【勝田班月報:6812:細胞電気泳動】
《勝田報告》
A)4NQO処理によるラッテ肝細胞の培養内悪性化:
前にも報告したように正常ラッテ肝細胞株RLC-10を用い、4NQOで処理し、以後の経過を観察していたが、4系列の実験の内、2例は1/2のラッテが腫瘍死し(Exp.#CQ40,42)、他の二系列の実験ではやはり1/2のラッテが皮下に腫瘍を作っている(Exp.#39,41)。後者は前者と同様にI.P.に接種したのであるが、皮下にもれたものと思われる。この結果より、#CQ42の培養系にRLT-1(Tはtumor)、CQ40の変異系にRLT-2と株名をつけた。また、これらの復元によって生じた腫瘍の動物継代系を夫々Cula、Culbと命名した。Culture内で悪性化した、という意味で“Cul”をつけ、そのあとabc・・・を順につけたのである。またこれらの腹水肝癌を再培養した系は“CulaTC”のように名付けることにした。
(これら4系の処置歴の図を呈示)4NQO処理は1回につき3.3x10-6乗M、30分。#CQ42では、第1回の腹水検査のとき、すでに腫瘍細胞の小塊が腹水中に認められ、第2回のときはその数も大きさも増していた。10月20日にこのラッテは腫瘍死したので、直ちに解剖したところ、多量の血性腹水の貯溜と、腹膜その他に多数の硬い癌性小結節が認められた。腹水は凍結保存と、再培養と動物継代に用いられたが、そのときJARの新生児がなく、生後32日のJAR2系のラッテ(F8♂)にI.P.で接種した。同系の純系でないためか、これはtakeされなかったらしく、今日までラッテは生存している。そこで再培養した細胞を再び動物に戻すことにし、JAR-1、F33、生後27日♂2匹にI.P.で接種したところ、28日後1匹が腫瘍死した。他の1匹も腹水中に腫瘍細胞の貯溜が認められている。#CQ40では、2回の腹水検査時いずれも腫瘍細胞は認められなかったが、11月3日に腫瘍死した。所見はCQ42とほとんど同じ。この腹水はJAR-1、F33、生後29日♂2匹にI.P.で接種した。ラッテは現在なお生存中であるが、腹水中に腫瘍細胞の貯溜は認められている。CQ39とCQ41の(+)とあるのは、その皮下に腫瘍細胞の塊を認めたもので、早晩は腫瘍死するものと推定される。しかし皮下系では実験に用いにくいので、また改めて培養細胞を動物の腹腔内に接種し、腹水型の腫瘍系を作ることを計画している。これは、初めて接種するときと異なり、腫瘍を作ることははっきりしているので気分は楽である。
B.4NQOによる悪性化細胞の染色体数:
(#CQ41を除き、他の染色体数分布図を呈示)RLC-10は42本を高頻度に保有している。CQ39では40本、41本がピークとなり、CQ40では41本がきれいなピークになっている。CQ42は40本を中心としたピークである。このように何れも2nよりわずか少い数にピークが移っていることと、広範な分散のみられないことが共通した特徴である。
C.各系の顕微鏡写真像:
(スライドを展示)
:質疑応答:
[佐藤]腹水のなかの肝癌島でも、培養のなかの島のようなところでも、真中に透明なところがみられますが、あれはうちの肝癌でもそうです。何か分泌しているのでしょうかね。それから癌化したものが、対照と形態があまり変っていないとのことですが、2倍体でも偽2倍体で、RLC-10はつくのではないでしょうか。
[勝田]対照も2匹に接種しましたがtakeされていません。今後は、さらに別の肝細胞株で試みたいと思っていますが、現在はこの株で、再現性と途中経過をみるため、1回処理で、以後一定期間ごとに、染色体、復元、細胞電気泳動を平行してしらべる実験をすでに開始しております。
[吉田]染色体レベルの仕事には、初代培養で4NQO処理した方がよいのではないかと思います。
[勝田]次の実験には初代も使ってみる予定でいます。
[吉田]染色体の核型の変化はどうですか。
[勝田]まだ数多くは見ていませんが、大きなMetaがなくなっています。大きなSubmetaは残っています。
[佐藤]初代培養で4NQO処理するのはよいが、うちではcloningをして、“肝実質”で2倍体のものを使いたいと思っています。染色体レベルでは正2倍体でなくて偽2倍体でもよいものかどうかですね。
[堀川]初代培養で4NQO処理し、それから色々のclonesをとり、どれが発癌しているかをしらべる。またはじめにcloningしておいて(初代がむずかしければ株でも良いでしょうが)それに4NQOをかけ、どのcloneが発癌しているかをしらべる。こうすれば初めから悪性化しやすい細胞が混っているのか、4NQOでat
randomに発癌するのか、ということが分かるでしょう。
[佐藤]もともとこの班の方向としては、初代培養を使うことになっていました。
《梅田報告》
前回の報告に引き続き、ラット新生児肝培養にDABを投与し長期に培養を続けている細胞の中間報告をする。
I)7月6日に培養を開始し、7月13日からDAB-4.5乗Mをcontinuousに投与し続けている培養では、相変らず細胞の旺盛な増殖は認められない。それでも緩慢な細胞増加があるようで、上皮性のやや大き目の細胞の中に密な細胞増殖が認められるようになった。11月30日に中平角瓶の全ガラス底面を覆ってはいなかったが、一応subcultureした。Trypsinize後の細胞数は極めて少く、44万個cells
totalしかなかった。現在一部の細胞がガラス面に付いているが、旺盛に増殖するとは思えない状態である。
II)9月6日に培養を開始し、9月9日からDAB投与を開始したgroupは、11月21日でControlの細胞も、DAB
10-4.0乗M3回投与例も、DAB 10-4.5乗Mcontinuous投与例も同じようなきれいな上皮性細胞増殖があり緩慢ではあったが、殆ど培養瓶のガラス底面を全部覆うにいたった。11月30日にsubcultureした所、DAB
-4.0乗Mを3回投与例できれいな細胞が生え出しているが、DAN
