【勝田班月報・6109】
《勝田報告》
A)培養内の発癌実験
この7月頃やっていた発癌実験は何れも培養内で細胞増殖を得るに至らず、その后培養を中止いたしました。このときは初めは7日、后に3月の♂ラッテの肝を使用したのですが、生后7日の方が成績が良好で、4ニトロキノリン10-8乗Mを作用させた群で細胞の増殖が見られたのです。しかし報告会で話したように、培地が非常に問題と思います。折角癌化しても、使ってある培地がその癌化細胞の栄養要求に合っていなければ癌化した細胞は増えてくれない訳です。現在観察しているのは8月31日から6日間4ニトロキノリンを10-8乗M作用させた群(前の実験は2日間だけ作用)で、もう1月近く経っているが細胞増殖は見られない。細胞は生后1ケ月のラッテ♂の肝細胞である。この位の大きさのラッテが肝の収量から云っても実験にいちばん使い易い。この次は4ニトロキノリンの濃度をもう少し上げて見ることも考えている。
B)正常細胞と腫瘍細胞間の相互作用
正常ラッテ肝細胞とラッテ肝癌AH-130の間の、増殖に対する相互作用を、これまで主にしらべてきた。肝細胞の方は増殖しない状態においてparabiotic
cultureする訳であるが、何れの場合に於ても正常肝細胞の方は数が減少して行き(細胞が殺されるわけ)、AH-130の方は増殖を促進されている。Control(Single
tube)とParabiotic(Twin tube)の他に、両細胞を1本のtubeにMixして一緒に入れるcultureもやってみた。ところが面白いことに、parabiotic
cultureの方よりmix cultureの方が上記の相互作用が一層明瞭にあらわれるのである(表を呈示)。つまり、液相を通じてだけでも相互作用はあるが、細胞が直接触れ合うことにより、さらにそれが強められる訳で、面白いことである。この場合、触れ合う、と書いたが或いは触れ合わなくても、例えば一種の毒物を癌の方が出す場合、それが細胞のが近くにあれば、稀釋される前の濃厚なのに正常細胞が浸されるわけで、その為に強い効果があらわれた、と云えるかも知れない。しかし別の所見から考えて、触れ合っているのは事実で、例えば肝細胞だけを母培養したあとで、replicate
cultureすると、肝細胞は管底にあまり良く附着しない。ところがmix
cultureするとAH-130に抑えつけられてしまうのか、肝細胞がtubeを動かしても浮び上ってこないのである。正常肝細胞は久留説によれば、これらの実験の場合、AH-130の存在によって反って増殖を惹起される筈である。しかしそのような現象は全く見られなかった。このことは、久留教授及び伊藤班員の説が誤というわけではなくて、その追究してきた促進物質というものが、癌細胞が生きている状態では外に分泌されず、抽出してはじめて細胞外に取出されるものである、ことを意味しているのではあるまいか。その推定の下に、こんどはAH-130の腹水を大きく三つに分けてみた。1)腹水上清、2)AH-130のglass-homogenateを凍結融解した后の遠沈上清、3)同沈渣、この三つを何れも5%容に正常肝細胞の培養に入れてみたが増殖は全く起らず、反って阻害が見られた。それで2)をさらに各種濃度に添加する実験を準備している。一方、伊藤班員にはS2分劃の効果のあるというところを、AH-130のと人癌のと送ってもらう手筈になっていた所、台風で研究室もろともやられてしまったそうで、今度の癌学会には一寸間に合いそうもないことになった。我々のparabiotic
cultureに於ける正常肝細胞の阻害を中原氏のいわゆるtoxohormone作用と考えれば、中原氏は大いによろこぶ事と思うが、癌細胞が正常細胞におよぼしているeffectの、そのfactorsは複数形であろうし、仲々そんな簡単なものではあるまい。この場合もっと我々にとって面白いのは、正常細胞とのparabioticcultureによって、AH-130の増殖が促進されるという事実である。これは未だ、仮に想像はされても、実証のなかったdataであり、組織培養によってのみ証明されるものである。正常細胞の何によって促進されるか、これは面白い将来の問題というべきであろう。
次に吉田肉腫であるが、厄介なことにこいつは回転培養では増えない(だからセロファンを間におけない)、牛血清ではうまくなくて、馬血清で増える。そこで正常肝の方を馬血清で培養したところ、馬血清でも何とか行きそうがということが判った。従って馬血清で吉田と正常の肝をparabiotic
cultureした。まだ7日目のcountをしてないが、4日目までの成績ではどちらにも大した相互作用がないのである。これは大変面白い知見と思う。肝癌は肝細胞とだけ相互作用をおこすのか。それならば吉田はfibroblastsとは相互作用を起すかも知れぬ。という訳でfibroblastsとのparabiotic
cultureを計画中であるが、上記の7日目の成績が判らぬと余り先には進めぬ。
なおAH-130では回転培養でMilliporeでもCellophaneでも相互作用が同様に認められた。 これは今秋の癌学会及び組織培養学会に於て発表する予定である。
《高木報告》
1)in vitroにおける発癌実験
本年6月3日からDABを作用させ始めていますので、大体今月まで3ケ月と少しになります。PVP+LYT培地にDABを0.1〜1μg/ml入れて作用させていたものは、細胞の発育が思わしくないので、7月末からはすべて20%牛血清加培地にDABを1μg/ml入れる様にしました。復元(移植)実験はどうも思わしくなく、あれから(班会議後)再度HeLa細胞を用いてtrainingしてみましたが、1ケ月たっても腫瘍は出来ず、ガッカリしています。今度はsuckling
ratを用いてみようと目下ratの増産にこれつとめています。またhamsterも用いてみたいと思っていますが、何せ未だ動物が入手出来ないので仕方ありません。
形態的にみてDABを作用させたものは巨大細胞、多核細胞が対照に比して確かに多い様に思いますが、これ丈では何とも云えません。
2)L細胞の発育過程におけるP32のincorporation
