【勝田班月報・7501】
《勝田報告》
 今年もしっかり頑張りましょう。
去年後半にはラッテ肝の容易な培養法を開発し、株を沢山作りました。それらの酵素活性を城西歯大の久米川君のところで測ってもらっています。その一部を下に示します(図を呈示)。最右欄は培養してない肝の数値です。胎児由来の株の活性は、生体内の胎児肝の活性に似ているそうで、もう少し実験を続ければ何らかのpatternとしての特徴が掴めそうだとのことです。

《高木報告》
 1974年は全く変動の多い年でしたが、仕事の方はまずの状況でこれも皆様の御指導、御協力のおかげと年頭にあたり厚く御礼申し上げます。本年もよろしく御願いいたします。いよいよ昭和50年代に入りましたが、これを契期に思いを新たに頑張らねばならないと考えております。
 昨年の年頭に書いたprojectの中、CytochalasinBに関するものと、RRLC-11細胞より分離されたvirusについては一応のけりがつきましたので、まとめの段階に入っています。膵ラ氏島細胞の培養については現在6週令のラット膵ラ氏島の単離培養と、幼若ラットよりの細胞の分離培養につとめていますが、中々壁は厚いようです。本年度進行させたいprojectとして次の2つを考えています。
 1.膵ラ氏島細胞の培養とその“がん"化の試み
 正常膵ラ氏島に由来する細胞をとり発癌実験に供したい。成熟ラット膵では2〜3ケ月細胞の維持が可能であり、また幼若ラット膵ではラ氏島細胞を選択的に2代目までは継代出来るようになった。さらに培養条件を検討したい。またDMAE-4HAQOを注射したラットにおいて約20ケ月を経て剖見した4疋中3疋に腫瘍の発生をみた。その培養には成功していない。現在行なっている膵ラ氏島の培養系においてもDMAE-4NAQOを作用させて形態学的変化ならびに分泌されるinsulinの性状に差異がみられるか否か、in vivoで生じた腺腫の比較において検討したい。
 2.培養細胞の可移植性と免疫抗原性の解析
 培養ないの発癌実験において、癌化過程の細胞を移植した際に移植が成立する細胞と成立しない細胞では、その細胞の宿主に対する抗原性が大きく影響していることが考えられる。まず種々の培養内発癌過程の細胞を移植したさい、宿主の免疫動態の変化をcheckしうるin vitroの実験系を樹立すべく努力したい。

《堀川報告》
 今年の正月は金沢でも久し振りに暖かく、本当にすごしよいお正月でした。雨こそ降っていましたが雪もなく、おそらく私が金沢に来て以来雪のなかった正月は今年がはじめてだったのではないかと思います。
 さて、年頭にあたっての今年の抱負ですが、ここ数年来私共の研究室でやってきている培養哺乳類細胞における突然変異の研究を今年も中心に進めます。チャイニーズハムスター肺細胞から分離した栄養要求株、栄養非要求株、8-azaguanine抵抗株および8-azaguanine感受性株を使っての前進および復帰突然変異を各種物理化学的要因について十二分に検討したいと思います。
また、同調培養したHeLaS3細胞を使ってX線、UV、4NQOおよびその誘導体に対する細胞周期的感受性変更要因の解析を進めているが、これと並行してこれらの要因による変異誘発を細胞周期を通じて追ってみる予定である。さて、この仕事と関連して、是非欲しいのはマウスL細胞を使っての仕事です。UV傷害修復能としての除去修復をもつHeLaS3細胞と、対照的なこのマウスL細胞を使っての仕事は、各種要因に対する細胞周期の感受性変更要因の解析に、ひいては細胞周期を通じての変異誘発の機構解析のために、われわれに多大の知見を提供してくれるものと思っています。
 さて、最後にもう一つの問題として、今年はマウスL細胞のもつ秘めたるUV傷害修復能の解析にも力をそそぐつもりです。ヒト由来の細胞と違い、何故マウスL細胞のような齧歯類由来の細胞には除去修復能がないのか。また、そのくせUV感受性においてはヒト由来の細胞と差がないか。これが私にとって大きな疑問となるからです。
 年頭にあたり、適当なことを書きました。夢があうまで夢で終らないよう努力したいと思います。皆さん共に頑張りましょう。

《梅田報告》
 年頭にあたり昨年を反省し、本年進むべき方向を展望してみたいと考えます。昨年前半はadenine derivativeの作用機作の仕事、培養細胞DNA索の検索、その他AF2の作用機作の仕事等、試験管内発癌の仕事とは直接関係無いことを多く扱っていました。後半になってFM3A細胞を用いると、突然変異原投与により8AG耐性細胞が誘導される実験系がうまく働くようになったので、各種の物質についての突然変異誘導能を調べ始めました。同時に肝ホモジネート及び助酵素を加えてDMNのin vitro metabolic activationの仕事が旨くいくことがわかりました。突然変異誘導と発癌の関係が云々されている折から、この突然変異誘導能と、更にin vitro metabolic activationを加味した哺乳動物細胞を使うこの実験系は多いに活用し、発展させたいと願っています。
また継代数代目のマウスはハムスター胎児細胞を用いて、発癌剤処理後5〜6週間培養すると、形態的に悪性化した細胞増殖巣が検出されることを見出しました。さらにDDD、AKR、C3Hマウス胎児細胞の3T3継代を行って株化を試みています。この仕事も本年重点的に進めたいと思っています。
 ところで本班の研究主題である上皮細胞の悪性化については、そろそろ定量化の実験を行う必要があるのではないでしょうか。しかし今迄上皮細胞については悪性化してもすぐわかるような特徴が無いので困っていたわけです。やはり発想の転換も必要で、癌だから盛り上って増殖しているだろうと考えること自体間違っているかも知れません。今迄当研究室ではラット肝由来上皮細胞、ラット唾液線由来上皮様細胞を培養してみましたので、之等を使って何かpilot experimentをしてみたいと考えています。

《難波報告》
 本年度の研究は次のように進めたいと思っています。
 1)正常ヒト2倍体細胞の化学発癌による試験管内発癌;昨年までの仕事の追試とより確実な発癌の実験系の確立
 2)ヒト肝細胞の培養とその発癌実験への利用;上の実験系では、主に繊維芽細胞を利用しているが、ヒト由来の正常な上皮系の細胞も発癌実験に用いたいので、まずヒトの肝から上皮性の細胞の培養を試みたい。
 研究報告
 8.ヒト肝細胞の培養
 昨年秋以来、ヒトの肝細胞の培養を続け、その器官培養については簡単に7410、7411の月報に報告した。
今回は予備的な実験の報告であるが、26才の正常な男子の肝よりBiopsyで得た肝組織から上皮性の肝細胞と思われる細胞が増殖して来ているので写真に示す(写真を呈示)。培地は、MEM:RPMI 1640(1:1)+10%FBSである。写真は培養開始後、17日目。

《山田報告》
 昨年は独協医大に転任し、いろいろと大学の建設と整備のために追われ、充分な研究の成果があがらず申譯なく思って居ります。しかし昨年末には、研究室の体勢も固り、培養室には、研究室も調子が出て来ましたので、今年からは、従来通り研究に力を入れたいと思って居ります。今年は、秋の培養学会を独協医大でやることになりましたので、宜敷く御指導の程お願い申しあげます。出来るだけ努力をいたし栃木の田舎に培養学会を持って行って良かったと云われる様に準備したいと思って居ます。
 これまでin vitroにおける悪性化に伴う細胞の表面構造の変化についてのみ検索して来ました。今後も勿論この面での仕事を続けたいと思いますが、今年は年頭に一つの発癌実験をやってみたいと思っています。従来得られた成績のうちで、細胞膜の反応性の変化に最も興味を引かれています。細胞膜の分子が固定したものでなく生物学的反応に伴いその表面糖鎖が流動すると云う現象です。この現象を更に解析すると共に、発癌剤による膜の反応性変化をも解析し膜の流動性と発癌剤の作用との関係を明らかにしたいと思います。
 その意味でPHAやConAの作用と発癌剤の作用が細胞膜上でどの様に反応するか、そして、その結果として癌化が促進されるか、或いは抑制されるかを知りたいために発癌実験を思いたちました。この実験によりin vitro発癌の現象のうち、増殖と悪性化を分離して考える成績が得られるかもしれませんし、また、かえって(?)な成績により解析をさらにむづかしくするかもしれません。とにかくやってみたいと思っています。

《黒木報告》
 昨年は思うように仕事がすすまず、その他の低レベルの問題でも精神的に悩まされた一年でした。今年はこのような問題に頭を使わず、楽しく仕事をしたいものです。
 AF-2などの問題にみるように、この数年間、化学発癌の研究は好むと好まざるにかかわらず、社会的問題とかかわらざるを得ない状況になりました。ここで、組織培養の実験システムがこの問題にどのように貢献できるか改めて考える必要があるでしょう。発癌剤のscreening法としては、AmesらのS.typhymをはじめとする突然変異による検出法、組織培養細胞を用いたtransformationあるいはmutagenesis、さらに、従来の動物実験の三者に大別できそうです。このうち、細菌の変異検出法は簡便なこと、迅速な点で組織培養の優位に立ち、動物実験はその成績の動かしがたい発癌性の確証という点で、これまた、組織培養よりも優れています。結局、組織培養は両者の中間にあり、positiveにしても、negativeにしても、結果の評価はそれのみでは出来にくい欠点があります。他に例を求めるとすれば、A系マウスの肺腺腫の生成などに似ているように思えます。もし、組織培養が、この間にあって独自の立場を築くことができるとしたら、それはヒトの細胞を用いた実験系ではないでしょうか。その方針のことに、目下ideaをためているところです。徐々に手をつけたいと思っております。

《野瀬報告》
 昨年一年間をふり返ってみると、あまりたいした進展がなく、お恥かしい次第と反省しております。今年はもう少しましな年になるよう以下の目標で努力したいと思います。
 (1)Alkaline phosphataseと腫瘍性との相関について。
CHO-K1由来の高alkaline phosphatase活性亜株は、ハムスターチークポーチ内での腫瘍性が低下していた。この事から逆に腫瘍性の低下した細胞は、同酵素活性が上昇しているかどうか試してみたい。腫瘍性の低下した細胞を単離することは、むすかしいが、glutar-aldehyde固定したmouse embryo cells上に腫瘍細胞をまいて、できたcolonyを拾うL.Saksらの方法で可能かも知れない。一回やってみたが、このようなfeeder上では細胞はcolonyを作らなかった。またAH-7974由来のJTC-16細胞は同酵素活性が高く、最近腫瘍性が低下しているらしいので、この細胞集団から同酵素活性に差のあるクローンを分離し、腫瘍性と相関があるかどうか見てみたい。
 (2)培養肝細胞の特種機能発現について。
 今まで細胞の機能としてalkaline phosphataseばかりに固執していたので、もっと別の機能も並行して調べてみたい。臓器特異性のはっきりしている細胞機能として、肝細胞のalbumin産生とarginase活性の2つを取り上げた。抗ラッテalbumin血清ができたので、各肝細胞株でのalbumin産生を定量的に測定し、産生しない細胞から産生するクローンを分離することなどを試み、この機能発現の機構を研究したいと思う。また、arginaseはほとんどの株細胞では活性が検出できず、RLC-10ではラッテ肝抽出液の1/10の活性が見られた。この酵素の誘導、変異株の分離などを試みてみたいと思っている。


《藤井報告》
 癌の免疫療法をなんとか臨床にもってゆきたいと願って1昨年あたりから試みてきた線は、一つは、外科的療法(手術)の補助しての免疫療法をつくることであり、他の1つはin vitro感作リンパ球の受身移入による特異的癌免疫療法であった。
 前者は、我が国で既感作の患者が多い結核免疫の遅延型皮内反応を皮膚転移癌などに誘起して、集まってきたリンパ球、マクロファージなどによる制癌作用を期待したものであった。すでに外国でDNCBなどで試みられていたが、医科研の細胞化学で結晶化されたツベルクリン反応誘起抗原(KT抗原)をつかって、ある程度の効果、すなわち注射された局所の癌の縮小あるいは消失をみることができた。しかし全身的な抗癌効果はまだみられていない。この仕事では、研究室の関口助教授が大変努力をつづけているし、基礎実験では黒沢君や森君も加わった。世の癌研究者や、とうに癌免疫研究者は、局所の癌を縮小することの意義はあまり無いと仰言る。たとえ局所でも癌を切らずに小さくすることは大変なのである。とくに切ってとれないところにある癌を縮小させることは、外科医にとって大切なのであることが、先づわかってほしいのだが。
 後者は、癌患者リンパ球をin vitroで自家癌抗原で刺激し、in vivoであるよりは強く感作して、これを患者にもどすことを考えたわけである。ラットの実験腫瘍では、一応の抗癌効果はえられたが、臨床応用は、未だにふみ切れないでいる。in vitro感作に用いる培養癌細胞の非働化(?)−が完全にできるかどうか。たとえ、少数でも生きた癌細胞を宿主にもち込む危険がないかどうか。in vitro感作中に微生物の混入と増加を来し、それを患者にもちこむ危険はないか。この2つのために折角の一例は、臨床応用実行前に断念した。最近、米国で同じような試みが3例試みられている報告を読んだ。極めて簡単な、同種移植拒絶反応のin vitroモデル実験をやっただけでである。
 今年は、soluble antigenを使ってのin vitro感作を何とかできるようにしたい。臨床応用は、あまり急がないようにするつもりである。

《永井報告》
 この班もこの3月が最后になりますが、振り返ってみますと、研究上の相互連絡がこんなに緊密でお互いに得るところの多い班はそうざらにはないのではないかと思っております。班友としての席を与えられたことを心より感謝いたします。勝田班長並びに高岡さんの陰での御努力も並み大抵でなかったことを想うと、深く脱帽する次第です。また、研究室の皆様方のお世話に対しても心から感謝いたします。
 癌問題は前人未踏の巨峰として依然として聳え、人々の登攀を固く拒否しております。しかし、今年も少しでも上の方にキャンプを設営すべく幾多の労力が積み重ねなれようとしており、その一端でも担わしていただければと念じております。
 毒性物質の化学的本態の解明が私に課せられた第一次目標点です。分劃法上の目途もたってきましたので、今年こそ何とかと思っております。日暮れて道遠しというところまでは持ち込みたくないと念じております。皆様の御援助を今年もお願いする次第です。
 皆様の一層の御活躍をお祈りいたします。

《佐藤報告》
 T-14)DAB発癌実験−タンパク結合色素量−
 DAB処理過程においてDABのつめ跡を求めるべく、検討を進めているが、今回、DAB処理細胞と非処理細胞(コントロール)について、タンパク結合DAB量の測定を行ったので報告する。
実験方法:細胞は非処理細胞(I=control)とDAB処理細胞(V)で、TD40びん、それぞれ15本に植え込み、subconfluentの時点でDAB 1μg/mlを含む培地(MEM+10%BS)にて交新し2日間培養した。タンパク結合色素量の測定は寺山等の方法に従った。
 (表を呈示)結果は表の通りであるが、(1)本細胞はDABを結合し得るタンパクを有していると推定される。(2)コントロールと処理細胞の間で、結合色素量に殆んど差が見られなかった。結合タンパクが同じであるかどうか、という問題に関しては今後の問題である。 月報7109で、佐藤らによって測定されたPC-2細胞の場合と、今回の実験結果は近似している。
《乾報告》
 私にとりましては、苦難の49年が過ぎ去りこの1月6日で喪もあけ、文字通り新らしい再出発の年にこの新しい年を致すべく心に念じております。皆様方の相変らずの御指導、御鞭撻の程おねがい致します。
 さて、本年の研究の計画ですが、私自身の研究の場が本年中に研究を主体とすることが出来るか、またはスクリーニングのかたわらで細々と基礎実験を続けていかなくてはならないかと云う不安定の要素が根幹にありますが、次にあげる実験を考えております。
 1)Transplacental in vivo-in vitro chemical carcinogenesis:
 昨年にひきつづいて、上記の問題を主として純系ハムスターを使用して行ない問題点として、a)母体に化学物質投与後の胎児細胞の染色体切断と変異コロニーの出現率とその移植率、b)胎児発生の各段階における化学物質を投与された胎児細胞の変異コロニー形成率の差、c)同様、肝、腎、肺等の臓器細胞を標的として、臓器発生過程におけるこれら細胞の癌化率等、少々発生、分化、癌化の基本的な諸問題に挑戦したいと思います。
 2)ニトロソグアニジン等、一連の誘導体の側鎖の長さと、発癌性の問題:
 主としてニトロソグアニジン系化学物質で、化学構造式その物質の変異誘導性、発癌性の問題をもうしばらく追求していくつもりです。

【勝田班月報:7502:高張処理による細胞の変化】
《勝田報告》
 A)ラッテ肝細胞の培養:
1)再現性の高い簡単な肝培養法が確立された。Dispaseで処理し、これを<10%FCS+90%DM-153>の培地で培養すると、大体2週間で上皮様細胞のFull sheetになる。
 2)材料の動物のageはAdultでも充分に生えてくる。しかし生後2〜4wのratが最も良好な結果を示す。
 3)細胞の同定については、組織化学的検討は一部を山田喬班員に依頼し、顕微鏡映画撮影は進行中であり、動物へ接種しての組織像検査は東大病理の榊原先生に依頼して、抗リンパ球血清処理したハムスターに接種したところである。機能的検討としては、酵素活性を久米川氏に依頼してしらべてもらっている所であり、アルブミン産生は野瀬班員の作った抗アルブミン血清をFITCでラベルして蛍光抗体法で検索すべく目下進行中である。これらの細胞のアルギニン産生能については、アルギニン(-)の合成培地(10%FCS加)で3カ月連続培養し、増殖はしないが生存している(写真を呈示)。なお4日間この培地内で培養した後の培地を日本電子でアミノ酸分析してもらったが、アルギニンは全く出ていなかった。この培地でセンイ芽細胞などが死滅して行く(RLC-22の亜系で継代時Dispase処理で上皮細胞は早く剥れるが、その時残った細胞(Fibroblasts)をアルギニン(-)の培地で101日培養して、死んで行くところの写真を呈示)。肝細胞を選択的に培養するには、アルギニン(-)の培地は非常に適していると思われる。目下の問題はセンイ芽細胞がやられ、肝細胞は生存しているという、適当な期間を見出すことである。現在までのデータでは大体100日以上経てば淘汰されると考えられる。
 B)若い培養を使っての発癌実験:
 上記のようにラッテ肝の培養が非常に容易になったので、これらの株の若いものを用いて化学発癌の実験をおこなうことを試みた。
 1)Exp.DEN-16:
 JAR-2系、F31、生後14日♀のラッテ肝由来のRLC-23株を用いた。これは1974-10-20培養開始、11-10平型回転管にSubculture、11-15より1975-1-12まで58日間DENを50γ、100γの2種、培地に添加し続けた。添加初めの1週間は100γ群のみが増殖を抑えられた。形態的には無添加の対照群と差違が見られなかった。染色体数は42本が多いが、目下詳しく分析中である。
 2)Exp.CQ-75:
 JAR-2系、F31、生後28日♀のラッテ肝由来のRLC-24株を用いた。これは1974-11-3に培養を開始した。11-17に6cmファルコンシャーレに3種のinoculum sizesでまいた。3週後の結果では、25万/dishではFull sheetになっており、2.5万/dishでも同様、2,500コ/dishで35〜50コのcoloniesを作っており、P.E. 1.4〜2%となった。実験群は11-17に、3.3x10-6乗M、4NQOで30分、37℃で処理後トリプシンで分散させ、3種のinoculum sizesでシャーレにまいた。約2.5月後の成績では75万コ/dishでは2〜5colonies、7.5万/dishでは1〜2coloniesができた。この両群では上皮細胞が揃っていて、目下染色体を分析中である。7,500/dishでcolony形成は見られなかった。

 :質疑応答:
[堀川]Arginine-free培地で培養すると、上皮細胞が生き残って、fibroblastは死んでしまうというのは、何を意味しているのでしょうか。
[勝田]合成能力の違いだろうと考えています。
[佐藤]要求性の面からみますとモーリス肝癌の中にはArginine要求の非常に高いものがありますね。正常肝細胞も要求性はあります。
[勝田]可欠アミノ酸を含まない培地でどんどん増殖を続け、且つその可欠アミノ酸を自分で合成しては培地中に放出しているといった系でも、外からその可欠アミノ酸を添加してやるとそれを消費するし、又増殖もより盛んになります。その場合、きっと細胞は培地にあれば使うし、無ければ合成するという事ですね。能力さえあれば。
[堀川]Arginine-freeにして、fibroblastが先に死んでしまうのは増殖が早いために手持ちのArginineを先に使い切ってしまうとは考えられませんか。
[高岡]この場合は、むしろ上皮の方が増殖度は高いようです。
[佐藤]ラッテの肝細胞の培養では色んな条件が判りました。例えば回転培養をするとfibroblastより上皮に有利だとか、ラクトアルブミン培地の方が合成培地より上皮細胞選別に優れているとか、炭酸ガス培養にする時は少数でまいた方が上皮が残るが閉鎖培養の場合はなるべく多い細胞数をまいて継代する方が上皮細胞が維持されるとか。しかしこれらの事はヒトの肝細胞の培養には殆ど当てはまりませんでした。
[高岡]このディスパーゼを使う初代培養法では、もとの組織の中にあった種々の細胞があまり選別されずに培養に移され、しかもかなり長期間共存しているようです。

《山田報告》
 培養ラット正常肝細胞の微細構造:
 培養されたラット正常肝細胞の形態学的特徴を調べてみようと思い、まず、H.E.、Giemsa、Mallory。PAS等の染色標本を作製して詳細に観察してみましたが、光学的レベルでの形態によっては、それぞれの特徴を見出すことが困難でした。しかし大掴みにみますと、
 Embryo由来の細胞は、かなり混合した細胞集団であり(RLC-21、RLC-18)、Adult由来の細胞の方がむしろ単調な細胞像であり(RLC-16)、多核細胞も少なく、大部分は肝細胞由来と考へられますが、ごく一部にはkupffer cellが混合している様に思いました。PAS染色ではどの細胞系でもグリコーゲンは染まらず、またMallory、銀染色を施した標本から、あまり特記すべき所見は得られませんでした。そこで電顕的に観察した所(模式図と写真を呈示)、RLC-16、-20には幾つかの特徴がみられました。
 RLC-16、RLC-20培養肝細胞のME所見の特徴:
一般的特徴:
1.肝細胞hapatic parenchymal Cellよりなる細胞が大部分であるが星細胞が少数混合。
2.正常ラット肝組織細胞にくらべて核優勢が著しく、かつ核辺の陥入が著しい。(培養条件における相互の巻きこみのためか?)
3.Mitochondriaのcristeの形成が不良(低酸素状態によるものか?)
4.Glycogen顆粒のaggregate化が少く分散している。
RLC-16とRLC-20の相互の差:
 RLC-16:glycogen顆粒はより少く星状aggregate少い。Smooth contact少い(Desmosomeが極めて少い)。lysosomeは殆んどない。
 RLC-20:glycogen顆粒はより多く星状aggregate少い。Smooth contact多い(desmosomeがより多い)。lysosomeは若干認められる。
 まだ二系統の細胞の微細構造しかみていないので細かい特徴を決定的に云うことは出来ませんが、少くとも形態学的に肝細胞を同定するにはやはり電顕で見る他はない様な気がして来ました。
 今後の観察には、1)グリコーゲン顆粒の星状凝集の程度。2)lysosomeの発達の程度。3)平滑な接触面の残存の程度(正常肝細胞の微細構造内シェーマにみる様な平滑接触とデスモゾームの形成の程度)とmicrovilliの発達の程度との比較。4)星細胞を初めとする混合細胞の形態。等の所見をポイントにして他の株を観察して行きたいと思って居ます。
 これらの電顕像は2%glutaraldehydo(Cacodylate buffer pH7.3)で前固定(1.5h)した後に1%OSO4により本固定した細胞を観察して得たものです。そして細胞はガラス管壁についたものを機械的に削り落として得たものですが、次回から準備の出来次第、テフロン(?)の上に増殖させてそのまま薄切してみたいと思って居ます。

 :質疑応答:
[佐藤]培養細胞の電顕像をもっとよくみるという方針には賛成です。しかし株になったものだけをみるのは自然悪性化への経過をみる事になるかも知れません。もっと培養の若いところが見てほしいですね。
[山田]今は色んな細胞をなるだけ数多く電顕でみたいと思っています。
[佐藤]ラッテにDABを喰わせて悪性化してゆく、その各時期の肝細胞の電顕像をみた仕事がありますが、悪性度が増すについれてmicrovilliが増えるようです。細胞の接触面は培養法によって、例えば細胞集塊の状態とcellシートの状態では違うでしょうね。
[難波]私達の実験でも悪性化した培養細胞はmicrovilliが発達していて、mitochondoriaが少ないですね。
[高岡]Glycogen顆粒は培地のglucose濃度を上げると出てくるはずです。
[勝田]しかし、それは肝細胞特有の現象ではありません。培地のglucose量を増やすとHeLaでもglycogen陽性になるというデータがあります。
[乾 ]PAS染色でみるには、0.5MのHClで加水分解してから染めるとよく染まります。
[加藤]Glycogenはembryonic epithelialを培養すると、どの組織でも出てきます。そしてprimaryのglycogen granuleが消えないと分化しませんね。
[難波]Chick embryo liverの場合は培養するとglycogenが急激に増えますね。
[堀川]それを継代するとどうなりますか。
[難波]消えてしまいます。

《佐藤報告》
 T-15) DAB発癌実験−復元実験−
 これ迄、in vitroで、くりかえしDAB処理の続けられて来た細胞が非処理細胞(コントロール)との間に、造腫瘍性の上で、何らかの差を見い出し得るか否かを検討した。実験はDAB処理細胞、非処理細胞の各々の100万個細胞/0.1ml/48hr以内newborn rat、を皮下移植し、移植後30日間を観察期間(予備実験より決定)とし、腫瘍の触診を行った。
 この結果は(図を呈示)、CD#3.C-1(コントロール)、CD#3.10(10μg/mlDAB処理細胞)、CD#3.40-1(40μg/mlDAB処理、細胞障害少なく)、CD#3.40-2(40μg/mlDAB処理、細胞障害大きく)。結果より、DAB処理群では、コントロールに比し、腫瘍発見迄の日数の短縮が明らかとなった。このことから、必ずしも速断は出来ないが、in vitroでのDAB処理は、本細胞の悪性化(増強)を十分、進め得るものと推定される。一方、DAB処理群の間ではCD#3.10とCD#3.40-2が類似したパターンをとり、CD#3.40-1との間でやや異なる様相を示しているが、この点に関しては現在検討中である。
 尚、復元実験は発癌実験開始後246日と264日の間で行われた。

 :質疑応答:
[黒木]Tumorを作るようになったのは培養何日目位からですか。
[常盤]250日です。
[堀川]DAB処理群はDABの結合蛋白に違いがあると考えているのですか。
[常盤]いいえ、違いはないのではないかと考えています。
[梅田]性質が変わるのは何時頃からですか。Saturation densityはどうですか。
[常盤]性質は150日位から変わります。増殖度やsaturation densityは変わりません。
[佐藤]DABの様に長期間の間に段階的に変化してゆくような発癌剤での、増殖誘導ということと、悪性化ということを別々に調べてみようとしています。

《乾報告》
 経胎盤In vivo-in vitro試験管内発癌(小括)
 昨晩春より手掛けて参りましたTransplacental in vivo-in vitro chemical carcinogenesisの仕事について、2、3の化学発癌物質(MNNG、DMBA、2FAA等)を除き一応一段階のスクリーニングを終わり、2月7日“癌の基礎的研究班”のシンポジュウムで話すことになりましたので、現在得ておりますDataを小括し、御批判していただきたいと思います。
 実験方法:
 実験方法は再三申し上げている通り妊娠11日のハムスター(純系、APG、雑系)母体にDMSO、Bp、3'm-DAB、DMN、DEN、NMU、4NQOおよびAF-2の8種の化学物質を20〜2000mg/kg腹腔内注射し、24あるいは48時間後胎児を培養し、その一部は24時間以内に染色体標本を作製、他の一部はそのまま培養を継続し、培養2、4、6代目の細胞をシャーレ一枚当り、1万個播種しTransformed Colonyの判定に使用した。一部の薬品を投与した動物の細胞については、ハムスターのチークポーチに200万個もどし移植をおこなって3週〜6ケ月間観察した。使用した化学物質の培養細胞染色体への直接の影響を観察する為、各物質を細胞が再増殖し得るminimum Dose(0.5〜1000μg/ml)3時間作用し、24時間以内に染色体標本を作製した。
 結果:
 培養後2、4、6代目の細胞をシャーレに播種後形成したTransformed Colony形成率およびシャーレ1ケ当りのTransformed Colony形成率(図を呈示)は、対照に使用したDMSO投与群ではTransformed Colonyはほとんど出現しなかった(シャーレ30枚中3ケ)。それに反し、Transplacental Carcinogenesisが動物実験で著明に知られているNMU投与群ではTransformed Colonyの出現率は高かった。DEN、DMN等in vitroで直接細胞に投与した場合Carcinogenesityの非常に弱い物質投与群においても同様の結果を得た。
 動物実験においてTransplacental Carcinogenesisが証明されていない3'm-DAB投与群において、早期に高頻度のTransformed Colonyが観察された。純系ハムスター(APG)を使用して行った実験のうち、DEN(4代)、NMU(4、6代)、Bp(8代)投与群の細胞をハムスターチークポーチにもどし移植した結果(200万個/Hamster)Bp投与群では、移植細胞は2週間以内に消失した。DEN投与群の一系列でも同様に消失したが、他の一系列では移植後18日、細胞の残存が認められた。NMU投与群(G-4)では、3匹中2匹のハムスターに小腫瘤が形成され、内1匹においては移植後3週間目に血管造成を伴う暗血色、米粒大の腫瘍が残存している。現在DEN、NMU、6代目(培養後23日)、Bp 11代目の細胞を移植観察中である。雑系ハムスターを使用した実験中、DMN、3'm-DAB投与群2代目の細胞を同様ハムスターに移植した各2系列中、各々1系列において移植後2週迄、DMN(1/3)、3'm-DAB(3/3)に腫瘤残存が観察されたが、移植後5カ月の現在腫瘤形成は認められない(移植Dataの詳細は次月報以降に報告の予定)。
 経胎盤的或いは直接細胞に前記化学物質を投与した場合の染色体切断を中心にした異常細胞の出現率をまとめた(表を呈示)。
 DMSO(500μg/kg)直接投与群の異常染色体をもつ細胞の出現率は3%、経胎盤(20mg/kg)投与群のそれは、6.5%であった。DMN、DEN、3'-DABを経胎盤、直接投与した群で出現する染色体異常をもつ細胞の出現率は低く、10%以下であった。
 経胎盤的にこれら物質を投与した場合の異常細胞の出現の頻度は直接投与群のそれに比して高く、特にDEN投与では経胎盤投与群11%、直接投与群3.4%とその差は著しかった。
 Bp投与群でも同様の傾向を示したが、異常細胞の出現率はいずれも30%以上であった。これに反し、NMU、4NQO、AF-2、投与群では直接投与群に現われる異常細胞の出現頻度は経胎盤投与群のそれに比して高かった。これら3化学物質投与群における異常染色体をもった細胞の出現頻度は著しく高く経胎盤投与で15〜23%、直接投与群で34.2〜55%であった。観察全染色体当りの異常染色体の出現頻度についてまとめた(図を呈示)。
 異常染色体の出現頻度はBp、3'm-DAB、DMN、DEN、投与群では直接投与群に比して経胎盤投与群で明らかに高かった。これに反しNMU、4NQO、AF-2、投与群の異常染色体は直接投与群に高頻度出現した。
 以上の結果を総括すると(図を呈示)、Transformed Colony形成率は、NMU、4NQO、に高く、DMN、DEN、3'm-DABがこれに次ぎ、Bp、AF-2、投与群で低かった。
 DMSOを経胎盤的に投与した場合、Transformed Colonyはほとんど出現しなかった。
 もどし移植の結果は、現在迄明らかでないが、純系ハムスターを使用したNMU作用群で培養後、13日目の細胞を移植した例において血管造成を伴う腫瘤が認められている。
 染色体異常はBp、3'm-DAB、DMN、DEN、投与群では経胎盤投与の場合高頻度に出現し、NMU、4NQO、AF-2、投与では直接投与群に高く現われた。以上の事実に基ずき、Bp、3'm-DAB、DMN、DEN、等の物質は母体において代謝活性化され経胎盤的に胎児細胞に作用すると考えたい。
 なお、移植実験結果、Transformed Colony出現率、染色体異常の型の詳細な結果は次号以下に報告したい。

 :質疑応答:
[難波]Bpはin vivoで24時間以内に活性化され代謝されるには時間が短すぎませんか。
[黒木]Inductionではないから、24時間で充分のはずです。
[堀川]染色体異常のデータはin vivo、in vitroを分けて纏めた方が判りよいですね。
[黒木]内容はin vitroとin vivoで違った点がありますか。
[乾 ]染色体型での変化とchromatid typeの変化という見方で違ってきます。
[堀川]そこはどう考えますか。
[乾 ]Activationを考えています。Placental barrierは無さそうです。
[堀川]Mutation frequencyをみたらどうですか。
[乾 ]それはぜひやってみたいと思っています。それか今回のは全胎児を使ってのデータですが、次には臓器別に培養してみたいと思っています。
[梅田]このシステムではこんなに高率に変異コロニーが出るのに、経胎盤的に発癌剤を与えても産ませて発癌率としてみると、ずっと低率で、しかもずっと日が経ってからしか掴まえられないのは何故でしょうか。
[堀川]In vivoでは免疫とかselectionがあるからでしょう。
[加藤]Teratogenesisはembryoのage-dependencyがあります。胎生17日まではin vitroに移してもteratogenesisが起こります。色んな日数の胎児を培養したものに発癌剤を処理した時の染色体変異と、経胎盤的に発癌剤を与えた胎児の培養の染色体変異との間に何か共通の傾向がありますか。
[乾 ]まだみていません。11日の胎児を使った理由は各organが出来る第1日目だとされているからです。
[佐藤]変異細胞の染色体は調べましたか。
[乾 ]まだです。
[黒木]In vitroとin vivoのdoseはどうやって決めたのですか。
[乾 ]In vivoでは24時間動物が死なずに耐えられる最高濃度を使うようにし、in vitroでは細胞が死滅せずに再増殖を起こすことの出来る最高濃度を使いました。
[黒木]そういう決め方でin vitroとin vivoの変化を対応させていいでしょうか。In vitroとin vivoの変異の違いがそういうdoseの違いから出るとも考えられませんか。
[乾 ]その点に問題は残っています。しかし、どういう決め方をするかという事は大変難しいですね。

《難波報告》
 9.ヒト正常2倍体細胞の4NQOによる発癌実験経過報告
 昨年、ヒト肝由来の細胞を4NQOで癌化することに成功したが、その結果を一層確実にするために追試実験を進めている。現在まだこの追試実験でヒト細胞の癌化には成功していないが、しかし4NQO処理細胞は癌化にかなり近づいているようなので経過中の実験結果について報告する。報告の内容は、細胞の形態、増殖、染色体についてである。
 1)細胞の形態
 現在使用している細胞は、6カ月のヒト胎児の肝および脳由来の線維芽様の形態を示す細胞である。肝由来の4NQO未処理の対照細胞は細胞に多数の顆粒が出現し変性死亡しつつあり、これはヒト培養細胞のAgingに特徴的な形態である。4NQO処理細胞は(写真を呈示)、このAgingの現象を示すことなく、増殖を続けている。しかしまだ癌細胞としての特徴的な形態を示していない。ヒト肝由来の線維芽細胞の4NQOで癌化した細胞の形態は、細胞の配列は乱れ、細胞は上皮様の形態を示し、多数の核小体が認められる。
 2)細胞の増殖
 肝由来の対照細胞は増殖が止っており、PhaseIIIに入っている。しかし、4NQO処理のものは目下順調に増殖を続けている。
 3)クロモゾームの変化
 ヒト肝及び脳由来の対照細胞と4NQO処理細胞との染色体分布を調べた(図を呈示)。
 肝からの4NQO処理細胞の染色体の分布にはそれほどの変化はおこっていない。
 脳由来の4NQO処理細胞の染色体の分布は、2nの山の低下がおきている。そして異常な核型も出現している。この核型は班会議でスライドで示す。

 :質疑応答:
[堀川]ヒトの細胞の悪性化の最終決定は何ですか。
[難波]ヌ−ドマウスの抗リンパ球血清で処理した動物への移植性で見る積もりです。
[佐藤]染色体数の少ない方への変異は問題があるかも知れません。DNA量としても少なくなっているという細胞系はありましたか。
[乾 ]人細胞系で1系ありましたが、染色体数の変化とDNA量の変化は平行しません。
[堀川]種が違ってさえDNA量は同じなのだという人もありますね。
[乾 ]1本少ないというような時は、核型も検討してみる必要がありますね。
[黒木]ビタミンEでlife spanが延びるという実験データの真偽はどうでしょう。
[難波]あまり信頼性がありません。
[佐藤]Agingの原因は今どう言われていますか。物質の欠乏ではないようですね。
[堀川]消耗説は否定されています。物質がdeficientになってagingになると考えると、細胞内に収まりきらない程の量を始に持っていなければならない計算になりますから。
[勝田]DNAの擦り切れ説とか、酵素活性の低下に伴うという説は残っていますね。しかし、もっと理想的に培地を改良すれば、agingもなくなると思いますがねえ。
[堀川]それはそうかも知れませんが、これはこれで良いシステムですよ。
[難波]現在の培地なら対照は必ずagingを起こすので実験群の変異がはっきりします。

《高木報告》
 1)DMAE-4HAQO注射ラットに生じた膵腫瘍
 生後4週のWistarラット16匹にDMAE-4HAQO 20mg/kg週1回計5回注射し、また生後3〜4週のSDラット19匹にも同様に注射して以後経過を観察していた。
 WKAについては20ケ月をへて生き残った4匹中3匹に膵腫瘍の発生をみた。他は経過中に死亡したり、採血中に死亡したりしたが、その中3匹の剖見所見は肺炎を思わせるもので、膵には特に変化は認められなかった。また17ケ月目に調べた6匹のラットの血糖値は3匹において低値がみられた。SDについては14ケ月後に10匹につき血糖値を測定したが80mg/dl以下の低血糖を示したものはなかった。現在5匹生存中である。
 WKAより摘出した腫瘍はラ氏島腺腫と考えられるが、大きさは3〜4mm径であった。1つの腫瘍につき7.9mg wet weightをmillipore filter上においてorgan cultureし、残りをModified Eagle's medium+20%FCS(glucose 300mg/dl)で培養した。
 Organ cultureでは1時間のpreincubation後glucose 100mg/dlおよび300mg/dl各1時間ずつ作用させて、その間の培地中のIRIを測定すると各々1200μu/mlおよび1530μu/mlがえられた。なおこのIRI測定のstandard curveの作製にはhuman insulinを用いており、ラットのinsulinを用いればさらに多量のinsulinの分泌が証明されたと考える。
 他の腫瘍についてはcollagenase処理により培養を試みたが、残念ながらラ氏島細胞の増殖はえられなかった。
 これらの腫瘍の電顕像ではB顆粒をもった細胞が多数みられ、ラ島細胞腫と思われた。
 幼若ラット膵ラ氏島細胞にin vitroでDMAE-4HAQOを作用させる実験を計画中である。
 2)培養細胞の免疫抗原性の解析
 培養内発癌実験においてtransformed cellの同定に免疫学的な手法を導入した実験系をつくる目的で基礎的条件の設定につとめている。
 培養内で細胞性免疫抗原性を認識させるには、リンパ球を少なくとも5〜8日間培養しなければならない。そのため種々の条件につき検討しているが、その間におけるリンパ球の反応性をみる示標としてPHAによるblastoid transformationを用い、H3-thymidneのとり込みを検討した。RPMI1640+10%FCSの培地でヒトリンパ球を培養し、これに48時間PHA 10μg/mlを作用させ、さらにこれにH3-thymidine1μCi/mlを24時間加えてそのとり込みをみると、対照に比し約20倍のとり込みがみられた。しかしラットリンパ球につき同一条件で検討したところ、対照に比し僅かな差異が認められたにすぎなかった。そこでヒトおよびラットリンパ球につきPHAの濃度による反応性を同様な実験系で検討した(表を呈示)。ヒトではPHA 10μg/mlでH3-thymidineのとり込みはplateauになるのに、ラットでは濃度とともに175μg/mlまで上昇した。すなわちラットリンパ球の反応性をPHAを用いてみる場合、ヒトリンパ球より高濃度を用いなければならないことが判った。さらに長期間良好な反応性を示す条件を検討中である。

 :質疑応答:
[難波]プラスチックシャーレの滅菌法によって細胞の増殖が違うというのは困ったことですね。X線滅菌というのも出ていますが、どうですか。
[高木]紫外線滅菌でなくては駄目だそうです。
[山だ]PHAでラッテの血球が反応しにくいというデータは私も持っています。あと腫瘍細胞とリンパ球との混合比とか、反応させてどの位の時間で測定するかとか、いろいろ気をつけてやらないと失敗しますよ。

《堀川報告》
 ヒト由来のHeLaS3細胞とマウス由来のL細胞に各種線量のUVを照射した際、(夫々に図を呈示)両細胞ともに線量に依存してDNA中にTTが誘起される。ところが例えば200ergs/平方mm照射されたHeLaS3をその後repair incubationすると、約50%のTTがDNAから除去されるが、マウスL細胞においてはこのようなexcision repairはまったく認められない。しかるにコロニー形成能による線量−生存率曲線を求めた両細胞間には感受性の差異は全く認められない。これは不思議なことである。TTのexcision repair能を欠くL細胞がHeLaS3細胞とUVに対する感受性を一にするにはマウスL細胞には何か秘めたるrepair機構をもつに違いないことを示唆している。この問題を解析しようとするのが本実験の趣旨である。
幸い、caffeineがこの方面の秘めたるrepair機構をblockすることが以前から知られているので、このcaffeineを使ってこの分野の検索を行うことにした。未照射の正常L細胞を各種濃度のcaffeineを含む培地中でコロニー形成させると、caffeineの高濃度のところでコロニー形成能は低下するが、低濃度域ではそれ程大きなeffectをうけない。一方、200ergs/平方mmのUV照射されたマウスL細胞を同様に各種濃度のcaffeine培地中で培養するとコロニー形成能は更に一段と低下する。こういった実験をマウスL細胞とHeLaS3細胞について行い、それぞれのpercent inhibitionを求めると、200ergs/平方mm照射されたマウスL細胞の生存率はHeLaS3細胞のそれに比べてcaffeineによりはるかに抑制されることがわかる。これを更に線量−生存率曲線を求めてconfirmしてみた。L細胞の生存率はcaffeineの濃度に依存して低下する。L細胞とHeLaS3細胞について行った実験結果をもとにcaffeine濃度に対してDo値の変化をプロットしてみると、これからも照射されたL細胞の生存率はcaffeineにより大きく影響されることが判った。(以下、次号)

 :質疑応答:
[勝田]ハイドロキシウレアそのものは紫外線で影響を受ける事はありませんか。
[堀川]ハイドロキシウレアという物は精製すると効果がなくなるとか、色々と問題もあります。紫外線照射で何か起こるということも考えられますね。
[黒木]ConservativeDNA replicationにカフェインが取り込まれるのは何故ですか。
[堀川]カフェインはプリンのanalogですから入るのかも知れません。結合しているかどうかは判りません。
[黒木]紫外線照射でカフェインの取込みが下がるのはDNA合成が下がった為ですか。
[堀川]そう考えています。DNAの取り方についてはもっと検討する必要があります。
[黒木]Bagで透析するとnonenzymaticにカフェインがくっついてしまうのでは・・・。
[堀川]カフェインはnonenzymaticにbindするという方が考え易いでしょう。
[黒木]酵素的にではなく入ったカフェインが再生に関係するというのは、一寸考えにくいのですが、どういうことでしょうか。
[二階堂]カフェインのinsertionはどうなっているのですか。
[堀川]全く判っていません。まき込みというような表現で詳しい説明を逃げています。
[黒木]BUdRはなぜdimerの所へ入るのですか。
[堀川]DNAに紫外線を照射してdimerを作り、新たなDNA合成を起こさせて、dimerの所へgapを作りBUdRを取り込ませるという訳です。

《梅田報告》
 前々回の班会議(月報7410)で報告した試験管内発癌実験のその後の実験と、前回の班会議(月報7412)で報告したin vitro metabolic activationの仕事について報告する。
 (I)マウス又はハムスター胎児細胞の継代数代目の細胞を1万個のオーダーで6cmのシャーレに接種し、1日後発癌剤を投与してさらに2日後正常培地に戻し、5〜6週間培地交新を続け培養することにより、悪性の形態のコロニーが出現することを報告した(月報7410)。その後数多くの実験を行ってみたが、結論はこの方法でもTransformation rate(morphological)は非常に悪いと云うことである。以下に夫々のデータを記す。
 (II)本方法は株細胞を作らなくてもいろいろのマウスの系統の細胞を得て試験管内発癌実験が出来る筈であり、そこが利点と思われたので、早速発癌性炭化水素により発癌率の高いと云われるC3Hマウスと、それの低いと云われているAKRマウスの胎児細胞を培養して実験を行った。(表を呈示)DDDマウスでは月報7410で報告したRaznikoff等のfocusの判定に従うとTypeII、IIIの悪性形態を示すfocusが出現しているにも拘らずC3Hマウスでは殆んどfocus出現が認められず、AKRマウスでは皆無であった。それは同じように1万個cells/dish接種して培養を始めたのであるがDDD、C3H、AKRの順に細胞増殖が悪くなり、後者では接種数が少なすぎたからである。しかしDDDマウスのデータにしてもシャーレ5枚を使っているのにTypeII+IIIのfocusの数が少なすぎる。
 (III)次にDDDマウス胎児細胞を用い細胞接種数の問題、継代数の関係を調べてみた(表を呈示)。2nd gen.で5万個、10万個cells/dish接種した場合は4NQO処理群、コントロール群で増生が良すぎる位なので培養の途中で血清濃度を2%に下げたものを作った。下げなかった培養では細胞はovergrowして一部はがれ始めたものがあった。しかし下げたものも結局は増生が途中で止ったようになりfocal growthは示さなかった。
 この実験でもII、IIIのタイプのfocus出現率は非常に悪く、しかもコントロールでも出現したものがあり、判定を困難にした。
 (IV)そこでもう1回始めに報告した条件(月報7410)でシャーレ数を多くして実験を繰り返してみた(表を呈示)。明らかに悪性とおもわれるfocusの出現はあるが率は低い。
 (V)一方で、以上の実験方法では悪性化する細胞の種類がわからないこと、又それ故悪性化し易い細胞を得れば悪性転換率も高くなる可能性を考え、その目的に合うか合わないかはわからないが、先ずハムスター新生児肺からの培養細胞を得て実験を行った(表を呈示)。この実験ではかなり高率にII、IIIのタイプのfocusが出現しているが、細胞層は赤染するfocusがnetworkを作り非常に見難い。特に2nd gen.で著しく、しかもtypeIIIのfocusまで出現している。しかし5th gen.でこの赤染するfocusは少くなり、typeII、IIIのfocusは見られなかった。
 (VI)以上形態的に見る限り、細胞はいろいろな様相を呈しており、判定を困難にするし、又悪性転換率が非常に小さく、問題は山積の感を深くしている。一方でやっとDDD、C3H、AKR胎児からの3T3継代の細胞が株化したようなので目下この細胞の性質調べ、クローニング、発癌実験をstartしている。
 (VII)前回の班会議で報告したDMNにliver microsomeを加えFM3A細胞と30分処理してFM3A細胞中の8AG耐性細胞出現度の上昇をみる実験のその後のデータを報告する。
 前回はexpression periodの必要性のデータを報告したが(月報7412)、もう一回繰り返し実験した所(表を呈示)、2日前後が適当であるとの結果を得た。
 (VIII)最近のMallingの報告(Mut.Res.1974)ではNADPHの量を減じても良いとされている。NADPHは高価な試薬故その濃度と反応の関係を調べた(図を呈示)。今迄の実験では3.6mM量を使っていた。調べた結果からみると、0.3mM以上ならば同じような効果を示すとの結論を得た。そこで以後の実験は経済的のことも考え、0.5mM NADPHを使うことに決めた。
 (IX)試験管内発癌実験でも気にしていることであるが、マウスの系統により発癌率の異る報告があり、これがenzyme levelで証明されることを期待して実験を行った。DDD、C3H、AKR各マウスの肝ホモジネートを用いてDMNの3濃度に対する突然変異惹起率をみた。DDD、C3Hマウスは殆んど同じ率のmutation frequencyを示したのに対し、AKRでは低率を示した。

 :質疑応答:
[堀川]マウスの年齢による違いはありませんか。
[梅田]今の所一定の年齢を使っていて、年齢を変えてのデータは持っていません。
[黒木]3T3継代の細胞のcontact inhibitionはどうですか。
[梅田]AKR系からの系はかかりますが、DDD系由来株はかかりません。
[堀川]AF-2ではどうですか。
[梅田]Mutationが起こります。Liver homogenateによるactivationもあります。

《黒木報告》
 1.10T1/2細胞及びそのクローンの形質転換
 10T1/2細胞を用いて化学物質による形質転換を試みてきたが、原株はその率が比較的低く、またcontrolにも形質転換がみられた(図を呈示)ので、クローン化を試みた。最初にひろったクローン4株のうち一つ(clone No.4)は非常に高い形質転換を示したが、不幸にも凍結の失敗により細胞が切れてしまった。このため新たに16ケのクローンについて形質転換を試みた。
 クローニング:10T1/2 Cl-8 継代10代の細胞をmicroplateにうえこみ、接触阻止現象に鋭敏なクローンをひろった。
 形質転換:5,000ケ/60mm dish/4mlにまき翌日、MCA 200μg/ml DMSO液を20μl添加した(最終濃度、MCA 1μg/ml、DMSO 0.5%)対照にはDMSO 20μl加えた。48時間後培地交換、以後週2回培地交換、6週後に固定染色した。実験、対照とも一群シャーレ8枚。形質転換はfociの形からII、IIIに分類した。
 結果:(図を呈示)検索した20クローンのうち7つのクローン(Cl-6、7、10、16、18、19、20)はMCA処理、対照ともに形質転換しなかった。しかし残りは、その率に大きな幅があるがMCAによって形質転換した。Cl-3、4(切れた)に次いでCl-13の形質転換率が高い(6.3foci/d)ので、今後このクローンを用いて実験をすすめたい。DMSO処理対照群の形質転換はCl-17、21にのみ認められた。なお20クローンの平均形質転換率は,MCA処理群で2.1 foci/dishで原株よりも2倍近く高い。DMSO処理群の平均は0.0285 foci/dで原株(0.6)の1/21である。
 2.培養肝細胞の発癌剤代謝能
 一昨年IARC滞在中に分離した肝細胞(IAR-20、及びそのpure clone PC-1、-2、-3及びIAR-22)を用いて、liver cell-mediated mutagenesis、carcinogenesisを行う目的でこれらの細胞のcharacterizationを行った。
 IAR-20:BD-IV rat生後10日肝よりトリプシン消化、Williams法を用いて分離した。PC-1、2、3はmicroplateで分離した。
 IAR-22:BD-IV rat生後8週間肝より分離。いずれも、Williams med.+10%FCSで培養。(10日おき1/10稀釋5日目に培地交換、トリプシン消化−rubber polishmenでは細胞が死んでしまう)
 染色体構成は(図を呈示)、IAR-20、PC-2、-3でdiploidであった。しかし、PC-1は低四倍体に、IAR-22は二倍体付近に幅広く広がっている。核型、bandingはまだみていない。(染色体分析は培養後約1年2ケ月内の時点で行った)
 (表を呈示)Aldolase isozyme patternはB型でない。FDP/FIP比は肝型に近いが肝型そのものではない。(表を呈示)この時の測定ではglucoki.が検出されたが、その後は出ない。glucoki.はsubstrateの濃度差から算出した(城西歯大・中村氏測定)。生化学的には肝型からの偏位している。branched chain a.a.transaminaseはIAR-20は胎児型、-22は癌型である。tyrosine transaminase(TAT)も、traceしかない。dexamethasoneで誘導されない。アルブミン合成もオクタロニーで検出できなかった。(図を呈示)branched chain a.a.transaminase(DEAEクロマト)はIAR-20、22ともII型(成熟肝型)はない。(表を呈示)dex.処理のとき15−16%にII型があるように書いてあるが有意でない(いずれも徳島大・市原氏測定)。II型をもっている培養肝細胞は、現在のところMorris肝癌7316Aのみである。しかし、それも長期間培養中に消失した(市原氏・私信)。
 そこで、この細胞の発癌剤代謝能を調べたところまだかなり保持していることが明らかになった。炭化水素系発癌剤代謝に関与する酵素としてはbenzpyrene hydroxylaseまたはaryl-hydrocarbon hydroxylase(AHH)が知られている。しかし、この酵素系は単一の酵素ではなく、mixed function oxidaseであり、おそらくhydroxylase(例えばepoxide hydroxylase)とcoupleしているものと思われる。AHHの測定法の代表的な方法はBPから3-hydroxy BPの形式をみるのであるが、重要なことは、この測定の産生物である3OHBPに発癌性の証明されていないことである。そこで、AHHの測定法としては、もっとも簡単なしかし、非常に多くの(その大部分は不明であるが)代謝過程を含んでいると思われる水溶性代謝産物への代謝能を用いた。
 <測定法>:Huberman,E et al Cancer Res.31,2161,1971. Diamond,L.:Int.J.Cancer 3,838,1968。(1)H3-MCA(Amersham、ベンゼン溶液を蒸発後DMSOに溶解し、500mCi1mmoleにadjust)を加える。0.25μCi/ml(500pmole)〜1.0μCi/ml(2,000pmole)に加える。DMSO最終濃度0.5%以下。(2)1〜3日後に培地0.2mlを短試にとる。細胞層を培地と等量の1%SDS(PBS)で溶解後、その0.2mlを同じ短試にとる。その一部(20μl)をとりradioactivity測定。(3)短試に3.6ml(9vol.)のクロロホルム/メタノール混合液(2:1)を加え、よく、かくはん後遠心、水層及びクロロホルム層の一部(100μl)をとり放射活性を測定する。
 radioactivityのrecoveryは100±5%に入る。
 (図を呈示)IAR-20、22ともに添加したMCAの30%を3日間に代謝する。(図を呈示)代謝能(%)と添加MCA量との間の関係、1,000pmole(0.268μg/ml)以上では、MCAは過剰になり、代謝産物量はplateauになる。(図を呈示)代謝効率と細胞数の間には直線関係が成立する。(表を呈示)FM3A細胞には代謝能がないので、IAR肝細胞mediated FM3A mutagenesisまたは10T1/2transformationのSystemを作ることが可能である。

 :質疑応答:
[堀川]肝細胞をfeeder layerにする時はX線などをかけて使うのですか。
[黒木]FM3Aと合わせて使う時は何も処理せずに、そのまま使おうと思っています。肝細胞はガラスによく張り付き、FM3Aは全く張り付かずに浮いて増殖する細胞ですから。
[堀川]3T3法で接触阻害のかかる細胞がとれるというのは、何か意味がありますか。
[黒木]Confluentになってから長くおくとovergrowthする細胞をselectする結果になるのではないでしょうか。3T3法ですとそういう状態にならずに継代する訳です。
[佐藤]私の経験では接種細胞数を大きくして継代するとmarker染色体が出て来ず、小さくするとspontaneousな悪性化が起き易いようです。一定の接種細胞数にしてあまり少なくならないようにして、きちんと継代するとかなりよく2倍体を保てます。
[黒木]肝細胞ではsaturationが低い時に継代する必要がありますか。
[佐藤]ある程度cell sheetが出来た時、倍位に薄めて継代すれば2倍体が保てます。

《野瀬報告》
 高張処理による細胞の変化
 細胞の表現形質を変化させる方法としては、変異剤が広く用いられるが、それ以外にも染色体構造にある種の変化を与えれば何らかの機能変化が起こるのではないかと考えている。そのため、細胞を高張処理をした時の生理条件をいろいろ検討してみた。
 用いた細胞は主にCHO-K1で、これに各濃度のurea、KCl、NaCl、sucroseなどを加え37℃で60min処理した後、trypsinizeしplating efficiencyを見た。KClの場合0.2〜0.3Mの間で細胞の生存率は急激に下り、ureaでは0.8〜0.9Mが生死の境になる。この傾向は再現性あり、CHO-K1以外でもJTC-16を用いても同様の傾向だった。NaClの効果はKClと同じだったが、sucroseは0.4〜0.5Mで致死的でureaよりやや毒性が強かった。
 これらの濃度の塩を含む培地の浸透圧は(表を呈示)最高1416mOsであった。大体800mOs程度まで上ると細胞は生存率がほとんど0となるが、この濃度は等張とくらべ2.5〜3倍であり、かなり高張の条件でも細胞は生存できることを示している。高張処理して、トリプシン処理をした細胞は、ureaの場合は細胞質が突出していたり、KClの場合は浮遊状態なのにfibroblasticになったりかなり形態が変化していた。
 コロニー形成で見た生存率は下ってもerythrosinBによる染色でみると(表を呈示)ほとんど変化がなく、染色によって生死を判別する方法はこの場合使えない。
 urea処理した細胞の増殖をみたところ、生存率が0になれば全く増殖はなかったので、細胞の分裂能は失われているといえる。しかし、処理直後のタンパク合成能は残っているので、生死判別の結果と考え合わせると、urea処理直後の細胞は分裂以外の生理機能はある程度残っていると考えられる。
 以上の高張処理が細胞機能にどんな影響を与えるか予備的に調べてみた。8-aza-guanine耐性の出現率には全く変化を与えなかった。またラッテ筋由来のfibroblastには多少形態的変化を与えたがあまり大きな変化とは言えない。今後更にいろいろの細胞を用いて機能変化の可能性を検討し、malignant transformationに結びつかないか調べてみたい。

 :質疑応答:
[梅田]UreaやKClを添加する時、培地そのものの塩は調整していますか。
[野瀬]培地は正常に調整して、物を添加しています。添加物0状態が等張です。
[佐藤]浸透圧は培養後に変化していませんか。
[高岡]殆ど変わりません。
[堀川]アルコールの影響なども調べて下さい。
[野瀬]今回の実験では高張から低張にもどす時のショックで死ぬようでした。戻し方を工夫すればもっと生存するのかも知れません。

【勝田班月報・7503】
《勝田報告》
 A)培養内発癌実験
 最近開発した新しい方法でラッテ肝の株がどんどん出来ているので、これらを使っての発癌実験をはじめている。発癌剤としては4NQOを用い1回処理で以後顕微鏡映画撮影で細胞の動態の変化を追うのと共に、その時期の生化学的変化をしらべることを目的としている。観察は処理後初期の2カ月間で、現在RLC-16株を用いて実験中であるが、RLC-18、-19、-20、-21も順次に使用する予定である。
 B)肝細胞株の道程
 上記のように続出してきた肝細胞株を肝細胞として同定する一端として、酵素活性及び形態の上から久米川君に、復元試験については東大病理の榊原君に協力してもらっている。後者はハムスターに抗リンパ球血清を接種して、細胞をポーチに入れるのであるが、その形成塊の組織像を3週間で見られるというのが利点である。
 C)ヒト末梢血の単球の培養
 ヒト末梢血から単球を主体とする分劃をとり出し、自家血清10%+DM-153の培地で培養しながら顕微鏡映画で追ってみると、1週間後頃より単球がしだいに肥大しはじめ、2週以後には巨大多核細胞となることが判った。単球は増殖しないが、少くとも3カ月間は生存していることも認められた。この巨大化、多核化がCell fusionによるものか分裂異常によるものかはまだ確認できないが、Cell fusionによるのではないかと想像される。それは、特殊な場合を除いてはH3-TdRのとり込みが見られないことと、多核でも核の大きさが皆揃っていて大小不同の無いことからである。特殊な場合というのは微生物感染ではないかと思われるが、大量にH3-TdRとり込みを見出したのである。この点については、いわゆるblast-formationとの関係について、今後さらに研究を続けるつもりである。

《高木報告》
 CytochalasinBの培養細胞に対する効果
 これまでCCBの培養細胞に及ぼす効果を観察していたが、多核の形成がDNA合成を伴ったものか否かをみるため、CCBを作用させると同時にH3-thymidineの取り込み、およびnetのDNA量の測定を試みた。H3-thymidineの取り込みは実験ではCCBが細胞膜に作用してthymi-dineの透過性を抑制する可能性が考えられるので、netのDNA測定実験を行ったが、2回の実験で成績の不一致をみたので、再度RFL-5細胞を用いて実験をくり返し、表の如き結果を得た(表を呈示)。この実験では対照の細胞の増殖はきわめて良好で、3日間に約32倍の増殖を示し、CCB処理細胞は1.8倍の増殖であった。対照の細胞あたりのDNA量が、培養日数とともにやや低下しているのは、培養初期ではexponentialな増殖を示すためS期の細胞が培養中に多く含まれているためと考えられる。表に示す如くCCB処理細胞では明らかにDNA量は多く、このことは多核の形成過程のどこかの段階までは、DNAの合成が行われていることを示唆するものと考える。

《堀川報告》
 UV照射されたマウス細胞の生存率は、Lcaffeineによって特異的に抑えられることを前報で報告した。こうしたcaffeineの作用が、DNAレベルではどの様な作用としてみられるかを検討するため、マウスL細胞およびHeLaS3細胞を1x10-6乗M FUdRと5x10-5乗M Uridineを含む培地中で16時間培養することによりpartiallyに同調した細胞を、200ergs/平方mmのUVを照射し、ついで45分間5μCi H3-TdR/mlを含む培地中で培養することによって、新しく合成された小新生DNAをラベルしてやる、(この場合、対照群の未照射細胞は15分間だけラベルしてやると同じ大きさの小新生DNAがつくられる)。ついでこれらの細胞を正常培養液に移して培養した場合、これら細胞内DNAの伸長がcaffeineの存在によってどのように影響をうけるかを、5〜20%アルカリ性蔗糖勾配遠心法で調べた結果が、図1および図2である(以下夫々図を呈示)。
 これらの図からわかるように、マウスL細胞、HeLaS3細胞ともに未照射細胞は勿論のこと照射された細胞でも正常培地中での培養によって新生DNAは伸長し、約6時間の培養で正常DNAの大きさに達する。正常細胞のDNAは2mM caffeineの存在中でも殆ど影響をうけることなくincubation timeとともに伸長するが、200ergs/平方mmUVで照射されたDNAの伸長は、caffeineの存在によって抑制される。これはマウスL細胞において特に顕著である。また、HeLaS3細胞のDNAの沈降像からわかるように、H3-TdR処理直後においてすでにbulk DNAの方に放射活性が認められるが、これは除去修復能をもつHeLaS3細胞ではrepair replicationによってH3-TdRをbulk DNA中にもとり込んだものと思われる。
 以上の結果、つまり図1、図2に描かれた沈降像をもとにしてWeight-average molecular weithtを計算してまとめたものが図3および図4である。これからわかるように照射されたマウスL細胞において新生された小DNA鎖の伸長はcaffeineの存在によって特異的に抑えられることがわかる。
 では、このようにUV照射されたマウスL細胞において作られた小新生DNA鎖の伸長が何故caffeineによってblockされるのかといった問題の解析が今後に残されている。

《山田報告》
 引続いて電顕的に培養ラット肝細胞の形態を検索した結果を報告します。
 今回はまずグリコーゲン顆粒の正常像を分析する意味でラット正常肝を検索した所、そのグリコーゲン顆粒は従来の文献にみられる様に、図1のごとき、きれいな星状の凝集像がみられました。(夫々電顕像を呈示)
 培養したラット肝正常細胞には、この様な典型的なグリコーゲン凝集像が殆んど消失して、微細な粒状になってしまう様です。従って光学顕微鏡下のグリコーゲン染色では陰性になるわけです。
 RLC-18(Embryo由来のラット正常肝細胞):
 グリコーゲン顆粒は極めて微細で、また細胞により、その出現の度合が極めてバラバラです。図2に示す様にある細胞では極めて密集してグリコーゲンがあるにかかわらず、他の細胞では極めて平等に分布する細胞があったりして、或いはmixed populationの度合いが著しいのかもしれません。通常の暗調なライソゾームが殆んどなく、その代りに大型な明調なライソゾームらしき物質が散在している。全体に相互の結合性が弱く、microvilliのある辺縁が多く、平滑なデスモゾームのある接触は極めて少いと思われます。
 RLC-21(Embryo由来ラット正常肝細胞)
 グリコーゲン顆粒が微細で極めて平等に分布し、RLC-18にみる様な密集はない。通常の暗調のライソゾームが若干みられる。平滑な接触面がRLC-18より多くみられるが、RLC-20(Newborn)程にはない。
 Embryoの二系の間には若干差があり、超微形態はどうもCase by Caseに異る様です。

《乾報告》
 経胎盤in vivo-in vitro chemical Carcinogenesis:
 先月の月報で、Transplacental in vivo-in vitro Chemical Carcinogenesisの総括的な結果を報告致しました。本号では使用した7種の癌原性物質投与によるColony Formation Rate、染色体分析のやや詳細なデータを報告します。
 1)経胎盤投与によるTransformal Colony形成率
 経胎盤的に癌原性物質を投与した胎児繊維芽細胞を培養後のColony形成率、TransphomedColony出現率及び、Transformed Colonyの細胞のハムスターへの移植実験の結果を表1〜3に示した。(表を呈示)
 経胎盤癌原性物質投与後の胎児細胞をシャーレ当り、1万個播種後のPlating Efficencyは、培養2代〜6代目で各代共略々1%内外であった。しかし、対照に使用したDMSO投与群では、培養7代目に0.02%と、著しく減少した。Bp投与群では実験に使用した2系列共Plating Efficiencyは他の物質投与群に比して明らかに低く0.3〜0.9%であった。
 Morphological Transformed Colonyの出現率は、対照のDMSO投与群では、1系列では0%、他の1系列で0.08、0.15%であった。Bp投与群の1系列では、培養2、4代で、Transformed Colonyは出現しなかったが、他の1系列では1%以上のTransformed Colonyが出現した。表1〜3であきらかな様に、経胎盤で胎児に癌原性物質を投与後の培養胎児繊維芽細胞におけるTransformed Colonyの出現はNMU、4NQO投与群に高くBp、AF-2投与群で低かった。Trans-formed Colonyの細胞を200万個ハムスターを使用したDMN、3'm-DAB投与群では移植後2週間迄DMN投与群で1系、3'm-DAB投与群で1系で、移植細胞が残存したが、その後消出した。各群の他の1系では細胞の増殖はみられなかった。純系ハムスターAPG使用群では、Bp投与群で移植マイナス、NMU、DEN投与群で血管造成をともなう小豆大の腫瘤が残存している。
 2)染色体分布
 培養細胞に直接最大量癌原性物質を投与した場合と経胎盤的に物質を投与した時、出現する染色体異常を表4、5に示した。表4で明らかな如く、使用した物質中、NMU、4NQO、AF-2投与群で染色体異常に高頻度に表われ、Bpでは中等度、3'm-DAB、DMN、DEN投与群では低かった。NMU、4NQO、AF-2投与では直接投与群の染色体異常が経胎盤投与に比して高く、Bp投与群では略々同定度、DMN、DEN、3'm-DAB等体内代謝を受け始めて活性化される物質では、経胎盤投与群で、直接投与に比して、著明な染色体切断が観察された。表5にこれら癌原性物質投与で出現した染色体異常の型の解析の結果を示した。NMU、4NQO、AF-2投与群では直接投与では、染色体型異常が多く、経胎盤投与では、染色体型異常が著明に出現した。
 他方、3'-DAB投与では、直接、経胎盤投与共、染色体型異常が多く、DMN、DEN投与では、経胎盤投与で、染色体分体型異常が高頻度出現した。
 今後Non-Carcinogenic hydrocarbone、アミン類の経胎盤試験管内発癌実験を加えたい。

《難波報告》
 10.ヒト正常2倍体細胞の癌化:変異コロニーの検討
 昨年以来、ヒト細胞の化学発癌剤を使用して発癌実験を続けているが、しかしまだ発癌に成功していない。
 今回は4NQOを処理したヒト胎児肝由来の繊維芽細胞で10-6M 4NQOを間歇的に25回処理し、133日培養、15th PDLのものを20万個/60mmシャーレ6枚にまき、以後、週2回培地更新し、3枚のシャーレは40日後、残り3枚は47日後、ギムザ染色して調べたが変異コロニーは見い出せなかった。また、この段階でクロモゾームの変化もなかった。
このことは、以上の4NQO処理では120万個cellの中1コの癌化細胞も、まだ出現していないようでヒト細胞の癌化のむつかしさを痛感する。
 11.ヒト細胞の癌化に有効な化学発癌剤の検討
 癌化が細胞のDNAレベルでおこると仮定すれば、化学発癌剤はDNAに何んらかの障害を与えているであろうし、その結果、DNAの修復がおこっているであろう。従って、修復の大きいほど化学発癌剤はDNAによく効いていることになる。
 いま、Autoradiographyで修復を調べた結果は図1の通りで4NQO処理の細胞が最も高い修復を示している。この実験条件は細胞はWI-38を使用し、2.6mM Hydroxyurea(HU)、4.8hr→10-5乗M Chemicals1hr→5μCi/ml H3-TdR 1/2hr処理で標本を作製した。(実験方法は月報7412に参照)(図表を夫々呈示)
 Killing effectをだいたい同じにした薬剤濃度、即ち10-5乗M BP、10-6乗M NG、10-6乗M 10-7乗M 4NQOで、Autoradiographyを行ったところ、ラベルされた細胞/数えた細胞は、BP 1/1000、NG 2/500、10-6M 4NQO 1/500、10-7M 4NQO 0/500であった。この実験では実験の何処かにミスがあるようで、ラベルされた細胞が少ないのでもう一度繰り返す予定である。
 上のAutoradiographyの結果を液シンで検討した。
 実験1.細胞は培養された単球性白血病細胞(ヒト由来)。2.6mM HU1hr→10-5乗M Che-micals 1/2hr→1uCi/ml H3-TdR 1/2hrでH3-TdRの取り込みをみると、表1のごとく、4NQOでH3-TdRのとり込みが一番高い。(HUは発癌剤及びH3-TdR処理中も常に投与している。)
実験2.は実験1と同じ細胞を使用。2.6mM HU 12hr→10-5乗M Chemicals 1/2hr→1uCi/ml H3-TdR1hrで行った。結果は表2の通りで、この実験でも4NQO処理の細胞が一番高い修復を示している。

《梅田報告》
 月報7411に次いでFM3A細胞を用いて8AG耐性出現率でみるfowerd mutationの系を使ったその後のデータを報告する。
 (1)各種物質について試みているが、Mycotoxinのデータを表に示す。OchratoxinAは肝障害を起す事が知られているが発癌性は証明されていない。Penicillic acid、patulinは共にalkylationの作用があると云われ、皮下投与での肉腫形成が報告されている。Myco-phenolic acidは、IMPからCMPの合成を阻害する物質でguanine投与でrecoverする。一時、antiviral agent或はantitumor agentとしての可能性が考えられ研究されたが、結局は実用にいたらなかったようである。(表を呈示)
 (2)表でみるごとく、OchratoxinAでは増殖阻害を起す濃度で調べて突然変異率は上昇しなかった。Penicillic acid、Patulinは、共に軽い上昇が認められるようである。Myco-phenolic acidに関しては、非常に強い突然変異が誘導されたことになる。この結果からするとmycophenolic acidに関しては、単なるIMP→GMP阻害としての代謝阻害以上の作用が細胞に働いていることを示唆していると思われる。
 突然変異が誘導されたものも、されなかったものも、更にin vitro metablic activationを使っての突然変異率を検討する予定である。
(3)以上のような実験にしろ、更にin vitro metabolic activationの実験にしろ、バクテリアの系では良く報告されている事柄である。そして、突然変異のassayとしてはバクテリアの方がより手早く、経済的である。すなわち、多数の物質について突然変異性を調べるような場合、その有用性は覆うべくもない。勿論、バクテリアと哺乳動物細胞では細胞構築、代謝が異るからバクテリアで証明されたことを哺乳動物細胞の系で証明しても、それだけでも意義はあるが、このような実験に携わる者として、哺乳動物細胞を使った故に判明するような、もっと大きな利点があればと思っている。これからはそのような方向も模索しながら実験を進めていきたいと思っている。

《黒木報告》
 10T1/2細胞の各クローンについてMCA代謝能を調べた(表を呈示)。
この結果から次の二つがかわった。 (1)10T1/2は株化fibroblastであるにも拘わらずMCA代謝能が非常に高い。(2)clone間に代謝能の差がない。従ってclone間のtransformabilityの差を代謝の差で説明することは出来ない。

《野瀬報告》
 Alkaline phosphatase(ALP)誘導のまとめ
 これまで、ラッテ肝由来細胞JTC-25・P5のALP活性をcAMPによって誘導する現象をいろいろな面から解析してきたが、活性上昇が酵素蛋白の新生によるのか、又は不活性酵素の活性化によるのかは不明であった。この点を明らかにするため、ALPに対する抗血清を用いて検討した。
 But2cAMP処理してALP活性の上昇したJTC-25・P5細胞を大量培養により約12g集め、この細胞からn-ブタノール抽出、Sephadex G-200によってALPを部分精製した。これを抗体として、Freund's complete adjuvantと共に、ウサギに6回注射して抗血清を得た。得られた抗血清は、ラッテ各臓器のALPのうち、liver、kidney、boneのALP活性を中和するが、intestineのALPは全く中和しなかった。従ってJTC-25・P5細胞の発現するALPは、intestineの酵素とは抗原性が異なり、liverなどに存在するALPと、類似のものであると結論できる。この結論は月報No.7411に報告したALPの阻害剤に対する感受性の差と一致する。
次に、誘導をかけていないJTC-25・P5細胞中に、ALP活性の中和を阻害する物質があるかどうか検討した。もしALP-活性のないJTC-25・P5細胞が、ALP抗体と交差する物質を持たなければ、誘導によっれALP活性の増加するのは、de nvo酵素合成により、逆に交差する物質があれば、この物質がALP酵素蛋白の前駆体であると推定できる。
実際の実験では、JTC-25・P5のクローンのうち、誘導性のCl-1と、非誘導性のCl-2とを用いた。各細胞から、n-ブタノール抽出液を作り、これを、誘導して出てきたALPと混合して、抗ALP抗体と反応させ、遠心して沈降物を除いた後、上清のALP活性を測定した。
 (図を呈示)結果は図1に示すように、誘導していないCl-1細胞内には抗ALP血清と交差する物質があり、Cl-2細胞にはなかった。このことから、cAMPは細胞内にすでに存在する不活性のALP蛋白を活性化することによってALP誘導をおこすと結論できる。細胞の機能の発現機構として、このような現象は非常に興味ありALP以外の機能の発現にも同様な機構が働いていると思われる。図2はラッテ腎のALPに対する抗血清の効果であるが、やはりintestineのALPは抗原性が異なっていることがわかる。
 ALP-活性に関する変異株を分離し、そのALPの酵素的性質は、小腸のALPとは異なっていて、肝、腎、骨のALPと類似していた。誘導されたALPにも、このような臓器特異性が見られることは、ALPの誘導という現象が、分化機能発現の一つと考えられると思われる。その発現機構として、予め不活性型として存在する酵素の前駆体が活性化すること、および、新たな蛋白合成によらないとうことは興味ある現象である。
 以上3年間にわたって、培養細胞の酵素(特にALP)の調節機構を研究してきたが、癌と直接結びつかなかったことを申し訳けなく思っています。酵素の発現機構の解析が、いつか、細胞の癌化過程の解析にも示唆を与えるようになることを期待しています。

【勝田班月報・7504】
《勝田報告》
 ラッテ肝細胞(RLC-10(2)株)に対するスペルミンの影響
 [10%Fetal calf serum+Lactalbumin hydrolysate(0.4%)+SalineD]の培地でRLC-10(2)は継代されているが、継代後1日間この培地で培養した後、血清を含まぬ合成培地[80%DM-145+20%PBS]にきりかえる。このときPBSの中にスペルミンを加えておくと、1.95μg/ml、3.9μg/mlのスペルミンで、培養1日以内に強い致死的な細胞障害が起る。このとき、培養前にスペルミンを前処理し、その毒性を弱めることを試みた。
 スペルミン1.95μg/mlに各種物質を添加し、37℃、24時間加温した後、上記の培養法で用いてみた結果は次の通りである。(表を呈示)。数値はスペルミン無添加群の1日間の増殖率に対する実験群の増殖率の%である。(但し各対照群には添加物質は同濃度に加えた。)
 これらの内でスペルミン毒性に対する緩和効果を最高に示したのは、Bovine albumin、FractionVであった。Chondroitin sulfateもやや効果があったので、濃度を2mg/mlに上げてみたところ、沈澱が生じて計数できず失敗。Tween80も試みたが、Tween80のみの添加群が全滅し、これも失敗した。

《高木報告》
 CytochalasinBの培養細胞に対する効果
 CCBによる培養細胞の多核形成がDNA合成を伴ったものであるか否かをみるため、先の月報では増殖能がつよく可移植性もあり、また2核以上の多核を形成するRFL-5細胞について検討した。今回は同じくラット肺由来であるが、増殖能が悪くCCBにより2核形成に止まるRFL-6細胞につき観察した。この細胞の増殖能は3日間で約5.3倍であり、CCBで処理した場合1.4倍を示した。用いた濃度は2.5μg/mlである。結果を表示すると、次の通りになる(表を呈示)。
 無処理対照細胞、CCB処理細胞ともに培養につれて細胞あたりのDNA量は減少の傾向を示したが、全体として両者を比較するとCCB処理細胞の方が対照細胞より細胞あたりのDNA含量は多く、このことは2核細胞の形成がDNA合成を伴っていることを示した。
 ラットリンパ球培養の基礎的条件の検討
 ラットの脾よりあつめたリンパ球につき無蛋白培地および1640+10%FCS培地でFCSのlotの違いによるPHAに対する反応性の相違をみている。

《乾報告》
 4月号の月報を提出すると云うことは、向う三年間“組織培養による発癌機構の研究”と云う班で、勝田先生を中心として、諸先生方と御一緒に、仕事をして行く事が出来ると云う解釈を致し大変うれしく存じております。
 2月末より3月一杯、期限付の毒性検定が15検体程まいりまして、基礎の仕事は細胞を維持するのがやっとで、又々業務研究所の悲しさをいやと云う程、味あわされました。その様な理由で本月は御報告するデータがありませんが、現在公社で開発中の紙パルプを素材とした未来の“たばこ"の原料の主物毒性についてふれてみます。
 現在、製品として使用されている“たばこ"の原料としては、ヴァージニア黄色種(BY)、バーレー種を中心に、たばこの葉脈、細蓋等を粉細して、シート工法で再生したシートタバコ(Sh)等ですが、これを対照として、ハムスター細胞に対する合成タバコ原料を検定しますと表の如くです(表を呈示)。
 同時に行なったSalmonellaのTA1538株を使用した遺伝毒性を0.5mg/dish投与でBYに対し人工原料は3倍のMutantを出現させます。

《山田報告》
 RLC-19株細胞のEM像
 Adult rat liverより培養したRLC-19株を電顕的に検査しました。他の株と比較すると、やはりadult rat liver由来のRLC-16に似ていますが、よりSmooth contactが多く、非凝集性のグリコーゲン顆粒が若干多い様です。しかしembryo又はnew-born由来の肝細胞よりは少いと思われます。この株では、暗調のlysosomeが稀に発見され、mitochondriaのCristaeがはっきりして居ます。またGolgi bodyが、他の検索したすべての細胞系より、よく発達して居ました。
 正常肝由来細胞の検索はこの位にして、4NQOによる癌化株及び、腹水肝癌培養株を検索して比較したいと思って居ます。

《堀川報告》
 前報では、紫外線照射されたマウスL細胞において作られる小新生DNAの伸長がCaffeineによってblockされることを報告した。このようにみると、Caffeineはどのような機作で新生されたDNAの伸長を阻害するかということが問題になってくる。可能性としては、(1)親DNA鎖中に誘起されたTTにCaffeineは結合することによりgap fillingを阻害する。(2)新しく作られたDNAの伸長部位にCaffeineは結合して伸長を阻害する。(3)修復DNA-polymeraseを始めとした修復に関するenzymesの活性をCaffeineは阻害する、等々が考えられよう。これらのうち、まず(1)の可能性を検討するため、各種線量のUVを照射されたL細胞を5μCi H3-Caffeine/mlを含む培養液中で培養し、その都度Marmur(1961)法でDNAを抽出し、affeineの結合量を調べた。結果は(夫々図を呈示)図1に示すごとく、予想に反して高線量照射された細胞のDNAほどCaffeineの結合は少く、semi-conservativeにDNA複製を行っている未照射細胞内DNAと積極的に結合することがわかる。これでは、TTの誘起されたDNAとCaffeineの結合を正確に把握することが出来ないため、あらかじめ3x10-3M hydroxyrureaで150分間前処理することにより、semiconservative DNA合成を完全に止めた状態のL細胞に各種線量のUVを照射し、その後、hydroxyurea存在下で5μgCi H3-Caffeine/mlを含む培養液中で各種時間培養した際のマウスL細胞内DNAと結合するCaffeine量を調べた。結果は、図2に示すごとくCaffeineはTTの誘起されたDNAとは勿論のこと、semi-conservative DNA合成を止められた未照射細胞DNAとも結合しないで、UV照射後5時間目に培養液からhydroxyureaを除去すると未照射細胞のDNAと再度活発に結合することがわかる。
 図3は、hydroxyureaで150分間前処理したL細胞を、更に高線量のUVで照射し、それらをhydroxyurea存在下で、50μgCi H3-Caffeine/mlを含む培養液中で、それぞれ3時間培養した際のDNAと結合するCaffeine量を調べた結果である。この場合にも、照射線量に依存したCaffeineの結合量の有意な増加は認められない。以上の結果はCaffeineはsemi-conserva-tiveに合成されているDNAとは積極的に結合するか、あるいはその中に取り込まれるようであるが、TTの誘起されたDNA鎖とは活発に結合しないことを物語っているようである。しかし、DNA抽出法としてのMarmur法では結合が切れるような弱い結合である可能性もあるであろうし、確かなことは更に今後の研究に待たなければならない。例えば、平衡透析法によってDomonら(1970)はUV照射されたDNAにCaffeineは結合する可能性のあることを示唆する結果を得ているので、この点は将来更に慎重に検討する必要があるようである。

《梅田報告》
 各種物質についてその後出た突然変異性の実験結果を報告する。今迄と同じようにFM3A細胞の8AG耐性獲得の突然変異を指標とした。
 (1)4NQO、4HAQOについては非常に高い突然変異性が認められる。有機水銀剤のmethylmercuric chloride(MMC)は突然変異を惹起しないと結論して良さそうである。
 (2)大気汚染物質であるSO2、NOの塩NaSO3、NaNO2、更にAcroleinについて調べた。Na2-SO3はSO3イオンのラジカル反応が知られ、DNAと結合するとされている。我々のデータでは突然変異は起さないと結論される。NaNO2はバクテリアの突然変異の系では、有名な突然変異原であるが発癌性の証明されていない物質である。我々の今回の哺乳動物細胞を用いた系でも突然変異性が認められた。Acroleinは光化学公害の原因の一つと考えられているが、生体では中間代謝産物として肝で生成されているもののようである。バクテリアの系では突然変異原として報告されている。本実験のデータでは突然変異性が殆んど認められないと結論出来る。さらにrepeatして確かめる予定である。
 (3)3,4 benzpyreneについてのデータは濃度しか調べてないが突然変異性があるようである。FM3A細胞が悪性細胞であるのにAHHを持っているとすると興味があるので、さらに確かめたいと思っている。(表を呈示)。

《難波報告》
 12:ヒト細胞の癌化に伴う形態的変化:繊維芽細胞→上皮性細胞への変化
 ヒト細胞を確実に培養内で癌化させることが出来るものは、SV40のみであり、SV40での癌化の報告は、いずれもSV40処理前の細胞は繊維芽細胞様の形態を示すが、癌化すると上皮様の形態を示す細胞に変化している。この事実より、ヒト細胞の癌化の指標の一つとして、繊維芽様細胞から→上皮性細胞への変化が重要なことと考えられている。
 ヒト以外の動物の繊維芽細胞を使っての発癌実験では癌化に伴う細胞の形態的変化で上皮性細胞への変化はあまりない。私が以前使用したラット肺、胎児由来の繊維芽細胞は癌化後も繊維芽様形態を持っていたので、ヒト由来の繊維芽細胞の癌化を試み始めたとき、癌化後も繊維芽細胞様の形態を維持するだろうと予想していた。Dr.Hayflickは、細胞が上皮性に変化すれば癌化だとよく話していたので、繊維芽細胞が上皮性に変わるのは細胞(しばしばHeLa)のコンタミではと私は考えていた。
 ヒト肝由来の繊維芽様形態を示す細胞を4NQOで処理いて癌化した細胞の形態的変化を考えると、1)繊維芽様細胞:実験開始時及び対照細胞。2)繊維芽様細胞と上皮性細胞の中間的性格:癌化を確認した時点癌化の確認は、(1)Agingそ示さない、(2)クロモゾームの異数性、(3)動物への可移植性。3)より上皮性細胞に近ずく(HeLaに似る):癌化してから培養を続けると(100代以後)。3段階の変化を示している。このことは発癌の段階で細胞はやや上皮性のものに近ずくが、その後培養を続けると徐々に上皮性の方向に変化してゆくことを示している。そして癌化した時点でのEMでは、グリコーゲン顆粒など認められなかったのに(写真を呈示)、現在では胞体内に多数のグリコーゲン顆粒を認める。細胞は癌化によって分化したのであろうか?
 とにかく繊維芽様細胞→上皮性細胞への変化はヒト細胞の癌化の指標に重要であるのみならず、細胞の分化機能の発現の上でも重大な変化がおこっているようなので、癌化の初期の細胞を凍結からもどし、クローニングとグリコーゲン合成能やその他の分化機能の検索も行なってこの変化をより詳しく解析しようと考えている。
 13:発癌実験の続き
 現在、次の4系を4NQOで処理して発癌実験を試みているが、しかしまだ癌化に成功していない。1)ヒト胎児由来肝よりの細胞:形態は繊維芽、培養日数215日。2)ヒト成人肝よりの細胞:形態は繊維芽細胞と上皮細胞との中間、培養日数76日。3)ヒト成人腎よりの細胞:形態は繊維芽細胞と上皮細胞との中間、培養日数34日。 4)ヒト胎児脳よりの細胞:形態は繊維芽細胞、培養日数215日。

《野瀬報告》
 Rat Serum Albuminの精製
 培養細胞の生化学的マーカーとして、これまでもっぱらアルカリフォスファターゼを調べてきたが、一つだけではあまり発展性がないので、これ以外にアルブミンを取り上げてみた。勝田班においては多くの肝由来培養株が樹立されているので、アルブミン産生能を肝細胞の特異機能としてそれぞれの株で比較するのは意義あることであろう。また、特異蛋白質がin vitroの細胞でどのように生合成されるかという問題は生化学的にも非常に興味のある問題で、今迄の酵素誘導、酵素活性変異などの仕事の延長としても、適当と思われる。この仕事が直接癌の問題と結びつくとは考えられないが、発癌過程の分子機構を考える上に、何らかのヒントになれば幸いと考えています。
 アルブミンは酵素活性などを持たないので、その定量はどうしても免疫学的手段を用いなければならない。そこでまず、純粋なアルブミンを調製することを試みた。市販のRat Serum albuminのFraction VはSDS-ポリアクリルアミドゲルの電気泳動で見ると図1のNo.1のように少なくとも4種類の蛋白質が混在し、かなり不純である。(以下図表を呈示)。このFraction Vを出発材料として、以下の方法で純粋なアルブミンを調製した。(Taylor & Schimke 1973)。Franction Vのアルブミンを10mg/mlになるように0.15M NaClに溶かし、硫安50%飽和にする。できた沈澱は、主にグロブリンで、捨て、上清に酢酸を加えてpH 5.0にするとアルブミンが沈澱してくる。この沈澱を、0.01M Tris、pH 7.4;0.15M NaClにとかしてSephadex G-100のカラムにかけてゲル濾過を行なうと、2つのピークに分れる。低分子のピークがアルブミンで、このピークを集め、3%TCAにしてから4M NaClを加えてアルブミンを沈澱させる。できた沈澱は、5M ureaに溶かし、一度変性させてから、0.03M Tris pH 7.4に対して透析し、DEAE-celluloseのカラムにかけて塩濃度をかえて溶出し、アルブミンのピークを集める。これを濃縮してSDS-ゲル電気泳動で調べると図1のNo.4のようになった。かなり不純物が除かれているが、まだ不純物が存在する。更にもう1回、G-100でゲル濾過したものが図1のNo.5で、ほぼ純粋なアルブミンになっていることがわかる。300mgのFraction Vを用いて最終的に75mgのアルブミンが得られた。
 Radioimmunoassayには、標識したアルブミンが必要なので、H3-ラベルしたアルブミンを次に調製した。約200gのラッテの尾静脈にH3-ロイシン2.0mCiを注入し3時間後に全採血し血清を作る。これを50%飽和の硫安にして上清から先の方法でアルブミンを調製した。図2はG-100の抽出パターンで、(a)が1回目、(b)が3回目である。(b)のピーク標品は、SDSゲルで単一蛋白であった。この方法で、4.0x10の4乗cpm/mg proteinの標識されたアルブミンが得られた。

《久米川報告》
 Morris hepatoma 7316Aの分化度:Pyruvate Kinase Isozymeを中心にして
 肝臓の分化した機能を示すL-type pyruvate kinase(PK)isozymeを、肝臓の分化度を示す指標として、Morris hepatoma 7316Aがどの程度の分化レベルに位置づけられるかを、吉田腹水肝ガンの一種であるAH66やRhodamine sarcomaなどのisozyme patternを比較し検討した。またこの7316Aを単層培養条件下に移した場合、PKに如何なる変化が起きるか調べた。
(各々表、写真を呈示)。解糖系の酵素は表1に示すように、いずれもガン細胞の増殖度の速いほど高い活性を示す。他方、一般にガン化によって肝臓のhexokinase(HK)とglucoki-nase(GK)に起こる変化は、“GKの低下ないし消失とHKの増加”と要約されている。Morris hepatoma中最も増殖の遅いhighly-differentiatedな7794AにはGK活性が認められる。しかしMorris hepatoma中で中程度の増殖速度を持つ7316AにはもはやGK活性が認められない。しかし、7794Aおよび7316Aの電顕像はいずれも著しく正常肝細胞に類似している。
 Morris hepatoma 7316AのPK isozyme patternは、表2に示すように。正常ラット肝臓のpatternと類似している。このうちPI 7.4のM-type PKの比率が高くなっているが、これは筋肉中に移植されるため、摘出したガン組織中に含まれるわずかの筋肉に基づく活性である(位相差顕微鏡により確認)。この点を考慮すると7316Aのisozyme patternは正常ラット肝臓とほぼ同様であると考えられる。したがってPK isozyme patternから推察する限り、Morris hepatoma 7316Aは正常肝臓に近い分化レベルにある。他方、吉田腹水肝ガンの一種であるAH66はPI 7.8のK-type PKをmainに含んでおり、分化型のL-type PKを全く含んでおらず大変低い分化レベルにある。
 7316Aを2週間単層培養すると、2種類の形態的に異なる細胞集団が得られた。1つは繊維芽細胞のみからなるシャーレと、もう1つは繊維芽細胞中に島状に上皮細胞(肝ガン実質細胞)が混合した状態のシャーレである。表2で示すように、前者は、すべてK-type PKからなり、後者は、もとの7316Aと同様L-type PKをmainとするisozyme patternを持っている。繊維芽細胞のみからなる前者の結果は、7316A中の結合組織由来の繊維芽細胞のみが単層培養下でSelectionされたためであると考えられる。後者はin vivoに比べ繊維芽細胞の割合が単層培養下で約2倍程度に増し、その結果、K-type PKの割合も12%から23%に増加している。しかし全体として肝ガン実質細胞に基づくと考えられるL-type PKがmainであり、もとの7316Aとほぼ同様なpatternを示す。したがって、7316Aのガン実質細胞は初代単層培養によって短期間は脱分化せずもとのPK isozyme patternを維持していると考えられる。
 
 2.Roseの培養法による肝由来細胞の培養
 Roseの還流培養法は生体内特性を維持したまま胎児組織を長期間培養できる。また、この系においては株細胞はその増殖が抑制され、しかもdramaticな形態的変化を示す。したがって今後、肝由来細胞をこの系に移し、単層培養下の細胞と形態的(電子顕微鏡)、機能的(酵素活性、Albumin合成能)に比較検討してみたい。

【勝田班月報・7505】
《勝田報告》
 ラッテ肝細胞(RLC-10(2)株)に対するスペルミンの影響(続):
 前月号にスペルミンの細胞毒性を弱めるのに、Bovine fraction Vの有効性について書いたが、今月はその続きである。
 1)スペルミン3.9μg/mlにfraction Vを添加して、37℃で何時間加温すると毒性を弱める効果が出てくるか(表を呈示)。
 数値は先月号と同様、スペルミン無添加の増殖率に対する実験群の増殖率の%を示す。即ち、8hrでは未だ毒性をごく僅かしか弱めないが、24hrではかなり効果があった。今后、8hrと24hrとの間をしらべる予定である。
 2)Fraction Vを前処理してから、スペルミン3.9μg/mlと混合した場合(表を呈示)。
(処理したfraction Vとスペルミンとの混合後の加温時間は24hr)
 アルブミンのスペルミン毒性を弱める効果は、60℃、30分加温では全く失われず、100℃2分(ほとんど固型状に変性)でも完全には失活しない。トリプシン消化では、過熱変性化の場合より失活、37℃2hr加温したトリプシンは単独で培地に添加しても増殖に影響しない。37℃、2hr加温したトリプシンをスペルミン3.9μg/mlと混合し、37℃、24hr加温するとスペルミンの毒性は弱められた。

《高木報告》
 今回は発癌とは直接関係ないが、免疫学的アプローチに習熟する意味から、ピリン過敏症の患者の皮膚生検材料からえられたfibroblastの培養を応用したin vitroの抗原検出法につきpilot experimentを報告したい。
患者皮膚よりえたfibroblastはMEM+10%FCSで約3ケ月培養したものを用いた。3万個/tubeを植込み同時にMMC 10μg/ml加えて24時間作用させた。24時間後培地を交換するとともにlymphoprepにより分離したlymphocyteを120万個/tube植込み、同時に薬剤を加えて培養をつづけた。4日後にH3-TdR 0.5μCi/mlを加えて48時間labelし、5%TCAを加えて遠心法で3回洗い、その沈渣をscintillation vialに移してcountした。なお培地は1640+20%FCSとし、培養tubeとしては平底短試験管を用いた。
ピリン過敏症患者についてえた結果は次の通りであった。
 アミノピリン+患者Fibroblst+患者lymphocyte(表を呈示)
 表で、Aminopyrin(-)でもlymphocyteおよびfibroblast+lymphocyteで、可成りのcountがみられたが、後でこの患者はICGtest(無機・Iodを含む)の時、過敏反応を示すことが判り、lymphoprep中のIodに対する反応とも考えられる。従って、Aminopyrinを加えた場合の反応はIodに対する反応が加算されているとも考えられるが、いずれの場合もFibroblastを培養した系に高いcountがみられることは、この患者については細胞性免疫が一役かっていることを示唆すると思われる。

