【勝田班月報・6002】
《勝田甫》
A)サル腎臓細胞の培養
 1)培養の基礎条件:
 予研の多ケ谷氏との共同研究で、同氏より目下のところ週2回サル腎臓の供給をうけ、そのprimary cultureについて、基礎条件をしらべている。容器は短試で5゚に傾斜静置、37℃加温、クエン酸処理による細胞核数算定を用いた。
 牛血清至適濃度・・0.4%ラクトアルブミン水解物と共に各種濃度に牛血清を加えてみると、5%の濃度が最も細胞の増殖が良く、4日間で既に10倍以上の増殖を示す。
 ラクトアルブミンの至適濃度・・牛血清を5%添加した場合と、血清の代りにPVP(AMW:70万)を0.1%加えた無蛋白培地と、その両者について、各種濃度にラクトアルブミン水解物(NBC)を加え、至適濃度を求めたところ、その両者とも0.4%が至適であることが判った。 現在、無蛋白培地(PVP+0.4%水解物)内でのPVPの至適濃度をしらべているところであるが、0.05%がよいか0.1%がよいか、未だ決定できる処までは行っていない。サル腎臓の供給は7月1杯で大体中止となり、あとは9月になるので、でき得る限り7月中に基礎条件をしらべてしまうべく、日曜も無休である。
 2)無蛋白培地による細胞株樹立の研究:
 前報にも記したようにサル腎臓細胞を無蛋白培地でprimary cultureから培養継代できれば、悪性化さない細胞株が得られるのではないか、という想定から、材料の入るたびに新たにこの培養を試みて居る。容器は3角コルベンで静置培養。
 培地ははじめに(PVP 0.1%+ラクトアルブミン0.4%)の培地と、これにイースト浸出液
0.08%をさらに加えたものとの2種を試みたが、后者では細胞が液に浮遊したまま、何日たっても硝子壁に附着せず、増殖も悪いのに対し、前者ではきわめてゆっくりではあるが、細胞が着実に増殖し、硝子面にも附着する。10日ほど培養するとコルベンの底面の半分位が細胞シートでおおわれてしまう。これは3回こころみたが何れも同様の増殖度であった。問題は継代法である。EDTAを用いれば容易であるが、EDTAにはmutagenicの効果があるとの説もあり、JTC-1及び-2の株がAH-130と染色体数まで異なるのは或は少しはそんな影響があるか、とも考えられるので、trypsinを用いてみたが第1回は失敗に終った。むしろ何も薬剤を用いずに機械的に硝子面から剥離できればその方がいちばん良いのではないかと考え、trypsinの低濃度使用とともに近々の内に試みてみる予定である。
 何れにせよ悪性化さない細胞株の作り方を樹立するということは各領域から見てみわめて重要な命題であり、ぜひとも日本人研究者の手でなしとげたい問題である。
 B)ラクトアルブミン水解物の製品むらの追究
 今春の組織培養学会で報告したように、NBC社の水解物にはきわめてむらが見られる。各種のlot No.の製品をならべてみると、黄色味を帯びたものと、そうでないもの、その両者がまだらに混っているもの、の3種が見られる。無蛋白培地で継代しているL・P1細胞の培養に使ってみると、lot No.が3000番以前のものならばまず良いが、5000から6000、特に9000番台になると、細胞の増殖が悪いだけでなく、硝子面に附着しない。市販品の製品むらを追究してみたところで別に学問的意味は少ないが、L・P1及びHeLa・P1、P2などの無蛋白培地継代細胞の維持に困ることと、さらに若しそれによって硝子面への附着力の機構が少しでも判れば面白いと思って、ここ数カ月に渉ってこの問題をしらべてみた。
