【勝田班月報・6505】
《勝田報告》
A)“なぎさ"変異細胞の復元接種試験
なぎさ培養でできた変異細胞、RLH-1、-2、-3、-4の内RLH-4についてはまだ復元も余り試みてないので、いろいろの方法で試みることをはじめた。その皮切りのところを報告する。 1965-3-18:RLH-1
800万個無処置のハムスターのポーチへ接種。-20(第2日):径約3mmのtumorが形成された。-22(第4日):約5mmになったので摘出して一部は固定、切片標本作製へ他は培養に移した。培養はTD-40瓶1本を用い、[仔牛血清20%+0.4%Lh+D]の培地で約10万個/mlを10ml入れ培養開始。しかし殆んどの細胞は硝子面に附着せず、培地交新の度に細胞数が減少して行った。約2〜3週后には生きている細胞はほとんど残っていないように見えた。約4週后、瓶内に小さなコロニー数コを発見。
4-2(培養第31日):コロニーを1コ宛、先曲りピペットで各1本宛の回転培養管に移し、3本を得た。残りはまとめて他の1本に移した。しかし純粋にコロニー1コだけ宛とれたか否かは不明。この継代直前のコロニーの形態は、ほとんどのコロニーはRLH-4に似た立体的に盛上ってくるコロニーで、細胞も円形細胞が多かったが、1コだけRLH-3に似たコロニーがあり、細胞は大型で平面的に拡がり、細胞間に隙間がなく、またFibroblasticでない形態を示していた(模式図を呈示)。これらのコロニーの細胞が夫々増殖したら、またハムスターポーチやラッテへ復元してみる予定である。
B)高濃度DAB添加実験
RLC-1、-3、-4、-5の4種細胞を用い、DAB 10μg/mlに添加したり抜いたりする実験をおこなっているが、1965-4-25現在では培養第166日になっている。
RLC-1:DAB(+)80日→(-)21日→(+)31日→(-)34日。胸腺の細網細胞に似たような、密集した顆粒を細胞質に持つ細胞が沢山見られ、大小不同、異型性もかなりある(なぎさに似)。増殖は緩慢。
RLC-3:DAB(+)23日→(-)4日→(+)22日→(-)10日→(+)21日*→(-)84日→(+)2日。*3回目のDAB添加后、細胞が殆んど死滅したかのように見えたが、その后次第に細長いFibroblasticの細胞が増殖してきた。
RLC-4:DAB(+)23日→(-)4日→(+)11日→(-)7日→(+)4日→(-)10日→(+)21日→(-)86日。細胞の形は、大小不同、異型性があり、増殖は非常に緩慢。
RLC-5:CAB(+)80日→(-)21日→(+)31日→(-)32日*(+)2日。*RLD系よりもさらに小型の実質細胞株細胞が増殖して一面につながった細胞シートを形成した。
DAB処理后に出てきた細胞は、上記のようにRLC-1とRLC-4とは似ているが、他のRLC-3及びRLC-5からのは、これともお互にも違っている。
C)ラッテ胸腺株細胞内にγ-globulinが存在するか否か、細胞をすりつぶしCelluloseAcetateで電気泳動にかけたが、細胞数が足りないらしく、うまくγのbandが出ないので超遠心で19Sのピークを出すことを考え、目下準備中である。まだSalmonella
typhiであらかじめchallengeしたラッテの胸腺をとって培養している。
《佐藤報告》
(表を呈示)DAB投与ラットの経時的な培養と復元について表にまとめました。DABでこしらえた肝癌は◇C82の場合には、少なくともLD+20%牛血清培地で増殖しています。Micro像は次の班会議の節、正常肝、増殖結節肝、腺腫と共に御覧に入れる積りです。肝細胞が索状に連なって増殖して行く傾向のある事が分ります。細胞数の関係で未だ復元していませんが、近く復元して見る積りです。動物継代はoriginalの肝癌からDonryu
newbornの脳内及び皮下接種をおこないました。脳内接種は13、21、31日で死亡し、31日例から又newbornへ継代しました。この場合16〜21日で前例死亡しています。細胞数との関係における毒力は、現在の所継代株をのこすのに精一杯で、行っていませんが、皮下接種に比較するとはるかに敏感の様です。又皮下では一度でまたTumorが消失する場合が認められました。又newbornとyoung
ratでは矢張り前者がよい様です。
◇発癌実験:直接RLD10株にDABを投与する方法は目下の所続行中ですがTumorをつくったものはありません。
前号に報告したC74株即ちDAB投与の後つくった株でラッテに対してTumorをつくらないが、形態学的にはラッテにTumorをつくるC82株に類似している細胞が増えはじめましたので、此にDABを投与して癌性を付与して見ようと考えています。
細胞株の凍結が順調に行き始めましたから必要なもののみのこして発癌のしめくくりに全力をつくします。
《黒木報告》
4NQO及び4HAQOの溶解法及び保存法(Exp.#287、291、292)
