【勝田班月報・6305】
《勝田報告》
A)発癌実験:
細胞形態に変異性の出ることを目標にし、しばらくの間RLD-1株その他を使って実験をしていたが、ふたたび元の初代培養での発癌実験もはじめましたので、その后の経過を報告します(Exp.#31〜#39の一覧表を呈示)。(DAB-N-oxideというのは寺山氏が(DABが生体内で一旦-N-oxideの形になって作用する)と考えているもので、同氏より分与をうけた。水によくとける。)
これらの実験の内、#C35のサリドマイドを加えた群では、第2代の9日培養でタンザク標本を作ってみましたが、核に変化が認められました。すなわち大型の不整形の核や、核小体の数の多いものなどが認められました。しかし第2代の52日培養の標本では、そのような異常の細胞は消失してしまっていました。つまりサリドマイドは投与中は効く。そしてその為変化をおこした細胞はやがて死んでしまうらしい。だから薄い濃度で永く与えた方が、変化をおこし、しかも増殖できる細胞が得られ易いかも知れない。
次に当室でDAB実験をおこなっている内、株化してしまったもの及び株化と認められるものを次に並べてみます(表を呈示)。いちばん早く株化確定したのにRLD-1と命名したので、その前のExp.#のが株化したとき困って、苦しまぎれにRLD-0とした次第で、現在10系です。RLD-1、RLC-1及びラッテ腹膜被覆細胞よりの株RPL-1の染色体分布図を呈示します。何れも最頻値42本で、RLD-1とRLC-1は42%、RPL-1は54%です。
B)DAB投与ラッテの肝細胞の培養:
これは予定になかったのですが、いつか寺山氏と呑んだとき話したらしく、こっちが忘れていたらラッテを送られて、仕方なく培養しました。Exp.#PC-1:3'メチルDAB・49日間給餌したラッテの肝。1963-3-27培養開始。箒星のような細胞だけが生えてきています。
Exp.PC-2:同上92日間給餌ラッテの肝。1963-4-11培養開始。増殖はほとんどありません。
《杉 報告》
golden hamster kidneyの、primary culture−stilbestrolのsystemで、10μg/mlの
stilbestrolを作用させた時、対照群に殆んど見られない様な上皮様細胞団が出ることを前報で報告しましたが、この細胞をたんざく培養でとらえ、染色して強拡大で見ますと、普通の上皮様細胞に混じて核が偏在し、あたかもSiegelringzellen様に見える細胞がかなりあり、弱拡大で細胞間の間隙の如く見えたところの一部はこれであることが分りました。これは非特異的な変化かも知れませんが、動物実験でgolden
hamsterにstilbestrolを皮下注射すると、kidneyにadenomaを生じ、その中でcolloid
degenerationを示す細胞のgroupが多く見られたという事実があり、上記細胞をこれと結びつけて考えると我々のin
vitroの実験は或程度、動物実験の過程を反映しているのではないかと思われますが如何でしょうか。しかし問題はこの細胞を復元出来る程大量に得るにはどうしたらよいかということで、これを第2代にsubcultureしようとしてもうまくいきません。
大体この細胞は使用した動物の日齢によっても違いますが、大凡培養10日過ぎから18日目位の間にはっきりと出てきます。ところがこの頃を過ぎると細胞団全体が変性に傾いて困ります。尤もこのところ色んな事情で手が足りず、慌ただしくやっていましたところ、株細胞など他の細胞の調子も思わしくなく、よく調べると丁度この大事な時期に培地が一寸おかしかった様にも思われ、或はそのせいかも知れませんので、これ以上の増殖が本当に出来ないのかどうかについて、も少し検討したいと思います。
尚、薬剤作用期間については、従来は8日間としてきましたが、10μg/mlに関しては4日間の作用でも上記の変化は起ることが分り以後は4日間の作用でみています。
《黒木報告》
長期継代吉田肉腫細胞の移植性について
培養された吉田肉腫細胞については、培養開始当初(3代)より各代毎にRat腹腔内に移植することにより、その移植性の変化をみて来ました。更に最近になって、少数細胞による復元移植により、より精密にみております。現在もなお、実験中ですので、最終的なことは岡山の学会にゆずるとして、現在までに分ったことについて、中間報告します。
1)継代の方法