《梅田報告》
 4年も前に培養を開始したラット肝由来上皮性細胞のクローンについて、株化したと思われてから一時Aflatoxin B、DAB処理などを行って変化を観察していたが、はっきりとした変化を生じなかったので報告もせず、ただコントロールの細胞のみ継代を続けていた。ところがこの細胞が形態的に変化を起しているのに気付き、改めて凍結してあった細胞を培養して4NQO処理を行ってみた。はっきりとした悪性転換は認められなかったが、興味ある形態像が出現していた。今回はこの細胞の継代過程を報告し、次回の班会議の折にその実験を報告する。
 (1)JAR-2 ♂sucklingの肝をトリプシン・スプラーゼ処理して培養を開始した(1971-4-19)。培地はLE+10%CS。増殖は遅かったが、週に2回培地交新を続け、上皮性の細胞増生が認められるようになった。6ケ月後(1971-11-1)にトリプシン処理して6cm Falconシャーレに、1,000、300、100、30ケの細胞を夫々接種した。1,000ケ播いたシャーレに、colonial growthが認められ、(1971-12-13)に3つのcloneを拾い、BA、BB、BCと名付けた。そのうちBAは増生せず、BB、BCが現在残っている細胞である。(以下、夫々図表を呈示)
 (2)途中で切れ、凍結保存のものから再培養した所もあるが、約1,000日の間の累積増殖カーブは図の如くなった。5代目毎にプロットしてある。BBの13代目、BCの15代目迄は、LE+10〜20%CSで培養していた。この頃の増殖は非常に悪く、0.5〜2ケ月に1回継代する状態が続いた。丁度400日前後で、培地をF12+10%CSに切り替えた所、増殖はずっと良くなり、更に200日を過ぎた頃よりは両クローン共ずっと旺盛に細胞が増生するようになった。
 (3)この2コのクローンをタンザク培養してHE染色を行った。BBの4代目のものは大小不整の細胞から成っており、上皮性を示す。細胞質はエオジンに淡染しているものが多いが好エオジン色をとる細胞、顆粒状エオジン好性物質を入れる細胞が散在している。核も大小不整、類円〜楕円形で、核小体は円形1〜数ケある。BB 16代の細胞では核小体がより不整形となり、また、培養日数を経たもので細胞変性像の出現していることが特徴的であった。すなわち細胞が密に増生している部の一部の細胞がはがれ、残った細胞はpyknoticの像を呈している。BB 84代目のものは、核クロマチン凝集がより明らかとなり、核小体は不整形で大き目、細胞質は好エオジン色をとる。培養日数を経ると細胞密集増生像がはっきりとなり、さらにそのような部より細胞がはがれ去ってcell sheetに穴があいたようになる。そのような部に残っている細胞は核膜が明瞭になり、pyknotic cellの状態になっている。一部細胞同志が凝集している所もある。
 (4)BCの20代目の細胞形態は、BBより大き目の細胞で、上皮様配列をとり、密生した細胞は互いに接着して石垣状になる。核もBBより大き目で、大小不整であり、類楕円形を呈し、核質はクロマチン小凝塊が多数認められ、核小体は小さ目で、クロマチン凝塊と区別し難い位のものが数ケある。
 BC 87代目のものでは核小体はやや大きくなり、核クロマチン凝集はより著明になった感じを与える。培養日数を長くしたものは細胞が重なり合う所が増しているが、BBの様に変性し、はがれ去るようなことはない。
 (5)BB 17代目の時およびBC 21代目の時の増殖カーブは図に示す如くである。BBではlagが著明で、log phaseの時のdoubling timeは約24時間である。BCの増殖カーブはよりスムーズに増生し、doubling timeは約31時間と計算される。
 (6)plating efficiencyは表に示す如くで、BBの39、35%よりBCの55%とBCの方が高い。BBはコロニーは小さく11日培養で1mm径位であるが、BCは大き目のコロニー(1〜2mm径)を形成する。両者共にコロニー中心部のpiling up等の変化は認められなかった。
 特にBBについては培養80代頃に悪性転換を起している可能性を考えagar plate cultureを行ってコロニー形成をみたが、コロニーは一つも形成されなかった。

《乾報告》
 先月の月報で梅田先生が亜硝酸ナトリュウムによる培養細胞での非常にみごとな突然変異誘導を書いておられましたので、我々も数年来やって一部は発表済ですが、亜硝酸ソーダによる、ハムスター細胞のTransformationの仕事を小括しておきたいと思います。
 “亜硝酸ソーダによるハムスター繊維芽細胞のTransformation";
 亜硝酸は御承知の様1930年代からバクテリアに対して強い変異性を示す突然変異剤であり、広く自然界に存在すると共に、各種食品に含まれている物質である。高等生物に対する癌原性、突然変異誘導性は早くから予想されていたにもかかはらず現在迄、我々のDataを除いては、その癌原性は明らかでない。本号では報告は亜硝酸ソーダ(NaNO2)を培養ハムスター細胞に作用し、細胞のMalignant Transformationをみたので、それを報告し二三の問題点についてふれたい。
実験には、生後24〜48時間のゴールデンハムスター新生児の肺、背部皮下組織由来の繊維芽細胞をMacCoys 5A培地に20%FCS(v/v)で培養し、培養2〜3代のものを使用した。
 NaNO2は細胞1〜10万個のFlaskに50mM、100mM、24時間作用し、Hanks液で洗滌後、正常培地で培養を継続した。対照は未処理細胞を実験区と同一条件で培養を継続した。
 その結果表に示すごとく(表を呈示)、NaNO2処理群では、一例をのぞき処理後20〜60日でMorphological Transformationを示し、そのうち2例で更に培養を継続した細胞(200万個/Hamster)を、成熟ハムスターチークポウチに移植すると、腫瘍形成が認められた。一方未処理対照群では、培養後30日以上で増殖速度の低下がみられ多くの群で100日前後で死滅する(図を呈示)。対照群中2例では、細胞が生き残ってSpontaneous Transformationがみられたが、いずれもNaNO2処理群のTransformationに比して、約10週以上以後であった。
 (表を呈示)表2に、Transformeした細胞のコロニー形成率を示した。変異細胞を200ケ播種した時のコロニー形成は1.5%であったが、対照細胞は1000ケ播種してもコロニー形成は認められなかった。現在軟寒天中でのコロニー形成能について、同様な細胞を使用して検索中である。6月の培養学会には何らかの知見を発表出来ると思っている。
 以上NaNO2をハムスター細胞に作用して細胞のMalignant Transfomationを観察した。多量のNaNO2とメデュウム中のアミンと反応して、ニトロサミン形成の問題の定量分析の結果0.1μg/ml以上のDMN、DENが存在しないことをたしかめた。

《野瀬報告》
 JTC-16クローンの腫瘍性とAlkaline Phosphatase活性
 以前にCHO-K1由来のAlkaline Phosphatase(ALP)活性変異株(高ALP活性)が、原株CHO-K1と比較して腫瘍性の低下していることを報告した(月報7410)。ALP-活性の上昇と腫瘍性の低下との間にどんな相関があるかわからないが、他の株細胞でも同じような関係が見られるかどうか検討した。
 AH-7974由来のJTC-16からALP-1活性の異なるクローンをいくつか分離した。(図表を呈示)表1に示すようにClones1、13は活性が高く、Clones 8、9は低い。これらの各クローンの細胞をそれぞれ12万個ずつ、new born rats(JAR-2、9-day-old)の腹腔内に接種した。その後のratの運命を観察した結果が図1である。ALP-活性の高いClones1、13を接種したラッテの各1匹が15、21日目に死んでいるのは、腫瘍以外の原因で死んだと思われる。接種後80日目までの観察では、むしろALP-活性の高いクローンの方が腫瘍性が高いように見える。しかし、その差はCHO-K1とその亜株で見られた程明確でなく、上の相関とは特種な例と考えられる。

《久米川報告》
 ラット肝細胞(RLC株)の酵素活性
 勝田研で樹立された多数の肝由来の細胞株の内から5種類のRLC細胞を選び、その酵素活性を測定、肝の生体内特性を維持しているかどうかを検討した。結果を表示すると次の通りである(表を呈示)。
 pyruvate kinase、G-6-Pdehydrogenaseは若い動物由来の細胞ほど高い活性を示し、生後のものは非常に低い値を示した。一般にPK、G-6-PDHは増殖が盛んな組織において高い活性を示すことが知られている。肝臓においても胎児期には成体肝の2〜3倍の値を示す。したがって胎児期ラット由来細胞は盛んに増殖しているものと考えられる。しかし、成体肝のmarker酵素であるglucokinase活性は非常に低く(成体の1/8〜1/20)、またcatalase活性も成体肝の1/10程度である。したがってこれらの結果からはRLC細胞は、すべて肝の特性を維持していないものと考えられる。

《加藤報告》
 発ガンの問題は発生生物学を考究する者にとって極めて基本的な重要な問題を提起する。我々の研究室では、(1)胚発生における細胞:組織間の相互作用の解析、(2)胚発生及び関連領域における細胞周期の統御の解析、及び(3)in vitro及びin vivoにおける分化形質の発現、保持、消失の機構の生化学的解析を主要なテーマにしている。このうち、本研究班においては、上記テーマに関連して細胞培養系を用いて胚細胞の正常分化、化生及び発ガンの問題を発生生物学的観点から進めたい。出発点の材料として、培養系に於けるニワトリ胚軟骨細胞の正常発生をとりたい。
[研究テーマ]
 軟骨細胞の細胞培養系を用いて正常及び異状の分化を解析する。
 1.ニワトリ胚の軟骨細胞の浮遊培養系の確立
軟骨細胞の分化過程を生化学的見地から解析するためには、軟骨細胞(ニワトリ胚胸骨)を浮遊培養系が適当と思われるので、この培養系確立を第一の目的としたい。現在までに当研究室の安本茂・山形達也両君により、かなりの程度の成功を収めている。尚、其の他の細胞培養の系も合せて試みている。
 2.細胞培養下の軟骨細胞のstability及びinstabilityの解析
細胞の分化形質の恒常性の問題、特にその原因の解明はガン化の問題に深く係り合っていると思われる。我々は、軟骨の生化学的、細胞学的なマーカーを用いてこの問題を考えてみたい。
 3.Chinese Hamster胚の軟骨細胞を用いての染色体の解析
国立遺伝研の吉田俊秀氏の御厚意により分けて頂いたチャイニーズ・ハムスターのコロニーの樹立を一応終えたので、染色体解析の容易なこの種の軟骨細胞の培養系の樹立を前提とし、その上で染色体の変化(banding等)を化生(例えばビタミンAによる)ガン化の過程で調べてみたい。
 以上は軟骨細胞の培養系についてであるが、其の他2〜3の発生系を用いての実験を考慮中である。

【勝田班月報:7506:ラット肝由来細胞の走査電顕像】
《勝田報告》
 A)培養内発癌実験
 (a)ラッテ肝由来細胞:
 最近できた株を用い、4NQO処理(3.3x10-6乗M、30分)したあと顕微鏡映画撮影で細胞動態の変化を追究している。(表を呈示)細胞間の接着性が低下し、ぬるぬると泳ぎまわるような変化がみられる。
 (b)Kyonセンイ芽細胞:
 4NQO処理後、染色体の変化をしらべたい。Kyonの染色体は2n=6本であるが継代中に3nが増えてくる。これがmodeとなっているが、'75-4-19、3.3x10-6乗M 4NQOで30分間処理した。処理後9cmシャーレに15万/シャーレ、3万/シャーレに分注した。約1月後にcolony別に染色体分析をする予定である。
 (c)ヒト末梢血由来のリンパ系細胞分劃:
 Ficol、Conrayを用いての分劃で、20〜40%の細胞はmonocytesである。これを色々の薬剤(発癌剤を含む)で処理したautoradiographyでDNA合成をしらべようという計画である。
 B)Autoradiography with H3-TdR of human lymphoid cells:その予備実験の結果(表を呈示)、血清はすべて10%であるがFCS(fetal calf serum)又はautoserumを添加した。材料はすべて健康人であるが、Exp.#33でのみ、無処置でもDNA合成が起った。(これは高岡君の血球である。) その他の例はすべてH3-TdRのとり込みは認められなかった。
 C)Back-transplantation tests of rat liver cells into rats:(表を呈示) これはラッテへの復元接種試験とALS接種ハムスターポーチ内の成績とを比較しようという企てである。ラッテの方はやっと接種というときにハムスターの方はどんどん結果が出てしまうので仲々ピッチが合わない。しかしこの所見で面白いのは“なぎさ”培養で変異したJTC-21・P3株がラッテには腫瘍を作らないのに、ハムスターには立派に作ることと、RLC-19株は全然無処置なのにハムスターに作ることである。
 この実験は結果がまだ出揃っていないので、はっきりしたことは云えないが面白い試みであったと思う。

 :質疑応答:
[久米川]ハムスターポーチ内の組織像で間質の細胞はラッテの培養細胞由来ですか。
[榊原]宿主のハムスター由来のものと考えられます。
[遠藤]人の末梢血由来の細胞の細胞質にみられた封入体の如きものは何ですか。
[高岡]AF-2を添加した群にだけみられるのですが、何か判っていません。
[遠藤]ハムスターチークポーチにできた腫瘍は、接種するのは細胞浮遊液の状態で入れるのでしょうが、あの様な組織構造をとるのは、集合によるのですか。増殖してあの様になるのでしょうか。
[勝田]両方とも起こり得ると考えています。始に集合し次に増殖して構造を作ると。
[藤井]胆管の細胞が悪性化したものもhepatomaと言いますか。
[榊原]現在はそう言われています。
[藤井]RLC-19を4NQOで処理すると、チークポーチ内でどういう腫瘍を作りますか。
[高岡]まだみていません。今の所ハムスターチークポーチ内にtakeされる条件をもっと基礎的にデータを揃えたいと思っています。

《高木報告》
 膵ラ氏島細胞の培養
 膵癌による死亡率は最近増加の傾向にある。昭和26年の統計にくらべると昭和47年では約6倍の死亡率の上昇がある。
 その組織型をみると、Millerによれば、膵管上皮癌が大部分の81.6%を占め、ついで腺細胞癌13.4%、起源不明なものが5%となっている。しかし実際に病理組織診断をするさいに膵管上皮由来の膵癌か、腺細胞由来かを判定できにくいことが多いので、石井は腺癌を腺管腺癌、未分化癌、乳頭腺癌に分類して、腺管腺癌が80%を占めており、また膵島細胞腫は0.4%であると報告している。
 一方外科の統計によれば、昭和8年から昭和45年までのinsulinomaの手術122例中、悪性と思われるもの16例で(悪性の定義がむつかしいらしい)その中、明らかに転移を認めたものが8例あったとされている。
 またglucagonomaについては昭和17年以降15例の報告があるが、記載によれば、その多くのものが悪性と思われる。
 従ってもしin vitroで膵の発癌実験を行なうとすれば、膵管を培養してこれに化学発癌剤を作用させれば成功する可能性はもっとも高いことになるかも知れないが、腺管を含め、外分泌腺細胞の培養はきわめて困難である。私共が膵の培養を手がけて約10年になるが、その間、膵組織片の器官培養、単離ラ氏島の培養、さらにラ氏島細胞の培養と進展して来た。しかし外分泌腺細胞の培養は低温における器官培養が可能であるが、長期培養は成功していない。成熟ラットのラ氏島およびラ氏島細胞の培養では2〜3カ月の長期間維持することが可能なので、兎も角この実験系に発癌剤を作用させてみることはできる。
 一方このようなin vitroの実験系と平行してラ氏島腫を撰択的につくると云われるDMAE-4HAQOをWKAおよびSDラットに注射してinsulinomaを生ずることができた。ただ腫瘍が発生するのに長時間を要するため動物の管理が充分に行き届かず、最後まで生存して観察できた動物は実験開始時の1/4〜1/5であったことは残念であった。発生した腫瘍の多くはラ氏島腫を思わせたが、小さいために培養に移すと切片をつくって形態的観察をする余裕がなかった。腫瘍の1つを供覧するが、Aldehyde-Fuchsin染色によれば腫瘍はほとんどB細胞よりなっていた。これを器官培養すると、1時間のpreincubationの後の各1時間に3mg/mlのブドウ糖存在下では155ng/ml、1mg/mlでは116ng/mlのIRIが証明された。長期の培養には成功していない。
 さらに最近はnude mouseを使ってヒト癌細胞の移植が可能になったのでヒト細胞の発癌実験を試みるべく、ヒト膵ラ氏島の培養も試みた。20才代の男性でinsulinomaの疑いで手術されたがinsulinomaははっきりしなかった。摘出した膵をもち帰り月報7411のIIIの方法をmodifyして培養を行った。すなわち組織を細切後まずcollagenase35mg、hyaluronidase20mg/8ml CMFで約40分間magnetic stirrerにより処理したが、ラ氏島は完全に単離出来なかった。そこで遠沈後これに0.04%EDTA 5分間、ついでDispase2000pu/ml CMF 15分ずつ3回作用させsupernatantをあつめた。遠沈後、細胞をmixed populationのままTD401本に植え込んだ。(顕微鏡写真を呈示)
 培地はDM-153にthymidine 7.2mg/l、hypoxanthine 4mg/lとZnSO4・7H2O 2.0mg/l補ったものに20%FCSを加えて用いた。15時間後に浮遊した細胞をdecantしてこれをFalconの35mm plastic petri dishに植込んだ。植込み1日後はcell aggregateのままで底面に附着していたが、2日目よりきれいなcell sheetを作りはじめ、7日間位はsheetが広がり細胞は増殖するかにみえた。7日後にはfibroblastの増殖もややみられたので、8〜10日にかけて早めにdispaseを用いて継代した。継代した培養ではfibroblastはきわめて少なく、ラ氏島細胞は再びsheetを形成したが増殖はみられず培養約40日目に消滅した。培養10日目の培地には18ng/mlのIRIが証明された。さらに材料入り次第培養を検討する予定である。

 :質疑応答:
[榊原]山上さんの実験についての質問ですが、リンパ球の培養で、形態的な幼若化とH3TdRの摂り込みは平行しているのですか。
[勝田]リンパ球の幼若化については、私もその事を常に疑問に思っています。

《山田報告》
Culb/R/TC細胞の超微形態;
(写真を呈示)正常ラット肝細胞由来株にin vitroで4NQOを加へて癌化した細胞株であるCulb/R/TCの超微形態をしらべ、正常対照細胞のそれと比較した。
 細胞間の結合は全体としてlooseでdesmosomeを介して結合するSmooth Contactな面は極めて少い。核辺の陥入が著しく多くの細胞核には眼網状の構造を示す核小体がみられる。正常肝細胞ではこの様な核小体をみることは少い。organellaは少く、lysosomeは殆んどみられない。グリコーゲンの顆粒状凝集は殆んどない。しかしその分布は各細胞により異る。その差が特に著しい。正常肝細胞よりむしろ過剰にみられる細胞があるかと思うと、分散している細胞もある。
 即ちこの株の超微形態の特徴のうちで最も正常細胞のそれと異る所は、細胞相互の形態に著しい差があると云う点であり、光学顕微鏡にみられるpleomorphismは超微形態でも同様に見られることになる。
 その意味では限られた少数の癌細胞の超微形態の観察結果は、稀ならず誤った知見を得ることになる可能性があると云へよう。

 :質疑応答:
[久米川]Microbodyについてはどうですか。
[山田]それらしき物があるのもありますが、同定が難しいので今回は報告しません。
[久米川]Contactの問題は培養日数にかなり影響されますね。
[高木]グリコーゲン顆粒なども培養状態に影響されます。日数で揃えるか、或いはfull sheetになった所という風に揃えるかした方がよいですね。
[久米川]RLC-20の分化度が高いのは、fibroblastsが混じっているためとは考えられませんか。分化するには何か細胞の相互作用が必要なのではないでしょうか。
[高岡]株細胞というのは、元は同じものでも、誰がどういう培養の仕方で維持しているかによって随分変わりますね。

《久米川報告》
 ラット肝由来細胞(RLC株)の走査電子顕微鏡像(夫々写真を呈示)
 先月の月報に引続きラット肝由来細胞の形態的観察結果について報告します。位相差、電顕像についてはすでに報告されているので、ここでは走査電子顕微鏡による観察結果について述べます。
 カバーグラス上にまいた細胞がほぼ一層になった時、グルタールアルデヒドにより固定、臨界点乾燥後Anで蒸着、走査電子顕微鏡(25KV)で観察、写真を撮影した。
 RLC-16(生後6w)およびRLC-19(生後4w)は、ほぼ一種類の細胞からなっていると思われる。偏平な上皮様の細胞で、しかも大変大きく、お互いに密着している。細胞の表面は多数のmicrovilliによっておおわれている。
 RLC-20(生後11日)には、前者と同様な上皮様細胞がみられ、この上に(?)あるいはとり囲むように紡錘形の細胞が観察される。後者の細胞は線維芽細胞と思われる。
 RLC-18(胎児肝)は上皮様細胞は少なく、小さくてぶ厚い細胞が多数みられる。RLC-20と異なり、両細胞は混在している。
 上皮様の細胞の表面はmicrovilliでおおわれているが、若いラット由来の細胞では比較的少なく、しかも太くて短いmicrovilliが存在する。これに反して、RLC-16とかRLC-19では非常にmicrovilliの数は多く、しかも細くて割合に長いmicrovilliにおおわれた細胞がみられる。
 以上のようにRLC株細胞は動物の年齢によって異なっており、少なくとも4種類の細胞が観察された。即ち2種類の上皮様細胞、小さくてぶ厚い細胞、網目状に連なった紡錘形の細胞である。

 :質疑応答:
[遠藤]HK、GKのisozymeはみてありますか。
[久米川]これらの細胞ではまだ調べてありません。
[高木]HeLaの様な細胞がRose chanber法で構造が出来るのは何故ですか。
[久米川]微小環境の変化によると考えます。
[山田]普通の液体培地の中で培養されている細胞をみている時とセロファン下の細胞をみている時とでは培養環境の違いを何時も考えていなければなりませんね。物理的に圧迫されている事、高分子物質と接していないことなど。

《梅田報告》
 前回に報告したラット由来肝上皮細胞の2系列の細胞につき、行った古い実験データト最近のデータについて報告する。
 (I)2年前の実験であるが、この2つの株細胞が得られたので、この細胞を使っての発癌実験を行う目的で、先ずAB、DAB、3'-Me-DABの障害性を調べた。BB細胞ではAB=DAB<3'-Me-DAB、BC細胞ではDAB<AB<3'-Me-DABの順であった。(表を呈示)
 一筋縄ではうまく発癌に持っていけないと考えていたので、3'-Me-DABの10-4.0、10-4.5、10-5.0乗Mの3濃度で、日曜を除く毎日投与の実験を行った。すなわち、10倍濃い3'-Me-DAB培地を作り毎日培地量の1/10を加え3〜4日毎に全体の培地を新しくする方法をとった。
 (図を呈示)BB細胞、BC細胞の累積増殖カーブを示すが、両者共に10-4.0乗Mでは増生しなかった。10-4.5乗M投与で、BB細胞では30日を過ぎて増殖率がコントロールに近くなった。BC細胞では継代が進むと増殖が落ちる傾向が示されている。10-5.0乗Mでは両細胞共に増殖に影響はなかった。
 この3'-Me-DAB処理細胞を、培養数代目と50日培養後にSoft agar中に植え込んでコロニー形成能をみた。BB細胞で非常に小さいコロニー出現が認められたが、コントロールでも同じ位のコロニーを形成していた。BC細胞は陰性であった。
 (II)同じような方法でN-AcO-AAF、aflatoxinB1の毎日投与実験も行った。(表を呈示)この場合は4週間、植え変えをしないまま培養を続けたが、生の顕微鏡観察で異常に思えるような細胞増殖像は認められなかった。しかも4週培養後に、Soft agar中に植え込んだ細胞もBBの一部の細胞を除いてコロニー形成は認められなかった。
 (III)前回の月報に記載したように、上の実験を行った頃より2年間80代位迄継代を続けた所、BB細胞に特異変性細胞巣の出現することを見出した。このような像が悪性化と関係しているかも知れないと大胆な想定を行った。
 そこで凍結してあった細胞を融解して、代数の若い細胞で4NQO一回処理、6週間植え継ぎを行わない実験を行った。(表を呈示)10-6.0乗M以上では細胞は殆んど生存しない。期待したBB細胞での変性細胞巣は、継代26代目の比較的若いコントロールの細胞でも非常に小数ではあるが出現しており、その程度は4NQO処理細胞でも増加していなかった。
 一方肉眼でも数mm径位のGiemsaで青に濃く染る部分が認められ、検鏡すると、細胞が青く染る小細胞が石垣状に密生して並び、中心部の盛り上っている部分もある。しかしこれも4NQO処理群と、コントロール共に殆等しく見出され、4NQO処理による発癌とは考えられなかった。
 (IV)BC細胞31代では、6週間培養Giemsa染色しても6cm径Luxシャーレを肉眼でみると、コントロールで染り方が細かい濃淡の島模様を作っていた。4NQO処理群ではさらに大きな島模様を形成していた。検鏡すると小型細胞群、中型細胞群、大型細胞群とあり、すでにいろいろの細胞群より成ることを思わせるが、これらが先の染り方の差を作り、島模様を作っていることがわかる。小型細胞、中型細胞群の中に、索状配列を示し、あるいはrosette形成を示すものが認められ、しかも索状の間にrosetteの中心部に黄金色の分泌物(bile?)を溜めている像に遭遇する。この傾向は各細胞群の島の大きい4NQO処理群、特に10-7.0乗M処理群に著明であった。
 一部のシャーレを処理3週後に継代してそれから6週間培養を行う実験を試みたが、それでは4NQO処理群でもコントロールと同じように、小さい島を形成するようになった。悪性化を疑わせるような変化としては認め得るものはなかった。
 (V)以上の形態変化に興味を持ち、古いシャーレを引っばり出してBB細胞では変性細胞巣、密生小細胞巣の出現に、BC細胞では索状配列に焦点を合せてまとめてみた(表を呈示)。BB細胞では変性像の出現は同一シャーレ内で培養日数を長くすると出てくる傾向があり、継代数が進むと著明になった。密生小細胞巣も培養日数の長い場合に出現するようである。
BC細胞では、8日培養でもFCSで培養した時一様な索状配列を示していたものが、見出された。しかし分泌物の形成はなく、やはり同一シャーレで42日も培養するような特殊な培養方法で出現することがわかる。
 (VI)さらに古いデータであるが、北大の塚田先生にお願いしてalbumin、α-fetoprotein、transferinの測定をしていた(表を呈示)。始めのテストでは同時に培養していた肝由来上皮性細胞を多数お願いしてテストしていただいたが、これもalbumin、α-fetoproteinを産生していなかった。このBB細胞、BC細胞のみalbumin産生が認められた。このようにこの2系列の細胞を長く培養した理由、その為でもある。
 以前の実験でもあり、stationary cultureと云ってもせいぜい培養10数日しかテストしていない。今後更にいろいろの条件を加えて検討してみたいと思っている。

 :質疑応答:
[山田]培養細胞での並び方と胆汁の出し方は組織標本でみる物とは大分違いますね。
[梅田]血管が全然ないのですから、構造は当然違ってくると思います。
[山田]胆汁かどうかは同定出来ますね。
[梅田]今染色してみています。

《佐藤報告》
 T-16) DAB発癌実験−移植性と染色体数について−
 移植性:DAB処理細胞とコントロール細胞の復元移植後、腫瘍の発現に到る迄の日数で前回の報告に、更に追加実験を加えて60日間の観察をした。(図を呈示)コントロール細胞(CD#3.C-1)に比し、DAB処理群(CD#3.10→10μg/ml処理、CD#3.40-1、40-2→40μg/ml処理)の方が腫瘍発現に到る迄の日数の短縮、腫瘍発現率も高くなっていることより、培養内DAB投与による細胞の悪性化の増強性が強く示唆される。
 次に上記の60日目の腫瘍について重さと体積を計測した(表を呈示)。処理群の方がコントロールよりも、明らかに大きくなっている。この結果は上記のそれと良く符号する。
 染色体数:(図を呈示)発癌実験開始後105〜6日、327日の結果、処理群の方が高倍性域に偏位する傾向がある様でもあるが、DABの効果によるものと考えるのは困難と思われる。

 :質疑応答:
[高岡]対照群と処理群のin vitroでの増殖度は違いますか。
[常盤]増殖度はほぼ同じです。コロニーでのPEは処理群の方が高いようです。
[山田]悪性度が高くなったといっても、個々の細胞の悪性度が高まったのか、細胞の増殖率が上がったのか、悪性度の高い細胞が優勢になったのか、問題が多いですね。
[榊原]Tumorの転移はありますか。
[常盤]無処理群には転移はありません。処理群に関してはまだ調べてありません。
[乾 ]In vitroでの増殖度が同じなのに、動物に復元すると10倍もの大きさのtumorが出来るのは何故でしょうか。
[高岡]In vitroでの増殖率がin vivoでも同じだとは言えないと思います。
[山田]細胞電気泳動法を使って膜の変化をみますと、発癌剤の処理回数が多いほど、泳動度のバラツキが広くなります。そして変化した細胞も多いようでした。悪性度が高まるというより、悪性細胞が増えたのかも知れませんね。
[吉田]発癌剤が腫瘍のセレクションをしているのかも知れませんね。

《野瀬報告》
 培養肝細胞の生化学的マーカーについて
 培養肝細胞の特異機能の一つとしてアルブミン産生を見ることを試みていたが、各種肝細胞株を調べたところJTC-16が何らかの血清蛋白を出していることがわかった。この血清蛋白の同定を佐々木研の長瀬先生にお願いした。結果は(図を呈示)、JTC-16(AH-7974由来)は、血清培地中で継代されており、ウシとラッテの血清蛋白はcross reactするものがあるので血清蛋白の産生を見るには、無血清培地に細胞を移さなければならない。細胞のmonolayerをPBSで2回洗い、血清-freeのDM-153に移し、3日間培養し培地を集め約70mlの培地上清をコロジオン膜で0.5mlに濃縮して免疫電気泳動を行なった。無血清培地に移し、2回培地交換を行なった後でも、培養後の培地中に抗ラッテ血清と反応する物質が見られた。全血清に対する抗体と反応する物質は、電気泳動のパターンから少なくとも3種類あり、このうちの1つは抗ラッテトランスフェリンと反応するのでトランスフェリンであると同定された。他の2種は未同定である。
 このように、肝癌由来で長期間in vitroで継代されている細胞が肝の特異機能を発揮していることは興味あるので、他の肝に特異的酵素活性も調べてみた。肝特異酵素には多くの種類があるが、培養内で誘導されることの知られているarginaseとtyrosin aminotransferaseを測定した(表を呈示)。各種臓器とくらべると、この2つの酵素活性は肝臓で最も高い。JTC-16細胞は肝ほどではないが、若干活性を持っていて弱いながら誘導もうけるようである。Arginase活性はRLC-10にも少しあり、Nagisa変異のJTC-21、JTC-25細胞には検出されなかった。従って弱いながらもJTC-16に活性があるのはある程度肝機能を発現していると言って良いのではないかと思う。

 :質疑応答:
[榊原]復元して死んだ動物が腫瘍死であった事は確認してありますか。
[野瀬]腫瘍細胞が豊富な腹水が大量に溜まっていましたから、腫瘍死だと思います。

 ☆このあと吉田俊秀班友から、たった6本しか染色体をもたないインドホエジカ(Kyon)の染色体分析について、遠藤英也班友からは試験管内発癌実験の草分けともいうべき4NQOによる核内封入体発見時の、興味あるお話しがありました。
 ☆この日は交通ストのため欠席された方があり、以下はレポートのみの記載です。

《堀川報告》
 放射線防護剤として知られるSH化合物が放射線および化学発癌剤で誘起されるCell killing、遺伝子損傷さらには突然変異誘発をどのように防護するかを知るための第一歩として、今回は(表を呈示)8種のSH化合物(更に4種類を追加する予定なので最終的には12種類となる)について、まず照射されたmouseL細胞の生存率を防護する能力を比較した。これら8種のSH剤のうちAET、cystein、cysteamineは従来防護剤としてよく知られた化合物である。また、MPGおよびその誘導体(MPG-amide、MPPA、MPPG、3-MPG)の5種は最近参天製薬K.K.から解毒剤として発売されており、MPGは特に毒性が少く、マウスに対して効果的な放射線防護剤であることが報告されている。
 さて、(a)未照射のL細胞を各種濃度のSH剤で15分間室温で処理した後の細胞のコロニー形成能でみた各種SH剤の細胞毒性、さらには(b)500RのX線を照射する前15分から照射直後まで各種濃度のSH剤を含む培地に保ち、照射直後に正常培地に返して、コロニー形成能でみた各種SH剤の放射線防護効果、などからみて、使用した8種のSH剤は(図を呈示)3groupに分類出来る。
 まず第1groupはcysteamine、cysteineで、これは低濃度域では防護効果がなく、中濃度で毒性を示し、毒性の消えた高濃度で顕著な放射線防護効果を示す(図を呈示)。これに次ぐ、防護効果を示すものとしてgroup2のAETとMPG-amideがある(図を呈示)。これらも中濃度域で僅かに細胞毒性を示すが、その効果が消えた高濃度域で防護効果がみられる。第3のgroup、つまりMPG、MPPA、MPPG、3-MPGはまったく細胞毒性も示さないが、また殆ど防護効果も認められない。強いていえば、マウスに対して放射線防護効果のある0.02mM周辺でMPGが僅かに防護効果を示し、またMPG、MPPA、3-MPGが10mM周辺で僅かに防護効果を示す。
 (図を示す)以上の実験から放射線防護効果の認められたCysteamine、MPG-amideおよびAETを選び、それらの最適濃度で各種線量のX線照射前15分から照射時にかけて処理しておいたmouseL細胞の線量−生存率曲線を示す(図を呈示)。これらの実験からも、やはりsysteamineが最も効果的な放射線防護剤であることがわかる。ただし、X線照射後のL細胞をcysteamineで処理しても防護効果は認められない。このcysteamineを使って放射線および化学発癌剤による突然変異誘発の防護testを現在進めているので、これらについては次号で報告する。

《難波報告》
 15:各種化学発癌剤のヒト末梢血白血球に対するDNA修復率の比較
 ヒト細胞の癌化を企てるとき、使用する細胞と発癌剤との組み合せを決定する必要がある。そのスクリーニングの目的のために、発癌剤処理後に於るヒト細胞のDNA修復を検討する実験系を確立した。
 実験方法:ヘパリン化した血液を試験管に入れ、試験管を立てたまま、2〜3hr放置し、上澄みの血漿中の白血球を集め、20〜40万個cells/tube/1ml MEM+2.6mM Hydroxyurea(HU)1/2hr→発癌剤処理1/2hr→H3-TdR(1μCi/ml、5Ci/mM)1/2hr→5%TCAで洗い→pptのcpmを測定(発癌剤、H3-TdR処理中もHU添加)。
 発癌物質:MMS、BP、DMN(Dimethylnitrosoamine)、MNNG、4NQOである。実験の結果(図を呈示)、4NQOのみが高いDNA修復をおこさせ、その他の発癌物質は、DNA修復をおこさせていない。4NQOは、10-5乗〜10-7乗Mの濃度の間でほぼ同程度の修復率で、高い濃度の場合、濃度に比例してDNA修復率は増加しなかった。これは細胞障害の強い場合はDNA修復も低下するのかも知れない。
 結論:上記の実験系からでは4NQOのみが高いDNA修復率を示した。即ち4NQOが細胞のDNAによく作用していることが分る。白血球以外の細胞及び発癌剤の処理法を変えれば、4NQO以外のものでもDNA修復をおこさせるものがあるかも知れない。またある発癌剤のみに強い感受性のある個体差の問題もある。これらの問題を今後検討したいと考えいる。

【勝田班月報:7507:セロファンシートによる培養】
《勝田報告》
 ラット肝細胞の培養内4NQO処理の顕微鏡映画撮影による観察
肝細胞を4NQOで処理して、その形態変化をしらべることはこれまで多年続けてきた。しかしこの頃どんどん若い株が作れるようになったので、それを4NQO処理してしらべて見ようということになった。
 映画は2分1コマで撮ったが、長期間はとらず、4NQO処理後数週間位にした。これは、目標が細胞形態、動態の変化などを捕えることにより、悪性化を早く見出す指標にしようということにあったからである。4NQOは3.3x10-6乗M、30分。
 3例の観察で、第1例は生後6週のラッテの肝から由来したRLC-16株。第1回4NQO処理6日後に第2回処理をおこない、13日後(第1回からは19日目)から映画をとったカットに細胞動態の異常化が認められた。すなわち細胞表面の性状に変化が起こり、一杯の細胞シートにもかかわらず、細胞がお互いに密着せず、ぬるぬると、まるで泳ぐように動いていた。かってRLC-10(ラット肝)を4NQOで処理したあと、顕微鏡映画で半年間追跡したときに得られた所見とよく似ている。第2例は生後4週ラットの肝、RLC-19株でこれは処理前のcontrolの細胞がすでにぬるぬると泳いでいた。しかし面白いことに、ハムスターのチークポーチに榊原君が復元実験をしたところ、立派な腫瘤を作り、その組織像は肝癌に相当していた。第3例は生後11日のラットの肝由来のRLC-20株である。これは4NQO処理14日後に第2回処理をし、その8日後からとった映画カットに細胞のぬるぬる現象を見出した。
 以上の所見から、顕微鏡映画による検索では、処理後大体3週間以内に細胞の変化をdetectできるらしい、ということが判った。今後は材料のラットのageをもっと次第に下げて行く予定である。

 :質疑応答:
[難波]今日の映画では処理前の細胞がすでに培養開始から2年もたっているのですね。これらの株細胞の培養へ移してからもっと初期の細胞の動きはどうでしょうか。
[高岡]初期の頃の映画も撮ってありますが、今日は4NQOを処理した事で起こる変化だけにしぼりました。初期のものは又の機会にまとめてお見せします。
[堀川]4NQOをかけてすぐのカットでは細胞がどんどん消えてゆくようですが、photodynamic actionによるのでしょうか。
[高岡]大分昔にphotodynamic actionについては定量的にデータを出して報告しました。今日ご覧になったように、映画を撮ると初めの視野では殆どの細胞が死にますが、光の当たらなかった視野には生存した細胞が沢山いて、しかもどんどん分裂しています。
[堀川]癌化する細胞がtargetとして存在すると考えると、動きの変わった細胞は、全体からみるとほんの一部とは言えませんか。
[高岡]視野は無作為に選んでいて、しかも視野内の細胞はみな同じような動きを示しますから、動きが変わる頻度はかなり高いと思います。
[佐藤]処理後、細胞内の顆粒が多くなっている感じがしますね。
[久米川]あの顆粒はlysosomeではありませんか。
[吉田]Ageの異なるラッテの肝から樹立された株の染色体のploidyに興味がありますね。Tetraploidは出てきませんか。
[佐藤]どのageからとっても増殖してくる細胞は殆ど2倍体ですね。

《乾報告》
 2-アセチル・アミノフローレン(2FFA)投与による経胎盤試験内発癌
 前号迄の報告で、ニトロソ化合物、芳香族炭化水素、4-ニトロキノリン、バターイエロー等を妊娠母体に投与後、胎児を摘出し、培養開始後15日以内にTransformed Colonyの発現を観察したが、代表的な化学発癌物質群で芳香族アミン類が同法を使用しての実験系として現在迄報告していなかった。
 今月は、ハムスター妊娠母体に、2FFAを前回迄と同様の方法で投与しIn vitro-in vivo Transplacental Carcinogenesisを観察し、同時に同一母体より摘出した胎児細胞について、Transplacental Mutagenesis実験を行ない二、三の知見を得たので報告する。
 経胎盤発癌実験、これ迄の報告と同様に、妊娠11日の♀ハムスター腹腔内に2FFA 20mg/kgを投与し、24時間後胎児を摘出培養し、培養24時間以内に染色体標本を作製し、培養2、4代目の細胞をシャーレに播種、変異コロニーの検索を行なった。今回は、これに加え、残余の胎児をトリプシン処理し、培養2日後(2FFA投与後72時間)に、細胞を50万個perシャーレ播種、14〜15時間目より、8-アザグアニン(20、10μg/ml)6-チオグアニン(5、2.5、1.25μg/ml)を含んだMEM+10%v/v培養液で培養した。8-AG、6TGを含んだ培地の交換は、初めの3日間は連日、以後1日おきとし、15日間培養を継続後シャーレを固定、染色し、8-AG、6-TG耐性コロニーの出現を観察した。対照にはHanks-0.5ml、DMSO-500mg投与した母体より摘出した胎児細胞及び、ハムスター全胎児(妊娠14日目)由来の線維芽細胞(G-3)を用いた。
 (表を呈示)2FFA投与後2代目、4代目の細胞による変異コロニー出現頻度は、実験に使用した3個体共、培養2代目より変異コロニーが1〜2%前後出現した。ニトロソ化合物、芳香族炭化水素と同様の結果である。
(表を呈示)ハムスター線維芽細胞、経胎盤Hanks液、DMSO、2FFA投与胎児細胞の8AG、6TG耐性コロニーの出現率をしらべた。培養2日目の細胞を2000ケ/dish播種した場合の生存細胞率は、ハムスター線維芽細胞のそれを100%とした場合いずれも95%以上であった。耐性コロニーは中、大型コロニーの出現率は2FFA経胎盤投与細胞群、8AG-10μg/mlで明らかに高く、同型コロニーは対照群では出現しなかった。小型コロニーの出現は対照に使用したハムスター線維芽細胞に比して、2FFA投与群では3倍であった。6-TG耐性コロニーは、中大型は2FFA投与群のみに出現した。小型コロニーは、対照線維芽細胞、DMSO経胎盤投与群に各1ケずつ出現した。現在これらコロニーをクローニングし、HAT培地での生存率、逆変異コロニーの出現率等を検索中である。
 以上二つの結果より、経胎盤的に化学物質を投与することにより、試験管内発癌と細胞水準での突然変異との関連を追求する糸口がつかめたと考えられる。現在、染色体変異誘導のデータと組み合せて、癌化←→突然変異←→奇型誘導(催奇型)、の関係を同一実験系で解析出来ないかと云う、とほうもない夢を見ながら一つの実験をやっております。
 もう一方で、変異コロニーの造腫瘍性の問題、動物実験での標的臓器と経胎盤的に化学物質を投与した場合、各固有臓器を別々にとり出して試験管内発癌を試みるつもりでおりますが、純系ハムスターの繁殖がむずかしくこの問題は進展せず困っております。
 同系を使用してのもう一つの問題は化学物質の投与時期と、妊娠期間の問題です。ある薬品を妊娠前期に投与したら、出生時においては見られない染色体異常細胞が出現したら人間の自然流産児の染色体分析の結果と照らし合せて奇型発生の機序の解析にも役立つかも知れません。
 又現在やっている全器官形成終了時に物質を投与し器官毎の培養を行ないその癌化を短期間にテェックし、投与時期を前にすることによって、器官形成と発癌の問題のかいけつの糸口にならないかと考えております。
 来月以後に2FFA投与細胞の染色体分析の結果と共に突然変異誘導に関するデータを発表して行きます。

 :質疑応答:
[勝田]母体への薬剤投与の時期と培養へ移す時期をどう選ぶかは難しい問題ですね。
[乾 ]今いろいろ調べているところです。
[難波]播種細胞数が多すぎませんか。多いと死細胞からの酵素交換が問題になります。
[梅田]50万個/dishなら細胞接触はないと思いますから、この位で良いと思います。
[堀川]Total frequencyはどの位ですか。
[乾 ]対照では10の7乗で0、処理群では10の7乗で6コ位出ます。耐性コロニーの中小さいものは本当のmutantではないようです。
[堀川]処理の期間の問題ですが、fixation and expressionに必要な時間を考えると、8AGを加えるまでの培養時間1日で充分でしょうか。
[乾 ]体内で24時間、培養に移して48時間たって薬剤を加えています。処理後は3回分裂しています。
[堀川]よいのかも知れません。8AG、6TG耐性になった細胞は悪性化していませんか。
[乾 ]まだ復元していませんが、形態的には悪性にみえません。

《梅田報告》
 3T3様株細胞の樹立は、それがcontact inhibitionという正常細胞としての性質をもっていること、定量化が可能なことなどにより試験管内での化学発癌に有効な手段を提供し得るように思われます。
 昨年9月より私達は種々の発癌剤による試験管内発癌の系統差を調べる目的で、3種の近交系マウス(DDD、AKR、C3H)より3T3様細胞株の樹立を試みて来ました。方法はTodaroらの方法に準じ、マウス胎児躯幹をトリプシン処理後、15〜30万個/6cm dishのinoculumで3〜4日毎に継代をつづけました。培地としてMEM+10%FCSを使用しました(表を呈示)。3系統の細胞とも4〜6代目頃(9〜16日目)より増殖率は一旦ゆるやかになりましたが、17代目頃(54日目)より立ち上がりはじめ、30代以降にはほぼ一様の増殖をつづけるようになりました(図を呈示)。しかしDDDとC3H細胞株については(表を呈示)、増殖率が51代以降では明らかに増加の傾向を示しました。増殖曲線は19代目で調べてありますが、saturation densityはDDDが一番高く(7万個/平方cm)、C3H、AKRの順になっています。(表を呈示)saturation densityを各世代でしらべました。方法は30万個/dish播種し3日毎にmedium changeを行ない12日後の細胞数を求めました。contact inhibitionのきいている細胞はsaturation densityが5〜10万個cells/平方cmとされていますが、DDDに関しては22代7万個cells/平方cm、36代11万個cells/平方cm、53代16万個cells/平方cmと漸増の傾向を示しましたが、AKR、C3Hに関しては53代まではそれぞれ6.8〜7.5万個cells/平方cm、9〜10万個cells/平方cmと比較的低値を保っていました。染色体のモードは(図を呈示)、少ないのですが一応50ケのmetaphase cellを数えました。DDD、AKR、C3Hの細胞とも、17、18代目で調べた時にはdiploidとtetraploid付近に2つのモードをもっていました。しかし40代目になるとDDDはhypertetraploidになっており、AKRとC3Hはtetraploid rangeにありました。
 次にこれらの細胞株を用いて試験管内発癌実験を行ないました。判定の容易さという点ではfocus assayによる方法がcolony法に比べ優れていると思われたので、DiPaolo & Takanoのfocus assayを採用しました。即ち1万個の細胞を播種したのち、翌日発癌剤を種々の濃度で処理し2日間培養後medium changeを行ない、以後週2回medium changeを繰り返し4〜6週後に固定、染色して出現してくるtransformed focusを算定しました。(表を呈示)DDDでは無処置対照群に平均8.5ケ/dishのfocusが見られ、DMBA 0.25、0.5μg/ml処理ではそれぞれ平均37.0、41ケ/dishの多数のfocusが観察されました。AKRでは対照群及び4NQO処理群ではtransformed focusは見られず、DMBA 0.05μg/ml処理群では4枚のdish中1ケ、MNNG 1μg/ml処理群では2枚のdish中3ケ認められました。C3Hに関しては培養5週後の対照群はcontact inhibitionがきいておらず、この細胞株は発癌実験に使うには不適当と判断されました。DDDに関しては対照群にも少数transformed fociが観察されたので、現在cloningをすすめている段階です。
 KouriらはAryl Hydrocarbon HydroxylaseのInducibilityがマウスの系統により異なること、例えばBalb/C、C3H、C57BLなどはhigh responderに、AKR、DBAなどはlow responderに分類され、high responderのマウスはin vivoの実験でMethylcholanthreneによる発癌率も高いと報告しています。私達はlow responderに属するAKRマウスから得られた細胞株を用いて試験管内発癌実験を行なったところ、transformed fociの出現率が低いような結果を得ました。AKRに関するかぎり我々の結果はKouriらの報告を一部supportしているように思われます。DDDについてはAHHのInducibilityは測定されておらず、系統差を論ずるには充分ではないのですが、今回の試験管内発癌実験の結果をもとに実験を集めていきたいと思っております。

 :質疑応答:
[乾 ]DDDマウスはSWISSとC3Hのどちらに近い系統ですか。
[宮沢]よく判りません。これからメタボリズムを調べます。
[吉田]動物のデータが充分調べられている系統を使った方が良いですね。
[堀川]Assay systemとしてback groundが高くても変異の多く出る方が良いのでしょうか。或いは変異率は低くてもback groundのないのを使うべきでしょうか。
[乾 ]Back ground 0が理想です。
[勝田]我々がマウスを敬遠するのはマウスの細胞は大体bakc groundが高いからです。
[乾 ]AHHをまだ持っていますか。
[梅田]持っていると思います。
[吉田]これらの系ではin vivoのデータとin vitroのデータが一致するかどうかという所が面白いですね。
[乾 ]DDD由来の培養系の染色体が5倍体というのは珍しい、安定していますか。
[勝田]顕微鏡映画で分裂様式を観察してみる必要がありますね。
[吉田]5倍体はまだ安定していないのでないでしょうか。もう少したつと減少してきて、安定するのではないでしょうか。

《堀川報告》
 前報ではCysteamine、Cysteine、AETを始めとする8種のSH化合物について、それらの放射線防護効果をX線照射されたマウスL細胞のコロニー形成能を指標にして調べた結果について報告した。その結果、従来放射線防護剤として知られていたCysteamineとCysteineが最もすぐれた防護効果をもつことがわかったので、今回はX線照射または4-HAQO処理されたHeLaS3細胞の生存率でみたCysteamineの致死防護効果、あるいはこれらX線および4-HAQO処理により誘発される8-azaguanine耐性細胞出現頻度のCysteamineによる防護効果をテストした結果を報告する。
 まず、各種線量のX線で照射前または各種濃度の4-HAQOで20分間ずつ処理する前15分から照射及び処理後まで、短試4ml当り60万個細胞という条件下で、50mM Cysteamineでもって処理されたHeLaS3の生存率を対照群と比較した(図を呈示)。X線照射細胞の生存率をCysteamineは極度に防護するが、一方Cysteamineは4-HAQO処理細胞の生存率をも防護することがわかる。
 また、前述と同様の条件でCysteamine存在下でX線または4-HAQO処理された細胞を5ml当り50万個細胞づつになるように小角瓶に分注し、72時間のそれぞれmutation expression timeをおいたのち、15μg 8-azaguanine/mlを含む9cmペトリ皿に10万個細胞づつ入れて2週間培養した後に出現する耐性細胞のコロニー数から突然変異率を求めた(図を呈示)。
 結果は、X線照射による突然変異誘発の上昇は生存率の場合と同様にSH化合物によって顕著に防護されるが、一方4-HAQO処理による突然変異誘発もCysteamineによって防護されることがわかった。こうした結果は4-HAQOには部分的にX線の作用と類似したfree radical的な間接作用をもつことを示唆するものであり、同時に細胞の生存率の上昇と誘発突然変異率の低下は裏腹の関係にあることを示している。
 こうした基礎的実験から得たCysteamineの効果を今後は細胞周期を通じての生存率でみた感受性変動ならびに誘発突然変異率におよぼす効果として調べたいと思っている。

 :質疑応答:
[梅田]Surviving rateで合わせてmutation rateをみないと、inductionの比較は出来ないのではありませんか。
[堀川]変異としてみるにはkillingとの関係が難しい問題になりますね。Chemicalの場合は2剤を同時に入れるのはよくないと思っています。
[勝田]培地の中には血清が入っているのも問題を複雑にするでしょうね。
[吉田]変異率はやはりkillingを差し引いて計算した方が良いと思いますね。

《高木報告》
 1.発癌実験について
 今年度から当班ではできるだけヒトの細胞を用いて実験を組む方針なので、その方針に沿い実験をすすめたいと思っている。
 いきなりヒトの膵ラ氏島細胞を用いたいが、その培養の維持が現時点では30〜40日、培地中のinsulineは約4週にわたり証明されている段階で、植込み直後の分裂があると思われる時期に発癌剤を作用させれば成功させうる可能性もあるが、材料の入手が中々困難であり、培地条件を検討してできるだけ長期の生存につとめる一方、まずラット膵ラ氏島細胞を用いて4NQOによる影響を観察してみた。
 生後8週のラットラ氏島細胞を前述の方法で細胞培養し、培養3日目の形成直後のpseudoisletと、培養18日目のpseudoisletを用い、これらを池本のconical tubeに入れてHanks液にとかした4NQO各3.3x10-6乗Mと3.3x10-7乗M 0.5mlを1時間作用させ、Hanks液で1回洗ってmicrotest II tissue culture plateの各穴に分注した。対照は4NQOを含まないHanks液で同様に処理して植込んだ。培地はDM-153+20%FCSとしブ糖濃度は3mg/mlとした。3.3x10-6乗Mでは処理3日目にはすでにpseudoisletの構造はくずれ、細胞は変性におちいったものと思われる。
 3.3x10-7乗Mでは7日目にややpseudoisletのくずれたものもあったが、全体として形態はよく保たれていた。10万個程度のラ氏島細胞には3.3x10-7乗M 0.5ml位を作用さすのが適当かと思われるが、細胞は以後分裂しなければin vitroの発癌はむつかしいと考えられるので、如何にして分裂させるかが問題である。ラ氏島のB細胞はPancreozynin Caernlein及び高濃度のブ糖で分裂するといわれており、そう云ったものと発癌剤との組合せも考慮しなければならないと思う。
 一方ヒトの細胞で、正常人皮膚の生検によりえられたHF細胞とXeroderma pigmentosumの患者の正常皮膚部分よりえられたXP細胞に4NQOを作用させてみた。作用させるにあたり、まず4NQOのこれら細胞に対するcytotoxicityをみた。すなわちHF細胞では5万個植込み2日後に、XP細胞では5万個植込み3日後に細胞数を算定し、cell sheetをHanks液で1回洗い、10-5乗〜3.3x10-8乗MまでHanks液にといた4NQOを1時間作用させ、終ってHanks液で洗い、MEM+10%FCSでさらに4日間incubateして細胞数を算定した。XP細胞について植込み3日後に作用させたのは細胞の増殖がおそいためである。
 結果はHF細胞では3.3x10-6乗Mで作用後4日間細胞の増殖は認められず、XP細胞では3.3x10-7乗Mで作用後ごくわずかな細胞数の増加がみられ、10-6乗Mでは減少した。すなわち両細胞の4NQOに対する感受性に10-1乗M程度の差異が認められ、XP細胞により強い細胞毒性がみられた。そこで培養後2〜3日のconfluentになる以前のHF細胞に3.3x10-6乗M、XP細胞には3.3x10-7乗Mの4NQO in Hanksを1時間作用させ、終ってHanks液で洗いrefeed後観察を続けているが、14日後の現在XP細胞にわずかな変性細胞がみられる程度で著名な変化はみとめられない。
 2.免疫学的実験について
 リンパ球に関する基礎データを少しずつそろえているが、山根のserum free medium(SF medium)を用いてラット脾よりえたlymphoid cellsを培養し、各濃度のPHAに対する反応を比較した。対照として1640+10%FCS培地を用いた。細胞数は100万個/mlとしPHA添加3日目にH3-TdR1μc/ml加え、24時間incubateしてstimulating indexで比較した。PHAに対する反応性は1640培地では75μg/ml、SF培地では25μg/mlで最高を示した。またSF培地を用いた場合のstimulating indexは1640培地の約3倍であったが、これはH3-TdRのとり込みの増加とともにPHAを作用させない対照細胞に非特異的な取込みの減少が著明であり、これもstimulating indexの上昇に一役かっていることは見逃せない。

 :質疑応答:
[堀川]ヒトの線維芽細胞とかXP細胞に4NQO処理をして何か変異がでましたか。
[高木]まだ出ていません。
[難波]私の所でも何も出ません。
[乾 ]XPの細胞のagingはどうですか。
[高木]正常より早くagingがくるようです。
[堀川]培養内でXPの方が正常より悪性化が早いというデータはまだ無いのですね。

《難波報告》
 16:グリセオフルビンのヒト染色体に及ぼす影響
 ヒトの染色体に対して4NQOが高い異常をおこすことをこの班会議で報告した折に、黒木先生からグリセオフルビンでヒトの染色体が高率に変化おこったという報告があることを教えて頂いた。この報告は1974年の国際癌学会でLarizza et al.が“Simulated heteroploid transformation by griseofulvin and streptolydigin"という題で報告している。
 もし、4NQOより高度のクロモゾームの変化がグリセオフルビンでおこれば、それはヒト細胞の培養内癌化の仕事に使えると考え、グリセオフルビンのヒトクロモゾームに対する影響を調べた。臨床的には血清中レベルは、0.25〜3g飲むと4hr後0.3〜1.7μg/ml、毎日0.5gで数日続けると血中濃度は1.4〜1.72μg/mlで有効濃度は1μg/mlである。
 1)グリセオフルビンの細胞増殖に対する影響
 細胞は川崎医大で樹立された単球性白血病細胞を使用した。グリセオフルビンはDMSOに溶した(10mg/ml)。(夫々図を呈示)5〜20μg/mlで4日間作用させれば細胞の増殖は対照に比べ約50%ぐらい低下する。高濃度(25μg/ml)でも短時間だけ細胞を処理したのでは、増殖阻害はない。
 2)クロモゾームの構造上の変化の検討
 (夫々表を呈示)著明な変化はおこらない。月報7505に報告した4NQOでのクロモゾームの変化は3.3x10-6乗M(0.66μg/ml)1hrの処理で全染色体数に対する異常染色体は平均0.466%(9実験の平均)であった。グリセオフルビンでは4NQOより高濃度、長時間の処理でも4NQOほどのクロモゾームの変化をおこしていない。観察されたクロモゾームの変化としてBreaks、Gaps、Dicentricsなどが主なものであった。
 3)クロモゾームの数の異常があるかどうかについては、正常なヒト由来のリンパ球細胞で検討中である。

 :質疑応答:
[乾 ]染色体レベルでbreakageのようなdamageが起こることは癌化へどう繋がるのでしょうか。癌化を起こすdoseと染色体異常を起こすdoseとは必ずしも一致しないですね。
[吉田]グリセオホルビンで処理された細胞の染色体数は変化していますか。
[梅田]異常分裂も多くて多核細胞が出て来ませんか。
[難波]そういうことは、まだ調べてありません。ヒトのリンパ球の培養を使ってグリセオホルビンの影響をみたいと思っていますが。
[勝田]変異剤と発癌剤との平行性をみるばかりでなく、この班ではもっと毎日の生活に密接に関係のあるものを、どんどん手掛けていきたいものですね。
[梅田]そういう点ではグリセオホルビンはマイコトキシンでもあり、水虫の薬でもありますから、適していますね。
[難波]何とかしてヒトの細胞を使って、確実に悪性変化を起こさせるような物質を探したいと思っています。

《佐藤報告》
 T- )3'me-DAB発癌実験−基礎的実験−
 今回より、DABを3'Me-DAB(より強力な発癌剤と云うことで)に切り替え、アゾ色素によるin vitro発癌実験に対し、方法論的にも有意義な実験系をめざして努力して行きたいと考えております。まず今回の報告は、3'Me-DABの二、三の肝細胞に対する細胞障害性の検討と、それら肝細胞の3'Me-DAB消費能について調べた結果であります。(図と表を呈示)
 細胞障害性:5万個/ml〜10万個/mlの細胞植え込み後2日、3'Me-DABを含む培地でさらに2日培養し、増殖曲線を描き、0.8%alcohol(control)に対する比率をもとめた。(RLD-10は実験中)現在の所RAL-5が高い細胞障害を受けた。
 3'Me-DAB消費:3'Me-DAB(3.8μg)添加後、4日間培養しO.D.=410mmより各細胞の消費率をもとめた。RAL-5、CL-2が高い消費能を示した。

 :質疑応答:
[吉田]J-5-2は正2倍体ですか。
[常盤]そうです。
[佐藤]過去に使ったものの中から整理して適当な系を選んで実験を始めています。
[吉田]発癌剤処理によって、すべての細胞が悪性化するのか、そしてどんな染色体をもったものが悪性化したのか、検討してほしいですね。

《山田報告》
 ConAによる前処理により、4NQOの発癌性効果を修飾できるか −ラット培養肝細胞RLC-16−? ;
従来の発癌実験における電気泳動的検索の、最も大きな隘路は発癌剤による細胞の悪性化の頻度(Cell population)が極めて低いことにあります。従ってrandom samplingにより撰んだ細胞の表面を検索する細胞電気泳動法によっては、発癌初期の表面構造を検索することが困難になります。そこでなんとか悪性化の頻度を高める方法がないかと考えていた所、次のような事実に思いあたりました。
 各種の植物凝集素(plant lectins)が細胞の増殖(幼若化)や、変異を促進する場合に、細胞膜で特異な変化が起ります。反応した物質が膜上で、そのreceptorと共に移動し、しかも全く異る生物作用を持つ反応物質(例へば抗体、ホルモン等)が植物凝集素と膜免疫上で相互に干渉しあう(stero-specificfunction)現象が知られて居ます。
 この事実から考えて発癌剤4NQOが細胞膜上で反応する時に、ConAと相互に干渉しあい応じないかと思い、新しい実験を開始してみました。
 即ち(図を呈示)肝細胞(RLC-16)を処理した(ConA;37℃30分、4NQO;3.3x10-6乗M 37℃30分、PBS、pH7.2)後にそれぞれ培養し、経時的に検索してみました。こまかい考察はさらに進めて成績が充分出来た段階でまとめてみたいと思いますが、現在の所、最も興味ある成績は、ConA→4NQO処理の細胞が、24時間以内に最も電気泳動度が低下(最も表面の変化が大きい)、しかも8週目には極めて泳動度が増加したことです。(図を呈示)この経時的検索の際同時にConAに対する反応性(37℃30分)の変化をしらべました(図を呈示)。あまりはっきりした差は出て居ませんが、4NQO→ConAとConA→4NQO、ConA単独群に13週目にConAの反応(即ち泳動度の反応性増加)が出現しつつある様な気がします。

 :質疑応答:
[難波]ConAを添加すると細胞が凝集しませんか。
[山田]この濃度では凝集しません。
[堀川]対照でConAに対する感受性が下がるのをどう考えておられますか。
[山田]あまり多くの事は言えませんが、少なくとも肝癌の反応とは違っています。
[難波]ConAはどの位強く結合しているのでしょうか。
[山田]はっきり判りませんが、洗うだけでも大分落ちるようです。

《久米川報告》
 I.セロファン・シート法による培養
 1.RLC細胞:
 RLC-19、RLC-20両細胞の培養を行った。RLC-19細胞はセロファン膜の下では2〜3日以内に細胞は死滅した。
 (写真を呈示)RLC-20の細胞は円形で密着し、細胞間にphase-whiteの間隙があり、還流培養した胎児の肝臓の像に近い。移植片の辺縁から紡錘形細胞のout-growthがみられる。10日前後までにRLC-20細胞は膜の下では次第に変性した。
 2.KB細胞:
 (写真を呈示)KB細胞は円形となり、細胞はお互いに密着している。細胞は核が割合大きく、原形質の占める割合が小さく、ぶ厚い感じがする。ときに細胞は腺様構造をとることもある。10日以上培養を続けると多核細胞が非常に多くなる。ときには10数コの核をもった細胞も見られる(図を呈示)。電顕による観察では細胞はお互いに200〜300Åの間隙で密着している。
 II.細胞とセロファン膜および血清の関係
 セロファン・シート法では細胞はセロファン膜にcompressされ、しかも血清を含んだ液とセロファン膜を介している。シート法の下における細胞の変化が、セロファン膜のcompressのためか、血清中の高分子成分が欠除したためかKB細胞を用いて調べてみた。
 その結果をまとめると、透析血清成分+セロファン膜の圧縮なし:細胞の変化なし。透析血清成分+セロファン膜の圧縮:細胞の変化なし。透析血清成分+セロファン膜の圧縮:細胞の変化。即ち両因子が同時に働いたときに始めて細胞に形態的な変化が現れることがわかった。
 膜の下に最初血清成分を加えた状態でKB細胞を培養すると、KB細胞は2〜3日目までは細胞は紡錘形で盛んに増殖する。しかし4日後には細胞の増殖は次第に低くなり、細胞はお互いに密着してくる。さらに培養を続けると細胞は集まり島状となる。通常のセロファン・シート法より細胞は小型でお互いの細胞間は強く結合しているように感じられる。今後セロファン膜における肝由来RLC細胞の動態を形態的機能的に調べてみたい。
 III.RLC細胞の酵素活性
 5月の月報でRLC細胞の解糖系酵素について報告したが、酵素活性は種々の培養条件により左右されるのではないかと考え、RLC-20を選び経時的に測定してみた。増殖と関係しているであろうと考えられるPK、G-6PDHは培養とともに次第に活性が低下した。GKが以外に高く、2日目の値は成体の肝に近い。この結果については現在追試中である。
 次いで、これらの酵素がインシュリンに対する応答性をもっているか、どうか調べた。培養4日目に0.1u/mlのインシュリンを添加、2日後に測定したものであるが、PK、G-6PDHは誘導されている。しかし、GKは逆に低く、インシュリンに対する応答性については今後の追試を必要とする(表を呈示)。

 :質疑応答:
[難波]培地の条件が変わると酵素活性は変わるのでしょうね。
[高木]インシュリン処理はどの位ですか。
[久米川]0.1uで48時間です。
[佐藤]旋回培養ではKBは大きな塊を作ります。ラッテの肝細胞は作りません。
[吉田]セロファン下の細胞は分裂像がみられませんね。
[久米川]分裂は殆どみられませんが、系によっては400日も生存して培養を続けられるものもあります。
[難波]ラッテ肝細胞でmonolayerに増殖している時と、aggregateを作らせた時とそれぞれ組織化学的な染色で酵素活性をみたらどうでしょうか。
[久米川]組織化学は今の所まだ手をつけていません。

《加藤報告》
 軟骨細胞の浮遊培養系における分化形質の保持
 ニワトリ胚の軟骨細胞を従来常法とされている単層培養ではなく、浮遊状態で培養することにより、軟骨細胞の分化形質の一つであるコンドロイチン硫酸の分子種と細胞あたり合成量が安定に保たれることを見出したので、培養法と細胞の性質について報告したい。(写真を呈示)従来の単層培養された軟骨細胞(ニワトリ13日胚胸骨)培養開始後1週間では細胞間物質が明瞭で又軟骨のnoduleの形成が見られる。我々の方法で培養し、浮遊して来た軟骨細胞培養18日目の浮遊細胞は、色素(エリスロシンB)の排出能と寒天培地によるplating efficiencyから90%以上が生きている細胞と判断される。またトルイジン・ブルー染色によるメタクロマジーを示す物質(酸性ムコ多糖)の生産、35S-無機硫酸によるラジオオートグラフィー、生産物の生化学的分析などの結果から軟骨細胞の性格を保持することを確認した。(図を呈示)これ等の浮遊してくる軟骨細胞を再現性よく得るために、いくつかの条件を検討したが、培養1日目に全培地を更新、以後は1日おきに1ml/dishずつ新鮮な培地を添加すると、シャーレに播かれた細胞数に依存した浮遊傾向を示すことが判った。細胞数/シャーレに依存して増殖速度も変化するが血清濃度を変えて増殖を調節しても浮遊してくる傾向には変化が認められないため、一義的に細胞濃度に依存した性質であると思われる。このようにして得られた浮遊細胞を、高頻度に浮遊状態を維持させながら継代することは可能で、培養開始後7週たったものでも、ほぼ80%の細胞が浮遊状態を維持している。増殖度は継代と共に低下してくるが、軟骨細胞が多量に合成するコンドロイチン硫酸の合成能力は安定に保たれており、合成されるコンドロイチン硫酸の分子種(Ch-6SとCh-4S)にも変化が認められない。(表を呈示)浮遊して増殖している軟骨細胞から1部プラスチック面に付着してくる細胞(stellate cell)が現れるが、BUdRやHyaluronic Acid処理でプロテオグリカンの合成を抑えると同様のstellate cellが現れることから浮遊状態から脱落してくる細胞は軟骨細胞としての機能が低下或いは消失したものらしいと思われる。その意味でこの培養系は、常に軟骨細胞の機能を活発に持っている細胞のみを常にselectしている系と云えよう。

 :質疑応答:
[山田]何もしなくても浮いているというのは何故でしょう。比重が軽いのでしょうか。
[堀川]細胞のまわりに何か出していて、それで浮いているのでしょうか。
[吉田]骨細胞はアメーバ様突起を持つと考えていましたが、この細胞は丸いのですね。
[加藤]浮いているときは丸くて、下に落ちると形が変わります。
[吉田]Agingの時はどうなりますか。
[加藤]下へ落ちて死んでゆきます。
[長瀬]ラッテの腹水肝癌ではfree cellと島を作る型の細胞とではムコ多糖の組成が違っています。この場合、下に落ちる細胞のムコ多糖についてもしらべてほしいですね。
[堀川]浮いて居る細胞が落ちてくるというプロセスは再現性がありますか。
[加藤]全く同じように起こります。

《野瀬報告》
 コラゲナーゼを用いた肝実質細胞の培養
 これまでに樹立されたラッテ肝細胞株の、肝特異機能をいくつか調べてみたが、いずれも機能を失っているようだった。そこでIypeの方法にならってprimaryの培養肝細胞を用いて機能を検討した。
 Adult ratの門脈からCa・Mg-free Hanks BSSを約40ml注入し潅流し、次に20mlの0.05%Collagenase(Worthington;typeII)で潅流する。liverを取出し、0.05%Collagenase中でピンセットを用いて組織をバラバラにし、Cell suspensionを得る。meshを通した後、低速遠沈(300rpm≒50xg、5min)を繰返し、“parenchymal cell"を分離した。1匹のラッテから約9x10の7乗個の細胞がとれ、viabilityは65%であった。Dispase処理で得られた上皮様細胞のarginase、tyrosine aminotransferase(TAT)活性は非常に低くセンイ芽細胞とあまり変わらない(表を呈示)。しかしCollagenase処理で得た細胞は両酵素活性が肝臓のhomogenateとほぼ等しく、dexamethason感受性も保持していた。Dispase処理で得た実質細胞はerhthrosinBで見たViabilityが1.5%と極わめて低く、肝実質細胞の調整にはCollagenaseが優れていると言える。
 Collagenaseで得た肝実質細胞の培養には、DM-153+20%FCSを用いたが、5%FCSではシャーレに付着する細胞が少なかった。(写真を呈示)培養4日目の実質細胞は、形態的には株となったラッテ肝細胞とは全く異なっている。この細胞はほとんど増殖せず、培養7日以後は徐々に死滅していった。
 使用する酵素が違うとこのように全く異なる細胞がとれてくるのは興味ある事実だが、株化された上皮様細胞と実質細胞とがどんな関係にあるかはまだわからない。低速で沈殿してくる細胞はsucklingの時期のラッテ肝からはとれないので、上皮様細胞は未熟な肝細胞なのかもしれない。各ageのラッテ肝で、TATとarginase活性の変化を調べたら、TATは生まれるとすぐに成熟ラッテと同じ活性まで上昇したが、arginaseは生後20日くらいまで徐々に上昇した。従って若いラッテの肝臓はいろいろな成熟段階があり、それぞれに特徴的細胞があるのかも知れない。

 :質疑応答:
[梅田]アフラトキシンの処理は13分では少し短くありませんか。
[野瀬]濃度が少し濃いのですが。
[梅田]ディスパーゼで還流してみたらどうでしょうか。
[野瀬]やってみます。
[梅田]フェノバルビタール2mMは少し濃いと思いますが・・・。
[野瀬]濃いです。
[加藤]生まれた時、又は生まれる直前のものを培養して、培養中に成熟型の酵素活性に変わってくるというような現象はありませんか。
[野瀬]今の所ありません。

【勝田班月報:7507:セロファンシートによる培養】
《勝田報告》
 ラット肝細胞の培養内4NQO処理の顕微鏡映画撮影による観察
肝細胞を4NQOで処理して、その形態変化をしらべることはこれまで多年続けてきた。しかしこの頃どんどん若い株が作れるようになったので、それを4NQO処理してしらべて見ようということになった。
 映画は2分1コマで撮ったが、長期間はとらず、4NQO処理後数週間位にした。これは、目標が細胞形態、動態の変化などを捕えることにより、悪性化を早く見出す指標にしようということにあったからである。4NQOは3.3x10-6乗M、30分。
 3例の観察で、第1例は生後6週のラッテの肝から由来したRLC-16株。第1回4NQO処理6日後に第2回処理をおこない、13日後(第1回からは19日目)から映画をとったカットに細胞動態の異常化が認められた。すなわち細胞表面の性状に変化が起こり、一杯の細胞シートにもかかわらず、細胞がお互いに密着せず、ぬるぬると、まるで泳ぐように動いていた。かってRLC-10(ラット肝)を4NQOで処理したあと、顕微鏡映画で半年間追跡したときに得られた所見とよく似ている。第2例は生後4週ラットの肝、RLC-19株でこれは処理前のcontrolの細胞がすでにぬるぬると泳いでいた。しかし面白いことに、ハムスターのチークポーチに榊原君が復元実験をしたところ、立派な腫瘤を作り、その組織像は肝癌に相当していた。第3例は生後11日のラットの肝由来のRLC-20株である。これは4NQO処理14日後に第2回処理をし、その8日後からとった映画カットに細胞のぬるぬる現象を見出した。
 以上の所見から、顕微鏡映画による検索では、処理後大体3週間以内に細胞の変化をdetectできるらしい、ということが判った。今後は材料のラットのageをもっと次第に下げて行く予定である。

 :質疑応答:
[難波]今日の映画では処理前の細胞がすでに培養開始から2年もたっているのですね。これらの株細胞の培養へ移してからもっと初期の細胞の動きはどうでしょうか。
[高岡]初期の頃の映画も撮ってありますが、今日は4NQOを処理した事で起こる変化だけにしぼりました。初期のものは又の機会にまとめてお見せします。
[堀川]4NQOをかけてすぐのカットでは細胞がどんどん消えてゆくようですが、photodynamic actionによるのでしょうか。
[高岡]大分昔にphotodynamic actionについては定量的にデータを出して報告しました。今日ご覧になったように、映画を撮ると初めの視野では殆どの細胞が死にますが、光の当たらなかった視野には生存した細胞が沢山いて、しかもどんどん分裂しています。
[堀川]癌化する細胞がtargetとして存在すると考えると、動きの変わった細胞は、全体からみるとほんの一部とは言えませんか。
[高岡]視野は無作為に選んでいて、しかも視野内の細胞はみな同じような動きを示しますから、動きが変わる頻度はかなり高いと思います。
[佐藤]処理後、細胞内の顆粒が多くなっている感じがしますね。
[久米川]あの顆粒はlysosomeではありませんか。
[吉田]Ageの異なるラッテの肝から樹立された株の染色体のploidyに興味がありますね。Tetraploidは出てきませんか。
[佐藤]どのageからとっても増殖してくる細胞は殆ど2倍体ですね。

《乾報告》
 2-アセチル・アミノフローレン(2FFA)投与による経胎盤試験内発癌
 前号迄の報告で、ニトロソ化合物、芳香族炭化水素、4-ニトロキノリン、バターイエロー等を妊娠母体に投与後、胎児を摘出し、培養開始後15日以内にTransformed Colonyの発現を観察したが、代表的な化学発癌物質群で芳香族アミン類が同法を使用しての実験系として現在迄報告していなかった。
 今月は、ハムスター妊娠母体に、2FFAを前回迄と同様の方法で投与しIn vitro-in vivo Transplacental Carcinogenesisを観察し、同時に同一母体より摘出した胎児細胞について、Transplacental Mutagenesis実験を行ない二、三の知見を得たので報告する。
 経胎盤発癌実験、これ迄の報告と同様に、妊娠11日の♀ハムスター腹腔内に2FFA 20mg/kgを投与し、24時間後胎児を摘出培養し、培養24時間以内に染色体標本を作製し、培養2、4代目の細胞をシャーレに播種、変異コロニーの検索を行なった。今回は、これに加え、残余の胎児をトリプシン処理し、培養2日後(2FFA投与後72時間)に、細胞を50万個perシャーレ播種、14〜15時間目より、8-アザグアニン(20、10μg/ml)6-チオグアニン(5、2.5、1.25μg/ml)を含んだMEM+10%v/v培養液で培養した。8-AG、6TGを含んだ培地の交換は、初めの3日間は連日、以後1日おきとし、15日間培養を継続後シャーレを固定、染色し、8-AG、6-TG耐性コロニーの出現を観察した。対照にはHanks-0.5ml、DMSO-500mg投与した母体より摘出した胎児細胞及び、ハムスター全胎児(妊娠14日目)由来の線維芽細胞(G-3)を用いた。
 (表を呈示)2FFA投与後2代目、4代目の細胞による変異コロニー出現頻度は、実験に使用した3個体共、培養2代目より変異コロニーが1〜2%前後出現した。ニトロソ化合物、芳香族炭化水素と同様の結果である。
(表を呈示)ハムスター線維芽細胞、経胎盤Hanks液、DMSO、2FFA投与胎児細胞の8AG、6TG耐性コロニーの出現率をしらべた。培養2日目の細胞を2000ケ/dish播種した場合の生存細胞率は、ハムスター線維芽細胞のそれを100%とした場合いずれも95%以上であった。耐性コロニーは中、大型コロニーの出現率は2FFA経胎盤投与細胞群、8AG-10μg/mlで明らかに高く、同型コロニーは対照群では出現しなかった。小型コロニーの出現は対照に使用したハムスター線維芽細胞に比して、2FFA投与群では3倍であった。6-TG耐性コロニーは、中大型は2FFA投与群のみに出現した。小型コロニーは、対照線維芽細胞、DMSO経胎盤投与群に各1ケずつ出現した。現在これらコロニーをクローニングし、HAT培地での生存率、逆変異コロニーの出現率等を検索中である。
 以上二つの結果より、経胎盤的に化学物質を投与することにより、試験管内発癌と細胞水準での突然変異との関連を追求する糸口がつかめたと考えられる。現在、染色体変異誘導のデータと組み合せて、癌化←→突然変異←→奇型誘導(催奇型)、の関係を同一実験系で解析出来ないかと云う、とほうもない夢を見ながら一つの実験をやっております。
 もう一方で、変異コロニーの造腫瘍性の問題、動物実験での標的臓器と経胎盤的に化学物質を投与した場合、各固有臓器を別々にとり出して試験管内発癌を試みるつもりでおりますが、純系ハムスターの繁殖がむずかしくこの問題は進展せず困っております。
 同系を使用してのもう一つの問題は化学物質の投与時期と、妊娠期間の問題です。ある薬品を妊娠前期に投与したら、出生時においては見られない染色体異常細胞が出現したら人間の自然流産児の染色体分析の結果と照らし合せて奇型発生の機序の解析にも役立つかも知れません。
 又現在やっている全器官形成終了時に物質を投与し器官毎の培養を行ないその癌化を短期間にテェックし、投与時期を前にすることによって、器官形成と発癌の問題のかいけつの糸口にならないかと考えております。
 来月以後に2FFA投与細胞の染色体分析の結果と共に突然変異誘導に関するデータを発表して行きます。

 :質疑応答:
[勝田]母体への薬剤投与の時期と培養へ移す時期をどう選ぶかは難しい問題ですね。
[乾 ]今いろいろ調べているところです。
[難波]播種細胞数が多すぎませんか。多いと死細胞からの酵素交換が問題になります。
[梅田]50万個/dishなら細胞接触はないと思いますから、この位で良いと思います。
[堀川]Total frequencyはどの位ですか。
[乾 ]対照では10の7乗で0、処理群では10の7乗で6コ位出ます。耐性コロニーの中小さいものは本当のmutantではないようです。
[堀川]処理の期間の問題ですが、fixation and expressionに必要な時間を考えると、8AGを加えるまでの培養時間1日で充分でしょうか。
[乾 ]体内で24時間、培養に移して48時間たって薬剤を加えています。処理後は3回分裂しています。
[堀川]よいのかも知れません。8AG、6TG耐性になった細胞は悪性化していませんか。
[乾 ]まだ復元していませんが、形態的には悪性にみえません。

《梅田報告》
 3T3様株細胞の樹立は、それがcontact inhibitionという正常細胞としての性質をもっていること、定量化が可能なことなどにより試験管内での化学発癌に有効な手段を提供し得るように思われます。
 昨年9月より私達は種々の発癌剤による試験管内発癌の系統差を調べる目的で、3種の近交系マウス(DDD、AKR、C3H)より3T3様細胞株の樹立を試みて来ました。方法はTodaroらの方法に準じ、マウス胎児躯幹をトリプシン処理後、15〜30万個/6cm dishのinoculumで3〜4日毎に継代をつづけました。培地としてMEM+10%FCSを使用しました(表を呈示)。3系統の細胞とも4〜6代目頃(9〜16日目)より増殖率は一旦ゆるやかになりましたが、17代目頃(54日目)より立ち上がりはじめ、30代以降にはほぼ一様の増殖をつづけるようになりました(図を呈示)。しかしDDDとC3H細胞株については(表を呈示)、増殖率が51代以降では明らかに増加の傾向を示しました。増殖曲線は19代目で調べてありますが、saturation densityはDDDが一番高く(7万個/平方cm)、C3H、AKRの順になっています。(表を呈示)saturation densityを各世代でしらべました。方法は30万個/dish播種し3日毎にmedium changeを行ない12日後の細胞数を求めました。contact inhibitionのきいている細胞はsaturation densityが5〜10万個cells/平方cmとされていますが、DDDに関しては22代7万個cells/平方cm、36代11万個cells/平方cm、53代16万個cells/平方cmと漸増の傾向を示しましたが、AKR、C3Hに関しては53代まではそれぞれ6.8〜7.5万個cells/平方cm、9〜10万個cells/平方cmと比較的低値を保っていました。染色体のモードは(図を呈示)、少ないのですが一応50ケのmetaphase cellを数えました。DDD、AKR、C3Hの細胞とも、17、18代目で調べた時にはdiploidとtetraploid付近に2つのモードをもっていました。しかし40代目になるとDDDはhypertetraploidになっており、AKRとC3Hはtetraploid rangeにありました。
 次にこれらの細胞株を用いて試験管内発癌実験を行ないました。判定の容易さという点ではfocus assayによる方法がcolony法に比べ優れていると思われたので、DiPaolo & Takanoのfocus assayを採用しました。即ち1万個の細胞を播種したのち、翌日発癌剤を種々の濃度で処理し2日間培養後medium changeを行ない、以後週2回medium changeを繰り返し4〜6週後に固定、染色して出現してくるtransformed focusを算定しました。(表を呈示)DDDでは無処置対照群に平均8.5ケ/dishのfocusが見られ、DMBA 0.25、0.5μg/ml処理ではそれぞれ平均37.0、41ケ/dishの多数のfocusが観察されました。AKRでは対照群及び4NQO処理群ではtransformed focusは見られず、DMBA 0.05μg/ml処理群では4枚のdish中1ケ、MNNG 1μg/ml処理群では2枚のdish中3ケ認められました。C3Hに関しては培養5週後の対照群はcontact inhibitionがきいておらず、この細胞株は発癌実験に使うには不適当と判断されました。DDDに関しては対照群にも少数transformed fociが観察されたので、現在cloningをすすめている段階です。
 KouriらはAryl Hydrocarbon HydroxylaseのInducibilityがマウスの系統により異なること、例えばBalb/C、C3H、C57BLなどはhigh responderに、AKR、DBAなどはlow responderに分類され、high responderのマウスはin vivoの実験でMethylcholanthreneによる発癌率も高いと報告しています。私達はlow responderに属するAKRマウスから得られた細胞株を用いて試験管内発癌実験を行なったところ、transformed fociの出現率が低いような結果を得ました。AKRに関するかぎり我々の結果はKouriらの報告を一部supportしているように思われます。DDDについてはAHHのInducibilityは測定されておらず、系統差を論ずるには充分ではないのですが、今回の試験管内発癌実験の結果をもとに実験を集めていきたいと思っております。

 :質疑応答:
[乾 ]DDDマウスはSWISSとC3Hのどちらに近い系統ですか。
[宮沢]よく判りません。これからメタボリズムを調べます。
[吉田]動物のデータが充分調べられている系統を使った方が良いですね。
[堀川]Assay systemとしてback groundが高くても変異の多く出る方が良いのでしょうか。或いは変異率は低くてもback groundのないのを使うべきでしょうか。
[乾 ]Back ground 0が理想です。
[勝田]我々がマウスを敬遠するのはマウスの細胞は大体bakc groundが高いからです。
[乾 ]AHHをまだ持っていますか。
[梅田]持っていると思います。
[吉田]これらの系ではin vivoのデータとin vitroのデータが一致するかどうかという所が面白いですね。
[乾 ]DDD由来の培養系の染色体が5倍体というのは珍しい、安定していますか。
[勝田]顕微鏡映画で分裂様式を観察してみる必要がありますね。
[吉田]5倍体はまだ安定していないのでないでしょうか。もう少したつと減少してきて、安定するのではないでしょうか。

《堀川報告》
 前報ではCysteamine、Cysteine、AETを始めとする8種のSH化合物について、それらの放射線防護効果をX線照射されたマウスL細胞のコロニー形成能を指標にして調べた結果について報告した。その結果、従来放射線防護剤として知られていたCysteamineとCysteineが最もすぐれた防護効果をもつことがわかったので、今回はX線照射または4-HAQO処理されたHeLaS3細胞の生存率でみたCysteamineの致死防護効果、あるいはこれらX線および4-HAQO処理により誘発される8-azaguanine耐性細胞出現頻度のCysteamineによる防護効果をテストした結果を報告する。
 まず、各種線量のX線で照射前または各種濃度の4-HAQOで20分間ずつ処理する前15分から照射及び処理後まで、短試4ml当り60万個細胞という条件下で、50mM Cysteamineでもって処理されたHeLaS3の生存率を対照群と比較した(図を呈示)。X線照射細胞の生存率をCysteamineは極度に防護するが、一方Cysteamineは4-HAQO処理細胞の生存率をも防護することがわかる。
 また、前述と同様の条件でCysteamine存在下でX線または4-HAQO処理された細胞を5ml当り50万個細胞づつになるように小角瓶に分注し、72時間のそれぞれmutation expression timeをおいたのち、15μg 8-azaguanine/mlを含む9cmペトリ皿に10万個細胞づつ入れて2週間培養した後に出現する耐性細胞のコロニー数から突然変異率を求めた(図を呈示)。
 結果は、X線照射による突然変異誘発の上昇は生存率の場合と同様にSH化合物によって顕著に防護されるが、一方4-HAQO処理による突然変異誘発もCysteamineによって防護されることがわかった。こうした結果は4-HAQOには部分的にX線の作用と類似したfree radical的な間接作用をもつことを示唆するものであり、同時に細胞の生存率の上昇と誘発突然変異率の低下は裏腹の関係にあることを示している。
 こうした基礎的実験から得たCysteamineの効果を今後は細胞周期を通じての生存率でみた感受性変動ならびに誘発突然変異率におよぼす効果として調べたいと思っている。

 :質疑応答:
[梅田]Surviving rateで合わせてmutation rateをみないと、inductionの比較は出来ないのではありませんか。
[堀川]変異としてみるにはkillingとの関係が難しい問題になりますね。Chemicalの場合は2剤を同時に入れるのはよくないと思っています。
[勝田]培地の中には血清が入っているのも問題を複雑にするでしょうね。
[吉田]変異率はやはりkillingを差し引いて計算した方が良いと思いますね。

《高木報告》
 1.発癌実験について
 今年度から当班ではできるだけヒトの細胞を用いて実験を組む方針なので、その方針に沿い実験をすすめたいと思っている。
 いきなりヒトの膵ラ氏島細胞を用いたいが、その培養の維持が現時点では30〜40日、培地中のinsulineは約4週にわたり証明されている段階で、植込み直後の分裂があると思われる時期に発癌剤を作用させれば成功させうる可能性もあるが、材料の入手が中々困難であり、培地条件を検討してできるだけ長期の生存につとめる一方、まずラット膵ラ氏島細胞を用いて4NQOによる影響を観察してみた。
 生後8週のラットラ氏島細胞を前述の方法で細胞培養し、培養3日目の形成直後のpseudoisletと、培養18日目のpseudoisletを用い、これらを池本のconical tubeに入れてHanks液にとかした4NQO各3.3x10-6乗Mと3.3x10-7乗M 0.5mlを1時間作用させ、Hanks液で1回洗ってmicrotest II tissue culture plateの各穴に分注した。対照は4NQOを含まないHanks液で同様に処理して植込んだ。培地はDM-153+20%FCSとしブ糖濃度は3mg/mlとした。3.3x10-6乗Mでは処理3日目にはすでにpseudoisletの構造はくずれ、細胞は変性におちいったものと思われる。
 3.3x10-7乗Mでは7日目にややpseudoisletのくずれたものもあったが、全体として形態はよく保たれていた。10万個程度のラ氏島細胞には3.3x10-7乗M 0.5ml位を作用さすのが適当かと思われるが、細胞は以後分裂しなければin vitroの発癌はむつかしいと考えられるので、如何にして分裂させるかが問題である。ラ氏島のB細胞はPancreozynin Caernlein及び高濃度のブ糖で分裂するといわれており、そう云ったものと発癌剤との組合せも考慮しなければならないと思う。
 一方ヒトの細胞で、正常人皮膚の生検によりえられたHF細胞とXeroderma pigmentosumの患者の正常皮膚部分よりえられたXP細胞に4NQOを作用させてみた。作用させるにあたり、まず4NQOのこれら細胞に対するcytotoxicityをみた。すなわちHF細胞では5万個植込み2日後に、XP細胞では5万個植込み3日後に細胞数を算定し、cell sheetをHanks液で1回洗い、10-5乗〜3.3x10-8乗MまでHanks液にといた4NQOを1時間作用させ、終ってHanks液で洗い、MEM+10%FCSでさらに4日間incubateして細胞数を算定した。XP細胞について植込み3日後に作用させたのは細胞の増殖がおそいためである。
 結果はHF細胞では3.3x10-6乗Mで作用後4日間細胞の増殖は認められず、XP細胞では3.3x10-7乗Mで作用後ごくわずかな細胞数の増加がみられ、10-6乗Mでは減少した。すなわち両細胞の4NQOに対する感受性に10-1乗M程度の差異が認められ、XP細胞により強い細胞毒性がみられた。そこで培養後2〜3日のconfluentになる以前のHF細胞に3.3x10-6乗M、XP細胞には3.3x10-7乗Mの4NQO in Hanksを1時間作用させ、終ってHanks液で洗いrefeed後観察を続けているが、14日後の現在XP細胞にわずかな変性細胞がみられる程度で著名な変化はみとめられない。
 2.免疫学的実験について
 リンパ球に関する基礎データを少しずつそろえているが、山根のserum free medium(SF medium)を用いてラット脾よりえたlymphoid cellsを培養し、各濃度のPHAに対する反応を比較した。対照として1640+10%FCS培地を用いた。細胞数は100万個/mlとしPHA添加3日目にH3-TdR1μc/ml加え、24時間incubateしてstimulating indexで比較した。PHAに対する反応性は1640培地では75μg/ml、SF培地では25μg/mlで最高を示した。またSF培地を用いた場合のstimulating indexは1640培地の約3倍であったが、これはH3-TdRのとり込みの増加とともにPHAを作用させない対照細胞に非特異的な取込みの減少が著明であり、これもstimulating indexの上昇に一役かっていることは見逃せない。

 :質疑応答:
[堀川]ヒトの線維芽細胞とかXP細胞に4NQO処理をして何か変異がでましたか。
[高木]まだ出ていません。
[難波]私の所でも何も出ません。
[乾 ]XPの細胞のagingはどうですか。
[高木]正常より早くagingがくるようです。
[堀川]培養内でXPの方が正常より悪性化が早いというデータはまだ無いのですね。

《難波報告》
 16:グリセオフルビンのヒト染色体に及ぼす影響
 ヒトの染色体に対して4NQOが高い異常をおこすことをこの班会議で報告した折に、黒木先生からグリセオフルビンでヒトの染色体が高率に変化おこったという報告があることを教えて頂いた。この報告は1974年の国際癌学会でLarizza et al.が“Simulated heteroploid transformation by griseofulvin and streptolydigin"という題で報告している。
 もし、4NQOより高度のクロモゾームの変化がグリセオフルビンでおこれば、それはヒト細胞の培養内癌化の仕事に使えると考え、グリセオフルビンのヒトクロモゾームに対する影響を調べた。臨床的には血清中レベルは、0.25〜3g飲むと4hr後0.3〜1.7μg/ml、毎日0.5gで数日続けると血中濃度は1.4〜1.72μg/mlで有効濃度は1μg/mlである。
 1)グリセオフルビンの細胞増殖に対する影響
 細胞は川崎医大で樹立された単球性白血病細胞を使用した。グリセオフルビンはDMSOに溶した(10mg/ml)。(夫々図を呈示)5〜20μg/mlで4日間作用させれば細胞の増殖は対照に比べ約50%ぐらい低下する。高濃度(25μg/ml)でも短時間だけ細胞を処理したのでは、増殖阻害はない。
 2)クロモゾームの構造上の変化の検討
 (夫々表を呈示)著明な変化はおこらない。月報7505に報告した4NQOでのクロモゾームの変化は3.3x10-6乗M(0.66μg/ml)1hrの処理で全染色体数に対する異常染色体は平均0.466%(9実験の平均)であった。グリセオフルビンでは4NQOより高濃度、長時間の処理でも4NQOほどのクロモゾームの変化をおこしていない。観察されたクロモゾームの変化としてBreaks、Gaps、Dicentricsなどが主なものであった。
 3)クロモゾームの数の異常があるかどうかについては、正常なヒト由来のリンパ球細胞で検討中である。

 :質疑応答:
[乾 ]染色体レベルでbreakageのようなdamageが起こることは癌化へどう繋がるのでしょうか。癌化を起こすdoseと染色体異常を起こすdoseとは必ずしも一致しないですね。
[吉田]グリセオホルビンで処理された細胞の染色体数は変化していますか。
[梅田]異常分裂も多くて多核細胞が出て来ませんか。
[難波]そういうことは、まだ調べてありません。ヒトのリンパ球の培養を使ってグリセオホルビンの影響をみたいと思っていますが。
[勝田]変異剤と発癌剤との平行性をみるばかりでなく、この班ではもっと毎日の生活に密接に関係のあるものを、どんどん手掛けていきたいものですね。
[梅田]そういう点ではグリセオホルビンはマイコトキシンでもあり、水虫の薬でもありますから、適していますね。
[難波]何とかしてヒトの細胞を使って、確実に悪性変化を起こさせるような物質を探したいと思っています。

