【勝田班月報・6006】
《勝田報告》
A)サル腎臓細胞
無蛋白培地内の継代培養は、材料の入り次第に屡々行なっているが、本年7月4日に開始した系はその后しだいに増殖率が落ち、現在は殆ど停頓状態である。9月28日に開始した系は11月15日で48日になるが、大体良好な経過を辿っているので、この方が先の見込があるわけである。発癌実験用には小動物の方が好ましいのでラッテの腎臓についても同様の試みをおこなっている。
B)L・P1細胞のアミノ酸要求
Methionine、Tryptophan、Phenylalanineについては前報に報告したが、その後Cysteine、Threonine、Valineについてしらべた。CySHは8、80、160、400mg/lの4種の内160mg/lが最高の増殖を示した。これまでは80mg/lを採用していた。Threonineは100、200、500mg/lの内、200mg/lが至適で、これまでは100mg/lを使用していた。何れもこれまでの倍量となり、経済的には頭の痛い話であるが、増殖率を少し宛でもよくするためには仕方がないであろう。Valineは8.5、85、170、425mg/lの内では、これまでと同様85mg/lが至適であることが判った。さらに他のアミノ酸についても検討をつづけている。
C)HeLa・P2細胞の合成培地内継代培養
前報でも若干報告したがHeLa株を無蛋白培地に馴らした亜株HeLa・P2を、さらに完全合成培地で何とか継代できるようにしたいと思い、夏ごろから各種培地での試みをおこなってきた(表を呈示)。結果は何れも余り面白くないが、Control自体もこの頃はあまり増殖率がよくない。そして合成培地の内ではM.858がまだ少しましのように見える。そこで858を用いて、その后もさらに培養を試みてみた。ところが秋に入ってから急にHeLa・P2自体の増殖がよくなり、7日間に9.3倍の増殖を示すようになったのと同時に、PVP+M.858での継代が成功するようになった。HeLa・P2は1959年11月7日から無蛋白培地に入れたのであるが、細胞が一つの株あるいは亜株として安定した増殖を示すようになるにはやはり1年位かかるということを裏書きしているのかも知れない。継代は合成培地で約7日毎におこなっている。
HeLa・P2:培地(PVP+LYD)・(1959-11-7より)・継代36代・7日間9.3倍増殖
PVP+M.858・(1960-10-7より)・継代4代・
6.3倍
そこでこの后者を、もう少し様子を見てから、HeLa・P3と名付けたいと考えている。
HeLa・P2がなぜDM-11、-12であまり増えないで、M.858で増えるかという問題であるが、后者に比べて前者に欠けているものは、核酸成分(だからDM-11に核酸を加えてみた)、補酵素類、それにinositolなどもある。EagleらによればHeLaにinositolは必須であるというが、まだこの試験はおこなってなかったので至急にDM-11、-12に加えてしらべてみたいと思っている。とにかくM.858では余りに沢山の組成が入りすぎていて、あとの実験に差支えるので、何とかしてもっと簡単な合成培地で継代できるようにしたいと思う。
D)各種細胞の増殖に対するBilirubinの影響
前号にやはり若干報告したが、細胞の種類による差がかなり現われて、次表のような結果を示した(表を呈示)。L・P1とHeLa・P2とでは夫々無蛋白の培地と血清を添加した場合との両者を比較し、夫々相異なる結果を得たのはきわめて興味が深い。L・P1では血清蛋白が存在しないと著明に増殖が抑制されるが、蛋白を加えるとこれがカバーされてしまう。L・P1ではBilirubinの濃度に比例してはっきりと増殖阻害がおこっているが、牛血清蛋白を5%加えた群ではControl(無添加)と殆んど同程度の増殖度を示している。ところがHeLa・P2では、無蛋白の場合、高濃度のBilirubinでは若干の抑制を受けるが、それにしてもL・P1の場合のように顕著ではなく、きわめて微弱である。血清蛋白を加えると、これはL・P1と同様に抑制現象がまったくカバーされてしまう。これは次のように考えて良いものであろうか。即ち、L・P1細胞のなかの代謝経路の内、ある極めて重要なものがBilirubinでblockされる。これはBilirubinが蛋白と結合した場合には阻害できない。或は、蛋白と結合するとその酵素のある場所まで入って行けない。しかしHeLa・P2の場合には側路があるので、主路がblockされても比較的簡単に代償されてしまう。
