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テロメラーゼを用いた正常細胞の機能回復 ー再生医療への応用の可
能性ー
田原 栄俊、井出 利憲
(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科 細胞分子生物学研究室)
多くの初代培養細胞は、細胞分裂を重ねるために本来持っている細胞の機能が
減弱してくる。特に、細胞の増殖能、細胞の分化能、受容体の発現、種々の増殖
因子などへの反応など様々な機能障害が生じる。本来、ほとんどの正常細胞は、
分裂寿命をもっているおり、分裂寿命が近づくにつれて様々な機能障害が生じる
ことから細胞寿命を克服することが細胞の機能回復させることに重要であると考
えた。そこで、まず細胞寿命に密接に関わっているテロメアに着目し、テロメア
延長酵素であるテロメラーゼを正常細胞で強制発現させて細胞寿命を延長させる
ことを試みた。用いた細胞は、ヒト繊維芽細胞、ヒト乳腺上皮細胞、ヒト子宮平
滑筋細胞、ヒト胎児由来肝細胞などで、これらの細胞にレトロウイルス法でテロ
メラーゼ触媒遺伝子hTERT遺伝子を感染させた。これらの細胞を、通常の培養条
件で培養したところ、一部の繊維芽細胞を除きすべて通常の分裂限界の3倍以上
培養でき、現在も増殖中である。いずれの細胞も、初代の培養細胞と同等の増殖
速度を回復し、分裂回数を重ねてもその増殖速度を維持していた。これらの細胞
のうち、ヒト子宮平滑筋細胞について、エストロジェンレセプター、プロジェス
テロンリセプターなどの発現を調べたところ、正常細胞よりもその発現が強く
hTERT導入による機能回復が観察された。これらのhTERT導入細胞は、DNA
fingerprinting法による解析では、もとの導入前の細胞と変化がみられなかった。
また、ヌードマウスへの移植でも増腫瘍性はまったくみられなかった。これらの
結果から、正常細胞による様々な機能障害が、テロメラーゼの触媒遺伝子hTERT
の導入によって回復できる可能性を持っていることが考えられる。つまり、テロ
メラーゼを導入した細胞は、細胞本来の持っている機能のポテンシャルが増加し
ていると同時にその機能を維持し続けており、機能の回復が重要である再生医療
などに有用である可能性が考えられた。