【勝田班月報・6805】
《勝田報告》
A)L・P3細胞の4NQO処理と、それによる抵抗性の変化:
前月号の月報に、完全合成培地で継代しているL・P3細胞を、4NQOで長期間処理したことを報告したが、1)無処理のL・P3、2)2回処理したL・P3、3)長期処理したL・P3の3種について、4種の濃度に4NQOを添加して抵抗性を比較してみた。
1)無処理L・P3。
2)1967-12-17と1968-1-2、3.3x10-6乗M、30分間の2回処理。
3)1967-12-17、1968-1-2に同様処理後、1968-2-21より4-9まで5x10-6乗M入れつづけ。
この3群を4月20日に継代し、2日培養した后、培地を交新し、そのとき次の各濃度に4NQOを添加し、その3日后に細胞数を算定した。
4NQO:0(Control)、10-6乗M、3.3x10-6乗M、5x10-6乗M、10-5乗M。
結果は(図を呈示)、無処理、2回処理の群では、10-6乗M、3.3x10-6乗Mの濃度で細胞増殖が反って促進されている。長期処理では10-6乗Mで促進がみられる。無処理群と2回処理群とは全体の傾向が酷似しているが、長期処理群ではやや異なり、10-5乗Mでの阻害度も少く(1ケタちがう)、10-6乗Mでの増殖促進度も低い。簡単に云えば他の2群より感受性が鈍っているといえる。問題になるのは、何故増殖が促進されるのか、何故10-5乗Mでそれほど阻害されぬのか、の2点である。4NQOの結合する細胞成分については安藤班員が現在検索中で、班会議には若干のデータを報告できる見込である。
B)4NQOのphotodynamic action:
4NQOにphotodynamic actionのあることをがんセンターの永田氏(Nature.215(5104):972-973,1967)が云っておられるが、これは事実らしいデータを得た。
《佐藤報告》
◇ラッテ肝細胞←4NQO
Exp-7細胞に4NQOを投与する実験(月報No.6801)で実験群49匹中14匹に腫瘍が発生した。対照実験動物は10匹いづれも発癌していない。以下腫瘍を形成し死亡したラッテを列挙する(表を呈示)。動物No.18及び19のものは腹水型の癌でした。その他の12匹は固型のTumorでした。腫瘍の組織像は上皮性のものです。ただ1例動物No,69の腫瘍にはFibrosarcoma様の部分が混在して認められた。動物の平均生存日数は185日である。発癌と濃度等の詳細はもう少し腫瘍死動物が増して後行う予定である。又mitotic
indexと4NQOの関係も調査中である。
(表を呈示)以下は従来の報告後復元された実験動物である。
◇Exp-7系(ラッテ肝細胞)の染色体分析
Exp-7←4NQOで肝癌の発生がおこる可能性が高まったので、Exp-7の単個培養を始める計画をつくった。以下はExp-7の染色体分布である(図を呈示)。
[核型分析・Normal karyotype of Donryu-rat
strain(bone marrow cells)]上記の核型分析は生后10日のラッテのbone
marrowより作製したもので、Subtelocentric chromosomes4つと最も大きいTelocentric
chromosomeが特長です。Exp.のtotal culture
daysの212のものは染色体数分布のみで核型分析はしていない。42のものは22%。
[核型分析・Karyotipe of Exp-7 at 312 culture
days]312 total culture daysのもので、diploidは30%ですべてnormal
karyotypeのものであった。目下この附近の培養細胞から、Purecloneをつくるべく努力している。
[核型分析・Karyotype of Exp-7 at 512 total
culture days]512 total culture daysのものである。染色体数分布では、diploid
numberのものは16%であった。8ケの内5ケはnormal
Karyotypeであったが、残り3ケはpseudo diploidであった。培養における染色体の変化については後にまとめてのべたい。Exp-7では少くとも染色体分析の上で512
totalculture daysまでは正常?細胞がのこっている。
《黒木報告》
現在進行中の仕事
結論も出せないしうまくいくかどうかも分らない現在進行中の仕事について触れてみます。 1.同調培養系によるtransformation:
発癌剤をかけてから40日なので結論的には云えませんが、現在までのところではexcess