10-4.5乗Mcontinuous投与例、Control cultureの二代目は細胞が変性してしまってsubcultureに失敗したようである。
III)10月22日に培養を開始し、10月28日にDAB
10-3.5乗M mediumで培養、1日後普通のmediumに戻し、11月4日に再びDAB
10-3.5乗を投与し、2日後より今日迄普通のmediumで培養した系について述べる。一時観察を怠っていたが11月21日の観察では、I)II)で述べたような上皮性の細胞増殖は本例では抑えられ、fibrousに見える部分(肝細胞と思う)が残った。同時にこの部分に乗ったような形で4〜5〜10個位の大型円形細胞からなる塊が観察された。しかもfibrousに見える島状の殆んどの細胞群の上に1〜2個の塊が認められた。これを今大事に観察を続けているが、非常にゆっくりではあるが塊の増大があるが、あまりかんばしくない。しかも12月5日の観察では、この細胞塊は浮いてきて増殖する傾向が認められた。
IV) III)の実験で観察してすぐ、11月19日に培養開始した肝細胞にIII)と殆ど同じような条件でDAB
10-3.5乗M投与を2回続けて行ってみて目下経過観察中である。
12月5日の実験ではI)II)のような上皮性の明るい細胞の増殖がかなり認められ、III)のrepeatとしてはかんばしくない結果に止っている。(それぞれに写真を展示)
:質疑応答:
[佐藤]ラットは生後何日のものを使いましたか。又、培地組成とDABの溶かし方について説明して下さい。
[梅田]ラットは生後5日前後のものを使いました。培地は仔牛血清20%+LD80%です。DABは10mg/mlの濃度にDMSOに溶かしたものを培地で稀釋して添加しています。
[佐藤]DMSOの影響はありませんか。
[梅田]対照としてDMSOだけを実験群と同じ濃度加えてみればよいのですが、まだしらべてありません。
[堀川]アルコールで溶かした方が溶剤の毒性が少ないのではないでしょうか。
[佐藤]DABはアルコールにあまり溶けません。
[梅田]DMSOには10-4乗Mまで溶けます。
[佐藤]うちの株細胞での実験で、DABによる肝細胞の悪性化は、あの大型細胞の方が有望だと思います。小型の細胞は悪性ではないようです。
[梅田]小型細胞の集団から出て来た、浮いている少し大型の細胞が怪しいと思うのですが・・・。但しちっとも増えてくれないので困ります。
[安村]増えないというのはpopulation densityが低いせいではありませんか。癌細胞だから培養内でよく増殖するとはきまっていませんよ。
[堀川]本当にそうですね。培養内で悪性化した細胞を拾って増やす場合、培地や培養条件を検討する必要がありますね。
[安村]腫瘍性と培地内での増殖性とは平行しませんね。
[佐藤]うちの実験で動物にDABを与えて発癌する過程を追って肝臓をとって培養した経験では、初期のものはよく増殖します。それからAdenomaの型の時は増殖がおち、又癌化してしまうと増殖率が上ります。梅田班員の細胞ももう少しDABを添加しつづけてみたら、悪性化するのではないでしょうか。
[勝田]あの細胞は“なぎさ”の細胞に似ていますね。“なぎさ”細胞の経験ではあまり変わり過ぎると動物にtakeされなくなります。薬剤処理後早いうちに悪性の細胞をselectするにはDr.Heidelbergerのように処理後早い時期に復元して生体内でselectされるような方法もありますね。
[吉田]浮いたままで増える細胞かも知れませんよ。そうだと培地をかえる時など、気をつけて捨てないようにしなくてはなりませんね。大型の細胞と小型の細胞は全然ちがう種類のものですか。或は同じものが変ってゆくのですか。
[梅田]さぁ、はっきりわかりません。初代からちがうという可能性もありますし、中間型のようなものもあって、変ってゆくとも考えられます。
[山田]細胞電気泳動法で分けられるかも知れませんね。
《山田報告》
今月は培養細胞の電気泳動度測定の基礎的な検討成績を報告します。
1.培養管壁からの細胞剥離操作の細胞に及ぼす影響:
従来培養細胞浮遊液を製作する方法としては、ラバーポリスマンで壁から細胞を剥離させ、これを駒込ピペットで撹拌して居る。通常この操作により、かるい細胞塊は分離するが、しかしなお細胞シートとして残る部分も少くない。これをそのまま泳動管内に注入すると細胞塊は直ちに沈下して、測定の対象となるのは残りの分離した細胞だけとなる。特に従来このうちで主として円型の細胞のみを測定して来たのですが、今回はこの円型の細胞がポリスマンで剥離する時に影響があるが、あるか否かを検討するためにRLH-4株を用い、まず培養壜そのものを振盪して剥離した細胞群(A)と、その後ポリスマンで掻過して剥脱した細胞群(B)をわけて自動写真記録式細胞泳動装置により、その細胞形態と泳動度を比較して見た。
(図を呈示)全体としては、ポリスマンで剥離した群(B)の方が平均泳動度が低いが(1.02→0.95μ/sec/cm)、しかし両群のうちで円型細胞と多角型細胞にわけてみると、振盪しただけで剥離するものは殆んどが円型でこれとB群の方の円型細胞を比較すると、両者は殆んど差がない(1.02→1.04)ことがわかった。即ち振盪しても或いは掻過しても、円型細胞のみを測定すればまず同一の泳動度が得られることを確認した。なお同時にEDTA(0.02%)及びトリプシン(0.002%、pH7.1)で細胞剥離を行い泳動度測定した所、前記の円型細胞群のそれと平均値は殆んど差を認めなかった。
しかしトリプシン処理の細胞では多少個々の泳動値のバラツキが出現した。(この点は今後検討したい。)
2.シアリダーゼ内に混入するプロテアーゼ量:
