【勝田班月報・編集後記】


7601:◇いよいよ寒い冬が来ましたね。今年は何が起るのかと考えてしまいます。培養学会関係では5月に九大の高木君が博多で研究会をひらき、秋は高野君が東京で開きますね。私は来秋にでも第2回の国際癌組織培養学会を開催しようかなと思案しているところです。 
 《巻頭言》
 謹賀新春
 新しい年がまた廻ってきたが、まだ癌は治らない。悲しくなりますね。我々の研究構想の立て方が悪いのと、努力の足りないことに因るというのは判りきっているが、それではどうしたら良いかとなると困ってっしまう。当分はじっくりと地道に攻めて行くより仕方がないであろう。
 大蔵省は医大を地方都市に3校作ることをきめたが、我々にはその神経が気になる。金さえ出せばすぐに良い学校が作れると思っているのだろうが、たしかに建物は作れる。しかしそう簡単に人の方は作れない。何年も年年もかかって先輩たちが教育し、そだてて行くのである。それには時間がかかる。効率も良いとは云えない。要するに辛棒強く、労力と捨金を使わなければならないのであるが、その辺のメドが役人にはよく判っていないと感じる。
 定員削減を研究機関にまで押しつけてくるのは、やはりその典型的な1例であろう。
 今年も我々はしっかり仕事をやりましょう。研究費をもらうためだけの仕事などは当班では今年はさらにきびしく批判するつもりです。

7602:◇東京は毎日々々からから天気で、もう2月位つづいていることでしょう。
◇今日から雨が降り出しました。慈雨です。昨4日は好天気でしたので、中原先生の御葬儀も1日の差で無事に済みました。 ◇2月19日高岡オバさんが科学映画のセミナーで演説をします。 ◇本物のインドホエジカ(ムンチャック)が♂♀各1匹入りました。近い内に細胞を少しとって培養してみます。  
 《巻頭言》
 中原先生逝去される:
 国立がんセンター総長の中原和郎先生がさる1月21日早朝に心筋梗塞で急逝された。1月3日午后に心臓に痛みを感じてがんセンターに入院されたが、お元気だったので皆油断していて、歿くなるとき、福岡文子さんも杉村隆君も他所に行っていて同席できなかった由である。
 中原先生は米国コーネル大学を大正7年に卒業され、生化学を勉強されて日本へ帰ってこられたが、行くところがなくて、しばらく伝研病理に籍をおくよう、長与先生、三田村先生が取計らい、その後、癌研に移られ、癌研の所長となり、さらに国立がんセンターの設立されたとき、その初代研究所長として着任された。昭和49年がんセンターの総長をおしつけられた。
 中原先生のいちばんの特徴は、とにかく「研究すること」が好きで、政治的、事務的業務は大嫌いで居られた。そういうことは杉村君にまかせ、自分は最後まで研究室にこもって実験を楽しんで居られた。実に79才までである。
 我々研究者のなかには、禄に研究をしないで政治ばかりやりたがる者がかなりいるが、それは研究能力の低い者のすることで、中原先生の研究態度を我々はよく学ぶべきである。

7603:◇この班会議は珍しく超スピードですっとばして早く終りましたね。 ◇東京では日一日と春めいてきました。樹々の芽もふき出しています。昨日はめずらしく凄く雨が降って、外においた車がすっかりきれいになりました。洗車場の洗い以上でした。 ◇新刊紹介でお知らせしましたが、John Paulの培養法の新判が出ました。内容が大分変っています。

7604:◇堀川君はもはや班員ではないのですが、長い間のおつき合いの最後ですから掲載してくれと抄録を送ってきたので、のせました。野瀬君は4月1日附で富山医科薬大の助教授に正式に発令されました。それにこの6月からスコットランドへ行きますので自然退班のようなものです。 ◇榊原君が新たに入班して、復元実験の方で大いに活躍してくれる筈です。 ◇選抜野球も終り、桜の花も散って、いよいよ学問のシーズンですね。しっかりやりましょう。
 《巻頭言》
 今年度の研究
 我々の研究は、目前の生物学的興味だけでなく、“癌を治す"という方向にむかっていなくてはならない。つまり生物学研究ではなく、医学研究なのである。しかしこの頃次第に生物がふえてきて、医学が忘れられている。これは班員各人としても反省しなくてはならず、班としても考えなくてはならない問題である。
 今年度としてはもっともっと新しい実験系を開発するのと同時に、発癌剤の選択にも気をつける。ヒトの正常及び腫瘍細胞の培養にも手を拡げるが、この際注意しなくてはならないのは、これまでの培養とは逆に材料にウィルスが感染しているものと考えて取扱うことである。従って細菌やウィルスを取扱う場合と同じように、使った器具はすぐ消毒液につけ、ものによっては高圧滅菌する。ヒトの材料だけに若しそれが感染していれば、実験者にうつり易いからである。
 経胎盤発癌の方ももっと進展させたいもので、何なら誰か復元の方でも手伝ってあげたら如何でしょう。 

