【勝田班月報・6905】
《勝田報告》
A)肝癌AH-7974の毒性代謝物質:
これは昨年度まで班員だった永井克孝博士との共同研究であるが、永井氏の渡米後、永井氏の御弟子であった東大・教養・生物の星元紀氏が、代って化学的分析を担当して下さっている。
これまでAH-7974を培養していた培地は、[20%CS+0.4%Lh+D]であった。4日間位培養した後、Collodion
bagを通して高分子を除き、それをカラムにかけるのであるが、御承知のようにLhにはポリペプチドが沢山含まれていて、分析が厄介である。そこで、このポリペプチドを含まぬ培地でAH-7974を増殖させられぬものかと、色々検討したが、CSを透析してみると(D-CSと略)、10%加えるのが至適であった。[10%D-CS+DM-120+10%D]で培養してみると、4日まではふえたが、以后は数が減ってしまった。この4日迄の旧培地を正常肝細胞のRLC-10株に加えてみても毒性が現われなかった。これは、やはりAH-7974が活発にふえている状態でなかったためと判じ、もっと良い培地を探した。
たまたまこの頃、色々な細胞についてinositol要求をしらべていたが、AH-7974がこれを要求していることが判った。
そこで[10%D-CS+80%DM-145+10%D]の培地で培養してみると、これが大成功で、実によくふえた。DM-145というのは、DM-120にinositolを2mg/l追加した培地である。そこで、この培地でAH-7974を4日間培養し、その旧培地をコロジオン膜で濾過し、外液をRLC-10の培地に添加してみた。培地は[(20%CS+0.4%Lh+D)=7容:外液3容]である。対照は外液の代りにDM-145を同容入れた。
細胞の接種量は64,000cells/tubeで6日後にしらべると、対照は1,004,000/tubeになっていたが、外液添加群はその30%位で274,000/tube。実にきれいに毒性があらわれた。
B)各種細胞株のイノシトール要求:
“なぎさ"変異肝細胞株、腹水肝癌由来の株を中心として、それらのinositol要求を[10%D-CS+80%合成培地+10%D]の培地でしらべた。合成培地はDM-120とDM-145を比較したわけである。詳細はいずれ報告することとし、結果だけを表示する。要求株はRLH-2、RLH-4、AH-7974TC、JTC-1(AH-130)。要求しないものはRLH-3、RLH-5、AH-66TC、RTH-1(RTM-1胸腺細網細胞のなぎさ変異株)であった。
C)4NQO処理後の経時観察実験
ラッテ肝RLC-10株を4NQOで処理後、経時的にその染色体の変化、復元移植性、細胞電気泳動像の変化を追い、且連続的に顕微鏡栄華撮影で形態の変化を追う実験である。
第1シリーズ(Exp.#CQ60):
1968-11-19:4NQO処理(3.3x10-6乗M、30分)
1969- 2- 7(70日后):細胞電気泳動(1)
-2-26(89日后):細胞電気泳動(2)
-3- 1(92日后):復元接種(1)(JAR-1、F32、生后1日、I.P.500万個/rat、対照とも2匹宛))
-3- 5(96日后):染色体標本(1)(見られる標本ができた最初)
-4-23(145日后):細胞電気泳動(3)(腫瘍型の泳動像が認められた)
-4-24(146日后):4NQO再処理(条件同前)
第2シリーズ(Exp.#CQ63):
1969 -3 -4:4NQO処理(3.3x10-6乗M、30分)直後より5日間、細胞電気泳動測定(0)-(5)。
-4-23(50日后):細胞電気泳動(6)(腫瘍型の泳動像が認められた)
-4-24(51日后):4NQO再処理(条件同前)。観察継続中。
《佐藤報告》