従来シアリダーゼはWellcome Research Laboratories(England)を用いて居ります。一般にシアリダーゼにはプロテアーゼが混入して居り、これの影響を考えねばならないとの意見がありましたので、吾々の用いているシアリダーゼにはどの程度プロテアーゼが混入して居るかを検索しました。まず、ウシヘモグロビン分解能をFolin法により検査してみました。細胞処理には通常使用して居るシアリダーゼの10倍量(300単位)までを用い、また細胞処理に使用するpH5.6硝酸緩衝液を用いた所、シアリダーゼに混入するプロテアーゼ活性量は0で測定不能の範囲でした。これに対し同一条件でのトリプシンのプロテアーゼ活性はその濃度に比例し、0.001%までのトリプシンはこの方法で活性度の測定が可能でした。
つぎに同一条件で腹水肝癌AH-62Fに各濃度のシアリダーゼ及びトリプシンを(pH5.6)それぞれ作用させ、37℃30分保温後上澄に遊離される蛋白量及び、5%TCAによる沈殿上澄のポリペプチド及びアミノ酸(分解産物)を測定した所、シアリダーゼ(5〜75単位)トリプシン(0.001〜0.1%)処理を比較すると前者には1/10以下の蛋白及びその分解産物が遊離するにすぎず、通常用いる30単位のシアリダーゼでの処理では、トリプシン0.001%以下の処理と同量の蛋白が遊離することがわかりました。前記のごとく、また腹水癌細胞を0.001%以下の濃度のトリプシン処理では、細胞電気泳動度に変化を与えないと云う知見がありますので、シアリダーゼ混入のプロテアーゼは現在の作用条件では全く度外視して良いと云う結論を得ました。
3.CQ42株のラット復元腫瘍からの再培養株の電気泳動度:
最近4ニトロキノリンにより変異したラット肝細胞を数匹のラットに復元した所、その一匹が腫瘍を形成したとのこと(医科研癌細胞研究部)ですので、この腫瘍からの再培養株の電気泳動度を測定しました。(図を呈示)Original株では、以前に報告しました様に、その平均泳動値が0.86μ/sec/V/cmでシアリダーゼ処理によりその泳動値が殆んど変化しないとの理由から、正常ラット肝細胞とは変異して居るが、悪性化細胞とは異なると結論しましたが、今日の腫瘍再培養株では平均泳動度0.95μ/sec/V/cmで速くなり、しかもシアリダーゼ処理により泳動度が低下し悪性型を示しました。
この成績から考えると、以前報告しました岡大病理株の自然悪性培養ラット肝細胞RLN38、36のごとく株細胞全体として悪性化していても、その悪性化した細胞の数が少なく、従ってoriginal株では悪性細胞が選擇されたものと考えたいと思います。尚、このCQ42株については引続き写真記録式泳動装置により詳しく検討したいと考えて居ります。
:質疑応答:
[吉田]泳動後、細胞は生きていますか。動きの速さに従って分劃して、それぞれ培養することは可能でしょうか。
[山田]今私が使っているのは、ミクロンの単位の測定ですが、分けるための機械も開発されています。但し大変高いのです。班長さん、どうぞよろしく・・・。買って頂ければ分けますよ。
[堀川]ラバーポリスマンでかき落した群の対照は、どういう処理で集めましたか。
[山田]先ず軽く振って死んだ細胞を捨ててしまいます。そして液を入れ強く振って液中に落ちた細胞を集めて対照にしました。
[堀川]死んだ細胞でも泳動しますか。
[山田]します。
[堀川]とすれば、泳動値のひらきが1オーダー位つけられるように、何かキャリアをつけてみる実験も面白いと思います。
[山田]プロタミンのような+イオンのものをつけると−へ動く事は判っていますが。
[勝田]正常な細胞の中でも種類によって泳動値がちがいますか。
[山田]大変ちがいますね。偏平上皮などはおそいです。
[勝田]胎児の細胞の中に変なのが混じっているかどうかも、調べる事が出来ますね。
[永井]増殖性との関連はどうなっていますか。
[山田]増殖のおそい時は泳動度もおそくなるようです。
[永井]悪性かそうでないかということは、泳動度の速い遅いで決められるのでなく、シアリダーゼで泳動度がおちるということが大事なわけですね。
[山田]そう考えられます。
[永井]シアリダーゼにもいろいろ特性のちがうものがありますから、それらを使ってデータを比べてみると、もっと内容が豊富になると思われます。
[山田]そうですね。ぜひ御協力下さい。
[佐藤]基礎条件を出すためには、ラバークリーナーだけで継代出来る系とトリプシンを使わないと継代出来ない系と両方について、しらべる必要があります。
[堀川]色んな方法で細胞を殺してみて、殺し方によって泳動度がちがわないかも、しらべてみる必要がありませんか。
[山田]その場合、殺し方によって細胞膜が物理的にすごく変ってしまって、データの解析が複雑になってしまうと思われます。
[堀川]BUdRのようなものを取り込ませると泳動値は変わりますか。
[山田]矢張り膜の変化が影響するでしょうね。
[藤井]抗体をつけるとどうなりますか。
[山田]抗体で10分位処理するとヘテロだとぐんと下がります。ホモでは今の所差が出ていませんが、もう少し方法を検討してやってみるつもりです。
それから勝田班長の所のRLC-10は、電気泳動的には揃っていて大変きれいな系でしたが、岡山のN-7という対照株はかなりバラツキがあったこと、先の染色体の正常さについての討論に付け加えます。
《安藤報告》
A)L・P3細胞処理後のH3-4NQO含有培地の分析
培地中に与えられたH3-4NQOは急速に細胞内低分子プールにとりこまれ、30分以内に最高値に達し、培地中に添加時の90%以上の放射性が残っているにもかかわらず、それ以後は急激に減少する。この現象は培地中に残存している放射性が、4NQOとして残っているか否かに疑問をいだかしめる。そこで2時間細胞と接した培地中の放射性を種々の有機溶媒で抽出してみた。(Unextracted、Toluene
ext.、n-Hexane ext、Ether ext.、Ethyl acetate
ext.についての結果を表で呈示)結果は、L・P3細胞に接した培地中の放射活性は、どの溶媒でも全く抽出されない形となっている事、即ち親水性が非常に増加している事がわかった。勿論、細胞に接しない培地を37℃2時間処理をした場合には、これ等の溶媒により容易に抽出可能であった。