 細胞はL・P1を用いてみたが、最悪の結果を示すのはlot No.9673で、対照にはNo.2283を用いた。対照実験として血清培地(牛血清5%)継代のL株についても用いてみたが、こちらではほとんど差が見られなかった。まずNo.9673をイオン交換クロマトでアミノ酸全分析してみると、いちばん大きな、No.2283との相違はグルタミン或はグルタミン酸(この両者はクロマトで一つの共通のピークとしてあらわれる)の量がNo.2283の半分しかない、ということである。そのほかすこし少いものとして、Met、Thr、Ilewがある。そこでNo,9673のなかのグルタミン+グルタミン酸の量が全部グルタミン、全部グルタミン酸、両者が半分宛との3種の想定の下に(No.2283+100mg/l)になるように夫々加えてしらべてみたところ、初めの内はグルタミンのみを加えた方が増殖がよかったが、7日后では加えた群は何れも同じようにNo.2283と同じ位の増殖となった。これに対し何も添加せぬNo.9673の群ではあきらかに増殖度が低かった。すなわち、No.9673にグルタミン酸150mg/lを加えた群は7日后には対照よりわずか上くらいの増殖を示すが、2、4日后では対照より低い。No.9673にグルタミン酸80mg/lとグルタミン100mg/lの両者を加えた群では、2、4、7日后ともほとんど対照と同様の増殖が見られた。但し、これらの添加群では初めの数日は細胞の硝子面への附着がきわめて回復されたが、その后次第にまた硝子面からはがれて行く傾向をみせたので、グルタミンとグルタミン酸を加えただけでは完全には附着問題を解決できないことが判った。また最適と思われる(グルタミン:グルタミン酸)の量比のままで、両者の濃度を各種変えてみたが上記のものに劣った。グルタミンのみをさらに高濃度に加えても増殖度及び附着力は何れも濃度に比例して抑制された。メチオニン、スレオニン、イソロイシンを別個に添加してみると、夫々少しは無添加よりも良い結果を示すが、グルタミン及グルタミン酸の添加ほど顕著な効果はみられなかった。
 ビタミンについては、アミノ酸分析をおこなう前に一番さきに疑を持ち、合成培地DM-12と同組成のビタミン混合液を各種濃度にNo.9673に加えてみたが、反って濃度に比例して増殖が抑制された。
 現在、グルタミン+グルタミン酸にさらにメチオニン、スレオニン、イソロイシンを添加する実験をおこなっている。これらの問題が外国、殊に米国の研究者の間で問題になって居ないのは、無蛋白培地で細胞を培養している者がきわめて少い上、その場合にもラクトアルブミン水解物を用いていないためと考えられる。

《高野宏一》
 (A)No.6001に記載したと同様の方式で現在保有している約20株(亜系を含む)の細胞株につき第2回目の凍結保存を実施中。さらに詳細な条件の検討をすませ、確実なdataを掴んだ上で6月〜1年に1回の“虫干し"を毎週の継代にかえる予定。これは時間・経費・労力の節約のみならず、細胞変異の研究上、えられた変異株をそのまま保つのに有用な方法であると期待する。もっとも後者については、凍結という条件による選択によって細胞集団の構成が変化する可能性も否定できないので、種々の観点から検討する要がある。
 a)今回は、前回不成功であったLとWL(JTC-6)の凍結保存に特に重点をおいた。重要な点はglycerolの濃度らしいので、Lは5%、WLは5%及び10%で試みる。Lはすでに凍結実施、WLは近日中の予定。両者とも1ケ月の間隔で成績をとる。
 b)100万個の細胞を1mlの浮遊液として容量5mlのアンプルに入れても、0.5mlで2.5mlのアンプルに入れても、共に保存可能であるが、細胞浮遊液調整上からは前者がよく(分注誤差を含め)保存時の取扱上からは后者アンプルの方が便利(一つのJarに多く入る)なので、2.5mlアンプルに1mlの浮遊液を入れる場合の効果を検討する。HeLaを材料に凍結を実施した。 c)凍結開始時と温度の(保存中の)影響:前回の実験で急速法よりも緩徐法の方がやや良好な保存成績を示した点、及び凍結后1ケ月よりも後期の方が高い生存率を示した事実(さらに繰返し確かめる必要はあるが)から、細胞が最終の単位まで静止の状態に達するのに案外時間を必要とするのではないかとの推定から、従来の方法で1ケ月-79℃に保存したHeLaをドライアイスボックスからdeep freezer(約-20℃)に移した群について検討し、凍結時温度と保存温度との関係をみる実験を計画中。
 (B)RAT LIVER由来細胞(JTC-6)のHydroxyproline産生
 伝研組織培養室との共同で第2回の実験をおこなった。
