【勝田班月報:6107】
《勝田報告》
A)正常ラッテ肝細胞の組織培養
前号で若干触れたが、次のような5種類の培地で肝実質細胞をsimplified
replicate tissue cultureにより2週間培養した。Ratは当研究室でbreedingしているJARの4ケ月♂で、この肝臓を細切し、roller
tubeの壁に沢山はりつける。牛血清20%+ラクトアルブミン水解物0.4%+塩類溶液Dで5日間10rpmで回転培養する。このとき組織片のまわりには殆ど細胞はmigrateしていない。しかし回転培養中に赤血球が除かれると云う利点がある。5日后にrubber
cleanerで組織片をかき落し、1,000rpm5分遠沈して上清をすて、沈渣をsalineにsuspendして80及び150meshを通す。このsuspensionを型の如く短試に分注するわけである。しらべた培地は、1)BS+LD、2)BS+LD+2%CEE(9日)、3)BS+LD+10%CEE、4)BS+LYD(Yは0.08%)、5)LDのみ、の5種である。
ところがこの結果が実に面白かった。培養4日后には若干の乱れがあるが、7日后、14日后の細胞数は、1)〜4)の群ではinoculumの19,000nuclei/tubeとほとんど変りない。全くきれいに水平のgrowth
curveができたのである。幸運にもこのことは、発癌実験をやるにはもってこいの条件である。5)の群は次第に細胞数が減少し、14日后には約5,000/tubeになってしまった。その次にprotein-free
mediaを数種しらべてみたが、これではLDのみよりも少し宛悪い。そこで“20%BS+0.4%Lh+D"の培地を発癌実験に使うことに決定した。先般第1回の連絡会の際に、無蛋白培地の方が良い、と述べたが、いざ細胞が癌化した時を考えると、癌細胞が増え易いような培地の方がよい訳である。その意味で前言を訂正すると共にできれば色々の培地を併行して使った方がさらに可能性が強くなると云いたい。
B)4ニトロキノリン-N-オキサイドによる発癌実験
生后7日のJARラッテ(♂♀不明)の肝を細切し、上記の母培養の要領でroller
tubeにつけ、20%BS+0.4%Lh+Dの培地で回転培養を開始した。1961-6-17日である。容器は本当は平型にしたかったのであるが皆他の実験に使われていたので仕方なく円形のrollertubeにした。14本作ったが、2日后の6月19日に培地交新、この内の7本に4ニトロキノリンを10-8乗Mに培地に添加した。10-4乗M〜10-6乗Mでは細胞に変性を起すが、10-8乗Mでは大丈夫だからである。この培地はさらに2日后に4ニトロキノリンを含まぬ培地とかえ、以后ときどき鏡検をしたが細胞には依然として変化なく、各組織細片のまわりには細胞のmigrationが全く見られない。
ところがである。時あだかも1961-7-12。顕微鏡をのぞいて居た高岡君が“エヘヘ"と奇声を発した。実験群7本の内1本に一つの組織片のまわりに細胞のoutgrowthが見付けられたのである。4ニトロキノリンを入れた日から頂度23日目にあたる。これらの細胞はexplantから単に細胞がmigrateしてきただけとは思われぬ形態で、硝子面によく密着している。形はやや大型で何となくふだん見なれた形とは異なる。円形とendothelialの中間のような外観を呈している。7月14日になると、さらにもう1本の実験群にも一つのexplantから似たような形のoutgrowthが見られた。この日にはControl群(無処置)の1本にもようやく一つのexplantから若干のoutgrowthが認められたが、これは純然たるfibroblastsの形態を示している。7月15日の観察では、実験群のかの2本はoutgrowthがきわめて大きくなっているが、細胞の形態が若干異なってきて、むしろendothelialに近くなった。現在まではこんなところであるが、後を追って同様の実験を次々とスタートしてあるので、それらも楽しみである。しかしやはり円形の回転管は観察に不便で、無理をしても平型回転管を使うべきであろう。これらの細胞が沢山にふえて動物の復元接種に使えるようになるには未だかなり日がかかるであろうし、その結果が判るようになるにもまた何週間かかかるであろう。8月15日の〆切の今年の癌学会には一寸間に合いそうもないが、2月頃また多分開かれると思われる合同報告会までには、あるところまで行けるのではないか、という気がする。