次にこの親水性複合体が、いかなるものであるかを調べるために培地約30ml分を凍結乾燥し、セファデックスG15カラム(2.5x90cm)で分劃してみた。(分劃図を呈示)結果は、4NQO由来の放射活性は少くも5つの成分よりなることがわかった。又4NQOそのものの溶出位置がわかったが、それに対応するピークは全く見出されない。すなわち100%複合体になってしまっている事を示している。今後、これ等の複合体の構造を調べて行く予定である。
B)H3-4NQO処理L・P3細胞の核酸の分析
4NQOは蛋白質と同様に核酸とも短時間の間に結合する。H3-4NQO、10-5乗M、2時間処理された細胞8500万個より全核酸をフェノールSDS法で抽出し、メチル化アルブミンカラムにかけ分劃した。
(分劃図と放射活性の表を呈示)tRNA、DNA、rRNAは比較的分離よく分離される。次に部分的にプールし、透析脱塩後DEAEセルローズに吸着させ、各々の核酸に含まれる放射活性を測定した。結果は、各核酸の比放射活性はrRNA>mRNA>DNA≧tRNA>オリゴヌクレオチドの順であった。なおExp.2としてExp.1と全く同様のやり方で行った時の値(a)と核酸をDEAE吸着後H2Owashの代わにEtOHwashした結果(b)をもとめた。この結果からわかる事はRNAとDNAとは4NQO代謝物との結合様式が異る事を示唆している。今後これ等の核酸と4NQOとの結合様式を詳しく検討する予定である。
:質疑応答:
[堀川]4NQO処理後、何時間で分劃していますか。
[安藤]2時間です。
[堀川]2時間たつと4NQOが一旦DNAにくっついてから、又どんどん放出されたあとになりますね。むしろ、30分とか1時間位でしらべる方がDNAとの関係はよくわかるのではないでしょうか。
[永井]エタノールで洗うとDNAからは離れるのにRNAからは離れないというのは4NQOの形が変っているせいか、或いは結合の形式がちがうのでしょうか。そこの所も何か方法を考えてしらべてみると、案外面白い方へ展開するかも知れませんね。
[勝田]DNAからだけ離れるというのも面白い現象だと思いますが、結論は慎重に出すべきですね。それからL・P3は4NQOに耐性のある少し変わった細胞なので、もっと他の細胞例えばRLH-5・P3なども使ってしらべたいと思っています。それからこのデータからみても、4NQOの処理は30分で理想的ということになりますね。
[山田]化学的に水溶性になるということは、どういう形が想像出来るのですか。
[安藤]末端にアミノ酸がつくという事が考えられます。
[勝田]L・P3が4NQOに抵抗性をもつということは、この現象から説明すると解毒性が強いということかも知れませんね。
[梅田]2時間で4NQOがすっかり細胞の中へはいって、ライソゾームを通過して出て来ると考えられますか。
[堀川]ライソゾームの機能を借りなくても、ただ飲み込まれるだけかも知れません。
[永井]全く酵素的な反応を経ていないのかも知れません。
[勝田]それは生きた細胞を使わないで、細胞のエキストラクトやその分劃、又培地、いろいろと検討してみれば判るわけですね。
[堀川]細胞を培養したあとの培地と4NQOとの相互作用もみることが必要ですね。
[安村]4NQOが水溶性に変わってしまった培養2時間後の培地は、新しいL・P3に与えるとその変わった4NQOを取り込むでしょうか。
[安藤]しらべてみていません。
《佐藤報告》
§4NQO処理による悪性変化した呑竜ラッテ培養細胞の染色体分析
4NQOによって細胞株が悪性変化する過程でその染色体がどのように変化するか調らべたので報告します。その結果は今迄に、一部を月報に、又総括的なことを第26回組織培養学会に於いて報告しました。今回は月報に未報告なもの及び総括を報告します。
1.正常肝由来細胞の培養に於ける染色体変化
4NQO処理細胞の染色体分析に先立ち、無処理の対照群の染色体がどの様に変化するか調らべてみた。(4系の無処理群の染色体数分布図を呈示)無処理群では比較的早期から正二倍体が減少し、偽二倍体が増えてくる。次いで染色体数の変化が生じて、低二倍体細胞が増加し、modeは低二倍体領域に移ってくる。正二倍体は次第に減少しついには消失する。型の上でも不安定さが目立ち、数の上では幅広いスペクトルを形成するようになる。この時期では数も型も同一の細胞を見出すことが困難になる。
正二倍体が略消失したと思われる時期の染色体分析の結果を呈示する。正二倍体は350日から550日の間に消失している。数の分布では低二倍体領域のもの3例と、3nと4nの間に分布しているもの1例である。modeの染色体を調らべてみると、核型は多様で同一の核型のものが少い。即ち核型の不安定がみられる。又、Marker
chromosomeも可成の頻度で認められる。
2.4NQO発癌による腫瘍の染色体
前記のように正常細胞は培養しているうちに正常なものから次第にずれることが判明した。そこで4NQOによる染色体の変化を追求するには無処理群、処理群、及び腫瘍群の3群を常に同時に比較して、どの変化が4NQOに特異的な変化であるかを考察して行かなければならない。そこで先づ腫瘍の染色体を調らべてみた。5系の腫瘍の染色体を調らべた結果を呈示する。数の分布では2n領域のもの3例、3nと4nの間のもの2例である。特長的なものはMarker
chromosomeがそれぞれの株に高頻度に含くまれている。これら腫瘍と4NQO処理群とを対応してみる。
先ずRLN-187では処理群でみられたMarkerは腫瘍群では認められず、染色体上では崩れた感じがして、Breakage、Minute、Dicentricが多数認められた。
RLN-E・7-1では、処理群には4個のMarkerをグループとして含くむものが高率にみられた。腫瘍では、それに2ケ加わった6ケのMarkerを、グループとして有する細胞が多数みられた。
RLN-E・7-2aの処理群では特長的なMarkerが認められず、腫瘍では3nと4nの間に分布が移っており、詳細な分析が未だ出来ていない。
