【勝田班月報・6402】
A)発癌実験:
(1)#C49(1963-11-21開始)
前回の班会議でこれについては若干報告しましたが、生后7日Rat肝で、DABとDAB-n-oxideを1μg/mlかけたもので(4日間)、第8日より増殖が何れの群にも起り、Controlもふえ出しましたが、その内DABをかけた群から2本宛えらんで、中性子を1100rad.、275rad.、89rad.の3種に照射しました。1100と275の両群は目下のところ迄、細胞は増えも減りもせずそのままですが、89rad.照射群に照射后約50日に至って、細胞シートの周辺にやや大型の(図を呈示)水滴状の形態をした細胞が現われてきた。これが今后どんどん増殖するかどうかは判らないが、何かしらの手応えはあったわけである。楽しみにしています。
(2)#C50(1963-12-10開始)
JAR-ratのF19・♀生后26日の肝をroller tube12本に培養し、4本は無添加のcontrol、4本はDAB、4本はDAB-n-oxide各1μg/mlに、現在まで約1.5ケ月間連続的に添加しています。この実験では、Control、Exp.両群とも何れも増殖が起りませんが、添加の両群は、explantsのまわりの游出細胞に、こわれた細胞が多く認められます。長期間連続投与は今后もつづける予定です。
B)復元実験:
1964-1-27:RLD-7がやっと大分ふえ貯りましたので復元を試みました。RLD-7はDAB
4日だけのExp.群ですが、DAB-Exp.群の内ではいちばん細胞のAtypismの激しい株です。但し、Control群はきれいな形態をしていますので、このAtypismはDABのためと考えてよいと思います。JAR・F20の生后22日rat2匹を使い、各約800万個宛入れました。復元部位歯、1匹は後肢大腿部筋肉内、他の1匹は背部皮下です。目下観察中。
C)その他:
正常ラッテ肝とAH-7974のparabiotic cultureを試みましたが、結果はAH-130のときと同様でした。L・P3が消費する僅少種類のアミノ酸だけをRenewalのときに与えてずっと増殖をさせています。L・P3の放射線照射后のアミノ酸代謝もしらべています。
《佐藤報告》
AH-130(勝田研究室でJARを用いて継代していたもの)をDonryu系を用いて岡山で継代して其れを接種材料とした。Donryu系のSuckling
ratsにintracerebralに10,000〜10ケまでのAH-130細胞をinoculationして腫瘍死するまでの日数を記録した(表を呈示)。
以上の実験から、次の事が云えると思う。
(1)腹水肝癌AH-130はDonryu系ラットの乳児脳内接種で100細胞があれば全例腫瘍死する。62例中1例を除いて20日以内に腫瘍死している。
(2)10個の細胞の場合(目下観察中のものがあるので確かではないが)腫瘍死しない物が出る。実験材料及び方法において腫瘍細胞が脳内に入っていない場合も想定される。
(3)これらの実験からいろいろの応用ができると考えられる。
《伊藤報告》
先ず、前回の実験の続きを報告します(表を呈示)。
此の結果、本実験の全過程を通じて、核数増加としたものは、対照群(3/43)、7日添加群(7/42)、継続添加群(1/42)と云う事になります。
其后12月に行った実験では細胞が全く管壁につかなかったり、又壁についた細胞も漸次減少してしまったりで、結果を得られるところまで行って居りません。ratがelder
ageにあった為かと考えて居ます。本年に入って生后22日目のratを用いた実験では、今のところ旨く行ってますので、此の結果は2月の連絡会の際に報告致します。
昨年内に行った実験で“対照に比してDAB 7日添加群で核数増加を来す場合が多い傾向"は認められましたが、此れがDABによる増殖誘導の効果の現れとみるには、まだ危険がある。今后これをはっきりさせる為には、(1)核数増加をより頻回に起させる。(2)核数増加を来した試験管内の細胞を集めて継代培養してより多くの細胞を得る。(3)現在培養されている細胞の組織標本を得る。
