【勝田班月報・6801】
《勝田報告》
 A.H3-4NQOtoL・P3細胞の分劃:
H3をラベルした4NQOが細胞の内のどんな分劃に入るかという事は、がんセンターの杉村氏が腹水腫瘍を使ってすでにおこなっている。ここでは培養細胞を使って調べてみた。
 細胞:L・P3細胞(純合成培地内継代のマウスセンイ芽細胞)
 培地:合成培地DM-120。細胞約200万個/TD-40;4瓶。
 H3-4NQO:1964-10-21、九大・遠藤氏より分与された2.7μc/μmoleを永井班員が珪酸カラムで再精製して下さったもの。
DMSOで10-2乗Mになるように溶き、salineDで10-4乗Mまで稀釋。
 添加法:培養瓶中の培地(DM-120;10ml)のなかに10-4乗M液1.1mlを滴下。瓶をゆらして良く混和。(4NQOは終濃度10-5乗Mとなる)。37℃・2hrs加温静置。ここで2本宛2群に分ける。 1)H3-4NQOを含む培地をすて、Dで3回洗う。シートを剥し細胞を集めて分析。
 2)他の2本は、4NQOを含まぬ新しいDM-120を加え、さらに5hrs.37℃静置加温。→上と同様に洗って細胞をあつめる。
 測定:細胞を分劃し、Beckman液体シンチレーションカウンターで放射能を測定。
 結果:各分劃のdpm数の表を呈示。
 考察:1)4NQOの比活性が低いので、これ以上の細かい分劃化は不可能であった。
    2)酸可溶分劃のdpmが2hrs加温后より2+5hrs加温后の方が減少しているのは、第2回目の5hrs加温中に一旦とりこまれていた4NQOが培地中へ放出されたためと思われる。(高分子とは結合していなかった分)。
    3)酸不溶分劃の減少は、ほとんどが蛋白と結合した分の減少による。
    4)核酸と結合した分は、比較的安定に保たれていた。
 B.培養内変異細胞の動物復元接種の最近の成績:
(表を呈示)腫瘍死はなし。

《佐藤報告》
 新しい年がやって来ました。皆さんお元気ですか。小生も元気でやっています。昨年はいろいろと雑事が多く不本意な年でした。今年は予定された事柄(必ずしなければならぬ事も含めて)も多いので能率よく消化して楽しい忘年会を送りたいと考えています。
 ◇RE-5(ラッテ全胎児)←4NQO実験動物(培養条件、4NQO処理、復元の表を呈示)。
ラッテ全胎児←4NQO実験を通覧してRE-1、RE-2、RE-3、RE-4が発癌しなかったのは、量的に4NQOが少なかった様である。RE-5の実験で、実験表の中央の5匹は全例発癌したが、左の系は発癌性は今の所認められない。(RE-5の実験の染色体数の図を呈示)。核型分析は未だ終了していないので異常染色体については未だ正確な報告はできない。non-neoplasticlineに異常染色体の記載はしていないが、明白な異常染色体が認められないという事で染色体がdiploidで正常であるという事ではない。又control lineも現在で正常diploidではないから、この株を利用しての4NQO lineの実験は一応終了します。
 (Comparison of growth rate among 3 RE-5 lines・増殖カーブを呈示)。RE-5系control、発癌系、非発癌系の増殖率を比較したものである。非発癌系は増殖率が最も高く、形態学的にも変化がみられるが、動物復元で腫瘍を形成していない。
 ラッテ全胎児に4NQOを投与する実験は目下再現性を試みている。
 (表を呈示)表はラッテ肝細胞株及びラッテ胎児肺に4NQOを投与して復元した動物の表です。ラッテ肝細胞株に4NQOを処理した図表は別に示します(図を呈示)。図表中央に2例の発癌動物がみられます。動物番号No.32は、培養日数352日、4NQO処理10-6乗Mx10のもので、300万個の細胞を新生児ラッテ脳内に接種し、54日後運動障害を発見、93日後剖検により腫瘍(Hepatoma)を発見した。動物番号No.54は374日の培養日数のもの、10-6乗Mの4NQOを11回処理したもの、生后6日目のラッテに1000万個細胞をi.p.に接種した。接種后90日目に剖検し、大網部に径5cm大の出血性の腫瘍をみとめた。組織像はHepatomaの像であった。Exp.7系肝細胞の4NQO実験では未だ発癌率が低いので、4NQOで確かに発癌したかどうか未だわからない。

