帯刀 益夫
(東北大学 加齢医学研究所)
造血組織内の間質細胞は、造血幹細胞の自己複製と多分化能を維持するための造血微小環境を提供していると
考えられている。 われわれは、造血微小環境の細胞生物学的理解のため、不死化遺伝子導入マウスの骨髄など
の造血組織から多数の多様な機能をもつ間質細胞株を樹立し、これら樹立した間質細胞株を用いてin vitro での
造血微小環境の再構築を試みた。そして、これら間質細胞株はその造血組織の性状を反映し、造血前駆細胞に対
して選択的な支持機能を示すこと、また、造血幹細胞に対しても間質細胞株ごとに支持機能に差があり、骨髄間
質細胞は、造血幹細胞の分化方向の決定や前駆細胞の増幅に対して、多様な能力を示すことが分ってきた。さら
に、これら樹立した間質細胞株と、分画した造血幹細胞の共培養系から、間質細胞依存的に増殖する造血幹細胞
株の樹立を試み、いくつかの未分化な血液細胞株を樹立した。その中で、未分化血球細胞株THS119は、細胞表面
マーカーや転写因子等の発現からも幼若な血球細胞株であると予想され、未分化血球細胞と間質細胞の一対一の
相互作用を解析する上で有用であると思われた。また、Dexter型長期骨髄培養系から樹立したDFC-28細胞は、共
培養する間質細胞株を変えることで、未分化状態と分化した状態を可逆的に転換できることが分り、間質細胞と
の直接的な相互作用により、未分化血球細胞の可逆的な分化の制御が行われている可能性が示唆された。
樹立した骨髄間質細胞株は間葉系幹細胞の性質も有しており、脂肪細胞、骨細胞、筋細胞へと分化できる多能
性幹細胞もあることが分ってきた。また、血液細胞が産生している因子が間質細胞の間葉系分化誘導を制御する
ことも分り、造血微小環境内では、血液細胞と間質細胞の間で双方向シグナルによる制御が行われていることが
予想された。