S-1

人工染色体導入による細胞の形質転換

池野 正史

藤田保健衛生大学 総合医科学研究所,NEDO

 

ヒト染色体セントロメア由来のI型アルファサテライトDNAを含む構築体をヒト培養細胞株HT1080に導入することによりヒト人工染色体(HAC)をde novoに構築できる。HACは細胞染色体と同調して複製・分配され、細胞あたり1コピーを保つ。一般にヒトやマウスの安定形質転換細胞を得るには、外来遺伝子を細胞染色体上のランダムな位置に挿入させるので、細胞への変異誘発や導入遺伝子の発現抑制が起こる。HACは細胞染色体とは独立に存在するために、HACをベクターとして利用できればこのような問題を解消できる。さらにHACにはウイルスベクターのように導入遺伝子の長さに制限がなく、大きな遺伝子領域を挿入可能なために、外来遺伝子の生理的発現が期待できる。そこで、150キロ塩基対からなるヒトβグロビン遺伝子群を持つHACを構築し、微小核融合法によりマウス胚性幹細胞に移し、HAC保有マウス個体を作成した。個体内の遺伝子発現様式を調べた結果、HAC上のβグロビン遺伝子は血球細胞特異的な発現様式を示した。HACの保持に必須なセントロメアの近傍は遺伝子発現を抑制する性質を持つが、グロビン遺伝子領域内のインスレーター配列により、HACからの遺伝子発現が保証されたと考えられる。人工的に構築した遺伝子カセットをHACに簡便に挿入でき、その遺伝子を効率良く発現させうるシステムの確立を目的として、βグロビンのインスレーター配列を配置した挿入部位を持つHACを構築した。HACに挿入したEGFP遺伝子は、全ての細胞で均一に発現し、通常の安定形質転換株の場合と比較すると十倍程度高い蛍光量が検出された。これらの結果から、HACを遺伝子導入ベクターとして利用することは、細胞の形質転換方法に新たな道を開くことになると期待できる。


 

S-2

中枢性尿崩症の遺伝子治療に関する基礎的検討

吉田 昌則1,2

1名古屋大学病態内科学講座代謝病態内科学、2トヨタ記念病院内分泌科

 

中枢性尿崩症(CDI)は、視床下部ホルモンであるバゾプレシン(AVP) の分泌不全を原因とする疾患で、一日10Lにも及ぶ著しい多尿を特徴とする。我々はCDIを対象として、遺伝子治療によるホルモン補充療法の試みを行ってきた。一般にCDI患者の視床下部AVP産生細胞は既に変成脱落しているため、このようなhomologousな細胞にAVP遺伝子を導入しても、その発現は不可能である。そこで、本来AVPを発現していない細胞で、AVPを発現させる必要が生じてくる。我々は、CDIモデル動物であるBrattleboro rat において、AVP遺伝子を導入した内分泌細胞の皮下移植、non-viralな手法による骨格筋への直接AVP遺伝子導入の2種類の方法で、in vivoにおける抗利尿効果を解析した。また薬物誘導性ON/OFF Systemを用いた発現制御の可能性も検討した。その結果、(1)甲状腺C細胞株にAVP遺伝子を安定性に導入して、Brattleboro rat に皮下移植したところ、最大6ヶ月間尿量の正常化を認めた。またtetracyclineやglucocorticoid応答配列を有するプロモーターを用いたAVP遺伝子の発現調節が可能であった。(2)筋肉組織などの非内分泌細胞では、プロセシング酵素が発現しておらず、AVPは適切なプロセシングを受けることができない。そこで、ubiquitousに発現するペプチダーゼfurinにてプロセスされるよう改変した発現システム(furin切断型ベクター)を考案し、電気的穿孔法により、下肢骨格筋に直接遺伝子を導入した。尿量・尿浸透圧・飲水量はいずれも著明に改善し、血中 AVPの上昇も確認された。この有意な抗利尿効果は約3週間持続した。今回開発したgene/cell therapyの手法は、AVPをはじめとする神経ペプチドホルモンの補充療法に応用可能と考える。


 

S-3

hTERTの導入により延命した細胞を用いた研究

井出 利憲

広島大学 大学院 医歯薬学総合研究科

 

正常なヒト体細胞には分裂寿命があり、培養するだけで不死化した例はほとんどない。現在までに、100を超えるヒト初代培養体細胞についてテロメラーゼ遺伝子(hTERT)を導入した結果、間葉系・上皮系を問わず、また、多くの遺伝病患者細胞を含めて大部分が不死化することがわかった。不死化しなかった例外的な細胞の一部は、通常酸素濃度での培養では酸素毒性が蓄積するための増殖停止と考えられたが、別の遺伝子の変化が不死化に必要と考えられた例もあった。不死化細胞のほとんどは、増殖速度、増殖因子依存性、接触阻止能、足場依存性などは正常性を示し、分化形質についても遺伝子発現や形態維持・形成など概略的には正常細胞としての性質を示している。一例を言えば、ヒト肝実質細胞を培養系で分化機能を維持させながら自由に増殖させることがほとんど困難であったが、アルブミンやp450を初めとする様々な分化機能遺伝子の発現を維持しつつ無限に増える肝細胞株の培養が可能になったことの意義は小さくない。正常細胞の細胞株として、細胞機能の解析や毒性試験などのインビトロでの利用は直ちに可能である。少し先には、チェンバーを利用した代換え臓器や体内埋め込みを含めたインビボ利用に供せられる可能性もある。ただ、導入細胞を直接ヒトに戻す再生医療については、癌化への危険性が排除されていない現状では慎重を要する。最近になって、hTERT導入は、カルチャーショックによる早期増殖停止も乗り越えさせるだけでなく、ゲノムの恒常性維持や、遺伝子発現、アポトーシス感受性などについても意外な影響を持つ可能性が示唆される結果を得た。これがhTERTを人工的に導入したための異常なのか、本来hTERTを発現している幹細胞や初期胚細胞にも見られることなのかは今後検討の必要がある。


 

S-4

遺伝子導入による胚性幹(ES)細胞の機能的神経細胞への分化誘導

中山 泰亮

藤田保健衛生大学 総合医科学研究所 応用細胞学研究部門,BV

 

