【勝田班月報・6102】
《勝田報告》
細胞凍結保存制度
 細胞株の保存のため凍結することは国内では予研・高野君をはじめ若干の人が手がけはじめていますが、1)どんな型の細胞にはどんな凍結保存法がよいか、2)保存により細胞株の性質が変らないか(淘汰)、3)最大或は最少どの位は保存できるか、などの基礎的なデータを早くしっかり出し、日本国内数ケ所に於て代表的な株と、国内でできた株すべては保存する、というような制度を早く作るべきではなかろうか。勿論これには国家的援助が必要であるが。これによって不時の事故で株が中絶することと、余り使わないときにもたえず維持して行かなくてはならぬという、合計すれば大変な量の労力を防ぐことができるのである。また同時に株を作るほうも、何でも良いから作るのではなく、何かちゃんと目的に沿うような株をつくるようにこれからは努力すべきではなかろうか。そして培養法が進歩して、どんな細胞でもすぐ培養できるようになれば、特殊に変異した株のほかは保存の要もなくなるであろうが、それはいつのことか判らぬので、致方のないことである。
 A)パラビオーゼ細胞培養(Parabiotic Cell Culture)について
 今月は培養法を中心にかきましょう(試験管の図を呈示)。まず培養管ですが、1ml目盛のついた短試2本を細い硝子管が連結しています。初めは横にまっすぐつないでみたのですが、そうすると管を立てたとき液がその細い管のなかに入って行ってくれません。こんな形になるまでにずい分色々やってみました。Control群のためには夫々1本立ちの短試を同質の硝子管で作っておきます。液量ははじめは1.5mlのつもりでしたが、それだと細い管に液が入ると元管の方の液がすっかり少くなってしまうので2.0mlにしました。勿論Controlの方も2mlです。これで左右の管に夫々別の細胞を入れておいて、一晩位は未だ液が交通しない程度の傾斜でincubateし、細胞を硝子管の底に附着させてしまいます。それから初めてゆっくり管を寝かし、細い管の中まで液が入って、左右管の液が相通ずるようにします。以后はずっとこの状態で培養するわけです。数をかぞえるときも左右別々にクエン酸液を入れて別々にかぞえますが、この型(TWIN-D1)の欠点として遠沈管に入らないので、クエン酸液を入れたあと、1晩放置して細胞を自然沈着させなくてはなりません。そのためか、少し1本1本の核数の間のばらつきが少し大きい嫌いがあります。そこで遠沈もできるように改良したTWIN-D2や、間の連結管にMiliporefilterやcellophaneを挟むことのできるTWIN-D3型も発註してあります。こういう高級の細工は高島商店です。管を立てておく支持台は光研社です。次にJTC-4D株とHeLaとのpara-Cultureの結果をお目にかけましょう(表を呈示)。Para-Cultureすると、JTC-4Dの増殖は抑えられ、HeLaのは促進されています。 B)L原株とL・P4亜株との増殖に対するナイアシン及びその誘導体の影響
 これは例のBarodaのProf.C.V.Ramakrishnan、Mr.H.R.Chokshi等と共同で始めた仕事ですが、合成培地DM-120を使い、Nicotinamideの代りにNicotinic acidやその他の誘導体を用い、それらの間及び両株での間の、増殖の比較、DPNの合成、糖消費、乳酸産生、培地中のアミノ酸の変化、細胞の形態の変化などを見ようとする仕事です。いまL株について始めていますが、1週間LをDM-120で増殖させ(母培養、この間はよく増えます)、それから次の1週間に各種培地に移して実験するわけです。
 C)L・P4細胞のアミノ酸要求
 アミノ酸19種を含有する合成培地DM-120(全組成で37種)では、少くとも1週間はL、L・P1、L・P2、L・P3、L・P4は何れも旺盛に増殖する。しかしこれよりもアミノ酸6種を少くしたDM-114ではL・P1とL・P3は7日間増殖を続けられるが、他はできない。両培地の相違はアミノ酸6種だけである。殊にL・P4は細胞数が顕著に減少して行くので、L・P1とはアミノ酸要求に於て相違のあることがはっきりしている。そこで今年に入ってからL・P4のアミノ酸要求を順次しらべ、L・P1と比較をしているが、現在までに判った結果は次の通りである。
 Phenylalanine:DM-120には80mg/l入っているがDM-114に入っていない。つまり少なくとも1週間の試験では入れなくとも入れたのを同じように増殖(L・P1)したのである。ところがL・P4でも入れない方がむしろ良く、0の群で7日間に5.5倍、80mg/lの群で3.2倍の増殖である。 Tyrosine:DM-120には50mg/l、DM-114は0である。これもL・P1では入れない方が良かったのである。しかしL・P4の場合は0だと7日間に4.5倍なのに対し、50mg/l入れた群では最高で6.3倍の増殖である。これがL・P1とL・P4のアミノ酸要求の相違の一つであろう。
 Asparatic acid:DM-120には25mg/l、DM-114は0である。4日迄の成績によると、この場合もL・P4はL・P1と同様に0の方がよく、4日間で6.3倍であるのに対し、25mg/l入れると5.1倍となっている。7日后の成績でも同様、0の方が6.6倍、25mg/lが5.6倍となっている。この4日目から7日目にかけての増殖の悪さは、どうもfibroblastsの核計算用の振盪器と同じ恒温器に入れているため、最近実習をやっている連中が大ぜいfibroblastsの培養のcourseに入ったので、どうもその影響もあるらしい。
 なおこれに関連したことであるが、アミノ酸要求をしらべるためには各アミノ酸を夫々別個に溶いて(いわゆる耐熱性のものは粉末でAutoclaveしてから)いるが、このmixtureと、全部溶いてからglass filterで濾過滅菌したものと比べると、どうも后者の方が増殖が良い。そこで今后はmilipore filterの小さいのを作って、それで全部これで滅菌するようにしたいと思い、準備をすすめている。その径は、TWIN-D3と同一径になるように12mmにする予定である。これができると、アミノ酸だけでなく、少量の貴重な薬品の濾過滅菌に使えて大変便利であろう。

