【勝田班月報:6203】
《勝田報告》
 正常ラッテ肝細胞の培養にDABを作用させる発癌実験で、第1回は培養開始1週間後にはじめてDABを添加したが、このときは旨く発癌しなかった。第2回目の実験では開始と同時に与えたところ、非常に面白い成果を得られたので報告する。
 材料は生後9日のラッテ(JAR系)の肝で、メスで細切し、回転管の内壁にplasmaなしで附着させる。培地は20%牛血清+0.4%ラクトアルブミン水解物+塩類溶液(処方D)。DABは1μg/mlに加え、4日間培地更新なしに培養する。実験群、対照群(非添加)各6本で、4日目以後は週2回培地全量を更新した。第4日以後にはDABを全く添加しない。すると投与後約6日で、実験群の中の1本に新しい増殖の盛な細胞Colonyがあらわれ、ほぼ1日半位の間に、次々と、結局全部の実験群tubeに増殖コロニーが大量にあらわれてきた。対照群では若干のmigrationはあるが、増殖像は今日に至るまで全く認められない。それが実験群では6/6で全部できたのである。そこで問題はこれらの培養を、いつ、いかにして継代するかである。仮にその6本をA、B、C、・・・と名付けると一応次のような処置をとってみた。
 A:第14日にラバークリーナーでTD-15へ→Colony 3ケでき増殖中、上皮様形態の細胞
A2:第14日にトリプシン消化で小角瓶へ→Colony 2ケでき増殖中、同上
B:第21日にコロニーだけをとり、トリプシン消化→回転培養(Colony新生せず)
C,D:第21日にコロニー以外の他の細胞をラバークリーナーで除く(コロニーだけ残す)(その後、第28日に継代し、失敗)
E,F:継代せずに初代のままつづける→(その後増殖が中止した)
 各継代の結果は上表の右に記した通りで、この経験からみて、継代は思切って早い方が良い。(3月になった現在。A2系だけが増殖をつづけている)培養法は初代は10rphの回転培養で、継代後何れも静置。増殖してくる細胞には静置の方が良いようである。(A)の細胞が大量にふえたら復元試験をしたいと準備をすすめている。くりかえすが、上の成績から判る通り継代をためらっては失敗する。もう少しふえてからなどと思わずに継代するのがコツである。対照群はDABを加えぬ他はすべて実験群と夫々同じ操作をしてみた。migrationしか見られなかったが、例えばAの継代のとき、対照群も同様に1本を継代した。このTD-15に継代のもののみ継代後コロニーが1ケ出来たが、DAB処理群のコロニーと異なり、殆んど増殖しない位である。他の継代では一切コロニーはできなかった。
 細胞の形態は(染色標本と生のTD-15継代のA系を展示)。新生の細胞には2種が混っている。右図の(a)と(b)であるが、継代後によく生えているのは(a)の方で、これは上皮様で、石垣状にぎっちりシートをつくってくる。どうもこれが悪性化した本命ではないかと思われる。
 さてこのような結果が得られましたので、全く上と同じ実験条件で第3回目をやってみました。ところがこんどは、実験群対照群ともに、第2日頃(DAB処理中)から細胞のmigrationがはじまり、第5、6日頃から急速な細胞増殖がおこりました。このころは、上の(a)とも(b)との異なる、本当の“fibroglastic〃のものが主でした。第12日に継代、以後今日まで活発にふえています。但し継代後は上皮様のが主体になりました。これは対照群も充分復元してみられるので、両方とも今日まで培養をつづけています。どうして、第2回目と第3回目と異なる結果になったのか、異なっていたのは、1)ラッテが別のラッテであること(両方共JARの生後9日ではあるが、別の個体)。2)第3回目の方がラッテを殺してから培養に入れるまでの時間が少し長かったこと、の二つ位であろう。今迄正常ラッテ肝の培養をずい分やってきたが、こんな例ははじめてで、何かこの使ったラッテに原因があったのではないかという気がしている。
[山田]Outgrowthと本当のgrowthの区別は?
