【勝田班月報・7001】
《勝田報告》
 ラッテ腹水肝癌AH-7974細胞の毒性代謝物質(続):
 昨年の月報No.6908にそれまでの研究成果を記載したが、今号ではその後の経過を報告する。これは永井旧班員の後輩の星元紀君との共同研究で、分劃は彼がおこなった。
 方法については前報に詳しく書いたが、簡単に復習すると、[10%仔牛血清+合成培地DM-145]で4日間JTC-16(AH-7974)を培養し、その培地を4℃でCollodion bag濾過する(低分子を得る)。これを凍結乾燥し、濃縮液をSephadex G25で分劃、各tube毎に凍結乾燥した。ここまでの阻害活性については前号に記した。この分劃の内、#35〜#38のtubesの分劃に活性が強いので、これを集めてSephadex G15で再分劃した結果を図に示す(図を呈示)。この分劃をtube毎に凍結乾燥し、1)#39-#54、2)#55-#59、3)#60-#64とまとめ、夫々Saline D 7mlにとかしてMiliporeで濾過し、RLC-10の培地[20%仔牛血清+0.4%Lh+D+20%分劃(対照はD)]に添加し、8日間培養した結果が次の図である(図を呈示)。
 阻害活性は明らかに39-54のところに現われ、55-59のpeakも若干の阻害効果を示している。分子量は1000位と推定され、アミノ酸7コ位から成ったペプチドではないかと思われる。目下その本態を追求中である。

《山田報告》
 本年も宜敷く御指導の程お願い申しあげます。昨年春に法隆寺を訪れた時に描きました夢殿のスケッチを今年の年賀状にしました。最近この様な古い日本の建造物に興味を覚えて描いています。
 やたらに外国の流儀や物事をそのままうのみにせず、日本的な様式や感覚を作りあげて行くことが、絵に限らず、研究にも必要ではないかと思ったりして居ます。みかけ上、同じ研究にみえても、日本人でなければ、或いは日本の風土でなければ育たない研究の進め方こそ、どこか「キラリ」と光る部分がある研究成果をもたらすのでないかと思って居ます。
 今年は細胞の悪性化に伴う抗原性(Surface antigen)の変化を、細胞電気泳動法により追求したいと思って居ます。
昨年暮に岡山からラット肝細胞の4NQOによる変異株Exp.7-1、-2を貰いましたので調べてみました。これは一昨年夏にしらべた細胞系ですが、その後一年以上経過しましたので、その後如何に変化したかを追求したかったわけです。
 しかしExp.7-2の系は、その後直ちに氷結したために培養継代があまり進んで居ないことがわかりました。細胞電気泳動的にも殆んど変化がなく、悪性化株の性質がやや悪性度を増して居る(箇々の細胞の泳動度のばらつきが増え、シアリダーゼ感受性が増加)様です。
 Exp.7-1の系は其の後3回氷結して居り、その間に7ケ月以上培養継代して来たさうですが、この株のControlに変化が来て居る様です。つまり発育が良くなかったので、再検の要がありますが、少くとも一年以上前の様な正常型(ラット肝細胞)のパターンを示さなくなって来た様です。近いうちに再検した成績を報告します。
 尚ほHQ-1及び-2の泳動度の変化も調べましたが次号に報告します。

《難波報告》
 N-11:ラット肝細胞のクローニング及びその発癌実験
 従来使用してきたRLN-E7系のコントロール肝細胞を、月報6909(N-5)の方法によってクローン化した。培地は20%BS+Eagle'sMEMを使用。(表を呈示)結果は表に示すが、株化した細胞を使用した故か、クローン化の成功率は非常に高い。即ち13コのsingle cellを拾い、その内6コのpure cloneに成功した。
 目下6907(N-1)に述べた如く(1)4NQOが細胞の癌化の変異剤として作用するのか、(2)発癌の淘汰説の真偽の確認などの問題をこのクローン化した細胞を使用して検討したいと考えている。現在LC-2、LC-9、LC-10の3系で実験する予定で、その3系の増殖は目下良好である。
(図を呈示)図にこの3系の累積増殖曲線を示した。
 LC-2系の細胞をEagle's MEMに終濃度10-6乗M、10-5.5乗Mになるよう4NQOを溶いて各1時間処理した。細胞は100万個cells/TD40にまき込み3日後、6日後に4NQO処理したがどちらの濃度でも、顕微鏡的に細胞障害は認められなかった。
《堀川報告》
 1970年の新年を迎え班員の皆さんおめでとうございます。今年も一緒に大いに頑張りましょう。過ぐる1969年は私にとっても実にめまぐるしい一年であったように思います。京都での大学紛争に始まって以来金沢大学に落ち着くまで、本当に息つくひまもなしというのが、いつわりのないところでした。常時ならば4〜5年かけてゆっくりやるべきものを、あれよあれよと1年の内にすべてをやってしまった様な気持ちで私自身今更のようにそのプロセスをふりかえって反省もし、また新たなる希望をもやしております。
 1969年は頭初に計画した仕事のうち果して何割まで消化出来ただろうか? 勝田先生はじめ班員皆さんの御支援のもとに、この金沢に落ちつくことが出来ましたが、京大での大学紛争から始って金沢での設営までに要した時間から考えると、やはり1969年は仕事という面からみれば最初に計画したもののうち数割しか消化出来ていないというのが、これもいつわりのないところだと思います。
 そういった意味からも今年は、この与えられた環境をフルに動かして十二分に成果をあげたいと念願しているところですが、それも果してどの様になりましょうか。特に今年度は従来進めてきた「培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構」の研究を更に角度をかえて
(1)障害修復能という従来分子レベルと、一方ではただ単に細胞の生死を指標にしてとらえてきた現象を細胞の機能という面から浮きぼりにしながら、障害修復機構という実体の生物学的な意義づけをやってみたい。(2)更に、一方ではこれまでに再度試みて困難とされた放射線耐性細胞さらには感受性細胞を新しい技法によって分離し、これら細胞株を用いることによって、これまで得られてきた障害修復機構という実体を一段と明確なものにしたいと思っている。このあたりが私共の出来る試験管内発癌の機構解析にアタックする惟一のアプローチであろうと信じているからである。
 さて最後になりましたが、以前安藤さんが4-NQO処理後の細胞には、Bacteriaでみられるようなliquid holding repairがありそうだという結果を示され、この問題は障害修復機構の検索および解析をやっている私には、非常に興味のある現象なので、Ehrlich細胞を使って追試といえばおおげさになりますが、とにかくrepeatした結果が得られましたので、それを図に示します。(図を呈示)。各種濃度の4-NQOで30分間処理後直ちにコロニー形成をやらせたものと、各種濃度の4-NQOで30分間処理後細胞を24時間confluent状態においてからコロニー形成をやらせたものの比較です。これらの図から判るように、種々の濃度の4-NQOで30分間処理した直後に細胞をplateした方が、4-NQO処理後confluent条件下で24時間保ってから、コロニー形成のためにplateを始めたものより細胞の障害が少い。つまり生存率が高いと云う結果が得られた。どうも安藤さんのデータとは残念ながら相反する結果となったが、4-NQO障害に対するliguid holding repairの存在を培養細胞において考えるのはどうも困難なように思われる。この点御検討いただけると幸です。どこか実験操作にでも大きな穴があったのではないでしょうか。

《高木報告》
あけましておめでとうございます。今年もよろしく御願い申上げます。皆様よいお正月を御迎えのことと存じます。こちらも御陰様でと申したい処ですが、年末来、教授会の一方的授業再開をめぐって学内事情は全く混沌としており、まずは私の経験した最悪の年のはじめのようです。連日の会合、会合で頭が中々切換らず、仕事の方は全く申訳ない状態です。今一つ困ったことは、大事をとって発癌実験の細胞をすべて保存していた九大癌研細胞部のレブコが年末に故障をおこし温度が可成り上った由、細胞がやられてしまったのではないかと憂慮しています。目下細菌学教室のレブコに移してありますので、来週早々培養にもどしてみるつもりでおります。
 どうも書き出しからあまり景気のよくない年頭の言葉になりそうですが・・・・。さて今さしあたり考えている実験の計画は、1)NG実験のdataをはやくまとめること、2)発癌実験のtarget cellをかえてみる。出来ればepithelial cellを使い、あるいは既成のcell strainを用いてでもよいから少しでも定量的な実験系を確立すること、3)発癌剤の組合せによる発癌実験をこころみること−たとえば4NQOとNG−、4)in vitroで発癌剤処理によりtrans-formした細胞(もしくはこれを復元して生じた腫瘍の再培養によりえた細胞)と発癌剤処理をしなかったcontrol(もしくは培養した所謂“正常細胞")をmixして復元実験を行い腫瘍または正常細胞の復元成績を比較検討してみる。・・・などと云ったところです。
 これらの一部は現在手がけており、またin vitroでNG transformed cellの復元により生じた腫瘍の動物継代もこころみております。
 一方organ cultureとcell cultureの中間とも云えるslice cultureについても昨年来実験中ですが、培養条件はまずよいとして問題はsliceの作り方です。microchopperでは腎のようなわりに硬い組織は均等な厚さに薄くきれますが、膵のような軟らかい組織はどうしても均等な厚さの切片がえられず、このような軟らかい組織を着る方法を目下検討しています。均等な厚さの切片を作るには凍結切片がよいのですが、この場合凍結、解凍による組織のdamage、従ってviabilityが問題になります。この点をさらに検討したいと考えております。皆様の御教示を頂ければ幸です。

《安藤報告》
 班員の皆様、明けましておめでとうございます。昨年中はいろいろ御助言御指導いただきまして、本当にありがとうございました。私は班研究というものについては勝田班が初めての経験でしたので、入れていただいた頃は癌研究という事自体初めての事だった事もありまして、班研究のよさがよくわからなかったのですが、やっと今頃になって自分の感覚として実によいものだという事が認識出来るようになりました。一つのプロジェクトを集中してしかも分野の異る人達が種々な角度から研究討論する、実に研究体制のあるべき模範のような気がいたします。今年も若輩をどうぞ御指導御鞭撻の程をお願いいたします。以下少し本年度の研究計画の概要を記してみます。御批判下さい。
 まず現段階では4NQOの種々の生物に与える変化の内、何が発癌を惹起するために必須な変化であるのかは全く不明なので、一応基本的方針としては、現象全てを細部に至る迄徹底的に調べ上げるというつもりでおります。したがって現在迄はやや核酸、中でもDNA中心の実験をして来ましたが、今年は次のゆな事を考えています。
 (1)細胞が4NQOを代謝して培地中に放出する物質は4NQOのどのような誘導体か。
 (2)今迄はH3-4NQOが結合する細胞の成分を調べる際に、主に細胞の化学的成分を一まとめにして分劃していた(例えば、蛋白質、DNA、RNA等)が、見方をかえて細胞内の場所の違いによって同一物質でもその4NQOとの結合性は異ると思われるので、細胞分劃をした上で各分劃内の蛋白質、RNA、DNA等の比活性を比較する。
 (3)4NQOによって変化をうけたDNAが、単に分子量の変化というだけでなく、もっと化学的に見ていかなる変化をしているかを調べる。すなわち、4NQOによって切断されたDNAの物性(例えば、粘度、温度−吸収変化等々)あるいは化学的性質(例えば、切断された末端塩基に特異性があるか否か、等)を更に詳しく調べる事によって4NQOの作用を明らかにする。

《三宅報告》
 井上君が帰って参り、大学院学生の顔もやっと出揃ったというところです。昨年末から、やっと落ちついた感じで、これから仕事を始めようというような次第です。お世話になった井上君が主になって、部屋の中の整理もすんだところです。
 まず本年は昨年の夏にみつけた増殖の素速いd.d.マウスのEmbryoから出た細胞の細胞生物学的な検索から始めて参ります。12月にお話しできましたのはwildなものでしたから、cloningをやり、染色体をしらべ、動物に戻して、おくればせながら、みなさんについて参る決心です。
 昨年末にこの細胞をSponge matrixに吸いこませて、CO2-Incubaterの中で、浮かせるようにして、培養を始めました。それは組織学的な構造をtri-dimensionalなものの中で営ませたい考えでした。嗜銀繊維が出来ているでしょうから、その像を組織標本と同じレベルでみたいと考えたからです。Spongeは、少し灰白色透明のままで、2週間をすぎて、肉眼的には細胞がSpongeの中で生きていると考えますので、これから経時的に固定・染色にうつります。これも実は、上皮性、非上皮性の細胞の区別がSpongeの中で出来れば、幸いという下心があってのことです。一方で、ヒトの悪性腫瘍の培養に努力をつづけていますために、こうした簡単な方法で、上皮性、非上皮性の区別がつけることに成功しますれば、上皮性悪性腫瘍である癌細胞を、全く古典病理学の場に立ち戻って決定づけることができると考えたからです。そうは参らぬかも知れませんが、上皮性細胞のあってはならぬ臓器・組織からSpongeの中で上皮性と考えられる像を作りあげるのをみた時は、それを癌といえるのではないかと思うのです。新年の夢かも知れません。
《安村報告》
 Akemasite omedeto gozaimasu! Kotosi mo dozo yorosiku。 一年の計は元旦にありということですが、暮れもおしつまってから猛烈なカゼにやられて10年来初めて寝こんでしまうような始末でしたので、これはタルンデイル証拠かもしれません。寝こんでいるときにふと数年前まで多少は実行したことのある日本語のローマ字書きに思いをいたしておりました。昨年中は紛争にからんでいろいろ広報活動もせざるをえないハメにおちいって忙しい思いでした。またペーパーの下書きを何度も書き直しているときに、手書きの清書に時間をつぶされるときに、日本語をタイプライターで書くためにはローマ字化されねばと思ったことでした。このことは初夢の一つとしておいてください。
 ようやく12月のなかばになって学生のストライキが解除されて、ホッとしているヒマもなく、つぎつぎと授業再開問題にからんで、カリキュラムの再編、追試験等々、別の意味で多忙に追いまくられている状況です。昨年の大学紛争はいろいろ研究者にも多難であったといっただけではすまされない問題を提起しました。正直いってヤリキレないと思わせるところもございました。乱にいて治を忘れず、治にいて乱を忘れずということでしょうか。今年こそ、科学者は科学者としての任をはたすことができる年でありますように、まだ紛争の余燼(余塵?)があとを引いていますが。
 さて、今年度の実験予定のことです。協同研究者として、一生けんめいやってくていた井上君が京都に帰りましたので、仕事にひとくぎりつけました。新たに昨年夏の終りごろから手がけてきたラットの肝の初代培養からのクローニングが少しは目鼻がつきそうなところにやってきましたので、それがうまくゆけば、そのクローン化細胞系で発癌過程をSoftagarでスクリーニングして解析を進めて行きたいと考えています。しかしいまのところ、このクローン系の増殖が非常にスローモーで十分な材料をうるのに苦労がいりそうです。以上が新年にあたってのアイサツがわりです。

《藤井報告》
 新年おめでとうございます。
 何回か年頭の御挨拶を書きながら、今年も試験管内発癌における抗原変化について一歩進んだデータを出し得ずにいることは何ともつらいことです。抗血清の作製がラットの抵抗性の問題か、Culb cellsの抗原性の変化のためか捗らなかったり、沈降反応の感度の限界から、培養細胞でのImmune adherenceやmixed hemagglutionあるいはmixed hemadsorptionの応用に転向したものの、なかなかうまくいかず、ほぼ1年をその準備−抗γ-グロブリン抗体の作製など−に使ってしまい、これだけやりましたが癌抗原は化学発癌ではどうでしたと云えない状態が何とも申し訳ないところです。来年は研究費はいただかないでも今までの後始末をしようというのが、ささやかな希いです。
 毎月の月報はずい分と為になり、はげまされてきましたが、こわいProf.Kattaの顔をおもいうかべながら、つい不備なことを書いたりしているのもどうかとかえりみて、自分のピースでやって行くことも考えています。
 このところ、培養AH7974細胞でのIAとmixed hemadsorptionも技術的にうまくいくようになりました。この月報でもの凄くつよいIAの写真を出すつもりでしたが、フィルムのASAを間違えてうすい写真ができてしまいましたので止めました。
さし当っては、これらの方法でRLC、RLT、Culb-TCの抗原差を、同種抗血清、異種抗血清でしらべます。 
 次は細胞性の免疫に関連し、抵抗性ラットのリンパ球が試験管内で変異した細胞の抗原性を区別しうる方法として使えるかどうかを検討すること。実際には、Culb-TCに抵抗性のラットのリンパ節、末梢のリンパ球が、RLC、RLT、Culb-TCのcolony形成を抑制し、その間の差が両者の抗原性の差の指標になるかどうかを調べます。これは同種異色免疫でのin vitrolymphocyte cytotoxicity testの研究と関連してつづけたいと思っています。

《梅田報告》
 あけましておめでとうございます。
 昨年中は班の仕事として色々手がけてきたが、どうもぱっとした発癌実験が成功せず、急性毒性実験の結果のみで、小さくならざるを得ない様な感じで過ぎて了いました。今年度は胸をはって勝田先生の前に出れる様、是非共発癌実験を成功させたいと願っています。
昨年末、ラット肝のprimany monolayer cultureに各種発癌剤を投与して、長いのは6ケ月以上培養を続けているが、現在N-OH-AAF、4HAQO、Rubratoxin、その他、肝臓発癌剤の投与例のどれも旺盛な増殖を示していない。しかし長期培養するに従い、epithelialのpolygonal cell growthが次第にconstantになるが、controlでも同じ様であり、又、形態的にもpiling up等の変化を示すに至っていない。今年度も続けて之等の培養系を継代し細胞学的に検索を続けるつもりである。
 同じ様にハムスター胎児培養又は新生児肝の培養に、N-OH-AAF、4HAQO、Rubratoxin、トリプトファン代謝産物を投与して長期継代を続けているが、その方は9月30日より3HOA 2.5x10-4乗M mediumを3回changeして計7日間投与した例で、11月中旬より増殖がconstantになり、1週間に3〜5xの増殖率を示す様になった。12月1日に200万個cellsハムスターのcheekpouchに移植し、現在粟粒大の小粒が多数cheek pouchに見られる。この細胞系に関し、softagar等の検索を集中的に行う予定をたてている。その他の系は、controlと殆同じ増殖率を示し、一部の細胞のhamster cheek pouchへの戻し実験を行っているが、まだどうなるか不明である。

【勝田班月報・7002】
 培養内4NQO処理細胞の復元接種試験一覧:
 復元条件は生后1〜4日のJAR-1或はJAR-1xJAR-2のF1に、400万個〜800万個/ratで腹腔内接種した。(表を呈示) 処理数の多いほど、ラッテの生存日数が短くなるとは限らないことが判る。その他の復元試験中の株は、 
RLH-5・P3(無処理、対照にあたる):
生后6日のJAR-1・F33に1000万個宛2匹に復元、約10月経過、2例とも(-)。
Exp.#HQ-1(RLH-5・P3に4NQO 3.3x10-6乗M 30分1回処理):
生后3日のJAR-1・F34に500万個宛2匹に復元、現在約3ケ月、観察中。
Exp.#HQ-1B(上記HQ-1にさらに4NQO処理1回):
生后3日のJAR-1・F34に500万個宛2匹に復元、現在3ケ月、観察中。
Exp.#HQ-1:
生后3日のJAR-1・F36に1500万個宛2匹に復元(1970-2-2)、観察中。
RLT-6・P3(Exp.#CQ60):
生后3日のJAR-1・F34に1000万個1匹に復元(1970-2-2)、観察中。

《難波報告》
 N-12:4NQOによって悪性変異した細胞マーカーを探す試み
−旋回培養(gyratory culture)について−
従来、試験管内で4NQOによって悪性化した細胞のマーカーを検出すべく努力して来た。現在までの結果を簡単にまとめてみると、1)4NQO処理により発癌過程にある細胞では、発癌に近ずくにつれ変異集落の出現率が増加すること−月報6908、6910、2)4NQO感受性には、差の認められないこと−月報6912、3)その他、形態学的変化、増殖率、染色体分析の結果などを報告してきた。
 今回は、旋回培養法を用いた実験結果を報告する。細胞は4NQO非処理対照肝細胞(Exp.7)、その4NQO処理によって悪性化したもの(10-6乗Mで20回処理)、悪性化したものを復元して動物に生じた腫瘍(QT-2)の再培養細胞を用いた。培地はEagle's MEM+2%BSを使用し、100万個cells/mlを3mlの培地に浮游させビーカー中にまき込み、70rpmの旋回培養を行い、24、48時間後の細胞塊の直径を計測すると共に、細胞塊のパラフィン切片を作成し、組織構築性の有無を検討した。実験は3回行いほぼ同じ傾向を示す結果を得たが、最後の実験の結果を表に示した(表を呈示)。細胞塊は写真に撮理、同じ倍率で写真にとったobject micrometerで正確にaggregateのdiameterを算出した。それぞれの細胞塊の平均直径は、各場合20〜30コの直径の平均値である。
結論として云えることは:
1)対照細胞の細胞塊は3実験に於て常に一番小さいのに、腫瘍再培養細胞では常に大きな細胞塊を形成する。
 2)4NQOで試験管内で悪性化したものは、対照細胞に比べ一般に大きな細胞塊を形成すると共に興味あることは48時間後のものを観察すると少数ではあるが、腫瘍再培養細胞にみられる細胞塊と同程度の大きな細胞塊がみられる。これを拾い出して復元してその腫瘍性をチェックすれば面白いと思う。
 3)パラフィン切片によって肝臓としての組織構築がみられるかどうか検討したが、特別の構造はみられなかった。
 4)72時間培養した実験を行ったが変性細胞が多くなり良い結果は得られなかった。
 5)まとめとして、4NQO処理によって培養肝細胞が悪性化してゆくにつれて、旋回培養でみると、大きな細胞塊を形成する傾向を示すようになると云える。
 N-13:4NQOによって悪性変異した細胞のマーカーを探す試み−4NQO耐性について−
 月報6912に対照細胞と、4NQO処理細胞とについて4NQO感受性に差はないと報告した。その際は少数細胞をシャーレにまいて実験を行ったが、今回はシャーレへのまき込み細胞数を増した場合、細胞間に4NQOに対する感受性に差がみられるかどうかを検討した。まず、予備実験として、100万個、10万個、1万個、1000個の対照細胞を4NQO 10-6乗Mに含むEagle'sMEM+20%BSにまき込み1W後正常培地にかえ、さらに1W間培養してコロニー形成率をみたところ、100万個では細胞がガラス面一杯に増殖しており、10万個ではPEが0.08%であり、1万個、1000個では細胞コロニーはみられなかったので、実験はこの方法に準じた。即ち、細胞は上記N-12の3種のものを使用し、60mmのシャーレに10-6乗Mの濃度の4NQOを含む培地(5ml)中に10万個まき込みそのまま1週間培養後、4NQOを含まない培地で更に1週間培養し、そのPEをみた(PEは各系3枚のシャーレの平均値を求めた)。その結果対照細胞のPEは0.024%、4NQO処理悪性化細胞では0.012%、腫瘍再培養細胞では0%であった。以上のことより、細胞数を増しても4NQO処理群には4NQOに対する耐性獲得現象は認められないことが判った。 N-14:培養内で4NQO処理により癌化したラット肝細胞の
    動物復元で生じた腹水腫瘍の性状(続き)
 月報6911に、復元した細胞の歴史、腹水像、移植率、クロモゾーム、再培養像、4NQO耐性の有無については詳しく報告した。今回はこの腫瘍の組織像とG-6-Pase活性について報告する。 組織はPAS、ワンギーソン、アザンマロリー、鍍銀染色で更に詳しく検討し、病理小川教授診断を得る事が出来たので報告する。尚、診断には腹腔内に生じた固型腫瘍を主に用いた。 1.組織像
 1)QT-1:Undifferentiated liver cell carcinoma。 組織全体に亙って細胞の密な増殖があり、それらの腫瘍細胞の格は中等大で類円形を示し、一般にvesicularいみえ、クロマチン中等度で、小形の核小体がみられる。原形質はところによってsyncytial様にみえ不明瞭である。鍍銀では、2〜3コの上皮性の細胞が著明に増生した毛細血管に囲まれている。PASでは粘液の産生はみられず、わずかにPAS陽性の顆粒が散見される。
2)QT-2:Hepatocholangioma。 間質の増殖を伴わない腺管の形成がみられる部分と、密に細胞の増殖した部分がある。その後者の細胞はやや紡錘型で大小不同に富むが、全体の所見はQT-1に似る。
 2.G-6-Pase活性:Swanson,M.A.(1955)の方法で測定した。
 生後1月のラット肝:3.0。QT-1:0.6。QT-2:0。長期培養肝細胞(Exp.7系):0.07。
単位はμgPi/min/mgProteinで、QT-1、QT-2共に活性は殆んどなく、非常に未分化な肝癌と思われる。

《山田報告》
 本年初めよりtechnicianがやめたり、新しく免疫の基礎実験を始めたりしたため、思う様に研究が進まずに居ます。しかしどうやら、又少しづつ調子が出て来てゐます。
 HQ系の細胞の其の後の変化:
 前回報告しました様に4NQOを接触させた後、RLH5・P3の細胞の電気泳動パターンが少しづつ変化して来ましたが、今回の検査で更に変化して来て居ます。4NQOの接触後127日目の泳動パターンを図で示します(図を呈示)。これはtechnicianの手違いにより、シアリダーゼ処理の際にゆるく振盪したので、その作用が少し著明に出てゐるかもしれません。HQ-1、HQ-1B(2回4NQO接触)いづれも平均より10%以上泳動度がシアリダーゼ処理後低下してゐます。特に興味あることは、HQ-1Bの細胞構成が揃って来た事です。HQ-1については91日目に写真記録式泳動法により検査した結果でもかなりシアリダーゼに対する感受性が出て居ますので、単に処理時に振盪したためにその作用が強く出たためばかりではないと思って居ます(写真記録の成績は次号に報告します)。HQ-2はそれ程変って居ない様です。この変化が発癌とどう関係するか、後の復元成績の結果待ちですが、形態学的にもかなり大型の細胞が増加してゐます。この系は本来正常ラット肝細胞と形態学的にかなり違って居ますので、単に復元成績のみによる癌化の検出では不充分であり、免疫学的な検索を併用すべきと考へ現在この點について準備中です。
 同種移植法の血清内抗体産生の細胞電気泳動法による検索:
 さきに異種移植によって形成される抗体の細胞電気泳動法による検査成績を一部報告しましたが、今回は同種移植による抗体の検索の基礎実験を開始しました。同種抗体の場合は通常の方法では検出出来ず、表に示すごとくメヂウムに10mMのCaCl2を入れて検出すると抗体が検出されることが明らかになりました。(表を呈示)。これはラット腹水肝癌AH62Fを1000万個移植し、18日目に動脈血をとり、この血清を0.5mlに対しAH62F 1000万個 37℃10分接触させた場合と、この血清を56℃30分加温してそのなかの補体を非活性化した後に、同一条件でAH62Fと接触させた結果ですが、明らかに抗血清を接触させると電気泳動度が低下します。 (図を呈示)図に示すごとく、同種移植血清を作用させると、抗原の膜密度が低いために、そのままでは検索出来ないが、この抗原抗体反応に伴い表面の分子配列が変化するのか、或いは表面にあるシアル酸を始めとする多糖類が剥脱して、燐脂質の燐酸基が露出ために、カルシウム吸着性が増加するのではないかと考へて居ます。
 (同種移植後血清内抗体産生の検出:1及び2表とカルシウムメヂウム内のおける細胞表面の図を呈示)しかし表1の実験では、Antiserum中の自然抗体が吸収されて居ませんので、これを吸収した後に正常血清と対比して改めて実験してみた所、表2の成績を得ました。(条件は表1と同一)。明らかに自然抗体を吸収すると、比活性化した血清を作用させた場合の泳動値の低下が少く、そかも抗血清群はカルシウム吸着性が増加して居ます。正常血清を接触させても全くカルシウム吸着性が増加しません。従ってたしかに同種抗血清をこの方法で検出し得ることが確認されました。現在この抗血清を用いて、更に細かく反応条件やら、その感度等を検査して居ます。同種移植抗血清ですから、当然用いる細胞のageによって反応が違い、移植後末期の細胞を使用した場合はこの反応がすでに宿主内で起っており、その後の試験管内での抗血清の影響が明確に出ません。今の所3〜4日目の細胞が最も反応が良い様です。急いでこの基礎実験を完成したいと思っています。

《高木報告》
 今回は以前の班会議で紹介した高圧、常圧下における2〜3組織のorgan cultureについてこれまでん成績を報告する。
用いた組織はsuckling ratの膵、腎、肺で、培地は90%199+10%CSにPC-SMを加えたものである。培養法は、径3cmのpetri dishの中にstainless steel gridをおき、その上に重ねたlens paperの上に組織片をならべた。培地量は約4mlで組織片が浸潤されない程度とした。培養組織片の大きさは約1x2x2mm程度とし、1petri dishあたり12〜13片ずつとした。これまでの実験で培養温度は低い方が良い結果を示す場合もあったので、37℃、30℃につき検討した。高圧群のgas組成はO2 24%、CO2 2%、N2 74%とほぼ空気に近いもので絶対3気圧、常圧群は5% O2+空気で1気圧とした。次の3群につきこれまで実験を行った。
 1)37℃、1気圧、5% CO2+空気。
 2)30℃、1気圧、5%CO2+空気。
 3)30℃、3気圧、2%CO2+24%O2+74%N2。
 培養は9〜12日間にわたり行い、Bouin固定後、H&E染色を行い光顕で観察した。その結果、膵では37℃群にくらべて、30℃群の方が組織はより健常に保たれており、特に培養6日目以後には可成り明らかな差があった。高圧群と常圧群との比較では、高圧群にややcentral necrosisが少いように思われるが、きわだった違いはみられなかった。
腎では組織構造の維持の点でほぼ30℃高圧、30℃常圧、37℃常圧の順に良好な傾向がみられた。特に30℃高圧群では他群に比しcentral necrosisが少いことが特徴的であった。
肺でも大体30℃高圧、30℃常圧、37℃常圧の順によい結果がみられたが、この場合30℃高圧群において特に肺胞の構造がよく保たれていることが目立っていた。
これの綜括およびNG発癌実験については班会議で報告する。

《藤井報告》
 同種抗Culb血清
 昨年来JAR-2ラットをCulb cellsで頻回免疫注射をくり返してみましたが、ついに抗体を得ることができませんでした。
今回は、JAR-1ラット由来のCulb cellsをWistar King Aに注射(皮下)してみました。免疫注射はDMSOを10%にふくむCulb腹水を-90℃に保存しておき、注射時室温にもどし生食水で洗滌して赤血球を除き、500〜600万個cellsを腹壁皮下に、2〜3週おきに注射し、注射後8〜10日で、心穿刺により約5mlづつ採血しました。
抗血清の力価測定にはmixed hemadsorption法を用いました。方法の概要は次の通りです。 Indicator cells:ヒツジ赤血球(SRBC)の2%浮遊液を等量のラット抗-SRBC血清(赤血球凝集値200)と混じ、室温、1時間で感作します。抗-SRBCは1/200稀釋。溶液は以下すべてK+を0.02%ふくむベロナール緩衝液(K-GVB++)。感作血球を洗滌(1,000rpm、10分間)3回。2%浮游液にし、これに等容量のウサギ抗ラットγ-グロブリン血清1/1(沈降素値、20)に混じ、室温、90分間、振盪して2nd-coatingをおこないます。このSRBCを3回洗滌し、0.4%浮游液とします。
Mixed hemadsorption:小角培養ビンに1日培養したCulb-TC cellsを1回、K-GVB++で洗い、0.2mlの抗血清を注入、室温、1時間、ときどき揺りうごかす。反応後、細胞を充分量(3ml位)のK-GVB++で洗滌し、未反応の血清蛋白を除去する。
このあと新しく調整しておいた、上記のindicator cells(0.4%浮游液)0.5mlを加え、室温、1時間、ときどき軽く揺りながら反応させる。
反応後、tube内液を静かに捨て、新たにK-GVB++をtube1ぱいに充し、W栓を詰め、細胞の附着している底を上にして20分以上静置させ、未反応のSRBCを底よりはなし対側面に沈ませる。 Exp.011370
昨年の3月24日以来、頻回免疫してきたJAR-2ラット(Frll.A)と、9月22日以降5回注射したWKAラットの経時的に採血して得た各血清についてmixed hemadsorptionをおこなった。
(表を呈示)表1はその結果で、JAR-2はついにmixed hemadsorptionによっても抗体は検出できなかった。JAR-2はCulb細胞の由来したJAR-1系ラットのhybridであり、同種移植反応はおこらなかったと考えられる。WKAラットでは、ラットにより程度のちがいはあるが抗体価の上昇がみられる。
 (写真を呈示)写真1は、4+反応を示した(WKA(Fr16A)ラットの本年1月6日(010670)の血清)。写真2は抗血清なしの対照で、反応の程度は±である。
 Exp.012870
 ラット抗-Culb血清のCulb-TC、および培養内変異前の細胞RLC-10に対する反応。
 RLC-10細胞は、最近spontaneous transformationmをきたしたと報告されている。mixed hemadsorptionは平底の“micro disposo-tray"(Model IS-FB-96、Gateway International製)に1日培養したCulb-TCとRLC-10細胞についておこなった。抗血清稀釋、0.025ml、indicatorcellsは0.4%浮遊液0.05mlとし、感作方法、未反応赤血球の除去などは前記と同様である。
(表を呈示)成績は表2に示すように、各血清ともに、Culb-TCに対しては1:27稀釋まで陽性であるが(2+)、RLC-10に対しては1管あるいは2管の差で低い値がえられた。すなわち変異前の細胞はCulb抗原より、質、量のいづれかはまだわからないとして、少いことが示唆されたわけである。
 吸収血清についての実験成績は次回にまわします。
 次の段階として、抗Culb抗体、抗ラット(JAR-1)抗体、肝抗体(できれば抗RLC-10抗体)を、isotopeで標識し、そのCulb-TC細胞、RLC-10細胞への吸収、追加吸収を測定すれば定量的に、うまくいけば抗原の質的な違いも検討できるのないかと思っています。
紙面が余りますのでmixed hemadsorptionの反応のシェーマーをFagraeus,A.ら(1965)よりコピーしてのせます。なお使用した培養細胞は医科研癌細胞研よりお受けしたものです。
《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(18)
 細胞内に取込まれた4-NQOが直接DNA鎖切断に関与するか、それとも一度細胞内で4-HAQOにreduceされてから切断するかどうかの検定で、これまでTemp処理の細胞を4-NQOあるいは4-HAQOで処理することによって結論的にどうも4-HAQOの方がはるかに切断能の高いことを示してきたが、今回はこの点を更に確認するため以前と同様の実験方法によって処理する4-NQOの濃度を高めて行った実験結果を報告する。
 (図1、2を呈示)図1は、前回同様に1x10-5乗M 4-HAQOで30分間Ehrlichを処理した直後の、double strand DNAの顕著な切断を示す。ここで注意すべきことは、細胞の温度処理によってDNA自体が非常に高分子化するという現象である。従って4-HAQOはこの高分子化したDNAを切断したことになる。
 一方4-NQOは、前回より濃度を高めて1x10-5乗M 4-NQOで30分間細胞を処理してみた(前回は5.0x10-6乗Mを使用したが、この濃度での正常細胞の30分間処理は1x10-5乗M 4-HAQOで30分間処理した時に相当するdouble strand breaksを誘起することがこれまでの実験から確認されている)。結果を図2に示す。この図からわかるように、この濃度の4-NQOではややわづかではあるがbouble strand breaksを起こすことがわかる。しかしいずれにせよ、こうした実験結果からいえることは細胞内でDNA切断を積極的に誘起させるものは4-NQOそのものではなくて、どうも4-HAQOであるらしい。こうした結果は杉村らの実験結果ともよく一致するようである。尚話はこの問題から少しそれるが死細胞においては4-HAQOによって誘起されたDNA切断が再結合できるかどうかは現在検索中である。

《梅田報告》
 前回の班会議でふれたが、堀川、安藤両氏の行っている発癌剤投与后のDNA strand breakについて、私の今迄取扱ってきた系について調べている。まだ基礎的な点についてもつついているので、dataとしては少い。今回はN-OH-AAFをhamster embryonic cell、rat liver culture cell、rat lung culture cellに投与し、1時間作用させた後の結果について述べる。 予めH3-TdRでprelabellした上記細胞にN-OH-AAF、10-3.5乗M、10-4.0乗Mを1時間作用させた後、細胞をtrypsinizeしてはがし、alkaline sucrose gradientの上にのせ、1時間遠心后、管座より各fractionに分離し、各々のH3のcountを求めた。
 N-OH-AAF 10-4乗M投与時のhamster embryonic cellのH3のcountのpeakは、controlより2本のずれを示しているのに対し、rat liverでは5本、rat lungではずれを示していない。10-3.5乗M投与時(hamster embryonic cellは行っていない)、rat liverで4本、rat lungで2本のずれを示した。以上夫々の細胞でDNA strand breakに関して感受性に違いのあることが示された。
 但し、rat liverで10-3.5乗Mと10-4.0乗M投与で、濃度の高い方でずれが少なかった。 count値が多くなったり少なかったり、しているので、もっと実験条件の設定をはかったり、techniqueの上達をはからねばならない、と考えている。又、細胞に作用させた後、細胞をtrypsinizeしていたのでは時間もかかり、どんな変化を来すかわからないので、はがし難いmonolayer cultureでもrubber cleanerではがしても良いかどうか検討中である。
以上の様な実験で今私がN-OH-AAF投与后長期培養を続けている細胞のin vitro malignanttransformationの指標になればと願っている(図を呈示)。

《安藤報告》
 RLC-10細胞に対する4NQOの作用
 (1)DNAの一重鎖切断に対する4NQOの濃度効果
 4NQOによる二重鎖切断の細胞酵素系による修復現象について私の使っているL・P3と堀川さんの使っているEhrlichとLとの行動の違いが問題になっている所ですので、この点を再検討するための予備実験を行った。すなわち、L・P3、RLH-5・P3いずれも合成培地内継代細胞なので、他の細胞の要求する血清成分をも自ら合成するし、又二重鎖の切断をも修復するという超自然的(?)能力をも獲得したかも知れない。そこで、勝田班長の使ってこられたRLC-10細胞について、同様の事が観察されるか否かを調べてみる事にした。今回はRLC-10細胞DNAの一重鎖切断に対する4NQOの濃度効果を調べた。そして、一重鎖切断の再結合が起るか否かを検討した。(図を呈示)第1図にあるように、この細胞のDNAも4NQOに対して感受性であり、濃度を上げるにしたがって切断数も増していた。したがって培地中の血清の有無は、この限りにおいては影響を与えていないように思われる。
 (2)次に4NQO濃度を3x10-6乗M一点を選び、切断されたDNAが再結合されるか否かを検討した。(図を呈示)結果は第2図にあるように、コントロールは遠心管の底に沈み、4NQO処理直後には相当の分解を示した。この処理細胞を3時間回復培養をした後に分析してみると、3)にあるように確かに回復はしているのが明らかにわかるが、回復は不完全であった。しかも再結合されたDNAの大きさは対照よりも小さいように思われた。念のため、全く同様な実験を行ったのが第3図に示してある(図を呈示)。但し回復培養の時間を5時間としたが、殆ど同様の結果であった。これ等の結果からL・P3、RLH-5・P3の結果と比較して次の事が云えそうだ。
 1)RLC-10細胞は4NQOのより低い濃度でL・P3とcomparableな切断のpatternを示す事から、L・P3より4NQOに対する感受性がやや高いようだ。
 2)一重鎖切断が回復培養で再結合されたDNAは未処理DNAよりも小さいようだ。
 なお、堀川さんよりLの金沢lineをいただきましたので、この細胞について今後再検討を進めたいと思っております。

【勝田班月報:7003:抗原抗体反応による細胞膜の変化】
《勝田報告》
 A)ラッテ肝の4NQO処理による変異株(RLT-1〜5)及びその対照株(RLC-10)のラッテへの復元成績:
 (各実験系の結果図を呈示)これらの結果は、4NQOによる処理回数が多いからといって、復元接種後の生存日数が必ずしも短くはならない、ということを示唆している。(表現をかえれば、頻回に処理しても、必ずしも細胞の悪性度が高まるとは限らぬ、という結果である。
 対照群は、初めの内は復元成績は陰性であったが、その内自然発癌してしまい、A系列とB系列は陽性となってしまった。但しその時点は処理群よりもおくれている。
 これらの悪性化系の内では、RLT-1株が最高の腫瘍性を示し、山田班員の検索結果と非常に一致していた。
 B)若い培養系の4NQO処理:
 上記のようにRLC-10株が自然発癌してしまったので、以後はこの株を用いず、若い、まだ株化には至らぬ肝細胞系を用いた。この場合、ラッテはまだ完全には純系化されていないJAR-2系を用いたので、系の名称にはRとLの間に“2”をはさんである。
 (1)R2LC-1(JAR-2、F11生後4日♀)
 培養継代第2代(総培養日数87日)に4NQO(3.3x10-6乗M、30分、1回)の処理をおこない(1969-10-12)、2月12日現在で113日経過しており、TD-40瓶1本であるが、細胞の増殖を待っているところである。
 (2)R2LC-2(JAR-2、F11、生後4日♀)
 継代第2代(総培養日数71日)に上記と同様の4NQO処理をほどこし、現在123日経過。TD-40瓶1本。これも増殖待ちである。
 (3)R2SC-1(JAR-2、F11、生後4日♀、皮下センイ芽細胞)
 継代第2代(総培養日数71日)に上記と同様の4NQO処理をほどこし、現在123日経過。TD-40瓶1本。目下増殖待ち。
 C)RLH-5・P3株の4NQO処理:
 この株はラッテ(JAR-1)肝由来で“なぎさ”で変異し、純合成培地内で継代されている亜株である。
 Ex0.#HQ-1
 3.3x10-6乗Mの4NQOで30分間処理し、現在154日経過している。
 復元接種試験は#HQ-1:処理50日後に復元:104日経過で?/2、144日経過は1,500万個/ratに接種し9日後に親に食われてしまったので結果不明。
 対照:無処理RLH-5・P3は302日経過し0/2。

 :質疑応答:
[佐藤]班長の所で自然発癌が1例出来てくれて、ヤレヤレ大安心ですよ。これで私の所の自然発癌がウィルスのためだと言われなくてすむでしょう。
[勝田]まだまだ・・・。岡山のウィルスの疑いは消えていませんよ。・・笑・・
[佐藤]私の所のデータでも4NQOを数多く処理すると細胞質に空胞や脂肪胞が多くなって、動物への復元成績が悪くなるようです。
[勝田]4NQO1回処理の場合、処理後培養を継続すると、処理された時変異した細胞がポピュレーションとして増えるのではないかと思います。それが何度も処理をくり返すと、その増え始めている変異細胞集団を叩いてしまう結果になるのではないでしょうか。
[佐藤]4NQOとDABとでは癌化の過程が大変違っているようですね。4NQOは1度処理しただけでもその後、悪性が進行するようですが、DABは変異した状態が割に安定していて、再処理によってその悪性度がcumulativeに増えてゆくのではないでしょうか。
[勝田]動物実験でも4NQOは1回の接種で癌を作ることが出来るが、DABは長期間与えなければなりませんね。ということはDAB発癌では発癌剤が或る程度、細胞内に蓄積されることが必要なのでしょうか。
[吉田]4NQOは直接にDNAに影響を与えますから、放射線に似た作用を持つと言えますね。アゾ色素にはそういう作用はないとされていますから、培養細胞に対する作用の違いは理に適っているようですね。
[山田]4NQO処理の追い打ちをかけた場合、復元成績からみると確かに動物の生存日数は長くなっていて、その点からみると悪性度は増していないように見えます。しかし接種した細胞の全部が悪性化しているのではない場合、3カ月とか4カ月とかの長期間かかって死んでいることから考えて、あまりはっきりした判定は下せないのではないでしょうか。少なくとも、細胞電気泳動のデータからみると集団としては悪性度の強いものが4NQO処理を重ねることによって増えてきます。
[勝田]4NQO処理によって少数の変異細胞が出来、徐々に変化がすすむので、動物にtakeされるようになるのか、又は少数の悪性化した細胞が出来、それが集団として増殖して動物にtakeされるようになるのか・・・。これはこれからの問題ですね。4NQO処理後の初期に軟寒天で変異細胞を拾うとか、細胞電気泳動で泳動値の異なるものを拾うとか方法を考えなくてはなりませんね。それから高木班員の宿題にしたと思いますが、悪性化した細胞に正常細胞を混ぜて復元すると、どういう結果になるか知りたいですね。
[高木]その実験は試みたのですが、実は正常細胞として混ぜたものが、自然発癌していたことが判って、全く無意味なことになってしまいました。・・笑・・
[佐藤]DAB処理の実験の場合は経時的にコロニーを拾って復元しておけば、うまくゆけばtakeされるコロニーとtakeされないコロニーとをはっきりさせられると思います。しかし4NQO処理では処理後早いうちにコロニーを拾ったとしても、クローンの増殖を待つ間に悪性化が進んでしまうから駄目ですね。
[山田]4NQOの毒性をうんと減らして、セレクションの可能性を低くする事を考えてみたらどうでしょう。
[勝田]マルチフォーカスかモノフォーカスかということを確かめる方法を考えてみたいですね。
[吉田]なるべく短期間に変異し、また変異までの期間も大体一定という系がほしいですね。しかし期間は一定にならないようですね。
[勝田]変異細胞の出現までの期間が、まちまちだということは変異説にとって有力なデータですね。それからかなり難しいことだとは思いますが、発癌剤の爪アトを見つけることも大切なことだと思います。
[佐藤]DAB発癌の実験で自然発癌の細胞とDABで発癌した細胞との間に、DABの消費について量的に違いがあるようです。動物にDABを与えて出来た肝癌もそうですが、組織培養で長期間DABを添加して出来た肝癌はDABを消費しなくなります。自然発癌の系はDABを消費します。
[吉田]それは癌と関係があるかどうか判りませんよ。耐性の問題かも知れません。
[勝田]それもこれからの問題ですね。

《山田報告》
 前回報告しましたごとく、抗原抗体反応によって惹起される細胞膜の表面の変化を、カルシウムイオン細胞表面吸着性の増減により検索しています。すなわちその基礎実験としてラット腹水肝癌AH62Fをドンリューラットに1,000万個I.P.に移植し、18日目に大動脈より採血、この血清中に産生されてゐる同種移植抗体を抗原細胞(AH62F)に種々の条件で反応させ、その細胞膜の変化をカルシウムを含むメヂウム内での電気泳動度の測定により検索してゐます。その二、三の成績は既に前報に書きましたが、改めて測定の標準誤差を附した表を示します。
 この実験を含めて、以後すべての実験の対照としてaliquotの血清を温度処理したものを用いてゐます。即ち56℃30分温度処理により血清中に含まれる補体を非働化したものを対照としたわけです。補体はすべて正常ラット血清を0℃で3回AH62Fを加へて自然抗体を吸着した後のものを使用しています。
 結果はメヂウム内にカルシウムを加へると細胞膜の変化がより明確に検索出来ます。
 Antiserumによって細胞表面へのカルシウム吸着性が増加します。
 今回は更にpilotの実験を幾つか行いました。その成績を報告します。
 抗原抗体反応に於ける補体量:
 まず反応時の抗体量と表面の変化(カルシウム吸着性)との関係を検索したいのですが、抗血清中に含まれる補体量を簡単に検査出来ないので、その前に抗体を一定(血清0.5ml)にして補体量の増加に伴う細胞表面の吸着性の変化をしらべてみました。
 (図を呈示)反応時の補体量の増加と共に、カルシウム吸着性が増し、活性の抗血清を加へた細胞電気泳動度は著明に低下しました。しかし非活性化した血清を加えた際も、その量の多少により泳動度は変化し、非特異的蛋白の細胞表面への吸着も一部にはあるものと思われます。
 抗血清のSpecificity:
 この抗AH62F血清のAH62Fに対する特異反応性を検索する意味で、同種のラット腹水肝癌AH414と抗AH62F血清との反応を検索してみました。AH414はAH62Fと同様な発生起源を持ち、同様に単離状にラットの腹腔内で増殖する移植性の腹水肝癌細胞です。抗AH62F血清によりAH414細胞のカルシウム吸着性は全く増加せず、抗原であるAH62Fに対してはカルシウムの吸着を増加させています。この実験ではcomplementは加へてありませんので、カルシウム吸着の増加は前実験程大きくはありません。この成績で考へられるのは、AH414の泳動度の測定誤差がAH62Fのそれより大きいのですが、既に以前に充分なる検索の結果、AH414の泳動度のバラツキがAH62Fのそれにくらべて極めて大きいことが判明していますので、免疫血清の影響がその測定誤差にひびいて居るとは思えません(実験毎に表を呈示)。
 Bovine albumine-Antiserum Complexによる補体の吸収:
 温度処理による補体の非活性化が果たして完全なものか、或いはこの処理により抗体までも非活性化しているか?と云う事を検索する意味で、補体をBovine albumine-Antiserum Complexにより吸収した抗AH62F血清の影響をしらべてみました。これはablumineに対する抗体をモルモットに作らせ、その抗体にalbumineを結合させたものを(固体)、0℃の条件で抗AH62F血清に混合して補体を吸収させ、直ちに遠沈してこのComplexを除いたものです。結果は、Bovine albumine-Antiserum Complexの方が温度処理にくらべて完全に補体を吸収する様です。少くとも温度の処理により抗体を非活性化することはない様です。またこの実験に用いた細胞の色素透過性をニグロシンにより検索した所、いづれの細胞も全く染らず、従ってこの細胞電気泳動法による検索は所謂intoxication testより精度が良ささうです。
 これら実験はすべてpilotですので、改めて細かく基礎実験を行ひ、この方法の精度、及び他の方法との比較についてしらべてみたいと思ってゐます。
 4NQO処理後のRLH-5・P3株(HQ系)の其の後の変化:
 前報にRLH-5・P3株が4NQO処理後徐々に変化し、殊に前回はシアリダーゼに対する感受性が増加して来たことを報告しましたが、処理後91日目に写真記録式細胞電気泳動法により検索した結果でも、その変化は著明です。一般に大型細胞が増加して居ます。しかしシアリダーゼの感受性の増加が特定の大きさの細胞のみに出現すると云うCQ系のごとき変化はない様です。従ってCQ系のごとく直ちにこの変化を悪性化に結びつけるべきか否か?解りません。
 この細胞系の変化を抗原性の面からも調べてみました。まだ基礎実験が固っていないので、ほんの試みにすぎないのですが、RLH-5そのものの抗原性が本来のラット肝細胞とかなり異ってゐるのではないかと云う興味もあるので検索してみました。方法としては対照細胞であるRLH-5・P3(元来JAR-1ラット由来)を1,000万個JAR-2の皮下へ移植して18日目に採血された(医科研)ものを貰ひ、RLH-5・P3及びその変異株HQ1、HQ1Bに反応させてみました。(抗血清0.5ml、補体0.1mlに対し各細胞200〜300万個、37℃10分接触)
 その結果をみますと、いづれの細胞もactiveな抗血清の作用により強く反応し、あたかも異種抗血清を反応させた様な形態を示しました。しかし計算してみると抗血清による細胞のカルシウム吸着性の増加は抗原細胞であるRLH-5・P3と、HQ-1との間に差がないか、或ひは後者に大きく、HQ-1Bのみが若干カルシウム吸着性の増加が少く抗原性が異ると云う結果が得られました。しかしこの結果はなほroughなもので、更に細かく分析する必要があり、決定的な成績とは云へませんが、どうやらRLH-5・P3の抗原性はJAR-2とは異ると云うことは云へさうです。この成績を手がかりとして、これから発癌に伴う抗原性の変化も徐々に検索して行きたいと思っています。

 :質疑応答:
[難波]酵素処理で細胞はばらばらになりませんか。又死ぬ細胞はありませんか。
[山田]ばらばらになったり、死んだりする細胞はありません。それからシアリダーゼ処理で荷電がおちるということが、シアル酸の減少と、ダイレクトに言えるかどうか判りませんね。
[難波]細胞膜だけを分離して泳動度をみるとか、核だけにして泳動度をみるとかは出来ませんか。
[山田]膜の分離というのは複雑な操作が必要で、むつかしいですね。裸核のデータは持ってはいますが、裸核にするまでの操作が泳動度に大変影響します。
[藤井]同種抗体の影響は抗体の濃度を変えると、どうなりますか。
[山田]まだ、詳しいデータは持っていません。
[藤井]RLH-5・P3の抗血清はどうやって作りましたか。
[高岡]RLH-5・P3はJAR-1から出来た系なので、JAR-2の腹腔内へ1,000万個/rat生きたままで接種しました。
[藤井]CulbはJAR-2にもついてしまいます。ウィスター系ならすぐ抗体が出来るのですが、同じJAR-1から出来た系でもなぎさ変異の細胞は抗原性が違うようですね。
抗原抗体反応の感度を細胞電気泳動法と従来の色んな方法と比べてみてどうですか。
[山田]トリパン青による生死判別でのデータよりはずっと感度が高いです。
自然抗体を吸収するのはどうすればよいでしょうか。
[藤井]RLH-5・P3の出来た系−JAR-1のラッテ肝で吸収するのがよいでしょう。
[吉田]マウスではH2抗原で系特異抗原がずい分調べられていますが、ラッテについてはあまりデータがありませんね。この方法で調べられませんか。
[山田]間接的には調べられると思います。

《難波報告》
 N-15:4NQOによるラット胎児培養細胞の癌化に、4NQOの処理回数が重要なのか、培養日数が必要なのかを検討
 これまで、私共のところでのラット培養細胞を4NQOで癌化させる実験では、細胞を10-6乗M4NQOで頻回に処理しなければ発癌しなかった。即ち、未株化全胎児、肺細胞の場合は最低20回、株化した肝細胞を使用した場合は最低5回の処理をしなければ細胞は癌化しなかった。
 今回は、全胎児培養細胞(RE-7)を使用して、細胞の癌化に4NQOの処理回数が効いたのか、処理はそれほど必要でなく培養日数を重ねることの方が重要であったのか、の2点を検討したので報告する。(図を呈示)9、12、15、20回4NQO処理当時の復元では造腫瘍性のなかった細胞を、更に培養を続け培養216〜226日目にそれぞれの細胞を復元した。なお、この系では4NQO処理24回培養165日のものを復元すると、進行性の増殖を示す可移植性の腫瘤の形成が認められている。
 結果は9回、12回処理のものは造腫瘍性がなく、15回のものでは3匹中1匹に復元後2カ月後に接種部位の皮下に母指頭大の腫瘤の形成があるが、現在6カ月後腫瘍は退縮の傾向を示している。20回処理のものでは1/2に動物は腫瘍死した。以上のことから結論されることは、私共の発癌実験系では細胞の癌化に4NQOの処理回数が効いていることが判る。培養細胞の癌化の機構を考える場合、発癌剤を頻回に処理したのでは、その機構を解析する際複雑になるので、今後は発癌剤の処理回数を少くするよう努力したいと考えている。
更に、以上の現象を、4NQO処理回数を増し、細胞が癌化に近づくにつれ、変異集落の出現がどの様になるかを検討した。(表を呈示)結論されることは
 1)集落形成率は4NQO処理によりやや上昇する傾向にある。
 2)細胞の造腫瘍性と変異集落の出現とはよく一致している。の2点である。
 では、はたして変異集落は造腫瘍性を有する細胞よりなるかどうかが問題になる。そこで変異集落の腫瘍性の有無を検討した。4NQO処理24回の培養細胞より5コの変異集落をクローニングして動物に復元した。復元に使用した動物は、生後2日目の新生仔ラットを使用し、各集落細胞の悪性度を比較するために、C-3以外は同腹のラットを使用した。その成績(表を呈示)から結論されることは
 1)変異集落を形成する細胞に造腫瘍性があることが明白になった。
 2)平均生存日数から各変異集落間には悪性度に差異がある。
以上のことから、間葉性由来と思われる細胞を使用して、発癌実験を行う場合、変異集落の出現破砕棒の癌化の指標になると考えられる。

 :質疑応答:
[吉田]クロンの復元についてですが、もとの培養が悪性化したことが判ってからコロニーを拾ったのですか。それとも悪性化以前に拾ったのですか。
[難波]悪性化していることが判ってからです。
[勝田]軟寒天で拾ったのですか。
[難波]液体培地です。カップ法で拾いました。
[山田]細胞集塊の実験についてですが、細胞集塊の出来ることをどう考えますか。
[佐藤]どうして出来るのかは判りません。実験的にみて胎児の細胞は旋回培養で細胞集塊を作ります。成ラッテの肝細胞では細胞集塊は出来ません。そして悪性化したラッテの肝細胞も細胞集塊を作ります。悪性化ということが未分化とつながるのかとも考えています。細胞集塊を作らせ、その組織像をみることによって、悪性化の過程を追えるかと考えて始めた仕事です。
それから、胎児から出発したデータと、あとの肝細胞のクロンから出発したデータを混同しないで理解して頂きたい。クロンは株になったものから拾っています。もっと若い培養からクロンを拾いたいと努力していますが、難しいですね。
[勝田]4NQO処理のあとの形態異常は必ずしも発癌剤のせいと言えないのではないでしょうか。増殖障害に伴うごく一般的な所見のようです。
[高岡]クロン化してからの染色体数のバラツキが大きすぎるように思いますが、1コの細胞から出発しても結局あんなにバラツイてしまうのは何故でしょうか。
[佐藤]細胞自体のせいか、培地のせいか判りませんね。例えばエールリッヒの株などは、少数細胞をまいて100%コロニーが出来ます。そしてそれぞれ染色体数の違う、又きれいなピークを持ったクロンがとれるのです。それから継代法によっても細胞の性質の安定度が変わりますね。

《安藤報告》
 4NQOによるL・P3細胞DNAの“二重鎖切断”の再結合について。
 昨年来報告して来たようにL・P3、RLH-5・P3のDNAの4NQOによる二重鎖切断は回復培養によって再結合される。一方、堀川班員によるとEhrlich、Lいずれを使っても再結合はされないという。そこで現在この点の矛盾を解くべく実験を行っているが、先ず今回はL・P3細胞での結果の再確認実験の結果を述べる。
 (図を呈示)4NQO 10-5乗M、30分処理直後にはDNAはトップから1/3に来ているが、回復培養24時間後には再びボトム近く迄移動し、大きなDNAに再結合している事がわかる。なおこの再結合の程度は少しずつ実験によって異るが、再結合が起る事は確実である。但しこの再結合が厳密な意味でDNAのデオキシリボース、リン酸結合の再結合であるか否かについては目下検討中である。

 :質疑応答:
[勝田]4NQO処理によるDNAの切れ方は、何時も同じ大きさに切れますか。
[安藤]何回か同じ実験をくり返しましたが、大体一定の分子量に切れるようです。
[勝田]同じ方法で何回もくり返すだけでなく、別の方法も使って確かに何時も同じ大きさに切れるのかどうか、確かめてほしいですね。
[吉田]4NQOはDNAを切っているのでしょうか。それともリンカーのような物を取り除いているのでしょうか。あんなに、きれいにピークを作るという事は、でたらめでない切れ方をしているのでしょうね。4NQOの濃度を変えると切れる大きさは違ってきますか。
[安藤]違ってきます。
[佐藤]4NQOの濃度を上げると切れ方が小さくなる訳ですね。そこは判りますが、次に回復出来なくなる限度があるなずですね。この実験法でそこが判ると、悪性化の一番効率のよい濃度を知る事が出来るのではないでしょうか。
[吉田]DNAが出来るだけ小さく切断されて、しかも修復の出来る可能性もあるという濃度ですね。
[安藤]しらべてみる必要がありますね。
[吉田]処理後、24時間の分析は、細胞の一部がこわれ一部は増殖しているという状態のものについて、調べているのではありませんか。
[安藤]顕微鏡で調べたところでは、こわれた細胞は見当たりませんでしたが。
[佐藤]DNAに4NQOが結合したような形の場合、4NQOはDNAの修復の障害にはならないものと考えますか。
[安藤]DNAの修復そのものには障害にならないかも知れませんか、それが次々とサイクルをまわるにつれて変異の原因になるかも知れません。
[吉田]4NQO処理によって切断されたDNAの二重鎖が、24時間培養すると再結合してもとの大きさ近くになるということは判りましたが、もう1サイクル分位追ってみないと、その先細胞がどうなるかということは判りませんね。
[勝田]それから堀川班員とのデータの違いを解明するには、L・P3を血清培地で培養して、4NQO処理をしてみれば良いのではありませんか。

《高木報告》
 1.NG発癌実験系 NG-11の対照細胞の自然発癌について:
 NG-11、1968年4月2日に生後3日目のWKA rat肺をprimary cultureし、以後NGを2時間ずつ7回作用させた処理群と対照群とに分けて継代して来たもので、最終処理後288日目にWKA newborn ratに200万個細胞を接種して、95〜130日のlatent periodをもって3/3に腫瘤を生じた系である。
 以後この系の復元実験ではすべて100万個細胞をWKA newborn ratの皮下に接種した。
 対照細胞は継代を重ね、培養開始後289日目、32代、および318日目、36代でそれぞれ復元したが、0/1、0/3でいずれも腫瘤を生じなかった。その後、430日目、52代にNGの再現実験を行うべく、この対照細胞の一部を継代し、3日後、NG 10-4乗Mで2時間細胞を処理し、処理および対照群と分けて継代を続けた。(NG-21) 535日目にはさらに再現実験を行うべく対照細胞を継代し、その一部を同様NGで処理した。(NG-22)
 1969年9月30日、NG-21の処理細胞の腫瘍性発現を検すべく、4匹に復元したところ1/4に腫瘤を生じた。しかし同時に培養開始後546日目に復元した対照細胞も1/2に腫瘤を生じた。ここで、はじめてNG-11系の対照細胞の自然発癌に気付いた訳である。このNG-21の処理細胞は、さらに37日後の11月6日にも復元したが、0/2で未だ腫瘤の発生をみない。一方同時に、すなわち培養開始後583日目に復元した対照細胞は、1/2に腫瘍を作っている。また自然発癌がおこる以前と思われる535日目に継代し、3日後にNG処理した細胞(NG-22)は処理後65日目の11月26日に行った復元実験成績では、今日までのところ0/4で腫瘤を生じていない。
 なおこれら3系列の細胞の間に形態学的差異は認められない。私共の研究室で、rat細胞の自然発癌をみたのははじめてである。当研究室ではvirusは扱っていないが、その可能性も一応考慮して検討しなければならないと思う。
 次に復元実験と大体平行して行ったsoft agarの実験で、これら細胞の間に興味ある知見がえられた。すなわち対照細胞では自然発癌がおこる以前と思われる培養開始後430日目および458日目ではCFEはそれぞれ0.02%、0.08%であり、おこった後の611日目でも0.08%と差程の違いはみられなかったが、6月10日にNG処理したNG-21では、処理後24日目には0.24%、158日目(培養開始後616日)には2.4%と漸次CFEは上昇の傾向を示し、また9月22日に処理したNG-22でも処理後65日目(培養開始後603日目)には3.5%と明らかなCFEの上昇をしめした。
 soft agar内に作ったcolonyの大きさは対照群ではすべて割に大きく、処理細胞のそれは小さく、やっと肉眼で見える程度であった。さらに経過を追って検討の予定である。
 2.Argan culture−培養条件の検討
 2-3の組織につき、温度をかえ、気圧をかえ、ガス組成をかえて培養条件を検討中である。その一部は先の月報で報告したが、班会議では各条件下の組織の状況をスライドで供覧し、御批判をあおぎたい。

 :質疑応答:
[梅田]器官培養用の組織は、どういう方法で薄切りにしていますか。
[高木]マイクロチョッパーという道具を使っています。
[勝田]チョッピングの場合の培養法は・・・。
[高木]普通の器官培養と同じように培養しています。
[勝田]圧をかけるにはどうしていますか。
[高木]三春製作所に特別に作らせました。高圧滅菌器のような構造のものを使っています。
[藤井]高圧がよいのは、組織片の中まで培地や気層が滲みこむためですか。
[高木]そうでしょうね。
[難波]温度の低い法がよいのは、代謝が低くなるからでしょうか。
[高木]そうだろうと思っています。インシュリン産生が低温の場合どうなのか調べてみたいと思っています。

《梅田報告》
 目下培養中の長期継代例をまとめて累積増殖カーブを画いて比較したので、それについて述べる。
 (I)(実験番号T#150)培養開始1969年5月31日。
 ラット(JAR-2)生後3日目の肝を細切し、6cmシャーレに移植片として植えついだ。初代の増殖は良好で9日後の6月6日に継代。その後変性していく細胞があり、継代は79日後の8月27日更に65日後の10月31日に行った。その頃より多角形でやや細長い細胞の増殖が安定して認められる様になり、2週間毎に約2〜3.5xの増殖を示す。染色標本、位相差顕微鏡写真で観察すると、細胞質がひろがった多角形細胞で、核は丸く、時に細長い細胞である。累積カーブとして(実験毎に図を呈示)初代だけ細胞数が不正確なので、2代目のものから累積すると、4〜5代目(200日)頃より増殖がやや早くなっていることがわかる。
 (II)(実験番号T#170)培養開始は1969年7月26日。
JAR-1とJAR-2のF1の♀、生後3日目の肺をトリプシン処理して植えたもので、初代は8月4日、9日後に継代出来た。その後一進一退の増殖を示し、11月20日108日後にやっと継代出来る程度になった。しかし、その後の増殖は非常に急速で、10日で5倍近くの増殖率である。形態的には、上皮性の細胞を繊維芽細胞様の細胞群がとりまいて境している様な感じを与える。上皮性の細胞は肝培養細胞から得られた細胞群と良く似ている。累積カーブで見ると培養150日目より急激な増殖を示す様になったことが歴然とわかる。
 (III)(実験番号T#186)1969年8月23日に生後2日の♂、JAR-2ラットの肝をいつもの如くトリプシン処理、スプラーゼ処理した単層培養を開始した。3日後からN-OH-AAF 2.5x10-5乗M培地に変え、更に3日後無処理培地に戻した。その後、無処理培地でずっと培地交新を行っていたが、増殖は一進一退で118日後の12月22日に初めて継代可能になった。その後の増殖は急速で、2週間で5倍以上の増殖率を示す。形態的には多角形の細胞で占められている。
 (IV)(実験番号T#194)1969年9月8日、生後4日目♂のラット肝(JAR-2)からいちもの如く単層培養を開始した。3日後9月11日に4HAQO 10-5乗M培地に変え、2日後に障害がかなり強く認められたので正常培地に戻した。以後正常培地で培地交新を行っているが、11月20日第1回のpass、12月30日に第2回のpassが可能になり、その後かなりconstantな増殖を示している。2W間で約3倍の増殖率である。これに対しコントロールは12月9日似第1回のpassが可能になり、更に本年2月5日に3代目のpassを行った。累積カーブはtreatedとcontrolとで極端な増殖率の差が認められる。形態的には処理群は多角形の細胞で占められているが、コントロール群はfibroblasticな細胞が主体をなしている。
 (V)(実験番号N#29)ハムスター胎児細胞に3HOA 10-3.6乗M培地で2日毎3回、培地交新を行い、その後無処理培地で継代を続けている系が、累積カーブでわかる様にコントロールと明らかな増殖率の差が現れてきた。
 処理群は始めやや増殖が遅かったのに2代目よりconstantになったのに対し、コントロールは50日頃より一進一退の増殖を示す様になった。途中でハムスターの頬袋に注入して、移植性を獲得しているかどうか見ているが、今の所腫瘍発生は認められない。形態的には処理群は、やや小型でfibroblastic→polygonalの移行型の様な形をとっているが、コントロールは、細胞質の先がみだれた、ひろがったfibroblastic細胞である。
 以上の様な細胞質について以後、cloning、生物学的性状の検討、無処理細胞には更に発癌剤投与を行っている計画をたて、実行に移った段階である。
 (VI)ラット肝のprimary cultureにDAB、N-OH-AAFを投与すると肝実質細胞に特異的な脂肪変性の生ずることは、今迄度々述べてきた。更にLuteoskyrin、含塩素ペプタイド、Aflatoxinの様な肝障害を来すと同時にhepatocarcinogenic mycotoxinsでも脂肪変性が、肝実質細胞に強く起ることも述べた。
 今回は更にRubratoxin(Pen.purpurogenineからとれたhepato-and nephrotoxicであり、更にproliferating cell damegeも惹起する)。Penicillic acid(かなり広範に存在するmycotoxinでmitotic stageでとめる作用がある。hepatotoxicityはない)。Patulin(Asp.ochracene等かなり広範に存在するMycotoxin)で非常に強い毒性をもつ)について検討を加えた。(表を呈示)その結果から少くともhepatotoxic specificの物質は肝実質細胞が特異的に侵されることがわかる。Rubratoxinはhepatotoxicでもあるがproliferating cellにもtoxicなので障害性は各種細胞によって差が出ていない。

 :質疑応答:
[安藤]ペニシリックアシドとはどういうものですか。
[梅田]ペニシリンの分解産物といったものと関係があるもののようです。
[高岡]株化したものの染色体数はわかっていますか。
[梅田]染色体やダブリングタイムについて、これからしらべる予定です。

《藤井報告》
 Mixed hemadsorption法によるCulb-TCとRLC-10細胞の抗原差の検定;吸収抗血清による反応。
 前回の月報で、WKAラットにCulb細胞を接種して得た同種抗血清でmixed hemadsorptionをおこなって、Culb-TC細胞がその変異前の株であるRLC-10より有意に強い反応を示したことを報告した。
 今回は、ラット抗Culb血清(WKA)を、Culb腫瘍細胞の由来したJAR-1系ラットの肝細胞で吸収し、吸収後なおCulb細胞に反応する抗体が残っているかどうかをしらべた。
 抗血清の吸収:WKAラット抗Culb血清(Fr16A)、0.3mlにあらかじめ冷しておいた(氷水中)洗滌ラット肝細胞(packed cells)0.15mlを加え、0℃、60分間、ときどき揺りながら反応させ、その後遠心して(2,500rpm、30分間)得た上清を吸収血清とした。
 Mixed hemadsorption(Exp.012870):抗血清が少いのでマイクロ法を用いた。microdisposo-trayに1日培養したCulb-TCとRLC-10について、前号に記した方法でmixed hemadsorption(MHA)をおこなった。
 (表を呈示)成績は、Culb-TC細胞を標的細胞とする成績は、抗血清を正常ラット肝で吸収しても、吸収前の抗血清とほぼ同程度のMHA反応を示している。一方、RLC-10細胞を標的細胞とすると、抗血清、1/3、1/9稀釋のいづれにおいてもMHA反応の低下がみられた。すなわち、ラット抗Culb抗体(群)には、正常ラット肝組織では吸収されない抗Culb抗体のふくまれていることが示唆される。
 RLC-10細胞に対する反応が、抗血清の吸収後にもなお残っていることには、次の2つの理由が考えられる。1つは、すでに勝田教授から報告があったように、この株はspontaneous transformationをきたしており、正常ラット肝組織で吸収されにくい抗原をもっているかもしれないこと。もう一つの説明は吸収が、上記の0℃、60分館では不充分であり、特に反応後の遠心が2,500rpm、30分間であることは、溶解細胞片が除去できていない可能性がつよい。(写真を呈示)吸収血清でのMHAでは、indicator red cellsが標的細胞の無いガラス面に附着していることが多く、反応の読みを妨げる、これは抗体を結合した溶解細胞片がガラス面や細胞に附着しその上にMHA-反応がおこった可能性がつよい。
 以上の成績や、同種抗Culb血清で示唆された抗Culb-TC、RLC-10細胞の反応の強弱、異種抗Culb血清で示唆された抗Culb抗体の存在などは、未だなお決定的ではないが、in vitro chemically induced malignanciesの抗原を示すものである。
 今回の実験で、抗Culb血清のCulb細胞による吸収も試みたが、用いたCulb細胞は凍結保存していたもので、吸収操作後も細胞溶解が強く抗原を除くことが不充分であったので、除外した。同種抗血清の量が少く、吸収後の超遠心ができなかったが、この点の検討と、同種抗血清をI125あるいはI131で標識し、そのCulb-TC、RLC-10による吸収実験と追加交叉吸収実験を準備しています。

 :質疑応答:
[勝田]血清を沃度のアイソトープで標識して使う場合、フリーの沃度を洗い落とすことなど、よく気をつけてください。
[藤井]はい。とにかく+−でなく数字でデータを出したいのです。
[勝田]細胞についた赤血球を集めて溶血させて数値に出来ませんか。
[藤井]そういう方法を使っている人もあります。
[高木]吸収する時、細胞はこわさなくてもよいのですか。
[藤井]今みているのは細胞表面の抗原をみているので、細胞をこわすと、又違うものが出てくると思います。
[難波]トリプシナイズしても、又変わってくるでしょうね。
[高木]吸収は0℃でする方がよいのですか。
[藤井]血清を非働化していないので、補体が働かないようにと考えて0℃で反応させています。
[難波]吸収にラッテの胎児の肝細胞を使ってみたらどうでしょうか。
[藤井]吸収についても色々考えていますが、何しろ抗体値の高い血清を作ることが先ず必要で、それが又なかなか難しいのです。CulbはJAR-2系のラッテでは抗体値の高い血清が出来ないようです。

《三宅報告》
前の班会議でのべたT10というd.d.系マウスのEmbryonic cellのtransformしたと考えられる系について継代9代及び11代目のクロモゾームの分布をしらべた。(図を呈示)Modeの1つは60に、1つは64にあった。Karyo typeの分析を施行中である。なおこの細胞の増殖曲線をみると、(図を呈示)7日間で約48倍となり、前にAuto radio graphyで求めたtg=23hという数字とよく一致することを知った。
 またこの細胞のCell suspensionを作り、Sponge matrix cultureを行い、その間葉性の組織学的性格を知りたいと思ったが、Spongeの中心間隙にしみこんだ細胞は変性し、この試みの第一は失敗に帰した。

 :質疑応答:
[難波]スポンジの大きさはどの位ですか。
[三宅]5ミリ〜7ミリ位の角です。
[藤井]培地は何を使われましたか。
[三宅]こうし血清+Eagle MEMです。
[高木]tumorはスポンヂの中へはいって行ったのですか。
[三宅]それは、はっきりわかりません。始めに押し込んだ分かも知れません。
[高木]suspensionの場合のやり方は・・・。
[三宅]なるべく濃いcell suspensionをスポンヂェルにしみ込ませて培養しました。
[梅田]培養の初期にはスポンヂの中に生きている細胞が居たわけですね。
[三宅]そうだろうと思いますが、途中経過を追っていないのでわかりません。
[難波]繊維は銀染色だけでみて居られるようですが、もっと他の例えばワンギーソンとかマロリーを染めてみるとよいと思います。

《安村報告》
 ☆ラット肝細胞の初代培養からのクローン化の試み:
 In vitroのchemical carcinogenesisの研究のこれまでの実績(みなさまの)にわたしなりになにかcontributeしようと思って始めたのが初代培養からのクローン化の仕事です。できるだけ実験条件をsimpleに、variablesを最少限にする出発点は細胞の側からいえばpure cloneでありましょう。この仕事は井上幹茂君がまだ医科研癌細胞研究部におられたときに始めたものです。
 “思いは高く暮らしは貧し”のたとえの如く、これまで得られた結果はかんばしくありません。cloneがとれそうでいま一歩のところで足ぶみ状態というところです。ここでは経過報告ということになります。
 (1969-8-4) 7月29日生れの(つまり生後6日めの)JAR-2(F11)の♂♀1ぴきづつの肝が出発材料です。肝を細切して、PBSで洗ってから2,000u/mlモチダトリプシリンを加え、10分、37℃におき、mediumを加え遠沈、上清をすて、沈渣にスプラーゼを1ml加え、遠沈、mediumを加えてメッシュを通してから、3たびmediumで洗い、細胞浮遊液をつくった。細胞浮遊液をしばらく(2〜5分)放置し、上清部分を♂、♀由来のものそれぞれパストゥールピペットで一滴ずつプラスチックシャーレ(径50mm)にまいた。(♂由来4枚、♀由来4枚)、もう1群は細胞浮遊液0.5ml/plateのものを♂由来4枚、♀由来4枚作った。mediumはEagle MEM+CS 10%。
 (1969-8-16) 12日めになって♂由来の細胞浮遊液1滴の群の1枚のシャーレに径約0.5mmのEpithelialのコロニーが1コ発見された(シャーレをくまなくしらべたがこの1コ以外に細胞コロニーはみつからなかった)。
 ♀由来の同群のシャーレ1枚に2コのコロニーがみつかった。1コはEpithelialで他の1コはfibroblast-likeであった。これらのコロニーをステンレススチールのカップで拾いあげ、♂由来のものから4枚のシャーレにまき、♀由来のものから3枚のシャーレにまかれた。
 (1969-9-6) その後3週たって♂由来の4枚のシャーレのうち1枚−かりにE1系とした−から5コのepithelialの細胞コロニーが発見された。
 ♀由来のものではEpithelial colony(かりにE2とした)からは3コのepithelial colonysが出現し、fibroblast-likeのものからは1コのコロニーもできなかった。(図を呈示)
 そこでそれぞれのコロニーを再び拾いあげ、E1-1コロニーからE1-4までそれぞれ4枚のシャーレにまかれた。E2-1、E2-2はコロニーが小さすぎたので1本ずつの短試にいれ、0.5mlのmediumを加えて培養した。E1-5コロニーも小さいので1枚のシャーレへ、E2-3は3枚のシャーレにまかれた。
 (1969-9-27) その後3週めにE1-2のシャーレ1枚より4コのコロニーをpick upし、再び別々のシャーレにまかれた。
 E1-2-1、E1-2-2、E1-2-3、E1-2-4と假の名を与えてそれぞれ2枚ずつのシャーレが作られた。
 (1969-10-4) その後1週それぞれのシャーレでの細胞の増殖がよく、E1-2-1の1枚のシャーレから短試に移されHepro-1、E1-2-2の1枚のシャーレから短試に移されHepro-2、と名付けられた。E1-2-3の1枚のシャーレから5コのコロニーが拾われHepro-3-1、3-2、3-3、3-4、3-5、べつの1枚のシャーレから2コのコロニーが拾われHepro-3-6、3-7、と名付けられた。E1-2-4の1枚のシャーレからは2コのコロニーが拾われHepro-4-1、4-2と命名された。(図を呈示)
 そのごは原因ははっきりしないが増殖が止って今日に至っている。

 :質疑応答:
[勝田]3代目のものを一部試験管に移しておいたらどうですか。
[安村]たいていシャーレにまく時、同時に一部分試験管に入れておくのですが、試験管の方は増殖してくれませんでした。
[佐藤]私も初期の培養の肝細胞からクローンを拾おうと何回かやってみましたが、なかなかうまくゆきませんね。1コだけ釣ると増え出しません。又コロニーが出来ても何故かトリプシンではがれなくなります。
[安村]細胞が何故かうすくなってしまいますね。

《吉田報告》(概略)
 バラバラにした染色体を、異種の培養細胞に取り込ませ、そこで遺伝因子としての機能を発現させ得るかどうか試みている。材料としてはハイブリッドを作る系としてよく使われているチミヂンカイネースを持たないマウスの細胞へ人由来の染色体を取り込ませようとしているが、なかなか染色体を取り込んでくれない。いろいろ実験して今までに判ったことは、染色体にプロタミンをまぶしてやると細胞へ取り込まれる効率がぐっとよくなり、又細胞内で消化されにくい。

 :質疑応答:
[安藤]フリーなDNAでは変異を起こせませんか。
[吉田]この種の実験に始に手をつけた癌センターの関口君はDNAでも変異が起こると言っていますが、私としては矢張り丸ごとの染色体の形のままで取り込ませたいのです。
[安藤]細胞融合の場合は一緒になった染色体の片方だけが消化されてしまうということは少ないのに、染色体レベルで取り込ませると、取り込まれた染色体がすぐ消化されてしまうのは何故でしょうか。
[吉田]染色体をバラバラにすると、どうしても染色体がダメージを受けます。そのために取り込まれてすぐ消化されてしまうのだろうと思います。染色体まで持ってゆかずに裸核の状態で取り込ませてみようと考えています。染色体にヒストンをまぶして取り込ませることも計画しています。
[安村]取り込む方の条件と取り込まれる側の条件とがインタクトだと共存するが、取り込まれる方が壊れていると異物として消化してしまうということですね。
[安藤]核として分離すれば、インタクトだという考え方でしょうが、核が分離されたとき、すでにDNAが分離されているというデータもありますよ。
[吉田]でも染色体だけにするより、ましでしょう。又取り込まれた染色体が消化されてしまわないようにライソゾームを持たない動物の細胞を培養して使ってみることも考えています。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(19)
 前報では温度処理した細胞を用いることにより、細胞内に取り込まれた4-HAQOがどうも第一義的にDNA鎖の切断に関与しているというだめ押し的な結果を報告したが、これに続いてでは45℃で30分間温度処理された細胞(つまり生存能を失った細胞)を4-HAQOで処理してDNAを切断させ、その切断されたDNAが再結合し得るかどうかを知ることは非常に興味があることである。
 こういった目的から今回は温度処理した細胞を1x10-4乗M 4-HAQOで30分間処理することにより、Single strand breaksを誘起させ、これがincubationと共に再結合するかどうかを検討してみた。(Double strand breaksは私共の実験では再結合しないことがわかっているのでこれはあえて実験に使用しなかった。)
 今回は学年末で何やかやと時間を雑務にとられ、図表をおみせ出来ないが、前述の温度処理後4-HAQOによって誘起されたsingle strand breksは4-HAQO処理しただけの対照区と殆ど同様に再結合することがわかった。ではこの温度処理をすることによって細胞内のactivityがどの様に変っているかを調べるため、細胞にH3-leucine、H3-Uridine、H3-Thymidineを取りこませ経時的に細胞を取出し、蛋白、RNA、DNAへの取り込みを調べた結果、温度処理(45℃、30分間)した細胞でも処理後少くとも24時間以内は正常細胞に比較して非常に低い活性ではあるが、これらの分劃への前駆体の取り込みのあることが分かった。
つまり以上の結果をひっくり返して考察すると、4-HAQOによって誘起されたsingle strand breaksの再結合のためには、その細胞は将来死すべき運命にあろうとどうであろうと、そこで既に内存する僅かのenzyme活性によって再結合は起り得るものであることを強く示唆しているように思われる。勿論こうした細胞内の分子的機構はたんに4-HAQOで誘起されたsingle strand breaksの再結合の場合にのみ考慮すべき現象ではなくて、莫大なX線の致死総量を照射して生じるsingle strand breaksの再結合の際にも当然あてはめて考えねばならない現象であることは言うまでもあるまい。次回には図表入りで詳しく説明したいと思います。
 
【勝田班月報・7004】
《勝田報告》
 A)4NQO処理を受けた若い培養系の形態:
 Exp.CQ#64の対照(JAR-2ラッテF11の肝)。 Exp.CQ64の処理系(小円形細胞の、piled up colonies)。 Exp.CQ#65の対照(JAR-2・F11の肝)。 Exp.CQ#65の処理系。(写真を呈示)。
Exp.#64は、R2LC-1株を用い、4NQOで1回処理。処理、、5.5月に増殖コロニー3コ発見(1970-3月下旬)。目下復元接種の準備中。
Exp.CQ#65は、R2LC-1株を用い、同様に1回処理。写真は処理后5.5月であるが、この場合は増殖コロニーは見当らない。しかし細胞間の密着性が低下し、細胞の形態、核小体などに変化が見られる。目下復元接種の準備中。
 B)RLT-1株及びCulaTC系の染色体数:
 RLT-1はExp.CQ#42で4NQOによりできた変異株であり、CulaTCは、それをラッテに復元してできた腹水腫瘍を再培養して継代している系である。(染色体数の表を呈示)
 RLT-1株の染色体数のmodeはかっては40本であったのが41本に移行した。核型は、検索中であるが、正常ラッテ染色体の核型をかなり維持している。
 CulaTC系は染色体数のmodeがその後41本から74本に移行した。核型はやはりラッテらしく大型のmetacentricなどは見当らない。
 RLT-2、CulbTC、RLT-5、CuleTCなどについては、目下検索中である。
 以上の所見は、初めは染色体数にわずかな変化しか起らないが、やがて癌細胞特有の異常分裂の頻発によって大きな変化を示すことを示唆する。

《高木報告》
 1.腫瘍(悪性化)細胞と正常(無処理対照)細胞を混じた移植実験:
 RG18-1:NG-18(T-1)を復元して生じたtumorの再培養細胞。
 NG-19K:WKArat胸腺の培養細胞。
 RG18-1細胞を腫瘍細胞とし、NG-19K細胞を正常細胞として表の如く混じ、WKAnewborn ratの皮下に移植してその結果をみた。なお36G、32G、・・・・とあるのは細胞のin vitroでの継代数である。一番上の欄では10万個levelで調べてみたが、25日目の観察でRG18-1を10万個とNG-19Kを100万個混じた場合に1/2にtumorを生じた外はすべてにtumorを生じた。次の欄は1万個levelで実験を行った。RG-18-1のみ1万個接種した実験で50日目の判定で1/2にtumorを生じたが、その間2疋死亡しており、この死亡した2疋の観察が不充分であるため1/2とした訳である。混合群では3/4にtumorを生じた。
次の欄はRG18-1 1000個levelで実験を行ったものであるが、未だ接種後日が浅く結果は出ていない。なおNG-19K細胞だけ100万個、33G、41Gにおいて接種したが、これは各々95日、40日後にtumorを生じていない。
 2.NG-18(T-1)細胞の動物継代:
 昨年10月28日以来この細胞の動物による継代を試みているが、現在まで7代にわたり継代に成功している。詳しくは班会議において報告の予定である。

《難波報告》
 N-16:4NQOによって悪性化した細胞のマーカーを探す試み−旋回培養について(続)−
 月報7002に、旋回培養について報告した。その報告の概要はラット肝細胞が悪性変化すると、旋回培養で大きな細胞塊を形成すると云うことであった。今回は7002の月報に述べたと同じラット肝細胞を用い、その4NQO非処理対照細胞、4NQO処理によって試験管内で悪性化した細胞、この細胞の動物復元で生じた腫瘍の再培養細胞を、旋回培養で培養し続けた。培養は、最初300万個の細胞を20%BS+Eagle's MEMの培地3mlに植え込み、以後2日おきにこの細胞浮游液(細胞塊を含む)1.5mlを新しい培地1.5mlに入れ継代した。そして、継代時ごとに浮游細胞数を数えた。一方腫瘍再培養細胞では浮游状態で増殖が維持されていることが判った。試験管内で4NQOによって悪性化した細胞は、対照細胞と同じ減少傾向を示すが、浮游細胞数は対照細胞より多かった。
 以上のことから、この実験系では腫瘍細胞は浮游状態で増殖可能なので、4NQO処理細胞が浮游状態で培養可能な傾向を示すようになれば一応悪性変異したことのマーカーになり得るのではないかと考えられる。又、現在試験管内で4NQO処理をした細胞を浮游状態で培養維持しその後、浮游細胞をもう一度試験管で増し、復元てその造腫瘍性を検討しようと考えている。なお、腫瘍再培養細胞の浮游細胞塊をパラフィン切片にして染色後観察すると、月報6911に報告した腹水腫瘍細胞の島の切片に非常に類似していた。
 N-17:クローン化した肝細胞での発癌実験
 月報7001に述べたごとく現在、LC-2、LC-9、LC-10の3系で発癌実験を行っている。現在動物に“Take"される段階に至っていないが、この実験の経過は以下のごとくである(表を呈示)。動物復元は生後48時間目の新生児の腹腔に500〜1000万個の細胞を接種している。
N-18:若い培養の肝細胞のクローニング
 現在まだpure cloneはできてないが、クローニングの為の基礎的データを集めて居る。細胞は細切肝組織を回転培養し、継代1代のものを使用しPEを求めた。その結果PEは0.2〜3.2%(細胞のまき込みは100〜2000/plt)で、培地の比較では、TC199(日水)、Eagle'S MEM、Eagle'S MEM+Fetuin(20μg/100ml)に20%のBSを含むものではEagleが良かった。Fetuinの添加はあまり効果はみられないようである。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(20)
 4-NQOと4-HAQOのうち、4-HAQOが第一義的に細胞内のDNA鎖切断を誘起するであろうことは、温度処理された細胞を4-HAQOで更に処理した場合、4-NQO処理の場合に比べて顕著に二本鎖切断を誘起するという実験的事実から暗示されたが、今回はこのように45℃で30分間温度処理した細胞、つまり生存能を失った細胞を4-HAQOで処理してDNAの一本鎖切断を誘起させ、その切断された一本鎖DNAが再結合して高分子DNAにもどって行くか否か、を検討した結果を示す。(図を呈示)第1図はそれらの結果を示すものであって、温度処理した細胞を更に1x10-4乗M 4-HAQOで30分間処理して生じたDNAの一本鎖切断は、正常細胞を4-HAQOで処理して生じたDNAの一本鎖切断と殆ど同様に、処理後の細胞を37℃でincubateすると徐々に再結合してもとの大きさのDNAにもどって行くことが分かる。ここで問題になるのは、この様に温度処理によって生存能を失った細胞ではDNA合成に関与するenzyme systemが完全に失活されているか、それともまだ部分的に残存しているかという疑問が生じてくる。つまりもしDNA合成に関与する酵素系が完全に失活された状態下で、この様な切断DNAの再結合が起こるとすれば、それは修復酵素系の関与を抜きにした切断DNAのまったく別の重合化を考慮しなくてはならないわけである。従ってこの点を検討するため、4-HAQO処理した直後のEhrlich細胞、さらには温度処理後、直ちに4-HAQO処理した直後のEhrlich細胞内へのH3-leucine、H3-uridine、H3-thymidineの取り込み能を解析した。結果は(図を呈示)第2図に示すごとくであって、4-HAQO処理細胞あるいは温度処理と4-HAQO処理細胞内への各種前駆物質取り込み能は対照区(ここではCPMスケールの都合上はぶいてある。班会議の際明示する)のそれに比して顕著に抑えられることがわかった。またここで注目すべきは4-HAQO単独処理群に比べて温度処理プラス4-HAQO処理群のH3-leucine、H3-uridine、H3-thymidineの取り込み能は極度に抑えられているとはいうものの、少くとも処理後24時間以内は非常に低い活性ではあるが、これら前駆体の取り込み能は残存していることがわかる。またこうした結果から、温度処理プラス4-HAQO処理後に細胞内に残存する僅かのDNA合成酵素系を含くむ生物活性が、切断された一本鎖DNAの再結合にとって充分であることを示唆しているように思われる。

《山田報告》
 先月より免疫の基礎実験、HQ系細胞、岡大のExp7-2細胞株の写真記録式細胞電気泳動法による分析、その他の仕事が重なり、大忙しです。
 同種移植抗血清の腫瘍細胞表面における反応;今回はまず本法(細胞電気泳動法)による測定可能限界と、反応する抗血清の濃度との関係を検索しました。AH62F(ラット腹水肝癌)をドンリューラットの腹腔内移植後18日目に抗血清採取。この抗血清中よりbovine serumalbumin-antiserum Complexにより補体を吸収、改めて一定量の補体(各0.1ml)を加へる。
この抗血清とAH62Fの反応を検索しました。すべての細胞電気泳動度測定には、ヴェロナール緩衝液に10mM濃度の塩化カルシウムを加へたメヂウムを用いて測定。即ちカルシウムの細胞表面への吸着性の変化を細胞電気泳動法により測定したわけです。用いた抗血清量と泳動度の変化は図に示します。これは前記血清0.5〜0.05mlに対し、AH62Fを200万個加へ37℃10分間反応させた後生食で二回洗って測定したものです。対照としては同一条件の血清をそれぞれ反応前に56℃30分加温することにより、その補体を比活性化したものを用いました。図に示すごとく、対照の電気泳動度と反応させた細胞のそれとの差は、加へた抗血清量に比例し、その測定可能限界は、血清量0.05ml(200倍稀釋)程度であることが判明。勿論正常血清を用いた場合は両者に殆んど差がありません。この抗血清を、0.5ml用いて反応させたAH62Fについて、トリパンブルーによるintoxication testを行った所、全く色素に細胞は染まりません。従ってこの細胞電気泳動府により検出して居る変化は細胞膜のごく表面のものと考へられます。またこの反応と、I.A.(Immunoadherence)反応との関係をしらべてもらった所、この実験条件では殆んど反応がキャッチされないとのことです。しかしラットの血清中には人赤血球が附着することを妨げる物質があるさうですので、モルモットの補体を使って再度検索してもらう予定です。
 また異種抗血清を用いて反応を検索した所、通常の細胞電気泳動法による測定法よりも、このカルシウム吸着性による変化を同法で検索する方が、約10倍の感度があることも判明しました。(Ehrlich癌細胞をラットに移植して得た抗血清を用いました。)
 なほ、この検出方法を用いて腫瘍細胞と脾細胞(リンパ球)との直接免疫反応を定量的に測定する実験も行っています。良い結果が出さうです。
 岡大株Exp7-2系細胞の構成分析;これまでin vitroに於ける4NQOによる悪性化に伴う細胞表面の変化を種々の細胞系について検索してみましたが、それらを大別すると、
 1)4NQO一回接触させた後に、経過を観察した医科研株CQ系の細胞にみられるごとく、宿主へ復元して初めて悪性化が証明される時点では、その細胞群の平均電気泳動度が悪性型のパターンを示さないもの。
 2)4NQOをくりかえし20回或いはそれ以上接触させた岡大株Exp7にみられるごとく、悪性化の証明される時点で既にその細胞群全体として悪性型の電気泳動パターンを示すもの。
があることを認め、前者の場合を写真記録式細胞電気泳動法により細胞構成分析した所、細胞群のうちで、比較的少数の細胞が悪性化するのではないかと云う推定が得られたことを既に幾度か報告しました。この論理でゆくと、2)の場合では、悪性化の時点で既に多数の細胞が悪性化して居るのではないかという考へが生れます。そこで今回はExp7-2の株についてCQ系と同様に写真記録式細胞電気泳動法により分析してみました。その結果を図にまとめて示します(図を呈示)。
 まずcontrolのラット肝細胞培養株ですが、今回初めてシアリダーゼ感受性が出て来ました。所がこの株の細胞像(写真を呈示)をみますと、約40%は繊維芽細胞と思われる細胞が混在しています。(RLC-10では全くこの様な細胞は認められません)。従って或いはこのシアリダーゼ感受性の増加は繊維芽様細胞の性質によるものかもしれないと思い、円形細胞と繊維芽様細胞を分けてヒストグラムを作ってみますと、図に示すごとく円形細胞もシアリダーゼに対する感受性がある様です。従って細胞電気泳動度の上からみると、悪性化が否定出来ません。
 次にくりかへし4NQOを作用させて悪性化したExp7-2transformed株ですが、繊維芽様細胞は全く混在せず、かなりの細胞が悪性化の泳動パターンを示し、その頻度はCQ42(RLT-1)より更に多い結果を示しました。しかし悪性化の泳動パターンを高頻度に示す細胞はむしろ大型細胞で(CQ42の場合は中型細胞)あることも判明しました。
 再培養株Ex7-2RTCでは再び20%前後に繊維芽様細胞が混在していますが、この株が最高に悪性型の泳動パターンを示す細胞が存在して居ました。ラットに復元すると悪性細胞がセレクトされる可能性が、この泳動的な成績からも支持されます。
 HQ系のその後の変化;
 RLH-5・P3に4NQOを接触させてから168日の細胞について、まず従来通り写真記録式細胞泳動法により検索した所、特にHQ1B(2回4NQOを作用させた細胞群)に著明な変化が認められました。(図を呈示)図に示すごとく、この株のなかで特に中型細胞が高頻度で悪性型の泳動パターンを示しました。
そこで前号(No.7003)に報告しました様にこの細胞株の抗原性の変化を分析してみました。その結果を図に示します。即ちRLH-5・P3細胞をラット(JAR2)に移植して18日目に採取した抗血清(0.5ml)をHQ1Bに反応させた後に、10mMのカルシウム添加メヂウム内で泳動させた状態を室温で記録したわけです。対照は全く同じ条件ですが反応前に56℃30分間比活性化したものです。図に示すごとく大型細胞及び小型細胞では、抗血清により平均泳動度が0.120及び0.133(μ/sec/v/cm)低下してゐますが中型細胞はその約半分以下0.053(μ/sec/v/cm)のみしか低下して居ません。この知見は、HQ1B細胞群のうち中型細胞が特に抗原性が変化して居る可能性を示し、図で示したシアリダーゼ感受性増加がやはり中型細胞に特に多いことと一致した所見と考へます。

《藤井報告》
 1.吸収抗Culb血清による変異細胞抗原の検討
 Culb細胞をWKAラットに注射して得た同種抗Culb血清(Fr16,021370,pooled)を、Culb細胞およびラット肝(JAR-2)で吸収し、吸収および非吸収抗血清についてmixed hemadsorptionを施行した。
 抗血清の吸収:凍結Culb細胞およびラット肝(JAR-2ラットを脱血後、門脈より生食水をinfusionして血液をできるだけ除いた)をテフロン・ホモジナイザーで破壊し、40,000rpm 60分間の遠心沈渣を、さらに2回洗滌(生食水で)して吸収抗原とした。吸収は抗血清を等容量の吸収抗原(packed)と混じ、0℃、60分間反応させたのち、40,000rpm 60分間の遠心でおこなった。非吸収および吸収血清について、既報の方法でmixed hemadsorptionをおこなって得た成績を示す(表を呈示)。
 被検抗血清は月報の前号に報告したものより、さらに追加免疫をおこなって得たものであるが、targetのCulb-TC、RLTおよびRLC-10のいづれに対しても>128を示しend pointを逃してしまった。Culb抗原で吸収した血清ではCulb-TCに対してはもちろん、RLT、RLC-10に対する抗体も消失している。一方、正常ラット肝抗原で吸収したばあいに、Culb-TCとRLC-10への反応が消失し、RLTに対する抗体がなお残っていることは意外であった。すなわち、抗Culb血清にはRLTに反応し、Culb-TCには反応しない抗体があり、抗体の側からみると、RLTに変異抗原があり、Culb-TCはむしろ変異前のRLC-10に近いということになる。
 この成績の説明として、抗Culb血清の作製に用いたCulb細胞が、かなり以前に凍結保存されていたもので、変異抗原をもっていたが、Culb-TCは継代培養過程でその抗原を失い、正常ラット肝抗原にちかづくか、あるいはマイナスになっている可能性があげられる。この成績はmixed hemadsorptionと他の方法でも再検討してみる予定です。
 2.動物の遺伝的均一度と皮膚移植テスト
 私の課題とは話がはづれますが、最近、実験動物談話会のシンポジウムで、上のような表題で話をまとめる機会がありましたので、御参考になればと一部を書いてみます。
 (表を呈示)表はGraffらの論文(1966)の中の表のさらに一部ですが、マウスでの組織適合抗原のうち、strong antigenといわれるH-2抗原以外について、それぞれの抗原だけが異なったとき、皮膚グラフトがどのくらい生着するかを示したものです。単一な組織適合抗原のみが異なる(このばあいC57BLに対して)Congenic resistant strainをつくり、さらに皮膚移植テストをおこなうといった仕事は、純系動物について長年の基礎をもった上でも、しかも大変なことだと思われます。ふつうH-2抗原が異なると、皮膚グラフトは10日位で脱落しますが、H-2が同じでも、H-1、H-3、H-7、H-8、H-13などが異なると、それぞれ25日、21日、23日、32日、38日のmedian survival timeで脱落することが、示されております。H-4、H-12、H-9などは弱く、120日、259日、>300日のMSTです。このような成績からみても、皮膚移植テストで何日間生着したかという成績から、動物の均一度を検定することは、むしろ不可能のように見えます。
 (表を呈示)この表は、自検例と、北大病理・相沢教授の発表されているものから引用したものです。医科研癌細胞研究部のラット・JAR-1(1967)は、同性同腹移植で4匹だけですが、>150日以上生着で、実際には>20月、>29月、>24月、>27月で死亡時なお生着していた由です。Toma-ratは23代〜28代兄妹交配を経たもので、一応90日以上の生着率をとってみると同腹同性間移植で92%ですが、異腹同性間移植では72%と下ります。相沢教授の成績は、<5日以内のtechnical failureと思われるのも入っているようですが、一応銘柄(お酒みたいですが)の系統でも必づしも100%とはいかぬようです。いろいろ問題はありますが、100日以上のグラフト生着を許すようなweak antigenが、問題にならぬような実験ならこの動物は先づ大丈夫といったことが、皮膚移植テストから云えそうです。癌の実験も動物次第でいろいろな成績が出る可能性ありです。

《梅田報告》
 前回の班会議で報告した長期継代例以外に更に増殖が盛んとなった2系列及びSoft agar法の結果(失敗に終っている)について記する。
 (1)(実験番号N#34j)ハムスター胎児細胞培養に、昨年12月3日に10-4.0乗Mの3HOAを投与し、更に12月5日同濃度の3HOA培地で交新し、12月8日コントロール培地に戻して後長期継代している。継代初期の増殖は非常に良く形態的に、3HOA培地により、criss crossが見られた。培養65日目頃に培地作製にミスがあり、やや増殖がおちたが、培養80日目に旺盛な繊維芽細胞の増生が認められ、このものは以后コンスタントに良好な増生を続けている。
コントロールは60日目頃より殆んど増殖しなくなった。興味あることは、前回報告したN#29実験(7003-4)も、本実験も、tryptophan代謝産物としてのKy、KA、XA、3HOK、3HOAの5種類について夫々に適当と思われる濃度について長期継代を続けたもので、2回共に3HOA処理細胞のみが良好な増生を示していることである。他の細胞系はここではしめしていないが、コントロールと同じ運命を辿っている。3HOAがtryptophan代謝産物の内で、一番proximateなcarcinogenと考えられている点と考え合せこの点を再検してみたい。
 (2)(実験番号T#217) この系列はハムスターの新生児肺の培養細胞に、N-OH-AAFを投与した。即ち12月22日より7日間N-OH-AAF 10-4.5乗M培地を3回交新した後、培地をコントロール培地に戻して、長期継代を続けている。始め主にpolygonalの細胞とまれにspindle shapedの細胞が認められていた。本例はpassageの時の記載を怠っていたため、累積カーブは画けないが、実験群が50日目頃より、コントロールのカーブより急になっている。形態的には丁度その頃より細長い細胞によって占められ、細胞質の屈折率も高まった様に感じられる。
 (3)上記の細胞系について通常のplating efficiencyと、Soft agar法を用いたコロニー形成能をチェックした。我々のtechniqueでもAH-7974で約6.5%のPEの結果を得た。

《安藤報告》
 (1)4NQOによるDNA一重鎖切断に対するDicoumarol(DC)の効果
 4NQOは細胞内に入って4HAQOに還元されて働く。杉村等によれば、この還元酵素は細胞上清にあり、NADH又はNADPHをCofactorとして要求する。そしてある程度精製された酵素はDCにより強く阻害される。そこで4NQOを細胞に与える時に同時にあるいは予め細胞をDCで処理しておいてから4NQOを投与したら、DNAの鎖切断はどうなるであろうか。もしもDCが細胞にとりこまれ、reductaseを阻害するならばDNA切断が起らない事が期待されるはずである。結果は図にみられるように、DC.10-6乗Mで10分、30分前処理をした後に4NQOを加えてもDCの効果は見られず、いずれの場合にも同程度の分解を示していた。次にDC濃度を10倍とし、同時あるいは5分前に加えてから4NQO処理をしてみたが、結果は同じで、DCは4NQOによるDNAの一重鎖切断を阻止しなかった。この結果はnegative dataであるが、その理由は不明である。DCが細胞にとりこまれないのか、とりこまれても直ちに不活性化されてしまうのではないだろうか。(図を呈示)
 (2)寺島法による中性蔗糖密度勾配遠心法によるDNAピークの酵素感受性
 中性での、DNAの二重鎖切断を分析する際に使用している方法の検討の一つとして、このDNAピークの酵素感受性を調べてみた。すなわちこのDNAピークが100%DNAより成り、蛋白、RNA等のものは含まないとしたら、DNaseのみにsensitiveであって、pronase、RNase等にはinsensitiveである筈である。そこで先ず、pronaseの効果を調べてみた。方法はSDSを含むtop layerと蔗糖の勾配層にそれぞれ1.5、0.5mg/mlとなるようにpronaseを加え、その上に細胞をのせ遠心する。結果は図に見られるようにcontrolが殆ど底に沈む条件下にpronase処理を受けた場合には、DNAピークは小さくなり中間に来ている。しかも同一処理をした二本の管(2、3)が同位置にピークを与えている事からもtube間の誤差でもない。したがって、この方法で得られるDNAピークにはpronase sensitiveな箇所が含まれていると思われる。
しかしこの実験において使用したpronaseにDNase活性が含まれていない事を示さなければならない。そこで使用するpronaseに人為的にDNaseを加えて、それが働くか否かを調べてみた。pronase原液(5mg/ml)にDNaseを100μg/mlに加え、37℃、2hrs preincubateする。その後にDNaseなしのpronaseと同様にgradientに加え細胞を遠心してみた。結果は図に見られるようにDNaseはpronaseにより全く失活している事がわかった。従って、このpronaseの効果はcontaminateしているDNaseによるのではない事が明らかである。
次にRNaseの効果を調べた。この場合top layerにはpronaseを加え、gradient layerにRNaseを50μg/mlとDNaseを20μg/mlを加えた密度勾配をつくり、この上に細胞をのせ遠心した。結果は図のようにDNaseによってはピークが小さくなると同時にtubeのtopの方に移動しているのでDNAが分解した事を示している。RNaseの効果はややあいまいであった。(夫々に図を呈示)。第6図も同様な結果であり、明確な結論は今の所出せない状態である。したがってこの点は更に検討を続けようと思う。

【勝田班月報:7005:培養細胞8種のT抗原】
《勝田報告》
 ラッテ及びサルの腎細胞の培養内4NQO処理:
 ラッテとサルの腎臓細胞の培養に、4NQOをかけ、そのtransformationをしらべた。これは当研究室にきて仕事をしている昭和医大泌尿器科の落合元宏君の仕事である。
 A)ラッテ腎細胞
 ラッテの腎細胞は、トリプシン消化で浮遊液を作ったが、JAR-2系の生後17日の雌ラッテ6匹の腎をプールした。しかしどうも増殖率は高くなく且長く培養していると消えてしまう(彼の技術によるのかどうかは別として)。
 継代第1代の培養第3日に各種濃度の4NQOを培地に加え、30分間処理し、以後は無添加の培地で培養した結果、やはり濃度に比例して細胞がこわされている(増殖図を呈示)。
(実験経過図を呈示)4NQO処理は30分1回だけである。処理後56日経ったとき、処理した培養にコロニーが一つ発見され、9日後にさらに一つ、その2日後にさらに第3のコロニーが見出された。そこでその3日後に第1(R2K-1)と第2(R2K-2)のコロニーをとって別の容器に移し、残りはそのまま、混ったまま培養を続けた。これらはいずれも増殖が活発で、継代9日後に染色体数の分布をしらべると(分布図を呈示)、高3倍体(R2K-1は67本、R2K-2は66本)に最頻値が現われた。ラッテ肝の場合とかなり異なる所見であり、今後検討の余地があると思われる。
 (培養瓶の写真を呈示)対照では細胞のコロニーは全く見られないのに対し、3.3x10-6乗M 4NQO処理培養ではコロニーが形成されている。
 (顕微鏡写真を呈示)培養を開始したときのラッテ腎細胞の形態であり、何種類かの細胞から成っている。変異コロニーでは、核小体の肥大が目立ち、細胞もpile upしている。明らかに培養開始時の細胞とは異なった形態をしている。
 B)サル腎細胞(JTC-12株)
以下はcynomolgus monkeyの腎由来の細胞株JTC-12を用いた実験である。
 10-6乗M、3.3x10-6乗M、10-5乗Mの3種の濃度に揃え、4NQO及びその非発癌性、癌原性誘導体について、細胞増殖への影響をしらべた。(各実験の増殖曲線図を呈示)
 4NQO処理:ラッテ腎の場合と同様にやはり4NQOの濃度に比例して細胞増殖が抑制され、或は細胞がこわされている。
 2-Methyl-4NQO処理:これも同様に濃度に比例して抑制・阻害が現れた。
 6-Carboxy-4NQO処理:この薬剤は癌原性を有しているにも拘わらず、どういう訳か、細胞増殖を抑制しない。細胞毒性と発癌性とは一致しないことを示す一つの証拠かも知れない。
 4NPO処理:これは他の非癌原性誘導体と同様に細胞毒性をほとんど示さない。
 6NQO(非癌原性)処理:細胞毒性は全く認められない。
 4AQO(非癌原性)処理:これも細胞毒性が全く認められない。
 JTC-12株をメタノール・ギムザで染色した顕微鏡写真を呈示。継代21日後の対照細胞に比して、10-5乗M・4NQOで30分間処理後、21日目のJTC-12株細胞は、核の大小不同、異型性が目立っている。また角膜の肥厚も認められる。
 C)復元接種試験
 i)ラッテ、サルともに、ハムスターのチークポーチとラッテの腹腔内に接種し、目下観察中である。接種量は各10万個宛である。
 ii)さらに100万個〜1,000万個を接種できるように、現在細胞をふやし準備中である。

 :質疑応答:
[勝田]この実験は膀胱を材料にしてまとめる計画だったのですが、膀胱から分離した細胞を長期間培養することが仲々難しくて、とうとう腎臓に乗り換えた訳です。
[難波]私の所でも腎臓を使って発癌実験を始める計画をもっています。腎臓はadultでも培養できますから、片方だけとって培養しautoへ復元できるという利点がありますね。
[梅田]ラッテ由来の系でpile upしている像がみられましたが、あの細胞は上皮性でしょうか。
[勝田]上皮様細胞です。
[難波]薬剤の毒性と発癌性との関係はどうなっているのでしょうか。6カルボキシ4NQOは発癌性があるのに毒性がないのですね。
[勝田]そこが面白い所だと思います。6カルボキシ4NQOで処理した系も早く復元してみる予定でいます。
[安藤]山田正篤先生の所で、ハムスター胎児細胞を6カルボキシ4NQOで処理して悪性化に成功したというデータを出しておられますね。
[堀川]4HAQOも毒性は弱いが、発癌性は強いものの一つですね。
[安藤]6カルボキシ4NQOはDNAを切らないのですね。10-4乗Mという濃度でもDNAの切断を起こしません。それから4NPOは毒性はないようでしたが、DNAの切断は起こします。
[梅田]DNAレベルでの切断では、切れるか切れないかの問題だけでなく、そのあと回復出来るかどうかの問題もあるのではないでしょうか。
[堀川]ブレオマイシンのように物すごく小さく切ってしまうものもありますが、そういう特別な例以外はたいてい回復すると思いますね。
[志方]腎臓に出来る癌は動物の年齢によって種類が違うということはありませんか。使ったラッテの年齢は・・・。
[落合]ラッテは生後17日の乳児を使いました。それから、腎臓癌は今の所、年齢に関わらず尿細管から発生するということになっています。此の実験の場合、使った細胞が何に由来しているものか同定する目的で、水銀ネオヒドリンの取り込みをオートラヂオグラフィでみてみる予定でいます。
[勝田]先ず無処理の対照群についてしらべてみるべきですね。
[落合]培養を開始して間のない初代培養を使って取り込みの基礎実験を始めています。培養内でどういう形態の細胞が取り込むのかを知りたい訳です。水銀ネオヒドリンは癌化した細胞にも取り込みが見られるということです。
[安村]水銀ネオヒドリンについてin vitroでの実験はありますか。
[落合]発表されているのはin vivoでのデータばかりのようです。
[安村]ポリオの例ではin vivoでは腎臓でウィルスが増殖していないのに、培養した腎細胞の中ではウィルスがどんどん増殖します。in vivoの知識がそのままin vitroにあてはまらない場合もありますから、御注意。
[山田]膀胱癌の方がoriginがはっきりしていて面白いんですがね。
[勝田]私もそう思いますが、とにかく培養がむつかしくてね。
[安村]私もやってみましたが、だめでしたね。初代はきれいに生えるんですよ。ところがバラして2代目に移すと、消えてしまうのですよ。

《難波報告》
 N-19:クローン化したラット肝細胞に及ぼす4NQOの影響
 従来、4NQOによるラット肝細胞の試験管内発癌を報告して来たが、今後(1)発癌を確実にしかも定量的に起こさせる、(2)発癌の機構解析の基礎的データを集める。の2点を進める意味でもう一度出発に帰って培養肝細胞に対する4NQOの影響を検討する必要があると思われるので以下の実験を行った。使用した細胞はクローン化したLC-2系の肝細胞で、培地は20%BS+Eagle'sMEMである。
 1)処理時間の検討(実験毎に図を呈示)
 培養3日目、或いは2日目に10-6乗M 4NQO1時間処理した。4NQOは上記の培地に溶いた。以後経時的(30分、1、2、4、6、8、12、24時間)に4NQOを含まぬ培地で4NQO培地を更新し、実験2日目に生存細胞数を算えた。48時間のものは2日間4NQO培地で培養した。その結果、30分処理のものは細胞障害が軽いが、1時間以上48時間のものには大差ないことが判った。それから、案外24時間処理のものが細胞障害が強かった。
 2)4NQO処理時の細胞数と細胞障害との関係について
 4NQOの濃度を変えて細胞障害度を調べることも重要であるが、むしろそれより、4NQOの処理時の細胞数によって、細胞がどの程度障害を受けるかを検討することが重要であると考えられる。その理由は、細胞に及ぼす影響を4NQOの濃度を変えて調べるだけでは、処理時の細胞数のバラツキがあれば、なかなか一定した結果が得がたいことにある。そこで、4NQOの処理条件(10-6乗M、1hr.、37℃)を一定にし、処理細胞数を変えて、その細胞増殖に及ぼす影響を検討した。その結果は、4NQOの細胞増殖に及ぼす影響は非常に細胞数に依存することが判った。同じ実験をもう一度繰り返し、4NQO処理時の細胞数を横軸にし、縦軸に、4NQO処理後から48時間後の非処理細胞数(コントロール)に対する4NQO処理細胞数の割合(%Survival)をとると、50%Survivalになる処理細胞数はだいたい100,000コ前後になるようである。またこれらの表から全細胞が死亡する細胞数を20,000コとして、1コの細胞が死ぬのに必要な4NQOの分子量を計算すると、だいたい1コの細胞に10の10乗分子が入れば細胞は死ぬ計算になる。ただしこの場合4NQOの分子数は圧倒的に多いので、4NQOは細胞内へ必要にして十分入ったものと仮定している。
 3)4NQOの残留効果:4NQOは細胞増殖を促進するか?
 培養2日目に10-6乗M 4NQO1hr処理し、その後細胞を経時的に数えると共に、1週間ごとに継代し、対照細胞群と4NQO処理群との累積増殖曲線を描いた。実験はだいたい1カ月行い2つの実験から、このクローン化した肝細胞にはこの程度の4NQO処置は増殖促進作用を示さないことが判った。
 また、10-6乗M 4NQO1hrの4NQO処置が、それ以後の数時間の細胞増殖にどの程度の障害を残すものか検討した。その理由は、4NQOを繰り返し処理するとすれば、その間隔はどのくらいが適当かを決めることにあった。4NQO処理後7日まで1日おきに細胞を数えてみると、処理後2日間或いは4日間細胞増殖が抑制されていることが判った。そこで、このことを更に確実にするために同型培養を行い、4NQO処理直後、及び1日目、2日目、4日目、6日目に少数細胞をシャーレにまきコロニー形成率をみた。対照としては同時期の4NQO非処理細胞をまいた。そして対照細胞のabsolutePEを100%として、そのときの4NQO処理細胞のabsolutePEを補正して、一応Recoveryの目安とすると4日目で対照細胞のコロニー形成率100%に対し、4NQO処理細胞は84%になりほぼ細胞障害は回復しているようである。6日目では遂に4NQO処理群のPEの方が対照より高いのは、対照細胞は細胞が増殖しすぎて状態が悪くなっているのに比較し、4NQOの処理群のものは障害より回復した細胞が良好な増殖状態に入っているのではなかるまいか。
 なお、細胞をまき込む時、ニグロシンにて細胞の生死を判定したが、ニグロシン法ではまき込んだ細胞は対照及び4NQO処理細胞とも色素をとり込んでいなかった。

 :質疑応答:
[堀川]4NQO処理後の群のPEが対照群のPEを上まわるのは6日までのデータの中では6日だけなのですが、もっと長期間追ってみるとどうなりますか。
[難波]薬剤処理によって1時期PEは落ちますが、変異して安定してしまうと対照群と差がありません。
[安藤]6日目には対照群のPEが落ちていますが、何故ですか。
[難波]対照群の場合、培養が古くなるにつれてPEが落ちます。
[堀川]アグリゲイトの問題ですが、4NQOで処理して変化したものはどうですか。
[難波]佐藤先生のデータで、4NQOで悪性化したものはアグリゲイトを作ります。
[堀川]色々な系を使って悪性度とアグリゲイトを作ることが平行するかどうか、調べてほしいですね。
[山田]アグリゲイトのことは事実としては面白いのですが、物理学的な現象なのか、生物学的な現象なのか、もっとはっきりした前提をもって実験を進めて頂きたいですね。
[堀川]細胞膜の問題だと山田先生の実験とも関連してくるわけですね。
[勝田]アグリゲイトを切片にして組織学的に調べてみましたか。細胞間に何かありませんか。
[難波]パス染色では何も染まりませんでした。
[勝田]アクリヂンオレンヂでは・・・。
[難波]みていません。
[梅田]電顕像はどうですか。
[難波]電顕所見は対照群と実験群の間に違いがみられません。
[勝田]流パラを使ってのクローニングは私も昔やってみましたが、流パラの中の水滴はレンズ効果になってしまうので、細胞が1コかどうかよく判らずに困ったのですが、どうしていますか。
[難波]流パラの中へ細胞が1匹入った水滴を一滴一滴たらすのではなく、流パラの中へたらした水滴の中には細胞が何匹も居るのですが、その水滴の縁の方の1匹を毛細管ピペットで吸い取っています。文献によれば、流パラは炭酸ガスを通すので、流パラの中に水滴を落とした状態で培養できるようですが、私がやってみた所では増殖しませんでした。
[滝井]私も流パラを使ってみましたが、1匹から立ち上がるのは難しいようですが、細胞が多ければ増えるようです。

《山田報告》
 1)HQ系細胞(4NQO処理後のRLH-5・P3)の経時的変化のまとめ;
 これまで各時期に写真記録泳動装置にて検索した結果を報告しましたが、今回はこれをまとめてみたいと思います。しかし現在までに移植による腫瘍性の検索は、はっきりして居ません。(尚ほ、本報に書く泳動的に悪性型という意味は、箇々の細胞の泳動度が高く、従来通りの条件でシアリダーゼ処理することにより10%以上泳動度が低下する場合です)
HQ1系;
 4NQO処理後既に168日5〜6ケ月を経ましたが、(泳動度の変化図を呈示)4NQO処理後26日(1ケ月前後)では、泳動度が速く、シアリダーゼに感受性の高い小型細胞がかなり認められましたが、しかしこれと同種の細胞は対照群にもあり、しかも50日以後漸次減少し168日目では極めて少くなりました。全経過を通じfibroblasticな細胞は出現せず、また対照細胞群は174日でも全く変化がありません。
 50日目頃より大型円型細胞が出現し、92日目にはかなり増加すると共に、この細胞が悪性型を示す様になりましたが、168日目にはむしろ減少して来ました。平均泳動度をみると、92日目にはシアリダーゼ感受性が高まり(-0.172μ/sec/V/cm)、また50日目より箇々の細胞の泳動どのバラツキが出現し、全体として悪性型を示しましたが、この傾向が、168にはむしろ減少する様になりました。
 これに対し28日以後に再び2回目の4NQOにより処理したHQ1B系についてみると、70日目に全体として悪性型の泳動パターンを示すと共に、特に中型の細胞に高頻度の悪性型の泳動型を示し、この細胞が168日目には更に増加して来ました。168日以後に免疫学的に検索した所、この中型細胞にその対照であるRLH-5・P3に対する抗体が相対的に反応し難くなり、本来のこの細胞の抗原姓が、この中型細胞に一部失われてゐると云う推定が下されました。従って168日以後の現在では、HQ1Bが特に悪性化して居ると云う可能性を考へざるを得ません。
 2)In vitro発癌過程における変異細胞の出現様式の解析;
 従来in vitroの細胞発癌様式については二つの可能性、
 1)癌化当初は細胞の悪性化の程度が少く、経時的に悪性度が増加する(progression after malignant transformation)。
 2)癌化当初は少数の細胞のみが悪性化し、以後経時的に漸次悪性細胞が撰たく的に増加して、細胞集団の大多数を占める様になる(Selective proliferation after malignant transformation)。
 が考へられて居ますが、これまでの細胞電気泳動による成績を綜合すると、むしろ後者の可能性が高いと思われますので、改めてその成績をまとめて書き、考へてみたいと思います。
 (図を呈示)発癌当初において細胞群全体の電気泳動パターンが悪性型を示さない細胞群でも、それを宿主へ移植して腫瘤を作らせ、再培養すると明らかに悪性型(平均泳動度が高く、シアリダーゼ感受性がたかまる)を示す様になると云う成績です。宿主内で撰擇されて、悪性化細胞がより多く再培養されるとしか考へられません。
 次ぎにこれまで写真記録式電気泳動装置にて、泳動的にpopulation analysisを行った例のうちで、次の5種類の細胞群を撰んで改めて比較してみました。(いづれもラット肝細胞)
 1)癌化以来、全体としての平均泳動パターンが悪性型を示さず、経時的に急に変化しない細胞群、RLT-5(CQ50)、RLC-10-A、RLC-10-B
 2)癌化当初は全体として平均泳動パターンが悪性型を示さなかったが、約1年後に悪性型を示す様になった細胞群、RLT-1(CQ42)
 3)癌化当初から全体として平均泳動パターンが悪性型を示す細胞群(くりかへし4NQOを接触させた岡大株Exp.7-2)
 4)宿主に移植して再培養し、典型的な悪性型泳動パターンを示す細胞群(Exp.7-2RTC)
 これらの細胞群について、それぞれ細胞群全体中に於ける推定変異細胞の出現率と、特にそのなかで変異細胞の出現率の最も多いと思われる細胞集団における推定変異細胞の出現率をまとめました。(表を呈示)
 対照欄は培養細胞をそのまま測定した成績であり、S-処理欄はシアリダーゼ処理後の細胞についての測定値ですが、前者における推定変異細胞は、平均泳動度より10%以上の高値を示す細胞を計算し、後者は、処理前の平均泳動度より10%以上シアリダーゼ処理により泳動度が低下してゐる細胞を推定変異として計算したものです。綜合欄は対照群とS処理群のそれぞれの推定変異細胞出現率の積を100で割ったもので、最低の変異細胞出現率を示すものと考へました。
 各細胞系の全細胞集団中の推定変異細胞の出現率は、前記第一群(全体として悪性型の泳動パターンを示さない細胞群)RLC-10-A、RLC-10-B、では綜合的には3、6%の変異細胞が出現して居ると推定され、高頻度にこの変異細胞のみられる中型の細胞群では5、10%の変異細胞の出現率しか認められない。同一の前記第一群中のRLT-5(CQ50)ではこれより変異細胞の出現率が高く、前者では6%、後者では16%の出現率を認める。第二群では更に増加し、(RLT-1)前者では10%、後者では25%の出現率を認める。更に第三群で発癌当初より悪性型の泳動パターンを示したExp.7-2に就いては、前者では18%、後者では25%の最高の出現率を認める。宿主へ移植後の再培養株では(Exp.7-2 RTC)特定の細胞に変異細胞が偏在してゐることはなく全体として悪性型を示す細胞が認められます。
 この所見より、一群〜2群のごとく4NQOを一回接触させた場合には(自然癌化株を含む)癌化当初に少数細胞が悪性化し、経時的に悪性細胞数が漸次増加する。また数回4NQOを接触させたExp.7-2株では癌化当初から多数の細胞が悪性化して居ると云う推定が可能と考へます。

 :質疑応答:
[山田]難波さんの意見では、電気泳動の撮影でひょろ長く見える細胞は平たい細胞を横に見た図で、センイ芽細胞ではないということですが・・・。
[堀川]細胞そのものに裏表があるでしょうか。かき落とすと丸くなってしまうのでありませんか。
[難波]でも、未処理の肝細胞の系を少数まいて出てくるコロニーにセンイ芽細胞は殆ど無いのです。小型の上皮性細胞から成るコロニー、中位の矢張り上皮性細胞のコロニー、大型の上皮性細胞から成る少しシートのルーズなコロニー、この3種が出てきます。
[志方]その大、中、小の細胞のクロンを取って染色体数を調べてみられましたか。
[難波]調べてはみましたが、バラツイテいてはっきり結果が出ていません。
[勝田]私の経験では映画で追跡して小型の上皮様細胞はよく分裂増殖するようです。
[安村]さっき一寸出ましたが、細胞のうらおもては本当にあるのでしょうか。生体内では細胞がきっちりつまっていて判らないでしょうが、培養内でガラス面にはりつく側が定まっているでしょうか。
[勝田]映画でみていると、MM2細胞がリンパ球を喰う時は、一定の場所があるように見えますね。
[山田]それは度々見られますか。
[勝田]或る時点でそういう印象を受けるという程度です。
[山田]セルローズ膜の上に細胞を生やすと、デスモゾームが出来るという話もありますね。そうなると方向性が無いとも言えます。
[堀川]何か、例えばアイソトープを使って確かめる方法はないでしょうかね。
[下条]免疫血清で処理をすると、泳動値が変わるという実験には、正常ラッテ血清の処理を対照にしてありますか。
[山田]正常ラッテ血清の処理では、泳動値に影響がないことは確かめてあります。
[藤井]結果としては、RLH-5・P3の抗原が、4NQO処理のHQ1Bでは減っているという事ですね。
[山田]そうです。次にHQ-1Bの抗血清を作って、RLH-5・P3で吸収してみれば、新しい抗原が出ているかどうか判ると思います。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(21)
前報では45℃で30分間処理した後に10-4乗M 4-HAQOで更に30分間処理することによって誘発されたEhrlich細胞の一本鎖切断は再結合し得ることを報告したが、この場合温度及び4-HAQO処理をうけた細胞のH3-thymidineの取り込み能でみたDNA合成能はまったく何らの処理を加えない正常細胞のDNA合成能の500分の1に抑えられている計算になるわけで、こういった意味から切断DNAの再結合のためには障害をうけた細胞内に僅かのDNA合成酵素が残存すれば充分であることが示唆された。
 今回はこう云った問題をも含めて切断DNAの再結合のさいに細胞は外部から加えたDNA前駆物質を利用し、しかも再結合されて高分子化したDNA分子内にこれらDNA前駆物質が取り込まれるか否かを検討した。(図を呈示)
 まず細胞DNAをH3-thymidineでラベルしておいてから、1x10-5乗M 4NQOで30分間処理して一本鎖切断を誘起させる。次いで、1μCi C14-thymidineを含くむ培地内で6時間、24時間培養した際のC14-thymidineの再結合DNA内への入り方をみた。これらの結果から、6時間培養後にすでにC14-thymidineの1部が高分子化されたDNA分子内に入っていることがわかる。また同様の実験を4-HAQO処理によって誘発された一本鎖切断の再結合のさいについてみたのであるが、この場合は細胞をH3-thymidineでラベルしてから4-HAQO処理までの間48時間をH3-thymidine freeの培地で培養しておいて、前駆物質プールをからっぽにしておき、4-HAQO処理後のC14-thymidineの高分子DNA内への取り込みを顕著にして追跡しようとした。結果的には、この48時間のH3-thymidine free培地での培養がそれ程、4-HAQO処理後のC14-thymidineの取り込みを一段とchearにしているとは思われない。
 しかしいづれにしても、4-HAQO処理後8時間迄は低分子DNA分劃に入っていたC14-thymidineは培養24時間目には再結合によって高分子化されたDNA分劃中に一部入ってくることがわかる。こうした実験から示唆されることは、4-NQOまたは4-HAQO処理によって切断されたDNA一本鎖の再結合の際には細胞内の素材が利用される。つまりさらに強くいえば、単なる切断DNAの物理化学的結合(重合)によって高分子DNAが現れるのではなくて、切断DNAの再結合の際には細胞内の素材を利用し得るための修復酵素系なるものが動的に関与していることを更に強く示唆するものであると思われる。

 :質疑応答:
[安藤]45℃の加熱はsuspensionの状態での処理ですか。
[堀川]細胞の障害がなるべく少なくすむように考えて、monolayerの状態で処理しました。
[勝田]fragmentとそれが修復した時のDNAの分子量を計算しておいて下さい。
[難波]エールリッヒ腹水癌のような増殖の早い細胞と、肝細胞のように増殖のおそい細との間にDNAの回復について違いがありますか。
[堀川]時間的な差はあります。
[難波]24時間でDNAは回復しても、細胞としてコロニーを作る能力はどうですか。
[堀川]DNAの一本鎖では回復しても、その点が0だということに困っています。
[安藤]一重鎖の方は私も同じ実験結果を得ていますが、二重鎖の切断の回復については全く反対の立場をとっている訳ですね。実験条件の細かい点で何か違いがありませんか。私の方では炭酸ガスフランキを使っていますから、pHが少し低いかと思います。
[堀川]その位のことはあまり結果にひびかないと思いますがね。今まで細菌を使っての実験でも二重鎖の切断は回復しないというデータしか出されていません。現象としてつかんでいることは確かでしょうが、どう説明するか、そこが大変難しい所ですね。
[藤井]再結合したDNAを電子顕微鏡で確かめてありますか。
[堀川]見たいとは思っているのですが、蔗糖がじゃまをして仲々うまく標本が作れずにいます。
[梅田]4NQO処理でDNAが切断された場合、その再結合がきれいすぎますね。
[堀川]そうです。X線の場合など時間を追ってピークがだんだんと移行するのが普通ですが、4NQOは処理のあとまで細胞内に残って再結合を妨げているようですね。それが6時間後にポンともとの大きさまで戻ってしまう。そこに何かマジックがありますね。
[下条]修復酵素系を45℃で不活化してから、DNAを切断するという実験は結果として一重鎖のDNAが回復したということなら酵素は不活化されていなかったという訳ですね。
[梅田]ごく少量の4HAQOが4NQOに混じっていれば、DNA切断が起こるのだということですと、4HAQO単独の場合かえって濃度を高くしなければ切れないのは何故でしょうか。
[堀川]わかりませんね。
[勝田]4NQOの絶対量と細胞1コ当たりの取り込み量の関係をつきつめる必要がありますね。

《安藤報告》
 (I)4NQOによるRLH-5・P3DNAの二重鎖切断の回復に対する血清の効果
 私の方の実験結果によるL・P3でもRLH-5・P3でも4NQOにより生じたDNAの二重鎖切断は24時間の回復培養によって再結合された。一方堀川班員の使っているEhrlichおよびLではこの再結合が見られないと報告している。そこでこの食い違いの原因を種々考えてみると、第1にstrainの違いによる能力の差、第2に培養条件の違い(DM-120対牛血清入りLD)、第3に実験操作の違い等であるが先ず本実験では第2点の血清の有無を検討してみた。
 RLH-5・P3細胞を仔牛血清2%を含むDM-120培地に10日間増殖させる。ちなみにL・P3細胞を血清培地で1週間養うとそのリン脂質の構成は全くL型になってしまう。その後に無血清培地中での実験と同様にH3-チミジンラベル、4NQO 10-5乗M、30分処理、洗滌、回復培養を行った。結果は(図を呈示)4NQOで二重鎖切断を起したものが回復培養24時間目には完全にコントロールと同じ所(遠心管の底)迄回復、再結合が起っていた。
 もしも血清が再結合の酵素系をrepressしているとすれば、このRLH-5・P3細胞のこの培地中でのdoubling timeから10日間の培養で40〜50倍の増殖があった事になり、逆に元の細胞の成分は1/40〜1/50に減少している筈である。ところが結果はDM-120だけの場合と全く同様であったので、この実験から結論出来る事は、安藤、堀川間の違いは血清の有無によるものではない事になる。
 (II)L(金沢由来)細胞使用しての4NQOによる二重鎖切断の回復実験
 第(I)項で血清添加に効果がなかったので今度はstrainの差を調べてみた。すなわち堀川さんよりいただいたL金沢lineを0.4%LDビタミン混液(DM-120の半量)、CS 10%で培養、同様に実験を行った。結果は(図を呈示)4NQOにより二重鎖切断を起したDNAは回復培養によって再結合されている事がわかった。実験は密度勾配遠心の時間を40分としコントロールDNAが底に沈まない条件で行った。念のため再度全く同じ事をくり返し、遠心はいつもの通り60分行った結果も同様であった。(図を呈示)
 以上(I)(II)の実験を通して結論出来る事は、安藤、堀川両者の違いは、培養培地の差でもなく、strainの差によるのでもなく、実験操作の差によるという事になる。なお最終的結論については堀川班員と討論の予定である。

 :質疑応答:
[梅田]密度勾配遠心法によるDNAのピークの分析の問題についてですが、プロナーゼで切れるというのはどういう事でしょうか。
[山田]プロナーゼを使った意味は・・・。
[安藤]何があるかがわからない材料ですから、より広く蛋白を切ることの出来る酵素として使いました。
[下条]トリプシンでは切れませんか。
[安藤]試していません。
[下条]トリプシンを使えば、トリプシンに特異的な阻害剤があるのですから、自由に酵素活性を止められて便利だと思います。
[山田]そこにあるらしい蛋白はヒストンのようなものを考えているのですか。
[安藤]リジンの取り込みのないことから、ヒストン以外のものを考えています。
[勝田]取り込み実験は何時間入れておきましたか。
[安藤]24時間です。
[勝田]24時間では取り込みなしと結論するのに短かすぎませんか。
[堀川]その位の時間で充分だと思います。リジンの取り込みがないということでヒストンではないと考えてよいでしょう。
[山田]又、堀川班員と安藤班員のデータの対立についての話ですが、培地などは違いませんか。
[堀川]仔牛血清+199です。
[安藤]仔牛血清+LD+DM-120の1/2量ビタミン添加です。
[堀川]遠沈の条件は中性の場合20,000rpm、45分間です。
[安藤]私の法は30,000rpmで、45分間か60分間です。
[野瀬]細胞の状態が片方はstationary、片方はlogarithmicという違いがあるようで、それは影響しないでしょうか。
[勝田]案外そんな所に問題があるのかも知れませんね。
[安村]それにしても、あまりに結果が違い過ぎますね。今度は堀川班員の所でL・P3を使って実験してみる必要があると思います。
[勝田]しかし、同じことをやっていて、お互いに矛盾した結果がでると、かえって解決への手掛かりがつかめる場合もありますよ。

《高木報告》
 1.NG処理細胞の復元により生じた腫瘍の動物継代成績
 (表を呈示)NG-18細胞−すなわちNG 10μg1回処理により悪性化したWistar rat胸腺よりの由来細胞−を復元して生じたtumorを再培養し、その16代目の細胞を100万個cells WKA ratに復元して生じたtumorの動物による継代移植をこころみた。
 移植の方法は、tumorを無菌的に摘出した後、等量の培地を加えてteflon homogenizerで出来るだけこまかいcell suspensionを作り、その0.1mlをnewbornから生後75日のrat皮下に移植した。移植間隔は13〜42日とまちまちであるが、3代目では移植35日たったtumorを生後12日および33日目のratにそれぞれ移植、後者に生じたtumorは移植17日後に5代目に移植した。生じたtumorは組織学的にNG-18細胞を復元して生じたtumorとよく似た肉腫であったが、継代と共にfibrousな感が強くなったようである。
 7代継代の現在、未だ生後日数のたったratに移植すると成績が良くないようである。
 1代目、4代目に生じたtumorの再培養を行い、その染色体を検索中である。
 2.腫瘍細胞と対照(正常)細胞の混合移植実験
 腫瘍細胞としてRG-18、正常細胞としてNG-19Kを用いた。前者はNG-18(T-1)細胞を復元して生じたtumorの再培養系であり、後者はWKA rat胸腺由来の無処理培養細胞である。
 月報No.7004で一部記載したが、今回はこれまで行った実験Scheduleすべてを記載した。移植にはすべてWKA newborn ratを用い、cell suspension 0.1ml中に上記細胞数を含ませるようにして皮下に接種した。
 未だ結果が出揃っていないが、腫瘍細胞10万個群では、正常細胞100万個混合した場合に1/2にtumorの発生がややおくれた(約10日)。腫瘍細胞1万個群では正常細胞、0、1、10万個混合したが結果に殆ど差はみられなかった。
 なお正常細胞として用いたNG-19K、rat胸腺細胞株は100万個の復元で現在105日、50日を経ているがtumorの発生をみていない。

 :質疑応答:
[下条]復元する時、正常細胞を混ぜるという実験の目的は何ですか。
[滝井]発癌剤処理で悪性化したと思われる細胞群の軟寒天内でのPEと復元成績とが平行しないので・・・。
[勝田]その細胞群の100%が悪性化したのではないと考えると、残って居る正常細胞が腫瘍化した細胞の動物へのtakeをおさえるのではないかとも考えられます。そこで実験的に、正常細胞と腫瘍細胞を色々な比率で混ぜて復元したわけです。
[安村]逆に正常細胞がfeederになっているのではないかという前提で角永氏がデータを出していますが、結局正常細胞を混ぜたことによる差は出ていません。もっとも角永氏の使った腫瘍細胞の系は、少数で動物にtakeされる系でしたから、例としてはあまりうまくありませんがね。
[勝田]正常細胞の方の比率をぐっと上げられませんか。
[滝井]腫瘍細胞の方の接種数を少しづつ下げていますので、1,000コでtakeすることが確実になれば、正常細胞の方の比率を上げられるわけです。
[山田]1,000コの腫瘍細胞で確実に動物を殺せるというデータをもっていますか。
[滝井]目下結果が出るのを待っています。
[藤井]接種数が少なくなると、動物は延命するわけですか。
[安村]そうですね。ずい分長生きしますね。
[下条]皮下接種はしないのですか。皮下接種だと日を追って経過を観察できるという利点と、再現性が高いという利点があります。
[山田]肉腫の復元は皮下もよいのですが、腹水肝癌の中には皮下につかないものもあります。接種部位によってずい分腫瘍の成長が違います。
[堀川]復元に使った動物の数が少なすぎますね。
[下条]私もそう思います。1群に2匹とか3匹では、一寸あとの数的な処理に困りますね。
[安村]ウィルス屋としてはそう思いますが、ラッテをつかって培養細胞というと、色々難しい問題があるんですね。

《梅田報告》
 今迄報告してきた長期継代例の染色体について報告する。(それぞれ分布図を呈示)
 (I)(T#150 of 7003-I)ラット肝の移植片から生え出した系で位相差、染色標本観察で比較的奇麗で一様な細胞群から成っていると思われた。しかし染色体数はAneuploidになり、しかも幅広い分布を示している。4倍体に近い染色体数をもつ細胞も認められる。
 (II)(T#170 of 7003-II)ラット肺を継代し増生してきた系で多角形の上皮性細胞群が石垣状に並び、その間を境する様に繊維芽細胞群が増生している2種類の細胞群から成っている。染色体標本では一応42本にmodeがあり、diploidを保っていることがわかる。
 (III)(N#29F of 7003-V)ハムスター胎児培養細胞に3HOA 2.5x10-4乗M、6日間作用後長期間継代を続けているもので、6代目、9代目にハムスター頬袋に移植しているが、いまだ腫瘍を作るに至っていない。形態的には最近epithelioidと云った感じの細胞になっている。20代目のものでは、数えた細胞が少いが44本にpeakがあり、更に80本の4nに近い細胞がかなり増加している。
 IV.(N#29 control of 7003-V)N#29のcontrolで17代目の染色体標本である。この系は前回班会議(7003)で報告した時より増殖がコンスタントに良くなっている。N#29Fと殆同じ染色体数分布を示している。
 V.(N#34J of 7004-I)ハムスター胎児細胞に10-4乗M 3HOA 5日間作用後無処置細胞で継代を重ねている系で、培養100日目11〜12代頃より増生がコンスタントになった。形態的にはN#29Fと異り明らかにfibroblastic cellから成っている。このものの染色体数は、42本にpeakがあってhypodiploidであり、又4n近辺にかなりの細胞があることがわかる。
 VI.(T#211 D)先月月報にT#217Hについて記載したが、これは標本作製に失敗して染色体数を数え得なかった。殆diploid rangeにmodeがあり、ひどいanewploidyにはなっていない模様である。
 一方今回初めて報告する系であるが、T#217Hと同じN-OH-AAFを10-4.5乗M6日間作用させたハムスター胎児細胞が最近増殖が盛んになった。累積増殖カーブを示すが、培養140日目より増殖が極端に良くなったことがわかる。染色体数の分布は42本にピークがあってhypodiploidを示している。4n近辺の細胞はN#29F、N#34Jの細胞より少ない。興味あることはbreak fusionのあまりにも激しい変化を示すmitotic cellが1ケであるが見出されたことである。N-OH-AAF処理は150日近くも前のことであるし、これ程著しい変化を示しているのはふにおちない感じがする。(今迄沢山の標本を観察してきたが、controlでgapは見られてもbreak、fusionがこれ程多く見られたのは初めてである。)
 VII.Soft agar法をN#29F、Control、N#34J細胞系で行ってみた。いずれもcolony形成が見られず、次いで培地中に0.1%の濃度でpolypeptone(Bactopeptoneと殆同じ効力がある)を加えてみたが、これでもcolony形成は認められなかった。湿度が下り易い炭酸ガスフランキを使っての結果であるが、usual plateでのColony countの結果は(表を呈示)、N#29F系15代のP.E.は6.5%、21代は7.6%、Fibroblastic piled up colonyは13%と6.5%であった。N#29 controlでは18代のP.E.は4.0%、piled up colonyは0であった。N#34J系では14代のP.E.は13.4%、piled up colonyは12%であった。N#29 controlで増殖が盛んになったと記載したが、本実験ではfibroblastic colony形成はなく、N#29F、N#34Jとは一応異ると思われる。fibroblastic colonyの他はepithelioid、endthelialの細胞から成るcolonyである。

 :質疑応答:
[堀川]pile upしたfocusはみられましたか。
[梅田]みられました。
[勝田]染色体数の分布の最頻値が変わってきているのですから、変異したということは言えますね。腫瘍化と言えるかどうかは未だわからないが・・・。
[梅田]4NQO処理直後に染色体の断裂が多く見られました。
[山田]その場合染色体の断裂を起こしたような細胞があと生きのびて子孫を残すのでしょうかね。
[堀川]ああいう断裂を起こした状態の染色体をみていると、どういう風にreplicationするのか想像もつきませんね。
[勝田]復元してみましたか。
[梅田]復元接種はしてありますが、まだ結果は出ていません。
[堀川]あと復元実験がものを云うわけですね。
[下条]余談になりますが、湿度の下がりやすい悪い炭酸ガスフランキを使う時には、フランキの中に水槽を置いてそれに何枚ものガーゼをたらして、水を吸い上げるようにしておきます。そうするとかなり蒸気が立って、湿度を保つ事ができます。

《藤井報告》
 前号の月報に掲載したデータについて更に詳細に発表。

 :質疑応答:
[下条]免疫学的な実験の場合、矢張り純系同系の動物で腫瘍抗体を作らせるのでないと、結局けりがつかないのではありませんか。JAR-1系−ウィスターキングという組み合わせでは、又問題が残りますね。
[藤井]同系でも試みたのですが、どうしても抗体が出来なくて、とうとうWKAに切りかえたのです。
[下条]抗原に使う細胞をX線でたたくとか、いろいろ方法を考えてどうにか同系にもってゆくべきですね。それからMHA(mixed hemadsorption)は非常にタイターが高く数万倍のケタだと思っているのですが・・・。
[藤井]ヘテロの系だと数万倍に出ます。でもこの場合、タイターは低いのですが、対照とは有意の差があります。
[山田]IAで反応がなくてMHAで反応が出たというのは、どういう事でしょうか。
[藤井]細胞の種類によってIAで出るものとMHAで出るものとありますね。それは細胞膜面のサイトの問題ではないでしょうか。
[堀川]丸い細胞に赤血球がついているようでしたがcell cycleと関係がありますか。
[高岡]CulbTCでは普通の状態ではこんなに丸い細胞は多くありません。反応を起こした細胞が丸くなっているのだと考えられます。

《下条報告》
 勝田先生から培養細胞のT抗原をしらべるように依頼され、44年中に8株の細胞についてadeno-virus12、SV40のT抗原をFAでしらべた。その結果SV40T抗原は全部陰性、adenovirus12T抗原は7株完全に陰性、1株のみ少し蛍光がみられたが、形態からみてT抗原らしくないので、これも陰性としてよいであろう。検査はすべて陽性対照(adenovirus12 or SV40 transformed cells)を同時においてある。
 adenovirus12、SV40のanti-T conjugateは常用しているので、上の検査は簡単にできたが、研究費を少しいただいた。上の検査には費用は殆どかかっていない。そこでこの研究費を我が国では未だ誰も作っていないadenovirus7とpolyoma virusのanti-T conjugateを作るのに使った。adeno virus7は山本弘史君(予研村山分室)、polyoma virusは田口文章君(北里大)に検討を依頼したので、研究費も御両人にさしあげた。現在色々の方法でハムスターを免疫し、CFでT抗体価、抗細胞成分抗体価などをcheckしている所で、未だconjugateを作るところまでには行っていない。

 :質疑応答:
[堀川]発癌剤で悪性化しても知られていないウィルスとの相関性をどう考えますか。
[下条]Todaroのhypothesisではウィルスがde-depressionに働くのだとしていますね。変異するためにはウィルスが関与しても増殖にはもはやウィルスは不要だというような事実を幾つか合わせ考えるとde-depression説が正しいかなとも思いますね。しかし、九大の森氏のprogressionという説もありますしね。
[安藤]4NQOがDNAを切る、切られた所に例えばウィルスのDNAがはまり込むということで、de-depressionが起こるとは考えられませんか。
[下条]ウィルスを使うのは、あとにマーカーを残すという点がよいですね。ウィルスに対する感受性を細胞の変異をみる手段として使うのも便利だと思います。
[藤井]抗血清で細胞を処理して細胞膜に変化を与えることによって、変異を起こせないでしょうか。DNAに直接作用を及ぼさない方法という意味で・・・。

《安村報告》
 この4月からいままでの教室名が細菌学教室であったのが、微生物学教室と変更してよいとの内示がありました。これで多少の気がねなく細胞をとりあつかってもよいことになりました。Cell as microorganismとかCell as microbeというコトバが総説にあらわれる時代ですから。もちろんこのCellはMammalian cellの意味でつかわれていることは申すまでもありません。
 ☆AH-7974TC細胞(JTC-16)のQ1-LLLクローンとQ1-SSSクローンの移植成績:
 これまでのL-Sの比較の最後のまとめとしての移植実験の結果をお知らせします。
 ラットは生後6日のJAR-2、脳内接種による6カ月観察の結果(表を呈示)、Q1-LLLのばあいはTID50(Tumor inducing dose 50%)は約3,125コの細胞。Q1-SSSのばあいは10,000コのところで全部生きのこりでclearな結果にならなかった。大勢において、LとSの間にこれまたclrarなひらきが移植実験成績からもえられなかった。野性株のこれまでの移植成績よりおとっている。
 ついで行われた4NQOによる悪性化細胞の腫瘍よりの再培養系Cula-TCとCulb-TCの移植実験の成績は(表を呈示)、Culb-TCの移植率はCula-TCのそれより大幅に高いことがわかりました。このことはSoft agar中におけるcolony formation rateの成績(Culaの法がCulbよりもrateが高い)と逆の関係で、このことからもこれまでのSoft agarの実験成績、つまりS−Lの関係、colony formation rateとの関係にはcorrelationがpoorであるということになりました。はてさて最初の見込みがずれにずれてしまって、しめくくりに大変苦労することになりそうですし、さても悪性化というものは怪物であるとの感が深くなりました。markerとかparameterそのものがmultiple orderであったようですし、一次的に“悪性化”とcorrelateするmarkerの発見そのものが絶望的に困難な様相です。とにもかくにも地道に歩兵の如く匍伏前進というところです。

 :質疑応答:
[下条]復元実験のタイトレーションで100,000コと1,000コがtakeされ、10,000コがtakeされなかったという結果は必ずしも矛盾した結果とも言えません。腫瘍細胞の復元の場合、接種量が或る程度多いとImmunoresponseが起こることを抑えてしまう。少なすぎると反応が起こるに至らない。というと10,000コ位が丁度反応を起こす適当な抗原量であったかも知れませんから。そうだとするとCulaの方が免疫反応を起こしやすく、Culbは反応の少ない系とも言えます。藤井さんの実験もCulaに変えると同系で抗血清が出来るかもしれませんよ。
[堀川]HAVITOの系でBuDR、8アザグアニンそれぞれどの位耐性が出来ていますか。
[安村]8アザグアニンは未だ。BuDRは10μg/mlまでゆきました。
[堀川]まだ低いですね。
[梅田]ダウン氏症候群の場合、発癌率が高いという話がありますね。
[安村]そう、染色体XXYのものと、正常のXYのものと細胞系を作ってそれぞれ4NQOで処理して変異率を調べてみようかと考えています。
[勝田]悪性化したかどうか何で判定しますか。
[安村]ハムスターのチークポーチへの復元と軟寒天でのPEです。

《三宅報告》
 前回報告したd.d.系マウス胎児由来の細胞に4NQOを処理したものT10は526日を経過し、20代となった。4NQO未処理の群でもその増殖力が強いことを発見し、この細胞がspontaneousに発癌したと考えられる節が増して来た。
 処理群の染色体のmodeは60、または64であることは既報の通りであるが、未処理のものが66(10代目)であることが判明した。また後者では倍増時間が20時間(12代目)で処理群よりも短い。
 液体培地(modifyed Eagle MEM+20%Calf serum)よりcloning efficiencyを検した所(図を呈示)これでも未処理群の方が高い。
 今両群について4回のcloningを完成し、細胞をTD40の閉鎖系に移し、再び染色体、増殖曲線を検索している。なお軟寒天培地での傾向を調査中である。4月3日、18代目の細胞を元の系のマウスの脳に100,000コ及び10,000コ復元接種した。

【勝田班月報・7006】
《難波報告》
 N-20:クローン化したラット肝細胞に及ぼす4NQOの影響(月報7005、N-19の続き)
    クローン化したラット肝細胞の各系の間に4NQOに対する感受性の差があるか?
 現在、発癌実験に使用している3系のクローン化した株を使用し、4NQOの感受性の差を検討した。実験1では、4NQOを終濃度10-8乗M含むEagle's MEM+20%BS培地に1週間培養後、4NQOを含まぬ培地に更新市、更に1週間培養を続けて、コロニーを数えた。対照実験には、4NQOを含まぬ培地で2週間培養したものをとり、この対照実験で形成されたコロニー数で、4NQO含有培地で形成されたコロニー数を割って、4NQOの感受性を有無を検討した。その結果は(表を呈示)表に示すごとく、LC-9系がやや4NQOに対して耐性を示すように思えた。しかし、他の3系の間でははっきりした4NQOに対する感受性の差がみられないので、第2の実験として、4NQOの終濃度を3.3x10-8乗Mに上げ、その他の条件は実験1と同じにして実験をおこなった。
(表を呈示)その結果は、LC-2、LC-10では4NQOを含む培地中では殆んどコロニー形成がみられないのに対して、LC-9の場合はコロニー形成が認められた。この実験はもう一度繰り返す予定であるが現在までの結果ではLC-9は他の二系に比べ、4NQOに対して、耐性がある様に思える。なお、3系のクローン化された細胞の形態、コロニーの形態は、LC-2、LC-10は類似するが、LC-9はやや異なり、小さい細胞で、コロニーも小さい。また核/細胞質比は、LC-2、LC-10では小さい細胞よりなるコロニーが多いが(即ち、細胞質が豊富)、LC-9では核/細胞質比が大きい細胞よりなるコロニーが多い。この細胞及びコロニーの形態は次回の班会議でお見せいたします。
 実験1、2に使用した細胞の総培養日数は、それぞれ721、742日のものを使用した。また、クローン後の培養日数は、LC-2のものは178、199日目のもの、LC-9、LC-10のものは150、171日目のものである。

《高木報告》
 腫瘍細胞とNG無処理対照細胞(正常細胞)との混合移植実験の途中で、対照細胞のみを移植したratの中1疋に腫瘍を生ずる事態がおこったため、正常細胞としての意味をなさなくなり、再び実験をくり返す必要を生じた。
 今回は月報7002につづきorgan cultureの培養条件につき報告する。
 月報7002ではsuckling ratの膵、腎、肺を高ガス圧下30℃で16日間器官培養して37℃のそれと比較しよい成績を得たことを述べた。その後さらに期間を延長して膵の培養を試みた。すなわち、前報と同様の方法で用意された組織を5%CO2+95%空気の下、30℃および37℃にincubateして3週間以上培養し、3、6、9、12、15、18、21、24日間に培地交換を行うと共にそれぞれ組織標本を作って鏡検し、また同時にその時点での培地中のinsulin量を二抗体法により測定した。
組織学的には前報と同様の傾向が引続きみられ、21日目のものまでは30℃群には内外分泌腺の構造がよく残っているものが多数みられる(写真を呈示)のに対して、37℃群では腺構造の破壊や繊維芽細胞の増殖した像(写真を呈示)が多くみられた。さらに、21日目から3日間培地中におけるglucoseの濃度をそれまでの1mg/mlから5mg/mlに増量したところ、24日目の培地中のinsulin量は30℃群では21日目にくらべて2倍以上に上昇したが、37℃群では殆んど上昇はみられなかった。以上の結果は30℃で培養した群が37℃に較べて長期間、組織の機能を維持していることを示すものと考える。

《梅田報告》
 医科研の研究室が、4階から2階に引越すことになり、持っている細胞系を一時的にもなるべく少なくしておきたいと考え、一部の細胞をバーチスのdeep freezerで凍結した。その直后、事故があり、結局今迄報告してきた樹立しかけのラット肝、肺由来の細胞の殆んどを切って了った。全く申しわけないことをして了って、がっかりしている。しかしハムスター由来でN-OH-AAF投与后の細胞はこの事故をまぬがれた。
 (1)T#211D細胞系(月報7005)はその后も順調な増殖を示し、現在N-OH-AAF投与后200日に近くなる。1週間に約10倍近い増殖率を示す。培養148日の時にusual plateでコロニー形成能をみた所、PEは63%、そのうち密でpile upしたコロニーが5%に認められた。しかしsoft agarではコロニー形成は認められず、又、180日目にハムスター頬袋に150万個cells移植したものも、腫瘤形成は認められていない。
 (2)横浜の研究室で継代しているN#34J細胞(月報7004、3HOA投与例)はその后、cloningを行い4細胞系を得、J1、J2、J3、J4と名付けた。J1、J4の増殖率は早く1週間に5〜7x、J2、J3はやや遅く3〜4xの増殖率を示す。この各クローンについて、usual plateとsoft agar法とでコロニー形成能をみた所(除J3)、usual plateでは(表を呈示)表の如く30%を上まわり、月報7005で報告した原株の13.4%から大分上昇した。しかし、依然soft agarではcolony形成を認めなかった。どうもsoft agarでコロニー形成が認められず、移植しても“take"しない系ばかし得ているが、どういう理由からか、検討する予定です。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(22)
 X線照射あるいは化学発癌剤(4-NQOまたは4-HAQO)処理によりDNA中に誘発されたsingle strand breaks再結合の機序検索の一環として、今回は4-HAQO処理により誘発されたsinglestrand breaksに及ぼす熱またはhydroxyurea処理の影響について報告する。
 既に報告してきたように、1x10-4乗M 4-HAQOで30分間熱処理することによって起きた、Ehrlich細胞のsingle strand breaksは24時間のincubationで殆ど完全に正常分子量のDNAにまで修復される。従って、この際細胞をどの様な条件におけば切断DNAの再結合が阻止されるかが問題になっている訳で、最初に手がけたのが前回報告したような熱処理法である。つまり細胞をあらかじめ45℃で30分間処理し、しかる後に1x10-4乗M 4-HAQOで30分間処理して誘発されたsingle strand breaksの再結合はどうであろうかを見たものであった。
これは明らかなように24時間のincubationでやはり殆ど完全と言っている位までに再結合される。ではこのような熱処理に加えて4-HAQO処理を受けた細胞内へのH3-thymidineの取り込み能、つまり残存DNA合成能を調べた結果が図1であって(図を呈示)、この図は便宜上H3-thymidineを含む培地中で24時間培養された時の正常細胞(Unheated cells)の放射活性を100とした時のそれぞれの活性(つまりH3-thymidineの取り込み能)を示したものである。この図から分かるように、熱処理さらに4-HAQO処理を受けた細胞ではDNA合成能が正常細胞のそれの1/555にまで低下している。しかるにこのような条件でさえ切断DNA鎖の再結合は可能なのである。続いてhydroxyureaは正常DNA合成をspecificに阻害することが知られているので、図2に示すごとく2.48mM hydroxyureaを含む培地中であらかじめ48時間培養したEhrlich細胞を、4-HAQOで処理することによってsingle strand breaksを誘起させる。次いでこの細胞を2.48mM hydroxyureaを含む培地中でincubateすることによって、切断DNAの再結合を調べた。この図から分かるように結果はあきらかに再結合可能であることが示された。又このようなhydroxyurea+4-HAQO+hydroxyurea処理と連続的な処理を受けた細胞内のDNA合成能は、正常細胞のそれに比べて1/770にまで低下していることが図3の実験から示された。このように熱処理あるいはhydroxyurea処理と言った細胞内DNA合成能を極度に低下させた条件下(勿論これらの処理に加えて4-HAQO処理が加わるのでDNA合成能は一層低下させられる)でさえ、切断されたsingle strand breaksの再結合は可能であることが、こうした実験から示唆された。この事は換言すれば極く微量のDNA合成酵素系(修復酵素系)が、障害を受けた細胞中に残存しておりさえすれば、切断されたDNAの再結合は可能であることを意味しているのかも知れない。

《山田報告》
 先月より細胞電気泳動法による細胞表面の抗原抗体反応の定量的測定法についての基礎固めに全力を注いで居ます。漸く、その結果がまとまりさうですので、書いてみたいと思います。これで漸くin vitroでの発癌過程における細胞の抗原性の変化について自信をもって検索出来さうです。
 1.血中抗体の検索(同種移植)
 同種抗血清を細胞に接触させると、抗原抗体反応が起こり、細胞表面に変化を生じます。特に燐酸基の露出状態の変化により、表面へのカルシウム吸着性が変わります。この吸着性の変化を細胞電気泳動法により定量的に測定すると云うのが本法の原理です。
 この基礎実験にはすべて、ラット腹水肝癌AH62Fを用い、これをドンリュウラットの腹腔内へ1,000万個移植し、18日目の血清を採取して、この血清中に含まれる同種抗体を種々の条件で検索しました。この結果カルシウムの吸着性の変化は(増加)、
 (1)抗体のみ作用させても、僅か起こりますが、これにラットの補体を追加すると、その変化は拡大される。所謂immune-lysisの初期の状態、或いはその極めて軽度の変化が、この細胞電気泳動法により検出される。
 (2)このカルシウムの吸着量増加は加へた抗体量に比例する。
 (3)写真記録式細胞電気泳動度で検索すると、この抗原抗体反応は特定の細胞のみに起こることはなく、細胞群全体に作用する。
 (4)抗血清を分劃して反応させると、抗原抗体反応を起こす分劃は19Sの部分に主としてあり7S分劃との反応は、ごく僅かである。即ち従来の同種移植における免疫反応を含めて、所謂遅延反応と同じく、この泳動法で検出して居るのは、IgMグロブリン抗体である。
(5)免疫粘着反応(immune adherence reaction)による検索結果は、この細胞電気泳動法の結果とよく一致する。その反応感度を比較すると、細胞数当りの反応血清濃度は二者共に略々同程度まで検索出来るが、細胞電気泳動法の測定には少くとも細胞が100万個必要とするので、実際に必要な抗血清量は後者(泳動法)により多く要する。この基礎実験の条件では最低0.1ml(最終濃度20倍)である。
 トリパンブルーを用いる従来の所謂intoxication testよりははるかに、この本法は感度がよい。(但しこれは19S抗体の場合のみかもしれない。)
 (6)この泳動法による検索可能な血中抗体は、AH62F一回移植後約7週間になって始めて検出される。反応するAH62Fのageと、反応との関係を調べると、増殖期の細胞が最も良く反応し、末期の細胞では反応が弱い。(生体内で同種抗体が反応して居る可能性がある。) この抗血清(0.3ml)からtarget cellであるAH62Fにより抗体を吸収するためには、約1ml(packed cell volume)の細胞が必要である。等々、その他幾つかの基礎データが得られました。
 2.細胞結合性抗体の直接検索
 次ぎに流血抗体の基礎データをもとに、リンパ球の表面に存在する抗体と、target cellである癌細胞とを直接接触させて癌細胞に起こる変化を細胞電気泳動法により検索しました。即ち前項と同様にラット腹水肝癌AH62Fを皮下に移植した後、その脾臓をとり、鋏で細かく分割、脾リンパ球浮游液を製作。これとtarget cellであるAH62Fと混合し、血清を加へて37℃30分、slow agitationを行った後、遠沈法により可及的にAH62Fのみを採取した後に細胞電気泳動法により検索。対照としては正常ラットの脾リンパ球を同一条件で接触させたAH62Fを用いた。その結果種々の成績が得られつつありますが、その幾つかを書きますと、1)感作脾リンパ球は24時間接触させると、明らかに対照にくらべて、細胞表面の荷電を低下させる。2)補体を加へると30分接触後に直ちに感作リンパ球によりカルシウム吸着性が増加し、その吸着量(AH62F表面の)の増加は、リンパ球がAH62Fの5倍以上必要である。それ以上リンパ球があると、加へたリンパ球の数に比例してAH62Fのカルシウム吸着量は増加する。またAH62F1,000万個移植後3日目の脾リンパ球は既にこの反応を起こす、等の成績が得られました。これらの成績をもとに今後in vitroでの発癌過程における抗原性の変化を追求してゆきたいと思っています。

《藤井報告》
 前前号月報で培養ラット肝細胞が4NQO処理をうけてtransformationを来し(RLT-2 cells)1旦あらわれた特異抗原−癌抗原である証しはないが−が復元-再培養を経るうちに(Culb-TC)消えてしまったことをMixed hemadsorption法で示した。
 今回は、抗Culb抗体(WKAラットに凍結保存したCulb細胞を注射してつくった同種抗血清)をI131で標識し、この標識抗体が培養ラット肝細胞(RLC-10)、変異株(RLT-2)、その復元再培養株(Culb-TC)によって吸収される程度などを検討した。
 1.同種抗Culb抗体の精製:抗血清はWKA rat抗Culb血清(Fr16,pool,021370)。予めCulb細胞、1.5x10の8乗個を凍結融解、テフロンホモジナイザー処理で破壊し、超遠心(40,000rpm,60分間)で6回洗滌し、Culb細胞stromaをつくった。3.5mlの抗血清をCulb細胞stromaに加え室温60分間で反応させたのち、冷生食水で3回、超遠心してCulb抗原-抗体complexとした。
 このcomplexに9mlの15%食塩水を加え、37℃、1時間振盪し、超遠心して上清を分離、沈澱をさらに10mlの15%食塩水で同様に処理し、上清をpoolした。
 得た上清をPBS、pH7.0に透析して等張とし、濃縮して1.5mlの試料を得た。試料は、O.D.280mμ=1.00で、Culb-TCに対してmixed hemadsorption testは1/160で2+であった。すなわち、この試料は特異抗Culb γ-グロブリンである。
 2.抗Culb γ-グロブリンのI131Naによる標識: 約1.5mgの特異抗Culb γ-グロブリンに、抗体1分子当り2〜3ケのIが結合するように計算した量のcarrier I3(KI 0.2M+I2 0.1N)−500μCiのI131Naを加え、pH9.2で室温、10分の反応後、Sephadex G-50のカラムにかけて、freeのI2を除いた。得たI131-標識抗体7mlは623.420cpm/mlであった。この標識操作は、医科研生物物理研究部の加藤巌博士の協力を得ておこなった。
 3.I131-標識抗体のCulb-TC細胞による吸収: 一定数のCulb-TC細胞が吸収する最大量の標識抗体を知る目的で次の実験をおこなった。
 LD液に浮游したCulb-TC細胞、20万個cells(0.2ml、100万個/ml)にI131-Culb γ-グロブリンの変量(1.0〜0.04ml)を加え、37℃、60分間反応させたのち、冷LD液で3回洗滌し、得た沈澱細胞について、その放射能をwell型測定機にかけ、吸着された抗体のcpmを求めた。図は、その結果である(図を呈示)。この図よりCulb-TC細胞20万個はI131-Culb γ-グロブリン試料0.6mlでsaturateされることが示された。(cpmは約30,000)
 4.Culb-TC、RLT-2、RLC-10の抗Culb抗体吸収度の比較: これら株細胞のそれぞれが、あらかじめ抗Culb抗体あるいは抗正常ラット肝抗体を吸収したのち、さらにI131-抗Culb γ-グロブリンを吸収するかどうかをしらべ、それぞれの株細胞のもつ抗原の特異性を見た。
培養細胞のLD液浮游液1.0ml(50万個cells)に、0.4mlの抗Culb抗血清(5120 mixed hemad-sorption単位をふくむ)、あるいは3mlの抗正常ラット肝抗血清(4800 mixed headsorption単位)を加え、室温、60分で吸収させた。いづれの抗体も10万個cellsが吸収しうる最大量以上である。この反応のあと、I131-抗Culb γ-グロブリン、0.2mlを加え室温、60分間おき、LD液で3回洗滌し、吸収された標識抗体の量をcpmで求めた(表を呈示)。
 表にみられるようにCulb-TC、RLT-2、RLC-10の細胞のうち、RLT-2のみが抗正常ラット肝抗体(Anti-NRL)に反応せず、Anti-Culb抗体に反応する抗原をもつことが示された。この成績は前前号で示したMixed hemadsorptionでの成績と一致し、その考察は同月報で述べてある。同系抗体による解析は目下進行中。

《安藤報告》
 4NQOはL・P3DNAに二重鎖切断を起さないのではないか?
 月報No.7004に報告したように、いわゆる寺島法で分析しているDNAには、プロナーゼ感受性な結合があり、プロナーゼ作用を受けると分子量は小さくなる。このプロナーゼの分解作用はcontaminateしているDNase活性によるのではない事は、故意に加えたすい臓のDNaseIが全く働かない事(No.7004)によっても、次に述べる二つの証拠によっても明らかである。第(1)にプロナーゼの作用時間を長くしても一定限度以上にはDNAは小さくならない。(図を呈示)図にあるようにプロナーゼが存在しない時には底に沈んでしまうような条件でプロナーゼ5分、20分、30分と作用させ分析した所、5分ですでに大部分こわれ、20分では完全に限界迄行き、それ以上作用させても、もうそれ以上低分子化はなかった。第(2)にプロナーゼ量は一定にしておき、基質としてのDNA量(すなわち細胞数)を変えた場合、図にみられるように細胞数が少い方がより高分子として沈降している。したがって、DNaseによる分解ではない事が確実に云えると同時に、粘性高分子としての物性をも示している事も判った。 次にこのような設定条件のもとに細胞を4NQO処理を行い、そのDNA切断を見た所(図を呈示)図の如くなった。すなわち、4NQO 10-5乗M迄は無処理の場合と同じになってしまった。プロナーゼ存在下には4NQOの作用は全くマスクされてしまった事になる。いいかえるならば、4NQOはプロナーゼ感受性を切断していただけであり、DNAのphosphodiester結合を切っていたのではない事を示している。この点更に確かめるべくプロナーゼの代りにトリプシンを使って確認したいと実験中である。

【勝田班月報:7007:ラット肝細胞の初代培養クローン化】
《勝田報告》
 1)培養内4NQO処理により悪性化したラッテ肝細胞の染色体(図を呈示)
 培養内で悪性化した細胞系(RLT)はいずれも染色体数の最頻値が2nより数本減少し、これをラッテに復元接種しても最頻値は変らなかった。ところが、この腫瘍細胞を再培養し、長期間継代していると、CulaTC、CulbTCのように、染色体数にばらつきが生じ、且高3倍体がふえてきた。ラッテの移植腫瘍の、染色体数のばらつきや、3倍体附近にピークのあるものの多いことも、腫瘍化したあとの副次的は変化である可能性の大きいことを示唆する。
 2)染色体核型(写真を呈示)
 RLT系は核型に大きな乱れは現われず、対(pair)を作る染色体がかなり残っている。しかし正常ラッテの核型にみられないものとして、大型のSubtelocentricのpairがしばしば認められる。どんな理由か判らないが、これがpairで現われる点は面白い。

 :質疑応答]
[吉田]この系は腹水型として動物でも継代できるのですね。この染色体の核型分析を見ると基本的にはラッテのセットをそのまま持っているようです。新しく出てきたように見える大きなサブセントリックの1対は2つの棒状の染色体がくっついて出来たもののようですね。
[勝田]この間の組織培養学会で出されたコルセミド処理によって生じる染色体異常についてのデータを考えると、染色体標本を作るのにコルセミドなど使っていいものだろうかと不安に思いますが、どうでしょうか。
[吉田]4時間位の短時間の処理では染色体に影響はないとされています。
[勝田]本当にG2に影響がないのですか。
[吉田]G2にはもう染色体のセットは出来ているのですから、染色体のセットには異常は起こさない筈です。しかし自然のものに比べると処理を受けた染色体は短くなっているのですから、そういう異常はあるわけです。又、処理後2回目の分裂になると染色体異常が出てきます。
[堀川]目的によって使い方を充分検討しなければなりませんね。昔は染色体の標本を作るのにコルヒチンを使っていたのですが、コルセミドが多く使われるようになった訳があるのですか。異常を起こす率はどちらが高いでしょうか。
[吉田]コルセミドは動物実験の方から使われるようになりました。コルヒチンより動物に対する毒性がずっと少ないのです。しかし組織培養に使う場合は毒性についても異常染色体の出てくる率についても大差ないようです。
[安藤]染色体の上でのブレイクとかギャップとかは、DNAレベルでも切れているのでしょうか。
[吉田]ブレイクという場合はDNAも切れています。ギャップという場合は染色体の一部に染色性を持たない他の物質が入り込んでいる時があります。
[勝田]どうして同じ染色体を複製出来るのでしょうね。不思議ですね。染色体の出来る過程を電子顕微鏡で経時的に追ったデータがあるでしょうか。
[吉田]無いと思います。実験としてむつかしいのでしょう。分裂期なら分裂期にだけ焦点をあてて調べることはできますが・・・。
[堀川]しかし、今の遺伝学では染色体がどうやって正確に同じものを複製してゆくのかもはっきりしないのですから。全く生物の中ではスゴいコンピューターが働いているのだな、というよりほかありません。

《高木報告》
 腫瘍細胞と対照(正常)細胞の混合移植実験
 No.7005にひき続き、同一細胞株を用いて実験をすすめた。
 腫瘍細胞としてRG18は32代より45代、対照細胞としてRT-9は38代より54代の継代数の細胞を実験に使用した。
 ところが対照細胞として使用したRT-9株の50代目を100万個皮下に復元したところ、44日の潜伏期で3匹中1匹に腫瘍の形成をみたので、一連の実験が一瞬にして、無意味なものとなってしまった。
 又同時にRG18株のTPD50の算定を試みたが、(表を呈示)予想に反してこの細胞は非常に悪性で、現在のところ10個の細胞(細胞をtrypsinizeし遠沈後、mediumに浮遊させてcell countを行い、100万個/ml又は10万個/mlとなる様に稀釋して再度cell countを行う。その後は10倍稀釋で100/mlの細胞浮遊液を作り、その0.1mlを皮下に接種したもの)で腫瘍を形成することがわかった。
 今後の実験にはもう少し悪性度の低い細胞を使用したいが、凍結中の細胞がレブコの事故でたえてしまい、現在手元には、この株しかないので、とりあえず10〜1,000個のレベルで対照細胞を変えて実験を続ける予定である。

 :質疑応答:
[勝田]動物が腫瘍死する所まで観察していないのですか。
[滝井]腫瘍が出来た段階で殺しています。
[安村]動物を使ってタイトレーションをする場合、全部死ぬ濃度、全部生き残る濃度、その中間何段階かという風にチェックしないと後で統計的な処理が難しくなります。
[滝井]ラッテの産児数が1腹10匹位なので、2段階位しか出来ません。
[安村]10匹なら5匹5匹の2段階より、3匹づつの3段階にした方がよいでしょう。
[滝井]細胞1コの接種の成績もみる必要があるでしょうか。
[勝田]吉田肉腫の場合カバーグラスに細胞浮遊液をたらして顕微鏡でみて1コ細胞がいるのを確かめて復元していますね。
[安村]10コ位になると10倍稀釋で作った浮遊液では正確とはいえませんから、接種したものと同量の浮遊液をシャーレにまいて数えるとよいでしょう。
[勝田]対照群は悪性化した系の対照群でなくてもよいのではないでしょうか。もっと培養日数の浅い、途中で自然悪性化する心配のない系を使ったらどうでしょうか。又は別の臓器由来でもよいと思います。
[堀川]どうも組合わせがスカッとしませんね。対照として入れる方はフィーダーのように熱処理とかX線処理とかをして入れたらどうですか。
[安村]角永氏の実験では接種する細胞数を一定にして、その枠内で正常細胞と悪性細胞の比率を変えてゆくというやり方ですね。
[藤井]in vivoだけでなく、in vitroで悪性細胞に正常細胞を加えてみて、悪性細胞の増殖に最も適当な比率というのがあるかどうか調べてみる必要はないでしょうか。又正常細胞が免疫的な意味で、悪性細胞の増殖を抑えるということもあるのかどうか。
[高木]始めは勝田班長の言われたように、ポピュレーションの中に悪性化した細胞が混在していてそれが増えてゆくのか、或いは全体がだんだんと悪性化に進んで行くのか、実験的に確かめたいと思って始めた仕事ですが、正常のつもりで使った対照群が何時の間にか自然悪性化していて無駄な骨折りになりました。
[堀川]動物に接種する前に双子培養しておくというのはどうですか。正常細胞と双子管で飼われることによって、in vitroでもう一歩悪性へ進められるかどうか。

《難波報告》
 この月報では、この秋癌学会で発表予定の仕事を報告する。
 N-21:クローン化した培養肝細胞の及ぼす4NQOの影響
 クローン化した肝細胞を使用して標題に関連する仕事を従来の月報に報告してきた。
 1.濃度の検討。
 2.処理時間の検討。
 3.細胞障害効果が細胞数に依存する問題の検討
 4.4NQOの障害が細胞にどれほどの期間残るか。1)増殖曲線からの検討 2)PEからの検討3)H3-Thymidineのとり込みからの検討。
 5.4NQO処理は細胞の増殖を誘導するか。
 6.3種のクローン化した肝細胞間に4NQOに対する感受性の差があるか。
 7.4NQO耐性の細胞がとれるかどうかの試み。
 8.4NQOで悪性変異した肝細胞と、対照細胞との4NQOの耐性の差違(これだけはクローン化した肝細胞を使用していない)。
 9.発癌実験の試み。
以上の内容である。以下1.6.7.についての実験データを記述する。
 1)4NQOの濃度の検討
 LC-2のクローン細胞を使用し、以下2実験を行った。まき込み2日目に10〜20万個に薬剤処理細胞数がくるように短試に細胞をまき、2日目に種々の濃度の4NQO in Eagle'sMEM(-BS)で1時間処理後、Eagle'sMEM+20%BS培地にかえ2日間培養を続け細胞数を数えた。結果は(増殖曲線図を呈示)4NQOの濃度が10-6乗Mから10-5乗Mに上がると急激に細胞が死滅することが判った。また10-8乗Mのときには、殆んど細胞障害は認められなかった。
 2)3種のクローン化したラット肝細胞の各系間に4NQOに対する感受性の差があるか
 現在発癌実験に使用しているLC-2、LC-9、LC-10の3種のクローン化細胞の4NQOの感受性の相違をしらべた。その際4NQOの濃度を3.3x10-8乗Mに上げた場合にLC-9系にやや耐性があるように考えられたので、更にもう一度実験を行った。実験条件は3.3x10-8乗M 4NQOを含む培地4mlに細胞をまき込み、シャーレはFalconを使用した。前の実験では4NQOの濃度は10-8乗M、3.3x10-8乗Mで、4NQOを含む培地は5ml、シャーレはガラス製のものを使用した。(表を呈示)今回結論されることは、LC-9は、3種のクローン間では一番4NQOに対して抵抗性があり、LC-10は非常に4NQOに対して弱い、すなわち感受性が高いことが判った。LC-2はこの2者に比べ4NQOに対する反応性にバラツキがあるよう思える。この現象は、正確なことは現在判定できないが、このクローン間の染色体数の分布に一致するようである。即ちLC-2は低四倍体を中心に幅広い分布を示し、LC-9は39、40に60%のモードを示し、LC-10では42に54%のモードを示している。現在この3種で発癌実験を行っているが、もし発癌現象に差違がみられれば面白いと考えている。
 3)4NQO耐性株が得られるかどうかの試み
 LC-2系のクローン化した細胞を使用し、(スケジュール図を呈示)4NQOの処理を行いそしてコロニーの形成率を見た。即ち、4NQO耐性の有無をチェックする為に経時的に10万cell/plat、/10-6乗M 4NQO in Eagle's MEM 5mlまき1週間培養し、その後4NQOなしの培地で1週間培養して形成されるコロニー数を数えた。その結果は、この実験条件では4NQOに耐性を示す細胞はつくられていないように思える。この際シャーレあたり10万個の細胞をまいたので、すっきりしたデータが出なかったのではないかと考え、次に4NQO処理1回、2回、3回目の少数細胞を3.3x10-8M 4NQOを含む培地で1週間、更に4NQOなしの培地で1週間培養しPEをみた。この実験は現在2回行っているが、どうも4NQOに対して有意に耐性の増加を示していない。
 もう一題の演題は
 N-22:旋回培養法を利用して試験管内発癌の指標を探す試み
 1.4NQO変異細胞と4NQO非処理対照細胞との細胞塊の大きさの比較
 2.その細胞塊への形成と培養期間との関係
 3.細胞塊の組織再形成の有無及び特種染色
 4.細胞塊形成の機構、1)細胞膜に依存するか、2)細胞産生物質に依存するか

 :質疑応答:
[安村]耐性をみる実験の場合、薬剤処理後に生えてきたコロニーを拾って次の処理をしたのですか。
[難波]コロニー1コを拾って次の処理をしたのではなく、生き残って増えてきた幾つかのコロニーを全部集めて使いました。
[安村]なるほど、それでは矢張り耐性が出来ていないということですね。
[難波]安村先生のAH-7974を使ってのコロニーレベルの仕事では、コロニーLとSと、それぞれ単層で増やした時の形態のちがいはありましたか。
[安村]Lの細胞の方が平たく広がっていましたね。しかし質量は差がありませんでしたし、増殖度も同じでした。もともと肝細胞は生体内でも2核細胞や大きさも大小のものがあるのですから、培養細胞でいろいろな形態をもっていても不思議はないと思います。
[梅田]他の薬剤で耐性ができるかどうかみられましたか。
[難波]みていません。
[梅田]4NQOそのものの毒性の問題があるのではないでしょうか。4NQOは細胞内に取り込まれると直ちに4HAQOになってしまう。耐性が出来るとするなら、4HAQOに対する耐性が出来るのではないでしょうか。若しこういうやり方で4HAQOに対する耐性が得られるとるすと又面白くなると思います。
[堀川]仲々難しい問題ですね。1つは4NQOか4HAQOかという問題、1つは細胞膜の問題があります。薬剤耐性の場合始から耐性のある系があって、ラベルした薬剤を使って取り込みを調べてみるとちっとも取り込んでいないという事があります。それなどは膜の問題だと思いますが、しかし4NQOでは取り込まない細胞があるとは考えられませんね。私の実験からも感受性には違いがあっても4NQOの取り込み量には違いがみられませんでした。
[安村]4NQOに対する感受性において異なる二つの系の染色体数が違うようでしたね。
[勝田]あまり染色体とは結び付けない方がいいでしょう。
[安村]いや、染色体の数のバラツキの広いものの方が4NQOに対して強いというなら、何か意味づけられるか・・・と考えたのです。
[勝田]この仕事はもともと化学発癌の爪痕を耐性という面から探そうとした訳で、そういう意味からは望みがありませんね。そろそろ我々の仕事も或る所までゆきついてしまったようです。次の段階をどうしたらよいか宿題にしますから皆さん考えてきて下さい。

