【勝田班月報・6911】
《勝田報告》
 完全合成培地継代のRLH-5・P3株細胞の4NQO処理:
 1)4NQO処理
 RLH-5株というのはラッテ肝(JAR-1系)由来の株で、なぎさ培養で変異させた株であるが、これを完全合成培地DM-120内に移した所、即座に旺盛な増殖を示し、以後その培地のなかで継代している系をRLH-5・P3と命名している。現在までのところでは、この株はラッテに復元接種しても腫瘍を作らないので、安藤班員の4NQO実験にも使っている。我々はこの株を使って一種のモデル実験をおこなうことを計画した。なおこの実験は、なぎさ変異細胞を使うので、正常肝との区別をつけるため、実験番号の“CQ"を使わず、なぎさの象徴である“H"を使って“HQ-series"とした。これまでに処理した系は次の通りである(表を呈示)。
 表に示すように、HQ-2のExp.は映画でしばらく追跡したが、処理直後の培養は、1)割に大型の細胞、2)小型の細胞群、3)球形で他の細胞の上に乗っている群、の3種に別れていた。処理後6日間の観察では、視野内の細胞はどんどん死んで行くものが多く、残った細胞にも分裂は見られなかった。これが4NQOのphotodynamic actionによったものか、どうかは未だ不明である。次の6日間、視野をかえて撮すと、前半には分裂がかなり見られた。殊に小型円形細胞の分裂がみられ、pile upの像が顕著であった。後半に分裂が少くなったのは、培地をその間交新しなかったためと考えられる。このように変異させた細胞の場合には長時間培地無交新というのは無理であろう。
 2)細胞電気泳動値の測定
 実際の測定値は山田班員の報告におまかせするが、上記の実験系のどの辺でしらべたかを次に示す。系は現在のところすべてHQ#1だけである。
 1)1969-10-6:RLH-5・P3無処理と→4NQO処理・HQ-1(処理25日後)
 2)1969-10-30:RLH-5・P3無処理とHQ-1(処理49日後)とHQ-1B(第2回処理7日後)
HQ-1Bという系はHQ-1系を分けて、さらにもう1回4NQO処理をした系である。
 3)復元接種試験
 すでに報告しているように、RLH-5株はJAR-1系由来の細胞であるが、JAR-1が仲々子供を産まなくなってしまって、復元したくてもできないという状況なので、充分なデータは未だ出せないでいる。
 1969-6-6:無処理RLH-5・P3を生后6日ratへ1,000万個/rat接種・0/2
欄が足りなくなってしまったのでここに補記するが、JAR-1のF33、生后6日のratsの腹腔内接種で、11月11日現在でまだ腫瘍を作っていないということである。5月以上経過しているわけだから、おそらくこのRLH-5・P3そのものは腫瘍を作らないと考えて良いであろう。
 1969-10-31:HQ-1(4NQO処理1回)を生后3日ratへ500万個/ratと、HQ-1B(4NQO処理2回)を生后3日のratへ500万個/rat接種。この両例はJAR-1のF34の生后3日のratに、やはり腹腔内に接種した。どちらも未だ1月も経っていないので、結果は何も記し得ない。
このseriesの実験は今後も継続する予定であるが、完全合成培地で増殖している細胞なので、以後の化学的分析が楽であること、安定した且増殖の早い細胞であるから、取り扱いが容易である上、4NQO処理から悪性化までの期間も割にそろってくるのではないか、というのが狙いの一つである。

《佐藤報告》
 ☆MNNGによるラット肝臓細胞の培養内発癌実験を進めるに当ってMNNGが経口投与されると、ラット、犬等の消化管に腫瘍が発生することが知られているが、肝臓とか腎臓に腫瘍形成をみたという報告は皆無に等しい。そういうin vivoでの所謂標的臓器でない、肝臓とか腎臓に由来する細胞が培養内でMNNG処理することによって癌化するかどうかは興味深い問題である。そこで特に肝臓由来細胞の発癌を試みるべく予備実験を開始した。今回はMNNG処理方法について検討した。
