【勝田班月報・6309】
《勝田報告》
 A)発癌実験:
 (1)培養開始
 #C43(1963-8-12)12日ラッテ(DAB1μg/ml・4日間)
 #C44(1963-8-15)15日ラッテ(DAB1μg/ml・4日間)
この2実験はこの夏に於ける発癌用の唯一のスタートであり、100本位のroller tubesを使ってはじめたが、開始后、事故による送電停止があり、夜間これが約8時間位に及んだ。管内の液に浸っていない部分の細胞は干されてしまった訳である。この為一般に成長が悪く、増殖細胞の集落も未だ形成されていない。はなはだがっかりさせられる結果となった。
 (2)増殖開始后の継代
 #C41(1963-6-27開始)
第28日(1963-7-25)、増殖細胞集落だけをラバークリーナーでかき落して継代。これまでの例と同様に徐々ではあるが確実に増殖をつづけている。
 #C42(1963-6-30開始)
第25日(1963-7-25)、増殖細胞のあるtubes全部をトリプシン消化により継代したところ、実質細胞以外の細胞もバラバラにされ、第2代に於ける増殖細胞の接種濃度が薄められるためか、或は増殖細胞にやはりトリプシンが有害に働くためか、とにかくラバークリーナーに比べ、第2代の増殖は大分悪いようである。
 (3)復元接種
 a)RLD-7株:1963-7-31に約12万個の細胞を生后1日のrat1匹に脳内接種したが、1963-8-2死亡しているのを発見した。夏季のためautolysisが強いので確定的なことは云えないが、脳内出血死のようである。
 b)JTC-1株:この細胞は腹腔内接種では100万個入れてもラッテが死なないようになってしまっているAH-130のTC株であるが、1963-7-31に上と同腹の生后1日のラッテ2匹に脳内接種してみた。約84万ケ/匹であるが、7日后に2匹とも死亡し、剖検したところAutolysisが強いが、脳内にたしかに腫瘍ができていた。これと次の接種とは、接種の練習と効果の確認のためである。
 c)AH-7974:1963-8-30、生后約2ケ月の♂♀各1匹のラッテ右目の前眼房内に脳内接種針で約100万個宛(腹水よりとって稀釋したもの)(約0.05ml宛)を接種したところ、第4日現在で、右目は白濁しふくれている。兎とくらべ目玉が小さいからやりにくいが、とにかく接種部位としては使えるらしいことが証明された。
 d)ラッテ新生児への接種上の便法:
 1腹8〜12匹のラッテの乳児全部を同一細胞の接種に使うのがもったいないことがよくある。しかし下手に色素などを塗っても、はがれたり親に喰われてしまったりする。このとき蹠の爪をどちらか決めて1本短く切っておくのが、どうも一番良い方法のようである。一見判りにくいが、剖検のときしげしげ眺めれば確実に判る。御推賞する次第である。
 (4)培地無交新の実験:
 a)Exp.#C39
 この培養群は1963-4-25に培養開始し、DAB1μg/ml、4日間で増えてきた細胞であるが、routinelyには2回/w培地の交新をおこなっている。この初代のものに1963-5-16→6-10(25日間)、DAB群3本だけ培地無交新をおこなった。結果は細胞は丸くなり、大部分は残存したが剥れるものも出てきた。但し膜状に剥れることはなかった。その后培地を交新したら、また元の集落の部分に同じように増えはじめてきた。そこで1963-7-1→7-22(21日間)再び培地無交新を施行した。結果は上とほとんど同じような所見であった。1963-8-29、第1回のsubcultureをおこない、静置培養に移した。細胞は硝子面に附着している。しかし増えてくるかどうかは今のところでは未だ判らない。
 b)各種ラッテ肝株細胞
 同時に併行して2回宛無交新を施行した。第1回は1963-4-13から5-12まで。第2回は1963-6-11から7-11まで。8月26日に継代し、染色体用の標本も作った。(染色体分析は未だできていない。)結果は次のように色々の反応が現われた。
RLD-3、RLD-6、RLC-1:第1回のとき細胞が丸くなり、交新で回復したが、第2回で再び丸くなったあと、交新でも回復しなかった。染色標本でも細胞はほとんど認められない。
RLD-0:殆んど細胞はやられたが、未だ残っているものがあり、今后増殖してくる可能性があるかも知れない。
RLD-2RLD-4RLD-5ELD-1#4()RLD-1#2(DAB)LD-1#3(4n)RLD-#5(RLD-1groupControl)RPL-1()1w B)染色体の核型分析:
 RLD-1株(#5)とRPL-1株について、カバーグラス法による染色体用永久標本を、油浸で顕微鏡写真にとり、それを引伸して切抜いて並べた。東大衛生看護学科の学生の田島君というお嬢さんが熱心に夏休実習をやってくれた。RLD-1(#5)は43本、RPL-1は42本と、そのpeakをなす染色体数の分裂中期像について、前者は7ケ、后者は2ケのidiogramを作ってみた。未だcontrolのRLC系のものが作ってなく、RPL-1も2ケだけなので、正常とDAB群との比較という意味では比較ができないが、Metacentric(M)、Subtelocentric(S)、Telocentric(T)と分けてみると、次のような構成になった。なお写真のidiogramは染色体の大きさの順に並べた。RLD-1株(#5):12M+25S+4T、13M+20S+10T、14M+20S+9T、12M+20S+11T、12M+22S+9T、12M+21S+8T、14M+20S+9T。RPL-1株:14M+16S+12T、10M+20S+12T。
 総括してM、S、T間の数比は細胞によってかなり差があるが、MetacentricはRLD-1株(#5)では12〜14本、Subtelocentricは20(〜25)本、Telocentricは4〜11本であり、大きさの順ではS、T、S・・・とつづくのがラッテの特徴らしい。しかし特にMarker chromosomeと呼べるような特徴のある染色体は両株とも認められなかった。RPL-1の方は2例のみの分析で、しかもその2例の間にTを除いてはかなり差があるので、はっきりしたことは何も云えない。 RLD-1(#5)の核型2種、RPL-1の核型1種の写真像を呈示する。

