【勝田班月報・6005】
《勝田報告》
A)サル腎臓細胞
a)無蛋白培地による長期継代:7月4日にTCに移したものが現在までつづいている。増殖率は相不変低い。この染色体を東邦大・奥村氏がしらべている。この状況ならば発癌実験に使える可能性もあるので、ラッテの腎及び肝についても同様の試みをはじめかけているが、ラッテは馬と同様になかなか培養が難しい。
b)鶏胚浸出液の影響:胎児組織細胞の増殖には一般に鶏胚その他の浸出液が必須であるが、吉田肉腫や腹水肝癌AH-130には反って増殖阻害的に働く。ところが正常成体のサル腎臓細胞の増殖にも、前報で報告したように鶏胚浸出液は阻害的に働くのである。しかしその后の研究で判ったことは肝癌AH-130の場合にはたとえば肝(正常成ラッテ)の浸出液は高分子部分も低分子部分も何れも同じように抑制力があるがサル腎臓では、高分子部分は抑制力がなく、反って増殖促進的に働く。そして低分子部分に強い抑制力が見られる。但しこの場合透析は蒸留水で1:0の鶏胚浸出液をおこなったので、さらにsalineで透析したものについてしらべたいと準備をすすめているが若しこの事実が確認されればさらに各種の細胞についても同様の実験をおこない、癌細胞のみに抑制的に働く因子を追究したいと思っている。 B)L・P1細胞のアミノ酸要求
アミノ酸12種+ビタミン9種+塩類その他9種=合計30種の組成から成る合成培地DM-60ではL・P1細胞を長期間培養することが困難なので、さらにアミノ酸要求について検討している。現在のところ、これにMethionine
8mg/l、Tryptophan 10mg/lを加えた方が増殖率のよくなることが判った。Phenylalanineはほとんど要求されぬように思われるが、さらに他のアミノ酸を検討した后に再び検討したいと思う。
C)Bilirubinの細胞に対する影響
細胞の種類によって生体内でbilirubinに触れている濃度に差がある。組織培養に移した場合、細胞の種類によりbilirubinに対する抵抗力に差があるのではないか、若しあるとすればそれによっても細胞のoriginをつきとめたり、或種の細胞だけを撰択的に増殖させたりすることができるのではないかという目標からbilirubinを各種濃度に各種細胞の培地に加えてしらべることにした。一番初めに手をつけたのが、無蛋白培地で継代しているL・P1細胞であるが、濃度は0、0.1、0.5、1、3mg/dlの5種であるが、まず苦心したのは水に溶かすことで、普通ではbilirubinは水に溶けない。クロロホルムにはとけるがあとの始末(滅菌とクロロホルムをとばし、培地に入れること)が厄介である。あれやこれやと2日間もいじくりまわした揚句、結局次の方法をとった。Bilirubin
10mgを1N NaOH 1mlにとかし、蒸留水(再)19ml加え、glass
filterで濾過滅菌し、これをstock solutionとする。これを一部とり等量の1N・HClを加えて中和し、そこでできる塩類を計算し、その分差引いて塩を加える。このとききわめて細かい沈澱ができるが、ピペットで細かく均等に浮遊させられるので稀釋して行く。1mg/dl以下では肉眼的にはほとんど溶けてしまっているように思われた。BilirubinはMerck製のを用いた。L・P1細胞での4日までの成績をサル腎臓細胞のprimary
culture(透析血清10%+ラクトアルブミン水解物0.4%+塩類溶液)の2日迄の成績と比較すると、次表の通り(表を呈示)、腎臓細胞に耐性が見られたが、この実験はなお7日后まで継続の予定である。しかしBilirubinと蛋白との結合が当然予想されるので、この結果は直ちに細胞間の差違と決定するわけに行かず、L・P1細胞を血清培地に移しての実験も行ってみる必要がある。
D)HeLa・P2細胞(無蛋白培地継代亜株)の合成培地培養試験
HeLa・P2細胞も無蛋白培地に移してから約8ケ月になるので合成培地に移しても増殖するのではないかと、各種の合成培地について7日間の成績をしらべたが何れも殆んど増殖しないか、しても極くわずかであった。PVPは各培地とも0.1%に添加した。
1)PVP+DM-11、2)PVP+DM-11+アデニン10mg/l+グアニン0.3mg/l+ウラシール0.3mg/l+キサンチン0.3mg/l+ヒポキサンチン0.3mg/l+チミン0.3mg/l、3)PVP+DM-11+yeast
extract 0.08%、4)PVP+Medium858、5)PVP+M.199、6)PVP+DM-12。何れも好成績は得られなかったが、その内ではM.858とDM-12でごく僅かの増殖が見られ、細胞の形態も健常であった。DM-11を基にしたものは殆んど好成績を得られなかった。M.199では培養中にpHが激低するが細胞は変性を呈するものが多く、M.858では反ってpHがわずか上昇する位であったが、細胞は健在であった。今后も各種を試みる予定である。
