのかも知れない。これは今後解明すべき問題である。
 H3・4NQOを培地に入れると、4NQOは細胞内の色々な成分と結合するが、とくに蛋白との結合量は大きい。Biochemistsはすぐに核酸の方を考えたがるが、この場合、蛋白、とくにlysosomal enzymesとの関連などについてしらべることは大変面白いのではないかと、私は思っている。そして4NQOの解毒をする酵素の誘導も大いにしらべてみたいと思っている。

《安藤報告》
 H3-4NQOの細胞内への取込みのKineticsについて:
 A.L・P3細胞の場合:
 実験方法は月報No.6801に勝田先生が書かれている方法と基本的には同じです。即ちL・P3細胞を培地DM-120中TD-40で約500万個/bottle迄生やし、これにH3-4NQO(がんセンター川添氏より分与)10-3乗M in 10%DMSO液を0.1ml/10ml培地/TD-40添加し、終濃度10-5乗Mとする。直ちに培養ビンは出来る限り遮光し37℃静置培養する。
その後、時間を追ってサンプリングし、培地を捨て、Dで一回洗う。
 細胞を少量のDに懸濁し、酸不溶性分劃(核酸、蛋白が主成分)と酸可溶性分劃に分けカウントする。
 結果及び考察:(図を呈示)
 1)酸不溶性分劃への取込みは30分で止り、その後2時間迄不変のようだ。5時間目の点が下っているのは、本質的なものか実験のエラーか不明。
 2)5時間目に培地中よりH3-4NQOを除くと、この不溶性分劃のラベルは再び放出されるようだ。この部分が核酸についていたものか、それとも蛋白についていたものか定めるべきだろう。
 3)月報No.6804に堀川さんが記しておられるように、酸可溶性分劃への取込は非常に特異的である。即ち30分あるいはそれ以前に最大値に達し、以後、培地中に多量存在するにもかかわらず、細胞外に放出されてしまう。毒物に対する細胞の防衛機構を如実に見せられた思いである。L・P3は4NQOに対し次に調べた正常ラット肝細胞よりもより抵抗性が強いので、そのためにこのような再放出の現象があるかと思って、RLC-10についても同様な実験を行ってみた。(図を呈示)図にある通り全く同じ結果となった。
 B.RLC-10細胞の場合:
 4NQOに対する感受性の、より強いラッテ正常肝細胞の場合に於て異なる結果を期待したが、酸不溶性分劃への取込みも、酸可溶性分劃への取込みも、全くL・P3の場合と同じであった。但し使用培地はLDにCS・20%添加したものであり、H3-4NQOの濃度は3.3x10-6乗Mであった。
 C.L・P3細胞の核酸、蛋白質分劃への取込み:
 L・P3を前記条件で2時間H3-4NQO処理を行い、直ちに細胞分劃を行い、核酸分劃と蛋白分劃に分けてみた。
 分劃       DPM/1,100万個cells  %分布
 細胞全体      170,450       100
  酸不溶性分劃    8,615        6.4
  酸可溶性分劃   125,910        93.6
 酸不溶性分劃の内             100
  核酸分劃      2,620        23.8
  蛋白分劃      8,520      76.2
 上記の表のような結果になった。今後の方針として、更に核酸分劃のRNA、DNAを分け、各々いかなる塩基と結合しているか、又蛋白部分についても、いかなる種類の蛋白に結合しているか、等を検索する予定である。

 :質疑応答:
[堀川]4NQO処理後のwashはどの程度やりましたか。
[安藤]等張液でさっと一回洗うだけです。
[高木]4NQOの濃度はどの位ですか。
[安藤]L・P3は10-5乗M、RLC-10は3.3x10-6乗Mが終濃度です。
[堀川]細胞当りの取込み量は、L・P3とRLC-10でちがいますか。
[安藤]ほぼ同じ位です。
[堀川]私の実験でも酸可溶性分劃のcountが短時間で最高値に達し、それからすぐにすっと下がってしまうのは何故でしょうか。
[黒木]10-5乗Mで5時間も添加していると、細胞が死んでしまいませんか。
[勝田]L・P3は4NQOに対してすごく強い細胞系で、5時間位では平気です。それにRLC-10にしても映画での観察によれば、死に始めるのは5時間よりずっとたってからですね。むしろ、そういうことより細胞側の解毒作用というか、4NQO分解酵素の活性がinduceされて、その結果として酸可溶性分劃のcountが急激におちるとは考えられませんか。
[梅田]若しそうだとすると、5時間後に又4NQOを添加してももう受付ないという現象が起るはずですね。
[安藤]それは面白い考えだと思います。早速やってみましょう。
[勝田]私もその考えは面白いと思いますね。しかし、培地中に4NQOが一杯あるというのにその取り込みにピークがあり、急激な減少があるというのは又面白いことですね。
それから、うすい濃度でL・P3の増殖を促進するのですが、その時4NQOが細胞のどの分劃に取り込まれているかということにも興味があります。安藤君は核酸を追いたいというだろうが、私はむしろ蛋白の方に問題があると思い、蛋白を追え!と言っています。
[堀川]始の報告のphotodynamic actionについてですが、その機構はまだよくわかっていないのですね。
[勝田]癌センターの永田氏の話では、4NQOの誘導体の殆どが、発癌性とphotodynamic actionが平行していますが、4HAQOだけが例外で、発癌性は高いのにphotodynamic actionはないということです。
[佐藤]しかし動物の体内での発癌を考える時、photodynamic actionなんで考えられないと思いますが。
[勝田]そうですね。そう考えると培養での4NQO発癌実験も光を与えてどうなるかより、真暗な中で培養するべきだということになりますね。実際に、暗くして映画を撮ってみますと、細胞のこわれ方もずっと少ないし、何か細胞の状態が明るいままで映画を撮った時とちがうようです。
[堀川]photodynamic actionは治療に利用出来そうな気もします。
[高木]最後の図は4NQOの細胞周期に対する影響というよりも細胞数に対する影響をみていることにはなりませんか。
[勝田]そうです。
[黒木]生きている細胞でなくても、レントゲン照射した細胞をフィーダーにおいても4NQOの毒性は弱まります。
[勝田]そういうことは何を意味しているのでしょうか。培地にはありあまる程4NQOがあるわけですから、細胞数が多くなっても細胞1コあたりの4NQO量がうすまるわけではありませんし。
[堀川]私の実験からは、取り込んだ4NQOを4HAQOに変える能力の違いが細胞の4NQOに対する抵抗性の違いとなって現れてくるというようなデータになりつつあるようです。
それから、又photodynamic actionの実験ですが、4NQO処理後すぐ照射する実験の他に処理後の時間をかえて照射するとどうなるかもしらべると面白いですね。
[勝田]これからしらべてみます。私達はこれからL・P3をモデル実験に使いたいと思っています。L・P3は現在の所C3Hには腫瘍を作りません。L・P3は合成培地に増殖している細胞で、血清培地で飼われている細胞とは膜の構造が全然ちがうわけです。にもかかわらず4NQOの作用(今の所取り込み)が同じだということは4NQOの作用が膜構造には左右されないといえると思います。

《佐藤報告》
 ◇4NQO発癌実験の現況
 A.ラッテ肝(Exp.7)←4NQOはその後2匹のtakeで実験例49匹中16匹(33%)が発癌。
対照群は10匹中0となった。現在最終復元動物が7ケ月を経過したので近く全動物を屠殺処理する。
 復元接種動物が腫瘍死するまでの平均日数は188日であった。
 腫瘍の組織像は肝臓癌と診断されるもの12例、癌肉腫と診断されるもの2例、繊維肉腫と考えられるもの1例、残りの例は腫瘍であることは間違いないが性格(ラッテ自然発癌?)がよく分らなかった。
 核型分析
 Exp.7 肝細胞株の対照株については前号に報告した。この対照株の総培養日数512日に当たる実験株526日の培養時における染色体と、動物復元後発生した腫瘍の再培養細胞の染色体分析をおこなった。
(染色体数分布図と核型分析図を呈示)核型分析ではNeoplastic line即ち4NQOを投与された総培養日数500日以上の培養細胞では41にmodeがあり、50ケのMetaphase中に22ケの44%を示した。10ケのMetaphaseの分析を行った所、略同一の核型を示した。即ちMeta-Group 12ケ、ST-Group 7ケ、T-group 18ケ及び異型染色体4ケの計41である。異常染色体4ケ以外の染色体は略正常なラッテの核型である。(異常染色体4ケの模型図を呈示)腫瘍再培養細胞の染色体数は43にModeがあるので、分析可能な43の2ケのMetaphaseについて検索した所、1つは前記同様の4つの異型染色体Groupをもっていることが判明した。他の1つは異型染色体2つをもっていたが特異なGroupは存在しなかった。然し描写による検索では前記4Groupをもつ染色体型が他の染色体数の部にも広く認められた。極めて単純に云へばこの4Groupの発生が4NQOの作用によると考える。
 上記のNeoplastic lineを動物に復元し出来たTumorを再培養したものの核型は(図を呈示)異型染色体はTumor lineの6Groupとなっていた。この場合Modeは43であった。幹細胞の数は22%であった。検索された10ケの核分析の内9つは同型であり、動物復元前時の特異的4Groupの他にsmall sizeのTeloが2ケ増加したものであった。動物復元前の4NQO処理培養細胞の中には今の所この型は見当らないが、それは培養細胞時にはPopulation中における%が低いためであろう。この点はギムザ標本及び復元動物の生存日数からも推定できる。(対照の培養細胞に現れる異型染色体図を呈示)此等の異型染色体が個々に現われる場合が多い。今後尚詳細に検討していく積りである。
 4NQO耐性の問題:
 4NQOによって発癌したと考えられる株細胞(Exp.7)と、その株細胞を動物に復元接種しTumorより再培養した細胞、及び対照株について継代培養と同時に4NQOを10-6乗M、10-7乗M、10-8乗Mに添加して48時間後の細胞数を比較した。(図を呈示)結果はNeoplanstic lineもTumorよりの再培養細胞(Neoplastic lineよりTumor cellを取りだしたもの)も共にControlに比較して耐性をもっていた。この場合の耐性は、既にDABの場合にも述べた様に薬剤中に長く存在したための耐性で腫瘍とは関係がない様に考えられる。
 B.動物復元 続き
 動物番号146〜157の復元表を呈示する。
 C.培養ラット肺細胞←4NQO
1967-6-1に生まれる直前のラッテの肺細胞をtrypsinizeして、20%BS+YLEで培養し、4NQO実験を行っていたものの内、10-6乗Mの4NQOを33回処理したものでラッテ新生児皮下復元にTumorを発見した。腫瘍の性格は未だよく分らない。
 D.ラッテ全胎児←4NQO
 (5例の実験の一覧表を呈示)
 動物復元観察日数は丁度6ケ月である。従って6ケ月でTumorをつくらない場合には結果は腫瘍形成がないことになる。5例中で実験RE-5、10-6乗M、100日処理のみが+であった。

 :質疑応答:
[黒木]今、呈示された表で、濃度を同じに換算して時間の統計として比較するというのは、理論的に意味ないと思われますが、どうでしょう。薬剤の濃度と処理時間というのは異質のものだと思います。
[安藤]ある濃度以下の処理では何時間処理しても効果がなく、それ以上だと10分でも効果があるといった、oll or noneの場合もあるから、時間の総計で比較するために濃度を同じに換算するのは少し変ですね。
[佐藤]逆にそういうことを証明するのに、こういう計算をしてみた積りです。つまりうすい濃度では濃い濃度での集計時間に達する程の長い時間処理しても悪性化はおこらないのだ、ということが数字で現せると思います。
[勝田]復元例で、同系の細胞なのにtakeされたり、されなかったりするのは何故でしょうか。
[佐藤]培養だけでつづけている系と、一度復元してtakeされ再培養した系では染色体の核型が多少ちがっています。そういう点から考えられることはRatの肝細胞の場合、全部が悪性化しているわけでなく、しかもそのpopulationが培養の時期によって変わるので、takeされたりされなかったりするということです。
[梅田]基本的なことですが、LD培地とYLE培地とはイーストエキストラクトのあるないの他に、pHもちがうわけですから、要素を二つ変えて比較するのはよくないと思います。LDとYLDにするべきですね。
[黒木]コロニーを作らせることは出来るのですか。系の一部が悪性化しているのなら、悪性細胞のコロニーを拾えば、動物への復元の問題は解決されると思われます。
[吉田]動物への復元実験の対照群の匹数が実験群に比べて少なすぎるようです。このデータですと対照群の中に変異細胞がいないとは断言出来ませんね。
[佐藤]それは私も痛感しています。これ以後の実験では対照群を増しています。
[勝田]何時も云うことですが、反復実験は同じ系の培養でなく、新しい系で追試した方がよいですね。
[堀川]耐性をしらべたgrowth curveの所で、耐性についてですが、takeされるようになった時までに添加された4NQOの濃度はどの位ですか。
[佐藤]濃度は一定でなく、かなり長く処理しています。この場合耐性は悪性と平行するものではなく、4NQOを添加していた期間に平行するものと考えられます。
[三宅]復元して出来たtumorの組織像は上皮性な感じがしますね。エオジンをよくとっているのは、ケラチン様物質があるのではないでしょうか。
[吉田]染色体の核型分析についてですが、1例でははっきりしませんが、本当なら面白いですね。私自身のデータからも染色体の変化と悪性化とが関係づけられる、ある染色体のパターンがあるようだとは考えています。
[勝田]ただ、1例では何とも言えませんね。
[安村]再培養した系の場合、43本でないものでも、この5本のグループを持っていますか。
[佐藤]たいてい持っているようですが、まだ正確にはしらべてありません。
[安村]再培養した細胞系を又復元するとtakeする率がよくなりますか。又復元前の細胞の染色体の中にtakeされた細胞の染色体と同じものがありますか。
[佐藤]50コ位しらべてみた所では見つかっていません。しかし、もっと沢山エネルギッシュにしらべてみたら見つかるのではないかと考えています。又培地や培養法をかえれば、悪性細胞をセレクト出来るのではないかと思います。
[安村]動物への接種細胞数はどの位ですか。
[佐藤]だいたい100万個位です。
[安村]矢張り何コ中に1コの悪性細胞がいるのかということを調べておく必要がありますね。それから、この5本のグループの染色体が確かに悪性と関係があるのだと言いたければ、ハイブリッドを作らせて、この染色体のはいったのが悪性だということまでチェックすればよいでしょう。
[吉田]実際にはなかなか難しいことです。この染色体があるから悪性化しているのか、或は他の染色体が無くなったこととの組合わせに於いて悪性化と関係があるのか判りませんね。それから4NQOが染色体変異を起こすことは確かです。このデータもその変異の一つでしょう。しかし4NQOによる悪性化が、こういう染色体変化に集約されるとは断言出来ません。
[佐藤]変異だけでなく、次に悪性化することを考えれば、変異したものが一定の方向に集約されることも考えられると思います。
[勝田]染色体の標本をみる場合、数えられないもの、しらべられないものが沢山あり、そういうものの中に問題がある場合も考えられます。
[安村]復元前の培養細胞の中に、この5本のグループがあるのか無いのか先ずしらべてみなくてはいけませんね。その上で5本のグループの中の2本の染色体がクサイという事実があれば、それがハイブリダイゼーションという手法で確かめられるのではありませんか。
[堀川]酵素活性と関係のある染色体の場合とは違って、腫瘍性と関係のある染色体というのは、すごく複雑でむつかしいと思います。
[安村]いや、私も腫瘍性を染色体でチェック出来るなんて事は否定の方に90%位ですが、若しできるとすれば大変面白いと思います。
[勝田]何にしても1例だけでエキサイトしなさんな。
[佐藤]私も1例だけで何とか言おうとは決して思っていませんが、ただこの例は理論的に考えやすかったので出してみたまでです。私として言いたいことは、この系の培養のpopulationの中に悪性化した細胞は少ないのではないかということ、又4NQOの作用したという証拠は残っているのではないかということです。
[勝田]佐藤班員の研究室でRatそのものの自然発癌率はどうですか。
[佐藤]非常に少ないようです。
[勝田]それも一応データとしてとっておいた方がよいですね。
[佐藤]復元実験のやり方を考えてみる必要を感じています。復元して長くおけばtakeされることがわかっているわけだから、もっと短期間で対照との比率に於いて悪性度をみることにしたいと思っています。
[安村]発癌剤によって悪性化する率が低いということは、Ratは発癌実験に不適当だということではないでしょうか。
それから接種数100万個の中、1、2コの悪性細胞が居たために動物にtakeされたとするなら、復元前にその100万個の細胞を寒天へまいてコロニーを作らせれば悪性のコロニーを1、2コ拾うことが出来るのではないでしょうか。現在の手法では、寒天法は悪性のコロニーを拾うために良い方法とされているわけですから。そうすればもっと高率にtakeされる系を作れるはずです。
[勝田]コロニー法ではpureなクローンはとれませんね。肝細胞を映画に撮っていて経験しましたが、分裂した娘細胞同志が一緒に居ずに離れてしまい、他の所から別の細胞が動いてきてくっついて、あたかも娘細胞同志のような顔をしていたりするのです。
[安村]クローンについては確かにそうですが、目的によっては定量的に扱えるということでコロニー法の利点もあります。
[藤井]腫瘍細胞には同種の抗体に抵抗性があるかも知れないということから、同種の抗体で悪性化した細胞をセレクト出来ないでしょうか。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞における放射線ならびに化学発癌剤障害回復の分子機構の研究(5)
 これまでの報告で培養細胞のもつ紫外線障害回復機構と4NQO処理による障害回復機構の間には何ら関連性のないことを示してきた。
 つまり紫外線に対して最も感受性株のブタPS細胞が4NQO処理に対しては最も抵抗性を示し、4NQO処理による障害回復の機構は紫外線照射によって生じるThymine dimerの除去機構では説明出来ないことがわかって来た。
 第2の段階として、4-HAQOに対するマウスL細胞、Ehrlich細胞、PS細胞の感受性を比較する問題が生じてきた。黒木さんより得た4-HAQO(国立がんセンター川添豊氏合成品)を使用した範囲では(図を呈示)、三者の細胞株間には感受性の差異は認められない。(これらはいづれも4-HAQOを含んだMedium内で約2週間培養期間中、それぞれの細胞を培養した際のcolony forming abilityからdetermineしたもので障害回復能よりもむしろ4-HAQOに対する耐性度をみたものであることに注意されたい!!)
 勿論現在の段階では4-HAQOの濃度分割が大きすぎるので正確な耐性度を比較することは不可能であるとは言え、本報No.6802に示した4NQO濃度−生存率曲線と比較して大きな違いのあることがわかる。また4-HAQOのtoxicityは生存率曲線でみた範囲では4NQOの10〜100分の1であることもわかる。
 従ってこれまでの結果を総合して考えると培養細胞間の4NQOに対する感受性の差異は、細胞間の4NQO透過性の差異で説明するよりも、4NQOを4-HAQOにreduceするreduction enzymeのactivityの差異で説明する方がよさそうである。
 このことは言葉をかえると、取り込んだ4NQOを4-HAQOにreductionする能力の高い細胞(つまりPS細胞のごときもの)では生存率で見るかぎりその毒性から受ける障害の度合が4NQOから受けるそれよりも少ないであろう。しかし発癌と云う立場からみると、このように4-HAQOにreductionする能力の高い細胞では発癌の可能性が高いと考えてもいい訳である。このような観点からみると、私が当初予想した考えがうまく説明出来そうで発癌のさいにtarget cellの存在を考えるのも面白い。

 :質疑応答:
[勝田]可視光線の光量をergで書いてありますが、具体的にどういう装置で照射したのですか。
[堀川](装置図を呈示)スターラーの上にのせたビーカーに水をいれて、その中にtubeを並べます。60cm離れた所から東芝500w引き伸ばし用電球で照射しました。
[勝田]可視光線で2時間照射すると、コロニーを作る能力が減少したというわけですね。RLC-10の増殖に対しては影響がありませんでした。奥村君から貰ったハムスターの細胞は悪性化しているものですか。
[堀川]それについては、はっきり知りません。
[勝田]Chick brainにP.R.activityがあることになっていますが、どういうことでしょうか。何か他の酵素のside effectではありませんか。
[堀川]サイトクロムCなどがそうではないかと言われていたこともありますが、現在では否定されて、P.R.activityは独特のものだと言われています。放射線による断裂のrecoveryが、若し腫瘍を材料にした場合、腫瘍性を失うとか、はじめに持っていた酵素活性を失うとか、misrepairingで説明できないでしょうか。
[吉田]胎生の早い時期とadultでは、そういう修復機能がちがわないでしょうか。
[堀川・勝田]ちがうでしょうね。
[勝田]細胞の全cell cycleを通じてP.R.enzymeがあるとすれば、stageによってrepairのちがうのは?
[安藤]定性的にはいつもあってもstageによって活性の違うことも考えられますね。

《高木報告》
 1.4NQO添加
 i)NQ-6
 10-6乗:RL-2cells 2代目に2回作用させたものはあまりcell damageなく、2回目作用後2日後に継代した。10日後にはほぼfull sheetの状態になったので更に同濃度で2時間1回作用させた。今回は細胞は可成りのdamageをうけて殆ど脱落したが、約20日後にfoci2ケを認めた。うち1ケはpile upは認めないがfiberの形成がみられた。しかしこのcolonyの細胞の増殖はあまりよくない。
 5x10-7乗:2回作用せしめた後継代し、更に同様にして2回作用せしめたところ殆どの細胞は脱落してしまった。約20日後にfoci 2〜3ケ認めた。一部にはやはりfiberの形成があり、またpile upの傾向も認められるがgrowthはあまりよくない。
 2x10-7乗:この群ではcell damageは著しくなく、NQ処理にてもある程度細胞のgrowthは認められるが8回作用させたものでは最近growthがおちて来た。
 現在まで明らかなtransformationは認めない。
 対照:controlのgrowth rateは2代目が7日間で約3.5倍、3代目が10日で約2倍で、その後は継代時のcell damageがつよく、大体10日毎に継代しているが細胞数としては増加しない。
 ii)NQ-7
 10-6乗:第1回目作用後10日の間隔で2回目を作用せしめたが、約20日後に2ケのcolonyを認めた。1ケはpile upしないがfiberの形成が著明で、また培地が非常に粘稠になる。mucopolysaccharideの分泌を思わせる。
 5x10-7乗:3回作用後継代し、更に4回目を継代後10日目に2時間同濃度で作用させた。その後約20日経過するが、少数の細胞が残存しているのみでcolonyは認められない。
 2x10-7乗:3回処理後2本に継代、1本はその後も同様に2時間ずつ4回作用せしめた。また別の1本はNQ 2x10-7乗Mを含む培地を使用して継代し、3日間放置した。細胞はガラス壁にはよく附着したが、その間増殖は認められなかった。3日経過後NQfreeの培地と交換し、細胞の増殖を待って更に1回2時間同濃度を作用せしめた。
 現在両者共growthはおちfocusも認めえない。
 2.NG添加
 i)NG-11 RL-2cellsを使用
 10μg/ml:1回の処理により細胞は著明なdamageをうけ約40日を経過したがfocusなど認められない。
 5μg/ml:2時間ずつ4回作用せしめたがcell damageがつよく10μg/ml処理群と同様である。
 1μg/ml:2回処理後継代、更に3回処理して継代、ついで2回処理し、合計7回作用せしめたものではgrowth rateは、5代目は7日間で1.4倍、6代目は7日間で3倍である。又2回処理後継代し、同様に5回作用せしめたものは、4代目は13日間で1倍、5代目は7日間で2倍の増殖を示している。
 培養開始後60日目に固定し、giemsa染色したものでは対照に比して核の大小不同が著明である。
 継代後10μg/ml、5μg/mlを作用せしめたものは、細胞のdamageがつよく現在までgrowthはみられない。
 なお対照は5代目までは7日間で5〜13倍の増殖を示したが、6代目より殆ど増殖を示さなくなっている。
 なおWKA ratの胃の培養については、その後検討を加えているが、培地としては可成りアミノ酸、ビタミンに富んだものがよい様で、目下系統的に検索中である。

 :質疑応答:
[堀川]4NQOでラベルしたDNAを抗原にすると、抗体ができるよりさきに腫瘍ができるのではありませんか。
[勝田]今朝安藤班員から、4NQO*を細胞にとりこませた場合、acid soluble fractionに結合する4NQO量の消長度が大きいと報告されましたが、発癌性はinsoluble fractionの方にあるのでしょう。
[高木]抗原としてはinsoluble fractionの方を使います。DNAについた4NQOは37℃加温で簡単にとれてしまうそうです。
[黒木]できたtumorの間で共通な抗原がありますか。
[高木]それも大きな問題だと思います。
[勝田]抗血清を作っても、どういう方法で抗体をcheckするかが問題ですね。蛍光抗体法はnon specificの抗体がどうしても混ってきてしまうし・・・。ごく最近、山本正氏からきいたところでは、ヒトのγ-globulinとマウスのそれとが交叉するものがあるそうで、immuno electrophoresisも問題をもっていることになります。
[梅田]h2proteinsとさっきのinsoluble fractionとの関係はどうでしょうね。
[勝田]まだ判っていません。H3-4NQOで処理して、初期は細胞のどこに4NQOがあるか判っていても、その後、細胞が増殖をはじめれば放射能はうすまって、追跡が困難になりますね。
[梅田]DABとかDMBAはh2proteinsの塩基性蛋白の部分につき、4NQOはSH基につくと云われていますね。

《黒木報告》
 I.BHK-21/4HAQOについて
BHK-HA-1〜HA-7までの成績を表で示す。これらは(?)→マニラ(?)の予研分室→予研→山根研からのwild BHK、wild BHK-21より当研究室にて2回連続ひろったクローンC22、C22のクローンを3回連続のクローンC222を用いた。7例のうち配列は余り乱れず、しかし細胞はpile up、剥れやすく、このためコロニーの中心部はもり上り、まだらとなり、daughterコロニーが多くできるものが6例、その内2例は配列が乱れてcriss-cross様となるものが混じっている。あと1例はpolygonalなcellとなり、コロニーの形は丸い。又、5/7はBacto-peptoneなし寒天内の増殖能が獲得された。寒天内のコロニー形成率は20〜30%である。寒天内で増殖できるようになるまでの日数は、HA-4の21日、HA-5の63日までかなりのバラツキがある(HA-1の77日は、そのときはじめてagar cultureをしたので、いつから寒天内で増殖できるようになったかは明らかではない)。興味あるのは、この日数が、ハムスター胎児/4NQOのときのtransformationの日数と非常に似ていることである。
 ☆コロニーの形態と寒天内増殖能の間には一定の関係がみられない。またコロニーの形態も培養によって異る。HA-7にのみみられたpolygonalなコロニーは肉眼的にもはっきりと区別できる特徴的なコロニーである。HA-4#3は、寒天内のコロニーをひろったcloneであるが、寒天内で高率にコロニーを作るにも拘わらず、コロニーの形態は“normal”と区別しがたい。これをみるに至って、コロニーの形態からのtransformationの判定をあきらめ、agar中のgrowthのみにtransformationの基準を求めた。全体的に云えることは、寒天内で増殖するようになると、細胞が剥れやすくなり、daughter colonyを作りやすいことである。寒天内増殖と剥れやすさの間に何らかの関係がありそうである。
 ☆4NQO、4HAQOに対する抵抗性
以前と同じように、plating(200ケ/dish)後24hrsに4NQO、4HAQOを加える方法をとった。結果を表で示すが、抵抗性は生じなかった。
 ☆染色体分析:寒天内growthだけでは心細いので、もう一つのmarkerとして染色体分析を試みた。結果を図に示すが、HA-4#5がmode40本である他は、すべて41本にmodeがある。数の上からでは、transformantsと“normal”の間に差はなさそうである。
従来BHK-21細胞は、44本♂の核型をもつと報告されてきた。そこで用いているcellがBHK-21細胞のvariantである可能性が生じてきたので、Moskowitzさんから、BHK-21/C13というクローンを分与してもらった。
 BHK-21 clone13について
 BHK-21はBaby Hamster Kidneyの培養65日に突然増殖率が上昇し、establishされたが、それから19日目(total 65+19=84days)に分離したクローンの一つがC13である。C13は24cell generation増殖しharvestが10の8乗になったところで、大量にfrozen stockされている。StokerのLab.でtransformationの実験に用いられているのは、この凍結アンプレからもどして間もない細胞である*。このことは、彼らのpaperの中でくり返して強調されている。このC13はwildのBHK-21に比してmalignancyの低いということもStokerらによって報告されている。当研究室にきたのは、StokerのLab.で凍結もどしてから10日(60 cell generation)経たものをMoskowitzのLab.で5日間隔で67passageしたものである。*Nature 203,1964,p1355に詳しい。
 ☆先ずこの細胞及びそのpolyoma virus.RSU transformantsのBacto-peptone dependencyをみた。(結果表を呈示)
全く予想しなかったことに、C13はBacto-peptoneがあってもコロニーを形成せず、またそのpolyoma RSV transformantsはB.P.dependencyを有しているということである。すると今まで一生懸命やってきたBHK-21細胞は、全く“variant”ということになり、すべての実験をやり直す必要となった。この他にもC13とwildはかなりの差があり(表を呈示)、例えば移植性はwildからC22は100ケでも100%takeする(C13は目下experiment進行中であるが、10万個接種3週間でtumorを触れない)、4HAQO、4NQOに対する感受性もC13とC22には差があり、C13の方が感受性で10-5.0乗M4HAQOではすべての細胞が死メツし、5x10-6.0乗Mがよさそうである。このような発癌剤に対する感受性の差はSachsらも報告している(Nature,200,1182,1963)。
 由緒正しい細胞を選ぶべきであることを痛感した次第です。
 II.同調培養によるtransformatione(予報)
 2代目のハムスター胎児細胞をexcess TdR(7.5mM)によって(部分的に)同調させ、それぞれのphaseに4HAQO 10-4.5乗M1h.作用させることにより、発癌剤とcell cycleの関係をみようとするものです。(図と表を呈示)
 DNA合成は40%近くまで同調し、発癌剤処置はHA-50〜HA-58の9つの群をおき、それぞれの時間のときに処置した。
transformationの成否はまだ定かでないが、現在focusらしいものがみられているのは、HA-50、HA-52、HA-53、HA-54の四つである。さらに経過をみて(あと2〜3wks.)いくつもりである。
synchronousの方法もprimaryでconfluentしてG1でstopさせ、それをexcess TdR med.の中にうえこむ方法を検討しているところである。倒立でmitosisをみている範囲では、この方がよいようだ。
 III.4NQO及びその誘導体の細胞生活環に及ぼす効果
 前に1)4NQOはRNA、DNA、protein合成を抑制するが、2)4HAQOはDNA合成のみ強くeffectiveなこと、3)またnon-carcinogenic Derivatives 4AQO、3-methyle 4NQOはいずれにも働かないことを示した。それらの作用機序をさらに分析する意味で、これらの物質の細胞生活環に及すeffectをみた。
 (1)分裂細胞数の変化
 ハムスター胎児細胞の培養にcarcinogenを加えると著しい増殖阻害がみられる。この変化をMitotic Indexで示した(図を呈示)。
 ☆第2代のハムスター胎児細胞の培養に、4HAQO、4AQOをそれぞれ10-5.0乗Mづつ加えて培養し、1時間毎にサンプリングした。
MIはcontrol及び4AQOでは0.7〜1.6%(大部分は1.1〜1.4%)の間にある。4HAQOも1時間後はcontrolと同じ幅の中におさまるが、3時間から下降し始める。
 ☆このような分裂阻害をコルヒチンを加え累積分裂指数で表す(図を呈示)。
前回と同じ所見が得られた。4NQOの強い分裂阻害が目につく。4HAQOは3時間後からplateauを示し、4AQOはコントロールと差がない。興味があるのは、3-methyl 4NQOが軽度の、しかしrecoverするG2blockを示すことである。
 ☆さらに、それぞれでG2時間を測定すると、コントロールと4AQOは3hrs.、4HAQOは4.8hrs.と、G2時間の延長が4HAQOに認められた。しかし、この程度のG2delayでは分裂阻害を説明することはできず、(G2delay)+(G2期の細胞の傷害)と考えねばならない。この成績は、前に吉田俊秀先生の得た成績と一致する。
 ☆次に細胞増殖に及す影響をみた(図を呈示)。細胞増殖は4HAQO添加後、3時間は全く影響を受けない。細胞数の減少は6時間より少しづつ表れ、24時間後に最底となる。このように死んでいく細胞が、MI阻害とどのような関係にあるのか問題となる。
 (2)G1 blockとS期の阻害
 4NQO、4HAQOはG1、S期に対してはどのように働くか。
 ☆C14-TdR、C14-UR、C14Leuの酸不溶性劃分へのとりこみを、細胞数の変化しない4時間に限って調べた。
ハムスター胎児2代目をFalconシャーレ当り40万個うえこみ、培養2〜3日目に4HAQOとisotopeを同時に加える。いずれも0.1μc/ml。時間後にpronase→1.0N PCA coldを加える→0.5N PCA→遠心→Ether・EtOH・CHCl3(2:2:1)→遠心→HCOOH→Planchet→Gasflow counter。*Leuのとりこみのときは、PCA 100℃ 30minの加水分解を行う。
ここで分ったことは、最初の4時間で、すでにDNA合成の低下が起っていること、RNA合成もDNAと同じように阻害されるが、proteinはinhibitされないことである。
このうちDNA合成の低下の二つの理由としては、G1 blockと、S期のDNA合成の低下の二つの理由が考えられる。
 ☆そこでG1 blockをみるために、H3-TdRのcontinuous labelingによるLIの累積曲線をとってみた。(図を呈示)
MIのときと同様に4NQO 10-5.5乗M、他は10-5.0乗M加え同時にH3-TdR 0.1μc/mlをcontinuous lab.した。4AQO(バラツキがあるが)はcontrolと差がなく、4HAQO、3-methyl4NQOはcontrolより低い。4NQOはlabeling indexは殆んど上昇しない。ハムスター胎児細胞のG1は、約3.6hrs.であるので、4時間までLIが低いことは、G1 blockの存在を示唆する。それ以後の累積LIの低さはG1+G2 blockによるものであろう。
 ☆問題のS期のDNA合成阻害については、前の報告(月報6712号)から、当然予想されるところである。これからpulse labelingによるLIとgrain countの推移をみるexp.をセットしようと思っている。

 :質疑応答:
[安藤]labeled mitosisで、delayがあっても100%になるのに、G2 blockがあるといえるのですか。
[吉田]吉田肉腫に4NQO処理してもG2 blockがあります。染色体breakageという意味で。他の期にはありません。
[勝田]最後のデータで考えたのですが、4NQOが4HAQOになって働くのなら、両者のカーブは同じでよい筈ですが、ちがうのは4NQOの毒性のためでしょうかね。それからシンクロは40%位で良いのですか。
[黒木]primaryは仲々むずかしくて、これでもうまくなった方です。4NQOと4HAQOのカーブがちがうのは4NQOの毒性のためと思います。
[勝田]映画で見ると、どうもmitosisとは関係なく、細胞が死ぬように思われます。4NQO処理の場合ですが。
[堀川]mitotic deathといってもその辺を中心にして起る死、という程度の意味です。

《三宅報告》
 ヒト胎児皮膚を継代して来たfibroblast様構造のものについて、0.30、1.00、1.30、2.00、2.30、3.00、4.00・・・時間4NQOを作用せしめた。その上で、各濃度の相違のある、各群に、経時的にH3-TdRをとりこませて、L.I.をプロットした。すると10-5乗Mのような高い濃度のものでは急激にL.I.は減少するが、10-6乗M、10-6乗x5では1時間後までは対照と変らない。
この10-6乗Mについて詳しく時間経過を追ってみると、4時間目まで漸減して来て、それから以後はL.I.は再び上昇してゆく。
10-6乗x5Mについては、前に月報に述べたように、3時間目に0となり、立上ることはない。
次にH3-TdRと4NQOを同時に入れてみると、10-6乗Mでは実験群のL.I.開始後数時間で少し落ちるが、爾後そのカーブは対照とかわることはない。5x10-6乗Mとなると、前に述べた様なカーブになって3時間で実験群は0となる。
これと同じことをL株細胞を用いて行った。このLのtg=21hr.、ts=8hr.、tG2=7、tG1+tM=6hr.であった。
その結果はControlにしたL細胞でも10-6乗x5Mで3時間以内にL.I.が減少したことから、4NQOはG1-blockの他にG2-block、又S-blockをきたすと考えられ、いずれとも断言しえないことになった。
目下この2つの細胞について、同調培養を行って、それを決定したいと考えている。
(各実験についての図を呈示)

 :質疑応答:
[勝田]L細胞の実験で、labeling indexが最初に下るのはG2 blockを意味しているのではないでしょうか。そして、以後にcontrolよりも反って高い値を示しているのは、S期の延長を示しているのでしょうかね。
[難波]4NQOは培地に入れつづけでしょうか。
[三宅]そうです。4NQOとH3-TdRとを入れつづけたものと、4NQOは入れつづけH3-TdRは45分のflush labelingしたものがあります。

《梅田報告》
 ラット肝のprimary monolayer cultureを勝田先生の方式にしたがい、又多少条件を変えて培養を試みた。即ち(I)ラット肝細切後モチダトリプシン・スプラーゼ処理後、細胞を塩類溶液中に浮遊静置、上清を捨てて、沈殿物に塩類溶液を加え再浮遊、静置、これを繰り返して上清が綺麗になったら沈殿物をLD+20%CSに浮遊させて培養する。(II)Iの方法に殆んど同じであるがトリプシン・スプラーゼ処理後、培地を加え、ガーゼ或はメッシュ濾過後遠心し、沈渣に培地を加えて浮遊させ培養する。材料として特殊例を除き、生後3〜5日のラット肝を用いた。
 (1)Iの方式では大きな細胞塊が残っており、それからの生え出しが非常に良く、特に肝細胞の増生が良い。しかし間葉系のendothelと思われる細胞も旺盛に増殖している場所もある。主にこの2種の細胞群から成っている。
 IIの方式では2〜5ケ位の細胞数からなる中等大の細胞塊も沢山残っているが、一応disperseした状態からの細胞からも細胞が増生する。50万個cells/mlの接種数で6〜8日後には殆完全なmonolayerを作る。その時の肝細胞増生は全細胞の1/3〜1/2を占め島を作っており、その間を間葉系(?)の細胞が占めている。間葉系の細胞を良く見ると、大型の細胞質のひろがったエオジンに濃染する細胞で核も大型長楕円形で核小体は不規則形2〜3ケあり核全体もヘマトキシリンに淡く染る細胞(endothel?)と、やや小型で核が丸或は楕円で核小体は1〜2ケ丸くくっきりと染る肝細胞核に似た細胞(胆管上皮?)がある。
 (2)培地として、MEM+20%CS、MEM+10%tryptose phosphate broth+10%CSを使用、LD+20%CSと比較してみた所、前2者では良く細胞は増生するが殆んど間葉系細胞で占められ、肝細胞と思われる細胞は、あちこちに数ケ宛細胞質に空胞を生じ、変性して散在する。
 (3)1例IIの条件で生後15日のラット肝の培養を試みた所、トリプシン・スプラーゼ処理のpipettingにより細胞の大多数が破壊され、約0.5gの肝組織からスタートして50万個cells/ml 2mlの生細胞しか得られなかった。培養開始後沢山のcell debrisがあり、2日後にそれを培地で数回洗い去ってから培養を続けた所、生後5日肝培養と同じ様に、肝細胞も間葉系細胞も増生した。ただし、一部に生後5日肝では見られなかった敷石状の配列を示す細胞増生がみられた。
 (4)IIの条件で1例生後2日のmouse肝の培養を試みたが、肝細胞の増生は良くなく、肝細胞の大型化多核化が見られ分裂障害を思わせた。
 (5)IIの方法で培養した生後5日のラット肝培養細胞にDABを投与した。DABは10mg/mlの割合にDMSOに溶かし、培地で稀釋した。100μg/ml、32μg/mlで肝細胞の著明な空胞変性が見られたが、他の間葉系の細胞では変化が見られず健全に見えた。10μg/mlでは肝細胞の空胞は見られない。
 (6)同じく黄変米の毒素であり、肝癌源物質であるルテオスカイリン投与を試みた。1μg/mlで肝細胞だけすべて3日後にcoagulation necrosisが起り、間葉系細胞だけ残るのが見られた。0.32μg/mlでは萎縮した核をもち細胞質に空胞のある肝細胞が見られた。

 :質疑応答:
[高木]継代するとどうなりますか。
[梅田]中間型のような細胞とendothelばかりになってしまいます。医科研の斎藤先生の仰言るには、肝のshaltstuckの細胞ではないか、というのですが・・・。
[佐藤]小型で核の丸い三角のような細胞がshaltstuckだと思います。とにかくいろんなものが出てきますね。私はcolonyにして同定しようかと思っています。
[勝田]箒星のような細胞で、細胞質に平行したセンイ状構造のみられるのは、他のorganをcultureしても出てくるので、血管の内被細胞ではないかと思っていますが・・・。映画でみるとこの細胞は動きません。
[安村]箒星というのはどんな臓器でも出てきますね。
[勝田]小さくてよく動きまわる、おそらくKupferと思われるのも見られます。
[佐藤]平たく拡がった細胞では判らないから、塊にして切ってみようか、と思っています。
[勝田]explant cultureして、反射光源で顕微鏡映画をとると、どんなところからどんな細胞が出てくるか判ると思います。
[藤井]班長のところの肝臓のcell lineは実質細胞ですか。
[勝田]株になったのはほとんど実質細胞だと思います。
[藤井]Rat肝を抗原にして作った抗体でcheckしても、培養系の肝細胞では沈降線が出ないので、どういうことなのかと思っています。
[勝田]培養で増殖系になった肝細胞を抗原にして抗血清を作ると、その結果は変るかもしれませんよ。

《吉田報告》(Abstractの提出がなかったので概略を記す)
 黒木班員のところで4HAQO、4NQOでtransformさせたハムスター胎児細胞の諸系の内、今回はmodeが4n近辺の系を主にしらべた。
 4nの系に通じて云えることは、全系とも染色体の数と形に異常のあることで、つまり正常の2nの2倍ではないことである。系によって異なってはいても、非常に安定した染色体と、動き易いものとが見られた。また上に記した異常というのは一定の傾向をもったものではなく、系によって異なっていた。

 :質疑応答:
[難波]染色体の収縮はX以外にもありますか。
[吉田]他にもありますが、特にXに強いのです。

《安村報告》
 ☆1.Plating efficiencyとcolony Sizeの培養液の種類による影響:
 先月の月報の2-6にふれておきました問題について、予備的にあたってみました。アルビノハムスター腎細胞の2代目の培養をふたたびPlatingしてコロニー形成をみました。細胞数は1,000、2,000、4,000、8,000個。MediumはE:DM-140培地のうち塩類溶液の組成のみEarleの液+コウシ血清10%、199:199液+コウシ血清10%、D:DM-140+コウシ血清10%。(結果の表を呈示)
 1-1.コロニー形成数からは有意義の差がありません。またコロニー1こ1この大きさにも差がみとめられません。ただPlating efficiencyが初代培養の10倍近くなっているのが誤算のひとつでした。初代と同じくコロニーの大きさが小さく、たかだか20~50/コロニーというところで、やはりクローン化できません。
 1-2.mediumの種類によってP.E.に差がでなかった理由は一つには、細胞が最初の2週間D液で培養され、ついでちがっmediumにかえられ(3週後に判定、つごう5週間培養)たため、P.E.は最初のD液によって決められてしまったのかもしれません。こんごこの問題をしらべる必要があります。
 1-3.Plating efficiencyの上昇はひとつには、まかれた細胞のViabilityによるものと考えられます。初代では総細胞数の50〜60%がviableで、2代めのものはほとんど100%に近くviableでしたから。

 :質疑応答:
[黒木]Feederを使ったらsizeが全然大きくなると思います。
[佐藤]single cellの比率はどの位ですか。
[安村]はじめは50%位ですが、2代目になるとほとんど100%です。
[佐藤]2代目にplating efficiencyがそう上るというdataはあまり聞きません。
[安村]もう一度やってみようとは思いますが、トリプシンのかけ方などに影響されるのではないですかね。5〜80%位のひらきが、培地のlot No.によって出るというようなこともあります。

《山田報告》
 細胞表面構造を研究するために、細胞電気泳動装置を製作し、この装置で物理化学的条件並びに被検細胞の生物学的条件を種々検討して来ました。その一環の仕事として、細胞免疫に関する実験も開始しましたので書いてみます。
 即ち細胞表面における抗原抗体反応を細胞電気泳動法により量的に測定するためのfirst stepの実験です。今回は最も単純な方法としてアルブミンに対する脾細胞抗体産生の程度を調べてみました。具体的には、抗原性の異なる卵白アルブミンと牛血清アルブミン(各3mg)をFreundのadjuvantと共に週二回、それぞれラットの皮下に注入し、合計四回感作後、一週間をおき、ラットの脾臓を摘出。鋏で細切し、looseなホモゲナイザーでかるくこすり、脾細胞浮遊液を製作。この感作細胞に各々抗原であるアルブミンを37℃30分接触させた後に生食にて洗浄し、1/10Mヴェロナール緩衝液(pH7.0)をメヂウムとして細胞電気泳動度を測定した。
 3回の実験結果(表を呈示)、それぞれの抗原であるアルブミンと接触した場合に選択的に感作脾細胞の泳動度は低下し、両アルブミンで感作された脾細胞は両アルブミンの接触により共に泳動度が低下しています。
 しかし、この抗原アルブミンによる電気泳動度の低下は必ずしも大きくはない。従来の報告によると、脾における抗体産生細胞は数%であるとされて居ますので、実際の抗体産生細胞表面に抗原のアルブミンが結合し、その表面の荷電をマスクし、泳動度を低下させる程度は更に大きいと考えます。
 従って今後、抗体産生細胞のみをえらび出して、その抗原の表面結合による荷電の低下を測定すべく工夫している所です。
 今回の成績により細胞表面における抗原抗体反応を直接細胞電気泳動法により測定できるという確信を得ましたので、次に悪性化に伴う細胞表面の変化や、宿主の抗体産生細胞の認識に、この免疫細胞電気泳動法を用いようと計画中です。

【勝田班月報・6809】
《勝田報告》
 A)4NQOによる培養内細胞変異:
 これまでの月報で報告したように、正常ラッテのセンイ芽細胞や肝細胞の2倍体株(ヘイフリックの云うようにしだいに切れてしまう株ではない)を用いて、これまで4NQO処理をおこない、且その間の細胞形態の変化を顕微鏡映画撮影によって追究してきた。細胞に対する毒性度をしらべた結果、我々は3.3x10-6乗M・30分処理を1回の処理として与えることにしているが、1回以上、系によってさまざまの回数にわたって処理し、色々な変異株を得ている。4NQO処理を受けた正常ラッテ肝細胞の変異株の染色体数の分布図を次に示す。CQ39は4回、CQ40は1回、CQ42は2回の4NQO処理を受けていて、いずれも2nの42本から外れていることが判る(図を呈示)。
 B)4NQOの光力学的作用:
 4NQOがぞうり虫の類に対しphotodynamic actionを示すことは癌センターの永田氏らにより報告されている。この作用が発癌作用とどんな関係があるのかは判らないが、哺乳動物細胞に対しても4NQOがphotodynamic actionを有するかどうかをしらべるため、正常ラッテ肝細胞株(RLC-10)、なぎさ培養によるラッテ肝変異細胞株(RLH-4)、無蛋白無脂質培地継代のマウスセンイ芽細胞L株の亜株L・P3などについて、4NQO処理の後、365mμの光(4NQOの特異吸収ピークの二つの内一つに相当する波長)を各種の時間に照射し、その影響をしらべた。結果は、これらの哺乳動物細胞に対してもやはり4NQOが、photodynamic actionを示すことが明らかとなり、それは4NQOの濃度に正比例して細胞を障害し、4NQO無処理で光のみの照射では現われぬことも判った。これに対しL・P3細胞はきわめて特殊で、4NQOに対しては抵抗性が高く、逆に光に対してはきわめてsensitiveであった。詳細は癌学会で報告する。
 C)純系ラッテの腫瘍:
 日本には純系のラッテが少い。呑竜系も、一部では純系と云われても、皮膚の交換移植からも判るように、純系とは断じ難い。当研究室で15年近くBrother-Sister-matingでinbreedしてきた日本産白ラッテ(その頭文字をとってJAR系と命名)は現在F35に至っているが、F19のとき既に100%皮膚の交換移植が成立した。このラッテを使って、日本では数少い純系ラッテ腫瘍を作ろうと、今年度2月13日にF31の♀ラッテ(生后34日)4匹の皮下にメチールコラントレンを接種した。5月末に至り3/4匹に接種部位に腫瘤を発見。7月末に1匹に腫瘤の急速腫大を認め、これは下腹部に向い膨隆してきた。そこで8月24日にこれを解剖し、1)F32生后35日♀ラッテへ、皮下及び腹腔内接種、2)組織培養、3)凍結保存、4)組織標本に供した。1)は9月2日、皮下群の1/2匹に拇指頭大の腫瘤形成を認めた。他の3匹も肉眼的に同所見の腫瘍を作っていた。2)はexplantsから細胞の生え出しがはじまっている。4)の結果は肉腫、ほぼセンイ肉腫と斎藤教授により診定された。肉腫に何か名前をつけなくてはと、目下考慮中。組織像は来月号に発表する(JAR・F31ラッテにできたMCA肉腫の写真呈示)。

《佐藤報告》
 §4NQO→呑竜系ラッテ培養細胞について:
 全胎児、胎児肺及び肝細胞を培養して5系列7細胞系に発癌させることに成功した。各系で最初に発癌した動物の経過をまとめた(表を呈示)。この表によると4NQOの濃度10-6乗Mで100時間程度の処理、培養細胞の培養中における日数は100〜200日が必要と考えられる。詳細は10月の癌学会で発表の予定。
 §ラッテ肝細胞よりのPure clone:
 以上の実験でラッテ肝細胞が試験管内で発癌し、肝癌をつくることが判明したが、発癌機構解明のためには、培養で少くとも正diploidにある肝実質細胞をpure cloneで作りあげることが望ましい。そのためラッテ肝細胞株からdiploid Pure cloneを作ることを実施しているが、仲々成功しない。目下、培養肝細胞の適合培地の検討をおわり、CO2 incubatorでの適合条件をみつけるに止まっている。此事の詳細については11月の培養学会で報告の予定。 §今月の月報で丁度100号になるとの事で昔を一寸振返って見ました。我々の研究室は、班の“組織培養による正常及び腫瘍細胞の研究”時代にはEhrlich腹水癌、吉田肉腫細胞、C3H乳癌細胞及びDonryu系ラッテ肝細胞の株細胞化を行い、今日迄其等の株細胞を維持し、Ehrlich腹水癌細胞は日本組織培養学会に登録し、現在無蛋白培地に駲化させている。
“組織培養による発癌機構の研究”ではDonryu系ラッテ肝←3'-Me-DABの研究を行って、自然発癌に比して3'-Me-DAB投与が発癌率及び悪性度を上昇させることを見いだした。現在尚ラッテ肝←DABの培養内機作を検索すると共に4NQO発癌を行っている。
今后我々は更に研究をすすめて癌治療の目的まで出来るだけ早く到達したいと考えている。
《山田報告》
 培養細胞の変異に伴う表面荷電の変化
 今月は医科研及び岡山大癌研の御協力により、培養細胞の電気泳動度を種々検索することが出来ましたので、先々月の月報に報告した分も合せて、培養細胞の変異に伴う表面荷電の変化を細胞電気泳動度(E.P.M.)より考えて見たいと思います。
 まず培養肝細胞と、その変異株についてのみ、比較すると次のごとくになります(図を呈示)。培養ラット正常肝細胞は図に示すごとく、E.P.M.の平均値は0.8μ/sec/v/cm前後で、いづれもシアリダーゼ処理(30単位、acetate buffer、pH5.6、37℃、30分)(以下すべて同一条件で処理したので、この条件は省略)によりEPMの上昇がみられ、RLC-10では危険率P<0.01で、またExp7-Controlでは0.01<P<0.02の危険率で明らかに差があります。
 これに対して、ラット腹水肝癌細胞の培養株は、特にAH7974TCのEPMは高く、その平均値は1.34μ/sec/v/cmの高値を示します。しかしJTC-2及びJTC-1の平均EPMは低く、変異株と大差ありません。これ等にシアリダーゼ処理を行うとかなりの平均電気泳動値の低下を示し、両株及びAH7974TCすべて危険率P<0.01で、有意の平均電気泳動値の低下を認めました。
 次ぎに4NQOにより悪性化した岡大癌研株Exp(1)-1のEPMは図に示すように、その平均電気泳動値はあまり高くありませんが、シアリダーゼ処理により、EPMの有意の低下(P<0.01)を示し、またこの細胞をラットに復元して作った腫瘤細胞を再培養した細胞についても同様な結果を得ました。
 この細胞系の腫瘤形成はラットに復元後136日を必要としたさうですから、腹水肝癌株より悪性の性質は弱く、それに応じたEPMの変化と考えられます。
 変異肝細胞ではあるがラットに復元しても腫瘤を作らないと云うRLH-5、CQ42、CQ40、CQ39のEPMを図に示します(それぞれ図を呈示)。平均電気泳動度値はRLH-5を除き、正常肝細胞のそれにくらべてあまり差がありませんが、シアリダーゼ処理を行うと正常肝細胞と異り、EPMの上昇がみられません。この処理前後の泳動値間の差についての統計的計算ではRLH-5→P>0.5 CQ42→0.1<0.2 CQ40→P>0.5となり有意の差がなく、しかしCQ39についてはP<0.01となり平均値間ではシアリダーゼ処理により上昇すると云う結果になりました。しかし正常肝細胞のシアリダーゼ処理後の変化とCQ39のそれではかなり差があるようです。
 これらの所見に基き、細胞変異に伴うEPMの変化をまとめて、次のごときシェーマとしました。これは現時点でのin vitro培養ラット肝細胞のEPMの変化のシェーマ(図を呈示)、漸定的な考え方です。CQ系の細胞や、なぎさ培養による変異株が復元されてラットに腫瘍を形成するか否かは勿論今後の問題ですが、一応これらの細胞系を「変異して居るが悪性ではない」と云う立場に立っての話です。
 ラット肝細胞を長期に培養して自然に悪性化したと云う株RLN-38-87及びそのoriginal RLN-38-52のEPMを測定した所、両者はいづれも前記の変異株と同様な知見を得ました。これは先きのシェーマと話しが合いません。しかし、この細胞はラットに復元して腫瘍を作るのに、236日もかかったと云うことですので、悪性化して居る細胞はごく少数でEPMの測定の対象にならなかったのではないかと考えました。
 この点は今後検討すべき問題点と考えます。
 最後に岡大癌研のラット胎児肺細胞及び、その4NQOによる悪性化細胞のEPMの成績を加えます。この細胞はラットに復元すると、60日前後で腫瘤を作るそうですが、明らかに腹水肝癌と同一の結果をなしました。しかもそのEPMは1.40μ/sec/v/cmと云う極めて高い値を示し、またシアリダーゼにより殆んど変化がなく(0.3<P<0.4)、正常肝細胞のそれとは異なります。今後更に変異に伴うEPMの変化を追求したく思って居ります。

《三宅報告》
 皮膚の器官培養を発癌に結びつけようとして、細切した胎生皮膚を皮下組織の附着したままで4NQO、メチルコラントレンなどを投与、病理組織学的に変化の推移を追ってきた。この方式を用いることで2週以内に基底層に属する細胞のHyperchromatism、細胞輪郭の変化などがみられたが、それは細胞へのToxicな影響を、除外しえなかった。Sponge Matrix Cultureという手慣れた筈の培養方式では、培養期間の長さに隘路があることが憶測され、試験管内癌化のためには、より長期にわたる培養を続ける必要を生じ、胎生皮フを細胞単位にまで単離して、単層培養を行う以外に手がないことが判明した。
 方法:
 ヒト又は実験動物(d.d系マウス)の胎生15〜17日の皮フをDermisをつけて剥離、細切して、37℃でトリプシン処理、単離したものをEagle液に10〜20%の小牛血清を用いたものを用いて培養、一定時日の後に再びトリプシン処理して、平型試験管に植えつぎ、20-メチールコラントレンを培養液1mlあたり1μgを添加、直ちに正常の培養液に戻した。(経過表を呈示)。Primary Cultureは5月14日(1968)。
 結果:トリプシン処理后、植えつがれた細胞は、上皮性と考えられるものと、非上皮性と考えられるものの混在である。しばらくすると上皮性とみられるものは消失に傾き、紡錘形のFibroblastと考えられる細胞が勝ってくる。こうした紡錘形のものも、徐々に形態をかえ、偏平な星芒状に転じてゆくものが多く、形質中に顆粒を多く、たくわえた、核小体の鮮明な大きい核をもつようになる。
 メチールコラントレンを作用せしめたものでは、殊に細胞が巨大、偏平化することが早い。メチールコラントレンの作用時間を30分とすると、細胞の変性が強く、2〜3日后には細胞が硝子面から、ほとんど剥脱されるので、作用の時間を極端に短くした。こうして8月17日(約2ケ月后)にNo.18の3回メチールコラントレンを3日間隔に投与したものに、異型な細胞が出現した(写真を呈示)。この細胞は、前に述べた偏平化した多くの細胞群の間に、 境界の明かな集蔟を作ることなく、かなりな範囲に広がって存在する。細胞の形態は紡錘形、大きさは略々Uniform、両端は長い突起をそなえ、相隣れるものと連絡し、時に束状に、時に網状に相つらなっている。細胞は両端から牽引せられ、そのためか豊かな胞体の周囲に位相差像では暈をしめし、重厚な形質のために核は著明にみられない。この細胞群の中には分裂像と考えられるものが散在する。経過を観察中である。

《梅田報告》
 動物の発癌実験において化学剤発癌は、最低数ケ月も要するのに、ウィルス発癌はそれに較べると極端に短時日のうちに腫瘍形成にいたる。in vitroの我々の系でも、ウィルス発癌の場合はtransformed colony形成が簡単に認められ、定量化へと進んできたのに対し、Sunford等の仕事から、勝田先生、佐藤先生の一連の仕事、Heidelberger等の仕事等、完全に腫瘍性を獲得する迄、かなりの培養日数を必要としている。Suchs等のベンツピレン等を使用した実験に端を発し、黒木氏等の4NQOによるtransformed colony形成をin vitroに於けるウィルス発癌実験と同じ様に短時日のうちに認め、in vitro carcinogenesisに成功したとする報告は、私にはいささか納得がいかなかった。はからずも、黒木氏自身、彼の系でもinductionとpromotionの考え方を入れる方向に来ているのを知って、私自身気を強くしている。
 私はin vitroでも化学発癌剤による発癌は、日数を要するものとの考えから、現在mono-layerに生えたprimary rat liver cultureにDABの大量1回、或は小量常時投与を行い、培養を続けている。しかしSunford等の一番最初の発癌実験の記載とか、奥村氏の詳細な報告の如く、対照群の細胞にも生ずるspontaneous transformationの問題が入り込んで居り、複雑な要因がからまっているのは云うまでもない。これ等を充分考慮に入れながら、目下in vitro発癌のcellular levelでの現象を更に深くさぐる努力をしている。
 もう一つ、私のやってきた、そして以后強力に続けたい研究の方向として、化学発癌剤による急性の毒性効果とか、作用機作を調べることがある。Praimaryのrat liver cultureにDAB、黄変米毒素のルテオスカイリンを投与すると、肝細胞だけに特異的な変化を生ずるのに、同時に生えている間葉系の細胞群は障害を受けない。又DABと同じ骨格を持ち、発癌性のないABは、その様な変化を起さない。目下、之等の変化を詳細に調べ、又他の発癌剤についても調べているが、今后は、この急性変化と、発癌機構とどの様に結びついているのかを解明するのが、大きな課題と思っている。

《堀川報告》
 A)培養哺乳動物細胞における
放射線ならびに化学発癌剤障害回復の分子機構の研究(7)
紫外線照射による第一義的な障害がDNA内のpyrimidine dimerの形成にあり、さらにこうした障害回復(pyrimidine dimerの除去)の分子機構が微生物を始めとする多くの材料を用いて次第に明らかにされて来ている。私共のgroupでもEhrlich、マウスL、ブタPS細胞という3種の培養細胞株を用いてthymine dimerの除去機構を探索した結果、Ehrlich細胞にはUV照射でDNA中に形成されたthymine dimerの除去機構、つまり暗回復能をもつことを発見し得た。しかし、大腸菌等でみられるUV障害に対する光回復能は、私共が使用している3種の細胞株では勿論のこと、世界の研究者もいまだに光回復能を保持する高等動物細胞を発見し得る段階に至っていない。
 これまでにpublishされた結果から判断すると、光回復機構を保持するものは、どうやら微生物からはじまってウニの卵とか、特殊な魚類の細胞株、両棲類といったあたりまでのようである。高等な動物細胞には、更に別の機能が発達しているために、こうした光回復能の保持を必要としないのかもしれない。
 一方X線の生細胞に対する影響、つまり障害のprincipal sitesは未だに不明のままであり、ましてやその障害の回復機構は分からない。私共は前述のEhrlich細胞、L細胞を用いて、10KR、5KR、2KRのX線で照射した後、DNAのstrandがどのように切断され、しかも照射後15分、30分、60分と37℃のincubator中で細胞をincubateする間に、切断されたDNAがどのように、rejoiningして行くかといった過程を究明している。
 正常なEhrlich細胞やL細胞からは、sedimentation constant(S20,w)にして、210single strand DNAが分離されるが、こうした正常細胞を10KRで照射した直後ではsingle strand DNAはS20,wは71程度の小さなものに切断される。だが照射されたこれら細胞を15分、30分とincubateしておくと殆どもとのS20,w=210までrejoining出来ることが分った。これらは勿論5〜20%のsucrose gradient centrifugationによる解析であって、ここで興味あることはUV障害に対して暗回復機構をもつEhrlich細胞でも、さらには暗回復機構をもたないマウスL細胞でもsingle strand DNA breaksのrejoining acivityを殆ど同じ程度もつということで、こうした結果はX線照射によるsingle strand DNA breaksのrejoiningの機構は、UV障害からの暗回復機構とはまったくindepedentのものであることを暗示する。
 一方、X線照射によって誘発されたDNAのdouble strand breakの場合は、前述の2種の細胞を用いて調べた範囲では、rejoining activityの見られないことも分った。 こうしたradiationによる障害回復の分子機構と、これまでやって来た培養細胞に対する4NQO処理による障害の回復機構を比例して検討している。
 B)培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびに
   Leukemogenesisの試み(5)
 マウス大腿骨骨髄から取り出したbone marrow細胞を一定期間培養した後、X線被爆したマウスに注入し、被爆マウスの骨髄死に対する防護能とspleenへのcolony形成能を指標として培養bone marrow細胞の生物学的活性、およびその分化と増殖の機構、ひいては、こうした系を用いてLeukemogenesisの機構を検索している。現在では30日齢のNC系マウスから得たbone marrow細胞を70%TC-199、10%TPB、20%牛血清からなる培養液で、TD-40瓶内で静置培養し、この培養bone marrow細胞を培養後10〜300日(300日のものは完全にcell lineとしてestablishされた)に取り出して生後60日の700R被爆の同系マウスの尾静脈より注入して、被爆マウスの9日後のspleen表面に形成されたコロニー数と、30日生存率を求めている。同時にbone marrow細胞の培養経過に伴う細胞種の分類、およびオートラジオグラフによるH3-TdRの取り込み能は、従来報告して来たように、経時的に解析を行っている。途中経過はこれまでの月報にて報告して来たので、最近の代表的なresultsを要約してみると以下のようになる。
(1)培養前にみられた多種の細胞群は培養10日頃までに減少、消失し、従来みられなかった巨大単核、二核細胞が次第に増殖し、培養180〜300日に至ると、これが全populationの100%を占めるようになる。(こうした巨大細胞、二核細胞の増殖能はH3-TdRの非常に高い取り込み能と、分裂係数(mitotic index)からもうかがえる)。
 (2)培養bone marrow細胞を注入して、700R被爆マウスのspleenに生じるコロニー数を調べた結果では、培養期間10日以上経過した細胞群においては、対照群(細胞非注入群)との間に有意な差は認められない。
 (3)一方、培養bone marrow細胞を注入した被爆マウスの30日生存率を調べた結果は、培養30日までの細胞を注入した各群では、対照群との間に生存率向上という点で差がみられている。以上、非常に面白い結果が得られており、こうした系を用いて細胞の分化と癌化の機構を検討中である。
 さらに、これに関連して私共はマウスthymus細胞、spleen細胞を培養して、その生物学的機能の検索を進めているが、最近マウスC57BL/6Jax系生後24時間のnew-bornから得た、thymus細胞を一ケ月培養し、生後10日、14日、21日目の同系マウスの皮下、腹腔内に500万個細胞づつ復元すると、非常に高率に腫瘍を作り、しかもこうした癌細胞はtransplantableであることが分って来た。培養期間の短かいこと、復元より腫瘤形成迄要する時間の短いこと、更にbone marrow細胞とかspleen細胞と関連して、非常に重要な生物学的機能をもつthymus細胞であるが故に、この種の実験系は今後の慎重な解析を必要としている段階である。次号にてこれらの詳細を報告する予定である。

《高木報告》
 1)器官培養による発癌実験
ハムスター、ラット、マウス、人などの胎児の皮膚の器官培養による発癌実験を行うにあたり、まず培養法の検討を行い、また発癌物質の添加培養培養した皮膚の移植などを試みた。
 1)培養法の検討
 上記動物の胎児の皮膚を培養するのに、天然培地および種々の半合成培地を用いたが、天然培地のうちwatch glass methodによりchick plasmaとCEEを2:1に混じて凝固させたものが最も効果が良かった。この培地上では妊娠18週目の人胎児の皮膚は、培養後3週目にもなお多数のmitosisが認められた。温度に関して、ハムスターの胎児皮膚を30℃で培養したところ、37℃のものにくらべて明らかに良い結果がえられた。
 2)発癌物質の添加
 器官培養下の胎児皮膚に発癌物質として、4NQOを添加した。濃度は10-6乗mol程度が適当と思われたが、この濃度では殆ど変化はみられなかった。液体半合成培地を用いて培養したマウスの皮膚に10-4乗molの4NQOを添加した時、培養後72時間して表皮の一部に突起状の肥厚を認めた。またplasma clotを用いて培養した人胎児皮膚において、4NQO 10-5乗mol添加群に幾分mitosisの増加がみられたが、これらの変化がどの程度悪性化にむすびつくか、は判らない。
 3)培養した皮膚の移植
 plasma clotを用いて7日間培養した雑種ハムスター胎児の皮膚をハムスターに移植した。培養中4NQOを添加した群と対照群との間に、観察した約20週の間には殆ど有意と思われる変化はみられなかった。一方移植成功率が非培養群では8/17であるのに、培養群では15/17と可成り高率である点は注目されるべきで、さらに検索したい。培養条件についてはなお検討する予定である。
 2)細胞培養による発癌実験
 newbornよりweanlingに至るラットの胸腺および肺の細胞を培養し、一部ラット胸腺より分離した株細胞を使用した。
発癌物質としては4HAQO、4NQO、Nitrosoguanidine(NG)を用いた。
 1)4HAQO添加実験
 ラットの胸腺細胞を用いて4実験行ったが、うちWistar King A(WKA)ラット胸腺の2代目の細胞に10-5乗molの濃度を2回作用せしめたもので、処理後約15日でpile upしたcolonyをえた。この細胞を増殖せしめて生後3週の同系ラット皮下に100万個細胞数接種したが、腫瘤の形成はみられなかった。
 2)4NQO添加実験
 王様系ラット胸腺より分離した株細胞を用いて2実験、Wistar King A(WKA)系ラット胸腺のprimary cultureを用いて3実験、ラット肺のprimary cultureを用いて2実験行った。
4NQOは10-6乗、5x10-7乗、2x10-7乗molの濃度に培地で稀釋し、種々の時間、回数を作用せしめた。うち株細胞に10-6乗mol作用せしめたものから変異細胞のcolonyをえたが、移植実験には成功しなかった。またWKA系ラット胸腺培養の2代目以後、2x10-7乗molを頻回作用せしめたものがmorphological transformationをおこしたので現在移植実験中である。
 3)NG添加実験
 前記株細胞を用いて4実験、ラット胸腺のprimary cultureを用いて10実験、ラット肺のprimary cultureを用いて3実験を行った。
NGは1μg/mlより500μg/mlに至る濃度で種々の時間および回数作用せしめた。そのうちWKA系ラット胸腺3代目の細胞にNGを10μg/mlになるように滴下し、6日間放置したものより変異細胞をえた。この細胞を処理後約40日目に、同系のwianling ratに100万個細胞数接種したが、腫瘤は作らなかった。しかし処理後約170日目頃より対照と比して細胞の増殖度が目立ってよくなり、対照が1週間に約5倍程度の増殖を示すのに対して処理細胞は約10倍程度の増殖を示した。形態的にも対照はmonolayerを示すのに対して処理細胞はcriss crossが著明でpile upする傾向がつよかった。一般にNGは、細胞に変異をおこさしめる至適濃度の幅がせまいようで処理後相当長期にわたり細胞の増殖がみられず、従ってmorphological transformationがおこるまでのincubation timeが、長いように思われる。さらにNGを作用せしめる培養組織として、幼若WKAラット胃の培養をこころみて上皮性細胞の増殖をみた。これが如何なる組織に由来する細胞か未だ同定しえないが、この細胞を用いた発癌実験を計画している。変異細胞の染色体については目下検索中である。