[勝田]Morphologicalに簡単にできます。右図の(a)と(b)のようにmigrationだと(a)のようにA)B)の組織片のまわりに、ほんの少しくっついて出てきますが、増殖がはじまったのは、例えば(b)の(A)片からはじまったものでもどんどん拡がってとなりの(B)を包み(C)にまでおおいかかるという具合で、みるみる拡がって行きます。
 なお昨年の夏ごろから、4ニトロキノリン−ラッテ正常肝の組合わせでうまく行かなかった理由について考えてみますと、in vitroで悪性化を図る場合、まず大きく見て二つの制約があります。第1が“Mutationの方向”で、第2が“培養環境によるselection”です。Mutationには方向性がない訳で右下図のように、細胞の性質は360゜いかなる方向にも変り得る訳です。その内、右図の点線の角度内に向いたとき癌化するとします。次に、そのとき用いている培地あるいはさらに大きく云って培養環境で、細胞増殖を起し得るような細胞の性質の方向を鎖線でかこんでみます。すると、仮に悪性化したとしても、鎖線の角度内に入っていないと、そのまま増殖できずに死んでしまう訳で、つまり点線角と鎖線角のオーバーラップした角“α”の方向に細胞が変った場合のみ“in vitroの発癌”が成功することになります。
 今回成功に近ずきつつあるDABでは、同じDAB肝癌であるAH-130などについて既にくわしくその栄養要求をしらべてあり、他のDAB肝癌でも他所から似たような培地で生えることが報告されています。だから“α”の角がかなり広かったと云えるでしょう。それに対し、4ニトロキノリンの方は、まだこれで発癌させた細胞を培養した経験がないので、鎖線に相当するところがよく判って居らず、したがってαがきわめて狭いか、或はoverlapしていなかったのかも知れません。もっとも1回はうまく行きかけたのですから少しはoverlapしていた、と云えるでしょうが。
 さて、いまお話しましたように“正常肝-DAB”という非常に有望な系を見付けましたし、非増殖系を使うという非常に便利な研究法も見付けましたので、かねてのお約束に従い、早速全班員に追試をおねがいしたいと思います。
 薬剤はDABを使うとして、肝をとる動物は、“勝田・JARラッテ、佐藤・呑竜ラッテ、高木・Wistarラッテ、伊藤・?ラッテ、山田・マウス、堀川・マウス、遠藤・呑竜ラッテ、奥村(発癌前後の染色体の比較)”のように分担しましょう。なお、ラッテはこれまで生後9日のを使いましたが、決してその年齢が良いというのではありません。controlが増える危険性の少ない点では、生後1月位が良いのではないでしょうか。

 :質疑応答:
[山田]初めに培養するときトリプシン処理したら如何?
[勝田]細胞が弱り易いのでこれまではやりませんでしたが、うまく行くのが確実になってきたら、段々に細胞の方をpureにして行くべきです。現在のやり方ではmixomaのできる可能性もあるので、できた腫瘍をさらにcloningする必要もあります。
[高橋]ハムスターにしてはいけませんか。
[勝田]それは各班員properの仕事としては一向かまいません。しかし今の話はそれと別でとにかく突破口ができたら皆でそれをこじ拡げようという方の仕事です。
[遠藤]私のところは3週の呑竜を買っていますので、それを使うことになります。
[勝田]それはかまわないと思います。
[佐藤]私のところは呑竜をまだ飼ったことがないし、繁殖について条件が少し悪いのです。マウスの乳癌だと、TD-15で培養して純系マウスに簡単に復元できますが、今度の場合多くの例数が要るのですか。
[勝田]この場合、多くの成功例を作ることが先ず必要と思います。
[佐藤]培地更新は?
[勝田]週2回です。さっき1日おきと云いましたが間違いです。
[高橋]第4日に培地を洗いますか。
[勝田]培地をすて、よく液を切り、そのまま新培地を加えます。だから少しはDABが残るでしょうが培地をかえる度に稀釋されてしまいます。勿論洗っても良いでしょうが、それより成功につれて、作用日数を段々減らして行くのが面白いと思います。またControlにDABの混入する危険を考え、一度DABに使ったピペットはそのまま棄てています。
[遠藤]普通の有機物ならクロム硫酸で洗っていれば大丈夫です。それよりピペットを新聞紙でまいて乾熱滅菌するとき、少し熱が上りすぎると、カーボンやインクが出てきて、これが発癌の原因になる可能性があります。
[山田]EarleのLのときの発癌も技術に不明の点が多い。
[勝田]対照も癌化してしまったしね。生体内で発癌する場合、二つの途が考えられています。その第一は、変異した細胞がそのままどんどん増えて癌になるのと、第二はその薬剤の作用で細胞がやられ、そこに再生が起る。その再生が止まらなくなってしまって癌になる。この二つです。我々の仕事は第一の方が、少くとも存在し得ることを示している訳です。
