【勝田班月報・編集後記】

6201:◇そろそろ1年のしめくくりの時期が近附いて参りました。さきに別送しましたように、報告書を1月末日に当方に届くように送って下さい。こちらでそれを括めて2月
15日に持参しなければなりませんので、この期限を必らず守って下さい。なお、会計の報告はもう少しあとになります。書式などはいずれ御通知します。◇
 ◇山田君が帰国なさいましたので、今后は高野班員に代ってやってくれることになりました。今月が初登場です。高野君のときより一段と活躍されることと思います。
 ◇第4回連絡会は急に決まりましたので、遠方の方は切符の入手に苦しまれたことと存じます。今后はなるべう早くお知らせするように致します。
 ◇日本組織培養学会の次の研究会は京大解剖の岡本教授が担当されますが、5月19日(土)の予定です。“神経組織の培養”のシンポジウムもやるそうです。演題の数によって第2日午前まで使うかも知れぬ由ですが、それの決まり次第、前の日か後の日かに37年度の
第1回の連絡会をひらきたいと思います。こんどはうまく操作してこのときの旅費も出したいと思います。そして来年度は5月、8月、10〜11月、2月の4回位にしては如何でしょうか。なお5月京大でやるときは会場を堀川君にお世話んがいたいと存じますので、よろしくおねがい申上げます。
 ◇放医研の関口豊三君が助手として当研究室のメンバーに加わることが正式にきまりました。今后とも何卒よろしくおねがい申上げます。

6202:◇第4回連絡会がすんでから、DABでやっている実験が少し有望らしいことが判りました。第5回のとき詳しく報告しますが、問題は動物に復元接種できるだけにふやせるかどうかです。
 ◇3月号の月報は2月の連絡会の記事を用いますから特に要りません。但し上にかいたように報告要旨はかいてきて頂きます。従って次のpersonal communicationを提出するのは4月15日迄です。
 ◇会計報告を必要とするのは高木班員、伊藤班員、遠藤班員と私ですが、できるだけ早く片附けた方が気が楽ですので、帳尻のカラになった方は、昨年と同様の方法で整理して送って下さい。かき方の注意もこの間コピーでお送りしました。受取にNo.をふって、そのNo.を収支簿の備考欄にかくわけですが、このNo.のつけ方は、各自イニシャルをつけて下さい。例えば高木班員のときはNo.T-1,T-2・・・という具合に。
 ◇研究の報告書を1月一杯に出して頂くことになって居ります。若し未だの方が、萬一、おありでしたら至急おねがいします。これは全班員です。400字たった2枚〜3枚のものですから、未だの方があったら、すぐこの場でかいてしまって下さい。

6203:◇遂に当班の最大目標である“in vitroの発癌"に大きなメドがついたことは、全くうれしい限りです。これから夏までに一段落するように、各班員とも全力をあげて頑張りましょう。5月には立派な成果をもち寄り合いたいものです。
 ◇来4月は久振りに各班員のPersonal Communicationをのせるわけですが、〆切は4月5日にしたいと思います。月が変ったらすぐ送るつもりになっていて下さい。
 ◇当研究室も一人また一人と流感にやられ、高岡君はごく軽くすませ、最后の一人の小生はアルコール消毒完全をほこっていたのですが、岡山から帰ってきて遂に咳が出はじめ、ふうふう云いながら、この号を仕上げました。
 ◇岡山といえば、つまりこの3月3日に、岡山大・癌研に招かれて“癌と組織培養"という話を2時間ばかりさせて頂きました。大ぜい集まったのには感心しましたし、ナイターの部でも大歓待されたのには感激しました。あらためて佐藤兄、喜多村兄、松岡兄などに深謝させて頂きます。

6204:◇今月から新班員として岡山大の佐藤二郎君が登場しました。本班目標の“発癌"を第一歩からすでにはじめてくれている、まことにたのもしい仲間です。どうぞよろしく。 ◇奥村君は今年からRegular memberではなく(名はつらねてありますが)、必要な仕事の出来たとき手伝ってもらい、それに対しては臨時に研究費を出すように変えました。月報の義務なし。
 ◇第6回研究連絡会は前号でお知らせした通り、5月2日(日)午前9:30より堀川君の御世話で京大で開きます。旅費は夏に金がきてからその分を支給しますから、正式な出張の届をしておいて下さい。また旅費は大学の方からもらわないでおいて下さい。文部省関係以外は別。このとき7月の月報用に、連絡会でしゃべる報告の内容をこの前のように月報用紙に抄録して御持参なさることをお忘れなく。5月用の月報原稿はそれとは別に5月1日になったらきちんと書き始めて、5月5日迄に当方に届くようにして下さい。
 ◇後知らせした方もありますが下記の論文は故Syvertonの一門で30種以上の株のorigin(species)を明快にきめ、HeLaとLのcontamiが多いとしている大変面白い論文です。
1.Clausen,J.J. & Syverton,J.T.:Comparative chromosomal study of 31 cultured
mammalian cell lines. J.Nat.Canc.Inst.,28(1)117-145,1962.