《佐藤報告》
 T- )3'me-DAB発癌実験−基礎的実験−
 今回より、DABを3'Me-DAB(より強力な発癌剤と云うことで)に切り替え、アゾ色素によるin vitro発癌実験に対し、方法論的にも有意義な実験系をめざして努力して行きたいと考えております。まず今回の報告は、3'Me-DABの二、三の肝細胞に対する細胞障害性の検討と、それら肝細胞の3'Me-DAB消費能について調べた結果であります。(図と表を呈示)
 細胞障害性:5万個/ml〜10万個/mlの細胞植え込み後2日、3'Me-DABを含む培地でさらに2日培養し、増殖曲線を描き、0.8%alcohol(control)に対する比率をもとめた。(RLD-10は実験中)現在の所RAL-5が高い細胞障害を受けた。
 3'Me-DAB消費:3'Me-DAB(3.8μg)添加後、4日間培養しO.D.=410mmより各細胞の消費率をもとめた。RAL-5、CL-2が高い消費能を示した。

 :質疑応答:
[吉田]J-5-2は正2倍体ですか。
[常盤]そうです。
[佐藤]過去に使ったものの中から整理して適当な系を選んで実験を始めています。
[吉田]発癌剤処理によって、すべての細胞が悪性化するのか、そしてどんな染色体をもったものが悪性化したのか、検討してほしいですね。

《山田報告》
 ConAによる前処理により、4NQOの発癌性効果を修飾できるか −ラット培養肝細胞RLC-16−? ;
従来の発癌実験における電気泳動的検索の、最も大きな隘路は発癌剤による細胞の悪性化の頻度(Cell population)が極めて低いことにあります。従ってrandom samplingにより撰んだ細胞の表面を検索する細胞電気泳動法によっては、発癌初期の表面構造を検索することが困難になります。そこでなんとか悪性化の頻度を高める方法がないかと考えていた所、次のような事実に思いあたりました。
 各種の植物凝集素(plant lectins)が細胞の増殖(幼若化)や、変異を促進する場合に、細胞膜で特異な変化が起ります。反応した物質が膜上で、そのreceptorと共に移動し、しかも全く異る生物作用を持つ反応物質(例へば抗体、ホルモン等)が植物凝集素と膜免疫上で相互に干渉しあう(stero-specificfunction)現象が知られて居ます。
 この事実から考えて発癌剤4NQOが細胞膜上で反応する時に、ConAと相互に干渉しあい応じないかと思い、新しい実験を開始してみました。
 即ち(図を呈示)肝細胞(RLC-16)を処理した(ConA;37℃30分、4NQO;3.3x10-6乗M 37℃30分、PBS、pH7.2)後にそれぞれ培養し、経時的に検索してみました。こまかい考察はさらに進めて成績が充分出来た段階でまとめてみたいと思いますが、現在の所、最も興味ある成績は、ConA→4NQO処理の細胞が、24時間以内に最も電気泳動度が低下(最も表面の変化が大きい)、しかも8週目には極めて泳動度が増加したことです。(図を呈示)この経時的検索の際同時にConAに対する反応性(37℃30分)の変化をしらべました(図を呈示)。あまりはっきりした差は出て居ませんが、4NQO→ConAとConA→4NQO、ConA単独群に13週目にConAの反応(即ち泳動度の反応性増加)が出現しつつある様な気がします。

 :質疑応答:
[難波]ConAを添加すると細胞が凝集しませんか。
[山田]この濃度では凝集しません。
[堀川]対照でConAに対する感受性が下がるのをどう考えておられますか。
[山田]あまり多くの事は言えませんが、少なくとも肝癌の反応とは違っています。
[難波]ConAはどの位強く結合しているのでしょうか。
[山田]はっきり判りませんが、洗うだけでも大分落ちるようです。

《久米川報告》
 I.セロファン・シート法による培養
 1.RLC細胞:
 RLC-19、RLC-20両細胞の培養を行った。RLC-19細胞はセロファン膜の下では2〜3日以内に細胞は死滅した。
 (写真を呈示)RLC-20の細胞は円形で密着し、細胞間にphase-whiteの間隙があり、還流培養した胎児の肝臓の像に近い。移植片の辺縁から紡錘形細胞のout-growthがみられる。10日前後までにRLC-20細胞は膜の下では次第に変性した。
 2.KB細胞:
 (写真を呈示)KB細胞は円形となり、細胞はお互いに密着している。細胞は核が割合大きく、原形質の占める割合が小さく、ぶ厚い感じがする。ときに細胞は腺様構造をとることもある。10日以上培養を続けると多核細胞が非常に多くなる。ときには10数コの核をもった細胞も見られる(図を呈示)。電顕による観察では細胞はお互いに200〜300Åの間隙で密着している。
 II.細胞とセロファン膜および血清の関係
 セロファン・シート法では細胞はセロファン膜にcompressされ、しかも血清を含んだ液とセロファン膜を介している。シート法の下における細胞の変化が、セロファン膜のcompressのためか、血清中の高分子成分が欠除したためかKB細胞を用いて調べてみた。
 その結果をまとめると、透析血清成分+セロファン膜の圧縮なし:細胞の変化なし。透析血清成分+セロファン膜の圧縮:細胞の変化なし。透析血清成分+セロファン膜の圧縮:細胞の変化。即ち両因子が同時に働いたときに始めて細胞に形態的な変化が現れることがわかった。
 膜の下に最初血清成分を加えた状態でKB細胞を培養すると、KB細胞は2〜3日目までは細胞は紡錘形で盛んに増殖する。しかし4日後には細胞の増殖は次第に低くなり、細胞はお互いに密着してくる。さらに培養を続けると細胞は集まり島状となる。通常のセロファン・シート法より細胞は小型でお互いの細胞間は強く結合しているように感じられる。今後セロファン膜における肝由来RLC細胞の動態を形態的機能的に調べてみたい。
 III.RLC細胞の酵素活性
 5月の月報でRLC細胞の解糖系酵素について報告したが、酵素活性は種々の培養条件により左右されるのではないかと考え、RLC-20を選び経時的に測定してみた。増殖と関係しているであろうと考えられるPK、G-6PDHは培養とともに次第に活性が低下した。GKが以外に高く、2日目の値は成体の肝に近い。この結果については現在追試中である。
 次いで、これらの酵素がインシュリンに対する応答性をもっているか、どうか調べた。培養4日目に0.1u/mlのインシュリンを添加、2日後に測定したものであるが、PK、G-6PDHは誘導されている。しかし、GKは逆に低く、インシュリンに対する応答性については今後の追試を必要とする(表を呈示)。

 :質疑応答:
[難波]培地の条件が変わると酵素活性は変わるのでしょうね。
[高木]インシュリン処理はどの位ですか。
[久米川]0.1uで48時間です。
[佐藤]旋回培養ではKBは大きな塊を作ります。ラッテの肝細胞は作りません。
[吉田]セロファン下の細胞は分裂像がみられませんね。
[久米川]分裂は殆どみられませんが、系によっては400日も生存して培養を続けられるものもあります。
[難波]ラッテ肝細胞でmonolayerに増殖している時と、aggregateを作らせた時とそれぞれ組織化学的な染色で酵素活性をみたらどうでしょうか。
[久米川]組織化学は今の所まだ手をつけていません。

《加藤報告》
 軟骨細胞の浮遊培養系における分化形質の保持
 ニワトリ胚の軟骨細胞を従来常法とされている単層培養ではなく、浮遊状態で培養することにより、軟骨細胞の分化形質の一つであるコンドロイチン硫酸の分子種と細胞あたり合成量が安定に保たれることを見出したので、培養法と細胞の性質について報告したい。(写真を呈示)従来の単層培養された軟骨細胞(ニワトリ13日胚胸骨)培養開始後1週間では細胞間物質が明瞭で又軟骨のnoduleの形成が見られる。我々の方法で培養し、浮遊して来た軟骨細胞培養18日目の浮遊細胞は、色素(エリスロシンB)の排出能と寒天培地によるplating efficiencyから90%以上が生きている細胞と判断される。またトルイジン・ブルー染色によるメタクロマジーを示す物質(酸性ムコ多糖)の生産、35S-無機硫酸によるラジオオートグラフィー、生産物の生化学的分析などの結果から軟骨細胞の性格を保持することを確認した。(図を呈示)これ等の浮遊してくる軟骨細胞を再現性よく得るために、いくつかの条件を検討したが、培養1日目に全培地を更新、以後は1日おきに1ml/dishずつ新鮮な培地を添加すると、シャーレに播かれた細胞数に依存した浮遊傾向を示すことが判った。細胞数/シャーレに依存して増殖速度も変化するが血清濃度を変えて増殖を調節しても浮遊してくる傾向には変化が認められないため、一義的に細胞濃度に依存した性質であると思われる。このようにして得られた浮遊細胞を、高頻度に浮遊状態を維持させながら継代することは可能で、培養開始後7週たったものでも、ほぼ80%の細胞が浮遊状態を維持している。増殖度は継代と共に低下してくるが、軟骨細胞が多量に合成するコンドロイチン硫酸の合成能力は安定に保たれており、合成されるコンドロイチン硫酸の分子種(Ch-6SとCh-4S)にも変化が認められない。(表を呈示)浮遊して増殖している軟骨細胞から1部プラスチック面に付着してくる細胞(stellate cell)が現れるが、BUdRやHyaluronic Acid処理でプロテオグリカンの合成を抑えると同様のstellate cellが現れることから浮遊状態から脱落してくる細胞は軟骨細胞としての機能が低下或いは消失したものらしいと思われる。その意味でこの培養系は、常に軟骨細胞の機能を活発に持っている細胞のみを常にselectしている系と云えよう。

 :質疑応答:
[山田]何もしなくても浮いているというのは何故でしょう。比重が軽いのでしょうか。
[堀川]細胞のまわりに何か出していて、それで浮いているのでしょうか。
[吉田]骨細胞はアメーバ様突起を持つと考えていましたが、この細胞は丸いのですね。
[加藤]浮いているときは丸くて、下に落ちると形が変わります。
[吉田]Agingの時はどうなりますか。
[加藤]下へ落ちて死んでゆきます。
[長瀬]ラッテの腹水肝癌ではfree cellと島を作る型の細胞とではムコ多糖の組成が違っています。この場合、下に落ちる細胞のムコ多糖についてもしらべてほしいですね。
[堀川]浮いて居る細胞が落ちてくるというプロセスは再現性がありますか。
[加藤]全く同じように起こります。

《野瀬報告》
 コラゲナーゼを用いた肝実質細胞の培養
 これまでに樹立されたラッテ肝細胞株の、肝特異機能をいくつか調べてみたが、いずれも機能を失っているようだった。そこでIypeの方法にならってprimaryの培養肝細胞を用いて機能を検討した。
 Adult ratの門脈からCa・Mg-free Hanks BSSを約40ml注入し潅流し、次に20mlの0.05%Collagenase(Worthington;typeII)で潅流する。liverを取出し、0.05%Collagenase中でピンセットを用いて組織をバラバラにし、Cell suspensionを得る。meshを通した後、低速遠沈(300rpm≒50xg、5min)を繰返し、“parenchymal cell"を分離した。1匹のラッテから約9x10の7乗個の細胞がとれ、viabilityは65%であった。Dispase処理で得られた上皮様細胞のarginase、tyrosine aminotransferase(TAT)活性は非常に低くセンイ芽細胞とあまり変わらない(表を呈示)。しかしCollagenase処理で得た細胞は両酵素活性が肝臓のhomogenateとほぼ等しく、dexamethason感受性も保持していた。Dispase処理で得た実質細胞はerhthrosinBで見たViabilityが1.5%と極わめて低く、肝実質細胞の調整にはCollagenaseが優れていると言える。
 Collagenaseで得た肝実質細胞の培養には、DM-153+20%FCSを用いたが、5%FCSではシャーレに付着する細胞が少なかった。(写真を呈示)培養4日目の実質細胞は、形態的には株となったラッテ肝細胞とは全く異なっている。この細胞はほとんど増殖せず、培養7日以後は徐々に死滅していった。
 使用する酵素が違うとこのように全く異なる細胞がとれてくるのは興味ある事実だが、株化された上皮様細胞と実質細胞とがどんな関係にあるかはまだわからない。低速で沈殿してくる細胞はsucklingの時期のラッテ肝からはとれないので、上皮様細胞は未熟な肝細胞なのかもしれない。各ageのラッテ肝で、TATとarginase活性の変化を調べたら、TATは生まれるとすぐに成熟ラッテと同じ活性まで上昇したが、arginaseは生後20日くらいまで徐々に上昇した。従って若いラッテの肝臓はいろいろな成熟段階があり、それぞれに特徴的細胞があるのかも知れない。

 :質疑応答:
[梅田]アフラトキシンの処理は13分では少し短くありませんか。
[野瀬]濃度が少し濃いのですが。
[梅田]ディスパーゼで還流してみたらどうでしょうか。
[野瀬]やってみます。
[梅田]フェノバルビタール2mMは少し濃いと思いますが・・・。
[野瀬]濃いです。
[加藤]生まれた時、又は生まれる直前のものを培養して、培養中に成熟型の酵素活性に変わってくるというような現象はありませんか。
[野瀬]今の所ありません。

【勝田班月報:7509:可移植性テストとしての異種移植】
《勝田報告(報告者・榊原)》
 培養細胞の悪性・良性を決める唯一の信頼できる実験的手段は戻し移植試験であるとされているが、この方法には幾つかの難点があり、特に結果が判明する迄1年にも及ぶlatent periodを要する点は問題である。
近年、ヌードマウスの発見や免疫抑制剤として抗胸腺細胞血清(ATS)の再評価によって、異種移植は比較的容易となった。例えば、吉田肉腫細胞をシリアンハムスターの頬袋に移植した上、ATS処置を行なうと、広汎な遠隔臓器転移をともなって短期間のうちに動物は腫瘍死する。又、人癌由来培養細胞株をこの異種移植系に植えると、4週間以内に検索した凡ての株が局所に腫瘍を形成する。
 我々は今回、主としてラット肝由来培養細胞24株について、戻し移植結果とATS処置ハムスター頬袋への異種移植結果とを比較検討した。両者の間に、高い正の相関が見出せるなら、可移植性テスト法としてこの異種移植実験系を利用することが可能であると考えたからである。
 実験動物としては、純系シリアンハムスター(adult)を用いた。ATSはMedawarらのtwo pulse methodの変法により作製した。ATSによるconditioningは移植当日より始め、以後週2回づつ、1回投与量0.5ml/animal,S.C.とし頬袋切除まで続けた。移植後3週間経たのち頬袋を引き出して、腫瘤形成の有無をしらべ、個々の腫瘤について病理組織学的検索を行なった。若しそこに細胞の腫瘍性増殖が認められたなら、これを“take"されたと判定することにした。
 結果は(表を呈示)、戻し移植によって宿主を腫瘍死させ得る12株のうち6株はハムスター頬袋にtakeされた(残る6株中5株も9月18日現在、頬袋に“腫瘤"を形成している)。可移植性のない、あるいはないと考えられる12株中8株はハムスター頬袋にもtakeされなかった(残る4株中の1株も9月18日現在“腫瘤"形成がない)。結局結果の不一致をみた細胞株はRLC-10(2)、RLC-19及びRLC-19(4NQO)、JTC-21・P3の4株のみのようである。しかもこれらの株細胞は、戻し移植結果にも多少問題のある例である。即ち、RLC-10(2)は、生後1ケ月以内の幼若ラットに戻した場合のみ宿主を殺すが、成熟ラットならびにハムスター頬袋にはtakeされない。RLC-19とRLC-19(4NQO)はハムスター頬袋に癌を作ったが、戻し移植後4ケ月の現在、ラットでの造腫瘍性は証明されない。但し結論を下すには時期尚早の段階であろう。JTC-21・P3は精力的な戻し移植実験にも拘らず、常に結果はnegativeであったが、ハムスター頬袋では腫瘍を作る。in vitroでの形態及びbehaviorからは悪性が示唆され、なお黒白のつけ難い細胞株である。
 以上の結果から、ATS処置シリアンハムスター頬袋への異種移植法は、3週間という短期間で結果が判明し、しかも戻し移植結果との相関度がたかく、可移植性テスト法として応用の価値あるものと考えられる。

 :質疑応答:
[佐藤]ハムスターにはtakeされるのに同系のラッテにはtakeされないという系の場合、抗原性の変異とも考えられますが、腫瘍性の弱い例については接種されたラッテが死ぬ迄に1年もかかるのですから、その間にin vivoで二段目の変化が起こるとも考えられますね。Carcinosarcomaとなっている肝細胞由来の系は実はcarcinomaなのだがin vivoでsarcoma様形態になるのか、又は元の培養に混じっていたfibroblastが腫瘤を作るのか、或いはハムスターの細胞がはいってきているのか、調べてみたいですね。
[乾 ]Diploidの細胞はどうですか。
[榊原]今までの所全くtakeされていません。
[榊原]ハムスターにはtakeされるのに同系のラッテにtakeされないという系については、復元接種の部位に問題があるのではないかとも考えています。
[山田]しかしbacktransplantationの根本問題として、異種移植は前進になるでしょうか。それから組織像にはこだわりすぎない方がよいと思います。
[堀川]腫瘍性の解析という点で矢張り前進といえるでしょう。
[勝田]ヒトの細胞のように同種移植の不可能なものには異種移植は必要です。
[吉田]ATS処理ラッテなら、takeされなかったラッテの系がtakeされませんか。
[高岡]なぎさ変異のJTC-21・P3で試みましたがtakeされませんでした。
[翠川]胎児の細胞はtakeされませんか。
[榊原]胎児肝を酵素でバラバラにしてから接種しましたがtakeされませんでした。
[梅田]組織のままで入れるとどうなりますか。
[榊原]Takeされないものは、どんどん反応細胞に処分されてしまうようです。
[翠川]形態だけで癌種と肉腫を判別するのは、仲々難しいですね。何か生化学的に区別がつきませんかね。
[遠藤]それはまだ無理ですよ。生化学では正常か悪性かで分けられる程度ですよ。組織化学的な同定はどうですか。
[翠川]それも試みています。
[勝田]酵素活性というのは誘導がかかりますからね。培養細胞では何とも結論が出ないと思います。
[遠藤]しかし形態もいろんな条件で変化するから、当てになりませんね。ある種の薬剤耐性の違いなどで同定できるといいですね。
[翠川]そうですね。化学療法の対象として、癌と肉腫がそれぞれ異なるという可能性はありますね。それから、ハムスターの頬袋とヌードマウスと比較してどうですか。
[勝田]ヌードマウスは飼育が困難だし、この方法より宿主の反応が強いようです。
[難波]抗リンパ球血清の投与をやめるととか、長期観察もしてほしいですね。
[山田]生体での癌を考える時こういう免疫的抑制下の腫瘤を癌といえるでしょうか。
[勝田]こういうものを癌とすると云う事ではなくて、細胞の悪性化を早く見つける方法として開発したいと考えています。

《乾報告》
 Transplacental in vivo−in vitro carcinogenesis and mutagenesis of AF-2:
 ここ2、3年、妊娠ハムスターは、化学発癌剤を投与した後胎児を摘出Colony levelでのTransformationの仕事をやって来ましたが、Transformed Colonyをcloningして、増殖させハムスターに戻し移植の実験がなかなかうまく行かず、実験動物を今年始めより純系ハムスターにかえましたら、妊娠動物を使用してしまうと云うこともありまして、ハムスターの繁殖がなかなか思うようになりません。
 真の意味での培養内発癌実験のつなぎの実験として前回の班会議で2FAAでTransformationとMutationを同一細胞で行ない8-AG、6-TG耐性コロニーの出現をみました。
 今月は環境変異原としてさわがれ、染色体切断能も強く、In vivo-in vitro chmical carcinogenesisの系でTransformed Colonyを作り、動物実験においても発癌性のあるAF-2で、mutationとin-vitro carcinogenesisの関係を少し系統的にやりつつあるのでそれについて報告いたします。
 実験方法:(図を呈示)妊娠11日目、器官形成の終了時にDMSOに溶解したAF-2を20〜200mg/kg腹腔内注射した。注射後、24時間(20mg/kg投与群では6、24、48時間)に母体より胎児をとり出し、Transformed Colony形成の為にはDulbecco'sMEM+20%FCS、mutagenesis実験にはMEM+10%FCSで培養した。
 Transformed Colony形成には、培養2、4、6代目の細胞を5,000〜10,000/dish接種し、培養5〜10日後固定した。突然変異コロニーのSelectionには胎児細胞をMEM+10%FCS正常培地で48時間培養後8アザグアニン(8-AG)10、20、30μg/ml、或いは6チオグアニン(6TG)5、10μg/mlを含んだ培地に移し(50万個/dish)15日間培養後、固定染色し8AG、6TG耐性コロニーを算定した。
 結果:(表を呈示)AF2 20mg/kg投与後のTransformed Colonyの出現率を示した。培養2代目では、ControlのHanks 500mg/kg投与群、AF-2投与後6、24、48時間に培養を開始した細胞共に1〜1.8%のTransformed Colonyが出現したが4代目では、AF-2投与後24時間、6代目では6、24時間群にTransformed Colonyの出現が著明であった。この事実は今後同実験を行なう上に、化学物質投与後培養開始迄の時間が後のTransformed Colonyの形成率に影響があることを示している。
 (表を呈示)ハムスター細胞に培養内で直接MNNG、AF-2投与後の8-AG耐性コロニーの出現率を示した。MNNG 1〜2x10-6乗M 3時間投与後細胞で対照の無処理に対して8-AG耐性コロニーの出現率は明らかに増し、AF-2 1〜2x10-4乗M投与群でも同様の結果をえた。なおAF-2投与群の8-AG耐性コロニーの出現率に濃度依存性が見られた。6-TG耐性コロニーの出現はMNNG、AF-2共に強い濃度依存性があった。上記実験はTransplacental Applicationに対する対照実験として行なったが、ハムスター初代細胞における8-AG、6-TG耐性細胞を得た始めての報告と思う。又AF-2投与後の8-AG耐性コロニー形成は人間2倍体細胞でKuroda、チャイニーズハムスター細胞で、Wildが報告しているが、6-TG耐性細胞の報告は現在ない。
 (表を呈示)AF-2をTransplacental投与の胎児細胞の8-AG耐性コロニーの出現率では、AF-2投与細胞で明らかに耐性コロニーの出現率は増し、その誘導率は直接投与のそれより高く、20〜100mg/kg投与群では投与濃度依存性が認められた。同様6-TG耐性コロニーの出現がAF-2経胎盤投与細胞で出現した。

 :質疑応答:
[堀川]8-AGrのmutation とtransformationのrateではmutationの方が高いのですね。
[勝田]Transplacentalの発癌実験は面白いideaですね。
[翠川]Transplacentalは通る通らないがあると思いますがAF-2は通るのでしょうか。
[乾 ]最近はplacentaにbarrierはないと考えられているようです。ヒトの自然流産を調べてみると、染色体奇形が物凄く多いという事が判っています。
[翠川]母体の酸素欠乏が胎児の変異を起こすとは考えられませんか。直接の化学物質による影響とは区別して考える必要があると思います。
[遠藤]与えた化学物質が母体に作用して酸素欠乏を起こし、それが胎児の変異の原因になるとすると与える物質が何であっても同じ結果が出る事になります。もし結果に差なり違いなりがあれば、それは与えた薬剤の直接の影響とみてよいでしょう。
[乾 ]結果からみて薬剤が直接に作用していると考えています。次には標的臓器別にtransformationをみたいと思っています。
[堀川]胎児への影響をみるのには良いsystemですね。
[勝田]Screening用の実験よりmechanismをやって欲しいですね。それから復元をもっとどんどんやって腫瘍性をみておかなくてはいけませんね。
[梅田]8-AG耐性のコロニーは継代出来ますか。
[乾 ]出来ます。そして5x10-6乗でrevertantが出ます。
[佐藤]Diploidとheteroploidとではmutation rateは異なりますか。
[乾 ]株細胞に比べますとtransplacental実験では変異率は大体1ケタは低いです。
[勝田]Transplacentalでは生体での代謝は受けませんか。
[遠藤]殆どの薬剤が受けていますね。ウレタンなどはそのまま通るようですが。
[乾 ]アイソトープラベルの物質を使って物質その物の取り込みもみるつもりです。
[遠藤]ラベルした物質を使ってもカウントがあったというだけでは、そのまま入ったかどうかは判らないし仲々大変ですよ。Screening法として確立すれば良いでしょう。
[勝田]いやいやscreeningだけでは当班業務は満たせませんからね。

《佐藤報告》
 ヒト(1歳男子)肝芽腫の培養とその培養系の形態及び機能について
 (報告のみで原稿の提出はなし)

 :質疑応答:
[遠藤]α-Fの産生は培養を続けていても低下しませんか。
[佐藤]ラッテの場合は1年や2年では変わらない系もあります。系によっては時間がたつにつれて低下するものもあります。ヒトの場合single cellからのクローニングが出来ませんので、系によって違うのはselectionがあるのかも知れません。
[吉田]染色体数46本、48本のものだけですか。又46本と48本は混在していたのですか。
[佐藤]始は混在していたのですが、今は48本が主になっています。又46本、48本以外のものは今のところ見当たりません。
[榊原]α-Fを産生している細胞をハムスターに接種してtumorが出来ると、ハムスターの血清中にヒトのα-Fが出てくるでしょうか。
[佐藤]出るでしょうね。ラッテの肝由来の系の中には培養内ではα-Fを作っていないのに動物に接種すると、その動物の血清中にα-Fが検出されるというものもあります。
[久米川]正常ヒト肝からも培養系がとれますか。
[佐藤]今の所まだ出来ていません。

《翠川報告》
 §マウス間葉系細胞(線維芽細胞、細網細胞、組織球)の長期培養について
 マウスの肝、肺、腎等の臓器を細切して、特別の操作を加えることなく長期継代培養を続けた場合いずれも紡錘形細胞の増殖が優勢となり、この紡錘細胞の株化をみる場合が多い。この様な株細胞に対してこれまでは単に紡錘形細胞あるいは線維芽様細胞と呼称し大部分はfibroblast由来とみなした余りその起源は問題にされなかった。
しかし、間質に存在する間葉系細胞でその形態が紡錘形を呈するものは決して線維芽細胞のみではなく、組織球、細網細胞あるいは血液由来の単球等多彩であり、それらの鑑別は必ずしも容易ではない。人によっては線維芽細胞と組織球は相互に移行しうるともいい、また組織球と細網細胞は全く同一細胞種で細胞のおかれた条件下でその形態機能を一見異にするようにみえるのにすぎないという説も有力である。
 私たちはA/K系マウス(マウスは非常にtransformationを来たしやすい。その性質を利用するその目的でマウスを選んだ)脾、可移植性腫瘍を培養してその間質の間葉系細胞を長期にわたって培養し、その間いろいろの細胞系を分離して、線維芽細胞より由来するもの、細網細胞とになされるもの及び組織球の株化、長期培養に成功し、いずれも5〜10年にわたっている。
 その結果、線維芽細胞、細網細胞そして組織球はそれぞれ生物学的にも性質が全く異なる独立した細胞でin vitroでは決して互いに移行しあうことのないのを確めつつある。
 (1)マウスの線維芽細胞は周知のごとく最も培養し易く、容易に株化し、また早期に試験管内発癌をみる。形態学的には完全に紡錘形で、Van Gieson染色に赤染、Azan染色で青染し貪喰性は少なくこの基本的性質は10年間in vitroでも保持されている。
 (2)細網細胞はこれに較べてやや株化が困難であり、自然発癌に要する期間もやや長い。紡錘形の度合いは少なくVan Giesonで赤くそまらずAzanでも青染をみない。貪喰性能も中等度陽性。
 (3)組織球は最も株化が困難で、10年にわたる培養でも、自然発癌はおこらず細胞のdoubling timeも7日以上と非常に長い。そして最も特長的である旺盛な貪喰能は10年間以上全く変ることがない。5年以上培養を続けた上記三種細胞の写真を呈示する。それぞれの細胞の基本的特長は長期培養にさいしても決して失われることなく、また相互移行も全く認められない。

 :質疑応答:
[勝田]Reticulum cellとhistiocyteとでは映画撮影での動態も全く違いますね。
[難波]Histiocyteが悪性化すると浮遊状になりませんか。
[翠川]壁への附着性が非常に強いですね。
[難波]Hodgikinはhistiocyteが悪性化したのではないでしょうか。
[翠川]Hodfikinはreticulum cellに近いかも知れません。
[遠藤]Histiocyteとmacrophageはどこが違うのですか。
[翠川]Macrophageの一部がhistiocyteだとか、同じものだとかいう人もいます。
[遠藤]市川氏の仕事ではmyeloid leukemic cellがmacrophageに分化するようですね。
[翠川]もとの細胞が本当にmyeloid cellでしょうか。血球系の細胞の同定はなかなか難しいものです。
[吉田]株化した細胞の染色体はどうですか。
[翠川]染色体核型も染色体数も正常ではありません。しかし、腫瘍性がないと判断したものは、胸腺切除の乳児に植えてもtakeされなかったものです。

《佐藤報告》
 ◇軟寒天内コロニー形成について
 発癌実験に使用する為、細胞のクローン化を進めていますが、原株とクローン化された株の性状の比較の一つとして、軟寒天内でのコロニー形成能を検討いたしました。本実験に入る前に軟寒天培養の手技の確立のためJTC-11細胞を用い予備実験を試みました。
 ◇(植え込み細胞数について)、細胞数をシャーレ(60cm・ファルコン)当り、80万個〜800個まで変化させ軟寒天内でのコロニー数を計測した。実験条件は、0.5%seed Agar、1%BaseAgar(Agar:Special Noble Agar・Difco)とし、10日間観察した。JTC-11細胞では多数のコロニー形成を見たが、一応1mm直径以上のものを計測した。8万個の細胞数以上では、コロニーが多く計測不可能であった。
 ◇(寒天の濃度について)、細胞数を一定にし(8,000個/dish)、寒天濃度を変え、コロニー形成に変動があるかどうか調べた。Base Agarについては0.5%より1%の方が多くのコロニー数を得た。結果から、以後の実験は0.5%Seed Agar、1%Base Agarで行うこととした。(夫々表を呈示)
 JTC-11細胞の予備的実験を参考にして、本実験として、4系のラッテ肝細胞株、ならびにそれらからトリプシン−ろ紙法によって得たクローン株について寒天内でのコロニー形成能を検討した。実験条件は、0.5%Seed Agar、1%Base Agarで15日間の観察である。まず原株(J-5-2、AL-5、RLD-10、CL-2)ではRLD-10細胞のみがコロニーを形成した。この場合、RLDのコロニーはJTC-11のそれに比しはるかに小さく、最も大きいもので1mm程度の直径であった。次にクローン株についても同様の実験を試みたが、原株と同様、RLD由来クローンのみがコロニーを形成した。RLD-10とCL-2は同系ラッテに可移植性を有することが別の実験で明らかとなっているが、寒天内でのコロニー形成能は前者のみが有していた。ここでも、寒天内でのコロニー形成能と腫瘍性との直接関連性は示されなかったと考える。
次に染色体数モードについては、原株のJ-5-2、AL-5は42にモードがあり、RLD-10、CL-2は異数性であることがわかっているが、得られたクローンについても検討した結果(現在の所は、AL-5、RLD-10のクローンについてのみ)では、AL-5クローンは42、RLDクローンは54−56にモードを示した。(表を呈示)

 :質疑応答:
[難波]RLD-10は100%腫瘍細胞ですか。
[常盤]文献的にはそうなっています。
[高岡]腫瘍性のある細胞、殊にJTC-11については100万個/シャーレというのは細胞数が多すぎると思います。1,000コ、100コ、10コが普通に使われています。

《高木報告》
 1.DMAE-4HAQO注射ラットに生じた腫瘍の培養
 先報のSDラットに生じた肺腫瘍および膵腫瘍ならびに腹水の培養を試みたのでその成績をのべる。
 膵腫瘤の培養はDM-153とAL+EV培地に20%FCSを加えた培養液で行なったが、上皮様細胞の増殖はほとんど認められなかった。肺腫瘍の培養も同様の培地を用いて行なったが、explantから上皮様細胞が次第に出現し、同時に線維芽細胞の増殖がみられたので40日目にrubber policemanで継代した。継代後も組織片の周囲に上皮様細胞の増殖がみられ、45日位がもっとも盛んであったが以後は増殖を示さず、線維芽細胞のovergrowthにまけて65日目で培養を中止した。
 腹水細胞はDM-153と1640培地に20%FCSを加えた培養液で培養した。培養数日間は血液細胞(単球など)の集落がみられたが、以後偏平な線維芽細胞とそのsheetの上の小型の細胞質に多くの顆粒を有する細胞と、さらにcell sheetに軽く付着したようにみえる球形の細胞が共存して培養が続けられた。球形の細胞はそれだけ集めて培養したのでは増殖がみられず漸減したが、他の細胞と共に培養するとわずかに増殖するかあるいはそのままの状態で培養がつづけられた。しかし培養70日目の現在では球形の細胞の数は可成り減少し、線維芽細胞が優勢のようである。これらの写真を供覧する。
 2.XP細胞およびHF細胞(人皮膚線維芽細胞)に対する4NQOの作用
 月報No.7507に報告したようにXP細胞とHF細胞に4NQOを3.3x10-7乗Mと3.3x10-6乗M作用させてその後の経過をみているが、XP細胞は培養開始後160日、4NQO作用後70日目の現在、対照、作用群ともに完全に増殖が止っている。HF細胞は対照、作用群ともさかんに増殖を示しているが、形態的に特に変化は認められない。

 :質疑応答:
[堀川]Human adultの膵臓細胞が40日位で絶えてしまうのは何故でしょうか。世代時間はどの位ですか。
[高木]調べてありません。
[遠藤]胎児の膵臓ならadultより長期間維持できるだろうという見込みですね。

《難波報告》
 19:グリセオフルビンのヒトの染色体に及ぼす影響.その2
 月報7507に、グリセオフルビンがヒトの染色体の異常をおこす可能性のあることを報告した。今回は、この実験をまとめるために新しく実験を行ない、データを詳細に分析した結果、グリセオフルビンが確かにヒトの染色体の異常を起こすという結論に達した。そのデータを下に記す。
 ◇実験条件
細胞:健康な女性(23才)からのリンパ球。 培養:RPMI1640+30%FBS+0.2%PHA M。300万個リンパ球/3ml培地、3日間培養。 薬剤処理:DMSOに溶き、3日間処理。 クロモゾーム:培養3日目に作成。
 ◇結果
 (図表を呈示)10μg/ml処理群の方が20μg/mlのものより高度なクロモゾームの数の異常をおこしている。Heteroploidへの変化の方がBreaksとかgapsなどの構造の異常より発癌の機構に重要だという考えがあるので、以上のデータの結果は重要だと考えられる。20μg/ml群は、薬剤のToxicityのために、多くの細胞が死んだのかも知れない。
 20:ヒトのクロモゾームに及ぼす4NQO、BPの影響
 化学発癌剤が、ヒトの細胞を癌化させる可能性があるか否かを測定する指標の1つとして、正常なヒトに由来する2倍体細胞の、発癌剤処理後におけるクロモゾームの変化の検討がある。
 月報7505に、4NQO、BP、NG、MMS、DMBAなどの発癌剤のヒトクロモゾームに及ぼす効果を報告した。今回は4NQO、BPだけを使用し、多数の個体より得たリンパ球のクロモゾームに、両薬剤がどのような変化をおこしているかを詳細に検討した。
 ◇実験方法:ヘパリン処理の血液10mlを試験管に入れ、立てたまま2〜3hr放置。上清に浮遊するリンパ球を使用。約100万個のリンパ球/3ml培地(RPMI1640+20%FBS+PHA・Gibco)。2日目、10-5乗M BP、3.3x10-6乗M 4NQOで1hr処理。3日目クロモゾーム標本作製。
 ◇実験結果:(表を呈示)。
 1)Ploidyの変化は、コントロール<BP<4NQOの順で大きくなっている。
 2)クロモゾームの構造の変化の順も上と同様である。
 3)BP、4NQOによるクロモゾームの変化には個体差がみられる。
 4)同時に作製する薬剤未処理のコントロール群のクロモゾームの変化と、BP、4NQOによる変化とは相関関係はない。
 ◇考察:ある種の化学発癌剤のヒト染色体に及ぼす影響を検討するとき、個体差のあることを考えて、実験を進める要がある。

 :質疑応答:
[乾 ]こういう実験の場合の染色体分析は150コほしいですね。50コは少なすぎます。
[山田]細胞電気泳動でみたヒトの赤血球も、個体差が大きいですね。
[翠川]ヒトの場合、薬を使ったりすることも影響するのかも知れません。
[勝田]人間は実験動物に比べると、全くの雑系ですからね。

《堀川報告》
 先月号の月報で簡単にふれた2つの実験結果を改めて詳細に報告します。
 (1)低線量放射線照射による誘発突然変異
 私共のもっている4種の突然変異検出系のうちで最も鋭敏な系である栄養非要求株prototroph(Ala+、Asp+、Pro+、Asn+、Glu+、Hyp+)を用いた検出系は(図を呈示)、0〜1000Rの中等度のX線を照射した際に誘発されるauxotrophを容易に検出することが出来る。つまり、この栄養要求性前進突然変異系はX線により誘発される突然変異を鋭敏に検出することが出来る。では、この系を使えば低線量のX線照射により誘発される突然変異も検出出来るかどうかを再検討するため、100R以下のX線照射をした際の突然変異の誘発をこの系で調べてみた。この問題は低線量放射線のlate effectがどのようなものであるかを知るために非常に重要であるが、結果は(図を呈示)negativeで、100R以下の線量で誘発されるmutationを検出することは出来なかった。この事はわれわれの検出系の感度がまだにぶいのか、それとも低線量域で誘発されるmutationには回復があるのか、いづれかであろう。この問題の解決は今後に残されている。
 (2)AF-2の突然変異誘発能
 一方、この栄養要求性前進突然変異系を使って、従来食品添加剤として広く用いられてきたAF-2のmutagenicityをtestした結果は、これ迄にも報告してきたように、UVやX線に比べて突然変異誘発能は弱いという結果を得ていた。これは前報でも述べたように、AF-2をDMSOに溶かした後、15lbs(120℃)、20分間オートクレーブで滅菌したものをmediumに加え、細胞を2時間処理した場合の結果であった。
 今回はDMSOに溶かしたAF-2をオートクレーブ滅菌なしで直接mediumに加えて細胞を同様に2時間処理した際の誘発変異率を調べてみた。結果は(図を呈示)これまでと違ってAF-2には強力なmutagenicityのあることがわかった。このことは従来比較的熱に安定とみなされていたAF-2も熱によってまったく異ったproductを作ることを意味していると思われる。案外とtrans型のAF-2が熱によりcis型AF-2に変型する事に関係があるのかもしれない。

《山田報告》
 培養肝細胞及び培養肝癌細胞の超微形態:
 これまで7系の細胞について電顕的観察を続けて来ましたが今回はJTC-1(AH-130)について調べて来ました。今回は固定の方法を若干変更し、平等に細胞が固定される様に工夫した所、いままで試みた方法のうちで最も良い結果を得る方法であることが、今になってわかりました。(写真を呈示)
 AH-130の超微形態はJTC-16やCulb/TCとかなり似ていますが、特に異る所は、部分的にdesmosomeの密に分布する結合面が少数みられることです。グリコーゲン顆粒はCulb/TC程に多くはありませんがかなり存在して居ます。しかし癌細胞と非癌細胞間の形態学的差はあまり大きくない様な気がします。そこで最後にこれまで調べて来た電顕所見を相互に比較し(表を呈示)、その結果をまとめると次の様になります。
 1)正常ラット肝由来細胞は生体のoriginalの肝細胞とはかなり異り、特にグリコーゲンの星状顆粒の凝集はいづれにも殆んどみられない。
 2)胎児、新生児、成体ラットそれぞれから由来の細胞間に特に形態学的な差はあまりない。むしろその由来細胞の差よりもat randomにその形態学的差が出現する様に思われる。
 3)癌細胞に特徴的な點は、細胞相互の結合が弱く、マイクロビリは単純であり粗面小胞体が少く単純で核小体が大型である。しかしこれらの特徴の多くは光学顕微鏡でも観察し得る特徴である。現時点で決定的に悪性を立証する超微形態は一つもない。

《梅田報告》
 今迄FM3A細胞が8AG耐性獲得の突然変異を生ずる実験系を用いて各種物質の突然変異性を報告してきた。一方で細胞DNAを蛋白、リピドを含まない状態で解析する方法についても報告してきた。今回は各種物質の突然変異性が、このDNA切断の惹起作用、さらに染色体標本での染色体異常惹起作用と相関するかどうか調べている中間報告を行う。
 (I)突然変異惹起作用に関しては月報7411、7503、7504等で報告してきた。新しいデータをまとめる(表を呈示)。
 (II)DNA単鎖の解析法も報告してきた。この方法で各種物質投与時の超遠心パターンを示す(図を呈示)。
 (III)染色体標本は各種物質処理後、型の如く低張液処理、固定、脱水して作製した。Metaphase像を通常100ケを調べ、その異常について検索した。
 (IV)これらの結果をまとめた(表を呈示)。Mycophenolic acidで高い突然変異性があるのに染色体異常は他の例に較べ低いようである。その他は突然変異性と染色体異常惹起度は高い相関があるように見える。これに反してDNA単鎖切断誘起作用は高濃度で現れる傾向にあり、さらにNaNO2やMycophenolic acidのように調べた最高濃度でも切断のはっきりしていないものが存在した。

 :質疑応答:
[堀川]一本鎖切断をみる場合、処理時間をmutation実験と合わせていますか。24時間処理では物によってはrejoiningするかも知れませんね。時間を変えてみる必要があります。
[乾 ]染色体変異をみる時は1〜2回目の分裂ははずした方がよいと思います。NaNO2のように発癌、mutation、染色体異常を起こすのに、DNAが切れないのはどう考えますか。
[梅田]DNA切断はinsensitiveなためだと思っています。
[堀川]遠心のパターンで動くのは相当なbreakeがないと見られませんね。染色体レベルの方がsensitiveなのかも知れません。
[難波]BPではunscheduled DNA合成は出ません。4NQOは出ます。
[遠藤]培養細胞ではunscheduled DNA合成はどうやってみますか。
[堀川]DNA合成をhydroxyureaなどで止めておいて、摂り込みをみます。

《野瀬報告》
 培養ラッテ肝細胞の生化学的機能
 前回の班会議で、Collagenase-潅流法によるラッテ肝細胞の分離について報告した。今回はDispaseで潅流して得た肝細胞の機能およびCollagenaseで得たprimary cultureを長期間培養した結果について述べる。
 血清アルブミン検出はradioimmunoassayにより行なった。rat serum albumin(RSA)fractionVから硫安分劃、酸沈澱、DEAE-cellulose、Sephadex G-200などの操作でほぼ均一のRSA蛋白質を得た。これにI125でラベルし、抗RSA血清存在下でtitrationを行ない、試料中のRSA量を測定した。(表を呈示)4種の培養(培地:DM-153+10%FCS)で細胞をPBSで3回洗い、FCSを含まないDM-153を加えて2日間培養し、培地を集め、約40倍に濃縮してから測定した。Collagenaseで得た細胞も、Dispaseによる細胞も、初代培養後3日目ではRSAの合成が見られた。しかしcollagenaseによる細胞は36日後には全くRSAを培地中に出していなかった。Dispase-shakingで得られた細胞は培養後18日たってfibroblastsのみになってもBSAを分泌していた。その量は初代培養とほぼ同レベルであった。まだ実験例が少なくて何とも言えないが形態的には全く上皮様でない細胞がアルブミンを合成しているのは興味ある結果である。
次にTyrosine amino transferaseの誘導性を見た(表を呈示)。上皮様の株細胞はいずれもデキサメサゾン8.5x10-7乗M、24時間処理でTATの誘導を起こさなかった。しかし、Collagenase、又はDispase-潅流によって得た初代肝細胞は有意な誘導を起こした。初代培養を更にin vitroに保ち12〜23日経過したものは誘導性を失なっていた。一方、Dispase潅流法で得た肝細胞をデキサメサゾン存在下で培養すると、46日経過(subculture3回)しても、初代培養に誘導をかけた程度のTAT活性を保持していた。この細胞の形態は上皮様でもなく、またセンイ芽細胞でもなく、細胞質内に特異な構造を持つ細胞であった。このような細胞がcollagenase潅流でもとれるかどうか現在検討中である。

 :質疑応答:
[高岡]形態の違ってみえる2種類の細胞、両方とも肝実質細胞ですか。
[野瀬]わかりません。いくらselectionしても完全に純粋には出来ません。
[遠藤]調べた酵素活性はTATだけですか。
[野瀬]アルギナーゼもやってみたいのですが、アルギナーゼはHeLaでも誘導されるのて不適当かとも思います。
[高岡]TAT活性はin vivoのレベルと比較するとどうですか。
[野瀬]肝ホモジネイトより高い位です。
[乾 ]酵素活性は、適当な誘導をすれば何でも出てくる可能性がありませんか。
[遠藤]しかし分化して、夫々の活性をもつのが生体での常識じゃありませんか。
[乾 ]培養すると何が起こるか、やってみなければ判りませんよ。

【勝田班月報・7510】
《勝田報告》
 §各種培地の比較検討(1.特に各種細胞についての比較):
 A.各種培地での各種細胞の比較
 表の数値は、培地を交新しないで7日間培養した場合の増殖率を、各継代培地内増殖率を100としての比である。DM-150はDM-153の塩類蘇生がDで、他は同じ合成培地。
株名 MEM F12 DM-120 DM-150
3T3 10%FCS+ 100* 85.1 100
CHO-K1 10%FCS+ 82.7 100* 98.6
L - 97.7 96.8 100* 97.9
JTC-25 - 100 88.9 100* 95.4
B.培地はDM-150で、各種塩類濃度の比較
6000mg/l 6800mg/l 7600mg/l 8000mg/l
3T3    10%FCS+ 100.9 100* 94.0 96.5
CHO-K1 10%FCS+ 83.5 86.1 100* 97.1
ラット肝2代 10%FCS+ 75.8 92.1 107.7 100*
L・P3   - 108.8 114.0 104.5 100*
JTC-25・P3 - 101.9 107.9 118.2 100*
 A表では対照以上のものが無かったが、B表の実験では、特に合成培地継代細胞において現れた。なお上のNaCl濃度は次のカッコ内の培地に相当している。6000mg/l(RPMI-1640)、6800mg/l(MEM、DM-153)、7600mg/l(F12)、8000mg/l(DM-150)。いずれも、低張気味の方が増殖が良いというのは面白い知見であった。

《高木報告》
 10月1日、長崎市公会堂で日本消化器病学会と同時に第6回日本膵臓病研究会が行なわれ、“膵ラ氏島細胞の培養"の講演を依頼されました。臨床家ばかりの学会ですが、臨床研究におけるTCの応用について少しでも裨益するところがあればと考え、主としてtoechicalな問題を紹介した次第です。
 膵ラ氏島細胞の培養について
 ヒトあるいはラット膵ラ氏島細胞を培養してこれに発癌剤を作用させる場合、作用後細胞が分裂しなければ実験が成功する可能性はまず考えられない。そこで、ここしばらくラ氏島細胞、特にB細胞の分裂に関する仕事を進めてみたいと思う。
 ラ氏島細胞の分裂促進物質に関する研究がはじまったのは、比較的最近のことである。Chickは、生後1〜3日のラット膵のmonolayer cultureについてoutoradiographyを行ない、glucose 3mg/dlおよびtolbutamide 100μg/mlでは対照のglucose 1mg/dlに比し、H3-TdRの取込みは3〜4倍に増加し、growth hormone、glucagonは効果を示さず、dexamethasoneは逆に抑制することを報告している。またAndersonらは成熟マウスの単離ラ氏島の培養についてautoradiographyを行ない、glucose 3mg/mlの場合にのみH3-TdRの取込みの増加を認めている。私どももラ氏島のorgan cultureでglucose 3mg/mlの時にB細胞の分裂像を確認している。また藤田らは、in vivoでceruleinもB細胞の分裂を促することを示している。一般にhormoneの分泌促進物質は、そのhormoneを分泌する細胞の文れるを促進するとされているが、ラ氏島B細胞についてもそれらの物質につき培養系で検討を加えてみたい。
 また発癌物質としてDMAE-4HAQOの外、Streptozotocinは単独では催糖尿病作用があるが、Nicotinamideとともに用いると腺腫の発生することが判っており、これをin vitroで用いてその作用機序を解析してみたいと考えている。

《梅田報告》
 (1)月報7410、7502にマウスまたはハムスター胎児細胞の、継代数代目の培養細胞を用いての発癌実験についてのべた。この時悪性転換増殖巣の出現頻度が少ないことと、コントロールのシャーレに(6週間も培養を続けるので)、Giemsa染色で赤染する細胞間分泌物質のものならなるnetworkがあり、判定が困難なことのあることを報告した。この点を改良するため、また単一細胞集団を得て実験した方が宜敷かろうとの考えから、マウス或はハムスター胎児肺の培養細胞について実験を行ったが、密な赤染するnetworkはさらに強調されることを報告した(月報7502)。
 (2)今回は胎児肺を得た時と同じ目的ですなわち、単一細胞集団を得、しかもadultでも実験出来る可能性も考えて、マウスの腎細胞培養について行っている培養経過について述べる。生後4週雄のDDDマウス腎を剔出後、皮質部と髄質部に分けてからそれぞれについてcollagenase、hyaluronidase(混液)処理を行った。髄質部は細胞のばらばらになり方、収量が悪く、増生も悪かった。皮質部の培養では、上皮様細胞と繊維芽様細胞とが増生してくるが、これを継代して、1万個、5万個、25万個/6cmシャーレに播いて6週間培養した所、比較的上皮様細胞の増生が多くなった。1万個播種したものでは、6週間培養でやっとシャーレ底面を一杯におおう程度の増生であった。5万個、25万個細胞播種したシャーレでは、固定染色標本でうすい染色像を呈した。25万個播種のシャーレで、やや細胞分泌物様のもので密に盛り上ったnetworkが出来ていたが胎児細胞を使った時よりも少なくて見易かった。
 (3)以上のように比較的きれいな染色像が得られたので、この細胞(培養46日目、一度も継代しなかった残りのシャーレより継代した)を継代して、C14-BP代謝能を測定した。試験管に25万個cells/mlの細胞浮遊液の0.25mlを接種し、培養2日目にC14-BPの2n moles/mlを投与し3日間培養して、water solubleになったC14-BPの放射能を測定した。同時に別の試験管に別の培養を用意し、cold BP(2n moles/ml)を投与し、3日後の細胞数を数えた。
 (表を呈示)表に示すように、水層と有機層と両方に回収された放射能は投与放射能の93%で、水層に認められた放射能は46.3%であった。これを100万個あたりの細胞数に換算すると、15,938p moleのBPを代謝したことになる。
 (4)以上の実験から腎培養細胞は上皮様細胞が増生し、しかも1ケ月半近く培養した細胞でもBP代謝能のあることがわかったので、早速発癌実験をスタートした。

《乾報告》
 AF-2投与妊娠ハムスター由来細胞のTransformation及び染色体変異;
 先月の月報で、AF-2投与妊娠ハムスター由来の細胞の8-Az、6-TG耐性突然変異コロニーの出現について報告した。本号では同細胞のTransformation及び染色体変異誘導について報告する。
 (表を呈示)表1に示した如く、変異コロニーは、Subculture1、3、5代目に出現した。1代目では、対照のDMSO、Hnks投与群においても、1.17〜1.58%とやや変異コロニーは高率に出現するが、3、5日には急速に減少する。これに反しAF-2投与群では変異コロニーは、培養5代目迄一定の出現率を示し、その頻度は投与量依存性を示した。染色体変異は、表2、図1の如くAF-2 20mg/kgで著明に誘導され、その出現率は明らかに投与量依存性を示した。対照に使用したAF-2直接投与群では図1の如く、投与後48時間で著明な減少を示した。

《難波報告》
 21:各種化学発癌剤のヒト正常細胞に及ぼす細胞障害性
 細胞毒性を示す化学物質が必ずしも発癌性を有するとは限らないが、しかしヒトの細胞に対する発癌性がありそうかどうか簡単に、しかも迅速に決定する一方法として細胞の増殖に及ぼす化学発癌物質の影響をみることは有意であろう。
 (表を呈示)表に示したように、現在までに検討された化学発癌剤で4NQOが最もヒトの細胞増殖を阻害する。ヒトの細胞は10-5乗M BP 4日間処理でも、びくともしないが、培養内でBPによって発癌するC3Hマウス由来の10T1/2細胞は著明な細胞増殖阻害を示している。

《久米川報告》
 セロファンシート法によるラット肝実質細胞の培養
 肝実質細胞は野瀬氏の方法(7507)に従って、adult ratの門脈からCa-Mg-free hanks BSSを潅流、次いで、20mlの0.05% collagenaseを潅流した後、liverを取出し、0.05% collage-nase中で細胞をバラバラにし分離した。
 こうして得た肝実質細胞と思われる細胞はシャーレ培養では、野瀬氏の写真とほぼ同じ像、および経過を示した。
 分離した肝細胞を遠沈(1,000rpm、5min)し、ローズチャンバーでセロファンシート法での培養を試みた(培養液の還流なし)。なお、培養液はDM-153+15%CSによる。セロファン膜の下では、細胞は円形で、辺縁部ののびがなく、ぶ厚い感じである。(写真を呈示)写真は培養5日目の細胞であるが、細胞は数個単位となり、その細胞間にはphase-whiteの間隙が出来る。多分bile canaliculusが形成されたものと思われる。膜の下の細胞は丁度、胎生マウス肝臓を培養したときに見られる肝実質細胞像に非常によく似ており、セロファンシート法で培養した株化したラット由来肝細胞像(RLC、JTC-25・P3、IAR)とは、大分異なっているように思われる。

《堀川報告》
 現在、われわれはChinese hamster hai細胞から分離した栄養要求性変異あるいは8-aza-guanine抵抗性または感受性細胞を用いて4系の突然変異系を確立し、それらのうちで突然変異検出能の最も鋭敏なPrototrophic cellsを用いた前進突然変異系を使って種々の詳細な解析を進めているが、これらとは別に更にまったく違った突然変異検出系を確立すべく準備を進めているので今回はそれらについて報告する。
 現在組み立てようとしている突然変異系は、Xeroderma pigmentosumの患者から得た細胞を用いる系で、この系ではUV高感受性型から正常感受性へのreverse mutationを追うものである。幸い突然変異実験に使用可能な、SV40でtransformされたXP20S細胞というのを阪大武部氏より入手することが出来た。この細胞は元来7才の幼女から得た細胞で、UV照射後のunscheduled DNA合成能をtestした結果からはGroup Aに属するUV高感受性細胞である。種々の基礎実験の結果、培地としては75%Eagle MEM+10%TC-199+15%calf serumを用いるのが最適で、この培地ならガラス、シャーレ中でも10〜15%のPlating efficiencyを示す。又、この培地中での細胞のdoubling timeは約36時間である。残念ながらSV40でtransformさせているだけに、Chromosome numberのdistributionは大きいようである。ともあれ、このXP細胞を用いた突然変異検出系は、変異のマーカーとしてendonuclease活性を指標と出来るだけに、従来われわれが確立した各種突然変異検出系と対比して、今後種々の検討が出来るものと思われる。

《野瀬報告》
 上皮様細胞のGrowth Regulation (1)
培養細胞の増殖に関しては、主にfibroblastsを用いて研究が進行している。肝細胞を培養して得られたepithelial cellsで変異や酵素誘導を研究する上に、上皮様細胞の増殖についての基礎的知識が必要と考えられる。またfibroblastsとepithelial cellsとの間に、細胞増殖の調節機構が異なっているかもしれないので、各種の上皮様細胞の増殖の様相を調べてみたいと思っている。
 (図を呈示)図はconfluentになった細胞を、fresh medium(5%FCS・MEM)で培地交換してから、各時間に、H3-TdR、H3-Urdで1hrのpulseを行ない、cold TCA pptへのとりこみを見た結果である。H3-Urdのとりこみは培地交換直後に上昇し、H3-TdRへのとりこみは12〜20hr後にピークとなった。細胞株によって培地交換後のH3-TdR取込みには差が見られた。12〜20hrで見られたH3-TdRのピークは、G1期の細胞がS期に入ったためと考えられるが、0hrにH3-Urd又はH3-TdRのとりこみが上昇するのは興味ある。恐らく膜の透過性の変化と考、、現在、検討中である。

《山田報告》
 正常肝由来細胞を長期に培養すると容易に変異し、悪性化することは従来よく知られた事実ですが、経時的に染色体がどの様に変化するかを幾つかの細胞系を用いて検索しました。その結果を図にまとめて記載しますが、その主な結果は、
 1)染色体モードは経時的に変化し、約2〜3年の間に42本から最高57にまで変化した。
 2)polyploidyの染色体も出現するが、経時的に増加して行く傾向はない。
 3)核型の変化のうち主要な変化は、大型のmetacentricの染色体が出現し(その或る系ではNo.1の染色体に由来すると思われる)、また小型のtelocentricの染色体が増加する例が多かった(RLC-15、-16、-18、-19、-20、-21の染色体数分布と核型分析の図を呈示)。

《佐藤報告》
 この報告は人癌の組織培養の班研究として行われているものである。材料は定型的な1才男子のHepatoblastomeである。手術材料で、血清中にαFを生産していた。0.1%trypsinで細胞分散して培養され、現在RPMI-1640にBSを20%、Lact.hydro.0.4%混じた培地で生育している。初代培養及び培養日数の短い時期には染色体分析で46本と48本が見られ、又形態学的にもFibroblast like cellとEpithelial cellが認められた。
Paper濾紙法でコロニー分離に成功し、現在3つのコロニアルクローン、Clone 1、Clone 5、Clone 6がある。形態学的には三つのクローンに大きな差異は認められないが、αFの生産量、Albuminの産生量に差異があって、Clone 1はAFP(+)、他の2系は(++)。Albuminの産生はClone 5のみ。染色体のモードはいずれも50〜68%の頻度で48本である。PASはいずれも++陽性である。
 Double immuno duffusion in agar gelで90倍濃度培地程度で他の原発肝癌のαF及び当患者血清のαFと反応するが、免疫電気泳動ではやや速度が異って見られる。Radioimuno-assayでも同様に測定可能であるが未だcell当りの量は決定していない。
 これらの細胞はATS処理の新生児又は若いハムスターに移植可能である。組織像は、患者材料に比しやや腺癌状の構造を示すのが特徴であった。又Rotation cultureでも同様の構造が認められた。現在Clone 5よりの再クローン、ヌードマウス移植等を準備中である。

【勝田班月報・7511】
《勝田報告》
 §各種培地の比較検討(とくに塩類組成):
 (図表を呈示)今月は、表に示すように、各種の塩類組成を比較してみた。アミノ酸、ビタミンはすべてDM-153と同じで、塩類だけを変えてある。D、Hanks、Gey、Hanks-Hepesの処方である。
 第1図は、無蛋白無脂質合成培地内継代株JTC-25・P3(ラッテ肝なぎさ変異株)を用いた実験で、1日間継代培地DM-153で培養した後、各種実験培地にきり換えた。結果は、処方によりかんりの差のあることが示され、塩類といって軽視できないことが判った。
 第2図は血清含有培地内継代株(ラッテ肝)RLC-10(2)を用いた実験で、継代培地で2日間培養した後に実験培地に切換えている。この場合にも、やはりかなりの差があらわれた。Geyの処方が最も増殖が低かったが、合成培地のJTC-25・P3では(図は省略)、実験培地に移して2日間はごくわずかに増殖が認められたが、以後は急速に細胞数が減少し、細胞がこわされてしまった。
 無細胞で培地だけを37℃2日間加温してpHの変化をしらべると、DM-153(0日:7.30→2日后:7.51)、DM-159(7.51→7.71)、DM-161(7.23→7.50)、DM-162(7.05→7.34)、DM-163(7.1→7.1)であった。

《乾報告》
 ヒト神経芽細胞肉腫(GOTO)由来細胞の染色体;
 10月初め癌学会からもどって以来、人工タバコの検定、検定、検定で、培養器をすべて占領され、基礎研究が出来ず毎日研究所へ行くのがいやになってしまいます。10月一ケ月で、10数倦怠とはまったくもって何をか云わんやです。スクリーニングセンターのスクリーナーは、検定の合間に研究をする運命にあるのでしょう。
 今月は、医科研の関口先生が樹立された神経芽細胞腫の染色体について報告致します。
 (核型と染色体数頻度分布の図を呈示)染色体数は図の如く44本で、特定の標識染色体は存在せず、No.1染色体のモノソミー、No.2染色体のトリソミー、C群の染色体、G群の染色体の一本欠除で代表されます。
 染色体数分布は図2の如く染色体数44にモードがあり、モードの細胞の出現頻度は26.2%で、大部分の染色体が近2倍域に存在した。染色体数80以上の4倍体の細胞の出現率は、16.1%で、染色体数84の細胞の出現があったが、染色体数88の2倍性の細胞はみられなかった。
 なお起原が、1年1ケ月の男児副腎であるので、Y-body、Sex Chromatin、Rate replicat-ing X Chromosomeの出現をみた所、Y body>90%、Sex Chromatin<15%、Rate replicatingX(-)で、性染色体異常の存在はないことがはっきりした。

《難波報告》
 22:BPに対するヒトのリンパ球の感受性の差違の検討
 環境中に存在する発癌性炭化水素の発癌性に対して、ヒトには個体差があると考えられており、その個体差は各自の持つAHH活性の違いによるのではないかと予想されている。実際に動物実験レベルではAHHの高い動物ほど、発癌性炭化水素に対する発癌率が高いことが知られている。
 個々のヒトの発癌性炭化水素の発癌性の差違を検討することは非常に困難であるので、BPに対する感受性の個体差を、ヒトの末梢血リンパ球を使用して、1)細胞の増殖阻害度、2)DNA合成阻害度、3)クロモゾームの変化、で検討した。
 1)細胞の増殖阻害度
 末梢血リンパ球をRPMI1640+20%FCS+PHA培地中にまき込み、24hr後、コントロール群に、0.1%エタノール、実験群に10-6M乗BPを添加、更に2日培養して生存するリンパ球数を算えた。結果は表に記した(表を呈示)。まだ実験例数が少いが、細胞の増殖阻害度を細胞数を数える方法では、BPに対する感受性の差違を見い出し難い。
 
 2)DNA合成阻害度の検討
 1)の場合と同じように細胞をまき込み、BPで処理。72hr後、1μCi/ml H3-TdR 1hr投与して、DNA中にとり込まれたH3-TdRを調べた(表を呈示)。
BPに感受性の高いと考えられるヒトからのリンパ球をBPで処理すると、著明なDNA合成阻害がおこっている。1)の方法でははっきりしなかったBPに対するヒトの個体差が、2)の方法では、比較的よく見い出されているようである。
 3)クロモゾームの変化
 Exptle.No.3由来のリンパ球を、RPMI1640+20%FCS+PHAで培養し、2日後10-6乗M BP 1 hr処理、3日後にクロモゾーム標本作製。10.9%の細胞が異常な核型を示した。その他のものは目下検索中である。月報7509に報告したごとく10%以上の細胞に染色体の異常が見い出されるようなら、その個体はBPに対して感受性が高いと云ってよいにではなかるまいか。
 発癌性炭化水素に対して感受性の高いヒトと低いヒトに由来する細胞を培養し、発癌性炭化水素で発癌実験を行ないたいと考え、目下その方法を考慮中である。

《梅田報告》
 (1)FM3A細胞の8AG耐性獲得の系を使っての、突然変異誘起実験のその後の結果について報告する。方法は度々述べてきたようにFM3A細胞をMNNGの各濃度で2日間処理し、8AG 20μg/mlを入れたものと入れないagarose plate上に細胞を播種し、12日間培養後に生じてきたコロニー数を算えて突然変異率を計算した。Doseを変えて2回実験を行ったが、MNNGによりこの系でも突然変異の誘起されることがわかる(表を呈示)。
 (2)これも以前から報告してきた方法で、DNA単鎖切断に及ぼす影響を調べた。FM3A細胞をC14-TdRでprelabelしてからMNNG或いはHN2処理を行い、24時間後にAlkaline sucrose gradient上に処理細胞をのせ、37℃1時間 lysisさせた後、遠心した。
 MNNG 10-5乗、10-5.5乗Mで切断が起っている。HN2では、10-5乗Mで切断が起っているようなパターンを示しているが、10-4乗M、10-6乗M処理では、fract.No.5本目と、2〜3本目に異常な大きなDNAのピークを示している。HN2がbifunctionalの故と思われる。

《野瀬報告》
 潅流法で分離したラッテ肝細胞の形態
 Collagenase(0.05%)又はDispase(1000u/ml)でラッテ肝を潅流し、分散された細胞を長期間培養し、形態、増殖、生化学的性質について検討している。細胞の分散法は月報No.7507と同じで、低速遠心(50xg、5min)の沈澱部分と上清部分のそれぞれから細胞をとって炭酸ガスフランキ中で培養した。初代培養の3〜4日目の細胞形態は月報7507に示したが、更に培養を続けると次第にこの細胞は消滅し、別の形態をもった細胞が増殖してくる。図1〜4はDispaseでとった細胞で、それぞれ9日後、9日後(デキサメサゾン添加)、20日後、20日後(デキサメサゾン添加)であり、図5〜8はCollagenaseで分離し同様の培養条件下の細胞である。これらはすべて低速遠心の沈澱部分からの細胞で、上清からは上皮様細胞は全く出てこなかった。従って上皮様細胞は大型細胞(恐らく実質細胞)から由来しているのではないかと考えている。Dispaseを用いた場合、石畳状の上皮様細胞が容易にとれるが、Collagenaseではホルモンを加えないと、培養3週間目頃にはホーキ星状細胞が主になってしまう。デキサメサゾンを加えて培養を続けると、増殖はやや低下し、形態も多少変化する。特にColla-genase法の細胞で、添加群と非添加群との間の差が大きい。図7の細胞にホルモンを加えても図8のようにはならないので、この差は培養内のSelectionの結果であろう。

《佐藤報告》
 ◇3'Me-DAB発癌実験
 3'Me-DABによる細胞の癌化実験を開始した。第一弾はJ-5-2cl(2倍体性細胞)用いる実験系である。
 (1)3'Me-DABの細胞毒性(コロニー形成率より。)
 J-5-2cl、300cells/plastic dish(60mm)植え込み、24時間後、各種濃度の3'Me-DABを含む培地で置き換え、9日間培養(その間一回3'Me-DABを含む培地で培地交新)。コロニー形成率を求めた(表を呈示)。3'Me-DABは、J-5-2clのPlatingに対する阻害は比較的少ない様であるが、コロニーの大きさについて見ると抑制が著るしい。このことから、3'Me-DABは分裂阻害的に働くものと思われる。
 (2)3'Me-DABの処理
 3'Me-DABの長期間投与を試みた(つつある)。3'Me-DABの濃度は毒性試験の内の、4.8μg/ml程度を使用した。途中経過であるが、3'Me-DABを約20日投与した時点での、DAB未処理のコントロールの細胞との比較では、コロニー形成率、DAB消費能、染色体核型分析のいずれについても、ほとんど差が現われていない。更に3'Me-DABを40日、60日投与した時点での分析を進めている。

《高木報告》
 培養膵ラ氏島細胞の分裂促進因子
 前報の計画にのっとり実験をスタートした。方法として、成熟ラット膵を膵管よりHanks液を注入後摘出し、これをハサミで細切する。次いでCollagenase 30mg/8mlで、magnetic stirrerにより約10分間処理し強くpipetingした後単離したラ氏島を実体顕微鏡下にwire loopで拾い上げる。集めたラ氏島をDispase 1000u/ml 3〜4mlで15分ずつ3〜4回magnetic stirrerで処理して細胞を分散し、2万個/wellとして0.15mlの培地とともにmicroplateに植込む。数時間後より細胞は次第に集塊を形成しはじめ、1週間後には完全な集塊となる。細胞の培養開始直後と、1週間を経た集塊形成後に培地のブドウ糖濃度を100mg/dlより300mg/dlにあげ、同時にH3-thymidine 1μCi/mlを加えて1週間continuous labelingを行う。終って細胞集塊を遠沈してcell pelletをつくり、それをそのままでBouin固定して包埋し、切片を作成して型の如くdipping法によりautoradiographyを行う。この方法ではB細胞が、aldehyde-fuohsin染色されるか否かが問題で、分裂細胞がB細胞であることを証明するためには電顕切片も同時に作成することが必要かも知れない。
 成熟ラット膵では分裂を示す細胞が可成り少いことが予想されるので、幼若ラット膵のcell sheetについても検討したい。すなわち、この場合細胞は植込み後3週間はcell sheetが形成されるのでこの時期の細胞についても諸因子の影響をみたい。(写真を呈示)写真は成熟ラット膵ラ氏島の“organ culture"でブドウ糖300mg/dlの時みられたB細胞の分裂像を示すものである。

《山田報告》
 最近(日本癌学会当日)培養保温器が故障し、保存している細胞株、及び実験中の細胞が全部死滅してしまい、がっかりして居ます。しかし再び改めて細胞を培養しなおし、実験を計画して居ます。この事故の直前に測定した成績を書きます。
 Indian muntjac株の電気泳動度
 インド吠え鹿indian muntjacの培養繊維芽細胞の電気泳動度の増殖に伴う変化をしらべたのが、図です。この成績をみますと、Ind.muntjac細胞の表面荷電密度は、これまでしらべたラット、マウスの繊維芽細胞のそれと大差がない様です。今後この成績を基にして、染色体の変化とその表面荷電密度の関係を検索したいと考えて居ます。

【勝田班月報・7511】
《勝田報告》
 §各種培地の比較検討(とくに塩類組成):
 (図表を呈示)今月は、表に示すように、各種の塩類組成を比較してみた。アミノ酸、ビタミンはすべてDM-153と同じで、塩類だけを変えてある。D、Hanks、Gey、Hanks-Hepesの処方である。
 第1図は、無蛋白無脂質合成培地内継代株JTC-25・P3(ラッテ肝なぎさ変異株)を用いた実験で、1日間継代培地DM-153で培養した後、各種実験培地にきり換えた。結果は、処方によりかんりの差のあることが示され、塩類といって軽視できないことが判った。
 第2図は血清含有培地内継代株(ラッテ肝)RLC-10(2)を用いた実験で、継代培地で2日間培養した後に実験培地に切換えている。この場合にも、やはりかなりの差があらわれた。Geyの処方が最も増殖が低かったが、合成培地のJTC-25・P3では(図は省略)、実験培地に移して2日間はごくわずかに増殖が認められたが、以後は急速に細胞数が減少し、細胞がこわされてしまった。
 無細胞で培地だけを37℃2日間加温してpHの変化をしらべると、DM-153(0日:7.30→2日后:7.51)、DM-159(7.51→7.71)、DM-161(7.23→7.50)、DM-162(7.05→7.34)、DM-163(7.1→7.1)であった。

《乾報告》
 ヒト神経芽細胞肉腫(GOTO)由来細胞の染色体;
 10月初め癌学会からもどって以来、人工タバコの検定、検定、検定で、培養器をすべて占領され、基礎研究が出来ず毎日研究所へ行くのがいやになってしまいます。10月一ケ月で、10数倦怠とはまったくもって何をか云わんやです。スクリーニングセンターのスクリーナーは、検定の合間に研究をする運命にあるのでしょう。
 今月は、医科研の関口先生が樹立された神経芽細胞腫の染色体について報告致します。
 (核型と染色体数頻度分布の図を呈示)染色体数は図の如く44本で、特定の標識染色体は存在せず、No.1染色体のモノソミー、No.2染色体のトリソミー、C群の染色体、G群の染色体の一本欠除で代表されます。
 染色体数分布は図2の如く染色体数44にモードがあり、モードの細胞の出現頻度は26.2%で、大部分の染色体が近2倍域に存在した。染色体数80以上の4倍体の細胞の出現率は、16.1%で、染色体数84の細胞の出現があったが、染色体数88の2倍性の細胞はみられなかった。
 なお起原が、1年1ケ月の男児副腎であるので、Y-body、Sex Chromatin、Rate replicat-ing X Chromosomeの出現をみた所、Y body>90%、Sex Chromatin<15%、Rate replicatingX(-)で、性染色体異常の存在はないことがはっきりした。

《難波報告》
 22:BPに対するヒトのリンパ球の感受性の差違の検討
 環境中に存在する発癌性炭化水素の発癌性に対して、ヒトには個体差があると考えられており、その個体差は各自の持つAHH活性の違いによるのではないかと予想されている。実際に動物実験レベルではAHHの高い動物ほど、発癌性炭化水素に対する発癌率が高いことが知られている。
 個々のヒトの発癌性炭化水素の発癌性の差違を検討することは非常に困難であるので、BPに対する感受性の個体差を、ヒトの末梢血リンパ球を使用して、1)細胞の増殖阻害度、2)DNA合成阻害度、3)クロモゾームの変化、で検討した。
 1)細胞の増殖阻害度
 末梢血リンパ球をRPMI1640+20%FCS+PHA培地中にまき込み、24hr後、コントロール群に、0.1%エタノール、実験群に10-6M乗BPを添加、更に2日培養して生存するリンパ球数を算えた。結果は表に記した(表を呈示)。まだ実験例数が少いが、細胞の増殖阻害度を細胞数を数える方法では、BPに対する感受性の差違を見い出し難い。
 
 2)DNA合成阻害度の検討
 1)の場合と同じように細胞をまき込み、BPで処理。72hr後、1μCi/ml H3-TdR 1hr投与して、DNA中にとり込まれたH3-TdRを調べた(表を呈示)。
BPに感受性の高いと考えられるヒトからのリンパ球をBPで処理すると、著明なDNA合成阻害がおこっている。1)の方法でははっきりしなかったBPに対するヒトの個体差が、2)の方法では、比較的よく見い出されているようである。
 3)クロモゾームの変化
 Exptle.No.3由来のリンパ球を、RPMI1640+20%FCS+PHAで培養し、2日後10-6乗M BP 1 hr処理、3日後にクロモゾーム標本作製。10.9%の細胞が異常な核型を示した。その他のものは目下検索中である。月報7509に報告したごとく10%以上の細胞に染色体の異常が見い出されるようなら、その個体はBPに対して感受性が高いと云ってよいにではなかるまいか。
 発癌性炭化水素に対して感受性の高いヒトと低いヒトに由来する細胞を培養し、発癌性炭化水素で発癌実験を行ないたいと考え、目下その方法を考慮中である。

《梅田報告》
 (1)FM3A細胞の8AG耐性獲得の系を使っての、突然変異誘起実験のその後の結果について報告する。方法は度々述べてきたようにFM3A細胞をMNNGの各濃度で2日間処理し、8AG 20μg/mlを入れたものと入れないagarose plate上に細胞を播種し、12日間培養後に生じてきたコロニー数を算えて突然変異率を計算した。Doseを変えて2回実験を行ったが、MNNGによりこの系でも突然変異の誘起されることがわかる(表を呈示)。
 (2)これも以前から報告してきた方法で、DNA単鎖切断に及ぼす影響を調べた。FM3A細胞をC14-TdRでprelabelしてからMNNG或いはHN2処理を行い、24時間後にAlkaline sucrose gradient上に処理細胞をのせ、37℃1時間 lysisさせた後、遠心した。
 MNNG 10-5乗、10-5.5乗Mで切断が起っている。HN2では、10-5乗Mで切断が起っているようなパターンを示しているが、10-4乗M、10-6乗M処理では、fract.No.5本目と、2〜3本目に異常な大きなDNAのピークを示している。HN2がbifunctionalの故と思われる。

《野瀬報告》
 潅流法で分離したラッテ肝細胞の形態
 Collagenase(0.05%)又はDispase(1000u/ml)でラッテ肝を潅流し、分散された細胞を長期間培養し、形態、増殖、生化学的性質について検討している。細胞の分散法は月報No.7507と同じで、低速遠心(50xg、5min)の沈澱部分と上清部分のそれぞれから細胞をとって炭酸ガスフランキ中で培養した。初代培養の3〜4日目の細胞形態は月報7507に示したが、更に培養を続けると次第にこの細胞は消滅し、別の形態をもった細胞が増殖してくる。図1〜4はDispaseでとった細胞で、それぞれ9日後、9日後(デキサメサゾン添加)、20日後、20日後(デキサメサゾン添加)であり、図5〜8はCollagenaseで分離し同様の培養条件下の細胞である。これらはすべて低速遠心の沈澱部分からの細胞で、上清からは上皮様細胞は全く出てこなかった。従って上皮様細胞は大型細胞(恐らく実質細胞)から由来しているのではないかと考えている。Dispaseを用いた場合、石畳状の上皮様細胞が容易にとれるが、Collagenaseではホルモンを加えないと、培養3週間目頃にはホーキ星状細胞が主になってしまう。デキサメサゾンを加えて培養を続けると、増殖はやや低下し、形態も多少変化する。特にColla-genase法の細胞で、添加群と非添加群との間の差が大きい。図7の細胞にホルモンを加えても図8のようにはならないので、この差は培養内のSelectionの結果であろう。

《佐藤報告》
 ◇3'Me-DAB発癌実験
 3'Me-DABによる細胞の癌化実験を開始した。第一弾はJ-5-2cl(2倍体性細胞)用いる実験系である。
 (1)3'Me-DABの細胞毒性(コロニー形成率より。)
 J-5-2cl、300cells/plastic dish(60mm)植え込み、24時間後、各種濃度の3'Me-DABを含む培地で置き換え、9日間培養(その間一回3'Me-DABを含む培地で培地交新)。コロニー形成率を求めた(表を呈示)。3'Me-DABは、J-5-2clのPlatingに対する阻害は比較的少ない様であるが、コロニーの大きさについて見ると抑制が著るしい。このことから、3'Me-DABは分裂阻害的に働くものと思われる。
 (2)3'Me-DABの処理
 3'Me-DABの長期間投与を試みた(つつある)。3'Me-DABの濃度は毒性試験の内の、4.8μg/ml程度を使用した。途中経過であるが、3'Me-DABを約20日投与した時点での、DAB未処理のコントロールの細胞との比較では、コロニー形成率、DAB消費能、染色体核型分析のいずれについても、ほとんど差が現われていない。更に3'Me-DABを40日、60日投与した時点での分析を進めている。

《高木報告》
 培養膵ラ氏島細胞の分裂促進因子
 前報の計画にのっとり実験をスタートした。方法として、成熟ラット膵を膵管よりHanks液を注入後摘出し、これをハサミで細切する。次いでCollagenase 30mg/8mlで、magnetic stirrerにより約10分間処理し強くpipetingした後単離したラ氏島を実体顕微鏡下にwire loopで拾い上げる。集めたラ氏島をDispase 1000u/ml 3〜4mlで15分ずつ3〜4回magnetic stirrerで処理して細胞を分散し、2万個/wellとして0.15mlの培地とともにmicroplateに植込む。数時間後より細胞は次第に集塊を形成しはじめ、1週間後には完全な集塊となる。細胞の培養開始直後と、1週間を経た集塊形成後に培地のブドウ糖濃度を100mg/dlより300mg/dlにあげ、同時にH3-thymidine 1μCi/mlを加えて1週間continuous labelingを行う。終って細胞集塊を遠沈してcell pelletをつくり、それをそのままでBouin固定して包埋し、切片を作成して型の如くdipping法によりautoradiographyを行う。この方法ではB細胞が、aldehyde-fuohsin染色されるか否かが問題で、分裂細胞がB細胞であることを証明するためには電顕切片も同時に作成することが必要かも知れない。
 成熟ラット膵では分裂を示す細胞が可成り少いことが予想されるので、幼若ラット膵のcell sheetについても検討したい。すなわち、この場合細胞は植込み後3週間はcell sheetが形成されるのでこの時期の細胞についても諸因子の影響をみたい。(写真を呈示)写真は成熟ラット膵ラ氏島の“organ culture"でブドウ糖300mg/dlの時みられたB細胞の分裂像を示すものである。

《山田報告》
 最近(日本癌学会当日)培養保温器が故障し、保存している細胞株、及び実験中の細胞が全部死滅してしまい、がっかりして居ます。しかし再び改めて細胞を培養しなおし、実験を計画して居ます。この事故の直前に測定した成績を書きます。
 Indian muntjac株の電気泳動度
 インド吠え鹿indian muntjacの培養繊維芽細胞の電気泳動度の増殖に伴う変化をしらべたのが、図です。この成績をみますと、Ind.muntjac細胞の表面荷電密度は、これまでしらべたラット、マウスの繊維芽細胞のそれと大差がない様です。今後この成績を基にして、染色体の変化とその表面荷電密度の関係を検索したいと考えて居ます。

【勝田班月報・7601】
《勝田報告》
 §合成培地の新しい処方:
 当研究室の合成培地はこれまでアミノ酸組成が19種で、アスパラギンが含まれていない。そこでアスパラギンの要求性をしらべてみた。ここに示すのは2種の細胞株である。
 a)無蛋白完全合成培地内継代株JTC-25・P3(ラッテ肝)の増殖に対する影響(表を呈示):この場合は図のようにアスパラギンの有無は増殖に影響がなかった。Aspの要求もない。
 b)結成培地継代株RLC-10(2)(ラッテ肝細胞)の増殖に対するアスパリギンの影響:
この細胞は図のように(図を呈示)、アスパラギン酸を要求しているが、そこにさらにアスパラギンを添加すると、明らかに増殖率が高くなった。培地は継代培地で1日間培養した後、実験培地にきりかえた。
 DM-160の処方はDM-153にアスパラギンを25mg/lに加えたもので、割に万能的と思われるので、当研究室では今後当分DM-160をroutine workに使って行きたいと思っている。なおこの培地は近い内に極東製薬から市販される予定になっている。

《難波報告》
 24:ラット肝細胞(RLC-18)のコロニーの解析
 月報7512にRLC-18のクローニング及び、そのクローン化した細胞について述べた。その中でこのRLC-18中には少なくとも2種類の細胞即ち、(1)小型の円形ないし正方形の細胞で、核/細胞質比は小さくギムザによく染り旺盛な増殖を示し、細胞のぎっしりしまった辺縁のシャープなコンパクトなコロニーを形成し、肝小葉状のパターンを示すようになるもの、1型(仮称)。(2)大型の細胞で一見上皮様である。核/細胞質比は大きく豊かな細胞質はギムザで淡く染まり、増殖はあまりよくなく、肝小葉状のパターン形成を示さぬもの−網内系の細胞か? 2型(仮称)(写真を呈示)。の2種類の細胞が混在する可能性があると記した。今回はRLC-18のmother cultureの中でどの様な割合で(1)(2)が含まれるか、クローニングしていないRLC-18をシャーレにまいて11日間培養後、ギムザ染色し、生じたコロニーを全部顕微鏡下で調べて以下のデータを得た(表を呈示)。
表に示すように、RLC-18中にはほとんど(1)型の細胞よりなるコロニーが含まれるが、しかし、2型の細胞も5%程度含まれている。繊維芽細胞よりなるコロニーは全くみられなかった。(1)型の細胞と(2)型の細胞とが(1)→←(2)型のゆに相互に変換するのか、あるいは全く別々の細胞がRLC-18の中に存在するのか今後検討したい。
 ◇本年の希望
 (1)今年こそはヒトの細胞の確実な培養内発癌系を確立したいと思っています。
 (2)それに、非常な困難が予想されますけれども、ヒトの正常な上皮系の細胞株の樹立も努力したいと思います。
(3)また、ヒト細胞での癌化が現在の培養条件で何故困難なのか、ヒト細胞のAgingの現象を考えながら、その原因を追求したいと思っています。この原因の解明は裏をかえせば、ヒト細胞の発癌機構の解明にアプローチできるのではないかと考えています。

《堀川報告》
 さて、まず最初に先月号で報告出来なかった一部の実験結果について報告します。
私共は、UV照射により細胞内DNA中に誘起されたTTの少なくとも50%までは除去修復可能なヒト由来HeLaS3細胞の同調細胞集団を用いて、細胞周期を通じてのX線、UVおよび4NQO(4-HAQO)によるDNA損傷の修復能の違いとか、さらにはこれら各種物理化学的要因の処理により誘発される(8-azaguanine抵抗性の獲得でみた)突然変異率の違いを調べてきたが、これらのことをTTの除去修復能が極度に低下しているマウスL細胞について調べることにした。こうした実験は細胞の有するDNA損傷修復能の違いが、前述の各種物理化学的要因で処理した際にみられる周期的感受性曲線の違い、されには同期的突然変異誘発率曲線の違いとして現れるかどうかを検討するためのものである。
 同調細胞集団はHeLaS3の場合と同様に0.025μg/ml Colcemidで6時間L細胞を処理したのち、M期の細胞を採集法で集めるという方法を用いた。このようにして得られた細胞集団が何らの障害なくcell progressionすることは図1のHeLaS3細胞と比較した細胞動態の解析結果(DNA合成、細胞数、Mitotic index等の同期的変化)からもよくわかる。ただHeLaS3細胞に比べてL細胞の場合はColcemidによるM期でのblockが弱いようで、Colcemidを除き、正常培地に移したM期の細胞は直ちにG1期に移行してしまう。そのため図1でわかるようにL細胞においては採集直後の0時において、Mitotic indexが非常に低く、細胞数の増加もみかけ上見られない。この点を確認するためColcemidを含んだ培地のままで採集法により細胞集団を集め、Mitotic indexを求めた結果が図1の挿入図であるが、これよりL細胞の場合もHeLaS3細胞の場合と同様、Colcemid-採集法によって得られる細胞集団のMitotic indexはほぼ90%もあることがわかる。
 さて、この同調法によって得られた細胞集団を使って、X線、UV、4-HAQOに対する周期的感受性曲線を調べた結果が図2である。図3のHeLaS3細胞でも結果と比べて傾向的にはよく類似しているが細部において異るようである。特にL細胞の場合、M期においてUVと4-HAQOに対して抵抗性を示すのが特徴的である。現在、こうした周期的感受性曲線を生じさせるL細胞内の要因の解析、細胞周期を通じての突然変異誘発率の違い等の解析を進めている。
[今年の抱負]
 細胞のもつ損傷修復能と突然変異誘発ひいては細胞癌化の関連性を把握することが従来のわれわれの大きな目的であった。幸い、上述のようにヒト由来HeLaS3細胞とマウス由来L細胞を用いて細胞周期を通じての解析も着実に進んでいるので、今年こそは損傷修復能と細胞癌化の関連性を追究する方向に仕事を進めたい。梅田班員より細胞も譲渡されるようになっており、現在その受け入れ準備中である。(図を呈示)

《高木報告》
 昨年一年をふり返ってみますと、膵の培養ではいささかの進展はあったものの未だしの感深く反省しております。今年は辰年でもあり頑張らねばならないと考えています。
 この5月には丁度10年ぶりに博多で組織培養研究会が開催されることとなりましたが、よろしく御願いいたします。
 本年度の研究プロジェクトも昨年と変るところはありませんが、次の様に考えています。 1.膵ラ氏島細胞の培養とその"がん"化の試み
1)ラ氏島細胞の分裂促進物質について
高濃度ブドウ糖がB細胞の分裂促進作用があると云う1、2の報告はある。一般に内分泌腺細胞では、そのホルモンの分泌促進物質が細胞の分裂を促進することも想定されるが、詳細は判っていない。radioautographyを応用し、発癌剤を含めた諸物質の分裂促進作用を検討する。さらに培養条件と併せて株細胞の樹立につとめる。
 2)ラ氏島細胞の培養形態について
 用いる動物の年齢、細胞の分散法および培養条件などの違いにより、ラ氏島細胞はsheetを形成したり細胞集塊を形成したりする。この培養細胞の形態と機能との間には関連がある。形態に影響する因子につき追究したい。
 3)ラ氏島細胞に対する発"がん"剤について
 DMAE-4HAQOにつき再度in vivoの実験を行ない、生じた腫瘍をATS処理動物、またはヌードマウスに移植し、それの再培養を試みて正常ラ氏島培養細胞と比較検討したい。
StreptozotocinとNicotinamideとの組合せについても考えてみたい。
 2.培養細胞の可移植性と免疫抗原性の解析
 発癌過程の細胞を移植した際の、宿主の免疫動態の変化をcheckしうるin vitroの実験系を見出すべく努力する。まず株細胞を用いた地道な基礎実験から行ってみたい。

《梅田報告》
 昨年度を振り返り、本年度の仕事の方向を概観してみますと、先ず定量的発癌実験の試みではデータの出るのに時間がかかることもあり、昨年度は細胞の選択の問題で、また正常細胞の株化のむずかしさなどで大きな発展をみませんでした。暮になって、DDDマウス胎児細胞より樹立した株細胞の1クローンが接触阻害を良く示すことがわかったので、本年度はこの細胞株のクローンを使っての仕事の発展を期待しています。
 突然変異の仕事は発癌実験よりデータが早く出ることもあり、昨年度は数多くの物質でテストしてきました。また物質の代謝活性化を実験系に持ち込むことが出来たのは成功でした。ここでえられる諸々の結果が培養内発癌実験の基礎知識となることを目標にして今後もデータの蓄積に心がけるつもりです。
 肝細胞培養の方は発癌実験に使うためには今迄取っ掛かりが少なかったのですが、DL1と名付けた細胞がaflatoxinB1に高い感受性を示したことは、今後の一つの研究手段になることを示し、面白い展開が望めると思っています。直接発癌実験とは関係ないのですが、上皮細胞が本当に繊維を作るかどうか、これは皆様の御協力を得て証明していきたいと考えています。

《山田報告》
 学会その他で大忙しの1975年でしたが。班研究そのものについては、昨年中それ程に前進出来ずに終ったことを反省して居ます。加えて初めて病理学の講義、実習を担当しましたので、その準備もあり、その点でも研究の時間が少くなってしまいました。
 今年は、教育の方もだいたい軌道が敷かれましたので、細胞電気泳動法を主として用い、癌細胞表面の検索を続けたいと思って居ります。特に今年のテーマは、Muntjakの細胞の染色体変化と、その細胞表面の変化との相関をしらべてみたいと思っています。

《乾報告》
 私は、一昨年、昨年は研究生活を送るのに極めて不利な立場に心ならずもおかされました。新年を迎えて今年こそは研究が本命である場を得たいと心から思っております。
 それと共に年頭に当たり一つの決心を致しましたので、皆様にお聞き頂き、又多くの先生方の御助力をおねがい致します。私、1974、1975年の年号のついた論文がありません、(Dataはあるのですが)。
 今年は研究所内で、どの様な問題がおこりましても英文の論文を書き発表致すつもりですので、皆様の御協力を切におねがい致します。
 今年の年頭にあたっての実験の計画ですが、やっと純系のハムスターの繁殖が順調になりましたので、1)DMN、2FAA、BP、MNNG、MNUr等を使用して、Transplacental ApplycationのSystemで、a)移植出来るTransformationの系を作る。b)動物での標的臓器と培養内での標的との関係の開明。c)又同系におけるCarcinogenesis、Mutagenesis、Teratogenesisの関係を研究したいと思っております。
当所にいる以上、検定の間にどれだけ仕事が出来るかが心配です。

《野瀬報告》
 昨年暮には英国行きのfellowshipの面接などが何度もあり、落着かない状態でしたが、British CouncilのScholarshipが内定したので今年はJ.Paulの研究室に行けそうです。今までの仕事を整理し、更に発展できるよう頑張りたいと思っております。仕事はこれまでの続きで、(1)培養肝細胞の生化学的形質。(2)肝細胞の増殖の調節。の2つを主体にする、つもりです。
 培養肝細胞は、Collagenase-潅流、Dispase-潅流で得た初代培養、および株化した細胞を用いて各種の機能を見ています。I125-アルブミンを使ったradioimmunoassayで、Colla-genase-潅流でとった初代肝細胞は、細胞タンパク当り1mg当り4〜6μg/24hrのアルブミンを培地に分泌し、bilirubinの抱合、Tyrosine aminotransferase(TAT)誘導などの機能を持っています。Dispase潅流法でも、収率は比較的低いのですが、形態的、TAT誘導性などの点でCollagenaseで得た細胞と良く似ています。この細胞は、長期間dexamethason存在下で培養すると再現性よく上皮様細胞の状態で増殖し、Collagenaseの場合と違うので、増殖する細胞で機能を見たいと思います。株化した肝細胞と初代の"parenchymal cell"との相関も大きな問題です。
 上皮様細胞のgrowth regulationは、センイ芽細胞と比較して似ている点と異なっている点がありそうなので、もう少しはっきりさせたいと思います。各種の株化した肝細胞の間でも、confluentになって培地交換した後のuridine、thymidineのとりこみに違いがあるので、腫瘍性との相関についても検討したいと思います。また、いわゆるconfluentという状態がセンイ芽細胞と上皮様細胞とでは、いくつか異なる点があるようなので、上皮様細胞での基礎実験が大切と思われ、細胞周期のどの時期で止まるのか、また培地交換後の細胞の高分子合成能の変化などを調べてゆく予定です。

《久米川報告》
 ラット肝由来細胞(clone BC)の電顕的観察
 梅田先生が分離、約50代継代されたラット肝由来細胞(clone BC)の電顕的観察結果について報告します。この細胞については前回の班会議でふれたが、さらに約10代継代培養されたものである。上皮細胞群を網目状に紡錘形の細胞および銀染色で染る繊維が存在する。これらの繊維がcollagen fiberであるかどうか、さらに繊維と細胞の関係を明らかにするため、細胞をpetri dishに植えた状態で固定、脱水後はくりし、ペレット状にして包埋、重合した。前回と同様細胞にはtight junctionがあり、上皮細胞と思われるが、肝細胞の特性はみられなかった。しかし、細胞の結合部近くには、ほぼ全細胞に陥凹部がみられ、homogeneousまたは繊維状の物質がみとめられた。特に今回は、陥凹部ばかりでなく細胞の表面にもfibrousな物質が認められ、cross bandをもった明瞭なcollagen fiberが観察された。電顕写真の用意ができなかったため、2月の班会議で詳しくは報告したい。

《永井報告》
 不況のためか、新しい年の気分も市井ではいまひとつぱっとしませんが、研究の方はやはり今年一年期するところをもって出発したいと考えております。これまでの御友誼に感謝いたしますと共に、今年も皆様より御教示を賜りたいと念じております。
 勝田先生より依頼されております、癌細胞の毒性代謝物質の単離と構造決定の仕事は、仲々思うようには進んでおらず、これを今年こそは"もの"にしたいものと思います。勝田先生の医科研での活動もあと残すところ2年程ですので、時間一杯というところ。
toxohormoneの仕事が難破してしまっていることを思うと、こうした問題に内在する容易ならぬものの姿を感ずる時もありますが、ここは是非突破してゆきたいと、また意気五味を新たにしている次第です。
 
《佐藤報告》
 昨年に引き続き、今年も又DAB癌化実験を進める予定ですが、特に考慮したい点について、1、2略記して見ました。
 1)DABそれ自体で、単一の細胞系(クローン)を癌化させることができるかどうか?
DABの標的細胞が判明していない現在、クローン系を適当に決めてしまう事の是非はあるが、当面はDABを代謝する能力を指標に細胞種を選択し、又代謝能力の欠如に対し、DABのactivemetaboliteを少し検討し、それらの適用を考えて見たいと思います。
 2)in vitroでのDAB癌化は、Diploid cellでは非常に難しく(効率が悪い)、むしろAneu-ploid cellないしは自然発癌せんとする細胞でなければならないのかどうか?
DABの癌化は長期培養株についての報告が多いが、この場合にはどうしても、DABの効果が細胞のMutationなのか、自然発癌しつつある(した)細胞のSelectionなのか問題が残る。本年は、悪性度増強の問題で以前に使用した事のあるdRLa-74細胞(DAB-feeding rat liver由来、動物への可移植性、生存日数などに関し、培養過程での変化が比較的小さい)を再登場させ、主にDAB耐性の問題と癌化について考える。次に、Diploid cellの癌化は困難であるという点に関し、染色体変異などを指標とする限り、やはり有用と思われるので、特に、初期変化に的をしぼり、昨年に引き続き実験を進めて行きたいと考えております。