《高野報告》
 A)Ehrlich腹水細胞エキス添加培養液でのL細胞の継代
 この実験を開始してから約4ケ月継代12代に達した。位相差顕微鏡及び染色標本による観察では、エキス添加群の細胞は細長い突起を示すものが多く、単核乃至多核巨細胞の頻度が大きい様である。核の形大きさ染色体等には無添加群と余り明らかな差異は認められない。 dd/Yマウスへの復元を皮下及び腹腔内接種によって屡々行っているが現在迄に確実な陽性例は得られていない。
 現在の段階での変化が単に一時的な形態上のみのものか否か見当をつける為に、2.5%エキス添加継代したものを無添加培地にもどすと、上記の変化が消失するかどうか、抗L細胞血清による障害程度に差がないか、増殖曲線の比較、γ線照射に対する態度の比較等、種々の観点から調べてみる。
 もしこの変化が不可逆なものであれば動物への復元は陰性でも、やがて陽性となる過程の一段階としての意義を担うものと考え度い。
 更に奥村氏に依頼して添加群と原株との核学的所見をも比較して見度い。一応不可逆な変化の段階に達すれば現在一方で進行中のγ耐性HeLa株の所見と合せて面白い方向に伸ばせると考える。
 B)細胞材料での免疫抗血清の調製
 HeLa、L、JTC-6の細胞浮遊液及び核浮遊液での家兎の免疫は大体1週1回の頻度で(200〜300万個/head)大半が10回に達したので、一部採血し、それぞれの細胞株に対する障害度をしらべたが、どの群も抗体産生が充分でなく24時間後に僅かの比率の細胞が障害をうける程度なので更に免疫を続けることにした。従来の抗原接種は耳静脈内のみを用いたが、以後は皮下接種をも併用して効率をあげる。更にAdjuvant利用も試る予定で準備中。
 C)JTC-6よりのclone formation
 EDTA処理に駲化したJTC-6から2系のcolonial cloneをとったが、最近になってその中の一株が形態的に他と相異をみせ始めた。以前に記した様に、この原株は少くとも2種類或いはそれ以上の細胞から成り、長期継代後も混在の状態なので純化の必要を感じて、clone formationを行ったわけであるが、上記の1系は殆んどの細胞が細長い形で核も比較的小さく細胞相互の膠着性が低く、非規則な配列を示して増殖する点、fibroblasticな傾向が強い。更に純化が進んだ後、増殖度その他の性状を他の1系及び原株と比較する。
 D)脳下垂体前葉細胞の培養
 何しろ小さな臓器なので、40〜50匹のラッテから多くて1000万個位の細胞を集めるのが関の山。而も自家融解を起し易くTrypsinの作用がかかり過ぎると忽ち生細胞数が減ってしまう。Trypsin処理(0.1%、37℃、5分)は3回位に止め、clot状になる細胞塊をCa-Mg-free塩類液中で根気よくpipettingでほぐすのが最も効率がよいらしい。
 7〜10日培養して増殖が旺盛になったところへラッテの間脳エキスを添加、その後経時的に培養液中のgonadotropin活性を幼弱マウスで生物学的に検定し、間脳−下垂体間の直接関係を証明しようというわけ。初代で陽性のdataを積みつつあるが、2代目への継代がなかなかうまく行かないので定量的な実験は未だ出来ないでいる。

