宮崎 正博、間阪 拓郎、秋山 一郎、許 南浩
(岡山大学 大学院 医歯学総合研究科 細胞生物学分野)
骨髄は血液細胞以外に、骨格筋、心筋、血管内皮、肺、表皮、腸管上皮細胞、
神経などさまざまな細胞に分化する能力を有する幹細胞を含む。最近、骨髄細胞
がin vivoおよびin vitroにおいて肝細胞に分化することが明らかとなった。こ
の骨髄由来肝細胞を応用した肝疾患細胞治療法を確立するためには、これらの細
胞を培養内で大量生産することが重要である。細胞の増殖および分化は、増殖因
子やサイトカインなどにより調節される。我々は、肝臓の発生や再生において重
要な役割を有する肝細胞増殖因子(HGF)に注目し、その効果を検討してきた。
我々は先ず、骨髄にはHGF受容体(c-Met)および胎児肝細胞のマーカーであるα
‐フェトプロテインを発現する細胞が約3%の割合で存在すること、またこれらの
大部分がCD34、Thy-1、c-Kitのような造血幹細胞マーカーを発現することを見出
した。HGFおよびEGFを添加したHGM培地にて骨髄細胞を培養したところ、2週
目までに初代肝細胞に類似した上皮様細胞のコロニーが出現した。これらの細胞
はアルブミン陽性に染色され、またこれらを含むディッシュから肝細胞の最終分
化マーカーであるtryptophan-2,3-dioxygenase (TO)およびtyrosine
aminotransferase (TAT)のmRNAがRT-PCRにより検出された。培養34〜41日目に
上記のコロニーより上皮様細胞集団をパッチ状(2 mm×2 mm)に切り取り、24穴
プレートに移して継代培養した。その後、順次大きなディッシュへと植え継いだ
結果、少なくとも111日間の培養で10 PDLまで増殖した。これらの細胞はアルブ
ミン陽性であり、またTOおよびTAT遺伝子を発現することが確認された。上記の
ように、本培養系は骨髄由来肝細胞を少なくとも1000倍に増幅させることが可能
であり、肝細胞供給に有用であると思われる。