《梅田報告》
 (I)Hamster embryonic cellに3HOA(3-hydroxyanthranilic acid)を投与して継代しているN#29F細胞は相変わらずコンスタントに増殖している。形態的には以前よりやや細胞質のひろがったepithelioidの細胞に変ってきた。増殖率は1週間で約2.5倍である。この系でのControlはその後増殖を示し、1週間で1.9倍になる。3HOA処理後6月21日現在で257日になるが、最近行ったSoft agar法でもcolony形成は示さなかった。Controlでもcolony形成は示さなかった。Inoculumは10万cells/dish。Hamster cheek pouchへ100万個cells投与により2週間でまだ腫瘤形成は認められない。Softagar法で最近HeLa細胞についてのCFUは8.2%であった。
 (II)月報7004に報告した同じHamster embryonic cellにHOAを投与した系(N#34J)の累積増殖を示す(図を呈示)。KA、XA、3HOK投与例とcontrolは培養が切れて了った。このN#34J細胞の増殖率は1週間で6倍を示し、N#29Fより早い。4月5日HOA投与、開始後123日目にplateにまいて生じたcolonyから4系列のcolonyを拾い、目下培養を続けているが、2系列は増殖が早く他の2系列は増殖がやや遅い。之等すべてsoft agar中でcolony形成しなかった。詳しくは次号に報告の予定である。形態的には細長い典型的なfibroblastの形を保っている。Hamster cheek pouchに100万個接種して2週間になるが、まだ腫瘤形成は認められない。
 (III)7004に報告したT#217H細胞(Hamster Suckling lung)も増殖を続けているが、N#29F細胞と似ており、増殖率は一時8.1x/wであったのが、2.1x/wと下り、それに伴い形態的にepithelioidに変ってきた。6月21日現在で177日になるがSoft agarにcolonyを形成しない。
 (IV)月報7005に報告したT#211D細胞(Hamster embryonic cells)は非常に良好な増殖を続け、現在1週間で11倍となる。controlはその後増殖が止り切れて了った。形態的にはfibroblasticの形を保っているが、まだSoft agar法でcolony形成は認められない。Hamsterのcheek pouchには100万個接種して1ケ月半になるがまだ腫瘍形成は認められない。6月21日現在211日になる。目下Cloningを行い、増殖の早い系を拾うことにしてある。
 (V)今回新しく報告する系で、ハムスター新生児肺培養にNitrosobutylnrea(昨年度癌学会報告、p59、小田嶋)10-3.0乗M培地を2日毎に3回交換して計6日間作用後継代を続けている細胞の増殖が盛んになった。しかし1週間に3倍で、形態的には増殖が横這いになった頃は大型の細胞質のひろがった顆粒の多い細胞から成っていたが、増殖がconstantに増えだした頃より、fibroblastic cellが優位になった。この系はまだsoft agarでのcolony formationはcheckしていない。
 (VI)Hamster embryonic cellにrubratoxinB(肝、腎、更に増殖細胞といろいろな器官に多彩な病変を起すmycotoxin。発癌性はまだ報告されていないが検討中)を32μg/ml培地で3回培地交新した系(T#211F)もconstantな増殖を示し始めた。増殖率は1週間で2.2倍でそれ程早くないが、これから性状を検討する予定である。
 (VII)以上6系列以外にも発癌性の証明されている2種の薬剤投与でconstantな増殖を示すようになった細胞系がある。(Hamster suckling lung)
 (VIII)上の結果を綜合するとtryptophan代謝産物のうち一番proximateと考えられている3HOAと、AAFのproximateの形と考えられているN-OH-AAFと、Nitrosobutylurea、更に発癌性は証明されていないが多彩な病変を惹起するrubratoxinBでgrowth-promoting effectのあることが証明された。そのうち2系列では薬剤処理後目立ったlagがなく、constantな増殖を示した。他の4系列では一時増殖が止ったかに見える時期が続き、処理後120〜150日頃より増殖が再現し、constantな増殖を示す様になった。前者は最近epithelioid、後4者はfibroblasticな形態を示す。3HOA、N-OH-AAF処理後の4系列については再3のsoft agar法による検査でcolony形成を認めず、Hamsterのcheek pouchへの移植実験でも腫瘍形成に致らない。
 以上の様な結果から判断するとすれば、之等物質はこのHamsterのfibroblast in vitro系でgrowth-promoting actionしかないと云えるかも知れない。しかし我々のtechniqueの違いからこの様な結果をまねいているのかも知れない。目下4NQO処理によるin vitro carcinogeneisisの実験を進行中であるので、その結果により上記のことがはっきりと云えると思う。(各実験の累積曲線図を呈示)
 
 :質疑応答:
[安村]4NQOによる培養内悪性化の実験で黒木氏のデータでは、ハムスター胎児細胞はどの位の期間で悪性化していますか。
[梅田]大体1〜2カ月ですね。
[安村]これらの薬剤が動物実験のレベルで発癌性があるかどうか確かめておく必要がありますね。殊にハムスターに対して・・・。
[梅田]ハムスターに対して発癌性があるかどうか、分かっているものもあり、分かっていないものもありますから、調べておきます。
[安村]処理後、細胞の形態は変わりませんでしたか。
[梅田]増殖がモタモタしている間は平ったい形の細胞でしたが、どんどん増えるようになってからは、センイ芽細胞らしくなりました。
[安村]培養細胞が悪性化した場合、始の発見はたいてい形態変化ですね。形態変化なしに悪性化したというデータがあるでしょうか。
[勝田]ハムスター細胞を使った場合は知りませんが、ラッテ肝細胞は染色標本では全く形態変化がみつかりませんが、映画でみると動きが違います。
[安村]次に軟寒天内でのコロニー形成によって悪性化を知るには、100万個/シャーレの接種量からみないと、つかまらない場合があります。
[梅田]私の実験は10万個から稀釋していますから、もう一段多い方をみる必要があるわけですね。
[堀川]こういう種類の仕事は労ばかり多くて大変ですね。一番効率のよい発癌剤を選ぶにはどういう方法が一番よいでしょうか。コロニー形成率でみるのがよいか、形態変化でみるのがよいか・・・。
[吉田]目で見ていてパッと変化を知る方法はないものですかね。
[勝田]それは、無いことを保証しますよ。
[安村]今のところ、一義的に発癌とむすびついた現象はありませんね。たまたまハムスターではパイリング アップという現象が悪性化と平行しているらしい事が見つかったので、仕事が進んでいるわけです。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(23)
 前報では熱処理またはhydroxyurea処理をうけた細胞で相当までにDNA合成能を低下させた状態においても、その後に4-HAQO処理によって切断されるDNAの一本鎖切断を再結合し得る能力をもつことを示したが、今回はこの仕事に関連してpuromycin処理後の細胞について得られた結果を報告する。
 10μg puromycin/mlを含む培地中で前もって72時間培養した細胞を(10μg puromycin/mlという濃度は基礎実験から得られた濃度であるが、ここではそれらの実験については省略する。) 1x10-4乗M 4-HAQOで30分間処理し、その後同濃度のpuromycinと1μci H3thymidine/mlを含む培地中で培養し、各時点で細胞をとり出し、細胞内DNA中に取り込まれたH3\TdRの活性を測定した。(図を呈示)結果を、前報と同様に対照区(puromycinや4-HAQOで全く処理されていない細胞群)の24時間目における全放射活性を100とした場合の各実験の活性でみると、puromycinで前もって72時間処理され、次いで4-HAQOでDNAの切断をうけ、しかる後、puromycin存在下でDNA合成能をみたものでは、対照区の1/350にまでその活性が低下している。又同時にpuromycinのみで処理された細胞群や、4-HAQOのみで処理された細胞群(この場合はH3TdR取り込み時にpuromycinは存在しない)では対照群に比べて、取り込み能は、それぞれ1/20または1/100にまで低下している。
 では、このように前もって72時間puromycin処理をうけた細胞ではその後に起こる4-HAQOによって切断されたDNAの一本鎖切断をpuromycin存在下で再結合しうるか否かということが問題になってくる。この点をalkaline sucrose gradient法によって、検討した結果、此のような条件下では全くと言っていい位に再結合は認められない。
 ここで興味あることは4-HAQO処理を含めて熱処理、あるいはhydroxy-urea処理をした場合には対照区のDNA合成能のそれぞれ1/555または1/750にまで細胞内DNA合成能を低下させることが出来た。しかるにこれらの条件下では総じて完全と言っていい位に、一本鎖切断の再結合は起り得た。一方、今回のpuromycin処理では対照区のDNA合成能の1/350にまでしか低下出来ないにもかかわらず、4-HAQO処理によって切断されたDNAの再結合は起り得ないという結果が得られた訳である。
 以上の結果は正常DNA合成系と修復DNA合成系は、やはり全く別個の過程と考えるべきで、こうした条件下ではpuromycinによって修復DNA合成系に関与する酵素あるいは酵素群の生成は抑えられるために、切断DNAの再結合は進まないと考えるのが妥当ではなかろうか。

 :質疑応答:
[安藤]X線とH3のβ線とを同じとみたわけですね。
[堀川]そうです。
[勝田]4NQO処理でアンスケジュールドDNAを認められるのはどの位の時間ですか。
[堀川]約1時間です。
[勝田]それでは処理後もっと短い時間の取り込みも調べておく必要がありますね。
[永井]X線の量を増してゆくとランダムになってしまうのですね。
[堀川]私共の場合、治療用のX線を実験に使っているものですから、10,000r照射するのに1時間もかかります。勿論いろいろ注意し乍ら実験していますが、そういうドースレイトの大きさから来る乱れがあるのです。しかし又化学物質の場合は、処理時の細胞濃度、処理後の残存物の問題など細かい調整が必要ですね。
[永井]4NQOの処理濃度が高くなると、DNAの一本鎖切断が時間的におくれてくることも大きな問題ですね。

《安藤報告》
 SDS−プロナーゼによるDNAピークの蛋白含量について
 月報No.7006に報告したように、これまで使用されて来た動物細胞DNAの分析法であるいわゆる寺島法は問題があった。すなわち連続的なphosphodiester結合をしているDNAとして分析しているのではなくpronase感受性な結合、すなわち蛋白を介してDNAが結合し一見巨大分子として遠心場で沈降しているにすぎなかった。この点は更に他の蛋白分解酵素その他の方法によって確認しつつある。詳しくは次の機会に報告します。
 次にこの結合蛋白はどのような性格のものでありどのような機能をもっているのであろうか。DNAの複製、DNA上の遺伝情報の発現との関連は?等々種々の問題を提起している。先ず今回は蛋白含量を正確に測定してみた結果である。方法は蔗糖密度勾配遠心で得られたDNAピーク(プロナーゼ±で)をpoolし、ホルマリン固定をした後にCscl中で密度平衡遠心を行い、そこで測定された密度から蛋白含量を計算する方法である。(結果図を呈示)FreeDNAと各ピーク分劃の位置を比べると明らかに後者はFreeDNAよりも軽い密度の側にskewしている。したがってこれ等の蔗糖密度分劃は完全にFreeのDNAではなく、密度を軽くするような物質とのcomplexである事を示唆している。そして、この物質はpronaseの作用その他の事から考えると蛋白と思われる。蛋白とすると次の式に当てはめてその正確な含量を計算出来る。
 (計算式と表をを呈示)結果はPronase±いずれの場合も蛋白含量0−2.3%となる。
 Chromatinの中のDNA対蛋白比は1.0〜1.5くらいである事、この蛋白の殆ど全てはhistoneである。一方ここで分析された本物質の蛋白含量は2.3%、したがってこの蛋白はhistoneではないと思われる。今後この蛋白のより詳しい性格ずけを急ぎたいと思う。

 :質疑応答:
[勝田]4NQOとプロナーゼが共存した場合、4NQOがプロナーゼを失活させるという事は考えられませんか。
[安藤]それも考えられます。しかしこの実験では先ず4NQOで30分間処理してからプロナーゼ処理をしています。4NQOは処理後30分で細胞内には4NQOの形で残っていないというデータを持っていますから、この場合はプロナーゼの失活は考えなくてよいと思います。
[勝田]4NQO処理後のアミノ酸の取り込みはみてありますか。
[安藤]みていません。
[難波]パパイン、トリプシンではどうですか。
[安藤]まだみていません。
[堀川]プロナーゼと4NQOがDNAを同じように切断するというデータは、私のデータの説明にも役に立ちます。アンスケジュールドDNAの取り込みについては、まだはっきり説明出来ませんね。
[勝田]前にも言いましたが、電顕レベルでみておく必要があります。処理後に或る種のアミノ酸を特異的に取り込むかどうかということも、アミノ酸をラベルしておいて取り込ませ電顕レベルのオートラヂオグラフィでみられるのではありませんか。
[永井]プロナーゼの阻害剤を使ってどうかということも、みておく必要がありますね。それから4NQOが直接にアミノ酸の化学結合を切るというより4NQOが附くことによって、細胞内のプロナーゼ活性のようなものがひき起こされるとも考えられますね。
[難波]アミノ酸とアミノ酸の間が切れるのですか。アミノ酸とDNAの間が切れるのですか。
[梅田]SH基の問題はありませんか。
[吉田]ヒストンとは関係ありませんか。又リンカー間のDNAの長さはどの位ですか。
[安藤]ヒストンはありません。DNAは5x10の8乗の長さに切れます。
[永井]プロナーゼは無差別に蛋白を切りますから、他の色々な蛋白分解酵素で特異的な所を切るかどうか、調べてみる必要もありますね。
[松村]プロナーゼが切ったということだけで、リンカーとしてのアミノ酸があると簡単に言い切ってよいものでしょうか。プロナーゼで切ってしまうと細胞を殺してしまいますから、そういう形でDNAが切れていると考えられませんか。
[勝田]若しアミノ酸が切られているとすると、DNAの修復はどういう形で行っていると考えますか。
[野瀬]必ずしも縦につなげるリンカーと考えなくても、DNAの束をたばねる形の蛋白かも知れません。
[堀川]リンカーとして説明する事は易しいのですが、まだ色々と問題はありますね。
[永井]4NQOとリンカーとの関係は、4NQOがプロナーゼ処理の時と同じ大きさにDNAをきるという一点だけですね。リンカーがあるというのは、うなずけますが、4NQOとリンカーとの関係は、まだはっきりしているとは言えませんね。
[勝田]4NQOで処理した場合、ヒストンは切れますか。
[安藤]ヒストンの問題は塩濃度を変えることによって除外出来ますから、この場合考えなくてよいと思います。
[梅田]アルカリの方はやってみましたか。
[安藤]やってみたいと思っていますが、技術的に大変難しいのです。どうしたら信用できるデータが出せるか問題です。リンカーの事は今までも大勢の人が問題にしながら、結論が出ないまま、過ぎてきたことなので、十分慎重にやりたいと考えています。
[梅田]二重鎖の場合の切断がバラバラにならないでピークになるということの理由は、少なくとも説明できますね。
[吉田]化学発癌剤が細胞をアタックする場合、細胞の中へ入ってライソザイムを壊すのでしょうか。
[安藤]4NQOの場合ラジカルが出来て、ラジカルを生ずるものが発癌性があるとされています。松村さんの協力で、アンチラジカルを使うとDNA切断を抑える事が出来るかどうか実験を計画中です。

《山田報告》
 今月も引続き、細胞表面の抗原抗体反応を細胞電気泳動法により測定する方法を基礎的に検索し、直接培養細胞を使って居ませんので、その実験成績を簡単に書きます。
 同種抗体(血清中)の検索に引続き、免疫物質を産生すると云われている感作脾リンパ球様細胞とtarget cellとしてのAH62F(ラット腹水肝癌)とを直接接触させた後の、癌細胞の変化を細胞電気泳動法により検索しました。AH62F 1,000万個 I.P.移植後(ラット)5〜6日目に脾摘出し、前報で書いた様に脾細胞浮遊液を製作。AH62F 200万個に対し感作脾細胞4,000万個(20倍)を混合し、これに正常ラット血清(自然抗体を吸収したもの)0.5mlたしたもの、そして細胞を同様に混合した後に、56℃30分非働化した正常ラット血清を加へたもの、更に脾細胞とAH62FをそれぞれTwin tubeの片方づつに入れ、血清を含む上澄のみが、Twin tubeの窓に挿入されたミリポアフィルター(孔径0.45μ)を通して交通させる様にした、3つの組合せの細胞群を同一条件で37℃、30分、Slow agitationした。其の後Slowの遠沈により可及的にAH62Fのみをそれぞれ集めて、その細胞の電気泳動度を10mMのカルシウムを含むM/10ヴェロナール緩衝液中にて測定した。それぞれの平均泳動値及び、その測定標準誤差を表に示します。(表を呈示)
 非活性の血清を加へたもの、及びTwin tubeで細胞間を分離したものをそれぞれ対照として活性血清を加へて脾細胞とAH62Fと接触させた場合の電気泳動度の差は、感作脾細胞との接触によりAH62Fの泳動度は有意の差を持って低下してゐますが、正常ラット脾細胞との接触ではこの変化が起りません。
 この変化は感作された脾細胞の表面に存在する抗体がAH62Fと接触することにより、その表面の抗原と反応して起きたものと考へます。しかもこの反応は補体或ひは正常血清に含まれる何かの物質を必要とすると考へられます。
 従来細胞結合抗体は補体を必要としないと考へられて居ますが、この実験成績のごとく接触30分後の変化を測定観察してゐる様な成績の報告はありませんので、この反応の補体の意義についてはなほ不明な点が多く、或ひはこの実験で検出される変化は従来知られて居る細胞結合抗体と同じものかどうかわかりません。少くとも細胞電気泳動法では移植後3〜7日目の血清には流血中に抗体は検出されません。

 :質疑応答:
[山田]細胞性抗体というものについて、どう考えますかね。
[藤井]細胞性免疫というのは、フモラールな抗体が細胞表面に附着することだとされていますね。
[安村]免疫と一口に言っても病気の場合にもいろいろありますね。血清抗体で話がつかなくて、リンパ球を移すことによってプロテクト出来るものもありますしね。
[勝田]マウスとかラッテ由来の培養細胞の場合、同種の血清が細胞の増殖を阻害することがあります。補体の問題以外に血清自身の細胞に対する影響も考えておく必要がありますね。脾臓からリンパ球をとるのはどうしていますか。リンパ球だけと言えますか。
[山田]脾臓をつぶして、ガーゼで濾過して小さなものを選んでいます。リンホイドcellであって、リンパ球だけではありません。

《安村報告》
 ☆ラット肝細胞の初代培養からのクローン化の試み(つづき):
 月報No.7003に“これまで得られた結果はかんばしくありません。Cloneがとれそうでいま一歩のところで足ぶみ状態というところです”と書きました。また討論のところで“試験管の方は増殖してくれませんでした”と答えました。
 3月ごろまでの経過では、それぞれの系Hepro-1,2,3,4ともシャーレにまいた細胞は増殖をつづけてきたのにどういうわけでか、コロニーの中心部からnecrosisにかかり継代が困難になってきたところでした。“かんばしくありません”と書いたときはもはや継代が絶望的であると判断したために、そう報告したのでした。そのご、九死に一生というわけか、待てば海路の日よりというか、Hepro-4-1の一部分(それも、すべてシャーレにまいたあとシケンカンの残りカスに培養液を加えておいたもの)が(試験管に残っていた部分)が増殖をはじめてきたのに気付きました。
 6月11日になって思いきってトリプシン消化後その細胞をシャーレにまいてみました。予期に反して(たいへんさいわいなことに)よく増殖して再びコロニーを作ってくれました。なんと昨年10月4日以来実に8か月ぶりということです。これから順調に増殖してくれることを望んでいます。細胞形態は初代の上皮性の形態とかわっていないようです。しかしいまのところ形態以外に肝実質細胞であるという証明はなされていません。
 細胞数の絶対的な不足のため、具体的な実験がまだくめない状況です。いづれ細胞増殖が進んでから報告できると希望をもっています。希望だけに終らないようにしたいと希望しています。
 細胞集団の中には2核の細胞やら、細胞の大小があります。これはin vivoでも肝に普通にみられるそうですから気にすることはないと思っています。分裂像も100xの一視野に多いところでは3〜4コもみられます。細胞質内に顆粒が多い。

 :質疑応答:
[山田]昔、佐々木研の井坂氏が、動物継代のラッテ腹水肝癌の肝癌島の中にセンイが見られると言ったことがありましたね。
[三宅]本当のセンイかどうかは銀で染めて見ればすぐ分かります。
[高岡]岡山の株にしても、安村先生のクローンにしても1コから増やしたものが、染色体の面からみても、形態的にみてもずい分バラツキがあるのですね。
[安村]肝細胞の場合には、正常でも2核や何かがあります。染色体数の分布も、2倍体は60%位です。

【勝田班月報・7008】
《勝田報告》
 肝癌AH-7974細胞の毒性代謝物質(続報)
 ラッテ肝癌細胞が正常ラッテ肝細胞の生残乃至増殖を阻害するような毒性代謝物質を放出することをさきにparabiotic cultureで見出し、その毒性代謝物質の本態を追究してきたが、今回さらに同じ方法で培地を分劃したところ、図のようにピークが二つになってしまった。そこでこれらを(図を呈示)2及び3と命名し、肝細胞の培養培地に添加した結果、(図を呈示)2も3も両方とも増殖阻害を示したが、これは両方のピークが相接しているため、阻害物質がどちらかに混在したということも考えられる。
 そこで分劃2及び3をさらに再分劃して行った(図を呈示)。図に示すように2及び3について夫々(1)、(2)、(3)、(4)の分劃を得たので、まずその内の2の(1)、(2)、(4)について阻害効果をしらべてみることにした。
 それらの生物活性については、まず2についてしらべた結果(図を呈示)、Dowex50(H+)のカラムで吸着されない分劃では、(3)、(4)ともに阻害効果が現れず(2)分劃はまだしらべていないが(微量のため)、(1)の分劃では図のようにはっきり阻害効果が示された。
 これらはさらに分劃検討されなければならないので、今后の研究成果をお待ち頂くことになる。(分劃方法の図を呈示)

《難波報告》
 N-23:ラット肝に由来するクローン化した上皮性細胞の4NQOによる発癌
 以前に、RLN-E7系の培養ラット肝細胞の4NQOによる試験管内発癌を報告した。しかし、この発癌実験に使用した細胞はクローン化したものではなかったので、試験管内発癌の現象を解釈する上に、いろいろの問題を残した。その問題の第一は[発癌の淘汰説]である。 そこで、この問題を解決するために、3系のクローン化したラット肝に由来する上皮性の形態を示す培養細胞を4NQOによって悪性変化させることを試み、現在まで2系が癌化したので報告する。使用した細胞はRLN-E7から、月報6909に記した方法でクローン化したものである。クローニングの成績は月報7001に報告した。そして、その動物復元実験の中間報告は月報7004に記した。現在までに動物に腫瘍をつくるようになったものは、LC-2とLC-10との2系である。細胞の復元は生後48時間以内のラット腹腔に行ない6ケ月観察した。現在までに“take"された動物の4NQO処理条件、培養経過などをまとめた(表を呈示)。LC-2、LC-10系の4NQO処理を行った細胞を復元した動物は死にそうになった時期に剖検した。そして血清腹水中に浮游する癌細胞を再培養した。剖検の成績は表にまとめた(表を呈示)。
 N-24:ラット肝に由来するクローン化した上皮性細胞に対する4NQOの影響
    −4NQOは細胞の増殖を促進するか−(月報7007続き)
 現在、4NQOの発癌実験に使用している3系(LC-2、LC-9、LC-10)の細胞を使用し、これらの4NQO処理を受けた細胞と、4NQO非処理細胞との間に増殖率の違いがあるかどうかを検討した(同型培養による)。使用した細胞は表にまとめた(表を呈示)。その結果、対照細胞の増殖に比べ、4NQOの処理を受けた細胞の増殖はいづれに於ても特別に促進されなかった。
《佐藤報告》
 ◇DABによる発癌実験:
 長い間御無沙汰しました。7月1日学生部長を辞任し目下研究の整備に全力をあげています。発癌実験に関しては差当り46年4月医学会総会シンポジウム[細胞のTransformatinと癌化]の中で“DABによるTransformation"を受持っていますので、此に焦点をあわせて実験を行います。実験材料としては以下の肝細胞を利用する。
 1)B2 line:Donryu系、生後7日♂2匹よりtrypsinizationにより、CO2中でコロニーを造らせ、上皮性のコロニーを分離培養、現在総培養日数719日になっていますが、diploid 26%を含むnear diploid系です。実験には9代で凍結したものを恢復させています。凍結期間540日、現在培養日数179日。
 2)C-1-E line:Donryu系、生後7日♂1匹よりtrypsinizationによりCO2中でコロニーを造らせ、上皮性のコロニーを撰んだもの。5代培養日数73日より閉鎖系培養、11代、140日でdiploid 82%、現在培養日数207日。
 3)7057 line:Donryu系、生後5日♂より回転培養。現在3代、培養日数83日。
 4)E-7 line:Donryu系、生後5日♂3匹より回転培養。ナンバ君が、4NQOで発癌させた系ですが、現在、11代で凍結させてあったものから恢復させました。凍結期間909日、現在12代、培養日数245日。
 以上は培養日数が比較的短く且controlとして取扱い易いことを目標としました。
 生体における発癌実験で、発癌剤と溶剤の関係が論ぜられています。従来のDAB発癌実験ではTween20を使用しましたが、今回はethylalcohol、dimethylsulfoxide、propyrenglycolも用意しました。DAB(Merk)の各溶剤への最大溶解量、各溶剤の変性等目下検索中です。

《高木報告》
 腫瘍細胞と対照(正常)細胞との混合移植実験
 混合移植実験を繰返し行って居る。用いた細胞は腫瘍細胞としてはこれまで同様RG-18、対照の正常細胞としては本年3月16日に培養を開始したWKA rat肺由来の繊維芽様細胞株である。この正常細胞(RL細胞)についても、今日まで培養開始後約5ケ月を経ているので腫瘍形成能を調べているが、これは今回のdataには記載しない。出来る丈同腹のratを用いるように努力したが必ずしも思うにまかせなかった。
 成績は表に示す通りである(表を呈示)。この結果から、やはり正常細胞は腫瘍細胞の腫瘍形成を促進している印象をうける。即ちRG-18・10ケの場合RG-18・10ケとRL・100万個の場合のみ2/3に腫瘍を生じている。また、RG-18だけの移植では100個で2/8に48日目に腫瘍を生じているのに対し、RG-18・100個にRLを100,000個、10,000個、1,000個とまぜると、すべて28〜33日目に腫瘍を生じている。

《山田報告》
 新しく医科研で樹立されたラット腎細胞の電気泳動度を測定しました(図を呈示)。
電気泳動的な性質からみると、この株は比較的均一です。やや大型なこの細胞の平均泳動度は遅く、ふんわりと動く感じです。シアリダーゼ処理(濃度の条件は従来通り)をすると、-0.175μ/sec/v/cm泳動度が低下し、10mMカルシウム添加メヂウム内で泳動度を測定すると、-0.394μ/sec/v/cmも低下していました。上皮性細胞の性質をよく示して居ます。
 腎細胞の電気泳動度についての測定は、これが始めてですので、この成績の意味づけはまだ出来ません。(この株は1回だけ4NQOで処理してあるそうです。) これから種々の発癌剤を作用させた後の変化を追ってみたいと思って居ります。この株の良い所は比較的細胞が均一であることです。しかし曾てのラット肝細胞RLC-10程の均一性はありません。
 最近これまでの培養ラット肝細胞の電気泳動的な性質についての成績をまとめてみようと思い整理しています。従来の成績でたりないものを追加実験してゐます。その成績を一部報告します。
 CulbTC株:以前RLT-2(CQ40)について調べましたが、この株のラット復元再培養株(CulbTC)についてみますと、Culaと同様悪性腫瘍型の流動パターンを示してゐます。(特に新しい知見ではありません。Cula株の成績から当然推定出来るわけです)
 CQ60株:その後のCQ60株を調べましたが、昨年癌学会発表当時の状態と大きな差がありません。幾分細胞構成が揃って来てゐる様子があります。この株のpopulation analysisを現在行って居ます。(図を呈示)

《安藤報告》
 L・P3 DNAの蛋白分解作用に対する感受性について
 (1)Trypsinによる分解
 月報7004以来報告して来たように蔗糖密度勾配法によりL・P3 DNAは、プロナーゼ処理により低分子化を受けた。今回は塩基性アミノ酸に特異性を持つトリプシンによる低分子化を調べた。実験法はPronaseの場合と同様に、密度勾配層とSDS層に共にTrypsinを加えておき、細胞を破壊し遠心を行った。(図を呈示)結果は図に見られるようにPronaseの場合と同様に、Trypsin濃度を上げて行くにつれて低分子化が起っていた。しかも低分子化は50μg/mlの濃度で最大となり、それ以上の低分子化は起らなかった。
(2)2-Mercaptoethanol(ME)による分解
Pronase、Trypsinにより明らかとなったDNAの結合蛋白に、もしもS-S結合を含んでいるとしたら、MEにより低分子化その他の影響を受ける筈である。この点を次に調べてみた。 MEをSDS、蔗糖の両層に20mM、100mMを加えて、細胞を処理し、遠心をしてみた所、同様なDNAの低分子化が観察された。低分子化は20mMで充分であり、ME濃度を上げても変らなかった。この事からDNAの結合蛋白はS-S結合を含み、そのDNAとの関係は次の構造モデルで表されるようなものではないだろうか(図を呈示)。
現在迄に得られたデータを綜合すると上のような二つのモデルが考えられる。すなわち、L・P3のクロマチンの中でca 5x10の8乗〜10x10の8乗ダルトンの大きさのDNAが10の6乗〜10の7乗ダルトンの蛋白分子によりS-S結合を以って連結されている。これ等の分子間結合はcovalentであると思われる。何故ならばイオン結合をしているヒストンは完全に解離してしまっている。このDNA蛋白複合体の分子量が2x10の10乗-3x10の10乗ダルトンの巨大分子である。なお4NQO処理を受けた場合DNAの一重鎖と同時にこの蛋白に作用し、見かけ上の一重鎖切断を起していた事になる。

《梅田報告》
 (1)前回の班会議でのべたN#34J(月報7007)について、その后cloningして培養を続けているので報告する。4つのcloneをとってJ1、J2、J3、J4とcodeした。J1、J4はgrowthが良く、J2、J3はややslow-growingであった(図を呈示)。形態的にはJ1、J3は細胞質がやや広がった紡錘形を示していた。染色体数の分布を調べると、J1のcloning后6代目で42本に、J2は7代目で43本、J3は6代目で既に広い分布を、J4は5代目で43本にmodeがあった(表を呈示)。その后J1、J3をrapid-and slow-growingの代表として継代を続け、J2、J4はfreezing stockした。ところがJ3がやや増殖が早くなり、形態的にもJ1と似てきた。
 (2)今迄之等の系では、長期継代可能になったと思われるのに、soft agar中でcolony形成なく、hamsterの頬袋に移植しても“take"されなかった。そこでJ1の細胞に4NQOを投与してみた。controlとして月報7007で報告した系のcontrol細胞に同じく4NQOを投与した。4NQO 10-5.5乗M培地を2日間入れ放しにしてその后、control培地に戻してnon-treatedのものと対比したが、処理後40〜50日迄は処理群無処理群共に増殖に差はなく、形態的にも変化なかった。その后やや4NQO処理群の方が、J1細胞、N#29 cotrol細胞共に増殖が早くなった様であるが、著しい変化はない。(表を呈示)
 (3)之等の細胞についてsoft agar中でのcolony formationをcheckしてみた。相変らずcolony形成は認められずと云った方が良いのかも知れないが、J3の細胞が培養2週間后倒立顕微鏡でcheckした所、少くとも4〜5ケの細胞からなる小colony?を作っている様な感じであった。今后のJ3の細胞のKineticsを調べたらと思っている(表を呈示)。
 
《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(24)
 4-HAQO処理によって誘発される細胞内DNA一本鎖切断の再結合機構を検索する目的から、これまでに熱処理から始まって種々の化学薬剤で前処理、または後処理した時の切断DNAの再結合の動態を検討してきた。又、これらはこれまでの月報で順次説明してきた。
 今回はActinomycinS3の影響も含めて、一応のデータが出そろったので、これまでの結果を総括して考察してみたい。
これらの結果を要約して表に示す。4-HAQOのみで処理した後、24時間におけるEhrlich細胞の正常DNA合成能を1、又、その時の細胞の有する切断DNAの再結合能を100として、熱又は各種化学薬剤で処理した場合の影響をまとめてある。これまで機会あるごとに説明してきたように、これらの表から総括して言えることは、熱処理、またはhydroxyurea処理は4-HAQO処理細胞の正常DNA合成を特異的に抑えるにもかかわらず、こうした条件下でも切断一本鎖DNAの再結合は可能である。
一方Puromycin処理では正常DNA合成能はそれ程までに抑えないいもかかわらず、切断DNAの再結合を殆んど不可能にしている。また、ActinomycinS3処理はこれらの中間的なeffectを示していることが分かる。
 こうした結果はとりも直さず、正常DNA合成に関与する酵素系と、修復DNA合成に関与する酵素系はまったく異なったものであることを強く示唆するものと思われる。
 又、こうした実験結果はいづれも結論を導くのに間接的な証明としてしか存在意義がないため、現在こうした結論を導き得るための直接的な実験systemを検討中である。

【勝田班月報・7009】
《勝田報告》
 §ラッテ肝癌AH-7974細胞の毒性代謝物質についての研究続報:
 前号月報に分劃2-1が顕著な阻害効果を示すと報告したが、その分劃を各種の培養培地に添加し、増殖に対する影響をしらべてみた(表を呈示)。
 以上の実験においては、いずれも平型回転管を用い、静置培養によった。培地は、CS-LD培地80%に2-1分劃を20%に加えた。添加2日後に細胞を固定染色して検鏡して判定した。 RLC-10(凍)というのは、ラッテ正常肝由来の株であるが、継代の途中で凍結保存(1969-7-2)し、それから戻した株である。継代をつずけた系では、RLC-10(B)のように自然発癌をおこしてしまったが、凍結系を1970-5-6に融解し、TD-40瓶で培養していたところ、7-22に至り、瓶内にコロニーが3コ発見され、これらは別個に釣って、目下その性状を検索中であるが、コロニー以外の細胞をあつめて実験に供したのが上記の結果である。
 なおなお上記3コのコロニーの染色体数については、#を附して記載すると、#1は未検索、#2は43本、#3は42本にモードを有していた。
 これらの結果によると、癌化した細胞(RLC-10(B)、RLT-1、RLT-6、CuleTC、AH-66TC、AH-7974TC、RLG-1に対しては、2-1は阻害を示さないが、正常ラッテ肝由来RLC-10(凍)の培養に対しては、阻害を示すことが明らかにされた。

《難波報告》
 N-25:ラット肝に由来するクローン化した上皮性細胞の4NQOによる発癌
月報7008のN-23に4NQO処理によって動物に“take"するようになったクローン化したラット肝細胞(LC-2、LC-10)の実験成績を示した。それ以後、更にLC-2系の細胞が発癌したので、その成績を追加する。(表を呈示) この成績から、LC-2系の細胞を試験管内で4NQOで癌化させる場合次のことが結論される。
 1)細胞の癌化には、10-6乗M 4NQO 1hr処理2回で十分であった。しかし、この場合動物に移植した場合生じる腫瘍の増殖は遅かった。
 2)10-6乗M 4NQO処理のくり返しを増すことによって、動物の生存日数は短くなる。この4NQOのくり返し処理は、(1)癌化した細胞の数を増したのか(この悪性細胞数の増加の原因は目下不明であるが、4NQOのくり返し処理がより多くの悪性変異した細胞をつくったのか、4NQOのくり返し処理がすでに4NQOで悪性化した細胞の選択的増殖に有利に働いたのか、又は自然発癌した細胞の選択的増殖に有利に働いたのか、などの理由が考えられる)。(2)癌化した細胞の悪性度(動物の生存日数を一応癌細胞の示す悪性度と仮定して)を増大させたのか。(3)或は、4NQOのくり返し処理が効いたのではなくて、それだけの培養日数が効いたのか。などの問題点が残る。現在(3)点については、4NQOの処理の少いもの(5、10、15回)を更に培養を続け少なくとも20回処理した細胞の培養日数を経過した時点で、細胞を動物に復元し、その動物の生存日数を観察中である。
 3)株化したラット肝細胞をクローン化し、4NQO処理を行い細胞を動物に復元するい要する日数は、だいたい3ケ月(LC-2では82日、LC-10では93日)であった。この事実から考えられることは、上記の実験計画に従えば、試験管内発癌の仕事がかなり定量的に行える可能性があるように思われる。
 N-26:発癌した2系(LC-2、LC-10)発癌に至るまでの細胞の累積増殖曲線
 1)LC-2の累積増殖曲線(図を呈示)
 実験を単個細胞から開始しているので、累積増殖曲線から復元時に細胞が何回分裂したか推測可能である。図に示しているように、LC-2の対照細胞は復元時までにだいたい33〜34回分裂した計算になる。4NQO処理を行った2系(10-6乗M、1hr、2回のものと、3.3x10-6乗M、1hr、2回のもの)では、薬剤処理による死亡細胞数が正確に把握できないので、分裂回数を計算できない。しかし、月報7005のN-19、7008のN-24などの事実、即ち(1)4NQO処理時の細胞障害は、細胞数が多い場合には軽度である。(2)4NQO処理は細胞の増殖を誘導しない、などの点より4NQO処理を行った2系の分裂回数も対照細胞のそれに近いと考えられる。又、10-6乗M、1hr、2回処理後から復元までの分裂回数は6〜7回程度と計算される。
この図の中の3.3x10-6M、1hr、2回処理のものは発癌しなかった。なお移植動物の観察は、細胞復元接種後6ケ月間行なった。
 2)LC-10の累積増殖曲線(図を呈示)
 LC-10の場合もLC-2とほぼ同じ計算になる。即ち、対照細胞と4NQO処理細胞との分裂回数はほぼ等しく33〜34回で、4NQO処理後の細胞分裂はだいたい8回になった。

《山田報告》
 今年の春に、4NQO処理したRLH-5・P3株の抗原性の変化について検索して、No,7003号にその結果を報告しましたが、今回は更にこの検索を進めてみました。即ちJAR-2ラットにRLH-5・P3の変異株HQ1Bを1,500万個移植した後、19日目に採血し、その血清中に含まれるhomo-antibodyを用いて、HQ1Bの抗原性と、その原株の(RLH-5・P3)抗原性との差を追求してみました。方法としては、抗血清或いは正常血清0.5ml、補体0.1ml、細胞200万個/0.5ml、Tris-HCl緩衝液(pH7.0)1ml+CaCl2を→37℃、30分静置→2回生食にて洗滌したものを、1.0mMCaCl2を含むヴェロナール緩衝液内にて泳動させ、その細胞電気泳動度を測定しました。
 まず抗HQ1B血清のtarget cell(HQ1B)に対する反応、及びこの抗血清に、同量のRLH-5・P3株を加えて吸収した後に細胞を捨て、上澄の吸収抗血清を用いました。補体比活性化は56℃ 30分熱処理により行い、対象としてはJAR-2の正常血清を用いて、それぞれのHQ1B細胞の電気泳動度に対する影響を検索しました。(表を呈示)
 target cellに対して抗血清はよく反応し、その泳動度を低下させますが、RLH-5・P3細胞で吸収した血清との反応は、前者の約1/2弱にまで、少くなりました。即ち、HQ1B株とそのoriginal株であるRLH-5・P3株には共通抗原があることがわかります。同一条件で正常血清と反応させると、HQ1Bの泳動度の低下は全くみられず、むしろ増加しました。
 次に抗HQ1B血清を原株RLH-5・P3に反応させた所以下の結果を得ました(表を呈示)。
 抗HQ1B血清はRLH-5・P3の泳動度も低下させますが、target cellとの反応にくらべて、かなり弱く、正常血清と抗血清との反応を比較した成績からみると、前の実験と同様に抗HQ血清のRLH-5・P3に対する反応は、HQ1Bに対する反応の約半分であることがわかりました。
 即ち大まかにみると、この成績は、『HQ1Bの抗原性の約半分或いはそれ以上が原株RLH-5・P3と共通抗原であり、その残りに原株にはない抗原性が変異により出現しているのではないか』と云う推定を可能にさせます。
 細胞電気泳動法による抗原性の分析は今回が初めてですので、細かい検討が更に必要と思います。

《安藤報告》
 (1)Pronase処理のL・P3DNAの分子量の測定
 これまでの月報で報告して来たL・P3DNAのプロナーゼ処理後の単位DNAの大きさを今回厳密に測定したので報告する。
 プロナーゼ存在下にL・P3細胞とP32-λDNAを蔗糖密度勾配遠心にかけた。第1図(a)は10℃、30,000rpm、2時間の遠心、(b)は1.5時間遠心を行ったものである。(a)の場合λDNAは半分くらいhalf moleculeになっていた。図からλDNAのS20W=33Sとすると、L・P3DNAのS20W=110S(aより)、130S(bより)となる。(a)の場合は殆どL・P3DNAは底に沈んでいるので、(b)よりのデータ130Sを取る。次に同じくプロナーゼ存在下に種々の細胞数、すなわちDNA量のサンプルを遠心する。第2図に見られるように細胞数が多い程沈降速度は遅くなる。この際、第1図において用いた細胞数は第2図の黒丸のそれに相当する。したがって第2図の黒丸のピークを130Sとして白丸、三角ピークのS値を計算する。D1を1.0、130Sとすると、D2=163S、D3=187Sとなる。これ等のS値を与えた時のDNA濃度を横軸にS値を縦軸にプロットすると第3図のようになる。第3図、でDNA濃度を0にまで外插した時のS値を求めると195Sとなる。したがって、プロナーゼ処理後のDNAの沈降定数は195Sと決定された。次にこの沈降定数から式に従って分子量を計算する。M=4.26x10の9乗ダルトンとなった。
 (2)プロナーゼ処理前のL・P3DNAの分子量の測定
 プロナーゼ処理前の自然のL・P3DNAの沈降定数をP32-λファージを指標として求めた。
第4図に見られるようにファージの位置よりもやや遅い程度で、ファージのS20W=410SとするとL・P3DNAのそれは340Sであった。次に第5図で再びSの濃度依存性を調べた所、図のように明らかであった。第4図で使用した細胞数は第5図での白丸ピークに相当する。したがって、その沈降位置から他の二つのピークの沈降定数も求める。それぞれ272S(黒丸)、370S(三角)であった。これ等の値を第6図のようにプロット、外插してS20W=410Sが得られた。再びこれから式に当てはめ分子量を出した。M=3.98x10の10乗ダルトンであった。
 前記のプロナーゼL・P3DNAの分子量と比較すると、ほぼ1/10となっている事がわかる。

《安村報告》
 ☆ラット肝細胞の初代培養からのクローン化の試み(つづき):
 月報No.7007に記載したHepro4-1が、増殖のきざしが見えはじめました。細胞形態からは実質細胞であろうと確信しているのですが、実質細胞である確証はありません。
 実質細胞としてなんらかの分化機能が維持されているとすれば、それが発癌(癌化といった方がよいかも知れない)とco-variationがあるか?
そのようなことを将来計画として頭に画きながら、まずこのHepro4-1細胞が肝実質細胞であろうかとの証明の一端にとりくんでみた。
 Coonが述べているところでは、実質細胞の証明として、1)radio-immuno-electrophore-sisによって、肝細胞の産生するnormal Serum antigensの検出、2)肝細胞に特有なenzymeactivitiesの証明、3)胆汁の産生、4)グリコーゲンの代謝等の項目をあげている。これらのなかでCoonは彼の初代分離クローン(ラット肝細胞クローン)は、数種のSerum antigenを産生し、なお2つの肝酵素GPT(glutamic pyruvic transaminase)、GOT(glutamic oxalacetictransaminase)のactivityを示していると報告している。
 1.以上のことをふまえて、Hepro4-1クローンについて、まずGPT、GOPのassayを行なった。対照は滝沢肉腫細胞株FRUKTO、実験は2回おこなわれたが、Hepro4-1はGPT−、GOP+。FRUKTOは何れも−であった。わずかにGOTの活性が、Hepro4-1にみとめられたが、GOTはGPTにくらべて肝特異の活性は低いので、このかぎりではHepro4-1の肝特異性の有無は確証とはほど遠い。
 2.ついで肝特異性酵素としてこれまで知られているうち、もっとも信頼されている(G.Sato)きわめつきの酵素のOTC(Ornithine transcarbamylase)のassayを小口、丹羽両博士の協力によって行なった。(Archibaldの方法による)。Hapro4-1の継代を追って3回の実験がそれぞれ行なわれたが、代表例として最高値を示した結果は(もちろん対照のFRUKTOはOTC(-)であった。) OTC specific activity(μmoles of citrulline)/mg protein/10min.は、<0.005であった。このかぎりではラッテ肝そのもののactivityと約10-3乗のひらきがあって、Hepro4-1が肝実質細胞でないということはできないが、であるとの積極的に主張するには根拠が弱い。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(25)
 前回の班会議の際一部報告し、その後月報では紹介する機会がないままになっていたX線と4-NQO又はその誘導体処理による細胞内DNA障害とその修復機構の類似性および差異を検討する為に行った実験結果をここで紹介する。
種々の線量のX線あるいは各種濃度の4-NQOとその誘導体で処理(30分間)した直後の細胞を、alkaline sucrose gradientにかけて遠心し、得られたsedimentation profileをもとにBurzi and Hersheyの式に基いて分子量(MW)を計算し、秤量または濃度に対するSingle strand DNAのMWあるいはDNA分子あたりのsinglestrand breaksno数をプロットしたものが図1と図2である(図を呈示)。これらの図から分かる様にX線の場合は照射線量に依存してMWは減少し、DNA分子当りのbreak数は増加する。一方4-NQO又は4-HAQO処理の場合には、或る濃度まで変化は認められず、それ以上の濃度になって始めてMWの減少とDNA分子当たりのbreak数の増加が見られる。こう言った点は、両者のsingle strand breaks誘発に関しての大きな違いであると共に、両図から分かるようにDNA分子量の減少はDNA分子当りのbreak数の増加に依存していることがわかる。
 同様の方法でX線照射直後または4-NQOあるいは4-HAQO処理(30分間)直後のDNAをneutralsucrose gradientで解析し、線量又は濃度に対するdouble strand DNAの分子量の減少と、DNA分子あたりのdoubule strand breaksの数の増加をプロットしたのが図3と図4である。
これらの図から分かるように、X線の場合は線量に依存してdouble strand breaksは誘発され、しかもこれらのdouble strand breaksはsingle strand breaksを誘発出来る線量の約10倍の線量を必要とすることが分かる。還元すれば、同一線量を照射した時にはsingle strand breaksはdouble strand breaksの10倍も多く誘発されることになる。(ちなみに、single strand break数の線量に対する増加をSSBで示した。)
 一方、4-NQO又は4-HAQOで誘発されるdouble strand DNAのMWの減少とbreak数の増加は図2で示したsingle strand DNAの場合と殆ど同様の傾向を示すが、興味あることは、single strand greaksに比べて、double strand breaksの方が低濃度領域においてinduceされると言うことであり、このことはX線inducedの場合とは全く異なった現象であり、同時に安藤さん達が考えておられる4-NQOのアタックするDNAモデル等と合わせて考察する時、非常に重要な問題を提起していると思われる。(参考のために図4中には図2から得たsingle strandbreaksの誘発を示す直線をSSBで示した。) (尚、図2中の丸印で示したものはmain peak以外に現われたsub-peakの1/MW又はbreak数を同時に記入したものである。)

【勝田班月報:7010:各種細胞系への発癌剤処理実験】
 《勝田報告》
 肝癌AH-7974細胞の毒性代謝物質について:
 この物質の本態を解明するため種々の生化学的方法でこれまで検索し、前月号の月報にも中間報告をしたが、その報告をくりかえすと共に、その先の研究成果も説明した。
 前々月号にG-25のSephadexで分劃した#35〜#38の分劃をさらにSephadexG-15で分劃すると、II及びIIIという大きなpeaksが現われ、その両者とも正常ラッテ肝細胞の増殖を阻害すると記載したが、IIIについてはさらにそれをDowex50で分析するには至らなかった。
 今回はこれを試み、(図を呈示)III-3の分劃がもっとも増殖を阻害することが明らかとなった。IIの方ではII-1が最も有害であったのに対して、これは意外な結果であったが、生物現象というものは、同じことを何回もくりかえしてみなければ何とも云えないという原則にしたがうつもりである。

 :質疑応答:
[堀川]各分劃の濃度はどうやって決めていますか。乾燥重量で一定の%にしたのか、N量として一定にしたのか・・・。
[高岡]まだ物質として精製されていませんので、一番単純に分劃前の全部の活性が各々の分劃に集中したと考えて、容量での%です。ですから乾燥重量或いはN量としては一定になっていません。
[吉田]初代培養の細胞に対する影響は調べてありますか。
[堀川]対照としてもっと幅広くの細胞を調べてほしいですね。その上で同じ肝由来の細胞でも悪性化した系はやられないのだという結論がはっきり出たりすると、とても面白いですね。同じ癌でもヘテロに影響がありますか。
[勝田]なぎさ培養で変異した系についても調べてみたいと考えています。また癌細胞の方もAH-66ではどうか、AH-130は同じものをだしているかどうか。また人肝癌では・・・と、やらねばならないことは沢山あります。しかし今は先ずこの物質同定が先決問題だと思います。
[藤井]形態変化を起こすまでの日数はどの位ですか。
[勝田]今お見せしたのは、全部添加後2日の標本です。それでもう変化が起こっているのですから、かなりの毒性です。
[山田]トキソホルモンとはどう関係があるでしょうか。
[勝田]癌細胞が材料になっているという点は共通ですが、根本的にちがう点は、トキソホルモンは細胞をすりつぶして抽出しています。我々の物は試験管内で細胞がよく増殖して代謝が盛んでないと、出て来ない産物だという点です。
[永井]物が何かという仕事も大体いい線まで行っていて、有毒ペプチドのようです。
[勝田]だんだん大量に材料が要ることになって、培地を集めるのが仲々大変です。
[山田]腹水肝癌の腹水中には出ていませんか。腹水なら大量に集めるのは簡単です。
[勝田]腹水では蛋白性のいろんな物が混じっていますから、分劃が大変ですよ。我々の場合も始めは培地にラクトアルブミン水解物を使っていましたから、分劃してみたらピークが沢山出て追跡が難しくなりました。それからいろいろ培地を工夫して、今やっと単純な且つ増殖度の高い培地に辿りついた所なんですよ。
[堀川]こういう毒素のようなものを先ずアクセプトするのは細胞膜でしょうか。このものをAH-7974細胞で吸収すると、毒性が無くなりはしないでしょうか。
[山田]白血病の細胞なども出しているでしょうか。
[勝田]その他、マウスの癌の出しているものがラッテに効くかどうかなども問題ですね。どうも発癌機構をいくらやっても癌は治せないような気がしてね。この物を追う方が癌をやっつける道に近いと思います。

《難波報告》
 N-27:培養内で4NQO処理によって悪性変異したラット肝に由来する上皮性細胞の動物復元によって生じた腫瘍の組織像(顕微鏡写真を呈示)
 月報7008、7009に於いて、ラット肝に由来するクローン化した上皮性細胞(LC-2,LC-10の2系)の発癌成績を報告した。今回はその組織像を報告する。LC-2系の細胞によって生じた組織像は、分化した肝癌の形態を示している。この組織像から結論されることは、LC-2のクローンは肝細胞由来と考えられる。LC-10によって生じた腫瘍の組織像は未分化肝癌ではあるまいか。なお、このLC-2、LC-10系の細胞の4NQO処理条件、及び剖検の肉眼的所見は、月報7008に記した。
 N-28:培養内で4NQOによって癌化したラット肝由来クローン細胞LC-10系の4NQO耐性の有無
 3.3x10-6乗M 4NQO 1hr処理を2回行って癌化した細胞と、その4NQO非処理対照細胞との4NQO感受性の差をPEで比較した。4NQOの処理条件は10-8乗Mの4NQOを含む培地で1週間培養後、4NQOなしの培地で更に1週間培養し形成されたコロニー数を数えた。対照には、それらの4NQO処理悪性化細胞と、非処理細胞とを4NQOを含まぬ培地で、2週間培養して形成されるコロニー数をとった。その結果は(表を呈示)4NQOによって癌化したものに、やや耐性があるように思える。
 ◇DABによる発癌実験
 ラット肝よりクローン化した上皮性細胞のLC-2は培養内で4NQO処理によって癌化し、動物復元で比較的分化した肝癌を形成した。そこで、この4NQO未処理対照細胞を使用してDABによる試験管内発癌を計画している。まず、その基礎的データを得る為に以下の2実験を行った。(1)種々の濃度のDABがLC-2系細胞の増殖に及ぼす影響。(2)LC-2細胞の培地中からのDAB消費能。
 1)DAB濃度と細胞増殖との関係(図を呈示)は培養2日目に終濃度2.1、6.0、11.6、26.0μg/mlのDABを含む培地にかえ、培養5日目にそれぞれの細胞数を数えた。コントロールには、培地のみのものと、エタノールを1%含む培地(DAB 26.0μg/mlの培地中に、DABの溶媒として含まれるエタノール濃度)とで培養した。その結果11.6μg/mlDAB添加の培養より増殖がやや低下し、26μg/mlではコントロールに比べ増殖率が約50%阻害された。
2)上の実験で、添加したDABの3日間での培地中からの細胞による消費を調べた結果、LC-2細胞は、DAB濃度が17.4μg/1.5ml培地/33万個cellsの条件中で、添加したDABをほぼ100%消費することが分かった。

 :質疑応答:
[山田]今の組織像はかなり分化した形の肝癌、モーリスの肝癌の組織像に似ていますね。それからクローン化された系では悪性化が早い、ということについて何か考えがありますか。
[難波]クローンだからというより、総培養日数が長い為だと考えられます。
[吉田]染色体の分析はしてありますか。
[難波]LC-2は3〜4倍体の辺にモードがあり、染色体数の分布はバラツイテいます。LC-10は41本にモードがあります。
[吉田]増殖度はどうですか。
[難波]LC-2とLC-10は同じ位の増殖率のようです。
[佐藤]DABの実験では昔やった実験に比べて、DABの濃度を濃くしても細胞が死なないのは、溶剤をアルコールに変えたせいだと思います。今のやり方だと3日間培養して20μg位消費できますから、ずっと手掛けてきたDAB消費の問題も何とか片付けられると思います。4NQOの実験では、クローンをとった時すでに総培養日数が600日だったということは問題があると思います。それから高濃度で処理したものが悪性化しなかったことについては、セレクトの問題があると考えています。4NQOの耐性については、処理時間を長くすると出来るようです。
[難波]4NQOに対する抵抗性は発癌とは関係がないようです。
[堀川]フィラデルフィアの山本氏の話では、HeLa細胞に仙台ウィルスを感染させたところ、4NQOに対する耐性が高まったと言っていました。ウィルスによる障害を修復しているうちに、細胞側の4NQOに対する抵抗性が強くなったと考えられます。
[下条]使ったウィルスがDNAウィルスだと、細胞のDNAにウィルスDNAが組み込まれたことで変化が起こったとも考えられますが、仙台ウィルスはRNAウィルスですから、細胞側の機構の変化だとはっきり言えるわけですね。
[堀川]しかし、ウィルスが一枚かむと事が難しくなりますね。私の経験では、ウィルス感染株のX線耐性が対照群の100倍にまで上がったことがあります。
[勝田]その場合、X線で壊されなくなるのでしょうか。或いは修復能力が高まるのでしょうか。
[難波]4NQO発癌の場合にも、潜在ウィルスの問題を考えなくてよいでしょうか。
[堀川]それを考えると、また難しくなってしまいますね。
[下条]ラベルしたウリジンを使ってウィルスの存在をかなり敏感にチェックすることが出来ますよ。

《高木報告》
 1.腫瘍細胞と対照(正常)細胞との混合移植実験について
前報のその後の結果及び繰返し行った実験の結果(表を呈示)、RG-18細胞1,000コ接種ではRL細胞を100,000コ、10,000コ混じた時latent periodが長くなるように思えたが、RG-18、56代目のものを用いて繰返し行った実験ではRG-18 1,000だけ接種した場合と殆ど変らないdataをえた。以上のdataからはRG-18 1,000コ接種でははっきりした差があるとは云えない。RG-18 100コではRL細胞を混じた方がlatent periodは短縮したと思われる。RG-18 10コではRL細胞100万個、10万個と数多く混じた方がRG-18単独より腫瘍の形成した動物においてlatent periodは短かく思われたが、RL細胞10,000コ、1,000コ混じたものに腫瘍を作っていない点の解釈がむつかしい。
 以上現在の処はっきりしたことが云えないが、これは用いたRG-10細胞の悪性度が(?)つよすぎるため1,000コではこれに混ずるRL細胞の影響をうけないと云うことも考えられる。また10コでは細胞数が少ないため、動物に接種する際の誤差が加ってdataにバラツキが出るとも思われる。従ってもう少し悪性度のよわい(?)細胞、つまり1,000コ位でやっと腫瘍を形成する位の細胞を用いた方がはっきりしたdataがえられるのかも知れない。
 その外この実験の問題点として用いた細胞がcloningされていない点、移植する動物が全て同腹ではない点などがあげられる。
 2.RT-10(rat thymus origin)細胞のPlating efficiencyに及ぼす培地の影響
 RT-10細胞を1,000コ、10,000コlevel Falcon petridishにまいて、培地組成が細胞のPEに及ぼす影響をみた。すなわちconditioned medium、Bactopeptone、牛血清濃度などのおよぼす影響である。
 これまでのdataから牛血清20%群が10,000コ細胞数の時PEは最もよく、ついでconditioned medium、Bactopepton 0.1%、牛血清10%がよかった。
 ただ細胞数5,000コの時には後者の方が良い様な結果をえている。
 牛血清濃度20%について、さらにBactopepton、conditioned mediumなど検討の予定である。
 3.その他
 1)NG-24、NG-26の2実験をスタートしsoftagar内のcolony形成能をTumorigenicityについて時日の経過と共に追求している。
 またNGを作用させる際の細胞数−NG濃度の関係をみるべく、細胞を10,000、50,000、100,000、200,000コinoculateして2月後に10-4乗MのNGをHanks液にとかして2時間作用せしめ、以後細胞の変性状況をみたが、この濃度では毒作用がつよすぎ6日後には殆ど全ての実験群の細胞は死滅した。
 ただその間、細胞数による差異はみられ、10,000コでは作用せしめた翌日はすべての細胞はcell roundingをおこしているのに対し、50,000コでは30〜40%、100,000コでは10%位、200,000コではごくわずかの細胞のroundingがみられた。さらにNGの濃度をおとして観察の予定である。

 :質疑応答:
[吉田]両種の細胞を混ぜてすぐにラッテへ接種したのですか。
[滝井]そうです。
[吉田]この実験の狙いがよくわからないのですが、混ぜて培養してから接種するとどうなるでしょうか。
[勝田]混ぜて培養してしまうと、意味が変わってしまいます。この実験ではin vitroで悪性化した細胞集団の中に、まだ悪性化しない細胞が残っていた場合、それが復元成績にどう影響するかを、人工的に正常:悪性の比率を変えて復元してみているわけです。
[安村]実験として同じ代数、同じ条件で比較出来ない処があって一寸解析が難しいのですが、全体をみわたしたイメージとしては、正常細胞を添加して復元するとtake率が良くなるようですね。
[佐藤]実験を始めた時の考えでは、正常細胞が交じっていることがラッテへのtakeを阻害しているのではないかということでしたが、これでは逆の結果が出たわけですね。悪性細胞が胸腺由来、正常細胞が肺油来ということから出た結果とは言えませんか。
[難波]再培養の系は悪性度が強くなっているので、in vitroで悪性化した細胞の代表と言うには不適当だと思います。
[安村]今のところ、そんな事はかまいませんよ。10コで動物にtakeされる細胞というのは、なかなか貴重ですよ。
[堀川]私の興味としては、悪性化の経過を代を追って動物に復元してみて、どこでLD50がバンと上がるのかが見られないだろうかという所です。
[安村]考えとしては、誰しもそう思うのですが、実際問題として物すごく沢山の細胞が必要です。とてもとても・・・。
[下条]RG-18という細胞系は何か同定できるマーカーを持っていますか。
[勝田]マーカーとして広く使われているのは染色体ですね。
[吉田]ラッテの場合、正2倍体はどの位の期間保たれますか。
[勝田]培養の仕方によって違うでしょうね。私の所では2年位です。
[佐藤]私の所では500日位です。
[三宅]胃の培養について説明して下さい。
[高木]乳児を1日親から離しておきます。そして胃を取り出しミルクを除いてナイスタチン200u/ml、カナマイ300u/mlでよく洗います。それから粘液をよく除いてからメスで細切して炭酸ガスフランキで培養しました。
[山田]前胃と後胃は分けましたか。
[高木]どちらも一緒にしてしまいました。
[山田]ラッテの胃癌の場合前胃は癌化しやすいが、腺癌をというなら後胃の方が出来やすいというデータがあります。あとの同定のためにも分けて培養出来るとよいですね。

《安村報告》
 ☆ラット肝細胞の初代培養からのクローン化の試み(つづき)
 ラット肝由来細胞Hepro細胞のOrnithine transcarbamylase(OTC)活性について.
 Mary Jonesらによって開発され、G.Satoによって培養肝細胞で試みられた肝細胞同定の最も信頼されているマーカーとしてOrnitine transcarbamylase活性をHepro細胞で調べてみた。
 細胞はAssayの直前24時間1mg/mlのOrnithine含有の培養液(EagleMEM+コウシ血清10%)で培養され、3度生理食塩水で洗ったのち、ラバーポリスマンでかきとり遠心し、細胞塊を0.5mlの蒸留水に浮遊し、0℃でSonicate(20KC)した。
 酵素活性のassay:OTC活性は37℃、10分間の測定による。反応系は0.1Mのtriethanolamine-HCl(pH7.4)、5μmoles L-Ornithine、5μmoles carbamyl-phosphate、細胞ホモジネート、(最終容量1.0ml)から成りたっている。Archbaldの方法によって発色。Carbamylphosphateの分解を知るために、上の反応系とは別にCarbamylphosphateを加えない反応系でassayされた。
 結果(表を呈示)、Specific activityはSampleA<0.01μmoles/10min/0.4/4.8mg prot.≒0.005μmoles/10min/mg proteinであった。

 :質疑応答:
[難波]4.8mg蛋白というと、どの位の細胞数に相当しますか。
[安村]400万個で約1mgです。
[難波]培地中の血清蛋白はどうやって除きますか。
[安村]PBSで3回洗っています。
[吉田]ホルモン等を産生する機能を持った細胞でも、培養で継代していると産生しなくなるものでしょうか。
[安村]私の経験で少なくともステロイドホルモンを産生する細胞系では、ランダムに培養していると機能が低下してしまうのですが、始終クローニングをしてホルモンを産生しているものを拾っても、その中から又、産生しない細胞がでてきます。それを又クローニングで落としてゆくという訳で、そういうやり方で5年以上ステロイド産生能を維持出来ています。
[吉田]ホルモン産生はステムcellがありますか。
[安村]クローニング出来るわけですから、ステムcellがあるとは考えていません。
[堀川]ステロイドホルモン産生系の場合はそうでしょうが、他のホルモン産生系では、まだわかりませんね。
[吉田]プラスマ腫瘍の場合には、ステムcellがあります。
[安村]プラスマcellとステロイド産生細胞とでは分化の程度が違いますからね。
[藤井]ステロイド産生の場合、脳下垂体の刺戟がなくても産生しますか。
[安村]ステロイドホルモン産生については遺伝子がregulateされないでopenになってしまうので、刺戟がなくてもどんどん産生するのだろうと考えられます。
[堀川]始めにクローニングして産生細胞を拾い、その中から産生しない系が出て来た場合、その産生しない系に刺戟ホルモンを加えると機能を復活するというようなことはありませんか。
[安村]産生量においての中間的段階はありますが、全く産生しなくなってしまうと、もうどうしても復活はしませんでした。
[藤井]肝細胞のアルブミン産生能と、肝癌になったらどうなるかという事についての実験はありますか。
[安村]そういうことをin vitroの系でやってみたい訳ですね。

《山田報告》
 RLC-10凍結株;培養ラット正常肝細胞が再び利用出来るかもしれないとの事ゆえまずとりあえず電気泳動度を測定しましたが、培養1日目のせいか、形態も不揃いで泳動度も曾ての如く均一ではありませんでした。あらためて増殖期に泳動度を測ってみたいと思って居ます。しかし同時に測定した他の株CulbTC、HQ1Bに比較すれば、その構成は均一で、シアリダーゼに対する感受性は極めて弱い所見です。
 CuleTC;CQ50宿主へbacktransplantした後の再培養株。この株のOriginalは腫瘍性がありながら、悪性泳動パターンを示さなかった株。他のCQ40〜42等の場合と同じく、宿主へかへすと、腫瘍細胞のみが撰擇されて悪性パターンを示す所見です。
 HQ1B;4NQO 3.3x10-6乗M3回処理したRLH-5・P3株、今回も明らかに悪性泳動パターンです。前回報告しました様にどうもRLH-5系の細胞の抗原性はかなり宿主(JAR-1)とは違って来ている様で、そのために宿主へbackしてもtakeされないと思わざるを得ません。

 :質疑応答:
[山田]in vitroでの悪性化は、動物につくかつかないかでけで判定しているので最後まで抗原性の問題をチェックしなければなりませんね。藤井先生の方はどうですか。
[藤井]抗血清が出来なくて困っています。CulbはJAR-2系のラッテに接種してもモリモリと腫瘍を作ってしまうのです。
[下条]ウィルスで悪性化した細胞の復元の場合は、始めに細胞のホモジネイトをアジュバントと一緒に接種しておきます。そして3カ月程たってから生きた細胞を居れると、ぐっと抗体価が上がります。
[藤井]アジュバントは使いませんでしたが、凍結融解した細胞を接種し、それから生きた細胞を入れてみた事もありますが、やはり大きな腫瘍が出来てしまって抗体価は高くなりませんでした。
[堀川]山田班員の実験結果は免疫反応としてだけみてもよいものでしょうか。
[山田]特異的な抗血清が出来ていれば、抗原抗体反応としての結果がはっきりと出ています。
[下条]他の方法も使って反応をみていますか。
[山田]IAをやっています。IAでは平行した結果が出ています。腫瘍自身の抗原性ということには問題が残ると思いますが、発癌剤の処理によって細胞が免疫的にも変異して居るということは、云えると思います。
[藤井]癌と免疫という問題は難しいですね。抗体が出来て補体を覆ってしまって、細胞性抗体の働く余地がなくなってしまって、腫瘍がかえって大きくなるという事さえあります。又、皮膚移植の実験で植えた皮膚がついている間は抗体が出来ないという事があります。動物にtakeされるような腫瘍は抗体が出来ないのではないでしょうか。
[勝田]実験動物の純系の純度といったものについて、一寸・・アイソと言ってもランダムに増産した系ではどんなものでしょうか。
[吉田]又変わってしまうでしょうね。
[藤井]DDマウス等、純系といっても皮膚移植をして同腹でなければつきませんね。C3Hのように同腹のかけ合わせを何十代もやってある系は、遺伝的にはしっかり安定していますね。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(26)
 前報では培養動物細胞をX線または4-NQO(あるいは4-HAQO)で処理した際のDNA切断による分子量の低下とbreaks数の増加を線量または濃度に関連づけて図説したが、今回はこうした処理によって誘発されたDNAの一本鎖切断が、その後どの様にincubation timeと共にrejoiningして高分子化されていくかについて解析した結果を報告する。
 (図を呈示)図は、10KR、5KR、2KRのX線照射後、種々の時間細胞をincubateした時のDNAの分子量の増大とbreaks数の減少を示したものであり、これからincubation timeと共に切断DNA一本鎖は再結合されることがわかる。
 (図を呈示)また同様に1x10-4乗Mと5x10乗-5M 4-HAQOで細胞を30分間処理した後、種々の時間incubateした時のDNA再結合状態をみた。
 これらの結果から、X線照射または4-HAQO処理によって誘発されたDNA切断の再結合は直線的、つまり一定スピードで進行するのでなくincubation初期において非常に早く再結合の進む部分と、その後比較的ゆっくり進行する部分のあることが分かる。又、こうした結果を別の方法で書き表してみた(図を呈示)。
 X線照射または4-HAQO処理によって誘発された切断DNA一本鎖の再結合状態、つまりincubation timeに対する分子量の増加現象と、これとは逆にincubation timeとともに1分間当たりの切断DNAの再結合能が減少して行く状態を図でみると、X線照射または4-HAQO処理によって生じたDNA一本鎖切断の再結合は殆ど同じスピードで進むことがわかる。このこのは、非常に強引かつ早計な結論かもしれぬが、X線と4-HAQOのattackするDNA上のmain siteは比較的類似の部位であり、しかも、その修復は同じprocessによって進行するということを暗示しているのかも知れない。また急速に再結合する部分はnon enzymaticにrepairされる部分で、その後にみられる比較的ゆっくりと進行する再結合部分がenzymatic repairであろう等と考える説もあるが、こうした結論を導びくためには、今後更に多くの実験を必要とする。

 :質疑応答:
[勝田]温度条件を変えることによって修復が進むかどうかみると、酵素活性のせいかどうかわかりませんか。
[堀川]X線照射の場合、0℃にすると修復されませんが、それでも矢張り酵素的なのかどうか分からないですね。
[安藤]UV100ergsかけたあと、なおDNAが切れて小さくなるということは、UVの直接の影響ではないということですね。
[堀川]チミンダイマーの場合、照射直後に全部切り出せているわけではありません。照射中の殆ど終わりでも、終わりころにはもう修復し始めているものもあり、まだ切り出しているものもありという時間的なずれがあって解析が難しいのです。修復のスピードからみるとX線と4NQOはよく似ています。
[勝田]DNAの修復にはunscheduled DNA synthesisは否定されますか。
[堀川]いや肯定します。ハイドロキシウレアのようなDNA合成を直接おさえる物質を添加した場合には、修復がみられ、ピロマイシンのような蛋白合成阻害物質を添加して酵素活性をおさえると修復はみられないのです。
[安藤]この実験で前処理は必要ですか。
[堀川]前処理をしないと、あとの条件をいくら変えても皆修復してしまいます。細胞が生存出来ないような条件でも処理直後にはDNAの修復はみられます。
[吉田]染色体レベルのブリッケージとDNAレベルでの切断は大体平行していますね。ジニトロフェノールも修復をおさえますね。
[安藤]バクテリアでもピロマイシンを入れると修復がおさえられます。
[堀川]ゼネラルな意味での蛋白合成阻害剤がなぜ修復酵素の活性をおさえるかということです。動物細胞でも前処理をしてプールの酵素をカラッポにしておくことによって細菌と同じようにゆく所までわかりました。
[吉田]嫌気的にすることでは影響はありませんか。
[堀川]あるでしょうね。酸素を入れると放射線の効果がぐっと上がり、逆に窒素を入れると効果をおさえます。それからUV照射の場合、今まで再現性がなくて困っていたのですが、照射後からの動きがそれぞれ違っていた事がわかって、仕事が進められるようになりました。4HAQOや4NQOがDNAを切る時は直接に切るのではなく、フリーラジカルのようなものが出来てそれから切れると考えられますね。

《安藤報告》
 (I)EM3A細胞(マウス乳癌細胞)のDNAの二重鎖切断に対する4NQOの効果
 従来行って来たDNAの二重鎖切断と再結合の実験はL・P3とRLH-5・P3についてだったが、今回マウス乳癌由来のFM3A細胞を使って同様の実験を行った。目的は(1)懸濁培養可能なこの細胞を使って、Cell cycleのstageと二重鎖切断の再結合との間に何らかの関連があるか否かを調べるための予備実験として、切断再結合の様相を知る事、(2)細胞種が異っても同様の現象が見られるか、(3)4NQO濃度に、二重鎖切断の再結合が起らなくなる程の濃度限界があるか。
 先ず、FM3A細胞の増殖曲線と4NQO、30分処理後の増殖の程度を調べた。1x10-6乗Mではわずかな増殖阻害、3x10-6乗M以上では全く阻害される(図を呈示)。
 次に、4NQO各種濃度におけるDNAの二重鎖切断の程度と、その後の回復培養においてどれ程再結合が起るかを調べた。(図を呈示)それぞれの濃度の時に二重鎖の切断は次第に大きくなり、3x10-6乗Mの場合約50%が再結合され、残りが更に低分子化していた。1x10-5乗M、3x10-5乗Mにおいては、切断されたDNAは大部分再結合されず低分子化してしまっていた。
 この事実は次の事を強く示唆している。再結合されうるための限界の大きさが在る。それ以上に4NQOで切断された場合にはもはや再結合されない。この限界の大きさは恐らく、今迄示されて来た連結蛋白(linking protein)と連結蛋白の間のDNAの大きさに相当するのであろう。この点は更に追究されなければならない。
 (II)中性蔗糖密度勾配上のDNAピークの電子顕微鏡観察
 中性でDNAの大きさを分析する時に、チミジンでラベルされたピークを一応DNAピークとして取扱って来たが、100%純すいなDNAである保証はない。先にそのピークのCscl液中での浮遊密度を求めた所1.685−1.700であり2%程の蛋白の混在を示唆していた。今回は更に電顕的にどの程度純粋なDNAを扱っているのかを調べた。サンプルは(1)無処理DNA、(2)プロナーゼ処理DNA、(3)4NQO処理DNA、(4)除蛋白精製DNA、(5)メルカプトエタノール処理DNAである。(以下それぞれの写真を呈示)
 無処理蔗糖勾配分劃(x20,000):
 無処理のDNAも電顕観察のサンプルを調整する過程で相当な物理的障害を受け低分子化していた。これ等の写真からいえる事はここで扱っているDNAが、相当きれいなものである事、すなわちヒストンその他のDNA以外のクロマチン構成物質の混在は少ない。次に恐らくartifactと思われる中心体がある。これは濃度の高いDNAをチトクロームC法で展開した時に、からまり合った結び目である可能性が大きい。
 プロナーゼ処理DNA:
プロナーゼ処理DNAの電顕写真はコントロールと比べて特に目立った特徴はない。大きさはまちまちでしかも中心体を持っている。
 4NQO処理DNA:
 4NQO処理DNAの特徴は、DNA鎖をよく見ると二重鎖がほどけ一重鎖となっている部分を持っている事である。それ以外は無処理と同じようだ。
 精製DNA(凍結標品を融解させた直後):
 クロロホルムによる除蛋白法で精製、更にCscl密度平衡遠心により精製されたサンプル。可成り小さな断片となっている。恐らくそのために、からまらないで中心体が出来ないものと思われる。
 精製DNA(上記のサンプルをNH4・Acに対して一夜透析):
 上記精製DNAを常法にしたがってNH・4Acに対して透析した所、上記では見られなかった中心体が現れてきた。しかしこの中心体は無処理のものとは少し異っているようだ。
 無処理DNAをメルカプトエタノール処理したもの:
コントロールDNAを遠心後集めてメルカプトエタノール処理を行ってみた。メルカプトエタノールで結合蛋白が切られるためか、中心体は見当らなかった。
 以上、種々な処理を行ったL・P3DNAの電顕像をお目にかけたが、これ等の事から云える事は次の事であろう。(1)細胞を直接蔗糖密度勾配上に重層して行う、この寺島法で得られるDNAピークは比較的きれいなDNAである。(2)蔗糖密度勾配の位置の違いによる分子量の差は電顕レベルではとらえる事が出来ない。(3)DNA鎖を結合していると思われる結合蛋白(linking protein)は見る事は出来なかった。

 :質疑応答:
[堀川]細胞が生きている状態でトリプシン処理をして、それから遠沈するとどうなるでしょうか。
[安藤]偶然にそういう処理をした事がありますが、パターンが乱れて結果を解析できませんでした。
[堀川]酵素処理を先にして、そのあと分劃したDNAをインタクトに回収して更に4NQOを作用させたらどうなるか知りたいのですが、このやり方では難しいですね。
[勝田]トリプシンを使って細胞を継代すると、変異をおこしやすいのはトリプシンがDNAを切るからでしょうか。
[安藤]そういう事も考えられますね。
[梅田]しかし、生細胞はトリプシンでは作用を受けないことになっています。堀川班員の考えておられるような酵素で切っておいて、4NQOで切るという実験にはメルカプトエタノール処理がよいと思います。培地に添加してみて生きた状態でDNAが切断されるかどうか先ずみてからですが。パパインはどうですか。パパインならSS結合を切ります。
[安藤]パパインもきれいな物を手に入れて、ぜひやってみたいと思っています。
[山田]細胞診でクロマチンの形だけをみていますと、トリプシン処理で変化するように思います。
[堀川]この電顕像ではDNAの切断は見られませんか。
[井出]白金でシャドーイングをするので細かい切れ目などは、はっきりしなくなってしまいます。ただ、あちこちに一本鎖らしい切れ切れのものが見られます。
[吉田]細胞のステージはインターフェイズでしょうね。
[山田]中心があるのは、インタクトな細胞ということでしょうか。
[堀川]放射線処理では、物によって電顕レベルでDNAの切断がみられるのですが、4NQOの処理の場合は無理というわけですね。
[難波]こんなかたまりが、1コの細胞の中に幾つありますか。
[安藤]6万個〜数万個という計算になります。
[吉田]電顕像とシェーマをどう繋ぎますか。
[安藤]今の所まだわかりません。
[吉田]ランプブラッシュ染色体という考え方がありますが、共通点がありますね。
[勝田]電顕像でみると、あまり小さくなっていないようですね。分劃したものでは長さが測れたのでしたね。
[井出]電顕でみたものの大きさは、10の8乗〜10の9乗です。ですが、切れ目がはっきりしないので、修復をこの方法でみるのは無理です。
[下条]ひろげてシャドーイングをする前に何か処理をして、切れ目をはっきりさせることは出来ませんか。
[井出]色々やってみましたが、膜が汚れてしまって駄目でした。
[安藤]アミノ酸をラベルして修復時に取り込ませ、電顕レベルのオートラジオグラフィで調べてみようと思います。
[堀川]X線もUVもDNAを切るのに何故4NQOだけDNAの切断が発癌に繋がるのでしょう。
[安藤]X線やUVでも生体では発癌するでしょう。
[堀川]生体に放射線をかけて、出来るのは殆どウィルス性で白血病が主です。
[安藤]切り方が同じだとは言えませんね。X線の様な場合のDNA切断は致死に働きますが、4HAQO、4NQOでは切れても又修復します。そして修復する時DNAレベルの間違いの起こる機会があるわけです。
[吉田]X線でも染色体レベルのトランスロケーションがあります。
[堀川]UVは変異を起こしますが、発癌はあまりありませんね。X線は薬剤と似た所もあります。
[難波]薬剤だと、あとに残るということはどうですか。4NQO処理の場合DNAの切れた端に4NQOがついていませんか。
[安藤]端かどうかは分かりませんが、とにかく、DNAが切れても切れたDNAのどこかに4NQOが入っているようです。それから薬剤でも、変異は起こしても発癌は起こさないものもあります。
[安村]薬剤には色々あって、DNAを切断してもそこに残らないものは変異だけを起こし、DNAに残るものは発癌剤になる。放射線は切るだけなので、変異を起こすだけという事になりませんか。4NQOで癌細胞を正常に戻せるでしょうか。
[勝田]癌センターの小山氏のデータがありますが、リバータントとは言えませんね。
[安村]悪性かどうかを復元だけで決めるというのが問題です。

《梅田報告》
 (I)月報(7008)で報告したハムスター細胞のその後の培養経過についてまとめてみた。(表を呈示)N#29の無処理細胞は現在培養日数364日を数える。形態的にはepithelioidといった感じで、227日以後の累積増殖カーブでみても増殖はおそいがconstantである。培養227日目に培養をわけて4NQO 10-5.5乗M投与した亜系は、形態的に原株と大差なく、又増殖率も原株と殆ど変りない(増殖曲線図を呈示)。この系は9月26日現在、4NQO投与後約140日になるが、4NQOによるtransformationを思わせる変化は見当らない。Soft agar中でもColony形成は認められない。
 N#34J細胞は培養125日目にcloningしてJ1、J2、J3、J4と4つのcloneをとった。原株とJ2、J4は一応培養を切って、J1とJ3の2系に、更に4NQOを投与した亜系を作った。培養165日以後の累積増殖カーブは(図を呈示)、無処理J1細胞と4NQO処理J1細胞とで殆んど大差ない増殖率を示している。J1はcontaminationを起し途中で切って了ったが、4NQO処理細胞は非常に良い増殖を示し、一様なfibroblasticの形態を示し、最近criss-cross様patternが多少認められる様になった。Soft agarでmicrocolonyが最近認められる様になった。
 J3は培養252日に4NQOを投与するSublineを作った。その時以後の累積増殖カーブ(図を呈示)では無処理細胞は非常に良好でコンスタントな増殖を示している。4NQO処理細胞は始めやや増殖率が下がったが、処理後30日頃より、無処理J3細胞より更に良い増殖率を示し、Saturation densityも上昇し、形態的に、はっきりとcriss-crossが認められる様になった。Soft agarでは両者共にmicrocolonyを形成する様になったので、目下その定量実験を施行中である。之等細胞のhamsterへのback transplantationも計画中である。
 (II)N-OH-AAF投与例2株とRubratoxin(R)投与例の培養経過は(図を呈示)、増殖率はT253Eを除いてconstantで非常に早い。形態的には、fibroblastic cellから成るが、T253Eのみepithelialの感じのものである。Soft agarでT253EとT211Fの2系がmicrocolonyを形成する様になったが、まだ定量的データは出ていない。之等のbacktransplantationを行ったばかりなので、そのうちに本当に悪性化したかどうか、判明すると期待している。
 (III)上の結果で問題になるのは私共の行っている培養法だと非常にtransformし難いのでないかと思われることである。N#29 control cellのconstantに増殖している系に4NQOを投与してみても増殖率は上昇せず、N#34 3HOA処理後の細胞は4NQO処理しなくてもしたものも共にSoft agar中でmicrocolonyを形成している。T#253Eが培養150日目でSoft agar中でmicrocolonyを形成しているのが、一番早いtransformを思わせる変化である。又、他の系で4NQOを投与して数ケ月になるものもあるが、今の所まだ非常に遅い増殖率しか示していない。私共の薬剤処理法が悪いのか、培養条件がtransform実験には適さないのか。いろいろ検討すべき段階と思っている。
 (IV)Senecio alkaloidは肝・肺癌を作ることで有名であるが、化学構造としてpyrolizidine骨格が基本であり、いろいろの物質が報告されている。その中でmonocrotalineの供給をうけたので、HeLa細胞、JAR-2のsuckling liver、lung cultureに投与して急性変化を調べてみた。
 HeLa細胞は10-2.0乗〜10-2.5乗Mで細胞の著明な空胞変性、核分裂異常が認められる。空胞は脂肪染色で染らない。核はやや大きくなっている。
 ラット肝細胞培養では10-2.5乗Mで同じ様な細胞質空胞変化が著明であるが、肝実質細胞の一部の空胞は脂肪で染る。核が不規則にfragmentationを起した様な細胞も出現する。
 ラット肺培養細胞に投与すると細胞質の著明な空胞変性、核のfragmentation細胞、異常分裂像が観察された。この場合の空胞は脂肪染色で染まらない。
 ラット肺培養細胞に、10-2.5乗Mのmonocrotalineを投与して時間を追って染色体標本を作製した。Mitotic coefficientと、染色体の形態を表に示したが、MCは処理群でやや減ずる程度である。Gapは投与後やや増加する程度である。投与後48時間後の標本で54%の細胞に極端な染色体異常(break、fusion等)が観察された。しかし36%の細胞は正常に見えた。
 目下の所dataはこれだけであるが、Autoradiographicalにでもattackの時期等調べる予定である。発癌剤としてこの様に激しい染色体異常を起すので、目下ハムスター細胞に投与してin vitro carcinogenesisの実験を開始した。

 :質疑応答:
[吉田]ちっとも悪性化しないというのは、使って居る4NQOが悪いのではありませんか。4NQOはずい分製品むらがありますから。
[梅田]私もそう考えて新しく4NQOを入手して実験を始めました。セネキオアルカロイドというのは南米産で、食べると肝癌が出来ます。
[吉田]肝臓だけに染色体断裂が起こるのですか。
[梅田]肺の細胞にも起こります。肺癌を作るという報告もあります。
[下条]ウィルス処理の場合は、先ず少量のウィルス液を入れて、何時も細胞あたりのウィルス数を定めて実験します。薬剤の場合も、細胞あたりのモル数をはっきりさせてほしいですね。
[安村]ウィルスの場合は吸着がはっきりしますが、薬剤の場合そううまくはっきり出せるでしょうか。
[下条]ラベルした薬剤を使えば、取込み量がどの位になるかは判るはずです。培地に添加する量を定めるだけでは、細胞当たりどの位の薬剤が取り込まれたかはわかりません。

《吉田報告》
 クマネズミ(Rattus rattus)は染色体お呼び血清蛋白の所見よりアジア型とオセアニア型にわかれる。前者は2n=42で、N及びR型トランスフェリンをもち、後者は2n=38でC、D、E及びFのトランスフェリンをもっている。両者を実験室で交配させてF1を得た。F1の染色体は全て両者の混合型で2n=40となり、トランスフェリンも両者の混合型であった。F1同志の交配で1頭のF2を得たが、その染色体数は2n=39で、トランスフェリンと共にF1よりの分離型であった。
 自然界では南太平洋上のエニュエトク島で、オセアニア型とF2型のクマネズミを採集した。すなわち、6個体のうち、4個体はオセアニア型(2n=38)、他の2個体は実験室で得たのを全く同じF2型(2n=39)であった。2n=42のアジア型はアジア全域に分布しているが、2n=38のオセアニア型は、オーストラリア、ニュージランド、ニューギニア、ハワイ、テキサス、アルゼンチン及びイタリーに分布し、エジプトには両者が混在することが報告された。しかし雑種は発見されていない。
 分類学者によるとクマネズミは東南アジア原産といわれているので、2n=42のアジア型がこの種の原始型で、それが中近東よりヨーロッパへ入って染色体fusionがおこり、2n=38となり、それがヨーロッパ人と共にオセアニア、北米及び南米へ移動したと考えられた。

【勝田班月報・7011】
《勝田報告》
 A)RLC-10株(正常ラッテ肝由来)の染色体数の推移
 (図を呈示)図のように培養37.5月では2nが多かったが、自然発癌した以後の54.5月、58.5月では染色体数が明らかに減少して行っている。ラッテに形成された腫瘍の再培養では、最下欄のように、さらに減少している(39本)。理由は不明。
 B)RLC-10株の凍結保存後の染色体数
 RLC-10株は継代の中途より(A)、(B)、(C)の3系列に分けられ、(B)は自然発癌したが、(C)は電気泳動的には最も正常に近い像であった。この(C)を、ドライアイス中で10月間凍結保存し、再び培養を開始したところ、3コの集落が形成された。それを夫々分離培養し、染色体数をしらべた結果(図を呈示)、Colony(1)は73本、(2)と(3)は42本、コロニーをとったあとの残り全部からの培養Mixedは41本であった。なお、これらの腫瘍性については、すでにラッテに復元接種し、観察中である。

《難波報告》
 N-29:培養内で4NQOによって癌化したラット肝由来クローン細胞(LC-10)の4NQOの耐性の有無(前月報7010 N-28の続き)
 使用した細胞はN-28に記載した4NQO未処理対照細胞と、培養内で3.3x10-6乗M 4NQO 1hr処理を2回行なって悪性化した細胞、及びこの悪性化した細胞を動物に復元して生じた腹水腫瘍を再培養した細胞である。実験方法は、それぞれの系の少数細胞を4NQOを含まぬ5mlの対照培地と、3.3x10-8乗Mの4NQOを含む実験培地とに植え込み(月報7010、N-28では10-8乗M 4NQO)共に1週間培養後、4NQOを含まぬ培地で培地を更新し、1週間培養を続けた。
 その結果は表に示すように、培養内で4NQO処理を受け、悪性化した細胞は、4NQO未処理細胞に比べ約2倍の耐性を示した(この結果は、月報7010 N-28に一致する)。しかし、肝心の腫瘍培養細胞では耐性はみられなかった。このことは、細胞の腫瘍化と細胞の4NQO耐性獲得との間に関係がないと結論される。
 今迄、しばしば4NQO耐性の問題をコロニーレベルで検討して来たが、以上の結論が得られたので、このあたりで別の悪性化の指標を検索しようと考えている(表を呈示)。
 ◇DABによる発癌実験
 3)DAB処理によって受ける細胞の増殖阻害はDAB処理時の細胞数に依存するか、どうか、及び、その時の培地中からのDAB消費について(以下の実験には全てクローン化したラット肝細胞(LC-2)を使用)(図を呈示)。
 図に示すように、DABの及ぼす細胞増殖阻害は、細胞数が少くても軽度である(この点は4NQOと異なる。月報7005参考)。
 同じ実験をもう一度行ったが同じ結果であった。そして、これらの2回の実験に於るDAB消費をまとめて次図に示した。この図ではDAB処理を受けた細胞数を横軸に、細胞1コあたりに取り込まれるDAB量を縦軸に示した。図から判ることは、この実験条件のもとで細胞あたりの培地内DAB量が増加するにつれ、細胞内にとり込まれるDAB量が増加することを示している。なお実験1.2.に使用した培地内のDAB濃度は図に示している。このDABを含む培地1.5mlを細胞の数をいろいろに変えて培養している試験管内に入れ、3日間培養後、その培地中に残存するDABを実験前の培地中のDAB量から差引いて、細胞によって消費されたDAB量をもとめた。
 4)培地中のDABの経時的消費
 以上の実験は、全てDAB培地を細胞に与えて、3日後に細胞によって消費されたDAB量を測定したが、DABが3日間でどのように消費されるか、経時的に調べた。その結果、DAB投与后、24hrぐらいでは、あまり培地中からDABが消費されてなく、DAB投与後2〜3日にかけて、急速に消費された。その間、細胞の増殖は続いているが、増殖率はDAB投与後2〜3日にかけて、やや低下している。


 《山田報告》
 癌学会に続いて病理学会があり、この所少し実験が遅れています。
 今回はまず、この癌学会に発表した成績を書きます。これまでの4NQOによるin vitro発癌過程におけるCell population analysisの総まとめの成績を報告します。全体としてみますと、4NQOを多数回接触させた系及び宿主に移植して出来た腫瘤からの再培養系の細胞群に、悪性化したと推定される細胞の頻度が多いと云う成績です。即ち典型的な良性及び悪性細胞系にみられた泳動的性格より考へて、未処理細胞群では平均より10%以上高い泳動度を示す細胞、ノイラミダーゼ処理細胞群ではこの処理により対象群の平均より10%以上低い細胞の頻度を写真記録式細胞泳動法により検索した結果です。このうちで悪性化したと推定される細胞の出現頻度の最も少い系はRLC-10A(自然悪性化株)であり、最も多いと思われるおはRLN-E7(2)(岡山株)です。
 RLC-10凍結株のE.P.M.:凍結してあったRLC-10が再び増殖し、また発癌実験に使用する前にその電気泳動的性格を充分しらべてみようと云うことになり検索を始めました。まだ始めたばかりではっきりした成績ではありませんが、RLC-10clone4とRLC-10clone3とは大部性質が違う様です。RLC-10Bは前回通りです。詳しくは次号に報告します。

《高木報告》
 1.腫瘍細胞と対照(正常)細胞との混合移植実験について(表を呈示):
 その後RG-18 100個とRL細胞0、100、10,000、1,000,000個混じた実験を行ったが、その結果は表の通りであった。すなわちここでもRL 100万個を混じた場合にtumorigenicityを促進する如き傾向がみられた。それに対してRLを100、10,000個混じたものでは、むしろRG-18だけ100個移植した場合より抑制の傾向がみられるのであろうか?。同様な傾向は月報7010のRG-18を10個とRLを混じた実験においてもうかがわれた。ただここで問題はRG-18はwistarratの胸腺由来細胞にNGを作用させて悪性化したものを、WKA ratに移植して生じたtumorの再培養、つまりWistar origin。RLはWKA rat肺originの細胞で、これらを混じてWKA ratに移植する場合、前者はhomotransplantation、後者はAutotransplanttionとなる。出来れば両方Autoになるようにした方が将来の解析を容易にすると考えられ、その方向でさらに実験の予定である。
 2.RT-10細胞のplating efficiencyにおよぼす培地の影響(表を呈示):
 今回の条件下ではいずれもPE 2.1%を示した。前回(月報7010)に比し1桁違うが、これが細胞の継代数の違いによるか、あるいはいずれかの培養条件の違いによるか、さらに検討せねばならない。いずれにせよこの条件下でcolony levelの実験は可能と考えている。

《梅田報告》
 (1)今迄報告してきたハムスター細胞は、長いものでは殆1年、短いものでも既に300日を越えるのに、Soft agar中でなかなかコロニーを形成せず、前回の班会議の折、やっとmicrocolony形成が認められる様になったと述べた。之等の系の一部を更にSoft agar中でコロニー形成率を調べた所今回は明らかなコロニー形成が認められた。即ちM#34J1に4NQOをかけたものは7.5%、J3に4NQOをかけたものは3.2%である。
 しかし次に述べる別の系でコントロールもきれいなコロニー形成が認められて了った。前回の班会議では私共の系ではなかなかtransformしないと述べたが、それも確かでなくなったわけです。いろいろ反省してみると、昨年から本年の始めにかけては、培地交新、植継を1週に2回の割で行ってきた。本年の4月頃より1週に3回即ち2〜3日毎に培地交新、植継を行い始めた。こんなことが影響しているのかも知れないと考えている。
 (2)今迄一度も報告しなかったが、4月13日に4HAQO 10-4.5乗Mを1回投与した系とそのコントロールを継代してきた(実験番号T#253F)。累積増殖カーブを画くと図の如くで、4HAQO投与后やや増殖は悪く、80日頃より恢復し現在に至っている(図を呈示)。コントロールは無処理K1、実験群と同じ1%DMSOsolventで処理したものK2とあるが、共に同じ様に増殖している。7月15日Soft agarでテストした結果はコロニー(-)、9月11日のテストではFとK2にmicrocolony形成が、10月5日のテストではFとK1がmicrocolony、K2は3.9%の立派なコロニー形成を示した。コントロールの培養170前後、でかくも立派なコロニーを作ったのでは、(1)に述べた細胞においておやである。目下新しいCulture、ラット肺の実験に切りかえて出来れば100日以内にtransformする系の確立に努力している。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(27)
 前報で報告したようにX線照射や4-HAQO処理によって生じた細胞内DNAの一本鎖切断は照射又は処理後の細胞を37℃でincubateした時、同じスピードで再結合される。このことはX線と4-HAQOの作用するDNA上のsiteがある程度類似した部位にあることを暗示するものである。今回は1x10-4乗M 4-HAQOで30分間処理した時、あるいは5KRのX線を照射した時に生じたEhrlich細胞の一本鎖切断の再結合におよぼす各種代謝阻害剤の影響を、検討した結果を総括して報告する。
 周知のごとく生細胞内には、すでにDNA合成に関与する酵素系あるいはrepairDNA合成に関与する酵素系が含まれているので、X線や4-HAQOで処理した際に誘発されたDNA切断も、これら既存の修復酵素系によって修復される。従って照射又は処理後に各種代謝阻害剤を添加しても一本鎖切断の再結合は、もはや何らの影響も受けないと言うのが、これまでの多くの実験的事実である。従って今回は表に示すごとく、各種代謝阻害剤で前もって細胞を処理しておき、既存の修復酵素系を出来得るかぎり欠乏させた状態にしておいてから、細胞をX線あるいは4-HAQOで処理し、その後の再結合能をAlkaline sucrose gradient法で解析した結果を総括して表に示した。尚、表中3番目のカラム中にはこうした前処理につづくfinal 24時間中のnormal DNA合成能をH3-thymidineの取り込みで解析した結果をrateとして数値で示してある。(表を呈示)
この表からわかるように2.48mM hydroxyureaはnormal DNA合成を特異的に抑えるにもかかわらず、このような条件でX線、4-HAQOで誘発された一本鎖切断は、両者の場合ともに再結合される一方、10ng puromycin/mlでの前処理はnormal DNA合成能を、hydroxyureaほど抑えないにもかかわらず、X線、4-HAQOによって誘発された一本鎖切断の修復を完全に抑えていることがわかる。
 こうした結果は修復に関与する酵素系はnormal DNA合成に関与する酵素系とは異なったものであることを強力に示唆するものである。又同時に、両要因によって誘発されたDNAの一本鎖切断お再結合能が同じ代謝阻害剤に対して行動を共にすると言うことは、前報で報告した両要因によって誘発されたDNA切断の再結合が、殆ど同じスピードで進むと言う現象と考え合わせて、これら両者の作用部位が、ある程度類似していることを暗示していると思われる。これについての詳細な検討は、今後の解析をまたねばならない。
 尚、放射線感受性増強剤として知られるBUdRでの前処理は、X線、4-HAQOの両者によって誘発されたDNA一本鎖切断の再結合に、それ程大きな影響を示さないことも分った。

《安藤報告》
 (1)L・P3細胞DNAに対するRNaseの作用
 L・P3細胞のDNAがプロナーゼその他の蛋白分解作用によって低分子化する事からlinker protein(連結蛋白)を仮定して来たが、今回は一つのコントロール実験として改めて行ったRNaseに対する感受性のデータを記す。(図を呈示)図に見られるように牛膵臓のRNaseに対してはL・P3DNAは全く感受性を持たない。したがって、DNA分子をRNAがつなげているような事はない事は明らかである。又先月お目にかけた電顕写真からもlinker proteinの存在が強く示唆される。
 (2)目下計画中ないし検討中の問題
 現在の所我々が発見した上記のlinker proteinの役割に焦点をしぼって検討している。
 (1)S期におけるDNA合成の開始点とこの蛋白の関係の解明。
pulse label、density labelを組合せて調べる。
 (2)この蛋白が合成される時期は何時か。
synchronous cultureを行って、ラベルされたアミノ酸のこの蛋白へのとりこみがいつ起るかを調べる。
(3)4NQOがこの蛋白を切断するとすれば、蛋白のどこを切るかを化学的に解明する。又回復培養によって、再結合が起るが、どのような結合が再生されるかを検討する。等。
 いずれも困難な問題ですので、いまだお目にかけるようなデータはないが、まとまり次第報告します。 

【勝田班月報:7012:旋回培養による組織集塊形成能】
《勝田報告》
 A)合成培地内継代細胞株の4NQO処理
 たとえば安藤班員は合成培地内継代株の数種を用い、4NQOによるDNA鎖の切断と修復をしらべているが、これらの株が4NQO処理により悪性化したという実証を示さない限り、それは発癌機構の研究をしているとは云えない点に重大な弱みがある。
 我々はこれらの株のなからか、JTC-25・P3株、JTC-21・P3株をえらび4NQOによる悪性化を図っている。両者ともラッテ肝由来で“なぎさ”培養で変異した株であり、前者はもとRLH-5・P3とよばれ、月報にもしばしば現れた株である。後者はもとRLH-1・P3とよばれた株で、4NQO実験は最近はじめたばかりである。
 この両株をえらんだ理由は、前者はイノシトール要求を持たず、形態的には硝子面に敷石状にひろがるのに対し、後者はイノシトール要求を有し、球状の細胞が多く、硝子面への接着性も低い、という対蹠的な性状をもっているからである。
 RLH-5・P3(JTC-25・P3)は、4NQOに対する抵抗性が高く、細胞電気泳動像においては“なぎさ”細胞型を示すことを山田班員が報告している。しかし、10-5乗Mの4NQOで1回30分宛、処理をくりかえすと、悪性型の像に変化したそうである。そこで処理群と非処理群とをそれぞれ2匹宛の生後24時間以内のラッテに復元接種した。しかし結果は陰性らしく、これまでのところでは腫瘍は形成されていない。そこで新しい方法でさらに復元接種をしてみているが、これについては近い内に報告する。
 JTC-21・P3(RLH-1・P3)株は4NQOに対する感受性がきわめて高く、10-5乗Mと3.3x10-6乗Mの2種類の濃度で30分間処理したところ、いずれも細胞が全部死滅してしまった。もちろん前者の濃度の方がその打撃の与え方は早かった。
 これらの合成培地内継代株を4NQOで悪性化できるかどうかということは、今後の研究のためにぜひ確かめておかなくてはならぬ問題であるので、これからも継続して行う予定である。
 B)4NQO処理により培養内悪性化したラッテ肝細胞株の染色体分析(各々図を呈示)
 i)自然発癌した系(RLC-10(B)):
染色体モードは40本にあり、あまり広いばらつきは示さないが、32本以下の数のかなり多いことは少し気にかかる。この細胞集団に異常分裂の多いことを示唆し、あるいはその内にこのモードも変わってしまうかも知れぬことを暗示している。
 ii)その系を動物に復元接種し、さらに再培養して継代している系(RLC-10/R/TC):
モードは39本に減少し、30本以下のものも減少している。
 (iii)4NQOによる癌化細胞系(RLT-1株):
41本がモードで、35本以下もかなり多く、ばらつきは余り広くない。
(iv)その復元腫瘍の再培養系(CulaTC株):
この系はきわめて珍しく、モードが74本に移り、しかも染色体数が広く分散している。Selectionによるものか、Mutationによるのか、或は培養内で悪性化細胞を永く継代して行くとこのように染色体数が3倍体rangeに移り易いものか、色々のことを考えさせるデータである。
 (v)4NQOによる培養内悪性化系(RLT-2株):
これも他の4NQO悪性化株と同様に、モードが少し左にずれ、41本となっている。
 (vi)その復元腫瘍の再培養系(CulbTC株):
これはひどいばらつきを示し辛じて40本がモードと云えるかどうかという始末である。
 (vii)4NQOによる培養内悪性化株(RLT-5株):
やはり40本にモードが下がっている。34本以下も多い。
 (viii)その復元腫瘍の再培養系(CuleTC株):
この培養もモードが左に移り39本である。

 :質疑応答:
[難波]染色体数の少ない所にもピークがあるのは何か意味がありますか。
[高岡]このデータは染色体を主観的に選ばずに、無作為に標本を写真に撮って染色体数を数えました。ですから染色体の一部が散らばっていても残りの染色体が一塊になっていて見かけ上、分裂細胞1個分に見えるようなものが、染色体数の少ないものとして頻度数に入ったものと思います。
[吉田]そうでしょうね。大体39本とか40本位のものは染色体数としては減っていてもセットとしては減っていない場合が多いのです。例えば棒状染色体2本がくっついて1本のメタセントリック染色体になると1本減ったことになります。それ以上に非常に少ない数の染色体はたいてい標本を作る時に散らばってしまったものだと考えられます。
[難波]L細胞は何系のマウスに復元するのですか。
[勝田]C3Hです。
[堀川]L株はC3Hでもつかない方が多いですね。
[梅田]癌研の乾氏の、タバコタールで処理してtakeされるようになった、という報告があります。
[高岡]L・P3を4NQOで長期間処理したものを、C3Hマウスの皮下へ接種したら、小さなtumorを作ったことがあります。
[難波]その処理の濃度と添加期間はどの位ですか。
[高岡]濃度は3.3x10-6乗M30分を3回その後5x10-6乗Mで47日間添加し続けました。
[山田]L・P3は軟寒天内でコロニーを作りますか。
[安村]L・P3を軟寒天で培養したデータを持っていません。
[安藤]私はやってみましたが、合成培地だけではコロニーを作りません。血清を添加すれば作ります。

《山田報告》
 ラット肝細胞培養中、自然発癌化前後の細胞電気泳動的構成の変動;(各々図を呈示)
 凍結保存前のRLC-10株の泳動的変化;
 ラット培養肝細胞RLC-10系は本来形態的に均一であり、そのTumorgenesityの証明されない時点でのヒストグラムは、電気泳動的に極めて均一な細胞集団であり、ノイラミダーゼ処理により、平均泳動度は増加して居ましたが、其の後復元接種して腫瘍性の証明された時点では泳動パターンがかなり変化して来ました。A、B、CのSublineとして維持された株について検索した所、泳動的な細胞構成にばらつきがやや生じ、しかもノイラミダーゼ処理により平均泳動度が殆んど変化しない状態になりました。この時点でpopulation analysisをすると、明らかに4NQOで癌化したRLT-1、Exp.7-1(岡大株)等の悪性化肝細胞集団に比較して、悪性化が推定される(泳動的に)細胞の出現頻度がこの自然癌化株には少く、従って細胞群全体としての泳動パターンは悪性型を示さないことが明らかにされました。この自然癌化株RLC-10のA、B、CのSubline中、最も本来のRLC-10の泳動パターンと類似している系は“C”であることもわかりました。
 凍結保存後のRLC-10(C)のクローン株の泳動パターン;
 最もoriginalの型に近い(C)株の凍結保存後の培養株からのコロニー株の三系(clone1,2,3)が分離されましたので、これと更にこれらのコロニーを取り去った残りの細胞をmixした系(miced株)について、その泳動パターンを検索しました。
 この三系の泳動パターンのうち、最も均一な集団と思われるものは、clone2であり、ノイラミダーゼ感受性を検索した成績ではclone1及びmixed株にその感受性が出現して来ました。clone1の染色体モードが73であり、clone2及び3のそれは42、mixed株のそれは41であると云う成績(No.7011、勝田)とこの泳動パターンの成績はよく一致して居ると考へられます。即ち
 1)clone2が最もoriginalなRLC-10株によく似ている。しかしノイラミダーゼ処理による変化は異る。
 2)clone1とMixed株は悪性化している可能性が大きい。
 という所見です。この成績を更に写真記録式泳動装置により分析し、clone2株内に悪性化が推定される細胞があるか、若しあればどの程度の頻度で存在するかをこれから検索したいと思って居ります。
 寒天培地に生じたRLT-1のコロニー株;
 形態学的にoriginalのRLC-10株のそれに近いコロニーがRLT-1より得られ分離されたので、その泳動パターンを検索してみました。この株の泳動パターンは均一です。前項のclone2より更に均一です。この株は4NQOにより悪性化した時点における泳動パターンと極めて良く似て居ます。即ち悪性化した後、約1年後にかなりheterogenousな構成を示し、全体としてノイラミダーゼ処理により泳動度が低下したものが、再び悪性化直後と同様な状態の株として分離されたと云う結果です。
 しかし、このコロニー株が非悪性集団であると云うより、悪性化した細胞数が少ない集団であると考へた方が妥当と思われる。この株についてもpopulation onalysisを行いその構成をこれから調べてみたいと思って居ます。
 細胞電気泳動による細胞集団分劃装置“Elphor”
 (Cell electrophoretic fractionation)
 漸くこの機械が手許に届きました。泳動的な性質に差のある細胞集団を分劃する機械です。約50cmの間隔にある電極の間に30-50V/cmの電圧勾配をかけて細胞を泳動させることが出来ます(従来の測定装置では3-5v/cmの電流を用いていますから約10倍の電気勾配)。
 試みにこの機械を用いて、5種の酸性色素を混合した液を分劃した所、きれいに分離されました。従ってこの泳動条件を種々工夫することにより細胞集団を分劃することが出来さうです。
 即ち悪性化細胞を含む細胞集団から、悪性化細胞のみを分離出来る可能性があるわけですが、しかしなお分離には種々の基礎実験が必要です。
 少くとも細胞を泳動させるメヂウムの撰択、また分離された細胞を再培養するために、この機械の消毒をどの様にしたらよいか等々解決しなければならない問題が山積して居ます。なんとか努力したいと思って居ます。

 :質疑応答:
[安藤]この分劃装置では途中の管の内壁に細胞が附着しませんか。
[山田]これから色々試してみます。
[藤井]この機械で実際に細胞を分劃している人が居ますか。
[山田]血球細胞を分けたデータがあります。
[藤井]赤血球と白血球はきれいに分かれますか。
[山田]赤血球とリンパ球は多少混じるゆです。白血球はきれいに分かれます。
[藤井]免疫学的なことにも活用出来ますね。
[堀川]細胞を無菌的に分けられると色々使えますね。泳動度と発癌性の問題も解決できそうですね。
[吉田]染色体の分劃はどうですか。
[山田]染色体の場合は分劃の際のArtifactが問題になりますね。
[勝田]無菌的に分劃出来るとなれば、発癌剤処理後の細胞を経時的にとって悪性化した細胞を拾い出すことも出来ますね。これは安村班員に軟寒天を使って調べてもらいたかったのですがね。
[安村]軟寒天内でコロニーを作った細胞は悪性のものが多いというだけで、必ずしも腫瘍性と平行していません。私は癌化という現象は1ステップの変化ではないと考えていますので、経時的に追ってもどこで悪性化したかを捕らえるのは難しい事ですね。
[吉田]癌化現象は1パツではありませんね。変異とセレクションをくり返して癌化に至ると思います。しかし癌化という定義をどこにおくのか、最初の1パツを癌化というのだと又話は別ですね。
[安村]悪性化したといっても動物にtakeされなければ仕方がないじゃないか−という、そこを何とかしなければ、癌化の定義といっても問題が難しいですね。非常にグロープな物差しでしか測れない所が癌の宿命でしょうか。
[堀川]高等動物の細胞では前癌状態からでもreverseできるのではないでしょうか。前癌状態から本当の癌になるのに又何段階か必要ですね。
[勝田]一度悪性化した細胞が又変異して可移植性を失っても、それはもとの正常に戻った訳ではありません。腫瘍性と可移植性とは区別して考えなければなりませんね。DNAの間違った修復が変異に関係しているとは考え難いという意見が多くなってきましたね。
[堀川]放射線屋は関係していると考えたいのですが、実際には修復能力をもたないものに癌化が多いというのが苦しい所です。
[山田]ところで、この機械で扱ってはならない細胞があったら教えてください。例えばウィルス発癌の細胞を一度かけたら、あとのものは皆そのウィルスに感染して駄目になったというような事になると困りますから。
[安村]まあ、マウスの系は危ないでしょうね。SV40などのかかったものも、やめておいた方が安全ですね。

《高木報告》
 1.腫瘍細胞と正常(対照)細胞との混合移植実験について
 この実験は始めに行ったものでcontrolの細胞が50代で1/3にtakeしたので、はっきりしたことは云えなくなったが、54代であ0/2でtakeされておらず兎も角これまでのまとめが出たので一応掲載することにした。(膨大な成績表を呈示)
 これをみると、RG-18 10万個では特に差はなく、1万個でRT-9(control)を100万個混じた場合潜伏期が短縮され、RG-18 5,000コ、1,000コでは有意の差なく、100コではRT-9を100万個、10万個混じた場合、takeされた率および、潜伏期ともに腫瘍形成能の促進を思わせた。RG-18、10の場合もRT-9、1万個、10万個、100万個混じた場合むしろ“促進”を思わせるdataであった。
 この様な傾向はつづいて行った対照細胞としてRL細胞を用いた場合にもみられることは、すでに報告したところである。現在、腫瘍細胞も正常細胞もWKA rat originのものを用いた実験を計画中である。
 2.ラット胃の培養について
 これはすでに先に報告したが、今回は今少し詳細にのべてみたい。
生後0〜5日目までのラットの胃を無菌的に摘出し、漿膜は出来るだけはがして抗生物質(Pc、SM、Mycostatin)を含むHanks液中にしばらく浸し、メスで細切してplasma clotを用いることなくTD-15型培養瓶にて培養した。LH、199、MEM、LH199、Mod.Eagle・・に10%CSをまぜた培地を用いたが、これらの中ではLH+199が最もよい様に思われた。
 上皮様の核小体の比較的はっきりした細胞の増殖がおこるが、pas染色は陰性であり、これらの細胞はrefeedしている間に3〜4週で発育はとまってしまう。長期間培養出来るように検討中である。(写真を呈示)
 細胞が索状にあるいは腺腔を形成するかの如くして増殖している場所もみられた。
 3.l-asparagineのラット腫瘍細胞の増殖に及ぼす影響
 先の班会議でl-asparagineが、ラット腫瘍細胞(spont.transformationをおこしたもの)に対して増殖促進効果はないようであると報告したが、その後の実験によりやはり効果が認められるようで、目下検討中である。
 この細胞は1603+5%CSで最もよい増殖がみられ、ついでMEM+Asp.+5%CS、MEM+5%CSの順である。加えるAspragineの濃度はこれまでの報告されているように50μg/mlが一番適しているようであった。

 :質疑応答:
[難波]この細胞系では何日くらい培養した時に自然発癌しましたか。
[滝井]約1年半くらいです。
[勝田]報告は最後にちゃんと結論を云わにゃいけません。動物に復元接種する時、正常細胞を混ぜてやると悪性細胞単独で復元した時よりもtakeされる率も高くなるし、延命日数も短くなる、ということですね。
[山田]其の理由について何か考えていますか。
[高木]使っている細胞をとった動物の系と接種した動物の系が、ウィスターキングAとウィスターで免疫的にやや問題がありますので、宿主側に免疫的撹乱が起こるということも考えられます。
[山田]正常細胞を混ぜた時と混ぜない時とで出来た腫瘍の像に違いがありますか。
[高木]殆ど違いがありません。
[堀川]宿主側の免疫的撹乱という事なら、生きている細胞でなくてもよい訳ですね。
[高木]混ぜる正常細胞の方を全く種の違うもの、例えば猿の細胞を混ぜてみるとか、死細胞を混ぜてみるとか、又完全にアイソの系でどうなるかとか、色々実験をしてみたいと思っています。
[堀川]単独実験で腫瘍の発現までの日数が、入れた細胞の分裂回数と平行しているでしょうか。少数細胞の方が比として早く発現しているのではないか、つまり必要以上の細胞を入れると無駄な分裂があるのではないかという感じがします。
[吉田]ウィスターとウィスターキングAとでは抗原性は余り違わないのではないかと思いますが・・・。
[梅田]培地中の牛血清に対する抗体ができることが一枚かんでいませんか。
[難波]血清に対する抗体が出来る前に腫瘍が発現すると思います。
[高木]そうですね。
[藤井]単独接種では抗原量として不足で、混合接種の方は抗原量を満たすという事は考えられませんか。抗体が出来ることで腫瘍の増殖が増すというデータもあります。
[勝田]正常と腫瘍の接種部位を変えるとどうでしょうか。
[山田]又は接種する時間を少しずらしてみると、夫々の細胞の反応がはっきりすると思います。
[三宅]胃の細胞はもとの胃のどこの部分が培養されたか判りますか。
[高木]パス陰性です。どこの部分から出たのか今はまだ判っていません。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(28)
 (表を呈示)SDS法で細胞をlysisさせる際、そこにpronaseや2-mercaptoethanolが存在すると中性蔗糖勾配遠心で分析されるDNAは更に小さなものになる。さらにまた4-HAQO処理をうけた細胞をpronaseを含むSDSで処理しても、4-HAQOとpronaseの両効果は相加的に現れない。つまり4-HAQOのDNA上のattack siteはどうもpronase sensitiveのsiteではないかとする安藤さん達の実験が追試し得た。
 またEhrlich細胞蛋白をあらかじめH3-leucineでラベルしたものを用いて、このlabeled proteinをSDS溶液中に含まれるpronaseで、あるいは4-HAQOで処理した際、pronaseはSDS中でも蛋白を分解する能力をもつが、4-HAQOはこのような能力はなく、このことから、同じ蛋白部分をattackするにしても4-HAQOの場合にはpronaseとは異なった反応で蛋白部分の切断を起こすものと思われる。
 またpronaseとX線との関係を、pronaseと4-HAQOの相互関係で調べたように検索しているが、それらについての明確な結果はもう少し実験を重ねた上で報告する。

 :質疑応答:
[安藤]レプリカに使った道具の作り方について一寸説明して下さい。
[堀川]プレートにキャピラリーを沢山立てて、そのキャピラリーの先にリング状のスポンジを糊で張り付けます。このスポンジがないとガラス面にキャピラリーの先が密着しないために、うまく複製することが出来ません。
[安藤]トリチウム水の濃度はどの位ですか。
[堀川]1,000μc/mlの濃度から始めました。4日間で9,000r当たっても生きた細胞が残っています。X線とβ線はやはり違うものですね。
[安藤]トリチウム水で培地をつくるわけですね。細胞の増殖に対して、影響はありませんか。
[堀川]トリチウム水が入っただけで分裂は抑えられます。しかしトリチウムを含まない培地にもどすと、すぐ又分裂増殖を始めます。
[吉田]コロニーレベルでレヂスタントがとれる訳ですね。それぞれのコロニーの染色体は調べましたか。
[堀川]まだ染色体を調べるところまで行っていません。細菌と違ってはじめからプレートにまく訳にゆきませんでしたので、今濃縮している段階です。
[藤井]X線の場合、温度とか酸素の影響はどうですか。
[堀川]温度については、はっきり判りませんが、酸素存在下ではラジカルが出来ても安定化されtoxicityが上昇するので細胞がよく死ぬと言われています。
[藤井]するとこのやり方でselectionに使えるかも知れませんね。
[堀川]それも考えられます。私としてはX線と4NQOがどうしてああいう違った切り方をするのかという事に興味があります。
[吉田]紫外線はどうですか。
[堀川]紫外線も使うつもりですが、照射してから後に又小さく切れるので、なかなか解析が難しくなります。
[吉田]X線と化学発癌剤では切る場所が違うのでしょうか。

《安藤報告》
 L・P3DNAの二重鎖切断に対する還元剤の効果
 メルカプトエタノール(ME)がL・P3細胞のDNAに二重鎖切断を起す事(連結蛋白の切断)を報告して来た。これに関連してMEその他の還元剤がファージλ、ポリオーマのDNAに対してヌクレオチド結合の切断を起すことが報告されている(PNAS,53,1104,1965;J.Mol.Biol.,26,125,1967)。しかしそれ等の作用は、これ等の還元剤により生ずるラジカルによる切断である事も示されている。そこで我々もMEの他にどのような還元剤がL・P3DNAに作用するかを調べた。(図を呈示)アスコルビン酸(ビタミンC)は20mMでpronaseで切断される大きさ迄分解した。ハイドロキノンも同様に切断を起したが100mMでもなおpronaseのレベル迄は分解出来なかった。次にもしもこれ等の還元剤による切断がラジカル反応によっているとすれば、いわゆるradical scavengerによって抑制される筈である。今回はMEの作用に対してエタノールの効果を調べてみた。結果は全く効果はなかった。すなわちMEの二重鎖切断の作用は還元作用によるのであって、ラジカルによる切断ではないことを示唆している。しかしこの点は更に追究する必要がある。

 :質疑応答:
[堀川]プロナーゼで最高に切っておいて更にビタミンCをかけるとどうなるでしょうか。又温度の影響も大きいと思います。
[安藤]薬剤の濃度もincubation timemo小さく切れる限度があって、それ以上濃くしても時間をかけても切断は進まないようです。
[堀川]radicalの可能性をエタノールをradical scavengerとして用いた実験だけで否定することは出来ないと思います。その他にもcysteine、cysteaminなど用いて実験する必要がありますね。特に動物細胞の系でエタノールがscavengerだという実験はまだされていないようです。
[梅田]DNAに蛋白があり、S-S結合が切れる−という所はよいと思いますが、4NQOが本当にS-S結合を切っているのでしょうか。
[安藤]S-S結合を特異的に切っているというevidenceはありません。単に蛋白を切っているということです。
[永井]ビタミンCと4NQOではどちらがより小さく切れますか。
[安藤]濃度にもよりますが、4NQOの方が小さくまで切ることが出来るようです。ですからその作用は同じではないと思っています。
[永井]ビタミンCとか4NQOのDNA切断がfree radicalによらないという点がまだ問題ですね。そこを何とかはっきりさせられると、もっとはっきりした見方が出来るのではないでしょうか。
[堀川]そうですね。もう切断の薬剤のほうはあまり数を増やさずにscavengerの方を増やして一つ一つ事をはっきりさせて行く方がよいと思います。
[安藤]4NQOとMEのDNA切断の違いを考えると、MEは二重鎖を切る、4NQOは二重鎖も切るが一重鎖も切る、そして濃度を上げてゆくと一重鎖切断が多くなって二重鎖の切断に近いような重なった切り方も増えてくるという事ではないでしょうか。
[勝田]4NQOでもphotodynamic actionがあるのですから、free radicalの可能性はそう簡単に否定できませんね。
[堀川]UVの実験のように暗室でやると、違った結果が出るかも知れませんね。
[藤井]プロナーゼ、MEなどはin vivoでも作用がありますか。
[安藤]プロナーゼはまだやってみていません。トリプシンではDNAの切れ方がsingle peakになりませんでした。
[永井]4NQOがアミノ基の末端、カルボキシ末端につくとすると非常に特殊なつき方をしていると考えられますね。DNAと蛋白との結合の様式がどんなものか考えてみるのも面白いですね。
[堀川]大場氏はDNAそのものには影響がなくても、DNAをサポートしているものがプロナーゼで切られると、現象としてDNA切断が起こるという考えです。
[梅田]DNAの中に挟まっているらしい蛋白同志の端と端がくっついているという事は考えられませんか。
[永井]それは、あまり特殊な形になりすぎます。もっとシンプルな形を考えてみたいですね。
[堀川]nucleotideの中に直接はいらずに、蛋白がprotectしているとも考えられます。ヒストン的な結合ですね。
[永井]そうだとすると、二次的な結合になりますから、何か他の方法で蛋白をはずしてみれば、DNAは小さくなるはずですね。
[安藤]みているDNA peakの蛋白含有量が問題ですね。5%以下です。ヒストンは殆ど含まれていないと思います。
[堀川]一重鎖切断が起きない程度の処理をしてサイミジンの取り込みがあるかどうかみておく必要がありますね。
[安藤]それはやってみるつもりです。4NQOを除いた回復の時、DNA合成が必要かどうか。DNA合成をblockした時の戻り方をみようと思っています。
[吉田]このDNAの中にある蛋白は塩基性ですか。
[安藤]わかりません。

《難波報告》
 N-30:培養内で癌化したラット肝細胞の旋回培養による細胞集塊形成能の検討
 上皮性の細胞を培養内で癌化させる場合、細胞が悪性化したか否かを、なるだけ早く培養内で捉えることが出来れば、(しかも、定量的に捉えられれば)、現在の培養内での発癌の仕事は大きく進展することが期待される。
 現在まで、多くの悪性化の指標が報告されているが、いづれも悪性化の決定的な指標になり得ず、いくつかの指標がそろえば、細胞が悪性化したと推定している段階である。
 今回は、旋回培養法を用いて、対照細胞、悪性細胞の細胞集塊形成能を検討し、その集塊形成能が、悪性化の指標になり得るかどうかを検討した。またDAB飼育ラッテ肝の培養細胞については、癌化と共に細胞集塊の増大することをこの秋の癌学会で報告した。
 使用した細胞:1)RLN-E7系の対照細胞、4NQO処理悪性化細胞、この悪性化した細胞を復元して生じた腫瘍を再培養した細胞。2)RLN-E7系の対照細胞より単個培養してクローン化した(LC-10)4NQO未処理対照細胞。4NQO処理悪性化細胞、腫瘍の再培養細胞。3)長期培養により自然発癌したラット肝細胞(RLN-8)、培養初期に1μg/ml DABを4日間作用させ、長期培養後、動物に造腫瘍性を示すようになった細胞(RLD-10(1μg))、この細胞に更に10〜20μg/mlの3'-Me-DABを投与し、その造腫瘍性を高めた細胞(RLD-10(10〜20μg))。
 旋回培養法:月報7002に報告した。
 結果:1)RLN-E7、LC-10両系では、細胞集塊の大きさは、腫瘍細胞>4NQO処理悪性化細胞>対照細胞の順になった(図を呈示)。培養24時間目、48時間目の細胞集塊の大きさを比較した結果、48時間では、腫瘍細胞の細胞集塊の大きさが減少した。このことから、それ以後の全ての実験は、24時間の旋回培養を行った。at randomに選んだ細胞集塊を、その直径の大きさに順じて並べ、大きさの分布を示した。2)自然発癌したRLN-8系の細胞集塊はそれほど大きくなかった。これは、この細胞の悪性化の程度が低い為か、或は集団中の悪性化細胞の数が少いか、あるいは、また造腫瘍性獲得後の変化の為かも知れない。3'-Me-DAB処理細胞では細胞集塊の大きさが増大した。
 以上のことから旋回培養法による細胞集塊能の増大は、細胞の培養内悪性化の指標と考えられる。
 ◇DABによる発癌実験
 5)培養日数の比較的短い株細胞をDAB及び3'-Me-DABでtransformさせる実験
 月報7008で報告したRLN-B2 liver cell lineを使用、TD40に20万/mlで10ml inoculateし2日後、DAB及び3'-Me-DABを添加し続ける。
 TD40に10ケ所印をつけて、位相差で追跡する。視野に入る広さは0.34平方mmである。細胞数をplotすると、20%BS+80%Eagle'sMEM及び+0.4%アルコール群は7日間で殆んど変らない。DAB群は添加後、添加直前の平均細胞数と変らないで23日間の添加に耐えている。3'-Me-DAB群は最初の3日間で減少したように見えるが以後20日間平均細胞数は変らない。(10ケ所の細胞数を個々に検討すると、TD40の比較的肩の部位1、2、9、10の位置で3日間の減少が著しい。従ってこれは技術的な誤りと考えた方がよいかも知れない。他の6ケ所の平均ではDABの所見と似ている)。平均細胞数では変化がないが、核分裂は少数ではあるが行われている様で目下、映画フィルムを作製中。気付いた点は下記の通り。(1)細胞の運動は発癌剤添加により極めて少くなる。(2)細胞が集まってコロニーをつくる能力がなくなり離解する。(3)細胞質が大きくなり胞体内に顆粒が増加する。

 :質疑応答:
[安藤]DAB消費としてみているのであって、取り込みをみているわけではないのですね。4NQOの場合も培地中の残量という点では時間に平行して減ってゆきます。
[難波]今ラベルしたDABを使って取り込みも調べようとしています。
[堀川]細胞数が増えるのでDABの残量が減るのではありませんか。
[難波]検討してみます。
[難波]細胞集塊ではピューロマイシンを培地に添加すると出来方が抑制されます。
[堀川]添加してすぐその現象が起こりますか。
[難波]すぐです。
[堀川]大きな細胞集塊を作るようになるには、腫瘍であることが必要なのか、培養日数に関係があるのか確認してほしいですね。
[難波]それはもっときっちりやっておきたいとは考えています。しかし今までのデータでも4NQO処理で悪性化した系は大きな細胞集塊を作りますが、その対照の未処理群は同じ培養日数でも大きな細胞集塊を作りませんから腫瘍性と関係がある様に考えられます。
[佐藤]培養日数がかなり長くて培養状態の良好な系でも、takeされない系では大きな細胞集塊を作りませんから、ある程度腫瘍性と平行していると考えられますね。
[勝田]発癌剤処理して日の浅い系のものでも大きな塊を拾うと、腫瘍性のあるものが拾えるようだと、電気泳動法より簡単にクローニング出来るという事になりますね。
[堀川]初代培養からでもこの方法でふるい分けられるかも知れませんね。培養することを考えに入れると、電気泳動法より簡単にクローニング出来るという事になりますね。
[吉田]細胞集塊の出来る機構について何か考えがありますか。細胞が均一な時は皆同じように回ってくっつかないが、多様性が増すと機械的な要素でくっつくのではないでしょうか。
[難波]温度を下げると細胞集塊が出来なくなりますから、あまり機械的な要素とは思えません。
[勝田]細胞膜の問題だと思いますね。
[安藤]アグリゲイトの出来ない細胞に、トリプシンをかけて、この方法で培養するとアグリゲイトが出来るようにならないでしょうか。
[難波]株細胞はトリプシンでばらばらにして、この培養にかけています。膜の表面構造を変えるようなものを加えて実験をしてみようと思っています。膜の表面をトリプシンで処理した場合、回復するのにどの位の時間がかかりますか。
[永井]5〜6時間位でしょうか。
[堀川]発癌剤の処理後、大きな塊を作るものと小さいままのものをふり分けて、増やして電気泳動度を調べてみると面白いですね。
[難波]ぜひやってみたいと思います。

《梅田報告》
 Mycotoxin投与により惹起されるDNA single strand breakについて
 発癌性の証明された又はその検索中のMycotoxin6種について、培養細胞DNAにsingle strand breakが惹起されるかどうか、また惹起された場合の回復能の有無について検索したので報告する。
 細胞はHeLa細胞を用い48時間H3-TdRでPrelabelした後、各種Mycotoxinで1時間及び24時間処理する。細胞をrubber cleanerではがし、アルカリ蔗糖勾配遠心法(30,000rpm 90分遠心)により解析を行った。回復能の有無はMycotoxinで1時間処理した後、細胞を洗い適当な時間培養し、解析した。(以下各実験毎に図を呈示)
 1)Luteoskyrin;Penicillium islandicumの生産するMycotoxinでマウス、ラットに肝癌を生ずる。HeLa細胞には1μg/mlで致死的である。32μg/ml1時間処理、1μg/ml24時間処理ともDNA single strand breakは認められなかった。
 2)Aflatoxin B1;Aspergillus flavusの生産する強力な発癌性を有するMycotoxinでラット、ヒツジ、アヒル、マスなど多様な動物に肝癌を生ずることが報告されている。HeLa細胞には10μg/mlで準致死的である。100μg/ml1時間処理、10μg/ml 24時間処理ともDNA single strand breakは認められなかった。
 3)Rubratoxin;Pen.rubrum、Pen.purpurogenumの生産するMycotoxonで動物の増殖細胞及び肝、腎、に特異な病変を起こす。発癌性については目下検索中である。HeLa細胞には100μg/mlで増殖阻害に働く。1μg/ml1時間処理、100μg/ml 24時間処理ともDNA single strand breakは認められなかった。
 4)Fusarenon X;Fusarium nivaleの液体培養蘆液から単離されたScirpene系化合物で腸管上皮、骨髄など動物の増殖細胞に強い障害を与え、目下白血病との関係が検索されつつある。HeLa細胞には1μg/mlで致死的である。32μg/ml1時間処理で軽いDNA single strand breakが認められたが1μg/ml 24時間処理では認められなかった。
 5)Patulin;Pen.urticae、Asp.clavatus、Asp.terreusなどの生産するMycotoxinでラット皮下投与により肉腫の発生が報告されている。HeLa細胞には10μg/mlで致死的である。32μg/ml1時間処理でDNA single strand breakが認められ、100μg/ml1時間処理ではさらに顕著である。又10μg/ml 24時間処理でもDNA single strand breakが認められた。
 続いて回復能の有無を検討したが回復は認められず、逆にDNA single strand breakが顕著になって行く傾向が認められた。
 6)Penicillic acid;各種のカビ代謝産物より分離されており、ラット皮下投与により肉腫の発生が報告されている。32μg/mlでHeLa細胞には致死的である。320μg/ml1時間処理で軽い、1mg/ml1時間処理で著明なDNA single strand breakが認められた。又100μg/ml 24時間処理でもDNA single strand breakが認められた。
 続いて回復能の有無を検討したが回復は認められず、逆にDNA single strand breakが顕著になって行く傾向が認められた。
 §結果§  検索を行った6種のMycotoxinのうちPatulin、Penicillic acidの2種に著明なDNA single strand breakが認められたが、ともに回復能は認められなかった。又はっきり発癌性の証明されているAflatoxin、LuteoskyrinにはDNA single strand breakは認められなかった。

 :質疑応答:
[難波]回復能の有無は薬剤の代謝速度に関係があるのでしょうか。
[堀川]或いは薬剤が細胞内に残って回復を阻害するのではないでしょうか。
[梅田]アルキレーションの作用のあるものについて回復をみようと思っています。そのほかにもアクチノマイシンDなどのように、DNAに入り込んでしまうものについてもDNAの切断があるかどうか調べてみるつもりです。でも発癌性のある物質でもDNA切断のみられないものが有ったということは大変ショックでした。色々な薬剤について幅ひろく調べてゆこうと考えています。
[吉田]染色体の切断はどうですか。DNAレベルの切断とパラレルに行っていますか。
[梅田]あまり平行していないようですね。染色体の切断の方はまだ調べていないものがありますが・・・。
[堀川]ナイトロゲン・マスタード等のデータでも切断のあと修復されないものはないようですね。ですから修復されない場合は細胞内に薬剤が残っている可能性が大きいのではないでしょうか。それから、4NQOのように一旦取り込んでから又吐き出すのか、又は細胞内に残っているのか調べてください。
[安藤]二重鎖の方も調べてください。
[吉田]生きた細胞への処理でなく、DNAレベルでの直接の処理によるDNA切断はどうですか。
[安藤]それは発癌性と必ずしも平行しませんね。
[堀川]4NQOの場合、裸のDNAでは切らないが、4HAQOだと切る、しかし細胞内のDNAですと4NQOでも切るということもあります。
 ☆☆このデータはDNA鎖切断の誤修復が発癌とは関与しないかも知れぬということを示唆し、その意味で非常に興味のあるところである。しかし、安藤班員、堀川班員の場合もそうであるが、これらの研究では大量の細胞を使用して分析している。細胞の発癌率から考えて、それで悪性化細胞がひっかかるものかどうかということになる。勝田☆☆

《安村報告》
 §腫瘍細胞の薬剤耐性株のtransplantability
 約2年ほどまえからCell hybridizationのsystemづくりの一環として、Littlefieldの法にもとづいて、一つはpurine analogである8-Azaguanine、一つはpyrimidine analogであるBUdRに対する耐性株づくりが始められました。
 材料の細胞株は1954-4-7樹立のFRUKTO株で、マウス果糖肉腫(滝沢肉腫)由来、現在routineにはEagle MEM+CS2%で継代されてきているものです。
 8-Azaguanine 50μg/ml耐性のFRUKTO-A、BUdR 50μg/ml耐性のFRUKTO-Bの2種が現在えられております。
 前者はSoft agarでcloningされています。後者は液体培地でcloningされました。予備段階でFRUCTO-Bのtransplantabilityが5,000コ/マウス脳内接種で認められなかったので今回、transplantabilityを原株とFRUKTO-Aと共に調べてみました。脳内接種で生後3日目のdd-Yマウスを用いました。
 結果は(表を呈示)、8-Azaguanine耐性株がtransplantabilityを原株と比較しうるほどに維持しているのに反して、BUdR耐性株はこの実験では10,000コの接種細胞数でもTumorの発生がまったく認められなかった。このことはSilagiらのmelanoma cellsでのBUdR実験(BUdRの存在下ではmelaninの産生、tumorigenicityともに低下する、growthには影響がない)と比較して興味ある結果であろう。

 :質疑応答:
[堀川]BUdR耐性の細胞で腫瘍性が消失したものは、耐性になったことが関係しているのか、或いはBUdRによる単なる脱分化なのか判りませんね。
[安村]とにかくsingle stepの変化ではないと考えています。
[堀川]親株の中にBUdRに耐性のある細胞が混ざっていて、それは又腫瘍性もなかった、そしてその細胞がselectionで残ってきたとも考えられますね。
[吉田]この一例だけでそれを云々することは出来ませんね。先ず耐性細胞を幾系もとってみて、その腫瘍性を調べてみなくてはなりませんね。
[堀川]BUdRを除いて培養しておくと腫瘍性を再び獲得しますか。
[安村]それはまだやっていません。しかし8アザ耐性の細胞は腫瘍性を失わないので、動物にtakeされたものを再培養してみると矢張り8アザに対する耐性も失わずにいます。ですから8アザ耐性のものは動物内でその耐性を確保したまま増えるわけです。
[安藤]BUdRを除いてチミジンカイネースの無い細胞は増殖出来ない培地で選別し、増殖してきた細胞の腫瘍性について調べてみれば耐性と腫瘍性の関係ははっきりします。
[安村]私はチミジンカイネースだけが腫瘍に結びついているとは考えていません。かりにチミジンカイネースが戻ってきたら腫瘍性も戻ってきたとしても“ハイ、そうですか”というだけの事だと思っています。
[梅田]BUdRは良い抗癌剤ですし、耐性を持つ細胞が腫瘍性をもたないとすると、すごく良い治療剤で完全に癌を治せるはずですがね。
[安村]治療という場合は生命が無くなってしまうと意味が無くなります。腫瘍細胞にBUdR耐性が出来る前に人間が死んでしまうという事でしょう。

【勝田班月報・7101】
《勝田報告》
 §純系ラッテの飼育
 マウスやハムスターの組織細胞は培養内で自然発癌しやすいが、ラッテのはしにくい。これが潜在性のウィルスによるものか否かは別として、この理由もあって、我々の班ではラッテ材料を実験に用いることが多かった。しかしマウスと異なり、ラッテは純系がきわめて少いので、我々の研究室では、吉田肉腫や肝癌もtakeされるような、日本系のラッテの純系種を作ることをかねてから心掛け、且1系を樹立し、次の系も作り上げかけている。この近況について報告する。
 1)JAR-1系
 春日部の動物屋より購入した雌雄各1匹のJapanese Albino Ratsを研究室内で記録なしに2年間交配繁殖させ、それから初めてsystematicにbrother-sister matingで交配し、今日に至った。指標としては、"AH-130、吉田肉腫をtakeしやすい"という点を採用した。これまでの接種試験の綜合的な結果を示すと次の通りである。AH-130は 182/201匹で平均take率は90%、吉田肉腫は 47/52匹で90%、武田肉腫は 99/101で99%。
 F19のとき同腹児4匹について皮膚の交換移植をおこなったが20〜29ケ月の生存期間中、植皮は脱落しなかった。顔付はやや丸型で、血液型はヒトAB型に近い。
 産児回数及び産児数の少ない事が難点であったが、F37〜F38に至ってどちらも増加しつつある。現在F38になっているが皮膚の交換移植を試みたところ、順調にtakeされている。
2)JAR-2系
JAR-1♀と春日部♂の雑系とを交配し、産児数の多いことを指標にして淘汰した。この系はJAR-1と同様にAH系肝癌の腹腔内継代に使用適である。なお、産児回数、産児数はJAR-1よりはるかに多い(表を呈示)。表でF14〜F17の平均産児数の減少しているのは、動物室の温度の条件が悪かったため、出産しても仔を育てなかった♀ラッテのあったことによると思われる。実際の胎児数はかぞえたところでは、10〜17匹であった。
 これらのラッテがこれからの癌研究に大いに貢献してくれることを期待する。

《難波報告》
 謹賀新年 本年もよろしくお願いいたします。
 N-31:Wheat germ lipase(WGL)は4NQOで培養内で癌化したラット肝細胞の増殖を抑制するか否かの検討
 培養内で癌化した細胞の指標を培養内で探す試みの一つとして、WGLが悪性化細胞の増殖を抑えるかどうかを検討した。
 WGLが悪性変異細胞を特異的に凝集させ、正常細胞を凝集させないとの報告は、Aubらの報告以来多数あり、表にまとめてみた(表を呈示)。
 また、これらの論文のあるものの中には、WGL中の細胞凝集物質についての同定、或いは細胞側のReceptorなどについて記載されている。
WGLの悪性化細胞の増殖に及ぼす影響を検討した仕事は、私の知る限りではAmbroseのものがあるのみである。その論文では培養されたKidney tumorの増殖は抑制されるが、正常のKidney cellの増殖は抑制されないと述べられている。
 そこで、現在私共の所で培養内で4NQOによって悪性化した細胞の増殖が、WGLによって抑制されるか否かを検討した。
 実験方法:WGLは50mg/10ml of Eagle's MEMに溶きミリポアーフィルターにて滅菌し、細胞まき込み後2日目に、20%BS+Eagle's MEMの培地中に終濃度500μg/mlに添加し続けて3日間培養し、その細胞数をWGLを含まぬ培地で培養した細胞数で除し、細胞増殖抑制とした。
 その結果は、培養内で悪性化したラット肝細胞の増殖はWGLによって抑制されないことが判った。 一応ネガティブデータであるが、実験結果を表に示した(表を呈示)。
 なお、細胞の凝集性についても検討したが、現在までのところ悪性化細胞に特異的な大きな細胞集塊は形成されなかった。

《佐藤報告》
 DAB、3'-Me-DAB in vitro発癌に関しては、現在52日〜80日経過しています。形態学的なtransformationは起っていますが、動物復元の結果が未だでていません。現在の所B2系では6μg/ml程度で添加したものが、最も早くtransformationをおこす。transformationをおこすには細胞分裂がおこっている状況で添加する方がよいように思われる。データについては1月終りか2月の班会議の予定にしています。

《高木報告》
 新年おめでとうがざいます。
 1970年は長くて短い一年でした。紛争およびその後におこったいろいろな事態のため起伏が多かったせいでしょうか。昨年の年頭の言葉は全くどうしようもない心況で書いたものですが、今年は未だ問題は山積しているとは云え、とも角すべては一応運行されており、少しは落着いた気持で過ぎし年を振り返られるように思います。昨年、年頭に4つの計画を書きました。その中NGのdataはどうにかまとまったものの実験に関しては混合移植実験が可成りのところまで行っただけで、外はまだこれからです。先の班会議でも御話ししたようにWistar rat originの腫瘍細胞にWKA rat originの正常細胞を混じてWKA newborn ratの皮下に接種した場合、tumorigenicityが促進されるように思われた訳ですが、その理由の1つの可能性として、感作リンパ球が腫瘍細胞に近付くのを周囲の多くの正常細胞がさまたげることも考えられます。両細胞を別々のsiteに接種する実験を計画しています。また本来の目的からもisologousな実験系を用いねばならない訳で、この実験はすでにスタートしています。このdataは今年中に何とか早くまとめるところまでもって行きたいと考えています。
 次にsoft agarの実験ですが、これは角永、黒木氏等のdataとは異なり私共でもtumori-genicityとCFEおよびcolonyの大きさの間に、相関関係はないという成績をえました。しかしこれにはagarの固さとか培地組成の問題とかいろいろな因子がからんでおり、もっとこう云った基礎的な面を検討してみなければならないと考えております。l-asparagineなどを培地に加えたりしてさらに実験を続けたいと思います。
 NG発癌実験はこれまで細胞数とNG濃度の関係はあまり考えず、またtransformationまで可成りの時間を要した訳ですが、もう少しスマートな手を検討すべく、比較的少数の細胞に低濃度のNGを作用させ効率よく発癌させる系を作りたいと考えています。なお、target cellとしてratの胃由来の細胞を用いるべく努力していますが、とも角primary cultureにNGを作用させて様子をみるつもりです。今年は当班も一応periodを打つ年と聞いております。私共の仕事も何とか一きりつくところまで行きたいと念願しております。
 今年もよろしく御願いしたします。

《山田報告》
 昨年中は大変お世話になり有難う御座居ました。今年も宜敷く御指導の程お願い申しあげます。
 さて暮も押しせまって来てから、ラット肝細胞RLC-10のクローン株について、写真記録式泳動法により分析しましたが、最後のフィルムの現像に失敗してデータになりませんでした。(図を呈示)また図に示します様にラット腎由来の細胞株R2K(細胞樹立当初一回4NQOを作用させています)と、それに3.3x10-6乗Mの4NQOを2回最近作用させてから約2ケ月目の株(R2KQ)について、その電気泳動的性質についてしらべてみました。R2Kは約半年前に検査してNo.7008号に報告しましたが、その成績と比較しますと、細胞泳動度のバラツキがやや増加していますが、シアリダーゼ感受性はかへって減少している様です。これに対して、RKQの平均泳動度はR2Kにくらべてかなり速く、シアリダーゼに対する感受性はかなりある様です。
 この腎由来の細胞の電気泳動的性格については、まだあまり良くわかっていませんので、はっきりしたことは云へませんが、control株(と云っても4NQOを一回作用させてありますが)と思われるR2K株は6ケ月以前にくらべると、むしろ変異細胞の頻度が減っている可能性があり、また2回の4NQO処理により再び変異細胞が増加して来たのではないかと想像されます。復元成績とこの成績を比較しなければ、決定的な推定は出来ないと思って居ます。

《梅田報告》
新年おめでとうございます。本年も宜敷くお願いいたします。
 (1)昨年を振り返ってみると、ハムスター細胞ににN-OH-AAF、トリプトファン代謝産物、Monocrotaline等を投与してなんとかin vitro carcinogenesisを成功させようと努力したのですが、結果はtransformしたと思った時にはcontrolの細胞もおかしくなりつつあったわけで、あまりぱっとしませんでした。この面での仕事はやはりなるべく早く結果の出る方法を開発しなければ意味がないわけで、本年はその線で努力してみる積りです。又ラットの細胞も使ってはいるのですが、この方は全体に細胞の生長が遅く、結果を見守っているのが現状です。
 一方安藤さんに教わって始めたDNA strand breakの仕事は、始めてからのんびりしすぎてdataの蓄積も遅かったのですが、お陰様で、強力な発癌剤でもbreakが起らず、又発癌作用のあるmycotoxinでbreakが起ったものもrepairされない例があるという興味ある結果を得ました。今迄医科研のLab.でしかこの仕事は出来なかったのですが、やっと横浜のLab.でも超遠心分離機が動く様になったので、本年はもっとspeedyに仕事を進めたいと計画しています。年頭にあたりあれもこれもと考えるのですが、以上の2つを一番大きな目標にしたいと考えています。
 (2)AflatoxinB1はActinomycinDに似た作用、即ちDNA-dependent RNA polymerase活性をおさえると報告されているので、actinomycinD投与時のDNA single-strand breakの有無をみてみました。先ず文献的にActinomycinでのDNA strand breakの仕事があるかどうか、一応調べてみたのですが私の調べた範囲では見当りませんでした。御存知の方があれば是非お教え下さい。
 方法はいつもの如くで細胞はHeLa細胞です。図に示す如く、確かにbreakは惹起される様です。次に3.2μg/ml1時間投与后のrepairをみましたが、殆んど完全にrepairされます。この結果からするとActinomycinDはAflatoxinとは似た作用があると云うだけで、作用機作は全く異るのでしょうか。(図を呈示)

《堀川報告》
 新年おめでとうございます。
 好調にすべり出した1970年でしたが、後半に入ってからは学寮委員会とか学生生活委員会(1日補導委員会)で苦しめられ、相当の時間をそちらにとられたため思うように仕事がはかどらなかったというのが実情である。
 それでも新講座として始めての学生を迎え、さらに大学院進学者の決った1970年はある意味で当放射薬品化学教室にとって態勢作りの出来た一年であったともいえる。
 そしてまた一講座のチーフとして、また一学部の教官として教育と研究と管理に力を等分して行かねばならないむづかしさをしみじみと味あわされた年でもあった。一つの事に力を集中している時には必ず別の何かが留守になる。
 こういった意味からも今後の日本の大学教育は、研究と教育という2つの独立Unitのもとに進めるべきではなかろうか。
 さて、1970年は放射線、発癌剤によるDNA障害の修復機構の研究を中心に、レプリカ培養法の確立、各種放射線感受性および耐性細胞の分離といった他方面から仕事を進めてきたが、1971年も引きつづき更にこれらを精力的に発展させたいと思っている。
 こういった意味からも、今年も班員の皆様の暖かい御支援と御指導のほどを期待してやみません。

《安藤報告》
 新年おめでとうございます。いつまでたっても新米班員で、班長に叱られ通しの一年でした。本年も相変らずの事と思いますが皆様よろしくお付合お導きの程お願いいたします。
 一年の計は元旦にありと申します。そこで本年度の計の初めに当りまして一応考えてみました。先ず基本的には「細胞の癌化とは何か」を中心に考え実験を組んで行くという点においては異存はないのですが、もう一歩具体的には「癌細胞に対する正常細胞とは一体どんな細胞か」という問題をもう少し追究する必要があるのではないかと考えています。したがって、昨年私共が見つけました細胞DNAを連結する蛋白質の化学的な構造を明らかにする事、その生物学的な機能を明らかにする事を中心に進めたいと考えております。更にこれと平行して、この連結蛋白と細胞の癌化との関連も追求したいと思います。
 §メルカプトエタノール(2ME)による切断はDNAの連結蛋白の切断である。
第1図:2MEはバクテリオファージλのDNAの二重鎖切断を起さない。 第2図:バクテリオファージλの捲れ環状DNAと解放環状DNA。 第3図:捲れ環状DNAに対するプロナーゼと2MEの作用。第1表:捲れ環状DNAに対するプロナーゼと2MEの作用。第4図:L・P3DNAの構造モデル。(以上の図表を呈示)
 昨年暮に行いました実験を一つ御報告いたします。月報7012に続き更に、2MEによるL・P3DNAの二重鎖切断が蛋白部分の切断による事を、ファージDNAに対する2MEの作用がない事から推定した。第1図にあるように2MEは直鎖状DNAの二重鎖切断は全く起さなかった。一重鎖切断(ヌクレオチド結合)を効率よく検出するために捲れ環状二重鎖DNA(Form1)を分離した(第2図にあるようにアルカリ性で遠心する事によりForm1が捲れ環状二重鎖DNAである事がわかる)。これに対してプロナーゼと2MEを、L・P3DNAを処理すると同一条件で作用させた所、プロナーゼでは全くForm1がForm2(解放環状二重鎖DNA)に変らなかったのに反して、2MEの場合にはやや1→2の転換が起っていた。(第3図、第1表) このように既に報告されているように、2MEはラジカル反応によりDNAのヌクレオチド結合を切断する事は明らかであるが、これだけの一重鎖切断はとうていL・P3DNAの二重鎖切断を説明する事は出来ない。
したがって、これ等の対照実験から、2MEの作用はL・P3DNAの蛋白部分に還元的に作用し、切断を起していた事は明らかであり、第4図構造モデルをますます強く支持している。

《安村報告》
 §腫瘍細胞FRUKTOの薬剤耐性株
 前回の月報の討論でもうしました8-Azaguanine耐性FRUKTO細胞を接種してできた腫瘍の再培養系について、耐性の保持についての実験結果をおしらせします。
 細胞系は4つ。 1)FRUKTO-A 50μg/ml 8-Azaguanine耐性原株。2)FRUKTO-Aをマウスに脳内接種してできた腫瘍の再培養系(FRUKTO-A(M))・・・Eagle MEM+2%ウシ血清、3)FRUKTO-A(MA)上記の腫瘍を8-Azaguanine 50μg/mlで再培養した系、4)FRUKTO原株。
 各系を500コ/plateの接種、各4plates、観察期間2週間、その間液がえをしない。
 (表を呈示)8-Aza.耐性株はいづれも8-Aza.を含んだ培地ではP.E.が悪い。これは一つには8-Aza.をNaOHで溶解してあるのでplating当初pHがnormal mediumよりアルカリ性であることが影響している。plating後なるべく早くCO2 incubatorに格納するのだがpHが安定するまで1時間ほどかかることによろう。とにかく動物通過後も耐性を保持していることがこの実験によってしられる。FRUKTO原株は8-Aza.(50μg/ml)含有mediumではコロニー形成は今までのところ見られない。BUdR耐性株は前回の報告のごとく動物にtakeされないので、この種の実験はできなかった。

《藤井報告》
 賀春、1971、御健闘祈り上げます。
 私の方、化学発癌過程での抗原性の変化の研究が中途半端のまま、また年を越してしまいました。もう追放されることは覚悟の上ですが、かれこれ5年間、いろいろやってみましたが、私としては、がんの抗原をおいかけるむつかしさを痛感しています。
 これまで異種抗血清を用いたmicro-double diffusion,同種抗血清を用いたmixed hem-adsorptionおよびIsotope標識抗体を用いた吸収試験などで、培養ラット肝細胞が4NQOで変異し発癌する過程で、癌抗原と思われるある抗原(同種抗血清による実験なのでがん抗原とは云い切れない)があらわれること、そしてこの抗原が癌化細胞の再培養過程でなくなってしまったことを見てきました。このような成績が、RLC-10→RLT-2→Culb→CulbTCのばあいだけなのか、どうかが問題ですが、同種抗血清でこういう実験をいくら他の細胞系でやってみても所詮"ありそうな"ことしか云えないので止めました。
 今年は、若い元気な協力者もできましたので、抗原刺戟によるリンパ球の幼若化現象を利用して、syngeneic systemで変異過程を調べて行きたいと思っています。リンパ球の培養にかれこれ1年近く空費してしまい、やっと本番というところです。
 ところで癌細胞に自分のリンパ球が反応するかどうかは、癌に抗原があって、それに宿主が反応するかどうかを反映するわけですが、そんなことが人間でもちゃんとあるだろうか、あるとすれば、どうして癌は治らないのだろうか、というわけです。癌に対して宿主はtoleranceの状態もあるだろうし、また宿主は反応しうる時期もあるし、反応しても液性抗体によるenhancement現象で癌が増殖してしまう。免疫学的には、こういうことが考えられる訳です。同種移植実験でやっているenhancementの研究を、今年は癌の領域に持って行きたいと思っています。

【勝田班月報:7102:AH-7974の毒性代謝物質】
《永井報告》
 肝癌AH-7974細胞の毒性代謝物質の化学的研究(続報)
 月報6811、7008、7010号での報告に引き続いて、ラッテ肝癌細胞AH-7974によって培地中に放出される物質で、正常ラッテ肝細胞の生残乃至増殖を阻害するような毒性代謝物質について報告する。(実験毎に分劃図を呈示)
 これまでに、Sephadex G25によるゲルクロマトグラフィーによってえられる活性分劃には、塩基性および酸性の2種類の毒性物質が存在することを、イオン交換クロマトグラフィーによって明らかにした。
 今回は、このうち塩基性物質について、Dowex 50(H+)でのstepwise elutionクロマトグラフィーによって、精製を試みたので、報告する。アンモニアによるstepwise elutionで、I〜VIの6つのニンヒドリン陽性分劃が得られた。活性テストは医科研癌細胞研究部でおこなわれ、その結果は別項に示されている。
 それによれば分劃IIIに活性がみられ、IIに弱い活性が見出されたほかは、分劃I、IV、V、VIには活性は見出されなかった。従って活性物質は、分劃IIIに大部分が濃縮精製されたことになる。そこで分劃IIIにこの分劃にのみ存在するペプチドが検出されるかどうかを、ペーパークロマトグラフィー、高圧ロ紙電気泳動法で調べた。物質の検出はニンヒドリン法でおこなっているので、呈色スポットはニンヒドリン陽性物質の存在を示している。
 分劃IIIに特徴的なペプチドが存在しているようにはみえない。分劃IIIで検出されたスポットは、IIIにのみ見られるものでなく、他の分劃にも見出されるからである。
以上の結果を考察すると、次のようなことが考えられる。
 (1)活性物質は非ニンヒドリン陽性か。すなわち、ペプチドではないX物質か。
 (2)活性物質は、予想したようにやはりペプチドである。(a)しかし、それは、ホルモンOxyctocinのような環状ペプチドで、アミノ基が修飾されているようなペプチドか。(b)普通のペプチドであるがアミノ基が修飾されているものか。(c)今回使ったペーパークロマトグラフィー、高圧ロ紙電気泳動法で、他のペプチドスポットと重なって、分離されなかったために、ペプチドであるが活性ペプチドスポットとして検出されなかった。
 以上のような可能性が考えられるが、もしアミノ基が修飾されているならば、電荷を失うわけだから、Dowex 50(H+)には、吸着されないはずで、おかしなことになる。だから今のところ、(1)か(2)-(c)の可能性が最も高い。活性物質は、加水分解によって活性を失うから、(1)の場合でも、その化学的性質は複合物質として存在するか、強酸に弱い物質が考えられねばならない。生体に存在する物質で、このような性質をもつものは、それ程多くない。糖反応は陰性だから多糖の可能性もない。そこで現在は、なおペプチド説を考えてゆきたい。また、分劃IIIは約12mgで、活性の収量は、出発物質の345mgを考えると、あまりにも少なすぎる。このことについては、Sephadex G-25で分劃後、Dowex 50(H+)にかけるまで、長時間経過しており、この時に、分解を活性物質が蒙ったものと思われる。活性検定についても、今後は、定量的におこなえるようにしなければならない段階に入ったものと思う。

 :質疑応答:
[安藤]Sephadex G-25で分劃した時のpatternは培養前と後との間に違いがありますか。
[永井]培養前の培地を分劃した時はみられなかったpeakが培養後の培地を分劃したものにはあります。そしてそのpeakに今の所、活性があるのです。
[堀川]活性の表し方はどうしていますか。
[永井]Specific activityは出せていません。そこが少し弱いので、今、定量的にやり始めています。
[堀川]AH-7974以外の細胞系でやってみましたか。正常細胞からは出していませんか。
[永井]次の問題としてやってみるつもりです。
[山田]このJTC-16という系は電気泳動的に悪性度の最も強い系ですから、こういう問題にも適していると思いますよ。
[安藤]電気泳動の結果についてですが、IIIのpeakの物質には先端に違うものがあるように見えますね。
[永井]そうかも知れませんが、まだ何とも断定できません。
[難波]IV、V、VIの分劃のgrowthに対する影響はありますか。
[高岡]今回使った濃度ではほとんど影響はありませんでした。
[堀川]他に環状ペプチドで毒性をもつものの報告はありますか。ペプチド以外の物質だという可能性も強いですね。
[永井]毒性のあるペプチドについての報告は幾つかあります。この物質には糖の反応はありません。
[吉田]トキソホルモンとの関係はどうですか。
[永井]トキソホルモンは癌細胞そのものをするつぶして抽出していますが、この物質はAH-7974細胞の代謝産物です。
[佐藤]in vitroでなく動物の腹腔内で増殖させたらどうですか。
[永井]この実験はもう数年前からやっていて、時々御報告してはいるのですが・・・。分劃する材料がなるべく単純なものである事が必要です。始どうしても仕事が進まなかったのは、仔牛血清20%+Lh0.4%という培地で培養していた為、分劃しても無数にpeakが出て活性の所在がはっきりしなかったからです。それから色々と培地を工夫してやっとここまでこぎつけた所です。今から腹水では後戻りする事になります。
[堀川]熱には安定ですか。
[永井]100℃までは安定です。
[安藤]アルカリ、酸にはどうですか。
[永井]分劃の過程から考えて、かなり安定だと考えます。今問題なのはassay法です。
[難波]colony法など使ったらどうですか。
[梅田]colony法もよいのですが、培地が沢山要ります。私が発癌物質の毒性のスクリーニングに使っているプラスチックプレートを使う方法の方が簡便で良いと思います。
[藤井]細胞のextractにも活性はありますか。
[高岡]一番初めに培地を高分子と低分子に分けた時、高分子分劃にも阻害活性はありましたから、細胞内にもあるかも知れませんが、分劃して行くのに低分子の方が扱い易いので、培地の低分子から出発したわけです。
[堀川]大体OKですね。あとSpecific activityをきちんと出してください。

《勝田報告》
 ラッテ肝細胞株RLC-10(4)の培養に、上記永井報告の分劃I〜VIを添加して各分劃の毒性度を形態学的にしらべた。培地は仔牛血清20%・ラクトアルブミン培地を80%+各分劃を塩類溶液に溶かしたもの20%、添加4日後に培地更新(同量の各分劃を含有)、添加後、計8日にメタノールで固定し、ギムザで染色した。結果は第III分劃を添加した群の細胞にのみ強い形態変化がみられた。対照群は分劃を含まない塩類溶液を等量添加した培地で、実験群と同期間培養した。(顕微鏡写真を呈示)
 つづいて同細胞株の培養に分劃III及びI〜VIを含むdowex 50による分劃II-Iを添加し5.5日間連続観察した映画と、対照としてラッテ肺センイ芽細胞株RLG-1の培養に分劃II-Iを添加し、同様に観察した映画を供覧した。結果は分劃II-IはRLC-10株に対して添加2〜3日の間に細胞が殆ど死滅する程の強い毒性を示すが、センイ芽細胞株に対する毒性は軽度であった。分劃III添加群では培養初期に於いて細胞分裂がかなりみられたが、対照群に比して強度に増殖を阻害された。

 :質疑応答:
[堀川]この物質の毒性はreversibleでしょうか。培地から除くと細胞は回復しますか。多分G2blockだろうと思われますが、DNA合成RNA合成のどこを抑えるのでしょうか。またこの物は細胞のどの部分にbindするのでしょうか。
[高岡]今やっと物として分劃できそうになった所ですから、それらの事はこれからの問題です。
[安藤]RLC-10がconfluentになってから、この物質を添加しても効果がありますか。
[高岡]まだやってみていません。しかしconfluentになった時という意味が、細胞が活発に増殖していない時ということでしたら、培地の血清が不良で増殖度が低かったとき、阻害効果が少なかったというデータはあります。
[安村]なぜ肝細胞に特異的に効果があるのか、という事に興味がありますね。fibroblastとの区別に使えますね。
[藤井]ラッテに接種するとどんな影響があるでしょうか。
[高岡]考えていますが、効果があったかどうかを判定する指標が難しいですね。
[安村]肝機能の検査をすればよいでしょう。
[山田]映画から作用機序がわかりませんかね。
[吉田]種特異性はありますか。
[高岡]種については解りません。今の所ラッテ由来の細胞について調べています。
[佐藤]in vitroの悪性化の実験の中に位置付けると、悪性化の過程で悪性化した細胞がこういう毒物を出して正常細胞をやっつけ、癌細胞をセレクトして残すという事になるでしょうか。

《梅田報告》
 乳のみハムスター肺の培養細胞に4NQO、Nitrosobutylurea(NBU)、Monocrotalineを投与して長期継代を続けた一連の実験系について報告する。
 (I) 第1の細胞系は4NQO 10-5.5乗Mの培地で1時間処理後、ハンクス液で2回洗い正常培地に戻す操作を2回行って後、ずっと長期継代を続けた(Cumulative growth curvesを呈示)。4NQO処理後13代約110日後から急激な増殖の促進が認められ、その後は一様に早い増殖を示している。形態像は処理後しばらくの間コントロールの細胞と同じ大小様々の細胞で一様に染色性が悪く核も明るい核質をもっていた(Carnoy固定、HE染色)。
 増殖の早くなったのと殆一致して今迄より小型でSpindle shapedの細胞が多くなり、piling up、criss-crossを示して又染色性は細胞質、核共に非常に良くなり核染色質は凝塊を作る。しかし染色性の悪い明るい細胞も混在している。
 染色体数を19代目で調べた所(分布図を呈示)41本にpeakがあり、全体にhypodiploidの細胞が多くなっている。4nに近いover 60の染色体数を持つ細胞もやや多くなっている。
 Controlの細胞の19代目の染色体数もややhypodiploidの細胞が増加していた。技術的な不手際があるかも知れないので更に精査したい。
 (II) 次の例はNitrosobutylurea(小田嶋先生、菅野先生がhematopoietic organのMalignizationを起すとして報告している)を培地中に10-2.0乗Mとかし、その培地で2日間培養後、正常培地に戻す操作を2回繰り返した。この細胞は形態的にもcontrolと似ていて大小の染色性の悪い細胞が継代されていたが、15〜16代頃よりその様な細胞の間にはさまって小型の細胞の集団が見出される様になり、丁度24代目培養(NBU処理後)180日頃より急に増殖率が上昇した。この時点より4NQO処理と同じく、やや小型のspindle-shaped cellからなるpile up、criss-crossの著明な形態を示す様になり、明らかな形態像のtransformationを示した。染色性も非常に良くなったが、染色性の悪い薄い細胞は徐々に消失していく様である。このものの染色体数は目下検索中である。
 (III) MonocrotalineはNBUと同じ様に10-2.5乗M培地で2日間処理を2回行った(累積カーブを呈示)。処理後非常に悪い増殖率を示していたが、処理後13代、130日を過ぎた時に急激な増殖率の変化が認められた。以後は良好なconstant growthを示している。形態的には13代に到る迄は巨大な異型細胞の出現が目立ち、又多核細胞も見出され多彩な像を示し、何時培養が不能になるかと思われる様な状態であった。之等の巨細胞の染色性も低く、核も明るかったが、13代目以後は4NQO、NBU処理と同じ様な小型spindle-shaped cellでどんどん置きかえられる傾向を示している。
 このものの染色体数は16代目で検索したが(図を呈示)、42本にpeakがありdistributionも散っているが、hyperploidのものはない。
 (IV) 上記3細胞とコントロール細胞についてusual plateでのcolony formationとsoft agar中でのcolony formationノ率をみた。(表を呈示)
 Usual plateでは4NQOとmonocrotaline処理でPlating efficiency(PE)の上昇をみ、NBUでは調べた16代目ではまだ完全に形態的transformする前だったためPEは低い。之等のcolonyのうちで一見pile upしている細胞よりなるdense colonyのPEだけを別に数えてみた。4NQO、monocrotaline処理で上昇しているが、全体のPEのcontrolに較べての上昇率よりずっと低い。更に代が進めばdense colonyのPEが上昇するかどうかこれから調べたい。
 Soft agarでは増殖率が早くなり、形態的にtransformationを起こした時期よりmicro-colony形成が明らかに認められる様になっている。まだ大コロニーは出現していないが、これが技術的不手際か、培養が進めば大コロニーになるのか検索中である。
 動物復元に関しては接種された動物が死亡して了ったので、再び実験を繰り返すべく準備中である。

 :質疑応答:
[吉田]染色体数が増えてゆく場合は、はじめに不均等分離が起こります。マウスなら39本と41本という具合に。その次に遺伝子が少なくなった39本が死んで41本が残るという事をくり返してだんだん増えると考えられますが、hypoの場合はアームの数としては減っていないという方が多いのではないでしょうか。ゴールデンハムスターのようにゲノムの上で4倍体だと考えられるようなものは、多少数が減っても生存に影響ないでしょうね。梅田さんの場合もっと行先長く経過をみてほしいですね。
[佐藤]培養細胞では最初染色体数が少し減って、それの倍数体が出来て大体3倍体あたりに落ち着くというのが多いですね。
[吉田]培養細胞でなくても腹水癌でもそういう現象はありますね。
[佐藤]発癌剤を処理する時、その濃度が発癌に対して大きく影響すると思います。それから4NQOなどは1回の処理で悪性化することが判っていますが、DABの様に効果が加算されて悪性化する発癌剤もありますから、うまくゆかないものは何回も処理するのもよいと思います。
[梅田]今回やっと変異までがうまくいった理由としては、定期的にきちんと餌がえをすることと、細胞のシートが一杯になったら必ずsubcultureをするということを守ったからかと考えています。
[山田]黒木さんのデータを参考にしてみてみると、成長曲線の上からは良性腫瘍を作るといった時期ですね。
[吉田]in vitroの悪性化では材料の年齢がどう関係するか判っていますか。in vivoでは癌は老齢の方がなりやすいという事ですが、in vitroでもありますか。
[佐藤]肝細胞の実験では乳児しか培養が出来ないので、比較がむつかしいですね。
[吉田]染色体の上では年を取るとアニュープロイドが多くなりますね。
[堀川]セットの上では異常なものが増えても、それは増殖までもってゆけないのではないでしょうか。
[佐藤]上皮性のものは老齢に多く、肉腫は若い時多いですね。
[山田]老齢の癌化が多いといっても、萌芽は若い時にあるのではありませんか。
[安村]癌の場合は二重の生物学になりますからね。仲々解析は難しいですよ。
[堀川]無菌動物の様に外界からの刺戟のない状態で実験してみる必要もありますね。
[安村]生体内の細胞は2倍体だということになっていますが、実際には何%位が2倍体ですか。
[吉田]90〜99%くらいです。
[安村]それは何コの分裂細胞を数えての結果ですか。1万個も数えたでしょうか。
[吉田]そう、実際に1万個も数えたデータがあります。
[佐藤]培養内で正2倍体がどの位長く保てるのか知りたいと思います。それが材料の年齢とも関係があるのかどうかも調べてみるとよいですね。生体ではとにかく正2倍体が長く続くわけでしょうから、その状態をin vitroで再現したいと思います。
[吉田]人の2倍体の細胞の培養の場合、老齢の人から採った培養はアニュープロイドが早く出てきます。

《山田報告》
 前回報告しましたラット正常肝由来の細胞RLC-10のコロニーRLC-10-2及び-4、及びRLT-1のコロニーについて、写真記録式電気泳動装置によりPopulation analysisを行っています。写真はとってあるのですが、テクニシャンの交代で焼付が間にあわず、次回その結果を報告します。
 Elphor Va PII型装置による細胞集団分劃の基礎実験;
 この装置により数種の混合色素を分離することは、直ちに成功しましたが、細胞群を分離する実験はなほ幾多の問題がありさうです。
 まずメヂウムの問題です。
 通常の電解質では、比重が軽いため、細胞がどんどん沈下してしまいうまくありませんでした。そこで比重を高めようとすると、今度は粘稠度が高すぎて泳動が抑制されます。そこで文献を参考にして種々実験した所、次のメヂウムが良いことがわかりました。『30mM Tris-Maleate buffer pH7.0:200mM Sucrose:10% ficoll(分子量40万)』この液の比重は1.065であり、4℃でラット赤血球を24時間保存しておいても、このメヂウム中で沈降しません。
 このメヂウムを用いて60ml/hの速度で流し、これにラット赤血球を1ml/hの割合で連続滴下し、300mMの直流電流を流して分離した所、比較的揃った所の試験管5本に集まりました(全部で50本に集る様に作られてあります)。 この状態ですと約1〜1.5hで6-7cm泳動したことになります。この時間内に流した赤血球は2x10の8乗で、きれいな分布が得られました(図をを呈示)。これで一応赤血球についてはOKと思いましたが、良くみると、分離泳動の途中で、一部の赤血球が凝集し、その地点から泳動速度が急に低下しています。
 この原因を充分開明しない限り有核細胞の分析には入れないので、まずこの点について検索しています。今の所わかったことは、同一条件でB.T.B.色素を流してメヂウムのpHをしらべた所、途中の経路におけるpHは全く変化がないと云うことのみです。またこの様に一部凝集した赤血球は分離採取しても、そのViabilityが変化していないことをニグロシン染色でたしかめました。
 なほこれから実用になるまで、まだ幾多の問題がありさうですが、早く解決して行きたいと考へています。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(29)
 4-NQOはpronaseや2-mercaptoethanol sensitive siteをattackするようであるということは安藤班員によって示されたが、このことは2.5x10-6乗M 4HAQOで30分間処理した細胞をpronaseで再処理した際、DNAの二重鎖切断量は相加的に増加しないという実験結果からも確認された(図を呈示)。
 今回はこの方法を用いて、4-HAQOあるいはX線でEhrlich細胞を処理した後にpronaseで再処理した場合のDNAの切断量の変化、更には4-HAQO(またはX線)で細胞を処理し、DNA切断を誘起した後に、X線(または4-HAQO)で再処理した場合、DNAの二重鎖切断がどのように変化するかを解析するといった方法で、X線と4-HAQOの作用機構の相違性を検索した結果を報告する。4-HAQOまたはX線で前処理または前照射した後にpronaseで再処理した際の細胞内の二重鎖切断の変化を総括的に略図で示す。
 (それぞれに図を呈示)4-HAQOで前処理し、pronaseで後処理する場合には総切断量は処理要因のうち切断量の多いいずれかに依存する。一方、X線前処理の場合は少し様子が異なり、少線量でわずかの切断を誘起した後、pronaseで多量の切断をおこさせるような条件で再処理しても、pronaseの作用はまったく現われないことが分かった。
 一方、4-HAQO(又はX線)で前処理した細胞をX線(又は4-HAQO)で再処理した場合のDNAの二重鎖切断量の変化の場合にも、4-HAQOで前処理する場合に対して、X線で前照射し次いで4-HAQOで再処理する場合が問題になってくる。つまりX線で前照射した細胞を4-HAQOで再処理する場合には、DNAの二重鎖切断誘起能からみた範囲では、再処理要因である4-HAQOの作用は現れない場合が観察されたり、更にはX線で切断した二重鎖切断を再処理要因である4-HAQOが再結合させるような結果が得られたりして事態は複雑である。
 しかし、いずれにしても、こうした結果はX線と4-HAQOによって誘起された一本鎖切断が同じスピードで再結合されるとか、あるいは、X線と4-HAQOによって誘起された一本鎖DNAの再結合が、同一代謝阻害剤で阻止されるという結果が示唆してきた両者の作用機構の類似性に"待った"をかけるものであり、本質的には両者の作用機序に違いのあることを物語るものと思われる。
 以上の結果を総合して、これらの問題を解析するための仕事を進めている。

 :質疑応答:
[佐藤]4NQO処理の場合は細胞数によってDNAの切れ方が違うわけですが、X線の場合はどうでしょうか。
[堀川]X線では細胞数に影響されません。4NQOの場合は4NQOの量に対して細胞数が多いと一度他の細胞に代謝されて形を変えられた4NQOを取り込む細胞が多くなり、細胞数が少ないと全部の細胞が4NQOそのものを直接取り込んで障害を受けるということが考えられます。放射線の場合はそういった代謝産物の影響はありませんから。
[佐藤]一次の取り込みに違いがあるのは、細胞の分裂周期に関係があるでしょうか。
[堀川]同調培養してみないとはっきり判りませんが、関係があるかも知れませんね。
[高岡]浮遊状態で4NQO処理をすると細胞数の影響が減るのではないでしょうか。
[安藤]私達はFM3Aも使って実験していますが、これは浮遊培養で増殖する系です。濃度とDNA切断に関係がありましたか。
[井出]切断についてはまだ調べていません。
[佐藤]細胞濃度より細胞のphaseの方が大きな問題だと思います。DNAの合成期とそうでない時期とでは作用の受け方が違うのではないでしょうか。
[高岡]そうとばかりは言えないようなデータを持っています。L・P3を使った実験で、細胞を浮遊状態で4NQO処理をし処理後に細胞数を変えて培養すると細胞数の少ない群の方が障害を強く受けること、そしてL・P3のdonditioned培地を加えると、その障害度を少なくすることが判っています。
[安村]30分処理では4NQOが出たり入ったりするというなら、プレートを沢山用意して一度取り込まれて放出する位の短い時間の処理をし、処理後の培地を次々と細胞にかけてゆくと何回取り込まれたら癌化作用が無くなるかが分かるでしょう。
[安藤]一度細胞にかけた4NQOは変化していて、もう細胞に取り込まれなくなります。
[堀川]その場合心配なのは、トリチウムでラベルしていると放射能で測定された取り込み量と、本当の取り込み量が平行しない事もあるのではないか、H3は水の中にとぶ事もありますから。
[安藤]入れたものは放射能として殆ど残っています。4NQOは有機溶媒によく溶けるものですが、代謝された物質は水溶液で有機溶媒に溶けなくなっています。メチールコラントレンでも同じような現象があったという文献もみました。そしてその物をSephadex G15にかけますと、もとの4NQOの所のピークが消えて、新しく5つのピークが出てきます。
[堀川]発癌の可能性がDNAの切れることと平行しないのは何故でしょうか。4NQOの場合自分の切ったDNAの切れ目へ4NQOが入って埋めてしまうという事はありませんかね。
[安藤]4NQO処理後の細胞の核酸をとってみると、直後ではrRNAに一番多く付いていますが、処理後24時間たってDNAが修復された時期にはDNAだけに残っています。
[永井]pronaseで切れる分子当たりに4NQOは何分子付くことになりますか。
[安藤]約1,000コになります。

《安藤報告》
 §4NQOにより切断されたDNAの"連結蛋白"の再結合に新たな蛋白合成は必要か。
 4NQOはL・P3細胞のDNAに作用し、DNA部分のヌクレオチド結合の切断を起すと同時に"連結蛋白"部分にも作用し切断を起す事を報告した。この4NQOによる蛋白切断が4NQO代謝物による直接作用か、蛋白分解酵素の活性化によるのかは今の所不明である。これ等の両種の切断箇所は、細胞を4NQOフリーの培地中でincubateする事により再結合された。
 今回はこれ等の再結合が起る際に蛋白質の新たな合成が必要であるか否かを検討した。使用細胞は実験のやり易さのためにsuspension cultureされるFM3A(マウス乳癌由来)を使用した。先ず蛋白合成阻害剤であるcycloheximide(CH)によってどの程度蛋白合成阻害が起るかを調べた。1μg/mlで90%以上阻害された。ついでにCHによるDNA合成の阻害の程度を調べた所80%の阻害が見られた。(それぞれ図を呈示)
 次にCHによって細胞の増殖がどのように抑えられるかを調べた所、細胞数約50万個/mlの時に4NQO 10-6乗M 30分処理を行い、3分する。(1)は処理後正常培地に移すと細胞数は増加し続ける(4NQO)、(2)は4NQO無処理の細胞にCHを加えると細胞数の増加は全く起らない(Cycloheximide)、(3)は処理細胞にCHを加えた場合にも細胞増殖は見られなかった(4NQO、Cycloheximide)。(図を呈示)
 この事実からCH1μg/mlで蛋白合成、細胞増殖は殆ど抑制されてしまう事がわかった。次にこの4NQO処理後の三群について0時間、24時間後に於けるDNAのパターンを調べた。
 中性でDNAの二重鎖切断(蛋白部分の切断)が起っていた(0時間)。アルカリ性密度勾配遠心によってDNA部分の一重鎖切断も起こっていた(0時間)。24時間、それぞれの処理を受けた細胞DNAはCH存在下にも二重鎖の再結合(蛋白部分の)及び一重鎖の再結合を受けていた。(それぞれ図を呈示)
 以上の諸事実より、次のように結論する事が出来る。
 (1)4NQOによりDNAの一重鎖切断、連結蛋白切断を受けた細胞は、これらの障害を修復し、増殖を継続する。
 (2)これ等の二種類の障害の修復には蛋白質の新たな合成は必要ではない。しかし、この際障害を受けた蛋白がそのまま再結合されるのか、細胞内プールにあるかもしれない既製の蛋白が利用されるのかは不明である。

 :質疑応答:
[堀川]Cycloheximide処理は、4NQO処理の後ですか。
[安藤]そうです。
[堀川]処理後では、もう遅すぎるのではありませんか。プールのものから補給できますから。回復のための新たな蛋白合成をしないですむと思います。
[安藤]それは言えますね。
[堀川]タイムコースを変えて4NQO処理の前にかけてみると、どうでしょうか。
[安藤]それにも問題がありますね。4NQO処理の前にかけると、全体の条件が変わりますから。
[梅田]X線の場合はどうでしたか。
[堀川]ピューロマイシンを72hr前に処理すると、回復が抑えられますが、他のものでは皆回復してしまいます。
[安藤]その場合の生死判別はどうなっていますか。
[堀川]問題を分けて生死と関係なく、回復のプロセスを追った実験です。あと4NQOがfree radicalで作用するのかも知れないという問題が残っていますね。scavengerの事もやってみる必要があるかも知れません。

《藤井報告》
 Culb-TC細胞とsyngeneic lymphocyteのmixed lymphocyte-tumor reaction(MLTR)
 Culb-TC細胞をsygeneicなJAR-1に移植して、結紮解放、摘出などを試み、JAR-1を免疫して抵抗性を賦与し、tumor specific transplantation antigen(TSTA)を証明し、あわせて抗血清を得ようつする試みは失敗に終った。そこで、JAR-1ラットのリンパ球が、syngeneic tumorであるCulb-TC、その他の抗原を認識して幼若化現象がおこるかどうかを検討しようと企てた。
 ラット、マウスのリンパ球を培養し、その幼若化現象を見ている報告はあるが、実際にやってみると極めて困難であった。ここに報告するMLTRの予報は、ラット、マウスのリンパ球を用いたmixed lymphocyte culture、lymphocyte target cell destructionの手技を確立する目的で、医科研細菌感染、中野助教授と、外科研究部の藤井、西平らが協同でおこなったものである。
 ラットリンパ球の幼若化にともなうH3-TdRの摂取は、培養液にRPMI1640を用い、新鮮(凍結しない)ラット血清を10%に加えることによって再現性のある成績が得られるようになった。
 実験に用いたCulb-TC細胞は、8,000R照射したのちガラス面より機械的にはがし、RPMI液(10%ラット血清加)に浮遊し20万個cells/mlと8万個cells/mlに合した。(細胞をガラス面から外す前に培養液をすて、RPMI液で3回洗った。)
 reactant cellsとして、JAR-2ラット♂の末梢リンパ球を用いた。ラットの腋窩動脈を切断し、直ちに2.5%citrate in Hanks sol. 2.5mlを腋窩に注入して混和し採血する。この血液を試験管にとって静置、30分。上清を集めて遠心(700rpm、10分間)し、沈殿した細胞をRPMI+10%ラット血清に浮遊し、100万個cells/mlに調製した。
 抗原用細胞に、RLC-10細胞をCulb-TC同様の操作をして用意した。
 用意したreactant lymphocytes suspension、100万個cells/ml、0.5mlと抗原細胞−Culb-TC irradiatedあるいは RLC-10 irradiatedのそれぞれ0.5mlを平底中試にとり、炭酸ガスフランキ中に入れ、37℃に5日、6日間保存した。この保存後、各tubeにH3-TdR 0.5μCiを加え、16時間後その摂り込みを測定に供した。
 結果(図を呈示)、Culb-TC、10万個に対するリンパ球のH3-TdR摂取は5日−1008(cpm)、6日−2888(cpm)であり、Culb-TC、4万個に対してはこれより低く5日−1064、6日−1319であった。すなわち抗原細胞の多い程、リンパ球のH3-TdR摂り込みが高い。またRLC-10細胞も同様に抗原細胞の多い方が高いcpmを示しているが、Culb-TCのばあいより、6日のcpm値はずっと低い。
 この実験は、培養Culb-TCおよびRLC-10細胞が少く、培養日数、抗原細胞数の検討ができなかったのであるが、少くとも、4NQO in vitro induced Culb-TCがsyngeneicなJAR-1のリンパ球に幼若化刺戟を与へたことが示されたものと云える。なおCulb-TC、RLC-10細胞およびreactant cellsだけではcpmははるかに低い。
 続いて培養日数、抗原細胞数によるH3TdR摂取ピークの検討、抗原細胞のX線照射、MM-C処理の比較、autoradiogramによる幼若化現象とH3-TdR摂取の確認などをおこない、その上でCulb-TC、RLT-2、RLC-10、Cula、Cule、etc.についてその抗原性の検討をする予定です。

 :質疑応答:
[高岡]いくら放射線をかけられていても、リンパ球を添加したことによって、癌細胞の方が回復してDNA合成を始めるという心配はありませんか。
[藤井]8,000rで線量は充分でしょうか。
[堀川]lethal doseということでしたら、4,000rでも充分といえるでしょう。ただ死の定義となると難しいですね。酵素活性などは残っていますし、わずかにDNA合成があることもあります。
[安藤]autoradiographyをやってみれば、摂り込みのある細胞が判るでしょう。
[藤井]勝田班長にもよく言われていますから、形態の方の裏付けもしっかりみておくつもりです。この方法にも色々問題はあります。放射線をかけただけで同系のリンパ球でも抗原刺戟があったというデータもあります。
[山田]幼若化する細胞は抗体産生をする細胞と同じ位の%ですか。
[藤井]幼若化の方がずっと少ないですね。培養中にある程度死んでしまいますから。
[山田]RLC-10は細胞電気泳動的にも大分変わっていますから、やはりもっと生体に近い系を使った方がよいでしょうね。
[佐藤]幼若化したものは増殖するのですか。
[藤井]わかりませんね。判ったようなことを書いてある文献もありますが・・・。
[佐藤]培地に仔牛血清を使っていますが、その影響はありませんか。洗った位では残ると思いますが。
[藤井]牛血清は影響がありますが、対照群も同じ条件で比較値を出していますから。
[山田]血清が問題になるなら、吸収しておけばいいではありませんか。
[藤井]そうですね、血清immunoadsorbentでgel化すれば吸収できます。
[山田]純粋にリンパ球ばかりでないのも問題でしょう。テフロンファイバーを使うとリンパ球をきれいに分離できます。
[滝井]最近の仕事でコンラキシンでリンパ球だけを分離したというのがありました。
[安藤]ラベルの条件は・・・。
[藤井]0.5μc〜1.0μc/mlで16hrラベルしました。

