【勝田班月報・編集後記】
7201:◇皆さん、新年おめでとう御座います。今年も大いに張切ってやりましょう。 ◇暮近くから雑務が減ったので、たまっていた論文を次々と書いています。論文といえば、Univ.ColoradoのProf.Prescottから先日高岡君のところへ手紙がきて、貴女のExptl.CellResにかいた合成培地の仕事は面白いから私の編集している“Methods in Cell Physiology,Vol.VI"にもかいてくれ、とのこと。彼女は目を白黒しているところです。 
《巻頭言》
 1972年を迎えて:
 いよいよ新しい年に入りましたね。この班もこの3月までで解散ですが、我々の研究は今後もたえまなく続けられることでしょう。
 振返ってみると、当班も最近ようやく次のステップの目途がついてきたようです。最近、あるいはこれから我々が進もうとしているところを概別してみると、
 I. 細胞に対する化学発癌剤の機作
これには、細胞内の化学発癌剤の代謝と発癌剤の作用機作、その他が含まれ、一コの変異細胞の出現の過程を追うわけである。しかし“兎を追って山を見ず”では困る次第で、たえず自分のとらえた現象が癌化と如何なる関連があるかということを反省していなければならない。
  .変異細胞が変異細胞集団となるまでの過程
 培養環境や他の細胞による淘汰もからむ。軟寒天や細胞電気泳動法もその解明に有効ではあるが、さらにもっといろいろの解析法も考えてみる必要がある。我々の検索法のほとんどが、細胞を集団として材料に用いている以上、ここも大事な過程である。しかしここでもやはり、生体内における癌の増殖と転移などの過程も頭にとどめていることが必要である。  .復元接種後の変異細胞と宿主との相互作用
 復元接種された変異細胞が、なぜ或時はそのまま直ちに増殖を開始し、ある場合は消えてしまうのか。また増えてくる場合も、しばらくの期間姿をかくしてしまったように見え、数カ月に突然増殖が急速になるのは何故か。これは変異細胞自身の特性の相違とさらに宿主との相互作用の問題のからんでいることは当然で、classicでない免疫学的検索も勿論導入されなくてはならない。
以上のようにきわめて大まかに問題点を整理してみましたが、これは新春にあたっての、いわば“頭の体操"のようなものです。皆さんも一つ試みられては如何ですか。

7202:◇先日のがん研究班々長会議で、文部省の原氏が、今年は3月中に研究費の審査を終えて、6月には実際に研究費が皆の手元に渡るようにしたい、と云って居られました。しかし四次防のさわぎなどで国会審議がおくれていますので、どういうことになるか、皆目判りませんね。毎度のことですから。 ◇岡大癌研の難波君がいよいよ今月の22日にDr.Hayflickの処に向けて出発することになりました。しっかりやってもらいたいと思いますが、班としてはやはり一寸淋しいですね。   ◇日本人と結婚したスエーデンの夫人がtechnicianとしてどこかで働きたいという申出があり、目下考慮中です。(予算の面からです。)日本語がしゃべれないので仲々仕事場が見附からないようです。

7203:◇3年間の当班の研究も終って、振返ってみると色々のことがありましたね。月報もこの号で第142号になりました。各班員夫々活躍して下さって有難うございました。◇この年に入ってから色々の事件がありましたね。オリンピック、ニクソンの訪中、軽井沢攻防戦、それに東京附近では震度4のちょっとした地震まで附録について皆をびっくりさせました。ついで来年度はびっくりするような研究費でもついてくれないものですかね。◇英国マンチェスターにあるPaterson Laboratoriesで今年の10月上旬に“Carcinogenesis in vitro"というclosed symposiumをやるから出席しないかと所長のDr.Lajthaから招待状がきました。全部で30人位で、MadisonのDr.Heidelbergerも参加者リストに入っています。梅田班員も秋3カ月ほど同じ研究所に滞在しますので出席することになっています。私には欧州ははじめてなのであちこち廻ってみたくもありますが、そのあとに癌学会、TC学会とつづきますので、あわてて帰ってこなくてはなりません。