RLN-E・7-2bの腫瘍では3ケの特長的なMarkerが分布して高率にみられ、処理群をみると、これと同様のMarkerを含む細胞が認められた。
RE-5ではRLN-E・7-2bのものと同様に、処理群に認められたMarkerを有する細胞が、腫瘍では高率に認められている。
以上のように腫瘍群の染色体の分析を纏めてみると、(1)処理群にみられたMarkerが全く認められないもの、(2)処理群にみられたものに更に別のものが加わっているもの、(3)処理群で低率にみられたMarkerが腫瘍群ではSerectionをうけ多数となったものの3つの型があると考える。
3.4NQO処理群の染色体
前記の様に腫瘍にMarkerが存在していることが解ったが、これらの特異的な変化が4NQO処理をする過程でどのように生じてくるか、そしてその変化が腫瘍の発生にまでつながるかを目下RLN-251の系で詳細に追求中である。
:質疑応答:
[勝田]染色体の核型分析をしてみて、ヘテロの組合せがある場合、その動物系を純系とよんでもよいのでしょうか。
[吉田]染色体の面からは純系とは言えませんね。
[佐藤]皮膚移植をしてtakeされれば純系と言えるのではないでしょうか。
[安村]培養細胞の場合、染色体のモードはどの位安定なものですか。何回位分裂をくり返すと、或いは何代位継代すると変わってしまうのでしょうか。
[堀川]自分の経験ではL株からとった放射線耐性株についてしらべたのですが、3年後には、もう変わっていました。
[安村]凍結保存しても変わる、培養で継代していても変わるとなると、染色体を指標にすることに意味があるでしょうか。
[堀川]それは根本的な問題ですが、それを知りつつも、染色体というものは遺伝子を負っているものだから、調べてみたいと思うのです。
[佐藤]生体での調節機構が、培養にはない、ですから何時かは悪性化してしまう。そこが培養内発癌のむつかしい所ですね。
《三宅報告》
4NQOを作用中のマウス胎児細胞とは別に、20-Methylcholanthren(かって、このBenzolへの溶解液を同じd.dマウスの背の皮膚に1回塗布することによって、3ケ月後に同部に偏平上皮癌を発生せしめえたものと同じボトルのもの)をBenzol
100ml中10mgを溶解し、Medium中の終末濃度1μg/mlとして7日間の間隔で1〜3回、培養細胞に作用せしめて、おいたものがこれで3ケ月(93日)を経た。1回の塗布でin
vivoでは癌を3ケ月後に発生せしめているから、ここに改めて培養細胞の形態を詳しく検索してみた。
この小実験の目的はまた別にもあって、手持ちになっているH3-20
Methylcholanthrenの100mCi/ml(1mlのBenzolに直接溶解してあるもの)を用いて、胎児皮膚の培養細胞に作用せしめて、同位元素の細胞内での行くえを探究したいためでもあった。このBenzolの溶解物を1 中2.5μc/ml、1μg(20MCA)/ml(medium)とすることが可能と考えられ、20MCAの具としても放射能のAuto
radiographyをうるにしても好適と考えたからであった。
1〜3回の作用後の前記のd.d系マウスの胎児皮膚はfibroblasticであることは3ケ月経ても変ったことはない。1ツは平たく硝子面に広がり、1ツは紡錘形に近い形態をとって、遥かに小型のものである。核−形質比も正常。核に異形像を認めることがなく、こうした細胞は硝子面一面に拡がって、コロニー状を示すことがなく分裂像も少い。Controlのものは分裂が強く、植えつぎの必要があったに拘わらず、作用群のものは一度もその必要がなかった。1〜3回の作用では悪性の変化を示さず、in
vivoのそれと全く異っていた。
いま、新しくPrimary cultureを行ったd.d系マウス胎児皮フの細胞についてDMSOにとかしたH3-20MCAを作用後、Autoradiographyで追跡している。
:質疑応答:
[安藤]ラベルしたメチルコラントレンの比活性はどの位ですか。
[三宅]2.5μc/1μgとなっていましたが。
[安藤]何に溶かしてありますか。
[三宅]ベンゾールに溶かして送ってきました。それで困っているのです。どうやって使えばよいかと思いましてね。
[堀川]対照にベンゾールを入れればよいでしょう。
[三宅]やってみました。ベンゾールはとても毒性が強いようです。
[永井]ベンゾールは窒素ガスをふきつければ簡単にとばせるのですから、とばしておいて改めてDMSOにでも溶かせばよいでしょう。
《高木報告》
No.6810にかいたように実験NQ-7、NG-11はいずれもmorphological
transformationはおこっているが、その後発癌剤を作用させることなく継代中で、近い将来に再び復元の予定である。
NQ-7(T-4)は接種後4ケ月になるが未だtumorの発生をみない。
今回は、NG-4のNG処理細胞を接種したnewborn
WKA ratに、約2ケ月後にtumorの発生をみたので、その報告をしたい。
NG-4:1967〜1968
8.28:生後4日目のWKA rat thymus培養開始。
9.22:NG 10μg/mlをHanksにとかしたものを2時間cell
sheetに作用せしめ、後培地を追加して6日間培養して培地交換。
12.6:約70日後criss-cross・・・の所見を認むるに至る。生後3週のWKA
rat SCに100万個もどしたが、6ケ月たってもtumorを作らなかった。
3.5:処理後13代目約160日後、confluent cell
sheetの中にpile upするfociを認め、またこの頃より細胞増殖が対照に比して良くなった。
7.29:処理後34代目約10ケ月後の細胞をWKA
newborn rat9匹に100万個SCにもどしたが、10日以内に6匹死亡した。
10.7:細胞接種後70日で生残った3匹のratにtumorの発生を確認した。なお、対照の細胞を100万個SCに接種したWKA
newborn ratも接種後10日以内に死亡した。