《高木報告》
 皆様よい新年を御迎えのことと御慶び申上げます。今年もよろしく御願いいたします。昨年一年の私共の仕事を振返ってみると、まずorgan cultureでは兎も角幼若ハムスター皮膚を2〜3週間は維持出来る処まで培養条件を検討し、更に短期間培養した組織を同種動物の背中皮膚に移植することを試みたが、1〜2回の実験に関する限り予想されるより可成り高率にtakeされた。しかし培養において短期間発癌剤を作用せしめた組織を移植したものでは、そこから腫瘍の発生はみられなかった。更に培養条件を検討し始めた処で、池上君が事情あってしばらく仕事が出来ない状態になったので、残念ながら実験は一時中断した形になった。しかし本年は再び開始する予定で、まずorgan cultureにおける培養条件を充分に検討したいと考えている。組織の種類にもよろうが、何せ今少し長期間完全に組織が維持されなければorgan cultureによるこの発癌実験はうまく行かない様な気がする。その目的に一歩でも二歩でも近付くべく高圧培養を開始したところである。
 次にcell cultureによる実験で、ひとまずラット胸腺から分離された繊維芽細胞を用いて4NQO及び4HAQOによるmorphlogical transformationをおこすことが出来た。現在それら細胞の復元実験の段階であるが、これまで試みた実験ではまだ腫瘍の発生をみない。cellcultureの実験に関してはここしばらくはWistar King Aラットを用いて仕事をすすめて行きたいと考えている。ただ胸腺を用いることについて、これは私共の実験条件でconstantに細胞をうることが出来るので用いて来た訳であるが、果してこのorganが発癌実験に供するのに適しているか否かは問題がある。そこで他のorganのcell cultureにもめをつけ、杉村氏により発表されたNitrosoguanidineによるrat胃癌及び多型腫の発生の実験から、胃の培養も試みはじめた。2回目の培養でprimary cultureで明らかに上皮様のきれいな細胞のoutgrowthをみたが残念ながら継代に失敗した。本年は更にこの実験も進めて胃からの細胞に対するNitrosoguanidineの効果も観察の予定であるが、更に機能を有する細胞を分離し、これに発癌剤を作用せしめてその機能が如何に変るかと云うことをマークする方法により発癌剤による発癌機構の究明につとめたいと思う。

《吉田報告》
 前年度の4NQOによる癌化細胞の染色体研究は主に黒木さんらとの共同でなされ、同氏らが腫瘍化した細胞株の染色体を私達が観察するという方法で進められた。その間、私の研究室の関谷君(東北大・大学院)が黒木さんの所で、培養やtransformationの技術を修得してきたので、今年度は癌化前の細胞についての染色体を徹底的に究明したいと念じている。ハムスター培養細胞が4NQO(または4HAQO)処理によって腫瘍化するまでの過程を仮に次の5期に区別してみた(図を呈示)。すなわちA(前処理)、B(処理期)、C(形態変化前期)、D(形態変化後期または悪性変化前期)、及びE(悪性変化後期)である。従来の我々の研究では、主にE期にあるいくつかの細胞株のの染色体を断片的に調べたのにすぎない。これらの研究から、癌化した細胞株の染色体変化は程度に差はあるが、いずれの場合でも形や数に変化を認めることができた。しかしE期における細胞をどんなに多数観察したところで、それが細胞の癌化とどんな関係にあるかという問題を追求する事は困難である。この問題を明らかにするにはD期、C期及びB期と逆上って追求しなければならない。特に形態変化(morphologicaltransformation)を目印として、その前後(CとD)の染色体を調べることによって染色体の変化と悪性化の関係がかなりはっきりと察知することができよう。もしその時期に何らかの変化が認められたならば、当然処理中また直後(B期)にどんな変化がおこったかという問題に帰結する。この点についてはin vivoで我々はかなりくわしく調べているので、それらのdataは直ちに役立つだろうし、ハムスターの培養細胞においても調べてみる必要がある。
 染色体の変化と癌の発生及び増殖の関係をそろそろこの辺で結論づけたいというのが今年の私たちの抱負である。諸先生方の御協力を切望する。