 (1)解放系における処理方法:
 1)細胞の培養令。2)細胞数。3)MNNG濃度。4)MNNG作用時間等について。
以上の点について、MNNG処理細胞群のコロニー形成率を対照群と比較し、MNNGに対する感受性(細胞傷害及び変異に関する)を検討した。方法は、ドンリュー系ラット肝臓由来細胞(ただし未クローン化)をガラス製ペトリ皿(三春製作所製・P-2・45mm直径)に植込み、約24時間後にMNNG溶液(Eagle'sMEM+BS20%)で液交換して1週間(37℃・5%CO2孵卵器内で)培養し、そのまま停止するか、MNNGを含まない培地で更に4日まで培養した。コロニー形成率で両者を比較する為に、対照群がシートを作らぬよう植込み細胞数は25,000コ以下とした。結果は図表に示す通りである(図1は表1を基にして、相対的コロニー形成率を求め図示したものである)。その結果、(1)細胞の培養令とともにコロニー形成率は上昇する傾向にはあるが、MNNGに対する感受性は変わらない。(2)植込み細胞数の差による感受性は変わらない。(3)MNNG 10-4.0乗M(14.7μg/ml)までは濃度を高めるとコロニー形成率は対数的な低下を示す。(4)MNNG処理時間は一応7日としているが、別の細胞系(バッファロー系ラット肝臓由来細胞)で処理時間を24時間及び15分間として試みたが、24時間と7日間との間に差が認められず、又15分間処理では、未処理対照群に比較して僅かの低下しか認められなかった。(5)変異コロニーの出現に関しては、現在までに1例の重層をする“変異コロニー"を認めたが、実験例が少ないので今後更に検討する予定である。この実験系の植込み細胞数が25,000コ以下であったこと、培養日数(MNNG処理後、停止するまでの)が長くて数日であったこと、などの点を再考する必要がある。尚“変異コロニー"はクローニングしたが後に増殖が見られず、培養を停止した。

《難波報告》
 N-9:培養内で4NQO処理により癌化したラット肝細胞の動物移植により生じた
    2系の腹水腫瘍の樹立と、その細胞学的性状
 化学発癌剤を使用して、試験管内で悪性変化した細胞を動物に移植して腹水化した腫瘍細胞を動物に継代し株化した報告は少い。そこで、ラット肝由来の培養肝細胞を試験管内で4NQOを処理し、悪性化させ、その細胞をラット腹腔内に接種して2系の腹水型の腫瘍を得たのち、これを継代し株化した。2系の腹水腫瘍をQT-1、QT-2と命名した。
 この腹水腫瘍を株化した目的は次の2点である。 1)腫瘍細胞の細胞学的検索に有利なこと。2)この腹水型腫瘍細胞の細胞学的検索から、現在の培養肝臓細胞の性格を少しは推察できること。
 [材料]生後5日目のドンリュウ系雄ラット由来の肝組織を、メスにて細切し試験管壁に附けて、回転培養(8rph)を行った。継代は0.2%のTrypsin(Difco)を使用し、継代1代以後は密封静置培養した。培地はLD+20%BS(LD培地)を使用した。221培養日にこのLD培地に終濃度0.08%のyeast extractの添加された培地(YLD)に変え、223日目より間歇的に培地中に終濃度10-6乗Mになった4NQOで、培養細胞を処理し発癌せしめた。処理期間は108日、4NQO処理回数は20回であった。以後処理を止め、実験開始後119日目(全培養日数342日)に500万個の細胞を生後48時間目の2匹の同系の新生児ラット腹腔内に接種した。2匹のラットはそれぞれ接種後104日(QT-1)、107日(QT-2)に著明名腹水を貯溜し瀕死状態になったので、屠殺しそれぞれの腹水を成熟ラット腹腔に継代すると共に、剖見した。2匹のラットには血性腹水がそれぞれ100ml、40ml溜まっていた。腹水の像は、QT-1では出血強くザラザラした感じで大きな島を示す癌細胞が多いのに比較して、QT-2では割合にサラサラした感じの小さい島を示す癌細胞、及び遊離細胞が多かった。腫瘤形成は大網、腸間膜、腹膜、肝門部に認められた。固型腫瘍の組織像は、QT-1では充実性の未分化肝癌、QT-2では、hepatoblastoma様の構造を示す部分があった。