以上の通りでNG処理細胞を接種したratにtumorを生じたが、対照の細胞を接種したratがいない訳である。従って、
1968.10.2:培養開始後42代目の細胞を100万個WKA
mewborn rat8匹のSCに接種したが、38日後の今日までtumorの発生をみない。
なお、NG-4の処理細胞を接種してtumorを生じた3匹のratの中、1匹は11月7日接種後71日目にひん死の状態になったのでsacrificeした。tumorは5.5x3x2.5cm位の大きさのものが左背から肩胛部にかけてあり、もう1つ小さなtumorが項部にあった。
expansiveなgrowthを示すtumorでmetastasisは認められず、ただ肋骨を通して左胸腔内まで侵出していた。
その他、肺炎、腹膜炎を思わせる所見があったが、これは末期に衰弱したratの感染による変化と思われる。
鏡検の結果はfibrosarcomaであった。
tumorを角培養したところ、球状の細胞とfibroblasticな細胞のおそい増殖が認められた。この一見形態学的に異った2種の細胞が本当に別個の細胞か、あるいは球状の細胞がexplantからmigrateしてガラス面についてfibroblasticなcellになるのか、今の処分らない。さらに再現実験を行っている処である。
:質疑応答:
[堀川]培養日数が100日以上にもなると、解析がむつかしくなるのではありませんか。案外1カ月位で復元してもtakeされるのではありませんか。
[高木]この実験の対照群は、4NQOの実験の対照群と共通で今までさんざん復元してみましたが、takeされていません。
[堀川]自分の所では1カ月で無処置の培養細胞がtakeされるので、早い時期でもtakeされるのではないかと言ったのですが・・・。
[高木]堀川さんの所の胸腺の培養はマウスですね。マウスは悪性化が早いのではありませんか。ラッテの場合と大分ちがうようです。
[安村]培地は何を使っていますか。
[高木]LH.Eagleのビタミン、仔牛血清10%です。
[堀川]マウスでの胸腺が機能を維持しているのは40日位とききましたが、ラッテはどの位ですか。
[高木]さぁ、知りません。
[堀川]私の所のマウスの胸腺の培養で、もうtakeされるようになった培養2週間の細胞の顔つきと、高木さんの所のこのあたりで変化したようだという時の細胞の顔つきとはとてもよく似ていますね。私の所の動物はC57ブラックで、培養2週間で復元すると、復元後30日で大きなtumorを作ります。
[藤井]Adultの動物から培養しても自然悪性化するのでしょうか。
[堀川]それはまだみていません。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(9)
4-NQOの処理によってDNAに生じる障害を各種培養細胞が修復させ得るであろうという可能性は、Autoradiograph法によって4-NQO処理後の細胞がH3-thymidineを取り込む、しかもそれはUnscheduled
DNA synthesisであるという結果から示された。それらについては前報において報告して来たが、今回はこの問題をさらにdirectに証明する目的で、これまでX線照射によるDNAの切断とその再結合能の検索に用いて来たsucrose
gradient centrifugation methodを使って再確認した。それらの結果について報告する。
例によりEhrlich細胞を1μci H3-thymidine/mlを含むmedium中で24時間培養し、DNAを完全にlabelする。その後cellを洗い、cellを各種濃度の4-NQOを含む培地で30分間処理し、直ちにきれいに洗ってアルカリ(pH
12.0)sucrose gradient(5%〜20%sucrose)にかけて30,000RPMで90分間centrifuzeする。(つまりこの場合はアルカリsucroseであるからsingle
strand breakを見ていることになる) その後10dropづつ集め、fraction
number毎のDNAの放射能としてplotした結果を示す。(図1と図2を呈示)図1と図2は共にまったく同じ実験を繰り返してやった結果であるが、これらの図からわかるように4-NQOで30分間処理した場合、4-NQOの濃度に依存してDNAのsingle
strand breakは増大することがわかる。しかも2つの実験でまったく一貫性がなく、X線照射によって起こるsingle
strand breakの場合とはまったく異なることがわかる。このことは後述するが、いやがうえにも細胞に一様に照射されるX線の場合と違って、4-NQO処理の場合は細胞集団のage(つまりこれは透過性などにも関係する)による4-NQO取り込みの違いとか、さらに4-NQOをsolventに溶かし、それからmediumに添加して細胞を処理する場合に、実験毎に僅かの時間的づれを生じ、4-NQO→4-HAQOにreduceされている量的差などに依存して、1回1回の実験が異なった結果を生むと考えてよさそうである。いづれにしてもこの様なalkaline
sucros gradientのDNA single strand breakでみる限りにおいては濃度に依存した切断が生じることが示された。
一方このように4-NQO処理によって生じたDNAのsingle
strand breakの再結合がおこるという現象は同上の方法で以下の様にしてdetectされる。つまりH3-thymidineで前もってlabelした細胞を10-5乗M4-NQOで30分間処理し、直ちに洗って正常mediumで種々の時間incubateする。各時間に細胞を取り出し、前述のalkaline
sucrose gradient内でcentrifuzeした際のsedimentation
profileの変化をみた結果を図3と図4に示す(図を呈示)。