TdRと同時に4HAQO(10-4.5乗M、1.0h)をかけたのが(そのあとすぐ洗った)transformationしそうです。そこで考えられるのは、(1)4HAQOのinteractionはnon
replicatingDNAを必要とする。(2)transformationをfixationするのには、interactionのあと(直ちに?)、DNAのreplicationを必要とする。の二つです。これからreproducibilityと(1)(2)の可能性をめぐるexp.を行うところです。
2.4HAQO、4NQOとDNA合成との関係:
現在まで分ったのは4HAQO、4NQOには、G2 blockとG2
delayがある。G1 blockはなさそうだ。S期のDNA合成inhibitionはあるが、24hrsにはrecoveryする。これらの作用は、non-carcinogenic
derivativeにはない。
3.BHK-21/4HAQOの系
現在まで7つのexp.を行って6つで成功、transformet.のassayは寒天内growthが一番頼りになりそうである。普通のコロニーの形態とagarの関係は複雑、寒天内コロニーは処置後1ケ月で現れることなど、目下clone13をMoskowitzからとり寄せて再試中です。
《高木報告》
先号に記載した4NQO、NGに関する実験は、3月末から4月初めの学会中に、培地のfungus
cotaminationのため残念ながら中止のやむなきに至った。
1.4NQO添加
1)NQ-6:RL-2cells。生後4日目のWKA系ratの肺からとった細胞で、7日後に継代した2代目の細胞を用いた。primary
cultureはfibroblastで、継代後ガラス壁に附着したexplantからepithelial
cellsのわずかなoutgrowthをみたが、殆どfibroblastからなっていた。
4NQOは各濃度にHanksにといて2時間作用せしめたものを1回作用とし、さらにつづける場合には隔日に2時間ずつ作用せしめた。
対照・2代目継代後7日目に3代に継代した。3代目はfibroblastic。
10-6乗・2代目継代後4日目より隔日に2回作用せしめたが、大したcell
damageはなく、ただgrowthはややおそくなった。殆どfull
sheetの状態で4NQO除去後2日目に継代した。同様にして3回作用せしめたものは細胞は殆どdegenerationしたので、refeedして目下観察中である。
5x10-7乗・2回作用せしめたがcell damageはあまりなく、4NQO除去後2日目に継代す。その際細胞はinoculum
sizeの約5倍の増殖であった。3回作用せしめた培養もcell
damageはあまりなく継代後さらに24時間を2回作用せしめたところ可成りのcell
damageがおこった。 2x10-7乗・2回作用後継代した。その際細胞はinoculum
sizeの約6倍の増殖をみとめた。morphologicalな変化はみられなかった。3回作用後さらに24時間を2回作用せしめたが、4NQO添加開始後2週間の現在まで変化はない。
2)NQ-7:RT-7 cells。生後4日目のrat thymusよりえたfibroblastic
cellsで培養開始後10日目に2代目に継代し、継代後4日目に4NQOを添加した。
10-6乗・1回の作用でcell damageひどく、growth
mediumでrefeedしたところ10日後より恢復しはじめた。
5x10-7乗・2回作用せしめるも細胞に変化はみられず、ついで培地に4NQOを加えて96時間作用せしめたところ、ややcell
damageがおこった。4NQO除去後3日目に継代したが、その際細胞数は2代目継代した時のinoculum
sizeと同じ位であった。
2x10-7乗・2回作用せしめたが変化なく、さらに96時間培地に加えて作用せしめ直ちに継代す。その際の細胞はinoculum
sizeの7倍位の増殖を示した。
対照・1週間で7倍の増殖をみた。fibroblastic
cellsである。
2.NG添加
1)NG-11:RL-2 cellsの2代目継代後3日目のものに10μg、5μg、1μg/mlの濃度を2時間ずつ作用せしめた。
10μg/ml・1回の作用でcell damage著明。refeed後次第に恢復しつつある。
5μg/ml・2回の作用で可成りのcell damageあり。しかし10μg/mlより恢復早く、1週間後に増殖をはじめる。NGを除いて9日後に5μg/mlを作用せしめたが、今日まで特に変化を認めない。