《安村報告》
 §ラット肝由来細胞系(Hepro)のその後:
 これまで数回このHepro細胞について月報に書きました。ラット肝細胞の初代培養のクローン化をその後Wistar系で試みましたが、これまで一度も成功しませんでした。そこでこのHepro細胞に再びたちかえって、実験系として使えるように育てあげることに努力を集中しました。肝実質細胞であろうとのcriteriaの一つであるOTC(Ornithine transcarbamylase)の活性はin vivoのラット肝の10-3乗のorderで低いことはすでに報告しました。
 このHepro細胞は植えつぎに大変キムズカシイのですが、とにかく増殖の程度がよくなってきました。現在routineにはウシ血清1%のEagleMEMで継代されています。2月2日から血清なしのEagleMEMで増殖させることに成功しました。(顕微鏡写真を呈示)

 :質疑応答:
[梅田]8AG耐性、BUdR耐性の細胞のdoubling timeに差がありますか。
[安村]8AG耐性の方は原株と変わりませんね。BUdRの方は大分長くなっている様です。
[梅田]BUdRの場合、増殖しないので大きくなるとは考えられませんか。
[安村]そうかも知れませんね。復元してもtakeされないというのは、その増殖しないという事のせいかも知れないとも考えています。
[堀川]BUdRそのものの影響がダイレクトにあるとは考えられませんか。
[安村]BUdRを除いても形態も増殖度も変わりませんね。
[堀川]それならOKですよ。
[梅田]私の経験でもDNA合成がおそくてdoubling timeの長いものは、ペタッとした大きな形態をしている細胞が多いですね。
[堀川]BUdR耐性のものが動物にtakeされなくなったというのは、どういう事でしょうか。BUdRそのものがtumorの遺伝子をeliminateしてしまったのか、又はmutationなのか。BUdRが腫瘍性の弱いものをselectionしたのか。裏返すとBUdR感受性細胞は腫瘍性が高いという事になるわけですね。
[安村]私はphenotypicな変化だと思っています。ただtumorの遺伝子がマスクされているだけではないでしょうか。NG処理をしてすぐBUdR耐性を拾って腫瘍性をみるとよいかも知れませんね。
[高木]もとの細胞集団はpureですか。
[安村]出発材料としてはcloningしたものを使いましたが、もう二年もたっていますから、また変わっているかも知れません。
[安藤]BUdRは、DNA合成をとめる処理をしても影響があります。DNA合成だけに限って考えないほうがよいかも知れません。
[堀川]耐性細胞のとれる再現性はありますか。
[安村]あります。6回やって全部とれました。
[堀川]次の展開はどうなるか興味がありますね。

《高木報告》
 1.腫瘍細胞と正常(対照)細胞との混合移植実験
 RG-18細胞、500および50とRL細胞との混合移植実験について追加を試みた。RG-18 500の実験では(表を呈示)RL細胞10万個、1万個を混合した場合に腫瘍を形成しないものがわずかに認められたが、その他は殆ど同じ潜伏期で腫瘍を形成した。しかしこの実験では移植後一定の期間を経て生じた腫瘍がregressする場合が多く、特に対照細胞を1,000コ、100コ混合した場合には全例regressしてしまった。RG-18細胞は50代継代以後in vitroで細胞の増殖がやや低下し、また腫瘍性が低下したように思われるので、一定の生物学的性状を有する細胞を使う意味でさらに実験を繰返す予定である。今回のdataに関する限り、大体同一levelの細胞数のRL細胞を混じたときに腫瘍の増殖は抑制されるように思われる。
 現在isologousな実験系として、RRLC-11(従来No.5Cとよんでいた細胞でWKA rat肺に由来し、in vitroでspontaneous transformationを起こした細胞の再培養株)を使った実験を開始している。なおRG-18、50の実験は移植後事故死するratが多く、未だdataになっていない。
 2.NG発癌実験
 9月の班会議で一部報告したNG-24、NG-26についてその後の経過を報告する。
 共にWKA rat胎児の肺に由来する繊維芽細胞を使用し、NG-24は培養開始後18日目にNG 10-4乗M30分1回処理したもの、NG-26は培養開始後22日目にNG 10-4乗M30分、148日目に10-4乗M30分計2回処理したT-1、同様に10-5乗Mで2回処理したT-2、10-6乗Mで同様に2回処理したT-3である。(写真を呈示)
 NG-24では処理後約100日、170日で対照および処理細胞をsoft agarにまいたがcolonyの形成がみられず、またNG-26では処理後約100日、210日で同様soft agarにまいたがcolony形成はみられなかった。
 移植実験も試みたが共に今日まで腫瘍の形成をみない。
 NG-24、NG-26共処理後約270日で、199+20%CS+0.1BP+100μg/mlKMの培地を用い、P-3 petri dishに1,000コまいたが(表を呈示)、NG-24では処理細胞に多くのpile upするcolonyの出現をみた。
 NG-26ではcontrolにおいてT-2、T-3よりむしろcolony形成能が高く出ているが、この様なデータのばらつきは用いた細胞が同じWKA rat肺由来でもmixed populationであることが原因であると思う。この原因を取り除かねばこのdataからいろいろ推論することは危険である。現在行っているRL細胞(NG-24におけるuntreated control cells由来)を用いたcolony levelの発癌実験の試みで、その対照細胞に少く共2〜3種のcolonyが形成されることが明らかになった。
 NG-24、NG-26については兎も角目下移植実験とsoft agarにつき再検している。なおrat胃の細胞を用いた発癌実験も近日中に再開したいと思っている。
 3.Colony levelの発癌実験の試み
 より定量的な実験系を組むべく、colony levelの発癌実験を試みている。
この実験に先立って細胞数のちがいによるNGのtoxic effectの違いをみた(図を呈示)。細胞数の少い程同一濃度におけるtoxic effectは強くあらわれた。この実験は万単位の細胞数で行っているのでさらに千、百単位の細胞に対するNGのtoxic effectについてはcolony形成能に関して検討しなければならない。
 次にRL細胞のplating efficiencyに及ぼす培地の効果をみるため、199+20%CS、199+0.1%BP+20%CS、MEM+20%CSの3種類の培地について検討している。CSを20%としたのは月報No.7010、7011でCS濃度は20%がよいと考えられたからである。現在まで1,000コの細胞をseedしたものについて、MEM、199の間に差はみられないが、199にBPを加えた培地はPEがやや良いように思われる。現在colony levelの実験として、一応MEM+20%CSでRL cellsを5,000、1,000、500、100とseedし、NG 10-5乗Mを培養4日後に1時間作用させてさらに2週間培養をつづけ、その後一部固定染色し、一部は一緒にtrypsinizeして継代し、500ずつseedして経過を追っている。しかしRLcellsは先述の如く少く共2〜3種のcolonyを形成するので出来る丈pureな細胞集団をうるべくcolonyを拾う努力も同時に行っている。

 :質疑応答:
[山田]一回の実験の群数を減らしても、一群の匹数を増やすようにして実験しないと、精度がよくありませんよ。
[滝井]なかなか動物が思うように準備できないものですから。それから接種後すぐ死んでしまって、データにならないものも多いのです。
[佐藤]正常細胞が混じっていることは、復元成績の妨げにならないのですね。
[堀川]かえって促進している傾向がありますね。正常細胞がfeeder layerの役目をするのでしょうか。腫瘍の方を1コか2コにして接種するとどうでしょうか。
[安村]1コ接種そのものが難しいですよ。
[難波]100コのところはtakeされますか。
[滝井]まだ日数がたっていないので、分かりません。
[安藤]高木先生の仕事についてですが、NGはどこで処理するのですか。細胞が1コの時処理するのですか。
[高木]なるべく1コの時がよいと思いますが、培養開始してすぐでは障害が大きすぎるので、培養4日たってから処理しています。
[難波]コロニーの形態と感受性の関係はどうですか。
[佐藤]耐性はありますか。
[高木]growthカーブでみた所では耐性はありません。
[堀川]発癌実験には10-5乗Mがよいのですか。
[高木]いいと思います。大体増殖の50%阻害位です。
[難波]始めにコロニーを拾ってcloneにしてから、処理をすればよいと思いますが。
[高木]その計画で今拾っている所です。

《佐藤・難波報告》
 N-32:培養内で4NQOによって癌化したラット癌細胞の悪性化の指標を探す試み:Concanavalin A(Con.A)は、悪性化細胞の増殖を抑制するか
 月報7101で悪性化したラット肝細胞の指標を探す試みとして、悪性化細胞の増殖に対するWheet germ lipase(WGL)の効果を検討した。その結果、WGLは特異的に悪性細胞の増殖を抑制しないことが分った。このネガティブデータの解釈として、1)使用したWGLには、もともと細胞の増殖抑制効果がなかったのか。2)使用した濃度が不適当であったのか。3)WGLが培地中のグルコースと反応して(グルコースがHapten様の働きをする)WGLの活性が低下したのか。などの問題が残った。そこで、培地中のグルコースと反応せず、しかも癌細胞の増殖を特異的に抑制すると報告されているCon.Aを使用して、悪性化ラット肝細胞の増殖に対する影響を検討してみた。
 実験方法:Con AはSigmaのjack beanから抽出した。所定の細胞を試験管にまき込み、2日目に20%BS+Eaglee'sMEMの培地中にCon.Aを終濃度425μg/mlに溶いた培地に変え、更に続けて3日培養し最終の細胞数を、Con.Aを含まぬ培地で培養した対照群の細胞数と比較した。使用した細胞は、LC-2系の対照細胞、この細胞にl0-6乗M 4NQO 1hr処理10回で悪性化した細胞、この悪性化細胞の復元で生じた腫瘍の再培養細胞を用いた。
 結果:Con.Aは、この実験条件のもとでは、悪性化細胞に対して、特異的な増殖抑制効果を示さなかった。いづれの細胞に対しても、Con.Aは、細胞の増殖に対して細胞の増殖促進或いは抑制効果はみられず、Con.A無添加培地内細胞の増殖にほぼ一致していた。
 ◇DABによる発癌実験
 5)培地内でDAB処理を受けた細胞の培地中からのDAB消費能について
 DABで生じた肝癌は、DABを代謝しないと報告されている。そこで、DAB代謝能と細胞のDAB消費能とは、関係ないかも知れないが、一応DAB処理を行った細胞のDAB消費能を検討してみた。細胞1コあたりのDAB消費能は、DAB投与時の細胞数に依存することを報告した。(月報7011) 標準曲線は、クローン化した発癌剤無処理のラット肝細胞LC-2を使用して、作成した。そして、1)LC-2 DAB 20μg 30日処理。2)LC-2 DAB未処理 対照細胞。3)RLD-10 DAB 1μg 4日(培養開始時)。4)RLD-10 DAB 1μg 4日 その後3'-Me-DABを10μg〜20μgの濃度で156日間処理したもの。5)LC-10 クローン化したラット肝細胞、DAB未処理。6)培養株化されたエールリッヒ腹水癌。これらの細胞のDAB消費がどの程度か検討した。
 結果:現在までのところDAB処理後の細胞のDAB消費能は低下していない。現在、検討中であるがDAB消費能は細胞の増殖具合に依存しているようである。
 (図および表を呈示)B2Cell lineの累積曲線をみると、DAB、3'-Me共に27日間20μg/ml添加時最初は増殖を示さなかったが、DAB、3'-Meを無添加とし継代し再添加を行なった場合明らかに増殖することが分る。
 10μgについて2回、20μg5回と4回の期間、tube当り1日に消耗されたDAB、3'-Meの量は、10μg例の場合、かなり消費が少くなっているのが特異的である。DABの消費が細胞数及び細胞の生きていることが必要などと多くのfactorに左右されるので、詳細なことは補正しなければならない。或いは高濃度の場合と低濃度の場合、細胞に与える作用(特に癌化)が相違するかも知れない。

 :質疑応答:
[永井]WGLを添加した時、細胞は凝集しますか。
[難波]ローテション培養でみていますと、やや塊が大きいと思われますが、どういう表現でまとめたらよいか考えています。
[安藤]3日間添加しつづけるのですか。
[難波]レオ・ザックスのデータではglucoseを除いての処理で数時間です。それもやってみる予定ですが、今日出したデータは添加しつづけています。
[山田]癌の場合のみ凝集が大きいとすると、動物へ接種する前の変異株と動物からの再培養の系のように、正常と悪性の集団としての比率が明らかに違うものを使って、ちゃんとその比率に平行して凝集するかどうかを調べてほしいですね。
[安藤]PHAにも色々あってglucoseに関係のないものもありますから、試してみるとようでしょう。それから同じ癌でも癌ウィルスによる変異は膜構造が一定方向に変わるが、化学発癌の場合は共通性がないという事も考えられます。
[堀川]佐藤班員の仕事についてですが、DAB 20μg/ml処理の系ではDABを代謝しない細胞系ををselectしたとして、2度目にDABを添加した時はどうなりますか。
[佐藤]2度目に添加すると消費します。
[安藤]この問題は代謝酵素の活性についてと、DABの付くべき蛋白が無くなるのかどうかという事の二つに分けて、はっきりさせなければなりませんね。処理後の細胞蛋白当たりにどの位DABが付いているか、調べる必要もありますね。
[佐藤]in vitroでの現象をin vivoのものと対比してみてゆきたいと思っています。in vitroの細胞では、培養日数が長くなるにつれてDAB代謝の活性が変わってきますね。
[安藤]4NQOで発癌させた系のDAB消費はどうですか。
[難波]対照と同じ位消費します。
[高岡]なぎさ変異の株の中にはDABと全く関係しない変異なのに、DABを殆ど消費しないものもあります。
[堀川]消費については方向がありませんね。
[安藤]極端に代謝活性の異なる細胞系を使って、細胞内に結合しているDABを調べてみる必要もありますね。それから動物にDABを喰わせながら、in vivoでの代謝活性も調べてみたいですね。

【勝田班月報・7103】
《勝田報告》
 §培養内発癌実験
 A)JTC-21・P3株:
 各実験ともTD-40瓶1コを用い、4NQOで処理した。
 [実験1]1970-10-2;10-5乗M、30分間、1回のみ処理したが、細胞は障害が甚大で約3週后には全滅してしまった。
 [実験2]1970-10-28;3.3x10-6乗M、30分間、1回のみ処理。しかし上記と同様に、約1月后に全滅。
 [実験3]1970-12-10;3.3x10-6乗M、30分間、1回の処理。処理前の細胞形態は写真1のように、球状で軽く硝子面に附着している細胞と、細長く伸びている細胞、あるいは所々に見られるようにpile upしているものも見られる。(写真1、2、3、を呈示)
写真2、3は同年12-22に撮影した写真で、細胞は一層硝子面から剥れ易くなっており、やや大型の細胞も混っている。またpiling upの傾向も強く、その塊がぽろりと剥れ易い。
 1971-1-20;継代し、円形の回転管3本に移したが増殖はきわめて緩慢である。細胞数が増えたら、復元試験をおこなう予定である。
 B)R2K-1株:
 JAR-2系ラッテの腎由来で、1969-12-23に3.3x10-6乗Mの4NQOで30分1回処理され、増殖を誘導されてできた株である(腫瘍ではない)。これをTD-40瓶3コ用意し、1970-10-2;3.3x10-6乗Mの4NQOで30分間処理し、10-28;再処理、12-22;山田班員に細胞電気泳動を依頼、1971-1-25;継代と共に一部を復元;JAR-2、F17、生后5日♀ラットに、対照とも各2匹宛、500万個/ratにI.P.で接種。結果はまだ不明である。
 C)実験HQ系の株:
 JTC-25・P3(旧RLH-5・P3)株を用いた。これはラット肝実質細胞で、なぎさ変異後、純合成培地で継代中の亜株である。1969-9-11以来、計8回4NQO処理した系を、1970-10-20;JAR-1系F38、生后1日のラットに1500万個宛I.P.で接種し、さらに11-5;1500万個宛I.P.で接種した。1971-1-27;ラッテを殺して腫瘍形成をしらべたが、結果は処理群:0/2、対照群:0/2となり、この系での悪性化は非常に困難であることが示唆された。

《難波報告》
 N-33:培養内で4NQOによって癌化したラット肝細胞の悪性化の指標を探す試み−4NQO処理後の細胞の旋回培養法による細胞集塊形成能の経時的変化
 旋回培養法及びその実験結果については、月報7002、7004、7012に報告した。これらの以前の報告で結論されることは、発癌剤の処理を受けた細胞が動物に造腫瘍性を得るようになると、その細胞の細胞集塊能は発癌剤を処理していない対照細胞のそれに比べ、増加することであった。そこで、今回は4NQOの処理後の細胞集塊能が、経時的にどのように変わるかを検討したので報告する。
 実験方法:細胞はクローン化したラット肝細胞(LC-2)を使用し、4NQO処理は、Eagle's MEMに終濃度10-6乗Mにし、1hr処理、3日間の間隔で計2回処理した。その後経時的に約50日まで発癌剤の処理を受けた細胞の細胞集塊能を検討した。このLC-2細胞を癌化させるに必要な4NQO処理条件は、上記の条件で充分であることを、月報7009に報告した。まだ、同月報でLC-2細胞が動物に造腫瘍性を得る最短日数は4NQO処理後から復元まで28日であったことを報告した。
 実験は2回行った。最初の実験では4NQO処理後19日目に対照細胞と、処理細胞との細胞集塊は、4NQO処理細胞が対照細胞に比べ、わずかに大きくなっていた。しかし、それほど大きな差はなかった。46日目には4NQO処理では大きな細胞集塊が目立ち、その平均直径は対照細胞の約2倍に増大していた。
 そこで、これほど話がうまく行くかどうかもう一度検討した。その結果は表に示している(表を呈示)。この実験から判ることは、4NQO処理細胞の細胞集塊能は、4NQO処理後、20日ごろから対照細胞のそれに比べ、1.5倍ぐらいに増大し、以後、同程度の集塊能が4NQO処理後40日目まで、続いていることである。
 この20日目ぐらいから4NQO処理細胞と対照細胞との細胞集塊能に差が認められるようになることは、勝田先生が月報7101で述べられているごとく、(1)変異した細胞数の問題なのか、(2)悪性度の段階的進行(Progression)なのかに関連して、心に残る問題である。また、今後発癌剤の処理を受けた細胞の集塊能が未処理細胞のそれに比べ、どの程度増大したら、確実にその細胞が動物に可移植性を持つようになるのか、また4NQOの繰り返し処理は細胞の集塊能を上昇させるかといった問題を、検討したいと考えている(図を呈示)。

《山田報告》
 前回予報しましたごとく、正常ラット肝由来の培養株を、写真記録式細胞電気泳動法により分析した結果を表に示します(表を呈示)。RLT-1のコロニー株、及びRLC-10のコロニー#2は、いづれも均一な形態を示し形の上では良性株と考へられ(今の所宿主に腫瘍を形成して居ないさうです)後者はRLC-10の凍結後に生じた一コロニーださうです。RLC-10(frozen)株は、#2コロニーを除した後のRLC-10凍結後再増殖した細胞集団で、これも今の所宿主に腫瘤を作っていないさうです。
 いづれの株の泳動度分布も比較的均一ですが、RLC-10の原株程揃っていません。ノイラミニダーゼ処理を行っても、いづれの平均値の一割以上の平均泳動値の低下を認めません。しかしRLC-10(frozen)株は、検索するたびに若干泳動パターンが変化し、細胞構成が培養代数により、かなり変化する混成集団ではないかと考へられます。しかし今回も、検索した株のうちでは最もノイラミニダーゼに感受性があるのはこのRLC-10(frozen)です。
 従来の計算と同様に、各未処理細胞群のうちで、平均値より1割以上高値を示す細胞、及び各ノイラミニダーゼ処理後の細胞のうち、それぞれの対象細胞の平均値より1割以上低値を示す細胞の出現率を推定変異細胞率と仮定し、更に両出現率の積を100で割った値を最終的な綜合変異細胞出現率として計算した値を表に示しました(表を呈示)。この出現率はRLT-1Colonyに最も低く0.8、RLC-10Colony#2は2.9となりました。同じ方法による従来自然悪性化株であるRLC-10-A(最も悪性細胞の構成頻度が少いと推定される株)のこの最終出現率は3.0ですから、少くともRLT-1はまず良性株であり、RLC-10Colony#2はRLC-10-Aに近いか或いは全く良性株であるか、境界線にある株と考へられます。しかしRLC-10(frozen)は、この意味では悪性化の可能性が考へられます。結論としては、RLT-1Colony及びRLC-10Colony#2はまず良性株として、今後の4NQOによる発癌実験における母細胞に使用出来るものと考へます。

《高木報告》
 1.混合移植実験
 (1)前回の班会議で報告した如く、従来腫瘍細胞として使用していたRG-18株の腫瘍性が低下したように思われるため、古いdataと新しいdataとは比較しにくくなった。そこで現時点の細胞を用いて、この1,000、500、100、50、10ケ、および正常細胞(RL)の100万個、1,000、0の3群について実験を行っている。
 (2)以上の実験はすべて移植に関しhomologous(RG-18が)な系である。腫瘍細胞に正常細胞を混ずるとむしろtumorigenicityが促進される如き結果をえたのはこの様な実験系が影響しているのかも知れない。そこでisologousな系の混合移植実験を開始した。今回、その系の腫瘍細胞として用いるRRLC-11(従来No5Cとよんでいた細胞株、月報No7102参照)だけのtumorigenicityを示す(表を呈示)。表の如く細胞数により腫瘍発現までの日数に違いはみられるが、1,000までは100%のtumorigenicityを示した。RRLC-11細胞1,000、100、50、10とRL細胞100万個、1,000との混合移植実験を開始している。
2.Colony levelでの発癌実験について
RL細胞を用いたcolony levelの実験では14日目毎に500ケの細胞を継代しているが、現在までNG作用群と無処理群との間にplating efficiency、transformed colony数の間に、有意と思われる差はみられていない。細胞集団を用いて実験を行うべく、目下RL細胞のColonyを拾っている。

《安村報告》
 §8Azaguanine、BUdR耐性細胞株(つづき)
 第10回の班会議での報告と月報の報告が前後してしまいました。ひとつには班会議にお見せした耐性細胞の形態を示す写真があまりにもできがわるく、前回の月報のわたしの部分の討論の最後の部分に〜fibroblastと上皮細胞の違いについてワイワイガヤガヤ〜と記されているとおりだったからです。その後数回写真をとり直したのですが露出はよろしいがどういうわけか、focusのあまいものばかりです。標本をケンビ鏡でのぞいた段階では、focusはよろしいのですが、できあがった写真ではピンボケということでした。原因はいまのところ不明です。ただ今回から新しく購入(まだ金は払えない)したニコンの自動露出計つきのものを使ったことが関係していることです。現在カメラボックス部分におもわしくないところがありましたので、その部分の交換を頼んであります。いちおう標準に達している写真ができたらお見せすることにします。
 この2年あまりの耐性株としてとれたものは:
マウス滝沢肉腫細胞・8AG 50μg/ml耐性株
マウス滝沢肉腫細胞・BUdR 50μg/ml耐性株
ハムスター(SV40でinduceされたTumorから出発)HAVITO株・8AG 50μg/ml耐性株
ハクスター(SV40でinduceされたTumorから出発)HAVITO株・BUdR 50μg/ml耐性株
L細胞・BUdR 50μg/ml耐性株
等です。VERO細胞はBUdR 50μg/mlで継代は可能ですがはっきり耐性とはいえません。
8AG 5μg/mlのVERO細胞もはっきり耐性ではありません。こんご、班会議の討論にのべられた意見をふまえて実験を組立てていくつもりです。

《梅田報告》
 今迄ラット肝を酵素処理后最初から単層培養を行って、増生してくる細胞の種類夫々に対する発癌物質の作用の違い等を検討し報告してきた。一方発癌剤投与后、普通培地に戻して長期培養を行ってきたが、培養当初増生してくる肝実質細胞は次第に重なり合って束状になる傾向を示し(コントロールを含めて)間葉系細胞の方も旺盛には増加してこない。しかしそのまま培地交新を続けて培養していると、3〜6ケ月を経過して始めて敷石状の配列をした上皮性細胞が増生してくる。この細胞は既に培養当初に増殖している肝実質細胞とは形態的に又染色性において多少異っている様である。
 どうして培養当初増生している肝実質細胞が培養の途中でじり貧状態になるのか原因を知りたいと思っていたのが、この点で示唆をうけたので報告する次第です。
 培養開始后約10日、増生が止ってくる様な時期にPapの鍍銀染色を施した所、写真に示す如く、丁度肝実質細胞増生部と思われる所に茶褐色に染るプラック状のものと、黒色に染る繊細な繊維が見られる様になっている。間葉系細胞の上にはあったりなかったりで、疎に生えている所には証明されない。もっと早い培養5日目では、この様な繊細な繊維形成は全く認められない。Plaque状のものは見られても小さい。Azan染色を施してみると、之等のplaque繊維は青色に染り、膠原繊維と思って良い様である。
 我々の実験に関して問題は2つあり、1つはこの鍍銀染色で染る物質の同定で、本当に膠原繊維なのか、又は基底膜状のものなのか、知ることであろう。もう1つはこの繊維形成により肝実質細胞がまきこまれる様になって増生出来なくなる可能性が強いので、長期培養するためにはこの繊維形成を出来るだけ阻止して、肝実質細胞を増生させる方法を考えることであろう。
 後者の問題に関して先ずSodium lactateを使ってみたが、写真の如く1%の濃度で同じ培養10日目のcultureにも拘らず、繊維形成は殆んど認められない(写真を呈示)。中央部にplaqueと称したが、そのはしりの様なものが見られるに過ぎない。この濃度では増生は抑えられており、0.5%では繊維形成はコントロールと同じ位に認められる。さらに2%では既に細胞にtoxicなので使い難い様である。目下lathycogenic agentsと呼ばれている物質、Dr.LaightonのSuggesionでAscorbic acidを投与してどうなるか検討中である。

《安藤報告》
 4NQO処理L・P3細胞の増殖能の回復
 4NQO 1x10-5Mで処理されたL・P3細胞においては中性蔗糖密度勾配遠心法で見ると、そのDNAが分子量にして約10分の1に切断されていること、しかも、その場合の切断部位はDNA部分ではなく連結蛋白部分である事を報告して来た。しかもこの蛋白部分の切断は処理後の回復培養によって容易に再結合される事も報告した。今回は、このようなDNAの動きに対応して細胞の増殖能がどのように回復するかをmass culture法とcolony-formationで調べた(これは以前に報告した事の確認実験でもある)。
 L・P3のconfluent cultureを4NQO 3.3x10-6乗Mで処理し、処理後直ちに短試に分注しcellgrowthを観察したものが第1図実線の実験であり(図を呈示)、稀釋してFalcon dishにまいたものが第1表である(表を呈示)。又4NQO処理後24時間はそのままconfluentの状態で培養し、24時間後に同様に短試、シャーレ培養を行った。結果は第1図にあるように4NQO処理直後には直ちには増殖期に入らず、約1日のlagの後に対照と同じ増殖能を回復した。この事実は正に連結蛋白の再結合に約1日の培養が必要であった事とよく対応する。24時間回復培養後にまいた場合には全く対照と同じ増殖度を示した。これ等の事実は、4NQO処理によりDNA及び連結蛋白に受けた大きな障害は、増殖に関する限りは完全に回復した事を示している。コロニー形成能については、ややこの結果とは平行しない点があった。すなわち:(1)3.3x10-6乗Mにおいては、処理後0時間においても24時間においても対照とほぼ同じコロニー形成能を示した。:(2)4NQO 1x10-5乗M処理24時間においては、コロニー形成能は完全には回復してはいなかった。しかしながら、1x10-5乗Mの場合24時間で有意な回復があったと見なす事が出来るであろう(0.15%→3.9%)。
 L・P3細胞のコロニー形成を見る場合、播き込む細胞数によって形成率が変化するのでやや結果をあいまいにしている。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(30)
 X線と4-HAQOによって誘起された一本鎖切断が同じスピードで再結合されるとか、あるいはX線と4-HAQOによって誘起された一本鎖DNA切断の再結合が、同一代謝阻害剤で阻止されるというこれまでの実験結果が示唆するのは、両者の作用機構とその障害修復機構の類似性であったが、前報で報告したように4-HAQOとpronase、X線とpronase、あるいは4-HAQOとX線といった種々の組合せで行ったDNA切断量の変化でみた結果は、両者の作用機構はある未知の点で異なることが予想される。こういった意味から前回報告した結果の総てを包合し、またその結果を矛盾なく説明出来るように並べたのが図1である。勿論ここに示した2本のDNAstrand中に介在するpronase sensitive siteには、pronase(あるいはその他のX線や4-HAQOについても同様)処理に対して切断されやすい順位がある、という想定のもとに話を進めている。従って、例えば4-HAQO処理により、まず(1)のpronase sensitive siteが切断され、続いて処理されるpronaseによっても(1)がattackされ、余分のpronaseがあれば(2)のpronase sensitive siteを切断するというようにして説明される。このように説明してくれば、やはり問題となるのはX線処理を先行し、続いてpronaseあるいは4-HAQO処理を行う場合であって、この際には先行のX線照射によって切断されるsito(1)以外の、pronase sensitive siteも構造変化を起しているため、第二処理のpronaseあるいは4-HAQOの作用が無効になるということで説明される。いずれにしても、この辺りが4-HAQOとX線の作用の大きな違いであるように思われる。
 またX線照射によって切断されたsiteが4-HAQOによって再結合される可能性については、現在解析中である。

【勝田班月報・7104】
《勝田報告》
 A)最近の復元接種試験の成績:
 RLC-10株(ラッテ肝)は4NQOによる癌化実験の対照で、継代中に自然癌化をおこしたが、これをドライアイス内で凍結保存後、TD-40瓶にまいたところ、細胞のcolonyが3コできた。これをふやして復元接種してみた。#1〜3はそれぞれクローン#4は残りを集めた混合で、接種数は300〜500万個/ラッテで、68〜103日観察後どの系も0/2であった。4NQO処理後悪性化した系から軟寒天法で拾ったRLT-1Aは500万個接種で71日には腫瘍形成2/2であった。接種部位はI.P.である。
 B)上記の諸系の染色体像:
 RLC-10#1は73本、RLC-10#2、#3は42本、RLC-10#4(Mix)とRLT-1Aは41本であった。核型からみると、42本のものも正二倍体ではない。また各系とも特徴がなく、正二倍体の核型からあまり変化した染色体はみられない。
 C)若干株のPPLO試験:
 千葉血清の橋爪氏におねがいして、若干種の細胞株について、PPLOの存在をしらべて頂いた。RLC-10#4(ラッテ肝)(血清培地継代)とJTC-12・P3(サル腎)(合成培地継代)は−であった。JTC-20・P3(ラッテ胸腺細網細胞)(合成培地継代)は+++。JTC-25・P3(ラッテ肝)(合成培地継代)は+〜++。JTC-20・P3はあまりPPLOが多いので、PPLO退治のテスト材料に好適といわれてしまった。RLC-10は(-)なので、発癌実験にPPLOが関与したという可能性は否定してよいと思われる。

《安藤報告》
 4NQO処理FM3A細胞の増殖能の回復と連結蛋白の関連
 L・P3細胞については、4NQO 1x10-5乗Mによって細胞DNAは、pronase処理対照DNAと同程度にS値の低下を示した。そして中性蔗糖密度勾配遠心法による限り、4NQOにより切断される結合はDNAの連結蛋白部分である事を報告してきた(図を呈示)。又、この連結蛋白の切断は容易に再結合されると同時に細胞は増殖能を回復した(月報7103)。
 今回はL・P3よりも使い易いsuspension cultureされているマウスFM3A細胞を使って、この点を確認すると同時に、更に4NQO高濃度によって更に大きく切断した場合、DNA levelで再結合が起るか否か、増殖能の回復が起るか否かを調べた。30万個cells/mlの細胞濃度を用いた場合、FM3A細胞はL・P3よりも4NQOに対し感受性が高く(図を呈示)、ほぼ1x10-6乗MにおいてL・P3に対する1x10-5乗Mに比較さるべき切断を示した。3x10-6M以上では更に大きな切断が見られた。これ等のそれぞれの濃度で30分処理された細胞を新鮮培地中で24時間処理後に同様に分析した所、1x10-6乗Mの場合はほぼ完全に再結合が起っていたが、3x10-6乗M以上では不完全であり再結合される部分とされない部分に分れ、1x10-5乗M以上では大部分が回復されなかった。この実験から4NQOによるDNA障害のうち、修復可能な部分と不能な部分がある事がわかった。次にこれ等の障害が、先にL・P3において示された連結蛋白といかなる関係にあるかを調べた(図を呈示)。図に見られるように4NQOの1x10-6乗M迄は、4NQOの障害は連結蛋白に限られていた(一重鎖切断はすでにDNA上に起っている)。しかし4NQO 1x10-5乗Mにおいては、4NQO連結蛋白切断+α切断を起していた。この場合αはDNA部部の二重鎖切断だと思われる。この事実は先に述べた修復可能な障害は連結蛋白の切断に相当し、不能な部分はDNA部分の二重鎖切断に相当する事が強く示唆される(図を呈示)。
 これ等のDNA levelにおける修復加納、不能障害に対応して、細胞の増殖の能力の回復を調べた。(図を呈示)図に見られるようにDNAレベルで回復が起る場合には、すなわち障害が連結蛋白部分に限られている場合には、増殖能は完全に回復していた(1x10-6乗M 4NQO)。しかしながら、DNA部部の切断を起す3x10-6乗M以上の4NQOによってはDNA levelの回復も起らないと同時に増殖能の回復も起らなかった。
 以上の実験から、次のように結論する事が出来ると思われる。
 4NQOによる細胞DNAの障害は、DNAの連結蛋白部分の切断よる二重鎖レベルの鎖切断である限り、分子レベルに於て修復が起ると同時に細胞レベルにおいても増殖能の回復となる。一方、DNA部分の二重鎖切断が起った場合には、もはや分子レベルにおいても細胞レベルにおいても回復は起らなかった。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(31)
 DNA鎖中に存在するらしいResidual protein部分(pronase sensitive site)を4-HAQOもX線も共にattackするようだが、その作用機構は基本的な点において両者間でわずかに異なるのではないかということを示唆する実験結果が得られた。これらについては前報で報告したが、今回はpronase、4-HAQO処理、あるいはX線照射によって誘起されるDNAの最大の二本鎖切断数はどのようであるかを比較検討した予備結果を報告する。
 5〜20%のsucrose gradient partに0.5mg pronase/mlになるようにpronaseを加え、top layerに5mg pronase/mlを加えて、その上からmouse L細胞をのせ、lysisさせ、15分間種々の温度でincubateした後に超遠心にかけ、sedimentation profileからDNA molecule当たりの二本鎖切断数を計算した(図を呈示)。
 ここには2つの実験結果を示してある。これらの図から分かるようにpronaseのoptimum temp.は50℃周辺にあり、2つの実験で違いはあるがDNA mlecule当たり600以上の切断が入ることがわかる。
 一方、種々の濃度の4-NQOを含む培地中で30分間培養したL細胞を処理直後に正常sucrosegradient centrifugationにかけ分析した結果を図に示す。培地中の4-NQOの濃度が1x10-5乗Mに達するまでは、4-NQOの濃度に依存して二本鎖切断数は増加するが、それ以上の濃度では変化がない。この点での最大切断数はDNA molecule当たり36個である。また5x10-4乗M〜1x10-3乗M 4-NQOになると、細胞内DNAの二本鎖切断数が減少してくるように思われる。これは4-NQOのhydration等が起きたためなのか、あるいはそれ以上のfactorが関与するのか、現時点では推測の域を脱しない。しかしこの点は発癌実験とも関連して非常に重要な問題を提起するものである。いずれにしても、4-NQOで細胞処理した際に誘起される二本鎖切断は、pronase処理で誘起される切断の一部分にしか該当しないということは非常に興味がある。つづいてX線によるDNAの最大二本鎖切断数を検討しようと計画中である。

《山田報告》
 引続きラット肝細胞RLC-10のコロニー株の細胞電気泳動的分析を写真記録式泳動法により行ってみました。方法及びその計算法は前号に報告したものと全く同じです。
 RLC-10の三コロニー株#1、2、3を分析した所、表に示します様に(表を呈示)、やはりコロニー#2が最も平均泳動度が低くノイラミニダーゼ処理により殆んど平均泳動度は低下せず、しかも細胞構成分析でも、推定変異細胞出現率は綜合すると2.3となりました。自然癌化株のうちで、最も推定変異細胞出現率が少いと思われたRLC-10-A株の値は3.0ですから、まずまず自然癌化細胞はこのRLC-10のコロニー#2には含まれていないと云って良いものと思います。しかしRLC-10のOriginal株のごとく典型的な良性肝細胞の泳動パターンは示しておりません。この株の細胞形態は写真に示すごとく(以下夫々写真を呈示)、揃っており中小型細胞が大部分であり、大型の異型細胞は全くみられませんでした。
 これに対しコロニー#1は、ノイラミニダーゼ処理により平均泳動度は7%の減少しか示しませんが、綜合推定変異細胞出現率は3.9となりRLC-10-Aのそれより高く、自然癌化細胞の混入も考えられます。その細胞形態も写真に示すごとく、大小不同が目立ち、やや大型細胞も出現しています。しかしこの大型細胞はRLT-1〜5の系に出現した様な大きなものではなく、むしろ中型細胞です。
 コロニー3は前二者の中間の性質を示し、癌化細胞の混入も必ずしも否定出来ません。
 これで一応発癌実験のControl細胞の分析は終りましたが、残念ながらRLC-10 Originalにみられた様な典型的な泳動パターンはいずれの系にもみられず、その意味では多少問題が残ります。今の所、RLT-1のコロニー(前回報告)及びこのRLC-10のコロニー#2が、発癌のための実験にも最も適していると云う結論です。

《高木報告》
 1.混合移植実験
 (1)RG-18を腫瘍細胞として用いたhomologousな移植系での実験:
 RG-18細胞が、腫瘍性が低下したように思われることは先の月報で述べた。この実験は現時点の細胞を用い、近い間隔で行われたものである。RG-18 50ケ、10ケの実験も行っているが未だ腫瘤の形成をみていないので紙面の都合もあり今回ははぶいた。
 これだけのdataでは未だ推測の域を出ないが、先の実験で(No.7102)RG-18細胞500ケとRL細胞1,000ケまたは100ケ混じたとき出来た腫瘤がregressしたことを報告したが、今回の実験でもRG-18細胞500ケとRL細胞1,000ケを混じたとき、未だ1/3しか腫瘤の発生をみず、すなわちtumorigenicityがよわいように思われる。RL-18、1,000ケでは移植したratが死亡したため疋数が少くなったが追加実験を行っている。両方の細胞を同数程度混じたときtumor-igenicityが低下するのかも知れない。
 (2)RRLC-11を腫瘍細胞として用いたisologousな移植系での実験:
 RRLC-11細胞のみについての移植成績は、表に示す通りで(表を呈示)ある。細胞数の減少と共に腫瘍発現までの日数、腫瘍死までの日数が次第に延長し、100ケになると未だ1/3に、しかも63日かかって腫瘤の発生をみている。当然のことではあるが、細胞数とこれら日数の間には、はっきりした相関関係が成立っている。従ってこの細胞を用いた混合移植実験は細胞数100〜1,000ケを中心に行ってみる予定である。
 2.Colony levelでのNG発癌実験
 RL細胞(WKA rat肺由来)を用いてcolony levelでの実験を行い、3実験系についてNG 10-5乗M作用せしめた後経時的にcolony形成能、piling-up colonyの出現率などを検討しているが、一定のdataが出ていない。いろいろな原因が考えられるが、やはり一番の問題点は、mixed populationの細胞を用いていることと思う。RL細胞のcolonyをみると、少くとも2-3種類の細胞より成るものがあることは先に述べたが、その各々を拾ってさらにcolony形成を2-3回繰返し、現在、2系の比較的純粋と思われる細胞がとれた。この細胞をふやして実験にかかる予定である。
 九大では今年度の大学院学生の採用も終り、きびしく講義(セミナー)を行うことになっていますが、その病理系学生(全体を生理系、病理系に分けて)の前期の講義に"組織培養による発癌実験"のテーマも加わることになりました。

《梅田報告》
 ハムスター胎児細胞の2代細胞に、mycotoxinであるペニシリン酸(PA)及びパトリン(Pat)とトリプトファン代謝産物お3-hydroxyanthranilic acid(3HOA)を投与して、長期継代した例を述べる。
 (1)PAは10μg/ml濃度の培地で1日間処理し後継代した。ここで2系列にわけ、1回処理そのままのものと、更に2代、3代目で同じ処理を繰り返したものを作った。後者は増殖が悪く、8代目で増殖が止って了った。前者は10代目培養110日をすぎてから増殖が盛んになり、形態的にもtransformを思わせた。12代目にsoft agar中でmicrocolonyを作る様になった。30代目200日頃より更に良好な増殖を示し(1週間で10倍以上)、形態的にはcriss-cross、piling upの著しい像を呈する様になった。
 (2)Pat 2μg/ml濃度の培地で1日間処理後継代したが、増殖悪く3代で切れて了った。因みにHeLa細胞での増殖カーブ実験で1μg/mlでは、一日間の横這いでその后増殖がresumeする。他のラット肺、肝培養も殆同じ感受性を示しているので、2μg/mlがそれ程高い濃度と思わなかった。所謂毒素なので濃度が少し上っただけで、この様な長期継代には耐え得ないのかも知れないと解釈している。
 (3)3HOA 10-3.5乗M培地投与1日后control培地に戻して長期継代した。これも数回処理群を作ったが、切れて了った。(1)のPA処理と非常に似た増殖を示し、9代目110日頃より形態的transformを示し、24〜25代目180日頃より更に良い増殖を示し、4〜5日で10倍以上の増殖を示している。criss-cross、piling upも著明になった。(図を呈示)
 どうしてももっと早くtransformする系を作らないと実験にならないと痛感している。

【勝田班月報:7105:癌とは何か、判らなくなった話】
《勝田報告》
 §癌とは何か、判らなくなった話:
 悪性化の指標として、これまでさまざまの特性変化が追求されてきた。
 1)動物への可移植性、2)軟寒天培地内増殖能、3)パラビオーゼ培養内での正常細胞に対する毒性、4)細胞電気泳動度における変化、その他、その他である。
 まず可移植性と軟寒天培地増殖能が平行するか否かの問題をとりあげてみよう。(表を呈示)安村班員のデータも混ぜてあるが、正常組織由来のラット肝は培養1300日で2/2とtakeされるようになってしまったが、このとき軟寒天内ではコロニーを作らない。ところが1460日になるとコロニーを作るようになった(しかも無数に)。なぎさ培養で変異した株はtakeされないが軟寒天内P.E.はかなり高い。AH-66からの株はそのまま復元すると、腫瘍を作らないが、軟寒天に生えた細胞を拾って増やすとtakeされる。
 合成培地内で継代しているRLH-5・P3株を、4NQOで1年間に8回処理し、細胞電気泳動では"まさしく悪性"と山田班員に判定された系の復元成績で、同系の生後24時間以内のラットにI.P.で接種して、いわゆるImmunotoleranceをもたせた上、再び1,500万個をI.P.で接種したがtakeされなかったという実験で、ラッテではこの時期の接種ではtoleranceをもはや作らぬのかとも思わされる。なぎさ変異株は細胞電気泳動像では悪性型のがあってもtakeされぬのは、異なる抗原性を強く持つようになったためではないかと思うが、免疫関係の班員はその辺を仲々しゃっきりさせてくれない。軟寒天内の増殖性と悪性とは平行しないことを安村班員は掴んでいるのに、それをちゃんと発表しないから、釜洞一味は平行するように述べ立てる。
 (写真を呈示)正常ラッテ肝の初代8日目の培養の中には、きわめて大きな核小体を保有する細胞がおり、悪性細胞と見誤る位である。正常ラッテ脾のセンイ芽細胞の初代8日には見事なcriss-crossを見せている。形態学もあてにならない。復元も宿主をX線で叩いておいて接種すれば・・などというのでは、それが本当の癌とよべるのかどうか。
 癌化したという判定を、我々はいったい、どんな指標によって下したら良いのか判らなくなってしまう。やればやるほどQuestion markは大きくなる感じで、以て"癌とは何か、判らなくなってしまう"話である。

 :質疑応答:
[吉田]動物への可移植性は組織親和性と関連していますから、可移植性だけで細胞の悪性化を知ろうとするのは問題がありますね。
[山田]in vitroでの実験は動物実験と違って宿主の影響を受けないという事が利点なのに、結局復元実験に頼らねばならないという事は退歩しているような気もしますね。
[藤井]新生児に復元しているのなら免疫的な意味では、むしろ始めのimmunotoleranceは不要だと思います。接種した細胞が増え出して宿主の反応が現れ始める頃に何か手をうつことを考えたらどうしょうか。
[安村]宿主側を始めからもっど痛めつけておくのはどうでしょうか。昔ながらの方法ですが、X線照射とかコーチゾン処理とか。それから、なぎさ変異の細胞はAH-7974の出すような毒素をあまり出さないのではありませんか。
[勝田]双子培養の結果では、なぎさ細胞も正常細胞をやっつけていますがね。
[佐藤]復元実験はどの位の期間観察していますか。
[高岡]takeされない時は、半年以上生かしてあります。
[佐藤]自然悪性化の系の場合、復元してから500日以上たって腫瘍死したというデータを持っています。もっと長く観察する必要があるのではありませんか。むしろ今までtakeされていた系でtakeされなくなったものを使って免疫現象を調べてみたらどうですか。
[堀川]癌とは、生体で起こった沢山の変異の中で、あまり生体とかけ離れた抗原性を持つ細胞は生体から排除されてしまって、生体と似たような抗原を持った細胞だけが残され、それが生体の制御から外れて増殖を始めたというものではないでしょうか。
[勝田]そういう事は考えられますし、非常に可能性はあります。しかし、どうやって証明しますか。証明できなければ意味がありません。今持っているデータ、例えばJTC-16(AH-7974)はラッテへ復元して腹水中で増殖させると、ヘキソカイネースのアイソザイムパターンが変わってくるという事や、JTC-15(AH-66)はラッテにtakeされなくなっている系ですが、軟寒天内に出来たコロニーから増やしたsublineはラッテにtakeされるという事など、問題として整理してみる必要がありますね。
[吉田]ごく僅かに混じっている細胞が問題かも知れませんね。それらの細胞に抗原性があって宿主を刺戟して免疫反応を起こさせ、結局takeされない事も考えられますね。
[藤井]癌の場合では、生体を刺戟する抗原をもっていて生体を刺戟することが、むしろ癌の成長を促進するということがあります。
[吉田]純度の高い動物を使うことですね。
[藤井]マウスではC3Hのように100代も継代して確立された純系がありますが、ラッテではありませんね。
[山田]しかし今の問題は動物の純度についてではなくて、今ある材料を使ってin vitroで変異した細胞の抗原性をどうやってチェックするかという事ではないでしょうか。
[吉田]そこで癌化=可移植性という系で実験すると、事の開明が簡単だろうと考えたのですが・・・。
[堀川]抗原の量の問題でなく質の問題でしょうね。細胞1コで動物にtakeされるという系をin vitroの変異で作ることが出来れば、いろいろ調べられると思います。
[山田]massとしての解釈と、その中に含まれるpopulationとしての解釈とが重なるので、事を難しくしているのですね。
[安村]どうでしょうね。in vitroの癌化の問題から、動物への復元実験というものを全く外してしまったら・・・。 ・・・全員爆笑・・・
[藤井]しかし実際問題としては、癌はin vitroの問題ではなくて、生体のコントロールの枠を外れて増殖するのが問題になるのだと思います。
[勝田]そうです。ですから復元にコーチゾンを使わなくては−、X線照射をしなくては−、takeされないというのでは困るのです。
[安村]細菌では、ふだんは無害なものが、生体のコントロールを外れたら感染症を起こす原因になるということもありますよ。変異ではなくてね。
[堀川]in vitroの系では、変異は全方向に向かって起こるが、生体では生体の中で増殖可能なものが選別されて残るので、それ以外の変異は調べる事が出来ないのですね。
[勝田]in vitroでいろんな方向への変異が出てくる時期に、生体に近い条件を与えて選別するという手もありますね。しかしラッテの細胞にラッテ血清を加えると増殖を阻害しますしね。イヤ、生体でも或るものは生存を阻止されているのだから、ラッテ血清などを使うのが自然かな。
[永井]ラッテ由来の培養細胞がラッテの血清で増殖を阻害されるとすると、ラッテの生体で癌化した細胞を培養してラッテの血清を与えると、どんな影響がみられますか。
[高岡]具体的なデータは出せませんが、増殖を促進する事は余り見られません。
[難波]ラッテの血清を使う場合、採血の条件を考える必要があります。エーテルやクロロフォルムで麻酔して採血すると、血液内に麻酔剤が入ってその影響があると思います。私の経験では、血清成分を全部ラッテ血清にすると細胞は増殖しませんが、だんだんにラッテ血清に馴らすことは出来ます。
[藤井]ラッテのリンパ球の培養には増殖させるのでなく維持するだけですが、ラッテ血清が一番適しています。それも非働化せずに又凍結もしない新鮮な物が良いようです。
[山田]標的細胞にリンパ球を加え、血清を入れて免疫反応をみる時も、凍結溶解した血清を使うと確かにリンパ球の反応が低下しますね。
[藤井]又、復元の問題ですが、新生児の胸腺を切除しておいて復元すると、なぎさ細胞でもtakeされるのではないでしょうか。
[吉田]元の個体へ戻してtakeされなくてはいけないのではないでしょうか。新生児やコーチゾン処理でやっとtakeされたものを癌といえるかどうか。
[勝田]それも、いろいろとやってみましたがね。肝臓の場合など部分切除出来る年齢のラッテではもう培養しても増殖しませんしね。
[吉田]尻尾の培養などはどうですか。どの年齢のネズミからでも簡単に培養できるし、培養するとfibroblastがどんどん増えてきますから、処理して皮下へ戻せば肉腫が出来るでしょう。
[藤井]杉村先生の言によれば、癌になった細胞は誰にでも判るが、癌になる細胞かどうかが判るのは、神さまだけですと・・・。
[山田]しかし、in vitroで発癌と取り組んでゆくには、それが重要な問題ですね。
[勝田]我々の乗り越えるべき垣・・イヤ石塀ですね。

《高木報告》
1.混合移植実験
 (1)RG-18を腫瘍細胞として用いたhomologousな移植系での実験(表を呈示)
 RG-18 50、10の実験群はいずれも観察日数70日を越えて未だに腫瘍形成がみられない。
 RG-18 1.000、500の実験群で、始めは各々少なくとも3匹のラットを用いて実験をスタートしたが、途中で死亡し、少いラット数になったため判定がむつかしい。しかし、RL 1,000を混じた群ではこれまでの観察期間を経て未だに腫瘍の発生をみていない。
 RG-18 500では、前号の報告同様RL 1,000混じた群に腫瘍形成能がよわいように思われる。またここでRL 100万個混じた方がRG-18 500接種した場合より腫瘍形成までの期間が短いように思われる。
 (2)RRLC-11を腫瘍細胞として用いたisologousな移植系での実験
 RRLC-11だけの移植成績は(表を呈示)、細胞数と腫瘍発現までの日数との間に明らかな相関がみられた。従ってこの細胞を用いた実験は100〜1,000の細胞数を中心に行った。RRLC-11細胞 10コの実験群はいまだに腫瘍発現をみない。RRLC-11 1,000コ群ではRLを1,000コ混じた実験のデータが未だ出ていない。またRRLC-11 500コ群では腫瘍細胞のみの移植がどうしたことか未だに0/6であるために成績の判定が出来ない。
RRLC 100コ、50コ群でもRLを1,000コ混じた時に腫瘍形成能がやや低い様にも思われるが、断ずるのは早計である。
 2.Colony levelのNG発癌実験
 RL細胞のColony形成を2〜3回経過し、純粋な株細胞をうる努力をした。形態的に異った2系の細胞をえたので、これを用いてNG 10-5乗M作用させた実験を行ったが、出来上がったColonyをみると、ごくわずかではあるがpopulationの大部分を占める細胞と異った細胞のcolonyがあり、完全に純化されていないことが分った。さらに純粋なcell poputationをうる努力をつづけている。2つの系の細胞の形態をslideで供覧する。

 :質疑応答:
[堀川]腫瘍化している細胞に正常細胞が混じっている方が、動物によくtakeされるという事は判りましたが、混ぜる正常細胞は生きていることが必要ですか。
[高木]殺した正常細胞がどうかはまだ実験してみていません。
[勝田]次の問題として考える必要がありますね。混ぜる正常細胞は同じ組織由来のものを使うべきではありませんか。復元実験の問題に関しては、今ある腹水癌が佐々木研のAH-7974とかAH-130とか、雑系で作ったものばかりで困りますね。純系ラッテ由来の動物継代腹水癌で使いよい系を作る必要があると思っています。
[吉田]復元はどこへ接種しましたが。
[高木]皮下接種です。
[吉田]接種した細胞は散らばりはしませんね。しかし生体から受ける影響が一番少ないという点から脳内接種の方がよいと思いますが・・・。
[高木]脳内接種も試みましたが、失敗で、1週間位でラッテが死んでしまいました。

《佐藤報告》
 RLN-B2ラッテ肝細胞の培養歴史と実験を図で示す。即ちラッテ肝をtripsinizeしてコロニーを作らせ、上皮性の性格を示す細胞のコロニーをつって炭酸ガスフランキ中で継代し、171日から閉鎖系で培養されたRLN-B2cell lineを使用した。実験は培養257日から292日にかけて出発した。DAB及び3'-Me-DABはalcoholに溶解して後、血清に混じ更にEagle'sMEMと混合する方法を採用した。濃度は計算上、ml当り10μg、20μg及び40μgになるようにしたが、培地添加時遠心を行って後添加したので実験時の添加濃度は計算値より低い。(培養細胞による培地内DAB及び3'-Me-DABの消費を換算するために培地交新時、消費量を実測した。) 10μg/ml例、20μg/ml例は連続添加、40μg/ml例は継続添加を行なった。対照として80%Eagle'sMEM+20%BS及び上記培地に0.4%(20μgAzo dyes/mlに含まれるfinalのalcohol量)及び0.8%(40μgAzodyes/mlに含まれるfinalのalcohol量)に夫々alcholを含む培地を使用した。今回は20μg/ml例に就いて、細胞(RLN-B2)の増殖とAzo dyesの関係を示す(累積増殖図を呈示)。Eagle'sMEM+BS、及び0.4%alcohol群の間には増殖率の変動は殆んど認められない。DAB実験群は第1回の継代までは増殖を示さなかったが、継代前後各2日間のDAB除去により以後、DAB添加によって細胞は増殖を維持した。3'-Me-DABの場合も殆んど同様の結果を示した。(第1回継代時、実験細胞が取れなかったので、次の継代まで3'-Me-DABを除去した。)
 以上の結果はRLN-B2細胞ではAzo dyesに対して何らかの処置(細胞分裂?)によって、Azo dyesに対して増殖耐性を得ることを示している。
 Azo dyesの添加の増加と共にRLN-B2がコロニアルレベルでどのように変化するか。
 (表を呈示)DAB 20μg/ml例の第1継代後の細胞、第2、第3、及び第4継代のものを検索した結果、P.E.がばらついているので再度実験を試みなければならないが、次第に大型のコロニーが現れ(0→7.4)、且つpiled upするコロニー(0→6.57)が現われた。
 3'-Me-DABの場合にも同様の結果が得られた。
 次にDAB系についてシャーレ当り10,000コ細胞を0μg、1μg、5μg及び10μg/mlのDABを含む培地中に3日間、次いで4日間夫々0μgとし、更に0μgで3日間、計10日目のP.E.を計算し、最初の3日間の0μgに対しての%で、コロニアルのDAB増殖耐性をみた。第1継代のものは測定されなかったが、DAB添加時間(日数)の増加に比例して、DABによる変性乃至増殖阻止が低くなる結果を得た。

 :質疑応答:
[堀川]大コロニー当たりの細胞数が多いというのは、本当に数が多いのでしょうか。細胞が大きくなったのでコロニーサイズが大きくなったという事はありませんか。
[佐藤]数が多いのです。細胞数を数えていますから、間違いありません。
[高木]動物実験でDABを喰わせて、発癌しない程度の肝臓を培養すると増殖しますか。
[佐藤]30日位喰わせてまだ発癌していない時の肝臓でも、トリプシン処理をして培養すれば増殖します。
[高木]続けて喰わせても発癌しない程度の低い濃度のものはどうですか。
[佐藤]それはやってみていません。
[勝田]私達が昔やった実験でなぎさ+DAB処理というやり方では、DABをどんどん消費しながら増殖する型と、DABがあっても全く消費しないで増殖する型の2種の変異株がとれました。耐性といっても、そういう両方の型があることも考えておくべきでしょうね。
[佐藤]DAB代謝には蛋白に結合して発癌に関係する代謝と、単にアゾ基を壊すというだけの代謝があると思います。
[吉田]今日報告された系はラッテにtakeされますか。
[佐藤]まだtakeされません。変異剤と発癌剤とを組み合わせて処理すると、効率よく悪性化させられるのではないかと考えたりしています。
[堀川]発癌のターゲットは他に求めて、DABはプッシュに使おうという考え方ですか。
[佐藤]DABの作用は悪性度の増強ということではないかと考えています。正2倍体を保っている系にDABを作用させても仲々悪性化しませんが、古株だと効率よく悪性化します。又、再培養系にDABをかけると腫瘍性が高められるというデータも持っています。
[吉田]2度目のDAB処理で悪性をセレクトしているという事は考えられませんか。
[堀川]DABに対する耐性は増殖度の高くなることと平行しているのですか。
[佐藤]そこまでは考えていません。2倍体で、肝細胞の機能を持っているというクローンを欲しいと思うのですが仲々得られません。今ある株について酵素活性を調べて貰ったのですが、成体のものと較べると胎児性になっているという事でした。それは前癌ということでしょうかね。

《難波報告》
 N-34:培養内で癌化したラット肝細胞の悪性化の指標を探す試み−Wheat germ lipase(WGL)は癌細胞を特異的に凝集させるか−
 すでに、培養内で4NQOによって悪性化したラット肝細胞の増殖に対するWGLの影響を報告した。同時に"WGLが悪性細胞を特異的に凝集させる"ことを報告した文献を紹介した。
 そこで今回は培養内で4NQOによって癌化したラット肝細胞のWGLによる凝集能について報告する。
 実験方法:
細胞:PC-2・クローン化した4NQO未処理ラット肝細胞。
   PCT-2・PC-2を10-6乗Mで1回の処理時間1hr.間欠的に計10回処理後、動物に復元して生じた腹水腫瘍を再培養したもの。
   PC-10・クローン化した4NQO未処理ラット肝細胞。
PCT-10・PC-10を3.3x10-6乗M 4NQO、1時間処理2回で癌化させた腫瘍細胞。
 単層培養された上記の細胞をトリプシン処理し、浮遊細胞にし、20%BS+Eagle'sMEMの培地で(100万個Cells/ml)旋回培養を5時間行い、トリプシン処理による細胞の膜面の障害の回復を図る。その後、細胞をEDTA-Solutionで3回洗い、WGLをEDTA-sol.に段階的に2倍稀釋した試験管内に50万個/tubeの細胞を入れ、室温に1hr放置後、試験管底に生じる細胞の凝集をみた。
 結果:(表を呈示)
 1.WGLの濃度が高ければ、4NQO未処理対照細胞にも凝集がみられる。
 2.WGLの濃度を選べば(125〜250μg/ml)、対照細胞と悪性化細胞との凝集能に差が認められることが判った。

 :質疑応答:
[勝田]piling upといっても盛り上がった部分の細胞が死んで居るように見えますが、どうですか。対照群でも培養期間の長いものは似たような像がみられると思いますが。
[難波]saturation densityも倍位違いますし、実験群の方はみるみるうちに重なってきますから、矢張りpiling upだと考えています。脳内接種というのは難しいですね。
[佐藤]第3脳室へ入れるのが普通だときいていますが・・・。
[安村]いや脳室へ入れるのは危ないですね。大脳のhemisphereに入れます。そしてコツは針を刺して物を入れたら暫く待ってから、針を引き抜きます。その暫くという時間は、私は"いきなくろべい、みこしのまーつに"そこまで唄ってさっと針を引き抜くようにしています。  ・・・全員爆笑・・・

《梅田報告》
 (I) 今迄強力なAcetyl-aminofluorene(AAF)の、よりproximateな形であるN-hydroxy-acetylaminofluoren(N-OH-AAF)投与により惹起される変化について報告してきた。動物にAAFが投与されると、Nの位置(2の位置)のhydroxylationをうけproximateになる他、1、3、5、7、8の位置にもhydroxylationをうけ、そのまま或はglucuronateの形で尿中に排泄されるという。
 このAAFとN-OH-AAFとをHeLa細胞、hamster embryonic cellsに投与して形態的変化を観察してみた。AAFでは10-3.5乗M投与で細胞は萎縮ぎみ、細胞質も少なく、HeLa細胞の場合もspindle-shapedを示し、核も小さく濃縮ぎみになる。N-OH-AAF 10-4.5乗M投与で、細胞は大型化し、核質は淡く一様に微細になる。
 更にN-OH-AAFよりproximateと考えられているDiacetyl化合物が得られたので、投与してみると、HeLa細胞、hamster embryonic cell共にN-OH-AAFと似た形態を示す。この形態の差がどれ程の意味があるのか、これから検索してみたい。
 (II) Hamster embryonic cellにN-OH-AAFを投与して長期継代している例で、月報7102、7108の報告についで所謂morphological transformationを起し、急速な増殖を示す様になった。(累積増殖カーブを呈示)第1例はN-OH-AAF 10-3.5乗M 1時間投与を2代にわたって2回おこなったもので、100日を過ぎてからpiling up、criss-cross等の形態的変化と良好なgrowthを示す様になった。第2例、第3例のN-OH-AAF 10-4.5乗M2日間投与を3代にわたって3回投与したもの及び初代だけ1回投与したものは両例ともに、早くからpiling up、criss-crossの形態的変化が現れたが、現在90日を過ぎて尚第1例の増殖率には達していない。
 controlの細胞は実験群程criss-cross、piling upの形態変化は著明でないが、増殖は150日を過ぎてから非常に良好になってきた。
 (III) IIで述べた例、更に前回の班会議で報告した3例(7102)、又月報7104で報告した2例で観察されることであるが、morphological transformationにも2つの時期がある様である。まだはっきりと同定していないけれども、先ず、criss-cross、piling up等の所謂morphlogical transformationが起って時々同じくして良好なgrowthを示す様になる。さらに継代を続けていると、一段とさらに増殖率が良くなる時期が来る。そして形態的には、丁度この頃より細胞は小さめになり、核はそのまま即ち、nucleus/cytoplasm比が大となり、核では核質の濃縮が起り、所謂heterochromatinを形成する様になる。この核質の濃縮は剥離細胞学でいう癌細胞の特性の一つに数えられており、又黒木氏のいうM3期に入った時期と一致すると思われる(まだ確かめていないが)。
 この核質の濃縮等の変化は昨年のJNCIにSanford等が報告しているSpontaneous transformationを起したマウス、ラットの細胞にも認められている。そして湿固定を行っている場合にのみ、はっきりと現れてきており、methanol固定、Giemsa染色を施した標本では観察されない。
 (IV) 核質の濃縮が悪性化とどの様に関連しているのか、濃縮を起した方がreplicateしやすいのか、分化と関連してこの様な形態をとるのか、説明出来れば興味があるので、その面での検索を続けたいと思っている。その第1として各細胞あたりのDNA、RNA、蛋白を測定してみた。結果は(表を呈示)あわてて測定したのでrepeatしてみてから考察を加えたい。又今迄得られている細胞のcell cycle analysisも行ってみるべく、実験中である。

 :質疑応答:
[堀川]対照群のDNA量が多くてRNA・蛋白質は少ないのですね。対照群には4倍体の細胞が多いのですか。
[山田]細胞当たりの数値と蛋白当たりに計算した時の数値が違ってきますが、それはどう読みますか。
[堀川]何をみるかという事にもよりますが、普通はDNA量と蛋白量は平行していますがね。どうも定量誤差が大きい数値のようですね。薬剤処理をして巨細胞が沢山出たり、2核細胞が増えたりすると定量値も大きくなることは考えられますが。
[梅田]定量は又やり直してみます。heterochromatinのcondensationは悪性化にどんな関係と意味があるでしょうか。
[山田]剥離細胞診断でのcondensationは細胞のpopulation内での差が大きいですね。全体に起こるというのでなく、アトランダムに見られることに意味があります。又chromatinの電気泳動をやってみますと、乾燥するとCa++の吸着が増しますし、2〜3日放置したり固定したりで、又泳動度が変わります。染色の条件ということもありますし、chromatinの事だけから、あまり大きな事は云わない方がよいでしょう。

《堀川報告》
今回は動物細胞DNA鎖中に連結タンパクの存在を示唆する最近の代表的な論文について紹介する。
 ☆By Alexander L.Dounce:Nuclear gels and chromosomal structure:American Scientist,59,74-83(1971)☆
 種々の細胞から得たNuclear gelについて各種薬剤、酵素等で処理した際のviscoelasticな特性の変化を特殊な装置を用いて解析するという、これまでの彼の精力的な仕事をまとめたものである。それによるとDNA二重螺旋中には或る一定の大きさのDNAを連結する連結タンパク、つまり彼の言葉をかりると"residual protein"の存在を強力に指示している。同時にこれらのresidual proteinのアミノ酸組成についても分析を試みている。彼によって示されたresidual proteinの特性は以下のように要約出来る。
 (1)他のタンパクに比べてresidual proteinは非常に高分子のものである。
 (2)DNAとresidual proteinはcovalentにbindingしているのではないか。
 (3)residdual proteinは-s-s-bondで結ばれているのではないか。
 (4)種々の細胞核から得られたresidual proteinのアミノ酸組成は、非常に良く似ている。
 (5)residual proteinは不溶性であるが、pH 11以上のアルカリ性、あるいは-s-s-bondを切るためにperformic acid等で処理後、低pHにすると溶性となる。
 またDounceによって示されたchoromosomal fibersの構造の模式図を図に示す。
 ☆By J,T.Lett,E.S.Klusis,and C.Sun.:ON the size of the DNA in the mammalian chromosome.Structural subunits.:Biophysical J.,10,277-292(1970)☆
 LettらはDNA連結タンパクについて直接解析を加えようとしたものではないが、放射線照射後の細胞の一本鎖DNAの再結合機構を検討する過程において細胞をアルカリ性蔗糖勾配のtop layer(NaOHとEDTA溶液部分)にのせてlysisさせる時、細胞をのせてから超遠心を開始するまでに1〜18時間の間隔をおいた時、超遠心後に得られる沈降像が異なることを認めた。つまり細胞をNaOH+EDTA溶液にのせてから、超遠心開始までの時間が長ければ長い程single strand DNAのSvalueは減少することを見出し、このことから培養動物細胞内のDNAは或る一定の大きさのDNA(DNA subunit)がアルカリに不安定な蛋白かペプチドによって連結されているのではないかと推論している。
 また、こうした現象はChinese hamster Ovary細胞、マウスL細胞、5178Y細胞、あるいはHeLa細胞の3種の細胞についても殆んど同じように認められると言う。
 また、こうしたDNA subunit連結物質の存在は染色体のtranslocationとかinversionといった生物学的現象の説明にも不可欠であるということが両研究者によって示唆されている。その他のものについては都合により省略する。

 :質疑応答:
[堀川]リンカーという考え方は昔からありますが、それがどんな形であって何の為にあるのかは、判っていないのですね。
[難波]residual proteinの長さはどの位ですか。
[堀川]判っていません。数が何本あるかも判りません。
[安藤]臓器によって量が違うようですが、大体30%程度あるようです。sucroseでみているDNA peakの蛋白量よりはるかに多い量です。
[吉田]染色体というものはDNAで連続していると、今まで言われてきましたが、こういう構造から考えるとDNA strandとしては切れ目がある訳ですね。
[堀川]そう考えられます。
[山田]臓器によって違うということから思い当たるのですが、形態的にもchromatin patternが違います。アゾカルミン染色でみると、かたまり方が点状、不規則、雲状とあります。これはresidual proteinと関係があるかも知れませんね。
[吉田]interphaseのchromatinがどんな形なのか問題です。
[堀川]発癌剤の作用によって染色体にtranslocatinやinversionが起こる場合、それが起こりやすい特別なsiteがありますか。
[吉田]あります。
[堀川]X線照射によるDNA切断はrandomなのですが、4NQOの場合はどうも特異な場所を切っているようです。そういう事が発癌と関係するかも知れませんね。よい材料を選んでDNA切断の意味をはっきりさせておかなければならないと思います。
[安藤]pronase処理では50℃が一番よく切れるという結果がでていますが、pronaseなしで50℃にするとDNAは切断がおこりますか。
[堀川]それはまだみていません。
[安藤]切断の数はX線で600、4NQOで35となっていますが、今までのデータでもそんなに大きく違っていましたか。
[堀川]そんな大きな差はありません。50℃で処理すると大きく差が出ます。

《安藤報告》
 DNAの連結蛋白の再結合のKinetics:
 私共は月報No.7104において、L・P3において4NQOを10-5乗Mで作用させた場合、FM3Aにおいては1x10-6乗Mを作用させた場合には、DNA部分ではなしに連結蛋白部分の切断によって、中性蔗糖密度勾配遠心上での沈降常数の低下を起すことを報告した。今回はこの連結蛋白の切断が再結合される際のtime courseと温度依存性を調べた。
 先ずtime courseを調べた場合、(図を呈示)FM3Aにおいては比較的速やかに起こり、6時間ですでに大部分12時間でほぼ完全に再結合が起っていた。次に4NQO処理後細胞を10、28、37℃に4.5時間放置した後、分析すると、10℃においては再結合は全く起ってはいなかった。28℃では中程度の回復、37℃では最も良く再結合が起っていた。この事実は連結蛋白の再結合は酵素的反応である事を示唆している。

 :質疑応答:
[堀川]今まで私のデータと安藤班員のデータは、DNA二重鎖の切断→修復のところで、食い違っていましたが、今日の話ではっきりしましたね。私の場合4NQOの処理濃度は5x10-5乗Mという高濃度だったから二重鎖の修復がみられなかったということですね。
[佐藤]ところで、この実験では実際の発癌とどう繋げられますか。つまり悪性化と関係のある濃度はどこか、その場合DNAが修復されるのかどうか、という事です。もっと発癌実験と関係のある材料でやってほしいですね。
[堀川]DNAの修復のミスが発癌と関係があるのかどうかという事は、大事な難しい問題です。私自身もミスリペアを言い出した一人ですが、今は大分疑問を感じています。発癌にはactiveな増殖が必要なようですね。発癌剤処理の後、半分は増殖を抑えるpoorな培地、片方はどんどん増殖させるrichな培地で培養を継続して、どちらが発癌率が高いか調べてみると、少しははっきりするかも知れません。
[安藤]私たちはmisrepairよりも連結蛋白の組み違いからgene expressionが変わって悪性化するのではないかと考えています。
[吉田]回復したあとのDNAの活性は処理前と同じになっていますか。
[堀川]生物学的な証明はありません。
[安藤]増殖を続けられるという事は、活性の一つの証明だと思います。
[佐藤]同じ細胞系を何回も4NQOで処理していると、切れる位置が変わってくるのではないでしょうか。DNAの切断ということが本当に発癌と関係があるのかどうか知りたいのです。癌性が高まるにつれてDNAの切れ方が違ってくるはずの様な気がするのですが。
[安藤]かりに切れる位置が変わってきても、今の方法で判るかどうか疑問です。又今日報告した実験に使ったFM3Aは癌細胞ですから、4NQOによるDNA切断の傾向としては正常、腫瘍により違いがなさそうです。
[堀川]細菌の場合はrepairの能力の大きいもの程、mutation rateは大きいですね。しかし修復酵素が欠けているために発癌するというxeroderma-pigmentosumの例からはmis-repairが発癌に結びつくという事は否定されます。といっても癌は複雑ですから、やはりmis-repairも発癌に関与しているのかも知れません。
[安藤]mutagenは必ずしも発癌性と平行しませんね。
[吉田]変異にもいろいろありますね。遺伝子のレベルの変異、染色体のレベルでのもの、癌とはどのレベルでの変異でしょうか。
[勝田]ヒストンに対しては4NQOはどう働いていますか。DNAだけ切ってヒストンが切れなければDNAもばらばらにはならない筈だと思いますか。
[安藤]蛋白については構造の分かっているペプチド等使ってモデル実験をしてみればどこが切れるのか見当はつくと思います。
[吉田]4NQO処理した細胞を染色体レベルでみると染色体がジュズ玉の様な構造になっている事が度々あります。ヒストンの方がDNAより4NQOに対してsensitiveらしいという気がします。少なくともhistchemicalにはそういう傾向があります。
[安藤]bindする量からみても、4NQOはDNAより蛋白の方にずっと多くbindしますね。
[下条]DNAが切断されるような状態の時、細胞膜に変化がきていますか。又DNAに結合している蛋白についてはどうでしょうか(Dr.H.Green論文の紹介)。
[安藤]細胞膜については判っていません。
[下条]ウィルス発癌の場合、細胞の悪性化が確認されない感染後のごく初期(20hr位の頃)に短い期間ですが膜に変化が認められます。化学発癌の場合はどうでしょうか。
[勝田]細胞電気泳動の場合も、そんな短い期間のは調べてありませんね。
[吉田]ウィルスの場合はDNAに組み込まれるとすぐ発現するけれど、化学発癌剤の場合はすぐに変異が発現しないのではないでしょうか。
[下条]ウィルス発癌の方ではウィルスDNAの増える前に宿主のDNAが増え、又膜が変化します。そういう初期変化をウィルス感染の結果というより、後に出てくる発癌現象のモデルとして捉えようとしています。
[堀川]化学発癌剤によるdirectな発癌など本当はなくて、そこへウィルスが一役買っているのかも知れませんね。
[下条]しかしウィルスの場合もウィルスが癌をつくるということではなくて、何かgene expressionを変えるので細胞自体が変わるのだろうと考えています。4NQOなど化学発癌剤による初期変化に興味がありますね。
[難波]化学発癌剤でもtransformした細胞はagglutinabilityが高まっています。

《山田報告》
 これまでの仕事のうち、細胞電気泳動法による細胞表面の抗原抗体反応を定量的に検索する方法も開発して来ましたが、これを更に発展させて、所謂細胞結合性抗体を感作リンパ球より、また抗原癌細胞の表面より抗原をそれぞれ分離させ、これを細胞電気泳動法により検出する方法を種々工夫して来ました。漸く実用化する可能性が出て来たので、少しまとめてみたいと思います。この抗体の分離は、試験管内発癌過程における癌細胞の抗原性の定性的及び定量的な変化を測定するために役に立つと思いますので。
 モデル実験としてラット腹水肝癌AH62F 1,000万個をドンリューラットの腹腔内へ移植した後4〜5日目に宿主ラットの脾臓を摘出し、これを細切、濾過してリンパ球様細胞を採取。これにデオキシコレート(DOCA)0.2〜0.05%を加えて(手順表を呈示)処理。(リンパ球様細胞10の8乗当り3mlのDOCAを混合)その上清のみを集めて、一晩セロファン膜により透析。これにより用いたDOCAを可及的に除き、上清へ遊離物質のみの浮遊液を集めます。
 この様に処理した上澄2mlに、標的細胞AH62F 200万個/0.5ml生食、Tris-Hcl緩衝液(pH7.0)0.5ml、そして補体として0.5mlの正常ラット血清を加へて全量2mlとし、37℃10分間静置保存後、生食にて2回洗い、10mMの塩化カルシウムを含むM/10ヴェロナール緩衝液(pH7.0)をメヂウムとして、その標的細胞AH62Fの電気泳動度を測定。対照としては、aliquotの試料のうち補体のみを56℃30分熱処理により非働化したものを用いた。
 抗体の分離;
 まず上澄の透析しない前の液について検索すると、DOCAの影響が加わり、感作リンパ球様細胞上澄と、正常リンパ球様細胞上澄の標的癌細胞に対する反応はあまり差がありません。しかし、透析してDOCAを可及的に除いた上澄について検索すると明らかに感作リンパ球からの上澄は補体の存在の下に、標的癌細胞AH62Fに反応してその電気泳動度を低下させますが、正常リンバ球様細胞からの上澄は補体が存在しても反応しません。
 この上澄の反応物質は従来の研究結果ではγグロブリンであろうと推定されます。そこで感作リンパ球様細胞の上澄に抗γグロブリン家兎血清(AH62Fにより自然抗体を吸収したもの)を加へ沈殿物を除いた後に、標的癌細胞と反応させると、その泳動度の低下は減少し半分以下となります。2回くりかへした実験成績は同じ結果を示しています。
 次に同じ条件で感作したドンリューラットの18日目の抗血清及びこの上澄のもとである感作リンパ球様細胞の作用と、この上澄の作用を比較してみました。リンパ球様細胞のDOCA処理による上澄をあらかじめ反応させた後に、二次的に抗血清及び感作リンパ球様細胞を加へてその標的癌細胞の泳動度の変化をみると、あらかじめ感作リンパ球上澄を反応させた標的癌細胞は二次的に抗血清は反応しなくなるが、正常リンパ球上澄を反応させた場合は二次的に抗血清と反応します。感作リンパ球様細胞を用いても同様な反応が二次的に起こります。即ちこのDOCA処理により得られた上澄の作用と、抗血清及び感作リンパ球の作用は同様の反応であり、同一場所の癌細胞表面に変化を起こすものと思われます。この上澄には抗体が遊離していると考へられるわけです。
 抗原の分離;
 同様の方法により標的癌細胞AH62FをDOCA処理した上澄を、同一条件で感作リンパ球様細胞に反応させてみました。感作リンパ球様細胞へこの上澄は反応して、その電気泳動度を増加させますが、正常リンパ球様細胞へは反応しません。リンパ球及び、その悪性細胞の表面で抗原抗体反応が起こると、その電気泳動度はむしろ増加するという従来の知見と、この上澄の反応結果は全く一致します。この抗原の分離についてはなほ現在検討中です。抗原を分離出来る可能性は大きいと思って居ます。(それぞれ実験毎に表を呈示)

 :質疑応答:
[難波]生体内のリンパ球は何かで感作されているはずだと思うのですが、蛍光抗体法で細胞表面の抗体を光らせたというデータはあまりみませんね。
[藤井]蛍光抗体で光りますよ。ただとても弱いのです。それから19S抗体をリンパ球から抽出して普通の免疫電気泳動にかけると、殆どバンドが出ません。けれども抗19S抗体にラベルしてリンパ腺への取り込みをみますと確かに取り込みがあります。
[山田]流血抗体として出る前に、細胞性抗体として早い時期にキャッチ出来るかどうかということが、実際的な目的なのです。復元の問題なども早期に解決できるのではないかと思います。

《藤井報告》
 Mixed lymphocyte-tumor reaction(MLTR)によるがん抗原の研究:
 月報No.7102で、Culb-TC細胞とsyngeneic rat(JAR-1)の末梢リンパ球間のMLTRがみられることを予報として話しましたが、その後Culb-TC、RLC-10細胞とJAR-1リンパ球間のMLTRを何回か試み、反応のpeak時期、用いる抗原細胞量などの検討をおこないました。
 reactant lymphocytesはJAR-1の末梢白血球中のものでsodium citrate、heparin処理血液より白血球を分離洗滌後、100万個cells/mlに調整。Antigenic cellsは培養Culb-TC、RLC-10細胞を培養ビンのまま4,000r.照射(CO60)し、洗滌してからrubber policemanで遊離させ、所定の細胞濃度に稀釋します。反応に用いるculture mediumは、RPMI 1640で、新鮮ラット血清(JAR-2)を10%に、Pen.(100u/ml)、SM(100μg/ml)を加えています。
 reactant cells、100万個cells/mlの0.5mlと、種々濃度の抗原細胞浮遊液0.5mlを平底中試に混合し、37℃、炭酸ガスフランキ中にて静置します。1、3、5、7日後H3-thymidine 1μCi/0.02mlを加え16時間後harvestします。
 結果:(図を呈示)抗原細胞(癌細胞)が多くなりすぎると、harvestで自己吸収(放射能の)が高くなり、リンパ球によるH3-TdRとり込み値がかえって低く出ます。白血球数50万個に対して、抗原細胞は10万個以下1万個あたりが適当です。Culb-TC、12,500コ、6,300コとRLC-10、12,500コ、6,300コのMLTRを比較してみますと、Culb-TCはRLC-10細胞に比し、著明に高いcpm値をもたらしています。Culb-TC、RLC-10ともに、4,000r照射により、H3-TdRの有意なとり込みはなくかっています。反応のpeakは4〜6日で大体6日とみてよいようです。
 この実験は、reactant cellsの同一なときに、そのcpm値の比較が可能なわけで、次の計画として、Culb-TC、RLT-2、RLC-10、Cula、Culeの同時比較、その他のin vitro transformed cellsについても検討して行くつもりです。臨床癌についてのMLTRの検討は、昨年来2〜3文献にも出ており、われわれもその着手を急いでいます。

 :質疑応答:
[梅田]リンパ球を採る動物の方は何か処置をしてありますか。
[藤井]ありません。
[山田]この場合の反応は異物認識ですね。
[難波]これだと対照は生体にtakeされて癌は排除されるような感じですね。
[山田]このデータで抗原性が変わったとは言えるわけですか。
[藤井]言えると思います。
[山田]なぎさ変異の細胞ではどうですか。
[藤井]まだみてありません。
[佐藤]細胞数はどの位要りますか。
[藤井]リンパ球は50万、tumorは10万位入れます。
[山田]私の実験ではリンパ球を20倍位入れます。
[佐藤]リンパ節由来のリンパ球の中に、どの位免疫反応を起こすものがありますか。
[藤井]蛍光抗体法でみて10%位です。
[山田]それは免疫反応を起こす細胞すべてではなく、蛍光抗体法で陽性の%ですね。
[勝田]山田班員の場合も含めて、免疫屋がリンパ球といっているものの全部がリンパ球というわけではありませんね。それからin vitroでリンパ球を感作しておいて生体に戻すと、生体内で抗体を作るでしょうか。
[藤井]私の実験系の場合、抗原になる細胞とリンパ球を混ぜて培養してしまうので、感作後リンパ球だけ集めるのが困難ですね。
[勝田]その位のことは、ミリポアフィルターでも間に入れれば解決するでしょう。

【勝田班月報・7106】
《勝田報告》
 A)合成培地内継代JTC-21・P3(RLH-1・P3)株の癌化実験:
 細胞電気泳動像よりみて、JTC-25・P3(RLH-5・P3)は悪性型に近いが、JTC-21・P3はいわゆる"なぎさ"型で、正常と腫瘍の中間であると山田班員がかって指摘された。これまで報告してきたように、JTC-25・P3株は、かなりの回数4NQOで処理してもtakeされなかったので、今回はJTC-21株を用い、4NQO処理をおこなってみた。
 JTC-25・P3株と異なり、JTC-21・P3株は4NQOによる処理で細胞障害が激しいので、正常肝株なみの濃度の4NQOを用いた。
 1970-12-10:JTC-21・P3株を3.3x10-6乗Mの4NQOで30分間、1回のみ処理。
    12-22(12日後):細胞が高度にpile upするようになったことを発見。
 1971-5-14(155日後):復元接種。JAR-1、F40、生后5日のラットの腹腔内へ、300万個/ratで接種。現在観察中。
 B)早期復元接種の実験:
 発癌剤処理後、長期間培養してから復元接種するのでは、かえって生体にtakeされ難い細胞をselectしてしまうのではないか、むしろ早期に復元して動物体内でselectさせるとどうだろうか、という実験である。なお副産物として純系ラッテの肉腫を作り、これを腹水型化したいという狙いもある。
 1971-4-18:JAR-1系、F40、生后7日♀ラッテより、次のような各種臓器をとりだし、メスで細切(トリプシン処理せず)、TD-40瓶にて培養。培地は(20%CS+0.4%Lh+D)。肝、肺、胸腺、胃、皮下間葉。
  4-30(12日后):3.3x10-6乗M、4NQO、30分間1回処理。細胞は何れの培養に於いても、センイ芽細胞その他の混在状態。
5-23(35日后):4NQO処理より23日後にあたるが、JAR-1系、F40、生后12日のラッテの耳皮下及び背部皮下に復元接種した。細胞は、塊を作っているものが多かったので、接種細胞数は不明である。結果は現在観察中。

《高木報告》
 RRLC-11を腫瘍細胞として用いたisologousな移植系での実験:
 Isologousな移植系についてのみその後のdataを報告する。(表を呈示)表の如くRRLC-11細胞10,000、1,000及び500コでは有意と思われる差はみられないが、100、50コではRL細胞、100,000、1,000コ混合群ともにRRLC-11細胞だけの移植群にくらべてtumorigenicity低下の傾向がみられた。homologousな系で混合移植によりtumorigenicityの促進がみられ、iso-logousな系で低下がみられるちすれば、興味ある所見であるが、未だ断定できない。

《佐藤報告》
 ◇DAB発癌実験(RLN-B2)
 (各実験の図を呈示)先ず前回月報の最後に図示したもの(DAB系)と同様の方法で、3'-Me-DABについて、コロニアルに検索された増殖耐性の結果である。3'-Me-DAB(20μg/ml)1回処理のものが最も高く、他は処理回数の増加と共に増殖耐性あるいは変性阻止の増強が見られる。
 次図は短期間のDAB濃度影響を示したものであるが、16.4μg/ml程度で増強阻止があることを示している。
 次は、3'-Me-DAB、DAB、MAB及びABについて増殖率をみたものである。2系のDABの脱メチル化物質の増殖率低下は3'-Me-DABやDABより少ない。
 次は前号11号のDAB実験を再度行なったものでTD40を使用し、一定面積中(0.34平方mm)の細胞数を10カ所、写真でカウントしたものの平均値及び継続投与の細胞数を同様に測定したものである。図によると、短期実験と同様に連続投与の場合には39日にわたって細胞増減はみとめられない。

《難波報告》
 N-35:DABによるクローン化した培養肝細胞の培養内発癌
 従来、4NQOによる培養肝細胞の培養内癌化は屡々報告してきた。それらの報告の中でクローン化したPC-2系の培養肝細胞株は4NQOによって癌化し、その動物復元によって生じた腫瘍の組織像はminimal deviation hepatomaに類似していた(月報7010)。そこで、このクローン化した細胞は肝実質細胞と考えられるので、この細胞とDABの組み合せで、
 1)従来、動物レベルで行なわれていたDAB発癌の仕事が、培養内で、細胞レベルで、可能かどうか。
 2)もし、可能ならば、培養内で培養肝細胞のDABによる発癌実験のモデルを確立する条件を求められるかどうか。
 3)そのモデルを確立できれば非常に多くの動物レベルでのDABの仕事の結果を、培養内の細胞レベルの仕事と比較検討でき、DABの発癌機構を掘り下げることができるのではないか。などの目的で、DABによる培養肝細胞の癌化を試み、以下の成績を得たので、実験はまだ完全に終っていないが、まとめた(表を呈示)。
 実験方法:DABは5mg/mlにエタノールに溶き、20%牛血清+Eagle's MEM培地に終濃度5ng/mlにし、TD40に細胞がsemiconfluentに増えた時期にDAB投与を始めた。その後、3〜4日ごとに、このDABを含む培地で、培地を更新した。(3日後の培地内のDABはほぼ完全になくなっており、またこのDAB処理条件では、細胞の増殖阻止は殆んど認められない。月報7010)。表に記しているように、DABの処理が間歇的になっているのは、細胞の継代の前後の時期に、DABを含まぬ培地で培養を行なった為である。復元は、生後48hr以内のドンリュウ系ラットの腹腔内に行なった。使用した細胞数は500万個〜1,000万個。
 [結果]
 1.培養内でDAB処理によってPC-2系の肝細胞が癌化した。
 2.17日DAB連続処理後、悪性化した細胞の腫瘍の腫瘍性は非常に弱く、計53日DAB処理を受けた細胞の腫瘍性は増強している。これは、DAB処理の増加に原因するのか、培養日数が進んだことに原因するのか目下不明である。
 3.現在、同じ細胞系でDAB 20μg/ml処理群の実験系もあるが、今回の報告例の5μg/ml処理群のものに比べ、発癌率は低い。(このデータは、以後の月報に報告する予定)。従って、培養肝細胞のDABに依る発癌実験にはDABの至適濃度が存在するようである。

《安藤報告》
 連結蛋白質の再結合に対するDNA合成阻害剤の効果。(予報)
 月報No.7102において、蛋白合成阻害剤cycloheximideは、DNAを連結する蛋白質の再結合に影響を与えない事を述べた。今回は、DNA合成の阻害剤cytosine arabinoside(araC)を投与した時に、4NQOで切断された連結蛋白の再結合が起るか否かを調べる事を目的としたが、結論的なデータがまだ出ていないので、予報として、DNAに対するaraCの作用のみについて記す。
araCはかなり古くからDNA合成を特異的に抑制する事が知られていた。又最近はchromo-some breakageを起す事(Benedict et al)、DNA合成阻害様式は、DNAのdiscontinuous合成(岡崎モデル)の際のOkazaki pieceの合成は阻害しないが、それ等の連結が阻害される事(Graham & Whitmore)等の新たな知見が加えられている。
 さて、先ずFM3Aに対するaraCのDNA合成阻害作用は図1に見られる通りである。(夫々図を呈示)。1x10-7乗Mで24%、1x10-6乗Mで77%、3x10-6乗Mで90%の阻害を示した。(24時間後の値)。第2図にcell growthに対するaraCの作用を示した。10-5乗Mでも完全な阻害ではない。これはaraCがG2 cellに対しては分裂阻害が弱い事と一致する。 
 次に、araCがchromosome breakを起す事からDNAの分解も起すかもしれないと思って検討してみた所、案の掟、DNAの鎖切断も起すことがわかった。
 しかしこの分解誘導はaraC処理6時間後には観察されなかったが、24時間処理後には明らかであった(図を呈示)。
 このような長いlagの後の鎖切断は薬剤自身によるというよりは、薬剤処理により徐々に活性化された酵素によると考えた方がいと思われる。
いずれにせよ、表記の目的のためには数時間以内の実験ならば可能なわけである。又1x10-6乗Mでなら、24時間使用もさしつかえない事になる。この結果は次回に御報告出来るものと思う。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(32)
 今回は少し話しの内容を変えて、以前の班会議の際に報告したHeLaS3原株細胞からUV(紫外線)抵抗性あるいは感受性株の分離実験の現況について述べたいと思います。
HeLaS3原株細胞を0.5μg/ml N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(MNNG)を含む培地内で24時間培養後、100ergs/平方mmのUVを照射する。UV照射直後細胞を10-5乗M BUdRを含む培地内で48時間培養し、続いて30Wの蛍光灯で2時間exposeすることにより、UV抵抗性細胞を死滅させる。蛍光灯でexpose後、細胞を正常培地中で培養を続けることにより、出現するコロニーをisolateして増し、これをS-1M細胞と名づけた。
 第1図に示すように(図を呈示)、このようにしてisolateされたS-1M細胞はコロニー形成能で見るかぎり、原株細胞に対してより感受性を増大していることが分かる。つづいてこのS-1M細胞を前回と同様にMNNG処理し、UV照射後、BUdR培地内で培養後、可視光線exposeによるphotodynamic actionを利用して更に感受性細胞を分離した。(各種薬剤の濃度およびUV等の処理時間は第1回目と同じ。) このようにして得られた細胞株が、第1図に示すS-2M細胞である。図から分かるようにS-2M細胞はS-1M細胞に比して更にUV感受性を増していることが分かる。
 さて、このようにしてHeLaS3原株細胞から分離されてくるUV感受性株のTT除去能はどのようであろうか。ちなみに、種々のUV線量で照射された直後のHeLaS3原株細胞DNA中に形成されるthymine dimerの割合を第2図に示した。S-1M細胞およびS-2M細胞におけるTTの生成量はどのようであるか。あるいはこれらS-1M細胞、S-2M細胞のTT除去能はHeLaS3原株細胞に比べてどのようであるかの検討が今後の問題として残されている。さらに最も興味あるのは、このようにして得られたUV感受性株がX線や4-NQO等の処理に対してどのような反応を示すか、つまりTT除去能が直接4-NQOまたは4-HAQO処理により誘発される障害の修復に関与するか否かの解析が現在進められている。

《藤井報告》
 Mixed lymphocyte-tumor reaction(MLTR)による腫瘍抗原の検出:
 前回にひきつづき、JAR-1ラットの末梢リンパ系細胞と同系の培養内変異肝細胞間のMLTRをおこなってきました。
 反応細胞:JAR-1 末梢リンパ系細胞、50万個cells/0.5ml。
培養液:RPMI 1640、10%新鮮ラット血清、Pen.SM.。
 培養は37℃、CO2incubator中でおこない、1、3、5、7日培養后、H3-TdR 1μCi/0.02mlを加え、16時間おいて、反応細胞にとり込まれたH3-TdRを計測します。
 抗原細胞としてCulb-TC、RLC-10A、RLC-10・4、RLT-1A、Cule-TC等を試みました。いづれも、CO60で2,000r照射します。
 図1は、RLC-10Aのばあいで、反応のpeakは6日にあり、抗原刺戟細胞5万個が最も高く、以下2.5万個、1.25万個と細胞数が減少するづつ、peakは低くなります。このようなdose responseの関係は、試験したいづれの細胞にもみられます。
 今までの実験からわかったことは、1)抗原刺戟細胞は10〜2.5万個の範囲で、抗原細胞は多いほど、H3-TdRの反応細胞へのとり込みが高い、2)抗原刺戟細胞が少なくなると、H3-TdRとり込みのpeakがおくれ、まつ低くなる。3)反応細胞の供給元となるラットの年令などで、同じ抗原刺戟細胞に対して得られるH3-TdRのとり込み値が影響される。このため、刺戟細胞の抗原性の強さを比較するには、同一の反応細胞を同時に用いねばならない。
 最近のじっけんで、RLT-1A、RLC-10A、RLC-10・4、Cule-TCは、10万個、5万個、2.5万個cellsを用いたいづれのばあいでも、上記の順序で抗原刺激性の強いことが示された。いづれの実験でも、反応細胞、刺戟細胞単独では、H3-TdRのとり込みは極めて低い。cpmは大体100以下である。
 blast化細胞によるH3-TdRとり込みのautoradiogramniyoru観察は、現在施行中であるが、まだ成績を得ていない。(目下exposure中)。

《梅田報告》
 前回の班会議(月報7105)で報告したハムスター由来の細胞でmalignant transformationしたと思われる細胞系について再びDNA、RNA、Proteinを定量測定してみた。DNAはインドール法、RNAはオルシノール法、Proteinはフェノール法によった。(表を呈示)
今回も前回と同じ様に全体に低い値が出た。即ちHeLaS3についても定量してみたが、以前の私のデータでもDNA 20〜25ppg/cell、RNA 30〜40ppg/cell、protein〜250〜ppg/cellであった。又ばらつきもあるので早速repeatしてみる予定であるが、はっきり云えることは、u#691のK(コントロール)の細胞は、全体に細胞が大きくなっている様である。u#694のコントロールは、発癌剤処理群とあまり変らないが、このものは増殖がやや早くなっているのでspont.transf.していないことを確かめる必要がある。DNA量を"1"とした時のRNA、proteinの比(表中括弧内)からは特に何も云えそうにない。

【勝田班月報:7107:AH-7974のヘキソキナーゼ分子種の変動】
《勝田報告》
 Concanavalin A処理による細胞の凝集について
 腫瘍化した細胞はConcanavalin Aで処理すると、凝集をおこすということが、とくにウィルス腫瘍を扱っている人たちから、強調されている。そこで手持の色々な細胞について、Con.A処理をおこなってみた。
 細胞は、ピペットで硝子面から剥離するか、或は0.02%EDTA(PBS溶液)で室温約10分処理した。しかし、細胞がばらばらにならず、判定不能の場合もあった。Con.AはPBSに1mg/mlにとき、これを倍数稀釋して各濃度の0.05mlと等量の細胞浮遊液を混じ、振盪約30秒後室温に放置し、5分後判定した。(これは1時間後、翌日までも放置したが結果は同じであった。
 (表を呈示)結局、検索した19系のうちで、はっきり凝集を示したのは、合成培地で継代しているHeLaの亜株と、ラッテ皮下センイ芽細胞由来で4NQOで1回処理を受け、以後完全合成培地で継代している株である。HQ-1B"(ラッテ肝、JTC-25・P3に4NQOを頻回に与え、山田班員の判定では悪性型)は疑陽性であった。

 :質疑応答:
[難波]私の実験ではDAB処理で悪性化した肝細胞が、1,000μg/mlのCon.Aで凝集しました。対照群は同じ濃度で凝集しません。
[永井]PHAの反応の場合、Con Aのデータでマイナスでも、他のPHAでは凝集する細胞があるかも知れません。PHAの色々なグループからそれぞれ代表的なものを選んで凝集をみて欲しいと思いますね。

《野瀬報告》
 培養動物細胞のアルカリフォスファターゼ
 培養内発癌過程の生化学的研究の一つに、細胞の持つ形質発現の様相の変化を追う試みがある。この場合、形質として何を選ぶか問題であるが、少量の細胞で測定でき、形質の出現に関し変動の大きいものが対象として好ましいと考えられる。ここでは、上の目的のため培養細胞の生化学的指標をいくつか検討した結果、アルカリフォスファターゼ(Alk.Pase)が興味ある性質を持っていることがわかった。
 まず第1に従来知られているAlk.Paseは、細胞株により活性の強さが非常に異なり、培養条件によっても変化する(I型)。
 第2にこの酵素以外に性質の違うAlk.Paseが存在し(II型)、Alk.Paseがないと報告されているL-929株にも活性が検出できた。酵素的性質としては至適pHが、I型は10附近にあるのに対しII型は8.6附近にある。またいくつかの阻害剤に対する感受性が対照的で(表を呈示)、この事を利用して細胞のcrude extract中のI型、II型をそれぞれ別に測定できる。
 この他にもI型はβ-mercaptoethanolによって失活するのに対しII型は逆に活性化され、温度感受性もI型は熱不安定性であるが、II型は安定である。(表を呈示)
 当研究室で継代しているいくつかの細胞株で、I、II型Alk.Pase活性を測定した。(表を呈示)
 I型Alk.Paseについて見るとラッテ肝由来のRLC-10が最も活性が高く次いで腹水肝癌の培養系であるJTC-16が高い。正常ラッテ肝のextractではRLC-10ほど高くはないが活性は存在する。またAH-7974とJTC-16とを比較すると、in vitroで継代しているJTC-16の方がI型Alk-Paseの比活性が高く、他の腹水肝癌のAH-130、LY176に比べても高いので、in vivoからin vitroへ適応することによってこの酵素活性は上昇するのかも知れない。
 一方II型Alk.Paseは文献的にはまだあまり知られていない酵素であるが、調べた限りのすべての細胞株に存在する。比活性は一般に合成培地で培養している株で高く、血清培地の株のほうが低い。同じラッテ肝由来でもRLC-10はI型があったのに対し、RLH-5・P3にはI型が全くなく、II型だけなのは興味ある点である。RLH-5・P3を血清培地で60日間培養しても、また、4NQO処理して得たHQ-1B"でもI型は出現しない。
 現在、これらAlk.Paseの活性の誘導の可能性について検討中である。

 :質疑応答:
[堀川]マウスとラッテの間に根本的に違いがあるという事は考えられませんか。
[野瀬]FM3Aの場合にはI型でした。必ずしもマウスにI型がないとは云えません。
[堀川]癌化のマーカーになりますか。
[高木]臨床的にはAlk.Paseが高いと肝癌を疑いますね。
[藤井]骨への転移の時も活性が上がりますが、肝とは別の型だそうですね。
[高木]別の型だと言われています。組織特異性はありますか。
[野瀬]今の所ないようです。型を培養中に変えられると面白いと思っています。
[安村]IとIIが異なる遺伝子由来かどうかを調べるだけでも重要なことですね。少ない細胞で測定できる所もいいですね。ハイブリッドなど作って調べると面白いでしょう。癌と関係なかったとしても、遺伝的に面白い問題です。
[吉田]単純に考えるとIとIIは別の遺伝子でしょう。どの染色体にその遺伝子がのっているのか。又染色体数が倍になった時、酵素活性も倍になるかどうかなど、大変面白い問題にもってゆけそうですね。

《佐藤茂秋報告》
 I.吉田腹水肝癌細胞AH-7974のヘキソキナーゼ分子種の変動
 哺乳動物組織のヘキソキナーゼはI、II、III、IV型の4つの分子種に分けられ正常肝はこのすべての分子種を持つ。AH-7974の細胞は、ラットの腹水型として継代されている時はI、II、III型ヘキソキナーゼを持ちこの内、II型の活性が強い。この細胞の組織培養株、JTC-16はI、II型を持ちIII型は見られない。この培養細胞をラット腹腔に戻し移植したらI、II型に加えIII型ヘキソキナーゼが出現した。ラットに戻し移植した細胞を再び組織培養に戻したところ培養1週間後ではI、II、III型ヘキソキナーゼが見られ、3週、5週にも尚I、II型に加えIII型が見られたが、III型の活性は弱くなっていた。以上の様なヘキソキナーゼ分子種のパターンの変動の機構を今後研究して行きたい。
 II.組織培養されたマウス脳腫瘍細胞のアルドラーゼ分子種について
 哺乳動物のアルドラーゼにはA型(筋型)、B型(肝型)、C型(脳型)の3種の分子種があり正常脳にはA型、C型及びA-Cハイブリッドが存在する。神経外胚葉起源の脳腫瘍である神経腫瘍は正常脳と同じアルドラーゼ分子種のパターンを示すが起源の異る脳腫瘍にはC型は存在しない。C57BLマウスの脳にメチルコランスレンで誘発され皮下に継代移植されている脳腫瘍でA型、C型アルドラーゼ及びA-Cハイブリッドを持つものがある。この可移植性脳腫瘍細胞を組織培養した。細胞はガラス壁に附着して増殖し、細い細胞質突起を持ってその先端が他の細胞と接着して網目構造をとり、歩行性も見られた。核は比較的小さく細胞質には多くの顆粒が認められた。培養12日後に細胞を集めアルドラーゼ分子種を電気泳動法により調べたところA型、A-Cハブリッド及び弱いながらもC型も認められ正常脳及び皮下腫瘍と似たパターンを示した。培養1ケ月後でも同様の傾向であった。経時的及び培養条件によるアルドラーゼ分子種のパターンを今後検討する予定である。

 :質疑応答:
[難波]JTC-16の場合、なくなったIII型を培養内で誘導できますか。
[佐藤茂]これからやってみようと思っています。
[吉田]正常肝と較べて量的には違いがありますか。
[勝田]絶対量として比較するのは難しいでしょうね。
[佐藤茂]それぞれの型に対する抗体を作って、アイソトープをつけてやれば定量も可能だと思います。
[吉田]培養するとIII型が消えるのは、関係している遺伝子のマスクされることによる結果でしょうか。或いはpopulation changeでしょうか。
[佐藤二」短期間で変わるのは一寸population changeとは考えられませんね。
[堀川]gene activityの変化なのかpopulationのchangeなのかと言うことになると、仲々区別が難しいですね。

《佐藤二郎報告》
 B2 lineのラット肝対照群とアゾ色素添加群の染色体を分析した(表と分布図を呈示)。Modeはすべて42で正diploidであり、アゾ色素添加のものが、むしろpeakが高くなっている。培養日数の短い場合には、染色体異同がないのか、或いは、B2 lineがアゾ色素に感受性が弱いか分らない。
《難波報告》
 N-36:4NQO誘導体によるクローン化した培養肝細胞の培養内発癌実験
 従来、4NQOの発癌実験に使用していたクローン化した肝細胞(PC-2系)が、クローン後1年経過したので、以前にクローン化した後に、凍結保存していた細胞を培養にもどし、再クローンを行ない、piling upを示さぬ均一な上皮性の形態を示す細胞よりなるコロニーから、単個培養で得られた細胞(PC-14系)を、この発癌実験に使用した。この細胞の培養歴を図で示す。
 使用した薬剤は4NQO、4HAQO.Hcl、2Me.4NQO、6-carboxy-4NQOである。それらの薬剤をエタノールに10-3乗Mに溶き、更にEagle's MEMで終濃度3.3x10-6乗Mに稀釋し細胞を処理した。1回の処理時間は30分である。最初の薬剤の処理は、TD40ビンの中にほぼ一杯に細胞が生えて来たところで行なった。その結果、処理後、数時間内の観察では各薬剤の示すCytotoxicityは、4HAQO.Hcl、2Me.4NQOは強く、約1/3の細胞がガラス面より脱落した(処理後は正常の−20%BS+Eagle's MEM−培地にした)。これに反し、6-carboxy-4NQO、4NQOではその細胞剥離はわずかに認められるにすぎなかった。しかし、処理後24hrではいづれの場合にも細胞の障害は殆んど認められず、また4HAQO、2Me.4NQO処理後に認められた浮遊細胞も殆んど認められず、ガラス面にほぼ一杯に細胞が付着していた。このことは、ほとんどの浮遊細胞が再びガラス面に付いたことを示す。第二回目の薬剤処理は、第一回目の3日後に前と同じ条件で行なった。その後に認められた細胞の変化も、ほぼ前と同じであった。
 動物復元は、薬剤の最終処理後、56日、70日、98日で行なっているが(ただし、6-carboxy-4NQO、4NQO系はコンタミのため、実施出来ず)現在まで"Take"されるに至っていない。この間、いづれの場合にも細胞の形態的変化はそれほど著しくなかった。
 N-37:DABで培養内で癌化した細胞の増殖に対するDABの影響
 前月報(7106)でDABによる培養肝細胞の癌化を報告した。そこで、この細胞を動物に復元して生じた腫瘍の再培養細胞(DT-1は固型腫瘍から、DT-2は腹水腫瘍から再培養した)を使用し、これらの細胞の増殖がDABに対してどのように影響されるかを、growth curve(DT-1)とplating efficiency(DT-2)とで検討した。
 1) growth curveは段階的に稀釋した細胞を短試にまき込み、2日後、対照群はDABを含まぬ培地、実験群はDAB添加培地にかえ、更に3日培養を続けた後、それらの細胞数を算えた。2) plating efficiencyは60mmのシャーレに、細胞をまき、2hr.で対照群はDABを含まぬ培地、実験群はDAB添加培地にかえ、3日間処理後、更に両群とも、DABを含まぬ培地にかえ、10日間培養を続けた後、生じるコロニーを数えた。
 (図と表を呈示)DABによって癌化した細胞増殖はDABにやや抵抗性があるように考えられるが、しかし対照細胞に比べ、それほど決定的な差ではない。

 :質疑応答:
[堀川]この実験結果からDABに対する耐性についての結論は出せませんね。対照群に比べてDABで悪性化した群のコロニー形成率が1ケタ低いのは困りますね。軟寒天法で調べることは出来ませんか。それから抵抗性は薬剤の処理期間が影響しますか。或いは濃度が問題なのでしょうか。
[難波]薬剤によって違うと思います。
[吉田]細胞によっても違うでしょう。
[勝田]一口に薬剤耐性といっても二つの面があります。一つは添加された薬剤に全く関与せずにいられる細胞と、もう一つはその薬剤をどんどん代謝してしまえる細胞です。
[堀川]腫瘍化すると耐性になるのか、耐性になったのが腫瘍化したのか、ですね。
[安村]今の段階では化学物質による発癌での、薬剤の毒性と細胞の変異の関係が判っていないのですから、耐性の問題はまだ難しいですね。

《高木報告》
 混合移植実験
  1) RG-18を腫瘍細胞として用いたhomologousな移植系での実験
 i)RG-18細胞のtumorigenicity
 RG-18細胞を10、50、100、500、1,000コ接種した結果(表を呈示)、この細胞のTPD50は100コと500コとの間にあると考えられる。
 ii)混合移植
 RG-18細胞10から1,000までとRFL細胞0、100から100万個までの混合移植実験で、RFLの0、1,000、100万個だけとりあげてまとめると(表を呈示)、RG-18細胞500、1,000ではRFL細胞を混じた事による影響はみられないが、10、50及び100ではRFL細胞を多く混じたときにtumorigenicity促進の傾向がみられた。
  2) RRLC-11を腫瘍細胞として用いたhomologousな移植系での実験
 i)RRLC-11細胞のtumorigenicity
 RRLC-11細胞10万個、100万個についても行い、いずれも3/3に27日で腫瘍の発現をみた。少数の実験では、RRLC-11細胞のTPD50は10と50との間にあると思われる。
ii)混合移植
 この実験系ではRFL細胞は0、1,000および100万個だけしか行わなかった。RRLC-11細胞100以上ではRFLを同時に移植したことによる影響は各細胞数について認めることは出来ない。RRLC-11細胞50ではRFL細胞100万個の時やや抑えているように思われるが、RRLC-11細胞10では逆のようにも思われ現時点では傾向を判断するのはむつかしい。RRLC-11細胞10から500までについては追加実験中である。(表を呈示)

 :質疑応答:
[勝田]正常細胞を混ぜて復元した方がtake率が高くなるという現象の説明に、宿主に対する免疫反応だけを強調しない方がよいと思います。正常細胞がfeederになっているのかも知れませんから。
[安村]腫瘍性と可移植性とでは言葉の重みが違いますが、どう使い分けますか。
[佐藤二」その細胞が動物にtakeされるかどうかというような時、腫瘍性を使い、出来た腫瘍が移植継代できるかどうかという時、可移植性を使うのではないかと思います。
[堀川]少数の腫瘍細胞を単独で接種する場合は誤差が大きくなるでしょうね。正常細胞を混ぜて接種すると、その少数の腫瘍細胞が接種される時の誤差が減るので見かけ上、take率が上がるとは考えられませんか。
[藤井]正常細胞と腫瘍細胞を別の部位に接種してみたらどうですか。
[高木]まだ、いろいろ問題があると思います。正常細胞が生きている状態でなければならないかどうかも、調べる予定です。

《安藤報告》
 連結蛋白質切断の再結合に対するDNA合成阻害剤の効果
 前月号月報において、FM3A細胞に対するaraCの作用を調べた。その結果araCは3x10-6乗MにおいてはDNA合成を95%以上阻害、細胞増殖もほぼ完全に阻害した。一方araCはこの合成阻害の外に、クロモソーム断裂も惹起する事が知られているのでFM3A細胞のDNAに対して切断を起す否かを調べた所、10-5乗Mでは24時間後にそれが現れる事がわかった。しかし6時間以内には作用しない事もわかった。そこで今回は、4NQOで切断された物の回復に対する作用を調べた。先ず細胞を30万個/mlにsuspendし、10-6乗Mの4NQOを30分作用させ、直ちに洗滌し、新鮮培地中で回復培養を行った。この時にaraCを加えておく。(図を呈示)回復培養6時間でDNAはほぼ元の大きさに迄再結合されていた。この時araCが10-5乗M存在していても再結合には何らの影響をも与えなかった。araCのみではno effect。
 以上のようにaraCは連結蛋白切断の再結合に対し影響を与えない。すなわちDNA合成は不要である事になる。

 :質疑応答:
[堀川]araCを添加しても4NQOによるDNA鎖切断の回復が抑えられないというのは、私達にもhydroxy-ureaを使っての実験で同じような結果を得ています。この場合pre-existing enzymeによって回復するのではないかと考えています。
[安藤]nucleotide結合の再結合ではなく、結合蛋白による回復だとも考えられます。
[堀川]cycloheximidも添加してみたのですね。
[安藤]linker proteinのconfigurationの変化によるものだと考えますと、蛋白合成の必要はないことになります。
[佐藤茂]酸不溶性の分劃については判りますが、可溶性分劃の方はどう変りますか。
[安藤]アイソトープのカウントは殆ど残っていません。
[堀川]C14ラベルのアミノ酸を添加してみたら、取り込まないでしょうか。
[安藤]アミノ酸の取り込みを100%止めておいても、DNA切断は回復するというデータからアミノ酸の取り込みは必要ないのだと思います。DNP、KCNを加えても同じように回復するのですから、高分子の合成があるわけでなく、簡単なconfiguration変化である可能性が強くなります。
[勝田]切れた末端のアミノ酸を調べてみる必要がありませんか。
[堀川]それはもっともです。が、何分量的に少なすぎますのでね。どうやらこの仕事はやっている人達だけが信用してうまく行ったと喜んでいるのだが、第三者は一向に信じてくれないという事になりそうですね。
[梅田]メルカプトエタノールをDNAの切れる最少限の濃度で添加しておくと、細胞は死ぬでしょうか。又S-S結合にしか反応しない酵素を使ってみるのはどうでしょうか。
[難波]4NQO処理の場合、遠心操作のために切れるという可能性はありませんか。
[安藤]そういう可能性は考え難いのですが、絶対にないという確証はありません。
[堀川]杉村さんのデータでは、裸のDNAも4NQOで切れます。
[難波]生物学的に考えますと、切れたDNAの回復が良すぎると思います。これだけDNAが切れても細胞が死なないことが疑問です。
[勝田]この仕事は発癌とどう結びつくのですか。
[安藤]DNAが切れる、そして修復されるという事が、いろいろな化学発癌剤で同じようにみられる現象なのかどうか、ということがあります。
[佐藤二]材料を選ぶ必要があると思います。これだけの4NQOをかけると必ず発癌するということが判っている細胞を使ってほしいですね。
[安藤]今の所、発癌剤の作用機作を徹底的に調べようと考えています。
[佐藤二]DNAの回復があるとか、ないとかいう現象と動物にtakeされるかされないかというレベルの事が結びつく実験だと理解しやすいと思うのですが・・・。
[勝田]どうも感覚的な違いがありますね。
[安藤]そうのようですね。
[佐藤二]癌化というのは、みな機構が違うのではないでしょうか。或る発癌剤はDNAに作用しても、他のものは又全然違う作用をしている。しかも結果としてはどれも癌になるということが考えられますね。
[堀川]DNAのrepairをやっている人達も、DNA以外のすべての物質にも発癌剤の影響はあるだろうと考えています。しかし、DNAは形質発現に直接関係のある物質だし、そのrepairもつかみやすいので注目している訳です。
[安藤]初期変化は、膜やRNAにあっても最終的にはDNAまでゆかなければ、変異しないのではないでしょうか。

《堀川報告》
 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(33)
 今回はpronase、X線、4-NQO(または4-HAQO)処理によってマウスL細胞の二本鎖切断はどのようにinduceされるかを検討した結果について報告する。勿論これまで報告してきたようにpronase処理の場合はsucrose gradientのtop layerに細胞を移してからの処理であり、X線、4-NQO(または4-HAQO)処理の場合は培養条件下の細胞への直接の処理であって、この間に条件の違いのあることは留意されたい。
 まずpronase処理であるが、前回班会議において、また月報で報告したような50℃、15分間処理で600からそれ以上のbreaks数がDNA二本鎖に誘起されるという結果は以後の実験では再現出来ず、(図を呈示)55℃で15分間処理した場合に約5個程度のbreaksが入るという結果が得られた。以前の実験と今回の実験で何故このような違いが生じてきたかについては、その原因は明瞭ではないが、使用するpronaseのLot No.の違いによりpronase中にDNaseのcontaminationがある可能性も否定出来ない。また、4-NQO(または4-HAQO)、X線処理により誘起されるdouble-strand breaks数について濃度あるいは線量に対してプロットしてみた(図を呈示)。4-NQO処理では最高25個程度のbreaks数が入り、(4-NQOの場合以前に月報で報告した結果と少し変っているが、これは計算の際にfraction numberの扱い方を変えたためである)。
 一方、4-HAQO処理の場合には最高15〜20個程度のbreaksが誘起されることが分った。また、X線照射の場合には、それまで使用した線量範囲内ではL細胞のDNA二本鎖切断は線量に依存して直線的に誘起される。これらの結果から同一線量照射によって一本鎖切断は二本鎖切断の約10倍も多く誘起されることが分る。
 さて、こうしたpronase、X線、4-NQO(または4-HAQO)で誘起されるそれぞれの二本鎖切断は何を意味するのか、また、これらのうちどの種類の切断が再結合可能であるのか、こういった問題に関して今後検討していく予定である。

 :質疑応答:
[安藤]acid solubleの変化とS-valueの変化は別の事だと思います。pronaseはpreincubateしておくとcontamiしているDNaseを失活させることが出来ます。それから温度処理はpronase layerを作ってからの処理ですか。
[堀川]そうです。
[安藤]incubationのstartが室温だと処理前に切れる可能性もありますね。それからX線をかけた時の二重鎖切断のS値はpronaseで切れるより大きかったですね。
[堀川]あの場合は少し条件が違うのです。条件を同じにしてみると別の結果になるのかも知れません。
[永井]pronase処理の場合、SDSの問題、温度の問題、酵素の効き方と色々なファクターがありますから、このカーブを酵素活性を示すものといってよいかどうか。
[佐藤茂]処理温度によってlinker proteinのconfigurationが変るかも知れませんね。
[安藤]最高に切れた時のS-valueはどの位ですか。
[堀川]3〜4x10の9乗daltonです。
[安村]紫外線感受性のクロンについてですが、1回目の処理より2回目の処理後の方が出て来たコロニー数が少ないのですね。NGによる変異が効いていて本当のmutantを拾ったなら、二度目にはぐっとコロニー数が増えるのが当然だと思いますがね。結果だけみているとメデタシメデタシなのですが。
[堀川]私も不思議に思っています。でもとにかく感受性はずっと高いのです。X線では感受性も耐性も作れません。生物の進化のレベルで紫外線は関係があるのでしょうね。

《永井報告》
 培養細胞におけるイノシトールに関する研究(1)
 イノシトールは生体内で大部分遊離のかたちでコリンと同じ程度存在し、一部はリン脂質のかたちで存在する。その機能としては現在のところ下記の3つが知られている、その真の生物学的意義はまだ不明である。
 1.ビタミンとしての働き:ラットではイノシトール欠乏症があり、毛がぬけ、spectacle eyeとなる。培養細胞レベルでも今回分析したJTC-21・P3のようなイノシトール要求株が存在する。JTC-21・P3では培地中からイノシトールをぬくと四日ぐらいで増殖がみられなくなり細胞は死ぬ。
 2.一般に細胞の膜系にイノシトールリン脂質としてその一部が存在するが、膵臓や海鳥の塩類腺において分泌速度とイノシトールリン脂質のリン酸基のturn overとの間に対応関係がみられるほか、脳においては特にturn overが速いので神経の刺激伝達機構との関連が考えられている。以上の例も含めて一般に細胞膜の機能と深い関係にあると考えられている。
 3.立体的に水と同じ構造をもつことから細胞の凍結保存に使用され、またDNAの構造を保護するとも言われている。ところでイノシトールリン脂質はともかく、細胞内に大量に存在する遊離のイノシトールの存在理由については分かっていないのが現状である。
 イノシトールの異性体は9種類あるがそのうち動物体に存在するイノシトール類としてはmyo-、scyllo-Inositolの異性体と代謝中間物としてのmyo-inosose-2の3種が知られている。(代謝経路の表を呈示)
 今回はJTC-21・P3(イノシトール要求性)、JTC-25・P3(イノシトール非要求性)におけるmyoおよびscyllo-Inositolの比をガスクロマトグラフィーを用いて調べた。(分析結果の図を呈示)結果をまとめると、イノシトール要求性株と非要求性株ではmyo-とscyllo-Inositolの量比において逆転がみられた。これまで知られてきた生体材料の組織および臓器を用いた分析結果では遊離イノシトールの大部分はmyo-Inositolとして存在し、scyllo型はmyo型の約1/10程度にしか存在しないので、この逆転は興味深い。なお培養細胞を用いてイノシトール分析をしたのは今迄調査した限りでは、我々の場合が最初のようである。
 今回は検体は2つのcell lineのみであり、Internal standardとして入れたdextro-Inositolに問題があり定量的な結果は得られなかった。出発細胞数が1,000万個のorderで充分なので今後分析を続けて行くとともに、このような角度から生体におけるイノシトールの存在意義を解明する手がかりがえられるならばとも思っている。

 :質疑応答:
[難波]myo-I.を添加してから何日位でscyllo-I.が出来るのですか。
[高岡]イノシトール要求性の方はmyo-を添加しつづけていますので、今回のデータでは判りません。アイソトープを使って調べられるとは思います。
[佐藤茂]scyllo-I.の絶対量はどの位ですか。
[永井]非要求性のmyo-I.の量とほぼ同じ位です。
[堀川]色々なstepの物質を加えてみると、パスウイェイがはっきりするでしょう。イノシトールが欠除すると膜が変わってDNA合成に変化が起こるという話もありますね。
[永井]そういう実験があります。しかし膜に関係があるとしても、細胞内には膜に必要な量の数倍にもあたる大量のフリーイノシトールが存在するのです。それらが何のために貯えられているのか、全くわかっていないのが現状です。
[安村]グルコースをガラクトースに置き換えても増殖できるVeroの系をもっているのですが、その細胞のイノシトールも調べて見て下さい。
[永井]それは面白いですね。ぜひ調べてみましょう。
[難波]培養株の栄養要求性の変化はPPLOに関係があるのではないでしょうか。

《梅田報告》
 今迄行ってきたハムスター細胞のin vitro carcinogenesisの試みのうち既に報告してきた例と、追試実験を行って丁度処理後200日に達した系とを癌学会演題申し込みのためまとめたので合せて報告する。
 (I)ハムスター胎児細胞を10μg/ml PA培地で1日間処理して後継代した。(それぞれ図を呈示)10代培養110日をすぎてから増殖がやや盛んになり形態的にtransformationを起し、12代目のもので軟寒天中にmicrocolony形成を認めた。30代処理後200日頃より更に良好な増殖を示す様になり、一週間で15〜30倍の増殖率を示す。29代の細胞のハムスター頬袋への移植により腫瘤形成が認められた。
 ハムスター肺培養細胞に32μg/ml液1時間処理後継代したものは、7代60日頃よりやや良好な、16代処理後140日頃より急速な増殖を示すようになって現在25代に致っている。
 (II)ハムスター肺培養細胞に10-2.5乗M monocrotaline培地の2日間処理を2回行った系と、1回だけ行った系と2系を長期継代した。両者共処理後非常に遅い増殖を示し空胞を持った細胞から成っていたが、培養100〜150日を過ぎてから両者共急に1週間に10倍の増殖率を示す様になり形態的にも空胞が無くなりtransformationが明らかになった。後者は目下処理後200日になった所であるが前者は24代処理後200日以後に更に増殖率が急速になり一週間に70〜80倍に達する。目下37代300日に達している。軟寒天中でも後者はcolony形成を示し目下動物移植実験の結果を待っている。
 (III)ハムスター胎児細胞にN-OH-AAF 10-3.5乗M 1時間処理を2代にわたって2回行って後長期継代を続けた系は、13代目の処理後130日頃より増殖が一様に良好になり形態的transformationを起した。目下31代処理後235日迄安定な増殖を示している。本例ではまだ軟寒天中のcolony形成は(±)の状態である。
 (IV)ハムスター肺培養細胞にNBU 10-3.0乗M培地2日間処理を2回行った系は、19代処理後150日頃よりやや良好な増殖を示す様になった。24代180日より更に10〜60倍の増殖を示し、目下48代培養340日に達している。軟寒天中で25代目のものは小コロニー形成(PE 0.8%)が認められ、目下動物移植の結果を待っている。
 (V)ハムスター胎児細胞に3HOA 10-3.5乗M培地で1日間処理後継代した系と、ハムスター肺細胞に10-3.0乗M1時間処理後長期継代している系と、2系培養している。前者は9代目処理後110日より形態的transformationを起し、やや良好な増殖を、培養24代180日頃より一週で10〜100倍近くの増殖を示すようになった。軟寒天中で25代目のものは0.8%のcolony形成を示した。後者の系は14代130日頃よりやや良好の、20代170日頃より更に良好な増殖を示し、現在23代に達している。目下動物移植の結果を待っている。
 (VI)ハムスター肺細胞の10-5.5乗M 4NQO処理(2回及び1回の2系)による、一系は13代処理後110日より急激な増殖を30代200日を過ぎてから更に急速な増殖を示し、30代目のもののハムスター頬袋への移植で肉腫の形成をみた。他の系も処理後150日を過ぎてから良好な増殖を示し、目下23代190日に達している。
 (VII)コントロールの細胞は5系列あり夫々に増殖率の消長があるが、培養200日の2例、250日の1例、300日の1例では一週間に10倍以下の増殖を示していた。もう1つの例は29代培養230日を過ぎてからやや増殖率が良くなり、明らかにtransformationを起したと思われる。
 以上総括すると、我々の実験系では培養100日をすぎてから形態的transformationを起し、一週に10倍前後の増殖率の上昇を示す様になるが、一部のものは更に200日頃から一週に20〜80倍の急速な増殖を示し、2段目のtransformationを思わせる変化を起す。その様になったものに復元実験で速く腫瘍形成が認められた。形態的観察の結果では培養当初は大型で明るい核質の細胞から成っていたのが、第一段のtransformation後は一様にやや小型でcriss-cross等を示す紡錘形細胞になる。第二段のtransformationをすぎたものは、更に小型で細長く、piling up、criss-crossの著明な細胞に変る。しかもこの様な細胞の核質はCarnoy固定、HE染色でクロマチンの凝縮が著明に認められる様になっている。
 In vitro carcinogenesisの実験目的は、発癌の機構を解明するためと、又各種発癌剤、或は未知物質の発癌性をin vitroで証明することがあろう。後者の立場からでも数多くの物質の解析から、前者に、すなわち発癌機構をchemical structureのlevelで追求することも出来る。この後者の立場をとって、まずin vivoで発癌性の証明されているが、in vitroで試されていない物質で、in vitro carcinogenesisの試みを行ってみたわけである。この場合、in vivoに比較して早期に、確実に、結果が出ないと意味が半減すると思われるが、我々の系では、その点を満足させていない。この点の改良こそ今後の最大目標と考えている。

 :質疑応答:
[難波]対照群も殆ど老化現象を示さずに立ち上がっていますね。
[梅田]私の実験では対照群も殆ど株化しそうです。核質の凝縮している方が、S期が短くなっているとも考えられますね。
[堀川]オートラジオグラフの実験はもう少し技術的に考えてみたらどうですか。パルスラベルでみた方がよくありませんか。
[梅田]興味のあるのはS期の短縮かどうかという事なので、パルスラベルでは判らないと思います。
[勝田]映画を撮ってみればいいじゃないですか。
[梅田]はい。
[佐藤二]矢張り自然発癌のことが問題になりますね。glucoseの濃度を高くするとどうなるかなども考えています。

【勝田班月報・7108】
《勝田報告》
 A)初代培養による培養内癌化の実験:
 JAR-1系F40、生后約1月♀を3匹使用し、その肝を部分切除した。ラッテはそのまま生かしておき、切除した肝組織をメスで細切し、10rpmの回転培養をおこなった。培地は[20%仔牛血清+0.4%ラクトアルブミン+D]で、発癌剤は初めの4日間だけ培地に入れておき、以後は全く添加しなかった。実験開始は1971-7-23。発癌剤は、DAB 1μg/ml、4NQO 10-7乗Mおよび10-6乗M、DEN 10μg/ml。結果は観察中である(表を呈示)。
 B)RLC-10(2)株による発癌実験:
 この細胞クローンは復元してもラッテにtakeされない。山田班員による細胞電気泳動像では、悪性型ではなく、なぎさ型か、正常型に近く、軟寒天内でも集落を形成しない。この系を4NQOで処理し、以後山田班員と協同で、逐次的その変化を追っている。
 1971-6-29:4NQO、3.3x10-6乗M、30分間処理。以后、7-9、7-13、7-20、7-27に、細胞電気泳動度の検査を行った。
 他に軟寒天培地内増殖能も併行してしらべている。7-5:シャーレ当り、50,000、25,000、12,500、6,250コ宛を各3個のシャーレにまいたが、3週后までコロニー形成は0。
 7-26:120,000、60,000、30,000、15,000コと各3枚のシャーレにまいて観察中であるが、この時点では0となりそうである。

《梅田報告》
 強力な肝発癌剤aflatoxinB1のDNA single strandに及ぼす影響について月報7012でふれた。HeLa細胞に大量の100μg/mlを投与して、1時間後の検索では、DNAはbottomに沈んでいた。10μg/mlの濃度(3日后には準致死的)で、24時間作用させた後、Alkaline sucrose gradientにかけると、bottomから3本目迄countがあり、みだれた山を示した。この点を確かめるための実験及びneutral sucrose gradientの実験結果を示す。
 (1)図1に少し濃度を上げ32μg/ml 24時間作用させた結果を示す。検索方法は今迄と同じである。bottomのradioactivityはcontrolの70%より40%と下り、bottomより2本目にもradioactivityが認められた。更にtopの方にもcountが残った。
 (2)Neutral sucrose gradientでAflatoxinB1作用の検索を行った。先ず、100μg/ml1時間作用ではcountはcontrolと同じbottomに沈んで現れた。図2は、32μg/mlで24時間作用させた結果である。図で明らかな様にcountの山が6本目にずれている。又、topの方にも軽い山が認められるが、これに意味があるかどうか不明である。recoveryについては、目下検討中。(図を呈示)

《佐藤・難波報告》
 N-38:クローン化した3系のラット肝細胞の若干の細胞学的特徴と、それらのクローン細胞の癌化との関係
RLN-E7より、単個培養によってクローン化した3系、PC-2、PC-9、PC-10の細胞を使用し、それらの若干の細胞学的特徴と、4NQOによる各細胞の癌化とが如何なる関係にあるかまとめてみた。(表を呈示)
 結果
 1.各クローンの細胞間で同じ4NQOの処理条件によっても、癌化に差がある。
 2.4NQOの細胞障害に対する感受性の高いものが、やや癌化しやすい傾向にある。
 3.同一の系でも、4NQOの処理条件によって、癌化する場合としない場合がある。
 4.ラット肝細胞での発癌実験では、4NQOの有効濃度は一定の範囲内にある。(10-6乗M〜3.3x10-6乗M)。
 5.クロモゾームの数(モード)と4NQOの細胞障害に対する抵抗性との間には、相関はなさそうである。
 6.問題点として、発癌性を比較する場合に、各系の培養細胞を同じ時点で、同じ4NQO処理を行い、同じ日に、同じ動物に、しかも大量の細胞を復元することが出来ないので、厳密に結果の1〜3を比較することが出来ない。しかしPC-10のように、非常に発癌しやすい系を利用して(勿論、自然発癌の危険性も高いと考えられるが)、発癌の過程を掘り下げるのも一方法だと考えられる。
 N-39:DABで癌化した細胞の増殖に対するDABの影響 −DABの細胞障害作用に癌化した細胞は抵抗性があるか−
月報7106にDABによる発癌実験の結果を説明し、月報7107に癌化した細胞にはDAB未処理対照細胞に較べ、DABの細胞障害作用に対する抵抗性の差がそれほど認められないことを報告した。この事実を確認する為に、同型培養法でもう一度growth curveで検討した。
 実験方法
 月報7107に同じ。PC-2はDAB未処理対照細胞。DT-2はDABによって癌化した腫瘍細胞の再培養。
 実験結果
 (1)Fig 25、26にはDAB処理時の細胞数を一定にして、DAB濃度を変えて、(2)Fig 27、28には、DABの濃度を一定にして、処理時の細胞数を変えて、対照細胞と、DAB癌化細胞の増殖に及ぼすDABの影響をみた。その結果、DABによって癌化した細胞は対照細胞に較べ、DABの細胞障害作用に、特別抵抗性があるとは考えられない(図を呈示)。
 N-40:培養細胞に4NQO処理を行うことは、培養内で自然発癌した細胞を選択的に増殖させるか。
 クローン化したラット肝細胞PC-2がクローン後295日(総培養日数837日)で、自然発癌したので、この再培養細胞を用いて、4NQOが培養内で自然発癌した細胞の選択的増殖に働き、癌細胞の数を増加させているかどうか検討した。
 実験方法
 細胞:4NQO未処理対照細胞、4NQO処理癌化細胞、4NQO処理癌化細胞の動物復元で生じた腫瘍の再培養細胞、4NQO未処理対照細胞の動物復元で生じた腫瘍の再培養細胞を、100コ宛まく。対照培地は20%BS+MEM、実験培地は上記培地内に3.3x10-8乗Mの4NQOを含む培地、いづれも1週間培養後は、20%BS+MEMで培地を更新し、更に1週間培養後コロニーを算え、対照培地中のコロニー数で4NQO培地中のコロニー数を除した。
 実験結果(表を呈示)
 表に示すように、この自然発癌した細胞には、特別に4NQOに対して耐性が認められなかった。従って4NQO処理は培養内で自然発癌した細胞を選択的に増殖したとは考えられない。

《高木報告》
 1.混合移植実験
 これまで腫瘍細胞と移植動物についてhomologousな実験系(RG-18細胞とWKAラット)、およびisologousな実験系(RRLC-11細胞とWKAラット)につき、移植動物とそのoriginが、iso-logousなuntransformed cells(RL細胞)を混じた場合の可移植性について検討した。homo-logousな系については、先述の如くRG-18細胞の少数とRL細胞多数とを混じた場合tumori-genicityはむしろ促進の傾向がみられ、isologousな系ではRRLC-11細胞50の時はRL 100万個で抑制の傾向が、RRLC-11細胞10の時はRL 100万個で促進を思わせるdataがえられており、未だ結論が出せない。このはっきりしない理由の一つには、RRLC-11細胞を10接種する際の誤差も考慮にいれなければならないと思う。さらに観察中である。
 今回は本実験をスタートした本来の趣旨からはやや外れるが、RRLC-11細胞と移植されるWKAラットに対し、全くheterologousなJTC-12(MK)細胞を混じた場合の可移植性の変化をみた。動物が死亡したりして疋数が少なくまた月も浅いが、dataはJTC-12細胞によるtumori-genicityの抑制を示すものかも知れない。heterologousなJTC-12細胞を混ずることによりRRLC-11細胞の移植動物内での増殖が抑制されることは想像される(表を呈示)。
 2.Colony levelでの発癌実験
 月報7102から7105まで少しずつ報告して来た本実験は、先の班会議でも述べたようにどの程度までをpiling-up colonyと判定するか、と云う点に困難を感ずる。これは、colony selectionでえられ、実験に供した細胞の種類によるのかも知れない。すなわち、(写真を呈示)次の写真に示すようなcolonyを形成する細胞を用いたのであるが、あるいは、もっとfibroblasticな細胞を用いたならば、はっきりしたpiling-upの像がえられたかも知れない。次に呈示した写真はisologousな系の混合移植実験に用いているRRLC-11細胞で、これだとほとんどすべてのcolonyは示すような疑もないpiling-up colonyである。
 NG 10-5乗M 2時間1回処理後3-4ケ月たっても処理細胞と対照細胞の間にcolony形成能、piling-up colony(一応私なりに判定して)の数にちがいはみられない。1seriesの実験を示す(表を呈示)。200細胞をseedした時で括弧内はpiling-up colony数を示す。

《山田報告》
 久しぶりにヨーロッパに行き、大変楽しんで来ました。従って報告書を二カ月も書かず、申訳ありません。けれど五年に一度位は、古い国へStrangerとして訪れ、仕事のことは勿論、その他諸々の事柄をのんびりと顧みることは大変有意義であると考へました。少しヨーロッパぼけ気味ですが、改めて"ネジ"を巻きなほして仕事をやりたいと思って居ます。
 再び4NQO一回処理後のラット肝細胞のin vitroにおける電気泳動的変化を検索すると共に、その抗原性の変化をStep wiseに検索し始めました。用いた細胞は、前々回の報告に書きました様に、自然悪性化していないと考へられる株、RLC-10-Colony2で抗血清としてはこの細胞を宿主ラットJAR-2に移植後19日目に採取した抗血清を用い、その泳動測定には従来通り10mMのCaCl2を含むヴェロナール緩衝液を用いました。詳細は、次号に書くことにして今回はその結果のみを書きます。(図を呈示)図に示すごとく4NQO処理後14日目に既にその泳動パターンは著しく変化し、ノイラミニダーゼ感受性が増加して来て居ます。またその抗原性も処理後10日目には既に変化し、対照細胞に対する抗血清の反応にくらべて、4NQO処理した細胞への反応は約1/3程度に減少しています。詳細は次号に書きます。

《藤井報告》
 培養内ラット肝変異細胞におけるMLTR
 Culb-TC、RLC-10などの細胞に対して、同系JAR-1ラットの末梢リンパ球様細胞がin vitroで幼若化をおこすことを報告したが、今回も同様の実験をくり返し、その再現性をたしかめた。MLTR(mixed lymphocyte-tumor reaction)は、幾つかの報告があるが、腫瘍抗原の検出、宿主リンパ球の自家、同系腫瘍への免疫学的反応能を調べる方法としては未だ新しく、確立された方法とは云えないので、なお種々の検討が必要であろう。
 今回用いた抗原刺戟細胞は、Culb-TC、Cula-TC、RLC-10-R-TC(培養ラット肝細胞が自然変異し、復元して腫瘍増殖したものの再培養株)、RLC-10-4(培養ラット肝細胞)などで、医科研癌細胞研より供与されたものである。3回、RPMI 1640で洗滌したのち、CO60で8,000γ照射した。これらの抗原刺戟細胞5万個に対し、JAR-1ラットの末梢白血球50万個を加え、4、6、8日におけるH3-TdRの幼若化リンパ球による摂取を測定した。
 照射Culb-TC、Cula-TC、RLC-10-R-TC、RLC-10-4のいづれにおいても培養4日あたりまでH3-TdRの摂取がみとめられたが、6日、8日で急激に減少した。顕微鏡下の観察では、照射腫瘍細胞は6日、8日までかなり残っているが、多くはガラス面より離れており、変性、死の経過をとっていると思われた。
リンパ球様細胞との混合培養において、H3-TdRの摂取は6日をピークとして、8日で急激に減少する。各細胞のMLTRを図に示したが、幼若化刺戟の強さは、Culb-TC、RLC-10-R-TC、Cula-TCと次いで対照のRLC-10-4であった。
 最近マウス脾細胞と同系腫瘍細胞間のMLTRもうまくゆくようになった。(図を呈示)

《安藤報告》
 連結蛋白質切断の再結合に対するモノヨード醋酸の効果
 4NQOにより細胞内で切断された連結蛋白質の再結合に対して、DNA合成阻害剤(cytosine arabinoside、hydroxyurea)、蛋白合成阻害剤(cycloheximide)は全く阻害効果を示さなかった。
 今回は更に生体反応のおおもとに帰って、細胞のエネルギー産生反応に効果を持つ薬剤を選んで調べてみた。先ずモノヨード醋酸(MIA)のFM3A細胞の生長に対する効果を調べた。Fig 1に見られるように10-6乗M迄はno effect、5x10-6乗Mから阻害が現れ、10-5乗Mでは完全に阻害が見られた。
 月報No.7106に記したようにaraCの場合には薬剤そのものによって、DNAの切断が起こってしまった。その点をMIAについて調べてみた所、10-5乗Mでは6時間ですでに切れ始め、24時間では相当程度切れてしまう事がわかった(Fig 2)。5x10-6乗Mではそれが見られなかった。したがって今回は5x10-6乗M MIA存在下、連結蛋白切断の再結合実験を行った。
 Fig 3に見られるように4NQO 10-6乗M 30分処理後7時間回復培養を行った所、ほぼ完全に再結合が起っていた(Fig 3a)。MIAの無処理細胞に対する切断効果はなかった(Fig 3b)。
4NQO処理細胞をMIA 5x10-6乗M存在下に回復を行わせた場合、(a)の場合と全く同様な再結合が起っていた(Fig 3c)。すなわち、MIAは本条件下では連結蛋白切断の再結合には効果はない。但しFig 1(b)に見られるように5x10-6乗MというMIAの濃度は細胞の増殖を完全に抑制する濃度ではないので問題である。この点は更に検討し細胞増殖は抑制されるが、DNAの切断は起さないような条件をさがして再実験を行う予定である。
いずれもう少しdataがそろったところで、総括する予定であるが、現在迄の所を概括すると以下のようになる。(1)4NQOによって切断された連結蛋白はDNAの一重鎖切断よりも緩慢な速度で修復される。(2)(1)の反応にはDNA合成、蛋白合成は不要である。(3)(1)の反応には生体エネルギーの産生は不要であるようだ。このような事実から一体どのような反応機構を考えたらよいのであろうか。少くともエネルギー的出納のない可逆反応の一つである事が考えられる。次の班会議ではもう少し詳しく議論したい。

《堀川報告》
 毎年7月には琵琶湖で放射線生物若手研究会なるものを開催し、今年は迎えて第4回の研究会にあたりましたが、毎年この研究会は私共金沢グループが中心になって御世話するので、その方に力を取られ今月号の月報に報告すべきデータも整理出来ないままになってしまいました。悪しからず御容赦下さい。
 仕事は相変らず、DNA鎖中に存在する可能性のあるresidual proteinを追っています。これは御存知の様に量的にも非常に微量なので、その存在を決定的に示すことは非常に困難です。あの手この手と方法をかえれば、その存在を示唆するデータは次から次と出て来ますが、そうかといって最後の決め手になるものは何一つ得られません。従ってデータが蓄積すればする程、自分でも滑稽に思えて仕方ありません。しかし何とかならぬものかと暑い中を頑張っているところです。
一方、HeLa原株細胞から5-BUdRとphotonを併用しての、photodynamic actionによって、selectしたUV感受性細胞はいよいよ本物であることが分ってきました。
 これらには紫外線照射によってDNA中に出来たthymine dimerを切り出す機構が、完全に近い程度に無いことが分ってきました。
 従って人間の遺伝病として知られるXeroderma pigmentosumの如き細胞が、HeLa細胞のようなものの中にも存在すると考えられます。しかし、もともとの生体組織中にこのようなHeteroの状態でTT dimer除去細胞と非除去細胞が存在していたかどうか、あるいは培養瓶の中で飼うようになってからこのような細胞が出現したかどうかについては現段階では解答は出せません。また今後の問題として、UV照射によって生成されたTT dimerを除去し得る細胞と除去出来ない細胞で、どちらが化学発癌剤処理によって発癌が容易であるかを検討するため、現在はまったく腫瘍性を示さないmouse L細胞を使って前記のHeLa細胞と同様に、UV感受性と耐性株の分離を行っていますので、近い将来にこれらについての解答も得られるものと思っています。今回は最初に述べたような都合で、実際の仕事の結果を報告出来ませんでしたので、現在私共がやっている仕事の進行状況を報告するにとどめさせていただきます。

【勝田班月報・7109】
《勝田報告》
 ラッテ肝癌AH-7974細胞の毒性代謝物質:
 これまで肝癌培地をイオン交換樹脂で分析してきたが、再現性のある分劃法が得られず、苦労してきた。このたびSephadexG25→Dowex50(H+)の分劃法で再現性が初めて得られるようになった。2度の実験での分劃収量(乾燥重量)は、肝癌培地低分子凍結乾燥全重量:4g、4.7g。Sephadexによる分劃B:3.1、2.5。続いてのDowexによる各分劃・Fraction 1(H2O溶出):4.25mg、6.3mg。Fraction 2:159.4、81.6。Fraction 3-1(4N・NH4OH溶出):307.4、346.2。Fraction 3-2:9.7。Fraction 4:5.1、3.1。であった。
 培養試験の結果は、細胞:(RLC-10-4株・ラッテにtakeされず)。培地:CS 20%+LD 75%・25%Dに分劃を溶解ミリポア濾過滅菌したものを含む、対照はDのみ25%)。培養は平型回転培養管(タンザク入)培養2、4日后にメタノール固定、ギムザ染色により判定。
 結果は3-2及び4に阻害効果があった。この実験はなお続行中である。

《高木報告》
 混合移植実験
 1)homologousな移植系(RG-18−RFL細胞→WKA)この実験に用いた腫瘍細胞RG-18は、実験中途で腫瘍性が低下したことはすでに述べた。すなわち、はじめは100ケまでは全部腫瘍をつくり、10ケでも3/5につくっていたものが、現在ではTPD50は500ケか1、000ケの辺りにある。月報No.7107ではこれまでのdataすべてをまとめてみたが、腫瘍性の異った細胞を用いたdataを一緒にすることは問題である。今回は、腫瘍性の低下した時点におけるRG-18細胞を用いたdataだけをまとめてみた。ラットの疋数が少ないが現在観察中のものが各群3−4疋ずつあり、これは記載していない(表を呈示)。RG-18 1,000ケではRFL 100万ケ混ずることによりやや促進、500ケでは対照でもすべて腫瘍をつくっているので判定出来ないが、100ケ、50ケ、10ケではすべてRFLを混じたことにより促進の傾向がみられる。また、腫瘍の発現をみたラットについてその後の経過は、腫瘍死したラットについては表の如くであるが、それ以外は1疋の事故死、1疋の観察期間中生存をのぞき、他の23疋の腫瘍はすべてregressした。isologousなRRLC-11細胞を用いた実験では、腫瘍死したラットの外に腫瘍のregressしたラットは7疋にすぎない。このちがいについてRG-18細胞の腫瘍性が低いこと、RG-18細胞が移植するラットに対しhomologousであることなどの可能性が考えられる。
 2)isologousな移植系(RRLC-11−RFL細胞→WKAラット)
 これはNo.7107についてその後の結果である(表を呈示)。
RRLC-11細胞50ケまではすべて腫瘍をつくっており、RFL 100万個混じた場合にRRLC-11 100ケ、50ケでやや抑制しているようにみえる。しかしRLC-11 10ケの場合には有意の差がないようで、isologousな系ではRFL細胞を混ずることによる影響はないと思われる。腫瘍細胞数の多い程腫瘍死が多くみられた。
 
《安藤報告》
 "連結蛋白"分離の試み(1):C14-アミノ酸による標識
 従来私共が追究して来た"連結蛋白"なるものが、一体実体として存在するものか否かをもう少し客観性を持ったdataとして示されなければ世人を納得させる事は出来ない事を痛感しますので、本号ではC14-アミノ酸で標識する事が出来るか否かを検討した。
 先ず非必須アミノ酸による標識を試みた。MEMで培養された、L・P3(中期or後期対数期)にserine、alanineを各1μCi/ml、glutamic acidを0.1μCi/mlに加え2日間培養した。C14-ラベル細胞とH3-チミジンによりDNAをラベルした細胞を各7万個、3万個を混合し、SW25.1用遠心管中の密度勾配上のSDS層にのせ遠心した(20,000rpm 90min)。(図を呈示)、図(a)に見られるようにDNAピークにわずかのC14カウントが入っているように見える。しかしカウントが少な過ぎてあまりはっきりした事はわからない。そこで次に必須アミノ酸で標識してみた。細胞を(MEM+non ess.+Nucleoside mixture:E2N)に培養し、くっつき合った所で、E2N-tyr-phe培地に移し、10時間後に1/20量のtyrとpheを加え更にC14-try 0.1μCi/ml、C14-pheを0.05μCi/mlとして加えた。3日後にharvest、C14-cellとH3-cellを混合し、(a)と同様に分析した。(b)図にあるようにDNAピークにわずかのC14-aaに由来するカウントが見られた。このカウントが目的とする連結蛋白質に由来するものであるか否かは更に検討されなければならない。

《梅田報告》
 HeLaS3細胞DNAのSingle strandに及ぼす各種mycotoxinの作用について、寺島法により報告してきた(月報7012、7108)。今回はNeutral suctose gradient法によるAflatoxinB1以外の他のmycotoxin投与による結果について報告する。
 (1)Penicillic acid:single strandの検索(7012)では、1mg/ml投与でbottomより5から13本目に、320μ/ml投与では1〜10本目にradioactivityが認められた。1mg/ml投与后の、recovery incubationではrecoveryは認められなかった。今回のneutral sucroseの検索の結果は、1mg/ml投与では14本目に、320μg/ml投与では3本目にsingle peakとして、radio-activityが証明された。又、10μg/ml(細胞増殖は抑えるがsublethalの程度)投与24時間作用ではbottomにpeakがあり、breakは全く認められなかった。
 以上の結果からすると、penicillic acidでDNA strand breakを起している時は、既に細胞にとってlethalである。裏をかえせば、penicillic acidは、致死的な濃度で始めてDNA strand breakを惹起させると云える。
(2)patulin:Single strandの検索で32μg/ml投与では、radioactivityは全体に散っていた。32μg/ml1時間投与后のrecovery incubationの結果、breakがrepairされるどころか更にbreakが進行した結果を得ていた。今回のneutral sucroseによる結果は32μg/ml投与で、11本目にsingle peakとしてradioactivityの山が現れた。3.2μg/mlの細胞にとってsublethalの濃度で24時間作用させた時は、3本目にradioactivityのpeakが現れた。
 (3)Luteoskyrin、rubratoxinB、fusarenonXについて、超大量で1時間処理、比較的大量(3日間連続に投与しつづけると致死的になる)投与で24時間処理した材料では、いずれもbottomにradioactivityが証明され、single-strandの結果を同じくneutral sucroseでも、breakは認められなかった。

《佐藤・難波報告》
 前報に引き続いて、RLN-B cellでの悪性化実験中のaggregateの大きさの変動をみた。
control medium及び溶媒のみを含むmedium中でのaggregateの大きさは平均直径が、0.04〜0.05mm前後である。変化の強いのはDAB及び3'-Me-DABの10μg/ml即ち比較的低濃度の処理でaggregateが大きくなっている。aggregateの大きさの増大が悪性化に比例するという研究から考えると今後の検討を要する。(以下夫々に表を呈示)
 ☆DABと細胞内タンパク質との結合
 資料細胞:PC-2(総培養日数917−952日)、TD40、40本、300万個/TDにまきこみ,2日後、DABmediumに替え、3日間培養。
 DAB:10μg/ml Eagle's MEM+20%BS、総消費量 2.2mg。
表示の方法により細胞内タンパク質と結合したDABの量を測定した。520nmの分子吸光計数を4x10の4乗として計算すると、2.3mμmoleとなった。全タンパク量は130mgであった。in vitroでのDAB投与も培養肝細胞内のタンパク質と何らかの結合をしていると考えられる。
他のデータと比較するためにtissue中のタンパク量を約1/6と考えて換算すると、in vivoでliver cellに結合する量の約1/4の量が結合している。参考までに、E.C.MillerのデータとH.Terayamaのデータを合わせて呈示する。
N-41:培地中のDABの溶存状態
 DABを100%EtOHに5mg/mlに溶きEagle'sMEM(無血清)に終濃度20μg/mlになるように稀釋すると、DANの沈澱が生じ完全に溶けない。この溶液を3000rpm 10分遠沈後、上清に溶けているDAB濃度は8μg/mlであった。そこで、DABによる発癌実験を培養内で企てる場合、DABを終濃度15〜20μg/mlになるよう溶かすとき、どうしても蛋白を含む培地を使用する必要がある。即ち20%牛血清加Eagle'sMEM培地には20μg/mlの濃度でDABが完全に溶ける。
 そこで、蛋白を含む培地中に、DABがどのような状態で溶けているかを検討してみた。
 実験方法
 20%BS+Eagle'sMEM中にDABを約20μg/mlに溶かした物(DAB培地)を分析の対象にした。
 実験(1)1mlのDAB培地に1mlの10%TCAを加え遠沈後、上清中と沈澱中とからトルエンでDABを抽出し、両者のDAB分布をみた。DAB培地では35.4μg/ml、沈澱では25.2(71%)、上清では11.9(33%)であった。
 実験(2)DAB培地をセロファンバック中に入れ、PBSで一晩透析すると、DAB培地透析前は15.8μg/ml、内液は13.5(85%)、外液は0であった。
 実験(3)1mlのDAB培地に4mlのトルエンでトルエン層に抽出されるDABは、蛋白に結合しているかどうか検討した。DABを含むトルエンを蒸発させ残渣を水に溶かし、O.D.280でみると吸収なし。O.D.440にはDABの吸収が認められる。この溶液にTCAを加えても、沈澱はみられなかった。
 実験(4)DAB培地1mlを、Sephadex G100で流した。カラムの大きさは1.2x42cm、緩衝液は0.1M Tris-HC、lM NaCl、pH8.0、流出速度0.4ml/min.。結果は蛋白分劃中にDABが溶出し、2相性の山を示す(図を呈示)。このことは(1)DABが不純なのか、(2)DABが結合する蛋白が異なるかの、いづれかであろう。この実験では、血清中のどの蛋白にDABが結合しているのか、判らなかったが、アルブミンらしいものが推定される。
 実験(5)牛血清アルブミンを1%に含むMEMにDABを溶き、実験(4)と同じ条件で分析すると、アルブミンの流出分劃に一致してDABも流出した。
 以上のことから結論されることは
 1.血清を含む培地中に溶かされたDABの殆どは蛋白に結合して溶解している。
 2.この蛋白結合DABは、トルエン抽出操作によって容易に解離し、トルエン中には遊離のDABとして存在する。
3.血清中のどの蛋白と結合しているか、現在の実験では断言できないが、少くともアルブミンにDABが結合していることが判る。

《山田報告》
 引続いて、4NQO(3x10-6乗M)一回処理後のラット肝細胞RLC-10-C、clony#2の電気泳動的変化を検索しました。今回は4NQO処理後51日目の細胞を通常の円型管を用いて測定しましたが、その結果を図に示します(以下実験毎に図を呈示)。前回報告した36日目の成績と殆んど同じです。若干平均泳動度が増加している程度です。即ちノイラミニダーゼ処理により平均泳動度が対照にくらべて減少していますが、10%以上の低下は認められません。この株は処理後14日目に著しくノイラミニダーゼ感受性が高まりましたが、その後減少し、その状態が続いています。先きに行ったCQ63の実験成績と似ています。
 またこの用いたRLC-10-C-clony#2は実験当初より、その細胞形態も電気泳動的にも均一ですが、4NQO処理をしても、やはり比較的細胞構成は揃っている様です。
 このRLC-10、C#2の泳動的変化を写真記録式泳動装置にて分析した結果を図に示します。対照の細胞は全体に均一な形態を示し、若干の小型細胞が混在しています。平均泳動値より10%以上ノイラミニダーゼ処理により低下した細胞はこの対照群には発見出来ません。これに対し、4NQO処理細胞群では、やや大型な細胞が増加し、ノイラミニダーゼ処理後平均泳動値より10%以上の減少を示す細胞の多くは、この大型細胞であることが判明しました。これはRLT-1〜5株に認めた中型の変異細胞と類似していますので、悪性化(この株の)の可能性は大きいと考へます。
 なほ免疫学的検索も併行して行っていますが次号に書きます。

《藤井報告》
 リンパ球−腫瘍細胞混合培養反応における刺戟細胞の量および刺戟細胞の分劃の検討
 この実験では、Culb-TC−JAR-1末梢リンパ球混合培養反応で、抗原刺戟細胞のほかに、その不溶性分劃と溶性分劃にも、抗原刺戟作用があるか否かを検討した。抗原刺戟に照射(4,000〜8,000r)しただけの腫瘍細胞を用いると、培養初期にはH3-TdRのとり込みがあり、反応リンパ球のH3-TdRのとり込みとの区別が困難なばあいのあること、また臨床癌の培養がかならずしも容易でないことから、癌組織抽出物でもMLTRができれば便利である点からも必要な検討である。
 刺戟細胞Culb-TCはCO60で4,000r照射したのち、超音波処理し、そのあと超遠心(40,000rpm、30分間)で、その沈渣と上清に分け、沈渣はRPMI 1640液に浮游させ、Teflonホモジナイザーで浮游物を細かく均等にし、これを膜成分とした。
 結局、用いた抗原は、A)照射Culb-TC、B)照射、超音波処理細胞、C)照射、超音波処理不溶分劃(膜成分)、D)照射、超音波処理溶性成分の4つで、それぞれ処理前の細胞濃度に合して、50万個、25万個、12.5万個、6.3万個をJAR-1末梢リンパ球(白血球として50万個)と混じ、CO2恒温器中で培養した。
 成績:照射Culb-TC細胞を刺戟細胞としたばあいがリンパ球刺戟作用がもっともつよく、6日目のH3-TdRのとり込みは(夫々図を呈示)図Aのように、25万個細胞に対してcpm11,100に達した。刺戟細胞がさらに多くなるとcpmがけって減少する。しかも、刺戟細胞が多くなると腫瘍細胞によるH3-TdRのとり込みが増してくることも図A)の対照からもうかがえる。この成績および既報の成績から、MLTRには1〜10万個の刺戟細胞が適当と思われる。
 超音波破壊処理したばあいの成績は、図B、C、Dにみられるように、そのリンパ球幼若化刺戟効果が激減する。
図B)は、照射−超音波処理しただけのものを刺戟抗原としたもので、抗原量が多い程、cpmは高いが、50万個相当の抗原量で、624cpmにすぎない。
 図C)は膜成分、図D)は溶性分劃に対するMLTRで、いづれもcpmの最高は300以下となっている。破壊細胞が、リンパ球刺戟作用をうしなうのは、おそらくlysozome enzymeによる抗原の変性が原因と思われる。この点について細胞の加熱処理、EDTA加液中での抗原刺戟細胞の破壊を計画している。
 今までMLTRに用いてきた腫瘍細胞は、すべて培養細胞であった。そこで、in vivoのがん細胞がautochthonous lymphoid cellsと反応するか否かが問題となる。この目的で、現在、JAR-1ラットにCulb-TCの復元を試みている。
マウスで行った実験では、C57BL系マウスの末梢リンパ球は、同系腫瘍FA/C/2(医科研制癌、小高助教授が発癌させたerythroblastoma)と反応するが、そのさい、ascitesからとってすぐ混合培養するよりも、3日間、RPMI 1640(20%にfetal calf ser.をふくむ)中で培養してから混合培養にもって行った方が、MLTRが数倍高く出ている。これは、ascites tumoreでは、in vivoで腫瘍細胞が、宿主反応による物質、例へばγ-globulinおそらく抗体、その他で被覆され、刺戟基(site)がblockされているのではなかろうか。

《堀川報告》
 DNA鎖中にresidual proteinが本当に存在するか否かを決定するのは非常に困難出ある。今回はLettら(1970)が示唆した如く、DNA一本鎖の状態でもresidual proteinの存在が暗示されるという実験結果を別の立場からconfirmするため以下のような実験を行った。
まず、mouse L細胞をH3-TdR培地(10μgCi/ml)で3、5、8分と培養してpulse labelした細胞をalkaline sucrose gradientのtop layerにのせて遠心すると第1図(夫々図を呈示)に示すようなほぼ30〜35S程度の所謂Okazaki fragmentに該当する、新しく合成された低分子のDNAが検出される。つづいて、このように5分間pulse labelされた細胞を、直ちにH3-TdRを含まない、ただしcold TdRを含む培地(10μg/ml)に移して、10分間、30分間、60分間と37℃でChaseする。Chase直後にそれぞれ細胞を集めて、Alkaline sucrose gradientにかけて超遠心すると、第2図に示すごとくfragmented DNAはchaseの時間と共に次第に大きくなり、60分間のchaseで殆んどのradioactivityはbulk DNAに移ってしまうことが分かる。ここでもしchaseの過程にlabeledアミノ酸が存在すれば、このlabeledアミノ酸は一本鎖DNAの高分子化と共にDNA中に取り込まれて行くか否か、をみるのが本実験の主目的である。そこでH3-TdRを含む培地(10μgCi/ml)中で5分間pulse labelした細胞を直ちにC14-L-lysine(3μgCi/ml)とcold TdR(10μg/ml)を含む培地に移して37℃でchaseした。それらの結果を第3図に示す。これらの図から分かるように大部分のC14-L-lysineはchase timeと共に蛋白分劃にincorporateするが、同時に次第に大きくなってゆくDNA中にも非常に僅かではあるが取り込まれることが分かる。特にchase 60分に於いてみられるbulk DNA中のC14の活性は、peakに一致して存在する。(ここで使用したvialsは総て新しいものを使い、count前に一回backgrundを測定してあるので、たとえ、取り込まれたC14のactivityが低いとはいえ、有意差はあると思われる。)
 これらの結果はLettが示唆したような一本鎖DNAの状態でも、アルカリに不安定な何か特殊なsiteがあるということを別の面からsupportするものであり、一本鎖DNAの状態でみた場合にもgrowing DNAの中にlabeled amino acidがincorporateする可能性のあることを示している。勿論、これらのlabeled amino acidがどの様なstructureの蛋白内に入っているかは、依然として疑問のまま残されているが。尚、こうしたC14-L-lysineが単にbulk DNAにcontaminateして検出されているのではないという可能性は、cycloheximideをchaseの、過程に入れておくとfragmented DNAのgrowthは途中でstopされ、その際、C14-L-lysineはunlabeledのbulk DNAのpeakには検出されない。つまり既存の高分子DNAの中にはアミノ酸はincorporateしないという別の実験からも確認された。 

【勝田班月報:7110:細胞電気泳動法による膜変化と抗原性変化】
《黒木報告》
 帰朝報告−アメリカでやって来た仕事のこと−
 1969年9月からちょうど2年間、ウィスコンシン大学McArdle癌研究所のDr.Charles Heidelbergerのもとで、Chemical carcinogenesis in vitroの仕事に従事していました。仕事の内容は大きく分けて、(1)Heidelbergerのところの前立腺細胞を用いてのtransformation (2)carcinogenic hydrocarbon(CH)の組織培養細胞核酸、蛋白質への結合 (3)CHのK-region誘導体の核酸、蛋白質への結合 (4)組織培養細胞からh-proteinの分離、の四つのテーマでした。
(1)前立腺細胞を用いたtransformation:
 数種類の株細胞をC3Hマウス前立腺の器官培養から分離、樹立したが、Chenらの報告(Int.J.Cancer 4,166,1969)の一例を除いて、すべてHCによるtransformat.はnegativeであった。Chenらの細胞からcloningによって比較的高頻度(3-4 foci 1d)にMCAによってtransf.cloneを得たが(G23細胞)、これも次第にtransformationしないようになった。しかしMCA epoxideによって高頻度にtransformするところから、この細胞はMCA→MCA epoxideの酵素活性が低下したためtransf.しにくくなったものと思はれる。spont.transf.は比較的高頻度にみられる(培養40−50代頃に)なおこの細胞は3T3と同じようにcontact-inhibitionにsensitiveであり、形態はfibroblastsである。前立腺上皮の細胞株ではない。
 Sukdeb Mondalのsingle cell transformationの実験は追試ができない。
 CHのK-領域誘導体epoxide、sis-dihydrodiol、phenolを用いたtransformation実験の結果、epoxideが他よりも高い頻度でtransformationを起すことが明らかになり、epoxideがproximal carcinogenである可能性が強くなった(Grover et al,PUAS,68,1098,1971)。
 (2)CHの培養細胞、DNA、RNA、Proteinへの結合:
 H3ラベルのDBA及びBAのK-region epoxide、cis dihydrodiol、phenolを用いて、ハムスター胎児細胞及びG23細胞のDNA、RNA、蛋白質への結合を調べた。(図を呈示)BA epox.、diol、phenolのハムスター胎児細胞への結合である。epoxideが、特にDNAと親和性の強いことが明らかである。蛋白との結合の400μμmoles/mgはBA及び他のCHと比較しても異常に高い値である。DBAのbindingは、epoxideとphenolは同じような態度を示し、DNAに対して、特に強い結合は示さなかった。(KurokiほかCancer Res.投稿中)。このほかMCA、BP、DMBA、DB[ah]、DB[ac]AのDNA、RNA、Proteinへの結合一般についてのpaperは目下Cancer Res. in press。
 (3)培養細胞からh-proteinの検出:
 発癌剤と特異的に結合する蛋白質h-proteinはDAB投与後のラット肝、MCA塗布後のマウススキンより分離精製されている。しかし、これらの方法は多量の蛋白を必要とするため、最初にh-protein分離の手技の改善を試みた。200〜400x10の6乗(マウス一匹の背中の皮ふに相当する)からh-proteinを検出することができるようになった。その結果次のようなことが分った。(1)マウス皮ふ、前立腺細胞、ハムスター胎児、ラット胎児、チャイニーズハムスター胎児、マウス胎児などのrodentの細胞は、h-proteinをもつが、Specific Act.には差がある。(2)h-prot.はmol.weight 22,000のsubunitより成るdimer、Ip 8.05。(3)DBA epoxideはDBAの約8倍強くboundするが、phenol、diolは結合しない(図を呈示)。(4)transformした細胞は電気泳動的に同一の蛋白をもち、定量的には、正常細胞と差がないが、radioactivityはない。epox.を用いても変りない。(5)h-proteinの結合は、ethanol etherで除けないところから、covalentの結合と思はれる。(6)アミノ酸のとりこみは、h-proteinが特に多い訳ではない。(7)ヒトの細胞にはradioactivityがみられない。Biochemistry投稿中。
 h-proteinの精製法:
1.核の分離
2.100,000Gにより細胞質可溶性蛋白をとる。
3.Sephadex G25による脱塩。
4.DEAEセルロースによりbasic proteinをとる。
5.SDS-polyacryl-amid gel
6.scanning及びradioactivity
 マウススキンのように蛋白量の多いときは、4.の後にSephadex G-100、Isoelectro focusingを行う。シャープなシングルbandとして認る。

 :質疑応答:
[安藤]h-proteinについて、酸性分劃のデータがありますか。
[黒木]一応やってみましたが、大変複雑なピークで解析が困難です。
[難波]薬剤投与してから24時間というところが、取り込み量が高いのですか。
[黒木]経時的にはまだ調べてありませんから何とも言えません。経時的に調べればもっと色んな事がはっきりすると思いますが、とにかく大量の細胞が要りますからね。
[佐藤二]in vitroのデータとin vivoの代謝機構とは平行していますか。それから薬剤に対する動物特異性と薬剤とh-proteinの結合の関係は−。
[黒木]酵素のspecific activityということでしたら、動物の種によって違います。
[梅田]発癌剤に対して耐性の出来た変異細胞の場合、薬剤の添加量を増せば、結合する量も増えるという事はありませんか。今迄は変異細胞ではh-proteinが無くなるとされていましたが、蛋白その物はあるのだという事になると何となく話がすっきりしますね。
[堀川]結合する全段階に何かあると考えるわけですか。
[梅田]そうです。h-proteinが変っていて薬剤が結合してもすぐ分解してしまうとか。
[佐藤茂]DABの場合の結合蛋白と同じものですか。
[黒木]KettererのDABのh-proteinとLitwackのcortisolのものとは同じものだと同定されています。その他mouse skinにMCAを処理してとったもの、anionによるy-protein等も私の精製したh-proteinと蛋白として大変似ていますが、まだ同定されていません。
[安藤]DNAについてはどうですか。
[黒木]結合するということだけしか、調べていません。
[堀川]結局、in vitroの発癌では再現性のある系そのものが確立されていませんね。
[黒木]矢張り新しいシステムを開発する必要があります。

《勝田報告》
 A)ラッテ肝癌AH-7974細胞の放出する毒性代謝物質について:
 これまで、AH-7974を4日間培養したあとの培地を、透析膜を通し、その低分子部分をSehadex G-25で分劃し、次にDowex 50(H+)で分劃してきたが、どうも再現性に乏しく、出てくるピークの位置が変ったり、毒性部分の分劃が変ったりで困っていたが、今回はDowex 50のelutionの方法を変えて、連続段階ではなく、はじめに水でeluteし、次に4NのNH4OHでeluteするように改めたところ、非常に再現性が高くなった。これでようやく次のStepに入れるというものである。
 (分劃図を呈示)分劃は3回行ったものが、全く酷似した溶出曲線が得られたので、これでやれやれと、安心したところである。
 分劃I、II、III、IV、と大別してその毒性をしらべたが、このときは各分劃間での量は一定にせず得られた量に比例して培地に添加した。すなわち、Iは0.15mg/ml、IIは0.5mg/ml、IIIは1.6mg/ml、IVは0.2mg/mlであった。結果は分劃IIIに毒性活性(±)、IVに(+)であった。
第2回目の実験では、第III分劃のところがいくつものピークにきれいに分れたので、IIIをIII-1、III-2に分けて試験した。この実験ではいずれの分劃も0.2mg/mlに統一した。
 結果は(写真を呈示)第III-2分劃及び第IV分劃に著明な毒性が認められた。
 なお、これらの分劃の非活性を、増殖50%阻害を指標にして、乾燥重量/培地量で計算してみると、培地filtrate20%〜40%は2mg〜4mg/ml、Sephadex分劃Bは2.5mg〜5mg/ml、Dowex分劃III-2 or IVは0.2mg以下/mlという概算値になった。
 B)初代培養による発癌実験:
 これまでは幼若ラット肝の増殖系を用いて癌化させてきたが、動物では成体の方が癌化する率が大きい筈である。そこで生後1月♀ラッテ(JAR-1系)を用い、肝の部分切除をおこない、培養内で次の3種の薬剤を投与してみた。i)DAB:1μg/ml、ii)4NQO:10-7乗M、iii)DEN:10μg/mlでいずれも4日間処理し、回転培養をおこなっている。現在までに約1カ月経過したが、未だに細胞増殖は開始されていない。
 C)RLC-10株細胞による発癌実験:
 この株には自然発癌した系やしない系や、いろいろの系ができているが、ここで用いたのはtakeされない系の内のRLC-10-4である。
 1971-6-29に3.3x10-6乗Mの4NQOで30分間処理し、以後隔時的に細胞電気泳動、軟寒天培地内培養、復元試験などを併行的にしらべている。電気泳動試験の結果は山田班員から報告されるであろうが、軟寒天はこれまで2回、1971-7-5、1971-7-26にシャーレ当り50,000コでまいたがcolonyを作らなかった。復元試験は、1971-8-14にラッテ当り500万個接種した。対照は0/2、4NQO処理のは2匹中1匹に腹水のたまっていることが判った。接種後約1カ月である。なお以後の経過を観察中。

 :質疑応答:
[黒木]毒性物質の判定を形態変化だけに頼るのでは、不充分ではありませんか。
[勝田]今まで再現性のある分劃が決まらなかったので、一番簡単な方法でスクリーニングしてきたのです。それに充分な実験計画を立てられる程収量がないのです。
[佐藤茂]その物質の分子量は2,000位ですね。とするとポアサイズ10,000のダイアフローの濾過で活性は充分濾液に出ていますか。
[勝田]濾過前と濾過後で活性が変わらないというデータを持っています。
[乾 ]分劃III-2とIVとは同じ物質ですか。
[勝田]今のところ未同定です。
[黒木]熱にはどうですか。高圧はかけられますか。
[勝田]60℃、100℃の加熱には活性が落ちないというデータは持っていますが、高圧はやってみませんでしたね。
[藤井]この物質は、正常細胞は全く出していませんか。
[勝田]今の所、出しているとしても確認できる程の量ではありません。
[佐藤二]発癌実験の方についてですが、私も何時までも乳児を使って実験していては仕方がないという意見です。アダルトの肝を使いたいのですが、矢張り増殖がみられませんね。乳児とアダルトではDABの代謝も違うのではないでしょうか。発癌性のない例えばABなどを或る期間喰わせたラッテの肝なども培養してみようかと思っています。アダルトでも動物のレベルで少し変化させておけば、培養できるのではないかと考えています。
[乾 ]私の研究室のデータに、ラッテの生後1週から経週的に肝細胞の分裂頻度を調べたものがあります。それによると生後7週が一番分裂頻度が高いのです。そしてその7週からDABを与え始めるとDAB給餌後2〜3週に1時的に分裂頻度が上がります。その時期を培養に使ってみるのはどうでしょうか。
[黒木]しかし、Dr.サンフォードのように自然悪性化については乳児よりアダルトの方が高いという人もいますよ。そうでないというデータもありますが・・・。
[勝田]この発癌実験については、もう少し気長に観察してみようと思っています。
毒性物質の方は、やっとこれから物の同定にかかれる訳です。ペーパークロマトや電気泳動もやっておかねばなりませんし、DNA合成、RNA合成、蛋白合成の阻害をみる取り込み実験も予定しています。

《佐藤・難波報告》
 N-42.PC-2(コントロール)PCDT-2(DABにより悪性化)系細胞の培地内DABの代謝パターンの比較
 DABで培養内で悪性化した肝細胞(月報7106に報告)のDAB代謝バターンは、対照細胞のそれに比べ、どのように変化しているかは、興味あるところである。その為には、DABの代謝過程、及び、終末物質の検索が重要であるが、現在のところ方法論的にどうしていいか判らない。
 そこで、一応DABを細胞に与えた場合、培地内のDABは経時的にどのように変化してゆくか、光電比色法で調べてみた。細胞に投与したDABは10%BS+MEMの培地内に溶かされており、この培地を細胞(TD40にほぼconfluentに生えた時、即ち約500万個cells/TD40)投与後、24hr.48hr.後の培地内のDABの変化をみた。(図を呈示)
 その結果現在までのところ、(1)対照細胞に較べDABにより悪性化した細胞に特異的なピークはみられなかった。(2)また、両者の細胞によって消費される培地内のDAB量にも差がみられなかった。即ち、DABの吸収のあるOD408mmのピークは両者で、同程度であった。
 N-43.PC-2(コントロール)、PCDT-2(DABによる悪性化)系の細胞の培地内DAB消費能
 DAB非処理、培養細胞とDABに処理(53日)により悪性化した細胞との培地内DAB消費能を比較した。実験は、2系統行った。
 第一の実験は、細胞が対数増殖期にあるとき、第二の実験は、細胞がconfluentになって増殖が止まっている時期、の2コの系でDAB消費能を検討した。DAB培地は、10〜20μg/ml DABを含む20%BS+MEMを使用した。結果は、対数増殖期(DAB投与、3日間)では、PC-2:52μgx10-6乗/細胞生活単位、PCDT-2:44μgx10-6乗/細胞生活単位。増殖静止期24hrでは、PC-2:87%、PCDT-2:97%。増殖静止期48hrでは、PC-2:99%、PCDT-2:100%であった。以上のことから、DABで変異した細胞に、DAB消費能が低下していない。
 N-44.ConcanavalinA(Con.A)は、DABで培養内で悪性化した細胞の増殖を特異的に抑制するか。
 月報7102に、4NQOで変異した細胞に対する、Con.Aの細胞の増殖に対する影響を報告した。その時の結果は、4NQOの非処理細胞に較べ、4NQOの変異細胞の増殖は、Con.Aによって有意な抑制はみられなかった。
 今回の実験方法は、SigmaのJack beanから抽出したCon.Aを500μg/ml Eagle's MEMに溶き、細胞をまき込み後2日目に、培地を捨て、上記Con.A溶液で1、2、4、6hr 37℃細胞処理後、20%BS+MEMに培地をかえ、更に続け2日間培養した実験系と、Con.Aの濃度を500、250、125、62μg/mlに段階稀釋して、6hr 37℃処理した実験系とを行った。その結果は(図を呈示)、いずれの実験系に於ても、DABで悪性化した細胞の増殖が対照細胞のそれに比べ、有意に抑制されることはなかった。

 :質疑応答:
DAB関係について
[黒木]この実験ではアゾ結合の切れ方だけをみている事になって、DAB発癌とはあまり関係がないのではありませんか。培地にトロールを入れて振って水溶性のものとトロールでとれるものとを分けて吸光度をみれば差がでてくるのではありませんか。
[難波]やってみます。
[安藤]細胞に結合しているものについては、変異細胞の方はみていないのですか。
[難波]これから調べるつもりです。
[堀川]こういう実験でin vivoで起こっている事と、in vitroでの現象を結びつけて考えるのは難しいですね。
[佐藤二]DABの代謝と、結合蛋白についてとを分けて調べられる系がほしいのです。
[安藤]生体側の解毒機能を働かせないで、発癌させるというDABがあるとよいですね。
[黒木]オートラジオグラフィで捕まらないというのは、どういう事でしょうか。
[佐藤二]どうしてでしょうか。オートラジオグラフィで正常細胞と変異細胞の間に結合の差があるかどうかみようとしたのですが・・・。
[勝田]うまく行っても結論は出ないと思います。私の5年前発表した仕事で、変異細胞の中にも、DABを代謝して死ぬ系、代謝するが死なない系、代謝しないで死ぬもの、代謝せず死にもしないもの、と色々な態度の系がある事が判っているのですから。
[黒木]色が消えるかどうかより、矢張り蛋白への結合でみるべきですね。それから非活性の低いものを使う時は、液体シンチレーションを使えばよいですね。
Concanavalin Aの実験について
[山田]Con.Aで癌細胞だけが凝集するという事、細胞膜表面の構造から考えて、そうくっきりと癌だけが凝集し、正常細胞はしないとは信じられませんね。
[藤井]αフィトグロブリンについてデータがありますか。
[難波]それもやってみようと思っています。

《堀川報告》
 HeLaS3細胞をMNNGで処理し、つづいて100ergs/平方mmのUV照射、さらにBUdRを含む培地中で培養した後、光を当てるという一連の処理を繰り返すことによってS-1M細胞(1回処理群)、S-2M細胞(2回処理群)と名づけるUV感受性細胞が分離されたことについては以前に報告したが、今回はその後に得られたこれらのUV感受性細胞の特性について報告する。
 HeLaS3原株細胞のUV照射に対するLD50が96ergs/平方mmであるのに対し、S-1M細胞、S-2M細胞のLD50はそれぞれ50ergs/平方mm、30ergs/平方mmであることからして、これらのUV感受性細胞はUV照射に対して著しい感受性を増大したことが分かる。一方X線照射に対する三者の感受性はどうかというと(図を呈示)、3者の間には何らかの差異は認められないで、HeLaS3細胞もUV感受性細胞もほぼ同等のX繊感受性を示す。つまり、このことはUV感受性を支配する機構とX線のそれとは無関係であることを示唆している。
 またUV照射によってHeLaS3細胞あるいはS-1M、S-2M細胞内のDNA中に誘起されるTT(thimine dimer)の量には殆ど差違が認められないが、これらTTの除去能に於いて(図を呈示)大きな差違が認められる。つまりUV照射後、6〜8時間のincubationでHeLaS3のDNA中に誘起されたTTの約50%は除去されるが、S-1M細胞、S-2M細胞では約9%しか除去されないことが分かった。
 こうした結果は、我々の分離したUV感受性株は、HeLaS3原株細胞にくらべてUV照射によって誘起されたTTの除去能がすごく低下した細胞であることを示すものであり、同時に細胞間のUV感受性差はTTの除去能の差異に依存していると思われる。
 尚お、その他UV感受性細胞の特性としてまず染色体数は原株細胞にくらべてそれ程大きな変化はなく(S-1M細胞に関する限り。S-2Mについては現在検討中)、ただchromosome distributionの幅が幾分狭くなり或る程度のクローン化が行われているようである。また細胞増殖に関してはHeLaS3原株細胞のdoubling timeが、20.2hursであるのに対して、S-1M、S-2M細胞のそれは、それぞれ28.8hoursおよび24.6hoursである。なお、こうして得られたUV感受性細胞がヒト遺伝病Xeroderma pigmentosumの患者から得た細胞と同様のDNA障害修復機構欠損株であるか否かについては目下検索中である。

 :質疑応答:
[難波]そのクロンの安定性はどうですか。そして染色体数は・・・。
[堀川]今の所安定しています。染色体のモードは大体62本位で原株と殆ど変わりませんが、distributionは狭くなっています。
[黒木]endonuclease、exonuclease活性の酵素はありますか。
[堀川]直接測定はしていませんが、そのどちらかの活性が変異株では低下しているかも知れないとは考えています。
[安藤]alkaliのgradientでDNAの大きさを調べましたか。
[堀川]まだみていません。
[安村]ergをきっちり測れる紫外線発生装置がありますか。
[堀川]モノクロームのもので、ergの計算がきちんと出来るようになっています。
[安村]始めにかける紫外線の線量をもう少し落とせば、変異株のとれる率がもっと高くなるような気がしますね。
[堀川]紫外線、MNNG、BUdR、というファクターの組合わせについては、まだ色々考える余地はあると思いますが、とにかくこの条件で感受性株が拾えたものですから。
[安村]紫外線をかける事で感受性細胞を殺してはいないでしょうか。
[堀川]それはあるかも知れません。今L株で実験をくり返していますが、LはMNNG、紫外線どちらにも比較的強い株のせいか、変異コロニー出現率はずっと高いのです。
[黒木]コロニーを作らせるのに2カ月もかかるのですか。
[堀川]変異株がとれるか、とれないかが問題なものですから、充分増殖するまで長くおきました。
[安藤]doubling timeは変わっていますか。
[堀川]原株が20.2hr、S-1Mは28.8hr、S-2Mは24.6hrとなっています。
[黒木]MNNGの処理で、変異の性質がfixする為には分裂することが必要なのですから、その処理時間は24hrより48hr位の方が変異の効率がよくなると思いますが。それからXeroderma pigmentosumの患者は皮膚だけが感受性なのですか。例えば肝細胞などは・・・。
[堀川]それは調べられていないでしょう。

