【勝田班月報・6103】
《勝田報告》
組織培養内発癌実験について
我々の研究組織もようやく1年たってどうやらやっと準備態勢が整ったというところである。そこで先般コピーをお渡ししたように昭和36年度でははっきり標記の題目を研究計画の中にかき出した次第である。その具体的実行プランをそろそろ考えておかなくてはならない時期になってきたが、現在の各研究員の態勢からみると、まず癌化しない株、或は培養法を考えて試みているのが伝研の勝田一黨で、既存の株細胞に腫瘍細胞のcrudeの浸出液を与えて腫瘍化をしらべているのが予研・高野君、核酸分劃を与えているのが九大の高木君、というところで、あとは“できあがったら”と手ぐすねをひいている連中らしい。
伝研でのこれまでのサル腎臓細胞のPVP培地継代培養実験の結果では、まずこれで一応は行けると踏めた。あとは復元接種の容易な動物、たとえばラッテの細胞をこの方法で培養することである。しかしこれがサルのようにすぐうまく行かないので目下のところ何かコツがあるらしいとしらべているところであるが、とにかくどんな細胞を使うか、という問題がある。これはそのあと、どんな発癌剤を使うか、ということと密接な関係がある。
[細胞] [発癌剤] [癌化の確認及び変化の追求]
上皮性→ 腫瘍細胞分劃(高野・高木)→復元接種(各人)
非上皮性→薬剤→(勝田) 形態学的及生化学的検索
(奥村) (遠藤及掘川)
まだはっきり夫々を線でむすぶことはできないが、この上の表のような態勢になってきた。このことを意識して、もう一回自分のやりたいことと分担を次号で卒直にかいて頂きたいものである。伝研でねらっているのは、細胞数種であるが、特に次のものである。
乳腺及子宮内膜など → 性ホルモン
肝細胞、センイ芽細胞 → 薬剤(4ニトロキノリン及びDAB)
現在のところでは、大体6月頃から手をつけはじめたいと思っている。
このほか是非誰かにやってもらいたい一つとして異種移植の問題がある。これから先、我々として当然人癌の培養に入って行く以上、この極め手がもっと進歩してくれないと困るわけである。正常組織を移植したらどうなるか、腫瘍の場合と量的な相違しか示さないかどうか、という問題もある。他の人のやったデータではどうも矢張りマユツバで、一応は我々自身の手でやってみておきたいところである。誰か志願者はありませんか。
A)PVPについて
PVPを使った無蛋白培地の我々の仕事が米国の連中には大分気になっているらしいことが最近判ってきた。最新号のJ.Nat.Cancer
Inst.,Vol.26.No.1,1961を見ると、まずp.229にHueper,W.C.:“Bioassay
on polyvinylpyrrolidones with limited molecular
weight range"とあり、PVPがratの腹腔に入れると、その臓器内に残るが、rabbitの場合には残らないと云い、PVPの癌原性を云々している。しかしそのdataをみると、きわめて大量のPVPを接種しているにも拘らず、接種しない対照群と発癌率は略同じなのである。この著者はNIHのEnvironmental
Sectionの人で、おそらくEarleらに云われてやった仕事と思われる。というのは、そのすぐ次の論文がBryant,J.C.,Evans,V.J.,Schilling,E.L.
& Earle,W.R.:Effect of chemically defined
medium NCTC 109 supplemented with methocel
and of silicone coating the flasks on strain
2071 cells in suspension culture.P.239で、我々のPVPの仕事を引用し「彼等のはPVPの無蛋白といってもlactalbumin
hydrolysateを使ってあって合成培地ではない、それに静置培養だ」
などと2回もくりかえして強調している。このごろの合成培地の仕事をどんな気持でよんでいることであろう。それにpolypeptidesというものは、化学的研究にはまことに不向きであるが、virus
vaccineの製造の面から見ると、蛋白とは全然ちがったもので、抗体を作らないから絶対に有利なのである。次号ぐらいにまた何か出るのではないかとたのしみにしている。なお、ついでながら、かの頑固オヤジJohn
Paulも、彼の著書の第2版についに我々の仕事を2.3引用した。またこれもついでであるが、Parkerがこの5月第3版を出すらしいことをかきそえておく。
B)Parabiotic Cell Cultureについて
現在までに約6実験すんでいるが仲々面白い結果が出ている。その結果をお目にかけるが、これらはすべて前号に図示したTWIN-D1型のtubeを用いた。今週中にはTWIN-D3ができる予定なので、その実験もやって行くつもりであるが、TD型でこりているので、こんどはpatentをとっておくつもりである。D3のtubeは左右がばらばらになるtubeで、連結部AとBの箇所で左右の管が離れるようになっている。普通の培養のときはここにMiliporefilterを挟んで培養すると、液は交流するが細胞はしない。高分子の移動やウィルスを止めたいときはcellophan
