【勝田班月報・6904】
《勝田報告》
動物細胞の培養内増殖に対するリゾチームの影響:
LysozymeはFlemingがヒトの涙や鼻汁のなかから見出した抗菌性物質で、もし云うならば非特異的抗体のようなものである。しかし、そのような物質が一つの機能しか持たないと考えてしまうのは早断で、何か未知の別の作用も持っているのではあるまいか、と思い、色色な細胞の培養に添加してみた。その内の若干のデータをここに示すことにする。
[第1図]ニワトリ胚心のセンイ芽細胞:(以下それぞれ図を呈示)
CEE(Chick embryo extract)を培地に入れておくと、リゾチームが細胞増殖を促進するが、CEEを抜くとその促進がさらに顕著になるので、この実験では抜いている。リゾチームを、500μg、1000μg/ml入れると明らかに増殖促進がみられている。CEEを加えた対照はさらにこれよりも増殖がよい。(CEEの中にもかなりリゾチームが含まれていることは想像できる。)2週間実験でもこの促進効果は継続した。そして培地からリゾチームを抜くと、すぐこの促進効果は消えて行った。
[第2図]ニワトリ胚心センイ芽細胞(不活化リゾチーム):
それではこの増殖促進効果が、これまで知られている“細菌を殺す"酵素作用によるものかどうか、を知るため、リゾチームの殺菌作用を失活させてみたのがこの実験で、Meはメチル化、NBSはNBS化、いずれも殺菌作用、水解作用の失われたリゾチームである。結果は、これらも同じように促進作用を有していることが示され、促進効果は既知の酵素作用によるものではないことが判った。培地のなかにはアミノ酸も蛋白もたっぷり入っているのだから、別の酵素作用も考えてみなくてはなるまい。
[第3図]ラッテ肝癌AH-130細胞:
これは株細胞ではなく、動物からとり出したばかりのAH-130である。500μg、1000μg/mlに加えてみると、500μgで明らかな抑制がみられた。これはしめた、と別のラッテ腹水肝癌にあたってみた。
[第4図]ラッテ腹水肝癌AH-66細胞(培養株):
[第5図]ラッテ腹水肝癌AH-7974細胞(培養株):
これらは何れも何年間も培養した細胞株である。
AH-7974は復元接種すると高率にラッテを腫瘍死させるが、AH-66はかなり大量に入れてもtakeされない。
ところがこの両者の場合には、リゾチームによって反って増殖が促進されてしまった。腫瘍の種類の差によるものか、新鮮な細胞と株細胞とのちがいによるものか、これだけでは未だ判らないが、前者ではありまいか。
《山田報告》
前回に引続きRLC-10の表面構造に及ぼす4NQOの直接影響をくりかへし経時的に検索した結果を図に示す(図を呈示)。No.6902に書いた同一条件の成績と、殆んど同一結果と考えます。即ち4NQOを細胞に接触させた直後4時間目には、一過性の表面の破壊(腐食?)が起るせいですが、シアリダーゼ処理により細胞電気泳動度は若干低下しますが、1日目には既に回復してこの酵素の影響は殆んどなくなり、3〜4日目頃より再びシアリダーゼ処理により泳動度は低下して来ると云う成績を得ました。
しかし従来悪性細胞にみられる様なシアリダーゼ処理による0.1μ/sec/v/cm以下の低下は認められず、この時点での悪性化の証明は出来ませんでした。
そこで振り出しにもどって4NQO処理により起される悪性変化をどの様にしたら経時的に追求出来るかを考へなほしてみました。その結果次のごとき実験の必要性を感じました。 1)現在正常細胞として用いている細胞RLC-10は既にシアリダーゼ処理によりその泳動度の増加が著明にみられないので(No.6902に報告)、original肝細胞にくらべて何らかの変化が起ってゐると考へざるを得ず、従って新らたに確立した肝細胞を用いる必要がある。
2)4NQO(3x10-6乗M)の1回〜3回の接触により発癌したCQ39(Culc)、CQ40(Culb)、CQ42(Cula)株の細胞電気泳動度はいづれも悪性型を示さず、それぞれをラットに復元して出来た腫瘍からの再培養細胞のみに悪性型の泳動度を示したと云う過去の成績から考へると、この条件で発癌するCell
populationはあまり高くないと考へられる。
従って、4NQO一回処理での表面構造の変化を細胞電気泳動法により検索する事は、技術的にかなり困難であると思われる。
しかし岡大のExp.7(1)-1或いはExp.7(2)-2株にみられる様にくりかへし長期間接触した際の悪性細胞の発生の密度はかなり高いと云う成績を得て居ますので、次回は、くりかへし4NQOを接触させる経過中の細胞の泳動度を測定すれば悪性化の時点を明らかにすることが出来るかもしれないと考へました。しかしその様なくりかへし4NQOを接触させると、細胞の破壊や増殖能の低下を来たし、細胞の泳動度の測定が困難になるかもしれません。