【勝田班月報・7602】
《勝田報告》
 新浮游培養法の考案
 これまで試用した浮游培養法の共通した欠陥は、撹拌によって培養液に泡立ちが起り、細胞の均等な浮游化が得られないということであった。この点を改良するため各種の培養瓶、撹拌法などを検討し、光研社と共同で図のような装置を作った(図を呈示)。これは撹拌子の尖端が上下に揺れて液を撹拌する機構であり、血清培地でも泡が立たず、細胞も均等に撹拌できる。この方法で各種の細胞の浮游培養を試みているが、JTC-1株(ラッテ腹水肝癌AH-130)細胞を用いての結果を表に示す(表を呈示)。これは、一定液量内の細胞を算定し、培養開始時の細胞数に対する、培養4、3日后の細胞数をしらべ、増加倍率で示した。またエリスロシンを用いて全細胞数中の死亡細胞%もしらべた。培地は10%FCS+90%合成培地DM-153。振盪は撹拌子の尖端が250〜300回/分でtappingする。そこでTapping SuspensionCultureと命名したが、愛称はSnoopy Cultureである。
 表に示したように、旧来のmagnetic stirrer法よりも、新法の方がはるかに細胞の増殖率も高く、死亡率も低いことが認められた。これは泡立ちを防止したことと、細胞に機械的障害を与える程度が減ったためと思われる。

《難波報告》
 25:ヒト及びマウス細胞の4NQO処理に対する反応に差違があるかどうかの検討
−細胞増殖及びDNA合成に関して−
 化学発癌剤によって、ヒトの細胞は培養条件で発癌し難く、マウスの細胞は発癌し易い。
 何故ヒトの細胞の癌化がマウスの細胞の癌化に比べて困難なのか? その原因がもし分れば発癌機構の一部が分るかも知れないと考え、化学発癌剤として4NQOを用い、ヒト細胞と、マウス細胞との反応性の差違の有無を検討してみることにした。
 今回は4NQO処理後の、(1)細胞の増殖率、(2)経時的DNA合成能を調べた。
 ◇細胞の増殖率(夫々に図を呈示)
 図1にヒト細胞(WI-38、29代のもの)、図2にマウス細胞(C3H由来、diploid 3代)、4NQO処理後の増殖率を示した。4NQOによる増殖阻害は両者でほぼ等しい。
 ◇4NQO処理後のDNA合成
3.3x10-6乗M 4NQO 1hr 37℃処理後、6、24、48hr後のDNA合成を調べた。ヒト細胞の結果は図(3)、マウスの場合を図(4)に示した。4NQO処理後のヒト細胞のDNA合成阻害は、マウスのそれに比較して著しい。
 Agingしてゆくヒト細胞はPDL(Population Doubling Level)が進むにつれて、DNA合成能が低下して行くことが知られているので、使用した29th PDLのWI-38の4NQO未処理の対照細胞のDNA合成能自体がマウス細胞のそれに比べ低いので4NQO処理はヒト細胞のDNA合成はより強く阻害するのかも知れない。
 4NQO処理後も図4に示したマウス細胞の場合のように高いDNA合成を示すものは、培養内で癌化し易いのかも知れない。
 また増殖カーブとDNA合成をみると、マウスの細胞は4NQO処理後に多くの細胞が死滅し、生存している細胞が急速に増殖しているのではなかるまいか。

《梅田報告》
(1)発癌性物質の代謝活性化による突然変異誘起を報告してきた。本月報では、DMNの代謝活性化について1年前(月報7502)に報告した。その後は本月報では報告しなかったが、昨年春の培養学会でDMBAでもFM3A細胞の8AG耐性獲得の突然変異を起す事を示した。しかしAAFでは同じように代謝活性化の諸要素を加えても突然変異は起らなかった(表1を呈示)。 AAFの場合、薬物代謝酵素により水酸化を受けN-OH-AAFとなりこのproximate carcinogenが、さらにsulfotransferaseのような酵素によりesterificationを受けてultimate formになると云われている。この時ATP、sulfateなどが関与している。この説が正しければN-OH-AAFとATP、sulfate、肝1,500g遠心上清(Sulfotransferase)を加えれば、N-OH-AAF単独より突然変異が上昇することを考えた。
 何回も実験を繰り返したが今の所positiveなdataを得ていない。AAFのようなprecarci-nogenでも代謝活性化させることにより突然変異、さらには試験管内発癌実験でpositiveなdataになるよう執念めいて実験系の開発に頭を痛めている。
 (2)上はnegative dataの経過報告であるが、代謝活性化反応を組み合わせることにより、DMNの染色体異常も惹起されている事実を見出したので報告する。
代謝活性化をうけた発癌性物質で、突然変異を起しているとすると、細胞は同時に諸々のDNA障害を受けている筈で、当然染色体異常も起していると考えられた。DMN、肝ミクロゾーム、NADPH、MgCl2、O2をFM3A細胞と30分反応させた後、良くあらって正常培地で1、2日間培養し、染色体標本を作製した。表2に結果を示すが、ややdose-responsibilityに難があるので、目下再実験がすみ、標本の検索中である。(表2を呈示)

《山田報告》
 正常ラット肝細胞由来の培養株の経時的変化を追求し、Spontaneous transformationの解析を試みていますが、その一環の仕事としてchromosomeの変化をしらべて来ました。今回は先きに報告した経時的なchromosomeの変化をBanding methodにより解析してみました。0.025%トリプシン処理後染色したものです。
 RLC-20(New bornラット由来株); 染色体modeはdiploid→hypertriploidy→hypotetra-ploidyに変化して来た。今回は3回目の検索ですが、特に42本の染色体が一時減少後再び増加して来たことが特筆される。そのBandの形態は図1に示すごとくで、マーカー染色体はいままで認められない。
 RLC-16(Adultラット由来株);前回マーカー染色体(Metacentric)が認められたが、今回は消失した。しかし41本の染色体をもつ細胞が44%も出現した。
 RLC-21(Embryoラット由来株);前回大型なマーカー染色体が認められたので、その染色体構成を特に重点的に検索した。大型なV型のマーカー染色体はBandingをみてもやはり1番目の染色体の長腕部がお互に融合したものと思われる。そして、その短腕部は8番目と13番目のtelocentric染色体に転位(translocation)している。次に大型なマーカー染色体は3番目と5番目のtelocentric染色体の融合と思われる。
 RLC-18(Embryoラット由来株);42本染色体をもつ細胞が52→36→14→0%と変化し、今回は全くみられなかった。同時にhyperdiploidの細胞が増加し、現在染色体モードは51本で、その数は幅広く分布している。この株はマーカー染色体がみられない。
 RLC-19(Adultラット由来株);前回までは略々正常パターンを示していたが、57本にモードを持ち、hypotriploidyに変化して来た。

《翠川報告》
 容易に可移植性の変異をみる脂肪細胞の試験管内自然発癌
 前回に報告したごとく、私たちはA/J系マウスに継代移植されている腫瘍(睾丸間細胞腫)の間質に浸潤している組織球の長期培養細胞株(Ma cell line)の樹立に成功したが、この細胞は増殖が非常に緩慢で細胞のdoubling timeも7日以上であった。そして10年以上にわたる培養でも自然発癌はおこらなかった。
 組織球の悪性化によってどの様な腫瘍が招来されるかを調べる目的で、この組織球の試験管内自然発癌実験をくりかえし、いろいろの腫瘍間質に存在するマウス組織球の長期培養を行っている。この実験の中で当初組織球とも繊維芽細胞とも判定がつきにくい培養細胞株がえられたが、この細胞は培養1311日目に試験管内自然発癌をみた(HT cell line)
 HTの特長は、in vivoに継代移植をされている腫瘍の組織像をみても、in vitroで培養されている細胞を観察しても非常に像が多彩で異型性に富み、巨細胞の出現が顕著にみられる。同時に長期間継代培養を続けている過程で容易に可移植性に変異がみられることも特長的である。はじめに可移植性の変異に関する条件の検討を試みた。
 (1)同系A/J系マウスに継代移植を行ってみると本腫瘍は移植部位に腫瘤を形成するまでの期間が比較的長く(5〜7週)、一旦腫瘤が触れられるようになると急激に腫瘤の増殖は旺盛となり、移植後おおむね8〜9週で宿主を腫瘍死させる。この腫瘍を継代移植し続けている限り、腫瘍細胞の性質には余り変異はみられないし、可移植性はかわらない。
 (2)HT cell lineはin vitroでの継代培養にあたってcloningを行ったり、細胞密度の低い培養を続けていると可移植性の急激な消失をみる場合が多い。このような細胞はかなり多量100万個〜1,000万個を移植しても同系成熟マウスにはもちろん、新生児マウスにも腫瘤形成がみられない。可移植性の消失をみた細胞は一般に大型なものが多く、類上皮様配列をとり、かなり巨細胞の出現も多くみられる(写真を呈示)。
 (3)このように可移植性の消失した細胞も細胞密度を高くして、dense cultureを続けていると約半年ないしは1年の間に再び可移植性が回復する場合が多い。
 (4)培養にさいしてdense cultureのみをくりかえしていると比較的可移植性は保持されている。可移植性を保持している細胞は全般的に小型であり、紡錘形を呈し、繊維芽細胞様の形態を示している(写真を呈示)。
 (5)大型類上皮様細胞と小型繊維芽細胞様細胞との間には、その中間とみなされる細胞群があり、とくに可移植性消失細胞のdense cultureを行っている過程でしばしばみられる。
(6)HT cell lineは現在までのところ無血清培地では6ケ月以上培養することはできないが、その間形態に多彩の変化がみられる。
 HT cellはSudan可染性脂肪顆粒を原形質に多量充満しており、組織化学ならびに電顕所見を綜合して、lipoblast由来と考えられた。[これは12月6日の班会議の時の報告です]

《乾報告》 
 経胎盤培養内発癌実験は、今春に入ってから、やっと純系アルビノハムスターが実験に使える様になりました。3,4ベンツピレン、ジメチルニトロサミンを、使用して、In vivo transplacental carcinogenesisの標的臓器と、In vivo-in vitro carcinogenesisの標的臓器の関係、造腫瘍性のあるTransformed Colonyの選択の仕事に入りましたが、次回の班会議には、解析的な研究の第一報を御報告出来ると思いますが、早速問題点が出て来ました。まず問題点を上げますので、2月16日に皆様の御教示を頂ければ幸いです。
 1)上記2物質共、In vivoでの標的臓器が、肺、肝、腎とかなりはっきりしております。妊娠12日目の胎児から、上記臓器より、上皮と繊維芽細胞と別けて、培養初代(開始後、24時間で)少なくても1,000万個の細胞をとりたいのですが、これが難かしいのです。
 2)培養24時間で、染色体観察をするのですが、上皮、繊維芽細胞の混在中で分裂している細胞がどれかわかりません。Primary Culture前に上皮、非上皮細胞を純粋に分けて、培養することは、無理でしょうか。
 以上の2点です。この問題は、来月お教え頂くとして、今月は2つの報告を致します。
 (1)経胎盤投与胎児起原繊維芽細胞長期培養による細胞癌化:
 昨年5月28日、AF-2 20mg/kg投与胎児よりDMEM+10%FCSで、培養を開始し、週1回、1:4のSplitで培養を継続した。10月初旬、培養開始後130日前後で主たる形態変化なしに、増殖率が上昇し、次いで約20日後、明らかな形態変化がおこったが、造腫瘍性はなかった。Criss Cross、Piling up、Ramdom Orientationと定形的であった。その後、造腫瘍はなかったが、1月8日、1,000万個の細胞をハムスターに戻し移植した所明らかな造腫瘍性が認められた。
 しかし、経胎盤法の最大の欠点である、同一細胞の対照をとれないことから、発癌剤投与による発癌か、Spontaneous Transformationかのきめ手はない。又、初期の経胎盤細胞の長期培養故、染色体の経時的観察も行なっていないが、現時点でも近2倍体細胞で特別なマーカー染色体も存在しない。詳細な染色体観察分析結果は、後程報告したい。
 一般的な印象からすると、経胎盤的に発癌剤を投与した細胞は、自然に切れる事が少なく、長期培養が極めて容易のようである。
 (2)コロニー形成率、等、培養実験の定量的解析に対する統計手法導入の試み:
 現在我々が行なっている、たばこの毒性検定、経胎盤in vivo-in vitro chemical-carci-nogenesis、-mutagenesis等ほとんどすべてを、コロニー形成率及び、Transformed Colonyの出現率に指標を求めている。以下に、実例で有意差計算を行ない、数字的、有意差と、生物学的有意差の問題を考えてみたい。
 実験方法:実験には、極めて性質の類似した10種のタールを作用した。検定細胞として、HeLa-S3、CHOK-1をもちい、それぞれの細胞をシャーレ(6dm)に100〜200ケ播種した。同時にNo.1〜No.10のタールを50〜10μg/ml添加して、培養液を交換することなく10日間培養を継続後、シャーレを洗滌、固定、染色後コロニー数の算定を行なった。
 コロニー出現率の一部を表1、2及び図1、2に示す(図表を呈示)。
 以上、各群5枚のシャーレを使用し、HeLa細胞を使用して、もう一度、計3回、CHOK-1細胞を使用して3回の実験を行なって表1、2と同様な、表を合計6表えた。この表よりコロニー形成率を図示したのが図1、2である。表1、2、図1、2より
 1)HeLa細胞、CHOK-1のコロニー形成率は、タール濃度に比例する。
 2)細胞間でタール感受性に違いは見られない。
 3)グラフ上で10種タール相互間に有意な差が明らかでない。
 4)実験により同一濃度でタール間にコロニー形成率に差が見られる。
以上の結果より上記データ(付記しないものを含む)を用いて、統計解析を行なった。
 統計解析はまず実験中、細菌感染等で実測値を得られない所、シャーレ枚数の異なる所を、ハートレ法をもちいて推測値で補充した。
 次に得られた実数すべてについて、1)タール濃度(5)、2)細胞数(2)、3)うり返し実験数(各3回)、4)タール数(10)を変量として、"多変量4元配置分散分析"を横河ヒューレットパッカードMode 20コンピューターを用いて行なった。結果を図3、4に示した。図3、4より、無処理を1.00とおいた時X印が相対平均で、矢印の範囲が95%信頼限界である。上限、下限の矢印が1/3以上オーバーラップするものについては有意差はない。以上の解析結果
 1)No.5は、他のタールに対して有意差をもち毒性度がよわい。
 2)No.10、No.7も同様有意差をもち毒性が弱い。
3)No.3、No.9は毒性度が強いという結果を得た。
すなわち実験を繰しの変量模型として解析した場合
 No.5≦No.7、No.10 <No.1、2、No.4、No.6、No.8 <No.3、No.9と云うように、タールの細胞毒性度に関する順序付けが出来た。
 しかし、コンピューターを使用して、多くの数字を処理し、一応数学的解析をしてみて、とにかく数学的有意差を求めるに少なくもコロニーレベルの解析には、多変量多元配置の解析法が使用出来ることがわかった。
 しかし、今思うに、我々生物医学者としては、データを解析する前に、解析して、こねまわさなくてもよい、"実験系"を使って実験する方がより大切であると考える。

《野瀬報告》
 ラッテ肝細胞によるビリルビンの代謝
 ビリルビンは赤色素のヘムが肝のKupffer cellで分解されてでき、parenchymal cell内で抱合をうけて胆汁中に分泌される。肝細胞の特異機能の一つとして、このビリルビン抱合を見てみた。方法はprimaryのラッテ肝細胞又は株化した肝細胞の培地に、33〜67μg/mlのビリルビンを加え、炭酸ガスフランキ中で20〜48時間培養する。培地および細胞内のビリルビン、抱合型のビリルビンをそれぞれ定量した(Weber & Schalm 1962)。
 Collagenase又はDispaseで潅流して分離した肝細胞では、初代培養後2日目にビリルビンを加えると、図のように抱合型が検出された(図を呈示)。Collagenaseで分離した肝細胞の方がDispaseで得た細胞より抱合能が高いようである。
 一方、株細胞ではRLC-10、RLC-19、RLC-23、JTC-16、CulbTCを用いて同様の実験を行ったが、どの株もビリルビン抱合の活性を全く持っていなかった。初代培養では、ビリルビンの細胞毒性は認められなかったのに、株細胞ではかなり毒性が認められた。これは、恐らく代謝能の違いによるのであろう。株化された肝細胞は、やはり肝機能を失っているようである。
《高木報告》
 膵ラ氏島細胞の分散法の検討
 膵ラ氏島細胞の培養にあたり、ラ氏島を構成するA、B、D細胞を、別々に分離して純粋に培養したいと考えている。そのためには、まずラ氏島細胞を生存したまま機能をできるだめ損うことなく完全にsingle cellに分散することが必要である。種々検討したが、以下の方法が現時点ではもっともよいようである。
 Collagenase処理により単離したラ氏島を集め(通常100〜200ケ)、これに0.04%EDTA in CMFを約5分間作用させ、1000rpmで2〜3分遠沈後、CMFで1回洗う。ついでmagnetic stirrerで軽く撹拌しながらDispase 1000pu/mlで15分ずつ2ないし3回処理する。これで、ラ氏島細胞はほとんど完全に分散する。この際のsingle-cell rateは84.6±1.3%で、viabilityは96.2±0.7%であった。Dispaseのかわりに0.25%trypsinを用いても、single cellはえられるが、この時viabilityを良好に保つと、single-cell rateは可成りおちる。すなわち、viability 94.8±1.5%の時のsingle-cell rateは67.9±2.1%であった。細胞の分散後これを一定数植込み、1時間毎に5時間目まで培地中に分泌されたinsulinを定量すると図の通りであった(図を呈示)。ブドウ糖100mg/dlで1時間目にinsulin量が多いのは、おそらく処理された細胞からのinsulinのleakage、あるいは、incubateした際の培地の急激な変化(CMF→Mod.EM+20%FCS)によるものであろう。2時間目以後は分泌は安定し、ブドウ糖300mg/dlに比し有意の差がみられた。EDTA-trypsin処理では3時間目以後安定した。細胞の生存率、分散度、機能などの面からEDTA-Dispase処理の方がすぐれている。

【勝田班月報:7603:培養細胞の復元接種法の比較】
《勝田報告》
 培養細胞の復元接種法の比較
 1)ラッテの若い株をラッテ腹腔内接種し、その成績を調べると共に榊原女史によるハムスターポーチへの接種結果とを比較した(表を呈示)。RLC-16とRLC-20はラッテにtakeされずハムスターポーチにも腫瘤を造らない。RLC-18はラッテを2/2腫瘍死させるが、ハムスターに2回接種し、初回は腫瘍形成(-)、2回目はtakeされた。RLC-19はラッテでは(-)、ハムスターポーチでは(+)である。
 2)ラッテ腹水肝癌AH-601由来のJTC-27株の復元成績は(図を呈示)、I.C.では9/9腫瘍死、I.Pは4/5腫瘍死、S.C.0/6と、接種部位による差がみられる。なおハムスターポーチでは1回目(-)、2回目(+)であった。
 3)ラッテ腹水肝癌AH-130由来のJTC-1株の成果は(図を呈示)、接種部位によらずI.C.、I.P.、S.C.共全部(+)で腫瘍死し、ハムスターポーチも(+)であった。
 4)(表を呈示)佐々木研のデータでは、肝癌の種類によってtakeされる率が部位によってかなり差のあることを示している。

 :質疑応答:
[乾 ]L-929はハムスターにtumorを作りますか。
[高岡]作りました。
[山田]皮下接種の場合、接種細胞数をうんと多くするとtakeされる筈ですよ。AH-601の組織像もみてあります。佐々木研で皮下につかなかったというAH-7974とAH-66Fについても私の実験ではちゃんと皮下でtumorを作りました。
[高岡]動物継代のものと培養株になったものとでは異なるかも知れませんが、培養細胞で1,000万個という接種量は多い方ですが。
[乾 ]ハムスターの培養細胞を抗リンパ球血清で処理したハムスターへ接種したデータがありますか。
[難波]ハムスターのメラノーマの復元実験があります。復元する部位によってtakeされ方が違うのは免疫の問題でしょうか。
[藤井]免疫もからんでいるでしょうが機械的な問題もあるのではないかと思います。
[山田]そうですね。皮下の場合など免疫よりその部位の環境が接種した細胞に合うかどうかという事でしょうね。
[高岡]3T3をビーズ玉にくっつけて皮下へ復元するとtakeされるという報告にならって、culbTCをプラスチック板に培養して皮下へ入れてみましたがtumorは全然出来ませんでした。復元の問題はとても複雑なのですね。
[久米川]組織片を植えるのに腋の下がよくついたというデータを持っています。前眼房もよくつきますね。
[乾 ]昔、肝臓に出来た固型癌を腹水化するという実験を70例くらいやってみましたが、腹水化しない系はとうやっても駄目でした。腹水系を固型にするのは簡単ですが。
[梅田]皮下へのtakeの問題は細胞のコラーゲン産生と関係しませんか。
[永井]関係無いでしょうね。

《難波報告》
 26:Griseofulvin(GF)のヒト正常細胞のクロモゾームに対する影響
 Larizza et al(1973)は第11回の国際癌学会で(GF)がヒト正常線維芽細胞およびリンパ球の染色体のHeteroploid transformationを高率におこすことを報告した。即ち、40μg/ml1回処理または5μg/ml継続処理で45〜75%のHeteroploid transformationを起こす。
 私共の行なっている現在までの成績ではヒト正常2倍体細胞の発癌実験に使用した化学発癌剤のうちで、4NQOが最も有力なことを、次の3点即ち、1)Cytotoxityが強いこと。2)DNA-repairをつよくおこすこと。3)Chromosomal aberrationsもよくおこること。などの事実によりしばしば述べてきた。
 この内でクロモゾームの変化は(表を呈示)、ヒトリンパ球をPHA添加培地で2日培養後3.3x10-6乗M 4NQOで1hr処理、更に1日培養した後のHeteroploid transfromationは約15% GapsとかBreaksとかの構造の異常を示す割合は10%前後であった。
 実験は各人より得たリンパ球を培養しコントロール群、BP-処理群、4NQO処理群の各50コのクロモゾームを数えた。数値は各20例の平均値。培養2日眼に10-5乗M BP、3.3x10-6乗M、4NQO、処理。3日目に染色体標本作製。
 今回はWI-38と健康人より得たリンパ球を使用しGFの、1)細胞の形態的変化。2)細胞の増殖。3)細胞のDNA RNA合成に対する影響。4)クロモゾームの変化を調べた。(表を呈示)
GFの臨床的に使用される血中レベルは、1〜2μg/mlと考えられる。そこで5mg/mlにDMSOの溶き、実験には0.1〜20μg/mlになるよう培地で稀釋して使用した。クロモゾームは、各実験群で100コ解析した。
 その結果、GFは20μg/mlでWI-38の軽度の形態的変化をしめした。即ち、紡錘形の細胞がGF処理により、一見上皮様の形態をとり、平べったく、肥大した胞体内に空胞が目立つようになった。10μg〜20μg/ml GFで細胞の増殖及び、DNA合成阻害がみられた。20μg/ml GFはRNA合成を阻害しなかった(表を呈示)。0.2〜20μg/mlで軽度のクロモゾームの変化がおこることが判った。Heteroploidを示したすべて(28例)を核型分析したが、特別のクロモゾームだけの変化はなかった。その1核型ではC1が1本欠損し、2本の異常な染色体があった。(図を呈示)
 私共の実験結果ではLarizzaの報告ほどの高率の変化はなく、またGFはヒト細胞の発癌実験には4NQOほど有効ではないと云う結論に達した。しかし、GFがDNA合成阻害作用のあること、クロモゾームの変化をおこすので、発癌性を示す可能性は否定できない。

 :質疑応答:
[乾 ]GFで処理するとunscheduledDNA合成が増加する事はありませんか。
[難波]みてありません。
[梅田]GFはマウスに投与すると肝癌を作る事が判っていますから、肝細胞を使えば形態的変化や変異が起こるのではないでしょうか。私の実験ではラッテの肝細胞の多核形成がみられました。
[難波]私もいずれは肝細胞を使うつもりでいます。が、今の所ヒトでは線維芽細胞しか使えませんので。

《佐藤報告》
 1)3'Me-DAB処理にともなう染色体数モードの変化
 3'Me-DABの処理によって染色体数41の細胞が優位となる(未処理のものでは40の細胞)事を月報7512に記述いたしましたが、ここに41と40のG-バンディングを試みました結果を報告いたします。染色体標本の作製後2ケ月程度放置したものに、20℃で0.2%Trypsin 5秒、10秒、15秒処理し、直ちにGiemsa染色した(10秒間処理のバンディング図を呈示)。
 41では、No.3とNo.14の欠失が見られたが、それらは、No.3にNo.14の短腕部分がtranslocateした形のマーカーを作っている様に思われた。一方、40では、No.3とNo.14に加えてNo.19(No.20かも知れない)の欠失が見られたが、上記と同様、No.3とNo.14でマーカーを形成しているらしい。No.19の行方は不明であるが、ここがDAB処理効果の決め手となっているのかも知れない(詳細は検討を進めるつもりです。)
 2)耐性実験
 40の細胞と41の細胞の間に3'Me-DABに対する感受性の差(耐性)があるのではないかと考え、3'Me-DAB処理、未処理細胞についてそれらの増殖曲線から検討を加えました。
 その結果、Controlと3'Me-DAB処理群との間に(図を呈示)3'Me-DABに対する感受性の差を見い出しました。
 次に、この耐性問題に関して高分子合成に於ける検討を試みました。条件は3'Me-DAB 2.8、5.4、10.8μg/mlを24時間処理し、H3-TdR 1μCi/ml、H3-UdR 0.5μCi/ml、C14Leu 0.5μCi/ml 30分パルスラベルしたものを(細胞は20万個/ml、0.2mlをカバースリップに植え込んだ)Gas flow counterによりcountした。DNA、RNA合成で耐性を示す様な結果が得られました。

 :質疑応答:
[乾 ]PEとコロニーサイズは別の現象だと考えるべきではないでしょうか。
[常盤]PEは変わらないのにコロニーサイズが小さくなりましたので、それがDAB処理での一つの性質かと考えています。
[高岡]折角精密な染色体分析が出来るのですから、実験期間だけでも対照が変異しない細胞系を選べば、実験群の変化がもっと正確に捕らえられるのでははないでしょうか。

《梅田報告》
 (I)前回の班会議でDL1細胞がaflatoxinB1に感受性の高いことを報告した。この細胞を10万個/mlでLuxシャーレに播き1日後20μg/ml、5μg/mlのaflatoxinB1を投与し、更に2日後コントロール培地で液交換を行い、以後週に2回液交換を行って6週間培養した。AflatoxinB1投与で両群とも強い障害を受けたが次第に回復し、6週後には細胞がシャーレ底面に殆全域をおおうように増生した。メタノール固定、ギムザ染色を施して観察すると、両群とも非常に不規則な模様を作り、すなわち、密な細胞がギムザで濃く染る所と、非常に薄く染まる細胞の所と、中間に染まる所が入れ混っていた。薄く染る部は細胞が殆占有しているが、細胞質の明るい細胞から成り、一部線維が認められた。この濃く染まる部が悪性転換した細胞からなるものがどうか皆目見当がつかない。
 (II)上の実験で10μg/ml処理したものを細胞の増生を待って、aflatoxinB1処理13日目にトリプシン処理して新しいシャーレ10枚に1万個cell/mlのinoculaで接種した。4W培養後固定染色して観察すると、殆一面のcell sheetの中に1〜2mm径の密に染まるfocusが見出された(表を呈示)。
 一方でこの細胞はsubcultureした時余ったものを、そのままルーチンの継代を行い培養を続けた。しかしcumulative growthでみる限り、この細胞の増殖はcontrolの細胞の増殖と全くと云って良い程変りない。
(III)(I、II)の実験の障害が強すぎたのでaflatoxinB1 3.2μg/mlと1.0μg/ml処理実験も行なった(処理法の図を呈示)。4日後の細胞数でaflatoxin処理により細胞が強く障害を受けていることがわかる。(II)と同じように4週後focusが観察された(表を呈示)。コントロールにも小さいながら存在している。しかしその大きさはaflatoxinB1 1.0μg/ml処理ではかなり大きかった。これが悪性のfocusがどうか更に検討を進める積もりである。
 (IV)今迄FM3A細胞の8AG耐性獲得の突然変異を指標にした実験を報告してきた。この実験系はFM3A細胞が浮遊細胞故、軟寒天か、寒天平板かを使ってコロニーを作らせる方法しか無かった。これではSelection mediumである8AG培地を途中で交換するわけにはいかない欠点がある。そして実際、8AGに耐性でない細胞からなるコロニーも形成される。
 この難点をなんとか克服して培地交新の出来る方法を考えていたが、最近glass fiber filterを使えば何とかその目的に適うとの結論を得たので、それらについての今迄得られたデータを御報告する。
 (V)まずagarose plate(0.5%)を作り、その上に滅菌したglass fiber filter(Whatman)をのせ細胞を接種して12日間培養し固定染色した。(表を呈示)glass fiber filterを蒸留水で良く洗ってからのものとそのままのものと、細胞をinoculateするのをagarose plateにのせる前とのせてからのと条件を変えた。Colony形成はglass fiber filterをagarose plateに先ずのせてから細胞をのせるのが良かった。しかし直接agarose plateに細胞をまいたものと比較すると、colonyの数、大きさ共に劣ることがわかった。
 次に目的の8AGシャーレに細胞をのせる実験を行なった(表を呈示)。培養開始後1定日後にfilterをピンセットでつまみ上げ新しいagarose plateへtranferした。この2つの実験で結論されることは何回もfilterをtransferしなくても、培養5日目位で1回transferすれば事足りるようであることであった。Control agarose plateでも5日間培養後filterをtransferしたものがColonyの大きさも大きくなっていた。これは培地の栄養が12日培養間保たれていなかった可能性を示唆している。
 また各種filterを使用してみた(表を呈示)。Whatmanのglass fiberと類似品の東洋濾紙のGA-100、GB/60は共にややアルカリ性であり、同じように処理してもGA-100ではコロニーを一つも形成しなかった。GB/60ではコロニー形成は認められたが、東洋濾紙のこのglass fiber filterは共にもろく、固定、染色の過程でピンセットの持ち運び中にちぎれて了う。普通のセルローズの濾紙でもコロニーを形成した。Sizeも大きいものも作られたが、filterによってはコロニーが小さいのが2つしか出来ないものもあり、まちまちであった。Membrane filterはSartoriusのものもMilliporeのものも液とのなじみが悪く、したがってcolonyも形成されなかった。
 Colonyは普通の透過光源では観察出来ない欠点がある。しかし横にすかすと光っているのが見える。又金属顕微鏡を用いるとその存在が確認出来る。

 :質疑応答:
[高岡]寒天の上へ、液層は全く無しで濾紙をおくのですか。
[梅田]そうです。
[堀川]濾紙の上から細胞浮遊液をまくのですね。細胞は濾紙から下へ抜けませんか。
[梅田]コロニーは全部、濾紙の上に出来ます。
[山田]死細胞の方がヘマトキシリンで染り易いのですが、死細胞はどうなりますか。
[梅田]うまい具合に固定すると死細胞は浮いてしまいます。始の想像では濾紙を新しい培地へ移してやれば、小さいコロニーが無くなるのではないかと期待したのですが、実際には大きいものも消えてしまったので、そこをもっと工夫しなくてはと思っています。

《高木報告》
 膵ラ氏島細胞の分裂促進物質について
 前報で、現時点でもっとも高いsingle-cell rateとcell viabilityがえられるラ氏島細胞の分散法を報告した。この方法で分散した細胞は機能的にも障害がきわめて少なく、植込み1時間後には実験に供せられる。培養をつづけると細胞は再び集塊を形成するが、これにinsulinの合成もしくは分泌を促進すると思われる物質を作用させてDNAの合成をRadioautographyにより観察した。
 前回の実験では(月報7512)、生後3ケ月のラット膵を材料として集塊形成後の細胞におけるH3-thymidineの取込みを検討したが、取込んだ細胞はきわめて少なく、ブドウ糖1mg/mlでは1%以下であった。ラ氏島細胞をうる動物のageおよび培養に諸物質を作用させH3-thymidineを加える時期などを検討しなければならないが、今回はin vivoでラ氏島のvolumeが急激に増大するとみなされる時期のラット膵(6週齢)を用い分散した細胞の植込み直後から諸物質を作用させ同時に1μc/mlのH3-thymidineを4日間加えてDNA合成をみた。
 対照としてブドウ糖1mg/mlを用い、実験群はleucine 13mM、theophyline 0.5mM、5mM、Tolbutamide 100μg/ml、Secretin(Pancreozynine-Secretin testに用いるcrudeなブタ上部消化管抽出物)1単位/mlを加えた。細胞500ケあたりH3-thymidineを取込んでいる細胞数を算定し、対照のブドウ糖1mg/mlの場合の取込み細胞数に対する割合を出した。この場合対照のブドウ糖1mg/mlでは4.3〜8.8%の細胞に取込みがみられた。結果は(表を呈示)、Secretinをのぞき他の物質ではDNA合成細胞数の抑制がみられた。これらの細胞の同定を光顕的にA&F染色で行なうと、Radioautography後は染色性悪く判定が困難である。電顕的観察が必要である。

 :質疑応答:
[堀川]H3-TdR 4日間添加でこの程度のラベルというのは随分低いですね。
[加藤]それからラベルされた細胞は島の縁の方に多いようですが、島の内部の細胞は分化しているのでしょうか。
[高木]よく判りません。H3-TdRを取込んだ細胞を同定したいと思っています。
[山田]島の表面に内皮細胞がいて、H3-TdRを取り込んでいるとは考えられませんか。
[高木]それも考えられます。

《乾報告》
 ◇純系ハムスター使用の経胎盤培養内化学発癌(I)
 今回は、1)経胎盤的にBpを作用して、可移植性のMalignant transformed Colonyを観察する目的、2)In vivoの経胎盤化学発癌実験の標的臓器と胎児を培養に移した場合の臓器におこる、染色体切断、Transformation Rate、Mutation Rateの間の関係を解析する第1段階の実験を行なった。
 妊娠11日目のアルビノ・ハムスターにBp 100mg/kgを投与24時間後、胎児を摘出、Back skin、Total body、Lungは0.25%トリプシンで、分散、胎児肝は1000unit/mlのディスパーゼで消化分散した後、先とまったく同様な方法で培養した。結果は(表を呈示)培養2代目の細胞のTransformation RateはIn vivo chemical carcinogenesisの標的臓器である肺起原細胞(上皮様細胞と線維芽細胞の混合集団)で著明に高く(3.70%)、線維芽細胞では中間の値を示し(1.45%、0.93%)、肝起原細胞ではTransformed colonyが見られなかった。しかし、肝起原細胞は、上皮様細胞が多く、形態的にTransformationを判定するにむずかしい。
培養後1回目の染色体解析は、本実験では、細胞数が少なく一般に困難であるが、Total body起原細胞で著明に増加した。突然変異細胞も同様、34ケ/1,000万個cellで、Bp投与の場合も対照に比して著明な誘導がみられた。今後初代培養における各臓器よりの培養細胞の増加を考え、Hepato carcinogenであるDMN、神経系に作用するMNU等を併用して、In vivoとIn vitroの標的臓器における発癌性の解析を行なっていきたい。
 ◇AF-2経胎盤投与による胎児細胞の突然変異の濃度依存性
 すでに前号迄の月報でAF-2経胎盤投与による、Transformed Colony出現率、染色体切断率、Mutation誘導率を報告して来たが、本報告でMutation誘導率に非常に著明な濃度依存性がみとめられたので付記する。
 (両対数グラフによる図を呈示)母体へのAF-2投与濃度に依存して、突然変異コロニーが出現した。しかし、現在AF-2投与にOトレーランスが存在するかはっきりしない。なおAF-2の経胎盤投与の場合図に示したのは、注射による結果であるが、100mg/kg投与では経口投与の場合より高い変異コロニーが出現した。

 :質疑応答:
[難波]上皮様細胞と線維芽細胞のコロニーの割合はどの位ですか。
[乾 ]50:50です。
[難波]HGPRTはX染色体上にあるとすると、胎児をまとめて使った場合、♂♀が混じるのは問題がありませんか。
[堀川]♀のXXのうちの一つは酵素活性が不活化されていますから問題ないでしょう。8-AG耐性と悪性化との相関はどうでしょうか。
[乾 ]計画してはいますが、まだ調べられていません。
[堀川]どういうマーカーが悪性化と平行しているのでしょう。
[勝田]経胎盤投与の場合もっと母体に長時間投与するとどうなるでしょうか。
[乾 ]胎生8日より前では胎児が死んでしまう率が大変高いのです。胎生期間が短いので、なかなか長時間投与は難しいですね。
[堀川]経胎盤投与では殆どの薬剤がバリアなしに通ってしまうのですね。

《山田報告》
 正常ラット肝由来の培養細胞の染色体の変化について
 前報で報告しましたが、今回はこの染色体の変化とその細胞電気泳動的な性質とを比較してみました。(表を呈示)未処理の細胞をみるとRLC-16とRLC-21の平均泳動度がより高く、また(図を呈示)その分布が広く、そしてノイラミダーゼ(5単位、30分37℃)感受性が比較的高く、悪性化株に近い感じがします。RLC-21は従来教室で維持した株にも、また今回改めて戴いた株にも(図を呈示)marker chromosomeがり、最も変異した株であることは確かです。RLC-16は今回の株にはmarker chromosomeはありませんが、従来維持してきた株には一度出現した株であり、またこの株は電子顕微鏡でもこの5株のうち最も単純な細胞内構築を示したものです。RLC-19はノイラミダーゼ感受性は高くありませんが、その分布が広く、しかもこの株のみが、ConA(10μg/ml)により泳動値は高値を示しました。すなわちこの株が次に変異の可能性があると思われました。RLC-18と-20が最も変化のない株と思われます。

 :質疑応答:
[乾 ]In vitroで発癌剤処理した場合、ラッテでは1〜10番の染色体には変異が少なく、17〜20番に動きが多いようですね。
[吉田]1番はトリソミーになり易いですよ。小さい方の染色体にはあまり重要な遺伝子が乗っていないのではないでしょうか。
[山田]染色体に出てくるマーカーが細胞の電気泳動度に関係すると面白いのですが。
[乾 ]Mutantが出た時の泳動度の変化をみた事はありますか。
[山田]まだありません。
[吉田]染色体の変化が先行して変異が起こるようですね。細かい分析は矢張りクロンを作る必要がありますね。

《堀川報告》
 従来、私共はChinese hamster hai細胞から分離した栄養非要求株prototroph、栄養要求株auxotroph、さらには8-azaguanine感受性株、および8-azaguanine抵抗性株を用いて2組の前進突然変異系と2組の復帰突然変異系の都合4種の突然変異検出系を組みたてた。そして、放射線、各種化学発癌剤および変異剤による誘発突然変異の検出能をテストした結果、prototrophを用いた前進突然変異検出系が最も鋭敏な突然変異検出系であることが判った。
 今回はこれらより更に確実で鋭敏な系、しかもDNA損傷修復能と突然変異誘発能の関連性が把握できる系として除去修復能を欠くXeroderma pigmentosum細胞を用いることにした。このXPの細胞は阪大、武部氏により6才のXP患者の女の子から得た細胞であるが、突然変異の研究等に適するよう、これも同じく阪大、微研、羽倉氏によってSV-40virusでtransformedされagingの防止がなされている。名づけてXP20Sとよばれる細胞である。これまでの基礎実験からこの細胞の培養には75%Eagle's MEM+10%TC-199+15%calf serumが最も適していることがわかった。それでもこの培地でのXP20S細胞のgeneration timeは約36時間であり、plating efficiencyは10〜15%である。SV-40でtransformedしただけに染色体数は異常で80本近くにモードをもって広く分布する。しかし、紫外線に対する高感受性という特性は(図を呈示)いまだに保持しており、対照のHeLaS3細胞に比べて極度の高感受性を示す。これはこのXP細胞がendonucleaseを欠くためであって、これこそこの系に使用出来る大きなmarkerである。つまりこのXP20S細胞のend-がend+にrevertする変異をこの突然変異系に使用しようとするものである。これに加えて8-azaguanine抵抗性獲得という突然変異系を併用し、除去修復能を欠くXP細胞が事実変異性が高いかどうかを検討するための基礎実験を現在進めている。

 :質疑応答:
[乾 ]XP細胞のlife spanはどうですか。
[掘川]正常とあまり差がありません。
[乾 ]6TGでは5μg/mlの濃度で8AG 20μg/mlの毒性と同じ程度ですね。耐性の出来方もかなり違いますね。
[堀川]この濃度も細胞によって大幅に違います。

《久米川報告》
 BC細胞の(Rat肝臓由来)電子顕微鏡像
 梅田先生の分離されたBC細胞の電顕的観察結果については、1月の月報で一部報告しましたが、その後の観察結果を加えて報告します。
 前回までの報告ではこの細胞は上皮様(tight junctionが見られる)であるが、肝実質細胞の特性は認められない。細胞の結合部に陥凹があり、この部分にfibrousな物質が観察される。ときにはcollagen様の構造が見られると報告して来た。
 その後の観察結果から、BC細胞には、内皮様細胞が含まれているのではないかと思われる。(写真を呈示)petri dishの底面とほぼ直角に切ったと思われる超薄切片から撮った電子顕微鏡像でみると、BC細胞は2層になっている。細胞は非常にうすく、tight junctionで隣の細胞と結合し、接合部にはmicro villiが観察される。細胞の内側表面には不完全ではあるが、basal lamina様構造が所々に見られる。しかも細胞表面には多数のpinocytotic vesiclesが認められ、内皮細胞の特性をそなえている様に思われる。さらに2層の細胞間にはfibrousな物質が存在している。この物質は明らかにcollagen fiberである。
 以上の観察結果から、BC細胞は少くとも2種類以上の細胞から成っており、その1つは線維芽細胞(collagenの存在)であり、他の1つは内皮様細胞ではないかと考えられる。

 :質疑応答:
[野瀬]この細胞のアルブミン産生はどうですか。
[梅田]過去に+だった系ですが、今は−です。
[山田]内皮細胞は沢山見られるのですか。又は一部に見られるのですか。
[久米川]あまり多くはないようです。切り方が断層をみるやり方なので、確かな頻度は判りません。
[山田]いわゆる線維芽細胞らしいものは見られませんね。
[久米川]しかしcollagenがあるので、どこかに線維芽細胞がいると考えたのです。
[勝田]線維芽細胞だけがcollagenを産生するとは断言できないでしょう。
[梅田]昔の話ですが、ラッテ肝由来の系をクローニングする前に大きな形の上皮細胞と小さな上皮細胞が混じっていることに気づき、小さい方が肝実質だと私は考えていました。この系はその小さい方から出ていたので、細胞間に溜まっている物質は胆汁ではないかと思ったのですが、その物質がcollagenだったという事でした。

《野瀬報告》
 Collagenase又はDispaseで分離したラッテ肝細胞の比較
rat肝をcollagenase又はdispaseで潅流して実質細胞が分離でき、どちらの方法でも形態的には似た細胞が得られる。今回は主に機能の面から比較検討した。
 (表を呈示)1匹のadult ratからとれるviable cells(erythrosinBで染まらない)の数を数回の実験で比較してみると、dispaseの場合collagenaseとくらべて細胞の収量は約1/5程度であるが、viabilityには差が見られなかった。
 次にTyrosine aminotransferaseの誘導性を見た(表を呈示)。2つの方法で分離した肝細胞をシャーレにまき、培養後2〜8日各時点でdexamethasonを8.5x10-7乗M加え24時間後の細胞のTAT活性を測定した。collagenaseの場合は6日目までは誘導性が残っているが、dispaseの場合4日目ですでに誘導性が低下している。またTAT活自身もやや低い。またTAT誘導は細胞密度によっても変化するので多少問題はあるがdispaseで分離した肝細胞が誘導性を保持していることは間違いないことと考えられる。
 albuminの生合成能は培養した肝細胞の培地にH3-leuを加え、培地に抗ラットアルブミン血清を加え、免疫沈降物中のカウントを測定して見た。細胞タンパク当りのH3-アルブミンの合成量はdispase、collagenaseどちらを用いて分離した細胞でもほぼ等しかった。以上の結果から2種の方法でとった肝細胞は機能の上からはほぼ等しい活性を持っていると結論できる。細胞の収量はcollagenaseを用いた場合の方がはるかに高いので、一般的にはdispaseは肝細胞の調整には不適当と考えられる。しかし長期間の培養で増殖してくる細胞をとるにはcollagenaseより優れている。例えば(図を呈示)初代培養の初めからdexamethasonを加えておくと、上皮様の細胞が増えてくる。今後は増殖系になった肝細胞の機能を再び発現させることを試みてみたい。

 :質疑応答:
[梅田]株細胞の場合も継代してから2日位がアルブミン産生が高い時期です。
[高岡]アルブミン値については培養0日の基準値を知っておく必要がありますね。
[久米川]再生肝ではどんな細胞がとれますか。
[野瀬]正常なものと全く同じでした。
[関口]この場合デキサメサゾンはどういう作用をしているのでしょうか。
[野瀬]機能の活性化に働いていると考えています。又ステロイドホルモン添加でアミノ酸輸送が変わるようですから、その作用もあるかも知れません。
[山田]この実験の材料は成熟ラッテですが、生後数日の乳児肝から培養した時は造血細胞もかなり混じっているでしょうね。

【勝田班月報・7604】
《勝田報告》
 §いんどほえじかの組織培養
 学名はIndian Muntjac、Muntiacus muntjak voginalis、♂。1976-3-3午後、乾、許、安本、角屋と医科研の研究動物施設からの6人で10人がかりで、おさえつけ、やっと血液5ml(ヘパリン加)、耳タブ3cm角位、内股の皮下組織1.5cm角位を採取した。培養には血液(全血)1容に対し、[10%FCS+90%DM-160]4容とPHAを加え培養4日後に染色体分析に使用、染色体が7本であることを確認した(♀は6本)。内股皮膚はそのまま細切し、トリプシン消化。耳は皮膚と皮下組織、軟骨とに分けて細切し、トリプシン消化。初代はFalcon plastic dishと、TD40(ステンレスキャップ)を用い、[10%FCS+90%DM-160]及び[10%FCS+90%F12]を入れ、炭酸ガスフランキで培養した。
 培養経過は、1日に壁に附着した細胞集団一コを発見、その後どの容器からも生え出したが、生え出しはおそく7日目位からだった。15日に第1回subculture、16日に加藤班員に分譲、25日に乾班員に分譲。細胞はfibroblasticのが主体で、上皮様細胞も若干混っている。増殖度はかなり良いので、御希望があれば、班員、班友に限り分譲します。
 なお当研究室で継代中の系はMm/1と命名しました。(染色体の写真を呈示)

《高木報告》
 膵ラ氏島細胞の分裂促進物質について
 前報においてラ氏島B細胞のinsulin分泌を促進する数種の物質の、培養ラ氏島のDNA合成細胞数におよぼす影響をみたが、さらにブドウ糖300mg/dlとCerulein(合成されたPancreo-zymin-chole-cystochinin様物質)につき観察した。
 結果はブドウ糖100mg/dlの時のH3-TdRのとり込み細胞数を100%とすると、ブドウ糖300mg/dl、Cerulein 10-7乗Mでそれぞれ62.6%および68.0%でやはり抑制が認められた。しかし、H3-TdRとり込み細胞の実数は500コあたり10数コといった少数であるので、このようなdataの処理をいかにすべきかが問題である。
 次にH3-TdRとり込み細胞の同定に関して、前回はRadioautography後にAldehyde-Fuchsinによる染色を行ったが、染色性が悪く同定不能であった。そこで先に染色してRadioauto-graphyを行ってみたが、後染色にくらべて染色性は良かった。しかし、これら物質はすべてinsulin分泌促進物質であるためB細胞に脱顆粒がみられ、当然ながらA & Fによる染色性は低下し同定は困難であった。また先の実験ではgrainの数が多すぎたので、これを減らすように条件を工夫しなければならない。電顕のRadioautographyは、乳剤の入手まちであるが、これに先立ちブドウ糖100mg/dl下に形成された"Pseudoislet"について、その構成細胞を電顕的に観察中である。B細胞が主であるが、A、D細胞もあり、内皮細胞、繊維芽細胞の有無についてはさらに数多く観察せねばならない。
 またヒト膵より株細胞をうる目的で材料入手次第培養を試みているが、今回5ケ月のヒト胎児膵を1000単位Dispaseで処理して植込み、24時間後にdecantして3xEagle's mediumで、Falconのplastic dishに植込んだ。植込み2〜3日後より上皮様細胞の増殖がはじまり、現在21日目であるが変性像はほとんどみとめられない。形態的に以前にヒト摘出膵を培養した時みられた上皮様細胞と類似している。繊維芽細胞もみられるが、あまり活発な増殖はみられない。

《難波報告》
 27:ヒト細胞とマウス・ハムスター細胞との4NQOのとり込まれ方と
   とり込まれた4NQOの運命の差違の検討
 現在、4NQOがヒト細胞の培養内発癌剤として非常に有効であることを、しばしば述べてきた。しかし、この4NQOをもってしてもヒト細胞の発癌はマウス・ハムスターのそれに較べ非常に困難である。その理由の解明は裏を返えせば発癌機構の解明に近ずけるのではないかと考えられる。月報7602で4NQOのヒト及びマウス細胞の増殖抑制効果、及びDNA合成抑制には差がみられぬことを報告した。
今回は4NQOのとり込み能にヒト、マウス及びハムスター細胞との間に差違があるか否か検討した。
 実験方法
 4NQO-H3(Sp.Act.27mci/mM)を10-3乗Mになるようアルコールに溶き、培地で終濃度3x10-6乗Mに稀釋して1hr.37℃細胞処理後、ただちにPBSで3回細胞を洗い、5%冷TCAで2回洗い、TCA不溶性分劃にくるcpmを測定した。24hr.後のカウントは、4NQO-H3で1hr.処理したものを、4NQOを含まぬ培地にして、24hr.培養して上記のごとくTCA不溶性分劃のcpmも測定した。使用したヒト、マウス、ハムスター細胞は全部diploid cell strainsである。
 結果:表に示したように
 1.とり込まれる4NQOの量は、同じヒト細胞でも、細胞の種類、4NQO処理時の細胞数によってかなり変動している。細胞数によってとり込まれる4NQOの量が変ることは次回に報告するが、細胞数が少ないほど、1コの細胞にとり込まれる4NQOの量は増加する。
 2.同じ動物由来の細胞でも、4NQO-H3投与時の細胞数が違えば、とり込まれる4NQO量が異なるので、ヒト、マウス、ハムスターのどの細胞によく4NQOがとり込まれるか比較できなかった。
 3.しかし4NQO-H3 1hr処理後と、その後24hr目に細胞内に残る4NQO量との割合は、ヒト、マウス、ハムスターでほぼ等しく、ヒトの細胞にとり込まれた4NQOが特別早くなくなるとか、長く存続するとかはしないようである。(表を呈示)
 28:ヒト細胞による4NQOによる培養内発癌実験
   −Focus AssayでTransformed fociが出現するか否かの検討
 1/13/76に約10W目の全胎児をトリプシン処理して培養を開始した細胞を使用し
 実験1;1/14〜2/4に亙って2x10-6乗M 4NQOで1回の細胞処理時間1hrで計7回処理した細胞を10万個/60mmシャーレに計5枚まき、週2回培地更新、25日目にギムザ染色した。その結果Transformed fociはなかった。
 実験2;1/14〜2/25に亙って実験1と同じ条件で4NQOを計12回処理。10万個/60mmシャーレ、計7枚まき、22日培養後、Transformed fociは見い出されなかった。
(実験1、2の結果をまとめた図を呈示)

《乾報告》
 メチル・ニトロソシアナミド(MNC)のハムスター胎児細胞に対する変異原性及び癌原性・ 第1報:バクテリアに対して強い変異原性を示し、マウス前胃に癌原性を持ち、人間の胃癌の形成要因の一つと考えられているMNCの培養細胞に対する変異原性を調べた。
 妊娠12日目の胎児由来の繊維芽細胞(MEM+10%FCSで培養)の培養4代目のものを実験に使用した。細胞を50万個/mlで培養瓶に播種後24時間目に5、10、50x10-7乗MのMNCで3時間処理し、処理後ハンクス液でよく洗い、正常培養液へもどし、72時圏培養した。(図を呈示)図の如く72時間に6-チオグアニン(6TG)5μg、10μg/mlを含む培地へ細胞を再播種(10万個/dish)し、始めの3日間は毎日、以後、3日ごとに6-TGを含む培養液でmedium changeをした。培養20日後固定染色し、6-TG耐性コロニーを算定した。
 6-TG耐性コロニーの出現は(表を呈示)表の如く、MNC投与で明らかに出現し、6TG 5μg/mlで、Selectionした場合、5x10-7乗Mで約2倍、1x10-6乗Mで4倍、5x10-6乗で5.3倍であった。この値は、(MNNG)よりやや低い値を示した。
現在、同物質投与直後のハムスター胎児細胞の染色体変異、ハムスター胎児細胞での変異コロニーの出現率、Focus形成率、及び同物質投与による長期培養内発癌実験を継続中である。染色体変異はまだデータの整理はしていないが、MNNGに比しておこりにくく、長期発癌実験も本日で42日目になるが、4系統共、形態変異はおこっていない。
 純系アルビノハムスターを使用した経胎盤発癌実験のデータモDMN、Bp投与群で、標的臓器との関係が、少しづつまとまりつつある。来月か班会議には中間報告をしたい。

《梅田報告》
(1)Filter cultureで各種細胞のfilter上での増殖具合、コロニー形成率を調べている。Monolayer cultureと書いた方は200万個細胞数をfilter上にのせて培養し、2日後と4日後に固定、ヘマトキシリン染色して観察した。増殖具合を程度に応じて+で表した。コロニー形成の方は100或は1,000コの細胞をfilter上にのせて培養を始め、1x/3〜4日に、agar plateをtransferして計12日後に固定染色して観察した。
 (表を呈示)結果は表に示すごとくで、HeLa、L、L-5178Y、FM3A、YSでは細胞は密集して増生可能であった。但しコロニー形成でみるとHeLa細胞ではコロニー形成は認められるものの非常に小さなコロニーから成っており、Lcellでは一つもコロニー状細胞は認められなかった。Lcellのmonolayerの方でも細胞はばらばらに散って増生していた。L5178Y、FM3A、YSでは本実験のテクニカルな問題もあり、plating efficiencyは必ずしも満足できるものではないが、コロニーとしては大きな立派なものが出来ていた。
 ここでCHO細胞だけがmonolayerでも増生が悪く、コロニー形成は0であった。悪性化している筈なので、増生の悪い理由がわからない。本細胞はMEM+5%FCSにnon-essentialアミノ酸を加えて培養しているが、現在FCSの濃度を上げた培地での実験を行っている。
 一応正常であろうと考えているラット肝由来のBB、BC、DL1の3株では20万個cells/filter播いているにも拘らず、monolayerに細胞は殆ど生えない。しかし、4日目のfilterを固定染色してみると、まばらに細胞が残っていることがある。コロニーは全く形成しない。DDDマウスの胎児細胞を3T3継代して樹立したD49細胞はmonolayer状にはならないが、細胞が散在して残っていた。C3Hマウス胎児細胞培養2代目の細胞も殆ど細胞増生は認められなかった。 (2)8AG、6TG耐性細胞の出現が、用いる血清によって異なってくることがあるのでチェックした(表を呈示)。FCS lot AとBでは耐性コロニーが出現するが、lot Cでは出現しない。又dialyseしたものは1つもコロニー形成しなかった。

《堀川報告》
 私共の確立した4系の突然変異検出系のうち栄養非要求株Prototrophsを用いた最も鋭敏な検出系を用いれば低線量放射線によって誘発される突然変異を検出することが出来るかどうかを知るため、100R以下のX線、および50ergs/平方mm以下の紫外線を照射した際に誘発される突然変異率を調べた。(図を呈示)第1図は前回にも報告した、100R以下のX線を照射した際の結果であって、この線量内では生存率も殆ど低下しないかわりに、突然変異の誘発も認められない。一方、第2図は50ergs/平方mmのUVを照射した際の突然変異の誘発を調べた結果である。X線の場合にみられたように、細胞の生存率が殆ど低下しない20ergs/平方mm迄は殆ど突然変異の誘発は認められないが、30ergs/平方mm以上の線量で生存率が低下するようになると、突然変異の誘発が認められる。こうした結果は、突然変異はある程度の細胞損傷が起きるような線量でなければ誘発されないことを示すものであり、換言すれば細胞の回復能と突然変異誘発の間にはある密接な関連性のあることを示していると思われる。 つづいて、この栄養非要求株Prototrophsを用いた突然変異検出系が、何故他の3系に比べて突然変異の検出に鋭敏であるかを検討した。このPrototrophsは、既にこれ迄何度となく報告してきたように、Ala+、Asp+、Asn+、Pro+、Glu+、Hyp+という性質をもっているが、この細胞が突然変異として検出されるためには、これらのマーカーのうちのどれか1つのものが−(マイナス)に変異すればよい訳である。さて、これらの6個のマーカーがlinkしたものであるか、あるいは1個1個独立したものであるかを確かめるため、800RのX線あるいは150ergs/平方mmのUVを照射した際に誘発される種々の突然変異の割合を調べた結果が第3図および第4図である。これらの図からわかるように、6個のマーカーのうちどれか1つが変化しても突然変異として検出される場合(6substance)に比べて、Ala+、Asp+、Asn+、Pro+、Glu+、Hyp+のうちどれか1つが変異する割合はマーカーによって大きく違うことがわかる。つまり、Hyp+という性質は、X線またはUV照射によってHyp-に変り易いが、Ala+の性質は容易にAla-には変異しないということである。こうした結果は6個のマーカーは、完全にlinkedのものではなく、まったく独立したものであることを示唆しているとも思われる。
 ☆☆以上、これが私の最后の月報原稿となりました。どうも長い間お世話様になりました。皆さんの研究発展を祈って止みません。

《山田報告》
 培養ラット正常肝細胞の電顕的形態について数回報告しましたが、そのうちで特に重要な所見は、培養された肝細胞の細胞質内にグリコーゲンの顆粒の星状凝集像が殆ど消失し、散在性にグリコーゲンが存在することである事を報告した。
 今回はこの電顕的所見における分散したグリコーゲンと思われる粒子が、本当にグリコーゲンであるか否かを確かめるために一つの実験をした。即ち培養メヂウム内にグルカゴンを添加したら、このグリコーゲンと思われる顆粒が減少しないかと思い実験したわけです。電顕写真が間に合いませんが、透視下でみると、グルカゴン添加された肝細胞(RLC-16)の細胞質内顆粒は減少している様です(詳細は次号に報告します。)
 この実験と同時に、培養メヂウム内のグルコースを測定した所、(図を呈示)図に示す様に、グルカゴン添加した細胞メヂウムにグルコースの減少がより少なく(増殖率には差がない)またその細胞表面の荷電の状態にも変化が出て来ました。これも次回に報告します。

《久米川報告》
 1.マウス胎児肝臓の培養
 Roseの還流培養法でマウス胎児肝臓を培養した場合、糖新生系の酵素G-6-Paseの活性は高くならなかった。しかし現在用いているチャンバー法では、チャンバーをroller tubeに入れ、air(95%)+炭酸ガス(50%)下で回転培養することによりG-6-Pase酵素活性が高くなることがわかった。なお培養液はDM153である。血清を加えない場合でも2倍位の酵素活性があった。血清(10%)を加えた場合は2日目より無血清群より高くなり、培養6日目では培養前の約4倍の活性値が得られた。Prednisolone(5.0mg/100ml)、glucagon(1.3mg/100ml)を添加した場合は培養2日目にその影響がみられ、培養4〜5日目では血清添加群の約2倍の活性値がみられた。一方、insulinを添加した場合は酵素活性はやや抑制された。
 ヒト胎児を手に入れることができるようになったので、肝臓由来細胞の培養を試みたい。9w〜12w胎児肝臓はまだ組織構築が完成していないので、消化酵素を用いないで細胞がバラバラになる。多角形で原形質に顆粒(ミトコンドリア?)の多い細胞(肝実質細胞?)が得られる。この細胞は数個単位の集塊を形成し、浮遊している。くわしくは次号に報告します。

《榊原報告》
 今年度は勝田班で勉強させて頂けることになりました。復元の問題を突っ込んでやれとの班長の御命令ですが、御期待に応えられるかどうか。目下実験計画を練っている段階です。班員、班友の諸先生方の御指導、御鞭撻をお願い申し上げます。
 培養細胞のコラーゲン産生:
 コラーゲン繊維は専ら間葉系細胞によって作られると信じられているが、角膜上皮細胞、平滑筋細胞、更にはHeLa細胞やKB細胞も微量ながらhydroxyprolineを含む蛋白を合成することが、既に報告されている。肝臓に関しては、成熟ラット肝を単離し、実質細胞分劃と間葉系細胞分劃とに分けて、各々のprolyl hydroxylase活性を測定したところ、前者の方が、後者の100倍に当る高い活性を有していたとの報告がある。
 横浜市大で樹立されたラット肝由来上皮様細胞株BCが、in vitroでコラーゲン繊維を形成することは、形態学的には既に班会議で報告済みと思われるので、ここではhydroxypr-olineの定量結果をお示しする。
 BCとそのsubcloneであるBC・S1、BC・S2、BC・S3、ラット全胎児の初代培養、Embryo、BALB3T3、HeLaS3、約100万個cells/tube、TD40に播いたのち、21日間(但しHeLaS3は10日間)subcultureせずに維持する。培養液を捨て、Hank's sol.で2回培養を洗い、rubber cleanerで細胞をかき落し、screw cap付き培養びんに集め、6N,HClを加え110℃、24h加水分解する。
Cell countはreplicate cultureで行なう。その後ProckopとUdenfriendの方法でHy-Proの定量をするのだが、要はChrolamineTを加えた上、toluen層に溶出する物質をあらかじめ除去しておき、次いで加熱してHy-Proを酸化、Pyrroleとし、これを再びtoluenで抽出、Ehrlich試薬で発色させ、560mμの吸収を読む。
 (表を呈示)結果は表の通りであって、BCとそのsubclone間にばらつきはあるが3T3の5倍以上の量のHy-Proが検出された。興味あることは微量だがHeLaS3もHy-Pro positiveであったことである。
 さらに医科研化学研究部にお願いして、上記と同じ条件下で培養した細胞のアミノ酸分析を行なった。但しここではBB、BC、DL-1の3株についてのみしらべ、BCについては特に培養3日、10日、14日、21日と経時的に細胞を集め分析に供した。その結果、Hy-Proにかんしては他の細胞蛋白に由来するアミノ酸との量的較差が大きすぎる為、clearなデータは得られなかったが、BCとDL-1に関してのみ、LysineとArginineとの間に特異なpeakがみとめられ、しかも培養日数の増加とともに増す傾向のあることが分った。DL-1は梅田先生が樹立されたラット肝由来上皮様細胞株で、まだclone化はされていないが、現在Albumin産生があり、しかも特定の条件下でcollagen fiber formationがあるらしいと云われているものである。このpeakに相当する物質については、D-galactosamineであろうと推定されている。
 従来、collagen産生細胞は同時にムコ多糖を分泌するらしいと云われ、又soluble col-lagenが分子架橋によってinsolubleな、所謂native collagenとなる為にはこうした多糖類の存在が必要であると考えられている。Clone BCが肝実質細胞かどうかといった議論はさておき、この細胞がコラーゲン研究の貴重なtoolとなるであろうことは間違いないようだ。

【勝田班月報・7605】
《勝田報告》
 細胞内ポリアミン量の定量
定量法:(三菱生命研)大島博士法による。ResinはCK-10S。泳動緩衝液は、0.4M醋酸緩衝液。ニンヒドリン発色定量。
 細胞:Stationary cultureしたものを0.4M PCAを加えSonication、上清。
 結果:正常肝由来の4系より、腹水肝癌由来の5系(JTC)の方がポリアミン量が多い。系によってSpd.とSp.の対比が夫々異なる。培地中に添加されたスペルミンに対する抵抗性は、JTC-16>JTC-27>JTC-1>JTC-15、JTC-2であり細胞内スペルミン量と略平行することになる。
 問題点:この定量法は感度があまり良くないので、細胞数10の8乗を必要とする。もう少し感度の良い微量定量法を開発中。CulbTCが他の正常肝とほぼ同程度の量であるが、もう少し感度を上げれば差が出るかどうか。(図を呈示)

《高木報告》
 膵ラ氏島細胞の分裂促進物質について
 乳剤の入手が予定よりおくれ、未だ電顕切片のradioautographyによるDNA合成細胞の同定はできていない。細胞集塊("Pseudoislet")につき、その構成細胞をさらに観察したところでは、集塊中にB、A、D細胞が含まれることは確かであるが、顆粒の認められない細胞についてはこれを同定することは困難で、その外の細胞が含まれていないと断言はできない。また月報7603において調べた物質を再度in vitroで作用させて、その際のH3-thymidine取込み細胞数を、物質を作用させないcontrolの取込み細胞数と比較して検討したが、Secr-etinをのぞき再現性があった。Secretinは今回のdataではcontrolの有意差なく、さらに再検討の予定である。In vivoとことなり、高濃度glucose、Tolbutamideなどのinsulin分泌促進物質はin vitroでは分裂を促進しないようである。
 またヒト胎児膵の培養で、3x Eagle's mediumが適していることを前報でのべたが、培養35日でも培地中にinsulinが認められ、40日までは形態的に良好に保たれた。しかしそれを過ぎると細胞は次第に脱落しはじめる。更に工夫が必要である(培養21日の写真を呈示)。

《難波報告》
 29:ヒトおよびマウス細胞の4NQO処理に対する反応の差違の検討−RNA合成−
 ヒトの細胞が動物の細胞に比べて4NQOで癌化し難い理由を見い出すために、今回はRNA合成を検討した。(DNA合成に関しては月報7602、4NQOのとり込みについては月報7603に記した) 使用したヒト細胞は32代のもの、マウスの細胞はC3H由来11代のものである。
 実験結果:(図を呈示)図1〜4に示したように細胞の増殖はヒト、マウス細胞共に3.3x10-6乗M 4NQO 1hr処理で同程度に阻害される。しかし4NQO処理後にシャーレに附着して残る細胞の経時的RNA合成は阻害されていない。

《乾報告》
 先々月の月報で、純系アルビノハムスターに、3・4ベンツピレン(Bp)を経胎盤的に投与し、胎児各臓器由来細胞のTransforming RateはIn vivo transplacental carcinogenesisの標的臓器である肺で著明に高いことを報告した。
 (表を呈示)表1でみる如く、通常の方法で10μg/mlの8-アザグアニンで、Selectionを行うと、Total body由来細胞の耐性コロニー出現率は高いが、次いでLung由来細胞で高く、肝由来細胞ではこの1回の実験では、耐性コロニーは出現しなかった。但し肝由来細胞は、細胞数が少なく、充分の細胞数を得るために7日間の培養を行なったので、このDataを直接の比較に用いてよいか一抹の不安が残っている。しかし現在Dataの集計中であるが、DMN 200mg/kg投与ハムスターより得た胎児肝由来細胞では、同様のSelectionで37ケの耐性コロニーが出現した。Target Organの細胞のMutation Rateが高く又Transforming Rateも高い所から、細胞癌化のfirst stepで突然変異が何らかの形で関与していることが証明出来そうなので純系を使用し、標的臓器、Mutation、Transformation、細胞癌化の問題を追及したい。 DMN 200mg/kg(LD50量)投与ハムスター胎児の臓器別Transforming Rateを表2に示した。表より明らかな如く、DMN投与では、Liver Cellで耐性コロニーの出現が高く、TransformingRateも高く現われたが、周辺のPiling up、Criss-Crossを指標としているので、残念ながら、肝実質(或は上皮)細胞のTransformationと云えない。
 現在、Liver cell由来、Total body由来のコロニーをクローニングして、増殖中である。後者は、形態的に長期培養内癌化実験のTransform fociと同様であり、同細胞を1,000万個/Hamsterで移植し10日目の本日、アルビノハムスターチークパウチに米粒大で存在している。これがパウチ内で増殖をつづけ、腫瘤を形成すれば、勝田先生からの宿題のほんの一部をやったことになる。あと2、3週がたのしみです。

《久米川報告》
 ヒト胎児肝臓の培養
 ヒト胎児の肝臓の器官培養を行った。培養材料は9週と6ケ月胎児の肝臓を用いた。mil-lipore膜をはさんだ器官培養用チャンバーに4個の組織(1〜2mm程度の大きさ)を植込んだ。ローラーチューブ(直径35mm)に2チャンバーつづ入れ、5mlの培養液を加え、シリコーン栓をした後炭酸ガス(5%)+air(95%)の気相中で回転培養(3回/1時間)した。培養液は10%の割合でcalf serumを加えたDM-153を用い、2日毎に液の交換を行った。現在培養1.5ケ月である。5日毎に培養組織片をmillipore膜とともに電顕用に固定、エポン厚切り切片をトルイジンブルー染色を行い、光学顕微鏡で観察するとともに、超薄切片を電顕で観察した。
 9週令の胎児肝臓は、培養10日目までは10数層の厚さ(細胞)で、肝細胞は(H)数個単位の構造を示している。肝細胞間にはsinusoid(S)も見られる(写真を呈示)。
 現在組織学的に25日まで観察しているが、培養10日以後は次第に組織片の厚さは減少するが、肝細胞は集団を造って残存している。haemato poetic cellsは培養5日目位までに、変性消失してしまうようである。
 電顕像では、肝細胞間にはbile canaliculus(B)が見られ、細胞内には粗面小胞体、micro-body等の肝細胞の形態的特性が観察される。培養15日のものでは、更にglycogen granuleも見られた。
 6ケ月ヒト胎児肝臓は9週令のものにくらべ、組織の中央部に変性像が見られた。しかし組織の周辺部の細胞は9週令も肝臓と同様、肝細胞の特性を維持している。
 回転が速いと培養組織片の表層細胞は傷害を受けているため、通常の回転培養(5〜12回/hour)よりさらに回転を遅く、1時間に3回転で培養している。ほとんど表層細胞に傷害はみられないようである。

《山田報告》
 前報でその結果の一部を報告しましたが、其の後引続き行った実験成績と一緒にまとめて報告します。培養肝細胞(RLC-16、RLC-20)の二系を用いて、その電顕所見上みられた細胞質内グリコーゲン顆粒と思われる顆粒が果してその推定通りであるか否かを検討するために行ったのですが、意外な結果がでました。
 いづれも培養4日目に約250万個per tubeの細胞に対し、1.3〜13.0mg/ml濃度のグルカゴンを添加し、24時間の間に起る顆粒の変化を観察したのですが、用いた二系の細胞の所見にかなりの差がみられました。
 RLC-16は元来グリコーゲン顆粒様物質が少いのですが、前報に記載した様に、グルカゴン投与後glucose消費は減少し、その増殖能はむしろ促進しました。電顕所見は(写真を呈示)図2のシェーマと図3、4の写真に示すごとくグリコーゲン様顆粒の密度は減少し、粗面小胞体が膨化しました。これに対しRLC-20は元来グリコーゲン顆粒と思われる物質は多いのですが、グルカゴンを添加することにより、むしろglucose消費量は増加、その増殖能は著しく減退しました。電顕所見では、グリコーゲン様の顆粒の密度はあまり変化なく、しかしその顆粒の大きさが減少して居ました。また粗面小胞体はRLC-16より更に膨化、不整形化して居ました。
 この結果は直ちに理解出来る点もありますが、インシュリンを投与して起る変化を観察した後に、綜合的に今後dicussしてみたいと思って居ます。

《梅田報告》
 血清に関するデータを2つ報告する。
(1)今迄報告してきたJAR2ラット肝由来上皮様細胞BB、BC細胞と呑竜ラット肝由来上皮様細胞DL1細胞について、血清を変えた時のα-fetoprotein(AFP)とalbumin(ALB)産生を、北大の塚田先生に測定していただいた。今回からは、ALB測定にもradioimmunoassayを行なったのでかなり低値まで測定出来、またFCSを使った時のAFP産生は非特異的な反応かも知れないとの事です。
 F12培地に各血清を10%の割に加え、6週間培養した。週2回培地交換を行なった。(表を呈示)表の中で培地No.としたのは、培地を始めた時から順の培地交新時の意味で、その夫々の順に使い古しの培地を遠心し沈渣を分離し去ったものである。
 BB細胞ではALB産生はなかった。BC細胞で低値ながらALB産生が認められたことは意味がある。各細胞により、異なる血清でAFPやALB産生が認められていることに興味がある。
(2)先月の月報で無処理のDM3Aを8AG(20μg/ml)、6TG(5μg/ml)を入れたagarose plate上の濾紙(GF/A)上でコロニーを形成させた実験を報告した。この時FCSのlotを変えると異なる結果の出ることを示した。今回は異なるFCSのlotでMNNG処理を行ない、それぞれのFCS培地のagarose plateで濾紙上にコロニーを作らせた。
 (表を呈示)表に示すようにMNNG処理2日後の細胞数は血清(A)と(C)では似かよっており、それをcontrol agarose plate上でコロニーを作らせたsurvivors per 100 cells(platingefficiencyと同じ)も大差無い結果である。しかし8AG、6TG耐性細胞の出現は表でみる限り(A)血清の方が能率が良い。(B)血清は非常に悪い血清である。
 この結果で示したように血清により耐性細胞の出現率が異なってくるとすると突然変異率とはどう解釈したら良いのであろうか。

《榊原報告》
 §抗胸腺細胞抗体(ATS)の作用点について:ATS出処理したハムスター頬袋粘膜内に異種培養細胞を移植すると同系動物への戻し移植結果に近い成績が比較的短期間で得られることは既に報告した。今後はATSの作用機序、力価、検定法、適性投与法について詳しく吟味してゆきたい。
 殺細胞力価 1:760のATSを生後20週、雌、成熟ハムスター10匹に1回投与量0.5ml、週2回づつ4回連続皮下投与したのち、採血、屠殺して末梢血球数、血液像、血清総蛋白量、血清蛋白電気泳動像、諸臓器の病理形態学的変化等の検索を行なった。対照群10匹には、週2回づつ0.5ml生食の投与を行なった。(表を呈示)表に示す通り、ATS処理群は対照に比して赤血球、白血球、リンパ球数の凡てが有意差を以て減少している。とくにリンパ球数は、対照の1/10以下である。血清総蛋白量は両群ともほぼ同じ値であるが、Albumin、α1-globulinの減少と、α2及びγ-globulinの増加が有意である。平均臓器重量から明らかなように、胸腺を初めとするリンパ性臓器の萎縮は見られない。病理組織学的にも胸腺に異常は見出せなかったがリンパ節は増殖性で、二次濾胞の拡大と髄質の形質細胞増生が顕著であり、脾では白脾髄辺縁の繊維化が目立った。以上の所見は、ATSの作用点が末梢血中のリンパ球、とくにT-cellであることを推定させ、今後更に精製したATSを用いて末梢血リンパ球数の変動を経時的に検べる予定である。又参考までにヌードマウスについても、生理的bockgroundを明らかにしておきたいと考えている。

【勝田班月報:7606:ヌードマウスの生理的背景】
《勝田報告》
 A.スペルミンの細胞毒性の中和(つづき)
 (おさらい)ポリアミンの内ではスペルミンが最も細胞毒性が高い。良性な細胞ほどスペルミンに弱い。FCS、Bovine serumのalbumin分劃を同時に添加するとスペルミンの毒性が助長される。ところがスペルミンにあらかじめ血清その他を添加して37℃、24時間加温してから培地に添加するとスペルミンの毒作用が著明に減少される。この作用は大体Bovine albumin分劃によるらしく、他の高分子物質では消退されなかった。Armourのbovine fractionVでしらべると60℃、30分の処理ではfractionVの中和作用は消えず、100℃、2分では少し消えた。トリプシン消化(37℃、2hr)ではさらに消えた。Fattyacid-freeのfractionV(mils)は中和作用を有していた。
 そこでSpermineはFractionVに吸着されて毒性を失うのか、それとも別のものになるのか、という疑問がおこった。
 FractionV(NBC製)3mg/mlとH3-Spermine 20μCi/ml(PBS)を混合し、これを37℃、24hr加温するのとしないのと比較を試みた。これは0.4M PCAで除蛋白し2,500rpm10分→上清に0.4M PCAを加え、CK-10Sのレジンをつめた0.8cm径x7cmのカラムで60℃、0.6ml/minでeluteした結果(図を呈示)、FractionVとincubateすると無処理のSpermine自体に相当するpeakは消え、別の処にpeaksが現われた。つまりSpermineが変性して別のものになったのである。
B.スペルミンの毒性に関与したアルブミンの役割:
 FBS、Bovine serumのalbumin分劃をスペルミンと同時に添加するとスペルミンの毒性が助長されることはすでに報告したが、Bovine serum albuminから脂質を除くと、その毒性助長の効果は弱くなる。そこでスペルミンの毒性助長には脂質が関与しているのではないかと、スペルミン+Bovine albumin+脂質の実験を行った(表を呈示)。結果は、脂肪酸freeのBovine albumin(MILES)にコーン油0.02%添加又はコーン油のみ0.02%添加で、スペルミンの毒性助長がみられた。しかし、対照のスペルミン無添加、コーン油のみ添加群にも増殖阻害がみられた点に問題を残している。次にBovine serumのalbuminをクロロフォルム・メタノール処理で溶出する物質と溶けないで粉末のまま残る物質とに分けてスペルミンと同時に添加した。結果は矢張り溶出した物質のほうが毒性助長の作用を強く持っていた。

:質疑応答:
[翠川]脂質を溶かす為にはアルコールを使ったのでしょうが、その影響はどうですか。
[高岡]対照群の1つにアルコールのみの添加群がありますが、使用した濃度では全く増殖に影響ありません。
[乾 ]ある一つの脂肪酸の働きだと考えていますか。
[高岡]次にそれぞれの脂肪酸を一つづつ添加してみるつもりです。
[高木]超音波処理のコーン油とアルコールで溶かしたコーン油で違いがありますか。
[高岡]超音波処理したコーン油はみてありませんが、コーン油を使ったのは検討をつける為で、次はきれいな脂肪酸を一つ一つ加えて結果を出さないと、毒性助長の機構は判らないだろうと思っています。
[梅田]解毒の方はalbuminによる変性として判りやすいのですが、毒性促進の方は脂肪酸とどういう相互作用を考えていますか。
[高岡]スペルミンと脂肪酸が物として反応して毒性が増すというより、細胞膜に対するスペルミンの影響に脂肪酸が何か関与しているのではないかと考えています。
[山田]昔、スペルミンの細胞膜に対する影響を電気泳動法で調べ始めたことがあったのですが、スペルミンと肝癌毒性物質の関係がはっきりしなかったので中止していました。又やってみましょう。

《難波報告》
 30:ヒトとマウスの正常2倍体細胞の4NQOに対する反応性の差違
 化学発癌剤による癌化が非常に困難な正常ヒト2倍体細胞と、癌化しやすいマウスの細胞とを4NQOで処理した場合、どこに一番大きな差が出るか検討した。
 その結果は(表を呈示)、クロモゾームの変化の項にのみ両細胞間に著しい差のあることが判った。マウスの細胞では、3.3x10-6乗M 4NQO 1hr処理、24hr後の染色体標本で30〜68%の細胞に異常がみられるのに対して、ヒトの場合は(表を呈示)10%前後の異常しか見い出されない。マウスの細胞はもともと培養によってクロモゾームが変化しやすい傾向があり、それに4NQOの効果が重なって著しい染色体の変化をおもすのかも知れない。
 ヒトの細胞は培養条件で染色体は非常に安定でそれにAging現象と重なってヒト細胞の培養内癌化を困難にしているのかも知れない。
 31:ヒトの染色体をなるだけ変化させるものは何か
 (30)の項に述べたように染色体の変化を強くおこすものほどヒトの細胞の癌化を起す可能性がある。ヒト末梢血リンパ球を培養し、種々の方法で処理し、染色体の変化を調べた。(表を呈示)現在までの結論はレントゲン線のみが有意な染色体の変化を起す事が分る。

 :質疑応答:
[吉田]このデータでは4NQO処理群の染色体異常がとても少ないですね。普通、染色体異常をおこすポジティブな対照として4NQOを使っている位ですがね。
[難波]私も意外でした。
[乾 ]リンパ球が他の細胞とは大変違うのかも知れません。
[翠川]リンパ球を使った理由は何ですか。
[難波]ヒトからの材料としては簡単に採れるからです。
[梅田]リンパ球は分劃して使っていますか。
[難波]赤血球を沈殿させ、血漿部分の全白血球の培養ですが、分葉核などは早いうちに死んでしまいます。
[乾 ]AF-2は佐々木、殿村のデータでは染色体異常が出ていますね。
[難波]私の実験では濃度が薄かったのか、出ませんでした。
[乾 ]ヒトの細胞は仲々染色体異常を起こさないのは何故でしょうか。
[難波]ヒトの進化はもう極まっているとか。そういう事でしょうかね。

《梅田報告》
 今回の組織培養学会研究会で発表したfilter culture法で先々月迄の報告に加わった新しい知見についてのみ記載する。さらに発癌性芳香族炭化水素による培養内発癌実験の際知っておきたい使用細胞のarylhydrocarbon hydroxylase(AHH)活性の簡便な測定法について報告する。
 (I)先々月の月報(7604)で各種細胞のfilter上の増生について報告したが以後試したものの中に人のリンパ球がある。浮遊株細胞の増殖にfilter法が良いとわかったので、normalで浮遊して増生する細胞としてリンパ球を試みた。末血をコンレイフィコール法によりリンパ球を分離しPHA加寒天平板上glass fiber filter上に接種した。細胞数を多くした場合も、培養日数を多くした場合も細胞の増生は認められなかった。
 (II)Replicaを数回試みたが、今の所成功していない。
 (III)8AG培地で本当に抵抗性細胞のみ選択出来るとすると、filter上に生残している細胞はHAT培地にtransferした時すべて死滅する筈である。(表を呈示)6日迄8AG培地、以後HAT培地で培養したグループは期待に反しcolonyは無くなるどころか、却って小コロニーが多数出現した。このことは6日迄では8AG感受性細胞が死滅しておらず、6日後HAT培地に切り変えられたことにより之等が増生を開始したものと理解された。
 (表を呈示)12日間8AG培地で培養し、以後HAT培地に移したグループは、16日間8AG培地で培養しHAT培地に移さなかったグループの25.3のPEに対し、4.3ケと明らかにコロニー数が減じているが、いまだコロニーガ残っていることは問題を潜めている。尚このグループにはまだ非常に小さいコロニーが生残していた。更に実験を繰り返す必要を感じている。
 (IV)先の班会議でAHH測定法としてC14-benzo(a)pyrene(BP)の水溶性代謝物産生をみる時、0.25ml培養といった微量で簡便に測定可能であることを報告した。今回はこの方法を用いての基礎的条件を検討したので報告する。
 Kouriらの報告によるとC3HマウスはAHH誘導能が高くmethylcholanthreneによる発癌性も高いとされている。AKRマウスでは両者ともに低いとされている。
 (図を呈示)細胞の増殖とBP代謝との関係を調べてみると、C3Hマウス胎児細胞はBPに対する感受性が高くBPの代謝も盛んである。一方AKRマウス胎児細胞はC3Hマウス胎児細胞のそれに較べBP感受性は低くBPの代謝も低い。このデータを細胞あたりの代謝として換算してみると(図を呈示)、明らかにC3Hマウス胎児細胞の方がBPを代謝していることがわかる。
(V)(図を呈示)細胞数と水溶性代謝産物との関係を、C14-BP投与後24時間目の代謝で調べてみると、細胞数の一定範囲内では、細胞数に比例して代謝量が増加しているので、個々の培養条件の多少の違い、例えば細胞の増殖具合などは直接結果に影響することのないことが判明した。
 (VI)上の結果はあったが、各種細胞について、一応以下の条件を定めてAHH代謝能を測定した。すなわち、10万個細胞/ml宛細胞をまいた後1日培養しC14-BPを加えさらに1日培養後に水溶性代謝産物の測定を行なった。(表を呈示)各種細胞について3回行なうことを目的としているが、大体において夫々の測定時におけるばらつきは少ないようである。
 Y-CH、Y-AK、DL1で高値を示したことが興味ある。今後の発癌性芳香族炭化水素による発癌実験はこのような細胞を用いなければいけないと考えられる。

 :質疑応答:
[遠藤]6TG耐性の細胞をHAT培地で培養するとどうなりますか。8AG耐性細胞の中には膜の透過性が無いために生存できるという形のものがあります。
[乾 ]8AG→HATで生残るコロニーを梅田さんの場合はどう考えますか。
[梅田]リバータントとは考えていません。真の耐性を拾っていないと考えています。
[難波]技法としてですが、200万個の植え込みは多すぎませんか。死んだ細胞の酵素が濾紙に残って作用することはありませんか。
[梅田]細胞数は確かに多すぎたと思います。しかし死んだ細胞については濾紙法では洗い流されるので軟寒天法より優れていると思います。
[山田]膜の透過性についてですが、細胞を殺さずに透過性を高める方法はありますか。
[遠藤]ある種のポリエンなど加えれば高められるでしょう。
[山田]以前そのことで苦労しました。透過性が増すと細胞死が多くなるのです。
[吉田]耐性の問題は単に生死の判定では無くて、遺伝的にどうかという事を調べるべきですね。染色体構成をよく調べてそのレベルで安定したものを使い、その変化と耐性とを結びつけて確認すれば、耐性になったり又消失したりはしないでしょう。
[勝田]ヒトの細胞で安定した系がほしいものですね。

《高木報告》
 1.ラ氏島細胞の培養
 今回はヒト胎児膵ラ氏島細胞の培養につきのべる。7605にも記載したが、その後も4〜5ケ月の胎児膵が入手できたので実験をくり返している。
 方法は膵をはさみで細切後、50mlのナス型コルベンを入れた1000pu/ml Dispase 10mlに浮遊し、これを37℃の恒温器内で20分間振盪した。終って1000rpm3分間遠沈して上清をすて、培地で1回洗ったのちTD401本に植込んだ。24〜48時間後に上清をdecantしてこれをFalconのPetri dishまたはTD15に植込んだ。培地として3x modified Eagle's mediumとF-12を用いたが、3x Eagle's mediumでは良好な増殖がえられたがF-12ではラ氏島細胞の増殖はきわめて乏しかった。すなわち培地による細胞増殖のちがいが明らかに認められた。
3x Modified Eagle's mediumでは細胞はdecant後2〜3日してsheetを形成し増殖したが、insulinの分泌は3週すぎまでみられ、又形態的には40日までよく保たれた。しかし50日以上維持することは出来なかった。くり返し行った実験でも同様な成績を示した。
 2.6DMAE-4HAQOによる膵ラ氏島腫の発生について
 昨年の実験でSDラット、WKAラットに6DMAE-4HAQOを投与し、腺腫の発生を試みたが、SDラットよりWKAラットの方が発生率が大でった。しかし薬剤を静注で投与しなければならないために、生後2カ月のラッテを用い、腺腫の発生までに400日を要した。
 In vivoでB細胞の増加は胎生18〜22日に著しく、生後のB細胞の分裂増殖は比較的少い。従ってこのB細胞に増加の盛んな胎生期に経胎盤的に薬剤を投与することを試みている。しかし現在までのところ、投与量20mg/kgでは母児ともに死亡し、妊娠中の薬剤感受性の変化について検討しなければならない。

 :質疑応答:
[乾 ]経胎盤的に薬剤を投与した場合、24時間生きていれば使える筈ですよ。
[高木]産ませたいのです。
[勝田]ヒト膵培養を何とか長期間維持するためにホルモン添加など試したら・・・。
[高木]一時的にインスリンの産生を抑えたらどうかと考えて、培地中にインスリンを添加してみましたが、効果はありませんでした。
[吉田]分裂機能を高めるか・・・。
[遠藤]分化の方を止めることを考えるのですね。
[勝田]もう一息という感じになってきましたね。
[高岡]x3MEMはどんな培地ですか。
[高木]アミノ酸とビタミンが3倍で、但しグルタミンは1倍です。それに核酸とZnSO4とが加えてあります。

《乾報告》
 AF-2投与によるハムスター胎児細胞の癌化
 過去数回にわたりAF-2による染色体切断、突然変異、同物質経胎盤投与によるハムスター胎児細胞の形態転換を報告した。
 本号で、ハムスター線維芽細胞にAF-2を直接投与して、細胞の培養内癌化を観察したので報告する。
 実験方法と材料:実験には妊娠12〜13日のハムスター胎児由来の線維芽細胞、培養2代目を使用した。培養条件は、Dulbecco's MEM+20%FCSの培地を使用し、5%炭酸ガス添加空気中で細胞を培養した。3種のニトロフラン(化合物の図を呈示)の他にBenz[a]pyreneを使用した。化合物は培地中で1x10-5乗〜1x10-6乗 6、24時間投与した。
 実験結果:AF-2投与後の細胞の累積増殖曲線の一部を図に示す。
 対照のDMSO投与細胞は、投与後50日前後で増殖を停止した。
 AF-2、5x10-6乗M投与群は、投与後30数日で形態転換し、10日以内の細胞をハムスターに移植した所、ハムスターチークパウチに腫瘤を形成した。ニトロ・メチルフラン、ニトロ・フリルチアゾール投与細胞も1例をのぞいて、増殖能を獲得したが、形態転換は起こさなかった。Bp投与群の一例投与後、80日で形態転換を示した。(図を呈示)AF-2投与細胞群のAF-2投与後の増殖曲線を示した。対照の6例は1例をのぞいて投与後30〜50日で増殖能を失った。AF-2 1x10-6乗M投与群の細胞も同様の結果を示した。AF-2 5x10-6乗M、1x10-5乗M投与細胞11例中6例は増殖を継続し、投与後60日以内に内3例が形態転換し、その内1例が悪性転換し、ハムスターチークパウチに腫瘤を形成した。
 (表を呈示)形態変換した細胞の生物学的特性を記す。対照のDMSO投与細胞に比してコロニー形成率は著しく増大した。Population doubling timeは短縮し、対照のそれに比して1/2になった。Saturation densityは5〜10倍に上った。AF-2投与群の5x10-6乗M投与群の1例(AF564)の細胞を10万個ハムスターに投与した所、ハムスターに腫瘤を形成した。他の2例は、移植後腫瘤形成はみられなかった。ハムスターに腫瘤を形成したAF564細胞は軟寒天中でコロニーを形成した。(表を呈示)5,000〜10,000個シャーレに播種後形成したコロニーの形態転換率は、短期実験でも5x10-6乗M以上投与群で形態転換コロニーの出現率が増加した。

 :質疑応答:
[翠川]AF-2の場合、多量、長期間添加すれば変異率が高くなるとは言えないのですね。
[乾 ]一つには死ぬ細胞が多くなって変異率が下がります。
[翠川]ハムスターを使った理由は何故ですか。
[乾 ]ハムスターは染色体についてのデータが沢山ありますし、染色体レベルの変異をみやすい利点があります。マウスはウィルスの問題が引っ掛かりますし、ラッテは変異しにくいようです。それにハムスターにはチークポーチという便利なものがあります。
[吉田]しかしゴールデンハムスターはもう古いですよ。チャイニーズハムスターの方が染色体分析の上から有利です。
[乾 ]チャイニーズでの発癌実験は報告例が少ないです。それに飼育が難しい。
[吉田]雄が逃げ込む場所を作ってやれば、今では飼育もそう難しくありません。
[乾 ]染色体だけでいうなら、ムンチャクの方が良いでしょう。

《山田報告》
 1.Muntiacus muntjak vaginalis;chromosomeの表面荷電を検索すべく、現在より多くの細胞を得る様努力しています。現在の所この株は大部分fibroblast様の細胞ですが、一部に偏平な細胞が混じて居り、以前に測定した同種の細胞株(肺組織由来)に比べて増殖率はよく平均泳動度は高い様です。1〜2カ月中に同調培養を行いchromosomeを採取の予定。
2.RLC-21のclone株;染色体の変化に伴って起る表面荷電の変化を検出する目的で、この株のcolonial cloningを65ケ行い、2〜3ケの株が採取されさうです。あまり効率が良くない様な気がしますので、もう一工夫の必要があると考えています。
 3.Glucagon or Insulin培養メヂウム内添加24h後の表面の変化(ラット培養肝細胞及び肝癌細胞);前報で報告しましたごとく、電顕的に見えるRLC株の細胞質内グリコーゲン顆粒が培養メヂウム内にグルカゴン添加により変化することを見出しました。そこで今回は、JTC-16(肝癌細胞)と、RLC-20、RLC-16の三株について、改めて検索すると共にメヂウム中のグルコースの消費量、表面荷電の変化、そして電顕的観察を同時に行い検討しました。その成績のうち、現在まで成績の出ている電気泳動的変化についての結果を報告します。
 (図を呈示)方法としては植えこみ後4日目にglucagon(1.3及び6.0mg/dl)及びInsulin(0.5及び1.0mg/dl)をそれぞれ加え、24時間後に細胞を採取し、その電気泳動度(E.P.M.)を測定すると共にその一部をConA 2μg/ml処理及びNeuraminidase(5u)(ラット赤血球のE.P.M.を10%低下させる濃度)処理した後の変化を併せて検討しました。
 上記の前処理(24時間Insulin or Glucagon添加)によってはそのE.P.M.は著明な変化を生じませんが、それぞれの状態における膜表面の性質はかなり異って来ました。
 特筆すべき點は、JTC-16(培養肝癌細胞)と、RLC-20、RLC-16の非癌細胞の間にConAに対する反応性が全く逆な変化が出たことです。即ちConAによるE.P.M.の変動についてみると、肝癌細胞の場合には、あらかじめGlucagon 6.0mg/dl添加した場合に最も反応性が高まり、約10%前後の高値を示す。ところがRLC-20、-16の場合は同じ条件でむしろConAに対する反応は減少する點が注目されます。その際肝癌細胞では特にNeuraminidaseの感受性が高まる(すなわちシアル酸依存の荷電密度が高まって居る)ことも従来のこの種の変化と一致した成績です。RLC-20、-16相互を比較すると、前者ではグルカゴン1.3mg/dlにより後者ではインシュリン0.5mg/dlにより、ConAの反応性がより低下して居ました。このことは前報の電顕写真の所見にもみるように、同じ非癌細胞でもグルカゴンに対する反応性がかなり異ることを示すものと思います。更に検討してその意義を明らかにしたいと思って居ります。