 いま説明したような培養法で肝を培養しますと、かなり永い期間細胞が生きています。例えば7ケ月目にしらべて、Nigrosine陰性、Neutral red超生体染色で核は染まらず、細胞質顆粒は染まります。つまり“No multiplication but viable”の状態です。Subcultureすると肝細胞は壁にろくに附かなくなります。
[山田]DABと蛋白とのinteractionを考える必要があるのではないですか。
[勝田]いわばrestingの細胞がDABによりmutationを起すことについて、私は次の様な可能性もあると“考えて”います。つまり遺伝形質支配はDNAでなくDNA-proteinである。このproteinにDABが作用し(或はcompoundを作って)、遺伝形質支配に変化が起る。
[関口]九大遠藤氏の仮説で、4ニトロキノリンがprotein-SHに働くという考があったが、核蛋白にはSHが少いので立消えになりました。
[山田]遠藤君はRNA-proteinを考えていたようです。
[高橋]Phenol抽出RNAは駄目で、Dodecyl・RNAだとDNAのcontamiが無くて良いので、この方法でRNAの変化を追っています。
[山田]自分はproteinのことはよく判らないが、RNA-proteinのproteinと4ニトロキノリンとのinteractionでclear cutなデータが出ている様です。
[勝田]これまでの経過をふりかえると、班研究としては成功していると思います。in vitroの発癌は外国でも狙っているので1日も早く仕事をいそぐ必要があります。それで、この春(6月末)の病理学会に、発癌seriesの第1報としてまず“正常ラッテ肝細胞の培養”ということで、第1報を出しておきたいと思いますが、如何でしょうか。
 また、昨春の第1回連絡会でこの仕事の綜合的題名として、
“組織培養による細胞の悪性化の誘起の研究”としようと決めましたが、いま考えていて誘起(induction)だけでなく、できたものについても比較するという意味も含み、次の名前に変えたら如何でしょう。第三者にきいてみてもこれで充分意味は通じるというのですが・・・。
《組織培養における細胞の悪性化の研究》英語では“Production of malignancy in tissue culture”となります。
[佐藤]“正常細胞の癌化”で良いか? どちらかと云えば《発癌》ということを打出しておいた方が良いのではないですか。
[堀川]Cell lebelでの発癌ということは、発癌のConceptとして良いのですか。
[佐藤]良いと思います。原題だと“株になったときの悪性化”という意味にもとれます。[山田]各班員が全部一緒に話し、或は発表する場合はともかく、別々に発表するときは、この方を副題にした方が良いのではないか・・・。
[勝田]単に各個研究を寄せあつめただけの班研究ではなく、有機的な綜合研究なのだから題名は統一した方が良いと思います。
[山田]きゅうくつな感じもします。癌のできたときは良いが、今の段階でこのような題名をつけるのいうのは。
[勝田]私は、この辺で研究上にもフンギリをつけるという意味で題名を考えたいのです。[山田]できた、というところで題をつけるのでも良いのではないか。竜頭蛇尾の感、“Japanese Gann”のような気味があります。
[堀川]山田班員の説は一考に値します。“悪性化のための”という位にしておいて、悪性化して行ったときから題名を変えれば良いでしょう。具体的には“ための”という言葉を入れるわけです。
[山田]私の考はMain titleは夫々につける。Subtitleで統一ということが主です。
[堀川]それには賛成しかねます。やはり綜合の有機的な結合にによる研究であるからにはMain titleを統一した方がよいと思います。
[高橋]日本語の方は良いが、英語のProduction of・・・”は問題と思います。“The study on・・・”とした方が・・・。
[山田]“Japanese Gann”の外国の評判が気になります。Just like“Japanese Gann”ということになるのが・・・。日本語は良いとして英語の論文はどうするのですか。
[勝田]この次の連絡会(5月)までに考えてくるようにした方が良いと思います。いまはとにかく第1報を病理学会に出させてくれ、ということです。
[山田]学会発表なら良いだろう。
[堀川]DABの仕事が或程度のところまでで、あとうまく行かずnegative dataになったときの発表は?