《高木報告》
1)MY肉腫から抽出したRNAの培養細胞に及ぼす影響
ddNマウス胎児皮筋組織のprimary cultureに、MY肉腫から抽出したRNAを作用させて、作用させない対照に較べてどの様な変化が認められるかを、先ず形態学的に観察したが、前報の如く有意と思われる様な著明な変化はみられなかった。そこで免疫学的には或いは何等かの影響を受けているかも知れないと考えて、蛍光抗体法を用いて、RNAを1ケ月間作用させた細胞にマウス胎児皮筋組織−家兎免疫血清を作用させてみたが、未だ免疫血清の抗体価が低いためか、対照の細胞も共に染っておらず、更に抗体価をあげるべく免疫を繰り返して後、改めて検討してみたいと思う。しかし、ddN妊娠マウスは中々思う様に入手出来ず、免疫に難渋している。
第3の追求手段としてRNAを作用させた細胞を復元して、その腫瘍形成能を対照のそれと比較する方法がある。(9月のmeetingの際、高野氏の御話にもあった如く・・・)。このためには比較的長期間RNAを作用させねばならず、従って細胞の長期間の維持及びRNAのredosingが必要となって来る。
細胞の長期間の維持については、現在迄こころみたところでは、マウス退治皮筋組織由来の細胞は、うまく植継げば少くとも2〜3ケ月は維持出来る様に思われる。
RNAのredosingの間隔については、培養液内のRNAがどの位の期間分解しないでその活性を維持するか調べなくてはならない。この目的で先ず細胞を含まない培養液に50μg/ml程度のRNAを含ましめ、1週間incubateしてその間におけるRNA量の変動を調べて見た。普通用いている80%LYT+20%牛血清の培養液で測定をこころみたが、血清蛋白が邪魔になって測定出来なかったので、一先ずLYTにRNAを溶かした状態で1週間観察してみた。Schneider法に準じて測定したが、これを略記すると(1)試料2ml+10%PCA(過塩素酸)2mlで沈澱をとる。(2)沈澱を冷5%PCAで2回洗う。(3)更に沈澱を80%アルコールで1回洗う。沈澱が微量につきこれ以上洗滌を行わず、(4)5%PCAで90℃20分間抽出、一度で沈澱は溶けて透明になったので抽出はこれ以上行わず、(5)抽出したものをベックマン型分光光度計E260で測定し、RNA-Pを求めてこれにfactor11.9を乗じてRNA量とした。(結果の表を呈示)
培養液のみの対照でも僅かにE260でかかって来るものはあるが、予想に反して細胞のない培養液のみの中では、始め51.5μg/mlあったRNAが1週間にわたって減少する傾向はなく、むしろ増加(?)したかの如き値を得た。これが測定誤差によるものか、或いは他の原因によるものか検討中である。再検後更に培養細胞にRNAを作用させた場合の培養液(牛血清を含まない)中のRNA量の変動についても検討してみたいと思っている。
2)免疫に関する研究
JTC-4細胞とWistar系ラッテの心臓との免疫学的なつながりを検討すべく、これら細胞、組織による家兎の免疫をつづけている。JTC-4細胞は、これまではGoldsteinらの方法に準じて、soluble
antigenについて静脈内注射をこころみて来たが、今度は細胞のそのまま生理的食塩水にsuspendして200〜400万個/2mlのsuspensionとして、これを始めの2回だけFreundのadjuvantを用い、以後は週に2回ずつ筋肉内に注射を繰返して居る。心臓組織はこれをすりつぶしたものの遠沈上清を同様に注射している。なお前に行った静脈内注射法によるJTC-4細胞−家兎抗血清の凝集価を、細胞のsuspensionを抗原として測定したところ(高野氏のadviceによる)80倍まで陽性であった。
また蛍光抗体法により、JTC-4細胞及びラッテ心臓の家兎免疫血清をJTC-4細胞(伝研にある形態的に九大のものとは異っているもの)、L細胞及びHeLa細胞に作用させたが結果は
HeLa細胞以外は+で(表を呈示)、未だ一度の吸収では強く種族特異性が現れている。更に腎、脾のaceton
powderでも吸収して出来る丈これを除去したいと思う。
3)その他
JTC-4細胞の無蛋白培地による培養をこころみるべく、目下牛血清を2%までおとしているが、細胞は可成りよく増殖している。前にこころみた方法と同様に2%牛血清培地で植継いで後PVP+LYTで交換して次第に細胞をadapt(?)させている。なお免疫には多くの細胞を必要とし、20%牛血清の培養液では牛血清の消費が大変であるので、これからは出来る丈2%牛血清の培養液にadapt(?)した細胞を残したいと思っている。