2.Brand,K.G. & Syverton,J.T.:Results of species-specific hemagglutination testson “transformed," nontransformed,and primary cell cultures. ibid,p.147-157.
 ◇いまアメリカのpremedical courseを卒業して、培養をしているお嬢さんが大変日本へきたがって、金の出所をこれから探してやるところです。2年以上居たいらしいです。来るのは今秋から来春になると思いますが、その節はどうぞ仲良くしてやって下さい。
 ◇北里研究所の技術養成所を今春卒業したお嬢さん2人、田中君と山口君が当室にこんど入りました。将来TCのLaborantinとしてやって行きたい気で入ってきたのですから、大変熱心です。どうぞ今后ともよろしく。
 ◇堀川君はいよいよ4月下旬に京大に移るそうです。以后の連絡はそちらへ。
 《巻頭言》
 発癌実験の成功近し?
 in vitroの発癌は我班最大の目標である。そして同時に、培養領域における癌研究にとって緊要の命題でもある。過去1年間我々はこの問題と取組み、色々の貴重な体験を得てきた。こうした体験は実際に手がけてみなければ決して体得することのできない、極めて大切なものである。しかも前月号に報告(班会議)したように、成功する可能性のある兆しが見えてきたのである。頂度、暗夜の山の中を大体この方向とは思いながらも五里霧中で歩いていたのが、東の空がほのかに白みはじめ、山なみの輪郭もあらわれ、進むべき方向もはっきり確認されたという感じである。ただ本当には日がまだ出ないので足許の石ころの一つ一つ迄よく見えず、時々石をけとばしたり、つまずいたりするのは致方のないところである。したがって、大体の方角が判った以上、あとは足許によく気をつけて歩くのが第一であろう。
 本報の各班員の報告でもよく判るように、目下の足許の問題の一つは、用いる動物の日齢であり、次が培地の問題であろう。実験ごとに仲々成績が一定しない。余り若い動物を使うとcontrolも生えてくるし、余り年老ったのを使うと実験群も生えない。それから頂度AH-130を腹水から培養に移したときのように、実験群の細胞もはじめは勢良く生え出すが、復元に使うために増やそうと思って継代していると次第に勢いが悪くなってくる例が多い。この辺に培地の問題がからんでくる。この辺が当面している困難の一つであろう。 復元法については、前号にも記したように、我々はきわめて優秀な方法を見出した。
“本人に帰す"法であるから最も理想的で、培養内の発癌だからこそ為し得るところと云える。これによって本研究の困難の半分は消えたのである。残るは、したがって、できるだけ高い頻度で発癌させることにある。in vivoの実験では殆んど100%にDAB肝癌ができる。正確に云えば6〜8ケ月で約80%(0.06%DABを飼料に添加)に発生する、それ以上は実験を打切るので実際の頻度はもっと高いと考えて良い。従って、in vitroでnaked cellに与えるのであるから、その与え方をもう少し改良すれば100%近くになって良い筈である。発癌のacceleratorや、発癌剤の数種複合使用など考えて良いし、作用期間の加減も試みるべき問題である。DABで細胞に変化の起ることはin vitroで証明できた。in vivoではその(恐らく色々の方向に)変った細胞の中から癌細胞が淘汰される。従って、in vitroでも、変化した細胞の中から正常の細胞によって再び淘汰させるという手もある。in vitroでさせるのも良し、直接liverに注入してそこで淘汰させるのも一案であろう。とにかく目的地は近い。全力をあげて総員突進しよう。