[勝田]出来そうなんだから、今からそんなこと云わないでくれよ。これから高岡君に実際の手技を説明してもらいましょう。また発癌物質、たとえばこのDABなど、使ったあとどういう処理をしたらこわれて発癌性がなくなるか。これは取扱上大切なことなのでぜひ遠藤班員にしらべてもらうことにしましょう。
(どうもこのあたりの発言は、実際に自分の研究室で細胞の変化をおこさせている者とそうでない者との切実感の相違が喰いちがいを作っているようである。5月の連絡会までには各班員ともかなり成果を得られると思うので、この次は話もちがってくると思われる。割当に従って各員早急にピッチを上げて頂きたいところである。)

《実験法の詳細(高岡)》
〔DABの溶かし方〕
これは九大の高木班員のとかし方をまね、Tweem20を使いました。
 100mlコルベンにDAB100mgを入れ、Tween20を5ml加えます。即座にとけます。これを100℃、30分で1昼夜おきに3回間歇滅菌し、さらに滅菌塩類溶液を45ml加えます。これを4℃で保存します。冷えると沈殿ができますが、温めればまたすぐ消えます。
〔培地〕
 牛血清(56℃、30分非動化済)20%+LD(Lhを0.5%にとかした塩類溶液D)80%に上記のDAB溶液を1μg/mlに加えます。
〔材料の取り方〕
 生後9日のラッテをエーテルで殺し(放血はしませんでした)、肝を無菌的にとりだしてシャーレに入れます。このとき塩類溶液で肝臓を洗ってはいけません。洗うと、あと組織片が壁に着かなくなります。さてこの肝組織をメス2本を使って、0.5〜1,0mm角位になるまで細切します。粥状にするわけです。これをピペットでRoller tubeの管壁に一面につけます。右図の(a)の幅ぐらいにぐるりとつけるわけです。生後9日のラッテですと、1匹の肝からRoller tubeが20〜30本できます。さて組織片をつけ終ったら、培地をすぐに入れます。各管1,5ml宛入れますが、組織片が乾かないようにすぐダブル栓をしめます。〔培養法〕
 37℃の恒温器で、約10rphの回転ドラムにさして培養します。4日間は培地をかえずにそのままおき、4日後にDABの入った培地旧液を全部すて、よく切ってから、DABの入らぬ新しい培地を1.5ml宛加えます。以後は2回/週に培地交新します。この間ときどき顕微鏡で観察し、migration或は増殖像に気をつけます。なお、観察のとき、細胞を乾かさぬようにする注意が肝要です。

 :質疑応答:
[佐藤]メスの代りに鋏を使ったらどうですか。
[高岡]組織片をつぶすおそれがあるので、メスを使わないと・・・。
[勝田]それもよくといだメスでね。鋏だと引きちぎってしまって、細胞がやられる。
[山田]pHの変化は?
[高岡]非常な稀釋液なので、DABをこの位入れてもpHには全く影響ありません。
[遠藤]エーテルで殺すとエーテルのeffectが出ないかしら・・・。
[関口]さっき山田班員のいわれた、DABがProteinにくっつくということは・・・?.
[山田]よく判りませんが、そのようなデータが出ています。
[関口]in vivoではfreeの形では作用しないんじゃありませんかね。

《堀川報告》
 1961年度の私の主な仕事は哺乳動物体細胞の変異性と耐性のメカニズムを追求するためにmouseL細胞を用いてやって来ました。用いたagent及び主な内容は従来この報告でも度度述べてきましたので、今更詳細に述べる必要はないと思います。
 ただこれらの問題は自分自身遺伝屋である故か、或る程度の興味をもって進め、又ある程度の結果を得る事が出来ました。然も現在最も力を入れている耐性のメカニズムを染色体レベルでその機能を説明しようと言う試みは、今後大いにやらねばならぬ問題と思っております。ここで大いに付け加えておかねばならぬ事は、これらの問題がin vitroでの発癌問題とどの様な関連性があるかと云う疑問に対して私自身大いに有りと認めますし、又一昨年のこの研究グループ出発の際にとり決めた私の計画分担をあの手、この手で押し進めて来た訳です。従って発癌に関して直接の関連性はなかったにしろ、私自身当初に計画した事は一応満足な結果は得られなかったにしろ達成しつつあるし、又これらの仕事で得た結果は今後の仕事に大いに利用出来ると思います。
 例えば、MitomaycinC、UV-ray、γ-rayの如きものは大まかに言ってその作用機構に類似性があり、然も一方L細胞、HeLa細胞の如き株化された細胞を少なくともこれらの要因で処理すると、もともとL原株細胞中にあった耐性細胞こそ或る程度pureな形でisolate出来るが、腫瘍化させる様な大きなActionは持っていないようだと云う事、然し、この腫瘍化出来ない原因が株細胞を用いたためなのか、用いた要因に起因しているのか、と云う問題に関しては未だに解答を得られません。