それ以外の細胞では、L、HeLaの血清培地継代系や、ラッテ腹水肝癌(AH-130)及び鶏胚心センイ芽細胞のprimary
cultureは、この程度のBilirubin濃度ではほとんど影響を受けない。面白いのはサル腎臓細胞のprimary
cultureで、これは0.5mg〜3mg/dlあたりの濃度で反って明らかな増殖促進効果をみせたことである。
これらに用いたBilirubinの濃度は、人血清中の正常値から病的濃度に渉るものをえらんでいる。またBilirubinはきわめて色々なものに溶けにくいので、pHの高い液にといて濾過滅菌し、稀釋してからpHを戻し、できた塩も考慮に入れて塩類溶液を調節して、培地を作るのである。
また上記の内で、HeLa細胞の増殖率がきわめて悪いが、HeLaはLと異なり、そのときの牛血清如何によって増殖度に大きな差がある。殊に透析した場合にこれが甚しいが、この実験では全部同じlotのものを用いたのでHeLaの為に適した血清を選べなかったものである。
Bilirubinが血清蛋白を含む培地に入れられたとき、なぜ阻害効果をカバーされるか。おそらく蛋白と結合するためであろうが、果たして本当に蛋白と結合するのか、それならば蛋白の内のどんな分劃と結合するのか。これはしらべてみたところ、かなり色々な説があるので、自分で確かめてみたいと思い、濃血清蛋白と混和後、37℃1昼夜加温してから、濾紙電気泳動でしらべてみたが、蛋白各分劃の移動は発色で判ったが、Bilirubinの方は何とも色が薄く(あまり濃いと溶けない)、臨床検査に用いるような各種の発色法をとってもBilirubinの濾紙上の存在箇所をたしかめることができず、ついに行き詰まってしまった。何とか良い考えがおありでしたら、お知恵を拝借したいものである。
形態の上では、培養の初期にはところどころの細胞の細胞質が濃く黄染しているのを見掛けるが培養と共にこれが次第に増す。他の大多数の細胞も取入れているのだろうとは思うが、なにしろ淡くて対照との区別がつかない。いちばんはっきりしているのは鶏胚センイ芽細胞であった。詳細次報。
《高野報告》
A)培養細胞の凍結保存
凍結用アンプルの容量と細胞浮遊液量との関係について、2.5mlアンプルに1mlを入れた場合と0.5mlを入れた場合とで凍結後1ケ月の生細胞数及び増殖に大差なく、むしろ1mlの方が良好な結果をえた。保存4ケ月目の成績も略同様の傾向を示したので、浮遊液調製の簡便さと確実さの上からも1mlを用いるほうがよいとの結論をえた。
マウス・ラッテ由来細胞保存条件としてのglycerol濃度については近々4ケ月の成績を検討し之によって今後の方針を決めることにした。
尚凍結保存環境に血清の存在が不可欠といわれているが、この場合栄養源としての意味は殆んどなく、専ら物理化学条件としての意義が大きいと思われるので近くPVPでの代用を試る予定。
B)JTC-6株のhydroxyproline産生(伝研組織培養室、東大薬学生理化学との共同)
No.6005に述べた主旨に基きJTC-6の細胞増殖に伴うHYPRO産生は細胞あたり略一定値を保つとの以前dataを再確認する為実験を開始した。遠藤氏の注文で1回の定量材料として少なくとも1000万個cells必要とのことで大仕掛(?)となった。培養開始後一部に増殖不良の培養が存在したので(恐らく培養瓶の故?)予定した4日目の定量を中止。0、7、10、14日目の材料で測定することとした。不充分ながら傾向を確かめる事は可能と考える。