胚性幹(ES)細胞は種々の培養条件により神経細胞へ分化させることができるが、様々なタイプの神経細胞を作り分けるまでには至っていない。近年、神経分化を制御する多くの転写因子が同定されており、それらの発現領域・タイミングは個体の正常発生の過程で厳密に調節されていることが明らかになっている。本研究は、神経分化に必要な転写因子の遺伝子をES細胞に導入することにより特定型の神経細胞へ分化誘導し、これを生体に移植し、神経細胞として機能する条件を確立することに主眼を置き、脳・神経疾患の再構成治療への応用、さらには神経分化や脳構築の分子機構解明に貢献することを目的とする。 神経分化にかかわるbasic helix-loop-helix (bHLH)型転写因子の発現ベクターをマウスES細胞に一過性導入すると、ES細胞は神経細胞様の形態を示し、種々の神経特異的マーカーを発現した。とくにMash1、Neurogenin1およびNeurogenin2を導入したES細胞の形態変化は著しく、Neurogenin2導入細胞においては神経伝達物質としてGABAが確認された。また、内因性bHLH遺伝子の発現を解析したところ、マウスES細胞においてMash1およびNeurogenin1の発現は未分化状態においても見られるが、Neurogenin2は遺伝子導入後一過性に発現するという特異なパターンを示した。さらに、Neurogenin2導入ES細胞は、遺伝子導入後1週間で活動電位を示した。以上のことから、遺伝子導入によりES細胞を機能的な神経細胞に分化させることが可能であることが示された。 一方、神経分化を誘導する新たな転写因子の探索を進めており、我々はZnフィンガーを持つ転写因子NZFファミリーに注目している。NZFファミリーはbHLH型転写因子と相乗的にES細胞の神経分化を誘導することを見出したので合わせて報告する。


 

S-5

ES細胞における外来遺伝子発現制御技術とその応用

丹羽 仁史

 理化学研究所 発生再生科学総合研究センター 多能性幹細胞研究チーム

 

マウスES細胞は、個体レベルで種々の遺伝子操作を施すための媒体として、これまで広く用いられてきた。だが、再生医学への応用を目指したインビトロ分化系の開発は、一方ではマウスES細胞を用いたインビトロ発生学研究を可能にしつつある。このような展開の中で今後必要とされるのは、ES細胞レベルでの外来遺伝子発現や機能欠失を簡便に行える技術の開発である。我々はこれまでに、マウスES細胞を用いて、細胞の分化多能性を維持する分子機構の研究を行ってきた。このような研究に於いては、ES細胞レベルでの遺伝子機能解析実験が不可欠であり、必然的に研究のかなりの部分をマウスES細胞における遺伝子操作技術の開発に費やしてきた。この過程で、最初に問題になったのは、マウスES細胞においてはゲノムに挿入された通常のデザインの外来遺伝子は数回の継代中に不活性化されてしまうこと(サイレンシング現象)である、我々はこの解決法として、(1)染色体に組み込まれないエピゾーマルベクターの開発、(2)サイレンシングを受けにくいCpG islandを含むハウスキーピング遺伝子プロモーターの同定、(3)サイレンシングを受けた細胞を効率よく排除できるIRESを用いたベクターの開発、を行った。また、効率よく遺伝子破壊を行うために、(4)種々のプロモーターレスノックアウトベクター作成用の薬剤耐性遺伝子カセットを作成し、さらに(5)効率よくダブルノックアウト細胞を得るための選別法を開発した。さらには、(6)種々の誘導的発現制御方法の応用も進めている。我々はこれら(1)〜(6)の方法を組み合わせることにより、転写因子Oct-3/4の用量依存的効果を見出し、またGata6やCdx2が胚体外組織への均一な分化を誘導できることを証明した。これらの方法の有用性について、それぞれ使用例を挙げて紹介したい。


 

TS –1

RNAi技術のタンパク質研究への応用

脇山 素明,横山 茂之

理化学研究所 ゲノム科学総合研究センター タンパク質構造・機

能研究グループ

 

RNAiは、配列特異的にmRNAが分解されることによって、遺伝子発現が抑制される現象で、標的mRNAと同一の配列をもつ二本鎖RNA(dsRNA)によって誘導される。 これでまでに線虫、ショウジョウバエ、植物、哺乳動物細胞など、様々な生物種において確認されている。 最近3年間に、RNAiは、簡易的で効果の高い遺伝子ノックダウン法として、多くの研究者に用いられるようになった。

理化学研究所ゲノム科学総合研究センターのタンパク質構造・機能研究グループでは、平成14年度より開始したタンパク3000プロジェクトの中で、タンパク質の立体構造解析とともに、その機能の解析を行っている。

本テクニカルセミナーでは、実際のRNAi実験について、当グループで行った研究例を中心にお話する。


 

TS –2

ルシフェラーゼテクノロジーを応用した新しいsiRNAの抑制効果評価システム

本間 直幸

プロメガ株式会社 テクニカルサービス部

 

RNAi (RNA interference; RNA干渉) は二本鎖RNAが引き起こす配列特異的なmRNAの分解により、特定の遺伝子発現が抑制される現象です。このRNAiは様々な生物間で保存されたシステムとして注目されています。インターフェロン応答による影響から困難とされていた哺乳動物細胞系においても、短い二本鎖RNA (siRNA) を用いることによりRNAiが観察されて以来、RNAiは創薬、医療分野への応用も期待されています。合成RNAの細胞内導入やベクター系を用いたsiRNAの産生など様々な手法を用いたRNAiの誘導が試みられている一方で、RNAi評価系、すなわち導入したsiRNAの発現抑制効果を判定する手段は、western blot法など、その方法が限られているのが現状です。

この度、プロメガでは高感度アッセイシステムとして実績のある「ルシフェラーゼテクノロジー」を新たにRNAiの評価系に応用したRNAi効果判定用レポーターベクター (siCHECKTM Vectors) の開発に成功しました。このsiCHECKTM Vectorsを用いたアッセイでは、標的遺伝子と融合されたレポーター遺伝子 (hRluc:ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子) の発現変化をモニタリングします。細胞内に同時に導入したsiRNAが標的遺伝子に対して効果的であれば、標的遺伝子のmRNAの切断に続き、hRlucのmRNAが分解されます。これに伴う、ルシフェラーゼ活性変化をモニターすることで、簡便に、しかも高感度にRNAiを検出することが可能になります。本会ではこのsiCHECKTM Vectorsの特長に加え、本ベクターを用いたトランスフェクション効率の補正システム系の開発、及び、経時的なRNAi効果のモニタリングに適した生細胞用RNAiシステム系の構築に関してご紹介いたします。


 

TS –3

ヒト細胞のジーンターゲティング

小山 秀機

横浜市大・木原研

 

15年前に開発されたジーンターゲティング法は、動物細胞や個体における遺伝子機能を解析する強力なツールとなっている。また、将来、ヒトでは変異遺伝子を正常遺伝子にもどす理想的な遺伝子治療法へと発展する可能性が期待されている。しかし、現在、マウス胚幹ES細胞とニワトリDT40細胞を除いて、他の細胞系でジーンターゲッティングを行うことは容易ではない。にもかかわらず、ヒト細胞を用いたジーンターゲティング法の開発に向けて、いろいろの試みがなされている。そこで、ヒト細胞におけるジーンターゲティング法の最近の進歩について、我々の経験を中心に、以下の項目にそって述べてみたい。