《安藤報告》
 1)癌の遺伝子変異説の検討
 いかなる機序によって癌が発生するかに関して現在二つの考え方がある。(月報6705)。すなわち発癌剤、その他の作用によって正常な細胞が変異を起すのか、あるいは初めから混在していた悪性細胞が逆淘汰されてくるのか、という考え方である。しかしながらこの癌細胞の発生の由来のいかんにかかわらず、癌細胞は正常な細胞の持つ種々な調節機構に異常をきたしている。この癌細胞の異常性は病理学的、生化学的、その他の種々の研究手段によって現在迄にかなり明らかにされている。それにもかかわらず残念なことには、明らかにされて来た事は全て正常細胞と癌細胞の表現形質の量的な差でしかなく、本質的と思われる質的な差異は見出されてはいない。したがって一歩立入って、それでは癌細胞の遺伝子はどうなっているのであろうか、DNAレベルの変異を起しているであろうか、という疑問には何も答えない。私はこの問題に何らかの手がかりを得ようと次のような計画を立て、実験を進めている。
 当勝田研究室で無蛋白無脂質合成培地で8年間にわたり培養されている、マウス皮下センイ芽細胞由来のL929の亜株L・P3を使用し、これに薬剤処理をすることにより、種々の表現形質の異なる変異株を誘導する。次にそれ等の変異株及び原株の間にDNAを介しての、この表現形質の転換(transformation)が起るか否かを調べる。すなわち、その表現形質の変異は単なる細胞内調節機構の異常によるのではなく、遺伝子中のDNAの変異に由来するならば、次にこの手法を応用することによって前述の疑問−癌細胞は遺伝子変異によるか−に直接回答しうることになる。すなわち癌性がDNAによって他の細胞に移るとすれば、まさに癌は遺伝子変異によると結論出来るわけである。このような実験計画にしたがって次の予備実験を行っている。
 L・P3を単個培養によりNG(N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine)処理をする。処理後増殖を回復してきた細胞からクローニングをくり返すことにより、幾つかの純クローンを分離した。現在各クローンについて栄養要求性に変異を生じているか否かを検索中である。 2)4NQOの作用機序の細胞培養による研究
 4NQOは杉村らにより、生体内で4HAQOに還元される事により発癌性を獲得する事が示された。又腹水肝癌AH130のDNAに、腹水蛋白に結合する事がin vivoで示されている。しかしながら、この核酸、蛋白、あるいはその他の生体物質の内、いずれとの結合が癌化に直接みちびく反応であるのかについては全く不明である。そこで私共は細胞培養を利用する事により、動物体という多因子系による問題の複雑化を避け、より精密な発癌過程の分析を企図した。 H3-4NQOを前述のL・P3細胞に与え、細胞中へのとりこみ、及び細胞成分との結合のkineticsを調べることにより、最も4NQOとの反応性に富む成分は何かを検討した。結果は次の如くである。4NQOと細胞内蛋白質、核酸との結合は、37℃において、30分で最大となり以後3〜4時間はほぼ一定値を保っていた。またこの結合にあずかる蛋白は、DAB及びMCで示されたような特異蛋白ではなく種々の分子量を持つ殆ど全ての蛋白を含んでいた。目下核酸との結合様式、結合物の安定性等検討中である。

《安村報告》
 1.発ガンのSelection説の検討(つづき):
 月報のNo.6804に勝田班長がふれておられるが、Dr.L.Diamondのシリアン・ハムスター胎児細胞の培養内自然発ガンの報告は、このいわゆる自然発ガンの原因として3つのfactorを考察していた。つまりこの癌化は1)あらかじめ生体内に存在していたかもしれないvariantで、malignantのきざしのあるものをselectionによって継代中にひろいあげたか、2)未知のtransforming virusによるか、3)まだ不明の物理的、化学的な原因によるものか、ということであった。あるいはこれ以外の原因があるかもしれないし、これらの原因が互いに絡み合っていることも考えられよう。
 月報のNo.6808では上記の原因のうち、1)の仮説の可能性の分析のためにMacPhersonらによるSoft agar法の利用について予報された。実験の狙いは同号の討論にのべた如くです。 1-1.シリアン・ハムスター胎児細胞の初代培養では100万個、50万個/plateではSoft agar中のColony生成はみとめられない。そのご再び初代培養と2代継代培養によるSoft agar中のColony生成が試みられたが、いずれも結果はマイナス。
 1-2.以上のデータはSoft agar法がmalignant transformed cellをselectiveに増殖させることにあったとすれば当然のことのようにみえよう。しかしColony生成がゼロではなんとも前進のしようがない。
 1-3.最近E.TjottaらがPolyoma vurusによるtransformed cellが、Conditioned madiumを加えたSoft agarでよりよくColonyを生成するし、polyoma virusで処置しあい宿主細胞(BHK21/C13)も同様mediumでColonyを生成すると報告した。そこでこのconditioned mediumを加える方法をこころみた。
 1-4.Conditoned mediumは初代培養細胞と2代培養上清を液かえの際にプールして集められた。初代培養細胞と2代継代細胞が出発材料、Conditioned mediumはSoft agar中に100%(agar以外の培養液は100%Conditioned mediumということ)、50%、0%の割合にして各群5枚のplateをつかった。結果は接種細胞数100万個に対して、3週めに初代培養細胞の群のうち、Conditioned medium 100%のところでColony(0.1mm以下)が1コ、50%のところで1コ出現した。しかしそのごColonyの増殖はなく壊死におちいってしまった。いずれからもColonyを分離して増殖させることはできなかった。ついでなされた同様の実験ではConditioned mediumの割合を75%、50%、25%、0%でなされた。75%と50%の群で接種細胞数100万個につき、それぞれ5枚のPlat中2枚に数コ〜10数コのColony生成をみとめた。しかしこれらのColonyが増殖可能かいなかは、実験進行中なので、詳細は次回へ。
 2.AH7974TC細胞のSoft agar中での増殖:
 上記のSoft agar法をつかって行われているハムスター細胞の実験のControlとして、われわれのtechnicの信頼度をしらべるとともに、基礎実験がAH7974TC細胞でなされた。接種細胞100/Plateで11〜30のColonyができ、成績は上々。(Soft Agar中のAH7974TC細胞コロニーの写真を呈示。この実験ではconditioned Mediumはつかっていない。)

《藤井報告》
 培養ラット肝細胞とその変異株細胞の抗原について
 癌抗原の存在が、宿主の免疫学的抵抗性の成り立つ基盤出あり、癌に抗原性の在ることを立証することが、癌の免疫学的研究の起点となる筈である。化学発癌のばあい、各例性質の異なる癌の発生することが示されており、それらの抗原のちがいについての発表もある。
すでに、本研究班では“なぎさ"培養によるラット肝細胞の変異(勝田)、ハムスター胎児細胞の4-NQO処理による培養内発癌(黒木)、ラット肝細胞の3'MeDABおよび4-NQO処理による培養内発癌(佐藤)に成功している。比較的単一な細胞群を扱う組織培養実験では、培養細胞の変異過程を追跡することが可能であり、有利に癌抗原の分析をすすめられる筈である。
 培養内細胞の癌化にともなう抗原性の変化を検討することが、筆者に課せられたテーマであるが、今まで、ラット肝細胞、いくつかのラット肝癌、培養ラット肝細胞とその変異株等について、double diffusion法とimmune adherence(IA)法によって、それらの抗原の検討をおこなって来た。
 1.Double diffusion法による抗原分析
 培養細胞を主としてあつかう関係から、少量の細胞について実験をすすめる必要があり、double diffusion(Ouchterlony)の変法であるmicrodiffusion法(月報、No.6710に記載)を、採用した。この方法は、Ouchterlony法より抗原−抗体沈降線の検出が鋭敏に出来、20万個の少数細胞でも実験可能であることが、基礎実験で示された。
 抗原液:細胞20万個に対して、0.5%Na-deoxycholate-PBSを0.5mlの割に加えて浮游させ、ホモジナイズ后、その遠沈上清(2,000rpm、20分)を抗原液として用いる。培養細胞は、医科研癌細胞研究部のものである。
 抗血清:ウサギ抗ラット肝組織抗血清(RALS)、ウサギ抗ラットAH13抗血清(RATS-AH13)
の原血清を用う。
成績のあらまし:
 1)ラット肝組織は、RALSに対して5本の沈降線を示すが、
 2)培養ラット肝細胞(RLC-9)は、この中の1本と共通な沈降線のみをつくった。
 3)培養ラット肝細胞変異株(“なぎさ")RLH-5は、RALSに対して、全く沈降線をつくらない。 4)このRLH-5細胞は、抗ラット肝癌抗血清(RATS-AH13)に対して弱いけれども、1本の沈降線を示した。
 小括:培養ラット肝細胞が成熟ラット肝の抗原の大部分をもたないことは、培養ラット肝細胞が新生児ラット肝由来であることと、肝組織中の一群の細胞にかぎられることによると考えられるが、変異株では、変異以前の抗原を失い、別に肝癌の抗原(この場合AH13と共通な抗原)を獲得するようである。このような肝癌にみられる抗原が、癌の抗原によるのか、contaminationによる微生物の抗原によるのかは、今后慎重に検討されなければならない。
 2.Immune adherence(IA)法による抗原分析
 IA現象(免疫粘着現象、Nelson,R.A.,Jr.)は、抗原-抗体-補体複合体に人赤血球が粘着する反応で、極めて鋭敏な免疫反応である。細胞表面の抗原の検出は、抗体、補体、人赤血球を加えて反応させ、顕微鏡下に、人赤血球の粘着している細胞を識別し、算定することによって可能である。また凝集反応(免疫粘着赤血球凝集反応、immune adherence hemagglutina-tion)-西岡-として、反応の強さを判定しうる。
 方法:培養細胞を、培養の状態のまま抗体と反応させる目的で、小型の培養小角ビン中で1日培養し、TC-199液で洗滌した后、稀釋抗血清、1/5とモルモット補体用血清、1/20を、各0.25ml宛を加え、37℃で30分間反応させた后、2%人赤血球(O型)浮遊液0.1mlを添加して、さらに37℃で30〜60分反応させる。反応后、TC-199液で数回洗って、浮游赤血球を流し去ってから、倒立顕微鏡下にIAのおこっている細胞を識別算定する。
 成績のあらまし:
 1)培養ラット肝細胞(RLC-10)は、ウサギ抗ラット肝抗血清(RALS)によって強いIA(++++)を示すが−(double diffusiondeha反応弱く、沈降線1本のみ)−、“なぎさ"変異種(RLH-3、RLH-4とRLH-5)は、弱いIAを少数の細胞にみとめたにすぎない(±)。しかし、これらの変異株はいづれもウサギ抗ラット肝癌AH7974(RATS-7974)には、稍ついIAを示した(+)。
 2)ウサギ抗AH130抗血清(RATS-AH130)にたいして、AH130細胞−腹腔継代細胞−は33%、培養AH130(JTC-1)は68%のIA陽性細胞を示した。抗AH7974抗血清(RATS-AH7974)では、前者は27%、後者は43%の細胞がIA陽性であった。この傾向は、AH7974細胞とその培養継代細胞についても観察された。
 すなわち、ラット肝細胞は、各肝癌に対応する抗体とつよくIA反応をおこす他、非対応の他の肝癌に対する抗体ともかなりつよいIA反応を示すことがわかる。
 また培養ラット肝癌細胞の方が、元の腹腔継代細胞よりむしろ強いIA反応をおこしたことは興味ある点である。この点に関して、培養液中のcalf serumが細胞に吸着され、calf serumと用いた抗血清、補体との間の自然抗体によるIA反応が、反応増強にあづかってないかどうかが問題となる。この問題は、培養AH7974細胞をcalf serumをふくむ“199"液(10%)中においても(室温、30分)、IA反応に影響がみられなかった最近の実験から一応否定してよいと思われる。
 小括:
 1)IAによる実験で、培養ラット肝細胞変異株(“なぎさ")は、変異以前の抗原の多くを失内、一方、ラット肝癌に共通な抗原を獲得しているようにみえる。
 2)AH130、AH7974細胞と、それぞれの培養継代細胞は、正常ラット肝抗原の多くを示さないが(この成績は上に記さなかったが)、対応する抗体の他に、非対応の抗体にもかなり強くIAを示し、ラット肝癌に共通な抗原のあることを示唆している。
 培養継代細胞の方が、腹腔継代細胞よりも強いIAを呈する事実は、培養によって、細胞膜面に抗原−抗体反応がおこり易くなるような、あるいは抗原の露出を来すような変化がおこっていることを示唆する。

《永井報告》
 1)Ektobiologyと糖質・脂質
 細胞の機能には質的に異なる二つの面があるものとみられる。その一つは、個々の細胞そのものの生命維持に必須な機能である。これには蛋白質や核酸があづかっており、今迄の生化学の対象の中心となっていた。これが障害を受けたときには、病気よりもむしろ死を招く。いま一つは、細胞が一定の秩序のもとに集まっていとなむ、いわば、細胞の社会的な機能に関するもので、これがおかされても、前者のようには、直ちに死に至ることはない。その生物学をKalckarはEktobiologyの名で総括している。これに大きな役割をはたしていると考えられるのは、細胞表面の特異構造であり、物質的には糖質や脂質が主役になるものと予想される。我々は、癌問題をむしろこの第2の角度から把握していこうという考えで研究をすすめている。
 2)研究目的
 この問題に、生化学的にアプローチしていこうとして、我々がまずとりあげたことは、Ektobiologyにおける主役物質は何かということである。そこで、いうところの糖質や脂質がそうなのかどうか、これをまず明らかにしようとして実験をしくんできた。Ektobiolo-gicalな現象が典型的にあらわれてくるものの一つは、発生と分化の問題であろう。そこでは、2つの異なった生殖細胞の融合としての受精に始まって、形態形成にみられる細胞集団の完璧な秩序のうちにある特異な移動運動など、いろいろな問題がある。ここに着目して、かつ、大量の材料が入手しうるということから、さしあたってウニの配偶子およびその胚を材料として実験をおこなってきた。
 まず研究の焦点を、細胞の表面に存在すると予想される糖脂質にしぼって、次の項目をとりあげた。1)実際に糖脂質が配偶子や胚に存在するか。2)それはどのような化学構造のものか。3)それらに細胞表面の特異性に関係づけてもよいような、特異的な構造上の違いが見出されるか。4)発生、分化の過程の途上において、それらに何らかの変動がみられるかどうか。
 3.実験成績
 それに対して現在までにえられた答は、1)ウニの配偶子(精子および卵)および胚には、確かに糖脂質が存在する。それらはシアル酸を構成分の一つとして有するもので、その糖脂質(シアロムコリピド)の数は、9種以上にも達する。 2)それらは複雑な化学構造を有するが、構造上には一定の関係があり、一連の代謝経路上にのっているものと考えられる。3)精子と卵とでは存在する糖脂質の種類に違いが実際にみられた。のみならず、ウニの種類が違えば存在する糖脂質の構造も違ってくる(種特異性)ことがわかった(月報No.6808)。4)そのうちのいくつかでは化学構造の決定がおこなわれた。すなわち、ムラサキウニ精子の糖脂質のうちの一つはセラミド-Glc(6←2)シアル酸←シアル酸であり、卵の糖脂質のうちの一つはセラミド-Gic-Glc(シアル酸一分子)であることなどがわかっている。
 現在これらの脂質の化学構造の決定を更にすすめるとともに、その細胞における存在位置、発生途上における変動などの生物学的な面を追究しようとしている。
 ウニ胚は一層の細胞が中空のゴムマリ状にならなだ胞胚期から、第一次間充織細胞の陥入に始って、原腸形成に向って表層が陥入していく嚢胚期を経て、発生、分化をすすめていくが、この際の細胞の陥入運動は何によるものであろうか。まず考えられるのは、細胞間の接触状態にひとつのゆるみがおきるのではないだろうか、ということである。我々はこれを、たとえば細胞表面のシアル酸が表面から脱離するためによるのではないかと考え、シアリダーゼの特異的阻害物質を陥入期直前に作用させてみたが、何等の影響もみられなかった。しかし、プロテアーゼの強力なinhibitorであるトリペプチド、Leupeptineを作用させたところ、原腸陥入が全く抑制されることを見出した。この場合、細胞はそのまま生存を続けた。このことをどのように解釈するかであるが、この陥入期に至って細胞からプロテアーゼが分泌され、それが細胞間をつないでいる基質に作用して分解し、その結果細胞間の結合をゆるめるのではないかと、現在のところ考えている。これもまた、細胞の定着、migration、といったEktobiologyの問題の一つである。Leupeptineはつまりこのプロテアーゼ作用を抑制し、それが陥入の抑制となってあらわれてくるとみるのである。

【勝田班月報・6809】
《勝田報告》
 A)4NQOによる培養内細胞変異:
 これまでの月報で報告したように、正常ラッテのセンイ芽細胞や肝細胞の2倍体株(ヘイフリックの云うようにしだいに切れてしまう株ではない)を用いて、これまで4NQO処理をおこない、且その間の細胞形態の変化を顕微鏡映画撮影によって追究してきた。細胞に対する毒性度をしらべた結果、我々は3.3x10-6乗M・30分処理を1回の処理として与えることにしているが、1回以上、系によってさまざまの回数にわたって処理し、色々な変異株を得ている。4NQO処理を受けた正常ラッテ肝細胞の変異株の染色体数の分布図を次に示す。CQ39は4回、CQ40は1回、CQ42は2回の4NQO処理を受けていて、いずれも2nの42本から外れていることが判る(図を呈示)。
 B)4NQOの光力学的作用:
 4NQOがぞうり虫の類に対しphotodynamic actionを示すことは癌センターの永田氏らにより報告されている。この作用が発癌作用とどんな関係があるのかは判らないが、哺乳動物細胞に対しても4NQOがphotodynamic actionを有するかどうかをしらべるため、正常ラッテ肝細胞株(RLC-10)、なぎさ培養によるラッテ肝変異細胞株(RLH-4)、無蛋白無脂質培地継代のマウスセンイ芽細胞L株の亜株L・P3などについて、4NQO処理の後、365mμの光(4NQOの特異吸収ピークの二つの内一つに相当する波長)を各種の時間に照射し、その影響をしらべた。結果は、これらの哺乳動物細胞に対してもやはり4NQOが、photodynamic actionを示すことが明らかとなり、それは4NQOの濃度に正比例して細胞を障害し、4NQO無処理で光のみの照射では現われぬことも判った。これに対しL・P3細胞はきわめて特殊で、4NQOに対しては抵抗性が高く、逆に光に対してはきわめてsensitiveであった。詳細は癌学会で報告する。
 C)純系ラッテの腫瘍:
 日本には純系のラッテが少い。呑竜系も、一部では純系と云われても、皮膚の交換移植からも判るように、純系とは断じ難い。当研究室で15年近くBrother-Sister-matingでinbreedしてきた日本産白ラッテ(その頭文字をとってJAR系と命名)は現在F35に至っているが、F19のとき既に100%皮膚の交換移植が成立した。このラッテを使って、日本では数少い純系ラッテ腫瘍を作ろうと、今年度2月13日にF31の♀ラッテ(生后34日)4匹の皮下にメチールコラントレンを接種した。5月末に至り3/4匹に接種部位に腫瘤を発見。7月末に1匹に腫瘤の急速腫大を認め、これは下腹部に向い膨隆してきた。そこで8月24日にこれを解剖し、1)F32生后35日♀ラッテへ、皮下及び腹腔内接種、2)組織培養、3)凍結保存、4)組織標本に供した。1)は9月2日、皮下群の1/2匹に拇指頭大の腫瘤形成を認めた。他の3匹も肉眼的に同所見の腫瘍を作っていた。2)はexplantsから細胞の生え出しがはじまっている。4)の結果は肉腫、ほぼセンイ肉腫と斎藤教授により診定された。肉腫に何か名前をつけなくてはと、目下考慮中。組織像は来月号に発表する(JAR・F31ラッテにできたMCA肉腫の写真呈示)。

《佐藤報告》
 §4NQO→呑竜系ラッテ培養細胞について:
 全胎児、胎児肺及び肝細胞を培養して5系列7細胞系に発癌させることに成功した。各系で最初に発癌した動物の経過をまとめた(表を呈示)。この表によると4NQOの濃度10-6乗Mで100時間程度の処理、培養細胞の培養中における日数は100〜200日が必要と考えられる。詳細は10月の癌学会で発表の予定。
 §ラッテ肝細胞よりのPure clone:
 以上の実験でラッテ肝細胞が試験管内で発癌し、肝癌をつくることが判明したが、発癌機構解明のためには、培養で少くとも正diploidにある肝実質細胞をpure cloneで作りあげることが望ましい。そのためラッテ肝細胞株からdiploid Pure cloneを作ることを実施しているが、仲々成功しない。目下、培養肝細胞の適合培地の検討をおわり、CO2 incubatorでの適合条件をみつけるに止まっている。此事の詳細については11月の培養学会で報告の予定。 §今月の月報で丁度100号になるとの事で昔を一寸振返って見ました。我々の研究室は、班の“組織培養による正常及び腫瘍細胞の研究”時代にはEhrlich腹水癌、吉田肉腫細胞、C3H乳癌細胞及びDonryu系ラッテ肝細胞の株細胞化を行い、今日迄其等の株細胞を維持し、Ehrlich腹水癌細胞は日本組織培養学会に登録し、現在無蛋白培地に駲化させている。
“組織培養による発癌機構の研究”ではDonryu系ラッテ肝←3'-Me-DABの研究を行って、自然発癌に比して3'-Me-DAB投与が発癌率及び悪性度を上昇させることを見いだした。現在尚ラッテ肝←DABの培養内機作を検索すると共に4NQO発癌を行っている。
今后我々は更に研究をすすめて癌治療の目的まで出来るだけ早く到達したいと考えている。
《山田報告》
 培養細胞の変異に伴う表面荷電の変化
 今月は医科研及び岡山大癌研の御協力により、培養細胞の電気泳動度を種々検索することが出来ましたので、先々月の月報に報告した分も合せて、培養細胞の変異に伴う表面荷電の変化を細胞電気泳動度(E.P.M.)より考えて見たいと思います。
 まず培養肝細胞と、その変異株についてのみ、比較すると次のごとくになります(図を呈示)。培養ラット正常肝細胞は図に示すごとく、E.P.M.の平均値は0.8μ/sec/v/cm前後で、いづれもシアリダーゼ処理(30単位、acetate buffer、pH5.6、37℃、30分)(以下すべて同一条件で処理したので、この条件は省略)によりEPMの上昇がみられ、RLC-10では危険率P<0.01で、またExp7-Controlでは0.01<P<0.02の危険率で明らかに差があります。
 これに対して、ラット腹水肝癌細胞の培養株は、特にAH7974TCのEPMは高く、その平均値は1.34μ/sec/v/cmの高値を示します。しかしJTC-2及びJTC-1の平均EPMは低く、変異株と大差ありません。これ等にシアリダーゼ処理を行うとかなりの平均電気泳動値の低下を示し、両株及びAH7974TCすべて危険率P<0.01で、有意の平均電気泳動値の低下を認めました。
 次ぎに4NQOにより悪性化した岡大癌研株Exp(1)-1のEPMは図に示すように、その平均電気泳動値はあまり高くありませんが、シアリダーゼ処理により、EPMの有意の低下(P<0.01)を示し、またこの細胞をラットに復元して作った腫瘤細胞を再培養した細胞についても同様な結果を得ました。
 この細胞系の腫瘤形成はラットに復元後136日を必要としたさうですから、腹水肝癌株より悪性の性質は弱く、それに応じたEPMの変化と考えられます。
 変異肝細胞ではあるがラットに復元しても腫瘤を作らないと云うRLH-5、CQ42、CQ40、CQ39のEPMを図に示します(それぞれ図を呈示)。平均電気泳動度値はRLH-5を除き、正常肝細胞のそれにくらべてあまり差がありませんが、シアリダーゼ処理を行うと正常肝細胞と異り、EPMの上昇がみられません。この処理前後の泳動値間の差についての統計的計算ではRLH-5→P>0.5 CQ42→0.1<0.2 CQ40→P>0.5となり有意の差がなく、しかしCQ39についてはP<0.01となり平均値間ではシアリダーゼ処理により上昇すると云う結果になりました。しかし正常肝細胞のシアリダーゼ処理後の変化とCQ39のそれではかなり差があるようです。
 これらの所見に基き、細胞変異に伴うEPMの変化をまとめて、次のごときシェーマとしました。これは現時点でのin vitro培養ラット肝細胞のEPMの変化のシェーマ(図を呈示)、漸定的な考え方です。CQ系の細胞や、なぎさ培養による変異株が復元されてラットに腫瘍を形成するか否かは勿論今後の問題ですが、一応これらの細胞系を「変異して居るが悪性ではない」と云う立場に立っての話です。
 ラット肝細胞を長期に培養して自然に悪性化したと云う株RLN-38-87及びそのoriginal RLN-38-52のEPMを測定した所、両者はいづれも前記の変異株と同様な知見を得ました。これは先きのシェーマと話しが合いません。しかし、この細胞はラットに復元して腫瘍を作るのに、236日もかかったと云うことですので、悪性化して居る細胞はごく少数でEPMの測定の対象にならなかったのではないかと考えました。
 この点は今後検討すべき問題点と考えます。
 最後に岡大癌研のラット胎児肺細胞及び、その4NQOによる悪性化細胞のEPMの成績を加えます。この細胞はラットに復元すると、60日前後で腫瘤を作るそうですが、明らかに腹水肝癌と同一の結果をなしました。しかもそのEPMは1.40μ/sec/v/cmと云う極めて高い値を示し、またシアリダーゼにより殆んど変化がなく(0.3<P<0.4)、正常肝細胞のそれとは異なります。今後更に変異に伴うEPMの変化を追求したく思って居ります。

《三宅報告》
 皮膚の器官培養を発癌に結びつけようとして、細切した胎生皮膚を皮下組織の附着したままで4NQO、メチルコラントレンなどを投与、病理組織学的に変化の推移を追ってきた。この方式を用いることで2週以内に基底層に属する細胞のHyperchromatism、細胞輪郭の変化などがみられたが、それは細胞へのToxicな影響を、除外しえなかった。Sponge Matrix Cultureという手慣れた筈の培養方式では、培養期間の長さに隘路があることが憶測され、試験管内癌化のためには、より長期にわたる培養を続ける必要を生じ、胎生皮フを細胞単位にまで単離して、単層培養を行う以外に手がないことが判明した。
 方法:
 ヒト又は実験動物(d.d系マウス)の胎生15〜17日の皮フをDermisをつけて剥離、細切して、37℃でトリプシン処理、単離したものをEagle液に10〜20%の小牛血清を用いたものを用いて培養、一定時日の後に再びトリプシン処理して、平型試験管に植えつぎ、20-メチールコラントレンを培養液1mlあたり1μgを添加、直ちに正常の培養液に戻した。(経過表を呈示)。Primary Cultureは5月14日(1968)。
 結果:トリプシン処理后、植えつがれた細胞は、上皮性と考えられるものと、非上皮性と考えられるものの混在である。しばらくすると上皮性とみられるものは消失に傾き、紡錘形のFibroblastと考えられる細胞が勝ってくる。こうした紡錘形のものも、徐々に形態をかえ、偏平な星芒状に転じてゆくものが多く、形質中に顆粒を多く、たくわえた、核小体の鮮明な大きい核をもつようになる。
 メチールコラントレンを作用せしめたものでは、殊に細胞が巨大、偏平化することが早い。メチールコラントレンの作用時間を30分とすると、細胞の変性が強く、2〜3日后には細胞が硝子面から、ほとんど剥脱されるので、作用の時間を極端に短くした。こうして8月17日(約2ケ月后)にNo.18の3回メチールコラントレンを3日間隔に投与したものに、異型な細胞が出現した(写真を呈示)。この細胞は、前に述べた偏平化した多くの細胞群の間に、 境界の明かな集蔟を作ることなく、かなりな範囲に広がって存在する。細胞の形態は紡錘形、大きさは略々Uniform、両端は長い突起をそなえ、相隣れるものと連絡し、時に束状に、時に網状に相つらなっている。細胞は両端から牽引せられ、そのためか豊かな胞体の周囲に位相差像では暈をしめし、重厚な形質のために核は著明にみられない。この細胞群の中には分裂像と考えられるものが散在する。経過を観察中である。

《梅田報告》
 動物の発癌実験において化学剤発癌は、最低数ケ月も要するのに、ウィルス発癌はそれに較べると極端に短時日のうちに腫瘍形成にいたる。in vitroの我々の系でも、ウィルス発癌の場合はtransformed colony形成が簡単に認められ、定量化へと進んできたのに対し、Sunford等の仕事から、勝田先生、佐藤先生の一連の仕事、Heidelberger等の仕事等、完全に腫瘍性を獲得する迄、かなりの培養日数を必要としている。Suchs等のベンツピレン等を使用した実験に端を発し、黒木氏等の4NQOによるtransformed colony形成をin vitroに於けるウィルス発癌実験と同じ様に短時日のうちに認め、in vitro carcinogenesisに成功したとする報告は、私にはいささか納得がいかなかった。はからずも、黒木氏自身、彼の系でもinductionとpromotionの考え方を入れる方向に来ているのを知って、私自身気を強くしている。
 私はin vitroでも化学発癌剤による発癌は、日数を要するものとの考えから、現在mono-layerに生えたprimary rat liver cultureにDABの大量1回、或は小量常時投与を行い、培養を続けている。しかしSunford等の一番最初の発癌実験の記載とか、奥村氏の詳細な報告の如く、対照群の細胞にも生ずるspontaneous transformationの問題が入り込んで居り、複雑な要因がからまっているのは云うまでもない。これ等を充分考慮に入れながら、目下in vitro発癌のcellular levelでの現象を更に深くさぐる努力をしている。
 もう一つ、私のやってきた、そして以后強力に続けたい研究の方向として、化学発癌剤による急性の毒性効果とか、作用機作を調べることがある。Praimaryのrat liver cultureにDAB、黄変米毒素のルテオスカイリンを投与すると、肝細胞だけに特異的な変化を生ずるのに、同時に生えている間葉系の細胞群は障害を受けない。又DABと同じ骨格を持ち、発癌性のないABは、その様な変化を起さない。目下、之等の変化を詳細に調べ、又他の発癌剤についても調べているが、今后は、この急性変化と、発癌機構とどの様に結びついているのかを解明するのが、大きな課題と思っている。

《堀川報告》
 A)培養哺乳動物細胞における
放射線ならびに化学発癌剤障害回復の分子機構の研究(7)
紫外線照射による第一義的な障害がDNA内のpyrimidine dimerの形成にあり、さらにこうした障害回復(pyrimidine dimerの除去)の分子機構が微生物を始めとする多くの材料を用いて次第に明らかにされて来ている。私共のgroupでもEhrlich、マウスL、ブタPS細胞という3種の培養細胞株を用いてthymine dimerの除去機構を探索した結果、Ehrlich細胞にはUV照射でDNA中に形成されたthymine dimerの除去機構、つまり暗回復能をもつことを発見し得た。しかし、大腸菌等でみられるUV障害に対する光回復能は、私共が使用している3種の細胞株では勿論のこと、世界の研究者もいまだに光回復能を保持する高等動物細胞を発見し得る段階に至っていない。
 これまでにpublishされた結果から判断すると、光回復機構を保持するものは、どうやら微生物からはじまってウニの卵とか、特殊な魚類の細胞株、両棲類といったあたりまでのようである。高等な動物細胞には、更に別の機能が発達しているために、こうした光回復能の保持を必要としないのかもしれない。
 一方X線の生細胞に対する影響、つまり障害のprincipal sitesは未だに不明のままであり、ましてやその障害の回復機構は分からない。私共は前述のEhrlich細胞、L細胞を用いて、10KR、5KR、2KRのX線で照射した後、DNAのstrandがどのように切断され、しかも照射後15分、30分、60分と37℃のincubator中で細胞をincubateする間に、切断されたDNAがどのように、rejoiningして行くかといった過程を究明している。
 正常なEhrlich細胞やL細胞からは、sedimentation constant(S20,w)にして、210single strand DNAが分離されるが、こうした正常細胞を10KRで照射した直後ではsingle strand DNAはS20,wは71程度の小さなものに切断される。だが照射されたこれら細胞を15分、30分とincubateしておくと殆どもとのS20,w=210までrejoining出来ることが分った。これらは勿論5〜20%のsucrose gradient centrifugationによる解析であって、ここで興味あることはUV障害に対して暗回復機構をもつEhrlich細胞でも、さらには暗回復機構をもたないマウスL細胞でもsingle strand DNA breaksのrejoining acivityを殆ど同じ程度もつということで、こうした結果はX線照射によるsingle strand DNA breaksのrejoiningの機構は、UV障害からの暗回復機構とはまったくindepedentのものであることを暗示する。
 一方、X線照射によって誘発されたDNAのdouble strand breakの場合は、前述の2種の細胞を用いて調べた範囲では、rejoining activityの見られないことも分った。 こうしたradiationによる障害回復の分子機構と、これまでやって来た培養細胞に対する4NQO処理による障害の回復機構を比例して検討している。
 B)培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびに
   Leukemogenesisの試み(5)
 マウス大腿骨骨髄から取り出したbone marrow細胞を一定期間培養した後、X線被爆したマウスに注入し、被爆マウスの骨髄死に対する防護能とspleenへのcolony形成能を指標として培養bone marrow細胞の生物学的活性、およびその分化と増殖の機構、ひいては、こうした系を用いてLeukemogenesisの機構を検索している。現在では30日齢のNC系マウスから得たbone marrow細胞を70%TC-199、10%TPB、20%牛血清からなる培養液で、TD-40瓶内で静置培養し、この培養bone marrow細胞を培養後10〜300日(300日のものは完全にcell lineとしてestablishされた)に取り出して生後60日の700R被爆の同系マウスの尾静脈より注入して、被爆マウスの9日後のspleen表面に形成されたコロニー数と、30日生存率を求めている。同時にbone marrow細胞の培養経過に伴う細胞種の分類、およびオートラジオグラフによるH3-TdRの取り込み能は、従来報告して来たように、経時的に解析を行っている。途中経過はこれまでの月報にて報告して来たので、最近の代表的なresultsを要約してみると以下のようになる。
(1)培養前にみられた多種の細胞群は培養10日頃までに減少、消失し、従来みられなかった巨大単核、二核細胞が次第に増殖し、培養180〜300日に至ると、これが全populationの100%を占めるようになる。(こうした巨大細胞、二核細胞の増殖能はH3-TdRの非常に高い取り込み能と、分裂係数(mitotic index)からもうかがえる)。
 (2)培養bone marrow細胞を注入して、700R被爆マウスのspleenに生じるコロニー数を調べた結果では、培養期間10日以上経過した細胞群においては、対照群(細胞非注入群)との間に有意な差は認められない。
 (3)一方、培養bone marrow細胞を注入した被爆マウスの30日生存率を調べた結果は、培養30日までの細胞を注入した各群では、対照群との間に生存率向上という点で差がみられている。以上、非常に面白い結果が得られており、こうした系を用いて細胞の分化と癌化の機構を検討中である。
 さらに、これに関連して私共はマウスthymus細胞、spleen細胞を培養して、その生物学的機能の検索を進めているが、最近マウスC57BL/6Jax系生後24時間のnew-bornから得た、thymus細胞を一ケ月培養し、生後10日、14日、21日目の同系マウスの皮下、腹腔内に500万個細胞づつ復元すると、非常に高率に腫瘍を作り、しかもこうした癌細胞はtransplantableであることが分って来た。培養期間の短かいこと、復元より腫瘤形成迄要する時間の短いこと、更にbone marrow細胞とかspleen細胞と関連して、非常に重要な生物学的機能をもつthymus細胞であるが故に、この種の実験系は今後の慎重な解析を必要としている段階である。次号にてこれらの詳細を報告する予定である。

《高木報告》
 1)器官培養による発癌実験
ハムスター、ラット、マウス、人などの胎児の皮膚の器官培養による発癌実験を行うにあたり、まず培養法の検討を行い、また発癌物質の添加培養培養した皮膚の移植などを試みた。
 1)培養法の検討
 上記動物の胎児の皮膚を培養するのに、天然培地および種々の半合成培地を用いたが、天然培地のうちwatch glass methodによりchick plasmaとCEEを2:1に混じて凝固させたものが最も効果が良かった。この培地上では妊娠18週目の人胎児の皮膚は、培養後3週目にもなお多数のmitosisが認められた。温度に関して、ハムスターの胎児皮膚を30℃で培養したところ、37℃のものにくらべて明らかに良い結果がえられた。
 2)発癌物質の添加
 器官培養下の胎児皮膚に発癌物質として、4NQOを添加した。濃度は10-6乗mol程度が適当と思われたが、この濃度では殆ど変化はみられなかった。液体半合成培地を用いて培養したマウスの皮膚に10-4乗molの4NQOを添加した時、培養後72時間して表皮の一部に突起状の肥厚を認めた。またplasma clotを用いて培養した人胎児皮膚において、4NQO 10-5乗mol添加群に幾分mitosisの増加がみられたが、これらの変化がどの程度悪性化にむすびつくか、は判らない。
 3)培養した皮膚の移植
 plasma clotを用いて7日間培養した雑種ハムスター胎児の皮膚をハムスターに移植した。培養中4NQOを添加した群と対照群との間に、観察した約20週の間には殆ど有意と思われる変化はみられなかった。一方移植成功率が非培養群では8/17であるのに、培養群では15/17と可成り高率である点は注目されるべきで、さらに検索したい。培養条件についてはなお検討する予定である。
 2)細胞培養による発癌実験
 newbornよりweanlingに至るラットの胸腺および肺の細胞を培養し、一部ラット胸腺より分離した株細胞を使用した。
発癌物質としては4HAQO、4NQO、Nitrosoguanidine(NG)を用いた。
 1)4HAQO添加実験
 ラットの胸腺細胞を用いて4実験行ったが、うちWistar King A(WKA)ラット胸腺の2代目の細胞に10-5乗molの濃度を2回作用せしめたもので、処理後約15日でpile upしたcolonyをえた。この細胞を増殖せしめて生後3週の同系ラット皮下に100万個細胞数接種したが、腫瘤の形成はみられなかった。
 2)4NQO添加実験
 王様系ラット胸腺より分離した株細胞を用いて2実験、Wistar King A(WKA)系ラット胸腺のprimary cultureを用いて3実験、ラット肺のprimary cultureを用いて2実験行った。
4NQOは10-6乗、5x10-7乗、2x10-7乗molの濃度に培地で稀釋し、種々の時間、回数を作用せしめた。うち株細胞に10-6乗mol作用せしめたものから変異細胞のcolonyをえたが、移植実験には成功しなかった。またWKA系ラット胸腺培養の2代目以後、2x10-7乗molを頻回作用せしめたものがmorphological transformationをおこしたので現在移植実験中である。
 3)NG添加実験
 前記株細胞を用いて4実験、ラット胸腺のprimary cultureを用いて10実験、ラット肺のprimary cultureを用いて3実験を行った。
NGは1μg/mlより500μg/mlに至る濃度で種々の時間および回数作用せしめた。そのうちWKA系ラット胸腺3代目の細胞にNGを10μg/mlになるように滴下し、6日間放置したものより変異細胞をえた。この細胞を処理後約40日目に、同系のwianling ratに100万個細胞数接種したが、腫瘤は作らなかった。しかし処理後約170日目頃より対照と比して細胞の増殖度が目立ってよくなり、対照が1週間に約5倍程度の増殖を示すのに対して処理細胞は約10倍程度の増殖を示した。形態的にも対照はmonolayerを示すのに対して処理細胞はcriss crossが著明でpile upする傾向がつよかった。一般にNGは、細胞に変異をおこさしめる至適濃度の幅がせまいようで処理後相当長期にわたり細胞の増殖がみられず、従ってmorphological transformationがおこるまでのincubation timeが、長いように思われる。さらにNGを作用せしめる培養組織として、幼若WKAラット胃の培養をこころみて上皮性細胞の増殖をみた。これが如何なる組織に由来する細胞か未だ同定しえないが、この細胞を用いた発癌実験を計画している。変異細胞の染色体については目下検索中である。

《安藤報告》
 1)癌の遺伝子変異説の検討
 いかなる機序によって癌が発生するかに関して現在二つの考え方がある。(月報6705)。すなわち発癌剤、その他の作用によって正常な細胞が変異を起すのか、あるいは初めから混在していた悪性細胞が逆淘汰されてくるのか、という考え方である。しかしながらこの癌細胞の発生の由来のいかんにかかわらず、癌細胞は正常な細胞の持つ種々な調節機構に異常をきたしている。この癌細胞の異常性は病理学的、生化学的、その他の種々の研究手段によって現在迄にかなり明らかにされている。それにもかかわらず残念なことには、明らかにされて来た事は全て正常細胞と癌細胞の表現形質の量的な差でしかなく、本質的と思われる質的な差異は見出されてはいない。したがって一歩立入って、それでは癌細胞の遺伝子はどうなっているのであろうか、DNAレベルの変異を起しているであろうか、という疑問には何も答えない。私はこの問題に何らかの手がかりを得ようと次のような計画を立て、実験を進めている。
 当勝田研究室で無蛋白無脂質合成培地で8年間にわたり培養されている、マウス皮下センイ芽細胞由来のL929の亜株L・P3を使用し、これに薬剤処理をすることにより、種々の表現形質の異なる変異株を誘導する。次にそれ等の変異株及び原株の間にDNAを介しての、この表現形質の転換(transformation)が起るか否かを調べる。すなわち、その表現形質の変異は単なる細胞内調節機構の異常によるのではなく、遺伝子中のDNAの変異に由来するならば、次にこの手法を応用することによって前述の疑問−癌細胞は遺伝子変異によるか−に直接回答しうることになる。すなわち癌性がDNAによって他の細胞に移るとすれば、まさに癌は遺伝子変異によると結論出来るわけである。このような実験計画にしたがって次の予備実験を行っている。
 L・P3を単個培養によりNG(N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine)処理をする。処理後増殖を回復してきた細胞からクローニングをくり返すことにより、幾つかの純クローンを分離した。現在各クローンについて栄養要求性に変異を生じているか否かを検索中である。 2)4NQOの作用機序の細胞培養による研究
 4NQOは杉村らにより、生体内で4HAQOに還元される事により発癌性を獲得する事が示された。又腹水肝癌AH130のDNAに、腹水蛋白に結合する事がin vivoで示されている。しかしながら、この核酸、蛋白、あるいはその他の生体物質の内、いずれとの結合が癌化に直接みちびく反応であるのかについては全く不明である。そこで私共は細胞培養を利用する事により、動物体という多因子系による問題の複雑化を避け、より精密な発癌過程の分析を企図した。 H3-4NQOを前述のL・P3細胞に与え、細胞中へのとりこみ、及び細胞成分との結合のkineticsを調べることにより、最も4NQOとの反応性に富む成分は何かを検討した。結果は次の如くである。4NQOと細胞内蛋白質、核酸との結合は、37℃において、30分で最大となり以後3〜4時間はほぼ一定値を保っていた。またこの結合にあずかる蛋白は、DAB及びMCで示されたような特異蛋白ではなく種々の分子量を持つ殆ど全ての蛋白を含んでいた。目下核酸との結合様式、結合物の安定性等検討中である。

《安村報告》
 1.発ガンのSelection説の検討(つづき):
 月報のNo.6804に勝田班長がふれておられるが、Dr.L.Diamondのシリアン・ハムスター胎児細胞の培養内自然発ガンの報告は、このいわゆる自然発ガンの原因として3つのfactorを考察していた。つまりこの癌化は1)あらかじめ生体内に存在していたかもしれないvariantで、malignantのきざしのあるものをselectionによって継代中にひろいあげたか、2)未知のtransforming virusによるか、3)まだ不明の物理的、化学的な原因によるものか、ということであった。あるいはこれ以外の原因があるかもしれないし、これらの原因が互いに絡み合っていることも考えられよう。
 月報のNo.6808では上記の原因のうち、1)の仮説の可能性の分析のためにMacPhersonらによるSoft agar法の利用について予報された。実験の狙いは同号の討論にのべた如くです。 1-1.シリアン・ハムスター胎児細胞の初代培養では100万個、50万個/plateではSoft agar中のColony生成はみとめられない。そのご再び初代培養と2代継代培養によるSoft agar中のColony生成が試みられたが、いずれも結果はマイナス。
 1-2.以上のデータはSoft agar法がmalignant transformed cellをselectiveに増殖させることにあったとすれば当然のことのようにみえよう。しかしColony生成がゼロではなんとも前進のしようがない。
 1-3.最近E.TjottaらがPolyoma vurusによるtransformed cellが、Conditioned madiumを加えたSoft agarでよりよくColonyを生成するし、polyoma virusで処置しあい宿主細胞(BHK21/C13)も同様mediumでColonyを生成すると報告した。そこでこのconditioned mediumを加える方法をこころみた。
 1-4.Conditoned mediumは初代培養細胞と2代培養上清を液かえの際にプールして集められた。初代培養細胞と2代継代細胞が出発材料、Conditioned mediumはSoft agar中に100%(agar以外の培養液は100%Conditioned mediumということ)、50%、0%の割合にして各群5枚のplateをつかった。結果は接種細胞数100万個に対して、3週めに初代培養細胞の群のうち、Conditioned medium 100%のところでColony(0.1mm以下)が1コ、50%のところで1コ出現した。しかしそのごColonyの増殖はなく壊死におちいってしまった。いずれからもColonyを分離して増殖させることはできなかった。ついでなされた同様の実験ではConditioned mediumの割合を75%、50%、25%、0%でなされた。75%と50%の群で接種細胞数100万個につき、それぞれ5枚のPlat中2枚に数コ〜10数コのColony生成をみとめた。しかしこれらのColonyが増殖可能かいなかは、実験進行中なので、詳細は次回へ。
 2.AH7974TC細胞のSoft agar中での増殖:
 上記のSoft agar法をつかって行われているハムスター細胞の実験のControlとして、われわれのtechnicの信頼度をしらべるとともに、基礎実験がAH7974TC細胞でなされた。接種細胞100/Plateで11〜30のColonyができ、成績は上々。(Soft Agar中のAH7974TC細胞コロニーの写真を呈示。この実験ではconditioned Mediumはつかっていない。)

《藤井報告》
 培養ラット肝細胞とその変異株細胞の抗原について
 癌抗原の存在が、宿主の免疫学的抵抗性の成り立つ基盤出あり、癌に抗原性の在ることを立証することが、癌の免疫学的研究の起点となる筈である。化学発癌のばあい、各例性質の異なる癌の発生することが示されており、それらの抗原のちがいについての発表もある。
すでに、本研究班では“なぎさ"培養によるラット肝細胞の変異(勝田)、ハムスター胎児細胞の4-NQO処理による培養内発癌(黒木)、ラット肝細胞の3'MeDABおよび4-NQO処理による培養内発癌(佐藤)に成功している。比較的単一な細胞群を扱う組織培養実験では、培養細胞の変異過程を追跡することが可能であり、有利に癌抗原の分析をすすめられる筈である。
 培養内細胞の癌化にともなう抗原性の変化を検討することが、筆者に課せられたテーマであるが、今まで、ラット肝細胞、いくつかのラット肝癌、培養ラット肝細胞とその変異株等について、double diffusion法とimmune adherence(IA)法によって、それらの抗原の検討をおこなって来た。
 1.Double diffusion法による抗原分析
 培養細胞を主としてあつかう関係から、少量の細胞について実験をすすめる必要があり、double diffusion(Ouchterlony)の変法であるmicrodiffusion法(月報、No.6710に記載)を、採用した。この方法は、Ouchterlony法より抗原−抗体沈降線の検出が鋭敏に出来、20万個の少数細胞でも実験可能であることが、基礎実験で示された。
 抗原液:細胞20万個に対して、0.5%Na-deoxycholate-PBSを0.5mlの割に加えて浮游させ、ホモジナイズ后、その遠沈上清(2,000rpm、20分)を抗原液として用いる。培養細胞は、医科研癌細胞研究部のものである。
 抗血清:ウサギ抗ラット肝組織抗血清(RALS)、ウサギ抗ラットAH13抗血清(RATS-AH13)
の原血清を用う。
成績のあらまし:
 1)ラット肝組織は、RALSに対して5本の沈降線を示すが、
 2)培養ラット肝細胞(RLC-9)は、この中の1本と共通な沈降線のみをつくった。
 3)培養ラット肝細胞変異株(“なぎさ")RLH-5は、RALSに対して、全く沈降線をつくらない。 4)このRLH-5細胞は、抗ラット肝癌抗血清(RATS-AH13)に対して弱いけれども、1本の沈降線を示した。
 小括:培養ラット肝細胞が成熟ラット肝の抗原の大部分をもたないことは、培養ラット肝細胞が新生児ラット肝由来であることと、肝組織中の一群の細胞にかぎられることによると考えられるが、変異株では、変異以前の抗原を失い、別に肝癌の抗原(この場合AH13と共通な抗原)を獲得するようである。このような肝癌にみられる抗原が、癌の抗原によるのか、contaminationによる微生物の抗原によるのかは、今后慎重に検討されなければならない。
 2.Immune adherence(IA)法による抗原分析
 IA現象(免疫粘着現象、Nelson,R.A.,Jr.)は、抗原-抗体-補体複合体に人赤血球が粘着する反応で、極めて鋭敏な免疫反応である。細胞表面の抗原の検出は、抗体、補体、人赤血球を加えて反応させ、顕微鏡下に、人赤血球の粘着している細胞を識別し、算定することによって可能である。また凝集反応(免疫粘着赤血球凝集反応、immune adherence hemagglutina-tion)-西岡-として、反応の強さを判定しうる。
 方法:培養細胞を、培養の状態のまま抗体と反応させる目的で、小型の培養小角ビン中で1日培養し、TC-199液で洗滌した后、稀釋抗血清、1/5とモルモット補体用血清、1/20を、各0.25ml宛を加え、37℃で30分間反応させた后、2%人赤血球(O型)浮遊液0.1mlを添加して、さらに37℃で30〜60分反応させる。反応后、TC-199液で数回洗って、浮游赤血球を流し去ってから、倒立顕微鏡下にIAのおこっている細胞を識別算定する。
 成績のあらまし:
 1)培養ラット肝細胞(RLC-10)は、ウサギ抗ラット肝抗血清(RALS)によって強いIA(++++)を示すが−(double diffusiondeha反応弱く、沈降線1本のみ)−、“なぎさ"変異種(RLH-3、RLH-4とRLH-5)は、弱いIAを少数の細胞にみとめたにすぎない(±)。しかし、これらの変異株はいづれもウサギ抗ラット肝癌AH7974(RATS-7974)には、稍ついIAを示した(+)。
 2)ウサギ抗AH130抗血清(RATS-AH130)にたいして、AH130細胞−腹腔継代細胞−は33%、培養AH130(JTC-1)は68%のIA陽性細胞を示した。抗AH7974抗血清(RATS-AH7974)では、前者は27%、後者は43%の細胞がIA陽性であった。この傾向は、AH7974細胞とその培養継代細胞についても観察された。
 すなわち、ラット肝細胞は、各肝癌に対応する抗体とつよくIA反応をおこす他、非対応の他の肝癌に対する抗体ともかなりつよいIA反応を示すことがわかる。
 また培養ラット肝癌細胞の方が、元の腹腔継代細胞よりむしろ強いIA反応をおこしたことは興味ある点である。この点に関して、培養液中のcalf serumが細胞に吸着され、calf serumと用いた抗血清、補体との間の自然抗体によるIA反応が、反応増強にあづかってないかどうかが問題となる。この問題は、培養AH7974細胞をcalf serumをふくむ“199"液(10%)中においても(室温、30分)、IA反応に影響がみられなかった最近の実験から一応否定してよいと思われる。
 小括:
 1)IAによる実験で、培養ラット肝細胞変異株(“なぎさ")は、変異以前の抗原の多くを失内、一方、ラット肝癌に共通な抗原を獲得しているようにみえる。
 2)AH130、AH7974細胞と、それぞれの培養継代細胞は、正常ラット肝抗原の多くを示さないが(この成績は上に記さなかったが)、対応する抗体の他に、非対応の抗体にもかなり強くIAを示し、ラット肝癌に共通な抗原のあることを示唆している。
 培養継代細胞の方が、腹腔継代細胞よりも強いIAを呈する事実は、培養によって、細胞膜面に抗原−抗体反応がおこり易くなるような、あるいは抗原の露出を来すような変化がおこっていることを示唆する。

《永井報告》
 1)Ektobiologyと糖質・脂質
 細胞の機能には質的に異なる二つの面があるものとみられる。その一つは、個々の細胞そのものの生命維持に必須な機能である。これには蛋白質や核酸があづかっており、今迄の生化学の対象の中心となっていた。これが障害を受けたときには、病気よりもむしろ死を招く。いま一つは、細胞が一定の秩序のもとに集まっていとなむ、いわば、細胞の社会的な機能に関するもので、これがおかされても、前者のようには、直ちに死に至ることはない。その生物学をKalckarはEktobiologyの名で総括している。これに大きな役割をはたしていると考えられるのは、細胞表面の特異構造であり、物質的には糖質や脂質が主役になるものと予想される。我々は、癌問題をむしろこの第2の角度から把握していこうという考えで研究をすすめている。
 2)研究目的
 この問題に、生化学的にアプローチしていこうとして、我々がまずとりあげたことは、Ektobiologyにおける主役物質は何かということである。そこで、いうところの糖質や脂質がそうなのかどうか、これをまず明らかにしようとして実験をしくんできた。Ektobiolo-gicalな現象が典型的にあらわれてくるものの一つは、発生と分化の問題であろう。そこでは、2つの異なった生殖細胞の融合としての受精に始まって、形態形成にみられる細胞集団の完璧な秩序のうちにある特異な移動運動など、いろいろな問題がある。ここに着目して、かつ、大量の材料が入手しうるということから、さしあたってウニの配偶子およびその胚を材料として実験をおこなってきた。
 まず研究の焦点を、細胞の表面に存在すると予想される糖脂質にしぼって、次の項目をとりあげた。1)実際に糖脂質が配偶子や胚に存在するか。2)それはどのような化学構造のものか。3)それらに細胞表面の特異性に関係づけてもよいような、特異的な構造上の違いが見出されるか。4)発生、分化の過程の途上において、それらに何らかの変動がみられるかどうか。
 3.実験成績
 それに対して現在までにえられた答は、1)ウニの配偶子(精子および卵)および胚には、確かに糖脂質が存在する。それらはシアル酸を構成分の一つとして有するもので、その糖脂質(シアロムコリピド)の数は、9種以上にも達する。 2)それらは複雑な化学構造を有するが、構造上には一定の関係があり、一連の代謝経路上にのっているものと考えられる。3)精子と卵とでは存在する糖脂質の種類に違いが実際にみられた。のみならず、ウニの種類が違えば存在する糖脂質の構造も違ってくる(種特異性)ことがわかった(月報No.6808)。4)そのうちのいくつかでは化学構造の決定がおこなわれた。すなわち、ムラサキウニ精子の糖脂質のうちの一つはセラミド-Glc(6←2)シアル酸←シアル酸であり、卵の糖脂質のうちの一つはセラミド-Gic-Glc(シアル酸一分子)であることなどがわかっている。
 現在これらの脂質の化学構造の決定を更にすすめるとともに、その細胞における存在位置、発生途上における変動などの生物学的な面を追究しようとしている。
 ウニ胚は一層の細胞が中空のゴムマリ状にならなだ胞胚期から、第一次間充織細胞の陥入に始って、原腸形成に向って表層が陥入していく嚢胚期を経て、発生、分化をすすめていくが、この際の細胞の陥入運動は何によるものであろうか。まず考えられるのは、細胞間の接触状態にひとつのゆるみがおきるのではないだろうか、ということである。我々はこれを、たとえば細胞表面のシアル酸が表面から脱離するためによるのではないかと考え、シアリダーゼの特異的阻害物質を陥入期直前に作用させてみたが、何等の影響もみられなかった。しかし、プロテアーゼの強力なinhibitorであるトリペプチド、Leupeptineを作用させたところ、原腸陥入が全く抑制されることを見出した。この場合、細胞はそのまま生存を続けた。このことをどのように解釈するかであるが、この陥入期に至って細胞からプロテアーゼが分泌され、それが細胞間をつないでいる基質に作用して分解し、その結果細胞間の結合をゆるめるのではないかと、現在のところ考えている。これもまた、細胞の定着、migration、といったEktobiologyの問題の一つである。Leupeptineはつまりこのプロテアーゼ作用を抑制し、それが陥入の抑制となってあらわれてくるとみるのである。

【勝田班月報・6809】
《勝田報告》
 A)4NQOによる培養内細胞変異:
 これまでの月報で報告したように、正常ラッテのセンイ芽細胞や肝細胞の2倍体株(ヘイフリックの云うようにしだいに切れてしまう株ではない)を用いて、これまで4NQO処理をおこない、且その間の細胞形態の変化を顕微鏡映画撮影によって追究してきた。細胞に対する毒性度をしらべた結果、我々は3.3x10-6乗M・30分処理を1回の処理として与えることにしているが、1回以上、系によってさまざまの回数にわたって処理し、色々な変異株を得ている。4NQO処理を受けた正常ラッテ肝細胞の変異株の染色体数の分布図を次に示す。CQ39は4回、CQ40は1回、CQ42は2回の4NQO処理を受けていて、いずれも2nの42本から外れていることが判る(図を呈示)。
 B)4NQOの光力学的作用:
 4NQOがぞうり虫の類に対しphotodynamic actionを示すことは癌センターの永田氏らにより報告されている。この作用が発癌作用とどんな関係があるのかは判らないが、哺乳動物細胞に対しても4NQOがphotodynamic actionを有するかどうかをしらべるため、正常ラッテ肝細胞株(RLC-10)、なぎさ培養によるラッテ肝変異細胞株(RLH-4)、無蛋白無脂質培地継代のマウスセンイ芽細胞L株の亜株L・P3などについて、4NQO処理の後、365mμの光(4NQOの特異吸収ピークの二つの内一つに相当する波長)を各種の時間に照射し、その影響をしらべた。結果は、これらの哺乳動物細胞に対してもやはり4NQOが、photodynamic actionを示すことが明らかとなり、それは4NQOの濃度に正比例して細胞を障害し、4NQO無処理で光のみの照射では現われぬことも判った。これに対しL・P3細胞はきわめて特殊で、4NQOに対しては抵抗性が高く、逆に光に対してはきわめてsensitiveであった。詳細は癌学会で報告する。
 C)純系ラッテの腫瘍:
 日本には純系のラッテが少い。呑竜系も、一部では純系と云われても、皮膚の交換移植からも判るように、純系とは断じ難い。当研究室で15年近くBrother-Sister-matingでinbreedしてきた日本産白ラッテ(その頭文字をとってJAR系と命名)は現在F35に至っているが、F19のとき既に100%皮膚の交換移植が成立した。このラッテを使って、日本では数少い純系ラッテ腫瘍を作ろうと、今年度2月13日にF31の♀ラッテ(生后34日)4匹の皮下にメチールコラントレンを接種した。5月末に至り3/4匹に接種部位に腫瘤を発見。7月末に1匹に腫瘤の急速腫大を認め、これは下腹部に向い膨隆してきた。そこで8月24日にこれを解剖し、1)F32生后35日♀ラッテへ、皮下及び腹腔内接種、2)組織培養、3)凍結保存、4)組織標本に供した。1)は9月2日、皮下群の1/2匹に拇指頭大の腫瘤形成を認めた。他の3匹も肉眼的に同所見の腫瘍を作っていた。2)はexplantsから細胞の生え出しがはじまっている。4)の結果は肉腫、ほぼセンイ肉腫と斎藤教授により診定された。肉腫に何か名前をつけなくてはと、目下考慮中。組織像は来月号に発表する(JAR・F31ラッテにできたMCA肉腫の写真呈示)。

《佐藤報告》
 §4NQO→呑竜系ラッテ培養細胞について:
 全胎児、胎児肺及び肝細胞を培養して5系列7細胞系に発癌させることに成功した。各系で最初に発癌した動物の経過をまとめた(表を呈示)。この表によると4NQOの濃度10-6乗Mで100時間程度の処理、培養細胞の培養中における日数は100〜200日が必要と考えられる。詳細は10月の癌学会で発表の予定。
 §ラッテ肝細胞よりのPure clone:
 以上の実験でラッテ肝細胞が試験管内で発癌し、肝癌をつくることが判明したが、発癌機構解明のためには、培養で少くとも正diploidにある肝実質細胞をpure cloneで作りあげることが望ましい。そのためラッテ肝細胞株からdiploid Pure cloneを作ることを実施しているが、仲々成功しない。目下、培養肝細胞の適合培地の検討をおわり、CO2 incubatorでの適合条件をみつけるに止まっている。此事の詳細については11月の培養学会で報告の予定。 §今月の月報で丁度100号になるとの事で昔を一寸振返って見ました。我々の研究室は、班の“組織培養による正常及び腫瘍細胞の研究”時代にはEhrlich腹水癌、吉田肉腫細胞、C3H乳癌細胞及びDonryu系ラッテ肝細胞の株細胞化を行い、今日迄其等の株細胞を維持し、Ehrlich腹水癌細胞は日本組織培養学会に登録し、現在無蛋白培地に駲化させている。
“組織培養による発癌機構の研究”ではDonryu系ラッテ肝←3'-Me-DABの研究を行って、自然発癌に比して3'-Me-DAB投与が発癌率及び悪性度を上昇させることを見いだした。現在尚ラッテ肝←DABの培養内機作を検索すると共に4NQO発癌を行っている。
今后我々は更に研究をすすめて癌治療の目的まで出来るだけ早く到達したいと考えている。
《山田報告》
 培養細胞の変異に伴う表面荷電の変化
 今月は医科研及び岡山大癌研の御協力により、培養細胞の電気泳動度を種々検索することが出来ましたので、先々月の月報に報告した分も合せて、培養細胞の変異に伴う表面荷電の変化を細胞電気泳動度(E.P.M.)より考えて見たいと思います。
 まず培養肝細胞と、その変異株についてのみ、比較すると次のごとくになります(図を呈示)。培養ラット正常肝細胞は図に示すごとく、E.P.M.の平均値は0.8μ/sec/v/cm前後で、いづれもシアリダーゼ処理(30単位、acetate buffer、pH5.6、37℃、30分)(以下すべて同一条件で処理したので、この条件は省略)によりEPMの上昇がみられ、RLC-10では危険率P<0.01で、またExp7-Controlでは0.01<P<0.02の危険率で明らかに差があります。
 これに対して、ラット腹水肝癌細胞の培養株は、特にAH7974TCのEPMは高く、その平均値は1.34μ/sec/v/cmの高値を示します。しかしJTC-2及びJTC-1の平均EPMは低く、変異株と大差ありません。これ等にシアリダーゼ処理を行うとかなりの平均電気泳動値の低下を示し、両株及びAH7974TCすべて危険率P<0.01で、有意の平均電気泳動値の低下を認めました。
 次ぎに4NQOにより悪性化した岡大癌研株Exp(1)-1のEPMは図に示すように、その平均電気泳動値はあまり高くありませんが、シアリダーゼ処理により、EPMの有意の低下(P<0.01)を示し、またこの細胞をラットに復元して作った腫瘤細胞を再培養した細胞についても同様な結果を得ました。
 この細胞系の腫瘤形成はラットに復元後136日を必要としたさうですから、腹水肝癌株より悪性の性質は弱く、それに応じたEPMの変化と考えられます。
 変異肝細胞ではあるがラットに復元しても腫瘤を作らないと云うRLH-5、CQ42、CQ40、CQ39のEPMを図に示します(それぞれ図を呈示)。平均電気泳動度値はRLH-5を除き、正常肝細胞のそれにくらべてあまり差がありませんが、シアリダーゼ処理を行うと正常肝細胞と異り、EPMの上昇がみられません。この処理前後の泳動値間の差についての統計的計算ではRLH-5→P>0.5 CQ42→0.1<0.2 CQ40→P>0.5となり有意の差がなく、しかしCQ39についてはP<0.01となり平均値間ではシアリダーゼ処理により上昇すると云う結果になりました。しかし正常肝細胞のシアリダーゼ処理後の変化とCQ39のそれではかなり差があるようです。
 これらの所見に基き、細胞変異に伴うEPMの変化をまとめて、次のごときシェーマとしました。これは現時点でのin vitro培養ラット肝細胞のEPMの変化のシェーマ(図を呈示)、漸定的な考え方です。CQ系の細胞や、なぎさ培養による変異株が復元されてラットに腫瘍を形成するか否かは勿論今後の問題ですが、一応これらの細胞系を「変異して居るが悪性ではない」と云う立場に立っての話です。
 ラット肝細胞を長期に培養して自然に悪性化したと云う株RLN-38-87及びそのoriginal RLN-38-52のEPMを測定した所、両者はいづれも前記の変異株と同様な知見を得ました。これは先きのシェーマと話しが合いません。しかし、この細胞はラットに復元して腫瘍を作るのに、236日もかかったと云うことですので、悪性化して居る細胞はごく少数でEPMの測定の対象にならなかったのではないかと考えました。
 この点は今後検討すべき問題点と考えます。
 最後に岡大癌研のラット胎児肺細胞及び、その4NQOによる悪性化細胞のEPMの成績を加えます。この細胞はラットに復元すると、60日前後で腫瘤を作るそうですが、明らかに腹水肝癌と同一の結果をなしました。しかもそのEPMは1.40μ/sec/v/cmと云う極めて高い値を示し、またシアリダーゼにより殆んど変化がなく(0.3<P<0.4)、正常肝細胞のそれとは異なります。今後更に変異に伴うEPMの変化を追求したく思って居ります。

《三宅報告》
 皮膚の器官培養を発癌に結びつけようとして、細切した胎生皮膚を皮下組織の附着したままで4NQO、メチルコラントレンなどを投与、病理組織学的に変化の推移を追ってきた。この方式を用いることで2週以内に基底層に属する細胞のHyperchromatism、細胞輪郭の変化などがみられたが、それは細胞へのToxicな影響を、除外しえなかった。Sponge Matrix Cultureという手慣れた筈の培養方式では、培養期間の長さに隘路があることが憶測され、試験管内癌化のためには、より長期にわたる培養を続ける必要を生じ、胎生皮フを細胞単位にまで単離して、単層培養を行う以外に手がないことが判明した。
 方法:
 ヒト又は実験動物(d.d系マウス)の胎生15〜17日の皮フをDermisをつけて剥離、細切して、37℃でトリプシン処理、単離したものをEagle液に10〜20%の小牛血清を用いたものを用いて培養、一定時日の後に再びトリプシン処理して、平型試験管に植えつぎ、20-メチールコラントレンを培養液1mlあたり1μgを添加、直ちに正常の培養液に戻した。(経過表を呈示)。Primary Cultureは5月14日(1968)。
 結果:トリプシン処理后、植えつがれた細胞は、上皮性と考えられるものと、非上皮性と考えられるものの混在である。しばらくすると上皮性とみられるものは消失に傾き、紡錘形のFibroblastと考えられる細胞が勝ってくる。こうした紡錘形のものも、徐々に形態をかえ、偏平な星芒状に転じてゆくものが多く、形質中に顆粒を多く、たくわえた、核小体の鮮明な大きい核をもつようになる。
 メチールコラントレンを作用せしめたものでは、殊に細胞が巨大、偏平化することが早い。メチールコラントレンの作用時間を30分とすると、細胞の変性が強く、2〜3日后には細胞が硝子面から、ほとんど剥脱されるので、作用の時間を極端に短くした。こうして8月17日(約2ケ月后)にNo.18の3回メチールコラントレンを3日間隔に投与したものに、異型な細胞が出現した(写真を呈示)。この細胞は、前に述べた偏平化した多くの細胞群の間に、 境界の明かな集蔟を作ることなく、かなりな範囲に広がって存在する。細胞の形態は紡錘形、大きさは略々Uniform、両端は長い突起をそなえ、相隣れるものと連絡し、時に束状に、時に網状に相つらなっている。細胞は両端から牽引せられ、そのためか豊かな胞体の周囲に位相差像では暈をしめし、重厚な形質のために核は著明にみられない。この細胞群の中には分裂像と考えられるものが散在する。経過を観察中である。

《梅田報告》
 動物の発癌実験において化学剤発癌は、最低数ケ月も要するのに、ウィルス発癌はそれに較べると極端に短時日のうちに腫瘍形成にいたる。in vitroの我々の系でも、ウィルス発癌の場合はtransformed colony形成が簡単に認められ、定量化へと進んできたのに対し、Sunford等の仕事から、勝田先生、佐藤先生の一連の仕事、Heidelberger等の仕事等、完全に腫瘍性を獲得する迄、かなりの培養日数を必要としている。Suchs等のベンツピレン等を使用した実験に端を発し、黒木氏等の4NQOによるtransformed colony形成をin vitroに於けるウィルス発癌実験と同じ様に短時日のうちに認め、in vitro carcinogenesisに成功したとする報告は、私にはいささか納得がいかなかった。はからずも、黒木氏自身、彼の系でもinductionとpromotionの考え方を入れる方向に来ているのを知って、私自身気を強くしている。
 私はin vitroでも化学発癌剤による発癌は、日数を要するものとの考えから、現在mono-layerに生えたprimary rat liver cultureにDABの大量1回、或は小量常時投与を行い、培養を続けている。しかしSunford等の一番最初の発癌実験の記載とか、奥村氏の詳細な報告の如く、対照群の細胞にも生ずるspontaneous transformationの問題が入り込んで居り、複雑な要因がからまっているのは云うまでもない。これ等を充分考慮に入れながら、目下in vitro発癌のcellular levelでの現象を更に深くさぐる努力をしている。
 もう一つ、私のやってきた、そして以后強力に続けたい研究の方向として、化学発癌剤による急性の毒性効果とか、作用機作を調べることがある。Praimaryのrat liver cultureにDAB、黄変米毒素のルテオスカイリンを投与すると、肝細胞だけに特異的な変化を生ずるのに、同時に生えている間葉系の細胞群は障害を受けない。又DABと同じ骨格を持ち、発癌性のないABは、その様な変化を起さない。目下、之等の変化を詳細に調べ、又他の発癌剤についても調べているが、今后は、この急性変化と、発癌機構とどの様に結びついているのかを解明するのが、大きな課題と思っている。