membraneを使えば良い。このTWIN-D3は10rphのroller
tubeのドラムに挟して培養する。ゆっくり回転するから液の交流に適しているわけである(図を呈示)。
次にTWIN-D1で静置培養の結果をお目にかける。この細胞相互のresponseを何か旨い表わし方がないものか思案している次第で、一応7日后の細胞数をinoculumで割った数を7日間の増加倍数とし、双子管内での増殖倍数を単管内での増殖倍数で割って=InterferenceRatis(IR)と仮名した。7日后の結果を比較するときはIR7となるわけである。
つまりIRの数値が1のときは干渉を受けなかったことを示し、1以上のときは促進、1以下のときは増殖抑制を受けたことになる。何とか計算も簡単でしかも結果の判り易いあらわし方がないものか、考えた末がこれなのですが、数学の御得意の方も居られましょうし、是非御知恵を拝借したい次第です。
結果をみると(表を呈示)、JTC-1:JTC-2のとき両方とも抑制されているのは面白いでしょう。その他にも同様のものがありますが。
《遠藤報告》
(1)鶏胚の日齢とその浸出液の生長促進活性
培養組織 9日鶏胚大腿骨
培地 CEE:HS:GS(1:5:4);隔日培地交換
実験条件 鶏胚の左右大腿骨を対照群と実験群に分けるpair-mate
cultureで、対照群には6日間の培養中すべて9-day
CEEを用い、実験群には10-day〜14dayCEEを用いて、それぞれ9-day
CEEと比較した。
測定 長軸生長、乾燥重量、無機燐、ハイドロキシプロリン
結果 (対照に対する百分率の平均を表で呈示)。乾燥重量は全群対照よりやや良好で14日が最高無機燐は11日が最高で10、12日は対照を上回るが13、14日は60〜70%。ハイドロキシプロリンは11日のみ対照より良く他は90%。長軸生長は10-day〜14-dayCEEのいずれも9-dayCEEとの間に有意差なし。
考察:無機燐酸、即ち石灰化の程度から考えると、11日にピークがあるように思われます。しかし、本来日齢が進むと活性が落ちるのか、あるいは13、14日位になりますと脂肪が非常に多くなってきますから、これらが活性の発現を阻害しているのか、その辺はまださだかでありません。それでも、兎に角、この実験の範囲内では11日が最も活性が高いことは確かのようです。
これからすると、今まで9日鶏胚大腿骨の培養に用いてきたdynamic
medium(Startは9-CEE、第一回feedingは11-CEE、第二回feedingが13-CEE)と、13-CEEで初めから培養した場合を比較したら、当然Dynamic
mediumの方が良いはずです。ところが、以前の実験で(Dynamicmediumに対する13-CEEの百分率の平均で)、CEE:HS:GS(1:2:7)培地では乾燥重量101.6%、無機燐116.4%、ハイドロキシプロリン112.6%に対して、(1:5:4)培地は乾燥重量106.4%、無機燐108.8%、ハイドロキシプロリン114.7%の結果が得られているのです。全く相容れないデータになるわけで、前号で述べたように血清の差によるとしか考えられないような気がしています。如何でしょうか?
(2)鶏胚浸出液限外濾過の分析、についても書くつもりだったのですが、何分にも忙しいので(教育機関ですので研究機関委譲でしょうか?)又次号に日延べさせていただきます。
《高野報告》
A)細胞株の凍結保存
昨年一杯のdataをまとめてpaperにしました(予研のJ.J.M.S.B.に投稿)。HeLaは約2年、他の人由来は1年、JTC-6、Lは5ケ月保存可能の現状です。方法論的には一応標準化が出来た形ですが、細胞の生理活性に関し細い点で種々の問題を含み、今後もう少し検討する必要があります。例えば長期間保存中、生細胞の回収率が始めの数ケ月は低く後半にむしろ高くなったり、-79℃に保存後-20℃に移すと(凍結したまま)活性がなくなったりする事実から推して、細胞の生物学的活性が最終的単位迄、凍結休止するのに存外時間がかかるのではないかと考えられます。又凍結によって起りうる変化(選択をも含み)についても、検討の要があります。Chromosomeを比較してみる事も一方法です。凍結時の液中に血清とglycerolの必要な事は明らかですが、nutritionalな意義は恐らくないものと思われるので、延び延びになっていたPVPの利用を実施します。
B)Ehrlich細胞エキス添加L細胞
Transformationが完全に起ったとは言い切れない段階ですが、形態的変化はエキスを抜いても直ぐには復旧せず、或る程度迄進行したものではないかと考えます。目下増殖様式と放射線感受性を原株と比較しつつあります。
C)脳下垂体前葉細胞の培養
継代培養がやっと4代目に達し上皮性と思われる細胞が増殖中ですが、継代後のlagが大きく定量的実験を行いうる段階には達していません。初代培養初期材料での実験では間脳エキスを添加して培養した上清を幼弱マウスに接種して子宮重量増加及び充血度その他の所見を基準に無処置と比較すると有意の差で影響が認められ、一方大脳皮質エキスにはこの作用がないところから前葉のgonadotropin産生を刺戟する物質が間脳中に存在することを一応示したものと解します。2〜3週経過した培養でも同様にしてgonadotropin作用の復活が認められます。但しその量が文句なしに高い値を示すところ迄行かないので、目下間脳エキス添加培養上清をpoolして、それからの抽出濃縮を試みています。