1、 細胞株の選択

2、 ターゲティングベクターの作製

3、 トランスフェクションと薬剤選択

4、 コロニー分離、保存、DNA解析

5、 ヘテロ変異株からホモ変異株の分離

6、 関連技術


 

O1-1

マウス骨髄から採取した多能性幹細胞の神経細胞への分化誘導

秋山 秀彦1,3,鳥羽 慎也3,徳永 恵津子2,江崎 幸治2,丸野内 棣3

1藤田保健衛生大学 衛生学部 臨床血液学2藤田保健衛生大学 医学部 内科学3藤田保健衛生大学 総合医科学研究所 応用細胞部門

 

【目的】ヒトおよびマウス骨髄中に存在する間葉系幹細胞(MSC:mesenchymal stem cell)は、外胚葉由来の神経細胞や内胚葉由来の肝細胞にも分化することが報告され、成体多能性幹細胞(MAPC : multipotent adult progenitor cell)と命名されている。今回はマウス骨髄から骨髄細胞を採取後、特殊な培養条件下でクローニングを行って細胞株を樹立し、神経細胞への分化誘導実験を行ったので報告する。【方法】培養液はMAPC expansion mediumとして、60% low-glucose DMEM40% MCDB 201に、B27dexamethasoneascorbic acid 2-phosphate2%FBSpenicillinstreptomycinを添加した。さらに、EGFPDGF-BBLIFも添加した。マウス骨髄より細胞を採取後、磁気細胞分離システムを使用し、CD45(成熟白血球)およびTer-119(赤芽球)マイクロビーズを添加して、その陽性細胞を除去した。その後、FN(fibronectin)でコーティングした培養皿に細胞を播種し、増殖した細胞を96ウェル培養皿においてクロニーングした。【結果】クローニングして得られた細胞は、CD13()CD44()CD45()CD90()であり、細胞周期の解析ではG0/G1(72.8%)S(6.0%)G2/M(21.2%)であった。神経細胞への分化誘導は、培養液中のFBSEGFおよびPDGF-BBを除いて以下の条件下で分化誘導を行った。1 BHA(butylated hydroxyanisole) 200μMを添加後5間処理した。2 b-FGF (fibroblast growth factor;100ng/ml )単独およびbFGF + RA(retinoic acid; 10μM)の同時添加後14日処理した。分化誘導実験1および2ともに、細胞は突起を伸ばした神経細胞様細胞に変化が認められた。また、RT-PCRにおいて、Ngn1およびNSEの発現増加を確認した。【結語】マウス骨髄細胞より樹立したMAPCにおいて、神経細胞への分化誘導を確認した。今後は、その誘導メカニズムを解析する予定である。


 

O1-2

成熟ラット骨髄由来の脂肪前駆細胞の分離と肝細胞への分化誘導
宮崎 正博,間阪 拓郎,秋山 一郎,富山 浩司,許 南浩

岡山大学大学院 医歯学総合研究科 細胞生物学分野

 

ミネソタ大学の研究グループは、ヒト、マウスおよびラットの骨髄から、高い増殖能を有し、内皮、神経、肝細胞など様々な細胞へ分化する多能性成体前駆細胞 (MAPC) を分離し、さらに筋肉や脳からも同様の細胞を分離し得ると報告した。その後、東海大学の研究グループが健康なドナーの凍結骨髄単核細胞からMAPCを分離した。我々は独自に、ラット骨髄細胞の培養過程で出現する脂肪細胞集団の中に高い増殖能を有する細胞を見いだし、長期継代培養に成功した。さらに限外希釈法により、形態の異なる数種類の細胞クローンを分離した。母細胞を含め、この細胞クローンを上記のMAPC培地に2%牛胎児血清、EGF、PDGF-BBおよびフィブロネクチンを添加して培養すると、3〜4日毎の継代培養で安定した増殖 (3〜4 PDLの増加) を続け、165~307 PDLで正二倍体性を確認した。これらの細胞はCD34、Thy-1、c-Kitのような造血幹細胞マーカーを発現しないが、脂肪生成関連の転写因子(PPAR-γ)、脂肪合成酵素(FAS、GPAT)、脂肪分化マーカー(LPL、ALBP、Adipsin)遺伝子を発現する。この細胞を同培地に2%牛胎児血清、HGFおよびFGF-4を添加してコラーゲン上で培養すると、上記の脂肪関連遺伝子の発現が増強するとともにResistin、Leptin遺伝子を新たに発現し、細胞質に大量の脂肪を蓄積した。同じ細胞を、培養基質をマトリゲルに変えて4〜7日間培養すると、アルブミン、α‐フェトプロテイン、G6Pase、TO、TAT、CK-8、CK-18等、肝細胞特異的な遺伝子を発現した。分化効率は各クローンで異なるが、一部のクローンでは高率に肝細胞特異的遺伝子を発現するに至る。本実験系は、多能性細胞の分化制御機構を解析するのに好適であると同時に、将来肝再生医療技術を開発するための有用な細胞モデルであると考える。


 

O1-3

ブタ肝非実質に由来するCD34, c-kit ならびにCK-19を発現するクローン性細胞の分化能

常盤 孝義,山崎 泰助,築山 節

財団法人 河野臨床医学研究所 肝細胞学研究室

 

【目的】我々は先に、ブタ肝非実質の初代培養において3日目にスカッタリングを認めた上皮性細胞が、その後のコロニー形成において肝あるいは胆管上皮性細胞に分化しうることを報告した。我々は、今回、上記のスカッタリング細胞が肝細胞分化の系譜のどの段階にあるかを明らかにする目的で、スカッタリングを認めた細胞からクローン細胞を分離し、それらについて造血幹細胞とオバール細胞のマーカーを精査するとともに、肝細胞への分化能を調べた。【方法】成熟ブタ肝組織を酵素処理し、細胞浮遊液を肝実質細胞画分と非実質画分に分離し、非実質画分を初代培養した。3日目にスカッタリングを認めた上皮性細胞を釣り上げ、クローニングし、クローン細胞系を得た。分析はRT-PCR法 と免疫染色法によった。【成績】非実質細胞画分から上皮性の11系のクローン細胞を分離培養し、その中、4系について以下の結果を得た。1) 4系とも、造血幹細胞のマーカーであるCD34ならびにc-kitの発現を認めたが、alpha-fetoproteinあるいはalbuminの発現を認めなかった。2) 2/4系において、CK-19の発現を認めた。以上の結果から、4系のうち、CK-19+ クローン細胞、CL-11 とCK-19-クローン細胞、CL-16 について分化能を比較検討した。3) CL-11、CL-16共、単層培養では、HGF 、Oncostatin Mなどの増殖因子添加によってもalbuminの発現を認めなかった。4) CL-11は、細胞凝集塊の形成においてalbuminを始め、他の肝マーカーの発現を認めたが、CL-16では認められなかった。【結論】オバール細胞はalpha-fetoproteinやCK-19の他、造血幹細胞のマーカーを発現し、造血幹細胞由来説がいわれている。今回の結果は、スカッタリングを認めた上皮性細胞が、造血幹細胞とオバール様細胞の中間的な性質を有する肝プロジェニター細胞である可能性を示唆している。