 細胞は前回よりも良好な増殖を示した。Hypro産生は大体前回と同様の傾向を示し、終始略一定の域内にある模様。但し接種材料(培養0日)の含量が非常に高い値を示した。接種材料のみトリプシン処理による浮遊液を用い、他は培養管壁に附着増殖した細胞を機械的に剥して材料とする点、手技上の差異があるので、この影響をみるための小実験を実施中。すなわち10万個宛を接種した培養管10本を2群に分け、培養開始后4日で、1群は機械的に、他はトリプシン処理で細胞を集め、細胞数及びHypro含量を測定比較した。結果は次回に報告。
 
 (C)抗細胞免疫血清による細胞障害作用の種属特異性−
 HeLaの細胞浮遊液で家兎を免疫した抗血清を各種細胞株の培養に加え、人体由来細胞に共通してCPE陽性、Rat及びMouse由来では陰性の結果を得たので、今回はRat由来のWL(JTC-6)及びMouse由来のLで免疫して得た抗血清を用い、両細胞株で交叉的にCPEを観察した。 免疫方法:長期免疫による高力価免疫血清を得るために、1959年9月から大体1週1回、200〜300万個cellsの浮遊液を家兎の耳静脈内に接種途中2ケ月中断したが(火事のため)、1960年6月迄継続した。
 CPE:両種免疫血清を両種細胞(培養5〜7日)に加えると、それぞれ対応した免疫血清を加えた群に20時間で明らかなCPEを認め、他種の免疫血清では対照と殆んど差のない程度の非常に軽度な変化が認められるのみであった。RatとMouseとの間には抗原性の類似が無いか、あっても非常に僅かな程度と考えられる。
 さらに両種血清を人体由来細胞に加えて影響を観察する予定。

《遠藤浩良》
 (A)HeLa株細胞に対する各種ホルモンの影響の生化学的解析
ProgesteroneがChick embryo heart fibroblastsの増殖には抑制的であり、Rat asciteshepatome cellsに対しては影響のない濃度で、HeLa細胞の増殖を促進することは、癌の面からのみならず、内分泌学的にも興味ある問題である。即ちHeLa細胞が由来する子宮頸部の上皮細胞は、健常時にはMenstrual cycleに従って、具体的には卵胞ホルモンEstrogen(Estradiolその他)と黄体ホルモンGestagen(天然にはProgesteroneしか知られていない)の量比の変動に従ってその増殖が著しく変化する。子宮内膜は排卵前にはEstrogenの作用下で漸次肥厚し(増殖期)、排卵后Progesteroneが急激に増加すると更に肥厚して子宮腺の分岐が盛になり、多量の粘液を分泌するに至る(分泌期)。10年近くも継代されたHeLa細胞がこのようなProgesteroneに対する反応性を保持していることは非常に重要な知見であろう。更にTestosteroneのHeLa細胞に対する増殖抑制作用が、natural estrogen(Estradiol)及びProgesteroneによって拮抗されるという知見は、生体内におけると同様なホルモンに対する反応性をHeLa細胞がいまなお保持していることをさらに裏書きしたもので、きわめて興味ある事実である。
 そこで、このように増殖が促進あるいは抑制されたときの細胞活性の量的あるいは質的な変化を知ることができれば、HeLa細胞のintrinsicな生物学的性状を知る上にも、またこれらのホルモンの作用機序を解明する上にも貴重なデータを提供することになるであろう。 さて細胞活性の変化を生化学的に分析するとすれば、まず核酸代謝、糖代謝などの面をオーソドックスな方法で追跡することができるが、何人ものエキスパートの手で一挙に多正面作戦を敢行するならばいざ知らず、私たちの処のように1人2人で他の実験も併行しておこなうとなると、既知酵素の一つや二つを測定してみたところで、このような面では細胞増殖と細胞機能の関連について現在とられている考を支持する無数のデータに同質の結果をただ一つ加えるにすぎない可能性が大きい。
 そこで私たちは、拡大膠着した戦線に加わることを避けて、全く新たな橋頭堡を確保するため少数精鋭(?)による奇襲攻撃可能な地点を探すことにしました。
 その条件は、