制癌剤に耐性を示すHeLa細胞をつくる試みは、目下ナイトロミン15〜20μg/ml、クロモマイシン0.01〜0.005μg/mlを作用させて実験を続行中である。
《遠藤報告》
HeLa細胞のLeucine aminopeptidase活性の測定におけるhomogenizing
timeとhomogenizerによるバラツキの検討
研究連絡月報No.6004で報告しましたように、HeLa細胞のleucine
aminopeptidase活性はprogesterone+estradiolの添加により細胞当り約30%高まりますが、この時はhomogenizeする時間がまだきめてなく又homogenizerによる差も検討していなかったので、上記のtreatmentによる該酵素活性の上昇が本当にtreatmentだけに依るのか否かについては若干疑問の点がありました。従って、その後non-treatmentのHeLa細胞を用い、以上の点について下記の通りの検討を行いました。
(1)homogenizeする時間はどの位が適当か。
HeLa細胞;2300万個(5日培養)
先づ全体を10mlのsuspensionとして大きいglass
homogenizerにとり、30秒間homogenizeする。この1.5mlずつを今後の実験に用いる新調の小さいglass
homogenizerに分注し、それぞれ一定時間更にhomogenizeする。一回凍結融解後遠心分離して上清1mlをとり比色定量の操作に移す。結果は、30〜180秒間で、T(%)は51.4〜54.0、liberated
naphthylamine(μmole)は0.166〜0.178で(表を呈示)、homogenizeする時間は思った程には測定結果に影響しないことがわかった。今後は約1分に決めてやることにする。
(2)homogenizerによるバラツキ
(1)の結果からhomogenizerによる差も先づ無視できるものと思われる(勿論homogenizerによるバラツキがhomogenizing
timeによる差を隠蔽してしまったという確率も非常に小さいとはいえ残りますが)。
従って、前述の活性の上昇は明らかにprogesterone+estradiolというtreatmentによるものと考えられます。
《高野報告》
A)培養細胞の凍結保存
a)マウス、ラッテ由来細胞の保存条件としてのglycerol濃度・・・マウス由来L株ではglycerol
5%で1ケ月は保存可能。間もなく2ケ月後のdataをとる。ラッテ由来JTC-6はglycerol
10%では保存1ケ月後に殆んど生細胞が残らず、5%では約50%が生残し増殖能を示す。更に長い期間の観察と同時にglycerol
3%の群を新しく作って凍結した。
b)凍結用アンプルの容量と細胞浮遊液量との関係は、2.5mlアンプルに1ml浮遊液を入れると、0.5mlの場合及び従来の5mlアンプルに1ml入れた場合と変りなく有効なので1mlで用いることにした。
c)1ケ月-79℃に保存したHeLaの一部を-20℃に移し更に1ケ月後に-79℃群と比較した所、-20℃では生細胞が殆んどなくなり、この温度では保存不可能な事が明らかになった。 B)JTC-6のhydroxyproline産生(伝研組織培養室、東大薬学生理化学との共同)
N0.6004の報告会記事にある様にHyproの定量手技に関し遠藤氏から御意見を戴き少量を定量する場合の誤差を再検討する必要を感じたので同氏の御協力を得て今迄の結果をもう一度確かめる実験を計画中。高木株、予研株の他に高木株を伝研でEDTA処理に駲化させた株を含めて行う予定。最近予研癌室でもEDTA駲化株を作ったので出来れば之も一緒にしらべてみたい。
C)抗細胞免疫血清による細胞障害作用
a)抗マウス細胞(L)血清及び抗ラッテ細胞(JTC-6)血清をヒト由来のHeLaに作用させても障害作用は現れない。つまり抗細胞免疫血清には少くとも種属特異性があるという以前の所見を再確認した。
b)JTC-6細胞に同種抗血清を加えた場合位相差顕微鏡下の変化は2時間後に現われる事を前報(No.6003)で述べたが、同じく10%で用いた正常ウサギ血清でも略同様の障害が認められるので、非特異的因子を除くため56℃30分の非働化を行った後再検討した。抗血清による変化は添加後7時間で現われ推移の経過は大体以前と同様。非働化血清では14時間後にも殆んど変化が見られない。非働化抗血清による障害作用の経過を改めて経時的に観察する予定。
D)JTC-6株よりのClone分離(東邦大・解剖・奥村氏との共同研究に使用)
ラット肝由来のJTC-6株細胞は培養性状、形態学、及び核学的見地から純系とみなし難いのでColony-formationの手技を用いてColonial