今月は病理学会に発表するべく、各種腹水腫瘍細胞の細胞電気泳動度を総まとめしてみました。(表を呈示)(N)はシアリダーゼで処理後の細胞、Cal.はM/10ヴェロナールメヂウムに10mM濃度にCaCl2を加へた際の細胞電気泳動度です。いづれも、増殖期と末期の細胞を測定し、更に皮下に移植して腫瘤を作り、これを鋏で細砕して測定したものです。
一般に悪性度の強い細胞程、シアル酸依存荷電量が多く、また上皮性悪性腫瘍細胞はカルシウム吸着性が増加して居ます。皮下に移植すると、細胞処理の影響もあり、一般に低下しますが相互の関係はだいたい同一です(壊死細胞があるとかなり低下します)。
《佐藤報告》
◇4NQOにより悪性変化したラット肝培養細胞の電子顕微鏡学的研究(経過図を呈示)
4NQO未処理対照肝細胞は培養476〜578日のものを使用した。
[結果]
対照ラット肝培養細胞は形態学的に肝実質細胞由来と思われるが、長期培養株ではその確定的な証明は困難であった。
4NQO処理、変性変異株の特徴は、golgi Sacの空胞化、粗面小胞体、ならびにミトコンドリアの膨化と核の軽度な不正形化である。
この変異細胞の動物復元で生じた腹水型腫瘍は、上皮性と繊維芽細胞との中間型の如き形態を示す。核の不正形が目立つが、しかし変異培養細胞にみられた細胞小器官の空胞化はみられなかった。皮下に形成された固型腫瘍は、腹水型腫瘍細胞に類似した細胞が著明に増生した結合織の中にみられた。この著明に増生した結合織産生性の繊維芽細胞が宿主に由来したものか、培養内に含まれていた繊維芽細胞の変性変化したものか現在不明である。 腹水型腫瘍の再培養細胞の形態は4NQOにより培養内で悪性変異した細胞に類似していた。また、この電顕的観察の結果、ラット肝に由来する培養細胞には、起源の異なる細胞の混在が示唆された。以上のことを模式的に示したのが以下の図である。尚、全ての細胞株に於て、virus、PPLOなどは見い出されなかった。
(それぞれに図を呈示)
コントロール株:1)動物体内の肝細胞に比べER、ミトコンドリア、golgi
complexが、やや膨化する。2)細胞が肝実質細胞に由来したか、潤管由来か、胆管に由来したものか不明。3)間葉性と思われる細胞が数%に混在。
4NQO処理変異株:1)核の不正形化。2)golgi
Sac、S-ER、ミトコンドリアの膨化著明。
復元により生じた腫瘍:腹水型・1)細胞は上皮性と間葉性との中間型を示す。2)核の不正化。3)細胞小器官の空胞化はない。4)コラーゲン繊維を含む細胞が5%ぐらいにみられる。この存在の意味は不明。 固形型・1)著明な結合織の増生。2)核の不正化。3)空胞化(-)。
腹水型腫瘍の再培養株:1)4NQO処理変異細胞に似る。2)10%以下に間葉性由来と思われる細胞が混在する。3)腹水腫瘍にみられたコラーゲン繊維を含む細胞はみられない。
《高木報告》
1.NQ-7
4NQOの実験については月報6810以後全くふれず、専らNGの実験についてのみ記載してきましたが、本号ではこれについてまず報告します。NQ-7というのは、4NQOにより明らかなmorphological
transformationをおこした実験系です。
この中4NQOを2x10-7乗mol 198時間作用せしめ、さらに10-6乗molを4時間作用せしめた(T-4)について、作用後約200日でWKA
newborn ratの皮下に200万個細胞数を接種しました。同時にcontrolの細胞も同数接種しました。transformed
cellを接種したratは約40日後に、3/4にtumorの発生を認めましたが、約20日後にregressしてしまいました。これは黒木氏の云う所謂M1に相当するものかも知れません。control
cellを接種した4疋のratには、tumorの発生は認められませんでした。またcontrolおよび4NQO
10-6乗molを計4時間作用せしめた(T-1)の細胞をLH+Eagle's
vitamins+10%CSのsoft agarに10000ケまいてみましたところ、4週間後にcontrolではcolonyなく、(T-1)では30〜50ケのcolonyがえられました。現在これらのcolonyをpick
upしているところです。
2.NG-4
1)NG-4 cellsを接種して生じたtumorのRecultureの再接種。
NG-4 cellsを接種してWKA ratに生じたtumorを再培養し、えられたtumor