4NQO及び4HAQOを使用する「発癌実験」の第一歩を漸く踏み出しました。よろしくお願い致します。4-NQO:(4-Nitroquinoline
1 oxide)癌研・高山昭三氏より分与されたもの。
4-HAQO:(4-hydroquinoline-1-oxide)予研・山田正篤氏より分与されたもの(山田三のところへは九大遠藤英也氏より来た)。いずれも、EtOHに10-2乗Mでdisolveした後、dist.waterで10-3乗Mに稀釋し、凍結保存する(滅菌はMF-HA-で濾過滅菌)。EtOHで溶けにくいときは少し加温するとよい。
九大癌研の久米文弘氏によれば、4HAQOは37℃で極めて不安定と云う(PBS
pH7.5のとき)。 そこで4NQO及び4HAQOを5x10-5乗Mにし、日立自記光電比色計にて195-700mMの範囲にわたって記録した。測定時間、0、1、3、6、24、72hrsの6段階で、保存条件は37℃。
結果は(1)10-3乗MのStock Soln.を水で5x10-5乗Mにしたものでは、4NQO=pH5.7、4HAQO=pH4.7。(2)10-3乗MのStock
Soln.をPBS(-)で5x10-5乗Mでは、4NQO、4HAQO共にpH=7.4。
1.4NQO
4NQOはpH5.7、7.4のいずれにおいても非常に安定である。208、251、367mMの三つにpeakがある(表と図を呈示)。
2.4HAQO pH4.7
4NQOと異り不安定である。しかし、pH=4.7においては比較的安定。peakは、219、256、353mMにある(表と図をを呈示)。24時間経つと可成り変化する。72hrs.后にはやや混濁、遠心后比色した。
3.4HAQO pH7.4
pH=7.4にすると極めて不安定になり、1時間のincubationでO.D.が354mMで17〜18%低下します。peakの位置もずれて来ます(図と表を呈示)。
以上で明らかなことは、4NQOは安定であるが4HAQOは極めて不安定であり、pHが7.0近くのとき著しい。保存は酸性状態にしておく。使用に際しての稀釋液も酸性のものが望ましく、incubateする直前まで中性にしない。
L-細胞のコロニー形成法について
目下CO2-incubatorによりL-細胞のplating法の練習をしていますが、うまく行きません(Exp.#286、289)。Med.:Eagle
MEM(biotin)、SER・0.2mM、PYR・1.0mM、Bovine Serum
10%、CO2 5%(CO2 1.0l/h air 19.0 l/h)。Digestion:0.005%Pronase
in PBS(-)3min at 37℃。Inoc.Size:100cells/dish
or bottle、single cell rate >95%。incubation:12〜14days。
Exp.#286:NaHCO3はいずれも0.7g/l。ビン・99、92、92、86、76、74、70、68、61、28colonys。dish・64、60、54、49、48、47、41、38、35、32colonys。(いずれも培地量5ml)。colonyの大きさはビン>dish。
Exp.#289:NaHCO3のconc.をかえてみた。NaHCO3
0.7g/lではdish 64、86。bottle 86、91、94。1.05g/lではdish
64、67。bottle 81、85、91。1.4g/lではdish 79、95。bottle
65、66、
73。いずれの場合も、dishよりbottleの方がい結果を得ています。目下、CO2-NaHCO3の関係をpH
meterで調べているところです。
《土井田報告》
細胞増殖に関する研究の予備的実験
細胞分裂については形態的な面からはいろいろなことが判ってきているが、細胞分裂の調節機構や生化学的変化については、猶不明の点が多い。この問題は細胞増殖の問題と関連しているので、当然腫瘍細胞の増殖の機構とも関係し、大切な研究題目の一つである。最近、この面から予備的な研究をしている。
(1)Autoradiography
Autoradiographyのtechniqueの習得を兼ね、カバーグラス上に増殖させたL細胞のH3-
thymidineの取り込みをみた(図を呈示)。
図は正常細胞におけるlabelled cellの割合を調べたものである。培養方法は1昼夜37℃静置状態でL細胞をカバーグラス上に培養後、0.8μc/mlのH3-thymidineで処理、その後普通のYLH液でよく洗浄(今回はcold
thymidine mediumを使用しなかった)後、thymidineを含まないYLH液で培養した。各時間培養後、カバーグラス毎cellを固定し、サクラオートグラフ用乳剤に浸し15日間exposed。結果は、18hrs後を除いて常に一定の値のlabelledpercentを得た。1hrs後のものを除いてback