従来4NQOによるラッテ培養肝細胞(Exp.7系)については屡々報告して来たが、Exp.系の追試実験として、別の培養肝細胞(RLN-251)を使用して発癌に成功した。復元動物の一部は現在、観察中であるが、大体まとまったので整理した(表を呈示)。
以上の実験結果から結論されることは、株化された培養肝細胞は割に簡単な4NQO処理によって確実に発癌することである。今後はなるだけ若い培養のものを使用して発癌の過程を追求したい。
《高木報告》
1.No.3 rat tumor再培養の復元実験:
昨年12月10日にstartしたNo.3 rat tumorの再培養によりえられた細胞の形態は、先の月報(6904)に書いた通りですが、この100万個をWKAとWistarのhybrid
newborn rat 6疋の皮下に接種しました。約1ケ月後より6/6にtumorの発生をみとめ、現在どんどんtumorは大きくなっております。histologyは未だです。これで、No.2
rat及びNo.3 rat tumorより培養した細胞はmixed
populationであるにせよとも角tumor cellsであることがわかりました。
2.Soft agarによるNQ-7のcolony formation
NQ-7は先の月報(6811)に報じたように4NQO treated
thymus cellsで、T-1、T-2、T-3、T-4(T-5は培養中止)の4株はcontrolに比し形態の変った状態で現在も継代を続けております。これら4株についてsoft
agarによるcolony formationを試みてみました。方法は、LH1%の割にagarに加えてautoclaveして後、glucoseと重曹を加えた培地に、base
layerはagarの濃度が0.5%になるように、top
layerでは0.33%になるように、予め用意したLHにEagle's
vitamineとcalf serumをfinal concentrationの倍量および1.5倍量含む培地とまぜ合せて各soft
agarの層を作りました。
まだ1回の実験ですが、10000ケの細胞をseedして4w後の判定で、T-1
約50ケ、T-2 3〜4ケ、T-3 無数、T-4 20〜30ケのcolonyを生じました。T-1に生じたcolonyは密なものと疎なものの2種類がありますが、その他に生じたcolonyは円形の密な(図を呈示)図の如きものです。このcolonyを生ずるefficiencyと復元してtumorを生ずる能力との、相関をみたいと思っているのですが、T-1、T-2、T-3はこれまで各6、2、4疋のnewborn
WKA ratにもどして74日目の現在tumorの発生をみず、ただT-4のみ先月報の如くregressはしたけれど3/4にtumorの発生をみました。さらに検討の予定です。
《山田報告》
前回に引続きRLC-10のラット肝細胞に4NQOを投与した後の変化を追いかけてみました。 No.6904に4NQO投与直後の変化を報告しましたが、同号に検索したRLC-10細胞群を、4N-1(対象C-1)、4N-2(対象C-2)と名付けて、前者を114日目に、後者を50日目に検索した結果を報告します。(図を呈示)4N-1群の細胞は対象では殆んど変化を示しませんが、4NQO処理した細胞では、電気泳動度の僅かな増加と、シアリダーゼ処理により0.104μ/sec/v/cmの電気泳動度の低下をみました。従来、悪性化の規準を『シアリダーゼ処理により0.10μ/sec/v/cm以上低下する肝細胞』と一応定義しましたので、その意味では悪性化の規準ぎりぎりに入る成績です。しかしこの場合は丁度境界ですので、悪性化と云へるかどうかわかりません。この状態でこの4N-1をラットに復元してもらう様にお願いしてありますが、その結果がどうなりますか?