7204:◇今年は暖冬だった為か、医科研の桜は3月の内にもう咲きはじめました。
◇先日昼食のとき“高松宮妃はとてもお若く見えて、私と同じ年頃かと思ったら、60才位なんですってね"と高岡君が云ったら、すかざず黒木君が“向うもそう云っているんぢゃないですか。"あとのさわぎは御想像にまかせます。 ◇16mmフルム自動現像機は快調に働いています。班員の方なら現像してあげますよ。(但し実費1000円/100フィート)。
 《巻頭言》
 実績報告書−2(研究報告書)について
 昭和46年度の報告書から記載形式が少し変りました。当分はその形式が続くと思われますので、班としてもそれに合った方式を採りたいと思います。
 報告書には、まず申請のときに記入した「研究目的」をかき、次に「研究計画」を箇条書に示します。報告は、その各箇条について各班員の成果を列記する訳です。従って申請書に記入する研究計画は報告書をかくとき書き易いものでなければなりません。昭和47年度用の申請書には次のように記載しました。若し都合の悪い点がありましたら、確定申請書を出すときに改めますから御申出下さい。そして昭和47年度の各班員から班長に送られる研究報告書は、その各箇条に分けて書いて頂きたいと思います。46年度では分けるのに大分手間どりましたから。
 〔研究の目的〕
 正常細胞や非腫瘍性株細胞を組織培養し、これを化学発癌剤で処理後、癌化にいたるまでの細胞の特性の変化を各種の面から併行的に追究し、細胞の癌化機構の解明に努める。 特に今後は発癌剤と細胞の各種成分との結合の特異性及びその発癌における意義の解析にも重点をおく。
 〔昭和47年度の研究計画・方法〕
 1.化学発癌剤は4NQOとその誘導体及びニトロソグアニジンその他を中心とし、細胞はラッテ、ハムスターなどの細胞を主として用いる。
 2.培養を発癌剤で短時間処理し、以後細胞の動的形態変化を顕微鏡映画撮影により連続的に追いながら、隔時的に培養の一部を資料として、形態的、生化学的、免疫学的検索、染色体構成および細胞電気泳動度の分析、動物への復元接種試験に供し、癌化と細胞特性の変化との関連を多面的綜合的に併行して検索する。これは多数班員による共同研究であり、すでに進行中のものである。これらの綜合的データを集約し、或は統計学的に処理するため〔マイクロコンピューター〕が使用される。
 3.精密な発癌実験には細胞をクローン化して分析し、或はクローン化された系を癌化に用いる必要がある。〔炭酸ガスフラン器〕はこの目的に用いられる。
 4.旅費は、当グループが永年励行している年5回の班会議の旅費である。
以上の通りですが、これは昨秋に書かれたもので、確定申請のときはNo.7201の巻頭に記したような研究計画も少し書き加えたいと思います。確定申請書のコピーはその時お手許にお届けします。

7205:◇ストライキの影響はいかがでしたか。地方の方はあまり苦労はなかったと思いますが。東京はマイカーの洪水で、大震災などが起ったらこんなことになるのでは、とぞっとさせられました。秘書の宗沢君などは医科研にたどり着くのに3時間半以上もかかった始末です。 ◇いよいよ今年から新班が認可になり、また新しく3年間続けることになりました。皆さん、どうぞよろしく、しっかり頑張って下さい。 

7206:◇今日は5月31日、堀川君がアメリカから帰ってくる予定の日です。当分は時差で使い物にならんことでしょう。 ◇医科研の庭は、この間までは“つつじ"いまは“さつき”の真盛りです。もうすぐ梅雨と、暑い夏がやってくるのですね。 ◇これまで二度ここに来たことのある英国のFrancis Hunterというお嬢さんがパレスチナのアラブ人と結婚したといって、Wedding cakeを一片送ってきました。なかなか風雅で良い風習ですね。◇今年こそは班の研究費も少しは早くもらいたいものですね。 ◇このごろ国内各所から内地留学で来る人が増え、当研究部は目下超満員です。培養の有用性の認識と且培養をやれるだけに研究費がふえたのでしょうか。

7207:東医歯大の松村外志張君が7月1日附を以って当研究部に配置換になりました。皆さん御存知の“はねっかえり”ですから、今后ともよろしくおねがいします。

7208:◇いよいよ夏がさかりとなりました。私は9月27日東京発シベリア経由ロンドン行きに乗ります。私が途上呑みすぎないように、警備員がついて行くことになりました。高岡君です。 ◇8月下旬までにMethods in Cell Physiologyの原稿を書かなくてはならず、これから大奮戦をはじめます。

7209:◇秋の気配が迫り、人はオリンピックの放映で朝ねむい顔をする候となりました。◇梅田君は英国にむけて発ち、乾君もスイスのローザンヌに向いました。二人とも3カ月の予定です。◇私は9月27日に発って11月10日に帰国しますので、その間何とぞしっかりやっておいて下さい。癌学会の示説の準備まで済ませておかなくてはならず、目下大忙しです。