 [結果]
 1.2系の樹立された移植腹水腫瘍の性状
 移植継代は全てドンリュウ系成熟ラット腹腔を使用し、移植細胞数はだいたい1000万個であった。(2系の腹水腫瘍性状の表を呈示)
 2.染色体の分布
 QT-1:38〜78に分布し、モードは72。QT-2:60〜76に分布し、モードは70。
 3.QT-1、QT-2の初代培養に於る細胞増殖
 1)Simplified Replicate Tissue Culureで1週間の増殖率
QT-1(21代)のもの:9.1倍。QT-2(16代)のもの:3.4倍。
 2)Plating efficiencyは、QT-1(22代):18.9%。QT-2(16代):18.5%。
 4.再培養された細胞の形態
 QT-1、QT-2共に上皮性のCell sheetを形成した。コロニーにまくと、きれいな上皮性のcolonyの形成がみられ中心部のpiling upする物、異型性の細胞よりなるcolonyが多かった。 5.4NQO耐性の検討
 細胞はSingle cellsの多いQT-2と、その対照として、AH66を使用した。4NQOを終濃度10-5乗M、10-4.5乗M含む、10%ラット血清加YLD液で、細胞浮遊液(1000万個cells/3ml)をつくり、37℃、30分処理後、100万個の細胞を動物の腹腔に入れ、その生存日数を比較した。対照には4NQOを含まない細胞浮遊液を使用した。対照に比べ4NQO処理群で動物生存日数が延びるほど細胞は薬剤に感受性がある訳で、細胞に耐性があれば生存日数は、対照群と変らぬことになる。(表を呈示)その結果は表の如くなり、QT-2に4NQO耐性があるとは考えられなかった。 [考察]同じように4NQO処理を受け悪性変化した細胞を、2匹のラットに移植し、生じた腹水腫瘍を動物で継代し、株化した。両者間には相違が認められた。その理由として
 1)培養細胞集団内に種々の細胞が混在しており、それが4NQO処理により多中心的に発癌したものか。2)ある特定の癌細胞のみが動物体内で増殖を許されたのか。3)悪性化した細胞が動物体内で異なった方向へ分化したものか、など種々の要因が考えられる。

《高木報告》
 NG treated cellsのsoft agar内におけるCFEと腫瘍形成能:
 NG-4、NG-11、NG-18の3実験系においてCFEと腫瘍形成能との間の関係をみるべく実験を行った。結果は表に示す通りである(表を呈示)。
表中二重線より左は各実験系細胞について行ったもので、CFEをみるためseedした細胞数はNG-4:10000、NG-11:10000、NG-18:1000であった。また新生児rat皮下に接種した細胞数はNG-4:100万個、NG-11:200万個、NG-18:200万個であった。
二重線より右は各実験系細胞よりとったcloneにつき行ったもので、すべて1000ケの細胞をsoft agarにseedしたものであり、また新生児rat皮下移植細胞数は100万個で、NG-18のCl-2、Cl-3のみは新生児ratの脳内に10万個cellsを移植した。
 以上の結果から、NG実験系においてもCFEと腫瘍形成能との間に、相関関係はみられない事が分った。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(16)
4-NQOおよび4-HAQO処理によって細胞内DNAがsingle strandまたはdouble strandレベルに於いて切断されることについては、これまでの月報で報告してきた。しかし細胞内でこうしたDNA鎖切断を誘起するものがはたして4-NQOそのものなのか、あるいは4-HAQOなのかについては何ら知られていない。杉村らによって従来報告されたデータによると試験管内DNAのsingle strand breakを誘起するのは4-HAQOであって、4-NQOやその他の誘導体にはそうした能力のないことが知られている。