《堀川報告》
 A)培養哺乳動物細胞における
放射線ならびに化学発癌剤障害回復の分子機構の研究(7)
紫外線照射による第一義的な障害がDNA内のpyrimidine dimerの形成にあり、さらにこうした障害回復(pyrimidine dimerの除去)の分子機構が微生物を始めとする多くの材料を用いて次第に明らかにされて来ている。私共のgroupでもEhrlich、マウスL、ブタPS細胞という3種の培養細胞株を用いてthymine dimerの除去機構を探索した結果、Ehrlich細胞にはUV照射でDNA中に形成されたthymine dimerの除去機構、つまり暗回復能をもつことを発見し得た。しかし、大腸菌等でみられるUV障害に対する光回復能は、私共が使用している3種の細胞株では勿論のこと、世界の研究者もいまだに光回復能を保持する高等動物細胞を発見し得る段階に至っていない。
 これまでにpublishされた結果から判断すると、光回復機構を保持するものは、どうやら微生物からはじまってウニの卵とか、特殊な魚類の細胞株、両棲類といったあたりまでのようである。高等な動物細胞には、更に別の機能が発達しているために、こうした光回復能の保持を必要としないのかもしれない。
 一方X線の生細胞に対する影響、つまり障害のprincipal sitesは未だに不明のままであり、ましてやその障害の回復機構は分からない。私共は前述のEhrlich細胞、L細胞を用いて、10KR、5KR、2KRのX線で照射した後、DNAのstrandがどのように切断され、しかも照射後15分、30分、60分と37℃のincubator中で細胞をincubateする間に、切断されたDNAがどのように、rejoiningして行くかといった過程を究明している。
 正常なEhrlich細胞やL細胞からは、sedimentation constant(S20,w)にして、210single strand DNAが分離されるが、こうした正常細胞を10KRで照射した直後ではsingle strand DNAはS20,wは71程度の小さなものに切断される。だが照射されたこれら細胞を15分、30分とincubateしておくと殆どもとのS20,w=210までrejoining出来ることが分った。これらは勿論5〜20%のsucrose gradient centrifugationによる解析であって、ここで興味あることはUV障害に対して暗回復機構をもつEhrlich細胞でも、さらには暗回復機構をもたないマウスL細胞でもsingle strand DNA breaksのrejoining acivityを殆ど同じ程度もつということで、こうした結果はX線照射によるsingle strand DNA breaksのrejoiningの機構は、UV障害からの暗回復機構とはまったくindepedentのものであることを暗示する。
 一方、X線照射によって誘発されたDNAのdouble strand breakの場合は、前述の2種の細胞を用いて調べた範囲では、rejoining activityの見られないことも分った。 こうしたradiationによる障害回復の分子機構と、これまでやって来た培養細胞に対する4NQO処理による障害の回復機構を比例して検討している。
 B)培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびに
   Leukemogenesisの試み(5)
 マウス大腿骨骨髄から取り出したbone marrow細胞を一定期間培養した後、X線被爆したマウスに注入し、被爆マウスの骨髄死に対する防護能とspleenへのcolony形成能を指標として培養bone marrow細胞の生物学的活性、およびその分化と増殖の機構、ひいては、こうした系を用いてLeukemogenesisの機構を検索している。現在では30日齢のNC系マウスから得たbone marrow細胞を70%TC-199、10%TPB、20%牛血清からなる培養液で、TD-40瓶内で静置培養し、この培養bone marrow細胞を培養後10〜300日(300日のものは完全にcell lineとしてestablishされた)に取り出して生後60日の700R被爆の同系マウスの尾静脈より注入して、被爆マウスの9日後のspleen表面に形成されたコロニー数と、30日生存率を求めている。同時にbone marrow細胞の培養経過に伴う細胞種の分類、およびオートラジオグラフによるH3-TdRの取り込み能は、従来報告して来たように、経時的に解析を行っている。途中経過はこれまでの月報にて報告して来たので、最近の代表的なresultsを要約してみると以下のようになる。
(1)培養前にみられた多種の細胞群は培養10日頃までに減少、消失し、従来みられなかった巨大単核、二核細胞が次第に増殖し、培養180〜300日に至ると、これが全populationの100%を占めるようになる。(こうした巨大細胞、二核細胞の増殖能はH3-TdRの非常に高い取り込み能と、分裂係数(mitotic index)からもうかがえる)。
 (2)培養bone marrow細胞を注入して、700R被爆マウスのspleenに生じるコロニー数を調べた結果では、培養期間10日以上経過した細胞群においては、対照群(細胞非注入群)との間に有意な差は認められない。
 (3)一方、培養bone marrow細胞を注入した被爆マウスの30日生存率を調べた結果は、培養30日までの細胞を注入した各群では、対照群との間に生存率向上という点で差がみられている。以上、非常に面白い結果が得られており、こうした系を用いて細胞の分化と癌化の機構を検討中である。
 さらに、これに関連して私共はマウスthymus細胞、spleen細胞を培養して、その生物学的機能の検索を進めているが、最近マウスC57BL/6Jax系生後24時間のnew-bornから得た、thymus細胞を一ケ月培養し、生後10日、14日、21日目の同系マウスの皮下、腹腔内に500万個細胞づつ復元すると、非常に高率に腫瘍を作り、しかもこうした癌細胞はtransplantableであることが分って来た。培養期間の短かいこと、復元より腫瘤形成迄要する時間の短いこと、更にbone marrow細胞とかspleen細胞と関連して、非常に重要な生物学的機能をもつthymus細胞であるが故に、この種の実験系は今後の慎重な解析を必要としている段階である。次号にてこれらの詳細を報告する予定である。

《高木報告》
 1)器官培養による発癌実験
ハムスター、ラット、マウス、人などの胎児の皮膚の器官培養による発癌実験を行うにあたり、まず培養法の検討を行い、また発癌物質の添加培養培養した皮膚の移植などを試みた。
 1)培養法の検討
 上記動物の胎児の皮膚を培養するのに、天然培地および種々の半合成培地を用いたが、天然培地のうちwatch glass methodによりchick plasmaとCEEを2:1に混じて凝固させたものが最も効果が良かった。この培地上では妊娠18週目の人胎児の皮膚は、培養後3週目にもなお多数のmitosisが認められた。温度に関して、ハムスターの胎児皮膚を30℃で培養したところ、37℃のものにくらべて明らかに良い結果がえられた。
 2)発癌物質の添加
 器官培養下の胎児皮膚に発癌物質として、4NQOを添加した。濃度は10-6乗mol程度が適当と思われたが、この濃度では殆ど変化はみられなかった。液体半合成培地を用いて培養したマウスの皮膚に10-4乗molの4NQOを添加した時、培養後72時間して表皮の一部に突起状の肥厚を認めた。またplasma clotを用いて培養した人胎児皮膚において、4NQO 10-5乗mol添加群に幾分mitosisの増加がみられたが、これらの変化がどの程度悪性化にむすびつくか、は判らない。
 3)培養した皮膚の移植
 plasma clotを用いて7日間培養した雑種ハムスター胎児の皮膚をハムスターに移植した。培養中4NQOを添加した群と対照群との間に、観察した約20週の間には殆ど有意と思われる変化はみられなかった。一方移植成功率が非培養群では8/17であるのに、培養群では15/17と可成り高率である点は注目されるべきで、さらに検索したい。培養条件についてはなお検討する予定である。
 2)細胞培養による発癌実験
 newbornよりweanlingに至るラットの胸腺および肺の細胞を培養し、一部ラット胸腺より分離した株細胞を使用した。
発癌物質としては4HAQO、4NQO、Nitrosoguanidine(NG)を用いた。
 1)4HAQO添加実験
 ラットの胸腺細胞を用いて4実験行ったが、うちWistar King A(WKA)ラット胸腺の2代目の細胞に10-5乗molの濃度を2回作用せしめたもので、処理後約15日でpile upしたcolonyをえた。この細胞を増殖せしめて生後3週の同系ラット皮下に100万個細胞数接種したが、腫瘤の形成はみられなかった。
 2)4NQO添加実験
 王様系ラット胸腺より分離した株細胞を用いて2実験、Wistar King A(WKA)系ラット胸腺のprimary cultureを用いて3実験、ラット肺のprimary cultureを用いて2実験行った。
4NQOは10-6乗、5x10-7乗、2x10-7乗molの濃度に培地で稀釋し、種々の時間、回数を作用せしめた。うち株細胞に10-6乗mol作用せしめたものから変異細胞のcolonyをえたが、移植実験には成功しなかった。またWKA系ラット胸腺培養の2代目以後、2x10-7乗molを頻回作用せしめたものがmorphological transformationをおこしたので現在移植実験中である。
 3)NG添加実験
 前記株細胞を用いて4実験、ラット胸腺のprimary cultureを用いて10実験、ラット肺のprimary cultureを用いて3実験を行った。
NGは1μg/mlより500μg/mlに至る濃度で種々の時間および回数作用せしめた。そのうちWKA系ラット胸腺3代目の細胞にNGを10μg/mlになるように滴下し、6日間放置したものより変異細胞をえた。この細胞を処理後約40日目に、同系のwianling ratに100万個細胞数接種したが、腫瘤は作らなかった。しかし処理後約170日目頃より対照と比して細胞の増殖度が目立ってよくなり、対照が1週間に約5倍程度の増殖を示すのに対して処理細胞は約10倍程度の増殖を示した。形態的にも対照はmonolayerを示すのに対して処理細胞はcriss crossが著明でpile upする傾向がつよかった。一般にNGは、細胞に変異をおこさしめる至適濃度の幅がせまいようで処理後相当長期にわたり細胞の増殖がみられず、従ってmorphological transformationがおこるまでのincubation timeが、長いように思われる。さらにNGを作用せしめる培養組織として、幼若WKAラット胃の培養をこころみて上皮性細胞の増殖をみた。これが如何なる組織に由来する細胞か未だ同定しえないが、この細胞を用いた発癌実験を計画している。変異細胞の染色体については目下検索中である。

《安藤報告》
 1)癌の遺伝子変異説の検討
 いかなる機序によって癌が発生するかに関して現在二つの考え方がある。(月報6705)。すなわち発癌剤、その他の作用によって正常な細胞が変異を起すのか、あるいは初めから混在していた悪性細胞が逆淘汰されてくるのか、という考え方である。しかしながらこの癌細胞の発生の由来のいかんにかかわらず、癌細胞は正常な細胞の持つ種々な調節機構に異常をきたしている。この癌細胞の異常性は病理学的、生化学的、その他の種々の研究手段によって現在迄にかなり明らかにされている。それにもかかわらず残念なことには、明らかにされて来た事は全て正常細胞と癌細胞の表現形質の量的な差でしかなく、本質的と思われる質的な差異は見出されてはいない。したがって一歩立入って、それでは癌細胞の遺伝子はどうなっているのであろうか、DNAレベルの変異を起しているであろうか、という疑問には何も答えない。私はこの問題に何らかの手がかりを得ようと次のような計画を立て、実験を進めている。
 当勝田研究室で無蛋白無脂質合成培地で8年間にわたり培養されている、マウス皮下センイ芽細胞由来のL929の亜株L・P3を使用し、これに薬剤処理をすることにより、種々の表現形質の異なる変異株を誘導する。次にそれ等の変異株及び原株の間にDNAを介しての、この表現形質の転換(transformation)が起るか否かを調べる。すなわち、その表現形質の変異は単なる細胞内調節機構の異常によるのではなく、遺伝子中のDNAの変異に由来するならば、次にこの手法を応用することによって前述の疑問−癌細胞は遺伝子変異によるか−に直接回答しうることになる。すなわち癌性がDNAによって他の細胞に移るとすれば、まさに癌は遺伝子変異によると結論出来るわけである。このような実験計画にしたがって次の予備実験を行っている。
 L・P3を単個培養によりNG(N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine)処理をする。処理後増殖を回復してきた細胞からクローニングをくり返すことにより、幾つかの純クローンを分離した。現在各クローンについて栄養要求性に変異を生じているか否かを検索中である。 2)4NQOの作用機序の細胞培養による研究
 4NQOは杉村らにより、生体内で4HAQOに還元される事により発癌性を獲得する事が示された。又腹水肝癌AH130のDNAに、腹水蛋白に結合する事がin vivoで示されている。しかしながら、この核酸、蛋白、あるいはその他の生体物質の内、いずれとの結合が癌化に直接みちびく反応であるのかについては全く不明である。そこで私共は細胞培養を利用する事により、動物体という多因子系による問題の複雑化を避け、より精密な発癌過程の分析を企図した。 H3-4NQOを前述のL・P3細胞に与え、細胞中へのとりこみ、及び細胞成分との結合のkineticsを調べることにより、最も4NQOとの反応性に富む成分は何かを検討した。結果は次の如くである。4NQOと細胞内蛋白質、核酸との結合は、37℃において、30分で最大となり以後3〜4時間はほぼ一定値を保っていた。またこの結合にあずかる蛋白は、DAB及びMCで示されたような特異蛋白ではなく種々の分子量を持つ殆ど全ての蛋白を含んでいた。目下核酸との結合様式、結合物の安定性等検討中である。

《安村報告》
 1.発ガンのSelection説の検討(つづき):
 月報のNo.6804に勝田班長がふれておられるが、Dr.L.Diamondのシリアン・ハムスター胎児細胞の培養内自然発ガンの報告は、このいわゆる自然発ガンの原因として3つのfactorを考察していた。つまりこの癌化は1)あらかじめ生体内に存在していたかもしれないvariantで、malignantのきざしのあるものをselectionによって継代中にひろいあげたか、2)未知のtransforming virusによるか、3)まだ不明の物理的、化学的な原因によるものか、ということであった。あるいはこれ以外の原因があるかもしれないし、これらの原因が互いに絡み合っていることも考えられよう。
 月報のNo.6808では上記の原因のうち、1)の仮説の可能性の分析のためにMacPhersonらによるSoft agar法の利用について予報された。実験の狙いは同号の討論にのべた如くです。 1-1.シリアン・ハムスター胎児細胞の初代培養では100万個、50万個/plateではSoft agar中のColony生成はみとめられない。そのご再び初代培養と2代継代培養によるSoft agar中のColony生成が試みられたが、いずれも結果はマイナス。
 1-2.以上のデータはSoft agar法がmalignant transformed cellをselectiveに増殖させることにあったとすれば当然のことのようにみえよう。しかしColony生成がゼロではなんとも前進のしようがない。
 1-3.最近E.TjottaらがPolyoma vurusによるtransformed cellが、Conditioned madiumを加えたSoft agarでよりよくColonyを生成するし、polyoma virusで処置しあい宿主細胞(BHK21/C13)も同様mediumでColonyを生成すると報告した。そこでこのconditioned mediumを加える方法をこころみた。
 1-4.Conditoned mediumは初代培養細胞と2代培養上清を液かえの際にプールして集められた。初代培養細胞と2代継代細胞が出発材料、Conditioned mediumはSoft agar中に100%(agar以外の培養液は100%Conditioned mediumということ)、50%、0%の割合にして各群5枚のplateをつかった。結果は接種細胞数100万個に対して、3週めに初代培養細胞の群のうち、Conditioned medium 100%のところでColony(0.1mm以下)が1コ、50%のところで1コ出現した。しかしそのごColonyの増殖はなく壊死におちいってしまった。いずれからもColonyを分離して増殖させることはできなかった。ついでなされた同様の実験ではConditioned mediumの割合を75%、50%、25%、0%でなされた。75%と50%の群で接種細胞数100万個につき、それぞれ5枚のPlat中2枚に数コ〜10数コのColony生成をみとめた。しかしこれらのColonyが増殖可能かいなかは、実験進行中なので、詳細は次回へ。
 2.AH7974TC細胞のSoft agar中での増殖:
 上記のSoft agar法をつかって行われているハムスター細胞の実験のControlとして、われわれのtechnicの信頼度をしらべるとともに、基礎実験がAH7974TC細胞でなされた。接種細胞100/Plateで11〜30のColonyができ、成績は上々。(Soft Agar中のAH7974TC細胞コロニーの写真を呈示。この実験ではconditioned Mediumはつかっていない。)

《藤井報告》
 培養ラット肝細胞とその変異株細胞の抗原について
 癌抗原の存在が、宿主の免疫学的抵抗性の成り立つ基盤出あり、癌に抗原性の在ることを立証することが、癌の免疫学的研究の起点となる筈である。化学発癌のばあい、各例性質の異なる癌の発生することが示されており、それらの抗原のちがいについての発表もある。
すでに、本研究班では“なぎさ"培養によるラット肝細胞の変異(勝田)、ハムスター胎児細胞の4-NQO処理による培養内発癌(黒木)、ラット肝細胞の3'MeDABおよび4-NQO処理による培養内発癌(佐藤)に成功している。比較的単一な細胞群を扱う組織培養実験では、培養細胞の変異過程を追跡することが可能であり、有利に癌抗原の分析をすすめられる筈である。
 培養内細胞の癌化にともなう抗原性の変化を検討することが、筆者に課せられたテーマであるが、今まで、ラット肝細胞、いくつかのラット肝癌、培養ラット肝細胞とその変異株等について、double diffusion法とimmune adherence(IA)法によって、それらの抗原の検討をおこなって来た。
 1.Double diffusion法による抗原分析
 培養細胞を主としてあつかう関係から、少量の細胞について実験をすすめる必要があり、double diffusion(Ouchterlony)の変法であるmicrodiffusion法(月報、No.6710に記載)を、採用した。この方法は、Ouchterlony法より抗原−抗体沈降線の検出が鋭敏に出来、20万個の少数細胞でも実験可能であることが、基礎実験で示された。
 抗原液:細胞20万個に対して、0.5%Na-deoxycholate-PBSを0.5mlの割に加えて浮游させ、ホモジナイズ后、その遠沈上清(2,000rpm、20分)を抗原液として用いる。培養細胞は、医科研癌細胞研究部のものである。
 抗血清:ウサギ抗ラット肝組織抗血清(RALS)、ウサギ抗ラットAH13抗血清(RATS-AH13)
の原血清を用う。
成績のあらまし:
 1)ラット肝組織は、RALSに対して5本の沈降線を示すが、
 2)培養ラット肝細胞(RLC-9)は、この中の1本と共通な沈降線のみをつくった。
 3)培養ラット肝細胞変異株(“なぎさ")RLH-5は、RALSに対して、全く沈降線をつくらない。 4)このRLH-5細胞は、抗ラット肝癌抗血清(RATS-AH13)に対して弱いけれども、1本の沈降線を示した。
 小括:培養ラット肝細胞が成熟ラット肝の抗原の大部分をもたないことは、培養ラット肝細胞が新生児ラット肝由来であることと、肝組織中の一群の細胞にかぎられることによると考えられるが、変異株では、変異以前の抗原を失い、別に肝癌の抗原(この場合AH13と共通な抗原)を獲得するようである。このような肝癌にみられる抗原が、癌の抗原によるのか、contaminationによる微生物の抗原によるのかは、今后慎重に検討されなければならない。
 2.Immune adherence(IA)法による抗原分析
 IA現象(免疫粘着現象、Nelson,R.A.,Jr.)は、抗原-抗体-補体複合体に人赤血球が粘着する反応で、極めて鋭敏な免疫反応である。細胞表面の抗原の検出は、抗体、補体、人赤血球を加えて反応させ、顕微鏡下に、人赤血球の粘着している細胞を識別し、算定することによって可能である。また凝集反応(免疫粘着赤血球凝集反応、immune adherence hemagglutina-tion)-西岡-として、反応の強さを判定しうる。
 方法:培養細胞を、培養の状態のまま抗体と反応させる目的で、小型の培養小角ビン中で1日培養し、TC-199液で洗滌した后、稀釋抗血清、1/5とモルモット補体用血清、1/20を、各0.25ml宛を加え、37℃で30分間反応させた后、2%人赤血球(O型)浮遊液0.1mlを添加して、さらに37℃で30〜60分反応させる。反応后、TC-199液で数回洗って、浮游赤血球を流し去ってから、倒立顕微鏡下にIAのおこっている細胞を識別算定する。
 成績のあらまし:
 1)培養ラット肝細胞(RLC-10)は、ウサギ抗ラット肝抗血清(RALS)によって強いIA(++++)を示すが−(double diffusiondeha反応弱く、沈降線1本のみ)−、“なぎさ"変異種(RLH-3、RLH-4とRLH-5)は、弱いIAを少数の細胞にみとめたにすぎない(±)。しかし、これらの変異株はいづれもウサギ抗ラット肝癌AH7974(RATS-7974)には、稍ついIAを示した(+)。
 2)ウサギ抗AH130抗血清(RATS-AH130)にたいして、AH130細胞−腹腔継代細胞−は33%、培養AH130(JTC-1)は68%のIA陽性細胞を示した。抗AH7974抗血清(RATS-AH7974)では、前者は27%、後者は43%の細胞がIA陽性であった。この傾向は、AH7974細胞とその培養継代細胞についても観察された。
 すなわち、ラット肝細胞は、各肝癌に対応する抗体とつよくIA反応をおこす他、非対応の他の肝癌に対する抗体ともかなりつよいIA反応を示すことがわかる。
 また培養ラット肝癌細胞の方が、元の腹腔継代細胞よりむしろ強いIA反応をおこしたことは興味ある点である。この点に関して、培養液中のcalf serumが細胞に吸着され、calf serumと用いた抗血清、補体との間の自然抗体によるIA反応が、反応増強にあづかってないかどうかが問題となる。この問題は、培養AH7974細胞をcalf serumをふくむ“199"液(10%)中においても(室温、30分)、IA反応に影響がみられなかった最近の実験から一応否定してよいと思われる。
 小括:
 1)IAによる実験で、培養ラット肝細胞変異株(“なぎさ")は、変異以前の抗原の多くを失内、一方、ラット肝癌に共通な抗原を獲得しているようにみえる。
 2)AH130、AH7974細胞と、それぞれの培養継代細胞は、正常ラット肝抗原の多くを示さないが(この成績は上に記さなかったが)、対応する抗体の他に、非対応の抗体にもかなり強くIAを示し、ラット肝癌に共通な抗原のあることを示唆している。
 培養継代細胞の方が、腹腔継代細胞よりも強いIAを呈する事実は、培養によって、細胞膜面に抗原−抗体反応がおこり易くなるような、あるいは抗原の露出を来すような変化がおこっていることを示唆する。

《永井報告》
 1)Ektobiologyと糖質・脂質
 細胞の機能には質的に異なる二つの面があるものとみられる。その一つは、個々の細胞そのものの生命維持に必須な機能である。これには蛋白質や核酸があづかっており、今迄の生化学の対象の中心となっていた。これが障害を受けたときには、病気よりもむしろ死を招く。いま一つは、細胞が一定の秩序のもとに集まっていとなむ、いわば、細胞の社会的な機能に関するもので、これがおかされても、前者のようには、直ちに死に至ることはない。その生物学をKalckarはEktobiologyの名で総括している。これに大きな役割をはたしていると考えられるのは、細胞表面の特異構造であり、物質的には糖質や脂質が主役になるものと予想される。我々は、癌問題をむしろこの第2の角度から把握していこうという考えで研究をすすめている。
 2)研究目的
 この問題に、生化学的にアプローチしていこうとして、我々がまずとりあげたことは、Ektobiologyにおける主役物質は何かということである。そこで、いうところの糖質や脂質がそうなのかどうか、これをまず明らかにしようとして実験をしくんできた。Ektobiolo-gicalな現象が典型的にあらわれてくるものの一つは、発生と分化の問題であろう。そこでは、2つの異なった生殖細胞の融合としての受精に始まって、形態形成にみられる細胞集団の完璧な秩序のうちにある特異な移動運動など、いろいろな問題がある。ここに着目して、かつ、大量の材料が入手しうるということから、さしあたってウニの配偶子およびその胚を材料として実験をおこなってきた。
 まず研究の焦点を、細胞の表面に存在すると予想される糖脂質にしぼって、次の項目をとりあげた。1)実際に糖脂質が配偶子や胚に存在するか。2)それはどのような化学構造のものか。3)それらに細胞表面の特異性に関係づけてもよいような、特異的な構造上の違いが見出されるか。4)発生、分化の過程の途上において、それらに何らかの変動がみられるかどうか。
 3.実験成績
 それに対して現在までにえられた答は、1)ウニの配偶子(精子および卵)および胚には、確かに糖脂質が存在する。それらはシアル酸を構成分の一つとして有するもので、その糖脂質(シアロムコリピド)の数は、9種以上にも達する。 2)それらは複雑な化学構造を有するが、構造上には一定の関係があり、一連の代謝経路上にのっているものと考えられる。3)精子と卵とでは存在する糖脂質の種類に違いが実際にみられた。のみならず、ウニの種類が違えば存在する糖脂質の構造も違ってくる(種特異性)ことがわかった(月報No.6808)。4)そのうちのいくつかでは化学構造の決定がおこなわれた。すなわち、ムラサキウニ精子の糖脂質のうちの一つはセラミド-Glc(6←2)シアル酸←シアル酸であり、卵の糖脂質のうちの一つはセラミド-Gic-Glc(シアル酸一分子)であることなどがわかっている。
 現在これらの脂質の化学構造の決定を更にすすめるとともに、その細胞における存在位置、発生途上における変動などの生物学的な面を追究しようとしている。
 ウニ胚は一層の細胞が中空のゴムマリ状にならなだ胞胚期から、第一次間充織細胞の陥入に始って、原腸形成に向って表層が陥入していく嚢胚期を経て、発生、分化をすすめていくが、この際の細胞の陥入運動は何によるものであろうか。まず考えられるのは、細胞間の接触状態にひとつのゆるみがおきるのではないだろうか、ということである。我々はこれを、たとえば細胞表面のシアル酸が表面から脱離するためによるのではないかと考え、シアリダーゼの特異的阻害物質を陥入期直前に作用させてみたが、何等の影響もみられなかった。しかし、プロテアーゼの強力なinhibitorであるトリペプチド、Leupeptineを作用させたところ、原腸陥入が全く抑制されることを見出した。この場合、細胞はそのまま生存を続けた。このことをどのように解釈するかであるが、この陥入期に至って細胞からプロテアーゼが分泌され、それが細胞間をつないでいる基質に作用して分解し、その結果細胞間の結合をゆるめるのではないかと、現在のところ考えている。これもまた、細胞の定着、migration、といったEktobiologyの問題の一つである。Leupeptineはつまりこのプロテアーゼ作用を抑制し、それが陥入の抑制となってあらわれてくるとみるのである。

【勝田班月報・6809】
《勝田報告》
 A)4NQOによる培養内細胞変異:
 これまでの月報で報告したように、正常ラッテのセンイ芽細胞や肝細胞の2倍体株(ヘイフリックの云うようにしだいに切れてしまう株ではない)を用いて、これまで4NQO処理をおこない、且その間の細胞形態の変化を顕微鏡映画撮影によって追究してきた。細胞に対する毒性度をしらべた結果、我々は3.3x10-6乗M・30分処理を1回の処理として与えることにしているが、1回以上、系によってさまざまの回数にわたって処理し、色々な変異株を得ている。4NQO処理を受けた正常ラッテ肝細胞の変異株の染色体数の分布図を次に示す。CQ39は4回、CQ40は1回、CQ42は2回の4NQO処理を受けていて、いずれも2nの42本から外れていることが判る(図を呈示)。
 B)4NQOの光力学的作用:
 4NQOがぞうり虫の類に対しphotodynamic actionを示すことは癌センターの永田氏らにより報告されている。この作用が発癌作用とどんな関係があるのかは判らないが、哺乳動物細胞に対しても4NQOがphotodynamic actionを有するかどうかをしらべるため、正常ラッテ肝細胞株(RLC-10)、なぎさ培養によるラッテ肝変異細胞株(RLH-4)、無蛋白無脂質培地継代のマウスセンイ芽細胞L株の亜株L・P3などについて、4NQO処理の後、365mμの光(4NQOの特異吸収ピークの二つの内一つに相当する波長)を各種の時間に照射し、その影響をしらべた。結果は、これらの哺乳動物細胞に対してもやはり4NQOが、photodynamic actionを示すことが明らかとなり、それは4NQOの濃度に正比例して細胞を障害し、4NQO無処理で光のみの照射では現われぬことも判った。これに対しL・P3細胞はきわめて特殊で、4NQOに対しては抵抗性が高く、逆に光に対してはきわめてsensitiveであった。詳細は癌学会で報告する。
 C)純系ラッテの腫瘍:
 日本には純系のラッテが少い。呑竜系も、一部では純系と云われても、皮膚の交換移植からも判るように、純系とは断じ難い。当研究室で15年近くBrother-Sister-matingでinbreedしてきた日本産白ラッテ(その頭文字をとってJAR系と命名)は現在F35に至っているが、F19のとき既に100%皮膚の交換移植が成立した。このラッテを使って、日本では数少い純系ラッテ腫瘍を作ろうと、今年度2月13日にF31の♀ラッテ(生后34日)4匹の皮下にメチールコラントレンを接種した。5月末に至り3/4匹に接種部位に腫瘤を発見。7月末に1匹に腫瘤の急速腫大を認め、これは下腹部に向い膨隆してきた。そこで8月24日にこれを解剖し、1)F32生后35日♀ラッテへ、皮下及び腹腔内接種、2)組織培養、3)凍結保存、4)組織標本に供した。1)は9月2日、皮下群の1/2匹に拇指頭大の腫瘤形成を認めた。他の3匹も肉眼的に同所見の腫瘍を作っていた。2)はexplantsから細胞の生え出しがはじまっている。4)の結果は肉腫、ほぼセンイ肉腫と斎藤教授により診定された。肉腫に何か名前をつけなくてはと、目下考慮中。組織像は来月号に発表する(JAR・F31ラッテにできたMCA肉腫の写真呈示)。

《佐藤報告》
 §4NQO→呑竜系ラッテ培養細胞について:
 全胎児、胎児肺及び肝細胞を培養して5系列7細胞系に発癌させることに成功した。各系で最初に発癌した動物の経過をまとめた(表を呈示)。この表によると4NQOの濃度10-6乗Mで100時間程度の処理、培養細胞の培養中における日数は100〜200日が必要と考えられる。詳細は10月の癌学会で発表の予定。
 §ラッテ肝細胞よりのPure clone:
 以上の実験でラッテ肝細胞が試験管内で発癌し、肝癌をつくることが判明したが、発癌機構解明のためには、培養で少くとも正diploidにある肝実質細胞をpure cloneで作りあげることが望ましい。そのためラッテ肝細胞株からdiploid Pure cloneを作ることを実施しているが、仲々成功しない。目下、培養肝細胞の適合培地の検討をおわり、CO2 incubatorでの適合条件をみつけるに止まっている。此事の詳細については11月の培養学会で報告の予定。 §今月の月報で丁度100号になるとの事で昔を一寸振返って見ました。我々の研究室は、班の“組織培養による正常及び腫瘍細胞の研究”時代にはEhrlich腹水癌、吉田肉腫細胞、C3H乳癌細胞及びDonryu系ラッテ肝細胞の株細胞化を行い、今日迄其等の株細胞を維持し、Ehrlich腹水癌細胞は日本組織培養学会に登録し、現在無蛋白培地に駲化させている。
“組織培養による発癌機構の研究”ではDonryu系ラッテ肝←3'-Me-DABの研究を行って、自然発癌に比して3'-Me-DAB投与が発癌率及び悪性度を上昇させることを見いだした。現在尚ラッテ肝←DABの培養内機作を検索すると共に4NQO発癌を行っている。
今后我々は更に研究をすすめて癌治療の目的まで出来るだけ早く到達したいと考えている。
《山田報告》
 培養細胞の変異に伴う表面荷電の変化
 今月は医科研及び岡山大癌研の御協力により、培養細胞の電気泳動度を種々検索することが出来ましたので、先々月の月報に報告した分も合せて、培養細胞の変異に伴う表面荷電の変化を細胞電気泳動度(E.P.M.)より考えて見たいと思います。
 まず培養肝細胞と、その変異株についてのみ、比較すると次のごとくになります(図を呈示)。培養ラット正常肝細胞は図に示すごとく、E.P.M.の平均値は0.8μ/sec/v/cm前後で、いづれもシアリダーゼ処理(30単位、acetate buffer、pH5.6、37℃、30分)(以下すべて同一条件で処理したので、この条件は省略)によりEPMの上昇がみられ、RLC-10では危険率P<0.01で、またExp7-Controlでは0.01<P<0.02の危険率で明らかに差があります。
 これに対して、ラット腹水肝癌細胞の培養株は、特にAH7974TCのEPMは高く、その平均値は1.34μ/sec/v/cmの高値を示します。しかしJTC-2及びJTC-1の平均EPMは低く、変異株と大差ありません。これ等にシアリダーゼ処理を行うとかなりの平均電気泳動値の低下を示し、両株及びAH7974TCすべて危険率P<0.01で、有意の平均電気泳動値の低下を認めました。
 次ぎに4NQOにより悪性化した岡大癌研株Exp(1)-1のEPMは図に示すように、その平均電気泳動値はあまり高くありませんが、シアリダーゼ処理により、EPMの有意の低下(P<0.01)を示し、またこの細胞をラットに復元して作った腫瘤細胞を再培養した細胞についても同様な結果を得ました。
 この細胞系の腫瘤形成はラットに復元後136日を必要としたさうですから、腹水肝癌株より悪性の性質は弱く、それに応じたEPMの変化と考えられます。
 変異肝細胞ではあるがラットに復元しても腫瘤を作らないと云うRLH-5、CQ42、CQ40、CQ39のEPMを図に示します(それぞれ図を呈示)。平均電気泳動度値はRLH-5を除き、正常肝細胞のそれにくらべてあまり差がありませんが、シアリダーゼ処理を行うと正常肝細胞と異り、EPMの上昇がみられません。この処理前後の泳動値間の差についての統計的計算ではRLH-5→P>0.5 CQ42→0.1<0.2 CQ40→P>0.5となり有意の差がなく、しかしCQ39についてはP<0.01となり平均値間ではシアリダーゼ処理により上昇すると云う結果になりました。しかし正常肝細胞のシアリダーゼ処理後の変化とCQ39のそれではかなり差があるようです。
 これらの所見に基き、細胞変異に伴うEPMの変化をまとめて、次のごときシェーマとしました。これは現時点でのin vitro培養ラット肝細胞のEPMの変化のシェーマ(図を呈示)、漸定的な考え方です。CQ系の細胞や、なぎさ培養による変異株が復元されてラットに腫瘍を形成するか否かは勿論今後の問題ですが、一応これらの細胞系を「変異して居るが悪性ではない」と云う立場に立っての話です。
 ラット肝細胞を長期に培養して自然に悪性化したと云う株RLN-38-87及びそのoriginal RLN-38-52のEPMを測定した所、両者はいづれも前記の変異株と同様な知見を得ました。これは先きのシェーマと話しが合いません。しかし、この細胞はラットに復元して腫瘍を作るのに、236日もかかったと云うことですので、悪性化して居る細胞はごく少数でEPMの測定の対象にならなかったのではないかと考えました。
 この点は今後検討すべき問題点と考えます。
 最後に岡大癌研のラット胎児肺細胞及び、その4NQOによる悪性化細胞のEPMの成績を加えます。この細胞はラットに復元すると、60日前後で腫瘤を作るそうですが、明らかに腹水肝癌と同一の結果をなしました。しかもそのEPMは1.40μ/sec/v/cmと云う極めて高い値を示し、またシアリダーゼにより殆んど変化がなく(0.3<P<0.4)、正常肝細胞のそれとは異なります。今後更に変異に伴うEPMの変化を追求したく思って居ります。

《三宅報告》
 皮膚の器官培養を発癌に結びつけようとして、細切した胎生皮膚を皮下組織の附着したままで4NQO、メチルコラントレンなどを投与、病理組織学的に変化の推移を追ってきた。この方式を用いることで2週以内に基底層に属する細胞のHyperchromatism、細胞輪郭の変化などがみられたが、それは細胞へのToxicな影響を、除外しえなかった。Sponge Matrix Cultureという手慣れた筈の培養方式では、培養期間の長さに隘路があることが憶測され、試験管内癌化のためには、より長期にわたる培養を続ける必要を生じ、胎生皮フを細胞単位にまで単離して、単層培養を行う以外に手がないことが判明した。
 方法:
 ヒト又は実験動物(d.d系マウス)の胎生15〜17日の皮フをDermisをつけて剥離、細切して、37℃でトリプシン処理、単離したものをEagle液に10〜20%の小牛血清を用いたものを用いて培養、一定時日の後に再びトリプシン処理して、平型試験管に植えつぎ、20-メチールコラントレンを培養液1mlあたり1μgを添加、直ちに正常の培養液に戻した。(経過表を呈示)。Primary Cultureは5月14日(1968)。
 結果:トリプシン処理后、植えつがれた細胞は、上皮性と考えられるものと、非上皮性と考えられるものの混在である。しばらくすると上皮性とみられるものは消失に傾き、紡錘形のFibroblastと考えられる細胞が勝ってくる。こうした紡錘形のものも、徐々に形態をかえ、偏平な星芒状に転じてゆくものが多く、形質中に顆粒を多く、たくわえた、核小体の鮮明な大きい核をもつようになる。
 メチールコラントレンを作用せしめたものでは、殊に細胞が巨大、偏平化することが早い。メチールコラントレンの作用時間を30分とすると、細胞の変性が強く、2〜3日后には細胞が硝子面から、ほとんど剥脱されるので、作用の時間を極端に短くした。こうして8月17日(約2ケ月后)にNo.18の3回メチールコラントレンを3日間隔に投与したものに、異型な細胞が出現した(写真を呈示)。この細胞は、前に述べた偏平化した多くの細胞群の間に、 境界の明かな集蔟を作ることなく、かなりな範囲に広がって存在する。細胞の形態は紡錘形、大きさは略々Uniform、両端は長い突起をそなえ、相隣れるものと連絡し、時に束状に、時に網状に相つらなっている。細胞は両端から牽引せられ、そのためか豊かな胞体の周囲に位相差像では暈をしめし、重厚な形質のために核は著明にみられない。この細胞群の中には分裂像と考えられるものが散在する。経過を観察中である。

《梅田報告》
 動物の発癌実験において化学剤発癌は、最低数ケ月も要するのに、ウィルス発癌はそれに較べると極端に短時日のうちに腫瘍形成にいたる。in vitroの我々の系でも、ウィルス発癌の場合はtransformed colony形成が簡単に認められ、定量化へと進んできたのに対し、Sunford等の仕事から、勝田先生、佐藤先生の一連の仕事、Heidelberger等の仕事等、完全に腫瘍性を獲得する迄、かなりの培養日数を必要としている。Suchs等のベンツピレン等を使用した実験に端を発し、黒木氏等の4NQOによるtransformed colony形成をin vitroに於けるウィルス発癌実験と同じ様に短時日のうちに認め、in vitro carcinogenesisに成功したとする報告は、私にはいささか納得がいかなかった。はからずも、黒木氏自身、彼の系でもinductionとpromotionの考え方を入れる方向に来ているのを知って、私自身気を強くしている。
 私はin vitroでも化学発癌剤による発癌は、日数を要するものとの考えから、現在mono-layerに生えたprimary rat liver cultureにDABの大量1回、或は小量常時投与を行い、培養を続けている。しかしSunford等の一番最初の発癌実験の記載とか、奥村氏の詳細な報告の如く、対照群の細胞にも生ずるspontaneous transformationの問題が入り込んで居り、複雑な要因がからまっているのは云うまでもない。これ等を充分考慮に入れながら、目下in vitro発癌のcellular levelでの現象を更に深くさぐる努力をしている。
 もう一つ、私のやってきた、そして以后強力に続けたい研究の方向として、化学発癌剤による急性の毒性効果とか、作用機作を調べることがある。Praimaryのrat liver cultureにDAB、黄変米毒素のルテオスカイリンを投与すると、肝細胞だけに特異的な変化を生ずるのに、同時に生えている間葉系の細胞群は障害を受けない。又DABと同じ骨格を持ち、発癌性のないABは、その様な変化を起さない。目下、之等の変化を詳細に調べ、又他の発癌剤についても調べているが、今后は、この急性変化と、発癌機構とどの様に結びついているのかを解明するのが、大きな課題と思っている。

《堀川報告》
 A)培養哺乳動物細胞における
放射線ならびに化学発癌剤障害回復の分子機構の研究(7)
紫外線照射による第一義的な障害がDNA内のpyrimidine dimerの形成にあり、さらにこうした障害回復(pyrimidine dimerの除去)の分子機構が微生物を始めとする多くの材料を用いて次第に明らかにされて来ている。私共のgroupでもEhrlich、マウスL、ブタPS細胞という3種の培養細胞株を用いてthymine dimerの除去機構を探索した結果、Ehrlich細胞にはUV照射でDNA中に形成されたthymine dimerの除去機構、つまり暗回復能をもつことを発見し得た。しかし、大腸菌等でみられるUV障害に対する光回復能は、私共が使用している3種の細胞株では勿論のこと、世界の研究者もいまだに光回復能を保持する高等動物細胞を発見し得る段階に至っていない。
 これまでにpublishされた結果から判断すると、光回復機構を保持するものは、どうやら微生物からはじまってウニの卵とか、特殊な魚類の細胞株、両棲類といったあたりまでのようである。高等な動物細胞には、更に別の機能が発達しているために、こうした光回復能の保持を必要としないのかもしれない。
 一方X線の生細胞に対する影響、つまり障害のprincipal sitesは未だに不明のままであり、ましてやその障害の回復機構は分からない。私共は前述のEhrlich細胞、L細胞を用いて、10KR、5KR、2KRのX線で照射した後、DNAのstrandがどのように切断され、しかも照射後15分、30分、60分と37℃のincubator中で細胞をincubateする間に、切断されたDNAがどのように、rejoiningして行くかといった過程を究明している。
 正常なEhrlich細胞やL細胞からは、sedimentation constant(S20,w)にして、210single strand DNAが分離されるが、こうした正常細胞を10KRで照射した直後ではsingle strand DNAはS20,wは71程度の小さなものに切断される。だが照射されたこれら細胞を15分、30分とincubateしておくと殆どもとのS20,w=210までrejoining出来ることが分った。これらは勿論5〜20%のsucrose gradient centrifugationによる解析であって、ここで興味あることはUV障害に対して暗回復機構をもつEhrlich細胞でも、さらには暗回復機構をもたないマウスL細胞でもsingle strand DNA breaksのrejoining acivityを殆ど同じ程度もつということで、こうした結果はX線照射によるsingle strand DNA breaksのrejoiningの機構は、UV障害からの暗回復機構とはまったくindepedentのものであることを暗示する。
 一方、X線照射によって誘発されたDNAのdouble strand breakの場合は、前述の2種の細胞を用いて調べた範囲では、rejoining activityの見られないことも分った。 こうしたradiationによる障害回復の分子機構と、これまでやって来た培養細胞に対する4NQO処理による障害の回復機構を比例して検討している。
 B)培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびに
   Leukemogenesisの試み(5)
 マウス大腿骨骨髄から取り出したbone marrow細胞を一定期間培養した後、X線被爆したマウスに注入し、被爆マウスの骨髄死に対する防護能とspleenへのcolony形成能を指標として培養bone marrow細胞の生物学的活性、およびその分化と増殖の機構、ひいては、こうした系を用いてLeukemogenesisの機構を検索している。現在では30日齢のNC系マウスから得たbone marrow細胞を70%TC-199、10%TPB、20%牛血清からなる培養液で、TD-40瓶内で静置培養し、この培養bone marrow細胞を培養後10〜300日(300日のものは完全にcell lineとしてestablishされた)に取り出して生後60日の700R被爆の同系マウスの尾静脈より注入して、被爆マウスの9日後のspleen表面に形成されたコロニー数と、30日生存率を求めている。同時にbone marrow細胞の培養経過に伴う細胞種の分類、およびオートラジオグラフによるH3-TdRの取り込み能は、従来報告して来たように、経時的に解析を行っている。途中経過はこれまでの月報にて報告して来たので、最近の代表的なresultsを要約してみると以下のようになる。
(1)培養前にみられた多種の細胞群は培養10日頃までに減少、消失し、従来みられなかった巨大単核、二核細胞が次第に増殖し、培養180〜300日に至ると、これが全populationの100%を占めるようになる。(こうした巨大細胞、二核細胞の増殖能はH3-TdRの非常に高い取り込み能と、分裂係数(mitotic index)からもうかがえる)。
 (2)培養bone marrow細胞を注入して、700R被爆マウスのspleenに生じるコロニー数を調べた結果では、培養期間10日以上経過した細胞群においては、対照群(細胞非注入群)との間に有意な差は認められない。
 (3)一方、培養bone marrow細胞を注入した被爆マウスの30日生存率を調べた結果は、培養30日までの細胞を注入した各群では、対照群との間に生存率向上という点で差がみられている。以上、非常に面白い結果が得られており、こうした系を用いて細胞の分化と癌化の機構を検討中である。
 さらに、これに関連して私共はマウスthymus細胞、spleen細胞を培養して、その生物学的機能の検索を進めているが、最近マウスC57BL/6Jax系生後24時間のnew-bornから得た、thymus細胞を一ケ月培養し、生後10日、14日、21日目の同系マウスの皮下、腹腔内に500万個細胞づつ復元すると、非常に高率に腫瘍を作り、しかもこうした癌細胞はtransplantableであることが分って来た。培養期間の短かいこと、復元より腫瘤形成迄要する時間の短いこと、更にbone marrow細胞とかspleen細胞と関連して、非常に重要な生物学的機能をもつthymus細胞であるが故に、この種の実験系は今後の慎重な解析を必要としている段階である。次号にてこれらの詳細を報告する予定である。

《高木報告》
 1)器官培養による発癌実験
ハムスター、ラット、マウス、人などの胎児の皮膚の器官培養による発癌実験を行うにあたり、まず培養法の検討を行い、また発癌物質の添加培養培養した皮膚の移植などを試みた。
 1)培養法の検討
 上記動物の胎児の皮膚を培養するのに、天然培地および種々の半合成培地を用いたが、天然培地のうちwatch glass methodによりchick plasmaとCEEを2:1に混じて凝固させたものが最も効果が良かった。この培地上では妊娠18週目の人胎児の皮膚は、培養後3週目にもなお多数のmitosisが認められた。温度に関して、ハムスターの胎児皮膚を30℃で培養したところ、37℃のものにくらべて明らかに良い結果がえられた。
 2)発癌物質の添加
 器官培養下の胎児皮膚に発癌物質として、4NQOを添加した。濃度は10-6乗mol程度が適当と思われたが、この濃度では殆ど変化はみられなかった。液体半合成培地を用いて培養したマウスの皮膚に10-4乗molの4NQOを添加した時、培養後72時間して表皮の一部に突起状の肥厚を認めた。またplasma clotを用いて培養した人胎児皮膚において、4NQO 10-5乗mol添加群に幾分mitosisの増加がみられたが、これらの変化がどの程度悪性化にむすびつくか、は判らない。
 3)培養した皮膚の移植
 plasma clotを用いて7日間培養した雑種ハムスター胎児の皮膚をハムスターに移植した。培養中4NQOを添加した群と対照群との間に、観察した約20週の間には殆ど有意と思われる変化はみられなかった。一方移植成功率が非培養群では8/17であるのに、培養群では15/17と可成り高率である点は注目されるべきで、さらに検索したい。培養条件についてはなお検討する予定である。
 2)細胞培養による発癌実験
 newbornよりweanlingに至るラットの胸腺および肺の細胞を培養し、一部ラット胸腺より分離した株細胞を使用した。
発癌物質としては4HAQO、4NQO、Nitrosoguanidine(NG)を用いた。
 1)4HAQO添加実験
 ラットの胸腺細胞を用いて4実験行ったが、うちWistar King A(WKA)ラット胸腺の2代目の細胞に10-5乗molの濃度を2回作用せしめたもので、処理後約15日でpile upしたcolonyをえた。この細胞を増殖せしめて生後3週の同系ラット皮下に100万個細胞数接種したが、腫瘤の形成はみられなかった。
 2)4NQO添加実験
 王様系ラット胸腺より分離した株細胞を用いて2実験、Wistar King A(WKA)系ラット胸腺のprimary cultureを用いて3実験、ラット肺のprimary cultureを用いて2実験行った。
4NQOは10-6乗、5x10-7乗、2x10-7乗molの濃度に培地で稀釋し、種々の時間、回数を作用せしめた。うち株細胞に10-6乗mol作用せしめたものから変異細胞のcolonyをえたが、移植実験には成功しなかった。またWKA系ラット胸腺培養の2代目以後、2x10-7乗molを頻回作用せしめたものがmorphological transformationをおこしたので現在移植実験中である。
 3)NG添加実験
 前記株細胞を用いて4実験、ラット胸腺のprimary cultureを用いて10実験、ラット肺のprimary cultureを用いて3実験を行った。
NGは1μg/mlより500μg/mlに至る濃度で種々の時間および回数作用せしめた。そのうちWKA系ラット胸腺3代目の細胞にNGを10μg/mlになるように滴下し、6日間放置したものより変異細胞をえた。この細胞を処理後約40日目に、同系のwianling ratに100万個細胞数接種したが、腫瘤は作らなかった。しかし処理後約170日目頃より対照と比して細胞の増殖度が目立ってよくなり、対照が1週間に約5倍程度の増殖を示すのに対して処理細胞は約10倍程度の増殖を示した。形態的にも対照はmonolayerを示すのに対して処理細胞はcriss crossが著明でpile upする傾向がつよかった。一般にNGは、細胞に変異をおこさしめる至適濃度の幅がせまいようで処理後相当長期にわたり細胞の増殖がみられず、従ってmorphological transformationがおこるまでのincubation timeが、長いように思われる。さらにNGを作用せしめる培養組織として、幼若WKAラット胃の培養をこころみて上皮性細胞の増殖をみた。これが如何なる組織に由来する細胞か未だ同定しえないが、この細胞を用いた発癌実験を計画している。変異細胞の染色体については目下検索中である。

《安藤報告》
 1)癌の遺伝子変異説の検討
 いかなる機序によって癌が発生するかに関して現在二つの考え方がある。(月報6705)。すなわち発癌剤、その他の作用によって正常な細胞が変異を起すのか、あるいは初めから混在していた悪性細胞が逆淘汰されてくるのか、という考え方である。しかしながらこの癌細胞の発生の由来のいかんにかかわらず、癌細胞は正常な細胞の持つ種々な調節機構に異常をきたしている。この癌細胞の異常性は病理学的、生化学的、その他の種々の研究手段によって現在迄にかなり明らかにされている。それにもかかわらず残念なことには、明らかにされて来た事は全て正常細胞と癌細胞の表現形質の量的な差でしかなく、本質的と思われる質的な差異は見出されてはいない。したがって一歩立入って、それでは癌細胞の遺伝子はどうなっているのであろうか、DNAレベルの変異を起しているであろうか、という疑問には何も答えない。私はこの問題に何らかの手がかりを得ようと次のような計画を立て、実験を進めている。
 当勝田研究室で無蛋白無脂質合成培地で8年間にわたり培養されている、マウス皮下センイ芽細胞由来のL929の亜株L・P3を使用し、これに薬剤処理をすることにより、種々の表現形質の異なる変異株を誘導する。次にそれ等の変異株及び原株の間にDNAを介しての、この表現形質の転換(transformation)が起るか否かを調べる。すなわち、その表現形質の変異は単なる細胞内調節機構の異常によるのではなく、遺伝子中のDNAの変異に由来するならば、次にこの手法を応用することによって前述の疑問−癌細胞は遺伝子変異によるか−に直接回答しうることになる。すなわち癌性がDNAによって他の細胞に移るとすれば、まさに癌は遺伝子変異によると結論出来るわけである。このような実験計画にしたがって次の予備実験を行っている。
 L・P3を単個培養によりNG(N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine)処理をする。処理後増殖を回復してきた細胞からクローニングをくり返すことにより、幾つかの純クローンを分離した。現在各クローンについて栄養要求性に変異を生じているか否かを検索中である。 2)4NQOの作用機序の細胞培養による研究
 4NQOは杉村らにより、生体内で4HAQOに還元される事により発癌性を獲得する事が示された。又腹水肝癌AH130のDNAに、腹水蛋白に結合する事がin vivoで示されている。しかしながら、この核酸、蛋白、あるいはその他の生体物質の内、いずれとの結合が癌化に直接みちびく反応であるのかについては全く不明である。そこで私共は細胞培養を利用する事により、動物体という多因子系による問題の複雑化を避け、より精密な発癌過程の分析を企図した。 H3-4NQOを前述のL・P3細胞に与え、細胞中へのとりこみ、及び細胞成分との結合のkineticsを調べることにより、最も4NQOとの反応性に富む成分は何かを検討した。結果は次の如くである。4NQOと細胞内蛋白質、核酸との結合は、37℃において、30分で最大となり以後3〜4時間はほぼ一定値を保っていた。またこの結合にあずかる蛋白は、DAB及びMCで示されたような特異蛋白ではなく種々の分子量を持つ殆ど全ての蛋白を含んでいた。目下核酸との結合様式、結合物の安定性等検討中である。

《安村報告》
 1.発ガンのSelection説の検討(つづき):
 月報のNo.6804に勝田班長がふれておられるが、Dr.L.Diamondのシリアン・ハムスター胎児細胞の培養内自然発ガンの報告は、このいわゆる自然発ガンの原因として3つのfactorを考察していた。つまりこの癌化は1)あらかじめ生体内に存在していたかもしれないvariantで、malignantのきざしのあるものをselectionによって継代中にひろいあげたか、2)未知のtransforming virusによるか、3)まだ不明の物理的、化学的な原因によるものか、ということであった。あるいはこれ以外の原因があるかもしれないし、これらの原因が互いに絡み合っていることも考えられよう。
 月報のNo.6808では上記の原因のうち、1)の仮説の可能性の分析のためにMacPhersonらによるSoft agar法の利用について予報された。実験の狙いは同号の討論にのべた如くです。 1-1.シリアン・ハムスター胎児細胞の初代培養では100万個、50万個/plateではSoft agar中のColony生成はみとめられない。そのご再び初代培養と2代継代培養によるSoft agar中のColony生成が試みられたが、いずれも結果はマイナス。
 1-2.以上のデータはSoft agar法がmalignant transformed cellをselectiveに増殖させることにあったとすれば当然のことのようにみえよう。しかしColony生成がゼロではなんとも前進のしようがない。
 1-3.最近E.TjottaらがPolyoma vurusによるtransformed cellが、Conditioned madiumを加えたSoft agarでよりよくColonyを生成するし、polyoma virusで処置しあい宿主細胞(BHK21/C13)も同様mediumでColonyを生成すると報告した。そこでこのconditioned mediumを加える方法をこころみた。
 1-4.Conditoned mediumは初代培養細胞と2代培養上清を液かえの際にプールして集められた。初代培養細胞と2代継代細胞が出発材料、Conditioned mediumはSoft agar中に100%(agar以外の培養液は100%Conditioned mediumということ)、50%、0%の割合にして各群5枚のplateをつかった。結果は接種細胞数100万個に対して、3週めに初代培養細胞の群のうち、Conditioned medium 100%のところでColony(0.1mm以下)が1コ、50%のところで1コ出現した。しかしそのごColonyの増殖はなく壊死におちいってしまった。いずれからもColonyを分離して増殖させることはできなかった。ついでなされた同様の実験ではConditioned mediumの割合を75%、50%、25%、0%でなされた。75%と50%の群で接種細胞数100万個につき、それぞれ5枚のPlat中2枚に数コ〜10数コのColony生成をみとめた。しかしこれらのColonyが増殖可能かいなかは、実験進行中なので、詳細は次回へ。
 2.AH7974TC細胞のSoft agar中での増殖:
 上記のSoft agar法をつかって行われているハムスター細胞の実験のControlとして、われわれのtechnicの信頼度をしらべるとともに、基礎実験がAH7974TC細胞でなされた。接種細胞100/Plateで11〜30のColonyができ、成績は上々。(Soft Agar中のAH7974TC細胞コロニーの写真を呈示。この実験ではconditioned Mediumはつかっていない。)

《藤井報告》
 培養ラット肝細胞とその変異株細胞の抗原について
 癌抗原の存在が、宿主の免疫学的抵抗性の成り立つ基盤出あり、癌に抗原性の在ることを立証することが、癌の免疫学的研究の起点となる筈である。化学発癌のばあい、各例性質の異なる癌の発生することが示されており、それらの抗原のちがいについての発表もある。
すでに、本研究班では“なぎさ"培養によるラット肝細胞の変異(勝田)、ハムスター胎児細胞の4-NQO処理による培養内発癌(黒木)、ラット肝細胞の3'MeDABおよび4-NQO処理による培養内発癌(佐藤)に成功している。比較的単一な細胞群を扱う組織培養実験では、培養細胞の変異過程を追跡することが可能であり、有利に癌抗原の分析をすすめられる筈である。
 培養内細胞の癌化にともなう抗原性の変化を検討することが、筆者に課せられたテーマであるが、今まで、ラット肝細胞、いくつかのラット肝癌、培養ラット肝細胞とその変異株等について、double diffusion法とimmune adherence(IA)法によって、それらの抗原の検討をおこなって来た。
 1.Double diffusion法による抗原分析
 培養細胞を主としてあつかう関係から、少量の細胞について実験をすすめる必要があり、double diffusion(Ouchterlony)の変法であるmicrodiffusion法(月報、No.6710に記載)を、採用した。この方法は、Ouchterlony法より抗原−抗体沈降線の検出が鋭敏に出来、20万個の少数細胞でも実験可能であることが、基礎実験で示された。
 抗原液:細胞20万個に対して、0.5%Na-deoxycholate-PBSを0.5mlの割に加えて浮游させ、ホモジナイズ后、その遠沈上清(2,000rpm、20分)を抗原液として用いる。培養細胞は、医科研癌細胞研究部のものである。
 抗血清:ウサギ抗ラット肝組織抗血清(RALS)、ウサギ抗ラットAH13抗血清(RATS-AH13)
の原血清を用う。
成績のあらまし:
 1)ラット肝組織は、RALSに対して5本の沈降線を示すが、
 2)培養ラット肝細胞(RLC-9)は、この中の1本と共通な沈降線のみをつくった。
 3)培養ラット肝細胞変異株(“なぎさ")RLH-5は、RALSに対して、全く沈降線をつくらない。 4)このRLH-5細胞は、抗ラット肝癌抗血清(RATS-AH13)に対して弱いけれども、1本の沈降線を示した。
 小括:培養ラット肝細胞が成熟ラット肝の抗原の大部分をもたないことは、培養ラット肝細胞が新生児ラット肝由来であることと、肝組織中の一群の細胞にかぎられることによると考えられるが、変異株では、変異以前の抗原を失い、別に肝癌の抗原(この場合AH13と共通な抗原)を獲得するようである。このような肝癌にみられる抗原が、癌の抗原によるのか、contaminationによる微生物の抗原によるのかは、今后慎重に検討されなければならない。
 2.Immune adherence(IA)法による抗原分析
 IA現象(免疫粘着現象、Nelson,R.A.,Jr.)は、抗原-抗体-補体複合体に人赤血球が粘着する反応で、極めて鋭敏な免疫反応である。細胞表面の抗原の検出は、抗体、補体、人赤血球を加えて反応させ、顕微鏡下に、人赤血球の粘着している細胞を識別し、算定することによって可能である。また凝集反応(免疫粘着赤血球凝集反応、immune adherence hemagglutina-tion)-西岡-として、反応の強さを判定しうる。
 方法:培養細胞を、培養の状態のまま抗体と反応させる目的で、小型の培養小角ビン中で1日培養し、TC-199液で洗滌した后、稀釋抗血清、1/5とモルモット補体用血清、1/20を、各0.25ml宛を加え、37℃で30分間反応させた后、2%人赤血球(O型)浮遊液0.1mlを添加して、さらに37℃で30〜60分反応させる。反応后、TC-199液で数回洗って、浮游赤血球を流し去ってから、倒立顕微鏡下にIAのおこっている細胞を識別算定する。
 成績のあらまし:
 1)培養ラット肝細胞(RLC-10)は、ウサギ抗ラット肝抗血清(RALS)によって強いIA(++++)を示すが−(double diffusiondeha反応弱く、沈降線1本のみ)−、“なぎさ"変異種(RLH-3、RLH-4とRLH-5)は、弱いIAを少数の細胞にみとめたにすぎない(±)。しかし、これらの変異株はいづれもウサギ抗ラット肝癌AH7974(RATS-7974)には、稍ついIAを示した(+)。
 2)ウサギ抗AH130抗血清(RATS-AH130)にたいして、AH130細胞−腹腔継代細胞−は33%、培養AH130(JTC-1)は68%のIA陽性細胞を示した。抗AH7974抗血清(RATS-AH7974)では、前者は27%、後者は43%の細胞がIA陽性であった。この傾向は、AH7974細胞とその培養継代細胞についても観察された。
 すなわち、ラット肝細胞は、各肝癌に対応する抗体とつよくIA反応をおこす他、非対応の他の肝癌に対する抗体ともかなりつよいIA反応を示すことがわかる。
 また培養ラット肝癌細胞の方が、元の腹腔継代細胞よりむしろ強いIA反応をおこしたことは興味ある点である。この点に関して、培養液中のcalf serumが細胞に吸着され、calf serumと用いた抗血清、補体との間の自然抗体によるIA反応が、反応増強にあづかってないかどうかが問題となる。この問題は、培養AH7974細胞をcalf serumをふくむ“199"液(10%)中においても(室温、30分)、IA反応に影響がみられなかった最近の実験から一応否定してよいと思われる。
 小括:
 1)IAによる実験で、培養ラット肝細胞変異株(“なぎさ")は、変異以前の抗原の多くを失内、一方、ラット肝癌に共通な抗原を獲得しているようにみえる。
 2)AH130、AH7974細胞と、それぞれの培養継代細胞は、正常ラット肝抗原の多くを示さないが(この成績は上に記さなかったが)、対応する抗体の他に、非対応の抗体にもかなり強くIAを示し、ラット肝癌に共通な抗原のあることを示唆している。
 培養継代細胞の方が、腹腔継代細胞よりも強いIAを呈する事実は、培養によって、細胞膜面に抗原−抗体反応がおこり易くなるような、あるいは抗原の露出を来すような変化がおこっていることを示唆する。

《永井報告》
 1)Ektobiologyと糖質・脂質
 細胞の機能には質的に異なる二つの面があるものとみられる。その一つは、個々の細胞そのものの生命維持に必須な機能である。これには蛋白質や核酸があづかっており、今迄の生化学の対象の中心となっていた。これが障害を受けたときには、病気よりもむしろ死を招く。いま一つは、細胞が一定の秩序のもとに集まっていとなむ、いわば、細胞の社会的な機能に関するもので、これがおかされても、前者のようには、直ちに死に至ることはない。その生物学をKalckarはEktobiologyの名で総括している。これに大きな役割をはたしていると考えられるのは、細胞表面の特異構造であり、物質的には糖質や脂質が主役になるものと予想される。我々は、癌問題をむしろこの第2の角度から把握していこうという考えで研究をすすめている。
 2)研究目的
 この問題に、生化学的にアプローチしていこうとして、我々がまずとりあげたことは、Ektobiologyにおける主役物質は何かということである。そこで、いうところの糖質や脂質がそうなのかどうか、これをまず明らかにしようとして実験をしくんできた。Ektobiolo-gicalな現象が典型的にあらわれてくるものの一つは、発生と分化の問題であろう。そこでは、2つの異なった生殖細胞の融合としての受精に始まって、形態形成にみられる細胞集団の完璧な秩序のうちにある特異な移動運動など、いろいろな問題がある。ここに着目して、かつ、大量の材料が入手しうるということから、さしあたってウニの配偶子およびその胚を材料として実験をおこなってきた。
 まず研究の焦点を、細胞の表面に存在すると予想される糖脂質にしぼって、次の項目をとりあげた。1)実際に糖脂質が配偶子や胚に存在するか。2)それはどのような化学構造のものか。3)それらに細胞表面の特異性に関係づけてもよいような、特異的な構造上の違いが見出されるか。4)発生、分化の過程の途上において、それらに何らかの変動がみられるかどうか。
 3.実験成績
 それに対して現在までにえられた答は、1)ウニの配偶子(精子および卵)および胚には、確かに糖脂質が存在する。それらはシアル酸を構成分の一つとして有するもので、その糖脂質(シアロムコリピド)の数は、9種以上にも達する。 2)それらは複雑な化学構造を有するが、構造上には一定の関係があり、一連の代謝経路上にのっているものと考えられる。3)精子と卵とでは存在する糖脂質の種類に違いが実際にみられた。のみならず、ウニの種類が違えば存在する糖脂質の構造も違ってくる(種特異性)ことがわかった(月報No.6808)。4)そのうちのいくつかでは化学構造の決定がおこなわれた。すなわち、ムラサキウニ精子の糖脂質のうちの一つはセラミド-Glc(6←2)シアル酸←シアル酸であり、卵の糖脂質のうちの一つはセラミド-Gic-Glc(シアル酸一分子)であることなどがわかっている。
 現在これらの脂質の化学構造の決定を更にすすめるとともに、その細胞における存在位置、発生途上における変動などの生物学的な面を追究しようとしている。
 ウニ胚は一層の細胞が中空のゴムマリ状にならなだ胞胚期から、第一次間充織細胞の陥入に始って、原腸形成に向って表層が陥入していく嚢胚期を経て、発生、分化をすすめていくが、この際の細胞の陥入運動は何によるものであろうか。まず考えられるのは、細胞間の接触状態にひとつのゆるみがおきるのではないだろうか、ということである。我々はこれを、たとえば細胞表面のシアル酸が表面から脱離するためによるのではないかと考え、シアリダーゼの特異的阻害物質を陥入期直前に作用させてみたが、何等の影響もみられなかった。しかし、プロテアーゼの強力なinhibitorであるトリペプチド、Leupeptineを作用させたところ、原腸陥入が全く抑制されることを見出した。この場合、細胞はそのまま生存を続けた。このことをどのように解釈するかであるが、この陥入期に至って細胞からプロテアーゼが分泌され、それが細胞間をつないでいる基質に作用して分解し、その結果細胞間の結合をゆるめるのではないかと、現在のところ考えている。これもまた、細胞の定着、migration、といったEktobiologyの問題の一つである。Leupeptineはつまりこのプロテアーゼ作用を抑制し、それが陥入の抑制となってあらわれてくるとみるのである。

【勝田班月報・6901】
《勝田報告》
 皆さん新年おめでとう御座います。今年もはり切って頑張りましょう。
 今年初期の研究計画:
 1)癌化時までの細胞の特性の変化
 ラッテ肝細胞を4NQO(3.3x10-6乗M、30分、1回)処理し、以後一定期間ごとに染色体の検索、細胞電気泳動度の測定(山田班員)、soft agar内での増殖能の検討(安村班員)をおこなう他、連続的に顕微鏡映画撮影で形態の変化を追究する。一部はRLC-10株を用いてすでに昨年暮に開始しており、次のシリーズはなるべくprimaryに近い培養で、と準備中である。
 2)Exp.#CQ39〜42の後始末
 これらの実験でラッテ肝細胞が肝癌になったのであるが、ラッテに接種して結果の判らぬ内に、培養の一部は更に4NQOで何回も処理しているので、それらの群について、染色体像と腫瘍性を一通り調べてから、凍結して実験の整理を図りたい。一部は既に開始している。 3)RLH-5・P3株の検索
ラッテ肝細胞RLH-5株は、RLC-10株の“なぎさ"変異株であるが、昨秋このRLH-5が合成培地DM-120内で増殖できそうだということを発見し、一部をこの無蛋白無脂質の培地に移したところ以後順調に増殖をつづけ、現在盛んに増殖している。肝細胞としての特徴であるアルギニン非要求性をこの亜株RLH-5・P3(L・P3にそろえてこのように命名した)が示すかどうか、これからしらべる準備をしている。血清培地ではこのような検索はできないので、結果は興味を持たれる。またL・P3細胞は4NQOに対して抵抗性が強く、光に対してはきわめて弱かったので、このRLH-5・P3の4NQO及び光に対する感受性も検討してみる予定である。
 4)細胞混合培養の検索
 さきに、ラッテ肝RLC-10株の培養に、肝癌AH-7974細胞を添加して顕微鏡映画撮影で追究したところ、後者が前者を攻撃し、殺し、最後には貪喰してしまうらしいことを発表したが、この培養を以後そのまま継代していたところ、AH-7974株の染色体モード約88本、RLC-10の42本に対し、混合培養の子孫は、約88本のモードの他に約44本の第2ピークを示した。これが何を意味するか精査すると共に再現性もたしかめたい。

《佐藤報告》
 ◇新しい肝細胞株で4NQOの発癌に成功
 従来、Exp.7系の発癌を月報に報告してきたが、今回は新しい肝細胞を使用して発癌に成功したので報告します。
 実験に使用した株はRLN-251で、20%BS+LDで培養維持していたものを、培養250日目から、20%BS+YLEに変え、252日目より4NQOを10-6乗Mで10回間歇処理したもので、総処理時間は25時間、総培養日数314日、従って最初の4NQO処理日から動物復元までに要した培養日数は62日、動物に500万個の細胞を接種後著明な血性腹水(50ml)と大網部に腫瘍の形成を示した。動物の生存日数は99日。この実験のシェーマを示すと以下のごとくです(図を呈示)。尚、同時に4NQOの処理を受けていないコントロール細胞接種動物には発癌はみられておりません(0/2)。目下、この株を使用して発癌実験を進めており、2月の班会議までには、少しはまとまったものになるのではないかと考えます。
 ◇ラッテ肝細胞発癌株のコロニーの比較
 使用株細胞はしばしば報告して来たExp.7-(2)で、このコントロール細胞、4NQO処理発癌細胞、腫瘍を再培養したものを使用してシャーレにまき込みました。成績は表の通りです(表を呈示)。Plating efficiencyは、Tumor cell lineがやや高い程度です。Colonyの形態は、コントロールと4NQO処理発癌株、腫瘍株との間に著明な差がみられました。従来、肝細胞を使用してTD40などの閉鎖系で発癌実験を行う際にはあまり4NQO処理によって、その形態的差違が見い出されなかったのに較べ、少数細胞でみると、著明な差が見い出された。この事は、DAB飼育ラッテ肝(正常に近い肝より発癌にいたる迄の肝)のコロニー分析で細胞の悪性化とコロニーの形態的変化との相関にも見られたことであるが、コロニーレベルの分析は肝培養細胞の悪性変化の一つの目安になるのでないかと考えられる。

《佐藤挨拶》
 新年あけましておめでとう。誠に筆無精で申訳なく思っています。我々の班も今年は新班として従来の多大の成果をいかす事になると思います。勝田班長の正月を返上しての、申請書書きですでに準備OKの態勢と思います。そのうち申請書のうつしが各自の手にとどくことでせう。いつもながらお世話様です。今度び培養関係者が集ってつくる“培養株細胞の保存維持の研究班”の班長事務をやってみて(勝田先生に大いに指導していただいて)大変だと思います。小生は全くスローモーションですので、これから申請書かきの本番にうつります。
 こうして記録をのこして置くと後になってほんとによかったと思います。今年も来年も大いに頑張って発癌の機構解明に努力し、人間の癌撲滅の大目的に一日も早く到達できる様にしませう。

《藤井報告》
 新年おめでとうございます。
 昨年は移植免疫とマウス補体関係の仕事で追いまくられ、がんの抗原についての、この班での私の仕事の方がすすまず、申し訳ありませんでした。
 本年の仕事の予定として、先づdouble diffusion、micromethodを手技的にも完全にした上で、ラット肝抗原とラット肝癌抗原の間で今までに認められた差が質的なものであるか、量的なものであるかをはっきりさせて行く。今までは、癌特異抗原という質的に異なる抗原に目をつけて来ましたが、正常抗原の量的な減少−抗原基の減少も大いに問題にあると思います。増殖の激しいがん細胞では考えられることですし、がん細胞の補体結合能、免疫溶解反応での態度などからもその可能性はあると思います。量的な、抗原の変化は実験的に容易にやれるので、早速開始しました。
 培養細胞の癌化の過程での抗原性の変化は、上と併行して、癌細胞研究部の御世話になって進めて行きます。培養細胞では、細胞数(供給される)が限定されるので、正常細胞抗原の減少を質的な“欠如"と誤認する可能性があるので、上記の実験をモデルにして行く必要があります。
 その他、今年は16mmムービーを何とかして入手して、正常細胞、癌細胞の免疫溶解の過程を観察してみたいと思っています。当面は、赤血球溶解と、有核細胞溶解の相異が問題ですが、溶解における抗原sitesの問題、補体要求度の問題が、こういう観察から何かヒントが得られればと思います。
 もう一つは、RATアルブミンでcoatした赤血球溶解によるlocalized hemolysis in gel法を使って、アルブミン産生細胞を計測すること等です。この方法自体は、すでにHandbookof Experimental Immunology(ed.Weiv)に出ておりました。

《高木報告》
 昭和44年の新春を御慶び申上げます。昨年は何かと騒々しい一年でしたが、今年は何とか落着いて出来るだけ研究を進めたいと考えています。
 さて、昨年最後の班会議でnitrosoguanidineで処理したWKA rat胸腺細胞を復元したところ、約70日後より生残った3疋のratすべてに腫瘤を生じたことを報告したしました。対照の細胞を接種したratがすべて死亡しましたので、その後再び対照細胞を8疋のWKAratに接種しましたが、これらは73日を経た現在何等腫瘤を生じておりません。
 NG-4を接種して腫瘤を生じた3疋の中1疋は接種後105日目に肺炎をおこして瀕死になりましたのでsacrificeし、fibrosarcomaであることを確かめました。この腫瘤はexpansiveな増殖を示し、左上肢肩甲下にinfiltrationを示した外、metastasisなどはありませんでした。このtumorを再培養した結果、培養後1週間目頃からexplantより円形細胞のmigrationを認め、その後この円形細胞の下にfibroblastic cellsの増殖がみとめられるようになりました。この2種の細胞が同一のものか、あるいは別のものか未だはっきりいたしませんが、培養と共にfibroblastic cellsに所謂fibroblastとtumor cellとがある様に思われて来ました。1つのbottleは24日目に継代し、以後は大体2週間毎に継代して目下4代目ですが、networkを形成しやすいtumor cellsが次第にdominantになり、現在はほとんどを占めているようです。また少数の円形細胞が、それらのtumor cellsの上にくっついたようにしてあります。この円形細胞がprimary cultureで認められた円形細胞と同様なものかどうか、染色標本を作っている処ですが、位相差でみたところではすべてがmitotic cellsとは思われません。この細胞をふやしてさらに動物に接種してみるつもりです。
 細胞を復元した他の1疋は巨大な腫瘤を生じ衰弱がはなはだしくなったので、134日目にsacrificeしました。腫瘤は皮下に生じたもので重量230gありました(写真を呈示)。
 あと1疋のratは腫瘤の大きくなるのは一番おそかったのですが、140日目頃から両下肢と左上肢に麻痺を生じ、衰弱が加って来ましたので、160日目にsacrificeしましたが、これも可成り大きなtumorで脊髄に浸潤しているように思われました。これらについては、次回班会議の時、詳しく報告いたします。 現在NGによる発癌の再現実験を行っていますが、さらに移植実験transformed cellsの核学的検索にも手をつけています。

《安村報告》
 Akemasite omedetoo gazaimasu! Mazu aisatu wa kono hen de. Saa sigoto sigoto. Amerika no yatura wa ganzitu sika yasumimasen mono ne. Makete tamaru ka!
☆Soft Agar法(つづき)
 1.AH7974TC細胞:前号の月報(No.6812)で、のべられたC1よりひろわれたSmall colony由来の系C1-Sと、Lafge colony由来のC1-Lの両者のコロニー形成率が比較された。同時にlarge colony(かりに径2mm以上をそう呼ぶことにしているが、この基準ははっきりした根拠にもとづくものではない)の出現の頻度に注目した。この両者の細胞系と1緒に、C6-3系(C6系よりat randomにひろわれた系で3回寒天培地でコロニーをつくらせたもので、統計的にはクローンといえよう)もしらべられた。結果は表のごとくであった(表を呈示)。
 この結果からはC1-SとC1-Lとの間にはPlating efficiency(正確にはColony formation efficiency)が、差があるようにみえる。前者は約16%、後者は30%前後。直接の比較はできぬかもしれないが、原株C1はGBI製のmodified Eagleで約26%であった。 今回の実験はNissuiのこれもmodified Eagleがつかわれた。 (ただしAmino acids、vitaminsの濃度は1xです)。large colonyの出現頻度は、C1-SとC1-Lとの間には差がみられない。奇妙なことにC6-3からは、large colonyの出現は皆無にひとしい。しかしP.E.は3者中もっとも高く33%近くであった。
 2.CO-40細胞:前号の月報(No.6812)でCQ-42細胞のSoft agarでのコロニー形成に成功しなかったことがのべられた。今回はもうひとつ別の系CQ-40(Culb-TC)が同様の方法でこころみられた。結果は表にならずじまいで、コロニー形成はみとめられなかった。培地は前回同様GBI製のmodified Eagle(Ammino acids、Vitaminsそれぞれ2xconc.)に、コウシ血清10%でした。1群4枚のシャーレで、接種細胞数はそれぞれ群あたり35000、17500、8750細胞でした。対照として液体培地にまかれたそれぞれの群からもコロニー形成はみられなかった。したがって今後の実験ではシャーレあたりの細胞数を増加して、コロニーをつくらせる(なんとかして)ことである。もしSoft agar法がtumorigenicな細胞を選択すると、かりに考えるなら、すくなくとも35000細胞の集団のなかにはmalignant cellはいないのかもしれない。あるいはin vitroの条件が、存在するかもしれないmalignant cellをも増殖させないのであろうか。この可能性のほうが大きいかもしれない。なぜなら液体培地においてすら、この35000細胞の細胞集団からは、コロニー形成がみられなかったからである。しかし問題はもっと別のところにあって、malignant cellであってもin vitroに適応していないためにコロニー形成のefficiencyがわるいのかもしれない。いずれにせよ、腰をおちつけてクローン分析をやって、問題をときほぐしてゆこう。(Akemasen de medetakunai ne!)