《奥村報告》
 A.サルの染色体−サルの染色体数については2つの説がある。1つはPainterの48本説(1924)、他の1つは牧野佐二郎の50本説(1952)である。しかし、性決定型はXY型ということで両者の報告は一致している。これらの報告は組織培養によるものでなく、切片標本などによる判定で、今考えてみるに相当誤差の多い結果と想像される。人間の染色体数も組織培養を用いてしらべた結果、48本や47本でなく、46本である事が明かとなった様に、サルの細胞についても当然この様なことが有り得ると思う。私も伝研で培養を試みられているサルの腎臓細胞を材料にして現在まで十数回samplingし検討しているが、49本の染色体をもった細胞が最も多い結果が得られている。しかし細胞群の中には48本の細胞、50本の細胞、それに他の数の細胞も比較的多く混在していて仲々数決定はむづかしいが、今后核型分析を行っていくうちに次第に染色体型が明確になると思います。重要な問題だけに慎重を要します。
 B.サル腎臓細胞の染色体−サルの染色体を決定する場合には体内の数ケ所から細胞をとってしらべるのが望ましいのですが、今は腎細胞のみについて検討中です。現在、伝研ではサル腎細胞のPrimary cultureを血清培地と無蛋白培地の2種で行っていますので、私はこの両者からsamplingしてchromosome numberのdistributionにどの様な差がみられるかを分析中ですが、現在までの結果ではL株細胞の無蛋白培地駲化時にみられたような現象がみられます。つまり、血清培地の場合には非常にバラツキが大きく、培養開始后1週間目で4倍体及びその近辺の細胞が相当数出現し、又heteroploidyがみられますが、無蛋白培地で培養するとバラツキが少なく相当期間(未だ不明)正常数(2n)をもつ細胞が現れています。ただ現在のところ、無蛋白培地での培養では非常にmitosisが少く、従ってはっきりと結論を言う事が出来ませんが、大変面白い現象です。
 C.WL細胞の染色体(予研高野先生と共同)−予研ではWL細胞からいくつかのcloneを作っています。と云いますのは現在のWL細胞の染色体分布をみますと、高2倍体、3倍体、4倍体など種々の型の細胞がみられますので、何とか種々のcloneを作り染色体型の分離を試みているのです。その結果、今までに約3倍体と約4倍体の2つのclone formationが成功してします。他の型のcloneも是非作りたいところです。

《高木報告》
 1)RNAの培養細胞に及ぼす影響
 前報の如く、培地(PVP+LYT)中のRNAは、細胞が存在する場合には急激に分解することが分った。従ってRNAを長期間培養細胞に作用させて、それの及ぼす影響を観察する場合には可成り屡回にredosingしなければならない。
 先に行ったMY肉腫よりのRNAをマウス繊維芽細胞のprimary cultureに作用させた実験では、3回redosingを行った丈で1ケ月間観察した訳であるが、これではRNAはほんの短時間しか作用していないことになる。
 そこで今度は一応株細胞を使用して、これに3日目毎にRNAを作用させ、長期間にわたりその変化をみたいと思っている。
 RNAをAH-130腹水肝癌細胞から抽出したもので、その原液は5000μg/mlであった。これを培養2日後のJTC-4細胞の培地(PVP+LYT)中に100μg/mlの濃度で入れ、以後3日目毎に同一濃度のRNAをredosingしつつ培養続行中である。対照として、実験群と同じ日に培養した細胞で、同様にPVP+LYTのみで交換しているものをおいている。今回は、対照とくらべてRNAを作用させた細胞の復元性の変化を主体として検討して行きたいと思っている。
 2)免疫に関する研究
 HeLa、L、JTC-4、-6細胞の間に種属特異性がみられる事が、immunocytopathogenic effect及び蛍光抗体法により一応明らかになったが、これらについて更に再検討中である。
 先達って上京の際に抗JTC-4細胞血清をWistarラッテの心臓の凍結切片に作用させて、これのどの部分に抗血清がつくか観察する積りであったが切片が厚すぎて不成功に終った。やはりクリオスタットを使用しなければ駄目の様で之により更に薄い切片を作って検討したい。抗血清はラッテ肝、腎のaceton powderで吸収したものを使用する予定である。また腹水肝癌細胞とJTC-4細胞等の抗原性の違いを追求すべくこの細胞の免疫を準備中である。 これまで、諸種細胞で免疫する場合に、それら細胞をそのまま家兎に注射して抗血清をつくって来たが、今後特に細胞の臓器特異性などを検討する際には、細胞からのRNPなどを抗原とした免疫法も考えねばならないと思う。
 3)JTC-4細胞の無蛋白培地による培養
 培地中の牛血清の濃度を次第に落し始めてから約3ケ月で0.1%BS+PVP+LYT培地で培養可能になったが、昨年末、この培地では増殖がきわめて悪くなった。そこで一度2%BS+LYT培地にもどし、再び牛血清濃度を落して0.5%BS+PVP+LYTで植つぎ、現在はこの培地で2日間丈培養してあとはPVP+LYT培地で交換している。まだprotein freeとまでは行かない。 4)その他
 制癌剤(ナイトロミン、クロモマイシン)耐性HeLa細胞の実験はなお続行中で、一代の培養期間中薬剤を3〜4日ずつ作用させて培養を続けている。またJTC-4細胞の諸種ウィルスに対する感受性をみるべく、目下日本脳炎ウィルス(G1)について検討中である。

編集後記


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