 今回はこういった目的から培養されたEhrlich細胞をあらかじめ45℃で30分間処理し、細胞を死の条件に追いこんでから(処理直後には死んでいないだろうが、以後は生存不可能な条件という意味)、5x10-6乗M 4-NQOまたは1x10-5乗M 4-HAQOでそれぞれ30分間処理した直後のdouble strand DNAのsedimentation profileの変化を解析した。予備的な結果を図に示す。(図を呈示)
 これらの図から分かるように、4-NQOは45℃で30分間処理した細胞内DNAのdouble strandbreakを誘起出来ないが、4-HAQOはこれを顕著に誘起出来ることが分かる。従って生細胞を4-NQOで処理した場合に誘起されるsingleおよびduble strand breakは4-NQOが細胞内に取りこまれた後に、細胞内でreduceされて生じた4-HAQOによって誘起されるという可能性が高いようである。こうした結果は、4-NQOまたは4-HAQOによる試験管内発癌という問題を考察する場合に非常に重要な問題を提供すると思われる。
また同時にこうした結果の示唆するものは、45℃、30分間という条件で細胞を処理すると4-NQO reductaseは失活するということである。では、こうした条件下で細胞を処理した場合DNA-polymerase、Ligase等を含くむDNA修復酵素系の細胞内活性はどうであろうかという興味ある問題が出てくる。このための実験が現在進められている。

《山田報告》
 これまでin vitroの発癌過程に於ける細胞表面の変化について、細胞電気泳動法を用いて検索して来ましたが、その結果、培養細胞全体の電気泳動度の平均値を求めて追求する限り、ごく初期の発癌状態を検索出来ないと云う事がわかりました。即ち、培養細胞群のごく一部の細胞が悪性化し、大部分の細胞がいまだ悪性化しない場合は、たとへ悪性化細胞の表面荷電が変化しても、他の多くの非悪性化細胞の表面荷電のために、全体としての平均泳動度変化は極めて僅かなものとなり、悪性性質を発見することが出来ないわけです。 そこで、前回その手始めとして写真記録式細胞電気泳動装置を用いて、RLT-1(CQ42)の箇々の細胞の電気泳動度とその細胞形態を同時に検索した所、中型の細胞で核膜が肥厚硬化し、核小体の大きい細胞(写真を呈示)が特にシアリダーゼ感受性があることを発見し、前報に報告しました。
 今回は、この成績に基き、ラット復元試験により悪性化が証明されたにかかわらず、依然としてその細胞系の電気泳動パターンが悪性型を示さない(シアリダーゼ感受性でない)細胞であるRLT-5(CQ50)、及び自然悪性化したと思われるRLC-10-B、また現在の所、悪性化が証明されて居ないRLC-10-A各株について、前記の中型細胞の電気泳動的な性質を検索しました。その結果を2〜4図に示します(写真を呈示)。各細胞の下に示す数字はそれぞれの細胞について測定した細胞電気泳動度であり、その単位はすべてμ/sec/v/cmです。シアリダーゼ処理は従来と同じです。
 従来の成績よりラット肝細胞由来の細胞が悪性化すると、一般にその電気泳動度が高くなり、またシアリダーゼ処理により、その平均泳動度が一割以上低下すると云う事実が判明して居ますので、これを指標として、中型細胞を検索しました。
 即ち次の二つの成績を示す細胞が各細胞系にどの程度存在するかを調べたわけです。
(1)細胞群の平均電気泳動度より一割以上高い泳動値を示す未処理細胞。(2)シアリダーゼ処理後、平均電気泳動度より一割以上低下する処理細胞。の出現頻度を中型細胞について検索したわけです。図2〜4は、写真記録により測定した各系の細胞全部を、大、中、小の型に分類したものですが、このうちで中型細胞中◆印を附した細胞が上記の(1)(2)のいづれかに該当する細胞です。