 でもこれまでに少なくともLiebermanの様にPuromycin、8-azaguanine、Szybalskiの5-Bromodeoxyuridineの様に種々のantibiotics、核酸前駆体等種々のagentを用いて仕事をやって来た人々がLやHeLa細胞で大きな変異を起し得たと言う報告を耳にも目にもしない所をみるとやはりDifferentiationの極致に達した株化細胞を用いる事は余りリコウじゃあ無さそうに思われる。結局発癌の問題に関しては現在伝研で成功しつつあるDABを用いてのPraimary cultureでの仕事のように何かの動物からPraimary cultureしたものを用いて勝負するのが手取早いと云う結論です。
 で今年の結果ですが、うちは3月に引越しがあると云う弱点はあるが、とにかく
(1)今年の発癌にはマウスの新鮮組織からisolateしたPraimary cultureでやります。これは私にとっては初めての試みですが、A)マウスCBA系の上皮性fibroblast(正常cell) B)300γirradiation後induceされたマウスCFI系の腫瘍細胞、の培養も試み結果はかなりうまく行っておりますので、とにかくやってみます。前述の伝研での仕事がかなり有望なので先ずそれを追試してから、うまく行けばしめたもの、うまく行かなかった場合には次に発癌にどの様な方法を使うかこれも考慮中です。種々の発癌剤、Chemical mutagenはもとより、うちでははやりTransformationやpinocytosisもうまく生かして使ってみるつもりです。
(2)従来のL細胞の仕事はもう少し発展させます。特に今後はこれまで苦労して確立させてきた各種耐性細胞を用いてその耐性のメカニズムと変異性の問題を解決したいと思っています。この問題は遺伝的な見地からの目的ばかりでなく、発癌の問題と取り組む際のテストケースとして私には又必要ですので。
(3)最後に計画しているのが人間の遺伝病を細胞レベルで分析証明したいと云う希望です。

 :質疑応答:
[勝田]いま“癌細胞を正常細胞に帰してやる”というような発言をされたが、これは“非腫瘍性細胞に変える”というべきと思います。本当に正常に帰す、なんてことは非常にむずかしいことですから。かって数年前に報告しましたが、肝癌AH-130から作ったうちの株、JTC-1,-2はラッテに復元接種するとかなりの致死率を示します。これは染色体数の主軸は、夫々51本と58本ですが、培養はずっと静置培養を使っていました。ところがこの株を3,000rphの高速回転培養に移すと、数代の内に腫瘍性がぐんと落ちました。何回やってみても同じような結果です。そこで高速回転の細胞をいろいろな面から、静置継代の細胞と比較したのです。染色体は高速ではどちらの株も38〜40本の辺がピークになっていました。これは株をラッテに復元したとき第2位になって現れてくる38〜40本と核型もそっくりです。そして正常のラッテの体細胞と数の上ではきわめて近いのですが、核型がはっきりちがうのです。つまりこの場合の腫瘍性の低下は、染色体数からも解糖や呼吸からも、さも腫瘍細胞が正常に戻ったかの如く見えますが、実は株の細胞集団のなかに、腫瘍性の低い細胞(染色体数38〜40)が混っていて、新しいaerobicな環境におかれて俄然ふえ出し、主位を占めるようになった、と考えるべきだと思います。また、そのような細胞集団のなかに、いわば“弱小民族”のような細胞が長く保護されている、ということも大変面白い問題と思います。
[佐藤]いまの高速回転の細胞はSingle cell cultureしたとき40本のばかりになりますか。
[勝田]腹水肝癌はどれも非常に細胞同志でくっつき易く、これをEDTAなどで処理しても一寸ぼやぼやしていると、すぐまたくっついてしまいます。がっちりaseなどを使うと細胞がやられ易く、仲々1ケからは生えにくくなるし、難しいのです。colonial cloningも重ねてみましたが、40本のcolonyの中にすぐ4倍体などがあらわれます。
