O2-2
延命または不死化ヒト骨芽細胞株の樹立とその機能解析
荒巻 直希、大前 佳史、阿武 久美子、田原 栄俊、井出 利憲
(広島大学 大学院医歯薬学総合研究科)
ヒト体細胞は、テロメア延長酵素であるテロメラーゼが発現しておらず、細胞
分裂の度にテロメアが短縮し、やがて細胞老化と呼ばれる増殖停止状態に至る。
正常ヒト骨芽細胞もテロメラーゼ陰性で、培養系では20〜30回程度しか分裂でき
ない。機能研究では初代培養が用いられているが、多くの解析を行なうことが困
難である。分化機能を維持した延命または不死化ヒト骨芽細胞が得られれば、研
究材料としてだけでなく再生医療の発展にも大きく寄与すると考え、テロメラー
ゼ発現による樹立を試みた。
3種類の異なるロットの正常細胞にhTERTを導入してテロメラーゼを発現させ
たところ、テロメアの延長・維持にもかかわらず1種類だけわずかに延命し、他
は延命しなかった。延命しなかった細胞株の培養条件を低酸素下またはアスコル
ビン酸二リン酸エステル添加によって改善すると、分裂寿命を大幅に延長できた
が、hTERT導入による分裂寿命のさらなる延長は見られなかった。これらの結果
から、テロメラーゼ発現だけではヒト骨芽細胞は不死化できないと考えられた。
そこで、SV40 large T antigen(T抗原)を導入して増殖抑制機能を不活化し、さ
らにhTERTを導入したところ、すべてのクローンが不死化した。このことから、
ヒト骨芽細胞の不死化には、テロメラーゼの発現だけでなく、増殖抑制機能の失
活も必要であることが分かった。今回樹立した延命または不死化細胞株のいくつ
かは、アルカリフォスファターゼ活性や石灰化といった骨芽細胞としての分化能
を維持していた。