C)抗細胞免疫血清による細胞障害作用
JTC-6及びLに同種抗血清を加える場合56℃30分の非働化によって非特異反応を除く必要を認めたので非働化抗血清による障害を改めて観察中。
また細胞浮遊液で免疫する場合、その細胞の特異性を擔う抗原が覆われる可能性が考えられるが、この点を確かめるためHeLa、JTC-6、Lの3株を材料にcitric
acid法によって核をとり、核浮遊液での免疫を開始した。
D)JTC-6株よりのclone分離
同株でのclone formation実施中にシャーレにまいた培養の染色標本を観察中たまたま相異する2種の細胞でそれぞれ構成されたcolonyが隣り合って存在するのを認めた。一は細胞、核ともに大きく比較的濃染性、他は小型でやや薄く染まる。生の材料では見分け難いのでこの形態を目安に分離する事は出来ないが、clone分離後の比較に基準として用いうる。 No.6005に記した方法でEDTA処理駲化系から6系を分離したが、現在2系が残って通常の継代を行える程度に発育が進んだところ。更に数系を分離して細胞及び集落形態、核所見、増殖態度等で異同を検討する。他に従来のtrypsin処理系でもcolony
formationを実施中。 E)Ehrich腹水細胞抽出物のL細胞培養への添加
前記の様に0.1〜0.5%に抽出物を加えてLの培養を続行中。染色標本でしらべると無処置群に比較して細胞の不同性、濃染性が強く巨大型の頻度がやや高い感じ。但しこの程度の変化は軽い障害作用ともみなしうる。要するに添加を中止しても安定に保持されるgeneticな変化が目標なのでマウスへの復元を試みながら長期継続の予定。
F)ラッテ脳下垂体前葉細胞の培養
Fibrin-clot法で培養した組織片からepithelial、fibroblastic両様の細胞がoutgrowして来るが未だ継代には至らない。小さな臓器なので充分な細胞数を得るのに一苦労。40頭を潰してtrypsinizationによる培養を開始した。
《高木報告》
1)RNAの培養細胞に及ぼす影響
RNAを培養細胞に作用させる場合、そのredosingの間隔については、培養液中のRNAがどの位の期間分解しないで維持されているかを調べなければならない。No.6005において報じた如く、AH-130腹水肝癌から抽出したRNAは、細胞を含まない培地(PVP+LYT)のみの中では、一週間にわたって殆んどその濃度の低下がみられなかった。今回は更に細胞を培養している培養液中に含まれたRNAが、どの様に消長するかについても比較検討した。
即ち、第1群・細胞を培養している培養液中にRNAを加えた場合と、第2群・細胞を含まない培地のみの中にRNAを加えた場合、についてその中に含まれたRNAの量を、添加後2、4及び7日目にSchneider法に準じて測定した。第3群、対照として細胞を培養しているRNAを加えない培養液のみの場合についても同様に日を追って測定した。
この実験では細胞は2%牛血清培地で継代しているJTC-4細胞を用い、これを試験管1本あたり約9万個細胞数になる様に植つぎ、2日間培養後Tyrode液で一度洗い、0.1%PVP+LYT培地で交換してこれに適当濃度のRNAを含有せしめた。
結果は(表を呈示)、今回の実験でも細胞を含まない培地のみの中では(第2群)RNA量は一週間後でもあまり減少しないのに対し、培養細胞のある培養液中では(第1群)2日後にはすでにRNA量の急速な減少がみられた。これは培養の有するRNaseにより培養液中のRNAが速やかに分解されるためにおこるものと思われる。
なお第3群のRNAを加えない培地のみの場合においても、測定に際しE260で僅かながら吸収を示すものがあった。
2)免疫に関する研究
Wistar系ラッテの心臓、JTC-4細胞共に一応予定の免疫を終了した。即ち始めの2回は一週間の間隔でadjuvantを用いて免疫を行い、以後はadjuvantを使用せず細胞のみを一週間に2回の割合で4週間家兎の皮下に注射した。最後の注射が終わって2週間後にboosterを行い、昨日始めて採血した。早速凝集価及びcytopathogenic