 これは余談ですが、癌の治療について、いま二つの大きな途があります。(第1)は直接細胞を薬剤などで叩くことで、(第2)は担癌宿主の抵抗力を強めることです。(第1)の方では、癌の突然変異由来という点から考えても、当然その性質に千差万別のあることが想像されるし、また事実、各種薬剤などに対する抵抗性の相違、あるいは耐性細胞の混在などが見付けられてきている訳です。しかも正常細胞の中にも分裂している細胞が色々ある。これらの点から考えてみて、現在(第1)の途をとっている人がかなり多いけれど、このルートをとって成功する可能性は非常に低いのではないか、という気がします。私個人としては(第2)の方が成功の見込があるような気がしています。例えば腫瘍を動物に接種する場合を考えてみましても、その動物の抵抗に2種の段階があると思います。仮にそれを第1次抵抗と、第2次抵抗とよびましょう。第1次抵抗というのは、たとえば異種移植のときなどによく見られる現象、つまり植えてもつかない、はじめから持っている抵抗のことで、第2次抵抗というのは、癌をうえてしばらくしてから出てくる抵抗、つまり一種の抗体のようなもの、と考えてよいと思います。この場合、第1次の方を変えるということはいわば正常構成を変えることで、反って発癌の危険などが起るかも知れないし、むずかしいでしょうが第2次の方を強めるということは可能であると思います。
 腫瘍性が極端に高くはない腫瘍、たとえばAH-130などはinoculum sizeがあまり少ないと、それがついて宿主をたおす%がかなり低くなります。たとえば右図で、A位の数をIPしますと、B位までは一旦ふえても、やがてそれが減り出し、Cのように下ってしまい、その動物はさらに強い抵抗力をもつようになる。いわば免疫が成立して行きますが、Bの辺まで行ったところで、この腫瘍細胞をとり出して別のラッテにIPに入れますと、B’→C’のように、第二次抵抗のできる前に腫瘍細胞はどんどん増えて動物を倒すことができるわけです。つまり100%takeするかしないか、そこにX−Yのような限界量が考えられ、できてくる抗体とそのときの腫瘍細胞数との比によって、第二次抵抗の成否が決まってくると考えられます。
 なお、このBをB’にして移すというtwo-step transplantationは培養細胞などのように数が少ないとき応用すると有効です。
[堀川]マウスの悪性腫瘍で培養株になったのはありますか。すぐ復元できるような・・。[佐藤]私のところのEhrlichの株がありますよ。
[堀川]培地は?
[佐藤]血清1%〜50%(どちらも復元可能)、あとLYEです。血清量をおとすと、どうも成績が悪いようです。Inoculum sizeにもよりますが。もう一つ、TCと動物継代をくりかえした系があります。染色体数は少なく、増殖も悪いのですが・・・。X線で叩くと染色体数が減りますが、これは増殖が悪くなります。染色体数と増殖度とは関係があるような気がします。
[堀川]私のところでは2/3の染色体が大きく太くなっているMutantがあり、やはり増殖は悪いです。DNA/cellの量をしらべたいと思っています。
[佐藤]染色体数と悪性度は無関係で、動物に復元すると、初代は悪性度が低く、段々に高くなってきます。latent periodが短くなるわけです。長く培養すると悪性度が落ちるものかどうかしらべてみます。またL株の場合、これが動物につくようになったら、腫瘍の概念が変るだろう。
[堀川]Chemical mutagents+L細胞の悪性化という可能性も同時に考える必要があるのではないですか。

《山田報告》
ORGAN CULTUREについて:
Lasnitzki,I.
:Precancerous changes induced by 20-methylcholanthrene in mouse prostates grown in vitro. Brit.J.Cancer,5,345,1951.
:The effect of estrone alone and combined with 20-methylcholanthrene on mouse prostate glands grown in vitro. Cancer Res.,14,632,1954.
:The effect of testosterone propionate on organ cultures of the mouse prostate.J.Endocrinol.,12,236,1955.
:The effect of 3:4 benzpyrene on human foetal lung grown in vitro. J.Path.Bact.,71,262,1956.
Franks,L.M.
:A factor in normal human serum that inhibits epithelial growth in organ culture. Exper.Cell Res.,17,579,1959.
Trowell,O.A.
:The culture of lymph nodes in vitro. Exper.Cell Res.,3,79,1952.
