【勝田班月報・6511】
《勝田報告》
A)各種細胞のDAB消費能の比較:
前月号に[なぎさ→DAB]による変異細胞のDAB消費能について記したが、それに対する一種の対照の意味もあって、各種の株細胞について前号と同様の方法で4日間におけるDABの消費能をしらべてみた。結果は(表を呈示)、いちばん著明に消費するのは、無処置の肝細胞株RLC-5であった。逆にいちばん消費の少いのは肝癌AH-130からの株のJTC-1で、サル腎からの株JTC-12がそれについだ。その他は頂度それらの中間に位した。同じAH-130からの株でありながらJTC-2は中等度の組に入っていた。中等度の級の中の各株を眺めると、この消費能は肝であることか、DABで処理されたことがあるかないか等ということとは、関係がないかのように思われる。Proc.N.A.S.に出ていた[HeLaやKBも少いながらcollagenを作る]という報告と同じように、株化したために細胞の性質が変ってrepressionが減少したのかも知れない。
B)“なぎさ”培養よりDAB高濃度処理に移して生じた変異細胞の染色体数:
各種sublinesの内、今回は(N)、(O)、(Q)の3種について染色体をしらべた。算えられる細胞が少いので、とても図示はできないが、数だけ示す(表を呈示)。(Q)は2n=42本が多いが、この系は前号に記したようにDABの消費能の高い株である。その他のは消費能が低いが、染色体数には大きなばらつきが目立っている。
《佐藤報告》
最近の発癌実験における動物(Donryu系新生児)の生存日数其の他についてデータを送ります。検討して下さい(図を呈示)。
3'-Me-DAB添加細胞の3例は未だ生存しています。左側の細胞系は屠殺しましたが所見(-)現在の所外観上所見はありません。第3表は最初にRLD-10(Tw-10)が0.05%Tween20を添加(648日)し、培養総日数(502+648=1150日)で10万の細胞を脳内、腹腔内及び皮下に夫々3匹宛注射されたことを示しています。以下のC89、C91、C101、C147はRLD-10(発癌実験に使用した株)の復元です。C89の復元で肉眼的に異常なかった8例を接種后143日に屠殺した。この内の腹腔内接種の1匹の大網部に粟粒大腫瘤(本日の顕微鏡所見で癌細胞と認めた。)を認めた。腹水は認められない。−30日程放置しておけば腹水癌ができるかも知れない。−
3'-Me-DABによって発癌?した細胞系の復元によっておこる腫瘍死と其の発癌?に利用されたRLD-10細胞の復元によっておこる腫瘍死?例の間には圧倒的な差異があるが、正常細胞(?)から発癌したと云ひ難い。
次はDABとは全く無関係に樹立されたDonryu系ラッテの肝細胞株、RLN-8、RLN-10、RLN-21、RLN-36、RLN-39の復元成績です。RLN-8(培養日数1109日)の腹腔内310万接種の3匹を屠殺した所、2匹に夫々腹水5mlと20mlを認めた。動物継代は成績(現在21日経過)は未だ分らない。再培養細胞及び元のRLN-8の細胞形態から考察するとspontan
malignant transformationがおこったと考えられる。
《高井報告》
今月は学会つづきのため、実験の方は余り進展していません。
以前からactinomysin処理をつづけていたbE 、 、 は復元接種と雑菌感染のために殆どなくなったので、癌学会終了後に新たにmouse
embryoの皮下fibroblastsを培養して再出発したところです。
今回はmouse embryo fibroblastsと、actinomysin肉腫(solid)のprimary
cultureについて調べはじめているactinomycin感受性について報告します。
1)bE (btk mouse embryo皮下fibroblasts)のactinomycin感受性。
in vitroでのactinomycin処理によって細胞がactinomycinに対する抵抗性を獲得する過程を経時的に追うことを試みました。種々の濃度についてしらべて、dose-response
curveを画くのが本当でしょうが、それでは必要な細胞数が多くなり、本来の発癌実験に差支えますので、actinomycinSの濃度は0.01μg/mlの一種類に限り、対照群とAc群を夫々Acを含まない培地と、Ac
0.01μg/ml入りの培地で培養してみました。(表を呈示)