《高木報告》
1.混合移植実験
 1)homologousな移植系(RG-18+RFL細胞→WKAラット)
 (表を呈示)腫瘍発現率、腫瘍発現までの日数などからみた場合、RFL細胞を混ずることによりRG-18細胞の腫瘍形成能は促進されていると解釈してよいと思う。このhomologousな実験群ではRG-18細胞のみのいずれの細胞数接種群でも生じた腫瘍のregressが高率にみられた。
 2)isologousな移植率(RRLC-11+RFL細胞→WKAラット)
 その後の結果は(表を呈示)、RRLC-11細胞1万個、千個接種群はずべてに腫瘍の発現をみた。RRLC-11細胞 100コと50コで、RFL細胞を混ずることにより腫瘍形成能が抑制されているようにも思われるが、有意着とは考えられず、影響はないと解釈すべきであろう。
 2.混合colony形成実験(in vitro)
 上記の混合移植実験と平行して、これら細胞を混じてpetri dishにまいた場合、どのような結果がえられるか試みた。まずRRLC-11細胞400コとRFL細胞1,000コとを混じてまいたところ、2週後に一部のRFL細胞のcolonyが変性におちいっているのを見出した。そこでさきにRFL細胞からcolony形成をくりかえしてえたclone C-3とC-5細胞を用い、これら200コとRRLC細胞200コを混じてまいたところC-3細胞のcolonyはすべて変性をおこしたが、C-5細胞のcolonyは変性をおこさずC-5とRRLC-11の両細胞colonyが共存している像がみられた。一方RG-18細胞は200コまいてもcolony形成はみられなかったが、RFL C-5細胞200コを共にまくと30コ前後のRG-18細胞colonyの形成がみられた。培地はMEM+10%CSで、さらに検討中である。

 :質疑応答:
[難波]C-3のコロニーを作らせておいて、RRLC-11を添加すると、どの位の期間でC-3が死ぬか調べてありますか。またウィルスの心配はありませんか。
[高木]どの位の期間で死ぬかは今実験中です。ウィルスについては私も心配で、今電顕で調べて貰っています。ところで腫瘍細胞が出す毒性物質についてのデータを出している人は他にあるでしょうか。
[勝田]生かした状態の癌細胞が出す毒性物質というのは、私の実験が初めてで、他にはないと思います。大抵は癌の組織をすりつぶして抽出していますね。

《藤井報告》
 前号の月報に報告された実験について改めて詳細に説明がなされた。

 :質疑応答:
[高岡]これらの実験のカウントの絶対数で、各実験を比較する事はできませんか。
[藤井]実験毎に少しづつ条件が違うのて、或実験でのカウント数が、次の実験では同じ群が同じ数値にならないという事があります。各実験毎に比較して傾向をみています。
[勝田]血清は非働化して使っているのですか。
[藤井]ラッテの場合は、新鮮なラッテ血清を使っています。
[梅田]担癌のリンパ球ではどうですか。
[藤井]これから実験する予定です。
[梅田]そこに興味がありますね。
[佐藤二]培養液中の異種蛋白に対する反応は出ませんか。
[藤井]同じ培養液を使った対照細胞に反応が出ませんから、心配ないと思います。

《山田報告》
 引続き4NQO処理後のラット肝細胞RLC-10-C、#2の電気泳動的変化ならびに、その抗原性の変化を追求して居ますが、今回はこれまでの抗原性と最近の成績と合わせてまとめて書いてみたいと思います。
 電気泳動法による、細胞表面の抗原抗体反応の定量的検出方法については既に書きましたが、これを要約すると、細胞表面の抗原と結合した抗体に加へて補体の作用により起される細胞表面の顕微鏡以下の破壊(micro-dissection)を、カルシウムイオンの表面への吸着性の変化として、定量的に測定するわけです。したがって常にaliquotの抗血清を56℃30分熱処理して非活化したものを対照として用い、これに対し活性の血清と反応することにより起る泳動度の低下をカルシウムを含むメヂウム内で測定する様に実験を行っています。(以下、図と表を呈示)
 この方法は既に完全な定量的測定法であることを確認して居ますが、まずin vivoに維持されている細胞と、それを培養してin vitroで増殖した状態の細胞との反応の違いをラット腹水肝癌AH62Fについて検索しました。結果は、培養AH62F 1,000万個を腹腔に(ドンリュウラット)移植した後、18日目の抗血清を0.5ml、細胞200万個、反応メヂウム(pH7.0 Tris塩酸緩衝液Ca、Na、Mg、K微量含む)と混合して37℃30分反応させた後に10mMのカルシウムを含むヴェロナール緩衝液内で測定した結果、明らかに培養状態では抗血清の反応が強く、5倍以上も細胞の泳動度の低下を認めました。この同種抗血清の反応を目安として4NQO処理細胞に対する抗血清の反応を検査してみました。
 4NQOによる変異株の抗原性の変化:
 反応条件及び抗血清製作の条件は従来と同一として検査すると、まず4NQO処理した今回のRLC-10#2の株の泳動度の低下は、そのoriginalのRLC-10#2にくらべて約1/3程度に減少しました(表を呈示)。これに対し前回検索した無蛋白培地培養したなぎさ変異株JTC-25・P3の反応は著しく高度で、しかも変異株はそれよりやや減少しています。すなわち、使用する細胞系により宿主の反応性が異なり(細胞の宿主に対する抗原性の差)しかもこれが4NQO処理により変異すると、本来の抗原性も変化することが理解されます。
 次ぎに4NQOで処理した株をtarget Cellとして移植して得た抗血清について検索しました(表を呈示)。4NQO処理して得た変異細胞の抗原性はむしろoriginal Cellのそれにくらべて弱く、特に4NQOによりin vitroで変異し、泳動的にも明らかに悪性型であり、また宿主へ復元してtumorigenicityの証明されたRLT-1細胞では、この条件では殆んど抗原性の宿主との違いを認めることが出来ないことがわかりました。
 今回の4NQO処理したRLC-10-#2に対する抗血清ではそのoriginal Cellの反応にくらべてかなり強く、新しい抗原性の出現が考へられました。同様のことが、JTC-25・P3株の4NQO処理した細胞においても認められました。
 変異した細胞が、その原株より宿主への反応が弱いと云うことは一見理解しがたいと思いますが、なほ他の変異細胞について種々検索した後に結論を出したいと思います。
 いづれにしろin vitroでの悪性化の証明が、そのisologousの宿主動物へ復元移植してそのtumorigenicityを知ることによってのみ得られている現在、in vitroにおける抗原性の変化を知らないで、今後のCarcinogenesis in vitroの研究における発展はないと思う様になりました。
 f(phenotypical change・antigenic change)=tumorigenicityであることを漠然たる理解でなしに、具体的に解析を始めるべきであると思うわけです。
  :質疑応答:
[難波]なぎさ変異の細胞の様にあまりに変異しすぎてtakeされなくなった系でも、又発癌剤の処理を加えて、抗原性を変えてもとの生体にtakeされるようになるでしょうか。
[山田]腫瘍性と抗原性とは別物だと考えています。Cule-TCのように抗原性は弱くても腫瘍性はちゃんとあるという系もあるのですから。

《安藤報告》
 "連結蛋白質"の分離の試み(2)
 月報No.7109に報告した表記の実験の記載の不備をおぎない、今後の実験計画を立てて御批判をいただきたい。
 先ずnon-essential amino acidでラベルする場合、L・P3をMEMでprecultureしてからC14-serine、-alanine、-glutamic acidで2日間培養した。essential amino acidでラベルする場合には(図を呈示)MEMにnonessential amino acidを7種、nucleoside5種加えた培地E2Nで3日培養し、phe、tyrを抜いたE2Nで10時間starveさせ1/20量のphe、tyrを加えた培地中でC14-phe、tyrを加え更に3日間培養した。これ等の細胞を常法通り中性蔗糖密度勾配遠心を行った結果が先月号の図であった。
 今後の方針としては、ラベルの条件は今回のessential amino acidの場合にならい、もう少しscale upして行いたい。第1にアガロースゲルカラムを使用してDNAとsoluble proteinと分離する方法、第2に調整的Cscl遠心を行う事によりDNAと他の成分と分離する。これ等のいずれかの方法で連結蛋白の大量調整が可能であると考え実験中。

 :質疑応答:
[黒木]ピークがポイント1つしかないというのは一寸不安ですね。何点かをつないてピークになるような条件にできませんか。
[堀川]私の同様な実験ではピークは何点かになっています。そして私の場合リジンでみていますが、矢張りDNAのピークにアミノ酸が入ることが判っています。単なる結合ではなく、DNAが作られる時に何か僅かな物が組み込まれているという感じですね。

《梅田報告》
 (I)AAFとそのproximate carcinogensをHeLa細胞及びハムスター胎児細胞に投与して惹起される形態的変化について報告した(月報7105)。即ちAAFとそのproximateの形であるN-OH-AAF、更にproximateであるN-AcO-AAFを投与した。AAFでは細胞が萎縮ぎみでspindle-shapedになり核も濃染する。N-OH-AAF、N-AcO-AAF投与では細胞は大型化し核質は一様に微細になる。この際proximate carcinogensでは核小体がやや小さ目で丸みを帯びていたがそれ程小さくなっていなかった。尚Nの位置でなく7の位置にhydroxylationをうけた7-OH-AAFではAAFと同じ様な形態を示した。
 (II)今回はラット肝臓培養に投与してみたのでその結果を報告する。培養は今迄度々報告してきたと同じ生後5日以内のJAR2ラット肝のmonolayer primary cultureである。
 AAF投与により10-3.5乗Mで肝実質細胞は強く障害され脂肪編成を起す。間葉系の細胞は核は幾分大きくなり、核質も明る気味のか多く、核小体も小さ目である。7-OH-AAF 10-3.5乗M投与ではあまり変化が認められない。
N-OH-AAFは10-4.0乗M投与で肝実質細胞の変性壊死、間葉系細胞核の大型化、核質淡明化、核小体の縮小化が著明である。N-AcO-AAF投与では10-4.5乗Mで上と同じ様な変化が更に強く惹起された。
 (III)肝培養細胞に投与した時は、HeLa或はハムスター胎児培養細胞に投与した時とAAFに対する反応性がやや異っていたわけである。その理由として肝培養細胞にはAAFを一部ではあろうがOH化してN-OH-AAFにする酵素を持つが、HeLa、ハムスター胎児培養細胞は持たないのであろうと考えられる。この考え方を証明するために培地中のAAFの変化をこれから検索したいと考えている。
 (IV)ここで気になるのは斎藤守教授の下でいろいろのカビ毒の細胞毒性の検索を続けてきていると、非常に面白いカビ毒に遭遇する。その一つに細胞を大きくし核も大型化、核質微細一様に点状〜網目状、核小体は極端に縮少化させるものがいくつか見つかった(HeLa細胞に対して)。そのうちのチーズのカビpenicillium roquefortiの代謝産物をHeLa以外の細胞に投与してみた。ところがハムスター胎児培養細胞に投与しても、ラット肝培養細胞に投与しても、核、核小体の変化は認められなかった。
 (V)以上をN-OH-AAFの場合と比較してみると、HeLa、ハムスター胎児培養細胞では核小体が円形化していたが、それ程縮少化していなかったのに対し、肝培養細胞では核小体の縮少化が非常に著明であった。P.roqueforti代謝産物の場合はこれと異なり、HeLaで核小体が極端に縮少化し、ハムスター胎児細胞、肝培養細胞ではその様な現象はみられなかった。因みにaflatoxinB1の投与ではN-OH-AAF投与と同じ様な像、即ちHeLaで核小体の縮少化は著明でなく、肝培養細胞で著明な核小体縮少化がみられている。
 核小体の縮少化と、核質の淡明化の現象がどの様なmechanismで起ってくるのか興味がある。(表を呈示)

 :質疑応答:
[堀川]アフラトキシンで処理した細胞は核小体が大きくなっていますが、分裂増殖はしているのですか。
[梅田]アフラトキシン10μg/mlで処理したものは、初期には分裂像がみられますが、培養を長くつづけると増殖しなくなります。
[吉田]核小体が多くなったとか、小さくなったとかいうことは、本当に核小体そのものの大きさの変化ですか。染色性の問題だとは考えられませんか。
[梅田]私自身はデータを持っていないのですが、電顕レベルでみられる変化と染色してみた時の変化が、かなり一致しているという報告もあります。
[吉田]処理後どの位たつと変化が出てきますか。
[梅田]処理する物質によてまちまちです。すぐに変化するものもありますし、4日もして変化が出てくるものもあります。
[吉田]DNA合成の阻害か、蛋白合成の阻害かというようなことも調べていますか。
[梅田]取り込み実験も平行してやっています。

《佐藤茂報告》
 I.マウス脳腫瘍細胞の組織培養下での変化
 マウスの皮下に継代移植されていた脳腫瘍細胞を組織培養に移してから約4カ月になる。同じ培養条件下で9回の継代をくり返したが形態的な変化は見られていない。又アルドラーゼのアイソザイムパターンに於ても、培養初期の頃と変化はなく筋型(A型)、脳型(C型)及び両者のハイブリッド分子が見られる。又100万個の培養細胞をマウス皮下に戻し移植したところすべてのマウスで腫瘍形成が見られた。
 種々の染色法や脳内への戻し移植による形態学的な細胞の同定を行う予定である。又生化学的な方法としてアルドラーゼパターン以外に神経膠細胞に特異的と言われるS-100蛋白質の検出も試みているが、皮下継代腫瘍にはこの蛋白質の存在する事が抗原抗体反応により確かめられた。
 II.S-100蛋白質の精製と抗体の作製
 1965年Moore等によって発見された脳に特異的な酸性蛋白質、S-100は、神経膠細胞に存在する事が明らかとなり、これに対する抗体は多くの動物間で交叉反応を示し、神経原性の細胞の同定には有力な指標となると思われる。細胞培養されたマウスの脳腫瘍細胞の同定及び種々の培養条件下でのS-100の消長等を調べる為、まずウシの脳よりのS-100の精製を試みた。
 ウシ脳のホモジネートを10,000回転30分間遠心した上清の80%飽和(pH7.2)から100%飽和(pH4.2)硫安分劃をとり、これをデンプンブロックを用いて電気泳動する事により、電気泳動的又免疫学的にS-100と同定される蛋白分劃を得た。以後、DEAE-Sephadexによるカラムクロマトグラフィーで精製しウサギに抗体を作らせる予定である。

 :質疑応答:
[勝田]S-100蛋白質の抗体が沢山作れたら、色んな培養細胞を調べてみて下さい。
[安藤]S-100という名前の由来は・・・。
[佐藤茂]100%の硫安にsolubleのSをとってS-100です。
[黒木]分子量はどの位ですか。
[佐藤茂]大体30,000位です。しかしこの蛋白は、シングルではなくさらに数本のバンドに分かれ、それぞれ少しづつ違います。
[難波]種特異性はないのですか。
[佐藤茂]牛のS-100の抗体を兎に作らせますと、その抗血清は鶏にまで反応します。脳の中にしかない蛋白なので、種特異性があまりなくても抗体ができるのでしょうね。

《吉田報告》
 最近の染色体の研究の動向:
 最近の動向として、分裂期の染色体を特殊な染色、又は処理をすることによって、その構成物質を染め分けようとしている。具体的な方法としては大別して3種ある。
 1.キナクリンマスタードの溶液で10分間位処理して蛍光顕微鏡でみる。
2.高温処理、固定後60℃の溶液で処理して普通に染色する。
 3.低温処理、0℃に12〜24r.放置してから標本を作る。(この方法は植物ではよく用いられて居る。こうして作った標本は部分的に染色性がおちている)
 これらの方法で染めた染色体はバンドができて、1.では部分的に蛍光を発する。2.3.では部分的に染色性に違いが生じる。それらの違いが染色体によってそれぞれ特異的なので、どの染色体が性染色体か、又どれとどれがペアかを決定するのに便利である。

《下条報告》
 Con.Aについて:
最近、Con.Aを使って実験をしていて困ったことがあった。Ni63ラベルのCon.Aを使って細胞との結合量を定量的に出そうとしたが、それがCon.Aの凝集のデータと合わない。技術的に何か問題があるのかと困っていたら、最近次のような報告が出た。「H3、I125でラベルしたCon.Aを使って調べてみるとCon.Aの細胞との結合量には差がないのに凝集は細胞によって異なった」、「仙台ウィルスには動物の赤血球を凝集するものとしないものとあるが、凝集する、しないと関係なく、細胞へのウィルスの吸着量は同じであった」。これらの報告とも合わせて考えて"Con.Aが細胞膜に結合するので細胞が凝集する"という説はどうやらウソだと思われる。

【勝田班月報:7111:4NQOによる連結蛋白切断の再結合】
 A)ラッテ純系について:
 当研究室では約15年前より春日部系の日本産白ラッテより純系ラッテを樹立することを計画し、1963年には皮膚の交換移植試験で全例がtakeされ、今日ではF40に至っている。この系はJAR-1(Japaneas Albino Rat)と命名されているが、唯一の難点として、産児数及び産児回数が少ないので、実験の進捗がそれに支配されてしまうことである。(表を呈示)そこで今度は産児数の多い純系をさらに作ろうとして、JAR-1のF27の♀と春日部の雑系ラッテの♂とをかけ合わせ、兄妹交配を重ね、今夏遂にF20に達した。この系は産児数も回数も多く、実験に使用するのに極めて適している。最高産児数は18匹である。F20で皮膚の交換移植をおこなったが、これは全例がtakeされた。今後の研究に大いに貢献すると思っている。
 B)JAR-2ラッテを用いての培養内発癌実験:
 上記のようにJAR-2系が確立されたので、早速それを用いて実験にとりかかることにし、1971-10-3;F21生後10日の♂から、肝細胞及び皮下センイ芽細胞の初代培養をroller tube法で開始した。
 C)JAR-2ラッテを用いての動物内化学発癌:
 JAR-2を用い動物継代可能の化学発癌腫瘍を早急に作りたいと目下準備を進めている。
 D)軟寒天培地法によるJTC-15及びJTC-16株よりのCloning:
 (表を呈示)軟寒天法を用い、JTC-15株(ラッテ腹水肝癌AH-66由来)及びJTC-16株(同AH-7974)より6及び5clonesを拾った。おそらく寒天温度が高すぎたためPEの低かった例もあり、目下再実験を計画している。また以前にJTC-15よりとった7クローンには移植性が見出されたので、今回のclonesについても移植試験を計画している。
 JTC-16株のhexokinase活性(isozyme中のIII型)については佐藤茂秋氏と共同で研究を進めているところで、その説明については同氏の記載にゆずる。

《佐藤茂秋報告》
 吉田腹水肝癌AH-7974の細胞は、ラットの腹水型として継代されている時は、ヘキソキナーゼのI、II、III型アイソザイムを持ち、その内II型活性が高い。この組織培養系(JTC-16)はI、II型ヘキソキナーゼのみを持ちIII型は見られないが、この細胞をラット腹腔に戻し移植すると、I、II型に加え、III型が出現する。戻し移植して腹水型となった細胞を再び組織培養し、そのヘキソキナーゼアイソザイムを経時的に調べると培養後5週間位までIII型は保持されているが、8週、23週目ではIII型は非常に弱くなった。この細胞について培養後約11週目に、軟寒天上でクローニングを行い5つのクローンを得た。その各々のクローンについてヘキソキナーゼを調べたところ、3つのクローンはI、II型のみを示したが、他の2つはI、II型の他にわずかながらIII型を持っていた。

 :質疑応答:
[佐藤茂]解明するための方法の一つとしてdiffusion chamberを使ってみたいと思って計画しています。ラッテへ復元した時出てくるIII型が宿主由来の細胞からくるものではないかどうか、ということと腹腔内でのIII型の出現を経時的に追ってみたい訳です。
[安村]培養系にはなくて、再培養系にはある。それはよいのですが、拾ったクロンの中にもっとはっきり+のものがないと困りますね。クロンを拾った時期がおそかったのではありませんか。
[高岡]クロンはIII型が+の時期の再培養系から拾いました。拾ってから酵素を調べる間でには大分時間がたっていますが。それからIII型が完全に−という系をラッテへ復元してやはり+になるかという事も問題だと思います。今まで−が+になった実験はクロンを用いていなかったので、単にポピュレーションchangeだろうと言われますから。
[山田]酵素を調べるために必要な細胞数はどの位ですか。
[佐藤茂]10の7乗です。
[山田]10の7乗の中にIII型を持った細胞が何%混じっていると、どの位の濃さのバンドになるかということは判っていますか。何だか1コの細胞を問題にするクロンを拾ったりしていながら、測定が10の7乗の細胞を要するのでは感度が違いすぎる気がしますね。
[吉田]酵素の測定法は・・・。
[佐藤茂]細胞をつぶして遠沈をかけ、上清を使っています。
[黒木]上清だけを調べているとすると、パーティクルに結合している酵素については調べられない訳ですね。
[佐藤茂]実験として液性の方がやりやすいので、先ず上清から始めました。しかしパーティクルにもまだ問題は残っていると思います。
[安村]動物継代している癌細胞の或酵素が培養系にもって行くと消失してしまう。そして動物へ戻すと又出てくる、という話は面白い材料ですが、よく考えてやらないと、結局in vitroとin vivoの違いとして片付けられてしまう恐れがあります。私も昔ホルモン産生細胞の実験で苦労したことがあります。その場合はクローニングを重ねる事によって産生能を維持できたのでpopulationのchangeの問題でしたが。このAH-7974の系ではIII型を持っているクロンが拾えていないのが困りますね。
[佐藤二]肝癌にもっと特異的な酵素を選んだ方がよくないでしょうか。
[佐藤茂]今の所、特にこれといった酵素が見つからないのです。
[安村]このJTC-16(AH-7974)という株は材料として不適ではないでしょうか。私もこの株で大分実験をやりましたが、どうも変異の幅の広い株で、やりにくかったですね。安定した結論が得られなくて閉口したウラメシイ株ですね。
[堀川]いや、発癌の機構を調べるには、そういう変異の多い分からない材料の方が適していますよ。
[山田]AH-7974は形態をみていても変異の幅が広いようですね。矢張りもう少し変異の幅が少ない方が実験はやりいいでしょうね。
[吉田]私の扱っているγグロブリン産生系の腫瘍もとても変異の幅の広い系ですが、それなりに面白いですよ。変異が多いといっても必ず或るパターンがあると思います。それを見つければいいのです。
[高岡]この系は染色体数もやたらに多くて、調べるのが大変です。
[黒木]こういう実験では染色体は調べなくてもよいでしょう。酵素だけ追えば。
[堀川]染色体の動きも平行して調べるのは又面白いと思います。
[佐藤二]動物の問題ですが、純系の条件は何でしょうか。
[吉田]先ず20代同腹交配をすることです。そして皮膚移植が可能なことでしょうね。
[藤井]皮膚移植でも♂から♀へ植えるとつかない事がありますね。Y染色体のせいでしょうか。それから200日以上して落ちる事もありますから、長期間観察する必要があります。選び方が悪いと26代でもつかなかった例があります。
[佐藤二]私の所の呑竜系は一応同腹交配していますが、染色体がハイブリッドです。

《佐藤二郎報告》
 10月30日に仙台で東北医学会例会があり、そこで培養ラッテ肝細胞のアゾ色素による発癌−その現況と問題点−と題して発表を行って来ました。その総括の一部をシェーマにしました。不完全なものと思いますが、討論の材料とします。(3つの表を呈示)(1)の表は横軸に培養日数、縦軸に培養による細胞の変化をとり、最高値でDonryu系ラッテ生後24時間乃至48時間の仔に移植するとTumorを形成する。培養細胞は培養開始後、200日前後で形態学的変化(Diploid cellの減少)をおこし、次第にその変化を増強して造腫瘍性を獲得する。現在までのDAB発癌実験ではSpontaneous malignant transformationが進行して動物にTakeする少し前の時期にin vitroでDABを使用するのが、動物Takeという指標で見る限り最も効果的である。その他の時期のアゾ色素使用では形態学的変化とか生物学的な変化などの指標では変化が認められるが、動物Takeという指標では変化が認められない。(2)表は肝臓をLD培地+20%BSで組織片培養すると肝実質細胞が撰択的に増殖的に増殖する。又炭酸ガス培養でコロニー性のdiploid肝実質細胞(?)が分離されるが、このような細胞とアゾ色素の感受性は未だ明確でない。したがって細胞を均一系にすればするほど感受性の問題を重視しなければなるまい。(3)はRLD-10肝細胞系において3'-Me-DAB添加により動物ラッテ(new born)に腹水性腫瘍をつくった。その腫瘍の再培養細胞をControlとし更に10μg/mlの3'-Me-DABを添加して動物(new born)におけるsurvival dayを比較した。survival dayは再添加によって短くなった。即ち腫瘍性が増殖したことを示す。(4)図は4NQOとアゾ色素の発癌機構の変化を示す。4NQOの場合には一定の濃度によって発癌のprocessがきざまれると、以後発癌剤を加へなくとも細胞の癌化が進んでTumorを復元によって生ずるようになる。アゾ色素の場合には発癌のprocessは連続的な蓄積によって生ずる。又細胞分裂だけでは発癌のprocessの進行はおこらない。

 :質疑応答:
[黒木]DABでの悪性化の場合、DAB処理を1回やる毎に腫瘍性が増すということのようですが、具体的なデータとして変異コロニーを数的にチェックなさったのでしょうか。
[佐藤二]そういう事はまだみてありません。その内に調べてみるつもりです。
[黒木]同じ肝細胞系を使ってコロニーレベルで、4NQOでは変異細胞のコロニー出現率が処理をくり返さなくても増えてゆくが、DABの場合は処理毎に増えてゆく、といったデータがあれば判りますが・・・。
[佐藤二]今考えていることは動物レベルで先ずDABによるアデノームを作って、それを培養に移します。そしてその系からクロンを拾って今度は培養内でDABを添加して悪性化させ、その経過をDAB無添加と比較しようと思っています。
[堀川]ターゲットセオリーの立場からみますと、4NQOもDABもターゲットは同じで弱い強いがあるというより、それぞれのターゲットが違うのではないかと考えられます。だとすると、4NQOとDABの両方の組合せで処理すると、もっと早く強く悪性化させられるのではないでしょうか。
[吉田]私もその点に興味をもっています。ターゲットが異なると、できたtumorに差がありますか。
[難波]全く同じものが出来るかどうか判りませんが、少なくとも同じクローンを使えば、4NQOでは肉腫が出来、DABでは肝癌が出来るというような事はありません。
[堀川]ターゲットが違うかどうかという事は、腫瘍性の獲得と腫瘍性の強さとについて比較してみればよいと思います。
[勝田]話としては大変面白いようですが、実験としては難しいですね。
[黒木]4NQOは毒性が強くて有効な濃度の幅が狭いから、実験がやりにくいですね。
[安村]悪性になってtakeされていたものが、つかなくなったというのは、どういう風に考えますか。
[堀川]遺伝的にはターゲットの修復だと考えられます。
[佐藤二]脱癌は今は悪性化のゆきすぎだという事になっているようです。
[吉田]悪性化のゆきすぎとは考えられませんね。戻るとは考えられますが。
[佐藤二]考えてもよいと思いますが。なぎさ細胞などもそうではないでしょうか。
[勝田]なぎさの場合は培養内で無方向に変異して抗原性までが変わってしまったので、もとの動物にtakeされなくなったのではないかと考えています。
[吉田]遺伝的には悪性を担う遺伝子が落ちて、動物につかなくなるという考え方は明快だと思います。
[安村]悪性度が増して生体が受け入れ難いような変なものが出来たとしたら、生体側の反応が起こって処分されてしまって、takeされないという結果になる事も考えられませんか。細胞レベルの証明だけでは癌の問題はとても解決しませんね。
[吉田]しかし今議論して居るのは細胞レベルの問題です。
[難波]4NQOを何回も処理して悪性化させた場合の実験で、処理5回でも一応動物にtakeされるようになるのですが、可移植性を維持できない。しかし20会処理をくり返すと矢張りtakeされ、且つその可移植性はずっと維持できるというデータを持っています。
[勝田]発癌剤の処理後takeされるまでに何故日数が必要かという問題はどうですか。
[吉田]染色体の中の遺伝子が1コ変わっただけで悪性化する場合は、すぐ変異するはずです。ショウジョウバエの場合などその1例で実に簡単に癌化します。哺乳動物ではきっと悪性化に関係する遺伝子が1コではないので、悪性化に時間がかかるのでしょう。
[高木]私の例では培養開始後、若い時期にNGを処理すると処理後悪性化までに長くかかり、培養日数がかなり長いものを処理すると処理後短い期間で悪性化した。つまり培養する事だけで癌化への変異が少しづつ進んでいるように考えられます。
[安藤]最初の障害が次々と変異をよぶとも考えられますね。DNAポリメラーゼに変異が起こるという事は、既に知られている事でもありますから。
[勝田]しかし、癌化は或るターゲットがやられるだけとは考えられませんね。同じ場所がやられるなら、同じ癌が出来てもよさそうなものでしょうが、同じDABで処理しても色んな腹水肝癌ができるのですから。
[吉田]それも原因か結果か難しいところですね。もっともっと数多く調べると何か最少公約数が判るのではないでしょうか。
[安村]先程話の出たショウジョウバエを使って発癌機構を調べれば簡単でしょうが、哺乳動物とは大分ちがうでしょうね。

《難波・佐藤報告》
 N-55 DABで悪性化した細胞の増殖及び細胞凝集に及ぼすConcanavalinAの影響
 月報7102、7110にConAの実験データを報告した。それらの報告では、4NQOで変異した細胞も、DABで変異した細胞も、その増殖は発癌剤未処理対照細胞の増殖と比較してConAによって特異的に抑制されなかった。
 今回、医科研癌細胞研究部よりConAの新しいLot(Calbiochem Lot 010229)を頂いたので、そのConAの、1)DAB未処理対照細胞とDAB変異細胞との増殖に及ぼす影響。2)両細胞に対するConAの細胞凝集能に及ぼす影響。3)ConA処理による細胞の形態的変化。を検討した。
 結果:
 1)ConAの細胞の増殖抑制作用は(表を呈示)、対照細胞と変異細胞との間に有意の差はなかった。(500μg/mlで6時間、37℃処理後、2日培養後の結果)
 2)凝集に及ぼす影響も、両者に差がなかった。ConA、wheat germ agglutinin、rathenium red(RR)、phytogemagglutininについても調べた(表を呈示)。多糖体の染色に利用するRRは、細胞膜に結合し、細胞凝集をおこす可能性がある。しかし、この実験では1mg/mlの濃度で凝集はみられなかった。
 ConAによる凝集は非常にきれいにおこる。(それぞれの写真を呈示)PBSに細胞を浮遊させたものでは、細胞の凝集はおこらない。500μg/ml、6hr、37℃処理後の所見、48時間後の変化は胞体内の空胞化が目立つがSudanIII染色で陰性であった。一部には脱核した細胞が認められる。
 N-56 ConAのDAB悪性変異細胞の動物移植性に及ぼす影響
 DABで培養内で悪性変化した細胞を動物に移植し、生じた腹水腫瘍の移植性に及ぼすConAの影響をみた。
 10の7乗コの腫瘍細胞を2mg/mlのConAで37℃30分処理後10の7乗宛動物の腹腔に移植し、その生存日数を比較した。その対照にはConAの溶媒PBSで同処理した細胞を用いた。
 実験結果は(図を呈示)両者とも差がなく、ConA処理細胞を接種された動物の平均生存日数も未処理細胞を接種されたそれも、ともに49日であった。

 :質疑応答:
[永井]悪性化していない対照群も凝集するのは何故でしょうか。
[難波]初代培養と株化した細胞では膜がもう変わっているのでしょう。
[永井]ConAによる凝集が癌と正常とで違いがあるという事が本当なのかどうか。或いはウィルスによる発癌の場合だけConAに親和性のある特定の構造をもったサイトが出来るという事なのか、といった事をもっとはっきりさせたいですね。
[黒木]凝集することに違いがあるのは当たり前で、結合量の方に問題があるのではないでしょうか。
[山田]処理直後の細胞の形態的変化は、みる所表面活性剤を作用させた時によく似ていますね。
[安藤]ウィルス発癌の場合もサイトの数的な違いで、質的な違いは判りませんね。
[勝田]とにかく凝集そのものが定量的でなく定性的ですからね。
[永井]そのせいか、出して居るデータはきれいでも、その研究室に行ってやらないと同じデータが出ないという妙な事もあるようですね。それから、核の抜けてしまった像がみられましたが、あれはどういう事でしょうか。
[難波]判りません。空胞が出来るのも何故か考えてみています。

《高木報告》
 1.混合移植実験
 1)isologousな移植系
 これまでのdataをまとめてならべかえてみた(図を呈示)。腫瘍細胞であるRRLC-11細胞1,000〜10にRFL細胞100万個、1,000個混じて移植した場合のTPD50はそれぞれ16、6及び10で、これらの間に有意の差はみられなかった。すなわちRRLC-11細胞は腫瘍形成能が強いせいがあるかも知れないが、非腫瘍細胞たるRFL細胞を混ずることにより造腫瘍性に影響はみられなかった。LD50についてみるとRFL細胞100万個混じたときやや促進、1,000個では抑制の傾向がみられた。
 2)homologousな移植系
 移植するラットの系に対してhomologousなoriginである腫瘍細胞RG-18の1,000〜10にRFL細胞100万個、1,000個混じた場合、および混じないで腫瘍細胞のみ移植した場合のTPD50は、それぞれ100、400および250で、RFL細胞100万個混ずるとRG-18細胞の造腫瘍性に促進の傾向が、1,000個混じた場合には抑制の傾向がみられた。RFL細胞を100万個混じた際の造腫瘍性促進についてはRG-18が移植されたhomologousな宿主に定着して増殖をはじめる間、RFL細胞が生体の免疫学的な拒絶反応からこれを守るか、あるいはfeederとしての役目を果す可能性を示すと思われる。しかしRFL細胞を1,000個混じたときむしろ造腫瘍性を抑制する傾向がみられることについては解釈が困難である。
 LD50についてもRFL 1,000個混じたときやや抑制の傾向がみられる。
 2.腫瘍細胞と正常細胞との培養内における相互作用
 先の班会議でRRLC-11さいぼうとRFL細胞とを混合して培養内でコロニーを形成せしめるとRFL細胞のコロニーの一部に変性がおこり、さらにRFL細胞よりコロニー形成をくり返してえた純化された亜株とRRLC-11細胞とを混合して培養すると、細胞の種類によりRRLC-11細胞との共存における反応の仕方がことなり、RFLC-3細胞は殆ど完全に変性をおこすことを報じた。今回はRFLC-3を示標としてRRLC-11が培地中に放出する細胞毒性を示す物質につき、いささか検討を加えてみた。
 まずRRLC-11細胞の電顕写真をとってみたが、培養7日をへた細胞でわずかながらC粒子が認められた。その培地を30,000rpm1時間超遠心してその上清について超遠心しない培地との比較において毒性を調べてみたが、毒性はわずかに低下している程度で超遠心による影響はまずないと考えられた。ウィルスによる可能性は否定してよいのではないかと考える。次いでRRLC-11細胞ならびにRFL細胞をTD-40に3本ずつ1本あたり20万個の細胞を植え込み、培養3、6、9日目に培地をあつめて各々poolしその直後にRFLC-3培地に加えたものを対照として毒性を比較した。培地は新鮮培地に50%の割に加えた。(図を呈示)培養日数が進むと共にRFLC-3の培地を加えたときのRFLC-3細胞の増殖は低下したが、RRLC-11細胞の培地を加えたときも同様培養日数と共に増殖抑制度がつよまり、RFLC-3の培地を加えたときの細胞増殖を100とした場合RRLC-11による抑制度は大体一定で90%前後であった。さらにRRLC-11培地を加える濃度による毒性作用の差異をみるため50%、20%、10%、5%と新鮮培地に加えてRFLC-3細胞の増殖に及ぼす効果をみたが、5%のときやや毒作用が劣るが10%以上では有意と思われる差はみられず、以後の実験では20%加えることとした。
またvisking tubeを用いて限外濾過し、その内、外液について毒性作用を調べたが、外液には濾過しない培地と同様な効果がみられた。なお内液にも毒性作用がみられたが、これは内液にこの物質が残っていたためと考えられ本物質は低分子であることが予想された。さらに濃度に対する影響など目下検討中である。

 :質疑応答:
[山田]混合移植の実験はあれだけのデータを出すのも、なかなか大変だったろうと思いますが、どうもはっきりした結論が出ませんね。
[安村]一度に頭数を揃えて復元したデータではないので、統計的な処理も難しいと思いますが、統計の専門家に見せると又何かうまい処理法があるのではないでしょうか。
[高木]結局homologousの系では正常細胞を混ぜるとラッテへのtake率や延命日数がやや促進気味だと思われます。
[安村]まあpoor correlationという表現ならよいでしょう。
[永井]毒性物質の方の話で、その物質は癌細胞に対しても何か作用がありますか。
[高木]癌細胞にはやってみていませんが、正常細胞に何種類か添加してみました所、細胞によって影響され方に大分違いがありました。
[佐藤二]腫瘍の起源と正常の起源とに何か関係がありませんか。
[高木]全部fibroblastsです。
[勝田]fibroblastといっても臓器によって違うのではないかと常々考えています。
[高木]私も今度は他の臓器からfibroblastをとってみようと考えています。
[佐藤二]動物に接種してから又再培養にもってゆくと、よくfibroblastが混じってきますが、それなども調べてみるとよいでしょう。tumorの増殖をin vivoで阻害して居る格好のfibroblastの働きなどもin vitroで調べてみると面白いと思います。
[安村]いや案外tumorの中のfibroblastを拾うのは難しいですよ。

《梅田報告》
 各種mycotoxinをHeLa細胞に投与して惹起されるDNA strand breakについて報告してきた。月報7108、7109にdouble strand breakについて述べた。今回は今迄の報告も加え、回復実験の結果を合せ報告し、総まとめしてみる。(それぞれに図、表を呈示)
 (I)Patulin:月報7109で述べた如く32μg/ml投与1時間後に中性蔗糖密度勾配法で検索した所、bottomより11本目、10μg/ml投与では3本目に単ピークが現れた。32μg/ml処理1時間後、培地を洗い去って新しい培地で更に培養を続けると、この場合は1時間処理直後bottomより9本目にあったピークが、2時間後には11本目、5時間後には15本目にピークが移り、double strand breakは更に切断が時間と共に進む様な像を呈した。
 (II)月報7109で述べた如く、1mg/ml投与1時間後の検索でbottomより14本目、320μg/ml投与1時間後の検索で3本目に単ピークが現われた。この場合の回復実験の結果は、少くとも検索した3時間迄の回復培養では回復してこなかった。
 (III)Luteoskyrin、rubratoxinB、FusarenonX:月報7109で述べた如く中性蔗糖の検索で、しかも24時間処理の長期間処理後の検索でもbreakは認められなかった。
 (IV)aflatoxinB:月報7108で述べた如く、32μg/ml投与後24時間目にアルカリ蔗糖密度勾配での遠心結果はbottomにcountのばらつきが認められ、更に回復培養5時間24時間と経るにつれ、ばらつきはなくなり、底に放射能があつまってくることが観察された。
 中性蔗糖での結果は月報7108で述べた如く、アルカリ蔗糖での結果と同じ様に、32μg/ml 24時間処理でbottomより6本目にピークが現われ、breakの生ずるためには長時間処理が必要なことがわかる。このbreakは回復実験で明らかに回復の進むことがわかる。
 (V)以上の結果を昨年報告したsingle strand breakの結果と合せまとめた。
 (VI)之等mycotoxinのHeLa細胞に対する致死濃度(増殖阻害)、H3-TdR、H3-UR、H3-Leuの摂り込みによるDNA、RNA、蛋白合成をおさえる濃度を並べた(表を呈示)。致死濃度はmycotoxin投与3日後に細胞が殆んど死滅する濃度であるが、DNA、RNA、蛋白合成阻害の実験は、作用後2時間での夫々の摂り込みの50%阻害を起す濃度を示してある。したがって時間の因子を考えながら参考にする必要がある。
 Patulinは投与後阻害が非常に強く早く起り致死濃度よりずっと低い濃度で合成阻害が生じている。Penicillic acidはDNA合成が強く阻害されるが作用2時間での50%合成阻害濃度が殆3日後の致死濃度に近い値を示している。
 之等に反しLuteoskyrinは致死濃度より10x以上も濃い濃度で合成阻害が現れており、このtoxinが非常に遅効性であることを示していると思われる。
 RubratoxinBはPenicillic acidに近い像を示している。FusarenXはDNA、蛋白合成阻害が特異でその作用は直接的速効的に致死効果につながることを示唆している。AflatoxinB1はDNA、RNA合成阻害がやや強く、Penicillic acidに近い像を示している。
 (VII)作用の上からはVIの如くであるが、これを今回報告したstrand breakの結果とを合せ大胆に考察してみると、Patulinは直接的速効的toxinにも拘らず致死濃度の3倍も濃い濃度を投与しないとbreakが生ぜずしかも回復が認められないのはPatulinの作用がlysosome emzymeの活性化にあってもよい様な解釈が成り立つ。この点実証してみたいと計画している。Penicillic acidもこの様な作用があってもよい可能性がある。
 AflatoxinB1は相当高濃度1時間作用でbreakが生ぜず致死濃度附近で24時間作用させた時breakの生じたことは、AflatoxinB1がLuteoskyrinの様な遅効性作用を持っていると解釈され、標的オルガネラに達するのに時間を要するのか、又化学的修飾をうけproximateの作用物質になるのに時間を要するのか、今後の検討により解明される可能性が強い。ここでLuteoskyrinの場合も含め、AflatoxinB1の場合は生体での標的臓器が肝であることから、使用している細胞に問題があるので今後検討したい。更に大胆になればsingle strand breakはAflatoxinB1の場合比較的軽いのにdoubl strand breakの方がはっきりとbreakが認められしかも回復が認められた点、AflatoxinB1が実際に安藤さんの云うlinker proteinだけに作用して切断を惹起し、本来のDNA double strandにbreakは生じさせない(single strandも含めて)のかも知れないと考えている。
 以上の想定を作業仮説として、今後更にこの問題を追求する予定である。

 :質疑応答:
[佐藤二]一重鎖は切らないが、二重鎖は切るという物もありますか。
[堀川]理論としては二重鎖が切れれば一重鎖は必ず切れるということになっています。そして二重鎖の切れ方より一重鎖の切れ方の方をもっと問題にした方がよいと思いますね。遠沈条件はもう少し工夫するとよいでしょう。アフラトキシンのデータで、24時間で少し切れるというのは一度切れてから修復されつつある所の像ではありませんか。
[勝田]DNAの一重鎖、二重鎖の切断と発癌性はpoor correlation?
[安藤]二重鎖切断で4NQOの場合は、蛋白部分が切れると考えているわけですが、梅田班員の場合はどうか知りたいですね。それから濃度を変えると切断、回復の像も変わってきますから、それも調べてみて下さい。
[黒木]ピークがシャープすぎるのが矢張り気になりますね。方法を変えても同じデータが出るでしょうか。
[野瀬]細胞を別の試験管の中で壊しておいて、層の上にのせ、遠沈するというやり方だとシングルピークにはなりません。
[堀川]しかし、この方法で遠沈してもX線の場合はシャープなピークにならず、だらだらしたピークになります。ですからシャープなものはシャープなのでしょう。
[安藤]細胞数を減らして、塊の出来る可能性を無くしてみましたが、むしろSバリュウは大きくなりました。ピークがシャープな事は同じでした。
[勝田]培地に添加したトキシンが活性を維持できる期間もみておく必要がありますね
[佐藤茂]AflatoxinはDNAに直接に作用しますが、他の物については判っていますか。
[梅田]よく判っていないようです。

《安藤報告》
 I.4NQOによる連結蛋白質の切断の再結合
 4NQOは細胞内で代謝され、DNAの一本鎖切断と同時に連結蛋白部分の切断を惹起する。この切断部分は細胞の回復培養によって修復される。その修復機構を調べるために、回復培養時に種々の代謝阻害剤を加え、この切断の修復反応を調べた。先ずDNA合成阻害剤Hydroxyurea(HU)、ara C、FUdRをそれぞれの濃度で回復培養に添加する。記載の時間培養後分析した。(それぞれ図を呈示)4NQO処理10-6乗M30分後、回復6時間後、HU、araC、FUdRについて、HUは多少問題があるが、araC、FUdRの結果から明らかにDNA合成90%以上の阻害条件下にも連続蛋白切断は修復されている。
 次にactinomycinD(AcD)(RNA合成阻害90%以上)の場合には、DNA合成阻害の場合と同様に殆どcontrolのレベル迄回復していた。最後に蛋白合成阻害剤cycloheximide、puromycinの場合にも、同様に蛋白合成90%以上阻害条件において、ほぼ完全な修復が起っていた。なおcycloheximide 5μg/mlの場合にもrepairは起った。
 以上の事実から、4NQOによる連結蛋白質の切断の修復にはDNA、RNA、蛋白質の新たな合成は必要でないと思われる。そこでこれ等三種類の高分子合成以外の生体成分の合成に必要なATPの産生を阻害したらどうであろうか。(図を呈示)種々の阻害剤存在下に回復培養を行った所、殆どの場合完全に修復反応は起ってしまった。したがって、細胞内の既存のATPプール以上にはエネルギーを必要としないようだ。
 それでは一体この修復反応はどのような機構でなされているのであろうか。月報No.7105に記載した如く、この回復培養を低温で行った場合には修復は阻害された。
 以上の諸事実を考え合せると、この修復機構としては次のような推定が出来るのではないだろうか。
 (1)4NQOによる障害は連結蛋白の酸化還元、解離等による切断でありATP補給を不要として再結合が起る。(2)4NQOによって障害を受けた蛋白はDNAから離れてしまい、回復培養時に細胞内プールに在った連結蛋白が補給され修復される。
 (1)の場合には障害を受けた蛋白自体が修復されるのに対し、(2)の場合には、末梢蛋白との入れ替りを仮定したものである。
 II.4NQO誘導体の発癌性とDNA切断の関係
 先に癌センター川添さんより分与された4NQO誘導体の発癌性とDNA鎖切断、unscheduled DNA合成の有無の関係をみると、発癌性(川添氏により、mouseに皮下注射して調べられた)と、一本鎖切断(安藤等のL・P3によって検討されたデータ)、unsch.DNA合成(川添らの論文)の関係は非常に優れた相関を示している(表を呈示)。但し4NQO6C(4NQO 6 Carboxylic acid)の場合のみ一本鎖切断が見られていない。これは、この化合物が極めて強い水溶性を持っている事に原因するのかもしれない。更に検討する予定である。二重鎖切断に関しては今回は三種だけだが、今後はっきりする予定である。

 :質疑応答:
[堀川]HUは製品によってむらがあります。精製すると効かなくなります。
[佐藤二]低温で回復しないという場合、もっと時間をかけると回復しますか。
[安藤]まだやってみていません。
[難波]回復しない10℃で細胞は死ぬのでしょうか。37℃に戻すと回復しますか。
[安藤]判りません。
[佐藤二]処理濃度が低くても矢張りシャープなピークになりますか。
[安藤]なります。
[佐藤二]もし本当に蛋白を切るなら濃度が薄くても同じように切れるのは変ですね。
[安藤]作用がランダムではないと考えている訳です。
[乾 ]染色体レベルでみても核酸に作用する薬剤をかけると、クロマチドの切断を起こすようですが、発癌剤によっては切断を起こさない物もあると言われています。
[黒木]AAFやDABはunscheduled DNA合成を起こしません。今までの発癌性、変異性、それに蛋白や核酸との結合といった問題に、更にDNA切断に、unscheduled DNA合成と、いろいろ絡んできたということですね。

《山田報告》
 4NQO処理後122日目のラット肝細胞RLC-10-C#2の其の後の電気泳動的変化は、前回に比してノイラミダーゼ感受性は増加して居ませんが、若干細胞の構成純度内低下がみられ、バラツキが出現して来ました(図を呈示)。この成績を前々回の実験で行ったCQ60と比較しますと、4NQO処理後145日のそれと今回の成績は類似しています。従ってCQ60の株と同じ様な変化をたどって居るのではないかと推定されました。今後の変化を追求したいと思っています。
 電気泳動による細胞分劃装置"Elphor"についての基礎実験−その後の成績;
 電気泳動的に異なる細胞を分離出来れば、変異細胞を撰択的に採取して増殖させることが出来るので、昨年購入した"Elphor"の装置についての基礎実験を重ねて来ました。しかしまだうまく実用化出来ません。(物質やSubcelluler fractionなどは簡単に出来ます。) その理由は泳動のメヂウムに低比重液を用いると、細胞が重力により速く沈降したりまた細胞を注入する管の中で沈殿してしまいうまく分離できず、高い比重液をメヂウムとして用いると、粘稠度が高くなり、細胞の移動に対するメヂウムの抵抗が大きくなり、泳動による分離条件としては細胞の表面荷電の差よりも、むしろ細胞の大きさの差の方が重要になり、なかなかうまく分離出来ないためです。それ故なるべく低粘稠度であり、しかも高比重液を探して種々調整しました。(MT:Tris-malate bufferの表を呈示)そして異る粘稠度液内におけるラット赤血球とEhrlich癌細胞の泳動度を通常の測定装置で測定してみますと、メヂウムの粘稠度如何では相互の泳動度の関係は逆になってしまうことがわかります。すなわち高粘稠度の液内では大きい細胞の(3〜4倍)のEhrlich癌細胞の方が、小さい赤血球より遅くなり、低粘稠度のメヂウム内では、むしろ前者の方が速くなります。通常のM/10ヴェロナール液では、ラットの赤血球は1.15μ/sec/V/cmで、Ehrlich癌細胞のそれは、1.50〜1.70μ/sec/V/cmの泳動度を示し、明らかに後者の方が速い泳動度を示します。
 一夏、種々工夫して来ましたが結論としてあまり大きさの異る細胞の分離はあきらめて、むしろ類似の大きさで、しかもその表面の荷電密度の異る細胞の分離の条件をみつけることに、研究をしぼることにしました。in vitroでの培養下において悪性化した細胞は、その母細胞より2倍以上の大きさになることはまずないと考へられるからです。類似の大きさの細胞を分離するのでしたら、その粘稠度はあまり影響して来ないので、SucroseとFicollを混合した液を用いることにしました。この液内では細胞が容易に沈降せず、分離がきれいに行くと思われるからです。

《堀川報告》
 これまでにわれわれはHeLaS3細胞をMNNGで処理することによりS-1M細胞、S-2M細胞と名づける紫外線感受性細胞を分離したことについて報告してきたが、こうしたUV感受性細胞ではUV照射により、DNA中に誘起されたThymine dimer(TT)の除去機構がnormalに進まず、HeLaS3原株細胞がUV照射後6時間までにDNA中のTTの50%を切り出すのに対して、S-1M、S-2M細胞では約9%しか切り出さないと言う結果が得られている。
 さて問題は、こうしたS-1M細胞、S-2M細胞はTTの切り出し機構のどの部分が欠損しているかと言うことである。
 すでにヒト遺伝病Xeroderma pigmentosumの患者から得られた細胞ではUV照射によって誘起されたTTの除去のためのfirst stepであるnicking enzyme(endonuclease)が欠損しているためTTの切り出しが正常に進まないことがCleaver達によって証明されている。われわれの得たUV感受性細胞がこれと同じtypeの変異細胞であるかどうかを検討するため200ergs/平方mmのUVで照射した直後と照射後5時間incubateした後のHeLaS3原株細胞とS-2M細胞のDNAをアルカリ性蔗糖勾配遠心にかけて生じる切断量を調べてみた結果を図で示す。200ergs/平方mm照射直後のDNAの沈降像、200ergs/平方mm照射後5時間incubateしたのちの両者のDNAの沈降像をみると、HeLaS3原株細胞ではUV照射直後にすでにTT切り出し用のnickingが入るがS-2M細胞では照射直後ではnickingは殆んど入らず、照射後5時間目でもほんの僅かしか切断が起きないことが分かる。以上の結果はわれわれの得たUV感受性細胞はXeroderma pigmentosumの患者由来の細胞と同じくnicking enzymeの欠損株であるように思われる。尚おexonuclease(除去酵素)の欠損株が得られるか否か現在検討中である。

【勝田班月報・7112】
《勝田報告》
 §各種細胞のLDH及びG6PDH酵素活性について
 細胞が培養内で癌化したことを、少しでも早く知り得る指標があればという願いの下に、これまで様々の努力が重ねられてきたが、その一環として細胞の酵素活性、とくにisozymeの変化をしらべてきた。これは主として野瀬君と加藤嬢の労力によるものである。
 分析法(表)と結果(図)を呈示する。
RLC-10Bという系は培養内でspontaneous transformationoを起した系で、originはラッテ肝細胞。JTC-16はAH-7974由来であるが、長期継代後も珍らしくも動物への復元能を維持している。JTC-21・P3とJTC-25・P3とは、ラッテ肝由来で、"なぎさ"培養で変異し、その後無蛋白・無脂質の完全合成培地内で、継代している亜株である。同じくラッテ由来でありながらも、夫々の間にきわめて相違がみられ、一貫した特性などは見出されない。
 L-929と合成培地継代のL・P3とは、LDHでもG6PDHでも、いずれも似たprofileを示している。なお、JTC-25・P3とL・P3とは形態がきわめて似て居り、G6PDHでは区別がつかなかったが、LDHのisozymeではJTC-25・P3が明らかに1本多いbandを持っていた。
 HeLa・P3は、当研究室でもはや原株のHeLaを維持していないので、原株との比較はできなかったが、かなり数多いbandを見せているのが面白い。
 Rt muscle以下の欄は、培養細胞ではなく、動物から取出した組織の像である。従ってそこには何種類かの細胞が混在していることを承知していなくてはならない。
 悪性化との関連については、目下検討を進めているが、この調子ではあまり希望がもてそうにもない。せいぜい株間の同定に使える位ではないかと考えている。

《難波報告》
 N-57:癌化の指標を探す試み −DAB未処理対照肝細胞(PCC-2)とDAB処理悪性化肝細胞(PCDT-2)とに於けるH3-DABの細胞内へのとり込みの比較−
 化学発癌剤によって、培養内の発癌実験を試みる場合、その発癌剤の「ツメ跡」を感化した細部に見い出すことができれば細胞の癌化の機構を解明する手掛を掴めるかも知れない。
 今回は、PCC-2細胞とPCDT-2細胞とに於けるH3-DABの細胞内へのとり込みを検討した。
PCC-2:単個培養したラット肝細胞PC-2系よりのColonial clone。
1027 total culture days。
PCDT-2:培養内で5μg/mlDABを計53日処理して、悪性化した細胞PC-2系を復元して生じた腹水腫瘍の再培養。
 1)RadioautographyによるH3-DABのとり込みの比較
 PCC-2及びPCDT-2細胞をカバーグラスを入れた小角ビンにまき、2日後H3-DAB(50μCi/ml、1.1x10の4乗dpm/ml、10μgDAB/ml)を含む培地にかえ、更に2日培養を行なった。(予備実験で、H3-DAB投与後の1hr、24hr、48hr、72hr後のRadioautographyを行ない、その結果実験は48hr後に終ることにした)。その後カバーグラスを37℃PBSで3回洗い、5%TCA(4℃、1hr)で固定、アセトンで3回洗い(細胞中の遊離DABを洗い出す)、Dipping、18日間Expose、現像、ギムザ染色して、200コの細胞内の銀粒子数を数えた。
 その結果(図表を呈示)、DABで悪性化した細胞の方が、対照細胞に比べ、H3-DABをよくとり込んでいることが判る。
2)液体シンチレーションカウンターによる、H3-DABのPCC-2及びPCDT-2細胞へのとり込みの検討
 細胞のH3-DAB処理法は1)の場合と同じである。H3-DABを48hr細胞に与えた後、37℃PBSで3回細胞を洗い、5%TCAで2回洗滌(4℃、1hr)、その後アセトンで3回細胞を洗った後、Toluen100で細胞を溶解し、トルエンシンチレーターに入れ、液シンで測定した。
 その結果は、細胞1コあたりにとり込まれるH3-DABは、DAB処理悪性化細胞の方が、対照細胞に比し多かった(表を呈示)。
 以上の、1)、2)の実験結果をまとめると、PCC-2、PCDT-2両系の細胞のDABとり込みには差がなかった。 一般に動物のDAB肝癌には、DAB結合蛋白が欠損していると云われているが、今回の培養肝細胞を使っての実験結果からは、細胞内のDAB結合蛋白の有無について何も云えない。その理由は、(1)PCDT-2は5μgDAB/ml 53日処理しているが、このDABの処理ではDAB結合蛋白を欠損させるのに不十分である。(2)PCC-2、PCDT-2両系の細胞中にみられるDABが実際に細胞内のDAB結合蛋白に結合したものか否か。(3)細胞中の銀粒子数及びTCApptのカウントは、DABそのものか、又は、DABの分解産物なのか。(4)培養細胞であるので、貪喰能が昂進しており、その結果、癌化の機構とは関係なく、細胞内にDABが入る。(培地中の牛血清アルブミンが、培養肝細胞に入っている別の実験データより、培地中のアルブミンに結合したDABが細胞に入っている可能性がある)。

《高木報告》
 腫瘍細胞(RRLC-11)と非腫瘍細胞との培養内における相互作用:
 RRLC-11細胞が培地中に放出する毒性物質に関し、これまでに判ったことをまとめてみると次のようになる。
 1.virusによる可能性
培養9日を経た細胞でわずかにC粒子を認めた。培地を30000rpm1時間遠沈してその上清につき検討すると、毒性はほとんど上清中に残っている。virusなら上清に活性は残らないはずである。またC型virusでcytolyticな効果をおこすことは考えにくい。従ってvirusによる細胞毒作用と云うことは考えられないと思う。
 2.培養日数による毒性のちがい
RRLC-11細胞培養のどの時期の培地をとっても毒作用に大きな差は認められなかった。
 3.RRLC-11培地添加濃度による毒性のちがい
50%、20%、10%および5%について検討したが、10%までに有意の差は認められず、5%にするとやや毒性がおちるようであった。
4.RRLC-11培地限外濾過の影響
visking tube(pore size 24Å)を使用して限外濾過を行ったところ、毒性は外液において濾過しない培地と同等に認められた。すなわちこの毒性物質は低分子であることが想像される。
 5.温度の影響
1)RRLC-11培地、56℃30分および56℃2時間加熱しても毒性効果の低下は認められない。
2)RRLC-11培地を4℃に保つと8日目頃迄は可成りの毒性を示すが12日目以後は低下する。
ついでRRLC-11細胞と種々細胞との混合培養を行っているが、現在までのところ、RFLC-3細胞は完全に変性、RFLC-1細胞は全く影響を蒙らず、また、LC-14細胞(ラット肝由来)は部分的に変性をうけているようである。RFLC-5細胞についてはさらに検討中である。

《堀川報告》
 MNNG-UVlight-BUdR-visible light法という一連の処理を繰り返すことにより、われわれはHeLaS3細胞からS-1M細胞(一回処理群)、あるいはS-2M細胞(二回処理群)と名づけるUV-感受性細胞を分離したが、これらのUV-感受性細胞においては、UV照射によりDNA中に形成されるTTの除去能力が極度に低下していて、その原因としてTT除去の第1stepであるnicking enzyme(endonuclease)が欠損した細胞株であることはこれまでの実験で証明してきた。
 さて、こうしたUV-感受性細胞(S-1MまたはS-2M細胞)の出現機構に関してであるが、(表を呈示)第1表に示した結果からみると、S-1M細胞はMNNGで処理したHeLaS3細胞からのみ出現し(4個のコロニーとして)、MNNG未処理群からは出てこない。またS-1M細胞を繰り返し処理した場合にも、出て来るコロニー数はMNNG再処理群で有意に多いことが分かる。こうした事からわれわれの分離したXeroderma pigmentosum likeのUV感受性細胞は、MNNG-induced mutant、つまりsomatic cell mutationで説明出来るように思われたが、これを更に確認すべく、第2表(表を呈示)に示すように2000万個細胞をそれぞれ100万個ずつ20本の培養瓶に入れて培養し、1群(10本)は前回と同様に0.5μg/ml MNNGで24時間処理し、以後前回とまったく同様にUV light-BUdR-visible light法で処理すると、第2表に示すようなコロニー数が各培養瓶から得られ、平均して2.3コロニー/培養瓶という結果になった。一方残る一群(10本)は対照群としてMNNGでは処理せず、以後UV light-BUdR-visible light法で処理することにより平均して1.6コロニー/培養瓶という結果が得られた。
 この結果からみるとMNNG処理群と未処理群から出て来たコロニー数には、それ程大きな有意差は認められないで、第1回目の実験結果から示唆しようとしたMNNG-induced muta-tionの考え方を是正せねばならないようになった。然しここで問題なのはMNNG処理群または未処理群から得られたそれぞれ23と16個のコロニーが、すべてUV-感受性であるかどうかを検討する必要性がある訳で、23個と16個のコロニーのうちには必ずしもUV-感受性細胞でないものが、isolation procedureのどこかの過程で抜け道をみつけて出て来ている可能性もあるであろう。 こうして真にUV-感受性でないものをeliminateした上でないとHeLaS3親細胞からUV-感受性細胞の出現機構について、結論を下すことは出来ない。その為の解析が現在、replica plating培養法で進められているので今しばらく結果をおまちいただきたい。
《佐藤茂秋報告》
 吉田腹水肝癌AH-7974細胞の培養系JTC-16は、in vitroではI、 型ヘキソキナーゼ活性しか認められないが、ラット腹腔に戻し移植するとI、 型に加え 型のヘキソキナーゼが現われ、動物で継代移植されている細胞と同じ表現形質となる。JTC-16細胞をラットに戻し移植し再び培養系に移すと時間の経過と共に 型活性が消失していく。又この再培養系をクローニングすると、 型を持つものと持たないクローンが出来た事は前回報告した。in vivoで 型が出現する機序を調べる為JTC-16の細胞1,000万個を血清を含まないMEM培地にsuspendし、diffusion chamberに入れてrat腹腔に挿入し、経時的に細胞をとり出し、そのヘキソキナーゼパターンを調べた。2日目では細胞数は約2倍となっており、I、 型に加え 型ヘキソキナーゼが著明に認められる様になった。4日目では細胞数は約1.3倍となっており、viabilityも低下していた。ヘキソキナーゼ活性も非常に弱かったが、 型が認められた。diffusion chamberはintactでありdiffusion chamber内へのhost側の細胞の侵入は考えられない。以上の事実はJTC-16の細胞をin vivoへ戻す事により、 型ヘキソキナーゼがinduceされる事を示唆するが、より確実なものとする為、クローニングした細胞を使って、観察期間をより細かくした時の実験を計画している。

《梅田報告》
 月報7110に次いでラット肝及び肺培養細胞に各種物質を投与した時の核小体の形態的変化について述べる。
 (1)ActinomycinD(0.0032μg/ml)を肝培養に投与すると、肝実質細胞の方がやや強くおかされる。しかし肝実質細胞は核が暗く染り、核小体はかえって大き目である。間葉系細胞の方は核は大き目で核質はややdottyになるが核小体は丸く小さい。
 ラット肺培養に投与した時は肝培養の時の間葉系細胞と同じ様な反応で核は大き目で明るく核小体は小さい。
 (2)Methylcholanthreneを、肝及び肺培養細胞に投与してみた。肝培養に10μg/mlの濃度で投与しても障害は強くなく、細胞の増生は対照よりやや減じている程度である。肝実質細胞も間葉系細胞も同じ程度に減じている。肝実質細胞は核質がやや濃縮ぎみの感じを与えるが核小体はそれ程小さくなっていない。丸味は帯びている。間葉系細胞の方は核はやや大き目のものが多く核質は明るく、核小体が小さくなっていた。
 肺培養に投与した時も10μg/mlで肝培養の間葉系細胞と同じ反応を示している。
 (3)Benzoyloxy-MABを肝培養に投与すると、10-3.5乗Mで肝実質細胞は完全に脂肪変性→壊死におちいる。間葉系細胞も4日間培養した場合は壊死におちいるが、2日目の所見では核の大小不整は著しくなり、核質は明るくぬけた様になり、核小体はやや小さい程度でそれ程小さくならない。10-4.0乗Mで殆対照と同じ位の肝実質細胞、間葉系細胞の増生が見られるが、核分裂像をみると、染色体が散ったものがあり、異常を思わせる。
 ラット肺培養に投与した所、10-3.5乗Mで細胞は残っているが、異常分裂像らしきものが認められた。
 (4)月報7110では、HeLa細胞の核小体を縮小化させるP.roquefortiカビの代謝産物についての結果をのべたが、同じ様にHeLa細胞の核小体を縮小させるA.Candidusの代謝産物についても試してみた。HeLa細胞の場合、A.Candidus菌体のCHCl3抽出物の100μg/ml投与で核小体は縮小化したのに、肝及び肺培養細胞では320μg/mlの投与で増殖阻害もあまりうけず、しかも核小体はそれ程小さくなっていなかった。
 (5)結果をまとめてみると、肝実質細胞と肝培養での間葉系細胞と肺培養細胞では、各種物質に対する反応性が異る。HeLa細胞と比較しても反応が異る様である。ActinomycinD、Methylcholanthren投与で前者は核小体が縮小化されなかったのに、肝での間葉系細胞、肺培養細胞、HeLaでは核小体が縮小化される。強力なproximate carcinogenであるbenzoyl-loxy MAB投与では核小体縮小現象は観察されなかった。上に反し、Aspergillus candidusの代謝産物では、HeLa細胞の核小体は縮小化されるのに反し、ラット肝及び肺のprimary culture細胞の核小体は縮小化されなかった。以上よりHeLa細胞の様な株細胞と、primary culture cellの様な細胞とでは核小体の機能が大部異ることが予想される。
以上の結果を月報7110にならって表にしておく(表を呈示)。

《山田報告》
 4NQO処理したRLC-10#2細胞のその後の変化(CQ68):
 (図を呈示)図に示すごとく、その電気泳動的性格は122日目と殆んど変りません。前回、CQ60実験に於いては、前報にも示しました様に、この時点で更に泳動的に構成のばらつきが出現したのですが、今回はその様な変化が出現しません。なほ引続きfollow upすると共にその抗原性の変化もしらべて行きたいと思っています。
 はぎさ培養株RLH-4の無蛋白培養亜系の電気泳動的性格:
 この株とそれに4NQO処理した株の泳動的性格について、従来通りの条件でしらべた所、非常に特殊な成績を得ました(表を呈示)。即ち、Cont.株はノイラミニダーゼ処理後の数値は-0.297で、4NQO処理後の株では-0.346でした。対照未処理株が既に著明なノイラミニダーゼ感受性があり、4NQO処理した株は更にこの感受性が増加し、又平均泳動度も増加するという所見です。この様な著しいノイラミニダーゼに対する感受性は、正常或いは変異株には全くなく、また悪性変異株でもJTC-16(AH7974TC)のみです。これはどうもノイラミニダーゼ感受性の増加と云うよりは膜の性質が著しく変化し、非特異的に破壊されやすいのではないかと思われます。いづれにしろこれまで調べた培養ラット肝細胞のなかには全くみられない様な表面構造ではないか?、と考へています。
 Culb株の宿主血清との反応:
 血清が若干少く、200万個Cellに対し宿主JAR-2の血清(接種後18日目)0.5mlを反応させたのですが、その電気泳動度は、活性血清で0.559±0.001、非活性血清で0.578±0.009となり、全く宿主ラットと反応しない様です。しかし、この成績は若干全体に泳動度が低く、そのために反応が弱いせいもあるかと思います。この成績にくらべて既に報告した如くこの株のoriginal細胞の亜系であるRLC-10#2は、宿主JAR-2の血清に反応して、-16.5%も泳動度が低下する知見とはかなり差があり、しかも藤井班員の成績とも一致します。或いは、宿主が免疫学的に拒絶反応を起さない細胞が選択的に増加しているのかもしれません。
ConcanavalinA反応機序についての細胞電気泳動的解析:
最近ConcanavalinAの悪性細胞特異的凝集作用が話題になり、またこの班会議でも若干の成績が報告されていますが、いまだこのConAの反応機序についての明解な検索がなされていない様です。ただ現象的にその特異作用が注目されているにすぎません。
 このConAの作用についての研究成績で問題なことは、macroのレベルでの凝集現象と、分子レベルでのd-マンノースとの特異的結合性が、あまりにも直結して関係づけられている点だと思います。
 そこでモデル実験として、ラット腹水肝癌AH62Fを用いて、若干の実験を行ってみました。次号に詳細に報告することにして、現在までの知見を書きますと、
1)25μg−50μg濃度の微量のConAを作用させると、反応した細胞の電気泳動度は明らかに上昇し、この時点では凝集が起らない。
 2)100μg前後のConAを作用させると、次第に泳動度が現象し、初めて肉眼的に凝集反応が起って来る。
 3)ConAの反応は細胞の増殖状態と関係があるらしく、増殖の盛んな状態で強く反応する。このAH62F細胞は増殖期にシアル酸依存荷電が増加して来るので、シアル酸の表面における変化と関係がある様に思われる。
いづれにしてもConAが仲介となって凝集が起るものではないらしい様です。

《安藤報告》
 4NQO誘導体の発癌性とDNA鎖切断能との関係
 先月号月報に報告した標記の問題に更にいくつかのdataがつけ加わったのでまとめて報告する。今回、新たに加えた所は2Me4NQO以下の薬剤を使ってのdouble-strand scissionである。通覧していえる事は、発癌性と鎖切断、修復能とはだいたい平行関係にある。但し先月報にも書いたように、4NQO6Cの場合には1x10-4乗Mでは一重鎖切断を起さないのに二重鎖切断は起しているようだ。この点は更に濃度を上げて検討しなければならないと思う。又4NQO誘導体の数をもっと増やし現在検討中である。
 今後更に4NQO関連化合物だけではなしに、化学的にtypeの異った発癌剤を種々集め検討の準備中である。(表を呈示)


【勝田班月報・7201】
《勝田報告》
 §ラッテ肝、同細胞株RLC-10(2)、悪性変異株RLT-1(a)、その復元後の再培養株CulaTC、CulbTCについての、LDH及びG6PDHのアイソザイムの分析:
 前報において各種細胞のLDH及びG6PDHのアイソザイムの分析結果を報告したが、今回は上記の細胞について検討した。
 RLC-10(2)はラッテに可移植性を示さぬ系である。RLT-1(a)は、RLC-10原株より4NQO処理で悪性化した系RLT-1を軟寒天培地に移し、残生した細胞を増殖させた系である。CulaTCはRLT-1を復元して生じた腫瘍の再培養株、CulbTCはRLT-2の復元後の再培養株である。
分析法は前月号の報告と同じである。
 結果は結論をさきに簡単に云えば、LDHもG6PDHもともに、細胞が悪性化しても、そのアイソザイム像に差が出ないということである。
 動物の肝組織の分離の悪いのは、色々な細胞が混在しているためと思われる。またRLC-10(2)のLDHの像が前月号のRLC-10-Bの像と異なるように見えるが後者はくりかえしてみると、前者と同様な像も示し、泳動時間の影響と判った。RLC-10-Bは自然発癌した亜株である。(図を呈示)

《高木報告》
 1972の新春を御慶び申し上げます。
 本年度、私共は2つの実験計画をたてております。すなわち
 1.RRLC-11細胞の培地中に放出する細胞毒性物質を或程度まで化学的に分析し、又この細胞と他の様々な正常細胞とのinteractionについて主としてcolony levelで検討する。
2.培養内癌化の指標としてのsoft agarの検討、つまりsoft agarの培地成分を検討して、せめて私共の実験系についてだけでも、悪性化した細胞をselectiveにとり出すような培養系を追求したい。
 いろいろと御指導を仰ぎ、また御願いをすることもあるかと思いますが、何卒よろしく御願いします。
 RRLC-11細胞と非腫瘍細胞との培養内における相互作用:
 毒性物質の性状に関して現在化学的なapproachを行うべく予備実験にかかっているが、この毒性物質の放出される度合は培養条件により可成り動揺するようである。たとえば最初の報告(7110)では、RRLC-11細胞はRFLC-3細胞を変性せしめるが、RFLC-5細胞とは共存すると述べたが、この後RFLC-5細胞も変性することが分った。これが培養条件のちがいによるものか、細胞側に問題があるのか判断に困難を感ずるが、細胞のpopulationが差程動くことは考えられず、培養条件、たとえば血清のちがいと云ったことに問題のweightはあるのではないかと考えている。これまでに行った実験の中RFLC-1、C-3、C-5などの、WKA rat肺由来細胞についてRRLC-11細胞との混合培養の結果、C-1細胞はよく共存してcolonyを作るが、時々一部変性を示すこともある。C-3細胞は最も毒性にsensitiveであり、C-5細胞は一部生残るようなこともあるが、大体変性をおこす。つぎに、岡大難波氏から分与をうけたLC-14(Donryu rat肝由来、上皮性)については、大体共存してcolonyを作るように思われる。但、上述の如くC-3、C-5は、再現性に問題がある。写真がよくとれていることを確かめた上で、Falcon petri dishのcolony countingを行う予定であるので正確なdataは今回は報告出来ないが、以下に写真を供覧する。
 写真1〜4:混合培養のコロニー(シャーレ)と、細胞形態。

《佐藤報告》
 RadioautographyによるH3-DABの細胞内とりこみについて(表を呈示)
細胞はPC-2:RLN-E7→543日single→1079日実験
   PCC-2:RLN-E7→543日single→692日colonial→1027日実験
   PC-14:RLN-E7→543日single→692日colonial→713日single→999日実験
   RPDT-2:RLN-E7→543日single→DAB処理53日→rat ascites→再培養919日実験
 方法は前回に示したとうりで、投与後1hr、24hr、48hr、72hrの処理を行った。各100コの細胞内銀粒子数を数えた。銀粒子は核と細胞質にdiffuseにあり、局在性は認められなかった。(図を呈示)すべてピークのある分布を示し、数の多いのは細部質が大きい傾向にある。これはcell cycle、single cellからのmutation、subculture後の日数等による影響などが考えられ今後の検討を要する。
 細胞当りの銀粒子の平均値、peakの点をとってみると、DAB添加1hr.で急速に銀粒子の数を増し、24hr.以後では銀粒子数は略一定となる。一定値に達する時間、タンパク結合DABの分解時間、DAB蓄積等の問題については今後検討の予定である。
 表の0hr.でBackの銀粒子が多い。今後技術的な問題として改良したい。しかし、1hr.以後の細胞外銀粒子数と0hr.でのBackと同程度であること、及び図2からTCA2回の洗滌でfreeのDABはとりのぞかれること、細胞外銀粒子の中には細胞質崩壊によるタンパク結合DABはほとんどないと解釈される。

《藤井報告》
 "がん"と同種移植免疫の仕事をいくつかやってきて、この班でのがん抗原の仕事ほどうまく行かず、御役に立たなかったことはありません。移植免疫とかけ持ちでこちらの仕事に集中しなかったことは勿論、非力でありながら、うかうかとむつかしい仕事を受けて、5年もすぎてしまったことを、申訳なく思っています。あと3ケ月、何とか折角緒についたmixed lymphocyte-tumor reactionを少しでものばしたいと思っています。宜しく。
 (図を呈示)図は、Culbがんの組織培養したものCulb-TCと、それをJAR-1 rat(adult)の腹腔内に接種して、腹水型腫瘍となったもので、接種后13日と24日の腫瘍細胞を刺戟細胞とし、反応細胞として、A)Culb接種(皮下)后24日、B)Culb皮下接種后13日、C)Culb腹腔内接種后24日、D)Culb腹腔内接種后13日、E)正常JAR-1ラット、のそれぞれの末梢白血球とを、混合培養したときの、リンパ球幼若化にともなうH3-TdRの摂取です。抗原刺戟細胞には、CO60で4,000R照射したもの5万個、反応細胞には、リンパ様細胞50万個を各チューブに入れて混合培養しています。詳細は既報のとおり。
 (図を呈示)図で見られるように、培養Culb(Culb-TC)を刺戟細胞としたときが、リンパ球の反応が高いが、その中でも正常ラットのリンパ球の反応が最も高く、担癌ラットのはいづれも正常ラットより低い。その順はC、D、B、Aで、Culb接種后の日数とは必ずしも関係しないようである。
 腹腔内で増殖したCulb細胞を刺戟細胞とすると、リンパ球刺戟効果はCulb-TC(培養細胞)より低く、しかも接種后日数が多い24日の方が13日より低い。
 担癌ラットのリンパ球のMLTR(mixed lymphocyte-tumor reaction)が低いのは、担癌体の免疫反応性の低いことと関係づけられるようですが、担癌体の末梢血中のリンパ球が少なくなったからか、あるいはリンパ球自身の反応能が低くなったのか依然としてわかりません。最近流行のT-cell(thymus-dependent lymphocyte)、B-cell(bonn marrow-dependent lymphocyte)の区別がMLTRの反応系でしらべられたら、その辺もわかってくるかも知れませんので、目下思案中です。
 もう一つ、in vivo tumor cellsの方がcultured tumor cellsより、リンパ球刺戟能において劣る成績は、Culb-TCと、C57BLマウスのFriend's virus発癌腫瘍、erythroblastoma(FA/C/2、医科研、制癌、小高助教授)でのMLTRでも以前に得ていることですが、おそらくin vivoで、腫瘍細胞の表面に特異的に抗体が、あるいは非特異的にγ-グロブリンその他、何かが附着して、リンパ球への刺戟をブロックしているのでないかと考えられます。いわゆるimmunological enhancement現象の立場を支持する考えで、その方から検討を進めています。(写真を呈示)写真は上記のMLTR実験のうちの、Culb-TCと正常JAR-1ラット・リンパ球の混合培養6日の細胞のオートラヂオグラムです。このtubeのH3-TdRとり込みによるcpmは、4,682で、Culb-TCのみの対照は128、リンパ球のみの対照は141です。培養6日では、残っているリンパ球は非常に減少していますが、大型の細胞と小数ながら小型の円形核の細胞にH3-TdRのグレーンがみられます。
最近、外科研究部のグループで人癌の培養と、それを使ってMLTRその他を試みています。第1例のWilms'tumorで患者の末梢リンパ球が、かなり反応した成績がえられています。紙面の都合、次回まわしにします。

《難波報告》
 N-58:4NQO誘導体(4HAQO、2-Me-4NQO、6-Carboxy-4NQO)による培養ラット肝細胞の培養内癌化(月報7107に一部報告)
 培養内の発癌の仕事を更に発展させる為には、培養ラット肝細胞を4NQOより効率よく癌化させる薬剤を探すことも一方法である。従って、表題に述べた3種の薬剤を用い、クローン化したラット肝細胞の癌化を検討した。
 [実験方法]
 1.細胞:PC-14系・RLN-E7(生後5日目のラット肝より培養)培養543日目のクローン・PC-2、途中凍結299日、713日目再クローン・PC-14→746日目に実験開始。
 2.薬剤処理:4HAQO、2-Me-4NQO、6-Caroxy-4NQOをエタノールに10-3乗Mに溶き、PBSで終濃度3.3x10-6乗Mに稀釋し、TD40に細胞がほぼ一杯に生えた時期に、30分37℃処理して、その後、20%BS+MEM培地にもどし、3日後同条件で薬剤処理をもう一度行なった。
 [結果]
 1.各薬剤のCytocidal activity(位相差顕微鏡による形態的観察):薬剤処理直後の細胞障害は4HAQO・2-Me-4NQO>6-Carboxy-4NQO・4NQOであった。3日後の観察では、2-Me-4NQOに一番強く細胞障害が残っていた。
 2.復元成績:(表を呈示)以上の実験からまだ決定的なことは云えないが、培養ラット肝細胞の発癌実験には、6-Carboxy-4NQOが有効と考えられる。この組合せは更に追求すべきと考えられる。2-Me-4NQO、4HAQO処理群のものは、処理後培養日数が長くたつと造腫瘍性の低下がみられる。
 N-59:DABで培養内で癌化した細胞の増殖及び細胞凝集に及ぼすPHAの影響
 月報7111にConA、WGA、RRの、DAB悪性化細胞、その他対照肝細胞の細胞凝集に及ぼす影響を報告した。今回はそれにPHAのデータを追加する。
 1.細胞凝集能:実験条件は月報7111に同じ。(表を呈示)表に示したごとく細胞凝集をおこすPHAの最終稀釋濃度は、対照細胞、DAB悪性化細胞の両者に於て差がなかった。
 N-60:ConA、WGA、PHAによる生後1ケ月のラット肝細胞の細胞凝集能
 ConA、WGA、PHAの細胞凝集能を、生後1ケ月のラット肝細胞で検討し、培養肝細胞の成績と比較した。
 肝実質遊離細胞は上西法により得た。得られた細胞をギムザ染色して検討した結果、99%以上の純度で肝実質細胞が得られた。この遊離肝細胞のConA、WGA、PHAによる凝集性は、ConA、PHAで250μg/mlで凝集した(表を呈示)。まだ、胎児、新生児、乳児ラットの肝細胞などでこの実験を行っていないが、次のことが考えられる。
 ConAなどによる細胞凝集能の上昇が、細胞がより未分化な方向(状態)にあることを示すとすれば、培養された肝細胞はすでに未分化な状態になっており、この状態のもとに発癌剤を処理し細胞を癌化させても、この造腫瘍性を獲得するまでの変化は、生体内から生体外へ肝細胞が移され培養株化する迄の変化に比べ小さいと推定される。
 N-61:培養内でDABで癌化したラット肝細胞の旋回培養による細胞凝集能の検討
 癌化の指標を探す試みとして、従来4NQO系の実験で報告してきた方法に準じ、DABで癌化した細胞の凝集能を検討し、その結果をDAB未処理細胞肝細胞の結果と比較した。実験を2回行なった結果、いづれの場合にも細胞凝集塊の大きさは、DABで癌化した細胞>DAB未処理培養肝細胞の関係が成立した。第一回の実験で、両系のそれぞれの100コの細胞集塊の平均直径は、0.047mm(DAB悪性化)>0.041mm(DAB未処理)であった。 (第二回の実験データは現在計算中)

《黒木報告》
 帰国してから早くも4ケ月たち、いくつかのprojectsをたてて実験していますが、まだ何の成果もあがっていません。研究projectsの主なものは、次の四つです。
 1.in vitroにおけるNitrosobutylureaにより白血病を作ろうとしています。しかし、骨髄細胞の培養がうまくいかず、PHA、conditioned medium、feeder cells、bacto-peptoneなど、いずれも増殖を誘導できないことが分りました。MEM+10%FCSを主として用いていますが、今後は高濃度のaspartic acidを加えてみる積りです。
 2.3T3細胞のchemical carcinogenesis in vitro
 現在Meloy Lab.におられる高野先生が、Balb3T3でDMBAによるきれいなtransformationを得ておられるので、この細胞を用いて、発ガンの細胞環との関連におけるanalysisを考えてます。Dr.AaronsonからBalb3T3をとり寄せたのですが、血清の問題で3ケ月ももたついてます。というのは、日本の血清(医科研、千葉血清のCS)ではcontact inhibitedの3T3を維持できず、どうしてもFCSまたはColorado Serum Co.のCSを使はねばならないことが分りました。Colorado Serumをやっととり寄せたら、動物検疫の問題で羽田税関で差しおさえられたままの現状です。このほかNCIの井川君(癌研)を通じて、3T3FL、3T3NIH、Balb3T3も入手したので目下テスト中です。
 ラット、ハムスターから3T3細胞の樹立をattemptしましたが、contaminationにより失ってしまった。
 3.4NQOの高分子への結合の問題
 目下H3-4NQOの合成依頼をしているところ、64万円の見積(第一化学)を三カ月ねばって、合成法をかえ21万円までに値下げしてもらいました。合成できたら、必要の方にお分けします。主にh.proteinの分離精製を行うつもりです。
 4.cAMP-receptor proteinの分離
 いくつかの実験事実から、癌とcAMPの関係についての新しい分野が今後開かれるであろうことが、想像されます。その実験事実とは
 (1)PuckらによってcAMPにより可逆的にcotactinhibit.の回復がみられること。
 (2)contact inhibitedの細胞の細胞内のcAMP量が増加すること。
 (3)E.coliなどのexp.で、transcriptionにcAMPとcAMP-receptor proteinの関与が明らかにされたこと。
 (4)E.coliから分離されたcAMP-receptor proteinは分子量、Ipなどから、h-proteinに酷似していること。などです。
 このため、cAMPの次のstepとしてのreceptor proteinを考え、分離に着手しました。目下assay条件の検討中ですが、Sephadex G25の小さいカラムを用いることになりそうです。この問題は至急、3.の4NQOのh-proteinとからみ合せながら、発展させるつもりです。
 §無蛋白無脂質培地におけるコロニー形成について§
 当研究室には、無蛋白、無脂質の完全合成培地で増殖できる細胞がたくさん培養されています。しかし、それらに共通しているのは、うえこみ細胞数が少くなると(約1万個/ml)まったく増殖できなくなることです。しかし、これらの細胞もfeeder layerを用いると、10%以上のコロニー形成率を示すことがわかりました。すなはち、4,000r照射(CO60)L・P3を20万個/60mmdishにまき、翌日L・P3を500ケplateすると8%のコロニーが得られた。3%以下の血清添加は増殖を促進するようである(コロニーの大きさから)

《梅田報告》
 昨年を振り返ってみるとあまり思わしい仕事をせず、おおいに反省しています。暮れになってやっと超遠心の仕事が又軌道にのってきたので、ここらで今迄の遅れを一気にとり戻そうと勢こんでいます。
 昨年月報7112に、DABのproximate carcinogenと考えられているbenzoyloxy-monomethyl aminoazobenzen(B-MAB)投与によるラット肝、肺の形態的変化について報告しました。今回はB-MABを投与した場合の核酸合成能に及ぼす影響、更にalkaline sucrose gradient上にのせ振った場合についての結果を報告します。
 (1)Flying cover glass法による摂り込み実験、即ちこの場合はハムスター胎児細胞を円形カバーグラス上に定量的に植えこみ、2日后B-MABを各種濃度で投与し、1時間後にH3-TdR、H3-Leuを夫々投与して更に1時間培養し、細胞に摂り込まれた放射能をgas flow counterで測定する方法をとりました。
 (図を呈示)図に示す様に、10-3.5乗M投与で、H3-Leuの摂り込みがやや残っている程度の差で、特異的に合成阻害を示す様な結果は得られませんでした。
 (2)このB-MABを培養当初に投与后、長期培養継代したラット肝培養で、非常に奇麗な上皮性の細胞が生えている細胞系があるので、この細胞を使って超遠心の仕事をしてみました。予めH3-TdRでprelabelし、B-MABを投与1時間后にalkaline sucrose(5〜20%)の上にのせ、30,000rpm90分で遠心してみました。
 (図を呈示)図に示すごとく、10-3.0乗M投与明らかなbreakが認められませんでした。10-3.5乗Mの所は4本目にピークがあり、テクニカルにやや自信がないのですが、コントロールと較べてSingle strand breakを起すことには違いない様です。
 ハムスター胎児細胞を用いて同じ超遠心実験を行ったのですが、この方は更にテクニカルの失敗で、ここに示せる様なdataではないのですが、breakを起したと解釈して良い様なdataです。
B-MABはDABよりproximateな形になっているわけですから、当然ハムスターの繊維芽細胞でもbreakを起しておかしくないので、今后再検するかたわら、DAB投与での結果と比較してみたいと計画しています。

《山田報告》
 今年は改めてin vitro発癌に伴うphenotypicalな変化を免疫学的な方面より検索して行きたいと考えて居ります。
 培養細胞の抗原性の比較:培養細胞のtumorigenicityが、そのoriginal animalに対して抗原性が異なるゆえに、宿主へのtransplantabilityによって証明出来ない可能性があることは、昨年来、この班会議上問題になって居ます。そこで12月中に種々の培養細胞の抗原性を各種培養細胞について、細胞電気泳動的に検索しました。これまでの結果を表にまとめます(表を呈示)。即ち宿主としてはJAR-2ラット(AH62F-TCのみはドンリュウラット)で、抗血清は0.5ml、細胞は200万個(水分量2ml)で、37℃、10分(抗血清)、30分(感作ラット脾リンパ球様細胞1,000万個)作用後、食塩で2回洗い10mMのカルシウムを含むMichaelis等張ヴェロナール緩衝液(pH7.0)内にて泳動速度を測定。対照としては、aliquotのSampleを測定した(56℃30分あらかじめ非活性化したもの)結果と比較。抗血清及び感作リンパ球は宿主へ移植後、18〜23日までに採取したもの。
 検索した細胞のうち最も強く抗血清に反応したものは、JTC-25・P3で、次にAH62FTCです。後者は最近自分で培養したDAB腹水肝癌の培養株で、同種ラットであるドンリューへ復元していますので、反応が強いのは当然ですが、こうやって比較すると改めて「なぎさ培養株であるJTC-25・P3」は元来その抗原性がoriginalラットと著しく異なることが理解されます。次に反応の強い細胞はJTC-15(AH66)です。これは腹水肝癌の一系であるながら、一時宿主へのtransplantabilityが消失したというエピソードのある系ですので、宿主の血清と反応するであらうと云うことは理解出来ます。この三系以外は反応は若干弱くなりますが、それでもRLT系中では、CulbTC(RLT-2TC)が若干他と比較すると反応が強い様です。またその表面構造が他とかなり異ると思われるJTC-24・P3も、かなり抗血清と反応しています。これに対して興味あることは、JTC-16(AH7974)が全く反応して居ないことで、これは二回検索しましたが、略々同じ結果を得ました。
 感作リンパ球との反応はすべての系について検索してありませんが、最も強く反応したのが、やはりJTC-15(AH66)であり、次にAH62FTCです。次に案外に抗血清の反応と比較してこの感作リンパ球が反応したのがCulbTCです。AH7974(JTC-16)は感作リンパ球にも反応しません。なほ、更にこの検索を続けて、抗原性と移植性、そして腫瘍性の証明にぶいて分析してみたいと思っております。
 ConcanavalinAの反応機序;
 前報に若干書きましたごとく、細胞電気泳動法によりConcanavalinAの細胞凝集機序を解析して居ります。ラット腹水肝癌AH62F、AH66F 200万個に対し5〜250μg/mlの濃度のCon.Aを反応させ(10分、37℃、水分量2ml、mediumは生食)、これをヴェロナール緩衝液内で測定。AH62Fはシアリダーゼに対する感受性が一般に弱く、悪性度の少い細胞であり、AH66Fはシアリダーゼによく反応し悪性度の強い(宿主ラットは平均5日〜6日で死亡)細胞ですが、両者へのCon.Aの反応度はかなり異り、AH-66Fはより微量のCon.Aに反応します。しかしいづれも図に示します様に、微量の5〜20μg/ml濃度でその泳動度が上昇し、それより高濃度のCon.Aではかへって泳動度が低下し、そこで始めて凝集が起こる様です。この反応の様式は明らかに陽イオンポリマーなどによるイオン結合による凝集とは異ります。面白いことは、予めシアリダーゼ処理を行っておくと、更に微量のCon.Aと反応し、しかも微量のCon.Aとの反応による泳動度の増加が促進されました。このことはCon.Aが反応するd-Mannoseとその末梢にあるノイラミン酸との相互の関係に一つの解析を行へる可能性が生まれました。

《堀川報告》
 多忙だった1971年もあっという間に過ぎてしまい早くも1972年の新春を迎えました。毎年のことながら年頭にあたっては、いつも今年こそはあれもこれもやってみたいと思いをめぐらせていますが、その実一年をふり返ってみると常にその半分も出来ていないという結果になって、がっかりさせられます。どうせ半分しか出来ないならば、最初に思いきり計画をぐっと大きくしておけばよいではないかとも思いますが、それにも限度があって仲々できません。
 さてそうもボソボソ年頭から云っている訳にもいかず、とにかく今年も大いに皆様と一緒に頑張りたいと思います。どうかよろしくお願い致します。
 ところでDNA鎖中にタンパク様物質(residual protein)の存在を思わせるデータが、このところあちこちの研究室からも出されるようになったが、今回はLettら(1970)が行った実験を追試してみた結果について報告する。つまり0.1M NaOH、0.9M NaCl、0.01M EDTAを含む5−20%alkaline sucrose gradient上に0.5M NaOHと0.1M EDTAから成るlysis溶液をのせ、そこにあらかじめH3-TdRでlabelしたマウスL細胞を2000〜3000個加えて、種々の時間lysisさせたのち超遠心にかけてsedimentation profileの動きを調べた結果を図に示す。
 図1と図2では僅かに異ったspeedで遠心した後のsedimentation profileの変化示したものであるが、これからわかるように、alkaline sucrose gradient上のlysis溶液中で細胞をlysisする時間が長ければ長い程、一本鎖DNAは低分子化することがわかる。つまりこうした結果はLettら(1970)の暗示した高等動物細胞のDNA鎖中には、アルカリに対して非常に不安定な部分、恐らく、タンパク様物質が存在するのではないかという考えを明らかに支持するものである。一方neutral sucrose gradient上のlysis溶液中で細胞をlysisさせる時間を長くした場合にはどの様になるかを現在検討中であるので追って報告する。しかし現在までに得られた予備実験では2%SIS lysis溶液中での細胞のlysis時間には二本鎖DNAのsizeはほとんど影響を受けないという結果が得られている。いづれにしても本年度はこのDNA鎖中に含まれるアルカリあるいは各種タンパク分解酵素に不安定な部位の本体解明を、まずおし進めなければならない。特にElkindら、あるいはLettらさえも、このような物質の存在をspeculateしている現在、その本体を適確に把握することが急がれよう。

《永井報告》
 昨年はこの班でいろいろなことを学び、研究の上でもまた、それを離れた場においても、よい刺戟を受け、何かと想い出の多い一年でしたが、今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
 私共の受け持っています培養癌細胞に毒性代謝物質の研究も、一つの歴史をつくりつつあるようで、昨年は勝田先生がこのテーマで内藤奨学金を授与されるなど、本研究に対して大きなバックアップが与えられていますが、今年はこれに何とか応えてゆきたいものと考えております。遅々とした歩みではありますが、化学的研究の面で毒性物質の正体に一日も早くお目にかかりたいものと張り切っているところです。毒性物質を含む培養液を多量に集められないのが、一つの問題ですが、これも何とか解決したい問題です。現在までのところ、毒性物質は数個のアミノ酸残基から成るペプチドか異常アミノ酸のようなものではないかと予想していますが、果してそのような結果になりますか。
 また、昨年から始めましたイノシトール要求性株を使っての研究もあります。現在までにイノシトールに生物界における存在意義が全くわかっていないことを考えると、このイノシトール研究がどにょうな途を拓いてくれるかが楽しみです。現在までに要求性株に外から与えられたミオイノシトールが、急速にイノシトール燐脂質へと転換されること、要求性株は多量のミオイノゾーズを与えることによってミオイノシトール無しで培養を続けることができるが、シロイノシトールによっては保持できないことなどがわかってきていますが、この問題も一歩一歩攻めたててゆきたいものと思っています。
 このような具合で、今年も皆様の御助言、御指導をお願いいたします。

《佐藤茂秋報告》
 (1)吉田腹水肝癌AH7974細胞の組織培養系(JTC-16)はin vitroでは、I、 型ヘキソキナーゼしか持たないが、これをラット腹腔に戻し移植すると、I、 型ヘキソキナーゼに加え 型が出現する事、及びこの培養細胞をdiffusion Chamberに入れてラット腹腔に挿入すると24時間後に 型ヘキソキナーゼが出現する事は前回報告した。今回は、diffusion chamberを12時間後からとり出してそのヘキソキナーゼを調べたところ、すでに12時間目で 型ヘキソキナーゼが出現していた。但し今回の実験ではdiffusion chamber内の細胞のviabilityが低く、ヘキソキナーゼの比活性も低かったので、再度、同様の実験をくり返えしている。又in vitroで 型を誘導する事が出来るかを、培養中にラットの腹水、血清を入れてみる事、又、培養液中のグルコーズ濃度を変化させる事等により試みる予定である。
 (2)マウス脳腫瘍細胞の組織培養は一時in vitroでの増殖が悪く、継代もむずかしい事があったが、培養200日をすぎる頃から、又増殖が盛んになって来た。これについてはアルドラーゼのアイソザイムパターン、S-100蛋白質をマーカーにその表現形質を調べて行く予定であるが、同時にcyclic AMP、BUdR等の効果も調べたい。
 (3)ラット肝細胞の培養系(RLC-10)について、肝実質細胞のマーカーとされている酵素、Glucose-6-phosphataseの活性を調べたところ、正常肝の約1/2の比活性を持っていた。この酵素活性がほとんどないと報告されている吉田腹水肝癌細胞の培養系についても調べ、この酵素がin vitroでも真に、肝細胞のマーカーとなり得るか否かを検討中である。

《安藤報告》
 細胞DNAのAggregationの可能性の検討
 これ迄、皆様方に指摘されて来た問題ですが、細胞DNAが中性蔗糖密度勾配遠心の際に、aggregateとして沈降しているために、DNAピークはsharpになり、4NQO作用を受けた時も、heteroなピークにならない可能性がある。この点に関する既知の知見としてはファージT4のDNAが遠心条件によってaggregateを形成する事が知られている。すなわち、DNA濃度が高い程、又遠心力が強い程、DNAはaggregateし易くなる(Rosenbloomら)。これは、10の7乗ダルトン以下のDNAには見られない。
この点を確める事と沈降式のkを求めるために、T4DNA(H3)とλDNAをrpmを変えた三つの条件下に遠心した。(図を呈示)図に見られるようにλDNAはaggregateの傾向はないが、T4DNAの場合には30,000rpm以上になると、aggregateを生じ底に沈降する分劃が現れてくる。したがって1.3x10の8乗ダルトンというT4のDNAについては、10,000rpm以下で遠心を行えば問題はないという事になる。それでは、培養細胞のDNAはどうであろうか。この問題に入る前にもう一つ解決しておかなくてはならない点は、沈降式のKを求める事である。すなわち沈降常数(s)、沈降距離(d)、遠心回転数(w)、遠心時間(t)式を立てる(式を呈示) 
 さて、この式からS値の未知のDNAを同条件で遠心し、w、t、dを測定すれば、S値が計算される事になる。
 したがってL・P3 DNAについて次の二点を調べた。(1)我々の用いている条件で、L・P3 DNAがaggregateしているとすればrpmを下げた場合S値がより小さいmonomerの出現が観察されるか、(2)S値がrpmに依存してどのように変化するか。
結果は図に見られるように、5段階の遠心条件下のS値の変化を見ると相当なばらつきはあるが、平均値を見るとrpmが低下する程逆にS値は大きくなる。したがって、上記の第1点は満されなかった。少くも5,000rpm迄はS値は大きくなる一方で、monomerの出現はなかった。又遂にはじめからL・P3 DNAはaggregateではなくmonomerである可能性も若干残されているものと思われる。いずれにしても5,000rpm以下の遠心条件で更に検討しなければならないが、実際的には連続100時間以上の遠心は不可能である。
 以上の実験から結論される事は、(1)この方法によって分析しているDNAは、著しいS値のrmp依存性を示す。この点は繊維状の高分子物質の通性である。(2)monomerかaggregateかの問題に関しては結論はえられなかった(図表を呈示)。 

【勝田班月報:7202:Cyclic AMPの受容蛋白】
《勝田報告》
 最近の発癌実験の経過報告:
 4NQOを用いた実験と、それ以外の発癌剤を用いた例、完全合成培地内増殖系の細胞を用いた例とをまとめた。(表を呈示)CQ#67は初代培養を用いた実験であるが、何れも復元接種は陰性に終った。CQ#68は山田班員と協同しておこなっている実験で、面白い結果が得られつつある。処理1カ月位で細胞電気泳動像に変化が現われはじめたので、2カ月にならぬ内にラッテへ復元接種試験をおこなったところ、陽性成績が得られた。軟寒天培地内の細胞集落形成能は、これらの指標よりはるかにおくれ、いまだに認められない。
 次のCQ#69は初代培養で、C#54と同一材料で出発したもので、変化があって現れたら本人に復元接種したいと考えているが、何れも未だに細胞の生えだしがない。NGを用いた実験C#56〜59も目下観察中である。
 純合成培地内増殖系の細胞による実験も、目下継続中のが2系ある。
 ラッテに肉腫を作る実験:
 1972-1-24:JAR-2、F21、生後49日♂4匹、右大腿部、7.5mgMCA/0.3mlOlive油、皮下に注射。
 日本では純系ラッテの腫瘍が少なく、肉腫は無いので、多産であるJAR-2系を用いて肉腫を作ることを計画し、上記のように本年1月24日にMCAを注射し、目下"腫瘍形成"待ちである。

 :質疑応答:
[安藤]RLG-1はfibroblastですか。
[高岡]鍍銀法でセンイが染まりますから、fibroblastだと思います。
[山田]今日はCQ68のデータを持ってきていませんが、まだ非常に悪性という所まで行っていませんね。
[勝田]もっと処理を重ねてみましょうか。
[永井]電気泳動的にみて、変化は全体的なものですか。それとも一部の細胞が悪性化しているのですか。
[山田]バラツキはありますが、全体的に変わっているようですね。
[乾 ]NGの濃度についてですが、ハムスターを使っての私の実験では1μg/mlは薄すぎるようで変異を起こしませんでした。高木班員のデータはラッテでその濃度で変異していますね。動物によって違うのでしょうか。
[堀川]黒木班員はsurvivalを落とす事が悪性化に必要だと考えておられますか。
[黒木]必要だと思います。毒性と発癌性との関係はdose response curveが平行しないという例のあることから、機構の上では違うのだろうと思いますが、survivalを落とす位の毒性を示す濃度でないと悪性化しないことが多いですね。
[勝田]毒性に関しては実験のやり方が少し無神経な所がありますね。4NQOはphoto-dynamic actionがあるのに電灯の下で仕事をしたりしていますからね。
[堀川]そういう時はナトリウムランプでも使えばよいでしょうね。少し話題が変わりますが、悪性化したハムスターの細胞の再培養系からC型ウィルスが見つかったというDr.Hueberの論文についてどう考えますか。
[勝田]発癌そのものとウィルスと関係があるかどうか判りませんね。
[黒木]人間の癌にも応用しようとしているようですが、癌ウィルスだという同定もしていないし、少し強引ですね。
[勝田]癌化するとC型ウィルスに感染しやすくなるとも考えられます。

《梅田報告》
 (I)高松宮妃シンポジュームの折、Dr.Heidelbergerが、ヒト、マウスの細胞はDNArepairはされ易いのに、ハムスターは非常に悪いとの発言があり、気になったので、この問題を試してみることにした。何回も実験したが失敗も多くある傾向は示していても、お見せ出来る様なデータは少いので残念であるが、安藤さんの方法に沿って20〜5%のalkali蔗糖勾配上に細胞をのせ30,000rpm 90分間の遠心条件で遠心して分劃をとった。DNA切断を惹起させるものとしては4NQOを用いた。
 先ず4NQO 10-5.5乗Mをハムスター胎児培養細胞に投与すると強い切断が起る。しかし、1時間、2時間と回復培養を行っても切断が回復される傾向は示さなかった。(以下それぞれに図を呈示)更に回復培養の時間を長くして試みてみた所、培養5時間目のものに、やや回復の徴候が認められたが、更に24時間目と経つと又切断が逆もどりする結果を得た。
 これに反しマウスの胎児培養細胞に4NQO 10-5.5乗Mを投与した時は大きなDNAも残ってはいるが大小様々のDNAとなることが示されている。回復培養1時間目では回復の徴候は示されないが、2時間目のものは大きなDNA分子として遠心管のbottomに沈んでいた。
 今後この細胞によるrepairの違いをneutral sucroseの結果も含め検討してみたいと思っている。
 (II)前回の班会議の時報告したP.roquefortiの菌体抽出物投与によりHeLa細胞は細胞が大き目になり核小体が極端に小さくなることを、そしてH3-TdR、H3-UR、H3-Leuの摂りこみ実験ではH3-TdR、H3-URのとりこみが抑えられるのにH3-Leuはおさえられていないことを示した。同じ様な形態変化を示す2つのカビの抽出物の中、Pen.meleagriumは殆Pen.roquefortiと同じ結果を得たのに対し、Asp.candidesでは、そのCHCl3抽出物の低濃度で特異的なRNA合成の促進が認められた(図を呈示)。この現象はどの様に説明されるのか興味があるので、御紹介する次第です。

 :質疑応答:
[堀川]24hrたっても回復していないのがありましたが、どういう事でしょうか。
[勝田]死んでしまったのではありませんか。
[梅田]そういう事らしいです。
[安藤]細胞によってDNAの切れ方や回復が違うというためには、矢張りgrowth curveをとって同じ位のcytotoxicityのdoseで比較しなくてはいけませんね。
[堀川]ハムスターとマウスでは放射線に対する感受性が異なるという説は、あまり鵜呑みにしない方がよいと思います。X線では違いがないようです。UVの場合は回復の機構は違うようです。マウスはrecombination repair型といわれています。ヒトはexcision repairで、ハムスターはマウスとは異なり、ヒトと同じか又は別の回復機構があるのかも知れませんが、感受性には大きな差はないと考えられます。
[安藤]マウスはunscheduledDNA合成が少ないという論文もありますね。
[堀川]H3-TdRの取り込みのautoradiographyでunscheduledDNA合成を調べてみかすと、マウスは短時間の露光ではgrainが見られません。ヒトの場合は短時間の露光でgrainが見られます。同じ条件でgrainが全く見られないのがxeroderma pigmentosumの例です。
[乾 ]autoradiographyの原理的なことですが、1週間の露光では出ないgrainが1カ月露光すれば出てくるということがあるのでしょうか。
[堀川]autoradiographyの感度は低いので、1 hitでgrain1コになるとは考えられません。複数のhitでやっと1コのgrainになると考えられます。
[安藤]すると1コのgrainといってもdiffuseなspotだという訳ですね。
[藤井]grain1コが取り込まれた物質の何分子から出来ているかは計算できると思いますが・・・。
[堀川]計算は出来ますが、正確に対応していないと思いますから、autoradiographyは定量的というより定性的なものですね。
[下条]本題にもどって、ハムスターとマウスという動物の違いより株と初代培養のとか細胞の条件の違いとは考えられませんか。
[梅田]私の実験からは矢張り動物の違いによるものだと考えたいのです。ハムスターの場合、初代培養と長期間培養したものと両方調べて見ましたが、全く同じ傾向でした。
[勝田]なかなか面白い話だと思いますから、十分地固めをして進めてください。

《安藤報告》
 4NQOによる連結蛋白の切断に対するProtease inhibitorの効果
 LP3、FM3A等の細胞を4NQO処理を行うとDNAを連結していると思われるいわゆる連結蛋白質は切断される。それでは一体、この蛋白部分の切断はどのような機構で起っているのであろうか。二つの可能性がある。すなわち(1)4NQOの代謝産物が何らかの反応の機構によって蛋白の不安定な部分(例えばS-S)を切断する。(2)4NQO代謝産物が細胞内蛋白分解酵素を活性化し、その酵素が連結蛋白を切断する。これ等の可能性をcheckするために種々のprotease inhibitorの効果を調べてみた。
 調べたinhibitorはchymostatin(C)、leupeptine(L)、pepstatin(P)であり、いずれも微化研の青柳氏が分離同定したものである。Cはchymotrypsinを、Lはtrypsin、papainを、Pはpepsinをそれぞれ0.01〜0.5μg/mlで特異的に抑制する。
 先ずこれ等の阻害剤の混合物のFM3A細胞の生長に及ぼす効果を調べた。(図を呈示)DMSO自体わずかに生長阻害効果を示した。しかし阻害剤の効果は見られなかった。
 次にこれ等の阻害剤(I)の存在下に4NQO処理を行った時に二重鎖DNAのS値の低下の有無を調べた。Iの前処理は2、5、16時間行い、4NQO 10-6乗M30分処理を行った。結果は(図を呈示)阻害剤前処理の効果は全く見られなかった。すなわち阻害剤2時間、5時間処理後の4NQO処理のパターンはDMSOのみのコントロールパターンと同じであった。更に16時間に延長しても差は見出されなかった。したがって明確な結論はえられなかったが、一応阻害剤が細胞内にとりこまれるとすれば、この結果が示唆するところは、「4NQOによる連結蛋白の切断は細胞内酵素の活性化によるのではなく、4NQOの細胞内代謝産物による直接作用である」という事になる。更にこの点に関してはXeroderma pigmentosum細胞を使用して検討するつもりである。

 :質疑応答:
[梅田]4NQOがライソゾームを不活化するとは考えられませんか。
[安藤]わかりませんね。
[梅田]ライソゾームの阻害剤など添加してみるとどうでしょうか。
[安藤]やってみます。
[勝田]一番重要な問題はDNAの切断、そして回復時のミスリペアは癌化とどういう関係があるのかという事です。
[安藤]色素性乾皮症の細胞の場合はリペアが全く無いのに悪性化しますね。
[黒木]そうですね。高野さんの話でも正常なヒト細胞で出来なかった悪性化が色素性乾皮症の細胞を使ったらうまくいったという事でした。
[堀川]色素性乾皮症の細胞にはDNAウィルスがいるのではないかという話もあります。
[安藤]色素性乾皮症細胞はSV40にも感受性が高くて発癌しやすいそうですね。
[堀川]そしてO型の人に多いですね。
[梅田]リペアがおそいという事がウィルスが入り易い条件になっているのではないでしょうか。ハムスターは色素性乾皮症と似た性質があるのではないかと考えています。
[堀川]種が違うと色々異なることも多くて複雑になります。色素性乾皮症を使う時は対照にヒト細胞を使わないとだめでしょうね。しかしヒト細胞は悪性化の決め手がないという事が困ります。
[梅田]一本鎖切断の場合SV40のDNAのような大きいDNA分子が入り得るのでしょうか。
[下条]10の6乗分子量位はいっています。
[堀川]ウィルスの全分子がはいる必要はないのでしょうか。

《高木報告》
 RRLC-11細胞の放出する毒性物質の分劃:
 先に行った実験でRRLC-11細胞の放出する毒性物質は限外濾過の外液にでることが確認された。すなわち(図を呈示)RRLC-11細胞の培養液の限外濾過外液は、培養液そのものと全く同じ程度にRFLC-3細胞の増殖を抑制した。従ってこの毒性物質の分劃を試みるにあたり、まず限外濾過外液を試料として用いることとした。すなわち集めた培地をまず7,000〜8,000rpm、20分遠沈後その上清30mlをpore size 24Åのvisking tubeに入れて限外濾過を行い、外液25mlを得た時点でこれを中止し、その20mlを試料として用いた。
 外液の一部5mlはmillipore filterで滅菌後RFLC-5細胞に入れてCytotoxicityをみたが、この実験では対照が4日間に8倍以上の増殖を示したのに対して外液を加えたものはでは約5倍の増殖を示し、やや抑制がみられたが上記実験のように完全な抑制はみとめられなかった。しかし兎も角この外液を用いて実験をすすめた訳である。実験条件は、Sephadex G25、45x270mmのcolumn、溶出液として0.005Mphosphate buffer(pH 7.2)、flow rateは72ml/hr、10ml/tubeで4℃で行われた。
10%AgNO3と2N HNO3でCl-をcheckしたが、これは39本−51本にわたって認められた。そこで39本までを5つのfractionに分けて凍結乾燥し、その各々を5mlのphosphate bufferにとかしてRFLC-3細胞に対する毒性効果をみたが、この際各fractionの培地に入れる濃度は10%とした。結果は(図を呈示)分劃IIIに可成の増殖抑制が認められた。しかし、II、IV、Vにもわずかながら抑制効果がみられるようである。
 この際用いた外液では全く増殖抑制効果はみられなかった。この外液を培地に加える濃度のみは20%としているので、この場合、時日の経過、凍結→融解・・の操作中の不活性化が考えられる。この点検討中である。また限外濾過しない培養液そのものについても同じくcolumnを用いた分離を試みている。実験条件は上記と全く同様であるが得られた100本(1l)についてO.D.280mμで吸収曲線を調べたところ19本から29本にわたり、21本目をpeakとした吸収が認められた。またわずかながら35〜59本および77〜97本にわたっても吸収が認められた。Cl-はこの場合38本〜51本の間にみとめることが出来た。そこで一応38本までを5つのfractionに分けたが、その中蛋白が出ていると思われる19〜25を1groupとし、園前後を各々2つに分けた訳である。この結果については後日報告する。RRLC-11細胞培養液を分劃したものについての吸収曲線、RRLC-11細胞と数種の細胞との混合培養のスライドにつき供覧する。

 :質疑応答:
[永井]Sephadex分劃は一度最後まで分劃して全体を調べておく必要がありますね。
[勝田]私達の実験では、肝癌は正常肝細胞、肉腫はセンイ芽細胞という組み合わせで作用があります。高木班員のは何故肉腫と肝細胞を組み合わせたのでしょうか。
[高木]始めは肉腫とセンイ芽細胞の組合わせで実験していました。今回のは肝細胞に対して調べてみました。物が不安定なのと検査する細胞の感受性が変るのが困ります。
[勝田]私達のデータでAH-7974の出す毒性はラッテにtakeされない肝細胞に対しては毒性があるが、takeされるようになった肝細胞はやっつけないということがあります。
[梅田]免疫学的な意味で生体で試みると、より強く差が出るのではないでしょうか。
[勝田]まさにそれをやりたいと思っています。

《山田報告》
 ConcanavalinAの反応機序:
 悪性腫瘍に特異的に凝集作用を起こすと云われるこの物質の作用機序については、多糖類マンノースに特異的に反応すると云う知見以外は細胞凝集についての解明がない。しかもその作用する分子レベルでの知見と、肉眼的レベルでの凝集と云う知見が直結している所に、この反応の弱点がある。
 そこでこの反応の作用機序について昨年暮より検索してみた実験結果を綜合して考案し、この凝集反応の機序についての仮説的な説明を試みてみたい。(以下各々図を呈示)
 前報に報告したごとく、微量のConcanavalinA(以下Conc.Aと省略)を細胞(ラット腹水肝癌)に混合すると、一過性に、その表面荷電密度が高くなる。より濃い濃度のConc.Aを作用させると、かえって減少する。これは明らかに、Conc.Aを介してイオン結合による細胞の凝集反応ではない。プロタミン-Sなどの陽イオンを細胞と混合すると、直ちに吸着されて、その細胞の表面荷電密度は低下して凝集が起り、決して細胞の表面荷電密度の上昇はみられない。
 またノイラミニダーゼ感受性の高い細胞はより微量のConc.Aで荷電の上昇がみられる。(この現象が悪性細胞と特異的に凝集すると云う報告と関係があると思われる。勿論悪性細胞に特異的に凝集するとは思われない。) しかも、あらかじめノイラミニダーゼ処理した細胞はより微量のConc.Aと凝集し、荷電の上昇もより微量で起こる。
 Conc.Aを結合させた細胞に二次的にノイラミニダーゼ作用させると、あらかじめConc.Aにより細胞表面荷電の上昇した状態では著しくノイラミニダーゼ感受性が高まり、高濃度のConc.Aにより荷電密度の低下した状態ではノイラミニダーゼの感受性が著しく低い。しかもこの状態では、細胞表面は形態学的にみられる程に変化を生じ一部破壊していると思われる。
 この結果は、細胞最表面におけるシアル酸(N-acethyl-neuraminidase)の荷電の空間的位置の状態と、Conc.Aの凝集作用が著しく関係があるものと考へる証拠を提出している。
 細胞表面における糖蛋白の分子配列は勿論充分解明されていないが、従来の報告を綜合すると(図示)略々推定されている(勿論これは極めて単純化したもので、これ以外の糖類や糖脂質が実際は介在する)。この糖蛋白の構成成分中荷電をもつものはシアル酸のカルボキシ基しかなく、しかも最末端に存在する。そしてGalactose→N-acethyl-glucose→Mannose(二分子)→N-acethyl-glucoseを経て、更に幾つかの多糖類が続き(この部分はなほ不明)、最後にポリペプチドのアスパラギン酸に結合していると考へられる。更にmannoseの末端に不全糖鎖がGlc.NAC→gal.或いはGlc.NACが結合している。
 この糖蛋白の分子配列から考へると、より深部にあるMannoseにConc.Aが結合するためには、末端のシアル酸が干渉する可能性がある。文学的表現を借りれば、林立するシアル酸分子をかきわけてConc.Aが入りこむと云うことになる。しかし一方末端のシアル酸がすべて表面に露出しているとは限らず、また周囲の物質によりマスクされている可能性がある。(模式図を呈示)。微量のConc.Aがより深部のMannoseと結合することにより、末端のシアル酸が露出して来て、より表面における密度が高くなると考へれば、Conc.Aによる細胞表面荷電密度の増加が良く理解される。多量のConc.Aが結合する場合には、これらの分子配列の変化と同時にConc.Aの吸着による表面のマスクにより荷電が低下し、物質の喪失も考へられる。しかし、多量のConc.Aを作用させた細胞浮遊液の上澄には、荷電物質の遊離していることを証明出来ない。(上澄中の荷電物質をコロイド滴定法により測定したが、使用した細胞量が少なかったので測定出来ないのかもしれない)
 Conc.Aによる凝集はこの細胞表面の荷電密度が増加する状態では明らかでない。荷電を低下させる程の高濃度で明らかに凝集が起こる。このことは、この凝集は荷電の低下に伴う非物理的な現象の可能性が強く、ただ荷電を低下させる濃度が細胞により異るために一見特異的凝集と見える可能性がある。
 なほこの凝集反応は、d-mannoseやα-methylglucosidを作用させると消失するとの報告があるが、細胞表面荷電の変化も、これらの物質により抑制される。しかも少量のConc.Aを作用させて、細胞表面荷電を上昇させた後α-methylglucosidに反応させて、表面荷電を低下させると、ノイラミニダーゼに対する感受性が低下する。このことは一度細胞表面のmannoseと結合したConc.Aがこのinhibitorによって除かれる際にシアル酸の位置の変化、或いは喪失が起るのかもしれない。
 更にくわしく調べるにはラベルしたglucosamineをあらかじめ細胞表面にとりこませて実験する必要があるかもしれない。

 :質疑応答:
[勝田]ノイラミニダーゼを作用させた時、出てきたシアル酸は定量できますか。
[山田]ノイラミニダーゼ作用の場合のシアル酸は定量加納です。ConAの場合もシアル酸が出ているのかどうか、これから調べてみます。ConAを使うことで今まではっきりしなかったシアル酸の位置や糖の事など解明できるのではないかと希望をもっています。
[黒木]温度は何度で作用させていますか。
[山田]37℃で10分間の作用です。
[黒木]ConAの作用は温度にも問題があるようですから、少し低温も調べてみるとよいと思います。

《堀川報告》
 前報ではアルカリ性蔗糖勾配遠心法による一本鎖DNAの分析の際に蔗糖勾配上にあるlysis溶液中で、細胞をlysisする時間が長くなれば長くなる程、一本鎖DNAは低分子化されることを示した。つまり、こうした結果は、一本鎖DNA中にはアルカリに対して不安定な部分のあることを示すものであると結論した。
 今回は、従来二本鎖DNAの解析に用いるSDS法でも、同様の結果がみられるか否かについて、行った実験結果について報告する。
 あらかじめH3-TdRでlabelした細胞を5〜20%中性蔗糖勾配上にのせた2%SDS溶液中で種々の時間lysisさせ、しかる後、同一条件下で超遠心して得られたsedimentation profile(図を呈示)から、SDS溶液中でのlysis時間と二本鎖DNAの低分子化は無関係であることがわかる。つまり、二本鎖DNAのsizeはSDS溶液中でのlysis時間を長くしても殆んど影響をうけないものと考えられる。このことは、ひいては、SDS溶液中にpronaseやtrypsinを加えた時に生じた二本鎖DNAの低分子化は、それらによる直接のenzymatic actionnによったものであることを、あらためて支持するものである。
 一方、培養細胞は、その細胞周期を通じてX線に対し異なった感受性を示すことが発見されて以来久しいが、未だこうした周期的感受性差を生じさせる要因の本体を解明するには到っていない。私共はこうしたX線に対する周期的感受性差ひいては紫外線、化学発癌剤4-NQOに対する周期的感受性差の原因を解明するため、従来Terasima等によって開発された採集法を改良することにより、培養細胞のための新しい同調培養法を確立した。つまり0.025μg/ml colcemidで6時間細胞を処理し、M期で止められている細胞を採集法で、大量に集めようというのである。この方法によれば一度に大量の細胞が得られるばかりか、集められた細胞は生理的にも生化学的にも、殆んど障害をうけていないことが証明された。さて、このようにして得られた同調HeLaS3細胞における細胞周期を通じてのX線、紫外線、4-NQOに対する感受性の違いは、(表を呈示)HeLaS3細胞は細胞周期を通じて3者に対して、まったく異なった感受性を示すようにみえる。(あるいは4-NQOの周期的感受性曲線は紫外線のそれと本質的には同じものかもしれないが、この点については一応予備実験の結果としてみていただきたい。後続の実験結果が出て来次第、はっきりした結論は出ると思われる。)いづれにしてもこうした化学発癌剤4-NQO、X線あるいは紫外線に対する細胞の周期的感受性曲線の本体を解析することは、私共の別の実験系、HeLaS3細胞から分離したUV-感受性細胞を用いての発癌実験と共に、今後細胞のDNA障害の修復能と発癌との関連性を解析してゆくうえに重要なものとなろう。

 :質疑応答:
[勝田]発癌実験にHeLaを使うのは一寸どうかと思いますね。
[堀川]復元実験にも困りますね。
[勝田]兎の前眼房に入れればtumorを作ります。
[乾 ]スポンジ培養をすると組織像で悪性度が多少わかるのではないでしょうか。
[堀川]Lではexcision repairがなくHeLaとは根本的に違うので、何とか人の細胞を使ってUVと4-NQOの作用機作を較べてみたいのですが・・・。
[勝田]アミノ酸としてリジンを使ったのは何か理由がありますか。
[堀川]妥当だろうといった所です。
[山田]synchronizeにcolcemidを使うのは、他にも発表されているのでは・・・。
[堀川]しっかりした基礎データがなかったのです。
[黒木]synchronous cultureというのは全く労力的に大変な仕事ですね。

《佐藤報告》
 DAB代謝に関する検討
 培地中のDABは培養肝細胞によって代謝されるが、発癌に関与する代謝のみの検討は仲々困難である。そこで(図を呈示)標識DABをつくり、月報7112、7201の如き処置を行った。Autoradiographyの取り扱ひ方そのものに未だ問題がのこっているようであるが、このような実験を開始したのは以下の理由による。(1)培養細胞を利用して発癌の機構を検討する場合、特にDAB発癌では投与されたDABの内極めて少量のものが、発癌に関係しているように思われる。(2)DABは蓄積的に作用すると考えられる。したがって細胞単位でこれをDABの作用として認めるためには個々の細胞への蓄積効果乃至蓄積反応をつかまえなければならない。(3)その概観を得た上で化学的に分析したい。
 (図を呈示)アセトン洗滌をした場合としなかった場合のgrain数の差である。アセトンでアルブミン等の血清蛋白と結合したDABが除去された結果が見られる。

 :質疑応答:
[堀川]バックグランドがどの程度かを先ずはっきりさせてほしいですね。
[佐藤]細胞の無いところで数えて細胞相当の面積当たりで13コ位でした。
[堀川]少し多すぎますね。
[黒木]TCAではfreeのDABが抽出されないのではありませんか。
[佐藤]色でみていると抽出されてくるようです。
[乾 ]TCAで固定というのは大丈夫でしょうか。
[堀川]TCAだけでは固定になりません。あとアルコールできっかり固定しなくては。比活性が高いのもバックグランドを多くする原因の一つでしょうね。
[乾 ]ラベルした発癌剤を使ってのAutoradiographyはとても難しいですね。私もバックグランドをきちんと出す事などに随分神経を使っています。
[勝田]この実験で何を狙っているのですか。
[佐藤]細胞内に結合したDABの動態を個々の細胞で追ってみたいのです。
[勝田]長期間追ってゆくとH3の行方を追うことになりませんか。分劃して液体シンチレーションにかけてみたらどうですか。
[佐藤]それでは細胞個々ではなくて平均値になってしまいます。
[黒木]細胞分劃にした方が、事がはっきりすると思いますがね。
[安藤]これだけ比活性が高いのですから、きれいに出るでしょう。
[佐藤]しかし、個々にみるとDABが蓄積される細胞もあり、分裂して減るものもあるというのを、グレイン数で表現したいのです。
[勝田]細胞質の或る部分にグレインが集まっていたりすると、二分したとき片方だけにグレインが受け継がれるという事もあり得ますね。
[佐藤]発癌というのは沢山の細胞の中から或る少数のものが悪性化してゆくのではないかと考えています。それを形態的に追跡してはっきりさせたいのです。
[堀川]矢張りH3ラベルのDABが特異的に細胞の中に入っているのかどうかを基礎がためするべきですね。それから細胞分劃もしてみた方がよいですね。
[安藤]再培養系はどうですか。
[佐藤]グレイン数の多い方へピークが移ります。
[安藤]タイムコースを取るのも必要なことですね。
[佐藤]コロニーレベルで処理すれば取込みの多いコロニーは判然とするでしょうね。
[堀川]その取込みの多いコロニーが悪性だと言えるならよいのですがね。

《黒木報告》
 Cyclic AMPの受容蛋白(CRP)について(1)
 先月号の月報に書いたように、いくつかのprojectsのもとに研究をすすめているが、現在までにdataが得られているのはCyclic AMP receptor protein(CRP)に関するdataのみである。Contact inhibitionのmediatorとしてのCyclic AMP、それを受取りtranscriptionに調節効果を与えるものとしてのCRPを考えている訳で、培養細胞にいく前に、どうしてもCRPをpurifyする必要がある。E.ColiではCRPが分離精製され、pH 9.12に等電点をもつ、分子量22,000のsubunitから成るdimerであることが明らかにされている(Anderson et al,JBC,246,5929,1971)。これはh.proteinと非常によく似ている。しかし、動物細胞では、その存在がDEAE-cellulose chromatographyで明らかにされていても、まだ十分には分離精製されていない。主な興味はprotein kinaseの調節機構にあるようで、それに関するpaperは最近号のJBC、BBRC、PNASなどを開けば必ずといってもよいくらい載っている。それは次の式で表される。PK・CRP(inactive)+CAMP→ATP Mg++←PK(active)+CRP-CAMP
 材料:ラット(JAR)肝homogenate
 buffer:10mM Tris-HCl pH7.4、5mM MgCl2、5mM Z-mercaptoethanol
 CRPのassay法:CRP・CAMPの結合はcovalentでないので、TCA ppt法などは用いられない。文献的にはMillipore filterに吸着させる方法、equilib、dialysis、Diaflow membraneに吸着させる方法などがあるが、ここでは小さなSephadex G-25を用いた。Columnの大きさは9x60mm、0.2mlのReaction mixtureに10mg/mlのdextran blueとphenol redのmixtureを1drop加えcolumnを通すると、高分子fractionはdextran blueとともにvoid volumeのところに出てくる。1sampleの所要時間は1〜2分、約10分洗うとphenol red(分子量はCAMPとほぼ同じ)の色が完全に消失する。
 Reaction mixtureは0.1mlの下記bufferと0.1mlのprotein solu.。10mM Tris-HCl pH7.4、3mM MgCl2、5mM Z-mercaptoethanol、6mM theophylline、0.5μM CAMP[8-3乗H](1Ci/mmole、0.5μCi/ml)。Reactionは0℃、20分間。
 (1)細胞内分布
 ラット肝を0.25M sucrose standard bufferでhomogenateしてのち、核、mitochondria、microsomal、cell sapのfractionに分けた。(分劃図と結果表を呈示)70%のCRPはCell sap.に存在するので以後Cell sap.を用いてCRPの分離を行う。
 (2)(NH4)2SO4 ppt法
 Cell sap.を脱塩をかねて、硫安で沈デンさせたのちovernight透析し、Specific activityを調べた。(表を呈示)0-50%硫安pptのみで約3倍に濃縮されることがわかった。
次のstepのDEAE・cellusoseは目下進行中である。
 <3T3細胞のtransformation>
 Aaronsonから得たBalb3T3と井川君(NCl)から得たBalb3T3を用いてDMBAによるtransformationを検討中である。3T3をcontact inhibitedの状態で継代するのはむつかしく、特に血清が重要である。まだtransformationは得られていない。

 :質疑応答:
[勝田]Contact inhibitionの定義がだんだん曖昧になっていますね。3T3のような細胞が特殊なのであって、大部分の細胞はcontact inhibitionはかからないのではないでしょうか。
[堀川]Eagleが最近pHのことをさかんに問題にしていますが、そのpHによるregulationをみると血清以外にもfactorがあるようですね。
[黒木]Contact inhibitionをsaturation sensitivityとするとdensity dependentな問題になります。これがserum factorに対する反応と考えると栄養要求の問題になるわけですね。
[山田]Contact inhibitionの定義はlocomotion、growth、overlayの三つがあげられると思います。
[勝田]3T3を使う理由は悪性コロニーを検出しやすいからですか。
[黒木]そうです。定量化できますから。
[佐藤]3T3の処理前のものの腫瘍性をチェックしてありますか。もしtakeされるのなら、発癌実験として意味がないと思います。

【勝田班月報・7203】
《勝田報告》
 JTC-15株細胞(ラッテ腹水肝癌AH-66)の復元試験成績のまとめ:
 この株は1963-5-22に培養に移されて、latent periodもなくそのまま株化した細胞である。面白いのは現在までの経過中に可移植性を失った時期のあったことである。
 1967-5-21、1968-11-26、1968-12-21の移植では100万個以上の接種でも腫瘍死は0であった。1969-5-5に軟寒天法で拾ったクローンは10,000コ接種まで腫瘍死した。       1971-12、軟寒天と液体と両培地にまき、前者からは6コのクローンを得たが、その内の一つが腫瘍性が低いらしく、復元接種動物がまだ死なないでいる。液体培地の方からはクローン4が得られ、目下検討中である。後者は可移植性のないクローンを取りたいという目的で試みている仕事である。軟寒天で得たクローンで動物を腫瘍死させなかった典型は、"なぎさ"変異株の細胞である(表を呈示)。

《黒木報告》
 1.Cyclic AMP受容蛋白について(2)
 目下DEAE cellulose chromato.を検討しています。
0.05−0.5M KClのlinear gradientのときはPKとCRPがよく分れず、またCRPもshoulderをもつため、0.1、0.2Mのtwo step elutionを試みた(図を呈示)。図のように0.1MでeluteされるFrIにはCRPとPKが、0.2MのFr にはCRPが大部分にPKが少し含まれていることが分った。
このそれぞれをさらにDEsephadexで分け、その上Sephadex G-100にもっていくことを考えています。
 2.3T3 transformation:
 まだtransformationに成功していないので、目下cloningによるcloneをひろってみることを試みています。Prostateのときも、cloningによりhydrocarbon carcino-にsensitiveのcloneをひろい出した経験があります。この他、inbredのhamsterから、ふたたび、3H3を分離せんとしてます。問題は培養1ケ月以後のgrowthのcrisisをどのようにしてのりきれるかというところにあります。

《山田報告》
 CQ68(RLC-10(2)4NQO処理後の変化);
引続いて2回、日を追って細胞電気泳動的変化を検索すると共に、これまでの成績をまとめてみました。この株は前報に班長が報告されたごとく、4NQO処理後36日目及び143日目に復元移植されて、腫瘍化が証明された(宿主はまだ腫瘍死していない)細胞株です。
 前回に引続いて4NQO処理後230日目の泳動度分布、及びノイラミニダーゼ処理後のそれです。依然としてこの株は腹水肝癌を培養した株(例えばJTC-16)のごとく、典型的な悪性型の泳動パターンを示しませんが、比較的少数細胞が悪性化したと思われる泳動パターンです。この株の抗原性が宿主JAR-2とは、当初から多少異り、その免疫学的反応についても、しらべていますが次回報告します。このCQ68の細胞について4NQO処理の当初からの実験成績をまとめてみました(図表を呈示)。
 14日目に既にかなりノイラミニダーゼに対する感受性が出現し、36日目に一応"take"されています。その後若干細胞構成に変化が生じ、ノイラミニダーゼ感受性が減少し、122日目に再び増加しています。細胞の構成純度も多少バラツキが出ていますが、日を追ってその程度が増加して来ているとは思えません。比較的少数細胞が変異悪性化し、変異しない細胞と培養条件で競合して増えていると云う印象です。
 なほHI-1(なぎさ株)の電気泳動的性格も検索しましたが、前回と略々同様な成績を得、特別にこの細胞株の細胞膜は薄弱で、ノイラミニダーゼ処理により、著しくこわれてしまいました。その成績も次回書きます。

《安藤報告》
 L・P3細胞DNA及び連結蛋白質のBleomysin(BLM)による切断と再結合について:
 4NQO及びその誘導体の発癌活性と、細胞DNA及び連結蛋白質の切断能の間には強い相関性がある事を報告してきた。一方4NQOの関連化合物は強い制癌性をも持っている。そこで、DNAの切断、連結蛋白の切断がこの物質の制癌性の示す反応であるかもしれない。そこで著しい制癌剤であるBLMが細胞に対しこのような活性を示す(切断活性)か否かを検討した。
 L・P3に25〜750μg/mlのBLMを添加し、3日間培養しcell countをする(図を呈示)。濃度依存的に増殖阻害を受ける。これ等の濃度で処理を受けた場合、細胞内DNA、連結蛋白がどうなっているかを調べた。(図を呈示)図に見られるようにBLM 25、50、750μg/ml、30分処理を受けた直後においては、DNA一重鎖は種々の大きさに切断されていた。特に興味深い点は、25μg/mlにおいてはS値は小さくなるがpeakはsharpでありnon-randomな切断のように思われる。これは恐らく連結蛋白(Lett等の云うアルカリ性に不安定な結合)のみの切断に原因すると思われる。
 50μg/ml以上の場合にはpeakはrandom patternを示し、nucleotide bondの切断を意味しているゆに思われる。これ等の処理細胞を薬剤除去後、3時間回復培養をする。その後分析したのが図のパターンである。25μg/mlでは完全な修復が、50μg/ml以上では不完全な修復であった。
 (図を呈示)図においては二重鎖切断とその回復を調べた。この場合にも濃度依存的な切断であり、特に注目すべき点は50μg/mlと750とあまり変りない事である。これ等の細胞を24時間の回復培養を行った後に分析した所、25、50では完全な修復、750では部分的修復であった。
 次にこの二重鎖切断と見える障害が連結蛋白に対するものであるか否かをきめるために4NQOにいて行ったと同じ方法でBLMとPronaseとの組合せ実験を行った。図では各種濃度のBLM処理、それぞれの濃度のBLMとPronaseの組合せの結果を示す。25μg/mlの時はBLMのみでは不完全な連結蛋白切断、50、750の場合には、ほぼBLMのみにより完全に連結蛋白は切断されている。
 以上の実験結果は4NQOの場合と非常によく似ている。但しBLM 50μg/ml以上では濃度依存性が少くなる点は異る。これ等の事実はBLMの制癌性を説明すると同時に、もしかして発癌性もあるのではないかという疑問をいだかせるに充分である。今后の検討が必要であると思う。

《佐藤報告》
 (図を呈示)図は、543日でsingle cell cloneをつくり、以后コントロールとDAB 5μg/ml、20μg/mlで継続培養内添加をおこなった実験系図である。此の実験系のコントロールは、図の如く800日を経過しても腫瘍をつくらなかった。処理群は700日以降腫瘍をつくっている。組織像等については次回に報告の予定。

《藤井報告》
 担癌ラット・血清及び腹水のリンパ球−腫瘍細胞混合培養反応(MLTR)に対する抑制作用
 第30回癌学会総会の発表および本月報No.7201において、Culb-TC細胞の方が、Culb-TCをふたたびJAR-1ラットの腹腔内に接種して増殖した細胞よりも、MLTRにおけるリンパ球刺激能の高いことを報告した。この現象は、C57BLマウスのフレンドウィルス誘発癌においても同様に見られたが、in vivoにおいて、癌細胞膜が何らかの液性成分の処理をうけ、その抗原刺激性が低下するものと考えられた。
 今回の実験では、培養細胞を、担癌ラット血清および腹水をMLTR反応液に加え、その影響をしらべた。血清および腹水は、JAR-1ラットにCulb-TCを接種し、25日目のものである。刺激細胞:Culb-TC、5万個、4,000R照射、反応細胞:JAR-1ラット末梢リンパ球、50万個。反応液に0.1mlの血清(担癌)、1/1、1/3、1/9稀釋と、正常ラット血清0.1mlを、それぞれに加える。担癌腹水も同様におく。対照には正常血清各稀釋 0.1mlと1/1 0.1mlを加えた。培養6日目のMLTRの成績を対照に対する抑制率を表にした(表を呈示)。担癌血清は、リンパ球に対する反応もなく、用いた濃度で、何れも抑制的に作用した。担癌腹水は高濃度において、その抑制が反って低くなっているが、一方リンパ球に対する刺激が1/1、1/3稀釋で見られており腹水処理Culb-TCと、腹水のみのリンパ球刺激作用を分離して観察する必要が出てきた。
 担癌血清のMLTR抑制から、担癌血清中の何らかの因子が、Culb-TC細胞表面の刺激基に附着して、刺激能を遮断しているものと考えられるが、それが抗体であるのか、他の血清成分であるかは、なおつづけて観察する予定である。現在X線照射Culb-TC、フレンドウィルス感染Culb-TCなどでJAR-1ラットを免疫中であり、抗血清ができ次第、MLTRにおける免疫学的特異性の問題について実験を組む予定でいます。
 皮膚移植によるJAR-2ラットの純度検定:
 勝田先生のところのJAR-2ラットのうち、F-20、46-7-21生の分は、同腹8匹あり、同性間皮膚移植をおこなったが、47-2-28日現在、>155日生着が6匹、>145日が1匹(死亡、死亡時グラフトは完全)、>95日が1匹(他の実験に用いられた。観察期間中グラフトは完全)で、minor histocompatibility angigensもまず無いと云えます。
 F-21、46-10-24生、は♂7匹、♀3匹で、♂→♀と♀→♂の組合せで皮膚移植をおこないましたが、♀→♂は47-2-28日(>76日)現在、7匹全く完全な状態でグラフトは生着しています。反対に♂→♀は3匹にうえた7つのグラフトは程度の差はあれ、いづれもchronic rejectionを示し、グラフトの縮小、脱毛がおこってきておりY-染色体に関係するhistocompatibilityantigenによるrejectionと云えます。

《高木報告》
 RRLC-11細胞の放出する毒性物質について:
  先の班会議で報告したように、RRLC-11細胞の培養液を、限外濾過した外液について、sephadex-G25で分劃し、試験管に10mlずつ分注すると、NaClは39〜51本に証明された。そこで39本目までを5つの分劃とし( 〜 分劃)、各々を凍結乾燥後5mlの蒸留水にとかしてRFLC-5細胞に対する毒性を調べたところ、第 の分劃において最も強い毒性がみられた。しかし、細胞数でみればinoculum size 45,000に対して4日後に65,000とわずかながら増殖がみられた。この際大体同一の条件で保存した外液では増殖の抑制は全くみられなかったので、この分劃に可成りの活性が集中していることが考えられる。ついで、RRLC-11細胞の培養液そのものについて、限外濾過を行なわず、Sphadex G25により分劃したが、NaClを38〜51本の試験管に証明した。またOD280mμで吸収度を調べたところ19〜25本の間に強い吸収を認めたのでこれを1つの分劃とし、その前後を各々2つずつに分けて5つの分劃とした。凍結乾燥後5mlの蒸留水に溶かしてRFLC-5細胞に対する毒性をみた。この場合、えた溶液は透明でなくやや乳濁した感があったが、2回行った実験はいずれも同じ傾向でI分劃がもっとも毒性強く、ついで 、 、 および 分劃の順であった。この毒性をみる際の培養はどの分劃を加えたものも多少ともcell sheetに上に沈殿物を生じており、また光顕的に細胞変性のおこり方が毒性物質によるものとやや異るようで、非特異的な毒作用の感がつよい。今後の実験は毒性の強い培養液の限外濾過外液について行い、sephadex G25で再現性を確かめた後、毒性物質のえられた分劃についてさらに分析を進めて行きたいと考えている。またこの細胞の放出する毒性物質は培養により可成り変動がみられることを報告したが、安定性などの基礎的問題についても検討しつつある。まず−20℃における凍結保存について、現在、凍結14日目を検討中であるが、7日目では毒性に変りは全くみられなかった。その外、外液の凍結乾燥による影響、高い温度による影響、等についても調べる予定である。
培養内細胞悪性化の示標について:
培養内で細胞が悪性化した際のin vitroの示標を探すため、再度soft agarを検討してみることにした。その培地の組成について、特にTodaroらの云うserum factor free血清について予備的に実験を行った。20℃下に仔牛血清120mlを用い、硫安1/3飽和でγglobulinをおとし、この血清を濾紙で濾してγglobulinを除いた血清をとった。Serum factorは硫安33〜50%飽和でおちることになっているので、この操作で部分的に除かれたものと考える。これを3日間氷室で蒸溜水、PBSで透析し、NH4+のなくなったことを確かめて濾過滅菌し、MEMに5%の割に加えて腫瘍細胞RRLC-11および正常細胞RFLC-5の増殖に対する効果をみた。これら細胞は、はじめの2日間MEM+5%CS培地で培養し、2日目に上記血清を加えた培地で交換して4日間培養を続けた訳である。結果は(図を呈示)、RRLC-11細胞では対照が2日目の14.4万個から6日目に120万個と増殖したのに対し、実験群では6日目に86万個でわずかな抑制がみられた。一方RFLC-5細胞では対照が2日目の14.7万個から6日目に107万個であるのに、実験群では6日目に20.5万個と抑制がみられた。Serum factor free血清をうる技術的問題など残されているが、一応soft agarに用いてみたい。

《佐藤茂秋報告》
 1)マウス脳腫瘍(Glioblastoma)の培養細胞は現在培養日数260日となっている。240日目のアルドラーゼの解析でもC型アルドラーゼが検出され、その分子種のパターンもこれ迄の結果と違いはない。現在、培養液中に種々の物質を添加し、その表現形質の変化に対する効果を見ているが、dibutyryl cyclic AMPとtheophyllineを同時に加える事により細胞の突起の数、長さが増大した形態的に分化した神経膠細胞に似たものが出現するという結果を得ている。尚、本実験は今続行中である。
 2)ラット肝由来の細胞系(RLC-10)に、肝実質細胞のマーカー酵素の一つ、glucose-6-phosphatase(G6Pase)活性が正常肝の約1/2存在する事を前回報告したが、吉田腹水肝癌の培養系(JTC-1、JTC-2、JTC-15、JTC-16)及び4NQO処理したRLC-10について、同様の方法で、G6Pase活性を測定したところ、いずれの細胞系についても正常肝の1/2〜1/4の活性が認められた。この事は今の活性測定系が、非特異的なphosphataseをも測定している可能性を示唆するので、今后特異的なG6Pase測定報を考える予定である。

【勝田班月報・7204】
《勝田・永井報告》
 肝癌AH-7974を4日間培養した培地を正常肝細胞の培養に添加すると肝細胞が阻害され或いは殺されてしまうところから、その毒性物質の本態を永年追かけてきたが、未だにまだはっきりしたところは判らない。しかし、これまでの経過をここで一応中間報告しておくことにする。
 1)Dowex 50(H+)
 いろいろのresinも試みたが、現在では培地をまずDiafilterで限外濾過し、その濾液をSephadex G25で分劃し、そのなかの有効分劃(B)をさらにDowex 50(H+)で分劃している。その結果図のようなelution curveが得られた(図を呈示)。これはnon-stepwiseのelutionである。これを図のように 〜 に分けて阻害活性をしらべると、 -2と に活性が認められた。 -1には活性はなかったが、これを含めて分劃のアミノ酸組成をしらべた結果が次の通りである。
 2) -1、 -2分劃のアミノ酸組成
 Amberlite RC-2(日本電子の特製)の自働分析器で分けた結果を図で示す。図の上はスタンダードのアミノ酸mixtureである。 -1には沢山peakが出ているが、Arg、Tyrは認められない。 -2は大きなpeakが一つ、これはアンモニアに相当するが、アンモニアが培地内にそんなに存在する筈がないので、同じ処に出る可能性のあるものとして、アミン系、とくにエタノールアミンが疑わしい。その他には小さなpeakがいくつかあるが、要するにニンヒドリン陽性物質が一般に減少しているといえる。最左端のLysのpeakが、きわめて小さいことを記憶しておいて頂きたい。
 3)高圧濾紙電気泳動
  -2を高圧で泳動させると図のようになった(図を呈示)。泳動后、左から2番目のように濾紙を切り、夫々をeluteして調べたが、どれにも阻害活性が認められなかった。そこでB2、B5を再び泳動させてみると、図の右の2本のようにB2ではSerに相当し、B5ではLysに相当した処にbandが現れた。Lysは第2図のように少量しか含まれていないので、B5のninhydrin-positive bandはLys以外の別の物質を示しているかも知れない。また阻害活性のなかったのは、培養に使う前に、凍結乾燥したのでアミンが飛んでしまった為とも考えられる。
 4)炭末吸着
 Nucleotides類は炭末に吸着するので、 -2分劃を活性炭(武田)に吸着させた後、2%にアンモニアを含むエタノール50%でeluteし、吸着したものとしないものとに分けて阻害活性をしらべたのが、第4図で(図を呈示)、非吸着の方が少し阻害活性が強い。しかしこの実験では手順を誤って省いたところがあるので、吸着分劃に非吸着性物質が混在している可能性がある。
 だがそのUV吸光度(第5図)から見ても、核酸の疑いはきわめて薄い(図ではむしろ280nmのところに肩がある。)といえるであろう。
 それではpeptidesであるかどうかを次にしらべた。
 5) -2分劃の加水分解
  -2を18時間酸水解し、これの阻害活性をしらべた結果(図を呈示)、明らかに阻害活性を示している。従って阻害因子はpeptidesではなく、アミノ酸レベルの大きさの物質であろうと推定される。なお、この分劃の添加により培地のpH7.4から7.2位にまで下がったが、これでは障害を起すとは思われないので、HClのための阻害とは考えられない。
 以上、今日までに得られたデータから綜合すると、毒性代謝物質の本態は、1)低分子物質で透析も限外濾過もできる。2)耐熱性で100℃40分ではこわれない(しかし -2については未調査)。3)糖、脂質、核酸系物質は含まない。ニンヒドリン陽性であるが、ペプタイドではないらしい。

《梅田報告》
 (1)月報7201の堀川さんの報告でsucrose gradient上にlysis液をのせ、その上に細胞をのせてから種々の時間lysisさせたのち超遠心にかけると、lysisする時間が長ければ長いほど、1本鎖DNAは低分子化されるきれいなデータが示されていた。
 我々は回復実験の時など、一時に細胞を処理して時間がきたものからsucrose gradient上に細胞をのせておいて、最后のものの時間がきてから超遠心にかけると非常に便利と思っていたので、堀川さんのデータを追試してみた。我々の条件は、0.3N NaOH、0.7M NaCl、0.001M EDTA、0,01M Trisで、堀川さんの記載は0.1M NaOH、0.9M NaCl、0.01M EDTAとあった。又lysis液は我々は2N NaOHそのままを用い、堀川さんは0.5M NaOH、0.1M EDTAとあった。我々の方法は安藤さんより教わった方法で、比較してみると我々の方がアルカリは強いがEDTA液はより低濃度を使用していることになる。
 今迄のAlkaline sucroseの実験は30,000rpm 90'の超遠心を行っているが、図1に示した実験は30,000rpm 60'の遠心を行った。(図を呈示) 細胞をoverlayしてから4時間経ったもので、topの方にややカウントの増加が認められるが、大部分は低分子化していないことがわかる。図2では更に遠心条件を下げて20,000rpm 60'の超遠心を行った。2の場合、bottomと11〜12本目と山が2つ出て、どちらかがDNAのconglomerateと想像しているが、overlay後2時間経っても、その傾向は変らず、4時間経ったものは真中の山の裾がややのびているだけで、堀川さんのデータの様な著明な低分子化は起っていない。
 gradientの組成の違いが問題なのであろうが、以上のデータより我々はoverlay后時間をかけても、直ちに超遠心したものも同一条件のデータとして解釈出来ると結論した。
 (2)以前にAflatoxinB1の作用は回復酵素の抑制かもしれないと想定したので、その可能性を実験してみた(図を呈示)。図3の(A)は4NQO 10-6乗M1時間作用させたもので、DNAのsingle strand breakの生じたものである。(B)は、4NQO作用后2時間回復培養を行わせたもので高分子化の進んでいることがわかる。(C)は、(B)と同じ条件でただ回復培地中にAfla-toxinB1 10μg/mlを加えた。(A)に較べ回復は進んでいるが(B)の正常培地中での回復より明らかにおくれていることがわかる。(D)はAflatoxinB1 10μg/mlを2時間作用させたもので、AflatoxinB1単独ではbreakは殆んど惹起されていない。
 今後更に回復時間を長くしたもの、他の発癌剤等この種の実験を行ってみたいと計画している。

《乾報告》
 現在の発癌実験の経過報告
 本年度より新たに班員にして頂きました。本月報は初めての経験ですし又、当班に入れて頂きましても組織培養関係の研究として、過去の研究方法と特別に新しいProjectも早急には組めませんので、現在迄の研究の経過並びに本年度の研究計画を記述し御批判頂きたく思います。来月の月報よりは新しいDataを加えてまいります。
 1)現在迄、授乳期ハムスター細胞とMNNGの系を使用し主として、染色体変異をtrans-formationの指標の1つとして、試験管内発癌機構の解析を行ない次の結果を得ました。
(1)発癌剤投与初期に出現する染色体変異は、発癌剤の種類によって、a)単純染色糸レベル切断、b)染色糸交換型切断の二つに大別された。(2)初期染色体変異は、現在の通常法による染色体観察においては、細胞の癌化と直接の関連性をもたない。即ち、再増殖集団のModeの細胞の染色体は数・構造共正常とかわらなかった。(3)染色体の数的、構造的変異は細胞の形態転換時に始めて出現し、この染色体異常細胞はその後変化することなく、その細胞が動物に移植される時期迄継続する。(4)MNNG転換細胞の染色体数は多くの例で、近或いは高2倍体であった。(5)(図を呈示)図1〜3に示した如く、MNNGで悪性転換をした細胞1例(HNG-100)を使用し、ハムスター正常肝のDNAとDNA-RNA hybridizationを行なった結果、培養初期細胞とHNG-100細胞の間で、DNAレベル、全RNAレベルでは核酸に相異がみ認められず、Rapidly labeled RNAのpopulaionのみに差がみとめられた。
 これらMNNG transformationの系に関して、現在人間の染色体で行われているChromosomebanding patternを解析中であり、まず癌細胞と正常細胞の染色体上のHeterochromatin分布を検索し、次いで発癌過程のchromatin分布の差の出現を、経時的に追求したいと考えている。
 2)タバコタールによる発癌、ハムスター細胞にタバコ全タールを投与し細胞の悪性化に成功した。現在タール分劃、タバコの煙等を細胞に投与し、タバコ中の発癌有効成分を解析中である。
 以上の実験を現在行なっているが、本年度の計画として、1)試験管内癌細胞の指標の検索、2)発癌機構の染色体を指標とした追求、3)新しい試験管内発癌の系の開発等を行ないたいと考えております。

《黒木報告》
 §Balb3T3細胞によるtransformation§
 NIHのDr.Aaronsonから得たBalb3T3を0.2〜2.0μg/mlのDMBAで処置し(48時間)たところ、3.5週後に、contact inhibitionの喪失を特徴とするtransformed fociが得られた。実験条件は次の通りである。
 培地:MEM plus 10%FCS(Colorad Serum Co.)。
 うえこみ細胞数:5万個/dishにうえこみ、翌日DMSOに溶かしたDMBA(Eastman Kodak Co.)を、0.2、0.5、1.0、2.0μg/ml添加、DMSOの終濃度は0.5%であった(2/24/72)。48時間後、培地交換、以後3回培地交換を行った。
現在、培養中であるので、transformation rateなどの詳細はわかっていないが、2.0μg/mlで大凡5〜10foci 160mm dishである。今後、行うべき実験として、(1)Balb/c mouseへの移植、(2)fociの分離培養とそれらの表現形質の検討、(3)他の発癌剤特にnon carcinogenicderivativesによる実験がある。それらののちに種々の実験が組まれるであろう。(focusの部は重なって増殖し、nontransf.の部と対照的な所見の写真を呈示)。

《堀川報告》
 HeLaS3細胞をMNNGで処理することにより、S-1MおよびS-2Mと名づけるUV感受性細胞株を分離したことについては、これまでに既に報告してきたが、ここに改めて図に示すように(図を呈示)UVに対する線量−生存曲線で比較した場合、S-1M細胞やS-2M細胞はHeLaS3親株細胞よりもはるかにUVに対してsensitiveであることが分かる。一方、これら3者の間にはX線に対して有意な感受性差は示さないが、4-NQOに対してS-2M細胞はHeLaS3親株細胞よりもsensitiveであることが分かる。
 このS-2M細胞は、これまでの実験からUVでinduceされたTTdimer除去機構を欠いている。つまり、TTdimerの除去修復機構の第一ステップであるendonucleaseの欠損株であることが分かっている。
 今回はこのS-2M細胞およびHeLaS3親細胞を4-NQOまたは4-HAQOで処理した場合、どちらが癌化しやすいかを検討した結果について報告する。勿論、癌化といってもHeLaS3細胞はヒト由来の細胞株であり化学発癌剤で処理した後に出て来る細胞について、その癌化の程度を検討する方法もなく、多くの点で問題があるのは当然である。
 この様な問題点があることを前提として以下の様な実験を試みた。つまりHeLaS3細胞およびS-2M細胞を100万個ずつTD-40培養瓶に植えこみ、24時間培養後(細胞が培養瓶に付着した時点で)、2x10-6乗M 4-NQOで1〜6日間細胞を処理するか、あるいは1x10-5乗M 4-HAQOで1〜3日間細胞を処理する。各時間処理後直ちに正常培地に変えて12日または14日後に各培養瓶に出現するコロニー数及びその中のpiled upしていると思われるコロニー数を、それぞれ算定した(結果の表を呈示)。勿論piled upしているという判定はあくまでも、顕微鏡的観察での判定であり、一応のindicatorという以外に特別の意味をもたない。しかし、これらの結果から分かるように4-NQOまたは4-HAQO処理の場合いずれもS-2M細胞(endonucle-ase欠損株)の方からコロニー数が多く出現する。これは前図で示した結果とは相反するもので4-NQOにsensitiveなS-2M細胞株の方から多くのコロニーが出現するということは、こうした化学発癌剤処理により、変異(発癌)を起こして出て来る細胞はS-2Mの方に多いということを示しているのかもしれない。しかし、このことについての結論は、まだまだ多くの解析をやった後出なければ、何とも言えない訳であり、あらゆる角度からの検討を現在続けている。しかし500R-preirradiateしたマウスにHeLaS3親細胞またはS-2M細胞の4-NQOで処理後出現したpiled up colony由来細胞を100万個ずつ復元した結果はいずれも、all negativeであることをつけ加えておく。
 このように、ヒト由来細胞を用いて発癌実験で動物復元実験系の検出も、今後に残された大きな課題である。

《高木報告》
RRLC-11細胞の放出する毒性物質について:
 先の実験でRRLC-11細胞培養液の限外濾過外液をSephadexG25にかけて10mlずつ分注したところ、NaClは39〜51本に証明されたので、39本目までを5つの分劃として細胞に対する毒性を調べた。その結果第 分劃において最もつよい毒性がみられた。この第 分劃をさらにSephadexG50にかけて再分劃することを計画しているが、その前に実験の再現性、この物質の安定性につき検討している。
 まず再現性実験について、RRLC-11細胞培養液の限外濾過液について同一条件下に、再びSephadexG25にかけてみた。1000mlまでeluteして10mlずつうけた各試験管につき1本おきにspectrophotometerでO.D.230mμ、280mμにおける吸収を調べた(結果の図を呈示)。O.D.230mμでは吸収は20本前後と35本前後、40〜60本の間、79〜93本の間にみられたが、その程度はわずかであった。またO.D.280mμでは20本前後、30〜60本、80〜90本の間に、可成りの吸収がみられている。なお波長を220mμから320mμまで5mμ間隔で変えて吸収を調べたが、このdataは改めて報告したい。
 今回はNaClは37本〜51本に証明されたので、37本目までを5つの分劃に分けたが、その際230mμで吸収のみられた17本〜25本までを1つの分劃( 分劃)とし、その前後を2つずつに分けて、それぞれ、 、 および 、 分劃とした。今回の限外濾過外液は前回に較べて毒性は弱かったが、5つの分劃の中では第 分劃に最も強い、他の分劃に比して有意と思われる細胞増殖の抑制効果がみられ、一応再現されたものと考えている。
 次にこの物質の安定性について、毒性がlabileであることを先に報告したが、凍結(-20℃)の効果に関して4週間にわたり検討した。その結果、1週間後は凍結前の対照と殆んど同じ毒性を示したが、2週後には毒性は可成り低下し、しかし3週後には凍結前よりかえって強い毒性を示し、4週後はもっとも毒性は弱いと云った具合であった。この原因が毒性をテストする細胞の側にあるのか・・・同じC-5細胞を用いているが別々に継代しはじめて可成り経ている・・・、または2mlずつ分注凍結して一度とかしたものを用いた場合もあるのでその影響か、この辺りも検討しなおさねばならない。また、最近の実験ではRRLC-11培養液の限外濾過液の毒性が可成り濾過しないものに較べて低下しており、その原因が濾過だけによるものか、あるいはその間pHがアルカリ性に傾くことによるものか、pHの変化が毒性におよぼす影響についても観察中である。
 培養内細胞悪性化の示標について:
 現在50%硫安飽和によるserum factor free血清を用いて細胞増殖を観察中である。

《山田報告》
 前報で勝田班長が報告した如く、JTC-15株細胞(ラット腹水肝癌AH-66)は現在までの過程中に可移植性を失った時期があり、最近再び可移植性が回復した株であるが、1968年に2回電気泳動法により検索した結果では、この株の電気泳動度はかなり異り、しかも箇々の細胞の泳動度のバラツキが大きく、恐らくmixed populationによりこの株は構成されていると想像していた。
 今月は、この株から最近数株のクローン(軟寒天による)が得られているので、再びこのJTC-15株細胞の電気泳動的性格を検索した。
 (図を呈示)図に示すごとく、得られたクローン株(CA-4、5、6)相互にその電気泳動的性格が著しく異り、特にCA-4株はその泳動分布が比較的均一であり、しかもノイラミニダーゼ感受性がかなり大きく、CA-5は対照的に箇々の細胞の泳動値にバラツキがあり、ノイラミニダーゼ感受性が極めて少い。CA-6は上記二株の中間的性格を示した。この様なクローン間の著しい性格の違いはAH-7974(JTC-16)には見られなかったことである。

《佐藤茂秋報告》
 1)マウスのglioblastomaの培養細胞は現在培養日数320日となっていて、尚、脳特異的なC型アルドラーゼを保持している。
培養液中にdibutyryl cyclicAMPを加えると細胞突起の数及び長さが増し、形態的に分化したgliaに似てくる結果を得ている。この結果はdibutyryl cyclicAMP 1mMでも認められるが、変化が認められる迄に数日かかる。3mMの濃度では1日で変化が現われる。又、培養液からdibutyryl cyclicAMPを除いても、一度変化した細胞の変化はもとに戻らない。今后はこの細胞をクローニングして、得られたクローンについて研究を進めて行く予定である。尚、本培養細胞のアルドラーゼについてはCancer Researchに報告した(in press)。
 2)AH7974由来の培養株JTC-16はin vitroでは 、 型ヘキソキナーゼしか持たないが、ラットに戻し移植すると、 型が 、 型に加え出現する。培養細胞をdifusion chamberに入れてラット腹腔に挿入すると、12、24時間では 型は見られないが、48時間后には 型が出現する事を確かめた。diffusion chamber内の細胞数は最初1,000万個であったが、この濃度では24、48時間后にはほとんど細胞数は増加していないで、むしろ死亡するものが多かった。もう少し細胞濃度を低くして増殖する条件下での実験を計画している。

《吉田報告》
 がんにおける種族細胞の寿命と核型変化
 がんには増殖の主体をなす種族細胞があり、その核型は常に一定であるという種族細胞説が牧野(1952、1957)によって提唱された。しかし、その後種族細胞の核型に変異の生ずる例がしばしば報告され、種族細胞の核型の一定性は否定され、それは変異と選択の連続的なeventによって常に変化すると説明された(Yosida 1966、1968)。しかし、癌細胞に連続的に変異が生ずるのになぜ一定期間種族細胞が存在するのであろうか。この矛盾を説明するために癌の種族細胞には一定の寿命があるのではないかという考えを提案したい。寿命の原因としては一定期間分裂増殖すると悪い遺伝子が蓄積するという一般生物にみられる現象と同じであると考えた。有性生殖をする生物では交雑によって遺伝子の入れかえがおこり生命が維持されるが、体細胞では交雑によるrecombinationはおこりえない。核型の変異がrecombinationに変わるcell revivalの原因ではなかろうか。例えばA核型をもった種族細胞(A)はある期間分裂増殖するが老齢になると退化消失する。退化する前にmutant cellsが生じそれらの間でcompetitionがおこり、B核型をもったmutant cellが次の種族細胞となる。寿命の長さは腫瘍の種類によって異なる。例えばMYマウス肉腫は移植約100代(10年間)で変異したが、ラットの緑色腫(Shay)は2〜3年毎に変化した。マウスのプラズマ細胞腫瘍では数代毎に核型の変異がおこった。
 尚、腫瘍種族細胞における核型の変異と寿命の関係についての研究の詳細は1972年3月23〜25日、ドイツDusseldorfで開かれる癌Symposiumにて発表する。ドイツ迄の旅費、滞在費は先方負担であるから、3月19日に羽田を発ち、ついでにモスクワ、スェーデン、ドイツ、フランス、英国、イタリアなどを廻り、帰えりはカイロ、カルカッタなどに立寄って、4月11日に帰国の予定。

【勝田班月報・7205】
《勝田報告》
 A)培養内発癌実験:
 1)月報No.7202に報告したExp.C57の実験であるが、これはラッテ腹膜細胞の株RPL-1(2倍体range)をニトロソグアニジンで1μg/ml 30分1回処理したもので、処理約1.5月后にラッテにI.P.で復元接種したところ、約2ケ月で1/2匹に接種部位の皮下に小豆大の腫瘤形成が認められた。対照群には腫瘤は見られていない。
 このRPL-1:NGの実験系はさらに新しくまた開始し、これは初めから顕微鏡映画で追っている。
 2)4NQO実験(Exp.CQ#68)
 これはラッテ肝由来のRLC-10(2)(腫瘍を作らぬcoloinal clone)を用いての実験で、これまでにも屡々報告したものであるが、4NQO処理群では、第1回の復元をしてから約1カ月より、腹水中に腫瘍細胞が見られるようになり、約7ケ月后に1/2が腫瘍死した。残りの1匹も腹部皮下径約3cmの腫瘤を作り、日増しに大きくなりつつある。
 ところが、対照群は7ケ月迄は腹水中に腫瘍細胞もなく、腫瘤も認められなかったが、7.5ケ月頃より1/2匹に突然腹水が貯まりはじめ、8ケ月后には腫瘍死してしまった。
 第2回の復元実験はやはりI.P.で、1/2匹は約5ケ月で腫瘍死し、残りの1匹も皮下に腫瘤を形成している。処理后の培養期間の長い方が生存日数が短いということになるが、これだけの実験では結論を早急に引き出すわけには行かない。他の実験でも意識的にこの点を追究してみる必要があると思われる。殊に今年度は、Cell populationの内での腫瘍細胞の%が与える影響を一つのテーマとしているので、果して癌化の過程に段階的な悪性化があるのか、それとも細胞数の問題だけなのか、充分に検討してみる必要があると思う。殊に後者の場合には、そこに宿主の免疫学的反応を考慮に入れなくてはならないことになる。
この実験では、対照群は2匹とも現在までのとこと異常は認められない。
 B)肝癌細胞の毒性代謝物質:
 これまで永井班友と共同で[血清蛋白+DM-145]の培地で増殖しているラッテ腹水肝癌AH-7974(JTC-16株)についてその毒性代謝物質の本態を追究してきたが、今回は佐藤茂秋班員とも共同研究をはじめ、この方は合成培地内(DM-145)で増殖するようになったJTC-16・P3を用い、培養した培地から毒性物質を精製する試みをおこなっている。
 1)Diafilter500を使って、まず培地の濃縮を図っているが、血清培地内で増殖しているJTC-16よりも毒性が弱いので、分劃して行く上に若干の苦労はある。しかし増殖阻害をおこす傾向は認められた。定量的なデータは次回に発表できる予定である。
 2)JTC-16・P3について、
 染色体数−
 JTC-16の原株(血清培地にて継代)は染色体数最頻値が80〜90本となって居り、しかも幅の広い染色体数分布を示している。これを復元して再培養した系から、軟寒天培地で5種類のclonesを拾ったが、これらの染色体最頻値は85、80、76、73、44と夫々相異なっていた。合成培地内継代のJTC-16・P3については目下分析中であるが、どうも44本近辺に集まっている模様である。
復元接種試験−
 300〜500万個のJTC-16・P3を生后約1ケ月のJAR-2系ラッテに復元接種し、7〜20日后に屠殺したところ、腫瘍細胞の一杯につまった白色の腹水の充分な貯溜を認めた。またこの細胞は合成培地に入れるとすぐ増殖をはじめた。JTC-16原株を復元した場合には出血性の腹水が貯まるが、JTC-16・P3では非出血性である点が興味深い。
 継代−
 同じく純合成培地内継代株で、L・P3やJTC-25・P3に比べると、JTC-16・P3はさらに極端に細胞膜が弱いので、Rubber cleanerでこすったりすると、それだけで50%位の細胞が死んでしまう。そこで継代には、旧培地に等量の新培地を加えた上、瓶を振り、その液を次の瓶に移す方法を採っているが、これだと4日に1回はsubcultureが可能である。なお、この細胞は、顕微鏡映画撮影によると、かなりの歩行性を示し、一杯のFull sheetになっても、川の澱みのような流動的な動きを示す。

《梅田報告》
 (1)前回の月報(7204)でaflatoxin存在下で、4NQOにより切断されたDNAの回復が遅れる可能性を示した。非常に興味ある所見と思われるので更に時間をかけた時の回復の模様を調べた。3回実験を行ってみたが、あまりきれいな結果の得られないもの(2回)もあったが、どれも同じ様な傾向は示していた。一番奇麗と思われるデータを報告する。
 実験はHeLa細胞を用い予めH3-TdRで前処置しておいた。4NQO処理する時の細胞数は13万個cells/mlで予定よりやや少な目になって了った。4NQO 10-6乗M 1時間処理して、細胞を洗って無処置培地に戻したものは3日后、46万個cells/ml(コントロール58万個cells/ml)となり良く回復していることを示している。これに反し、回復培養の時10μg/mlaflatoxinB1を入れておいたものは、3日后に5.5万個cells/mlを示し、極端な細胞数の減少を示している。この場合、aflatoxinB1は3日間入れ放してある。このaflatoxinB1だけの処理では9.1万個cells/mlであった。(夫々図を呈示)。
 この回復の模様を4時間目、8時間目に超遠心機でまわした。いつものalkaline sucrose gradientで遠心は30,000rpm 90'行った。4NQO1時間処理(A)で切断されたDNAは回復培養4時間后(B)では明らかな回復の徴候を示しているのに、aflaoxinB1 10μg/ml存在下では(A)より回復が進んでいると思われるものの(B)と較べると明らかな回復の遅れが認められる。回復培養8時間目のものは、底より4、7本目にピークがあって、この解釈は私にはわからないが、aflatoxinB1存在下でDNA鎖はまだより短鎖のまま残っていることがわかる。aflatoxinB1だけの処理で8時間目では(F)、やや小さなDNA断端が増している様であるが、底に40%のcountが集りまだ著明な断裂は進んでいない時期と解釈される。
 目下この考え方を布延して、諸々のDNA鎖を切りそうにない発癌剤によるこの様な効果の有無を調べること、又4NQOとaflatoxinB1併用による発癌実験を組むことを考えている。
 (2)以上の実験を含め、超遠心の実験を行うにあたって、どうも切断の程度が強すぎている様な結果があった。特に今、種々の細胞株による4NQOによる切断及びその回復能の違いを検討しているが、かなりのデータが失敗して了った。良くデータを検討した所、原因はH3-TdR処理が強すぎた様である。即ち、少数細胞の時にH3-TdRのかなりの量を投与したため、H3による細胞障害の弊害が出てきて了ったと考えられる。あわててH3-TdR処理をもっとmildな方法に、即ち分割投与にするべく計画変更した所である。

《乾報告》
1)試験管内Transformed細胞の指標としての染色体Banding Patternに関する基礎研究:
 試験管内癌細胞の染色体は一般に起原細胞のそれと比較して変異を示すが、その変異の方向に一定性がなく、又長期間培養による自然転換細胞の染色体変異に比して何らの特色を示さない。一方、Caspersson、Evans、Hsu等によって、キナクリンマスタード蛍光染色法、核蛋白変性法等の手技を用い人間の染色体上のBanding Patternが明らかにされ、染色体上のHeterochromatin分布を定めることにより、一本一本の染色体の識別が可能になった。培養細胞の染色体のBanding Patternを観察することにより、染色体の数、形態変化の起る前に、変異細胞を識別する目的で、Hsu(Chromosome 34,243)、Evans(Nature N.B.232,31)等、人間の染色体染色の方法を様々に変法し、正常ハムスター雄細胞で染色体のBanding Patternを得た。(核型図を呈示。ハムスター細胞では、Hsuの変法、Rapid Trypsin法が、Banding Pattern染色に適当と思われる)。Hsuの変法によると、従来識別困難であったNo.3と4、No.6〜9、No.16〜19の染色体が容易に識別出来る上、染色体各々に特色あるBandが表われた。今後これらの方法を用い癌細胞、発癌過程の培養細胞の染色体の解析を試みて行きたい。
 2)黄色種タバコタール各分劃の発癌性の検定:
 昨年黄色種タバコの粗タールを授乳期ハムスターに投与し、細胞の悪性化を報告した。現在、呈示した図の方法で粗タールの分劃を試み、中性、酸性、アルカリ性分劃を同様にハムスター細胞に投与しタバコタール中の癌原性物質の分析を試みている。タール各分劃の培養細胞に対する急性毒性は、アルカリ、酸、中性分劃の順で、中性分劃の細胞毒性は非常に弱く、250μg/ml作用群においても著明な毒性は認められない。現在、これら分劃を100μg/ml、50μg/ml、3時間細胞に作用し、観察中(約60日)である。作用後28日で酸性分劃投与群、36日で中性分劃投与群に細胞の形態転換がみられた。

《黒木報告》
 Replica Cultureについて(1)
 FM3A細胞を用いて、バイ菌の場合と全く同じようにreplica cultureを試みた。
 replica cultureを行うと思った動機はRosenkranzの制ガン剤及び発ガン剤screening法をmammalian cellに応用したかったからである。すなわちRosenkranzの方法はDNA damageに対するrepair(-)の菌に制ガン剤のdiscをのせ、その阻止輪の大きさからDNAに対する傷害をみる方法である。そのためには、従来の経験からFM3Aが最適のように思われた。FM3Aからrepair(-)またはUVsensitiveの細胞をとるためには、BUdR→光照射よりもreplica法の方がより容易であるし、replica cultureとしての面白味もある。またFM3Aが寒天表面で増殖可能であることは、すでに仙台にいたとき確めてある。
 1.寒天の濃度と種類
 (表を呈示)表に示すように、Noble-agarの方がBacto-agarよりもはるかによいコロニー形成率を示す。特にagarの濃度をあげたとき、両者の差は著明であった。(*P.E.:60mm dishni指示した濃度の寒天を5ml加え、ふらん室でやや表面を乾かせたのち、FM3A細胞100ケを含む培地0.1mlを添加表面に撒布した。培地は10%CSを含むMEM、寒天には0.1%Bacto-peptoneが含まれている。**100mmシャーレに12mlの寒天、その上に200ケの細胞を含む培地0.2mlを撒布した。(細胞のコロニーと位相差像の写真を呈示)。
 2.Replica cultureの試み
 以上のように、非常にはっきりした丁度バイ菌と同じようなコロニーを作ることができたので、バイ菌と同じ方法でReplica cultureを試みた。
 (図を呈示)図のようなアルミの台の上にビロードの布地をのせ、リングで固定する。このビロードの上にコロニーの生えた寒天を軽くのせ、コロニーをビロードの毛の間にうつしとる。次に細胞の生えていないシャーレ(0.75%寒天培地)を軽くのせて、コロニーをうつしとる。表は4種類の布地によるreplicaの率である(表を呈示)。(A)は、医科研細菌感染部で細菌replicaに用いている布地。(B)は、化せんベルベット。ベルベットは本来絹製であるが、非常に高価であり、夏場には余りおいてない。ほとんどが化センである。(C)は、木綿別珍。(D)は化せんベルベット、この布地は水を吸いとらないため、3回目以降はコロニーがspreadして、colony数のcountができなかった。
 表にみるように、replica率は布地によって著しく異る。(D)がもっともよいが、この布地は水分を全く吸わないため、三枚目頃より布地上に水が残り、そのためコロニーが、spread outしてしまう。(A)(B)(C)は何枚replicaをとっても布地はdryであり、増殖してきたコロニーもきれいであるが、何としてもreplica率が悪い。目下(D)で寒天濃度を1%にすること、(A)(B)(C)では0.5%の寒天を用いることを考えている。
 このほか、FM3Aがもしserum-free mediaでgrowthできれば、amino acidのrequirementのmutantもひろえるので、MEM only、DM-120、F12で培養を試みた。その結果MEM、F12では最初の1代の継代のみ可能、DM120では3代まで継代したが、その後だめになった。しかし、培地をかえることにより今後serum freeでも増殖可能の細胞のとれる可能性はある。

《山田報告》
 今月は種々雑用が重なり、加えて技術員の交代があり、実験が思う様に進みませんでした。培養学会の、"細胞の変異と表層膜の関連性について"の特定演題に応募した都合上、ConcanavalinAの作用について、培養細胞を用いて検索してみました。(反応条件はNo.7207に記載したものと、同一です)。
 (表を呈示)表に示すごとく、ラット培養肝癌細胞であるJTC-16(AH7974)は、5μg/mlの低濃度のConA.を加へると、著しくその電気泳動度は上昇し、20μg/ml以上の濃度のConA.により低下し、biphasicな反応を示しました。凝集は20μg/mlの濃度のConA.でやや起こり、100μg/mlの濃度で完全に起こりました。
 これに対し、なぎさ培養株JTC-25は100μg/mlのConA.でも著明な凝集は起こりませんでしたが、その電気泳動度をしらべると、やはりbiphasicな変化を示しました。しかし、その泳動度の上昇する濃度は20μg/mlであり、その上昇率は低い様です。
 これらの変化は腹水肝癌細胞について検索した結果(No.7207)と同一です。更に良性、悪性細胞に対比して検索してみたいと思います。

《高木報告》
 RRLC-11細胞の放出する毒性物質:
 この2月以来RRLC-11細胞の放出する毒性物質の毒性が低下し、実験の進捗に支障を来している。いろいろな原因が考えられるが、最近の実験に用いた牛胎児血清は培地(MEM)に加えた場合pHの可成りの低下がみられ(酸性に傾く)、この血清を用い始めたのと期を一にして毒性が低下したので、血清が主たる原因ではないかと考えている。但pHが酸性に傾くことの因果関係は分らない。一方細胞側の感受性の変化も因子として考えられるので、現在手持ちの細胞につき(RFLC-1、C-3、C-5)弱い毒性ながらも細胞増殖に対する抑制効果を調べてみた。RRLC-11細胞を培養した培地を20%の割合に、これら"正常"細胞の培地に培養開始と同時に加え、2日目に同じ培地でrefeedして4日目に細胞数を算定し、対照の細胞の4日目の細胞数に対する百分率を示す(図を呈示)。現時点ではRFLC-1細胞に最も強い毒作用がみられるようで、RFLC-3細胞は全く影響をうけず、RFLC-5細胞はその継代の系(1、3、4)により感受性が違うようである。RFLC-5細胞の中系1と系3、4を分けて継代しはじめたのが昨年8月24日、また系3と系4を分けて継代はじめたのが本年1月9日である。少くとも位相差顕微鏡による観察ではこれら細胞間に形態の相異は気ずかない。染色標本は目下作製中である。ここに用いた細胞はcolonial cloneで単一細胞から増殖したか否かについて疑義があるが、何等かの原因で細胞集団として継代の期間中に感受性が変化したことを認めざるをえない。RRLC-11細胞の培地中の血清を変えて目下毒性の恢復を待っているが、RFLC-1細胞は増殖がおそいので、RFLC-5細胞の系1または系4を用い、また出来るだけ同じlotの血清を用いて実験を進める予定である。
 RRLC-11細胞とRFLC-3細胞との混合培養:
 両細胞の混合培養で混ぜる時期と細胞毒作用との関係を観察した。すなわち
 1)両細胞を200ケずつ同時に植込んだ群(14日間培養)
 2)RFLC-3細胞を200ケ植込み、5日後にRRLC-11細胞200ケ植込んでさらに10日間培養した群(計15日間培養)。
 3)RRLC-11細胞を200ケ植込み、5日後にRFLC-3細胞200ケ植込んでさらに10日間培養した群(計15日間培養)。
 4)RFLC-3細胞を200ケ植込み、10日後にRRLC-11細胞200ケ植込んでさらに10日間(計20日間)培養した群。
 以上の4実験を行った。1回行っただけなので参考dataとしか云えないが、次の様な結果をえた(表を呈示)。
 RRLC-11細胞とRFLC-3細胞とを同時に植込んだ場合、それぞれのコロニー数は72と82であり、RRLC-11細胞を先に植込みRFLC-3細胞を5日後に植込んだ場合のコロニー数はそれぞれ76と79で、以上1)、2)の実験では似通った結果をえた。しかし、RFLC-3細胞200ケを先に植込み5日後にRRLC-11細胞を同数植込んだ3)の実験では、RRLC-11細胞の小さいコロニー数は98でRFLC-3細胞のコロニーは27であり、それらは多少とも変性の像を示し、完全に変性をおこし脱落したと思われるコロニーの跡もみられた。予想としては、RFLC-3細胞を先に植込み、次いでRRLC-11細胞を植込んだ方がその逆の場合よりRFLC-3細胞のコロニーのうけるdamageは少いのではないかと考えたが結果はこれに反し、いささかparadoxicalな感がしないでもない。さらに検討したいと思う。実験4)は培養日数が長いためか細胞のovergrowthと培地の栄養が不足したためと思われる変性像があり、コロニー数は算定出来なかった。
 培養内悪性化の示標について:
 Serum factor freeの血清を用いた培地でRRLC-11細胞、RFLC-5細胞の増殖に及ぼす影響をみているが、今回は硫安1/2飽和でserum factorを除いてみた。作製法が悪かったためか、この方法でえたserum factor free血清を用いた培地は両細胞共に増殖を強く抑制した。さしあたり、硫安1/3飽和でえたserum factor free血清(月報7203)を用いてsoft agarの実験を行っている。

《野瀬報告》
 (1)培養細胞の形質発現の調節:
 細胞の持つ形質を問題として取り上げる場合、形質そのものの量的、質的研究をする立場と、遺伝子から形質発現までの過程を調べる立場の2つが考えられる。癌研究においても、癌細胞のいろいろな形質をしらみつぶしに調べ、正常細胞との違いを見出すことにより癌を理解する方法論があるが、莫大なdataにくらべ本質はあまりわかってこなかったような気がする。これに対し、癌化を形質そのものの変化ではなく、それの背後にある調節機構の面から解析しようという方向もあり、この方向は比較的未知な事柄が多く、細胞の代謝調節も含めて癌化の研究にとって有効であると思われる。
 実験系としては、細胞の形質が少量の細胞で、容易に検出できることが望ましいが、この条件を満足させる酵素の一つとしてalkaline phosphataseがある。この酵素はHeLaで、hydrocortisone処理によって活性誘導が見られることが既に知られており、その他にも誘導する条件が見つかっていることから、酵素誘導の研究材料として適していると思われる。
 alkaline phosphataseの若干の性質は月報No.7107に述べてあるが、活性の測定は表に示したincubation mixtureを用いて行っている(表を呈示)。最初に、各種の条件下で、各種の細胞株について酵素の活性誘導が起こるかどうか検討したが、ラット肝由来のJTC-25・P3(RLH-5・P3)細胞は、dibutyryl cAMPにより著しい活性上昇を起こすことが判った。Controlの未処理細胞は、alkaline phosphataseI活性が比活性(mμmole p-nitrophenol/hr/mg protein)にして100以下であるのに対し、dibutyryl cAMP 0.25mM、Theophyllin 1mM加え、37℃で4日間培養した細胞は、約3000程度に上昇する。この活性誘導は、Actinomycin D、cycloheximideによって阻害され、cytosine arabinosideでは阻害されない。一方alkalinephosphatase は誘導されなかった。dibutyryl cAMPを加えて培養するとJTC-25・P3細胞は偽足を長くのばし、紡錘型になったが、alkaline phosphataseが誘導されないL・P3では形態的にも変化は認められなかった。JTC-25・P3はタンパク、脂質を含まない完全合成培地で増殖するため、誘導機構を細かく調べるのに有利な株を考えられる。
 (2)培地中への細胞内酵素の分泌:
 癌患者の血清中には正常時と較べ、ある種の酵素活性が増加したり、減少したりすることが一般に知られている。この現象は癌の診断に使われるのと同時に癌細胞の一つの特性として細胞内酵素の流出に変化が生じていることを示唆する。血清を含まない培地で培養している細胞は血清中酵素、酵素阻害剤の影響なしに細胞分泌された酵素を測定するのに有利である。
 酵素としては、DNase、RNase、Alkaline phosphataseIの3種類を調べた。DNase、RNaseは、JTC-21・P3、JTC-25・P3、JTC-16・P3、L・P3などで細胞内活性とほぼ同量、培地中に検出された。この活性は単に細胞がlysisして放出されたのではないことは、acid phosphatase、β-glucronidaseは培地中にほとんど検出されなかったことから示唆される。
 現在、この分泌機構、特に細胞膜の変化との関連で研究を進行させている。