 

O1-4

ピリミジン化合物MS-818はES細胞の血管内皮への分化と血管内皮前駆細胞の骨髄からの動員ならびに分化を促進する

金村 昌徳1,2,安部 まゆみ1,佐藤 靖史1

1東北大学加齢医学研究所 腫瘍循環研究分野2大阪医科大学 産婦人科学教室

 

【目的】成体内における血管新生の機序には、従来の「既存の血管からの血管新生」と、最近明らかになった「骨髄より動員された末血中の血管内皮前駆細胞(EPC)による新生血管の構築」の2つが考えられている。このEPCは下肢閉塞性動脈疾患への治療応用が試みられ、成果が報告されている。ピリミジン化合物であるMS-818は、血管新生、創傷治癒、神経軸索細胞の増殖などに対する促進作用が報告されており、再生医療への応用が期待されている。しかし、その作用機序については不明な点が多い。そこで今回、MS-818の胚性幹(ES)細胞の血管内皮への分化、およびEPCに対する作用について検討したので報告する。【方法】ヒト臍帯静脈内皮細胞およびウシ毛細血管内皮細胞を用いて、MS-818の血管内皮細胞の増殖、遊走、管腔形成に対する効果を検討した。さらにそれらのシグナル伝達系も解析した。次に、ES細胞の血管内皮への分化とEPCの分化に対するMS-818の作用を、マウスES 細胞株、MG1.19とフィーダー細胞のOP9 との共培養系ならびに骨髄細胞の培養系を用いて検討した。最後にMS-818をマウスに腹腔内投与し、末血中へのEPCの動員に対する効果をみた。【結果】内皮培養細胞系では、MS-818は有意な増殖刺激は見られないものの、遊走ならびに管腔形成を有意に促進した。シグナル伝達系では、Erk1/2のリン酸化を促進するもAktのリン酸化には影響が見られなかった。また、ES細胞の血管内皮への分化誘導を促進し、骨髄細胞の培養系で血管内皮に分化する細胞数が有意に増加した。さらに腹腔内投与により末血中へのEPCの動員が促進された。以上のことから、MS-818は血管内皮細胞に直接作用するだけでなく、EPCの動員、血管内皮への分化促進作用を有すると考えられ、成体内における血管再生治療への応用の可能性が示唆された。


 

O1-5

神経幹細胞分化に対する細胞外マトリックスの影響

里 史明、葛巻 直子、成田 年、鈴木 勉、輪千 浩史、瀬山 義幸

星薬科大学

 

【目的】神経幹細胞は中枢神経系のほぼ全域に存在することが知られているが限られた場所以外ニューロン新生は起こらないとされている。このことは神経系の分化に際し、その微少環境が大きく影響することを示唆している。ラミニン、コラーゲンなどの細胞外マトリックス(ECM)は、細胞の接着、増殖、分化に影響することが知られている。そこで我々は、各種ECMを用い神経分化に対する影響を検討した。【方法】マウス由来神経幹細胞(MEB 5)を10 ng/mL EGF存在下で培養し形成したneurosphereを各種ECM(フィブロネクチン、poly-D-lysine、ラミニン、I型コラーゲン、IV型コラーゲン)でそれぞれコートした8 well chamberを用いEGF含有(EGF-DMEM)または非含有培地(DMEM)で8日間培養した。またEGF-DMEM、DMEMにそれぞれ脳由来神経成長因子(BDNF)またはインターロイキン6(IL-6)を処理し同様に培養した。その後、抗MAP-2、GFAP抗体を用い蛍光免疫染色し位相差蛍光顕微鏡で観察した。【結果・考察】ラミニン、IV型コラーゲンコートで強い細胞接着と細胞増殖が認められ、蛍光免疫染色の結果から無血清のDMEMで培養した時、アストロサイト(Ast)への分化を強く誘導した。またBDNF処理によりニューロン(Neu)への分化を誘導したが、IL-6処理ではアストロサイトへの分化を誘導した。BDNF処理、IL-6処理共にEGF非存在下では、EGF存在下に比べNeu,Astへの分化を強く誘導した。以上のことからMEB 5の神経細胞分化への誘導には、基底膜成分を用いて培養することが効果的であり、基底膜成分上で培養したMEB 5を種々の分化誘導因子で処理することにで、選択性の高い神経細胞分化を誘導する可能性が示唆された。


 

O1-6

霊長類ES細胞アルカリフォスファターゼ(ALP)活性の新規測定方法の開発

岡本 玲子1,末盛 博文2,中辻 憲夫2,仁藤 新治3,近藤 靖3,鈴木豊3,浅香 勲1

1旭テクノグラス ライフサイエンスセンター,2京都大学 再生医科学研究所、3田辺製薬 先端医学研究所

 

霊長類ES細胞は、マウスES細胞と異なり細胞同士を完全に解離すると培養の継続が困難になるため、十数個から数十個程度の細胞塊で継代する必要がある。またフィーダー細胞と共培養されているため、培養途中でES細胞量を把握することが困難であった。そこで、未分化なES細胞でALP活性が高いことに着目し、カニクイザルES細胞を材料としてES細胞を生かしたままALP活性値を測定し、おおよその細胞数を把握できる測定方法の確立を試みた。高い感度を得るため、測定基質として4-methylumbelliferyl phosphate(4-MUP)を選択し、反応Bufferの組成や量、pH、反応時間、反応停止液の組成について検討した。その結果、pH=8.2のEPPS Bufferを用いることで、緩衝能が高く細胞障害性が低い反応系が確立でき、細胞を生かしたまま測定することが可能となった。また、反応停止液組成の検討の結果、1Mのリン酸塩を加えた100mM EPPS Bufferを用いることで効果的に反応を停止することができ、測定作業の時間差による誤差を抑えることができた。さらに、今回確立された測定方法を用いて、播き込み細胞濃度が異なるES細胞のALP活性値を測定し、細胞数と活性値の相関性を検討した結果、ほぼ直線の比例関係になることが確認された。また異なる組成の凍結保存液で保存したES細胞を再培養後2,4,6,7日目のALP活性値を測定し、細胞数も測定して、それらの結果が相関することが、確認された。以上の結果より、細胞数を測定する代わりにALP活性値を測定することで細胞数の比較が可能であることが示された。また、同一サンプルを連続測定することで、細胞の増殖を把握することができることが確認された。本法は霊長類ES細胞を生かしたまま連続で測定することが可能であり、今後増加する霊長類ES細胞の研究に有用な手法と考えられる。


