【勝田班月報・7801】
《勝田報告》
今年は私の俊(ウマ)で、還暦となります。そしてこの班の月報で新年のあいさつをお送りするのは、これが最後です。大変残念なことですが仕方ありません。皆さんはまだ年に余裕があるでしょうが、定年なんてものは、あっという間にやってきますから、油断しないで、しっかり仕事をつみ重ねて行って下さい。本当に時の経つのはすばやいものですから、私が伝研にきたときの教授は宮崎先生で、55才のころ狭心症で急逝され、このとなりの癌体質学研究部の斎藤教授は定年の半年位前に脳溢血で倒れ、いずれも仕事の最後のまとめができなかった。お陰様で私はいままだ元気ですので、なんとか後片附けができそうです。皆さんの御協力を深謝します。
《高木報告》
これが勝田班における最後の正月の月報であると思うと感無量です。今、私の目の前にN0.6001の研究連絡月報があります。発行は1960年6月17日となっています。初刊における勝田班長の《巻頭言》は次の通りです(要約)。
『癌研究にあたり我々の第1目標とすべきもの:
・・・そして我々としてはやはり組織培養の利点を最高度に発揮し、正常細胞と腫瘍細胞との、きわめて広い意味での各種の性質の相違を追求し、基礎的にしっかりデータをつかんでから攻撃点を決めるべきであろう。・・・次にこれと平行して我々がなすべき仕事は組織培養内での“細胞の腫瘍化”の問題であろう。・・・正常の細胞を培養しておき、これに発癌剤その他の悪性化の原因となりうる刺戟を与えて培養内で細胞の悪性化をおこさせることができれば、組織培養は腹水腫瘍に代って次の10年間での研究陣を風靡することができるであろう。そのためには、1)まず正常の細胞を相当長期間培養できること(増殖でも維持でも)、2)それに刺戟を与えて一定期間後に必ず悪性化するようなコースを見付けること(動物に復元して腫瘍死すること)この二つを先決しなくてはならぬのである。
・・・ここに我々のなすべき二つの命題をかかげたが・・・本当の第一の命題はむしろ後者にあると考えて頂きたい・・・』
“Production of malignancy in tissue culture"これが班長のかかげた目標でした。以来実に17年間月報を出しつづけ、班は続いて来たのです。そして今年3月、正確には17年9ケ月でその幕を閉じようとしています。その間、班長、班員の努力により一応の目標は達成され、いくつかのin
vitroの発癌系を樹立することが出来ました。しかし幾多の問題は未解決のまま残されております。勝田班は一応periodを打とうとも研究は永劫に続きます。“初心忘るべからず”ここで再び原点に立ちかえって、これから進むべき道を充分に見きわめたいと考えています。私共も22年間住みなれた第一内科の組織培養室を後に、新臨床研究棟に移ります。また私自身、4月から新しいpositionに転出することになります。勝田班と共に歩んで来た私にとって何か宿命的なものを感じます。何もかも新しくスタートしなければならないのだと自分に言いきかせています。今後共よろしく御願いいたします。
《難波報告》
54:本年度の研究の方針
1)従来どうり、正常ヒト2倍体細胞の化学発癌剤による癌化の実験を続ける予定です。いままで行って来た結果を反省してみると、正常ヒト2倍体細胞の癌化は、3T3、10T1/2、V79などの動物の細胞系に比べて非常に困難なことが判りました。この困難さの原因として、次の2点が考えられます。
(1)ヒトの細胞そのものによるのか
(2)ヒト正常2倍体細胞の培養条件が正確に決定していないためによるのか
この2点に焦点を絞って
(1)の点は、発癌剤処理後のヒト細胞のDNA修復合成の検討から、あるいは、培養ヒト細胞での発癌剤の活性化、不活性化の動態の検索などからアプローチしてみようと考えています。
(2)の点は、HamのMCDM102培地の追試を行いながら、ホルモンその他の添加物の効果を調べ、正常ヒト2倍体細胞のコロニー形成率が少くとも、50%程度になるような方法を考えて行きたいと思っています。