《黒木報告》
 今後の研究方針と計画
 月報6710に今後の方針として、(1)コロニーレベルのtransformation、(2)synchronous culture、(3)BHK-21/4NQOの三つを挙げておいた訳です。これらのうち(1)は大体やるべきことをやり、あとはnormalのcloneをひろうという大きな仕事が残っています。この方法(plating後に4HAQOをtreatする)の欠点は細胞に対する毒性が非常に微妙であること、このためexp.の結果にバラツキのあることです。(2)のsynchronous cultureはexcess TdRによる同調が思ったよりもむつかしく、目下hamster embryo cultureのcell cycleがらやり直しているところです。(3)のBHK-21がこれまた困ったことにreproducibilityがはっきりせず、もたもたしています。イギリスのMacphersonにBHK-21/C13を送るよう依頼していますがまだ返事はありません。
 今後も(2)(3)は、しっこく執念深くexp.をすすめますが、さらに新たなprojectとして、membrane immunofluorescent antibody法の導入を考えはじめました。これで分ることは、1)transformed cells相互間のsurface antigenのcrossの存在(spontaneous-transformed、in vivo-induced tumorとのcrossも含)。2)(凍結保存法との併用による)malignant cellsの出現、そのprogressionの証明です。
 研究のむつかしさをしみじみと味わい乍ら迎えたお正月でした。

《三宅報告》
 d.d.マウス胎児皮フについて発癌の実験をつづけている。
 分娩直前の胎児皮膚について、次のように4NQOを作用せしめた(表を呈示)。
12月1日に始められた、この実験では4日目のPrimary cultureでfull sheetとなり第二代の培養にかえ、各々3日目に夫々の濃度の4NQOを作用せしめた。10-5乗Mと5x10-6乗Mは変性に傾きdiscardした。この濃度からすると、前回に報告したヒトembryoの皮膚の方が、d.d.マウスの分娩直前のものに比し敏感でない様である。4NQO 10-6乗Mを7日間作用せしめたものでは、controlに比し、矢張り1週間位の后に、いわゆるearly changeをみせ始め、piling upが認められ始めた。三代目に入った202Aでは核の大小不同、細胞の大小が目立ち始めている。この群についてH3-TdRのuptakeをみている一方で、同じく1週間5x10-7乗Mを作用せしめたものと、controlについて、100万個の細胞をd.d.系のマウスの背の皮下に植えてみました。まだ肉眼的に腫瘍は発生していません(1月4日現在)。
 前回に報告したPiling upしたColonyは、感染のために、すべてを失う事故が起った。
また別に実験6を行って、H3-TdRのとりこみを検索中である。これは他の動物腫瘍(Walker、Birox-Pearseなど)のin vitroとin vivoでのH3-TdRの取りこみとの比較の意味も、兼ねたものである。(202Aの写真を呈示)