 

O1-7

TGF-β1により誘導される上皮・間葉系形質転換への活性酸素の関与

森 一憲,石島 孝広,野瀬 清,柴沼 質子

 昭和大学 薬学部 微生物薬品化学教室

 

活性酸素(ROS)は、NADPH oxidaseやミトコンドリア呼吸鎖などから細胞内に産生され、生体高分子を修飾し、細胞に障害をもたらす。その一方で、ROSはある種のサイトカインの刺激でも細胞内に産生されることが知られており、それらのシグナルの一端を担う例も多数報告されたことから細胞内シグナル伝達因子として注目されている。以前、我々はTGF-β1刺激によって細胞内の過酸化水素産生が促進され、この過酸化水素が細胞内セカンドメッセンジャーとなっていることを示した。今回、ROSシグナルの生物学的意義のさらなる探索の一環として、TGF-β1で誘導されるepithelial-mesenchymal transition(EMT)に着目し、活性酸素の関与を検討した。本研究では、マウス乳腺上皮細胞(NMuMG)にTGF-β1処理により誘導されるEMTをモデル系として用いた。まず、活性酸素の関与について、細胞内の活性酸素産生系のNADPH oxidase、NO合成酵素などの阻害剤を処理し、細胞形態を観察した。TGF-β1処理により細胞は上皮様から繊維芽細胞様へと形態を顕著に変化させるが、NADPH oxidase阻害剤であるDPI(diphenyleneiodonium)とミトコンドリア呼吸鎖阻害剤であるRotenoneによって、EMTに伴う形態変化が抑制された。さらに遺伝子発現をreal-time RT-PCR法で調べたところ、DPIとRotenonはEMTに伴う遺伝子発現も抑制していた。また、ROS消去剤も同様にEMT過程を抑制した。このことから、NADPH oxidaseやミトコンドリアから放出されたROSがTGF-β1によるEMT誘導のセカンドメッセンジャーとして機能していることが示唆された。一方、NMuMGに過酸化水素を処理し、検討を加えたところ、過酸化水素処理により、NMuMG細胞の形態は繊維芽細胞様に変化した。この変化には、E-cadherinの細胞内局在変化やintegrin、metalloproteinaseなどの発現変化を伴った。そのうち一部は、TGF-β1誘導性EMTにおいて発現変化がみられる遺伝子群と一致した。以上の結果より、TGF-β1誘導性EMTにおいて細胞内に産生されたROSがEMTシグナルの一端を担っていると考えられた。


 

O1-8

TGFbによるヒト正常表皮角化細胞の増殖制御機構:PKCaS100C/A11を介する新しい信号伝達経路

阪口 政清1,宮崎 正博1,曽根川 裕之1,柏木 麻里子2,大場 基2,黒木登志夫3,難波 正義4,許 南浩1

1岡山大学 医歯学総合研究科 細胞生物学分野2昭和大学 腫瘍分子生物学研究所3岐阜大学4公立新見短期大学

 

我々は先に、高Caによるヒト表皮角化細胞の増殖抑制が、S100C/A11のリン酸化、核移行、Sp1の活性化によるp21(WAF1/CIP1)の誘導という新しい信号伝達経路を介することを報告した(JCB, 163:825-835, 2003)。本研究では、ヒト表皮角化細胞に対するもう一つの代表的な増殖制御因子であるTGFβの作用機序を検討した。ヒト正常表皮角化細胞(NHK)をTGFβで処理すると、高Caに曝露した際と同様に、S100C/A11は10Thrがリン酸化され、nucleolin に結合して核に移行し、核内でSp1を介してp21(WAF1/CIP1)を誘導した。S100C/A11をリン酸化する酵素を探るため、皮膚で発現しているprotein kinase C (PKC)のα, δ, ε, η, ζ分子種を強制発現させたところ、PKCαのみがS100C/A11の10Thrをリン酸化した。TGFβ処理により、PKCαは活性化された。また、PKCαのドミナントネガティブ体を導入すると、TGFβによるS100C/A11のリン酸化が阻害され、増殖抑制も解除された。以上の結果は、細胞内でS100C/A11の10Thrをリン酸化するのはPKCαであることを示している。TGFβの信号伝達にSmads系が働いていることはよく知られている。siRNAを用いてSmad3をdown-regulateすると、TGFβに依る増殖抑制が解除された。抗S100C/A11抗体を用いて、S100C/A11の機能をブロックしても同様であった。即ち、TGFβによる増殖制御は、S100C/A11系とSmads系の両方が機能して初めて起こることが確認された。なお、この条件下でSp1はSmad3と結合し、p21(WAF1/CIP1)プロモーターに作用する。以上、我々はS100C/A11がNHKの増殖抑制に中心的な役割を果たすことを明らかにした。


 

O2-1

公的ヒト組織バンクにおけるヒト組織提供の倫理的および技術的検討

竹内 昌男1,吉田 東歩1,絵野澤 伸2

1ヒューマンサイエンス研究資源バンク,2国立成育医療センター研究所

 

現在わが国で最初の公的ヒト組織バンクを設置しているヒューマンサイエンス研究資源バンク(HSRRB)では平成13年末から国内の医療機関から受け入れたヒト組織試料を研究者に提供している。取扱組織はいわゆる黒川答申(平成10年)で提案された、手術摘出組織で診断などの診療行為に不要と判断された部分で、形態は凍結あるいは冷蔵試料あるいはホルマリン固定されたものである。公的バンクを対象とした指針等は定められていないが、ヒトゲノム研究に係る三省合同指針の一節に公的バンクで取り扱いできる研究試料は連結不可能匿名化が前提であるとされている。このほか生命倫理上重要な事項として、提供者へのインフォームド・コンセント(以下IC)と研究実施施設の倫理審査委員会による当該研究計画の倫理的・科学的妥当性の審査・承認である。これらの仕組みについて今までHSRRBで実施してきたヒト組織バンク事業の経験、すなわち凍結口蓋扁桃、凍結肝・小腸組織、冷蔵肝組織、ホルマリン固定胃組織の例をもとに現状と展望を述べる。凍結あるいは冷蔵組織試料については手術前に各医療機関でバンクへの提供についてのICを取得している。一部医療機関では、手術前のICに加え術後に再確認のICを行っているところもある。これらのICを取得する過程はHSRRB運営規定に準じて各医療機関が定めたものであり、この正当性についてはHSRRBが個別に倫理審査を行っている。固定組織試料では、患者の精神的負担を軽減するため手術後に病理所見が定まった後、公的バンクへの固定組織提供について患者からICを取得することも検討している。冷蔵組織試料は、医療機関で処置された組織を研究者へ提供するまでの時間的余裕が短いため、技術的課題も残っている。この他、市民公開講座やHSRRB技術講習会の開催、パンフレットやウエッブサイトを通して情報公開等、ヒト組織を利用した研究が社会に受容されるよう広報活動している。