6205:◇東京は水飢饉で困ったものです。硝子器具などの水洗いは朝10時までに済ませ、再留水(cooler!)は夜作らなくてはなりません。全く情ない都市計画です。◇今年は癌学会の演題申込〆切が7月31日で、しかも完成原稿を出せというのですから辛いですね。従って我々としては7月末までに勝負するつもりで頑張らなくてはならないところです。頑張りましょう。◇研究費の分け方の方針をかえて、一種の能率給式のものにしました。その方が反って公平だと思います。同時に他の班にもどしどし培養屋を喰込ませて行く必要もありますね。◇当室にはまたlaborantinの卵が入りました。大後彬子(ダイゴアヤコ)さんです。自由学園卒で、高岡君の後輩です。どうぞよろしく。方針としては培養と生化学方面を手伝ってもらうつもりです。◇この間スミスコロナ(黒沢商店輸入)の電気タイプを買いました。山田班員に刺戟されたのですが使ってみると実にすばらしい。200型では
12吋のローラーがついていて、¥95、000位です。買うときはこれをおすすめします。

6206:◇水飢饉といってさわいで居たら梅雨に入ってこんどは止めどもなく連日雨。久しく青空を見ないような気がする。今月は月報の原稿のあつまるのがおくれ、10日に発行できなかった。連絡会のとき必らず原稿を持参するよう今后は絶対に励行して下さい。やはりあとからのでは、そのときのDiscussionと内容が合わなかったりしてうまくありませんし、何より、もう今日は届くかと思ってのばしているのが困ります。これからは若し忘れた場合には後からでなく、その場で書いてもらうことに決めます。 ◇次回の連絡会は28日(土)ですが、次の日曜も会議室を借りておきましたから癌学会申込の原稿をかくのに御利用下さい。ことしは冷房付ですから快適です。 ◇当室は関口、菱沢、山口、田中といずれも未だtraining courseを卒業せず、内川は電顕、大後は生化学定量の、いずれも練習中で、相変らず戦力は高岡君ただ一人ですが、病理学会も控えていますが、とにかく発癌に主力を注いています。来月末までにどうなるか。Ratは順調に生み出して目下第16代のJARが生まれました。 ◇伝研も70年目にようやくその所名を変えることに決定しました。新名はまだ決まっていません。ではこの次お逢いするときまで元気で頑張って下さい。手が痛くて悪筆でごめん下さい。
 《巻頭言》
 研究統制はじまるか?
 いま自由黨も社会黨も一緒になって、議員立法として、全国の国立研究所を夫々の管轄から科学技術省(庁から省に昇格させる)の下に統合しようと計画しているそうである。その代り待遇を良くし、研究費も国の予算の10%以上を廻すという。この計画は、文部省、学術会議、研究所長会議、大学総長などに一切秘密でこれまではこばれてきた。この動きは最近表立ってきた大学管理の問題と関連したもので、夫々の黨が別々の目的をもちながら呉越同舟したところに強味があり、そのまま議会で押切られる恐れがある。
 この月報は政治的なことには触れないつもりであったが、こうなると事重大なので、この事実を知らない方が居るといけないと思い、あえて触れることにした。
 科学技術庁に入れられ、政治屋、事務屋の会議で支配されるようになるとどんな具合の悪いことが起るか。第1にもっとも考えられるのは、すぐ応用的に役に立たないような、本当に基礎的な研究には研究費の廻り方がぐっと悪くなるだろうということである。いくら国費の10%といっても、人件費も何もみんな入っているし、その内の9.999・・・%は軍事的研究に廻されるのは目に見えている。ロケット1発あげるだけで何億という金がとぶのであるから当然である。組織培養といって、今でこそブームのようだが10年前にはどんなに苦しい思いをして研究したか。そこを切抜けてきたからこそ今日研究に役立つようになった訳で、政治屋や事務屋が集まったところで、研究者でも仲々むずかしい10年先の見通しなどつく訳がない。我々は今日ではいわば日の当る研究になってきたから自分のことは良いが、あとにつづく連中のために本当にこれが心配なのである。