:The culture of mature organs in a synthetic medium. Exper.Cell Res.,16,118,1959. Organの培養はとくにaerationに注意。成熟動物の臓器はとくに酸素を要するので、酸素+5O%炭酸ガスを送って培養する。できるだけ小さい臓器がよい。
 今回はorgan cultureの技術の紹介にとどめます。J.Paulの教科書にも比較的よくかかれています。

《高木報告》
1.発癌実験
 1)DAB
i)JTC-4株細胞に昨年6月以来DAB 0.1〜1μg/mlを作用させ続けて来ましたが、昨年11月中旬、細胞の増殖が悪くなったので(DABの作用によるか否かは不明)普通培地に戻して培養をつづけ、本年1月26日より再びDAB1μg/mlを作用させ始めました。と云うのはhamsterが増殖して被接種動物側の受入態勢がやや整って来たからです。形態学的変化は前々回の班会議の際にスライドで御見せした程度のものです。
 さて復元ですが、それに先立ちhamsterのcheek pouchに移植してみたいと思っています。移植もこれはFoleyらの追試の様なことになりますが、JTC-4、HeLa、Liver(chang)細胞などの株細胞について一応malignancy?(移植率)のtitrationを行い、ついで発癌物質を作用させた細胞の移植を行ってみる積りです。
 hamsterはcortisone treatedのものを先ず用い、うまく行ったらuntreatedのものを用いたいと思います。Cortisoneの量は2〜3mgで接種直後に更に3日おきに2回、この量を注射する予定です。
 ついで復元する積りですが、純系の動物が中々入手困難で、雑系ではどうかと思われますので、その点を考えねばなりません。
ii)ratの組織のprimary cultureにDABを同様作用させる積りでいます。これは勝田班長の追試と云うことになるかと思います。濃度は1μg/mlで作用期間は細胞の増殖の仕方にもよるでせうが、大体2〜3週間と云った処でしょうか。但し、私共の処のratはWistar-kingですが、これでよいものでせうか。組織はsuckling ratの肝とembryonic ratの皮膚組織を考えています。なお先日遠藤班員より御話しのmethylDABも是非用いてみたいと思っています。
 2)Stirboestrol
 培養組織としてhamusterの腎と一応JTC-4細胞も用いてみたい。hamsterの腎はplasma丈を用いて組織片をガラス壁にくっつける方法とtrypsinizeする方法と両方で培養してみたい。用いる濃度は先にratの腎でtestした処では0.1〜1μg/mlの予定です。これはアルコールでないと完全に溶けませんが、この前も遠藤氏が云われた様にアルコールそのものの障害作用を考慮に入れて、やはり濃い処丈をエタノールに溶かして、あとの稀釋はよくdisperseしながらsalineで行いたいと思います。
 作用期間はprimary cultureであることを考え、まず2週間位作用させ、細胞が更に増殖する様であればまたintervalをおいて作用させる様にしたい。移植、復元はDABの場合と同様に行う予定です。
但、stirboestrolの欠点としてin vivoで発癌に6ケ月乃至1年もかかることです。以上2つの発癌剤について主として検討する積りですが・・・。次の4NQOについても検討したいと思っています。
 3)4NQO
 これはこちらの癌研と共同の仕事になると思います。
 培養組織としてmousuの皮膚、肺、肝、など一応考えています。また細胞に10−5乗から−6乗Mの濃度を作用させた際、封入体様物質を作る細胞とそうでない細胞との運命を追求の予定です。
2.免疫学的研究
 概略は前回の班会議で報告しました。
 これからの方針として
 1)C.P.、凝集反応、血球凝集反応、蛍光抗体法などを用いて更に多くの種族に由来する株細胞についてspecies specificityを検討すると共に、2)Organ specificityを追求する意味でもantigenのpurificationにつとめたい。前回の失敗にこりて今度は出来る丈多くの細胞を得るべく大量培養を試みています。そしてsolble antigenの硫安分劃、microsome fraction、NucleoproteinにつきImmunoelectrophoresisなどにより検討して行きたいと思います。目下、JTC-4細胞及びchang肝細胞の免疫中であり、またFL細胞の増産にこれつとめています。
3.その他の実験
 1)無蛋白培地内培養
i)L細胞、目下Protein free mediaに移して19代目7ケ月になります。100または50mlナス型コルベン内での増殖が一番よい様です。TD40などでやりますと、日が経つにつれて細胞が浮いてきます。この浮いた細胞をとってもう一度高速回転培養をやってみようかなどと考えています。マリモの様になるかも知れませんが・・・。
ii)HeLa及びChng肝細胞についても2%牛血清加培地と0.1%PVP加無蛋白培地とで交代に培養をつづけています。
 これらprotein free mediaで培養した細胞と普通培地で培養した細胞について移植性の差異も調べてみたいと思っています。
 2)Orotic acidの株細胞に及ぼす影響
 前回の班会議以後、FL、HeLa細胞についても、その増殖をおとして効果を検討しましたが、やはりこれらの株細胞には促進効果はみられませんでした。