 

O2-2

培養細胞で発生しているクロスカルチャーコンタミネーションに関するJCRB細胞バンクにおける国内調査

水澤 博1,高田 容子1,榑松 美治2,北條 麻紀1,安田 留菜1,増井徹1,田辺 秀之1

 1国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部 第三室(細胞バンク),
 2ヒューマンサイエンス振興財団

 

JCRB(Japanese Collection of Research Bioresources)細胞バンクでは、1999年末よりヒト由来細胞を対象に、Promega 社のプライマーセット(9ローカス)を使用して、非転写領域の短鎖繰り返し配列を標的にMultiplex PCR システム(STR-PCR system)を利用して、培養細胞の個別識別を実施してきた。我々は、この実験結果をピークの有無で1と0の2値化してデータベース化し細胞の相互比較を行った。これまでに入手経路が異なる524種のヒト細胞について、個々のパタンを他の細胞と比較し、細胞のユニークさを検討した。その結果、25種の細胞においてクロスコンタミネーションを確認した(約5%)。我々は、細胞遺伝学的解析とSTR-PCR法を併用して解析し、HeLa細胞によるクロスコンタミネーションが多いことを確認し(25種中8種)、さらにHeLa以外の細胞によるクロスコンタミネーションも明らかになった。これらについて樹立時の状況を樹立者に問い合わせたところ、細胞を樹立した時期にクロスコンタミネーションを起こした細胞を研究室内で培養していた事実を確認した。この結果は、クロスコンタミネーションを避けるには、常識にとらわれずにクロスコンタミネーションを発生させない新たな培養方法の管理が必要であることを示唆している。STR-PCR法は本実験と同じプライマーセットを利用する限り極めて再現性が高く、個々の培養細胞に属す固有の情報と位置付けられるため、JCRB細胞バンクにおいては、ヒト細胞についてこの結果をカタログに掲載することにした。本方法は、異なる時間や場所での実験結果を容易に比較出来るので、新たな細胞を樹立したり日常的な培養で疑いが生じた場合に誰でも有効に利用できる。そこで、この調査を受託するシステムの構築も検討している。


 

O2-3

培養胎児における低濃度テトラブロモビスフェノールAの影響

秋田 正治1,加藤 真理1,横山 篤2,黒田 行昭3

1鎌倉女子大学 家政学部 管理栄養学科,2神奈川生命科学研究所,
3
国立遺伝学研究所

 

【目的】一昨年より内分泌かく乱化学物質の疑いがあるとされているビスフェノールAと構造が似ているテトラブロモビスフェノールA(TBrBPA)の胎児に対する発育毒性について培養胎児を用いて検討を行っている。現在までにTBrBPAは100ppmにおいて影響は認められなかったが、1ppmという低濃度において外表形態異常が確認され、これは内分泌かく乱化学物質でいわれている逆U字効果の可能性が示唆された。そこで今回はさらに低濃度においての影響を確認することを目的として実験を行ったので報告する。【方法】ラット胎齢11.5日目(Plug day = 0)の胎児を用い48時間培養を行った。培養液は100%ラット血清を使用して、培養液中のTBrBPA濃度が100ppb、1ppm、100ppmになるよう調整した。対照群は、TBrBPA溶解に使用したDimethyl Sulfoxide (DMSO)のみで処理した。そして培養中ならびに培養終了後の胎児の形態等について検討を行った。【結果・考察】 培養24時間後における培養胎児の心拍動数は、対照群と比較してTBrBPA 1ppm処理群のみ低下したが、他の処理群において差は認められなかった。また外部形態は全群において変化が認められなかった。培養48時間後の胎児において、TBrBPA 1ppm処理群は、24時間後よりもさらに心拍動数や血液循環の低下を示し、形態形成においても下顎の低形成や頭部発育不全、さらに血腫などが認められた。一方TBrBPA 100ppmおよび100ppb処理群においては対照群と同様の培養胎児状態を示した。以上の結果から、培養胎児におけるTBrBPAの影響は、1ppmで最も強く現れることが確認され、この1ppmがTBrBPAにおける逆U字効果の臨界点に相当すると考えられた。


 

O2-4

破骨細胞TRACPisomerの細胞学的意義について

間中 研一1五十嵐 吉彦2 敏夫3三浦 俊英4松崎 2

1獨協医科大学 医総研,2獨協医科大学 生化学,3ホクドー・バイオサイエンス事業部,4日東紡 メディカル開発センター

 

TRACPは、破骨細胞、肺胞や脾臓などのマクロファージが産生する酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼである。TRACP遺伝子のノックアウトが大理石病を発症することが示されたが、破骨細胞における機構については不明な点が多い。五十嵐は、ヘパリンカラムがタンパク質に結合するシアル酸の荷電および糖の有無によるコンフォーメーションの相違を識別することを利用し、ラットには少なくとも3つのisomer 5a、5b1,5b2が存在し、破骨細胞では特に5aの脱シアリル化体と推定される5b群が顕著なことを見出した。本報告では、5a,5b群の細胞学的意義を初代破骨細胞前駆細胞を用いて、糖鎖合成阻害剤による分子転移効果、bilateralな細胞極性環境を想定した解析および骨への吸着能について検討した。

【方法と結果】1) RANKLとM-CSFを各10ng/ml添加して培養した5日目のラット破骨細胞前駆細胞 (ホクドー)に対して4時間毎にTunicamycin (15μg/ml) 添加培地に交換し、isomerの培地内濃度を検討した。4時間まで5a、5b群ともに検出され、その後5aは消退した。5b群は8時間まで増加した。2) 0.4μm-Transwell, Costar 3470)上で培養を行ない、膜上下の各培地のisomer活性を検討したところ、5b群は膜下に偏在することが明らかとなった。 3) 象牙切片(150μm厚、直径6mm)を各isomer 50μL (0.7M NaCl, 20mM Tris, pH7.2)と共にインキュベートした。洗浄後、各isomer溶液活性の5a; 10%,5b1; 17.6%, 5b2; 31.6%が象牙片に吸着していた。

【結語】細胞内でTRACPはシアリル化N結合型糖タンパクとして分泌され、破骨細胞の細胞極性の存在によりbasal側に分泌された5aは、急速に脱シアリル化されて5b群となり、骨との接触に貢献するものと考えられた。


 

O2-5

ウシ体細胞を用いた遺伝子ターゲティングの試み

千代 豊1尾藤 1澤田 登起彦2浦川 真実3眞貝 洋一4窪田 敬一2青柳 敬人3 宏良1

1機能性ペプチド研究所,2獨協医大第2外科,3全農ETセンター,4京都大学ウイルス研究所

 

