O2-10 扁平上皮癌細胞における上皮・間葉移行による悪性化とその分子機構

瀧 雅行、鎌田 伸之、横山 和博、長山 勝 (徳島大学 歯学部 口腔外科学 第一講座)

浸潤様式による山本-小浜(Y-K)分類は口腔扁平上皮癌の予後予測因子として有 用であり、特にY-K分類の中で最も高度な浸潤像を示す4D型癌は有意に予後が悪 い。この4D型扁平上皮癌は境界不明瞭で、胞巣を形成せず、個々の癌がばらば らに浸潤することが特徴である。我々は4D型扁平上皮癌細胞における線維芽細 胞様形態、高い浸潤能、E-カドヘリン発現消失、MMP2および間葉系マーカー vimentinの強い発現、Wnt-4発現消失とWnt-5aの高発現、さらに上皮・間葉移行 (EMT)因子Snailの高発現を見いだし、また上皮様形態を示す扁平上皮癌細胞に Snailを強制発現させるとこれらの遺伝子発現や形態変化が誘導されることから、 4D型扁平上皮癌がEMTを獲得した癌であることを報告してきた。 最近、Snailとは別にSmad interacting protein 1(SIP1)やδEF1などの転写 因子がE-カドヘリンの転写を抑制することが報告されている。本発表において、 我々は4D型扁平上皮癌細胞、およびA431とOM-1にSnailを過剰発現させEMT を誘導した細胞における SIP1とδEF1の高発現を見いだした。SnailとSIP1の 関係をさらに検討するため、TGF-βの影響を検討した結果、TGF-β処理によりA431 とOM-1はSnailの発現変化は示さず、SIP1の発現上昇を示し、さらにvimentin、 MMP2、Wnt-5aの発現上昇、Wnt-4の発現低下を示した。次に、SnailとSIP1の Tet-off発現ベクターを作製しこれを導入したA431細胞で検討した結果Snail発 現誘導によりA431細胞は、線維芽細胞様形態に変化しSIP1、δEF1、MMP2、 vimentin、Wnt-5aの発現上昇とWnt-4の発現低下を示した。これに対し、SIP1発 現誘導では同様にMMP2、vimentin、Wnt-5aの発現上昇、Wnt-4の発現低下を示し たが、δEF1とSnailの発現上昇は認めなかった。 以上より、扁平上皮癌細胞においてはSnailとTGF-βは独立にSIP1の発現を 誘導させること、SnailはSIP1あるいはTGF-βシグナルと協調してEMT誘導機構 を持つことが明らかになった。またこのEMT機構によって扁平上皮癌がより悪性 度の高い癌に変化することが示唆された。