 第2の心配は人である。そもそもこの発端からして、科学技術庁が4〜5の研究所を持っているが仲々人材が集まらず、その上折角集めた人にも逃げられる(うちへきた関口君も放医研から逃げてきた)始末に困り果てて考えついたなどと云われる位である。研究所などは1年もあれば建てられるが、研究者は10年かからねば養成できない。また、出来上っている研究所でもたえず人事の交換が行われなければ“老化”してしまう。特に若い研究者が次々と入ってくることが最も大切なことである。文部省−大学に所属していれば、今のように学生の夏の実習で、その雰囲気になじませ、大学院学生も入れられて、研究者の養成に困らないが、科学技術省の下となるとそうは行かなくなる。(放医研では組織培養の“棟”を作る予算を取ったが、実際にやれる人は何と3人に減ってしまっている。)今日、厚生省の下へでも皆行きたがらない。予研はどんどん優秀なのに逃げられている。癌センターは三流どころを集めるのにもフーフー云っている。いかに官僚的な雰囲気の下で研究がやりにくいか皆よく知っているからである。
 政府がなぜこんなことをやりたいか。いちばん狙っているのは工業関係と思うが、要するに自分たちのやらせたいことをいや応なしにやらせるためにである。そして、それは明日のためだけであって10年后のためではない。社会黨は彼等の世になったらやはりやりたいことを、与黨の手でやらせるにすぎない。ソビエト、中国の状況をみれば判る。軍備だって彼等の世になれば、彼等のための軍隊を作るにきまっている。自由黨の云うことをきく軍隊では困るから反対しているだけである。これはかって、ある共産黨員からはっきり聞き、それ以来私は奴等を敵としだした。
 それではこういう流れに対抗するにはどうしたら良いか。まず文部省に動かせてはいけないと思う。文部省や厚生省が動いたのでは単に縄ばり争いにしかとられない。やはり学術会議、研究所長会議あたりが中心になり、それもこれまでのように姑息な手直し的意見ではなく、画企的な豪快な改革案を打出さなくてはいけない。これまで作られた案などはみな古くさい小規模すぎるものである。この戦は“守って”いては必ずまける。向うは改革する気があるのであるから、かえって、こちらにとってもチャンスなのである。むこうにも妥協させ得るだけの、しかも向う以上に大きな規模の案を作って“攻め”なければいけない。広く文化人や与論に訴えることも当然必要である。場合によっては天皇に出て頂くのも良い。(話せば判るらしい。)とにかく畜生みたいなのを相手にするのだから、当り前のことをしていては負けるのは目に見えている。近ごろといわず、戦后は外国に逃げ出す学者がふえてきた。木下良順、大野乾、我々の仲間の高野宏一、近くは予研の石坂・・良く知っている連中だけでも一杯いる。しかし我々は日本の国民の血税を使って教育され、また今日まで研究をつづけてきたことを絶対に忘れてはなるまい。この畜生法が通ったとき、米国あたりへ逃げ出すことも考えられる。しかしやはり我々は日本にとどまり、できるだけの抵抗をしながら後につづく研究者を養成し、そのためを図ってやることを努めるべきではあるまいか。
 騒々しい世の中に動かされていては仕事など能率が上らない。しかし今回のこのさわぎばかりは一寸見逃す訳に行かず、つい月報で触れてしまった。御寛容をおねがいしたい。

6207:◇長い梅雨が終って、暑い夏に入りましたね。あれよあれよという間に今年ももう半分以上すぎてしまった訳です。全く光陰は矢の如しです。当研究室ではこの頃若い人が大分いますが何れも未だ練習コースで、無駄飯をくわしているようなもので、戦力は依然高岡君一人です。内川君は3月から電顕をやっていますが未だ1枚も禄なのがとれません。正常と腫瘍との間の形態学的相互作用をみたいと思っているのですが・・・。
 ◇札幌でやった病理学会で、山際勝三郎先生の生誕百年式が行われました。そのとき勝沼精蔵教授が仲々良い話をされました。“山際先生は兎の耳に毎日コールタールを塗って何ケ月も頑張った。いまの世では根性というと相撲やプロ野球の方でばかり云われて肝腎の研究者の根性が近ごろ忘れられている。出来るか出来ないか判らないのにも拘らず山際先生は必ずできることを確信して頑張られた訳だ。" 百年目の今年、われわれグループがこうやってこんどは細胞レベルで発癌を狙って頑張っていることは、不思議な縁とも云えるし、我々も山際先生に負けないように、しっかりやらなくてはならぬ、と沁々感じる所以でもある。