1μg/ml・2回作用せしめるも変化なく、直ちに3代に継代し、各々に10μg、5μgおよび1μg/mlを作用せしめる。経過観察中である。
なお生後4日目のWKA ratの胃の培養をこころみているが、modified
Eagle's mediumに20%の割にCalf serumを加えた培地で前報同様epithelial
cellsの増殖をみた。しかしこの細胞の継代はきわめて困難である。このprimary
cultureに、NG 10μg/ml加えてみたが、epithelial
cellsのdamageははなはだしく、今日まで(約4週間後)恢復をみない。
《三宅報告》
本年2月21日、初代培養を行ったヒト胎児皮膚のFibroblastについて、4NQO
5x10-6乗MとH3-TdR 1.6μc/mlを同時に添加して、4NQOがはたしてG-blockに作用するものか否やを検索しようとした。その結果は図のようになって(図を呈示)、対照のlabelingは上昇せず(4NQOの濃度の高さのためか)、又実験群では2時間30分を頂点として、急激にL.I.は下降を示した。この急激な下降は、株化した細胞でなかったためであろう。(このためにL株を一度これと同じ操作の下において検索をしたいと考えている)。こうした所から、(1)G1-blockが一方では考えさせると共に、(2)Cycleがととのえられている細胞(株細胞)であれば、下降は漸減的な傾斜をもつ筈である所からみると、4NQOが細胞のphaseに作用して、(それがどのCycleにあっても)DNA-synthesisに影響を及すまでに、一定の長さの時間を要するものであるかという(1)と、(2)の場合を考えさせた。4NQO群は、3hr.目1.0%、以下24時間目が1.0%であるのを除き、すべてが0%であった。
《藤井報告》
Exp.032568,A:抗ラット肝組織兎血清による抗原分析(図を呈示)。
抗血清:a)抗AH130兎血清(癌細胞)、1/1
b)抗ラット肝組織兎血清、1/1
c)抗AH13兎血清(1964)、1/1
抗原:(1)(2)ラット肝ホモジネート(PBS)、500万個/ml
(3)(4)ラット肝ホモジネート(0.5%DOC)、500万個/ml
ラット肝組織、500万個cells/mlは抗ラット肝抗血清に対し、DOC抽出抗原では、抗血清側よりa、b、c、d、eを、PBS抽出抗原ではb、c、d、eでa-lineを欠く。
抗AH130と抗AH13は、正常ラット肝DOC抽出抗原に対し、うすい沈降線2本を示すが、これらはDOC抽出抗原の周にあらわれるhaloの辺縁とその内側にある。haloの部分はlipoproteinが染っているものと思われる。
この2本の沈降線は、不思議なことに、AH130-DOC抗原、AH7974-DOC抗原に対しては出現しなかった。即ち、抗AH130血清−AH130では沈降線が出ない(Ex.032568,C)。この場合抗原AH130は1,000万個cells/ml相当のDOC-extractであるが、これからみると、tumorの場合、細胞数で正常肝組織細胞と抗原濃度を合せると、少なくなりすぎるようである。
Ex.032568,D:ラット肝細胞下分劃の抗原性(図を呈示)。
(b)抗ラット肝組織抗血清1/1
(1)ラット肝ホモジネート(DOC)、500万個/ml
(2)AH130 in DOC、1,000万個
(3)ラット肝核(DOC)
(4)ラット肝ミトコンドリア(DOC)
(5)ラット肝ミクロゾーム(DOC)
(6)AH7974 in DOC、1,000万個/ml
ラット肝細胞下分劃は、肝を門脈より生食水を注入して充分潅流して后別出、細胞はテフロンホモジナイザーで圧挫し、1回凍結融解操作を加えてから氷水に浸しながら、ホモジナイズした。顕微鏡下に、細胞が全て破壊されているのをたしかめてから、超遠心法により、核、ミトコンドリヤ、ミクロゾームの分劃に分けた。溶液は蔗糖を含むTrisbufferである。
抗肝組織抗血清(b)に対し、ラット肝DOC-抗原(1)、核分劃(3)、ミトコンドリア分劃(4)では、同様な沈降線が出現するが、マイクロゾーム分劃(5)は、沈降線a、b、eを欠く。ミトコンドリアでは、d、eの間に1本(f)が出る。AH130、AH7974に対しては沈降線はあらわれない。
この実験の方法からは各分劃の抗原性を比較することはむつかしい。mediumがPBS-agar、PBS-DOC-agarであるかぎり、溶出して来る抗原は元の肝組織抽出液と、異なる筈がない。nuclei分劃には多分に他分劃の混入があるのでnucleiの抗原が4つ検出できたことにはならない。ミトコンドリア分劃では1本多く、ミクロゾームでは2本しか沈降線がないのは有意がどうか?
