03 細胞の保存・輸送
[細胞の保存・輸送]
1.細胞株の凍結保存ついて
2.細胞の輸送(移動)について
3.細胞受領後すぐの培養について


1.細胞株の凍結保存ついて
はじめまして、東北薬大の菅野秀一と申します。あまりに基本的な質問で誠に恐
縮ですが、どうぞご回答いただきたくお願い申し上げます。
細胞株の凍結保存に関することでありますが、液体窒素中に細胞を保存すると、
ディープフリーザーで保存したものと比較して、浮遊系細胞株の生存率が極めて
悪くなってしまいます。凍結保存にはセルバンカーを使用しております。液体窒
素中において長期的に細胞を保存したい場合、うまく保存するコツなどがあれば
教えていただきたくお願い申し上げます。

⇒ ヒューマンサイエンス研究資源バンク・佐藤と申します。ご質問ありがとう
  ございます。
  通常は液体窒素中での保管のほうが安全ですし、たとえば理研細胞銀行など
  は、ディープフリーザー中での保管を保証していないわけで、これはかなり
  当惑する状況です。同じロットを保管した場合に液体窒素保管の方が不安定
  ということは非常に考えにくいです。同じロットなのかどうかをまずご確認
  ください。そうでなければ、凍結のロット差です。
  一方、御記載の状況が再現性のあるものなのという事でしたら、凍結してか
  ら保管にもってゆくまでのプロセスに問題があると思います。おそらく凍結
  操作の際には普通の研究室では、ディープフリーザーで凍らせると思うので
  す。この際、凍結が終わってから液体窒素中にクライオチューブを移すこと
  になるわけですが、このときに温度上昇が生じている可能性が私の予想する
  最も大きなものです。この場合、クライオチューブをディープフリーザーか
  ら取り出し後、直ちに液体窒素で冷やすようにし、ケーンに取り付ける際に
  も冷やしながら行うようにしてください。
  また、解凍する際に液化窒素保存のものから解凍すると時間を要するのが原
  因である可能性もあります。とくにクライオチューブの場合、熱伝導率が低
  いので、急速解凍するにしても時間を要してしまう場合があるからです。通
  常は、取り出し後直ちに37℃の微温湯につけて激しく振りながら解凍すれば
  問題はありません。
  細胞の凍結保存液に問題があるとは思いませんが、バンクでは、5-10%
  DMSO, 20% 血清を含む基礎培地を使用しています。DMSOは10%を使用
  した方が生存率は高く、血清も濃度を高めにすることで保護効果が得られま
  す。

⇒ 理研の 西條です。
  ヒューマンサイエンス研究資源バンク、佐藤先生が下記のように書かれてい
  ましたので、当方のデータを簡単に記載させていただきます。

  >通常は液体窒素中での保管のほうが安全ですし、たとえば理研細胞銀行な
  >どは、ディープフリーザー中での保管を保証していないわけで、これはか
  >なり当惑する状況です。

 【凍結の方法】
  -80℃(発砲スチロールに入れた状態)で一晩、その後、発砲スチロールか
  ら出し、各温度にて保存。
  -80℃のフリーザーは、極力、開閉をさけ、-196℃は、液体窒素液層保
  存です。また、保存アンプルは、ガラスです。

 【浮遊系(L5178Y)の場合】
  凍結時の細胞数を100%(1千万個/アンプル)とし、凍結培地は、10%
  DMSO、10%FBS含有RPMI1640です。

  1年後の生存率
  -80℃  51.6%
  -196℃ 75.6%

 【付着性細胞(Balb/c 3T3)の場合】
  凍結時の細胞数を100%(2百万個/アンプル)とし、凍結培地は、10%
  DMSO、10%FBS含有MEMです。

  1年後の付着率(融解翌日に付着した細胞の割合)
  -80℃  44.2%
  -196℃ 65.1%

  上記のような結果から液体窒素での保存を推奨させていただいています。
  また、データが、かなり古いこと(1980年代)、公式データでないことを
  ご承知頂き、参考にしていただければ幸いです。

⇒ JCRB細胞バンクの水沢と申します。
  セルバンカーというのは、理研の大野さんが開発された『凍結用培地』です
  か?それとも日本フリーザーが売っている『凍結保存用の容器』でしょうか。
  確か同じような名前だったような気がするのですが、違いましたっけ?
  細胞は佐藤さんが書かれているとおり、ゆっくりと凍結して素早く解凍する
  ことが解凍後の生存率を上げるポイントなのですが、もし、セルバンカーが
  凍結用培地のことだとすると、菅野さんが書かれた内容だけでは凍結速度(だ
  いたいでよいのですが)と何度まで下げたのかということがわからないので、
  そのあたりをもう少し詳しくおっしゃっていただいたほうがコメントを差し
  上げやすいように良いと思います。
  私達は基本的にプログラムフリーザーを使っていて、マイナス30℃まで1分
  1度という速度で温度を下げます。だいたい、マイナス5から10℃ぐらいの
  ところで細胞が凍ります。それからさらにマイナス80度まで急激に温度を
  下げてから液体窒素に移して長期保存します。
  プログラムフリーザーが無い場合は発泡スチロールの小さな容器に綿を入れ
  て断熱した容器に細胞のアンプルやセラムチューブを入れて?30℃ぐらいで
  しょうか、フリーザーの中に放置します。これでゆっくりと凍結が進みます。
  それから液体窒素に移せば十分に保存できるような気がしますがどうでしょ
  う。ただ、移す時にセラムチューブの温度があがらないよう十分に注意する
  必要があると思います。後、細胞の濃度を上げたほうが良いかもしれません
  ね。