《梅田報告》 
 1)前回の月報No.6812の私の報告で(3)に記載した培養は、そのまま液かえを続けているが、その后異型細胞増殖が盛んにならないまま、fibrousに見える部分(肝細胞とおもわれる)が重層化してきて、それ以上旺盛に増殖するとは思えない。
 2)前回の(4)に報告した培養では、その后即ちDAB投与開始后3週間目位ではっきりとした変異増殖細胞塊が認められた。しかしそれも現在尚増殖は盛んでなく、安村先生の云われる様にうまくtrypsinizeして瓶を小さくしても尚かつ充分な細胞数が得られそうにないので、そのまま液かえを続けている状態である。 今后、前回の班会議の先生方のSuggestionを試みてみて、旨く増殖させる方法を見出す必要性を痛感している。
 3)前々回の班会議で佐藤先生が、肝細胞培養にはYLE或はMEMが非常に良いと云われたのが気になって、2回程実験をしてみた。不一致の所もあり、もう一度repeatしてみたいと思っているが、先ずは2回の実験の結果を報告する。生后4日(2回共)のrat肝をいつもの様にトリプシン、スプラーゼ処理して30cells/ml in LD+20%CSの細胞浮游液を作り(2回目の実験で始めからMEM+20%CSの培地を一部に用いた)、1ml宛Leighton tubeに分注して2〜3日間前培養し、その后各種の培地に変えて、2日后再びそお培地に変えて4日后、型の如く画数算定をおこなった。(表を呈示)  D salineとE salineを比較した時1回目と2回目と全く違った反対の結果になって了った。
Yeast extractは明らかに加えた方が良い。
Endothelの細胞は、核の形がはっきり他の細胞と区別出来るので、別に数えてあるが、Yeast extractを加えたことにより、Endothelialの細胞の方ののび率が、肝実質細胞、中間細胞その他の細胞ののび率より良い様である。
 MEM培地は可成り良く増殖させるが、これもendothelの細胞の増殖率を上げる。
 Primaryの始めからMEM培地にした時は、更にendothel細胞の増殖率が高い様である。
 だいたいの傾向は以上の結論の如くであるが、細胞の増殖率も悪い実験なので、もう一度repeatする積りである。いずれにせよ、結局の所、DLでもLEでも良く増殖している時(実験2)の場合)以外、即ち、培養条件が良くない時はendothelの細胞の方が良く保たれている。

《堀川報告》
 1968年を顧みて
 1969年の新春を迎え皆さんおめでとうございます。今回は表題にかかげたように1968年を顧みてと題し、昨年一年の自分の仕事をふり返り、今年度の新しい出発にそなえたいと思っています。いつごろから当班に加えていただいたか判然とはしませんが、少くとも私が阪大大学院を修了して以来だと思いますから(アメリカに滞在した2年半を除いても)、今年で5年間はこの班でお世話になったわけです。これもひとえに勝田班長の加護と、班員の皆様の御理解によるものと感謝しております。脱班を機に班長に残していった黒木元班員の手紙にもあったように、この班に加はっているという事は実に有益である。発癌とその機構解明をめざして各分野から集まった同志で成るこの班から得たものは数えきれないものがありました。勝田班長の指揮と、また執念のもとに試験管内の発癌は遂に突破され、(いまや4-NQOを用いた発癌は数名の班員で立証された段階にある)、次の問題は当然発癌の機構解明にあると思われます。私もおよばずながら昨年から、(1)「培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(途中で題目変更)」と、(2)「培養された骨髄細胞の移植によるマウス[骨髄死]の防護ならびにLeukemogenesisの試み」と題して、交互に本月報に研究内容を報告してきました。(1)の問題は放射線とか4-NQOを用いて哺乳動物細胞の遺伝子の損傷と修復機構の本体を追求しようとするものであり、直接発癌実験とは関係はありませんが、制癌とか発癌を考える上にすばらしい基礎的アイディアを導き出すものとして重要であると確信しています。(2)の問題はこれとは裏腹に、骨髄細胞とか胸腺細胞という細胞再生系を用いて細胞の分化動態ひいては試験管内で最も効果的にかつ最もsimpleに発癌機構を究明しようとする(あるいは出来る)系でこれまた大いなる希望をいだいています。(こうした表現はたぶんに勝田班長への言いわけと班員各位への自己宣伝を兼ねたものになりますが悪しからずお許しのほどを)。ただ残念にもいまだりっぱな結果は出ませんが、両system共に非常によい実験系であることは間違いないと自負しています。更に発癌およびその機構を正攻法で攻めるには病理屋さんを始めとするこの道の専門家に比べて、私共にはハンデーがあります。とてもまともにはたちうち出来ないでしょう。しかし、癌には必ずや抜け道がある。遺伝屋なりが攻めるに十分な道が必ずある。またそうしてこそ、これまでに発見出来なかった所から新しい物が発見出来るにちがいないと考えるわけです。まあ癌に関しては私共は生徒にたとえれば幼稚園の園児でしょう。ほんのかけだしで専門家の皆さんから見れば実になまぬるいと云う感じを抱かれるのも当然だと思います。しかし上述しました様な次第で今年も上の2つの問題を中心にして大いに頑張ってみたいと思っています。
 年頭にあたり班員皆さんの御声援と御教示を願ってやみません。

《三宅報告》
 試験管内の発癌をはたしえないで、又こうして年頭の記事を書くのは何とも辛い事です。 前回12月の班会議で皆さんから、教えていただいたようにH3-MCAのBenzolを、訳なくとばすことが出来ました。これをDMSOにとかして、最終濃度2.5μc/ml(medium)にして、5℃の冷蔵庫に入れました。どうしたことか、凍結してしまいました。こんなことは、今までなかったことです。この濃度で、dd系マウスの皮膚からえた細胞に与えることについては、Auto-radiographyに出てこないことでもあると、実はケイザイ的にこまって了いますので、つつましく、L株細胞でテストすることにしたのです。こうした上で濃度や作用時間を割りだして、あらためて皮膚の細胞に、あてがう決心です。いま露光中で、銀顆粒がどの程度に、どうした条件下で、最もよく出て呉れるかと、たのしみにして待っています。
 尚、本学の外科の研究室に、ラットにDABを与えて乳癌をほとんど100%に作った人がいます。その腫瘍は、興味深い態度を示すもので、Estrogenを与えないと、一旦出来た腫瘍がregressするということです。最初に出来た腫瘍が腺腫であれば、より面白いことですが、癌と考えるべき構造であると、いうことですから、腫瘍が生体の中でホルモンに依存した、Dormancyを示すと考えられます。このdormantになった細胞が、estrogenのために再び活動を起すのを、試験管のなかで、みてほしいという相談をうけました。それは直接に発癌とは結びつかないことかも知れませんが、この2つの相をもった腫瘍の前後を、単層に培養して、Autoradiographyで例によって、みつめることは、あるいは、何かのsuggestionをえられるのではないかと考えています。試験管の中での発癌を、やりおおせなかった者としては、どうも、これ位が、1つの限度でないかと自分で苦笑を禁じえません。
あまり、年頭におしゃべりが過ぎると、また、つらい思いをしなくてはなりませんので、これで筆をおきます。

《安藤報告》
 班員の皆様、明けましておめでとうございます。本年も又いろいろお教えいただきますよう、よろしくお願いいたします。実験の方は先ず培養細胞に慣れる事からはじめなければならなかった昨年よりは少しでも多くの有意義なデータが出せるように頑張るつもりでおります。相変らず、4NQOと細胞との相互作用を調べ続けて行くつもりですが、今年は特に、その分子機構の段階迄すすめるべく張切るつもりです。しかしながら相互作用の分子機構がわかっても発癌の分子機構は気が遠くなる程の大きな距離を感じます。最近は医科研も東大紛争にまきこまれていますが、封鎖されない限り実験は続けます。以下最近の実験一つ記します。
 H3-4NQO処理L・P3細胞の核酸の分析
 先月号にH3-4NQOで10-5乗M 2時間処理のL・P3細胞のRNA、DNAの放射活性が、どのように分布するかの実験を書きました。その際2時間では長過ぎて、すでに修復反応が起ってしまっているのではないかとの疑問が出されました(堀川班員)。それに答えるべく行ったデータである。すなわちH3-4NQO添加後30分(修復反応がそれ程extensiveに起っていないで、しかも十分核酸に結合している時間)に全核酸を分離し、MAK-カラムにより4分劃に分け各々の比活性を測定した(表を呈示)。2時間の値は、先月号から引用したもの。両カラムを比較して次の事が云える。(1)tRNA、DNA、rRNAは、ほとんど同じ比活性である。(2)オリゴヌクレオチド分劃に於ては0.5時間の値の方が約30倍も比活性が高い。
 以上の結果の考察は次号にまわしたいと思います。

《永井報告》
 §肝癌細胞より生産されるtoxic metaboliteについて−第3報
 肝癌AH-7974を培養した培地には、正常肝細胞の増殖を阻害する透析可能(コロジオンバッグ)な低分子toxic metaboliteが存在する。前号で、このtoxic metaboliteの単離を試み、まずSephadex G-15でのゲル濾過分劃をおこなった。その結果、得られるFr.Iと の両分劃にのみ毒性効果が検出されること、毒性効果はfibroblastに対しては全く検出されないので分劃前の培地が示す毒性作用の特性を完全に再現していること、を報告した。現在、この分劃実験を再度試み、分離されるピークのパターンはかなりよく再現し得ることを確めることができた。500mgの透析外液凍結乾燥物より得られるFr.(I+ )の得量は32.9mgであった。これを現在Sephadex G-25で再分劃中である。又、培地のみの透析外液分劃をSephadexG-15で分劃したが、得られた分離ピークパターンはAH-7974透析外液の場合と一部違うピークパターンを示した。たとえばFr.Iと が溶出される以前に既に1つのピークが現われ、より高分子量成分の存在を示した。そのほか、Saltピークの直後に出現するピークはこの場合見出されなかった。Fr.Iと に相当すると考えられるピーク部分を集めると66.7mgの固型分が得られた。カラムには576mgの透析外液分劃をのせた。以上の結果からすると、培地中の透析可能な低分子物質のうち、分子量の比較的大きな成分は、AH-7974細胞によってとりこまれ代謝されるか、あるいは、細胞より分泌される分解酵素により分解されてしまうものと考えられる。現在、精製は進行中であり、詳細は次回以降発表の予定。
 御挨拶:以上のような具合で、仕事は快調に進み出したところで、私1個人の理由から一昨年からの約束でどうしても米国に出かけなければならなくなり、仕事を中断せざるを得なくなってしまいました。もっとも仕事は私の友人の星元紀君(教養・生物)によって引きつがれます。現在分劃精製中のものについての毒性検定成績は勝田班長よりいずれ報告されるものと思います。これまで長い間私のわがままを心よく許して下さった班長および班員の皆様に心より御礼申上げます。色々学ぶことが出来たのは大きな忘れ得ない収穫でした。帰国の際には又一層の御交誼をお願い致します。皆様の御研究の躍進を祈ります。

《山田報告》
 おめでとう御座居ます。昨年よりこの研究班に入れて戴き、種々御指導戴くと同時に、economical supportを戴き、願ったりかなったりで御座居ます。
何卒今年も宜しく御指導の程お願い申しあげます。
 新年号には新しい年を迎へての感想みたいなものでもとの事ですので、最近感じたことを一つ書いてみたいと思ひます。
 この話しは数年前ロンドンに居た時から始まります。1965年の2月だったと思ひます。朝から曇り勝ちで、午後から雨がぱらつき人出もまばらな或る夕暮でした。ロンドンの中央にあるハイドパークのはづれに建てられている第一次及び二次の戦勝記念碑をスケッチしたことがありました。雨はやがて密度を増し、街路樹の下で雨をさけながら漸く一枚の絵を(スケッチの写真を呈示)描き終った頃は、もう吾々家族三人を除いて誰れ一人居ないひっそりとした日没だったと思ひます。指先は氷りつき、文字通り臍まて冷きってしまった頃、漸く腰をあげ、近くのナイトブリッヂのキャフェテリアに飛びこんで暖い紅茶をすすりながら、入口で買った新聞をみて驚きました。 「Winston Churchill死す!」と書いてあるのです。第二次大戦を勝利に導いた偉大なる指導者であったチャーチルの死の日の夕暮に、その戦勝記念碑を、戦争に負けた日本の一家族のみが見守って居たと云う偶然を不思議に思ったものです。
 あれから4年近く過ぎました。最近、偶然その時に買った新聞Daily Telegremを見なおしてみて驚きました。こんなふうに書いてあるのです。
『Sir Winston Churchill dead peaceful end with wife & family at bedside.Queen's Message:Whole world is poorer』
 この新聞はあの日に読んだ筈です。あのパイパア、パイパアと叫ぶコックニイの新聞売りから買ったこの新聞は一入の感慨を持って読んだ筈です。
 にもかかわらず「世界は貧しくなった」と云う女王のメッセージに何の抵抗も感ずることなく読んで居たのです。それ故この文章が記憶に残らなかったと思うのです。
 勿論このWhole worldと云う意味は多分に英連邦を意味して居るとは思うのですが、その裏には依然として世界をリードして居ると云う過去の大英帝国の意識と、自信が現れて居ることは事実だと思ひます。それよりも問題だと思うのは、そして驚きに感じたのは、私自身のこの記事に対する感じ方なのです。「イギリスに住むと、知らず知らずに、イギリス人の自信が己れみづからのものになると云う心理なのです」。
 そして何の抵抗もなくチャーチルが死んだことにより世界が貧しくなったと、素直に感じるのかもしれません。そして日本に帰るとそんな自信は喪失して、その言葉が奇異に感ずるのかもしれません。自信などと云うものは所詮そんなものかもしれません。

【勝田班月報・6902】
《勝田報告》
 RLH-5・P3について:
 これはRLC-9(正常ラッテ肝)株の亜株のまた亜株である。RLC-9はJAR-1系F24生后5日♀ラッテの肝を1965-7-21に培養に移してできた株であるが、'65-12-6から平型回転管で“なぎさ"培養をはじめ、'66-1-18からは円形管にかえ、'66-9-19から再び平型管で“なぎさ"にし、'66-12-25に変異細胞が現われてRLH-5と命名された。'68-10-15その一部(継代24代)を無蛋白無脂質の完全合成培地DM-120内に移したところ、すぐに増殖が起った。この系をRLH-5・P3と命名したが、'68-12、継代4代のとき染色体をしらべると、RLD-5より少しモードが低くなっていた(図を呈示)。
 細胞の形態は細胞質突起を長く伸ばし、L・P3にやや似ているが、4NQOと光に対する感受性を'69'1-13(継代5代)にしらべると、4NQO単独でもかなり阻害を受ける点でL・P3とは異なっていた(図を呈示)。現在継代6代で酵素学的に肝と同定できないかと検索を計画中である。
《佐藤報告》
 *(1)教室で飼育している呑竜ラッテの正常核型、とB-4の染色体にみられる多型について報告します。
 呑竜系ラッテは1949年に佐藤隆一医博(浦和市・日本ラット株式会社)が市販の白ネズミの雌雄2匹を兄妹交配し、以后系統的に育成したもので、1959年にF20に至り、その後は拡大繁殖に移し市販されました。その際、一部はなほ兄妹交配を続行し、今日F42にまでなっています。
教室の動物は1961年に実中研から購入し、交雑により繁殖させて使用していましたが、1965年以後は専ら兄妹交配して現在に至っています。
 発癌過程を染色体上でキャッチするにはまず用いている実験動物の正常核型を充分に把握しておく必要がありますので、呑竜系ラッテの正常核型を今一度調べ直した次第です。 呑竜ラッテの正常核型については吉田俊秀先生(1965)が既に報告されていますが、染色体の分類と命名法はどの方法によるのが最も簡単で分析しやすいか、又光学顕微鏡レベルでどの程度まで個々の染色体を同定識別することが出来るか等を考慮しながら調らべました。結果は(核型の図を呈示)、分類はKurita,Y.et al(1968)の方法に従ひ、42本の染色体を動原体の位置によりA、B、Cの3つに分類し、各グループ内では大きさの順に並らべて、大きいものから順に番号をつけ、個々の染色体を分類、命名しました。
 正常核型についてはB-4以外は吉田先生の報告と略一致しましたが、B-4には多型がみられました。即ち(1:ST・ST。2:T・T。3:ST・T)の3種類あります。(表を呈示)。又この表は1967年の11月から1968年の4月までの間に生れた27腹の動物につき、各腹毎に♂♀各1匹づつの染色体を調らべ、それらのB-4型につきまとめたものです。同腹のものは全て同一の型を示しました。3:の型のものはわずか1腹にすぎませんでした。
 動物の尾を切って培養し、その培養細胞から染色体を作成して、その動物のB-4の型を確認しておいた上で1:と2:との型の動物を交配してF1を作り、F1の染色体を調べたところ、いずれも3:の型であった。従ってB-4にみられる多型現象はartifactでなくgeneticalに明瞭なpolymorphであることが確かめられました。
 扠て当教室のものの対照として同じ系の純系動物ではどうかと考えて、日本ラット株式会社で育成している呑竜ラッテの純系動物の核型を調らべる機会を得ました。これらの動物は現在F40以上になっておりますが、今迄に一度も細胞遺伝学的検索をしていないそうです。(皮膚移植では93%だそうです)
 調らべた動物はF40代の一腹とF41代の一腹だけですが、その結果は核型全般については教室のものと大差はありませんでした。B-4についての結果をまとめてみますと、下記の如くです(表を呈示)。
 F40代のものは性別に関係なく1:と3:の型でF41代は2:と3:の型で、いずれも分離比は1:1でしたので、F40代の両親(F39)は1:と3:のどちらかの型であり、F41代の両親(F40)は2:と3:のいずれかであることが推定されます。(調べたF40とF41は異腹の系統だそうです)。
 以上呑竜系ラッテのB-4の多型について、当教室のものと日本ラットKKのものを比較して考えてみますと、当教室のデータでは4年近く兄妹交配しており、27腹中3:のheteroの型を示したものは1腹にすぎず、他は1:及び2:のhomoの型となっています。実験的に3:の型を作ることが出来ることから考えて、STとTは対立遺伝子と考えられ、20代以上も近親交配をつづけると、ST・Tの如きheteroのものは減り、SSやTTの如きhomoのものが優勢を占めると考えられますから、日本ラットKKの純系動物のデータで3:のheteroの型が非常に多いのが理解出来ません。
 呑竜以外の系でB-4のshort armにsatelliteを有しているもの、いないものがあるという報告は文献上2〜3あり、今度の呑竜での所見と最もよく似た報告はBianchi,N.O. & Molina,O.(1966)がRattus norvegicusで発見しております。B-4のPolymorphismにつきその意義や成因について全く解ってはいませんが、今後の研究に待ちたいと思います。
 話が前後しましたが、正常核型の中で光学顕微鏡レベルで形態のみから個々の染色体を同定識別する場合に、識別可能な染色体はB groupの4対とC-1及びYのみです。染色体上で正二倍体であるという確認は前記の5対とYの同定による外にないとはお粗末な次第です。
 *(2)前号で難波が報告したようにRLN-25の4NQO 10回処理のものが発癌し、腹水型の腫瘍を形成しましたが、その后20回及び25回処理のものも現在外から小腫瘤を触れる程度になって来ています。これから残りのものも次々とtakeされるものと思われます。次号ではそれらの腫瘍の染色体分析の結果をまとめて報告出来るものと考えます。

《高木報告》
 前回の月報でNG-4を移植したWKAratの中生残した3疋すべてにtumor(Sarcoma)を生じ、相前後して行った剖検の所見を報告しました。そのtumorの組織学的所見について、はじめにsacrificeしたNo2.ratはfibrosarcomaと思われますが、他の2疋No3.No1.ratに生じたtumorについてはsarcomaは間違いないが、なお種々の染色を行ってみる必要があり、はっきりしたことは現在申せません。PAS、Masson染色など行ってみようと考えています。電顕用の固定もしてあります。これらのtumorは再培養、移植など行いましたが、今回は再培養の所見につき報告します。
 No2.rat tumor:周辺部のnecrosisの少い部分をとり細切後plasma clotなしでガラス面に附着せしめ、LH+Eagle's vitamine+10%calfserumで培養を開始しました。なお培養途中からこれに、glutamin、pyruvateを加えました。growthはおそく、約7日〜10日後からround cellのmigrationがおこり、その下にしばらくしてfibroblast-like cellsのgrowthをみました。fibroblast-like cellsはtumor cellと思われるものとfibroblastの2種からなり、共にgrowthしておりましたが、2代、3代と継代して行く中にtumor cellsと思われるものがdominantになり、現在はほとんどすべてtumor cellsと思われます。
 現在growthはさかんで1週に1回は必ずtransferしなければなりません。round cellとこのtumor cellとの関係ですが、あるいは同じものかと云う気もしています。と申しますのは継代してしばらくはnetworkを作るtumor cellと思われるものの増殖があり、この時はrund cellは数はわずかで、cell sheetの上にのっている感です。しかし培養日数がたち、tumor cellsがpile upしてきますと、その様な箇所にはround cellも集まってpile upしてきます。それとround cellとtumor cellと思われるfibroblast-like cellとの間に移行型と思われる様な、つまりround cellの両極にcytoplasmがのびてガラス面に附着している様な細胞も見あたるからです。なお観察をつづけます。
 No3.rat tumor:2番目にsacrificeしたNo3.ratのtumorは、大きかったため写真をとったり、移植をしたりしております間に時間がたち、培養を開始したのがおそかったためか、growthは不良で、培養10日目頃からround cellsのmigrationがおこり、その後さらに10日位してfibroblast-like cellsのgrowthがおこりました。培養開始後約7週間の現在bottleはきれいなfibroblastで、その上にごく少数のround cellが附着しています。
 なおround cell丈を集めて継代したものも現在少数のround cellが浮游し、またfibro-blastと思われるものがわずかに生えています。
 なおNo3.rat tumorを生後3週間のWKAratの腹腔内に移植したところ、その中の1疋に“いもずる"の如くつらなった数ケのtumorと、血性のascitesを20日後にみとめました。solidtumorは、細切して培養したところ、やはり同様なround cellとfibroblast-like cellの、growthをみましたが、このfibroblast-like cellは増殖おそく、colony状のgrowthを示しており、何となくreticulum cellを思わせる形態ですが核小体の大きいことなどやはりtumorcellであろうと思います。10mlの血性ascitesはそのまま培地でうすめて100,000/ml cellsを4mlずつpetri dishで培養しましたところ、round cellの増殖はあまりはっきりしませんが、4週間をへた現在なお浮游しており、それらを集めて継代したところです。なお、1つのpetri dishにはfibroblastとreticulum cell様の細胞(tumor cellか?)のoutgrowthがみられます。
 No1.rat tumor:12月31日に培養を開始しましたが、これもgrowthはきわめておそく、1週間後よりround cellのmigrationがおこり、約2週間後からその下にreticulum cell様細胞のgrowthをみました。現在round cell丈のbottleとreticulum cell様の細胞がcolony状に生えて、その上にround cellが附着したbottleとあります。その中の1本をとり継代してみましたが(細胞数を多目に)あまりgrowthはよくない様です。他のbottleはいましばらくrefeedをつづけて様子をみることにしています。
 以上これまでに行いました再培養の概略を報告いたしました。文章にかきますと中々細胞形態の表現が思うにまかせず、あるいは不適当な表現もあるのではないかと思います。次回月報ではこれらの写真を供覧いたす予定でおります。なお移植の成績につきましては、班会議で報告の予定です。再現実験はinitial changeを認めた段階で特記すべきことはありません。 

《山田報告》
 昨年暮より、いままで検索した成績を再確認することと、発癌過程における表面構造の変化を検索し始めました。その成績を書きます。
 岡大病理株のうちで自然に発癌したと云う株RLN系の電気泳動度についてはNo.6809、No.6811号に書きましたが、その成績のうちで、長期培養株はRLN-38であり、後者はRLN-36でした。両者は全く同一の性質を有するとのことですが、改めてRLN-36について培養株と、そのラットに復元した後の再培養株について比較しました。その細胞電気泳動度の状態は、(以后それぞれに図を呈示)、図のごとくで前回のRLN-36及びRLN-38を用いた場合と全く同一でした。即ち自然に癌化した株ではその電気泳動度は低く、ノイラミダーゼ(従来と同一条件)処理により殆んど変化せず、腫瘍再培養株の電気泳動度は高く、しかもノイラミダーゼ処理により有意の泳動度の低下をみました。この成績より、自然癌化したRLN-36株のうちで悪性化している細胞密度は少く、腫瘤形成により悪性細胞が選択されるものと考える様になりました。
 次ぎに同じく岡大株で4NQOにより発癌したと云うExp7-2と云う株(ラッテ肝細胞)について培養株と、腫瘤再培養株の電気泳動度を比較しました。この株は、No.6809に報告したExp7-1と極めて類似の条件で悪性化し、その性質も似て居るとの事です。
 悪性化した細胞株についてはExp7-1と同じく悪性型のパターンを示しましたが、対象の株は正常のラット肝細胞の電気泳動のパターンを示さず、むしろ変異型を示しました。即ち、ノイラミダーゼ処理により泳動度は増加しませんでした。
 Exp7-1とExp7-2の違ひを次回の会合で伺いたいと思って居ます。
 また生体内でDABを与えた後に培養して癌化したと云う株(ラット肝細胞)d-RLA74、d-RLH84について前回と全く同じ条件でくりかへし電気泳動度を検索した所、前回と殆んど同じ結果を得ました。
 悪性化したCQ42株の細胞形態
 CQ42をラットに復元した所、腫瘍が発生したにもかかわらず、株全体の細胞形態は復元前後において全く変りがないと云うことですので、CQ42株のうちでどの細胞が悪性化したかを検索する意味で写真撮影式電気泳動装置を用いて、その電気泳動度と細胞形態を検索してみました。CQ42株と、その腫瘤再培養株について検索し、そのうちで電気泳動度の速いものと遅いものとにわけてみました(写真を呈示)。しかし、こうやって分類しても泳動度の速いものと遅いものとの間に形態学的な特徴を見出すことは出来ませんでした。
 CQ42株の悪性化細胞密度は少いと思われますが、悪性化した細胞の形態は悪性化しない細胞のそれとは大差がないのでせうか?。
 ラット肝細胞(RLC-10)の電気泳動度の6ケ月間に於ける変化:
 昨年の夏にRLC-10の電気泳動度のパターンを検索しましたが、6ケ月後に再び検索しました所多少変って来ました。前回はその泳動度が単一で揃って居り、ノイラミダーゼ処理により著明に増加しましたが、今回は多少の泳動度のバラツキが出て、ノイラミダーゼ処理による泳動度の増加がやや減少しました。しかし他の株にくらべてまだ正常肝細胞方に近い型を示して居ます(図を呈示)。
 4NQO投与直後のラット肝細胞の電気泳動度の変化:
 4NQO投与後の電気泳動度の経時的変化を、検索し始めました。今回は3.3x10-6乗Mの4NQOを30分間、ラット肝細胞(RLC-10)に接触させた後に、メヂウムと交換した後の5日間の変化を検索しました。結果は(図を呈示)、4NQOの接触後2〜3時間後に一時僅かに電気泳動度は増加し、その後5日まで漸次低下する様です。それぞれのノイラミダーゼ処理後の泳動度をしらべますと、接触直後(2〜3時間)ではむしろ泳動度は低下しますが、その後はこの処理によって変化なく、5日目に再び低下を示して来ました。その意味づけは更に検索してから考へたいと思ひます。   (悪性化したラット肝細胞ではノイラミダーゼ処理で少くとも0.1μ/sec/v/cmの低下をみます。)

《安村報告》
 ☆Soft Agar法(つづき)
 1.CQ-42細胞(正確にはCula-TC):前々号の月報(No.6812)での報告でこの細胞をSoft agarでColony形成させることができなかったとのべられた。そのご、この細胞系から液体培地でえられたepithelialのcolonyを2コ、ステンレススチールのカップで拾われ、かりにQ1、Q2と名付けられた。
 今回の実験でこのQ1、Q2細胞をSoft agar中でColonyをつくらせることに成功した。(結果を表で呈示)。結果をすこし大げさにP.R.しますと、Ratの細胞で化学発癌剤でin vitroで発癌したものがSoft agar中でcolonyを形成する能力をもっていることが(たぶん初めて)立証されたということです。
Q1からの拾われたcolonyは5コとも増殖中であり次回の実験でSmall colony、Large colonyのdissociationのrateをしらべることができよう。Q2からは10コひろわれたが、そのうち1コのみが増殖中である。このことはQ1は2xconc.の培地であるのに反して、Q2が1xconc.の培地であるために、colony形成数は多いが個々のcolonyの性状がわるく、large colonyがひとつもなかったことと関係があると思われる。Q2からmassと集めたcolonyはTD40ビンで増殖する。Q2からのcolonyには死んでいたのがまざっているということだろう。
 以上のことがらから、培地条件を考えにいれると、このSoft agar法をつかって、化学発癌剤で処理してから時期を追って調べることによって、発癌細胞をcolonyとしてひろいあげることができそうである。今回の実験はまだその前段階であるにすぎない。というのはCula-TCはnormalのRLC-10を4NQOで発癌した細胞系CQ42、つまりRLT-1をratに接種してえられたtumorの再培養系Cula-TCであるからである。前々号の月報で、Soft agar中でcolonyをつくらなかったのもCula-TCであった。今回の実験で異るのは前回のCula-TCからえられたEpithelialのColony Q1、Q2が出発材料になっていることである。このことは、Tumorからの再培養中にはまだまざりものがあって前回では失敗したのかもしれない。今回の実験材料はpureといわないまでも(つまりクローンではない)、homogeneousの細胞集団から出発したので、うまくいったのかもしれない。次回からの実験では、ぜひoriginalの動物通過してないCQ42、つまりRLT-1をつかってSoft agarでColonyをつくらせたい。
 2.予備段階のもう1つの実験で前号の月報(No.6901)でのべられたCQ40(正確にはCulb-TC)の系で今回Colony形成にやはり成功したことをお伝えしたい。しかし、培地の関係で日水のmodified Eagle MEMの1xconc.のものを使用したので、large colonyはえられず細胞の性状はあまりよくない。次代に増殖するか?。

《梅田報告》                                   ここ一年間、各種化学物質の性質を調べるにあたって簡易培養法を行う必要にせまられ、Toplin等のPlate Pannel法(Merchant等のHandbook of cell and organ culture 2nd Ed.に出ている)を利用してきた所、いろいろ応用すると便利な点も多いので今回はその方法を紹介します。一度班会議でもお見せしたDisposo-tray plastic製と、丁度それにびったり入る15mm位の円形カバーグラスが主役です。
 (1)毒性試験:まずDisposotrayをUV照射滅菌する。別に乾熱滅菌した円形カバーグラスを各々のCup内に入れる。
 毒性が皆目わからない物質の場合は、half logで100、32、10、3.2μg/mlの4濃度を調べることにしている。先ず、水溶性の物質は直接mediumに200μg/ml液を、水溶性でない物質はDMSOに10mg/mlの割に溶解后mediumで50倍に稀釋し、200μg/ml液を作る。通常medium 2.96mlにDMSO液(10μg/ml)0.04mlを加えて作る。次にmedium 0.5mlに試験液を0.23mlを順次加えるDilutionを直接cup内で行う。
 別にCell suspensionを作っておき、(HeLa細胞の場合は50万個cells/ml液)、1〜2ml用のCornwallの分注器でCup内に0.5ml宛滴下する様に分注し、plateをガラス板でcoverし、CO2incubator内で培養する。CO2incubatorがない時は、セロテープまたサランラップでも良いそうですが、そんなものを使って完全にsealして培養します。3日后にカバーグラスを取り出し、salineで洗ってCarnoy固定し、H.E.染色を施し、一枚のスライドグラスに各物質についての4枚宛を並べて封じます。
毒性の判定として肉眼的(ここらへんが大ざっぱすぎると云う批判もあると思いますが)或は顕微鏡下で補助的に次の基準で記載します。
 0.controlと同程度の細胞増殖を示すもの。
 1.controlより明らかに増殖率が減じているが、まだ細胞数は増加したと思われるもの。
 2.細胞障害があって増加は見られないが細胞が植えこみと時と同数位残存しているもの。 3.強い細胞障害像を示すが、まだ少数ながら細胞の残存しているもの。
4.完全に細胞毒性に働き、細胞が残っていないもの。
以上を必要とあれば、0.5、1.5等のこまかい所まで記載する。わかり易く図示する時は、障害度 0.1.2.3.4.を各濃度に対してplotして、障害曲線とする。さらに本法の改良点はカバーグラスも染色してあるので、細かに細胞障害の形態を顕微鏡下で観察し、記載を足すことが出来る。
 この結果を基礎として、更にdilutionを変えたりして適当な濃度を選び、Cell countによる増殖カーブを画く様にする。
 (2)H3摂り込み実験への応用:本法によると黒木さん記載の月報6712号にのっているDNA、RNA、蛋白合成に及ぼす各種薬剤の検査は、時間的に簡便で且つしごく経済的である。先ずHeLa細胞の場合は125,000cells/ml液を作り、カバーグラスに0.2ml宛を正確にのせる。表面張力でcell suspensionが山もりになり、外に流れないのを利用し、そっとCO2incubator内で培養を開始する。1日后細胞がカバーグラスに定着したのを待って、mediumを0.7ml加える。更に1日培養して、各種物質の試験濃度の10x concentrated液を作り、その0.1mlを加える。ここでmediumとして計1mlとなり、試験濃度となる。良く振って培養を始め、培養を止める1時間或は30分前に、H3-TdR1μg/ml、H3-UR 5μg/ml、H3-Leu 10μg/mlの0.1mlをす早く足して、時間がきた時に、カバーグラスをSaline wash、固定后Cold PCA処理を行う。カバーグラスはWindowless gas flow meterでそのままCountし、以下の如きcountが得られる。(controlのばらつき) H3-TdR:7971、7902、7801、7871cpm/5'。H3-UR:14537、14095、14392、14018cpm/5'。H3-Lew:3212、2971、3356、3308/cpm/5'。必要ある場合は、この円形カバーグラスをスライドにはりつけ、Autoradiographyを行い、grain count迄その材料で行える。
 以上ですが、日本人的感覚として、disposableと云うのが気になって、このDisposotryを重クロム酸液につけてみました。驚くことなかれ、全く平気で、最近は使用后何回も重クロム酸液で洗い使用しています。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(10)
 4-NQOで細胞を処理すると、X線照射の場合と同様にDNAのSingle strandの切断が誘起される。しかも、こうした切断は処理および照射後細胞を37℃でincubateすると、経時的にrejoining(再結合)するが、これについてはすでにこれまでの月報で報告してきた。またこうした結果の意味するものは、本来細胞は外界から受けたあらゆる障害に対して修復し得る能力をもつ、つまり防御機構を保持していることも示唆するものである。
 然しこうしたDNAの切断とその再結合能という現象でみたDNA障害修復機構は、その過程は勿論のこと修復機構自体も把握されていない。従ってわれわれは、5-bromodeoxyuridine(5-BUdR)を用いて、こうした観点から細胞のDNA障害修復機構の解析を進めている。5-BUdRは数年前にわれわれも実験に使用したことのあるchemicalで、放射線感受性増感剤として知られており、すでにアメリカやわが国の一部の研究室では、このchemicalを用いて癌の放射線治療を行なっているところでもある。
 5-BUdRはthymidineのanalogueであり、thymineとおき代ってDNA中に取り込まれることが、これまでの実験で証明されている。また5-BUdRが、細胞内DNA中に取り込まれた結果生じる放射線増感の機構としては、(1)5-BUdRを取り込んだDNAはBrとリン酸基間でelectrostaticrepulsionが起こるため、DNA分子全体として不安定になるのが増感作用の機序であろうとするSzybalskiらの説と、(2)放射線照射により生じた細胞の障害修復系(おそらく酵素レベルの修復過程)が5-BUdRによって阻害されると考えるLettなどの考えがある。
 5-BUdRの使用は以上のような仮説のいづれが正しいかも証明するためにも、さらには障害修復機構を解析するためにも非常に興味がある。培養細胞を10μg 5-BUdR/mlと、5μg2-aminopterin/mlの存在下で培養すると、細胞の分裂に伴い(勿論5-BUdRの存在下では細胞のgeneration timeは正常培地にある細胞の夫よりも延長される)、semiconservativeなmodelに従ってDNA中に5-BUdRは取り込まれる。従って、5-BUdR存在下での培養時間に依存して放射線による感受性が増強されることがコロニー形成法で確認された。一方、X線照射後の細胞を5-BUdRで処理しても感受性の増強現象は認められない。こうした結果は、上述の(1)の可能性を示唆するが結論はこれだけでは出せない。1月はこうした仕事のための基礎実験や4-NQO処理によるDNA double strand scissionの誘起、並びにその再結合能の検討という段階に留まっている。次回からこれらについてはっきりした結果を報告出来ると思われる。
《藤井報告》
 AH130と正常ラット肝細胞の抗原の相異
 最近microplateを使ってのdouble diffusion in agarの基礎的な手技に幾分の工夫を加えてから、沈降線形成の再現性がよくなりました。何を今さらと云われさうですが、そこで新しい抗血清で表題のような解析をあらためてやってみました。結果は以前に報告したことを裏づけたことになり、きれいな沈降線として出ています。
 抗血清として、AH130、AH7974、AH109A、AH7974の培養系等に対するウサギ抗血清を(それぞれ一次免疫、二次免疫血清)つくりましたが、沈降線形成の上からは、抗AH130ウサギ血清の二次免疫のもの(FR80、080968)以外は充分抗体価が上っていないようです。
 Exp.010769.G3.:
 抗原として:(A)AH130細胞の0.5%Na-deoxycholate-PBS抽出物、原液は600万個cells/mlに相当する濃度、(B)正常ラット肝組織の0.5%Na-deoxycholate-PBS抽出物、原液は500万個cells/mlに相当。
抗血清として:(1)ウサギ抗AH130(FR80.090869)、(2)ウサギ抗ラット肝抗血清(FR51、52) Microplateのwellに抗原液、抗血清を充し(0.02ml)、3日間冷所(4℃)で放置、plateを外した後、生食液中で洗滌、2日間、乾燥後1%アミドブラックで染色する。使用寒天はDifcoの0.2%Na-deoxycholate-PBS(DOC-PBS)にとかした。(それぞれに図を呈示)
 FR51、52(抗ラット肝血清)が、ラット肝抽出液との間でつくった沈降線をL1、L2、L3と名づけ、FR80(抗AH130血清)がAH130抽出液との間でつくる沈降線をA1、A2と名付ける。
 L1線はFR51、52とAH130との間の沈降線L1'とspurをつくっており、正常肝抗原の一部がAH130にもあることがわかる。しかしL2、L3はAH130には欠けている。
 一方A1線はAH130、正常肝の双方にふくまれる抗原による沈降線であることが示されるが、A2はAH130にもにある抗原によるもので、正常肝500万個cells/mlにもないが、AH130では抗原の1/4濃度1500万個cells/mlでも鮮明に出ている。
この実験では、AH130と正常肝抽出液の濃度を上げ、AH130では(A 1/1)を10の8乗cells/mlとし、ラット肝では(B 1/1)を2000万個cells/mlとした。またFR51、52血清、FR80血清が、ラット肝、AH130に対してつくるそれぞれの沈降線の関係、異同を検討した。
Exp.011469のD1、D2とも抗原液、抗血清の配置は同じであるが、D1ではDOC抽出液作製直后に使用し、D2では、7日間、4℃保存后い用いた。
 仮に沈降線を名付けて、FR51、52とラット肝抗原間のものをL1、L2、L3、L4とし、FR80とAH130間の沈降線をA1、A2、A3とする。
 D2の沈降線についてみると、A1-lineはAH130とラット肝抗原に共通に存在する。A2-lineはD1において、正常肝と交叉するがAH130特有の抗原を示すように見えたが、D2においては、FR-51、52(抗ラット肝血清)がAH130に対してつくるL1'-lineと、不明瞭ながら連がるようにみえ、AH130とラット肝に共通する抗原による沈降線と思われる。A3-lineはこのdiffusionの結果からは、抗AH130血清が(FR80)、AH130に対してのみ示す沈降線であり、ラット肝には見当らない。
 この結果からみると、保存した(DOC中で7日間冷所)抽出液の方が、沈降線の分離が良い。
D1で、AH130特有とみえたA2-lineが正常肝にもかすかに存在することが示唆された。これは該当抗原が、AH130に多く存在し、正常肝に極めて少ないことを示唆している。
抗AH130血清(FR80)がAH130のみに示す沈降線が使用抗原量を変えることによって、A2-lineと同じような結果を示すかどうかは今后の検討にまちたい。
癌細胞と正常細胞(同じ系統細胞)の抗原の差というものは、量的な差がかなり大きいのではないかという感じがふかい。

《安藤報告》
 A)H3-4HAQOと培地DM120との反応
 月報No.6812に報告しましたように、4NQOでL・P3細胞を処理すると短時間の間にH3-4NQOは親水性化合物にかえられる。この反応がいかなる反応であるかについては種々の可能性があるが、次のように考える事は最も妥当な考えの一つと思われる。すなわち、4NQOが細胞の酵素系によって4HAQOに還元され、このものが、それ自体、あるいは他の低分子物質と反応し、親水性化合物となる。この後の反応は4HAQOの反応性と考え合せるならば、非酵素的とも考えられる。この可能性をテストするためにH3-4HAQOと培地DM120を37℃、2時間、細胞なしに反応させた。H3-4HAQO-HClを10-4乗Mになるように、DM120 50mlに少量のDMSOにより溶解する。4HAQOは中性で不安定なため、直ちに着色をはじめ37℃、2時間後には黄色となってしまう。凍結乾燥後、少量の稀HClに溶かしセファデックスG15カラムで分劃する。
 (結果図Aと、以前に報告した4NQOでL・P3細胞を処理した培地の分劃図Bを呈示)。OD230パターン、異なる部分は23-30、46-50、120-130分劃、それでも相互の対応関係がわかる。放射活性パターンについては、A図の45分劃のピーク及びその肩がB図の1、2に、56分劃のピークが3aに、120-140の山がやはりB図の130-150分劃の山に対応するように思われる。したがって4NQOと細胞の反応生成物の少くも一部は、4HAQOと培地の(あるいは4HAQO自身の中性に於ける)反応生成物と見る事が出来そうだ。この点を確認するためには、更に各放射活性ピークの対応関係を種々のペーパーで調べなければならない。
B)H3-4NQO由来の親水性化合物は再びL・P3細胞に取込まれるか?
 H3-4NQOはL・P3細胞により親水性化合物に代謝される事、そして培地中に放出される事が観察されたが、この化合物はfreshなL・P3細胞に取込まれうるか否かをテストした(安村班員の疑問に対する回答)即ち、10-5乗M H3-4NQOでL・P3細胞を37℃2時間培養した培地DM120を無処理のL・P3細胞に与え時間をおってそのとりこみを調べた。(表を呈示)結果は酸不溶性分劃へのとりこみはH3-4NQOの同濃度に於ける値の15〜20%程度である。一方酸、可溶性分劃へのとりこみは、1〜2%であった。この結果から次のように結論出来ると思われる。一たんL・P3細胞によって変化を受けた親水性化合物は細胞にもはや殆どとりこまれない形となっている。
 C)コールド4NQOで前処理されたL・P3細胞は新たにH3-4NQOをとりこむか?
 L・P3細胞にH3-4NQOを与えると、4NQOha急速に細胞にとりこまれ、高分子成分と結合する。この時のkineticsは30分以内にlevel offしてしまうようなカーブだった。この事実は、細胞内の4NQO代謝物の結合部位が30分以内に飽和してしまい、もはやそれ以上の結合する、又は細胞内にとりこむ能力が細胞にはなくなってしまっている事を示しているのであろうか。これを実験的にたしかめるために次のような実験を行った。
 L・P3細胞をcold 4NQO(10-5乗M)で37℃ 2時間前処理する。この細胞に培地替えすることなく、H3-4NQOを10-5乗Mに加え、その後、時間をおってとりこみを調べた。(表を呈示)
 結果は、酸不溶性分劃、可溶性分劃いずれの中へのとりこみもcontrolの場合と殆ど同じkineticsを示した。いいかえるならば、細胞の4NQOのとりこみが30分以内に止るのは、細胞のとりこみ能の低下によるのではなく、培地中の4NQOが化学的に変形をうけ、4NQOそのものがなくなってしまったためである事を示している。

《三宅報告》
 1.H3-MCA-Benzolを37℃の孵卵器中でBenzolをとばし、これをDMSOに溶かしてその1滴中に2μcのMCAが入ったものをMedium 1.5mlあたり1滴、2滴、次に3滴といれたもので、1時間L細胞に作用せしめたもの、次に1滴入れたものについて作用時間を1時間〜6時間まで延長せしめたもの、次に2滴入ったMediumについて2時間作用せしめた3群を、Sakura NRM2、露出2週間、FDIII(6分間20℃)で現像したが細胞中にGrainは見なかった。
 2.d.d.系マウス胎児皮膚を1968年6月中旬にトリプシン処理后培養を始め、その後トリプシン処理をさけて、継代を行わず、同一の瓶中で培養を続け、その間細胞はシートを作り、剥脱しという現象をくりかえしたが、1969年1月末、それを継代して、細胞をふやし、d.d.に戻さうとしている。培養開始后7ケ月と10を要した。細胞は、fibroblasticなものと上皮様にみえる2群から出来ている。継代後の増殖は速やかでない。(写真を呈示)

【勝田班月報:6903:培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構】
《勝田報告》
 2月14日のシンポジウムで『組織培養内での細胞の化学発癌』と題し、この3年間における当班の発癌実験の結果をまとめて勝田が報告することになっているので、その予行演習をかねて、一通りスライドによって話をしたが、ここでは、その内の勝田研究室での最近の成果だけをまとめて記載することにする。
 §4NQOによるラッテ肝細胞の培養内発癌:
 正常ラッテ肝細胞のDiploid株RLC-10を用い、4NQOで処理した実験はこれまでに5系列あるが、その何れの系においても、ラッテの復元接種は陽性であった。
 岡大の佐藤班員の実験法と異なり、我々はでき得る限り4NQOの処理時間と処理回数を少くするように努めた。また4NQOの処理は、3.3x10-6乗M、30分処理を1回とし、1〜4回の処理を行った。(実験系の略図を呈示)
 #CQ-39では4回処理後約3月、#CQ40では1回処理後約3月、#CQ41では3回処理後1.5月弱、CQ42では2回処理後約1.5月の培養の後に、生後24時間以内の同系ラッテの腹腔内に接種量300〜500万個/ratで接種した。
 復元接種してから腫瘍死まで#CQ39では約5月、#CQ40では約3.5月、#CQ41では約7月、#CQ42では約3月、#CQ50では約3月を要している。
 腫瘍は組織学的にはいずれも肝癌であった。
 このように全実験例において悪性化したということは、今後発癌過程における細胞特性の変化を追究する上に、非常に好適な実験系の得られたことを意味している。
 対照として、無処置のRLC-10も同様の方法で復元接種したが、現在まで腫瘍形成をみない。しかし対照の場合には、実験群よりずっと多い数の細胞を接種する必要があると考え、目下準備中である。

《山田報告》
 前回4NQO(3x10-6乗M)をin vitroで30分接触させた直後のRLC-10の細胞表面の変化を5日間追求しましたが、その後同一条件で4NQOを接触させた後70日目の細胞を検索しました。Controlの細胞の電気泳動度は0.77μ/sec/V/cm(未処理細胞)、0.75μ/sac/V/cm(シアリダーゼ処理細胞)であるにかかわらず、4NQO接触後の細胞は0.78μ/sec/V/cm(未処理細胞)、0.62μ/sec/V/cm(シアリダーゼ処理細胞)の電気泳動値を示しました。
 即ち4NQO接触後70日目の細胞はシアリダーゼ処理により0.16μ/sec/V/cmの泳動値の低下を示すので、一応腫瘍型のpatternになったと云へます。しかし今回用いた細胞はどういうわけか保存が不良で、この成績から直ちに結論を出せません。次の培養世代に同一細胞について再検してから結論を下したいと思います。
 細胞電気泳動値を増幅する方法の開発:
 細胞電気泳動度を増幅させて、測定値を大きくし、より微細な泳動度の変化を検索出来る方法を考えてみました。まだ実用化の段階ではありませんが、その骨子を書いてみます。 そのアイデアは細胞表面の陰性荷電に、多値陽イオン物質を結合させ、二次的に多値陰イオンを結合させて、細胞表面の荷電密度(陰性)を増幅させようと云うものです。
 前者としてはプロタミン硫酸、後者としてはPolyvinylsulfate kalium(P.V.S.K.)を用いました。(いづれもコロイド滴定に用いる物質です)。
 (図を呈示)種々の濃度のプロタミン硫酸を泳動メヂウム内に入れて細胞の電気泳動度を測定しますと、細胞の泳動速度は、プロタミンの加へられた濃度に応じて低下し、高濃度の状態では細胞は反対極(陰極)へ移動する様になります。即ちプロタミン硫酸の陽性荷電は細胞表面内陰性荷電にすべて結合するのではなく、その一部は遊離してくると考へられます。
 この状態で二次的にP.V.S.K.を結合させると、遊離してゐるプロタミンの陽性荷電と結合して、細胞表面は強く陰性になると考へられます。
 実際にこの結合を起させるために、まずプロタミン硫酸を細胞(AH62Fラット腹水肝癌)に混じた後、遠沈して細胞のみをとり出し(洗わない)その泳動度を0.0012NのP.V.S.K.を含むメヂウム内で測定した所、著明な泳動度の増加を認めました。しかしあらかじめ濃いプロタミンを加へておくと、細胞はP.V.S.K.を含むメヂウムのなかで粘液状になり測定が行われませんでした。この場合細胞の破壊が考へられますので、より安定な細胞の破壊がなく、常に安定した値が得られる条件を、これから探してゆきたいと思って居ります。

 :質疑応答:
[堀川]今の段階ではメヂウムにプロタミンを添加して電気泳動値を測定しているわけですね。技術的にはむつかしいかも知れませんが、プロタミンのはいったメヂウムは洗い去って、細胞についたものだけで測定したらどうでしょうか。
[山田]そうですね。
[勝田]細胞が生きている時と、死んでからでは泳動値は違いますか。
[山田]死んでから刻々に泳動値がおちるようですが、そう急には変りません。
[勝田]生きている状態でプロタミンを作用させるのでなく、固定して死んだ細胞にプロタミンを添加する、或いは他の物質を結合させてみたらどうでしょうか。
[堀川]4NQOを処理した場合の電気泳動値の変化は、細胞が死んでゆく過程の変化ではありませんか。
[山田]今回のデータの場合はむしろ細胞のダメージが殆どない状態での変化をみています。今後同じ4NQOを処理した実験でも、もっとダメージの大きい時はどういう変化があるのか、また発癌性のないもので処理した時はどうなるのか調べてみたいと思っています。
[安藤]P.V.S.K.を作用させたら、ヌルヌルしてしまったと云われましたが、それは細胞がこわれてしまった為ではありませんか。
[山田]電気泳動値の測定の場合、ずっと形態をみているわけで、そうひどくこわれているようには見えませんが、トリプシンをかけた時と似た状態になりますね。P.V.S.K.はRNAに結合するのですか。
[安藤]P.V.S.K.は蛋白合成の阻害に使われています。核酸はマイナスチャージですから、核酸とP.V.S.K.が結合するとは考えられません。
[堀川]荷電は膜の構造の変化にだけ依存するのですか。内部の構造は影響しませんか。
[山田]コロイドによる実験では膜の変化に依存するといわれています。しかし、膜に影響なく内部だけ変化させるという条件はむつかしいですね。勝田班長の所の4NQO変異細胞は、処理が一回、佐藤班員の所は非常に回数多く処理をしています。電気泳動値からみて、佐藤班員の所の細胞が悪性腫瘍の形に近いのは、重ねて処理することによって悪性のものを選別して、だんだん悪性細胞の集団が増えているのではないかと考えています。

《佐藤報告》
 ☆N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(MNG)の細胞障害効果について。
 ラット肝臓由来細胞に及ぼすMNGの細胞障害効果を検討した。効果の判定基準として、増殖率(増殖曲線及びコロニー形成率)に置き、形態的観察も合わせ行った。
 『材料と方法』
 1)細胞:生後5〜6日目の呑竜ラット肝臓由来細胞でなるべく培養初期のもの(初代〜5代、約80日迄)
 2)培地:20%ウシ血清添加Eagle'sMEMを用いた。
3)MNG:滅菌再蒸留水に10-2乗Mで溶解し、4℃にて保存し、使用時適宜稀釋して使用した。
 4)増殖率:増殖曲線は同型培養法によった。コロニー形成率は原則としてPetri皿(60mm)に5,000〜25,000個の細胞を植込み24時間後にMNGを添加し、そのまま1週間作用させ、直ちに固定するか更に5日間のMNG(-)の培地で培養後、固定染色し、“visible colony”数から算定した。
 5)形態的観察:主にギムザ染色標本にて観察した。
 『結果』
 1)溶媒の検討:(i)MEM+BS20%、(ii)MEMのみ、及び(iii)Earle's BSSを夫々pH 7.2に調整し、それらを溶媒とした。作用条件はMNG 10-4.5乗M、37℃、2時間で、同型培養法により増殖曲線を求めた。その結果、溶媒の差による細胞増殖抑制効果は少ないことが分った。
 2)pHの検討:そこで溶媒をMEMだけにしぼり、pHを(i)6.0、(ii)6.4及び(iii)7.2に調整して作用させた(10-4.5乗M、37℃、2時間)が、pHの差により、MNGの細胞増殖抑制効果はあまり影響を受けない。
 3)濃度の検討:MNGの濃度を(i)10-5.0乗M、(ii)10-4.5乗M、(iii)10-4.0乗M、及び(iv)10-3.5乗Mとして、MEM+BS 20%の培地(pH7.2)に稀釋し作用させた(2時間、37℃)。(以後、実験毎に増殖曲線図を呈示)10-4.5乗M、2時間という条件で多くの場合、48時間の増殖曲線に見る限り細胞増殖は見られないことがわかった。
 4)作用時間の検討:溶媒MEM+BS20%、pH7.2、MNG10-4.5乗Mという条件で作用時間をかえてみた。追試の結果も総合すると、2時間の作用で急激な増殖抑制効果が、又その後は極めて緩徐な抑制効果がみられた。
 5)次にコロニー形成率で検討した結果。
 5)-1。材料と方法で述べた通り10-5.0乗〜10-3.0乗Mで作用させ、再三同様な実験を行い、ほぼ一致した結果が得られ、対照を100%として10-4.0乗Mでは10%以下であった。又コロニーの大きさはMNGの濃度が高まるにつれて小さくなる。
 5)-2。方法を変えて対数増殖期の細胞をトリプシン消化により浮遊状態とし、MNGを作用させた後、(作用条件は50,000cells/2ml、Hanks'BSS、pH6.4、10-5.0乗〜10-3.0乗M、30分間、37℃)一度Hanks BSSで洗い、petri皿に植込んで、1週間後に固定染色をし、コロニー形成率をみた。結果は、10-3.0乗Mではコロニーは全然見られなかったが、5)-1の結果とちがい、10-4.0乗Mでも高頻度にコロニー形成が見られた。そこで形態的にコロニーの分類を行ったところ、上皮性細胞コロニーは極めて少数であった(約20%)。
 6)形態学的観察では、今迄の条件、即ちMEM+BS20を溶媒とし、MNG 10-4.5乗M、2時間から48時間迄の間には著明な変化は見られない。詳細は目下検討中である。
 以上、細胞障害作用を中心にして報告して来た。これを更に発展させMNGによる発癌実験へ持って行きたいと考えているが、未だ問題が残っている。pHの問題も、細菌学領域の突然変異誘導至適pHが酸性に傾いていることなどから、やはり再度考えねばならないだろう。またmixed population中におけるMNGへの感受性の違いが著しいので、出来る限り早期にcloningした細胞について仕事がなされなければならないと考える。

 :質疑応答:
[山田]培養日数271日の対照群と比べて、4NQO処理群は染色体の上でどの程度の変異がありますか。
[難波]正二倍体が殆ど無くなってしまいます。それからマーカーになる染色体をもったものが出現してきます。
[堀川]NGの濃度について、高木班員はμg/ml、佐藤班員の所はモルというのは、比較に困りますね。
[勝田]モルで揃えた方がよいですね。
[高木]そうしましょう。
[勝田]NGの実験を始めるのなら、その吸光度とか培養後に培養液中にどういう形で残っているかといったことも、調べておく必要がありますね。
[吉田]上皮細胞様のコロニーがやられてしまうということは、fibroblasts様のコロニーが残って悪性化するのだということになりませんか。
[難波]そのようにも考えられます。上皮細胞様、fibroblasts様、両方のクロンをとって実験をすすめてゆくべきだと考えています。
[山田]培養細胞を動物へ復元して出来た固型腫瘍の組織像をみてみますと、接種した細胞が上皮性の細胞なのに、組織像にはfibroblasts様なもの、肉腫様のものが混じるのは何故でしょうか。それから、皆さんから培養細胞を貰って実験をしていると、細胞の名前を統一してほしいと感じます。例えば医科研の細胞には必ず頭にIとつけるとか、岡山のはOとつけるとか。
[堀川]株の出来た順に通し番号をつけると、分かりやすいと思いますが、それではoriginが分からなくて困りますね。
[安村]登録名の他によび名として固有名をつけるとよいと思います。その場合、登録名と固有名の関連をはっきりさせることが必要です。
[吉田]動物の純系の場合は、作った人の名前か場所の名前をつける事にしています。
[勝田]日本組織培養学会の株細胞の登録をすればよいのですがね。

《高木報告》
 NG-4の実験につきNo.6812以降記載して来ましたが。本号ではこれをまとめて報告させていただきます。なお日取りなどで、これまでの月報にやや誤りがございました。御詫びいたしますと共に本号の通りに訂正させていただきます。
 1967年8月28日、生後4日目のWistar King A rat胸腺を培養、繊維芽細胞をえて、これを継代。
 9月22日、培養開始後25日目、3代目の細胞にNitrosoguanidine 10μg作用せしめた。すなわちNG10μgをacidic Hanks(pH 約6.5)にとかして2時間作用せしめ、これに2倍容の培地(LH+Eagle's vitamine+10%仔牛血清)を加えて計6日間培養し、その後培地を交換した。対照の細胞はNGを含まないHanks液で同様に処理した。処理した細胞はしばらくNGの障害作用によりdamageをうけていたが、次第に増殖しはじめ、12月6日、処理69日後にはcriss-crossなどのinitial changeに気付いた。この時100万個の細胞を生後3週間目のWKArat2匹に接種したが、6ケ月たってもtumorを生じなかった。
 1968年3月5日、処理後159日目、confluent cell sheetの中にpile upする像を認め、またあちこちにfociがみられた。この頃より対照の細胞に比して増殖が良くなり、対照の4〜5倍/wに対し、処理した細胞では8〜10倍/wの増殖率を示した。
 7月29日、処理後34代目、305日目の細胞100万個をnewborn WKArat9匹に皮下に接種した。その中6匹は接種後10日以内に死亡したが、残る3匹に10月7日、接種後70日でtumorを生じているのに気付いた。対照の細胞を100万個同時に接種したrat2匹は接種後10日以内に死亡したので、10月26日、培養開始後42代目、394日目の対照細胞を100万個newborn WKAratに皮下に接種した。この中7匹は接種後70日から90日にかけて死亡(主に肺炎によると思われる)したが、死亡時tumorの発生はなく、残る1匹は109日現在なお観察中であるが、未だtumorの発生をみない。なおtumorを生じたratは各々101日、134日、155日目に瀕死となったので剖検した。
 No.2 rat tumor:pleomorphic sarcoma、3x5.5x2.5cm大、接種後101日目にsacrifice、上記主腫瘤の外、娘腫瘤もあった。
 No.3 rat tumor:pleomorphic sarcoma、11x5.8x7.1cm大、230g、接種後134日目にsacrifice、expansiveなgrowth。
 No.1 rat tumor:pleomorphic sarcome、9x5x4.3cm大、接種後155日目にsacrifice、脊髄に浸潤していた。
 これらのtumorから再培養、あるいは移植を試みた。
 再培養:
 No.2 rat tumor:培養7〜10日後よりround cellのmigrationにつづいてfibroblast-like cellsのgrowthがみられたが、初代培養ではfibroblastとtumor cellがまざって生えていた。継代するごとにtumor cellが優勢となり、3〜4代、培養開始後50〜60日頃からは殆どがtumor cellsと思われる。培養開始後76日目の細胞100万個をnewborn WKArat4匹の皮下に接種したが、10日後にはすべてに結節をみとめた。
 No.3 rat tumor:培養後、round cellのmigrationのみであったが、2〜3週後よりfibroblast-like cellsのおそい増殖がみられた。培地中に浮遊している細胞を集めて継代し、またfibroblast-like cellsのsheetをtrypsinizeして継代したが、現在4代目62日でいずれの培養もfibroblast-like cellsの増殖をみている。この細胞がtumor cellかfibroblastか位相差顕微鏡で観察した処でははっきりいえないが、場所によってはoriginのNG-4 cellsとよく似たところがある。No.1 rat tumorも大体同様である。なおこのtumorを生後3週間のWKAratの腹腔内に接種して生じたtumor、No.3-TL-1 tumorの再培養を行ったが、培養開始後42日目の現在、細網細胞様形態のtumor cellsと思われるもののcolonial growthがみられる。
 移植実験:
 No.3 rat tumorの移植について記載する。1968年12月10日、生後22日目のWKArat4匹の皮下、4匹の腹腔内、計8匹に移植した。
 皮下移植系:移植後14日目に4/4すべてにtumorをみとめた。26日目には1/4のtumorはregressした。2/4は33日目に死亡、この中1匹のtumorを生後1ケ月のWKAratの皮下に2代目の移植を行ったがtumorの発生はみられない。残る1/4は44日目に生後3週のWKArat3匹、Wistar rat2匹の皮下、腹腔内に移植したが、これも今日までtumorの発生をみない。
 腹腔内移植系:移植後14日目に2/4にtumorをみとめた。その中の1匹は皮下に出来たtumorで(移植のさい皮下にもれた)27日目に死亡した。他の1匹は20日目に著明な血性腹水とsolid tumorがみられたのでsacrificeし、腹水とsolid tumorをそれぞれ生後4週間のWKA2匹および生後3週間のWistar1匹の腹腔内に2代目移植した。solid tumorを移植したratには今日までtumorの発生をみないが、腹水を移植したWKAratの中1匹に大きな腹腔内腫瘤を生じ、23日目に死亡した。このtumorは移植しなかった。
 概略以上の通りで、ある系では2代目まで移植出来たが、3代目は未だに継代出来ていない。(各系の顕微鏡写真を呈示)

 :質疑応答:
[梅田]培地にパイルベイトとグルタミンを入れておられるようですが、何か理由がありますか。
[高木]特に理由はありません。多分、黒木さんのデータから引用したのだったと思います。
[堀川]コロニーフォーメションに有効だというデータですね。
[安村]それは、今では撤回したはずです。培養細胞を復元して出来た腫瘍を次に動物へ継代してつかないというのは、どういうわけでしょうか。
[吉田]少し放射線を照射した動物に植えてみたらtakeされるのではないでしょうか。
[安村]案外NGによる変異細胞が一代かぎりで、継代しにくいという型なのかも知れませんね。
[高木]動物の年齢にも関係があるかも知れません。
[勝田]動物継代の初期には若い動物を使った方がよいと思います。
[難波]私の所のtakeされた系では2〜3カ月の動物で充分移植出来ます。
[高木]NGによるin vitro悪性化はまだ他に報告がないと思いますので、腫瘍が出来たという所までを、なるべく早いうちにまとめて論文にしておきたいと思っています。
[勝田]シリーズ物はなるべく早くまとめて発表するようにしたいものですね。細胞株が出来たという論文が出来ていないと、その細胞を使った仕事の論文を書くのに困りますから。早速、山田班員の電気泳動の仕事を論文にするのに、私の所の4NQO変異株の仕事と、佐藤班員の所の仕事が必要になるわけです。

《梅田報告》
 (I)諸種hepatocarcinogenをラット肝primary cultureに投与して惹起される変化を追求してきたが、その中で2-acetylamino-fluorene(AAF)については、先年11月号でふれた。今回医科研癌体質研究部の榎本先生よりAAFとそのderivativesの分与をうけたのでそれについて実験してみた。
 AAFはDABと同じく強力なhepatocarcinogenでMiller一派、Weisburger一派により詳細に研究されてきた。そして肝以外の肺、耳管、小腸等にも腫瘍を作る。そのNの位置でhydroxy化をうけたN-OH-AAFはAAFより更に強い発癌性を示す。そして皮下投与より肉腫を形成する様になりAAFのproximate carcinogenとして理解されている。このhydroxylationはNの位置が特異的に発癌性と結びついており、例えば7の位置のOH化は発癌性の増強を来さない。又一般に投与された発癌剤の代謝は早く局所からす早く運び去られるが、金属のChelate例えばN-OH-AAFのCu-chelateは局所に長く止り、例えば皮下投与により発癌性が更に高まると云われている。
 今回使用したものは上のAAF、N-OH-AAF、7-OH-AAFとN-OH-AAFのCu-Chelateの4種である。以上をDABの時と同じ様にDMSOに溶解しMediumで稀釋し、ラット肝primary cultureに投与して形態像の変化を追求した。
 DAB、3'MeDAB投与で見られたと同じ様な細胞質空胞変性、核の萎縮が肝細胞に認められ、AAFでは10-3.5乗M、N-OH-AAFでは10-4.5乗M、7-OH-AAF、Cu Chelateは10-3.5乗Mで著明であるが、それ以下の濃度で変化は弱くなる。更にDABでは特異的に認められなかったが、AAFとそのderivativeでは間葉系、中間系細胞の核が一般に大きくなり、大小不整が著しくなっていた。特に核は膨化し、核質は淡くなり、核小体が円形化し縮少する。そしてN-OH-AAF、Cu Chelateが特にこの傾向が強かった。今迄の経験からこれと同じ様な変化はAflatoxin投与で見られた。
 肝細胞培養の対照として肺培養に同じ様な投与実験を試みた所、核の膨化、核質の淡明化、核小体の縮少化が見られ、この変化は肝細胞の障害濃度と一致していた。
 (II)いろいろの問題があり発癌機構とどの程度関係があるか疑問が多いが、定量的に扱える便宜さのため、又将来是非とも肝、肺、等のprimary cultureに応用するための練習として、之等AAF derivativeをHeLa細胞に投与してその影響を調べた。
 4者の毒性の程度は前号(I)に記載した方法により調べた。肝臓培養細胞より、ややHeLa細胞の方がsensitiveであり、AAFの10-3.5乗M、N-OH-AAFの10-4.5乗Mで強いcytotoxicityを示した。
 形態学的変化としては、核の大小不整、核の膨化、核質淡明化、核小体の縮少化が見られ、特にN-OH-AAFに強かった。又変性細胞が混在し、Mitotic cellは見られない。変性細胞の中には核膜だけが残り、核質がすっぽりぬけている様なものもある。
 先月の報告の(II)で記載した高分子合成能についてN-OH-AAFを投与して調べてみた。N-OH-AAF投与後1時間でradioactive precursorを入れ、1時間中の摂り込み率を測定した。点線で毒性濃度(3日間培養した結果)を示した(図を呈示)。DNA、RNA合成能は共に同じ率でおちるが、蛋白合成能は10-4.0乗Mでもおちない。
 DAB等は10-3.5乗Mという毒性を示し始める濃度で結晶が析出するので、強い障害像を調べることは不可能である。その点AAFも同じであるが、N-OH-AAFは10-4.5乗Mでcytolyticであり、10-3.5乗Mでも結晶が析出しないため、上の実験が可能になったばかりでなく、今後の実験に良い材料と云える。
 (III)6812号の(III)(IV)、6901号の(I)(II)について報告してきた培養(ラット肝primary cultureにDAB 10-3.5乗M投与を2度行ったもの)は、肝細胞部と思われる部位に山もり状の増殖?が見られたので、subcultureした。しかし依然旺盛な増殖は見られない。

 :質疑応答:
[勝田]薬剤処理してから何日後の観察ですか。
[梅田]薬剤は添加してから除かずに培養して4日後に観察しています。
[吉田]核小体が小さくなっているという表現がありましたが、実質的に小さくなるのではなく、核が大きくなったので小さく見えるのではありませんか。
[梅田]実質的に小さくなっているようです。
[勝田]顕微鏡映画をとって連続観察すればよくわかるでしょう。
[難波]電子顕微鏡でみれば核小体の内部の変化もはっきりわかるのではないでしょうか。AAFはRNA合成を阻害するので核小体が小さくなるとも考えられますね。
[吉田]DNA、RNAの合成がとまっているのに蛋白だけ合成されるというのは、どういうことでしょうか。
[梅田]それは2時間という短時間での観察だからだと考えています。
[堀川]発癌剤のスクリーニングに形態的変化だけを調べてゆくのでなく、梅田班員のデータのように取り込み実験を平行させてゆくべきだと思います。
[梅田]DABでも実験しようと思っていますが、DABは10-3.5乗Mの濃度で結晶が出てきてしまうのです。Nハイドロキシのようによく溶ける形にして実験するつもりでいます。
[勝田]細胞はHeLaを使っていると、先に進んでから困るのではありませんか。
[梅田]HeLaを使うと技術的にやさしいので使っているのですが、もちろん肝細胞で実験したいと思っています。
[勝田]スライドで見せられた、あの塊は肝細胞ですか。
[梅田]DAB処理後増殖してきたもので、肝細胞の塊だと思っていますが・・・。
[勝田]パイルアップしているものが、変異してどんどん増えてゆく細胞群だとは限りません。弱った細胞が押し上げられて塊になっていることもありますから。
[梅田]細胞をバラバラにするのに、DNaseを使うのはよい方法ですね。
[勝田]酵素は気をつけて使わなくてはいけませんね。トリプシンだって生きている細胞に作用しないと云われていますが、胸腺の細胞にトリプシンをかけると、細胞は死にませんが、グロブリンの顆粒がつぶれてしまうのです。

《安村報告》
 ☆Soft Agar法(つづき)
これまでの報告にCQ-42とかCQ-40とか、Cula-TC、Culb-TCとか、書いている本人もときどき錯覚するくらいですので、読者のみなさんはきっとまごついておられるでしょう。くわしいHistoryは月報のNo.6812に勝田先生がのべられていますのでもういちどがらんください。(略図を呈示)
 Cula、Culbはrat tumor lineのことで、それらの再培養系はそれぞれCulaTC、CulbTCという名です。こんご命名者の書式にしたがってCulaTCとかきます(Cula-TCでなく)
 1.CulbTC細胞:前号(6902)の2.でふれましたようにCulaTCにひきつづいて、このCulbTCをSoft agarの中でColonyをつくらせることにやっと成功しました。前回の実験(月報No.6901)では35,000個/plateでは1コのcolonyもできなかったので、今回は細胞数をふやして行いました。予想に反して好成績でした。(結果は表を呈示・21日培養で82,500/plate以上は数えられないくらいに多いコロニー数)各希釈あたりplateは4枚です。mediumは日水製の変法Eagle MEM(1xConc.)です。41,250/plateのところで21日めの判定で38コのColonyが数えられた。ところが28日めの判定ではもはや数えきれないくらいのColony数になってしまった。21日めに見落すくらいの小さなコロニーが多数あったのかもしれない。しかし、これらのコロニーはいずれも小さく径が1mm以下で、2mm以上に達するものはみとめられなかった。mediumが1xConc.のために栄養不足なのかもしれない。次回は再び2xConc.のmediumで再実験の必要があろう。これで前回のCulaTCでの成功と加えてやっとSoft agar法の目安ができたところです。
 2.C3-sとC3-l細胞のs-l dissociation:AH7974細胞からSoft agar法でクローニングしたクローンC3系のsmall size colony系のC3-sとlarge size colony系C3-lのそれぞれについてsmall-largeのdissociationをしらべてみた。目的はこのdissociation rateとTD50(tumorigenic dose 50%)との関係をしりたいからである。(表を呈示)C3-s系のefficiencyはわるく、しかもlarge colonyは1コもみられなかった。このことは前号でのべられたC1-sとC1-lのdissociation rateに大きな開きがなかったこと、C6-3の系ではlarge colonyができなかったことなどと比べて、クローン間の差を示すものか?