結果はグラフの通りで、17日間のactinomycin処理では、まだ対照群と比べて余り差はない様です。分注後、翌日の実験開始時までに見られる細胞数の減少はAc群の方が大きく、これはactinomycinによる傷害を受けた細胞が混在しているためと思われます。培養日数が長くなるにつれ、Ac群も対照群も共に増殖が悪くなり、こういう実験に必要な数の細胞を得ることが困難になるので、これより後の時期には、今日は調べることが出来ませんでした。
2)ASS (in vivoで作ったactinomycin-induced
sarcomaのprimary culture)の、actino-mycin感受性(図を呈示)。
primary culture時、直接、短試験管に分注して、上と同様な実験を種々の濃度のActino-mycinSを用いて行ったのが第3図です。primary
cultureのため、接種した細胞の全てが、ガラス壁に接着増殖するのでないためか、妙な形のgrowth
curveですが、actinomycinの反復注射によって出来たtumorではあっても、少くとも著明なactinomycin抵抗性はもっていないことがわかります。
《高木報告》
前の月報以来、日が浅いので、その間特に報告する様なdataは出ていないが、先月までの実験のあとをふり返って今后の予定につき少しのべたいと思う。これまでの実験で長く組織を維持できなかった原因として、動物のage、培地の不適当さ、組織がtoo
wetになる傾向があったこと、及び皮膚片を消毒する際の薬液の影響などが考えられる。組織片の培養中における保持及び皮膚を消毒する際の薬液の影響は、注意すれば除きうるが、培地については天然培地より合成培地に至るまで考慮してみる予定である。また、これまでの実験結果では、幼若マウスの皮膚を2〜3週間維持することが精一杯でこれではとても発癌実験が可能であるとは思われない。そこで兎も角皮膚組織を長く維持する意味で今度はfoetalmouse
skinをwatch glass methodで培養することを考えている。
すでに述べた如くBangらはFellのwatch glass
methodで2.5cmのwatch glassに1:1C.E.E.3滴、chichen
plasma10滴よりなるplasma clotを作り、6cmのPetri
dishに入れて、37℃で空気中において、人胎児の皮膚を6ケ月近くも培養しており、若しこれだけ長くin
vitroで組織を維持することが出来ればcarcinogenによる発癌もおこりうるのではないかと思う。この様に長く皮膚が維持された原因として、天然培地を用いたこと、少量の培地を用いて代謝産物があまり稀釋されない様な環境で培養したことなどがあげられると思う。具体的には3cm径のwatch
glassを5cm径のPetri dishに入れて、3滴のC.E.E.(1:1)と10滴のchicken
plasmaよりなる培地で培養したいと思っている。4NQOはplasmaにとかしてfinalが10-6乗〜10-4乗Molになる様にするつもりである。
今后は、これ迄通りの液体培地を用いた幼若動物の皮膚及び肺の培養と、watch
glass methodを用いた胎児組織の培養の二本立てで仕事をすすめていきたいと思っている。
《黒木報告》
10月は、東京、博多とかけまわったため、月報にのせるべきデータの集積はありません。現在考えていることを少し記してみたいと思います。
今度の癌学会のシンポジウムで山田さんが述べましたように、populationの中には、分裂しないで静止核の状態で止まっている細胞があると思はれます。この細胞はDNA合成の立場からみると、おそらくG1期にあるものと思はれます。(S期、G2の長さは細胞の種類を問わず大体一定ですので、S期の初めに分裂へのtriggerがあると考えてよいと思います) そしてこのG1期の細胞が分化への機能をもっていると考えるべきでしょう。
そこで、G1期のnon-proliferatingの細胞を観察する方法が問題となります。今回山田さんの発表された式、No=(2(1-P))n・[P:nonprolif.cellの頻度、n:分裂頻度]、ではno.nを入れてPを算出する訳ですが、動物体内の現象には全く適用できません。(in
vitroでも実際の運用には問題が残ります)。
今考えているのは、AutroradiographyとMicrospectrophotometryを併用し、S、G1、G2の細胞構成を計算し、更にGeneration
time時間構成からの細胞構成と比較し、その差からG1期の細胞を確認しようということです。この方法により、Slow-growing
tumor(例えばLY-group・吉田肉腫のLong-Survival