第0日:YS20cells・Basal med.1ml+血液5倍液(Heparinaized
Rat新鮮血清をBasal med.で5に稀釋したもの)1ml→第7日・Basal
med.2ml追加(血液添加せず)総量4.0ml→第10日・短試の全量を50ml遠心管に移す(Basal
med.8mlと血液5倍液2mlを追加)総量14ml→第12日・Basal
med.10ml追加(血液添加せず)総量24ml→第14日・細胞数count、subculture(多くの場合100〜200万個/tube)。(一部は遠心し細胞数100〜200万個集めて、細胞をRat腹腔内に接種)→継代は第0に戻る。
2)(表を呈示)3〜50代までは大沢雑婚ラットを使用。51代以降は、呑竜ラットに切りかえました。呑竜ラットは、御承知のように、吉田肉腫に対して特に感受性の高いものであり、この種の実験にはより優れたTumor-Hostの組合せとなるからです。51〜60Gまでの移植率は14/14
100%であります。(現在62代)
以上のように100万個の移植細胞数では、特別な移植性の変化を来たしてないことが明らかになりました。しかし、より軽度な変化は100万個のorderでは分らないと考え、試みたのが次の少数細胞による復元成績です。
3)少数細胞による移植性の検討(Exp.138、139、140)
実験は56代にて行いました。(2月22日'63移植)
移植細胞数:10.000、1,000、100
稀釋液:Basal medium、0.5mlに所定の細胞数が含まれるように稀釋
使用ラット:実中研生産呑竜 100〜120g♂
その成績は表に示す通りです。100:0/9、1000:0/10、10、000:6/10。(現在、移植后4weekですが、まだsasciteに腫瘍細胞をもち乍ら、死なないのがありますので、今后成績は多少変ることと思います。成績は現在までに腫瘍死したものだけについて記しました)
ここで、in vivoで増殖した細胞を採り、再び少数細胞による移植を行ってみました。即ち、この移植性の低下が、もし培養されたpopulationの中の腫瘍性の高いものと低いものとの混在によるものであるのなら、一度in
vivoで増殖した細胞は腫瘍性の高いものである筈であり、その移植率はin
vivo継代の吉田と近い成績になることが想像されるからです。(表を呈示)100:0/7、1000:0/7、10,000:2/7。(この実験は3月14日開始であり、現在まだ6weeksですので、今后いくらか移植率の上昇が考えられます)
以上の成績から長期継代吉田肉腫細胞は極めて軽度ではあるが、移植率(腫瘍性)の低下を来たしているものと考えられます。この移植性の変化は、各代毎に戻し移植を行い、注意深く観察する他に、時々少数細胞の復元実験を行うことにより発見できるものであることを、教えられました。
少数細胞による移植がHost or tumorの軽度な変化を知る手がかりになることは、MH134etcを、C3H
inbredとF1 hybridを用いての移植実験により明らかにしたことなのですが(札幌の病理学会で発表)、今後も、この方法を応用して移植性の変化をみて行きたいと思っております。
《山田報告》
人胎児肺組織由来繊維芽細胞の継代培養
Hyflickの細胞株(WI-38)の維持をまかせられてから、すでに5ケ月、継代数は40代となり、増殖が以前より明らかに落ちてきました。その後私共のところで数系胎児肺組織より分離し、長いものではすでに30代以上継代してきました。それらの経験で分離後細胞の増殖度が徐々に変化して、終いには増殖が衰えてしまう事がわかりました。Hayflickは数字に弱いらしく、細かい記載がありませんので、一度数字で説明してみます。
(図を呈示)図は一定の時期に同一のフラン器内で同一の培地による増殖度の比較です。以前T1、T2と称していたものをphageとの混同をさけるためNIHT-1、NIHT-2・・・と改めました。[NIHTokyo]これらはいづれも4〜7ケ月の胎児の肺組織より分離したもので(WI-38は不明)一応同一のものと考えて図をみますと、組織より切り出した当初は発育が遅く、その後発育が旺盛となり、5〜15代で最高で、3月〜4月の培養で瓶中の細胞数は4倍近くになります。以後徐々に増殖度が低下し25代以後は2倍くらいにしかならず、30代を越すとますます低下し、40代以後は一本の瓶を一本又は三本の瓶を二本に継代するような有様となります。