effectによる抗体価の測定を行う予定である。(今回のreportにはわずかながら間に合わなかった。)
なおHeLa細胞も同様にして再度免疫中である。
また蛍光抗体法で検討する際に非特異的抗体を吸収するために用いるaceton
powderも、ラッテ肝及びラッテ腎からのものは作成を完了した。これらはCoon法によって作成したのであるが、今回は特に温度に留意したためか綺麗なサラサラしたpowderが出来た。ラッテ脾は小さいために中々材料が集まらず未だ作成出来ていない。
3)その他の研究
(1)JTC-4細胞の無蛋白培地による培養
牛血清を含む培地で植ついでは2〜4日後に0.1%PVP+LYT培地で交換する方法を繰返し、牛血清の濃度を次第に落して、実験開始後3ケ月の現在では0.1%の濃度にまで落すことが出来た。2%牛血清培地及び0.1%牛血清培地における細胞の増殖率を出すべく目下実験中である。
(2)JTC-4細胞のcollagen産生能について
間もなく実験が終るので材料を遠藤先生の処へ御送りする予定である。培養した細胞はトリプシン処理して高速廻転培養管に集め、一度Tyrodeで洗って5%TCAを作用させて冷蔵庫中に保存している。細胞の増殖率は可成り良い様でinoculum
size 5万のものが一週間で大体15倍位に増殖している。
(3)制癌剤耐性HeLa細胞について
制癌剤に耐性を示すHeLa細胞をつくるべく、ナイトロミン15〜20μg/ml、クロモマイシン0.01〜0.05μg/mlを依然として作用させて実験を続行中である。
(4)JTC-4細胞の染色体について
遺伝学会に出席のため奥村先生が来福されたので、JTC-4細胞74代、培養後3日目及び7日目のものを提供して標本を作って頂いた。今後若しJTC-4細胞が無蛋白培地で培養出来る様になれば、それと比較して頂くと面白いと思う。
《奥村報告》
A)無蛋白培地継代細胞の染色体研究
1.L株細胞:前報までは主に4亜株(L・P1〜L・P4)間のchromosome
numberの分布の特徴を比較し報告して来たが、今回からはkaryotype(核型)の特徴について報告します。先ず血清培地継代のL細胞では68本の染色体をもった細胞が一番多く出現していて、その68本の染色体構成は11本のV型染色体(V-chrom.)と5本のJ型(J-chrom.)染色体と52本のr型(rod-type)染色体(r-chrom.)である。しかし、中には同じ68本の染色体をもったものでも、その構成が前述と異る細胞も若干混在している。例えば、V-chrom.が13本もあるもの、又J-chrom.が4本しかないものなど各要素(V、J、r)の数的差異が見られる場合、又各要素の数が同じであっても、chromosomeのsizeに明瞭に差があったり、constrictionの位置に相異がみられる、いわゆる質的差異が認められる場合である。L・P1細胞については、血清培地継代のL株細胞と殆んど差は認められない。即ち、染色体数68本をもった細胞が最も多く(頻度が明かに高くなっている)chromosomal
compositionも11V-chrom.+5J-chrom.+52r-chrom.である。ところが、L・P2細胞ではL・P1細胞と異なり、66本の染色体をもった細胞が最も頻度が高く、そのchromosomal
