【勝田班月報・6411】
《勝田報告》
A)発癌実験:
なぎさ培養もつづけていますが、それより目下の急務は何とかしてこれまで出来たRLH-1、RLH-2でラッテにtumorを作らせることで、先月の班会議での黒木班員のデータにすっかり刺戟され、ラッテが使えるようになり次第、Cortisoneを使っては復元しています。しかし結論から云えば、今日までのところでは、まだtumorはできていません。
(1)腹腔内復元接種(cortisone 2mg/100g、週2回後肢大腿部)
RLH-1(1964-10-8接種、1月ラッテ1匹、約150万個)、1日、4日、7日后まではかなりmitosisが見られたが、以后次第に減少(腹水は貯まっている)、10日、14日后になると僅少で、14日后にはしらべた限りではmitosisは見附らなかった。
RLH-2(1964-10-6接種、1月ラッテ2匹、約150万個宛)、1日、6日、9日、12日、16日としらべたがmitosisは6日、9日にだけ見られた。しかもcell
islandsの形成も見られたが、何れも日と共に見られなくなってしまった。近日中にこの内の1匹を解剖してみる予定。
(2)皮下接種(cortisoneは上と同量で後頸部皮下。細胞は大腿部皮下)
RLH-1(1964-10-23接種、1月ラッテ2匹、約1000万個宛)、今日までのところ腫瘤を認めず。
RLH-2(1964-10-23接種、1月ラッテ2匹、約2000万個宛)、今日までのところ腫瘤を認めず。
(3)今后の予定
JARラッテが不足なので雑系ラッテを購入し、一両日中に接種を試みる予定。新生ラッテ、cortisone処理した若いラッテなどを用い、次は尾静脈内注入をやってみます。
B)正常ラッテ肝細胞とのParabiotic Culture:
RLH-1とRLH-2の両者についてしらべましたが、何れも(AH-130対正常肝)の場合と同じようにRLH-1、-2の増殖は促進され、肝細胞はこわされて行きました。但しRLH-1の方がその効果が強く現れました。この面からもRLH-1、RLH-2は前のDABで増殖誘導したRLD系と異なり、悪性腫瘍と云えるのでしょうが・・・。
C)Aggregate形成能とRLH-1、RLH-2:
Prof.Moskowitzのいうaggregenをこの両細胞で作らせてみましたが、ここでも両者の性質の差が現れました。RLH-1は全然作らず、RLH-2では径4mm位の円盤状のものまで出現する位よく出来ました。
D)武田肉腫細胞の組織培養:
現在まで約16種のExp.を試みましたが、どうもcontrolのcurveがきれいに一定せず困っています。これまで得られたデータを簡単に総括しますと、
[50%馬血清+DM-120]でも[50%馬血清+0.4%Lh]でも差がありません。従って経済及び手間の関係から途中から後者に変えました。
静置と回転培養(10rph及び2,000rph)では10rphの回転が最適。
Chick embryo extractは入れない方がよい。Calf
serumはダメ。Pyruvateは0.01%添加がoptimal。Insulinは効果なし。Lhは0.4%よりも0.2%の方がよいので、途中から0.2%に切換えた。これは血清濃度が高いためかも知れない。馬血清濃度は色々なinoculum
sizeでしらべても、50%、20%、10%の内では、50%だけで増殖が続き、他は一時ふえたように見えるときでも、またすぐ細胞数が減少して行ってしまう。Glucoseは1g、5g、10g/lの3者ではほとんど差が見られない。
ただ武田肉腫の培養でいちばん面白いのは次の実験であろう。すなわち、上に記したようにcontrolでも時によって増殖度に差があるので、考えてみたところ、どうも血清のlotによってちがうらしい。しかも、どうもhemolyticな血清の方が良さそうである。そこで馬血液を遠沈して上清をすて、赤血球だけにして、これを3回凍結融解した。これを2,000rpm15分遠沈して上清のきれいなところを取り、salineで稀釋して20%液とし、終濃度1.3%に培地に加えてみた。するとおどろいたことにcontrolよりもはるかに増殖がよい。このときcontrolは7日間に約2倍にしか増えなかったのに、この赤血球juice添加群では約5倍にふえているのである。しかも同じExp.の中でPyruvateの添加も試みていたが、Pyruvate0.01%(約3倍の増殖)よりはるかに良い増え方なのである。
これは面白いというので、赤血球成分の分劃を試みて行くことになり(この仕事は高岡君が癌学会にdemoで出しています)、癌学会に間に合わせる最后のExp.のため今夜は現在10時半、ようやくSpincoの回転が止まったところです。この第一段の分劃では赤血球のgosts、S-protein、Hemoglobinの3分劃に分け、どこに活性があるかをしらべますが、結果は癌学会でのおたのしみ・・・。