 ◇今月は月報原稿が集まらないでこんなに発行がおくれました。原稿はしわになりますからボール紙をそえて袋に入れて下さい。アイロンをかける必要のあるのも出てきますので。 
 《巻頭言》
 研究者の養成
 研究所は1年もあれば立派なのが建てられるが、研究者は10年かからねば養成できない。その肝腎の研究者の卵が、基礎医学の分野に於て最近減ってきているのは本当に困りものである。あと10年経ったらどうなるのだろうと心配するだけではなく、現にあちこちで作られている研究所の構成に困り、あちこちで引抜き競争をやる始末である。我々は自分の現在の仕事を熱心に遂行しなければならないのは当然であるが、同時にたえず次代の研究者の養成にも注意しなくてはならない。研究所として一番良いのはしっかりした大学院学生を次々と入れ、その中からえらんで行くことであるが、実際的にはもっと以前、大学の1年生位から刺戟しはじめなくては間に合わない。私の研究室でもこれまで色々の企てをそのためにやってきたが、自分の学生時代の経験から考えて、昨夏からはじめた方法がかなり良いような気がするので、御参考までに紹介しょう。その準備は1年位前からはじまる。つまり1〜2年の学生にも何とかやれそうな仕事を、やらないで1年間ためておくのである。そして6月頃、学生の代表をよんで、今夏はこれだけのテーマがあり、各テーマには何人で何日位かかる、と詳しく説明してやる。すると代表は学生の間をきき歩いて希望者を探してくるのである。昨夏は1年生が3人来て、それにL・P4株の多核形成率をしらべさせ、あとでこちらで括めて、一緒にその人たちの名前をつけて、集団会に出したり、
reportにかいたりした。これが非常に効いて、今夏は12人位来ることになってしまった。東大の学生の間には“癌の会”というのがあって、そこのメンバーがくるのである。1年生には余り大したことはやらせられないが、2年目のにはCatalas活性の定量とか、染色体検索、顕微鏡映画の撮影、等々、かなり色々のことをやらせられる。こうして、何とかまとめられるような仕事を一つ宛でも毎夏やらせると、彼等も活気を持ってどんどん集まってくるらしい。勿論その内の何割が卒業してから入ってくるか判らないが、そういう努力をしないよりは遥かに効果があろう。そして、なるほど基礎とは、こんなことをこんな風にやるものか、とおぼろげにでもその雰囲気を判らせ、それなりの自信を持たせることが大切であろう。かって医学部の学生たちと一緒に旅行したとき彼等の気持をきいたが、基礎に入りにくいという最大の点は、経済問題ではなく、自分たちが受けてきた臨床家になるような教育のレールから外れなくてはならないという不安と、自分が基礎に入って先き先きまでやって行ける能力があるだろうかという懸念であるということを語っていた。毎夏にでも実習(というよりは研究)をやって居れば、こうした不安も自分でも或程度めどが付くのではあるまいか、と思う。

6208:◇どうもおどろいた暑さですね。しかし今年は梅雨時にはちゃんと雨が降り、夏にはあつくなり、昔のように規則正しい季節廻りに戻って何より結構という説もあります。夏のあとには秋になって涼しくなることを承知しているのですから我慢していられるわけですね。まあもう暫くの辛棒で、頑張りましょう。

6209:◇ようやくのことで暑い夏がすぎ去りつつあり、朝夕は風も若干涼しくほっとしますね。全く今年の夏は東京も猛烈で閉口しました。
 ◇日本培養学会のmemberになっている印度のDr.K.J.Ranadiveが9月の6、7、8日と訪問しました。ロシアでの癌学会の帰りで、米国経由の由です。Biologistで癌以外にはVirusもBiochemistryもどうも興味がないようでした。東大・動物の西脇氏のLab.とCancer Centerの中原先生のところへ案内し、あとは伝研ですごしました。Chokshi君とちがって肉でも魚でも、おサケでも何でも平気でしたので、スキヤキや天ぷらに案内しました。因みに同博士はMrs.で、ずっとサリーを着通していました。日本の培養学会に抄録を“To bo read by title" で送れないかと聞かれました。国際の癌学会が次の4年后には東京で開かれるそうですから、それにくっつけて培養学会の研究会をひらき、semi-internationalのものにしたら良いと思います。