 その結果をまとめますと、(表を呈示)表の如くなります(前報に示しましたRLT-1のデータも比較して示してあります)。各細胞群全体の、平均電気泳動度の変化からみたシアリダーゼ感受性を比較しますと、RLT-1のみが悪性型を示し、他は良性型を示して居ます。しかし中型の標的細胞のみの平均泳動度の変化からみたシアリダーゼ感受性を比較しますと、RLT-1とRLT-5のみが悪性型を示します。RLC-10Bは、ラット復元試験により悪性化が証明されて居るにかかわらず、尚ほこの比較でも悪性化を示して居ません。従って中型細胞の平均泳動度のシアリダーゼ処理による変化の追求によっても、少数細胞の悪性化の同定は出来ないと云うことになります。
 そこで試みに各中型細胞のうちで前記(1)及び(2)に該当する細胞の出現頻度の積を指数として計算してみました。これは各系の中型細胞のうちで(1)(2)の条件を満足する細胞出現の最少頻度を比較したわけです。
 この計算によると中型細胞のうちシアリダーゼ感受性細胞(即ち悪性と推定される)の出現頻度は25%となり、RLT-5とRLT-10-Bは殆んど同じ10%前後になりました。RLC-10-Aは、3.8%と最も少い値が出ました。RLC-10-Aのラット復元試験が完了して居ないので、最終的な判定は出来ませんが、どうやらこの様あ計算が最も現実の悪性化の認識には役にたちさうな感じがして来ました。
 いまだ検索例が僅かですので、この最少悪性細胞出現頻度の数値にあまり厳密な意味をもたせることは出来ませんが、この方法をこれから当分続けて少数細胞の悪性化同定の基礎作りをやらうかと考へ出した所です。

《安藤報告》
 L・P3細胞のDNA合成に対する4NQOおよびHydroxyurea(HU)の濃度効果について。
 L・P3細胞に於ける半保存的なDNA合成は10-5乗Mの4NQOではそれ程抑制されない。したがって4NQO処理細胞に於けるRepair replication(修復合成)を明らかにする事は困難であった。そこでこの点をもう少し明確にするためには、この正常な半保存的なDNA合成を選択的に抑制する方法を使わなければならない。今回はそれを検討した予備実験である。
 方法は下図のように(図を呈示)シャーレに円カバーグラスを何枚か敷き、その上に0.1mlのcell suspensionをのせ、細胞が落着いた所で培地を満しCO2 incubatorに入れる。翌日ほぼfull sheetになった所で、4NQOあるいはHU単独かcombination処理をする。ただし4NQO処理は各濃度30分処理を行い、洗ったのちにH3-TdR(チミジン)を加える。HUを加える場合はこの4NQO処理後にチミジンと共に加える。以後時間を追ってカバーグラスを一枚ずつとり出し、冷TCA処理後、乾燥し、液シンで測定する。
図はその一例である(図を呈示)。DNA合成のtime courseをとるには非常に簡便な方法である。1mMのHUは95%も阻害してしまった。Cleaver等によるとこの抑制される部分は半保存的合成であり修復合成は抑えられないという。
 次に種々の濃度の4NQOあるいはHU添加時のとり込みを調べた。
 (表を呈示)結果は表の通りである。4NQO 3x10-5乗Mで約90%阻害、5x10-5乗Mで95%阻害であった。この際4NQOがHUと同じく半保存的な合成のみを選択的に抑制しているとすれば、HUを使わずとも4NQO濃度を上げる事によってのみ修復合成をclose upする事が出来る筈である。HUのみの効果は次の欄にあるように、1x10-3乗Mにして始めて90%阻害となる。更に次の欄にあるように両者を併用した場合には、相加的にも相乗的にも働かず、各々独立に働き、効果の弱い薬剤の方がかくされてしまう。4NQO 1x10-4乗、HU 1x10-3乗の場合にはHUのみの効果が現われ、5x10-5乗、1x10-4乗Mの4NQOになると逆にHUの効果はマスクされてしまう。この結果は両薬剤がDNA合成に関して異る部位を阻害している事を示している。なお、R.L.P.Adamsらによって、HUはdeoxyribonucleotide reductaseを阻害している事が示されている。

《藤井報告》