《佐藤報告》
DAB発癌実験については癌学会后の班会議に纏めて報告させて頂きます。今回はC3H乳癌細胞について私の所で実験し判明した事を報告させて貰います。
現在、株化できたC3H乳癌T.C.株はHei、Ye(-)、Aの3株で夫々1050日、954日、942日を経過しています。Ye(-)StrainにはPrimary
Cultureのときの亜株5及びP-lineがあり、A Strainには同様O-lineという亜株があり、染色体分布は表の通りであった(表を呈示)。
動物C3Hマウスへの復元はP及び5-lineに就ては詳細には未だわかっていないが、他の株はいづれも腫瘍を造る。但しレントゲン前処置が必要である。Ye(-)株はレントゲン無処置の場合にも復元が可能であり、他の株に比してやや腫瘍性が高い。
[培養株細胞中におけるBittner乳因子に就て]
電顕による株細胞の観察で現在までの所ウィルス粒子を認めていない。従来もC3H乳癌ウィルスは培養上増殖しないと謂われている。従ってC3H乳癌細胞のPrimary
Cultureの条件を検討して、その上でウィルスの増減を検索し、出来得れば本ウィルスの大量入手の手続を発見して見ようと考えた。
C3H乳癌の牛血清YLEにおける最適培地は、下記の最終濃度である。Bovine
serum 50%、Lactalbumin Hyd.0.25%、Yeast
extract 0%、Glucose 0.225〜0.45%。
◇Praimary Culture 0〜90日におけるウィルスの消長
上記のmedium及びYeastE.を0.05%含むmediumで、C3H原発乳癌を組織培養して経日的に観察した。Yeastを含むmediumの場合、ウィルスの量は急速に減少し培養後6日以後では電顕による発見が極めて困難となる。Yeastを含まないmediumでは、同一の原発乳癌からの培養でウィルス減量が少く38日の経過のT.C.細胞で細胞質中にA粒子を発見した。従来培養でA粒子は見つけられていない。(写真を呈示)
併しいずれにしても現在の培養条件で乳癌因子の増量は認められない。
◇株細胞の動物復元(C3H♀乳因子保有)による潜伏ウィルスの吸着
株細胞を動物へ復元して出来たTumorに就て電顕を見たが、ウィルスの存在は認められない。
◇原発腫瘍のC3H♂マウスによる継代に就て
最近、原発腫瘍をC3H♂マウスに継代してウィルスを観察した所、多量のウィルスを認めた(写真を呈示)。
《奥村報告》
本報では、特に報告すべき実験結果を得ていないので、現在の仕事の状況と今后の方針について若干意見を述べることにします。
A.JTC-4細胞からのクローン分離に関する仕事
現在まで約7ケ月間にこの細胞から総計約32ケのクローンを分離しましたが大部分(29ケ)は満足すべき染色体数を持っていないために打ち切り、現在4ケ継代中であるが、このうち2ケは増殖が極めて悪く1Wに2〜3倍程度である。又他の2ケは増殖が4〜5倍/a
weekでよいが染色体数の分布が32〜36本である。何んとかしてJTC-4細胞から20本代の染色体をもつ細胞系を分離したいと思うが、今までの結果では染色体数が少ない細胞は増殖が悪いばかりでなく、Purityも低い。つまり次のような傾向を示す。<30本以下のクローンは週3倍を越えない増殖度で極めて不安定。30〜35本のクローンは週3〜5倍で比較的不安定。35〜40本のクローンは週4〜8倍でかなり安定。41〜45本のクローンは週3〜5倍の増殖度でやや不安定。>55のクローンは週5〜7倍で比較的不安定。
*JTC-4細胞のparent culturesのcell cycleを、H3-TdR(1μc/mlを30分間label)の取り込みから測定中。
*cloneのkaryotypeを分析中。
*各染色体のDNA合成をH3-TdRの取り込みから検討中(予備実験)(つまり、各染色体のDNA合成の順位と、もしsecondary
constriction等のmarker chrom.があれば合成の進み方等)
B.HmLu細胞からのクローン分離に関する仕事
この細胞はJTC-4細胞と異なり、growthが極めてよい。Parent
stockの細胞は40〜50倍/a weekであるので、この細胞のクローン分離及びRecloningによるpurificationは非常に容易です。現在までJTC-4細胞と共に18程のクローンを分離、継代中。それらのクローンの生物学的性状を分析中です。Parentの細胞のgeneration
timeは約22〜24hrs.位と思いますが、只今正確なcell
cycleはH3-TdRの1μc/ml、20min labelingで検討中です。詳細は来月に報告しまし。