7605:◇雨つづきの連休があけたら、すばらしい天気になって、毎日研究室にきていた我々は、ザマアミヤガレといいたいところである。 ◇福岡で久し振りに皆さんにお目にかかれる日が近づいて楽しみです。 ◇ヘイフリック氏の件は前から少し宛耳に入っていたのですが、確実なデータがないので今まで抑えておきました。もうこうなると製薬会社の研究所位でしょう。 
 《巻頭言》
 Hayflick's Tragedy:The Rise and Fall of a Human Cell Line.Science,192,125-127,1975.にこんな記事がのっていました。主にWI-38を囲んでの問題で、HayflickがWistarからStanfordに移るとき、WI-38の大部分のアンプレを持って行ってしまったこと、これはNIHからもらった研究費を使って作ったものなので、当然NIHに属すべきものなのに、それを私してしまい、ワクチン製造用に売っていたことなどがまず指摘されている。しかも世界中に頒布したアンプレのなかに、かなりの数がcontaminationをおこしていたという。彼は夫人の名と二人で細胞を売るための会社“Cell Associates"を作った。そしてMerckとも膨大な取引契約をした。またampulesの保管リストもあいまいで結局contamiをごまかすためにそうなったのだろうという。なお価格は継代8代のもので1本5000ドル、10代のもので2500ドルの由。そしてmerckは100万ドルを払うことになっていた。
 目下彼は反論をすべく準備中とのことであるが、ここまでやられてしまっては、彼も立直りが難しいかも知れない。
 研究者はやはり金もうけなどに頭を使わないで、身のまわりを清潔にしておくべきだということを、あらためて教えられる。

7606:◇野瀬君が6月15日夜の便でスコットランドへ発ちます。子供2人をつれての旅ですから大変でしょう。1年間で家族連れでは仕事の成果はあまり期待できないでしょうが、いくら外から云っても若い者は自分で経験してみないと判らないものですね。
◇むしあつい梅雨期ですね。皆さんどうぞ、カビの感染に気をつけて下さい。CO2フラン器なども大掃除して下さい。

7607:◇変則的に涼しい7月ですが、仕事をする身には助かりますね。班長会議では海外との交流人事について、学会やシンポジウム出席はダメと云っておいて、1)実は事後承諾ですが、2)アメリカで開かれた癌ウィルスのシンポジウムに癌研の井川君を行かせました、と桜井氏よりの報告があった。皆あきれ返って、誰一人文句をつけなかったが、癌研グループが文部省の癌研究費を私しているという感を皆に与えたことは事実である。
◇野瀬君はスコットランドの生活を無事にはじめたようですが、エレベーターのないアパートの4階の生活でいささか参っているようです。 ◇8月4日(班会議の翌日)には当研究室の無菌祭を開きますので、是非皆さん御参加下さい。

7608:◇また夏になって、甲子園野球がはじまり、毎日落着かないですね。 ◇Tappingcultureの映画をとろうと考想をねっています。 ◇“組織培養法”の本の方もそろそろ始めます。今年はもうあまり論文をかくことは控えます。
 《巻頭言》
 Dr.Joseph F.Morganの逝去:
 Canada Saskatoon大学のDr.Morganが5月20日に自宅で心臓疾患で逝去された。合成培地の研究などで我々には縁の深い方であった。腎臓も悪くて、この夏あたり腎移植をするか、というほどだったそうであるから、何れにしても永生きは望まれなかったろう。しかし実に人柄の良い男であった。

7609:◇酷暑といえるような日がすくなくて、いつの間にか秋に入りましたね。変な夏でしたね。いよいよ学会シーズンに入ります。皆さん、しっかりやって下さい。 ◇ムンチャクの細胞を培養している方は、この次の班会議にデータを御持参下さい。その結果によってまた材料を採ろうかということになっています。 ◇野瀬君は元気のようですが、癌細胞学研究部の施設は世界一流級であると云ってきました。但し英語の方はまだ仲々慣れないそうです。当り前でしょう。スコットランドではなまりが相当ですからね。

7610:◇癌学会もいよいよ押しせまって、皆さんお忙しいことでしょう。私もいま示説の準備をすませ、月報にかかったところです。明日会場でお渡しすることになるでしょう。 《巻頭言》 
 医科研の大さわぎ:
 異常な放射能汚染を突然に発見して、大さわぎとなり、サーベメーターで所内をくまなく調べた結果、2号館(新館)の人が歩きまわって、まきちらしたと考えられたが、結果は天水の作用であることが判った。核質はモリブデン99(半減期67hr)が75%、セリウム143(半減期33時間)が25%と判り、我々の使用していないアイソトープだった。新聞記事には『中国核実験。原子力施設を走らす。相つぎ異常放射能検出。「事故か」一時大騒ぎ』とある。

7611:◇いよいよ培養学会が近付きましたね。皆さんにお目にかかるのを楽しみにしています。

7612:◇東京はすっかり冬型の天気で、からからに乾いています。12月も半ばをすぎて、いよいよ年が変ろうとしています。皆さん、しっかり頑張って、良い新年を迎えるようにしましょう。