【勝田班月報・6601】
《勝田報告》
 A)“なぎさ"培養よりDAB高濃度処理に移して生じた変異細胞株の染色体数モード:
 (表を呈示)すでに報告したように、TLC-5はすでに2nより減ってしまったが、これから得られた変異株は2n前后が多い。結果の表をみると有望そうに見えるが、何れも母株の方が不安定で今にも変わってしまうのではないかと思われるので、これら変異株は凍結保存してしまうことにした。
 B)ラッテ肝細胞株RLC-9に対するDAB-amin-N-oxideの影響:
 前回の班会議のとき報告したように、DABの溶解補助剤として使っているTween20は、それ単独でもかなり細胞毒性を有し、これで発癌させたのではあとの解析が厄介になるので、水溶性の形のDABを探したところ、寺山氏の主張するDABの中間代謝物であるN-oxideがそれに相当することが判ったので、今后のアゾ色素による実験は全部これに切換えることにした。1mg/mlでもよく溶け、高圧滅菌できる。増殖に対する影響は図の通りで濃度に比例して抑制する(図を呈示)。

《佐藤報告》
 昨年はいろいろの実験をしましたが、どうもはっきりしませんでした。研究の中心をどこに置くかが漸くわかりかけた処です。今年はじっくり落着いて仕事にかかります。
 本年の計画としては次のように考えています。
 (1)昨年度の実験を整理する。2月号月報には無理と思いますが、3月号月報から少しづつ纏めて報告。
 (2)昨年度迄の細胞はできる限り凍結保存して手間を省く。研究室の人事異動が有りさうなので対策をかねて考えています。凍結は現在7割強完了しました。
 (3)復元動物は長期観察が必要なので動物ケージ及び動物小屋を整理しました。
 (4)ラッテ肝からのPrimary Cultureを始めていますが未だ材料として使用できません。 (5)CO2-Incuvatorが漸く使用できる段階になりました。JTC-11 srain cellを使用して予備実験を行いました。(現在迄の処この細胞は、極めてPlating efficiencyが高いので、Pure cloneが容易いと考えています)。
CO2-Incuvatorの使用はラッテ肝細胞のPrimary Culture及びStrainからPure cloneを作って実験する為です。今月はデータを書くことがとぼしく申訳ありません。 