 1)得られた結果がいきなり抽象的な細胞増殖の問題に還元されず、まずあくまで具体的に前述の生理的状態との関連に於てHeLa細胞の生物学的性状を解析する上でSignificanceを持つこと。
 2)その方法を他種細胞へ拡大したときの結果からは、今度は一般的な細胞の機能の問題としてもSignificanceを持つ可能性のあること。
 3)それらの結果が別途に行なっている私たちの実験にも何らかのinformationを得る事。 4)これらの大きな望みにも拘らず技術的には私たちの弱体な戦力にとっても比較的容易であること。
 以上のような大変慾ばった要請から出発して、私たちはAminopeptidaseをとりました。その理由は、
 1)組織化学的に、子宮頸部の上皮基底層と子宮粘膜腺上皮には、正常な場合にも病理的上皮形成、例えば上皮性癌腫の場合にも、強いAminopeptidase活性が認められる。(ただこの場合子宮粘膜上皮に一様に活性があるのでなく、結合織細胞に接する部分に局在するので、HeLa細胞もこの活性をもっている筈だとは断言できない)。さらに、これまで頸部粘液には蛋白分解酵素が認められていなかったが、di-あるいはtri-peptideを用いて、数種のAminopeptidase活性が証明された。これは頸部粘液腺に由来するが、この活性の増大がErosionを起させるのではないかと想像される。
 また、一方Operation或はAutopsy specimenでtumor cell及びstromaにはaminopeptidase活性が特に高い(この場合は胃癌、輸胆管癌及びそれらの淋巴腺転移)。
 2')生体内では一般に細胞機能の盛んな組織ではaminopeptidase活性の強いことが組織化学的に証明されている。そこで、他種の正常及腫瘍細胞について同様の測定を行ない、またintact animalについての結果と比較すれば一般的な生理学的な問題として、現在ほとんど判っていないaminopeptidaseの存在意義について貴重な知見を加えることができる。 3')現在私たちは、別にiminopeptidase(prolinase)について研究を行なっているが、これはどちらかといえば、特別な意味をもつ酵素といえるので、その対照として一般的な
aminopeptidase活性との比較をおこなうつもりである。その意味で前述の知見が得られるものならば極めて有意義である。
 4')Leucineの利用率が最も高いL・P1の構成蛋白がHeLaのそれと酷似していることや、一般的な知見からして、aminopeptidaseが存在するならば、leucine aminopeptidase活性は最も高いものの一つであると考えられるので、l-leucyl-β-naphthylamideを合成基質とし、遊離するβ-naphthylamineを比色定量する方法を応用すれば、前述の子宮頸部粘液についておこなった真正ペプチドを用いる測定より遥かに感度よく検出できる筈であり、これなら私たちの技術を活用することにもなり、また現在可能である。
 (B)HeLa細胞に対する各種ホルモンの影響に関する研究の今後の方向への提案
 1.合成黄体ホルモン作用物質の影響
 従来用いられてはきたが、近年特に経口避妊の目的から盛になった研究の結果、実用化された合成黄体ホルモン作用物質はほとんどすべてtestosterone誘導体であり、現在臨床的には僅かに持つその男性ホルモン作用により仮性半陰陽を生ずる可能性が論議の的になっている。
 従ってこれらの物質についてHeLa細胞に対するProgesterone作用とtestosterone作用を検討することは内分泌的にも興味ある問題であろう。
 [合成黄体ホルモン作用物質]
a.Ethisterone(17-ethinyl testosterone)・・・之は古くから用いられてきた。
b.17α-ethinyl-19-nortestosterone(“ノアルテン"塩野義)。
c.17α-methyl-19-nortestosterone(“ルテニン"帝国臓器)。