compositionは68本の場合の構成からr-chrom.が2本欠けたもの、即ち11V-chrom.+5J-chrom.+50r-chrom.である。しかし中には11V-chrom.+4J-chrom.+51r-chrom.のものとか、13V-chrom.+5J又は4J-chrom+48r又は49r-chrom.のものも若干みられた。L・P3細胞でも66本の染色体をもつ細胞が最も多く、その染色体構成はL・P2と非常によく似ている。L・P4細胞は無蛋白培地継代細胞の中でもL・P2、L・P3とはいくぶん異なり、最高頻度を示している66本のchromosomeの中に現在まで大別して3種類の核型が発見されている。例えば、L・P2、L・P3でみられた11V-chrom.+5J-chrom.+50r-chrom.の他に10〜13V型の細胞、6〜8J型細胞である。したがって詳細に分析すればほぼ10種類ぐらいの核型が共存していることになる。勿論L・P4だけでなくL・P1、L・P2、L・P3のいづれにも同数の染色体で異った核型が発見されてはいるが、非常に数が少ない。それに反してL・P4細胞は種々の核型の出現頻度に顕著な差が認められない。
2.HeLa株細胞:前報でHeLa・P1のchromosome
numberの分布がHeLa・P2と殆んど差がないと報告しましたが、samplingのときのミスでHeLa・P1でない事が判明しました。したがってHeLa・P1と記載されましたのをHeLa・P2に御訂正をお願いいたします。現在はHeLa・P2についてのみ分析しておりますがやはり74本の染色体をもった細胞が一番高い頻度を示しています。しかし核型は4〜5種類ほど存在していることが明らかになりました。
B)遺伝学会に出席して(福岡・九大)
10月29日〜11月1日まで4日間で約150題が報告されました。発表会場も3ケ所に分かれて私の是非ききたい演題が同時間に別々の会場で報告されるようなこともあって残念でしたが、私のきいた中で特に面白いものがいくつかありましたので一部ここに記述します。
1.岡田利彦、柳沢桂子(コロンビア大・動)。Thymine要求性突然変異株の特異的産生について。AminopterinとThymidine及びaminopterinにより合成が阻害されると思われる12種の物質を含む合成培地に、大腸菌15株又はK12株を発育させると、増殖した大腸菌の集団中10〜18%がthymine要求性変異株になる。しかも得られた変異株は遺伝的に安定であり、thymine要求性以外の形質にはなんら変化なく、thymineを含まない合成培地ではいわゆるthymine-less
deathをおこすという事です・・・このthymine要求性のlocusがchromosomalのものか又はcytoplasmicのものかという事が大切な問題である。
2.小川怒人(遺伝研)。発生初期における骨格筋ミオシンとアクチン分化の相関性。骨格筋proteinの分化に際し、アクチンとミオシンは全く別個の発現経過を有していることが判明した。この事は今まで発生初期でも再生組織においても常にアクチンがミオシンに先づるという考え方に反することになる。
3.黒田行昭、堀川正克、古山順一。組織培養による哺乳類体細胞の遺伝的研究(I〜 )。これは今春の京都におけるTC学会のときに発表された内容を更にいくぶん深めたもので、今月19日のTC学会でも発表されるはずである。
《遠藤報告》
HeLa細胞のleucineaminopeptidase活性に対する性ホルモンの影響
研究連絡月報No.6003及び6004で報告しましたように、HeLa細胞はかなり強いLeucine
aminopeptidase活性を持ち、更にこの活性は性ホルモンの添加で変動することが認められましたので、いよいよ各種のホルモンを添加する本実験を行いました。
1.実験条件
1)培地:20%Bovine serum+0.4%Lactalbumin
hydrolysate+saline D
2)培養期間:4日(2日目培地交換)
3)ホルモン:Progesterone 0.3mg/l(P)
Estradiol enzoate 3μg/l(E)
Testosterone 10mg/l(T)
Progesterone 0.3mg/l+Esteradiol
3μg/l(PE)
Progesterone 30mg/l+Testosterone
10mg/l(PT)
4)定量:(1)核数算定
(2)Leucine aminopeptidase活性の測定;2日目及び4日目の対照及び処理群の