 :質疑応答:
[堀川]今のスライドのコロニーは寒天の表面のコロニーですか。寒天層の中の方にあるコロニーですか。
[安村]寒天に細胞を混ぜてかためているので、寒天層の中にあるコロニーが殆どだと思います。
[堀川]C3-lのクローンからも出てくるコロニーはsmallの方が沢山出てくるのですね。つまりsmall sizeの方がドミナントなのですね。
[安村]そうです。
[吉田]smallの系からlargeが一つも出ないのですね。smallの方の数の総計はかなりな数になりますから、その中からlarge sizeのコロニーが一つも出ないということは、largeからはsmallが出るがsmallからはlargeが出ないということでしょうか。
[堀川]安村班員は予測として、どちらのコロニーが本当の悪性のものだと考えておられますか。しかし、それを決めるにはlargeからもlargeだけ出てくる系を樹立しないとはっきりさせられませんね。
[安村]現在large系を寒天にまいて、又large、large・・・とコロニーを拾うもの、又small系はsmall、small・・・と拾うものというやり方でクローニングを続けています。
[堀川]large sizeのコロニーの細胞と、small sizeのコロニーの細胞と個々の細胞の大きさに違いがありますか。largeの方が大きいのでしょうか。それともコロニーを作って居る細胞の数が違うのでしょうか。
[安村]はっきり判りません。細胞の大きさはあまり違わないように見えますが。
[梅田]それぞれの系の細胞の性質についてはどうでしょうか。たとえば、山田班員に電気泳動度を調べて貰うとか。
[安村]目下動物へ復元接種して悪性度をみているだけです。そのうちに、クローンとして安定したら電気泳動も調べてみたいと思います。
  ☆☆☆安村報告の始めにCula-TCでなく、CulaTCとするとなっていますが、命名者は今後Cula-TCと書式を決めましたので、お間違いなく☆☆☆

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(11)
 培養哺乳動物細胞が外界から受けたDNA障害を少くとも修復し得る能力をもつことはこれまで報告してきたUV線、X線さらには4NQOを用いた実験から示された。今回はやや主題から脱線するきらいはあるが、X線障害をうけたDNAの修復機構を解析するためにBUdRを用いて行なった一部の実験結果を報告する。
 前報においてすでにふれたごとく、BUdRは放射線感受性増感剤として知られており、培養細胞は勿論のこと微生物のDNAの中にthymineと置換して取り込まれることが知られている。放射線に対して最大の感受性を示す状態にまでBUdRを取り込んだ際の、培養細胞および微生物におけるthymineに対するBUdRの置換率を、代表的な実験結果からpick upしsummarizeした。(表を呈示)
 またBUdRとaminopterinの存在下でmouseL cellsを種々の時間培養した後、種々の線量でX線照射した際のコロニー形成能でみた細胞のX線感受性の違いを調べた(図を呈示)。BUdRを含むmedium内で、前もって培養する時間が長いほどX線に対する感受性が増大することがわかる。
 つまりsemiconservative modelに従うDNAの複製に伴ってDNAの一本鎖にBUdRが取りこまれた際よりも、二本鎖ともにBUdRが充満された場合の方が細胞のX線に対する感受性は増大することが明らかに示された。
 一方Lcellsを種々の線量で照射した直後にBUdRとaminopterinを含くむmedium内で種々の時間培養し、その後正常培地で培養してコロニー形成能で細胞の生存率をみた(図を呈示)。X線照射後に細胞をBUdRで処理した場合には、もはやX線感受性増感という現象は認められない。つまり以上の結果から考えられることはBUdRはX線照射によって障害をうけたDNAの修復に関与するenzymeのactivityあるいはその修復過程等を阻害することによってX線に対する感受性を増大させるものではなくて、どうもDNA分子自体を不安定なものとしてX線照射によるdamageを増大させる作用の方が真の感受性増感の機作のようである。これらについての明確な解答は今後の実験にまちたい。

 :質疑応答:
[吉田]ジニトロフェノールなど添加するとどうなるでしょうか。放射線をかけて後、ジニトロフェノールを添加すると染色体の断裂の回復が起こらないのです。
[堀川]そうですね。4NQO処理後、低温におくとDNAの修復が起こらないことからも考えられる事ですね。カフェインなどを入れてやった場合障害部位のリンクが起こって、オリゴヌクレオタイド位の大きさで切り出そうとするのを阻害するので、回復出来ないのではないかと考えられています。修復を間違えることが発癌機構の一つになるのではないかとも考えられますね。切り出されたままでいれば、死ぬとしても変異は起こらないのではないでしょうか。4NQO処理のあとアデニンでもほうり込んでやれば、間違った修復が行われて早く発癌するというようなことはないでしょうか。
[勝田]耐性細胞で染色体が減ったものは、DNA量も減っていますか。
[堀川]DNA量も減っています。DNA量が減ることによって放射線によるヒットの回数が減るので耐性が上がると考えられています。
[安藤]X線耐性は徐々に高まるのですか。
[堀川]そうです。耐性獲得と共にカッティング酵素の活性が高くなるのではないかと考えた事もありますが、動物細胞では細菌の場合のように簡単には考えられませんね。動物細胞はダメージを受けて、それが全部回復しなくても生き延びられるので、事がややこしくなります。細菌の場合ならダメージがすぐ致死にひびいてきます。
[安藤]細菌に比べると、動物細胞では機能していない遺伝子が沢山ある、という事でしょうか。
[堀川]そうだろうと思います。今の動物細胞は生き死にでしか事を判定出来ないのが困ります。酵素活性などを取り上げて問題に出来れば、もっと面白い仕事が沢山出るでしょうのにね。
[吉田]生化学的なマーカーを持った細胞を沢山作ると面白い仕事が出来ますね。

《安藤報告》
 4NQOは4NQO耐性度の高いL・P3細胞のDNAに障害を起すか。
 細胞によって4NQOに対する感受性が異る。私が現在使用しているL・P3は4NQOに対して比較的感受性が低い。この原因には種々な事が考えられる。例えば(1)4NQOを速やかに代謝し、非発癌性物質にかえてしまう。(2)細胞の高分子成分、特に核酸、蛋白との結合が感受性の高い細胞に比べて弱い。又結合したとしても、与える障害がより少い。等々。今回は(2)の問題、特にDNAに対する障害作用を調べてみた。
 Full sheetになったL・P3細胞に10-5乗Mとなるように4NQOを与え30分処理後、直ちにアルカリ性蔗糖密度勾配遠心法により、DNAに鎖の切断が起るか否かを調べた。結果は(図を呈示)、コントロールではsingle strandとなったDNAは分子量が大きく、遠心管の底に沈んでしまうのに対して、4NQO処理細胞のDNAは多数の鎖切断が起り、heterogeneousな分布を示していた。すなわちDNAに対する障害作用は耐性度の高いL・P3でも起る事、したがって、耐性の原因を他に求めなければならない事を示している。又この障害の修復速度も今後検討の予定である。さらにはRLH-5についても比較してみる予定である。

 :質疑応答:
[堀川]4NQO処理後、最初から30分以後はderivativeにして押し出してしまうのに、改めて4NQOを加えると、又取り込むというのはどう考えますか。
[梅田]何日かおいて4NQOを作用させるのでなく、短時間で何回も加えてやれば、4NQOの取り込み量はどんどん増やせるわけですね。押し出したderivativeは、4NQOとどう違いますか。
[安藤]大きさだけからみても、4NQOより大きいもの、小さいもの、色々とあります。
[勝田]そのものが何かということを早く調べてみなくては・・・。
[安藤]今しらべ始めた所です。
[堀川]4NQOと4HAQOとは吸光度で分けられますか。
[安藤]蛍光をみれば、わかります。
[梅田]生きた細胞でなく、細胞の抽出液に4NQOを加えて加温しても矢張り4NQOが壊されるでしょうか。
[堀川]感受性のちがいはリダクションの活性によるものだと思います。L・P3よりエールリッヒの方が耐性があるようですね。
[勝田]この前の月報に書きましたが、RLH-5・P3という合成培地DM-120でどんどん増殖する系が出来、これはL・P3より4NQOに感受性が高いから、これも並行して実験に使ってみる予定です。
[難波]in vivoの実験で、肝細胞は4NQOのターゲットcellにならないということが発表されています。
[梅田]しかし、in vivoよりin vitroの方がはっきりした結果が出ることがあります。in vivoでの細胞レベルのことは、あまりはっきり断言出来ませんね。それから、DABとかNGとかの場合もDNAの切断があるのかどうか調べておう必要がありますね。
[安藤]NGの場合はRNAにも蛋白にも結合するが、どちらについた場合に変異を起こすか調べたデータがあります。結論は蛋白に結合すると変異を起こすということでした。
[堀川]4NQOはDNAを切断しないというデータも出ています。実際には4HAQOになって切断していると考えられます。

《藤井報告》
 AH130と正常肝細胞(ラット)の抗原について:
 先月の月報で、Exp.011469,D2の沈降線はAH130のhomogenate in 0.5% Na-deoxycholate-PBSに正常ラット肝のhomogenateに存在しない抗原を示す旨を報告しました。すなわち前号でAH130-extractとウサギ抗AH130血清(FR80)の間に出来た沈降線A1、A2、A3の中、A1は正常肝extr.との間の沈降線と連なり、A2はspurをつくって正常肝抗原と共通する抗原を示すが、spurの形からは、AH130extr.にあって正常肝にない抗原の存在を示していた。A3沈降線は、AH130extr.の高濃度、すなわち細胞数1億cells/mlと5,000万cells/ml相当のところでFR80抗血清の間にみられたものであるが、正常肝extr.にない抗原を示すものであった。
 AH130extr.に特有とみられたA2、A3のうち、A2沈降線は、AH130extr.の2,500万cells/ml相当濃度とウサギ抗正常ラット血清(FR51)との間に極めて弱く認められた沈降線L1'とつらなるかどうか−もし融合すれば、A2沈降線を生じたAH130の抗原が、正常肝にもふくまれることになる。しかしL1'沈降線が、正常肝extr.とFR51血清の間の沈降線L1とspurをつくり、しかもそのspurの形からL1'をつくるAH130extr.中の抗原は正常ラット肝extr.にある抗原と共通部分を有する。交叉反応性を示すような抗原ということにもなる。
 この辺の事情をもう少し詳しく解析する目的で、最も明瞭な沈降線をつくる抗原の濃度を用いて(抗血清は常に1/1稀釋を用いている)、double-diffusionを行ない、かつ、沈降線の蛋白染色の他に、多糖体染色をも行なって解析の補助とした。(夫々沈降線の略図を呈示)
 Exp.013169.C:
抗原:AH130、1/1、1億cells/ml。NRL、1/1、2,000cells/ml。
 抗血清:FR51=ウサギ抗ラット肝血清、FR80=ウサギ抗AH130。
 Exp.0131169.D
 抗原:AH130、1/2=5,000/ml。NRL1/2=1,000/ml。
 上の二つの実験は、前号のExp.011469.D2の右半分を再現すると共に、AH130extr.とFR80、FR51両抗血清に対する沈降線の関係を検討したものである。Exp.013169.D.はExp.013169.C.におけるAH130と正常ラット肝extr.の1/2濃度を用いた。Exp.C.D.の何れにおいても、示された沈降線は同様であり、前号で問題としたA2、A3沈降線・・AH130に特有であるかどうか・・は、L1、L2、L3と融合する像を示さなかった。
 A2、A3沈降線が、NRLextr.とFR80の間につくる沈降線L4とspurをつくるか、融合しそうに見えるが、この関係は同様にしてつくった沈降線とpolysaccharide染色することによって明瞭に示された。
 Exp.013169.H.多糖体染色:
 抗原、抗血清はExp.013169.C.と同じ。
 多糖体染色はperiodic acid-NADI reaction法によったもので、Schiff's法より簡単で特異性もつよいとされている。
 染色終了後も、多糖体染色されなかった沈降線は白色の沈降線として残っており、解読が容易である。淡紫に染った多糖体(glycoprotein)の線はNRLとFR51の間のL2と、FR80との間のL4(FR51の間の線と共通する)のみで、AH130の側の沈降線は全く染っていない。すなわちAH130の沈降線形成抗原は多糖体性のものでなく、従ってA2、A3線とL4、L2とは別の抗原によって、たがいに無関係に形成されたものであることがわかった。
 以上の成績から、異種血清(ウサギ抗AH130)を用いた実験に基づく限り、AH130細胞抽出液中にあって、正常ラット肝に無い抗原(群)の2ツが示された。この抗原は、多糖体性のものではないようである。ということは、この抗原が、膜抗原に起原するものでないのかもしれない。この辺は、更に検討したいところである。
 しかし、異種抗血清を用いて指標とするかぎり、種特異抗原の問題もあり、癌化による抗原の変化をみるためには、現われる沈降線が複雑で、解析を誤まるおとし穴があって先人の失敗も少なくない。早急に同種および同系の抗癌抗血清を作って、発癌過程の抗原変化の解析という本番に入りたいと思っています。

 :質疑応答:
[難波]抗血清のタイターは揃えてありますか。
[藤井]大体80位ですが、正確にはあわせてありません。
[梅田]細胞膜はどの分劃にはいりますか。
[藤井]どの分劃にもはいっています。
[梅田]AH-130の抗血清をRatで作れば、もっとはっきりすると思います。細胞膜の分劃を、チェックする必要がありますね。
[勝田]AH-66の培養株でRatにtakeされなくなったものがあるのですが、その抗原性がどうかも調べてみると面白いでしょう。
[吉田]培養で悪性化したものの途中経過とか、そのAH-66のように悪性だったものでtakeされなくなったものとかを、染色体のマーカーと組合わせて調べてみると面白い仕事になりますね。

【勝田班月報・6904】
《勝田報告》
 動物細胞の培養内増殖に対するリゾチームの影響:
 LysozymeはFlemingがヒトの涙や鼻汁のなかから見出した抗菌性物質で、もし云うならば非特異的抗体のようなものである。しかし、そのような物質が一つの機能しか持たないと考えてしまうのは早断で、何か未知の別の作用も持っているのではあるまいか、と思い、色色な細胞の培養に添加してみた。その内の若干のデータをここに示すことにする。
 [第1図]ニワトリ胚心のセンイ芽細胞:(以下それぞれ図を呈示)
 CEE(Chick embryo extract)を培地に入れておくと、リゾチームが細胞増殖を促進するが、CEEを抜くとその促進がさらに顕著になるので、この実験では抜いている。リゾチームを、500μg、1000μg/ml入れると明らかに増殖促進がみられている。CEEを加えた対照はさらにこれよりも増殖がよい。(CEEの中にもかなりリゾチームが含まれていることは想像できる。)2週間実験でもこの促進効果は継続した。そして培地からリゾチームを抜くと、すぐこの促進効果は消えて行った。
 [第2図]ニワトリ胚心センイ芽細胞(不活化リゾチーム):
 それではこの増殖促進効果が、これまで知られている“細菌を殺す"酵素作用によるものかどうか、を知るため、リゾチームの殺菌作用を失活させてみたのがこの実験で、Meはメチル化、NBSはNBS化、いずれも殺菌作用、水解作用の失われたリゾチームである。結果は、これらも同じように促進作用を有していることが示され、促進効果は既知の酵素作用によるものではないことが判った。培地のなかにはアミノ酸も蛋白もたっぷり入っているのだから、別の酵素作用も考えてみなくてはなるまい。
 [第3図]ラッテ肝癌AH-130細胞:
 これは株細胞ではなく、動物からとり出したばかりのAH-130である。500μg、1000μg/mlに加えてみると、500μgで明らかな抑制がみられた。これはしめた、と別のラッテ腹水肝癌にあたってみた。
 [第4図]ラッテ腹水肝癌AH-66細胞(培養株):
 [第5図]ラッテ腹水肝癌AH-7974細胞(培養株):
 これらは何れも何年間も培養した細胞株である。 AH-7974は復元接種すると高率にラッテを腫瘍死させるが、AH-66はかなり大量に入れてもtakeされない。
 ところがこの両者の場合には、リゾチームによって反って増殖が促進されてしまった。腫瘍の種類の差によるものか、新鮮な細胞と株細胞とのちがいによるものか、これだけでは未だ判らないが、前者ではありまいか。

《山田報告》
 前回に引続きRLC-10の表面構造に及ぼす4NQOの直接影響をくりかへし経時的に検索した結果を図に示す(図を呈示)。No.6902に書いた同一条件の成績と、殆んど同一結果と考えます。即ち4NQOを細胞に接触させた直後4時間目には、一過性の表面の破壊(腐食?)が起るせいですが、シアリダーゼ処理により細胞電気泳動度は若干低下しますが、1日目には既に回復してこの酵素の影響は殆んどなくなり、3〜4日目頃より再びシアリダーゼ処理により泳動度は低下して来ると云う成績を得ました。
 しかし従来悪性細胞にみられる様なシアリダーゼ処理による0.1μ/sec/v/cm以下の低下は認められず、この時点での悪性化の証明は出来ませんでした。
 そこで振り出しにもどって4NQO処理により起される悪性変化をどの様にしたら経時的に追求出来るかを考へなほしてみました。その結果次のごとき実験の必要性を感じました。 1)現在正常細胞として用いている細胞RLC-10は既にシアリダーゼ処理によりその泳動度の増加が著明にみられないので(No.6902に報告)、original肝細胞にくらべて何らかの変化が起ってゐると考へざるを得ず、従って新らたに確立した肝細胞を用いる必要がある。
 2)4NQO(3x10-6乗M)の1回〜3回の接触により発癌したCQ39(Culc)、CQ40(Culb)、CQ42(Cula)株の細胞電気泳動度はいづれも悪性型を示さず、それぞれをラットに復元して出来た腫瘍からの再培養細胞のみに悪性型の泳動度を示したと云う過去の成績から考へると、この条件で発癌するCell populationはあまり高くないと考へられる。
 従って、4NQO一回処理での表面構造の変化を細胞電気泳動法により検索する事は、技術的にかなり困難であると思われる。
 しかし岡大のExp.7(1)-1或いはExp.7(2)-2株にみられる様にくりかへし長期間接触した際の悪性細胞の発生の密度はかなり高いと云う成績を得て居ますので、次回は、くりかへし4NQOを接触させる経過中の細胞の泳動度を測定すれば悪性化の時点を明らかにすることが出来るかもしれないと考へました。しかしその様なくりかへし4NQOを接触させると、細胞の破壊や増殖能の低下を来たし、細胞の泳動度の測定が困難になるかもしれません。
 今月は病理学会に発表するべく、各種腹水腫瘍細胞の細胞電気泳動度を総まとめしてみました。(表を呈示)(N)はシアリダーゼで処理後の細胞、Cal.はM/10ヴェロナールメヂウムに10mM濃度にCaCl2を加へた際の細胞電気泳動度です。いづれも、増殖期と末期の細胞を測定し、更に皮下に移植して腫瘤を作り、これを鋏で細砕して測定したものです。
 一般に悪性度の強い細胞程、シアル酸依存荷電量が多く、また上皮性悪性腫瘍細胞はカルシウム吸着性が増加して居ます。皮下に移植すると、細胞処理の影響もあり、一般に低下しますが相互の関係はだいたい同一です(壊死細胞があるとかなり低下します)。

《佐藤報告》
 ◇4NQOにより悪性変化したラット肝培養細胞の電子顕微鏡学的研究(経過図を呈示)
 4NQO未処理対照肝細胞は培養476〜578日のものを使用した。
 [結果]
 対照ラット肝培養細胞は形態学的に肝実質細胞由来と思われるが、長期培養株ではその確定的な証明は困難であった。
 4NQO処理、変性変異株の特徴は、golgi Sacの空胞化、粗面小胞体、ならびにミトコンドリアの膨化と核の軽度な不正形化である。
この変異細胞の動物復元で生じた腹水型腫瘍は、上皮性と繊維芽細胞との中間型の如き形態を示す。核の不正形が目立つが、しかし変異培養細胞にみられた細胞小器官の空胞化はみられなかった。皮下に形成された固型腫瘍は、腹水型腫瘍細胞に類似した細胞が著明に増生した結合織の中にみられた。この著明に増生した結合織産生性の繊維芽細胞が宿主に由来したものか、培養内に含まれていた繊維芽細胞の変性変化したものか現在不明である。 腹水型腫瘍の再培養細胞の形態は4NQOにより培養内で悪性変異した細胞に類似していた。また、この電顕的観察の結果、ラット肝に由来する培養細胞には、起源の異なる細胞の混在が示唆された。以上のことを模式的に示したのが以下の図である。尚、全ての細胞株に於て、virus、PPLOなどは見い出されなかった。                    (それぞれに図を呈示)
 コントロール株:1)動物体内の肝細胞に比べER、ミトコンドリア、golgi complexが、やや膨化する。2)細胞が肝実質細胞に由来したか、潤管由来か、胆管に由来したものか不明。3)間葉性と思われる細胞が数%に混在。
 4NQO処理変異株:1)核の不正形化。2)golgi Sac、S-ER、ミトコンドリアの膨化著明。
復元により生じた腫瘍:腹水型・1)細胞は上皮性と間葉性との中間型を示す。2)核の不正化。3)細胞小器官の空胞化はない。4)コラーゲン繊維を含む細胞が5%ぐらいにみられる。この存在の意味は不明。 固形型・1)著明な結合織の増生。2)核の不正化。3)空胞化(-)。
 腹水型腫瘍の再培養株:1)4NQO処理変異細胞に似る。2)10%以下に間葉性由来と思われる細胞が混在する。3)腹水腫瘍にみられたコラーゲン繊維を含む細胞はみられない。

《高木報告》
 1.NQ-7
 4NQOの実験については月報6810以後全くふれず、専らNGの実験についてのみ記載してきましたが、本号ではこれについてまず報告します。NQ-7というのは、4NQOにより明らかなmorphological transformationをおこした実験系です。
この中4NQOを2x10-7乗mol 198時間作用せしめ、さらに10-6乗molを4時間作用せしめた(T-4)について、作用後約200日でWKA newborn ratの皮下に200万個細胞数を接種しました。同時にcontrolの細胞も同数接種しました。transformed cellを接種したratは約40日後に、3/4にtumorの発生を認めましたが、約20日後にregressしてしまいました。これは黒木氏の云う所謂M1に相当するものかも知れません。control cellを接種した4疋のratには、tumorの発生は認められませんでした。またcontrolおよび4NQO 10-6乗molを計4時間作用せしめた(T-1)の細胞をLH+Eagle's vitamins+10%CSのsoft agarに10000ケまいてみましたところ、4週間後にcontrolではcolonyなく、(T-1)では30〜50ケのcolonyがえられました。現在これらのcolonyをpick upしているところです。
 2.NG-4
 1)NG-4 cellsを接種して生じたtumorのRecultureの再接種。
NG-4 cellsを接種してWKA ratに生じたtumorを再培養し、えられたtumor cellsと思われるStrain cellsを76日目に100万個、newborn WKA ratの皮下に接種した。接種後1週間から4/4にtumorの発生をみとめましたが、中1疋は3週後に死に、他の1疋は約5週後に肺炎で死にました。現在2疋だけ生残っていますが、この中1疋はtumorの部に潰瘍を生じ、残る1疋は左前肢の麻痺を来しています。tumorそのものはNG-4 cellsを接種した時生じたtumor程に大きくはありません。肺炎で死亡したratのtumorのhistologyはやはりpleomorphric sarcomaでした。
 2)再培養の観察
 1.)No.2 rat tumorの培養
月報6903に示した写真のような細胞で、growthは4日間に7倍程度、Na pyruvate、glutaminの添加は、特に増殖をよくするようなことはありません。この細胞を1000、500、100とP-3 petri dishにまいたところ100まいたものでは2〜3ケのcolonyが、500、1000まいたものでは可成りの数のcolonyがえられました。これらのcolonyをみると、morphologicalにいくつかに分けられます。まず、わりにflattな感でcytoplasmにgranuleをもった核小体の大きいどちらかといえば上皮性をおもわせる細胞よりなるもの、つぎにこれと大体同じようなflatt名細胞よりなるがpleomorphismのつよいcolony。さらに、networkを作りやすい繊維芽細胞様細胞よりなり、しかも円形細胞がその上にpile upしたcolony−これは細胞がふえて来るとほとんど円形細胞ばかりのようにみえて来る−。それとごく少数の繊維芽細胞よりなるcolonyなどです。これらをisolateすることにつとめています。
 2.)No.3 rat tumorの培養
 growthはあまりよくなく、大小さまざまの核小体の大きい上皮様細胞とnetworkを作る傾向のつよい繊維芽様細胞よりなり、後者は円形細胞を伴っています。
 3.)No1.rat tumorの培養
 円形細胞と繊維芽様細胞を主体とする細胞集団が、繊維芽細胞の中にcolony状に増殖しています。前者は腫瘍細胞と思われるが、これには少数ではあるが、丁度L細胞を思わせるcolonyもあり、肉眼的に透明な繊維芽細胞のsheetの中に白いcolonyとしてはっきり認められます。腫瘍細胞の分離を試みると共に、これら細胞の共存状態についても観察中です。
4.)No.3(T1-1)tumorの培養
No.3 rat tumorを移植してえられたtumorの再培養です。これも、現在No.1 rat tumorの再培養同様、繊維芽細胞中に腫瘍細胞のcolonyが点在して増殖しています。
 これら細胞の写真は次回の月報で供覧します。

《安村報告》
 ☆Soft agar法(つづき)
 前号(月報No.6903)のdiscussionの線にそって、今回はAH7974TC細胞からえられたクローン系のSmall colony−Large colonyのdissocitionをしらべた実験結果をお知らせします。 1.C6-3S細胞:この系はSmall colony由来です。MediumはEagle MEM(日水)1xに10%のCS。(それぞれ表を呈示)表にあるようにわずかにLarge colonyの出現がみられます。判定は4週間たってからです。
2.C1-SS細胞とC1-LL細胞の比較:C1-SSはsmoll colonyからsmoll colonyへと、C1-LLはlarge colonyからlarge colonyへとそれぞれ2回クローニングした系です。
 結果は表にみられるごとく、両者にS-L dissociationのrateにはみるべき差がありませんでした。前々号(No.6901)にのべられたC1-SとC1-Lとの比較のデータを、いまいちどみくらべてください。そこでも両者の差はあまり明らかではありませんでした。どうやらこのC1系ではSmall size colonyとLarge size colonyとの間にははっきりした違いがないようです。SとLとのtumorigenicityの違いも(そのデータもいま動物が死に始めていますので、次回に報告できるでしょう)あまりないのではないかと思われます。
 3.C1-SS細胞、C3-S細胞、C6-3S細胞間の比較: C1系、C3系、C6系のそれぞれのSmall colony由来株の比較の結果は、C6-3S系のみからはlarge colonyの出現はみられなかった。

《安藤報告》
 (1)4NQOのL・P3細胞DNAに対する障害及びその修復について
 月報No.6906に書きましたように、4NQOは比較的耐性度の高いL・P3細胞のDNAにもsinglestrand breakを起す。今回はその点を更に詳しく追究した結果を書きます。
 1)4NQOによるL・P3 DNAのsingle strand breakのtime caurse
 10-5乗Mの4NQOを15分、30分、60分と作用せしめるとbreak数は増え、生ずるsingle stradのDNAのsizeは小さくなって行く。これはいずれも4NQO一回の投与である(図を呈示)。
 2)4NQOにより生じたsingle strand breakはrepairされるか
 4NQOを10-5乗Mで30分処理し、細胞を洗い、新鮮な培地DM120の中で3時間回復させた。(図を呈示)30分間処理直後、1時間回復させた後、3時間回復を起させた後にそれぞれ分析した。この実験に於ては30分処理によっても前回程は切断が起こっていない。したがってその点の再現性はあまりよいとは云えない。しかしながら明らかに1時間、3時間と回復期の時間が長くなるにつれて一たん切断されたものが再結合を起している事がわかる。したがってL・P3細胞は4NQOにより生じたsingle strand breakを修復する酵素系を持っている。又この事がL・P3細胞の耐性の基礎かもしれない。このsingle strand breakのrepairの再現性はあまりよくない。全く同じ条件で行ったつもりの次の実験が、あまりよくは修復が起っていない。 但し、本実験に於ては分解産物の大きさを推定するために、referenceとしてbacteriophageλのP32-DNAを同時に遠心した。この結果、4NQOにより生じたsingle strandの分解産物の最低分子量は約1.7x10の7乗くらいである事がわかった。
 3)4NQOによりdouble strnadの同時切断が起るか。
 以上の実験から4NQOはL・P3細胞DNAにsingle strand breakを起し、又細胞はそれを修復する事がわかったわけだが、それではもしこのsingle strand breakがat randomに二重鎖DNAの上に起っているのだとしたら確率的に当然二重鎖の両方の同じ場所でsingle strandbreakが起る事もありうるわけである。すなわちdouble strand breakが起る事になる。この点を調べてみた。今度はL・P3 DNAの二重鎖の水素結合を切らないように中性の蔗糖密度勾配遠心法で調べた。(表を呈示)control DNA、これは底に沈む。4NQO 10-5乗M、30分処理、60分処理の結果である。図から明らかのように、4NQOはDNAの二重鎖の同時切断も起している。しかもこの時の非常に大きな特徴は、切断産物の大きさが極めて均一な事である。非常にシャープな単一ピークを与えている。又single strand breakの時に見られたような、切断数の経時的な増加は見られなかった。すなわち一定のsizeのままとどまっている。
 4)4NQOにより生じたdouble strand breakはrepairされるか。
 single strand breakの場合は、これが生じても二重鎖の間の水素結合が保持されていれば、少なくも見かけ上はDNAは切断の起る前の状態を保つ事が出来るように考えられている。しかしながら二重鎖の同時切断が起った場合は、たとえヒストンの支えがあったとしても、もはや物理的にもとの状態を保てるとは考え難い。すなわち修復が極めて難しい事が予想される。しかし細胞はそれをやってのけるかもしれない。実験方法は前と全く同様に4NQO、10-5乗M、30分処理後4時間の回復を行わせ中性蔗糖密度勾配遠心法により分析した。(図を呈示)図は30分処理後、その後2時間回復、4時間回復を行わせたものである。結果は、予想通り二重鎖の同時切断は細胞にとって直すのに難し過ぎるようだ。この点再実験を行い確認された。なお今回もbacteriophageλDNAをreferenceとして共沈させた。
 (2)4NQOのRLH-5・P3細胞DNAに対する障害及びその修復について:
 前にも書きましたようにL・P3細胞は4NQOに対し比較的耐性度が高い。今回は、4NQOに感受性の高いRLH-5・P3細胞を用いて(1)と同様な解析を行ってみた。なお、この細胞は“なぎさ"培養により変異したラット肝由来の細胞で合成培地DM120によく増殖する。
 (図を呈示)この細胞DNAも4NQO処理によってsingle strand breakが生ずる。しかしこのbreakのrepairに関しては起っていると思われるが、この実験だけからは結論出来ない。中性密度勾配によるdouble strand breakの誘導及びその修復をも試みた。結果は、図からも明らかなようにこの細胞に於てもbreakは生じ、しかも4時間の回復後においても修復は起ってはいないようだ。更にこのRLH-5・P3細胞のDNAの二重鎖切断により生じたDNAはL・P3のそれと比較して、かなり小さいようだ。それは図のP32-λDNAの位置と比べてみると明らかである。なおλDNAの位置よりこれ等のDNAの分解産物の分子量は容易に計算されるが、これ等の続きは次号にまわします。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(12)
 放射線感受性増強剤としてのBUdRを含くむ培地内で、あらかじめ細胞を培養してからX線で種々の線量照射するとコロニー形成能でみた細胞の放射線感受性は確かに増大する。このことについての結果は前報までに報告してきた。
 今回はこうしたBUdRのもつ放射線増感剤としての機構を解明するため、あらかじめ10μgBUdR/mlと5μg aminopterin/mlを含くむ培地内でmouse L細胞を96時間培養したのち、種々の線量のX線で照射し、照射直後の細胞内DNAのsingle strandの切断率を正常培地内で培養した対照区のそれと比較してみた。(DNA single strandの切断の分析には例によって5〜20%alkaline sucrose methodを用いた)。
 (図を呈示)結果は図に示すように、BUdRを含くむ培地内であらかじめ96時間培養した細胞では、2,000R、5,000R、10,000R照射された直後にDNAがやや正常細胞のそれに比べて低分子のものに切断されることがわかった。然し、コロニー形成能でみたBUdRの放射線感受性増強率をこのsingle strandの切断の上昇で説明するには、BUdRによるDNAの切断率の上昇が少なすぎるようである。このことから考えられることは、BUdRによる増感機構はむしろsingle strandの切断率の上昇よりもdouble strandの切断率を上昇させることに起因するのではあるまいかということである。これについては次報で報告したい。同時にBUdR処理によって誘起されたsingle strand scission(一本鎖切断)が再結合し得るかどうかについても現在検討中である。

《梅田報告》
 Varidaseの影響
 Rat liverの、monolayer culture作成時に、今迄trypsin及びSpraseを使用してきた。 Trypsin処理だけでは組織がねばねばになりmeshを通し難いが、Spraseの使用でねばねばが軽くなり、meshでの濾過がし易くなる。しかし、まだ充分と云えない。前々回の班会議で、難波さんにvaridaseを使用すると非常にさらっとして細胞の収量が多くなるとの指摘をうけたので、その点について検討してみた。
 実験群として(1)rypsin(モチダ)3,000HuH 処理15'。 Varidase液 0.5mlを加え、更に15'処理したもの。(2)Trypsin 15'処理后Sprase(100u)を15'処理したもの。(3)Trypsi 15'処理后、Sprase 100uとVaridase 0.5mlを15'作用させたもの、3群について検討した。確かにVaridaseを加えると酵素液がさらっとなってねばねばした感じは全く残らない。正確は比較はならないが、wet weightから細胞の収量を計算すると、(3)が一番良く、次に(2)(1)であった。しかし30万個cells/mlで培養を開始すると(medium LE+20%CS)、(1)、(3)はgrowthが悪く、(2)が一番良いgrowthを示した。
 2回目に殆同じ実験を、varidaseの量を減じ0.3mlとしrepeatしてみた。結果は酵素作用后、さらっとすることに変りなく、wet weightから計算した細胞の収量は、この時は特にvaridase使用群に増したとは思えない。
 次に生えてきた細胞をSubcultureするのに、trypsin液とvaridaseの併用を行ってみた。Trypsin単独のsubcultureに較べ数日后のgrowthは明らかにvaridase使用群が悪かった。
 今の所ここ迄で、もう一度更にvaridase濃度を下げて実験してみたいと思っているが、結論的に云えることは、varidaseはかなり毒性が強く、余程注意して使わないと具合が悪い様である。更にgrowthしてくる細胞については、特に肝細胞が障害をうけ易い様にも思えないが、定量的観察でないのでなんとも云えない。

【勝田班月報・6905】
《勝田報告》
 A)肝癌AH-7974の毒性代謝物質:
 これは昨年度まで班員だった永井克孝博士との共同研究であるが、永井氏の渡米後、永井氏の御弟子であった東大・教養・生物の星元紀氏が、代って化学的分析を担当して下さっている。
 これまでAH-7974を培養していた培地は、[20%CS+0.4%Lh+D]であった。4日間位培養した後、Collodion bagを通して高分子を除き、それをカラムにかけるのであるが、御承知のようにLhにはポリペプチドが沢山含まれていて、分析が厄介である。そこで、このポリペプチドを含まぬ培地でAH-7974を増殖させられぬものかと、色々検討したが、CSを透析してみると(D-CSと略)、10%加えるのが至適であった。[10%D-CS+DM-120+10%D]で培養してみると、4日まではふえたが、以后は数が減ってしまった。この4日迄の旧培地を正常肝細胞のRLC-10株に加えてみても毒性が現われなかった。これは、やはりAH-7974が活発にふえている状態でなかったためと判じ、もっと良い培地を探した。
 たまたまこの頃、色々な細胞についてinositol要求をしらべていたが、AH-7974がこれを要求していることが判った。
 そこで[10%D-CS+80%DM-145+10%D]の培地で培養してみると、これが大成功で、実によくふえた。DM-145というのは、DM-120にinositolを2mg/l追加した培地である。そこで、この培地でAH-7974を4日間培養し、その旧培地をコロジオン膜で濾過し、外液をRLC-10の培地に添加してみた。培地は[(20%CS+0.4%Lh+D)=7容:外液3容]である。対照は外液の代りにDM-145を同容入れた。
 細胞の接種量は64,000cells/tubeで6日後にしらべると、対照は1,004,000/tubeになっていたが、外液添加群はその30%位で274,000/tube。実にきれいに毒性があらわれた。
 B)各種細胞株のイノシトール要求:
 “なぎさ"変異肝細胞株、腹水肝癌由来の株を中心として、それらのinositol要求を[10%D-CS+80%合成培地+10%D]の培地でしらべた。合成培地はDM-120とDM-145を比較したわけである。詳細はいずれ報告することとし、結果だけを表示する。要求株はRLH-2、RLH-4、AH-7974TC、JTC-1(AH-130)。要求しないものはRLH-3、RLH-5、AH-66TC、RTH-1(RTM-1胸腺細網細胞のなぎさ変異株)であった。
 C)4NQO処理後の経時観察実験
 ラッテ肝RLC-10株を4NQOで処理後、経時的にその染色体の変化、復元移植性、細胞電気泳動像の変化を追い、且連続的に顕微鏡栄華撮影で形態の変化を追う実験である。
 第1シリーズ(Exp.#CQ60):
1968-11-19:4NQO処理(3.3x10-6乗M、30分)
1969- 2- 7(70日后):細胞電気泳動(1)
-2-26(89日后):細胞電気泳動(2)
-3- 1(92日后):復元接種(1)(JAR-1、F32、生后1日、I.P.500万個/rat、対照とも2匹宛)) -3- 5(96日后):染色体標本(1)(見られる標本ができた最初)
-4-23(145日后):細胞電気泳動(3)(腫瘍型の泳動像が認められた)
-4-24(146日后):4NQO再処理(条件同前)
 第2シリーズ(Exp.#CQ63):
1969 -3 -4:4NQO処理(3.3x10-6乗M、30分)直後より5日間、細胞電気泳動測定(0)-(5)。
  -4-23(50日后):細胞電気泳動(6)(腫瘍型の泳動像が認められた)
   -4-24(51日后):4NQO再処理(条件同前)。観察継続中。

《佐藤報告》
 従来4NQOによるラッテ培養肝細胞(Exp.7系)については屡々報告して来たが、Exp.系の追試実験として、別の培養肝細胞(RLN-251)を使用して発癌に成功した。復元動物の一部は現在、観察中であるが、大体まとまったので整理した(表を呈示)。
 以上の実験結果から結論されることは、株化された培養肝細胞は割に簡単な4NQO処理によって確実に発癌することである。今後はなるだけ若い培養のものを使用して発癌の過程を追求したい。
《高木報告》
 1.No.3 rat tumor再培養の復元実験:
 昨年12月10日にstartしたNo.3 rat tumorの再培養によりえられた細胞の形態は、先の月報(6904)に書いた通りですが、この100万個をWKAとWistarのhybrid newborn rat 6疋の皮下に接種しました。約1ケ月後より6/6にtumorの発生をみとめ、現在どんどんtumorは大きくなっております。histologyは未だです。これで、No.2 rat及びNo.3 rat tumorより培養した細胞はmixed populationであるにせよとも角tumor cellsであることがわかりました。 2.Soft agarによるNQ-7のcolony formation
NQ-7は先の月報(6811)に報じたように4NQO treated thymus cellsで、T-1、T-2、T-3、T-4(T-5は培養中止)の4株はcontrolに比し形態の変った状態で現在も継代を続けております。これら4株についてsoft agarによるcolony formationを試みてみました。方法は、LH1%の割にagarに加えてautoclaveして後、glucoseと重曹を加えた培地に、base layerはagarの濃度が0.5%になるように、top layerでは0.33%になるように、予め用意したLHにEagle's vitamineとcalf serumをfinal concentrationの倍量および1.5倍量含む培地とまぜ合せて各soft agarの層を作りました。
 まだ1回の実験ですが、10000ケの細胞をseedして4w後の判定で、T-1 約50ケ、T-2 3〜4ケ、T-3 無数、T-4 20〜30ケのcolonyを生じました。T-1に生じたcolonyは密なものと疎なものの2種類がありますが、その他に生じたcolonyは円形の密な(図を呈示)図の如きものです。このcolonyを生ずるefficiencyと復元してtumorを生ずる能力との、相関をみたいと思っているのですが、T-1、T-2、T-3はこれまで各6、2、4疋のnewborn WKA ratにもどして74日目の現在tumorの発生をみず、ただT-4のみ先月報の如くregressはしたけれど3/4にtumorの発生をみました。さらに検討の予定です。

《山田報告》
 前回に引続きRLC-10のラット肝細胞に4NQOを投与した後の変化を追いかけてみました。 No.6904に4NQO投与直後の変化を報告しましたが、同号に検索したRLC-10細胞群を、4N-1(対象C-1)、4N-2(対象C-2)と名付けて、前者を114日目に、後者を50日目に検索した結果を報告します。(図を呈示)4N-1群の細胞は対象では殆んど変化を示しませんが、4NQO処理した細胞では、電気泳動度の僅かな増加と、シアリダーゼ処理により0.104μ/sec/v/cmの電気泳動度の低下をみました。従来、悪性化の規準を『シアリダーゼ処理により0.10μ/sec/v/cm以上低下する肝細胞』と一応定義しましたので、その意味では悪性化の規準ぎりぎりに入る成績です。しかしこの場合は丁度境界ですので、悪性化と云へるかどうかわかりません。この状態でこの4N-1をラットに復元してもらう様にお願いしてありますが、その結果がどうなりますか?
 次に(図を呈示)4N-2の細胞群の成績は若干予想外です。その解釈に困って居ます。対象の細胞群C-2もシアリダーゼ処理により0.077μ/sec/v/cmの電気泳動度の低下をみました。(従来のラット肝細胞でこの様な低下をみたことはありません。勿論従来の理解に照して悪性化の成績ではありませんが。) しかも、4N-2群の細胞はシアリダーゼ処理により0.162μ/sec/v/cmの低下をみて居ます。この成績は、悪性化を示すものと思われます。しかし対象も変化して居りますので、これをどう解釈すべきかわかりません。この細胞もラットへ復元する様お願いしてありますので結果待ちです。この結果をみて考へたいと思ひます。 次に安村先生の寒天培地によりクローニングされたAH-7974TCのクローンC3-L株とC5-3-S株の細胞電気泳動度を調べてみました。これも予想外の成績です。クローニングされたにもかかわらず、両者の細胞電気泳動度には結構ばらつきがあります(図を呈示)。しかしoriginal株にくらべてややばらつきは少い様です。しかも両者の態度にはかなり差があります。C6-3-S株はシアリダーゼ処理により、その電気泳動度はあまり低下しないと云う結果は興味があります。このクローニング相互の関係については、明日再検すると同時に、他の3ケのクローン株についても検索する予定になっていますので、その成績と合わせて次号にまとめて報告し、考えてみたいと思って居ます。

《梅田報告》
 1.前回の班会議(6903)で、HeLa細胞にN-OH-AAFを投与して、H3-TdR、H3-UR、H3-Leuの摂り込み率を測定した結果について報告した。前回はH3-TdR、H3-URの摂り込み率が落ちる濃度でH3-Leuの摂り込みはおちなかった。今回は経時的に摂り込み率を測定してみた。方法は前回と全く同じであるが、N-OH-AAF投与と同時に各group別に0.1μc/ml H3-TdR、0.2μc/ml H3-UR、1μc/ml H3-Leuを投与した。30分后、1時間后、2時間后に2枚宛の培養を止めH3摂り込みをgasflow counterで計測し、その平均値を出した。2時間后のcontrolの摂り込みを100%として夫々の値の平均値の%を算出した(図を呈示)。
 H3-TdR、H3-UR摂り込みがN-OH-AAF投与と同時にstopして後少し恢復することがわかる。H3-Leuの摂り込みは前2者より良好である。故にN-OH-AAFはDNA、RNA合成系に直接佐用してimmediateな変化をもたらす様である。
 2.今迄rat肝のprimary cultureにDAB等を投与して、carcinogenesisを試みてきたが、最近少し考え方を変えて、AAFなどで、今迄成功しているhamster embryonal cellを使ったらと考えている。先生方の御意見を次回班会議でおうかがいしたい。

《安藤報告》
 4NQO処理により細胞高分子は分解されるか。
 (1)L・P3細胞について。
 フルシートになったL・P3に4NQOを10-5乗Mに加え30分処理をする。その後washし、新鮮培地中に移し24時間観察してみる。この間顕微鏡的には何らの変化も起していないように見えた。しかしながらその細胞の中では種々な変化が起っている筈である。加えられた4NQOが代謝され、蛋白、核酸等の高分子と結合する事、その際DNAの二本鎖は切断を受け、又修復もされて行く事等を報告して来た。
 今回はこの際、細胞当りのDNA、(RNA)蛋白質の総量の変化を求めた。(表を呈示)表に示されている通りDNAと蛋白質いずれも誤差範囲を考えるならば、分解を起しているとは云えない。この点確認実験中である。
 (2)RLH-5・P3細胞について。
 (表を呈示)次表はRLH-5・P3細胞についての同実験の結果を示してある。DNA含有量については3回の実験、RNA、蛋白質についてはそれぞれ1回ずつの実験を記載してある。この結果にするとRLH-5・P3細胞に於てもL・P3の場合と同じくDNA、RNA、蛋白質いずれも4NQO処理中及び処理後少くも24時間の間は安定に保たれているように思われる。
 RLH-5・P3細胞中へのH3-4NQOのとりこみのkinetics。
 L・P3細胞へのとりこみについては月報、班会議で報告して来た通りです。すなわち、H3-4NQOは細胞に与えられると15分〜30分以内にmaximumに細胞内にとりこまれ、急速に代謝され培地中に放出される。この間に細胞高分子との結合も起り、同様に15分でmaximumになり、ほぼ一定となり、培地を替え薬剤を除くと一たん結合した放射活性は失われて行く。RLH-5・P3に於てもこのkineticsは全く同様であった。

《藤井報告》
 ラット抗Culb血清の作製
 培養ラット肝細胞RLC-10の培養内変異過程における抗原性の変化を追求するためには、変異に伴なって獲得されあるいは消失する抗原のみに対する抗体をもった血清が必要である。これまでは、異種のウサギ抗血清を作って、double diffusion(Microplate法)でラット正常肝組織抗原とAH130等の出来上った肝癌の抗原の比較をおこなってきたが、こういう系では、AH130細胞だけに見られる沈降線であっても、それが果して癌特異抗原であるのか、あるいは正常肝組織抗原の量的な変化であるのかは決定し得ない。
 がん抗原を対象とするかぎり、syngeneic strainで得られる抗体が必要であるが、Cula、Culb等のsyngeneic strainであるJAR-1(医科研癌細胞)は、生産が間に合わず抗体作製には使用できないので、JAR-1になるべく近い系としてJAR-2(9代兄妹交配)を用いて、Culbに対する抗血清作製を開始した。
 2匹の成熟ラット(JAR-2)は、側腹部皮下2ケ所に計150万個細胞を、3月24日、4月7日に、4月19日、4月23日には各回計500万個cellsを皮下に注射され、最終注射后10日に心穿刺により5mlを採血した。注射したCulbは1回遠心後、water shock法で赤血球の混入を防ぎ、生食水で2回洗滌後注射した。4回注射のうち、第2、3回は凍結保存(-20℃)したものである。
 採血時、2匹のラットのうち1匹でCulb接種部位に径約1cmの腫瘍がみられ、13日現在は増殖傾向が見られる。他の1匹は径0.5cmの皮下腫瘍があるが、退縮の傾向にある。これから見ると、JAR-2のこの2匹は未だ充分Culbに対する抗腫瘍性を獲得していないと云える。近く増殖腫瘍の結紮をおこなって退縮させる予定であるが、ラットに抗腫瘍性を得さしめられなかった原因として、凍結保存細胞の注射がEnhancementに作用したものか、また、接種した細胞数が多すぎたためかも知れない。以上2匹のラット血清は、double diffusion(Microplate法)でCulb抽出液(0.2%DOC-PBS、5000万個/ml相当濃度)に対して全く沈降線を示していない。
今後は、Freund's adjuvantの利用も止むを得ない手段として考えている。同種異色抗体を沈降線で示すことは非常に困難であるので、更に多くのラットで強化免疫計画をじっくり立てる他ないと思われる。
 Double diffusion(Microplate法)による抗原分析を目標とする一方、現在やれる実験として、「ラット抗Culb血清、ラット抗Cula血清のcytotoxic活性、immune adherence活性をしらべて」培養肝細胞RLC-10、#CQ39、#CQ40、Cula、Culb等の同種抗血清に対する感受性を検討して行きたい。
 余談:このところ同種移植における細胞結合性抗体の他に、血清抗体の役割に目を向けて仕事をしています。マウスで腫瘍細胞を同種マウスの腹腔内に接種したとき、腹腔内の腫瘍細胞が宿主の小リンパ球に攻撃されている場面が以外に少ない(せいぜい数%以下)。細胞性免疫の能力の限度といったものを強く感じます。
 そういうことからも、液性抗体の役割を再認識すべきだと思うのですが、同種移植したマウス(C3H/He)の血清から、Sephadex G-200とDEAEカラムを用いて分けた、19S、7S、7SγI抗体についてみますと、19S、7S抗体の示すcytotoxic activityが標的細胞(C57BLのリンパ節細胞)をあらかじめ処理(Rt、30分間)すると、抑制される成績が得られました。7SγIは抗体を結合せず、標的細胞に先に結合して、補体結合性の19S、7S抗体の細胞溶解作用を抑えるものと考えられます。7S、19S、7SγI抗体も、まだdouble diffusion、immunoelectrophoresisで組織抗原との間に沈降線をつくってくれず、弱っています。

【勝田班月報:6906:4NQOの細胞DNAに対する障害と修復】
 A)各種細胞株のイノシトール要求:(各実験毎に増殖曲線図を呈示)
 先月の月報に一寸かいたが、手持の色々な株についてイノシトール要求をしらべたところ、仲々面白いことが判った。
 これをしらべるには、血清を用いることを避け、(表を呈示)表のようなDM系の合成培地を使い、それだけでは増殖せね場合のみ、3日間透析した仔牛血清を10%添加した。
 RLH-1〜RLH-5はラッテ肝細胞を“なぎさ”培養で変異させた株で、夫々イノシトール要求が異なり、RLH-1、RLH-2、RLH-4は要求性、RLH-3とRLH-5が全く要求していないことが判った。DM-120にはイノシトールが含まれて居らず、DM-145はその組成にイノシトールを2mg/lに加えたものである。但しRLH-3は無蛋白にするとイノシトールを若干要求している可能性もある。
 次にRTH-1株はラッテ胸腺細網細胞の株を“なぎさ”変異させたものであるが、これもイノシトールを要求していない。これらの内で現在合成培地DM-120だけで培養できているのは、RLH-3、RLH-5、RTH-1の3株である。
 これらを通じて感じるのは、イノシトールを要求しない株の方が、合成培地で増殖しやすいのではないか、ということと、我々の周囲の色々な株や亜株のなかには案外合成培地で増殖できる細胞があるのではないかということである。皆さんもぜひ試みて頂きたいことである。
 また、ある組織の細胞を合成培地で培養したいという場合、性質が若干変っても構わぬ場合は、わざと“なぎさ”培養で変異させて、合成培地に移すという手も考えられる。
 これらのイノシトール要求をしらべるとき、2mg/lに一律に加えてしらべたが、AH-7974(JTC-16)の場合のように10mg/lが、至適というような例(DM-147)もあるので、他の株の場合も一応しらべてみる必要がある。
ついで、というわけでL-929原株についてもイノシトール要求をしらべてみた。この場合は透析血清を入れた群と、入れない群と、両方についてしらべた。
 結果は、透析血清を入れた場合にはイノシトールを全く要求していないことが判ったが、蛋白を入れぬときは、どうもイノシトールを入れた方が増殖を促進されることが判った。Eagleは、HeLaはイノシトールを要求するが、Lは要求しないと報告した。彼の場合は透析血清を入れていたので我々の透析血清添加と同じ結果になったのであろう。蛋白のなかからイノシトールが遊離されてくるのか、それともイノシトールの代役をするものが出てくるのか、今のところでは何とも判らないが、今後の面白い課題の一つであろう。
 次にラッテ腹水肝癌由来の3株についてイノシトール要求をしらべてみた。AH-130由来のJTC-1、AH-66由来のJTC-15、AH-7974由来のJTC-16である。
 結果はJTC-1は明らかにイノシトールを要求しているが、JTC-15は要求せず、むしろ培地中に含まれていない方が増殖度が高いほどであった。JTC-16はきわめて顕著にイノシトール要求を示した。
 今後イノシトールの前駆体その他を用いて、イノシトール代謝をしらべて行くのには、この株は実に好適の材料といえるであろう。
 B)培養内で4NQO処理されたラッテ肝細胞の復元接種試験:
 肝細胞株RLC-10を用いた4NQO発癌の実験系をまとめて図にしたものと、復元成績の表およびそれをSchemaにした図を呈示する。
そのなかの#CQ60という実験は、はじめから経過を追ってしらべている系の内の第1seriesであり、4NQO1回処理だけで復元して陽性(まだ死んではいないが)になっている。その第2seriesにあたる#CQ63でも1回処理で変化があらわれているので、4NQOは1回処理で充分といえるかも知れない。
 RLC-10株は最近染色体数が42本の他に41本もふえてきたので、今後はもはや発癌実験には使わず、凍結してしまい、次の若い株(RLC-11、RLC-12)を使って行きたいと思っている。またラッテ肝の“なぎさ”変異株のRLH-5が合成培地内で活発に増えるので、これをクローニングして、合成培地内での発癌実験に使う、いわばモデル実験も併行しておこなって行きたいと思っている。もちろんRLH-5がたしかにtakeされないということを確かめておく必要があるが、この株は材料が純系になってからのJAR-1なので色々と好都合である。

 :質疑応答:
[高木]イノシトールを要求する細胞の場合、イノシトールの無い培地で4日間までは増殖しているのですね。4日から7日へかけて急に壊れているのは何故でしょうか。
[勝田]細胞のイノシトール消費量が非常に少ないという事ではないでしょうか。ですから培地からイノシトールを除いてしまっても暫くの間はプールで間に合うのでしょう。
[難波]濃度はどの位ですか。
[勝田]この実験では2mg/lです。しかしJTC-16で10mg/lの方がより増殖を高めるというデータが出ています。
[安村]Lの場合、合成培地だとイノシトールを添加した方が、増殖度が高いという結果が出ていますが、これは透析血清にイノシトールが入っているということでしょうか。又イノシトールが無くても増殖するが、あればなおよく増えるというのは矢張りイノシトールが何かやっているのでしょうね。私もイノシトール無しの培地でもコロニーは出来るが、イノシトールを入れた培地と比べると、コロニーサイズの上でずっと劣るというデータを持っています。
[堀川]血清の分劃中にイノシトールがあるかどうかも確かめた方がよいですね。
[山田]今のデータをみていて考えたのですが、イノシトール要求性のJTC-16、RLH-4はシアリダーゼ処理で著明に泳動度がおちる株細胞です。そしてイノシトールを要求しないJTC-15、RLH-3、RLH-5はシアリダーゼ処理では泳動度が殆ど変わりません。何か膜表面に関係がありそうですね。
[安藤]イノシトールはホスホリピドとくっついているわけですから、膜とは関係があるでしょうね。最近は核の中にもあるということが判っています。
[山田]チャージはどうなっていますか。
[安藤]イノシトールそのものはチャージはありませんが、ホスホリピドとついてマイナスチャージになります。
[安村]イノシトールの無い培地で飼うと細胞同士の附着が少なくなるようです。とにかくコロニーサイズが大きくならないのが不思議です。
[勝田]合成培地で簡単に継代出来る株細胞に共通しているのは、イノシトールを要求しないということのようです。RLH-1のような例外もありますが。栄養要求を調べるには透析血清を使ってはだめですね。結果がはっきり出ません。
[安村]合成培地で培養する時、大切なのはイニシアルpHですね。少し低い方が良いと思います。
[堀川]血清には強い緩衝能力がありますからね。
[吉田]RLC-10は樹立して、どの位たってから、実験に使い始めましたか。
[勝田]3年位でしょうか。もうそろそろ新しい株に切り替えようと考えています。
[吉田]株細胞を使うと、発癌剤による悪性化が早いようですね。初代培養ではなかなか悪性化しません。
[難波]確かに初代培養の方が悪性化の時期がおくれます。
[安村]しかし、株細胞を使うと再現性の高い実験をすることが出来ます。初代培養ではなかなかデータが一定になりません。血清の問題などが、大きな原因になっているのかも知れませんね。
[安藤]RLH-5を実験に使う場合、もとの動物−この場合ラッテの−抗原性をすでに持っていないかも知れないという難点があるのではないでしょうか。
[安村]何とか培養条件をもっと良くして、生体内と同じ条件で実験出来るように、細胞を維持したいものですね。
[勝田]肝細胞などは増殖せずに維持出来るのですから材料としては好適な訳ですね。
[梅田]しかし、黒木氏のデータが本当なら、発癌剤処理後にDNA合成をしなければ悪性化が起こらないということで、細胞が増殖せずに静止してしまっては、悪性化が起こらないということになって、都合が悪いですね。

《佐藤報告》
 §RLN-251の染色体分析
 この系は4NQOの処理群とその対照群について経時的に染色体分析を行っており、その間5、10、16、20、25、31、35、40の各回数処理した時点で動物復元を行っていた。今回はこれらの動物にtakeされた腫瘍の染色体分析の結果をそれぞれの同時点の対照群、処理群、と比較検討したい。(図および表を呈示)
 A.対照群と処理群の染色体
 対照群と処理群の染色体数の経時的変化を図にしてみると、染色体数では対照群も処理群も大した相違はみられなかった。即ち培養日数が進むに従って、染色体は正二倍体のものが減少し代りに偽二倍体が増えてくる。核型の異常と共に核型の不安定が目立ち、次いで低二倍体にモードが移る。その後低四倍体領域の細胞がみられるようになり、低四倍体と低二倍体の比率は逆転し、低四倍体が優位となってくる。以上のようなpatternが両群に等しく認められた。
 異常染色体、特にMarker chromosomeについて調べてみると、対照群ではlarge telocentric chromosomeが可成の頻度にみられたのに比し、処理群でみられるMarkerは図に示すような種類と発生頻度がみられる。即ち最も頻度の高いものはmedian-sized dicentric chromosomで、16回処理以後のものでは40%以上に認められた。次いでlarge metacentric chromosomeが各回のものに全般にわたり低率にみられた。対照群にみられたlarge telocentric chromosomeは全く見当らなかった。なおこの系以外の既に報告した系に多数認められたlarge subtelocentricのものは、31回処理のものに10%に認められただけである。
 B.腫瘍の染色体
 この系の復元動物に発生した腫瘍は腹水型のものが多く、一見再培養が容易で、染色体分析も楽かと思われたが、細胞の異型性が著明で思ったより染色体分析に手間どった。又充実腫瘍のみのものも二三みられたが、非常に堅く、脂肪粒が多く再培養に非常に困難をきわめた。ともかく10、16、20、31及び40回処理のものの復元動物のうち各々一匹づつの計5例の腫瘍の再培養を行い、染色体分析を行うことが出来た。
 各細胞は全般にBreakageが多数にみられ、その結果として生じる、Fragment、Minute、Acentric chromomoseが目立ち、染色体数の算定すら困難をきわめた。又更にTranslocation、triragical乃至はtetraragical figureもしばしば認められた。特に気付いたことであるが、一つの中期像の中で他の大部分の染色体はintactであるがsingle chromosomeがくづれたpulverizationのfigureもしばしばみられた。(以上の所見は処理群にも程度こそ軽いが認められている。)
 このうち算定の可能な中期像を選び染色体数の分布を5例につきみてみると、2nから6nまで広い分布を示し、3nと4nの間にモードを有していた。
 次いでMarker chromosomeについて調べてみると、処理群において半数以上に認められ、そして又この系での4NQOによるspecificなmarkerでないかと期待していたdicentric chromosomeは、期待に反して、median-sizedのものと、又別にtranslocationにより余分のchromatidが加わってlarge-sizedのものになったものの二種類が10回と40回処理のものにそれぞれ20%、38%に認められただけで、16回及び20回処理のものには全く認められなかった。
 これとは反対にlarge metacentric chromosomeのものは処理群のものより全般的に頻度は増えており、40回処理のものでは96%にも達している。次に他の系(既に報告したRLN-E-7、RE-5)において高頻度に認められたlarge subtelocentric chromosomeは31回処理のものに18%認められたのみであった。外にmarkerとして10回処理のものではsatelliteを伴ったmedian-sized subtelocentricが52%にも認められた。
 以上RLN-251の系における腫瘍の染色体分析の一部を報告しましたが、今後は今回報告しなかったもの及びRLN-251の全般にわたっての染色体変化について報告する予定です。