次に(図を呈示)4N-2の細胞群の成績は若干予想外です。その解釈に困って居ます。対象の細胞群C-2もシアリダーゼ処理により0.077μ/sec/v/cmの電気泳動度の低下をみました。(従来のラット肝細胞でこの様な低下をみたことはありません。勿論従来の理解に照して悪性化の成績ではありませんが。) しかも、4N-2群の細胞はシアリダーゼ処理により0.162μ/sec/v/cmの低下をみて居ます。この成績は、悪性化を示すものと思われます。しかし対象も変化して居りますので、これをどう解釈すべきかわかりません。この細胞もラットへ復元する様お願いしてありますので結果待ちです。この結果をみて考へたいと思ひます。 次に安村先生の寒天培地によりクローニングされたAH-7974TCのクローンC3-L株とC5-3-S株の細胞電気泳動度を調べてみました。これも予想外の成績です。クローニングされたにもかかわらず、両者の細胞電気泳動度には結構ばらつきがあります(図を呈示)。しかしoriginal株にくらべてややばらつきは少い様です。しかも両者の態度にはかなり差があります。C6-3-S株はシアリダーゼ処理により、その電気泳動度はあまり低下しないと云う結果は興味があります。このクローニング相互の関係については、明日再検すると同時に、他の3ケのクローン株についても検索する予定になっていますので、その成績と合わせて次号にまとめて報告し、考えてみたいと思って居ます。
《梅田報告》
1.前回の班会議(6903)で、HeLa細胞にN-OH-AAFを投与して、H3-TdR、H3-UR、H3-Leuの摂り込み率を測定した結果について報告した。前回はH3-TdR、H3-URの摂り込み率が落ちる濃度でH3-Leuの摂り込みはおちなかった。今回は経時的に摂り込み率を測定してみた。方法は前回と全く同じであるが、N-OH-AAF投与と同時に各group別に0.1μc/ml
H3-TdR、0.2μc/ml H3-UR、1μc/ml H3-Leuを投与した。30分后、1時間后、2時間后に2枚宛の培養を止めH3摂り込みをgasflow
counterで計測し、その平均値を出した。2時間后のcontrolの摂り込みを100%として夫々の値の平均値の%を算出した(図を呈示)。
H3-TdR、H3-UR摂り込みがN-OH-AAF投与と同時にstopして後少し恢復することがわかる。H3-Leuの摂り込みは前2者より良好である。故にN-OH-AAFはDNA、RNA合成系に直接佐用してimmediateな変化をもたらす様である。
2.今迄rat肝のprimary cultureにDAB等を投与して、carcinogenesisを試みてきたが、最近少し考え方を変えて、AAFなどで、今迄成功しているhamster
embryonal cellを使ったらと考えている。先生方の御意見を次回班会議でおうかがいしたい。
《安藤報告》
4NQO処理により細胞高分子は分解されるか。
(1)L・P3細胞について。
フルシートになったL・P3に4NQOを10-5乗Mに加え30分処理をする。その後washし、新鮮培地中に移し24時間観察してみる。この間顕微鏡的には何らの変化も起していないように見えた。しかしながらその細胞の中では種々な変化が起っている筈である。加えられた4NQOが代謝され、蛋白、核酸等の高分子と結合する事、その際DNAの二本鎖は切断を受け、又修復もされて行く事等を報告して来た。
今回はこの際、細胞当りのDNA、(RNA)蛋白質の総量の変化を求めた。(表を呈示)表に示されている通りDNAと蛋白質いずれも誤差範囲を考えるならば、分解を起しているとは云えない。この点確認実験中である。
(2)RLH-5・P3細胞について。
(表を呈示)次表はRLH-5・P3細胞についての同実験の結果を示してある。DNA含有量については3回の実験、RNA、蛋白質についてはそれぞれ1回ずつの実験を記載してある。この結果にするとRLH-5・P3細胞に於てもL・P3の場合と同じくDNA、RNA、蛋白質いずれも4NQO処理中及び処理後少くも24時間の間は安定に保たれているように思われる。
RLH-5・P3細胞中へのH3-4NQOのとりこみのkinetics。