《堀川報告》
 学会、研究会、討論会にと多忙のうちに明け暮れた1967年も過ぎ去り、またたくうちに1968年の新春を迎えてしましました。班員の皆様、新年おめでとうございます。今年も元気でお互にうんと頑張りましょう。
 過去1年を振り返ってみると私は私なりに精一杯やって来たと云う気持で満足しております。ただ学会とか研究会が多すぎる、それに研究以外のことで如何に貴重な多くの時間を無駄にしたことよ!! 今年もまた同じようにガタガタ走り廻っている内に、一年を過ごしてしまうのかと思えば、そのむなしさに年頭からうんざりしますネ。
 今日の日本の研究者のように研究以外のことに時間を労費し、しかも更に出来上った仕事の成果を英語で発表し、英語で討議することが続く限り日本の研究は決して世界をリードし得ないと信じます。この2つのfactorは何としても困ったものであり、何とか解決せねばならぬ問題ではないでしょうか。
 さて過去1年間私は既に月報でも報告して来ましたように次の2つの問題、(1)培養哺乳動物細胞における紫外線障害回復の分子機構の研究、(2)培養された骨髄細胞の移植によるマウス「骨髄死」の防護ならびにLeukemogenesisの試み、に取り組んで来ました。
 (1)の問題は紫外線障害から如何にして哺乳動物細胞が回復し得るか、その機構を分子レベルで解明しようとするものであり、最近ではこの問題を更に発展させて4NQOの如き発癌剤処理からの回復機構を検索しております。そして広い意味での生物本来のもつerror correcting mechanismを探知しようとしています。この問題は、最終的には4NQO等による正常細胞のin vitroでの発癌機構を裏面から追究出来る方法として今年は殊にこの仕事を発展させるべく夢をいだいています。
 (2)の問題は勿論、骨髄細胞という生体のrenewal systemの細胞群をin vitroで培養することにより、細胞分化の問題を中心にして発癌と云うstepの解明をめざした研究課題です。昨年は基礎的な仕事にのみ時間をかけてきました。でも何とか骨髄細胞もin vitroで培養出来るようになり、しかもこれらの培養細胞(45日間culture)は700R照射したマウス静脈中にもどしてやると骨髄死で死滅すべきマウスの生存を延長させ得るというdataも得られるようになりました。今年は更にこれらの問題を発展させin vitroでの骨髄細胞の分化、さらにはその分化の調節機構、ひいてはin vitroでの発癌機構(Leukemogenesis)の解明までこぎつけたいものです。あれこれと新春にあたり心に夢をえがいてはいます。これがどの程度まで実現可能になったかの評価はやはり来年のこの号の月報で報告出来るでしょう。
 私のLab.のTCグループでも障害回復機構から始って、骨髄細胞を用いた分化と発癌の問題、甲状腺細胞の代謝、脾臓細胞の培養と抗体産生、初期胚の分化と機能発現、さらには胸腺細胞の培養と多くの人が集まり、種々雑多な人が討議しつつ、それぞれの仕事を進めております。これらも加えて今後ともによろしくお願いします。新春にあたり皆さんと共に今年も大いに頑張ることをお約束しましょう。

《永井報告》
 何はともあれ、初春のおよろこびを申し上げます。旧年中はこの班でなければ聞けないような話を沢山聞かせていただきまして、随分と勉強になり、また励ましにもなりました。今年もひとつよろしくお願い申し上げます。昨年について一貫して云えることは、雑用の多かったこと(これはいつものことかもしれませんが)に加えて、学会が多く、それに追いまわされたことでした。段々、実の伴わないセレモニー的な学会がふえてきているように感じてなりません。論文の多くなること、研究者の多くなることは、結構なことでしょうが、日本の大都市における最近の自動車の洪水に似たことが起きたら一寸問題です。けがをするだけならまだしも、うっかりしたら生命をやられてしまいます。今年はサル年だそうで、見ざる、聞かざる、云わざる、とまではいきませんが、ひとつ腰をすえて、心を新たに出発したいものと考えております。癌征服の日の一日も早く到来せんことを祈りつつ。

《奥村報告》
 「明けましておめでとうございます。昨年中の御指導に心より御礼申し上げます。本年もよろしくお願い申し上げます」
 昨年は公私ともに、とくに私的な面で多忙をきわめ、落着いてじっくり仕事が出来ませんでしたことを残念に思います。1967年をふり返ってみますに、私共の研究室で公表できます成果は次の3点でしかありません。
 1)初期継代の細胞をコロニーレベルで扱いうるようになったこと。この実験系の発展によって細胞のin vitroにおける変異を多少詳細に追究できるようになった。
 2)ヒト胎盤性トロホブラストの長期継代の条件を見出し、しかもそれらの細胞のホルモン産生能(HCG)をも持続させることに成功した。
 3)ウサギの初期発生胚(Blastula stage)のin vitro発生の基礎的条件(培養の)を検討し、とくに心筋細胞(?)のin vitro differentiationらしき現象を見出すことができた。
 今年はこれらの仕事をできるだけはやくまとめたいと思います。また、これまでの実験をもとに、細胞の増殖性と細胞の分化機能の発現との関連性を探ってみたいと考えております。こんな夢ものがたりをどの程度実現できるかわかりませんが、せいぜいがんばってみるつもりでおりますので、よろしく御教示下さいます様お願い申し上げます。今年は昨年以上にいろいろなことがありそうで、おそらく馬車うまの如く働かなければならないような予感がしてなりません。新春にあたり皆様の御健勝を祈上げます!!

編集後記


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