《藤井報告》
 Mixed lymphocyte-tumor reaction(MLTR)の仕事が不充分であるということと、班の仕事で癌化細胞の可移植性について手伝え、ということでふたたび呼び戻されました。
 それから本年から外科研究部を改め癌病態研究部となりました。診療科の方は外科診療科のままで、病院で外科をやることには変りないのですが、研究所附属病院の研究部として、研究の方向なり内容を表わす名称にしようということでこうなったのだと思います。英文名はDepartment of clinical oncologyです。出戻りの御挨拶と共によろしくねがいます。
 Culb-TC、RLT-2、RLC-10の癌化細胞から正常培養肝細胞にいたる一連の株細胞の同系JAR-1ラットリンパ球に対する幼若化刺激能に差があり、癌化(Culb-TC)、変異(RLT-2)、正常(RLC-10)の順であったが、この実験では変異株に癌抗原がないとは云えず、むしろ癌化細胞のpopulationが低いからではないかという提言が勝田教授からありました。抗原刺激細胞数を5万個としたときの成績が上のようになったわけで、変異RLT-2株細胞がRLC-10より高いことは、RLT-2にもRLC-10にない何かがあることを示唆しています。それが、Culb-TCと同じ抗原かどうかはわかりませんが、この辺りの解析を今やり始めています。Culb-TC irradiated、Friend's virus infected Culb-TCに対するisoantibodiesができた所です。
 研究部で協力して乳癌、胃癌、Wilm's腫瘍、神経芽細胞腫などについて、細胞培養、MLTRをやっています。現在まで19例ですが、MLTRが陽性と出たもの5例です。刺激細胞としては生の腫瘍細胞が主で、壊れた細胞が多く問題です。Wilm's腫瘍と、pleural mesotheliomaでは培養細胞の方が、とり立ての細胞よりMLTRが高く出ましたが、これはラット、マウス腫瘍のばあいと同じ成績です。

《堀川報告》
 HeLaS3原株細胞とこの原株細胞から分離したUV感受性株S-2M細胞を、4-NQOまたは4-HAQOで処理した後に出てくるコロニー数及び極度にpiled upしていると思われるコロニー数を算定した結果はいづれもS-2M細胞から多くのコロニーが出てくることを前報で報告したが、今回はこうした結果を更に確かめるため次のような実験を行った。
 まずHeLaS3細胞とS-2M細胞を、各種濃度の4-NQOまたは4-HAQOを含むmedium内で12〜14日間培養した後に出現するそれぞれのコロニー数から計算した濃度−生存率関係は、確かに4-NQOまたは4-HAQOに対してS-2M細胞はsensitiveであることが再確認された(図を呈示)。ついて100万個づつHeLaS3細胞およびS-2M細胞を4-NQOまたは4-HAQOで処理する段階において、(前回はTD-40瓶に細胞を植え込んでから24時間incubateした後にcarcinogensで処理をするという方法をとったが、この際もし24時間のうちにS-2M細胞の倍加がHeLaS3原株細胞よりも常に早く起きるためS-2M細胞の方から常に生存コロニー及びpiled upコロニーが多く出現するという"ありそうもない"危険性を考慮して)今回は100万個づつの細胞をそれぞれTD-40瓶に植え込む際に2x10-6乗M 4NQOまたは7.5x10-6乗M 4-HAQOを加え、4-NQOの場合はそれぞれ1、2、3日間処理した後正常培地と交換し、また4-HAQOの場合は同様に2、4、5日間処理した後正常培地にかえて、それぞれ15日後に瓶当りに出現する総コロニー数及びpiledupコロニー数を算定した。前報を同様の方法で結果を示す(表を呈示)。
 これらの結果からわかるように、carcinogens処理後に出現するコロニー及びpiled upコロニーの数は前回の結果と同様にいづれもS-2M細胞の方から圧倒的に多く出ることがわかる。何故carcinogensにsensitiveなS-2M細胞の方から多くのコロニーが出現するか、またこのように出現するコロニーは一体何物なのかといった問題の解析が今後に残されている。

【勝田班月報:7206:培養細胞のALP誘導】
《勝田報告》
 A.RLC-10株(ラッテ肝細胞)の4NQO処理実験の復元接種試験とその成績:
 これまで処理群、未処理群(対照)などについて何度も復元テストをしてきたので、その結果を統括してみた。(図を呈示)この図を眺めて最も痛切に感じるのは、培養内で癌化した系に比べ、その腹水腫瘍を再培養した系の方が、動物の生存日数がはるかに短いことである。何故このような差が生まれるのであろうか。培養内で癌化したときの、その癌化細胞のpopulation densityによるものか、動物に接種されている内に悪性度が増強されたのか、その辺を私は今年度に重点的にしらべたいと思っている。勿論この点に関しては、腫瘍細胞の抗原性の強さ、宿主の反応度などの問題もあり、今年は藤井、山田両班員にも大いに奮起をねがいたい所以である。
 B.ラッテ腹膜細胞株(RPL-1)のニトロソグアニジン処理による悪性化:
 前月報にも報告したが、RPL-1株の培養にNG、1μg/ml、30分を与えて悪性化を図り、動物へ復元接種した結果、1/2匹に接種部位の皮下に小さな腫瘤形成を認めたところであるが、その経過については別の機会に報告するが、用いたRPL-1株の染色体数分布をみると(図を呈示)樹立約9年後では染色体数最頻値が43本となっている。しかしこの株はこれまで正二倍体を永く維持していたので、培養内化学発癌の材料として腹膜細胞はきわめて好適なのではないか、と考えられる。
 この株にNGを各種濃度に添加して増殖曲線をしらべた結果で、濃度に比例した増殖抑制がみられる。しかし1μg/mlでは全く抑制の見られないことが面白い。しかもその濃度で変異が見られたわけで、4NQOとはずい分異なる現象である。
 RPL-1ははじめは非常に特異的な形態を示していた。この頃はその特徴もなかり消失したが、(写真を呈示)上皮様形態できれいなmonolayerを作る。
 これを1μg/mlのNGで30分間処理し、変異した細胞にはきわめて大小不同を認め、しかも対照に比べ非常に大型の核が見出される。(処理91日後の形態写真を呈示)小型の核は対照とほぼ同じ位の大きさである。(メタノール固定、ギムザ染色)多核細胞も見られ、大型の細胞がその後も分裂増殖をつづけられるかどうかは未だ不明である。
 C.JTC-16とそのclones及びsubstrainJTC-16・P3の染色体構成:
 JTC-16株はラッテ腹水肝癌AH-7974から由来した細胞株で、その原株は(図を呈示)高4倍体に最頻値がみられる。しかしこれから得られたクローンは何れも染色体数最頻値が減少し、殊にclone-A-4では2倍体域のものが多くなっている。純合成培地で継代している亜株JTC-16・P3は、ほとんどが2倍体rangeの細胞だけになってしまった。
 肝癌細胞の毒性物質をしらべる上に、完全合成培地継代亜株を用いたいと思い、検索してみた結果である。JTC-16・P3は動物に復元すると腫瘍を作り、毒性物質も原株より少し毒性が弱いが産生している。ラッテ腹腔内での細胞密度が高まっても、出血性の腹水にならないことが特徴的である。

 :質疑応答:
[吉田]復元実験には色々問題があるのですね。接種後1年間も生体内で何をしているのでしょうか。
[乾 ]ハムスター頬袋などは割合早くに判定できますが、腫瘍死しませんしね。
[高木]腫瘍死であるという判定はどうみていますか。転移はありましたか。
[勝田]これらの系では死亡時にはたっぷり腹水が溜まっていますから、腫瘍死といって差し支えないと思います。転移はみられません。
[高木]RPL-1にニトロソグアニジンをかけた場合、初期には死ぬ細胞が少ないようですが、90日後には形態変化がみられるのですね。
[乾 ]やはりラッテの肝細胞を使った実験で、3週間培地を変えずに培養していたら、形態的変異を起こし、それはcon.Aで凝集するようになったという論文がありました。
[勝田]RPL-1の実験では、培地は週に2回更新しています。
[黒木]3週間も培地を変えずにいると死ぬ細胞もあるだろうし、培地条件もいろいろと変わるだろうし、何が起こっているか解析できないでしょう。
[山田]アメリカでは形態変化だけで悪性化を判定するのでしょうか。
[吉田]合成培地系のAH-7974(JTC-16・P3)の染色体のモードが2倍体近くに変わったというのは面白いですね。
[梅田]糖代謝は変わっていませんか。

《山田報告》(先月号記載を改めて説明)
 培養学会の"細胞の変異と表層膜の関連性について"の特定演題に応募した都合上、ConcanavalinAの作用について、培養細胞を用いて検索してみました。
 (表を呈示)ラット培養肝癌細胞であるJTC-16(AH-7974)は、5μg/mlの低濃度のConc.Aを加へると、著しくその電気泳動度は上昇し、20μg/ml以上の濃度のConc.Aにより低下し、biphasicな反応を示しました。凝集は20μg/mlの濃度のConc.Aでやや起こり、100μg/mlの濃度で完全に起りました。
 これに対しなぎさ培養株JTC-25は100μg/mlのConc.Aでも著明な凝集は起りませんが、その電気泳動度をしらべると、やはりbiphasicな変化を示しました。しかし、その泳動度の上昇する濃度は20μg/mlであり、その上昇率は、低い様です。
 これらの変化は腹水肝癌細胞について検索した結果(No.7207)と同一です。さらに良性、悪性細胞を対比して検索してみたいと思います。

 :質疑応答:
[乾 ]4NQOで処理した後、2週間位では泳動度はどうでしょうか。もう無処理のものとは変わっていますか。
[山田]処理後2〜3週間位で一度変わりますね。そして何か色々な細胞が出てきている感じですね。それから一度はポピュレーションチェンジがあるようで、3カ月位たつと大体落ち着いて悪性型になるというのが普通の経過です。
[乾 ]一つの培養系の中では、それはかなり定着した経過ですか。
[山田]RLC-10系では大体そういう経過を辿るようですね。
[黒木]Con.A処理の実験ですか、このやり方だとcon.Aで凝集しない細胞の電気泳動度しか測定できないことになりますね。低温で処理するとかモノバレントのcon.Aを使うとかすれば、con.Aが結合しても細胞の凝集はない訳ですから、もっと幅広くし調べられるのではありませんか。
[山田]本当にきれいにモノバレントに出来るなら使ってみたいですね。自分として面白いと思っていますのは、泳動度がcon.A処理によって一過性に上がるということです。細胞膜の仕事にシアルダーゼ処理だけでなくこのcon.A処理の方法も平行して使ってゆきたいと考えています。
[藤井]抗血清をγグロブリンか、又19S抗体に精製して、定量的に泳動度を出すことが出来ますか。
[山田]定量的にやれます。
[勝田]In vitroで悪性化した細胞を動物へ復元しても腫瘍死するまでに1年もかかるというのは、抗原性の変化ということも考えられますね。
[藤井]始めに接種した細胞と、動物の中で増殖した細胞の再培養系との抗原性の違いなら、私のやっている幼若化の方法で調べられると思います。

《黒木報告》
 <BALB3T3細胞を用いたTransformation>
 月報7204にBALB3T3にDMBAを添加してTransformationの得られたことを報告した。その後この細胞の二つのcloneによるTransformationの成績を得たのでもう一度まとめて、定量的な成績を示す。
 (transfromationとcytotoxicity testsのcheduleの図を呈示)60mm Falcon dishに1〜5万個cellsをplateし翌日DMBAを添加する(細く云えば、最初は3mlの培地を加え、翌日発癌剤を含む培地を2ml加える)。48時間後に培地交換、以後transformation expは3/wの培地交換(4ml/dish)をしながら4〜6週間培養する。通常screeningの意味でDMBA 1.0μg/ml、4.0μg/ml、DMSO 0.5%の三群をおく。各群、各10枚のシャーレを用いた。
 Cytotoxicity testは200ケの細胞をまき、翌日同様に1.0μg/ml、4.0μg/mlのDMBAを添加、48時間後培地交換し、2週間培養後コロニー数をcountする。その他、
 培地:MEM plus 10%CS
 発がん剤:Eastman Kodak DMBA、TLCでpurityはcheckずみ
 DMSO:ドータイド スペクトロゾール(和光純薬)
 (表と図を呈示)clone間にtransformat.及びDMBAのcytotoxic effectに対する感受性の差がみられた。すなはちWild BALB3T3及びclone#1はほぼ同じ程度のcytotoxicity及びtransformation感受性を有するのに対し、clone#2は、wild及びclone#1より、はるかに感受性である。興味があるのは、どの細胞でも、ある程度細胞傷害性の現れるような濃度でtransformation率も上昇し(wildの2.0μg/ml、clone#1の4.0μg)、しかし細胞傷害性の著しい濃度例えばclone#2の4.0μgではtransformation率も低下する。最高のtransformation率は、50%前後に細胞傷害の現れる濃度のように思える(clone#2の1μg/ml)。
 現在他のいくつかのclone、C1-#4、#5、#11、#13などで実験がすすめられている。同時にCl-#2の再現性、MCA、pyrene(非発がん性)によるtransformation assayも進行中。
 これらのtransformed fociからtrypsin-filter paper法でfociをいくつかisolateした。目下、saturation density、Agglutinability by ConAなどテスト中。saturation densityはDMSO処置controlの2-4倍に上昇している。
 この他、FM3Aのreplica培養(先月号月報)について報告した。

 :質疑応答:
[吉田]BALB3T3は染色体に特色がありますか。
[黒木]染色体はまだ調べていません。復元実験も今計画中です。
[吉田]DMBAという発癌剤は面白いですね。ラッテに投与して白血病を起こさせると、染色体上でC1トリソミーを作るのです。何かラッテの培養細胞に作用させてみると面白いと思います。
[勝田]化学発癌剤で染色体に一定の決まった変化を起こさせる物は少ないですね。
[黒木]C粒子の問題もやらなくてはと考えています。それからCon.A処理では30分間37℃で振るとBALB3T3の無処理のものでも凝集してしまうので、もっと時間との関係もきちんと調べなくてはなりませんね。
[乾 ]Con.Aも+、++、+++では矢張り主観的ですね。

《野瀬報告》
 培養細胞のAlkaline phosphataseIの活性誘導:
 Alkaline phosphatase(以下ALPと略)は細胞をdibutyryl cAMPとtheophyllinと共に培養すると著しい活性上昇が見られた。合成培地で継代しているJTC-25・P5、L・P3の細胞について調べたが活性上昇が見られたのはJTC-25・P5であった。この株からcolonial clonesを6株とり、それぞれの誘導性を見た。(図を呈示)ALP.I活性は細胞をそれぞれの薬剤で4日間、37℃で処理した後測定した。Cloneにより誘導性のあるものとないものがあることがわかった。ALP-IIはALP-Iと違ってdibutyryl cAMPによっては誘導されなかった。また、butyryl基で置換されていないcAMPは1.5mM(+Theophyllin 1mM)の濃度で細胞に加えてもALP.Iの活性に全く変化を与えなかった。
 次にdibutyryl cAMP、theophyllinの濃度を変えてALP.Iの変化を見た。用いた細胞は上でとったClone1である。それぞれの薬剤濃度に対してほぼ直線的にALP-Iの活性は上昇する。活性上昇の時間的経過は、1〜2日のlagの後に見られ8〜9日でほぼplateauに達した。この時の実験はtheophyllin 1mM、dibutyryl cAMP 0.25mMで行った。
 このALP-Iの活性誘導の機構を知る第1歩として各種阻害剤の影響をみた。(表を呈示)JTC-25・P5 Clone1細胞を1mMのtheophyllin、0.25mMのdibutyryl cAMPで37℃、4日間処理し、この間、各種阻害剤を加え、ALP-Iの活性を測定した。タンパク、又はRNA合成を阻害すると誘導は抑制され、DNA合成を阻害してもほとんど影響はなかった。また、microtubulesの形成を阻害し、細胞の伸長を阻害するcolchicineもALP-Iの活性誘導にはほとんど阻害効果を持たなかった。これらの結果からdibutyryl cAMPによるALP-Iの活性誘導には、何らかの形でde novoのRNA、タンパク合成が必須であると言える。阻害剤として、4-NQO(10-6乗M、3x10-6乗M)、cytochalasinB(2μg/ml)なども加えてみたが、いずれも誘導には影響なかった。
 Cloneによって誘導性の異なる原因として、第1に加えたdibutyryl cAMPが分解されるか、細胞内にとりこまれないかの問題が考えられる。H3-dibutyryl cAMPをALP-I誘導性のJTC-25・P5 Clone1とL・P3の培養液中に加え、37℃4日間incubateした後、薄層クロマトで見ると、どちらの細胞の場合もH3-dibutyryl cAMPは分解していなかった。一方H3-cAMPはどちらの場合もほぼ完全にAMPに分解していた。細胞内へのとりこみは現在検討中である。

 :質疑応答:
[佐藤茂]ラット肝にはタイプIもIIもあるのですね。IだけとかIIだけとかの臓器はありませんか。
[野瀬]あまり多くの臓器について調べた訳ではありませんが、Iが非常に強いものはありました。
[勝田]酵素活性の至適pHの違いは、その酵素の存在場所のpHの違いを示しているとは考えられませんか。
[野瀬]どうでしょうか。活性をみるのはin vitroでやっているので、必ずしも生体内の条件と一致しているかどうか。
[山田]それにしてもこういう酵素活性をin vitroでみる時、生理的とはとても考えられない条件で働くのはどういう事なのでしょう。
[勝田]活性のベースが0でなく、トレース程度にあった時でも活性が上昇すれば誘導といってもいいのでしょうか。
[野瀬]酵素活性の誘導の実験は菌を使って始められたのですが、その初めての実験でもトレース程度の活性から上昇させてInductionという言葉が使われていました。
[黒木・乾]言葉としての定義は別として、こういう場合にInductionというのは、ごく一般的に使われていますね。
[佐藤茂]マスクが外れるのはactivationですね。
[黒木]アクチノマイシンDとサイクロヘキシミドの作用の効果は可逆的ですか。細胞系での実験では与えた物質の毒性がからんでくる心配があると思いますが。
[野瀬]この系ではアラビノCのように毒性はあるが、活性誘導を起す物質もあります。
[勝田]細胞の分劃法を改良して、もっと活性が集中した分劃をとれませんか。
[野瀬]そうですね。今の分劃法ではどの分劃にも細胞膜が少し入ってしまいますので、そこを改良するとはっきりするかも知れません。
[勝田]ところで、癌との関係は・・・。
[佐藤茂]悪性細胞はタイプIを持っているという可能性がありそうですね。
[野瀬]そこに希望をつないています。黒木班員の3T3の腫瘍性のある系、ない系などについても調べてみたいと思っています。
[山田]機能に関係があるとすると、むしろ癌では非常に乱れて色々な結果が出るのではないかと思いますよ。
[梅田]前立腺とか骨について調べましたか。
[野瀬]まだ調べていません。
[佐藤二]肝由来の細胞系の間に違いがありますか。
[勝田]なぎさ変異のJTC-25・P3とJTC-21・P3は違います。
[野瀬]同じ系でも動物継代のAH-7974はタイプIが低いのに、培養株になったAH-7974(JTC-16)はタイプIが大変高いという違いがあります。
[吉田]染色体の分析が進むと、どの染色体にその酵素を活性化する遺伝子が乗っているか判る筈ですね。
[勝田]IとIIが同じ染色体上にあるのかどうか興味がありますね。
[佐藤二]培養の経過を追って調べてみる必要もありますね。
[黒木]cAMPの場合の問題と、活性化までの経過の分析はやれますか。
[野瀬]計画しています。

《高木報告》
 培養内悪性化の示標について:
 培養内悪性化の示標としてMacPherson & Montagnierのsoft agar法をchemical carcinogenesisにも応用すべく検討して来た。しかしこれまでに用いた培地、MEM+10%CS・0.33%agarでは悪性化した細胞のみ撰択的にsoft agar内に増殖せしめることが出来ず、ただcolony forming efficiencyの高い細胞を拾うことは可能であった。
 培地組成を考慮すればsoft agarも未だ"示標"として用いうる可能性も残っているのではないかと考え、今回はTodaroらの云うserum factorを血清から除いて検討してみた。Serum factor free血清の作り方はcolumnによる方法、Cohnのアルコール沈澱法、硫安による沈澱法など種々あるが、さしあたり最も簡単な硫安1/3および1/2飽和による除去を試みた訳である。
 月報7203の如く硫安1/3飽和によりserum factorを除いた血清(1/3飽和血清と略)を5%の割にMEMに加えた培地で"正常"細胞RFLC-5と腫瘍細胞RRLC-11を培養2日目にrefeedし、4日後これらの細胞数を算定したところRFLC-5は殆んど増殖を示さなかったのに対し、RRLC-11細胞は対照と変らぬ増殖を示した。
 次いで硫安1/2飽和でserum factorを除いた血清(1/2飽和血清と略)を5%の割にMEMに加えた培地を同様に両細胞に作用せしめたところいずれの細胞も増殖が著しく抑制されたが、その程度はRFLC-5細胞の方が大であった(図を呈示)。同時に行った1/3飽和血清については前回の実験(月報7203)と同様の傾向がみられた。1/2飽和血清を用いた時にみられる著明な抑制作用は、この血清を作製する過程に問題があり毒性を示したのではないかと考えている。さらにRRLC-11細胞をsoft agarにまいて出来たcolony(CFE 19.5%)の中、比較的大きいもの2つを拾って増殖せしめたRRLC-11C・1、RRLC-11C・2細胞に対する1/2および1/3飽和血清の効果は(図を呈示)、RRLC-11C・2細胞の培養2日間の増殖が悪いのは問題と思うが、2日以後の増殖の度はC・1もC・2も変らないので一応これら2つを比較した場合、C・1の方が増殖がよく、すなわちserum factorの要求が少いものと思われる。この実験は再度行う予定であるが、細胞の悪性度とserum factor freeの血清を用いた培地による細胞の増殖の度合との間に相関があること−つまり悪性度の強い細胞ほどserum factorのneedが少いことが確かめられれば、この血清を用いたsoft agar内における悪性化細胞の撰択的増殖も期待出来る訳である。目下上記細胞を1/3飽和血清を用いたsoftagarにまきcolony形成能を検討する一方、RRLC-11C・1およびC・2細胞、RFLC-5細胞を1,000個および100万個newborn ratに移植して造腫瘍性を観察している。
 RRLC-11細胞の放出する毒性物質:
 本年3月以降、RRLC-11培地のRFLC-5細胞に対する毒性の低下がみられたことを報じて来た。これまでの実験データを再検してみると、RRLC-11細胞を培養する際の培地中の血清が毒性物質の活性と関係があるように思われる。ごく最近、Gibco製のpHが可成り酸性に傾くFCSから、当研究室で分離作製した非働化していないFCSに切換えてみたところ、毒性の低下はさらに著明になり全くRFLC-5細胞の変性はみられなくなった。直ちに別のlotのGibcoFCSに変えて毒性の恢復を待っているところである。但しRRLC-11細胞で、これまで全く別個に継代して来た系の培地をRFLC-5系1の細胞を用いてテストしたところ、上記当研究室のFCSを使用していた4月下旬には対照の約71%は増殖していたものが、今回のGibco血清の使用により約15.2%の増殖しか示さぬようになり可成りの毒性が恢復したことが分った。この系を用いて毒性物質のColumn chromatographyを再開する予定である。RRLC-11培地のRFLC-5細胞に対する毒性に及ぼす血清の影響を考える際、2つの可能性を想定しなければならない。すなわちRRLC-11細胞の毒性物質の産生に血清が影響する可能性と、毒性効果をRFLC-5細胞を用いて判定する際、その効果の発現に干渉している可能性とである。これまでRRLC-11細胞を培養する際にも、毒性をテストする際にも同一の血清を用いて来たが、血清を変えてこの点も検討する予定である。RRLC-11細胞の産生する毒性物質が消長するのは興味ある事実であるが、相手が血清とすれば問題はやっかいである。

《梅田報告》
 (I)先月月報(7205)で超遠心の仕事をする時、我々が今迄行ってきた細胞をH3-TdRで前もって標識する方法に何か問題がありそうなことを述べた。即ちH3-TdR 0.2μc/mlで細胞を処理して2日後各種発癌剤を投与してalkaline sucrose上にのせ超遠心機で廻してDNA切断の有無を調べているが、この条件で発癌剤処理の時には細胞はかなり障害を受けている様であった。
 以上ののことを定量的に示したかったのでL-5178Y(浮遊細胞)を使ってH3-TdR、とC14-TdRの投与実験を行ってみた。(図を呈示)H3-TdR 0.2μc/ml投与で増殖カーブは対照より抑えられ、3日目には細胞数は減少している。0.1μc/mlでも増殖は対照に較べ抑えられ、3日目には横這いになる。C14-TdR 0.04μc/ml投与ではやや対照より増殖は抑えられるが、3日目迄殆直線的に細胞は増加し、0.02μc/ml投与ではほどんど対照と同じ程度の増殖率を示した。
 培養2日目に浮遊培養液の0.1mlをとり、冷TCA処理してglass fiber filter上にとり放射能を液体シンチレーションカウンターで測定した(表を呈示)。C14-TdR投与例ではH3-TdRの約1/5〜1/10量のμc数投与で摂り込まれた放射能のcpmは同じ位の値を示した。
 之等のことから結論されるのは、H3-TdRよりC14-TdRの方が少量しか使わなくてすむので毒性が少なく、使い易いと判定される。更に分割投与法を用いると、数多くの細胞に摂り込まれる為、細胞あたりの摂り込まれる放射能は少なくなり、毒性は更に少くなると期待される。
 (II)以上の結論の出る前に数多くの実験をし今迄報告してきた。これから示すデータもH3-TdR投与のものであり、これもrepeatする必要があると思っているが一応報告する。
 ハムスター胎児培養細胞に4NQOを投与して悪性化した細胞をクローニングし既に総培養日数1年以上継代している系(P2B cells)であるが、この細胞に4NQO 10-5.5乗M、10-6.0乗Mを投与し、1時間後培養液を洗って4時間目、8時間目の回復培養の結果を調べた。(図を呈示)10-5.5乗M投与例ではあまりはっきりした回復は認められず、10-6.0乗M投与では8時間目で回復のきざしが認められるに過ぎない。にもかかわらず。この時の細胞数計測のデータは(図を呈示)4NQO処理1hr後細胞を洗い無処置培地で3日間培養したものは明らかに回復していると云わざるを得ない。
 (III)(II)のハムスター胎児培養細胞でin vitro carcinogenesisの試みを行った時の対照の細胞がまだ増殖している。大型の細胞で細胞質空胞多く1週間で約4〜5倍の増殖を示している。この細胞に4NQO 10-6乗M投与1時間とその後の回復培養の実験データは(図を呈示)、この細胞(D2Bとcodeしてある)では明らかに回復していると云える。この時の細胞数計測は4NQO投与時が19万個で既に細胞はsemiconfluentに増生しており、4NQO 10-6.0乗M 1時間処理後回復培養を行ったものも3日目では18.8万個/ml、コントロール19.7万個/mlで共に横這いの状態であった。

 :質疑応答:
[黒木]内部照射だけでDNAが切れるという可能性もありますね。H3-TdR 0.1μc/ml位で切れるでしょうか。
[梅田]この条件での実験ではDNAは切れていないようです。ボトムへ沈みますから。増殖に対する影響があるだけです。
[佐藤茂]H3-TdRはアルコールで溶液になっている筈ですが、そのアルコールの影響はありませんか。
[乾 ]この程度の濃度では全然影響なしだと思います。
[堀川]この実験系では、のせる細胞数を非常に神経質に一定にしないと、少し多いだけでも塊を作ってボトムへ落ちてしまいます。そういう事にも充分気を使って下さい。
[藤井]内部照射で細胞を殺すことの出来る線量はどの位ですか。
[堀川]はっきり覚えていませんが、大体20〜30μc位の高濃度入れてやると合成期にどっと取り込んで死んでしまうというデータがあります。同調させるのに使っていますね。

《乾報告》
 1)染色体Bandding Pattern
 先の月報で報告した如く、培養ハムスター細胞の染色体Bandding Patternを観察する為には、Hsuの変法、Trypsin蛋白変性法が適することがわかった。本月報では、正常ハムスター雄細胞、MNNGによる悪性転換細胞について、PreliminaryにBandding Patternの比較を行なったので報告する。染色体を0.25%のTrypsin処理を行なうと、各染色体に特有なBandが現われる。すなはち、X染色体の長腕、Y染色体、No.1〜4染色体の短腕、metacentric染色体及び小型のNo.16〜20染色体は、ギムザ染色に著明に染色される。その他大型の染色体では、各染色体それぞれに特色のあるギムザに濃染されるBandが出現した。(それぞれ分析図を呈示)アルカリ、熱処理を行なったHsuの変法で染色体を染めても、基本的な染色体のBandは、同様の結果を示した。MNNG 10μg/mlを作用して得た試験管内悪性転換細胞の1つで、染色体数が転換時より近2倍性を維持しているHNG-100細胞(137代)の染色体のBandding Patternでは、(この細胞系の染色体構成はすでに発表してあるので、ここではふれないが)Bandding Patternより推察される染色体変異は次の通りである。1)No.2染色体のtrisomy、2)No.6染色体長腕の先端部のBandの欠如、3)No.10染色体の中央部(centromereを含む)の染色性の欠如、4)No.14染色体に同様染色性欠如、5)No.20染色体のtrysomy染色体の内1本は正常であるが、他の2本の染色性の欠如、6)No.21染色体に新たに正常染色体にみられない染色性の出現等であった。
 上記処理によって、染色性を示す所がHeterochromatinと同部位とすると、HNG-100細胞では、明らかに遺伝子活性の増大がみられる。この結果は、DNA-RNA hybrydizationの結果と非常によく一致した。
 前報で報告したタバコタールの中性、アルカリ性、酸性分劃の細胞毒性(LD100)、形態転換迄の日時、移植の結果をまとめた(表を呈示)。細胞の形態転換は酸、中性分劃で現われ、処理後59日現在、アルカリ性分劃では見られない。
 形態転換を示した細胞を動物へ復元移植した結果は、中性分劃作用群(TN-100)で1/3(33.3%)であったが、酸性分劃作用群は現在、造腫瘍性が認められない。

 :質疑応答:
[吉田]染色体のbanddingをして、黒く染まる部分全部をヘテロクロマチンと言い切ってもよいでしょうか。単に黒く染まる部分といっておいた方がよいと思います。
[黒木]ヘテロクロマチンというのは染色体屋さんの言葉ですか。
[吉田]そうです。
[黒木]トリプシン処理などで変わるものをヘテロというのはどうでしょうか。染色上の問題なのでしょうか。
[山田]再現性はありますか。
[乾 ]あります。
[吉田]しかし、少しやり方を変えると違った結果になります。きちんと一定した結果を得るにはどうやるか、というのはまだ問題の所ですね。方法としては温度処理、ウレア法などがあります。染色体分析に関してはbandding patternでもう一度並べ直してみる必要がありますね。今まで見かけ上の分析では分からなかった新しいpatternを発見できるかも知れません。
 ☆ここで吉田式ウレア法によるヒトの染色体のbandding patternが紹介された。
[山田]bandding patternで変異が判るとしても、発癌剤で変化して悪性まで進むのはほんの一部分の細胞だと思われますから、in vitroで追跡するのは仲々難しいでしょう。
[乾 ]半分は何時も培養に残すようにして、経時的にbandを調べて比較してゆけば、何か判るにではないかと期待しています。
[勝田]ギムザでなく、何か単一色素で染められませんか。
[乾 ]フォイルゲン、ゲンチアナ紫では駄目でした。
[山田]アヅール青がよいのではないでしょうか。
[黒木]ハムスターのチークポーチの復元の所、写真でみると、もう少し白くて固い感じでないと腫瘍らしくないと思いますが、組織像はどうですか。
[乾 ]まだ見ていません。

《佐藤茂》
 吉田腹水肝癌AH-7974由来の培養株(JTC-16)のin vitro及びin vivoにおけるヘキソキナーゼ分子種の表現形質の違いについてこれ迄報告して来たが、この培養細胞10の7乗個をdiffusion chamberに入れラット腹腔に挿入して経時的にヘキソキナーゼを解析した結果、(表を呈示)in vitroでは見られなかったIII型ヘキソキナーゼは2日後に出現した。しかし3日目以後は非活性も低下し、その分子種のバンドも電気泳動上うすくなっていた。これは細胞の生存率の低下と一致している。又細胞数の増加は実験期間中認められなかった。
 in vivoにおけるIII型ヘキソキナーゼ分子種の出現機序を追求中であるが、in vitroで培地にラット血清を添加する事、及び培地中のグルコース濃度を0.01%にして2日間この細胞を培養した結果では、ヘキソキナーゼはI、II型のみであった。

 :質疑応答:
[勝田]培養系そのものには、バンドIIIが無いのに、復元して腹腔内で増殖した細胞にはIIIがあるという結果なのですから、in vitroで再現したいというのなら先ずJTC-16を復元した時の腹水を添加してみるとよいと思いますが・・・。
[山田]腹腔内へ接種して2日位でバンドIIIが出てくるというと、宿主の反応の非常に強い時期という訳ですね。
[佐藤二」マウスの脳腫瘍の話ですが、復元した時の組織像はどの程度の悪性度ですか。悪性の度が強いと分化は望めませんね。
[佐藤茂]組織診断はグリオブラストーマで脳腫瘍の中では悪性ですが、肝癌などに較べると悪性度は弱く、正常のグリア機能も少し有しているというものです。
[山田]脳腫瘍の場合は悪性度も細胞の種類も実に様々なので、in vitroの実験系へ持ち込むと面白いですね。
[黒木]ヂブチルAMPで神経突起が出てくるという報告は沢山ありますが、どの方向へ持ってゆくつもりですか。それからBUdRの影響はどうですか。
[佐藤茂]BUdRはまだ見ていません。方向としてはS100など平行して見る計画です。

《佐藤二報告》
 Azo色素で飼育後のDonryuラッテの培養歴及び染色体について(表と図を呈示)、明らかにDAB飼育例は共に150〜200日の培養日数では増殖誘導細胞はdiploidを示す。しかし3'-Me-DAB飼育のものではdiploidを示す細胞は極めて少ない。
 形態学的にはDAB及び3'-Me-DAB増殖誘導細胞は異なっている。
 DAN及び3'-Me-DABが夫々異なった細胞を増殖誘導するのか、或いは発癌過程の時期的なずれなのかわからない。
 Branched chain A.A.、TransaminaseのIsozyme patternは、一見染色体数のずれとIsozyme patternのずれが一致して興味深い。

 :質疑応答:
[吉田]Controlが欲しいですね。DABを喰わしていない物か、再生肝のデータが・・。
[佐藤二]Adultのラッテ肝は、再生肝でもどうしても株はとれませんね。
[乾 ]培養できる様になる最少限のDAB給餌はどの位ですか。
[佐藤二]短い方はあまり細かくやってありませんが、大体1ケ月位です。
[佐藤茂]DAB給餌で培養する前の組織にはBranched chain A.A.の酵素はありますか。
[佐藤二]多分調べてないと思います。私としてはIIIがtumorのつき方と関係があるのか、どうかに興味をもっています。
[吉田]正常2倍体の肝細胞と、肝癌になったものとの染色体のbanddingを比較してみて欲しいですね。
[佐藤二]問題だと思っているのは、DAB発癌の場合もDABに反応しやすい細胞と反応しにくい細胞があるかも知れないという事です。とするとクローニングした場合、その標的細胞を選んでいるかどうかが分からないのが困ると思っています。
[乾 ]In vivoでは薬剤処理→発癌の過程に可成はっきりした標的器官や標的細胞があるとされていますが、in vitroに移した場合にはアッタクする範囲がずっと広くなるのではないでしょうか。
[黒木]In vivoとin vitroの違いといってもNGの場合などは代謝の問題だと思います。
[乾 ]In vivoの発癌実験で、同じ薬剤でも与え方や与える量によって異なったtumorが出来るという事から考えると、代謝の問題だけでは解決できないと思いますが。
[黒木]勿論色々と複雑な過程があるとは思いますが、少なくともNGに関しては病理学的にはすっかり判っているのに、生化学的分析が追いつかないのですね。
[吉田]私は悪性化するのは運命づけられた細胞という考え方には賛成できませんね。
[佐藤二]私は、同じように初代からクローニングしても、2倍体を維持できる系と、出来ない系があることから、何か運命的なものを感じます。

《藤井報告》
 1.人癌のリンパ球−腫瘍細胞混合培養反応:
 人癌組織を細切撹拌して得られる細胞と、これを培養して増殖するようになった細胞について、患者の末梢リンパ球との混合培養をおこない、リンパ球の幼若化がおこるか否かを、H3-TdRの摂取とオートラヂオグラフィーで検討している。20例(胃癌、乳癌、Wilms腫瘍、神経芽細胞腫)のうち混合培養反応(MLTR)の陽性だったものは乳癌のリンパ節転移細胞3例、Wilms腫瘍1例、胸膜メゾテリオーマー1例である。
 (図を呈示)メゾテリオーマーの例で、胸水から遠心して集めた新鮮な細胞と、約1ケ月培養し、混合培養前々日から人血清を添加したRPMI1640中で培養した細胞を4,000R照射して刺激細胞としたものの成績は、H3-TdR摂取は培養メゾテリオーマーの方が、早期にかつ高くおこる。メゾテリオーマー単独では、何れもH3-TdRとり込みはほとんど無い。in vivoの腫瘍細胞の方が、培養からもってきた細胞よりリンパ球幼若化刺激能が低いのは、ラット、マウスの腫瘍でも同様な成績であった。担癌動物の血清中の幼若化因子として、抗体、その他の膜免疫を被覆する物質を考えている。なお、培養メゾテリオーマー細胞は新鮮なものと、形態的に偏平な細胞質の広くひろがった同様な性格をもっている。
 2.試験管内変異細胞は、復元再培養細胞(腫瘍細胞)と同じ抗原をもっているか?:
 Culb-TC、RLT-2、RLC-10では、同系リンパ球刺激能は5万個細胞を刺激細胞、50万個のリンパ球を反応細胞としたとき、Culb-TC>RLT-2>RLC-10の順であった。試験管内変異株RLT-2がCulb-TCと同じ腫瘍抗原をもっていて、ただその量が少いだけならば、RLT-2の量を増したらCulb-TCの刺激値に近づくのではないか。この問題に対して、Cula-TC、RLT-1A、RLC-10-2の系列で実験をおこなった。(図を呈示)Cula-TCとRLT-1Aは12,500個〜10万個の範囲で、刺激細胞を増すとリンパ球幼若化が増加するようである。Cula-TC 12,.500個とRLT-1A 20万個が同じ効果を示すようにとれる。RLC-10-2は刺激能が高く、5万個〜10万個で抑制がある。Culaなどと抗原が異なるか? 変異を起こしたのか? この実験では抗原の特異性については何も云えない。

 :質疑応答:
[勝田]RLC-10をin vivoで感作しておいてin vitroでブースターをかけるとどうでしょうか。とにかく藤井班員に期待したい今年の課題は、4NQO処理群の動物へ復元する前の細胞と、復元して生体内で増殖した細胞の再培養との抗原性の違いが何かという事です。量的なものか、質的なものか・・・。
[藤井]やってみます。
[勝田]それから癌患者の場合、生体内ですでに反応が起こってしまっているのではないでしょうか。とするとこういうin vitroの系へ持ってきて又反応がおこるでしょうか。
[藤井]生体内で反応が起こってしまっていてもin vitroで又反応が起こるようです。

《堀川報告》
 動物細胞におよぼす放射線および4NQOの作用機序ならびにそれらによる細胞障害修復機構の本体を解析するための1モデルとして、私共は同調細胞集団を使用して、そのcell cycleに於ける周期的感受性差の原因となる変更要因の解析を進めているが、そのためには大量でかつ同調度の高い細胞集団を要することは言うまでもない。すでに報告したように当教室においてはcolcemidとharvesting法を併用することによりHeLaS3細胞から極めて大量かつ同調度の高い集団を得ることに成功している。(図を呈示)この方法によって得たHeLaS3細胞のcell cycleを通じてのX線、UVおよび発癌剤4-NQOに対する周期的感受性曲線からは、周期的感受性曲線の動態は三者において、大局的には変わらないが、細部においてそれぞれ異なることが分かる。
 さてこうした物理的要因に対する周期的感受性差を生じさせる細胞内変異要因の解析として、X線に対してはこれまで各期におけるDNAの切断量と再結合能においては各期の感受性差を説明出来ないが、SH含有量の多少と感受性の高低には何等かの関連性がありそうだとするデータが出されているのが実情である。
 私共はこれら三者の周期的感受性曲線を説明するため、まずその作用機構の最もよく分っているUVから開始した。(図を呈示)つまりUVに対して低感受性期であるG1とG2期および高感受性期であるS期の細胞について200ergs/平方mm照射後のTTdimerの形成量を調べた。その結果、UVに対して高感受性であるS期の細胞では低感受性のG2期のDNAに比して約2倍量のTTdimerが形成されることが分った。一方G1、G2およびS期における細胞のdimer除去能には何ら差がなく、どの時期においても形成されたdimerの約50%が除去されることが分った。こうした結果はUVに対する周期的感受性差は各期において形成されるTTdimerの多少と関連性のあることが示された訳で、UV障害修復の大部分がexcision repairに負うとされるHeLaS3細胞においては興味ある現象である。さてではどうして各期に於いてDNA内に誘起されるTTdimer量が異るか、各期における細胞全体の質的差異によるか、あるいは各期におけるDNAのconformational changesに依存するか、それらの検討を現在進めている。
 一方4-NQOに対する細胞の周期的感受性差の原因についてはH3 4-NQOを用いて現在検索中であるが感受性差の原因として各期におけるDNAを4-NQOの結合能の差違による可能性が予備実験から示されているが、これらについては更にconfirmしたうえで報告する。

 :質疑応答:
[吉田]4NQOはDNAと結合していると考えているわけですね。
[堀川]そうです。DNAをTCAで洗ってもカウントが落ちないという点から考えて、4NQOはDNAに結合していると言いたいのです。
[勝田]4NQOが結合しているとDNA合成の邪魔になるのではないでしょうか。
[黒木]4NQOが結合したDNAがデュプリケイトするかどうかはBUdRを取り込ませて重くしておけば、分かるでしょう。
[堀川]理論的は分かる方法があるのですが、実際には使っているH34NQOの放射能がとても弱くて結論が出ないのです。

《吉田報告》
 "癌細胞には寿命があるだろう"ステムラインにもエイジングがあり、ステムへとバトンタッチされて、世代が交替してゆくのではなかろうか。

 :質疑応答:
[勝田]DNAの鋳型がすり切れることがあるのではないか、という考えは私もずっと持っていました。
[乾 ]この考え方ではもっと株細胞の樹立という事が難しいはずのように思います。たいていの培養系が切れてしまうのではないでしょうか。
[吉田]しかし、ミュテーションandセレクションだけで生き延びてゆくなら、もっと広がりがあるはずですよ。
[堀川]In vitroの系とin vivoの系とを平行してみてゆかないと、in vitroでは宿主の影響を受けないから安定しているとも言えます。
[吉田]薬剤を使うとエイジングは短縮されるという事もあります。
[勝田]一つの細胞のエイジングという問題と、ポピュレーションとしてのエイジングの問題ということですね。
[堀川]自然界の法則ですね。猿山にもあてはまる現象です。
[黒木]政界にもピッタリあてはまりますね。
[堀川]問題は遺伝子レベルのことでしょうがね。

【勝田班月報・7209】
《勝田報告》
 JTC-15株細胞(ラッテ腹水肝癌AH-66)よりのColonial clones及びClonesの可移植性と軟寒天内増殖能との関連性について
 No.7203の月報において、JTC-15の復元成績のまとめを報告したが、そのとき、クローンを作ってその性質を色々と検討中であると附記した。この実験は完全にはまだ終了していないが、かなりのデータが得られたので、今月号で中間報告することにする。
1)軟寒天法は、豊島製の径5cmpのlastic dishを用い、6系を得た。
 2)液体培地法は、LINBRO製のトレー(凹みの径約8mm)を、初めは液量を各0.5ml宛のうすい細胞浮游液を各凹みに入れ、顕微鏡上で、たしかに1コだけ入っているという穴にマークし、次第に液量を増した。これからは4系のClonesが得られたが内1系は死滅してしまった。
 フラン器はいずれも炭酸ガスフラン器である。
 (表を呈示)原株及び軟寒天のクロンは10、100、1000個とまいた結果の平均値で、高いもので42%、低いものは8%以下であった。液体培地クローンは1000個のみコロニーを形成し、0≒、3.6%、7.4%であった。以上のように、軟寒天内コロニー形成能とは関連性が認められない。寒天コロニー4などは軟寒天で拾ったコロニーであるのに、軟寒天でPEが低く、可移植性も低いという結果になった。

《梅田報告》
 安村先生の話で、Soft agar法で、100万個cells/plate位の大量の細胞数を植えこむと、normalと思われる細胞もcolonyを作るのではないかと云われていた。それ故ハムスターの胎児培養細胞に発癌剤投与後なるべく早くsoft agar中でcolonyを作らせ、発癌の指標に出来たらと云う目的で以下の実験を行った。
 ハムスター胎児単層培養を9cmのpetri dishに作成後、細胞が1/4位のガラス面をおおった培養1日目に、(A)3.4benzpyrene 10μg/ml、(B)4HAQO 10-5乗Mを夫々投与した。2日後Control培地に交新したが、その時は(A)はそれ程障害は強くなく細胞はガラス面の2/3をおおっていた。(B)は細胞障害が強く1/5をおおっていた。
 Controlは培養4日后、(A)、(B)は増殖が回復した培養13日后に100万個cells/mlの細胞数でsoft agarにうつした。Soft agarは0.3%のagaroseをbase layerに、0.2%のagaroseをseed layerとした。(agaroseはドータイト製)
 夫々2週後に観察した所共にcolony形成はなかったので、seed layerの所を再び培地で洗い、9cm petri dishにまいた。controlの細胞の増生は良く、(A)(B)は徐々に細胞が増生し、20日后には(A)では50ケ位のcolonial growthが認められ、うち4ケはdense colonyであった。(B)は輪かくのはっきりしないやはり50ケ位のcolonyを作り、dense colonyはなかった。この細胞も再び同じ様な方法でsoft agarに移し、2週間培養した。
 結果は全く陰性で、colony形成はなかった。
 別にsoft agarでなく継代した系では、(A)は既にmorphological transformationが認められている。(B)ではその様な所見は今の所見られない。
 以上soft agarの方法はinoculumを上げてもcolonyを作らない段階があると結論された。
《高木報告》
 1.培養内悪性化について
硫安により塩析して作製したserum factor freeの血清を用いsoft agar cultureを行ったところ、全くcolonyが出来なかったため今回は液体培地を用いてplating efficiencyを調べた。正常細胞としてRFLC-5、腫瘍細胞としてRLC-11を使用した。
 1)培地はMEM+10%CSを用い、6cmのPetri dishに180ケの細胞を植え込んだ。用いた血清は次の3種であった。 (1)1/1CS:限外濾過を行いMEMで元の量になるまでうすめたもの。(2)1/3CS:硫安1/3飽和後血清をPBSで2日間透析した後限外濾過を行い、MEMで元の量にもどしたもの。(3)1/2CS:硫安1/2飽和後、上記1/3飽和と同様に処理したもの。
 (表を呈示)結果は表の如く、1/1CSを用いた場合のRFLC-5およびRRLC-11細胞のPEはそれぞれ24.0%、3.3%であり、これまでの無処理血清を用いた実験のPE、すなわちRLFC-5約80%、RRLC-11約50%と比較すると可成り低かった。これは、この実験では再生したFalcon Petri dishを用いたことも影響したかも知れないが、血清を処理したことによる影響が主であると考える。
 又この血清を用いてsoft agar cultureを行った所、先に報告したように白色の沈澱物を生じたので、次に硫安塩析後、蒸留水で透析を行い、また3種類の培地について検討した。
2)培地はMEM+0.1% Bactopepton(BP)、199、F12の3種を用い、これに血清をそれぞれ10%添加した。用いた血清は以下の如くである。(1)control CS:無処理の血清。(2)1/1 CS:限外濾過後Hanks液で元の量にもどしたもの。(3)1/3 CS:硫安1/3飽和血清を蒸留水で2日間透析した後限外濾過を行い、Hanks液で元の量にもどしたもの。
 (表を呈示)結果は表に示す通りである。RRLC-11はPetri dishあたり180ケの細胞をまいたが、RFLC-5はPetri dishあたり900ケの細胞をまいたので、MEM+BP培地ではcolony数は数えられなくなった。しかし199およびF12培地では、全くcolonyを生じなかった。RRLC-11細胞についてはcontCSと1/1CSとではPEには有意の差はないように思われたが、生じたcolonyの大きさは1/1CSでは明らかに小さく、限外濾過を行うことにより細胞増殖にあずかる因子がある程度失われるようである。さらに培地条件を検討中である。
 2.RRLC-11細胞の放出する毒性物質
 RRLC-11細胞を培養した毒性培地を56℃、65℃および75℃に30分おいてこれら温度の効果をみた。(図を呈示)図に示す如く56℃30分では活性は保たれ、65℃30分ではやや失われ、75℃30分では完全に失活した。
 先に報告した如く65℃、75℃、60分ではいずれも完全失活した。

《山田報告》
 この夏は、いままでの仕事の整理やら、Paper書きに追われて過して居ます。近くCell electrophoresis(細胞電気泳動法)の単行本も出版の予定です。(小生は編集及び執筆)
 従来の仕事の残務整理を兼ねて、4NQOにより発癌したラット肝培養株を材料の出来次第randomに検索しています。今回は図に示す様な三株(CQ68/RTC、C10/RTC、CulbTC)について、その後の泳動度の変化を調べてみました。今回はどういうわけかノイラミニダーゼが作用しにくく、特にCulbTCの成績はどうも理解がつきません。(ラット赤血球も同時にノイラミニダーゼ処理して、その対照として検索しています。)  C-10/RTCのみが従来の悪性化のパターンを示して居ます。
 4NQO作用後かなり日数が経っていますので、Cell polulationの変化を生じたのかもしれません。出来ればこの点もう一度調べたいと思って居ります。(図を呈示)
テレビ・ヴィデオテープ記録装置を電気泳動装置に組みこみました。この装置は従来の泳動装置に通常家庭用に発売されているヴィデオコーダーを組合せたもので、意外と便利で重宝しています。従来の細胞電気泳動度を測定する際には、すべて顕微鏡をのぞいて測定して居たのですが、その視野がテレビの画面にうつりますので、測定するのが楽であり、しかも記録されるので、幾度でもくりかへしみなほすことが出来ます。しかも細胞の動きを速くすることが出来ますので、運動の状態を細かく分析が出来ます。ヴィデオの撮影装置と顕微鏡の接着の部分を改良して従来の写真記録も自動的に出来る様にしてあります。
 次回の班会議にはこのヴィデオを持参して御覧に入れたいと思って居ます。

《堀川報告》
 私共は以前にマウスL細胞をγ-線で反復照射することにより放射線抵抗性細胞を分離し、その出現機構及び抵抗性細胞の遺伝的特性等の解析を試みたが、今回は材料と方法を変えてヒト子宮頚癌由来のHeLaS3細胞より、X線感受性および抵抗性細胞を分離することを試みた。これは哺乳動物細胞におけるX線感受性支配要因(障害と回復能)を解析するにあたり、最も好材料と考えられるからである。
 まず感受性細胞株の分離はUV感受性細胞分離にあたって用いた方法に準じて、以下に述べる方法で行った。HeLaS3原株細胞を変異誘発剤MNNGで24hrs処理し、ついで正常培地で培養を行い、7日後に得られた細胞の各々100万個に対して、0、100、200、300または400RのX線を照射し、直ちに10-5乗M BUdRを含む培地中で培養する。4日後に可視光線(60W)を2hrs照射したのち、再び正常培地中で培養し、3週間後に培養瓶中に形成されるコロニー数を算定する。このようにしてMNNG処理−200R照射群から7個、MNNG未処理−200R照射群から4個のコロニーが出現し、合計11個のクローンを得たが、これらについてX線に対する感受性を検討したところ、HeLaS3原株細胞に比べて高感受性を示したのはMNNG処理群から出現した1クローン(SM-1a株)のみであった。
 一方X線抵抗性細胞の分離にあたっては、あらかじめMNNGで処理した1,000万個のHeLaS3原株細胞に2000RのX線を照射した。そして約2ケ月後にMNNG処理群から4個、未処理群から1個のコロニーが出現したが、これら5個のクローンについてX線感受性を検討した結果、MNNG処理群より分離した1クローン(RM-1b)のみがX線に対して抵抗性を示した。以上分離されたSM-1a株とRM-1b株の、コロニー形成法によって得た線量−生存率曲線を図に示す(図を呈示)。またHeLaS3原株細胞をも含めてX線に対する感受性を表にまとめた(表を呈示)。これら3種の細胞株について染色体数の分布を調べた結果では、Modal numberはHeLaS3細胞では68本、SM-1a細胞では64本、RM-1b細胞では67〜69本という結果を得た。また成長曲線から各種細胞の倍加時間を求めたが、HeLaS3、RM-1b細胞で20.8時間であるのに対し、SM-1a細胞では27.2時間という長い倍加時間を示した。現在SM-1a、RM-1b両細胞株における細胞内非蛋白SH量の差違や、化学発癌財4-NQOならびにUVに対する感受性の検討等を行っている段階である。

《乾報告》
 MNNG投与初期におけるRNApopulationの変化
先に月報7204号でMNNG投与によって悪性転換した細胞のRapidly labeled populationは正常のそれと異なる事を報告した。
 我々はRNApopulationの変異が、MNNG投与細胞においていつあらわれるかを追求する目的で、MNNG 10μg/ml投与後96時間の細胞についてDNA-RNA Hybridizationを行なった。薬剤投与後4日、障害を受けた細胞の再増殖時のHybridizationの結果は次の如く要約された。MNNG-treated cellのlabeled RNAを使用した場合は実験結果に非常にバラツキが多い。正常細胞のRNAを使用した時は、coldの正常RNAが、coldのMNNGtreated cellのRNAより多く拮抗した(図を呈示)。
 この結果よりMNNG処理後4日目の細胞のRNAは、正常細胞RNA populationの一部を欠除していると考えたい。しかし、un-labeled RNA/labeled RNAの高い実験は現在施行中であるので、その結果を待ち結論したい。
 8月下旬より11月下旬迄渡欧致しますので、10月の月報は13回International Congress of Cell Biologyのtopicsを御報告致したく思います。

《黒木報告》
 §平板寒天Agar Plate培養について§
 レプリカ培養のために開始した寒天表面コロニー形成法(以下、平板寒天又はAgar plateと称す)が、その後、多くの細胞に応用できることが分った。
 (表1、2、3を呈示する)表1は、浮游状で増殖する細胞(FM3A、L5178Y、YSC、Yosida Sarcoma・Primary culture)の成績である。株化された細胞は70%近い高いPEを示す。吉田肉腫の初代培養では軟寒天よりもいPEである。
 表2で、壁につく細胞(HeLa、L、V79、CHO、JTC-16)もふつうの液体培地のコロニー形成法、軟寒天法とほぼ同じ率でコロニーを作り得ることが明らかになった。
表3からBHK-21/C13のポリオーマ、RSVによるtransformantはコロニーを作るが、もとの細胞Revertantは作らないことが分る。この方法はtransfomationのassayにも使える。

《野瀬報告》
 Alkaline Phosphataseの精製
 Alkaline phosphatase(ALP)-Iに対する抗体を作るため、この酵素の精製を試みている。用いた材料は、臓器の中でも比活性の高いRat Kidneyで、表に示した手順で精製を行った(表を呈示)。各stepでの比活性の上昇は次表に示してあるが、組織のhomogenateはかなり大きなfragmentを含むので、Deoxycholateによって顆粒に結合しているALP-Iを可溶化した方が良いようである。Triton X-100やUreaでは可溶化できなかった。ここで言う可溶化とは6,000xg、5minの遠心により上清に残るという意味で、この上清を、Glycerol gradient(10〜30%)の上にのせて、SW50Lローター、34,000rpmで60min遠心すると、ALP-I活性は早く沈降する部分に大部分きてしまい、完全な可溶化とは言えない。次のstepのn-Butanolによる抽出で、比活性は約2倍に上昇し(図を呈示)、図で見られるように、この条件の遠心ではTopの分劃に回収された。このn-Butanol抽出液は凍結するとaggregateをつくり、ALP-Iは沈澱するため、直ちにSephadexG-200(1.8x40cm)のカラムにかけてゲル濾過を行なった。この時の抽出パターンが図2に示されている。このカラムでBlue Dextran(分子量約2.0x10の6乗)はFraction 9〜10にかけて溶出され、この付近がvoid volumeであるが、ALP-Iもこの位置に回収された。
 表1でpeakの位置にあるALP-Iの比活性はn-Butanol抽出液とくらべ約4.1倍に上昇しているが、Sephadexのパターンから見ると、ALP-Iはまだ完全に可溶化されてなく、分子量50万以上のparticulate又はaggregateとして存在しているようである。このため、SephadexのFraction 9〜10を更にdisc gel電気泳動(pH8.6および9.5)にかけても原点から全く動かなかった。これ以上の可溶化の試みとして、n-Butanol抽出液を、DOC、SDS、TritonX-100、Neuraminidase、PhospholipaseCなどで処理したが何れの場合もALP-I活性は、void volumeの位置から動かず現在、これ以上の精製はできていない。今後、更に別の方法を用いて、ALP-I complexをdissociateさせる条件を探す予定である。

《佐藤茂秋報告》
 培養されたマウスのグリオブラストーマ細胞が、脳に特異的な生化学的マーカーであるC型アルドラーゼを保持している事はこれ迄報告してきた。他のグリオーマの培養株がこのマーカーを持っているか否か調べる為、N-ニトロソメチルウレアでラット脳内に誘発され、培養株となっているグリオーマ細胞、C6細胞についてアルドラーゼの分子種を電気泳動で調べてみた。この細胞も、A型とA-Cハイブリッドを示しC型もうすいが認められた。この細胞株は、グリアのもう一つのマーカーであるS-100蛋白質をもっている事は既にわかっている。又、マウスの神経芽細胞腫瘍の培養株であるC1300のクローン、N18では、A型アルドラーゼとわずかにA3C1ハイブリッドが認められるが他のA-Cハイブリッド及びC型は検出されず、グリオーマとはアルドラーゼの分子種のパターンが異っていた。ヒトの神経芽細胞腫におけるアルドラーゼのパターンもA型とA3C1ハイブリッドのみであると報告されている。従来C型アルドラーゼは脳、神経組織に特異的と言われて来たが、神経細胞起原の腫瘍細胞がC型をもたない事実は、脳組織におけるC型アルドラーゼがグリア起原であるかもしれない事を示唆する。あるいは正常神経細胞はC型アルドラーゼをもつが腫瘍化した細胞ではC型が発現しないのかもしれない。神経芽細胞腫の培養株はin vitroで、種々の条件により生化学的又は形態学的な分化を示す事がわかっているが、C型アルドラーゼも誘導されるかもしれない。この方面への研究の展開を考えている。

【勝田班月報:7208:タバコ煙の培養細胞に対する影響】
《勝田報告》
 (表を呈示)ラッテ肝細胞株RLC-10(2)を昨年6月29日に4NQO1回処理して以後、軟寒天培地内培養、細胞電気泳動、ラッテへの復元接種などを併行して、山田班員と協同してしらべてきた。細胞電気泳動に関しては、山田班員から詳しく報告があると思われるが、きわめて数多くしらべてきている。復元成績は1971-8-14にはじめて復元接種して、実験群は2/2接種後213日と285日後に腫瘍死した。しかし困ったことに対照群が246日に1/2匹が腫瘍死してしまった。これは何ともはや困り切った問題であるが、いかにcloningしようがしまいが所詮、株細胞というものは発癌実験に使うことには不適なのではないかと、この頃つくづく反省させられている。
 軟寒天培地の成績は(表を呈示)今日まで全部陰性であった。対照実験として、同じ手法で肝癌AH-7974由来の株、JTC-16、をまいた成績は、P.E.50%で、手技的に悪かったのでColoniesを作らなかったのではない、ということが証明されている。また軟寒天培養24日後に通常の培養にもどしたら細胞が増殖を始めたということで、つまり、軟寒天培地内でColonyを作る能力(増殖能)が無くても、そのなかで生存して居り、適当な環境に移されれば、また増殖を再発する潜在能力を持っているということを示している。
 RLC-10(2)から作った色々なclonesについては、発癌実験という意味からは、これらが果たして何の役に立ち得るであろうか。つまり、現在の時点に至っては、細胞1コの性格が、癌になり易くなっているかどうか(自然発癌の一歩手前)、それを発癌剤がチョイと手助けしているにすぎないのではないか、という疑問を解決すべき問題であり、当班としても、培養という手技を100%活用しながらも、再びまた人体内における癌の発生とその成育ということに視点を戻さなくてはならない限界点まで来ているのではないか、ということを痛切に感ずる次第である。

 :質疑応答:
[佐藤二]コロニーを拾う時もっと形態の違うものとか、サイズの違うものとかを拾うと、性質の違ったクロンを拾うことが出来るのではありませんか。
[高岡]同条件下では同じようなコロニーしか出来ないのです。何か培養の条件を変えてクローニングする事を考えています。それにしても、何とか生体内での腫瘍性と平行する、培養内での指標が欲しいですね。幾つクロンを拾ってもメクラで拾うのですから、何が拾えたのか最後まで判りません。

《山田報告》
 新たに4NQO(3.3x10-6乗M)一回処理した後約60日目のラット肝細胞系CQ72株と、その処理後13日目に、その株から浮遊細胞で育ったクローン株C1、2、3の細胞電気泳動度を調べました(図を呈示)。
 珍しく、細胞の構成が均一で、しかもノイラミニダーゼが均一に作用している様に思います。クローン株も又殆んど原株を同様な所見を示し、原株の比較的均一性をましている様に思います。
 この実験の目的は4NQO処理後早い時期にばらつきが生じ、漸次腫瘍細胞によって置換されると云う従来の成績に基き行ったものですが、どうも皮肉なもので構成分析をしようとすると、原株の構成が単一状態に近くなり、なかなかうまくゆかないものです。貴方まかせの発癌実験のつらさをここでも味っています。
 RPL-1株:
 腹膜由来細胞、mesothelial cellであるこの細胞系は形態的に均一であり、今後発癌実験の材料に使うという事で、その対照としての細胞の電気泳動的性格を検索しました。2回の成績は多少異りますが、増殖状態の差によるものと思われます。肝細胞よりノイラミニダーゼ感受性が強くなります。
 ConA実験その後の成績:
 Burger等によると、正常細胞もトリプシン処理すると、悪性細胞と同様なConAによる凝集現象があると報告されていますが、この成績を電気泳動的に検索しました(図を呈示)。0.001%のトリプシン処理後、各種濃度のConAを加えた所、トリプシン処理ラット再生肝細胞は10-20μg/mlの低濃度のConAによりその泳動度が上昇しました。トリプシン処理肝癌細胞では、ConAによりその泳動度が低下するのみです。

 :質疑応答:
[乾 ]細胞周期のどこに居るかで細胞の電気泳動値は変わってきませんか。
[山田]同調培養を使って調べましたが、M期が高くS期は低いようです。
[堀川]本質的な膜の違いのせいでしょうか。
[山田]どうしてそうなのか判りませんが、M期にはカルシウムが細胞表面に呼び集められるとか、他にもM期の膜が他の時期の膜とは違う事を示唆する所見はありますね。
[堀川]Random cultureでみているからデータが乱れるとは考えられませんか。
[山田]それは同調培養が何時も使えればそれに越した事はありませんが、一応random cultureを使っても差が出るという事も大きな事だと思っています。
[黒木]ConAの実験で再生肝をトリプシン処理して泳動度が上がるのはいいと思いますが、AH66Fの方が同じ処理で下がるのはどういう事でしょうか。
[山田]細胞膜が多少とけてしまうのかも知れませんね。
[津田]トリプシン処理からどの位の時間で回復しますか。
[山田]はっきりした時間はみてありませんが、この程度なら生死には関係なくかなり速やかに回復するはずです。
[永井]ノイラミニダーゼ→ConAではどうなりますか。
[山田]再生肝では下がり、AH-66Fでは上昇するという異なった結果を得ています。
[永井]ConAを先に処理してノイラミニダーゼをかけるとどうなりますか。ConAでは細胞内部の糖も認識することが判っていますから、ConAの処理のあとで酵素処理をするともっと細胞の性質がはっきりするかも知れませんね。
[山田]それもやってみましょう。
[永井]PHAも色々なものが使われ始めましたね。内部の糖を認識するものの方が、リンパ球の幼若化にも影響が大きいとも言われていますし、もっと色々なPHAを使って調べてみるとよいと思います。
[山田]何とかコロニーの拾い方の指標がほしいですね。
[高岡]RLC-10の系の場合、軟寒天内で増殖コロニーを作らないで生き残った細胞は、どうもおとなしい揃ったものになる傾向があるようですね。
[勝田]細胞電気泳動で分劃するというのはどうなっていますか。
[山田]色々やってみてはいますが、仲々難しいですよ。
[佐藤二]培養細胞は結局みんな自然発癌→脱癌という過程を通るのではないかという気がしています。しかし、自然発癌と化学発癌との間には何か違いがあるのではないでしょうか。例えば私のデータでは分岐鎖アミノ酸トランスアミナーゼのアイソザイムで自然発癌はIII型が出ないのです。生体での癌も化学発癌させたものも出るのですが。
[山田]しかし、自然発癌の場合、悪性化したものが少ないとも考えられますから、集団としてしかみられない酵素活性の違いを本質的な違いといえるかどうか。どうも脱癌というと、悪人がパット善人になった感じですが、生化学的指標での癌と正常は単に程度の差のようですね。

《堀川報告》
 HeLaS3原株細胞ではUV照射によりDNAに誘起された総thymisine dimer(TT)の約50%を除去する能力があり、一方この原株細胞から分離されたUV感受性細胞S-2M細胞では総TTの約9%しか除去出来ないというのが私共の従来の実験結果であった。では一体HeLaS3原株細胞におけるこの50%のTTの切り出し能というのはHeLaS3原株細胞の最大除去能力であるか否かの検討が必要になってくる。この問題を解決するために、まず従来TTの切り出し能が無いといわれているマウスL株細胞を対照として用いた。(図を呈示)L株細胞を200、400、800ergs/平方mmのUVで照射した直後DNA中にはTTがinduceされるが、その後これらの細胞を37℃でincubeteしても確かにTTの有意な切り出し能は認められない。
 一方HeLaS3細胞に200、400、800ergs/平方mmとそれぞれ照射すると(図を呈示)L細胞の場合と同様に線量に依存してDNA中にTTがinduceされるが、その後のTTの除去能をみるとどの線量で照射した場合にも或る一定量しか切り出しが認められず、200ergs/平方mm照射後の50%TTの切り出し能が最大の値を示す。
 この現象は酵素反応的には理解出来ないことで、もし一定量の酵素がHeLaS3細胞中に存在すれば、もっと多くのTTを除去してもいいように思われる。ところがこの点に関しては複雑な問題がからんで来ていることがその後の実験から分って来た。
 つまり200ergs/平方mm以上のUVを照射した場合には細胞は死に追い込まれるらしく、そのためenzymeの存否にはかかわらず200ergs/平方mm以上のUV照射では現在検出しているTT除去能が最大の切り出し能という結果になっているようである。それでは200ergs/平方mm以下のUV照射後のTT除去能がどのようになっているかが今後の重要な実験になってくる訳であるが、200ergs/平方mm以下のUV照射では現在の検出法では正確なDNAのTT量がつかめないという苦しい問題につきあたっている。

 :質疑応答:
[黒木]感受性の細胞ではD0が変わるだけでなく、shoulderが無くなったように見られましたが、どういう事でしょうか。
[堀川]shoulderについては放射線生物学の分野では、まだはっきりさせられません。
[野瀬]UV感受性株は他の発癌物質に対してはどうですか。
[堀川]4NQOに対する感受性は平行しています。昔、私のデータでマウス由来の株と豚由来の株を使ってUV感受性と4NQO感受性は平行しないというのがありましたが、それは細胞の起源が異なったためだろうと考えています。
[黒木]UV感受性と非感受性とで変異率をみたらどうですか。
[堀川]BUdRを使ってselectしていますから、TdR-kinaseの問題なのかも知れません。細胞もchinese hamsterの方がよいという人もあります。
[黒木]HeLaに4NQOはどうも困りますね。
[堀川]人とマウスの違いを活かして実験をしたいのですが、他に再現性のあるよい系が見つかりませんのでね。
[高木]NGの濃度はどうやって決められましたか。
[堀川]30%survival doseを使いました。Dr.パックも同じ濃度を使っていますね。NG処理の直後にUV照射というのは少し問題があるかも知れません。NGで処理して3日位培養してからselectした方が色んなmutantがとれると考えられます。
[乾 ]私の所では5〜10μg/mlで処理しています。NGは1μg/ml以下の濃度では変異率はぐっと下がります。細胞が死ぬ割合は時間で変わります。

《梅田報告》
 先月の月報では細胞のDNAはアルカリ性蔗糖密度勾配中での遠心パターンが細胞のlysis時間により変ってくることを示した。今回は更に細胞の種類を変えてlysis時間を1、2、4時間として遠心してみた。(以下それぞれに図を呈示)
 (I)Human Embryo Skin cells:人胎児皮膚を培養して増生してきた繊維芽細胞で3代継代した元気な細胞である。Lysis時間が変っても遠心のパターンは1〜4時間の間では変化はなく底より11〜12本目にピークのある山を示している。
 (II)TTG-4d cells:人の歯肉を長期培養して既に50代をすぎ増生の非常に悪くなった細胞であるが、1、2、4時間とlysisの時間を長くすると底より9、10、11〜12本目とピークが多少低い分子になる山型が見られる。
 (III)Hamster embryonic cells:ハムスター胎児細胞の2代目培養であるが、この実験からフラクションを30本とることにした。lysis1時間目のものは多少ばらついて山が幾つもある様になって了ったが、lysis時間2時間と4時間のものを比較するとピークはそれ程動いていない。
 (IV)K2B細胞:ハムスター胎児細胞を長期継代して1年以上培養している細胞で、まだまだ着実に増生しているが、大型の細胞で細胞質内顆粒の非常に多い細胞である。この細胞での遠心パターンは1、2、4時間と時間が経つにつれ明らかに山が右に移り、低分子化を起している。
 (V)P2B細胞:先月月報にも示したP2B細胞で、K2Bはこのコントロールとして培養を共に続けているものである。今回は山が1時間より2時間目でやや重くなり、4時間で再びやや軽くなる遠心パターンを示した。
 (VI)ElkindはBUdRを摂り込ませた細胞のDNAは、lysis時間を追って観察するとコントロールの細胞のDNAより早く低分子化すると報告している。我々の今回のデータはまだはっきり云えないまでも、BUdRの様な物質を加えない場合でも細胞によりlysis時間の変化に応じ遠心パターンの変化が起ることを示している。特に若い細胞、癌細胞は比較的変化を起し難く、培養上年老いた正常だった細胞は低分子化し易いと考えて良い様なデータと思われる。

 :質疑応答:
[堀川]Peakはきれいですが、bottomにあるのは矢張りaggregateしたものではないでしょうか。テクニックを工夫すると完全に無くなるはずです。しかし、細胞の種類によってpeakが変わるというのは面白いですね。
[梅田]手元にある株で、ヒト、ハムスター、マウス、ラッテなど皆比較してみたいと思っています。
[黒木]Pronase処理の必要はありませんか。
[堀川]アルカリの場合は必要ありません。
[黒木]Radioactivityが試験管の壁にくっつく事はありませんか。
[梅田]Recoveryは100%です。
[堀川]しかし、本当のDNAの分子量というのは、今の技術では未だ結論がでませんね。アメリカのシンポジウムでも"神のみぞ知る"というのが結論でした。10の8乗ダルトン位が先ず正しいところでしょうか。

《高木報告》
 今回はこれまでの実験dataをまとめて報告する。
 培養内悪性化の示標としての軟寒天培養法の検討:
 先にNGおよび4NQOを用いて培養内悪性化した細胞につき、soft agar内でColonyを形成せしめ、えられたColonyを2mm径以上の大Colonyと、以下の小Colonyとに分けて拾い上げ、その各細胞を培養して増殖せしめた後、再びsoft agarにまいて大、小Colony由来の細胞のCFEとtumorigenicityとの相関について調べた。この際用いた培地はLH+EBMvitamins+10%CSで、寒天濃度はbase 0.5%、top 0.33%であった。その結果、NG実験群についてはすでに報告したが4NQO実験群についても大、小コロニー由来の細胞とCFEとの間に相関はなく、またCFEとtumorigenicityとの間にも何等の関連も認めえなかった。この実験は上述の一定条件下に行われたもので、さらに培養条件を検討して実験を続けているが、その一つとして今回はTodaroらの云うserum factor free血清を培地成分として用いてみた。Soft agarで培養するに先立ち、まずWKA rat肺由来でspontan.transformationした細胞の再培養株RRLC-11細胞およびそれから出た2つのclone C-1、C-2とWKArat肺由来のRFLC-5細胞についてMEM+10%血清の培地組成で細胞の増殖を調べてみた。これに血清は無処理の対照仔牛血清と、それから硫安1/3飽和および1/2飽和によりえられたserum factor free血清とを用いた。
 RRLC-11系株細胞とRFLC-5細胞との間にはこれらの血清を用いたことにより増殖に明らかな差異がみられ、RFLC-5細胞の増殖は悪く、その程度は1/2CS培地(1/2硫安飽和によりserum factorを除いた血清を加えた培地)において著明であった。すなわちRFLC-5細胞にserum factor依存性がつよくみられた。またRRLC-11・C-1とC-2細胞の間でも差異がみられ、C-2細胞の方がserum factorに対する依存性が強かった。そこでこれら細胞についてserum factor free血清を用いたSoft agar培地内におけるColony形成能とtrumorigenicityにつき検討した。
 RRLC-11・C-1およびC-2細胞のsoft agar内におけるColony形成能は前報の通りでC-1、C-2はそれぞれCSを10%含むSoft agar培地内では39%、11.9%のCFEを示したが、1/3CSおよび1/2CSを含むSoft agar培地内ではC-1が前者培地内に1つのColonyを形成しただけであった。但し、この際soft agarのbase、top両層間に白い沈澱物を認め、このようなこともCFEに多分の影響を及ぼすと思われるのでserum factor free血清の作製法をかえ、血清に含まれるNH4+を蒸留水を外液として透析することにより完全に除き、これを限外濾過により充分に濃縮した後Hanks液で原量に稀釋する方法を用いて再検討している。なおこれら細胞の復元実験の成績は、現時点(復元後日数43〜57日)ではRRLC-11・C-1は100万個接種で2/2死亡、1,000個で2/3死亡、RRLC-11・C-2は100万個で2/2、1,000個で1/3、RFL・C-5は100万個で0/3であった(表を呈示)。
 培養内において肉腫細胞の正常(非腫瘍性)細胞におよぼす影響:
RRLC-11細胞とWKA rat肺由来のColonial cloneの3株とを同数ずつpetri dishにまいて2週間培養を続けた後観察すると正常細胞のColonyの変性像がみられたが、これには細胞の種類による差異があった。そこでこの正常組織由来の細胞にdamageを与えるには腫瘍細胞の接触が必要であるのか否かを調べるためRRLC-11細胞を培養した培地を正常細胞の培地に様々の濃度に加えて検討したところ、5%以上の濃度では有意差なく正常細胞の増殖は抑制された。従ってRRLC-11細胞はその培地中に正常細胞に対する毒性物質を放出しており、それに対する感受性は正常細胞の種類により差異があるものと思われる。つぎにこの毒性物質につきこれまでに調べた結果を箇条書する。
 1)RRLC-11培地の毒性は、この細胞の培養日数により細胞数の増加を来すことによる差異は認められない。
 2)RRLC-11培地の30,000rpm1時間遠沈上清に毒性は残る。
 3)Visking tube(8/32)によりRRLC-11培地を限外濾過すると、外液に毒性を認める。
 4)RRLC-11培地を-20℃に凍結保存すると4週間までは毒性はほぼ完全に保たれている。
 5)RRLC-11培地を56℃、65℃、75℃で1時間処理すると、56℃では毒性は完全に残るが、65℃以上では全く毒性を失う。
 6)RRLC-11細胞の培養9日目の電顕写真でわずかな数のC型粒子を認める。
 7)Sephadex G25で行ったColumn chromatographyで毒性はOD230による吸収曲線の最初のpeakに一致して存在する。Sephaces G50でも最初のpeakに一致して存在するが、この分劃には牛血清albuminもeluteされる。

 :質疑応答:
[永井]透析すると外液に出るのに、G-50でvoid volumeに出てくる物質というのは一寸考えにくいですね。
[黒木]凍結保存も失活の原因となるならグリセリン添加で凍結すればよいでしょう。
[山田]毒性物質というものは悪性細胞の代謝産物だろうと考えていましたが、この例では細胞の増殖とは関係がないのですから、代謝産物ではないかも知れませんね。
[高木]実験があまり定量的でないので、一寸はっきりした事は言えないと思います。
[堀川]細胞のホモジネイトはやってみましたか。
[高木]みていません。私の場合、出しているものだけを調べているのですが、とにかく出たり出なかったり大変不安定なのが困ります。
[藤井]他の癌細胞に対しては影響がありませんか。
[高木]まだみていませんが、これから調べるつもりです。
[黒木]コロニーが隣合って死んでいるのは、或程度どちらも増殖するのですね。
[高木]正常細胞を先にまいてコロニーを作らせておいて、腫瘍を入れた場合もやはり正常細胞はやられます。限外濾過で外液ですし、電顕でみてもそれらしい粒子が見当たらない事からPPLOは否定できると考えています。
[佐藤二]巨細胞はやられていないようですね。
[堀川]しかし障害を受けると巨細胞を作る例がありますから、何ともいえませんね。
[佐藤二]正常細胞の条件の違いが効く効かないの不安定の原因になっていませんか。
[永井]高分子と吸着しているのではないでしょうか。
[勝田]吸着しているとすると温度処理で失活するのはおかしいですね。
[永井]吸着でマスクされるという事も考えられます。pHを変えてみるとか何とか失活の条件をはっきりさせないと困りますね。
[佐藤二]低分子でありながら、熱処理で失活というのも変ですね。
[高木]とにかく理由がまるで判らなくて失活するので困ります。

《乾 報告》
 1)染色体Banding Patternの検討
すでに月報No.7206で述べた如く、個々の染色体に特有のBanding Patternが表われ、このBandは染色体のIdentificationに非常に有利な手段であると考えられている。培養細胞の癌化の指標としてこのBanding Patternが適用できるかどうかと、検討中であるが、本号では、HCl処理・Heat denature法(G-Band)を用いて、正常ハムスター細胞とHNG-100細胞のBanding Patternを検討すると共に、いくつかの方法によって得た染色体Bandの比較検討を行った。
 (写真を呈示)正常ハムスター(雄)のBanding Patternの特色として、No.4、No.7、No.11染色体の長腕に顕明なBandが存在するが、他の染色体では、ヘテロクロマチンの部分が大部分を占めている。試験管内悪性転換細胞HNG-100では、No.2、10、21染色体に正常細胞にみとめられないユウクロマチン部が存在している。この細胞には正常にみられない大型の2本のmetacentric、1本のtelocentric染色体と1ケの微少染色体が存在するが、現在のところ、これらの染色体の起原はBanding Patternより推察しえない。なお、ライツ蛍光顕微鏡を借用し、キナクリン・マスタード染色によりえられるBand(Q-Band)、前記Trypsin処理法でえられたBandの三者を正常細胞について比較したところ、Q-BandとG-bandはほぼ一致したBanding Patternを示した。Trypsin法で得られた主なBandも又G-Bandに一致したが、この方法では、さらに詳細なBanding Patternをえられた。しかし現在のところ、Technicalにやや不安定である。
 2)タバコ煙の培養細胞に対する影響
 昨年黄色種タバコタールを培養ハムスター細胞に作用し、細胞の悪性転換を報告した。タバコの有害成分として、タールと共にその煙も同様に考えなくてはならない。現在迄タバコ煙の培養細胞に対する二、三の報告がなされて来たが、いずれの研究においても作用した煙の定量化がなされていない。我々は、タバコ煙の定量化を試み培養細胞に対する影響を観察してきたのでその一部を紹介したい。
 a)タバコ煙の採集:
 (自動喫煙装置の図を呈示)この装置でタバコを一定条件下で吸わせ、途中ケンブリッチフィルターで粒子成分(タール)をとりさり、残余の煙成分を200mlの蒸留水にとかし込む。この条件でタールとタバコ量を対比し定量すると、タール4000μgがこの水200mlに相当した。
 b)タバコ煙の毒性:
 以上の条件下で煙をとかしこんだ水溶液をBalb3T3に作用したところ、タバコ煙はタールに比して細胞に対し約4倍の毒性を示した。
 c)細胞転換に関する実験:
 授乳期ハムスター起原の繊維芽細胞に、タール100μg/mlに相当する水溶液を作用し細胞の試験管内発癌を行っているが投与開始後約100日現在、投与細胞群に細胞増殖能の増大を認め、同時にCriss-cross、Piling upを伴なう細胞の形態転換を観察した。この期の細胞を100〜200万個ハムスターのチークパウチに移植したところ、移植後1週間目に小豆大の結節を認めたが、2週間後には消失した。この実験の詳細は他日報告したい。

 :質疑応答:
[黒木]気層とは・・・?
[乾 ]気層といっても、煙そのものを気体として吹き込んだのではありません。煙を水に溶かしたものを気層成分として添加しました。
[高木]水に溶けない部分はどうするのですか。
[乾 ]今回は調べていません。今迄はただ煙をふかっと培養瓶の中へ吹き込んだり、バブリングしたりしていたのですが、もう少し定量的に加えてみようと思いました。
[黒木]煙草を喫うのは人間だけなのですから、この実験はヒトの細胞でやるべきですね。ネズミでは同じ結果が得られるかどうか判りません。
[吉田]昔、中西君はネコを使っていましたね。
[乾 ]ネコやハムスターも使って初期の影響をみています。
[黒木]代謝酵素がヒトとネズミでは大きく違います。3T3はbenzpyrene hydroxylase活性が低いのです。
[乾 ]ハイドロカーボンもベンツパイレンもマウス細胞を悪性化したというデータもありますし、benzpyrene hydroxylase活性はマウスにもあるというデータもありますが。
[黒木]やはりヒトの細胞で毒性だけでも調べるべきでしょう。
[乾 ]組織培養はモデルとして実験するので、必ずしも人間でなくてもよいと思います。最後は悪性化を狙っているので、変異してからの復元の問題がヒトでは困りますから。
[吉田]染色体の変異については、初期の2倍体、数は2倍体でも核型が変わっているのではないかという事が問題です。2倍体を維持しているかに思える早い時期のものについてもう少し調べてほしいですね。
[乾 ]今やっています。
[黒木]ケンブリッチフィルターとは何ですか。
[津田]アセテート膜で繊維が絡まってタールを捕まえるものです。
[黒木]ラクトアルブミンもタールをよく吸着するそうですね。
[山田]さっき吉田先生の言われた事が調べられると、どんな変化が予想されますか。
[乾 ]ヘテロクロマチンが減るのではないかと考えています。
[吉田]逆かも知れませんよ。癌細胞ではヘテロクロマチン量は増すかも知れません。late replicating DNAをヘテロクロマチンと考えると癌細胞の方がlate replicatingの部分が増えています。
[乾 ]Late replicating DNAとヘテロクマチンをイコールと言えるかどうかは判りませんね。X染色体の場合だけかも知れません。
[吉田]量的に云う場合は、染色体総量の場合の違いも考えに入れるべきですね。
[乾 ]DNA当たりにしてありますから大丈夫だと思います。

《佐藤二郎報告》
 月報No.7206で報告したようにDAB feeding 1ケ月、2ケ月:3'-Me-DAB feeding 2ケ月のDonryuラッテ肝よりの培養細胞について今回は細胞集塊能を検討した(表を呈示)。DAB feeding 1ケ月より2ケ月のものの方が大きなaggregateを示し、3'-Me-DABは更に大きなaggregateを示した。腫瘍形成能については目下復元検討中である。又DAB、3'-Me-DABによる増殖誘導細胞株はTD40での培養3日間液の約10倍濃縮液中にRadioimmunoassay法で50μg/mlのαフィトプロテインを認めた。このことは増殖誘導細胞の中に肝実質細胞が存在することの証明にもなり、今後クローニン法等によって細胞を純化すれば所謂前癌細胞を取り出せる可能性を示すものとして興味が深い。

 :質疑応答:
[吉田]悪性化の過程では細胞集塊がだんだん大きくなってゆき、腫瘍になってしまうと小さくなるという事ですか。
[佐藤二]そうではなくて腹水肝癌のフリー細胞の多い形のものは細胞集塊を作らないという事です。普通の腫瘍は大きな細胞集塊を作ります。
[山田]現象としてはよく判りますが、判った条件を一つ一つあてはめて、もっとはっきりさせなくては、と思われますね。
[佐藤二]電顕では細胞表面にzottenが増えているようです。
[山田]細胞表面は正常細胞では規則正しいが、腫瘍は不規則ですね。凸は少なくなるという人もあります。デスモゾームはありますか。
[佐藤二]見える所もあります。それから細胞集塊の大きさには或る単位があって、1日目に殆ど集塊が出来、それから更に育つものもあり、育たぬものもあります。
[勝田]肝細胞を4NQOで処理して映画を撮ってみますと、悪性化すると、むしろ細胞表面の粘着性は減りますね。
[山田]それが普通ですね。しかし旋回という条件で何か特殊な事が起こるのかも知れません。ラテックスの様な物でも使ってもっとその経過をはっきりさせて欲しいですね。
[佐藤二]私としては何故集まるかというより、集塊だと組織像が見られる事と、塊になる事によって何か分化機能が現れてくるのではないかと期待しているのです。

《野瀬報告》
 培地中への細胞酵素の分泌(2)
完全合成培地で培養されている細胞は細胞内の酵素やmucopolysaccharideなどを培地中に放出し、"conditioning"している。細胞の種類により分泌する物質に特異性があるかも知れないし、培地中の物質が何か機能を持っているかも知れない。分泌物を定量するのに酵素は測定が容易なので分泌機構のmarkerとして酵素活性を利用した。
 (1)Acid DNaseの分泌:各種の酵素を測定したが中でもacid DNaseの活性が培地中で高かった。細胞を短試で培養し、培地交換してから各時間に培地を集め、これを酵素源としてassayした。基質としてはH3-TdRでラベルしたE.coliを用い、pH4.95の酢酸緩衝液を用いている。L・P3のDNaseの分泌の時間的経過を見た(図を呈示)。約24時間で培地中の活性がtotal(細胞内+培地中)の55〜60%にまで上昇し、以後はほぼ一定であった。同様の方法で完全合成培地で継代されている各種の細胞株について培地中DNase活性を測定した結果(表を呈示)、株により活性の大小にかなり大きな幅があることがわかった。L・P4およびL(MEM+10%CSで培養したもの)は培地中DNase活性が非常に低いが、これは培地成分(Lh、CS)がDNaseを直接抑えているためで分泌の阻害ではない。
 DNase活性が培地中に多量に存在する原因として、細胞のlysisが起きて出てくるのか、特異的に膜を通過して分泌されるのかの2つの可能性が考えられる。この点の検討として、他の酵素活性を見た(表を呈示)。Acid DNaseと同じくlysosomeにあると言われているacid phosphatase、β-glucronidaseの活性はL・P3の培地中にはほとんど検出されなかった。この事はDNase活性が細胞のlysisによって培地中に放出されたのではないことを示唆する。更に各種阻害剤を添加した場合の培地中DNase活性をみると、DNaseの分泌はmicrotubule形成、呼吸、タンパク合成などを阻害すると阻害され、細胞の代謝と密接に関連した現象であろうと考えられる(表を呈示)。
 JTC-16・P3の培地中DNase活性もL・P3とほぼ同様の挙動を示した。
 次に、alkaline phosphataseIについても分泌の可能性を検討した。この酵素は検索した9種の株のうちJTC-21・P3に多量に存在するが、この株においても(図を呈示)培地中に活性が検出された。DNaseと異なり、5日間見た範囲では活性は増加しつづけた。
 このような細胞内酵素の培地中への分泌は、insulin、serum albumin、amylaseなどの分泌と似た機構によって行なわれると思われ、培養細胞の持つ一つの特性として興味ある。またtransformationと並行してよく観察される細胞表層の変化と何らかの関係がないか調べてみたいと思っている。

 :質疑応答:
[津田]Exponential growthの時にもDNaseは出てきていますか。
[野瀬]出しています。
[津田]L・P3とL・P4との間にDNaseを出すか出さないか以外に何か違いがありますか。
[野瀬]膜の問題や色々本質的な事については判っていません。ただL・P4の培地に使われているラクトアルブミン水解物には、DNaseを出すことへの阻害作用があります。
[吉田]DNaseは細胞内のどこで作られているのですか。
[野瀬]サイトははっきりしませんが、膜成分のようです。
[山田]培地へだしている物の方が分子量が大きいのですね。大きな分子量のもので膜をコートするといった事でもあるのでしょうか。Dextran sulfateは分子量とS含量によってchargeが異なります。
[梅田]コルヒチン、サイトカラシンBの処理は、細胞増殖を止めたためにaseを出さないと考えられませんか。
[乾 ]細胞を短時間でバサッと殺せるKCNの量はどの位ですか。
[野瀬]殺すといっても難しいのですが、細菌だと2mMで分の単位で呼吸が止まります。
[永井]ジニトロフェノールとかアザイドとかを使って、エネルギーを要するsecretionなのかどうかを、みておく必要がありますね。
[野瀬]モノヨード醋酸を使ってやってみましたが決着はついていません。
[高木]仔牛血清を加えて出さなくなるのはDNaseだけですか。
[野瀬]それしかみていません。
[高木]DNase分泌のaccumulationのカーブはinsulinの場合とよく似ています。negative feedbackが効いているのでしょうか。
[野瀬]又別のプロテアーゼが出て壊しているのかも知れません。
[梅田]DNaseが他の酵素に比べて安定なので、捕まったとも考えられますね。
[吉田]何をやっているのでしょうか。
[野瀬]合目的には変な遺伝子を壊してしまうためとも考えられます。作用はendonucleaseに近いので防御機構としてはよいと思います。
[梅田]DNaseを出さない細胞にこのDNaseをかけてやると、どうなるのでしょうね。
[野瀬]それは全くやってみていません。

《藤井報告》
 1.担癌宿主血清のリンパ球−腫瘍細胞混合培養反応に対する抑制作用
 月報に既報の分もふくめ、ラットの4-NQO誘導肝癌細胞・Culb-TC、C57BLマウスのFriend's virus誘導erythroblastoma、FA/C/2細胞、ヒトのpleural mesotheliomaにおいて、培養内で増殖してきた細胞は、体腔内で増殖してきた細胞より、MLTRにおけるリンパ球幼若化刺激能が高い。また担Culbラットの血清および腹水を培養液に添加すると、培養されてきたCulb-TC細胞におけるMLTRが抑制された。ヒト神経芽細胞腫のMLTRで、培養液に添加する患者血清をあらかじめ培養神経芽細胞(と思われる)で吸収すると、非吸収血清を加えるときより、MLTRが高く出る。すなわち吸収により血清中の抑制因子が除去される成績を得た。この因子が抗体であるか、その他の因子であるかを、JAR-1ラットの生産を待って検討する予定です。
 2.人癌でのMLTR
 当研究部において実施してきた人癌のMLTRは、20例であるが、そのうち陽性10例であった。このうち癌あるいは転移リンパ節より細胞浮遊液をつくり、4,000R照射後そのまま刺激細胞として用いたばあいの陽性例は5例で、培養して増殖したものを用いたものでは5例が陽性を示した。
 乳癌は、転移リンパ節から比較的細胞浮遊液がつくり易く、また根治手術例が多いこと、予後が比較的良好で追跡が可能などの点から、MLTRとその病期分類の関係をしらべてみた。StageII(tumor 2cm以下、脇窩メタ3ケ以下)で陽性2、陰性1、StageIV(tumor 5cm以上、脇窩メタ多数)で全例(5例)陰性であった。少数例であるので、未だ結論はできないが、何か関係がありそうな成績です。(StageI、StageIIIの症例は無かった)。

 :質疑応答:
[勝田]培養系は系を新しくしてやり直してみる必要がありますね。
[佐藤二]抗血清はどういう方法で作ったのですか。6,000倍とはずい分高いですね。
[藤井]コバルト照射した細胞を1,000万個宛、2週間に1度、数回接種しました。
[山田]乳癌は5年から10年で同じものが再発する例が多いようです。人癌の方は、その辺に焦点を合わせると面白いでしょう。

《黒木報告》
 <BALB 3T3細胞のtransformation>
その後二つのクローンのtransformation実験を追加した。(図を呈示)Clone-4、Clone-13とも1.0、4.0μgのDMBAによってtransformationがみられなかった。ここでoriginalのpopulationがheterogeneityであることが明らかになった。
 現在進行中の実験は、transformantのcharacterizationとtransformationの再現性、他の発がん剤への拡大である。後者はcontact inhibitedに保つよい血清のロットを探したりしているため、予定が少し遅れている。テストした範囲では、Flowの胎児子牛血清がよいことがわかった。
 TransformantのCharacterizationは(1)Saturation density、(2)ConA、(3)腫瘍性、(4)Soft agar、(5)glucoseのとりこみ、などの面から追求中である。
 <ハムスターからの3T3様細胞の分離>
 BALB 3T3細胞の実験と同時に、3T3様細胞を新たに分離することを試みた。Todaroらは10年程前にハムスターから3T3継代による3T3細胞の分離を試み失敗している(Todaro G.J.,Nilausen K.,Green H.:Cancer Res.23,825,1963)。今回われわれは、医科研で維持されている純系ハムスター(F54)の1匹の胎児から出発して、一系の3T3様細胞を得ることに成功した。(累積増殖曲線図を呈示)同時にスタートした四系のうち、2系(H-1、H-2)はそれぞれ、30、80日頃に増殖がとまった(一系はContami.)。H-4は50日前後にみられたcrisisをのりこえて、安定した増殖能をかく得した。
 飽和密度は5万個/平方cm前後、培養3日で増殖がとまる。染色体は45にモードをもつ。

 :質疑応答:
[勝田]寒天上のコロニー形成は、岡山の村上先生がやっておられましたね。
[佐藤二]斜面寒天を使って閉鎖系でね。論文にはなっていないでしょうが。
[津田]BALB 3T3はどの程度安定なクローンが得られたのですか。
[黒木]すぐ凍結して保存しています。溶かしたら2ケ月位しか使いません。
[佐藤二]3T3を作る時、途中で落ちてゆくのは正2倍体のままではないでしょうか。奥村氏の自然発癌の実験に小コロニーは小ばかり拾う、大コロニーは大ばかりという継代をすると、小さコロニー系が大コロニーを作る時期に悪性になるというのがあります。
[黒木]私の系では3日で増殖が全く止まるという所が面白いと思っています。
[佐藤二]1週間で継代ときめておくと、1週間で増殖の止まる系が出来るかも知れませんね。
[吉田]3T3を作る、又使うことの意味とか利点は何ですか。
[黒木]自然悪性化を防ぐという意味があると思います。密集して増えるものを除外してサチュレーションデンシティの一定なものを残すことになりますが、contact inhibitionのある細胞をとる必須条件ではありません。
[佐藤二]クローンによって変異率が違うのは、クローンの純度によると考えられませんか。変異の少ないクローンは安定性のあるもの、変異率の高いものは維持しにくいクローンとも考えられると思います。

【勝田班月報・7209】
《勝田報告》
JTC-15株細胞(ラッテ腹水肝癌AH-66)よりのColonial clones及びClonesの可移植性と軟寒天内増殖能との関連性について
N0.7203の月報において、JTC-15の復元成績のまとめを報告したが、そのとき、クローンを作ってその性質を色々と検討中であると附記した。この実験は完全にはまだ終了していないが、かなりのデータが得られたので、今月号で中間報告することにする。
 1)軟寒天法は、豊島製の径5cmのplastic dishを用い、6系を得た。
 2)液体培地法は、LINBRO製のトレー(凹みの径約8mm)を、初めは液量を各0.5ml宛のうすい細胞浮游液を各凹みに入れ、顕微鏡上で、たしかに1コだけ入っているという穴にマークし、次第に液量を増した。これからは4系のClonesが得られたが内1系は死滅してしまった。 フラン器はいずれも炭酸ガスフラン器である。
 (表を呈示)原株及び軟寒天のクロンは10、100、1000個とまいた結果の平均値で、高いもので42%、低いものは8%以下であった。液体培地クローンは1000個のみコロニーを形成し、0≒3.6%、7.4%であった。以上のように、軟寒天内コロニー形成能とは関連性が認められない。寒天コロニー4などは軟寒天で拾ったコロニーであるのに、軟寒天でPEが低く、可移植性も低いという結果になった。

《梅田報告》
 安村先生の話で、Soft agar法で、100万個cells/plate位の大量の細胞数を植えこむと、normalと思われる細胞もcolonyを作るにではないかと云われていた。それ故ハムスターの胎児培養細胞に発癌剤投与後なるべく早くsoft agar中でcolonyを作らせ、発癌の指標に出来たらと云う目的で以下の実験を行った。
 ハムスター胎児単層培養を9cmのpetri dishに作成後、細胞が1/4位のガラス面をおおった培養1日目に、(A)3.4benzpyrene 10μg/ml、(B)4HAQO 10-5乗Mを夫々投与した。2日後Control培地に交新したが、その時は(A)はそれ程障害は強くなく細胞はガラス面の2/3をおおっていた。(B)は細胞障害が強く1/5をおおっていた。
 Controlは培養4日后、(A)、(B)は増殖が回復した培養13日后に100万個cells/mlの細胞数でsoft agarにうつした。Soft agarは0.3%のagaroseをbase layerに、0.2%のagaroseをseed layerとした。(agaroseはドータイド製)
 夫々2週後に観察した所共にcolony形成はなかったので、seed layerの所を再び培地で洗い、9cm petri dishにまいた。controlの細胞の増生は良く、(A)(B)は徐々に細胞が増生し、20日后には(A)では50ケ位のcolonial growthが認められ、うち4ケはdense colonyであった。(B)は輪かくのはっきりしないやはり50ケ位のcolonyを作り、dense colonyはなかった。この細胞も再び同じ様な方法でsoft agarに移し、2週間培養した。
 結果は全く陰性で、colony形成はなかった。
 別にsoft agarでなく継代した系では、(A)は既にmorphological transformationが認められている。(B)ではその様な所見は今の所見られない。
 以上soft agarの方法はinoculumを上げてもcolonyを作らない段階があると結論された。
《高木報告》
 1.培養内悪性化について
 硫安により塩析して作製したserum factor freeの血清を用いsoft agar cultureを行ったところ、全くcolonyが出来なかったため今回は液体培地を用いてplating efficiencyを調べた。正常細胞としてRFLC-5、腫瘍細胞としてRRLC-11を使用した。
 1)培地はMEM+10%CSを用い、6cmのPetri dishに180ケの細胞を植え込んだ。用いた血清は次の3種であった。 (1)1/1CS:限外濾過を行いMEMで元の量になるまでうすめたもの。(2)1/3CS:硫安1/3飽和後血清をPBSで2日間透析した後限外濾過を行い、MEMで元の量にもどしたもの。(3)1/2CS:硫安1/2飽和後、上記1/3飽和と同様に処理したもの。
 (表を呈示)結果は表の如く、1/1CSを用いた場合のRFLC-5およびRRLC-11細胞のPEはそれぞれ24.0%、3.3%であり、これまでの無処理血清を用いた実験のPE、すなわちRLFC-5約80%、RRLC-11約50%と比較すると可成り低かった。これは、この実験では再生したFalcon Petri dishを用いたことも影響したかも知れないが、血清を処理したことによる影響が主であると考える。
 又この血清を用いてsoft agar cultureを行った所、先に報告したように白色の沈殿物を生じたので、次に硫安塩析後、蒸留水で透析を行い、また3種類の培地について検討した。
 2)培地はMEM+0.1% Bactopepton(BP)、199、F12の3種を用い、これに血清をそれぞれ10%添加した。用いた血清は以下の如くである。(1)control CS:無処理の血清。(2)1/1 CS:限外濾過後Hanks液で元の量にもどしたもの。(3)1/3 CS:硫安1/3飽和血清を蒸留水で2日間透析した後限外濾過を行い、Hanks液で元の量にもどしたもの。
 (表を呈示)結果は表に示す通りである。RRLC-11はPetri dishあたり180ケの細胞をまいたが、RFLC-5はPetri dishあたり900ケの細胞をまいたので、MEM+BP培地ではcolony数は数えられなくなった。しかし199およびF12培地では、全くcolonyを生じなかった。RRLC-11細胞についてはcontCSと1/1CSとではPEには有意の差はないように思われたが、生じたcolonyの大きさは1/1CSでは明らかに小さく、限外濾過を行うことにより細胞増殖にあずかる因子がある程度失われるようである。さらに培地条件を検討中である。
 2.RRLC-11細胞の放出する毒性物質
 RRLC-11細胞を培養した毒性培地を56℃、65℃および75℃に30分おいてこれら温度の効果をみた。(図を呈示)図に示す如く56℃30分では活性は保たれ、65℃30分ではやや失われ、75℃30分では完全に失活した。
 先に報告した如く65℃、75℃、60分ではいずれも完全失活した。

《山田報告》
 この夏は、いままでの仕事の整理やら、Paper書きに追われて過して居ます。近くCell electrophoresis(細胞電気泳動法)の単行本も出版の予定です。(小生は編集及び執筆)
 従来の仕事の残務整理を兼ねて、4NQOにより発癌したラット肝培養株を材料の出来次第randomに検索しています。今回は図に示す様な三株(CQ68/RTC、C10/RTC、CulbTC)について、その後の泳動度の変化を調べてみました。今回はどういうわけかノイラミニダーゼが作用しにくく、特にCulbTCの成績はどうも理解がつきません。(ラット赤血球も同時にノイラミニダーゼ処理して、その対照として検索しています。) C-10/RTCのみが従来の悪性化のパターンを示して居ます。
 4NQO作用後かなり日数が経っていますので、Cell populationの変化を生じたのかもしれません。出来ればこの点もう一度調べたいと思って居ります。(図を呈示)
 テレビ・ヴィデオテープ記録装置を電気泳動装置に組みこみました。この装置は従来の泳動装置に通常家庭用に発売されているヴィデオコーダーを組合せたもので、意外と便利で重宝しています。従来の細胞電気泳動度を測定する際には、すべて顕微鏡をのぞいて測定して居たのですが、その視野がテレビの画面にうつりますので、測定するのが楽であり、しかも記録されるので、幾度でもくりかへしみなほすことが出来ます。しかも細胞の動きを速くすることが出来ますので、運動の状態を細かく分析が出来ます。ヴィデオの撮影装置と顕微鏡の接着の部分を改良して従来の写真記録も自動的に出来る様にしてあります。 次回の班会議にはこのヴィデオを持参して御覧に入れたいと思って居ます。

《堀川報告》
 私共は以前にマウスL細胞をγ-線で反復照射することにより放射線抵抗性細胞を分離し、その出現機構及び抵抗性細胞の遺伝的特性等の解析を試みたが、今回は材料と方法を変えてヒト子宮頚癌由来のHeLaS3細胞より、X線感受性および抵抗性細胞を分離することを試みた。これは哺乳動物細胞におけるX線感受性支配要因(障害と回復能)を解析するにあたり、最も好材料と考えられるからである。
 まず感受性細胞株の分離はUV感受性細胞分離にあたって用いた方法に準じて、以下に述べる方法で行った。HeLaS3原株細胞を変異誘発剤MNNGで24hrs処理し、ついで正常培地で培養を行い、7日後に得られた細胞の各々100万個に対して、0、100、200、300または400RのX線を照射し、直ちに10-5乗M BUdRを含む培地中で培養する。4日後に可視光線(60W)を2hrs照射したのち、再び正常培地中で培養し、3週間後に培養瓶中に形成されるコロニー数を算定する。このようにしてMNNG処理−200R照射群から7個、MNNG未処理−200R照射群から4個のコロニーが出現し、合計11個のクローンを得たが、これらについてX線に対する感受性を検討したところ、HeLaS3原株細胞に比べて高感受性を示したのはMNNG処理群から出現した1クローン(SM-1a株)のみであった。
 一方X線抵抗性細胞の分離にあたっては、あらかじめMNNGで処理した1,000万個のHeLaS3原株細胞に2000RのX線を照射した。そして約2ケ月後にMNNG処理群から4個、未処理群から1個のコロニーが出現したが、これら5個のクローンについてX線感受性を検討した結果、MNNG処理群より分離した1クローン(RM-1b)のみがX線に対して抵抗性を示した。以上分離されたSM-1a株とRM-1b株の、コロニー形成法によって得た線量−生存率曲線を図に示す(図を呈示)。またHeLaS3原株細胞をも含めてX線に対する感受性を表にまとめた(表を呈示)。これら3種の細胞株について染色体数の分布を調べた結果では、Modal numberはHeLaS3細胞では68本、SM-1a細胞では64本、RM-1b細胞では67〜69本という結果を得た。また成長曲線から各種細胞の倍加時間を求めたが、HeLaS3、RM-1b細胞で20.8時間であるのに対し、SM-1a細胞では27.2時間という長い倍加時間を示した。現在SM-1a、RM-1b両細胞株における細胞内非蛋白SH量ん差違や、化学発癌剤4-NQOならびにUVに対する感受性の検討等を行っている段階である。

《乾報告》
 MNNG投与初期におけるRNApopulationの変化
 先に月報7204号でMNNG投与によって悪性転換した細胞のRapidly labeled populationは正常のそれと異なる事を報告した。
 我々はRNApopulationの変異が、MNNG投与細胞においていつあらわれるかを追求する目的で、MNNG 10μg/ml投与後96時間の細胞についてDNA-RNA Hybridizationを行なった。薬剤投与後4日、障害を受けた細胞の再増殖時のHybridizationの結果は次の如く要約された。MNNG-treated cellのlabeled RNAを使用した場合は実験結果に非常にバラツキが多い。正常細胞のRNAを使用した時は、coldの正常RNAが、coldのMNNGtreated cellのRNAより多く拮抗した(図を呈示)。
 この結果よりMNNG処理後4日目の細胞のRNAは、正常細胞RNA populationの一部を欠如していると考えたい。しかし、un-labeled RNA/labeled RNAの高い実験は現在施工中であるので、その結果を待ち結論したい。
 8月下旬より11月下旬迄渡欧致しますので、10月の月報は13回International Congress of Cell Biologyのtopicsを御報告致したく思います。

《黒木報告》
 §平板寒天Agar Plate培養について§
 レプリカ培養のために開始した寒天表面コロニー形成法(以下、平板寒天又はAgar plateと称す)が、その後、多くの細胞に応用できることが分った。
 (表1、2、3を呈示する)表1は、浮游状で増殖する細胞(FM3A、L5178Y、YSC、Yosida Sarcoma・Primary culture)の成績である。株化された細胞は70%近い高いPEを示す。吉田肉腫の初代培養では軟寒天よりもいいPEである。
 表2で、壁につく細胞(HeLa、L、V79、CHO、JTC-16)もふつうの液体培地のコロニー形成法、軟寒天法とほぼ同じ率でコロニーを作り得ることが明らかになった。
 表3からBHK-21/C13のポリオーマ、RSVによるtransformantはコロニーを作るが、もとの細胞Revertantは作らないことが分る。この方法はtransfomationのassayにも使える。

《野瀬報告》
 Alkaline Phosphataseの精製
 Alkaline phosphatase(ALP)-Iに対する抗体を作るため、この酵素の精製を試みている。用いた材料は、臓器の中でも比活性の高いRat Kidneyで、表に示した手順で精製を行った(表を呈示)。各stepでの比活性の上昇は次表に示してあるが、組織のhomogenateはかなり大きなfragmentを含むので、Deoxycholateによって顆粒に結合しているALP-Iを可溶化した方が良いようである。Triton X-100やUreaでは可溶化できなかった。ここで言う可溶化とは6,000Xg、5minの遠心により上清に残るという意味で、この上清を、Glycerol gradient(10〜30%)の上にのせて、SW50Lローター、34,000rpmで60min遠心すると、ALP-I活性は早く沈降する部分に大部分きてしまい、完全な可溶化とは言えない。次のstepのn-Butanolによる抽出で、比活性は約2倍に上昇し(図を呈示)、図で見られるように、この条件の遠心ではTopの分劃に回収された。このn-Butanol抽出液は凍結するとaggregateをつくり、ALP-Iは沈澱するため、直ちにSephadexG-200(1.8x40cm)のカラムにかけてゲル濾過を行なった。この時の抽出パターンが図2に示されている。このカラムでBlue Dextran(分子量約2.0x10の6乗)はFraction 9〜10にかけて溶出され、この付近がvoid volumeであるが、ALP-Iもこの位置に回収された。
 表1でpeakの位置にあるALP-Iの比活性はn-Butanol抽出液とくらべ約4.1倍に上昇しているが、Sephadexのパターンから見ると、ALP-Iはまだ完全に可溶化されてなく、分子量50万以上のparticulate又はaggregateとして存在しているようである。このため、SephadexのFraction 9〜10を更にdisc gel電気泳動(pH8.6および9.5)にかけても原点から全く動かなかった。これ以上の可溶化の試みとして、n-Butanol抽出液を、DOC、SDS、TritonX-100、Neuraminidase、PhospholipaseCなどで処理したが何れの場合もALP-I活性は、void volumeの位置から動かず現在、これ以上の精製はできていない。今後、更に別の方法を用いて、ALP-I complexをdissociateさせる条件を探す予定である。

《佐藤茂秋報告》
 培養されたマウスのグリオブラストーマ細胞が、脳に特異的な生化学的マーカーであるC型アルドラーゼを保持している事はこれ迄報告してきた。他のグリオーマの培養株がこのマーカーを持っているか否か調べる為、N-ニトロソメチルウレアでラット脳内に誘発され、培養株となっているグリオーマ細胞、C6細胞についてアルドラーゼの分子種を電気泳動で調べてみた。この細胞も、A型とA-Cハイブリッドを示しC型もうすいが認められた。この細胞株は、グリアのもう一つのマーカーであるS-100蛋白質をもっている事は既にわかっている。又、マウスの神経芽細胞腫瘍の培養株であるC1300のクローン、N18では、A型アルドラーゼとわずかにA3C1ハイブリッドが認められるが他のA-Cハイブリッド及びC型は検出されず、グリオーマとはアルドラーゼの分子種のパターンが異っていた。ヒトの神経芽細胞腫におけるアルドラーゼのパターンもA型とA3C1ハイブリッドのみであると報告されている。従来C型アルドラーゼは脳、神経組織に特異的と言われて来たが、神経細胞起原の腫瘍細胞がC型をもたない事実は、脳組織におけるC型アルドラーゼがグリア起原であるかもしれない事を示唆する。あるいは正常神経細胞はC型アルドラーゼをもつが腫瘍化した細胞ではC型が発現しないのかもしれない。神経芽細胞腫の培養株はin vitroで、種々の条件により生化学的又は形態学的な分化を示す事がわかっているが、C型アルドラーゼも誘導されるかもしれない。この方面への研究の展開を考えている。
 
【勝田班月報:7210:ConAによる細胞表面荷電の修飾作用】
《勝田報告》
 英国(10月2〜4日)及び米国(10月31〜11月3日)に於て開かれるシンポジウムでの小生の発表について一応御説明します。
 題名はどちらも"Malignant transformation of rat liver parenchymal cells by chemical carcinogens in tissue culture"としてありますが、内容は少し変えて話したいと思います。英国のは30分(討論は15分)の予定ですので、あとの方で4NQO処理したラッテ肝細胞の映画を見せるつもりで居ります。全体の内容としては、小生の研究室での仕事を中心として紹介するつもりです。
 ラッテ肝細胞の培養内増殖を図ったが、はじめは一寸も増殖してくれなかったという所から話をはじめます。しかしDAB1μg/mlで初めの4日間だけ処理すると、増殖をはじめる率が多くなり、多数の細胞株が得られました。だがこれらを動物に復元接種しても、動物は腫瘍を作りませんでした。この増殖系の細胞をさらに発癌剤、ホルモン等を添加し、或は嫌気的条件で処理しても一向に悪性化しませんでした。増殖系の染色体モードは2nをあまりずれず、広い分散も見られませんでした。その後次第に培養法も改良され、2nを高度(例えば42%)に持つような無処理の株もできてきました。
 この正常株を平型の回転管に入れ、5°の傾斜で静置培養し、培地は週2回交新するが、細胞を長期間継代しない(1〜数カ月)でおくと"なぎさ"の部分で著明な細胞形態の異常化が起り、遂にはMutant cellsが誕生し、肝細胞のsheetの上にpile upした球形の細胞のコロニーが生じ、これがどんどん急速にpredominantになって遂にculture全体がMutantsに占められてしまいました。このようにして、これまで5系の変異株が得られましたが、形態的にはいかにも悪性細胞そのものでしたが、動物には腫瘍を作りませんでした。コーチゾン処理したハムスターのポーチに接種すると、一旦はnoduleを作るが、やがてregressしました。このnoduleは組織学的には、腹水肝癌細胞を接種してできたnoduleと酷似していました。
 "なぎさ"培養を或期間したあと、TD-15瓶に細胞を移し、5〜10μg/mlのDABで処理したところ、非常に高率にMutantsが生まれ、しかもそれらの間で、DABに対する感受性〜代謝能にきわめて差違のあることが判りました。たとえば20μg/mlにDABを与えても4日間の内にそれを全部代謝してしまう株もありました。しかし動物への移植能は認められませんでした。
 次に発癌剤を4NQOにかえてラッテ肝細胞株を処理しました。5系列の実験をし、1回の処理は3.3x10-6乗Mで30分間にしました。結果が動物の腫瘍死を待つ以外に判定できないので、sublinesを分けて次々と処理を加えた系列もありますが、或系列では1回処理後3.5月後に復元接種し、動物を腫瘍死させました。腫瘍は肝癌と判定されました。4NQOを次から次と与えても動物の生存日数は短縮しませんでした。悪性化した株はControlと形態的にはほとんど差がありませんでしたが、動物の腹腔に入れると、ラッテ腹水肝癌の腹水像と酷似していました。悪性化株の染色体モードは2nより1〜数本ずれているだけでした。無処置の対照は4月余後に復元したときには腫瘍を作りませんでしたが(実験群はこのごろ既に悪性化していました)、約17月に接種したときは、自然発癌してしまっていました。
 山田班員は、ラッテ腹水肝癌の細胞電気泳動値は正常細胞のそれより泳動値は低いが、Neuraminidase処理するとそれの低下すること、正常肝細胞は泳動値が低いが、酵素処理により上昇すること、"なぎさ"変異の細胞は泳動値が正常のものと近いが、酵素処理によってもほとんど上昇しないこと、4NQO悪性化細胞は腹水肝癌と似た泳動像を示すことを明らかにしました。
 動物への復元接種能と軟寒天培地内での増殖能とを比較しますと、これらは平行しているように見えますが"なぎさ"変異細胞は動物内での造腫瘍能を全く持たないにも拘わらず、軟寒天内では最高のP.E.を示しました。
 昨年6年末から山田班員と協同ではじめた実験では、4NQO 3.3x10-6乗M、30分、1回の処理だけで、あとの細胞特性の変化を、軟寒天、復元、染色体、細胞電気泳動などの諸法を併用して追究した。その結果の内で特に注目されたのは、やはり復元接種試験が最も早く悪性化を発見できること、RLC-10(2)という悪性化していないsubstrainを使ったにもかかわらず、約1.5月後の接種で、Controlまでtakeされたこと、但し、培養日数の経過と共に、実験群の細胞を接種した動物の生存日数が短縮して行ったこと、などである。軟寒天内増殖能はこれまでの処全部陰性であった。(対照として、同手法でのJTC-16でのP.E.は50%)これらに最近のdataを追加し、英国では特に悪性化の証明法、復元能と抗原性の変化、"なぎさ"変異細胞の特異性などについて語りたいと思っています。
 米国では15分の演説時間しかありませんので余り色々なことは云えませんが、その前後の数カ所のSeminarではゆっくり色々の話もできると思います。

 :質疑応答:
[黒木]なぎさ変異の場合、対照群とはどういう形のものですか。
[勝田]なぎさ変異の起こる培養の特徴は平型管を使うこと、継代をしないで長期間培養を続ける、という二つの事がありますので、丸い試験管を使い定期的に継代をするという培養が対照になり、その場合の変異はゼロです。
[藤井]なぎさ変異はなぎさゾーンにコロニーが出てきてはいませんね。なぎさゾーンだけを継代してゆくと、どうなるでしょうか。
[勝田]それはやっていません。技術的に難しいですね。なぎさ変異で出来たコロニーをそのなぎさゾーンの変異に結びつけるには飛躍があって、その間の出来事は想像です。
[佐藤茂]復元して出来た腫瘍の中に肉腫様のものがあるのは、接種した細胞が未分化であったためでしょうか。
[山田]ヒトの癌の例では胃癌や食道癌で、癌のまわりに肉腫のできている組織像がよく見られます。
[佐藤二]私の処ではクローニングした系できれいな肝癌型の腫瘍を作るのがあります。しかし1コから増やしたクロンでないと、胚葉の異なる細胞が混じってしまう事もあり得ますね。旋回培養で塊を作らせるとかなり上皮性のものが選別されますね。
[高岡]腹水に浮いている細胞は上皮性で皮下にできた結節は肉腫様が多いようです。
[佐藤二]宿主の皮下の細胞がsarcomatousに増殖したとも考えられますね。原株の発癌剤処理前の染色体はどんなですか。マーカーはありますか。
[高岡]一見ラッテらしい核型です。マーカー染色体ははっきりしません。
[佐藤二]発癌実験も培養細胞そのものの取り扱いを考えるべき時期が来ていると思います。無処理の細胞が自然発癌するとすれば、化学発癌剤は単に腫瘍性の補強に働いているだけではないか、本当に発癌作用をもっているのかどうか、よく考えなくては・・・。
[勝田]その点は問題ですね。発癌ウィルスが絡んでいるかも知れませんしね。
[堀川]同調培養を使ってCellサイクルの上で化学発癌の作用の決定はできませんか。
[黒木]同調培養を使って発癌実験をやるのは失敗しましたが、DNA合成を止めると悪性変異が起こらなくなるというデータは持っています。
[堀川]そういうデータが沢山たまってくればウィルス問題も見当がつきそうですね。
[黒木]癌がウィルスを作るのではないかという説もあります。
[勝田]しかし、ウィルス発癌には方向性があるが、化学発癌には方向性がないという事実もあります。
[山田]免疫の面からみてどうですか。
[藤井]最近、化学発癌にも共通抗原があるという人が出てきました。
[黒木]Dr.Heidelbergerの仕事では共通抗原は否定していますね。C型ウィルスについては調べておくべきでしょう。
[高岡]私達のラッテ由来の細胞系については、C型ウィルスは検出されなかったというデータを持っています。RLC-10はPPLOもいません。
[佐藤二]ふだんはウィルスが潜在しているだけで、変異が起こる傾向になったときに、発癌ウィルスとして働くという事も考えられます。
[堀川]ウィルス発癌には方向性があり、化学発癌剤の変異は無選択という事ですね。頻度の問題になるかも知れませんが、化学発癌剤でも直接的に変異を起こす可能性もありますね。しかし、どんなウィルスも関与していないかというと、未知のウィルスについては調べる方法がありません。

《佐藤二郎報告》
 DAB、3'-Me-DAB飼育ラッテよりの増殖誘導細胞5系の培地中におけるα-Fetoproteinを原液又は濃縮してRadioimmunoassay法で測定した(表を呈示)。測定がすべて終ってはいないがDAB系(diploid line)では7〜10X濃縮で測定可能、3'-Me-DAB系の一系は原液で測定でき他のものに比して濃度が高いようである。蛍光抗体法では発見できない。
 (表を呈示)腹水肝癌の内αfpを多量に産生するAH-70Bを培養しαfpをOuchterlony法で測定した。少くとも3ケ月は確認できた。この場合、蛍光抗体法で陽性である。

 :質疑応答:
[黒木]α-fetoは血清を除いて24hr位培養すると、培地中に産生されてきませんか。
[勝田]細胞をすりつぶしてみたらどうですか。
[佐藤二]蛍光抗体法で陰性のものではだめでしょうね。まぁ、α-fetoも必ずしも肝細胞同定に有力な武器ともいえませんが・・・。
[山田]胆汁を出す肝癌は血清中にα-fetoを出さないというデータがありますね。
[佐藤二]肝炎でも出す事がありますしね。
[藤井]胃癌でも肝癌に転移するとα-fetoを出すものがあります。
[山田]とすると、もう有力なマーカーではなくなってきたという事ですね。
[佐藤二]増殖誘導した肝細胞にあるという事まで判ったので、次はその細胞に更に化学発癌剤を作用させて悪性化させてゆくと、α-fetoの産生がどう変わってゆくのか調べてみたいと思っています。

《黒木報告》
 <cAMP結合蛋白の分離精製>
 cAMPが細胞の増殖調整機構の一環として働いているであろうことは、これまでの報告から明らかである。この問題へのapproachの一つとしてcAMPそのものよりも、その結合蛋白に目を向け、その第一段階としてラット肝よりの結合蛋白の分離精製をすすめてきた。しかし、なかなか思うようにすすまず、目下悪戦苦闘中である。(図表を呈示)この段階でSDS-polyacrylamide gel、high pH-discontinuous polyacrylamide gelなどを行うと、前者は約8つのbands、後者は4つのbandsが得られた。このあとどのように分離をすすめるべきか、目下考慮中であるが、hydroxy apatite columnを第一に行う予定である。また、disc.gelでsliceに切ったあとbinding bandを調べる方法も進行中である。もし、この方法でbandが限定されれば、それをmarkerに分離がすすめられる訳である。
 binding proteinとprotein kinaseの関係は、分離のある程度すすんだところで、調べるつもりである(γ-ATP-P32が高値なので)。
 <Agar plate培養法>
 ほぼdataがまとまったので、Exptl.Cell Res.に投稿すべく論文を書きはじめた。Replicaの方法としてはLederbergの方法の他に、つま楊枝の先でうえこむ方法も検討中でこの方法を用いて、auxotrophic mutant、UV-sensitive mutantをひろうべく予備実験を開始した。

 :質疑応答:
[堀川]寒天培地の上に出来たコロニーが、1コの細胞から増殖したものだという事は確認してありますか。
[黒木]single cell rateが95〜100%の細胞浮遊液を使っています。寒天上にまかれた細胞については、1コづつかどうか確認してみていませんが、顕微鏡でcheckできます。
[堀川]シャーレ当たりの細胞数はどの位まきますか。
[黒木]100コ以上です。
[堀川]私の実験で感受性細胞を拾える頻度は100万個cellで1コから2コですから100コ/シャーレで拾うとすると、ものすごい数のシャーレを使う実験になりますね。
[黒木]堀川班員の方法では始のBUdRの処理で感受性細胞を選別して殺している可能性がありますから、実際にはもう少し頻度高く感受性細胞が存在すると思いますが・・・。
[堀川]それはそうです。BUdRを使うと一番感受性の高いものが死んでしまうのが困ります。むしろnutritional mutantととった方が良いかも知れませんね。

《佐藤茂秋報告》
 1)培養されたマウスのグリオブラストーマ細胞が培地に1mMジブチリルサイクリックAMP(DBcAMP)と1mMテオフィリンを添加することにより、その形態が分化したグリア細胞に似てくることは既に報告したが、今回はDBcAMPの濃度を3mMと高くして1mMテオフィリンを同時に入れ、その効果を調べた。
 変化は1日目で既に見られoligodendroglia又はfibrous astrocyte様の細胞がみられる。3日目ではその変化が顕著であるが1mM DBcAMP添加後2週目位に見られたMembranous astorocyte様の細胞はこの濃度のDBcAMPでは実験中にはみられなかった。
 突起の長さが40μ以上の細胞のパーセントは3日目で対照群の数倍にも上昇した(図を呈示)。5日目に薬物の入っていない培地に変換すると形態変化を起した細胞は数日で、もとの突起の少ない細胞に戻ってしまった。
 2)培養されたフレンド赤白血病細胞が培地にDMSOを添加する事により、ヘム合成、γ−アミノレブリン酸合成酵素の上昇を示す結果を得ているのでこれについても報告する。

 :質疑応答:
[黒木]Levulic acid合成酵素は肝臓にありますか。
[佐藤茂]あります。肝組織ですと1gあれば充分測定できます。
[黒木]肝臓の同定に使えますか。
[佐藤茂]使えればよいと思います。
[山田]DBcAMPは酸性ですが、これが細胞に影響を与えることはありませんか。
[佐藤茂]中和して培地のpHを合わせて使っています。
[山田]それからDBcAMPはlipophilicだという報告もありますが、それによる膜への作用は考えられませんか。
[永井]あまり関係ないと思います。
[黒木]DMSOが何故induceするのでしょうか。
[佐藤茂]他の酵素の誘導にも使われたりしていますね。この場合特異的な誘導かどうかは判りません。他の細胞でもやってみようと思っています。

《堀川報告》
 培養された哺乳動物細胞を用いての体細胞遺伝子学の研究はPuckら(1955、1956)により微生物遺伝学の分野で常用されているコロニー形成法の導入によって著しく進歩した。
 例えば体細胞遺伝学の分野では以来この方法によって薬剤耐性細胞、栄養要求性細胞、温度感受性細胞等多くの遺伝的に有用な細胞株が分離されている。またこうした各種変異細胞株を用いてX線をはじめとする各種物理化学的要因の処理によって誘発される体細胞レベルでの突然変異率あるいは復帰突然変異(reversion)率の算定とか、その機構の解析がPuck一派、Chu一派、あるいはBridgesらによって精力的に進められるようになった。
 だが微生物遺伝学の分野で常用されているレプリカ培養法が培養された哺乳動物細胞には適用出来ないという宿命は何とも悲しいことで、これまで体細胞レベルでの遺伝学的研究の発展を何かと邪魔し続けてきたのも事実であると云える。最近に到ってGoldsbyとZipser(1969)は培養哺乳動物細胞用のレプリカ培養法を開発したが、当教室においてはこの方法を更に改良し、より簡単に、しかもより広く使用出来る系として確立した。(この方法についてはExptl.Cell Res.,68,476(1971)をみていただくとして)、この方法を用いるとある細胞株から変異細胞の分離とか、またそのpurificationも簡単に出来るし、更にはこうした細胞を使って体細胞突然変異の研究も容易に進めることが可能であると思われる。今回はこのレプリカ培養法の系を使用して私共が進めている体細胞突然変異の研究について簡単に紹介する。
 90%Eagle MEM+N18mediumと10%dialyzed Calf serumから成る完全培地中で培養されたChinese hamster hai細胞をMicro Test II-Tissue Culture Plate(Geteway International Inc.,Catalog Mo.3040)の96個の穴の中にそれぞれ1個づつ植え込み、約10日間培養することによりmaster plateを作る。ついで各穴の中で増殖した単層細胞をトリプシンEDTA溶液で剥がし、hand replicatorでもって各穴の中の細胞液を新しい17枚のreplica plateに移す。最初のmaster plateと1枚の新しいreplica plateの各穴に前記の完全培地を加え、37℃で再度培養し、一方残る16枚のreplica plateのうち2枚づつに完全培地からL-alanineあるいはL-proline、L-asparagine、L-aspartic acid、L-serine、glycine、hypoxanthine、thymidineのいづれか1つを抜いた培地を加えて37℃で培養する。約10日間培養後、倒立顕微鏡下でmaster plateからreplica plate上の同一場所(穴)に移された細胞クローンの成長を調べる。このようにして上記栄養物質に対する非要求株、あるいは個々のアミノ酸に対する要求株を分離することが出来る。
 現在このようにして分離したalanine、asparagine、aspartic acid、proline、hypoxanthine、glutamic acid非要求株をX線、UV、4-NQO、MNNGおよびその他の化学薬剤で処理することによって、出現する要求株への突然変異率の算定、およびその変異誘発の機序を解析するための準備を進めている。

 :質疑応答:
[松村]穴からtransferする時はどうするのですか。
[堀川]全部拾っては大変です。このmutantはその代かぎりで捨ててprototrophだけ拾っています。この細胞にX線、4-NQOなど処理してmutantを拾うつもりです。
[勝田]非要求性といっても不要ではないのですね。アミノ酸の場合可欠アミノ酸は入れない培地でも培養後には培地に存在しています。細胞がどんどん作ってしまうのです。
[佐藤茂]透析血清の中の蛋白が分解してアミノ酸を供給していませんか。
[黒木]Dr.Eagleの論文に透析血清からアミノ酸が出てくるというのがあります。
[堀川]8コのアミノ酸を抜いてしまうと増殖しないという系がとれていますから、これがcontrolになると思います。何故初めからこんなに多くの変異株が出てくるのかが不思議です。

《山田報告》
 ConAによる細胞表面荷電の修飾作用についての其の後の成績を書きます。
 ラット腹水肝癌Ah66F細胞に従来通りの条件で、3種のhemagglutinatesと接触させた後の電気泳動度の増減をみました(図を呈示)。細胞表面の糖鎖の末端より若干深い位置に存在するMannose、N-acethyl glucosamineとそれぞれへ都合すると考へられているConA及びPHAはAH66Fの表面荷電に同様な変化を與へましたが、末端のFucoseと結合すると考へられているうなぎ血清は表面荷電を低下させるのみでした(ひと赤血球の表面糖鎖分子の配列推定図を呈示)。
 次にこのうなぎ血清とConAを交互にラット腹水肝癌AH66Fに作用させてみた結果(図を呈示)、ConAによる癌細胞の泳動度の増加を若干抑制するかの感がありますが、その程度は著明でなく、特にうなぎ血清をあとから作用させると、ConAの作用には殆んど影響がありません。
 (But)2cAMPのConA作用に及ぼす影響:
 最近(But)2cAMP−dibuthylic-AMP−が培養細胞の形態を変化させ、特に癌細胞にContact inhibitionを生ぜしめると云う報告があり、この物質が表面膜に変化を與える可能性が考へられますので、この物質の細胞表面荷電に及ぼす直接作用を電気泳動法によりしらべてみました。
 しかしただ(But)2cAMPと混合しても肝癌細胞の表面荷電には著明な変化を與へませんでした(表を呈示)。しかし、ついでにConAの細胞表面に及ぼす作用に対する影響をしらべた所、明らかにConAの作用に対して拮抗するかの成績を得ました。肝癌細胞のみならず、0.001%トリプシン処理した再生肝細胞にも同様な作用を認めました(表を呈示)。
 この(But)2cAMPがConAの作用を抑制する効果が、その生物學的作用であるか否かは今後の検討によらねばなりません。或いはcAMPの本来の生理作用とは違うのかもしれません。しかし若しcAMPの生物作用による抑制ならば、この研究は面白くなりさうです。

 :質疑応答:
[堀川]ConA→DBcAMPという処理をしてみましたか。
[山田]DBcAMPはあとから作用させるより、予め処理しておいた方が効果があります。
[勝田]処理後の細胞について生死判別をしていますか。
[山田]していませんでしたが、やってみます。DBcAMPで癌細胞が正常細胞に分化するというのは、信じ難いですね。
[佐藤茂]DBcAMPだけでなく、cAMP、AMPなどの作用もみておくとcAMP本来の作用かどうか判るでしょう。
[野瀬]ブチリック酸もみてみるとよいでしょう。
[山田]cAMPについてはやってみましたが、中和しないで使ったのでpHが下がってしまい、うまくゆきませんでした。
[堀川]Contact inhibitionに対するConAの作用と電気泳動でのConAの作用の間に相関はありますか。
[山田]現象としては平行しています。しかし荷電の上昇が凝集するという現象と直接関係があるかどうかは判りません。とにかく電気泳動は大変敏感なので、よほど対照をしっかりとっておかないと、はっきりした結論は得られないと思っています。

《高木報告》
 培養内悪性化の示標について
 in vitroで細胞の癌化を証明しうる方法を検討しているが、その1つとして培地条件、とくに血清因子の正常および腫瘍細胞におよぼす影響を観察している。
 正常細胞としてRFL、腫瘍細胞としてRRLC-11を用いた。
 現在までの液体培地によるPEの成績をまとめると次の通りであった。
 1)培地としては検討したMEM、MEM+0.1%Bactopeptone、199、HamF12の4種のうちではMEM+BPにもっとも高いPEがみられた。
 2)硫安1/2飽和血清を用いた培地では両細胞ともcolonyを形成しえなかった。
 3)硫安1/3飽和血清を用いた培地を無処理の対照血清を用いた場合と比較すると、両細胞ともPEにかなりの低下がみられた。
 4)透析および限外濾過を行ったのみの血清を用いた場合を、無処理の血清と比較すると、PEにはほとんど変化はみられなかったが、colony sizeはかなり小さくなった。
 serum factorを除く操作で、血清を硫安塩析後、上清を透析し、さらに限外濾過を行ってきたが、(4)の結果からこれらの両操作だけでも細胞を増殖させる因子が失われることが判った。この点をさらに検討し、はやく使用にたえるserum factor freeの血清をえて、soft agarに応用してみたい。
 さらにPEの低下に関して、本実験では、細胞をtrypsin消化後MEMに浮遊させて、serum freeの状態で細胞数算定および稀釋など一連の操作を行った。その間の細胞の障害も考えられるためtrypsin消化後にtrypsin inhibitorであるtrasylolを加える実験をRFL・C-5細胞について行った。(表を呈示)Trasylol 50〜500u/mlをtrypsin solutionに加えることにより、RFL・C-5の本来のPEである80〜85%へPEが回復した。
 今後の実験では細胞trypsin消化後、Trasylolを応用する予定である。

 :質疑応答:
[勝田]限外濾過で濃縮する時、低分子の濃度に気をつけて下さい。
[滝井]この場合は内液を使っていますから、塩については心配ないと思います。
[佐藤茂]透析もうまくやれば、そんなにvolumeは増えないはずです。
[黒木]この実験の目的は何ですか。
[滝井]Dr.Todaroのserum factorが腫瘍性のマーカーになるという仕事を確かめて使えるようなら利用したいと思っています。
[黒木]この方法でserum factorが完全に無くなったという事は確認してありますか。
[滝井]今の所Dr.Todaroの文献どおりやってみるつもりです。

《野瀬報告》
 Alkaline phosphataseの活性誘導(4)
 Dibutyryl cAMP(DBC)によって誘導されたalkaline phosphatase活性は、DBC除去によりどう変化するかを見た(図を呈示)。一度上昇した活性はDBCが存在しないと直ちに減少し約4日でほぼ元のレベルに回復する。この減少の半減期は約42時間であった。このことは細胞内ではALP活性が不安定でありDBCの効果も持続的でないことを示唆する。
 ALP活性そのものの安定性を見るため、JTC-21・P3培養液中に放出されたALP(月報7208)を酵素源とし、これを37℃でincubateした後、活性を測定した(図を呈示)。4日間に全く活性の変化はなく、ALPは安定であることがわかる。従って前記の結果は細胞がactiveに酵素を失活させていることを示している。
 JTC-21・P3細胞はALP-I活性をconstitutiveに保持しているが、この非活性はActinomycin処理では低下せず、cycloheximideによって低下した。この事から、恐らくALP-Iに対するmRNAは安定で、細胞中に常に存在し、非活性が一定なのは分解と合成のバランスの上に成り立っていると想像される。
 次にALP活性を生化学的な方法以外に組織化学的に検出する方法を試みた。染色法はBurnstoneの方法にならった。細胞の固定はまだ条件の検討中であるが、固定しなくても染まるようである。JTC-25・P3細胞をDBC 0.5mM、theophyllin 1mMで4日間処理した後、この方法で染色すると、ALP陽性の細胞は全体の15%前後しかなかった。活性として全細胞を破壊して測定すると検出できない細胞間の不均一性がこの方法で明らかになると思われる。ALP陽性細胞は、形態的に、DBCの作用で突起を長く伸ばし細胞質が丸まったものより平べったい細胞に多い傾向があった。

 :質疑応答:
[堀川]ALP誘導の多相性は遺伝的な問題ですか。コロニーレベルで染めてありますか。
[野瀬]今使っている系はクローニングして生化学的に誘導がかかるものです。合成培地系の細胞はコロニーレベルでの仕事が難しいので、まだしてみていません。
[勝田]染まる染まらないが遺伝的なものか、cell cycleの問題なのかをつきとめる必要がありますね。
[山田]どういう染色法ですか。生きているままで染まるというのは、よほど小さな色素粒なのでしょうか。
[野瀬]この酵素は膜の外側にあるので基質が細胞内に入らなくても発色するのではないでしょうか。
[山田]膜の透過性とは関係ないのですね。
[堀川]しかし、固定すると染まる細胞が多くなるというのは、矢張り細胞膜の透過性の変化によるものかも知れませんし、酵素活性そのものと発色反応との関係もよくチェックする方がよいでしょう。
[勝田]DMSOなど添加すると透過が早くなって染まりがよくなりませんか。
[野瀬]DMSOは酵素活性そのものを誘導する作用があります。
[堀川]cAMPを除いてから活性が落ちるのに4日間もかかるというのはmRNAのturn over rateで説明するのは少し難しいですね。それからJTC-21・P3とJTC-25・P3の関係は・・・。
[勝田]なぎさ変異の1番目と5番目で、イノシトール要求とか形態とか性質が非常に異なる系です。
[堀川]Genetic transformationも試みてみましたか。
[野瀬]今のところ、まだ出来ていません。
[佐藤二]胎児の段階のALPはどうですか。
[野瀬]小腸の発生段階などALP活性が高いそうです。
[山田]ALPで癌の原発を調べられるという説もありますね。
[堀川]世代時間が30時間で、誘導のピークに達するのが6日というと条件作りにずい分時間がかかりますね。
[山田]癌と関係がなさそうだというのはどうしてですか。
[野瀬]この酵素の誘導は反応が可逆的なので、癌とは関係ないと思っています。
[山田]癌と関係がなさそうな一過性の反応だという事が判るのも癌研究の一つではないでしょうか。
[堀川]系が沢山あるのがいいですね。だんだん面白いことが判りそうですね。synchronous cultureが出来るともっとはっきりするでしょう。
[佐藤茂]cAMPで活性を上昇させた時の細胞の増殖はどうなりますか。
[野瀬]cAMPそのものはむしろ増殖を促進しますが、一緒に添加するテオフィリンが増殖を阻害します。
[佐藤茂]増殖を止める位の濃度で処理すると全部染まったりしないでしょうか。

《藤井報告》
 1.Cula-TCなどに対するsyngeneic antibodyの作製:
 Culb-TCの一連の細胞のうち、controlのRLC-10細胞が絶滅してしまったので、それらの抗原解析ができなくなり、あらためてCula-TC、RLT-1A、RLC-10-2系列の細胞をふやし、JAR-1ラットに注射し、抗体をつくっているところです。この抗体で先づリンパ系細胞−腫瘍細胞混合培養の阻止実験やmixed hemadsorption testなどをおこない、in vitro変異〜復元再培養にいたる過程での抗原の変化を追う計画です。
 2.Lymphoid cell cytotoxicity against syngeneic tumor cells by lymphoid cells sensitized in vitro.
 これまで、ラット腫瘍(Culb-TC)、マウス腫瘍(C57BLマウスのFriend's virus誘発癌、FA/C/2、Rous sarcoma virus誘発のfibroblastoma)、ヒト癌などで、同系あるいは自家リンパ系細胞との混合培養反応をおこなった。
 C57BLマウス脾細胞と、Co60照射した同系腫瘍FA/C/2、fibroblastomaを、MLTR反応と同じ割合に混ぜて6時間培養し、1回洗滌(遠心)した細胞(大きい細胞と小リンパ球様細胞をふくむ)をとって、RPMI1640(20%fetal bovine serum)に浮遊し攻撃細胞とした。これに加える標的細胞は、1週間、腹水からとったFA/C/2とfibroblastomaを培養し、これにH3-TdRを1μCi/mlの割に加え、1時間おいて標識した。5回洗滌して遊離H3-TdRを除いた。この標的細胞25,000個にin vitro感作処置をへたC57BL脾細胞35万個を加え、18時間培養し、残った標的細胞のH3-TdRの放射能を測定し、対照と比較して細胞毒活性を求めた。
 FA/C/2では83.2%、fibroblastomaで56.4%で、このばあい標的細胞の自然溶解は24.1%であった。この反応の免疫学的特異性、dose responseなど検討をすすめるが、癌の免疫治療の応用もできそうだ。

 :質疑応答:
[佐藤茂]感作しない系ではどうですか。
[藤井]全然感作しないとリンパ球が無くなってしまいます。幼若化させるための抗原感作にPAHを使って対照にしようと思っています。
[勝田]幼若化は形態的に確認できますか。
[藤井]今の所、H3-TdRの取り込みに差があるので、幼若化だと考えていますが、形態と平行しているかどうかは判りません。
[佐藤二]培地に異種血清を使うと感作される事になりませんか。
[藤井]マウスの場合は仔牛血清を使っても対照には殆ど幼若化はありません。
[佐藤茂]H3TdRよりC14TdRの方が技術的によいと思いますから検討されたら・・・。
[堀川]しかし実験系としては、非常に敏感でいいですね。      

【勝田班月報・7211】
《勝田報告:学会便り》
 いまNew YorkのRockefeller UniversityのGuest Houseにいます。すごく立派な部屋で、2.5室+トイレバスです。ホテルだと70$位だろうとのことです。昨日は一日中東大薬学卒の高野君の世話になってしまいましたが、実に色々の機械が揃っており、金工、木工などの専門家もいるので、器械はは買ったあとどんどん改造してしまい、超遠沈器のローターなどは自分のところで作ってしまうという始末です。構内は実にきれいで、木も茂っており感じの良い大学です。今朝(10月19日)起きてみたら、おどろいたことに雪が降っています。積もるかどうかは判りませんが。
 ManchesterのSymposiumは、とても愉快でした。30人だけのmeetingに2日半を使いましたので、Discussionもさかんで、マイクの奪い合いという感じで、ボヤボヤしているとマイクが廻ってこない状態でした。全体の総論としてはbiologistsとbiochemistsとの論争で、とにかくさかんな討論でした。一部は録音してありますから御希望の方にはおきかせしましょう。
 Heidelbergerは二題しゃべりましたが、epoxideが有効であることの主張で、[うちの黒木がハムスターembryonic cellsを4NQOで発癌させた]などと云ったのにはおどろきました。しかしepoxideん不安定性については、ずい分たたかれていました。
 ある人が、Histoneが癌細胞をやっつけるなどと云うことをしゃべったら、これも物凄くやっつけられていました。Lasnitskiは例によってorgan cultureでしたが、histological specimenの写真が抜群にきれいで感心しました。Dr.Iypeはratのadultからliver cellsを培養し(F-10)、色々の酵素活性ん維持を、各種にわたってしらべたもので、形態的にはうちのliver cellsとよく似ていました。ただし、発癌実験にはまだ全然成功していません。色々な人が、carcinogenesisという言葉を使うことに遠慮して、sarcomagenesisとかonco-genesisとか云っていたのは、少くとも一歩の進歩だと思いました。Paulは癌とは何か、などと私が去年云ったようなことを別の面から云っていました。

《堀川報告》
 10月は金沢での放射線影響学会、名古屋での癌学会、千葉での組織培養学会と学会がつづいたため、これといったまとまりのある仕事は出来なかったので、今回は現在私どもが体細胞遺伝学の研究の一環として突然変異の機構解析に使用している、Chinese hamster hai細胞についてUV照射によりinduceされたTTの除去能を検索したので、その結果について報告する。
 これまで度々報告してきたように、HeLaS3細胞では200ergs/平方mmのUV照射によりDNA中にinduceされたTTの約50%を切除する能力をもつが、マウスL細胞にはこのような除去機構はUV照射後まったく認められない。これに対し、Chinese hamster hai細胞はどのようであるかを図に示した(図を呈示)。この図から分かるように200ergs/平方mm照射後12時間以内に約20%のTTを切り出す能力をもつことがわかる。つまりマウスL細胞と、HeLaS3細胞の丁度中間型であるといえよう。こうした結果は5〜20%sucrose gradient centrifugation法によっても確認された。従って以上の実験から今後私共が体細胞突然変異の研究に各種細胞を使用する際にはUV照射による修復一つを取ってみても、このように違った性質をもつものであることを考慮しなければならないことを示していると思われる。

《野瀬報告》
 Alkaline phosphatase活性の調節(5)
 先月の月報ではdibutyryl cAMPとtheophyllinでALP Iを誘導したJTC-25・P5 cl-1細胞からdibut.cAMPを除去すると、直ちにALP-I活性が減少することを報告した。ALP-Iそのものは37℃でも安定で4日間までは失活がほとんど見られないので、dibut.cAMP除去による活性低下は細胞の代謝と関連した現象と考えられる。
 次に、同様に誘導した細胞に、dibut.cAMP、theophyllin存在下に、蛋白、RNA合成の阻害剤を加えて、活性の変化を見た(図を呈示)。誘導物質の作用がALP-Iの合成を促進する点にあるのなら、蛋白合成阻害剤により誘導物質除去と同様のALP-I活性低下が見られるはずである。しかし結果は、cycloheximide添加群でも活性の低下がほとんどないことを示している。このことは誘導物質(dibut.cAMP+theophyllin)が、正常細胞では起きているALP-Iの分解を抑制している可能性を示唆している。
 酵素活性の変動の機構として、いろいろの可能性が考えられるが、合成過程の調節だけでなく酵素の分解反応の調節も重要であろう。細胞の悪性変異などの場合のような持続的変化も、細胞内物質のあるものが分解されず蓄積しているため生じるという可能性も考えられるからである。
 ALP-Iのturnoverのうち、分解系が抑えられ、これが永続的になれば、細胞の形質として、ALP-I constitutiveとなるであろう。JTC-21・P3細胞は何ら誘導処理を行わなくてもALP-Iの比活性が非常に高く、いわゆるconstitutiveな株である。(図を呈示)次の図では、この細胞にcycloheximide、actinomycinDを加えた時のALP-I活性の変化を見た。cycloheximide5μg/mlで蛋白合成をほぼ完全に抑制しても、ALP-I活性は対照群と変わらない。従って、Constitutiveな株ではALP-Iの分解がほとんどないことが示された。
 JTC-25・P5とJTC-21・P3とは共にrat liver由来のなぎさ変異株であるが、ALP-Iのような酵素活性の調節については並列的に比較できないかも知れない。図1と2の結果は、まだ予備的レベルであり、活性だけでなく酵素蛋白の変化として見ないと断定することはできないと思われる。
 (図を呈示)図3は、ALP-I constitutiveであるJTC-21・P3のALP-I活性を変化させる条件を検討した例である。ここでは5-bromodeoxyuridine存在下で培養を続けると、次第にALP-Iの比活性が低下した。JTC-21・P3のALP-I活性も、ある条件下では変動することもある。5-bromodeoxyuridineは、ALP活性を増加させることが知られているが、細胞株がちがうと全く逆の減少を起こすこともある事を示している。この例は脱分化と言われる現象に属すのかも知れない。

《山田報告》
 20μg/ml濃度のConAを腹水肝癌AH62Fの各増殖時期の細胞と接触させた後の、それぞれの電気泳動度の増加率を検索しました。(図を呈示)図に示すごとく、どうやら、ConAの作用は増殖の盛んな状態(シアル酸依存荷電の増加する状態)により著明に作用することがわかりました。その後ConAの作用に対する(But)2CiAMPの抑制作用を調べていますが、まだはっきりとした結論を得て居ません。20μg/mlのConAの作用に対する(But)2CiAMP、CiAMP及びAMPの影響を表に示します(表を呈示)。少くともAMPそのものは全く効果がないと思われます。
《高木報告》
 1.培養内悪性化の示標について
 1)血清因子除去血清の作製
 これまで血清を硫安塩析後水で透析し、セロファン膜を用いて濃縮し、塩類液で原量にもどしたものを使用したが、この方法では正常血清をセロファン膜で濃縮する操作のみで正常、腫瘍細胞ともPEが著明に低下することが判った。今回は血清を塩析、透析後凍結乾燥し、Hanks液で原量にもどしたものを用いて実験を行っている。
 2)Soft agar法にかわり黒木氏の平板寒天法を使用してみた。未だ1回の実験であるが、MEM+0.1%Bactopeptone+10%FCS培地0.5%agarの条件下で、RFLC-5細胞はコロニーを形成せず、RRLC-11細胞は13%程度のPEを示した。この際、細胞数は100/petri dishであった。無処理のFCSを用いてRFL細胞はコロニーを作らなかったが、血清因子除去血清では如何になるか検討中である。なお平板寒天法は操作が容易であるので、今後本法を用いて実験してみたい。
 2.RRLC-11細胞の放出する毒性物質
 その後の検索の結果、ウィルスであることが明らかになった。これまでのデータをまとめてみると、以下の通りであり、さらに検討中である。
 限外濾過:毒性物質は濾過されない。はじめ外液に活性があったのは、恐らくtechniqueの問題があったのではないかと思う。
 超遠心:40,000rpm 2時間で上清は完全に毒性を失う。30,000rpm1時間では上清に残る。 -20℃凍結保存:4週間は活性を失わない。
 温度:75℃ 30分で失活、65℃ 30分で部分的失活、60分ではいずれも失活。
 pH:酸性側で活性ややよわまる。
 column cromatography:Sephadex G200でeluteしOD280でみた時、一番最初のピークに活性がある。
RFLC-5細胞にpassageするとtiterが上る。RRLC-11細胞の電顕像ではC粒子と思われるものをわずかに散見するが、RFLC-5細胞に作用させ変性しかかった時期の培地を集めて超遠心後、negative stainingすると、ウィルスと思われるものを認める。

《黒木報告》
 §化学発癌剤でトランスホームした細胞の糖輸送能§
 ウィルスでトランスホームした細胞の糖輸送能の変化は、かなりよく調べられていて、大凡次のような結論が得られている。すなわち腫瘍ウィルスDNA型ではKmは一定、Vmaxは上昇、メカニズムは量的変化。RNA型ではKmは低下、Vmaxは不定、メカニズムは質的変化である。Kawai、Hanafusaによると、この変化(RNA型ウィルスの)はvirus genomeに直接dependentしている。すなわち、ts変異株を用いて、permissive→←non-permissiveにかえると、それに伴い糖輸送能も変化する。
化学物質でトランスホームした細胞の糖輸送能をとりあげた理由は、(1)膜の変化の一つの指標として、(2)もしRNA型ウィルスが存在すれば、Km、Vmax値から推測できるかもしれない、の2点である。
 (表を呈示)方法は表に記した。2-deoxy D-glucoseは膜を通ったのち、hexokinaseでリン酸化されるステップで反応がとまる。したがってとりこみの変化は膜輸送能とhexokinaseの2つの因子に支配されている。(図を呈示)図はとりこみ値(n moles/mg protein/min)と、糖の濃度(mmoles)を、Lineweaver-Burkの方法でプロットした図である。1つはハムスター胎児細胞とその4NQO、4HAQOによるトランスホーム細胞、次はBALB 3T3とそのDMBAによるトランスホーム細胞である。図から明らかのようにKm値(X軸へのそう入値)は一定であるが、Vmax(Y軸と交わる点)はトランスホームによって上昇している。次の表はKm、Vmaxをまとめたものである(表を呈示)。
 今後の問題として、(1)この成績を一般化するために、さらに多くの細胞を用いる。前立腺細胞とそのchemical transformantsを用いるべく、Dr.Heidelbergerと交渉中である。(2)dibutyryl cyclic AMPのとりこみに及ぼす変化。これらの実験が終り次第、BBRCにでも送ろうと考えている。
 
【勝田班月報:7212:RRLC-11の放出する毒性物質】
 §各種ラッテ肝癌細胞の培地内に放出する毒性代謝物質:
 これまで肝癌AH-130及びAH-7974と、それらの培養株細胞が、培地中に正常ラッテ肝細胞を阻害するような毒性代謝物質を放出することを報告してきた。これが両肝癌だけの特性であるのか、各種肝癌に共通した特性であるのか、を偵察するため、次の各種細胞を4日間培養した培地をSephadexG-10或はG-25で粗分劃し(その前にDiafilterで限外濾過し、低分子だけにしてある)正常ラッテ肝由来のRLC-10(2)の培養に添加して、3日間の細胞増殖度を測ってみた。
 先ず、細胞を加えていない、合成培地DM-145をSephadexG-10或はG-25で分劃し、230mμでの吸収曲線をみた(図を呈示)。
 <細胞>8種:JTC-1(ラッテ腹水肝癌AH-130由来)、JTC-2(ラッテ腹水肝癌AH-130由来)、JTC-15(ラッテ腹水肝癌AH-66由来・可移植性が低い)、JTC-16(ラッテ腹水肝癌AH-7974由来)、JTC-16・P3(JTC-16の完全合成培地内継代亜株)、JTC-27(ラッテ腹水肝癌AH-601由来)、CulbTC(4NQOで培養内癌化したRLT-2の復元腫瘍の再培養株)、RLC-10(2)(対照として、肝癌でないラッテ肝細胞株。テストに用いた株と同株)。
 (図を呈示)結果は、縦軸に3日間の<実験群の増殖率>を<無添加の対照群の増殖率>で割った%をとった。これまで、毒性物質の分劃をすすめるとき、その非活性の計算の根拠に困っていたのであるが、今後はこの方法を採用したいと思う。
 G-10、G-25で分劃したものは、Void volumeをすて塩の出てくる手前までを凍結乾燥し、乾燥重量を測って培地に加えた。判ったことは、肝癌培地は、いずれも濃度に比例してRLC-10(2)の増殖を抑えていること、但しその抑え方は、G-10とG-25とで必ずしも平行していないこと、RLC-10(2)の培地はむしろ増殖を促進していること、などであろう。
 これにより、われわれの追っている毒性物質は各種肝癌に共通したものである疑が濃厚になってきた。またRLC-10(2)の培地の分劃が増殖を促進することより、いわゆるconditioned medium中の低分子物質の役割、このような粗分劃によってもconditioned mediumの効果を促進できる可能性などを考えさせられることになる。

 :質疑応答:
[高木]限外濾過はどういう方法でしていますか。
[高岡]日本真空のdiafilterを使っています。分子量10,000以下の濾液を凍結乾燥してカラムへかけています。
[山田]RLC-10(2)を培養した培地は自らの増殖を促進するのですね。
[勝田]一種のconditioned mediumと考えられます。
[堀川]Conditined mediumだけでは説明がつかないのではないでしょうか。Homoとheteroの問題もありますから。
[黒木]これらの分劃の4mg/mlは分劃前の培地の何%に相当するのですか。
[高岡]40%です。この段階では非活性は上がっていません。

《高木報告》
 培養内悪性化の示標について
 血清因子除去血清の作製法として次の2つの方法を試みた。
 1)硫安塩析後蒸留水で48時間透析し、凍結乾燥してHanks液で原量にもどす。(1/3FCS)
 2)硫安塩析後蒸留水で48時間透析し、さらにHanks液(重曹を含まない)で12時間透析する。(1/3FCS)
 牛胎児血清を用い、RFLC-5、RRLC-11細胞につき、おのおのを175cells/plateまいてPEを比較した。
 なお1)の対照として無処置のFCSと、塩析せず48時間透析した後凍結乾燥してHanks液で原量にもどした1/1FCSをおき、また2)の対照としても無処置のFCSと、塩析せず48時間透析した後さらに12時間Hanks液で透析した1/1FCSの実験群をおいた。
 その結果1)の方法で作製した血清では1/1FCS、1/3FCSともにPEは対照のFCSに比して非常に悪く、とくに1/3FCSではcolonyの形成はいずれの細胞についても全く認められず、1/1FCSについても両細胞間にPEの有意差は全く認められなかった。
 2)では対照のFCSにおけるPEが可成り低かったが1/1FCSでも1/3FCSでも両細胞とも少ないながらcolonyを形成し、1/1FCSではRRLC-11細胞のPEがRFLC-5細胞のPEより高かったが、1/3FCSではその逆の結果であった。
 これと平行して行ったinoculum size 45,000のRFLC-5およびRRLC-11細胞の増殖に対するこれら血清の影響をみた実験では、前にも報告したようにRRLC-11細胞の増殖に比し、RFLC-5細胞の増殖は著明に抑制された。すなわちこれまでに得られたdataではmass cultureと少数細胞を扱ったPEの成績との間に不一致がみられるようである。しかし、これは技術の問題もあると思われるのでさらに検討しなければならない。
 2.RRLC-11細胞の放出する細胞毒性物質
 前報につづき、モルモット血球を用いて血球凝集試験を行ったが、RRLC-11細胞を培養した4〜8日の培地では32倍、この培地をRFLC-5細胞にpassageして、細胞が変性をおこしかかった際の培地では256倍まで凝集が認められた。すなわち凝集価の上昇がみられた。また4単位のウィルス液(凝集がおこる最終稀釋を1単位とし、その4倍の濃度)を用い、2、3血清を用いて凝集抑制試験を試みた。血清はHVJ抗血清と生下時WKAラットの皮下にウィルス液を接種して生残った2匹のラットより採血した血清である。その結果抗HVJ血清では抑制はみられず、2匹のラット血清ではいずれも抑制がみとめられた。この際対照のウィルス液による凝集のおこり方がやや定型的でなかったので再度検討が必要である。またラット血清による抑制も抗体によるものかInhibitorによるものか検討しなければならない。
 また培地(ウィルス液)を100倍に稀釋して受精10日卵のallantoic cavityに接種し、40時間後にallantoic fluidを集めて血球凝集をみたが3つの卵からえたallantoic fluidはともにnegativeであった。Allantoic cavityでは増殖しないもののようである。
 このウィルスの細胞に対する感受性を検討しているが、ラット正常細胞の多くは変性をおこすが感受性にやや違いが認められ、またRRLC-11細胞をsuckling WKAラット皮下に接種して生じた腫瘤の再培養株3株についてみると、そのいずれも全く変性を示さなかった。これら3株の再培養株の培地はRFLC-5細胞に対し毒性を示さなかった。
 細胞のこのウィルスに対する感受性につき、さらに広く検討する予定である。
 電顕的検索で培養8日目のRRLC-11細胞はわずかにC型粒子が散見されるのみであり、またRFLC-5細胞にこのウィルスを加えて変性をおこしかかった時点で観察したが、核の変化が著明である以外にとくに明らかにウィルスと思われる粒子は証明されていない。しかしRFLC-5細胞が変性しかかった際の培地を40,000rpm 2時間遠沈し、その沈渣につきnegative stainingを行なうと20〜30mμの連なった多くの粒子を認めえた。この粒子がはたして細胞毒性物質の本態であるか否かはさらに今後の研究にまたねばならない。
 現時点では血球凝集がみられるところからMyxo、Paramyxo系のウィルスあるいはrat virusと云ったものを想定している。

 :質疑応答:
[堀川]細胞の電顕写真でみつかった粒子と超遠心で落とした粒子とで大きさに違いがありますか。又培養していない培地を超遠心にかけた物にその粒子は見つかりませんか。
[高木]遠心で集めた場合の方がずっと小さく1/4以下です。培養しない培地からは出てきません。
[黒木]今まで知られているウィルスと同定できませんか。配列などから・・・。
[高木]こんなのは見た事もないと言われました。
[山田]Ratの内皮細胞を培養して電顕でみましたら、C型ウィルスがみられました。この場合毒性物質とウィルスガ同一のものかどうか、まだ問題ですね。
[吉田]Ratに特異性はあるのですか。又ウィルスそのものの作用でしょうか。
[高木]Rat以外の細胞ではみていません。
[勝田]耐熱性がない所から、あまり低分子の代謝産物とは考えにくいですね。
[高木]化学発癌との関係が難しくなりますね。化学発癌させた細胞にCPが出るかどうかも調べてみる予定です。

《堀川報告》
 HeLaS3細胞をMNNGで処理したあとBUdR−可視光線法を用いてX線感受性細胞(SM-1a)及び抵抗性細胞(RM-1b)を分離したことについては"研究連絡月報"No.7209において述べたが、今回はこれら細胞株について若干の分析を行ったので、これらについて報告する。
 まず、SM-1a細胞、RM-1b細胞、及びHeLaS3原株細胞における細胞当りのsulfosalicylic acid溶性SH(non-protein SH)量をEllman法によって培養一週間にわたり定量した(図を呈示)。増殖期においてnon-protein SH量は抵抗性細胞(RM-1b)において多く、感受性細胞(SM-1a)では少くなっていることがわかる。
 こうした結果はSHがX線のradical scavengerとして働くと考える今日の放射線細胞生物学的な考えと照合した場合、抵抗性細胞、感受性細胞の存在の可能性をうまく説明してくれる。これを反映してか、抵抗性細胞(RM-1b)および感受性細胞(SM-1a)を5000R照射した直後のDNAのsingle strand breaksをアルカリ性蔗糖勾配遠心法で分析した場合(図を呈示)、感受性細胞の方が僅かに多くの切断が生じるという結果が得られている。勿論この程度の切断では両細胞株ともに約30分間のincubationで切断DNAは再結合されてもとのDNAに修復される。(尚感受性細胞の方が切断量が多そうだという結果については現在更に検討中)。さて、一方東大医科研癌細胞学研究部からいただいたL・P3細胞および、これからCO60、γ線の反復照射によって得たL・P3γ細胞(金沢にきてから実験の都合上適当にこの名前にしている)について同様に感受性差等を検討しているので、これらについて現在までの結果を報告する。L・P3細胞、L・P3γ細胞ともに医科研癌細胞学研究部ではMEMのみで継代されているが、これではコロニー形成法による線量−生存率曲線も仲々描けないので、金沢に来てからは5%牛血清を添加して継代及び実験を行っている。
 まず結果についてであるが、5%牛血清の添加継代培養によってもL・P3細胞とL・P3γ細胞のもともとの形態的差異はそのまま保持されており、Cell growthを調べると(図を呈示)doubling timeでみるとL・P3γ細胞の方が僅かに長く、増殖能はL・P3細胞に比べてやや緩慢である。
 一方、コロニー形成能でみた2者のX線に対する生存率曲線は(図を呈示)、明らかにL・P3γ細胞がX線に対して抵抗性であることがわかる。これらの細胞株は今後上記HeLaS3細胞から得たX線抵抗性及び感受性細胞株とともに放射線感受性支配要因の解析にすぐれた材料となる。現在そのための実験が進められている。

 :質疑応答:
[黒木]UVsensitiveなHeLaの感受性については、酵素の熱安定性、osmotic shockに対する安定性を調べることなどすれば、定量的に出せるでしょう。
[堀川]そうですね。UVの場合は感受性細胞が不安定になることは無いのに、X線感受性の細胞は何かとても不安定な細胞ですね。
[吉田]L・P3CO3の染色体組成はどうなっていますか。耐性細胞の場合に、染色体数が増えるとmozaicになる。それが耐性に反映しているとは考えられませんか。
[堀川]植物細胞では耐性が出来ると染色体は増えてゆきます。動物細胞ではγ耐性株などは染色体数はずっと少なくなります。
[吉田]動物細胞では染色体のploidyはそう増えられないのですね。それでもrecombinationによって安定な耐性株が出来るのでしょう。
[堀川]植物細胞で耐性が出来ると染色体数が増えるという実験をしたスパローは、染色体が増えると遺伝子も増えて耐性になると考えています。
[野瀬]Ploidyの多い細胞はDNA量も多いのでしょうか。
[堀川]DNA量がploidyの増加と平行して増えるという事を確かめた実験があります。
[吉田]SH量の変化は面白いと思いますが、細胞のどこにあるSHですか。
[堀川]細胞全体のSH量を測っています。
[吉田]どこのSHだか調べられませんか。
[堀川]定量値1点をとるのに細胞を10の9乗必要としますから、細胞を分劃してどこのSHの変動かを調べるというのは量的に難しいですね。
[山田]定量法も難しいですね。SHの機能は判っていますか。
[堀川]Radical scavengerだという事は判っています。放射線が2次的に出すfree radicalを減らします。Cell cycleの感受性もSH剤の添加で変化します。
[永井]物としてfreeのSHはどんな物ですか。glutathione、cysteineなどですか。
[堀川]はっきりしていませんが、そんなところです。
[黒木]Glutathioneが多いと発癌剤と結合して解毒される事がありますから、そういう効き方も考えられますね。
[山田]SHの定量にはくれぐれも気をつけて下さい。
[永井]一つのSH剤を測ってみるのもよいでしょう。

《山田報告》
 細胞電気泳動的な性格と、染色体数及びその分布は密接な関係がありさうな感が前々からありましたので、今回相互を比較して検索してみたところ、やはり相関は明らかになりました。
 まず腹水癌細胞三系、ラット腹水肝癌AH66F、AH62F、マウスリンパ性腹水白血病細胞L1210についてのその泳動度と、染色体分布を比較してみました(図を呈示)。電気泳動度パターンは増殖期及び移植末期それぞれの成績を示してありますが、その平均泳動度と染色体のModal Numberは比例し、またその分布も略々平行関係にありさうです。そこで次に培養ラット肝細胞及びその変異細胞についてしらべました(表と図を呈示)。初めに染色体の分布の程度をmode周辺の分布域の幅のみをとりあげて泳動度測定時の標準誤差とを比較してみました。両者はRLT-5、Cule及びRLT-4を除くと略々平行関係にある様です。電気泳動度の分布はその増殖状態や細胞採取の技術的ミス及び細胞変性により多少変動しますので、この程度の相関は意味があるのではないかと考へました。
 次に平均泳動度と染色体modal numberとを比較してみました(図を呈示)。この両者はかなり良く比例する様です。即ちこれまで測定して来た細胞の電気泳動度及びその分布はそれぞれの染色体数及びその分布とかなり密接な関係がある様に思われます。

 :質疑応答:
[吉田]AH-66F、AH-62Fはラッテ、L1210はマウスですから一緒にして比較するのは一寸まずいですね。ラッテの系で染色体数の少ないものを選んで入れた方がよいでしょう。
[堀川]染色体数が多いと泳動度が早くなるという事をどう考えますか。
[吉田]染色体が多いと細胞が重くなる?
[山田]細胞表面の性質も遺伝子の支配を受けていますから、何か染色体数と膜のチャージの間に関係があるのではないでしょうか。
[堀川]とすると、2倍体、3倍体の細胞でhybidを作って実験すると面白いでしょうね。
[吉田]エールリッヒ乳癌には、2倍体、3倍体、4倍体で継代されているのがありますから、よい材料になると思いますよ。
[山田]それはいいですね。ぜひやってみましょう。
[吉田]Mouseのfibroblastを培養していると培養初期は2倍体、それから4倍体になり、次に3倍体あたりに減少した時に悪性化するという報告があります。その各時期の泳動度を染色体と一緒に調べてみるのも面白いでしょうね。
[山田]ノイラミニダーゼに対する感受性が、細胞の悪性化につれて変化するという事も同時に確認できますね。
[藤井]転移しやすい癌と、しにくい癌との間に泳動度の違いはありますか。
[山田]同じ条件で細胞を集める事が難しいので調べてありません。
[藤井]転移と染色体の間に関係がありますか。
[吉田]4倍対の方が大きいので、血管内にひっかかりやすくて転移が多くなると考えている人もありますね。転移した細胞を調べると4倍体が多いようです。

《野瀬報告》
 4-NQOによる細胞膜変化
 発ガン剤の細胞に対する作用の一つとして細胞膜の性質の変化が考えられている。この細胞膜変化としては、長期的には表面荷電、化学的組成の変化、能動輸送の変化などがあるが短期的変化は比較的知られていないと思われる。
 今回はAlkaline phosphataseを細胞内酵素の一つとして、膜変化の検討を試みた。最初にL・P3細胞を4-QNOで処理し(処理法を呈示)、これをD-液に懸濁し、ALP-II活性の細胞外への放出を比較した。(表を呈示)無処理の細胞は細胞外にALP-IIをほとんど放出しないが、Deoxycholate、Triton X-100などを加えると30〜130%程度の活性が細胞外に流出する。これに対し、4-NQO処理細胞は、界面活性剤を加えなくても20〜30%の活性が細胞外に検出され、細胞膜が不安定になっていることが示唆された。
 次に、膜結合性酵素の一つであるALP-Iを持つRLC-10を用いて酵素の膜結合性を検討した。実験の方法は、超音波により細胞を破壊し、分劃遠心(図を呈示)を行ない、各分劃のALP-Iを測定した。ALP-Iは18,500g〜24,000gの範囲に50%以上沈でんとして回収される。この沈でんは細胞膜の破片と考えられ、ここに結合しているALP-IはTriton X-100、0.1%の処理でほとんど上清に移行する。4-NQO、1x10-6乗M、40時間処理した細胞および無処理の細胞を同様に超音波で破壊し、24,000g30分の遠心を行ない沈でん、上清の各分劃中ALP-Iを測定した(表を呈示)。4-NQO処理細胞ではALP-Iの上清、沈でんへの分布が変化している(4NQO処理細胞のALP-I活性は上清で減少し沈殿で増加する)。この結果が膜のどんな変化と対応するのかまだわからないが、4-NQO処理後、比較的短時間のうちにこのような変化が生じるのは興味あると思われる。

 :質疑応答:
[堀川]4NQOの処理を30分位にして、処理後短時間培養してから調べても同じ結果が得られるでしょうか。
[野瀬]それはみてありません。
[山田]この処理条件では細胞が非特異的な融解を起こすとは考えられませんか。
[黒木]4NQOの誘導対も調べてみるとよいでしょう。
[堀川]どのcellステージで酵素を産生するのかも調べるといいですね。ある特異的な時期に酵素が合成されるようなら、その時期に4NQOを作用させたらどうなるかといった基礎的な所をしっかりおさえておくべきですね。
[高木]しかし、組織学的にみて100%染まるのではcellサイクルに関係なく産生されている酵素ではないでしょうか。
[野瀬]私もそう考えています。
[堀川]酵素の産生だけを抑える蛋白合成阻害剤はありませんか。そういうものを使って調べることも出来ますね。
[吉田]こういう酵素活性の誘導というのはセレクションによるものではないのでしょうか。ジンレベルから考えると−が+になる所の機構は一体どうなっているのでしょう。
[野瀬]遺伝子としては皆持っているが、マスクされていると活性が無い・・・という事だと思いますが・・・。

《藤井報告》
 1.ラットの試験管内4-NQO誘発癌、Cula-TCとその変異前期細胞が、contaminationで断絶したため、再びCulb-TCに代えて、isoantibodiesによるmixed lymphoid cell-tumor cell culture reactionへの抑制実験を試みることにし、準備中である。
 2.本年、ヒト癌の自家リンパ系細胞刺激能を検討したうち、子供の神経芽腫の成績について記します。(表を呈示)
 症例は、国立小児病院で手術されたもの。末梢リンパ系細胞収集はAngio-conray-Ficol法によった。腫瘍細胞は、浮遊液調製後、4,000R照射。MLC(Mixed lymphocyte culture)reactionは被検末梢リンパ系細胞の他人末梢リンパ系細胞に対する反応である。成績はH3-TdR摂取(刺激されたリンパ系細胞の)値では、各実験各個人によって、リンパ系細胞反応能が異なり、腫瘍細胞浮遊液中の細胞の分布も異なり、比較することが困難なので、混合培養とリンパ系細胞単独培養によるH3-TdR摂取値(cpm/tube)の比をとり、反応比として表した。
 MLCは、患者H.F.が非常に低く、このようなばあいMLTRも低い。この例は濃厚な化学療法(Endoxan、Vincristin)が施行されており、末梢リンパ系細胞の収量も少く、その反応能も非特異的に低下しているものと判断された。全症例とも、多少の化学療法はおこなわれている。MLCの高くない患者H.K.例でも、MLTRは3.6で、とくに培養細胞を刺激細胞とすると5.0と高い。この培養細胞は、形態的にneuroblastome cellとみられたが、その他の同定は行なっていない。H3-Dopamineとり込みによるオートラヂオグラムを計画している。
MLCが反応比31のように高いH.K.例でも、MLTRでは0.9と低く、このような例では、自家腫瘍に対するリンパ球反応はほとんど無いとおもわれる。
 この成績から、神経芽細胞腫患者は、化学療法によるリンパ系細胞の機能低下があるにかかわらず、自家腫瘍に反応するもののあることがわかった。MLTRは、このばあいも、培養腫瘍細胞を刺激細胞に使った方が強い反応が得られる。
 反応比3以上を陽性と仮にとると、5例中3例が陽性であった。
in vitroにおけるリンパ系細胞の自家腫瘍細胞による幼若化刺激反応の本態については、かならずしも明らかでないが、in vitroで刺激されたリンパ系細胞の標的細胞破壊実験に成功しているので、さらに、その免疫学的特異性、in vivoにおける抗腫瘍性についての実験を計画している。

 :質疑応答:
[山田]私にも経験があるのですが、こういう実験では抗原性にもリンパ球の側にもバラツキがあって、その二つの因子の組合わせをひっくるめて結果としてみるから、解析の仕様がなくなってしまいますね。抗原性だけでも別に調べられないでしょうか。
[藤井]腫瘍特異抗原があるかどうかをみるのを目的としています。特異性、抗原の問題はヒトの癌では扱えませんね。
[山田]もう少し分析できて解析できれば、サイミジンの摂り込みが少ないが、反応はあるのだというデータも活かせるのではないでしょうか。
[勝田]動物実験では化学発癌剤で作った癌の方が、自然発癌より抗原性が強いという報告もあります。
[藤井]化学物質によるものでもMCAによる癌の抗原性は強いが、ウレアによるものは弱いというのがあります。
[山田]In vitroでの自然悪性化の場合はポピュレーションの問題も考えなくてはなりませんね。全部が同じように悪性化していないかも知れません。
[黒木]ハイデルバーガーの所でも自然悪性化系は抗原性が弱いと云っています。
[藤井]動物実験でなら、化学発癌の過程での癌に対する宿主の反応をこういう方法で調べてゆけるだろうと考えています。
[山田]癌の出来はじめ程、生体に強い反応を起こさせるという実験がありますね。
[吉田]染色体の上ではウィルス発癌のものは、たいてい宿主の正常の染色体構成からあまり変わっていないが、MCAで悪性化したものなどはdeviationが大きい。染色体の上でのdeviationが大きくなると抗原性が大きく変化するとは考えられませんか。
[勝田]そういう所をがっちりおさえて貰えると良いのですがね。
[藤井]フェリチン抗体を使って細胞膜上の抗原の分布を調べている実験がありますが、そういう事がきちんと出来るといろんな事が判りますね。

《黒木報告》
<レプリカ培養法による紫外線感受性細胞の分離>
 レプリカ培養によって紫外線感受性細胞の分離を試みた。方法は次の通りである。
 1.FM3A細胞、L5178Y細胞をMNNGで0.05〜1.0μg/ml/100万個cells/h at 37℃の条件でincubateし、MNNGを除いたのち、2日間TD-40で培養する。
 2.平板寒天上(0.5%Noble)に500、1,000/90mm dishにまき2wk培養。
 3.ガラス棒で4枚のシャーレにレプリカ培養する。No1、3をcontrolとし、No2、4にUV50erg照射する。7〜10日後、50erg照射で増殖できないコロニーまたは非常に小さいコロニーを探し出し、ふたたびレプリカ培養を行い、同様に50erg照射する(写真を呈示)。
 4.2回目のレプリカでも50ergで増殖できないコロニーを、浮遊培養にうつし、増殖させたのち、5、20、50、100ergでdose-responseを調べる。
 現在3のstepまでであるが、いくつかの感受性クローンがとれている。(表を呈示)1%前後の高率でUV感受性細胞がとれ、目下dose-responseの詳細を検討中である。また、この方法を用いて温度感受性細胞(39℃)の分離を試みている。

 :質疑応答:
[堀川]UV感受性の細胞は変異率1%というと随分高い頻度ですね。UVとか温度とかで変異株を拾う場合all or nonではないという事が問題ですね。
[勝田]33℃で増殖するようになるのはadaptationですか。selectionですか。
[黒木]Adaptationだと思っています。
[勝田]Adaptationだとすると実験中に又戻ってしまう心配もありますね。
[堀川]レプリカというからには、つま楊枝法よりビロード法の方がエレガントな気がしますね。
[野瀬]細菌のコロニーでも、つま楊枝法でレプリカをやっている人があります。
[堀川]UV感受性については、MNNG処理なしでも拾ってみましたか。
[黒木]やっていません。50ergのUVはwildのFM3Aでは20〜30survivalという線量です。

《佐藤二報告》
 (染色体数分布図を呈示)JTC-11(エールリッヒ腹水癌細胞)の3080日と3108日の時点で、単個培養された12例の培養開始後21〜24日の染色体数の分布です。その中からさらに5例のものを約40日培養した時点の染色体数の分布を調べました。2例がstem cellの変化を見、3例の分布は20日の時点と変りありません。培養内での細胞のvariationの問題、株細胞とは、細胞の恒常性等考えねばならない事が多い。

 :質疑応答:
[堀川]腫瘍細胞の染色体数の分布がバラツクことは良く判ったのですが、腫瘍でない細胞ではどうですか。正常な2倍体を維持できますか。
[佐藤]B3というrat liver由来で600日以上培養している系は、腫瘍性をもっていなくて正2倍体です。しかし増殖は早くなっています。
[勝田]正2倍体のチェックはどうやっていますか。
[佐藤]簡単にスケッチしてテロセントリック、メタセントリックの数を数えます。
[山田]腫瘍の染色体分析ではin vivoの系を使った吉田先生のステムライン否定というのがありますね。1コの細胞を拾って移植しても増殖してくると、必ずバラツキが出るから腫瘍にはステムラインはないのだという訳です。
[佐藤]培養内でのバラツキは培養内での変異率とも併せて考えなくてはと思います。
[吉田]私はこのデータでは思ったよりずっと安定したものだなと感じました。in vivoだと宿主側から色んなselectionがかかってステムが残るという事が考えられるのですが、in vitroではもっと色んな系が出て来ても不思議はないと思います。
[佐藤]JTC-11は培養の条件に充分adaptしている系なので、もうselectされてしまっていて安定なのでしょうか。
[堀川]培養細胞の色々な変異は10-5乗〜10-6乗generationの頻度ですから、染色体レベルでも変わり得ますね。染色体の変異とchemicalな変化とが、どの程度corelateしているものでしょうか。それから正常細胞の染色体レベルの変異が腫瘍細胞の変異ほど頻度が高いのかどうか知りたいですね。
[佐藤]バラツキからみると正常細胞の方が少ないと思います。しかし正2倍体を拾ってゆくことは大変な労力がかかりますね。細胞の1コ釣は特に難しい。むしろ環境因子を考えた方が早いと思います。例えばホルモンを添加するとか。
[吉田]遺伝子のレベルの変異と染色体のレベルの変異は次元が違いますね。
[佐藤]ヒトの細胞は2倍体を頻度高く維持できますが、2倍体のまま増殖が止ります。
[堀川]生体の中での事と合わせ考えて、早く増殖させると変異が多くなるでしょうか。実験としては増殖をおとすと、例えば温度を下げるとか培地をpoorにするとかすると染色体レベルの変異が増えるでしょうか。減るでしょうか。
[勝田]増殖の問題はDNA合成の問題以外に細胞間物質の問題があると思います。どんどん増殖すると細胞間物質をためるひまがなくて、それが変異にも関係するでしょう。
[佐藤]培養細胞は癌でも正常でもない勝田班長の云う第3の細胞かも知れませんね。

《吉田報告》
 クマネズミの染色体多型と世界的分布
 クマネズミ(Rattus rattus)にはアジア型とオセアニア型があり、前者は2n=42及び後者は2n=38である。オセアニア型はアジア型のもつ4対のacrocentric染色体のRobertsonian fusionによって生じたと考えられた。アジア型は東及び東南アジアに分布するが、オセアニア型はオセアニア(オーストラリア、ニュージランド及びニューギニア)、ヨーロッパ、北米、南米、及び南アフリカまでに広く分布している。クマネズミは東南アジア大陸の原産といわれているので、アジア産クマネズミはヨーロッパへ移動する途中で、染色体のfusionが起って2n=38のオセアニア型が生じたと考えられた。2n=42と2n=38の境界線を調べるためと、両者の移行型(若し棲息するとすれば2n=40)を発見する目的をもって、私達一行4名は9月27日より11月22日まで、西南アジア、中近東方面のクマネズミの染色体の調査を行った。調査の結果は(分布図を呈示)、2n=38と2n=42の境界はインド、パキスタンの中央部を走り、カスピ海附近に抜けている。またセイロン島のKandyで両者の移行型すなわち2n=40の染色体をもつクマネズミが発見された。


【勝田班月報・7301】
《勝田報告》
"培養肝細胞の遺伝子表現と発癌"についてのシンポジウムについて
 表記の件について、ロスアンゼルスのカリフォルニア大学のDr.Gerschensonから新年早々に手紙が届きました。内容の概略は次の通りです。(来年3月の予定)
 (手紙のコピーを呈示)