 :質疑応答:
[吉田]染色体の変化についてですが、マーカークロモゾームにあまりとらわれなくても、よいのではないでしょうか。4NQOの処理回数が多くなるにつれて悪性化が進む、そして染色体数のバラツキがひどくなる、そして動物にtakeされるようになる、その頃の染色体数は4倍体が多くなっている、ということで面白いと思います。
[勝田]クローニングしてみる必要がありますね。
[安村]そうですね。
[難波]現在やりつつあります。変異した系からコロニーを拾って復元してみましたが、結果はまだ出ていません。
[勝田]顕微鏡写真をみていると、悪性化したものの形態は2核以上のものが多かったようですね。本当の4倍体ではなくて2核の細胞の核が同時に分裂して4倍体のようになっているという疑いもありますね。
[安村]マーカークロモゾームを拾い出して移植すると、移植された細胞は動物にtakeされるなどということになると面白いのですがね。
[山田]4NQO処理の回数が増えると、細胞個々の悪性度が進むのでしょうか。それとも悪性細胞の集団が増えるのでしょうか。
[勝田]1回だけ4NQOの処理をしてから2群に分け、1群はそのまま培養をつづける、もう1群は何回か4NQO処理を重ねる、そして何カ月か後に動物に復元して両群の腫瘍性を比較してみると、もう少しはっきりするのではないでしょうか。
[堀川]何回も処理していると、耐性=悪性という細胞をセレクションする可能性もありますね。それから、耐性細胞の染色体数の減り方も面白いですね。私の耐性(放射線)細胞では、照射前3倍体のものが耐性を高めるにつれて2倍体までおち、暫くして4倍体に増え、そして又3倍体におちて落ち着いたというのがあります。
[吉田]生体では2倍体が必要最少限なのでしょうね。そして培養細胞では3倍体が多いようですね。
[堀川]生体では2倍体で間に合っていますがin vitroでは2倍体では生存のために不足なのではないでしょうか。昆虫の培養だともっともっと染色体数が増えてしまいます。
[藤井]培養細胞にリンパ球を入れて、リンパ球の幼若化をみて、培養細胞が変異を起こしたかどうか知ることが出来ませんか。
[梅田]癌患者の細胞を材料にして白血球の幼若化を起こさせ、H3チミジンの取り込み実験をやってみていますが、PHAの場合に比べると数値は1/10位しか出ませんが、何とかデータは出せそうです。
[勝田]しかし培養細胞での悪性化をみたい場合ですと、変異した事はわかっても、悪性化かどうかはわかりませんね。
[堀川]デュフュージョンチャンバーを使って、復元過程を追うことが出来ると、変異した細胞の移植性や悪性度などしらべられるのではないでしょうか。免疫関係では実にうまくデュフュージョンチャンバーを使っています。
[山田]免疫のように1週間単位で勝負のつけられるものはよいけれど、何カ月という長期間の実験ではなかなか難しいと思いますね。

《高木報告》
 1.NG-18実験の復元成績
この実験系は1968年6月11日、Wistar newborn ratの胸腺を培養開始してえられたfibroblastic cell lineを用いたものである。
 培養開始後179日目、18代目の継代後5日目の細胞にNG10μg/ml、acidic Hanksにとかして2時間、37℃で1回作用せしめ、直ちに洗ってfresh mediumと交換して培養をつづけた。
NG作用後にはgiant cellsを多く認めたが以後形態的にcontrolと著変なく、growth rateも作用後2代目よりcontrolと特に変りなかった。
 作用後17日目にcontrolおよび処理細胞の200万個を、Wistar newborn ratのそれぞれ6匹および2匹の皮下に接種したが、5カ月をへた今日いずれもtumorの発生をみない。
 さらにNG処理後113日目の、形態的にcontrolと特に変りない16代目の細胞200万個を、同じくWistar newborn rat6匹の皮下に接種した。接種したratはいずれも毛ばだって発育が悪かったが、controlの細胞を接種した3匹のratはすべて5週以内に死亡、また処理細胞を接種した6匹のratの中4匹も5週以内に死亡した。死因は肺炎で、死亡時tumorの発生はみられなかった。
 しかし処理細胞を接種したratの中生残った2匹は、いずれも接種後50日目頃よりtumorの発生を認めた。
 2回目の復元実験と殆ど同じ時期に行ったsoft agarによるcolony formationの実験で、control、処理細胞共、10,000cellsをP-3シャーレにまいたが、6週後controlは2つのシャーレに各21、28のcolonyを生じたのに対し、処理細胞は全くcolonyを生じなかった。この点はさらに検討しなければならない。
 この実験もcontrolの細胞を接種したratがすべて死亡しているので、早速追試実験にかかっているが、NG-4の実験でcontrolの細胞は培養開始後394日目でもnewborn ratにtumorを生じなかったので、ここに用いた細胞がNG-4に用いた細胞と同種のものとすればcontrolがtumorを作る可能性は少いと思う。
 NG-18がNG-4とことなる点は、培養開始後可成りたった細胞を用いたこと、NGを2時間しか作用させなかったこと、処理後113日目の形態的にcontrolと変っていない細胞を接種して50日でtumorの発生をみたことなどである。(略図を呈示)
 2.No.3 rat tumor再培養の復元実験
 月報6905にかいたように再培養細胞100万個を培養開始後93日目に、newborn ratに皮下接種し6/6にtumorを生じた。現在接種後60日をすぎ巨大な腫瘤になりつつある。なおこの中1匹は60日目に死亡し、1匹は62日目にsacrificeした。割に軟いnecrosisの少いtumorでmetastasisは認められなかった。(再培養のround cellとepithelial cellのコロニーの顕微鏡写真を呈示)

 :質疑応答:
[藤井]対照群の細胞を接種した動物が早い時期に死んでしまうのは何故でしょうか。
[高木]今の所、何故だかわかりません。
[勝田]復元実験の途中で、腫瘍死するには少し早すぎる時期に、原因がわからずに死んでしまった動物は、どう記載すればよいでしょうか。
[吉田]事故死とするより仕方がないでしょうね。
[堀川]胸腺の細胞がそれ以外の細胞より悪性化しやすいということはありませんか。
[高木]胸腺以外の細胞は使っていませんので、わかりません。
[堀川]私の実験では胸腺の細胞が簡単に、短期間に、自然悪性化してしまうのです。しかし、マウスとラッテは違うかも知れませんね。
[高木]勝田班長からNG自身の動態を追うように言われたのですが、NGには特異吸収もないので、アイソトープでも使わないと調べられないので、まだ手がつかずにいます。

《梅田報告》
 I.昨年来、DAB、Luteoskyrin、又AAF等をrat liverのprimary monolayer cellに投与して惹起されるAcute cytotoxicityを観察してきた。同時に之等はhepatocarcinogenをHeLa細胞に投与し、そのcytotoxicityの観察と更にN-OH-AAFの様な取り扱い易い物質について、その投与によって起るDNA、RNA、蛋白合成能の変化について検討してきた。之等はin vitro hepatocarcinogenesisの実験の単なる基礎的なもので本来の目的は第一段階としてin vitro hepatocarcinogenesisをconstantに起し得る系を作り出すことである。
 それ故今迄は上の実験に加え、DAB、Luteoskyrin、又AAFを投与して(あるものはcontinuousにあるものはintermittentlyに)長期に培養を続けてきた。途中contaminationなどできれた例もあるが、少くともすべての例で2〜3ケ月位でもluxuriant cell growthを示さなかった。培養は先細りで結局それ以上の培養を断念せざるを得なかった。
 最近ではDAB肝癌が♂に出来易く♀に出来難いことから、今迄の♀♂mixと異り、♂だけから培養をstartしAAFを投与してみたが、培養1ケ月で旺盛なgrowthを認めていない。
 ところでcontrolの無処置の培養ではどうか振り返ってみると、subcultureする毎にendothel様の細胞だけになっていつも継代困難であった。最近継代が旨く行った例でも3代目迄liver cellもgrowthしてくることが認められたがそれ以後growthは遅々としており、subculture出来ない状態である。
 この我々の行ってきたrat liverのprimary monolayer cultureでは明らかにliver cellのmitosisが観察されており、liver parenchymal cellも増えていることは確かである。しかし、培養が進むにつれて、所謂G0 stageの細胞が増えてくるのでないかという疑問が生じてきた。もしそうだとすると、黒木さんの云う発癌性変化のfixationのためにDNA合成が必要である、という考え方からすると、rat liverの我々の系では非常に成功し難いものではなかろうか、と云うこのになる。
 以上の様なことから我々の系で増生してくる各種細胞についての経時的なcellular kineticsを追いかける必要が痛感される様になった。考えてみれば、勝田先生も、佐藤先生も、先ずconstantにgrowth可能な細胞を得て、それから発癌実験をstartしている。
 II.上のいきずまりを解消したいのが一つの理由、第2に各種物質についての発癌性をin vitroで早く見出す方法の確立、第3にDAB等のorgan specificityが高い物質でも、そのproxmate carcinogen(例えばDABのbenzoyloxy誘導体でも)を使えばfibroblastでもtransformし得るのでないか、その証明をしたい、等の理由から、Hamster embryo cellのtransformationに興味をもった。
 N-OH-AAFを投与した時、Hamster embryo cell(5代目のもの)に対する毒性はHeLa細胞に対する濃度と殆ど同じで、10-4乗Mでかなりやられてくる。これを3日間培養後、普通の培地に戻して培養を続けていると、上皮性の大型細胞の出現をみ、細胞質の顆粒出現も特異的であった。
 Tryptophan代謝産物について調べてみた所、良く溶解せずsuspensionの形で投与したことになるが、発癌性のないKynurenineでは10-2乗Mでlethal、10-2.5乗Mで軽い増殖阻害を認め、又同じく発癌性のないKynurenic acidの場合は10-2乗Mでやや増殖阻害があり、10-2.5乗Mではcontrolと変らない。発癌性のある3-Hydroxy Kynurenine投与では10-2乗Mでlethal、10-2.5乗Mで60〜70%の細胞が障害をうけ、3日後培地交新して培養を続けた所、9日目には明らかなcriss-cross、piling up等の所見を見出した。
 その直後、上記細胞すべてLaboratory引越しの際のincubatorの故障のため、細胞をきって了った。

 :質疑応答:
[安藤]3-ハイドロキシ-キヌレニンは正常な代謝系にある物質ではありませんか。
[安村]栄養要求性の方からみて、トリプトファンの要求は大変範囲がせまいようです。ですから正常な代謝系の産物であっても、量が非生理的な量ですと、発癌に関係するのではないかということが考えられます。
[勝田]DABを動物に与えて発癌させる時、♂の方が♀よりも発癌率が高いと云われましたが、馬場氏のデータによると♀の方が発癌の時期がおくれるだけで、長期間の観察での発癌率はほとんど同じだということになっていますよ。
[梅田]私のしらべた所では、DAB発癌は性ホルモンに関係がある、それは発癌第一歩のDAB自身の変化が♀の肝ホモヂネイトより♂の肝ホモヂネイトに添加した場合の方が早く起こるというデータから考えられる、というのがありました。でも動物レベルとは多少ちがいがあるのかも知れませんね。

《安村報告》
 ☆Soft Agar法(つづき)
 これまでモデルとして取扱ってきたAH-7974-TC細胞の系での実験の結果をふまえて、こんごは4NQOによるin vitro malignancyとsoft agar法による細胞のcolony formationとの関係を追って行きたい。
 1.Cula-TCのLarge colony cellとSmall colony cellの比較:
 Cula-TCは、RLC-10をin vitroで4NQOで処理後、ラットに接種してえられたtumorの再培養系の一つで、これまでCQ-42と記載したことのあるものです。このCula-TCからSoft Agarでlarge colony由来と、small colony由来の系がとれた。(正確にいえば、Cula-TCから液体培地でrandomにcolonyが2つひろわれQ1、Q2と名付けて継代され、その後Soft Agarでひろわれたものです。ここではそのうちQ1由来のlarge colony cellとsmall colony cellが実験に供されました。(結果の表を呈示:接種細胞数1,250ではQ1-Lは平均103コ、Q1-Sは55コ、10,000では両方とも無数のコロニーができた)
 colony forming efficiencyではLの方がSより高く、約2倍ありました。できてきたcolonyのsizeはLの方がSより大きいのですが、いずれも2mm以上の径のものは見当りません。判定は4wめ。
 同時に行われたCulb-TCの系では10,000/plt.のところでもcolony formationはみられませんでした。
 2.RLC-10細胞とRLC細胞:
 上記1.のcontrol実験としてラット肝由来のRLC-10とRLCがsoft agarにまかれた。前者はJAR-1inbred由来、後者はJAR-2由来(F8のあたりのもので、inbredとはもうしがたいが)です。いずれも100,000/plt.のorderでcolony formationはみられなかった。
 3.ハムスター胎児細胞:
 Control実験として昨年来継代されてきているハムスター胎児細胞の8代めをつかった実験でも90,000/plt.のorderでcolony formationはなかった。
 ☆AH-7974TC細胞の復元
 1.C1-ss細胞、C3-s細胞、C6-35細胞間の比較:
 月報6904の3で行なわれたSoft Agarによるcolony formationの比較と同時に復元実験がなされた。つまりtumorigenicityのtitrationをやってみた。C1、C3、C6の系を0.05ml細胞浮遊液(PBS中に)/newborn ratに接種、細胞数は650,000から10倍稀釋で650まで脳内接種では、はっきりと差が見出せなかった。(結果表を呈示)
 ☆Soft agar法(つづき)
 (大学紛争のあおりをくらって、データをもちあるきながらも報告を書くに至らず、前号の月報6905にはシメキリに間に合わず、今月号に前号の分ものせてもらいました)。前号分のSoft agar法の1.にのべたQ1につづいて、Q2の系の結果から始めます。
 1.Cula-TC-Q2A細胞:
 Q2AのAはSoft agarでひろったcolony由来で假にAgarのAをつけてあります。現在では以下の実験からえられたlarge colony cellとsmall coloy cellの2系が分けられていますが、まだ、その2系についてのdissociation rateの仕事は進行中です。(結果は表を呈示)Cula-TC-Q1の2倍のefficiencyでした。
 2.Culb-TC細胞:
 前号分のSoft agarの1で1行書きたしました時はこのCulb-TCは10,000/plt.の接種でcolony formationがみられませんでした。今回は小さいcolonyながら(表を呈示)、接種数1,250/plt.で4週後の判定で4コ、10,000/pltなら44コと、とにかくcolonyをつくらせることができるようになりました。しかしefficiencyははるかにCula-TCの系におとることがわかりました。このCulb-TCはこれまでにCQ-40とも記載してきたものです。
 ☆AH-7974-TC細胞の復元(つづき)、(付)Cula-TCの復元.
1.C1SS細胞とC1LL細胞間の比較:
 Small colony cellとlarge colony cellとの間にtumorigenicityの差があるかを調べてみました。(表を呈示)期待に反してあまりよい結果ではありません。いちおう差がはっきりしません。次回にはもっと接種細胞数を減らして実験をしたいと思います。細胞数の少いところでは差がでるかもしれません。
 2.Cula-TC-Q2Aの復元:
 1,000個で1/3の率で、tumorigenicityはかなり高いと考えられる。
 3.C3-L細胞とC1-LL細胞間の比較:
 (表を呈示)この結果をこれまでの復元実験の結果とくらべてみるとC3-Lはどうやらtumorigenicityが他の系より低いようにみえる。C3-Sよりも低いように出たのがどうやらぐあいがわるい。期待したところはLがSより高くあってほしかった。SとLのtumorigenicityの差をいまいちど平行して実験する必要があるかもしれない。

 :質疑応答:
[安村]JTC-16のクローンの形態についての結論は、Lの方は細胞も大きくて核小体が多い。Sは細胞の大きさも小さくて核小体の数は少ないが、核小体1コの大きさはLより大きいということです。
[何人かが一度に]そうでしょうか。どうも少し混じっている感じのようだが・・・ガヤガヤガヤ。
[堀川]初めの着想では、Lの方が悪性を担っていると考えておられたようでしたが、動物への復元成績ははっきりそうだとは言えないようですね。
[安村]そうなのです。どちらの系でも600コの細胞接種で、動物が腫瘍死してしまいます。或いはもっと少ない数だと差が出るのかも知れませんが。
[堀川]完全に正常な、つまり悪性化していない細胞からLとSを拾って復元してみればどうでしょうか。
[安村]悪性化していない系からでは、軟寒天内にコロニーを作らせられないのです。
[勝田]LとSそれぞれの系の増殖度もしらべてみて、細胞が大きいのが本当か、或いは増殖が早くて大きくなるのか、結論を出す必要がありますね。
[梅田]軟寒天内で拾ったコロニーは、大きなコロニーでも小さなコロニーでも腫瘍性があるということですと、寒天では拾えない細胞を、何か別の方法でクローニングして、寒天でコロニーを作らない細胞には腫瘍性がないということを確認しておく必要もありますね。
[山田]これらのクローンは細胞1コから増えているのですか。
[安村]何回かクローニングを繰り返していますから、計算上では1コから増えていることになっています。それから軟寒天の中で増殖できるということが、腫瘍性と大体平行していると考えて、実験を初めているわけですが・・・。
[高木]腫瘍性の度合いとコロニーを作る%を比較するには、復元部位はどこがよいでしょうか。
[安村]部位は何れにしてもタイトレーションしなくてはなりません。

《山田報告》
 JTC-16(AH-7974TC)のクローン5株5系について、その電気泳動度を検索しました。(結果のヒストグラムを呈示)通常のごとく、未処理細胞M/10ヴェロナール緩衝液(pH7.0)に浮かせて測定した値と、30単位/0.1ml cell pack・37℃・30分のシアリダーゼ処理細胞の値の図です。
 いづれのクローン株も予想に反し、その電気泳動値は、細胞によりかなりのばらつきがあり、クローン化しても、個々の細胞の表面の性質は直ちにばらつくものと考へました。しかし株により、その平均電気泳動値にはかなり差があり、しかもシアリダーゼ処理による泳動度の低下は株により差が著しい様です。この成績と、各株の生物学的性質に関係があると面白いのですが、残念ながら生物学的性質も不安定で比較が出来ません。
 Cula、Culb株について同様にクローン株化して居るさうですから、その電気泳動度と生物学的性質の比較に期待したいと思います。同株は細胞電気泳動度からみても比較的ばらつきが少いので、そのクローン株も安定して居るのでないかと期待して居ます。

 :質疑応答:
[難波]膜の表面積が泳動度に関係しませんか。
[山田]泳動度はチャージの密度に比例するのでtotalのチャージには関係しません。
[堀川]核だけにして泳動度を比較できませんか。
[山田]核だけにするために、いろいろ処理しなくてはなりませんが、その処理の仕方によって結果が違ってしまい、きちんとしたデータにならないのです。
[吉田]染色体にすれば、差がでるのではないでしょうか。
[堀川]それは核よりも難しいのではないでしょうか。再現性がないという意味で。
[山田]RLT-1とCula-TCとは寒天内でのPEはどう違いますか。
[安村]Cula-TCの方がずっとPEが高くコロニーサイズも大きいです。
[堀川]寒天内のコロニーはどうやって拾いますか。
[安村]簡単です。毛細管ピペットでコロニーを吸い取り、液体培地を入れた試験管の中で、コロニーと一緒に吸いとられた寒天をくずして、液体培地の中でコロニーをsuspensionにするというわけです。
[堀川]細菌の手法の様にレプリカは出来ないでしょうか。
[安村]とても難しいですね。

《安藤報告》
 4NQOの細胞DNAに対する障害およびその修復について(前号よりの続き)
(i)4NQOの濃度変化のDNA鎖切断に対する影響
 月報No.6904にひきつづき、L・P3、RLH-5・P3細胞に対して4NQOの濃度を1x10-6乗M、3.3x10-6乗M、1x10-5乗Mと三段階かえて、37℃、30分ずつ処理をしDNA鎖切断効果を調べた。
 先ずアルカリ性蔗糖勾配遠心法により、single strand breakを調べた結果(図を呈示)、1x10-6乗Mでは両種細胞ともそれ程分解が起るとはいえないが、3.3x10-6乗Mになると明らかに切断が起り始め、1x10-5乗Mでは相当激しい切断が起っている。そしてその切断の程度は両種細胞において殆ど同じであった。この事実は少くとも、このDNA鎖切断の程度というcriterionで見るかぎり、両種細胞の間には感受性の差はないように思われる。
 次にDNAの二重鎖の同時切断に対する4NQO濃度変化の影響を調べた。細胞はRLH-5・P3だけである。結果は(図を呈示)、二重鎖の一方のみの切断の場合と同じく、3.3x10-6乗Mで二重鎖同時切断がはっきり観察されるようになり、1x10-5乗Mでは、分子量10の7乗オーダーにまで下ってしまった(ちなみに切断以前のDNAの分子量は2x10の10乗ダルトン)。厳密な分子量の計算は後でまとめる予定。
 (ii)L・P3DNAに4NQOにより生じた二重鎖同時切断は修復されるか
 月報No.6904に於て同設問を解く実験を行い、解答として修復されないと結論したが、その結論は4時間修復時間の限りでの結論であった。今回は24時間の修復時間を与えたらどうなるかをテストした。結果は(図を呈示)4時間の回復時間でははっきりしなかった修復が24時間後には極めて明瞭に起っていることが示された。この事実はsingle strand breakの修復に要する時間(〜3時間)は比較的短い事から考えると、やはり修復可能とはいえ、二重鎖に同時に切断が入った場合には、修復は一段と困なんのようだ。核のクロマチンの中でDNAの二重鎖が切れてしまえば、おそらく、クロマチンの構造がかなり変ってしまう事が想像される。したがってDNAの大きさとして元の大きさに戻ったとしてもとうてい元の正常なDNAに戻っている可能性は極めて少いであろう。
 現在私の使っている二重鎖切断の検出に使っている中性蔗糖密度勾配遠心法は寺島さん(放医研)の原法(BBA 174(1969)309-314)であるが、寺島氏自身蛋白のcontaminationがどれ程あるか調べておられないので、自分で調べてみた。
 方法はH3-チミジンでDNAを、C14-リジンで蛋白質をラベルし、適当な細胞数、適当なH3/C14比率となるように調整したサンプルを中性密度勾配遠心で短時間遠心し、得られたH3-DNAのピークにC14がどの程度入っているかを測定した。
 結果は(図を呈示)C14カウントはDNAピークには殆ど入って来ない。したがって扱っているものは確かにフリーのDNAであるとみてよい事になる。
 (iii)4NQOにより切断されたDNA分子は、どの程度の分子サイズか直線的密度勾配遠心を行う時にReference markerを同時に加えておくと、その位置と未知なサイズのDNAの位置関係から、分子量の計算が可能である。すなわち、Dをメニスカスからの距離、Mを分子量とすると、次の関係が成立する。D2/D1=(M2/M1)0.35・・・中性密度勾配の場合。D2/D1=(M2/M1)0.38・・・アルカリ性密度勾配の場合。
 そこでλファージDNAの位置から4NQO、10-5乗M、30分処理直後および、4時間回復後のDNAの大きさを計算してみる。又single strandにした時の分子量も計算してみる。4NQ0、10-5乗M、30分処理後、Recovery 0h、single stranded DNAとして1.0x10の7乗−5x10の8乗dalton、double stranded DNAとして9.4x10の7乗dalton。Recovery 4h、single strandedDNAとして>10の9乗、doubule stranded DNAとして9.4X10の8乗daltonとなった。
 二重鎖DNAとしては元の正常DNAの分子(2x10の10乗dalton)よりも約200分の1小さくなっている。又一本鎖DNAとしては相当なheterogeneityがあるが、大きなピークとしては二つあり、2.7x10の7乗及び1.8x10の8乗であった。
 次に問題になるのは、これ等のDNAの切断がどこで起るかと云う事すなわち特定の塩基の場所で切れたのか、又その場所は4NQOの結合場所とどう云う関係にあるのかと云う事であろう。この点に関してはただ定性的に「恐らく4NQOの結合した位置でDNAの切断が起っているであろう」と云うに止める。何故ならば次の表(表を呈示)から読みとれるDNA分子当りの結合4NQOの数と、DNAの切断数がほぼ見合っているからである。すなわち約300分子の4NQO/1分子のDNA。

 :質疑応答:
[勝田]DNAの切れた端が何なのか、調べる方法はないでしょうか。それから、どのベースに4NQOが結合しているかも調べてみて若し一致したら面白いですね。
[安藤]方法はあると思います。やってみます。
[堀川]二重鎖が24hr.で回復するということを、どう考えておられますか。
[安藤]さぁ、まだどういうことかわかりません。single strandより時間はかかりますが、回復することは確かです。
[勝田]unscheduleのDNA合成は切れた所だけを修復するわけですね。だとすると4NQOを処理したあと、チミジンやウリジン等、それぞれラベルしたものを順に入れて、取り込みをみればベースのどこがとんでDNAが切れたのかが解るのではないでしょうか。
[堀川]DNAの切れ方にもいろいろ有りますね。4NQOの場合はすぐ切れますが、UV照射の場合など、6時間もかかります。
[勝田]DNAレベルで4NQOを作用させたデータはありませんか。
[堀川]杉村氏がやっていますね。DNAレベルでは4NQOはDNAを切りません。切るのは4HAQOだということです。ですから私達の実験の場合にも与えたのは4NQOでも実際にDNAに作用しているのは4HAQOに変ったものだと思われます。
[安藤]腹水細胞の実験でも、4NQOを与えて細胞内にむすびついているのは4HAQOだというデータがありますね。ところで染色体はどういう具合に分裂するのですか。
 ☆☆そこで“染色体の複製の仕方、又分裂について”堀川班員から講義がありました。途中から吉田先生が救援されました。

《堀川報告》
 4-NQOによる培養細胞内DNAのSingle strand scissionsの誘導ならびにその再結合については従来、Alkaline sucrose gradient法ならびにAutoradiographyには4-NQO処理後の細胞のunscheduled DNA合成の検索などから証明してきた。今回は4-HAQO処理によるDNAのsingle strand scissionの誘起とその再結合について報告する。(図を呈示)種々の濃度の4-HAQOでEhrlich細胞を30分間処理した直後のDNAの一本鎖の切断をみたものであるが、4-HAQOでは1x10-4乗Mの濃度で顕著な切断がおきる。4-NQOの場合は1x10-5乗Mで同程度の切断がおきたわけで、4-HAQOは4-NQOの約10倍の濃度で切断を起すことがわかる。
 このことはcolony形成能あるいはChromosomalおよびChromatide aberrationなどでみた4-NQOおよび4-HAQOの細胞毒性の結果とよく一致する。
 また1x10-4乗M 4-HAQOで30分間処理した細胞を37℃で種々の時間正常培地中でincubateした後のDNAの再結合の様子を図に示す。incubation時間に伴って高分子のDNAにもどって行くことがわかる。
 またPS細胞、Ehrlich細胞およびL細胞を10-5乗Mまたは10-4乗M 4-HAQOで30分間処理した直後にAutoradiograph法でみたUnscheduled DNA合成の検索をした(表を呈示)。10-5乗M 4-HAQOで処理した後には3種の細胞ともにLight labelled cellsのpercentが増加してunscheduled DNA合成が起きていることがわかる。一方10-4乗Mで処理した場合にもLight labelled cellsのpercentは増加するが、これはHeavy labelled cellsのpercentが減少していることから、正常な細胞DNA合成が4-HAQOによって抑制されたことによるもので、真のunscheduled DNA合成をみているとは言えない。
 然も10-4乗M 4-HAQO処理による正常DNA合成のinhibitionはL細胞で最も顕著であり、PS細胞のそれが4-HAQOに対して最も抵抗性であることがわかる。
 これらの結果は従来調べて来たcolony形成能でみた3種の細胞の4-NQOoyobi4-HAQOに対する感受性の差異とよく一致する。
いづれにしても4-NQO、4-HAQO共に細胞内DNAのsingle strand scissionsをinduceする。しかもそのscissionsは細胞内で再結合されることがわかった。然しここで問題になるのは、4-NQOが細胞内で直接DNAのsingle strand scissionsを誘起するのか、あるいは細胞内に取り込まれた4-NQOが4-HAQOにreduceされてからこうしたDNA scissionsをinduceするのかということで、このことについて現在検討中である。

【勝田班月報:6907:4NQO処理L・P3DNAはTURNOVERしているか】
《勝田報告》
 4NQOによるラッテ肝細胞の培養内悪性化:
 昨年末より山田班員とも連絡をとりながら、4NQO処理後の肝細胞の変化を、形態、動態、染色体、細胞電気泳動、復元接種その他の面から並行的にしらべる実験をはじめ、これまで2系列の実験をおこなっているので、顕微鏡映画を供覧すると共に、その経過について説明する。実験番号はCQ#60とCQ#63である。株はRLC-10。
 I)CQ#60:1968〜1969年:
11-29:4NQO-3x10-6乗M、30分処理。
2-7(70日):細胞電気泳動。
2-26(89日):細胞電気泳動。
3-1(92日):復元接種(JAR-1、F31、生後1日、I.P.、500万/rat:→6-4(95日)に1/2死)。
3-5(96日):染色体分析。
 ☆1968-11-29〜1969-3-10顕微鏡映画撮影。
4-23(145日):細胞電気泳動(泳動値にばらつきが現われ、シアリダーゼ処理により値が落ちる傾向を示しはじめた)。
4-23(146日):一部の培養を4NQOで再処理(復元の結果がまだ判らなかったため)。
5-26(178日:細胞電気泳動(値に非常にバラツキが多く、且、シアリダーゼ処理で低下する)。
6-22(205日):染色体標本作製。
6-25(208日):細胞電気泳動。
6-26(209日):復元接種試験(JAR-1xJAR-2、F1、新生児I.P.、400万/rat、2匹)。
7-5(218日):現在、観察中。
 II)CQ#63:1969年:
3-4:4NQO処理(同上)、細胞電気泳動。
4-23(50日):細胞電気泳動。
4-24(51日):4NQO再処理。
5-26(83日):細胞電気泳動。
6-6(94日):復元接種(JAR-1♂xJAR-2♀、F1、生後4日、500万/rat、I.P.、2匹)
6-22(110日):染色体標本作製。
 ☆4-26〜6-23顕微鏡映画撮影。
6-25(113日)細胞電気泳動。
7-5(123日):現在観察中。
 III)顕微鏡映画の所見
 (a)CQ#60:
 1968-11-29処理直後より12-5までの間に撮影視野内の細胞は変性に陥り、全部死んでしまった。12-5より別視野では、すでに異常分裂も見られるようになり、しだいに細胞分裂が多くなった。12-11よりのカットでは、小型細胞と大型細胞の混在がみられ、小型細胞はその後しだいに細胞質を拡げて行った。異常分裂は依然認められた。12-23ごろより細胞間の密着性の低下が見られるようになり、小型細胞がケイレン状に動いていた。12-29よりは細胞の歩行性も若干みられ、細胞間の密着性ははっきり低下していた。1969-1-12よりのカットでも、小型細胞と大型細胞が混在していたが、小型の方に分裂が多かった。1-22にいたっても、細胞は一杯のcell sheetを作りながらpiling upは認められなかった。これらの所見は3-10(映画撮影をやめるまで)変らなかった。
 (b)CQ#63:
 この系は、山田班員の指摘するように、CQ#60とは電気泳動像でかなり異なる所見を示し、一旦悪性細胞のパターンを示しながら、また正常型に戻ってしまった系である。映画による動態観察でもCQ#60とはかなり異なる所見が得られた。
 1969-4-26処理直後より、細胞の変性が現われ、しだいに細胞が死んで行った。5-6より異常分裂も見られ、歩行性はほとんど見られず、5-22よりのカットでは細胞集団が拡がって行くにもかかわらず、colonyから細胞が脱出しない(集団性の強さ?)状況がみられた。6-17〜23に至っても同様の所見で、形態的に肝細胞に酷似しており、分裂もかなり認められたが、歩行性はほとんど見られなかった。

 :質疑応答:
[藤井]映画をみて考えたのですが、4NQOの処理をされた細胞のあの動きは悪性化した細胞と悪性化していない細胞とが混合しているために、それらが反発しあって起る動きだという風にもとれますね。
[山田]動きが非常に活発であったCQ60は電気泳動的には非常に悪性です。
[吉田]悪性化をmobilityの面からみようとするのは面白いみかたですね。4NQO処理をしていない細胞ではこういう動きは起こりませんか。
[勝田]起こりません。
[堀川]追い打ちをかけるという考え方も面白いですね。追い打ちが、すでに発癌剤処理によって悪性化した細胞の中のあるものを更に変異させるのでしょうか。それとも、その中の悪性のものをselectしてゆくのでしょうか。動物への復元実験をして、takeされるまでの期間とtakeされる率とで悪性度を測るとして、どう違ってくるか知りたいですね。
[山田]しかし動物へ復元する時は、大量の細胞を接種するので接種された細胞の中の悪性細胞の量が増している場合と、個々の細胞の悪性度が強くなっている場合との判定がつかないでしょうね。
[勝田]薬剤処理後の個々の細胞の運命と、大量の細胞を集団としてみたDNAレベルでの分析とをもっと結び合わせてみたいですね。
[安藤]L・P3の実験で1x10-6乗MではDNAが切れないが、3.3x10-6乗Mの処理ではDNAで切れてしまう。そしてRLC-10の実験では、やはり3.3x10-6乗Mで悪性化した、ということを考え合わせると4NQOでは3.3x10-6乗Mという濃度に何か意味があるように思います。
[難波]岡山での実験では1x10-6乗Mで処理していますが、1回ではだめで、最少限5回は処理しなければ悪性化しません。
[堀川]4NQOの場合、criticalな濃度は細胞数との関係が重要ですね。それも単に細胞数でなく、細胞密度が非常に問題です。
[堀川]4NQOの実験を進めてゆくと、どうも発癌に直接関係のある物質は4NQOでも4HAQOでもなく、その先のもののようですね。
[黒木]直接働いているのは、アゾ結合した物質だというデータを、遠藤さんが出していますね。

《山田報告》
 先月に引続き4NQO(3.3x10-6乗M、1回30分)に接触させた後のラット肝細胞(RLC-10)の変化を検索しました。今回はこれまで報告した分も併せて成績を示し、現時点での発癌に伴う変化についての考へをまとめてみました。(実験ごとにまとめた図を呈示)
 4NQOに接触させた直後の変化を二系統の肝細胞CQ62、CQ63についての検索は、接触後4時間では細胞の泳動度に変化がないか、或いはむしろ増加しますが、シアリダーゼ処理によりいづれもかなり泳動度は低下します。(これはシアリダーゼの酵素作用と云うより4NQOの直接障害により細胞表面に変化が生じて居るためと考へます。)
 接触翌日より泳動度は漸次低下し5日目になお低下の傾向を示すCQ62、そしてCQ63は4日目からむしろ増加回復している所見をみました。
 後者では、4NQOの直接影響がより少く、より早くその表面の変化が回復し初めてゐると考へました。
 回復しつつある5日目のCQ63のシアリダーゼ感受性が、なお回復して居ない5日目のCQ62に比較して大きいことには意味があるかもしれません。しかし5日目までの変化には悪性化を思わせる所見は全くありません。
 このCQ63について、引続き経時的に検索しました。
 CQ62は5日目までで打切りましたが、それ以前に同一条件で4NQOに接触させたCQ60の系統についてみますと、まず対象のRLC-10は、一回だけシアリダーゼ処理により著しく泳動度が増加し、正常肝細胞を示しましたが、他はすべて、この処理により全く変化せず、また個々の細胞の泳動度にばらつきの程度が比較的少く、悪性化の泳動度のパターンは全く示して居ません。
 これに対し4NQO処理群では著明な変化がみられました。まず70日目の細胞ですが、シアリダーゼ処理により泳動度が0.159μ/sec./V/cm低下して居ますが−この成績は測定した細胞の数が少くて必ずしも正しい値が得られて居るか自信がなかったので、以前には報告しなかったものです。従って直ちに細胞を増してもらい90日目に再び検索したわけです。所がこの時はシアリダーゼ処理により泳動度が僅かに増加する所見を得ましたので、この測定時にはいまだ悪性化せずとの結論を下したわけです。(この時点でラットに復元したらtakeされたとの事です。)
 しかし次の145日目の測定結果では明らかに悪性型の泳動度のパターンを示す様になりました。シアリダーゼ処理により泳動度が低下すると共に個々の細胞の泳動値にばらつきが強くなったのですが、これが179日目になると更に典型的となり、211日目にはいままで、in vitroに於いて4NQOで発癌した細胞にみられる様な悪性型の泳動度のパターンを示す様になりました。
 所が145日目に、この細胞の一部にもう一度4NQOを同一条件で接触させた系統の細胞は、179日目の検索結果ではシアリダーゼに対する感受性が一回接触した細胞より低くなりました。しかし、211日目になると、両者の成績は同様になって来ましたが、依然として2回4NQO接触細胞の方が、泳動度のばらつきが少ないと云う結果になりました。4NQOの2回目の処理が悪性化細胞にSelectiveに働いたと解釈したい所です。
 これに対してCQ63の態度はかなり違います。50日目に既にシアリダーゼ処理により0.162μ/sec./v/cmの低下をみましたが、この時の対象RLC-10も0.077μ/sec./V/cm低下して居ますので、その意味づけに迷って居ました。
 しかも84日目にも同様な変化を認めたので一応悪性化したものと解釈しましたが、113日目の細胞はシアリダーゼ処理により泳動度の低下が少なくなり、その時の対象細胞はCQ63の対象と殆んど同様ですので、悪性化した細胞群の細胞構成に変化を生じたのでないかと推定してみました。
 50日目の細胞の一部に再び2回目の4NQOを同一条件で接触させた像には、このCQ63の細胞のシアリダーゼ感受性は全くなくなり、それは113日目まで依然として反応しません。この解釈にもSelectionの考へを導入せざるを得ません。
 これらのCQ60、CQ63の細胞は、これまての変化の途上で幾回かラットに復元したとのことですので、その結果を待ちたいと思います。
 現時点での考へは「4NQOにより少数細胞が癌化した後に順調に増殖して非癌細胞を駆逐したのがCQ60であり、また発癌した少数の細胞が非癌化細胞の増殖により増殖を抑へられた(或いは現象した)場合がCQ63であり、また4NQOをくりかへして與へると、かへって癌化細胞を減少させる可能性がある」と云う推定を下しました。盲想(?)かも知れません。
 これまでの経験では、現在の条件による4NQOのラット肝細胞の癌化による細胞表面の変化は50日目〜150日目位に起こると想像されますので、CQ63はこれから烈しい変化が起こるかもしれません。

 :質疑応答:
[安村]私の方でも、4NQOで1回だけ処理をした細胞について軟寒天内でのコロニー形成能の変化を経時的に調べる予定でいます。
[勝田]一つの群の中から電気泳動度の早いものとおそいものとを、それぞれ集めてシアリダーゼ処理による泳動度のちがいをみてみる必要がありますね。
[堀川]フィコールのグラディエント法を利用して細胞を分別し、それぞれの分劃について泳動度をしらべてみるという手もありますね。それから4NQO処理の追い打ちをかけると、泳動度からみるとかえって処理前のものに近くなっているようなデータですが、これは耐性ということと関係があるでしょうか。4NQO処理回数が増すに従って細胞の4NQOに対する耐性は高まりますか。
[黒木]多少高くなるようですが、あまりはっきりした結果を得ていません。
[堀川]株細胞を使えば、クローニングをして耐性+と−の系をとり、それぞれの変異率をしらべて、耐性と変異との関連を知ることが出来るのではないでしょうか。
[難波]ハイドロカーボンを使っての実験では耐性+の細胞と−の細胞とでは変異率に差はないというデータが出ています。
[堀川]とすると追い打ちはランダムセレクションということでしょうか。
[山田]そんな感じですね。しかし、悪性度が直接加算されてゆくのか、セレクションされて強くなってゆくのかは、究明しなくてはならない問題だと思います。
[黒木]よほど計画的にやらなくては結果が出ないでしょうね。
電気泳動度測定の技術的なことについてですが、計数20コでは数が少なすぎませんか。せめて100コ位にしては・・・。
[山田]それは一応基礎実験でデータをとってあります。20コと100コでは全く同じ結果が出ます。万という単位ででも測定すればもっと何かわかってくるかも知れませんが、労力的にとても無理です。
[勝田]泳動度の違いと染色体数の違いは比較出来ないでしょうか。
[吉田]それをみるには、矢張り泳動度の違いによって、細胞を分別出来なくてはなりませんね。
[山田]エールリッヒの腹水細胞については、数値が細胞の大きさに比例するというデータが出ていますが、大きさには全く影響されない系もあります。

《安藤報告》
 I.4NQO処理L・P3細胞DNAはTURNOVERしているか:
 月報No.6905、6906で報告したように、L・P3、RLH-5・P3いずれの細胞に於ても4NQO 10-5乗M、30分処理後少くとも24時間以内では細胞当りの高分子DNAの絶対量は不変である。しかしながらDNAの分子鎖切断が起り分子量としては〜1/100程度に切れ、それが又4NQO除去により殆ど元の分子量に迄修復されるという、高分子DNAレベルでの変化が見出されたわけである。
 以上の実験で一つの陥し穴があるのは、次の可能性を否定していない事である。すなわちDNAの分子鎖切断を調べた実験に於て、H3-TdRでDNAをラベルし、そのcountが酸可溶性となる事なく高分子DNA内に留っているのは、見かけ上だけの現象であり、実はH3-TdRのカウントは低分子になるがそれが直ちに次のDNA合成に速やかに再利用されているために或時間的な断面をとらえた場合、それが常に高分子DNAとして存在しているように見えるのではないか。すなわちTurnoverしているのではないかという事である。
 この可能性をチェックするためには、4NQO処理、回復実験を行う際に大量のcold trap、すなわちラベルのないThymidineを培地中に与え、もしラベルのチミジンあるいはチミジル酸が分解により生じて来ても、それが新たなDNA合成に再利用される方を止めてしまえばよい。すなわち大量のチミジン存在下にprelabeledDNAのカウントが低くなればTurnover+、チミジンがあってもなおカウントが落ちなければTurnover−と判定すれば良い。結果は(図を呈示)、殆ど一定値を保っていた。すなわちTurnover(−)であった。
 II.BUdR(ブロムデオキシウリジン)置換L・P3細胞のDNA合成能:-4NQO処理L・P3細胞がどの程度Repair合成を行うか:
 UV照射されたHeLa細胞は照射後、DNAのRepair合成を行う事が知られている(Painter等)。4NQO処理L・P3細胞においてはどの程度のRepair合成があるだろうか。これを調べるために先ず予備実験としてBU置換L・P3細胞を4NQO処理をした場合、どれ程のH3-チミジンのDNA中へのとりこみがあるかを見た。
 先ずBU置換の方法は、二日(48時間)後に丁度フルシートになる程の細胞(短試)にBUdRを27μg/mlに加え、48時間incubateする。後4NQO、10-5乗Mで30分処理を行い、薬剤を洗去後、培地を2ml加えさらにH3-チミジンを0.5μc/mlとなるように加える。37℃、5時間、24時間後に短試中の全細胞をあつめH3-DNAを測定した。
 (表を呈示)その結果から云える事は、先ずBU置換細胞はコントロール細胞と同程度のDNA合成能を持っている。第2に4NQO処理によりDNA合成能がそれ程低下しない。最後に50〜60万個の細胞当り60,000cpmのDNA合成があれば、更に次のステップとしてこの合成DNAの内どれ程がRepair合成であるかをCacl密度平衡遠心法で調べるに充分量である。この分析は目下進行中である。

 :質疑応答:
[勝田]4NQO処理によるDNAのこわれ方がどうもきれいすぎるように思うのですがね。こわれたものが、殆ど一つのピークへ集まるというのが不思議に思えるのです。何か方法に問題があるのではありませんか。
[吉田]4NQOがDNAの或る場所を特異的に切るということではありませんか。
[勝田]そう考えたい所です。しかし、あんまり話がウマスギル時は少し警戒しなくてはね。
[吉田]染色体レベルではノンランダム、つまり特定の場所を切ります。
[安藤]それは大変有難い裏づけになります。
[勝田]処理後0時間と24時間との細胞数は同じ出酢か。映画でみていると、10-5乗Mの処理では細胞がずい分死んでしまうのですが・・・。
[安藤]この実験では24時間後の細胞は殆ど生きていました。
[堀川]X線や紫外線の照射の場合は、DNAレベルでシングルとダブルの切り方から色々解析が出来るのですが、どうも4NQOの切り方には不可解なところがあって、解析がむつかしいですね。
[梅田]G.C、.G.C.の多い所にカットが起こるのではないでしょうか。
[堀川]その考え方も面白いと思いますが、その場合はシングルのカットもユニフォームになるのではないでしょうか。
[勝田]とにかく切られたDNAの末端をしらべてみることが必要ですね。
[安藤]それは予定しています。
[勝田]それから処理後、0時間と24時間のDNAのDNAレベルでの質的な違いを、DNAのhybridizationで調べてみられませんか。
[堀川]hybridizationのような方法では、とても差は出ないと思います。それより取り込みだけでなく、酸可溶性分劃への放出も調べてみるべきではないかと思いますが。
[勝田]しかし4NQO処理によって死ぬ細胞が少しでもあると、放出でなく、細胞の崩壊によるものが酸可溶性分劃へ出てくることになりますよ。
[堀川]それは困ります。24時間で死ぬ細胞が全く無いということを確かめておかねばなりません。
[勝田]BUdRで片方のDNAシングルストランドだけを重くするというやり方ですと、BUdRと4NQOの相互作用ということも考えておかなくてはいけないと思います。
[堀川]両方ともダブルストランドをラベルする方がきれいにデータが出るように思いますが。この方法ではリペアがシングルであるかダブルであるかがわかりませんね。
[安藤]それを調べるのは次の問題だと考えています。
[難波]4NQOで変異した細胞と処理前の細胞との間に4NQO処理によるDNAの切れ方に違いがあるでしょうか。
[堀川]それは大きな問題だと思います。耐性獲得の問題が修復機構に関係があるのか、或いは毒性物質の解毒作用に関係があるのかの解明に近づけますね。
[安村]Tumorを持っている生体から採った細胞と、持っていない生体からの細胞とを比較すると、担癌生体からの細胞の方が薬剤による変異が早く起こるというデータがあります。それからラウスウィルスで悪性化した細胞は変異するとすぐウィルス産生をやめてしまうが、4NQOで処理しておいて、ラウスをかけると細胞が変異した後も長くウィルス産生がつづくというデータも出ています。

《難波報告》
 ◇N-1.従来4NQOを使用して培養されたラット細胞の発癌を報告して来たが、4NQOが
1.真に細胞の癌化の変異剤として働いたか
2.培養内に本来混在する、又は自然に生じた癌細胞の選択的増殖を許すように作用したのか
3.或は4NQOが細胞の増殖を誘導し、その結果、細胞癌化がおこるのか
4.もし3の事実が確かとすれば、細胞の増殖と癌化とは如何なる関係にあるのか
 と云った問題については直接証明がなされていなかった。そこで本年の私の研究はクローン化された細胞を使用して上記の問題を検討する予定である。クローン化には2種類の細胞を使用する予定で目下仕事は進行中である。2種類の細胞は(1)ラッ皮下より培養化される繊維芽細胞及び(2)ラット肝より得られる上皮性の細胞である。本月報では(1)の細胞について報告する。
 ◇N-2.Plating efficiency of rat fibroblasts in the primary and the first subculture.
 新生児ラットの皮下組織をTrypsinにて処理し10〜100コの細胞を60mmPetri-dish(1実験に5枚)に植込んだ。培地は20%BS+Eagle MEMを使用した。Exp.1では初代で1,000コ細胞をまいたが2週間後にconfluentになったので、この細胞を使用してPEを出した。このExp.1の結果から、初代細胞のまき込みは、10〜100コの細胞で十分であることが判ったので、Exp.2、Exp.3では細胞数を10〜100コにした。その結果初代でも十分高いPEが得られた(63、72%)ので、初代よりクローン化した細胞を使用して発癌実験を開始したいと考えている。
 ◇N-3.培養日数の浅いラット繊維芽細胞を使用して4NQOの濃度を検討
 N-2の述べたExp.1の細胞(クローン化されていないもの)を使用した。細胞は培養日数29日4代のものである。4NQOは20%BS+Eagle MEMの培地中に終濃度10-6乗M、10-5.5乗M、10-5乗Mに溶き30分間投与した。
 4NQOの処理後は、正常培地にもどして2日目、4日目の生存細胞数を算えた。その結果、(図を呈示)4NQOは10-6乗M〜10-5.5乗Mの濃度で投与出来るのではないかと考えられる。10-5乗Mでは2日後に生存細胞は認められなかった。従って、N-2.のExp.4からクローン化された細胞を使用して4NQOの発癌実験を開始する予定である。

《佐藤報告》
 ◇RLN-251の染色体分析(そのII)
前回の月報にて大部分の結果について報告しましたが、今回はx25、x40回処理のデータを追加し、この系の染色体変化について全般的な検討を加えた。
 そもそもRLN251系を用いた4NQOによる染色体と発癌との関係を追求しようと試みたが、満足な結果が得られず、結局、失敗に終ったようである。その理由は次の様なことが考えられる。
 この系に於いて4NQO処理を開始した時点(総培養日数252日)の細胞集団は、染色体数が42を示すものが70%前後にみられたが、このうち正二倍体のものは約20%で残りは偽二倍体細胞であった。従って染色体上からみて既に正常なものから相当偏異していたと考えられる。この偏異した状態に、4NQOが処理され、その経時的変化が追求されたが、対照群と処理群との比較では、染色体数の変化及び出現した異常染色体の種類と頻度からみて、4NQOに特異的と考えられる変化を見出すことが出来なかった。
 4NQOを処理したin vitroの時点で、仮にinitial neoplastic changeが生じていたとしても、それを直ちにcatchする手立が無い現在、どうしても動物に復元し、発癌した細胞が増殖して腹水の貯溜乃至は充実腫瘤として認知出来るまでの可成りの時間(此の系では平均3ケ月間)を待たねばならない。従って我々のデータの如く、4NQO処理時点の細胞集団と腫瘍の細胞集団とに大きな隔りがあるのは当然と云えよう。それ故に腫瘍の染色体所見はinitial neoplastic changeに近い時点のものを見ているのではなくて、腫瘍が増殖してしまった時点のものを見ているに過ぎないと考えるからである。今後前記の目的で研究するには、primary cultureのものを用いるとか、株細胞の場合なら確実に正二倍体細胞株(少くとも75%以上の正二倍体を含むもの)を用いて、染色体上出来る限り最小偏異の腫瘍を作らねば詳細な解析は不可能である。
 しかしながら最近、Hori,S.H.,Al-Saadi & Beirewaltis,及びNowellらは正二倍体腫瘍の存在することを報告しており、染色体変化は癌化に不可欠なものでないように思えるという考え方を主張する人が増えているので、染色体というパラメーターで真に癌化に直結した変化を見つけることは大変な仕事だとつくづく思っている次第です。
 扠て今回追加されたデータにつき少し説明を加えますと、x25回処理の腫瘍は充実腫瘍で今迄のものと同様に非常に堅く、脂肪粒が多く、再培養をしたが仲々生えてこずやっと2〜3ケ処から上皮性の細胞がコロニー様に急速に増殖して来た。従って外観上均一な細胞で再培養開始後26日目に染色体検査することが出来た。(結果図を呈示)モードは53(12/50)、比較的まとまった分布をしている。核型のうちで特にMarkerについてみると、median sized or large sized decentric chromosomeは92%(46/50)と高率に含くまれ、次いでlarge sized submeta.chro.が26%(13/50)であった。その他にも数種類のMerkerが認められた。
 前報で未だ検索していなかったx40回処理時点のデータも追加しております。
 なほ今回は今迄のデータを整理しなおし、訂正したり、更に詳細な分析を加えましたので、新しい図表の中のデータで前号のものと異った箇所もありますが、悪しからずお許し下さい。
 特に対照群のデータを再調査したところ、median sized dicentric chromosomeが0〜6%にも存在していることが解り、これが何等、4NQOとも癌化とも無関係であることが明確になりました。

 :質疑応答:
[勝田]難波君の仕事で気がついたのですが、処理回数と処理後の日数が並行して行くような実験の組み方では、処理後ただ培養しておくだけで悪性度が加算されてゆくのか、或いは処理する度に悪性になってゆくのかが、はっきりしませんね。それから細胞の形態をみる時、本当にパイルアップしているのか、死んだ細胞が押し上げられているのか、よく見分けなくてはいけませんね。
[安村]ラッテの皮下のfibroblastsが初代でコロニー形成能63%から72%とは全くおどろき!ですね。本当かしら。一寸よすぎますね。呑竜ratが材料だという処が「みそ」なのでしょうか。初代培養だと10%でも大変よいと思う位ですのに。シャーレは何を使っていますか。
[難波]ガラスのものを使っています。
[安村]細胞が1コづつになっているという事も確かめてありますか。
[難波]数時間後に顕微鏡でみてチェックしてあります。
[安村]稀釋の仕方は・・・。
[難波]1,000コ/ml液を作ってあとは10倍稀釋です。
[勝田]安村君より腕がいいのじゃないか。・・・みんなニヤニヤ・・・。
しかし、寒天でかためていない場合のPEは、私は信用しませんね。映画でみてごらんなさい。始、確かに1コでいた細胞のそばへ、そっくり似た形の細胞が歩いて来て、くっついてしまったりします。くっついた所だけみると、正に分裂して2コになったとしか見えません。
[黒木]変異コロニーの判別に対する自信はどの位もてますか。
[難波]むつかしい質問ですね。最後的な決定はその変異コロニーを増殖させて、動物へ復元して、腫瘍性をチェックしておくつもりです。
[山田]“Transform”という言葉を使わずに“metamorphy”とか何とか云う方がよいと思いますよ。
[吉田]そうですね。単に形態的に変わったというだけで、すぐトランスフォームと言ってよいかどうか問題ですね。
[勝田]アブノーマルコロニーとでも言っておけばよいでしょう。
[山田]それから先程、勝田班長の言われた本当のパイルアップかどうかという問題、固定する前にニグロシンででも生体染色をしてみれば解ることではないでしょうか。
[勝田]映画を撮って見ればすぐ解ります。それから、染色体のことについてですが、マーカー染色体として大きなメタセントリックのもの、それからメタに近いようなサブメタセントリックの大きなものが挙げられていますね。私の方の実験では、悪性化した培養細胞にも、それを動物へ復元した再培養にもああいう形のものは殆ど出ていません。

《高木報告》
 これまでに行ったNGによる発癌実験で、NG-4とNG-18の2実験系が成功したことを報告したが、今回はさらにもう1つの実験系NG-11についても復元したratに腫瘍を生じたのでこれを紹介する。
 1)NG-11
 1968年4月、生後3日目のWKA ratの肺をprimary cultureし、10日目に2代に継代した。継代後3日目、すなわち培養開始後13日目にNG1μg/mlを2時間作用せしめ、以後17日間にわたり合計7回、各2回ずつ作用せしめた。最終処理後2週間で核の大小不同、核小体の増加などがみられ、細胞の増殖の低下は差程著明でなかった。最終処理後150日頃criss-crossの像が著明となり、多核、巨核細胞が多数出現した。この時の細胞のproliferation rateは対照の細胞では15〜20倍/週に対し、transformed cellsでは5倍/週で対照の1/2〜1/3の増殖を示した。
 最終処理後288日目にWKA newborn ratに200万個cellsを接種した処、95〜130日のlatent periodをおいて3/3に腫瘤を生じた。
 対照の細胞は同時に200万個cellsを接種したが、150日を経た現在0/3で腫瘤の発生をみない。
 2)NG-18およびNG-4における対照と処理しtransformした細胞との染色体数の比較
 NG-18:本年5月20日、対照の細胞は培養開始後43代目、345日目のものにつき、また処理細胞の中、前月報に紹介したものは私共がT-1とよんでいるもので、NG 10μg/ml2時間作用後174日目に、T-2、すなわちT-1にさらにNG 10μg/mlを86日後2時間作用させたものでは、第2回目処理後88日目に染色体数を算定した。
 (図を呈示)対照の細胞ではtetraploidに主なる分布があり、処理した細胞ではdiploid 42本に明らかなpeakを認め、少数ながらnear diploid rangeにもあった(T1、T2共)。
 NG-4はこれと全く異なり(図を呈示)対照ではmajor rangeがnear diploidにあり、treated cellsではhypotetraploidにあった。

 :質疑応答:
[堀川]対照群では染色体数があんなに変わっているのに、動物にtakeされないというのは不思議ですね。
[吉田]実験群が42本に戻ったというのも今までの報告と逆で面白いですね。しかし、核型の分析をしてみないと、どういう変異があったかわかりませんね。

《梅田報告》
 今迄報告したAAFの結果も合せ、N-OH-AAFについてのdataをまとめてみる(I→IV)
 I,N-OH-AAFをHeLa細胞に投与し増殖に及ぼす影響について調べた。10-4.0乗Mでlethalであり、10-5.0乗Mで軽い増殖阻害が認められた。10-4.0乗M6時間作用後control mediumに返してやると細胞増殖能はrecoverするが24時間作用後control mediumに戻してもrecoverしない。
 N-OH-AAFをL-5178Y cellsに投与した時の増殖に及ぼす影響は、全くHeLaと同じ濃度でlethalに又増殖阻害に働いた。
 前に報告した結果はrat liver cultureでは同じく10-4.0乗Mで、同じrat lung cultureでも10-4.0乗Mで、hamster embryonic cellのcultureでも10-4.0乗Mでlethalに働いており、今迄調べた範囲では細胞によるsusceptibilityの違いはない様である。目下吉田肉腫細胞のin vitro細胞について調べている。
 II.形態学的には今迄述べた様に(月報6903)rat liver cultureでは肝実質細胞の細胞質空胞変性(脂肪変性)と、核・核小体の萎縮が認められ、更に間葉系、中間系の細胞も一般に大きくなり、大小不整が著しくなり、核は淡明に染り、核小体は円形化縮少する。rat lung cultureでは、間葉系の細胞と同じ様な変化を示す。
 HeLa細胞では、核の大小不整、核の膨化、核小体の縮小化が見られ、又変性細胞が混在し、Mitotic cellが減少するのが特徴である。
 III.N-OH-AAFをHeLa細胞に投与して6時間、24時間後に染色体標本を作った。10-4.0乗M投与例では6時間後2.1%、24時間後0.3%、10-4.5乗M投与例では6時間後1.4%、24時間後1.3%のmitotic coefficientを示した。(control 3〜4%)
 10-4.0乗M6時間作用後の分裂細胞の染色体像は比較的正常に近いが、24時間作用後のものはrod-shapedの染色質の集塊を示すもの、染色体のgapを示すものがあり、強い変性像を示すものが多かった。10-4.5乗M作用のもので、gapは多くは認められなかった。
 IV.以前に報告した様に(月報6903)、N-OH-AAFをHeLa細胞に投与して、H3-TdR、H3-UR、H3-Leuの摂り込み率を調べた所、H3-TdR、H3-UR摂り込み率は共に10-4.0乗Mでcontrolの40%におち、H3-Leuは90%値を示した。経時的に摂り込み率を追ったのは月報6905で報告したが、これによるとN-OH-AAF投与後直ちにH3-Precursorの摂り込み率が一様に悪くなるが完全にstopすることなく僅かずつ時間と共に進行することがわかった。そのslideについてautoradiograph作成中であるが、特にH3-TdR摂り込み率の低下がlabelling indexの低下によるものか、grains/cellの低下によるものか調べる予定である。
 V.Rat liver cultureにDABを投与して2日後control mediumに戻してやると、肝実質細胞に認められた脂肪滴が減少し、更に核が奇麗になるが、大小不整となっていることを報告した(月報6908)。これが異型細胞の出現に連なると思い、ずっとcultureを続けてもいつもtransformed cellのluxuriant growthが認められない。この核が奇麗になったと云っても、どの程度DNA合成能をもって分裂する事が出来るかを調べる目的で次の実験を行った。rat liver culture作成後DAB 10-3.5乗M投与、2日後control mediumに戻し、更に2日後、H3-TdR 0.1μc/mlを投与し、2日間放置したものについてautoradiographを作った。まだlabbelling indexとしてcountしていないが、DABを投与していないCultureのliver parenchmal cellのlabelling数に較べ、DAB投与群では非常にlabelされた細胞が少い。大小不整で異型にはなっているが、DNAはあまり合成していないことがわかった。

 :質疑応答:
[吉田]このAAFという薬剤はcell cycleを分裂期でとめてしまうのではないかという疑いをもちます。今見せて貰った染色体像には分裂前期が殆ど見られませんでしたからね。低張処理をすると染色体が少しふくらんでしまって、はっきりしなくなりますから、低張処理をせずに標本を作って分裂各時期に相当する像が見られるかどうか確かめておいた方がいでしょう。
[難波]無処置の細胞が死ぬ時期はcell cycleのどの時期が多いのでしょうか。
[堀川]G1が多いでしょう。
[勝田]M期のあと、つまりG1の初期が多いですね。
[吉田]Sに入るとG1あたりまではずっと進行してしまうのでしょうね。
[黒木]ひとしきりcycleをまわってから死ぬという場合はどう考えますか。
[堀川]合成がとまっても手持ちでしばらくはやってゆけるという事ではありませんか。エイジングの問題でしょうね。
[勝田]卵の場合、黄身を半分にすると、発生はどうなってしまうでしょうか。

《安村報告》
 ☆Soft Agar法(つづき)
 こんど始めてin vitroで4NQOによってMalignantになったRLT-1、RLT-2の両細胞系のそれぞれからSoft agar中にcolony形成させることに成功した。
 1.RLT-1、RLT-2細胞系細胞のcolony形成:
 RLT-1は#CQ42と呼ばれたことのある系で、4NQO処理によりMalignantになった(動物復元によってtumorigenicであった)細胞系である。その後in vitroで継代を続けてきたもので動物通過を経ていない。
 RLT-2は#CQ40と呼ばれたことのある系で、経過はRLT-1と同様と考えてよいものである。 結果は(表を呈示)、RLT-1は28,000コから2倍稀釋3,500コの接種でC.F.E.は2.8〜1.9%、RLT-2は40,000コから5,000コ接種でC.F.E.は0.5〜0.4%であった。
 RLT-1,RLT-2とも形成されたColonyはいずれもsmallでlarge typeは出現しなかった。RLT-1についていえば、この系の動物復元株の培養系Cula-TCと、それらのcolony forming efficiencyを較べると(月報No.6906)前者は後者の半分以下である。またRLT-2とCulb-TCとではそのefficiencyにあまり差はない(月報No.6906)。(図を呈示)
 2.Q1-SSとQ1-LLの比較:
 月報No.6906にひきつづいてCula-TC-Q1-Lからlarge colonyを、Cula-TC-Q1-Sからsmall colonyをひろい、それぞれQ1-LL、Q1-SSとして再び両者間のcolony forming efficiencyとともにS-Lのdissociation rateをしらべてみた。(表を呈示)前回と逆にQ1-SSの方がQ1-LLよりC.F.E.がすぐれ、またlarge colonyの出現率がよい。原因についてはよくわからない。ひとつにはtrypsinizationに問題があるかもしれない(とくにQ1-LLの方に)。

 :質疑応答:
[勝田]コロニーのSだのLだのというのは何の意味があるのですか。
[安村]大きいか、小さいかが腫瘍性と並行するかどうか調べたいのです。
[黒木]それで、SとLとでは動物への腫瘍性は違うのですか。
[安村]今の所takeの率は同じです。
[堀川]結論としてLもSも細胞の増殖率は同じだとすると、個々の細胞の大きさが違うということでしょうか。
[安藤]しかし、細胞の増殖は、液体培地内で調べているのですから、軟寒天内でのそれぞれのコロニーの増殖率はまだわかりません。
[黒木]私の最近の実験でわかったことは、動物へ復元して全くregressせずにtumorを作る「M3」にならないと軟寒天内でコロニーを形成しないということです。

《藤井報告》
 培養内変異細胞の癌化に伴う抗原性の変化を追求するためには、結局、異種抗血清をもってしては決定的な結論が出ない。これは、多くの文献の教えるところであり、私自身のこれまでの成績からも云えることである。そこで培養内で変異し、復元可能なラット肝癌が次々と得られるようになった時点で、この比較的大量に得られる培養内癌化細胞に対する同種抗血清をつくり、癌化の過程における抗原性の変化を追跡することにした。このばあいは、癌化に伴って取得されると思われる抗原−おそらく癌抗原−がどの時点で、どの位のpopulationで取得されてくるかが問題となる。
 抗原のdetectionの方法としては、1)Ouchterlony法等による沈降線分析が主たるものとして仕事を進めて来たが、この方法では、titerの高い抗血清とsoluble formの抗原が必要であり、同種移植、同系癌移植のばあいに沈降線をうることが未だ成功していない現状では極めてむつかしい。同種組織移植の研究を続けているので、並行して癌抗原の抽出を進めて行きたい。2)当分はImmune-adherence、3)Cytotoxicity test、4)mixed hemadsorption等の方法で仕事をすすめて行く予定である。
 同種抗血清の作成
 医科研癌細胞研究部で培養内癌化し、復元されたCulb肝癌は、近交系ラットJAR-1由来である。腹水型となったCulb細胞を同種ラット、JAR-2(JAR-1x雑系ラット)F1に接種し、免疫を試みた。Culb細胞をふくむ腹水は比較的強く血性であるため、water shock法にて赤血球を除き、免疫に使用した。注射部位は両側側腹部皮下2ケ所である。
 免疫のプロトコールは次頁に示してある(図を呈示)が、経過中、皮下に結節性の腫瘤をつくり、徐々に増大するようになった。これはCulb細胞が継代接種中悪性度が高くなったか、あるいはJAR-2ラットに接種するうちにenhancement現象が出て来たか何れかであろう。目下1cm径大になったtumorを結紮して脱落せしめている。何れにしても、この状態では、titerの充分高い抗血清は得られていそうにない。
 Cytotoxicity testとIA
 抗血清には、上記のCulb細胞で免疫したJAR-2のうちBが生着したCulb腫瘍(固型)に抵抗性を示しているようにみえるので、免疫開始後41日目の血清(Frat 11.B.050869)を使用した。培養小角瓶に1日間培養したmonolayer cellsを、“199”液で3回洗滌し、抗血清0.1、モル新鮮血清0.2(1/3稀釋、ラット血球で吸収)を加え、37℃、45分間反応させ、上清を捨てたのち、0.3mlの“199”液と0.5%Trypan Blue 0.1を加え、青く染った細胞を算定した。
 IAには、洗滌monolayer cellsに、抗血清0.1ml、モル血清(ラット血球と人血球で吸収、1/25稀釋)0.2mlを加え37℃、20分間反応させてのち、2%人O血球、0.1mlを加え、60分間反応させた。反応後“199”液で3回軽く洗滌し、検鏡した。
 (表を呈示)抗Culb血清に対し、培養Culb細胞は29.6%の細胞障害を示したが、培養内変異した時期のRLT-2細胞は10.0%と低い。この成績からは、RLC-10細胞が癌化に伴ってCulb-特異抗原を取得しているようであるが、RLT-2の時点ではその程度が低いか、あるいはもっと可能性のつよいことは、非変異細胞が多数混在していることを示唆している。
 同じくRLC-10より変異した細胞で同じJAR-1ラットに復元された癌細胞でもCule-TCの他は、殆んど抗Culb抗体に反応しない。このような所見より、それぞれの癌にSpecificityがあるかどうかが、問題が出てくるが、今後慎重に検討したい。
 IAの結果は、その反応が弱く、結論をひき出せない。
 以上の成績から、同種抗血清をつかって、癌化した細胞の抗原がcytotoxicity testで調べられることがわかったが、未だこの抗血清のtiterでは不充分である。また以上の培養小角瓶では血清需要がどうしても多くなり、多くの検体が扱えないので、平底のmicroplateを用いての方法を試みてみるつもりである。

 :質疑応答:
 とくには無かったが、Immuno-Adherenceについて勝田が反駁し、最近撮した顕微鏡映画によって、腫瘍細胞の周囲に附着していると見られるリンパ球が、動的に観察すると実は腫瘍細胞に貪喰されてしまうことを展示した。

 §以後、今秋の癌学会への班としての演題申込が討議され、次のような順序で申込むことに決まった。
 ☆☆☆組織培養による発癌機構の研究☆☆☆
第27報:ラッテ肝細胞の4NQOによる培養内変異(II):勝田・他
第28報:培養内に於ける4NQO処理ラッテ細胞の経時的変化−コロニーレベルでの解析−:難波・他
第29報:培養内に於ける4NQO処理ラッテ細胞の経時的変化−染色体研究−:佐藤・他
第30報:培養内で4NQO処理により癌化したラッテ肝細胞の、動物移植により生じた腹水腫瘍の性状:難波・他
第31報:無蛋白無脂質合成培地内継代L・P3及びRLH-5・P3細胞のDNAの4NQOによる鎖切断及びその再結合:安藤・他
第32報:放射線及び化学発癌剤による哺乳動物細胞DNAの切断とその再結合:堀川・他
第33報:細胞変異に伴う細胞表面構造の変化(II):山田・他
第34報:N-methyl-N'-Nitro-N-Nitrosoguanidineによるラット肺及び胸腺細胞の培養内悪性化:高木・他
第35報:N-methyl-N'-Nitro-N-Nitrosoguanidineによる培養内悪性細胞の生物学的性状:高木・他
第36報:培養哺乳動物細胞に及ぼすN-hydroxy-acetyl-aminofluorene(N-OH-AAF)の影響:梅田・他
第37報:軟寒天法による悪性培養細胞のクローン分析:安村・他