2)同時に、ヒト正常細胞の発癌実験を定量的に進めるためには、ヒト細胞の癌化の指標を考えながら、癌化した細胞と正常細胞とを選別できる方法を開発しなければならぬと思っています。
《梅田報告》
早いもので勝田班に入れていただいてから本年で丁度10年過ぎたことになります。本年が勝田先生の御退官の年であり、個性的な勝田班も遂に解散の年が来て了ったことを思うと感無量であると同時に、その間ずるずるとして目立った仕事の出来なかったことを心から申しわけなく反省しています。
勝田先生には本年以降も何かにつけ御指導、御指示を受けなければならないのですが、勝田先生が率先して実行してきた行動は私共への見本、手本としてこれからの指標にしたいと思っています。
勝田先生が成し遂げる計画のうち、成し遂げ得なかった癌制圧に向けては私なりに今迄よりもっともっと真剣に取り組まねばと思っています。特に培養内発癌の仕事はすっきりとした形で解答を出すべく、最善の努力をすることを今後の私の目標にする積もりです。
《乾報告》
本年は勝田先生が昨暮、新しい班を御申請なさらなかったので“勝田班・月報”を通しての最後の新年の御あいさつになりそうです。
年の始めに当り、しめっぽい事は書きたくはありませんが、私自身班を通じて、ずい分勉強させて頂きましたし、又先生方からずい分おしかりをうけながら仕事をして参りました。要するに、楽しく又きびしい班でしたが、私には、大切な大切な班でした。
班員のほとんどの先生方とは、多分新しい組織のもとで、御一緒に勉強が出来ることと信じております。
私自身、In vivo-in vitro combination chemical
carcinogenesis(Mutagenesis)の系をもう一度見直し、系の完全な確立をめざすと共に、欠点をのぞいて行きたいと思っています。又本年からは、人間の細胞を含めて細胞レベルでの種の違い、個体の差、年令の差と云うような仕事にも、足をふみ入れたいと思います。
《山田報告》
漸々今年は班会議、勝田班の最後の年になりました。考えてみますと、随分長い間お世話になりました。仕事の上だけでなくお世話戴いた事々は山の様に積っている感がします。そして教えて戴いた多くの事々を土台として、これから自分自身で展開し、発展させていかねばならぬ様な気がしています。その意味では漸々、予備校を卒業して、これから大学生活に入る様な感慨です。
昨年は仕事の余暇にMaxBorstの腫瘍の病理学総論(1902)を翻訳しましたが、これを完成するに当っていろいろな癌の研究の在り方を考えさせられました。細胞をあつかって癌を研究する者にとって(実は基礎癌研究者は多くの場合このなかに属すると思う)、とかく忘れがちな事は、Cancer
Cell Reseachに終始してしまい、Tumor-host
relationを忘れがちだと云う事です。この一見当然の事実が、現在最も要求されている事ではないかと思います。培養法を用いた研究をより有効に生かしながら、それを常にCancer
diseaseの解析の手段として用いて行きたいと今年は特に考えています。
《榊原報告》
今年は癌細胞学研究部で仕事をさせて頂くことになりました。心おきなく組織培養の実験ができると喜こんでおりますが、勝田先生の御退官があまりにも間近かであることが残念でなりません。せめて後に残った者としては、先生の御業績の真価を更に広く世に知らしむべく、先生の樹立された多数の細胞株を活用して、意義ある仕事をしてゆかねばならないと思っています。
今年度の研究の方向としては、細胞機能のあらわれ方をin
vivoとin vitroの両面から形態学的に検討してみたいと思っています。例えば培養人癌細胞の膠原繊維形成能、あるいは培養ラット肝細胞のγ-GTP活性などについては、既に若干の興味あるデータが得られています。肝硬変症を初めとする臓器繊維症の病理形態発生の問題は、組織培養だけでは解決がつかず、免疫学的方法でやれるだけやってみたいと考えています。