O1-9 正常ヒト表皮角化細胞で電離放射線により発現変動する遺伝子のDNA チップ法による探索

小池 学、二宮 康晴、潮見 友江、大野 香、小池 亜紀 (放医研 放射線障害)

【目的】放射線は、DNAに損傷を起こすことによりガンや遺伝病等を誘発する。 従って、医療放射線、飛行環境、原子力事故等を主な線源とする放射線の人体へ の影響の解明は安全性評価や放射線防護の実際に即して今後の重要な課題であ る。またヒトの放射線影響のリスク評価の精度向上を図るために、放射線応答機 構に関わる蛋白質の機能や制御機構を分子レベルで解析することが必要とされて いる。我々は、放射線被ばく時の生体応答機構を理解するために、放射線に曝さ れる機会が最も多い臓器、「皮膚」を材料に解析を行っている。今回、放射線皮膚 障害を研究するにあたって、放射線皮膚障害に関与する遺伝子を得ることを目的 に、正常ヒト表皮角化細胞を材料に電離放射線により発現変動する遺伝子をDNA チップ法により探索した。

【方法と結果】細胞は、正常ヒト表皮角化細胞を用いた。KGM培地中で培養後、X 線照射を行い、照射終了後から3-8時間で細胞を溶解し、RNA抽出をしてDNAチ ップ法で解析した。その結果、約120種類の発現変動する遺伝子が見いだされた。 そのうちの約30%がヒト表皮角化細胞で発現誘導あるいは増加型であった。その 中には、既知のアポトーシス関連遺伝子、細胞周期制御関連遺伝子、細胞増殖を 制御するサイトカインやDNA修復に関与する遺伝子等が含まれていた。次いで、 変動した遺伝子については、電離放射線によるmRNAの発現変動の時間依存性、及 び、線量依存性を正常表皮角化細胞と正常表皮線維芽細胞についてノーザン法に より調べた。その結果、両方の細胞で変動する遺伝子に加えて、表皮角化細胞の みで顕著に変動する遺伝子が得られた。他方、DNAチップ法で変化が認められた 遺伝子でも、ノーザン法では確認できない遺伝子があった。現在、ノーザン法で 変動が確認できた遺伝子については、順次、培養細胞や実験動物を使用して遺伝 子機能の解析を進めている。