variants)はnon-proliferatingの細胞が多く、それが分化に向う(?)と云うような成績が得られればと思っています。
Hamsterは現在交配中です。妊娠次第、alb(+)medで継代培養→4NQO、4HAQO添加に入るつもりです。純系のハムスターのにないのが泣きどころです。
《奥村報告》
A.ウサギ子宮内膜細胞に関する実験
ウサギ子宮内膜細胞の培養条件に関しては以前にも報告したように、CO2ガス・フラン器を用い、培地は合成培地・NO.199に仔牛血清を20〜30%加えたものでよく、更にホルモン(Progesterone、Estradiol)を適当量加えると、無添加の場合より比較的長期間培養することが出来る。しかしホルモン添加培地でも、現在までの結果からみると(表を呈示)、5ケ月くらいがせい一杯で、次第に細胞が変性し、培養不能となる。培養中の細胞増殖は非常に悪く、H3-TdRの取り込みからみても増殖しない細胞が多い。そこで、培地中のホルモン添加量を増減したり、時には全く除いたりしたり、さまざま試みたが、今のところ細胞増殖に適当な条件を見い出していない。現在、ホルモンの他に2、3のビタミン、アミノ酸についても併行的に検討中である。
B.ヒト子宮内膜細胞に関する実験
ウサギの場合と並行してヒトの内膜細胞の培養を行い、その条件を検討中である。ヒトの場合には採取材料が限定されて、こちらの望むような材料が入手困難であるが、今までのところ13例中7例が2〜3週間培養可能、ただし、この場合ウサギのように細胞形態の均一性に欠け、又培地中のホルモン濃度も材料によって極めて変動しやすいので今后の実験に用いる場合にどの程度まで予備実験を生かし得るか、はなはだ疑問である。但し、ウサギのときに比べると材料によってかなり培養が順調でH3-TdRのとり込み実験においてもウサギの場合にみられなかったほど、多くのDNA合成中の細胞をみることが出来る。しかし、長期間の培養が困難であるという点では共通している。又、ヒト材料の場合には最初にplatingをしてから細胞種の選択をすることが重要で、その点から見てもウサギほど容易ではない。
《堀 報告》
速達をわざわざ頂きまして恐縮に存じます。実は今月は教授、助教授、助手が学会で全く出払ってしまって未だに帰って来ません。
その穴埋めと、今月より始った二年生の学生実習を加えて、学生実習が週の中4日と全く自分の事をする暇がなく、おかげで何も出来ずに終りそうです。従って月報にかくことがありませんので、申訳けありませんが、御容赦ください。来週は皆帰って来ますし、来月は少しは暇も出来るので、G6Paseなどの染色の際、遠隔地で固定して当方で染色出来る様な方法を考えて近日中に先生のsambpleを染める事をさせて頂きたいと存じます。その様な方向こそ共同研究のあり方だと思いますので。御健闘を祈ります。(せっかく時をみて肝癌を3例cultureしたら、islandによくのびたので気を良くした処、停電でCO2-incubatorがとまりcontamiというはかないことになりました)。
《土井田幸郎:挨拶》
御挨拶にかえて
癌に父を奪はれるまでもなく生物学や医学を志すものにとって癌を征圧し、癌の発生因を知らうとすることはある意味ですべての人が考えることであります。細胞の増殖や分化の問題に非常な興味をもっている私にとっても癌というものは極めてattractiveなものでありました。ただこれだけ過去から現在まで多くの人が取り組んで猶不明の点の多いものに、いきなり私の如き門外漢がとび込んで何が出来るかという点が私をして放射線と癌にはふれないでおこうと考えた大きな理由でした。
しかし、結局何等成果はあがらなかったものの、勝田先生をリーダーとする“組織培養による発癌機構の研究”班の班員に入れて戴いたことは、誠に有難いことでした。自分の考えていることと、他の人々の考えていることに開きがあって、何とか判ってもらおうと議論しあったことも楽しかったけれども、班員の皆さんがそれぞれ一生懸命におやりになっているのを見るのは楽しいことでした。兎も角発癌ということが成功したのを聞きえたのは実に気持のよいことでした。
私は11月1日羽田を出発しRochester大学に留学し、二年間放射線生物学の勉強を致すことになりました。主として培養細胞を用いcell
deathの問題ととり組むことになりそうです。染色体の仕事もするかも知れませんが、多少異なったやりかたをしてみたいと思っております。班を途中から抜けて皆様に御迷惑をおかけ致し恐縮致しております。その分、むこうに行って頑張ろうと期しております。
班員の皆様の御健康をお祈りし、班の一層の発展を期待して御挨拶にかえます。