cellsと思われるStrain cellsを76日目に100万個、newborn
WKA ratの皮下に接種した。接種後1週間から4/4にtumorの発生をみとめましたが、中1疋は3週後に死に、他の1疋は約5週後に肺炎で死にました。現在2疋だけ生残っていますが、この中1疋はtumorの部に潰瘍を生じ、残る1疋は左前肢の麻痺を来しています。tumorそのものはNG-4
cellsを接種した時生じたtumor程に大きくはありません。肺炎で死亡したratのtumorのhistologyはやはりpleomorphric
sarcomaでした。
2)再培養の観察
1.)No.2 rat tumorの培養
月報6903に示した写真のような細胞で、growthは4日間に7倍程度、Na
pyruvate、glutaminの添加は、特に増殖をよくするようなことはありません。この細胞を1000、500、100とP-3
petri dishにまいたところ100まいたものでは2〜3ケのcolonyが、500、1000まいたものでは可成りの数のcolonyがえられました。これらのcolonyをみると、morphologicalにいくつかに分けられます。まず、わりにflattな感でcytoplasmにgranuleをもった核小体の大きいどちらかといえば上皮性をおもわせる細胞よりなるもの、つぎにこれと大体同じようなflatt名細胞よりなるがpleomorphismのつよいcolony。さらに、networkを作りやすい繊維芽細胞様細胞よりなり、しかも円形細胞がその上にpile
upしたcolony−これは細胞がふえて来るとほとんど円形細胞ばかりのようにみえて来る−。それとごく少数の繊維芽細胞よりなるcolonyなどです。これらをisolateすることにつとめています。
2.)No.3 rat tumorの培養
growthはあまりよくなく、大小さまざまの核小体の大きい上皮様細胞とnetworkを作る傾向のつよい繊維芽様細胞よりなり、後者は円形細胞を伴っています。
3.)No1.rat tumorの培養
円形細胞と繊維芽様細胞を主体とする細胞集団が、繊維芽細胞の中にcolony状に増殖しています。前者は腫瘍細胞と思われるが、これには少数ではあるが、丁度L細胞を思わせるcolonyもあり、肉眼的に透明な繊維芽細胞のsheetの中に白いcolonyとしてはっきり認められます。腫瘍細胞の分離を試みると共に、これら細胞の共存状態についても観察中です。
4.)No.3(T1-1)tumorの培養
No.3 rat tumorを移植してえられたtumorの再培養です。これも、現在No.1
rat tumorの再培養同様、繊維芽細胞中に腫瘍細胞のcolonyが点在して増殖しています。
これら細胞の写真は次回の月報で供覧します。
《安村報告》
☆Soft agar法(つづき)
前号(月報No.6903)のdiscussionの線にそって、今回はAH7974TC細胞からえられたクローン系のSmall
colony−Large colonyのdissocitionをしらべた実験結果をお知らせします。
1.C6-3S細胞:この系はSmall colony由来です。MediumはEagle
MEM(日水)1xに10%のCS。(それぞれ表を呈示)表にあるようにわずかにLarge
colonyの出現がみられます。判定は4週間たってからです。
2.C1-SS細胞とC1-LL細胞の比較:C1-SSはsmoll
colonyからsmoll colonyへと、C1-LLはlarge
colonyからlarge colonyへとそれぞれ2回クローニングした系です。
結果は表にみられるごとく、両者にS-L dissociationのrateにはみるべき差がありませんでした。前々号(No.6901)にのべられたC1-SとC1-Lとの比較のデータを、いまいちどみくらべてください。そこでも両者の差はあまり明らかではありませんでした。どうやらこのC1系ではSmall
size colonyとLarge size colonyとの間にははっきりした違いがないようです。SとLとのtumorigenicityの違いも(そのデータもいま動物が死に始めていますので、次回に報告できるでしょう)あまりないのではないかと思われます。
3.C1-SS細胞、C3-S細胞、C6-3S細胞間の比較: C1系、C3系、C6系のそれぞれのSmall
colony由来株の比較の結果は、C6-3S系のみからはlarge
colonyの出現はみられなかった。
《安藤報告》
(1)4NQOのL・P3細胞DNAに対する障害及びその修復について