《山田報告》
 今年から当研究室でも本格的(?)に細胞培養をしようかと計画して居りますが、うまく行きますか・・・。
 暮に久しぶりで正常ラット培養肝細胞を梅田さんの研究室より貰ひ検査してみました。引続き数回もらへる予定でおりましたが、その後増え方が遅い様で、一回切りの実験になってしまいました。
 RLC-10のごとく均一な細胞を期待したのですが、どうもうまくゆかず、"なぎさ細胞型"の電気泳動パターンを示しました。どうもその割に均一なpopulationではない様に思われます。しかし平均泳動値はかなり遅い様です。
 ついでにConcanavalinAを作用させてみましたが、これは正常細胞型の反応で、肝癌細胞にみられる様な著明な泳動度の増加が10μgの薄い濃度のConAにより起こりませんでした。この株からクローン化すれば、典型的正常肝細胞株がとれるかもしれません。今後に期待したいと思います。(図表を呈示)

《堀川報告》
 1972年はアメリカ放射線影響学会に出席したり、秋には金沢で日本放射線影響学会の世話をしたりして多忙な一年でしたが、今年はどのようになりますか。昨年暮には講師の二階堂君をマンチェスターのパターソン研究所に送り出したため、その分だけ仕事が多くなり、この分では今年もまた多忙な一年になりそうです。
 さて今年の抱負ですが、本年こそはMutagenesisとCarcinogenesisの関係をはっきりさせたいと思っています。培養されたChinese hamster細胞を使って、cell levelでのmutationの機構を解析することは、将来発癌機構の本体を知る上に非常に重要なことだと思うからです。ただこの仕事の泣きどころは細胞のgrowthが早いのと、実験回数が多いのとで多量の子牛血清を入手しなければならない点です。どこかに安く入手出来る子牛血清はないものでしょうか。
 またこれ以外の仕事として今年こそある程度目安をつけたいものとして、cell cycleを通じての放射線及び化学発癌剤に対する感受性支配要因の解析と、HeLaS3細胞及びマウスL細胞から分離したUV感受性細胞の、あと始末をやってしまいたいと思います。これらの仕事はいづれも最終的には発癌機構の解析と関連があるだけに何とかそこまで仕事を発展させたいと思っているところです。
 毎年のことながら年頭にあたっては、今年こそはあの仕事もこの仕事もどこどこまでやってしまおうなどと大きな希望を抱くのですが、一年が終ってみると、常にその1/3位しか進んでいないでがっかりさせられます。どうか班員の皆さんの変らぬ叱咤激励を希望しております。

《高木報告》
 昨年の年頭のprojectとしてRRLC-11細胞の放出する毒性物質の追求と、培養内癌化の指標としてのsoft agarの再検討の2つをあげました。本年度は次の様に計画しています。
 1.培養内癌化の指標としてのsoft agarの検討
 昨年は血清を硫安で処理してserum factor freeとし、これを用いた培地によりRRLC-11、RFLC-5細胞のgrowth curveとcolony形成能を観察したが、作製法に問題があるのかgrowth curveでは差異がみられたがcolony levelでは対照の培養でも充分なCFEがえられず判然とせぬままに終った。今年度は技術的な面も検討し、また細胞種も上記2種以外のものも用いて結果の如何を問わずはっきりしたdataを早く出したいと考えている。
 2.RRLC-11細胞より分離された毒性物質(virus)の追求
 毒性物質はvirusであることが判明し、はじめの予想とやや違った方向に展開して来た。しかし未だ本態はつかめていない。電顕写真にあらわれたいくつかの粒子の中どれが目指すvirusか検討しなければならない。そのためまずvirusの精製、物理化学的性質の究明、抗血清を用いた所謂血清学的検索などを行なわねばならない。又このvirusによりcytotoxicな効果がみられる細胞のspectrumも観察している。細胞の由来する動物の種類あるいは正常、腫瘍細胞の間に一定の傾向がみられれば、まことに興味深いと考えている。
 これまでの成績ではKilhamのrat virusによく似ているように思うが、マウス由来のL細胞も変性をおこす点などは相違している。こう云ったvirusは、細胞の腫瘍化と如何に関連しているのであろうか・・・。
 3.膵島細胞の悪性化実験
 6-diethylaminomethyl-4-hydroaminoquinoline-1-oxide(6DEAM-4HAQO)は、ラットの尾静脈より注射すると高率に膵島に腫瘍を生じ、一方4HAQOを同様に注射すると外分泌腺に高率に腫瘍を生ずることが林により報告されている。またStreptozotocinとNicotinamideの投与でも膵島に腫瘍を生ずることがSaheinらにより観察されている。膵を手がけて来た私共もこれら薬剤を用いて膵島細胞の腫瘍化をin vivo、in vitroで試みその生物学的性状の違いを検討したい。但し6-DEAM-4HAQOは合成がむつかしく入手がきわめて困難であり、さしあたりStreptozotocinを入手したいと考えている。

《藤井報告》
 外科学研究部を癌病態研究部に改稱して、はじめての正月を迎えたところです。私共の研究部は、一方に附属病院外科診療科の要員ともなっているわけで、この点は相変らず二足のわらじをはいており、研究面でも、従来の移植免疫の仕事が残っていたりして、まだ癌ひとすじの体勢になり切れずにおります。
 私共臨床家が、癌の研究を志向する以上、癌の治療を最も直接的にまた人癌を対象とした実験をやるべきであるという反省から、昨年末、癌の手術の徹底化と、その資料の整理といった臨床的研究の体勢を固めることにつとめました。充分とはいきませんが、癌を扱う外科診療科としては、何とかやっていける基礎ができてきたと思っています。一方、実験面では、癌の手術材料から人癌細胞の培養、その培養細胞を用いての自家リンパ系細胞−腫瘍細胞混合培養反応から、癌免疫発現の確認をおこない、次いで本年からはin vitroにおける宿主リンパ球の癌による感作を、何とか治療レベルにもって行く基礎実験にかかっています。
 このほか、化学発癌や自然発生乳癌の発癌過程で、宿主リンパ球の癌認識能がどう変っていくかをリンパ系細胞−腫瘍細胞混合培養反応でおっかけています。癌では、免疫反応とくに、遅延型反応が低下すると、私共も発表し、一般にもうけ容れられているのですが、それでは癌に対しての反応はどう変ってきたのか、ほとんどその報告(実験的)がないように思いますので、興味をもって進めている実験の一つです。
 勝田班での仕事の命題から、ずれてきましたが、培養癌細胞(ラットの)ができてきたら、再びやるつもりです。JAR-1ラット由来の4NQO誘導培養癌細胞が、生みの親に見放され、養子先がしっかりせず飢え死にとなって、今頓挫しているところで、申し訳ない次第です。data不足で以上で新年の御挨拶にかえさせていただきます。

《乾報告》
 私、昨年8月15日に離日致しまして、米国で、Pasadena Institute for Medical Research,N.I.H.、Roswell Memorial Instituteを訪問した後に、英国での第13回国際細胞生物学会に出席し、Karolinska InstituteにProf.Casperssonを尋ねまして、9月中旬より11月下旬迄、約2ケ月半をSwiss Institute for Experimental Cancer Researchに滞在して、Prof Leuchtenbergerの所で、人間の肺培養細胞に、タバコ煙及びマリハナ・タバコ煙を作用し、初期に誘起される染色体変異の観察並びにMicroflozometryの手法を使用して、核DNAの定量を行ない、昨年暮帰国致しました。
 斯様な次第で昨年は秋、一番仕事の出来ます4ケ月弱を海外で過し、研究成果を上げることが出来ずに申し訳けなく思っております。
 本年は癌原性物質投与後の細胞について"Chromosome Banding Pattern"を指標にし試験管内化学発癌の機構を少しでも解明して行くと共に、Functional Cellの培養を心掛けて行きたいと思います。
 なお、御報告が増々遅れますが、英国の学会の組織培養関係の話題、スイスで行ない、"Nature"に投稿致しました仕事の内容等は次号で書かせていただきます。

《永井報告》
 新しい年がまたへめぐってきましたが、年々歳々物同じからずで、今年もまた何等かの+αをこれまで積み上げて来たものに附け加えて、眼界を広めたいものと念じております。
 癌研究は、しかし、シジフォスの神話のように、折角大石を汗水たらして上の方まで押し上げても、また、ガラガラと麓まで石がころげ落ちてくるものなのでしょうか。それがわかっていながら、なおかつ山の上まで問題の解決という希望のもとに石を押し上げてゆく。「癌とは何か」が依然として謎に包まれている現在、癌研究の現状についてこうした感を深くしますが、然し、"にも拘わらず"一歩でも前へ進まねばならないという意気込みで、癌研究の皆さんが居られることと思います。私も微力ながら少しでもお役に立ちたいものと感を新たにしている次第ですので、今年もどうぞ宜敷くお附き合いの程をお願いいたします。私の新年における願いは、何とかして、癌のtoxic metaboliteの化学的な本態を明らかにしたい、今年こそ、と思っているところです。toxic metaboliteが、熱耐性、酸−アルカリ−耐性、塩基性の低分子で、分子量も1000以下と予想され、化学的性質についてかなりのところまで煮つまってきました。この段階までくれば、あと大きなstepは「如何にして出発物質を多量に得るか」というところにあるかに思います。このmetabolite(s)の、生物学的profileを明らかにする為にも、このことが一つのneckとなりそうです。
 いま一つの私の願いは、細胞膜屋として、何とかして細胞膜の機能と脂質との関係を明らかにしたいというところにあります。どうぞ、この点でも、今年もまたお力添えをお願いいたします。啓白。

《梅田報告》
 すっかり御無沙汰して了いました。予定より少し遅れ、更にロンドンの霧にたたられて、正月に入ってから帰ってきました。短期でも数年振りに国外に留学出来たことは多くの新しい知見を得ることが出来て、有意義だったと感じています。特にアメリカの留学の時と比較して、イギリスの研究生活、研究態度、その他いろいろの面で異る点が多かったので、いろいろと考えさせられました。伝統の上にあぐらをかいて勤務時間だけ仕事をする研究者が大半なのですが、それでもtop levelの仕事が出来ているとすると、日本人の勤勉さも、少し方向を変えてしかるべき様な気がしました。
 ともかく約4ケ月in vitro carcinogenesisの仕事をするには、あまりにも短期間、仲間のDr.Thomas Iypeとがちがち東洋人的仕事をしましたが、結局ぱっとしたデータは出ませんでした。しかしSacks、DiPaolo等の仕事の限界を知ったことは事実です。
 帰り、ロンドンの霧の中ですっかり風邪をひき、いまだに完全に恢復しないこともあって、イギリスでの仕事をまとめるのが苦労になっていました。早速イギリス的怠惰で申しわけないと思いながら、その報告は来月にのばさせていただくことにしました。いろいろの問題がありますので、皆様の御批判を受けたいと思っています。

《黒木報告》
 年頭らしく今年の実験計画をたててみました。基本的な方針は昨年までと同じで、次の三つを目標にしています。
 1.化学発癌剤による定量的トランスホーメーション
 2.動物志望の変異について
 3.cAMP、発がん剤の結合蛋白
これらを併行してすすめながら、そのときの状態に応じて重点を1、2、3、のどれかにうつし、研究を発展させるつもりです。
 1.化学発癌剤による定量的トランスホーメーション
現在分離しつつあるハムスター胎児由来の細胞、BALB3T3、骨髄細胞などを扱うつもりです。BALB3T3は、BUdRなどでC粒子がでるのが明らかなのでウィルスとの関連も含めて実験をすすめるつもりです。
 2.動物細胞の変異について
平板寒天を用いたレプリカ培養を用いて、UV、ts、auxotrophsなどの分離を行いつつあります。3つのprojectsのなかでは、これが目下もっとも順調なので、暫くの間はこのprojectに重点をしぼります。
 3.結合蛋白の分離
cAMPの結合蛋白は非常に複雑で手こずっています。MCA、NQOの結合蛋白と、cAMPの結合蛋白の異同について、できるだけ早く検討し、今後の方針を得るつもりです。
 どこまでできるか分りませんが、頑張ってやるつもりです。よろしく。

《野瀬報告》
今年も今迄の続きの仕事を続けてゆきたいと思っていますが、計画として下のようにまとめてみました。
 (1)Alkaline phosphataseの誘導機構
 この酵素はdibutyryl cAMPによって著しく活性上昇が誘起されることがわかったが、その機構はまだ全くわかっていない。機構を調べる手段としては酵素タンパクの増減、遺伝子の活性化の有無、dibutyryl cAMPによる細胞内諸代謝の変化などの検討など多くの事が考えられる。しかしすべて網羅することはできないので、当面次のことを計画している。
 (a)alkalin phosphataseを精製し、それに対する抗体を作り、活性誘導に伴なって酵素タンパクの増加があるかどうか。精製は現在rat kidneyを材料とし、Butanol抽出など行なっているが、活性が高分子の粒子状として存在し、可溶化に成功していない。
 (b)培養株により、活性の高いもの、低いものがあるので、それぞれの細胞を融合し、どちらの性質が優性かを調べる。活性の調節が核によるのか、又は細胞質に起因するかを決定したい。
 (c)dibutyryl cAMP処理細胞は単に増殖が抑制されているだけでなく、タンパクのリン酸化、DNA含量、Cell cycleなどが正常細胞にくらべ、変化していることが考えられる。これらの点を検討してみたい。
 (2)細胞形質の持続的変動
 (1)の活性誘導の問題は、現象として一過性のもので、誘導物質を除くと、すぐに元のレベルに戻ってしまう。この現象を永続的な性質に固定することを検討してみたい。一般に癌化は不可逆的変化だからである。現実に、rat liver由来の細胞株の中にも、alkaline phosphatase活性が常に高いものがあり、またL・P3のγ-線耐性株でやはり高い活性を示すものがある。このような性質を再現性よく、しかも永続的に変化させる手段は興味あるテーマと思われる。
 
【勝田班月報・7302】
《勝田報告》
 これまでかなりの細胞株を4NQOで処理してきたが、未報告の実験がかなりあるので、主に復元成績について一応整理してみた。(表を呈示)
 JTC-21・P3(ラッテ肝・なぎさ変異・合成培地系)は4NQOで処理したが復元成績は0/2。
 RLG-1(ラッテ肺上皮様細胞)は4NQO及びNGで処理したが、control共々復元成績は2/2。
 M(ラッテ肝・なぎさ→DAB変異)の4NQO処理は1/2、NG処理0/2、controlは0/3。
 RPL-1(ラッテ腹膜細胞)のNG処理は生后4日JAR-1xJAR-2のF1に接種。処理群は接種約1.5月後、2匹中1匹の腹部に小豆大の腫瘤を発見。これがゆっくりと増大、死亡時胸腔内に転移あり。死因はその転移によるものらしいが、carcinomaではなく、或いはhistosarcomaかとも疑われる。(癌体質研究部の診定) controlは2匹中1匹が肺炎で死亡。

《高木報告》
 1.培養内癌化の指標としてのsoft agarの検討
 これまでも報告した通り、serum factor freeの血清を用いて平板寒天法(黒木法)により正常細胞RFLC-5細胞および腫瘍細胞RRLC-11細胞の、plating efficiencyを調べてみた。用いた血清は無処理の対照、48時間蒸留水、24時間Hanks液で透析した血清(1/1)、硫安1/3飽和上清を48時間蒸留水、24時間Hanks液で透析した血清(1/3)、の3種である。これらをMEM培地に10%添加して各4枚のPetri dishにつきcolony形成能を比較した。agar濃度は0.5%である(表を呈示)。結果は表の如く、RFLC-5細胞はagar内に全くcolonyを作らない。RRLC-11細胞では対照、1/1血清で殆んどcolony形成能に差はみられず、1/3血清ではそれらの約半分に低下した。以上の結果でみる限り腫瘍性の有無をみるには平板寒天法のここに用いた条件ならばserum factorなど考慮しないでも生える、生えないで一応判定できることになる。対照の血清を用いた場合でもPEが低い(200ケの細胞をまいた)点はさらに検討しなければならない。他の2〜3正常、腫瘍細胞株についても検討している。
 2.RRLC-11細胞より分離された毒性物質(virus)の追求
 細胞種による感受性のちがい:一部の細胞は増殖があまりよくないのでまだ細胞種は少ないが、RFLC-5、RFLC-3、Sg(ラット唾液腺より分離)、LC-14(ラット肝細胞)、L細胞などは変性をおこす。JTC-16(7974)、RRLC-12、-13(RRLC-11の再培養株)は変性をおこさない。
 Virusのpurification:VurusをRFLC-5細胞に作用させ変性した時の培地を集めて40,000rpm 90分遠心後、DEAEcellulose Columnを用い、10mM pH7.0のphosphate bufferによりNaCl0〜1.0Mのlinear gradient elutionを行った。O.D.280nmでみるとNaCl 0.2〜0.3Mに、peakがあり、その活性を調べている。

《堀川報告》
 同調培養されたHeLaS3細胞の、細胞周期を通じての放射線および化学発癌剤(4-NQO)に対する感受性差支配要因の解析はくした各種物理化学的要因の動物細胞に対する障害作用ひいては動物細胞のもつこうした障害からの修復機構の解析にすぐれた系であるとして、私共の研究室で研究を進めているが、今回はこれまでに報告してきた結果を更にConfirm出来るような結果が得られたのでこれを追加して報告する。
 (1)まずUV照射に対するHeLaS3細胞の同期的感受性曲線は、従来図1に示すような結果が得られていた(図を呈示)。つまりmiddleS期とM期が最もUVに対して感受性が高く、G1期やG2期はそれに比べて感受性は低い。こうした感受性差を説明するものとして各期の細胞をUV照射した直後、DNA中に形成されたTTの量を分析すると、S期のDNAはG1期やG2期に比べて約2倍量のTTが形成されることがわかっている。これらを更に広いPhaseにわたってUV照射し、その直後にDNA中に形成されるTT量を調べた結果が図2である(図を呈示)。これらの図からわかるようにS期の細胞ではUV照射後G1期やG2期の細胞に比べてより多量のTTがDNA中に形成されることが再確認された。しかし、一方M期のUVに対する高感受性はTT量とはそれほど明白な関係が見出されなかった。このことは、分裂期のDNAはS期のDNAとは構造的にも異なり、UV照射によってTTが形成されにくいのかもしれない。いづれにしてもUVに対する同期的感受性差支配要因として各期におけるTT形成量の違い以外に何か別のfactorを考えねばならないのかもしれない。
 (2)一方、4-NQOに対しては、X線やUVとも部分的に異った周期的感受性差を示すことについては、これまでに報告してきたが、では一体4-HAQOに対してはどうであろうか。これらをまとめて3図に示す(図を呈示)。これらの図からわかるように、4-HAQOに対するHeLaS3細胞の周期的感受性曲線は、4-NQOに対するそれと、本質的に同じであることがわかる。こうした結果は、4-NQO誘導体のactive formが4-HAQO周辺のものにあると考えれば、当然のことかも知れない。

《山田報告》
 腹水肝癌培養細胞JTC-15(AH66TC)のsublineであり、腫瘍性(可移植性)の著しく異なる、AC-4、AC-5株について、細胞電気泳動的に比較検索した結果を書きます。
 この細胞については、以前一回検索したことがありますが、この時の実験に不確実な所がありましたので、今回はくりかへし調べてみたわけです。
 (表を呈示)表1に示します様にノイラミニダーゼ感受性は明らかにAC-5に著明です。その差は二倍もある様で、その可移植性の成績と一致します。しかし全体としてノイラミニダーゼ処理により泳動度の低下が少し強い様ですが、それは今回CBCのノイラミニダーゼ10単位を用いたせいだと思います。いままでの成績と比較するために、標準細胞(ラット赤血球)の感受性を比較して全体に補正をしたいと思って居ます。何れにしろ、相対的にはAC-4のノイラミニダーゼ感受性は低いことが確かです。
 次に、この細胞系のConcanavalinAに対する反応性を検索してみました。(図を呈示)図1に示します様にAC-5は二回の検索結果が殆んど同じですが、AC-4は2回の検索結果が異ります。また1mMの(But)2cAMP及び1mMテオフィリンを37℃30分作用させた後の変化、及びあらかじめノイラミニダーゼ処理した後に(But)2cAMPを作用させた変化を、表2(表を呈示)に示します。この結果については、次回基礎実験成績を混へて考察したいと思います。

《乾報告》
 今月は、X th International Cngress of Cell Biologyで発表された組織培養関係の話題を二、三紹介すると共にSwiss Inst.for Experimental Cancer Res.で行なった仕事の結果の概略を報告します。
 International Congress of Biology:全体として私の感じでは、Cytology及びTissue cultureに関する仕事は低張のようでしたが、その二、三を紹介致しますと、Dr.M.Harrisが主催した"Life spane and Transformation in Cell Culture"と云うSymposiumでは、Dr.DiPaolo、Barski、Harris、その他一名のSpeakerによって討議され、培養内での細胞のLife spaneと云う問題に関しては、白血球細胞の如く、完全にLife spaneをもつものがあるが、一般の培養細胞では、CellのLife spaneをどの様に定義するかは難しく結局図1(図を呈示)でA又はB、特にAの期間を培養された細胞のLife spaneと考えては提唱されました。
 次の問題としてはそれでは広義TransformationのIndicatorとして細胞、又は細胞集団のどの様な性格を取り上げれば一番いいのかと云う事が討議されましたがこれはDr.DePaoloの独断場で、彼はKaryotypeの変化、Malignancyの獲得、Plating property、cotact Inhibi-tionの低下、Maximum population percm2、Arrangement of fibroblast、colony formation in agar、Growth ability in suspending culture等を提げ細胞レベルでのTransformationと生物レベルでのTransformationは、各々分離して考えるべきだと強調していました。その他の話題として、Chemical、Viral induced transformationの違いが話題に上り、後者はIntracellular informationが新たにCell内にくみ込まれるに反し、前者はそれがないと理解したら整理しやすいが、この場合、Spontaneous transformationをどのように取り扱うかが問題になり、結局広義のChemical inductionと考えたら?と云うような事になったと理解しました。
 その他Cell cycleにおける細胞内の色々な出来事に関して、Dr.BasergaがChairmanで、Dr.Tayler、Abercrombie、Moor等がBiochemical events during the initiation of proli-ferationと云うSymposiumで話題を提供しました。ここでの一番の問題点は、Cell cycleをG0、G1、S、M、G2期と規定し、G0からG1への移行がどの様な機構で行なわれるかと云う点が最大の論点で、何らかの機序(Stimulation)でNew Geneのactivationが起り次いでNew M-RNAsynthesis、chromation template activityが上り、Cellはproliferation cycleに入って行くと云う話題がHuman normal cell、Rat kidney cell、部分肝切除等の実験系で提供された。その他、この班に比較的関係があったと思われるSymposiumを上げると、Control of cell diviion(E.Zeuthen)、Cell surface and cell growth(Stoker)等であった。
 Swiss Inst.for Experimental Cancer Res.:約3ケ月弱の滞在中二つの事を行なって来ました。一つは、ハムスター繊維芽細胞に煙草タールを作用してtransformationをさせる系の確立で、日本でやっていた実験の移植です。他の実験は、Normal adult lung origineのfibroblastにPuffの型でKentucy種タバコ、マリハナタバコ煙を作用し、以後経時的に4週間、染色体観察、核DNA量の測定を行ないました。詳細なデータは現在整理中で、次号にゆずりますが、綜合データでは図2(図を呈示)に示す如くKentackyタバコ、マリハナタバコ作用群では染色体分布の巾が正常に比較し拡がります。核DNA定量でも、図3の如く同様な傾向がより強調された型で表われますが、単位核DNA量の増加は、分裂中期に比して後期細胞で著明です。

《黒木報告》
 §BUdR光照射によるUV感受性細胞分離法への疑問§
 堀川さんのやっているBUdR光照射法によってUV感受性細胞を分離する方法を追試しようかと考えたところ、その理論的及び実験的不確かなことに気がついた。つまり、(A)UV照射後t時間BUdRを添加し光を照射する。(B)UV照射後t'時間おいてt時間BUdRを添加する。(図を呈示)(A)(B)のいずれかのscheduleをとるかtをどの程度の時間にすべきかをきめるため、window法でUV照射後のコロニーの増殖を一つ一つのコロニーについて観察した。すなはち、0.5%平板寒天の90mmシャーレ底面に約2mmの穴を70〜80ケあけた紙をはりつけ、L5178Y細胞を2000ケまいた。一群はコントロールとし(UV無照射)、一群は2枚に50ergの紫外線を照射した。以後毎日倒立顕微鏡でコロニーの増殖をスケッチした(5日間)。典型的な例では、(図を呈示)図のように倍々とふえていった。結果を図表に示した(図表を呈示)。SchedulAでもしスクリーニングできるとすれば、A〃fractでありSchedulBではBB'fractionである。しかし、ここではBB'fractionが本当に後にgrowthが回復するかどうかみていない。
いずれにしても、感受性cloneはE(died without division)の形で死んでいくのではなかろうか。そうするとBUdR法が適用できなくなるように思える。
細菌の場合もUV感受性細胞はペニシリン法で分離されていないようなので、やはり面倒くさくてもレプリカ法によるべきように思はれる。レプリカのdataは班会議の時に発表する。
《野瀬報告》
 各種細胞のarginine要求性
 肝細胞特異的な生化学的指標としていくつかの例が知られているが、現在、培養細胞でこれらを検出するのはむずかしい。指標のうちの一つのarginine合成系酵素は、尿素回路を構成する酵素で、carbanyl phosphate+ornithine(1)→citrulline(2)→arginosuccinic acid(3)→argineの一連の反応を触媒する。Argはほとんどの培養細胞にとって必須アミノ酸なので、Arg要求性の有無により、この系の酵素活性を推定できる。そこで細胞の遺伝情報発現を見る示標の一つとして、このArg代謝を若干検討した。完全合成培地中で継代されている細胞はこのような実験には適していると思われる。(図を呈示)図は、JTC-25・P5細胞のMEM(-Arg)中でのgrowth curveである。培地にArgの前駆体を加え、growthに対する影響を見ると、JTC-25・P5はcitrullineをArgとほぼ同程度利用していることがわかる。従ってこの細胞は(2)(3)の代謝系は持っていることになる。carbamylphosphate又はornithine単独では-Argと全く同じで細胞は死んでゆくか、これらを同時に加えるとgrowthはないが細胞は死からある程度救われる。しかしこれら前駆体の濃度を上げてもgrwothは見られなかった。このことはJTC-25・P5細胞には弱いながらも(1)の酵素(ornithine transcarbamylase)が存在することを示唆する。
同様の実験を次の6種の細胞について行なった。このうちRLC-10、CHO、HeLaS3はMEM(-Arg)+10%dialyzedCSで、L・P3、JTC-21・P3はそれぞれDM-120、DM-145からArgを除いた培地中で培養した。CitrullineをArgの代わりに利用できる細胞株は多いが、carbamylphosphate、ornithineを利用できる株は肝由来の細胞に関しても見つからなかった。
 Arg代謝に関してはPPLOの関与が重要なので、千葉血清研の橋爪先生にこのcheckをお願いしたところ、表のように使用したすべての株において検出された。(表を呈示)。PPLOはArginine代謝系酵素をもつものが多いので、この結果から、表1の結果が細胞の性質を示しているのかどうか疑わしくなった。しかし図1で用いたJTC-25・P5はPPLOのtiterが非常に低く、3回増菌培養をくり返して初めて検出された程度なので、この細胞に関してはPPLOの代謝系の関与は無視できるのではないかと思われる。
 細胞の生化学的markerとして、Arg要求性を用いようとする試みは、PPLOがこれ程広く混入している点から考えて非常に困難であると思われる。

《梅田報告》
 (1)イギリスで行ったin vitro transformationの仕事の大要を報告します。結局は、DiPaoloの追試をしたに止まる実験をしてきたのですが、当初の目的は以下のような物です。 先ずDr.Iypeのアイデアだったのですが「in vitro carcinogenesisにおいて発癌剤投与で弱って死にそうな細胞同志がhybridを作ると元気になって悪性化した細胞として増生してくるのではないか」と考えました。これに関する実験を行ってみましたが、とにかくそんな考え方で文献をしらべてみますと、丁度Eagle等がhigh pHの培地で雑種形成が促進されると報告しているのに気付きました。更に、Eagle等は前から培地をやや高目のpHで培養するとcontact inhibitionを示すべき細胞が、contact inhibitionを示さなくなることを報告していることもあり、pHの影響に興味をもち始めたわけです。
 (表を呈示)ところが表1に示すように、DiPaolo等のハムスター胎児細胞を使っての仕事はDulbeccoのmodified MEMを使っており、重曹量が非常に多いのです。一般のMEMのEarleのsalineは2.2g/lでこれでさえも培養操作中にpHが上昇してくるのは周知の事実です。いわんや3.7g/lの重曹量においてはどうなるか想像に難くありません。私のところではそれがいやで前から重曹量を1.1g/lにへらしています。勿論培養中は目的のpHが保たれる様、炭酸ガスのtensionを調節しています。
 そんなことからin vitro carcinogenesisに短期で成功するには培養のある時期にhigh pHが作用している可能性があっても良いのでないかとのworking hypothesisをたてたわけです。
 (2)そこで今迄報告されている中で一番短期間で実験の出来るsyrian hamster embr-yonic cellsを使うDiPaoloの方法でこのpHの影響を調べることにしました。(Balb3T3は入手出来なかったので)
 ところがそれからが大変で、Eagle等の報告によるHepes等のgood buffer系でpHを調製するのに一苦労しました。考えてみればあたり前のことで、彼等はgood bufferの混合を使いながら5%炭酸ガスフランキで培養しているものですから、good buffer+重曹bufferの二重のbufferで調製していることになります。ところがgoodのbuffer系そのものが溶解後NaOH或はHCl液でpHを調製するので、重曹を入れてからではpHが調製し難いし、重曹を入れる前にpHを調製してからでも、5%の炭酸ガス圧に合う重曹量を各pHで更に求めなければならないわけで、pHの調製のためには二重手間を強いられます。しかも無菌的に行うには更に大変なことでした。とにかくEagle等の論文には表が無造作に簡単に書かれていますが、調製は大変なことに違いありません。
 やっとの事で殆目的に近いpHに調製出来るようになってからわかったことはハムスターの胎児細胞(primary)はgood buffer系には強くないことです。Plating efficiencyは全く低下します。
 (3)それで今度は丁度incubator boxがあったので、これを使って普通の培地(2.2g/lの重曹)でgas相を変えて、コックを閉めてから37℃で培養を続けたらと考えました。この目的のため炭酸ガス相を10%から1%と各段階を作り実験してみました。これも思ったよりpHの調節が難しくなかなか目的のpHにconstantにもっていくことが出来ませんでした。
 致し方なく今度は実験を縮少して、研究室にある2つの炭酸ガスフランキをそのまま使ってみることにしました。これは共に良好なgas flowmeterがあるので、安定したガス混合物が得られるので、1つは5%、1つは2.5%(アルカリ側に興味があったので)で実験してみました。各pHでずっと細胞を培養する他にハムスター胎児細胞を植えこんだ時だけ2.5%に、発癌剤処理の時だけ2.5%にしたり色々の組合せも行いました。
 (4)ところがgood bufferやincubator boxを使っているときの対照に、即ち5%炭酸ガスフランキでずっと普通に培養して発癌剤処理をしたものに、どうもtransformした様な形態のものがあることを見出しました。しかも以後の実験での結論は、2.5%炭酸ガス圧の処理群でtransformation rateが著しくあがることはありませんでした。とにかく、ここらへんで気のついたことは、(1)先人のデータを検討してみると、一群のシャーレが10枚以上使われていること、(2)出てくるcolonyの形態はいろいろで、transformed colonyとの判定が非常に難しいこと、(3)更に、時々対照にも所謂transformed colonyらしいものが見出されること等です。
 (5)(1)については、シャーレの数を多くしないとtransformed fociの数が充分得られず、データを統計的に解釈するのが難かしくなってくるわけです。各実験でシャーレの数を多くすれば問題ないのですが、あまりにも大規模な実験となり能率的でないし、かえって実験誤差も生じやすいようです。
 (6)(2)としては、われわれのこの実験の前提は始めからSachs、DiPaoloの云う形態だけで、transformしたものかどうか判定することでした。復元実験などするひまもなかったからです。ところがこの形態だけで判定するには非常に困りました。多彩な形態で移行が沢山あるからです。少くともなるべく客観的な方法で判定出来るように考え、次のように考えてみました。
 Colonyの判定 S:sparse colony。M:monolayer colony。P:piled up colony。
        O:orderly oriented。R:randomly oriented。
 SOO:Sparse colony with orderly oriented cells in the center
and orderly oriented cells at the periphery of the colony.
 SOR:Sparse colony with orderly oriented cells in the center
and randomly oriented cells at the periphery of the colony.
SRO、SRR、MOO、MOR、MRO、MRR、POO、POR、PRO、PRR
3つの大文字を並べて書き、最初はcolonyの細胞増殖の状態、即ちsparseか、monolayerか、piled upかを記載し、真中の大文字はOかR、即ちcolonyの中心部の細胞のorientationを記載し、最后に又OかR、即ちcolonyの周辺部の細胞のorientationを記載しました。更にOかRの判定もいろいろの程度があって難しいのですが、我々は細胞の50%以上が、randomにあちこち向いている場合Rとしようと取りきめました。勿論これでRと判定されたものが本当に悪性かどうか復元実験をしていないので何とも云えませんが。
 こうしてデータをすべて検討してみますと、多くのpiled up colonyはすべて中心部にRfactorが多いことです。そして周辺部の細胞はorientedのものが多く、われわれの経験でが之等は悪性でないと思わざるを得ませんでした。即ちPOO、PORはあまりなく、SORとかMROがみられないこともあり、一応transformed colonyとして判定するのはあくまでも便宜的ですが形態的にcolonyの周辺部の細胞の並び方だけに重点をおき50%以上の細胞がrandomに並んでいることを判定の基準としました。
 (7)(3)は上の測定基準にしたがっても、どうしてもtransformed colonyとして判定せざるを得ないcolonyが確かにcontrolにもあるのです。
 (8)以上のような基準にしたがって沢山の失敗実験の中でややきれいなデータを集めると表4になります(表を呈示)。1.2.実験は小さな実験でシャーレ5枚宛ヲ使っています。3.4.5.実験は15枚以上のシャーレを使った大実験です。又4.5.はpHの問題をあきらめきれずに、4.ではハムスター細胞を植えこんだ時の1時間だけ、5.では発癌剤処理の2時間を、2.5%の炭酸ガス圧にした時のデータです。(終わり)

【勝田班月報:7303:SytochalasinBによる細胞の無核化】
《勝田報告》
 ラット肝癌細胞の放出する毒性代謝物質についての研究
 1)各種細胞からの代謝物質の毒性試験:
 細胞を4日間培養した後、その培地をSephadexG-10及びG-25で分劃し、それをRLC-10(2)(ラット肝細胞、可移植性なし)、JTC-25・P3(ラット肝由来、なぎさ変異、完全合成培地内培養株)の培地に添加してみた(図を呈示)。培地はJTC-1(AH-130由来)、JTC-15(AH-66由来)、JTC-16(AH-7974由来)、JTC-16・P3(同、完全合成培地内継代)の細胞からとった。RLC-10(2)、JTC-25・P3ともに、各種肝癌培地添加によって増殖を阻害された。JTC-15は可移植率の低い細胞株であるが、培養後培地の細胞毒性も他の肝癌より低い。JTC-16・P3培地が最も細胞毒性が強い。またJTC-16培地をG-25、Dowex50、IRC50を順次にと通して得られた分劃は、G-25のみのものに較べて比活性上昇はみられなかった。
 2)JTC-16細胞(ラット肝癌AH-7974由来)の培地分劃の各種細胞に対する影響:
 JTC-16を4日間培養後の培地をSephadexG-25、Dowex-50H+で分劃し、そのアルカリ性分劃を採取して各種細胞の培地に添加してみた(表を呈示)。これは形態学的にしらべた結果であるが、正常ラット肝(RLC-10)は著明に阻害され、正常ラット肺センイ芽細胞(RLG-1)も若干阻害されている。しかしラット腹水肝癌JTC-15(AH-66)、JTC-16(AH-7974)、培養内自然発癌RLC-10B、養内4NQO処理による癌化CQ#60の各系は、何れも阻害されていない。
AH-7974由来で完全合成培地内継代株のJTC-16・P3の培養培地からの分劃を各種細胞の培地に添加した(図を呈示)。最高濃度の4mg/mlのところでは各種細胞いずれも阻害を受けているが、2mg/mlでは細胞の種類によって(正常肝由来は著明に増殖阻害を受ける)障害度にかなり差がみられ、肝癌細胞は障害され難いことが判る。
 肝癌の毒性代謝産物が、あるいはSpermineかSpermidineではないかとの仮定の下に、RLC-10(2)細胞に対する影響をしらべた結果(図を呈示)、μgの単位で強烈な細胞毒性が示されている。しかしこの結果からすぐ同定することは困難である。

《永井報告》
 §ラッテ腹水肝癌AH-7974細胞の培地内に放出する毒性代謝物質:化学的プロファイル
 これまでラッテ腹水肝癌細胞AH-7974が培地内に放出する毒性物質について化学的な面から追究をおこなってきた。ここでは、これまでの研究成績を振り返って、一つの総括をおこない、今後の研究への足がかりとしたい。
 *総括-1:毒性代謝物質は低分子で、その分子量は500を越えないであろう。(理由)SephadexG-10カラムでtripeptide〜depeptideが溶出される領域に現れること。
 *総括-2:本物質は耐酸、耐アルカリ、耐熱性である。
(理由)6N-HCl、105℃、18hrの酸分解処理で毒性は低下しない。時には毒性力価の上昇をみる場合があり、a complex formで存在している可能性を示唆した。4N-NH4OH、100℃、3hrのアルカリ分解処理で毒性は低下しなかった。
 *総括-3:本物質は強塩基性である。
(理由)強酸性イオン交換樹脂Dowex50(H+)に強い親和性を呈したほか、弱酸性イオン交換樹脂Amberlite IRC-50(pH4.7)に対しては、普通の中、酸性および塩基性アミノ酸の溶出される条件下で樹脂より溶離されず、強酸性下で始めて溶離されること。(注)初期の実験では、Dowex-50(H+)カラムで素通りする酸性分劃に活性を認めたことがあり、塩基性物質のみが毒性代謝物質の全てであるとは云えないかもしれない。この点は注意を要する。
 *総括-4:現精製段階での毒性物質分劃には、可視、UV領域に亙って特性吸収は認められなかった。
 *総括-5:毒性物質は又ヌクレオシド、ヌクレオチド、プリン系塩基である可能性は少ない。但しピリミジン系塩基である可能性は残っている。
(理由)(i)ヌクレオチド、ヌクレオシド(実験例:アデノシン、AMP、UMP)が95〜98%吸着される条件下の炭末で、毒性物質分劃を処理した時に、約50%の毒性活性しか吸着されなかったこと。(ii)6N-HCl、100℃、18hrの酸分解処理で毒性力価の低下をみなかったこと(総括-2を参照)は、この条件下でプリン系塩基が破壊を受けることから、本毒性物質がプリン系物質でないことを意味している。
 *総括-6:本物質がニンヒドリン陽性物質、アミノ基をもつ化合物かどうかについては、現段階では、まだ結論は出ていない。
(理由)ペーパークロマトグラム上で、確かにニンヒドリン陽性物質が幾つか検出されるが、その各々を分離しておらず、今後の精製段階での再検討が必要である。
 *総括-7:高圧ロ紙電気泳動を行った後、ロ紙各部分より泳動された物質の溶出を行い毒性力価を検定したが、どの部分からの溶出液についても、毒性は検出されなかった。この原因としては、総括-3に述べたように本物質が強塩基性であるために、泳動度が高く、泳動され過ぎてしまった(−極へ)ためロ紙より回収されなかったと考えるか、或は、その可能性は低いが、本物質が揮発性のため回収段階で蒸発消失してしまったとも考えられる。現在、前者の可能性を推定している。
 以上述べたように、本毒性質の物理的、化学的性状については、一応の結論の出せる段階まで来ており、憶測ではあるが、ポリアミン系、ピリミジン系、或いはアミノ糖系の塩基性物質と予想される。精製分離系統も、Amberlite IRC-50による系が確立されており、今後は多量のstarting materialを得て、単離を試みる段階に到ったと云えよう。また、亜硝酸ソーダによる処理で脱アミノ反応を試み、〜NH2 group(例えばアミノ糖)の可能性があるかどうかを探ることなど、種々の計画が現在たてられている。

 :質疑応答:
[堀川]この毒性物質は細胞のどこをアタックするのですか。
[勝田]合成系をやっつけるというより、もっと積極的に殺しているようですね。
[山田]合成系をアタックする場合は、先ず核に異常が起こるはずですね。
[松村]スペルミン、スペルミジンは癌細胞に対しても毒性をもっていますか。
[藤井]なぎさ変異の細胞に対してはどうでしょうか。
[高岡]まだJTC-25・P3についてのデータしか持っていません。
[永井]こういう物質で癌細胞かどうか同定できると面白いですね。
[堀川]JTC-16の培養液からとれる物は、スペルミンそのものではないが、スペルミンに一寸修飾が加えられたようなものかも知れませんね。
[永井]低分子物質の分劃は塩との分離が難しいのが難点ですね。
[勝田]今のところ、はっきりしているのはラッテの腹水肝癌由来の培養細胞は強弱はあっても皆、培地中に正常肝細胞に対する毒性物質を出しているということです。まずはJTC-16を材料にしてその毒性物質が何かを決定して、それから他の肝癌の出すものを同定しようとしているのです。
[乾 ]培地からだけとれる物ですか。細胞をすりつぶしても出てきませんか。
[勝田]そもそも端緒は双子管培養で液層を通じての相互作用をみたことから始まっているのです。ですからその液層を先ず分析したのは、その線を通している訳です。
[藤井]担癌動物の血清中にはその物質は出ていませんか。
[高岡]物質としてはっきり決定されれば、その物が血清中や腹水中に出ているかどうか調べるのは簡単でしょうね。しかし材料として血清を使うのは分劃が大変です。なるべく単純な組成のものを材料にした方が分劃は楽だと思います。
[勝田]物が決まれば、診断などにも使えるかも知れません。又動物実験にもっていって免疫機構に関係があるかどうか調べてみるつもりです。
[野瀬]スペルミンを失活させると毒性はどうなるでしょうか。
[永井]そういう実験も考えていますが、スペルミンそのものではないだろうと思っています。培地に出るものという事からホルモンのようなものも考えています。

《高木報告》
 1)培養内悪性化の示評について
 細胞は正常細胞としてRFLC-5細胞、腫瘍細胞としてRRLC-11細胞を使用した。
 培地はMEM、199、MEM+0.1%BP、F12などについてPEにより検討したが、ここに用いた細胞についてはMEM+0.1%BPが最も適していると思われた。従ってこれに10%の血清を加えて実験を行った。
 血清についてはTodaroらの云うSerum factor freeの血清につき検討した。Serum factorを除去する方法は硫安塩析法によった。硫安1/3飽和および1/2飽和後の上清の処理法についても種々試みたが、蒸留水で48時間透析し、さらにHanks液で12時間透析する方法がPEでみた場合一番よいことが判った。
 細胞の植込みはagarを用いる場合にはSoft agar法よりAgar plate法(黒木)の方が操作が簡便であるので、これを用いることにした。
 Serum factor free牛血清につきRFLC-5およびRRLC-11細胞の増殖に及ぼす影響をみると、RFLC-5では明らかに増殖の抑制がみられ、一方RRLC-11細胞は対照と殆んど同程度の増殖を示した。
 Agar plate法による結果は先報に報告したが、その後行った実験では(表を呈示)、より良好なPEの成績を得た。先報のPEが悪かったのは細胞をまく際の技術的問題があったのだと思う。
 RFLC-5細胞はやはりcolonyを形成せず、RRLC-11細胞についてはcontrol、1/1serumでは28.6%、29.8%と有意差なく1/3serumでは5.0%のPEを示した。この方法によればRFLC-5細胞は対照血清を用いてもcolonyを作らないため1/3serumを用いた際の差は比較出来ない。今後はRFL細胞を化学発癌剤で処理直後より1/3または1/2血清を含む培地中で培養し、悪性化した細胞をより早くselect出来るか否かを検討する予定である。
 2)RRLC-11細胞の放出する毒性物質(virus)について
 これまでの経過を追ってdataをまとめると、
 (1)限外濾過されない。
 (2)超遠心:40000rpm 2時間で上清は完全に失活する。30000rpm 1時間では部分的に上清に活性が残る。
(3)-20℃の凍結保存で少なくとも4週間は活性が保たれる。
(4)温度:75℃30分で失活、65℃30分で部分的失活、60分ではいずれの温度でも失活、56℃30分では失活しない。
 (5)pH:酸性で活性やや弱目。
 (6)活性は血清のlotにより影響をうけるようである。
 (7)RRLC-11の培養液をRFLC-5の培養開始と同時に作用させると3〜4日で、またfull sheetに作用させると7日位たって変性がおこる。なお変性のおこった時点で培地を集め次代のRFLC-5細胞に作用させると活性が高まり、しかもRFLC-5でこの活性は継代出来る。このことから毒性因子はvirusであることが想定される。 以下virusと記載する。
 (8)変性をおこしかかったRFLC-5およびその培地を電顕的にみると、細胞の内外に連なった粒子を認める。培地の超遠心沈渣のnegative stainingでは連鎖状につらなった20〜30mμの粒子がみられる。RRLC-11細胞の電顕像ではこのような粒子は認めえず、C型粒子がわずかに散見される。
 (9)このvirusは鶏卵のallantoic cavityでは増殖しない。
 (10)Plaqueは作らないようである。
 (11)モルモットの血球を凝集する。継代によりtiterは32倍から最高256倍位まで上昇する。ニワトリ血球は凝集しない。37℃におくと凝集はなくなり溶血がおこる。すなわちvirusはhemolysinを有し、Neuraminidaseをもっているようである。KIO4で処理すると凝集はなくなる。血球のcarbohydrateのreceptorと結合することが分る。
 (12)Suckling ratにこのvirusを注射し、生き残ったratの血清、および家兎免疫血清でHIがみられるが、抗HVJvirus血清では抑制はみられない。
 (13)細胞種による感受性ではRFLC-5、C-3細胞、Sg細胞(ラット唾液腺由来)、LC-14細胞(ラット肝由来)、L細胞は変性をおこす。JTC-1、RRLC-11細胞では増殖がわずか抑えられ、JTC-16、Vero細胞では対照同様増殖する。

 :質疑応答:
[梅田]このウィルスは発癌性についてはどうなのでしょうか。
[高木]私もそれを考えて動物に接種してみましたら、はっきりした結果を得られないうちに死んでしまいました。解剖してみましたが、発育不良と肝の一部に石灰化の所見があっただけでした。
[佐藤二]培養しているだけではウィルスの存在はわからないのですか。
[高木]正常な細胞とかけ合わせないと分からないのです。
[佐藤二]人とかマウスとか他の動物由来の細胞にはどうですか。
[高木]人には無害だと思います。猿由来の細胞は変性しません。マウスについてはデータはありません。
[山田]電顕はほんの一部をみるだけですから、全くウィルス粒子がないと言い切るには相当沢山の標本をみなくてはいけませんね。
[高木]そうですね。全くないとは言い切れませんね。それからこのウィルス様のものは血清の影響を強く受けます。仔牛血清では出ないが牛胎児血清では出ます。

《山田報告》
 (But)2cAMPの細胞膜への直接作用についての基礎実験成績を報告します。(各実験毎に図表を呈示)細胞はほとんど腹水肝癌AH66Fです。(But)2cAMP、Neuraminidase、Trypsinを相互に作用させた結果を示します。Neuraminidaseの作用条件条件は従来通りでLBC製のものを10unit用いています。(But)2cAMPを作用させると細胞の表面荷電は上昇し、しかもあらかじめneuraminidase処理しておくと、この効果は増強しました。しかもこの効果はConAの作用とは異り、シアル酸依存荷電が新たに露出するためではないことがわかります。トリプシン処理ではこの効果は変化ありません。
 またあらかじめneuraminidase処理しておいた後の(But)2cAMPの効果には定量性があり、この効果は細胞膜の特異的変化であることを確かめました。
 即ち(But)2cAMPと比較の意味で、CiAMP、AMP、Trypsinをそれぞれ作用させてみますと、(But)2cAMPに特に著明に、そしてcAMPでは軽度の泳動度増加作用があることがわかりました。即ち(But)2cAMPの特異的な作用と思われます。
 次にneuraminidase及び(But)2cAMP処理後のConAの作用をみました。ConAの泳動度上昇の効果は著しく阻害され、通常では既に細胞の凝集を起こす様な濃度でもその作用が極めて少く、100〜200μg/mlの濃度で若干の泳動度の増加をみるのみでした。
 最後に(But)2cAMPの腹水肝癌と正常及び再生肝に及ぼす効果を比較しました。先きに示しました様に肝癌細胞は(But)2cAMPにより強く反応しますが、一般に良性の肝細胞の反応は著しく弱く、両者の最も異る點は、Neuraminidase処理後の(But)2cAMPの効果です。正常肝は肝癌に比較して泳動度の増加が著しく弱い様です。この成績はまだ荒けずりの成績ですが、これから、この作用条件を充分検討し、in vitroにおける悪性化の指標の一つに(But)2cAMPの効果の違いが役に立ち得るか否かを検討して行きたいと考えています。

 :質疑応答:
[勝田]細胞電気泳動にかける時、肝細胞はどういう方法で分離していますか。
[山田]動物から肝臓を取り出し、鋏で切ってメッシュで漉すだけです。
[梅田]生死判別はしてありますか。
[山田]してありません。
[梅田]正常肝細胞は、集め方が悪いと電顕的にみて膜に穴があく事があります。
[勝田]還流法などを利用してみたらどうですか。
[山田]私も昔ヒアルロニダーゼなど使ってみた事はありますが、酵素を使うと膜に変化が起こってよくないようです。
[堀川]しかし泳動中に色んな反応がないのは、むしろ死んだ為ではありませんか。
[山田]その点も考えて、できれば培養細胞を使いたいと思っています。
[勝田]再生肝の場合必ずしも全体が増殖している状態ではないでしょうね。
[山田]私の場合、肝臓は2/3切除して、再生というより急性肥大しているような術後2日目のものを使っています。ConAはそれ自身に荷電がないので膜の変化といっても良いと思いますが、(But)2cAMPの場合はそれ自身の荷電があるので、それが影響しているのかとも考えられますが・・・。
[梅田]Butyrateだけではどうですか。
[野瀬]Butyrateだけで起こる変化もありますね。(But)2cAMPはコルヒチンで抑えてみたらどうですか。
[堀川]というのは・・・。
[野瀬](But)2cAMPで起こる形態変化はコルヒチンで抑えられます。
[堀川](But)2cAMPを直接肝癌細胞に作用させると泳動値が減少するが、neuraminidaseで予め処理してから(But)2cAMPを作用させると上昇するというのは、(But)2cAMPの取り込み方が違ってくるからでしょうか。
[山田]そうかも知れません。
[勝田]電気泳動で捕まえられるのは本当に膜の表面の荷電だけですか。
[山田]理論的にはそのはずです。
[堀川]膜が細胞内を支配するかも知れないが、細胞内の変化が膜に影響を与える事も考えられますね。

《堀川報告》
 培養された哺乳動物細胞用のレプリカ培養法を使用してChinise hamster hai細胞から各種栄養要求株、または非要求株を分離し、これらについてforward mutationおよびreverse mutationの機構を解析しようとする試みはこれまでに報告してきたとうりである。しかし、こうした仕事を進めて行くうえで問題になってくるのは、私共の仕事も含めて、従来のPuck、Chuたちがこの方面の研究のために使用してきた細胞はいづれもChinise hamster由来の細胞であるということで、こうしたChines hamster細胞から得たデータをもとにして人間細胞におけるmutation rateあるいはmutationの機構を語るのには多少の不安がある。(図を呈示)図に示すように、紫外線照射後細胞内DNA中に誘起されたThymine dimer(TT)の除去能が細胞間で大きく異なる。つまりDNA障害修復能が多分に異なるという結果が分かっている。mouseL細胞にはTTの除去能は殆ど認められず、Chinese hamster hai(CH-hai N12 clone)では照射後12時間以内に約19%のTTを除去する能力をもち、ヒト由来HeLaS3細胞では50%のTTを切り出す能力をもっている。またこのHeLaS3細胞から当教室において分離したUV感受性株のS-2M細胞では照射後12時間以内に約9%のTTしか切り出さないことが分かってきている。こうした細胞間のTT除去能の有無はUV-specific endonucleaseの有無に関係しているようで(Alkaline sucrose gradient centrifugationの実験から示唆される)、こうした細胞株間というよりも異種起原の細胞株間のTT除去能についてみても、これ程異なるため、同一条件下でMutation rateまたはその機構を追ってみる必要性が生じてきた訳である。こういった意味において現在私共は上記栄養要求性変異実験と併行して、HeLaS3細胞、S-2M細胞、mouseL細胞、Chinese hamster hai(CH-hai N12 clone)細胞の4種を選び、8-azaguanine抵抗性を指標にしてmutation rateおよびその機構の解析をはじめた。これら4種の細胞は上記のTT除去能以外にもgrowth rate、chromosome number、UV感受性等の点で異った性質をもつため今後の解析は面白くなると思う。
 学年末で多忙のため詳細は示せなかったが、次の機会にこれらについて詳細に報告する予定である。

 :質疑応答:
[勝田]原株にはラクトアルブミン水解物が入っているのですか。
[堀川]それにパイルベイトが入っています。
[黒木]その株は以前私が培養していた頃は、パイルベイトとセリンを添加してラクトアルブミン水解物は入っていませんでした。
[堀川]Mutationと癌化をどう関連づけたらよいのでしょうか。化学物質による変異そのものは捕まえられると思います。その変異の機構の追跡も可能だと思いますが、発癌の機構を追うとなると、パイルアップコロニーでパッパッと数を出してゆくというようなやり方でよいものかどうか・・・。何かよい指標はないものでしょうか。
[佐藤二]この実験で使っているのは殆ど癌細胞ですね。癌細胞と正常細胞とでは、変異→発癌の機構が本質的に違うのではないかと思いますが・・・。
[堀川]少なくとも変異の機構については本質的に同じだと思います。
[勝田]培養内では色んな方向への変異が始終起こっていると考えています。それを培地中のある種のペプチドがセレクションをかけているというような事も考えられるので、さっき培地にラクトアルブミン水解物を使っているのかと質問したのです。
[黒木]最新のPNASに正常人由来のリンパ球と白血病細胞とではDNA polymeraseの読み取りが違う。白血病細胞のpolymeraseは間違いが多いという論文が出ていました。癌というのは菌の突然変異のように一時的に起こるものではなく、何か連鎖的な変化の産物ではないでしょうか。
[堀川]私の実験も本当は正常由来の細胞を使いたいのですが、使いやすい系となると、こういう細胞になってしまうのです。
[梅田]ヒトの2倍体細胞からは8アザグアニン耐性株がとれないと聞いていますが、何か理由がありますか。
[堀川]出来ないというより取り扱いが大変難しいので、やらないのではないでしょうか。哺乳動物細胞は変異率の高いものと低いものとの差が大きいですね。
[梅田]それは何故でしょうか。遺伝子が多いからでしょうか。
[佐藤二]レントゲンで耐性株を拾っても、それがレントゲン照射によって変異したものなのか、突然変異によるものなのか、どうやって見分けるのですか。
[堀川]レントゲンにしろMNNGにしろmutantがinduceされると考えています。始からpopulation中にあることはあるでしょうが。私としては単なる変異と化学発癌とをどう結びつけるかが、当面の問題だと思っています。

《佐藤二郎報告》
 Donryu系ラッテの肝臓は勝田の組織片回転培養で実質細胞を選択培養できる。然し培養日数の経過と共に染色体数の変化と核型の変化を生じて形態学的似も多型性、異型性を生じ、培養850日前後で自然発癌する。
 (I)クローニング法でdiploid cellを維持できるか?
 初代培養時第1回クローニング、培養268日目第2回クローニング、培養665日目第3回クローニングしてdiploid lineを維持している(染色体数分布図を呈示)。
 (II)クローニングによって得た小型石垣状細胞は自然発癌して肝癌を形成した。第1回クローニング後641日、1400万個接種のもの4例の内1匹が215日目に死亡した。
 (III)培養581日目、601日及び626日で単個培養した肝細胞は染色体数、核型の変動が現われる。したがって単個培養の条件はかなりきびしいものと思われる。
 今後の課題として、(A)長期培養されている正二倍体肝細胞が正常肝細胞の機能をどのように維持しているか、或いは更に維持が可能なのか、正二倍体性肝腫瘍ができるのか。(B)初代培養で分離されたクローン肝細胞はすべて自然発癌するのか。(C)培養法或いは培地を検討することによって正二倍体をクローニングしないで維持できるかどうか。等を検討しなければならない。要は正常肝細胞を培養で維持できる方法を見出さなければ真の意味のin vitroでの化学発癌は有り得ないということである。現状では異性度?の増強を見ているにすぎない。

 :質疑応答:
[高木]トリプシナイズする時の材料はどの位の大きさのラッテを使うのですか。
[佐藤]生後7日です。接種細胞数を減らすと上皮性のコロニーがとれ易いですね。
[梅田]アルブミン産生能はこの4種類の内のどの細胞にあるのですか。
[佐藤]この4種類はきちんと調べてはありませんが、小さい方の上皮様細胞に産生があったと思います。しかし今培養できているものは成熟型の肝細胞ではないようです。
[乾 ]4倍体近くのピークは正4倍体ですか。
[佐藤]違います。
[乾 ]顕微分光光度計を使ってDNA量を測ってみますと、ラッテでは生後2日には4倍体はなく、1週間では15%、1カ月では40%の4倍体がありました。
[勝田]肝細胞には2核細胞が多いのですが、その4倍体は1つの核ですか。
[乾 ]1つの核です。
[梅田]G2期のものとは考えられませんか。
[乾 ]そうかも知れません。
[黒木]細胞の継代法は・・・。
[佐藤]15万個/mlで植え込み、週2回餌かえ、3週間で継代しています。
[黒木]継代しないでおく方が2倍体の維持はいいのではありませんか。
[高岡]ラッテ腹膜由来の細胞ですが、3年以上も正2倍体を保っていたのがありますが、なるべく増殖を抑えて、継代もあまり頻々とはしていません。
[佐藤]トリプシンの影響があるでしょうが、血清も関係がありそうですね。
[乾 ]正2倍体を維持していて、染色体が乱れはじめた時期では動物に接種してもtakeされないというのは、どうお考えですか。
[佐藤]悪性化に前癌のようなものがあると考えています。それからmass cultureでもsingleを拾ったものでも、動物にtakeされるようになるには培養日数がある長さ、何年かが必要なようです。
[乾 ]私の実験でMNNG処理の例ですが、処理後2倍体からずれて小さなピークが出来、動物にtakeされる時期にはそのずれたピークが大きくなっている、というのがありますが、先生のはtakeされる時期にあまり収斂しないようですね。
[黒木]cloningしないと2倍体の維持が出来ないのは、2倍体の方が増殖がおそくsaturation densityが低いので、select outされるという事ではありませんか。

《乾報告》
 Kentackyタバコ、マリハナタバコ煙の組織培養細胞に対する影響:
 今月は、昨9月〜11月スイス国立癌研滞在中の仕事の報告を致します。タバコの煙が動物に投与した時、気管支上皮に変性をおこし、又同上皮細胞の芳香族炭化水素活性化酵素の活性の上昇を誘導することが知られております。又タバコタールは培養細胞に悪性転換をもたらすことも同時に知られ、他方マリハナは直接投与により組織培養細胞に細胞学的、染色体形態的変化を誘起しないという報告が多い現状です。
 今回の実験はKentackyタバコ煙をPositive Controlに使用し、マリハナタバコ煙の人起原細胞に対する細胞学的影響を細胞核DNA量の変化、染色体数を指標として検索してみました。
 材料として25才の正常男子の肺起原繊維芽細胞を用い、DulbeccosMEM+20%CS、5%炭酸ガスの条件下で培養し、単層培養直前の状態で培地を取り去り、研究所Kentacky Standeredタバコ、及び同タバコに一本当り0.5gのマリハナを混合したタバコ煙をStandered Smoking Machine(Filrona CSM12)で次の条件下で作用した。作用条件は各回の露出時間を8秒とし、58秒間隔で8回のPuffを行った。Paff直後37℃のHanksで一回洗滌後、通常の培地で培養し、作用後3、6、12、28日目の細胞を固定、一部はFeulgen染色後分裂核についてmicrofluorometryを行なった。一部は低張処理後、通常の方法でAir-dry、Giemsa染色し、染色体観察を行なった。DNA測定の結果は(図を呈示)、分裂中期後DNA量の分布の幅は、正常細胞核のそれに比して大きい値を示した。Kentacky、マリハナタバコ煙火煙作用の両者を比較すると前者ではDNA量は増大の傾向、後者では減少の傾向がみられた。分裂後期核DNA量の変化は略々分裂中期細胞核のそれと同様であるがその変量の度合が大きかった事実は、タバコ煙、マリハナタバコ煙処理細胞が核分裂の際、不均等分裂の頻度が増大することを、示唆していると考えたい。タバコ煙、マリハナタバコ煙投与後の染色体数の経時的変化は(図表を呈示)、Kentackyタバコ煙投与の染色体数の変化は、投与後3日では著明でなく、12、26日と日時の経過と共に変異細胞数が増大し、染色体数変化は増加の傾向を示した。マリハナタバコ煙投与群の染色体変異は投与後3日目に表われ、染色体数45の細胞の出現頻度は時間の経過と共に減少し、投与後26日では10%であった。これに反し相対的に染色体数47以上の細胞の出現頻度が増大し、対照に比して細胞分布の幅は大きかった。

 :質疑応答:
[梅田]煙りにさらす時、controlはどうするのですか。乾いてしまう心配は・・・。
[乾 ]対照は同じ時間だけ煙なしでさらしておきますが、この位の時間では乾いてしまう事はありません。
[堀川]ケンタッキーとマリハナは本質的にどう違うのですか。
[乾 ]マリハナは1本当たり0.5g加えてあり、煙の粘度が高くなりますね。
[堀川]マリハナタバコは社会的問題にはなっていないのですか。
[乾 ]一過性には精神状態がオカシクなって、窓から飛び降りたりするそうです。それから白血球の培養にマリハナの主成分を加えてやると、染色体の切断が起こることが知られています。
[堀川]染色体数変化にケンタッキーとマリハナでは結果に差がみられませんが、染色体の切断はどうですか。
[乾 ]ヒトの肺細胞では切断は起こりません。ゴールデンハムスターの肺細胞で切断が起こりますが、ゴールデンハムスターは何故か他の物質でも切断が起こり易いのです。
[黒木]成分を精製できていますか。煙より培地に溶かした方が定量的でしょう。
[乾 ]白血球にはエキスを添加しました。煙の方がマイルドです。
[堀川]タバコとX線の相乗ではすごい発癌作用があると云われていますね。
[勝田]それは細胞レベルではどうですか。
[乾 ]細胞レベルでのタバコの発癌実験が少ないので、まだ判っていませんね。
[勝田]どういう事ですかね。
[堀川]どういう事が起こるのか、ぜひ細胞レベルでの実験をやってみたいですね。
[乾 ]タバコの実験は仲々条件がはっきりしなくて、やりにくいですね。
[佐藤]吸ったり止めたりというのが、どう影響するのかデータがありますか。
[勝田]ハムスターは煙草を吸った事がないから煙草煙で染色体が切断されるのかな。
[松村]この装置は煙草の煙以外の、例えば一酸化炭素などの影響はありませんか。
[乾 ]あることは有りますが、ヒトが吸う場合と同じように・・・。
[松村]一酸化炭素があっても一向に差し支えないというわけ・・・。
[堀川]8秒吸って53秒休むというのも合理的ですね。実際そんな具合に吸ってますよ。
[藤井]煙草の煙でないもので、煙だけ吸うという対照は必要ないでしょうか。
[黒木]フィルターなしではどうですか。
[乾 ]フィルターなしでこの条件では細胞が皆死んでしまいます。

《梅田報告》
 (I)先月の月報でしりきれとんぼみたいになって了ったのですが、次はあの結果を如何に表現したらいろいろの知見が得られるかと理屈で考えてみました。(夫々図を呈示)
 Absolute plating efficiency(APE)=No.of colonies produced/No.of Cells inoculated X100。Relative plating efficiency(RPE)=APE of the treated/APE of the control X100。Reltive transformation rate(RTR)=No.of transformed colonies in the same cultuures/No.of colonies in the treated cultures X100。Relative mutation rate(RMR)=No.of mutants colonies in the same cultures/No.of colonies in the treated cultures X100。
 Mutationをやっている人、それにならったと思われるHeidelberger、DiPaolo等の表現はAPEとRPEとRTR or RMRをy軸に、使った薬剤の濃度をx軸にとっています。之等の表現でははじめから細胞はtransformationを起すときは、一方で細胞が死に、plating effciencyが下るような薬剤の濃度を使わないといけないような考え方を前提としています。
 しかしこれでは(a)もし始めからtransformed cell populationがあってこれが使った発癌剤にresistantであるとした時もこのような線が画けそうですし、更に(b)2つ以上の発癌剤のtransformation rateを比較したい場合、各発癌剤の有効濃度が違っていると比較が非常にむずかしくなる等の問題点があります。特にcytotoxicityとtransformationの関係を云々したい場合かえって問題をむずかしくしている感もあります。即ち例えばRPEが50%になった時のTRを比較するのでないと、使った発癌剤がよりcytotoxicなのか、或はよりtransformableなのかはっきり云えないのではないかと考えたわけです。
 (II)そこで発癌剤の濃度は消えてしまうけれども、y軸にtransformation rateを、x軸にplating efficiencyをとったらどうかと考えました。
 誰か先人がすでにこのような表現をしているかも知れませんが、とにかくこのようにしてみますと、理論的にいろいろのことが考えられます。
 (III)先ず(a)のSelectionの問題です。理論的なので前提として次の2るのきれいなpopulationを想定します。一方の発癌剤にsensitiveで発癌剤をかけてもtransformしない細胞のpopulation、それに対しすでにtransformしている細胞のpopulationがあり、それは発癌剤に対しある濃度まではresistantでそれ以上は濃度上昇と共に第1のpopulationの細胞と同じ様に新手いくと考えたとします。
 この2つのpopulationに対して実験した時のデータを我々の表現法で画いたとしますと、線(4)の如くなることが理論的に考えられます。−以後図の説明になる− 45°の直線でRTRが上昇し、RPEが(6)に達すると横にねるようになります。この耐性の程度がやや低いと即ち図3の(A)の(3)の如くですと、(B)の(5)のようになります。(4)の45°より下に傾斜がゆるやかになるわけです。そして(7)の点は無処理の時にもあるtransformation rateで即ちSpontaneous transformation rateでもあり、又この示す値のものはresistant tranasformed cellのsensitive untransformed cellの比と考えられます。
 ここで強調して云えることは、直線は45°以上傾斜が急にならないこと、始めからSpontaneous transformationが認められること等です。ですから逆に45°以上にたっている場合は必ずselectionよりもinductionがあったと考えてよさそうです。もちろん後でものべますが45°より以下でもすべてがselectionと云うわけでなくinduction rateは低い物質と考えて良さそうです。
 (III)次にinductionとした場合どんな線が引けるかを考えてみました。ここでX線照射で説明されているようなtarget theoryで考えてみました。このように考える前提は発癌剤の化学作用はいろいろ説明されていますけれど、そのある特定の化学反応がある時には細胞の死に、ある時はtransformationに導く、即ち同一の化学作用が細胞のある特定の部に作用すると死に、又別の部に作用するとtransformationに働くと考えても良さそうだからです。そうするとこの夫々の特定の部をtargetとして表現して良さそうである。そこでlethal target(L)とtransformation target(T)を考え、hit(H)として之等targetを効果的にhitして夫々lethalに(plating efficiencyがおちる)、あるいはtransformationに(transformation rateがあがる)導くと考えます。
 以上の前提はすべてcell cycleの関係、発癌剤の細胞内での代謝、late effect等々無視していますが、とにかくそのように考えてT targetに又はL targetにhitされた場合、その効果が1:1の割合で表われると考えた時は図4の(A)、Tの方は少なくてL targetには沢山あたって始めて効果をあらわすと考えると図4の(B)、(C)その他が考えられます。
 そして更に夫々に細胞の中にあるT及びLの数により傾斜が変ってくることも説明されます。このことは更にのべますが、数だけでなくtargetの大きさの違いと考えても良いわけです。
 このうように考えてきますと(A)(B)(C)の3つともspontaneous transformationのある方があたり前の線なのです。本当に理想的にSpontaneous transformationがなく発癌剤によりinduceされてくる実験は(D)のようなカーブを画くであろうと想像されます。(この説明はちょっとわからないのでお教え願いたいと思っています。)
 (IV)更に今使っている実験系の細胞のpopulationがtransformationを起して良い細胞のpopultionとtransformationは絶対に起さない細胞のpopulationの混ざったものを想定しますと図5の如く丁度selectionの時のようにある一定の時からtransformation rateは横に寝ます。この時の(1)の値が全細胞中のtransformationを起こしても良い細胞の%をあらわしています。
 (V)以上を前提として前回の月報にかいたデータをこの表現法であらわしてみますと、ややデータがばらついていてそれ程きれいではないのですが、殆直線となり、しかも45°よりずっと傾斜の急なものになっています。ですからSelectionでないことは間違いありません。実験によって直線が、おおまかに云って平行移動しており、下の方はspontaneous transformationを起していなくて、上の方は起していることも興味があります。一部アルカリ処理した時期があるのですが、ここではデータがそれ程厳密でないので深くは考えないことにします。
 (VI)又mutationをやっている人のUV照射でのmutation inductionのデータを我々の表現法に切りかえてみますと傾斜のひくいものになりました。これは明らかにmutant inductionより細胞のlethelityの方にUVが高く働いていることを示します。特にUV照射の場合mutation rateがDNAの長さのうちに占める割合で決まると説明されていますし、確かにUVそのものはnon selectiveにDNAに照射されますので、mutable geneの率は始めから全DNAに比し少く、そのため傾斜が低くなると考えられます。
 それにひきかえ我々のデータは非常に良くtransformationをinduceしていると考えて良さそうです。
 (VII)ここで再びT或はL targetの数の問題にかえりますと、一つの細胞で発癌剤が変るたびにTの数が増えたり減ったりすると考えるのはどうも無理なようです。UV照射の時のnon-selective hitと違って発癌剤の場合どうもT-Targetに親和性があり、T-targetに集まってきて作用を現わしているような感じがあり、そのため傾斜は急になると考えられます。target and hit theoryそのものが非常に機械的なat randomな考え方なので親和性を説明するのは無理なのですが、しかし便宜上それをtargetの大きさ(size)で考えてみると、発癌剤が決まると相手の細胞の方のT或はL targetの大きさが夫々変り、それに応じT或はL targetにあたり易くなる。
 DiPaolo、Sacks等のtransformation実験は、形態的な判定がもしも正しいとすると、一応transformationをinduceしていると結論しても良いようである。しかし、実験により、全体にtransformation rateが上ったり下ったりする現象もあり、まだまだ問題は解決されていないのが、我々の結論です。

 :質疑応答:
[黒木]PE/変異率で現すとかえって判りにくくなるのではありませんか。個々の濃度でみた方がよいと思います。D/D0が一番信頼できるでしょう。
[堀川]考え方としてもう少しsimpleな方が良いでしょうね。
[黒木]pHを重要視したのは何故ですか。
[梅田]私自身の実験系で、どうも発表されている他の人のデータより変異の時期が遅れるのは何故か考えているうちに、pHなどが怪しいのではないかと思いました。
[黒木]培地のpHをいくら調整しても、培養を始めると簡単に変化してしまうというdataがありますね。HEPESではpHの維持が一定になるでしょうか。
[梅田]かなり安定ですが、矢張りピッタリというわけにはゆきません。

《野瀬報告》
 Cytochalasin Bによる細胞の無核化
 Alkaline phosphatase活性の調節機構を研究するための、一つのアプローチとして細胞融合による方向を考えている。その場合、融合する細胞の片方が無核細胞であれば、その遺伝情報を考慮する必要がなく、解析が容易になると思われる。そこで、細胞の核を抜く条件の検討を行なった。
 無核化には、最近、カビの代謝産物の一つであるcytochalasin Bがよく用いられている。この薬剤を2mg/mlの濃度でDMSOに溶かし、0.5〜10μg/mlになるように培地に加えて細胞の形態を観察した。使用した細胞株はL・P3、JTC-25・P5、RLC-10、JTC-21であるが、核が著しく細胞質から突出してきたのはJTC-21であった。この細胞は元来DM-145で継代されていたが、実験に用いる際はcalf serumを2%加えてある。cytochalasin 2μg/mlの濃度で加え、2〜3時間37℃で培養するとかなりの数の細胞の核が突出してくる。これ以上の濃度では細胞質の縮退がおこり細胞に障害がある。無核の細胞は、cytochalasin B処理を24時間続けても1%程度しか出てこないので、この細胞に遠心力をかけてみた。細胞をglass cover slipに生やし、cytochalasin B処理をし、次に、Spinco SW50Lで、1万rpm 30分の遠心を行なった。この場合、遠心管内には薬剤を2μg/mlに加えた培地を入れておく。遠心後、methanol固定し、Giemusa染色して、一定視野内の有核、無核細胞を数え無核化の頻度を測定した(表を呈示)。遠心を行なうと80%以上の細胞が核を失ない、細胞質だけになった。細胞をあらかじめ薬剤で処理せずに薬剤存在下で遠心しても同様な結果が得られたので、前処理は必要ない。遠心する場合、glass cover slipが割れることが多いので多量の細胞を処理するのが困難である。
 次に無核細胞を分劃することを試みた。有核と無核とは比重が異なることが予想されるので、Ficollの密度勾配上に細胞をのせて遠心し、細胞の分布をみた(図を呈示)。この実験では、予備実験としてL・P3細胞を用いて行なった。細胞は遠心後各Ficol層に分布し、幾つかの分劃に分れた。それぞれのDNA/proteinの比を較べると、遠心管の上層に分布している細胞の方がこの比が小さく核の有無によって分劃される可能性は十分考えられる。しかしJTC-21細胞では、まだ十分量の細胞が集められないので分劃は行なっていない。
 JTC-21細胞はalkaline phosphataseIの活性が高く(比活性>10,000 units/mg protein)、その性質が安定なので、この細胞質と、この酵素活性が低い細胞とを融合して活性の変化を見たいと思っている。

 :質疑応答:
[梅田]遠心沈殿中にカバーグラスが壊れませんか。
[野瀬]壊れます。色々やり方を工夫しています。プラスチックのカバーグラスでやり直してみようとも考えています。
[梅田]ローターはスヰングですか。
[野瀬]そうです。
[堀川]フィコールで分劃する他に、BUdR→光という処理を使ってみたらどうですか。
[野瀬]無核細胞は、そう長く生きていられないので、時間的に無理だと思いますが。
[梅田]サイトカラシンの処理前にBUdRをかけておけば後は光をあてるだけですね。
[黒木]サイトカラシンを処理してフィコールで沈殿させればどうでしょうか。
[梅田]脱核の機構はどうなっているのですか。サイトカラシンBは多核も出来ますね。
[堀川]細胞質だけの細胞の動きはありますか。
[野瀬]映画はまだ撮っていません。

《黒木報告》
 <レプリカ培養によるUV感受性細胞の分離>
 レプリカ培養方法を用いてL5178Y(DBA/2マウスリンパ球性白血病)、FM3A(C3H/HeNSaマウス乳癌細胞)よりUV-感受性細胞を分離した(分離方法の図を示す)。
 1.対数増殖期の細胞にMNNGを0.05〜0.2μg/ml/h/100万個cells処置する。1時間後細胞を洗いTD-40で2日間培養する。
 2.平板寒天に500〜1,000ケ/90mmシャーレにまき2週間培養、コロニーを作らせる。
 3.四枚の平板寒天にレプリカし、No1、No3をコントロール、No2、4を50erg UV照射する。1週間培養後、コントロールには存在するが、UV照射群では小さいまたは増殖していないコロニーをコントロール群よりひろう。
 4.数日間短試で培養したのち、0、25、50、75ergでdose-responseカーブをとる。このとき、0.25ergは200ケ160mmシャーレ、50、75ergは2,000ケ/シャーレにまいた。四つ目シャーレ(Falcon#1065)使用。
 5.2週間後にコロニー数をカウントし、dose-responseカーブで、明らかに異るクローンをUV-感受性として判定する。
 <結果>
 (表を呈示)最終的にUV感受性と判定されたCloneは、L5178Yから6、FM3Aから1である。このほか現在dose-responseカーブでV37、Vq、n値を測定中のものがいくつかあるので、さらにふえるであろう。FM3AとL5178Yを比較すると、後者の方が変異率が高い。その理由はよく分らない。この1%前後の率は従来の報告よりも非常に高いが、それは一つにはレプリカ培養を用いたことと、また、細胞の特殊性があるかも知れない。変異率はMNNGの濃度と関係があるかどうかは目下MNNG 0の群をおいて調べているところである。
 (図表を呈示)UV感受性細胞のdose-responseカーブ及びD37、Dq、nをみると、D37値で約1/3〜1/2に減少している。9〜11ergという値はXero.derma pigment.の細胞とほぼ等しい。現在、これらの細胞の修復のメカニズムを行いつつある。

 :質疑応答:
[堀川]変異率が高いですね。このUV感受性がmarkerになるかどうかが問題ですね。Xerodermaの細胞ののように感受性が高ければはっきりします。
[勝田]安定性も問題ですね。
[堀川]感受性、耐性というのはなかなか難しいですね。栄養要求の場合はall or noneでゆくのが取り柄です。
[勝田]耐性株もとっておく必要がありますね。
[黒木]今やっています。

【勝田班月報・7304】
《勝田報告》
 長期間継代中におけるラッテ腹膜細胞株(RPL-1)の染色体構成の変化(表を呈示)
 RPL-1株は生后1月のJAR-1系、F15♀ラッテの腹腔をトリプシン消化して得られた腹膜細胞の株である。1962-4-12培養開始、1963-2-9の検索では染色体数modoは42本で、核型は殆ど正常であった。ほぼ10年后の1972-4-15の核型では、正常にはないSubmetaとLargemetaが少数ながら観察された。染色体数modoは41〜44本であった。このように、核型の上からもかなり安定した細胞であるので、今後の発癌実験に大いに使いたいと考えている。

《乾報告》
 化学発癌物質中、同時に突然変異誘発能を有する物質の多くは、動物実験ではもとより、試験管内においても直接的に細胞毒性を示すと共に細胞にtransforming Activityを示す。一方、発癌性芳香族炭化水素、芳香族アミン、多くのニトロソ化合物等は生体内で代謝された後、活性化され発癌性を有する中間産物になると考えられin vitroにおいて、発癌実験に用いるにきはめて不利な発癌剤である。
 黒木班員は、芳香族炭化水素の活性化誘導体を用いて、エポキサイド型のものが培養細胞に発癌性を有することを証明した。
 先に我々はニトロソ化合物の試験管内発癌実験を試みたが、ニトロソグアニジン系のものを除き、Dimethyl-、Diethylnitrosamine(DMN、DEN)での発癌実験には失敗した。
 今回、初期細胞毒性と発癌性の関連を追試する目的の基礎データをとるため、DMN、DENを含む8種のニトロソ化合物の細胞毒性をハムスター細胞を使用して検定した。その結果、N-Methyl(Ethyl)-N'-nitro-N-nitrosoguanidineの2種のニトロソ化合物は10μg/mlで細胞に強い毒性を示したが、動物実験で発癌性の認められるDimethylnitrosamine、Diethylnitro-samine、l-nitroso-piperdine、nitrosdiallyamine、N-nitroso-dibuthylamine、又発癌性の認められないDenitrosoguanidineは1mg/mlの投与によいても細胞毒性が現れなかった。
一方においてニトロソ化合物、特にDimethylnitrosamine(DMN)、Diethylnitrosamine(DEN)の動物体内での活性化の機構はよく研究されており、生体の肝臓でDemethylationされ何段階かの中間物質をへてジアゾアルカンになり、この物質がDNA、RNAのグアニンの7位の位置をMethyl化して発癌性をもつとされている。
現在我々はNitroso化合物の内DEN、DMNの二つの物質を選び、試験管内でこれらの物質を活性化し、in bitroにおいて発癌の系を確立する目的で次の実験を行なっている。
即ち細胞にHamster Fibroblastを用いMEM+10%C.S.の条件でこの細胞を培養し、表の条件でとったHamsterのLiver FractionをDEN、DMNと混合作用し、実験を経過中で、現在の処次の結果を得ている(表を呈示)。
過去の実験でLiver Fraction自身に細胞毒性が知られているので、F1〜F3Fractionについて、1ml中の蛋白含有量を1mgより対数的に0.31μg/ml迄8段階に分け、Hamster細胞を3日間Incubateした。脱核のみした細胞質の全FractionとみなされるF1では、蛋白量1mg〜100μg/mlで明らかな毒性がみられ、31.1μg/mlでもやや毒性が出現した。
F2 Fraction作用では前者に比し、細胞毒性はやや強く蛋白量10μg/ml作用群においても細胞毒性がわずかに認められた。
F3 Fraction毒性は前二者よりさらに強く、10μg/ml作用において著明な毒性3.1μg/ml作用においても細胞毒性が表われた。
以上の結果より、添加する蛋白量を各々20μg/mlと一定にして実験を進め、これにDMN、DENを同時に1mg/mlより0.31μg/ml作用して細胞毒性を検討中であるが、F1 Fraction+DMNでは10μg/ml、31μg/mlで細胞毒性の加算が表われ、DEN投与では毒性度に変化がなかった。F2 Fractionの場合3.1μg/ml DMN投与で細胞毒性が著明で、細胞毒性効果の加算が認められた。DENではこの差が認められなかった。F3 Fraaction+DEN、DMNの系では、今の処毒性の加算効果ははっきりと認められない。
以上の結果より、生体肝の酵素系(おそらくhydroxylase)によりDMNが活性化され、細胞にActiveに働く中間物質が試験管内で生成されると考えたい。今後、蛋白量とNitroso化合物の作用量の関係を追究した上で試験管内発癌の系を確立して行くつもりである。
以上の研究と試験管内発癌過程における染色体Banding Patternの変化を本年追究したいと思っています。
 猶、この3月31日付でもって、11年間御世話になりました癌研究所を退職し、4月1日より専売公社に新設される生物実験センターの組織培養部に移ることになりました。新研究所は10月1日より発足致しますが、この間半年今迄通り癌研に研究の場を置き研究させていただくことになり、新研究所のスタッフの約1/3も癌研究所高山研究室にお世話になることになりました。本年は雑事で少々能率が落ちるかと存じますが、皆様の御好意で研究を続けられそうです。どうぞ今後共よろしく御指導下さい。

《堀川報告》
 HeLaS3細胞、またこれから分離したUV感受性のS-2M細胞、マウスL細胞、さらにはChinese hamster CH-hai N12細胞を、放射線および各種化学薬剤で処理した際、8-azaguanine抵抗性という変異細胞がどのように出現するかを解析するための予備実験として、まずマウスL細胞を用いてX線照射後、変異細胞としてfixation and expressionされるためにどの程度の時間を要するかを決定した。
 まず培養ビン当り、100万個のL細胞を500Rで照射し、その後経時的に取り出して9cmシャーレあたり10万個づつの細胞になるようにして、10μg/ml 8-azaguanine培養液中で16日間それぞれ培養する。対照群として500R照射しないものについても同様の操作をおこない16日間培養した後のシャーレ当りに出現する8-aza対抗性コロニー数を算定して、mutation frequencyを計算した結果が図1である(図を呈示)。この図からわかる様に、未照射群に比べて500R照射群のmutation frequencyは明らかに高くなることがわかり、同時にX線照射によって出現する8-aza抵抗性のfixation and expressionには照射後72時間位かかることがわかった。
 さてこの様にしたデータを基にして、各種線量のX線を照射した後に、マウスL細胞からどの程度8-aza抵抗性細胞が出現するかを検討した結果が図2である(図を呈示)。まず、100万個づつのL細胞を各種線量のX線で照射し、fixation and expressionのために72時間37℃で培養した後、10万個づつの細胞を10μg/ml 8-azaを含くむ培地中で9cmシャーレ内で培養する。16日間培養した後、シャーレ当りに形成された抵抗性コロニー数を算定し、これからmutation frequencyを計算する訳である。
 この図からわかるようにX線の照射線量に依存して、L細胞の生存率は当然低下するが、一方10万個生存細胞数あたりに出現する変異細胞(8-aza抵抗性細胞)数は、照射線量に依存して増加することがわかる。しかしこれらの誘発変異率曲線は決して直線的ではなさそうである。こうした結果は、Arlettら(1971)がChinese hamster細胞で得た結果とよく一致している。なおTTdimer除去能などの点でマウスL細胞とはまったく異なった動態を示す前記各種細胞についても同様の検討が加えられているので、これらについてはまとめて、そのうち報告する予定である。

《梅田報告》
 前回の班会議で試験管内発癌の仕事をするにあたって、自然悪性転換率が高い細胞でも発癌剤投与後の悪性化率をうまく表現すると、その図から悪性化を誘発したと結論され得る可能性を報告した。そこでそのようなことが示せる細胞探しから仕事を始めた。
 (1)目下我々の研究室で無処理のハムスター胎児培養細胞の長期継代例が2例ある。そこで之等についてplating efficiencyを調べた。K2B細胞は既に2年半培養しているもので1年半前に1回cloningしたことがある。ハムスターに1年前に復元したが、腫瘤は作らなかった。
HE細胞は丁度9ケ月半培養を続けているもので、cloningしたことはない。復元実験は行ってない。共に同時に4NQO等発癌剤を投与して悪性化した又はしたと思われる細胞に比べ増殖率は遅く、1週間で3〜10倍になる。
 (2)plating efficiencyは、表に示す如く(表を呈示)、既に2年半も長期継代しているK2B細胞は9日間培養で約50%を示した。小コロニーではあるが境界のはっきりした類上皮性の細胞から成る。Conditioned med.としたものは、1日間培養のConditioned mediumとfresh mediumと1:1に混じたものであるが却ってPEは下がった。理由はわからない。
 HE細胞ではPEは悪く、又いまだmixed populationなのでコロニーの形態もまちまちで、あった。この場合conditioned mediumにしたものでのPEは上昇した。新しく培養し始めのハムスター胎児培養細胞では、更に悪いPEを示し、形態も更に多彩な像を示した。これもconditioned mediumにするとPEが上昇した。
 (3)次に上のPEを参考にして細胞数を定め、シャーレに植えこみ、1日後DMBAを投与して更に9日間培養して後固定染色してPEと夫々のコロニーの形態を観察した。DMBAは0.2μg/ml、0.1μg/mlの2濃度を選んだが、この濃度はラットのfeeder cellを使ってのハムスター胎児培養細胞の試験管内発癌実験の仕事ではPEは数10%下り、悪性転換率は数〜10%誘起される濃度である。
 (表を呈示)表に示す如く、K2B細胞にDMBAを投与すると、PEは殆んど変らず、K2B細胞はややDMBAに抵抗性がある様な感じを与えた。コロニーの形態も観察したが、pile upした悪性と思われるものは見出されなかった。
 (4)(2)で示した如くHE細胞はConditioned mediumを使わないとPEが低いのでfeeder cellを使うことを考えた。しかし我々の研究室ではX-rayをかけるのが不便なので、出来れば薬剤処理で同じ効果を得る方法を考えた。そこでリンパ球培養を行っている人がよく行っているマイトマイシンC処理の方法を行ってみた。
 先ずラット胎児培養細胞をトリプシンではがし細胞浮游液を作り、MitomycinCを25μg/mlになる様に加え20分37℃培養し、後良く洗滌して50,000細胞/シャーレの割合でまいた。1日後再び細胞を洗ってから500細胞/シャーレのHE細胞をまき、更に1日後DMBAを投与した。表に示す如くmitomycinC処理ラット細胞があるにも拘らず、PEはfresh mediumにじかにまいた(2)の結果と同じ程度でありコロニーも非常に小さくてfeeder cellをひいた効果は現われていなかった。因みにラットの細胞は細胞質をひろげ丁度X-rayをかけたfeeder cellのような形態で培養期間中保たれていた。悪性化を思わせるコロニーの形成も認められなかった。
 (5)目下DMBAを何回もK2B cellに投与する実験、ラット胎児培養細胞にβ-propiola-ctineを投与してfeeder cellになるかどうかの実験を実施中であり、更にHEなりfreshHEなりからcloningで目的にあうコロニーを拾うことを計画している。

《高木報告》
 1)培養内悪性化の示標について
平板寒天法に1/3血清を用いて、医科研癌細胞部よりいただいたRLC-10、CulbTC、JTC-16細胞株についてCFE(%)をみた。培地はいずれもLD+0.1%Bactopepton+10%血清で、寒天濃度は0.5%である。結果は次の通りであった(表を呈示)。
JTC-16は処理しない対照血清を用いた場合26.6%のCFEを示したが、1/3血清ではcolonyを形成しなかった。またCulbTCは両血清ともcolonyを作らなかったが、これは植込みの際細胞をtrypsinizeしたことも影響しているのではないかと考える。正常細胞であるRLC-10は寒天内で増殖出来ないようである。以上これまでの処、寒天培養法で1/3血清を用いて培養内で癌化細胞を同定する試みは良い成績がえられていない。最近、精製した硫安を用いてきれいな1/3血清がとれたので再検する予定である。一方1/3血清を用いて化学発癌剤処理後悪性化した細胞を早期に分離できないか検討しつつある。発癌剤としてはMNNGを用い、細胞はRFLよりクローン化したC-3細胞をさらに3回colony selectionしてとった3C3細胞を使用してMNNGの処理条件を検討している。現在行なっている方法は、20万個/MA30の3C3細胞を継代24時間後に、MNNGで2時間処理する方法で、処理時には顕微鏡下ではやっと少数のmitosisがみられる状態で、その時の細胞数は植込み時のそれと大差がないものと考えられる。MNNG 10-4乗Mと5x10-5乗Mを2時間処理したところ処理細胞は完全に死滅してしまった。MNNG 10-4乗Mは14.7μg/mlに相当しており、以前に行ったMNNGの発癌実験では10μg/ml、1μg/mlで悪性化に成功した訳であるが、今回は細胞数が少ないためがMNNGの毒性効果が強く出てしまった。さらに濃度をうすめて実験の予定である。
 2)ラット膵ラ氏島細胞の悪性化実験
 月報7301で一寸ふれたが6-diethyl-aminomethyl-4hydroaminoquinoline-1-oxide(6DEAM-4HAQO)をラットの尾静脈から注射すると、高率に膵ラ氏島に腫瘍を生ずることが林により報告されている。
最近6DEAM-4HAQOを入手出来たので、まず16疋の生後4週のラットに週1回20mg/kgを8回注射した。来週から生後3〜4週のSDラットに、同様に注射する予定である。10〜20mg/kgを注射後大体400日で膵ラ氏島に高率に腫瘍を生ずるが、大量にたとえば40mg/kg同様に注射すると糖尿病がおこってラットは死亡する可能性が高くなる。この催糖尿病作用と造腫瘍作用とが量的な違いによりおこると云う点はきわめて興味深い。注射が終った後約1年は大切にラットを飼育しなければならない訳で、さしあたり正常膵島と腫瘍性膵島との形態学的、もしくは機能的相違を膵ラ氏島単離法を応用して検討したい。また膵ラ氏島細胞の、organ cultureからcell cultureをする努力をし、培養した細胞に6DEAM-4HAQOを作用させてin vivo、in vitroを比較してみたいと考えている。
 3)RRLC-11細胞の放出するvirusについて
その後行った実験で、1)C-5細胞のcell sheetに作用させても、plaqueは形成しない。2)このvirusをC-5細胞の植えつぎと同時に作用させると、細胞は1〜2日増殖を示し、3日目頃から急速に変性をおこすが、full sheetに作用させると中々変性をおこさず少なくとも1週間は細胞はそのままの状態でガラス面に附着している。3)このvirusはetherに耐性であること。4)細胞のこのvirusに対する感受性に関して、Haylickん人二倍体細胞WI-38は全く変性をおこさないが、他部局からもらったHeLaはやや変性をおこす。この点再検中である。
CulbTCは変性をおこす。・・・などのことが判った。

《山田報告》
 引続きConA及びNeuraminidase、更に(But)2 cAMPのラット肝及び肝癌細胞への作用、特に相互の作用の拮抗について検索しています。
今回は培養したAH-66F株について日を追って検索してみた結果を報告します。実験群にはioculateした翌日より0.5mM/m(But)2 cAMPをメヂウムに加えた細胞ですが、今回の細胞の増殖をみると、かえって促進されている様です。しかしConA及び(But)2 cAMPの反応は対象群にくらべてかなり異りました(表1、2を呈示)。
 (But)2 cAMPを含むメヂウムで培養されたAH-66Fは、ConAに対する反応が弱く、対象細胞ではその泳動度が上昇するにかかわらず、むしろ低下しました。即ち、悪性腫瘍細胞とは異る反応を示しました。また低濃度のConAの反応はその細胞の状態により反応する至適濃度が異ることも知りました。
 次にin vitroで1mMの(But)2 cAMPを反応させますと、対象細胞は3、4、7日目に著しく反応して居るにかかわらず、(But)2 cAMPを含むメヂウム内培養のAH-66Fではかへって減少して居ります。
 Neuraminidase処理後、1mMの(But)2 cAMPを反応させると対象細胞と共にいづれも泳動度が上昇しますが、その程度は対象細胞に特に著明です。
 (But)2 cAMPが膜にどの様な変化を惹起するのか、いまだ明らかではありませんが、特に悪性化に伴う変化の一つとして、(But)2 cAMPの感受性の変化が悪性の指標になる様に思えて来ました。現在培養正常ラット肝細胞について検索中です。その結果ならびに基礎実験を続けて、(But)2 cAMPの膜に対する直接作用を更に分析したいと考えています。

《藤井報告》
 凍結から戻したCulb-TCが一向に増殖せず、じっと養いつづけている状態で、この班での仕事ができておりません。
 リンパ球-腫瘍細胞混合培養反応で、マウスのMC-発癌過程で宿主リンパ様細胞が、MC腫瘍に対して、どのような腫瘍抗原認識反応を示すかを調べていますので、その結果を述べます。実験は、C57BLの皮下にMC 0.1ml(ラッカセイ油にとかす)を注射し、注射后1、2・・・5月のマウスの脾細胞と、発癌MC肉腫細胞(8,000R照射)と混合培養し、その后、被刺激リンパ系細胞のH3-TdR摂取をみます。
結果:(1)同系腫瘍に対し、脾細胞は反応する。(2)MC注射后1月辺りで、MC肉腫細胞に対する反応が低下するが、その后発癌前期、発癌期(触知しうる意味で)に上昇する。(3)発癌后(担癌期)に低下する。(4)非担癌期の反応はおそく、担癌、発癌期の反応ピークは早期にある。これらは、免疫学的認識機構と発癌に関し、一応面白い成績ですが、さらに確かめてみます。(図を呈示)

《黒木報告》
 L5178Y細胞及びその紫外線感受性クローンの傷害修復機構について
 紫外線によるDNA傷害の修復をみる技術として
(1)thymine dimerの測定
(2)unscheduled DNA合成(autoradiography)
(3)H3-BUdRなどのsemi-conservative DNA合成以外へのとりこみ
(4)single strand excisionの検出
などがあるが、これらのうち(1)と(3)が理論的にもはっきりした技術と云える。そこで(3)のH3-BUdRのとりこみから実験をすすめた。
 その原理は図を呈示する。図のようなreplicating forkで、semi-conservative DNA合成にとりこまれたBUdRは、その量が多いため比重が約1.750になる。しかしrepairにとりこまれたBUdRは、その量が全体に比して小さいため、比重はnormal(ρ=1.700)である。したがってもしexcision repairがあればH3-BUdRのradioactivityはρ=1.700附近に見出されるはずである。実験のscheduleを図で示す(図を呈示)。
 DNA抽出:cell pelletをSSCで1度洗ったのち、1%SDS in SSCで10分間lysisさせる。pronaseを1mg/mlに加え37℃に1時間おく。-20℃に冷やした2ethoxy ethanolを等量、重層させ、ガラス棒で静かにかきまぜると、DNAはjelly状に析出、ガラス棒でつりあげSSC中に溶解させる。完全にとけたのち、等量のクロロフォルム:イソアミルアルコール混合液(24:1)を加え、shaking遠心して除蛋白する。この方法できれいなDNA(OD 260/280:1.8〜2.0)を、500万の細胞から約50μgとることができる。
 CsClで28,000rpm 65時間分離後、30〜40分劃にbottomより分劃する。radioactivityは、ガラスfiver filterに吸着(5%TCA ppt)させて測定した。比重は、屈折率より計算した(ソニーcomputer)。
 結果は50、100、250、500ergの照射のいずれでも、ρ=1.70附近へのピークがみられなかった(図を呈示)。このことはL5178Y細胞が切り出し修復以外のメカニズムで修復しているものと思晴れる。例えば、post replication repairなども考えねばならない。なお、FM3A、L5178YSB-3、L5178YSB-5の三種の細胞も同様のprofileを示した。ただし、HeLa細胞はρ=1.70附近にpeakを示すので、Cleaverらの云うように切り出し修復をもつのであろう。
 考えてみると、皮ふを直接日光にさらす動物はヒト以外にはないわけで、もしあったとしても例えばカバ、ゾウ、サイなどのように厚い皮ふをもつか、キリンなどのように体毛におおわれている。マウスが天井とか穴のなかに住んでいるために、切り出し修復を必要としないのかも知れない。

《野瀬報告》
 誘導されたalkaline phosphatase-Iの安定性について
 月報No.7210に、But2 cAMPによって誘導されたAlkaline Phosphatase(ALP)-Iは、But2 cAMPを除くと、半減期約42時間で減少してゆくことを報告した。ALP-Iの細胞内での安定性は、誘導機構の面からも重要な問題と考えられるので、更に実験を行なった。
 JTC-25・P5Cl-1細胞にBut cAMP(0.25〜1mM)およびtheophyllin(1mM)を加え4日間培養し、培地を除いてこれらの薬剤を含まない培地を加え、更に培養する。tube当たりのALP-I活性は図1のように減少するが(図を呈示)、同様な4回の実験の結果から半減期は、85、95、98、110時間となり、No.7210の結果より長い値が得られた。従ってBut2 cAMP除去の際のALP-Iの安定性は平均97時間の半減期をもって減少するものと考えられる。But2 cAMP除去により、ALP-Iの合成又は活性化が直ちに停止するのかどうかはこの結果からは決定できない。しかしALP-Iの減衰曲線は数回の実験で、すべて最初の2日間位で勾配が急で以後次第になだらかになってゆく傾向をもっている。従ってBut2 cAMP除去の効果は、直ちに発現されていると考えている。
 次に、やはりNo.7211で報告したタンパク合成阻害剤の作用を追試した。But2 cAMP(0.25mM)+theophyllin(1mM)で4日間細胞を処理し、(1)+But2 cAMP、(2)But2 cAMP+cycloheximide(2μg/ml)、(3)+cycloheximideの3群に分け培養を続ける。図2に見られるように(図を呈示)ALP-Iの比活性は、-But2 cAMPでもcycloheximide添加により低下せず、また +But2 cAMP+cycloheximideでも-cycloheximideと同じく低下していない。しかし図2の結果で、tube当りの結果とすると、+cycloheximideによりALP-I活性は低下し、この低下がタンパクの低下とバランスを保つため、比活性は一定になったと考えられる。cycloheximideは細胞毒性が強いので、このような20時間以上の培養に加えても意味がないのかも知れない。その点を考慮しても、cycloheximide添加(-But2 cAMP)でALP-Iの比活性が40時間以内には、ほとんど変化しないことは、この酵素が細胞内で非常に安定な酵素であると言える。
 酵素の安定性を他のタンパクの安定性と比較するためH3-Leuで細胞をラベルし、多量の"cold "Leu存在下でlabeled proteinsの減少を見たのが図3である。cycloheximideの有無に関係なく、半減期はそれぞれ58時間、84時間であった(図を呈示)。

【勝田班月報・7305】
《勝田報告》
 各種培養細胞株の増殖に対するSpermineの影響について:
 これはまだ実験を継続中のデータである。
 (図を呈示)縦軸は3日間のTC中におけるControlの増殖率に対する、Spermineを添加した実験群の増殖率の比である。培地は3日間交新しなかった。
 横軸はSpermineの各種濃度である。
 1図のRLG-1は正常ラテ肺由来のセンイ芽細胞であるが、自然発癌し、かなりの悪性を示すようになった。その下の2種はsecondary cultureである。
 2図はラッテの肝細胞由来の各種の株であるが、悪性度の高い株ほど阻害のされ方の少い傾向がある。
 この所見から考えて、確定的には云えないが、1)同じ濃度で比較すると、上皮系よりもセンイ芽細胞の方が抵抗力が強いらしい。2)腫瘍性の強い細胞ほど抵抗性も強い、という傾向がうかがえる。

《山田報告》
 その後引続き(But)2 cAMPの表面荷電に与へる影響について、検索して居りますが、漸くその作用の条件がわかって来ましたので、その幾つかをまとめてみます。
 1)(But)2 cAMPは一見調節的に作用するごとく思われる。すなわち図に示すごとく(図を呈示)、AH-66Fに対し、増殖の盛んな状態(表面荷電密度の増加の状態)では抑制的に働き、その荷電を低下させるが、増殖の衰へた状態(表面荷電密度の低下の状態)では促進的に働き荷電密度を増加させる。あらかじめNeuraminidase処理しておくと、この傾向は助長されるが、荷電を低下させることはない。なほこの作用はButylic acidそのものにはないことを確認。
 2)この(But)2 cAMPの作用はConAの作用とuntagonisticである。
 3)Nueraminidase処理後(But)2 cAMP作用をうけた細胞の膜は、対照無処理細胞に比較してニグロシン色素の透過性が減少する。(But)2 cAMPのみを作用させても、同様なことが云へる。即ち単なるCytolyticな反応ではない。
 4)更に興味あることは、phospholipaseCに対する感受性をしらべた所、このNeuramini-dase処理後(But)2 cAMP作用をうけた細胞は、phospholipaseCに対する感受性が減弱して居る。即ち対照細胞がcytolysisを起こす濃度のphospholipaseCでも、依然として細胞は破壊されず、しかもその泳動度の減少がより少い。
 5)Neuraminidaseに対する感受性も、カルシウムイオンの吸着性もあまり差がない。またPhospholipase-A及び-Dに対する感受性には差がない。
 6)陽イオン、カルシウム、プロタミン-Sの存在下でも、(But)2 cAMPは反応する。ホルマリン固定細胞でも反応する。
この様な結果から、更に荷電の分布の変化についてしらべてみようと思って居り、準備中です。

《高木報告》
 Nitrosated arginine derivativeによる培養内発癌実験:
 今月から本実験についても少し触れてみたいと思う。この実験は、九大癌研の遠藤教授が合成したnitrosated arginine derivativeの中の1つにつきin vitroの発癌性を検討しているものである。このderivativeにつき遠藤教授の諒解の下に簡単に紹介すると、次の通りである。Benzoyl-L-arginine(BAA)やAcetyl-L-arginine amide(AAA)は、突然変異誘起性があることが知られている。この中nitrosated BAAについては、近日中にpaperになる由であるが、このもののactive principleは、4-benzoylamido-4-carboxamide-n(N-nitroso)Butylcyanamideで、E coli、Salmonella typhi muriumに対してMNNGの約30倍のmutagenic activityがあることが判った。現在実験に用いているものは後者すなわちnitrosated AAAであるが、そのactive principleは、4-acetylamido-4-carboxamide-n(N-nitroso)Butyl-cyanamide(AAACN)である。このものは図の如き構造式を有することが判り(図を呈示)、融点113〜115℃、pale yellowの針状の結晶で、水、アルコールによくとける。RFLC-5細胞に対する毒性は図の通りで(図を呈示)MNNGと比較すると、MNNGは10-4乗MでRFL細胞の増殖を明らかに抑制したのに対して、AAACNでは同一濃度で可成りの増殖を示している。毒性は、MNNGより弱いことが明らかである。mutagenic activityの強いこのAAACNがCarcinogenic activityもあるか、否か、RFLC-5細胞を用いて検討している。10-4乗Mを作用させて、観察中である。

《梅田報告》
 (1)先月の月報についでK2B細胞に何回もDMBAを投与する実験を行った。500ケの細胞をシャーレにまいた1日後よりDMBAの0.4、0.2、0.1、0.05μg/mlを5日間続けて投与し、6日後に正常培地に換え、更に7日間培養してコロニーを観察した。
 (表を呈示)表に示すごとく、投与量が多いと毒性も現われてくるが、形態的に観察すると、criss-cross等、悪性化を思わせるような形態の変化を示すコロニーは見出せなかった。
 (2)我々の研究室のある場所では、X-線照射を行うのが非常に不便なので、薬剤による処理でfeeder cellを得ることを考えて、今回はβ-propiolactoneを使用してみた。β-propiolactoneを0.001%培地中に加えると、細胞はコントロールと同じ程度に増生する。0.003%で細胞は障害をうけ、シャーレ面にfeeder cellのように附着しているが、殆んどの細胞は増していない。ところが、細胞20ケ位からなる小コロニーの形成も10数ケ見出され、前回に報告したMitomycinC処理と同じように、すべての細胞をattackするわけではないようである。0.01%では細胞は強く障害され、シャーレ底面に細胞はついていない。
 (3)以上なるべく将来使うために簡単であることを目標に、試験管内発癌実験のための細胞さがし、feeder cellの作り方を検討してきたが、すべて失敗したことになる。やはり、もとのハムスター胎児のprimary culture、X線によるfeeder cellの系にかえらざるを得ない結果となった。
 (4)昨年の癌学会に発表した、細胞種の違いによるアルカリ液中でのtime-dependent DNA degradationの違いについて最近のデータを報告します。
 あの時の結論は、若い細胞はdegradationがあまりなく、Hayflikのいう老化の進んだ細胞はdegradationが速く進むという結果を得ていました。又、腫瘍細胞は丁度その中間位のdegradationを示していたことにも興味がありました。
 (5)ところが、その後このtime-dependent DNA degradationは温度による影響が強いことに気付きました。このことは班会議のとき、一度堀川さんに指摘されていたのですが、つい室温で実験を続けてきた私の手落ちなわけです。
 HeLa細胞をアルカリ性蔗糖密度勾配上の上にのせ、以後室温(この時は13℃)と、25℃に保った時(24時間目しか行っていませんが)のデータを図で示します(図を呈示)。13℃で、lysisを行わせた場合、24時間後もDNAのピークはbottomより13本目のフラクションにあり、1時間lysisの時よりdegradationが進んでいないのに、25℃でlysisを行わせた場合は24時間後には24本目のフラクションにDNAのピークが移り、degradationが進んだことを示しています。
 同じような実験を人の2倍体細胞で、24代目の、以前のデータでは24時間lysis後には、bottomより26〜27本目にDNAのピークのきていた細胞、TTG-4d細胞で行ってみました。因みに、以前の実験は気象台で調べた所、最高気温が31.8℃、最低気温が24.9℃、平均27.5℃の時に行った実験でした。図の示すごとく13℃でのlysisでは1時間から24時間のlysisでピークに移動はなく、25℃のlysisでは24時間後に23本目にピークがきています。そこでいろいろと以前のデータを調べた所、確かに夏に行った実験ではdegradationが強く、冬になるにつれdegradationが少くなっていました。
 (6)そこでこの細胞種によるアルカリ液中でのtime-dependent DNA degradationが本当にあるのかないのか、もう一度始めから洗い直す必要にせまられました。37℃と19℃を選び、1時間、2時間、4時間、24時間とlysisさせた後、遠心にかけていますが、幸なことに、やはり細胞種による違いはあるようです。この結果を次の班会議で報告する予定ですが、結論的に云えそうなことは、正常細胞と悪性細胞ではdegradationのパターンに違いがあり、しかし、若い細胞と老化の細胞とでははっきりした差として出てきていないと云うことです。

《堀川報告》
 今回は当教室においてUV障害修復機構を調べようとしている蚊の細胞についてその基本的性質を報告する。この蚊の細胞は、♀のCulex molestus mosquitoesの卵巣から三重県立医大・医動物学教室の北村四郎教授により、数年前にCell line化された日本での代表的な昆虫細胞株である。この細胞は1図に示すように染色体は6本であり、しかもcell lineのmodal chromosome numberも6本を維持していることがわかった。したがって今後のUV障害に対する分子レベルの修復機構の解析と、染色体レベルの解析を関連させて進めるのに容易であると思われるが、問題な点は、この細胞の増殖率は非常に低いということにある。 (それぞれの図を呈示)2図に示すように、種々のcell numberを短試にinoculateした後の細胞の増殖から計算したdubling timeは46〜65時間位で、平均して約55時間位になる。従ってこの細胞についてコロニー形成能でUVに対する感受性を調べるには、少くとも炭酸ガスインキュベーター内に最低3週間は保置せねば、カウント可能なコロニーを得ることは困難な状態にある。
 こうした困難を克服して、種々のUV線量に対する生存率曲線を予備的に描いた結果が3図である。この図からわかるように従来の哺乳動物細胞のD0値に比べて、それはそれほど大きな違いを示してはいないが、少しばかりD0が大きく、UVに対して抵抗性の傾向を示しているということが出来るかも知れない。さてこうした特種な細胞株を使用してUV照射によるDNA障害に対して暗回復、光回復などのうちどのような修復機構を有しているだろうか。そして微生物と哺乳動物細胞に比較して、進化学的にどのような位置におさまるだるかを調べようとするのが、本実験のこれからの問題である。

《乾報告》
 一昨年来、我々はNewboon Hamster Lung CellをMacCoy's 5A+20%C.S.の系で培養し、この系にMNNG 10μg/mlを24時間作用し、処理後約1カ月でMorphological Transformation、約200日で動物に腫瘍を作る系を確立した。In vitro Carcinogenesisの過程での、染色体Banding Patternの解析を行なうことが本年の課題の一つである故、出来る限りにおいて単純な系の開発を行なう為、MNNGの作用時間の短縮及び作用dosesの減少を試みてMorpholog-ical Transformation迄の経過を観察して2、3の結果を得た。
 培養系はGolden HamsterのEmbryoをMEM(日水)+10%C.S.で培養し、培養2代目の細胞(30〜50万個cells/ml播種)の対数増殖期の細胞にMNNGを作用した。
 (表を呈示)MEM+10%C.S.の系ではMacCoy's 5A+20%C.S.の系に比して細胞毒性が強く表われる。現時点ではMNNG1μg/ml、3hrs処理が適当と思われるが、更に時間、Dosesの短縮によりMNNGでのTransformationの系が出来ると考えられる。

《黒木報告》
 §紫外線感受性細胞の感受性そう失について§
 前回の班会議において、レプリカ培養法を用い、L5178Y、FM3Aの細胞より紫外線感受性細胞の分離を報告した。しかし、その後、さらに約3ケ月間培養したのち、感受性を再テストしたところ、すべての細胞がもとにもどっていることが明らかになった。
 例えばFM3Aより得たUV感受性細胞S-1は次のようである。11/15/72:MNNG 0.1μg/ml/100万個cells/h→11/17/72:plating→11/30/72:replica plating→12/9/72:S-1colony(50ergUV-sensitive)ひろう。(結果表を呈示)。以上のように、予想及び期待に反して感受性は不安定であった。目下V79を用いてふたたび感受性細胞の分離をchallengeしている。そのためのreplica培養の基本的な技術の検討もほぼ終了した。詳細は班会議で。


《野瀬報告》
 Alkaline phosphatase-positve cellを単離する試み
これまでALPの活性誘導の解析を行なってきたが、単なる一時的な活性の上昇でなく、活性が安定に維持できる細胞株をとり、その細胞の性質を調べることが重要であると思われる。そのような性質の変化は広い意味でのsomatic geneticsにもつながり、また、形質を一つの示標としたtransformationとも考えられるからである。
 まず、実験として、JTC-25・P5細胞をmutagen処理し、適当な時間のincubateした後、ALPの組織化学的染色を行なう。低倍率の顕微鏡下で、染色された細胞の数を数え、ALP-positive細胞の出現頻度を推測してみた。(表を呈示)表1に見られるようにnitrosoguanidine濃度により、ALP-positive細胞の数が増加することがわかる。表2は同じ実験をMNNG処理後の培養時間を変えて行なったものである。処理後のincubationが長い程、ALP-positive cellが多くなる傾向が見られた。
 次に、同様な実験をCHO細胞を用いて行なった結果が図1である(図を呈示)。MNNG処理後の培養時間が1〜3週間までの間はcontrolと処理群の間に、ALP-positive細胞の頻度に関して10〜50倍の差があるが、5週間目にはほとんど差がなくなった。この点では約5x10-4乗の頻度でALP-positive細胞が集団の中にあるはずであるが、この細胞をtrypsinizeして、まきなおしてからALPの染色を行なうと、positive細胞は10-6乗の頻度になってしまった。従ってここで見られたALP-活性は安定な性質ではないと考えられる。しかし、初期にはMNNG処理群との間に、はっきりした差があるので何らかの変化が細胞におきていると思われる。ALP-positiveの性質が安定した"constitutive"細胞をとることを現在試みているが、まだ成功していない。その様な細胞に特異的な選択法がないので、むずかしいと思われる。 

【勝田班月報:7306:スペルミンの影響】
《勝田報告》
 §培養細胞に対するSpermineの影響について
 はじめに顕微鏡映画によってスペルミン添加後のRLC-10(2)(ラッテ肝)の形態変化を示した。映画では第1カットに無処理のJTC-16(AH-7974)の増殖する状況を示した。映画の第2カットはJTC-16の培養にSpermineを3.9μg/mlに加え、以後5.5日間no renewalで撮影したものであるが、濃度が高いので、肝癌であるにも拘わらず、死ぬ細胞がみられた。もちろん、かなりの細胞は生残った。
 第4のカットはRPL-1株(ラッテ腹膜細胞)にSpermineを3.9μg/mlに加えたもので、細胞は2〜3hrs.以内に全部死んでしまった。第5カットは同じ株を低濃度で処理(0.975μg/ml)したもので、死ぬ迄の時間は延長するが、全部死んでしまうことに変りはなかった。第6カットは<なぎさ培養→高濃度DAB処理により得られた変異株>ラッテ肝の"M"株を1.95μg/mlで処理したもので、細胞は全部死んでしまった。第7カットは、それまでのカットがSpermineを培地に入れたままでincubateしたのに対し、1.95μg/mlで30分間処理後、その培地をすて、培養を洗い、以後無添加の培地で培養したもので、細胞は殆んど死なず、分裂すら見られた。但し、映画では展示しなかったが、1時間以上処理すると、その後新鮮培地に移しても細胞は死んでしまった。
 Spermineによる細胞の死に方には特徴がいろいろとある。
 1)肝癌細胞と共存させたとき、或は肝癌培地を添加したときと異なり、死ぬ前に細胞質のbubblingを見せず、いきなりキュッと丸くなって死んでしまう。その後、細胞質の一部が膨化することもある。(細胞膜の透過性が関与?)
 2)死ぬ時は、時間的に前後しながら死ぬのではなく、全部の細胞が一せいに揃ってパッと死ぬ。
 3)細胞密度の低いところの細胞の方が、高いところの細胞よりも死にやすい。
 4)死んだ区域と生き残った区域との境界がきわめて明瞭に分けられている。

 :質疑応答:
[堀川]死んだと思われる細胞を洗って培養を続けると生き返ることはありませんか。
[高岡]とても駄目ですね。
[高木]増殖の早いものが抵抗性が強いということはありませんか。
[高岡]増殖率と感受性との間には、殆ど関係がないようです。
[山田]この細胞の死に方は物理的な感じがありますね。一次的な生物学的作用の結果の死とは考えられませんね。先ず物理的に何かがやられて、二次的に細胞内の生物学的な変化が起こるといった二段階の死に方のようです。ソーダガラスでないガラスに培養して添加してみたらどうでしょうか。それからリパーゼなどと比較してcytolyticな影響もみるべきでしょうね。
[堀川]膨化=浸透圧の影響と考えられますか。
[山田]必ずしもそうではありませんね。
[堀川]生死の境界線がはっきりしている点について、どう考えられますか。
[山田]密集している所は液にふれる面が少ないので影響が少ないのでしょうね。
[黒木]接種細胞数を変えてみましたか。
[高岡]一定の液量あたりの細胞数よりガラス壁へ附着したときの密度の方が死に方に関係があるようです。
[山田]スペルミンの毒作用について何か報告がありますか。
[永井]毒作用については殆どありませんね。最近ポリアミンについての報告が沢山だされていますが、みんな増殖促進とかDNAに対する影響についてです。ポリアミンによって合成系の酵素活性が敏感に動かされるといった報告もあります。しかし殆どのものがイーストなど菌を材料にした実験で哺乳類の細胞レベルで調べたものは見当たりませんね。
[梅田]JTC-16でスペルミン添加後生き残っている細胞は形態が少し変わっていますね。核小体が大きくなっているようです。
[堀川]人工的に癌細胞と正常細胞を混ぜてスペルミン処理するとどうなるでしょう。
[高岡]発癌実験の途中段階でスペルミンを作用させると、腫瘍性の強いものだけが生き残るという具合に使えればよいのですが・・・。
[永井]死ぬまでに90分もかかるというのは、何かaccumulationされて作用が始まると考えてよいのではないでしょうか。
[堀川]普通の細胞はスペルミンを持っていますか。
[黒木]作用濃度は10-2乗M位ですね。細胞内にあるのはおよそ10-8乗M位ですね。
[永井]ポリアミンは最近注目されています。生体では脳や肝臓に多いようです。動物に直接接種した場合はかなりの高濃度でも動物を殺すことはないようです。
[堀川]本当にcell cycleと関係ないでしょうか。映画でみていると低濃度の方がかえって一斉に死んでしまい、高濃度の方は何かバラバラと死んでゆくような印象でした。それから例の毒性物質との関係はどうなっていますか。
[永井]現在追跡中です。

《山田報告》
 cAMPの細胞表面に與へる影響について、幾回か報告して来ましたが、今回はこれをまとめてみたいと思います。いまだ完全な結論を得たわけではありませんが、一応の見通しがついた所です。
 ConcanavalinAによるラット肝癌細胞の表面荷電密度の増加作用は、その後の検査により細胞の増殖の状態でかなり異り、増殖期には反応が強く、抑制された状態では反応が弱いことがわかりました。この増殖の状態によりConAの反応が変化すると云う知見より、ConAと、cAMPの作用を検索しました(図表を呈示)。ConAを反応させる前或いは後に1mMの(But)2cAMP(pHは7.0に調製)37℃30分作用させると、このConAの細胞表面荷電密度増加作用が著しく抑制される。あらかじめ1mM(But)2cAMPを作用させた後に各種濃度のConAを反応させると、ConAにより荷電密度は著明に増加しないが50μg〜100μg/mlのConAにより相対的に多少高値を示す様になることがわかりました。
 これらの知見を解析する意味で、(But)2cAMPの細胞膜に及ぼす影響を調べました。
 (But)2cAMPの細胞膜に及ぼす影響;(各実験毎に図表を呈示)
 まず(But)2cAMPが特異的に作用するのか否かを検査しました。(But)2cAMP、cAMP、AMP各々1mMの反応をみますと、AMPは全く反応がありませんが、cAMPはやや表面荷電密度の増加が起こり、(But)2cAMPでは更にその作用が強くなりました。即ち(But)2cAMP単独でも細胞の表面荷電密度を増加させるにかかわらず、ConAの作用に対してantagonisticに作用すると云うことです。これらの物質を作用させた後にConAを反応させました。同様にAMPは全く影響をあたへていませんが(But)2cAMPでは明らかにConAの荷電密度増加作用を抑制し、かへって対照にくらべて、荷電密度を低下させます。lyticなeffectが(But)2cAMPにあるのではないかと思ひ、0.001%trypsinを反応させても、この様な細胞荷電密度の増加は全く起りません。
 また(But)2cAMPの作用が、解離するbutylic acidによるものではないかとも考へ、検索しましたが、butylic acidにはこの(But)2cAMPの作用が全くありません。
 (But)2cAMPの作用を種々の増殖状態のAH66Fに作用させた所、その電気泳動度の高い場合、即ち、増殖の促進された状態では、その荷電密度を低下させ、泳動度の低い増殖能の弱い状態では、荷電密度を増加させる作用があることがわかりました。更にあらかじめ10単位のノイラミニダーゼ(C.B.C)37℃30分処理を行なっておくと、(But)2cAMPにより荷電密度は増加するが、増殖能の弱い状態では、特にその増強作用が著明であることも判明しました。これだけでは勿論充分な知見ではありませんが一見cAMPの増殖調節作用が細胞膜にも変化をあたえていることを予想させます。
 次に(But)2cAMPの作用条件を検索しました。各種濃度の(But)2cAMPを反応させた後の泳動度の変化ですが、0.5mM〜1.0mM濃度で初めて反応が始まる様です。あらかじめノイラミニダーゼ処理後の(But)2cAMPの反応は、0.1mM程度の薄い(But)2cAMPでは若干泳動度の低下を来たす様です。
 種々の濃度のノイラミニダーゼ後の(But)2cAMP(1mM)の反応も検索しました。
 (But)2cAMP処理後の表面構造の分析;
 (But)2cAMP処理後の表面を解析する意味で、ノイラミニダーゼ処理、ホスホリパーゼ処理、カルシウム吸着性、色素透過性、等電点の変化等をしらべましたが、ノイラミニダーゼ処理では対象との間に差がみられず、細胞の等電点もあまり差がありませんが、特に著しい差としてはホスホリパーゼ処理により泳動度の低下に差がみられました。即ち(But)2cAMP処理後の細胞はホスホリパーゼCに対する感受性が増加、ニグロシン色素の膜透過性が高まりますが、あらかじめノイラミニダーゼ処理してから(But)2cAMP処理すると、かへってホスホリパーゼC感受性が低下し、対象未処理細胞が融解する様な濃度のホスホリパーゼCでもこの様な処理により融解しない様になりました。即ち明らかにノイラミニダーゼ(But)2cAMPの処理により膜構造が変化することを知りました。
 これらの(But)2cAMPによる膜の変化が直接作用によるものか、或いは一度膜を通過した後に細胞内のcAMP濃度が高まり、その結果内部からの指令により変化が膜に起こるのか、これから検索してみたいと思って居ます。

 :質疑応答:
[堀川]ホスホリパーゼAとCの違いは・・・。
[永井]Aは脂肪酸を1コはずします。Cは中和してチャージが無くなります。
[山田]まぁこういう系だけでは限界があるでしょうが、他の現象との関連で面白くなるかも知れませんね。膜の立体構造と関係してくるのではないでしょうか。
[野瀬]cAMP処理でサイクロヘキシミドに抵抗性になるというデータがあります。
[山田]cAMPが膜に直接アタックして変化を起こすのか、膜の透過性をましておけば細胞内へ入って二次的変化を起こすのか、時間を追ってやってみたいと思っています。
[堀川]究極的には癌と膜の変化を繋ごうというあたりに狙いがあるのでしょう。
[山田]癌化の機構そのものというより、癌化した細胞の膜について調べていたら、膜の変化と増殖の関係などが判ってきたのですね。癌化による変化を掴みたい訳です。
[永井]時間経過をみる場合ノイラミニダーゼは膜にくっついて洗っても除去されずに作用が続きますから気をつけて下さい。グルコシダーゼも時間経過をとるべきでしょう。
[山田]考えてはいますが、time courseの問題はポジティブならいいのですが、ネガティブではどうしようもないものですから。
[勝田]ノイラミニダーゼで処理した細胞にシアル酸を加えておくと、酵素が遊離してきませんか。
[山田]作用してから6時間位で大体もとに戻ります。
[永井]戻り方が100%までゆかないでしょう。ノイラミニダーゼでsialic acidが30%減ったとして、回復させても70%位までしか戻らないのです。それで膜に残ったノイラミニダーゼが作用を継続していると思うわけです。
[山田]増殖系で作用させますと、ノイラミニダーゼは増殖も止めますので、その影響があるのではないでしょうか。
[永井]ウィルス感染で細胞をノイラミニダーゼで処理しておくと感染力の強いウィルスが出て来てその性質は遺伝的なものです。トリプシンでも同じような事が起こりますが、その変化は続かないのです。
[堀川]こういう膜の問題は腫瘍、正常、ハイブリッドなど使って発癌の機構解析に繋がらないでしょうか。
[山田]次には矢張り腫瘍、正常という所へもってゆくつもりですがね。

《高木報告》
 1)Nitrosated Acethyl-L-Arginine amide(AAACN)によるin vitro発癌の試み
 この化学物質については先の月報に報じた通りである。Mutagenic activityはMNNGに比較しても極めてつよく、carcinogenic activityも期待してこの実験を行っている。RFLC-5細胞に対する細胞毒性はMNNGより弱く、10-4乗Mで細胞増殖が対照に比してはっきりと抑制される程度である。但し前報に記載したAAACNの毒性は、細胞の培養2日目から3日間培地に加えたままで観察したもので、2時間作用の場合には毒性はもっと低いと予想される。
現在手許にある試料は10-2乗Mでethanolにとかしてあるため10-4乗M以上の濃度ではethanolの影響が出ることが考えられ、今回の実験では10-4乗M以下の濃度を使用した。RFLC-5細胞は培養開始より680日を経たもので、培地はMEM+10%FCSを使用した。MA-30に20万個の細胞を植込み24時間後に10-4、10-5、10-6乗Mで2時間処理し、終ってHanks液で洗い新鮮培地と交換した。AAACNは10-2乗Mの濃度でehtanolに溶解し、-20℃に保存、使用にあたりHanks液で10倍稀釋し、millipore filter(0.45μ)で濾過しさらにHanks液で稀釋して作用させた。細胞処理後今日まで60日を経たが、ここに用いたいずれの濃度でも細胞の増殖度、形態に変化を認めえない。
 つぎに培養開始より720日目のRFLC-5を用いてAAACN 10-4乗Mで繰返し処理をしてみた。20万個の細胞をMA-30に植込み、24時間後にAAACNで処理、以後継代ごとに同様の処理を繰返して現在まで4回の処理を行なっている。作用開始後約30日を経た今日、処理した細胞は対照に比して紡錘形を呈するようになり、giant cellが目立って来た。増殖もやや抑制されているようである。この化学物質は毒性が低い。したがって細胞に中等度の障害を与える濃度で最も高頻度にtransformationが期待されるとすれば、ここに用いた濃度はやや低すぎるかも知れない。細胞数との相関においてtransformationをおこすに至適と思われる濃度を検討し、実験を繰り返してみたい。
 2)6-DEAM-4HAQOによるin vivoの実験
 林氏によれば、4HAQO、6-DEAM-4HAQO、streptozotocin投与によりラットがあらわす症状および膵内、外分泌腺腫瘍の発生状況を表にした(表を呈示)。以上のように4HAQOとそのderivativeである6-DEAM-4HAQOでは、膵の内、外分泌腺に腫瘍のできる率が違っており、すなわち臓器親和性の相違が認められる。また6-DEAM-4HAQOは投与量により多ければ糖尿病の発生をみ、より少ない量ではラ氏島を主とした腫瘍を生ずる点も興味深い。(もっとも出来る腫瘍はがんではないが・・) そして生じた腫瘍からはinsulin、もしくはProinsulinが分泌されていると考えられる。この様にして生じたラ氏島腫瘍と正常のラ氏島とを培養に移して、それらの形態学的、生物学的性状の相違を比較検討したいと考えている。
 現在4週令のWKAラット16匹に6-DEAM-4HAQO 20mg/kg 8回静注しおえた。また同じく4週令のSprague Dawleyラット19匹にも20mg/kg 4回静注し終ったところである。Streptozotocinについては未だ実験に着手していないが、この抗生物質は抗菌、抗癌作用と糖尿病誘発作用を有しており、Nicotinamideとの併用でラ氏島腺腫を高率に生ずることは興味深い。NicotinamideはStreptozotocinの抗癌作用には影響を与えず、糖尿病誘発のみ抑制するとされている。

 :質疑応答:
[山田]ラ氏島腫はインスリンを産生しますから、糖尿病の逆ですよね。同じ薬剤が少量投与か大量投与かで正反対なものを作る、その理屈も判るし、面白いですね。
[乾 ]ラ氏島由来でインスリン産生の細胞がNIHにあります。未発表のようです。
[山田]そういう細胞系も長期間培養して増殖がさかんになると、産生が止まってしまうのではありませんか。
[乾 ]現在は1年位培養していて、まだインスリンを産生しているそうです。
[黒木]4HAQO大量投与の場合でもニコチナマイドを入れてやると、糖尿を抑えてラ氏島腺腫を作るのかも知れませんね。
[勝田]遠藤氏の新しい発癌剤の動物実験の結果は判っていますか。
[高木]現在やっています。
[黒木]In vivoでの発癌性がはっきりしていないものをin vitroで使う時は、ポジチィブな対照が必要ですね。
[高木]MNNGを対照におく予定でいます。

《乾(津田)報告》
 亜硝酸ナトリウムのハムスター培養細胞に対するTransforming activityを検討した。
 生後2日以内のシリアンハムスターの頭足内臓を除去した組織をハサミ、トリプシンで細かくし、培養に移した。培養2代又は3代目の対数生長期にある細胞(20万個/TD15)に、NaNO2 50mM/l又は100mM/lを24hrs作用させた後、normalメディウム(McCoys'5A+20%F.C.S.)中で培養観察を続けた。NaNO2 50mM/lでは細胞はほとんど障害をうけず、100mM/lだと約1/3(顕微鏡視野下)が生き残った。
 Control区は終始normalメディウムで培養しつづけた。Control区は実験開始15〜20日後までは良好な増殖を示したが、それ以後は次第に増殖が落ち、平らな巨大細胞となり細々と生きつづけた。
 一方、NaNO2処理区では、処理20〜60日後に増殖の盛んな小型の細胞群が出現した。この時点をtransformationの起きた時点としたが、その指標としては、(1)顕微鏡写真、(2)Colony formation rateの上昇、(3)累積増殖曲線、(4)染色体数の変異を用いた。
 更にtransformした細胞のmalignancyは100万個の細胞をhamsterのcheek pouchへ移植することによってできる(あるいはnegative)tumourを観察することにより検討した。Transformation、colony formation rate、Transplantabilityの数値を以下に示す(表を呈示)。(変異は6例中5例が+。コロニー形成率は処理後72日では0.5〜2.2%、204日では64%と70%。腫瘍性は処理後46日以後殆どが陽性)
 以上、高濃度のNaNO2により、新生ハムスター細胞がtransformationすることは確実と思われる。
 現在、transformした、又、malignantになった細胞の染色体を分析中である。
 一方、種々株化細胞を用いて、NaNO2によるmutation rateの上昇(?or negative ?)を検討中である。
 ☆追伸:班会議後、浸透圧はさっそく測定してみました。McCoys'5A+20%FCS=288mOsm/kg。0.1M NaNO2+5A+20%FCS=454mOsm/kg。100%Fetal Calrf Serum=435mOsm/kg。0.1M NaCl+5A+20%FCS=465mOm/kg。1mOsm/kg=−1.859x10-3乗℃。
 やはり、御指摘のように、0.1M NaNO2だと、かなり高浸透圧を示します。今後、等浸透圧で、しかも透過性がNO2-に類似した物質(Cl-はあまり適当でない)を探して、controlとしたいと思っています。

 :質疑応答:
[黒木]100mMの亜硝酸ナトリウムは培地中の食塩濃度とほぼ同じですから、浸透圧が問題になりますね。
[津田]浸透圧とpHについて心配していました。
[黒木]対照に同浸透圧、同pHの群が必要ですね。
[梅田]私も別な実験で亜硝酸ナトリウムを培地に入れてみたことがありますが、10mM位で充分細胞に傷害を与えたように記憶しています。
[堀川]Confluentなcell layerでfocusが見つけられますか。
[津田]実験群にきれいなfocusが発見されたというより、controlは継代するうちに巨細胞が出てきて死んでしまうが、実験群は変異して増殖系細胞が出現したという事です。
[高木]実験群3コの中1コにfociが出て、それを3本に継代したのですね。
[津田]そうです。そしてその3本全部に又fociが出てきました。
[堀川]そうすると変異率として定量的な数値には出来ませんね。
[乾 ]始に形態的な変異−piling up−のみられたtubeに由来するtubeには全部piling upが見られたという事です。
[堀川]対照の復元実験はどうなっていますか。
[津田]殆どのcontrolは死んでしまうのですが、生き残ったものを集めて実験群と同じ接種数で復元したのがありますが、takeされませんでした。
[堀川]変異するまでの日数の短い事は意義がありそうですね。とにかくもう少し処理の形式を確立して定量化することと、黒木班員の意見のように、浸透圧やpHに関する対照をきちんとする事ですね。
[梅田]染色体の変化についてはどうですか。
[津田]まだ詳しくみたありません。
[乾 ]染色体の変異は一般に、直接的な発癌剤は染色体切断を起こしますが、代謝産物で発癌するものでは切断などは見られませんね。
[黒木]In vivoでは発癌例がないのに、in vitroで出来たという所に、特異的な変異ではないような気がします。
[勝田]しかし、全部のtubeから変異細胞が出ているのではないから、やはり何か特異的な変異も考えられます。
[堀川]このデータで定性的可能性が示唆されているので、定量化してほしいですね。
[黒木]それから、復元実験と並べてconA凝集性とか、軟寒天内でのコロニー形成能とか、もっと色々な指標についてのデータも欲しいですね。
[永井]亜硝酸をアミノ酸で処理したものなど、第2controlにどうですか。
[梅田]硝酸ソーダだとずっと毒性が弱まりますから、これもcontrolによいでしょう。
[津田]動物にtakeされるかされないかという事は、in vitroの発癌実験にどの位意味がるのでしょうか。
[勝田]現在はtakeされるかどうか以外に確実な悪性化の指標がありません。
[堀川]しかし、この実験はin vitroで変異が認められ、それがtakeされたのですから、恵まれた例ですね。

《梅田報告》
 (I)Elkind等はChinese hamsterの繊維芽細胞の一株を用いて、アルカリ性蔗糖勾配での遠心パターンの実験を行い、之等の細胞は光、BUdRとりこみ、X線照射により、degradationが進むと報告している。更に無処理の細胞は60分lysisで軽い方、165分lysisで重い方に沈んでくることを報告している。彼等の実験条件は25℃でlysisを行わせている。我々はすべて彼等の方法にしたがい、ただlysisを室温で行わせてきた。したがって空調のない我々の研究室では夏は30数度、冬は0℃近くにまで温度の幅が出来て了った。ところが前回の月報で報告したように、この方法でのDNA degradationが温度にも影響されることがはっきりとしてきた。もう一つ疑問に思っていたことに、我々のいろいろの細胞も使ったデータでは60分lysisと240分lysisとでElkindのいうようにDNAが重くなるようなことは見出されなかったことである。
 今回はまだすべてのデータが出そろってはいないけれども、時間、温度の影響を再検討している間に見出した正常細胞と悪性細胞のdegradationの違いを報告する。
 (II)実験条件は前にも報告した(表を呈示)組成のgradient及びlysis液上にC14-TdR(0.07〜0.12μc)でlabelした細胞を5,000ケ静かにのせ、各温度の条件の暗箱中で1、(2)、4、24時間lysisさせ、5,000rpm 15分前回転後、36,000rpm 90分(12℃)遠心した。
 (III)第一回はHeLa細胞で(図を呈示)、37℃でdegradationが早く進んでいることがわかる。17℃では1時間目から重い方にDNAのピークがあり、4時間24時間と時間が経つにつれ軽くなっていくことがわかる。即ちElkindのいうChinese hamsterの繊維芽細胞でみられた傾向は見られない。
 (IV)第2回はマウス胎児細胞の3代目のものを25℃でlysisを行わせたものである。ここでは1時間目と4時間目とで軽い方から重い方にDNAのピークが移り、更に24時間目には軽い方に移ったことがわかる。即ちElkindがChinese hamsterの繊維芽細胞でみた現象が見られたことになる。
 (V)同じような結果は人の胎児肺継代34の細胞にも見られたので、更に同細胞の37代継代のもので、遠心を行ってみた(図を呈示)。19℃で明らかに軽い方から(1時間lysis)重い方(4時間lysis)更にそれからはあまり変化のない(24時間lysis)ことがわかった。
 因みに37℃では殆HeLa細胞と同じような遠心パターンを示している。
 (VI)L細胞での実験では、各時間の遠心パターンは、19℃で1時間lysisで12本目、2時間lysisで14と19本目に2コ、4時間で13〜17本、24時間で18本目のフラクションにピークが移り、HeLa細胞と同じく、始めから重い方から軽い方に移行していることがわかる。
 (VII)人間の胎児より剔り出して培養している繊維芽細胞の4代目、11代目は(図を呈示)細かい点の読みはともかく、之等diploid normal細胞と考えられる細胞は、19℃lysisでは軽いもの(1時間lysis)から重いもの(4時間lysis)更に軽いもの(24時間lysis)になる傾向を示している。
 (VIII)人間の歯肉からとり出して培養し、35代目継代で所謂培養内老化を起しつつある細胞では、多少の遠心パターンの違いはあるが、大殆上記胎児繊維芽細胞に似た像を示した(図を呈示)。
 (IX)Elkindは1時間lysisではDNAのcomplexとして沈殿してきて、それが軽いピークをもたらし、次にそのようなcomplexがDNAのunitとしてはずされ重くなるとしている。そのcomplexとしてDNAを結びつけているものが、核膜としたら、核膜のない細胞では遠心パターンが異ってくる筈である。特に正常の細胞では始めから重い所に沈澱してくる筈であると想定した。先ずHeLa細胞のMitotic cellのみを集めて実験してみた。(図を呈示)19℃のlysisで1時間目、2時間目のlysis後の遠心パターンは殆同じであり、4時間目でやや軽くなっている。24時間後のデータは今計測中である。来週は是非正常細胞で実験してみる予定である。

 :質疑応答:
[堀川]傾向としてはよくまとまっていると思いますが、核膜の有り無しによる差についてはどうでしょうか。重要な問題ですね。
[乾 ]年とった細胞というのは?
[梅田]2倍体細胞で老化がきたものというような意味です。
[堀川]DNAのすり切れが老化の原因かと考えられていても、なかなか実態が捕まらないでいます。培養細胞で差が出るかどうか、難しいでしょうね。
[梅田]老化した細胞はTdRを取り込まなくなるので技術的に難しいです。
[堀川]年とったネズミと若いネズミを使って、DNAのすり切れをみようとしたのがありますが、仲々結果が出ないようですね。それから、梅田さんの狙いは、細胞によるlysisの仕方の差をみる事ですか。
[梅田]そのつもりです。
[堀川]そうすると何をみているのでしょうか。DNAを繋いでいるものの切断か、DNA鎖の切断なのか。今のところの結論は・・・。
[梅田]膜からのはずれ方が、正常と腫瘍とで違うのかも知れない、つまり悪性になると膜と付いたり離れたりが簡単に出来るが、正常細胞ではピタッと付いているというような事を考えています。
[乾 ]Chromosome-DNA.RNA hybridizationをやっていて判ったのですが、濃い濃度でバカンとラベルしたのと、薄い濃度でゆっくりラベルしたのとではhybridizeする場所が変わるようです。
[堀川]Hybridizationではありませんが、DNAレベルでH3を高濃度に添加すると、それだけで切断が起こります。こういう実験では条件を2段階の濃度でやるべきですね。

《堀川報告》
 (a)レプリカ培養法による栄養要求性および非要求性変異細胞の分離。
 以前にも述べたように私共は培養細胞用のレプリカ培養法を用いることによってChinese hamster hai N12 clone細胞は各種栄養要求性および非要求性変異細胞から構成されていることを示した(表を呈示)。つまりclon17から38までの8cloneはAsn、Pro、Asp、Ser、Gly、Hyp、TdRなどを要求しない非要求株であるが、一方clone36はPro要求株で、clone6、29、33はgly要求株、clone10、11、27はそれぞれTdR要求株である。またこのようにして以下多数多種の非要求性および要求性細胞から構成されていることを示した。ここで問題になるのはChinese hamster hai N12 clone細胞は果してこのようなHeterogeneousな細胞集団から構成されているか、またこのような結果は何度実験を繰り返しても再現性ある結果として得られるか否かといった疑問である。こういった問題を明らかにするため、その後同様の実験を4回繰り返した。計5回の実験に於いて個々の変異細胞数の点で僅かの違いはあるが、傾向としては第1回の実験結果とまったく同じような結果が得られた(従ってここではそれらのデータハ省略する)。こうした結果はChinese hamster hai N12 clone細胞は確かに種々のHetero-geneousな細胞集団から構成されていることを強力に示している。現在こうして得られた栄養要求性および非要求性細胞のpurification、そしてそれらを用いてのmutationの実験を進めている。
 (b)X線およびUV照射による変異誘発。
 TT除去能のまったくことなる、HeLaS3細胞、それから分離したUV感受性のS-2M細胞、マウスL細胞、Chinese hamster hai N12 clone細胞に種々の線量のX線を照射した際、前3者では照射線量に依存して8-aza抵抗性の突然変異細胞が高率にinduceされるが、Chinese hamster hai N12 clone細胞でのこの変異誘発率は非常に低いようである。これはChinese hamster hai N12 clone細胞のもつ特異的なX線抵抗性と関係がありそうである。つまりX線抵抗性細胞ではpremutational damageを修復し得る能力があるということで説明出来るのかもしれない。一方UV照射に対してはこのChinese hamster hai N12 clone細胞は線量に依存して高率に8-aza抵抗性の変異細胞が誘発されるのに対し、前3者ではその誘発率は非常に低いようである。こうした結果もまたChinese hamster hai N12 clone細胞のもつUVに対する特異的な高感受性と関係がありそうである。しかし、こうした結論を導びき出すには現状ではデータが貧弱すぎ、今後のたび重なるダメ押しが必要であるため、今回はあえてデータを示さないことにした。
 いづれこれらについての実験結果は近い内に報告する予定である。

 :質疑応答:
[勝田]放射線を使ったin vitroの発癌実験にはまだ信頼できるものがありませんね。こういう関係をよく睨んで実験計画を立てればよいのですね。
[堀川]3T3を加えて発癌実験にも関連させてゆきたいと考えています。
[梅田]8-AG処理はこの条件でこんなに多くのコロニーが拾えるのは不思議ですが、全部耐性ですか。
[堀川]8-AG存在下でコロニーを作ったのですから、耐性細胞と考えてもよいと思います。8-AGについては、こういうデータは沢山ありますから大丈夫だと思います。
[黒木]L5178Yで0.数%の頻度で8-AG耐性がとれます。
[津田]コロニーを計数する時どの位の径のものまで数えますか。
[堀川]対照は10コ以下という条件でやっていて、処理後動かさずに16日間培養します。その間培地は更新しません。コロニーの径は肉眼的に認められる大きさは皆数えます。
[津田]8-AGは何で溶かしますか。
[堀川]アルカリで溶かしています。

《野瀬報告》
 Dibutyryl cAMPによる細胞周期の変化
 But2cAMPを用いてJTC-25・P5細胞のalkaline phosphataseの誘導を見ているうちに、処理された細胞が細胞周期の中のある時期でblockされている可能性が出てきた。その基礎となるdataはimpulse cytophtometerの結果である(図を呈示)。細胞をtheophyllin又はtheophyllin+But2cAMPで4日間処理し、裸核にした後、Ethydium bromide染色しcytophotometerにかけた。結果は明らかに、But2cAMP処理細胞の集団の中にはDNA/cellの相対値がbasal valueの約2倍の細胞が増えていた。染色体標本を作ってみても、対照細胞のmodo61本に対しBut2cAMP処理細胞はほとんど同じであった。従ってBut2cAMPによりG2で止った細胞が増加すると考えられる。
 この点を確認するため、これらの細胞を、fresh mediumに移し、経時的にmitotic indexを測定した。その結果(図を呈示)、But2cAMPを除くと直ちにmitotic indexは上昇し2時間で最大となり、次後、元のレベルに戻った。この結果から、But2cAMPはlate G2のblockをすることが示唆された。
 次に同様な条件下でlabeling Indexを測定した。対照およびBut2cAMP処理細胞とを、それぞれfresh mediumに移し経時的にH3TdRのpulse labelingを行った。その結果(表を呈示)、Labeling IndexはBut2cAMP処理細胞では低いが、それを除いて5時間後にはすでに17.6%に上昇している。このことは、G1のblockもあることが示唆される。But2cAMPは一般に"contact inhibition"をかける薬物と考えられ、G1 blockをすると主張している論文もあるが、以上の結果から、G1、G2の両方の点をblockしていると思われる。
 先月の月報(No.7305)で報告したAlkaline phosphataseの変異に関する仕事は、その後まだ進展なく、次の機会に報告したい。

 :質疑応答:
[堀川]アルカリフォスファターゼ陽性の細胞は細胞数で数えているわけですね。時間がたつと分裂して増えてしまって、定量的にはゆかないでしょう。
[野瀬]塊一つをfociとして数えた方がよいでしょうか。その方が数も少なくて数えやすいのですが・・・。
[堀川]MNNG処理の場合、処理直後とfixationの後とではsurvivalカーブが違ってくる事については私達も随分討論しました。
[野瀬]マーカーとしては抵抗性の方が良さそうですね。
[堀川]それも仲々難しいですよ。アミノ酸要求性が良いと思うのですが、それも手間がかかりますしね。
[野瀬]私の場合、同じ細胞系でアルカリフォスファターゼ活性+のものと−のものを使って酵素活性の出かたなどを調べたいと思っています。

《黒木報告》
 (図表を呈示)FM3AS-1細胞の培養各時期におけるUV感受性をみると、培養を重ねるに従い、shoulderがでてきている(Dq及びnの増加)。しかし傾斜(D0値)は、それ程変化していないので、ある程度感受性を伴っているという希望的なみ方もできる。
 また、それらから指摘されるべき問題点はコントロールのdose-responseカーブが72年5月2日、6月19日測定のものと、本年5月のものとで著しく異ることである。(D0 280ergが21ergに減少)。これが細胞の変化によるものか、測定方法の未熟によるものか今後早急に検討したい。
 このように、L5178Y、FM3A感受性細胞が不安定であったため、新たにChinese hamsterのV79細胞からのUV-感受性細胞の分離を試みつつある。それに先立って壁に附着する細胞に適するようなレプリカ培養法の改良を試みた。V79細胞をベルベッチンを用いたときのレプリカ率は非常に低い成績であった(表を呈示)。これを改良するため、コロニーをin situで分離する方法を考えた。つまりコロニーの増殖しているマスタープレートに、ペーパークロマト用のスプレイで酵素(プロナーゼ 0.1%、トリプシンDifco 0.25%及びモチダ トリプシン200u/ml)を撒布し、10分間incubateしたのち、ガラス棒でうつしかえた(表を呈示)。その結果、プロナーゼによってほぼ100%にV79、CHOのレプリカが可能になった。(目下HeLa細胞をテスト中)。現在この方法でV79で29ケのUV-sensitive cloneをひろい、さらに定量的に検討している。

 :質疑応答:
[堀川]感受性株のPEをみる時、必ず同時に対照の原株のPEもみておくべきですね。
[黒木]実験を始めたころ、2回原株のドーズレスポンスカーブをとってみたら、大変きれいでしたので、安心して後は実験群だけしかみていませんでした。この細胞は原株でもかなりのUV感受性なので細かい実験はやりにくいですね。
[堀川]UVの実験は細かい事に気をつけてやらないと失敗します。例えば照射時間、線量を一定にするのにランプが安定する時間をみておかなくてはなりません。私たちは紫外線ランプは点灯したら実験が終わる迄消しませんし、電源も単独にしています。

《藤井報告》
 Lymphoid cellsの腫瘍によるin vitro感作と、その中和試験:
 比較的大量のlymphoid cellsとコバルト照射腫瘍細胞を混合培養し、その後、生きた腫瘍細胞に対する抗癌作用を調べるために、in vivoでやる中和試験をおこなった。
 C57BLマウスの脾のlymphoid cells、8,000万個と、Friend'sウィルスで発癌したFA/C/2腫瘍、800万個(8,000R照射)を混合培養し、6日後に新しく80万個の生きたFA/C/2腫瘍細胞を加え、1日培養して、2匹のC57BLマウスの腹腔内に接種した。接種したFA/C/2細胞は40万個/mouseである。
 接種後3週の現在、in vitro感作脾細胞と混合して接種された2匹では、腹水貯溜は全く認められない。対照としておいた2匹は、照射FA/C/2と生きたFA/C/2を混合したもの、および他の2匹は脾細胞だけを培養し、これに生きたFA/C/2細胞を混合したものを、接種されたが、明らかに腹水型腫瘍の増殖を示す、腹水の増加がみられている。
 この実験は、大量のlymphoid cellsをin vitroで感作する、予備的なものとしておこなったものであるが、以前におこなった感作リンパ球の試験管内抗癌効果の成績を、in vivoの中和試験で裏づけできたと考えている。さらに、感作の条件や、関与する細胞についての解析をすすめる予定である。

 :質疑応答:
[乾 ]こういう実験にtarget cellとしてvirus originの腫瘍を使うのは問題です。
[藤井]たまたま手元にあったので使いましたが、本当はCulbTCを使いたいと思っています。

【勝田班月報・7307】
《勝田報告》
 培養細胞に対するSpermineの影響
 肝癌細胞を培養すると培地中に正常肝細胞を阻害するような毒性代謝物質を放出することについてこれまで報告してきた。この物質の本態を追究している内に、その物質が分子量約200以下で、どうもpolyamineに似ていることが判ってきた。そこでpolyamineの代表としてspermineの各種細胞に対するeffectsをしらべてみた。今回は、spermineを0.97から、250μg/mlんで倍数稀釋して添加した。そして細胞が100%死んでしまう濃度を求めた。薬剤は継代時に添加し、培養後3日目の成績で判定した(結果表を呈示)。
 結果は表の通りで、悪性の細胞の方が抵抗性がはっきり強く、まことに都合の良い結果が得られた。あまり具合が良すぎるので反って警戒しているところである。

《堀川報告》
 X線照射に対する感受性支配要因の1つとして、radical scavengerである細胞内、non-proteinSH量が関係するであろうことは、これまでに当教室でHeLaS3原株細胞から分離したX線対抗性のRM-1b細胞、あるいは東大医科研癌細胞研究部からいただいた(CO60γ線の反復照射によりL・P3細胞から分離された)γ線抵抗性(仮称L・P3γ)細胞を用いた実験から、示唆されていたが(月報No.7212参照)、今回はこれを更に発展させて細胞周期を通じてのX線に対する感受性曲線が、このSH含量の差異で説明出来るかどうかを検討した結果について報告する。
 当教室で確立したColcemid and harvesting法を用いてHeLaS3細胞をM期で同調させ、その後各時期で400Rづつ照射し、その後に形成されるコロニー数から感受性曲線を描くと図で示すように(図を呈示)、M期とlate G1〜early S期がX線に対して最も高感受性であることがわかる。一方各時期の細胞を集めてnon-proteinSH(NPSH)量およびapparent total SH(APSH)量をEllman法で測定し、それぞれ細胞当りのSH量として図に示した。
 この図からわかる様に、X線感受性曲線とNPSH量の増減はよく一致し、細胞内に含まれるfreeのSH量がX線感受性ときれいな関連性をもつことがわかる。つまり高感受性期のM期およびlate G1〜early S期においてはradical scavegerとしてのfreeのSH量が少くなっている。しかしAPSH量とX線の周期的感受性曲線の間には、それ程きれいな関連性は認められない。こうした結果はOhara and Terasimaの結果とよく一致している。

《梅田報告》
 8AG耐性細胞を得るためにわれわれは以前、吉田肉腫細胞(YS)を低濃度の8AG処理をして培養を続け、段階的に濃度を上昇させる方法をとってみた。最初の接種細胞数が10万個のオーダーの細胞だと、どうしても10-5.0乗M迄耐性をあげることが出来なかった。そこで前回の班会議での堀川さんに対する質問になったわけであるが、あれだけ高い耐性コロニーの出現率があれば、われわれの以前の実験で8AG耐性細胞を得ても良い筈である。このことが使う細胞種の違いによる場合もあろうが、とにかくYS細胞で得つつあるわれわれの実験結果を御紹介する。
 (1)YS細胞に対する8AGの増殖に及ぼす影響:使用しているYS細胞は、in vitroで1年以上継代しているもので、培地はMEM+10%CS+polypeptoneを使用している。培養最初の日に8AGの各濃度を加え、以後4日間の増殖カーブを画くと図の如くなる(図を呈示)。10-5.0乗Mでも細胞は完全に死なない。10-5.5乗Mで増殖がやや抑えられる程度である。因みに最近使っている仔牛血清のlotが非常に悪く、コントロールの増殖もさほど良いと言えない。
 (2)YS細胞の軟寒天内コロニー形成:軟寒天としてはbase layerに0.5% seed layerに0.33%のagarose液を使用した。細胞の接種数は、8AG投与群は50万個細胞/シャーレと10万個細胞/シャーレの2つとし、コントロールは200ケ6cm径のシャーレを2枚宛用いた。結果は10-4.0乗M 8AGで、小コロニーがあっても変性した細胞が多く、一部にきれいな細胞がある様なものからなり、結局コロニーとして数えられるものはなかった。10-4.5乗M 8AGでは50万個 cells/dishのものでも多数のコロニーが出現しており、全部を数えきれなかった。全く概算として300〜500ケのコロニーがあったとすると約0.3〜0.5%のPEと云うことになる。コントロールは32%のPEを示した。
 (3)10-4.5乗M軟寒天中に出来たコロニーの8AG耐性試験:上の実験の10-4.5乗Mでの、数えきれない程あったコロニーの中から完全にcloneを拾えない事は承知で5ケのコロニーを(出来るだけ単一のもの)培養に移した。夫々の増殖するのを待って液体培地で10-4.5乗M、10-5.0乗M 8AG培地に入れて培養した。コントロールのYS細胞も同様にした。4日間培養で10-4.5乗M投与例は全例変性に近い形態を示した。10-5.0乗M投与例はかなり元気そうな細胞から成っていた。しかしコントロールも同じようであった。そこで遠心後上清を捨て、又新しい10-5.0乗M 8AG培地を加えて培養を続けた。この操作の繰り返しのうちに、3回程でほとんどのso called cubclonesは細胞は変性していった。今、4回目の交換で1cloneだけ元気そうな細胞が残っているが数は少ない。
 (4)10-4.0乗M 8AGでinoculum数を多くした場合:(2)の実験で10-4.0乗M 8AGで、コロニーを作らなかったが、所謂spontaneous mutation rateが10-6乗〜-7乗のオーダーとすれば、沢山のシャーレを使用し沢山の細胞をまけば、耐性クローンがとれて良い筈である。沢山のYS細胞を増殖させ、結局全細胞数930万個を10枚の9cmシャーレにまいて調べた所、コロニーは1つも現れなかった。コントロールは8AGを加えてないものは30%のPEで、実験培地その他にぬかりはなかった筈である。
 以上まだ結論は出ないが、他のHeLa、L-5178Y細胞でも同様の耐性試験を行ってみる予定である。
 
《山田報告》
 (But)2cAMPが細胞膜にも変化を与える、特にConAの細胞膜に対する反応性を変化させることを前回報告しましたが、今回はこの(But)2cAMPの反応機序を解析してみました。
 用いた細胞はAH66Fで、いづれも37℃30分反応後1回生理食塩水洗滌後細胞電気泳動度を検索した結果です。但し、ConcanavalinAの反応のみ37℃10分保温した後に洗滌せずに測定することは従来通りです。
 (But)2cAMPが膜に直接変化を与えるものか、或いは細胞内のcAMP濃度を高め、二次的に細胞内からの指令により変化するのかを検索した結果を報告します。
 肝細胞内のcAMP濃度を高めると云われるGlucagon(10μM/ml)、そして逆に低下させると云われるInsulin(0.1units/ml)、そして(But)2cAMPの細胞形態に与える変化をブロックすると云われるColcemid(0.7μm)をin vitroで作用させた後に、各種濃度のConcanavalinAを反応させた結果が図1です(図を呈示)。
 (But)2cAMP及びGlucagonは、ConAの反応を完全に阻害しますが、Colcemidは全く変化を与えません。InsulinもかなりConAの反応を抑制します。即ち、この濃度では、GlucagonとInsulinもかなりConAの反応を抑制します。即ち、この濃度ではGlucagonとInsulinはanta-gonisticに働きません。しかし次の実験でInsulinの作用は濃度如何で逆の作用があることがわかりました。
 次に各種濃度の(But)2cAMP、Glucagon、Insulinを反応させた後に、ConAを反応させたのが図2です(図を呈示)。
 (But)2cAMP、Glucagonは濃度と共にConAの反応抑制が増加して来ますが、Insulinは0.05unitの濃度で、かえってConAの反応を増加させ、Glucagonとantagonisticな作用を示しました。この三者の反応はColcemidを付加的に反応させることにより消失して来ることもわかりました。
 これらの結果は、(But)2cAMPの作用が細胞内cAMP濃度を高め、二次的に細胞膜が変化することを思わせるものと思われます。しかもColcemidによる反応性の消失は、(But)2cAMPが細胞内microfilamentを介して作用しているかの如き印象を与える成績です。

《佐藤報告》
 ◇培養内発癌実験:
 アゾ色素による培養内発癌実験は、実質的には、RLD-10株について培養日数850日ないしは1086日の3'Me-DAB添加により悪性化を認めた実験に始まる。この時の復元腫瘍からの再培養株AHTC-86aは3'Me-DABの再添加により悪性化の増強を示した。最近、単個クローン株のPC-2でも同様の結果を得た。以上の結果から、アゾ色素が発癌因子となったか否かは、尚、明らかではないが、肝細胞の悪性化の増強作用を示したことは確実らしいと考える。この点を更に明確にすることを当面の研究目標としたい。
 使用する細胞は、DAB飼育日数191日のラッテ肝由来細胞dRLa-74とする。本細胞は、復元腫瘍像、あるいは旋回培養法による凝集塊の組織像から、腺腫様とみなされ、悪性化の増強の検討には好材料と考える。本細胞の培養技術上の難点は、通常の0.25%トリプシン分散法では殆んど分散されない事で、クローンレベルの実験は殆んど不可能に近い。このため、現在、各種細胞分散剤(トリプシン、EDTA、コラゲナーゼ、ヒアルロニダーゼなど)を用い、単離細胞を得る条件を求めている所である。(文献を呈示)

《乾報告》
 専売公社へ身柄を移しましてから、満3ケ月の日が過ぎました。予期せぬ出来事の連続と明けても暮れても金の計算ばかりで、仕事が出来ず、近頃の天候のようにゆううつな毎日です。この間ぼつぼつやっておりました仕事につきまして、二、三御報告致します。
 1)チャイニーズハムスター細胞の培養
 生後6日目の雄チャイニーズハムスターの肝、肺、皮膚を0.25%のトリプシン(pH7.2)で30分消化後MEM(日水)、Dulbecco's Modifie Eagle液で培養し、現在6〜9代目の細胞を6系分離しました。(いずれも20%C.S.)染色体は5代目(35、37日)に調べた所5系は正常核型を示し、肺由来のMEMの細胞はNo2がMonosomyの21本です。細胞形態は、肺由来細胞が培養3代約半月後、表皮系の形を示しましたが、現在は残念ながらすべて繊維芽細胞様です。
 私はこれらの細胞を使って染色体バンドの仕事をしていくつもりですが、この細胞が皆様のお役に立ったらと思っております。
 2)杉村先生の所で、一連のニトロソグアニジンの誘導体(Methyl-、Ethyl-、Butil-、Isobutil-、Propil-、Hexyl-)を合成され、バクテリアの系で側鎖の長い程、Mutagenecityの低いことを見つけられました。やっとこれらの薬品を分けていただきましたので、この一連の物質で、DiPaolo、Takano法のTransformation Test、染色体変異誘導性の実験を始めます。次々回には御報告出来ると思います。

《高木報告》
 AAACNによるin vitro発癌の試み
月報7306に報じたようにAAACNは細胞に対する毒性が比較的に弱く、培養に3日間入れっぱなしでも細胞の増殖抑制は著明でなかった。今回はAAACN 10-1乗Mをethanolにとき、これをHanks液で10-3乗、10-4乗、10-5乗Mに稀釋してその各々を培養2日目の約9万個のRFLC-5細胞に1時間作用せしめ、直ちにこれを洗って培地と交換してさらに6日間培養した。結果は図に示すように10-4乗Mでごく僅かな細胞増殖の抑制がみられ、10-3乗Mでははじめの3日間は著明な細胞数の低下をみたが以後の3日間は生存した細胞の増殖を思わせる所見であった。従って10万個以上の細胞数に作用させる場合、10-3乗M程度の濃度が適当かと思われる(図を呈示)。
 次に前報の実験の続きを報告する。約20万個の細胞に、AAACN 10-4乗、10-5乗、10-6乗M 2時間1回の処理では、処理後150日をへた現在も形態的変化を認めていない。処理後26、63、104日に100万個の細胞をsuckling rat皮下に移植したが、各124日、87日、46日をへても腫瘍の発生は認められない。処理後103日目に0.45%のsoft agarに200ケ細胞をまいて4週間観察したがcolony形成はみられなかった。AAACN 10-4乗M 2時間ずつ1週間隔で8回作用させた実験群でも、処理後45日をへて形態学的変化はみられず、4、6回処理後の復元でも腫瘍の発生をみない。



《黒木報告》
 V79細胞からの紫外線感受性細胞分離の試み
 前回までの実験でFM3A、L5178Y細胞から分離したUV感受性細胞が不安定であることがわかった。そこで動物の種をかえて、ふたたびUV-sensitive cloneの分離を試みた。動物の種をかえて、安定なcloneを得たというPackらの例があるからである(順天堂大・野沢氏の話によると、Packのところでは最初HeLaからauxotrophの分離を試みたが、すべて不安定であったので、chinese hamsterにきりかえたところ、CHOから安定な細胞を得た。)
 §実験方法§
 前回と同様にMNNG処理後Agar plateにコロニーを作らせ、replica法で分離した。レプリカの際には0.1% pronase前処理を行った。MNNGは1.0μg/ml/h。expresionは2日間おいた。(表を呈示)。表1に示すようにレプリカで100erg照射でコロニーを作らないかあるいは増殖のおそいクローンは29ケ発見できた。その率は9.8%であった。このクローンを、100erg照射のsurvival fractionで第一回screeningを行ったところ、表2のようにVS-3、-11、-13、-15に、明らかな感受性がみられた。このなかで、例えばVS-3、-15は100ergで1/50〜1/100の感受性を示した。またVS-19、-20は逆に紫外線に対して抵抗性のようにみえた。
 これらのクローンを、25、50、100、150ergでdose responseカーブを出したところ、すべてのクローンがもどってしまったことが明らかになった(表3)。どうして、このように不安定なのかはよく分らない。geneticというよりは、epigeneticの変化のためであろう。目下、VS-3、VS-15にもう一度MNNGを添加してsensitive cloneをひろうべく準備中である。

《野瀬報告》
 今月は3週間ほどアメリカ旅行をしたため、あまり実験の方は進展しませんでした。しかし向うの研究の現状を、いくつかの研究室を訪問して直接かいま見たことは大変有意義だったと思います。
 私は培養細胞の表現形質(広い意味で癌化も含む)をできるだけ分子レベルで機構の解析をしたいと思い、そのマーカーの一つとしてalkaline phosphataseを取り上げてきましたが、一つだけではなく、別のmarkerとしてsucraseを少しつついて見ようと考えました。その理由は(1)alk.p.aseより臓器特異性が強く、ほとんど小腸粘膜に局在すること、および(2)胃癌に伴なうintestinizationの際、胃にも検出され、癌化と密接に関連しているように思われることのためです。
 そのため、まず初代培養からsucroseをglucoseの代わりに利用できるcell lineをとることを試みました。その方法は以下の通りです。
 rat embryo(約15日目、4匹)をtrypsinでバラして、炭酸ガスフランキで培養する。培地は、アミノ酸、ビタミンが2倍濃度の、Eagle's MEM(Glucose-free)+5%FCS+0.1%sugarである。初代は3月16日に開始し、6日間glucoseの培地で培養した後、sucroseを糖源とした培地に移し、更に培養を続けた。glucoseからsucroseにかえて5日目に培地交換を行なったら、対照のglucose培地の細胞はconfluent monolayerであるのに対しsucrose培地の細胞はsheetがはがれ、大部分の細胞が失われた。しかし、残った細胞が次第に増殖し、6月30日現在、共に5回のsubcultureを行なって、まだ細胞は健在である。
 途中で、増殖曲線、染色体分析、など行なった。sucrose培地中で継代している細胞は、培養開始後、少なくとも5週目ではsucroseを利用しえたが、最近growthが次第に悪くなってきている。5週間たっても増殖したことから、glycogenのような貯蔵物質によって生存していたのではないと考える。この細胞がcell lineになるかどうか今後に期待したい。

《山上報告》
 この度、新らしく、班に所属させていただく事になりました。よろしくお願いいたします。昨年4月より高木良三郎教授のもとで、組織培養を習っています。それ以前は九大癌研(化学)及びTemple大癌研にて、もっぱらBacteriaとPhageを扱っていました。トンチンカンな事も多いと思いますので、色々御教示下さいますよう、お願いいたします。
 当研究室では先にMNNGのin vitroでの発癌実験があり、現在もtransformed cellの特性に関する研究がありますので、それらに関連して研究して行きたいと考えています。
 Transformed cellの内、もどし移植出来て動物を癌死させる性質とin vitroでの性質の相関を見つける為に培養の条件についての検索が色々されていますが、細胞がtakeされるに当っては細胞の悪性度と云う事以外に細胞の抗原性と云う因子も強いと考えられます。ある型の無制限増殖とある膜の抗原性の変化に一定の因果関係があるかどうか、化学発癌の場合は、はっきりしないと思いますが、無制限の増殖と云う増殖形態の為に、機能上あるgeneがopenとなる様な場合も含めて、この両者には直接の関係はない、つまり培養内でcontact inhibitionのとれた細胞は全て癌であり、takeされるか、どうかは癌の本質には関係がない、と云う立場で進めてみたいと考えています。この場合は、免疫的に膜の変化の大きいものほどrejectされやすい事になります。そしてrejectionはhomograft rejectionのtypeで中和抗体よりも細胞性免疫機構、つまり胸腺由来の感作リンパ球が主体となると思われますので、まず、株細胞より胸腺摘出動物と摘出しない動物にtakeされ方の差のあるstrainのisolationから始めたいと考えています。

【勝田班月報:7308:Colcemid法による異数性クローン誘発】
《勝田報告》
 種々の細胞の増殖に対するスペルミン及びその前駆体の影響:
 肝癌細胞の培地中に放出する毒性物質の本態として、スペルミンが疑わしいことをこれまで報告したが、今回は種々の細胞に対するそれらの影響をしらべた。テストは3日間の培養である。
 まず肝細胞系の細胞、肝癌及び移植性のない肝細胞などに対するスペルミンの影響をしらべると(実験毎に図を呈示)、悪性度の強い細胞ほど抵抗性が強く示された。RPL-1株だけは肝由来でなくラット腹膜細胞であるが、これはわずか1μg/mlの添加でも全滅した。
 次にfibroblasts系の細胞に対する影響をしらべた。正常肝に比べるとやはり抵抗性は高く、培養内で自然発癌したRLG-1はもっとも抵抗性が高かった。
 これは双子管での培養による結果とかなり似た結果になっているが、スペルミンの毒性の方がセンイ芽細胞に対して少し強いという"印象"を受ける。
 合成培地内で継代中の諸株に対するスペルミンの影響をしらべた。結果は各株ともスペルミンに対する抵抗性が比較的強いということである。それがどういう理由によるのかは未だ不明である。このなかでJTC-16・P3はラットの腹水肝癌AH-7974由来であり、いまだに合成培地内継代株でも、動物への可移植性を保持している細胞である。
 各種ポリアミンの代謝経路に関しての図を示す。
 次にラット肝細胞株RLC-10(2)株の増殖に対するスペルミン及びその前駆体の影響をみたが、スペルミンとスペルミジンがはっきりと増殖抑制を示しているのに対し、プトレシンとアグマチンが全く抑制効果を示さぬということは興味が深い。これまで前駆体と考えられていたものが実はそうではなかったのか。哺乳動物細胞にはこの経路の酵素が無いのか。色々なことが考えさせられる。
 生体内に存在する各種のポリアミンについての表を示す。

 :質疑応答:
[永井]前回の班会議の時、in vitroでの増殖阻害とin vivoに生理的に存在すると思われる濃度との関係をきかれましたので、その後調べてみました。生体内では脳とか腎臓とかにかなり大量のスペルミンがある事が知られていてin vitroでの阻害濃度に匹敵する位の濃度を細胞内に持っていることもあるようです。それから、今心配しているのは、肝癌の出す毒性物質=スペルミンでは決してないので、スペルミンに関しては毒性物質とイコールのつもりで追ってはならないという事です。
[山田]スペルミンの作用はノイラミニダーゼの影響と大変よく似ていますね。強塩基性の物質なので細胞膜との結合の問題を第一に調べてみることが必要だと思います。
[永井]膜の酸性の部分に結合する事が考えられます。肝癌の毒性物質とスペルミンの違いで気になるのは映画に出てくる死に方の違いです。毒性物質の場合は激しいバブリングがあって死ぬのですが、スペルミンはバサッと死んでしまう。増殖の促進物質を追うのは大体間違いがなくて安心ですが、阻害物質を精製するのは罠が多くて難しいですね。
[黒木]ドーズレスポンスカーブをみていて気がついたのですが、死ぬ濃度がとても急激ですね。一段前では50%位なのが次に0になったりして・・・。
[高岡]濃度を倍々稀釋にしているのがよくないのかも知れません。
[黒木]スペルミンの定量は簡単にできますか。
[永井]普通、蛋白質などに使うアミノ酸分析の方法では定量できません。ガスクロでやるより他ないでしょうね。準備はしているのですが、樹脂にすごくよく吸着するので、溶出が困難です。もう一つの方法は高圧電気泳動ですが、これもまだ確立されていません。
[黒木]動物に対する毒性は調べられていますか。
[永井]はっきり知りませんが致死濃度はかなり高いと思います。
[勝田]何れは動物実験にもってゆく予定ですが、何を指標にするか問題です。致死か免疫能か、あるいは他の何か。
[永井]癌患者の血清中のポリアミン量の定量などのデータはありますか。
[勝田]無いのではないでしょうか。それから、このデータをみていて不思議に思うのは、スペルミン、スペルミジンは毒性があるのに、プトレッシンには全く無いという事です。プトレッシンがスペルミンの前駆体だとすると、どうしてこうなるのか。或いはプトレッシンの場合はもっと長過間観察をするべきかも知れません。
[高岡]スペルミンが細胞内で合成される場合には無毒なのに、細胞外から与えられると細胞を障害するとは考えられませんか。今プトレッシンに放射能をつけたものを注文していますので、それを使えば合成については、はっきりさせられると思います。

《高木報告》
 AAACNによるin vitro発癌の試み
 1) AAACN 10-4、10-5、10-6乗M 2時間1回作用
 処理後170日を経ても未だに形態の変化はみられない。処理後26、63、104日目に同系suckling ratの皮下に移植したが各々144日、107日、66日を経て腫瘍の発生をみない。
 処理後103日に0.45%soft agarにまいたがcolonyの形成はみられず、その後はsoft agarの実験は行なっていない。
 2) AAACN 10-4乗M 2時間ずつ1週間隔で8回作用
 処理終了後65日を経て形態の変化はみられず、4〜6回処理後、同系suckling ratの移植実験でも腫瘍の発生をみない。先の月報7307に書いたRFLC-5細胞に対する2時間作用の際の毒性効果から3.3x10-4乗Mについても検討をはじめた。Positive controlとして3.3x10-5乗MのMNNGをおいている。
 動物実験で腫瘍が出来たと云う話は未だ遠藤教授から聞いていないが、以上のin vitroの実験でも現在まで未だnegativeである。
 Xeroderma pigmentosum患者皮膚生検組織の培養について
 最近、11才の女児で顔面にerosion、その他皮膚部位に悪性化もみられるXP患者の例があったので、日にさらされない健常と思われる部分の皮膚を生検して培養を試みた。培地はMEM+15%FCSである。現在4ケ月半、13代を経ているがfibroblasticな株細胞をえている。この細胞がUVsensitiveか否かは、対照となるべき正常人皮膚繊維芽細胞の増殖が思わしくないためcolony形成能でも、growth curveでも未だ比較されておらず、確実な証明はない訳であるが、肉眼的には差があると思われるので、少し早すぎる感はあるが今後の計画も含めて一応の報告をしておく。なおUVは、15Wのgermicidal lampを点燈後安定してからランプの直下中央100cmの距離に培養シャーレをおいて照射している。Ergometerがないため測定は出来ていないが出来るだけ同一条件で照射するよう心がけている。
この細胞がUVsensitiveとした場合、これを用いた発癌実験を行いたいと考えている。すなわちMNNGその外当研究室で従来取扱って来た発癌剤を作用させて、形態的な変化、soft agar内のcolony形成能、移植実験などを行なってみたい。この際一番問題になるのは移植実験であるが、これはFranksら(Nature,243,91,1973)の方法により行なう予定である。彼等は生後4週令の雌CBAマウスにthymectomyをほどこし、2週後に900r照射してその直後にsyngeneic bone marrow cellsを静注し、その動物の皮下に人の腫瘍を移植しているが、可成りの大きさになるまで発育しているようである。この実験系はラットでも同様に応用出来るのではないかと考えている。因にMNNG各濃度のXPcellsに対する効果をみた(図を呈示)。10日培養の結果では3.3x10-6乗Mではやや増殖阻害、10-5乗M以上では細胞の増殖はみられなかった。PEで観察する積りであったが、この細胞はcolonyを形成しにくく、少数をシャーレにまいても少し増殖するとすぐにsheetを作る傾向がある。従ってシャーレにまいてMNNG作用後、一定の期間毎にtrypsinizeして細胞を集めcountしたものである。
 その他、6-DEAM-4HAQOを静注したラットはいずれも外観は全く変りなく飼育している。現在注射終了後3ケ月を経過した。またRRLC-11細胞の産生(?)するvirusについて電顕写真を供覧する。

 :質疑応答:
[勝田]ヒトのtumor cellの復元法として、マウスに抗マウスリンパ球血清を打っておいて、ヒトのtumor cellを接種するというのが流行っていますね。
[乾 ]Heterotransplantationはtakeされれば問題ありませんが、takeされなかった場合、腫瘍でないとは言えませんね。それからXP細胞が紫外線感受性をもっているかどうかという事は、はっきりさせておくべきですね。
[黒木]H3 BUdRを使ってunscheduled DNA合成を調べてみればよいでしょう。XP細胞のMNNG感受性が正常と同じだということは期待出来るデータです。
[高木]対照に使う人由来の二倍体細胞も自分の所で作って使いたいと思っているのですが、仲々成功しなくて困ります。それからXP細胞は凍結保存にも弱いようですね。

《山上報告・若い研究者》
 前号に記しましたような立場にしたがって、培養内でtransformしたcloneを出来るだけ多くrandomにisolateするために、次の二つをためしています。一つはthymectomyした動物にNG処理した細胞を植え、出来たtumorを再培養して、thymectomyしない動物には着かないcloneをさがす方法で、thymectomyを練習しています。胸骨の一部を切開してthymusを吸引する方法で慣れると非常に確実に出来るようです。
 もう一つは全く培養内で最初からcloneとして採れないかを考えています。このため植継がずに長期培養出来るように、又条件も簡単で広くcover出来るように考えてみました。9cmのシャーレにcellを植えsemiconfluentになってから、0.6%のsoft agar mediumをcoverし一方の端からNGを72時間拡散させて処理し、その後soft agarを捨て、数回シャーレを洗ってから、liquid mediumでrefeedしながら観察しています。Soft agar 30mlでNG 2-3mgですと、9cmシャーレ中に6cmほどのnecrosisの円が出来、その外に月形の細胞のzoneが残ります。(NGは72時間以前に分解消失すると考えられます)。NGを置いた対側ではcell growthが盛んでここからはげ落ちる恐れがありますので、定期的に外周をトリプシン処理するが、かき取っています。現在2Wになるものもありますが、まだfocusは認めません。移行部では数日内に巨大化や多形、線形等の強い形態変化がみられます。この方法はNG以外でも色々やってみるつもりです。副産物に薬物resistantがとれる可能性もありMutagenと組合わせて拡散させる事も可能ですので。

 :質疑応答:
[勝田]此の場合、変異とはどういう事だと考えているのですか。
[山上]接触阻害がとれて、コロニーが盛り上がってくる事を指標にしています。
[山田]基本概念として変異=癌化だと割り切るには何か根拠がなくてはいけないと思います。そこを皆が何時も悩んでいる所ですから。そう気軽にとび越えられない筈の大きな壁を無視して、その先をスイスイとやっている感じがしますね。
[黒木]接触阻害がとれる事が変異の条件だとするからには、その系は何時もちゃんと接触阻害を保っている事が大切です。
[勝田]それから胸腺を除去した動物で腫瘍性をチェックしていると、本当の腫瘍から遠ざかっていくのではないでしょうか。
[吉田]癌化のeventをみるという事で、初期変化のチェックをする為の手段としてなら、これでよいのではありませんか。簡単に短期間でチェックできるのは有利ですから。
[山田]それにしても免疫学的に処理した動物にtakeされるかされないかということだけで悪性化をチェックするのは問題だと思いますね。
[勝田]生体内でも変異は始終起こっているが、たいていは排除されてしまう。その中で生き残って生体内で増殖できるものを癌というのだと思っています。
[乾 ]細胞が癌化することと、癌という病気とは分けて考えるべきなのですね。
[高木]変異した細胞が生体内で増殖する場合、宿主の方に問題があるのでしょうか。それとも細胞側の問題でしょうか。
[勝田]細胞の側に主体性があると思います。
[高木]胸腺切除の方法を使うのは、in vitroでの形態変化からin vivoでのtakeされるまでの期間を少しでも短縮できるのではないかと考えての事です。
[吉田]組織培養を使って癌化を研究する利点はin vivoの実験では捕まえられない早い時期の細胞変異をみられる事だと思います。その意味ではこの方法はよいと思います。
[勝田]二つの問題があります。一つは変異した細胞が生体内ではどうやって排除されているのか。もう一つは悪性変異した細胞がtakeされるまでに黒木説の三段階の順をふまなくてはならないのか。それは単に量的変化でなく細胞の質的変化なのかという事です。
[黒木]例の三段階説は移植のステップにすぎず、細胞レベルの変異はもっと複雑でしょう。移植性と100%同じという指標はないと思います。培養したハムスター細胞に4NQOを処理して得られる変異細胞は、動物にtakeされてすぐ動物を殺すもの、takeされないもの、takeされるが宿主の動物と同じ位の大きさの腫瘤になってもまだ動物を斃さない毒性の弱いものなどと色々なものがとれます。恐らく生体では排除されてしまう運命にあるものがin vitroでは生き残るからでしょう。そういうin vitroの特徴を生かすべきですね。
[勝田]In vitroの特徴はあらゆる変異を捕えられる可能性をもつ反面、宿主を斃すのが癌という病なのに、その宿主の反応を組合わせてみる事のできない弱みがありますね。
[黒木]癌は形態変化+αだとすると、形態変化を初期指標にするのは自然でしょう。
[佐藤]+αかどうか。発癌剤は始から癌性変化の方向を決めているとも思われます。
[黒木]経験的には形態変化なしの悪性変化はありませんでした。
[乾 ]形態変化と染色体レベルの変化は時期的に関係があるようです。しかし染色体に限ってみると、変異初期に主体だった集団が動物にtakeされるとは限りません。

《山田報告》
 前々報でラット腹水肝癌AH66Fを10unitsのノイラミニダーゼ処理後、1mMの(But)2cAMPで処理するとその表面荷電が増すことを報告しましたが、その後その増加する荷電を担う物質を検査した所恐らくは酸性ムコ多糖類が細胞表面に露出して来るのではないかと云うことを思わせる知見を得ました。即ち、シアリダーゼ感受性も、カルシウム吸着性も、この処理によって増加せず(図を呈示)、酸性ムコ多糖類に特異的に結合すると考へられているRuthenium redの吸着性が、ノイラミニダーゼ→(But)2cAMP処理された細胞に増加することを発見しました。Hyaluronidase感受性もこれと同様感受性が増加することも、併せて知りましたので、まずは酸性ムコ多糖類に依存する荷電が新たに露出して来るものと推定しました。
 ConA反応性に対する(But)2cAMP、Glucagon、Insulinの干渉:
 ConAのAH66Fに対する反応性が、これら三者により阻害されることを前回報告しましたが、今回は三者の反応を経時的に追求してみました(図を呈示)。そして前報を裏付ける成績を得ました。
 即ち(But)2cAMPの作用は細胞膜直接の影響ではなく、細胞内のcAMPレベルを含め、二次的に細胞表面の荷電を変化させるものと思われます。この所見は、細胞増殖時期と休止期における細胞内cAMPの変動が間接的に膜の荷電を変化させると云う推定を可能にさせます。
代謝阻害剤によるConA反応性の変化:
 Puromycin、actinomycin及びCytochalasinB其の他呼吸阻害剤いづれもConAの細胞に対する反応性を阻害しました(表を呈示)が、しかしpuromycin、cytochalasinBが特に著明でした。2-4dinitrophenolの場合は、使用量が少いのでなんとも云へませんが、NaN3でも著しく阻害しました。この成績の意味づけについては今後考へてみたいと思って居ります。