前回の班会議でL細胞のtime courseによるP32のincorporationをのべました。その結果、大体直線的になった処、つまり培地中にP32を入れて10時間後をとることにしました。そこでルー瓶を用いて培養後2日、4日、7日目の細胞のP32のincorporationをみてみました。その方法は
(1)P32を1μc/mlになる様に加えた培地を作っておき、培養2、4、7日目にこの培地と交換して10時間incubateする。
(2)Incubationが終ったら細胞をrubber cleanerではぎおとして遠沈する。
(3)遠沈して得た細胞を1回0.154M KCl水で洗う。
(4)洗った細胞を1mlの水にsuspendして5回凍結融解して細胞をこわす。
(5)これにfinal 0.5MにPCAを加え、核酸、蛋白、Lipidなどを沈澱させる
(6)この沈渣について柴谷法(P32を充分に除去してpureな核酸を得る方法)による分劃を行い、contaminationのないpureなRNA、DNAfractionを得る。
(7)RNAはE260で吸光度を測定し、これに係数33.16を乗じてRNAμgとし、DNAはE267で測定して、これをDNAμgとした。同時に一定量を20mm径の小皿にまいてgeiger-muller
counterでcountしてspecific activityを求めた。
この結果、specific activity of RNA(cpm/RNA)は、2日目13.20、4日目8.53、7日目5.94となり、specific
activity of DNA(cpm/DNA)は、2日目6.1、4日目6.35、7日目4.15となった。つまりRNAの方は培養日数が若い程incorporationが大であり、これは想像される通りである。DNAはやはり同様の傾向とは思うがあまり(RNA程)差がひどくなく、また4日目が最も多くなった。この点については再度実験するつもりです。
3)その他
Orotic acidの諸種株細胞に対する効果を検討中ですが、JTC-4細胞に対してはやはり50μg/ml位(班会議で500μg/mlと申しましたのは、あとで下のScaleのとりちがいだったことが分かりました。まことに申訳ありません。ここに改めて訂正します)の処で促進作用がみられる様です。FLにはあまり影響なく、Lにはやや(有意ではありません)促進?作用がみられるかの様です。くわしくは全部まとめて次号にでもreportします。
それからLP細胞(こちらでprotein freeにならした細胞)はどうも増殖はあまり思わしくなく、角瓶に培養すると一時増加しますが次第に剥げ落ち(浮遊するのかも知れませんが)ます。growth
curveを出そうと思って5゚の角度で静置培養すると、どうも浮遊する細胞が多く、incubaterの中で直立させておきますと底について発育する様です。直立させて培養させた処では1週間に5倍位の増加率のようです。
今回は以上にしておきます。その他の実験はまたdataがそろってからreportします。
《堀川報告》
今回の研究報告は丁度夏休み期間中のものになりますので、私の所では余り成果もあがっておらず、またその間には8月上旬に伝研で例の研究報告会があり従来の仕事の概略はしゃべりましたので、今回はこの夏休み期間中にあった主な事についてお知らせします。
◇8月中はこれといった大きなニュースはありませんが、私自身11日から1週間程大阪の方に帰って暑中休暇を取って来ました。勿論8月といえば、我々の研究費が入ってよろこんだのは忘れていません。
◇9月に入って1、2、3日と仙台で恒例の遺伝学会が開催され出席しました。例年より少し早かったせいか暑いことこの上なし。出席者も少なかったようです。来年は静岡県の三島で開催されます。
◇9月19日朝10時羽田発JALで、黒田さん(阪大)が奥さんと子供2人づれでシカゴに向けて出発されました。皆さん御存じのことと思いますが、シカゴ大学のDr.Mosconaのもとで一年間発生遺伝学の仕事をやるためです。
これ位がまあとりあげてお知らせ出来る私の方のニュースですが、私の方でもこの放医研に来てから一人ふえ二人ふえして、現在ではTissue
cultureの部屋は狭いながら4人になりました。もうしばらくすると1人来るらしく、部屋を拡げるのに現在仕事中止で頑張っております。
最後に最近出た面白い論文(私に関しては)を2つばかり御紹介しましょう。
◇Transfer of DNA from parent to progeny
in a tissueculture line human carcinomaof
the cervix(Strain HeLa) Edwoard H.Simon
J.Mol.Biol.(1961) 3:101-104
体細胞でのDNA replicationのメカニズムを知るための実験です。すなわちHeLa細胞の
DNAを5-bromodeoxyuridineでラベルし、1回目の分裂後、2回目の分裂後にそれぞれのDNAのdensityをdensity
gradient centrifugationで調べます。1回目の分裂で全DNAが5-BUDRで半ラベルされ2回目の分裂で半ラベルされるものと全部ラベルされるDNAが見つかりました。これらの結果は体細胞でのDNA
replicationはバクテリヤやchlamydomonasに於けると同様Semiconservative
modelで起ることを示しています。これは実にきれいなすばらしい実験です。
◇A study of the penetration of mammalian
cells by deoxyribonucleic acids E.Barenfreund
& A.Bendich J.Biophys.Biochem.Cytol.(1961)
9:81-91
Pneumococciとhuman chronie grnulocytic leukemiaのleukocytesから取り出したTritium-labeled
DNAを37℃でgrowingしたHeLaに加えますとHeLaのDNAの中に入ることを証明したものです。
しかも、DNAの4つのBaseに完全に入ります。どの様なmechanism(DNAを受ける側のCell又入る方のDNAの型)でpenetrateするかは今後の問題ですが、興味あるDiscussionをしております。御一読下さい。
編集後記