【勝田班月報・6908】
《勝田報告》
 ラッテ腹水肝癌AH-7974細胞の毒性代謝物質:
 肝癌が正常細胞に対して阻害的に働く毒性代謝物質を培養液中に放出することをこれまでも報告してきたが、その物質の本体を追究中で、今月号ではその最近までの成果の中間報告をする。
 (図を呈示)図は肝癌AH-7974を4日間培養した培地を、正常ラッテ肝細胞の培地に30%に添加した結果を示している。培地は1日okini交新し、その都度肝癌を培養した培地を30%添加している。この結果で判ったことは、毒性物質がCollodion bagを通過できる低分子物質であるということである。
(図を呈示)図は肝癌培地をCollodion bagで濾過した低分子部分を、Sephadex G25で分劃した結果を示す。まだpeakがきれいには分かれていないが[透析仔牛血清+合成培地DM-145]の培地で肝癌を培養するようになってから、polypeptidesなどのpeaksがなくなり、分析がはるかに楽になった。なお蛋白を含まぬ合成培地でもAH-7974は若干増殖するが、この場合の肝癌培地は毒性物質は現れてこない。
 正常ラッテ肝細胞(RLC-10)を培養し、これに前記の各分劃を培養第2日からラッテ肝細胞RLC-10の培養に添加し、6日後の細胞数(合計第8日)を調べた。(図を呈示)#38の分劃を添加した場合、肝細胞は完全にZeroになっている。つまり毒性物質は#38の分劃に集中しているということになる。CI、C はControlで、C はCIの培地にinositolが2mg/l追加されている。 この実験は分劃を1つおきにとばしてしらべたので、#38を中心としてその前後の分劃も加えてしらべ直した。(図を呈示)Inoculum sizeがちがうので、こんどはうまくZeroにならなかったが、37、38、39の内では38が最も阻害しており、37にも若干阻害物質の混っているらしいことが判る。
しかし分劃図からも判るように、#38は#42のピークにまきこまれて大きなピークの肩を作っているにすぎないので、#38を単独のピークとして分離することを今後つとめなくてはならない。
 このような分析には、なるべく蛋白を含まない培地で肝癌を培養出来れば、以後の解析が非常に楽になる。そこで血清を除いて、合成培地+PVPだけの培地で肝癌AH-7974を培養してみたところ、第4日までは何とか増殖を示し、以後は細胞数が減少してしまった。しかしとにかく、その4日間培養した培地を透析(Collodion bag)、肝細胞RLC-10の培地に30%に添加してみた。(図を呈示)結果は図の通りで、どういう理由か判らないが、salineDを30%加えたC よりも、合成培地を30%加えたCIの方が細胞の増殖率が低く、肝癌培地を30%加えた群と大差が見られない。
 この結果から考えると、やはり肝癌が活発に増殖しているときにだけ、毒性の代謝物が作られるらしい。

《難波報告》
 ◇N-4:4NQO処理により発癌過程にある培養ラット胎児細胞のPlating efficiencyと
     Transformed colony出現率について
先日(1969-7-5)の班会議で4NQO処理で発案過程にあるラット胎児細胞のPEとTransformed colony出現率とを報告した。今回はそのデータが集まったので、以下の表にまとめた(表を呈示)。実際の発癌は10-6乗Mの4NQO濃度で、間歇的に24回処理(総処理時間118時間)した細胞を動物に復元した時、腫瘍形成がみられた。この表から判ることは、1)4NQO未処理のコントロール細胞には、培養492日でもTransformed colonyの出現はみられなかった。2)4NQO処理21回の細胞にはTransformed colonyの出現が9%に認められた。即ち、この細胞は非常に発癌に近ずいていることを示している。3)Plating efficiencyについては差がなかった。 先日の班会議で勝田先生から、(1)処理後ただ培養しておくだけで、悪性度が加算したのか。(2)処理する度に悪性になって行ったのか。の2点を解決する為に発癌した24回4NQOを処理した細胞を得るに要した培養日数165日を一応の基準にして4NQO処理、9、12、15、21回の細胞を培養165日以後経過した時点で動物に復元してその造腫瘍性を検索中である。

《佐藤報告》
 ☆N-methyl-N-nitro-N-nitrosoguanidine(MNNG)no吸収スペクトルについて。
 (1)溶媒による吸収スペクトルの変化:溶媒として、1)蒸留水、2)Hanks・BSS、3)Eagle's MEM、4)MEM+20%BSを比較した。MNNGの濃度は可視部測定の為には10-2乗M、紫外部測定には10-4乗乃至5x10-5乗Mとして吸収スペクトルを求めた。各溶媒のpHは略々7.2にしてある。その結果、溶媒による差はなく、共に279mμ及び400mμに頂を持つ吸収スペクトルが得られた。(但しMEM+20%BS中では紫外部の吸収測定は不可能であった。)
 (2)MNNGの温度及び光による分解の結果見られる吸収スペクトルの変化:MNNGは温度、光、pH等の影響を受けて分解する。そこでpHを大体7.2にして、温度処理(37℃、約12時間。冷暗所保存)及び紫外線照射(室温、3時間。15w殺菌灯下50cm)後の変化を見た。その結果、279mμの頂は276mμに移行しかつ高さもやや低下していた。又400mμの頂は低下しており、特に37℃12時間処理の溶液において、その傾向が著しい。
 (3)MNNGの水溶液の長期保存によるスペクトルの変化:月報No.6903に記したようにMNNG水溶液(pH7.15)を冷暗所(4℃、アルミホイルによる遮光)で約6ケ月間保存し、その後吸収スペクトルを求めたところ、279mμの頂は264mμに移行し、又400mμの頂は消失していた。 (4)、(2)の項の条件に処理したMNNG溶液をEagle'sMEMで稀釋し、最終的に10-4.5乗Mで、ラット肝臓由来細胞の増殖抑制効果をみた。その結果MNNG溶液はどれも細胞増殖抑制効果を持つが、37℃12時間処理の溶液において抑制効果が減弱している。尚実験には同型培養法を用い、MNNGは2時間37℃作用させた。
 Craddock,V.M.によればMNNGの吸収スペクトルで279mμ及び400mμに吸収の頂が見られ、前者はguanidino groupによるもので、後者はnitroso groupによると考えられる。又、MNNGを39℃(pH7.5)で分解すると279mμの頂は264mμに移行し、400mμの頂は消失する。これは本実験の(3)の結果と一致している。(2)の結果は分解の過程を示すものと思われる。

《高木報告》
 月報No.6905でも報告したが、今回は4NQO treated cellsの中NQ-7(月報No.6811参照)のsoft agar中におけるcolony forming efficiencyについて報告する。この仕事の目的はCGEと移植による腫瘍形成能との間に、何等かの関係があるか否かを調べることにあるが、班会議でも話したように脳内接種がうまく行かないため未だdataにはなっていない。
 soft agar法はNo.6905に報告したのと全く同じである。実験を繰返した結果次の様になった。(表を呈示) ここで移植は生後24時間以内のWKA ratの皮下、移植細胞数は200万個、判定は移植後6ケ月に行った。T-4の3/4は接種後2ケ月で腫瘍の発生をみ、3週後にregressしたものである。
 今回の報告ではT-2のCFEが3%と前回(No.6905)に比較して高くなっていますが、これは再検の結果でこのような値をえた訳です。この表丈でみるならば腫瘍形成能が高いと思われるT-4にCFEは低いと云うことになります。但、これは培地の問題その他techniqueの問題がからんでいると思われますので、軽率には断定出来ません。
 次にこのようにして出来たcolonyの中、大きいもの(large colony)、小さいもの(small colony)をとり出し、更にCFE、large或いはsmall colonyから夫々large或いはsmall colonyを生じやすいが、各細胞の形態などを検討しつつあります。
 (表を呈示)この表はこれまでに得られた成績の一部を示したものである。前述の如くこの実験ではすべて脳内接種を行い(10万個cells)、そのほとんどが7日〜10日後に死亡した。但しT-4のcl-3丈2/4に4週間で頭が大きくなったのでsacrificeしたが、肉眼的に出血があり、また水頭症の如き所見がみられた。組織学的に目下検索中である。
 この表でみる限り
 1)large colonyを作った細胞がlarge clonyを作りやすいと云った傾向はみられない。
 2)large colonyを作った細胞の方がCFEが高いと云うこともないようである。例えばT-1のcl-6は高いCFEを示すが、T-3のcl-5もsmall colony originの細胞でCFEは結構高い。
 3)形態的にsmall colonyを作る細胞が小さい細胞からなり、large colonyを形成する細胞が大きい細胞であると云うような所見はなかった。
 さらにcolonyのselectionを繰返してみると共に、移植を皮下に切換えて実験を再検討してみたいと考えている。
その他NG発癌過程のchromosome numberのmodeの変化、slice culture法の検討などを平行して行っています。

《山田報告》
 引続き4NQO 3x10-6乗M一回投与後のラット肝細胞(RLC-10)の表面荷電を測定しました。条件は従来と同様で酢(図を呈示)。149日目におけるCQ63群の細胞では113日目に測定した結果と殆んど変化がなく、4NQO一回投与分野(4N1)では悪性化ぎりぎりのパターンを示して居ますが、50日目に再度同一条件で2回処理した群(4N2)では全く良性型を示しました。
 4NQOを連続的に幾回も投与すると、かへって悪性化した細胞を選択的に消失させてしまうのではないかと、ますます考へる様になりました。勿論すべての例でその様な選択が起こるかどうかわかりませんですが、in vitroでの発癌実験では、くりかへし発癌剤を投与するためには、充分なる検討が必要であろうと考へられる所見です。
 細胞表面における抗原抗体反応の細胞電気泳動法による測定に関する基礎実験が一応終わりましたので、その結果だけを簡単に書いてみたいと思います。
 (図を呈示)Ehrlich ascites carcinoma cellを1000万個1回、I.P.に投与(移植)した後、10日目に血清を採取して用いた実験結果です。
 基礎実験に基き、この血清とEhrlichをin vitroで37℃、10分間接触させた後によく生食で洗い、通常の泳動条件にて測定しました。この血清を漸次稀釋して効果をみると、10倍稀釋で約50%のEhrlich泳動値の低下がみられますが、100倍稀釋で殆んど影響がなくなります。この場合、血清中から補体が除かれてゐませんが、100倍稀釋では抗体量の不足と共に補体の不足が考へられますので、ラット正常血清から作った補体(抗原は吸収)を加へて、抗体の影響をみますと500倍程度まで、明確なEhrlichの泳動値の低下が認められました。 補体は基礎実験により30倍稀釋のものを用いてあります。(図を呈示)図に示すごとく補体自身ではEhrlichの泳動度に殆んど影響はありません。
 抗体のみの影響はまだ検索して居ませんが、抗体が表面の抗原と結合すると図のごとく、その周囲にある表面の荷電をマスクしてしまうために、その電気泳動度が低下すると考へられます(図を呈示)。
 これに補体が結合すると、細胞膜の障害(穿孔?)がおこり、荷電物質がメヂウムに流出してしまい更に電気泳動度が低下するものと考へられます(図を呈示)。
 この電気泳動度測定による感度は、少くとも色素透過性試験(所謂intoxication test)と(Cytolytic reaction)と同等のものであるとの実験結果も得ています。
 この反応を利用して発癌に伴う抗原性変化を将来追求したいと思って居ます。

《安村報告》
 ☆Softagar法(つづき)
 1.Cula-TC-Q2系におけるS-L dissociation:
 前号の月報(6907)でCula-TC系のうちQ1系についての結果をお知らせしましたが、今回はもうひとつの系Q2についてのS-L dissociationの実験を報告します。
 (表を呈示)結果は、Colony forming efficiency(C.E.C.)はL系の方がS系より高いが、S-Ldissociation rateの点ではL系が稀釋に応じているのに反して、S系では不規則であった。したがってこの点で比較が困難である。前号にのべられたQ1-SS系と比べて、ともにC.E.C.は13%〜17%あたりで、Q1とQ2の間にはさしたる差はない。Q1-S系は、Q2-S系よりLarge colonyの出現率は3倍ほど高い。(月報6907と比較)
 2.Culb-TC-A系:Culb-TC細胞系をSoft agarでcoloy formationをおこなわせ、出現したColonyを親株としてCulb-TC-A系ができあがった。しかし、この系はいまのところC.E.C.はCula系よりはるかに低く、Large colonyの出現は見られない。(今回までのところ)。結果は(表を呈示)表の如くであった。
 3.AH7974細胞系(JTC-16)とそのクローン系の増殖率:
 AH7974-TC細胞の各クローンを分析してきたいままでの結果は、C6系からはSmall colonyしかでてこないが、他のC1、C3系からはS、Lの系が出現することがわかった。しかしSからLの出現率とLからLの出現率に差があるとは思えなかった。そこでSとLとの間の増殖率をしらべてみた。結果は(図を呈示)、Lの出現は増殖率が高いためではなさそうである。

《梅田報告》
 1.前回の班会議(6907)でふれたが、N-OH-AAFをHeLa細胞に投与して増殖に及ぼす影響、更に6時間、24時間処理后control培地にもどした時の、増殖能のrecoverabilityについてふれたが、その図示は図示1、2の如くである(各図を呈示)。同じくL-5178Y細胞の増殖に及ぼす影響については図3の如くである。更に吉田肉腫細胞のin vitro系について調べた結果、図4の如くになった。
 以上の結果及びrat liver、lungのprimary culture、hamster embryonic cellのprimary cultureに投与した時、すべて10-4乗Mでlethal。10-4.5乗Mで細胞数の軽い減少があることから今迄調べた範囲では、N-OH-AAFはどの細胞に対しても同濃度で同じ様な細胞毒性効果を示している。Carcinogenic hydrocarbonsで細胞の種の違い、transformしたか否かの違いで毒性効果が異なることから考えると、興味深い結果と云える。
 2.培養細胞に発癌剤を投与してmalignant transformationを起さしめ得たとしても、transformした細胞が増殖する機会を与えられないと、我々は実験の成功を知り得ないことになる。前回の班会議(6907)で報告した様にDABを投与され、脂肪変性を起した肝実質細胞が、DABのない培地中でpleomorphismを示すが、autoradiographicalに之等細胞はH3-TdRを旺盛に摂り込んでおらず、増殖が盛んになったとは云えない。これは、Cytotoxicな発癌剤を投与され変性した細胞にとって試験管内は良い環境でないためで、逆に増殖に良い環境が与えられれば、transformした細胞が増殖してくることが考えられる。以上の観点から生后2日目のrat liver或はlungのprimary cultureを行い、10-4乗M N-OH-AAFを投与し、1日培養后control mediumに戻し更に3日培養してから細胞をはがし、同腹のrats(その時生后9日目)に85万個cells intracerebralに投与してみた。目下復元してから30日目であるが、肝、肺細胞投与例共に元気である。この種の実験も数回繰り返し試みてみたい。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構
 紫外線およびX線照射による培養動物細胞の遺伝子障害と、その修復機構を中心に化学発癌剤4-NQOおよび4-HAQO処理による遺伝子障害と修復能を比較検索するのが、この研究の目的で、金沢に来てからもこの研究は続行されている。紫外線とX線照射による障害修復機構は、その障害自体がそれぞれすでに異なるだけに修復機構も部分的に異なるようであるが、加えて化学発癌剤4-NQOや4-HAQOによる障害修復は、更にこうした放射線障害の修復機構では説明出来ない点がある。またX線、4-NQOともにin vitroの培養細胞を処理した際に、DNAのsingle strand breaks、double strand breaksをinduceする。しかるにchemicals 4-NQOや4-HAQO処理によって特異的に正常細胞のmalignant transformationが誘発される。一方X線照射の場合にはLeo Sachsのデータを除いてはこうした現象は認められていないのは何故であろうか。こう云う点も考慮しつつ現在UV、X線、chemicalsによる修復機構の解明を進めている。さらにもう一つの問題はDNAの切断と再結合でみているdamaged DNAのrepairが生物学的機構の面からみて真のrepairであるか、どうかということで、この問題を解決すべく実験系を組みかけている。
培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびにLeukemogenesisの試み C57BL/Jax6系のmouseから得たbone marrow cellsのin vitroでの培養を可能にして以来、NC系のmouseに切りかえてtitleに示すような実験を進めて来ている。金沢に来て以来も、mouseの繁殖は非常に良く仕事は順調に進んでいる。培養直前には、多種多様の細胞群を含んでいたbone marrow cellsが培養が進むにつれて一定の細胞種に選択され、しかもこうした細胞は700R前照射されたマウスに注入しても「骨髄死」を防護出来そうもないことがわかって来た。それどころか、こうした骨髄細胞のうち一年以上継代培養をしたものでは100万個細胞の腹腔内注入で発癌能をもつ、つまり癌化していることが、最近わかって来た。一体ガラス器内で培養されている骨髄細胞は何者なのか。そして骨髄細胞としての生物学的機能をもたせるにはどうすればいいのか。さらにこうした培養骨髄細胞の分化と発癌の調節の機構をときあかすにはどの様に実験を進めていけばよいかなどの問題が今後の課題として残されている。今月は月報原稿として結果をまとめるだけの時間がなかったので、我々が現在やっている実験の進行状況をかいつまんで報告した。
 
《安藤報告》
 4NQO処理L・P3細胞はRepair合成(conservative Replication)を行うか。(中間報告)
 月報No.6907にBU置換L・P3細胞は4NQO処理を受けても、無処理のコントロールと同程度のチミジンのDNA中へのとり込みが見られた事を報告した。今回はこのDNA合成が、いかなるtypeの合成であるのか、すなわち、全く新たなstrandの合成(Semi-conservative)なのか、あるいは古いstrandの中へのチミジンのとり込み(conservative)なのかを区別するために、DNAをBUdRで比重を大にしてから、4NQO処理、チミジンのとりこみを行わせ(5時間)、DNAを抽出し分析した。
 L・P3をBUdR 16.0μg/mlで培養し(48時間)、洗滌、chase後、4NQO 10-5乗M 30分処理、H3-チミジンで5時間処理し、DNAを抽出した。DNAは1xSSCの中でCsCl密度平衡遠心を70時間行い、分析した。
 (図を呈示)結果は図にあるようにBUなしのコントロールは軽い位置に、BUで置換されたDNAは重い位置に現れた。ラジオアクティヴィティは、4NQO処理した場合としない場合と殆ど同じであった。次にこの重いピークをプールしアルカリ性でCsCl密度勾配遠心を行えば、semiconservativeかconservativeかわかる筈であるが、これは目下進行中である。

《藤井報告》
 ラット抗Culb抗血清について:
 同種抗Culb抗血清の作製は難行中です。只今免疫中のJAR-2ラットは1匹となり、他の1匹は7月末、腫瘍死しました。現在生存中の1匹にもCulb細胞接種部位に皮下腫瘍をつくっており、大きさは1.5cm径で、根部を結紮して脱落を計っています。この生存中のラットの血清(Frat 11.B、050869)が、Culb-TC細胞に対して29.6%、RLT-2細胞に10.0%、RLC-10細胞に6.7%のcytotoxic activitiesを示し、RLC-10が変異してRLT-2となり、復元後再培養されたCulb-TCに変って行く過程で感受性の変化を示したことは前号に記したとおりです。
 最近Linbro製の平底型のmicroplateが手に入り、小量の培養細胞でcytotoxicity test、agglutination test等が出来るようになりましたので、今までに得ている、抗Culb血清のcytotoxicity testを行ってみました。
 microplateは10%アルコール、蒸留水の順で洗滌后、紫外線で滅菌(30分間)します。高岡先生にCulb-TCを植えて貰いましたところ、1日で細胞はよく壁面につき培養状態は良好のようとのことです。
 培養細胞の洗滌は、199液あるいは補体反応時に用いるK-GVB(KをふくむVeronal buffer)を2〜4滴を加え、plateを逆さにして軽く下方に1回、水を切るようにして液を捨てておこないます。この操作で健常細胞は壁よりはなれません。
 Cytotoxcity testの方法:
 monolayer cells washed.1x 2drops of “199"sol. 1dorop of sera,1/1. 2drops of guinea pig ser.1/3(for C') 37℃.45min. discard the reaction mixture
add 2drop of “199"sol.then 1drop of 0.15% trypan blue count within 3minutes.
 (成績表を呈示) この表に示されるように、JAR-2で現在までに得た血清は、cytotoxic activityも低く、変異抗原を追跡しうるものではないと云えます。
遺伝研の吉田先生からWKA系ラットの分与をうけることが出来ましたので、JAR-2の免疫と平行に、鋭意同種抗血清をつくるつもりです。

【勝田班月報・6909】
《勝田報告》
 A)RLC-10株について:
 RLC-10細胞株(ラッテ肝)は4NQOを用いての培養内癌化実験に永く使われてきたが、最近その系列の一つが自然発癌したらしいので、その歴史の回顧と諸種の実験データを再検討してみることにする。
 [起源]JAR-1系の純系ラッテF24生后11日の♀の肝を、1965-8-18に培養開始。その後、増殖率が高くなったので、発癌実験に頻用されてきた。
 [系列](図を呈示)図のようにRLC-10株は、培養瓶ごとに区別して、次の3系列が作られてきた。後述するようにtakeされたのは(B)系列である。(A)と(C)については、目下検討中である。図に示すように(B)も(C)も(A)からの子わけである。
 [復元接種試験]これが一番厄介な実験である。というのは、JAR-1系ラッテが子供をなかなか産まなくなってしまい、復元接種できるチャンスがきわめて少いからである。これまで4回、復元接種をおこなっている。その成績は次の通りで(C)については未だ検討がおこなわれていない。(A)は1968-7-8接種 0/2、1969-8-9接種は観察中。(B)は1969-3-1接種、0/2、1969-6-26に接種は観察中。
 [染色体数モード]次に示すように各系列別に系統的にはしらべていないが、(B)は明らかに変異してきている。1968-10-4にAは42本。1969-3-5にBは40本と41本。
 [細胞電気泳動像]山田班員にしらべて頂いているが、結果を略示すると次の通りである。1968-6-26 A:正常型。1969-2-7 B:中間型。4-23 B:中間型。4-23 C:少し悪性型。5-26 B:正常型。6-25 B:中間型。C:中間型。7-30 C:中間型。 型というのは、電気泳動値及びシアリダーゼ処理後の値の変化のタイプから判定。中間型は“なぎさ"変異の細胞に見られるタイプ。
 B)ラッテの純系について:
 JAR-1系は完全に純系であるが、産児数が少いので、この新館へ移ってから、JAR-1と雑系をかけ合わせ、第2系列の純系JAR-2を作りはじめた。外科の芦川博士に皮膚移植テストをおねがいし、次の成績を得た。JAR-2、F11(1969-6-6生) 1969-7-15植皮。
 ♀←→♀ 2/2。 ♂←→♂ 2/2。 ♂←→♀ 2/4 takeしたと思われる(写真を呈示)。
《山田報告》
本研究連絡月報No.6906に「合成培地内培養条件でイノシトールを要求する株と、然らざる株がある」と云う現象を勝田先生が報告したが、今月はこのイノシトール要求の性質と、細胞錠面荷電との関係について細胞電気泳動法を用いて検索した。
 用いた材料はなぎさ培養変異株RLH-4(要求株)と、RLH-5及びRLH-3(非要求株)で、それぞれのシアル酸依存荷電量と、カルシウム吸着性を分析した。シアリダーゼ処理は従来と同一条件であるが、カルシウム吸着性は泳動メヂウムに10mM濃度のCaCl2を添加し、カルシウムが表面にイオン結合することにより低下する細胞電気泳動度の多寡について検索した。(基礎実験によりこの条件でのカルシウムの大部分は細胞表面の燐酸基に結合するものと推定されて居る。)
(表を呈示)表に示すごとく、要求株RLH-4はシアル酸依存荷電量が多く、カルシウム吸着性が少い。非要求性RLH-5及びRLH-3は、これと対照的に、シアル酸依存荷電が極めて少く、カルシウム吸着性が多い。しかも両細胞とも、合成培地内培養条件では、それぞれのカルシウム吸着性はあまり差がない。(なおこの月報直前に行った実験では、イノシトールを要求しないRLT-1もかなりカルシウム吸着性があることを知った。)
 細胞のイノシトール要求は、その増殖を中心とした細胞内代謝(栄養要求)に関係した性質かもしれないが、この成績から考へると、何か表面構造と関係するのかもしれない。特に細胞表面の燐酸基のかなりの部分がホスファチヂルイノシトールであること、また培養条件の細胞増殖が、その培養管壁との付着性と密接に関係があるから、このイノシトール要求の問題歯、或は細胞表面の問題と結びつく可能性があると考へたい。今後の検索を必要とする。
 RLC-10とJTC-16(AH-7974TC)の細胞電気泳動の状態を映画にとろうと思い、種々試みましたが、失敗した。両細胞の比重が異るために、どうしても同一視野に両者を浮游させて、泳動を競走させる画面を作ることが困難であった。しかし更に工夫していつかは映画にするつもりです。
 (図を写真を呈示)映画撮影のついでにRLC-10、JTC-16の泳動度を、写真記録式泳動装置にて測定した結果を表と写真に示します。RLC-10は従来の直接測定値より意外に早い平均泳動値を示しましたが、写真に示すごとく、特に大型の細胞が早い様に思われました。これに対しJTC-16は相変らず、その泳動度は早く相互のばらつきは大きい様です。しかもその細胞の型や大きさには全く無関係です。
 なほRLT-1、-2、-3、-4、-5の細胞電気泳動度を再検してみました。前回測定してから、丁度1年を経過して居り、この間にcell popultionの変化が生じて居るのでないかと思ひ測定したわけですが、その結果次回報告します。最も明らかなことは、RLT-1が明らかに悪性腫瘍型のパターンを示す様になったことです。

《佐藤報告》
 ☆培養細胞による培地内DAB消耗について、今度、今までのデータをまとめて次の結論を論文にして出す予定です。
[結論]
 培地中にdimethylaminoazobenzene(DAB)を1μg/mlに添加して諸種の培養細胞を培養し、一定時間後、培地内のDABの消費を測定した。(夫々図表を呈示)
 (1)ラッテ肝組織の初代回転培養において、1μg/mlのDABを培養開始と同時に培地に添加した場合には、4日間でその約80%が消失し、著明なDABの消費が観察された。又培養開始後16日目に培地にDABを添加した場合にも、同程度の消費がみられた。初代培養腎組織においても、肝組織と同様に4日間でDABを消費したが、その消費速度は肝組織よりやや遅かった。 (2)正常肝由来培養細胞、腹水肝癌、ナギサ変異株、肝以外の培養細胞系について、それらのDAB消費能を比較した。その結果、正常肝由来培養細胞は培地内のDABを著明に消費するのに比べ、DABによる腹水肝癌では培地内のDAB消費能が低かった。ラッテ肝由来のナギサ変異株では正常肝由来細胞と同程度の消費を示したが、しかし、ラッテ心由来細胞及びマウス・エールリッヒ腹水癌では消費能は低かった。
 3)3'-Me-DABによる悪性化培養細胞株では腹水肝癌系培養細胞の培地内DAB消費能と同程度にDAB消費能は低かった。3'-Me-DABによる培養内悪性化過程にある培養株細胞と、その対照として用いられた培養内Tween20(3'-Me-DAB溶剤)長期添加培養株細胞では前者の方がDAB消費能が低くなっていた。培地内3'-Me-DAB添加による悪性化の過程では、培地内DAB消費能が漸減する傾向にあった。

《難波報告》
 N-5 ラット皮下繊維芽細胞のクローン化
 ラット繊維芽細胞のクローン化に成功したノデその方法について報告する。
 細胞:生後1日目の雄ラットの皮下結合組織をピンセットで集め、その組織をトリプシナイズして細胞を得、それを培養に移した(初代)。
培地:20%BS+EagleMEM
 クローニング:上記初代培養の継代1代目(培養6日目、8日目)のものを、クローニングに使用した。クローニングの方法は図に示した(図を呈示)。
 説明:培地で細胞を100〜500コ/mlになるくらいに稀釋した細胞浮游液を、流パラを入れたシャーレ中に1滴ずつ落とし、顕微鏡で細胞をみながらsingle cellを拾う。その拾った細胞を別のシャーレにまき、細胞がガラス面に附着する頃(だいたいまき込んで4時間前後で観察)にもう一度single cellかどうかチェックして、状態の良いsingle cellの生えているシャーレに培地を追加し培養を続けた。micropipettの細胞の出し入れは、図の左側のネジでesssistantの人が調節した。
 結果:現在、17コのsingle cellを拾い、経時的に細胞をチェックして2コのクローンを得ている。増殖の悪いものは途中で捨てた。(増殖の悪いものは、sengle cellから増えないもの、2〜3回程分裂してから以後増殖しないものがあった。)
 現在2コのクローンの内、1コは継代可能なほど大きくなったので近日中に継代し、4NQOの発癌実験を開始する予定である。

 N-6 ラット皮下繊維芽細胞のplating efficiency
 月報(60-7.N-2)に報告したごとく、ラット繊維芽細胞はplating efficiencyが高いことが判った。以後の実験成績を追加すると表のごとくなる(表を呈示)。この表から判ることは、ラットの繊維芽細胞は培養の若い時期に於いても十分高いPEが得られることが示されている。また、'69-7-5の班会議で安村先生から御指摘あったごとくまき込んだ細胞数と形成されるコロニー数との関係をみると(表を呈示)表のごとくなった。細胞は継代1代の培養8日目のものでsingle cell rateは97%、培地は20%BS+EagleMEMを使用して2週間の培養をした。PEはだいたい30%で、かなり一定したPEが得られることが判った。
以上の実験から生後1日目のラットのFibroblastsの若い培養細胞では、PEが少なくとも30%はあるので、培養の若い時期の細胞でも十分クローニングされ得る可能性があることが判った。初代細胞のクローンでは(1)実際に1コのようにみえている細胞が2コぐらい堅く結合していることがある。(2)白血球、マクロファージ、組織球、mast cellなど算え込む、などの危険性があるので、クローニングに使用する細胞は初代培養の細胞より少し継代したものを使用するほうが良いと思われる。現在、継代1代から5代目の細胞をクローニングに使用している。

《高木報告》
 NQ-7のsoft agar内におけるColony forming efficiencyについてその後のdataを報告します。(表を呈示)
 前報(No.6908)の表に誤がありましたので訂正します。T-1からのcolonyで、Cl-3、Cl-9がlarge colony、Cl-2、Cl-6がsmall colonyとなっておりますが、これは、large、small colonyが逆になっておりました。本報が正しいので訂正いたします。なおT-1からのcolony Cl-9は実験中止したためここに記載せず、T-3からのCl-1、Cl-4およびT-4からのCl-2は、その後に出たdataで追加します。また移植実験は皮下移植をやりかえましたため、まだdataが出揃っていません。
 この表でみますと、1)T-1、T-3のseriesでlarge colony由来の細胞がsmall colony由来の細胞よりCFEが高い様に思われます。T-4seriesでは、同じsmall colony由来で可成りのCFEの違いがみられますが、このsmall colonyは他のseriesのsmall、large colonyの中間位、すなわち径2mm位のcolonyです。
 2)これまでの処、CFEの低いT-4からのCl-3に1/4に40日目に皮下に腫瘤を生じています。これは1万個cellsを脳内接種したものが生存し、皮下にもれて生じたものです。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(14)
 4-NQOおよび4-HAQOでEhrlich細胞を短時間処理した場合DNAのsingle strand breakが生じ、これらはその後の細胞のincubationによって再結合する(X線照射によるbreakの再結合ほどrapidではないが)ことについては、これまでの月報で報告してきた。
 今回は4-NQOおよび4-HAQOで処理した場合のEhrlich細胞DNAのdouble strand break動態について検討した結果を報告する。(夫々図を呈示)
 第1図及び第2図は、共に種々の濃度の4-NQOまたは4-HAQOで30分間Ehrlich細胞を処理した直後のdouble strand DNAのsedimentation profileの変化を示す。これらの図からわかるように処理濃度に依存してdouble strand DNAは低分子化することがわかる。
 一方、1x10-5乗M、6x10-6乗M 4-NQOまたは1x10-5乗M 4-HAQOでそれぞれ30分間処理した後、37℃でreincubateし、その後種々の時間に細胞を取り出してDNAのsedimentation profileの変化を追った結果が第3、第4図および第5図である。これらの図からわかるように4-HAQO処理の場合は24時間のincubationでdouble strand breakのそれ程顕著なrejoiningは認められないが、4-NQO処理後には24時間のincubationで僅かのrejoiningが起こっているようである。しかしこの程度のsedimentation profileの変化が本物のrejoiningであるのか、それともDNAの単なる物理的な変化によるものであるのか、の決定は非常に重要な問題であるため、これら要因を用いては勿論のことX線照射によるdouble strand breakの動態と比較して検討を進めている。

《安藤報告》
 (1)H3-4NQOの核酸との結合解離のkinetics。
 月報No.6906に報告したようにL・P3細胞の核酸各分劃への4NQOの結合は、薬剤の添加回数に依存し増加する。今回は4NQO、各10-5乗M、30分処理を3回連続的に行い、一たん結合したH3-4NQO代謝物がどのようなtime courseでdissociateして行くかを調べた。L・P3細胞がTD40にフルシートとなった時点でH3-4NQO処理3回を行い、一部はそのままサンプリング、残りはPBSで洗った後DM120で培養を続ける。5時間目、24時間目にサンプリングをする。各サンプルから全核酸をphenol法で抽出し、メチル化アルブミンカラムによりtRNA、DNA、rRNA分劃に分ける(月報6812参照)。各分劃を濃縮し、OD260とradioactivityを測定した。
 (表を呈示)結果は表の如くである。処理直後の各分劃の比活性は、以前に報告したようにrRNAが最高であった。放射性4NQO代謝物の各分劃からの解離は、やはりrRNA分劃が最高のようだった。次の問題は、(1)この両者の結合がこれ以後何日頃迄続いているか。(2)一たん結合してから解離した後の核酸と元の核酸とは同じか異るか。(3)DNAについてはこの間に鎖切断、再結合が起っているわけだが、RNAについてはそのような事が起っているか。等々である。
 (2)細胞内DNAの鎖切断が起る間に細胞のコロニー形成能は如何に変化するか。
 (表を呈示)フルシートの状態のL・P3細胞を4NQOの種々の濃度で30分処理をする。一部は直ちに洗滌後プレートする。残りは再びDM120培地中で回復培養24時間を行う。platingはEagleMEM+CS20%中で行った。結果は表の通りである。今回の結果は、PEが対照で4.4%でやや低い。いつもは約10%は出る。4NQO処理後の結果を見ると、薬剤濃度が高くなるにつれてPEは低下し、10-5乗Mではプレート当り3000個まいた分は0、popultion dependencyがあるために15,000個まいた分は1.25%と出ている。一方24時間の回復培養後のコロニー形成能は各濃度とも、殆どコントロールの値に復していた。この表のコントロールのPE4.4%を100%とした時の4NQO各濃度のPEを計算し、プロットした図を呈示する。なおこの実験で注意しなければならない事は、4NQO処理直後にプレートした場合、プレート上では単個細胞であるとはいえ、回復培養をしているわけで、フルシートで24時間の回復培養をした後にプレートした場合に比して本質的な差はないのかもしれない。
 いずれにしてもこの結果が意味する所は、細胞DNAに鎖切断を起すとコロニー形成能が低下し、DNAの再結合を起すと形成能も回復するという事である。

《安村報告》
 ☆Soft Agar法(つづき)
 1.RLT-1A細胞とRLT-2A細胞: ようやくこれらの細胞系constantにSoft agarでcolonyをつくるようになりました。しかし(表を呈示)表のごとくにそれぞれの復元再培養系であるCula-TC、Culb-TC細胞系のこれまでの結果とくらべると1order低いC.F.E.です。(RLT-1A、RLT-2AなどとAがつけてあるのはAgarを通してひろったということです。)
 2.Cula-TC-Q1系とCula-TC-Q2系のS-L dissociation:
 Q1系は現在S系、L系ともS→S→Sと3回、L→L→Lと3回クローニングされてきた。この段階でのS-L dissociationがしらべられた。
 Q2系はS系は2回、L系も2回クローニングされ、SS、LLとなっている。表はそれらの実験結果を示している。今回はうずれもC.F.E.がかんばしくなかった。またdissociationも、はっきりみとめられなかった。(表を呈示)
3.マウス胎児細胞系:さきにこの胎児細胞系を対照実験として10万個/pltのorderで、Soft agarではcolony形成がみとめられなかった。それは7代めのものであった。今回は12代めのもので100万個/pltのorderでcolony形成があった。このものがmalignantであるか、どうかは今後の実験に示される。

《梅田報告》
 N-OH-AAFと共に4HAQOを生后3日目のratの肝、肺、腎の培養細胞に、又hamsterのembryoniccells(3rd gen.)に投与してその障害を生のまま観察し、更に続けて培養して、malignanttransformationを起す過程を追求している。
 1)N-OH-AAF投与后の変化:rat肝培養に投与した場合、10-4.0乗Mで肝実質細胞は小さく萎縮して脂肪滴変性を示し、内皮系細胞、中間系細胞はかなり残っている。10-4.5乗M投与ではややcontrolより増殖は悪いが、肝実質細胞島も比較的きれいい見える。肺培養、腎培養に投与した場合、10-4.0乗Mで完全にlethalに働き、10-4.5乗Mではきれいでcontrolと差がない。
 Hamster cellsに投与した場合、10-4.0乗Mで殆んどの細胞が障害をうけ、spindle-shapedcellsが少数残っているのみである。10-4.5乗M投与では相当数の細胞数が残っているが、旺盛に増生するとは思われない。
 2)4HAQO投与后の変化:rat肝培養では10-5.0乗M投与で肝実質細胞より、その肝実質細胞島の間を埋めている内皮系細胞、中間系細胞の方が障害を強く受けている。全体として細胞は比較的強い増殖阻害をうけている。肺培養細胞にはこの濃度で弱い変化しか惹起しない。腎培養細胞には肝培養細胞と同じ程度の比較的強い増殖阻害を惹起している。 10-5.5乗M投与で上の変化は軽く残る程度である。
 Hamster cellsに投与した場合、10-5.0乗Mで比較的強い増殖阻害、10-5.5乗Mで軽い障害を残す程度の変化を来している。
 3)N-OH-AAF投与后長期培養例:rat肝、肺、腎については今迄に何回も繰り返し実験し、一部は報告してきた。今回もN-OH-AAF 1〜2回投与后、普通の培地で培養を続けた。肝培養では10-4.0乗M1回投与后、肝実質細胞島の萎縮が強く、又間葉系細胞は残っていても旺盛な増生を示さない。肝実質細胞部(?)より、一様な大きさの細胞質の広がった上皮性の細胞がゆっくりと生えてくる。この種の細胞はcontrolにも見られるので、特異的とは云えない。肝、腎培養では細胞の増生は認められない。
 Hamster embryonic cellに、10-4.0乗M1回投与后普通の培地で培地交新を続けて培養を続けた場合、10日目頃には細胞は全部変性して残っていた細胞もはがれて了った。
10-4.5乗M2回(計4日間)投与后、培養を普通の培地で続けたものはやはり細胞が徐々にやられてはがれて行ったが、培養10日目頃にdenseなcolony形成部を認めた。顕微鏡観察によるとT-12 vessel(2ml培養)で4〜6ケ(2るのvesselで)あるcolonyのうちfibroblastic cellから成っているものは、2ケしかなくあとはepithelialであった。fibroblastic cellの部の写真を示すが、明らかなcriss-cross、piling upが認められた。この培養を更に10日間2〜3日毎の培地交新で培養を続けた所、pHの下りが激しく、丁度3日間培地交新をしなかったN-OH-AAF投与后21日目に全ての細胞が顆粒変性して了った。colonyがたった数ケしかないにも拘らず、すごく増生の激しい細胞であった様で、残念な事をしたが、直ちに追試中である。 4)4HAQO投与后長期培養例:rat肝細胞に10-5.0乗M 2回投与后、control mediumで培養を続けた例で、4HAQO投与后6日目には、肝実質細胞部に肝細胞索を思わせる細胞群が集まって増生しているのが見られた。この部は更に培養日数を経て、やや縮小してきたが、30日后まだ保たれている。更に4HAQO 10-5.0乗M 2回投与したこの培養例には肝実質細胞部より、3)で述べた細胞よりやや大型で多角形のepithelialに並んだ細胞の増生が見られた。之等の培養は目下大事に培養を継続し、更に、追っかけ別の培養で4HAQO投与して追試験を行っている。

【勝田班月報:6910:合成培地系株細胞の脂肪酸】
《勝田報告》
 §4NQOによるラッテ肝細胞の培養内悪性化:
 これまでの実験を一応summarizeして報告する(復元成績をまとめた表を呈示)。
 対照として用いたRLC-10はA、B、Cと3種ある内,Bがtakeされてしまった。以後この系は実験に用いていないが、自然発癌というのは当研究室開設以来初めてのことで、面くらっている。ウィルスが関与していないかどうかも、今後検討の要があると思われる。
 染色体のモードは(分布図を呈示)、4NQO発癌の場合は、どういう訳か、2nから1〜2本減って、40本、41本というところにモードが見られる。面白い現象である。RLT-5では復元し、できた腫瘍を再培養したところ、モードがさらに1本減ってしまったことを示す。
亜系の染色体分布については、RLT-1B、CはCQ#42B、42Cに相当し、RLT-2B、B'、CはCQ#40B、B'、Cに、RLT-3CとRLT-4CはCQ#39Cと#41Cに夫々相当している。処理回数とは相関はみられず、何れも40〜41本にピークの集中している点が面白い。
 核型分析はまだ本式にやっていないが、ざっとのぞいてみると、(分析図を呈示)特に長い染色体は認められず、この点岡山の所見とは若干異なっている。

 :質疑応答:
[高木]復元成績の中の細胞の接種量についてですが、私の実験では100〜200万cell/ratになるようにしていますが、ここでは400万〜800万までの間ですね。400万と800万では大分延命日数が違ってきませんか。
[高岡]定量的に腫瘍性をみるには、タイトレーションをするべきですが、ラッテの生産が間に合わないので、あるだけの細胞を接種して、とにかくラッテにtakeされるかされないかをみている訳です。それで細胞数が不揃いになりましたが、実際には、この程度の細胞数の違いなら生存率や延命日数に影響しないようです。
[堀川]4NQO処理の追打ちをかけた場合、腫瘍性がやや低下するという点について、どう考えますか。実験的に重要なことだと思いますが。
[勝田]高等動物では脱癌という事は考えにくいことですね。
[堀川]Reverseということは考えられないでしょうか。Selectionだとすれば、もっと薄い濃度で処理して耐性細胞をとってしらべてみられそうですね。
[山田]CQ60の実験系の場合、電気泳動的にみますと、4NQO1度処理に比べて、2度処理したものは、泳動値がかなり揃ってきています。このデータからみるとselectionのように思えますね。
[吉田]染色体の変化が2倍体から1〜2本減っているのは面白い現象ですね。マーカー染色体の認められる佐藤班員の場合より、早い時期の変化ではないかと思います。
[難波]復元して出来た固型の腫瘍からの再培養はトリプシンで処理しますか。
[高岡]再培養は腹水細胞からだけ採りましたから、トリプシンは全く使いませんでした。再培養系の継代にはトリプシンを使っています。
[難波]RLH-5・P3をモデル実験に使うと形態的な変化が追跡できなくて困りませんか。
[勝田]とにかく映画を撮って形態変化を動的に追ってみるつもりです。それと平行して細胞電気泳動的な変化と染色体の変化をしらべる予定です。
[山田]復元成績でRLT-1が一番悪性度が高いらしいのは電気泳動の結果とよくあっていますね。
[堀川]腫瘍性が高くなると電気泳動値が乱れるというような現象はありませんか。
[山田]そういうこともありますね。

《香川報告》
 §合成培地DM-120、DM-145で培養した数種の株細胞の脂肪酸:
 合成培地DM-120は脂質を含まず、細胞の内の不可欠脂肪酸や脂溶性ビタミンはないと考えられる。従来の実験ではDM-120中で長期継代したL・P3細胞で不可欠脂肪酸の欠除を見出した。本報告では、その後培養可能となったRLH-1、RLH-2、RLH-3、RLH-4、RLH-5、HeLa、RTH-1につき、この結論の再現性を確かめた。
 RLH-5・P3とHeLa・P3細胞についてはL・P3細胞と類似したデータを得た。すなわち18:1酸、16:1酸が多く、多價不飽和酸は認められなかった。RLH-1・P3、RLH-2・P3、RLH-3・P3、RLH-4・P3をDM-145で培養したもの、RLH-3・P3、RTH-1・P3をDM-120で培養したものではパルミトレイン酸(16:1酸)が上記の2つより更に増加していた。
 RTH-1・P3にリノール酸を添加し培養した場合は、16:1酸の減少がみられたが、RLH-5・P3の場合は、16:1酸の減少はそれほど著明ではなかった。

 :質疑応答:
[堀川]リノール酸とか血清を添加すると、細胞は分裂と関係なくそれらを取り込み、組み込むのでしょうか。或いは組み込みには分裂が必要なのでしょうか。遺伝子の活性化は細胞分裂に伴うのでしょうか。例えば脂肪酸の不飽和化の能力などは培地にリノール酸を添加すると瞬時に止まってしまうのでしょうか。
[香川]遺伝子がマスクされても、合成は瞬時に止まるわけではありませんね。酵素とmRNAの寿命がありますから。細胞分裂との関係については、高等動物の細胞では増殖させずに培養することが大変むつかしいので、なかなか開明出来ませんね。
[堀川]しかし面白い系ですね。この系が悪性化によってリピッドの構成がぐっと変わったりすると、更に面白いでしょうね。
[難波]リピッドの変化は即ちミトコンドリアの変化と考えてよいのでしょうか。
[香川]全部の膜の総計になります。ミトコンドリアは大体1/3を占めています。
[難波]すると変化はパラレルに起こるわけですか。
[香川]そうだと思います。
[吉田]蛋白合成の場合は遺伝子との関係がよくわかっていますが、脂肪酸の場合はどうですか。
[香川]脂肪酸を合成する酵素(7つのSubunitをもつ複合酵素)が1つだということは判っています。Polycistronicなenzymeです。
[山田]イノシトールは栄養要求の問題として考えられていますか。
[香川]動物細胞は原則としてイノシトール合成の遺伝子を持っています。培地にイノシトールを添加していなくても細胞内のイノシトールを定量するとちゃんと持っています。イノシトール要求性のあるものでも少しは合成する事が出来るはずです。
[山田]イノシトールの要求性の場合、イノシトールを除いてから4日間は増殖をつづけ、その後急に増殖が落ちていますね。必須アミノ酸でもそうですか。
[勝田]アミノ酸要求の場合は、イノシトールと同じ傾向のものと、除くと直ちにカタンと増殖が落ちてしまうものと両方あるようです。
[安村]私の細胞(vero)の場合、ビオチン、イノシトールを除いても3月位増殖がみられます。3月程すると増殖がだんだん落ちますが、その時イノシトールを入れてやると増殖は回復します。ビオチンでは回復しません。
[香川]ビオチンは動物細胞では合成出来ないことになっていますから、除いても増えるという系は面白いですね。ただ他のものから、ごく微量に混入していないかに気をつける必要があります。

《山田報告》
 ◇前回報告した分も併せて、その後のイノシトール合成培地内要求株の表面構造についての成績を報告します。(結果の表を呈示)
 前回に認められた傾向は更に確かなものとなり、イノシトールを要求する株、RLH-1、RLH-2、RLH-4の細胞表面にはカルシウムが吸着され難く、シアル酸依存荷電量が比較的多いことがわかりました。
 またイノシトールを必要とせず、合成培地内で増殖するRLH-3、RLH-5及びRTH-1の細胞表面にはカルシウムがより多く吸着され、シアル酸依存荷電量が極めて少いことがわかりました。
 in vitroでの増殖には細胞内の条件と共に、培養管壁との附着性が関係することは良く知られて居ますが、後者の株がイノシトール無しに増殖出来る理由には、この表面の構造にも関係する可能性があると考へます。特にカルシウムの附着は極性結合により燐酸基と結びつく可能性が大きいことは基礎実験で確めてありますので、表面への燐酸基の露出が、合成培地内での増殖に密接に関係があると考へます。
 高分子を入れた通常の培養液内では、表面の荷電の性質如何にかかわらず、無撰擇に極性結合する蛋白其の他が存在するので、管壁との附着は容易であろうと思われます。
 合成培地内とOriginalの培地内でそれぞれ増殖した各細胞系の表面構造相互の差は、この成績からあまり、明確な差を見出せません。
 細胞表面荷電のうちで燐酸基を擔う物質中、より可能性のある物質の一つにphosphatidyl inositolが考へられますので、イノシトールの細胞膜への取り込みと、表面荷電の変化が今後興味ある問題として残ります。
 ◇4NQOにより癌化した細胞群CQ39、40、41、42、50の系の細胞電気泳動度を調べた所、昨年夏の成績では変異株ではあるが、悪性型を示さないと云う結果を得たことを既に報告しました。これは、悪性化した細胞数が少いためであり、事実この癌化株(CQ42)をラットに復元した腫瘍を再培養した後の細胞系では明らかに悪性型の泳動パターンを示すことも報告しました。今回はそれから丁度1年経ちましたので、これらの株の悪性細胞の数が増加して居るのではないかと思い、再検した結果を示します。全部の細胞系がシアリダーゼ感受性が増加し、特にCQ42(RLT-1)では明らかに悪性型を示す様になりました。この系について写真記録式泳動装置によりどの様な形態を示す細胞がシアリダーゼ感受性があるのか調べました。明らかに中型で核膜硬化があり核小体の大きい細胞がシアリダーゼ感受性があり、悪性細胞と思われ、その頻度は約30%ありました。(図と写真を呈示)

 :質疑応答:
[勝田]培養日数が長くなると、細胞がひろがってくるので、ガルス面への附着が要求されると云われましたが、むしろ細胞が密集してくるので、ガラス面への附着が要求されるということでしょうね。
[山田]イノシトールがくっつくということと関係があるかどうかは、浮遊培養をしてみると、はっきりさせられるのではないでしょうか。
[安村]細胞によって、いろいろ違いがあるでしょうね。
[山田]ガラス面への附着は燐酸のチャージが関係あると思います。2価イオンなしで培養するとどうでしょうか。
[香川]カルシウムはとにかくとして、マグネシウムはゼロにすると細胞が生きていられないでしょう。
[吉田]ウニの卵ではカルシウム・マグネシウム無しの液で培養すると、細胞がばらばらになって、くっつかないで発生するという事です。
[山田]イノシトールは、直接に細胞膜の合成に使われている、とは考えられないでしょうか。
[香川]少なくともラッテでは、C14を使っての実験で、イノシトールを合成出来るという事が判っていますから、培地から直接使う必要はないと思うのですが・・・。合成出来ない系があるとすれば遺伝子がマスクされているのでしょうか。
[難波]Cellサイクルによって細胞の大きさが違ってくるのではありませんか。
[勝田]細胞の大小はcellサイクルの関係だけではないでしょう。
[香川]菌では大小が遺伝形質として分けられますが、動物細胞では分けられないでしょうね。
[安村]培養細胞の場合、形の大小は遺伝的性質ではないと思います。
[山田]多核で大きい細胞はシアリダーゼ感受性が少ないという結果が出ています。

《難波報告》
 ◇N-7:4NQO処理により発癌した培養ラット肝細胞のplating efficiencyとAltered coloniesの出現率について
 月報6908で、4NQO処理により発癌過程にあるラット胎児細胞のPEと変異コロニー(当時、transformed coloniesと報告しましたが、この言葉について班会議でいろいろ論議がありましたので、以後、Altered coloniesと云う言葉で表現したいと思いますが、皆様いかがでしょうか。)の出現率とについて報告した。同様の実験を4NQO処理ラット肝細胞で試みた。(結果の表を呈示)
 培地:Eagle's MEM+20%BS。
 細胞:Exp.7-2系の細胞を300cells/plt.3枚のシャーレにSeedingした。
 培養:炭酸ガスフランキ中で、2週間行い、1週間目に一度培養を更新した。
 判定:Altered coloniesとして、Control cellsでのcolonyにみられないcolonyを目安とした。即ち1)piling upする細胞よりなるcolonies、2)Pleomorphic cellsよりなるcoloniesを一応Altered coloniesと考えた。
 結果:
 1)4NQO処理細胞のPEはコントロール細胞に較べ高かった。
 2)4NQO処理回数が増すにつれ、PEは高くなる傾向にあり、同時にAltered coloniesの出現率も上昇しcolony sizeも増大する傾向にあった。
 3)この肝細胞は、4NQO処理8回で造腫瘍性を示したもので、その時点ではAltered coloniesが出現していない。
 4)以上のことから4NQOの発癌実験にラット肝細胞を使用する場合、細胞の造腫瘍性の獲得と、その細胞のPE及びcolonial morphologyとの間に少しずれがあるように思える。そのずれの原因として
 (1)観察した細胞数が少なすぎたためか。
 (2)コロニーレベルでの変化が出るまでには、発癌後ある期間が、必要なのかも知れない。
などの点が考えられるので、これらの点を今後解析してゆきたい。しかしラット肝細胞の試験管内発癌の一応の目安として
 (1)PEの上昇
 (2)Altered coloniesの出現率の増加
は参考になるのではないかと考えられる。
 ◇N-8:ラット皮下繊維芽細胞のクローニング
 新生児ラットの皮下組織をトリプシン処理し遊離細胞を集め初代培養を行い、6日目に継代1代目でSingle cellを拾い増殖してきた1ケのコロニーを培養26日目に2枚のシャーレに継代した。以後だいたい1ケ月経過したが細胞はガラス壁についたまま、あまり増殖を示していない。
 その後もどんどんSingle cellsを拾ってクローニングを試みていますが、どうも細胞の増殖が良くなく、困っております。今後培地の検討を行いたいと考えますが、何かいい知恵があればお教え下さい。

 :質疑応答:
・・・標本の作り方について諸々の質問があり
[難波]旋回培養して出来たアグリゲイトを試験管に集めて、以後固定→脱水→包埋まで試験管の中で行います。そして切片にして染めたのが、先程の顕微鏡写真です。
[勝田]どの系についても同じ結果が出ていますか。
[難波]2系だけですが、2系ともこういう傾向です。
[堀川]旋回培養を試みた理由は何ですか。
[難波]悪性化の同定を形態的にみる方法として使えるのではないかと考えました。
[山田]Populationの殆どが悪性化しないと、はっきりした結果が得られないのではないでしょうか。そういう点からみて余り適当な同定法でないように思われますね。
[安村]癌化と未分化ということをはっきり分けて考えないといけないと思います。癌は癌として進んでいるのであって、決して胎児の細胞のように未分化になっただけで、癌化というわけではありません。
[堀川]同定にというより、recognizationの問題として培養内に出来た大きな塊だけを拾って、動物に接種するとtakeされるという風にでも使うと、旋回培養もいい方法だと思います。
[難波]しかし、傾向としてadultを材料とした培養細胞は凝集しないのに、胎児だと大きな塊を作ります。生後1週のものでは、初代は凝集しないのに、それから分離した系では凝集塊を作る、つまり胎児に近づいたのだと言いたいのですが。
[安村・他何人か]それは言わない方がよいと思います。むしろ分化、未分化の問題なら、テラトーマなどを材料にして培養してみれば面白いのではないでしょうか。
[山田]変異コロニーの細胞は動物を腫瘍死させますか。
[難波]1,000コの細胞を接種して、1月で腫瘍死しました。
[堀川]アグリゲイトを作る物質の本体は何でしょうか。60℃で加熱して細胞を殺してから培養してもアグリゲイトを作るのではないでしょうか。
[山田]腹水肝癌を動物の腹腔内で増殖させておいて、腹腔内へアルカリなど入れると、一過性に大きなアグリゲイトを作りますね。
[梅田]脱癌というのは、元に戻ることでしょうか。
[堀川]再分化とか再変化とかではないでしょうか。
[勝田]脱癌といわずに、可移植性の消失とでも云うべきではないでしょうか。

《高木報告》
 1.NG-20(再現実験)について
 この実験を開始したのは昨年の11月3日で、培養開始118日目のWKArat胸腺細胞にNG 10μg/mlを作用せしめた。3系列の実験を行った。(図を呈示)
 (1)seriesはNG 10/ml 2hr.作用せしめ、さらに培地を追加して3日間培養をつづけたものである。NGfreeにして49日目にinitial changeと思われるものに気付いた。210日目のchromosomeのmodeは、controlが主としてdiploidを中心に存在するのに対し、実験群はnear diploid rangeの数がましていた。約300日の現在形態的に可成りの変化がみられ、復元実験中である。
 (2)seriesはNG 10/ml 2hr.作用せしめて培地を交換したものである。52日目にinitial changeに気付いた。141日目のchromosomeはcontrol、実験群共に殆どdiploidにmodeがあったが、213日目のものではcontrolに比して実験群ではnear tetraploid rangeのものの数が可成りましている傾向がみえた。形態的に約300日の現在実験群の細胞は上皮様細胞の感がつよい。
 (3)seriesはNG 1μg/ml 2hr.を10日間にわたり3回作用せしめたもので、39日目にinitial chnage特にpiling upの像がみられた。この中の1seriesは121日目にさらにNGを10μg/ml 2hr.作用せしめた。第2回目作用後55日目(初回作用後176日目)のchromosomeはcontrol、実験群共diploidとtetraploidを中心に可成り広く散在しており、両者間に有意の差はみられなかった。第2回目作用後84日目(初回後205日目)のものではcontrol、実験群共diploidとtetraploidを中心に集まり、バラツキの少くなった傾向がみられた。約300日現在形態的にはcontrolの細胞が小さくcriss-crossの感がつよい。
 これら3seriesの細胞についてはNG作用後200日をすぎた頃から復元実験を試みたが、脳内、皮下接種ラットともに接種ラットが生存せず失敗をくり返し、やっと300日をすぎた時点で皮下接種ラットが生存し、目下観察中である。chromosomeについても再度検討の予定で、またsoft agar中のcolony forming efficiencyも検討している。
 2.NG-7のsoft agar内におけるCFEと移植性とについて
 月報6909にCFEのみにつき表示し、移植性についてはふれなかったが、その後のdataを表示する。未だ観察期間は充分でないから中間報告と云うことになると思う。
 8コロニーのCFEは0.05〜72.9%と可成りの幅があった。実験T-4は動物に腫瘍を形成した。

 :質疑応答:
[難波]コロニーからコロニーへまく時、細胞をどうやってsingle cellにしますか。
[高木]コロニーからすぐに又シャーレにまくのではなく、1度試験管で増やしてから、改めてトリプシンでばらばらにしてまきます。
[安村]コロニーのLとSの関係は矢張りはっきりしない様ですね。

《安村報告》
 ☆Soft Agar法(つづき)
 1.AH-7974-TC(JTC-16)細胞クローンのうちS、L系の代表的なものC3-LとC6-S:
 1-1.Colony forming efficiencyの比較。(図を呈示)C.F.E.はともに30%近くにあって有意の差があるようには考えられない。
 月報(6908)にのべたようにこの両系間(S、L)には増殖率にも差がない。ただ形態的には液体培地でmonolayerのsystemではS系は細胞の大きさはL系より小さかった。
 それではLarge colonyを形成する細胞は形態がSmall colonyを形成する細胞より大きいために、同じ増殖率(両系とも)のもとでLarge colonyをつくるのか?
 L系の細胞はSより形態が大きいのだろうか、この問題を解明するために次の実験を試みた。
 1-2.Colony sizeとColonyを形成する細胞数の関係。(図を呈示)C3-LのColonyを65コ、C6-Sのコロニーを62コひろい、それらの直径と細胞数をしらべてみた。
 結果はL系がS系より形態が大きいとはいえないことを示した。
 この結果の解釈には、立体構造をしたcolonyを、いちおうplateの上から測定した直径の3乗に比例すると考えている。もしこのcolonyの3次構造が不規則なものであるとしたら、それに由来する誤差を考えにいれなければならない。S系、L系のそれぞれの細胞あたりのDNA量、蛋白量もしらべてみたが、まだなんともそれらの結果からは細胞の大小について統一した相関関係をうちだすことができないようである。(このことについては次号にでも書けるでしょう)。
 現在、S、Lの出現はSingle cellのSoft agar中での立ちあがりに差があると考えている。S、L形質はheritableではないことはS→S→S、L→L→Lと拾って行ってもなおかつSからLは出現するし、LからSもでてくることからもそのことはうなずける。Single cellの増殖への立ちあがりの差というのはあるSingle cellはplatingののちすぐ立ちあがって分裂するが、あるsingle cellはlatent periodが長く、2日、3日、4日というぐあいに、数日後にして立ちあがる。そのような差がS、L colonyになってあらわれるということであろう。このような現象は液体培地でもcolony formationをさせるときにWindows techniqueなりをつかってわかっていることである。そんなわけで、少くともAH-77974-TCに関してはS、L、形質(形質と呼ぶのはふさわしくないが)はheritableでなく、phenotypicなものであると結論してよいかと思われる。またS、L形質はtumorigenicityとも有意な相関がないという結果からも以上の見解は支持されるだろう。
 2.マウス胎児細胞系:
 前号の月報でふれた1年間近く培養継代した(あまり熱心に継代しなかった)マウス胎児細胞系の12代めからSoft Agar中でcolonyを得ることができた。(表を呈示)100万個細胞をまいて平均21コのコロニーができた。このコロニーを数個ひろって次代でWild typeとC.F.E.を比較中である。100万個以下ではcolonyは出来なかった。

 :質疑応答:
[堀川]コロニーLのstartが実は1コでなく2コだったという事はあり得ませんか。
[安村]そうではないとは言えませんね。しかし、もうLとSはおしまいにする積もりです。
[堀川]細胞数はどうやって数えたのですか。
[安村]コロニーを1つ1つ吸い出して、クエン酸0.1ml中に入れて、寒天をくだいて細胞の核数を数えました。
[堀川]増殖率の方は・・・。
[安村]試験管内で、培地は液体培地です。
[堀川]増殖率の違いでもない、細胞1コ1コの大きさの違いでもないとなると、寒天内での接触阻害のような影響を受けるとは考えられませんか。DNA合成をみてLの方がぐっと取り込みが多いという事でもあると面白いですね。
[安村]細胞学としては面白いかも知れませんが、腫瘍性との関係ははっきりしませんから、矢張りLとSはもうおしまいです。
[勝田]マウスの細胞についてですが、マウスではエバンスたちが半年で前例悪性化してしまったという報告をしていますね。ですから400日もおかずに早く復元してみるべきでしたね。
[安村]いや、この場合は原株と軟寒天内で拾った細胞との間に、動物に対する悪性度の違いがあるかどうかをみようとしただけです。対照として使っていたのが、いつの間にか悪性化したらしいので、軟寒天内で拾った細胞が悪性なのかどうかという裏付けにでも使おうということです。
[堀川]L→L→L、S→S→Sを捨てるのは寂しいですな。安村さんの効能書きが面白かったですから。
[吉田]遺伝形質として、LとSの本質を担っているものもあるのではないかしら。それを調べるのには3回のクローニングではだめだったのでは・・・。
[安村]1回ではダメ、2回でもダメ、3回のクローニングでもダメと言われたのでは、何時になっても仕事が終わりません。
[堀川]63才になってもね。
[安村]ですから、もうLとSはおしまいにします。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(15)
 4-NQOおよび4-HAQOは濃度に依存して培養細胞内DNAの一本鎖および二本鎖切断を誘起させることについては前報で報告した。またこれらの両切断のうち一本鎖切断はアルカリ性蔗糖勾配遠心法でみた限りでは再結合することがわかったが、では一体DNA切断の際nucleotides fragmentの酸可溶性分劃への切り出しがみられるかどうかが問題になってくる。
 Ehrlich細胞をあらかじめ1μCi H3-thymidine/mlを含くむ培地中で24時間培養し、DNAをラベルする。つづいて細胞を1x10-5乗M 4-NQOで30分間処理した後に、10μg cold thymidine/mlを含くむ培地にもどして種々の時間培養後に細胞を集め酸可溶性分劃と酸不溶性分劃にわけてそれぞれの分劃に含まれるradioactivityを測定した。(図を呈示)
 4-NQO未処理(対照群)の細胞では酸可溶性分劃中のradioactivityは培養時間と共に減少する。つまりこのことは細胞分裂に伴うDNA合成に利用されるか、或いは、Cold thymidineと置き代ってmedium内に放出されることを意味すると思われる。勿論、酸可溶性分劃内のradioactivityはこの程度の培養時間では誤差範囲の変動しか認められない。一方、4-NQOで処理した細胞群においては酸不溶性分劃内のradioactivityには大きな変化は認められないが、酸可溶性分劃内のradioactivityが培養時間と共に増加することがわかる。つまり4-NQOによって切断されたDNA fragmentが酸不溶性分劃から酸可溶性分劃に移ることが示唆された。
 ここで次の問題として紫外線照射によってDNA中に形成されたthymine dimerを切り出す能力を欠くmouse L細胞において同上の現象が認められるか否かという疑問が生じてくる。Ehrlich細胞について行なったとまったく同一の方法で処理し、この点を検討した。(図を呈示)結果は、L細胞でもEhrlich細胞同様に、4-NQOによって切断されたDNA fragmentが酸可溶性分劃に放出されることがわかった。
 このようなL細胞とEhrlich細胞の間のDNA fragmentを放出する能力に於いて差が認められないという結果は、4-NQO処理後の細胞のunscheduled DNA合成をみた場合の結果とも良く一致し、この場合にもEhrlichとL細胞の間にはunscheduled DNA合成能に於いて差は認められていない。
 以上のごとくUV照射の場合のdimer除去能力のないL細胞にも4-NQOで切断されたDNA fragmentの酸可溶性分劃への放出能は認められる。またUV照射と4-NQO処理に対する(colony forming methodでみた)細胞株間の感受性の間には何らの相関関係もみとめられないという結果から考察すると、UVと4-NQOに対する障害修復機構は同一のものとは考えにくい。少くともmammalian cellsに於いては修復過程のどこか一部分が異なっているように考えられる。

 :質疑応答:
[梅田]一本鎖の切れ方はユニフォームでなく、ばらついているのに、二本鎖では一定の切れ方をするようですね。
[堀川]そうですが、そのメカニズムは判りませんね。
[安藤]私の実験でも同じような結果です。処理後30分でもうユニフォームになってしまいます。もっと短い時間に切れてしまうのではないかと考えて、タイムコースをとってみたら5分でもうユニフォームになっていました。2分だともう少し大きなものもあるようです。
[勝田]X線で切られた場合も二本鎖切断の移行は、4NQOでの場合と同じようにユニフォームですか。つまりピークがありますか。
[堀川]4NQO処理の場合はピークですがX線照射の場合はアトランダムな切れ方です。
[安藤]熱処理をしたり、乾燥させたりすると、細胞の生命は死んでしまいますが、酵素の活性は残っています。とすると、60℃加熱後4NQO処理の実験結果を物理的にだけ、しぼったものとみてよいでしょうか。
[堀川]そういう問題は残ると思います。しかし結果としては先ず乾燥したものも、加熱したものも、DNAの切断が起こらないという、生きた細胞と違う結果が出て居るところが面白いと思っています。そして4NQOでは切れないが、次の実験として4HAQOを作用させてみて、もし、切れれば杉村さんのDNAレベルの話と合ってくるということになります。
[梅田]Ehrlich細胞だけでなく、正常細胞でも同じような実験をやってみる必要がありますね。
[吉田]この実験条件だと、4NQO無処理のものでもDNAは随分切れているのではないでしょうか。Ehrlichですと、DNAの長さは2cmもあるものがあるはずですから。
[堀川]それはそうかも知れません。しかし或る一定の操作下に処理しているのですから、4NQO無処理細胞の結果については、人によっても又時によっても、ピークは大体同じ所にくるはずだと思います。勿論生きて居る細胞のDNAに比べれば、何分の1かの長さになっているとは思います。

《安藤報告》
 (I)4NQOによるL・P3DNAの二重鎖切断のkinetics
 月報No.6906に4NQOはL・P3DNAの二重鎖切断を起す事、薬剤の濃度依存的に一定の分子量で小さくなる事、又薬剤除去後24時間回復培養を行うことによって殆ど元の大きさに又再結合が起る事を報告した。今回は鎖切断が起り一定の分子種になる過程で早い時間をとれば、その中間体がつかまるか否かを調べた。
 4NQO処理2分、5分、15分と調べた所(図を呈示)、この切断反応は極めて速やかな反応であり、すでに2分の反応で30〜40%のDNAがこわれ始め、5分で殆ど分解は完了してしまう。但し、4NQOとの接触時間が2分、5分であって、分析迄には10〜20分はlysed cellの状たいでいるので、この間に分解した分がどれ程あるかは不明である。
 それから、4NQO、30分処理で生成した均一なDNA分子は、遠心分離の際のArtifactではなく、やはり切断産物は均一分子種である。
 (II)4NQO処理L・P3はRepair合成(non-conservative Replication)を行うか(2)
 月報No.6908の続き:L・P3にBUdRを16μg/mlで48時間培養、一夜chase、4NQO、10-5乗M、30分処理、H3-チミジン5時間ラベルし、表題のような目的でDNAをCsCl中で分析したものがNo.6908の図です。今回はBUdRの濃度を下げ5μg/mlとして同様の実験を行った。
 中性CsCl密度平衡遠心し、hybridDNAピークをpoolし、透析後、再びアルカリ性CsCl密度平衡遠心分析をした。一方、放射性のピークは4NQO処理した場合もしない場合も、全てlight peakに集中していた。(分劃図を呈示)
 この実験事実のRationaleは、BUdR 48時間ラベルで、大部分のDNAはhybridDNAとなる。このようなDNAを持った細胞を4NQO処理し、H3-TdRでラベルすると色々なDNA分子が出来る事が予想される(模式図を呈示)。すなわちrepair合成が全く起らないとすれば、まだらにBUdRを取り込んだ分子は生成しない。repair合成が起るとしたら、まだらな分子が生成する筈である。そこで中性CsClによりhybrid regionを集めるとBUdRがまだらに入った分子と片方にだけ入った分子の混合物がえられる。次にこれをアルカリ性CsCl分析を行うと二重鎖が一重鎖となるので、始めてまだらに取り込んだ分子はheavy域に回収されるので、radioactivityがheavy域にあればrepair合成があった事が結論される。repair合成がなければ、片方だけにBUdRが入った分子だけなので、heavy域にはradioactivityは入って来ない筈である。
 したがって本実験の条件に於いては検出可能なrepair合成はなかった事になる。しかし、4NQO濃度を上げるか、あるいは正常な半保存的なDNA合成を抑制するような手段を用いれば、あるいは検出可能となって来るかもしれない。