 :質疑応答:
[久米川]グルカゴンは処理後、何時間で電顕写真を撮られましたか。
[山田]グルカゴンはシグマ製で、1.3mg/dl、24時間処理しました。

《久米川報告》
 酵素を用いないで分散した胎児肝臓のmono layer culture
 妊娠14〜19日に至る各年齡のマウス胎児肝臓をハサミを用いてできる限り細切した後、培養液を加え軽くポンピングし、メッシュをとおして組織片を除去した。細胞浮遊液に培養液(DM-153+10%Calf serum)を適当に加え、シャーレに分注、炭酸ガスフランキで培養した。1/5程度の培養液を2〜3日毎に追加し、培養した。
 培養2〜3日間はほとんど赤血球から成っているように見えるが、赤血球の死滅後、2種類の細胞が観察される。
 その1つは紡錘形の細胞で、シャーレに付着する(線維芽細胞様)。他の1つの細胞は赤血球より少し大きく、形は円形で浮遊している。培養とともに円形の細胞は紡錘形の細胞の上に集まり付着する。さらに培養を続けると、ときにはあたかもorgan cultureした肝臓と同様の構造が見られる。
 付着した円形細胞は、ポンピングのみでは剥離することはできないので両細胞を一緒にホモジネートし、2〜3の酵素活性を調べた。(表を呈示)organ cultureしたものに比べ活性値は低いが、培養20日後でも、それぞれの酵素活性は維持されていた。
 胎児の年齢によって特に差は認められなかった。円形をした細胞が肝細胞だろうと考えられるが、今後酵素組織化学(G-6-Pase)および蛍光抗体法(albumin)によって細胞の同定または円形細胞の分離、継代を試みてみたい。

 :質疑応答:
[加藤]培養前のマウス胎児肝の酵素活性とも比較してほしいですね。
[吉田]それから再生肝のような未分化な細胞の活性とも比べるといいでしょう。
[翠川]肝細胞の機能の同定にビリルビンのことを余りみていませんね。胆汁を作るかどうかも調べればよいと思うのですが。
[乾 ]肝にはステム細胞のようなものがありますか。
[翠川]あります。

《関口報告》
 人癌細胞の培養 1.胃癌細胞株の樹立
 わが国では、胃癌の発生頻度の高いことを反映して、胃癌の培養も多く試みられ、私が調べた範囲でも9細胞株の樹立の報告があるが、多くは現存せず、また細胞の同定の不充分なものもあって、確かに胃癌由来であると考えられる培養細胞株は極めて少ない。
 私は各種人癌の培養を試みているが、胃癌由来と同定しえた1細胞株を樹立した。
 患者病歴:55才の男子、昭和41年5月、胃体部の鶏卵大の癌に対し胃全摘手術を川崎市立川崎病院で受けた。組織像はSignet ring cell carcinomaであった。昭和49年3月医科研付属病院に入院。鎖骨上窩に転移を認めた。左胸腔に胸水貯留。4月死亡。
 培養法:昭和49年4月10日胸水中に浮遊する細胞を遠沈し集めて培養を開始した。培養液は40%RPMI1640+40%MEMに20%FCSまたはヒト臍帯血清を加え、あるいは25%RPMI1640+25%MEMに50%自家胸水を加えたものを用いた。容器は径45mmのガラス・シャーレを用いた。1つのシャーレに約100万個の細胞を植込み、炭酸ガス培養器内で培養を開始した。
 培養経過:10日目頃よりガラス面に付着した細胞の上に球状の浮遊細胞が増殖し始めた。12日目に浮遊細胞を集めて初めてsubcultureを行ない、以後6〜10日おきにsubcultureを行なった。FCSを用いた培養細胞KATO-Iは6カ月目にcontaminationにより全滅。自家胸水を用いた培養は2カ月で増殖低下し消滅。臍帯血清を用いた培養細胞KATO-IIは良好な増殖を続けており、現在2年1カ月、78代になる。KATO-IIの11代より血清をFCSに変えて維持した細胞KATO-IIIは、IIを上廻る増殖を示し、現在90代に至っている(図を呈示)。
 生物学的性状:KATO-II、29代のgrowth curveより計算したdoubling timeは77時間、KATO-III、60代のdoubling timeは36時間であった。染色体数のモードは89にあり34%を占める。異種移植による細胞の同定では、ATS処理ハムスターに1,000万個移植した場合腫瘤を形成したが、その組織像は原発巣とよく類似したsignet ring cell carcinomaであった。

 :質疑応答:
[勝田]これらの株細胞は何に使うつもりですか。
[関口]私の研究室での主な仕事としての癌免疫の実験に使う予定です。
[翠川]RPMI1640を使ったのには何か理由がありますか。
[関口]人癌培養によく使われていたので使いました。私の場合はRPMI1640 50%+MEM 50%で使っています。
[遠藤]この例以外にも復元が成功した胃癌細胞株がありますか。
[関口]大分調べてみましたが、どうも私のが初めてのようです。
[山田]培養の成功率はどの位ですか。
[関口]例が多くないのではっきりはしませんが、腹水からの成功率が高いようです。

《榊原報告》
 ヌードマウスの生理的背景について:
 医科研実験動物施設でspecific pathogen freeのもとに飼育されたヌードマウス(BALB/C-nu/nu)と、conventionalな条件下に飼育された対照(BALB/C-nu/t)各10匹ずつにつき、体重、臓器重量、末梢血球数、血液像、血清総蛋白量、血清蛋白分劃比をしらべ、全臓器の病理形態学的検索を行なった。動物のAgeは8週令、性は雄である。(表を呈示)先ず対照に比し、体重が少ない。だが各臓器の体重比をとってみると殆ど差はない。ただ、胸腺を完全に欠如していることは解剖で確認できた。血清総蛋白量は対照と有意差はないが、その内訳には顕著な差が認められる。即ち総じてglobulin量が少くalbumin量が多い。とくにγ-globulinは、対照の8.3%に対し、3.5%と著しく低値である。白血球数及び赤血球数が著明に少い。とくにリンパ球数は血液像から算出すると対照の5752/立方mmに対して2517/立方mmと半数以下の値である。病理形態学的所見としては、脾の白脾髄中心の動脈周囲及びリンパ節の傍皮質領域のlymphoid cell depletionが目立った。5月の月報に報告した通り、ATS投与ハムスターでは血清globulin分劃の増加、とくにγ-glob.値が著明に上昇している。この点を除けば−勿論thymusの有無という大きな違いはあるが−検索した範囲内でヌードマウスとATS投与ハムスターとは対照からの偏りに共通性が認められる。一見相反する結果とみられるγ-globulin値についても、Tcellが、Bcellに対してhelper actionとsuppressor actionという相反する作用をもつことを考慮に入れるなら、必ずしも矛盾するデータとは思えない。ヌードマウスに関して、現在その意義が不明とされている点は幾つかあるが、とくにathymicであるにも拘わらずB抗原陽性のリンパ球が常に数%存在していること、免疫監視機構の不全があるにも拘わらず、自然発癌率が対照マウスと同一であること、胸腺液性因子が内分泌器官の発育を左右していると云われるにも拘わらず、内分泌機構は全く正常であること等々が挙げられている。

【勝田班月報:7606:ヌードマウスの生理的背景】
《勝田報告》
 A.スペルミンの細胞毒性の中和(つづき)
 (おさらい)ポリアミンの内ではスペルミンが最も細胞毒性が高い。良性な細胞ほどスペルミンに弱い。FCS、Bovine serumのalbumin分劃を同時に添加するとスペルミンの毒性が助長される。ところがスペルミンにあらかじめ血清その他を添加して37℃、24時間加温してから培地に添加するとスペルミンの毒作用が著明に減少される。この作用は大体Bovine albumin分劃によるらしく、他の高分子物質では消退されなかった。Armourのbovine fractionVでしらべると60℃、30分の処理ではfractionVの中和作用は消えず、100℃、2分では少し消えた。トリプシン消化(37℃、2hr)ではさらに消えた。Fattyacid-freeのfractionV(mils)は中和作用を有していた。
 そこでSpermineはFractionVに吸着されて毒性を失うのか、それとも別のものになるのか、という疑問がおこった。
 FractionV(NBC製)3mg/mlとH3-Spermine 20μCi/ml(PBS)を混合し、これを37℃、24hr加温するのとしないのと比較を試みた。これは0.4M PCAで除蛋白し2,500rpm10分→上清に0.4M PCAを加え、CK-10Sのレジンをつめた0.8cm径x7cmのカラムで60℃、0.6ml/minでeluteした結果(図を呈示)、FractionVとincubateすると無処理のSpermine自体に相当するpeakは消え、別の処にpeaksが現われた。つまりSpermineが変性して別のものになったのである。
B.スペルミンの毒性に関与したアルブミンの役割:
 FBS、Bovine serumのalbumin分劃をスペルミンと同時に添加するとスペルミンの毒性が助長されることはすでに報告したが、Bovine serum albuminから脂質を除くと、その毒性助長の効果は弱くなる。そこでスペルミンの毒性助長には脂質が関与しているのではないかと、スペルミン+Bovine albumin+脂質の実験を行った(表を呈示)。結果は、脂肪酸freeのBovine albumin(MILES)にコーン油0.02%添加又はコーン油のみ0.02%添加で、スペルミンの毒性助長がみられた。しかし、対照のスペルミン無添加、コーン油のみ添加群にも増殖阻害がみられた点に問題を残している。次にBovine serumのalbuminをクロロフォルム・メタノール処理で溶出する物質と溶けないで粉末のまま残る物質とに分けてスペルミンと同時に添加した。結果は矢張り溶出した物質のほうが毒性助長の作用を強く持っていた。

:質疑応答:
[翠川]脂質を溶かす為にはアルコールを使ったのでしょうが、その影響はどうですか。
[高岡]対照群の1つにアルコールのみの添加群がありますが、使用した濃度では全く増殖に影響ありません。
[乾 ]ある一つの脂肪酸の働きだと考えていますか。
[高岡]次にそれぞれの脂肪酸を一つづつ添加してみるつもりです。
[高木]超音波処理のコーン油とアルコールで溶かしたコーン油で違いがありますか。
[高岡]超音波処理したコーン油はみてありませんが、コーン油を使ったのは検討をつける為で、次はきれいな脂肪酸を一つ一つ加えて結果を出さないと、毒性助長の機構は判らないだろうと思っています。
[梅田]解毒の方はalbuminによる変性として判りやすいのですが、毒性促進の方は脂肪酸とどういう相互作用を考えていますか。
[高岡]スペルミンと脂肪酸が物として反応して毒性が増すというより、細胞膜に対するスペルミンの影響に脂肪酸が何か関与しているのではないかと考えています。
[山田]昔、スペルミンの細胞膜に対する影響を電気泳動法で調べ始めたことがあったのですが、スペルミンと肝癌毒性物質の関係がはっきりしなかったので中止していました。又やってみましょう。

《難波報告》
 30:ヒトとマウスの正常2倍体細胞の4NQOに対する反応性の差違
 化学発癌剤による癌化が非常に困難な正常ヒト2倍体細胞と、癌化しやすいマウスの細胞とを4NQOで処理した場合、どこに一番大きな差が出るか検討した。
 その結果は(表を呈示)、クロモゾームの変化の項にのみ両細胞間に著しい差のあることが判った。マウスの細胞では、3.3x10-6乗M 4NQO 1hr処理、24hr後の染色体標本で30〜68%の細胞に異常がみられるのに対して、ヒトの場合は(表を呈示)10%前後の異常しか見い出されない。マウスの細胞はもともと培養によってクロモゾームが変化しやすい傾向があり、それに4NQOの効果が重なって著しい染色体の変化をおもすのかも知れない。
 ヒトの細胞は培養条件で染色体は非常に安定でそれにAging現象と重なってヒト細胞の培養内癌化を困難にしているのかも知れない。
 31:ヒトの染色体をなるだけ変化させるものは何か
 (30)の項に述べたように染色体の変化を強くおこすものほどヒトの細胞の癌化を起す可能性がある。ヒト末梢血リンパ球を培養し、種々の方法で処理し、染色体の変化を調べた。(表を呈示)現在までの結論はレントゲン線のみが有意な染色体の変化を起す事が分る。

 :質疑応答:
[吉田]このデータでは4NQO処理群の染色体異常がとても少ないですね。普通、染色体異常をおこすポジティブな対照として4NQOを使っている位ですがね。
[難波]私も意外でした。
[乾 ]リンパ球が他の細胞とは大変違うのかも知れません。
[翠川]リンパ球を使った理由は何ですか。
[難波]ヒトからの材料としては簡単に採れるからです。
[梅田]リンパ球は分劃して使っていますか。
[難波]赤血球を沈殿させ、血漿部分の全白血球の培養ですが、分葉核などは早いうちに死んでしまいます。
[乾 ]AF-2は佐々木、殿村のデータでは染色体異常が出ていますね。
[難波]私の実験では濃度が薄かったのか、出ませんでした。
[乾 ]ヒトの細胞は仲々染色体異常を起こさないのは何故でしょうか。
[難波]ヒトの進化はもう極まっているとか。そういう事でしょうかね。

《梅田報告》
 今回の組織培養学会研究会で発表したfilter culture法で先々月迄の報告に加わった新しい知見についてのみ記載する。さらに発癌性芳香族炭化水素による培養内発癌実験の際知っておきたい使用細胞のarylhydrocarbon hydroxylase(AHH)活性の簡便な測定法について報告する。
 (I)先々月の月報(7604)で各種細胞のfilter上の増生について報告したが以後試したものの中に人のリンパ球がある。浮遊株細胞の増殖にfilter法が良いとわかったので、normalで浮遊して増生する細胞としてリンパ球を試みた。末血をコンレイフィコール法によりリンパ球を分離しPHA加寒天平板上glass fiber filter上に接種した。細胞数を多くした場合も、培養日数を多くした場合も細胞の増生は認められなかった。
 (II)Replicaを数回試みたが、今の所成功していない。
 (III)8AG培地で本当に抵抗性細胞のみ選択出来るとすると、filter上に生残している細胞はHAT培地にtransferした時すべて死滅する筈である。(表を呈示)6日迄8AG培地、以後HAT培地で培養したグループは期待に反しcolonyは無くなるどころか、却って小コロニーが多数出現した。このことは6日迄では8AG感受性細胞が死滅しておらず、6日後HAT培地に切り変えられたことにより之等が増生を開始したものと理解された。
 (表を呈示)12日間8AG培地で培養し、以後HAT培地に移したグループは、16日間8AG培地で培養しHAT培地に移さなかったグループの25.3のPEに対し、4.3ケと明らかにコロニー数が減じているが、いまだコロニーガ残っていることは問題を潜めている。尚このグループにはまだ非常に小さいコロニーが生残していた。更に実験を繰り返す必要を感じている。
 (IV)先の班会議でAHH測定法としてC14-benzo(a)pyrene(BP)の水溶性代謝物産生をみる時、0.25ml培養といった微量で簡便に測定可能であることを報告した。今回はこの方法を用いての基礎的条件を検討したので報告する。
 Kouriらの報告によるとC3HマウスはAHH誘導能が高くmethylcholanthreneによる発癌性も高いとされている。AKRマウスでは両者ともに低いとされている。
 (図を呈示)細胞の増殖とBP代謝との関係を調べてみると、C3Hマウス胎児細胞はBPに対する感受性が高くBPの代謝も盛んである。一方AKRマウス胎児細胞はC3Hマウス胎児細胞のそれに較べBP感受性は低くBPの代謝も低い。このデータを細胞あたりの代謝として換算してみると(図を呈示)、明らかにC3Hマウス胎児細胞の方がBPを代謝していることがわかる。
(V)(図を呈示)細胞数と水溶性代謝産物との関係を、C14-BP投与後24時間目の代謝で調べてみると、細胞数の一定範囲内では、細胞数に比例して代謝量が増加しているので、個々の培養条件の多少の違い、例えば細胞の増殖具合などは直接結果に影響することのないことが判明した。
 (VI)上の結果はあったが、各種細胞について、一応以下の条件を定めてAHH代謝能を測定した。すなわち、10万個細胞/ml宛細胞をまいた後1日培養しC14-BPを加えさらに1日培養後に水溶性代謝産物の測定を行なった。(表を呈示)各種細胞について3回行なうことを目的としているが、大体において夫々の測定時におけるばらつきは少ないようである。
 Y-CH、Y-AK、DL1で高値を示したことが興味ある。今後の発癌性芳香族炭化水素による発癌実験はこのような細胞を用いなければいけないと考えられる。

 :質疑応答:
[遠藤]6TG耐性の細胞をHAT培地で培養するとどうなりますか。8AG耐性細胞の中には膜の透過性が無いために生存できるという形のものがあります。
[乾 ]8AG→HATで生残るコロニーを梅田さんの場合はどう考えますか。
[梅田]リバータントとは考えていません。真の耐性を拾っていないと考えています。
[難波]技法としてですが、200万個の植え込みは多すぎませんか。死んだ細胞の酵素が濾紙に残って作用することはありませんか。
[梅田]細胞数は確かに多すぎたと思います。しかし死んだ細胞については濾紙法では洗い流されるので軟寒天法より優れていると思います。
[山田]膜の透過性についてですが、細胞を殺さずに透過性を高める方法はありますか。
[遠藤]ある種のポリエンなど加えれば高められるでしょう。
[山田]以前そのことで苦労しました。透過性が増すと細胞死が多くなるのです。
[吉田]耐性の問題は単に生死の判定では無くて、遺伝的にどうかという事を調べるべきですね。染色体構成をよく調べてそのレベルで安定したものを使い、その変化と耐性とを結びつけて確認すれば、耐性になったり又消失したりはしないでしょう。
[勝田]ヒトの細胞で安定した系がほしいものですね。

《高木報告》
 1.ラ氏島細胞の培養
 今回はヒト胎児膵ラ氏島細胞の培養につきのべる。7605にも記載したが、その後も4〜5ケ月の胎児膵が入手できたので実験をくり返している。
 方法は膵をはさみで細切後、50mlのナス型コルベンを入れた1000pu/ml Dispase 10mlに浮遊し、これを37℃の恒温器内で20分間振盪した。終って1000rpm3分間遠沈して上清をすて、培地で1回洗ったのちTD401本に植込んだ。24〜48時間後に上清をdecantしてこれをFalconのPetri dishまたはTD15に植込んだ。培地として3x modified Eagle's mediumとF-12を用いたが、3x Eagle's mediumでは良好な増殖がえられたがF-12ではラ氏島細胞の増殖はきわめて乏しかった。すなわち培地による細胞増殖のちがいが明らかに認められた。
3x Modified Eagle's mediumでは細胞はdecant後2〜3日してsheetを形成し増殖したが、insulinの分泌は3週すぎまでみられ、又形態的には40日までよく保たれた。しかし50日以上維持することは出来なかった。くり返し行った実験でも同様な成績を示した。
 2.6DMAE-4HAQOによる膵ラ氏島腫の発生について
 昨年の実験でSDラット、WKAラットに6DMAE-4HAQOを投与し、腺腫の発生を試みたが、SDラットよりWKAラットの方が発生率が大でった。しかし薬剤を静注で投与しなければならないために、生後2カ月のラッテを用い、腺腫の発生までに400日を要した。
 In vivoでB細胞の増加は胎生18〜22日に著しく、生後のB細胞の分裂増殖は比較的少い。従ってこのB細胞に増加の盛んな胎生期に経胎盤的に薬剤を投与することを試みている。しかし現在までのところ、投与量20mg/kgでは母児ともに死亡し、妊娠中の薬剤感受性の変化について検討しなければならない。

 :質疑応答:
[乾 ]経胎盤的に薬剤を投与した場合、24時間生きていれば使える筈ですよ。
[高木]産ませたいのです。
[勝田]ヒト膵培養を何とか長期間維持するためにホルモン添加など試したら・・・。
[高木]一時的にインスリンの産生を抑えたらどうかと考えて、培地中にインスリンを添加してみましたが、効果はありませんでした。
[吉田]分裂機能を高めるか・・・。
[遠藤]分化の方を止めることを考えるのですね。
[勝田]もう一息という感じになってきましたね。
[高岡]x3MEMはどんな培地ですか。
[高木]アミノ酸とビタミンが3倍で、但しグルタミンは1倍です。それに核酸とZnSO4とが加えてあります。

《乾報告》
 AF-2投与によるハムスター胎児細胞の癌化
 過去数回にわたりAF-2による染色体切断、突然変異、同物質経胎盤投与によるハムスター胎児細胞の形態転換を報告した。
 本号で、ハムスター線維芽細胞にAF-2を直接投与して、細胞の培養内癌化を観察したので報告する。
 実験方法と材料:実験には妊娠12〜13日のハムスター胎児由来の線維芽細胞、培養2代目を使用した。培養条件は、Dulbecco's MEM+20%FCSの培地を使用し、5%炭酸ガス添加空気中で細胞を培養した。3種のニトロフラン(化合物の図を呈示)の他にBenz[a]pyreneを使用した。化合物は培地中で1x10-5乗〜1x10-6乗 6、24時間投与した。
 実験結果:AF-2投与後の細胞の累積増殖曲線の一部を図に示す。
 対照のDMSO投与細胞は、投与後50日前後で増殖を停止した。
 AF-2、5x10-6乗M投与群は、投与後30数日で形態転換し、10日以内の細胞をハムスターに移植した所、ハムスターチークパウチに腫瘤を形成した。ニトロ・メチルフラン、ニトロ・フリルチアゾール投与細胞も1例をのぞいて、増殖能を獲得したが、形態転換は起こさなかった。Bp投与群の一例投与後、80日で形態転換を示した。(図を呈示)AF-2投与細胞群のAF-2投与後の増殖曲線を示した。対照の6例は1例をのぞいて投与後30〜50日で増殖能を失った。AF-2 1x10-6乗M投与群の細胞も同様の結果を示した。AF-2 5x10-6乗M、1x10-5乗M投与細胞11例中6例は増殖を継続し、投与後60日以内に内3例が形態転換し、その内1例が悪性転換し、ハムスターチークパウチに腫瘤を形成した。
 (表を呈示)形態変換した細胞の生物学的特性を記す。対照のDMSO投与細胞に比してコロニー形成率は著しく増大した。Population doubling timeは短縮し、対照のそれに比して1/2になった。Saturation densityは5〜10倍に上った。AF-2投与群の5x10-6乗M投与群の1例(AF564)の細胞を10万個ハムスターに投与した所、ハムスターに腫瘤を形成した。他の2例は、移植後腫瘤形成はみられなかった。ハムスターに腫瘤を形成したAF564細胞は軟寒天中でコロニーを形成した。(表を呈示)5,000〜10,000個シャーレに播種後形成したコロニーの形態転換率は、短期実験でも5x10-6乗M以上投与群で形態転換コロニーの出現率が増加した。

 :質疑応答:
[翠川]AF-2の場合、多量、長期間添加すれば変異率が高くなるとは言えないのですね。
[乾 ]一つには死ぬ細胞が多くなって変異率が下がります。
[翠川]ハムスターを使った理由は何故ですか。
[乾 ]ハムスターは染色体についてのデータが沢山ありますし、染色体レベルの変異をみやすい利点があります。マウスはウィルスの問題が引っ掛かりますし、ラッテは変異しにくいようです。それにハムスターにはチークポーチという便利なものがあります。
[吉田]しかしゴールデンハムスターはもう古いですよ。チャイニーズハムスターの方が染色体分析の上から有利です。
[乾 ]チャイニーズでの発癌実験は報告例が少ないです。それに飼育が難しい。
[吉田]雄が逃げ込む場所を作ってやれば、今では飼育もそう難しくありません。
[乾 ]染色体だけでいうなら、ムンチャクの方が良いでしょう。

《山田報告》
 1.Muntiacus muntjak vaginalis;chromosomeの表面荷電を検索すべく、現在より多くの細胞を得る様努力しています。現在の所この株は大部分fibroblast様の細胞ですが、一部に偏平な細胞が混じて居り、以前に測定した同種の細胞株(肺組織由来)に比べて増殖率はよく平均泳動度は高い様です。1〜2カ月中に同調培養を行いchromosomeを採取の予定。
2.RLC-21のclone株;染色体の変化に伴って起る表面荷電の変化を検出する目的で、この株のcolonial cloningを65ケ行い、2〜3ケの株が採取されさうです。あまり効率が良くない様な気がしますので、もう一工夫の必要があると考えています。
 3.Glucagon or Insulin培養メヂウム内添加24h後の表面の変化(ラット培養肝細胞及び肝癌細胞);前報で報告しましたごとく、電顕的に見えるRLC株の細胞質内グリコーゲン顆粒が培養メヂウム内にグルカゴン添加により変化することを見出しました。そこで今回は、JTC-16(肝癌細胞)と、RLC-20、RLC-16の三株について、改めて検索すると共にメヂウム中のグルコースの消費量、表面荷電の変化、そして電顕的観察を同時に行い検討しました。その成績のうち、現在まで成績の出ている電気泳動的変化についての結果を報告します。
 (図を呈示)方法としては植えこみ後4日目にglucagon(1.3及び6.0mg/dl)及びInsulin(0.5及び1.0mg/dl)をそれぞれ加え、24時間後に細胞を採取し、その電気泳動度(E.P.M.)を測定すると共にその一部をConA 2μg/ml処理及びNeuraminidase(5u)(ラット赤血球のE.P.M.を10%低下させる濃度)処理した後の変化を併せて検討しました。
 上記の前処理(24時間Insulin or Glucagon添加)によってはそのE.P.M.は著明な変化を生じませんが、それぞれの状態における膜表面の性質はかなり異って来ました。
 特筆すべき點は、JTC-16(培養肝癌細胞)と、RLC-20、RLC-16の非癌細胞の間にConAに対する反応性が全く逆な変化が出たことです。即ちConAによるE.P.M.の変動についてみると、肝癌細胞の場合には、あらかじめGlucagon 6.0mg/dl添加した場合に最も反応性が高まり、約10%前後の高値を示す。ところがRLC-20、-16の場合は同じ条件でむしろConAに対する反応は減少する點が注目されます。その際肝癌細胞では特にNeuraminidaseの感受性が高まる(すなわちシアル酸依存の荷電密度が高まって居る)ことも従来のこの種の変化と一致した成績です。RLC-20、-16相互を比較すると、前者ではグルカゴン1.3mg/dlにより後者ではインシュリン0.5mg/dlにより、ConAの反応性がより低下して居ました。このことは前報の電顕写真の所見にもみるように、同じ非癌細胞でもグルカゴンに対する反応性がかなり異ることを示すものと思います。更に検討してその意義を明らかにしたいと思って居ります。

 :質疑応答:
[久米川]グルカゴンは処理後、何時間で電顕写真を撮られましたか。
[山田]グルカゴンはシグマ製で、1.3mg/dl、24時間処理しました。

《久米川報告》
 酵素を用いないで分散した胎児肝臓のmono layer culture
 妊娠14〜19日に至る各年齡のマウス胎児肝臓をハサミを用いてできる限り細切した後、培養液を加え軽くポンピングし、メッシュをとおして組織片を除去した。細胞浮遊液に培養液(DM-153+10%Calf serum)を適当に加え、シャーレに分注、炭酸ガスフランキで培養した。1/5程度の培養液を2〜3日毎に追加し、培養した。
 培養2〜3日間はほとんど赤血球から成っているように見えるが、赤血球の死滅後、2種類の細胞が観察される。
 その1つは紡錘形の細胞で、シャーレに付着する(線維芽細胞様)。他の1つの細胞は赤血球より少し大きく、形は円形で浮遊している。培養とともに円形の細胞は紡錘形の細胞の上に集まり付着する。さらに培養を続けると、ときにはあたかもorgan cultureした肝臓と同様の構造が見られる。
 付着した円形細胞は、ポンピングのみでは剥離することはできないので両細胞を一緒にホモジネートし、2〜3の酵素活性を調べた。(表を呈示)organ cultureしたものに比べ活性値は低いが、培養20日後でも、それぞれの酵素活性は維持されていた。
 胎児の年齢によって特に差は認められなかった。円形をした細胞が肝細胞だろうと考えられるが、今後酵素組織化学(G-6-Pase)および蛍光抗体法(albumin)によって細胞の同定または円形細胞の分離、継代を試みてみたい。

 :質疑応答:
[加藤]培養前のマウス胎児肝の酵素活性とも比較してほしいですね。
[吉田]それから再生肝のような未分化な細胞の活性とも比べるといいでしょう。
[翠川]肝細胞の機能の同定にビリルビンのことを余りみていませんね。胆汁を作るかどうかも調べればよいと思うのですが。
[乾 ]肝にはステム細胞のようなものがありますか。
[翠川]あります。

《関口報告》
 人癌細胞の培養 1.胃癌細胞株の樹立
 わが国では、胃癌の発生頻度の高いことを反映して、胃癌の培養も多く試みられ、私が調べた範囲でも9細胞株の樹立の報告があるが、多くは現存せず、また細胞の同定の不充分なものもあって、確かに胃癌由来であると考えられる培養細胞株は極めて少ない。
 私は各種人癌の培養を試みているが、胃癌由来と同定しえた1細胞株を樹立した。
 患者病歴:55才の男子、昭和41年5月、胃体部の鶏卵大の癌に対し胃全摘手術を川崎市立川崎病院で受けた。組織像はSignet ring cell carcinomaであった。昭和49年3月医科研付属病院に入院。鎖骨上窩に転移を認めた。左胸腔に胸水貯留。4月死亡。
 培養法:昭和49年4月10日胸水中に浮遊する細胞を遠沈し集めて培養を開始した。培養液は40%RPMI1640+40%MEMに20%FCSまたはヒト臍帯血清を加え、あるいは25%RPMI1640+25%MEMに50%自家胸水を加えたものを用いた。容器は径45mmのガラス・シャーレを用いた。1つのシャーレに約100万個の細胞を植込み、炭酸ガス培養器内で培養を開始した。
 培養経過:10日目頃よりガラス面に付着した細胞の上に球状の浮遊細胞が増殖し始めた。12日目に浮遊細胞を集めて初めてsubcultureを行ない、以後6〜10日おきにsubcultureを行なった。FCSを用いた培養細胞KATO-Iは6カ月目にcontaminationにより全滅。自家胸水を用いた培養は2カ月で増殖低下し消滅。臍帯血清を用いた培養細胞KATO-IIは良好な増殖を続けており、現在2年1カ月、78代になる。KATO-IIの11代より血清をFCSに変えて維持した細胞KATO-IIIは、IIを上廻る増殖を示し、現在90代に至っている(図を呈示)。
 生物学的性状:KATO-II、29代のgrowth curveより計算したdoubling timeは77時間、KATO-III、60代のdoubling timeは36時間であった。染色体数のモードは89にあり34%を占める。異種移植による細胞の同定では、ATS処理ハムスターに1,000万個移植した場合腫瘤を形成したが、その組織像は原発巣とよく類似したsignet ring cell carcinomaであった。

 :質疑応答:
[勝田]これらの株細胞は何に使うつもりですか。
[関口]私の研究室での主な仕事としての癌免疫の実験に使う予定です。
[翠川]RPMI1640を使ったのには何か理由がありますか。
[関口]人癌培養によく使われていたので使いました。私の場合はRPMI1640 50%+MEM 50%で使っています。
[遠藤]この例以外にも復元が成功した胃癌細胞株がありますか。
[関口]大分調べてみましたが、どうも私のが初めてのようです。
[山田]培養の成功率はどの位ですか。
[関口]例が多くないのではっきりはしませんが、腹水からの成功率が高いようです。

《榊原報告》
 ヌードマウスの生理的背景について:
 医科研実験動物施設でspecific pathogen freeのもとに飼育されたヌードマウス(BALB/C-nu/nu)と、conventionalな条件下に飼育された対照(BALB/C-nu/t)各10匹ずつにつき、体重、臓器重量、末梢血球数、血液像、血清総蛋白量、血清蛋白分劃比をしらべ、全臓器の病理形態学的検索を行なった。動物のAgeは8週令、性は雄である。(表を呈示)先ず対照に比し、体重が少ない。だが各臓器の体重比をとってみると殆ど差はない。ただ、胸腺を完全に欠如していることは解剖で確認できた。血清総蛋白量は対照と有意差はないが、その内訳には顕著な差が認められる。即ち総じてglobulin量が少くalbumin量が多い。とくにγ-globulinは、対照の8.3%に対し、3.5%と著しく低値である。白血球数及び赤血球数が著明に少い。とくにリンパ球数は血液像から算出すると対照の5752/立方mmに対して2517/立方mmと半数以下の値である。病理形態学的所見としては、脾の白脾髄中心の動脈周囲及びリンパ節の傍皮質領域のlymphoid cell depletionが目立った。5月の月報に報告した通り、ATS投与ハムスターでは血清globulin分劃の増加、とくにγ-glob.値が著明に上昇している。この点を除けば−勿論thymusの有無という大きな違いはあるが−検索した範囲内でヌードマウスとATS投与ハムスターとは対照からの偏りに共通性が認められる。一見相反する結果とみられるγ-globulin値についても、Tcellが、Bcellに対してhelper actionとsuppressor actionという相反する作用をもつことを考慮に入れるなら、必ずしも矛盾するデータとは思えない。ヌードマウスに関して、現在その意義が不明とされている点は幾つかあるが、とくにathymicであるにも拘わらずB抗原陽性のリンパ球が常に数%存在していること、免疫監視機構の不全があるにも拘わらず、自然発癌率が対照マウスと同一であること、胸腺液性因子が内分泌器官の発育を左右していると云われるにも拘わらず、内分泌機構は全く正常であること等々が挙げられている。

【勝田班月報:7608:ヒトリンパ系細胞の顕微鏡映画】
《勝田報告》
 §ヒトリンパ系細胞の顕微鏡映画撮影
 免疫学者の云う通りに、リンパ球のblastformationが本当にあるのか無いのか、自分の目の前でそれを確かめたいと、何年も前からヒトの末梢血のリンパ球を培養し、顕微鏡映画で追究した。しかし、PHAその他を入れると、細胞が凝集してしまってその内部で何が起っているのか見られなかった。H3-TdRのとり込みからみてもたしかにDNA合成は起っているが、それがどの細胞によるものかが判らない。
 昨年の暮ごろ、当研究所臓器移植研究部の秋山君が何も添加しないて、異なる2人のリンパ系細胞を混合して培養してみたら如何、というアドバイスをしてくれた。早速やってみると、きわめて成績がよくて、細胞の凝集はほとんど起らず、細胞(リンパ)は硝子面に広く拡がりはしないが、1コ1コがはっきり見分けられ、使用に耐えることが判った。
 そこで何回もその撮影をくりかえしてみた。今お目にかけるのは次の9カットである。1)混合培養、培養3〜6日。2)混合培養、培養6〜9日。3)単独培養、2〜5日。4)単独培養5〜8日。5)混合培養、13〜16日、細胞1コから2コに分裂。6)混合培養9〜12日、細胞1コから2コに分裂。7)以下6)の同一カットの連続撮影、12〜15日、細胞1コから2コに分裂。8)15〜18日、2コ→4コ。9)18〜21日、4コ→7コ。
 混合したどちら側の細胞が分裂したかをしらべるため、男と女とを混合し、染色体のXYでしらべるように準備している。なお、細胞のgeneration timeは約3日であった。

 :質疑応答:
[梅田]分裂した細胞をよく見て居ると、どの場合も細胞の廻りに何かくっついていましたね。あれは血小板ではないでしょうか。血小板も刺戟になると云うことが言われていますから、他人の血小板だけ添加してみるのも面白いと思います。
[勝田]今の所はリンパ球の幼若化の真偽性を確かめたにすぎませんが、これから色々と実験してみる予定です。
[山田]PHA添加ではH3-TdR取り込みのピークは5〜6日ですがこの方法ではどうですか。
[高岡]少し遅れて10日位のようです。
[関口]総細胞は増えますか。
[高岡]今回は計数していませんが、映画の視野でみる限りでは死ぬものが可成りありますから、全体としては増えていないようです。

《難波報告》
 33:ヒト皮膚上皮細胞の培養
 ヒトの上皮細胞を用いて、培養内化学発癌実験を行なうための基礎実験として、比較的簡単に材料の得られるSkin biopsyから上皮細胞の培養を試みている。現在、初代培養ではほとんど確実に上皮性細胞(表皮細胞)の増殖が得られるようになったので報告する。
 ◇実験方法:ヒト成人からBiopsyされた皮膚組織の真皮部分の結合組織を、ハサミかメスを用いてできるだけ除去する。そして、次の2方法で培養した。
 1)Explanted culture法;表皮部分をさらにメスで細切(1〜2立方mm)して、60mmシャーレ表面に付着させ、DM-153+20%FCS+4.2x10-6乗M Dexamethasone(Dex.)で培養。
 2)Tripsinisation法;この方法は、Rheinwald & Green(Cell,6:331-344,1975)に倣った。すなわち、細切した表皮を0.2%トリプシン(Difco 1:250)で処理し、分散した細胞を3,000〜4,000γ照射した。マウス細胞(BALB3T3 or 当研究室で培養しているC3H由来の線維芽細胞)上にまく。この実験の培地はMEM+20%FCS+4.2x10-6乗M Dex.(顕微鏡写真を呈示)
1)、2)はいずれの方法でも上皮細胞の増殖を得ることができる。またこの上皮細胞が表皮細胞であることは、培養内で角化していることから明白である。
 今後この培養系を利用して発癌実験を行ないたいと考えているが、まだこの培養方法自身にも以下に別記するような多くの問題があるので、それらの問題を検討して行きたい。
 1.上皮細胞の培養にDexamethasonが必要なのかどうか?
 2.Trypsinisationで分散した細胞をまくとき、Feeder layerを使用しないで可能かどうか? Conditioned mediumでは無理かどうか?
3.Feeder layerは角化を誘導するために必要なようである。この角化をconditioned medium or培地にホルモンやビタミンを添加して、Feederなしに誘導できないか?
4.現在の培養条件で増殖してくる細胞はほとんど上皮細胞であるが、少数の線維芽細胞も混在している。したがって培養のスタートで、できる限り純粋な上皮性細胞の集団を得るよう現在努力している。Fuseniy et al(Exp.Cell Res.,93:443-457,1975)はFicollでマウス表皮細胞を集めている。しかし班会議で報告したように、表皮は大きさも機能も違う細胞から成り立っているようなのでFicollで表皮細胞と線維芽細胞とを分散することはむつかしそうである。またFicollはマウス胃上皮細胞の分離に際してToxicだとの報告もある。(Munrs et al.Exp.Cell Res.,76:69-76,1975)。
 5.増殖している上皮細胞を継代することは現在むつかしい。ヒトのFibroblastsのように継代して増殖を続けさせる条件を検討中である。
 6.現在の培養方法で、肝細胞などの上皮細胞も培養可能かどうか検討したいと考えている。

 :質疑応答:
[吉田]培養内で角化が起こることを必要とする実験を考えているのですか。
[難波]発癌実験そのものには角化は必要はありません。細胞同定にと考えています。
[榊原]病理解剖の材料からでも100%培養出来たというデータを持っています。培地は牛胎児血清10%とイーグルMEMで、角化も起こりました。
[加藤]毛根も入っていませんか。
[難波]そのうちに毛も生やしたいものです。
[乾 ]角化までにどの位かかりますか。
[難波]3週間位です。
[榊原]メラノサイトはどうですか。
[難波]時々生えてきますね。
[山田]角化を簡単にみるにはパパニコロウ染色がいいですね。
[加藤]発生の実験に使うのに、上皮細胞層と基底細胞層をきれいに分ける方法を色々と試みてみましたが、常識的な濃度の10倍位濃いEDTAを使って成功しました。
[難波]今度やってみます。

《榊原報告》
 §Collagen fiber formationはfibroblastの特異的機能か?
 Clone化されていないwildのepithelioid cell strainの培養から形態学的あるいは生化学的にcollagenが検出されると、其の原因をfibroblastのcontaminationに帰するならわしのようである。epithelioid cell strainとは、仮りにfibroblastのコンタミがあったにせよ、epithelial cellがmajor populationを占める細胞集団であり、fibroblastic cell strainはその逆のものと考えられるから、collagen fiber formationがfibroblastの特異的機能であるとすれば、後者からは前者に比べてはるかに高頻度、かつ多量のcollagenが検出されて然るべきであろう。だが四月の月報に報告した通り、有名なfibroblastic cell strainである3T3は、極めてlow level hydroxy-proline産生を示すに過ぎなかった。一方、cloningされたのち、肝の分化機能を保有していることを証明された2つのepithelioid liver cell strainがcollagenを産生する事実も再三報告してきた。かくて今回は、表題の如きテーマに取り組むことになったのである。すなわち、クローン化されていない各種のepithelioid、non-epithelioid cell strainについてreticular fiber formationをmarkerとしてcollagen産生の有無を調べてみた。材料は凡て高岡先生が樹立、維持しておられる(或いはおられた)細胞株の主としてGiemsa染色標本で、20日以上継代なしに維持されたものである。方法は約2日間、キシロールに浸して封入剤を溶かしたのち、純メタノールに2〜3日浸して完全に脱色し、次いで渡辺の変法による鍍銀染色を施した。結果はepithelioid cell strain13のうち11までがreticular fiber形成陽性であり(95%信頼限界54.55〜98.08%)、non-epithelial cell strainでは5つのうち2つが陽性である(95%信頼限界0.51〜71.64%)。検索したfibroblastic cell strainの数が少ないこと、epithelioid cell strainがliver originのものに偏り過ぎているきらいはあるが、"fibroblastic cell strainの方がepithelioid cell strainよりreticular fiberを形成するものの頻度が高い"と云えないことは明白である。そして若し、epithelioid、non-epithelioid各30sampleについて各々11/13、2/5という割合でcollagen産生が証明できたとすれば"epithelioid cell strainの方がfibroblastic cell strainよりもcollagen fiberを形成するものの頻度は有意に高い"と云うことが推計学的に可能になる。勿論、表題の問いに答える為、そこまで云えなければならぬわけではない。既にBB、BC、RLC-18(1)、RLC-18(2)、RLC-18(3)、RLC-18(4)と6つの肝細胞クローンが、その機能を有することは証明済みであり、加うるに横浜市大で樹立、クローン化された肝細胞株DL1の12のsublineもすべてreticular fiberを形成することが明らかになった。肝細胞株が培養内で形成するcollagen fiberがfibroblastのコンタミによることを裏付けるいかなる証拠があるであろうか。(鍍銀線維の出来方と分布の分類法、と結果一覧表を呈示)

 :質疑応答:
[遠藤]肝細胞のクロンが肝臓の機能を代表し得るということなのでしょうか。例えば培養の中で肝硬変を起こすというような事を狙っているのでしょうか。
[山田]今の所ではまだ形態的にみて、肝硬変に似たパターンをとるが本当の肝硬変は大分遠い所にあるのではないでしょうか。それから私の所見では、RLC-10(2)系が一番細胞が揃っていて肝実質細胞に近いように思っています。RLC-10(2)には嗜銀性センイは見られないのですね。
[佐藤]鍍銀染色をして線維が染まってくるまでに1カ月以上もの培養日数が必要だというのは、接種細胞数とは関係がありませんか。細胞数を多くまけば早く出てくるのではないでしょうか。それからA型とB型というタイプも接種細胞数によると思いますが。
[梅田]私もそう思っています。A型とB型は根本的な違いではなくて、接種細胞数の違いから来るものではないかと。
[山田]決定的に事を論じるには、矢張りクローニングをしなければなりませんね。
[高岡]当然クローニングをした系も多く使っています。RLC-18からはクロンを4コ拾っていますが、4コとも線維を作るという点では全く共通しています。そしてRLC-18は1コから増えた系でも、もとの原株と同じような模様の細胞シートを作るので不思議に思っています。又、クローニングしていない株でも継代法によっては、かなり均一な細胞集団になっていることもあるようです。しかし、ラッテの肝を材料にして同じ培養法で培養していても、樹立された原株それぞれには形態的な違いと特徴がありますから、なるべく数多くの株からそれぞれ代表的なクロンを拾いたいと思っています。
[勝田]クロンは、1コ釣という条件で増えやすい細胞ばかり拾ってしまう可能性もありますね。
[佐藤]私の所では長期間継代して悪性化した肝細胞系から1コ釣でクロンを拾って、色々な形態のものがとれています。

 :質疑応答:
《乾報告》
 Methylnitrosocyanamideによるハムスター胎児細胞の染色体切断、突然変異、形態転換:
 前月報(No.7607)でMNC投与によるハムスター胎児線維芽細胞のMorphological transformationの予備実験について報告した。MNCは班友の遠藤先生が発見され、バクテリアに強い変異原性、ラットの前胃に癌をおこす物質である。本報告では、MNCを使用し、ハムスター細胞に種々の変化を与えたので二三の知見を述べたい。
 実験材料と方法;
 (表を呈示)。実験には、培養2代目の細胞を使用し、MNNG、MNCを種々の濃度で3時間作用した。染色体標本は通常のAir-drying法で、薬品作用後24時間以内に作成した。残余の細胞を正常培地で3日間培養後、Transformation判定のためには、Feeder layerなしでシャーレ一枚当り、1000ケの細胞を播種、8日間培養後細胞を固定、染色観察した。8AG、6TG耐性変異コロニー選択のため、作用後72時間の細胞を、8AG、6TGを含む培地に50万個/シャーレ播種し、15〜20日同培地で培養後、変異コロニーを算定した。
 結果:
 MNNG、MNC投与後誘発された染色体異常の結果は(表を呈示)、MNC 2.5x10-5乗M、1x10-5乗M MNNG投与細胞群に明らかな染色体異常が出現した。上記濃度作用に表われる異常は、Chromatid-、Isochromatid Exchange及び染色体切断であった。異常染色体の出現は物質の投与量に相関をしめした。
 MNCはHamster Cellに明らかに強い毒性を示した。(表を呈示)MNNG、MNC投与による細胞のMorphological Transforming Rateは、MNC投与で対照の5〜20倍、MNNG投与で7〜17倍であった。又Transforming Rateは投与量に比して増大するが、投与量とTransforming Rateの間には、強い相関関係は認められなかった。
 (表を呈示)MNNG、MNC投与後の8AG耐性突然変異コロニーの出現率はMNC 1x10-5乗M、8AG 10μg/ml選択で変異コロニーの出現率は56〜76倍に増大し、MNNG 5x10-6乗Mで40倍の変異コロニーの出現が観察された。変異コロニーの出現率は、MNNG、MNCの投与量に比例して増大した。
 (表を呈示)MNNG、MNC投与後の細胞を6TGでSelectionした結果、変異細胞の出現の形態は、8AG Selectionの場合と略々同様であった。8AG 10μg/mlに比して、6TG 5μg/ml Selectinの場合、突然変異細胞の出現は著明に増加した。
 (表を呈示)MNNG、MNCを投与したハムスター胎児細胞に出現したMorphological transformation、Gene mutation、Chromosome aberrationの結果は、MNCは上記異常をMNNGと略々同様に誘起した。

 :質疑応答:
[吉田]Chromosome aberrationを高頻度に起こすような濃度で処理したのでは、細胞が死んでしまって変異までゆかないということですね。
[乾 ]そうです。

《山田報告》
 Indian Muntjac(いんどほえじか)の染色体;
 Indian Muntjac細胞の染色体の表面を検索すべく、その基礎実験を行いました。まずDoubling timeを約30時間と推定し、excess thymidine(final 2mM)を2回(9h、5h)そしてColcemidを1回(0.025μg/ml)接触させて分裂細胞を採取した所、1.6%(mitotic index)しか分裂像を採取し得ず、またthymidinの接触を延長した所(24h、11h)分裂細胞は4.5%にしか増加しませんでした。しかも分裂細胞像に著明な変化が出現し、thymidineはこの目的には不適当であることがわかりました。(図を呈示)Colcemidのみを作用させて得られた染色体数分布(対照)は7本に80%のピークがあり、excess thymidineとColcemidを作用させると6本のピークは50%に減り12〜13本に第2のピークが現れます。そこで改めて増殖曲線よりdoubling timeを求めた所(図を呈示)70〜83時間と云う長い時間であることがわかり分裂像を高頻度に得られなかった理由がわかりました。そこでこの次にはこの分裂時間に合せてcolcemidのみを用いて、その接触時間を調節することにより、高頻度の分裂細胞集団を得たいと思い計画中です。
 Spermineの細胞表面に與える影響;
 前回の班会議に於いて、Spermineの正常肝細胞への撰擇的破壊性とbovine SerumのfractionVがこの破壊性を促進あるいは抑制すると云う報告が医科研よりありましたので、以前に行ったSpermine等の細胞表面に與える影響についての実験成績をもう一度まとめてみました。(図を呈示)その類似物質であるSpermidine及びPutrescineはRLC-10(2)の表面荷電にあまり著明な変化を與えないが、Spermineのみが特有な変化を示すことを見出し、特に興味あることは、0.19〜0.65μg/mlの低濃度のSpermineがRLC-10(2)の電気泳動度を増加させることです(図を呈示)。しかもJTC-16(肝癌細胞)にはこの作用がなく、これはConA、PHAの作用とは逆の関係であり、この點について今後更に検討したいと思って居ます。さらに反応後に10%Calf serum及びbovine Serumを加えた所SpermineのJTC-16に及ぼす影響が消失して居り、この成績についても今後改めて確かめたい。特にRLC-10(2)について検討してみたいと思って居ます。以上この成績は以前に行った実験のまとめです。
 グルカゴン・インシュリンのRLC-16の電顕像に及ぼす影響(続);
 今回はRLC-16を用いた成績のみを報告します。グルカゴン(13μg/ml)およびインシュリン(10μg/ml)を24時間培養メヂウム内に添加した後に採取して電顕的に観察したものですが、全体としての変化はJTC-16にくらべて少ない様です。(表を呈示)グリコーゲン顆粒のみについてみますと、グルカゴン添加により顆粒密度が増加しましたが、インシュリンではあまり著変がみられませんでした。

 :質疑応答:
[榊原]RLC-10(2)には腫瘍性がありますから正常肝細胞の代表としては問題でしょう。
[永井]スペルミン添加で細胞電気泳動度に影響がある濃度は、培養結果では増殖に影響のない濃度ですね。
[乾 ]チミジンは染色体に影響がある事が判っているのですから、使い方をよく考えた方がよいでしょうね。

《佐藤報告》
 ◇ラット肝由来細胞のクローニングについて
既報のクローニング法によって分離、樹立された20系のクローンについて二、三の性状を検討した。なお得られたクローンは、RAL-5由来のものはAc6E、Ac2F・・・と、RNL-B2由来のものはBc10C、Bc6D・・・と、RAL-7由来のものはCc12G・・・と仮称した。
 (1)形態について。
 原株のRAL-5、RNL-B2は上皮性であるが、RAL-7は非上皮性と上皮性細胞の混合型である。得られたクローンは、全部、上皮性である。RAL-7からは、非上皮性細胞も、クローニングで分離されたが、数回の分裂後消失した。
 (2)増殖能について。
 クローニング2〜3ケ月後、増殖曲線を描き(ml当り1万個細胞を植え込み一週間培養)対数期で倍加時間を求めた。又、一部の細胞について飽和細胞密度を求めた。その結果、(表を呈示)1、2の例外はあるが、40時間〜50時間前後の倍加時間となった。飽和密度との関連についてはAc7Eの様に倍加時間の長いものが、低い飽和密度を示す例が認められた。又、ここにはデータはないが、細胞1ケからの分裂速度(クローニング時観察)と、細胞集団としての倍加時間との間にはかなりの差が見られた。
 (3)染色体分析
 まず原株RAL-5は2n=42に染色体数のモードがある。クローンは42にモードを有するグループと低四倍体のグループに分かれた。RNL-B2は二倍体域にモードがあるがクローンは、マーカー、トリソミーなどを有する偽二倍体細胞か四倍体域にかなり広く分布するものなどが認められた。RAL-7は42と46の二峰性である。クローンは非常に高い割合で42のモードが認められた。なお、これらの染色体については現在バンディング法によって確認中。
 (4)生化学的機能の検索
 各クローンについて、培養上清はα-フェトプロテインの検出(Radioimmune assayによる)、細胞についてはG-6-Paseを調べた。一部のクローンにα-フェトプロテイン陽性とも思える結果をえた。

 :質疑応答:
[吉田]染色体数をみて2倍体の頻度の高い系は、形態的にみても均一性があるように見えましたが、そうでしょうか。
[佐藤]そう言っても良いと思います。形態的にきれいに揃っている間は2倍体が多いのですが、形が乱れてくると染色体数も乱れてきます。
[吉田]ラッテの2倍体にも老化現象はありますか。
[佐藤]2倍体→2倍体とクローニングをしてゆくと3年位までは2倍体を維持できます。
[吉田]ヒトの場合は50代ですね。
[佐藤]ヒトでは2倍体から外れた細胞は消えてしまうので、2倍体を維持し易いのですが、ラッテは染色体変異を起こすと増殖系になるものが多いので難しいです。

《高木報告》
 ラ氏島細胞の培養におけるDNA合成細胞の同定
 No.7603では、6週齢のラット膵より単離したラ氏島の分散細胞を培養した場合、ブドウ糖1mg/ml存在下でH3-thymidineを4日間加えて4〜8%の細胞に取込みがみられることを報告した。このDNA合成細胞を同定する為autoradiographyを光顕レベルで検討したが、染色性に問題があり同定は不可能であった。ついで電顕レベルで検討したが、DNA合成細胞の数が少ないため同定は困難であった。しかし今回超高圧電顕が使用できるようになったので、これを用いて観察したところ、DNA合成細胞がB顆粒を有することをつきとめることができた。すなわち、6週齢のラット膵ラ氏島細胞を分散してブドウ糖1mg/mlの下にDM-153+10%FCS培地を用いて培養し、培養後2日目の"pseudoislet"の形成過程において25μCi/mlのH3-thymidineを培地に加えて12時間incubateした後0.5μの切片を作製してautoradiographyを行い超高圧電顕下に観察した。実験条件についてはさらに検討の余地があるが、スライドに供覧するようにH3-thymidineにlabelされた細胞にB顆粒を見出すことができた。
 ラット胸腺由来の線維芽細胞に対するethylmethanesulfonateの効果
 Ethylmethanesulfonate(EMS)をヒトおよびラット由来の細胞に作用させて効果を検討しているが、今回はラット胸腺由来の線維芽細胞に作用させた結果を報告する。生下直後のWKAラット胸腺をLD+20%FCSで培養し、培養開始後70日目の線維芽細胞にEMS 10-3乗Mを培地にとかして4日間作用させ、以後MEM+10%FCSで培養をつづけた。EMS除去後も細胞に著明な変化像など認められなかったが、培養とともに作用群は対照に比して良好な増殖を示すようになり、培養開始後198日(EMS作用後125日)目の現在、形態的には作用群に有意の変化はみられないが増殖では明らかな差異が認められる。mixed populationに作用させたので対照がselectionされた可能性もあり、これがEMSによる有意な効果とするにはさらに検討が必要である。

 :質疑応答:
[難波]EMSの処理はどの位の期間ですか。
[小野]10-3乗Mで4日間です。

《梅田報告》
 ドンリュウラット肝由来のDL1細胞はaflatoxinB1(AFB1)感受性が高く(月報7512)、C14-benzo(a)pyrene(BP)を用いた代謝の実験で、water-soluble metabolitesへの代謝能の高い(7606)性質のあることを報告した。さらにこの細胞はcloningを行なっていなかったのでcolonial Cloneではあるが2回続けてcloningを行なって20数ケのクローンを得て、その各クローンについてのC14-BP代謝能についての結果を月報7607で報告した。
 その後、C14-BP代謝能の結果と形態から性質の異なる7ケのCloneについて実験を進めることにした。今回の報告は、C14-BP代謝能を測定し、さらに直接BPを作用させた時の毒性をチェックし、同時にAFB1も作用させて毒性を調べ、結果を比較したものである。
 (表を呈示)Clone2、5は共に上皮性の細胞であるが、C14-BP代謝能は低く、BPの毒性の方は「0」で殆んど障害を示さなかった。Clone1は今回の測定ではやや低い値が出たが、BPの毒性は「0.5」で形態変化が認められた。Clone8以下はC14-BP代謝能も高く、障害も「1〜2」を示し形態変化も強く現われた。すなわち、小不整形核を有する多核細胞の出現と核の膨大化が特徴的であった。以上の結果より、C14-BPの代謝能と、BPの毒性とは大よそ平行関係にあることがうかがえた。
 一方AFB11μg/ml投与より上皮性CloneであるClone2、5も中等度おかされ、Clone20のようにC14-BP代謝能の高い細胞が特にAFB1にも侵されている例もあるが、BPの変化とAFB1の変化とはそれ程平行していないことがわかった。AFB1の形態変化の特徴は核の膨大化、核質の微細化、核小体の縮小化などであった。
 以上の結果より、Clone20のようなBP、AFB1共に感受性を示す細胞も得ることが出来たので、今後この細胞を使って実験を進める計画をしている。

 :質疑応答:
[難波]薬剤の処理時間はどの位ですか。
[梅田]3日間です。
[乾 ]Water-sol.metabolitesの産生とBPやAFB1の毒性の関係はどうなのでしょうか。
[梅田]BPの場合は平行してもよいのではないかと考えていますが。
[乾 ]クロン20はBPにもAFB1にも感受性があるという結果ですね。
[榊原]これらのクロンはトリプシンに対する感受性も異なるようですね。クロン20はトリプシンに対しても弱いようです。

《関口報告》
 人癌細胞の培養 2.ヒト神経芽細胞株SYMの樹立
ヒト神経芽細胞としては海外で7株、国内で4株の報告があるが、私は40回培養学会で報告したGOTO株に次いで、2例目のSYM株の樹立に成功した。
 患者病歴:2才5カ月の女児。1年前に発病。植込材料は昭和50年9月19日、右胸壁を占める主腫瘍の切除材料よりえた。患児の尿中VMA(vanil-mandelic acid)は19.2〜31.5mg/gCreatinin(40代正常値)であった。
 培養法:植込組織の処理には3法を併用した。(1)細切→Explant。(2)細切→pipetting。(3)細切→1,000U/ml Dispase消化60分。
 培養液は(a)80%DM-153+20%FCS。(b)80%DM-153+20%ヒト臍帯血清。
 (1)(2)、特に(2)からは細胞の生え出しは良好であったが(3)は不良であった。(a)(b)ともに細胞の生え出しがあったが、やや異った増殖形態の細胞がえられた。初め小シャーレ中にて炭酸ガスフランキ内で培養を行なったが、10代以後はTD-40に移し閉鎖系で維持した。(写真を呈示) FCSを用いた培養からは、小型多角形細胞で、互に接着し、シート状にガラス面にのびるSYM-I株がえられた。ガラス面への付着性はかなりわるく、継代後2〜3日間は細胞塊として浮遊している。位相差像では核はみえない。ヒト臍帯血清を用いた培養からは、細胞集塊として浮遊状に増殖するSYM-IIがえられた。
 生物学的性状:SYM-IIはtapping cultureで比較的良好な増殖を示す。このgrowth curveより計算したdoubling timeは約4日であった(図を呈示)。SYM-IIの6代目で調べた染色体数は66にモード(26%)があった(図を呈示)。
 異種移植実験では、ALG処置ハムスターの頬袋に腫瘍の形成をみた。組織像は、かなり典型的な神経芽細胞腫を示している(写真を呈示)
 生化学的性状:カテコールアミン系の酵素として、Tyrosine-hydroxylaseの活性は殆んどなく、カテコールアミン系の活性はほとんどないものと思われる。これに反してcholine acetyltransferaseの活性はかなり高く、cholinergicな性格の細胞であることを示している。

 :質疑応答:
[難波]継代後2〜3日はガラス壁に付かないそうですが、その間の細胞は1コづつバラバラになっていますか。それとも塊になっていますか。
[関口]塊になっています。それがその後ガラス壁に付着してきて増えています。
[山田]解剖材料をハムスターのチークポーチへ接種して膨れてきた所をとって培養したら、うまく増え出したという話もきいています。
[関口]人癌の培養の場合そういう方法も使えます。私もヌードマウスを使って同じような経験があります。

【勝田班月報・7609】
《勝田報告》
 §ラッテ肝細胞のAldolase活性:
 ラッテ肝培養の同定の一法としてAldolaseその他の酵素の活性の測定が重視されている。 目安として、F-1-6-Dep/F-1-P:の数値は生体では、肝は1〜10、Fibroblastsは50以上。培養細胞では、肝上皮培養1年以内は1〜10、以后は次第にその数値が大きくなる。肝由来でもFibroblastsは培養1ケ月でもこの数値は大きい。
 TAT活性(Tyrosine Aminotransferase):成体肝をCollagenase又はDispaseで潅流して採取できる初代細胞はTAT活性を持っているが増殖しない。株は成、乳、胎、何れの由来のものでもTAT活性は認められない(表を呈示)。

《難波報告》
 34:ヒト、マウス、ハムスター、ラット由来の細胞の4NQO処理後のDNA修復能と染色体の変化との関係
 ヒト細胞が培養内で発癌し難く、またAgingを来たして細胞の株化がおこり難いのに反して、動物の細胞は一般に癌化し易く、株化しやすい。従って、ヒトの細胞と動物の細胞との4NQOの作用の違いの解明が、細胞の癌化の機構を知る手掛りを与えるのかも知れない。
 今回は、人及び種々の動物の細胞を4NQOで処理した後、DNA修復能とクロモゾームの変化とを検討し、修復能の良いヒト細胞は、クロモゾームの変化が最も少ないと云う結論を得たので報告する。
 実験方法
 実験に使用した細胞はすべて全胎児由来の繊維芽細胞の形態を示す細胞である。動物はマウスはC3H、ラットはSD、ハムスターはSyrian系のものである。培養は、トリプシン分散で開始した。培地はMEM+10%FCS+10mM Hepas使用。そしてDiploid cell strainsのみ使用した。DNA合成能は10mM hydroxyurea(HU)で1時間細胞を処理後(正常のDNA合成を止め)HU存在下で10-5乗M 4NQO、1時間、4NQOを捨て、H3-TdR 1μCi/mlで4時間処理し、DNAの修復部分に入ったH3-TdRを液シン測定した。クロモゾームは対数増殖期にある細胞を3x10-6乗M 4NQOで1時間処理後、4NQOを捨て24時間後標本を作製した。
 結果
 4NQO処理後にみられる細胞のDNA修復能は図1にみられるように(夫々図表を呈示)、ヒト、ラット、ハムスターでは4NQO処理群の方に、H3-TdRが多くとり込まれている。4NQO未処理のものに比べ4NQO処理群にとり込まれる割合はヒトの場合が最も高かった。マウスでは4NQO処理後の除去修復はみられない。理由は不明であるが、10mMのHUで動物細胞の対照群への細胞の酸不溶性分劃へのH3-TdRのとり込みは完全に抑えられていない。動物由来の細胞が2n株であるものを実験に使用したかったので、ヒト細胞に比べ比較的培養日数の若いもの(1ケ月以内)を使用したためか、または動物細胞に存在する腫瘍性ウィルスの存在のためかも知れない。
 クロモゾームの変化(構造上の変化でBreaks、Gaps、dicentric etc)は、ヒト細胞で最も少なく、動物細胞の変化はいずれもっヒトの約2倍以上であった。

《高木報告》
 培養細胞に対するEMSの効果
 先の班会議でラット胸腺由来の繊維芽様細胞にEMSを作用させた場合、対照の細胞に対し形態的には著明な変化はみられなかったが、増殖率、Plating efficiencyともに上昇したことをのべた。染色体数については対照細胞の増殖がきわめておそいため分裂細胞が少なく正確な比較はできていないが、作用群の方がhypotetraploid、100以上の多数のものが多いようである。
 cloningした細胞を用いてこの実験を反復すべく努力しているが、ヒト由来の細胞はほとんど繊維芽細胞でcloningが難しい。先に膵癌の患者の腹水をModified Eagle's mediumで培養したところ、3ケ月を経て少なくとも形態的に2種類の細胞が継代されている。flatな細胞は癌細胞とは考えにくいが、これらの細胞のATS注射ハムスターに対する可移植性をたしかめた上で、非腫瘍性であると判ればEMSをはじめ他の発癌剤を作用させてみたいと考えている。その際にもcloningした細胞をできるだけ用いてみたい。
 ラット膵ラ氏島細胞の悪性化の試み
 5月の班会議でも話したように、膵ラ氏島に特に親和性の強い6DMAE-4HAQOを胎児に経胎盤に投与することを考えて、妊娠ラットの尾静脈から2mg/0.2mlを注射し、これを出産まで繰返した。8疋の妊娠ラットに注射したが、注射回数は2〜5回であった。注射が終了して現在まで約1ケ月を経過したが、2回以上注射したラットは体重の増加が悪く、毛並もよくない。5回注射したラットを剖見したが、肉眼的には、膵やその他の臓器に著変は認められなかった。
 また注射を2回したラットの仔について、生後3日目と7日目の膵の培養を試みた。即ち、膵を細切後、0.02%EDTAと持田のTrypsilin 200HUMを連続的に作用させ、magnetic stirrerを用いて処理して植込んだ。24時間後に浮遊細胞をdecantして培養をつづけた。培地は今回はDM153+20%FCSを用いた。生後3日目のラット膵では、decant後2〜3日より上皮性細胞からsheetを形成したがその数は少なく、繊維芽細胞の増殖が盛んにおこり、これを除く目的でcystine-free MEM+20%FCSを12時間および24時間作用させた。繊維芽細胞は変性をおこしたが、上皮性細胞の増殖も悪くなり、やがて再び繊維芽細胞の増殖が盛んになったので2週後に培養を中止した。7日目のラット膵では、decantして1日後に上記培地を作用させた。繊維芽細胞は変性したがホーキ星状の細胞は変性をおこさず残った。上皮性細胞はその形態からラ氏島細胞と思われるが、2週後の現在sheetはわずかにひろがりつつある。(膵癌患者の腹水の培養からえられたflatな細胞と、小型で短紡錘形の細胞とflatな細胞の混合集団、どちらも培養63日目の顕微鏡写真を呈示)。

《梅田報告》
 われわれの培養している肝由来の細胞が、いくらかでも起源である肝組織の機能を保持していることが望ましいので、培地中のα-feto-protein(AFP)とalbumin(ALB)産生を北大塚田先生に測定していただいてきた。今回は血清の違い、いろいろの処理によるこれら蛋白の産生について報告する。細胞は今迄度々報告してきたJAR2由来のBB、BC株、呑竜ラット由来のDL1株である。培地はF12に10%の割で血清を加えたものである。
 (1)先ずわれわれは各種血清を用いるので、その違いによる産生状況について調べる。200万個cells/5cm dishの接種数で細胞をまいた後、1週2回培地交新を行ない、6週間培養した時の各used mediumのAFP、ALBを測定した。(表を呈示)表に示すように仔牛血清2 lot、胎児牛血清1lotで調べた所、BBはAFPを産生しやすく、BCはALBを産生することがあり、DL1はALB産生のあることがわかった。しかし、全体に血清により産生が異なり、一定の傾向は認められなかった。
 (2)次に200万個cells/5cm dishの接種数で、CS(医科研7424)を20%にして産生を調べた。この条件では、3細胞共にこれら蛋白の産生は認められなかった。この20%で培養した後にSerumlessにした時のAFP、ALB産生を調べたのが表2である(表を呈示)。この時F12は正常のものとarginineの入っていないF12を用いて実験した。各細胞夫々2回の培地交新時のserumless培地中のAFP、ALB産生量を示した。表から明らかなようにAFPはserumlessにすると明らかに産生が認められるようになる。おしなべてarg-培地の方が産生が高かった。
 (3)以前からAFP、ALBの産生が、4NQO処理時に認められることを報告してきた。発癌剤も含め何らかの刺戟で之等蛋白の産生が誘導されると想定して以下の条件で実験を行った。4NQO処理、AFB1処理、Phenobarbital処理、benzo(a)anthracene処理、cAMP 5mM +thephyllin 0.1mM処理である。これら処理後培養を続け、培地は3回の交新時のもの迄測定した。
 結果はBC細胞で4NQO 10-6乗M処理した時にAFP 23ng/mlの産生が、DL1細胞aflatoxinB1 0.32μg/ml処理した時にAFP 21ng/mlの産生が認められた。その他の処理ではすべてAFP、ALBの産生は認められなかった。発癌剤がこれら蛋白に何らか関与しているらしいこと、普通のenzyme inducer処理では本蛋白はinduceされないことが判った。今後更に別の条件でのAFP、ALB産生を測定する計画である。

《乾報告》
 MMNGを使用したハムスター繊維芽細胞のFocus Assayの試み:
 コロニーレベルでのTransformationには、Colonyの判定の問題、播種細胞数に比して、Transformation Rateの異常に高いこと等の問題がある。3T3、或いは10T1/2等、Contact inhibitionの非常によくかかる細胞を使用して、Focus形成を指標に、細胞の悪性化に関する研究がなされているが、これらの細胞はいづれも正常細胞でなく、又細胞系の維持も困難である。
今回Transformaed細胞の血清要求性を選択の指標に、Hamster Fibroblastを使用して、Focus Assay Systemを検討したので報告したい。
 実験方法と材料;
 実験材料として、培養3代目のHamster Cellを使用し、1万個/mlの割合でTD-40に播種後、24時間、5〜50x10-7乗MのMNNGをMEM+10%中で3時間作用した。3時間後MNNGをHanks液で洗滌、正常培地で培養を3日間続けた。培養3日目、それぞれの細胞を、血清1.2、2.5、5、10、20%添加したMEMに浮遊し、5,000コ/6cm dishシャーレに播種、同培地で、週2回Medium Changeを行ない、5週間培養を継続、固定、染色後、形成したFocusを算出した。
 結果;
 MNNGを投与した細胞の5週間培養後形成されたFocusを次表に示した(表を呈示)。血清濃度1.2%ではFocusは形成されなかった。2.5%血清添加では、1x10-6乗M、5x10-6乗M MNNG投与群で、Focus形成がみとめられたが、形成率は非常に低かった。10、20%血清添加群ではFocus形成は著明に増加するが、対照群にもFocusが形成された。
 5%血清添加群では、対照群ではFocusは形成されず、MNNG投与群で0.40、0.33、0.33ケのコロニーが形成された。以上の結果より血清濃度5〜10%で適当にSelectionすれば、HamsterCellによるFocus Assayが可能であるかも知れない。

《榊原報告》
 §培養肝細胞の細網繊維形成:
 7月の班会議で、正常ラット肝由来上皮様細胞株11のうち、唯一の例外を除いてすべての細胞株が鍍銀(又は細網)繊維を形成することを報告した。その例外はRLC-10(2)であるが、この細胞株は可移植性があり、"正常"とは云えないにせよ、微細形態学的に肝実質細胞の特徴をよく備えているとのことであり、しかもクローン化されている。今回は結果の再現性をRLC-10(2)について検討すべく、Giemsa染色標本からの戻し鍍銀染色ではなく、タンザク上に培養された細胞を経時的にメタノール固定し、直ちに鍍銀染色をほどこした。其の結果は案に相違して、培養32日目の標本で明らかに細網繊維が染め出された(写真を呈示)。繊維の形成は他の場合と同じく、局部的に始り、次第に培養全体へと拡がってゆき、結節を取り囲むようなパターンをとる。
 一方、cloneBCのsister cloneBBが、最近になって膠原繊維形成陽性となったことも報告したが、培養初期に果して繊維形成がなかったと云えるかどうか、改めて疑問に思い、梅田先生にお願いして、凍結されていた培養18代目のBBcellをいただき、タンザクに播いて44日間培養後、鍍銀染色を行った。その結果、非常に限局された部分のみではあるが、細網繊維は矢張り形成されていた(写真を呈示)。但し最近のBBcellと異って繊維の所謂、膠原化は認められなかった。
 又、7月の班会議では結果を示すことのできなかった、横浜市大で樹立された肝細胞クローンDL1-20についても、細網繊維形成は明瞭に示されたことを附記しておく。
 前回及び今回のデータから、少くとも細網繊維形成能に関する限り、肝由来培養上皮様細胞株は凡てこれを有していると想像される。そして検索した株の一部は、細網繊維のみか膠原繊維をも形成する。細網繊維は正常の肝組織Disse腔に常在するが、何らかの機転でこれが、膠原繊維にまで発育、増加を続けるようになった状態が、肝繊維症であり、構造の改築をきたす迄に進展した状態が肝硬変症である。肝細胞によるコラーゲン蛋白産生の調節機構が、In vitroの系で解明されるなら、肝硬変症のpathogenesisも明らかになるであろうし、ひいては治療法の開発にもつながりはしないかと、想像は飛躍せざるを得ない。

《山田報告》
 細胞表面の性質と染色体との関係を解析するために、正常ラッテ肝由来のうち、Marker chromosomeの出現したRLC-21株のcolonial cloning株を多数作り検索中です。いまだ途中ですのでデータのみを報告します(図を呈示)。

【勝田班月報・7610】
《勝田報告》
 Tapping Culture:
 新しい浮游培養法"Tapping culture method"を用いて色々な細胞の浮游培養を試みた。その一部を紹介する。
 結果は、1)静置培養で硝子壁への附着性の少ない細胞はTapping culture内での増殖率が高い。2)腹水肝癌系の細胞はいずれも、従来のmagnetic stirrer法よりもtapping法の方が増殖率が高い。3)合成培地内継代株は多くの株が浮游せずに、硝子面に附着して増殖する。血清を添加して培養すると浮游する。硝子壁をsiliconでcoatすると、細胞は浮游するが、増殖しない。4)吉田肉腫細胞は初代培養でもtapping culture内でどんどん増殖する。
 Tapping culture法では細胞障害も少なく(エリスロシン法)、液も泡立ちがすくないので、従来の方法よりも遥かにすぐれている。(増殖曲線図を呈示)
我々はこの方法に"Snoopy Culture"というnick nameを与えた。

《難波報告》
 35:ハムスター肝由来の上皮性細胞の増殖に対するDexamethasoneとInsulinとの効果
 ハムスターの肝細胞の培養株を作るために、12/16/75に生後2日目の♂のハムスターの肝臓をとり、トリプシンで処理して培養を開始した。培地はMEM+10%FCSに4.2x10-6乗Mデキサメサゾン(Dex)を含むものを使用。培養はラット肝細胞の場合と異なり、(写真を呈示)写真に示すように増殖した繊維芽細胞の中に島状に上皮性の細胞が増殖してくる。培養27日、4代目の細胞(繊維芽細胞と上皮細胞との混じたもの)の増殖に対するDex.の効果をみると、4.2x10-5〜4.2x10-7乗Mの濃度で細胞の増殖阻害はみられなかった。培養126日、5代目の細胞をシャーレにまき、継代2日後に上皮性のコロニーを1枚のシャーレあたり8〜10コマークして写真をとり、1枚のシャーレには4.2x10-6乗M Dex.、別のシャーレには4.2x10-6乗M Dex+1u/ml Insulinを加え、週2回同じ培地で液更新を行ない、15日目にマークした。同じコロニーを写真にとり、上皮性コロニーの増大率を検討した。その結果図に示すようにDex.を加えないMEM+10%FCSのみでは、上皮性のコロニーは増殖が非常に悪いことが判った。その後、上皮性のコロニー部分のみを8コ クローンして繊維芽細胞を分離しようと試みた。現在までの成績では上皮細胞のみを分けると、上皮細胞の増殖が非常に悪く、ある程度増殖した後、増殖しなくなり、やがて徐々に死亡してゆく。ハムスターの上皮性細胞の増殖は繊維芽細胞との共存で維持されているように思える。目下上皮性細胞のみの分離と、その増殖可能条件とを検討中である。(写真、図を呈示)

《山田報告》
 RLC系、培養株のtumorgenicity;従来電顕及び細胞電気泳動法及び染色体について調べて来たRLC系培養ラット肝細胞Tumorigenicityについて、しらべて来ました。今回そのうちRLC-18がHost rat JAR-2にI.P.移植後56〜66日目にI.P.に腫瘤を作りました。腹腔内及び腹膜、横隔膜、前腔壁に著明な浸潤性発育を示す癌腫を6/8例に形成しました。他の四系は、現在の所全く腫瘤形成の傾向はみられません(図表を呈示)。
各系の移植後のJAR-2の生存日数と、その使用頭数は図2に示します。腹腔内で増殖した細胞(RLC-18)の電気泳動度を検索したのが図1ですが、その細胞のばらつきの程度はあまり変りませんが表1に示すごとくその平均泳動度はかなり高くなりノイラミニダーゼ感受性はかなり増加しました。腹壁の筋肉内に浸潤した腫瘤をみるとあまり特有な構造を示さない部分もありますが、この写真にみるごとく、多少索状に配列する部分があり、heptocarci-nomaと思います。少なくとも肉腫ではない様です。このRLC-18は樹立後893日(去年の12月頃)の時点で、その染色体がhyperdiploidからhypotriploidへ移動した様ですが、その時点ではmarker chromosomeは出現していません。

《梅田報告》
 ラット肝・腎の初代培養に臓器毒性を示すマイコトキシンを投与した実験の結果を示す。 (1)AflatoxinB1(AFB1)、(-)luteoskyrin(LUT)、sterigmatocystin(STC)は肝発癌性が、証明されている。(AFB1、LUTについては大部前に報告している。) OchratoxinAは肝臓毒であるが発癌性は証明されていない。又腎臓毒でもある。ChaetoglobosinA(CGA)はcytochala-sinsの一種でMicrofilamentの障害が考えられている。Citrinin(CTT)は腎臓毒である。生後4〜5日のラット肝或は腎を0.05〜0.025% collagenase処理して得た細胞を培養した。
 (2)肝培養では増生してくる細胞は肝実質細胞(LPC)、内皮様細胞(ELC)、中間細胞(IMC、これはkupffer細胞と思われる)である。表1に夫々のマイコトキシン投与した際の各細胞の障害度を示した。Dは殆んど障害のないもの、4は細胞が完全に変性剥離したもの、1から3は順次障害の強くなったものを示してある。(以下、夫々表を呈示)
 AFB1、LUT、STCではLPCの障害がELC、IMCのそれよりも強かった。CGA、OTAでは、障害性の差は認められなかった。CITでは内皮様細胞がより強く冒された。
 ここで興味あることは、AFB1、STC投与の際、ELC、IMCの細胞もHeLaとか、次に述べる腎細胞より強く冒されていることである。すなわち、HeLa細胞には3.2μg/ml以上で増殖阻害が認められるようになるのに、肝培養のELCは0.32μg/mlで強い障害を受けている。
(3)腎培養を行なうと各種の上皮細胞が増生してくる。同定は困難であるが、一応形態的に見分けのつく細胞群を3つにわけて観察した。すなわち、上皮性のsheetを作って増生してくる中等大細胞をEpi(1)、このEpi(1)のsheetの中に塊を作って増生してくる小型細胞をEpi(2)、より小さい細胞より成り、中心部は塊を作って盛り上るように増生する細胞群をEpi(3)とした。
 又腎培養では正常の塩類濃度の2倍濃い培地で培養しても残存する細胞があるが、これは形態的にはEpi(1)が主で、一部Epi(2)が生き残るように観察された。
 表2に示すように、AFB1、STCでは細胞間の障害差は無く、しかもこれらマイコトキシンでは肝培養で障害を与えた濃度の10倍以上の3.2μg/mlでも障害を与えていなかった。
 CGAではhypertonic mediumにした時著しく障害性を増していることが興味あった。このことは細胞が外部の高張性に対し当然起る水分の脱失をmicrofilamentの作用で抗していることを示唆している。
 CITでは肝に投与した時にも見られたように、上皮性細胞が(特にEpi(1)が)より障害を受け難いことがわかった。またhypertonic mediumで生き残るEpi(1)(2)と、isotonic mediumでのEpi(1)(2)の障害性を比較すると、hypertonic mediumの方がより障害を受けていた。
 OTAでは上皮細胞が繊維芽細胞よりより強く障害を受けていたが、差は小さく、この程度の差で腎臓毒性が説明されるかどうか疑問であった。

《高木報告》
 培養細胞に対するEMSの効果
 先の月報でものべたEMSを作用っせたSRT細胞(suckling rat胸腺由来)と無処理の対照細胞につき、無処理110日目に100ケの細胞についての染色体数を算定すると図の如くなった(図を呈示)。
 無処理の対照細胞では2倍体の細胞が62%を占め、残りの38%はすべて76〜84本の間の、hypotetraploidであるのに対し、EMS処理細胞では2倍体は35%で、100本以上のpolyploidが30%あり残りの35%は74〜82本の間のhypotetraploidであった。すなわち、処理細胞を対照細胞と比較すると、形態には著明な変化は認められなかったが、増殖率が良く、染色体数のバラツキが大きいことが分った。移植成績についてはATS処理ハムスターcheek pouchに200万個の細胞を接種して観察中である。
 新たにsuckling ratの胸腺よりとった細胞に、EMSを同様に処理して観察をくり返すとともに、cloningした細胞に対する効果をみるべくRFL細胞株(ラット肺由来)と上記の対照のSRT細胞のcloningを試みているが、RFL細胞については数種のcloneがとれた。これは単一細胞より出発したcloneである。染色体数、可移植性を確かめた上で実験に供したい。

《乾報告》
 妊娠ハムスターにAF2経口投与による胎児細胞の突然変異:
 昨年、妊娠ハムスターの腹腔にAF-2を注射し、胎児細胞に染色体異常、8-Azaguanine耐性突然変異、Transformationが起ることを報告しました。
 癌原性化学物質が、人体に作用する経路は、主として経口、或は経呼吸器であるので、AF-2を2〜100mg/kg経口投与し、胎児細胞の突然変異を見ました。
方法は、妊娠11日目に胃ゾンデを使用して、AF-2を投与する他は、前回迄とまったく同様です。
 (以下夫々に表を呈示)表1、2にAF-2投与後、胎児細胞に現われた、8AG、6TG-耐性突然変異を示しました。表で明らかな様に、変異コロニーは、投与量に依存して出現しました。2mg/kgで変異誘導がみられることは、日本人が過去10年間、1mg/day/Man平均AF-2を摂取していたことと考え合わせると、約1日量の1/51回で胎児細胞に異常がおきております。
 表3に、絶食後のハムスターに同様AF-2を経口投与した後に出現した変異コロニー数を示しました。表で明らかの様に突然変異コロニーの出現は絶食により急激に減じます。
 この結果は、胃中のpHの変化でAF-2が活性を失なうのか、又低pHで活性化酵素の活性が落ちるか、又は胃中バクテリヤの活動に関係しているか、今の所わかりませんが、日本人が長期AF-2を使用していただけに、今後AF-2に関する代謝の研究は必要と思われます。
同時に異常染色体の出現もみていますが、まだDataがまとまっておりません。しかし10mg/kg投与で染色体異常は出現しない様です。
 こと事からTransplacental in vivo-in vitro conbination chemical mutagenesis or carcinogenesisは、Bioassayとしてもかなり感度の高い系と考えられます。
 同系を使った標的臓器の解析と、Back transplantationの仕事の方も、ようやく一すじの明光がみえて来ました。In vivo-transplacental carcinogenesisと、この系の標的臓器は略々一致するようです。次の班会議ではその報告が出来ると思います。

《榊原報告》
 §RLC-18 cell tumorの病理組織像:
 医科研癌細胞研究部で樹立された正常ラット肝由来上皮様細胞株のうち、in vitroでの膠原繊維形成が最も著明なRLC-18cellを、同系ラットの皮下に移植して生じたtumorの組織像について報告する。RLC-18は成熟JAR-2ラットの腹腔に移植すると200日前後で宿主を殺すことが既に分っているが、今回の材料は皮下移植後、同部に生じたtumorとして高岡先生より組織学的検索を依頼されたものである。tumorの大きさは2.5x2.0x1.5cm大、非常に硬く、ヒトの子宮筋腫に似た感触である。割面は白色均質、中心部に出血を伴わないnecroticなareaがある。被膜はないが、周辺組織とはsharpに境されていた模様である。組織学的には間質に多量の膠原繊維を有する低分化型の肝癌と考えられ、写真1はそのH.E.染色像、写真2は鍍銀染色像である(写真を呈示)。
 一般にラット肝由来の低分化癌は写真の如く立派な索状配列を示すcarcinomatous ele-mentと、一見sarcomatousなelementが混在し、carcinosarcomaかと迷うものが多い。だがRLC-18cell tumorはこの細胞がcollagen産生能を有することが明らかである故に、こうした迷いの対象にならない。sarcomatousに見えてもそれは上皮性性格をもち、而も腫瘍間質の形成に関与していることが推定できるからである。

【勝田班月報:7611:ラッテ肝細胞のDENによる悪性化】
《勝田報告》
 §ラッテ肝細胞のヂエチルニトロソアミン(DEN)による悪性化
この実験にはJAR-2系ラッテ肝由来のRLC-23を使った。培養を開始したのは1974年10月20日である。
 (表を呈示)DEN処理は、継代2代総培養日数21日〜28日までの間、培地中に添加した。濃度は50μg/mlと100μg/ml。
 悪性化の検討としては、染色体分析、ラッテへの復元、CCB添加による多核形成をみた。
 染色体の分析は培養5カ月、21カ月に行った。結果は(図を呈示)、培養5カ月には対照群とDEN 50μg/ml処理群は染色体数の最高頻値は42本であり、核型も殆ど正2倍体を維持していた。しかしDEN 100μg/ml処理群は染色体数の最高頻値が40本に移行していた。21カ月後には対照41本、DEN 50μg/ml群40本、DEN 100μg/ml群は3倍体付近へと移行した。
 形態的にみると、50μg/ml処理群はかってのなぎさ変異細胞JTC-21に似た形態に変化していたが、100μg/ml処理群は対照群と見分けのつかない上皮形態を保っていた。しかしこれら各群をサイトカラシンB1μg/mlを含む培地で6日間培養して、顕微鏡映画撮影とギムザ染色によって観察すると、対照群は殆どの細胞が2核でとまったのに反し50μg/ml処理群、100μg/ml処理群は異常分裂をつづけて多核となった。
 ラッテへの復元は培養約22カ月に生後4週のJAR-2ラッテ皮下へ接種した。接種後3カ月を経過した現在、50μg/ml処理群は4匹とも小豆粒大から鶉の卵大の腫瘤を形成し、100μg/ml処理群も2匹とも小豆大の腫瘤がふれる。これらに反して対照群2匹には全く異常が認められなかった。復元成績はもう少し長期間にわたって観察をつづけ、又出来た腫瘤の組織像も調べねばならないと思っている。

 :質疑応答:
[佐藤]1週間添加し続けたのは、何か理由がありますか。
[高岡]DENが培地内でかなり安定だという事と、細胞に対する毒性が非常に低くて100μg/mlの添加でも殆ど障害を受けなかったので、添加を続けました。
[乾 ]以前やっておられた実験では1mg/ml位の濃度ではなかったでしょうか。
[高岡]株細胞での実験では10mg/mlの高濃度で細胞が死に始めたので500μg/ml、1mg/mlという濃度を使ったのですが、今度は培養初期の処理なので薄い濃度にしました。
[吉田]サイトカラシンBを添加すると癌細胞が多核になるのは何故でしょうか。
[梅田]アンカープロテインの量の差によるのでしょうか。
[吉田]そこが面白いですね。
[乾 ]ミトコンドリアに対する影響はどうでしょうか。
[翠川]判っていないでしょう。現在の知見としては膜に先ず作用することと、マイクロチューブルに作用することですね。
[梅田]この種の物質の多核形成は、細胞によって経過が違います。分裂後の融合もあり、多極分裂もありますね。

《高木報告》
 培養細胞に対するEMSの効果
 培養70日目のラット胸腺由来細胞にEMS 10-3乗M 4日間作用させた実験についてこれまでの成績を報告します。
 EMS処理後90日頃より処理細胞が対照細胞に比し増殖がよいことに気付いたが、124日目の増殖曲線では対照細胞は7日間で2倍であるのに対し、処理後細胞では11倍の増殖を示した。形態的に著変はみられなかったが、処理後180日目に調べた染色体数の分布では両者間に差異がみられた。すなわち対照細胞では2倍体が62%で残りは低4倍体に分布しているのに対し、処理細胞では2倍体が35%で100本以上のものが30%、残りが低4倍体であった。処理200日後に160万個の細胞をATS処理ハムスター頬袋に接種した。対照細胞では2〜3mm程の腫瘤を形成して6日目にはregressしたが、処理細胞では腫瘤は6〜7mm径まで増大し、10日をすぎてregressした。従って本移植実験でみる限り両者の可移植性にやや差異が認められたが、EMS処理細胞の腫瘍化がおこったとは未だ云い難い。なお処理後200日で調べた増殖曲線では、対照細胞は8日間に7倍と可成りの増殖を示すようになり、これに対し処理細胞は12倍と前回と殆んど変りなかった。saturation densityは対照、処理細胞それぞれ23,000コおよび32,000コ/平方cmであった。なおこの実験ではEMS 10-3乗Mを用いたが、これは50%colony形成抑制濃度が10-3乗M前後と思われるからである。しかしsubconfluentなcell sheetにこの濃度を作用させた場合には、細胞の変性像は殆んど認められなかった。さらに濃度を変え、細胞を変えて実験を重ねている。
 DMAE-4HAQOによる膵ラ氏島腫の発生について
 7606にのべたように妊娠ラットの尾静脈より、出産まで3〜5回10mg/kgを投与した。出生後32日目のラットを剖見したところその1匹の膵に腫瘍の形成を認めた。組織学的にラ氏島由来と考えられる。また出生3ケ月後のラットについても剖見を試みたが肉眼的には膵に著変はみられない。切片の作製を急いている。

 :質疑応答:
[翠川]生後10日と生後3カ月の膵ラ氏島の大きさの違いといっても、それぞれ大きさのバラツキがあるでしょう。
[高木]勿論バラツキはありますから平均的な大きさをお見せしました。
[山田]ラ氏島腫の場合、インシュリンの分泌はどうですか。
[高木]分泌しています。
[吉田]ラッテの細胞ならラッテへ復元する方がよさそうに思いますが、ハムスターへ復元されたのは何故ですか。
[翠川]この場合は本当に可移植性の悪性腫瘍になっているかどうかは問題ですね。ハムスターの頬袋では膨れても、同種同系に復元して腫瘍ができるかどうか。

《山田報告》
 ラット培養肝細胞株の染色体及び電気泳動度の経時的変化:
 ラット正常肝由来培養株RLC-16、-18、-19、-20、-21の経時的な染色体及び細胞電気泳動度の変化をまとめて、中間報告します。
 比較的よく両者が平行して変化したのがRLC-21です(図を呈示)。(この系のみにmarker chromosomeが出現しています−既報)すなわちRLC-21は培養後100〜130日目の頃染色体はdiploidに80%以上もあり、その電気泳動度も比較的均一でしたが、800〜900日目にその構成にバラツキが出現しており、この性質は染色体と電気泳動度の両者に平行しています。1154日では両者のバラツキがさらに著しくなりました。
 RLC-20は(図を呈示)773日目に染色体数がバラツキ、これよりややおくれて1023日目に電気泳動度もバラツイて来ました。879日目に再びdiploid周囲に染色体が減少したのにつれて1038日目に電気泳動度も再び均一になりました。
 この二系はよく両者の成績が平行した例ですが、残りのRLC-18、-16、-19は染色体測定と電気泳動度の測定時期が必ずしも対応出来ませんので現在得られている成績を示すに留めます(図を呈示)。
 次ぎにRLC-21から多数のクローニング株を作り検索中です。今回は電気泳動度の差とConA 2μg/ml処理後の変動についての比較した値を示します(図を呈示)。その構成純度もConAに対する反応性も細胞系により異りますが、この性質と染色体の成績及びその細胞形態について次回にまとめて報告します。

 :質疑応答:
[佐藤]ラッテの肝由来の培養細胞の染色体は私達も随分調べましたが、たいてい400〜600日位培養すると2倍体から崩れてしまいます。この培養株の場合、数は42本でも核型は正2倍体ではなくなっているのではありませんか。
[角屋]系にもよりますが、500〜700日培養しても42本の核型はほぼ正2倍体でした。
[吉田]42本が一度崩れて又42本になるというのは、どういう機構によるのでしょうか。或いは始めのは正2倍体で後のは違うのでしょうか。しかし又テラトーマで長期間継代されていたものが、正常な組織を発生し得るという話もありますね。それなどは正常性も保持しながらテラトーマとして継代されていたということでしょうか。
[山田]ヒトの場合ですと、テラトーマというのは本当の腫瘍なのか奇形なのか問題だと思いますよ。
[翠川]腫瘍性はありますよ。
[山田]しかしin vitroでの単一な細胞集団とは違うでしょうね。

《永井報告》
 ラッテ肝癌細胞AH-7974の毒性代謝物質
 ラッテ正常肝細胞に細胞毒性を示すラッテ肝癌細胞AH-7974の毒性物質については、これまでに比較的低分子の物質で、耐熱性、耐アルカリ、耐酸性であることがわかっています。又、強酸性イオン交換樹脂Dowex50に強く吸着し、4Nアンモニアで溶出される劃分に強い活性が現われ、弱酸性イオン交換樹脂Amberlite IRC-50でも0.6N HClで活性分劃が得られることから、本物質は強塩基性の物質と考えられる。この活性物質の単離精製を試みていますので現在の研究状況を報告いたします。
 Amberlite IRC-50で得られた劃分をDowex50にかけて、脱塩し、水洗後4Nアンモニアで溶出する。溶出液を濃縮後再びDowex50により同様の操作をおこなう。この際に樹脂に吸着しない劃分(F-1)と4Nアンモニア溶出劃分(F-2)を各々毒性試験しました(表を呈示)。
 樹脂に吸着されない劃分にもかなりの活性があることがわかりました。F-2劃分をTLCで調べたところ、ニンヒドリン陽性物質を8〜9スポット検出した。この中にはAla、Leuに一致するスポットがみられたが、これらはAmberlite IRC-50により完全に除去されていなかったものと思われる。次にこのF-2劃分をセルロースカラムクロマトグラフィー(溶媒:n-BuOH-HOAc-H2O)により分劃した後のTLCの結果は(図を呈示)、F〃-1劃分に強い活性がみられていることがわかりました。この劃分にはLeu、Valに相当するスポットがみられます。またF〃-6〜F〃-8劃分で、試験の前に高圧滅菌をおこなった場合と濾過滅菌の場合に差があることがわかり、熱安定性について再検討する必要もあると思われます。
 F〃-1劃分の残りを再びカラムクロマトグラフィー(溶媒;n-AmOH-Pyr-H2O)にかけ、分劃し、毒性試験したところ、(表を呈示)F〃-3に強い活性がみられた。この劃分にはTLCでLeuとさらにもう一つの未知のニンヒドリン陽性物質がみられました。この物質が毒性物質であるかはさらに精製し、検討する必要がある。
 以上に述べたように、分劃によって活性の高い劃分も得られた反面、活性の劃分が分散している傾向がみられ、又精製の回数を多くした割に比活性が上がらない事等が問題点として残った。