 :質疑応答:
[野瀬]泳動値が変化するのは、細胞膜の荷電密度の変化だとすると、細胞の形の変化とも関係があるのではありませんか。
[山田]それは関係ありません。膨潤なども泳動値とは関係ありません。

《乾 報告》
 ニトロソグアニジン系誘導体8種の毒性、突然変異誘導性及び発癌実験:
 先月の月報でニトロソグアニジン種々の誘導体のバクテリアに対する突然変異誘導性は側鎖が長いものほど少ないと云う実験結果を文献的に報告し、細胞水準での毒性、突然変異誘導性及び発癌性についての検索を計画しつつある事を前回報告した故、その結果の一部と、将来の計画について報告します。
 実験にはN-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(MNNG)、N-ethyl-N'nitro-N-nitrosoguanidine(ENNG)、N-n-prophyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine、N-n-buthyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine、N-iso-buthyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine、N-n-penthyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine、N-n-hexyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(HNNG)及びN-methyl-N-nitrosoguanidine(Denitrose-MNG)の8種のnitrose-化合物誘導体を使用し、各物質を細胞100μg、31.1μg、10μg、3μg、1マイクロ・・・のlogarismic scaleで投与し、その細胞毒性の検索を行なった。作用Doses決定の為のfirst stepの実験とし、MEM+10%C.S.の条件下で上記8種の化合物を100μg、31.1μg・・・の条件下で培養3代目のハムスター線維芽細胞に48時間作用した。MNNG作用群においては3.1μg/ml作用群で細胞はLD100を示し、1μg/ml作用群はLD50以下であった。それに反し、発癌性の全くみとめられないDenitrose-MNG作用群では、100μg/mlにおいても細胞毒性は認められなかった。実験計画の意に反し、ENNG〜HNNG作用群間上においては、各作用群に上記条件下において細胞毒性度について差はみとめられなかった。
 今後、適当な条件を設定し、R-(CnHm)基側鎖の大小による初期細胞毒性の変異(化)を検索すると共にMNNG 0.5、1μg/mlと同じ毒性の条件下で、Heiderberger等、Sacks等のfeeder layer+Hamstaer Embryonic cellの系を用い、各誘導体の突然変異誘発率を、算定し、合せてMNNG〜Denitrose-MNG間で2、3の物質を選出し試験管内発癌実験を行ない、同一誘導体間での側鎖の大きさと発癌率の関連について検索したい。

 :質疑応答:
[黒木]Feederの細胞が1週間から10日で剥がれるのはいいのですが、ハムスターの細胞まで剥がれるのは変ですね。容器が悪いのか、feeder cellの数が多すぎるのか・・・。
[梅田]100万個は少し多いですね。
[吉田]毒性の判定は何でみていますか。Killingですか。
[乾 ]そうです。毒性ではメチルとエチルの間に一段差がありますが、killingが変異と平行している訳ではありません。
[吉田]染色体にもdirectに働きますか。
[乾 ]Chromatid levelのbreakは起こします。
[吉田]変異率と染色体のbreakの関係をみると面白いでしょうね。
[黒木]アルキル基はDNAにくっつき、グアニジド基は蛋白にくっつく。突然変異はアルキル化と関係があるようですね。

《佐藤報告》
 T-1) dRLa-74の性状について:
 dRLa-74は(N-1-1)、0.06%DAB飼育(191日)ラッテ肝由来の細胞株である。今回報告の実験は総培養日数603〜664日の間で行われたものである。
 a)細胞形態:上皮様細胞、核の異型性認める。核は細胞質に比して大きい。細胞は網眼をつくって増殖する。
 b)増殖率:6日間で約10倍(6.6万個/1.5ml/tue植込み)
 c)アルブミン、α-フィトプロテイン:培養液(BSfree、48hrs)の約100倍濃縮液で検出されなかった。
 d)腫瘍性:100万個、10万個、1万個/rat 復元。現在観察中。
 T-2) dRLa-74の分散実験:
 dRLa-74は0.2%Trypsin 5〜10分処理では殆んど遊離生細胞が得られないため、クローニングその他の実験が不可能に近い。Trypsin(Difco)、EDTA(Sigma))、Hyaluronidase(Sigma)の単独ないしは組合せによる分散条件を検討した(図を呈示)。処理時間は60分、0.1%Trypsin+0.1%EDTAの組合せで20%以上の遊離生細胞を得た。更に、Trypsin 0.05、0.4%+EDTA 0.02、0.5%の組合せを行った(表を呈示)。一応いずれも遊離生細胞を得たが、0.5%EDTA使用の場合、生細胞は全く得られなかった。0.05%Trypsin+0.12%EDTAの場合で明らかな如く、殆んどの細胞が4個以内の細胞として分散されていることがわかる。
 ☆前月報でも少し記載したが、勝田班長を中心として組織培養を応用して発癌機構の研究にかなり永い間従事して来た。その間Donryu系ラッテ肝の培養とDAB、4NQOの組合せを中心に研究した。現在世界の研究は肝特に成熟ラッテの肝の培養に関して急速な発展が見られるようになった。我々は今心新たに研究の速度をあげなければ最後の勝利を自らの手中におさめることは不可能に思われる。−己への反省− 成熟Donryu系ラッテ肝の培養については大学院ツタムネが従事してきたので次回月報でまとめて報告の予定。
 発癌機構の問題で詳細な検討が必要であり又重要であると思われるのは、勝田さんが最初に見つけた発癌剤による増殖誘導の問題(1)と、正常細胞(真の意味の)の癌化と所謂前癌状態の癌化の区別(2)であろう。(1)に就いては私も追試し確認したし、又次癌学会でも報告の予定である。(2)に就いては差当たり、弱いけれども造腫瘍性の確実にある細胞が発癌剤でどのような態度を示すかを検討しようと試みている。本月報の報告は後者の実験の出発である。

 :質疑応答:
[黒木]Singl cellと生細胞と両方の表現がありましたが、どう違うのですか。
[佐藤]この細胞系の場合、single cellにするためにトリプシンやEDTAを使うとsingle cellは増えますが、死んだ細胞も増えますので、特にsingle cellの中の生きているものだけを数えています。
[黒木]1ml注射器で吸ったり出したりするとsingle cell rateがぐっと高まります。
[佐藤]上皮系の細胞は機械的な刺戟に弱いのです。
[山田]pHも影響するでしょう。
[佐藤]pHについては調べてありません。
[吉田]なぜ腫瘍細胞に発癌剤をかけるのですか。
[佐藤]正常細胞由来といっても何時悪性化するか分からないのですから、性状が不明です。それより、まだ非常に悪性とまではゆかないが、動物に接種すればこの程度の腫瘍を作るということが分かっている材料を使って発癌剤を与えることで、腫瘍性の増強だけでもはっきりさせたいと考えています。
[吉田]Single cellにするわけは・・・。
[佐藤]元がsingleでないと、発癌剤で腫瘍性が増したのか、腫瘍性の強いものをselectしたのかが、分からなくなりますから。
[山田]腫瘍性の強弱は、増殖度とも関係がありますし、死亡日数と必ずしも平行しませんね。組織像でも判定できませんし、仲々難しい問題ですよ。
[佐藤]私の系の場合、生体内で同じDABを与えつづけて悪性に移行して行く段階のものを指標に持っています。
[津田]発癌剤が変異剤として働いて腫瘍性が無くなることもありますね。
[黒木]復元実験の場合、動物の系、年齢、部位など一定にすれば生存日数が悪性度を示すと思います。

《梅田報告》
 (I)前回の班会議(月報7306)でアルカリ蔗糖勾配上で直接細胞をlysisさせる方法でのDNA崩壊が時間、温度に影響されること、又崩壊のパターンは正常細胞と悪性細胞で異っているらしいことを報告した。前回のデータはまだ整っておらず、いろいろの試みの結果を報告したので、温度の条件、lysisの時間も同じでないものが混っていた。
 一応、ヒト由来の正常細胞と悪性細胞、マウス由来の正常細胞と悪性細胞について同じ条件(lysis 19℃と37℃、時間1、2、4、24時間)で比較したいと考えたので、前回報告したヒト由来二倍体細胞、HeLa細胞、マウス由来L細胞に加えてマウス由来胎児細胞、L-5178Y細胞とも実験してみた。
 (II)(図を呈示)マウス由来胎児細胞の遠心パターンのデータは19℃lysisでは1時間2時間でcomplexの山がみられ、4時間lysisでBottomより13〜14本目のmain peakが一番高くなっている。37℃lysisでは1時間lysisで既にmain peakが現れている。
 (図を呈示)L-5178Y・マウスlymphoblastoma originは今迄HeLa細胞、L細胞でみられたように、1時間lysisで既にmainpeakが12本目に現れている。
 (III)前回ふれたことであるが、このDNA崩壊のパターンに核膜の有無が関係している可能性があるので、核膜の消失しているmetaphaseの細胞のみ集めてアルカリlysis液中にのせ同じ条件で遠心してみた。(図を呈示)HeLa細胞の結果(先回月報7306で24時間目のみ欠)と、ヒト由来2倍体細胞のmetaphase細胞の結果は、両者共、1時間lysisで13本目にピークが現われ、19℃lysisにも拘らずcomplexの出現は見られなかった。

 :質疑応答:
[山田]Degradationが起こる場合、癌細胞と正常細胞とでどう違うのですか。
[梅田]癌細胞はcomplexにならず、正常細胞は小さいけれどcomplexになりやすいと考えています。正常細胞はDNAが核膜に強くついているのではないでしょうか。
[松村]分子量の変化は超遠心以外にもfilterにかけるとか、、電気泳動とかでもみられるので、そういう方法も平行してやった方がよいと思います。S値の変化は色々な原因で起るので、この結果からだけでstrand breakageと断定は出来ないのではないでしょうか。

《黒木報告》
 <cAMPの糖アミノ酸輸送能への影響>
 前からすすめてきた細胞の膜輸送能研究の一環として、cAMPの糖、アミノ酸輸送能への効果を調べた。実験材料として、主にハムスター胎児細胞(HE)を用いた。
 dibutyryl cAMP(dbcAMP)及びtheophyllineを1mMに24時間処置したのち、2-deoxy-D-glucoseとα-aminoisobutyric acid(AIB)のとりこみをみた。とりこみの測定はMartinの方法に従った。とりこみは20分まで直線的に増加する。glucoseのみのとりこみはdbcAMP+theo.で促進されるのに、AIBのとりこみは抑制されるという、一見矛盾した成績を得た。
 (図を呈示)theoph.を1mMにして、dbcAMPを0.1、0.3、1.0、3.0mMとかえたときのとりこみでは、theo.もdbcAMPも含まないときの値を100%として、glucoseのとりこみ促進、AIBの抑制はともに、dbcAMPの濃度に依存している。特に、theo.のみでglucoseとAIBのとりこみが抑制されている。theo.の単独では、抑制的に働くことを示している。
 HE以外の細胞について調べたところ、dbcAMPによるglu.とりこみ促進はHEとHA-15のみで、他の細胞では無効か、あるいは逆に抑制的に働いた。
 この成績は複雑であり、clearcutな説明を与えることは困難である。ただ云えることは、transport siteとそのregulatory mechanismは、基質によって、また細胞によって異っているであろうことである。

 :質疑応答:
[吉田]UV感受性の問題で、golden hamsterはどうでしょうか。
[黒木]調べてありません。
[松村]Reversionが起こるのはUVをかけてからでなく、MNNG処理してからの時間の方が問題なのかも知れません。MNNG処理後変異が安定してからUVをかけたらどうでしょう。
[津田]cAMPでAIBのとり込みが落ちるのは何故でしょうか。
[黒木]Theophyllin単独で低下しますから、cAMPの作用ではないのかも知れません。

《野瀬報告》
 Sucrose利用性細胞を単離する試み:
 前報に報告したようにrat embryoから、培地のglucoseをsucroseと置換してその中で細胞を継代してきた。この細胞(RESと命名)のgrowth curveを示す(図を呈示)。培養開始後1カ月たっているがglucoseの代わりにsucrosを利用してかなり良く増殖できる。lactoseはあまり良い糖源とはならないようである。糖を全く含まない培地では増殖が全くなく細胞は死んでゆくので、糖を要求しないのではなく、sucroseを利用していると考えられる。そこで、一般に細胞内へは取込まれないと言われているsucroseが、この細胞には取込まれるのかどうか検討した。H3-deoxy-O-Glc.およびH3-Sucroseの細胞への取込みをみた結果、deoxy-Glc.は取込まれるが、Sucroseはほとんど入らないことがわかった。従ってもしこの結果が正しければRES細胞は細胞外でSucroseを分解してから単糖類を取込むのではないかと考えられる。
 Sucrose及びglucose培地で継代した細胞の染色体数の分布は、ほぼdiploidで、modeは40〜42本であった。
 次にestablished cell lineから同様にsucrose利用性細胞がとれるかどうか検討した。HeLaS3とCHO-K1をglucose中、sucrose中およびno sugerでの増殖をみた。基礎培地はglucose-freeのEagle'sMEM(2xAAs Vitamins)+5%透析FCSである。どちらの細胞もsucrose中では増殖できなかった。これらの細胞をmutagen処理し、適当な期間培養した後、sucrose培地に移し、生育できるcloneができるかどうか調べてみた。HeLaS3では数回の実験ですべて細胞は死滅し、目的の細胞はとれなかったが、CHO-K1では(表を呈示)sucrose培地中でいくつかcolonyが形成された。これを単離しようとしたが、うまくゆかず、本当にsucroseを利用できる株なのかどうかまだ確実ではない。
 その後何回か同様な実験を行なったがsucrose培地でcolonyができたのはこの一度だけで、あとはすべてnegativeであった。しかしcolonyのでき方が、全体にまばらに細胞がいる中にはっきりできていたので、この実験は確かと思われる。colonyのでき方は発癌剤によって形態的transformationを起こした場合と似ているので、この実験系を確立してin vitro発癌実験のモデルとしたいと考えている。

 :質疑応答:
[吉田]自然には、こういう変異細胞は出て来ないのですか。
[野瀬]出てきません。
[吉田]染色体数の分布、対照の方にモードが少しずれているのがありましたね。

《吉田報告》
 Colcemid reversal法によるラット肺細胞の異数性クローンの人為的誘発:
 染色体の変異と細胞の癌化との関係を明らかにする目的で、Colcemid reversal法によりLong-Evans系ラットの肺培養細胞を用いてトリソミーやモノソミーなどの異数性クローンを多数作成した。クローン作成のprocedureは次の通りである。
 Long-Evans(♂)Lung culture→11代subculture→cylinder methodによりCloningを2回くり返しdiploid cloneを分離→同クローンを-80℃で冷凍保存し、以後使用時溶解する→(9cm)plastic cishに細胞をまき1day culture→colcemid 0.02〜0.06μg/ml加え37℃で2〜6hrs culture→pipettingによりmetaphase cellsをはがす→washing by centri.2回→Metaphase cells collected→(9cm)plastic dishに50〜100cellsをまく→about 10days culture→cylinder methodによりcloning。
 <結果>
 Metaphase cellsをシャーレにまいて1doubling time(15〜20hrs)後、染色体標本を作成した時、anewploid cellsの頻度は約10〜20%で、モノソミーとトリソミーは約等頻度で得られる。2m=40以下の細胞は2n=44以上の細胞より得られにくい。クローンとして得られる異数性頻度は約5〜10%である。(作成されたモノソミー及びトリソミーのクローン
15系の表を呈示)。

 :質疑応答:
[佐藤]Colcemideを加えて出てくるcloneで、染色体41本と43本の関係は、42本から1本減ったのが41本で、その1本が42本に加わると43本になるということでしょうか。
[吉田]ラッテではそう簡単にゆきませんね。Monosomyになると致死的になるという事があるのかも知れません。
[高岡]Cloneでtrisomyを維持できる期間はどの位ですか。
[吉田]よく判りませんが、1カ月から1年位は大丈夫だと思います。とにかく、癌化に関係のある染色体はどれかを追跡する手段にしたいと思っています。

《堀川報告》
 以前にも報告したように、当教室で開発したレプリカ培養法を用いることによって、Chinese hamster hai細胞株(山根研究室より入手)の個々の細胞について栄養要求性を調べた結果、この細胞株は各種栄養要求性変異細胞から構成されていることがわかったが、この方法によって現在1種類の栄養非要求性細胞株(Ala+、Asn+、Pro+、Asp+、Hyp+、Glu+:この細胞はCH-hai N12と名づけた)、および2種類の栄養要求性細胞株(Asn-、Pro-、Asp-、Ser-、TdR-とAla-、Asn-、Pro-、Ser-、Gly-、TdR-)を分離して継代している。これらのうち前者の栄養非要求性細胞株(Prototroph)を使用すれば前進突然変異を解析することが出来るし、後者の栄養要求性細胞株(Auxotrophs a)とb))を使えば復帰突然変異を調べることが出来るのは当然のことである。
 さて、今回はこれらのうちで前者つまりPrototrophを用いることによってX線照射した場合のAuxotrophの出現率、つまり前進突然変異の誘発率を算定することを試みた実験系について報告する(表を呈示)。
 このさいPrototroph中に出現したAuxotrophを選別する方法がまず必要な訳であるが、現在の段階ではこのための完全な方法は確立されていない。従って本実験ではPuckとKao(1967)によるBUdR−可視光線法(表を呈示)を応用した。(個々の処理時間、BUdR処理濃度などの決定には別の基礎実験から得たデータをもとにして定めたものであるが、ここではそれらについての詳細は省略する。) いづれにしても100万個の細胞をmutagen(X線)で処理したあと、完全培地中でfixation and expressionのために48時間培養し、ついで10万個づつの細胞をシャーレに植えこみDeficient medium中で更にstarvationのために24時間培養する。ついで3x10-6乗M BUdR中で24時間培養したのち、120w可視光線で60分間照射することによりPrototrophのみを殺し、Auxotrophを選択的に生かせて、その後完全培地中でコロニーを形成させることによってその数を算定しようとするものである。
 さて、この方法によって前記のPrototrophを各種線量のX線で照射した際の線量−生存率曲線ならびに10万個生存細胞数あたりの誘発突然変異率をまとめた(図を呈示)。このCH-hai N12細胞となづけたPrototrophはX線に対して比較的抵抗性細胞であって、n=4.6、D0=200R近辺にある。一方、突然変異の誘発(Prototroph→Auxotroph)は低線量域では非常に低く、400R位から急激に増加してくるが、高線量域では横ばいの型になる。このような型の誘発突然変異率曲線が何故得られるのかについての解析は今後に残されている。なお今後の問題としてこのBUdR−可視光線法によって得たAuxotrophと思われるもののうち果して、どれ程が本物のAuxotrophであるか、つまりBUdR−可視光線法の本実験への有用性の検討をレプリカ培養法を使って検討する必要があるであろうし、一方この実験系で得ている誘発突然変異率とazaguanine抵抗性を指標にして解析を進めている誘発突然変異率、さらにはAuxotrophを用いた場合の復帰突然変異率との関係がどのようであるかといった比較検討が残されている。

【勝田班月報・7309】
《勝田報告》
 Spermineのラッテ肝細胞増殖阻害について
1)SpermineでRLC-10(2)(肝細胞)を、色々な時間に処理したあとの細胞増殖をみた結果を図に示す(図を呈示)。90分以上処理すると、著明な阻害がみられた。
 2)以後の実験はspermineの細胞阻害作用を何かの薬剤で阻止できないか、という企てである。まずspermine 0.97及び1.95μg/mlを添加し同時にchondroitin sulfate 500μg/ml、poly L glutamic acid 500μg/ml、lysozyme 1mg/ml、N-acetylglucosamine 1mg/ml、N-acetylglucosamine 1mg/mlの添加を試してみましたが、spermine 1.95μg/mlにlysozyme 1mg/mlの併合のときに増殖阻害がやや緩和された。これ以外の組合せでは全く阻止効果がなく、spermineの単独添加の場合と同程度の阻害がみられた。
 3)Chondrotin sulfate、poly L glutamic acid(soda)、lysozyme、N-acethyl-D-glucos-amineなどを各1mg/mlに別個に添加し、培養1日后にspermineを1.95μg/mlに添加してみたが、どの薬剤についても阻害の阻止効果は全く見られなかった。
 4)Spermine 1.95μg/mlに添加した培地でRLC-10(2)(ラッテ肝)、JTC-16・P3(ラッテ肝癌AH-7974の完全合成培地内継代株)を1日間培養した後、その培地をRLC-10(2)の培養培地に添加してみた。結果として、JTC-16・P3を培養した培地では、阻害が相変らず起ったが、RLC-10(2)を培養した培地では阻害が若干緩和されていた。何を意味するのか、現在では全く判らない現象であるが、色々考えさせられる所見である。

《梅田報告》
 (1)月報7307で、YS細胞での8-azaguanine(8AG)耐性実験について述べた。その後の実験では以下の表の如き結果を得た(表を呈示)。Group(A)の小さなcolonyを5つ程cloningし、正常培地で培養を続けた。増殖しなかったもの、又contaminationもあって結局たった1コのcloneしか残らなかった。このcloneが3週間培養後やっと増殖してきたので、細胞を2つの培養瓶にわけ、一方に10-5乗M 8AGを入れてみた。今迄の実験で、mass cultureでは10-5乗M 8AGでsensitiveな細胞はすべて死滅し、耐性細胞のみ残存増殖を続けることがわかっているが、本細胞は8AGを入れてなかった培養と同じ様な増殖を続け、明らかに胎生のあることがわかった。
 (2)前回の報告では10-4.5乗Mのagar medium中より拾った細胞は、すべて耐性がない(10-5乗Mの培地で)ことを報告しているので今回の結果と合せると、YS細胞をsoft agar培地中でcloningする我々の実験方法では10-5乗M 8AG耐性細胞を得るには、10-4乗Mと云った10倍も濃い8AGの入ったsoft agar medium中で選択しなければならないとの結論になる。
 (3)因みに文献をあたってみるとChuら(1968)では、generation time 12時間と云う増殖の非常に早いChinese hamster cell lineを使って、Selective agentである8AGを何回も投与している(表を呈示)。
 即ち我々の場合、YS細胞が浮遊細胞故、soft agar法でコロニーを作らせざるを得ず、その為、何回もselective agentである8AGを投与出来ないのが、我々のdataの原因とも受けとれる。
 更に気になるのは、8AG抵抗性にはpartialとtotalと度合いに差があるとの報告が見出された。Littlefild(1963、1964)。そうなると、我々のデータで10-4.5乗Mで生ずるコロニーはpartial resistanceのものなのかどうか更に検索が必要になったと思われる。いずれにせよ、この種の実験では物事が非常に複雑にからんでいると云わざるを得ない。

《乾報告》
 今月は専売公社へ参りまして、初めて扱った、タバコに関しての二、三の報告をします。 ◇シートタバコの毒性、癌原性についての予備実験
 ここ二、三年国内産タバコ葉の不足から、タバコ葉の葉脈、裁断小片を再生し、これら原料を一旦粉末化した上、紙すきの工法でのり、香料を添加し、シートを作り、これを再裁断し、紙巻タバコを作る方法が考案され、実用化がめざされている。
 今回は公社で試験的に加工したシートタバコ標本(B)タール毒性、突然変異誘導性を、標準タバコ(C)と、黄色種巣葉試験タバコ(A)のそれと比較した結果を報告します。
 1)検定細胞にHeLa細胞、ハムスター胎児起原の繊維芽細胞(2代目)を使い、梅田らの考案したラブテックチェンバー法で、上記3種のタール100、31、10、3.1、1、0.3、0.1μg/mlを10万個/mlの細胞とMEM+10%C.S.下で72時間作用し、タールの細胞に対する作用を、増殖、形態変化を指標として検定した結果は表の如くであった(表を呈示)。以上の結果より細胞に対するGrowth Inhibitionは、黄色タールが一番強く、標準タバコが弱く、検体であるシートタバコは二者の中間であった。
なおAryl-hydrocarbone hydroxdase(A.H.H.)を産生していると考えられるHamster Cellでは、障害が強く表われ、A.H.H.マイナスのHeLa細胞では障害が弱く表われた事から、タール物質中、細胞毒性物質として働くものの大部分が、芳香族炭化水素の活性型であることが推察される。
タバコタールによっておこる細胞の形態異常は大部分が多核細胞、巨核細胞の出現、核のPiknosis、多極分裂で三者の間に差はなかった。
 2)突然変異誘導テスト
 検定細胞に前記同様ハムスター細胞を用いFeaderの細胞としてラット胎児源の繊維芽細胞を使用した。
実験はHeidelbergerやSachsらの方法と略々同様である。即ち、MEM+10%CSでラットの細胞をあらかじめ単層培養し、この細胞にX線5500γ照射後、同種メデュウム5mlに10万個の細胞を浮遊し、同時に未処理ハムスター細胞を300ケ加え、シャーレに播種した。12〜24時間後、細胞がシャーレ底に定着した時期に、10、5、2、1μg/mlのタールを添加した培地を加え48時間培養をつづけ、後、Hanks液で3回洗い、通常培地で2週間培養後、シャーレ中の細胞を固定、HE染色後、Colony数の算定、変異Colonyの算定を行った。
結果はTar A GroupのControlの失敗があった故、一部のみ上げると表の如くです。(表を呈示)。即ちControlのPEは9%、TarBは6.4%、TarCは5.6%。変異Colony出現RateはControlは0、RarBは0.33%、TarCは0.75%。

《山田報告》
今回は肝癌細胞から作られると思われる毒性物質の分析の一環として、Spermine、Spe-rmidine、Putrescineの細胞表面に与える直接影響について細胞電気泳動法により検索しました。(図を呈示)。結果は図に示すごとくで明らかです。
 Spermineは興味あることに低濃度(0.1〜0.65μg/ml)を用いると、その表面荷電が高くなり、それ以上の濃度では急烈に減少して来ました。
これに対し、Spermidineは3.9μg/mlまでの濃度を用いた限りでは殆んど、影響がなく、Putrescineは125μg/mlの高濃度で、若干細胞の電気泳動度を低下させるのみです。用いた細胞はすべてRLC-10(2)です。
 Spermineの反応態度をみると、丁度neuraminidase処理と似て居ります。恐らくは肝癌細胞に対しては低濃度を用いて荷電の上昇をきたすことになると思います。
 いづれにしろSpermineは1μg以下の極めて低濃度に於いて、細胞膜に変化を与えることは事実の様です。

《佐藤報告》
 (STI)Normal Adult Rat liver由来のEpithelial Cell Lineの樹立:
 P.T.Iype(1971)が、Normal adult rat liver cellsのIn vitro cultureに成功し、それを用いて、CarcinogenとCell surface antigenic changeの関係を、最近報告している。又Aromatic amine carcinogensによりinduceされたPrimary hepatoma、及びTransplantable hepatomaからEstablishされたLines、並びにそのCotrolとしてNormal adult rat liver由来のEpithelial cell linesが報告されている。
 我々もP.T.Iypeと同様にEpithelialのNormal cell systemを確立し、Chemical carcino-genesis in vitroの研究をする目的で、Normal adult rat liver由来のEpithelial cell lineの樹立を試みてきたので現在までの結果を報告する。
 §材料と方法§
 Adult rat liverの細胞分散にはCollagenaseとHyaluronidaseを用いた報告が多いが、我々は従来用いてきた0.2%Trypsin in PBS(-)による細胞分散により、得られた細胞よりcultureした。
 (1)Rat age、Sex(表を呈示)。
(2)Ethyletherにてマスイし、以後asepticに行う。
(3)開腹後、V.portalにCatheterを挿入し、U.C.inf.を切断し、CatheterよりSyringeで50mlのPBS(-)を注入し、完全に脱血する。
Not perfusedはDecapitationにより脱血したものである。
(4)Liverを取出し、メスで細切、0.2%Trypsin消化し、TD40、TD15、Petridish(PI)等に表に示した細胞数でうえ込む。 Medium;Eagle's MEM80%+Pc100u/ml+SM50μg/ml。Passage;0.1%〜0.05%Trypsin in PBS(-)。
 §結果§
 (1)5例中5例に増殖型のEpithelial cellが優勢のcell lineが得られた。
 (2)RAL2 lineより9代、63培養日数にてColonial cloningを試み、Epithelial 6 sbulineを得た。
(3)Passage:1回/5〜10日、1:2分割。
   RAL 3:5代、6代が1:1分割。
   RAL 4:1代、4代が1:1分割。
(4)PAS染色:弱陽性。G6Pase染色:陽性の結果を得ていない。
 (5)Chromosome、Serum Protein産生(特にAlbumin産生)etcを現在検索中である。
 (T-3)dRLa-74分散実験(続き)
 前報(No.7308)で示した如く、dRLa-74はTrypsinとEDTAの組合せにより、遊離細胞を得る事を知ったが、今回はこの組合せにより、更に高率に遊離細胞を得る事を目的として、二三の条件を検討してみた。
 (1)濃度:Trypsin(0.2%〜0.05%)、EDTA(0.05%〜0.002%)の範囲ではTrypsin 0.2%、EDTA 0.05%の組合せが、最も高率に遊離細胞が得られたので、以下の実験は、この濃度で行った。
(2)時間:(表を呈示)20分間の処理で20%前後の遊離細胞が得られるが、時間を延長しても特に大きな増加はない様である。
 (3)温度:(表を呈示)37℃(フラン器)、27℃(室温)、4℃(冷蔵庫)、処理は60分間。4℃、27℃では10%以下。37℃はほぼ30%。
 (4)pH:(表を呈示)図から明らかな如く、pH8.2で高率に遊離細胞を得た。興味ある事は、このpHでTrypsin、EDTAの各々の単独でも遊離細胞が得られる事である。pHは、0.02MTris-HCl buffer(0.1M sucroseを含む)により調整した。処理時間は60分。
 この様にして得られた遊離細胞のクローン化を現在試みつつある。

《高木報告》
 AAACNによるin vitro発癌の試み:
 これまで行なって来たAAACN処理実験は、一回処理群で処理後6ケ月、8回処理群で各処理後2ケ月を経過していずれも形態の変化を認めず、実験を中止した。さらに検討するため、新たにMNNGをpositive controlとしてAAACNの実験を再スタートした。3系に分けて実験を行なったが、用いた薬剤の濃度をまとめるとAAACNは3.3x10-4乗、2x10-4乗、1.6x10-4乗、10-4乗M、controlのMNNGは3.3x10-5乗、2x10-5乗、1.6x10-5乗、10-5Mである。細胞はRFLC-5を用い、20万個/bottleでMA-30にまいて2日後subconfluentの状態の時にcell sheetをPBSで2回、MEMで1回洗ってMEMに溶かしたAAACN、MNNGを2時間作用させた。終って再びPBSで2回、MEMで1回洗って培地を交換し経過を観察した。初期の変化をのべると、AAACN 3.3x10-4乗、2x10-4乗、1.6x10-4乗Mでは作用直後より細胞の変性像が著明で、わずかに少数の円形化した細胞が、ガラス壁に付着しているだけであり、4週間の観察期間恢復の兆はみられない。10-4乗Mでは作用直後の細胞は細胞質に顆粒多く、周辺の不整がみられ、それらの変化は1〜3日後まで強まり、円形化した細胞の数も増加した。1週後より生き残った細胞(foci?)の増殖がみられ、以後この細胞は次第に増殖する傾向を示した。これらの初期の変化は再現性があったが、2度目に行なった実験の方が変化は強かった。これら薬剤の細胞毒作用は、細胞数のみならず母培養の状態その他のfactorによっても影響をうけるようである。
 対照のMNNGは3.3x10-5乗Mでは作用直後より4〜5日後に変性が最も強く、そのままの変性した細胞がガラス壁に付着した状態が続いている。2.0x10-5乗M、1.6x1-5乗Mでも4〜5日後にもっとも変性像が強かったが疎につらなったspindle shaped cellsが6日目にはpiling upの傾向を示し、10日をすぎて増殖を示すfociが認められ、細胞は次第に増加の傾向を示している。変性のおこり方はAAACNとMNNGでは明らかに異なる。次回の班会議に、これらのスライドを供覧する。
XP細胞についても報告する予定である。

《藤井報告》
 Culb-TC細胞に対して、in vitroで感作されたリンパ系細胞の標的細胞破壊作用:
 Culb-TCその他の培養ラット肝細胞の、in vitro悪性化細胞やいくつかの人癌について、mixed lymphocyte-tumor cell culture reaction(MLTR)を実施してきました。MLTRで刺激され、H3-TdRのとり込みの昂まる、リンパ系細胞の反応が、in vivoでおこるリンパ球の、immunoblastの形成に連る反応であるかどうかは、類推として正当にみえるが、とくに癌免疫のばあいの確証はないと思う。
そこで、Culb-TC細胞を用いて、この細胞に対して、反応した同系のJAR-1 ratリンパ系細胞が、標的細胞に対して細胞障害性に作用するか、否かを検討してみた。この種の実験は、マウスの腫瘍では、一応in vitro感作リンパ球の細胞障害活性をin vitroおよびin vivoで示し、報告してある。(以下、表1、2、3を呈示)
 1.JAR-1ラット、脾および末梢白血球のin vitro感作:
 脱血后の脾の細胞浮遊液と末梢血中のリンパ系細胞はAngio conray-Ficol法で集めてあり、リンパ系細胞は80〜90%に含まれる。刺激細胞、Culb-TCは予め4,000R照射した。反応細胞(リンパ系細胞)と刺激細胞を5:1の割で混合し、炭酸ガスフランキ中で培養した。容器はプラスチックプレート(FB54、Limbro)を使用した。培養のプロトコールは、表1のとおりで、5日間培養の后では、Culb-TCと混合培養した脾細胞のうち、その24%が生残り、その50%が大型のblastoid cellsであった(blastoidという確証はないが)。同じく、末梢白血球では、35%が残り、その27%が大型細胞であった。これらの細胞を、rubber policemanではづし、1回RPMI 1640液で遠心により洗った后、標的細胞破壊実験に供した。
 2.標的細胞の標識:
 Culb-TCおよび、対照の同系細胞として、JAR-1 rat由来の肺上皮細胞と思われる、RLG-1strainを、癌細胞研のDr.高岡より分与され試用した。RLG-1はJRA-1 ratに復元可能な悪性化株とのことである。
 これら細胞株を、semi microplate(Limbro、FB48TC、1wellの容量、0.4ml)、および小ガラス試験管(径0.6mm)を、5,000cells/0.25ml/tube or wellの割で分注した。1日間培養后、浮游細胞を吸引により除き、I-125-iododeoxyuridineを5μgCi/mlの濃度で、また5-FUDRを10-6乗Mの濃度になるように調整したMEM 0.4mlを加え、20時間のlabeling incubationをおこなった。標識の成績は表2に示した。
 3.in vitro cytotoxicity test:表2に示したように、I-125-IDU(iododeoxyuridine)で標識后の各孔およびチューブ中の標識細胞数に対して、in vitroで照射刺激細胞と5日間混合培養されてきたリンパ系細胞を100、10の割に加え、24時間培養した。このさいは、90%RPMI 1640、10%ラット血清の培養液で、5%炭酸ガスフランキ中で培養した。
 24時間における標的細胞破壊は、表3のようになった。plate法では、障害〜溶解細胞を、Pasteur pipettで吸引して(3回)、生残標的細胞の放射能をWellタイプ放射能測定機で測定したものであり、tube法では遠心(1000rpm、5分)3回で障害〜溶解細胞を上清と共に除いた。 Plate法、tube法とも、大体同じ傾向の成績を示した。in vitro感作リンパ球は、標的細胞に対し、細胞障害性に作用しているようである。対照のRLG-1に対しては、ほとんど細胞障害活性がない。感作リンパのdose responseや、免疫学的特異性は、incubation時間を長くすると、はっきりするかも知れない。ふつうリンパ球のin vitro cytotoxic actionは24〜48時間で高くなる。末梢血中リンパ系細胞のcytotoxic activityが脾細胞より低くなった。これは、脾細胞群にマクロファージなどが混入しているためか、リンパ球自身の活性の差か、検討する要がある。この実験やマウスの同様の実験から、MLTRでのリンパ球反応が、免疫学的であると云えよう。

《堀川報告》
 今年の夏は暑かったためか、仕事の上でもそれほど大きな成果を得ることは出来なかった。従って今回も前回につづいて体細胞突然変異の研究結果を報告する。
 例によって、Chinese hamster hai細胞からレプリカ培養法によって得た栄養要求性細胞(Ala+、Asn+、Pro+、Hyp+、Glu+)を各種線量のUVで照射した後、完全培地中で48時間fixation and expressionの為培養したのち、BUdR−可視光線法によって栄養要求性細胞(Auxotrophs)のみを分離して、induced mutation frequencyを調べた。
各種線量のUVで照射した際の線量−生存率曲線ならびに10万個生存細胞数あたりの誘発突然変異率をまとめて示したのが第1図である(図を呈示)。
 この実験に関してはまだ実験例が少ないのではっきりしたことは云えないが、前回の月報で示したX線による誘発突然変異率の結果(参考のため第2図に再度示した)と大きく違っている。つまりUVの場合にはX線の場合と異ってlagがなく、25ergs/平方mmという低線量照射においてすでに多くのAuxotrophic mutant cellが誘発される。しかし、高線量域にいてはX線の場合とほぼ同様な傾向を示すようである。変異誘発能がX線とUVで大幅に異なるのか、それともこれは本実験に使用しているChinese hamster hai(CH-hai N12)細胞独特のものであるのかといった解析が今後に残されている。いづれにせよ、これらについての総合的な結果は次回の班会議で報告する予定である。

《野瀬報告》
 Alkaline phosphatase活性誘導の機構(6)
dibutyryl cAMP(DBC)により、JTC-25・P5細胞のALKphosphatase(ALP)活性が上昇することは既に報告した。この活性上昇(誘導)がALP酵素蛋白そのものの増加によるのか、それとも既存の酵素の活性化によるのかは、まだ結論が出ていない。cycloheximide、actinomycinDにより誘導は阻害されたが、これらの薬物は毒性が強いためdataの信頼性が低い。そこで、他の蛋白合成阻害剤としてpactamycinを用いてみた。この物質は、mammalianの蛋白合成のinitiationを阻害することが知られている。
 JTC-25・P5細胞にpactamycinを加え、37℃で1時間のH3-LeuのTCA-insoluble分劃へのとりこみを見たのが表1である(以下、図表を呈示)。1μg/mlの濃度で約93%の蛋白合成阻害が見られた。DBC 0.25mM、theophyllin 1mMでALP-Iの誘導を起こし、ここにこのpactamycinを添加して影響を見たのが表2である。cycloheximideは、確かに誘導を阻害しているが、pactamycinは阻害せず、むしろ若干の促進が見られた。細胞増殖に関してもpactamycinは図1に見られるように完全に抑制しているので、4日間の培養中に活性を失ったとは考えられない。
 ALP-Iはplasma membraneに結合して存在すると考えられ、JTC-25・P5細胞でも誘導されたALP-I活性のsubcellular distuributionは表3のようにsup.にはほとんどなくparticulate-boundであった。また、この酵素を精製する際も、Butanol抽出を行なった後でも非常に大きなcomplexとして活性が存在し、恐らくlipidと結合していると想像される。
 以上の事から、DBCによるALP-Iの誘導の機構として
 (1)de novo蛋白合成は必要なく、誘導は既存の酵素蛋白の活性化による。
 (2)pactamycinはinitiationだけを抑えるので、ALP-I酵素蛋白の合成が開始していては、その合成の阻害はない。従って、誘導する以前から、細胞内にALP-I蛋白の"initiation complex"ができていて、DBCによりその読み取りが開始される。
 の2つの仮説が考えられる。現在、このどちらであるかは決定できないし、ALP-I蛋白が完全に精製されるまでは、これ以上進展できないように思われる。

《黒木挨拶》
 9月3日、羽田発で出発します。行先はフランス・リヨン市にあるWHOの、International Agency for Research on Cancer(IARC)Unit of Chemical Carcinogenesis(Dr.L.Tomatis)のところです。
 仕事の内容はおそらく肝細胞、腎細胞を用いたNitrosoamineによるtransformationと、mutagenesis関係の仕事になることと思います。前者の仕事はすでにTomatisのところで成功している実験系を用い、あるいは新たに、肝、腎細胞の分離からはじめるかも知れません。 第二の仕事であるmutagenesisは、3ケ月という短期間の間に、できるだけ成果を挙げるべく行うわけで、こちらで分離したFM3AのHGPRT-→←HGPRT+変異をみるつもりです。ただこれだけではoriginalityに乏しいので、Agar plate Cultureと組合せて、新しい実験系の開発も試みるつもりです。
 このほか、IARCの組織培養関係のconsultantとしての役割も、向うでは期待しているように思われます。
 帰りに、ベルギーで行はれるWorkshop on Approaches to assess the significance of experimental chemical carcinogenesis data for manという会議に出席します(12月10〜12日)。これにはAmes Conney、Gelboin、Grover、Huberman、Magee、Vasiliev、それに杉村さんなどの人達が出席するので、得るところが多いであろうと期待しています。12月末の研究室の大そうじまでには帰るつもりです。  

【勝田班月報:7310:栄養非要求性株の復帰突然変異】
《勝田報告》
 培養哺乳動物細胞の増殖に対するSpermineの影響:
 前号にひきつづいてSpermineの話であるが、各種の細胞について、その培地中にSpermineを添加し、細胞増殖への影響をまずしらべてみた。
 (図を呈示)結果は、動物に対する可移植性(悪性度)に反比例して増殖阻害度が大きいことは、大変興味をひかれるところである。(あんまり話がうますぎるので慎重にしなくてはならないが)。
 次にspermineの細胞増殖阻害効果を抑制する物質がないかと色々の物質についてしらべてみた。(各実験毎に図を呈示)poly-L-glutamic acid、chondroitin sulfate、N-acetyl-D-glucosamineをRLC-10(2)の培地に添加した結果、阻害抑制効果は全く見られていない。lysozyme(chick eggより精製、エイザイ)では少し、その効果がみられた。そこで希望をもって、lysozymeを各種濃度に培地に加えてみたが、今度はspermineの濃度が高かったためか、全く効果がみられなかった。
 ここまではspermineと各種物質を同時に添加したときの所見であるが、あらかじめ各種薬剤を添加し、1日後にspermineを添加してみたが、用いた限りの薬剤では何の抑制効果もみられなかった。
 Spermineのeffectが細胞膜に関与しているのではないかという可能性を考え、RLC-10(2)を1日培養後にtrypsinで5分間処理し、それにspermineを3.9μg/mlに添加した実験では、結局trypsin処理はspermine阻害効果に何の影響も与え得なかった。
 次にspermine自体を、培地あるいはsalineDに入れ、あらかじめ37℃、4℃などで24時間処理したあと、細胞の培養に添加した。血清を含む培地に混ぜて37℃においた群が増殖阻害をかなり抑えているのは注目に値する。その他の群では全く効果がなかったが、血清の(おそらくその蛋白の)役割と、なぜ37℃という温度が必要なのか、ということは今後さらに研究してみる必要のあるところである。
 Spermineの存在下でRLC-10(2)を各種濃度で培養し、その後その培地をRLC-10(2)の培養に加えてみた。JTC-16(AH-7974)の培養後培地も加えられている。この結果は、細胞濃度の高いほどSpermineによる増殖阻害を予防しやすいことを示していた。
 Spermineが肝癌の毒性物質そのものか否かは判らない。しかし非常に似通った特性を持っていることだけは確認できた。

 :質疑応答:
[堀川]前処置する細胞が多い程、阻害効果が減るのは物が吸着するためでしょうか。
[勝田]代謝されるという事も考えられると思います。
[堀川]スペルミンの効果は可逆的ですか。
[高岡]死ぬか生きるかの濃度の限界がとてもcriticalなのですが、処理後生き残った細胞は増殖可能です。
[野瀬]肝癌からの毒性分劃は血清とのpreincubationで毒性が低下しますか。
[高岡]それはまだ調べてありません。
[勝田]培地と37℃加温すると毒性が減りますが、生体内ではいつも37℃なのですから、その面からもやはりスペルミンそのものが毒性分劃のすべてとは思えませんね。
[山上]死に至る経過が早いという面から考えますと、呼吸阻害のような物ですか。
[野瀬]障害を起こす濃度で処理してもチミジン、ロイシンの摂り込みは抑えません。
[永井]Energy産生系に作用しても、そんなに早く効果は出ないでしょうね。Cell freeの系での実験ではむしろ促進傾向のようです。
[勝田]細胞がどうして死ぬかが問題です。映画でみたスペルミンの添加による死に方は、肝癌の毒性分劃添加の時のようなbubblingがみられませんでした。
[山田]酵素を作用させたときに、スベルミンのような死に方をするかと思います。
[永井]プトレッシンに全く阻害作用がないのも問題ですね。
[乾 ]RNA合成阻害剤なども使ってみたらどうでしょう。
[堀川]それが効果があったとしても間接的でしょうね。
[勝田]毒性物質の本体とスベルミンとのギャップを埋めるのがこれからの問題です。
[山田]スペルミンとスペルミジンの生物活性の違いはどうですか。
[永井]程度の差だと思いますね。動物細胞でプトレッシン→スベルミジンという合成経路がはっきり証明されれば、もう少し問題がはっきりしてくるでしょう。ペニシリンのように細胞膜の生合成系の阻害を起こすのではないかとも考えられます。
[山田]私のデータからみても膜に関係のある作用のように思いますね。トリプシンを作用させたときのトリプシン濃度はどの位ですか。
[高岡]普通継代するために使う濃度で、モチダのトリプシリン、200u/mlです。

《山田報告》
 ConAによる癌細胞表面荷電に及ぼす影響を検索していますが、今回はInsulin、EpinephrinがConAの表面荷電に及ぼす影響を増強し、(But)2cAMP及びGlucagonは抑制することを明らかにしました。いずれも細胞内のcAMPの変動を介しての変化と考へています(図を呈示)。

 :質疑応答:
[乾 ]復習になりますが、細胞電気泳動値は細胞の分裂周期にどう影響されますか。
[山田]分裂期には上がります。S期が一番低いのです。
[高岡]スペルミンを作用させた時の細胞数はどの位ですか。致死濃度は細胞数によって少し違ってきます。
[山田]200万個の細胞で0.1μg/mlで効いています。
[高岡]培養でのデータは1〜20万個の細胞に約2μg/mlが致死量ですから、膜の変化はもっと敏感なのですね。
[野瀬]スペルミンがただ膜にくっついたという事ではないのですね。
[山田]ノイラミニダーゼを作用させると、マイナスチャージは上がりますがノイラミン酸は遊離してきます。膜全体のシアル酸の総量が泳動値になるのではなくて、膜表面に出ているシアル酸の荷電が値になるのです。泳動値の変化は膜表面のシアル酸を潰すという事と中にあるシアル酸をむき出しにするという事から起こる訳です。
[堀川]スペルミン高濃度の処理で落ちてくるのはどう考えますか。
[山田]1.マイナス部分に更にプラスの物質がくっついてmaskされる。2.膜の変化が更に進む。一応変性を考えています。膜の透過性も変わってくるのかも知れません。
[藤井]肝癌培地の毒性分劃の膜に対する影響は調べましたか。
[勝田・山田]まだみていませんが、ぜひ調べてみたいですね。
[堀川]ConAの実験でインスリンの効果をどう考えられますか。
[山田]cAMPを介しての変化だと考えています。
[佐藤]正常に近い肝細胞ではどうかという事が知りたいですね。是非調べて下さい。
[梅田]cAMP処理でuridine取り込みが促進するといわれていますが、私の実験では核小体が小さくなるという指標でみるとcAMP、ATP、ADP、TPN、adenineまで似た作用があります。
[野瀬]Uridine取り込み促進のdataはありますが、それはadenosineがuridine輸送を促進するようです。私はP32ラベルで調べてみましたが取り込み量は変わりませんでした。

《佐藤報告》
 ST-2.RAL.cell linesのChromosomeについて(I)
 Normal adult rat liver由来のCell lineのChromosomeについては、すでにD.A.Miller、P.T.Iype及びL.E.Gerschensonの報告がある。D.A.Miller et.al.の報告したLineは、G-band,orQ-bandにてdiploidを38ケ月間保っており、nutritional stressでtransformするとaneuploidになると云う。P.T.IypeのRL16 lineは初めはdiploidであるが、後になるとnear diploid(no hyperploid)となる。L.E.GerschensonのRLC cellsは60(58)及び120のchromosomeNo.付近にpeaksがありwide distributionであると報告している。
 <材料と方法>
 RAL2、RAL3、RAL4、RAL5(RAL6は検索中)
 染色体標本の作成:air drying法、又はflame drying法、Giemsa染色標本の中より50コのMetaphaseをrandomに撰び、visual及びgraphicalに各chromosomeを識別しhistogramを作成した。
 <結果>
 継代数、培養日数が一定していないので何とも云えないが、予想外に早期よりchromosome No.及びKaryotypeの変化が起っていることが解る。又増殖する上皮様細胞は位相差写真で見られるように従来我々が増殖継代して来たものとよく似ている。継代培養に際して上皮様の細胞のPopulationが増しているように思われる。
 従来の方法(Fragment culture LD+BS)では回転培養で上皮様細胞がselectiveに増殖する。比較的多量の上皮細胞があれば繊維芽細胞はselect outされるのだろうか。
 又肝組織から分離培養される初代の培養材料で既に幼若型肝細胞がselectされるのか。今後発癌の問題とからんで検討しなければならない問題であろう。
 T-4.Trypsin+EDTAによって分散されたaRLa-74の増殖率とコロニー形成能ならびに単個クローン分離の試み。
 A)増殖率:(図を呈示)細胞植え込み後、2日目にTrypsin+EDTAにより20分、60分、120分処理し、Replicate cultureを行った。処理群では明らかに増殖阻害があるが、6日目でほぼ回復した。次にコロニー形成能について、検討した(表を呈示)。Trypsin+EDTAで20分、60分処理(この時のSingle cell rateは各々25.7%、33%)し、10日間培養した。計測されたコロニーは必ずしもSingle cell由来ではない。
 B)単個クローン:
 (表を呈示)分散実験の初期の目的に帰り、dRLa-74の単個培養を試みた。Trypsin+EDTAにより得られた単離細胞をマイクロキャピラリーで釣り上げシャーレ内(MEM+20%BS)で培養した。現在(15日目)6系のクローンの増殖を認めている。未だ継代を行うに至っていないが、各クローンは増殖度、形態上、異なる。なおクローニングに際し、Conditioned mediumないしはFeeder layerなどは使用していない。

 :質疑応答:
[吉田]アダルトラッテ由来細胞の染色体は培養何日位の時しらべたのですか。
[佐藤]40日位です。
[吉田]アダルトの生体内では2倍体より4倍体が多いですね。再生肝だと2倍体が増えますが。培養日数がもっと短いうちに調べると4倍体がみつかるでしょうか。
[佐藤]そうかも知れません。しかし培養開始の時のトリプシン処理などで酵素活性まで変わってしまう事もありますから、培養条件下では生体内とはかなり違うでしょう。
[吉田]肝細胞であることは確かですか。
[佐藤]調べていません。しかし、正2倍体の細胞であれば、肝の酵素活性の誘導などが出来ると思っています。
[吉田]培養できるものは、皆、未分化になるのでしょうか。
[佐藤]培養で生体の条件からかけ離れているものの一つとしてホルモンがありますから、これからホルモンの影響で分化させる事でも考えてみようと思っています。
[堀川]吉田先生の質問にあるように生体内では肝臓に4倍体が多いとすれば、肝の培養初期に拾えば4倍体の系が採れるわけですね。
[乾 ]DNA量でみていきますと、生後48hr.には2倍体だけ、それが72hr.で急に4倍体になります。算術で考えても急に4倍体になると思えませんから、4倍体のDNA量をもつ細胞の中にG2期の細胞が混っていると思います。佐藤先生の系では4倍体もあったのですか。
[佐藤]調べてみます。
[梅田]肝臓を培養していますと、もう一種大型の増殖しない細胞があるようですね。
[佐藤]そうですね。それが成熟型の肝細胞と思えますね。
[山田]胎児性とするとαフィトはどうですか。
[梅田]αフィトは産生しなくてアルブミンの産生はあるというIypeの報告があります。
[佐藤]私がこの細胞は肝細胞だと思うのは、この細胞を悪性化して動物に復元しますと、立派な肝癌を作るからです。
[吉田]アダルト由来のものの方が発癌は早いでしょうか。
[佐藤]今はまだ判りません。しかし、今持っている系はアダルト由来でも胎児性ですからね。何とか成熟型肝細胞の培養系を維持したいと思っています。
[山田]しかし生体内でも胎児性のものから癌化していると思われていますから、案外、培養でやっていることが、生体内で起こっていることと近いかも知れませんよ。
[佐藤]培養内での変異率は物すごく高いと思います。
[吉田]しかし分子レベルでの変異がそう多く起こっているのでしょうか。
[堀川]変異が現象として引っ掛かるものは多いでしょうが、遺伝子レベルでの変異はそう多くはないでしょう。
[乾 ]何でもmutationというのがおかしいですね。Mutationは遺伝子レベルのものだけとするべきです。
[堀川]これでいいのですよ。漠然としている方が・・・。
[勝田]Transformationにしても100vの電圧を6vに下げるのもtransformationですからね。その単語の上に形容詞をつければよいと思います。
[山上]大腸菌の場合もmaskの問題が遺伝子レベルの変異と間違われることがあります。突然変異の頻度が高すぎるという事から、染色体レベルで染色体の片方だけの"ぶちこわし"などが遺伝子の発現に影響することなども考えられます。
[梅田]選択培地で拾った変異細胞が、増殖させてみたら変異した性質を失っていたという場合、reversibleだというのも変ですね。
[堀川]薬剤作用の影響が一時的に代謝活性にあとを残して居る場合もあります。
[梅田]単に手技的なことではないでしょうか。
[堀川]対照群には出ない条件で出てくるのですから、矢張りmutantだと思います。
[野瀬]はっきり性質の決まっていない変化ならvariantでよいのではないでしょうか。

《高木報告》
 AAACN、MNNGによるin vitro発癌の試み:
 AAACNの作用による細胞の形態学的変化を3週間ないし1カ月、3つの実験系について連日観察してみた。MNNGはAAACNのpositive controlとしておくと同時に、よりrefineされた実験系を見出すためにこの実験系を計画した。
 RFLC-5細胞をMA-30瓶に20万個/bottle植込み、2日後subconfluentの状態になった時cell sheetをPBSで2回さらにMEMで1回洗い、MEMに溶かした各濃度の薬剤を37℃の炭酸ガスフランキ内で2時間作用させた。作用終了後はcell sheetを再びPBSで2回MEMで1回洗ってrefeedした。実験1)を除き薬剤を作用させた最終濃度の溶液中に含まれると同一濃度のethanolを含んだMEM液を同一時間作用させたものを対照とした。
 1)AAACN 3.3x10-4乗M、10-4乗M。MNNG3.3x10-5乗M、10-5乗M。作用実験:
 AAACN 3.3x10-4乗Mでは作用直後より細胞の変性脱落著明で、9日目にはごく僅かな変性細胞がガラス壁に付着しているのみであった。AAACN 10-4乗Mでも直後から可成りの変性がみられたが9日目には生残った(?)あまり対照と形態の変らない細胞の増殖をみ、11日目にはtransformed fociを思わせる境界鮮明な小型細胞の増殖をみた。12日目に継代したが継代後は対照とあまり形態は変らなくなった。
 MNNG 3.3x10-5乗Mではむしろ2〜3日後における細胞の変性像が著明で、細胞質に顆粒、空胞を有する奇怪な形の巨大細胞があちこちにみられ、それらはそのままで4週後まで増殖の兆はみえない。MNNG 10-5乗Mでは2〜3日後約半分の細胞は変性したが、11日後頃より細胞増殖盛んになり12日目に継代、継代後も巨核細胞、円形細胞の存在がやや目立ったが、21日目3代に継代してからは対照とそう変らない形態を示した。これらのデータを参考にして次の実験を行なった。
 2)AAACN 2x10-4乗M、1.6x10-4乗M。MNNG 2x10-5乗M、1.6x10-5乗M。作用実験:
 AAACN 2x10-4乗M、1.6x10-4乗Mでは作用直後より細胞は変性脱落し、円形の細胞がガラス壁に付着していた。その後refeedして観察をつづけているが26日を経た今日全く恢服の兆はない。
 MNNG 2x10-5乗M、1.6x10-5乗Mでは作用直後の変化は軽微であったが、1日、3日、4日と日を経るに従い細胞の変性が著明になった。しかし5日後には疎なspindle shaped cellsが認められた。6日目にはpile upした細胞が変性した細胞の間にみられ、criss crossが著明で所謂initial changeがあり、しかしfociと云ってよい場所はみられなかった。10日をすぎると細胞の増殖がはじまり多くのmitosisもみられるfociと思われる箇所がいずれの薬剤濃度でも3〜4ケ認められた。fociは以後数をまし、細胞の形態は明らかに異なったspindle shapedのものもあればC-5細胞の小型なものがpile upした箇所もあった。これらの箇所の細胞はさらに増殖し、ガラス壁から剥げ落ちそうになったので、その各々をcapillary pipettで拾って21日目に継代した。継代後はC-5細胞と同様の形態の細胞が増殖しているものと、形態の変ったspindle shapedの細胞の増殖がみられるものもある。
 3)AAACN 10-4乗M、MNNG 10-5乗M
 この系は実験2)で薬剤を作用させて数日間の細胞変性像が強かったため濃度をおとして再び上記の濃度で実験したものである。
 AAACN 10-4乗Mでは作用直後より軽い変性像がみられ、1〜2日後には円形の変性細胞がふえ、ガラス壁には細胞質に顆粒を有する細胞が疎に付着している程度であった。7日をすぎる頃からspindle shaped cellsが認められ、その数は次第に増加した。10日後よりfociらしき箇所が出現しその場所に細胞の増殖をみた。18日目にpile upした2つの場所を剥ぎ落して継代した。細胞の形態が明らかに異ったfociと思われるものは20日後にみられ、その数は次第に増加し、23日目には数個となったが、先の実験2)のMNNGに比較すれば形態の明らかに異なったfociの出現頻度は少ないようであった。実験1)に比較してAAACN 10-4乗Mによる変性像が強かったのは、この実験では母培養のRFLC-5細胞の培養日数が可成りたっていた事にもよると考えられる。
 MNNG 10-5乗Mでは実験1)と同様の結果であった。
 次にAAACNでもMNNGと同様処理細胞の形態の変化は認められた。この変化が一過性のものか、永続するものか今後とも観察を続けねばならない。またこの形態の変化と悪性化との関係についてもCytochalasinBに対する反応の違いや移植実験で検討したいと考えている。(各実験の顕微鏡写真を呈示)

 :質疑応答:
[佐藤]この細胞はどんなtumorを作るのですか。
[高木]多型肉腫です。
[乾 ]初代培養ですか。
[高木]株細胞です。
[山田]変性すると丸くなりますか。
[高木]丸くならずに、そのままの形で変性します。
[乾 ]MNNG処理の時、もう少し血清濃度を濃くすると使い易くなると思います。
[高木]血清を入れた方が使える濃度幅が広くなって確かに使いよいのですが、又他の問題が起こるので、私たちは血清をいれずに処理しています。
[乾 ]しかしin vivoでは血清もありホルモンもありという条件で発癌剤が作用するのですから、in vitroでも生体内に近い条件で検討する方がよいのではないでしょうか。
[勝田]培養系で実験する利点はin vivoの実験では出来ないより単純な条件を設定できる事にあります。先ず単純化して実験し後で複雑な条件を加えてゆけばよいでしょう。
[吉田]私も賛成です。
[堀川]この薬剤は大腸菌では変異性があるのですね。前の実験より少し濃度が薄いようですが、悪性化をねらう場合、少しダメージがある方がよくはありませんか。
[高木]この濃度でもかなり影響があります。今回は実験条件を改めてきっちりと設定してみました。
[吉田]In vivoでの作用が異なることが判っている二つの薬剤が、in vitroではどうかという事の試みは面白いですね。次にはin vitroで血清存在下で作用させて比べてみるのも面白いでしょうね。

《山上報告》
 Soft agar下に培養し、agarにMNNGを拡散させて作用させた場合、MNNGの濃度が、ほとんど0から非常に高濃度まで、連続的に作られるため、もし、あるcriticalな濃度では効率よくtransformed cellが発生するならば、一定の距離でいくつかのtransformed fociが出来て来るのではないかと期待して植継ぎをせずに観察しています。
 現在使っていますC-5と云う株細胞は非常にきれいにmono-sheetを保つのですが、御指摘がありましたように密に生えすぎて脱落する事とpile upしたfociが出た場合にわかりにくい欠点があります。が、密に生えうることは一方ではMNNGを作用させたあとtransformationに必要かも知れない何回かの分裂をつづけるにはかえって好都合ですし、他にすぐ使える株細胞がない事もあってC-5を使っています。
 作用後に十分分裂のspaceが残るように20万個/9cm dish植え込み24時間後より3日間agar medium下で処理し、後5日ごとにmedium交換して観察しています。
 処理後22日の各部分は写真でおみせしました様な状態です。顕微鏡的にはtransformed cellかと思われる部分もありますが、肉眼的なfociは認めにくい状態です。生下時thymectomyした動物にはtakeされ普通の動物にはrejectされるようなtransformed cellをとることが目的ですので、有望な部分をthymectomized ratに植えて、screeningしたいと考えています。

《乾報告》
 ニトロソグアニジン誘導体8種の癌原性:
 今回は8種のニトロソグアニジン誘導体、即ち
N-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(MNNG)
N-ethyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(ENNG)
N-n-propyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(PNNG)
N-n-buthyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(nBNNG)
N-i-buthyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(iBNNG)
N-n-pentyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(iPenNNG)
N-n-hexyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(nHNNG)
N-methyl-N'-nitrosoguanidine(Denitroso-MNG)
及び対照の9.10-Dimethyl-1.2-benzantracene(DMBA)の毒性、Transformation誘導性をハムスター胎児細胞を使用して比較したので報告します。
 <実験方法及び結果>
 毒性テスト:
 毒性テストはLab-Tek社製の4チャンバースライドによる方法を用いた。各チャンバーに検査濃度の2倍の検査物質を溶解した培地を0.5ml宛分注し、その上に20万個cell/ml細胞浮遊液を0.5ml加えた。各物質についての検査濃度はhalf log稀釋で100μg/mlより5段階とした。3日間炭酸ガスフランキ内で培養後、固定、染色し、観察した。
 障害度の判定は染色標本でcontrolと同程度増殖したものを(0)、1/2増殖障害のものを(2)、細胞が完全に変性、壊死したものを(4)とし各々の間を(1)、(3)と表わした。
 一連の誘導体の毒性は(表を呈示)、MNNGに最大に現われ、0.3μg/ml作用群においても増殖阻害が現われた。細胞の増殖障害は、メチル基の側鎖の長さにほぼ平行して現われ、n-HNNG作用群では100μg/mlで(3)32μg/mlで(1)であった。癌原性がなく安定な物質であるDenitroso-MNGでは細胞毒性はほとんど現われなかった。
 P.E.は対照で約8%、MNNG、DMBAは1〜1.5%。ENNG→HNNGの順で略々側鎖の長さに応じて低くなっていった。Transforming Rateも同様MNNG、DMBAで高く、HNNGが低く発癌性のないDenitroso-MNGでは0%であった。ここで注目すべきことはBNNGの異性体であるiso-BNNGではP.E.が低くTransforming Rateがnormal-BNNGに比して2倍以上の値を示した。
 (表を呈示)MNNG、HNNG、Denitroso-MNG、DMBA作用群についての濃度変化によるTransforming Rateは、in vitro、in vivoで発癌性の強いMNNG、DMBAでは作用濃度に比例してTransforming Rateが上がり、発癌性の弱いかないと推察されるHNNGでは、Transforming Rateは濃度に比例しなかった。
 Transformation Rateの測定
 この実験には同様ハムスター胎児細胞とMEM+10%FCSを培地に使用し、Feeder layerとして10万個/dishのラット胎児細胞を使用した。実験方法は前号タバコタールの場合と同様で各物質を0.25、0.5、1.0、2.0μg/ml 48時間使用後正常培地で12日間incubationした後、固定、ギムザ染色後colony数の算定、Transformed colonyの定量を行なった。

 :質疑応答:
[佐藤]なぜfeederを使うのですか。
[乾 ]この系ではP.E.が低くて、feederを使わないとcolonyを作りません。
[高木]私たちの使っているC-5細胞は株細胞ですがP.E.も高く、無処理でもこういうcolonyが出てきます。
[乾 ]本当にcolonyの判定の段階が問題ですね。果たしてこういうcolonyがイコール悪性化細胞のcolonyなのかという事に未だに問題があります。
[梅田]そうです。この方法でみた悪性変異率について既に発表されたもので高いのは10%です。私たちのデータデハ8%位。colonyの判定法によって変異率は異なってくるのですから、かなり主観的ですね。
[乾 ]位相差顕微鏡では判定できませんね。一度は全colonyを復元する予定です。
[勝田]それはぜひやって欲しいですね。
[吉田]使った動物は何ですか。
[乾 ]ハムスターです。
[吉田]ハムスターは純系が少ないですね。復元実験には純系動物が必要でしょう。
[乾 ]ハムスターにはチークポーチへの復元という利点がありますから、かえって純系動物より使いやすいと思います。しかし、この実験では矢張りcolonyの形態で悪性化の判定をするという事が難しいですね。
[梅田]乾さんのは少し変異率が高すぎるようですね。矢張り復元実験で腫瘍性を確かめる必要がありますね。細胞は3T3のようにもう少しで悪性化というような細胞で、ぎりぎりの所で接触阻害を保っている系を使う方が能率的ですね。
[勝田]3T3の細胞を使うのにも問題はありますね。3T3での発癌機構かも知れません。

《梅田報告》
 (I)増生させる細胞によってFCSとCSの要求が異るらしいことを見出した(表を呈示)。HeLa細胞およびハムスター胎児細胞(ラット胎児細胞のfeederを使用)はコロニー形成で、L-5178Y細胞は3日間培養後の細胞数で比較した。ラット肝細胞は5日間培養後染色標本として観察した。
 HeLa細胞では仔牛血清が良いplating efficiencyを示し、これに反しハムスター胎児細胞では胎児牛血清が良いPEを示した。これに対し生後11日目のラット肝の培養では肝実質細胞(LPC)、中間細胞(IMC)、内皮系細胞(ELC)と形態的に区別できる細胞が増生してくるが、胎児牛血清ではLPCは変性壊死傾向を示し、ELCが良く増生した。仔牛血清ではLPC、IMCが良く増生し、ELCの増生は少なかった。
 (II)前々回、前回の班会議でアルカリ性密度勾配上で細胞を溶解させる方法でのDNA超遠心パターンを調べた結果を報告してきた。それによるとヒト2倍体細胞、マウス胎児細胞では19℃ 1〜2時間lysisで超遠心パターンの山が2つあり、4時間後には重い方(底より12〜13本目)に収斂してくる。更に時間がたつと軽い方に移行する。それに対しHeLa細胞、L細胞、L-5178Y細胞では19℃ 1時間lysisで正常細胞の重い方と同じ位置(底より12~13本目)に高い山が現われ、以後4時間lysisでそれが低くなって丁度正常細胞と同じような山の高さになることを示した。
今回はハムスター胎児細胞の3代目を正常細胞の代表とし、P2B細胞(4NQO処理後長期継代して悪性化した細胞)を悪性化細胞としてこのハムスター由来の2細胞について1、4、24時間lysisで実験してみた。(図を呈示)結果は今迄と殆同じ遠心パターンを示した。
 (III)この仕事は今迄の寺島方式で得られた遠心パターンでは、それから計算するとDNAの分子量が大きすぎることが一つの大きな理由で、Elkindが遠心条件の検討を行い、納得のいく分子量を示す遠心条件を求め、我々もその条件方法に準拠して行ってきたものである。ここで気になることは、Elkindは蔗糖勾配の組成、lysis液の組成、細胞数、lysis時間、遠心条件をいじっているが、それらのどれが遠心してDNAが遠心管の底に沈むようなaggregateの原因であったか示していないことである。即ちDNAaggregateを作る原因は何なのか、知りたくなった。そこで細胞数と、lysis時間だけを変えて、あとは今の方法で実験してみた(図を呈示)。5,000cells(Elkindの方法)、150,000cells、50,000cells(以前この位の細胞数をのせていた)をのせて、60分lysis、20'lysisのパターンは、非常に鋭いピークを示し、以前の遠心パターンに近づいているが、今迄堀川、安藤両氏が報告してきたように、DNAが底に沈むようなことはなかった。更にこの点について検討中である。

 :質疑応答:
[堀川]ハムスターで正常細胞と悪性化細胞との差をみておられますが、lysisの時間が長くなると同じになってしまうのは何を意味しているのでしょうか。DNA構造に差があるのでしょうか。それとも膜の何かが違うのでしょうか。
[梅田]ElkindのデータではDNAは膜にくっついているとなっていますし、膜に関係があると考えている人が多いですね。
[堀川]微量な物質なので難しいでしょうが、どの程度膜がついているのか、はっきり出しておく必要がありますね。
[梅田]正常細胞でも分裂期の細胞ではピークが一つしか出ません。
[堀川]Lysisしにくいという事はありませんか。
[梅田]ありません。

《堀川報告》
 Chinese hamster hai細胞株よりレプリカ培養法によって分離したAla+、Asn+、Pro+、Asp+、Hyp+、Glu+という栄養非要求性細胞(prototroph)をX線および紫外線で照射した場合の栄養要求性変異細胞(Auxotrophs)の出現率つまり誘発前進突然変異率を検索した結果についてはこれまでに報告してきたが、今回は同様の方法で分離したAla-、Asn-、Pro-、Ser-、Gly-、TdR-というauxotrophを使って、これにX線および紫外線を照射した場合に誘発されるPrototrophへの復帰突然変異率を算定した結果につき報告する。実験にさきだち一定期間をおいて上記Auxotrophの栄養要求性を詳細に検討した結果、Ala-、Asn-、Pro-、Ser-、Gly-というマーカーは非常に不安定でTdR-のみが遺伝的に安定なマーカーとして使用可能なことがわかった。従ってこの実験系は結果的にはTdR-→TdR+への復帰突然変異を調べることになった訳である。
 さて、このauxotrophに種々の線量のX線および紫外線を照射し、fixation and expressionのために48時間おいた後、thymidineを欠いたselection mediumに移して出現するコロニー数から誘発復元突然変異率(TdR-→TdR+)を算定した。
 (図を呈示)(TdR-→TdR+)をマーカーにして調べたX線および紫外線による誘発復帰突然変異率は非常に低い。これまでにたびたび報告してきた(1)8-azaguanine抵抗性を指標にして調べたX線および紫外線による誘発前進突然変異率、あるいは前回まで報告してきた(2)Ala+、Asn+、Pro+、Asp+、Hyp+、Glu+というPrototrophを用いてX線および紫外線によるauxotrophへの誘発前進突然変異率にくらべてはるかに低率であることがわかる。
 こうした違いが何に起因するのか、つまり(1)それぞれの実験系における誘発突然変異検出能の差違に原因しているのか、あるいは(2)前進突然変異と復帰突然変異の機構は本質的に異ったものであるのか、といった重要な問題の解析が今後に残されている。

 :質疑応答:
[山上]2倍体の細胞は遺伝子が2倍ですから、分析が難しいと思いますが・・・。
[堀川]難しいですね。haploidでもまだ問題はあります。2倍体でもWI-38などは細胞の維持が大変で、とてもmutationの仕事には使えません。
[吉田]もちろんhaploidの系がとれれば遺伝子を調べるには理想的ですが、とても維持できる系はとれないでしょう。2倍体なら何とか維持できますが。
[野瀬]Auxotrophをとる場合でPrototrophが大部分を占めている場合、完全に拾うことは出来ないのではないでしょうか。
[堀川]BUdR→光という方法にも問題はあります。この方法自体が変異を起こすというような。今の方法で要求性細胞を拾うのは確かに非常に困難です。
[山上]全部TdRマイナスだったというのは何故でしょうか。
[堀川]判りません。
[吉田]感受性細胞も耐性細胞もdependent mutantも出てくる事をどう考えますか。
[堀川]Inducerに作用するとか、色々な事が考えられます。
[乾 ]Deletionの形でmutationが起こった場合、元に戻ったらreverse mutationではなくて、forward mutationという訳でしょう。
[堀川]その点はmolecular levelで実験して調べてみないと判りません。
[吉田]自然変異率はどの位ですか。
[堀川]2〜5x10-5乗くらいです。
[吉田]1000rかけると・・・。
[堀川]1x10-2乗くらいになります。
[勝田]8-AGの作用は細胞を浮遊状態でさせるのですか。
[堀川]そうです。

《野瀬報告》
 Alkaline Posphatase変異株の分離:
 ALP活性発現の機構をDibutyryl cAMPによるinductionを生化学的に解析することによって知ろうとしているが、もう一のアプローチとして遺伝的解析も試みている。そのためにはP.E.が高く、growthの早い細胞株が有利なのでCHO-K1細胞を用いた。この株はcloneであり、ALP-Iの活性はnot detectableであった。Fast Red Violetとα-Naphthylphosphate AS-MXとで組織化学的染色を行なうと、ごくわずか(1x10-6乗)ALP陽性に染まる細胞が集団中に検出され、この頻度はMNNG処理により上昇した。そこでmutagen処理後at randomにcolonyをひろいALP活性を見てゆめば10,000〜100,000に1個の割合でALP陽性のcloneがとれることが期待された。
 方法は、CHO-K1をMNNG(0.1〜0.5μg/ml)又はEMS(400〜2000μg/ml)で2hr.処理し、0〜10日incubateした後、90mmのdishにca500cells/mlでまきこみcolonyを作らせ、その上からP-nitrophenylposphate 1mg/mlを含む1.5%agar(Hanks、Tris)を重層し黄色く色づくcolonyを探す。上の組織化学染色では細胞が死んでしまうので染色はpNPPが良いようである。この結果、MNNG処理は5/33116、EMS処理は1/12496の頻度で黄色く染まるcolonyが検出された(表を呈示)。これらをpick upし、更にsecondary cloningを行なってpure cloneをとろうとしている。今迄とれた6コのALP+coloniesからcloningできたのは3コで、それぞれAL-1、AL-3、AL-4と名づけ、これから更にcolonyをひろったのがAL-12、AL-15、AL-32、AL-43である。これらの細胞集団中のALP+cellの頻度は、single colonyを拾った段階ではまだかなりALP(-)の細胞が混っているが、更にcloningするとかなりpureになり大部分ALP+細胞となった。このcloningには約1カ月半経過しているので、ALP+の性質は安定であると考えられる。(表を呈示)
 次にここで得られたcloneの酵素活性を見た(表を呈示)。親株のCHO-K1にくらべ、これらのcloneは数千倍のALP-I活性をもっていることがわかる。ALP-IIおよびacid phosphatase活性にはそれ程大きな差はない。
 S.Barbamの論文によると2-deoxy Glucose耐性株はALP活性が高いというので、ここで得られたALP-constitutive株の2-d-Glc感受性を調べた。(図を呈示)そのgrowth curveではALP+細胞でも2-d-Glcには耐性になってなく、逆は成りたたないようである。
 ALP+株はCHO-K1とALP-I活性が大きく異なる以外、形態的にもdoubling timeも、また染色体数にも違いはない。染色体組成には若干差があり、ALP+細胞には1本片側のarmの分裂がおそい染色体があるが、これがALP+の性質と関連するかどうかは今のところわからない。
一つの酵素活性がない細胞から、ある細胞がとれたということは、元の細胞にはおの酵素の遺伝子があるが発現できず、何らかの機構でde-repressされたと考えられる。これがmutationによるのか、epigeneticな機構によるのか今後の問題である。

 :質疑応答:
[吉田]ハムスターは動物レベルではALP活性があるのですか。
[野瀬]遺伝子としてはあるはずです。
[吉田]人間の細胞では染色体のどの部位にどんな遺伝子がのっているかが、かなり確かに解っています。人間の細胞を使うと有利だと思いますが・・・。
[野瀬]必ずしも遺伝子レベルの変化とも思えません。酵素活性がなくてもその遺伝子がないとは言い難いのです。蛋白合成を阻害しても酵素活性の誘導はかかります。
[佐藤]細胞の種類、又腫瘍と正常という事が酵素活性と関係していますか。
[野瀬]同じ系の細胞でも酵素活性の殆どないものと高いものとがありますから、あまりはっきりした関係はないと思われます。
[堀川]2-d-Glc.耐性とALP活性の関係を調べたデータをみましたが、面白いですね。

《吉田報告》
 1.RatのStandard karyotypeについて:
 バンディング法によってラットのStandard Karyotypeが国際的に決定した。これはStandard Karyotypeのcommittee(筆者もその一人)の意見によったもので、最近Cytogenet.Cell Genet.12:199-205(1973)に発表された。
 2.クマネズミの核型進化について:
 去る8月20日から30日まで米国カリフォルニア州のバークレーで行なわれた国際遺伝学会議に出席し、クマネズミの核型進化について発表した。クマネズミにアジア型(2n=42)、オセアニア型(2n=38)及びセイロン型(2n=40)の3型が発見され、これらはインド南部で分化したと考えられた。尚constitutive heterochromatinを染色するといわれるC-バンディングパターンにも多型がある。血清蛋白トランスフェリンのアミノ酸分析などからクマネズミの核型進化の方向性が論じられた。

【勝田班月報・7311】
《勝田報告》
 培養ラッテ肝細胞へのSpermineの影響
これまでも肝癌の毒性代謝物質の研究の一環として、Spermineの培養細胞に対する作用をこれまでも報告してきたが、今回はその続報である。
 1.細胞の接種量によるspermineの影響の相違:
 細胞を継代し、同時にspermineを添加する場合、細胞のinoculum sizeによってspermineから受ける傷害効果に差があるかどうかをしらべたのが、次図である(図を呈示)。
 4種のinoculum sizeで、3日間に渉って培養してみた結果、図のようにinoculum sizeの少ないほど傷害を受ける度合の大きいことが示された。最少数の8万個の群では細胞数が、きわめて著明に減少させられているが、50万個以上では極端な障害は見られなかった。
 2.Spermineの細胞毒性に対するPoly-L-glutamic acid、chondroitin sulfate、lysozyme、N-acetyl-D-glucosamineなどによる前処理の影響:
 37℃で24時間前処理してから、1日培養后の培地に添加した。結果として、培地(含血清)と前処理した群が最も毒性を消したというのは不思議でもあり、皮肉なものである。
 3.この所見から、血清蛋白が解毒作用を強く持っているのではないか、という疑がおこり、Bovin serumのFractionV(Armour)とSpermineを24時間前処理したの結果が次図で、点線のようにspermineの阻害効果がきわめて大きく、抑制される結果となった(図を呈示)。他の血清分劃にも同様の作用があるかどうか、目下材料の入手を急いでいるところである。しかしAlbuminはかなり決定的な解毒要素であるだろう。
 4.Spermineと同時に添加したときの血清蛋白分劃の影響:
 上記の実験により、あらかじめspermineと血清或はFractionVを混在させて24時間37℃でincubateしておくと、spermineの毒性が低下されることが判った。それでは同時に添加したらどうなるか。血清のときは同時に添加すると、前処理の場合とは逆に、毒性を増強した。血清蛋白分劃ではどうであろうか。
 これをしらべ結果、spermine単独ではあまり強い阻害効果が現われなかったが、そこにAlbuminが共存すると、細胞はすっかりやられてしまった(図を呈示)。
 毒性の発揮を助けるという意味ではFraction があまり効果を見せなかったことは興味深い。上のAlbuminの行動は血清の場合と全く同じで、なぜ前処理するとspermineの毒効果を消し、同時に添加したときにはなぜ毒効果を助けるのか、これは今后の大きな問題と思われる。また図のように血清蛋白のfraction は毒性効果をほとんど助長しなかった。これもまた今后の問題である。どういう訳であろうか。
 なお、上の実験では培地はDM-145で、血清蛋白を加えてない培地である。

《山田報告》
 Spermineの影響について細胞電気泳動法を用いて検索していますが、今回はJTC-16を検索しました。意外なことに図に示すごとくその程度は若干少いですが(図を呈示)、3.9μg/mlのSpermineはJTC-16の泳動度を低下させました。
 しかし、0.19μg/mlの薄いSpermineでもJTC-16の泳動度を低下させていますので、その理由は一回だけの実験でははっきりしません。RLC-10(2)の実験でも、その増殖の状態如何ではSpermineの影響がかなり異るので、くりかえし検索してみたいと思って居ます。このSpermineにLDメヂウム+10%BS及び10%FCSを加へて処理した所、図に示すごとくJTC-16の泳動度の低下が著しく阻害されました。即ち泳動度の低下は少いという結果です。

《高木報告》
 AAACN、MNNGによるin vitro発癌の試み:
 前報で、可成り詳しくこれら薬剤による培養細胞の形態学的変化につき述べた。次後、transformed fociと思われる箇所の細胞を拾って継代培養を続けている。しかし、2代目以後形態は再び対照の細胞と区別出来なくなっている。MNNG処理群については形態が違ったと思われるものもあるが、selectionの可能性は勿論考えなければならない。ラットが夏バテ以後中々立ちなおらずやっと最近繁殖の兆をみせはじめた状態で、動物実験が出来ないため一部の細胞をのぞき凍結保存している。動物が生れ次第移植を試みるつもりである。
 正常細胞及び腫瘍細胞に対するCytochalasinBの効果:
 最近、Kelly、SambrookらはNature 1973で、CytochalasinBの3T3とSV3T3に対する効果の違いを発表している。すなわち、cytochalasinB 5μg/mlをこれらの細胞に作用させて、12時間から84時間後んで24時間間隔で調べているが、3T3細胞はこの観察期間を通して1〜2核の細胞で占められるのに対して、SV3T3細胞は時間の経過と共に3、4核および4核以上の細胞が増加することをみている。
 化学発癌剤によるin vitroのtransformationをみる上にも、この様な相違が1つのindi-catorとして用いられるか否かをみるために、RFLC-5細胞、RRLC-12細胞(RRLC-11細胞の再培養株)、XP細胞およびWI-38細胞に対するCytochalasinB、1μg、2.5μg、5μg/mlの影響を観察した。正常細胞のつもりで用いたRFLC-5細胞は長く培養した株細胞であるためか、細胞あたりの核数の分布はRRLC-12細胞と殆ど変らない結果をえた。すなわち、培養日数と共に多核の細胞が増加した。XP細胞はなお観察中であるが、1、2核の細胞が殆んどを占めるようである。次に正常細胞としてWI-38、腫瘍細胞としてラット由来のRRLC-12細胞における結果を示す(図を呈示)。培養後日の浅い"正常"細胞を用いてさらに検討してみたい。

《佐藤報告》
 ST3)RAL Cell LineのChromosome追加
 ST2)にRAL-2、-3、-4、-5は報告した。RAL-1の染色体分布は図の通りである(図を呈示)。
次図はRAL-3の172C.D.の染色体分布図である。RAL-3は前月月報で報じたように、89C.C.D.では高いDiploidwo示していたが、3ケ月程度で著く変化したことになる(モードは48本)。
 ST4)RAL Cell Linesの核型について
 (図表を呈示)一般的にB1 trisomyが目立つ。
 Diploidよりくずれた細胞では一見B1 trisomyと考えられるものが目立つ。
 In vitroの細胞増殖に関係があるのだろうか?。
 Morphologicな成因についてはBanding法にて検討予定。各Lineの代表的核型は次図の通りである(図を呈示)。
 RAL-4はB1 trisomyが0/7であるが、培養日数が経過すると出現するかも知れない。
 T−5)dRLa-74から分離された単個クローンの継代培養
dRLa-74から分離された単個クローンの継代は図の如くである(図を呈示)。Clone-1を除いて、いずれも上皮様である。Clone-1は上皮様とは言いがたい上、増殖性も悪く(未継代)、株細胞として使用し得るか否か、現在の所疑問である。上皮様クローンの位相差写真を示した(写真を呈示)。lone-2、-4、-5、-13はコロニー分析により、コロニーの大きさから2つのグループに大別され(表を呈示)、Clone-2、-5は大型のコロニー、Clone-4、-13は小型のコロニーの形成率が高い。この意味については現在模索中であるが、腫瘍性を確認する為に復元接種実験を試みている。原株のdRLa-74は腫瘍形成(3/3)を認めたが、腫瘍死は未だである(70日目)。

《梅田報告》
 (1)今迄8AGを大量加えた軟寒天中で生存YS細胞のコロニーを作らせ、8AG耐性細胞を拾う実験を行ってきたが、今回は大量のYS細胞から出発し8AG処理を行った後、生存した細胞を軟寒天中で選択する方法をとった。1,000万個の細胞を、8AG 10-4.5乗M或は10-5.0乗M培地で隔日4回処理した後、軟寒天中(8AGは加えなかった)に播いた。10-4.5乗M培地処理したものに、小コロニーが多数出現し、PEはCa 0.01%であった。このコロニーを5ケ拾って培養を続けた。しかし充分の数の細胞が増生してから10-5.0乗M培地で培養すると、やはり死滅するようである。
 (2)月報7309に10-4乗M 8AG加軟寒天中でとれた1クローンの細胞を8AG 10-5.0乗Mで培養を続けて耐性であるように記したが、これもその後あまり増生してこなくなった。この細胞をAGr-1と名づけ、以前から大量の培養細胞より8AG培地で選択した耐性細胞をAGr-2と名づけた。
 (3)以上の各細胞についてHGPRTの直接の測定にはならないがC14-hyproxanthineの取り込みを調べた。各細胞の一定細胞数中にとりこまれたC14-hypoxanthineの放射能をコントロールYS細胞の取り込みの比として表に表した(表を呈示)。
 表からAGr-1のみC14-Hypoxanthine取り込みが抑えられていることがわかる。しかし、コントロールYS細胞の35%も保持されており、完全な耐性ではないようである。その他の細胞は相当高濃度の8AG培地から選択されているのに非常によくhypoxanthineを取り込んでいる。以上どうもYS細胞では8AG耐性細胞が得られ難いようである。

《乾報告》
 ニトロソグアニジン誘導体8種の癌原性 
 先月の月報でN-methyl-N'-nitrosoguanidineより順次側鎖をのばした一連の誘導体の毒性、突然変異誘導性を観察した結果、isobutyl-NNGを除いてCH3基の数の少ないもの程、これらの性質が弱いことがわかった。
 Butyl NNGではnormal、isotypeの間で毒性、特に突然変異誘導性に大きな差が認められた。今月は、これら二つの誘導体について、変異コロニー発生率のDoses depedencyを調べた。(表を呈示)表に示す如く、0.5μg/ml作用群を除いては、毒性について両異性体の間に大きな違いがなかった。変異誘導性については、normal-異性体に対してiso-異性体が明らかに大きかった。両異性体共変異コロニー誘導率にDoses dependencyが明らかに認められる事から、これらの物質に発癌性のあることが考えられる。また以上の結果より発癌性(変異誘導性)がCH3基の数の絶対数より、むしろ側鎖の長さにより多くdependすることは注目すべきことと考える。残る四つの同異性体DMBAについて、Doses dependencyについて、検索中であるが、現在の所変異コロニーの定義が形態学的にむずかしく、この点を併せて検討して行きたい。

《野瀬報告》
 Alkaline phosphatase-Constitutine株の性質
 前回の班会議で、CHO-K1からalkaline phosphatase活性の高い変異株が分離できたことを報告した。3株の独立な変異株は2回cloningを行ってもまだ一部ALP活性のないcolonyがでてきて、細胞集団が不均一又はこの性質が戻りやすいのかわからなかった。更にもう一回cloningを行ってみたら、(表1、2を呈示)表のようにほぼ100%のcoloniesがALP-陽性であった。カッコ内は20日後にそれぞれのcloneからre-cloningした結果であるが、わずかにALP-陰性のcoloniesがふえている。しかしほぼ安定な性質であると考えられる。
これらのclonesはALP-I活性はparentにくらべ高くなっているがALP- 、Acid phosphataseに関してはあまり差が認められなかった。表2は更にLDH活性を測定した結果であるが、やはり互いに大きな差はなかった。
 CHO-K1はcloneなのでここで、得られたALP-陽性株はparentのALP-Igeneのde-repressionを起こしたものと考えられる。しかし、cloningしてからかなり時間がたつので、popula-tional heterogenesityがあって、単なるselectionによって分離された可能性は否定できない。CHO-K1のALP-I活性はnot detectableだが、cellをhistochemicalにALP染色を行うと10-5乗のorderでALP-陽性細胞が存在する。従ってCHO-K1をrecloningし、それから同じようにALP-陽性細胞がとれるかどうか確認する必要があり、現在、その実験が進行中である。CHO-K1細胞の中にALP-I geneが存在しmaskされているだけならばmutagen処理ではなく、何らかのinducerで活性をinduceする事が可能と考え、(1)1mM But2cAMP+0.1M theophyllin(2)4mM n-butyrate (3)23μg/ml hydrocortisone (4)4x10-5乗M BUdRなどの処理を行なってみたが、いずれも全く活性上昇は見られず、この細胞は今の所un-inducibleである。

【勝田班月報:7312:サイトカラシンBの効果】
《勝田報告》
 ラッテ肝細胞の初代培養法について:
 ラッテ肝の初代培養をはじめるのに、どんな方法で細胞を分散させるか、ということが、いつも大きな問題であった。従来のメスで細切して回転培養する方法を第1法とし、本報では第2法としてIypeの変法、第3法は新たに開発した新しい方法を紹介する。
 第2法は0.05%のCollagenaseでPerfusionした後、0.25%のTrypsinでdigestionする。特徴は、生きている細胞の率は低いが、adult ratの肝の培養には適しているということである。またセンイ芽細胞の混入率が低く、ほとんどが上皮様細胞である。培養開始後2〜4週間すると、細胞の生え出しが見られるようになる。(表を呈示)
 第3報では、新しく開発中のenzyme、細菌中性proteinase(商品名:Dispase;合同酒精)を用いている。これは細胞障害性が低く、長期間培地に入れ放しでも大丈夫なので振盪培養などには適するど思われる。Subcultureのとき上皮性細胞の方が短時間の内に剥れるので、細胞の撰別にも便利である。それに1月以内に大量の上皮性細胞が得られるという利点もある。(表を呈示)
 このDispaseとTrypsinとの効果の相違を表に示したが、Dispaseの方が培養内の増殖率も高く、ほとんどの細胞が上皮性であることが判る。
 このような方法で作ったラッテ肝細胞の培養株RLC-14〜RLC-21の詳細を表に示す。

 :質疑応答:
[佐藤]Adultラッテ肝を材料にすれば、分化型の肝細胞とれるかというと、そうではありませんね。初期の生存率の低い事から考えてかなり撰別されて幼若型のものばかりが増殖してくるようです。私達の方法はトリプシンだけで充分大量に上皮細胞がとれます。
[高岡]ラッテの肝細胞の培養法については、既に沢山の方法が報告され、使われているのですが、今日の報告では、材料を胎児、乳児、離乳後からそれぞれ株を作りたい事、誰にでも出来る簡単な方法で、培養に移してからなるべく短い期間に大量の上皮性細胞を使えるようにする、という事に焦点をおきました。
[吉田]酵素を全く使わないで培養するとどうなりますか。
[高岡]若い、たとえば胎児とか初期の乳児ではセンイ芽細胞が優勢になりますし、離乳後では上皮性の細胞がなかなか生え出してきません。

《佐藤報告》
 T-6) I:DABの溶解
   II:DABに対するクローン細胞の感受性(その2)
 Ia: DABの高濃度溶液を作製しようとする場合、一番問題になるのはDABの溶解時の溶媒濃度であるが、(表を呈示)実験の結果からアルコール(溶媒)濃度を可及的に低く、DAB濃度を高くする組合せは、100%アルコールでDAB 5mg/ml程度と考える(例えば、medium中でFinal conc.50μg/ml DABでAlcohol conc.は1%)。実験はMerlk社DABを使用し、24〜48hr、37℃での結果で、完全に溶けた濃度は80%アルコールでは3mg/ml、100%アルコールで5mg/mlであった。
 Ib: DABの溶解は最終的には水(medium)であるため、高濃度のDABの再遊離はまぬがれなく、種々の実験から好ましいと考えられる溶解方は、例えば50μg/mlのDABを作製する場合、5mg/ml 100%BS稀釋→500μg/ml 20%BSmedium稀釋→50μg/mlの如くと考える。この場合でも、実際のDAB(Toluene抽出、410mμ測定)は理論値よりかなり減少している(表を呈示)。しかも、この事は用いた血清のLotにより大いに異なることが判る。血清中のLipid様のものの量によると思われる。
 II: DABに対する細胞の感受性を今後、検討して行く予定であるが、今回はDAB濃度と細胞増殖に対する毒性との関係をみた。併せて3'Me-DAB、ABについても検討した。
 実験は40μg、10μg、1μg/ml(アルコール濃度1%、0.25%、0.005%)について行い、細胞植込み後、24hr後に、上記濃度のmediumで置き換え、その後48hr培養した。1μg/mlではいずれのAzodyesも殆んど毒性を示さないが、10μg/mlではややtoxicである。40μg/mlではDABについては、ほぼ50%阻害を認めた。尚、本実験は最も上皮様と見られたClone-5について試みられたが、追試実験でも同様の結果を得た。
 ST-5) RAL cell linesの核型について(続き)
 前号No.7311において、RAL-4がB1Trisomyが0であったが、(表を呈示)培養74日で67%、培養115日で98%になった。従って成熟ラッテ肝細胞の培養では5例とも、少なくとも100日前後の培養で、高率のB1Trisomyが出現したことになる。発生の機構についてが今後、検討する必要があるが極めて興味のあることである。
 (図を呈示)RAL-4の染色体分布は培養74日では42本、培養115日で43本であった。(核型を呈示)培養115日目の染色体数43の核型を示す。現在の検索では光顕的形態によって、並べられているので、今後、Banding等を利用して、更に詳細に検討されねばならない。

 :質疑応答:
[堀川]B1にtrisomyがあるという事をどう考えますか。
[吉田]事実であれば大変面白いですね。しかしB1だけでなく他にもtrisomyが出ているのではありませんか。Adultラッテを材料にした場合の特徴でしょうか。或いはトリプシンによるセレクションなどは考えられませんか。DMBA処理でC1にtrisomyが出てくるという報告はありますね。ラッテの系特異性ということはどうでしょうか。
[乾 ]自然悪性化の時の変化にtrisomyはありませんか。
[佐藤]2倍体を拾っていってもtrisomyが出てくる事もあります。幼若系でB1以外のtrisomyを見つけてもいます。2倍体は大体増殖が遅く従って2倍体を拾っていると、増殖の早いものを捨てていく事になりますので、もし増殖の早いものを拾ってゆけばB1trisomyが多くなるという事も考えられます。
[吉田]Colcemid reversal法でtrisomyを拾う事が出来ますが、ラッテでは大きな染色体のtrisomyが頻度高い様です。Adult liverの特異的な現象でなく、ラッテ細胞ではこのtrisomyをもった細胞がin vitroのgrowthに適しているのかも知れませんね。
[乾 ]In vivoで発癌剤を処理すると小さい方の染色体が異常を起こす様ですね。
[吉田]In vivoの癌化とin vitroへのadaptationとは違うでしょうね。
[勝田]矢張りbandingをやってみないとはっきりした事は言えませんね。
[高岡]DAB給餌のラッテ肝から培養した弱い腫瘍性をもつ株細胞は、その腫瘍性に変化はないのですか。
[佐藤]培養開始して2年位になりますが、その間腫瘍性は変わらないようです。大体4NQOは一度傷を与えたらそのまま癌化へと転がり出すが、DABは給餌或いは培養内添加を中止すると、その時点で悪性化が止まってしまうのではないかと考えています。
[高木]その株を使った場合、どの位の期間で実験を終わる予定ですか。
[佐藤]処理しないものが90日で腫瘍を作りますから1カ月位で実験を着る予定です。
[勝田]In vitroでの発癌実験の問題点として、(1)発癌剤を処理してから動物にtakeされて腫瘍を作るようになるまでに数カ月という長い時間がかかるのは何故か。悪性化そのものに時間がかかるのか。それとも悪性化した細胞が少数でそれがtakeされる数に達するまで増殖するのに時間がかかるのか。(2)動物へ復元接種してからその動物が腫瘍死するまでに時には1年以上という長い時間がかかるのは何故か。動物の体内で更に2段3段の変異が起こるのか。(3)Spontaneous transformationとは何なのか。といった事があると思います。
[吉田]ラッテは42本、マウスは40本という染色体数が生体内では厳密に維持されるのに、in vitroでは変わってくるのは何故でしょうか。In vivoでは何らかの変異があるとselectされてしまう。そういう環境の中で変異して、なお生き残るから癌は悪性度が強いのだと言えませんか。 In vitroではそういうselectionがないので、悪性度の度合いが弱いものから強いものまで色々あっても不思議はないのかも知れません。
[佐藤]そういう考え方から培養にもラッテの血清を添加するとか、何か抗血清を使って抗原性の変わったものを除外するような方法を考えています。
[勝田]昔、なぎさ変異の実験をしていた頃、ラッテにtakeされる方へ変異の方向をもってゆこうとして色々と試みましたが、みな失敗しました。
[藤井]In vitroで悪性化したものでも、一度動物にtakeされたものの再培養は、ずっと早く動物をたおすようになりますね。
[勝田]復元の条件はなかなか複雑ですね。昔、雑系継代AH-130由来の細胞をウィスター系のラッテへ植えてみました。初代はtakeされて動物は死ぬのに、その腹水を次のウィスターに植えますとtakeされないという現象にぶつかったことがあります。

《藤井報告》
 培養ラット肝細胞株(RLC-10)の培養過程ならびにin vitro発癌後の同系リンパ系細胞刺激能について:さる11月の、京都での培養学会研究会シンポジウムに発表するのを機に、今まで折々に施行してきたRLC-10系の肝細胞株とその4NQO発癌後の株細胞についてのリンパ球腫瘍細胞混合培養反応を、勝田教授のつくられたculture courseにあてはめてみました(図を呈示)。各細胞株は、医科研癌細胞研究部より貰ったあと、私共の研究室で維持してきたもの。培養液はRPMI 1640でfetal calf serumを10%に添加。混合培養反応2日前よりラット血清に代えて培養した。
 対照のRLC-10およびin vitro変異株RLT-1はリンパ球刺激能(リンパ球の反応係数で示されたもの)が低いが、Cula-TC、Culb-TC、Cule-TCなどは高い。Culb-TCは培養日数を経るにつれリンパ球刺激能は高くなるが、その腫瘍性−移植生着能−は依然として高い。この高いリンパ球刺激能が、腫瘍拒絶にはたらくリンパ球(T-cells)のものか、あるいは液性抗体をつくるリンパ球(B-cells)のものかを区別することによって、リンパ球刺激能と腫瘍性の一見矛盾する関係がわかると思われる。

 :質疑応答:
[永井]長期間培養したCulbTCでリンパ球の刺激が高くなるというのは、培養期間の問題で、正常細胞でも培養していれば矢張りリンパ球の刺激が高くなるような気がします。この方法で免疫的にひっかかる細胞と腫瘍細胞とを関係づけられるでしょうか。
[高岡]単純に考えて、昔のCulbTCを抗原にした抗血清を使って、現在のCulbTCが免疫的に変わったかどうか調べる事は出来ませんか。
[吉田]免疫に関する面白い動物で"かやねずみ"というのがあって、これはどんな異種の動物の腫瘍もtakeして死んでしまうそうです。

《高木報告》
1.CytochalasinBの培養細胞に対する効果:
 前報に引きつづきCytochalasinBのXP、WI-38、RLC-10、Sg、RFL-N2、RFL-5およびRRLC-12細胞に対する効果を報告する。これらの細胞につき簡単に説明すると次の通りである。
 XP細胞:Xeroderma pigmentosumの患者の生検皮膚より培養した線維芽細胞、培養期間約100日
 WI-38細胞:Heyflickのhuman diploid cells
 RLC-10細胞:勝田研究室の正常ラット肝細胞
 Sg細胞:WKAラット唾液線由来の線維芽細胞、培養期間は約1年1カ月で増殖は遅い
 RFL-N2細胞:WKAラット胎児肺由来、培養期間約3カ月
 RFL-5細胞:WKAラット胎児肺由来細胞のcolonial clone、培養期間約3年半
 RRLC-12細胞:WKAラット胎児肺由来細胞の自然悪性化細胞の再培養株RRLC-11を移植してえた腫瘍の再培養株
 CytochalasinBはDMSOに500μg/mlに溶かし、それをさらに1、2.5および5μg/mlに培地で稀釋して使用した。実験にはLabtec(Rux社)を使用し、1、2、3、4日間に1区画ずつ固定して最後にまとめてgiemsa染色をほどこし、細胞100ケの核数を算定した。
 XP細胞:5μg/mlでは核は凝縮し、1、2、3日目は算定出来なかった。1、2.5μg/mlおよび5μg/ml 4日目についてみると単核の細胞が多く2核の細胞はこれに次いだが、それ以上の核数の細胞はほとんどなかった。
 WI-38細胞:各濃度ともほとんどすべて1、2核細胞よりなり、培養日数と共に2核細胞にやや増加の傾向がみられた。2核細胞の数は5μg/mlにおいてやや少なかった。
 RLC-10細胞:2.5および5μg/mlでは細胞の凝縮、核凝縮がつよく算定出来なかった。1μg/mlではほとんどすべて1、2核細胞よりなり1核細胞の方が多かった。
 Sg細胞:5μg/mlでは細胞の凝縮が強く算定不能であったが、1、2.5μg/mlでは1、2核の細胞が多く、培養日数と共に2核の細胞が増加する傾向を示した。なお多少の3、4核細胞もみられた。
 RFL-N2:固定染色後あやまって細胞面を拭ったため2.5、5μg/mlは算定出来なかったが、1μg/mlではすべて1、2核細胞で、2核細胞は培養日数と共に増加した。
 RFL-5細胞:5μg/mlでは核の濃縮があり算定しにくかったが、1、2.5μg/mlでは培養日数と共に多核細胞が増加し、7、8核の細胞もわずかにみられた。
 RRLC-12細胞:各濃度とも算定出来た。培養日数の経過と共に多核細胞も増加し、RFL-5細胞と同様のpatternを示した。
 以上調べた範囲でまとめると、培養期間の比較的短い、あるいは所謂正常細胞と考えられるWI-38、RLC-10、Sg、RFL-N2および培養期間の短いXP細胞では大体2核までにとどまり、正常組織由来であるが培養期間の長いRFL-5および肉腫細胞株のRRLC-12では2核以上の核数の細胞が多数みられた。RFL-5細胞は現時点では移植して腫瘍は形成しないが長期間培養しているので所謂transformed cellsと考えてよいのかも知れない。さらにいくつかの細胞種について検討し、移植成績と比較してみたい。
 2.XP細胞のUV感受性について:
 上記XP細胞につき、正常人皮膚の生検材料からえられた細胞との比較においてUV感受性を調べてみた。XP細胞は少数シャーレにまいてもすぐゆ合して個々のcolonyを形成しにくいためUV照射して1週間後の増殖曲線で比較する方法をとった。
 UVは15wの殺菌燈を100cmの距離で照射し、時間は5"、10"とした。正常細胞では5"照射で2日目まで増殖しなかったが、以後7日目まで対照と同様の増殖を示した。10"では2日目まで細胞数は一時減少したが以後立ちなおり増殖した。XP細胞では5"照射で細胞数は7日目まで接種時の2.1万から1.1万と次第に減じ、10"では4日目まで急速に減じ以後やや恢復したが対照とは明らかな差異が認められた。UV感受性がXP細胞において高いと考えられる。

 :質疑応答:
[吉田]サイトカラシンBの作用は核だけが分裂して細胞質が分かれないのですね。
[堀川]多核になった細胞と腫瘍性との関係はどうですか。それからサイトカラシンBのもう一つの作用の脱核と、多核が出来ることとの関係はどうなっていますか。
[高木]濃度が高いと脱核を起こします。
[梅田]多核が出来る濃度でも4核になってから、その中の1コが脱核して3核細胞になるという事もありました。
[藤井]多核細胞の運命はどうでしょう。
[高木]サイトカラシンBを除いてしまえば元に戻って、又正常に分裂できるようですが、私達はそこまでみていません。
[吉田]この多核化は分裂期阻害でしょうが、写真でみると後期の阻害のようですね。
[高岡]無添加の対照細胞の核数は・・・。
[高木]どの細胞系も多分1コの所にピークがあるとは思いますが、調べていません。

《梅田報告》
 (I)前回の班会議で細胞の種類により胎児性牛血清(FCS)と仔牛血清(CS)とで細胞の維持に適・不適のあることを報告した。すなわちFCSは線維芽細胞の増殖に適しており、CSは上皮性細胞に適しているような結果を得た。そこで上皮性細胞、特に肝実質細胞(LPC)が、CSより成牛の血清(BS)により適するかどうか確かめる実験を行った。北星製の3ロットのBSを用いさらに非働化を行ったもの、行わないものとについて検した。方法は前回と同じようで、HeLa細胞とP2B細胞(ハムスター胎児細胞に4NQOを投与して長期継代し悪性化した細胞)ではコロニー形成法により、ラット肝培養細胞については染色標本を顕微鏡観察して測定した。
 HeLa細胞に関しては前回の結果と同様な結果を得た。すなわちFCSは悪く、CS又はBSの良いロットでコロニー形成率が高かった。P2B細胞はハムスターの悪性線維芽細胞であるが、それも前回のハムスターの線維芽細胞(前回は正常のものであったが)の結果と似ていた。すなわちFCSが良く、CS、BSはそれよりややおちる。ラット肝培養ではFCSとCSについては前回と同じような結論を得たが、CSとBSを比較するとBSの良いlotはCSと同じ程度の細胞増生を促すがlot差があること、しかしCSよりずばぬけて良いlotはなかった。
 興味をひく点は非働化を行ったもの行わなかったものとの比較でLPCには非働化を行わなかったものの方が明らかに良かった点である。
 (II)このFCSとCSの細胞維持の違いが血清中に含まれる低分子物質の多寡による可能性を考え、夫々の血清にEagleのnon-essential amino acidを加えて、HeLa、P2B細胞のplating efficiencyにおよぼす影響をみた。結果はnon-essential amino acidを加えてもコロニー形成率が促進されることは1例以外なく大抵は減ずる傾向のあることがわかった。
 (III)前回の班会議の時、核小体縮小現象の話からadenine誘導体について簡単に紹介した。今回はこの関係の我々の今迄のデータを整理し紹介し、御教示を得たい。
 (実験毎に表を呈示)各adenine derivativeのHeLa細胞への障害度と核の変化の有無についてまとめたものである。同一時期に実験していないものもあるので相互の障害度の差にやや厳格性に欠ける所もあるが、調べたうちdibutyryl-c-AMPが最も少量で変化を惹き起し、ADP、ATP、TPN、FAD、c-AMPが10-3乗Mで障害を示した。そしてadenine derivativeのうちdBcAMPを除いて調べた全ての物質で核の変化が認められた。
 (IV)TPNのH3-TdR、H3-UR、H3-Leuの取り込みに及ぼす影響を調べると、TPN投与後1時間、6時間、24時間目より1時間の取り込みを調べてあるが、すべてTPNの各濃度でH3-URの非常に高率なとりこみ促進を示した。H3-TdRが24時間後で取り込み促進を示したが、H3-Leuは徐々に減少の傾向を示した。48時間後から1時間の取り込みでは10-4.0乗Mではコントロールに近く恢復しているのに10-3.5乗M以上では細胞代謝の激減が目立った。
 (V)このH3-UR取り込み促進の現象はadenine、DPNにおいても認められた。cAMPではその傾向はあるが程度は低かった。すなわち上記3物質で150%以上のH3-UR取り込み率であったのにcAMPでは120%であった。
 dBcAMPでは上記諸物質と全く異り、H3-TdR取り込み阻害が著しく、H3-URも10-3.5乗Mで80%、10-2.5乗Mで35%の取り込み阻害があり、H3-Leuは対照と同じ位の取り込み率を示した。
 (VI)今迄のデータはすべてHeLa細胞についてであるが、他の細胞にこれら物質を投与した場合どうなるかみてみた。
 L細胞に投与した場合、原則的にHeLa細胞でみたと同じ取り込みの傾向が認められた。しかしL5178Y細胞でみるとTPN投与にも拘らずH3-UR取り込み促進は認められなかった。
 (VII)以上のH3-UR取り込み促進はRNA合成促進を示しているのではなく、adenine derivative大量投与により細胞内代謝の機構が変ってURのderivativeの細胞内poolが減ずるため、見かけ上のH3-UR取り込み促進であると考えると非常に説明しやすい。
 そこで先ずTPN 10-3.5乗MとUR 10-4乗M、10-5乗Mの夫々の濃度を同時に投与して3日間培養してみた。TPN単独では今迄得たように、細胞増殖抑制と核の変化を認めた。TPNとUR 10-4乗M或は10-5乗M同時投与では細胞は完全に恢復し、コントロールと同程度の増殖を示し、形態的にも変化が見出されなかった。TPNと10-6乗M UR同時投与では形態的にTPN単独投与に近い像を示し、増殖もやや抑えられていた。
 (VIII)上の結果に力を得てURによる恢復をpurineの取り込みを指標にしてデータを出そうと考えた。C14-hypoxanthine、H3-guanine、ついでにC14-orotateの取り込みに及ぼすTPNの影響をみた。C14-orotateではTPN 10-4乗M投与で100%近くの、10-3.5乗Mで20%の取り込みを示したのに対し、C14-hypoxanthine、H3-guanineは10-4乗、10-3.5乗M TPNで全く取り込みを示さなかった。しかもこの低い取り込み率はcold UR 10-5乗M同時投与によっても全く恢復されなかった。
 (IX)今の所ここまでで結論は出せないで残念であるが、以下のように考えている。TPN投与で核小体は縮小化するので、RNA合成に著明な変化があり、H3-UR取り込み促進が認められるが、却ってRNA合成が抑えられている可能性が強い。すなわち、TPN投与によってpurineのみならず、pyrimidine代謝の異常も生じ、CTPpoolは上昇するが、UTPpoolは欠の状態になるのでH3-UR取り込み促進の現象が観察されるのではないか。purine代謝の方はhypoxanthine、guanineの取り込みが非常に低くなることから、ATP、GTPpoolも非常に増加している可能性が考えられる。

 :質疑応答:
[堀川]放射線照射後の回復物質も追ってゆくとnucleosideらしいという所まではきていますが、まだはっきりしてはいません。
[梅田]形態的にはきれいに回復しているのですがね。
[堀川]効いたり効かなかったりするのは、細胞の状態によるようです。
[吉田]核小体が小さくなる時はヘテロクロマチンも少なくなりますか。
[梅田]分布状態が変わってきます。
[吉田]ヘテロクマチンが消えてしまうのですか。又は染まらなくなるのですか。
[梅田]一様にプツプツと小さくなるようです。

《堀川報告》
 細胞が細胞周期を通じてX線、紫外線あるいは化学発癌剤4-NQOなどに対して感受性に大きな違いを生じることは、これまでの私共のColcemid-採集法を用いて得たHeLaS3細胞の同調細胞集団を使った実験結果からも明らかにされている。しかしこうした各種物理化学的要因に対する細胞の周期的感受性変化の原因となるものについて、その本体はまだ明らかにされていない。例えばX線についてはOhara and Terasima(1970)はnon protein(acid-soluble)sulfhydrylsの細胞内含量変化がX線の周期的感受性と密な関連性をもつようだという実験結果を出しており、このことは最近私共の研究室においても再確認されている。しかし、これでX線に対する同調的感受性曲線のすべてを説明出来る訳ではなく、秘められた多くの問題を残していると思われる。
 さてこういった意味から本実験ではさきに当研究室で確立したcolcemid-採集法を用いて得たHeLaS3細胞の同調細胞集団を用いて紫外線に対する細胞の周期的感受性変化、さらにはこうした周期的感受性変化の原因となる要因解析を試みているのでこれについての結果を今回は報告する。
 (図を呈示)100ergs/平方mmのUV照射に対してM期とmiddleS期の細胞がコロニー形成能でみると最もsensitiveであることがわかる。これに対して200ergs/平方mmのUVを照射したとき細胞内DNA中に形成されるthymine dimer(TT)はこれらsensitiveなM期とmiddleS期において最も多くinduceされることがわかった。
 一方、このようにしてDNA中に形成されたTTがどの様に除去されるか、つまり細胞周期によってTT除去能に差違があるか否かを検討した(図を呈示)。各時期の細胞をUV照射した直後のTT除去率を0とおいた時、種々のincubation後にどのように細胞からTTが除去されるかについては、TTの除去能に関して各時期の細胞間には大きな差違は認められない。
 またこれまでの実験結果が示してきたようにヒト由来のHeLaS3細胞においてはどの時期においても全TTのうち約50%のTT除去がmaximumである、ということもこれらの結果から再確認された。
 以上の結果はUV照射に対する細胞の同期的感受性差はDNA中に形成されるTT量の多少に依存しており、TTの除去能の差違には依存しないことを暗示していると思われる。ではM期及びmiddleS期の細胞内DNAに何故特異的にTTが形成されやすいか、その原因解析は今後の問題として残されている。

 :質疑応答:
[乾 ]細胞周期間での感受性の変化の報告はかなり沢山出ていますが、種による差はありませんか。
[堀川]同じだとみてよいでしょう。細胞周期の違いはあるでしょうが。
[乾 ]では、もし違う結果が出て来た時は何か技術的にまずかったという事ですね。
[堀川]各時期におけるchromatinの構造変化、DNAのlocalizationの差などが問題になるでしょう。もう一つは"filter"的な役割をもつ蛋白の変化などが考えられます。
[乾 ]4NQOの結合がlateSでほとんど無いというのは面白いと思います。
[吉田]X線ではどうですか。
[堀川]G2レジスタントという意味では、X線、UV、4NQOみな同じです。
[吉田]G2では染色体が1本になっていて、感受性が高まるような気がします。どちらかといえば、何か弱々しい感じのする時期ですがね。
[堀川]染色体レベルでtranslocationが多いから感受性も高いとはいえないと思います。変異や発癌はresistantのstageに多いのではないでしょうか。sensitiveのstageはkillingに働くのではないかと思います。
[乾 ]DNAレベルで何らかの影響を受けていて、それがG2期で染色体異常として出てくるのかも知れません。
[吉田]組み替えも起こるでしょう。
[乾 ]全細胞を分母にすれば、G2は変異率が高いと出るでしょうが、survivalの細胞数を分母にしてみても矢張りG2の変異が高いのでしょうか。
[堀川]大抵survivalの細胞数を分母にして計算しています。

《野瀬報告》
 Alkaline Phosphatase(ALP)-Constitutive Strainの安定性について:
 CHO-K1からMNNG、EMSの処理により、元々なかったALP-I活性を持つ株がとれたことを既に報告した。これらの株を継代して、経時的にALP-I活性と、colonyをつくってALP-染色を行ない、ALP-陽性colonyの頻度を見てみた(表を呈示)。3つのALP-陽性株のうちAL-151は、最初、高い比活性をもっていたが、colonyを単離してから80日目くらいから活性が下りはじめ、同時に、ALP-陽性colonyの頻度も減少してきた。AL-323、AL-431は、少なくとも90日間は活性は安定に保たれ、ALP-陽性colonyも97〜99%であった。AL-151のみが見かけ上、ALP-活性に関して不安定で、継代してゆくうちに陰性細胞の割合が増加してくることがわかった。この増加は本当にALP-陽性細胞は陰性になったためなのか、それともはじめに少量混在していた陰性細胞が増殖してきたためなのか現在のところ何とも言えない。増殖曲線の上でCHO-K1とAL-151との間にdoubling timeの差はなかったが、壁への付着力の差などの違いによりpopulation changeが生じることは考えられる。
 ALP-以外の形質の安定性の比較をするため、8-Azaguanine耐性、Proline-prototrophへの変異率を比べてみると(表を呈示)、AL-151が特に変異しやすいとは言えない。
 次にCHO-K1からcolonial cloneをいくつか単離し、それぞれの細胞集団中のALP-陽性細胞の頻度を見たが(表を呈示)、量的差はあるが、どのcloneにも10-6乗〜10-5乗の頻度でALP-陽性細胞が混在していることがわかる。従ってALP-陽性細胞はCHO-K1(ALP-陰性)のALP-遺伝子のactivation(又はderepression)によるのか又はpoint mutationのback mutationによって生じたもので、CHO-K1がALP-遺伝子欠損であるとは考えられない。現在ALP-Iに関して安定なAL-323、AL-431を用いてcell hybridization法によってALPの調節機構を研究したいと考えている。
 ALP-Iの精製について:
 ALP-IがdibutyrylcAMPによって誘導されることがわかったが、その機構はde novoの酵素合成によるのか、単なる活性化によるのか、まだ不明である。その点を明らかにするためALP-Iを精製し、抗体を作って抗体による滴定を行なおうとしている。材料はrat kidneyを用い、Butanol抽出、Sephadex G-200、DEAE-cellulose、DEAE-Sephadexによって精製していった(図を呈示)。G-200のelution profile、DEAE-cellulose上でのelution profileを示す。A-50のpeakの段階で約450倍に精製された。この最終産物をdisc gel電気泳動を行なうとタンパクのbandは2本あり、そのうち一本はALP-活性と一致するが他の一本は一致しなかった。従ってまだ完全な精製はできていない。また、活性も2つのbandに分れてしまい、chromatoでは単一のpeakでも、ALP-Iには2つのisozymeが存在するのかも知れない。(精製法の要約図を呈示)収量に関して、DEAE-celluloseのstepで下るのが今後の問題である。

 :質疑応答:
[堀川]クローンは1コから拾ったのですか。
[野瀬]コロニアルクローンです。
[吉田]酵素活性の落ちた方は出発時の陽性コロニーが98%で、活性の維持されている方は100%というのが一寸ひっかかりますね。つまり落ちた方は出発時の陽性2%と言うのが増殖したとは考えられませんか。
[佐藤]染まるものと染まらないものとは、形態的に違いがみられますか。
[野瀬]少し違うような気もします。
[堀川]ALP活性マイナスの株はその酵素活性を誘導できますか。
[野瀬]CHO-K1については誘導できません。
[堀川]だとすると原株の−から変異させた+の中から又−に変わったものは、原株の−とは違う性質をもつ可能性もありますね。私の拾ったアミノ酸要求性株の場合と似ています。+と−の中間タイプかも知れません。
[吉田]染色体はどうですか。
[野瀬]一寸特徴があるようですが・・・。
[梅田]CHOは悪性ですか。
[野瀬]そうです。

《山田報告》
 Spermineの細胞表面に及ぼす影響について検索していますが、細胞が思う様に増えてくれず充分なる成績は出ていませんが、今回はJTC-16に対する影響について報告します。
 RLC-10(2)についても同様なことが云えますが、Spermineの影響はそのtargetの細胞の増殖状態如何によりかなり異ります。一般にその平均電気泳動度の速い状態、即ち増殖の盛んな状態ではSpermineの影響が強く出る様です。JTC-16について一回目、二回目の実験では、低濃度のSpermineにより、やや電気泳動度は増加しましたが、RLC-10(2)にみられた様な高値ではありません。3.9μg/mlの高濃度のSpermineにより10〜15%の表面荷電密度の減少が生ずる様です。これはRLC-10(2)のそれよりも、やや低下の程度は少ない様です。培養時にみる様な両者の差はない様です。(repairのことも考慮する必要があるかもしれない)(図を呈示)
 Spermineを加へるメヂウムに1/2濃度のLD-mediumを加へた所、このSpermineの細胞表面に及ぼす影響は完全にブロックされました。なほ作用機序の詳細はラット腹水肝癌を用いて検索する予定です。

《乾報告》
 ニトロソグアニジン誘導体8種の癌原性:
 月報7310、7311に引きつづき、本月もENNG、nPen、NNGの毒性、変異誘導性の濃度依存性を観察した。
 前2回の報告でニトロソグアニジンの一連の誘導体では、CH3-基の側鎖の長さに略々比例して毒性変異誘導性が弱くなっていくこと、この方法では変異コロニーの同定がむずかしく、これらのコロニーに判定基準を与える必要があることが分かった。
 今回は動物実験、培養で発癌性、バクテリヤで突然変異誘導性のあるENNGと、発癌性の証明がなく、バクテリヤでの変異誘導性が(±)であるnPen、NNGの2者についての実験を行なった(表を呈示)。明らかな発癌性物質であるENNGはnPen、NNGに比して、変異コロニーの形成率が高く、P.E.がDosesに依存して、低下すると共にTransforming Rateは逆に作用Dosesに依存して上昇するが、現時点では投与DosesとTransforming Rateの間に数学的な平行関係はないようである。
 これに反しnPen、NNGではPE、Transforming Rate共にDoses依存性が殆ど認められない。以上の結果、及び前号迄の報告を併せて考察すると、毒性、変異誘導性がDosesに依存する物質には発癌性があり、依存しない物質には、これがないのか?と推察される。これらの結果は染色体切断、修復が投与Dosesに依存して現れる物質はバクテリヤに対し強いMutagenであり、Doses依存性のないものはMutagenesityがないか少ないと言う結果によく一致している。今後この一連の化合物について、染色体切断頻度も併せて検討したい。
 次の問題として、変異コロニーの判定の難かしさがある。同一人物が判定の基準をきびしくした時と、ややあまくCriss-Cross、Piling upの判定をした場合とを、4種の物質(0.5μg/ml)について表にしてみた。この数値の違いをみても、この種の実験では、今一つ厳格なtransformed colonyの形態的定義が必要と思われる。

【勝田班月報・7401】
《勝田報告》
 新年を迎えて
 初頁にもかきましたが、今年の新春は本当に目出たくないですね。東京ではもう2月以上雨が降らず、重油の輸入難と相まって、節電、節水・・・の御命令で、暖房も禄にこず、いまに動物室やフラン室、低温室などの電源をきられたら、我々はお手上げです。また戦后の苦難時代に帰らなくてはならないかも知れません。そうなっても、しかし、我々は研究を続ける義務があります。非常事態を一応考えておきましょう。
 当研究部では、昨年はラッテの肝細胞の培養を、なるべく早く、且なるべう純粋に作ることを努力しました。色々な方法で試み、何株かを作りましたが、それについては、いずれ月報なり班会議なりで報告いたします。今年はそれらを使って(自然発癌しない内に!)化学発癌の実験をすすめる予定です。
 また昨年入室した許君はラッテ腸管の上皮細胞の株を作りかけています。これも発癌実験に用いることになるでしょう。
 今年はしかし、私は肝癌の放出する毒性物質の本態の追究に主力を注ぐつもりです。どうもそれがpolyamineらしいということは昨年つきとめた訳ですが、本当にそのもの自体かどうかを今年ははっきりさせたいと思っています。これは許君も手伝ってくれています。 Polyaminesの内で、spermineがいちばん疑わしいのですが、少し変なところもあります。この辺もはっきりさせたいと思っています。生物学的細胞毒性作用では、各種の細胞についてしらべた結果、肝癌毒性物質の作用と非常に近い特性を示していますので、spermineがいちばん怪しいということは推定されます。
 若しspermineが本番ということになれば、今年はその動物実験にかかり、対応策を考えて行きます。

《山田報告》
 おめでとうございます。今年も宜敷く御指導の程お願い申しあげます。
 小生今年四月から独協医科大学第一病理学教室にまいります。(スケッチを呈示)スケッチに描きました様に、栃木県宇都宮の在ですので大変のどかな所です。春には雲雀の急降下もみられますし、秋には紅葉も美しい所です。
 今年は教室作りに追われると思いますが、これに負けないで、研究の方も休みなく続けたいと思って居ります。
 ラット肝細胞培養初期におけるConAの反応性;新たに樹立された正常ラット肝培養株RLC-20、及びRLC-21のConAに対する反応性を調べてみましたが、in vivoにおける再生肝と多少異なる結果を得ました。低濃度のConAにより僅かではありますが、その表面荷電密度は増加する点です。しかしAH-7974の培養株であるJTC-16の反応性とは明らかに異なります。
《高木報告》
 今年のprojectとして次のことを考えています。
 1.培養内癌化の指標の検討
 昨年はsoft agarにおける培養条件を検討してみましたが、ついに結論らしき処まで到達せず中断してしまいました。暮から、CytochalasinBの種々細胞に対する効果を検討していますが、或程度のdataは出つつあり、本年はこの問題をもう少しつっ込んでみたいと考えています。すなわち細胞種によるCytochalasinBに対する反応性の違いが、その細胞のin vitroの所謂non-viralなtransformationとどの程度の相関があるかと言うことを追求したいと考えています。
2.膵ラ氏島細胞の培養について
発癌実験系をつくるにあたって、如何なる細胞を用いるかと言うことは最も大切な問題で、適当なmarkerをもった正常細胞の分離は誰しも考えていることだと思います。私共は以前より膵の培養を試みて、特にラ氏島に由来する細胞の分離培養を心掛けて来ましたが、本年は発癌実験にも用いうる正常膵ラ氏島に由来するfunctioning cell lineを、とる努力を一歩一歩重ねたいと考えています。これと比較する意味で、islet tumor cellsの培養を考えて、昨年6DEAM-4HAQOの注射をラットに行いましたが、現在7〜8ケ月を経過したところであり、まだ少なくとも6ケ月は経過を追わなければなりません。先日、注射したラットの血糖値を測定してみましたが、異常値を示したものはありませんでした。最近成熟ラット膵ラ氏島の培養をmicroplateを用いて行ない、約2ケ月半insulinを分泌しつづけさせることに成功しました。しかしgrowthは示さないようです。さらに培養条件を検討したいと考えています。
 3.RRLC-11細胞より分離されたvirusについて
 このvirusの生物学的性状は可成りのところまで追求できました。さらにこのvirusの存在意義について検討したいと考えています。まずは、ラットのこのvirusに対する抗体保有性状を広く調べたいと思います。

《梅田報告》
 (1)昨年度は試験管内発癌の本来の仕事が思うようにはかどらず、又YS細胞を使っての8AG耐性細胞を得る実験ではさんざんな目に会わされました。やっと培養細胞のDNA索検索の仕事が面白く展開してくれたこと、又横道と知りながら培養細胞により血清要求が異ることとか、adenine誘導体投与がRNA、DNA代謝に強く影響していること等でお茶をにごさせていただきました。
 (2)本年はどうしても本業の試験管内発癌の仕事に精出さざるを得ないと思うのですが、社会の要請もあり、繊維芽細胞のしかも株化したものの悪性化であっても化学物質投与後、試験管内でなるべく容易に悪性化を測定出来る手技のルーチン化に心がけることを目標にしたいと思っています。そのために3T3細胞、C3H2K細胞を候補にして、目下培養を続けているのですが、その両細胞共になかなか培養のむずかしい細胞で、特に前者はすぐ悪性化してしまうような感じを与えます。C3H2Kの細胞も、一部の細胞は既に悪性化しているようで、DMBA投与により形態転換はするものの、定量化にはこのままでは使えそうにない段階です。目下これら細胞をcloningして使い易い細胞を自分で選ぶことにして培養中です。
(3)YS細胞の8AG耐性細胞を得る仕事は全くお手上げだったので、暮になってからFM3A細胞を貰ってきて、黒木さん方式の寒天の上にcolonyを作らせる方法で8AG耐性の細胞を拾う実験を行ってみました。この方は全く簡単で、10万個orderできれいな耐性colonyの出現を見ました。あまりきれいなので、これとそっくりの方式でもう一回YS細胞で実験した所、この方はやはり全くcolonyを作ってくれませんでした。こうなるとYS細胞は、8AG耐性になり難い細胞なのであって、今迄我々がYS細胞にだけ固執して耐性細胞を得ようとしていたことが、真違いのもとであったと思うようになりました。逆にYS細胞で8AG耐性になり難い理由を探ることも、重要で興味ある仕事と考えています。
 本年はこんな所を先ず解明しながら進みたいと念じています。

《堀川報告》
 1973年もあわただしいうちに過ぎてしまいましたが、とりわけ暮からは石油不足に端を発して紙不足、薬品不足など研究生活においても、また家庭生活においてもあらゆる面で困らされました。この分だと今年は更に物価の値上りは必須とみられ、節約々々という言葉はあらゆる面で呼ばれるだろうと思いますが、もともと貧乏国に育った我々日本人がここ10年ばかりのうちに異常な程の贅沢を身につけていた事にも大きな間違いがあった訳で、現在の政府のやり口にも大いに疑問を感じますが、同時に我々自身反省すべき時期にあると思います。さてこうした中で当班での仕事として何とか本年中にはある程度決着をつけたい思っている課題、次の2つについて抱負を述べます。
 (1)培養哺乳動物細胞における突然変異の研究。
 レプリカ培養法によりChinese hamster hai細胞から分離した、栄養要求株(TdR-)および栄養非要求株(Ala+、Asn+、Pro+、Asp+、Hyp+)を用いてX線、UV、4-NQO、NGにより誘発される、前進突然変異率、復帰突然変異率を算定する。
一方、各種細胞株について8-azg抵抗性および感受性を指標にして前進および復帰突然変異率を算定する。
こうした2系の実験から得た結果をもとにして培養動物細胞における従来の多くの人々により発表された前進および復帰突然変異率の妥当性を検討する。
 (2)放射線および化学発癌剤に対する細胞の周期的感受性変更要因の解析。
 HeLaS3細胞を0.025μg/ml colcemidで6時間前処理後、harvesting法によって大量かつ高純度のM期細胞を得ることに成功したが、こうして得た細胞集団についてX線、UV、4-NQOに対する周期的感受性変更要因の解析を更に進める。そして、最終的にはマウス3T3細胞のようにContact inhibitionがきれいにかかり、一応の癌化の指標を上手にもつ細胞を用いることにより細胞−癌化・変異−DNA障害とその修復能の関係を明らかにしたい。
 以上が本年度の私のねらいであるが、さて、これが夢として終らないよう頑張らなければならない。

《乾報告》
 年の始めに当り本年こそは"癌という病気"の原因を解明するため、ほんの半歩でも前進したいと考えております。
 私は昨年10月当研究所へ移りまして以来、発癌剤は使えない、Mutagen、重金属化合物の使用は出来ず、実験手技として、RI、生化学的分析を用いることの出来ない状態で細胞を培養しております。この様な状態で新しい年を迎えたわけですが、発癌のメカニズムを解析するべき基礎研究の最低の極限において、我々が何が出来るかと云う事に挑戦して見たいと思います。
 出来うる限りに早く本来の基礎研究の場に復帰するべき努力を致しておりますが、それ迄の間、当地においても一日一日を大切に一歩一歩前進したいと存じます。
諸先生方の御援助をおねがい致し、年頭の言葉にかえさせて頂きます。

《永井報告》
 旧年中は大変御世話になりました。石油ショックの為世の中は暗いものがありますが、研究の方はそれに負けずに進めたいものと思っております。皆様の御仕事の発展を御祈りいたします。本年が諸先生におかれましても終り善しという年となります様に。
 私共の毒性代謝物質の研究も、旧年中にpolyaminesとの関係へと一歩足を踏み入れましたが、今年は是非ともこの関係をより明らかにするとともに、可及的に速やかに毒性物質の化学構造を明らかにしたいものと念じております。思わぬ角度からpolyaminsとtumorという問題が浮上して参りましたが、気がついてみると世の中の方は細胞の分裂、あるいは、増殖度とpolyaminesとか、リンパ球のブラスト化とpolyaminesといった点に次第に関心が集りつつあるようで、論文とかconferenceの数とかもpolyaminesについてのものが増加しつつあるような気配がうかがわれます。また、これも流行するテーマとなるのでしょうか。それはさておき、私共は自分たちの中から自ずと生れてきた問題を大事に育てあげ、所期の目的に向って進みたいものと思っておる次第です。
 石油問題から、硫酸や苛性ソーダ、アセトン、クロロフォルム、ブタノールといった薬品溶剤類が入手不能になり、私共物質屋にとっては大変な年明けとなりました。苛性ソーダが無くて苛性カリが入手可能というのですから、どうなっているのかと云いたい所です。おそらくどっかに貯蔵されて眠っているのでしょう。敗戦時のあの時のように。どうも芳しくない年明けですが、雨にも負けず風にも負けずでやってゆきたいと思っております。本年もよろしく御指導下さいます様、お願い申し上げます。

《黒木報告》
 12月24日にLyonより戻ってきました。3ケ月間のフランス滞在は、色々な意味で有意義でした。Lyonで行った仕事は肝細胞の培養と、6OH・BPの突然変異性などが主なものです。
 1.肝細胞の培養:
 目的はヒトの肝細胞を培養し、環境中に見出される発癌剤、例えばnitrosamineのヒトにおける発癌性を調べること。また、発癌剤の代謝能を調べることなどです。
 ヒト材料が手に入らなかったため、ラットから肝細胞を得た。生後10日及び8週間のBD ラットの肝を細切し、トリプシン消化後、Williamsの方法で上皮細胞を得た。混在する繊維芽細胞は、エーゼで殺した。4つの株細胞(安定した増殖を示すという意味で)と、3つのpure cloneを得た。pure cloneはmicroplate法で得た。これらの細胞は形態的に上皮様でその生化学的特徴はこれから調べるところである。染色体はdiploidに70%がある。
 2.肝細胞のtransformation
 nitrosoguanidine、dimethylnitrosamine、aflatoxin B1、K-region epoxide of BAで、transformationを試みた。目下移植テスト中。
 3.6・OH・BPの突然変異性
 種々の事故が重り、experimentはスタートできなかったが、protocolは作った。Amesの系で6・OH・BP、4・OH・BP、3・OH・BP、5.6epoxide of BP等の変異性をテストするつもりである。

《野瀬報告》
 一年をふり返ってみて、一年たってもこれだけだったかという自らの非力に絶望的になりますが、今年はもう少しましな一年にしたいと努力するつもりです。年頭にあたり、今年の目標をたててみました。
 (1)癌研究の一環として、酵素を細胞形質の発現機構の研究材料とするのは一応意味あることと思います。今迄Alk.phosphataseをやってきましたので、もうしばらくこの酵素を続けたいと思っています。一過性の誘導ではなく、長期間見かけ上はgeneticalに性質が変化し、高い活性を保持している細胞株がとれましたので、この株のcharacterizationを行ない、なぜ活性が上ったかを明らかにしてゆきたいと思います。このような酵素活性の持続的変化は本当に遺伝的な変異なのか、単なる調節機構の変化なのか興味ある問題です。最近HGPRT-欠損株がcell fusionにより発現するという報告がいくつかありますので、活性がなくても遺伝子がmaskされているだけという例は多いのかも知れません。これらの現象は形質発現に関するtransformationと言っても良いと思われます。
 (2)化学発癌剤の作用を、酵素以外の広い生物現象について調べてみたいと思っています。細胞の癌化も何らかの遺伝子発現が持続的に変化させられたものなら、単純な系でこの変化を見られれば、発癌剤の作用機作がはっきりするのではないかと思います。HGPRT、栄養要求性などの細胞の性質をmarkerとして発癌剤の効果を見てゆく予定です。
 (3)Alk.phosphataseは、rat kidneyを材料として精製が進んできました。I型と酵素活性から呼んでいるものが、DEAE-celluloseでは単一だったのが、電気泳動によって2つに分れてきました。I-A、I-Bと仮に呼んでいて、等電点がそれぞれ5.1、5.6にあります。それぞれに抗体を作り、inductionによってどちらが上るのか、また、de novoの合成によるのかどうかを見る予定です。

《藤井報告》
 今年はラットのin vitro癌化細胞と同系リンパ様細胞の混合培養反応に、ある程度の区切りを打ちたい。そのために、関与するリンパ系細胞の種類と、それら細胞に関連する免疫反応の型−細胞性か、活性かなどを明らかにしてゆきたい。
 つぎに、腫瘍による自家リンパ系細胞のin vitro感作を利用した癌免疫療法の基礎実験。癌手術の補助療法として領域リンパ球刺激能。その他物質のリンパ球刺激能をたしかめて癌患者のリンパ球の増加と活性化をはかるなどを進めてゆくつもりです。
 癌の手術を的確に遂行することは極めてむつかしいことですが、少しでも癌の外科医として進歩したいこと、癌の外科医として考え、応用できる免疫療法をつくってゆきたいというのが年頭の希いです。

《山上報告》
 昨年中は班会議や月報で色々と皆様に勉強させて頂き、有難うございました。本年も、よろしくお願いいたします。昨年より、培養細胞を処理して戻し移植する時、動物の免疫の有無により、着いたり着かなかったりを、control出来る系を作ろうと努力しています。in bredの動物とセットですぐ使えると云う事で、研究室に長くmaintainされている肺由来のfibroblastを使って始めたのですが、その後色々と問題が出て来て、この細胞は目的に向かない事がわかって来ました。今年は細胞の分離からはじめて、なんとか目的の系を作れるよう努力するつもりです。

【勝田班月報・7402】
《勝田報告》
 §肝癌の毒性代謝物質関係:
 1.各種培養細胞のSpermine含量を定量すべく、永井班員の指導の下に進行中である。
 2.ラッテ肝RLC-10(2)株を無蛋白合成培地に移し、これにSpermineと同時にCohnの牛血清分劃Vを添加すると、Spermineの毒性がさらに強化された。この結果を図に示す。2.0mg/mlのところに最も強く見られたのは面白い現象である。
 3.肝癌の毒性代謝物質の活性がpolyamine oxidaseで不活化させられるかどうか、目下実験の準備をしている。
 §発癌実験関係:
 復元接種時に、正常細胞の混在が悪性細胞のtake率に如何に影響するかを調べるため、CulbTC株を動物に継代して使用し正常としてはRLC-10(2)を用いるべく目下準備中である。
《高木報告》
 CytochalasinBの培養細胞に対する効果
引き続き実験を行なっている。前報の細胞の補充実験と、新たに3T3、L、JTC-11(Ehrlich)癌細胞株)細胞につき同様の1、2.5、5μg/mlのCytochalasinを入れて調べてみた。
 ここでは正常細胞としてWKAラット肺由来培養3ケ月のRFL-N2細胞と腫瘍細胞としてJTC-11細胞に対するCytochalasinBの効果を示す(図を呈示)。大体予測の通りRFL-N2細胞は2核にとどまっており、JTC-11細胞では多核細胞の増加が著明である。3T3、Lについては、Lは多核細胞の増加、3T3は一応2核細胞までが多いが、それ以上の多核も認められた。これは、3T3の継代期間がやや不正確であったこと、recloningを行なっていないこと、など関係していると思われる。

《堀川報告》
 HeLaS3細胞の細胞周期を通じてみられる紫外線感受性変化(つまり周期的感受性変化)はどうもUVによってDNA中にinduceされるTTの量の違いで説明できるようで、除去能の周期的違いによるものではなさそうであるということについては、すでに報告してきたが、今回は同様のことを4-NQOおよび4-HAQOについて行った実験結果につき報告する。
 例によって、colcemid-harvesting法によって得たHeLaS3細胞の同調細胞集団を用いて、4-NQO、4-HAQOに対する周期的感受性を調べると、図1および図2(図1、2、3を呈示)に示すように、両発癌剤に対してともにM期からmiddleS期までが感受性期で、その後つまりmiddleS期からearlyG2期にかけて感受性は低下することがわかった。さて、これが何に依存するかを検討するため、H3-4-NQOまたはH3-4-HAQOを同調培養された各期の細胞に取り込ませ、DNAと結合するこれら両発癌剤のactivityを調べると、これも図1及び図2に示すように4-NQOまたは4-HAQOに対してsensitiveなM期からmiddleS期までの細胞内DNAと特異的に結合することがわかった(90分まで処理時間とともにactivityは上昇する)。
 では、このように各期の細胞内DNAと結合したH3-4-NQOがどのように除去されて行くかを調べた結果が図3である。この場合2.5x10-5乗M H3-4-NQOで、各期の細胞を30分間処理した際、どのようにH3-4-NQOがDNAから除去されて行くかを示してある。この図からわかるようにDNAと結合したH3-4-NQOはどの期の細胞からも除去されるが、特にH3-4-NQOと結合しやすい時期の細胞から多く除去される。
従って、H3-4-NQOのpercent releaseをみるとどの期の細胞からも殆んど同じようなrateで切り出される。しかし、最終的にはH3-4-NQOは感受性期のG1期、earlyS期の細胞内DNAに多量に残るようである。何故なら、36時間以上の回復培養をしても、もうこれ以上の除去は認められないから(尚M期についてはH3-4-NQOの処理が30分であるため分析出来なかった。)こうした結果は紫外線の場合と同様に4-NQO、または4-HAQOに対するHeLaS3細胞の周期的感受性差はDNAと結合するこうした発癌剤の量的差異に依存していることを暗示している。従って4-NQOのDNAからの除切には除去修復機構が関与している可能性が高い。尚ここで問題になるのは、今回の実験ではDNAはphenol法で抽出したものについて結果を出してあるが、これをもう少しmildな抽出法に変えて検討する必要があり、現在その方法を使って再確認中である。

《山田報告》
 リンパ球表面における抗原抗体反応とConAの反応:
 細胞電気泳動法による細胞結合性抗体の定量的測定については既に報告しましたが、最近Edelman及びYahara等の報告からヒントを得て、膜表面における抗原抗体反応を全く違った角度から分析しようと思いたちました。
 即ち、蛍光抗体法及び細胞凝集性の検索よりみると、ConcanavalinAと抗原抗体反応はリンパ球の表面上で相互に干渉しあうと云う報告から幾つかのヒントが生れて来ました。両反応は膜の共通部分で反応するのか? 或いは間接的な影響か? 若し相互に干渉するならば、ConAの反応性の変化により逆に抗原抗体反応を推定出来ないか?と云う疑問を基に、まず実験を始めました。
 細胞凝集作用を起さない低濃度のConAを肝癌細胞に接触させると、その表面荷電はbiph-asicに変化し、低濃度のConAによりその表面荷電密度が増加することを報告しましたが、同様な現象が正常細胞である脾リンパ球にも程度は少いですが起こりました(図を呈示)。
 そこで0.001%トリプシン処理(37℃、30分)すると、ラット胸腺リンパ球は図に示すごとく、再生肝細胞以上にConAによる表面荷電密度が増加しました。このトリプシン処理したラット胸腺リンパ球に、家兎抗ラット胸腺リンパ球血清(胸腺細胞10の9乗個x2回感作、200倍稀釋、56℃、30分比活性化)を更に作用させ(36℃、30分)た後の、ConAの反応性をみたのが図2です(図を呈示)。抗血清(比活性)処理したラット胸腺リンパ球の方がより低濃度のConAに反応して、その表面荷電密度がより増加しました。この現象は、ラット肝癌細胞にインシュリン前処理後のConAの反応性によく似ています。
まだこの種の実験を始めたばかりですので、どの様に発展して行くかわかりません。続けたいと思って居ります。

《梅田報告》
 前々回の班会議以後進んだ細胞DNAのアルカリ蔗糖勾配での分析結果を御報告します。
 (1)今迄Elkindの方式にしたがって分析してくると、lysis時間を変えることにより、遠心パターンの動くことが我々の仕事の骨子だったわけですが、DNAとして安定なT even phageではこの条件でどうなるかを調べました。この方法で得られる哺乳動物細胞のDNAの分子量測定の目的もありました。T even phageとしてT4 phageをH3-TdRでラベルしたものを安藤氏より分与を受けました。
 (2)PhageはDNA抽出をせず、そのままlysis液上にのせ、今迄と同じ遠心条件すなわち36,000rpm 90分遠心しました。(夫々図を呈示)図1がその結果で、19℃でlysis、1、2、4、24時間のものです。これでみると2時間迄殆んど遠心パターンが変らず、20〜22本目にピークがあります。すなわち細胞でみられたような遠心パターンの動きは無く特に注目をひくことは、細胞では24時間lysisの時は低分子化を起し、山がtopの方に動くのにphageでは殆んど動きのないことです。
(3)つぎに37℃でlysisさせる実験を行うと図2の如くで、4時間迄は全くピークが動きません。19℃ではピークが20〜22本目なのに、この実験では25〜26本目にピークがあります。24時間後にはtopに、すなわち28本目にピークが移るようです。
 (4)つぎに分子量を決定する目的もあり、main peakの現れる19℃4時間のlysisと、さらに時間をのばして24時間lysisでどうなるか、C14でラベルしたHeLa細胞と、H3でラベルしたphageとを同時にのせて実験してみました。図3でみる如く、この実験結果では19℃4時間lysisの時のHeLaDNAの山が、やや急峻に過ぎる感じですが、phageの山は20〜22本で図1と同じ様な結果です。24時間経つとHeLa細胞のDNAは今迄得ていた結果と同じように山がtopに移るのですが、phageは図1の結果と同じ様に22本目にピークをもったまま動きません。
 (5)さらに37℃lysisで1、2、4、24時間とlysisさせてみりますと(図4)、今迄得たように1〜2時間lysisで細胞DNAの山は動きませんが、4時間、24時間で山は徐々にtopに動きます。一方のphageの山は、図2と同じように、24〜25本目のピークが4時間迄続き、24時間で28本目に動くことがわかりました。常法にしたがって37℃1時間lysisの時のHeLa細胞DNAの分子量をphage DNAの山 (アルカリ蔗糖勾配故、phageDNAが1.3x10の8乗daltonとして、2で割り、6.5x10の7乗がphageの山として計算しました)から計算すると4.6x10の8乗daltonとなりました。
(6)以上の結果で色々の問題が新しく提起され、説明に困っています。(a)PhageDNAが低分子化を起さない条件なのに、細胞DNAは徐々に低分子化を起していたこと。(b)PhageDNAの山は、19℃lysisでは20〜22本目なのに、37℃では24〜26本目に移っていること。
(b)の問題は37℃lysisの時、時間がくるとそのまま直ちに遠心機にloadしていて温度が冷えきらないうちに遠心されている可能性を懸念して夫々の時間がきてすぐ19℃で始めからlysisさせたtubeと一緒に遠心してみました。しかし上の傾向はそのままでした。また、37℃に一晩おいたgradientを19℃に下げ、一方では4℃で一晩おいたgradientを19℃に上げ、phageをのせてから遠心してみました。これも変化がないようです。
 諸先生からの御助言を着に望んでいます。

《佐藤報告》
 T-7)次表はdLa-74(原株細胞)の復元移植実験の結果である。造腫瘍性の程度について、培養日数の浅いもの(219日)と、最近のもの(培養628日以降)を比較して見ると、前者については生存日数が不明であること、100万個以上の細胞数では実験が行われてないこと等から確かなことは云えないが、変化は小さいのではないかという印象である(表を呈示)。
 尚、ラッテはいずれも生後48時間以内のものを使用。
 現在、dRLa-74から得た単個クローンについて、(CL-2株、復元移植中)DAB処理(in vitro)により、悪性度の増強なるか、否か、実験中である。DABの最終濃度は10μg/mlないしは40μg/mlとし『DABはアルコールに4mg/mlに溶き、100%牛血清にて400μg/mlとし、遠心後、その上清を培地MEM+20%BSにて上記の濃度とする』又、悪性度の増強性の判定は、(1)同系ラッテ復元後、腫瘍死に到るまでの日数、(2)腫瘍重量、(3)組織像、(4)転移性などについて、処理群と非処理群(コントロール)との比較により行う。

《黒木報告》
 今年重点的に行なおうとしているprojectは、次のようなものです。
 (1)cAMP結合蛋白とMCA結合蛋白の異同
 10月末のflorenceの第11回国際がん学会で「化学発がん剤の核酸蛋白質との結合」というテーマで、panelistに指名されたので、それに間に合せるべく結合蛋白の分離精製の仕事をふたたびはじめました。前に何度か報告したように、塩基性蛋白は他のホルモンなどの結合蛋白と類似し、ligandinと総称されるものと思はれます。しかし酸性蛋白は、cAMP結合蛋白と2-3stepsのカラムまでは、同一の流出してきます。それから先を、今後、iso-electrofocusingなど使って分離するつもりです。
 (2)紫外線感受性細胞の分離
 FM3A、L9178Y細胞から、レプリカ法によって、7株の紫外線感受性細胞を分離しましたが、それらが不安定であることは、すでに班会議で報告した通りです。現在すすめている仕事の目的は、感受性細胞のなかから、ふたたび、MNNG処理でより安定な細胞を分離すること、chinise hamsterの株であるV79、CHO-K1からUV感受性細胞を分離することです。
 (3)10T1/2を用いたtransformation
 Heidelbergerらによって新たに分離されたcontact inhibitionに感受性で、chemicalsによってtransformableの10T1/2を用いて、AF-2、6OHMP等のtranformabilityをみる積りです。
《野瀬報告》
 ラッテ腎アルカリフォスファターゼの精製
 ALP-Iをrat腎から精製する方法は、前回の班会議で報告したようにn-butanol抽出液を、Sephadex G-200、DEAE-celluloseにかけ、比活性が約250倍に上昇した。この段階では活性のpeakは単一だが、蛋白をdisc gelで泳動させた後、染色すると3〜4本のbandが現われ、酵素として均一ではなかった。DEAE-celluloseの分劃を更にAmpholineによる等電点電気泳動にかけると図1のように2つのpeaksに分れた。最初のpeakはpI 5.1、後のpeakはpI 5.6であった。これらをALP-IA、ALP-IBと呼び、酵素的性質を若干検討した。至適pHはA、B共に、pH9.5、阻害剤に対する感受性は表のようにほぼ似通っていた。β-mercapto ethanolはALP-Iの阻害剤であったが、この酵素では逆に低濃度で促進が見られた。desc gel上でALP-IBはほぼ単一のbandを示した(図表を呈示)。

【勝田班月報:7403:MLTRにおける反応細胞の検討】
《勝田報告》
 ラッテ肝由来RLC-10(2)、CulbTC、JTC-15の復元について:
 ラッテ腹水肝癌のAH-66由来株JTC-15から軟寒天法を用いて拾ったクロンの中、可移植性マイナスであったAC-4と高い可移植性をもっていたAC-5の現在の可移植性を調べた。1年間の経過の間に低可移植性であったAC-4も生後4日のラッテでは100万個の細胞接種で100%腫瘍死するという結果であった。生存日数を比べるとAC-5の方が短い。しかし、同系のラッテでも生後1.5カ月のものでは、AC-4、AC-5ともにtakeされなかった。
 乳児ラッテではRLC-10(2)もCulbTCも動物にtakeされる事はすでに報告した。生後1カ月以上のラッテではRLC-10(2)はtakeされないが、CulbTCはtakeされる。
(表を呈示)RLC-10に4NQOを作用させ悪性化した系の再培養系CulbTCを、JAR-1系ラッテの腹腔内で継代移植した。動物での継代数が増すにつれて、ラッテの生存日数が短くなる傾向がある。
今後この動物継代CulbTCとRLC-10(2)の混合復元実験を予定している。

 :質疑応答:
[梅田]RLC-10、Culbの系では細胞の接種量と動物の生存日数に比例関係はないですね。
[山田]RLC-10(2)が乳児ラッテではtakeされ、アダルトラッテではtakeされない。乳児とアダルトとの復元条件の違いは免疫の問題でしょうかね。

《山田報告》
 ヘマトキシリン代用色素としてのGallein及びPyrocatecholについて;
 最近急にヘマトキシリンが品不足になり、今後の入手が危ぶまれています。本来ヘマトキシリンは中米のマメ科の木の幹から抽出した天然物であり、現在の所、合成は難しいのださうです。
 そこで合成色素で何かヘマトキシリンの代用になるものはないかと探してみました。
 即ちヘマトキシリンと同様な染色機構を持つ色素が好ましいわけですが、今回試みたのは(図を呈示)6種類の色素でいづれもキノイド環を持つ物質です。これにアンモニウム明礬を加へて、これらの物質とラックを作らせ発色性をみた所、Gallein及びPyrocatecholが最もヘマトキシリンに近い色を示しました。これらの色素の細胞及び組織切片の染色性をしらべた所、Galleinは赤紫色であるので、細胞質をライトグリーンで染める(Papanicolaou染色)と良く、Pyrocatecholは青紫色であるので、細胞質をエオジンで染める(HE染色)と良いことがわかりました。ヘマトキシリン程鮮明ではないにしてもこれに代用することができると思います。この色素の染色機構はヘマトキシリンと同様です。

 :質疑応答:
[永井]細胞電気泳動で薄いConAで処理した時、泳動値が高くなるのをどう考えますか。
[山田]抗原抗体反応的なものかと考えています。
[永井]経時的にはどうですか。
[山田]濃度や時間を増してみても、どんどん進行するという事はないようです。

《高木報告》
 CytochalasinBの培養細胞に対する効果:
 CytochalasinB(CCB)につき、1、2.5、5μg/mlの濃度で次の各種細胞に対する効果をみた。結果はWI-38、XP(培養100日)、RFL-N2(培養90日)、Sg(培養1年)、RLC-10、3T3は殆どが2核であったが、RFL-5、L、RRLC-12(ラット肉腫細胞株)、JTC-11(エールリッヒ癌細胞株)は多核を形成した。これはKellyらが3T3とSV3T3について行なった成績から予想された結果であった。すなわち一応"正常"細胞とみなされるWI-38、XP、RFL-N2、RLC-10、Sgでは4日間の作用期間を通じて2核どまりであり、腫瘍細胞であるRRLC-12、JTC-11では多核細胞が多数みられた。とくにJTC-11細胞では、ここに用いた濃度の範囲では高濃度(5μg/ml)でも多核細胞が多くみられた。ここに用いた3T3細胞は継代間隔が不正確でまたcloningもしていないためかpiling-upがみられ、3〜4核細胞もやや認められた。長く培養し、形態的にも可成りの変化があったRFL-5、L細胞では多核細胞が多くみられたが5μg/mlではその数は2.5μg/ml以下に比し、少なかった。今後細胞の増殖度、DNA、蛋白合成などとの関係を調べたい。
 膵ラ氏島細胞培養について:
 これまでorgan cultureを中心に研究を続けて来たが、最近単離したラ氏島細胞の長期培養に努力している。すなわちラット膵をcollagenase処理することにより単離しえたラ氏島をそのまま、あるいはさらにEDTA、Trypsinで処理して細胞単位として"mini"の環境で培養してみたが、ラ氏島のままでは約2ケ月半、細胞の培養では1ケ月以上可成りの量のinsulinを分泌しつづけた。形態学的に光顕、電顕で検索の予定であるが、今回は簡単にそのスライドを供覧したい。

 :質疑応答:
[黒木]2カ月半もインスリンを出し続けたのは塊の方ですか。単層の方ですか。
[高木]塊の方です。単層の方は40日位は出してしますが、それ以上みていません。塊の方が1コで2万単位ものインスリンを出しているのでびっくりしています。
[山田]素人でもラ氏島の分離は出来ますか。
[高木]慣れるまで少し難しいですね。
[山田]CCBで多核細胞が出来る機構については、よく判っているのですか。
[高木]細胞膜に影響を与えるという事が言われていますね。ミクロチューブルスに作用するとかD-glucoseの取り込みの問題とか色々言われていますが、全部がはっきりしている訳ではありませんね。
[黒木]小さな核が沢山出来ている所見がありましたが、どういう機構で多核細胞が出来てくるのでしょうか。核分裂そのものにも影響があるのかも知れませんね。
[高木]多核細胞では核の全部が同調して分裂に入らない場合もありますね。一部だけが分裂したりします。
[山田]CCBは何に溶かしますか。
[高木]DMSOです。

《乾報告》
 タバコタールのハムスター細胞に及ぼす影響:
 粗性黄色種タバコタールをハムスター起原細胞に100μg/ml作用し、約120〜180日で細胞が癌化することをすでに報告した。今回はTransformation rateを定量化する目的で、3種のタール(即ち先に使用した黄色種A、在来種B、シート化工タバコC)を使用し、こられタールの細胞毒性、コロニーレベルでの変異誘導性を報告したい。
(材料及び方法)
 急性毒性実験にはHeLa、培養3代目のハムスター胎児起原細胞を使用し、梅田等のラブテックチェンバー法でタール100μg/mlより半対数稀釋で8段階稀釋した。培地はEagleMEM+10%血清で5%炭酸ガス、95%空気中で72時間培養し、固定HE染色後検鏡した。
 (変異誘導実験スケジュールの図を呈示)タール作用量は10、5、2.5、1.25μg/mlとし、作用後4日ごとに培地交換を行い12日目に固定染色した。
 (結果)
1)急性毒性テスト;タバコタール三種の急性毒性の結果は(表を呈示)、タールの毒性はHeLa細胞に比してハムスター細胞に強く表われた。この結果はタールに含まれている芳香族炭化水素(発癌性、非発癌性を含めて27種検出されている。)が、ハムスター細胞に存在するArylhydrocarbon hydroxdaseで活性化され細胞に作用したと考えたい。
 細胞毒性は対照に使用した黄色種Aに強く表われた。TarB、Cについては、Hamster細胞ではC>B、HeLa細胞ではB>Cで表われた。以上の結果はTarA、B、Cに含まれている、ベンツピレン、ニコチン、農薬(特にBHC、DDT)の問題と関連して今後の課題としたい。参考迄にタール中のベンツピレン、ニコチン、農薬含有量を表に示す。
 2)ハムスター細胞の変異誘導実験;
 10、5、2.5、1.25μg/mlのタールを48時間作用したが、2.5、1.25μg/mlでは変異コロニーの出現はみられなかった。無処理細胞のplating efficiecnyは6.33%で変異コロニーはみられなかった。
 (表を呈示)10、5μg/mlタール処理による変異率を示した。変異誘導率はTarAが明らかに高く、TarC、TarB順でχ2乗検定の結果3者の間に明らかな差が認められた。又ハムスター細胞に限れば、細胞毒性と、変異誘導性が平行して表れれた。
 以上の結果からみて、コロニー判定の基準に問題はのこるが、タバコタールの如き互いに近似した物質間で毒性、変異誘導性に差がみられたことから、コロニー形成率を指標とした実験が今後細胞単位の癌化の問題の定量化の一つの試みとして応用されることを希み、課題の一つとしてとり組んでいきたい。

 :質疑応答:
[勝田]こういう物質のスクリーニングには人の細胞を使うべきですね。
[黒木]Feeder cellに人の細胞を使うといいでしょう。
[梅田]この場合のfeederはPEにのみ効いているのではありませんか。
[黒木]いや、矢張りfeederの細胞に何を使ってスクリーニングするかというのは、作用させる物質の代謝の問題として考える必要があると思います。それから、コロニーの判定は誰がやっていますか。人が代わると判定の結果も異なるでしょう。
[乾 ]判定は自分でやっています。前回の班会議の折りにも問題になりましたが、形態で判定するのは、どうも基準が難しいですね。
[佐藤]コロニーレベルでのクリスクロスは細胞の接種数や増殖に関係ありませんか。
[梅田]ハムスター胎児の場合、クローニングして使うわけではありませんから、いろんな細胞が出てきて、コロニーの形態もいろいろですね。
[佐藤]使う材料は矢張りクローニングしておくべきですね。それから、こういうスクリーニング法ですと、+は捕まえられるが−は安全と判定されます。その−の中で或る細胞では−だったが、他の系では実は−ではなかったというような問題が起きてきませんか。
[乾 ]前回の班会議の折りに勝田先生に言われましたが、コロニーレベルでの判定と動物レベルでの腫瘍性がどの程度平行しているかというデータをきちんと出す予定です。
[佐藤]天然物のスクリーニングの場合は、細胞の系をもっときちんとして、どの細胞にはどんな影響があるかを調べておくべきですね。
[梅田]当然そうあるべきでしょうが、実際的にはすごく大変な仕事です。
[津田]ハムスター胎児細胞をつかった場合のコロニーレベルで悪性と判定されたものでも、増殖させていく時間をかけなければtakeされないと思います。理論的には10日位ではtakeされないでしょう。

《梅田報告》
 (I) 先月の月報ではT4phageを用い今迄の我々の方式で超遠心した結果を報告した。すなわち19℃と37℃でlysis時間を変えて遠心した所同じT4phageDNAなのに19℃ではbottomより20〜22本目、37℃では24〜25本目にピークのある分布を示すことがわかった。この違いの説明としては以下の実験を行ってみた。37℃でlysisさせる時はやや温度が高いため作製したgradientに多少の乱れが生ずるのではなかろうか。と考え、先ずgradientを作製してから4℃と37℃で2日間保った後、19℃としてそれからlysis液をのせ、又T4phageものせて1時間lysisさせてから遠心した。(図を呈示)4℃に47時間おいたgradientでT4phageを遠心すると、bottomより28本目にピークのあることがわかる。37℃に47時間おいたgradientでT4phageを遠心すると、bottomより29本目にピークがある。以上の所見からgradientを作製後あまりにも長期間経たものを使用することはgradientの乱れを起している可能性もあり、注意しなければならないことがわかった。又gradient作製後lysis液をすぐのせ、T4phageとHeLa細胞を同時にのせて48時間後遠心したものは、24時間37℃でlysis後遠心したもの(今迄のデータ)とそれ程動いていないことがわかった。
 (II) TPN障害について述べてきたが、H3-Adenine、C16-hypoxanthine、H3-cytidineのとりこみを調べてみた(実験毎に表を呈示)。
 Ad、HXではとりこみは完全に抑えられているが、CRでは逆に促進が認められる。同時にorotic acidのとりこみをみると、10μci/mlと大量のH3-OAを投与したにも拘らず200cpm前後であまりにも少量しか摂り込みがなく確かなデータと云えない。
 前よりURの大量同時投与でTPN障害は形態的に恢復することを見ているので、TPNとcoldURその他pyrimidine同時投与でHXのとりこみが恢復されるかどうかみてみた。予測に反し、pyrimidineの同時投与でHXのとりこみはrecoverされなかった。
 同じ目的でみたGuのとりこみは、TPNにより阻害されるが、URの同時投与によっても恢復されなかった。Mycophenolic acid(MPA)はIMPよりGMPにいたる合成系の阻害剤である。URとMPA同時投与によりTPN障害の恢復を期待したが恢復は認められなかった。
 Thymidineのとりこみはやや阻害される程度であるが、TPN、URの同時投与でのTdRとりこみの恢復をみたがこれも恢復しなかった。以上purine、pyrimidineの生合成系の異常をとりこみ実験でみる時のむずかしさを痛感させられた。
 (III) 前に明らかにTPN障害がURにより恢復されることをみているので、系統的に標本を作り形態的に観察した。核小体の形態のみみても、URの投与でTPNの障害が恢復し、しかもdose dependentであることが判った。
 (IV) 増殖カーブでみるとTPN 10-3乗MでHeLa細胞には致死的であり、10-4乗Mでは細胞数は投与後2日間は横這いであるが、3日目には恢復している。TPN 10-3乗MとURの同時投与では、UR 10-4乗Mでは完全に、10-5乗Mで2日目迄、恢復している。10-6乗Mでは恢復されない。以上よりTPNによる障害はpyrimidine生合成のうちUMPにいたる迄のどこかで強く障害していることによることが示された。

 :質疑応答:
[黒木]超遠心分劃の図をみますとメインピークの鋭さが安藤氏と梅田氏のデータに違いがあるようですが、何か技術的に違いがありますか。
[梅田]こまかい点で幾つか違いますね。
[野瀬]Lysisの条件の中、使用した薬剤の不純物がDNAを切る原因になっていませんか。
[梅田]試薬は一応特級だけ使っています。
[勝田]もうそろそろDNAが切れるかどうかというのに、けりをつけた方がいいですね。
[梅田]始めはスクリーニングに使うつもりでしたが、やってみると手技の上で色々と問題が起こってしまって、仲々手が切れずにいます。
[勝田]DNAが切れるという事が発癌に必要なことなのかどうか、という原点に帰って考えてみる必要があります。
[乾 ]Lysisの問題ですが、T4DNAは時間をかけても変わらないのに、mammalian cellのDNAは時間をかけるとT4DNAのレベル迄小さくなるのは、どう考えますか。
[梅田]今言われているmammalian cellのDNAの最小単位の大きさが必ずしも最小ではないのだと言えるのではないかと考えています。
[永井]なぎさの変異では色んな方向へ変異するのに、悪性化は捕まらなかった。DNAレベルの変異といっても色々あって、どれが悪性化へ結びつくものとして、捕らえられるのか、という所が悩みですね。

《藤井報告》
 1.Mixed lymphocyte-tumor culture reaction(MLTR)における反応細胞の検討:
 従来おこなってきたMLTRには末梢血中白血球を、ラットではAngioconray-Ficol法で80〜90%にリンパ球様細胞をふくむ細胞を使用したが、MLTRにおいて反応し、H3-TdRをとり込むリンパ系細胞が、Mφをふくむのか、T-リンパ球か、B-リンパ球か、そのいづれをも必要とするのか、などが問題となってきた。
 今回はJAR-1ラットの末梢血より、リンパ様細胞を多くふくむ細胞浮遊液、1,000万個細胞/mlをAngioconray-Ficol法で調整し、これをさらにcarbonyl ironの上に重畳して、37℃、1時間静置してMφに鉄微粒子を貪喰あるいは鉄粒子に附着させ、これを磁力で沈めて除去する方法により、Mφを除いたリンパ様細胞をつくった。
 このようにして調整したリンパ様細胞と、非処理の元のリンパ様細胞とのMLTRを、8,000R照射Culb-TC細胞でおこなってみると、Mφ除去リンパ様細胞とMφをふくむ細胞群とは(表を呈示)、ほぼ同程度のH3TdRのとり込み値を示したが、対照のリンパ系細胞だけでのとり込みが、後者で高く、反応係数で比較すると、Mφを除き、リンパ球の純度の高い方がMLTRが高い結果となった。この成績からMφのH3TdRのとり込みはあるとしても、MLTRにおける反応細胞はリンパ球であろうということになる。
 2.マウスにおけるMC肉腫発癌に対するZnSO4投与の影響:
 Znは、ふつう肉類に多くふくまれており、正常には食物とともに充分摂取されている。Znがリンパ系組織の恢復に有効であり、Zn欠乏で、リンパ系組織不全がきたりするという報告がある。また宇多小路博士(癌研)によると、Znはin vitroでリンパ球の幼若化反応をもたらす。癌患者の末期ではリンパ球の著しい減少をきたす例が非常に多い。これは、末期では、食事とくに肉類などの摂取が低下することと関係があるかも知れない。
 Znの投与が、MC発癌に対して影響するかどうかを試してみた。Zn投与がリンパ球反応を促進し、発癌における免疫学的監視機構を強めて発癌を抑制するかどうかをみるのが狙いであるが、その実体はわからない。
 C57BL♀マウス、4週齢に、MC1mg(ラッカセイ油にとかした)を皮下注射し、局所にTumorがふれ始める頃、68日目より、ZnSO4溶液(1g/l)を連日飲用させた。この投与量は、マウス1日の飲用水量6mlとして6mg/day/mouseで、文献上みられたヒトへの投与量150mg/50kgの100倍である。
 (表を呈示)tumor incidence、平均腫瘍サイズ(タテxヨコ)は非投与群より低い。しかしtumor sizeのばらつきが大きいのが難点である。末梢リンパ球数は(表を呈示)、ほとんど影響なく、非投与群、MC(+)群ではtumorの潰瘍化、感染で却って倍加している。(マウスは充分Znを食餌より摂取しているためか)

 :質疑応答:
[黒木]発癌性が強すぎると、はっきりした結果が出なくなるとも考えられますね。
[津田]マウスの体重は、亜鉛を飲ませた群と飲ませない群とで違いがありますか。
[藤井]亜鉛を入れた水は苦いので、その水に慣れるまで飲まないようです。そのために痩せてしまいますが、後は別に変わりがありません。それから、Tumorの大きさの検定に何かよい方法はありませんかね。バラツキが多くて・・・。
[乾 ]動物の発癌実験ではバラツキがあるのがあたり前ですね。ペインティングでパピローマを狙うのはどうですか。

《佐藤報告》
 T-8) DABによるdRLa-74由来クローン(主としてCl-2)の増殖阻害について。
 i) クローン間のDABに対する感受性の比較(図表を呈示)。
 1.8x10-4乗MのDAB、2日間処理により増殖に対する影響を検討した結果、CL-4以外のクローンは、ほぼ同程度の感受性を示した。CL-4の増殖阻害はアルコールの毒性によるものと考えられる(なお、CL-4は細胞の形態上、他のクローンとやや異なる)。なおDABの1.8x10-4乗Mは計算上、0.8%アルコールのコントロールをとった。
 ii) CL-2の増殖に対するDAB、3'Me-DAB、ABの影響(図を呈示)。
 1.8x10-4乗MのDABでは増殖阻害があるが、4.4x10-5乗M以下では影響は少ない様である。3'Me-DABもDABとほぼ同傾向である。しかし、ABの阻害率は大きく、この系CL-2の特徴である。
iii) CL-2の増殖に対するDABの影響(植え込み数の検討の図を呈示)。
 植え込み細胞数33万個/tube、13万個/tube、4万個/tubeで細胞数を少くした場合、DABによる増殖阻害率は上昇傾向である。
 iv) CL-2のコロニー形成能に対するDABの影響(図を呈示)。
300cells/dishの細胞植え込み後、2日、コントロール(0.8%アルコール)、4.4x10-5乗M(0.2%アルコール)、1.8x10-4乗M(0.8%アルコール)DABで7日間処理し9日目に元の培地(MEM+20%BS)に戻した。1.8x10-4乗MのDAB処理により有意にPEの減少を認めた。又、各々コロニーの大いさはDAB処理群で、全体的に小さくなっており、ここでも、増殖阻害(抑制)が認められた。

 :質疑応答:
[梅田]クローニングの時期は・・・。
[佐藤]かなり培養になれてから拾っています。
[梅田]それでもこんなに色んなものが拾えるのですね。
[高木]脂肪滴をもった細胞はDABを食わせた細胞に多いのですか。
[佐藤]いちがいには言えませんが、そういうものもあります。細胞質にDABの溶けた脂肪滴が一杯つまって、真黄色になってみえる細胞もあります。
[黒木]DAB 40μg/mlという高濃度でよく溶けていますか。
[佐藤]DABをアルコールに溶かしてから、全血清で薄めて沈殿を遠沈で除去して使います。その時の溶液を定量してみたら40μg/mlという数値になりました。

《永井報告》
 Polyamineの定量分析について
 癌細胞より産生される毒性代謝物質の化学的本態がpolyamine類似の化合物である可能性が強くなってきた。また、最近になってSpermine、spermidine、putrescineといったpolyamineが細胞増殖との関聨において、強い関心を呼びつつあり、"Polyamines in normal and neoplastic growth"といったNCI symposium(1973)の記録も出版されたほか、幾つかのpolyamineの生理活性についての綜説も現われ始めている。そこで、現在おこなわれているpolyamine定量分析法について以下に概観してみた(表を呈示)。

《野瀬報告》
 ALP-変異株の性質について
 前回の班会議で、ALP-活性の高いsubcloneのうち一つは性質が不安定で長期間(約100日)培養するとALP-陰性細胞が出現することを報告した。この出現が元々陰性細胞が一部混在していたのか、又は陽性細胞がspontaneousに変化したのか決定するため、Single cell cloneを拾ってみた。(表を呈示)結果はcolonial cloneだけでなく、single cell cloneでも、colonyを単離してから43日目にすでにALP-陰性細胞が出現してきた。従って、ALP-活性の高い状態は2〜3カ月は安定だが、たえずcloningを行っていないと次第に活性の低い細胞の比率が増えてくるように思われる。この様な不安定性は、ALP-活性の変化が遺伝的変異によるのではなく、何かepigenetic controlによって誘起されたことを示唆している。
次にALP-陽性細胞はdeoxy glucoseに対する感受性が変化しているというBarbanの報告にならい、CHO-K1からd-Glc耐性株をとってALP-活性をみてみたが(表を呈示)、全く活性は変化していなかった。また逆に、ALP-陽性細胞も、dGlc耐性となっていないようである。
 細胞のALP-活性が上昇する機構を知るために、陽性細胞の性質が優性か劣性かを調べることが重要である。そこで、陽性、陰性細胞のhybridを作りその細胞の活性を比較しようとしている。Hybridの作り方はCHO-K1-P33(ALP-、Pro+、8AZs)とAL-343AGr(ALP+、Pro-、8AZr)とを、HVJで融合させ、Pro(-)8AZ(+)の培地で選択する。(図を呈示)この実験のためCHO-K1(-Pro)から分離したPro-prototrophのP.E.では、確かにPro(-)で増殖できる。現在、まだこの方法でhybridはとれていない。更に融合の条件を検討したいと考えている。

 :質疑応答:
[勝田]この仕事をどうやって癌に結び付けるつもりですか。
[野瀬]癌の共通性というのは未だ見つかっていないのですから、こういう酵素活性の一つを癌の一部を代表しているものとして考えてみたいと思っています。
[勝田]吉田一門の仕事で判ったことは、癌には共通性がないという事ですね。これからの癌の研究で大切なのは、その共通性を探してゆくことですね。
[佐藤]ALPの活性は細胞の種類に関係はないのですね。ALPの変異は元へ戻ることがあるが、腫瘍化の変異は決して正常に戻らない点が違いますね。

《黒木報告》
 班会議の席上で報告したのは、Lyon滞在中に分離したラット肝細胞とそれを用いたtransformation及び今後の実験計画、特に結合蛋白の精製、replica法による紫外線感受性細胞の分離、及び最近Heidelbergerらによって分離された10T1/2細胞を用いたtransformationなどであった。これらはすでに1月号、2月号の月報に報告したので、その詳細は重複するので省略する。その後、肝細胞(IAR-series)と10T1/2があい次いで、フランスとアメリカから届いたので、その位相差像を以下に示す(顕微鏡写真を呈示)。Druckreyによって樹立されたBD-IVラット(白黒のブチ)の生後10日の肝より得た細胞IAR-20、分離法はWilliamsに従った。培地はWilliams'med+15%FCS、この細胞からmicroplateによりpure clone(PC)-1、-2、-3を得た。また、生後8週のラットより分離したIAR-22もある。
 10T1/2細胞Clone8、passage6:C3Hマウス胎児より得た10T1/2細胞のconfluent sheetでは、細胞はうすく広がり、細胞質内に顆粒をもつ。5万個/60mm dishで10日おきに継代、5日目に培地交換、培地はEagle's basal med. plus 20%FCS。飽和密度は75万個/60mm dish(3.6万個/平方cm)。

 :質疑応答:(前号月報の報告について)
[乾 ]UV感受性細胞などの変異は本当に遺伝子変異といえるのかどうか疑問ですね。
[黒木]変異率が1〜10%というのは高すぎる、とかねがね思っています。
[野瀬]癌そのものが変異なのかどうか判りませんね。
[黒木]しかし発癌剤とされているものは、殆どが変異剤です。

《堀川報告》
 これまでChainese hamster hai細胞から分離したprototrophおよびauxotrophを用いてmutation inductionを調べる実験について主として報告してきたが、今回は薬剤感受性をマーカーにして復帰突然変異を検索するため、Chinese hamster hai(CH-hai cl23)細胞より70μg/ml 8-azaguanineに抵抗性の細胞2株を分離したのでこれにつき報告する。これら8-azaguanine対抗性の8-azg70γ-Aおよび8-azg70γ-B株は(表を呈示)、70μg/ml 8-azaguanineを含む培地で培養した時(それぞれシャーレ当り500個または10万個細胞を植え込む)、CH-hai cl23親細胞に比べてはるかに8-azaguanine抵抗性であることがわかる。
 一方、これら8-azaguanine resistant cell linesから生じるreverse mutantのselectionのためにはGHATのmediumでselectする必要がある。そのためCH-hai cl23細胞および8-azaguanine抵抗性の8-azg70-Aおよび8-azg70-B株を1x10-4乗M hypoxantine、1.9x10-5乗M thymidine、1.0x10-4乗M glycineと種々の濃度のaminopterineを含むGHAT培地中で培養した際の(この場合もシャーレ当りそれぞれ500個または10万個細胞を植え込む)コロニー形成能を調べた(表を呈示)。その結果、CH-hai cl23親細胞はHGPRT enzyme活性をもつため各種濃度のaminopterinを含くむGHAT培地中でもコロニーを形成し得るが、HGPRTを欠く2つの8-azaguanine抵抗性株では4x10-7M aminopterinを含むGHAT培地中ではたとえ10万個の細胞を植えこんでもコロニー形成はまったく認められない。したがって、これら2つの8-azaguanine抵抗性株は今後induced reverse mutationの研究を進めるうえでよき実験系として使用することが出来る。
 尚、これら2つの8-azaguanine抵抗性株およびCH-hai cl23親細胞におけるHGPRTenzymeの比活性は現在測定中である。
 (堀川班員は当日欠席されましたので、討論はありません。)

【勝田班月報・7404】
《勝田報告》
 §純系ラッテの腹腔内接種で継代できる腹水肉腫を作る試み:
 我々は腹水肝癌の出す毒性物質について、ながらく仕事を続けて来たが、同時に腹水肉腫についても同様の実験を進めたいと考え、培養の容易な腹水肉腫を作る努力を重ねて来た(表を呈示)。表1に示すようにメチルコラントレンを大腿部に接種して、動物にtumorを作る所までは簡単であったが、tumorは容易に培養に移すことが出来なかった。又細かく刻んで、或いはトリプシン処理をして、新しいラッテの腹腔内へ接種すると、浮游状の腹水癌として増殖せずに、うずらの卵位の大きなかたまりを作ってしまって、動物継代も失敗してしまった。
そこで今度は長期間培養して自然悪性化した細胞を動物に復元し継代する事を試みた。使った細胞はJTC-19で、JAR-1系ラッテのF20生後13日♀の肺由来のものである。培養開始は1964-2-13なので現在まで約10年間培養されている。この細胞は、培養内で好銀センイを形成する。(表を呈示)表2はJTC-19の復元実験の結果である。500〜700万個の接種で119〜222日で100%腫瘍死した。Exp.2の腹水をJAR-1生後1.5ケ月のラッテ2匹の腹腔内へ植えついだ所、それぞれ40日、42日で腫瘍死し、現在3代目にはいっている。この腹水は大変出血性で、腫瘍細胞は小さな島を作って増殖している。今后、動物継代を重ねて腹水肉腫として実験に使う予定である。(JTC-19のギムザ染色像、センイ染色像の写真を呈示)

《堀川報告》
 8-azaguanine抵抗性細胞から感受性細胞へのreverse mutationを調べるため、Chinese hamster hai(CH-hai Cl 23)細胞より分離した8-azg 70γ-Aと8-azg 70γ-Bの2つの細胞株はそれぞれ70μg/ml 8-azaguanineに抵抗性であるが、一方これらの細胞株はGHAT培地中では生存し得ないことも前報で報告した。
今回は此らの細胞株についてHGPRT(hypoxanthine-guanine phosphoribasyl transferase)活性がどのようであるかを、Cell free extractを用いて、またオートラジオグラフ法によって調べた結果について報告する。まづ関口ら(1973)が用いた方法に準じて、各細胞株から得たCell free extractに、50mM Tris-HCl緩衝液(pH7.4)、5mM MgCl2、1mM sodium 5-phos-phoribasyl-1-pyrophosphate、0.24mM[C14]-8-hypoxanthineを含む反応液30μlを加えて、30℃で60分間反応させた際の各細胞株のenzyme activityを表1に示す。(夫々表を呈示)これらの表からわかる様に2つの8-azaguanine抵抗性株は、CH-hai Cl23親株に比べてHGPRT活性が極度に低下した細胞株であることがわかる。
つぎに、対数増殖期にあるCH-hai Cl23親細胞、又は2つの8-azaguanine抵抗性株を5μCi/ml[H3]-hypoxanthineを含くむ培養液中でそれぞれ24時間培養した後(それぞれ小スライドグラスで短冊培養してある)cold PBSで3回、Cold 1%PCAで10分間づつ3回洗い、absolute methanolで固定後、Sakura NR-M2 emulsionを塗布してオートラジオグラフにかけてHGPRT enzyme活性を定性的に調べた結果が写真1および2である。
写真1は、HGPRT positiveなCH-hai Cl23親細胞のオートラジオグラムであり、H3-hypo-xanthineをactiveに取り込んでいることがわかる。一方、写真2はHGPRT negativeな8-azg 70γ-B細胞株のオートラジオグラムであって、HGPRTを欠くためhypoxanthineを利用することが出来ず、放射能はまったく認められない(同様の結果は8-azg 70γ-A細胞株についても得られたが、ここでは省略する)。
 以上、2種の実験結果よりわれわれの分離した8-azaguanine抵抗性細胞株はHGPRT enzyme活性が極度に低下した細胞株であることが完全に実証された訳であり、これらの細胞株を用いてreverse mutationの実験が現在進められている。