 :質疑応答:
[堀川]私の実験と違う点は二重鎖でも修復が起こるという所ですが、これは本当の修復ではなく、L・P3が死んでしまったためにDNAが凝集して大きくなったとは考えられませんか。
[安藤]形態的にみても、細胞数を数えてみても、そんなに死んでいないのです。
[勝田]修復されたDNAはもとのものと全く同じものになっているでしょうか。DNAのハイブリダイゼーションで判りませんか。
[安藤]とても判らないと思います。
[勝田]部分的なrepairは行われないという結論ですか。
[安藤]セシウム法で検出出来る程のrepair合成はみられなかったということです。
[堀川]UV照射の実験では、同じ方法で修復合成をdetect出来る程のカウントが得られているという報告がありますね。X線の場合の修復合成もdetect出来ません。二重鎖の場合の修復は殆ど合成なしに、くっついてしまうのかも知れませんね。
[吉田]UVとは、又違った修復が起こっているのかも知れませんよ。ダイマーの出来るのは・・・。
[堀川]UVだけです。
[安村]カウントに関係のない修復合成があったとは考えられませんか。
[梅田]そうですね。ラベルがチミジンだから、取り込まれないので、カウントに出ない。例えばグアニンだと取り込まれているということも考えられます。
[堀川]4NQOの切り方が、非常に特異的選択的だとすると、そういうことも考える必要がありますね。
[難波]放射線と違って4NQOの場合、処理後に4NQOが細胞内に残っているということはありませんか。
[堀川]あり得ることです。そしてそれが放射線障害の場合のようには短時間に修復されないということの原因になっているとも考えられます。
[勝田]4NQO処理後にシャーレにまくとPEが対照より低く。コンフルエントで1日おくと対照と同じ位に回復するというのは、何を意味していますか。
[堀川]4NQO処理直後は、DNAが切られたままの状態で修復されていないので、DNA合成→分裂と立ち上がることが出来ないのでしょう。コンフルエントにしておくとDNAの修復が先ず行われるので、1日たつとDNA合成に入れる態勢になる、ということではないでしょうか。
[勝田]映画でみていると、随分死んでいく細胞が多いと思いますがね。
[安村]対照群と同じPEといっても、5%ですから、その5%は始めから4NQO耐性だったのかも知れませんよ。そして残りの95%の死んでゆく細胞の中に勝田さんの映画でみている、死ぬ細胞というのが含まれているのでしょう。
[勝田]4NQO処理によるDNAの切れ方についてですが、薄い濃度の処理でも長い時間処理すれば、濃い濃度の短時間位に小さく切れるでしょうか。
[堀川]薄い濃度の処理だとすぐ修復されてしまって、小さく切れてしまうことは無いでしょうね。
[勝田]そういう結果がでれば、それは又、薄い濃度で悪性化の起こらないことの裏付けにもなる訳ですから、ぜひ結果を出しておくとよいですね。

《梅田報告》
 (1)今迄N-OH-AAFをrat liver culture、HeLa細胞等に投与した時、核が大き目になり、核質は淡明、核小体は小さくなることを報告してきた(6707-II)。Aflatoxin投与でも同じ様な変化であるが、核小体はpin pointの様になり、更に著明な変化と云える(6811-I)。
 N-OH-AAFをHeLa細胞に投与した時、H3-TdR、H3-URの摂り込みは抑えられ、H3-Lewの摂り込みは比較的良く保たれていること(6903-II、6905-I)、Aflatoxin投与では文献的にActinomycinD様の作用があると云われていることから、核質の淡明化、核小体の縮小化が、RNA合成阻害、蛋白合成持続に関係していると考えていた。更にDNA、蛋白合成を抑えるが、RNA合成は抑えない赤カビ毒素のNivalenol投与によると、細胞は小さ目であるのに核小体は丸く非常に大きくなっている。
 以上の事実を今迄班会議で報告の際、吉田先生から「本当に核小体が小さいのかどうか疑問だ」との指摘をうけ、又山田先生からも「位相差で観察したら」とのsuggestionをうけた。
 先生方の提案にもとずいて、rat newbornのliver、lung、kidneyの、及びHeLa細胞のタンザク培養を用意して、N-OH-AAF 10-4.0乗M、10-4.5乗M、Aflatoxin 3.2、1.0μg/ml、Fusarenon-X(NivalenolのAcetoxy化された誘導体)1.0、0.32μg/mlを投与して位相差顕微鏡観察を行った。
 N-OH-AAF、Aflatoxin投与により、今迄報告した様な肝実質細胞の変性が認められ、又細胞が重ったりしていて観察は充分に行なえないが、核小体は染色標本でみる程縮少していない。これに反し、Fusarenon-X投与では明らかに核小体の増大がみられた。しかも位相差で観察した同じタンザクをCarnoy固定、HE染色してみると、N-OH-AAF、Aflatoxin投与例では核小体は小さくなっている。
 細胞の摂り込み実験からすると、核小体がN-OH-AAF、Aflatoxin投与で小さくなることは説明つくと思っていたが、吉田先生、山田先生指摘の様に、固定によるartifactであるかも知れない。Aflatoxin投与による電顕的観察(Floyd et al.:E.C.R.51:423,'68)では、その大きさは減少し、fibrillarとgrannlar componentsがseggregateされると報告されている。それ故、上の変化がCarnoy固定によるArtifactとしても固定により核小体が縮小しやすい何かがあると考えては如何だろう。
 (II)上の様なことが動機になって、作用機序のわかっている物質について、形態的変化を比較検討してみた。HeLa細胞に投与して3日目のタンザクを型の如くCarnoy固定HE染色した。物質数と観察がまだ不充分なので中間報告する。
 (1)FUDR(thymidylate synthetase阻害によるDNA合成阻害剤):細胞は大きく核も大きく、核質は淡明、核小体もそれに応じて大きい。核小体は不規則形。分裂細胞殆んどなし。
 (2)IUDR(DNA合成過程でTdRとのcompetitive inhibitor。IUDR自身、DNAに摂り込まれfrandnlent(?)DNAを合成する):FUDRよりやや弱いが同じ様な変化。細胞、核、核小体すべて大き目になり、核質は淡明である。
 (3)Cytosine arabinoside(deoxy cytidine合成阻害によるDNA合成阻害):FUDRと殆同じ様な変化。
 (4)FUR(UridineのかわりにRNAに摂り込まれfrandnlent(?)DNA形成):細胞、核の大きさは普通。核質も普通に近い。核小体は丸くなっており、数が1〜2ケ(正常は2〜4ケ位)しかし正常と同じ位の大きさを示す。
 (5)8Azaguanine(guanineのAntimetabolite):細胞は萎縮し、大小不整となり、細胞質はそざつ、核小体1〜2ケ丸く大きさはそれ程小さくなっていない。
 (6)Amethopterin(Antifolic agent.DNA、Purine蛋白合成阻害に働く):細胞はSpindle-shapedになり小さ目。核はやや小さ目、核質は斑点状で一様でない。核小体は丸く、数小さい。
 (7)ActinomycineC(DNA dependentRNA合成阻害):Act.DがないのでAct.Cで実験を行った。細胞は萎縮し小さくなり、核小体は0.01/ml0.0032/ml0.01/ml(8)Proflavin(9)MitomycinC(Alkylity agent、DNA合成阻害):FUDRと似た変化を示す。
 以上の変化をあまり数が多いので密着写真で示した。

 :質疑応答:
[安藤]この実験の意味は、作用機作の分かって居る薬剤を作用させて、その形態的な変化を確認したということですか。
[勝田]未知の薬剤を使う前に、既知のものを使って確認したというところですね。
[難波]アクリジンオレンジで染めると、核小体はもっと綺麗に染まってはっきりすると思います。
[山田]非特異的な変性に伴う変化もあるようですね。その薬剤特有の典型的な変化が認められる場合はよいのですが、そうでもない場合はよほど対照をかっちりととっておかないと異論が出ると思いますよ。ブリリアン クレシング ブルー(B.C.B)などで染めてみるのも手だと思います。

《藤井報告》
 1.ラット抗Culb血清について
医科研癌細胞研でラット肝細胞の培養内発癌を見たRLC-10→RLT-2→Culb→Culb-TC各細胞の抗原性の変化を調べる目的で、癌細胞研のラット(JAR-2系)にCulb腫瘍細胞(JAR-1ラットで腹腔内継代されたもの)を注射して免疫したが、Culb細胞は皮下接種でJAR-2系ラットにもtakeしてしまい、未だ検査に用いうる同種抗Culb血清は得ていない。現在までに2匹のうつ一匹は腫瘍死し、他の1匹は腫瘍を結紮して脱落させたところ、転移はおこらず生存中で、9月22日、されにCulb細胞で追加免疫をおこなった。
 以上のラットより得ている各時期の血清について、Immune adherence法で抗体の有無を確かめてみた。
 標的細胞はRLT-2、Culb-TCで、平底のmicroplateの各wellに1日間培養した細胞である。1日培養の細胞であるためか、反応操作中に培養面からはがれて落ちる細胞が多く、成績は残った細胞について、IA像の強弱を比較するに止まった。(結果の表を呈示)
 2.ウサギ抗Culb血清によるRLT-2、Culb-TCの比較:
 1日培養したRLT-2、Culb-TC細胞について、ウサギ抗Culb血清(FR85〜87、051969)、ウサギ抗ラット肝血清(FR51、52、030269)によるIAのおこり方を比較した。IAの方法は既報の如くであるが、細胞の洗滌、とくに人赤血球を反応させた後の洗滌は入念にやる必要があり、Plateをmedium(K++をふくんだveronal buffer)中で底面を上にして静置(約30分)し、非粘着赤血球を落し去った。この実験でも培養標的細胞が操作過程で脱落し、残った細胞についてIA像の強弱を、粘着する赤血球の多少で比較するに止った。(表を呈示)
 microplate上でのIAの技術上の改良とくに培養細胞を底に固定させるに必要な日数の検討等がなお残されたわけであるが、上の成績から、RLT-2もCulb-TCと同じ程度にIAをおこしている。AH-130-TCもおこすが、程度は弱い。−即ち腫瘍細胞1ケに粘着するヒト赤血球の数が一様に少いことが見出された。こういう傾向は、Anti-rat liver serumとCulb-TC、AH-130-TC等の間でも云えることで、抗体に反応する抗原のsitesが少いということであろう。Anti-Culb血清と、Culb-TCやRLT-2で強いIAを示す抗体がCulb腫瘍特異なものであるかどうかは未だはっきり云えない。Anti-Culb血清をラット肝組織で吸収したばあい、その稀釋血清はCulb-TC、RLT-2細胞に弱いがIA(1+)を示した。後日、細かく検討するつもりである。

 :質疑応答:
[山田]抗Culb血清はRat liverで吸収するべきではないでしょうか。
[勝田]此の場合、抗Culb血清と抗Rat Liver血清のタイターが違っていると、比較の意味がなくなりますね。
[藤井]実は、当然抗Culb血清はRat Liverで吸収して反応をみるべきだとは考えていますが、何分タイターが低いので吸収すると何も出なくなってしまう可能性もあると考えて、先ずこのデータを出して比べてみたわけです。
[山田]判定のボーダーラインをはっきり定めてありますか。
[藤井]+以上はたいてい20%〜50%位の細胞に血球が附着しています。その附着している血球の数が数個で+、まわり中附着していると+++という風に定めています。

《吉田報告》
 最近、吉田肉腫の染色体を詳しくしらべてみると、分裂中期にも、ほぐれたまま固まらない部分を持つ染色体が見出された。遺伝研の吉田肉腫では80〜90%、佐々木研でも80〜90%、岐阜では50%、東北大では5%、武田では90%のmetaphaseに見られた。なおその部分の短いものは、他の染色体と一緒にDNA合成がおこなわれるが、長いものはH3-TdRのとり込みがおくれていた。先の方がまた固まっているのも見られ、13%位に染色体と染色体の間に細く繋がっているものも見られた。これは3年前までの標本には見られない。最近認められる現象である。(模式図を呈示)

 :質疑応答:
[勝田]それは染色体と呼ぶべきでなく、Chromatinではありませんか。
[吉田]そうです。或は染色糸というか。
[山田]Heterochromatinですか。
[吉田]片方はそうらしいが、片方はちがうようです。石館氏のところでは薬剤耐性の株に率が高いようです。
[勝田]特種染色ですか。
[吉田]いや、FeulgenでもGiemsaでも見られます。
[勝田]どうもVirus感染による変化かも知れませんね。
[吉田]その疑はあります。
[堀川]Telophaseまで残りますか。
[吉田]核小体と関係があるかと思ってしらべたら、Metaphaseまではlight greenで染めると核小体が残っている。但し、コルヒチンや低張処理をすると消えます。今までは核小体はmetaphaseでは消えると云われていたのですが。
[梅田]昔は使わなかったdisposableの注射器(移植時の使用)などが原因では・・。
[吉田]いや、やはりウィルスが疑わしいですね。

【勝田班月報・6911】
《勝田報告》
 完全合成培地継代のRLH-5・P3株細胞の4NQO処理:
 1)4NQO処理
 RLH-5株というのはラッテ肝(JAR-1系)由来の株で、なぎさ培養で変異させた株であるが、これを完全合成培地DM-120内に移した所、即座に旺盛な増殖を示し、以後その培地のなかで継代している系をRLH-5・P3と命名している。現在までのところでは、この株はラッテに復元接種しても腫瘍を作らないので、安藤班員の4NQO実験にも使っている。我々はこの株を使って一種のモデル実験をおこなうことを計画した。なおこの実験は、なぎさ変異細胞を使うので、正常肝との区別をつけるため、実験番号の“CQ"を使わず、なぎさの象徴である“H"を使って“HQ-series"とした。これまでに処理した系は次の通りである(表を呈示)。
 表に示すように、HQ-2のExp.は映画でしばらく追跡したが、処理直後の培養は、1)割に大型の細胞、2)小型の細胞群、3)球形で他の細胞の上に乗っている群、の3種に別れていた。処理後6日間の観察では、視野内の細胞はどんどん死んで行くものが多く、残った細胞にも分裂は見られなかった。これが4NQOのphotodynamic actionによったものか、どうかは未だ不明である。次の6日間、視野をかえて撮すと、前半には分裂がかなり見られた。殊に小型円形細胞の分裂がみられ、pile upの像が顕著であった。後半に分裂が少くなったのは、培地をその間交新しなかったためと考えられる。このように変異させた細胞の場合には長時間培地無交新というのは無理であろう。
 2)細胞電気泳動値の測定
 実際の測定値は山田班員の報告におまかせするが、上記の実験系のどの辺でしらべたかを次に示す。系は現在のところすべてHQ#1だけである。
 1)1969-10-6:RLH-5・P3無処理と→4NQO処理・HQ-1(処理25日後)
 2)1969-10-30:RLH-5・P3無処理とHQ-1(処理49日後)とHQ-1B(第2回処理7日後)
HQ-1Bという系はHQ-1系を分けて、さらにもう1回4NQO処理をした系である。
 3)復元接種試験
 すでに報告しているように、RLH-5株はJAR-1系由来の細胞であるが、JAR-1が仲々子供を産まなくなってしまって、復元したくてもできないという状況なので、充分なデータは未だ出せないでいる。
 1969-6-6:無処理RLH-5・P3を生后6日ratへ1,000万個/rat接種・0/2
欄が足りなくなってしまったのでここに補記するが、JAR-1のF33、生后6日のratsの腹腔内接種で、11月11日現在でまだ腫瘍を作っていないということである。5月以上経過しているわけだから、おそらくこのRLH-5・P3そのものは腫瘍を作らないと考えて良いであろう。
 1969-10-31:HQ-1(4NQO処理1回)を生后3日ratへ500万個/ratと、HQ-1B(4NQO処理2回)を生后3日のratへ500万個/rat接種。この両例はJAR-1のF34の生后3日のratに、やはり腹腔内に接種した。どちらも未だ1月も経っていないので、結果は何も記し得ない。
このseriesの実験は今後も継続する予定であるが、完全合成培地で増殖している細胞なので、以後の化学的分析が楽であること、安定した且増殖の早い細胞であるから、取り扱いが容易である上、4NQO処理から悪性化までの期間も割にそろってくるのではないか、というのが狙いの一つである。

《佐藤報告》
 ☆MNNGによるラット肝臓細胞の培養内発癌実験を進めるに当ってMNNGが経口投与されると、ラット、犬等の消化管に腫瘍が発生することが知られているが、肝臓とか腎臓に腫瘍形成をみたという報告は皆無に等しい。そういうin vivoでの所謂標的臓器でない、肝臓とか腎臓に由来する細胞が培養内でMNNG処理することによって癌化するかどうかは興味深い問題である。そこで特に肝臓由来細胞の発癌を試みるべく予備実験を開始した。今回はMNNG処理方法について検討した。
 (1)解放系における処理方法:
 1)細胞の培養令。2)細胞数。3)MNNG濃度。4)MNNG作用時間等について。
以上の点について、MNNG処理細胞群のコロニー形成率を対照群と比較し、MNNGに対する感受性(細胞傷害及び変異に関する)を検討した。方法は、ドンリュー系ラット肝臓由来細胞(ただし未クローン化)をガラス製ペトリ皿(三春製作所製・P-2・45mm直径)に植込み、約24時間後にMNNG溶液(Eagle'sMEM+BS20%)で液交換して1週間(37℃・5%CO2孵卵器内で)培養し、そのまま停止するか、MNNGを含まない培地で更に4日まで培養した。コロニー形成率で両者を比較する為に、対照群がシートを作らぬよう植込み細胞数は25,000コ以下とした。結果は図表に示す通りである(図1は表1を基にして、相対的コロニー形成率を求め図示したものである)。その結果、(1)細胞の培養令とともにコロニー形成率は上昇する傾向にはあるが、MNNGに対する感受性は変わらない。(2)植込み細胞数の差による感受性は変わらない。(3)MNNG 10-4.0乗M(14.7μg/ml)までは濃度を高めるとコロニー形成率は対数的な低下を示す。(4)MNNG処理時間は一応7日としているが、別の細胞系(バッファロー系ラット肝臓由来細胞)で処理時間を24時間及び15分間として試みたが、24時間と7日間との間に差が認められず、又15分間処理では、未処理対照群に比較して僅かの低下しか認められなかった。(5)変異コロニーの出現に関しては、現在までに1例の重層をする“変異コロニー"を認めたが、実験例が少ないので今後更に検討する予定である。この実験系の植込み細胞数が25,000コ以下であったこと、培養日数(MNNG処理後、停止するまでの)が長くて数日であったこと、などの点を再考する必要がある。尚“変異コロニー"はクローニングしたが後に増殖が見られず、培養を停止した。

《難波報告》
 N-9:培養内で4NQO処理により癌化したラット肝細胞の動物移植により生じた
    2系の腹水腫瘍の樹立と、その細胞学的性状
 化学発癌剤を使用して、試験管内で悪性変化した細胞を動物に移植して腹水化した腫瘍細胞を動物に継代し株化した報告は少い。そこで、ラット肝由来の培養肝細胞を試験管内で4NQOを処理し、悪性化させ、その細胞をラット腹腔内に接種して2系の腹水型の腫瘍を得たのち、これを継代し株化した。2系の腹水腫瘍をQT-1、QT-2と命名した。
 この腹水腫瘍を株化した目的は次の2点である。 1)腫瘍細胞の細胞学的検索に有利なこと。2)この腹水型腫瘍細胞の細胞学的検索から、現在の培養肝臓細胞の性格を少しは推察できること。
 [材料]生後5日目のドンリュウ系雄ラット由来の肝組織を、メスにて細切し試験管壁に附けて、回転培養(8rph)を行った。継代は0.2%のTrypsin(Difco)を使用し、継代1代以後は密封静置培養した。培地はLD+20%BS(LD培地)を使用した。221培養日にこのLD培地に終濃度0.08%のyeast extractの添加された培地(YLD)に変え、223日目より間歇的に培地中に終濃度10-6乗Mになった4NQOで、培養細胞を処理し発癌せしめた。処理期間は108日、4NQO処理回数は20回であった。以後処理を止め、実験開始後119日目(全培養日数342日)に500万個の細胞を生後48時間目の2匹の同系の新生児ラット腹腔内に接種した。2匹のラットはそれぞれ接種後104日(QT-1)、107日(QT-2)に著明名腹水を貯溜し瀕死状態になったので、屠殺しそれぞれの腹水を成熟ラット腹腔に継代すると共に、剖見した。2匹のラットには血性腹水がそれぞれ100ml、40ml溜まっていた。腹水の像は、QT-1では出血強くザラザラした感じで大きな島を示す癌細胞が多いのに比較して、QT-2では割合にサラサラした感じの小さい島を示す癌細胞、及び遊離細胞が多かった。腫瘤形成は大網、腸間膜、腹膜、肝門部に認められた。固型腫瘍の組織像は、QT-1では充実性の未分化肝癌、QT-2では、hepatoblastoma様の構造を示す部分があった。
 [結果]
 1.2系の樹立された移植腹水腫瘍の性状
 移植継代は全てドンリュウ系成熟ラット腹腔を使用し、移植細胞数はだいたい1000万個であった。(2系の腹水腫瘍性状の表を呈示)
 2.染色体の分布
 QT-1:38〜78に分布し、モードは72。QT-2:60〜76に分布し、モードは70。
 3.QT-1、QT-2の初代培養に於る細胞増殖
 1)Simplified Replicate Tissue Culureで1週間の増殖率
QT-1(21代)のもの:9.1倍。QT-2(16代)のもの:3.4倍。
 2)Plating efficiencyは、QT-1(22代):18.9%。QT-2(16代):18.5%。
 4.再培養された細胞の形態
 QT-1、QT-2共に上皮性のCell sheetを形成した。コロニーにまくと、きれいな上皮性のcolonyの形成がみられ中心部のpiling upする物、異型性の細胞よりなるcolonyが多かった。 5.4NQO耐性の検討
 細胞はSingle cellsの多いQT-2と、その対照として、AH66を使用した。4NQOを終濃度10-5乗M、10-4.5乗M含む、10%ラット血清加YLD液で、細胞浮遊液(1000万個cells/3ml)をつくり、37℃、30分処理後、100万個の細胞を動物の腹腔に入れ、その生存日数を比較した。対照には4NQOを含まない細胞浮遊液を使用した。対照に比べ4NQO処理群で動物生存日数が延びるほど細胞は薬剤に感受性がある訳で、細胞に耐性があれば生存日数は、対照群と変らぬことになる。(表を呈示)その結果は表の如くなり、QT-2に4NQO耐性があるとは考えられなかった。 [考察]同じように4NQO処理を受け悪性変化した細胞を、2匹のラットに移植し、生じた腹水腫瘍を動物で継代し、株化した。両者間には相違が認められた。その理由として
 1)培養細胞集団内に種々の細胞が混在しており、それが4NQO処理により多中心的に発癌したものか。2)ある特定の癌細胞のみが動物体内で増殖を許されたのか。3)悪性化した細胞が動物体内で異なった方向へ分化したものか、など種々の要因が考えられる。

《高木報告》
 NG treated cellsのsoft agar内におけるCFEと腫瘍形成能:
 NG-4、NG-11、NG-18の3実験系においてCFEと腫瘍形成能との間の関係をみるべく実験を行った。結果は表に示す通りである(表を呈示)。
表中二重線より左は各実験系細胞について行ったもので、CFEをみるためseedした細胞数はNG-4:10000、NG-11:10000、NG-18:1000であった。また新生児rat皮下に接種した細胞数はNG-4:100万個、NG-11:200万個、NG-18:200万個であった。
二重線より右は各実験系細胞よりとったcloneにつき行ったもので、すべて1000ケの細胞をsoft agarにseedしたものであり、また新生児rat皮下移植細胞数は100万個で、NG-18のCl-2、Cl-3のみは新生児ratの脳内に10万個cellsを移植した。
 以上の結果から、NG実験系においてもCFEと腫瘍形成能との間に、相関関係はみられない事が分った。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(16)
4-NQOおよび4-HAQO処理によって細胞内DNAがsingle strandまたはdouble strandレベルに於いて切断されることについては、これまでの月報で報告してきた。しかし細胞内でこうしたDNA鎖切断を誘起するものがはたして4-NQOそのものなのか、あるいは4-HAQOなのかについては何ら知られていない。杉村らによって従来報告されたデータによると試験管内DNAのsingle strand breakを誘起するのは4-HAQOであって、4-NQOやその他の誘導体にはそうした能力のないことが知られている。
 今回はこういった目的から培養されたEhrlich細胞をあらかじめ45℃で30分間処理し、細胞を死の条件に追いこんでから(処理直後には死んでいないだろうが、以後は生存不可能な条件という意味)、5x10-6乗M 4-NQOまたは1x10-5乗M 4-HAQOでそれぞれ30分間処理した直後のdouble strand DNAのsedimentation profileの変化を解析した。予備的な結果を図に示す。(図を呈示)
 これらの図から分かるように、4-NQOは45℃で30分間処理した細胞内DNAのdouble strandbreakを誘起出来ないが、4-HAQOはこれを顕著に誘起出来ることが分かる。従って生細胞を4-NQOで処理した場合に誘起されるsingleおよびduble strand breakは4-NQOが細胞内に取りこまれた後に、細胞内でreduceされて生じた4-HAQOによって誘起されるという可能性が高いようである。こうした結果は、4-NQOまたは4-HAQOによる試験管内発癌という問題を考察する場合に非常に重要な問題を提供すると思われる。
また同時にこうした結果の示唆するものは、45℃、30分間という条件で細胞を処理すると4-NQO reductaseは失活するということである。では、こうした条件下で細胞を処理した場合DNA-polymerase、Ligase等を含くむDNA修復酵素系の細胞内活性はどうであろうかという興味ある問題が出てくる。このための実験が現在進められている。

《山田報告》
 これまでin vitroの発癌過程に於ける細胞表面の変化について、細胞電気泳動法を用いて検索して来ましたが、その結果、培養細胞全体の電気泳動度の平均値を求めて追求する限り、ごく初期の発癌状態を検索出来ないと云う事がわかりました。即ち、培養細胞群のごく一部の細胞が悪性化し、大部分の細胞がいまだ悪性化しない場合は、たとへ悪性化細胞の表面荷電が変化しても、他の多くの非悪性化細胞の表面荷電のために、全体としての平均泳動度変化は極めて僅かなものとなり、悪性性質を発見することが出来ないわけです。 そこで、前回その手始めとして写真記録式細胞電気泳動装置を用いて、RLT-1(CQ42)の箇々の細胞の電気泳動度とその細胞形態を同時に検索した所、中型の細胞で核膜が肥厚硬化し、核小体の大きい細胞(写真を呈示)が特にシアリダーゼ感受性があることを発見し、前報に報告しました。
 今回は、この成績に基き、ラット復元試験により悪性化が証明されたにかかわらず、依然としてその細胞系の電気泳動パターンが悪性型を示さない(シアリダーゼ感受性でない)細胞であるRLT-5(CQ50)、及び自然悪性化したと思われるRLC-10-B、また現在の所、悪性化が証明されて居ないRLC-10-A各株について、前記の中型細胞の電気泳動的な性質を検索しました。その結果を2〜4図に示します(写真を呈示)。各細胞の下に示す数字はそれぞれの細胞について測定した細胞電気泳動度であり、その単位はすべてμ/sec/v/cmです。シアリダーゼ処理は従来と同じです。
 従来の成績よりラット肝細胞由来の細胞が悪性化すると、一般にその電気泳動度が高くなり、またシアリダーゼ処理により、その平均泳動度が一割以上低下すると云う事実が判明して居ますので、これを指標として、中型細胞を検索しました。
 即ち次の二つの成績を示す細胞が各細胞系にどの程度存在するかを調べたわけです。
(1)細胞群の平均電気泳動度より一割以上高い泳動値を示す未処理細胞。(2)シアリダーゼ処理後、平均電気泳動度より一割以上低下する処理細胞。の出現頻度を中型細胞について検索したわけです。図2〜4は、写真記録により測定した各系の細胞全部を、大、中、小の型に分類したものですが、このうちで中型細胞中◆印を附した細胞が上記の(1)(2)のいづれかに該当する細胞です。
 その結果をまとめますと、(表を呈示)表の如くなります(前報に示しましたRLT-1のデータも比較して示してあります)。各細胞群全体の、平均電気泳動度の変化からみたシアリダーゼ感受性を比較しますと、RLT-1のみが悪性型を示し、他は良性型を示して居ます。しかし中型の標的細胞のみの平均泳動度の変化からみたシアリダーゼ感受性を比較しますと、RLT-1とRLT-5のみが悪性型を示します。RLC-10Bは、ラット復元試験により悪性化が証明されて居るにかかわらず、尚ほこの比較でも悪性化を示して居ません。従って中型細胞の平均泳動度のシアリダーゼ処理による変化の追求によっても、少数細胞の悪性化の同定は出来ないと云うことになります。
 そこで試みに各中型細胞のうちで前記(1)及び(2)に該当する細胞の出現頻度の積を指数として計算してみました。これは各系の中型細胞のうちで(1)(2)の条件を満足する細胞出現の最少頻度を比較したわけです。
 この計算によると中型細胞のうちシアリダーゼ感受性細胞(即ち悪性と推定される)の出現頻度は25%となり、RLT-5とRLT-10-Bは殆んど同じ10%前後になりました。RLC-10-Aは、3.8%と最も少い値が出ました。RLC-10-Aのラット復元試験が完了して居ないので、最終的な判定は出来ませんが、どうやらこの様あ計算が最も現実の悪性化の認識には役にたちさうな感じがして来ました。
 いまだ検索例が僅かですので、この最少悪性細胞出現頻度の数値にあまり厳密な意味をもたせることは出来ませんが、この方法をこれから当分続けて少数細胞の悪性化同定の基礎作りをやらうかと考へ出した所です。

《安藤報告》
 L・P3細胞のDNA合成に対する4NQOおよびHydroxyurea(HU)の濃度効果について。
 L・P3細胞に於ける半保存的なDNA合成は10-5乗Mの4NQOではそれ程抑制されない。したがって4NQO処理細胞に於けるRepair replication(修復合成)を明らかにする事は困難であった。そこでこの点をもう少し明確にするためには、この正常な半保存的なDNA合成を選択的に抑制する方法を使わなければならない。今回はそれを検討した予備実験である。
 方法は下図のように(図を呈示)シャーレに円カバーグラスを何枚か敷き、その上に0.1mlのcell suspensionをのせ、細胞が落着いた所で培地を満しCO2 incubatorに入れる。翌日ほぼfull sheetになった所で、4NQOあるいはHU単独かcombination処理をする。ただし4NQO処理は各濃度30分処理を行い、洗ったのちにH3-TdR(チミジン)を加える。HUを加える場合はこの4NQO処理後にチミジンと共に加える。以後時間を追ってカバーグラスを一枚ずつとり出し、冷TCA処理後、乾燥し、液シンで測定する。
図はその一例である(図を呈示)。DNA合成のtime courseをとるには非常に簡便な方法である。1mMのHUは95%も阻害してしまった。Cleaver等によるとこの抑制される部分は半保存的合成であり修復合成は抑えられないという。
 次に種々の濃度の4NQOあるいはHU添加時のとり込みを調べた。
 (表を呈示)結果は表の通りである。4NQO 3x10-5乗Mで約90%阻害、5x10-5乗Mで95%阻害であった。この際4NQOがHUと同じく半保存的な合成のみを選択的に抑制しているとすれば、HUを使わずとも4NQO濃度を上げる事によってのみ修復合成をclose upする事が出来る筈である。HUのみの効果は次の欄にあるように、1x10-3乗Mにして始めて90%阻害となる。更に次の欄にあるように両者を併用した場合には、相加的にも相乗的にも働かず、各々独立に働き、効果の弱い薬剤の方がかくされてしまう。4NQO 1x10-4乗、HU 1x10-3乗の場合にはHUのみの効果が現われ、5x10-5乗、1x10-4乗Mの4NQOになると逆にHUの効果はマスクされてしまう。この結果は両薬剤がDNA合成に関して異る部位を阻害している事を示している。なお、R.L.P.Adamsらによって、HUはdeoxyribonucleotide reductaseを阻害している事が示されている。

《藤井報告》
 今月は同種移植免疫での感作リンパ球のcytotoxic activityの定量的測定がようやくものになりそうになったので、その方の実験に忙殺されてしまいました。細胞性抗体あるいは感作リンパ球がtarget cellsの増殖を抑制する現象は認められてきておりますが、定量的に測定することは困難でした。とくにtarget cellとしてdonorのリンパ系細胞を用いると、攻撃する側のrecipientの細胞(リンパ節細胞)と分別がつかず困っていた訳です。この度はH3-thymidineをdonor系マウスに注射してin vivoでリンパ節細胞、胸腺細胞をlabelし、感作リンパ球と1〜2日培養しますと、感作リンパ球の数に対応して、破壊された細胞の%がH3のcpmで表現し得たわけです。培養后、トリパンブルーを加えてみて、dye-uptakeし膨化した細胞(target cellと考えられる)の周に、リンパ球がへばりついている像も観察出来ました。その場面をautoradiogramにもとっておりますが、未だ現像しておりません。
 以上余談になりましたが、こういう状態で今月はCulb細胞に対する同種抗血清の作成と、mixed-hemadsorption法に必要なウサギ抗ラット・グロブリン血清の作製に終りました。同種抗Culb抗血清には、本年3月以来免疫をくり返し、Culb細胞が一旦生着してtumorをつくるに至ったラット(JAR-2系)と、3匹のWistar King系ラットを用いました。前者は、takeしたtumorの結紮処理等で抵抗ができたのか今回はtakeされませんでした。両者とも2回免疫した後の血清では、microdouble diffusion法で沈降線は認めていません。IA、mixed-hem-adsorption法でもやってみる予定です。
 ところで同種移植や癌細胞の同種、同系移植の抗体を探す場合に、血清中の抗体が拒絶反応にはあまり関与しないという意見が強いのですが−target cellsによってはかならずしもそうではありませんが−少くとも、血清抗体だけを取扱って癌の抗原を追って行くのは片手落ちということになります。最近Hellstromがcolony inhibition techniqueなるものを発表しています。彼によると、A/Snマウス起原のleukemia YAA-C1-C3細胞、4,000、あるいはヒトのneuroblastoma cellsをFalcon plastic Petri dish(5.0cm diameter)中で培養し、これに100万個〜1,000万個の感作リンパ球、るいは患者の末梢リンパ球を加えると、非感作リンパ球や非患者リンパ球を加えた対照に比して、有意にcolony formationが抑制されるというわけです。抑制率はマウスの実験では30〜90%位、ヒトのneuroblastomaのばあいで50%位と報告されています。この方法は、組織培養を実際にやったことのない私には、よく評価出来ませんので、検討していただくこととして、当面の行き詰り打開の“あがき"として、Culb、Cula、Culc・・・等を接種したラットのリンパ節細胞や血清が、Culb、Cula、Culc・・・・等に対し、またRLT-1、RLT-2、RLT-3・・・等のcolony formationに、如何に作用するか試してみるのも一手かと考えています。

《梅田報告》
 (1)Hamster embryonic cell cultureにN-OH-AAFを投与して、増殖カーブを描いた(図を呈示)。月報6908で示した様にHeLa、L-5178Y細胞、吉田肉腫培養細胞に投与した場合、10-4.0乗Mで致死的に、10-4.5乗Mで増殖阻害に働いたが、Hamster embryonic細胞も、N-OH-AAFの各濃度に対し殆同じ様な反応を示した。
 (図を呈示)図はN-OH-AAF投与、6、24時間后培地を洗いcontrol培地に戻した場合である。月報6908でのHerLaに対する実験の結果と同じ様に、6時間作用后の細胞は恢復するが、24事件作用后のものは恢復しない。
 (2)Hamster embryonic cellsに、N-OH-AAFを投与して、mitotic coefficient及び、chromosomal abnormalityの出現頻度を算出した。Hamster embryonic cellの場合controlは0.6〜0.8%のmitotic coefficientを示す。Gapとかbreakも、良く観察すると時々見られる。時に染色体が娘染色体にわかれ短桿状になったものがあり、これはothersに分類した。 N-OH-AF 8x10-5乗M投与例でmitotic coefficientは、14、24、48時間后すべて0を示した。4x10-5乗M投与例は表の如く、24時間で下った値が48時間で恢復している。(表を呈示)Gap、breakはcontrolに較べ高率に出現する。興味あることは、Endoreduplicationが48時間目に出現していることである。
HeLa細胞に対する作用を6907で報告したが、この方の観察は不十分であったし、48時間目の標本を作らなかったので、目下追試中である。HeLaでもendoreduplicationを起すかどうか興味がある。Hamster embryoic cellでも追試する予定である。
 尚endoreduplicationが気になったので、4HAQOをHeLa細胞に投与して染色体標本をあわてて作ってみたが、(また%を算出中であるが)多数のbreakが観察されるのに、endoredup-licationは見あたらなかった。

《安村報告》
 ☆Soft agar法(つづき)
 1.マウス胎児細胞系:前号で(No.6910)のべられたこの胎児細胞系は、培養392日めにSoft agarに植えこまれた際、平均21コのコロニー/接種細胞数100万個が形成された。このことはこの細胞系の細胞集団中に自然発癌(悪性化)した細胞の存在を示唆している。そこで上記のコロニーを無作為に数個ひろいMUSA系と名づけ、原株(野生株)をMUSO系と呼び、両者を区別することにした。
 a)この両者についてコロニー形成率の比較を行った結果が表の如くであった。(培養開始後434日めの材料である。)(表を呈示)
MUSA系は予想を上回って原株のMUSO系よりコロニー形成率が100〜500倍高くなっている。 b)ついで、colony-formant由来のMUSA系の可移植性(腫瘍性)をしらべてみた。MUSO系は、C3H/He系マウス由来であるので同系の新生児に接種された。結果は表の如くで、100万個のMUSA系細胞の腫瘍性が確かめられた。(表を呈示)
野生株MUSO系細胞は脳内接種、皮下接種いずれのばあいも腫瘍を形成させることができなかった。しかしMUSA系のうちMUSA1は脳内接種では10万個で腫瘍を形成しなかったが、再び軟寒天培地でコロニーを形成した細胞系MUSA1/1-Lと、MUSO由来のcolony-formantの別系MUSA5-Lはともに100万個で皮下接種により径10mm内外の腫瘍を接種後10日以前に形成した。同時に接種されたMUSO細胞は100万個で腫瘍形成に至らなかった。
 以上の結果は軟寒天法がbacktransplantationによって結果がえられる以前に、ある細胞集団の中に存在するかもしれない悪性細胞の存在を予言したことに大きな意味がある。例外はあるにしろ、軟寒天法が悪性細胞を(変異細胞といった方が妥当かもしれない)スクリーニングし、定量的解析に極めて有用な手段であることの証左を提供すると考えられる。こんごの問題はin vitroにおける培養細胞の悪性化を継時的、定量的に解析するには、もし軟寒天法を利用するとして、適する材料を選択することがさしあたり必要であろう。最近、軟寒天培地における細胞のコロニー形成能と腫瘍性との関係に研究者の注意がむけられてきていることに注目しよう。(SachsらのPNASの報告に注目)

【勝田班月報:6912:NGによる試験管内化学発癌】
《勝田報告》
◇下条班員よりのデータが紹介された。医科研癌細胞より依頼された株細胞(RLC-10、RLT-1、RLT-2)のT抗原(SV40 T antigen、Adeno 12 T antigen)は陰性とのことであった。
 A)各種株細胞の合成培地内培養:
 細胞を合成培地内で継代できると、i)血清由来のウィルスのcontaminationが防げる。ii)細胞の生化学的分析が容易になる、などの利点がある。当研究部ではすでに10種の細胞株を合成培地内で継代しているが、さらに別種の株について検討を加えてみた。
 (表を呈示)しらべた21種の内、7種は11月までに切れてしまい、6種は現在死にかけ、6種はまだ結果不明であるが、残りの2株(RLC-10由来で4NQO処理した系、CO#60とCO#60Bの2実験系)では、合成培地DM-145(イノシトール含有培地)内で増殖を続けているので、これはまず今後も継代は大丈夫と思われる。
 このCO#60及びCO#60Bの対照群RLC-10Bは自然悪性化したが、少くともこの合成培地内では増殖できぬのに対し、CQ#60とCQ#60Bが増殖できるということは、同じ悪性化でもその間に質的な相違のあることを明示していると云えよう。
 RPL-1(ラッテ腹膜)、RPC-1(ラッテ膵)、RLG-1(ラッテ肺)、RSP-1、-2(ラッテ脾)、と夫々の臓器より由来した細胞の株である。
 B)4NQO処理のラッテ肝の実験系、CQ#60の処理後の検査歴:
 この実験系はRLC-10株を4NQOで1回処理した系であるが、細胞電気泳動像が大変悪性面をしているとのことなので歴史を紹介する。3月1日に第1回の復元テストを行い、2/2に腫瘍死した(95日、135日)。3月5日には染色体のモードは41本であったが、7月及び10月にしらべたところでは、3倍体付近に移ってしまっていた。なおこの時期でも対照のモードは41であった。
 C)JTC-16・P3株の培養歴:
 JTC-16はラッテ腹水肝癌AH-7974由来の株で、いまだに可移植性を有している。この株を合成培地DM-145に移したのが、JTC-16・P3株である。その培養歴の概略を表に示す。この株の特徴は、合成培地で継代している株でも動物に戻せばtakeされるし、その腹水細胞はすぐまた合成培地で増えることである。
 D)JTC-16・P3株細胞の形態:(顕微鏡写真を呈示)
 血清培地で継代しているJTC-16は多核細胞やpiling upの像が見られる。
 合成培地で継代中のJTC-16・P3株細胞は、細胞の大きさが揃っており、核小体が若干大きい(?)。諸所にpiling upが見られる。その細胞とシート内の細胞と形態的に違うかどうか、同じ視野でピントをpiling upに合わせてみると、形態的にはシート内の細胞とそっくりである。☆☆この写真を今見ると、piling upというより、MDCKの形成するドームとか、ヘミシストと呼ばれているものと思われる☆☆

 :質疑応答:
[佐藤]私の経験では肝癌など合成培地になじませるには、先ず合成培地で培養し、増殖が落ちれば動物へもどし、又合成培地で培養するという事をくり返すと、合成培地で培養できる悪性腫瘍系がたやすくできると思います。
[山田]CQ60の系に関しては、染色体数に変化の起こった時期は、電気泳動値が腹水肝癌様のパターンに変わった時期と一致しているようです。
[難波]合成培地で継代出来る細胞系を作る時、20%血清培地からいきなり合成培地に切りかえるのですか。又合成培地に変えた時lagが出ませんか。
[勝田]合成培地への順応の仕方も、又lagが出るかどうかということも株によって全く違います。RLH-5のように血清培地より合成培地の方が増殖のよいものもあり、HeLaのように順応するのに何年もかかるものもあります。
[難波]合成培地の方がpHの下がり方が早いという事はありませんか。
[安藤]それも系によって違いますね。ミトコンドリアの発達と関係があるように思われます。合成培地で増殖するようになるという事は、細胞のどこが変わるのでしょうか。
[勝田]少なくとも脂肪酸の構成は変わりますね。これらの合成培地で培養できる系のうち、AH-7974の場合には正常肝細胞の増殖を阻害する毒性物質を、合成培地で培養しているAH-7974・P3でも出して居るということになると、分析がずっと楽になりますから、そういうねらいも持っているわけです。
[松村]4NQO処理によって、染色体数の分布にひろがりが出来るということはありませんか。
[勝田]私達の実験では、4NQOは染色体上の大きな変化はあまり起こさないようです。
[山田]岡山の方はどうですか。
[難波]やはり、低2倍体への変化が多いようですが、何度も作用させると3倍体になったという例もあります。
[佐藤]変化の仕方はまちまちです。ただ3倍体になると安定するようですね。
[堀川]発癌性と染色体の変化に、もし直接的な関係があるなら、統計的にしらべれば特異的な変化の答えが出るはずです。しかし、これだけやっても、どうも結論が出ないというのは、その関係が2次的なものではないのでしょうか。

《山田報告》
 前報に於いて、写真記録式細胞電気泳動法により「少数細胞が悪性化したと思われる細胞集団」の分析を行い、その結果を報告しましたが、今回は同じ方法でRLH-5・P3の4NQO処理後の変化を追求しました。
 まず通常の細胞電気泳動法にて、直接泳動度をカウントした成績では(図を呈示)、処理後42日までシアリダーゼ感受性は増加して居ませんが、個々の細胞の泳動度のバラツキが明らかに49日目に出現して居ます。対照の未処理細胞は全く変化なく、従来通り、この細胞系は殆んどシアリダーゼ処理に反応しません。
 ところが、写真撮影記録式の方法でこの細胞群を分析しますと、種々の知見が得られました。4NQO処理後26日から小型細胞に泳動度の速いものが多くなり、シアリダーゼ感受性の増加したものが多くなって来て居ます。特に2回4NQO処理した群(HQ1B)では68日目に特にこの傾向が著明となり、また大型細胞にもこの種の変化したと思われる細胞が増加して居ます。前回で試みたごとく、細胞群を大中小に分けて、それぞれの型のうちで泳動度が全平均値より10%以上高値を示す細胞の出現頻度(%)、およびシアリダーゼ処理後、全平均より10%以上の減少を示す細胞の出現頻度(%)を計算し、更にそれぞれの型における上記両頻度の積を推定変異細胞の出現頻度として計算してみました(表と図をを呈示)。
 4NQO二回処理群(HQ1B)の小型細胞の変化は前回のCQ42(RLT-1)に近い変化と考えられます。(しかしCQ42の場合には中型細胞が変化している点が異ります)
特にHQ1B群の細胞は全体として、大型になって居ることが目立ちます。
 これらの変化が悪性化とどう結びつくか、ラットへの復元実験の成績を待つとこにすると共に、4NQO1回処理群(HQ1)の其の後の変化も近日中に測定の予定です。

 :質疑応答:
[堀川]RLH-5・P3を4NQOで処理すると、小型細胞でシアリダーゼ処理によって泳動度のおちるものが、4倍にも増えたということは、RLH-5・P3でも悪性化の見込みがあるということですか。
[山田]RLH-5・P3が4NQO処理によって変異するという事は言ってよいと思いますが、その変異が悪性化に結びつくかどうかはあくまで動物への復元成績を待たねば判りません。
[藤井]免疫の実験についてですが、ホモの動物を使った場合なら抗血清を採った動物のリンパ球を泳動させて細胞性抗体をつけているかどうかというような事もしらべてみられますね。
[山田]基礎条件がきちんと設定できたら、色々実験してみられると思います。
[難波]この実験の場合、非働化はどういう意味をもっているのでしょうか。
[山田]補体をこわすための非働化です。
[藤井]抗体で処理しただけで、電気泳動にかけては駄目ですか。補体の処理も必要ですか。
[山田]抗血清は非働化して用いますから、別に補体を作用させて細胞表面が溶けて穴があくような変化を起こさせることが必要です。ヘテロの系を使って実験しますと、全く明らかに泳動度が変わります。
[堀川]腫瘍特異抗原というものが本当にあるのでしょうか。
[山田]免疫の方からは、腫瘍細胞とは腫瘍特異抗原をもつようになるのか、或いは臓器特異抗原を失うのかという二つの方向から攻めることが出来ると思います。
[堀川]細胞電気泳動法を免疫学的に使うということから、案外細胞の悪性化を早い時期につかまえられそうですね。それから将来、泳動度のちがう細胞を無菌的に分劃出来るようになったら、抗体をくっつけた細胞だけ拾うことなど可能になるでしょうか。
[山田]もちろん可能になると思います。

《難波報告》
 N-10 4NQOで悪性化した培養ラット肝細胞の4NQO感受性について
 4NQOで悪性化した細胞を試験管内で、できるだけ早く捉える試みの一つとして本実験を行った。即ち、4NQOで悪性変異した細胞が4NQOに対して、耐性を有するかどうかを集落培養法によって検討した。実験は3回行い、3回とも同一の傾向を示す結果を得たので報告する。
 使用した細胞は培養ラット肝細胞系RLN-E7(4)のものでその対照細胞、10-6乗M 4NQO間歇処理20回で悪性化した細胞、及びこの悪性変異した細胞を動物復元して生じた腫瘍を再培養した細胞を使用した。4NQO感受性試験では20%牛血清加Eagle's MEMに4NQO終濃度10-9乗、10-8乗、10-7乗M(又は10-7.5乗M)含む培地に少数細胞をまき込み1週間培養を続けた後、4NQOを含まぬ培地で培地を更新し、更に1週間培養し、形成されたコロニー数を算え、それぞれの細胞系に於て4NQOを含まぬ培地に2週間培養した場合に形成されるコロニー数を100%として、その相対的コロニー形成率を算定した。
 結果:4NQOで試験管内で悪性変化した細胞、及びその動物復元で生じた腫瘍の再培養細胞に4NQO耐性は認められなかった。従って、4NQO耐性を細胞の4NQOによる悪性化の指標とすることが出来ないことが判った。(表と図を呈示)

 :質疑応答:
[堀川]コロニーの形成率からみた耐性の実験は、4NQOを入れっぱなしでみていますね。4NQOを30分処理して除いてしまった場合はどうですか。
[難波]30分処理もデータがありますが、全く同じ結果が出ています。
[佐藤]前にラッテの肝細胞の増殖率でみた時は、4NQO処理の細胞は4NQOに対する耐性が出来て居るという結果ではありませんでしたか。
[難波]そうでした。増殖率をみる実験の方が培養日数がずっと短いことと、半分死にかけの細胞も核数計算では数にはいるので、そういう結果になったのだと思います。
[高木]増殖度をみることとコロニーの形成率をみることと、どちらが適切な手段なのでしょうか。
[堀川]増殖カーブでみる時は、カーブがプラトーに達した所でみなくては正確な結果が得られないと思います。理想的には両方の手段で実験した結果をみて結論するべきでしょうね。
[佐藤]コロニー形成の場合、一つ一つのコロニーの大きさはどうですか。コロニーの大きさは増殖に関係があるわけですが・・・。
[堀川]重要な点ですね。放射線での耐性細胞のコロニー形成能をみますと、形成率は大変よいが、大きさは対照より小さいということがありますね。
[佐藤]コロニー形成能だけでは耐性の正確な答えが出ないと思います。例えばコロニー形成能は同じでも生き残ったものの増殖の速度が変わっていたりすることは、チェック出来ないでしょうか。
[勝田]1週間も4NQOを入れつづけるという条件では、抵抗性をみるつもりで再変異をみているという事になりませんか。
[難波]悪性化した細胞に4NQO耐性が出来ていれば、4NQO添加の条件で悪性細胞を拾うことが出来るとも考えたのです。
[山田]4NQOの毒性に対する抵抗性をみていることになりませんか。
[松村]あのカーブは対数で書いてあるのに曲がっていますね。そのことから考えられることは、薬剤の濃度の濃い所とうすい所では細胞に対する作用の仕方が全くちがうのではないかという事ですね。
[勝田]4NQOを使っている場合、濃度を/mlで決めてよいものでしょうか。/cell数で決めるべきではないでしょうか。
[安藤]まさにその通りです。私の番の時にデータを出しますが、あのカーブが曲がるということも、細胞1コに取り込まれる4NQOの量にクリティカルな線があるからではないでしょうか。
[山田]4NQO処理を重ねるごとに、コロニーの形成率は上がりますか。
[難波]上がります。しかし対照の方も総培養日数が長くなるにつれて、だんだんコロニー形成率が上がりますから、4NQOの効果としてははっきりしません。形成率が対照よりどんどん高くなるようだと4NQO処理により変異の率が高まると考えられますが・・・。
[山田]4NQO処理の追い打ちのかけ方も問題がありますね。間をおかずにすぐ次の処理をするのと1月もたってから処理するのとでは、細胞の変わり方が違うでしょうね。
[勝田]光に対しても、もう少し気をつけた方がよいでしょう。
[堀川]光力学的効果がある場合は、暗室で実験します。ナトリウム電灯を使うのがよいでしょう。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(17)
従来われわれは紫外線またはX線照射さらには化学発癌剤4-NQOとその誘導体処理による培養哺乳動物細胞のDNA障害とその修復機構について比較解析を進めてきているが今回の班会議には時間の都合上スライドを準備することが出来ず、黒板を使用して、これれ3者の間の詳細な比較解析結果を報告し、あわせてこうした観点から私なりの発癌機構についての考えを述べ諸氏の御批判をあおいだ次第です。こういった訳で次回から詳細な実験結果を報告します。

 :質疑応答:
[安藤]RLC-10では二重鎖切断の回復がないようだというデータが私の実験でも出ましたから、堀川さんと私の実験結果の違いは、血清培地で培養している細胞と合成培地で培養している細胞の違いかも知れません。
[堀川]そういう事は考えられますね。
[安藤]チミジン、ロイシンにプレラベルしておくという実験で、24時間後に培地内へ又放出されてくるチミジン、ロイシンの量は、始めに細胞内へ取り込まれた量の何%になりますか。
[堀川]今答えられませんが、計算してみます。

《安藤報告》
 1)4NQO処理L・P3細胞はDNAの修復合成を行うか(3)
 月報No.6910に於て10-5乗M4NQOで処理したL・P3細胞にはDNAの修復合成が検出されなかった。そこで今回は条件を少しかえて再度テストしてみた。しなわち4NQOの濃度を3x10-5乗Mとする事によってDNAの鎖切断数を増す事、及びヒドロキシ尿素を使う事により正常な半保存的合成を抑制する事という条件下に再度修復合成の有無を調べた。アルカリ性CsCl遠心の結果、フラクション数1〜20迄のHeavy域について、コントロールと4NQO処理両者を比較すると明らかに4NQO処理の場合の方が高いカウントを示している。更に定量的に重い域と軽い域のカウントの比を計算してみると、コントロールでは重い域に全体の6%あるのに対して、4NQO処理の場合は16%存在する。これは恐らく有意差であろうと思われるが、なお検討し続けなければならないと思う。もし有意差であるとすれば「4NQO処理によって起った切断が再結合される際に古いDNA鎖の中に新たなヌクレオチドの挿入が起った、すなわち修復合成が起った」と結論出来る筈である。(図と表を呈示)
 II)DNAの切断及びその修復現象は細胞の癌化に直接関係があるか。
 私は4NQOがL・P3、RLH-5・P3細胞のDNAを切断し、細胞はこれを修復するという現象を見て来たわけだが、果してこの現象が発癌の本質にどれ程関係があるかはわからない。そこで先ず種々の4NQOの誘導体を使って「発癌性のあるものは全てDNAを切るか」という問いをテストしてみた。もしこれに例外があればこの両者の関係は希薄となるわけである。テストは全てアルカリ蔗糖密度勾配遠心で一重鎖切断の有無を調べた(結果の表を呈示)。
 4NQOから6NQO迄は発癌性とDNA鎖切断は平行しているのが見られるが、4NQO6Cは発癌性があるにもかかわらずDNA切断を起こさない。一方、4NPO、3M4NQOは逆に発癌性がないのにDNAは切る。このような結果になったわけだが、次の二つの解釈が成立つ事になる。
 (1)4NQO6Cは条件を変えればDNAを切る。又4NPO、3M4NQOの発癌性は動物あるいは投与法を変えれば発癌性を証明出来るかもしれない。
 (2)DNA鎖切断は発癌過程には直接の関係はない。
 このいずれであるかは更に実験を重ねなければ結論は出ない。この方向の実験としては、4NQO系だけでなしに他の発癌剤、(DAB、MC、ニトロソアミン、ニトロソグアニジンetc)についても拡大検討する予定である。
 III)中性蔗糖密度勾配遠心法で分析している物質は純粋な二重鎖DNAか。
 今迄の分析でしばしば観察された事は、中性蔗糖密度勾配遠心で検出されるDNAのピークが、あまりにもシャープ過ぎる事、このシャープさは、markerに使用したλファージのDNAよりもシャープなバンドであった。これは恐らくフリーなDNAではないのではないかとの疑問を解くために、4NQO処理をしない細胞を大きな密度勾配にかけ大量にピーク分劃を集めた。今回は、このもののUVスベクトルを測定してみた。結果は、およそフリーなDNAとはほど遠いスベクトルを与えた。すなわち、明らかに裸のDNAではなく、細胞の何らかの成分と複合体を形成していると思われる。
 この複合体はやはり4NQOによって大きさが小さくなる事は事実である。

 :質疑応答:
[勝田]4NPOの発癌性はマイナスというのは、どこのデータですか。動物の種類を変えたり、薬剤の濃度をかえたりすると、発癌させられるのではないでしょうか。
[安藤]どなたかが、そういうデータを出して下さると、大変すっきりするのですが。
[勝田]ピークのDNA+αのαとは何ですか。
[安藤]まだ分析してみていませんので、わかりません。
[堀川]ピークがDNA+αということは、一寸考えられないことですね。DNAそのものだけであるはずの所ですから・・・。
[勝田]部分的修復をみるのに、チミジン以外のもの例えばグアニンなどで取り込みをみたら・・・という意見が出ていましたが、やってみましたか。
[安藤]まだです。
[松村]さっき問題になったDNA+αは何か塩濃度でも変えて、+αを分離出来るのではないでしょうか。
[安藤]まだ分離を試みてはいません。ボトムの所に出てくる物質は大変粘度の高いもので、まさに高重合DNAと思われるようなものなのですが。
[堀川]アルカリの方も調べてみてほしいですね。それからDNAを切るのは最終的に4NQOか4HAQOかという点についてはどう考えますか。
[安藤]4NQOを4HAQOへ変える酵素をおさえるDicumarolというものを入れて、そこの所をはっきりさせたいと考えています。
[堀川]私は4HAQOに特異的な作用があると考えています。Dicumarolを使っても完全には抑えられませんから、仲々シャープな結果を出すのは難しいでしょうね。
[難波]4HAQOは毒性が弱いということを、黒木さんが書いていますが、DNAを切ることとは関係がありますか。
[堀川]毒性とDNAの切れることは同じではありませんから、4HAQOは毒性が弱くてもDNA切断では主役ということも考えられるわけです。
[安藤]DNAが切れるということは、イコール発癌に結び付くと考えられますか。
[堀川]私はそう考えたいと思います。DNAが切れ、ミスリペアを起こすことが変異の可能性を高めるのではないでしょうか。
[安藤]色素性乾皮症の場合の発癌機構はそうではありませんね。
[堀川]色素性乾皮症の場合は、私達と全く反対のことを言っているわけですね。リペア出来ないから発癌するということです。私達はリペアの能力のあるものがDNAを切られた場合、ミスリペアを起こす可能性があると考えます。そしてそのミスリペアが変異の原因になると考えます。しかし、DNAの切断の実験と細胞レベルの発癌の実験の間には大きなギャップがありますね。例えば、濃度にしても1オーダー違います。

《高木報告》
 1)NG-20
 月報6910でNG-20(再現実験)について簡単に説明した。
 その中NG-20の(1)系では200万個cellsを、処理後309日目にnewborn WKAratの皮下に接種して観察をつづけていたが、約50日後に腫瘤の発生が2/2に認められた。腫瘤はその後も大きくなり、その中1匹は80日目に腫瘍死した。このtreated cellsは処理後49日目頃initial changeに気付かれたが、その後著明な形態学的な変化はなく、処理後290日頃にはっきりしたmorphological transformationに気付いている。またこの頃より細胞のproliferation rateも急上昇し、現在ではtransformed cellsは1週間に約50倍と、これまでにあつかった細胞の中では最高の増殖を示している。
なお、NG-20の(2)、(3)系の細胞は現在も差程著明な形態学的な変化はなく、(1)系と相前後して行った復元実験でも腫瘤の発生をみない。これでNGによる発癌に成功したのは4系となった訳である。
 2)NGでcarcinogenesis in tissue cultureに成功した4実験系の比較を、i)発生過程の図解、ii)4実験系、発癌経過の比較、iii)復元実験とまとめた。(図表を呈示)
 4実験系では一定したruleは見出せない。即ち、形態の変化を来すものもあれば、NG-18の如く殆ど変りないものもある。増殖率もNG-20のように極端にますものもあれば、NG-11の如くかえってcontrolより低いものもある。
 染色体数のmodeもcontrolよりshiftすることは間違いないようであるが、controlがhypotetraploidにあるNG-18ではむしろdiploidの方にmodeがshiftしtetraploid rangeにもバラツイていると云った具合である。
 復元実験をみると、NG-4、NG-11、NG-18をみたところではtotalの培養日数(NGを作用させるまでの培養日数+作用後復元して腫瘤を生じたまでの日数)は300日前後と思われるが、NG-20では424日かかっている。もっともNG-20は作用後長らく形態的に著明な変化がなく、309日迄に復元を行っていないので、果してこれ丈の日数が必要であったか否か疑問である。
 これを要するに実験が定量的に行われていないことに問題がある訳で、今後さらにtarget cellをかえ、またstrain cellを用いても出来る丈発癌実験を定量的な方向にもって行きたいと考えている。

 :質疑応答:
[堀川]黒木氏のデータによる4NQO処理で発癌に要する期間と比べると、高木さんのNGの方が発癌までに長い期間を要するほうですね。4NQO+NGという処理をしてみるとどうなるでしょうか。
[佐藤]正2倍体の細胞が動物にtakeされるのか、或いは偽2倍体のものがつくのか、再培養をして染色体を調べてみるとわかると思いますが、どうですか。
[高木]調べてみましょう。

《梅田報告》
 膀胱発癌剤として知られているtryptophan metabolitesをHeLa細胞、ハムスター胎児細胞に投与して作用を検討してきたので、まとめて報告する(月報6906 IIで一部ふれた)。使用したmetaboliteはsKynurenine(Ky)、Kynurenic acid(KA)、xanthurenic acid(XA)、3-hydroxy kynurenine(3HOK)、3-hydroxy anthranic acid(3HOA)の5種類である(代謝経路図を呈示)。Mouse膀胱内にpelletの形で植え込み、1年近く経ってから、膀胱をひらいて出来ているtumorをみて、発癌性を検しているそうで、ある時は虫眼鏡で拡大してみて始めて小腫瘤を見出すとの事です。一応その様なtestで発癌性の証明されている(+)は3HOK、XA、3HOA、されていない(-)はKy、KAである。化学構造的にはo-amino-phenolic compoundsが発癌性と関係ありとされている。
 (I)HeLa細胞に対する作用: 細胞の障害度を障害の殆んどないものを0、致死的に作用したものを4と、5段階に分ける簡易的な方法で5種の物質の作用をみると、Ky、3HOK、3HOAが障害性強く、KA、XAでは弱い。(図を呈示)
 形態像ではKy、3HOK、3HOAは細胞はやや大き目、核小体も大きく、不整形を呈し、KA、XAは細胞はcontrolと大差ない大きさであるが、やや異型度が強くなる像を呈する様になる。
 3HOAでH3-TdR、H3-UR、H3-Lewの摂り込みをみた場合、1時間3HOAを作用させた後、H3-precursorsを入れ、更に1時間経った後のH3 activityをgas flow counterで計測した。DNA、蛋白合成の抑えられている濃度でRNA合成は続く。
 染色体標本を作り、mitotic coefficientとAbnormal mitosisの頻度を調べた。調べた4物質で、殆同じ程度の障害を示す濃度に投与した。Ky、KA投与では3〜6時間でmitotic rateは低下するが、後回復し、control値に近くなる。この時のAbnormal mitotic cellはcontrolで見られる頻度と殆一致している。3HOK、3HOA処理ではmitotic rateはやや低下する濃度であるが、gap、break、fragmentationが高率に認められ、又endoreduplicationが24、48時間作用時に見出される。
 (II)ハムスター胎児細胞に対する作用: 障害度をHeLaで見たと同じ様にみると、障害の程度の傾向はHeLaの結果と似ている。形態的にはKy、HOK、HOAで細胞が細長いSpindler shapedとなり、criss cross様patternが認められ、KA、XAでは配列の乱れは少なかった。
 染色体標本による異常分裂像の出現頻度、Mitotic coefficientを3HOK、3HOAで行った。結果はcontrolに較べて高率にgap、break、endoreduplicationが出現しているのが、目立った所見であった。
 (III)4HAQOのHeLa細胞染色体像に及ぼす作用: 3HOK、3HOAが高率にendoreduplicationを惹起すること、又前回の月報(6911(II))に記載した様にN-OH-AAF投与でも高率にendoreduplicationが認められたのが気になって、4HAQOを我々の使用しているHeLa細胞に、我々の方法で投与して惹起される像を観察した。結果はgap、break、fusion等著明な変化が起るのに対しendoreduplicationは認められなかった。
 (IV)まとめ: 発癌性の認められている3HOK、3HOA投与でHeLa及びハムスター胎児細胞共に強い障害性を示し、特に後者にcriss cross様形態を惹起し、更に染色体異常も高率に起させたことは興味ある。発癌性の証明されていないKyが、3HOK、3HOAに次いで障害性が強く出現したこと、ハムスター胎児細胞にearly change様criss cross像を起させたことは、Kyが3HOK、3HOAへの代謝前駆物質であると理解して解釈し得る。弱いながら発癌姓があると云われているXAについては本実験で殆んどKAと同じく弱い阻害性を示したが、今の段階では何も云えない。
 Endoreduplicationが、3HOK、3HOA、N-OH-AAF投与で、高頻度に認められたが、4HAQO投与では認められなかった。Endoreduplication出現のmechanismを考えると興味ある所見である。

 :質疑応答:
[難波]トリプトファンそのものを高濃度に添加すると細胞はどうなりますか。
[安村]細胞はやられてしまうでしょう。トリプトファンは適正の幅が非常にせまいものの一つですからね。
[梅田]4NQOやNGの細胞障害の程度はどの位ですか。発癌に有効な濃度の処理の場合ですが。
[佐藤]あまり薄い濃度では細胞障害を起こさないし、又急速な悪性化の傾向はみられないようです。早く悪性化させるには、かなりの細胞障害を与える位の処理が必要だと思います。

《三宅報告》
 1968年11月4日に初代の培養を行ったd.d.系マウスの全embryoについて、継代後4回に亙って4NQO、10-6乗Mを処理した細胞について。
 やむをえない事情のため、その検鏡さえも行いえなかった所、本年1969年5月27日に細胞の増殖の顕著なものを認めた。その頃、対照例は既に変性に傾き、消滅した。位相差像では、増殖する細胞は紡錘型小型の、両端の鋭い原形質を持ったものであったが、継代を続けるうち、その増殖細胞の主体が、いずれにあるか判然としない位に多型性に富んでいた。即ち、増殖の強いものでは原形質の延びたfibrocyticにみえるもの、形質が周囲にのびたfibroblasticなもの、  小判状の小型のalveolarに前記の細胞に囲まれて終る細胞、この他に巨核巨細胞、多核巨細胞を混えていた。継代を続け7〜8代の頃になると、紡錘形小型の細胞を主とするものであることが、漸次判ってきた。試みに  H3-TdR 0.2μc/mlのcumulative labelingを行ったところ、いずれの細胞にもlaabelされ、15時間目には100%に近い値をえた。tg≒23h.、ts=7h.と考えられ、最初にlabeled mitosisをみたのは2h.目の標本であった。これから、Colony formation、Cloningとすすむ予定である。
 ただどの形態を持った細胞も豊かな取り込みをしたという所から、こうした細胞が同じ由来のものなのか、それとも系を全く異にしたものかで、このtransformationの意義や、考察が異なって来る。全embryoであるから、雑多な種の細胞が硝子瓶に散りしかれたことは当然で、このうちの、系統を異にしたものが、同時にtransformしたのか、同じ種の細胞が培養の条件で形態を単に変えたにすぎないのか。今となっては、不明のことが多いが、colonyを作ってゆく間に、種を異にした細胞集団がえられるかも知れない。

 :質疑応答:
[堀川]4NQO処理の条件は・・・。
[三宅]10-6乗Mの濃度で3日おきに5回処理しました。
[勝田]復元接種はしてありますか。
[三宅]1月程前に同系マウスの背中へ接種してあります。
[安藤]subcultureはしなかったのですか。
[三宅]培地をかえるだけでsubcultureは7〜8月しませんでした。

《安村報告》
 ☆JTC-16(AH-7974TC)とそのSoftagarによるクローン群とのTrumorigenicityの比較:
 (図と表を提示)結果は各クローン(C1、C3、C6)の間にはtumorigenicityの差が(125細胞の接種で、C1-Sは3/3、C6-Sは1/3、C3-Lは2/4の腫瘍死)S、Lの間には有意の差はないということを示している。
 ちなみにSoftagar中におけるcolony-forming efficiencyはその高さの順にC6-S>C3-L>C1-S>C1-L>C3-Sの如くである。C.F.E.とTumorigenicityとの間の相関関係、またS、LとTumorigenicityとの間の相関関係がclear-cutに結論を出すことができなかった。
 ☆AH-66(JTC-15)、AH-66A(Wild株よりSoftagarでクローン化された系)のSoftagar中のC.F.E.およびそのtumorigenicity:
 Colony-forming efficiencyとtumorigenicityとの相関はまったくみられない。
 原株のAH-66は100万個の細胞接種でtumorをまったく作らないが、Softagarで生えてきたクローン系AH-66Aは10,000個で動物を3/3腫瘍死させた。そのひらきは2乗のorderである。(図と表を呈示)

 :質疑応答:
[高木]寒天で出来たcolonyは全部拾ったのですか。そして全部悪性だったのですか。
[安村]全部拾ってそれぞれ調べるべきでしょうが、とてもやり切れません。
[高木]私達の実験では悪性化しても寒天内でコロニーを作りにくい系なのですが、寒天で拾ったクロンはとにかく腫瘍性が高かったようです。寒天で拾うことは動物にtakeされる系を拾うという意味ではすぐれていると思います。
[勝田]MUSOは現在でもマウスにtakeされないのですか。クロン化した腫瘍性の高いものだと、2,000コの細胞でも動物を腫瘍死させ得るとします。その細胞がワイルドの系の10万個の中に2,000コ混じっている場合、ワイルドを10万個接種しても動物にtakeされないかも知れません。悪性の2,000コ以外の細胞が何をやっているか判りませんから。
[高木]寒天にまく場合、100万個の細胞を入れたのでは、startがシングルでないという事もあり得るのではないでしょうか。
[安村]あり得ます。
[堀川]100万個もまいて20コのコロニーが出来た場合、コロニーを作った細胞にはすごいセレクションがかかっていることになりますね。軟寒天内でコロニーを作らなかったものを拾って実験をする必要もあると思います。BUdR+照射という方法で増殖系を殺して、増殖しないものを拾えるのですから。
[安村]もっと簡単に、液体培地で少数まいてcriss-crossのないコロニーを拾えばよいでしょう。
[松村]寒天でコロニーを作ることがセレクションの結果かどうかは、液体培地でクロンを拾って、クロンごとの軟寒天内コロニー形成率に違いがあるかどうかみればよいと思います。
[安村]寒天でのデータは他に沢山あるのですが、長くなりますから省略します。