 :質疑応答:
[勝田]メチルDABというのは遠藤君の誤解で、問い合せましたらやっていないそうです。それからDABによる発癌実験はさっきもお話しした通り4日間で良いのです。あまり長くやりすぎると反っていけないのではないか、つまり変わった細胞がやられてしまう可能性があると思います。とにかく私どもの方法の最大のミソは、正常細胞を増殖させないで生かしておきますから、若し変った奴ができるとすぐ判るわけです。つまり増殖してくる細胞ができる、というのは細胞が変化した証拠なのですから、初期変化をつかみ易い訳です。肉眼でみていても、組織片が丸く、すき通ったように、キラリと光って見えます。そういうのを狙って顕微鏡でみます。大抵その周囲に増殖細胞が見付かるのです。
 それからラッテですが、復元接種することを考えますと、やはり自分の研究室で繁殖させて同腹の仔に(兄弟に)返してみるようにした方が成功率が高くなると思います。

《遠藤報告》
1)HeLa株細胞:
 a)Progesteroneについてこれまで主にしらべてきましたが、今後は b)Testosteroneの仕事からAndrogenへ、またさらにAnabolic steroidへと進み、Anabolic steroidを酵素レベルでしらべたいと予定しています。また産婦人科の小林教授に、正常と癌の子宮粘膜をもらうつもりです。
2)間葉性組織の代謝:
 Mucopolysaccharideの代謝や、骨(軟骨)でもChondroitin硫酸にS35をラベルしてしらべてみたいと思っています。結締織とcarcinogenesisの関係は何かあるでしょうか。例えば結締織のないCorneaには癌ができにくい、といったことなどから・・・。

 :質疑応答:
[佐藤]組織学的には癌組織と結締織との間には相互作用がありますね。腹水腫瘍の場合には、多形核白血球→単核細胞→腫瘍細胞の純培養といったコースをとります。しかし結締織とcarcinogenesisとの関係のデータは未だ見えていません。
[遠藤]私はそれをやってみたいと個人的には考えています。
[高橋]癌組織には蛍光物質がつき易いのですが、これは結締織についていますね。
[遠藤]なおこれ以外にCarcinogenesisの研究ですが、これは目下形態学の勉強をしています。

《伊藤報告》(事後提出)
 ☆腫瘍のS2分劃の仕事は以前の報告で申し上げました様に、trypsinizeして、resin column IRC-50を通過させるところで、4つの分劃に分け、そのIII分劃に活性を認めましたが、此の際やや活性の低下を来しますので、その点の検討を行っております。
 但、従来使って居ましたS2分劃が品切れとなって、別の人肝癌のS2について同様分劃を行いましたところ、280mμの吸収パターンに少し差異が出て居ます。ニンヒドリン反応でのパターンは殆ど同型です。この分劃の夫々の活性は現在検定中です。
 ☆発癌実験は勝田先生のところで成功されたようですので、早速追試を致します。又、別に当方では培養の際のgas-phaseに少し操作を加えて、実験してみたいと思います。使う細胞は最終的には勿論primary cultureのものを用いますが、暫くは株細胞も併用する事になると思います。
 ☆次に此れは報告から少し離れますが、先月の綜合班会議での勝田先生のお話しに此の席上で、もう一度お答えさせて頂きます。
 我々のS2分劃がL細胞に対してしか促進作用を持たないと云う事でしたが、此れは培養細胞に対しては仰せの通り、L及びL・P1に対する効果しか検して居りませんので、誠に片手落ちであり、今後、腫瘍細胞を含めて、他の培養細胞に対する効果も検討する積りで居ります。但、現在までに他の研究者の行った結果で“in vitro”で正常ラッテ肝切片のRNAへのC14-orotic acidのuptakeをも促進すると云うはっきりとしたデータが得られて居る事を御報告しておきます。この作用はtrypsin処理して、IRC-50を通過させた分劃にも認めて居ります。それから、アルコール分劃の際の関口さんの御忠告は、今後充分注意致します。
《奥村報告》(事後提出)
A.組織培養による細胞の変異
 1)Monkey及びRabbit kidney cellの増殖
 MonkeyとしてはGreen monkeyを用い、消化はBodianの方法を若干変えた方法(既報)で細胞をばらばらにし、培養する。細胞がガラス壁に完全にmonolayerになった時にtrypsinizationで継代する。サル、ウサギのいづれも初代から3代位では明らかな増殖を示すが、その後はあまり増殖が良くないばかりか逆に減少することが多い。(細胞数計数による増殖カーブで示す)
 又、細胞数と血清濃度の関係をみると、細胞数の少ないときに高濃度を必要としていたのは興味深い(増殖カーブを示す)。なぜこの様な実験を試みたかは、一応血清の細胞増殖に与える影響をみて、増殖と染色体数の変異性と検討したかった故。
B.HeLa株細胞の凍結前後の染色体数
 凍結後のHeLa株細胞の染色体数は6代目まで観察した結果からは変化は見られないが、多倍体の細胞が凍結前より若干減少しているのが目立つ。その他は殆ど変化がないと云い得るであろう。しかし、もっと先になって変化が出てくるかも知れないので長期間、核型も併せて観察してゆきたい。


編集後記


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