 ◇この夏は夏休実習に学生さんたちが、10人以上も押しかけ大変な混雑でした。よく実験器具はこわし、よく、いなごの大群のごとく食い、よく飲み(お茶です)、部屋の者は疲れ果てさせられた次第です。しかし非常に気に入ったらしく、来年はもっとしっかりやろう、などと話し合っていました。学生の内から基礎の仕事に興味をもたせ、或程度の自信を持たせて行けばその内の何%かが卒業后入ってきてくれることでしょう。 ◇内川君がAppeで8月27日に手術しましたが、経過良好で、もう元気です。
 《巻頭言》
 発癌機構の考察
 肝細胞にDABをかけると、それまで増殖しなかった細胞が突然増殖をはじめる。明らかに何らかの変化が細胞内に起った証拠である。しかしその細胞を動物に復元接種してみると腫瘍を作らずに消えてしまう。何度くりかえしてみても同じことになる。
 ここら辺りで一度、細胞の発癌機構についてじっくり考えてみる必要があるのではなかろうか。発癌は明らかに細胞の不可逆的変化に基く。そしてその変化は細胞のおかれた環境により淘汰される。悪性化がうまく行かないのは、細胞の変化が不充分(或は不適)なのか、折角悪性化したのが淘汰されてしまうのか。そのどちらかであろう。細胞の変化について考えると、発癌にいたるのに、細胞は50位のステップを経るという説も最近云われている。動物実験でDABを用いて発癌させるのに何カ月もかかるところからしらべられたのであろう。動物では、我々の実験とことなり、長い間DABを食わせる。これはどういう意味があるのだろうか。培養のように、あとから余り与えると、折角変った細胞に反って害になる、ということが無いのだろうか。第1段の変化から更に先に進ませるのに、同一物質で充分なのか。それとも未だ判っていないが、体内のホルモンその他が以后の促進役を果しているのだろうか。しかしその変化に方向性のあることは推察できる。前に報告したが、DABを作用させて出てきた培養細胞に胆管系の細胞の増殖を促進するような薬剤で追討ちしたところ、新生していた実質様細胞がほとんど消え、箒星状のが残った、という事実からである。従って第1撃を加え、以后追討をかけるときは、同一方向の物を使う必要があろう。たとえば上に記したような物質はメチルDABのあとに使った方が向いていると考えられる。具体的方策として、とにかく我々はいま一歩のところにきているのであるから、追討ち剤についてよく考え、よく撰んで、色々やってみる必要があると思う。次に淘汰の問題について考えると、いま使っている培地はたしかに良い培地で、色々な細胞の培養に使える。しかしそれ故にこそ反って、ラッテ体内では生きられぬような細胞まで増殖させてしまっているかも知れない。また、これは逆の話であるが、同じくDABを使ってラッテに作った肝癌の一つAH-13、これはきわめて悪性で、腹腔内で腫瘍細胞があまり増えない内に4〜5日でラッテが死んでしまうが、この細胞はいま使っている培地ではよく増えてくれない。この辺ももう一回よく考え直してみる必要がありそうである。

6210:◇ Prof.M.Moskowitz; Dept.of Biological Sciences. Purdue University,