図3と、図4はいづれも同じ実験を独立して別個に行なったものであるが、図1と図2に見られるようにまったく一貫性を欠いており、処理直後のDNAの切れ方にも実験により違いがり、またその再結合も実験によって違いがあることがわかる。これらの理由は前にも述べた様に細胞集団のageの違いと、4-NQOの不安定性を示したものであろう。いづれにしても4-NQO処理によって細胞内DNAのsingle
strandレベルの切断は起こり、しかもそれは処理後のincubationによって経時的に再結合するであろうという可能性は、前報で報告したautoradiograph法による結果と合わせ考えて確実であると考えられる。またDNAレベルでみた4-NQO障害の修復機構はあらゆる点からみてX線によるそれよりもUVに対する障害修復機構に類似していることが示唆されている。この点の詳細は班会議で報告した範囲にとどめ、ここでは説明を省略する。一方4-NQO処理による細胞内DNAのdouble
strand breakの誘起ならびに、その再結合があるか、否かの検索は現在進行中である。
:質疑応答:
[吉田]クロスリンクの可能性はありますか。
[堀川]あると思います。
[安藤]4NQOとベースとの結合がcovalentだという証拠がありますか。
[堀川]今の所推測にすぎません。根拠としてはオートラヂオグラフィでみた時、UV照射は派手な黒点が出る、これはダイマーが出来てそれが切り出され、そのあとを大きく修復するからだと考えられ、X線照射の場合は黒点が小さく少ない、これは単に切れるだけだと考えられるのです。4NQOの場合はUV照射に近い結果が得られます。これは4NQOがベースにcovalentにつくので大きく切り出されると考えたいわけです。
[安藤]4NQOを添加した場合、酸可溶性分劃にDNAの分劃が出ていますか。
[堀川]これからみてみるつもりです。
[吉田]クロスリンクも考えられるのですから、その4NQOが何と結合して、どう切り出されるかの説明も考えておかなくてはならないでしょう。
[堀川]難しい事ですが、まぁ何とか考えてみます。DNA、RNAのハイブリダイゼーションで修復後のDNAが変異しているかどうかも調べてみたいと思っています。
[勝田]4NQOによるDNAの切られ方は、殆どの細胞で共通しているとしても、修復の仕方がまちまちで、又それによる変異がまちまちだと思われるのですが、そういう場合修復したもののハイブリダイゼーションは意味があるでしょうか。
[堀川]DNAレベルでの回復力はありそうにみえますが、回復したものが正常に戻っているかどうか判りませんね。
[安藤]完全に修復してからのDNAをハイブリダイゼーションで調べてみれば、もとのものと同じかどうか判るわけです。
[勝田]DNAレベルのオートラヂオグラフィの手法など応用してみられそうですね。
[永井]チミンダイマーが出来てカットする時、或る一定の場所をカットするのでしょうか。
[堀川]多分ユニバースなものだと考えられます。
《藤井報告》
抗ラット肝癌抗血清の調製とラット肝癌細胞の抗原について:
培養ラット肝細胞が変異をおこす過程で、抗原の変化が質的、量的に変化を来すかどうかの研究で、今までに用いた抗血清は、ウサギ抗ラット肝抗血清(FR51,030267)と、ウサギ抗AH-13抗血清(FR11〜13,031265)であった。ここでFR51抗血清は培養ラット肝細胞RLC-9に対して1本の沈降線をつくったが、RLCの変異株RLH-5には沈降線をつくらず、一方FR11〜13抗血清は、RLC-9には沈降線をつくらず、RLH-5に沈降線を1本つくった(月報6710)。このことは、変異株が正常細胞抗原を失ない、新たな抗原(癌に関係のある)を獲得したようにみえるが、この質的な抗原の変化をさらに明確にするために、いくつかのラット肝癌に対する抗体をつくる必要がある。本年四月以降はAH-130、AH-7974、AH-7974(TC)、AH-109A等に対するウサギ抗血清をつくることに時間を費し、現在、それぞれの1コース免疫血清、booster血清を揃えることが出来たところです。
未だこれらの血清について、よく検討しておりませんので、今回は、未記載の“変な”成績を書きます。
Ex.032568.B. AH-7974とラット肝組織抗原について(Double
diffusionのmicromethodによる沈降線の解析)
抗血清:(a)兎抗AH-130、原液(癌細胞研のもの)。(b)兎抗肝組織(FR51)。(c)兎抗AH-13(FR11)。
抗原:(1)(2)AH-7974、0.5%DOC抽出液、1,000万個cells/ml。(3)(4)ラット肝細胞、0.5%DOC;抽出液、500万個cells/ml。
抗原液と抗血清をMicroplateの穴に注入後、48時間にしてみられる沈降線は、
(b)抗ラット肝抗血清とラット肝細胞抽出液(3)(4)との間の5本と、その最周辺の1本にfuseした弱い沈降線が、(3)(4)と(a)抗AH-130と(b)抗AH-13の間にみられる。すなわち、抗ラット肝癌抗血清は、正常ラット肝抗原と沈降線をつくつが、ラット肝癌細胞抗原(細胞は2倍量が入っている)とはつくらないのである。
Ex.032568.E. 抗AH-130抗血清に対するAH-130とラット肝細胞抗原の反応。
抗血清:(a)ウサギ抗AH-130、1/1。
抗原:(1)ラット肝細胞、0.5%DOC抽出液、500万個cells/ml。(3)ラット肝細胞核分劃DOC抽出液。(4)ラット肝細胞ミトコンドリヤ分劃DOC抽出液。(5)ラット肝細胞ミクロゾームDOC抽出液。(2)AH-130、0.5%DOC抽出液、1,000万個cells/ml。(6)AH-7974、0.5%DOC抽出液、1,000万個cells/ml。
ウサギ抗AH-130は、ラット肝細胞と、その核、ミトコンドリヤの分劃の間に沈降線(共通する)をつくるが、適応抗原(免疫に用いた)であるAH-130(2)とも、AH-7974(6)とも沈降線をつくらない。
この2つの成績は、AH-130癌細胞をウサギに注射してつくった抗体が、AH-130(あるいは他の肝癌)とは沈降線をつくらず、正常ラット肝の抗原と反応することを示している(沈降物をつくるレベルで)甚だ奇妙な成績であるが、次のように理解し得る。