《奥村報告》
A.無蛋白培地継代細胞の染色体(L及びHeLa細胞)
今までは血清培地継代から無蛋白培地に移して染色体の動向を分析してきたのであるが、その結果によると、無蛋白培地継代で最もよい増殖を示すと思われる細胞のchromosomal
patternは血清培地継代でpredominantの細胞のchromosomal
patternよりも染色体数が減少していることが明瞭である。そして、この様な現象はいかなる機構によるものかは非常に興味深いところである。
以上の現象を解明する一方法として、度々討議されている実験、即ち無蛋白培地継代細胞を血清培地に戻してchromosomal
patternがどの様になるか大いに期待しています。
B.サル腎細胞の染色体
サル腎細胞の血清培地及び無蛋白培地における培養で染色体数がどの様な変異を示すかは2月のウィルス班会議のときに報告した程度以上に仕事が進展していません。ただ現在は無蛋白培地での培養細胞が非常にmitosisが少ないため、何んとかしてmitosisをたくさん得る方法を考案中です。私が考えるにprotein-freeで培養される細胞は細胞の変異度が小さいだけに血清培地継代時よりも相当synchronous
divisionがあるように推察されるので、最も細胞増殖のよい時期を見出して、その時期を一定時間間隔でsamplingしてみたいと考えています。
C.UV耐性細胞の遺伝的変異
2日のウィルス会議で耐性細胞のchromosome
numberの分布が倍数性に変化する傾向があることを報告しましたが、極く最近のsamplingでは倍数性分離の傾向が減少して再び耐性獲得前の分布に戻しつつあるようです。この興味深い現象については今後詳細に追究したいと思っています。
《高木報告》
1.RNAに関する研究
AH-130腹水肝癌及び正常ラッテ肝よりRNAを調整し、実験を続行中である。DNAの調整法も検討している。
2.免疫に関する研究
班会議の際に報告した様に、JTC-4、-6、L及びHeLaの細胞の間には種属特異性がうかがわれる様であった。
そこで次にJTC-4細胞がラッテ心臓の如何なる部分に由来するかを確かめる意味で、ラッテ心臓の凍結切片に抗JTC-4細胞血清を作用させてみた。即ちcryostatと用いてラッテ心臓の凍結切片を作り(応微研の御好意による)、乾燥後これをメタノール、或いはアセトンで固定し、これにラッテの肝及び腎のaceton
powderで吸収した抗JTC-4細胞血清、抗ラッテ心臓血清ならびに抗HeLa細胞血清を作用させて、間接法により染めてみた。なお対照として、これら家兎の免疫開始前の血清をかけたものと、血清をかけないで蛍光色素をconjugateした抗家兎γglobulin山羊血清のみで染めたものをおいた。
しかしながら結果は失敗で、これら抗血清をかけたものは、いずれもすべて組織全般が染っており、間質組織に蛍光が強く、筋組織に弱い様に思われ、また対照の免疫開始前の家兎血清の非特異的反応によるものか、いずれにせよこれらの点を今後充分に吟味しなければならない。
3.その他の研究
1)protein free mediaによる培養のこころみとして、細胞を依然として、0.1〜0.5%+PVP+LYTの培地で始めの2日間丈培養して継代をつづけているが、最近は始めからPVP+LYTで植ついでも2〜3日は細胞が試験管壁にくっつく様になった。
2)先にJTC-4細胞のPoliovirusに対する感受性を調べてみたが、日本脳炎ウィルスに対する感受性も検討している。即ち培養2日目の細胞の培地をPVP+LYTで交換し、この9容に脳炎ウィルス1容を入れてみた。ウィルスとしては予研から分与をうけた日本脳炎ウィルスG1株を用い、これをマウスの脳内に接種して4日後、発症したマウスの脳を2〜3ケ集めて乳鉢ですりつぶし、脳1ケあたり3mlの生理的食塩水を加えて乳剤とし、これの2000rpm20分遠沈した上清を培養に入れた。
titeringは未だ行っていないが、培養に入れた後は培地を交換せず、1、3、5及び7日目に5本ずつの培地をpoolして2000rpm・10分間遠沈し、その上清を0.04mlずつ5疋のマウスの脳内に接種して、培地中のウィルスの有無を調べてみた。その結果、少くとも7日目まではウィルスは培地中に存在しており、接種したマウスは5〜6日までにはすべて死亡した。
8日目に2代目の培養に継代して、以後4日毎に継代する予定であるが、2代目即ちウィルスを培養に入れて12日目の培地にもウィルスは証明された。
対照として培地丈の中にウィルスを入れたものも同様にマウスの脳内に接種してみたが、これでは3日以後接種したマウスは1疋も死亡せず、ウィルスのtiterは急速におちることを示した。なおこれまでの処CPはみられない様である。
以上の予備実験により、JTC-4細胞は対照と比較した場合、日本脳炎ウィルスに対して或程度の感受性を有することが示唆された様である。更に検討中である。
編集後記