増殖しつつある細胞に発癌物質をかけると仲々細胞のtransformationの時期を判定するのがむずかしいが、このようにresting
cellのcultureを使うと反って判り易い利点があるのと、より生体内の発癌条件に近くなるという長所がある。皆さんもおっくうがらないで気楽に初代培養を使って見ませんか。
このほかDABいよる発癌も計画していますが、実施はもう少し先になると思います。
C)Parabiotic Cell Culture
Reportを第3報まで書いて、愈々こんどは正常細胞と癌細胞のinteractionの検索に入る所です。今秋の癌学会はこの問題にしようと思っていますが。まずかかるのは正常のラッテ肝細胞とラッテ腹水肝癌(AH-130)及び吉田肉腫との間の相互作用です。前者はさきに書いた様に増殖せずにmaintainされる状態、即ち通常の成体内の状態における肝細胞として、后者は同一の培地に於て急速に増殖する腫瘍として、その相互作用をしらべるわけです。 D)マウス白血病
これはこの班の仕事ではないのですが、こんなことにも手をつけている、という御参考にかきます。東大小児科から留学している古川君とやっているのですが、初めヒトの白血病細胞を培養しようとしたら仲々むずかしいのです。材料は流血と骨髄からとりましたが。それでまず簡単に材料が手に入るマウスの白血病細胞をやってみようと、予研抗生物質の竹内君と共同して、マウスのC-1489(Myelogenous
leukaemia、C57-substrain6マウスの腹腔内継代移植)を使ってはじめましたが、これもまた仲々そう簡単な代物ではないようです。
《高木報告》
in vitroにおける発癌実験
1)前報につづきRNAを作用させているJTC-4細胞の継代をこころみたが、長い間PVP+LYT培地を使って来たので細胞が弱っていたためか細胞の増殖が極めて不良で、培地の交換を繰返しているがどうもまずい様です。培地中のRNAのdegradationをもう一度しらべてみましたが、やはり24時間以内にoligonucleotide以下まで分解するらしく、RNAを屡回に作用させて、しかも細胞があまり弱らない様にもって行くのが少々むつかしい様です。それとRNAは保存に際しても可成り不安定ですので、度々新鮮なsampleから抽出して同じ濃度を作用させる様にかけねばならないと思います。DABの方は0.1μg/mlずつ作用させているのですが、これは今迄の処まずまずで、実験続行中です。
2)次に復元の問題ですが、私共の処では未だ培養細胞を復元して腫瘍を作った経験がないので、復元練習の意味で如何なる手段でも一度腫瘍を作ってみようと思い、生後約1ケ月のWistar
ratを用い、これにXray 200rを隔日3回照射したものにHeLa細胞及びJTC-4細胞を200〜500万個ずつ接種し、以後はcortisone
acetate 0.3ml(25mg/mlのもの)ずつ2回隔日に注射して観察しているところです。
その他これまでつづけて来た実験もありますが、特記することもありませんので、今回はこれ丈にします。
前報で高野班員のハムスター頬袋への細胞接種実験、興味深く拝見しました。各腫瘍の顔付きが面白いと思います。
それから遠藤班員の“夢"の中で、(1)のHCHOと共に生じるHCl、(2)のH2O2はそのtoxic
effectが少々気になりますが・・・。しかし“まさゆめ"にしたい気がします。
《奥村報告》
1.サル(カニクイザルAdult)腎臓細胞の培養
A.Primary culture
a.トリプシン消化。われわれの研究室ではpolio
virusのvaccineを検定するのに多量のサル腎細胞(MK
cells)を必要とするので出来るだけ手数のかからない、しかもdamageの少ない細胞を作らなくてはならない。以上の点から種々の消化条件を検討してきたが、その中で最も好ましい方法について報告します。(又現在は消化方法とその后の細胞増殖過程における細胞の変異度について観察中、この仕事にはtrypsinの他、EDTA、hyaluronidase、何も消化酵素を用いない場合、の各実験groupを比較している)。