此等の努力が必要と思われ今迄も努めて来ていますが、うまくゆきませんでしたが、尚今后もやはり此等の点に努める積りです。次回の連絡会で又皆様方の御助言を得たいと考えて居ます。又前回の連絡会の際に話題になりました様に、DABを添加し続けて細胞がへばりかけた状態の中から、強い増殖能を持った細胞の出現を期待すると云う事もやってみています。
又今年からは、DAB以外に種々細胞成分、Actinomycinは是非やってみたいと考えて、具体案をねって居ます。
《杉 報告》
golden hamster kidneyのprimary culture−diethylstilbstrol:
hamsterの日齢は従来比較的老齢のを用いてきましたが、最近は生後20日以内のを用いています。前報の図では若いものよりむしろ老齢のもので対照群と実験群との差がはっきりと出ていますが、20日以内の若いものを今まであまり使っていないのと比較的長期の培養、発癌ということに対しては若い方が有利ではないかと考えて試みているわけです。確かに若い方が老齢のものより細胞の生え出しも早く増殖もいいので、培養したR.T.の数と細胞増殖の起ったR.T.の数の比をとってみると、対照群の成績がよいために実験群との差がはっきりと認められません。しかし例の上皮様細胞団をとり上げてみると僅かではあるが、実験群に余計に出てきます。しかもこの細胞の拡がり方は老齢のものに比べていい様です。次に薬剤の作用期間ですが、従来は濃度10μg、作用4日間というのを主としてやってきましたが、最近は濃度は一応10μgとして作用期間を6〜7日に延長したり、又繰返し間歇的に作用させる方法をとっています。この繰返し作用については例数が少いので断定は出来ませんが、作用直後よりも正常の培地で交換して(即ち作用を止めて)数日後に効果があらわれる様で、それが特に例の上皮様細胞について云える様です。但しその効果は顕著という程のものではありません。又primary
cultureに作用させる時、培養当初から作用させた方が予め培養したものに作用させるよりも効果が出ることから、一応第2代へ継代と同時に再び加えるということも試みましたが、これは却って悪い様です。したがって今までの印象では繰返し作用が強過ぎない様に濃度と作用期間をうまく調節すれば確かに効果があるのではないか、第2代に継代と同時に作用させるのは細胞にとっては継代という一種の環境の変化、外力が加わる時期に一致してまずいのではないかと考えています。次に培地組成中、牛血清を従来5%としていたのを最近数例は10%としていますが、今までのところ実験群、対照群ともfibroblastが主として出てきています。
又explantで培養した場合、両群の差を細胞数として表わせないのでtrypsin消化による法を考えていますがまだ薬剤未作用でdataになっていません。
《黒木報告》
Hamster cheek pouch移植法の基礎的研究:
.cheek puchの免疫獲得について(Exp.193、197)
異種移植の際、cheek pouchが非常に優れた部位であることの理由について、(1)血管の豊富なこと、(2)免疫学的特殊性が挙げられています。血管の豊富なことは事実ですが、それだけでは説明できません。免疫学的特殊性も証明はなく、推測にすぎません。cheek
pouchと云えども、同じ体液にさらされている訳ですから、humoral
immunityの立場からすれば、それ程特殊性があるようには思えません。
この実験はcheek pouchが後天的な免疫能を持つかどうかをみたものです。即ち、前処置として吉田肉腫細胞を腹腔内、皮下、cheek
pouch内に移植し、一旦増殖后治癒した動物に、再び吉田肉腫をcheek
pouch内に移植します。もし、前処置により免疫を獲得していれば、二回目の移植に対してはrejectする筈です。
前処置方法及び部位
(1)皮下及び腹腔内移植
月報6312に報告した皮下及び腹腔内に1,000万個移植した動物です。いづれも、3〜5日に腫瘍増殖をみています。
(2)cheek pouch前処置
月報6311の非処置ハムスター移植のものです。移植量は1,000万個〜10個総量 、 、 です( は全く腫瘍を作らないもの、 は米粒大の腫瘤形成、 はprogressive
growthの後
regressしたもの)
再移植
再移植は全てcheek pouchに行いました。細胞量は100万個、これは前回の実験で100%