d.Norethynodrel(17α-ethinyl-17β-hydroxy-5(10)-estorene-3-one)・・・之は最近日本で 発売される筈。
e.17α-hydroxyprogesterone Capronate・・・之はlong actingな製剤として二三市販されて いる。エステルが外れた17α-hydroxyprogesteroneは作用がないのに、何故生体内で強 い黄体ホルモン作用を示すのか興味の持たれている物質である。
f.Amphenone・・・まだ実験的な段階であるが、黄体ホルモン作用をもつ初めての非ステロイ ド性化合物である。
 1.無蛋白培地ではなぜProgesteroneの作用があらわれないか
i)生体内では、steroid hormoneは血清蛋白と結合して存在するとされており、事実in vitroでもsteroidは血清蛋白と結合する。そこで、ProgesteroneがHeLa細胞内にとり込まれるためには、そのような蛋白結合型になることを必要とすると考えることも一応可能である。血清含有培地で培養するとき、Progesteroneが培地中の蛋白と結合するか否かは、incubation后の培地を濾紙電気泳動にかけて各蛋白分劃とProgesteroneの動きをみることにより、検出できるであろう。一方、血清でなく各種の蛋白そのものを添加した場合の成績を比較検討することにより、蛋白結合型の問題についてはある程度の知見が得られるであろう。
 ii)しかしProgesteroneのような分子量の小さいものが細胞膜を透過しないということは考えいくりことであり、しかも脂溶性であるSteroidは、蛋白結合型で運ばれるにしても、細胞膜を透過する際はむしろfreeとなると考えた方が自然である。とすると、無蛋白培地でも、血清蛋白が存在する場合でも同様の反応がでる筈になる。しかし実際は全く増殖が促進されないとなると、当然血清中にこの反応に必要な物質(単あるいは複数)が存在するのではないかという考え方も出てくる。そこで(i)の蛋白結合型の問題と併行して、血清中の透析性物質を添加した実験も試みてみる必要があるであろう。
 とにかくこのようにしてProgesteroneのHeLa細胞増殖促進作用の機序を解明する努力もきわめて重要であろう。
 (C)新知見
 i)PVPは骨のガラス壁への固着を助ける。培養の后半に雑菌感染を起したので確実なことは云えないが、Casamino acidだけで培養するという非常にガラス面に固着しにくい条件でも、0.1%PVP(M.W.70万)添加群の9日鶏胚大腿骨は全く落ちなかった。
 ii)PVPはアミノ酸摂取を高めるか。お恥しいことながら、后半雑菌感染を起したので化学的に確めたのではないが、0.1%Bacto Casitoneで9日鶏胚大腿骨を培養したとき、0.1%PVP添加群の長軸成長は無添加群より良いようであった。

《伊藤報告》
 先月号の皆様の御報告大変興味深く面白く拝見させて頂きました。なお私方の報告があまりに簡単にすぎたため勝田先生からお叱りを戴いた次第でしたが、誠に申訳なく思って居ります。それで今回は今迄の仕事について少しく報告させて頂きます。
 i)吾々は悪性腫瘍からの抽出物のなかにL株細胞の増殖を促進する物質の存在することを確認し、その物質のpurificationに進んでいるが、現在までに判ったところでは
 a)抽出液のエタノール30〜70%飽和で沈殿する分劃に促進効果をみとめる。
 b)100℃、30分の加熱に耐える。
 c)50〜70%飽和硫安分劃の中にある。
 d)非透析性である。
 e)澱粉柱を用いた電気泳動法で分劃すると、Folin反応のpeakに一致する分劃に含まれるが、この分劃は人血清のβ-globulinよりやや遅い泳動速度を示す。
 しかし有効物質が蛋白であるかどうか疑わしいので、現在trypsin、pronase処理、加水分解などをおこなってその影響を検討中である。
 又一方、再生肝組織でも同様エタノール分劃中にL株細胞増殖促進効果を有する物質の存在することを確かめ得たので、そのものと、悪性腫瘍中に含まれる有効物質との異同をも検討中です。