正常ラット肝と共通な抗原がAH-130にあり、その抗原に対する抗体はつくられたが、AH-130細胞には、この抗原の量が正常肝細胞に比して非常に少ないので沈降線をつくらないと。即ち癌における抗原の量的変化です。今後、新しい血清で検討してみます。
:質疑応答:
[山田]どの程度、定量化出来ますか。
[藤井]沈降線だけで判定する時は定性だけです。IAでは%として出せますが。
《永井報告》(高岡代筆)
前号に書きました7974培地の各分劃に図のように(分劃図を呈示)I〜IXまでの番号をつけました。そして各々の分劃について毒性のチェックを始めました。
細胞はおなじみのRLC-10を使いました。培地は、各分劃が水に溶出されていますので、それぞれの分劃に塩類とラクトアルブミン水解物を計り込み、終濃度Lh
0.5% in Dという組成にしたものを80%+仔牛血清20%として使いました。
(増殖曲線の図2〜4を呈示)図2は先ずピークの大きな分劃からと考えて、VI、IXの分劃についての実験で、これらの分劃はRLC-10の増殖に対する阻害物質を含んでいないという結果がでました。
図3は、一番始に溶出してくる分劃I、次に出てくる分劃II、それに分劃前の7974培地コロジオン透析外液についての実験です。幸運なことには、この実験は大変有望な結果を示してくれました。分劃Iが添加された群の増殖は、コロジオン透析外液添加群に近い阻害をうけています。しかしこの実験だけでは、この増殖阻害物質が肝癌AH-7974の正常肝細胞RLC-10に対する特異的な相互作用かどうかわかりませんので、同じ分劃をラッテ膵臓由来のfibroblastの株RPC-1に与えてみました。その結果が図4で、この分劃はfibroblastの増殖に対しては何の阻害効果も示さないということで、少し話がウマスギル程うまくゆきました。今後、実験をくり返して事の真偽をよく確かめること、又この分劃を精製して何とか物質としてつかまえたいと思っています。
:質疑応答:
[藤井]分劃Iの添加群の形態的な阻害所見はみてありますか。
[高岡]まだ染色標本を作っていませんので、お見せ出来ませんが、あまりどんどんこわれてゆくというような形態は見られませんでした。
[勝田]そのうちに映画をとってみようと思っています。
[藤井]担癌体の腹水が抗体産生を抑えるというデータはありますね。
《安村報告》
☆Soft Agar法(つづき)
1.AH-7974TC細胞のクローン化(つづき)
前号の月報(No.6811)でのべられたうちC1糸とC3系についてcolony
forming efficiency(つまりsoft agar中でのplating
efficiency)がしらべられた。
a)C1系:MediumはGBI製のEagle(Modified)+10%コウシ血清、(結果の数値表を呈示)plating
efficiencyは約26%である。そのうち、62コ/plate群のNo.3
plateよりsmall colonyを1コ、large colonyを1コ;No.4
plateよりlarge colonyを1コpick upし、以後の実験に使うことにした。
b)C3系:GBI製のEagle(Modified)、自家製のEagle(Modified)、LEの3種mediumで比較した結果を表に示します。それぞれのmediumは10%のコウシ血清を添加してあります。(modifiedというのはEagleのMEMのAmino酸量が2x、Vitamin量も2xということです)。Plating
efficiencyはGBI製とLEはほぼ同じで45%前後で、自家製はわずかに劣りました。
上記の49コ/plateの群のうちNo.3のplateよりsmall
colony1コ、large colony1コ、それぞれひろいあげられ、以後の実験に供されます。
2.CQ-42細胞
前号の月報(6811)で予告した、勝田Lab.で作られたCQ-42細胞の集団からmalignantなやつをin
vitroでひろいあげられないか、という試みがなされた。材料は細胞をラットに接種してえられた腫瘍の再培養系が用いられた。第1回の実験では、10倍稀釋の系列、38,000/plate、3,800/plate、380/plate、38/plateの4群、1群4枚のシャーレにSoft
agar中にまかれたが、全部colony形成なし。一方、液体培地にまかれた群では、38,000/plateでGBI培地に3コ、自家製培地に1コ、3,800/plateでGBI培地にのみ1コであった。
第2回めの実験ではシャーレあたりの細胞数を増加し、11万個、5万5千個、2万7千5百個、1万3千7百個で行われたが、いずれの群もcolony形成はゼロ。液体培地中では11万の群で1コ、5万5千の群で1コ、2万7千5百の群で1コと2コ、1万3千3百の群で1コと2コであった。
:質疑応答:
[堀川]CulaTCは寒天でない方がよいわけですね。
[安村]そうです。寒天でスクリーニングするということは、腫瘍性の問題だけでなく細胞膜にも問題があるようです。軟寒天で腫瘍細胞のコロニーが拾えると言うことは間違いないと思いますが、腫瘍細胞の中に軟寒天にコロニーを作らないのがあるというのは困りますね。
[堀川]軟寒天でのP.E.が100%ならコロニーサイズの大きい小さいで腫瘍性の+か−かを決められると思いますが、安村さんの実験の場合、P.E.の%が何%以上なら腫瘍という風に線を引くわけですか。
[佐藤]軟寒天で腫瘍性をチェックするとしても、腫瘍細胞が100%生えないとしたら、正常細胞の中にも生えるものがあるかも知れませんね。
[安村]正常細胞は軟寒天の中でコロニーを作らないという、はっきりした経験的前提があっての実験としてやっているのです。
[山田]AH-7974はAHの系の中で、特異的な表面構造をもっていたりして、腫瘍の代表としてはあまり適当といえませんね。