HeLa細胞を150万個cell/ml程度のhomogenateとし、その上清について活性を測
定して、30分間(38℃に)1x10-9μmoleの基質を分解する強さを1(単位)とした。
2.実験結果
1)増殖:表の通りで、ほぼこれまでの結果と一致しているものと考えられる。
2)Leucine aminopeptidase活性:Leucineaminopeptidase
activity/cellとして表を呈示する。
3.考察
1)培養2日目には、増殖及び試験の結果から想像していた通り、Pは最もLeucine
aminopeptidase(Leu-ase)活性促進し、次いでEもLeu-ase活性を高め;更にTはまだ細胞増殖は殆ど抑制していないに拘らず著しくLeu-ase活性を低下させた。併し単独では促進的なPとEを同時に添加したPEにおいては対照と殆ど変らないLeu-ase活性しか認められなかった。この理由はよくわからない。又PTでは極めて著しい活性の低下が認められたが、これはPが30mg/lという高濃度なので、P単独でも抑えており、これにTの抑制効果が相加されたのかもしれない。P単独で濃度をいろいろに変えた場合の活性の変化を今後検討する必要がある。
2)培養4日目には、様相は全く変り、PはLeu-ase活性を低下させ、逆にTが著しく高めるという知見がえられた。Eは2日目と同様促進的であった。PEは依然として対照とそれ程差がなかった。併し、2日目には著しく対照より低い活性を示したPTが、4日目にはかなり対照より高い値を示した。これはTの著しい促進効果が、30mg/lの高濃度でのPの抑制効果(推測)を隠蔽したとも考えられる。
3)結局2日目及び4日目を通じ一定の傾向がみられたのは、EがLeu-ase活性を高めること及びPEはLeu-aseに殆ど影響しないことである。予備試験ではPEはLeu-ase活性を高めたが、その場合のEは今回の10倍の30μg/lであった。この点でも各ホルモンの濃度とLeu-ase活性の変化との関係を調べる必要を感じる。
4)P、T及びPTは、それぞれ2日目と4日目でLeu-aseに対する作用が逆転した。この知見をうまく説明できるような事実を私は知らないが、別に行った4日目のデータでも各処理群のLeu-ase活性は略同様になっていたので実験上のミスではないであろう。とするとPとTは化学構造的にも又生物学的作用の面でも似ている所が多いので、この知見は内分泌学的には興味ある問題を提供することになるであろう。
5)従って今後、この事実を確認するために、各ホルモン処理群についてもっと細かく日を追ってLeu-ase活性の変化を調べたい。
《伊藤報告》
S2分劃(悪性腫瘍組織抽出液30~70%エタノール飽和沈澱分劃)に対する蛋白分解酵素による処理及び加水分解の影響
前回の報告でS2分劃について、これまでの結果を発表致しましたが、今回は其后に得られました結果を報告致します。
1)Protease処理
S2分劃を1mg/ml、Proteaseを0.2mg/mlの濃度に、1/60M.phosphate
bufer(pH.8.0)に溶解し、37℃で24hrs incubateして后、100℃3min.加熱してEnzymeをinactivateする。此の様な処理を受けたS2分劃は未処理S2分劃が有するL株細胞増殖促進効果を全く失ふ。
2)Trypsin処理
S2分劃を1mg/mlの濃度に1/60M.phosphate buffer(pH.7.2)に溶解し、100℃30分加熱后
Trypsinを0.2mg/mlの濃度に添加して、37℃24hrs
incubateして后、100℃3min加熱してEnzymeをinactivateする。この処理を受けたS2分劃は、未処理S2分劃と同様効果を有する。 3)加水分解
S2分劃に6N・HClを加へ、120℃で24hrs.加水分解を行ったものは、完全に其の作用を失う。
以上でありますが、其の后現在はTrypsin処理したものの透析性について、更に別に電気泳動による各分劃について夫々検討を進めて居ります。
編集後記