⇒ 佐藤様,西條様,水沢様,皆様いろいろと教えていただきましてどうもあり
  がとうございました。
  皆様ご指摘のとうり,凍結時間と液体窒素への移動時間が大きな要因であっ
  たように思われます。今後もご指導の程,何卒よろしくお願い申し上げます。

2.細胞の輸送(移動)について
基本的なことですみません。マクロファージを培養しているのですが、今、使用
している研究室から、違う研究室へ移動させるためにはどのようなことに注意し
て行えばよいのでしょうか?(具体的には電車で1時間くらいの距離です)凍結
してから移動して、解凍して使用するのがいいのでしょうか?もしくは培養液に
入れたままでも大丈夫でしょうか?

⇒ 1. 細胞は壁着して増殖しているはずです。まず、細胞をスクリューキャッ
  プのついたカルチャーボトルで通常のように培養します。2. 運ぶ前にボト
  ルを培養液で満たして、ネックのところにパラフィルムなどを巻いて汚染を
  防ぎ、さらに全体を清潔なビニール袋などに入れます。3. 運搬は常温で結
  構です。勿論、急激な温度変化、極端な高、低温、日光への暴露は避けます。
  4. 先方に着いたら、袋から出し、念のためボトルを酒精綿で拭きます。
  5. 通常の培養時と同量の培地を残して培地を吸引して捨て、キャップをゆ
  るめたままインキュベーターに入れます。6. 同じ方法で輸送することもで
  きます。数日以内なら、凍結しないで生きたままこうした扱いをするのが便
  利です。

⇒ 生きたまま運搬することについては許先生が回答されてくださいましたし、
  ご質問の趣旨からは、それが良いと思います。
  念のため、細胞を凍結してこの程度の距離を運搬する場合とことをコメント
  しておきます。商品名ではドライシッパーというものですが、液体窒素を使
  って安全に運搬する容器が市販されています。小型の液体窒素容器なのです
  が、通常の容器と違って液体窒素を吸着剤に含ませる構造になっています。
  そのため、転倒などがあっても液体窒素が外にこぼれ出ることはありません
  ので、安全に運べます。ただ、容器の大きさは高さ50センチほどですが、
  ちょっと重いかもしれませんので、女性ではつらいかもしれません。
  なお、この容器に液体窒素を入れるときは、一度液体窒素を十分に入れた後、
  数時間放置してから再度入れることが重要です。十分に冷えるまでちょっと
  時間がかかりますので、この点理解して置かないと、運んでいる途中で液体
  窒素が無くなってしまうということになります。十分に液体窒素を入れて冷
  やしておけば、24時間以上もちます。
  なお、細胞を生きたまま運ぶ際には、途中で事故があって容器が破損する可
  能性も是非念頭に置いてください。ペーパータオルや『紙おむつ(勿論新品)』
  などが良いと思いますが、吸着剤で十分に包んで培養容器が破損した場合で
  も培地が外に漏れ出さないように配慮する必要があります。

3.細胞受領後すぐの培養について
千葉大学薬学部 浅井と申します。現在、ブタ腎由来LLC-PK1細胞の利用を考
えております。この細胞の血清のロット差について知見がございましたらお教え
願えますでしょうか。また、細胞を譲って頂く際に、最初の培養に必要な培地は
譲って頂けますでしょうか。もし不可能な場合、推奨するメーカー等はございま
すでしょうか。宜しくお願い致します。

⇒ ヒューマンサイエンス研究資源バンク・担当の佐藤と申します。ご質問あり
  がとうございます。
  JCRB0060 LLC-PK1細胞に血清のロットが影響するかどうかは、細胞バン
  クでは実際に比較して検討したことはありません。もちろんロット差は影響
  すると思われますが、他の細胞で実績がある血清でしたら、特に問題ないと
  思います。バンクでは、本細胞のアンプル作製において、Flow, BioWhittaker,
  Traceなどの血清を(別時期に)使用しましたが、いずれも増殖不良を起こす
  ようなことはありませんでした。むしろ本細胞は増殖が速く、(倍加時間は20
  時間程度)、培養に際しovergrowthに注意する必要があるようです。培養
  担当者のメモによりますと100%コンフルエントになると細胞が盛り上がっ
  て増殖し、継代の際に剥がれにくくなるとのことです。コンフルエントの少
  し前あたりをねらって継代するようにしてください。
  バンクでは、細胞の発送に際して培地の添付はいたしておりません。指定培
  地のMedium 199は市販品が容易に入手可能ですので、事前に用意していた
  だきたく存じます。バンクでは日水製薬 品番05909を使用しておりますが、
  他メーカーの製品でももちろん構いません。メーカーの指示書にしたがって
  調製してください。