 ii)なお神前助教授の構想の下に、神前、青木、土井、伊藤などによって癌細胞より得た核酸或は核蛋白分劃による培養細胞の悪性化実験が約1年前より計画されていることをつけ加えます。
 C3H/HeNマウスの幼児肝細胞に対して、同一系マウスの腹水肝癌より得たDNA、DNP、RNA、
RNPを加えてその悪性化を見る方法と、Sarcoma37より得た各分劃をL株細胞に添加する実験で、目下材料の蓄積中で、9月より本格的実験に入る予定です。
 またこの悪性化をキャッチする方法に対する手馴らしとして、actinomycinによってL株細胞が悪性化するか否かを神前、青木のもとで実験中です。

《高木報告》
 (1)前報につづきMY肉腫から抽出したwhole microsome、DNP及びRNPを培養細胞に入れてみた。今回は一応毒性をためすべく種々の濃度を使用した。
 組 織:ddNマウス胎児皮筋組織
 培養法:タンザク培養、ヘパリン血漿のみを用いて組織片をタンザクの上に附着せしめ、     これに培養液1mlを加えて静置培養した。
 培養液:LYH培地(80容)+牛血清(20溶)
 添 加:培養5日后の細胞にこれらを作用させた。これら抽出物は蒸留水に浮遊(一部溶けた)した状態で-20℃にたくわえてあるので、使用にあたってこれに等量の倍濃度のLYH培地を加え、さらに20%の割になるように牛血清を加えてから培養細胞に作用させた。
 従ってたとえばwhole microsomeでは初め425μg/mlあったものがこれらの操作により、実際に細胞に作用さす場合には最高濃度が170μg/mlとなるわけである。
 次の各濃度を用いた。
W.M. 170 85 42 10.5 1
DNP 93 41 10 1
RNP 120 40 10 1
4日毎にredosingする積りであったが、2回目の抽出実験は収量が少なかったため、これを用いることができず、1度redosingしただけで以后は培地の追加、交換は行わずに観察している。
 現在(DNP、W.M.は17日目、RNPは13日目)顕微鏡の弱拡大で観察する程度なので、はっきりしたことは云えないが、添加后1週間后頃から、いずれも高濃度に於て細胞のはえ方が疎になったような感をうけるだけで、特に形態の変化は認められない。従って長期間作用させる場合100μg/ml前后の、かなり高濃度が使用できるようである。
 鶏胚(9日卵)皮筋組織にも加えてみたが、この細胞は増殖も早い代りに変性もおこし易く、かなり長期間の観察には適さないように思われる。
 抽出の全操作を無菌的におこなうことはかなり煩雑であるので、今后操作は特に無菌的には行わず、その代り最后にアルコールでこれを洗ってこれをさらに生理的食塩水で数回洗い、アルコールを除いてから使用してみようと思う。また最后に蒸留水にとかさず、LYHに溶かした方が添加する際の操作が簡単のように思われるが、LYHにとかすと粗な沈殿物を生じてhomogeneousになりにくいため、やはり蒸留水にとかしてたくわえておき、使用に際して倍濃度LYHを加えて調整した方がよいように思う。
 なおこの実験と平行してこれら抽出物をddNマウスに注射してleukemoid reactionが起るか否かも検討しようと思う。但しleukemoid R.は蛋白その他の物の注射によっても起り得るので、対照は厳重にとらねばならないと思っている。注射量は1D.u.,5日間注射して検討してみるつもりである。
 以上のような方法で一応スタートしたわけですが、実験方法及び材料などで何か御気付きの点があれば、どうぞ御教示下さい。
 (2)Immunocytopathogenic effectの検討
 これまで2〜3細胞株の免疫血清を作ってCPEを観察してきたが、細胞の免疫血清を作るにはかなり多量の細胞を必要とし、またあまり高い抗体価は望めない。そこでadjuvantの使用を考えてFreundのadjubantを作製した。このadjuvantと一緒にどれ位の細胞を注射すればよいか検討しなければならないと思う。

編集後記


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