Lafayette, Indiana, U.S.A.という人から先日突然手紙がきて、“お前のところと同じlineの仕事をしている。ついては来年6月7月8月辺りにお前のところへ行って滞在して良いか。できれば仕事も少しやりたい。"と云ってきました。日本見物がてら、その口実と思いますが、とにかく金のある国の人は気軽にどこへでもすぐ出掛けられて良いですね。 ◇同じ日にHarvard UniversityのAssoc.Prof.Chang(色々な株を作ったので有名な)から手紙がきました。それは、株名のつけ方だけでなく、広く培養界での用語の使い方について、何とか統制のとれた使い方のできるようにしたいと、この春アメリカで17人のtissue culturistが集まって委員会を開いたが、さらに英国のJ.Paul、ベルギーのChevemont、日本のKatsutaからも意見をききたいという丁重な手紙でした。私としては、私を通じて、この機会に日本の意見が向うの人たちに通ずることのできるように、O.K.の返事を出しておきました。培養学会でもその旨を話して、今月末位までに会員から意見をよせてもらい、来月末ごろまでに括めて、向うへ云ってやりたいと思っています。 ◇10月10日に病理学会で“悪性腫瘍の特性”のシンポジウムがあり、小生は細胞レベルでの悪性についてしゃべります。また12月4日には大阪で癌学会主催の“発癌機構”についてのsemi-closedのシンポジウムがあります。これには、このin vitroの発癌実験の成果を話したいと思っています。討論の材料を提供するという意味のつもりです。 ◇高木君が愈々11月8日羽田発で米国へ向われます。長く一緒に、しかも活発にやってくれていた仲間に去られるのは本当に淋しいことですが、とにかく二年后には良い収穫を得て帰ってこられるよう、大いに期待することに致しましょう。では、高木君、どうぞお元気で!

6211:◇仕事にはうってつけのseasonとなりましたね。11月10日の病理学会シンポジウム(悪性腫瘍の特性)の準備のため、今月の月報発行がいささかおくれたことをおわびします。しかし一つすぎてもまた一つで、来月4日に別掲のようなシンポジウムがありますので、高岡君のおなかもそろそろ痛くなろうものという次第です。 ◇12月号用月報月報原稿は上にかいたように郵送不用になりましたから御注意下さい。 ◇先月号にかいたアメリカの例のProf.Moskowitzは、その后やはりどうしても来たいと重ねて云ってきました。うちの仕事振りを見学するだけでよいというのです。そして8月には日本国内のあちこちのLab.を訪問したいそうです。皆さんの御厄介にもなると思いますので、どうぞよろしく。 ◇10月1日から農林省家畜衛生試験場の田中義夫君が実習に見えています。将来は
Cellular biologyの領域に入りたいそうなので何卒よろしく。 ◇内川君が腎盂炎で休んでいます。この間はアッペをとったばかりなのに、どうも病気のデパートみたいです。
◇阪大・第二外科の高井君が今月御結婚の由、幼な馴染の女医さんとか、サテサテ・・・。 ◇こちとらは何の因果か頚が痛くて・・・。40肩というのはきいたが、45頚ってのはありましたっけか。 ◇癌学会の牛山事件、日本医事新報の11月17日号に小生が見聞記をかきましたので、よろしく。

6212:◇この秋は学会やシンポジウムが多くて閉口しました。まだ15日に班長会議が、
20、21日に日米合同科学討議会と控えていますので、忘年会に浮かれて歩く訳にも行きません。もっとも、今年は第2段のalterationを起させるために、ラストスパートをかけて最后まで頑張りますから、ぼやぼやはして居られませんが。 ◇月報を片附けて、これから愈々来年度の綜合研究班の申請書類にかかります。必ずとれるようにしっかり書きます。 ◇高木君も元気のようです。住所は次の通りですから、ときどき手紙をかいて上げて下さい。Dr.Ryosaburo Takaki; Division of Cell Biology, St.Jude Hospital, 332 North Lauderdale,Memphis 3, Tennessee,U.S.A.  ◇印度のChokshi君はとうとう教授と喧嘩して、どこかへ出たいと云っています。東大でPh.D.ととるのにはどの位の期間かかるか、なんて云ってきています。 ◇では皆さん、よい新年をお迎え下さい。来年こそは発癌の最后の仕上をやりとげましょう。