7210:◇これが御手許に届く頃には、我々はもうManchesterでSymposiumに出席していると思います。班長が留守だからって余りさぼってはいけませんよ。 ◇梅田班員からは無事にManchesterに着いた旨の第一信が入りました。とても気分よく迎えられているようです。行く途中でスイスに寄り、マッターホーンを見てさすがにびっくりしたようです。◇来月号は創刊第150号になりますが、今回は全班長に配るということは止めました。むしろ反感を買うだろうとの報告がありましたので。

7211:◇癌学会、組織培養学会とあわただしく2週間がすぎ去って、これから腰を落ち着けて実験してはげむことができると思います。勝田班の申請書も今日やっと完成しました。 ◇最近6価のクロムの規制が強められ0ppmになりました。クロム硫酸はisotopeなみ、あるいはそれ以上にとり扱はねばならない訳で、医科研でも対策委員会ができました。クロム硫酸にかはる洗滌法にきりかわるのも時間の問題です。 ◇勝田先生と高岡先生は11月10日(金)20時20分羽田着で帰ってきます。次の班会議(11月30日・木)はいろいろおみやげ話がきけることでしょう。(黒木代行)
 《巻頭言》
 月報創刊第150記念号
 我々の研究グループが癌の共同研究を志し、たえずお互いに情報を交換し合い、研究の進展に励み合おうと決心したのは1960年で、月報の第1号はその年の6月17日に発行されている。
それから算えて今月は第150号に達した。皆さん毎月よくがんばって書いて下さいました。こうしたことはやはり実際に仕事の成果を上げていないと、続けられないことですし、各班員がよく班長の目指す方向にむかって努力してくれた、という何よりの裏書きで、まことによろこばしい限りです。
 今後もますます協力して研究成果をあげ一日も早く癌をなおせるように努力しましょう。 [旅先より・勝田甫]
 いまNewYorkのRackefeller UniversityのGuest Houseにいます。すごく立派な部屋で
2.5室+トイレバスです。ホテルだと70$位だろうとのことです。昨日は一日中、東大薬学部の高野君の世話になってしまいましたが、実に色々の機械が揃っており、金工、木工などの専門家もいるので、器械は買ったあとどんどん改造してしまい、超遠心器のローターなどは自分のところで作ってしまうという始末です。構内は実にきれいで木も茂っており、感じの良い大学です。今朝(10月19日)起きてみたら、おどろいたことに雪が降っています。積もるかどうかは判りませんが。
 ManchesterのSymposiumはとても愉快でした。30人だけのmeetingに2日半を使いましたのでDiscassionも盛んで、マイクの奪い合いという感じでボヤボヤしているとマイクが廻ってこない状態でした。全体の総論としてはbiologistsとbiochemistsとの論争で、とにかくさかんな討論でした。一部は録音してありますから御希望の方にはおきかせしましょう。
Heidelbergerは二題しゃべりましたが、epoxideが有効であることの主張で、〔うちの黒木がハムスターembryonic cellsを4NQOで発癌させた〕などと云ったのにはおどろきました。しかしepoxideの不安定性については、ずい分たたかれていました。ある人がHistoneが癌細胞をやっつけるなどと云うことをしゃべったら、これも物凄くやっつけられていました。Lasnitskiは例によってorgan cultureでしたが、histological specimenの写真が抜群にきれいで感心しました。Dr.Iypeはratのadultからliver cellsを培養し(F-10)、色々の酵素活性の維持を、各種にわたってしらべたもので、形態的にはうちのliver cellsとよく似ていました。ただし発癌実験にはまだ全然成功していません。色々な人がCarcinogenesisという言葉を使うことに遠慮して、sarcomagenesisとかoncogenesisとか云っていたのは、少くとも一歩の進歩だと思いました。Paulは癌とは何か、などと私が去年云ったようなことを別の面から云っていました。

7212:◇いよいよ年の暮が迫まり、1972年もすぎ去ろうとしています。この1年間に何をやったか、反省のときです。 ◇乾班員が12月4日に帰国されました。梅田班員は12月末とか。新年に入ると発癌関係はやっと全メンバーが揃ってきますね。しっかりやりましょう。 ◇小生の身体の調子もお陰様でグングン良くなりつつあります。一外科医曰く“呑みながら胃潰瘍が癒ってしまうと、これから医者は患者に何と云ったら良いか困ってしまいますね。" ◇衆議院の選挙をみていると何となく研究費の申請を思出しておかしくなりますね。“これこれの計画だから、いくら寄越せ”などと云って、問題はそのあとどれだけの成果が得られたかにあると思いますが。 ◇皆さん、どうぞ良い新年をお迎え下さい。忘年会で胃をこわさないように。