月報No.6906に書きましたように、4NQOは比較的耐性度の高いL・P3細胞のDNAにもsinglestrand
breakを起す。今回はその点を更に詳しく追究した結果を書きます。
1)4NQOによるL・P3 DNAのsingle strand breakのtime
caurse
10-5乗Mの4NQOを15分、30分、60分と作用せしめるとbreak数は増え、生ずるsingle
stradのDNAのsizeは小さくなって行く。これはいずれも4NQO一回の投与である(図を呈示)。
2)4NQOにより生じたsingle strand breakはrepairされるか
4NQOを10-5乗Mで30分処理し、細胞を洗い、新鮮な培地DM120の中で3時間回復させた。(図を呈示)30分間処理直後、1時間回復させた後、3時間回復を起させた後にそれぞれ分析した。この実験に於ては30分処理によっても前回程は切断が起こっていない。したがってその点の再現性はあまりよいとは云えない。しかしながら明らかに1時間、3時間と回復期の時間が長くなるにつれて一たん切断されたものが再結合を起している事がわかる。したがってL・P3細胞は4NQOにより生じたsingle
strand breakを修復する酵素系を持っている。又この事がL・P3細胞の耐性の基礎かもしれない。このsingle
strand breakのrepairの再現性はあまりよくない。全く同じ条件で行ったつもりの次の実験が、あまりよくは修復が起っていない。
但し、本実験に於ては分解産物の大きさを推定するために、referenceとしてbacteriophageλのP32-DNAを同時に遠心した。この結果、4NQOにより生じたsingle
strandの分解産物の最低分子量は約1.7x10の7乗くらいである事がわかった。
3)4NQOによりdouble strnadの同時切断が起るか。
以上の実験から4NQOはL・P3細胞DNAにsingle
strand breakを起し、又細胞はそれを修復する事がわかったわけだが、それではもしこのsingle
strand breakがat randomに二重鎖DNAの上に起っているのだとしたら確率的に当然二重鎖の両方の同じ場所でsingle
strandbreakが起る事もありうるわけである。すなわちdouble
strand breakが起る事になる。この点を調べてみた。今度はL・P3
DNAの二重鎖の水素結合を切らないように中性の蔗糖密度勾配遠心法で調べた。(表を呈示)control
DNA、これは底に沈む。4NQO 10-5乗M、30分処理、60分処理の結果である。図から明らかのように、4NQOはDNAの二重鎖の同時切断も起している。しかもこの時の非常に大きな特徴は、切断産物の大きさが極めて均一な事である。非常にシャープな単一ピークを与えている。又single
strand breakの時に見られたような、切断数の経時的な増加は見られなかった。すなわち一定のsizeのままとどまっている。
4)4NQOにより生じたdouble strand breakはrepairされるか。
single strand breakの場合は、これが生じても二重鎖の間の水素結合が保持されていれば、少なくも見かけ上はDNAは切断の起る前の状態を保つ事が出来るように考えられている。しかしながら二重鎖の同時切断が起った場合は、たとえヒストンの支えがあったとしても、もはや物理的にもとの状態を保てるとは考え難い。すなわち修復が極めて難しい事が予想される。しかし細胞はそれをやってのけるかもしれない。実験方法は前と全く同様に4NQO、10-5乗M、30分処理後4時間の回復を行わせ中性蔗糖密度勾配遠心法により分析した。(図を呈示)図は30分処理後、その後2時間回復、4時間回復を行わせたものである。結果は、予想通り二重鎖の同時切断は細胞にとって直すのに難し過ぎるようだ。この点再実験を行い確認された。なお今回もbacteriophageλDNAをreferenceとして共沈させた。
(2)4NQOのRLH-5・P3細胞DNAに対する障害及びその修復について:
前にも書きましたようにL・P3細胞は4NQOに対し比較的耐性度が高い。今回は、4NQOに感受性の高いRLH-5・P3細胞を用いて(1)と同様な解析を行ってみた。なお、この細胞は“なぎさ"培養により変異したラット肝由来の細胞で合成培地DM120によく増殖する。
(図を呈示)この細胞DNAも4NQO処理によってsingle
strand breakが生ずる。しかしこのbreakのrepairに関しては起っていると思われるが、この実験だけからは結論出来ない。中性密度勾配によるdouble