 :質疑応答:
[高岡]最終的なもののスポットはロイシンと何かが混じっているのですか。それともロイシンに似た何かなのですか。
[新村]混じっているようです。

《加藤報告》
 インド・キョン細胞の培養
 1976年3月4日、班員によってIndian Muntjac(♂)の耳の皮膚より得られた細胞は、直ちに初代培養を行ない、その後継代4代目に50%conditioned medium(2日間培養した培地を遠心して上澄使用)を用いて、コロニー形成のための少数培養を行った。約一カ月後、できたコロニーから、トリプシン濾紙で細胞を拾い、やはり50%conditioned mediumで1ケ月間培養し、ほぼ均一な線維芽細胞のcolonial cloneを得た。そのうち形態の異なる3種類のcloneが現在まで維持されており、それぞれMm-14/cl1、Mm-14/cl5、Mm-14/cl6と呼ばれている(写真を呈示)。
 培養条件は5%炭酸ガス、95%空気からなる混合ガスの解放系で、10%または15%の牛胎児血清(GIBCO)を含むHamF12(日水)を使用、容器は35mm及び60mmのFalconプラスチック・シャーレを用いている。培地交換は1日おきに行なひ、8日毎に1枚のシャーレを5枚に継代している。継代時のcell densityは20〜30万個cells/φ60mmである。
 得られたcloneのdoubling time(D.T.)は、mixed populationの細胞の50〜60時間に較べ、かなり短かい。D.T.は血清濃度の影響をうけ、10%では約40時間、15%ではおよそ30時間であった。更に15%の血清濃度で毎日培地交換することによって約20時間に短縮された。
 それぞれのcloneにおける2n染色体の比率は(表を呈示)、cl1については99%と特にその比率が高い。またcl1はconfluent stateに達したのちしばらく放置しても正常の形態を崩すことなく、浮遊してくる細胞もほとんどないことからcontact inhibitionのかかり易い細胞であると考えられる。
 9月20日現在、cloningから6代目の細胞を維持しているが、growth rate、核型ともに大きな変化はみられない。

《乾報告》
 経胎盤In vivo-in vitro combination chemical carcinogenesisにおける標的臓器の解析−1−
昨年来行なっている経胎盤的に化学発癌剤を投与して胎児細胞を培養、Transformationを観察する系を使用して、経胎盤in vivo carcinogenesisの発癌標的臓器の比較を、Morphological transformation、Mutation、Chromosome breaksを指標に行なった。
 使用した発癌剤はin vivoの実験で、肺がTargetであるBp、肝の血管腫を作るDMN、脳、及び神経系がTargetであるMNUを使用し、100〜200mg/kgの薬剤を妊娠11日目のハムスターに投与、24時間目に胎児を摘出、従来の方法で、Transformation、Mutation、Chromosome breaksを観察した。
 (各々表を呈示)Bp 200mg/kg投与ではTransformationは肺に高率に出現し、肝、腎ではほとんど表われなかった。Mutation、Chromosome aberrationも略々同様の結果が表われin vivoのTargetと一致した。
 DMN 200mg/kg投与の結果は、Transformation、Mutation、Chromosome aberration共肝起原細胞に明らかに高かったが、第2のTargetである腎起原細胞には、これらの変化がほとんど表われなかった。
 MNU 100mg/kg投与では、細胞変異は脳由来細胞に著明に高く出現した。
 以上の結果を綜合してみた。問題点として、肺、肝、腎、脳等を培養した場合、培養されてくる細胞は、実質細胞は少なく、多くの場合、線維芽細胞様の細胞である。したがって、標的臓器を解析する場合出来る限り多量初代培養を行なって、解析をつづけていきたいと考えている。
 結果:
動物で経胎盤発癌実験とIn vivo-in vitro transplacental assay法の標的臓器を比較する目的で、妊娠ハムスターに、Bp、DMN、MNUを投与し、胎児臓器を培養して次の結果をえた。
 1.Bp200mg/kg投与群では、morphological transformation、mutation、Chromosome breaks共に肺起原細胞で著明に高く、腎、肝及び脳由来細胞では、その出現頻度は低かった(In vivo実験と同結果)。
 2.DMN 200mg/kg投与群では、Transformationは肝起原細胞のみに出現したが、mutationは脳細胞に異常に高く、以下肝、肺、腎の順であった。
 3.MNU 100mg/kg投与群では、Transformation、mutation共に脳由来細胞に高く、肝ではみとめられなかった(In vivo実験と同結果)。
 以上の結果から、本手法による標的臓器はラット、マウスにおける経胎盤化学発癌の標的臓器と略々一致した。

 :質疑応答:
[難波]Bpの代謝は母体で起こっているのですか。
[乾 ]胎児にも18日位だとAHH活性はあるようです。活性化された物質の細胞との親和性は問題があります。

《難波報告》
 36:培養ラット肝細胞のグリコーゲン合成
 60mmのシャーレに細胞が一杯に増殖したとき(800万個cell/plat)5ml MEM(1g/glucose)+10%FCSの培地にかえ、経時的に培地中のグルコース消費を調べてみると、培地更新後、急速に培地のグルコースがなくなり、24hr後ではほとんど0に近くなる。(図を呈示)また培地中に1u/mlでインシュリンを添加しておくとグルコースの消失は著しい。この急速に培地が消失するglucoseはglycogenになるとすれば、培地更新後4〜6hrでグリコーゲンを調べればよいことになる。
 いま、タンザクを入れた培養ビンを傾けて、しばらくの間、肝細胞を培養すると細胞密度勾配ができて、まだ増殖できるスペースがある部分の細胞は大きく、反対にビンの底に近ずくにつれて細胞密度が高く細胞は小形になる。この培養の培地を更新して4〜6hr後タンザクをPAS染色すると、密度の薄い部分の細胞にはglycogenがよく認められるのに反して、タンザクの底に近いところの細胞密度が高い部分の細胞には、ほとんどglycogenが認められない。ただもっとも底にくるタンザクの端の部分にはグリコーゲンが認められる。PAS陽性顆粒は唾液で消化されるのでグリコーゲンと思われる。
 いまプラスチックのカバースリップを使用し電顕写真を撮った。グリコーゲンと思われる顆粒が胞体内に多数存在するが生体内の肝にみられるグリコーゲン顆粒と少し所見が異なる。細胞は胎児ラット由来の培養肝細胞(RLC-18)、グリコーゲン顆粒が胞体内に散在する(写真を呈示)。このグリコーゲンの出現が、1)細胞密度に依存しているのか。2)細胞の増殖時期に依存するのか。を検討するために、2枚の60mm径のシャーレの一方には非常に多くの細胞を、他の一枚には少数の細胞をまき込み、3日後多くまいたシャーレの中の細胞は十分密度が高まり、また少数の細胞をまいたシャーレの細胞が対数的に増殖している時期に培地を更新して、4hr後、PAS染色した。上記のタンザクの実験結果より少数まいたシャーレによくグリコーゲンが出現すると予想していたが、結果は予想に反して、グリコーゲンの出現はそれほど著明でなかった。また多くまいた方もグリコーゲンの出現は殆どない。
 これは何を意味するのであろうか? その条件を目下検討中である。この条件を検討するために、培養肝細胞のグリコーゲンの定量を以下の方法で行なった。
 37:グリコーゲンの定量
 上記の実験を進めるためにグリコーゲンを定量する必要があるので以下の方法で培養肝細胞のグリコーゲン定量を行った。この方法で0.2〜5μgのglycogen量、10万個以下の細胞数で十分測定できる。
 細胞のシートを冷PBSで3回洗う→冷蒸留水1ml/60mmシャーレを加えラバークリーナーで細胞をはがす→凍結(-20℃)→融解後100℃5分→14000g 15分遠心→上清0.1mlに1N HCl 0.9ml加え100℃1hr、1ml1N NaOHで中和して、この0.4mlを使用→1.33ml Tris buffer(0.1M、pH7.8)、0.66ml MgCl2(10mM)、0.1ml ATP(10mM)、0.01ml NADP+(10mg/ml)、0.01ml G6PDH(0.2mg/ml)、0.01ml Hexokinase(1.0mg/ml)、30℃、30分→測定(蛍光分析)(測定原理の表を呈示)。いま60mm径のシャーレ内で対数増殖期にあるRLC-18 Rat肝細胞のグリコーゲン量を上記の方法で測定すると、1μg/10万個cellsであった。いま、この定量法で種々の培養条件でのRLC-18 Rat肝細胞のグリコーゲン合成を調べている。

 :質疑応答:
[高木]グリコーゲン合成は細胞の分裂周期には関係なく行われているのでしょうか。
[難波]これから調べてみたいと思っています。
[乾 ]グルコース量を変えるとどうなりますか。こういう微量定量にはイムノ・マイクロ・スペクトロ・フォトメーターなどを使うといいでしょうね。
[高木]定量値は細胞当たりの数値ですか。
[難波]細胞当たりがよいのか蛋白量当たりがよいのか考えています。

《梅田報告》
 (I)Cytochalasinは細胞質分裂、endocytosis、exocytosis、cytoplasmic streaming、等の阻害、脱核現象など、生物現象に興味ある作用を及ぼすことが知られているが、これらはすべてmicrofilamentの作用阻害に連なると云われている。最近の生化学的研究によるとこのmicrofilamentは収縮蛋白であるactinとmyosinそのものから成るものと考えられるようになった。先月の月報でラット腎培養にcytochalasinsの一つであるchaetoglobosinA(CGA)を投与した時高張耐性の腎細胞が高張培地中で生存するためにはmicrofilamentの作用が必要でであることを裏書きしており、その意味で非常に興味ある所見であったと云える。
 (II)上で述べたようにmicrofilamentがactinとmyosin系から成っているとすると、cytochalasinsはmuscle cellにも作用する筈であると考えた。我々はラット新生児大腿より細胞を得、培養を開始して筋肉細胞を増生させてCGAを投与した。すなわち生後1〜2日のSDラット新生児の大腿部筋肉を剔り出し、細切後トリプシン処理を施こし、単細胞浮遊液を作り培養を開始した。培地はMEM+10%FCS。文献には培養瓶底面にcollagenとかgelatinのcoatをひくと良いとされているが、我々は之等も使用しなくともmyotube形成をみた。
 (III)培養2日目頃よりmyoblast(線維芽細胞よりやや小型短紡錘形細胞で細胞質が線維芽細胞よりエオジン好性を示すもの)の融合が始まるようで、培養5日目には大きな細長い多核巨細胞であるmyotubeを形成する。
 培養2日目にCGAを投与するとmyotube形成は極端に抑えられる。培養5日目にすなわちmyotubeが形成されてからCGAを投与した折、myotubeは短縮し、サツマイモ状或は円形の多核巨細胞となる。強拡大で観察するとコントロールのmyotubeに横紋の形成は認められないが、微細な細線維がtubeに平行に走っている。培養5日後CGAを投与して短縮したmyotubeでは細胞内の細線維は粗雑で不規則の配列をしている。顕微鏡映画で観察するとこの短縮は5時間程で既に短かくなっている。又CGAの作用で短縮したmyotubeはCGAを洗って正常培地に戻すと24時間程で再び細長いmyotubeを形成し回復性のあることがわかった。
 今の所本結果の結論は以下のように考えている。横紋の出来ない位の条件で培養されている若いmyotubeはCGAにsensitiveで細胞質中に形成されているであろうactinとmyosinの線維状構造がCGAでdepolymerizeされる。それ故、線維構造がなくなったmyotubeは短縮して円形に迄なる。しかしこの反応はrecoverableでCGAを除くと再びactin myosinがpolymerizeし、細長い線維を形成する。

 :質疑応答:
[高木]高張にするには何を使いましたか。又カルシウムの影響はどうですか。
[梅田]カルシウムについてはみていません。高張にするにはNaClを使うかウレアを使うかで大分違う結果になるでしょうね。

《常盤・佐藤報告》
 ◇単個培養されたクローン数系について3'Me-DABの細胞毒性効果を検討した。主として、diploidのクローンと、heteroploidのクローンとの間に3'Me-DABに対する反応に違いがあるかどうか、diploidのクローン間ではどうか、などを知ることを目的とした。3'Me-DABはDMSOに溶解し、種々の濃度に調整し、4日間処理した。
 (図を呈示)生存曲線をみると、使った濃度範囲では、3'Me-DABに対する反応は、クローン間で大差ないと思われる。傾向として、diploidのクローンの方が、若干heteroploidのクローンよりDABに対し低い感受性を示したが、この事実がどの程度意味をもつものかは不明である。
 ◇(図を呈示)Inoculum size(10万個/ml、20万個/ml、40万個/ml)と3'Me-DABの細胞毒性効果の関係を調べてみた。終濃度30μg/mlの3'Me-DABを4日間処理し、コントロール(0.4%DMSO)に対する比率をもとめた。Bc12E(diploid)がDABに対し、低抗性を示したが、その他のクローンはほぼ同じ抑制傾向を示した。
 ◇Cc11E細胞は3'Me-DAB(3.6μg/ml)4日間処理で形態的な変化の特徴として、細胞質内に空胞形成を認めた。他のクローンについては検索中である。
 (図を呈示)Cc11E細胞を使用し、3'Me-DABとABの毒性効果の比較を試みた。高濃度の3'Me-DAB(7x10-5乗M)では未検のため比較できないが、それ以下では、ABと3'Me-DABは同程度の抑制率であった。

 :質疑応答:
[乾 ]この仕事の狙いは何ですか。
[常盤]2倍体の細胞系でもDABに対する感受性が同じかどうかを調べたいのです。
[佐藤]培養70日という若い系からも単個からのクロンが拾えるようになりました。

《榊原報告》
 §培養肝細胞によるコラーゲン及び酸性ムコ多糖産生:
 BCcloneがcollagenに加えてacid mucopolysaccharide(AMPS)を培養内で産生することは既に報告したが、今回はこれらの量的変化について検索した結果を述べる。BCcloneは培養100代目。500万個cellsを500ml入り培養びんに入れて回転培養し、10、24、31、38日目と経時的に2本づつより機械的操作を以って細胞を集め、AMPS及び、hydroxyproline(Hy-Pro)の定量を行なった。培地はHam'sF12+CS(10%)。集めた細胞はacetone及びmethanol・chloroform処理により脱脂した上、乾燥粉末化し、秤量する。次いでPronase-Pにより蛋白分解を行ない、Cetylpyridinium Chloride(CPC)を加えてAMPSとのcomplexを作る。遠沈により得られた上清部分はHy-Proの定量に、沈降部分はAMPSの定量に用いる。沈降物を洗った上、冷TCA処理を行って、蛋白のコンタミを取り除く。ここで得られる蛋白もHy-Proの定量にまわす。以後、AMPSについては透析、濃縮、電気泳動へともってゆき、電気泳動図はAlcian blueで染色した上、densitometryにかける。Hy-Pro定量はProckopらの方法に準じて行う。結果は(図表を呈示)densitometryは各出発材料0.53mgより抽出されたAMPSについてのものである。検量線の作成が遅れた為、吸光度を平方mm単位で表した。要約すると、
 1)培養日数の増加と共にcollagen量も増加する。但しfull sheetとなる迄は緩徐に、full sheetとなった後は急勾配を描いて増加し、plteauに達するらしい。
 2)collagenの増加にともない、totalAMPSも増加する。
 3)主なAMPSはdermatan sulfate(DS)とheparan sulfate(HS)である。
 4)とくにDSは、collagenと平行して増加する。
 以上の結果はヒトの肝硬変症及びラットの実験的肝線維症について得られた分析値とよく一致する。

 :質疑応答:
[翠川]鍍銀染色は何法ですか。
[榊原]アンモニア銀法です。
[翠川]マッソンはどうですか。
[榊原]出ます。出ないのはエラスチカだけです。
[翠川]線維芽細胞は混じっていないのですね。
[榊原]クローニングしてあります。
[佐藤]腫瘍性はありますか。
[榊原]ハムスター・チークポーチには今までtakeされませんでした。
[佐藤]総培養日数はどの位ですか。
[梅田]約3年です。

《翠川報告》
 §A/Jax系マウス脾臓線維芽細胞の長期試験管内培養によって樹立された自然退縮性腫瘍株について
 生後150日のA/Jax系オスマウス脾臓線維芽細胞をHank's BSS、Eagle vitamin、Lactalbumin hydrolyzate、L-glutaminならびに15%コウシ血清を加えた培地で静置培養を行って経過を観察していたが、培養142日で新生仔マウスに移植可能となった。この細胞を成熟マウスに移植した場合、移植直後からかなり急速に腫瘤を形成し、移植8日前後で最も大きくなる(2.0x1.3cm)(写真を呈示)。ところが移植10日頃より腫瘤は縮少しはじめ18〜24日の間にこの腫瘍は完全に消失するにいたる。私たちはこの細胞系に対して現在m-cellと命名しているが、このm-cellを新生仔マウスに移植したもの、あるいは成熟マウス移植7〜9日例の組織学的所見では細胞の異型性が強く、有糸分裂像も多くみられ、典型的な線維肉腫像であった(写真を呈示)。
 しかし移植10日頃から腫瘍の中心部が急激に融解壊死におちいる所見が出現し始め、同時に浮腫性変化が強くなるとともに腫瘍の壊死像も著しくなり、これに対して軽度の組織球ならびに好酸球反応がみられるとともに最後はすべての腫瘍が完全に結合織細胞によって置換されるにいたる(各々写真を呈示)。
 腫瘍の壊死のみられる初期には何等細胞反応がみられないこと、ならびに全過程を通じてリンパ球の浸潤のみられないことも注目された。
 なおこのm-cellを移植する場合、腫瘤形成の大きさに性差がみられ、一般にメスマウスに移植された場合より大きな腫瘤形成がみられ、自然退縮に要する日数もメスマウスの方が約4日長かった。
 この様なm-cellにみられる形質は培養をさらに長く続けることにより、(1)いわゆる悪性の程度が強くなり、成熟マウスをすべて腫瘍死させるようになるか、(2)このままの状態が続きうるのか、(3)あるいは可移植性がむしろ完全に消失するにいたるかを検討すべくcloningを行いながら、長期にわたって観察を行い現在まで約8年経過している。その中の1つのcloneは、実験開始6年頃より腫瘤を形成しなくなり、新生仔マウスに移植を行っても可移植性がみられなくなっている。しかしこのcloneも現在ヌードマウスに移植したさい、腫瘤形成がみられ移植腫瘍は大きくなり1ケ月を経過しても自然退縮像をみていない。
 なおm-cellについては多くのcloneを分離し、それぞれの長期培養をくりかえしているが、現在まで正常成熟マウスを腫瘍死させるclone、すなわち典型的な悪性腫瘍細胞株はいまだえられていない。

 :質疑応答:
[関口]復元に使ったマウスの年齢は・・・。
[翠川]3カ月です。始の間は乳児にはtakeされましたが、今では乳児にもつきません。
[佐藤]結節が出来たら消えない内に取って再培養して次へ植えたらどうですか。
[翠川]やってみましたが、つきませんでした。
[佐藤]脳内接種はどうですか。
[翠川]それはまだです。やってみましょう。
[佐藤]私も復元実験を色々試してみましたが、接種部位による違いは大きいですよ。

《久米川報告》
 癌細胞chromatinの培養肝細胞への影響
 担癌動物では肝臓の酵素活性に変動があることは古くからよく知られている。さらに癌組織から抽出した物質によって肝臓のcatalase活性は低くなり、一方pyruvate kinase(PK)活性は高くなる。中村等は癌細胞のchromatinが同様の性質を持っていることを明らかにした。すなはちchromatinの接種によってcatalase活性は正常肝の約70%となりPK活性は165%となる。さらにPKのisozyme patternでもPI 7.8と6.1の値が高くなる。今回はRhodamine sarcomaから得たchromatinの培養肝臓への影響について調べた結果を報告する。5日間培養したマウス胎児肝臓にchromatin(0.5mg/ml)を2日間添加した場合、catalase活性は対照群の82%と低下し、一方PK活性160%とin vivoと近い結果を得た(表を呈示)。
 さらにPKのisozymeを調べてみた(図を呈示)。培養前胎生13〜14日目マウスの肝臓はSがmainでLはみられない。培養8日後ではSはまだ残っているがLもみられるようになった。しかしまだ完全に肝臓型には移行していない。培養肝臓に6日目から2日間chromatin(0.5mg/ml)を加えて培養した場合、PI 6.1とPI 7.9の値が高くなり、in vivoとPKのisozymeの上でも同様の結果が得られた。従って癌組織のchromatinはdirectに肝臓(酵素)に影響をもたらすことが明らかになった。

【勝田班月報:7612:ヒト胎児性癌の培養】
《松村出張報告・勝田報告に代えて》
 1974年11月より1976年10月まで米国に出張を命ぜられ、諸先生の御指導のもとに、このほど無事に任務を終えました。ここに出張の内容を御報告し御礼にかえたいと思います。
 目的:
 1.人正常組織由来細胞の老化と変異の組織培養による研究。
 2.米国における組織培養細胞の供給体制についての調査。
 3.米国における組織培養実験の安全対策に関する調査。
 主たる滞在地:カリフォルニア州スタンフォード大学、医学部微生物学教室。
 内容:
 1.(a)人正常組織由来線維芽細胞(WI-26、WI-38)が培養内で分裂増殖の限界に達してからの長期継代培養の試みと、細胞の特長づけ
 この期間で6ケ月以上の継代培養が可能となった。従来しばしば報告されて来たような増殖停止から死滅へという過程を少くともこの期間内では認めなかった。細胞のDNA合成、RNA合成、タンパク合成は程度は異なるが維持された。この期間に細胞融合、核の移植等の方法で検索した。
  (b)分裂中の細胞集団に含まれている増殖しない細胞の定量
 細胞の増殖率とオートラジオグラフによるチミジンの取り込みの同時測定による方法を開発した。分裂増殖中の細胞集団に含まれている増殖しない細胞と、集団として分裂増殖の限界に達した細胞は対応するものであるという仮説を支持する2、3の知見を得た。
 2.米国における培養細胞の供給は次の4つの水準で行なわれている。即ち:
 (a)American Type Culture Collection
 充分特長づけられた典型的な細胞株、細胞系を維持、供給する。
 (b)数ケ所の専門機関
 癌、老化、遺伝学等、各専門分野での目的に応じて必要な細胞株、細胞系の樹立、特長づけ、供給を行う。
 (c)各研究室
 a.b.以外個別的な研究対象として興味のある細胞株、細胞系で各研究室で維持されるものをATCCを中心として情報交換し、交換を助ける。
 (b)企業
 3.NIHが中心となって進めている安全対策の要点は次のようである。
 (a)実験に供する細胞を、潜在的な危険の可能性に応じて区分けする。
 (b)実験者、及び環境の汚染をさけるために層流式のエアカーテンを必要な場所に設ける。
 (c)使用済みの液体、器具を酸化処理、又は加熱処理することによって危険因子がもれることを防ぐ。
 感想:
 1.研究を通じて異国の人々と共通の話をすることができるということは、あらためて申すまでもなく、愉快なことでありました。米国に滞在することによって、かえって日本における研究グループのすばらしさ、特に研究会議を中心とした討論の場の意義を感じました。もっとも米国でこういうことをしたら、さすがの金持国も破産してしまうでしょう。
 2.今後の癌研究の方向として人細胞の培養内変異の研究、及び人上皮細胞の培養が課題に含まれると感じます。今後ともこの方向で努力したいと思っています。

 :質疑応答:
[難波]培養日数が長くなってから出てくる2核細胞のDNA量は調べましたか。
[松村]興味あるところで、予定はしていますが、まだデータを持っていません。
[遠藤]寿命に限界のある且つ正常増殖性の細胞が、寿命に限界がなくなり異常増殖する悪性細胞になるには、ダブルミュテーションを起こさねばならないということですね。そうすると物凄く低い頻度でしか悪性化は起こりませんね。
[松村]変異がどのように起こっているかは判りませんが、動物によって例えばマウス等は寿命に限界が無くなる所までは短期間に頻度高く変わるようです。
[遠藤]その変異を起こすのに必要なのは何でしょうか。
[松村]そこはまだ判っていない空白な所ですね。
[翠川]正常増殖性の正常は何を意味していますか。
[松村]単純に3T3のような増殖をさしています。
[難波]結論として所謂agingはDNA合成の異常より分裂異常によるということですか。
[松村]まだ−そう思いたい−という程度です。

《難波報告》
 37:培養ラット肝細胞(RLC-18)のグリコーゲン合成は細胞密度に依存する
 月報7611にグリコーゲンをグルコースに1N HClで加水分解してグリコーゲンを定量する方法を記したが、今回はamyloglucosidaseでグリコーゲン→グルコースに変化させグリコーゲンの定量を行なった。この方法で0.5μg〜5μgのグリコーゲン量を測定できる。NADPHを蛍光で測定する。(表と図を呈示)。
 上記の方法でAdult ratのliverを0.2%トリプシン液で潅流し、分散した肝細胞数を横軸に、グリコーゲン量を縦軸にとると、5万個の細胞で充分定量できることが判った。
 いま、5mlのMEM+10%FCSの培地(1g/lグルコース)で10万個cell/60mm plateまき、6日後、培地2ml(グルコースの終濃度3g/l)にして、RLC-18のグリコーゲンの合成をみると8時間まで経時的に増加し、以後合成速度はゆるやかになる。
 グリコーゲン合成は培地中のグルコース濃度(1〜5g/l)に依存しなかった(表を呈示)。
 重要なことは、RLC-18細胞のグリコーゲン合成が細胞密度に依存していて、細胞の密度が高まると合成は低下する(表を呈示)。

 :質疑応答:
[久米川]他の細胞についてデータがありますか。私はKB細胞でグリコーゲン顆粒が沢山出ていたというデータを持っています。
[佐藤]RLC-18は腫瘍性をもっているのですから、この系で調べたことが肝細胞の一般的な特性とは言えないでしょうから、そのことを考えにいれておくべきです。
[翠川]生体内のラッテ肝臓の切片でも周辺部のうすくなった場所の方がグリコーゲン顆粒が多いですね。
[佐藤]グルコース量とグリコーゲン量に相関がないとはどういう事でしょうか。
[難波]培地のグリコース量を増やしても細胞内のグリコーゲン量は変動しなかったという事です。
[高木]インスリンを添加するとどうですか。
[難波]これからやってみる予定です。
[山田]私も電顕でグリコーゲン顆粒の動きをみようとしましたが、細胞によってまちまちの所見で、あまり得る所がありませんでした。こういう方法で定量的にみれば、何か判るでしょうね。
[翠川]細胞分裂周期とは関係がありませんか。
[難波]今H3TdRでラベルしてみています。

《乾報告》
 Methylnitrosocyanamideの投与条件について
 前回の班会議で、Hamster embryonic cellにMNCを投与して、染色体切断、8AG耐性突然変異、コロニー水準でのMorphological transformationを報告した。
 次いで、同細胞にMNCを投与して、Massレベルのlong term transformationを試みているが成功していない。又染色体切断に要するMNC濃度も我々の研究室の濃度と梅田班員の報告した濃度とhalf logのちがいがある。
 今回はMNC投与の基礎的Dataをとるいみで、DMEM+10%FCSのmedium中で、MNCの効果をCell killingを指標に検討した。(表を呈示)mediumのPhを正確に7.0とし、mediumにMNCを稀釋後、直ちに処理した場合5x10-5乗Mで約90%の細胞が死んだ。次に同濃度のMNC溶液を作成し、Ph7.0を保ち時間経過をおいて細胞を処理した(表を呈示)。MNCはPh7.0常温中で極めて急速に失活する。次にMNCのPhによる失活性をしらべた(表を呈示)。MNCは中性附近で明らかに効果を示し、アルカリ性でより失活した。
 以上の結果よりMNCの投与条件は、中性のmedium中で、稀釋後直ちに作用することが必要と思われる。今後この条件下でmalignant transformationの実験を継続していくつもりである。

 :質疑応答:
[遠藤]MNCを作用させる時の溶液はどんな組成のものですか。
[乾 ]血清の入った培地です。
[遠藤]とするとこの失活は血清との作用によるものですね。血清を除いた液を使ったらどうですか。
[乾 ]血清を入れないと物凄く毒性が強くなって、作用させるのに使える濃度の幅がとても狭くなります。
[遠藤]いかに毒性が強くて使いにくくても、やはり血清を入れない液中で作用させてほしいですね。血清無しで中性なら、少なくとも数時間は安定に保つ筈です。

《高木報告》
 培養細胞に対するEMSの効果
 EMSを培養開始後70日目にsuckling rat thymus由来の細胞(SRT)に作用させて、約200日にわたって観察した結果を報告した。これは現在もそのまま培養を続けている。
 別のseriesの実験として、培養開始後259日目の細胞にEMS 10-3乗Mを4日間作用させ、さらに284日目から再度同様にEMSを作用させて、1回作用させた細胞と2回作用させた細胞につき2回目作用後50日を経て観察した。
 形態的には特に変りなく、saturation densityを2回作用させた細胞と、今日まで培養だけを330日つづけて来た対照の細胞とで比較すると、前者は57,000/平方cm、後者は47,000/平方cmであった。染色体数は1回、2回作用細胞とも月報7610の分布に比して2倍体が減少し、60〜80本、100本以上の細胞がふえてバラツキがひどくなったが、両作用群の間に差異は認められなかった。
 1回、2回作用した細胞を各々12,000コATS処理ハムスターのcheek pouchに移植したが、著明な腫瘤の形成は認められていない。さらに細胞をかえて検討中である。
 ヒト2倍体細胞に対するMNNGおよび4NQOの効果
 用いた細胞は2カ月のヒト胎児皮膚組織からえられた線維芽細胞で、培養後25日目に作用させた。
 MNNGは100万個をTD40に植え込み、その増殖期に1、2および4μg/mlを24時間作用させ、洗って3日後には各の細胞数が740万個、320万個、130万個と濃度に逆比例した増殖を示したので、その各々10万個をMA30培養瓶に植込んだ。9日後には110万個、170万個および56万個となったので再びそれらの1,000コを9cmのPetri dishに植込んだ。しかし9日を経た現在無処理の細胞を含めてcolonyの形成はみられない。
 4NQOは500万個植込んだTD40のcell sheetに0.5μg/ml(2.6x10-6乗M)を24時間作用させ、2日後にtrypsinizeして生残った全細胞を9cmのPetri dishに植込んだ。4日後には400万個となったのでその10万個を9cmのPetri dishに植込んだところ、さらに4日後には14万個となった。その1,000コおよび10,000コを9cmのPetri dishにまき込み2週間観察したが、10,000コでは細胞はfull sheetを形成し、1,000コでは可成り多数の疎及び密な線維芽細胞よりなるcolonyの形成が認められた。これらのcolonyを位相差顕微鏡下に観察すると、transformed cellsとは考えにくいが、一応染色体数、可移植性などを調べてみたい。transformed cellsではないとしても未処理の対照細胞が1,000コでは全くcolonyを生じないのに対して4NQO処理細胞では可成りのcolonyが生じた訳であり、4NQOによりplating efficiencyの高い細胞がselectionされた可能性も考えられるので、このcolonial cloneを用いてさらに実験をすすめたい。
 ラット膵ラ氏島細胞から純粋なB細胞集団を分離する実験はFicoll gradientを用いて検討中であるが未だ他のラ氏島構成細胞のcontaminationを除外しうるには至っていない。

 :質疑応答:
[乾 ]EMSの変異に関する実験はありますが、発癌実験についてはあまり報告が無かったと思いますが・・・。
[高木]報告があまり無いので、自分でやり始めた訳です。

《梅田報告》
 発癌性炭化水素がその作用を発揮するにはmixed function oxidaseによる代謝が必要であり、この代謝能を持つ細胞が却って自ら発癌性炭化水素の毒性なり発癌作用の影響を受けることが知られている。培養内発癌実験の際も、発癌性炭化水素を扱う限り、この酵素を持つ正常細胞しか使えない。以上の観点から培養細胞の本酵素活性を簡単に測定する方法を開発し、各種培養細胞についてその活性を調べ報告してきた。目的は正常細胞で本酵素活性の高い細胞をさがし発癌実験に使うためで、そのような細胞がtransformableな細胞であろうとの想定をたてているからである。
 われわれの測定法は0.25mlの培養で行なえるmicroassay法である。すなわちC14-BPを投与して1〜3日間培養した時のBPがwater-soluble productsに代謝される量を放射能で測定する方法である。しかし本酵素は誘導酵素であり、われわれの方法ではconstitutive enzymeの酵素活性を測定しているのか、induced enzymeの活性を測定しているのか、区別がつかなかった。
 月報7606で報告したように(図を呈示)、C3HとAKRマウス胎児細胞で測定したwater-soluble productsの経時的値の変動は、C3Hマウス胎児細胞では1日目から真直ぐ直線的に反応しているが、AKRマウスの代謝は2日以後に特に誘導がかかっているような傾向を示している。
 有名なinducerであるbenz(a)anthracene(BA)の10、3.2、1.0μg/mlを1日間処理してからC14BPを投与して2、4、6時間の間に代謝した量を調べた(図を呈示)。前処理しなかった群に比べ3.2μg/ml BA前処理群で、2.6倍から3.2倍の高い値を示した。
 以上の実験からC3Hマウス胎児細胞でも1日間のBA処理により誘導がかかることがわかった。
 この誘導の率がbenzo[a]pyrene(BP)処理のものでどのようになるかを調べるために以後の3つの実験を行った。これらは先に報告したBP代謝能の非常に高いラット肝由来の上皮細胞の1クローン(DL1cells、clone20)を用いることにした。
 もし投与したC14-BPそのもので誘導がかかるならば数時間後から調べれば始めは代謝が低いが誘導がかかってから急激なあるいは徐々にでも代謝が促進されるであろうと考えた。(図を呈示)先の実験よりやや時間を細かく区切って代謝を追ってみた実験結果は、6時間値が低く、以後代謝率が上昇していることがわかる。
 そこでcoldのBP或はBAで22時間或は24時間処理した後、C14-BPを投与して2時間の間に代謝したBP量を測定してみた。BPそのものの処理で22時間後には無処理のものの4.8倍もの高い代謝能を持っていることが示された。20時間処理した時はC14-BP 4時間の代謝をみると、BP及びBA共に前処理した方が代謝が促進されているが、22時間前処理して2時間取り込ませた群に較べるとその誘導の率は3.2倍或は2.3倍と低くなっている。このことはC14-BPの摂り込み代謝が4時間の間で既に誘導が始まっていると考えると説明しやすい。
 以上の仮説を証明するため、すなわちBPによる誘導は何時間位から起り始めるかを調べる目的でC14-BPとactinomycinD或はcycloheximideを同時に投与する実験を行なった。すなわち、新しく合成される酵素を抑えることによりconstitutive enzymeの活性を知り、阻害剤を入れないコントロールと比較することにより誘導の率をみようとした実験である。(図を呈示)結果は、2時間迄はAct.D、CH投与群もcontrolと殆同じ値を示し、その後、controlの代謝率は上昇しているのに対しAct.D、CH投与群は代謝率が同じである。この結果から前の想定のように、本酵素誘導はBP処理2時間目頃より始まっていることがわかる。
 以上まだ基礎的なデータであるのでさらに実験を重ねてはっきりとした誘導の様相を知り、発癌実験のための基礎データとしたい。

 :質疑応答:
[乾 ]動物レベルでこの酵素の誘導を試みる場合は何日間もかかりますし、薬剤接種も1回ではだめなのですが、培養細胞では処理後2時間で酵素活性が上り始めるのですね。
[梅田]培養細胞の場合は直接に作用するから効果が短時間で出てくるのでしょうか。しかし活性が上がり始めるのが2時間後でその後も時間をかけて徐々に上昇を続けます。

《常盤・佐藤報告》
 ◇3'Me-DABで処理された細胞の性状。
 3'Me-DAB処理過程は(図を呈示)、細胞としては3カ月齢ラット由来の肝上皮性クローン(Ac2F、Cc11E、Cc12G)を使用した。3'Me-DABはDMSOに溶解した。コントロール群(CD-C、CD-DMSO)に対し、3'Me-DAB処理群(CD-DL、2.2μg/ml;CD-DH、32.0μg/ml)からは適当な時期に3'Me-DABを含まない培地で置き換える群を作った。尚、継代は、10万細胞/ml、10日間隔ですべて解放系にて進めた。
 3'Me-DAB処理による形態変化。途中経過ではあるが以下の様な特徴が認められた。
 Ac2F(CD#7)の場合:低濃度の3'Me-DAB(CD-DL)で、空胞形成が顕著、これは3'Me-DABを除去した後も認められた。高濃度の3'Me-DAB(CD-DH)では、20日間処理以降、細胞数の激減を見た。
 Cc11E(CD#8)の場合:低濃度の3'Me-DAB(CD-DL)で、コントロールには認められなかった細胞密度の高い部分が何カ所が認められた。又高濃度の3'Me-DAB(CD-DH)では、Ac2Fと同様、細胞数の激減を見たが、DABを含まない培地に移されたものでは、大きさのかなり異なる細胞群を認めた。
 Cc12G(CD#9)の場合:本細胞は、異形性のかなり見られる細胞で、コントロールとしては余り適切ではないかも知れないが、2倍体性が高く、又、安定の様なので使用した。低濃度の3'Me-DAB(CD-DL)では、コントロールに比しむしろ整った上皮性を示した。
 (図を呈示)Ac2F、Cc11E、Cc12Gの増殖に対する3'Me-DABの濃度の影響を調べた。DMSO(0.4%)は、殆んど毒性を示さなかった。いずれも、添加3'Me-DABの濃度に比例した増殖阻害を示した。なお、実験は、解放系でシャーレを使用した。

 :質疑応答:
[吉田]この実験の目的は何ですか。今迄にも繰り返された実験のようですが。
[常盤]クローンを使ってもDABによる変異が可能かどうか実験しました。
[佐藤]成ラットから単個細胞由来のクローンを拾って、2倍体が維持されている状態で発癌実験をするという事に意味があります。そうすると従来問題にしてきた変異か選別かがはっきり出来ると思います。それから、自然悪性化を起こしている系や又起こす可能性のある系で発癌実験をしても結論が出ないと思います。
[吉田]培養を開始して何日目にクローンを拾いましたか。
[常盤]71日目です。
[高岡]成熟ラッテからと乳児ラッテからとの系に何か際立った違いがありますか。
[佐藤]成熟由来の系の方が、機能の維持能力の幅が広いように思います。例えば酵素活性をより多く維持している系は成ラット由来です。

《山田報告》
 長期培養ラット肝細胞(RLC-21)のclonal cloning株7系の染色体分布と細胞電気泳動的性格を比較しました(図を呈示)。
 C1、C6、C12株はtetraploidy領域に染色体が変化しましたが、それぞれの平均泳動度はC2、C21、C22、C23のdiploid領域の染色体を持つ細胞系にくらべて速くなりました。分布幅についてはC6の系が、最も良く染色体の分布と電気泳動度のバラツキが出現し両者は平行しましたが、その他の系はこの點については相関がみられませんでした。
 サイトカラシンBの細胞表面への影響について検索を始めました。まず直接作用をみました(図を呈示)。サイトカラシンB 1000μg/ml(DMSO原液)の濃度に溶してこれを稀釋して用いましたが、37℃、10分保温後の各濃度処理細胞の泳動度の変化をみますと、用いた細胞C1498(腹水白血病)とJTC-16(培養肝癌細胞)により反応が異なりました。しかしいづれも二相性の変化を示しました。更にこの変化を追求中です。

 :質疑応答:
[乾 ]クローンの染色体数の分布をみると、2倍体、4倍体になっているようですが、DNA量でみるとどうでしょうか。
[山田]DNA量は調べてありません。
[吉田]電気泳動後の細胞が回収できるなら、電気泳動度とDNA量を同じ細胞で測定できるでしょうね。
[山田]多分やってみられると思います。
[勝田]電気泳動といえば、昔、癌センターで分劃もできる装置を入れましたね。今、活用されていますか。
[山田]私が居なくなってからは余り使われていないようです。細胞の電気泳動装置も大分進歩していますね。最近はリンパ球のBcellとTcellの分離に使われているそうです。
[高木]図の中でJTC-16・DMSOの説明が無かったのですが・・・。
[山田]サイトカラシンBを溶かすのにDMSOを使いましたので、同濃度のDMSOを添加したものを対照にしました。殆ど影響がないというデータです。

《榊原報告》
 §BCcellの電顕像
 BCcell cultureの電顕像(ネガティブ染色像)について報告する。culture generationは45代。plastic dishに細胞を播き、confluentに達してから3週間目のものを用いた。2.5%glutaraldehydeで1時間前固定し、osmic acidによる後固定を行わず、alcoholで脱水、methanol飽和phosphotungstic adidで30分間collagen染色を行ない、eponで包埋する。cell sheetに対してhorizontalに薄切し、ウラン、鉛による二重染色を施して検鏡した。その結果、1)鍍銀染色で紫黒色に染まる線維は、640Å〜670Åの周期性のシマを有するnative typeのcollagen fiberである。(以下各々に写真を呈示) 2)collagen fiberに隔てられた細胞同志間には構造上の連絡がない。3)細胞同志がdesmosome、tight junction、zonula adherence等によって連絡している部位にはcollagen fiberは見出せない。4)胞体はmitochondria、roughE.R.にとみ、intracellular canaliculiが散見され、cell surfaceにはpinocytotic vesicleが多数認められる。5)光顕レベルで細胞がロゼット様配列をとり、中心にeosinophilic amorphous materialを分泌しているかに見えた部分はcollagen fiberのpoolとも云うべきものである。
 今後更に電顕標本の作製技術をみがき、詳細な検討を行ないたいと思っている。

 :質疑応答:
[梅田]細胞膜がはっきり出ないのはグルタルアルデヒドだけの固定だからでしょう。
[松村]単にコラーゲンかどうかというなら、アミノ酸の分析値でグリシンが全アミノ酸の1/3あり、プロリンとハイプロが認められ、電顕像でみてコラーゲンと同定される縞目模様が出ていれば充分だと思います。しかし、電顕にしても、位相差にしても、形態から上皮細胞かどうか同定できますか。
[榊原]今の所、形態所見だけで上皮か非上皮か断言できません。この細胞の場合は、かって肝細胞の機能を有していたクローンなので、上皮細胞と考えています。

《関口報告》
 人癌細胞の培養 3.胎児性癌の培養
睾丸腫瘍を培養し、α-foetoproteinとalkaline phosphataseを産生する長期継代培養細胞の2系を得た。(臨床経過の表を呈示)
 手術材料の一部(左睾丸の腫瘍部)をメスにて細切、pipetting及びdispase処理(1000u/ml、60分)にて細胞浮遊液を作り、DM-160に20%FCSまたは20%ヒト臍帯血清を加えて、45mmガラスシャーレ内にて、炭酸ガスフランキを用いて培養した。
 FCS使用の培養では、石垣様にガラス面に付着したコロニーが得られた。コロニーの中心部は重層する傾向が強く、中心部はやがて剥離する(写真を呈示)。Human cord serum使用の培養では、細胞はガラス面に付着することなく、cell aggregateとして浮遊増殖する(写真を呈示)。両細胞とも増殖速度は極めて遅い。
 生前の患者血清中には高いα-foetoprotein活性が認められたが、培養細胞の濾液中にもα-FPの活性が認められ、培養日数の経過とともに上清中に増加していることが確められた。また、両細胞にはアルカリホスファターゼ活性が認められ、Homoarginineにより抑制されることから、肝・骨にみられるtypeであった。(各々図表を呈示)

 :質疑応答:
[山田]どうやら本物の胎児性癌が増殖しているようですね。
[松村]この細胞系は、あのころころしたアグリゲイトのまま増えているのですか。
[関口]そうです。内側の方は死んでゆくようです。継代はピペッティングでします。
[吉田]あの塊をみていると内側の方はどんどん分化していそうに思いますがね。普通の状態では分化していなくても、ホルモンなど加えて分化させられませんか。
[乾 ]ラッテのテラトーマとは少し違うようです。
[榊原]ハムスターに腫瘤を作るか作らないかという事については、印象の程度ですが、臍帯血清添加培地で継代している細胞系は、ハムスターに腫瘤を作りにくいようです。
[吉田]塊を作って浮いて居る系でもガラス壁には張り付かせる事が出来ますか。そしてガラス壁に張り付くと中心部はどうなりますか。
[関口]血清をGFSにすればガラス壁に付きます。中心部はもり上がって剥がれてきますが、剥がれたものを新しい容器へ移すと又張り付きます。


【勝田班月報・7701】
《勝田報告》
 あっと云う間に1年が経ちましたね。その間にどれだけの仕事ができたか、省みると誠に恥しい次第です。
 急がなくても良いけれど、今年こそ何とか良い成果をあげたいものです。
 今年は5月19、20日と川崎医大で、木本・難波組により組織培養学会が開かれます。盛会であることを望むと共に、我々の発表の準備も着々とやっておかなくてはならない時期です。 6月には当研究所で当研究部担当の談話会があります。9月26日は小生が担当で組織培養学会を開き、翌27日に国際シンポジウム"Nutritional Requirement of Mammalian Cells in Tissue Culture"というのを開きます。アメリカから4人を招待する予定ですが、そのうち、NCIのDr.K.K.Sanford、アルバート、アインシュタインのDr.H.Eagleから出席する旨返事がありました。あとはDr.WaymouthとDr.Hamの返事を待っているところですが、こちらは目下金を集めるのに悪戦苦闘です。

《山田報告》
 今年は学会関係其の他の事柄で大変多彩な年になりさうな感じがして居ます。なんとか努力によって乗り切りたいと思って居ります。
 新しい大学に赴任し、教室を作り始めてからもう四年目になりました。もう仕事が思う様に進まないとは云えません。漸く細胞培養も調子よく行く様になりました。
今年の計画は
 1)ラット肝細胞のin vitroにおける染色体の変動と細胞電気泳動的性格の関係の仕事をしあげたい。
 2)CytochalasinBの作用機序、特にConAの作用との比較、多核細胞出現に伴う膜の変化を解析したい。
 3)Muntjac細胞の染色体をなんとか採取し、その電気泳動的性格を調べたい。
これらの検索をしながら、細胞変異、特に悪性変化に伴う変異の本質を考えて行きたいと思って居ます。
 また、今年こそは一昨年から訳していたBorst著"腫瘍の病理学"(1902年刊)を出版したいと思って居ます。この獨逸語の著書は現代の腫瘍病理学の最も基本となったもので、癌とは何か?と云う現代でも未解決の問題を最も基本的に解析したもので、むしろ哲学的な著書です。

《高木報告》
 昨年一年一応仕事はつづけたつもりでしたが、結果らしい結果はえられず、反省の材料ばかりです。今年こそは"カケ声"だけに終らぬように頑張りたいと考えております。
 今年は2つのprojectをかかげてみたいと思います。
 1.ヒト胎児細胞の変異に関する研究
昨年度からヒト胎児の培養細胞を用いて、これにEMS、MNNG、4NQOを作用させ、細胞の変化を観察してきたが、今年度もこの仕事をつづけてみたい。まず繊維芽細胞を培養し、これに上記諸薬剤を作用させて、
1)無制限の増殖性を有する細胞。
 2)クローニング効果のよい細胞。
 3)低血清培地で増殖する細胞。
 4)soft agarで増殖する細胞。などをとることにつとめる。
そしてsingle stepのmutationで、これらの内の少なくとも1つの性質をもった細胞がとれるかどうか、とれるとすればその頻度はどうか調べてみたい。さらにこれらの性質をもった細胞をmutationで順にselectすれば癌の性質をもった細胞がとれるかどうか検討したい。さしあたり、No.7612で書いた2)の性質をもったcloning efficiencyのよいと思われる細胞が増殖しはじめたので、これにつき検討して行きたいと考えている。
 2.膵ラ氏島細胞の長期培養の試み
 昨年度はラ氏島細胞"がん化"の試みの一端として、ラ氏島細胞の分裂促進物質について検討したが、現在までの処、実りある結果はえられていない。兎も角細胞株がえられねば仕事は進展しない。本年度はまず、正常ラ氏島、insulinomaを問わずfunctioning B cellsの長期間の培養に努力したいと考えています。

《梅田報告》
 さて本年の抱負を考えてみますと、やることの多い割に身の動きがますます制限されそうな感じもあり、重点的に仕事をしなければと思っています。
 まず第一の課題としては定量的培養内発癌実験の系のルーチン化です。長くこの問題に足をつっこんできたのですが、データの出るのが遅いこと、他の実験の忙しさにまぎれて今迄遅々とした歩みであったと反省しています。本年は少なくとも使用する細胞、血清の問題で何か結論を得たいと考えています。
 第二は広い意味での細胞の体質といったものです。以前から突然変異を起し易い細胞があるのではないか、そのような細胞は8AG耐性の場合はHXのとりこみが始めから低い細胞でないかと主張してきましたが、この考えからtransformし易い細胞があっても良いと考えています。これを何とか証明したいと思っています。一方でC14-BPの代謝の問題で人の肺癌になり易い体質をリンパ球培養を使って検索を進めていけたらと計画しています。
 第三はラット肝上皮細胞培養ですが、この方は何かの刺戟で肝らしさを発揮してくれることを期待して実験を進めたいと考えています。他面肝の機能の一部でもその機能を持ったcloneを取り出して有効に使うことを企てています。
 その他mutationの実験、初代培養細胞を使っての各種化学物質の毒性checkなど続けていくつもりです。

《乾報告》
 年月の経つのは早いもので、私48年4月にタバコ屋へ移りましてからこの3月で満4年になります。就任早々より今年こそは、今年こそは、仕事をしても叱られない所へ移りたいと願いながら4回目の正月を迎えてしまいました。今度こそは今年こそはが本当になることを祈る気持です。
 仕事の方は、梅田先生にヒントを頂き勝田先生の御指導で手掛けたTransplacental in vivo-in vitro combination chemical carcinogenesisの仕事が3年目を迎えてしまいました。昨年は定量的のあつかいが楽なMutationに力をそそいてしまいましたが・・・。本年は、この系がどれだけの化学物質に適用出来るか?。動物実験での標的臓器とこの系の反応の関連は?。又この系のtransformed colonyの造腫瘍性は?。等の問題に終止符を打つべき努力致します。
 昨暮もつまりましてから、母体にPCB、Phenobalvitalを前処理することにより、同系の感度が1オーダーは少なくても上ることがわかりました。近いうちに御批判を得たいと思っております。

《榊原報告》
 "復元接種試験法の検討"という大きなテーマを頂きながら、昨年は肝細胞の繊維形成の問題にかかり切って何もできませんでした。今年は本来のテーマに戻っていささかなりとも成果をあげなくてはならないと思っています。だが考えてみると、in vitroに於ける癌化の同定手段が可移植性テストをおいて他にないという現状こそ、癌研究の行き詰りを物語るものではないでしょうか。可移植性とは癌である為の十分条件であり、確立された実験系として要求される性質ではあっても必要条件であるという保証はなく、そのテスト方法、成績判定基準も一定でないように思われます。いかに精密、定量的に行われた試験管内発癌実験も、大詰めに来てこうした未知の要素が複雑にからみ合うbioassayに持ち込まねば物が云えないことは、誠に歯がゆいことではないでしょうか。十分条件が充たされることによって、少くとも癌でないものを癌とするおそれはなくなるわけですが、一方癌を見逃す危険のあることを意識したいと思います。
ともあれ、癌細胞同定法としての可移植性テストが不用になる時は、恐らく癌の問題は解決している筈だと思えば、それ迄は何とかしてこれを改良し、精度の高いものとする努力が必要かと考えています。

《難波報告》
 38:ラット肝細胞(RLC-18)の培地更新後のグリコーゲン出現の経時的変化
 5万個cells/60mm plate 5ml MEM+10%FCSの培地でまき、6日後(400万個cells/plate)この使用した培地2mlを捨て、新しい培地2ml追加(全体の培地中のグルコース濃度を1mg/mlになるよう調節)以後経時的にグリコーゲンを定量したのが次のグラフである(図を呈示)。細胞内へのグリコーゲンは急速に蓄積し、以後減少する。シャーレ当りのグリコーゲン量は12時間目から72時間んでほぼ一定の値を示した。その間細胞数は24時間目850万個/plt.、48、72時間目では1,000万個/plt.であった。
12時間から72時間に亙って、シャーレ当りのグリコーゲン量が一定なのは、1)グリコーゲンの新生と解糖のバランスがとれているのか。2)グリコーゲンの解糖が止まっているのか、検討を要する。
 39:静置および回転培養したラット肝(RLC-18)の電顕像:
培地更新後では静置培養に比べリボゾーム顆粒が急速に増加する。
 月報7612にRLC-18細胞のグリコーゲン顆粒の出現は細胞密度に依存し、密度が低い方が高いときに比べグリコーゲンの出現はよいことを報告した。
 そこでグリコーゲンの出現するような機能を細胞が示すことのできるような培養条件、培地更新を行なうという条件の下で細胞を静置培養と回転培養し、培地更新後、経時的(0、2、6、12、24時間目)に電顕で観察した。細胞はプラスチックのカバースリップの上に生やし、そのまま包埋し、切った。結果は(写真と表を呈示)、ラット肝細胞(RLC-18)培地更新後2時間目、リボゾーム顆粒が著しく増加している。時間を追ってみると、回転培養ではリボゾームは2時間目に顆粒の増加が著明、6時間目には増加したリボゾームは減少し、その後は変わらず。グリコーゲンは0時間にはほとんどないが、6時間目にはよく出現していて、以後はそのまま陽性。静置培養ではリボゾームは著変なし。グリコーゲンは、0時間にはほとんどないが、2時間目には出現し始め、その後は陽性。
 ミトコンドリアはそれほどの変化を示さなかった。()

【勝田班月報・7702】
《勝田報告》
 §当研究室で保管している培養細胞株及び亜株:
 それらのInitial day of culture、Origin、Medium、Tumorigenicityについての一覧表を呈示する。無蛋白無脂質完全合成培地継代株20株、血清添加培地継代株42株、合計62株である。

《難波報告》
 40:各種化学発癌剤の及ぼす正常ヒトリンパ球のクロモゾームの変化
 培養内で容易に癌化するマウスの細胞と、癌化しがたいヒト細胞との両者に対する4NQOの反応性の差違を検討した結果、1)細胞増殖阻害度、2)DNA、RNA、蛋白合成阻害度、3)細胞内への4NQOのとり込みと、4NQOの細胞内残存率などの点においては、両細胞間に差がなかった。しかし、4)4NQOの処理後のDNA修復合成能、5)クロモゾームの変化の2点において、両細胞間に著しい差がみられた。すなわち、ヒト細胞はDNA修復合成が良く、クロモゾームの変化が少いのに、マウスの細胞では修復合成が悪く、クロモゾームの変化が多かった。
 いま化学発癌剤による細胞の癌化の機構を考えるとき、上記の1)、2)、3)の条件の上に、さらに4)、5)の要因も加わらなければ細胞の癌化がおこらないと考えると、ヒト細胞の化学発癌剤による発癌実験を成功させる要因としてつぎの点を考えることが必要となってくる。 a)ヒトのクロモゾームの変化を高率におこす発癌剤
 b)クロモゾームの変化のおこりやすい細胞
 c)クロモゾームの変化をよくおこす培養条件
 今回は各種の化学発癌剤の、正常なヒト由来の末梢血リンパ球のクロモゾームに及ぼす変化を調べた。4NQO、MMS、MNNG、DMBA、BPについては、以前の月報で報告した。リンパ球の培養法は月報7505に記した。
 この報告の結果は、現在までに調べた薬剤の内で、4NQOより強くクロモソームの変化をおこす薬はなかった(表を呈示)。参考までに、4NQOは観察したmetaphasesの10%程度のmeta-phasesにGap、Break、Dic.などの変化を生じた。

《高木報告》
 ヒト胎児細胞の変異に関する研究
ヒト胎児細胞にEMS、MNNG、4NQOなどを作用させて変異を研究するにあたり、モデル実験としてRFLC-5/2(ラット胎児肺由来繊維芽細胞のclone)を用いて仕事をすすめている。
この細胞のplating efficiencyは100コの細胞を60mmのFalcon Petri dishにまいた時に約60%である。100/dishのcell densityで植込み、これに各種濃度のMNNG、EMS、4NQOを2時間作用させた後、Hanks液で充分に洗い、Killing Kineticsを求めている。これらの濃度におけるKillingの効果を調べた上で、TD40に植込んだ細胞に各薬剤を作用させて6日間のreco-veryとexpression timeをおいた後、さらに10〜100万個cellsをplatingして6TG耐性細胞の出現を観察する予定である。
また先の月報7612に書いたように、ラット由来のSRT細胞を培養259日目にMES 10-3乗Mで4日間処理し、さらに284日目に同様に2回目の処理をしてその50日後にCCB 2μg/mlを作用させ、無処理の対照細胞との間の多核形成能の相違を観察した。結果は(図を呈示)図の如く、多核形成能は対照細胞と殆んど変りなく、2核の細胞がもっとも多く、3、4核細胞もみとめられた。さらに培養を継続中であるが、復元成績についても培養385日目の現在検討中である。 次にこれから発癌実験を行なうにあたり、処理したヒトの細胞をATS処理ハムスターに接種して造腫瘍性をみるため、ハムスターのthymocyteでモルモットを免疫して抗血清を作った。方法は榊原氏法によった。免疫後にえられた抗血清の、ハムスターthymocyteに対する抗体値をCr51-release testで行なった。方法は次の通りである。
 1) 800万個/mlのハムスターthymocyte浮遊液3mlに100μCiのCr51を加えて、37℃で90分incubateする。この際の培地としてはMEM+10%FCSを用いた。
 2)終って5分間氷水中で冷却する。
 3)PBSで3回洗滌し1000rpmで5分間遠沈する。
 4)RPMI1640で再浮遊し、4℃で30分間放置する。
 5)ハムスターthymocyte 40万個/mlに調整し、この浮遊液0.5ml(20万個cellsを含む)と2倍段階稀釋したATS 0.5mlを混じ、さらにそれにモルモット血清(補体)0.5mlを加える。
 6)各試験管を60分間37℃でincubateする。
 7)これを遠沈し上清を1ml採取してその放射活性をwell typeのscintillation counterで測定する。かくしてえられたCr51-releaseと稀釋抗血清との関係は図の曲線の如くであった。50% Cr51-releaseは512倍稀釋で抗体価としては充分と思われたので採血して凍結保存している(図を呈示)。

《山田報告》
 CytochalasinBの細胞表面に与える影響について、JTC-16を用いて検討しました。Cyto-chalasinB(CB)0.5〜1.0μg/mlを培養メヂウムに入れて、その増殖能を細胞数の増加により検索すると、明らかに増殖抑制がみられました(以下、夫々図を呈示)。しかも、7〜8日目にはむしろその数の減少が若干みられ、それは1.0μg/ml CBにより、より著明でした。このCBによる多核化をみると、細胞の大きさが4日目より増加し、5〜7日には対照とくらべて二倍以上の細胞が50〜60%も出現しました。(これは二核、多核化に伴う細胞容積の増加と考えられますが、現在のaliquotの細胞を染色して検討中です)。
この細胞の大型化(多核化)に伴う細胞のE.P.M.の変化をみたのが、図2ですが、CB処理群では明らかにE.P.M.の減少がみられました。
しかしCBの溶媒であるDMSOでは著しい影響はない。このCBによる変化は、その増殖抑制による二次的な結果であるのか、あるいは多核化の進行に伴う変化であるのか次に検討したいと思いますが、この成績のみでは、この点がはっきりしません。
次にCBを培養メヂウムに入れて培養した後、経時的に採取した細胞に二次的に、ConA及びNeuraminidase処理した後のE.P.M.の変化をみました(図3・対照、図4、図5)。
現在まだその成績の整理が充分出来て居ませんが、0.5μg/mlのCB処理細胞をみると、CB処理後大型化の経過中の膜はConAに対する感受性が昂進して居る様な感があります。
Neuraminidaseに対する作用は、はっきりしません。さらにこの膜の変化を解析する実験が必要と考えています。次回に続けて検討してみたいと思います。 

《梅田報告》
 Filter cultureについてその後のデータと考えていることを報告する。
今迄FM3A細胞が8AG耐性を獲得する実験のためにfilter法を開発したつもりであるが、すべて3.5cm径dishを使用していた。すなわち、8AG耐性コロニーをみる実験にも3.5cm径dish中の8AG agarose plate上にfilterを置き、100万個cells overlayしていたことになる。この時どうも数日培養で培地が非常に黄色くなっている、すなわちpHが下っていること、が気になっていた。そこで6cm径のdishを用いて実験を繰り返してみることにした。
 そこで(表を呈示)表のようにMNNG 10-5.5乗M 2日間処理した細胞と処理しないcotrol細胞とをtransfer scheduleを変えて、12日目にfilterを固定染色してfilter上のコロニーを数えた。MNNG処理したものでは(A)、(B)、(C)群の差は無いようにみえるが、control細胞の方では頻回にtransferした(C)群が一番colony数が多いことがわかった。
 これは今迄考えていたのと逆の結果である。すなわち今迄はtransferの回数が少ないと8AGの活性が徐々に落ちるので、耐性でない細胞がうまく生き延びてcolonyを作る可能性があり、大小様々のcolonyを沢山作るのであろうと考えていた。今回の結果から考えられることは、そうではなくて8AG agarose plate上に100万個の細胞も播くので2〜3日液交換を行わないと、まだ殺されていなかった細胞が代謝をまで行っていて、全体として栄養不足になり細胞が殺される。逆に(C)群のように始めか頻回に液交換を行なっていくと、細胞はだんだん死んでいくので栄養不足になることなく、耐性の細胞はそのまま生き残るという可能性である。MNNG treated cellsはviabilityが始めから低いわけであるから、100万個の細胞をまいても1.2万個cellsしか生きた細胞を播かなかったことになる。因に、controlの方はPEが24故、24万個の生きた細胞をfilter上にまいていることになる。
 以上のことはmetabolic cooperationという考え方にも疑問をなげかけるようなので、さらに実験を繰り返し行ってみる計画である。

《乾報告》
 1)放射線によるin vivo-in vitro combination carcinogenesis(予報)
 放射線によるin vitro carcinogenesisは、Barek一派のみが、Hamster embryonic cellsとCBH 10T1/2mouse細胞で報告しているが、他の研究室での追試が成功していない。ここ二三年、化学物質で広くMorphological transformtioninが起った我々の系でvivo-in vitro combinationで、放射線によるTransformationを化学物質によるtransformationの解析と共に試みているので、第一段階を報告したい。
 妊娠11日目のハムスターに、全身照射でCO60を250r、500r、1000r、照射し、24時間目全胎児を摘出培養、24時間目に染色体標本製作、培養開始後48時間、72時間目の細胞を8-アザグアニン含有培地に再播種、72時間〜12時間目の細胞をシャーレ1ケ当り、5000個で播種trans-formed colony出現迄培養した。
 化学物質の場合に反して培養24時間以内では染色体はほとんど観察されなかった。現在培養時間の延長を行なっている。8AG-耐性突然変異は、(表を呈示)表の如く著明に出現した。突然変異コロニーは250rで出現し、500rでAF-2 40mg/hamster投与の場合とほとんど同様に出現するが1000r照射ではかえって出現が減少した。
実験に使用したHamsterの例数も少なく、又投与Doseも、3段階で充分とは云えないが、放射線大量全身照射で8AG耐性突然変異は誘発された、(1000r照射で変異細胞の出現率が低下するのは細胞の生存率の低下によるものと考えている。)
 Morphological transformationは、一部のシャーレを培養後10日目固定したが、わずかに変異コロニーが観察された。現在大部分のシャーレの培養は継続中であるので、次回の班会議では御報告出来ると思う。
 2)Tupaia belangeriの培養
 昨暮、勝田先生、山本正先生のお骨折りで、西独のBattele研究所よりPrimateで一番下等で、しかもビールス感受性、Isoemzyme Pattern等が同綱の中で一番人間に近い、体長20cm位の猿を一匹輸入していただいた。同猿は妊娠後期のもので、日本到着後10日目の12月8日に出産したが、出産仔は、9日、11日に残念ながら死亡した。
人間の細胞は御承知の様にTransfomationをしにくいので、そのモデルとして、これらの仔より肺、腎、肝、皮フ、心、脾臓の培養を開始した。出生仔死亡後、親が仔を大部分食べているので、こまかい染色体分析をしていない現在では♂♀は、わからないが、染色体数62でA〜G群に分類出来そうである(C群が少なくD群が多いと思われるが人間並に並べられそう)。現在培養後50日、F12+FCS 10%で培養したものが7代目に達し、どうやら培養出来相なことがわかったので、若い細胞をもどして、そろそろTransformationの実験にかかろうと思っている。
次回の班会議では、同細胞の今迄得たDataを御紹介する予定でいるが、Life Spaneは、in vitroである臓器とない臓器由来細胞があるようである。

《永井報告》
 今年は勝田先生が医科研で過される最後の年に当りますが、先生の御研究のまとめの成就と、これを一里塚として、今後益々御研究の上で新境地に進まれますよう期待する次第です。
 私はこれまで、勝田先生の御仕事のうち、毒性代謝物質の化学の方を担当してきましたので、この方向の仕事を今年中に或る段階にまではもってきたいものと念じています。精製単離については数種類の物質の混合から或る分劃まで追いつめて来ていますが、最後の単離のところで、奇妙な現象が起って、腰くだけになってしまっているのが現状です。これを何とかして乗り越えたいというのが願いです。物質の同定の仕事は、一歩一歩進まなければならぬことから成っているのが、泣きどころです。

《榊原報告》
 これ迄、30系統を越える肝臓由来の上皮様細胞株につき、in vitroでのcollagen形成の有無をしらべ、その結果がpositiveであることを報告したが、これらの細胞は、 (1)所謂established cell lineであること、(2)少くとも現時点では肝特異的分化機能を失っていること、などから、その結果を以て正常肝実質細胞の機能とすることは早計かとも考えられた。そこで今回は、培養開始後3ケ月ならびに4ケ月目の上皮様培養肝細胞について、鍍銀繊維形成をしらべ、また現にrat albuminを産生しつつある3つの肝細胞クローンにつき、これを60日間confluent cultureしたのち、鍍銀、Mallory-Azan、弾力繊維の各染色を行い、かつ電顕敵観察を行った結果を報告する。
 1976年9月19日及び1976年10月15日に、それぞれ乳呑みラット肝からdispase消化法で培養が開始された細胞は、各々RLn-2、RLn-3と名付けられている(癌細胞学研究部・新田さんより分与された)。細胞は定型的な上皮様形態を示し、島状に増生する。これらを1977年1月6日よりタンザク上に播き、21日間培養の末、型の如く鍍銀染色を行った。(写真と表を呈示)写真1は培養3ケ月目のRLn-2であり、明らかに繊維の形成がある。4ケ月目のRLn-2にも同様の所見が認められた。
次にBCの35代目、BBの20代目、そしてDL1-5の3つのCloneにつき、3日間培養したのちの培地を北大生化学教室の塚田助教授に送り、Albumin、α-fetoproteinの有無をしらべていただいた。表1がその結果である。AFPはどのcloneもnegative、AlbuminはBB、BC、DL1-5のみが陽性とのことである。なお、培地の濃縮は行なわれていないそうである。これらを60日間、subcultureなしで培養下のち、光顕、電顕的にcollagenの有無をしらべたが、やはり陽性であった。弾力繊維は認められなかった。
さてこうした結果に対し、特に培地成分が影響を及ぼしているとの証拠はもたない。写真2に示す通り完全無血清培地(DM160のみ)で培養されているM・P3はかくの如く旺盛に繊維形成を行なう。皮下の繊維芽細胞の作る繊維とは、比較にならない程量的に多いようである(写真3はRSC-5の鍍銀染色像)。培養のoriginであるratのageも、胎児からadultまであって、とくにcollagen産生と関聯づけられるものはない。

【勝田班月報:7703:ラッテ肝上皮細胞株の動態】
《勝田報告》
 §ラッテ肝由来上皮細胞株の動態
 1962年から1976年までの14年間に、我々の樹立したラッテ肝由来の上皮細胞株は、原株だけで29株に達した。これらの細胞株については殊にその機能について多くの問題が残されているが、今日は最近樹立した数株の動態を紹介する。(顕微鏡映画を供覧)
 使用した細胞はRLC-15(4カ月)、-16(1年2ケ月)、-18(2年1カ月)、-19(6カ月)、-20(1年)、-23(1カ月)、()内はそれぞれ映画撮影時の培養日数である。顕微鏡倍率は10x10、撮影速度は1コマ2分(RLC-19のみは10x20、2コマ1分)。
 映画で観察すると、同じ上皮様形態の細胞であっても、異なった特徴や動態をもっていることが判る。例えばRLC-16は核の周りに密集した顆粒をもっている。又細胞間の結合はやや弱い。RLC-18は多極分裂が多い。

 :質疑応答:
[吉田]株化の定義は・・・。又どの時点から株化したか判りますか。
[高岡]誰が培養しても、安定して永久に試験管内で継代が続けられる細胞系が株細胞だと思っています。ラッテ肝由来の株については株化の時期ははっきりしません。培養1ケ月位の頃、上皮細胞の増殖がみられる系の殆どは株化するようです。
[山田]RLC-16は電顕的にみても、細胞間の結合が弱いですね。
[吉田]RLC-18は異常分裂が多いが、異常分裂した細胞が生存してゆくとは考えられませんね。ステム細胞があるのでしょう。
[梅田]映画では2核細胞は次の分裂をしませんでしたね。それから、分裂前に核が廻るものと廻らないものとがありました。
[遠藤]分裂前に核が廻るのは何故ですか。
[勝田]私のもっている仮説として、分裂前に核は細胞質との縁を切るために廻るのではないかと考えています。それで核膜は2重になっているのではないかと・・・。
[梅田]核の内容物を放出しているという説もありますね。
[遠藤]しかし、あれだけぐるぐる廻るには相当のエネルギーが要るでしょうね。そして細胞としては、それだけのエネルギー放出しても核が廻らねばならない必要性があるということになりますね。

《難波報告》
 41:RLC-18(ラット肝細胞)のグリコーゲン合成
 1)インシュリン効果の検討
 MEM+10%FCSに1U/mlのインシュリン(Sigma)を含む培地でglycogen合成を掲示的に検討した。その結果、インシュリンはglycogen合成を高めなかった(図を呈示)。
 2)細胞の増殖とglycogen合成との関係
 培養器内に1杯に生えた細胞を20万個/60mm pltにまき、細胞の増殖とグリコーゲン合成との関係をみた。培養3、5、7日目に培地を更新し、6時間後の細胞内グリコーゲンを測定した。その結果(図表を呈示)、細胞の増殖に伴って細胞当りの蛋白、グリコーゲン量が減少していた。グリコーゲン合成は細胞の対数増殖期の早期に盛んである。

 :質疑応答:
[吉田]ヒト由来の正常細胞で株化したものは、本当にありますか。
[難波]無いはずです。今までに株化したと報告された系の殆どは、HeLaのコンタミネーションという事のようです。
[榊原]今呈示されたヒト細胞復元組織像は、線維肉腫と断定できないでしょうね。
[吉田]ヒトの細胞だけが株化しないのは何故でしょうか。
[難波]何故でしょうね。私も動物細胞しか扱っていなかった頃は、ヒト細胞の老化現象など半信半疑でしたが、自分でヒト細胞を培養してみると矢張り株化できないのです。
[高木]ラッテの細胞では、4NQOの摂り込み量や毒性は処理時の細胞数に影響されるようですが、ヒトの細胞でも同じですか。
[難波]ヒトでも同じです。
[松村]化学発癌に使う細胞は、クローンを使うように出来ませんか。
[難波]クローンを使いたいのは山々ですが、1匹拾ってもそれが実験に使えるまでに増やそうとすると、人細胞ではもう老化現象が起きてしまします。
[松村]寿命がつきかかった細胞の変異については、ウィルスによる変異の場合も分裂能力を残している時期でなければ起こらないようです。

《梅田報告》
 (I)先月の月報に次いでfilter culture法のその後のデータを報告する。Filter culture法を考えたのはagar plate cultureで8AG agar plate上に大小の様々のコロニーが形成され、判定にまぎらわしさを伴ったからであった。すなわち小コロニーを作る細胞は8AG抵抗性のないことがわかり大コロニーだけを数えねばならなかった。Filter法で8AG agar plateへ数回のtransferをうまく行えば生ずるコロニーはすべて大き目で8AG抵抗性であろうことを期待した。
 ところが実際に形成されるコロニーは小さ目のものも形成された。そこでfilter上からコロニーを10ケ(大コロニーより4ケ、小コロニーより6ケ)拾い、8AG、HAT培地中で8AG抵抗性の程度を調べた。各クローンの増殖はすべて8AG培地中でコントロールの増殖よりはやや落ちるが増生しており、一方HAT培地中の増生はなく、8AG抵抗性であることが証明された(表を呈示)。
 先月の月報で報告したようにtransferの問題が尚気にかかるので更に実験を追加した。(表を呈示)Control cellの方でtransferの回数が少ないものは8AG抵抗のコロニー出現頻度は少ない傾向があるようである。しかしまだ有意の差かどうかわからないので今後尚検討する予定である。
 (II)人での実験に制限がつきまとう以上、リンパ球などを培養した組織培養の系で発癌剤その他の作用を調べることは、われわれ培養屋に課せられた重要な実験方法の一つである。しかし、リンパ球を使用しての突然変異実験、悪性転換の系が開発されていない現在、染色体異常を指標にした検索法が今すぐ利用出来る遺伝毒性を調べる手段となる。そこで所謂promutagen、procarcinogenが代謝活性化されれば人リンパ球の染色体にも異常を起し得るかどうか調べる目的で以下の実験を行った。
 今迄にマウス又はラットの肝ホモジネートとNADPH、MgCl2をDMNとFM3A細胞と共に30分間反応させてから正常培地で2日間培養後、8AG抵抗性獲得突然変異を調べると、DMNの濃度に依存して突然変異率が上昇することを見出していた。そこで先ず同じ実験を組み、FM3A細胞の染色体に異常を起すかどうか調べた。(表を呈示)一応濃度に依存して染色体異常が増加している。
 そこでConray-Ficoll法により分離したリンパ球を直ちにDMNと代謝活性化酵素と反応させてからPHA添加培地で培養する系と、PHA培地で3日間培養後反応させてから更に24〜48時間培養する系との2つで染色体標本を作製し検索した。
 今迄に実験を3回行った。すなわち、反応を行わせてからPHA賦活したものと、PHAにより芽球化した細胞に反応させてから染色体を調べたものは、共にDMNの濃度に依存して異常が増加している。しかしFM3A細胞のデータに較べ、exchangeなどの出現頻度は低い。以上のデータをまとめた(各々表を呈示)。

 :質疑応答:
[吉田]この場合の対照群はどういうものですか。
[梅田]DMNを添加していないものです。
[難波]染色体レベルの変化で癌化へと進むものは何でしょうか。
[吉田]Exchangeでしょうね。
[難波]Exchangeはヒトの細胞ではなかなか見られませんね。
[吉田]分裂を2度繰り返すと出てきますよ。
[難波]すると24時間培養して染色体標本にするのは短かすぎますね。
[松村]梅田さんの実験では同じヒトからの細胞を使っていますか。
[梅田]今のところ、意識して二人のヒトのを使っています。もう少しはっきりしたら、もっと多くの人の細胞で調べたいと思っています。
[難波]本当にヒトは個体差が大きいですね。
[山田]細胞電気泳動度からみても個体差が大きいです。ヒトの材料での基礎実験は難しいですね。

《山田報告》
 今回はCytochalasinBをin vitroで作用させた(1.0μg/ml、0.5μg/ml)後、1日目及び6日目に細胞(JTC-16)を採取し、二回洗滌後各濃度のConAを接触させた後の変化を検索しました。2日目(多核細胞の出現し始める状態)にConAを加へると、ConA 1μg/ml濃度によって、その荷電密度が上昇し、6日目(多核細胞が多数出現した状態)では2μg/ml濃度での著明な荷電密度の上昇がみられました(図を呈示)。この成績より、in vitroでCBを加えることにより細胞(JTC-16)の平均荷電密度が下降しますが、その状態でConAに対する反応性が昂進すると理解しました。しかし完全に多核化した大型細胞よりも、多核が生ずる前段階でその様な変化が起ると考えられます。何故ならば、ConAによって荷電密度が増加する現象は、各サンプルの比較的小型の細胞により著明に認められるからです。

 :質疑応答:
[梅田]大きい細胞は重いはずですが、電気泳動度には影響しませんか。
[山田]電気泳動度は荷電密度の問題なので、或る物理的条件下では重さの違いは殆ど問題になりません。
[遠藤]サイトカラシンB処理で染色体はポリプロイディになりませんか。
[山田]多核にはなっていますが、染色体のプロイディは判りません。

 ☆☆☆吉田班友から、"ドブネズミとクマネズミのかけ合わせについて"のお話があった。
[勝田]ドブネズミとクマネズミとをかけ合わせると、発生はするのに途中で死んでしまうのは、抗体の問題ではありませんか。抗リンパ球血清などで処理したら・・・。
[吉田]それも考えています。トレランスにするとどうかなどと・・・。
[関口]着床の段階でも差が出ているのは何故でしょうか。
[吉田]判りません。

《乾報告》
 先月の月報で報告致しましたZupaia belangeisの細胞の性格について報告します。
 昨暮12月9日出生後死亡した新生児(2匹)の肺、肝、心、脾、皮膚の細胞をトリプシナイズ後培養にうつした。
 前記動物は、Primateのうち一番下等で、体長20cm、成熟迄の期間は6ケ月で、実験動物として飼育しやすい最下等の猿(原猿類)である。しかも特色として、Isoemzyme pattern、Virus感染のSpectrumが極めて人間に近い。当班では難波先生が研究をつづけられているが、衆知の如くケッシ類の細胞に比して人間の細胞は極めて癌化しにくい。
 我々は人間細胞の癌化を解析する手始めとしてZupaiaの細胞の培養にとりかかったが、現在、肺(10代)、心、腎(8代)、脾、皮フ(6〜7代)でFibroblasticな細胞が増殖している。これらFibroblasticな細胞のContact inhibitionはきはめてよくかかるが、培養後63日目いづれも増殖はいい。
 腎細胞には現在、FibroblasticとEpithelial likeの二種の細胞をカップ法、高しんとう圧で分離した。
 細胞の性質として肺起原細胞で現在わかっていることは、1)Colchicine感受性がハムスター(0.3μg/ml)に比してきわめて高い(0.02μg/ml)。2)8AZ耐性がハムスター、人間(20μg/ml)に比して極めて高い(100μg/ml以上、マウスと同等)。3)ウワバイン耐性は非常に低く人間と同じ(Zupaia、人間・1x10-6乗M、ケッシ類 3x10-6乗M)。4)肺起原細胞のDoubling timeは27時間である。
 現在薬物代謝能力等を、人間、ハムスター、マウス起原細胞と比較している。
 これらが、難波先生のしらべられた人間型であったなら、transformationの実験に入る計画である。

 :質疑応答:
[難波]ウワバインはヒトの線維芽細胞だと10-6乗Mで死にます。
[乾 ]ツパイアは10-5乗M 3日で死にます。ハムスターだと1x10-3Mです。
[梅田]接触阻害はどうですか。
[乾 ]強くかかっている系です。

《高木報告》
 ヒト胎児細胞の変異に関する研究
 ヒト胎児細胞を用いた変異の実験をする場合、まずその実験系に適した細胞を用いねばならない。ヒト胎児の種々の組織を培養して、あきらかにcolonyを形成し、またplating efficiencyの比較的高い細胞を撰別する努力をしている。2〜3の細胞を供覧する。
 一方先報の如くRFLC-5細胞のcloneであるRFLC-5/2を用いて、mutagenであるが未だ癌源性のみとめられていないEMS、最もつよいcarcinogenとして知られているがmutagenicityの低い4NQOおよび、つよいmutagenでありまたcarcinogenでもあるMNNGによる実験を試みている。
 まずRFLC-5/2細胞に対するEMS、4NQO、MNNGのcytotoxicityをみるために細胞を100コ/60mm Petri dishに植込み、2時間後に上記薬剤の各種を培地にとかして作用させ、洗って後7日間培養してcolony数を算定した。37%survivalを示すmean lethal dose(Do)はEMSでは2時間の作用で1.1x10-2乗M、3日間で1.6x10-3乗M、7日間で6x10-6乗Mであった。またMNNGでは2時間で4x10-6乗Mであったが、4NQOは0.05μg/mlでも本実験条件ではcolonyの形成はみられず、さらにこれ以下の濃度で検討中である。
 これらの薬剤を作用させ、6TG耐性株の出現をみるべく計画して実験をすすめている(実験計画図を呈示)。EMS 10-2乗M、MNNG 6.8x10-6乗Mについて行った実験では目下selection mediumに入れ8日目であるが、明らかなcolonyの形成はみられていない。
 ヒトinsulinomaの培養
 3x2cm大のinsulinomaの培養を試みた。組織を細切しcollagenase 20mg/10ml CMF液で15分間magnetic stirrerを用いて処理し、2回目以後はtrypsilin(持田)200HUM液で15分ずつ数回処理して細胞を集めた。集めた細胞は35mm Petri dish 4枚にF-12とD-MEM培地に20%FCSを加えた培養液で植込んだ。F-12培地を用いた場合、細胞はsheetを形成したが約4週間で器壁から脱落しはじめた。D-MEMでは細胞は塊まってなかばsheetを形成したような状態で培養されたが、53日目にDispase処理してCarrel瓶1本に継代、現在sheetにならず集塊のままで培養がつづけられている。
 培養液中に4日間に分泌されたinsulin量は、培養3週目までは15mu/mlであった。

 :質疑応答:
[乾 ]経験の少ない細胞の場合は、薬剤の処理濃度と細胞のまき込み数についてもう少し検討した方がよいと思います。
[難波]株化した古い細胞で実験にselection mediumを使う時は、細胞にマイコプラスマが感染していて結果が違ってくることがあります。

《榊原報告》
 BCcell cultureから抽出される酸性ムコ多糖について、酵素消化試験を行った結果、これまでHeparansulfateと考えていたものは、実はHyaluronic acidらしいことが判った。Heparan sulfate(HS)と推定した根拠は電気泳動所見である(図を呈示)。0.1M酢酸バリュームを用いた場合のものである。ところが、0.2M酢酸カルシュームで泳動させてみると、泳動度の遅いbandはHyaluronic acid(HA)と同じ位置にあり、HSとは明らかに異る。若しHAであればこのbandはchondroitinaseABC、testicular hyaluronidase、streptomyces hyaluronidaseのいづれによっても消化される筈であり、HSであればいづれの酵素によっても消化されてはならない。そこで先づchondroitinaseABCでsampleを消化した上泳動させてみたところ(図を呈示)、bandは2本とも全く消失した。このことは、2本のbandに相当する物質がHyaluronic acid、dermatan sulfate、chondroitin sulfate a or cのうちのいづれかであることを意味する。さらにtesticular hyaluronidaseで消化したところ、dermatan sulfateのbandは残ったがHSと考えたbandは消失した。このことは消えたbandがhyaluronic acidか、あるいはchondroitin sulfate a or cであることを物語るが、後者である可能性は電気泳動図からみてあり得ないであろう。streptmyces hyaluronidaseによる消化試験によって、この問題も解決する筈であり、目下準備を進めている。電気泳動図のdensitometryを行った結果、単位乾燥重量当りのムコ多糖の経時変化を半定量的に表わすことができた(図を呈示)。Hydroxyprolineの変化と極めてよく似たパターンを示している。

 :質疑応答:
[遠藤]カルシウム・アセテートで流した方の図では、同定されたバンド以外にもう1本あるようですね。
[梅田]デルマタン硫酸の増え方は肝硬変と同じ位ですか。
[榊原]増え方というより、正常肝には殆どありません。
[遠藤]ブレオマイシンは肺のセンイ化の促進剤として知られていますから、in vitroでも添加してみると面白いでしょう。

 ☆☆☆遠藤班友から"食い合わせの中から発癌因子を探る"お話があった。発癌性がないとされている物質でも、胃袋の中で現実的に起こる可能性のある組み合わせを、試験管内で再現してみたら、予期された如く発癌性をもった恐ろしい物質が生まれてきたということであった。
[山田]生理的条件では胃が酸性だと簡単に言えないのではないでしょうか。
[遠藤]それは考えなくてはならないと思っています。ですから試験管の中でも、物を食べたあとのpHが上昇した状態に似た条件も加えたという訳です。
[山田]母地になっている状態についても考える必要がありますね。胃癌については実際に出来てくる時の情況と実験的に作る時の情況にずれがあるように思います。
[遠藤]たしかに母地の問題は重要ですね。

《常盤・佐藤報告》
 DABが培養細胞内高分子と、どの程度、どの様に結合するかは興味ある所である。本報告は、タンパク質との結合に限定して、いわゆるprotein-bound dyeを種々の培養細胞について求めたものである。
 方法はアゾ色素を含む培地で2〜3日間培養した細胞を(TD40瓶数十本)、ホモゲナイズし、TCAで沈殿させ、エタノール・エーテルで沈殿を洗浄し、ついでこれを1〜2mlのギ酸に溶かし、可視部の吸収スペクトルを求め、タンパク結合色素量を測定した。
 (1)単個クローン、Ac2F、Bc12E、Cc11E(いずれも2n域に染色体モードを有する)の中で、Cc11Eが、肝ホモゲネートよりは低値ではあるが、培養細胞としてはかなり高い値を示した。(なお、Cc11Eは、増殖率が極端に低い)
 (2)初代培養では、株化した細胞とは異なり、薬物代謝酵素活性も高いと考えられ、bound dyeを求めたが、予想に反して、株細胞並の低値となった。この実験は2、3度試みたが同傾向であった。DABの濃度が高すぎるため毒性が出ているのかも知れない。
 (3)DAB飼育ラット由来肝細胞株dRLN-53、dRLh-84は、ほぼ同値を示した。(dRLN-53は種々の点で正常に近く、dRLh-84は肝癌由来である) H3-DABのとりこみに関する教室の宮原のデータ(核病理誌 Vol.14、65、1973)によると、両細胞系はオートラジオグラフィーで見る限り、同程度のとりこみを示した。bund dyeのデータはこれと同様の結果となったわけであるが、これは長期培養の結果、両細胞系が生物学的に近似の状態となったと解釈するか、ないしは両者の結合タンパク質の異なることによるか、いずれかが考えられる。
 (4)長期間DAB処理された細胞と、コントロールについて比較した所、DAB処理細胞の方がより低値を示した。コントロール自身の値が低い為、解釈は難しいが、このケースは、肝癌ではprotein bound dyeが低下するという例に入るのかも知れない。
 実験(1)19.2μg/ml 3'Me-DAB 3日間処理後測定。実験(2)トリプシンで分散されたラット肝を48hr、96hr培養(8.4μg/ml 3'Me-DAB含)。実験(3)8.4μg/ml 3'Me-DAB 3日間処理後測定。dRLN-53は、0.06%DAB 57日飼育ラット肝由来細胞。dRLH-84は同31日飼育ラット肝由来細胞。実験(4)1.0μg/ml DAB 2日間処理後測定。 (各実験についての表を呈示)

【勝田班月報・7704】
《勝田報告》
 Muntiacus muntjak(ほえじか)
これはインドホエジカとも呼ばれるが、染色体数が♂7本、♀6本という、細胞学者にとってはこたえられない動物である。
 第1回の培養は、1976-3-3:♂より血液細胞、耳、内股皮下組織であった。
 第2回は1976-8-15:死産した胎児を動物室で凍結してしまった。8-21にそれをとかして培養したが、やはり増殖はおきなかった。
 第3回は1977-4-4 am11:40出産。4-5 pm2:30新生児をネムブタールで眠らせて開腹;心、肺、胸腺、膵、胃、膀胱、脾、胸骨、皮下の諸組織をとって培養に移した。恐らく、♂と推定される。材料の分配は班員に限った:梅田、榊原、乾、加藤、永井、山田、勝田であった。同日夕方、親の♀は死亡した。親♂は返還するように手配した。腎は上皮様の細胞が活溌に増殖している。これはすぐにも実験に使える。胃はbacterial contaminationを起してしまった。脾は形質細胞様の形態を示す細胞がふえている。胸腺は細網細胞様の細胞が増殖している。肝は残念ながら大変のぞみ薄である。
 §合成培地DM-160に最近駲化した細胞株について:
 1)JTC-27・P3株:
 これはラッテ腹水肝癌AH-601由来のJTC-27株が原株である。1972-5-12に、血清を含まないDM-160に移した。血清を除いてから初期2年間はほとんど増殖がみられず、第1回の継代は1973-5-19、第2回は1974-7-24。その後徐々に増殖率が上昇し、現在30代で、形態的には原株と似て、上皮様のcell sheetを作る。Piling upも見られる。
 2)M・P3株:
 ラッテ肝由来で[なぎさ+DAB]変異株Mが原株である。原株はDABを高度に代謝消費する。1973-11-19に血清を除いて現在21代。形態は、よく揃った上皮様の細胞で、密集したCell sheetを作っている。
 3)RLC-10(2)・P3:
 原株はラッテ肝由来のRLC-10(2)で、現在まで約1年半継代。継代10代でまだDM-160に充分駲化したとは云えないが、確実に増殖し、継代も順調に進んでいる。
 4)CulbTC・P3:
 原株はCulbTC(ラッテ肝−4NQOで悪性化)で、RLC-10(2)と同日に無血清培地にきりかえたが、RLC-10(2)より駲化は難しく、現在までに6代しか継代していない。継代直後に死ぬ細胞が多い。
 この4種の株に共通して云えることは、血清培地内継代の原株との間に形態的変化がほとんど無いことと、増殖率が原株より低いことである。

《乾報告》
 Zupaia細胞の2、3の性質について;
 昨年12月11日に、培養を開始したZupaia新生児由来細胞(肺、心、腎、皮フ)が現在約100日(12〜15代)培養されている。
 培養はHamF12培地+10%FCS、Dulbeccos MEM+10%FCSで開始したが、前培地では培養開始後90日前後(10〜11代目)で増殖がおとろえ核/細胞質比が減少し、累代培養が不可能になった。同培地条件ではAgingがあるものと考え現在4代目の細胞をもどし再実験を開始した。これに反し、Dulbeccos MEM培地で培養細胞は、今日も順調に増殖している。この細胞の肺由来細胞(Zp/Lu M1211)9代目について、人間、ハムスター、マウス細胞との種々の性質の類似性、相似性を検索中であるが、本報告では、8-アザグアニン(8AG)ウアバイン耐性、MNNGによるウワバイン(Oav)耐性突然変異誘導の一部のData(整理済のみ)を報告する。
8AG耐性は当研究室の常法にしたがい、50万個cells/dish播種後初めの3日間は毎日、以後3日間隔で8AG含有培地で培地交換を行ない20日培養した。(表1、2、3を呈示)
表1に示すように、Zupaia細胞は8AG感受性について、ケッ歯類細胞と大幅に異なっていた。
 一方同様細胞をシャーレに播種後1週1回の培地交換を行ない、1ケ月間培養後固定、細胞観察を行なった結果を表2に示した。Zupaia cellは、ウワバイン(Oavaine)に対して非常に感受性が強い(人間は1x10-6M)。
次にZp/LuM-10 Zp/He M-10(心由来細胞)を使用、MNNG投与後のOavaine耐性突然変異を観察した(Expression time 72h)。表3から明らかな様にZupaia細胞は、MNNG投与により誘発突然変異率は究めて少ない(同濃度MNNG投与によるHamster細胞のそれは10〜40倍であった)。又心起原細胞ではMNNGによる突然変異はみられなかった。現在難波氏より分与された人間の細胞も使用し、各種発癌剤に対する反応等を検索しているが、ある種の化学薬品については人間に近い反応を示し、又ある発癌剤にはケッシ類に近い値を示している。Data整理の上報告するつもりであるがケッ歯細胞より人間のモデルになりうる細胞系でああることを期待している。

《難波報告》
 42:培養ラット肝細胞(RLC-18)のグリコーゲン合成
 月報7611、7701、7703にRLC-18のグリコーゲン合成を報告した。現在までに得られた結論はRLC-18のグリコーゲン合成は、細胞密度に依存し、細胞密度の低い方が高い場合に比べ、細胞当りのグリコーゲン合成能が高かった。
 そこでRLC-18細胞を細胞密度を低くして培養し、培地を更新し、細胞にグリコーゲンのよく出現するまで(約5時間)のRLC-18細胞のDNA、RNA合成、培地の中のグルコース消失を、培地を更新しない培養(この場合はグリコーゲンは出現しない)と比較した。また細胞密度の低い場合と高い場合とでは、それらの培地更新によってDNA、RNA合成、グルコース消失が、どのようになるかを検討した。(蛋白合成は検討中) その結果は図1、2、3に示すように
1.培地更新後のRLC-18細胞では、更新しないものに比べRNA合成の点で、著明な差がみられ、更新後のものでは、1時間よりRNA合成は高まった。培地を更新しなければRNA合成は高まらなかった。このRNA合成の上昇とグリコーゲン合成とは一致する(図2)。
2. DNA合成は、更新後5時間以内では、培地の更新に無関係であった。すなわち、DNA合成とグリコーゲン合成とは関係なかった(図1)。
 3. 細胞当りのDNA、RNA合成、グルコース消費は、細胞密度の低い場合の方が高い場合に比べ圧倒的に高かった(図3)。
4. 細胞密度が高まると物質の細胞内へのとり込みが低下するようである。
 図1:培地更新後、1、2.5、5時間後、H3-チミジン(0.5μCi/ml)で30分ラベルして、その細胞内へのとり込みを液シンで測定。
図2:培地更新後、0、1、2.5、5時間後のH3-ウリジン(0.5μCi/ml)で30分ラベルしてその細胞内へのとり込みを液シンで測定。
図3:培地更新後、1、2.5、5時間目のグルコース消失を測定し、細胞当りに利用されたグルコース量を求めた。

《高木報告》
 ラット細胞(RFLC-5/2)の変異に関する研究
 前報につづきEMS 10-2乗M、MNNG 6.8x10-6乗Mを作用させた実験でEMS 10-2乗Mでは6TG耐性細胞はえられなかったが、MNNGについては60万個cellsにつきやっと1コの耐性colonyをえた。4NQOについてはこの細胞を100コまいた際のKilling Kineticsを調べ、1図のような成績をえた。(図を呈示)。これを参考にして耐性細胞の出現頻度を調べているが、いずれにしてもこの細胞では6TG耐性の出現頻度は可成り低いことがわかった。
 そこで薬物のKilling作用を抑えて、Mutationの相対的頻度を上げることはできないかと考えている。scheduled DNA replicationを抑え充分なrepairの時間を与えれば、survivorを増加する可能性があり、そのため血清濃度を下げた状態で薬物を作用させることも検討している。図2は血清濃度を1%に下げた場合のscheduled replicationの量を比較したものである。
 培養細胞に対するEMSの効果:
 昨年の月報に報告して来たように、培養70日目(E1)および266日(E3)のWKAラット胸腺由来繊維芽細胞に、EMS 10-3乗M1回、4日間作用させ、以後継代をつづけて来たが、これら細胞の可移植性につき生後3ケ月前後のATS処理hamsterのcheek pouchに移植を試みたので報告する。平均直径は、腫瘤の縦、横、高さ(mm)の平均である。実験1、2、3の3回いずれもEMS処理細胞の方が無処理細胞に比して大きい腫瘤を形成した。すなわち、形態、染色体数などでは差異は認められなかったが、可移植性はやや違うようである。これが有意か否か、さらに検討の予定である。(図を呈示)