《梅田報告》
 In vitro carcinogenesisの実験の際に、物理的因子特に培地のpHの影響がどれ程あるか調べる実験を計画していたが、旨い実験系が組めなかったので、FM3A細胞を使って8AG耐性の出現率でみる実験系でのpHの影響を調べる事にした。その基礎データについて述べる。
 (1)FM3A細胞はMEMに10%FCSで培養している。我々の所のMEMは重曹1g/lとしているので炭酸ガス圧は通常3.5%流している。それでpHは7.2前後を保っている。(以下図表を呈示) 図1に3.5%炭酸ガスと、0.35%炭酸ガスと、特に炭酸ガスを流さないでairだけを送る培養チャンバー内で培養した増殖カーブを示す。3.5%炭酸ガス中と比較して、0.35%炭酸ガス圧中でもFM3A細胞は非常に良く増生している。0.35%炭酸ガス圧中では、初めpH7.7と高いが次第にpHが下り、本細胞が酸産生の高いことを物語っている。air中では増殖がおさえられ、2日迄はpHは8.0近くを保っていた。
 (2)Hepesを基礎としたGoodのbuffer系を使ってpH7.2、7.6、8.0の培地を作り、気相は空気として培養してみた(図2)。図1のcontrolに較べ増殖はすべての条件で非常に悪く、本細胞が、之等のbuffer薬剤に弱いことが示された。
 以上の(1)(2)の実験より気相を変えてpHの違った培地を得る実験系を使用することに決めた。
 (3)表1は、3.5%炭酸ガスとairの気相中で細胞を培養し、24、48、72時間後と、H3-thymidine(T)finalで0.1μCi/ml、H3-uridine(U)0.2μCi/ml、H3-leucine(L)1.0μCi/ml、を投与し、正確に1時間後Acid insoluble分劃にとりこんだcpmをその時の細胞数で割った値である。わかり難いので()内に3.5%炭酸ガス中24時間培養した時のT、U、Lの夫々のとりこみを100%としてその他全部のとりこみの%を計算した値を示す。それを図3にグラフにしてみた。
 3.5%炭酸ガスflowの48時間後ではDNA合成が、次いで蛋白合成が減少している。RNA合成は比較的良く保たれている。72時間後では細胞がmaximumに増生し、栄養物減少の故か、又overgrowthの故か、DNA合成は0に近く、RNA、蛋白合成も非常におちている。これに対しair中で培養したものは、24時間の時の比較でDNA合成は22%と強くおさえられ、蛋白合成は71%と軽く阻害をうけている。RNA合成は、非常によく保たれていることがわかる。この傾向は48時間、72時間后のとりこみでも変らないと結論される。因みにこの時の細胞数は、ここには示さないが、図1とそっくりの増殖カーブを画いていた。
 (4)まだpreliminaryの実験であるが、細胞をagar plate上に播種し、1群は1日間静置の3.5%炭酸ガスflow中で、他群はair内で培養後全体で20μg/ml finalになるように8AGを入れたagar medium或はcontrol agar mediumを上からそっとoverlayした。20日間、培養後(3.5%炭酸ガスflow中)コロニー数をみると(表を呈示)表の通りで、agar plateにまいたFM3AのPEは(200ケまいて115ケ故)約50%であることがわかる。空気中に1日おくだけでPEは1/10に下る。
 8AG耐性コロニーは3.5%炭酸ガスflow中で平均3.5ケと少なく、又、air中のも1ケと非常に少ないが、とにかく数字のマジックかも知れないが、生き残ったcolony形成細胞数から計算すると、表で示す如く3.5%炭酸ガスflow中では3.5万個に1ケの耐性細胞が、air flow中では10万個に1ケの耐性細胞が生じたことになる。

《乾報告》
 ニトロソグアニジン誘導体8種の癌原性(3)
 ニトロソグアニジン誘導体の染色体切断(1):先にニトロソグアニジン誘導体8種のハムスター繊維芽細胞に対する細胞毒性変異コロニーの誘導性につき報告した。その結果、毒性、変異誘導性は、ニトロソグアニジンのCH3-基の数に比例して減少するが、N-butyl-N'-nitrosoguanidine(butyl-NNG)の二種の変異体で、n-型に比してiso-型が明らかに毒性変異誘導性が高かった。
 一方、細胞遺伝学的に、Mutagen、Carcinogenは染色体に切断、転座等の異常を誘起することがしられている。
 今回は、ハムスター繊維芽細胞に、i-,n-butyl-NNGを投与し、染色体異常を観察したので報告する。材料にハムスター胎児起原の繊維芽細胞(4代目)を使用し、細胞が単層培養に達する前に、i-,n-butyl-NNG 10μg/mlをMEM+10%CS中で、3時間作用後、正常培地にもどし、24時間目にAir drying法で標本を作製し、検鏡した。
 染色体数分布は図に示した如く、butyl-NNG 3時間投与で、正常2倍体細胞の出現が明らかに減少したが、iso-,n-型での差は現われなかった。
 観察した全細胞中染色体異常をもつ細胞の出現頻度を表に示した(図表を呈示)。表で明らかな様に、ニトロソグアニジン投与で染色体に異常をもつ細胞の出現の頻度が増加した。又異常細胞の出現は明らかに、iso-butyl-NNGが高かった。
表に観察した全染色体についての異常染色体の出現頻度を表わした。表の如く、未処理細胞に比して、butyl-NNG投与群の異常染色体出現率は明らかに高かった。特に対照群では、Translocation、Dicentric、Acentric chromosome、Fragmentation等の異常は見られなかった。n-,i-型投与群相互間では、染色体分体を母数とした異常、又は両染色体分体に同時におこされた異常、即ち、染色体レベルの異常共に明らかな差は認められない。
 以上の結果を総合すると、butyl-NNGを投与すると、1)投与後24時間で明らかに、染色体異常、異数染色体の出現率が増加した。2)iso-型投与の場合、n-型投与に比して異常染色体をもつ細胞が増加する。3)染色体、染色体分体当りの異常はn-型、iso-又投与の間に差はなかった。
本実験のみで、n-,iso-型の細胞毒性、変異誘導性の差は、説明しにくいが、異常の強弱に関係なく異常染色体をもつ細胞の出現率のみが、細胞変異に関与するのかも知れない。今後一連の誘導体について同様の観察を行ない、この点を追求したい。

《高木報告》
 CytochalasinBの培養細胞に対する効果:
 先の月報でCytochalasinB(CCB)の1、2.5、5μg/mlに対して種々の培養細胞でどのような核数の細胞が出現するかを観察し、正常細胞と腫瘍細胞との間には一応の差異があることを認めた。これら多核細胞の出現がDNA合成を伴ったものか否かをみるため、予備的に次の実験を行った。すなわち正常細胞RFL-N2、変異細胞RFL-5および腫瘍細胞CulbTC似つき、培養1日目に2.5μg/mlのCCBと1μCi/mlのH3-TdRを加え、3日間培養後に細胞数、H3-TdRのとり込みを調べた。核数に関しては同時に標本を作らなかったが、先の実験でRFL-N2は2核どまり、RFL-5は2核以上の多核が多く、またCulbTCもRFL-5と同様の傾向であった。以下細胞数およびH3-TdRのとり込みを表に示す(表を呈示)。
 CCB処理後3日目の細胞数は処理前に比し、RFL-N2では減少他の2株ではやや増加を示した。各細胞株について細胞あたりのH3-TdRの取込みを対照、処理細胞で比較すると、RFL-5細胞では処理細胞は対照の0.91倍、RFL-5、CulbTCで略々3.76、3.75倍であった。RFL-N2細胞では処理群は2核細胞が多かったが、CCBのCytotoxic effectにより可成りのdamageをうけていることが関係して取込みは対照より低値を示していると思われる。RFL-5、CulbTC細胞では細胞の増殖は処理群で処理前をわずかに上廻る程度であるにかかわらず、H3-TdRの取込みは対照の3.75倍程度であり、これは多核細胞の出現がDNA合成を伴ったものであることを示唆するものと思う。

《山田報告》
 漸く国立がんセンター研究所を辞職して独協医科大学病理学教室に移ることになりました。3月に入ってから数回の引越しやら、住宅の世話やらでろくに仕事が出来ず、細々と残りの実験を整理して居ます。
 全くのゴフル場から医科大学が出来たのですから、ピペット一本から揃えねばならず、加えて田舎の業者を相手では能率もあがりません。
 夏までには、またなんとか軌道にのせた仕事をやりたいと思って居ります。
 試験管内発癌の仕事は再び出発点にもどり、これまで得た知見をもとに抜かりなく、また始めたいと思います。その意味で、昨年末、教室の角屋君が勝田、高岡先生のお世話になり培養の技術と、肝細胞のprimary cultureの株を樹立すべく努力して来ました。今回引越すにあたり下記の三株を持参することが出来ました。この株細胞を使って発癌の仕事をすすめたいと思って居ります。(いろいろ有難う御座居ました)。
(RLC-18、RLC-20、RLC-21の初代培養開始日、ラット年齢、分散法、染色体の表を呈示)。

《野瀬報告》
 8-azaguanine耐性株分離の諸条件について:
 8-azaguanine(8AG)耐性というmarkerは、somatic geneticsの研究に広く用いられて居る。私も、ALK phosphatase constitutive株のcell fusionに利用するため、8AG耐性株をいくつか分離したが、その途中で、この分離にはいくつか注意すべき点があることに気がついた。それはCHO-K1細胞をtrypsinizeし、8AG 20μg/ml含む培地でspontaneous 8AG耐性株の出現率を見ると、1図に見られるようにcell densityが10万個cells/90mm dish以上になると減少することである。(図を呈示)対照として、Proline prototrophへのreversionの頻度を見ると、30万個cells/dishまではまき込んだ細胞数とrevertant出現率との間にはほぼ直線的関係がある。
 一定の細胞数以上になると、8AG耐性株の出現率が減少する原因として、(1)medium中のgrowth factorが消費され尽す、(2)8AG耐性細胞が、周囲の感受性細胞とのinteractionによってHGPRT+となる、の2つが考えられる。図2は8AG耐性株を一定数シャーレにまき、感受性細胞数を変えて8AG耐性株のP.E.をみたものだが、1万個cells/平方cm以上でP.E.が0となった。従ってmutation frequencyを出す場合にはシャーレ当りの細胞数を厳密に一定にしないといけないと思われる。

《黒木報告》
 §紫外線感受性細胞の分離について§
 フランス行で一時中断していたUV感受性細胞の分離を再開した。そのpointは、大凡次の二つである。1)UV感受性細胞が培養数ケ月で次第に感受性を失うことはすでに報告したが、そのような細胞からMNNG処理あるいは未処理によってよい安定な感受性細胞を得る。2)今までのexp.はマウス由来の細胞を用いていたが、他のspesiesからも試みる。replicaの容易さ、なども考慮に加え、CHO-K1細胞で試みている。
 1)FMS-1細胞からのUV感受性細胞分離の試み:
 FMS-1は以前に報告したようにFM3Aから分離したUV感受性細胞である。この細胞にMNNG 0.1μg/ml/100万個cells/h処理し、あるいはcontrolとしてDMSO 0.5%処理し、→2日間培養→平板寒天上コロニー形成(2週間)→replica培養(50erg・1週間培養後判定)→UV感受性candidate分離→生存率曲線(2週間)という方法で調べた。(表を呈示)
 これらの5株の分離クローンについて生存率曲線で検討したところ、次のような成績を得た。すなわち、D0値でこれらのsubcloneのうち、クローン分離後30日以前にテストした2、5、6は10〜13ergで感受性であったが、30日以降にテストした1、3、4は18・20ergでもとのFMS-1と同じであった。(図表を呈示)紫外線量は吉倉広氏の紹介により、新たにLatarjetのLabより購入した。この機械と従来用いていた吉倉氏のdosimeter(Latarjet)と比較した結果、従来のメーターは約1/3低いdoseを示すことが明らかになった。これは、Standard curveに用いたsystemの差と思われる。吉倉氏に問合わせた結果、新しい器械の方が正しいとのこと(図を呈示して装置を説明)。
 2)CHOよりの紫外線感受性細胞分離のための予備実験
 CHO-K1のMNNG感受性を調べたところ、FM3Aと同様、非常に感受性であることがわかった。(表を呈示)。今后0.1μg/mlを用いる予定。MNNGで処理しないCHO-K1からreplicaでUV感受性細胞の分布を試みた。0/220であった。

【勝田班月報・7405】
《勝田報告》
§合成培地の新処方(DM-151〜154):
 我々の研究室では、かねてよりDM-120、DM-145などという完全合成培地を考案し、血清或は蛋白脂質を全く添加せずに、完全合成培地内で各種の細胞を継代培養してきた。今般のDM-151〜154という新処方は、株の継代やprimary cultureに適しており、しかしこれに血清を10%添加することにより、従来の混合培地、例えば20%CS+LD、10%FCS+HamF12、10%FCS+MEMなどで継代されている細胞株のほとんどすべての系をほぼ同率の増殖率で容易に継代培養できる。また、塩類溶液をEarleの処方にしたので、開放系の培養にも使用できる利点がある。
 初代培養では、10%FCS+90%DM-153を用いると、chick embryo fibroblasts、newborn rat由来の肝上皮細胞などは、10日以上生存させる事ができる。
 DM-151〜DM-154間の組成上の相異点は、そのglutamine量で、DM-151は100mg/l、DM-152は200mg/l、DM-153は300mg/l、DM-154は400mg/lである。(組成表を呈示)表でわかるように、合成培地DM-120のアミノ酸総量は他のどの合成培地よりも多いが、酸アミドだけを取り上げてみると、glutamineの100mg/lしかない。血清を添加した場合、増殖の盛な細胞では酸アミドの要求も大きくなる事を考慮してglutamine量を増した。またこれら4処方とDM-120及びDM-145との大きな組成上の差異はビタミン組成である(組成表を呈示)。

《梅田報告》
 今回は今迄報告してきた血清の問題と、adenine derivativeによる細胞の障害の2つのその後のデータを記します。
(1)各種の細胞をFBS、CS、BSで培養してみると、夫々に適したものがあるらしいことを月報7310、7312で述べた。これが例えばHeLa細胞の場合CSで良くFBSで悪く、逆に同じ血清のlotを使っていながらハムスターの繊維芽細胞の増殖ではFBSで良くCSで悪い結果に興味がひかれた。そこでこれらの血清の細胞増生の維持能力が血清中に欠乏因子がある可能性を考え、先ず一番ポピュラーなEagleのnon-essential amino acidsとfetuinを添加してみる実験を行った。(表を呈示)結果は表の如くで、non-essential amino acidsを加えるとPEの上昇どころか、却って低下する傾向もあり、又fetuin添加はほとんど影響を及ぼしていないと結論される。故にCS、FBSの増殖維持能力は、之等2つの因子以外の影響であることがわかる。
 (2)Adenine誘導体によりHeLa細胞の核小体が小さくなり、核質がfine reticularになりhomogeneous distributionを示すことを月報7312で報告した。この現象がNADP投与の場合はURの同時投与で回復することも月報7403で述べたが、その後各種adenine誘導体で調べた所、意外にも回復の程度が物質により異ることが判明した。
 (表を呈示)表にその結果を示すが、障害はadenine、adenosineはUR同時投与により回復しない。しかし、形態的に核小体の大きさはUR同時投与で正常大に回復している。dBcAMPでは確かに核小体の変化もあるが、形態的に大型で核質もよりhomogeneousで、他のadenine derivativeっと異っていたが、URの同時投与では障害は全く回復されず、形態的にも核小体の大きさは回復の傾向が認められたが、核質の変異等はそのまま残されていた。
 ATP、NADP、cAMP投与では、その典型的な障害が、UR同時投与で殆完全に回復されていることが示されている。

《佐藤報告》
 T- )発癌実験
DABによる発癌実験(厳密には癌性の増強実験)をdRLa-74由来の単一細胞クローンCL-2について試みつつある。
今回の報告は、(1)DAB短時間処理後の変化。(2)DAB間歇的処理による変化を累積曲線、形態、腫瘍性(検索中)などについて調べた。結果、(2)の間歇処理による場合において、コロニーの形態上から、DABによる変化と思われる傾向を認めた。しかしながら、増殖率やDABに対する耐性などに関しては、非処理群(コントロール)との間に差違は見い出されなかった。
 現在、第3の実験系として、DABをできるだけ頻回に、かつ長時間処理する実験を行いつつある。(累積増殖曲線の図、感受性試験の表を呈示)
 表1は実験(2)の場合の、DAB処理群とコントロールとの間のDABに対する感受性の比較を検討したものである。実験は発癌実験をスタートして40日目に、100細胞/ml、3mlをシャーレに接種し、24時間培養後、DAB(10μgor40μg)を含む培地で交換し、以後9日間培養した結果、処理群とコントロールの間には、著明な感受性の差はないが、40μgに対しては処理群にやや耐性があるように見える。
 表2、3はDAB処理群と秘書李郡についてコロニー分析を試みた結果である。表2ではpiled-up colonyが増加し、又、表3では、同様に処理群に多形性、異型性が増大傾向である(表3は、主として多核巨細胞、巨核細胞に注目した)。
 発癌実験スタート75日目に処理群(10μg、40μg)、非処理群の増殖率を比較した。差異は全く見られない。三者のDoubling timeにも差は見られない。
 

《堀川報告》
 今月号には特にまとめて報告するほどのデータがないので現在の仕事の進展状況を報告する。まず
 (1)放射線および化学発癌剤に対するHeLaS3細胞の周期的感受性変更要因の解析。
 紫外線(UV)照射に対するHeLaS3細胞の周期的感受性曲線は、各期の細胞のDNA中に誘起されるTTの量的違いにある程度説明出来るようであるが、一方、これらTTの除去能には各期の細胞間で大きな違いのないことがわかった。これらについての結果は近々BBRCに掲載される予定である。他方、4-NQO、4-HAQOに対する周期的感受性曲線もUVの場合と同様、各期の細胞のDNAと結合する4-NQOまたは4-HAQOの量的違いと関係がありそうである。しかしこれらの除去能に関しては各期の細胞間で差違のないことがわかってきたが、これらの実験はすべて同調細胞集団と云う限られた細胞を使っての仕事であり、従ってDNAの抽出法も、phenol法によってきた。この方法では抽出の過程でDNAと結合した4-NQOあるいは4-HAQOもきりはなされる可能性があるので、現在はよりmildなDNA抽出法としてMarmurの方法(1961)にきりかえ、これまでの結果を再検討中である。しかしこの方法でDNAを抽出する限り1点、1点の実験に多量の同調細胞集団が必要であり、思うように仕事がはかどらないのが現状である。
 (2)培養哺乳動物細胞における突然変異の研究。
 レプリカ培養法によって、Chinese hamster hai細胞から分離したTdR-株および栄養非要求株を使ってX線、UV、MNNG、4-NQO等による前進および復帰突然変異率の算定を進めている。一方、Chinese hamster hai細胞から分離したHGPRTの8-azaguanine抵抗性株を使ってX線による復帰突然変異率の算定も進められているが、これらの実験には時間がかかり、現在報告出来るようなhotなデータはまだもち合わせていない。

《高木報告》
 CytochalasinB(CCB)の培養細胞に対する効果:
 前報にひきつづき多核細胞の出現がDNA合成を伴ったものか否かを検討するため、次の実験を行なった。
 径3cmのplastic Petri dish(Lux製)にRFL-5細胞を植込み、1日後に細胞数を算定し、次いでCCB 5、2.5および1μg/mlを含む培地でrefeedすると同時に、H3-TdR 1μg/mlを加えて、1、2および3日とcontinuous labelingを行ないH3-TdRの取込みをみた。なお、growth curveをみる意味でH3-TdRを加えないCCBだけの実験群とCCBを加えない対照群とをおいた。結果は表の通りであった。(表1、2を呈示)
 表1は培養日数によるH3-TdRの取込みの経過を示す。表2はこの間の細胞のgrowth curveでこの実験ではH3-TdRは加えていない。対照では明らかな増殖が認められ、以下CCBの濃度に比例した増殖の抑制がみられたが、増殖は認められた。一方H3-TdRの取込みは、各濃度で1日をすぎるとplateauに達し、対照でも同様な傾向がみられた。これは1μc/mlのH3-TdRにより細胞の増殖の抑制があったとみるべきか、培地中のTdRを1日で細胞が使い果したとみるべきであろうかと思うが、いずれの可能性ともいいがたく今回の結果の判定は困難である。ひとまずH3-TdRと共にcoldのTdRを加えて再検の予定である。

《山田報告》
 新しい教室作りに意外と手間どって居ります。培養室がいまだ使へず医科研のお世話になりなんとかつないでいる状態です。
 前回にも一部は書きましたが、こちらに来てあらためて試験管内発癌の仕事をふりだしにもどって考へなほし実験を始めたいと思って居ります。
 それにはまず正常の肝細胞の株を作ることですが、昨年より医科研でお世話になりました教室助手の角屋君に四系のラット肝細胞株を樹立し、これを持参してもらいました。今回新たにもう一株RLC-16が出来ましたが、この染色体の形態及びパターンは正常の様ですので(図を呈示)、これを中心にRLC-18、RLC-21の三系を用いて行きたいと思って居ます。残りの1系RLC-15は繊維芽細胞が混在して居り核型パターンも正常肝のそれとは異なります。
《乾報告》
 ニトロソグアニジン誘導体8種の発癌性(4)
 ニトロソグアニジン誘導体の染色体切断(2): n-、iso-butyl NNG 10μg/mlを細胞に3時間作用し、染色体異常をもつ細胞の出現頻度がそれぞれ29.28%、42.65%であることを前号月報で報告した。今回は、propil-NNG 5μg/ml(10μg/ml投与では細胞増殖が著明に抑制され染色体観察が困難である。)投与後の染色体異常について報告する。投与条件は前号とまったく同じである。(表を呈示)
 表1に異常染色体をもつ細胞の出現頻度を示した。異常染色体をもつ細胞の出現頻度は、i-butyl-NNG 5μg/ml作用と略々同様で、染色体切断能はbutyl-NNGに比してpropil-NNGがはるかに強いと考えられる。
 表2に観察した全染色体について、異常染色体の出現頻度を示した。Propil-NNG 5μg/ml投与群では、前号で報告したn-、i-butyl NNG 10μg/ml投与に比して、染色糸切断が明らかに高く、特に両染色糸(染色体レベル)切断が著明に増加した。この事実は、すでに報告した一連の誘導体の毒性、突然変異誘導性の結果と一致する。

《野瀬報告》
 Alkaline phosphatase変異株の細胞融合。
 CHO-K1から分離したALP-活性の高い細胞で、活性を発現するようになった機構が、posi-tive controlなのか、negative controlなのかを調べるため、細胞融合による解析を試みている。変異株は8-azaguanine(AG)感受性なので、ALP-活性を持たないFM3A・8AG耐性株(黒木先生より分与)との間で融合を行なった。選択培地は、MEM+5%FCS+non-essential amino acidに8AG 20μg/ml加えたものを用い、変異株は8AGで殺され、FM3Aは浮いているので、シャーレをPBSで洗って除き8AG存在下で増殖し、しかもシャーレに附着するものをcell hybridとして単離しようとした。
 融合を起こすには、UV不活化のHVJを300HAU/ml〜3000HAU/mlで加えた。この際、培地のpHが非常に大きく融合率に影響し、Croceらの言うようにpH 8.0付近が能率が良いようである。また、serumを含まない培地に細胞をsuspendしてHVJを加えた方が融合が起きやすい。融合させた後、細胞を選択培地にまいて、一晩たってから位相差顕微鏡で観察すると、二核以上を持つ多核細胞は、19〜26%で、HVJ未処理群(数%)にくらべてはるかに高かった。
 何回かくり返して実験を行なったが、spontaneous 8AG-耐性株の出現率が高く、hybridらしい細胞はなかなか拾えなかったが、形態的にCHO-K1(fibrobrast)とFM3A(round)との中間の形をもったcloneがいくつか拾えてきた(写真を呈示)。写真の示すように、これらは中心が丸く、spindle状に長い突起を出して、特徴的な形をしている。染色体分析ではまだはっきりhybridであるという証拠は得られていない。現在まで独立に5つの同じようなcloneを分離し、ALP・I活性を測定してみたが、いずれも全くこの活性を持っていなかった。この様な細胞は染色体構成はほとんどFM3A型と同じで、CHO-K1からの染色体は存在するかしないか、はっきりしない。しかし、HVJ処理をやってはいるが、完全に丸い形のFM3A細胞が、このような突起を出すということは興味あることと思われる。この細胞はBut2cAMP処理をしてもALP-の誘導はおこさなかった。

《黒木報告》
 10T1/2細胞のトランスホーメーションについて
 McArdle LabのHeidelbergerらによって樹立された10T1/2細胞を、DMBA 1μg/mlで処理した(48時間)ところ、写真のようなdenseなfocusが、処理後3〜4週間後にみられた(写真を呈示)。今後C3Hマウスへの移植、寒天培地、細胞密度などからtransformationのcharacter-izationなどの基本的なdataを得るようにしたい。
 
【勝田班月報:7406:ヒト細胞の化学発癌剤による癌化実験】
 §各種細胞の旋回培養による細胞集塊形成像の比較:
 細胞のsuspensionを旋回培養すると、細胞の種類にもよるが、沢山の小さな細胞集塊(aggregate)を作りながら増殖するものが多い。
この細胞塊の数や大きさが、その細胞の動物へのbacktranplantabilityに平行するという説を立てるもののもあるので、本報では各種の細胞について、果してその造腫瘍性と関係があるか否かをしらべた。
 装置はフラン室のなかに、池本製の旋回器をおき、その上に沢山の三角コルベンをおいただけのことで、きわめて簡単なものである。
 しらべた細胞は、ラッテ由来の株が大多数で、可移植性のあるもの、ないもの、正常細胞、腫瘍由来などを含めて、25種類、イヌ、マウス由来を加えると計27種類であった。培地別では血清培地継代が19種、無蛋白合成培地株が8株であった。
 結果は、ある特定の細胞の間、例えば、正常ラッテ肺由来のRLG-1株の培養内で自然悪性化した株<それを動物に復元してできた肉腫の再培養株というように、細胞塊が同系列内では、悪性度の強いものが密な大きなものを作る平行関係も認められたが、一般化してその説を肯定するデータは得られず、極端な例としては、ラッテ腹膜細胞由来のRPL-1株は動物に腫瘍を作らぬが、固く密な大細胞塊を作った。
 (写真を呈示)悪性度との平行関係が認められた例として、RLC-10(2)・ラッテ肝由来で移植性の弱い株と、その株を4NQO処理で悪性化し再培養した株を示す。

 :質疑応答:
[佐藤]私も旋回培養では色々な経験をもっていますが、胎児性の細胞は大きな集塊を作ります。また腫瘍になると集塊を作るのですが、腹水型になると、又腫瘍性とは平行しなくなるのです。最初入れる細胞数が集塊形成に影響します。それから培養瓶をシリコンコートすると、ガラス壁に付くか付かないかがはっきりします。
[高岡]腹水肝癌の自由細胞型のものが集塊を作らないというのは初代培養でしょうか。腹水肝癌も培養系になると大分パターンが変わってくるようです。AH-130(自由細胞型)由来のものとAH-7974(肝癌島型)由来のものの間に差が無くなってきています。
[山田]この問題は昔一度考えた事がありますが、癌化が始まると組織の構造がルーズになるのに、塊りやすくなるのは何故か、どうも矛盾しているように思えました。しかし細胞集塊を作るのは腹水肝癌の島とは違って、細胞が均一になると大きな集塊を作るのではなかろうかとも考えられます。最初のきっかけは矢張り細胞膜の荷電に関係があると考えたいですね。一寸趣きは変わりますが、腹水肝癌の細胞が増えつつある腹腔内に苛性ソーダとか塩酸をいれてやると肝癌自由細胞が大きな島を作ります。
[佐藤]Microvilliの問題もあって荷電だけでは説明できないと思います。Microvilliと腫瘍性とは関係がありそうです。
[翠川]増殖速度と細胞集塊の大きさに関係はありませんか。
[高岡]細胞集塊の中ではあまり増殖していないようですし、増殖の早いものが大きい集塊を作るという事はありません。
[翠川]壁への附着性とは平行しますか。
[高岡]そういう尺度から見れば、壁への附着性の強いもので大きな細胞集塊を作るものもありますが、必ずしも平行していません。
[高木]膵臓isletをバラバラにして培養しておくと、何もしなくても、ただ静置培養しておくだけで、きれいなアグリゲイトを作る事があります。
[佐藤]Single cellから増やしたクロンは細胞集塊を作りやすいようです。細胞の均一さが問題でしょうか。
[堀川]細胞のorigin、種の問題など少し複雑で悪性化の指標には一寸無理ですね。

《佐藤報告》
 T-10) 発癌実験
 月報(7405)に示したCL-2(dRLa-74細胞由来)に対するDABの処理歴と、その実験系を基礎に、現在進めているDABの処理状況を示す(図を呈示)。コントロールに比べ、DAB処理群はいずれの処理方法の場合も、細胞の重層度が増大していると思われる。

 :質疑応答:
[黒木]3'Me-DABでは変異、染色体異常はおこらないが、aminofluorenを作用させると変異、染色体異常が起こるというデータがありますね。acetylaminofluoreneを使ったらもっと良い結果が出るのではないでしょうか。
[佐藤]DABの場合は人の肝臓では代謝されないが、ラッテでは代謝されるという事が判っています。DABで変異が起こらないというのは使った細胞系が悪いのではありませんか。DABについては、日本で動物実験での仕事が沢山報告されていて、肝癌も数多く出来て居るので、これを試験管内の発癌の系にと思って執念を燃やしているのです。もっとスマートにというなら、他に考えられる発癌剤4NQOなどもありますけれど。
[黒木]変異、染色体異常は大腸菌とヒトリンパ球でみています。
[翠川]発癌剤と変異剤は必ずしも一致しないでしょう。
[堀川]いや、今や殆ど一致しかかっていますよ。
[佐藤]しかし菌を使った実験の結果が必ずしも発癌実験と一致するとは思えませんね。発癌剤と臓器の親和性は発癌実験の第一歩として考えることだと思います。
[黒木]DAB 40μg/mlというのは少し濃度が高すぎると思いますが溶けていますか。
[佐藤]解毒作用のことも考えなくてはなりませんし、加えた濃度のすべてが作用しているかどうか判りません。
[堀川]変異を指標にするのは良いと思いますが、感受性とは一致しません。DABへの抵抗性の実験は何回やりましたか。
[佐藤]三回です。
[黒木]この条件なら必ず悪性化するというpositive controlをとって実験すると、もっと事がはっきりすると思います。

《乾 報告》
 核酸・染色体hybridizaion I(予報)
 先に我々は、生化学的手法でハムスター正常肝DNAと、正常肝細胞由来、MNNGでtransformした細胞由来のRapidly LabeledRNAをhybridizeし、MNNG transformed CellのRNAが正常のそれより多くDNAにCompeteする事を報告した。その後、正常細胞、Transformed CellよりRapidly LabeledRNAを抽出し、各々の染色体上でのhybridizationを試み、遺伝子の発現部位の相違を追求して来たが、仲々成功しなかった。今回の報告では、hot labelした細胞よりLabeledRANを抽出し、染色体上にhybridizeする手法に光明を見出したので報告したい。
実験方法:実験には、MNNGでtransformしたHNG-100、ハムスターterminal embryoの初代〜3代細胞を使用した。細胞はいずれもMacCoys5A+10%C.S.、37℃、5%炭酸ガス条件下で培養した。
 標識RNA抽出には、各細胞の単層培養直前に40μCi/mlのH3-UdRを45分作用し、作用直後氷室内でHanks液で3回洗い過剰のH3-UdRを除去した後、細胞をとり上げ、Scherrer and Darnellの方法でRNAを抽出した。
 染色体標本は同様単層培養直前の培養に5x10-7乗Mのコルセミドを3時間作用後、0.9Mクエン酸ソーダで20分(一般より長め)ハイポトニック処理を行い、空気乾燥法で(Flameをもちいず)標本を作製した。
 染色体−RNA hybridizationは、染色体標本作製後直ちに標本を0.07M NaOHで3分間処理し、水洗後エタノールシリーズで乾燥し、2倍のSSC中で2.0、0 D/mlのH3-RNAを標本当たり10μl、67℃、18時間作用した。作用後2倍のSSCでよく洗い、RNaseで過剰のRNAを洗滌後標本を乾燥し、Radio autographyを行った。
 結果は(写真を呈示)、染色体上にH3-RNAのgrainが認められるが、Single chromatid上に1ケのgrainのみであり、Sister chromatidの両腕の同位置にGrainが認められない点、又grainをもつ染色体が全染色体中でわずかである点等、問題が多い。
 今後、手法の改良を行い、染色体上での遺伝子発現部位の解析を試みて行きたい。

 :質疑応答:
[難波]この方法ではヒストンはどうなっていますか。
[乾 ]NaOHの変性処理をしていますから、ヒストンはとれているはずです。
[黒木]どういう組み合わせでやっていますか。
[乾 ]今は同種だけですが、いろいろ組み合わせてみるつ;もりです。
[堀川]アイデアとしては大変面白いのですが、染色体上のgrainがもっとシャープでないと説得力に欠けますね。手法そのものの特異性をはっきりさせて、これがartifactでないと証拠づけておく必要もありそうですね。
[乾 ]E.coliのRNAとは殆ど附きませんし、生化学的な数値では明らかに差が出ます。
[黒木]DNA-DNAの方が出易いですか。PolyA H3を使ってautoradiographをやればypolyT sequenceの染色体上の存在が判るのではないでしょうか。(その後文献を調べた結果、mRNAのApolyA sequenceは、核内にあるpolyA plymeraseによってRNAの3'OHに合成されて行くことが判った。従ってpolyAのtemplateとしてのpolyTなるものはDNAに存在しないらしい)
[堀川]この場合、DNAはむき出しになっているのですか。
[乾 ]ある程度むき出しになっています。
[野瀬]変異細胞で余分なRNAが出来ているのは他の細胞を使っての例がありますか。
[乾 ]SV40で変異した細胞で同じような報告があります。しかし、肝癌で反対にRNAが減ってしまったという報告もあります。
[堀川]技術的にカッチリやっておくと面白い仕事になりますね。Chromosomeからの蛋白のはずれ方によってartifactが出る可能性がないかも、見て置いてください。
[難波]Hybridizationの差は増殖の差ではありませんが。増殖との関係は・・・。
[乾 ]何とも言えません。なるべくlog phaseの後期にラベルしていますが。

《山田報告》
 新しく樹立された7系のラット正常肝由来培養株について主として形態学的に比較検索した。RLC-15、-17は(各々顕微鏡写真を呈示)明らかにfibrocyteが混入して居り、染色体もばらつきが最も著しい。従ってこの二株は正常肝細胞株としては最も不適当であると思われる。RLC-16、-19、-20、-21、-18はいづれも比較的均一な細胞像を示し、多核細胞も巨核細胞も殆んどない。RLC-16、-19はadultラットから得られた系であるが、RLC-16は培養びん硝子壁との接着性がより弱く、細胞はいづれも収縮して居り、他の株と異り、しかもその染色体モードの百分率はやや低いので多少問題がある。RLC-19、-20、-18は極めて正常肝細胞を思わせる細胞株であるが、RLC-18は変性が強く、今後継代が困難と思われる。RLC-21は全体としてやや紡錘状の細胞形態を示す。
 従ってadultラット由来としてはRLC-19、newbornラット由来としてはRLC-20、embryo由来としてはRLC-21を今後の発癌実験の材料として用いていきたい。(一覧表を呈示)

 :質疑応答:
[佐藤]肝臓の上皮細胞をとるには、少数にしてまくと、上皮はコロニーを作り、線維芽細胞はコロニーを作りませんから、割合簡単に上皮細胞が拾えます。しかし、2核の細胞はなかなか増殖しないので継代できませんね。
[山田]これらの系からクロンを拾って実験したいと考えています。
[翠川]しかし細胞の機能はin vivoからin vitroへ移して1日たつともうがらりと変わってしまうという説もありますね。
[山田]それではin vitroの発癌実験はやれないことになりますね。
[藤井]形態だけみていると、系によってそれぞれ特徴があるようですが、発癌性に差はあるのでしょうか。
[山田]これからやる予定ですから、今はまだ判りません。
[佐藤]In vitroでの自然発癌は染色体上の変異が起こってから3カ月ほどして動物にtakeされるようです。2倍体→2倍体と拾っていっても矢張り染色体のmodeはずれるようですね。他にラッテの脾臓を培養したものでグロブリンを産生している株があるのですが、これは190日位でラッテにtakeされました。
[高岡]自然発癌の早い例では、ラッテの腎臓の培養で3カ月培養してautoの皮下へ復元したら、大きな腫瘤を作ったものがあります。
[黒木]ヒトの細胞のagingはどんな細胞でもあるのですか。
[難波]リンパ球のBcell以外は殆どすべての細胞にagingがあるようです。遺伝病のものにもあります。ただ上皮性の細胞についてはdataがありません。
[堀川]細胞のaggregateと電気泳動度の間に何か関係がありますか。
[山田]逆の関係があると思います。
[堀川]細胞によって培地の条件が異なるということが泳動度に影響しませんか。
[山田]泳動にかける前によく洗って、泳動させる時は共通の人工的medium中で行いますから、問題はないと思います。

《難波報告》
 1.ヒト細胞の化学発癌剤による癌化実験:
 現在までに知られている正常ヒト2倍体細胞(リンパ球系の細胞は除く)を培養内で確実に発癌させるものはSV40のみであり、SV40以外の腫瘍性ビールスを使用しての正常ヒト細胞の癌化の報告は細胞が本当に癌化しているかどうかの点で、全て不確実である。またヒトの体内に発生した腫瘍からは、SV40もその他の腫瘍性ビールスも見い出されていない。最近、HuebnerらはOncogene説を提唱して、ヒトの癌もビールスによっておこるのではないかと考え、彼等のグループで現在知られている種々の細胞由来のOncogenic virusesを使って、ヒトの細胞の癌化を試みているが、まだヒトの細胞を癌化させるビールスは発見されていない。
 そこで、ヒトの癌の原因は、はたしてビールスなのか、それともかってロンドンの煙突掃除人に多発した皮フ癌の例以来多くの疫学的観察から推定される化学発癌剤によるのか、それとも両因子によるのか、とにかく実験的にビールスなり化学発癌剤でヒトの細胞を癌化させてみる必要がある。
 ヒトの癌をどのように直すかが、癌の細胞を相手に悪戦苦闘している研究者の夢と希望で、反対にヒトの細胞を癌化させることを企てることは夢も希望もない。むしろ人類に罪悪をなすものではないかと、私自身大変心苦しい思いをした。
 しかし、とにかくヒトの細胞をまず化学発癌剤で確実に癌化させ、そしてもし癌化した細胞が得られれば、その癌細胞にビールスを発見できるかどうか(この場合、化学発癌剤がビールスを誘発したことになる)の計画の下に実験を開始した。
 使用したヒト細胞は正常なヒト由来の細胞のみならず遺伝的に異常なヒト由来の細胞である。それらを下に列記すると
 1.正常なヒト由来: 1)胎児肺由来の線維芽細胞(WI-38)。2)全胎児由来の細胞。3)胎児肝由来細胞。4)成人肝由来細胞。
 2.遺伝的に異常なヒトからのもの: 5)Xeroderma pigmentosum(Adult)・XP-cells。6)Down's syndrome(Newborn)。7)Fanconi's anemia(6-year-old)。8)Trisomy O(embryo)。9)Lesck-Nyham。
 使用した化学発癌剤は: 1)MNNG。2)4NQO、6-Carboxy-4NQO。3)BUDR。4)DMBA。
 ヒトの細胞の培養内での癌化の基準としては: 1)Indefinite proliferation in vitro。2)Abnormal karyotypes。3)Transplantability into animals(Anti mouse lymphocyte rabbit serumを注射し、thymectomizeされたsuckling mouse使用)。
 この3条件が満たされれば十分である。正常のヒト2倍体細胞は胎児由来のもので50±10分裂、成人由来のもので20±10分裂後Agingのために死んで行き、私の2年間の発癌実験中、発癌剤無処理の対照細胞から無限に増殖し続けることのできる細胞株は得られなかった。即ちヒトの細胞で株化したもの=癌化と考えると、自然発癌したものはなかった。また、正常ヒト細胞のクロモゾームは非常に安定でAging現象のおこるphaseIII(この時期で細胞分裂は殆んどおこらなくなる)に入るまで2nが保たれる。そしてこの正常細胞を動物に移植しても腫瘍をつくらない。
 現在までに得られた結論は、1)ヒトの細胞は、マウス、ラット、ハムスターなどの細胞に較べ、非常に癌化し難い。しかし、2)胎児肝由来の細胞と4NQOとの組み合わせでは癌化に成功した。従って、従来推定されていた化学発癌物質がヒトの癌の原因となり得る可能性を示した。またこれは化学発癌剤によるヒト細胞の癌化の世界最初の仕事である。3)遺伝的に異常なヒトはある種の癌を多発することが知られている。私の行なった発癌実験では現在までのところ遺伝的に異常なヒトからの細胞の発癌に成功していない。しかしFanconi's anemia+4NQO、Lesck-Nyham+4NQOの2つの組み合わせで、発癌の可能性がありそうで現在実験を続けている。XPcells+4NQOも有望な発癌実験系と考えられる。その理由は、XPcellsは他の細胞に較べ、1桁4NQOに対して感受性が高くこの関係は丁度UVの細胞障害に対してXPcellsが非常に感受性の高いのと非常に似ている。この私どものデータは、Stich et al.の報告した4NQO処理XPcellsのDNA repair cynthesisは非常に抑制されていることを示したデータと一致していた。
 以下の月報で詳しい実験データを報告する予定である。(この仕事はDr.Leonard Hayflickとの共同研究の一部である)

 :質疑応答:
[堀川]ヒトの細胞を使って発癌実験をするのは理想ではありますが、悪性化の指標をはっきりさせなくてはなりませんね。
[難波]先ずagingを脱すること、これは最少限2年間100代位は継代できないとだめですね。それから染色体が異常になること、マウスやラッテと違ってヒトの細胞は2倍体をよく維持します。それから異種の動物への可移植性を得ること、抗リンパ球血清を注射したハムスターやヌードマウスを使うことになります。
[佐藤]Agingの原因をどう考えるのですか。
[難波]今それを検討している所です。
[藤井]個体の寿命と細胞のagingとの関係なども興味がありますね。
[佐藤]栄養要求性とは関係ないでしょうか。接種細胞数との関係はどうでしょうか。
[難波]細胞数や培地には関係ないようです。ヒトの細胞は殆ど100%のagingがありますが、マウスやラッテは簡単にagingを脱することができます。Dr.Hayflickは株化は変異だと考えています。
[山田]生物の進化の系統図とagingのあるかないかとは関係がないでしょうか。
[野瀬]進化の途上にある生物は変異を起こしやすいでしょうね。

《高木報告》
 CytochalasinB(CCB)の培養細胞に対する効果:
 先の月報でのべたように、CCBによる多核細胞の出現がDNA合成を伴ったものであるか否かを調べる目的で、H3-TdRの細胞による取込み実験を行なうため、まずcontinuous labelingを検討した。しかし結果は細胞の増殖がみられるにかかわらず培地にH3-TdRを加えて1日目以降の取込みは全く増加しなかった。この原因として培地中のH3-TdRが細胞の有する酵素により比較的短時間に分解される可能性が考えられるので(梅田氏による)次にpulse labelingによる予備実験を行なった。すなわちCCBを2.5μCi/ml 3日間入れたままの群と、入れない対照群とについて0.5μCi/ml 2時間、培養1、2および3日目にpulse labelingして細胞による取込みをcountすると、CCB実験群では1日目の取込みが最も高く、以後漸減する傾向を示し、対照群では1、2および3日目と取込みは急増した。CCB 2.5μg/ml入れ続けると細胞は3日間わずかに増殖はするが、DNA合成は次第に減少することが判った。この実験の目的には上記pulse labelingが適していると思われるので、この方法を用いてH3-TdRの細胞による取込みを観察し、それと細胞の増殖および多核細胞の出現頻度を比較することにより、多核細胞の出現がDNA合成を伴うものか否か検討する予定である。
 一方CCB 2.5μg/ml作用させたRFL-5細胞の16mm映画をとってみた。これまでの観察では大体次のようなことが判った。i)CCBを作用させている間は細胞の動きは悪いが、CCBを除いてrefeedすると細胞は活発に動きはじめる。ii)2核になった細胞が次にさらに分裂する時には同調的に同時に分裂期に入る。iii)2核の細胞で同時に分裂期に入るが分裂しきれずまた元の2核に戻る場合がある。iv)多核細胞(4核以上)はCCBを除いて観察しても現在の処変化はみられない。この映画を供覧する。
 また佐藤氏より提供された増殖のおそい肝癌細胞株にCCBを1、2.5および5μg/ml作用させて観察したが、多核細胞は他の腫瘍細胞と同様、高い頻度に出現した。従って多核細胞の出現が、増殖の盛んな細胞において高頻度であるとは単純には解釈出来ないようである。さらに観察を続けたい。

 :質疑応答:
[黒木]CCBはglucoseの取り込みを抑えますが、Tymidineはどうですか。
[高木]やや抑えるようですね。
[黒木]Acid solubleもみておいた方がいいでしょうね。
[堀川]この実験の狙いはどこにありますか。
[高木]2核細胞がDNA合成をしているかどうかを見たいのです。
[難波]Dr.Hyflickの処の実験では、CCBを入れると多核が出来るが抜くと又単核に戻ってしまう。Heteroploidを作るのにCCBが使えるのではないかと思って試みたのですが、結局とれなかったようでした。
[堀川]Thymidineの取込みがなくても、do novo合成があればDNA合成が起こります。

《梅田報告》
 今迄アルカリ蔗糖密度勾配上で細胞をlysisさせDNAの遠心パターンを解析した場合、悪性細胞は19℃、1〜2時間のlysisで単一のhigh peakからなるDNA遠心パターンを、4時間lysisで所謂DNA main peakとしての滑らかな山を示すこと、胎児由来の正常細胞は1〜2時間で2峰性のpeakがあり、4時間lysisでmain peakとして滑らかな山に収斂してくりことを報告した。さらに36℃ではmain peakは1時間lysisで現れることも示した。
 (I)今回はこれらpeakの性状をさらに解析するため、C14-TdRとH3-cholineあるいはH3-アミノ酸混合物で同時に標識した細胞で実験を行った。H3-アミノ酸混合物中にはH3-グリシン、−アスパラギン酸、−グルタミン酸が含まれており、これらがde novo合成によりpurine、pyrimidineに組みこまれる可能性を考え、これによる標識の場合はATPとuridineを同時に加えた。月報7405で報告したように、この処理によりde novoのpurine、pyrimidine合成は抑えられ与えられたATPとuridineがpurine、pyrimidine sourceになっていると考えた。
悪性細胞であるHeLa細胞の場合、25℃ 1〜2時間lysis後遠心すると(実験毎に図を呈示)C14の鋭いDNA peakに一致してH3-cholineあるいはH3-アミノ酸のpeakが現れ、4時間lysisでは消失した。36℃1時間lysisではC14に一致するH3のcountは認められなかった。
 (II)ヒト胎児由来線維芽細胞の解析では、25℃ 1〜2時間lysis後遠心したものは2峰性の遠心パターンを示すが、この2つ共にH3のコリンあるいはアミノ酸のpeakが共存していた。25℃ 4時間のlysisではC14のpeakに一致するH3countは消失した。36℃1時間lysisでもC14のpeakと一致するH3countは認められなかった。
 (III)以上の所見は25℃ 1〜2時間のlysisでは充分に膜成分からDNAが解離されていないことを示しており、DNA索そのものを解析する場合、少くともmain peakの得られる条件迄lysis時間をかける必要性を示唆している。
 (IV)HeLa細胞のmetaphaseの細胞を集めて解析すると、これでも25℃1時間lysisでH3-choline、H3-アミノ酸labelがC14のcountと一致して認められた。このH3のpeakの高さはrandom populationを解析した時のpeakの高さの約半分であることは興味がある。ともかくmetaphase cellでも膜成分が残っている。chromosome中に保存されていると解釈して良い所見である。

 :質疑応答:
[堀川]実際のDNA分子は、こういう遠沈操作で分劃されるDNAの分子量と比べるとずっと大きいですね。それからアルカリで分劃した場合にも電顕でみると二重鎖の部分が見える事がありますね。方法として大変便利ではありますが、問題もあります。
[難波]誰の方法が一番よいのでしょうか。
[堀川]何とも言えません。それぞれ長所も短所もありますから。
[難波]遠沈している時の温度も大切な条件でしょう。
[堀川]哺乳動物のDNAには蛋白などの膜成分がくっついている事もあります。Linkerなのかも知れませんが、何にしてもはっきりした方法の確立が第一でしょう。

《堀川報告》
 化学発癌剤4-NQOおよび4-HAQOに対する細胞の周期的感受性変更要因の解析の一環として、従来同調培養されたHeLaS3細胞を用いてH3-4-NQOまたはH3-4-HAQOで各期の細胞を処理した際、これらの発癌剤に対して高感受性のM期〜middle S期の細胞のDNAは特異的にこれらの発癌剤と結合する。しかも結合した4-NQOおよび4-HAQOの細胞内DNAからの除去能に関しては各期の細胞間で大きな差異のないことを示してきた。しかしこれらの実験ではDNAの抽出にPhenol法を用いた。そのためDNAの抽出時に結合したH3-4-NQOあるいはH3-4-HAQOがDNAからはづれてしまう可能性があるので、この点を更に再検討すべく今回はMarmurの方法(1961)によってDNAを抽出することにした。
 結果は(図を呈示)同調培養された各期のHeLaS3細胞を2.5x10-5乗M H3-4-NQOで30分間それぞれ処理した際、DNAと結合するH3-4-NQOの量は実験群によって相当のばらつきのあることがわかる。しかし、同一実験群の結果を考慮して、それぞれの実験群のG1期のcpmを100として各期のカウントを%で示すと(図を呈示)、これまでの実験結果と同様、4-NQOに高感受性のM期〜middle S期の細胞のDNAがより多くのH3-4-NQOと結合することがわかる。ついで、同様にして細胞内DNAと結合したH3-4-NQOが各期の細胞でどのようにDNAから除去されるかを調べた(図を呈示)。この場合にも従来の結果と同様に各期の細胞間でDNAからのH3-4-NQOの除去能に関してはまったく差違のないことがわかる。
 このようにDNAの抽出法をよりmildな方法に変えて、前回の実験結果を再検討した訳であるが、結果的にはまったく同一の結果が得られた。では何故、M期〜middleS期のDNAはより特異的に4-NQOや4-HAQOと結合するのかといった問題が(UV照射した際何故S期のDNAに特異的にTTが形成されるのかという問題と同様に)今後の重要な解析課題として残されている。

 : 質疑応答:
[黒木]S期にはDNAが裸の筈ですが、その時に感受性が一番低いというのはどうしてですか。TransformationではS期が一番高いとされていますが、mutationではどうですか。
[堀川]Mutation frequencyの高いのはG2です。Chemicalと放射線とでは感受性のパターンが全く逆になります。Damageが大きくないとmutation、transformationは起こらないのではないでしょうか。
[津田]紫外線ではdoseを落とせばmutantが出てくるのでしょうか。
[堀川]それはまだ判りません。
[黒木]Hydrocarbonの結合はnon-replicateDNAの方が高いというdataがあります。

《野瀬報告》
 (1)FM3Aの形態的変異株について:
 CHO-K1由来のALP-I活性の高い亜株とFM3Aとのhybridをとる実験の途中で、先月の月報に示したような、紡錘形をしたcloneが単離された。このcloneの染色体数および核型を調べると、(図を呈示)元のFM3Aとほとんど差がないようである。CHO-K1の染色体らしきものは、1本も検出できなかった。従ってここで得られたcloneはFM3Aが、何らかの変異をうけて、浮遊状から壁に付着して増殖し、しかも細胞質突起を伸ばすようになったものと考えられる。このcloneの形態は一見glia cellのように見えるので、現在PTAH-染色を試みている。乳癌由来の浮遊細胞が、紡錘形に変わったという現象は興味あると思われる。
 (2)ALP-1誘導に対するDimethylsulfoxideの影響:
 dibuthyryl cAMPによるALP-Iの誘導はタンパク、RNA合成阻害剤によって抑制されるので、de novoのタンパク合成が必要と考えられる。しかし、タンパク合成阻害剤の一種のpactamycinは誘導を阻害しなかった。そこで、But2cAMPは、細胞内に存在するALP-I合成ポリゾームのpeptide-elongationを促進することにより、ALP-I活性誘導を起こすのではないかと考えられる。この点を確かめるため、次の実験を行なった。
 ポリゾームは、細胞をDimethylsulfoxide(10〜12%)で10〜30min処理すると破壊される(図を呈示)。ポリゾームをこの様に破壊してからBut2cAMPを加えると(表を呈示)、ALP-I誘導は著しく阻害され、更にpactamycinを同時添加すると完全に抑えられた。
 これらの実験は間接的ではあるが、細胞形質の発現機構として、新しい機構が存在することを示唆していると考える。

 :質疑応答:
[堀川]形態的に変異した細胞が染色体の上では、もとのFM3Aと殆ど同じでCHO-K1の染色体を1本も持っていないということですが、一度ハイブリッドになってからCHO-K1の染色体が落ちてしまったとは、考えられませんか。
[野瀬]処理後4週間位でコロニーを拾って、それを増やして大体1カ月半位後に染色体分析をしました。でも片方が1本もない雑種という事はあまり考えられませんから、やはり雑種ではなく、FM3Aが癌から肉腫様形態に変異いたのではないかと考えています。
[佐藤]形態的に変わっても本質的に変わることはないのだから、"癌が肉腫になる"などと言ってはいけませんよ。

《黒木報告》
 月報7404で報告したFMS-1からのsubcloneのUV感受性を培養日数を追いながら調べた。(表を呈示)FMS-Aは、20−24ergにほぼ安定し、それから得られたsubcloneは最初10−13ergの感受性を示したが、60日以後はsucl.#2、5は15−24ergにおち着いたように思われる。今後、しばらく、安定性を追ってみるつもりである。
 CHO-K1からはMNNG 0.1μg/ml処理後replica cultureでUV-sensitiveを1clone分離した。Do.、n値は37ergでoriginalのDo=60 N=1.0と比べて明らかに異る。現在経過をみている。

 :質疑応答:
[梅田]マウスではだめだからハムスターでというのは何か根拠がありますか。
[黒木]CHO-K1は他の遺伝子は安定だからというだけです。
[堀川]紫外線感受性ならヒトの細胞を使う方がよいと思います。切り出し能のあるのはヒトだけですから。
[難波]マウスも胎児には切り出し能がありますが、培養につれて無くなるようです。
[佐藤]2度目の変異では感受性の高い方向と低い方向の両方に変異するのでは・・・。
[黒木]3回拾っても結局紫外線感受性はとれなかったのです。
[堀川]しかし安定なmutantも確かにあると思います。今とれているのは本物ではないのでしょう。それから実験の度にcontrolをとらなくては何とも言えませんね。
[梅田]紫外線感受性細胞にphotosensitivityはありませんか。
[黒木]XPの細胞の場合どうですか。特に光を避けますか。
[堀川]別に暗い所へおくわけではありません。
[山田]FM3Aという細胞はいわくつきの細胞で安定しない株ですね。

【勝田班月報・7407】
《勝田報告》
 A.HeLa株について:
 HeLaの最初のreportと思われるpaperは、学会報告の抄録にしかなく、このときは、しかしまだHeLaとは文中に云っていないが、とにかく参考のため、ここに引用しておく。Dr.Geyは余りpaperを書かない人だった。(Scientific Proceedings,American Association for Cancer Research,April 11-13,1952,New Yorkの全文を呈示)。HeLaという語をいつから用い初めたか、これは目下調査中です。
 B.亜株HeLa・P3について:
 HeLaはLについで世界で第二の古い株であるが、その合成培地内で継代できる亜株はまだ無かった。我々ははじめ、長い期間[0.1%PVP+0.4%Lh+0.08%Ye+salineD]の培地でHeLaを継代してきた。培養開始は1959-9-23で、これは亜株HeLa・P1とよばれる。
1968-1-6から純合成培地DM-145に移し、これが遂に高い増殖を示すようになって、継代できている。HeLa・P3と呼ぶ亜株がこれである。
血液型は、原HeLaはO型だったと云われているが、日本に入っているのはO型とB型である。予研のはB型であるが、当研究室のHeLaは予研から分与されたから、HeLa・P3はB型である。細胞形態は、一時、球状のが多くなっていたが、いまはしだいに上皮様形態を取戻してきている。

《高木報告》
 CytochalasinBの培養細胞に対する効果:
 CCBによる多核形成がDNA合成を伴ったものか否かを調べる目的で、細胞数の算定、多核細胞の数、H3-TdRのとり込みを比較するのが主眼であるが、H3-TdRのとり込み実験で難渋している。RFL-5およびRFL-N2細胞をLux petridish(35mm)に5万個植込み、24時間後、CCB 1、2.5、5μg/ml加えて3日間作用させた。24、48、72時間後にpulse labeling(2時間、0.5μc/ml H3-TdR)を行なった。(図を呈示)図の如く、いずれの細胞でも増殖に比し、H3-TdRのとり込みが日数と共に急に減ずることは予期せぬ結果で、technicalな問題が、さらに検討を要する。

《高木報告》
 培養哺乳動物細胞を用いての体細胞突然変異の研究の一環として、当教室ではChinese hamster hai細胞から分離した栄養要求株あるいは栄養非要求株を用いてX線、UV照射による前進および復帰突然変異の算定を行ってきたが、それらの結果本月報No.7309とNo.7310に報告した様に、一般に栄養非要求株(Ala+、Asn+、Pro+、Hyp+、Gln+)を用いた場合の方が、栄養要求株(TdR-)を用いた場合よりもX線、UV照射による突然変異率ははるかに高いことがわかっている。こういった結果を生じさせる原因として、(1)使用するgene marker数の違い、(2)前進および復帰突然変異の機構の本質的違い、等が考えられる。これにもまして前進突然変異率を高くする原因として、前進突然変異体を選別するために使用するBUdR-可視光線法に欠陥のある可能性が考えられる。
 つまり、X線およびUV照射により、栄養非要求株中に生じた栄養要求株を選別するには、BUdR処理により非要求株にのみBUdRをとり込ませ、これを可視光線照射によって焼殺する。そして残った栄養要求株をsufficient培地中でコロニーを形成させ、それを算定するという方法をとっている訳であるが、ここで問題になるのは、種々の放射線を照射した場合、mitotic delayなどが生じる。従って、24時間のBUdR処理時間は高線量照射されたどの栄養非要求株にもBUdRをとり込ませるのに充分だっただろうかという疑問が生じてくる。
 こういった問題を根本的に解決するには完全なBUdR−可視光線系を確立する以外に方法はないが、これは或る程度不可能にも近いので、とりあえず以下の方法で再検討することにした。つまり前述の栄養非要求株を各種線量のXおよびUVで照射後48時間のexpression timeを置いたのちBUdRをとりこませ、つづいて可視光線を照射してやる。その後細胞を2群に分け、一方はsufficient培地の入ったシャーレで培養し(A)、他方はdeficient培地の入ったシャーレで培養してやり(B)、(A)に出来たコロニー数から、(B)で出来たコロニー数を差し引いたものを誘発された前進突然変異細胞(Auxotrophic cells)数として、10万個生存細胞当りの突然変異率を求めた結果が図1および図2である(図を呈示)。
 これらの図からわかるように、以前にこの栄養非要求株を用いておこなった実験結果に比べて、X線およびUV照射による前進突然変異率ははるかに低いことがわかる。ただしこのようにして得られた前進突然変異率がはたして本物であるかどうかの検討はいづれにしても今後に残されている。またこうした結果から考察されるのは、あるPrototrophic cells集団からAuxotrophic cellsを選択分離するためのBUdR-可視光線法には問題があり、これに代るすぐれた系を確立する必要性のあることであろう。

《乾報告》
染色体−Rapidly labeled RNA hybridization(in Situ hybridization) 2:
 先月、班会議でMNNGでtransformした細胞、正常ハムスター細胞よりRapidly labeled RNAを抽出して、各々の染色体とhybridizationを行なった結果を報告した。その時の、染色体(hybridizeされた)の核蛋白の問題、染色体上でのDNAの存在状態について質問をうけた。
 今月はhybridizeされる染色体の条件を再検討する目的で、染色体のdenatureを色々の方法で行ない、染色体中のDNAの状態をしらべた。
 前号発表と同条件で染色体標本を作製し、
1)0.07M NaOH、25℃、3分作用
2)0.2N HCl、20℃、30分作用後、10μg/ml RNase 37℃、60分作用
3)x2 SSC、65℃ over night作用後RNase作用
4)0.025%トリプシン、室温、50秒作用後RNaseの作用
 の4種の前処理した細胞について、アクリジン・オレンジ染色、ギムザによる染色を行ない、アクリジン・オレンジ染色標本を蛍光顕微鏡発色を行ない、DNAが一重鎖が二重鎖かを検討した。
 染色体Bandは、4群トリプシン処理群でG-bandが著明に現われ、次いで3群に現われた。
第2群ではG-bandは現れず、C-Bandがわずかに現われ、NaOHではC-Bandのみ現われた。
 アクリジン・オレンジ蛍光染色では、トリプシン処理では、DNAは二重鎖特有の黄緑色蛍光を強く発した。x2 SSC作用群の蛍光は前者に比して、やや長波長(赤色がかって)に見られ、HCl、NaOH処理でアクリジン・オレンジはRNA、DNA一重鎖特有の橙赤色の蛍光を発した。以上の結果より染色体上のDNAは、in Situ hybri-dizationに使用したNaOH処理の条件で大部分が一重鎖になっていると推察される。
 現在のアクリジン・オレンジの蛍光染色では、励起後、一重鎖、二重鎖特有の蛍光は、30〜35秒しかもたず、すみやかに退色し、1分後にはいずれも一様に白光となるので、写真を撮ることが出来ず、又蛍光定量MSPがない現在、以上の結果を写真あるいは表に示すことが出来ない。
 染色体上での蛋白の存在状態が問題として残るが、ミロン化反応、First greenF染色等で、染色体染色を行い、これらの色素で染色体が染らないことを次の段階で証明したい。
 染色体Bandの染色体条件とアクリジン・オレンジ染色の結果より、推察すると、トリプシン+NaOH denatureがin Situ hybridizationに適していると考えるが、併用した時、染色体が原形をとどめない程、変形するので、これら二者の併用処理の検討を行いたい。

《黒木報告》
 §ヒト肝細胞の培養§
 Lyonにいたとき、ヒト肝細胞の培養を試みようとしたが、カソリックの国のため、胎児材料を得ることができなかった。ヒトの肝細胞培養を試みた理由は
 (1)現在まで信用できるヒト肝由来上皮細胞株がないこと
 (2)transformation、metabolic activationなど化学発癌研究の材料となること
 (3)isozymeなど、分化の研究材料となること
 (4)HB抗原、αFGなどの研究材料となること。などである。
 最近2例の胎児(7ケ月)を入手したので、実質細胞の培養を試みた。
 方法は、メスで細切→0.25%trypsin in PBS or 1,000u crude dispase in MEM+10%FCS室温10分かくはん、後上清をすて、次いで室温20分間かくはん(magnetic stirrer)→等量の10%FCS添加Williams med加え、2mlコマゴメで15回ピペッティング→#150 mesh→遠心後→Williams培地にsuspend→Williamsの方法で15分、60分、とFalconシャーレにSerial trans-ferした。
 培養後1週間で(写真を呈示)写真のような上皮細胞のfociを見出した。分裂像も多く、周囲の繊維芽細胞とは明らかに区別された。
 fociの数は(表を呈示)表のように、dispase処理群に非常に多く、平均2.55foce/d、それに対してtrypsin処理群では1..0foci/dであった。dispase処理群では第2回transfer dish(15-75分)がもっとも多く平均6.33/dであった。さらに1週間培養後、0.1%Pronase/ロ紙で3つのfociをpick upしたが、すべてfibroblastsのcontamiがみられた。そこで、micro-plateを用いて同様の方法でpick upした10ケのfociを20分-20分-2時間のserial transferをしたがすべての例がfibroblastsでおきかわってしまった。

《梅田報告》
 今問題になっているAF2のFM3A細胞におよぼす影響を調べた。FM3A細胞を使った理由は、本細胞で8AG耐性の突然変異率を比較的簡単に調べられるからである。
 (1)(夫々図表を呈示)図1はFM3Aの増殖におよぼす影響で、AF2 10-5.0乗Mで増殖が抑えられ、10-4.5乗Mで、増殖は横這いから致死的になることがわかる。図2は10-4.5乗M投与1時間後、6時間後に細胞を洗ってcontrol培地に戻した場合の細胞の回復能をみたもので、両者共に回復することがわかる。ここには示してないが、別の実験で24時間を経たものは回復しなかった。
 図3は細胞接種数を増し20万個/mlとしたので、前2者とはやや異なるが、AF2 10-3乗M投与では致死的であるが、1時間洗ってcontrol培地に戻すと一部の細胞と思われるが、回復してくることが示されている。6時間では全く回復しない。
 (2)FM3AのH3-TdR、H3-UR、H3-Leuの取り込みにおよぼすAF2の影響をみると、図4の如くなる。10-4.5乗MでH3-TdRの取り込みが特に抑えられている。濃度を明けると、H3-UR、H3-Leuの取り込みも抑えられるが、H3-TdR取り込み阻害にはおよばない。
 (3)染色体標本を作製すると、10-4乗M 6時間、24時間処理後のものはややgapの出現が増していること、時にpulverization像が認められるが数は少ない。48時間処理のものは、breakage、fusion等の著しい変化がmetaphaseの1/3に認められ、一見して非常に著明な変化である。10-5.0乗Mでは48時間処理後の標本でも著変は認められなかった。
 この実験は染色体が散ったこともあり、定量的につかめなかったので、目下繰り返し実験を計画している。
 (4)AF2 10-4.5乗M、10-5.0乗M、10-5.5乗Mで2日間FM3A細胞を処理した後、8AG 20μg/mlを入れた寒天平板上に100万個細胞を接種し、又control培地の寒天平板上に2000又は200細胞数をまいて生ずるcolony数を調べた。
 実験は2回行っており、夫々でやや違った値を示しているが、10-4.5乗M処理でmutation rateの著しい増加が認められる。

《山田報告》
 ConcanavalinAと抗体の細胞膜に対する反応性の類似について、ラット胸腺リンパ球を用いて検討して来ましたが、今回は癌細胞に対する反応性をAH-66Fラット腹水肝癌細胞について検索してみました。あらかじめConA(5μg/ml)に10分37℃飯能された後に、各種濃度の抗血清(同種抗血清、熱による非働化したもの)を反応させて、その表面荷電の変化をしらべた結果が図です(図を呈示)。
 対照として測定した抗血清のみによる変化が、2回の実験でかなり異りますが、いづれの場合でもConA前処理により、低濃度のConAによる表面荷電の上昇が増加する結果を得ました。2回の実験の抗血清の抗体価が異るために、著しく対照細胞のE.P.M.の変化が異って居るものと思いますが、これからその点について確かめた後に最終結論を出したいと思って居ます。

《野瀬報告》
 Alkaline Phosphatase変異株の諸性質について
 Sela & Sacksの報告によると、Hamster embryonic cellsはALP-陽性であるが、virus又はchemicalで"transform"した細胞は、ALP-陰性になるという。ALP-活性と腫瘍性との間に相関性があることになり興味のある事実である。そこで、前に単離したALP活性の高い亜株と原株CHO-K1との間の生物的性質をいくつか比較してみた。(図表を呈示)
 表に各株のALP-活性、doubling time、液体培地とsoft agar中のP.E.をそれぞれ示した。この表からは、活性の高い細胞が増殖が遅いとか、soft agar中のPEが低いとか、一般的に言えないようである。また図にALP-I活性とsaturation densityとの相関を示したが、やはり両者の間に単純な相関は認められない。
 以上の結果と平行して、hamster cheek pouchに細胞を移植してtumorをつくるかどうか、現在検討中である。

【勝田班月報:7408:10T1/2細胞の化学発癌】
《勝田報告》
 §ヒト・リンパ系細胞の培養
 ヒト・リンパ系細胞は免疫関係の研究にしばしば用いられてきたにも拘わらず、それらのリンパ球系各細胞の分類及び動態について詳しい記載がなされていない。その点をもう少し正確にしたいと思ってこの仕事をはじめた。分劃はFicoll-Conray法により、最後の沈渣を培養すると、7日間culture後に生きていると判定された細胞はクエン酸+クリスタル紫の処理では78%、エリスロシンでの判定では77%が生きていた。これらの細胞の塗抹、その他のギムザなどの染色標本、及び16mmケンビ鏡映画撮影による動態を示した。

 :質疑応答:
[堀川]H3TdRの添加時間が6時間だとgeneration timeの長い細胞ではS期に合わないために取り込みがないという事もあり得ますね。
[高岡]もっと長時間の添加実験が必要ということですね。
[難波]Monocyteの世代時間は1〜3日ですね。
[藤井]In vivoでも小リンパ球が1〜2カ月生存していることがあります。
[堀川]私のデータですが、マウスの脾臓の培養でリンパ球様の細胞は初期に死滅してしまい、monocyteらしい細胞が3ケ月位増殖せずに生存していて、100〜150日位経って増殖が始まって株化し悪性化してしまいました。株化した細胞には貪喰性がありました。
[勝田]この実験を始めた目的の一つにリンパ球様の細胞の中でどの細胞が分裂するのか、映画の視野の中でとらえたいという事があります。
[高岡]PHAを入れると塗抹標本での分裂像は確かに沢山みられるのですが、映画の視野では細胞が凝集してしまって、うまく分裂をとらえる事が出来ませんでした。
[山田]PHAを使うのでしたら、血球の凝集の濃度より分裂を起こさせる濃度の方が1ケタ位低かったと思いますから、そこを変えてみればよいでしょう。
[永井]PHAでなく亜鉛や沃度を使えば凝集させずに分裂だけ起こさせられます。
[藤井]Ficoll-Conray法の分劃では、沃度の刺戟があって幼若化する事があります。
[翠川]人のリンパ球の培養の場合、癌患者だと手術前に採ったものか術後に採ったものかで、随分違ってきますね。条件を一定にしなければなりませんね。
[勝田]人間は雑系だから、実験材料としては扱いにくいですね。
[吉田]癌患者の血流中に癌細胞はいませんか。
[藤井]問題になっていますが、今の所確実な同定法がないのです。
[勝田]幼若化したから分裂するのでしょうか。分裂したから幼若なのでしょうか。
[藤井]形態的に見て大きくなった所謂幼若化細胞は分裂するとしても小さい細胞にもTdRの摂り込みはありますし、何とも言えません。
[山田]リンパ球の幼若化の問題はさんざん研究されてきた問題ではありながら、その形態学はあまりはっきりしていないから、今からやっても新しいと言えますね。

《佐藤報告》
 T-11)発癌実験(Exp.III)
 CL-2細胞の実験開始時点での総培養日数930日、継代数94代。(表を呈示)10μg/ml DAB処理群ではDABによる障害は少なく、DABの連続投与が可能である。40μg/ml DAB処理群では細胞障害度は大きく、従って連続投与はできない。40μg/mlをできるだけ長期間与える事を目的とするため短時間処理をくりかえした群、細胞障害を大きくしたため全処理期間は短くなっている群がある(累積曲線を呈示)。
 コントロールとDAB処理群のコロニー形成率を検討した(表を呈示)(発癌実験開始後71~73日で実施)。コロニー形成率では有意の差は認められないが、コロニーの大きさを比較した場合、処理群では大きなコロニーが出現する傾向がある様に思われる。
 前回の実験で、DAB処理に対する耐性を得ているらしいことを見たが、今回の実験系でも処理群に耐性傾向を認めた。コントロールの細胞についてDABの処理時間(2日、7日)を検討した。またDAB 7日間処理の各群の増殖を検討した(増殖曲線の図を呈示)。
 他に染色体分析を行ったが、染色体数の上ではコントロールと処理群との間に差を認めない。現在、腫瘍性についての検討を進めている。

 :質疑応答:
[難波]コロニーの大小によるDABの耐性の差はありますか。
[常盤]特に差はありません。
[堀川]耐性をみる時、細胞数はどの位入れますか。
[常盤]100コ/mlにしています。
[乾 ]40μg/ml添加の群は50%の増殖阻害という事でしたが、増殖曲線をみると直線的にのべているのは何故でしょうか。
[吉田]耐性の仕事の狙いはどこにあるのですか。
[佐藤]In vitroの発癌実験では自然悪性化が起こるので実験が難しくなります。今まで長らくラッテの細胞とDABという組合せの実験をしてきて判ったことは、低濃度のDAB添加では増殖誘導が起こるという事です。その後に悪性化の問題があるのですが、正常な肝由来の細胞では対照の方も必ず悪性化してしまって不安定で困るので、増殖誘導の所は省いてしまって、in vivoでのDAB投与によって良性腫瘍になっていてその性質がin vitroでは安定しているという系を使って実験しようとしています。その場合の一つの指標として耐性をみているのです。
[翠川]良性腫瘍になったものに、又同じ発癌剤をかけて更に悪性になるという事があるでしょうか。私は良性であれ悪性であれ、一度癌になったものは、それで癌化の過程が終了したものと考えています。
[佐藤]DAB発癌については、私は段階的に悪性化すると考えています。
[黒木]動物への復元成績で悪性度をみる場合は、移植抗原が絡んできますね。
[佐藤]組織像と転移などで悪性度をみようと思っています。
[黒木]それにしても接種後100日でラッテを斃す細胞を良性とは言えませんね。
[勝田]腫瘍性の問題を話す時は、色々の問題を一緒くたにしてしゃべっては駄目ですね。個々の細胞の悪性度の問題、集団の中での細胞相互作用の問題、宿主との免疫の問題と整理して考えなければ。それから、DABに対する耐性とは何でしょうか。私達の実験ではDABを無視して増殖する型と、DABをどんどん代謝して無害にする型とありましたが。
[佐藤]どちらも含めて、要するにDAB添加で死なない細胞を耐性細胞としています。

《難波報告》
 2.4NQO処理による癌化過程のヒト培養細胞の染色体の変化:
 月報7406にヒト胎児肝由来の細胞を4NQOで処理し癌化させることに成功したことを報告した。その癌化したと思われる一実験系(SUSM1〜4)の細胞のクロモゾーム数を調べてみると(図を呈示)、全部Hypodiploidを示していた。これは勝田教授らのラット2n体細胞を4NQOで癌化させた実験で報告されているクロモゾームの変化に一致していて興味深い。
 牧野らはヒト腫瘍の染色体はHyperdiploid〜Triploid modalityを示すものが一番多く次いでHypotetraploidが多いと報告した。又、培養化されたヒト腫瘍細胞の染色体が3n附近にモードを持っていることはよく知られている。
 我々がここに示すような癌化した細胞の染色体の変化を報告した折、何故モードが2n〜4nの間にないのかと云う質問があったので我々はその当時次の様なことがおこるのではないかと答えておいた。Diploid→Hypodiploid→Hypotetraploid(around triploid)。そしてそのような変化がおこるのではないかと予想していた。そこで最近この癌化した実験系の内、SUMI1のクロモゾームを調べてみると、(分布図を呈示)Hypodiploidを示すものはもう殆どなく染色体はHypotetraploidに移行していた。
 以上のことから結論されることは
 1)牧野らの云う癌化の重要な要因はHyperdiploid〜Triploid or Hypotetraploidへの染色体の変化が重要であると云う結論と我々の結論は一致し難い。牧野らの報告にあるようなそれほど大きな染色体の変化は細胞の癌化の時点で起こっていないのではないかと考えられる。染色体の大きな変化はむしろ腫瘍細胞の増殖の過程で生じたものであろう。
 2)Hsuらは染色体のHeteroploidへの変異として、(1)2n→4n→Hypotetraploid。(2)2n→Hypodiploid→Hypotetraploid。の2つの過程を考えたが、我々の実験データは(2)に一致している。
 3)SUMI1の染色体を調べた時期は、47th PDLと52nd PDLであった。染色体のバラツキは、癌化の時期以来急速におこるものと予想される。

:質疑応答:
[吉田]この染色体数の変化はどの位の期間で起こったのですか。
[難波]47代の時の最頻値が42本、帰国して52代で70〜80本です。日数は43日間です。
[吉田]本数の変わり方が激しすぎますね。核型はみてありますか。トランスロケーションによる本数の変化ではありませんか。
[難波]42本の時はdicentricの染色体がありました。
[乾 ]42本でdicentricが出たなら、それをマーカーに4倍体の分析をすべきですね。
[佐藤]染色体上の変異は培養内では簡単に起こります。人の場合でも条件を変えたら自然悪性化も起こり得るのではないでしょうか。
[黒木]軟寒天内のコロニー形成能や、conAの凝集などについてはどうですか。
[難波]まだみてありません。

《掘川報告》
 今回は現在新しく進めている2つの実験について報告する。
 (1)放射線および化学発癌剤による突然変異誘発とCell cycle dependency:
 同調培養されたHeLaS3細胞を使って、X線、UV、または化学発癌剤4-NQO、4-HAQOに対する細胞周期的感受性曲線の本体が何に起因するかの解析を進めているが、現在までにUVに対してはその感受性曲線は細胞内DNAに誘起されるTT量に依存し、その除去能には関係がなさそうであるという結果が得られている。一方、化学発癌剤4-NQOおよび4-HAQOについても、それらの感受性曲線は細胞内DNAと結合するこれら4-NQOあるいは4-HAQO量にそれぞれ依存するようで、DNAと結合した4-NQOや4-HAQOの除去能には関係がなさそうであるという結論が得られている。
 さて、つぎの問題として、こうした各種物理化学敵要因に対する細胞の周期的感受性曲線と、これら要因により誘発される突然変異の細胞周期的依存性の関係を把握する必要がある。この際、細胞周期と突然変異誘発能の関連性は勿論のこと、同時に細胞の癌化能と細胞周期の関連性を追究出来れば最も理想的であるが、そのような系は見わたしたところどうも簡単に入手出来そうにもない。従って本来のHeLaS3細胞を使って、とにかく細胞周期と上記の各種要因による突然変異誘発能の関連性だけでもまず解析することにした。各stageにおける誘発突然変異のマーカーは最も単純な系として、15μg/ml 8-azaguanineに対する抵抗性を指標にしている。
 さて、こうしたHeLaS3細胞を使っての実験系が走りだすと、どうしてもマウス由来のL細胞を使っての同様の実験系が慾しくなる。何故ならばHeLaS3細胞はTTの除去修復能を不完全ではあるが(約50%のTTを除去し得る)保持している。一方、マウスL細胞にはこのような除去修復能は見出されていない。さっそく、この細胞も新たに実験に加えた。され、HeLaS3細胞とL細胞で同様の結果が得られるか、それともまったく異った結果が得られるか、今後の研究に待たなければならない。
 (2)マウスL細胞は本当にpost replication repair能を保持するか:
 除去修復能をもたないマウスL細胞が何故除去修復能をもつHeLaS3細胞とUVに対する感受性において大きな差違を示さないか。こういった基本的な事象をもとにして、今やこのマウスL細胞において存在するであろう未知の修復機能の探索が多くの研究者によりなされているのが現状である。つまりE.coliなどで見出されているrecombination repairと類似の機構がマウスL細胞に存在するであろうことが、Lehman、Regan、Fujiwara等によって示唆されているが、今だにその本体を究明する段階には致っていない。このマウスL細胞等に存在するであろう未知の修復機構は現在post replication repairとよばれ、recombination repairから一応区別されている。こうした未知の修復機構の本体を追究すべく当教室でもマウスL細胞、HeLaS3細胞を用いることにより、UV照射後に新生されるDNAのelongationがどのようになされるか、更にはこうしたpost replication repairを特異的に抑えるCaffeineがDNAのelongationの過程をどのようにブロックするか、あるいはlabeled caffeine等を使用することにより、これがUV照射されたDNAとどのように結合するかなどの解析を開始したところである。いづれこれらについての結果は近い将来報告出来るものと思う。

[梅田]変異率をsurvivalで割っているようですが、2日間のexpressionの後、またsurvivalをみていますか。
[堀川]みています。
[黒木]Back mutationの頻度が低いのは、forwardで過ぎた同じ所に変異が起こらなければならないからでしょう。False positiveもあります。
[堀川]単純に考えるとそうです。
[勝田]どの位の期間、変異した性質を維持し得るかという事も問題になると思います。言葉についてですが、遺伝子が眠ってしまう方向への変異をforward mutationとはどうも納得できませんね。
[吉田]染色体上の変化はありませんか。
[堀川]色々と調べてみましたが、数の上にもbandingにも変化はありません。染色体変異より遺伝子変異だろうと考えています。
[佐藤]正常細胞より癌細胞の方が変異率は高いですね。培養細胞も株化したものは癌に準ずると思います。2倍体の細胞を使った方が変異率は正しく出るのではありませんか。
[黒木]Spontaneous mutationは癌の方が高いかも知れませんが、誘導する場合は同じかも知れません。
[堀川]初代培養の方が変異実験の材料に適していることは私も承知しているのですが、技術的に使いにくいので株細胞で実験しています。
[吉田]生体での2倍体の安定性は、長い年月の間に人間なら46本が残って来たという意味で安定なのですね。変異に関しては8倍体より4倍体、4倍体より2倍体、2倍体よりハプロイドがより直接的です。

《高木報告》
 CytochalasinBの培養細胞に対する効果:
 本実験はSV40 virusでtransformした細胞と、その原株の正常細胞との間にみられるCCBによる多核細胞形成の違いが、chemical carcinogenによりtransformした細胞とその原株正常細胞との間に認められるか否か、認められるとすればこれをin vitro carcinogenesisの1つの示標として用いられないか・・と云う発想の下にスタートした。これまでの結果をまとめてみると、これまでに調べた13種の正常細胞、長期培養株細胞、腫瘍細胞およびchemical carcinogenによりtransformした細胞についての結果は、正常細胞では2核細胞、それ以外の細胞では2核以上の多核細胞が出現する傾向がみられた。ただ復元実験により腫瘍を形成しなかった長期培養株細胞についても多核細胞の出現頻度が高かった。
 この多核細胞の出現について、これがDNA合成を伴ったものであるか否かを検討するため、細胞の増殖曲線、培養日数による核数の変化、およびH3-thymidineの取込み実験を平行して行ってみた。H3-TdRの取込み実験はpules labelingで行った。
 (実験毎に図を呈示)4,000細胞を植込んだ時の実験では、各濃度に比例した細胞増殖の抑制がみられる。その際のH3-TdRの取込みも濃度に比例した抑制がみられる。各日数における核数は1、5μg/mlでは48時間まではcontrolとほぼ同様の増加がみられるが、以後は可成り低下が認められる。これらのdataをそのまま解釈する限りH3-TdRの取込みは可成り低下しDNA合成を伴っていないように思われるが、CCBが細胞によるH3-TdRのとり込み自体に影響を与えると云うdataもあるので、その影響も加味しなければならない。
 蛋白量、DNA量の直接の測定を現在行っている。またCCBを入れた時の多核細胞の状況および、CCBを除いた後の多核細胞の運命についても映画撮影中である。

 :質疑応答:
[吉田]多核細胞は時間と共に増えるのですか。DNAの合成は伴わないのですか。又多核になった時の核の大きさはどうですか。
[高木]DNA合成を伴うのかどうかを調べたのですが、H3-TdRの取り込みをCCBが阻害するらしいのではっきりしませんでした。核分裂は抑えられています。核の大きさは2核までは1核と変わりませんが、それ以上の多核になると小さくなります。
[難波]核数と細胞数を数えれば分裂増殖があったかどうか判るでしょう。
[高木]全核数は増えています。
[黒木]融合は起こりますか。
[高木]起こりません。2核細胞になったものもCCBを除くと1核になるというのは、どういう風に分裂するのでしょうか。
[梅田]HeLaでは分裂にないって1核づつになる事があります。

《山田報告》
 最近、当班でも人間の悪性腫瘍細胞を用いる班員が増えて来て居り、しかも人間の腫瘍の細胞像についてfamiliarでない人も居るので、今回は人間の悪性腫瘍のうちで、癌細胞と肉腫細胞との形態学的違いをスライドに示しながら説明した。その特徴を以下に示す。しかしこれは極めて一般的な差であり、殊に肉腫は多彩な分化を示すことがあるので、case by caseにかなり異ることがある。(この細胞学的特徴は湿潤エーテル・アルコール固定、HE染色像にみられるものである。)
 <細胞配列>
 上皮性悪性腫瘍細胞(癌細胞):上皮性配列(シート状)を示し、細胞相互に結合する。
 非上皮性悪性腫瘍細胞(肉腫細胞):一般に遊離散在性。但し筋原性及び神経性肉腫の一部には上皮様の結合(epitheloid arrangemant)を示すことがある。
 <基質>
 上皮性悪性腫瘍細胞:粘液その他の物質を分泌することもあるが、一般には少い。
 非上皮性悪性腫瘍細胞:類骨物質、軟骨物質、粘液等を多量に産生する肉腫がある。従って細胞と共にこれらの基質がみられることがある。
 <核の形態>
 上皮性悪性腫瘍細胞:核膜は一般に不規則に肥厚硬化することが多い。クロマチンは一般に粗大で不規則。核小体はその分化度に応じて異る。多核細胞が出現しても、その頻度は多くない。
 非上皮性悪性腫瘍細胞:一般に核膜は円滑で薄く、極端な核辺の陥入がみられることあり。クロマチンは微細顆粒状で、その量が著しく多いのが普通。極端に大型な核小体がみられることあり。多核細胞が極端に増加する腫瘍(特に骨原性腫瘍)がある。

 :質疑応答:
[翠川]集団としは診断できますが、1コの細胞を取り出して見ると判りませんね。
[堀川]肉腫は肉腫であって癌種に変わらないのは起原の違いがあるからですか。
[山田]肉腫とか癌とかいうのは、人間が造った約束事なので、それを反古にされると学問は成り立たなくなります。
[勝田]細胞診で診断がついたものを培養すると像がくずれますか。
[山田]培養すると判りにくくなることがありますね。
[吉田]分化した細胞は癌化しないと考えてよいのでしょうか。
[山田]概念的にはそうなっていますが、筋道を追った明確な仕事はありません。
[吉田]培養して増えてくるものは皆未分化なのですか。
[翠川]ずっとそう思われて来ましたが、リンパ球が幼若化して分裂するという現象が見つけられて驚異だったわけです。
[山田]そうですね。我々の心胆を寒からしめましたね。

《吉田報告》
 現在、遺伝学研究所で維持されている実験動物についての説明。

 :質疑応答:
[難波]野生ネズミではC型ウィルスに感染しているものが75%あるというデータがありますが、その点は大丈夫ですか。
[吉田]野生のものにどれ位どんな微生物がいるのかは調べてありませんが、野生のものは純系動物から完全に隔離して飼育しています。
[勝田]我々が貰う場合は、その点を注意しなくてはなりませんね。

《乾報告》
 ニトロソグアニジン誘導体8種の癌原性(V)
 昨年後半及び本年の月報No.4、No.5でニトロソグアニジン誘導体の変異誘起性、細胞毒性、染色体切断等について報告した。一般的にこれら誘導体の細胞毒性、変異誘導性は、この一連の化合物においては炭素数の少ないものほど強いことがわかった。
 本報告では、MNNG、PNNG、nBNNG、iBNNG、Pent-NNG、HNNG、の6種のN-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine誘導体について染色体切断を観察したので報告する。
 ニトロソグアニジン誘導体6種を、0.5〜10μg/ml対数増殖期のハムスター胎児起原細胞に3時間作用後、Hanks液で洗い、正常培地で24時間培養して染色体標本を作製し、観察に供した。
 ニトロソグアニジン投与後の細胞の染色体数分布は(図を呈示)、Controlに使用した培養3代目のハムスター細胞では、正常の2倍体の細胞のしめる割合が86.2%と、極めて高かった。MNNG 0.5μg/ml作用群では、正常2倍体細胞は35.1%で、細胞分布も41〜50と広く、4倍体細胞も出現した。PNNG 5μg/ml作用群も同様2倍体細胞の出現は35.3%であった。ニトロソグアニジン誘導体の炭素原子数が増すにつれ細胞分布の幅は狭くなり、HNNGの染色体分布は正常のそれと変らなかった。
 薬剤投与後の異常染色体をもつ細胞の出現率は(表を呈示)ニトロソグアニジンの炭素数の増加と共に減少し、HNNG投与群では正常細胞の示す染色体異常細胞の出現頻度と変わらなかった。N-butyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(BNNG)投与群ではn-型、iso-型で異常細胞の出現が著しく異なり、n-BNNG投与群ではPNNG投与群に比して明らかに低かったが、iso-BNNG投与群ではPNNG投与群のそれと同等かむしろ高い値を示した。この結果は、これら2種の物質の変異誘導性の結果とよく一致する。
 観察した総染色体について、染色絲切断、染色体切断、転座染色体出現率を中心として、異常染色体の出現率は(表を呈示)、MNNG投与群で1.81%できわめて高く、BNNG投与群で1%以上であった。Pent-NNG、HNNG投与群では0.41%、0.17%で前のグループに比較すると異常染色体の出現率は低かった。染色体異常をisochromatidレベルの異常のみでみると、上記傾向は増々著明になり、MNNGで3.11%、HNNGで0.13%であった。現在迄の予備実験の知見を綜合すると、細胞毒性、変異誘導性、染色体切断能は、ニトロソ化合物においては、側鎖の長さと密接な関連をもつことがわかった。
 今後、作用Dosesを数段階とり、これらの事実について更に追求したい。

 :質疑応答:
[翠川]使われた細胞は何ですか。
[乾 ]培養2〜3代のハムスター由来の細胞です。
[難波]側鎖の長さと細胞内への取り込み量に関係はありますか。
[乾 ]調べてはいませんが、分子量も殆ど違わないので関係はないと思います。
[翠川]Marker chromosomeがみられますか。
[乾 ]Marker chromosomeはまだみていません。異常はrandomに起こっています。
[吉田]菌でのmutationと、培養細胞のtransformationやchromosome breakageとの関係はどうなっているのですか。
[乾 ]一般に炭素数が少ないほど、変異性、毒性は強いようです。
[吉田]菌でmutationを起こすのに、培養細胞でtransformationや染色体異常を起こさないものはありますか。
[乾 ]今の所、殆ど平行しています。
[堀川]細胞に対する毒性をcolonyでみた場合は・・・。
[乾 ]染色体異常と平行しています。
[堀川]とすると矢張り取り込み量はきちんとみておくべきですね。
[黒木]変異コロニーと正常コロニーの写真を見せてほしいですね。
[吉田]変異コロニーは全部悪性化していると考えてもよいのですか。
[乾 ]まだそこまでは言えません。
[吉田]動物レベルでの発癌実験はやってありますか。
[山田]発癌物質であるのか、そうでないのかを決める基準はあるのですか。
[乾 ]確立されてはいませんが、例えば菌での変異実験と動物細胞での染色体異常が両方陽性に出れば、まず陽性だとするとか・・・。
[吉田]しかし、カフェイン−アルコールでも染色体異常がでますよ。
[翠川]染色体異常を起こすものは矢張り変異剤でしょうか。
[吉田]しかし、遺伝子レベルの変異で染色体異常にひっかからない場合もあります。

《梅田報告》
 今迄に報告されているin vitro transformationの実験系の中で、定量的に判定出来るのはハムスター胎児細胞や、3T3細胞を用いたtransformed colonyでみる方法と、3T3細胞や10T1/2細胞等を用いたtransformed fociでみる方法である。これらは線維芽細胞を用いており、いろいろの問題はあるが、発癌性物質のscreeningのような実用面では捨てきれない面がある。もちろんtransformationの基礎的な解析にも重要な手段となり、今迄は主にこの方面での報告がされてきた。われわれもこのうな系を先ず確立しておいていろいろの実用的実験を行うかたわら、その経験が別の新しい定量的transformation実験への確立に展開すると信じて実験を行ってきた。ところが大分長いことこの問題に取り組んできたのにどうも旨く実験が進行しないので、私の方のtechniqueの問題があるかも知れないし、皆様の御批判を仰ぎたく報告することにした。
 (I)3T3細胞:角永氏より分与を受けた3T3細胞を使って角永氏の方法、高野先生の方法によりcolonyを作らせてみた。しかしcontrolのcolonyも中心部が盛り上り、mitosisも中心部に認められ、本細胞が接触阻害を受けているとは思われなかった。又細胞接種量を上げて培養しmonolayerを形成させても分裂が続き、簡単にovergrowthの状態となり、transformed fociを見るに致らなかった。さらにDMBAに対する障害性をみてもかなり高濃度の1μg/mlでPE35%を示し、controlのPE34%と変らなかった。すなわちDMBAに対しinsensitiveであり、本細胞はtransformation実験の目的には使えないと判断せざるを得なかった。
(II)C3H2K細胞:予研の広川さんがC3Hマウス腎より培養して樹立したこの細胞は接触阻害がきき、SV40でtransformされると報告されている。この細胞はcolony formationでみる限り、DMBAに非常にsensitiveでcontrolは58%のPEを示す時、0.1μg/ml DMBA処理で約20%のPEを示す。Colony levelでのtransformationははっきりしなかったが、inoculum sizeを上げ、長期培養してtransformed fociでみる実験ではdense cell growthのfociが認められた。しかしControlでも小さいながらその傾向が認められたので、すでにmixed cell populationの可能性が認められた。
 そこでcloningを行って数ケのcolonyを拾った。そのうちcloneEとFを現在使用している。ともにfusiformで一様な細胞からなる。この2cloneを使用して予めtoxicityをRPE(relative plating efficiency)でみた(表を呈示)。
 細胞を5,000c/9cm dishに播いた後、AflatoxinB 1.0μg/ml、MNNG 5μg/ml、4NQO 10-7.0乗と10-7.5乗M、N-OH-AAF 2x10-5.0乗Mで2日間処理した。培養5週間後に固定染色してみた所、はっきりとしたtransformed colonyが4NQO 10-7.5乗M処理群に1ケ認められた。その他のdishでは盛り上った様なところはあっても、はっきりとしたtransformed fociと云えなかった。
 これは本細胞のtransformation rateが低い為とも解釈されるのでこの点を補う目的で以下の実験を行った。Inoculum sizeを上げ5万個c/5cm dishとして、4NQO 10-7.0乗M、10-7.5乗M処理を2日毎に3回行い、その後2%Calf serumにして(普通は10%CS)培養を続けた。現在培養25日を経過して生の細胞観察のみ可能であるが、処理群は細胞の配列に乱れは生じてくるが、今の所、transformed fociの出現は観察されない。
 (III)Donryuの胎児細胞を別の目的で培養継代しているうちに非常にconstantに増生していることに気付いた。しかも一部に細胞配列の乱れみたいな所が観察されるが、一応contact inhibitされているようなのでこれもtransformed fociを形成するかどうか発癌剤処理の実験を行ってみた。これは現在20日を過ぎた所で更に培養を続ける計画であるが生の観察ではtransformed fociの出現をみるに致らない。一方で一応cloningを行ってcontact inhibitされる細胞のみを得るべく継代している。
 (IV)培養数代目のマウス胎児培養細胞:以上の実験が思わしくないこともあり、自分で3T3細胞を樹立する計画を立てた。DDDを使うことにして培養を始め、現在9代目で、これから培養が難かしくなる所である。
 それはともかくとして、継代に余ったdishを数回培地交新して培養を続けた所、細胞がかなりおとなしい形態を保ちながら増生を続けていることがわかった。一部に2%Calf serumにおとして培養を続けると、これは全くcontact inhibitされる。そこでcell lineにならない以前でも培養の初期にtransformed foci形成の実験に使用出来ないかと重い実験はstartした。ところが本細胞はinoculumを下げると(1万個cells/dish)、細胞増生が充分でなく、なかなかcell sheet形成にいたらない。目下5万個c/dishのinoculumとして追試をstartした所である。
 (V)培養数代目のハムスター胎児培養細胞:マウス胎児細胞と同様、ハムスター胎児細胞でも3T3継代でCell lineが得られないかどうか試みる実験をstartした。本細胞でも継代で余ったdishの培養を続けてみたが、10%FCSで培地交新を続けると培養4週間後には細胞は全くmultilayerとなり、spindle-shaped cellが悪性細胞形態像と区別つかなくなる。2%FCSで培地交新を行うと、培養4wでも綺麗なcell sheetのまま止まっていることが認められた。
 培養3代目の細胞を使って1万個c/dish inoculumで実験をStartし、DMBA、4NQOで処理した所、細胞の配列の乱れは認められるがtransformed fociとしては今の所認められない。そこで培養7代目の細胞で同じような実験をrepeatした所、今回は培養1週間目の観察で既にcontrolにも悪性とおぼしき配列の乱れた細胞増殖巣が数多く認められた。
 ハムスター胎児細胞が非常に特異的なものであることがわかった。

 :質疑応答:
[黒木]3T3を使った実験では、高野氏も角永氏もきれいなデータを出しているのですが、誰も追試が出来ないのですね。
[堀川]追試出来ないというのはどういうことですか。
[黒木]3T3の場合接触阻害がかかる状態に細胞を維持することが難しいのです。
[佐藤]角永氏も始終cloningして使っているようです。
[山田]3T3という細胞は細胞電気泳動法でみると、癌細胞以上に荷電密度が高いのです。それが動物にtakeされないというのは不思議なようですね。
[吉田]形態的変異コロニーの典型的なものとはどういうのか見せて欲しいですね。
[黒木]所謂criss-crossは継代すると消えてしまう事が多いですね。Denseになるのが信頼できる変化だと思います。
[乾 ]Feeder layerに少数細胞をまいてcolony形態で判定するのがよいと思います。
[堀川]梅田さんの実験での確かな変異colonyというdenseなものの写真はありますか。
[梅田]残念なことに容器の縁でどうしても写真に撮ることが出来ませんでした。
[翠川]癌か正常かという事の形態的判断は、病理では主観で判定していますね。今討議されているcolony形態の変異についても、申し合わせで決めてもよいのでは・・・。
[勝田]しかし、どの形態のcolonyが悪性化したものか決めるには、それぞれのcolonyを復元実験で確認しておかなくてはなりません。

《野瀬報告》
 ラッテ腎Alkaline phosphataseに対する抗血清
ALP-I活性の上昇が酵素蛋白のde novo合成を伴なうか、どうかを決定するため抗血清を作ることを試みた。抗原として用いたALPはラッテ腎から部分精製したALP-Iである。この標品はdisc gel電気泳動で若干不純蛋白を含んでいる。(免疫方法の図を呈示)この抗血清はOuchterlony法で腎ALP-Iとは沈降線を作った。
 ラッテ各種臓器をブタノール処理して得たextractのALP-Iに対する抗血清の中和活性は(表を呈示)腎、脾臓のALP-I活性は中和されるが、肝、小腸の活性はほとんど中和しない。But2cAMPで誘導されたALP-Iもやはり全く中和されなかった。
 従って腎から精製したALP-Iは、小腸やJTC-25・P5などに存在するALP-Iとは異なる蛋白であると考えられる。

 :質疑応答:
[佐藤]大量の細胞が必要な実験には、腹水肝癌のようなものを使えばよいでしょう。
[野瀬]私は今まで使ってきた細胞で片を付けるつもりです。どうやら、この仕事もやっと癌と関係が出来て来るようです。

《藤井報告》
 in vitro感作リンパ球の標的癌細胞破壊作用:
 ラット、マウス、ヒトの末梢血あるいは脾リンパ様細胞と、同系あるいは自家腫瘍細胞(Co60照射)を混合培養すると、培養6〜7日をピークとして、刺激されたリンパ様細胞のH3TdRのとり込みの著明な上昇がみられる。このリンパ様細胞−腫瘍細胞混合培養反応(MLTR)については何回か記してきました。in vitroで腫瘍細胞により刺激されたリンパ様細胞−幼若化反応をおこしたリンパ様細胞が、どんな機能をもつか、単的に云えば免疫学的に感作されたリンパ球になるのかどうかは重要な問題である。同種移植実験では、in vitro感作リンパ球の標的細胞破壊能が報告されており、腫瘍でも2〜3そのようなペーパーがみられる。
 今回は今までに報告した分と重複もあるが、Culb-TC細胞でおこなったin vitro感作リンパ様細胞の標的癌細胞破壊について述べてみます。
 1.JAR-1ラットの脾リンパ様細胞と、同系Culb-TC細胞(8,000R)とを5:1の比で混合培養し、5日目に細胞を採取、1回遠心洗滌操作をおこなって後、リンパ球細胞10万個と、あらかじめI125-Iododeoxyuridine(I125-IDU)で標識しておいたCulb-TC細胞、1万個を混合し、培養する。このような混合培養を、10、20、32時間おき、2回遠心洗滌して、残った未破壊Culb-TC細胞の放射能をはかり、対照より、Culb-TC細胞の溶解率を求めた。(図を呈示)非感作リンパ球の標的細胞破壊に比して、明らかに、時間的経過を追って上昇する細胞破壊能を示しています。
 2.(表を呈示)C57BLマウスの腫瘍FA/C/2(Friend's virus導入のerythroblastome)と、Culb-TCおよびヒト肺癌培養細胞についておこなったin vitro刺激リンパ様細胞の標的破壊能を示しました。FA/C/2とCulb-TC腫瘍は同系動物脾リンパ様細胞でヒト肺癌細胞では、自家末梢リンパ様細胞によるものです。Culb-TC(8,000R)で、in vitro刺激された同系リンパ様細胞は同系の肺細胞悪性化細胞(RLG-1)(医科研癌細胞)に対しては、破壊作用はないとは云えないがずっと低くなります。すなわち、このリンパ様細胞の細胞破壊作用には選択性があるようです。(これだけでは云えませんが)
 3.(図を呈示)in vitroで刺激されたJAR-1ラット脾リンパ様細胞600万個(5日間混合培養)と、Culb-TC細胞30万個を混ぜ、JAR-1ラット皮下に接種、6日後、接種部位に、同様にin vitro刺激された脾リンパ様細胞800万個を注射して、腫瘍の増殖に対する影響をしらべた成績は、in vitroで刺激されたリンパ様細胞はCulb-TCだけ接種した群(3匹)、非感作リンパ様細胞で処理された群(3匹)よりも明らかに腫瘍の増殖を抑制しております。
 これらから、MLTRで幼若化したリンパ様細胞は標的細胞破壊能を獲得したeffector lymphocyteになることが云えると思います。
 このようなin vitro感作リンパ球を、がんの免疫治療に応用しうるかどうかを、しきりに考えていますが、その効果の限界、リンパ球の供給、さらに効率よくリンパ球感作をすることなど難問があります。

《黒木報告》
 <10T1/2細胞のChemical transformation>
 HeidelbergerのLab.で樹立された、contact inhibitionに感受性の細胞10T1/2を用いてchemical transformationをすすめている。5,000ケ/60mm/4mlにまき翌日DMSOに溶かした発癌剤を20μlマイクロピペットで添加、48時間後に培地交換、以後週2回の培地交換をつづけ、7週後に固定染色した。(写真を呈示)写真にみるようなdenseなfucusがみられた。
 focusはReznikoff et al,Cancer Res.32 3239.1973に従って、以下のように分類した。I:tightly packed cells,not scored as malignant transformation。II:a focus showing massive piling up into virtually opaque multilayers。III:a focus composed of highly polar,fibroblastic,multilayered criss-crossed arrays of densely stained cells.。(表を呈示)II型、III型のfocusの細胞はsaturation densityが著明に増加している。コロニー形成率も高いがagar plate上では、コロニーを作らない。reconstruction experim.として、confluentの10T1/2の上に、細胞をまいたが、II型はコロニーを作らず、III型が1%にコロニーを形成した。現在移植(200万SC)実験中。
 (表を呈示)MCA、DMBA、BP、6OHBP、4NQO、4HAQOによるtransformationを示す。この細胞はhydrocarbonsで高い頻度にtransformationするが4NQO、4HAQOでは比較的transformationが少い。6OHBPのpossible proximate corcinogenであるが用いたdoseではBPよりも低かった。
問題は、DMSO処理群にも1および6ケ/10dishにspontaneous transformationのみられたことである。現在、cloningによってspontaneous tr.のないcloneの分離を試みている。

 :質疑応答:
[高木]Colony formation on cell sheetというのはどういうことですか。
[黒木]変異前の細胞がfull sheetになった上に変異細胞の浮遊液をまきます。変異細胞がcontact inhibitionを失っていればコロニーを作るはずです。
[高木]Contact inhibitionがないというのは、どういうcriteriaなのでしょうか。
[黒木]Saturation densityだけでみています。
[吉田]10T1/2は培養を始めてからどの位たっているのですか。
[黒木]1971年8月に開始しています。もとの動物のC3Hに復元してtakeされません。
[吉田]染色体は・・・。
[黒木]染色体数は70本位です。
[吉田]DMSOだけでも変異コロニーが出るのですね。
[乾 ]DMSOを入れなければ出ませんか。
[黒木]DMSOを入れなくても出ます。もう一歩で悪性という危ないバランスの上にある細胞を使っている訳です。復元実験も細胞が正常のの方へ僅かにでも寄っていればtakeされないようです。
[吉田]マウスで染色体70本というのはhypotetraploidで、transformationの一歩手前のようです。マウスは染色体の変異は見難いですね。

【勝田班月報・7409】
《勝田報告》
 §新しい合成培地DM-153:
 この組成についてはNo.7405の月報にかいたが、その後色々な細胞についてcheckを続けている。細胞の種類によっては、DM-120、-145、-153何れでも略同程度に増殖するものもあるが、RLC-10(2)のように、はっきり差のつく株もあった。(図を呈示)この図でMEMよりDM-145の法が落ちているのはビタミン量、グルタミン量などが大いに影響していると思われる。
《高木報告》
 CytochalasinBの培養細胞に対する効果:
 前報につづきCCBのRFL-5細胞に対する効果を観察するため、TD-40に100万個細胞を植込み後1日目の培養にCCB 1、2.5、5μg/mlを作用せしめ、作用後1日、2日の細胞数、総核数、総蛋白量およびDNA量を測定して蛋白あたりのDNA量、細胞あたりのDNA量および核あたりのDNA量を測定した(表を呈示)。
 すなわち以上の結果からみれば、蛋白あたりのDNA量は0.63〜0.89=0.76≒20%、細胞あたりのDNA量は1日目では+20%〜60%であるが、2日目では+0%、平均核数は1日目で+50%以上、2日目では+200%以上、核あたりのDNAは-23%〜+12%であったが、2日目では-64%以下を示した。2日処理後においては多核細胞の1核あたりのDNA量は無処理対照より著明に減少している。2日目の細胞あたりのDNA量がほぼ一定であることは、多核細胞の形成があるにかかわらずDNAの合成は伴っていないことを意味するものとも考えられる。
 なお追加検討中である。

《山田報告》
 既報のごとくin vitro carcinogenesisの研究のために、改めて数種のラット肝(胎児、新生児、成熟)から正常肝細胞培養株を樹立しましたが、これを栃木の田舎へ持って来た所、さっぱり増えて来ません。或いはメヂウムが不適当なのか、観察が不充分で適切なメヂウムがえをしなかったのか現在検索中です。なんとか早く増やして実験を再び開始したいと考えています。
 そこで今回は、これまで、その一部を報告しましたラット胸腺リンパ球表面における抗血清とConcanavalinAの反応の相互干渉についての成績を、最近のデータを含めてまとめてみたいと思います。
 ConAと抗体との膜における相互干渉:
 異種抗体(ラット→兎、恐らくは同種或いは同系抗体も同じと思います)のreceptorとConAのreceptorが、胸腺リンパ球表面において同じ或いは近い位置の表面糖鎖に存在し、それぞれの反応が相互に干渉しあう可能性を示す所見です。
 (図を呈示)図1は種々の濃度のConA処理により、胸腺リンパ球の電気泳動度は著明な二層性を示さないが、0.001%の薄いトリプシン処理により、また10unitsのノイラミニダーゼ(NANAase)処理することにより、二次的にConAを加えると著明な電気泳動度の二層性変化を示す様になると云う所見です。
 図2、種々の濃度の異種抗血清に対する胸腺リンパ球の反応は、低濃度のConAによりその電気泳動度が増加すると云う所見です。これに、あらかじめ0.001%のトリプシン前処理しておくと明らかに電気泳動度の二層性の変化を示す。(この反応は癌細胞の様な上皮性細胞ではみられません。)  即ち、ConAも抗血清も膜の荷電に与える影響に類似な点があると思われます。
図3は0.001%のトリプシン処理をした胸腺リンパ球に、まず一定濃度のConA(2.5μg/ml、25μg/ml)処理し、最後に各種濃度の抗血清を加えてその電気泳動度の変化をみたものです。ConA前処理により抗血清の反応より低濃度の抗血清ににより強く反応し、泳動度の低下を来たす濃度もより薄い濃度の抗血清で起って(反応が強く発現される)来ることを示すものです。但し薄い濃度の抗血清による泳動度の増加率はそれ程に強調されません。
 図4は、あらかじめ薄い濃度の抗血清(1/100〜1/200)の前処理後各種濃度のConAを加えると、その泳動度の増加がより薄いConAで起こり、その増加率が著しく高まることを示すものです。
 この所見についての解釈は必ずしも容易ではないが、最近発表されたSinger & Nicolson等の膜の流動性説から理解すると、どうやらConAの反応も抗体の反応も、その反応の始まりにおける膜の変化が共通であり、相互に干渉しあうと考えられます。なほいくつかの免疫反応を加えてまとめてみたいと考えています。昨年、報告したinsulin、glucagon、cAMP等の反応にも類似な現象があり、これらの現象を一元的に解釈出来ないかと考えています。今後の発展が期待できる様に思っています。

《梅田報告》
 組織培養を行っていると出るデータはすべて動物実験のデータと平行するので、微量でしかも手早く行える培養法が有益であると強調したくなる。勿論平行しなくてもそれ相応の理由があり、却ってその理由を見出すことが作用機作を解明する手助けになることもあるようで、それ程神経質にならなくても良さそうであるが。この平行しなかった例を御報告します。
 (1)AflatoxinB1は、Aspergillus flavus等により産生される有名な発癌性カビ毒ですが、より毒性が低いが、構造上非常に良く似ている発癌性カビ毒にSterigmatocystinがあります。これは、Asp.nidulans、Asp.versicolor、Bipolaris sp.より産生されると云われていますが、この中でAsp.versicolorは米等に産生しているので、日本では食品衛生学的にAflatoxinB1よりも重要視されています。
 急性毒性はAflatoxinB1はrat経口でLD50 7.2mg/ml(♂)、SterigmatocystinはP.O.LD50 166mg/kg(♂)です。
 (2)(図を呈示)この物質をHeLa細胞に投与すると、図の如く殆同じような毒性を示します。2つ共非常に強い染色体の変化を示します。gap、break、translocation数を調べると表の如くで1つでも異常染色体を持ったmetaphase像の%をみると次表の如くになります。(表を呈示)ややSterigmatocystinの方が強く障害を与えている感じを与えます。
 (3)肝(ラット)の初代培養に投与して増生してくる細胞の障害像をみると、この場合はAflatoxinB1の方が障害されているようです。
 以上、非常に興味があるのですが、この差の理由は今後の研究課題と考えています。

《野瀬報告》
 細胞融合法によるALP-活性調節の解析
 前にCHO-K1細胞から、ALP-I活性の高い亜株を分離したことを報告した。活性を持たない細胞が活性を持つようになる機構として、(1)"nonsense"structural geneがmutationによって"sense"となる。(2)repressor geneの失活。(3)operator geneの変異によりrepressor-resistantとなる。(4)positive vegulatorの活性化、の4つが一応考えられる。これらの可能性をある程度checkする手技としてcell fusionによる解析が有効と思われた。
 実験に用いた株は、高ALP-活性株としてAL-431-10G、無活性株としてFM3A AGr5であり、前者はPro要求性、8AG-感受性で、後者はPro非要求、8AG-耐性である。それぞれの細胞を、500万個ずつとって混ぜ、1mlのpH 8.0のMEM(UV-不活化Sendai Virus 1000HAU/ml含有)にsuspendする。これを0℃・15min.、37 ℃・30min.処理してからシャーレにまき、一日後に選択培地に換えた。選択培地としては、MEM+可欠アミノ酸-Proline+5%dyalyzedFCS+HAT(hypoxanthine+aminopterine+thymidine)を用いた。約2週間後に、生き残っている細胞をcolonial cloneとして3個分離し以下の実験を行なった。
 CHO-K1由来のAL-431-10Gの染色体は、Mode numberが20で、そのうちMetacentricが8、Sub-centricは10であり、FM3A AGr5はmodeが42でMeta 5、Submeta 0である。ここで得られた、hybrid cellsの平均染色体数は表に示した(表を呈示)。
 これらのhybrid cellはscolonial cloneのためか、染色体数のばらつきが非常に大きい。しかし、平均として大体の傾向を見ると、hybridの89-C1はChinese hamster 2+Mouse 3のfusionからいくつか染色体がdeleteしたもの。89-C2は1+2、23-C1は1+2から数本deleteしたものと考えられる。
 ALP-I活性を見ると、23-C1はFM3Aと同じくほとんど検出できず、89-C1、89-C2は有意な活性が検出された。比活性が低いのは染色体数が多く、合成タンパク量/細胞が多いためALP-I活性が稀釋されているのであろう。23-C1で活性がないのは、AL-431-10Gの染色体(恐らくALP-1のStructural jeneを持つ)が、何本かdeleteしたためと考えられる。これらの結果から、初めの可能性のうち、少なくとも(2)は否定出来ると考えられる。

《黒木報告》
 §AF-2及びニトロフラゾンの10T1/2への毒性§
 AF-2などニトロフラン系化合物のtransformabilityをテストするための第一段階として10T1/2を用いて毒性をテストした。
 細胞:10T1/2 P12、200/160mm dish。
 物質:DMSOに溶解後、DMSO final 0.5%に加えた。2日後med.change、以後10日間培養。
(図を呈示)図にみるように、AF-2はnitrofurazoneよりも、毒性である。
2週間後のコロニーの形態からtransformationは判定できなかった。

《乾報告》
 生物体自身に投与した場合に、生物体に強い毒性および発癌性を有するが、これを試験管内で直接細胞に投与すると細胞になんら影響を与えない物質が存在する。これらの物質はおそらく体内で代謝されての代謝産物が活性化癌原性物質として作用し、培養細胞ではこの代謝系が欠除している故、毒性、発癌性が示されないと考えられる。
 一つは環境変異原、Carcinogenを適確に且つ迅速にスクリーニングする目的と突然変異と細胞癌化の関係を解析する目的で、種々の化学物質を動物体内で代謝させ、これを直接細胞に作用させる一連の仕事の一つとして、DiPaulo等のIn vito-In vitroの実験の追試を強い癌原性がin vivo、in vitro、transplacentaで知られている4NQOを使用しておこなった。 Esterial Cycleの中期の雌ハムスターに一夜だけ雄をmateし、翌朝Spermを確認したものについて、(図を呈示)図の如くmate後11日目に、あらかじめDMSOに10mg/mlに溶解した4NQOを20mg/kgの割合で腹腔内注射した。注射後、48時間目に胎児をとり出し、胎児一匹毎に、0.25%トリプシンで消化後、Dulbecco's MEM+20%仔牛血清培地、5%炭酸ガス存在下で培養を開始した。(通常胎児5匹、内2匹は培養24時間で染色体標本を作製した。また培養当初から5T5系式の細胞を樹立するつもりで10万個/TD-15播種し、5日目毎にSubcultureを行ったが、Culture 2代目で培養に失敗した)。培養開始後5日目に一部細胞を1万個/シャーレの割合でシャーレ10枚播種し、他の1部を継代培養し(5万個cell/ml)、残りを形態観察用にフラスキットにまき順に固定した。シャーレは、培養を続け顕微鏡下でColony形成が明らかに認められた。播種後9日目に固定染色した。フラスキットによる形態観察で、初代培養細胞に4NQOを直接投与したと同様な細胞毒性が表れたが、著明ではない。
 (表を呈示)シャーレに播種した細胞のP.E.およびTransformed rateは表の如くで、培養開始後14日で変異コロニーが発現した。2代目に出現したコロニーは3・4・・・と、同程度に出現した。他の化学物質、対照のDMSO注射群の結果、染色体切断の結果、変異コロニーの写真は次回御報告する。

《堀川報告》
 当教室で確立したコルセミド−採集法を用いることにより、HeLaS3細胞から得た同調細胞集団の細胞周期を通じてのX線に対する感受性の違い、ならびにX線照射による誘発突然変異率の違いを調べた結果について報告する。
 (図を呈示)図1に示すように細胞周期の各期の細胞に400Rづつ照射した際のコロニー形成能でみた感受性曲線は、これまで報告してきたようにM期とlate G1〜early S期の細胞が最も高感受性であるという、いわゆる2相性の曲線が得られている。
 一方、同調培養された各期の細胞に400RつづのX線を照射し、その後72時間のfixation and expression timeをおいたのち、10万個づつの細胞を、15μg/ml 8-azaguanineを含くむ培養液10mlづつを加えた90mmシャーレに入れて約2週間培養し、シャーレ当りに出現するコロニー数を基にして、10万個生存細胞当りの8-azaguanine抵抗性細胞の出現率を調べた結果を同じく図1に示した。
 これらの図からわかるように8-azaguanine抵抗性細胞は、late G1〜early S期の細胞をX線照射した時に最も高率に誘発されるようである。勿論、ふらつきが相当大きいので最終的な結論を導びき出すには今後の実験にまたなければならない。ともあれ、こうした結果はγ線照射によりチャイニーズハムスター細胞に誘発される8-azaguanine抵抗性細胞はG2期の細胞を照射した時に、最も高率にinduceされるというArlett and Potter(1971)の実験結果と大きく相反しているが、一方、マウスC3H/10T1/2 CL18細胞を、N-methyl-N-nitro-N-nitrosoguanidineで処理した際、G1-S boundaryの細胞が最もmalignant transformation frequency(コロニーのmorphological classificationで判定している)が、高そうだとするBertram and Heidelberger(1974)の結果とある程度類似している。
 しかし、本実験で得たlate G1〜early S期の細胞が何故X線照射による誘発突然変異率が高いのか、そして、これはMNNGとかX線特有の現象なのかといった疑問が生じてくるが、こういった問題に対するはっきりした回答は、今後UV照射とか4-NQO or 4-HAQO処理による細胞周期を通じてのinduced mutation frequencyが明らかになるまで待たなければならない。

【勝田班月報:7410:ALP活性と腫瘍性】
《勝田報告》
 ラッテ肝癌細胞の復元接種試験の諸問題:
 TC内の発癌実験で、発癌剤で処理後、ある日数が経たないと動物に復元しても腫瘍死させないということに、二つの原因が考えられる。1)腫瘍細胞自身の癌化が未だ不十分 2)細胞集団中での腫瘍細胞の%が低いので、接種したとき、非腫瘍性細胞の抗原が宿主の拒絶反応を促進するのではないか。この二つである。
 今回はこの後者の可能性を確かめようとしたのであるが、結果的にはまだデータが不足ではっきり物を云えないのと、もう一つ新しい要因が大きくクローズアップしてきた。それは接種する動物のageによって結果がまるで変る、ということである。(表を呈示)RLC-10(2)株はTC内で自然癌化した株であるが、日齢7日以下のラッテへ復元すると、高率にtakeされるが、22日以後のラッテでは全くtakeされない。CulbTCはRLC-10原株をTC内で4NQO処理し、それをラッテに復元接種してできた肝癌の再培養株である。CulbTCをさらにラッテで7代継代した後の再培養がCulbTC/R/TCである。(図を呈示)動物をpassageする回数が増えるほど腫瘍細胞の悪性度が高くなる(動物の延命日数が短縮する)。
 混合復元接種試験:
 (図を呈示)肝癌細胞とRLC-10(2)とを混合してラッテに復元したときの成績では、生後14日のラッテにI.P.でいれたが、この位のageのラッテでは1匹に0.2mlしか入れられず、その上接種後にもれてきたりするので、成績がバラついたものと思われる。離乳時(21日)以後のラッテでは1匹に1mlは入れられ、皮膚も丈夫になるので漏れることも少なく、成績は揃ってくる。生後22日のラッテではCulb-TC/R/TCの単独もRLC-10(2)との混合も、全部接種19日後に腫瘍死した。つまり混合による影響は全く見られなかったことになる。
 (図を呈示)生後31日のラッテでは、CulbTC/R/TC単独では8日、RLC-10(2)との混合では10日と、混合によるDelayが見られた。
 これらの結果から、今後は離乳期前後のところをもう少しこまかくとってしらべてみる必要があると思われる。
 観察期間は100〜120日間もみれば充分と思われる。接種後ずっと症状を示さずに生きていて、1年位たってからぽこりと腫瘍が出来るなどと云うのは、むしろ別の原因を考えるべきだとも思われる。
 また一方において、離乳以前の動物にできた腫瘍は本当に腫瘍と考えて良いのかどうか、これもまた一考を要する問題であろう。新生児では非腫瘍細胞でもtakeされてしまう可能性がある。

 :質疑応答:
[堀川]RLC-10(2)を混合して復元すると、CulbTC復元ラットの死亡時がやや遅れるのは、どう考えておられますか。Dilutionでしょうか。
[勝田]宿主の免疫力をstimulateするのでしょうか。
[山田]接種した細胞が生体内で壊されて抗原となり得ますね。
[高岡]生後24時間以内(新生児)と24時間以後の動物との免疫的な違いは判っているようですが、離乳期までの動物と離乳後のものとの免疫能の違いについてはどうでしょうか。
[吉田]よく判っていませんね。発癌実験では年齢は重要な問題です。AF-2を与えた動物のchromosome breakageなども50〜100gのラッテではbreakageが出るが、300gのラッテでは全く出ないというデータを持っています。
[山田]細胞接種後、短期間で死亡する実験では死因を確かめておく必要があります。
[高岡]死亡したラッテは全部解剖して、癌細胞を含む出血性の腹水が溜まっていることを確認しています。

《黒木報告》
 <10T1/2クローンのMCAによるTransformation>
 HeidelbergerのLab.から送られてきた10T1/2のclone8を用いて、transformationを行ったが、そのとき、DMSO処理のcontrolにもtransformed fociが出現した。Spontaneous transf.のない細胞を分離するため、11代の細胞から、microplate法で9ケのcloneを分離し、それぞれのMCA 10μg/mlによるtransformationを調べた。方法は、5,000ケ/4.0ml/60mmにまいた翌日、20μlのDMSOあるいはMCA 200μg/ml soln.を加え、2日後、培地交換以後週2回の培地交換を行い5週間培養した。
 (表を呈示)foci出現数はクローン間で大きな差があり、clone4でもっとも高かった。いずれのクローンでもspontaneous transf.はみられなかったが、clone3は非常にdenseであった。しかし、非常に残念なことに、これらのクローンは凍結保存に失敗し、切れてしまった。何故凍結に失敗したかはよく分らない。他のクローンは目下テスト中、現在、新たにcloningが進行中である(顕微鏡写真を呈示)。

 :質疑応答:
[吉田]Cloneの選び方は・・・。
[黒木]Randamです。一応saturation densityの高さを目安にしていますが。
[吉田]染色体は調べてありますか。
[黒木]何も調べないうちに凍結に失敗して、これらのcloneは切れてしまいました。
[吉田]最近私の研究室で動物レベルのウィルス感染によるらしい染色体異常が出ています。ウィルスにも気をつけねばなりませんね。

《野瀬報告》
 ALkaline phosphatase活性と腫瘍性について
 先にCHO-K1細胞からalkaline phosphatase(ALP)活性の高いcloneを分離したことを報告した。ALP活性が低い細胞は腫瘍性が高く、活性が高いと腫瘍性が低いという報告もあるので(J.Cell Physiol.83,27,1974)、単離した各クローンの腫瘍性を比較してみた。腫瘍性の検定は東大病理の榊原耕子先生にお願いし、抗リンパ球血清を注射したSyrian Hamsterのcheekpouchに細胞を接種することによって行った。
 結果は、原株CHO-K1はcheek pouch内で盛んに増殖し、やがて約3cmの腫瘤を作り、5週間で動物は腫瘍死した。肝、肺、脾などに転移も見られた。それに対しALP-活性の高いクローンを3種同様な条件下で接種しても3週間後に腫瘤は退縮し、転移も認められなかった。ALP活性の高い細胞から、活性のほとんどないクローンを拾うと、腫瘍性は原株CHO-K1と同程度であった。
 これらの結果から、ALP-I活性と腫瘍性との間には、この細胞系に限れば相関性が存在すると言える。ALP-活性のないクローンをcheek pouchに接種して5週間後の組織像と、肝転移の像を呈示する。

 :質疑応答:
[乾 ]Cheek pouchの中で増えたもののALP活性はどうですか。
[野瀬]調べてありません。
[梅田]分化したものは本当に吸収されてしまうのですか。
[野瀬]これから調べてみます。
[翠川]分化したかに見える細胞、あれは環境が悪くなって消えかけて形態が変わったのか、分化して形態が変わってtakeされなくなったのか、どちらが原因でしょうか。
[黒木]私もハムスターの胎児細胞を4NQOで処理したものを復元したら、軟骨が出来た例をもっています。
[吉田]黒木さんのは全胎児ですから元々軟骨細胞が混じっていたとも考えられます。
[勝田]一つの酵素活性が腫瘍性を左右するということは、大変重要な事だと思いますから、もっと多角的に確かめなくては公表すべきではありませんね。

《堀川報告》
 私共は現在Chinese hamster hai細胞から分離したCH-haiCl 3細胞(auxotrophs;TdR-)、CH-haiCl 23細胞(prototrophs;Ala-Asn-Pro-Asp-Hyp-Glu-)および8-Azg70γB細胞(8-azgR)を用いて放射線および各種化学物質処理により誘発される前進および復帰突然変異率を調べているが、今回はこれらのうちX線およびUV照射後の前進および復帰の誘発変異率がまとまったのでこれらにつき報告する。
 (図を呈示)上記の3種の変異細胞をそれぞれ各種線量のX線およびUVで照射した後、48時間のfixation and expression timeをおいたのち、prototrophs→auxotrophsへの突然変異率および8-azgR→8-azgSへ、またauxotrophs→prototrophsへの復帰突然変異率を調べた。3種の突然変異検出系において変異の誘発率に大きな違いがあるが、3者のX線とUV照射後のinduced mutation frequency curvesは同じような傾向を示すことがわかった。誘発率におけるこのような大きな違いが感度(解像力)の違いによるものなのか、あるいは使用するmarkaer genesの違いによるものかどうかは今後の解析によらなければならない。

 :質疑応答:
[吉田]X線の場合変異率が上昇中ですが、更にdoseを上げれば変異率は下がりますか。
[堀川]多分下がるでしょうが、これ以上線量を増すとkillingに働きます。Survivalとmutation inductionとは違います。
[黒木]Colony形成でみていてcurveが下がってくるのは、mutationを起こした細胞が死にやすいという事でしょうか。
[梅田]毒性に対する変異頻度を表してみないと、その点ははっきりしませんね。
[黒木]8AG 70γ/mlはずい分高い濃度ですね。
[堀川]マウスの細胞はHGPRT活性が低いからか高濃度でないとうまく行かないのです。

《難波報告》
 3.4NQOによるヒト胎児肝由来細胞の培養内癌化
 (表を呈示)ヒト胎児肝から得た細胞を、4NQOで頻回処理することによって、Exp.2の内、31回処理の系が癌化に成功した。その癌化した細胞をSUSM1としてその染色体の数の変化を月報7408に報告した。即ち染色体の数の変化は、癌化の初期の段階で低2倍体を示し、その後1ケ月半ほどで3n〜4nに亙って巾広い分布を示すようになった。
 この癌化した系(SUMI1)と、その対照細胞の培養日数とPopulation Doubling Lebel(PLD)との関係をみた(図を呈示)。SUMI1は20PDL頃から急に細胞の増殖がよくなったので23PDLで4NQOの処理を中止した。その後細胞増殖は非常に良好だったが、40PDL前後で増殖の低下がみられ、その状態は約3ケ月ほど続きその後又増殖が良くなっている。(60PDL前の第2の増殖低下はアメリカより日本への細胞の運搬の為)
 このことは、1)ヒトの細胞の癌化にはいくつかの段階があるかも知れない。あるいは、2)ヒトの細胞の癌化(これはSUMI1で20〜30PDLでおこっていると考えて)とヒトの細胞の株化とは別の機構が働いているのか。などの問題を提起している。なおこのSUMI1は現在も、順調に増殖を続けており(PDL:66)、Agingの現象は全くみられない。その他の(対照群及び4NQO処理群)実験系では癌化に成功しなかった。(表を呈示)
 結論
 1.ヒト胎児肝由来の細胞を4NQOで処理して癌化させることが出来た。
 2.しかし癌化はそれ程容易には起らなかった(これがヒトの発癌の真実かも知れない)。
 3.4NQOの処理回数が少なくても、あるいは多くても癌化はおこらなかった。
 4.面白いことはExp3群では4NQO、32回、45回、67回処理のものは、細胞の形態変化が著しく、増殖も昂進し、しかもALS-処理動物に移植性を示したが最終的にいずれの細胞もAgingに入り株化には至らなかった。ヒトの細胞の発癌の指標を厳格に1)株化、2)染色体の異数化、3)移植性の3条件を満たすものとすべきかどうか班員各位のご意見を伺いたいと思います。
 5.2年間いろいろとヒトの細胞の培養を行なったが自然発癌はみられなかった。
 4.ヒト肝臓の器官培養
 肝臓としての組織構造と或る程度の細胞の分化機能とを保っている肝細胞を培養してそれを発癌剤で処理する事は興味がある。その一方法としてヒト肝臓の器官培養を試みた。
 材料と方法:慢性肝炎の患者(30才、男)より、バイオプシーにて肝組織を入手した。この組織をメスで1〜2立方mmほどの小片に切り、Falconの器官培養用ディッシュを使用し、そのグリッドの上に組織を置いた。培地はMEM+10%FBSで0.8ml/well。液更新は3日目、6日目に行なった。炭酸ガスフラン器(5%炭酸ガス+95%air)使用。
 結果:培養前の肝及び培養9日目までの培養肝組織像は班会議でスライドで示す。結論として、培養1日目のものが組織学的に一番元の組織に近く、経時的に組織は変性してゆく。しかし培養9日目の組織中にも肝実質細胞が残在しており、かなり長い期間器官培養で肝組織が生存する可能性がある。
 なお、この患者の血清から、オーストラリア抗原が証明されていたが、この培養液3日目及び6日目の中にも同抗原が証明された。しかし現段階ではこの抗原が産生されたものか、組織に存在していたものが放出されたのか決定出来ない。現在、正常肝組織を器官培養し、オーストラリア抗原を処理し、その肝細胞の核内の同抗原の増殖を電顕的に調べ、その増殖を培養組織の機能維持の一指標として肝組織の器官培養法を確立し、発癌実験に使用することを考えている。

 :質疑応答:
[勝田]オーストラリア抗原はとても危険ですよ。実験者自身よく気を付けて下さい。
[山田]オーストラリア抗原の一番よい消毒剤はホルマリンです。
[翠川]ウィルス肝炎のものは肝実質細胞の状態が悪いですから、むしろ転移などの手術の時の正常部分を貰う方が培養に適していると思います。

《高木報告》
 CytochalasinBの培養細胞に対する効果:
 CytochalasinBの培養細胞に対する効果について、糖類の細胞内への取込みをブロックする多くの報告があるが、核酸前駆物質およびアミノ酸のとり込みについては、短時間の実験であまりブロックされないという報告がある。
 CytochalasinBによる多核形成がDNAの合成を伴ったものか否かを解明するため、本実験ではH3-TdRのDNAへのとり込みについて検討した。使用したRFL-5およびRFL-6細胞(WKAラット胎児肺に由来し、in vitroの継代数の少ない増殖のおそい細胞)ともに培養期間を通じてCytochalasinBの濃度、作用時間に応じてH3-TdRのとり込みは著明にブロックされていた。その原因の一つとして糖質の場合と同様に細胞膜における透過性の変化が考慮されねばならない。この点を検討するためTrisine-Earl buffer内で細胞が全く増殖しない状態で、短時間におけるH3-TdRの細胞内へのとり込みを観察した。実験は次のように行った。
 Plastic Petridishに1万個以下の少数細胞をまき、CytochalasinBを1、2.5、5μg/mlの各濃度1、2および3日間作用させてTrisine Earl bufferで1回洗い、37℃でH3-TdR 2-3μCi/mlを含むbufferで10分間incubateし、終って直ちに0℃のbufferで60秒間に5回洗い細胞内にとり込まれたH3量をcountした。培養期間を通じCytochalasinB作用群では各濃度とも対照に比してとり込みの減少する傾向がみられたが、DNAへのとりの減少ほどは著明でないと考えられる。(実験毎に表を呈示)
 また先の月報でも報告したように、netのDNA量もCytochalasinB作用により生じた多核細胞では減少の傾向がみられており、多核細胞の出現は正常のDNA合成を伴った核分裂によるものではないように思われる。さらに検討の予定である。

 :質疑応答:
[翠川]CCBの作用についてはどう考えられていますか。
[滝井]TdRの取り込み実験の結果からみて、DNA合成阻害が起きているようです。今までの報告で多いのは糖の取り込みの阻害に関するものです。
[翠川]CCBを作用させた時の附着性は、正常細胞と腫瘍細胞とで違いませんか。
[滝井]全体にCCB処理細胞はトリプシン作用が効きにくくなるようです。
[堀川]取り込み値は何で出してありますか。
[山上]Count数ですが、細胞100コ当たりの数値に概算してあります。
[堀川]DNA合成がなくて分裂しているのですか。
[滝井]映画で追ってみた所では、核分裂は普通に行われるが細胞質の分裂は結局せずに2核になるようです。
[山上]DNA量からみますと多核細胞になったものも、細胞1コ分のDNA量としては1核のものと殆ど同じです。
[堀川]常識的にはDNA合成→分裂ですがね。この方法でハプロイドがとれませんか。
[梅田]核あたりのDNA量は分裂する程、減ってゆくのですね。
[滝井]核は多核になるにつれて確かに小さくなっています。
[勝田]映画でみると、一応染色体形成はあるようですね。
[吉田]Amitosisが起きているのではないのですか。
[梅田]CCBは除いて洗ってしまって、2〜3日培養しておけば、又多核が単核に戻りますから、その時期の染色体がどうなっているか調べる必要がありますね。
[堀川]In vitroでの増殖度との関係はありませんか。それから簡単に腫瘍性と結びつけてよいのか、どうでしょうか。
[高木]今までのデータだけではまだ腫瘍性とは結び付けてはいけないと考えています。増殖度とは関係がなさそうです。
[黒木]同調培養をしてG2に投与するとどうなりますか。
[梅田]G2が伸びるだけです。
[吉田]使った培養株それぞれのプロイディと多核形成度に関係がありそうですね。

《梅田報告》
 前回の班会議(月報7408)で定量的試験管内発癌実験の悪銭苦闘の様子を報告した。ともかく株細胞を用いたすべての実験が思わしくなかったので、マウス、ハムスター胎児細胞の3T3継代を始め、その間に余った細胞に、DMBA、4NQO処理実験を行った。全くあてずっぽーに行った実験であったが、はからずも確かにtransformしたと思われるfociが出たようなので報告する。
 (I)実験は月報7408に記したものの延長で、生で倒立顕微鏡で観察した限りでは思わしい結果を得ているとは思われず、悲観的な報告をしたのであるが、培養6週目に染色同定したものの中に、1cm径以上にも及ぶdense focusの出現が認められた。
 実験IはDDDマウス胎児細胞培養2代目のものを、1万個cells/6cm dish接種して1日後DMBA、4NQOを加え、更に2日後コントロール培地で液交新を行い、以後週2x液交新を行って6週間後に固定染色した。
 実験IIは同じマウス細胞培養4代目のものを5万個cells/6cm dishまいて実験Iと同じように処理した。
 実験IIIはシリアンハムスター胎児細胞培養3代目のもので1万個cells/6cm dish接種してこれは培養3週目に止めて了ったものである。
 実験IVは実験IIIと同じ細胞の7代目のものを実験IIIと同じように処理し、培養6週目に固定染色した。
 之等の実験はpreliminaryと云うこともあり、各群シャーレ2枚でスタートしたもので、途中contaminationを起したものもあり、シャーレ一枚となって了った群もある。
 (II)培養開始後、数代目の細胞を用いたこともあり、コントロールのシャーレにも沢山のfocusが肉眼で認められた。これは比較的小さく(径3〜4mm以下)、Giemsa染色では赤紫気味になる。一方発癌剤処理のシャーレは見事なものは1cm径以上にも及ぶ大きなfociでGiemsa染色で青紫となる。顕微鏡で観察すると、形態的悪性度を容易に判定出来そうなものが多いが移行形もあるのでどうしても判定基準を設ける必要が感ぜられた。
 <Classification of foci(Reznikoff et al.:Cancer Res.,33,3239(1973))>
Type I is a focus composed of tightly packed cells.
Type II is a focus showing massive piling up into virtually opaque multilayers.The cells are only noduately polar:thus,criss-crossing is not pronounced.
Type III is a focus composed of highly polar,fibroblastic,multilayered criss-crossed arrangs of densely stained cells.
 上の表はReznikoff等が10T1/2細胞でのfocus基準としたものである。われわれの場合、さらにmodificationが必要になってくる。すなわち、コントロールのシャーレに良く現れる赤味がかって染る小さ目のfocusは中心部はすごくpile upしているが、周辺部の細胞は元気がなく、細胞の周りにはeosinopilic substrateと云うか、matrixが産生されている、どうみてもおとなしそうなものをどう扱うかである。一応これらをtypeIに入れてみることにした。
(III)以上の判定基準で実験IからIVの判定を行なうと(表を呈示)、やはり典型的なのはfocus typeIIIのもので、これは誰がみても悪性と云える顕微鏡観察でblueに強く染る細胞質を持った典型的fibroblastic cellの集りである。TypeIIは移行形が多く判定し難い。特に実験IVのコントロールのものは前回の班会議で生で観察した時「コントロールにも悪性とおぼしき配列の乱れた細胞増殖巣がある」と報告したが、丁度それがtypeIIのfocus2ケであった。顕微鏡観察によるとtypeIIIと異り不整形と云うか、より円形に近い小細胞が集った感じを与える。TypeIIIのfocusが大部分1cm径以上の大型のものであるのに対し、このExp.IVのtypeIIのfocusは夫々4mm、2mm径であった。これが本当に悪性かどうか今後の検索に待たざるを得ない。先にあげたReznikoff等のdataではtypeIIの50%、typeIIIでは85%のfucusからの細胞がbacktransplantationでtumorが出来たとされている。
 尚培養3週間で止めた実験IIIでははっきりとした悪性のfocusは認められなかった。この結果からすると3週から6週の間の培養期間の間に細胞増生が旺盛になり、大きなfocus形成が認められると考えられる。
 (IV)以上まだ問題点は沢山残っており、これから確立されなければならないのであるが、悪性のfociを得たことは確かなようである。欠点として6週間も培養しなければならないこと、typeI、II focusがコントロールにも沢山出現すること等であり、又逆に利点も多いと思う。早く方法を確実なものに仕上げたいと思っている。

 :質疑応答:
[難波]発癌剤は入れ続けですか。
[梅田]培養開始してから1日後に添加して2日間入れ続けます。この方法は株細胞を使うようにきれいには行きませんが、初代培養ですから動物の系の差なども出てくるかも知れないと期待しています。
[乾 ]正常のcolonyは赤っぽいが悪性化すると青くなるというのは一般的ですか。
[黒木]染め方にもよりますが、そういう傾向はありますね。

《乾報告》
 先号で、in vivoのTransplacental carcinogenesisの手法を併用した、in vivo-in vitro assay systemを紹介し、妊娠動物に4NQOを作用した胎児を摘出培養し、そのTransformationの結果について報告した。
 今回は、環境変異原物質として問題視されているフリールクラマイド(AF2)、4NQO、DMN、DABを妊娠11日目のハムスターに20mg/kg腹腔内注射し、48時間後の胎児を培養し、培養開始後24時間の染色体変異、培養2代目の細胞のTransforming Rate、同細胞を200万個ハムスター・チークパウチに復元移植した結果を報告した。母体に化学物質を投与した胎児の培養細胞の染色体観察の結果(表を呈示)DMSO0.5/Animal4Gapchromatid exchange typeDMNDAB20mg/kgGap4NQO154NQORingAF223.1TypeGapDMNDAB4NQO2/dish()4NQODABDMNAF271Plating Efficiency(P.E.)4NQO0.70.8AF22AF224NQO5DMNAF222.245.8DABDMN200/Animal17DAB3/6DMN1/6

【勝田班月報・7411】
《勝田報告》
 新しい合成培地DM-153について
 すでに報告したように合成培地の新処方DM-153を作った。この処方の特徴はDM-120、DM-145などに比べ、アミノ酸ではamido系のアミノ酸、特にグルタミンの量を3倍にふやしたこと(表1、3)(以下夫々図表を呈示)、ビタミン類の組成をがらりと変えたこと(表1)、bufferedsalt solutionとして、salineDの処方をやめ、phosphate bufferから重曹bufferにきりかえ、炭酸ガスフランキでも使えるようにしたことである。Vitaminでは、biotinの量をぐんと増やしてあり、その他のvitaminも測りやすい量に変えてある。
 第3表は各アミノ酸をグループ別に分けたもので、DM-120に比べ、DM-153がいかにAmido groupで多くなっているかが判るであろう。Totalのアミノ酸量にしても相当なものである。 培地の浸透圧はいつも気になるものであるが、試みにOsmometerを使って測ってみると、第4表のように、かなりの差があることが判った。
 このようなOsmotic pressureの差がgrowthにどの位影響するかという問題であるが、これはあまり関与していないようである。培養瓶の天井に霧が沢山たまっていることが、よく見られるが、これは液の浸透圧がかなり上昇していることを示している。それでも結構細胞はふえているのだから、強いものだと思わされる。
 第1図はラッテ肝細胞RLC-10(2)株について、色々な培地を比較したものである。これは継代には[10%FCS+LD]の培地を使っている。培地は、培養第2日にtest培地にかえ、第9日に培地交新をおこなっている。DM-153は継代用のLDよりはるかに高い増殖率を示した(P<0.01)。EagleのMEMが落ちているのは、non-essential amino acidsを含んでいない為と思われる。DN-145の劣っているのは、グルタミン量とビオチン量の少ない為であろう。
 第2図はラッテ肝由来、なぎさ変異株(JTC-25・P3)、何年間も完全合成培地内で継代してきた株である。やはり第2日にtest mediumにかえ、第9日に培地交新をした。この株はこのテストのためにDM-120ではなく、とくにDM-145で継代してきた亜株である。結果はDM-153とDM-145との間には全く有意の差がなく(P>0.05)MEMは2週間は細胞増殖を支えられなかった。 第3図はヒト末梢血のリンパ系細胞のprimary cultureで、初めからtest mediumで培養している。培地交新は第7日にだけ行なっている。比較した培地は、血液細胞の培養によく使われているRPMI-1640で、10%FCSを添加している。これはクエン酸処理による総核数と、エリスロシン染色でかぞえた死細胞の数を減じたものと、両方の数を示してあるが、明らかにRPMI-1640よりもDM-153の方が好成績を示している。
 以上のように、DM-153は普通の細胞株(血清を含んだ培地で継代している)にも、完全合成培地継代株にも、初代培養細胞にも好成績をしめしているので、非常に多目的的に使える良い処方であると自負している次第である。
 なおDM-153は極東製薬から混合粉剤を発売しはじめた。10l用(塩類なし)4,800円。1l用のもあり、Earleの塩類を混ぜたのもある。詳細は極東製薬・荻 良晴氏宛。

《高木報告》
 CytochalasinBに関する仕事はなお進行中で、現在、多核を形成するRFL-5細胞を30万個前後TD40に植込み、24時間後にCytochalasinBの各濃度を作用させて以後1、2、3日目に各々TD40 4本ずつからの細胞を集めてnetのDNA量を測定中であるが月報には間に合わなかった。従って、今回は本年度の計画の1つであった膵ラ氏島細胞の培養につき、suckling ratのpancreasを用いたmonolayer cultureに関する報告をする。
 膵ラ氏島細胞の培養:これまでに試みた方法を表示する(表を呈示)。
表で、EDTD treatmentは0.2mg/ml EDTAを室温で5分間作用させた。またDispase digestionはDispase 1000pu/mlを37℃20分間magnetic stirrer使用下に作用させた。
これらの方法を1、2、3、4とすると、4の方法はLanbertらによるもので、これではfibroblastの増殖が早期におこり、培養間もなくislet cellsがfibroblastに取囲まれてしまう。4mg/mlのcollagenaseでpancreasをdigestし、isolateしたisletをwire loopで掬い上げて培養したislet culture(1)でも多くの場合培養数日後よりfibroblastの増殖が目立つようになる。Isolateしたisletを多数掬集めて、これをEDTA、引続きDispaseで処理すると、純粋なislet cellsがえられるが、この方法(2)は手間がかかり収量の少ない欠点がある。これらに対して4mg/mlのCollagenaseでdigestしたあと、isolateしたislet cellsを掬い上げず、外分泌腺組織のまざったままEDTA、つづいてDispaseで処理して単離した細胞を植込み、14-17時間後に浮游細胞を集めて別のPetri dishに植込むと(3)、結局はislet cellsと思われるものが生残り、またfibroblastの増殖も比較的少ないことが判った。従って、幼若動物膵から増殖系の細胞をうるにはこの方法でもあり、2、3の方法で現在までFalcon Petri dishに少なくとも2週間はB細胞と思われるgranulated cellsを追求することが出来、また培地中にinsulinを証明することが出来た。Fibroblastの増殖を如何にして抑えるか、ということと目的とする細胞の継代法が今後に残された課題である。10年前渡米中にadult rabbitpancreasより4系統の形態の異った株細胞を分離し、その中の1株はglycogenをたえず合成しており、B細胞である可能性が強いと思われたが、この時に用いた方法は4のLambert法に似たものであった。さらに培養法を検討して、少しでも長くislet cellsを増殖させうる実験系を追求したい。培養細胞の写真は紙面の関係でまたの機会に供覧したい。

《梅田報告》
 FM3A細胞を用いて8AG耐性細胞出現率でみるfoward mutationの系を使った実験のその後のデータを報告する。
 (1)方法はFM3A細胞を各種濃度の試験物質で2日間処理後、耐性細胞を検出するためには20μg/mlの8AG、細胞の生存率をみる為には8AGの入っていないMEM+10%CS+0.5%agarose寒天培地平板上に前者は100万個細胞、後者は100〜200細胞数を接種し、10〜14日間培養後、平板寒天上に出来るコロニー数を算定した。
 (2)基礎実験として8AGを入れた寒天平板上に生じたコロニーが、本当に耐性があるかどうか調べた。培養12〜14日で直径5mmに及ぶコロニーが出現する。しかし、非常に小さいコロニーも出現する様でありどの大きさ迄算定すべきであるか迷う。大、中、小のコロニーに分け、その夫々から4つ宛コロニーを拾い、20μg/ml 8AGの入った液体培地で培養した。
 大(5〜4mm径)、中(3〜2mm径)のコロニーからの細胞は全部8AG培地中で増生し、継代可能であった。1.5mm以下のものは明らかに微小のものが多く、之等は拾った4クローン全部が8AG培地で継代不能であった。
 このことは8AG寒天平板上で耐性の細胞は増殖が可能である故、次第に大きなコロニーを形成するようになるが、8AG感受性細胞も一部は生存し、培養初期の8AGの活性のある間はそのまま、培養が進んで8AGが分解されるかして後、増生を始めるので、そのような細胞が微小コロニーを形成していることが示唆される。
 以上のようなわけで耐性コロニー数の算定には充分気をつけることが必要である。因みに細胞の生存をみる方はコントロール平板寒天上のすべてのコロニーを算定することにしている。
 (3)FM3A細胞population中にheterogeneityがあるかどうか調べる目的で、コントロールの無処理細胞が寒天平板上に造ったコロニーを3ケ拾って、之等についてsuviving及び、resistantのコロニー出現率を調べ、mutation frequencyを算出した。
 (表を呈示)表に示すごとく、かなりheterogeneityのあることがわかる。
 (4)各種myotoxicについて行っているデータは以下の如くである(表を呈示)。

《難波報告》
 5.ヒト正常2倍体細胞の発癌実験
 ヒト正常2倍体細胞を化学発癌剤(4NQO)の処理し、よって培養内で癌化させる実験に成功したが、しかし科学発癌剤によるヒト細胞の癌化については、我々以外の他の例はまだ報告されていない。
 そこで、我々は同じ実験を追試して、化学発癌剤によるヒト細胞の癌化を確認する必要がある。我々は新たに発癌実験を開始したので、この月報では、この実験に使用している細胞の性状について報告する。
 ◇細胞の性状
 細胞は正常な6ケ月目の男の胎児の肝臓及び脳から培養して得た。培養開始は1974-8-28である。この2系の細胞の形態は、繊維芽細胞様であるが、両者には少し違いがある(次回の班会議でスライドをおみせいたします)。
 肝由来の細胞のクロモゾームを、培養21日目、3rd PDLで調べると(表を呈示)、2n(46)にシャープなモードを有し、核型も(図を呈示)図に示したように正常である。
 Dexamethason処理(0.1mg/animal two times/w)の2匹のハムスターのCheek pouchに、5th〜7th PDLの細胞を集め600万個cells/animal移植し、2週間後の剖検で腫瘤の形成を認めなかった。
 脳由来の細胞のクロモゾーム、移植性などは現在調べている。
 また2系の細胞を4NQOで処理し、発癌実験を続けているが、まだ癌化した細胞を得るに至っていない。
6.ヒト肝臓の器官培養(月報7410に続く)
前回に報告したと同じ実験を繰り返した。その結果は、前回とほぼ同じで、器官培養された肝組織中に肝実質細胞は培養7〜9日目にもまだ生存しており、生存している細胞の核内には明確な核小体も認められる。以上のことから、器官培養された肝組織は1週間はだいたい大丈夫なようなので、近いうちに発癌剤を処理してみたいと考えている。
 また、器官培養した肝組織の所見で、glisson氏鞘部の結合組織が肝実質より早く変性に陥っているようで、面白い。

《野瀬報告》
 CHO-K1由来変異株のAlkaline Phosphataseの諸性質について
Alkaline Phosphatase(ALPと略)活性のないCHO-K1から、同活性の高いクローンを分離したところ、これらのクローンは原株と較べて腫瘍性が低下していることが示唆された(月報7410)。この定価の一つの原因として、繊維芽細胞が軟骨又は腎細胞へと分化したことが考えられた。mesenchymはin vivoにおいて、屡々同様の分化をすることが知られている。
 ALPは臓器特異性を持ち、各臓器によって酵素的性質が異なるので、分離されたクローンのALP活性の性質を比較することによりどの臓器のALPに類似するか推定できると考えた。
Chinese hamster(♂adult)から小腸、肝、腎臓、大腿骨をとり出し、蒸留水中でhomogenizeし、n-ブタノール抽出したものを、酵素標品としてこれらALPの熱安定性、およびL-homoarg-inineによる活性阻害を比較した。
 (夫々図を呈示)図1はassayの際、homoarginineを各種濃度加え、0mMの時の活性を100%として表わしたものである。腎臓、骨のALPは強く阻害されるのに対し、小腸、肝臓のALPはほとんど阻害されない。ALP陽性クローンのALPは、同条件下で強く阻害され、腎、骨のALPと似ている。
 次に酵素標品を50℃で加熱し、活性の低下を見たのが図2である。図1の阻害実験と丁度逆に、小腸、肝臓のALPは熱に対し不安定で急速に失活するのに対し、腎臓、骨のALPはほとんど失活しなかった。細胞のALPは熱安定性に関しても腎、骨の酵素と類似している。
 以上、2つの実験でendoderm由来の臓器のALPはhomoarginine耐性、熱不安定性であり、mesoderm由来ではその逆という傾向がありそうである。CHO-K1からのクローンはいずれもfibroblastなので骨と由来は共通と考えられ、これらの結果はreasonableである。培養細胞のALPが腎又は骨型なので、骨細胞に分化することは十分予想できることである。また、得られたクローンすべてが同一のALP活性を示したことから、CHO-K1からのALP-陽性細胞は一定の方向性を持っていて、変異のようなrandomな変化ではなさそうである。

《山田報告》
 漸くラット正常肝細胞培養株(RLC-20)が増え始めましたので、これを使い各種のプロテアーゼ処理後の表面荷電の変化を追ってみました。膜表面における糖蛋白が肝細胞増殖のinitiatorとしての機能があることは幾つかの論文報告により明らかになって居ますので、まずはプロテアーゼ処理後に膜表面の荷電がどの様に回復して来るかを知ろうと思ったわけです。トリプシンとディスパーゼ(0.001%〜0.25%)を用いた所意外な結果が出ました。トリプシンを用いた結果は多少乱れて居り、その結果の読みはむづかしいのですが、ディスパーゼ処理後10時間目に、明らかに表面荷電密度が増加することを発見しました(図を呈示)。これは表面の蛋白除去後に起った細胞増殖の開始に基くものか、或いは膜の修復過程における変化であるのかわかりません。これから処理後10時間以内における変化を、もう少し細かく追いかけてみたいと思って居ます。そして悪性化に伴うこの荷電の変化がどの様に違ってくるかも知りたいと思って居ります。細胞の増殖と表面荷電の変化を新しい角度から追求する一つの指標が得られさうな気がして居ます。

《乾報告》
 先月の班会議でin vivo-in vitro transplacental assayの結果を、4NQO、DAB、DMN、AF2を作用した細胞の2代目について報告しました。
 今月は、その続きでこれらの細胞が4代になりましたので、体内処理、培養後4代目の変異率と、対照としたDMSO注射個体より得た細胞について報告します。
 (表を呈示)表でわかる様に、4代目の細胞を播種した場合にも、2代目と同じようにDMN、DAB投与群でTransfomed Colonyが出現します。その出現率は、DAB投与群ではAF2の場合と同様、代を重ねるにしたがって増しましたが、DMNでは反対に低下しております。DMSO(0.5ml/Animal)投与群5代目の細胞で、10枚のシャーレ中2枚に変異コロニーを観察しました。7代目の細胞を播種したシャーレには、10日間の観察でコロニーが出現したことから、この方法にもまだまだ問題があります。
 癌原性物質投与群では、観察は終了しておりませんが、6代目の細胞でコロニー形成があります。

《黒木報告》
 10月21日〜26日にFlorence市で行われた第11回国際がん会議に出席し、一昨日(11月5日)帰国したところです。学会参加者は8,000、日本からは350人程出席したのではないかと思います。もっともヨーロッパ屈指の観光地のため、会議に出席した人は約1/3〜1/4位でしょうか。勝田班からは、乾さんと私が参加しましたが、二人とも、非常に真面目に会議に出席したことを、あえてここに記します。
 会議の構成は10月21、22日、Florence近くの都市で10に主題に関するconterenceが行われた。われわれに関係あるものとしては、Cell Biology(Pisa)、Chemical carcinogenesis(Perccgia)があります。私は後者で、化学発がん剤と核酸蛋白質との結合について報告した。(以下プログラムを呈示)

【勝田班月報:7412:経胎盤in vivo-in vitro化学発癌】
《勝田報告》
 §ラッテ肝細胞株の樹立について:
 最近、培養技術の進歩によって、ラッテ肝の細胞株が容易に作れるようになってきた。もはや百発百中で作れるので、株を維持する必要がなくなったとも云える。したがって発癌実験にも継代初期の細胞が使えるわけである。
 培地は10%Fetal calf serum+DM-153。はじめの頃は10%FCS+F12を用いた。(株一覧表を呈示)各種酵素による分散法はDispersion法は、初代を作るときの方法で、継代にはrubber cleanerやtrypsinを用いている。
 Ratのageを段々と大きくしても増殖できることの判ったのも収穫の一つである。RLC-16などは生後42日のratからの肝である。これは現在もっとageの大きいratからの材料を次々と追ってみているところである。
 一つの試みとして、アルギニンを加えない培地での肝細胞の培養も試みている。培地は<10%FCS+F12>であるので、当然血清からのArg.が混在する訳で、今後は透析血清をせめて用いなくてはならない。結果は、RLC-16はこの培地で初めから増殖を示し、現在1.5月継代している。RLC-18は一部の細胞が死滅してしまったが、残りが増殖している。RLC-19は初めから増殖している。RLC-20もやはり、初めから増殖を示している。RLC-21は一部が死滅し、残りが増殖した。一方、古い株であるRLC-10(2)はこの培地ではほとんどが死滅してしまった。(各系の顕微鏡写真を呈示)
 これまでの方法では株が実験に使えるまでに半年以上かかったので、その間に色々なcell selectionが行われていたと考えられるが、たとえば初めからArg(-)のような培地で培養することによって、狙っている細胞だけをとる、ということも可能になるかも知れない。
なお、RLC-22とRLC-23はDENによる発癌実験にすぐに使用中であり、RLC-24は4NQO実験に用いている。RLC-24は目下cloningを試みている。

 :質疑応答:
[堀川]ラッテの肝上皮細胞の培養が容易に出来るようになった理由として、培地にラクトアルブミン水解物を使わなくなったからかと云われましたが、ディスパーゼを使用し始めたからとは考えられんせんか。
[高岡]トリプシン消化でも容易に上皮細胞の株がとれているようですから、そうとは言えないと思います。それから、ラクトアルブミン水解物の培地では、株化の率は低いのですが、株化したものは皆同じような形態でした。
[乾 ]培地中のグルコース濃度によってPAS染色の成績が左右されませんか。
[高岡]今日のものは皆1g/ll濃度で培養しています。
[勝田]培地中のglucose濃度を高めると解糖系の酵素活性も上昇しますし、肝細胞でなくてもPAS陽性になります。同定には使えませんね。
[山田]Glucose濃度を下げたらどうなりますか。
[高木]500mg/l以下には下げられません。
[藤井]肝臓がどの位あれば培養できますか。一部切除をして培養し、発癌剤を作用させてautoへ復元というのは出来ませんか。
[勝田]昔は乳児しか培養できなかったのでautoへの復元は無理でしたが、今度はできます。是非やってみたいですね。
[山田]これだけ材料が揃ったのでっすから、ぜひ形態的に細胞同定をやりたいですね。Definitionを決められるかも知れませんよ。

《難波報告》
 7.ヒト細胞を癌化させる薬剤として、4NQOが非常に有効である可能性を示す理由
 ヒト由来の正常2倍体細胞を化学発癌剤で癌化させる場合どの発癌剤が最も有効なのかをまず調べる必要がある。その為にはそれぞれの発癌剤でヒトの細胞を癌化させて、その発癌率を比較すれば良いがその仕事は膨大な時間と金がかかりそれほど簡単には行かない。
そこで今回は、下に記したそれぞれ化学発癌剤の、(1)Cytotoxicity、(2)DNA repai、(3)Chromosomal changesに対する影響を調べてみた。現在までの結論は4NQOが最も強いcytotoxicityと、DNA Repairとを示し染色体の変化も一番よくおこしている。この4NQOのデータを発癌に直接に関連づけることは、やや問題があるが、しかし、使用した薬剤中のうちで4NQOが細胞のDNAレベルで最も有効に作用していることを示している。(1)4NQO、(2)NG、(3)DMBA、(4)BP、(5)MMSの薬剤を使用した。
 1)Cytotoxicity(図を呈示)
 4NQO、NG、DMBAの濃度と細胞障害の関係を調べた。培地は10%CS+BMEである。発癌剤は培地に溶かした。4NQOが最も強い細胞障害を示した。発癌剤処理後、3日目の細胞数は処理による直接の細胞障害とみなし、さらに、その2-3日後の最後の細胞数を、薬剤の障害から細胞が回復したかどうかの目安とした。NGは割に長く細胞障害が残る。今処理後3日目の処理群の細胞数を発癌剤未処理対照群の細胞数で割り、生存率を求めると、10-5乗M 4NQOでは細胞がほとんど死滅するのに、同じ濃度のDMBAでは細胞障害は全然みとめられない。
BP、MMSの細胞障害は、それほどのToxicityを示さない。この最後の実験では川崎大病理で培養を開始したヒトの肝臓由来の細胞を使用した。
 2)DNA repair
 化学発癌剤がDNAに作用しているならばそのDNAは、何んらかの障害を受けることが予想され、当然の結果として、その障害を受けた部分が修復されることが予想される。即ち、修復が大きいほど発癌剤はDNAに入っていると予想される。実験方法は下に示したように2つの方法で行った。『Schems of experiment of DNA repair synthesis。 1)H3-TdR,10μCi/ml,30min→Treatment with chemicals,10-5乗M,60min→H3-TdR,10μCi/ml,60min。2)Hydroxyurea,2.6mM,2days→Treatments with chmicals and HU,60min→H3TdR,10μCi/ml,60min,2.6mM HU→Autoradiography。』
 1)の方法では正常にDNA合成を行っている細胞は非常に多数のグレインが核に認められ、修復下にあるDNAは少数のグレインが核に認められる。2)の方法では正常なDNA合成を止めているのでDNAの修復をしている核は軽くラベルされる。(DNA修復を行っている細胞の写真を呈示)。実験の結果は4NQOが最も著明なDNA修復が認められる(表を呈示)。その他、3回の実験を行ったが、いずれの場合にも4NQOが最高の修復率を示しており、DMBA、MMS、BPなどは非常に低い修復率を示した。
 3)染色体の変化
 この実験では、ヒト末梢血のリンパ球を使用した。リンパ球をRPMI1640+30%FBS+PHAの培地で培養し48hr.目に10-5乗M BP、10-6.5乗M 4NQOで1時間処理し、その後正常培養液にして12時間後クロモゾーム標本を作った。(表を呈示)
 その結果、4NQOが非常に多くの染色体異常を示していることが判った。それに較べBPでは染色体の変化はほどんど認められない。

 :質疑応答:
[黒木]Grain countをした方がよいのではありませんか。
[堀川]そうですね。そしてヒストグラムをとればもっとすっきりまとまるでしょう。
[梅田]夫々の薬剤のkilling doseを合わせて比較した方がよいと思いますが。
[難波]DMBAのように溶解限度の濃度でもkillingがないものもあって難しいですね。
[堀川]私も梅田さんと同意見です。細胞の障害度を同じ位にして修復をみるべきでしょう。それからHydroxyureaを使ってsemiconservative replicationを止めるには作用時間はなるべく短い方がよいでしょう。
[黒木]BPとDMBAによる障害はリンパ球とWI38との間に差がありますか。
[難波]どうでしょうか。
[黒木]水虫の薬のグリセオホルビンで人細胞を変異させたという報告がありました。
[梅田]グリセオホルビンは妙な薬ですね。添加すると物すごく多核細胞が出ます。
[難波]使ってみたいですね。

《高木報告》
 CytochalasinBの培養細胞に対する効果:
 RFL-5細胞を用いてCCB 1、2.5及び5μg/ml作用させた場合に生ずる多核細胞のDNA合成に関して、再度検討を加えた。細胞の蛋白あたりのDNA量は各濃度ともCCB添加後1日目、2日目ででは無処理の対照に比してやや増加する傾向がみられた。核あたりのDNA量については、対照細胞の細胞数が培養日数とともに増加の傾向が著明であったためか、対照細胞の1、2及び3日目の核あたりのDNA量が低い値を示し、これと比較した場合実験群の核あたりのDNA量が高い値を示した。前回の実験では実験群の核あたりのDNA量は対照よりむしろ減少しており、これと相反する結果になったがさらに検討中である。
 膵ラ氏島細胞の培養:
 現在行っている膵ラ氏島細胞の培養の中、幼若ラット膵を材料とした場合の概略については先の月報でのべた通りであるが、今回はhuman fetal pancreas(5M)の培養を試みたのでその報告をする。方法は月報No.7411の方法によった。すなわちPancreatic tissueを細切後0.5%Trypsin、0.02%Collagenase in PBS(glucose 5mg/mlを含む)5mlとともに10mlのErlenmeyer Flaskに入れて10分ずつ6回magnetic stirrerでdigestし、浮遊した細胞をその都度集めてModified Eagle's medium+20%FCSで植込んだ。培養17時間後に浮遊している細胞を集めて別の新しいPetri dishに植込んたが、digestionの4回目以後にえられた培養においてB細胞を思わせる細胞の増殖がみられた。しかし2週後にはfibroblastの増殖が著明となり上皮性細胞の増殖をはばんだ。培養6日目および11日目にrefeedし、その時集めた培地に含まれているIRI量はそれぞれ540μu/ml以上および195μu/mlであった。如何にしてfibroblastの増殖を抑制しepithelial cellsの増殖を助長するか、また如何にしてepithelial cellsのみ拾ってこれを継代するか、と云った点が今後の課題である(写真を呈示)。

 :質疑応答:
[勝田]浸透圧の影響というのは案外少ないのではないでしょうか。今使われて居る色々な培地の浸透圧を調べてみると、かなり差があります。という事は培養細胞はかなりの幅の浸透圧に耐えられるということでしょう。
[高木]培地に蔗糖を加えるとsheetになりやすい傾向があります。膵臓の細胞もglucose濃度が高いとsheetをよく作ります。そういう事から浸透圧の影響かと考えたのです。
[山田]Pancreasは生体内でもisletだけ残るような状態になっている事がありますから、そういう状態のものを取り出して培養してみたらどうでしょう。
[高木]薬剤で実験的にpancreasにadenomaを作ることが出来ます。それも培養してみていますが、それもなかなか長期間の培養にもってゆけません。

《山田報告》
 In vitro発癌過程における細胞の本質的変化を探るために新らたに樹立されたラット肝細胞培養株を用いて実験を開始しました。
 しかし今回は発癌剤を與えた後に起る細胞の変化をしらべる前に、細胞の増殖分化そして形態に干渉する非特異的な要素をまず検討し正常細胞がどの程度まで変化するかを検索してみようと思いました。まず文献をしらべてみた所、最近この種の報告が案外に多く、それらの結果を大掴みにまとめてみました(表を呈示)。
 増殖を促進する因子としてplant lectin、insulinそして細胞膜の蛋白性表層のCoatの除去による作用があり、これらはcontact inhibitionなる良性細胞増殖の特徴をも変化させる可能性を示唆する成績もあることを知りました。そこでこれらの因子の正常ラット肝細胞由来株への影響を検索する意味でまず細胞表面蛋白除去後の細胞増殖への影響及び表面荷電の変化について検索してみました。
 前報で報告しましたごとくDispase(0.25%)處理後10時間後RLC-20肝細胞の表面荷電は増加し、表面蛋白除去後の補修現象のみならずactiveな増殖に伴う変化が観察されました。そこで今回はラット正常肝RLC-16を用い、0.25%、0.01%のdispase處理(37℃15分)後、日を追ってその増殖性と荷電の変化をしらべてみました。
 用いたうちでは、最も濃い濃度のdispase(0.25%)処理細胞が最も増殖が著しく(図を呈示)、しかしそれに一致して細胞電気泳動度は変化せず、泳動度の増加ピークは対象にくらべて一日遅くしかもより低い(図を呈示)という結果を得ました。この成績の意味がわからず考へている所です。

 :質疑応答:
[高木]DispaseIIの0.25%というと何単位になりますか。
[山田]単位の換算が出来ませんが0.1〜0.2%が細胞をガラス壁から剥がす濃度です。
[梅田]Dispaseも細胞表面の蛋白を切ることが判っているのですか。
[勝田]Dispaseは色々な所を切ります。こういう実験にはIの方を使った方がいいですね。IIも酵素としては単一のようですが、何といってもIの方が精製されていますから。
[堀川]Growthをみる時、細胞はsingleになっていましたか。
[山田]なっていませんでした。
[堀川]そうだとすると現象が複雑になりますね。細胞表面の面積が変化して、growth rateが変わるのかも知れません。
[高木]ガラス壁から剥がされた事で死んでしまう細胞と、浮いたままでも増殖できる細胞とありますから、dispaseそのものの毒性をみるのは難しいですね。
[野瀬]電気泳動度がdispase処理後に上昇しているのは何故でしょうか。
[山田]処理前が0.8位で処理直後には0.7位に一度落ちます。その数値を0として計算しています。上昇は回復+activeな増殖に伴う変化だと考えられます。

《乾 報告》
 本年9月より、経胎盤in vivo-in vitro chemical Carcinogenesisについて一連の報告を致してまいりましたが、本号もその一端として経胎盤的にAF-2、4NQO(20mg/kg)、DMSO(0.5ml/Hamster)投与後48時間目の胎児を培養し、培養初回の分裂の染色体を詳細に観察したので報告します。
 既に報告した如く、これら物質を投与した動物胎児細胞のTransformation Rateは(表を呈示)、培養2代目で1.07%(AF-2)、3.20%(4NQO)、0.17%(DMSO:6代目)であった。全観察細胞中で、染色体に少なくとも1ケの異常が現われた細胞の出現頻度は(表を呈示)、異常染色体を持つ細胞はAF-2>4NQO>DMSOの順で出現した。
 各化学物質投与後、染色体異常の型を表に示す。
 4NQO投与群では、Gap、Breaks等のSingle chromatid typeの異常は0.42%、Translocationを含むiso-chromatid typeの異常は0.24%であった。AF-2では前者が高く1.27%で、後者は0.12%でiso-chromatid typeの出現は比較的少ない。対照のDMSO投与群の異常のほとんどはSingle chromatid typeで,iso-chromatid typeの異常はほとんど表われなかった。異常形成の機構のよく解明されていないか、または2つ以上の原因によって誘起されると考えられるminute chromosome、Fragmentation等のいわゆるnon-specific typeの異常は4NQO>AF-2で表われDMSO投与群では出現しなかった。
(表を呈示)全異常染色体中の単純異常とみられるGap、Breaks、2本以上の染色体の異常によって始めて誘起されるExchange type(G1-S期にDNAに影響があると思われる)の出現を比較すると、4NQO、AF-2にのみExchnage typeの異常が表われた。
 以上の結果を綜合すると、経胎盤chemical carcinogenesisでTransformed Colony形成率は4NQO、AF-2投与群においては培養直後の染色体異常の出現率、特にiso-chromatid typeの出現と高い相関があった。今後細胞癌化と初期染色体切断の関連性を解析するアプローチとして、この手法が使えると考えられる。また細胞に4NQO、AF-2を作用した場合と同様の異常が経胎盤的に、これら物質を投与した時表われたことは、ニトロソ化合物、ある種の芳香族炭化水素、アミン類等培養系に作用して、試験管内癌化のむずかしい物質のin vitro carcinogenesisの解析のための一つの手法になると考えたい。
 追記:すでに報告した様にDMNで同様Transformed Colonyの出現を認めていると共に、メチル水銀投与ではin vitroで投与した場合と同様、培養初代に高頻度の多核細胞が出現する等の結果から、経胎盤法はin vitro直接投与の場合と非常に相関があると考えられる。

 :質疑応答:
[梅田]コロニーレベルの変異の基準の判定が難しいですね。もう少し、厳しくすると対照のDMSOの変異値は減るのではないでしょうか。
[難波]接種後数日でこんなに変化があるなら生まれるのを待ってから培養すると、もっと悪性化が進んでいるのではありませんか。それから生まれて来たハムスターの発癌率はどの位でしょうか。
[乾 ]将来みる予定ですが、もう2〜3年続けないと使えるデータにならないでしょう。
[黒木]発表する時にはin vitroとin vivoのデータを対比させて染色体異常の結果を出した方がよいでしょうね。Doseの差もあるかも知れません。
[乾 ]AF-2はまだ発癌実験の中に入れない方がよいかも知れませんね。
[梅田]AF-2は投与後、1日目にchromatid変化が多く見られます。薬剤によって投与後何日でchromosome上のどんな変化が起こってくるかという事も違ってきますね。
[堀川]動物によって全く結果が違ってくるようですね。Activating enzymeの問題はきちんとしておかなければならないでしょうね。
[乾 ]ハムスターでは胎児の発育にも随分影響があるようです。
[黒木]妊娠11日目に接種というのは少し早すぎるのではありませんか。どういう意味で11日にしたのですか。
[乾 ]ハムスターはラッテより妊娠期間は短いのです。ハムスターでは11日がorganogenesisがはっきりする時期なので選びました。次には生まれてすぐの物も調べたいと思っています。変異コロニーを拾って復元接種をしていますが、接種後4週間位まではtumorが出来ていたのですが、その後消えてしまいました。

《野瀬報告》
 Alkaline Phosphatase-陽性細胞を分化させる試み
 ハムスターのチークポーチ内にAlkaline phosphatase-陽性細胞を接種したらosteocyteらしい細胞が出現した。この様な細胞形態の変化がin vitroでも起きないかどうか若干検討してみた。
 まず、LDHのisozyme型を比較すると、ALP-陽性、-陰性細胞の間に違いは見られず、またその型は肝、腎、心、筋肉、骨などの組織のLDHisozyme型とも異なっていた。monolayerで生えている細胞をtrypsinで分散し、Ca45の細胞への取込みを見たが、やはりALP-陽性、-陰性の間に差は認められなかった(表を呈示)。
 次に細胞のaggregateを作る培養条件下で何か変化が起きないか検討した。trypsinizeした細胞をMEM+5%FCS(+Non essential amino acids)に懸濁し、75rpmの速度、37℃で旋回培養を行なったところ、細胞は1日後に小さなagregateを作った(図を呈示)。このaggregateは1週間に2回培地交換をしながら10日間培養してもこれ以上大きくならず、また、ALP-陽性、-陰性との間に差は見られなかった。
 (図を呈示)細胞をRose chamber(久米川変法)内で13日間培養してできたaggregateは、旋回培養とくらべaggregateの大きさはかなり大きいが、ALP-陽性、-陰性の間に大きさの差は見られなかった。
 これらのaggregateを遠心して集めglutaraldehyde固定し、切片にして見たが、すべて単なる細胞の集塊で、組織らしい構造は全く存在しなかった。aggregateを作った時のALP-I活性は、Rose chamber中で13日間培養すると低下する傾向にある。以上、in vitroでcheek pouch内の変化を再現することは、まだできていないが、培地中にホルモン、ビタミンなどを加えたり、いろいろ工夫してやってみたいと思っている。

 :質疑応答:
[梅田]Ca沈着については、Caは基質に沈着するのですから、単なるCaの取り込みがなくても、骨であるということはあり得ると思いますが・・・。
[山田]細胞表面のチャージからみるとCaはすぐ吸着しますが又簡単に離れます。
[勝田]何にしてもCaの取り込みをみても余り意味がなさそうですね。出来た骨らしきものにCaのカウントがあるかどうかみる方がよいのではありませんか。
[梅田]旋回培養で何か添加して塊を大きくすれば分化も起るのではないでしょうか。
[高木]ローズチャンバーでも塊ができるのですか。
[野瀬]塊ができるものは2日間位で出来ます。
[高木]CHO-K1を採った動物の年齢は・・・。
[野瀬]知りません。
[山田]卵巣由来の細胞なのですから、卵巣らしくなる事が分化ではないでしょうか。骨化することを分化として余り深追いしない方がよいと思いますよ。

《梅田報告》
 発癌剤や突然変異原の代謝活性化の問題が論議されてきたが、この現象をin vitroの反応として捕えることが、バクテリアの突然変異誘起の系では可能になっている(In vitro metabolic activation assay)。即ちpromutagen或はprocarcinogen、マウス又はラット肝の薬物代謝酵素、助酵素、及び指示バクテリアとを混じて培養後バクテリアに生じた突然変異を見る方法である。この実験系を哺乳類動物細胞の突然変異、或は悪性転換の実験に持ち込むことは重要なもとである。今回はこの代謝活性化現象をFM3A細胞の突然変異誘導を指標にして得た結果について報告する。
 (I)まずFM3Aの突然変異の系であるが、先月の月報7411で述べたように8AG耐性獲得を指標にしている。耐性コロニーの算定には充分気をつけている。
 (II)このin vitro metabolic activation実験をバクテリアの突然変異の系で最初に報告したのはMallingである。(表を呈示)我々は基本的にこの系を踏襲することにした。しかしバクテリアと哺乳動物では培養条件も異るので数ケ所修飾することにした。我々のとった方法と原法を比較して表にした。
 (III)(表を呈示)以上の実験条件で行った実験結果を表で示す。この場合完全反応系から各要素を1つ宛欠いた反応系を作って比較してある。MgCl2はEarleの液中に入っているのでgroupの(-MgCl2)の所は完全にMg++欠の条件ではない。
 (IV)以上の実験は反応後所謂expression timeとして2日間細胞を培養しているが、このexpression timeの必要性について検討した。即ち完全反応系で処理30分後直ちに、2日間培養後、又4日間培養後、8AGのagarose plate上に細胞を植えこんで、突然変異出現率をみた。まだ1回しか実験を行っていないが、このdataからexpression timeは必要ないことがわかる。
 (V)次に薬物代謝酵素その他との反応時間について検討した。各factorを氷冷中で混和後、37℃water bathのshaking incubationに移し、一定時間後、細胞を培養に移し、2日後8AG agarose plateに接種して耐性コロニーの出現を調べた。反応時間は30分が適当との結果を得た(表を呈示)。

 :質疑応答:
[難波]シャーレ当りの接種数が多すぎてcontrol値が低く出るのではありませんか。
[堀川]細胞数を色々変えて基本的なテストをしておいた方がよいでしょう。
[黒木]寒天上にコロニーを作らせる場合は、細胞は丸くなりますから、かなり多くの細胞を播種しても隣の細胞とは接触しないだろうと思います。
[梅田]私もそう思います。
[黒木]BSSを使うとpHが変わります。Activationを行う実験ではHEPES bufferを使った方がきれいな結果が出るのではないでしょうか。
[梅田]HEPESを使う事も考えましたが、toxicityの問題がありますのでBSSを使って炭酸ガス量でpHを調整しました。
[黒木]酵素反応をみる実験ではpHはよほど厳重にするべきでしょう。短時間ならHEPESでも大丈夫でしょう。
[梅田]まだ色々考えてみたいと思っています。NADPH濃度が高いのでNADPH generating systemを使ってみたいとも考えています。
[黒木]Induceをかけたratのmicrosomeを使ってみたらどうでしょうか。
[難波]Expression timeを4日間もとると、その間に細胞が増えてしまって、複雑なことになると思いますが、どう考えますか。
[乾 ]なぜexpression timeが必要なのかよく判っていませんね。
[堀川]仲々難しい問題ですね。簡単に説明をつけてみますと、DNAの片方のstrandのdamageが、何回かの細胞分裂によって両方のstrandにその変化を受け渡された細胞が出て来て、初めてmutationとして発現するという事になります。
[野瀬]Expressionの説明はそれでよいとして、変異率が下がるのは何故でしょうか。
[堀川]異常分裂を考えます。
[難波]4日間のexpression timeは単に細胞が増える事を待つのではなく、そういう遺伝子レベルのことの進行を待っているのですね。

《堀川報告》
 従来われわれが復帰突然変異(reverse mutation)の実験系に使用しているChinese hamster hai細胞から分離したCH-hai Cl3細胞はthymidine(TdR)要求株であるが、この細胞は何故TdRを要求するのか、またこのCH-hai Cl3細胞を放射線照射した際に生じる復帰突然変異体(revertant)はTdR欠損培地中でも増殖するようになるのはどのような機作によるのか? ということを生化学的レベルで説明するため(図を呈示)DNA合成に関与するmetabolic pathwaysに従ってthymidylate synthetaseをまず調べることにした。Thydidylate synthetaseの活性測定はC14-dUMPを用いてDe Wayne Roberts(1966)の方法をmodifyして測定した。結果は(表を呈示)CH-hai Cl3細胞は同じChinese hamster hai原株細胞から分離したTdR非要求株のCH-hai ClT2細胞に比べてthymidylate synthetase活性は約10分の1に低下していることがわかる。(ちなみにCH-Don 13細胞についてのデータも表に示す)
 一方、CH-hai Cl3細胞をX線の600R、1000Rで照射した際、およびUVの100ergs/平方mmで照射した際に誘起されたそれぞれの復帰突然変異体、CH-hai Cl3-R2、CH-hai Cl3-R7およびCH-hai Cl-R15細胞では完全とまで行かないまでもCH-hai ClT2細胞(TdR非要求株)のレベルにまでthymidylate synthetaseの活性はもどっていることがわかった。
 こうした結果からみるとTdR要求性とか非要求性という細胞の性質は少くともわれわれの使用している細胞ではthymidylate synthetase活性の増減でもって説明出来るようである。ただしCH-hai Cl3細胞がCH-hai ClT2細胞に比べてthymidylate synthetase活性が僅かに10分の1に低下しているだけでこれ程きれいにTdR欠損培地内では増殖出来ないというcharacterを示すか、つまりthymidylate synthetase以外のDNA合成に関与するpathwaysを調べてみる必要もあるだろう。

 :質疑応答:
[難波]Thymidine要求性はBUdRresistantでしょうか。
[堀川]調べてありません。
[難波]Auxotrophはどうやって採ったのですか。
[堀川]Replicaで採りました。

《黒木報告》
 CaffeineのUV感受性の増強作用
 Caffeineはpost replication repairを阻害すると云われている。
 しかし、その作用は複雑でUV-誘発変異を促進する(Arlett et al.Mut.Res.14,431,1972)dataもあれば、抑制する成績も発表されている(Trosko at al.Chem.Biol.Interaction 6,317,1973)。化学発癌についても抑制のdata(角永、医学のあゆみ 86、746、1973)と促進のdata(Donovan,DiPaolo,Cancer Res.34,2720,1974)の相反する報告がある。
 FM3Aから分離したUV-sensitive clone FMS-1、FMS-1-2を用いて、CaffeineのUV感受性の効果についてしらべた。(表を呈示)Caffeineを0.5、1.0、1.5、2.0mMに含む平板寒天上で2wk.培養したときのコロニー形成率では、1mMのCaffeineは細胞障害作用がないために、以下の実験には1mMを用いた。
 (表を呈示)FMS-1、S1-2のCaffeine存在下のUV-生存曲線から明らかのように、CaffeineはUV感受性を増強させる。もしCaffeineの作用がpost replication repairの阻害にあるとすると、FMS-1、S-1-2細胞もまだかなりのpost replication repair能を残していることになる。

 :質疑応答:
[難波]ヒト細胞に4NQOとCaffeine両方をかけましたが、すごくgrowthを抑制しました。
[黒木]Caffeineについては今の所データがまちまちですね。角永氏は変異を抑制すると言っていますし、DiPaoloのデータではむしろ促進しています。
[堀川]私もLを使ってCaffeineの影響をしらべた事がありますが、黒木さんのと大体同じ結果でした。Caffeineは新しいDNA strand elongationを抑えるようです。しかしDNAとCaffeineの結合は非常に弱いのでbindしている状態が捕まらないのです。それから兎の耳を使ったUV発癌実験でCaffeine処理をすると、処理群は遅れて発癌し、しかも発癌の%は高いというのがあります。我々の場合も、今摂取している量の30倍も飲めば、変異剤になり得るということですよ。
[藤井]Caffeine単独でもですか。
[堀川]そうです。しかし変異といえば重クロム酸カリでも細菌にとっては変異剤であり得るのですからね。