cloneの分離を開始した。材料として従来のtrypsin継代株と、新しく駲化させて作ったEDTA継代株の両者を使用。シャーレに少数細胞をまく方法は、目的のcolonyだけをひろう時に多少扱い難くしかもcontaminationの恐れが大きいので、角瓶に滅菌ガーゼでふたをして炭酸ガスincubtorに入れ、数個のcolonyが出現した後、1個を残して他をエーゼで焼いて除く方法をとり現在2ケのcolonyが増殖中。近日同様の手段で更に数個を分離する予定。
E)Ehrlich腹水細胞抽出物のL細胞への添加
Ehrlich腹水を遠心して約200mlの細胞沈渣を採り凍結融解3回実施後glass
homogenizerで壊し遠心沈渣を更にhomogenizeした後の遠心上清とプールしたものを原液とみなしL細胞の培養に添加した。0.1%の濃度で充分発育したL細胞に与へ1週間観察したが形態学的に明らかな変化は認められない。(この間液交換の都度0.1%に添加)。1%濃度を上げた培養液で継代したところ相当数の細胞が変性を示し、完全に壊れた細胞も出現したので、2日後に0.5%に下げると変性の進行は止り、全体的にやや恢復しつつある様にみえるのでこの濃度での培養を継続中。
F)ラット脳下垂体前葉細胞の培養
東大産婦人科からの“依託生"2名と一緒にラットの脳下垂体前葉細胞の培養を開始。将来の目的は“前葉機能に及ぼす間脳の影響"。第1回はYoungnerの方法に従いtrypsinizationの繰返しでえた上清と沈渣を、第2回はメスで細切したfragmentを直接チューブの壁につける方法で試みた。第1回の消化後上清は細胞増殖を示さないが、沈渣群及び第2回の壁についた片の中で上皮性と思われる細胞のoutgrowthを示すものがあるので目下培養を継続中。
《奥村報告》
A)HeLa株細胞:無蛋白培地での2種の継代株H・P1、H・P2のうちH・P2について前報で報告したが、H・P1は細胞の増殖率が悪かったために思うようSamplingが出来ずにいた。しかし最近(9月中旬頃より)急に増殖率がよくなり、40ケほどのmetaphasesを得ることが出来、検べたところ染色体数の分布状態はH・P2とかなり類似していることが判明した。つまり血清培地継代細胞より、はるかに分布範囲が狭くなっており、同数の染色体をもった細胞でも種種の核型が存在している事である。分布範囲が狭くなる現象が今までも再三述べてきたように、やはり血清不添加によるためであることは、この場合にも明瞭に確認されたわけである。こうなると血清のもつ役割を詳細に追求することが重要であって、特に培養細胞の遺伝的性質を変異させる一つの大きなfactorとして種々の遺伝的問題解明の鍵となっている。 B)L株細胞:前報で無蛋白培地継代の4亜株(L・P1〜L・P4)について染色体数の分布結果を報告したが、このうちL・P2細胞(LYD培地)については増殖があまりよくなかったために9つの細胞で大体の傾向を示しただけに止まったが、その后かなり多数のmetaphases(現在まで約42metaphases)を得て、分析した結果染色体数の分布状態はL・P4細胞と非常に類似していて、最高頻値を示したのは66本の染色体をもった細胞であることが明かとなった。又L・P1、L・P3、L・P4もgenerationを追って観察分析してきているが、現在までの段階では各亜系とも殆んど継代期間中の相違は認められていない。核型分析は目下懸命に行っているが、何しろ想像に絶する程時間のかかる仕事で(勿論正確度に甘い採点をするなら別だが)なかなか期待通り進行しない現状である。しかし今では相当データも集盤戦に入った感じです。無蛋白培地での細胞の遺伝的特性の問題は重要な意義をもっていると思うので、慎重に事を運んでいる次第である。
C)サル腎臓細胞:この細胞の株化は伝研のTC研究室で行われているが、私も培養開始後の細胞の遺伝的特性を追究している。しかしなかなかmitosisが少なく充分な分析が出来ずにいる。したがって、これからはコルヒチンを用いてmetaphasesを増やそうと考えている。だが私はコルヒチンがはたして細胞の異常分裂のfactorになるのではないかという疑問を持っている。Dr.Ohnoの意見では全然心配はいらないとのことですが、私には納得がゆかないので今度はコルヒチンを用いるのと用いないのとを比較しようと考えている。 今まで分析材料に用いたサル腎細胞は血清不添加培地で継代されたものであるが、L株、HeLa株の両細胞で明らかなように血清の有無による細胞変異の常態をサル腎細胞でも早急に検討してみたいと思っている。
−追−10月20日(木)、伝研集団会で「無蛋白培地によるL株細胞(マウスセンイ芽細胞)の研究.第9報:無蛋白培地内継代4亜株間の染色体の比較」(20分)を話します。
(上記のH・P1はHeLa・P1、H・P2はHeLa・P2の略です。正式の略名ではありません)
編集後記