《梅田報告》
 現在のわれわれの培養条件では、feeder cellの役割りは大きく無視出来ないものとなっている。しかしX-rayをかけることの煩雑さからなるべくfeeder cellを使わない実験が試みられているといっても過言でなかろう。すなわち、どうしてもfeeder cellを使いたい時も、使用する数日前から細胞を用意し、前日にX-rayをかけてから播種し、当日やっと培養したい目的の細胞をまくといった具合であるから、ルーチンにfeecer cellを使う所ならばいざ知らず、ちょっとためし培養の時などは用意の方が大変ということになる。
 そこでX-rayを照射した細胞を凍結しておいて、それを融解して使用した時も、feeder cellの役割を果すかどうか調べた。
 (1)先ずシリアンハムスター胎児細胞にX-rayをかけて、直ちに一定のinoculumでラブテックチャンバースライドにまいて4日間培養後、固定染色した。一方で同じ細胞をX-ray照射後常法によって凍結し、4日後そのアンプルをとり出して細胞を調整後ラブテックチャンバースライドにまいて、同じように培養後固定染色した。両者のスライドを観察した結果が表1である。顕微鏡観察するとfeeder cellは4日間培養で非常に大きくなるが、別の実験で増生させたハムスター細胞と比較すると、表の如く3倍、5倍の大きさになる。しかし凍結後使用したものは、凍結しなかったものに較べ明らかに小さい。細胞数は10x10の顕微鏡視野内の細胞数を20視野数えて平均したものである。1万個/mlまいた群でみるように凍結したものの方が却って細胞数が多く、X-ray照射後も細胞は凍結処理に対しOKであることがうかがえる。
 (2)同じようにシリアンハムスター細胞を使ってコロニーを形成させる実験を行った。X-ray照射後の細胞と、照射後凍結しておいた細胞を6,000ケあて6cmのシャーレにまき、さらに一日間培養後ハムスター細胞(未照射)を500ケまいて7日間培養した。培地はD-MEM+20%FCSを用いた。メタノール固定ギムザ染色後、コロニー数を算定した。コロニー数は表2に示す通りで、やや照射直後すぐに使用したfeeder cellを用いた方のコロニー数の方が多いが、使用したシャーレ数のこともあり、凍結がコロニー形成に悪い影響は与えていないように考える。実際にコロニーの大きさは両者差はなく、凍結した細胞もfeederとしての役割りに充分使用に耐えるものと考えられる。(表を呈示)

《榊原報告》
 §BC cloneによる可溶性collagen産生:
 BC clone 100代目のcell layerに於るHy-Pro及びムコ多糖の経時的変動については、度々報告してきた。この実験の際、spent culture fluidをpoolして保存しておいたが、このうち200mlから、アミノ酸自動分析機を用いて、directにHy-Proを定量することを試みた。
medium 200mlに、10%の割合でTCAを加え、90℃、60min加温したのち、遠心して沈澱を除去する。上清を透析tubeにつめてruning waterに対してTCAを除いたのち、rotary evoporatorを用いて乾固、6N HClを加え、110℃、24hrs加水分解し、再び乾固したものを、日本電子液体クロマト研究室に送ってアミノ酸分析を行って貰った。帰ってきたチャートから、WH法で全アミノ酸のmole数と1000残基中の比率を計算した。Hy-Proは、1646μmole、1000残基中約11.3の割合で含まれている。mediumは3日間cultureされ、500mlの培養びんを4本分であるから、細胞数は10の8乗見当である。cell layerに不溶性collagenとして沈着するものに比べて、かなり多くの量が可溶性蛋白の形でmedium中に分泌されていることが分った。ムコ多糖の量も検量線を作製し、そのものの値として算出できたので、この研究の最後のまとめに当るグラフを示す(図表を呈示)

【勝田班月報・7705】
《勝田報告》
 Tapping Cultureによる長期浮游培養
 ラッテ腹水癌数種について検討した。
 1)吉田肉腫はテストした細胞系の内では増殖率がもっとも高く、3日間で30〜50倍の増殖率を維持した。細胞密度の上限も最も高く、200万個/mlにまで達した。
2)AH-109Aは、しらべた腹水肝癌のなかでは安定した増殖率を保つ系の一つであり、細胞密度上限も70万個/mlである。
3)AH-66は増殖率も浮游状態も良好であるが、細胞密度の上限はやや低く50万個/ml。
4)AH-130は、細胞がガラス壁に附着する傾向があり、浮游細胞の細胞密度は低く、20万個〜30万個/ml。
 5)AH-7974も硝子壁に附着する傾向が強く、浮游細胞も島を作っている。
 これらの細胞系はラッテ腹腔内から採取した細胞を初代からTapping Cultureで継代、現在5〜7ケ月間になるがほとんど増殖率の低下することなく増殖しつづけている。
写真は浮游培養装置で30、100、500ml容の最新式の水車型である(写真を呈示)。

《難波報告》
 43:正常ヒト細胞の培養内癌化の指標
 我々の環境中の多くの物質が、ヒトに対して発癌性をしめすかどうかを決定するための一方法として、培養された正常ヒト細胞の発癌実験が考えられる。
 正常ヒト細胞の癌化の指標としてHayflickは細胞の、1)Indifinite proliferation。
2)Abnormal karyology。3)Tumorigenesis in immunosuppressed animals。の3条件を充たせば十分と考えた。しかし私はこれ以外の指標もあればヒト細胞の培養内発癌実験をさらに能率よく行うことが出来ると考えて種々の指標を検討した。
 使用した細胞は正常ヒト胎児由来の細胞(繊維芽細胞と思われる)の4NQOで癌化したものである。対照としては、全胎児由来または、成人皮膚由来の繊維芽細胞で、出来るだけ増殖のよい細胞を用いた。
 [結果]
1.形態変化:繊維芽様→上皮様細胞に変化。 2.増殖・分裂頻度・Doubling time:やや増加。 3.Suturation density:正常細胞は10万個cells/平方cm、癌化細胞は20万個cells/平方cm。 4.増殖に対する血清要求性:1%含血清培地で増加。5.Aging:なし。 6.クロモゾーム:Heteroploid。 7.寒天内コロニー形成性:あり。 8.CAMP:10mMでも増殖阻害なし。9.移植性:目下検討中
 実際のデータについては5月の班会議で報告する予定。

《梅田報告》
 Filter培養法でくだらない問題が生じ、もたついていた実情を報告する。
 (1)その後実験を続けているうちに、どうもコントロールの細胞もコントロール寒天培地上のフィルターにコロニーを作らなくなったことに気付いた。すなわち8-azaguanine(AG)培地の選択がどの程度必要か調べる目的で(以下表1、2、3を呈示)表1の実験を行った。group1から4まではMNNG処理細胞を100万個フィルター上にoverlayした。このgroup1〜4のコロニー形成の結果は問題の多いものと思われるが、次のgroup5、6での結果がさらに問題が多い。
すなわちgroup5、6はMNNG処理した細胞を500ケまいた。この数は今迄の経験では、数10ケのコロニーを形成する筈の数である。結果でみるようにgroup5で数ケのコロニーしか、形成しなかった。
(2)上のようなデータが続くのでいろいろと吟味した所、フィルターのlotが変っていることに気付いた。以前から東洋ロシの製品は駄目で、Whatmanが良いとのデータは得ていた。そこで当然Whatmanのロシを使っていたのであるが、Whatmanの別々のロットのフィルターを証してみた。
 すなわち表2に示す(a)から(g)の各lotの異なるWhatmanのglass filterを0.5x1cm角に切り、FM3A細胞を入れた培地中に浮遊させて、培養し、2日後に細胞数を算定した。コントロールの培養の細胞数を100%として実験群の%growthをとると表2のように、lotにより増殖抑制を示すfilterのあることがわかった。Exp.1とExp.2でlot(e)は多少ばらつきはあるが、大よその結論は、lot(b)、(c)、(d)が特に悪いと思われる。因に表1の実験はlot(d)を用いて実験していた。
 (3)その後は表2のlot(g)を用いて実験を行っている。やっとデータが又出始めたが、例えば、表3では8AG耐性と思われるクローンを拾ってinoculumを変えてfilter上にコロニーを作らせた結果である。Dose responseのあるきれいなdataと云える。

《山田報告》
 培養条件における肝細胞の増殖に伴う表面荷電の変化を細かく追求しました所、予期以上に、きっちりとした成績を得ました。ラット肝癌培養細胞(JTC-16)及び、肝由来細胞で長期培養状態で自然に悪性化したRLC-18、そして現在の所Tumorigenicityが認められないRLC-21について増殖率、細胞電気泳動度、そしてconcanavalineAに対する反応性を経時的に検索した結果を図1、2、3に示します(図を呈示)。
 その結果を整理すると以下の様になります。
 1)植込み直後から1日目では、細胞調製に伴う恐らく細胞表面の変化(損傷)の影響が出現し、一過性に荷電密度が高まる。これは、その細胞系の性質と表面損傷の程度に応じてかなり異る。(この状態は薄いトリプシン処理後にDNA合成が高まると云う従来の知見と一致する)。
 2)悪性化細胞株ではfull sheetになった後もなほConAに対する反応が著しく起るが、非癌細胞ではfull sheetになると、直ちにConAの反応性が低下し、荷電密度も低下する。このことは恐らく良性細胞のcontact inhibitionの現象が、その表面荷電の面でも表現されると云うことでないかと考えられます。

《乾報告》
 Sanders(1968)以来、非癌原性物質である2、3級アミンと、亜硝酸がpH2〜3の条件でニトロサミンを生成することが知られ、又この反応は生体内(胃内)でも進行されることが報告されている。しかし、現在ではそれらニトロサミンを含む、反応生成物の癌原性の有無を生体でテストするためには、2年余の動物実験が必要である。従来我々がおこなっており再三報告して来た経胎盤試験管内化学発癌の系はN-ニトロソ化合物によく反応する。
 今回2種以上の非癌原性物質の早期テストの一方法として、経胎盤法が使用できるか否かを確めるための予備実験を行なった。
第1段階テストとして、ハムスター胃内でアミンとNaNO3でニトロソ化合物の生成をみた。成熟ハムスター雄を使用し、エーテル麻酔下で開腹胃幽門部(12指腸の胃接続部)を軽く結紮し、胃ゾンデを使用してNaNO3 150mg、モルホリン150mg混合生食水を胃内に注入、直ちに食道基部を結紮し、一応開腹部をとじた後、30分、1時間後に屠殺、直ちに大湾に沿って胃を開き、胃内容物を5mlの生理的食塩水で洗い出し、-20℃で凍結した。一部については内容物摘出後の反応を完全に停止するため、300mg/5mlのスルホン酸を含んだ生食水で内容物を洗い出した。対照としてNaNO3 150mg、モルホリン150mg投与後、無処理胃内容物を使用した。
 ニトロサミンの生成は国立衛試谷村研と共同で行ない、高速液体クロマト、及び薄層クロマトグラフィーで定性、定量した。
 表にハムスターに投与後30分の胃内に存在したニトロソモルホリンの量を示した。
 以上の結果、明らかな、N-ニトロソモルホリン生成が認められたので、経胎盤試験管内実験を開始した。

《高木報告》
 ラット細胞(RFLC-5/2)の変異に関する研究
先報にのべたように、薬物による細胞のKilling作用を抑えてmutationの相対的頻度を上げるべく、scheduled DNA replicationを抑え充分なrepairの時間を与えてsurvivorを増加することを計画し、まず血清濃度を下げてみた。すなわち細胞を径3cmのPetri dishに100コまいて3〜4時間後定着してから実験群は1%牛血清加MEMで交換し、EMSを1〜3x10-3乗M 2時間作用させた後、再び同上培地で交換して8日間培養をつづけてColony countを行った。対照は10%牛血清加MEMで培養し、実験群と同様に処理した。
両者のsurvival fractionを比較した(図を呈示)ところ、各濃度とも1%牛血清培地の方が低かった。無処理対照の1%牛血清加培地でも10%牛血清加培地に比較してPEが約半分程度であり、血清濃度の低下によるcolony形成の遅延が8日後のcolony countに大きく影響していると考えられるため、これがそのままsurviving fractionを反映しているかどうか、可成り疑問がある。さらにarginine(-)の培地を使って検討中であるが現在までのところ、増殖に関しては可成りstationaryな状態にあるようである。
 培養細胞に対するEMSの効果:
 先の月報で、EMS処理ラット細胞のATS処理ハムスターcheek pouchへの移植成績を報告したが、組織切片も作製しおわった。班会議の時供覧して御意見を頂きたいと思う。

《榊原報告》
 §Human embryonal carcinoma cell lineの異種移植:
 昨年第9回班会議で当研究所外科の関口先生が27才男子のtestisに生じたcarcinomaの細胞株を樹立されたことを報告された。この細胞をhamster cheek pouchに移植したところ、3週間後に腫瘍形成が認められたのでその病理組織像について述べさせていただく。
 浮遊状態で培養されているhuman embryonal carcinoma cell line・ITO- を1,000万個cells/cheek pouchの割合でadult golden hamster 3匹の左右のcheek pouchに移植し、かたの如くATS処置を行った。3週間後に移植部位を検べると最大径1.5cmに及ぶtumorが、100%(6/6)形成されていた。
病理組織像は写真に示す如く(写真を呈示)、乳頭状腺管腺癌で、embryonal carcinomaとして矛盾のない特徴的なpatternを示し、一部に所謂、embryoid body様の構造もみられる(写真2)。この細胞は培地中にα-fetoprotein及びalkaline phosphataseを分泌しているとのことであり、腫瘍組織の大部分は今後の検索にそなえて、-180℃に凍結保存してある。我国で最初の胎児性癌の株と考えられる。


【勝田班月報:7706:正常ヒト細胞の発癌の指標】
《桧垣報告・勝田報告にかえて》
正常骨芽細胞系の培養株の樹立
 骨細胞の培養は古くより行なわれてきたが、従来の仕事は、organ cultureが多く、single cellの培養の仕事は少い。Binderman et al(1974)はRat calvariaを培養し、in vitroで石灰化を見ているが、4週間の培養で観察し、cell line迄は至っていない。 今回、JAR-2 Ratの頭蓋骨(New born)をDispaseで処理することにより、更にAL-P-ase陽性の細胞を拾う事により骨芽細胞形のcell line(RHB)を樹立した。
 この細胞株は、染色体分析を行うと42にmodeを持ち正二倍体の核型を示す(図を呈示)。Doubling Timeは27.6時間であり(図を呈示)、AL-P-ase陽性で、その熱失活を見ると、骨腎臓型を呈し(図を呈示)、ムコ多糖産生では培地に酢酸を滴下してできたムチンを電気泳動することによりヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸A、Bを作っていた(図を呈示)。  しかしながら、ムコ多糖産生能、AL-P-ase陽性と骨芽細胞に類似した機能を持ちながらも、in vitroのmonolayerでは現在の所石灰化を見ていないが、diffusion chamberで腹腔に入れると、osteoid様物質を認めた。石灰化を見ない原因としては、培養条件下では生体に比しCalcium、Phosphate濃度が1/3位に低いこと、あるいは可溶性Collagenが培地中に流出していくのかも知れない。今後とも、この細胞の性質について検討していく予定である。

:質疑応答:
[難波]Diffusion chamber内の塊にカルシウムの沈着はありませんか。
[桧垣]カルシウム沈着は見られませんでした。
[難波]ホルモンとかDMSOとかを添加して分化させることは出来ませんか。
[桧垣]これからそういう実験を始めたいと思っています。
[関口]Diffusion chamberは細胞が永持ちしなくて困るのですが、他に骨形成を促す方法はありますか。
[桧垣]皮下へ直接入れると他の細胞まで骨形成を起こすことなどあって困ります。
[榊原]方法はchamber法でよいと思うのですが、骨だという確証が見られませんね。さっき呈示された写真では、死んだ細胞の成れの果てではないかとも思えます。
[乾 ]発生学をやっている人達の方法では、72時間位腹腔内へ入れておけば、あと試験管内へ戻しても骨形成が進行するということがあるようです。

《難波報告》
 44:放射線(Co60)による正常ヒト細胞(WI-38)の培養内発癌
 放射線による培養細胞の発癌実験は現在までのところ以下の2例報告があるにすぎない。Neoplastic transformation of cells by X-irradiation。(1)Borek and Sacks:Hamster cells(primary)、Nature 210;276;1966。(2)Terzaghi and Litter:Mouse cells(10T1/2)、Nature 253;548;1975。
 我々は正常ヒト細胞の癌化をおこす可能性のあるものは正常ヒト細胞の染色体の異常を高率におこすものほど、その可能性が高いことを指摘し、多くの化学発癌物質を用い、染色体の変化を検討してきた。検討した化学発癌物質のうちでは、4NQOが最もヒトの染色体異常をおこすことを報告した。この研究の過程で、放射線が4NQOよりさらに高率の染色体異常をおこすことが判ったので(月報7606に一部報告)、WI-38をCo60で照射して発癌させることを試み、一応、発癌したと思われる細胞系を得たので報告する。
 ヒト細胞を癌化させるSV40による染色体の変化を参考にした(表を呈示)。
 発癌実験を行なうに当り、染色体に高度の異常をおこすとされている、また細胞増殖曲線(図を呈示)からも、300〜400γの照射を行うことにした。
 1976.9月より実験を開始し、細胞が一杯に生えた時期でCo60照射を行い、4〜6時間後細胞を継代した。照射は4回行ない総線量は1400γであった。以後、細胞の継代を続け観察していたところ、1977.1月頃になって、細胞の形態が線維芽様→上皮様になってきたので、染色体を検索した。
 染色体に非常に激しい変化をおこしており、正確な分析は、ほとんど不可能であるがだいたい結果は、圧倒的に<2nのものが多い。また、ほとんどの細胞にExc、Min、Ring、Trans、Dicなどが認められる。染色体検索時はまだ増殖は遅く、形態的変化もそれほどなかったが、その後、1カ月半頃より、急に増殖のよい上皮様の細胞が出現し、現在に至っている。老化傾向のWI-38と現在癌化したと思われるWI-38の写真を呈示する。
 癌化実験は、その他1000γ照射のものを3回行なったが、この場合は細胞の増殖阻害が著しく、癌化に成功しなかった。
 また、変異率を定量的に求める試みとしてウワバイン耐性コロニー出現率をみる実験および軟寒天内にコロニー形成する細胞をとる実験を続行中である。
 文献としては、100γ5回分割照射で、ヒト細胞は癌化しないで老化が早まったという報告がある。したがって1回の照射が200〜400γぐらいが細胞の癌化に適当であるような感じがする。また、1回だけの照射で癌化するのか、あるいは数回の分割照射で総量を増やすことが癌化に必要なのかの問題点を現在検討中である。

 45:正常ヒト細胞の発癌の指標
 現在指標として上げられるものは、
1. Morphology。
2. Proliferation(Doubling time、Mitotic index)。
3. Plating efficiency。
4. Colony formation in soft agar。
5. Saturation density。
6. Growth in the medium with 1% serum。
7. Aging。
8. Chromosome。
9. Growth inhibition with cAMP(10mM)。
10.Transplantability。
その中で役立つものは、
1)形態的変化、4)軟寒天内コロニー形成能、5)細胞密度、6)増殖に対する血清依存性、7)Agingのないこと、8)染色体の変化などであろう。移植性については検討中。
 1)形態変化:(前述)。2)増殖率:(図を呈示)正常細胞も癌化細胞もそれほど著しい差はない。3)PE:癌化した細胞も、PEは低い。SUSM-1、10%以内、正常ヒト細胞も多くは10%以内である。4)軟寒天内コロニー形成性:対照細胞は0、4NQO→癌化した細胞は約0.1%。6)血清要求性:(図を呈示)1%血清添加培地でも癌化した細胞はよく増殖する。9)CAMPによる増殖阻害はない。

:質疑応答:
[乾 ]ウワバイン耐性をみる時のエックスプレッションタイムはどの位ですか。
[難波]4日です。
[乾 ]短かすぎませんか。
[松村]放射線の線質をいろいろ変えて実験できると面白いですね。
[難波] 次に色々やってみたいと思っています。殊に中性子をかけてみたいですね。
[榊原]形態と染色体が変化した訳ですね。何となく勝田先生のなぎさと似ています。
[難波]Wi-38ではなぎさ変異は起こらないようです。
[勝田]軟寒天で培養するのは細胞にとって可成り酷な条件だと思いますよ。処理後しばらく普通に培養してから軟寒天へ移した方がよいのではありませんか。
[梅田]対照群の細胞も軟寒天内でコロニーを作っているということですか。
[難波]正常と思われる細胞でも顕微鏡的に数えられる程の大きさのコロニーは作ります。しかし100コ以上には増殖しないので肉眼的に見える程に大きくはならないようです。
[松村]WI-38についての問題はクローニングしていないので、変異が起こったのか、セレクトによるものか、はっきりしない点ですね。
[難波]しかし、1匹拾って増やしても50回分裂するともう使えなくなるのですから、こういう実験に使うのは困難ですね。
[松村]何とかしてクローニングした新しい実験系がほしいですね。
[難波]そうですね。
[松村]ウィルスによる変異の場合、痕跡は残っていますか。
[難波]SV40の場合はT抗原を調べてあります。C粒子はみられません。
[乾 ]母体に放射線をかけての経胎盤法では、変異細胞が出てくるのは500r位です。
[難波]培養内の場合、線量が多すぎても死んでしまって変異を起こしませんし、少なすぎても老化現象を促進するだけで変異を起こさないというデータがあります。
[高木]スライドで示された像では、変異した部位には分裂像が多いように見られたのに、変異系と元の系との増殖率を比べると差がないのは何故でしょうか。
[難波]スライドでお見せした変異を起こした部位は、周辺の細胞が老化しているので変異細胞の分裂が目立っています。しかし、まだ老化現象を起こしていない若い細胞と比べると、変異細胞の分裂頻度も増殖率も殆ど同じだということです。

《高木報告》
1.培養細胞に対するEMSの効果
培養70日目および266日目のsuckling rat thymus由来の線維芽様細胞に、EMS 10-3乗M1回 4日間作用させて以後培養をつづけ、それぞれ作用後350日および150日前後にATS処理hamsterのcheek pouchに移植して、形成された腫瘍の大きさを経過を追って測定し前報に報告した。その腫瘍の組織所見を標本及びslideで供覧する。

2.ヒト胎児細胞の変異に関する研究
 胎生8週のヒト胎児より線維芽細胞を培養し、これに4NQOおよびEMSを作用させて経過を追っている。
 4NQOでは3x10-6乗M1回作用群、2x10-6乗M 6回作用群および10-7乗M〜2x10-6乗M 11回作用群をおき、またEMSは10-3乗M1回作用群と10-3乗〜2x10-3乗M 8回作用群をおき観察をつづけている。培養60日では細胞の染色体数に変化はみられない。また培養70日の細胞の形態は、4NQOおよびEMS頻回処理群で対照群に比して細胞の配列のdisorientationが強い様に思われるが、対照にもcriss-crossがみられはっきりした変化とはいいがたい。現在exponential phaseにあると思われるが、頻回作用群ではさらに薬剤を作用させ続ける予定である。

3.薬剤(carcinogen、mutagen)作用時の培養条件の検討
 Exponentially growing cellsとstationalまたはstarved cellsにcarcinogenやmutagenを作用させる際に、repairの時間を充分に与えられたstational cellsの方が同じ薬剤の濃度に対してsurvivorが増加することが期待される。事実bacteriaにおいてもmammalian cellにおいてもsurvivorが増加すると考えられる報告が多い。
 Mis-repairが発癌やmutationに関係するという考えもあるが、bacteriaでは一般にsurvivorが増加してもmutation frequencyは増加しないとされており、excision repairやpost-replication repairとmis-repairが単純に相関しているかどうかは判らない。Mammalian cellにおいてsurvivorが増加した場合、発癌やmutationの頻度に変化がみられるかどうかが問題であるが、その前段階として種々の発癌剤やmutagenについてexponential cellsとstational cellsでsurviving curveがどのように変化するか検討している。
 培地中の血清濃度を下げる方法はRFLC-5/2細胞ではあまりよい結果はえられなかった。Essential amino acidであるArginineを培地からぬくと細胞はG1期で停止し、この方法はrepair capacityを調べる目的でしばしば用いられよい結果をあげている。この実験でもarginine-depleted MEM(ADM)をRFLC-5/2細胞の植込み時より用いて、細胞の増殖およびDNA合成をH3-thymidineの取込みにより調べてみた。 (図を呈示)MEM+10%FCSでは6日間に約40倍の増殖を示すのに対し、ADM+10%FCSでは培養2日後までやや増殖を示すが、以後は次第に低下した。
 この際培養2日目および3日目にarginineを加えてやると2日目では直ちに増殖を開始したが、3日目では1日おいて増殖を開始した。
 (図を呈示)RFLC-5/2細胞をMEM又はADM+10%FCS培地で培養した際のH3-TdRの取込みをみた。3cm径のPetridishに2万の細胞数で植込んだが、培地はtrypsin処理直後よりMEMとADMとに分けた。結果は144時間まで観察したが、MEMでは72時間までさかんにH3-TdRの取込みがみられるのに対し、ADMではこの観察期間を通して培養開始時の取込みのlevelが維持された。また72時間でarginineを加えた場合、再びつよいH3-TdRの取込みがみられた。この成績は生の細胞増殖曲線をよく反映するものである。以上Arginine-depletedMEMを用うれば、細胞のDNA合成に関してはrestingな状態がえられる。この方法を用いて諸薬剤の効果を観察したいと考えている。

:質疑応答:
[難波]リペアを抑えて、変異率が上がる方法があるとよいのですが。カフェインなどはどうですか。
[高木]カフェインは役に立ちません。
[難波]低温例えば30℃位にするのはどうですか。
[高木]それも考えられますね。
[難波]合成阻害剤を薄い濃度でかけてみるのはどうでしょうか。
[梅田]細胞によって変異の仕方も随分異なりますね。その細胞によく合った組み合わせを探さなくてはなりませんね。
[難波]動物の系によっても異なります。
[勝田]同系のラッテ肝由来でも細胞系によって変異し易い系、し難い系があります。

《梅田報告》
I. Feeder cellを使うと人の表皮から上皮細胞を増生させ得ることをRheinwaldとGreenが報告し、難波氏によりきれいな上皮細胞培養の可能なことが示された。われわれは接触阻害のきく3T3細胞が手許に無かったので、Syrian hamster embryo cellのfeeder cellを使い人の皮膚を培養してみた。確かに上皮細胞がきれいに増生してくる。Rhodanile blue(RhodamineBとNile blueの0.2%液で染色する)で角化細胞はきれいなRhodamineBの赤色をとる。
II. 人の皮膚の時と同じ理由で上皮細胞が生えるのではなかろうかとの想定の下に、Syrian hamster embryo skinの培養を行ってみた。先ずembryoの皮膚をtrypsin処理して初代培養を行い、増生してきた細胞を凍結保存した。この細胞を融解後、もう一回mass cultureを行い、次に5,000rかけたSyrian hamster embryo cellを6万個cells/dishまいたfeeder cellの上にまいた。6cmφのplastic dishを用い培地はDulbecco modified MEMに20%の割にFCSを加えたものを用いた。(表を呈示)Inoculumを500、5,000、50,000cellsとして、7日、20日目に細胞をRhodanile blue染色した。結果はepithelial sheetは形成するが人の皮膚で見られたような角化傾向は無く、20日培養でやっとRhodamineBの赤色がうかがえる程度であった。
III. Syrian hamsterの皮膚の細胞を(II)で述べた同じ方法でfeeder cellの上に500ケ播いて培養し、翌日DMBA 0.1μg/ml処理を行ってみた。FCSのlotによる違いを考慮に入れ、3lotのFCSで夫々に血清の非働化したgroupとしないgroupを作った。各groupは4枚宛のdishを用いた。培養9日目に固定染色(この場合はgiemsa染色を行った)して形成されたcolonyの数と形態を観察した(表を呈示)。
 LotCでinactivateして無いものは非常に悪いPEを示したが、inactivateすると恢復していることがわかる。
 Controlでは全体に上皮性の細胞のcolonyを形成した。一部のコロニーは中心部は密に盛り上っているが、周辺部はきれいな上皮性細胞から成っていた。又一部のコロニーで変性細胞?の凝塊をみるものがあった。線維芽細胞のコロニーは一つも無かった。
 DMBA処理群では血清による違いはあるが、PEが下り、毒性が出ていることがわかる。しかしコロニーの形態はコントロールに近いものが多く、悪性転換を起したものかどうかの判定は全く困難であった。一部は上皮様配列の細胞の中にspindle-shaped cellの混入が認められたが、元気に増生するような細胞とは思えなかった。
IV.(II)と同じようにsyrian hamster cellのfeederの上にrat embryoのskin cellを培養してみたが、この方は所謂線維芽細胞のみ増生し上皮細胞の増生は今の所みられない。

:質疑応答:
[難波]培地にコーチゾンを添加していますか。
[梅田]入れてありません。
[難波]角化現象をみる時は入れた方がよいと思います。皮膚科の人の意見ですが、モルモットの耳を使うと人の皮膚を使った場合に近い実験ができるそうです。
[梅田]動物による違いがあるようですね。ラッテでは成功しなかったのですが、ムンチャクではきれいな上皮が出てきました。
[難波]動物によって上皮細胞の層の厚いものと薄いものがあるでしょうから、培養材料として採取するときにも差がつくのでしょう。
[乾 ]フィーダーに使う細胞は凍結したものでよいのですね。
[梅田]そうです。充分です。
[榊原]表皮だけとるのですか。それとも真皮までですか。
[梅田]真皮まで採ります。
[乾 ]フィーダーに使う細胞を凍結しておけるのは、とても実用的でいいですね。

《乾報告》
 我々は過去2年余にわたり、経胎盤in vivo-in vitro chemical carcinogenesis、mutagenesisの仕事をやって来た。現在迄同系は、芳香族炭化水素、アミン、N-ニトロソ化合物、アゾ色素等広範な化学物質に適用が可能である。但しこれら物質に同法を適応する為AF-2を除いて20mg/kgの投与が必要である。同量はある物質(例えばたばこタール)投与に際し、動物に急性毒性死をもたらす欠点を有している。
 今回同系の感度をたかめる為AF-2を使用して実験を行なった。
 妊娠11日目のハムスターにPhenobarbital(Phb)40mg/kg腹腔内注射、24時間後AF-2(20〜200mg/kg)を同じく投与した(Phbは野村らにより妊娠母体に投与した時奇型誘起率を上げることが知られており、又ハムスターはPhb、Bpを投与した時薬剤代謝酵素の一種であるAHHは12時間目より上昇し始め24時間で最大になり30時間では減少する。岡本ら)。AF-2投与後24時間に胎児を摘出Dulbecco'sMEM+20%FCSで培養、24時間以内に染色体標本を作製した。対照には無処理、AF-2単独投与の母体より得た胎児を使用した。
 200中期細胞核中の異常染色体を含む核板の出現頻度をまとめた(図表を呈示)。
 AF-2 50、100、200mg/kg投与群でPhenobarbital前処理群でAF-2単独投与群に比して、染色体異常をもった核板の出現が高かった。100核板当りの異常染色体の出現頻度では、明らかにPhb前処理群で異常染色体の出現が増加した。Exchange型のみの出現では、Phb前処理群でExchangeの出現は同様高く表われた。以上の結果、Phb処理で染色体異常は明らかに増加するが、その増加率は2倍には達しない。"Enhancement"効果をさらに明らかにするために、今後指標をMutation、Morphological transformation等を使用していくとともに、前処理物質の検討を行う予定である。

:質疑応答:
[乾 ]フェノバルビタールを使ったのは、ハムスターではシングルショットで代謝酵素の活性の上昇がみられるという唯一のデータがあったからですが、薬剤による代謝酵素の活性の上昇は、特異的にあるものだけが上がるのでしょうか。複数の活性がみな上がるのでしょうか。
[永井]それは、色々な場合があるでしょうね。

《榊原報告》
 §Human ovarian cancer cell lineの異種移植
 Embryonal carcinoma cell lineに続いてovarian cancer cell lineのHamsterへの異種移植について報告する。関口先生よりヒトovarian cancer由来培養細胞株"Chikaraishi"cellをお預りし、golden hamster 2頭の左右頬袋、ならびに1頭の右頬袋に500万個cells/ch.p.の割合で移植を行ない、ATS処理を施しつつ、24日を経たのち頬袋を切除し、tumorの組織像を調べた。腫瘍形成は4/5に認められ、最大径は0.8cm、小さいながら反応や壊死の殆どない、良いtumorであった(写真を呈示)。serous cyst adenocarcinomaを想わせる特徴的な腺癌で、処々にcysticなlumenを形成し、内部にeosinophilieな物質を分泌す性質があるようだ。初代培養後6ケ月目という若い細胞株である故であろうか、構造分化はもとより、機能の面でもoriginの性格を保有している可能性が考えられる。
 なお異種移植の成績を左右する要因の1つに植え込み細胞数がある。人癌細胞に関する限り、takeされなかった場合にinoculum sizeを大きくして再度試みると、必らず良い結果を得ているので、最近は初回から出来る限り大量、即ち1,000万個程度を植えるよう心がけている。

:質疑応答:
[梅田]この方法で悪性度も判りますか。例えば増殖の早いものは悪性度も高いとか。
[榊原]増殖率に違いはありますが、悪性度は組織像で判定しています。
[関口]ヌードマウスへの移植の場合でも、悪性度と増殖率には関係がないようです。
[高木]動物へ移植する時、細胞はよく洗うのですか。
[榊原]PBSなどに換える必要はありません。培地のままで濃縮して接種しています。

《久米川報告》
 マウス顎下腺の線状部には形態的、生化学的な性差が見られる。雄マウスでは思春期以後、線状部の細胞に電子密度の高い分泌顆粒が形成され、この顆粒内にはNGF、EGFといったものが含まれているようである。またマウスの顎下腺にはG-6-PDH活性にも性差がみられる。
 この顆粒の形成はandrogensの支配下にあることが、明らかにされているが、発生過程のマウスに5α-Dihydrotestosteroneを投与しても顆粒の形成は起らない。しかし、線条部はすでに生後4日頃形成されており、またandrogenのreceptorも線条部の形成と一致して存在している。5α-Dihydrotestosterone(DHT)の他に何かが関与しているのではないかと考え、生後20日前後血清中の濃度が上昇するホルモンThyroxine(Thy)、Insulin(In)、Hydrocortisone(Hy)をDHTとともに生後4日から投与した。(図を呈示)DHT投与群では線条部の径の拡大は起らないが、DHT+Thy+In+Hy投与群では径の拡大が早期にみられた。
 次いでDHT以外のホルモンの内、何が顆粒の形成に関与しているか、色々組合せて投与した結果、Thyが関与していることが明らかとなった(表を呈示)。
 顎下腺にはproteaseが産生されるが、この酵素にも性差がみられる。生後4月からDHT+Thy投与群では、正常雄マウスに比べ約10日早くprotease活性の上昇が起る。しかし、DHT又はThy単独投与群では活性の上昇はみられない。これらの結果から分泌顆粒の形成にはAndrogens以外にThyroxineが関与しているのではないかと考えられる。

:質疑応答:
[難波]雄に誘導がかかるのですね。
[久米川]そうです。サイロキシンを打つと出てきます。
[高木]インスリンは関係ないのですね。
[久米川]そうです。

《山田報告》
 前回に引続いてラット肝細胞のin vitroにおける細胞増殖とその表面荷電及びConcanavalinAに対する反応性を経日時にしらべてみました。
 今回はTumorigenicityのないRLC-21のclone株の一つであるRLC-21-C12株、Tumorigenicityは証明されるが、前回検索したRLC-18にくらべてTumorのbacktransplantabilityが低く、しかも腫瘤形成までの期間の長いRLC-19を検索しました。(RLC-19系における悪性細胞のpopulationはかなり少いと思われます)
 RLC-21-C12はその母細胞RLC-21と略々同様な変化を示し、その泳動度の高い状態はむしろ移植後1〜2日にあり、ConAに対する反応性も同一時期に昂進しました。しかしfull sheetになる6日目以後は急速にConAに対する反応性が低下しContact inhibitionの影響による表面の変化がこの系にも出現しているものと考えられました。
 これに対しRLC-19はその増殖率もあまり高くならず、特にfull sheet後にはConAの反応性が急速に低下しむしろRLC-21と同様な変化を示しました。すなわちRLC-19は悪性細胞のpopulation densityが低いために反応性、非悪性の型を示したものと解釈しました。
 移植初期の一過性の表面荷電の変化とfull sheetにまで増殖した後の表面の変化を分けて更に分析したいと考えています。(図を呈示)

【勝田班月報:7707:AFB・AAFによる発癌実験】
《勝田報告》
 培養細胞におけるポリアミン代謝
 スペルミンを組織培養の培地に添加したとき、細胞の種類によってその増殖に対する影響にはかなりの差異が認められる事はすでに報告した。
 それに続く実験として、ポリアミンに対する抵抗性の最も強い系としてJTC-16、弱い系の代表としてRLC-10(2)を使ってポリアミンの細胞内での代謝をしらべた。
 (図を呈示)H3-プトレッシンを培地中に添加し、30分後に除去して後、経時的に細胞を集めて、細胞内の放射能を追った。
 ポリアミンの定量、分劃法は、大島法、レジンはCK-10Sを用いた。先ずJTC-16をみると30分間に細胞内に取り込まれたH3-プトレッシンは18,000cpm/mg蛋白とかなり高い値を示して居る。スペルミジンへの移行も少量みられるが、スペルミン分劃にカウントは無かった。24時間後になるとプトレッシン分劃のカウントは著しく低下し、スペルミジンが上昇、スペルミンも少量ではあるが検出された。48時間以降はスペルミジンは徐々に減り、代わってスペルミンが上昇している。RLC-10(2)については、蛋白量あたりのcpmがJTC-16に較べてずっと低い。代謝の傾向としてはJTC-16とほぼ同様であるが、96時間までにはスペルミン代謝のカウントの上昇がみられなかった。
 H3-スペルミンを1時間添加した後、同様に時間を追って各分劃のカウントを記録してみるとJTC-16では、添加1時間で細胞内スペルミン分劃に高い取り込み値がみられ、スペルミジンへの移行も著明であった。時間と共にスペルミン、スペルミジンは減少するが、プトレッシンに相当する位置にカウントは無く、アルギニンかと思われる分劃に高いカウントがみられた。RLC-10(2)は傾向としてはJTC-16と同じであるが、各分劃への取り込みは半分以下であった。
 これらの結果は定量的にはかなり辻褄の合わない所もあり、未同定の分劃もあって、まだ検討を要する。

 :質疑応答:
[遠藤]この実験では、調べた細胞の中からスペルミンに耐性のある細胞系と感受性のある細胞系を選んで、その代謝を比較しているのですね。それより感受性株の中から耐性のクローンを拾って調べてみると、耐性、感受性といった性質と代謝の問題との関連がよりはっきりするでしょう。
[高岡]この実験は正常肝細胞と肝癌細胞の相互作用についての流れで、正常細胞は感受性、肝癌は耐性という傾向だったので、それぞれの代謝について調べました。つまりポリアミンの代謝の違いと腫瘍性との関連性をみたいと思っています。

《高木報告》
 Mammalian cellsにおいて突然変異あるいは発癌をmisrepair modelにより研究しようとするとき、同一細胞でrepair activityの異ったrepair欠損株をとる必要がある。ヒトの細胞ではXP細胞がexcision repair欠損株と考えられているが、ヒト正常細胞とXP細胞とを使用してmutationの発現頻度とrepairとの関係を調べた報告は多い。われわれは細胞のrepair activityとmutation(carcinogenesis)との関係をみるために、同一の細胞につき培養条件をかえてrepair activityに差をつくり、これに対するUV、mutagen(carcinogen)の影響をみたいと考えている。同一細胞でrepairの差をつくり出すために、まず細胞をarginine-depleted MEM(ADM)で培養してDNA複製を止めた状態におき、これにmutagenを作用させ、その後も一定時間この状態に細胞を保持し、これとMEM培地で同様にmutagenを作用させた細胞とのmutation rateを比較する計画をしている。
 その第一歩として今回はRFLC-5/2およびV79細胞をMEMおよびADMで培養してこれに種々濃度のmutagenを作用させ、Dose survival curveよりpotentially lethal damege repairを検討した。(実験scheduleの表を呈示)
 細胞をtrypsin処理し、ADM+10%FCSで2回洗って35mmのFalcon Petri dishにまいた。細胞数は形成されるcolony数が100コ程度になるようにRFLC-5/2細胞ではMEMで150コADMでは300コ、またV79細胞ではいずれも100−200コまき込んだ。
 培養はmutagen作用後7日目に固定し、染色し、colony countを行って各mutagen濃度に対するsurvival(%)を出してsurvival curveをえがいた。RLFC-5/2細胞につきMNNG、UV(GL10、slit 1cm、距離30cm)作用させた場合、ADMの方がMEMよりsurvivalの上昇をみた。UVの場合のDose-Survival curveを示す。
 またV79細胞ではRFLC-5/2細胞とことなり、exponential growthを示す細胞をまき込み、直後からDNA合成をH3-TdRのとり込みを示標としてみた場合、ADMでもわずかながらDNAの合成が認められた。そこでconfluentになった細胞をまき込んで同様に観察したところ、(図を呈示)ADMでは大体一定のDNA合成のrestingな状態がみられた。従ってこの条件下で実験をすすめているが、UVの影響をみるとやはりADMにおいてsurvivalの上昇がみとめられた。さらに両細胞についてさらにEMS、4NQO、aflatoxin、Nitrosamineなどの影響を観察中である。また細胞のDNA合成をrestingな状態におく条件としてconditioned mediumについても検討したい。DNA合成のrestingな状態ではexcision repairのみがはたらいていると考えられる(他にも何らかのrepair systemが働いている可能性はあるが・・・)。従ってequicytotoxic doseを作用させた上でADMとMEMにおける細胞のmutation rateを比較すればexcision repairのerrorがmutationに関係しているか否かを検討することで出来る。mutationの実験は6TG耐性株の出現で観察しているが、RFLC-5/2では頻度がきわめて低いためV79を用いる予定で現在準備をすすめている。

 :質疑応答:
[難波]アルギニンの無い培地の方が修復が良いということですね。
[梅田]本当に修復が良いのでしょうか。アルギニンの欠除で細胞が増殖出来ないために修復をする時間が充分あるということではありませんか。
[高木]私もそう思っています。分裂をしないでいる時間を延長させる事によって修復ができるので、見かけ上修復が良いという結果になっているのでしょう。
[梅田]H3-TdRの実験の時confluentになった細胞を使わないとDNA合成がrestingにならないという事ですか。
[高木]そうです。増殖期の細胞を使うとDNA合成がゼロにはなりませんでした。
[勝田]日本の培養屋はconfluentという語をよく使いますが、どういう状態を意味しているかを、明確に意識して使わないといけませんね。
[遠藤]このシステムでは変異率は落ちるでしょうね。
[高木]同様なことを細菌で実験すると変異率は落ちるそうです。
[遠藤]そうでしょう。
[高木]私達の細胞については、これから検討するところです。
[難波]Excision repair以外に何かよいrepairは無いものでしょうか。
[勝田]培養屋が癌の研究をすすめる時に、mutationは何の意味をもつのかよく考えないといけませんね。Mutationを起こした細胞は試験管の中では拾う事ができますが、生体内で同じ現象が起こった場合、変異細胞はどんどん増えて癌になることが考えられるでしょうか。むしろ生体内の機構の中では排除されてしまうのではないでしょうか。培養細胞を使うことの利点と欠点を培養屋は充分意識するべきですね。

《梅田報告》
 必ずしも良い結果とは言えないが、2つの目論みの現在進行中の仕事を紹介し、御批判を仰ぎたい。
 (I)DL1細胞がaflatoxinB(AFB1)に反応性があり、benzo(a)pyrene(BP)代謝能が高いことからこの細胞をクローニングして性質を調べてきた。その中でclone2は典型的上皮細胞で、AFB1には反応するが、BPには反応せず、BP代謝能も低かった。それに反し、clone20は類上皮性細胞で、AFB1、BPに強い反応性を示し、BP代謝能は非常に高かった。この事実からclone20は薬物代謝酵素活性が特に高い可能性が考えられた。
 以前から2-acetylaminofluorene(AAF)はHeLa細胞などに高濃度で毒性は示すが、その惹起する形態像はsmall cellを形成し、proximate、ultimate formであるN-OH-AAF、N-acetoxy-AAFを投与した時の大型で明るい細胞出現と異なることを報告してきた。
 以上のことからDL1 clone20の薬物代謝能を生物学的に調べる指標としてAAFを投与して、そのproximate、ultimate formで惹き起されると同じような反応をcone20が示すかどうか調べてみた。cone2を対照として使用した。
 (II)先ずclone2とclone20細胞にAAF、N-OH-AAFを投与してみた。ラブテックチャンバーに各細胞をまき、3日間各発癌剤に接触させてから固定染色して、毒性と形態を調べた。
 (表を呈示)毒性はAAFではclone20がcone2よりやや強く障害を受けている結果であった。形態的にはclon2では細胞はそれ程大きくならないが、clone20では大型細胞の出現、多核細胞の出現が認められた。この大型化はN-OH-AAF投与でclone2もclone20も共に認められた。N-OH-AAF投与ではcone2の方がcone20よりより強い障害を受けていた。
 同時にDAB、4NQOを投与する実験も行った。DABではやはりclone20で大型細胞が出現し、大小不整が著明であった。両clone共に散在性に巣状細胞壊死部が認められた。4NQO処理では核は大きくなり核質は微細になっていた。
 (III)上の毒性実験でclone20にAAFを投与した時、細胞の大型化が認められたので、このcloneはAAFをactivecarcinogenに代謝する酵素を持ち合わせている可能性もあると考え、その証明のため、AAF投与後染色体標本を作製し惹起される異常を観察した。
 結果は(表を呈示)、clone20はcontrolにも主にgapではあるが7%の分裂異常像があった。10-3.5乗MAAF投与で24、48時間処理で17、16%の異常があった。Clone2の方も10-3.5乗MAAF投与で24、48時間処理後、9、12%の異常があった。10-3乗M投与では分裂像が少なく結論は出せない。さらにいろいろの濃度でテストする必要性を感じている。
 (IV)Syrian hamsterの上皮細胞コロニー形成を前回の班会議で報告した。この上皮形態の細胞を利用しようと思い、penicillin cupによるcolonial cloningを試みた。
 増生してきた細胞をすぐラブテックチャンバーにまき(クローニングしてから2代目の細胞)、20-methylcholanthrene(MCA)、4NQO、MNNGで処理した(表を呈示)。Clone4は典型的な上皮細胞でclone7は対照としてクローニングした典型的な線維芽細胞である。この実験の期待の一つは特にMCAに感受性の高い細胞を選ぶことでもあった。
 予期に反し、両細胞ともにMCAに反応せず、4NQOにわずかに反応したのみであった。しかしこれらの両細胞共に大型細胞となり、分裂増殖能は極端に落ちていることを想定させた。すなわち所謂agingを起したような細胞でこの時期には既にMCAを代謝する酵素のAHHは消失している可能性を示している。

 :質疑応答:
[勝田]この場合、細胞が大きいとか小さいとかは、どういう基準ですか。
[梅田]形態的にみて決めています。
[高岡]細胞あたりの蛋白量とか核酸量とかの増減もありますか。
[梅田]定量はしていないのですが、蛋白合成とか核酸合成の阻害と、細胞の大小とは相関があります。
[勝田]細胞の形態変化で薬剤の効果を断ずる場合は、その与えた薬剤が細胞の増殖に対してどの位影響するかを明確にしておく必要があるでしょう。
[梅田]今のやり方では、これらの物質の急性毒性をみているにすぎません。
[勝田]培養屋として形態で物を云う場合、おもてに出ないデータ、たとえば変化の起こったポジティブな所の他にネガティブな所がどうなっているかが大切な問題ですね。
[松村]これらの形態変化は細胞分裂を介して起こるのでしょうか。
[梅田]細胞分裂との関係はみていませんが細胞は分裂を続けている状態での観察です。
[乾 ]そしてクローンは感受性が落ちているという事ですね。
[梅田]クローニングした細胞の方が早くエイジングを起こす為かも知れません。
[勝田]エイジングについてどんな意見をもっていますか。
[梅田]私の実験の場合、細胞が大きくなっていることなどから、蛋白合成は続けられているが、分裂装置がおかしくなっているのではないかと考えています。
[勝田]エイジングとは何か。培地を進歩させれば今みているエイジング現象など無くなるのではないか、とも考えられます。昔、なぎさ変異を調べていた時、多核細胞でDNA合成が同調できないまま分裂を始めた細胞が死に至る現象をみました。一つの細胞の中で合成のバランスが崩れると死に至ることは当然だと思います。
[吉田]今みているエイジング現象は、ある限られた培養条件下のものと思われますね。しかし、クローンを拾う過程でエイジングがは早まるというのは何故ですか。
[梅田]この系の場合はクローンの方が世代時間が短いせいかと考えています。
[乾 ]エイジングを起こした細胞の薬剤感受性はどうですか。
[嶋田]エイジングを起こしたというのではありませんが、老齢のヒトから採った細胞でのMNNG処理では、この濃度で何の変化もありませんでした。

《榊原報告》
 §ムコ多糖の培養内局在について:
 培養肝細胞はin vitroでコラーゲンが線維を形成すると共にムコ多糖を産生することは、特にcloneBC細胞について詳しく報告したが、今回はムコ多糖の培養内局在を組織化学的方法により明らかにすることを試みた。BC、M、RLC-18(3)及びRLG(1)の各株細胞をタンザク上に播き、3週間後に酢酸カルシウム2%含有10%ホルマリンで固定、3%酢酸溶液に10分浸してから1%alcian blue(pH2.5)で30分、ムコ多糖染色を行ない、脱水、封入、検鏡した。一部はalcian blue染色後PAS染色を施し、或いはトルイジンブルー染色をも試みた。(写真を呈示)alcian blue陽性物質はコラーゲンと同じpatternをとってみられ、PASによる重染色により、コラーゲン線維上、又は周辺に無構造の物質として沈着している事が明らかになった。鍍銀線維形成陰性であるRLG(1)株では、alcian blue陽性物質は細胞膜に接してかすかに見られるのみで、細胞間隔に沈着する像は全く認められなかった。古くからコラーゲン、ムコ多糖間には何らかの相互作用があると考えられている。肝細胞によって産生されるコラーゲン、ムコ多糖間にも同様の想定がなされてよいように思われる。

 :質疑応答:
[嶋田]メタクロマジーはどうですか。
[榊原]陽性です。
[松村]コラーゲン線維とムコ多糖の関係はどうなっていますか。
[榊原]電顕でみるとコラーゲン線維の周りにアモルファスな物がみられます。それがムコ多糖のようです。
[松村]各種のムコ多糖を同定できますか。
[榊原]出来ます。
[松村]今のスライドで染まっていたのは何ですか。
[榊原]あの染色では皆染まっています。
[桧垣]コラーゲンの型はどうですか。
[榊原]これから調べる予定です。
[佐藤]線維芽細胞や血管内皮細胞はコラーゲンを作りますか。
[榊原]不思議なことに、線維芽細胞株はコラーゲンを作り難く、L株も作りません。
[佐藤]L株は血管内皮由来かも知れないそうですね。

《乾報告》
 亜硝酸(NaNO2)、モルホリン(Mo)同時投与によるハムスター胎児細胞のTransformation、Mutation:
 経胎盤in vitro-in vivo chemical carcinogenesis(Mutagenesis)の仕事を数年来やって来て、既知の発癌剤のほとんどの物質が、この系によって検知出来ることがわかって来ました。今回はSandersらが発表したアミンとNaNO2の食い合せで、胎児細胞が変化を起すかどうかを試みましたので報告致します。
 実験方法;妊娠11、12日目のハムスターにNaNO2 500mg/kg、Mo 500mg/kgを水で稀釋して、胃ゾンデで強制投与後、24時間目に胎児を摘出、従来の方法で、8アザグアニン耐性突然変異、Morphological transformationの出現を検索しました。
 一方前月報でも報告した如く、投与ハムスターの胃内にN-nitrosomorpholine(N-Mo)が生産されている事を直接証明するため体重150〜180gのハムスターをエーテル麻酔下で開腹、12指腸最上部を軽く結紮、直視下で胃ゾンデでNaNO2、Moを各500mg/kg投与、直ちに食道下部を結紮し、投与物質の逆流をふせぎ、一端閉腹後、30分、1時間後に動物を屠殺、胃内容物より、薄層クロマトグラフィーでニトロソ化合物の定量を行なった。
 (表を呈示)結果は明らかに、耐性突然変異はMo単独投与では、ほとんど出現しなかった。NaNO2投与群では約7.5倍の変異コロニーが出現したのに反して、NaNO2、Mo同時投与群では、その出現は対照に比して、18.9倍(8AG 10μg/ml)、29.2倍(8AG 20μg/ml)であった。N-Mo単独投与での変異コロニーは、約5倍であった。胃内のN-Moの成生は2.32〜3.18mg/Head(30)分1.85mg/Headであった。NaNO2単独投与のニトロサミンは0.44mg/Head、対照の胃内物質、Mo投与群および餌(日本クレアCA-2)ではニトロサミンは検出出来なかった。以上の結果より、1)NaNO2自身にtransplacental Actionがある。2)NaNO2+Mo同時投与により、N-Moが成生され同物質が胎児細胞に強い変異原性をもち、反応残物のNaNO2と同時に作用し高い突然変異を示すこと。3)N-Mo 100mg/kg投与は、ハムスター一頭当り、15mgに相当し、NaNO2+Mo 500mg/kg投与における、24時間の反応成生物より少ないことが推察される。
 (表を呈示)投与後のMorphological Transformationの出現率は、突然変異の出現と同様、Mo単独投与ではTransformed Colonyはほとんど出現せず、NaNO2では5倍、NaNO2+Mo同時投与群では9.2倍のTransformed Colonyが出現した。現在同コロニーをクローニングし、復元移植をこころみている。

 :質疑応答:
[吉田]NaNO2+Moと比べるとN-Moを直接やった群の変異がかなり低いのは何故ですか。
[乾 ]NaNO2とMoを混ぜた投与の方が胃の中で長時間、より多量の処理をしたということになると思います。つまり量的な違いが変異率にひびいたと考えています。
[山田]時間と共に胃の中の薬物の量が減っているのは、吸収されるのでしょうか。或いは壊れるのでしょうか。
[乾 ]吸収されると考えています。
[山田]亜硝酸とアミン類が結合する条件は、既にin vitroで決定されていますか。
[乾 ]In vitroではかなり早い時期から結合し始めて、すぐプラトーに達し、プラトーの状態が長く続くことが判っています。
[山田]始めに吸収されるのが胃であることが必要なのでしょうか。又は胃の中の条件たとえばpHが低いという事が必要なのでしょうか。

《難波報告》
 45:培養ラット肝細胞(RLC-18)のグリコーゲン合成に及ぼす種々の薬剤の影響
 RLC-18のグリコーゲン合成は、1)細胞密度と、2)培地更新との、2原因に依ることを従来の月報に報告してきた。すなわち細胞密度を下げて細胞をまき込み(約5万個/60mmシャーレ)、5〜7日培養後、培地更新を行うと、4〜6時間後に、コロニー状に増殖している細胞集団の辺縁部分の細胞が著明なグリコーゲン蓄積を示し、コロニーの中心部の密に増殖している細胞は、グリコーゲンの蓄積を示さない。
 何故、細胞密度の低い場合にグリコーゲン合成が盛んなのかの理由を知るために、細胞密度の低い培養と高い培養とを用意し両者の細胞当りのDNA、RNA、蛋白合成をみると、細胞密度の低い方がこれらの高分子物質の合成が盛んであることが判った。さらに、細胞密度の低い場合、培地更新後からグリコーゲン出現までの5時間までに培地更新によってRNA、蛋白合成が高まることが判った。
これらの事実は、細胞のグリコーゲン合成には新しい蛋白の合成が必要なことを示している。この事をさらに確かめるために、DNA、RNA、蛋白阻害剤を用いて実験を行なった。
 実験方法は60mmシャーレに5万個細胞をまき込み、5日後培地(MEM+10%FCS)を更新し、同時に上記の阻害剤を添加し、5時間後にグリコーゲンを定量した。結果はRNA、蛋白の合成阻害は、グリコーゲンの蓄積阻害を示している。(表を呈示)
 インシュリン、高濃度のグルコース、プレドニゾロンは、RLC-18のグリコーゲン合成に影響がなく、一方、CAMPはグリコーゲン量は低下させるように有効に働いていることを示している。
 細胞密度が高い場合、何故DNA、RNA、蛋白合成が低下するかの理由として、1)細胞が小さくなるので、細胞当たりのRNA量、蛋白量は低下すると予想されるので当然、培地更新後、RNA蛋白合成は低いであろう。2)細胞が密になり接触することによって培地中のものの取り込みが出来なくなる。3)グリコーゲン合成に必要な培地中あるいは(血清中)の微量物質が、細胞が増加するにつれて、細胞当りで減少する。などの理由が考えられる。

 :質疑応答:
[榊原]ヒト細胞の変異の場合、復元実験はしてありますか。
[難波]まだです。
[山田]RLC-18でグリコーゲンのアグリゲイトが電顕的に見えるのは、パス染色が陽性になるのと同じ時期ですか。
[難波]そうです。
[山田]インシュリンを添加するとどうですか。
[難波]インシュリンは全く効果がありません。cAMPでグリコーゲン量は減ります。
[高木]ホルモンの影響はありませんか。
[難波]ホルモンについても幾つか実験しましたが、結論が出ていません。
[高木]血清濃度は・・・。
[難波]今の所20%までです。
[乾 ]細胞が一杯になった時、血清濃度を上げたらどうなりますか。
[難波]RLC-18でなく別の細胞でのデータですが、細胞が一杯になってから、血清濃度を50%にしてみて全く効果がありませんでした。
[榊原]パス染色陽性というだけではクリコーゲンとは言えませんね。
[難波]アミラーゼ消化で消えますから、グリコーゲンと言っても良いと思います。

《山田報告》
 NO.7705およびNO.7706の報告において培養ラット肝細胞及び肝癌細胞の増殖に伴う表面荷電の変化を報告しましたが、そのなかで、platingしてから1〜2日目にいづれの細胞株の表面荷電密度も一過性に一度増加することを見出しました。この現象は恐らく細胞調整の際に細胞表面が損傷するために、修復のためか、あるいは従来トリプシン処理の場合にみられた様な僅かな細胞表面物質を取除くと、反応性に増殖機構に刺激が加えられて、その結果表面荷電にも変化が起るのかいづれかであらうと考へて、この現象を解析してみました。
 方法としては、細胞をplatingする際に、あらまじめ通常の方法により細胞を採取した後に2、10、30回それぞれpipettingし、細胞表面に変化(損傷)を与えました。
 そして、それぞれのCell sampleをplatingし、その後の細胞電気泳動度の変化を2日目まで検索し、さらにそれぞれの状態におけるConA(1、2、50μg、37℃、30分)に対する反応をも調べてみました。(図を呈示)
 その結果、RLC-18では、そのpipettingの回数に応じてその電気泳動度は低下し、とくに30回pipettingした細胞では0.001%トリプシン処理(pH7.0、37℃、30分)後と同じ程度(-7%)に低下しました。これらの処理細胞をplattingしました所、2日目にこれらの細胞は15〜20%に電気泳動度は増加し、各細胞群間にその電気泳動度の差がなくなりました。すなわち2日間でpipetting処理による表面の損傷が回復したにすぎないと云う結果を得ました。
ところがJTC-16の場合は結果が異り、pipetting処理により表面の損傷を適当に起こさせると、反応性に電気泳動度が増加し、単なる表面損傷の修復以上の変化が現れて来ました。pipettingを行った所、10回処理群の細胞が最もその電気泳動度が低下し(2回処理に比べて-8.2%)、しかもこれがplating後2日間でその電気泳動度が25%も増加してきました(これに対し2回処理群では10%の増加)。 これは明らかに反応性に泳動度が増加したと云う結果と思います。同時に行った0.001%のトリプシン処理でもこれに近い成績を得ました。
 ConAの反応性はJTC-16の10回処理細胞群のみ僅かに出現し他の細胞群にはConAの反応性が全く出現しませんでした。

 :質疑応答:
[勝田]細胞膜を問題にする実験の場合は、浮遊培養方を使うとよいと思いますが。
[山田]やってみたいと思っています。
[難波]物質の取り込みと膜のチャージには、どんな関係がありますか。
[山田]細胞膜の透過性との関係となりますと、チャージのある物質なら殆ど何らかの影響があるはずです。
[乾 ]細胞の分裂周期による違いはどうですか。
[山田]前に話しましたが、HeLaでM期に40%も上昇するというデータがあります。

 ☆☆☆吉田班友から、実験動物として開発中のMusplatythricsについてお話しがありました。この動物はインドマウスとでも名付けようかというもので、染色体数は2n=26で、どんどん繁殖するし、感染にも強くて丈夫だし、培養細胞にしても扱いやすいという事です。純系化も進行中で今8代目だそうです。
 その他にも信州に居て年の半分は完全冬眠ですごすヤマネを飼育して実験に使いたいことや、ラッテと違って染色体レベルでも血清学的にも不安定なクマネズミの純系化を試みているなど、興味深い訓話の数々でした。

【勝田班月報・7708】
《勝田報告》
 §ラッテ肝細胞のジエチルニトロソアミン(DEN)による培養内悪性化の実験−復元成績
 RLC-23(対照群)、RLC-23・DEN50(培養第2代にDENを50μg/ml、1週間連続投与した群)、RLC-23・DEN100(培養第2代にDENを100μg/ml、1週間投与した群)について、動物への復元実験をおこなった。
 接種動物は、同系ラッテ(JAR-2)、接種部位は皮下、接種細胞数は1,000万個〜4000万個cells/rat。
 対照群は腫瘤を作らなかったが、処理群は2群とも腫瘤を形成した。DEN50処理群は1ケ月半で親指大の腫瘤を作ったがDEN100処理群の腫瘤は4ケ月の観察でも急激な増大はなく、小豆大にしかならなかった。しかしその組織像は悪性像であった(写真を呈示)。

《難波報告》
 47:チャイニーズハムスター(CH)の肝臓より培養株化した上皮細胞と繊維芽細胞
 従来、ラット、マウスの肝臓由来の上皮性細胞の培養株については多くの報告がある。そして、それらの培養株のあるものについては、1)アルブミン産生、2) Tyrosine Amino-transferaseや、Ornithin transcarbamylaseなどの肝細胞に特異的な酵素の存在、3)培養内で癌化させて動物に移植し肝癌であることを確認する、などの諸点から肝実質細胞が培養されていることが証明されている。
 私共はCHの肝細胞の培養株化を目的として、1975-12-16より、培養を開始した。当初の私どもの研究の目的は、1)CHの肝細胞の培養の報告がまだない、そして、2)もし、培養化に成功すれば、CH由来の多くの株化細胞のクロモゾームは長期間の培養条件下でも、比較的安定で、near 2nに保たれる利点があるので、細胞遺伝学的仕事に役立つであろうと考えた。
培養の開始:生れる直前の2匹の♂胎児の肝を細切し、トリプシン処理で細胞を分散し、シャーレにまき込んだ。
 培地:1)MEM+10%FCS+10mM Hepes。
    2)MEM+10%FCS+10mM Hepes+4.2x10-6M Dexamathasone
 培養の経過と結果:培地1)を使用した場合には、Fibroblastsがovergrowthして、Epithe-lial cellsの増殖がみられなかったので、培養を中止した。培地2)ではFibroblastsnocellsheetの中にEpithelial cellsがColony状に点在し、徐々に増殖して来た。この上皮性の細胞の増殖はFibroblastのcell sheetの上、あるいはFibroblastswo押しのけてゆっくり増殖しているようにみえた。Epithelial cellsがシャーレ一杯に充分に増殖するまで、2/wの割合で培地の更新を行い、なるだけ上皮性の細胞を増した状態にしておき、トリプシンで細胞を剥がし、少数細胞をシャーレにまき、クローニングによって繊維芽細胞と、上皮性細胞とを分離した。培養の経過は図に示した(図を呈示)。
 現在、上皮性細胞、繊維芽細胞ともに、Agingを示すことなく活発な増殖を続けている。Plating Efficiencyは、Epithelial cellsで5〜10%、Fibroblastsで30〜50%である。
 Epithelial cell lineの確立のためには、クローニングは必須であるが、次の2点も重要と考えられる。1)Dexamethasone含有培地の使用。2)Epithelial cellsが充分Fibroblastsの上に一杯に増殖するまで継代を行わない。Epithelial cellsが充分増殖していない培養初期に継代を行えば、Fibroblastsがただちにovergrowして、Epthelial cellsが消失する。
 CH肝由来上皮性細胞と繊維芽細胞との応用:
 肝臓に由来した、上皮性細胞と繊維芽細胞とが種々の化学発癌剤に対して、1)感受性に相違があるか否か、2)Mutation rateに差があるか、どうかの2点を現在検討中である。
 1)HepatocarcinogenであるAflatoxinB1に対しての、感受性の検討(表を呈示)の結果は、AFB1の毒性に対して、上皮性の細胞は感受性が高く10-6乗Mで、急激に細胞が死亡していることが判る。
 2)Benzopyreneに対する両細胞系の感受性の比較(表を呈示)では、両細胞はBPに抵抗性で、感受性の差はない。

《高木報告》
 V79細胞に発癌剤(mutagen)を作用させる前後の条件につき検討すべくpilot experimentを行った。200cellsをplateに植込み、6時間後に4NQO 4x10-8乗〜1.6x10-7乗Mを2時間作用させて後、24時間arginin deprived medium(ADM)またはconditioned mediumでincubeteし、以後MEM(ADM+Arg)+10%FCSでincubateして7日目にcolony countを行った。
Scheduleは図の通りである(図を呈示)。Aは対照で終始MEM+10%FCSを用いたもの。
B、C、DはそれぞれX印の期間だけADM+10%FCSを用いたもの。
E、Fは△印の期間conditioned mediumを用いたものである。この場合には、24時間後に培地をMEM+10%FCSで交換し、B、C、D、の場合には24時間後に100倍濃度のArginine液を滴下した。conditioned mediumはV79がconfluentになった直後に培地を交換し(MEM+10%FCS)、24時間incubateした後、これを集めてmillipore filterで濾過したものである。
図の如き結果であった(図を呈示)。(A)の対照に比し、4NQOに関しては細胞植込み直後からADMをもちいた場合(D)は、Survivalがむしろ減少し、植込み後4NQOを作用させるまではMEMを用いた方が増加の傾向がみられた。またconditioned mediumを4NQO作用時、および作用直後より用いた場合はさらに増加のの傾向がみられた。
この(B)、(E)、(F)などの条件につき、さらに4NQOの作用時にHanks液を用いて細胞のDNA合成の状態をH3-TdRを用いて検討している。
ヒト胎児細胞にEMSを作用させる実験も6ケ月を経て依然培養をつづけている。

《乾報告》
 先月の班会議で亜硝酸(NaNO2)とモルホリン(Mo)を妊娠ハムスターに同時投与し、胎児細胞に8AG耐性突然変異、形態転換が出現することを報告しました。又投与動物の胃内には、ニトロソモルホリン(N・Mo)の生成がみとめられました。
 今回は、NaNO2、Mo各一回500mg/kg投与動物の胎児細胞の変異がN・Mo何mg/kgに相当するかをしっらべるため、動物にN・Moを投与し、Morphological transformation、8AG mutationをみたので報告します。
Morphological transformationの出現結果を表1に示しました(表1、2を呈示)。NaNO2、Mo同時投与による胎児細胞のtransforming rateはN・Mo 200mg/kg投与と略々同じであることがわかりました。表2で明らかな様に8AG mutationの出現率も又、200mg/kg N・Mo投与の結果とよく一致します。
 前号No.7707で報告した様に、N・Moの胃内生成は、15.9mg/kg/30min.で、もし生成量が減ずることなく6時間形成が継続すると、全形成量は190.8mg/kgとなり、結果をよく説明出来ますが・・・。
現在Transformed coloniesをcloningして復元移植を試みております。

《梅田報告》
 金属化合物について検索しているが、今回は発癌性金属化合物の突然変異誘起実験の結果を報告する。
 (1)突然変異誘起実験の系として、今迄報告してきたFM3A細胞が各種金属化合物と2日間の接触により、8-azaguanine耐性を獲得する突然変異をみる方法によった。現在迄に調べた金属化合物は、Cr化合物としてK2Cr2O7、CrO3、K2CrO4、Cr(SO4)3、Mn化合物としてMnCl2、KMnO4、その他の化合物としてNiCl2、CdCl2、さらに発癌性のはっきりしないHgCl2の9種類である。
 (2)得られたMutation frequencyから実験群とcontrol群の比をとり、(表を呈示)表にその全実験結果をまとめて示した。各化合物について2回から4回実験を行っているが、ほぞ再現性のあるデータが得られている。すべて半対数稀釋の濃度を用いているが、各化合物で調べた以上の濃度では毒性が強く、突然変異率を観察出来なかった。
 表でみるように、明らかに突然変異性を示したものは、6価のCr化合物のK2Cr2O7とCrO3であり、他の化合物は全てはっきりとした突然変異性を示さなかった。すなわち、同じ6価のK2CrO4では毒性はあったが、突然変異性ははっきりせず、3価のCr2(SO4)3は、毒性は非常に弱く、しかも突然変異性も証明されなかった。発癌性の証明されているNiCl2、CdCl2でも本実験条件では突然変異性は証明されなかった。
 (3)今後の問題として次のように考えて実験計画を立てて居る。上の実験では数多くのサンプルを扱うことに主眼をおいているため、金属化合物は2日間の接触と定め、直ちに8AG耐性細胞検出のアッセイに入っている。投与した金属化合物のbiotransformtionとか、障害されたDNAの修復などを考えると、さらに接触時間と、8AG添加の時間即ち、wxpression timeの検索の必要性がある。

《榊原報告》
 §Studies in progress:培養ラット肝細胞による
 1.Collagen形成の事実から類推すると、ヒト癌組織に屡々みられる著明なfibrosisも単に正常間葉系細胞の癌細胞に対するreactionの結果と見做すべきか否かは疑問となる。特に、adenocarcinoma mucocellulare scirrhosumと呼ばれるtypeの癌では、癌細胞自身がcollagenを産生している"らしい"と主張する病理学者のgroupがある。この問題は、非常に魅力的なテーマであって、現在次の様な実験を計画し、既に着手進行中であるが、未だ結果を報告する段階に至ってはいないことをお断りしなければならない。;ヒトcollagenの可溶性分劃を免疫原として家兎を免疫し、種特異的な抗コラーゲン抗体を作製する。培養人癌細胞をATS処置したhamster頬袋に移植してtumorを作らせ、凍結切片を作り、切片上で抗ヒトコラーゲン家兎抗体と反応させる。次いで同一切片上で抗家兎IgG・山羊蛍光抗体を反応させて、蛍光色素の局在を観察する。更に別の切片では、抗家兎IgG・山羊peroxidase標識抗体を二次抗体として反応させ電子顕微鏡下に特異的シマ目模様に一致してperoxidaseの沈着が認められれば決定的証拠となる筈である。問題は、collagenのantigenicityが弱い為に十分な力価を有する抗体が得られるかどうかである。免疫に要する期間も2〜3ケ月と長く、目下boosterを繰り返している。
 2.免疫と発癌の間には密接な関係があるように想像されているが、積極的証拠は意外に少ない。ATSでT-cellをsuppressしたgroupと無処置groupの間に於る発癌過程の差をACIラットを用いて検べている。発癌剤としては、MAM acetateをi.p.投与している。癌化に至るlatent periodの短縮のみられることが望ましいが、今は虚心坦懐に経過を観察するのみである。 

【勝田班月報・7709】
《勝田報告》
 Tapping cultureによる長期浮游培養(月報7705のつづき)
1)吉田肉腫はあまり増殖が速すぎて、手がかかるので、培養を中止した。
 2)3)AH-109A、AH-66は安定した増殖率を保って継代されている。
4)AH-130の浮游細胞は細胞密度がだんだん高くなって、安定した増殖率を保っている。
 5)AH-7974も浮游細胞の細胞密度が高まってきた。現在も、腹水の塗抹でみられるようなAH-7974特有の肝癌島を形成している。
JTC-16がTapping cultureで浮游状に増殖している時の形態と、AH-7974のTapping cultureによる培養9ケ月の形態を示した(写真を呈示)。何れも浮游液を遠沈、塗抹し、ギムザ染色したものである。

《高木報告》
 1)Mutagen(Carcinogen)で細胞を処理した後の、incubationの条件を変えることによってDNA修復の差をつくり、これとMutation(Carcinogenesis)の頻度との関係を研究することを目的として、主としてV79細胞を用いて実験をしているが、種々検討の結果、処理条件を図の様に決定した(図を呈示)。
 1)Preincubationは播いた細胞がPetri dishに定着し、操作できる最短時間として6時間をとった。
 2)ここに用いるMutagen(Carcinogen)はchemicalであるので、処理終了まではcontrolの細胞の条件と差がつかず、一定の等しいdamageを与えるように全てMEM+10%FCSを用いた。
 3)ADMを用いる意味は、細胞のDNA合成を止めることにあるので、dialyzed FCSの濃度も5%とした。
 4)conditioned mediumはこの種の実験でsurvivorを上昇させることが知られているので、これも用いてみた。conditioned mediumはV79を播き込み、2〜3日後full sheetになってから培地を交換し(MEM+10%FCS)、24時間incubation後これを集めて、membrane filterで濾過し、凍結保存したものである。
 この条件の下にsurvivorについての実験結果は次図の如くであった(図を呈示)。播き込む細胞数は150〜200/plateで6cmのFalconのPetri dishを使用した。
4NQOについては上記の3条件、UV、MNNG、MESについてはADM+5%dialyzed FCSで、conditionedmediumについては目下検討中である。
図1.4NQO:各濃度30分の処理。処理後ADM培地でincubateした方が、MEMよりsurvivorが多く、conditioned mediumではさらに多かった。
 図2.UV:15W slit 2cm 距離25cm 0〜100secの照射条件。処理後、ADM培地でincubateした方がMEMよりsurvivorが多かった。patternは再現性をもって4NQOとよく似ている。
 図3.MES:各濃度120分の処理。ADMでincubateしたものと、MEMでincubateしたものとの間に有意なsurvivorの差は認められない。
 図4.MNNG:各濃度120分処理。4NQOおよびUVとは異なり、ADMでincubateした方がMEMでincubateしたよりsurvivorが低下した。この点さらに検討の予定である。
 2)本年2月に開始したヒト胎児細胞の培養は6ケ月を経た現在殆ど死滅し、EMS処理細胞だけは生残っている。しかし形態的には特に変化はなく、近日中ATS処理ハムスターに移植を予定している。新しい培養でさらに追試の予定である。

《難波報告》
 48:チャイニーズハムスターの肝臓より培養化された上皮細胞と繊維芽細胞とに対するDexamethasonの効果
 肝細胞の培養に際して、ステロイドホルモンが有効との報告がかなりある。それらの報告は2つに分けられるようである。すなわち、
 1)ステロイドホルモンが肝細胞の増殖を促進する、あるいは培養内での肝細胞の分化機能の発現に役立つ。
 2)培養内に共存する上皮性細胞と繊維芽細胞とを選別するために、上皮性細胞の増殖を促進させ、繊維芽細胞の増殖を抑える。
 我々は、チャイニーズハムスター肝より得た上皮細胞と繊維芽細胞とのplating effic-iencyに対するDexamethasonの効果を検討した結果、表のごとくなった(表1、2を呈示)。その結果を列記すれば、
 1)4.2x10-7乗〜4.2x10-6乗M濃度のDex.は両細胞のPEを有意に上昇させた。
 2)4.2x10-5乗Mの高濃度のDex.はあまり効果がない。
 3)Dex.は検討した範囲内の濃度ではFibroblastsの増殖を抑制しない。
 49:Chinese Hamsterの肝より得た、上皮性細胞と繊維芽細胞とのアルギニン不含培地中での増殖能の検討
 Arg(-)のMEM+10%dialyzedFCSで両細胞を培養し、7日間の増殖を次図に示す(図を呈示)。7日間では両細胞とも増殖したが、しかしFibroblastsの方は4〜7日間で増殖の低下傾向がみられるのに対して、Epithelial cellsの方は、同時期に増殖の立ち上がりがみられる。Arg(-)培地の両細胞に対する効果は、もう少し長くArg(-)の培地で細胞を培養してみる必要がありそうなので、目下その実験を進めている。
 50:Chinese Hamster liversより培養化された、Epithelial cellsとFibroblastsに対する種々のChemical Carcinogensの影響
前月報(7708)にEpithelial cellsのPlating efficiencyは5〜10%、FibroblastsのPEは30〜50%と報告した。したがって、今回の実験では、Epithelial cellsは3,000〜5,000コ/60mm dish、Fibroblastsハ300〜600コ/60mm dishをまき込んだ。24時間後、種々の化学発癌剤を添加し、そのまま4日間培養を続け、その後、発癌剤を含まぬ対照培地(MEM+10%FCS+4.2x10-6乗M Dex.)にして、7〜10日間培養後、そのPEを求めた。表3にその実験結果を示した(表を呈示)。それぞれの薬剤で、種々の濃度を用いて、Toxicityを検討したが、表にはEpithelial cellsとFibroblastsとに対する、Toxicityのはっきり出た薬剤の濃度のみ記した。+は、それぞれの薬剤のToxicityに対して感受性の高い方の細胞に記した。また,Ser-vival%は、薬剤非処理の対照群のPEで、薬剤処理群のPEを割ったものである。
 結果はDimethylnitrosoamine(DMN)、AFB1などのHepatocarcinogensのToxicityに対して、Epithelial cellsの方がFibroblastsよりsensitiveであることを示している。

《山田報告》
 ラット培養肝細胞のConAの反応性と細胞密度との関係を引続いてしらべて居ます。
 今回は従来Tumorigenicityの証明されていないRLC-20について検討しました。方法は従来通りです。
最近RLC-20は長期培養中に一見悪性化を思わせる様なコロニーを形成したので、これを分離して別に培養系としRLC-20Bと名付け、残った細胞をRLC-20Aとして継代して居ます。
 RLC-20Aは増殖速度も遅く、細胞を採取するのに容易でないので、増殖率の高いRLC-20Bについてまず検討してみました。
 RLC-20Bでは図に示すごとく、full sheet後、荷電密度は著しく低下し、非悪性の型を示しましたが、ほんの少しばかりConAに対する反応性が残り、悪性型と云うより、良性型の変化を示しました。次はRLC-20Aを検討の予定です(夫々図を呈示)。
 RLC-20B細胞株と同じ系の細胞で発育の著しく遅いRLC-20Aについて経時的にその変化をしらべました。この株は最も正常に近い状態を保っていると考えられる株ですが、予想通りの結果となりました。
 すなわち植え込み直後の1〜3日目に反応性に一時期その表面荷電が増加し、その時期に1μg/mlのConAに反応して荷電の上昇がみられ、その後full sheet(この場合は増殖性が遅いので16日目以後)になった時期では完全にConAに対する反応性がなくなり、むしろConAにより荷電密度が低下する様になりました。これで一応この実験を終了しましたので、全体の知見をまとめて次回に考察したいと思っています。
 なほSuspension cultureで増殖する肝細胞株について追加実験をしようとおもい、現在準備中です。

《梅田報告》
 先月の月報で発癌性金属化合物の突然変異性について報告したが、今回は染色体異常誘起性について調べた結果を報告する。
 (1)細胞は突然変異性を調べたと同じFM3A細胞を用いた。金属化合物を加えた培地で培養後24時間目、48時間目に染色体標本を作製した。染色体標本作製前2時間に、Colcemidを加え分裂像を蓄積させた。現在迄に調べた金属化合物は、突然変異実験で調べたと同じK2Cr2O7、CrO3、K2CrO4、Cr(SO4)3、KMnO4、MnCl2、NiCl2、CdCl2、HgCl2である。
 (2)結果を表に示す(表を呈示する)。K2Cr2O7については3回、CrO3、K2CrO4、KMnO4については2回の実験を行った。その他については、1回の実験しか行っていない。それぞれの化合物について、これ以上の濃度を用いると細胞は変性壊死する、ぎりぎりの所迄調べてある。
 (3)Cr化合物についてはK2CrO7とCrO3で強い、K2CrO4で軽い染色体異常惹起が認められた。異常の内容はgap、break、exchengeであった。48時間処理で24時間処理より異常が増加していた。48時間処理のこれら3化合物の異常の%を両logのグラフに画くと図のようになる(といってもK2CrO4では一点しかないが。図を呈示)。この図からK2Gr2O7はCrO3の約2倍の強い染色体異常惹起能のあることがうかがえる。すなわち、Crあたりで考えると、両者は殆同じ毒性を現していることがわかる。これに対しK2CrO4の異常惹起能は、K2Cr2O7と較べると約10倍の差のあることがわかる。
 Cr化合物でもCr2(SO4)3では異常惹起作用が殆んど認められず、10-3乗M処理でもcontrolと同じ異常のレベルであった。
 (4)その他の化合物の中では、KMnO4処理で多少異常が増加しているが、その他の化合物では異常の増加は認められなかった。
 (5)前回の突然変異の結果と比較すると、突然変異を起しているものは染色体異常も惹起していることがわかる。そして染色体異常の頻度は、両logのグラフ上にプロットすると直線にのるらしいこと、直線にのるとするといろいろの比較、spontaneous aberration rteとの関係などの解析がた易くなることがわかる。
 (6)なお、動物実験では発癌性の証明されているNi化合物で培養細胞での実験で、突然変異性、染色体異常共に認められなかったことは重要である。何らかの理由によると思われるし、その理由解明の研究がなされるべきと考えている。

《乾報告》
 亜硝酸ナトリウムの経胎盤効果
 先に我々は亜硝酸ナトリウム(NaNO2)を培養ハムスター細胞に投与し、細胞のMalignant Transfomation、染色体切断を観察した。今回は、同物質の経胎盤効果をみる目的で従来の方法で、妊娠ハムスターにNaNO2を、125、250、500mg/kg投与して、胎児細胞を培養、細胞のTransformationを観察した。
 実験方法は、過去数回にわたって報告して来たので省略するに、結果を表に示した(表を呈示)。表で明らかな如く、NaNO2 500mg/kg投与では著明なTransformation Rateの上昇がみられた。

《榊原報告》
 蛍光抗体法によるコラーゲン同定:ラットのコラーゲンに対する種特異的抗体を作成した。Wister系雄性ラットにペニシラミンを4週間経口投与してコラーゲンのcross-linkageを阻害しておいてから、皮膚を剥いでhomogenizeし、型の如く0.4N酢酸を用いてコラーゲンの酸可溶性分劃を単離した。得られたsompleの純度は、アミノ酸分析により、ほぼ100%pureだという(都老研生化・益田博士による)。これを、0.05%酢酸に10mg/mlの割合で溶解し、等容ののFreund complete adjuvantを加えて乳化させ、家兎のfoot-padに5mg/animalの割合で免疫した。2週間後及び更に2週間後と2回にわたり、追加免疫をadjuvantぬきで腹腔内に行い、最終投与後27日目に試験採血した。培養ラット肝細胞株RLN36をconfluentのまま3週間培養、PBSで3回洗ったのち、ドライヤーで乾燥させ、未固定のまま抗血清をかけて37℃、1時間incubateした。PBSで5分間づつ3回振盪しつつ洗い、再び乾燥させてから、Hyland製抗兎IgG、FITC標識山羊7Sγ-globulin分劃をPBSで20倍に稀釋してcell layerにかけ、再び1時間37℃でincubateしたのちPBSで3回洗い、無蛍光グリセリンで封入して蛍光顕微鏡下に観察した。鍍銀繊維の細い網目の上に、強い特異光が認められた。細胞核はことごとく黒く抜けていたが、胞体には淡い蛍光が、又一部の細胞の細胞膜上に繊状に特異蛍光が認められた。各種対照試験の結果、及び実験結果の写真は班会議で発表するが、有効な力値を有する種特異的な抗コラーゲン抗体が得られたことは間違いなさそうである。又今回の結果は、鍍銀繊維がコラーゲンであることを明らかに示している。ヒトコラーゲンに対する抗体も得られて居り、特異性のcheckを行なう予定でいる。

[勝田班月報のワープロ化:1998-11-26〜2001-5-2]

【勝田班月報・7710】
《勝田報告》
 アルギニン(-)培地におけるラッテ肝由来細胞株の長期培養(月報7502のつづき)
(表を呈示)上記のようにラッテ肝由来の上皮細胞はアルギニン(-)培地で3年間は生存、緩慢ではあるが増殖出来る。RLC-16、-18、-19、-20、-21、-22、-24、-27、-28、-29の各系である。fibroblast系は一年以上は生存するがやがて死滅する。

《難波報告》
 51:Chinese Hamster Embryosのliverより樹立された繊維芽細胞株と上皮性細胞株との性質
 月報7708、7709に、クローニングにより樹立された両細胞株の、1)培養経過、2)両細胞に対する4.2x10-6乗M〜4.2x10-7乗MのDexamethasoneの細胞増殖促進効果、3)Cytotoxicityの比較を記した。今回は両細胞株のその他の細胞学的特徴を記した(表を呈示)。

《高木報告》
 細胞の癌化または変異に関連してDNAの修復機構を検討する場合、培地条件で修復の差を作り出すにあたって、種々の問題点があることがこれまでの実験結果より分った。
同一薬剤を用い、培地条件を変えて細胞のsurvivalを検討する実験を繰返し行った場合、dataが一定しないことがあったので、その原因を植込み前の細胞の状態に求めてみた。これまでの実験にはexponential growthを示す細胞を用いたつもりであったが、V79はgene-ration timeが9.5時間と増殖が早いため、時にはconfluentに近い状態の細胞も用いていたようである。そこで厳密にexponential growthを示す細胞を植込み、薬剤を作用させる際と同様6時間おいて3種の培地に交換し、以後10時間にわたり細かく時間を区切ってDNA合成を調べてみた。(図1、2、3を呈示)。図1に示すように、MEMでは植込み直後よりDNA合成は上昇し、またconditioned mediumでは終始低いlevelの一定したDNA合成がみられたが、ADMでは2〜3時間後にDNA合成が上昇し、以後そのままか、あるいはやや下降して、constantな状態がつづくことが分った。このADMにおける2〜3時間後のDNA合成の上昇は再現性があり、実験誤差とは考えられない。この様なDNA合成の変動が、植込み前の細胞の状態により起るか否かは細胞のrepairひいてはsurvivalに影響を与えることが当然考えられるので、以後は一定してexponential growthの細胞を実験に用いることにした。
月報7708では4NQOにつき3つの培地条件で検討したが、今回はMNNG、EMSにつき検討してみた。図2の如くMNNGではconditioned medium>MEM>ADMの順にsurvivalがよく、またEMSについても図3の如くMNNGと同様の結果がえられた。
これを4NQOと比較すると、MEMとADMのsurvivalが逆の結果であった。
その理由として、(1)細胞の蒙るdamageの性質が異り、repairのおこり方が違うということが考えられる。因に細菌ではEMS、MNNGはrec systemで4NQOはUVと同様hor systemでrepairされることが知られている。(2)薬剤作用後培地を切換えると、ADMでは2〜3時間たってDNA合成が高まるので、この時期に細胞の死滅する可能性も強いと考えられる。従って、4NQOの如くrepairが長時間にわたり続く場合には、細胞のsurvivalが多く、EMS、MNNGのようにrepairが短時間におこるとされる場合に、DNA合成の上昇する時期に死滅する細胞が多く、MEMよりむしろsurvivalが低下することが考えられる。
ヒト細胞にEMSを作用させる実験はなお続行中である。

《梅田報告》
 (1)前回の班会議でシリアンハムスターの胎児細胞をクローニングし、上皮性と繊維芽細胞株の2クローンを得、これらに及ぼすMCAの毒性を調べた所、両細胞共に分裂増殖能は極端に落ち、同時にMCAに反応しなくなっていたことを報告した(月報7707)。このクローンについてその後調べた所、primary cultureを行い増生してきた細胞を凍結保存し、それを解凍して培養に移してから、丁度Cl4では23日から26日、Cl7では21日から24日に発癌剤処理をしていたことがわかった。
 (2)上の増殖しなくなった現象を、前回の班会議ではagingと説明して、勝田先生からcommentを受けたが、この所謂寿限有現象は、この程度の培養日数で起るのが一般的かどうか、mass cultureで調べてみた(図を呈示)。図に累積増殖カーブを画いた。(これは、細胞数を正確に数えたのが培養3代目だったので始めの部分に多少の修正を加えてある。) 丁度10代目、培養40日頃より増殖が落ち、15代目位で細胞増殖が止り、培養が続かなかったことを示している。
 (3)MCAの感受性についてAHH活性を調べれば良いので、今迄度々報告したC14-benzo(a)pyreneを水溶性代謝産物に代謝する酵素を、凍結細胞を別に融解して調べてみた。すなわち、図にこの結果を同時に記入することは正式には妥当でないが、比較の意味で、記入してみると、培養20日迄の培養細胞ではC14-benzo(a)pyrene代謝活性は落ちていないことがわかる。現在この実験は進行中である。
 (4)上の2つの実験からmass cultureの場合、少なくとも培養20日迄は、C14-benzo(a)pyrene代謝活性を持った元気に増殖する細胞が得られていることが結論される。
 クローニングしたことにより20〜25日で増殖能も、MCA感受性も落ちて了う現象は、何かクローニングに伴う現象か、われわれのテクニックの問題か、今後の検討課題として残った。
《乾報告》
 先月の月報で、妊娠ハムスターに亜硝酸ナトリウム(NaNO2)を投与した母体より得た胎児細胞において著明なMorphological transformationがえられた事を報告しました。現在これらTransformed Colonyのいくつかをcloningし、移植の為培養をつづけております。今月はtransformationに関連した現象として、同胎児細胞の染色体異常、micronucleusの出現の結果を報告致します(表を呈示)。
以上の如く、妊娠ハムスターにNaNO2を単独投与では、著明なTransformationが観察されるにもかかわらず、有意差のある染色体異常は出現しません。
次に昨年Schmidが提唱した、動物体内で、癌化性物質と関連がきわめて深いと云われているMicronucleus Testを行なった結果が表2です(表を呈示)。
表の如く、NaNO2単独投与で、micronucleusを持つ細胞が著明に増加し、NaNO2 500mg/kg投与では、DMN 200mg/kg投与の場合と同様なInductionがあります。
Micronucleus自体の成因が現在論議されておりますが、染色体観察より、標本作製、観察共に容易ですので、今後少し、細胞癌化又は癌原性物質とMicronucleusの関連も見ていくつもりです。

《山田報告》
 前号まで報告して来た成績は、培養細胞の培養条件におけるその増殖と表面荷電との関係についてですが、そのなかで培養細胞の植込み直後に一過性に荷電密度が高まり、ConAに対する反応が変化する成績がありました。その原因の一部は細胞の分離による表面の損傷が刺激になっているのではないかと推定されました。
 そこで、この現象を解析する意味で、植込みの際に細胞間を分離する必要のない浮遊培養細胞株(AH-7974)について、植込み後の細胞電気泳動度、ConAに対する反応性、増殖率を経時的に検索してみました。(Tapping Culture法)
 (図を呈示)図に示すごとく植込み直後の1日、2日目には全く電気泳動度のピークがなく、増殖率は著しく速く、5日目に急激に泳動度が減少しました。そしてConA 1/ml 37℃30分処理により植込み後1〜8日間は常にその電気泳動度は増加しました。このConAに対する反応性は、これまでの培養ラット肝由来細胞ではみられない所見で、むしろin vivoのAH-7974に類似の所見です。

【勝田班月報:7711:肝臓の還流後の培養について】
《許報告・勝田報告に代えて》
 純系ラッテ(JAR-2)の腺胃から、植片法ないし酵素消化法により上皮様細胞株を樹立した(表を呈示)。間葉系由来細胞の除去は、trypsinによるselective digestion、rubber policemanによる機械的除去、コロニーレベルでの分離の3つの方法を併用して行なった。
 それらの細胞は典型的な敷石状配列をとって増殖を続け、最長2年4ケ月、最短9ケ月培養内で維持されている。染色体数は、培養1年以内ではdiploidにモードを持つことが多いが、その後は次第にhypodiploidやhyperdiploidに移行してゆく。population doubling timeは20数時間から50時間まで様々で、培養期間と増殖速度には一定した関係がみられない。
培養の比較的初期、2〜3ケ月頃に上皮様細胞のmonolayerが集団的に死滅し、一方同一培養器内の他の部分の上皮様細胞や間葉系細胞は健全で増殖を続けるという現象がみられた。私達の部屋で長期間、多種類の細胞を培養してきた経験では、こうした特徴的な死にかたは上皮細胞にのみ見られるということである。東北大の橋本先生が膀胱癌上皮の培養中に記載した"contact death"も類似の現象だと思われる。いずれにしても上皮細胞のひとつの特性といえるかも知れない。
 RGS-8細胞は、継代をしないで数週間培地交新のみを行なっているとhemicystを形成する。RGS-2、RGS-4A、RGS-5の各細胞も数は少なく、形成に長時間かかるが、やはりhemicyst形成能を持つ。顕微鏡映画で観察すると、hemicystは単層の上皮様細胞で被われ、形成されて数日で内容物を徐々に放出して退縮してゆくようであった。hemicyst形成には細胞層と培養器面との間に何らかの物質を分泌ないし輸送する能力を持ち、同時に内圧に抵抗するに充分な細胞間の密接な結合が必要で、それはそのまま上皮細胞の特徴と言えよう。文献的にもhemicyst形成は、上皮細胞か、その悪性化したものである癌種に由来する細胞に限ってみられるようである。RGS-8細胞のhemicyst形成に対するdibutyryl cyclic AMP(But2cAMP)とtheophillineの影響をみた(表を呈示)。結果は、細胞密度はcontrolと大差ないにもかかわらず、But2cAMPないしtheophillineによってhemicyst形成が著明に促進された。促進の機序は不明だが、細胞内で種々の機能の統御に重要な役割を果たしているcyclicAMPによってhemicyst形成が促進されるということは、hemicystが細胞の変性過程等でたまたま形成されるといったものではなく、積極的な機能の反映であることを示唆している。
以上に述べた事実から、私達のとった上皮様細胞株は、実際に腺胃の粘膜上皮に由来した可能性が強いと考える。
 RGS-3、BRGS-6細胞では上皮様細胞の上に嗜銀性の線維形成がみられ、その線維はcollagenaseですみやかに消化される。これらの細胞はsingle cell cloningを行っていないので、上皮様細胞自身が線維を産生するのか、混入している間葉系細胞が可溶性の状態で培地中に放出しそれが上皮様細胞中で不溶化され線維としてみえるようになるのかは現在のところ不明である。single cell cloningにより9系のクローンをとって現在検討中である。
 当初の目的に従って、これら腺胃由来の細胞を化学発癌剤で処理して経過を追っているが、現在のところ腫瘍性を獲得するに至らず、培養内の性質にも大きな変化はみられない。今後方法に改良を加えて、培養内での悪性化の指標の問題、培養内での細胞の性質と動物に移植した時の組織像との関連性等を追求してゆきたい。

