O1-10 皮膚ケラチンの免疫組織化学染色における固定および前処理の効果− 皮膚部位別、染色態度の比較−

潮見 友江、小池 学 (放医研 放射線障害)

【目的】免疫組織化学法(IHC)は、組織中の核酸や蛋白質分子の局在や発現変化 を解析する上で有効な方法である。しかしながら、その結果は使用する抗体の特 異性や抗原結合部位の違いばかりでなく、組織の固定法や前処理によって大きく 左右される。我々は、放射線被ばく時の生体応答分子機構を理解するために、放 射線に曝される機会が最も多い臓器、「皮膚」を材料に解析を行っている。今回、 放射線皮膚障害を研究するにあたって、外皮の扁平上皮細胞に発現する4種類の ケラチンについて、IHCの至適条件検索を目的に、各種固定法及び前処理の効果 をマウス皮膚部位別の染色態度で比較した。

【方法】抗体はK1,K5,K10,K14を認識する4種類、材料はマウス皮膚(背、手、 耳、尾)の新鮮凍結切片を用いた。はじめに、尾部皮膚で固定および前処理の至 適条件検索を、1)未固定、2)PBS、3)エタノール、4)4%PFA、5)4%PFA固定後 クエン酸緩衝液加マイクロウェーブ処理(MW)、6)4%PFA固定後EDTA加 MW、7) 4%PFA固定後0,1%トリプシン処理、について行った。次いで、尾で得られた至適 条件により他の材料を調べた。検出はデキストランポリマー法(ENVISION+/HRP) で行った。

【結果】マウス尾では、1)一般的にケラチンのIHCに使用されること が多いエタノール固定で、 K10以外の抗体で全ての表皮細胞が強陽性を示した。 しかし、この結果は報告されている各ケラチン分子の発現分布と異なっていた。2) 今回用いた抗ケラチン抗体について適当な固定、前処理を行うことで特異的な染 色パターンを示す至適条件が得られた。他方、3)同一抗体を用いても皮膚部位ご とに至適条件は異なっていた。

【結論】1) 皮膚におけるケラチン分子の局在把握を目的とする場合は皮膚部位ご とにIHCの至適条件を検索する必要がある。また、2)このようなケラチンの性質、 IHCの技術的要因を十分考慮して結果を解釈することが重要である。