【目的】近年、種々の動物種において報告されている体細胞核移植クローン技術は、畜産分野のみならず医療分野に大きな貢献をもたらす革新技術として期待されている。特に、クローン技術と体細胞を用いた遺伝子操作を組み合わせることにより中大型動物での遺伝子ターゲティング(遺伝子ノックアウト等)が可能となり、臓器移植や再生医療における医療資源としての利用価値が注目されている。本研究では、ウシの体細胞を用いた遺伝子ターゲティング技術の確立を目指し、培養液の検討、遺伝子操作に適した細胞の選択および遺伝子導入法の検討等を行い、最適条件を決定し、遺伝子ターゲティング実験を行った。【方法】ウシ体細胞は、黒毛和種胎仔および成体由来の線維芽細胞を用いた。6種類の基礎培地(5%FBS添加)を用いて細胞増殖能を比較し培地の検討を行った。MEMα培地(10%FBS添加)を用いて5種類の胎仔または成体由来線維芽細胞の細胞増殖能およびコロニー形成能を比較した。4種類の遺伝子導入法を用いて遺伝子導入効率等を比較した。遺伝子ターゲティングは、異種移植における拒絶反応の原因となるα1-3 galactosyltransferase (α1-3GT)遺伝子を対象とし行った。【結果および考察】1)ウシ線維芽細胞の培養において、MEMα培地が最も良好な増殖能を示した。2) 遺伝子導入法としては、リポフェクション法が適していた。3) α1-3GT用ターゲティングベクターを構築し、胎仔由来線維芽細胞(906株)に導入した結果、計6回の導入実験で、797個のネオマイシン耐性コロニーが得られた。このうち4コロニーがPCR法にて陽性となった。この4コロニーからゲノムDNAを回収しサザンブロット解析を行ったところ、1つのコロニー(3-28株)で相同組換えが確認された。さらに、3-28株細胞を用い、核移植・胚移植試験をした結果、形態的に正常で良好な胎仔形成が確認できた。本研究で確立された方法は、今後ウシにおける遺伝子ターゲティング操作の基盤技術となると考える。


 

O2-6

ヒトBLM破壊株におけるゲノム不安定性とDNA二本鎖切断修復の解析

曽 彩玲1,足立 典隆1LIEBER MICHAEL R2,小山 秀機1

1横浜市立大学 総合理学研究科 木原生物学研究所,2南カリフォルニア大学

 

ブルーム症候群(BS)は常染色体劣性の高発がん性遺伝病で、原因遺伝子BLMはRecQファミリーに属するDNAヘリカーゼをコードする。BS患者由来の細胞(BS細胞)では、染色体の切断、ギャップ、欠失など様々な染色体異常がみられ、特に姉妹染色分体交換の頻度が著しく上昇している。これらの染色体異常を伴うゲノム不安定性が高発がん性の原因であると考えられているが、詳しい機構は不明である。ゲノムDNAに二本鎖切断(double-strand break; DSB)が起こると、相同組換えまたは非相同的末端連結(nonhomologous end joining; NHEJ)により修復される。相同組換えは相同的な配列を用い正確な修復を行うが、一方NHEJは切断末端を相同性に関係なく連結するため、しばしば染色体異常を引き起こし、これがBS細胞におけるゲノム不安定性の原因となっている可能性がある。そこで、この可能性を明らかにするため、ヒトプレBリンパ球由来Nalm-6細胞及びNHEJに必須のDNA ligase IVを破壊したLIG4破壊株を用い、ジーンターゲティングによりBLM破壊株とLIG4/BLM二重破壊株を作製した。直接DSBを引き起こすX線やDNA トポイソメラーゼII阻害剤VP-16とICRF-193に対して、LIG4破壊株と二重破壊株のみ高感受性を示し、BLM破壊株は野生株と同程度の感受性しか示さなかった。したがって、BLMがNHEJに直接関与していないことが示唆された。さらに染色体上で起こるNHEJを調べるため、各細胞株のHPRT遺伝子座にI-SceIの認識部位を組み込んだ細胞を作製した。それらの株にI-SceI発現ベクターを導入して特異的にDSBを誘導し、修復部位の解析を行った。その結果、野生株とBLM破壊株では修復連結部位に数塩基の挿入と欠失のみが観察された。一方、LIG4破壊株と二重破壊株では、野生株やBLM破壊株よりも大きな欠失や複雑な再編成が見られた。これらの結果から、BLM破壊株は正常なNHEJ能を持つことが分かった。したがってBS細胞が示すゲノム不安定性にNHEJは関与していないことが強く示唆された。


 

O2-7

扁平上皮癌細胞における上皮・間葉移行による悪性度上昇機構の解明

瀧 雅行鎌田 伸之友成 真弓長山

徳島大学 歯学部 口腔外科学 第一講座

 

高度浸潤型の口腔扁平上皮癌(SCC)が、線維芽細胞様形態、E-カドヘリンの発現消失、Vimentinの高発現を示し、またSnail、SIP1、δEF1の高発現を示すことから、これらの細胞が上皮.間葉移行機構(EMT)を獲得した細胞であること、またSnail過剰発現によりSCC細胞の形態およびこれらの遺伝子発現変化が誘導されること、基質分解酵素MMP-2の発現上昇、増殖因子Wnt-4の発現消失とWnt-5aの高発現がSCC細胞におけるEMTの新たなターゲット遺伝子であることを報告した。

今回、EMTに伴う癌の悪性化因子の発現上昇機構についてさらに検討する目的で、SnailおよびSIP1のTet-off発現ベクターを導入したA431細胞を用いてさらに検討を行った。転写開始点の上流1714bpのMMP-2プロモーター配列を含むレポーターベクターを作製し、Snail、SIP1の発現誘導およびTGF-β添加に伴うMMP-2の転写活性についてルシフェラーゼアッセイによって検討した。その結果、これら全ての処理によりMMP-2の転写活性は上昇した。さらにこの活性の上昇はいずれも転写開始点より1248bp上流のEts-1結合配列を介していることが明らかになった。またSnail、SIP1およびTGF-βによりSCC細胞におけるEts-1の発現は上昇し、核抽出液を用いたゲルシフトアッセイでは、Ets-1結合配列への特異的結合が上昇した。さらに、Ets-1を強制発現させた細胞ではMMP-2の発現上昇を認めた。すなわち、EMTに伴うMMP-2の発現上昇はEts-1を介していることが明らかになった。しかし、Ets-1の過剰発現でMMP-2の発現は誘導されるものの、E-カドヘリンの発現低下やVimentinの発現上昇は認められず、Ets-1にはEMT誘導能がないことが示された。次に、このEts-1の発現誘導に注目しSCC細胞におけるEtsファミリー(E1AF、Ets-2、ERG、ETV1、PU-1)の発現を検討した結果、E1AFの発現がEMTの誘導により消失し、E1AFとEts-1の発現の逆相関を認めた。