 今月は同種移植免疫での感作リンパ球のcytotoxic activityの定量的測定がようやくものになりそうになったので、その方の実験に忙殺されてしまいました。細胞性抗体あるいは感作リンパ球がtarget cellsの増殖を抑制する現象は認められてきておりますが、定量的に測定することは困難でした。とくにtarget cellとしてdonorのリンパ系細胞を用いると、攻撃する側のrecipientの細胞(リンパ節細胞)と分別がつかず困っていた訳です。この度はH3-thymidineをdonor系マウスに注射してin vivoでリンパ節細胞、胸腺細胞をlabelし、感作リンパ球と1〜2日培養しますと、感作リンパ球の数に対応して、破壊された細胞の%がH3のcpmで表現し得たわけです。培養后、トリパンブルーを加えてみて、dye-uptakeし膨化した細胞(target cellと考えられる)の周に、リンパ球がへばりついている像も観察出来ました。その場面をautoradiogramにもとっておりますが、未だ現像しておりません。
 以上余談になりましたが、こういう状態で今月はCulb細胞に対する同種抗血清の作成と、mixed-hemadsorption法に必要なウサギ抗ラット・グロブリン血清の作製に終りました。同種抗Culb抗血清には、本年3月以来免疫をくり返し、Culb細胞が一旦生着してtumorをつくるに至ったラット(JAR-2系)と、3匹のWistar King系ラットを用いました。前者は、takeしたtumorの結紮処理等で抵抗ができたのか今回はtakeされませんでした。両者とも2回免疫した後の血清では、microdouble diffusion法で沈降線は認めていません。IA、mixed-hem-adsorption法でもやってみる予定です。
 ところで同種移植や癌細胞の同種、同系移植の抗体を探す場合に、血清中の抗体が拒絶反応にはあまり関与しないという意見が強いのですが−target cellsによってはかならずしもそうではありませんが−少くとも、血清抗体だけを取扱って癌の抗原を追って行くのは片手落ちということになります。最近Hellstromがcolony inhibition techniqueなるものを発表しています。彼によると、A/Snマウス起原のleukemia YAA-C1-C3細胞、4,000、あるいはヒトのneuroblastoma cellsをFalcon plastic Petri dish(5.0cm diameter)中で培養し、これに100万個〜1,000万個の感作リンパ球、るいは患者の末梢リンパ球を加えると、非感作リンパ球や非患者リンパ球を加えた対照に比して、有意にcolony formationが抑制されるというわけです。抑制率はマウスの実験では30〜90%位、ヒトのneuroblastomaのばあいで50%位と報告されています。この方法は、組織培養を実際にやったことのない私には、よく評価出来ませんので、検討していただくこととして、当面の行き詰り打開の“あがき"として、Culb、Cula、Culc・・・等を接種したラットのリンパ節細胞や血清が、Culb、Cula、Culc・・・・等に対し、またRLT-1、RLT-2、RLT-3・・・等のcolony formationに、如何に作用するか試してみるのも一手かと考えています。

《梅田報告》
 (1)Hamster embryonic cell cultureにN-OH-AAFを投与して、増殖カーブを描いた(図を呈示)。月報6908で示した様にHeLa、L-5178Y細胞、吉田肉腫培養細胞に投与した場合、10-4.0乗Mで致死的に、10-4.5乗Mで増殖阻害に働いたが、Hamster embryonic細胞も、N-OH-AAFの各濃度に対し殆同じ様な反応を示した。
 (図を呈示)図はN-OH-AAF投与、6、24時間后培地を洗いcontrol培地に戻した場合である。月報6908でのHerLaに対する実験の結果と同じ様に、6時間作用后の細胞は恢復するが、24事件作用后のものは恢復しない。
