S1-6
細胞の可塑性(EMT過程と間充織細胞の分化形質転換能)の制御に関与する遺伝
子機能の解析
柴沼 質子
(昭和大学 薬学部 微生物薬品化学)
我々は、培養細胞を用いてTGFb1誘導性遺伝子を単離し、それらの機能について、EMT(epithelial-mesenchymal
transition)過程、及び間充織細胞が成体において示す分化形質転換能に注目して解析を続けている。中でもHic-5
は、上皮細胞では一般にその発現が低い一方、結合組織由来培養細胞や、in vivoの平滑筋細胞で発現が高く、繊
維芽細胞では老化様形態の誘導、細胞の運動性(伸展、収縮能)の制御に関与し、また筋芽細胞、骨芽細胞では、
その分化能に影響を与える。一方最近in vitro のEMTモデルにおいて、Hic-5の発現が顕著に誘導されること、
誘導されたHic-5がフィブロネクチン、MMP(メタロプロテアーゼ)13の誘導など一部の中胚葉形質の誘導に関与
する可能性を見出した。Hic-5は細胞接着斑と核をシャトルしているLIM蛋白質で、接着シグナル関連分子、及び
核内でp300、Sp1、Smad3と相互作用する。さらにHic-5は、自身や、アクチン細胞骨格と核に両局在する他のLIM
蛋白質とオリゴマーを形成する。これらLIM蛋白質は核内では転写共役因子として機能することから、Hic-5は、
これら因子との細胞質、核での相互作用により、細胞外環境変化に応じて遺伝情報をリセットする機能を有して
いる可能性が考えられる。
また、差し引きハイブリダイゼイションにより、EMTで過程で誘導されてくる遺伝子を新たに単離、解析したと
ころ、いくつかの既知遺伝子とともにJTB(jumping translocation point)遺伝子が単離された。この遺伝子は
癌では顕著な発現の低下を示し、βカテニンシグナルを負に制御する分泌蛋白質であることが示唆された。今後、
さらにこれら遺伝子の機能を解析し、細胞の持つ可塑性に関して、その制御機構の一端を分子レベルで理解する
ことを目指したい。