O1-2 無血清培地-無フィーダ細胞培養系を用いたウシES様細胞株の樹立と 培養

千代 豊、山下 祥子、甲地 優志、尾藤 勲、星 宏良 (機能性ペプチド研究所)

【目的】 種々の動物種において、ES細胞の樹立と長期培養を確立するための研 究が続けられている。しかし、現在のところ生殖系列キメラ形成能等を持つ安定 なES細胞株が樹立されているのは、マウスに限定されている。近年、再生医療や 遺伝子治療の材料としてヒトES細胞が注目されているが、家畜ES細胞において もきわめて大きい潜在的価値が期待されている。ES細胞を用いることで、特定の 遺伝子を改変あるいは不活化することが家畜においても可能となり、家畜の改良 やトランスジェニック家畜の生産にとどまらず医療など幅広い分野への応用が期 待できる。本研究では、ウシES(様)細胞の安定した樹立と培養法の確立を目的と し、無血清培地-無フィーダ細胞培養系の検討を行った。

【方法】 ウシES様細胞の樹立は、体外成熟、体外授精、体外発生培養した8〜 9日目の胚盤胞期胚を用い、無血清培地(血清アルブミンおよび数種の細胞成長 因子を含む)とコラーゲン薄膜プレートを使用し行った。樹立細胞の未分化性は、 アルカリフォスファターゼ活性、テロメラーゼ活性、Oct-4遺伝子発現、SSEA-1 抗原発現を調べることにより行った。

【結果および考察】 胚盤胞期胚より内部細胞塊(ICM)-rich分画を分離し、コラ ーゲン薄膜層上に注射針で軽く押しつけて固定し培養すると、培養開始後3〜4日 目で細胞の伸展と活発な細胞増殖が観察され、培養13日目には数千個レベルの細 胞数に達した。樹立細胞の未分化性を検討した結果、アルカリフォスファターゼ 活性、テロメラーゼ活性、およびOct-4遺伝子発現において陽性が確認され、 SSEA-1抗原発現においては陰性であった。これらの結果は、樹立されたICM由来 未分化細胞はES細胞の特徴を持つ細胞であることを示唆している。また、本研究 において確立した無血清培地-無フィーダ細胞培養システムは、ウシ以外の動物種 のES細胞の樹立・培養に適用できる可能性がある。