《佐藤報告》
 相変らず染色体パターンによるDAB及びメチルDABのラッテ肝の変化及び復元を行っています。再現性を考えながらやっています。組織培養法における染色体の移動を考えながら実験を進めています。現在まで分った所見を前のものと対照して見ます。(染色体分布図を呈示)。9月一杯までにこの問題の一応の結論をだして次に移ります。分析、教室で行っている培地中のDABの抽出、及び測定が一応軌道にのりましたから、来月位から報告できると思います。

《杉 報告》
 発癌実験:golden hamster kidneyのprimary culture−diethylstilbestrol
 先頃よりmarkしている例の上皮様細胞団が最近の実験ではあまりあらわれず、稀にしか出てこないのでこの細胞を追求する上で困っています。従来作用させる薬剤は、diethyl stilbestrol単独にしていましたが、最近はこれを作用させた後に0.01%pyruvic acidを作用させることを試み、又流動パラフィンを培地の上においてその影響をみています。今のところ我々の観察法ではpyruvic acidの影響は認められません。今までの実験によると、例の上皮様細胞団は静置培養では時に出てくるが廻転培養では殆んど出てこない点から、anaerobic conditionで多く出るのではないかという想定で、培養開始当初からパラフィンを重層してやってみています。まだ始めたばかりですが、培養9日目、実験群に上皮様細胞団のみが少し出て来ています。若しfibroblastが殆んど出ずにこんなのがconstantに出るとなるとおもしろいのですが、今のところは偶然でそうなったのかも知れず、今は只期待をかけているという段階です。
 先日、hamster cheek pouchに復元したExp.17の細胞は、接種後80余日を経過しても遂にtumorをつくりません。hamster liver−o-Aminoazotolueneは対照からは細胞が殆ど出ず実験群の方にfragmentから僅かに出てきましたが、恐らくmigrationの段階で止りそのごさっぱりです。
 一時かなり多く出た上皮様細胞団が最近の実験では何故出にくいのか、検討せねばなりません。