同一の系については継代数と増殖度の関係を見ますと、この関係がはっきりします。(表を呈示)表はその1例でNIHT2の継代中の増殖度です。培養液、とくに血清によってかなり増殖度が動きますが、5代づつまとめて調べてみますと上記と略々同様の成績が得られます。 NIHT2は継代6代まで完全なsingle
cell suspensionにせず培養したので、正しい増殖度が得られませんでしたが、NIHT4、5で3〜5代の成績を得ており、6代以後よりやや増殖度が低下しています。これらの成績を綜合してみますと、はじめに述べたような推移を想定することができ、細胞のAgingとして理解することができそうです。この現象は所謂株細胞には見られないので、一応正常な現象と理解することも可能ですが、むしろ細胞株樹立の過程における培養環境への適応(不完全)と同一に考える方が妥当でしょう。ただ上記のように5〜15代継代の間で略々一定な旺盛な増殖が得られるので、実験方法としての正常増殖系を樹立し得たという意味で今後利用価値がありそうです。そのために純系マウス胎児よりの繊維芽細胞系の分離を行いつづあり、今後発癌実験に使用してゆく予定です。
本繊維芽細胞系はEagle基礎培地+10%仔牛血清で培養されていますが、HeLa、KBなどの株細胞と幾分栄養要求が異ることが推定されましたので、手掛けはじめました。Biotinについては前にかいた事がありますし、又更に進行中ですので、それ以外について触れてみます。すでにEagleは株細胞の殆んどが13種のアミノ酸と9種のビタミンにブドー糖、塩類と血清高分子(透析)部分で培養できることを報告していますが、本繊維芽細胞系は1stepの増殖がみられるだけで、その後8日間以上の培養中増殖が認められませんでした。同じ培地中でHeLaの一分枝系は図のように増殖します(図を呈示)。勿論全血清とくらべて増殖度が低く、Maximum
populationも低いのですが、継代可能です。即ちFb細胞系は血清中の低分子物質に増殖に必須なものがある事が判りましたので、更に進めてみるつもりです。
又エネルギー源としてのブドー糖消費と増殖の関係で、他の株細胞Chang's
liver cellstrainと比較した結果、かなり著明な差異を認めました。(表を呈示)即ち肝細胞ではEagle培地にブドー糖を添加しなくても対数期の増殖度に添加群と差異を認めませんが、NIHT4ではブドー糖無添加群の増殖度が著しく延長されています。肝にくらべてFb細胞群はいづれもpHの低下が著しく、かなり乳酸の産生が高い事が推定されますので、次に乳酸の測定に入ります。以前HeLa細胞で得た成績ですが、original
lineのHeLa細胞では消費したブドー糖の60%が乳酸として蓄積され、fusiformな高解糖系(P)では90%が蓄積されることを認めております。尚ブドー糖消費に関して他にも知見がありますが、次の機会にかきます。
《伊藤報告》
1)発癌実験
ラッテ肝細胞の大量培養を試みて居ますが、まだ成功したと云える段階に到りません。 数日間生きて居ることは確かですが、増殖が見られず、以后徐々に死滅してしまふ状態を繰返して居ますので、いささかがっかりして居ますが、尚、器具、techniqueに種々検討の余地が残っていますので、気落ちせずに続ける覚悟です。
2)増殖促進物質
久留教授の時代から続けていたOncotrephinの仕事を吾々としては、ここいらでSchlusseをつける事になり(国立がんセンターで今后も続けられる由)、その積りで残務整理をやっています。CM-Cellulose
Column(pH.5.6 Acetete Buffer)で2つの分劃に分け、その第一分劃に活性が移りN当りのActivityは約3倍に上昇します。更に此の分劃を同様CM-CelluloseColumn(pH,4.0)で分けて、素通りする分劃にactivityがあって、N当り3倍の活性上昇がみられ(0.7γN/mlで至適濃度)、従って、S2分劃からみて約10倍にpurifyされた事になります。このあたりで一応打切り、あとは今迄の穴埋めをして終りになります。色々不備の点も多く、又勝田先生を含めて、多くの方々から数多くの御批判を戴いた仕事でしたが、私個人としては此の仕事を通じて組織培養を知り又研究と云ふものの一部にでも触れ得た事を嬉しく思って居ます。
編集後記