 :質疑応答:
[乾 ]映画で観察すると判ると思うのですが、ヘミシストは同じ場所で膨れたり潰れたりするのでしょうか。
[許 ]現在まだはっきりした証拠をつかんではいないのですが、同じ場所に出来るとは決まっていないようです。
[乾 ]ヘミシストを形成するのは特種な細胞ですか。
[許 ]特殊な細胞ではないようです。
[梅田]ヘミシストを形成している細胞の形態はいわゆる上皮性ですね。ヘミシストを作るから胃由来上皮という説明になりますか。
[許 ]今までの報告ではヘミシストを形成する細胞は上皮性の細胞だと言われています。しかし胃由来以外に腎由来、肝臓由来、乳腺由来でもヘミシストを作る細胞系があることが知られています。
[榊原]ヘミシストを形成する細胞が上皮細胞だという事の根拠をもっとはっきりさせた方が良いですね。
[山田]胃由来の細胞だという同定がもう少しあるといいですね。ムチンの産生はどうか、アルシアン・ブルーで染まりますか。
[許 ]今まで色々と調べて来ましたが、よい結果が得られていません。
[難波]ヘミシストの部分を電顕で観察したことがありますか。
[許 ]是非みたいのですが、まだです。
[難波]プラスチックシャーレならシャーレごと垂直に切ってみると、ヘミシストを形成している細胞の特性が判ると思います。
[許 ]そうですね。

《難波報告》
 52:Chinese hamsterの胎児肝より樹立された肝細胞に対するインシュリンの効果
 MEM+10%FCS+4.2x10-6乗M dexamethasonの培地中にインシュリン(Sigma)を0.01〜1U/ml加え、肝細胞のplating efficiencyに対する効果を検討した。
 (表を呈示)Insulinは肝細胞のPEを高めなかった。Dexamethasonを含まぬ培地を使用してインシュリンの効果を調べれば、インシュリンはある程度の効果があるのかも知れないが、しかし、DexamethasoneのPEに対する効果をインシュリンが一層増強するようなことはなかった。

 :質疑応答:
[乾 ]ハムスター肝の初代培養はどういう方法を使いましたか。
[難波]トリプシンで撹拌して組織を分散するという、ごく当たり前の方法です。
[梅田]発癌剤はBPとBMBAですね。
[乾 ]チャイニーズ・ハムスターで4倍体のクロンは初めてですね。
[難波]その点は面白いことだと思いますが、染色体分析が大変です。
[佐藤]クローニングをして、他のコロニーと比べてサイズの大きなものを拾うと4倍体だったということがありますね。
[難波]大きなコロニーの方が拾い易いので、つい大きなコロニーを拾いましたが、今度は小さいのを拾ってみます。
[加藤]肝由来だということと4倍体になったこととに関係がありますか。
[難波]それはまだ判りません。
[乾 ]チャイニーズ・ハムスターの細胞は染色体が変異すると元へ戻そうとする働きがあるので、マウスやラッテに比べるとかなり安定して2倍体を維持出来るのだという報告もありますね。
[佐藤]次はヒトの細胞の変異についてですが、化学発癌剤や放射線を使った場合の変異はSV40で変異させた場合のものと同じですか。
[難波]殆ど共通しています。染色体が変異すること、形態が上皮性になることなどです。異なる点はウィルスゲノムが入っているかいないかという事ですから、そこは調べてみるつもりです。
[佐藤]SV40で変異させると細胞の増殖率は上がりますか。
[松村]始めに増殖促進があり、しばらくして増殖が止まります。それから変異細胞が出て増え出すという経過です。
[乾 ]染色体が変異するということは同じでも、癌ウィルスによる染色体変化、化学物質による変化、放射線による変化、それぞれ染色体個々の変異の仕方が違うのではないでしょうか。
[難波]ウィルスとは比較していませんが、4NQOとコバルト照射では変異の度合いが違います。コバルト照射の方が激しいようです。ただ、それは一次的なものを調べていますから、それらの変異がどれだけあとに残るのかは判っていません。

《梅田報告》
 (I)先月の月報7710でハムスター胎児細胞の累代継代を試みた所、培養15代目で増殖が止り、培養が続かなくなって了ったことを示した。この時各継代毎に2枚のシャーレを用意し、次代に継代しなかった残りのシャーレを液変えのみ行って夫々6週間培養を続けた後、固定染色を行い形態的観察を行ってみた。染色はギムザ染色によった。
 だいたい3〜4日で継代したのであるが、継代7代目迄は小型細胞集団で中央部がシャーレ面より盛り上り、ギムザ染色で青色に染るだけのfocusが多数認められた。同時にエオジン好性の細胞間物質を産生し、細胞の増殖は旺盛とは思えないfocusがdish一面に多数認められた。丁度培養8代目で前者のfocusは消失し、後者のfocusが奇麗なnetworkを作っているのが観察された。これをさらに良く観察すると6代目頃にははっきりしなかった小型の上皮様細胞の増生が網目の間に認められた。継代10代では細胞間物質産生部と上皮様細胞巣とがお互に網目を作り、ぎっしり一面を被っていた。
 この10代目のdishで良く観察すると一部の上皮様細胞巣中に細胞質が濃く青色に染り、核も核小体も大き目になった悪性を思わせる10数ケの細胞の増殖している部分が1ケ所認められた。培養11代目のdishは全体像は培養10代目のdishと似ているが、1ケ所、明らかに悪性細胞を思わせる細胞増殖を伴ったfocusの出現があった。細胞1ケ1ケの形態は10代目のdishで記載したようなものである。培養13代目では細胞間物質産生部も少くなり、全体に細胞増殖力は衰えた感じを与えた。
 (II)先月の月報(7710)で報告したC14-BPの代謝の仕事はその後28〜29日、37〜38日目の代謝のデータが出た(表を呈示)。まだそれ程代謝能が落ちていないことが判った。
 (III)(I)の観察で得られた結果で少くとも形態的には培養10、11代目に悪性形態を思わせる細胞の増殖をみたことは興味ある。この様な細胞が上手に継代されればspontaneous transformationを起すのかも知れない。またこの時期でも尚発癌剤代謝能が落ちていなければ(IIのデータの続きに期待している)、もっと能率よいtransformation実験が出来るかも知れない。今後このような方向の仕事を少し続けてみたい。

 :質疑応答:
[乾 ]株化していない細胞系を使う時、継代6〜7代位で薬剤感受性ががらりと変わってしまう事があります。その辺のデータがはっきりしていると、スクリーニングに使うのに助かりますね。
[梅田]クローニングをしたら感受性が、がたっと落ちてしまったというデータを出した事もあります。感受性のある細胞を拾いたくても指標がないので困ります。
[難波]材料は全胎児ですか。
[梅田]そうです。そこに問題があります。いずれは特定の臓器から系を作りたいと考えています。

《乾報告》
 亜硝酸ソーダ(NaNO2)のハムスター胎児細胞に対する経胎盤効果(総括)
 衆知の如く、NO2はバクテリヤ、カビ、ショウジョウバエ幼虫等に強い突然変異効果をもち、組織培養細胞に染色体異常、Malignant Transformationを誘起する。
 しかし、動物に対する急性毒性がきわめて強く(2mg/マウスLD50)、動物実験によっての発癌性は証明されていないのみか、動物体に対するBiological effectの知識もきわめてとぼしい現況である。今本報は従来より報告しているIn vivo-in vitro combination Chemical Carcinogenesis(Mutagenesis)の系を使用し、Nucleus Test、Chromosome Aberratin、8AGr、Ouar-mutation、Morphological Transformationを観察したので報告する。
 方法は数回にわたって報告したので、省略するが、NaNO2(500、250、125mg/kg)、NaNO3(500mg/kg)、Nitrosomorpholine(N-Mo)、DMNを11、12日目に妊娠ハムスター母体に投与しえた胎児を使用した。
 (表を呈示)胎児細胞における、染色体異常の出現はNaNO2の投与により染色体異常の著明な増加をみなかった。但し、N-Mo 200mg/kg投与群のみに、Isochromatied aberration を含む染色体異常がみられた。
 (表を呈示)薬品投与後、少なくても1回の細胞分裂を終了した静止核細胞において、著明な小核が出現した。現在これらの小核は、染色体切断によってとりのこされた染色体小片が、分裂終期→静止期(G1)にいたる過程で、小核化するか、又は染色体或はDNA自身の障害には関係なく、紡錘絲に対する障害の結果のどちらかを反映している細胞障害と考えられている。
 (図表を呈示)8AGr-mutationの出現頻度をまとめると、8AGrコロニーの出現は、NaNO2 125mg/kg投与では3.3倍、250mg/kg投与では4.3倍、500mg/kg投与では10.4倍と増加しているが、NaNO3投与では8AGrコロニーは増加しなかった。又正の対照に使用したN-Mo、DMN投与では明らかな8AGrコロニーの増加(3.9〜16,9倍)がみられた。(図を呈示)NaNO2投与群における8AGrコロニーは、NaNO2の投与濃度に依存して増加した。
 (表を呈示)Ouabain r(Ouar)耐性の出現は8AGrコロニーと同様に投与濃度に依存して、著明な耐性コロニーの増加が観察された。(表を呈示)NaNO2投与母体より得た胎児細胞のMorphological transformationの結果は、NaNO2 500mg/kg投与群でtransformedコロニーの出現は約15倍増加した。N-Mo 100mg投与では約4.5倍、NoNO3投与ではtransformedコロニーの増加はみられなかった。
 (表を呈示)NaNO2 500mg/kg投与におけるハムスター胃中に成生されたN-nitrosamineの成生量は、ハムスター1頭当りの全nitrosamineとして約0.5mgである。200mg/kgのDMN投与での一頭平均DMNは最大1.02mgである。
 8AGrコロニーの出現はNaNO2 500mg/kgで約10倍、DMN投与のそれは16倍であった。故にNaNO2直接投与による8AGrコロニー、その他のBiological effectは、成生されるNitrosamineによる部分もあることは否定出来ないがNaNO2それ自身のそれによるところが多いと結論される。

 :質疑応答:
[山田]小核というのは脱核は起こらないで壊れた核が残っているということですか。
[乾 ]そうです。
[難波]どんな風に見えますか。
[乾 ]エリスロサイトでは細胞質にフォイルゲン陽性に染まります。
[難波]フォイルゲン染色の場合、加水分解はどの位ですか。
[乾 ]1N塩酸で60℃、7分やっています。DNAに関係のある物質のチェックとしては敏感ですが、ひっかかった物が何かまでは明言できません。

《山田報告》
 昨年末培養ラット肝細胞の電顕的形態について検討して来ましたが、種々の細胞の変化のうちで、細胞質内グリコーゲン顆粒が培養細胞では、はっきり認められず、その理由がわかりませんでした。そこで新たに同一のラット肝細胞を用いて培養開始してから何時までグリコーゲン顆粒(特に星状凝集)が残っているかを検索しました(写真を呈示)。
 JAR-2ラットの肝臓の一部をそのままスライスしてまず電顕的に観察し、次にdispaseII 0.25% 15分x3処理して細胞間を分離した後に、それをF-12+10%FCSに入れて培養した後に経時的にその変化を電顕的に観察しました。ところが、dispaseで処理しただけでもグリコーゲン顆粒は一般に減少し、培養29日目には全くグリコーゲンの星状凝集が見られなくなりました。その他の変化は以下の通りです。
 生体内ラット肝細胞は、細胞形は多角形、細胞結合は密であらゆる部分が滑らかに接し、核は円又は楕円形、Mit.は円または楕円形で数多く粒子をもち、グリコーゲンは豊富で細胞Matrixにaggregateし、Microbodyは細胞内に数個。
 dispaseにより分離した肝細胞は、細胞形は円又は楕円形、細胞結合は疎で二〜三ケ所で接し、核は円又は楕円形、Mit.は円又は楕円形で粒子を持ち、グリコーゲンは数が減少し細胞Matrixにaggregateし、Microbodyは細胞内に数個でやや大きく、その他の所見として細胞内に空胞が出現。
 29日間培養した肝細胞は、細胞形は不定形、細胞結合は疎でMvを隔てて接し、核は不定形、Mit.は細長く数は減少し粒子を持たず、グリコーゲンはaggregateが全く無し、MicrobodyはMit.と区別不能で、その他の所見は細胞内に空胞が多い。

 :質疑応答:
[難波]私の経験ですが、RLC-18株では培地を更新してから24時間以上おくとグリコーゲンが無くなってしまうようです。
[山田]電顕像でみる星状のものが無くなるのですか。
[難波]定量値としてのグリコーゲンが無くなります。

《関口報告》
 人癌細胞の培養 4.卵巣癌由来CKS株の樹立
 卵巣癌由来株としては、国外に4株、国内に3株あり、本例は8番目に当る。(臨床経過の概略の表を呈示)
腹水中の細胞(写真を呈示)を集め、DM-160+20%FCS、又は20%ヒト臍帯血清を加え、45mmガラス・シャーレを用いて、炭酸ガス培養器内で培養を開始した。FCS使用の培養では、Fibroblastのovergrowthによって上皮性コロニーは消失した。ヒト臍帯血清使用の培養では、ガラス面に付着増殖する上皮性コロニーがえられた(写真を呈示)。ハメ絵様、あるいは小型紡錘形の細胞の集合よりなる。
 染色体数はhypodiploidで、44本にモードがある(図を呈示)。
 ALS処置ハムスターノ頬袋内移植では腫瘤を形成し、その組織像は繊細な間質で囲まれた大小の小葉形成と、それに伴って一列に配列して増殖する腫瘍細胞で、一部は甲状腺濾胞様構造の分泌もみられる、serous cystadenocarcinomaである(写真を呈示)。

 :質疑応答:
[難波]川崎医大でも卵巣癌から2系、株化しています。
[乾 ]牛胎児血清とヒト臍帯血清とはどう違うのですか。
[関口]ヒト臍帯血清を使うと線維芽細胞の増殖が少し抑えられます。染色体のバラツキは牛胎児血清で樹立した系の方が少ないようです。免疫実験に使うにはヒト血清を使いたいという訳です。
[榊原]培養初期の方が復元して出来る腫瘤の分化程度がよいようですね。

《榊原報告》
 §蛍光抗体法によるcollagenの同定(続):
 ラット酸可溶性コラーゲンに対する家兎R血清を前号で報告した方法に基いて作成し、蛍光抗体間接法にてラット肝由来培養細胞及びハムスターの各種臓器を染色すると鍍銀染色で陽性に染まる構造が凡て特異蛍光を発する。(写真を呈示)岡大で樹立された肝細胞株RLN36を染めると、蛍光陽性の線維状構造物が細胞を結節状にとり囲んでいる。(写真を呈示)ハムスター腎組織をホルマリン固定・鍍銀染色すると、黒染したコラーゲンが間質を埋めている。同一の腎組織を蛍光抗体で染めると(写真を呈示)、鍍銀染色と同様に間質が蛍光陽性を示している。糸球体メサンジウムも同様に光り、又肝ではグリッソン鞘、中心静脈周囲、及び肝細胞索にそって蛍光が認められた。この抗血清をヒトcollagen、ヒト肝アセトン粉末で吸収し再び蛍光抗体法を試みたところ、結果は吸収前と殆ど変わらなかった。

 :質疑応答:
[佐藤]ハムスターとラッテのコラーゲンは抗原性がクロスするということですね。
[榊原]そうです。
[佐藤]そしてヒトとはクロスしないのですね。
[榊原]そうです。
[山田]材料に使う人由来の癌の培養株に線維芽細胞が混入していませんか。
[榊原]本実験に入る前にクローニングします。

《佐藤報告》
 肝臓の還流後の培養について
 (1)最初の肝細胞浮遊液には2核細胞が多い。
 (2)培養3〜4日で肝細胞索様の構造がみられる。
 (3)培養8日位になると成熟型の肝細胞は少くなって株細胞類似の細胞が増加してくる。
 (4)インシュリン及びデキサメサゾンを加えると細胞の接着が極めてよい。
 (5)アルブミン産生は徐々に低くなるが、約1週間位は認められる。
 (6)成熟型肝細胞から幼弱型肝細胞への集団転換は還流液酵素のトリプシンの方がコラゲナーゼより速い。
 (7)還流直後直ちに病理組織標本をつくると、還流不充分の場合は肝小葉周辺部の肝細胞解離が悪い。尚非常に興味があるのは解離した肝細胞の細胞質辺縁に銀線維がからまって見られることであり、培養肝細胞が好銀線維をつくることと関係があるのであろうか?

 :質疑応答:
[佐藤]培養前の細胞周辺にコラーゲンがあるようですね。興味深い事だと思います。
[山田]コラゲネースを作用させて細胞をバラバラにした場合、一見細胞障害もなくきれいにバラバラになりますが、細胞は大変壊れ易くなっています。
[梅田]パパインなどは使えるでしょうか。
[佐藤]やってみていません。還流には流速、温度、pHに気をつけねばなりません。
[高岡]2年前に野瀬さんが報告した事からみて、方法としてはあまり進歩したことが無いのですね。還流法が一般化したのが進歩でしょうか。
[久米川]増殖する細胞と元の細胞と大きさは同じですか。
[佐藤]大きさも形も違います。
[野瀬]低速遠沈で分劃すると小型の方が増殖する細胞が多いです。
[乾 ]肝には単核でもDNA量からみて4倍体の細胞があって、それらは分裂しません。小さいのは2倍体、大きいのは4倍体細胞かも知れませんね。

【勝田班月報:7712:試験管内化学発癌実験まとめ】
《勝田報告》
 §試験管内化学発癌実験のまとめ−ラッテ肝細胞について−
 勝田班の歴史は、1959年、申請メンバーの中の3人だけが放射線班に拾われた時から始まる。1960年には釜洞班を折半して一年を過ごし、1961年はじめて独立した勝田班として発足した。爾来、16年間活動を続けてきたことになる。
 (表を呈示)大まかな実験経過をまとめてみたが、1960年には生後2〜4カ月の成ラッテの肝を摘出し、廻転培養法、又は廻転培養法→同型培養法を用いて2週間以上、良好な培養状態を保つことができた。この細胞系は増殖しない。
 次いでこの系にDABを添加することによって増殖の誘導に成功した。DAB添加で増殖を誘導された細胞は何れも上皮様形態で染色体数は2倍体であった。又その増殖性は維持されて17系が株化した。しかし同系のラッテへの復元はすべてネガティブであった。
 そこで更に第二次の刺戟を加えた。DAB処理の反復、サリドマイドの添加などでは形態的変化、染色体変異などが認められたが、ラッテを腫瘍死させ得る細胞系は得られなかった。
 1964年には偶然に"なぎさ"現象を発見した。この場合は発癌剤も添加せず特別な処理もしない。平型試験管をやや傾斜させ静置培養する。1カ月以上の間、培地は更新するが継代はしないで培養を続けると、培地のなぎさ部位に細胞の異型性、異常分裂が数多く出現する。やがて正常な上皮細胞の細胞シートの上に接触阻害を失った増殖の速い細胞集団が現れ、急速に増殖を続けて培養内の正常な形態をもつ細胞集団を完全に駆逐してしまう。こういう経過をたどって5系のなぎさ変異細胞株が樹立された。これらの系は相互の間には染色体数の違い、イノシトール要求性の違い、形態的な違いなどあるが、染色体は2倍体から大きく変異すること、形態的には所謂病理学的にみて悪性細胞の様相をしめすこと、培地から血清を除いても増殖は維持され合成培地継代株となること、など共通した特徴をもっている。これらの細胞もラッテに腫瘍を作らなかった。
 そこで、なぎさ培養にDABを添加して長期間培養を継続した結果、DABに耐性をもち、又DABの代謝能力に差のある変異株30種が得られた。しかしラッテに腫瘍を作る細胞は得られなかった。
 1965年からは、4NQOによる悪性化の実験にとりかかった。この実験にはラッテ正常肝由来、上皮形態、染色体正2倍体の株細胞を用いた(RLC-10)。結果は4NQO 3.3x10-6乗M 30分 1回の処理で細胞が悪性化することがわかった。今度こそ同系のラッテ腹腔内で増殖して宿主を腫瘍死させ得る細胞へと変異したのである。そこで悪性化の過程における細胞電気泳動度の変動、染色体数、染色体核型の分析、4NQOに対する耐性など、悪性化の機構解析につとめた。しかし、やがて何の処理も加えていない対照群の細胞もラッテに腫瘍を作るようになった。
 それからの数年間は、試験管内における悪性化の指標について検討をつづけた。従来、悪性化の指標として調べられている事項を表で呈示する(Morphology: Growth Rate: Interaction with Normal Cells: Resistance to the Carcinogen: Adhesiveness betwee Cells: Concanavalin A: Cytoelectrophoretic Mobility: Growth in Soft Agar Medium: Backtransplantability)。これらの指標は一部の細胞系については、その細胞の腫瘍性と平行するが、なぎさ変異株のように、これら殆どの指標について悪性細胞の様相を示しながら、宿主のラッテに腫瘍を作らない細胞がある。復元実験にも問題がある。宿主のラッテには腫瘍を作らないが、異種のハムスター・チークポーチに腫瘤を作る細胞系がある。
 1974年には、培養開始から3週間後にDENを添加した。濃度は50μg/ml、100μg/mlで1週間処理した。この系では継代約半年後に実験群の染色体に変異が認められ、1年後には同系ラッテの皮下に腫瘤を形成した。対照群の細胞は腫瘤を作らなかった。しかし、培養2年近くから染色体数が乱れ始め、何れは対照群も自然悪性化の道を辿るであろう。この研究を始めて17年、依然として自然悪性化の問題は解決されていないのである。

 :質疑応答:
[乾 ]復元の問題ですが、前処置をして復元してみたことがありますか。
[高岡]コーチゾン投与とか肝切除とかやってみました。皆takeされませんでした。
[乾 ]亜株の性質はそれぞれ異なりますか。或いは同じですか。
[佐藤]動物にDABを食わせた場合に、一匹のラッテの肝にも形態的に異なる幾つかの腫瘤ができる事があります。培養内の亜株も、色々違ったものが出来て当たり前でしょう。それから、DABの耐性で、DABを代謝するものと代謝しないものとの、どちらが本当の耐性でしょうか。
[遠藤]どちらも耐性と言えるでしょう。代謝する方は酵素の問題でしょうが、長期間たつと消失することが多いので、今でもまだ代謝能があるかどうか調べてみると面白いですね。代謝しない方は薬剤を取り込まない方向へ膜が変わったと言えるでしょうか。
[吉田]膜だけの変化でも遺伝的変化と言えます。
[堀川]薬剤の処理は1回でよいのか、数回処理が必要か、どうでしょう。
[高岡]薬剤の作用の仕方とか、安定性の問題とか、使う細胞系とかで、それぞれ異なりますから多くの予備実験をして決めています。
[乾 ]耐性と染色体の関係の結論はどうなったのですか。
[吉田]系によって異なります。耐性を獲得することと平行する染色体変異もあります。
[堀川]試験管内の変異は、遺伝的に安定しているものと不安定なものとありますね。
[勝田]今まで培養細胞を使ってきて、今思うことは、もっと発生学を勉強する必要があることです。1コの細胞が分化して個体を作るのは面白いことですね。
[堀川]細胞生物学はそこへ立ち戻るべきですね。

《梅田報告》
 (I)ハムスター胎児細胞が発癌物質処理により悪性転換しやすいとすると、今迄の方法はmixed cell populationで実験しているので、何処かに特に悪性転換しやすい細胞があると考えて良い。この考え方を証明するために胎児の各臓器を別々に培養して次の実験を行ってみた。(MCA=20-methylcholanthrene)
 (II)胎生13〜14日のSyrian hamster carcassの4lotについて先ずMCA処理によるPienta法のアッセイを行った(表を呈示)。コロニー数でみる限り、MCAの濃度に依存して毒性が現われている。しかし悪性形態コロニーの出現はコントロールにも出たりしてはっきりとしたデータにはならなかった。
 (表を呈示)胎生14日のハムスターの臓器由来細胞で調べた結果、Brainおよびsubcutisでは毒性はembryo carcassをつかったものと殆同じであった。しかしbung、liver、kidney由来の細胞は極端にMCAの感受性が高く、PEは0.5μg/mlMCA処理でコントロールの10%以下であった。Brain、lungの細胞は小型で、コロニーも辺縁部が円形をとらない不整形の小型のものであった。Subcutisでは細胞が一面に増生し、nearly confluentになっていた。これら全体に悪性形態コロニーは認められなかった。
 (III)乾先生の所でPienta法でなく、feederを使わないでtarget cellを5,000ケまくと同じようなコロニーアッセイが出来ると報告している。その追試を行ってみた。
 Embryo carcassを使ったものはPienta法よりPEは良くなっているが、悪性形態コロニーはここでも出たり出なかったりして一様なデータは得られなかった(表を呈示)。
 各臓器由来の細胞もBrain、epidermis、subcutis由来のものはPienta法よりコロニー数が多くなっている他、liver、kidney由来の細胞はホーキ星状になってコロニーとしては数えてあるが、コロニーらしくないものであった(表を呈示)。
 (IV)Benzo(a)pyreneが細胞により水溶性に変る反応を調べてみた。一部はまだ実験がすんでいないが、liver、lung、一部のcarcass細胞が代謝能が高く、次いで他のcarcass cell、kidney、Subcutisの細胞であった。Brain、epidermisの細胞の代謝能は低かった。
 (V)Subcutisの代謝能はそれ程低くないのに、transformationの方であまり反応していなかったことは説明がつかない。Lung、liverでMCAでの毒性が強かったのは、BP代謝能が高いのと一致する。CarcassのLotDの細胞でBP代謝能が高いにもかかわらず特に悪性転換率が増加していないのは気になる。(表を呈示)

 :質疑応答:
[難波]シャーレ当たりの細胞数はどの実験でも同じですか。
[梅田]大体同じ位にしています。
[堀川]各臓器を除いた残りの胎児でも実験結果を出して欲しいですね。それはcell mediateの結果が出るのではないでしょうか。
[梅田]今日報告したようなピエンタの系では細胞数を少なくスパースな状態でないと結果がきれいに出ませんし、cell mediateをみる時は密にセルシートを作っている状態が要求されますから、同時に実験するのは無理です。
[難波]メチルコラントレンの処理法を教えて下さい。
[梅田]フィーダーレーヤーの細胞をまいて1日後にメチルコラントレンで処理した細胞を少数まきます。
[堀川]発癌剤で処理する時、フィーダーレーヤーごと処理するのとコロニーを作らせる少数細胞だけ処理のとでは結果が違うでしょうね。

《乾報告》
 In vivo-in vitro combination assayのX-ray effectへの応用:
 現在迄、妊娠ハムスターに種々の化学物質を投与して、Mutation、Transformationを観察してきた。これら化学物質の生物活性を標準化する目的で、X-ray equivarent doseに換算するための実験を化学物質と同様の手法で行なった。Micronucleus formationの結果は、照射量に比例して、小核をもった細胞の出現は急激に増加した(表を呈示)。
 染色体切断を含む異常も投与線量に比例し、特に高線量照射群ではExchange型の異常が多く出現した(表を呈示)。
 コロニータイプのTransformationは、62.5〜250Rの間で明らかに比例し500Rではやや低下した(図表を呈示)。
 MutationもTransformation同様62.5〜500Rの間で明らかな増加がみられた。但し、62.5R以下の線量では、現在Dataにふれが多いが、これらの生物的反応は8Rで現われる(図表を呈示)。

 :質疑応答:
[吉田]放射線をかけてから、どの位の時間をおいて胎児を採りましたか。
[乾 ]1日後です。
[堀川]G0バリューの出る所まで線量を幅ひろく調べておいた方がいいですね。照射後24時間で胎児を採るのなら、培養した胎児細胞に直接照射したものとの比較もみておくとよいですね。トランスフォーメションの方の頻度は良いようですが、ミューテーションは頻度が大きすぎますね。トランスフォーメション・コロニーの腫瘍性はどうですか。
[遠藤]胎児を取り出して培養したものに照射するより、胎児のまま照射する方が感受性が高いのですか。
[乾 ]培養してから照射するのと、あまり変わらないと思うのですが、経胎盤法による他のデータと比較できる形としてやってみました。

《高木報告》(前班会議欠席のため2回分を報告)
11月分:ヒト細胞に対するEMSの効果
 本年2月9日に培養を開始したヒト線維芽細胞について、今日まで8カ月を経過した。この間ガラス器具の洗滌をクロム硫酸からエキストランに切換え、不慣れなための汚れが充分にとれない培養器もあったためか偶発的に死滅した培養もあり、data通りに受取る訳にはゆかないが、一応の経過を述べておく。
 (1)対照の無処理細胞は約7カ月で死滅してしまった。
 (2)培養開始後14日目にEMS 10-3乗M1回作用させた培養は今月31代を経て増殖をつづけている。
 (3)培養開始後4ケ月を経て3x10-3乗MのEMSを3回作用させた培養も同様に増殖をつづけている。
 (4)培養開始後14日目より6カ月にわたり、3x10-3乗M〜10-3乗MのEMSを13回作用させた培養は、培養開始後6.5カ月で死滅してしまった。
 以上の通り(2)(3)の系では現在も増殖をつづけているが、増殖度は培養開始後1カ月から4カ月にわたる時期にくらべると可成り低下している。近日中に両実験の細胞をATS注射ハムスターに移植する予定である。
 現在8月に培養開始したヒト線維芽細胞と5月から培養を開始したラット胸腺由来細胞についてもEMSによる実験を行っているが、ヒトの材料については培養前にPPLOの汚染を除くべく抗生物質で充分に洗って使用している。
 細胞を発癌剤処理する際の培地条件の検討
 1)月報7710で植込み前の細胞の状態が培地条件によるsurvivalに影響することをのべ、原則としてexponential growthの細胞を用いることとし、この際植込み6時間後に所定の培地に交換してからのDNA合成を経時的に図示した。今回はこれと比較の意味で、confluentな状態の細胞を植込みに用いた時のDNA合成patternを示す(図を呈示)。この際controlのMEMもDNA合成の上昇はおそい。conditioned mediumではやはりDNA合成は一番低く、6時間にわずかの上昇があるだけである。またADMについてもexponential growthを示す細胞を用いた場合にみられた2時間後の上昇はみられず、以後もcontrolよりわずかに低くゆっくりと上昇する。このような培地交換後早期のDNA合成patternのちがいは発癌剤などを作用させた際の細胞のsurvivalにも多分に影響を及ぼす訳で、例えば月報7710に示したEMS、MNNGによるsurvivalについても、confluentな細胞を用いた場合にはMEMとADMとの違いがみられなくなる。
 2)これまで4NQO、EMS、MNNGについて培地条件によるsurvivalの相違を報告したが、4NQOと似通ったrepairを示すUVについては(図を呈示)、4NQOと同様のpatternを示す。すなわちいずれの培地でも低いdoseでshoulderをもったcurveをえがき、これはsublethal doseではrepairがおこっていることを表わすと思われる。conditiond mediumではsurvivalは著明に増加し、shoulderが大きくなりdoseの増加とともにcontrolと平行な直線となる。
 12月分:ヒト細胞に対するEMSの効果
 本年2月9日に培養を開始したヒト線維芽細胞に対するEMSの効果につきその経過を先に報告した。
 EMSを3回作用させ今日まで培養のつづいている群では、形態的にややcriss-crossが多いが著明な変化は認められず、11月中旬までは1:4で継代をつづけている。10月20日にATS注射hamster cheek pouchに300万個移植を試みたが、腫瘤の形成が認められ7〜10日でregressした。7日目に作製した腫瘤の組織像では差程の異型性はみられなかった。これらの経過につきslideで供覧する。
 その後も2つの系について実験をくりかえしており、現在2〜3カ月を経過したところである。その中EMSを3回作用させ3カ月を経過した細胞を300万個hamster cheek pouchに移植したがこの際生じた腫瘤は小さくregressするのも早かった。2月に培養開始した細胞とは可移植性に差がみられるようである。
 なおEMSはmutagenとして広く知られているが、carcinogenとして腹腔内に注射して腎腫を生じた報告があったので飲水にまぜて3カ月投与をつづけてみた。その中一頭に腎腫を生じた。さらにsystemicに実験をくり返している。
 細胞を発癌剤処理する際の培地条件の検討
 これまでの実験で大体基礎的条件はきまったように思われる。すなわちexponential growthを示すV79細胞を用い10万個cells per plate植込み、6時間後にMEMで諸薬剤を作用させ、その後18時間MEMあるいはconditioned mediumでincubateする。conditioned mediumを用いた系は細胞のDNA合成がその間抑制される訳であり、以後MEMにもどして適当なexpression timeをおき、mutantの出現は6TG 5μg/ml耐性細胞の出現でcheckすると云う条件である。4NQO、MNNG、EMS、UVいずれについても処理後conditioned mediumを用いた方がMEMを用うるよりもsurvivalは増加することが分ったが、これまでのdataより以下のことが推測される。
 1)DNA損傷後の早期DNA合成とsurvivalとは逆相関を示す。この際conditioned mediumの方がarginine depleted mediumよりきれいにDNA合成を抑制するのでこれを用いることにした。
 2)4NQOとUVとはそのsurvival curveのpatternが酷似しており同じrepair systemで修復されていると考えられる。
 3)4NQOとUVのrepair systemはある程度で飽和に達する。これはある一定以上のdamageが加わるとsurvivalの上昇がMEMとdonditioned mediumで一定となることから推測される。
 4)EMSとMNNGはsurvival curveが似ており、4NQO、UVのそれとは異っている。この両者は同じrepair systemにより修復されているのではないかと考えられる。
 5)MNNGおよびEMSのDNAdamageのrepairは4NQOとUVにくらべて比較的早期におこり早目に終ってしまうと考えられる。現在これら培地条件のmutant出現頻度に及ぼす影響について観察しているが、これまでの6TG耐性の出現でみたpreliminaryなdataでは、薬剤作用後conditioned mediumを用いてDNA合成を抑制した方がmutantの出現はおちるようである。ただ実験により6TG耐性colonyの出現頻度にバラツキがみられるので一定のdataがえられるようさらに検討中である。

 :質疑応答:
[難波]ハブリッドの細胞の増殖度はどの位ですか。
[高木]大変おそくしか増えません。
[堀川]照射量はエルグで表すべきですね。処理後のサバイバルカーブの差は何を意味しているのでしょうか。

《難波報告》
 53:ヒト正常2倍体細胞の培地の検討
 ヒト2倍体細胞を利用して、コロニーレベルの仕事を行う上で最もむつかしい点はコロニー形成率が低いことである。
 種々の培地を検討した結果、目下成績はダルベッコ変法MEM+20%FCS+10-6乗M Dexamethasone+10μg/mlインシュリン+1mM Pyruvateが最適のようである(表を呈示)。
 コロニーサイズはダルベッコのものが一番大きく、数え易い。そこでダルベッコMEM+20〜30%FCSの培地に種々の添加物を加えPEを検討した(表を呈示)。その結果よりDexamethasone、インシュリン、Pyruvate添加培地を採用した。

 :質疑応答:
[乾 ]培地の血清量20%と30%とでは違いがありますか。
[難波]30%添加した方ががっちりしたコロニーができます。しかし経済的にみて20%を主に使っています。
[高木]In vitroで何代継代できましたか。
[難波]5、6代です。やってみて判ったのですがデキサメサゾン添加は実に有効です。
[桧垣]デキサメサゾンを添加した場合、増殖が落ちるという事はありませんか。
[難波]全く変わりません。対照群と同じ増殖度です。
[山田]インシュリンの濃度はかなり濃いと思いますが生理的濃度からみてどうですか。
[高木]生理的濃度からみると大いに濃いです。
[難波]但しインシュリンは培地内ではガラス壁に附着しますので、細胞に接して居る正確な濃度は判りません。
[堀川]エイジングはどうですか。
[難波]これからやります。

《山田報告》
 今月から蛍光標識したConA(FITC-ConA)を用いて、従来われわれの観察したConAによる表面荷電の変動と、報告された細胞膜上のConAのpatch formation and Cap formationとの相互の関係を検索し始めました。
 (表を呈示)方法は4℃においてFITC-ConAと細胞(今回はすべてJTC-16)を混合し、40分保存した後に37℃に温度をあげて、反応を進行させ、その後アセトンで固定した後に観察しました。
 結果:まだ基礎段階ですので、はっきりとした成績が出ていませんが、少くとも次の点のみは明らかになりました(写真を呈示)。
 1)ConAによりその表面荷電密度が高くなる時期は、ConAによりCap formationが起る以前である。
 2)シートを作る細胞塊の中心部にある細胞では、細胞の遊離面の中心に集まり辺縁部の細胞におけるCap formationとは異る。
 (写真説明:FITC-ConA 20μg/ml 8分後、遊離細胞、蛍光は一方に集り所謂Cap formationを示している。培養5日目、FITC-ConA 20μg/ml 10分後、細胞集団の周辺の細胞はCap-formationが細胞の辺縁に起っている。FITC-ConA 50μg/ml 細胞集団の中心部、蛍光は細胞の中心に集まって居る、従来のCap-formationにはみられなかった集合像。)

 :質疑応答:
[堀川]こういう光り方をどう解釈されますか。
[山田]まだ何とも言えませんね。ただ始めは光らなくて、時間と共に光り始めます。

《榊原報告》
 §培養肝細胞に於るγ-GTPの組織化学
γ-gulutamyltranspeptidase(γ-GTP)はglutathion分解のinitial reactionを触媒する酵素で、ラット肝実質細胞では胎生期ならびにneoplastic changeを遂げた際、その活性が組織化学的に陽性となることが知られている。一方、胆管、腸管、腎尿細管、膵外分泌部等の上皮細胞では、normal adultで常に陽性とされている。これらγ-GTP陽性細胞が凡てepithelial cellである点は注目に値しよう。生体組織についてのγ-GTPの組織化学はかなり綿密にしらべられているが、培養細胞についての結果は、知る限り報告がない。そこで丁度手許にあった2系統のラット肝由来上皮細胞クローンについて、生体組織に対し用いられている手法をそのまま適用してみた。細胞は岡大で樹立されたRLN-38及びRLNB2のクローンでタンザク上に播いて3週間培養したものである。両株ともcollagen fiber形成は鍍銀、Azan染色及び蛍光抗体法のいづれでも陽性である。細胞はacetonで1時間固定、N-γ-L-glutamyl-α-naphthylamide、Fast garnetGBC saltから成る基質溶液に1時間浸漬ののち、CuSO4液に2分、hematoxylin液に10分入れ、水洗、アルコールによる脱水は行なわず、グリセリンで封入、検鏡した。その結果RLN38株はγ-GTP活性negativeであったが、RLNB2株では陽性細胞が多くはcolonyを成して培養のあらゆるareaに散在していた。γ-GTP陽性細胞は大型で、複数個のbizarreな核を有し、胞体全体が赤褐色に染まり、とくにcell membraneが際立った染着を示す傾向がみられた。両株ともラット及びハムスターに可移植性がありながら、in vitroでのγ-GTP活性に相違がみられるのは何故であろうか。今後更に多くの細胞株について、in vitroとin vivoでの染色性の異同や分布を調べたいと思っている。なおこの染色はアセトンで脱水しパラフィン包埋した組織切片でも可能である。monolayer cultureを染める場合は、アセトン固定も3日行なうと活性が低下することも判った。

 :質疑応答:
[高木]γ-GTPは酒飲みの人が高いですね。
[榊原]動物によって違います。兎では肝細胞も染まりますが、ラッテでは正常な肝細胞は染まりません。

 ☆☆☆次に吉田班友からのお話しがありました。
 染色体数の違うクマネズミをかけ合わせると性染色体に異常のあるF1ができる。現在判っているだけでもクマネズミには染色体数42本のアジア型、40本のセイロン型、38本の欧州型がある。それらの中、アジア型は他の2種とかけ合わせるとF1が出来るがfertileではない。しかし、40本と38本のかけ合わせはfertileである。そして、そのF2の中にX染色体の欠除しているものとXXYのものとがあった。これは減数分裂の時の不平等な分裂の結果かと思われるが、現在いろいろとかけ合わせてみて検討中である。

 ☆☆☆翠川班友からも"ちっとも悪性変異を起こさないマウス組織球の長期培養について"お話しがありましたが、原稿提出はありませんでしたので、討論のみ記載します。
[難波]墨汁の貪喰は何時間位添加したのですか。
[翠川]6時間です。
[遠藤]発癌剤で処理しても全く変わらないのですか。
[翠川]変わらないか、死ぬかです。
[高木]染色体は正2倍体ですか。
[翠川]染色体は変わっています。
[難波]倍加するのに120時間かかるとすると普通の細胞の5倍ですから、10年培養しても分裂回数ではまだ2年分位、とするとそろそろ自然悪性化の起こる時期ということになりませんか。
[高木]悪性化しないのは何故だと考えられますか。
[翠川]分化度の高いせいかと考えています。
[堀川]同じような細胞系の出来る再現性はどうですか。
[翠川]100例くらい試みてみましたが、600日位生存したものはありましたが、株化したのはこの1例だけです。
[吉田]癌化しやすい細胞とのハイブリッドを作ると面白いですね。
[高木]培地は何を使っておられますか。
[翠川]血清+MEMというあたり前の培地です。
[桧垣]巨細胞との関係はどうですか。
[翠川]判っていません。組織球が線維芽細胞になるという説の真偽を確かめたいと思っています。
[難波]腫瘍性については、ヌードマウスの脳内にしかtakeされないという系もありますからもう少し検討して下さい。


【勝田班月報・7801】
《勝田報告》
 今年は私の俊(ウマ)で、還暦となります。そしてこの班の月報で新年のあいさつをお送りするのは、これが最後です。大変残念なことですが仕方ありません。皆さんはまだ年に余裕があるでしょうが、定年なんてものは、あっという間にやってきますから、油断しないで、しっかり仕事をつみ重ねて行って下さい。本当に時の経つのはすばやいものですから、私が伝研にきたときの教授は宮崎先生で、55才のころ狭心症で急逝され、このとなりの癌体質学研究部の斎藤教授は定年の半年位前に脳溢血で倒れ、いずれも仕事の最後のまとめができなかった。お陰様で私はいままだ元気ですので、なんとか後片附けができそうです。皆さんの御協力を深謝します。

《高木報告》
 これが勝田班における最後の正月の月報であると思うと感無量です。今、私の目の前にN0.6001の研究連絡月報があります。発行は1960年6月17日となっています。初刊における勝田班長の《巻頭言》は次の通りです(要約)。
 『癌研究にあたり我々の第1目標とすべきもの:
・・・そして我々としてはやはり組織培養の利点を最高度に発揮し、正常細胞と腫瘍細胞との、きわめて広い意味での各種の性質の相違を追求し、基礎的にしっかりデータをつかんでから攻撃点を決めるべきであろう。・・・次にこれと平行して我々がなすべき仕事は組織培養内での"細胞の腫瘍化"の問題であろう。・・・正常の細胞を培養しておき、これに発癌剤その他の悪性化の原因となりうる刺戟を与えて培養内で細胞の悪性化をおこさせることができれば、組織培養は腹水腫瘍に代って次の10年間での研究陣を風靡することができるであろう。そのためには、1)まず正常の細胞を相当長期間培養できること(増殖でも維持でも)、2)それに刺戟を与えて一定期間後に必ず悪性化するようなコースを見付けること(動物に復元して腫瘍死すること)この二つを先決しなくてはならぬのである。
・・・ここに我々のなすべき二つの命題をかかげたが・・・本当の第一の命題はむしろ後者にあると考えて頂きたい・・・』
 "Production of malignancy in tissue culture"これが班長のかかげた目標でした。以来実に17年間月報を出しつづけ、班は続いて来たのです。そして今年3月、正確には17年9ケ月でその幕を閉じようとしています。その間、班長、班員の努力により一応の目標は達成され、いくつかのin vitroの発癌系を樹立することが出来ました。しかし幾多の問題は未解決のまま残されております。勝田班は一応periodを打とうとも研究は永劫に続きます。"初心忘るべからず"ここで再び原点に立ちかえって、これから進むべき道を充分に見きわめたいと考えています。私共も22年間住みなれた第一内科の組織培養室を後に、新臨床研究棟に移ります。また私自身、4月から新しいpositionに転出することになります。勝田班と共に歩んで来た私にとって何か宿命的なものを感じます。何もかも新しくスタートしなければならないのだと自分に言いきかせています。今後共よろしく御願いいたします。
《難波報告》
 54:本年度の研究の方針
 1)従来どうり、正常ヒト2倍体細胞の化学発癌剤による癌化の実験を続ける予定です。いままで行って来た結果を反省してみると、正常ヒト2倍体細胞の癌化は、3T3、10T1/2、V79などの動物の細胞系に比べて非常に困難なことが判りました。この困難さの原因として、次の2点が考えられます。
 (1)ヒトの細胞そのものによるのか
 (2)ヒト正常2倍体細胞の培養条件が正確に決定していないためによるのか
この2点に焦点を絞って
 (1)の点は、発癌剤処理後のヒト細胞のDNA修復合成の検討から、あるいは、培養ヒト細胞での発癌剤の活性化、不活性化の動態の検索などからアプローチしてみようと考えています。
 (2)の点は、HamのMCDM102培地の追試を行いながら、ホルモンその他の添加物の効果を調べ、正常ヒト2倍体細胞のコロニー形成率が少くとも、50%程度になるような方法を考えて行きたいと思っています。
2)同時に、ヒト正常細胞の発癌実験を定量的に進めるためには、ヒト細胞の癌化の指標を考えながら、癌化した細胞と正常細胞とを選別できる方法を開発しなければならぬと思っています。

《梅田報告》
 早いもので勝田班に入れていただいてから本年で丁度10年過ぎたことになります。本年が勝田先生の御退官の年であり、個性的な勝田班も遂に解散の年が来て了ったことを思うと感無量であると同時に、その間ずるずるとして目立った仕事の出来なかったことを心から申しわけなく反省しています。
 勝田先生には本年以降も何かにつけ御指導、御指示を受けなければならないのですが、勝田先生が率先して実行してきた行動は私共への見本、手本としてこれからの指標にしたいと思っています。
 勝田先生が成し遂げる計画のうち、成し遂げ得なかった癌制圧に向けては私なりに今迄よりもっともっと真剣に取り組まねばと思っています。特に培養内発癌の仕事はすっきりとした形で解答を出すべく、最善の努力をすることを今後の私の目標にする積もりです。
《乾報告》
 本年は勝田先生が昨暮、新しい班を御申請なさらなかったので"勝田班・月報"を通しての最後の新年の御あいさつになりそうです。
 年の始めに当り、しめっぽい事は書きたくはありませんが、私自身班を通じて、ずい分勉強させて頂きましたし、又先生方からずい分おしかりをうけながら仕事をして参りました。要するに、楽しく又きびしい班でしたが、私には、大切な大切な班でした。
 班員のほとんどの先生方とは、多分新しい組織のもとで、御一緒に勉強が出来ることと信じております。
 私自身、In vivo-in vitro combination chemical carcinogenesis(Mutagenesis)の系をもう一度見直し、系の完全な確立をめざすと共に、欠点をのぞいて行きたいと思っています。又本年からは、人間の細胞を含めて細胞レベルでの種の違い、個体の差、年令の差と云うような仕事にも、足をふみ入れたいと思います。

《山田報告》
 漸々今年は班会議、勝田班の最後の年になりました。考えてみますと、随分長い間お世話になりました。仕事の上だけでなくお世話戴いた事々は山の様に積っている感がします。そして教えて戴いた多くの事々を土台として、これから自分自身で展開し、発展させていかねばならぬ様な気がしています。その意味では漸々、予備校を卒業して、これから大学生活に入る様な感慨です。
 昨年は仕事の余暇にMaxBorstの腫瘍の病理学総論(1902)を翻訳しましたが、これを完成するに当っていろいろな癌の研究の在り方を考えさせられました。細胞をあつかって癌を研究する者にとって(実は基礎癌研究者は多くの場合このなかに属すると思う)、とかく忘れがちな事は、Cancer Cell Reseachに終始してしまい、Tumor-host relationを忘れがちだと云う事です。この一見当然の事実が、現在最も要求されている事ではないかと思います。培養法を用いた研究をより有効に生かしながら、それを常にCancer diseaseの解析の手段として用いて行きたいと今年は特に考えています。

《榊原報告》
 今年は癌細胞学研究部で仕事をさせて頂くことになりました。心おきなく組織培養の実験ができると喜こんでおりますが、勝田先生の御退官があまりにも間近かであることが残念でなりません。せめて後に残った者としては、先生の御業績の真価を更に広く世に知らしむべく、先生の樹立された多数の細胞株を活用して、意義ある仕事をしてゆかねばならないと思っています。
 今年度の研究の方向としては、細胞機能のあらわれ方をin vivoとin vitroの両面から形態学的に検討してみたいと思っています。例えば培養人癌細胞の膠原繊維形成能、あるいは培養ラット肝細胞のγ-GTP活性などについては、既に若干の興味あるデータが得られています。肝硬変症を初めとする臓器繊維症の病理形態発生の問題は、組織培養だけでは解決がつかず、免疫学的方法でやれるだけやってみたいと考えています。

【勝田班月報:7802:肝癌の放出する毒性物質についてのまとめ】
《勝田報告》
 ラッテ腹水肝癌細胞の放出する毒性物質についてのまとめ:
 試験管内に細胞間の相互作用の場を実験的に作りたいという目的から双子管を考案したのが1961年である。その双子管を使って種々の細胞の間の相互作用をしらべてゆくうちに、腫瘍細胞とその母組織の正常細胞との間には、腫瘍細胞は増殖を促進され正常細胞は阻害されるという特異的な相互作用の発現されることがわかった。
 また、ラッテ腹水肝癌由来細胞は、培地中にラッテ正常肝由来培養上皮細胞に対する毒性物質を放出していることが認められたので、その毒性物質の本体の化学的追求に入った。この場合、正常肝細胞を阻害するが、正常センは阻害しない、という二つの指標を分析に用いた。
 まず、セファデックスG25で分劃すると、塩の溶出してくる直前の分劃に毒性が認められた。ラッテ腹水肝癌株数種の培地をしらべてみると、どの肝癌培地もその分劃に毒性があった。しかし正常肝由来細胞株の培養後培地の同様な分劃は、正常肝由来細胞株の増殖を促進した。
 次いでセファデックスによる分劃を更にダウェックス50、濾紙電気泳動法などで精製し、毒性物質が分子量2,000以下の塩基性の強い物質であることがわかった。
 肝癌培地はJTC-16から採り、スクリーニングにはRLC-10(2)を使った。
 分劃は2、2'、4群と1、3、3'、5、6、7群の2群に分かれる。
 1) 1、3、3'、5は弱酸性陽イオン交換樹脂Amberlite IRC-50(acetate buffer、pH4.7で平衡化)を用いて得られた塩基性物質分劃を、更に、強酸性陽イオン交換樹脂を用いて分劃し、4N-NH4OHで溶出される分劃である。1、3、3'はDowex50(H+)、5はAmberlite IR-120(H+)でのクロマトグラフィーで得られた。
 2) 4は最も活性の強い分劃でUltrafiltrationで得られた分子量10,000以下の物質を含む濾別液を、セルローズカラムクロマトグラフィを用い、先ずn-ブタノール/ピリジン/酢酸/水の溶出系で得られた活性分劃を、更に、n-アミルアルコール/ピリジン/水の溶出系でクロマトを行って得られた活性分劃である。
 3) 2、2'はスペルミン標準物質を、1)と同じ条件下で分劃し、ただし、Dwex50(H+)クロマトグラフィで、アンモニアでの溶出液、6N-HCl(ポリアミンを溶出する条件)で溶出される分劃でスペルミンを含んでいる。
 4) 6、7は今迄と全く視点を変えて分劃を行ったもので、Ultrafiltrate(<MW、10,000)にエタノールを35%(v/v)になるまで加えてゆくと、白色結晶性物質が得られる(900mlのUltrafiltrateより150ngの収量で得られる)。これをエタノール/水で再結晶して得られた物質が6であり、6をDowex-1(Acetate form)カラムにかけ0.1N酢酸で溶出される分劃が7である。
6の分析成績は、C:1.14%、H:1.62%、Ash:84.7%、糖反応(Molish、アンスロン・硫酸)陰性、P陽性、KMmO4に対して強い還元性を示す。Ca++:0.5ppm、Mg++:0.6ppm以下(原子吸光分析法)であったが、スパーク分析法でAl:52%を検出した。IR、NMRスペクトル分析では、特異スペクトルを与えなかった。このアルミニウムが何に由来するかは不明である。
 以上をまとめると、活性物質は分子量10,000以下の低分子性の物質であり、強塩基性(あるいは陽イオン性)で、6N-HCl、105℃、24時間の処理に耐える物質である。
 活性物質が一種類かどうかは不明であるが、そのうちの一つはポリアミン系の物質である可能性は否定出来ない。ただし、毒性物質とスペルミン、スペルミジンなどのポリアミンとでは、細胞に対する毒性効果の"あらわれ方"が質的に異なっている(即ち、毒性活性物質は添加後効果が遅れて出現するが、ポリアミンは即効性である)。この点は今後も注目すべき点であろう。今後の分劃法としては、イオン交換樹脂法では物質の不可逆的損失が大きいのでセルコースカラムクロマトグラフィが有望と思う。

 :質疑応答:
[遠藤]低分子のアミンを扱うのは仲々難しいですよ。簡単なように思いがちなものですが。6N-HClで毒性活性が増すのは多少不思議ですね。
[永井]ポリアミンそのものとも言えない行動のある物質です。
[高岡]分劃4と6は別のものですか。
[永井]1種類ではないかも知れませんね。塩酸処理で活性が増すという現象は、実は活性分劃がだんだん不溶性になってゆくのを塩酸処理で塩酸塩となって培地に溶けるようになるので、活性増ということになるのかも知れません。

《難波報告》
 54)Co-60ガンマー線による正常ヒト細胞(WI-38)の癌化
 放射線によるin vitroの発癌実験の報告は、動物細胞を用いたものでは若干の報告があるが、まだヒト細胞の報告はない。
 実験は29代のWI-38で実験を開始し、コバルトガンマー線を照射した。コバルトを使用した理由、照射線量の決定は月報7706に記した。照射後は文献に従って4〜5時間目で細胞の継代を行った。照射後200日目頃50代目でAgingしかけた線維芽細胞の中に一見上皮様にみえる細胞集落が出現し、この細胞は、その後、現在に至るまで盛んに増殖を続けている。この変異した細胞のG-6-PDアイソザイム パターンは、WI-38と同じBタイプを示し、クロモゾームは著明なHeteroploidyである。そして低濃度の血清を含む培地中でも旺盛な増殖を示す。(図表を呈示)

 :質疑応答:
[佐藤]復元はヌードマウスですか。
[難波]ハムスター・チークポーチへ接種しました。
[乾 ]変異細胞が全部エイジングを乗り越えている訳ではないのですね。
[難波]そのようです。変異すると形態が上皮様になるのは確かなようですが、形態変異だけでは何とも言えませんね。

《高木報告》
 1969年6月、勝田班結成以来今日まで17年8カ月班員として参加させて頂きました。この月報ではこれまで当班において行って来た仕事について経過を発表させて頂きます。
 1960〜1962年
 まず最初にマウスMY肉腫よりDNP、RNPを抽出し、これを培養正常細胞に作用させてtransformationを試みました。またStilbesterol 0.1〜1.0μg/mlをラット腎細胞やJTC-4細胞に作用させましたが結果はnegativeでした。さらにDABをJTC-4細胞に作用させて9カ月間観察し、cortisone処理ハムスターのcheek pouchへの移植も試みました。
 1962〜1964年
 Stilbesterol 1〜10μg/ml、DAB 1μg/mlを4〜10日種々な日齢のラットやハムスターの肝、腎細胞に作用させて経過を観察しましたが、明らかなtransformationはおこしえないまま、1962年11月高木は渡米、代って杉が班員に加わりました。杉は1964年までDiethylstilbesterol 10μg/mlをハムスター腎の培養にさまざまな条件下に作用させ、33シリーズの実験を行いましたが、ついにpositiveな成績をうることは出来ませんでした。
 その間、高木はアメリカにあって膵の培養にとりくみ、organ culture、cell cultureでfunctional cultureの目的を一応達成することができました。すなわちorgan cultureでは家兎の膵を15日培養し、その間insulinを分泌しつづけていることをimmunoassay、蛍光抗体法で証明しましたし、またcell cultureでも膵から4つの形態的、機能的に異った細胞株の分離に成功しました。
 1965〜1967年
 1964年11月高木が帰国しまして再び班員に復帰しましたが、これまで行って来たStilbesterolの実験は打切り、4NQO、4HAQO、DMBAなどをラット、ハムスターの皮膚、顎下腺などのorgan cultureに作用させてその変化を観察しています。すなわち例えば4NQO 10-5乗Mをorgan cultureした組織に培養開始時と3日目に滴下し、あとは培養をつづけて形態的な変化を観察しています。しかし、1966年の終りからハムスター胎児皮膚の癌化を指向して長期間organ cultureするため培養条件すなわち温度やガス圧などをこまかく検討しています。またハムスター皮膚の移植実験を試み、in vitroで発癌剤を作用させた培養皮膚の復元を試みていますが発癌するには至りませんでした。
 1967〜1969年
 4NQOとMNNGを細胞培養したラット胸腺細胞に作用させています。濃度、作用時間をかえて検討し、1967年には一応transformed fociなどの形態的変化を認めています。1968年に入ってMNNGを中心にラット胸腺由来細胞に対する多くの実験をくり返し、ついにその悪性化に成功しました。その後再現実験として、細胞の培養開始から発癌剤を作用させるまでの期間をかえて20シリーズの実験を行いましたが、その中4シリーズにおいて復元に成功しました。つづいて4NQOについてもラット胸腺細胞の悪性化に成功しました。
 1970〜1972年
 細胞の発癌剤による悪性化の指標として、復元による腫瘤形成が惟一のものです。細胞集団の中で何個かの細胞が悪性化したとして、その際どの程度悪性腫瘍があれば"take"するか、あるいは復元の際悪性化していない正常細胞はどのような態度をとるのかなどを知る目的で、正常細胞、腫瘍細胞を種々の比率で混合してisologousあるいはhomologousな系で移植を試みました。しかし要は腫瘍細胞の可移植性によるのであり、正常細胞は大した影響を与えないと云った結果でした。
 その際in vitroでも同様の細胞の混合培養を試みましたところ、正常細胞が変性することが分りました。はじめ腫瘍細胞の産生する毒性物質ではないかと考えたのですが、これはDNA typeのvirusであることが分りました。rat virusとよく似ているのですが血清学的検査結果はこれとやや異なっています。なお九大におけるラットは調査した範囲ではすべて、このvirusに対する抗体をもっていました。
 一方in vitroの細胞悪性化の指標としてserum factor freeの血清を用いたsoft agar内の培養を検討しましたが釈然とした結果はえられませんでした。
 1973〜1974年
 AAACNのRFLC-5細胞に対する効果を検討しました。3.3x10-4〜1.6x10-4乗Mを用いて長期間観察し、morphological transformationは認められましたが、復元成績はnegativeでした。
 一方6DEAM-4HAQO 10-4〜10-6乗Mラットに注射してinsulinomaをつくり、この培養を試みましたが長期培養はできませんでした。また培養ラ氏島細胞に直接作用させて増殖の誘導を試みましたがこれも成功していません。
 さらにin vitroの細胞悪性化の指標としてCCBの種々培養細胞に対する効果を観察しました。腫瘍細胞では2核以上の多核細胞、正常細胞では2核細胞の形成がみられたが一部株細胞に例外があり、復元成績と比較した場合、絶対的な指標と云うには問題が残っているように思われました。
 1975〜1978年
 ラットおよびヒト膵ラ氏島細胞の長期培養、純粋なラ氏島細胞populationの培養、ラ氏島細胞分裂促進因子の検討およびDNA合成細胞の同定などを行っています。現在までのところラ氏島細胞の機能を保ったままcell aggregateの形で、あるいはcell sheetの形で2〜3カ月は培養可能となりましたが、未だ細胞株の樹立には至っておりません。さらに培養細胞のDNA合成あるいは分裂を促進することが出来ればfunctional cultureにおける発癌実験が可能となると考えています。
 また細胞にcarcinogenまたはmutagenを作用させた直後にDNA合成を抑制するような培養条件(conditioned medium)にしてやると細胞のtransformationの頻度が下ることが分りました。さらにcaffainの影響など観察していますが、このような実験ではどのようなrepair機構がcarcinogenesis、mutagenesisに関係深いか知ることが出来ます。
 なおEMSの発癌性が高いことを動物実験で証明することができましたので、これを用いてヒトの細胞の発癌実験もつづけています。

 :質疑応答:
[吉田]MY肉腫はマウスに自然発生した肉腫で、Mは牧野先生のM、Yは私のYなのです。こんな所で研究に使われていたとは大変驚きました。

《梅田報告》
 勝田班に入れていただいて10年になる。今振り返ってみると、その時々にそれなりに重要と思いながら実験を進めてきたのではあるが、仕事の内容は大きく振れ動いている。もっとconcentrateして仕事をすべきだったと反省している。Techniqueのあるものを新しく開発し、自分のレパートリに加えたことがせめてもの収穫である。といってもこれらの中には班員の皆様に教わり、触発されて進めた仕事も多い。改めて勝田班に感謝している。
 このまとめを反省材料にして今後の方向を見定め、仕事をしていきたいと思っている。
 (I)Toxicity experiments
 勝田班に入る前に黄変米の仕事をしてきたこともあり、発癌剤の殊に肝発癌剤の毒性を形態的に調べることが始めの仕事になった。当初はHeLa細胞などを使っていたがこれではらちがあかないので、高岡さんからラット肝のprimary culture法を教わり、その培養に肝発癌剤を投与した。その結果増生する肝実質細胞に著明な脂肪変性の起ることを見出した。今考えればこの脂肪変性はこれら脂溶性発癌物質自身の肝実質細胞親和性に関係があると思われる。
 (II)ラット肝培養細胞
 ラット肝の培養をかなり長い間手がけた。多少片手間的な仕事の展開でまとまりは少なかったが、2つの収穫があった。
 一つは上皮性の樹立細胞系を得てから発癌実験の積りで発癌剤処理に6週間培養してみたものである。所謂focus assayであるが、悪性の形態focusが出ないで、細胞間に索状物の存在を見出した。榊原さんの実験でこの物質がコラーゲンであることが証明され、さらに展開された仕事である。
 もう一つは樹立された細胞系について調べているうち、aflatoxinB1、benzo(a)pyreneに感受性の高いもののあることを見出したことである。この系はそれ迄クローニングされていなかったので、20ケ近いクローンを拾ってこれらに対する感受性を調べた所、非常に高い感受性を示すクローンが含まれていることを見出した。このものはC14-benzo(a)pyreneを水溶性代謝物にする能力も高く、特種機能を保持した細胞系という意味で興味がある。
 (III)試験管内発癌実験
 Serial passageによる方法、colonyレベルで検索する方法、focusレベルで検索する方法と3つの異る方法で実験してきた。
 Serial passageによる方法では、シリアンハムスター胎児細胞を発癌剤処理してずっと継代維持し悪性形態転換の起る迄待つものである。用いた発癌剤は4NQOなどそれ迄に培養内で発癌作用の報告されたいたもの、内因性発癌物質と云われる3-hydroxy anthranilic acidであった。この実験では4NQOを用いても4〜5ケ月を過ぎないと悪性転換を起さなかった。その頃発癌剤処理により1〜3ケ月で悪性化すると報告されており、4〜5ケ月もかかるものは恥かしくて報告出来なかった。また繰返し実験を行うには手間がかかりすぎるので、そのままになって了った。
 Sachs、DiPaoloらのfeeder cellの上に少数のハムスター細胞をまき悪性形態コロニー出現をみる方法も大部以前に手がけたものである。この方法はシャーレの数を20枚前後にしないと充分な数の悪性形態のコロニーが出現しないこと、形態判定が主観的であること、コントロールにも時におかしな形態のコロニーが出現することなどが、当時の結論であった。しかしこの実験から毒性と悪性転換率の関係を示す表し方を考えたりした(以上Manchesterでの実験)。その後のPientaの方法については現在検討中である。
 コントロールのハムスター細胞、またはマウス細胞の数回継代したものを用いて発癌剤処理し、6週間培地交新のみで培養を続ける所謂focus assayを行った所、見事な悪性形態focusの出現することを見出した。この実験はしかしながら、その後何回も繰り返してきたが、Controlにも盛り上るfocusが現れてうまくいかなかった。現在尚検討中である。残念なことに昨年10月号にDiPaolo等がこれに似た方法を報告した。
 (IV)Y-AK、Y-CH、Y-DD株の樹立
 (III)の実験がうまくいかなかったし、報告されているBalb/3T3細胞を使った発癌実験もうまくいかなったので、われわれの研究室で、3T3と類似の継代法で新細胞系の樹立を企てた。その結果、AKRマウス細胞よりY-AK、C3HマウスよりY-CH、DDDマウスよりY-DDと名付けた3系の細胞株を樹立した。これら細胞について、focus assay法で悪性転換実験を行った所、Y-CH、Y-DDは発癌剤で処理しない細胞でも悪性形態focusが多数出現した。Y-AKは接触阻害もあって良い細胞と思われたが、ここでも低率ではあるが、focusを形成した。
 (V)発癌剤代謝
 発癌剤が代謝活性化される事は以前から知られていた。毒性でみていた頃もAAFと、N-OH-AAF、N-AcO-AAF、7-OH-AAFを用いて毒性の違い惹起される形態像の違いについて調べた。
 発癌剤芳香族炭化水素についてはその活性化にはarylhydrocarbon hydroxylaseなる酵素の存在が必要とされている。この酵素のおおよその活性を測定するのに、C14-benzo(a)pyreneが水溶性代謝産物になるのをみる方法がある。われわれは今迄の方法をmicroassay化した。そして種々の細胞で同活性を測定し、興味ある結果を得た。この方法は芳香族炭化水素による発癌実験を行う際の細胞の選択などに簡単に調べられるので今後もおおいに利用出来ると思っている。
 (VI)遺伝毒性
 DNA単鎖切断能の探索は興味があり、突込んで仕事した。それ迄の方法で納得のいかなかった点(DNAが1ピークになり遠心管底に沈む)をかなり改良したassay法を確立した。その方法は発癌剤などがDNAに作用したことを知る目的では手間がかかりすぎるがnitrogen musterdのような2本鎖DNAにまたがって結合する物質の作用の検索には威力を発揮した。
 染色体の検索は見様見真似で化学物質処理により生ずる異常をスコアするようになった。各種化学物質で検索した所、DNA鎖切断をみるよりは検索が容易であった。次で述べる突然変異を起す物質は調べた範囲ですべて染色体異常を起していた。
 FM3A細胞を用いて多くの物質について8-azaguanine耐性獲得の突然変異を調べてきた。今迄の検索ではバクテリアのmutationにかかる物質はほとんど哺乳類細胞でもmutationがかかり、バクテリアでかからないものの中に時に哺乳類細胞のmutationのかかるものがあるようであることが分った。今後も続けて検索する必要があると思っている。Precarcinogenの突然変異実験の際、ラット肝ホモジネート遠心上清と補酵素を組み入れて所謂metabolic activation実験が可能であることを示した。

《山田報告》
 ラット肝細胞およびその悪性化培養株を用いて行った研究の主なる成績
 1.細胞表面荷電と細胞の生物学的態度(Biological behaviour)との関係
 a) In vitroにおける細胞増殖に伴う変化:
 i)細胞表面荷電の周期的変化(cyclic changes during cell cycle)特に分裂期における荷電密度の急烈な上昇
 ii)細胞表面損傷に伴う荷電密度の反応性上昇と増殖(initial change after cultivation in vitro)
 iii)試験管内細胞密度依存の表面荷電の変動(contact inhibition)
 b) In vitroにおける悪性変化に伴う変化:
 i)細胞表面荷電密度の上昇(増殖能の昂進に伴う変化)
 ii)細胞相互の表面荷電密度の不均一性の出現
 iii)シアル酸依存荷電の上昇
 iv)ConAおよび、その他の植物凝集素のreceptorの細胞膜におけるmotilityの昂進
 v)試験管内細胞密度に無関係な、細胞表面荷電密度の変動(loss of contact inhibition)
 C) 細胞集団としての悪性化とその証明:
 i)試験管内における発癌物質(4NQO)を投與すると、構成細胞の一部の細胞が悪性化し、漸次その細胞集団構成が変化し、全体として悪性の性質を示す表面荷電密度及びその性質を示す様になる。自然発癌株においては、特に悪性細胞の構成頻度は特に低い。
 ii)悪性化の指標であるhostへのbacktransplantationの成立は、単にそれぞれの細胞が悪性化するか否かと云うだけでなく、それぞれの抗原性の変化、特にhisto-Compatibilityの変化により左右される。従ってba.transplantabilityの有無と細胞表面の変化とはparadoxicalな関係になることもある。
 2.染色体の変化と細胞表面荷電
 i)In vitroにおける発癌過程において、染色体は直ちにheteroploidyへと変化するとは限らず、その初期にhypodiploidになる時期がある。marker chromosomeの存在は必ずしも悪性化を意味しない。
 ii)染色体のmode数と細胞表面荷電密度は、略々平行的関係にある。染色体の分布幅の変動は、その細胞集団の個々の細胞の表面荷電密度のバラツキと略々比例する。
 3.肝癌細胞表面におけるConA receptorの流動性の変化
 ConA receptorの膜における流動性は植物凝集素と全く関係のない作用を有するインシュリン、グルカゴン、dibutyl cAMP、そして異種抗体、抗血清等により著しく作用をうける。
その他膜の損傷或いは変化の指標として細胞荷電密度の変化についても種々検討した。

《乾報告》
 私の培養の仕事は、勝田先生に拾っていただいてからやっと軌道にのせて頂いた様なものです。L929細胞にたばこタールを添加して"L細胞の悪性化"と話して、さすがの先生も怒りを忘れて大笑いされて以来、私の培養細胞とのつき合いは、次の三つの時期に区分されると思う。
 1.培養細胞の癌化を試みた時代(1972〜1974、今でもやっています)
 2.試験管内で癌化した細胞を使って、その性質等を分析しようとした時期(1972〜1974)
 3.In vivo-in vitro combination systemを行なった時代(1974〜現在)
 以下、それぞれについて、反省の意味を兼ねて要約を書いて行きたいと思う。
 1.培養内で癌細胞を作った時代
 1968年後半から、それ迄の染色体観察、DNA測定のための培養から脱却して、培養細胞の癌化を手がけ出した。化学物質として、ようやく日の目を見いだしたMNNGと当時専売公社から大量の研究費をもらっていた関係でたばこタールを使用したが、すでにSachsら、勝田先生らの報告があるにもかかはらず、これが非常にむずかしく、高山先生に叱られる日が2年位つづいた。たまりかねて、ハムスター胎児細胞を使っていたのを中断し、勝田先生からL929を頂き、これにタールを投与したら、L細胞の増殖増進、造腫瘍性の強化を観察した。これを報告した時、勝田先生から笑われたのちあれは"癌"だよと云われて再びハムスター細胞に挑戦した。この年に正式に班員にしていただいた。まもなく新生児ハムスター胎児由来の線維芽細胞にたばこタールを処理し細胞のMalignant transformationに成功した。はからずもこれがタールのin vitroのtransformationの世界で第一報であった現在でも引用されている。一つ成功するとつづくもので翌年MNNGでのtransformation、この頃共同研究者として津田君がやって来て、急性毒性が強いため発癌性の証明されなかったNaNO2でのtransformationに成功した。その後は生物実験センターにうつり西君がAF-2でのTransformationに成功して現在に到っている。以上が我々の癌作りの歴史であるが、"今さらin vitroで癌を作っても"と云う声があるが、私はin vitro transformationは、まず注意深く細胞を培養する練習になり、組織培養の基礎的手法の大部分をマスターしないとこれが出来ないと思うので、又新人が来たら適当な物質をえらんでin vitro transformationの実験をやってもらおうと思っている。
 2.In vitro transformed Cellを使用した実験
 MNNGでTransformeした細胞を使用して2つの実験をまとめた。一つはtransformeした細胞のDNAは正常のそれより、m-RNAのtranscription siteが大きいと云う仕事で、余分に読みとられる部分のRNAがハムスターのどの染色体のどの部分であるかと云うchromosome-RNA hybrydizationの仕事が宿題として残っている。もう一つは杉村先生との共同実験で、同じくMNNG-transformed cellで、Metaphase arrestを98%以上同調させて、Poly ADP Riboseの酵素活性の細胞周期での消長を調べG2で活性の高いことを報告した。
 3.In vivo-in vitro combination system
 1973年秋、専売公社へ移って検定は多いし、動物と、細胞をかう設備と顕微鏡しかなく、何をやっていいか途方にくれている時、梅田先生から"Medical News"にこんな記事が出ていたから少しこの仕事を考えてみないかと云うSuggestionを受けたのが始まりで、AF-2を標準サンプルに母体に同薬品を投与、胎児細胞のTransformation、Mutation、染色体異常、小核テストを同時にしかも短期間に観察する系をまずまず成立させた。私自身この実験手法にギ問を持っており、半信半疑の時、一早くPromorteして下さったのが勝田先生で、班員の先生方から一から十まで教えをうけ、この系がやっとこれからと云う時班が終るのは残念である。この系がまだ完成しない時、2月の綜合シンポジュウムで話す機会を与えて下さり、その時、判って下さったのは、班の諸先生方と、愛知がんセンターの田中達也先生、阪大の近藤宗平先生位だったと思う。それが、ようやく認められつつある時・・・。私は系をRefineし、開花させることを勝田班に対する義務と感じている。

 :質疑応答:
[難波]ウワバインの濃度1x10-3乗Mというのはずい分濃いですね。
[乾 ]ウワバインの濃度は動物によって適正濃度が何オーダーも違います。

《榊原報告》
 §培養ラット肝細胞のγ-GTP活性:
 医科研癌細胞学研究部で樹立、維持されているラット肝由来上皮様細胞株16系統についてγ-glutamyltranspeptidase(-GTP)の組織化学的活性をしらべた。これらの細胞株はその形態から肝実質細胞であることが推定され、既に多数の論文でそのように記載されているので改めて問わないことにする。細胞をタンザク上に播き、約3日後(対数増殖期)及び2週間後(増殖静止期)の2度に亙り所定の方法で染色した。染色後直ちに検鏡、写真撮影を行った。注目すべきことは、検索した細胞株の80%強(13/16)が陽性という結果である。最近、肝に於ても癌化の2段階説を裏付けるデータが集りつつあるが、H.C.Pitotoらは癌化の初期にG-6-P ase陰性、canalicular ATP ase陰性、γ-GTP陽性といったenzyme-altered fociが多数出現すること、これらはdormant initiated cellのclonal growthによると推定できることをのべている(Nature,271,1978)。今回検索した株細胞の中には可移植性を証明し得ないものも含まれているが、ともかくそれらの大部分が癌化を方向づけられた細胞であるという漠然とした推定を、この結果は支持するこのではなかろうか。一方、RLC-18の如く、可移植性のある癌細胞でありながら、γ-GTPが陰性のものもあるわけで、培養肝細胞の悪性化をγ-GTP染色のみで同定することは危険であることを示している。

《吉田報告》
 ウィスター系ラット各亜系の由来と毛色遺伝子および染色体特性
 ウィスター系ラットは世界各国で医学生物学の研究のために数多く使用されている。我が国においてもこの系統は第2次大戦前より飼育されており、現在もその子孫を各地で繁殖し有用な実験動物として使用されている。我が国では古くからのウィスター系の外に、戦後新たにウィスター研究所より高度に兄妹交配されたWistar-king-A系が移入され(北大・牧野1953)、また最近別のルートからウィスター系やWistar/Lewisと呼ばれる系統が入っている。我が国在来のウィスター系から高血圧系として知られるSHR(京大・岡本ら)が生じ、その系統は世界各地に配布されていることは周知のとおりである。ウィスター系ラットの毛色はアルビノで外部形態から他のアルビノラットと識別することは殆んど不可能である。したがってこの系統の遺伝子組成や染色体の特徴をはっきりさせておく必要がある。ここでは我が国で飼育されているウィスター系ラットの由来とその分布、および遺伝学的ならびに細胞遺伝学的特徴について調査したのでその結果を報告する。
 ウィスター系ラットの由来:我が国で戦前から飼育されていたウィスター系は東大農学部にてクローズドコロニーとして維持されていたものである。昭和19年(1944)に北大理学部動物学教室へ5頭(♀3:♂2)が分譲され、そのうち1対の交配からWistar/Mk、Wistar/Hokが育成された。昭和26年(1951)に兄妹交配7代でこの系統の一部が国立遺伝研へ移され、ここでWistar/Ms系として現在兄妹交配77代を継続した。東大農学部よりはその後、塩野義製薬(昭和27年)、名大農学部(近藤・昭和28年)、日本獣医畜産大(今道・昭和32年)等へ分譲されている。北大理学部からは京大医学部や北大医学部等へ分譲され、京大医学部に入ったWistar/KyoからSHR系ラットが樹立されている。日本獣医畜産大においてはWistar/Imamichi系が育成され、広く実験動物として使用されている。
 前述のWistar-King-A系はウィスター研究所(米国)のKing女史により近親交配がラットにおよぼす影響を研究するために高度に兄妹交配された系統で、同女史の死後同研究所のAptekman氏がそれを引きついだ。我が国へは兄妹交配148代で北大理学部へ入り(昭和28年)、これをWistar-King-A系と名づけた。この系統は同年に国立遺伝研に入り、兄妹交配を継続して現在204代になっている。Wistar-King系統はその後昭和44年に昭和医大内科でラット緑色腫瘍の移植のため新たに入手し、昭和50年よりそれを遺伝研にてWistar-King-S系として兄妹交配を継続した(現在22代)。また故吉田富三博士が別にWistar研究所より入手し、それは松本実験動物飼育所で飼育されている。欧米で主に使用されているWistar/Lewis系が最近日本に移入され、東大医科研、その他2、3の飼育業者によって維持されている。Wistar/Furth系はコロンビア大学のFurth教授が白血病系として育成したもので、広島大医学部(横路)がこの系統を維持している。英国よりヨーロッパのウィスター系ラットを輸入し、実験動物中央研究所で系統維持が行われている。
 毛色遺伝子:これについてはすでにいくつかの報告があるが、ここでは遺伝研の系統について調査したのでそれに関係する部分のみを報告する。Wistar/Msは兄妹交配76代の調査で毛色遺伝子はaacchhであった。この系統については私が北大在職中に東大より入手して兄妹交配数代以内で調査した記録があるが、その当時も毛色遺伝子はaacchhで、これは現在も変わりがない(吉田1951)。東大農学部より塩野義製薬(昭和28年)に入った系統の毛色もaacchh。北大より京大へ入ったWistar/KysおよびSHRもaaccBBhhで毛色に関しては遺伝研のそれと一致した。唯Wistar/Mkの最近の調査では毛色遺伝子がAAcchhであり(東海林1976)、最近京大へ入った同系統もAA遺伝子をもっている(山田1977)。北大のMk系統に突然変異が起ったのか、それとも他の系統の混入があったのかは今のところ明らかでない。Wistar-King-Aは兄妹交配201代(遺伝研)でAAcchh、Wistar-King-Sはaacchhであった。
 染色体調査:染色体の形の違いが系統の識別のマーカーとなることは私が第12回実験動物談話会(昭和40年)で報告した。すなわち第3染色体が系統によってテロセントリック(T)またはサブテロセントリック(S)である(吉田1964)。Wistar/Msの第3染色体はT/T対で、この性質は昭和40年および現在でも変りはない。Wistar/KyoおよびSHRもT/Tである。Wistar-King-A系およびWistar/Mkは共にS/Sで類似の形をしている。最近異質染色質のみをC-バンドとして染め分ける方法が開発され、C-バンドの特徴から系統をマークすることができる。この方法によるとウィスター系の中でも亜系によりNo.4染色体にC-バンドの有無がある。Wistar/Ms、Wistar/KyoおよびSHR系のNo.4染色体にはC−バンドはみられないが、Wistar-King-AおよびWistar-Mkにはそれがある。なおNo.7染色体も系統により異なる。遺伝研のWistar-King-AのNo.19染色体の長腕部の先端に著明なC-バンドがあってこの系統の特徴となっている。
 これらの系統を使用する研究者は上記のようなラットの系統の特性を充分把握して研究を進めることが重要であると思うのでここに報告した。

 :質疑応答:
[難波]毛色遺伝子と染色体の相関はどうなっていますか。
[吉田]まだ判っていません。三番目の染色体にのっているという説もありますし、ないというデータもあるようです。

《加藤報告》
 当研究班により昨年度、オスのインドホエジカからのFibroblastの培養細胞(耳の皮膚由来)を得ることができた(既報)。そのうちの一つのクローンは、population doubling timeが20時間、diploidyは98〜99%であるので、このクローンを用いて、個々の染色体のDNA合成の時間、そのパターンを解析した。細胞をH3チミジンでパルスラベルしその後1時間ごとにコルセミド処理して染色体標本を作製せいた。1本1本の染色体での標識頻度から、染色体全体及び染色体の各セグメントでのTsを求めた。また銀粒子類を算定することにより、染色体の相対的な合成速度を求めた。
 主要な結果は、
 1)Tsについて、核全体は8時間。No.1 Autosomeは8時間。No.2 Autosomeは7.5時間。No.3 Autosomeは7.5時間。X染色体は5.5時間。Y染色体は4.5時間であった。
 2)性染色体はおくれてDNA-合成を開始し、Autosomesより早く、おわる。故に一般の細胞と異りlate-replicatingではない。(cf.,Comings,D.E.,'71)
 3)染色体の各部は特有の複製パターンを持つ。例えばAutosomeのcentrometric regionはTs=5.2時間である。等。
 4)第3染色体のペアは片方にX染色体(母方由来)、片方はXを缺く(父方由来)ので、相同染色体同志、確実に見分けられる。今、この第3染色体上のDNA-合成速度を相同染色体同志で比べると(30例)、等しい速度でDNA-合成が行われている。
 同様な試みをDon6(チャイニーズ・ハムスター由来)の培養細胞でも行っている。

《久米川報告》
 ホルモンによるマウス耳下腺の分化
 マウスの耳下腺は生後急激に分化し、L-amylase活性が上昇し、その分化の機構はまだ明らかでない。in vivoで生後6日目のマウスにhydrocortisone(100μg/g body int.)、thyroxine(10μg/g body int.)、insulin(2μg/g body int.)連日投与すると、amylase活性の誘導が起った(図を呈示)。この結果から生後20日頃上昇する血清中のglucocorticoidsによって離乳期頃、耳下腺の分化がもたらされるのだと思う。
 これらホルモンの作用をさらに明確にするため、耳下腺を完全合成培地で培養し、ホルモンの影響を調べた。
 ホルモンを添加5日間培養しamylase活性を調べた(表を呈示)。DM-153にprednisolone(Pr)だけ添加してもamylase活性の顕著な誘導はないが、Prにinsuline(In)thyroxine(Thy)を加えて培養するとamylase活性は著しく上昇した。Prに両ホルモンを添加するとさらに上昇した。
 次いて、これらホルモンの作用を明らかにするため、Th又はInの濃度を一定にし、Prの濃度を変え、添加した(図を呈示)。amylase活性は10-7乗mg/ml以上のPrの濃度に依存性を示した。逆にPrを一定にし、In、Thの濃度を変えた場合amylase活性の濃度依存性はみられなかった。これらの結果から、glucocorticoidsがマウス耳下腺の分化に関与し、InおよびThはその作用を補助しているのではないかと考えられる。

『後記』
 勝田班月報をワープロで転写始めてから1年あまり、やっと一くぎりがつきました。
 "試験管内化学発癌"の研究班はほぼ18年つづき、その間参加した班員と班友は39人、月報は休むことなく発行され、214号をもって終わっています。
 今回、このホームページに投稿したのは、その214冊のうち班会議号のみ87冊です。勝田班の班会議は年5回招集され、班員は発表内容の原稿を提出する決まりになっていました。その各自筆の原稿に発表後の討論を付記して班会議号を編集発行しました。
 今回、改めて読んでみますと、発表されたものと提出原稿とは必ずしも一致しておらず、従って原稿にはない実験についての討論がありますが、特に注釈は付けませんでした。又、図表は省略しましたが、本文で一応の解釈ができるように挿入しておきました。
 ワープロ転換に際しての誤字もあるかと思いますが、基本的には原文に忠実に転換したつもりです。研究者それぞれに、好みの単語、おくり仮名、句読点の使い方などが、おありのようで、現代では?と思われることもあるかも知れません。
 組織培養技術が未熟であった頃、若い助手と大学院生だけで申請し発足した班でしたから、殊に初期の班会議に提出された問題点は組織培養の基本的な技術に関するものが多く、今現在、組織培養技術を使いたい方々にも参考になるかと存じます。
 なお、学会出版センター(1983年)の『癌細胞を撮る・勝田甫と組織培養』に「勝田班と月報」という項がございます。興味のおありの方は参考になさって下さい。2000年1月
 
 【勝田班月報・7803】
《勝田報告》
さようなら号:
 長い間続いた研究月報も、今号でいよいよ廃刊です。忙しいなかを皆さんよく書いて下さいましたね。大変な努力でしたが、お互の研究のうえに裨益するところは大きかったと思います。この号で勝田班は事実上解散です。これでも癌研究班の内では永く続いた方です。 みなさん、よくやって下さいましたね。仕事というものは、やはり適当なところで一区切をつけるべきものでしょう。また若い研究者たちが力を合わせてその上のStepに進んでもらいたいものです。
 思い返してみますと、1959年に初めて班を申請したところ、その内の3人だけが放射線の班に組込まれた。その次の年にまた申請したところ、ウィルスの釜洞さんと半分宛の合成班が認可されました。1961年からは遂に組織培養研究者だけの、しかも全員助手級のメンバーから成っている綜合研究班として勝田班が発足しました。
 これらの研究は"Carcinogenesis in tissue culture"のシリーズとして今日までに28篇が発表されました。その抄録集は主な班員にはお送りしました。癌をなおすところまで行きつけなかったいま、まるで甲子園の土を拾って帰るような気持ですが、とにかくうちの班はよくやりました。また次の戦を考えましょう。

《高木報告》
 これが当班における最後の月報になると思うと感無量です。
勝田先生との出会いは昭和33年癌学会であったと思いますが、以後たえざる御指導を頂き、昭和35年からは班員の末席をけがさせて頂きました。今日まで何とか歩んで来られたのも勝田先生をはじめとして班員の皆様の御力添えがあったればこそと厚く御礼申し上げます。臨床片手間の研究を続けて参りましたが、皆様から研究に対する取組み方を学び、またそのきびしさを知ることが出来ました。今後共よろしく御願いいたします。
 2月27日に医療短大、28日、3月1日には第一内科の研究室がそれぞれ新棟へ移転しました。内科の建物は昭和47年に病棟が移転しましたが、第一内科の病棟のあとに医療短大が入り、研究室はそのまま今日まで残っていましたので、結局私はこれまで建物を移ることなく24年間過して来たことになります。すすけてはいましたが"住めば都"の半地下の研究室に別れをつげ、新しい規格化された1スパンずつの部屋に移りました。第一内科全体がこれまでのスペースの40%の場所に入ったのですからその狭さは言うに及ばず、無菌室は1.5スパンありますがクリーンベンチを6台入れて組織培養、血液、化学、遺伝、4研究室の共用となります。共用というのは便利がよいようで中々運営がむつかしく、目下使用のルールを作っているところです。近代的な設備とはいえ、ここも"現代"の象徴であり"旧きよき時代"は去った感がつよくいたします。しかし建物は如何に規格化されようと、そこで仕事をするスタッフまで規格化されるようなことがあっては困る訳で、規格をはずれたスケールの大きい人材の養成が必要と思われます。
 4月1日から大分医大の内科学講座を担当することになります。とは申しましても未だ教養部の建物しかない訳で、臨床研究棟の完成は来年2月の予定と聞いております。その間研究は第一内科で行わざるをえませんので、大分と博多を行ったり来たりの生活になりますが、兎に角細胞とのつき合いは絶対にたやさないつもりです。

《難波報告》
 とうとう最後の月報になってしまいました。昭和44年に勝田班に加えていただき、今年で丁度10年目、その間、ほんとうにいろいろ勉強させていただき感慨無量です。ほんとうに有難うございました。
 この10年間のことを振り返ってみると、私の仕事は1969〜1971の前期と1974〜1978の後期とに分れています。前期ではネズミの肝細胞の培養とその癌化が中心で、4NQO、DABなどで癌化に成功しました。後期ではヒトの細胞の化学発癌剤による仕事を始め、4NQO、Co60-γ-Raysなどで、ヒトの細胞の癌化に成功しました。
 しかし、いま、これらの仕事を回顧してみると、恥しい限りです。前半の仕事も後半の仕事もまだ片付いてないことが一杯です。ネズミの肝の仕事では、細胞の培養内癌化の有効な指標すら掴めず、勿論、肝細胞を迅速に定量的に癌化させることも出来ずじまいです。ヒト細胞の発癌の問題は、ネズミ肝細胞でと同じ困難性があると共に、さらに、ヒト細胞の培養条件の検討、Agingの問題、など解決しなければならぬ、むつかしい問題が山積しています。
 以上の様な種々の問題を、この10年間勝田班で教わったことを基礎にして、これから掘り下げてみようと考えています。

《梅田報告》
 先月の月報に感想を書いて了ったので、本月報には私の今後の研究計画を記します。
 (1)良しにつけ悪しきにつけ繊維芽細胞は悪性化すると著明な形態変化を起すことが判明してきている。この現象を指標にして今迄多くの研究がなされてきたが、発癌機構解明のためには今一歩足りない。私としては、この繊維芽細胞の系も捨て難い魅力がある。特に世にもてはやされているPientaの系を中心に研究を進める班を持たされたので、この機会も活用して、先ず実験系の洗練化、その洗練された系を使っての発癌のinitiation、promotionの関係を解明していきたいと考えている。とは言っても、実験系の洗練化のために、すなわち、技術面での改良に関して問題は山積みである。さしあたっては悪性転換実験に都合の良い細胞捜し、アッセイ系の改善が目標である。
 (2)月報7706で報告したヒトの表皮の培養がうまくいっている。遅ればせながらこの上皮細胞の同定、発癌実験を続けていきたい。ヒトの繊維芽細胞と同じように発癌剤の作用に抗するのか、今迄の上皮細胞での発癌実験の時のように悪性化の同定に苦労があるのか、これからの問題ではある。
 (3)突然変異とか、染色体異常をみる所謂遺伝毒性に関する実験は、今迄やや無節操に数多くの化合物についてただテストしてきた嫌いがある。今後は突然変異のメカニズムに焦点を合せ、哺乳類細胞での実験結果が、バクテリアで得られている常識と異る点、合う点等も浮き堀りにしながら実験を進めたい。当面はexpression timeの問題で、哺乳類動物で2gen以上必要らしい原因も追求したい。

《山田報告》
 お陰様で何んとか、今日まで当班の末席に連り仕事をさせて戴きましたことを感謝いたします。癌の問題を根本的に解決しようなどと大それた考えは持って居ませんが、せめてもう少し、癌の生物学的態度の解明、そしてその認識に、小生のやって居ります細胞電気泳動法がお役に立てばと思いましたが、ついに至らずにしまいました。
 私事にわたって恐縮ですが、思い出してみますと、小生が大学を卒業して4年間外科の修業を積み、学位論文が終って後に、吉田富三先生の下で癌の研究を始めさせて戴いたのは昭和34年でした。当時はまだまだ再び外科に戻ろうと思って居たのですが、運よくエリノア・ルーズヴェルト基金により英国のチェスターベティ癌研究所に留学することが出来たのが昭和39年の秋でした。ロンドンでは経済的にも研究の面でも、あまりにも恵まれすぎて、吉田富三先生がロンドンに来られた時「あまりにも恵まれすぎて怖い位だ」と申しあげたものでした。そしたら先生は「そんなことはない。いままで君はたくさんの努力をしたから、そのボーナスの様なものだ。けれど日本に帰ったら癌の研究をやめてはいけないぞ」と云われました。その時はっと目が覚める思いでした。「そうだ。もう外科なぞと云うまいぞ」と心にきめたのはこの時でした。その後国立がんセンターでまたまた恵まれた研究生活を送り、そしてまもなく当班に入れて戴き、山の様な御指導を戴くことになりました。もう癌の研究をやめるどころか、今後残された小生の仕事は癌の仕事しかなくなりました。けれ獨協医大に赴任してからは必ずしも思う様に仕事が出来ずにしまったことを残念に思って居ます。しかし本学も今年は卒業生が出ます際に、スタッフも充実して来ると思います。また再び癌研究に専心出来る日も、そう遠くはないと思っています。その前に当班が終ってしかうことが本当に残念です。

《乾報告》
 昭和52年度も3月を迎えました。同時に、勝田先生の御退官を期に18年間続いた勝田班も終わると云うことになりまして、培養の仲間が一年に何回も一堂に会して、討論する場がなくなることは、非常にさびしい思いが致します。
 私は班の後半の1/3余を班に入れて頂きましたが、先生にも色々お教え頂き、今日やっと細胞が培養出来る様になりました。
先月の月報と少々ダブリますが、私はこの班で、前半は主として繊維芽細胞(ゴールデンハムスター)ノMalignant transformationを色々な化学物質を使用して行なって来ました。おかげ様で、タバコタール、亜硝酸投与のTransformationの仕事は、世界で一番速いReportでした。
 後半は主として、経胎盤法を使い、Transformation、Mutationの仕事をやってまいりましたが、まだまだ未完成でやらなくてはならないことが沢山あります。この系だけは近いうちに完成させたいと思っております。
 勝田班に長い間、御世話になりまして、私がなまけ者故に収得しえなかったことに"表皮系細胞"の培養があります。これは非常に残念ですが、これで培養の仕事が全部終るわけではありませんので、これから勉強し直します。

《榊原報告》
 愈々最後の月報を書く段となり、感無量です。
病理形態学という、全く定性的な学問の巣窟から出てきた私にとって、毎月の月報書きは苦痛でしたが、それをしたことによって論文を書く際ぐっと能率が上ったように思います。誠に有難い修業をさせて頂いたと感謝して居ります。これからも月単位で実験データの整理をする習慣を続けてゆきたいと思います。
 勝田班に入れていただいた当初は、班員の諸先生方の歩んでこられた研究の道筋も判らず、自分の進むべき方向もさだかではありませんでしたが、二年経った今、それらのことがかなり明瞭になってきたように思います。これからは右顧左眄することなく、自分の仕事に打ち込みたいと考えます。
 個人的なことになりますが、私はまだ実績のなにもない医学部卒業したての頃より勝田先生に可愛がっていただき、その御恩を深く感じています。与えられた知に報いるには知を以てする以外はないでありましょう。良い仕事をして、それを勝田先生に捧げたいと思います。

《関口報告》
 最後にあたり、勝田班最後の2年間、班に加えていただき、私自身は何も貢献できませんでしたが、班員の皆様からは色々と教えていただきましたことを感謝しています。
 文集にも書きましたが、臨床家の私が組織培養に入るようになったのは、勝田先生の一言がきっかけでした。勝田研究室で伺いながら、見よう見まねでやって来て、とうとう人癌培養に深入りすることになりました。昨年から厚生省の班の御世話をする破目になって、勝田先生の班長としての御苦労がやっと分かりました。長い間、本当にありがとうございました。

2001年5月2日終了