tumor growthを示す量です。前処置から再移植までの期間は、皮下腹腔内移植の場合は、86日、cheek
pouch前処置の場合は62日及び88日です。なお再移植、前処置いずれのときも、Cortisoneは使用していません。(結果の表を呈示)
これらの成績からcheek pouchが前処置により免疫を獲得していることがわかります。すなわちcheek
pouchは免疫に関しては、少くとも後天免疫に関しては特殊な部位ではないように思えます。
なお最近、同様の成績がSV40及びSV40でtransformした細胞についても報告されています(Khera,K.S.et
al)。SV40を皮下にinj.し前処置したhamsterに3〜4w后、SV40でtransformした細胞を皮下、脳内、cheek
pouch等にchallengeします。challenge細胞が100〜10,000のときはrejectされる、と云うものです。例えばcheek
pouchの場合は、controlのTumor Producing Dosis(TPD)50が250であったのが70,000に上昇すると云うことです。
吉田肉腫細胞の継代について
昨年10月、吉田肉腫の継代細胞が雑菌感染のため切れてしまいました(74G.949日)。しかし、生き残りの復元動物を解剖したところ、そのうちの一匹の大網膜に拇指大の腫瘤を発見し、それから2代植継いだ後、腹壁の腫瘤をpancreatin消化により培養にもって来ました(培養経過を簡単に図で示す)。動物体内は結局3代103日経過したことになります。
その後、順調に継代され、現在77代です。培地は長い間用いてきた血液添加LE50BS50からEagle(1959)+1mM
of Pyruvate+20% of BSにかえました。理由は、この培地が優れていること(月報6308)、血液を採る手間がはぶけること等です。
現在までに次のことが分っています。(1)増殖態度:36〜50時間のGeneration
time、これは10,000、1,000、100、10のときでも同様です(図を呈示)。(2)形態:核の形態は培養細胞のそれです。(3)移植性:低下している模様。
以上の事柄から、この細胞は100日間動物体内を通ったに拘らず、以前の培養細胞の性質を維持しているものと思われます。
《山田報告》
1.ヒト二倍体繊維芽細胞株の細胞分枝系(クローン)の増殖態度
比較的若い継代数の培養(10代)から9個のクローン(コロニー)を分離しました。そのいづれも一個の細胞から5mm径以上のコロニーにまで増殖したもので、全細胞集団中比較的発育のよいものを取りました。しかし実験に使える程度に発育のよいものは1系(T5-F)だけで、あとはコロニーから次の継代で単層に増殖したものの4日毎に継代してゆくには増殖が遅すぎ、分裂細胞の頻度が極めて低く、plating
efficiencyは5%以下でした。
この成績から考えられることは、ある継代の培養でコロニー形成を行うまで増殖した細胞でも、新らたに培養すればまたふえるものとふえないものに分れてくること、すなわち細胞の増殖能は接種時の細胞−環境の関係によって支配されるらしいということであります。もしすべてのクローンが増殖能が高いという結果がでたとすれば、継代につれて、これらの細胞が次第にふえてくるはずで継代にしたがって増殖度が落ちるという事実と矛盾します。今増殖度の比較的高いT5-F系について実験を進めています。
2.二倍体繊維芽細胞株の個々の細胞のDNA含量
継代中出現する非増殖細胞については染色体数を測定し得ず、したがって分裂の際に不平等にDNA(染色体)が娘細胞にわかれ、そのために増殖能が失われたのかも知れないという考え方があります。この考え方によれば非増殖細胞は“異常細胞"で正常でないわけです。非増殖細胞のDNA全量が2n細胞と同じかどうかを調べる手始めとして、増殖、非増殖細胞の混合集団について、顕微測光法で50個の細胞のDAN量を測定してみました。測定の結果、2nに相当するものが断然多く、4nの2倍以上あります。勿論測定誤差がありますので、染色体数のように2nと(2n-1)を区別はできませんが、大部分の非増殖細胞はやはり2n程度のDNA量をもっていることが推定されました。なお、8nの細胞もでていることにも御留意ください(図を呈示)。