宮崎 香
(横浜市立大学 木原生物学研究所)
多様な細胞外基質(ECM)は組織の物理的支持体として機能するのみならず、接着、移動、増殖、細胞死など、
細胞の基本的な機能を調節している。一般にECM分子は巨大でかつ調製が困難であるため、一部の分子を除いて
その機能解析は十分に行われていない。しかし最近、個々のECM分子の生理活性や受容体との相互作用により誘
導される細胞内シグナルの特徴が明らかになりつつある。本講演では、ラミニン5(LN5)を例として、ECM分子
による細胞機能の調節機構を紹介する。
ラミニンはα鎖、β鎖、γ鎖からなる約600kDaの糖タンパク質で、上皮、神経、筋肉、血管などの基底膜にお
いて各種細胞の極性や分化機能を調節している。約15種類の既知ラミニン分子のうち、LN5(α3β3γ2)は皮膚、
消化器、肺などの上皮基底膜に存在し、その遺伝性疾患(HJEB)では全身の表皮が剥離する致死性の症状を示す
ことが知られている。LN5は他のラミニン分子やECM分子に比べて、特に強い細胞接着活性と細胞運動活性を示す。
これらの活性は主としてα3鎖C末端領域に存在するG3ドメインとインテグリンα3β1/α6β1の相互作用によ
って調節されており、G3ドメイン内には接着活性と運動活性に必要な異なる領域が存在する。しかし、LN5の活
性はβ鎖/γ鎖の違いやα3鎖/γ2鎖のプロテアーゼによる限定切断によっても大きく影響される。最近、LN5が
細胞外基質としてのみならず、可溶性因子として細胞表層のインテグリンに結合し、細胞運動を促進することが
明らかになった。この作用は、LN5が創傷治癒における細胞移動に関係することを示唆する。このようなLN5の分
子機能解析の結果に加え、がん転移への関与、再生医療への応用性についても報告する。