groundは殆んどなく好結果を得た。平行的にγ線照射群でも調べたが、結果は正常の場合とかなり異なった。このことは多くの問題を含んでいるようであるので、更に研究を進めた上で報告したいと思っている。
(2)細胞成分の分劃
Autographyのtechniqueの習得と平行して、細胞成分の分劃も試みている。同様L細胞を用いて核蛋白分劃を取った。この分劃は260muでpeakをもっていたが、まだ定量するところ迄はいっていない(但しこの吸収は核酸と核蛋白質とがまだ結合した状態のものである)。
RLH-3の染色体
RLH-3の染色体については既に月報6301、6302号においてふれ、この細胞が染色体の数と形の上で、RLH-1とはかなり相異することを指摘した。その後RLH-3がLとコンタミしたのではないかという問合せが勝田先生のところに来たそうで、それについて勝田先生より私の方に電話で質問されたので解答しておきたい。
勿もこの様は疑義が何を根拠にして起ったのか私には判らないが、推察するに、単に染色体形態が似ているという極めて単純な考えから出たにすぎないと思う。
幸いにも、この観察に用いた標本は培養から標本作製まで、すべて勝田先生のところでなされたものであるから、私に責任がないといえばそれまでだが、一応権威のために釈明しておくのもあながち無駄でないだらう。第1に以前は兎も角、今日においてはcell
contami-nationは決して起らないであらう。いい加減な研究室は知らない。私共の教室(や勝田先生のところでも恐らく)では起りようがない。第2に(私自身或る意味で細胞遺伝屋なので言いたくないのだが)染色体のもつ形態的な意義である。確かに染色体の形態には種、腫瘍などでそれぞれ特異性はある。しかし、多くの株細胞や腫瘍細胞では、そのもとの種の核型と似ても似つかぬほど変異したものもあるし、逆に私の経験からも動物、植物の間でさえ、似たものがある。現在の段階で染色体は眼でみることの出来る細胞の特徴を示す唯一のものとしての意義−だが連続的に細胞をみているときには好都合だが−以上に他の点も考慮せず染色体の意義を強調することは、あまりに無謀といわざるを得ないでろう。
私はここで言いたいのは勝田研でRLH-3に関する限りコンタミなど起っていないだらうといいたいだけで、染色体の意義云々を強調したいのでも、それを論議しようとも思っていないのである。
RLH-3と奥村班員と私の報告したLの核型の比較であるが、後2者の結果はどちらの観察結果も正しいと信ずる根拠が、実験結果についても又文献的考察からもあるので触れない。 染色体の形態だけで私も物が云えるという立場をとるなら、私に言えることは正常のLに比べてRLHではJ型が2本少ないという点である。
しかし上のことは敢ていうたわけで周知のごとく、培養株細胞の染色体はモードの染色体数を中心に数に変異があるし、モードのものの間にも多少の変異があるわけで、この点だけからは結局何も言えず、もし強いて言うなら、RLH-3を勝田先生のところよりもち帰り、免疫学的その他もろもろの手段を通して同定してもらうより他はない。
《堀 報告》
酸性フォスファターゼの分布
β-glycerophosphateを基質とし、Gomori法によってAPaseを組織化学的に検出した場合、電顕的にはdense
body、生化学的にはlysosomeとして知られているorganelleが染色されることは既に知られている。このlysosomeの代謝上の意義については色々議論されているが、その細胞内分布や種々の異った生理的条件にある細胞の観察から細胞の分泌、消化活動に参与していると考えられる。
アゾ色素によるin vivoの発癌に関する我々の未発表dataによると、APaseは正常及び再生肝細胞においては、規則正しいperibiliaryの配列を示す多くの小顆粒として見られるが、異形性増生細胞や肝癌細胞においては全く不規則な分布を示すと共に、反応自体も明らかに弱くなる。また、最近in
vitro実験のcontrolとすべく、次の5種の腹水癌;MTK- 、Yoshida、Takeda、H-96(小生が最近作ったもの)、GTD;と2種の培養株;H-99(小生が最近作ったもので、ラット復元は2度失敗)、HeLa、も染色してみた。
その結果の概略を述べると、APase顆粒は全ての細胞に含まれているが、その細胞内分布は一様ではなく、H-99を除く他の細胞では主としてnuclear
hofに散在する一方、H-99では全く不規則に細胞内に散乱している。また、HeLa以外の細胞では分裂中の細胞に(図を呈示)図の如き分布を示して存在するが、HeLaではAPase活性がない。さて、正常肝細胞を培養した場合にどうなるかというと、培養初期しか見ていないが(2週間以内)、APase顆粒の分布は全く不規則で、散乱型であり、更に分裂細胞では殆ど検出出来ない。毛細胆管えの胆汁分泌という機能がAPase顆粒のperibiliary分布を結果しているとすると、正常肝細胞をin
