1996年度秋季公開シンポジウムを終えて


シンポジウム世話人 西 義介

 この度、1996年度の秋季シンポジウムを無事に終えることができました。ほっとしたというのが実感です。非力ながら学会のお役に立ててうれしく思います。皆様のお陰です。今回は「発生・生殖工学の最近の進歩と話題ー基礎から産業・医療への応用までー」と題する内容で、演題総数12題、この領域の研究を広くカヴァーする内容を選びました。シンポジウムについての問い合わせが20件を越え、手応えは十分に感じてはいたものの、開催の直前まで、このテーマが皆様の関心を呼ぶか、皆様に参加して頂けるかとても心配でした。嵐だった前日とうって変わり、当日は日差しの良い天気になりました。蓋を開けてみると、幸い、学会員20名余り、非学会委員50名強の総計70名を越える方々が参加してくれました。これが一番に嬉しかったことです。懇親会の席で、皆様が口々に「とても面白い有意義な講演会でした。」と言っていただいたことも励みになりました。前日の夜、余り眠れず(最近にないことですが)、心配していたことが嘘のようで疲れもどこかへ飛び去りました。

 今回、世話人をお引き受けして感じたことは「世話人は噂に違わず、大いなる雑用で、気苦労ばかり多く、忍耐が要求され大変だけど、それなりに間違いなくやり甲斐のある仕事だ」ということです。シンポジウムの内容の選定、演者の選定、場所、日時の選定、協賛の打診等、ちょっと挙げてもこれぐらいの仕事はあります。学会費を安くし、経費を節減することも必要でした。当初は私は出来るだけシンポジウムの一切を研究室や事務の方々に頼むことなく、デスクトップコンピューターをフルに活用して、私一人でやることに決めていたのですが、実際は当日も含め、色々な方に色々と助けていただきました。たったの1日のシンポジウムにも関わらず、どれだけ文書のやり取り、雑多な交渉をしたことか!ほぼ1年以上前からこういったことが延々と続いたわけです。根を上げそうになることも何度もありました。当日は疾風怒涛の勢いで何がなんだか分からず進みました。終わってみると、これらは懐かしい記憶の一ページに留められ、その後やっとじわじわとずっしりとした充足感がわき起こってきたのです。この感覚はやった者でないと分かりません。これから後に続く若い方々もぜひ世話人を経験され、この感覚を味わわれることをお勧めします。病みつきになること請け合います。

 今回は細胞バンク委員の水沢先生のお力をお借りして細胞バンク委員会のホームページ(現在は培養学会ホームページ)にプログラム、講演要旨等関連情報を入れることが出来ました。講演要旨を直接覗けるようにしたのは組織培養学会を通じて今回が初めての経験です。はじめから衆知しておくべきでした。学会外部からの問い合わせに答えることの出来る情報が入っておりました。人手をかけず、私一人で出来るようにデスクトップパブリッシングを目指して、講演をいただいた先生からはディスクに打ち込んだものをこちらに送っていただいていたのでホームページに張り付けることは容易でした(デスクトップパブリッシングの方は表紙の体裁、紙質の問題で結局業者に発注しましたが)。

 最後にこのシンポジウムに貴重なご演題を賜った演者の先生方、お忙しい中、座長を引き受けていただいた先生方、ご参加下さった方々、サポートをしていただいた共同世話人の横浜市大の小山秀機先生を始め、研究室の方々、快く対応していただいたヨコハマアーバンカレッジの方々、難波会長を始め日本組織培養学会の幹事、委員、会員の方々、協賛いただいた多くの企業の方々、それに我々研究室のスタッフ全ての方々に深甚の謝意を表したいと思います。

[追記]

「今、何故発生・生殖工学なのか?」

難波会長のお勧めにより、閉会の挨拶の際に私が示した図表(組織培養、22: 498-501, 1996、ニューサイエンス社の許可を得て転載)をここに再び掲載して、「今、何故発生・生殖工学なのか?」を簡潔にお示ししたいと思います。図ー1は発生・生殖工学が今後、インパクトを与えるであろう基礎、応用の研究分野をインパクトの強さを指標として表したものです(多くは筆者の主観ですが)。これを一覧すると、このテクノロジーが今後極めて多方面にわたる分野に直接、間接に影響を及ぼしてくることは免れ得ないと考えられます。ここのところをしっかり捉えておくことが今後必要になってくると思われます。では、発生・生殖工学の将来展望はどうでしょうか?表1には、この研究分野の新たなマイルストーンを挙げました。近未来の到達目標といっても差し支え有りません。基礎研究、応用研究へのインパクトはこれらのマイルストーンの到達度に依存すると思われます。さらに、新たなマイルストーンとの関連で発生・生殖工学と組織培養との接点が見出されてきます(表2)。これはほんの一例です。まだまだ色々なことが考えられます。ここは会員通信欄です。組織培養、22:498-501, 1996にこの辺りのことを書いております。より詳しくはそちらを参照して下さい。