L・P3細胞へのとりこみについては月報、班会議で報告して来た通りです。すなわち、H3-4NQOは細胞に与えられると15分〜30分以内にmaximumに細胞内にとりこまれ、急速に代謝され培地中に放出される。この間に細胞高分子との結合も起り、同様に15分でmaximumになり、ほぼ一定となり、培地を替え薬剤を除くと一たん結合した放射活性は失われて行く。RLH-5・P3に於てもこのkineticsは全く同様であった。
《藤井報告》
ラット抗Culb血清の作製
培養ラット肝細胞RLC-10の培養内変異過程における抗原性の変化を追求するためには、変異に伴なって獲得されあるいは消失する抗原のみに対する抗体をもった血清が必要である。これまでは、異種のウサギ抗血清を作って、double
diffusion(Microplate法)でラット正常肝組織抗原とAH130等の出来上った肝癌の抗原の比較をおこなってきたが、こういう系では、AH130細胞だけに見られる沈降線であっても、それが果して癌特異抗原であるのか、あるいは正常肝組織抗原の量的な変化であるのかは決定し得ない。
がん抗原を対象とするかぎり、syngeneic strainで得られる抗体が必要であるが、Cula、Culb等のsyngeneic
strainであるJAR-1(医科研癌細胞)は、生産が間に合わず抗体作製には使用できないので、JAR-1になるべく近い系としてJAR-2(9代兄妹交配)を用いて、Culbに対する抗血清作製を開始した。
2匹の成熟ラット(JAR-2)は、側腹部皮下2ケ所に計150万個細胞を、3月24日、4月7日に、4月19日、4月23日には各回計500万個cellsを皮下に注射され、最終注射后10日に心穿刺により5mlを採血した。注射したCulbは1回遠心後、water
shock法で赤血球の混入を防ぎ、生食水で2回洗滌後注射した。4回注射のうち、第2、3回は凍結保存(-20℃)したものである。
採血時、2匹のラットのうち1匹でCulb接種部位に径約1cmの腫瘍がみられ、13日現在は増殖傾向が見られる。他の1匹は径0.5cmの皮下腫瘍があるが、退縮の傾向にある。これから見ると、JAR-2のこの2匹は未だ充分Culbに対する抗腫瘍性を獲得していないと云える。近く増殖腫瘍の結紮をおこなって退縮させる予定であるが、ラットに抗腫瘍性を得さしめられなかった原因として、凍結保存細胞の注射がEnhancementに作用したものか、また、接種した細胞数が多すぎたためかも知れない。以上2匹のラット血清は、double
diffusion(Microplate法)でCulb抽出液(0.2%DOC-PBS、5000万個/ml相当濃度)に対して全く沈降線を示していない。
今後は、Freund's adjuvantの利用も止むを得ない手段として考えている。同種異色抗体を沈降線で示すことは非常に困難であるので、更に多くのラットで強化免疫計画をじっくり立てる他ないと思われる。
Double diffusion(Microplate法)による抗原分析を目標とする一方、現在やれる実験として、「ラット抗Culb血清、ラット抗Cula血清のcytotoxic活性、immune
adherence活性をしらべて」培養肝細胞RLC-10、#CQ39、#CQ40、Cula、Culb等の同種抗血清に対する感受性を検討して行きたい。
余談:このところ同種移植における細胞結合性抗体の他に、血清抗体の役割に目を向けて仕事をしています。マウスで腫瘍細胞を同種マウスの腹腔内に接種したとき、腹腔内の腫瘍細胞が宿主の小リンパ球に攻撃されている場面が以外に少ない(せいぜい数%以下)。細胞性免疫の能力の限度といったものを強く感じます。
そういうことからも、液性抗体の役割を再認識すべきだと思うのですが、同種移植したマウス(C3H/He)の血清から、Sephadex
G-200とDEAEカラムを用いて分けた、19S、7S、7SγI抗体についてみますと、19S、7S抗体の示すcytotoxic
activityが標的細胞(C57BLのリンパ節細胞)をあらかじめ処理(Rt、30分間)すると、抑制される成績が得られました。7SγIは抗体を結合せず、標的細胞に先に結合して、補体結合性の19S、7S抗体の細胞溶解作用を抑えるものと考えられます。7S、19S、7SγI抗体も、まだdouble
diffusion、immunoelectrophoresisで組織抗原との間に沈降線をつくってくれず、弱っています。