*この細胞からもJTC-4細胞の場合と同様、いくつかのcloneの(出来るだけchromosomeの少ないものを選び)chromosomal
DNAの合成をしらべ、特にmarker chromosomeに集中したい、と云うのはHmLu細胞には顕著なmarker
chromosomeをもつ細胞があるので興味深い。
*この細胞はFibroblasticな形態を示しているので、又lung由来という事からcollagen産生能がるかも知れないという予想から近日中に2、3のsample(Parentとclone)を東大薬学で検討してもらうことになっている(Hydroxy
prolineの定量)。
C.ウサギ子宮内膜細胞に対するホルモンの影響
数日前にH3-Progesteroneが到着しました。Estradiolは半月程おくれる予定です。取りあえずH3-Prog.を用いて内膜細胞への取り込み(時間、局在性)を検討します。
*次いでH3-Prog.の取り込みの量にもよりますが、出来ればcellをfractionationしてどの分劃に最も多く入るかをしらべたい。
*又、H3-Prog.の取り込まれる量がEstradiol、Testosteroneなど他のhormoneの存在下でどの様になるか、などの数種の実験を計画中です。
《黒木報告》
継代吉田肉腫細胞の移植性について
長期継代培養により正常細胞の悪性化、悪性細胞の悪性度の低下は組織培養における常識的現象とも云えます。特に後者については文献的にも数多くみられます。(文献を呈示)。又このような移植腫瘍に限らず、in
vitroで悪性化した細胞もだんだん悪性度の低くなることが報告されています。(Evans、Sanfordらの文献を呈示)。
しかし、これらの報告は、いずれも定量性に乏しく、たまたま2〜5匹の動物を用いて移植したところ、ついたから移植性が維持されていると云うような表現が多いようです。
移植の分野にも、もっと定量的な分析がとり入れられてもよいと考え、薬理の分野でよく用いられているLD50、ED50を応用してみました。
前号のRLH-1細胞のch-P内移植もその一つです。次に示すのは長期継代の吉田肉腫細胞のそれです。In
vivo継代のLD50は1.0ケ(0.23−4.2)ですが、56代・754日間培養したものは、3.0x10の3乗(4.1x10の2乗−2.2x10の4乗)、76代・1079日培養したものは、3.0x10の5乗(2.1x10の2乗−4.2x10の6乗)です。その移植率比は10-3乗から更に10-5乗となっています。又動物体内経過で55ケになりますが、もとの吉田肉腫とは有意の差が認められました。
(表と図を呈示)。
《ごあいさつ:伊藤英太郎》
先日の連絡会の際に申上げました如く、私、此度米国Roswell
Park Memorial InstituteのMoore博士のところへ参ることになり、10月27日に羽田を出発致します。あちらでは主として人癌の培養をやる事になると思います。
当班の開始以来、皆様と一緒に研究をさせて戴き、得る事の多かったことを感謝致して居ります。皆様の御努力でin
vitroでの発癌という仕事も、ようやく先が見え始め、私としましても、やっと仕事の方向が定った感のする時に暫くお別れしなくてはならないのは誠に残念に思われます。何しろ初めてのところに参りますことで、どんな事が出来るか分りませんが、精一杯の努力はして来る覚悟です。
又、皆様の御賛同を得て、私のあと、高井新一郎が班員となる事になりました。又、新しいエネルギーをもって、新しい観点から仕事をすすめて呉れるものと信じています。
何卒宜敷くお願い致します。
《ごあいさつ:高井新一郎》
御承知の通り、今月より私が新しく班に加えて頂くことになりました。よろしく御指導下さいます様お願いします。当分の間は、伊藤班員の敷いてくれたレールに乗って仕事をすすめて行くつもりです。
現在、手技の習得の意味で、伊藤と一緒に行ったbtk
mouse embryo(12日目)の培養細胞(control群及びAscinomycineS
0.001μg/ml群)を維持しております。形態については、先に伊藤より報告した通りであります。
考えて見れば、いつ復元すべきがという問題に関して、少くとも形態学的には、目印となる様な変化がありそうにも思えず、時期を追って復元をくり返す以外、方法はないと思われます。幸い継代はトリプシンで容易に出来る様ですし、10月2日にstartして、ほぼ4週目になりますので、明日第1回の復元を行う様手配したところです。さしあたりほぼ1ケ月の間隔で3ケ月まで復元してみるつもりです。
又、前回、御教示いただきました皮下組織のみの培養についてはembryoではとても無理ですので、生後間もない時期のmouseについて試みる予定です。