 (2)Hamster embryonic cellsに、N-OH-AAFを投与して、mitotic coefficient及び、chromosomal abnormalityの出現頻度を算出した。Hamster embryonic cellの場合controlは0.6〜0.8%のmitotic coefficientを示す。Gapとかbreakも、良く観察すると時々見られる。時に染色体が娘染色体にわかれ短桿状になったものがあり、これはothersに分類した。 N-OH-AF 8x10-5乗M投与例でmitotic coefficientは、14、24、48時間后すべて0を示した。4x10-5乗M投与例は表の如く、24時間で下った値が48時間で恢復している。(表を呈示)Gap、breakはcontrolに較べ高率に出現する。興味あることは、Endoreduplicationが48時間目に出現していることである。
HeLa細胞に対する作用を6907で報告したが、この方の観察は不十分であったし、48時間目の標本を作らなかったので、目下追試中である。HeLaでもendoreduplicationを起すかどうか興味がある。Hamster embryoic cellでも追試する予定である。
 尚endoreduplicationが気になったので、4HAQOをHeLa細胞に投与して染色体標本をあわてて作ってみたが、(また%を算出中であるが)多数のbreakが観察されるのに、endoredup-licationは見あたらなかった。

《安村報告》
 ☆Soft agar法(つづき)
 1.マウス胎児細胞系:前号で(No.6910)のべられたこの胎児細胞系は、培養392日めにSoft agarに植えこまれた際、平均21コのコロニー/接種細胞数100万個が形成された。このことはこの細胞系の細胞集団中に自然発癌(悪性化)した細胞の存在を示唆している。そこで上記のコロニーを無作為に数個ひろいMUSA系と名づけ、原株(野生株)をMUSO系と呼び、両者を区別することにした。
 a)この両者についてコロニー形成率の比較を行った結果が表の如くであった。(培養開始後434日めの材料である。)(表を呈示)
MUSA系は予想を上回って原株のMUSO系よりコロニー形成率が100〜500倍高くなっている。 b)ついで、colony-formant由来のMUSA系の可移植性(腫瘍性)をしらべてみた。MUSO系は、C3H/He系マウス由来であるので同系の新生児に接種された。結果は表の如くで、100万個のMUSA系細胞の腫瘍性が確かめられた。(表を呈示)
野生株MUSO系細胞は脳内接種、皮下接種いずれのばあいも腫瘍を形成させることができなかった。しかしMUSA系のうちMUSA1は脳内接種では10万個で腫瘍を形成しなかったが、再び軟寒天培地でコロニーを形成した細胞系MUSA1/1-Lと、MUSO由来のcolony-formantの別系MUSA5-Lはともに100万個で皮下接種により径10mm内外の腫瘍を接種後10日以前に形成した。同時に接種されたMUSO細胞は100万個で腫瘍形成に至らなかった。
 以上の結果は軟寒天法がbacktransplantationによって結果がえられる以前に、ある細胞集団の中に存在するかもしれない悪性細胞の存在を予言したことに大きな意味がある。例外はあるにしろ、軟寒天法が悪性細胞を(変異細胞といった方が妥当かもしれない)スクリーニングし、定量的解析に極めて有用な手段であることの証左を提供すると考えられる。こんごの問題はin vitroにおける培養細胞の悪性化を継時的、定量的に解析するには、もし軟寒天法を利用するとして、適する材料を選択することがさしあたり必要であろう。最近、軟寒天培地における細胞のコロニー形成能と腫瘍性との関係に研究者の注意がむけられてきていることに注目しよう。(SachsらのPNASの報告に注目)

編集後記


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