strand breakの誘導及びその修復をも試みた。結果は、図からも明らかなようにこの細胞に於てもbreakは生じ、しかも4時間の回復後においても修復は起ってはいないようだ。更にこのRLH-5・P3細胞のDNAの二重鎖切断により生じたDNAはL・P3のそれと比較して、かなり小さいようだ。それは図のP32-λDNAの位置と比べてみると明らかである。なおλDNAの位置よりこれ等のDNAの分解産物の分子量は容易に計算されるが、これ等の続きは次号にまわします。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(12)
放射線感受性増強剤としてのBUdRを含くむ培地内で、あらかじめ細胞を培養してからX線で種々の線量照射するとコロニー形成能でみた細胞の放射線感受性は確かに増大する。このことについての結果は前報までに報告してきた。
今回はこうしたBUdRのもつ放射線増感剤としての機構を解明するため、あらかじめ10μgBUdR/mlと5μg
aminopterin/mlを含くむ培地内でmouse L細胞を96時間培養したのち、種々の線量のX線で照射し、照射直後の細胞内DNAのsingle
strandの切断率を正常培地内で培養した対照区のそれと比較してみた。(DNA
single strandの切断の分析には例によって5〜20%alkaline
sucrose methodを用いた)。
(図を呈示)結果は図に示すように、BUdRを含くむ培地内であらかじめ96時間培養した細胞では、2,000R、5,000R、10,000R照射された直後にDNAがやや正常細胞のそれに比べて低分子のものに切断されることがわかった。然し、コロニー形成能でみたBUdRの放射線感受性増強率をこのsingle
strandの切断の上昇で説明するには、BUdRによるDNAの切断率の上昇が少なすぎるようである。このことから考えられることは、BUdRによる増感機構はむしろsingle
strandの切断率の上昇よりもdouble strandの切断率を上昇させることに起因するのではあるまいかということである。これについては次報で報告したい。同時にBUdR処理によって誘起されたsingle
strand scission(一本鎖切断)が再結合し得るかどうかについても現在検討中である。
《梅田報告》
Varidaseの影響
Rat liverの、monolayer culture作成時に、今迄trypsin及びSpraseを使用してきた。
Trypsin処理だけでは組織がねばねばになりmeshを通し難いが、Spraseの使用でねばねばが軽くなり、meshでの濾過がし易くなる。しかし、まだ充分と云えない。前々回の班会議で、難波さんにvaridaseを使用すると非常にさらっとして細胞の収量が多くなるとの指摘をうけたので、その点について検討してみた。
実験群として(1)rypsin(モチダ)3,000HuH 処理15'。
Varidase液 0.5mlを加え、更に15'処理したもの。(2)Trypsin
15'処理后Sprase(100u)を15'処理したもの。(3)Trypsi
15'処理后、Sprase 100uとVaridase 0.5mlを15'作用させたもの、3群について検討した。確かにVaridaseを加えると酵素液がさらっとなってねばねばした感じは全く残らない。正確は比較はならないが、wet
weightから細胞の収量を計算すると、(3)が一番良く、次に(2)(1)であった。しかし30万個cells/mlで培養を開始すると(medium
LE+20%CS)、(1)、(3)はgrowthが悪く、(2)が一番良いgrowthを示した。
2回目に殆同じ実験を、varidaseの量を減じ0.3mlとしrepeatしてみた。結果は酵素作用后、さらっとすることに変りなく、wet
weightから計算した細胞の収量は、この時は特にvaridase使用群に増したとは思えない。
次に生えてきた細胞をSubcultureするのに、trypsin液とvaridaseの併用を行ってみた。Trypsin単独のsubcultureに較べ数日后のgrowthは明らかにvaridase使用群が悪かった。
今の所ここ迄で、もう一度更にvaridase濃度を下げて実験してみたいと思っているが、結論的に云えることは、varidaseはかなり毒性が強く、余程注意して使わないと具合が悪い様である。更にgrowthしてくる細胞については、特に肝細胞が障害をうけ易い様にも思えないが、定量的観察でないのでなんとも云えない。