以上よりSCC細胞において、EMTはEts-1を含む独立した多数のシグナル伝達経路を同時に活性化しつつ、悪性度の上昇に関与していることが示された。


 

O2-8

子宮内膜癌細胞へのプロゲステロン受容体遺伝子導入とプロゲステロン効果およびその作用機序の解析

川口 美和1,渡辺 純1,鎌田 裕子1,浜野 美重子2蔵本 博行1

1北里大学 大学院 医療系研究科 臨床細胞学,2北里大学 医学部 培養センター

 

目的:若年内膜癌患者に妊孕能温存療法としてプロゲスチン(合成プロゲステロン)療法が行われるが、その作用機序は明らかではなく、実験系の不足が指摘されている。そこで本研究では、ヒト子宮内膜癌由来細胞株にPR (progesterone receptor) 遺伝子を導入して、PR を安定して発現する細胞株の作成を試みた。さらに、本PR導入細胞を用いてp21、p27等の細胞周期制御因子の発現が、プロゲステロンによりどのように制御されているかを解析し、MPA療法の効果判定に応用することを目的とした。方法:元来 PRを有していたが、長期培養経過によってPRを消失したヒト子宮内膜癌由来細胞株の Ishikawa 細胞に、Superfect法(QIAGEN)にてPR cDNAを導入し、遺伝子導入前、導入24、48、並びに72時間後に細胞を回収し、PR 発現を免疫染色(LSAB法)にて解析を行った。24時間後でPR発現が最強であったため、これを用いて、MPA 1×10-6 M を培養液に添加した。MPA投与前、24、48、72時間後に細胞を回収し、タンパクを抽出。MPA投与群、非投与群でのp27、p21タンパク量をWestern blot 法により解析した。結果: PR cDNAの導入によってPR発現細胞を確立した。またMPA投与によって時間依存的にp21、p27タンパクが誘導された。結論:これらの成績は、プロゲステロンによる増殖制御メカニズムの一端を明らかにするばかりか、治療効果を早期に判定する因子を明らかにすることを示している。


 

AW-1

可溶性運動促進因子としての基底膜タンパク質ラミニン5の作用

苅谷 慶喜、宮崎 香

 横浜市立大学 木原生物学研究所 細胞生物学部門

 

基底膜タンパク質であるラミニンは細胞底面のインテグリンと相互作用することにより細胞を基底膜に接着・固定し、種々の細胞機能を調節する。そのアイソフォームの一つであるラミニン5は、主に皮膚の基底膜に存在し、ヘミデスモソームと呼ばれる強固な接着構造を形成する。一方で、ラミニン5は癌の浸潤先端部位や創傷治癒部位において発現の上昇が確認されており、そうした部位での細胞運動を促進していることが示唆されている。またIn vitro においてラミニン5は、細胞の接着及び運動を非常に強く促進する事が知られている。今回、私達は可溶性ラミニン5がヒト膀胱癌細胞EJ-1、ヒト乳腺上皮細胞MCF-10A及びヒト初代培養表皮細胞primary keratinocyteの運動を細胞上面のインテグリンを介して促進する事を示す。ラミニン5とラミニン10/11はいずれも不溶性基質としてプラスチック表面上にコートされた時は細胞運動を促進した。一方、細胞をフィブロネクチン、ビトロネクチン等の細胞外マトリックス蛋白質上に接着させておき、これらのラミニンを可溶性状態で培地に添加すると、ラミニン5のみが細胞運動を促進した。この際、可溶性ラミニン5は、細胞上面のインテグリンα3β1とα6β1と結合し細胞運動を引き起こしていた。一方で、その際の細胞形態は下側の基質依存的であった。この細胞上面と細胞下面からのインテグリンのシグナルは、細胞骨格再編成と細胞運動を協調的に制御していた。可溶性と不溶性のラミニン5はPKC、PI3KやMAPKを介したシグナル経路の活性化によって細胞運動を引き起こしていた。特にPKCを介した経路は、可溶性ラミニン5において顕著であった。一方、この経路は不溶性ラミニン10/11によっては活性化されなかった。さらにヒト表皮細胞の傷つけアッセイにおいて、分泌されたラミニン5は傷口付近の細胞の細胞上面に結合していた。これらの結果は、可溶性ラミニン5が創傷治癒における細胞運動に関与していることを示唆している。


 

AW-2

成体マウス虹彩組織からの神経網膜細胞への分化誘導

山本 直樹1,2

1藤田保健衛生大学 共同利用研究施設 分子生物学研究室、
2
藤田保健衛生大学 総合医科学研究所 応用細胞学研究部門

 

【目的】我々は将来、臨床応用を実現することを念頭に網膜再生のモデル構築の研究を進めている。そのため、網膜細胞移植源である体性幹細胞として、発生学的に神経網膜と同様に眼杯内層から形成される虹彩組織を選択した。また、モデル動物にはヒトと同様に網膜や虹彩に色素を有するDBA/2Crマウスを用い、幹細胞の一つの指標である神経細胞成長因子レセプター、p75NTRを発現している細胞に注目し、この細胞の神経網膜細胞への分化誘導実験を行った。【方法・結果】まず、マウス虹彩のin vivoにおけるp75NTRを調査した。我々が開発した眼球用固定液(特許出願準備中)で眼球全体を固定し、通常の方法でパラフィン切片を作製し、免疫染色を行った。p75NTR陽性の細胞は瞳孔縁に近い部位と色素を有する細胞の一部にも観察された。虹彩組織の培養方法は眼球の内側から虹彩組織だけを摘出し、コラゲナーゼ4で処理し、遠心洗浄後ラミニンコートしたディッシュに播種して20%FBS加DMEM/F12で培養した。培養4日目には色素顆粒を含んだ細胞と色素顆粒を含まない円形〜紡錘形の細胞がディッシュに接着して増殖した。培養10日目にはその接着した細胞の上に球状の明るく輝く細胞が出現した。培養12日目にディスパーゼで軽く処理し、球状の細胞を回収した。細胞を回収した後、ディッシュに接着している細胞は4%PFAで固定し、β3-Tubulinとp75NTRで染色を行った。回収した細胞は遠心洗浄後、ラミニンコートしたプレートに播種し、無血清b-FGF・EGF加DMEM/F12 N2で継代培養した。継代した細胞の一部は4%PFAで固定し、Nestinとp75NTRで染色した。球状の輝く細胞は継代した後も球状の塊で増殖するものと、一部はプレートに接着して増殖した。継代した際に採取した細胞はp75NTR陽性・Nestin陽性であった。ディッシュに接着していた細胞はβ3-Tubulin陽性・p75NTR陽性であった。今後、ソーティングや誘導物質を使用して神経網膜幹細胞の選定、および分化誘導を試みる予定である。