《黒木報告》
 長期継代吉田肉腫細胞の染色体分析について
 長期継代吉田肉腫細胞の移植性、核の形態については、月報6305、6306において述べましたが、それは要約すると移植性の低下と、核の切れこみの多くなったことです。特に後者は吉田肉腫のoriginal stock及びpolyploidy cloneと比較するとき、染色体構成の変化が想像されました。そこで染色体分析を行った訳ですが、結論から先に云いますと、heteroploidy(hypotetraploidy 76)であること。又核型分析の結果から、今まで知られている吉田肉腫のどの型とも異る、全く別な「吉田肉腫」であると云う結果を得ました。(この仕事は、佐々木研究所との共同研究で行はれました。)
 実験材料及び方法
 細胞は、67代、2年6ケ月培養したものです。
 colchicineを10-6乗M、2hrs作用させた後、Moorehead、Nowellらの方法によりAir-drying標本を作り、Giemsa染色后、Bioleitで封入しました。
 染色体分析に際しては、無選択に97ケの細胞をとり、写真に撮影し、引き伸ばした後、再び実際に標本と照合し乍ら、数及び形態をcheckしました。標本との照合は、2回行い完全を期しました。
 核型分析はModeのもの(この場合76)を選び、そのMeta、Subtelo、Telocentricの構成を調べ、さらにCamera Lucidaによりスケッチし、夫々を大きさの順に並べ、比較検討を行いました。一部のものは、写真による核型分析を同時に行いました。両者の差は、出来上りがきれいか、きれいでないかの差にすぎません。
 いづれにしても、この核型分析は、非常に時間がかかりますので、現在もっと簡単でしかもきれいに出来る方法を考えているところです。
 結果
 (1)染色体数の分布
 染色体数の分布は(図を呈示)、76本にpeakがあり(21/97、21.7%)、その前后(70〜80)にも可成り幅広く分布しております。吉田肉腫のoriginal stockのMode(40本、2n)のものは1ケもありません。しかし、60本前後-triploidy-のところに小さい山があります。140〜151本のところ(8n)にも、小さい山があります(9/97、9.3%)。
 吉田肉腫のoriginal stockは40本、そのpolyploidy cloneであるGVは、80本にきれいなpeakをもっておりますから、そのいずれとも異るわけです。これは核型分析を行うと更に明らかになります。
 (2)染色体の構成
 76本の染色体数をもつ細胞を選び、その染色体構成を調べてみますと、次の様になります。(15ケ調査)。30T+31S+15M、30T+33S+13M、30T+27S+19M、31T+29S+16M、29T+32S+15M、28T+27S+21M、27T+28S+21M、27T+34S+15M、25T+31S+20M、25T+29S+22M、24T+37S+15M、24T+34S+18M、24T+34S+18M、24T+31S+21M、20T+35S+21M。T:telocentric、S:Subtelocentric、M:Metacentric. これから分るように、T.S.M.の構成の比率に非常に大きなvariationがあります。吉田肉腫GVはT.S.M.が2:2:1ときれいな分布しております。又minute、Satelliteはありません。(長腕と短腕の比が1.0:1.3以上のものはSubtelo、それ以下のものはmetacentricとして扱っています。)
(3)染色体の形態−Marker chromosomes−
 形態学的にみていきますと更に大きな特徴があります。即ち、大きいteloが2本、subteloが2本、大きいsubmetaが2本、そして大きいmetaが2本あることです。これらを大きさの順に並べてみますとS1.S2.T.M.の順になります。これらのS1.S2.T.M.を合せもっているものは、60%あります(9/15)。従ってS1.S2.T.M.をMarker chromosomesと考えてよいと思はれます。 この染色体構成は吉田、GV戸は全く異っております。吉田肉腫は16T+16S+8Mで、GVは35T+30S+16Mです。
 以上が継代吉田肉腫の染色体分析ですが、これから何も特別なことは云えません。これから移植性などの関連をみて行きたいと思います。

《伊藤報告》
 前回の連絡会で御報告した如く、homogenizerを用いて肝細胞を集めて、短試験管に分注し、廻転培養をして、細胞の数を追ってみました。
 [実験結果](分注翌日の管壁に着いて居る細胞数を第0日の細胞数とする)(図を呈示)。対照群は約1ケ月増殖せず、維持している。実験群は16日頃にやや増加している。
 [考案]
*Cell-Suspensionで計測した細胞の約1/4が一応試験管壁について生き続けると思われる。*約1ケ月の観察では、対照群の細胞数は殆んど増さない。又試験管壁についたのを、そのまま観たのではmorphologicalにも殆んど変化をみせない。
*DAB添加群(入れっぱなし)については、まだ20日余の観察しか出来て居ませんが、その範囲内で、各培養日の3本の試験管の平均数をとると(株細胞の場合に比してややばらつきが大きいが)対照群の場合と同様に、細胞数の増加は殆んど認められなかったが、16日目の2本と24日目の1本に約2倍の細胞数になって居た物があった。但対照群の24日目にも1本矢張り細胞数が2倍に近かかったものがあり、この現象がDAB添加群に特異なものとは云えない。 だが細胞の増殖誘導が此の様な形で、添加群の試験管のあるものにだけ惹起されると云う事はあり得ると考えられるので、今后は核数計測のための染色液を入れる前に各試験管についてよく観察しておかなくてはならないと考えて居ます。
 今后DABの濃度、添加日数、細胞のmorphologicalな変化等について検討を加える積りです。

編集後記


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