腎臓摘出→直ちにcold PBS(4〜8℃)に入れてautolysisをさせない様にする。→髄質を取除いて冷PBS中で皮質を3〜5立方mmに細分する。→PBS(cold)で3〜5回組織片を洗う。洗ったのち、氷室で約1時間0.125%trypsin
sol.で消化、1匹分の腎皮質に対しtrypsin sol.150〜200ml、この前処理はcytotoxic
effectを除くために行う。→前処理の液は捨てて、新たに0.125%trypsin
sol.を350〜400ml入れて、over night(約15時間)で消化を行い、消化后はMediumで2度洗い培養開始する。
(註)種々の消化法を試みた結果、次の3点が特に重要と思われる。1)組織片を乾燥させないこと、2)前処理をすること、3)消化液を多くし、組織片を強く振盪しないこと。
前述の方法で消化し、消化直后の細胞の死亡率をNigrosin染色でしらべると少ないときで、14%程度、多くても20%の死亡率であった。この様な低い死亡率で消化できると消化后の細胞増殖も極めて調子がよい。
b.培地と細胞増殖(表を呈示)
Menkey serumを添加したgroupではgrowthはcalf
serumを入れたものより悪いがsmianや他のMonkey
kidneyに潜在していたと思われるvirusの出現がおさえられるのだろうと思われる結果が得られている。
以上の結果はMK細胞を種々の実験に用いるためのpreliminaryなもので一応報告しておきます。
2.HeLa株細胞のγ線及びECHO virusへのresistancy
Co60照射(2γ、3γ、4γ、5γ・・・)と各線量照射によるchromosomal
patternを分析中です。近日中に結果がでますのでまとめて報告したいと思います。
《堀川報告》
現在直面している問題点(その1)
(1)MitomycinCを始め、放射線その他の各種要因に対して耐性細胞がどの様な手段で出現するかという問題は、われわれ遺伝屋の基本的な問題であると同時に臨床的にも癌の治療などから見て最も重要な問題とされているが、そうかといってこの種の問題はいっこうに解決されません。これはわれわれ研究者がなまけて研究をおこたっているせいばかりではなく、とにかく根本的にむつかしい問題らしいです。
例えば現在私の所では上記のMitomycinCを始め5種の要因に対する耐性細胞を維持していますが、面白いことに用いる要因の種類によって耐性細胞の出現様式が大いに異り、同時に出てくる細胞の顔色がそれぞれ違っているのだから事態は非常にむつかしい。
前回東京で開かれた組織培養学会の際、予研の竹森先生から色々と参考意見をきかされ、それをきっかけにしてBacteriaに使われるありとあらゆるテクニックを用いて検討した結果、どうも耐性細胞の出現は要因によるmutagenic
actionによるものではなく、母集団中にすでに耐性細胞が存在していて、これが要因に出合ったとき単に生き残ってくるにすぎないという結論が出そうです。
いづれ詳しくは次の学会で報告する予定ですが、これを更に明確に立証するためには最も原始的な方法かもしれないが、写真でキャッチする以外に方法はありません。
現在Incubaterの中に倒立顕微鏡をすえつけてその機をうかがっている所ですが、仲々うまい具合につかめません。それも一例をとると、0.1μgmitomycinC/mlで処理したL細胞の場合には400万個のparent
cellの中から8〜9個の耐性細胞が出てくるのを、コロニー形成をマーカーにしてつかまえるのだから骨の折れる気の長い仕事です。
(2)L(原株)、LMit(mitomycinC耐性細胞)、LUv(紫外線耐性細胞)、L8-A(8-azaguanine耐性細胞)、Lγ(Co60耐性細胞)を色々の細胞濃度で、mouseにinjectionして発癌テストを開始しましたが、どれも今のところいい結果が得られません。少しImmunologicalな立場にたって仕事を進めてみます。
編集後記