vitroに移した場合にも、胆汁を分泌しない肝癌細胞と同様、APase顆粒の分布が散乱性になることは不思議な事ではないと考えられる。TPPase活性は主としてGolgiに検出されるのでAPaseとTPPaseを比較することは興味あることと考えられたが、残念乍ら目下の処原因不明の障害により、TPPaseを培養細胞で染色することは出来ていない。
《高井報告》
最近1ケ月余りはどういうわけか、何をやってもうまく行かず、いささか、くさっております。以下、失敗のあらましを報告します。
1)btk mouse embryo cells、ActinomycinS処理群のその後。
前報で、処理群に生じたコロニーもcontrol群とよく似ていると書きましたが、よく見ると、やはり違いがある様です。即ちControl群の方の細胞は、非常にうすく広がって見えるのに対し、処理群の方はかなり細胞が暗く見え割合に境界が鮮明なものがかなり混じている様です。又、ごく短期間だけ(約2日間)、シネをとって見ましたが、処理群の方が細胞の動きも活発でmitosisも見られました。(倒立顕微鏡を他の実験にずっと使っておりますので、長期間のシネをやれませんでした。)
そこでこれはやはり有望なのではないかと思い、何とかこのコロニーの細胞をふやしてみようと大切に扱っていましたところ、cellが少しふえてコロニーがちょっと、はがれかける傾向が見られましたので、◇4月14日:1コのコロニーをラバークリーナーではがし、pipetting→TD151本。4月20日:他のコロニーをラバークリーナーではがしてトリプシン処理→短試1本と、継代しましたが、これが失敗で殆ど細胞がガラスにつきませんでした。
現在もとのTD40に残ったわづかの細胞を、大事にふやそうと試みております。この残った細胞の中には、小紡錘形、円形の暗くみえる境界のはっきりした細胞がかなりあり、有望と考えていますが、とにかく、もっとふえてくれないことには何も出来ず弱っています。
2)その他。
上記の如く少しは有望と思えるcellが出来て来たので、もう一度Embryo細胞を培養して同じ結果が得られるかどうかを試みる為、先日、3月8日から継代している細胞に、Actinomycinを加えたのですが、これがcontaminationで全滅し、又、ここ2回ばかりは、ニンシンしている筈のネズミが、開腹してみると全然ニンシンではなかったり、という様な具合で、一昨日やっと次のシリーズを培養しはじめたところです。
《高木報告》
本月報で前回の実験のより詳しいdataを報告したいと思っていたが、まことに残念ながら培養がSkin、Submandibular
gland共に9日目までで駄目になり、12日目には殆どnecrosisになってしまった。
その原因はいろいろあると思うが、最大のものは混合ガスのcontrolがうまく行かなかった事にあるのではないかと思う。私の現在使っているガスボンベは6000l入りで、これに直接に普通のflowmeterがついている。これがきわめて“粗"で、私の仕事の場合、希望するbubblingを得るためには目盛の0以下の処でcontrolしなければならない。従って適当量流そうとするといつの間にか止ってしまうし、止めまいとすると強すぎてこの調子で流すと1週間もガスがもてそうにない。と云う訳で止ったり、また止ったりがつづいた事が悪かったと思う。大阪酸素に話して5日前にやっと微量ガス調整器を2万円なりで入手出来ました。これだと可成りよい様ですが、それでも目盛0の処でcontrolしなければなりません。第2にlenspaperの代りに用いた合成繊維の障子紙がtoxicであったと思う。tea
bag paperとよく似ているので用いてみたが失敗であった。pancreasをこの紙の上で培養すると3日目には殆ど半分はnecrosisになってしまった。第3に日本の洗剤は意外と落ちにくい事が分った。ついあちらの洗剤と同じ様な気がしてそのつもりで洗っていたが、培養をして日が経つとteflon
ringの辺り丈がalkalicになったりする事に気付いた。これはringの洗い(soapのおとし方)がやや足りなかった為かと思う。
大体以上の3つが主な原因と考えられる。私が仕事をする上に更にもう1つの問題点は、young
animalの入手困難なことである。勿論時期的なこともあるかも知れないが、先の実験以后この1ケ月全く手に入らない。業者からは全く期待出来ず、医学部の純系動物も3ケ月前からの申込みがつかえており、また日本ラッテから購入したWistar
rat 4対も全く仔を生んでくれず(優遇しているつもりですが)、手の下し様がない。やっと熊本県に割によく動物を持った店をさがし出したので目下交渉中であるが、大抵の実験動物のあらゆる年齢のものは注文して2〜3時間で入手出来たあちらとは全く雲泥のちがいで、ここいらに日本のscienceのおくれる禍根もある様である。目下動物待ちと云った処で、次回は何とかdataをのせたいものです。