今后の問題として、Microplateではなく、普通のシャーレ法でdouble
diffusionをおこない、それぞれの沈降線を切り出して、それを以って兎を免疫して抗血清をつくることにより、正常肝細胞と癌細胞、培養細胞等の抗原の比較おこなってみたい。
《安村報告》
☆1.かえり新参のごあいさつ:ふたたびこの月報に原稿を書くようになりました。かぎられたfacilityとかぎられた研究費で最大限の効果をあげること、これが日本の研究者の与えられた宿命みたいなものです。このことはアメリカの研究者よりharder
work、morefantastic ideaをわれわれ日本の研究者に課するものでしょう。容易ならぬことだと思います。貧すれば鈍す、やすきにながれる、いろいろ先人は教えてくれています。そこで息のながい癌研究には研究者が癌細胞のごとくたくましく生きることを必要とするようです。以上は進軍ラッパです。
☆2.さて現実問題・・・勝田班長のLab.のヒサシをかりて、そのfacilityを利用する。これは身近でdiscussionの利点がある。(欠点はいまのところ問わない。)
2-1.プロジェクト:In vitroの実験材料をクローンから出発して、spontaneous
trans-formationをガッチリおさえておくこと、(このことは外来のagentによるtransformationの基礎データを提供する。)
2-2.上のプロジェクトにしたがって初代培養でクローンがとれるか?
まず実験をくんでみる。
2-3.実験材料:幼児アルビノハムスター(baby
hamsterのつもり、albinoとあるのは毛が白いからか?
医科研で維持している、ゴールデンハムスター由来のvariant
strain、もとは米軍の406研から分与、現在純系化されている?)の腎組織、および副腎組織、2匹分(両者♂)プール。
2-4.方法:腎組織は室温で10分トリプシン消化、消化液はすてる。再びふらん室で20分トリプシン消化、消化液を150メッシュを通して使う。mediumはDM-140(合成培地)+コウシ血清10%。副腎はハサミで細切して(1x1mm)直接platにまく。細胞はFalconのプラスチックプレート(60x15mm)にまいて、CO2ふらん器で培養する。
2-5.:1)腎細胞はtrypsinizationのあと、erythrosinBでviableのものを数えると47%(platingの直前)。サル腎の経験からすればまずまずというところだと考えられる。ひと稀釋あたり3枚のプレートにまき、21日後にコロニー形成をしらべた。途中2週目に一回液がえ、結果は図にみられるごとく(図を呈示)接種細胞数とコロニー数の関係がlineerになってはなはだうまくいっていますが、コロニーあたりの細胞数がせいぜい10〜30というサイズで、クローンをとることができません。このことはDM140液の塩類組成が影響しているかも知れません。(DM140は閉鎖系のためのもので、CO2培養用ではないので。)
なぜなら、予備的に実験した199+10%コウシ血清10%(ただし血清のロットは違う)の20,000/plateのものでははるかに大きなコロニーが得られている。上の実験かコロニー数だけを問題にするなら、plating
efficiencyは1.5%と予期されたより高い値を示しています。これは接種されたviable
cellsあたりです。
2)副腎細胞はcontaminationのため失敗(これはわたしの腕がわるいのではありません。もともとIncubatorがひどいcontaminationしていて、このplateは裸のままincubateしたためです。・・・腎の方は大きなガラスシャーレに2重に“いれこ"にしたので汚染をまぬがれました。)
2-6.考察:以上のことから、まずまずPlating
efficiencyはよろしいし、どうやら統計的にいってもコロニーはsingle
cellから出発しているらしいことは分ったが、隘路はコロニーサイズが小さいこと、これではクローンがひろえない。培養液の検討をしなければなりません。つぎの実験で予備的にさしあたりDM-140の塩類組成をEarle液にしてあたっています。少なくともコロニーあたり1,000〜5,000ぐらいの細胞数のコロニーを作らせないとcloningはうまくいきそうもありません。現在2代の細胞をもういちどまいて、しらべています。(以上のことがらは勝田Lab.のひさしのもとでやったものです。)
☆3.SV40を接種してできた腫瘍を培養してえられた細胞株:
この株細胞(Havito)は4年くらいまえに培養学会で発表したものです。由来はゴールデンハムスターです。特長は解糖がなみはずれて早いように思われます(Eagle-MEM+5%ウシ血清)。液がえして6時間もするとpHがさがり液が黄色になります。
このことが“もの"のorderで癌化と結びつかないかと考えています。normalのハムスター細胞とのhybridizationがいかないかetc。(ちなみにこのHavito
cellはウィルスはだしていません。)