《高井報告》
 1)復元実験:昨年後半に下記の如き復元実験を行いましたが、現在(1966年1月9日)までの所、何れも陰性です。
細胞 接種日 接種細胞数
処理群
bE Ac.1代  11月25日(通算36日目、Ac.0.01μg/ml.31日作用)  200万個/mouse1匹
C57I.Ac.1代  12月6日 (通算61日目、Ac.0.01μg/ml.58日作用) 50/万個mouse1匹
bE Ac.間歇3代 12月10日(通算49日目Ac.0.1μg/ml.週2回30分間) 90万個/mouse1匹
対照群
bE K.2代 12月4日 (通算45日目) 150万個/mouse2匹
bE K.3代 12月10日(通算51日目) 90万個/mouse2匹
C57IK.3代 12月4日 (通算59日目) 150万個/mouse2匹
bE K.2代 12月10日(通算49日目) 100万個/mouse2匹
 上記の内、12月4日に復元せるbE K(対照群)は、復元接種後5日目に2匹共5x4mm位の腫瘤をふれましたが、その後漸次縮小し、接種後13日目には、全く触れなくなってしまいました。尚、復元実験に使用したmouseは、何れもbtk adultで、接種部位はS.C.です。
 2)ASS 細胞(in vivoで作ったactinomycin肉腫をトリプシン消化せるもの)の少数個移植実験:
 Actinomycinの作用によって細胞の悪性化が仮におこったとしても、初期には多数のnon-malignant cellsと混在した状態だと考えられます。従って、復元実験に100万個のorderの細胞を使ったとしても、その中に含まれる悪性細胞は、10個位ということもあり得ると思います。その場合に、果して動物にTumorが出来るかどうか? 又、どの位の期間でTumorとして認められる位に増殖して来るか? という様な問題について手掛りを得ようと考え、次の実験を行いました。即ち確実に悪性であって、しかも私の実験の場合に、最も近いと考えられるものとして、in vivoでActinomycinによって作られた固形肉腫をえらび、これをTrypsin処理でバラバラにした細胞を培養することなく、直接にbtk mouse(adult male)に接種しました(1965年11月18日)。接種細胞数は1,000コ/mouse、100コ/mouse及び10コ/mouseとし、各群5匹つづに、皮下接種しました。
 細胞浮游液は、0.2ml中に所要の細胞数が含まれる様に倍数稀釋で調整しましたので、厳密に10コとか、100コであったかどうかは疑問ですが、orderとしては合っているものと思われます。
 結果は1,000個を接種したものは22〜26日で、100個を接種したものは34〜40日で、夫々Tumorを生じ、以後かなり急速に増大しつつあります。10個を接種したものは47日目までは全例陰性でしたが、52日目に1例にTumorを発見しました。(尚1,000コ及び100コ移植群も、夫々2匹つづは、まだTumorが出来ていません)。
 まだ1回の実験で、はっきりしたことはいえませんが、私の実験systemの場合、in vitroでActinomycin処理を行った細胞の復元のrouteとして、adult btk mouseの皮下接種も充分使用可能と思われます。又この場合、前回の班会議でも指摘された様に、充分長期の観察期間が必要であることが、再認識されたわけであります。
 3)今年度の方針:これまでやって来たtissue culture→Acatinomycin処理→復元という実験だけでなく、出来るだけin vivoでのActinomycin肉腫の誘発実験に近い様な受験をin vitroで模倣するということを考えています。具体的な方法については目下考慮中です。
《黒木報告》
 昨年1年の仕事を振りけってみますと、思ったほどの成果は上っていないようです。むしろ、今后の何年間かの仕事への基礎作りを行ったものと思っています(寒天によるcloing、移植性、生存日数の推計学的処理、4NQ・4HAQOの基礎、ラット・ハムスター胎児の培養等々)。
 今年はこれらの基礎の上に立って飛躍してみたいと思っています。具体的には次の仕事が予定されています。
 (1)In Vitro Transformation
 最近のNCI.J.にBerwald YとSachs Lの二人の名で、In vitro transformation of Normalcells to tumor cells by carcinogenic hydrocarbonなる論文があります。
これはhamster embryo(whole)にBenzpyren(BP)、3'-Methyl-cholanthren(MCA)等を作用させ、72日后にadult hamster subcutanにtumorを作らせ得たという成績で、きれいな仕事のようです(controlはtumorを作らない)。mouseでは52日で発癌しています。
 ただ少し気になるのは、colonyの形、その他の経過(transformationの)がpolyoma virusによるそれと酷似していることです(Sachsはpolyomaの仕事も可成り行っている)。又、余りdataがきれいすぎることです。
 いずれにせよ、今は誰かが追試する必要があるでしょう。
4NQO・4HAQOの仕事はすこしづつ進んでいます。細胞は前回の班会議で御紹介した、ハムスターsucklingの腎由来(Jin-11)です。これをcontrol、4NQO、4HAQOの三つの群に分け、継代しています。4NQOは10-5.25乗Mでcell degeneratが起り、最近recoveryして来たところです。4HAQOは10-5乗Mでも大きな変化がなく、継代されてきています。
 形態学的変化は現在の処いずれのGroupにも見られていません。又、継代の時に凍結保存しています(Liquid air)ので、再現性のその他でも有利に運べると思います。
今后、Exp.の数を増し、又cloningを行う積りです。(Sachsはrat-embryo cultureのfeederの上にcloningしている)
(2)肺上皮細胞の培養
これは今度新たにみつかった培養法です。上述のJin-11と同時に、ハムスターの肺からHai-11と云う細胞を培養していましたが、このとき丸い細胞がmixしている旨、前回の月報に報告し、又写真ものせました。この細胞は容易にガラス壁から剥れ、あるいは、はじめから附着しないでfloatしているようです。倒立でみて、浮いている細胞も真でいないように思えたので、それらのみを分離し、継代を続け現在に到っています(約二カ月)。
 形態的には核が小さく、細胞質の大きな、喀痰の細胞診のときの剥離細胞に極めて似ています。ここから肺胞上皮という推測が生れた訳です。phagocytosisは盛んのようです。
 増殖はほとんどないようです。今后H3-thymidine、wridine、leucineでDNA、RNA、proteinの合成を調べる予定です。
 (3)腹水腫瘍のpopulation analysis(吉田班の仕事)
 寒天を用いて行はれます。薬剤感受性等がマーカーになる予定です。
 大体以上の三つの仕事に重点をおきます。その前に仕上げるべき論文もいくつかあります。来年の1月号の月報「昨年は予期した以上の成績を出した」と書きたいものです。

《高木報告》
 1月1日午前零時四十五分、私の病棟の一人の患者が癌にたおれました。autopsyは明日行われますが、Hepatomaと思われます。私の1966年は一癌患者の死でスタートした訳です。何となく鞭打たれる思いがいたします。
 癌の研究を思い立ったのがかれこれ10年前、その間どれ丈の仕事が出来たかを懐古してみますと全く恥かしい気がします。勿論私は私なりに努力してきたつもりですが、その成果たるやとるに足らぬもので、改めて眼前に立ちふさがる巨岩(癌)の征服の困難さを思い知らされています。
 帰国以来、皆様の御好意で再び之の班に復帰させて頂きましたが、他の班員の方々にくらべ、私はまだ努力が足りなかったと反省させられています。特に班長勝田氏と佐藤氏のファイトには敬服いたします。しかし敬服している丈では駄目なので何とか今年は私もこの御二方について行きたいと考えています。
 佐藤氏の御仕事は、未だ種々の問題があるとしても、一応対照と有意と思われる差で培養細胞を復元(移植)出来たと云う事は、in vitroの発癌実験に曙光をもたらすもので、これからがいよいよ本腰をすえてかかるべきepochに入ったのではないでせうか。いずれにせよ班のためにもこれはプラスであったと思います。
 さて此の一年の私の計画ですが、癌の正体が中々つかめない事の裏には、“正常"とは何であるかと云う事が未だよく理解されていない点があげられると思います。そこで“培養における細胞(正常)機能の維持"と云う事にまず努力してみたいと考えています。しかしこの問題をかたずけてから改めて発癌の仕事にとりかかると云った悠長(?)なことは云っておれませんので、これと平行してin vitroの発癌も行います。その方法ですが、私はいましばらくorgan cultureで押してみたいと考えています。と申しますのは私には一つの細胞の発癌には、それと関係のある他の細胞の介在も必要ではないかと思われるからです。丁度細胞分化のGrobsteinの仕事にみられる様に・・・。目下の問題はまず何とかorgan fragmentを長くin vitroに維持したいと云う事です。これは現在行われているorgan cultureの泣き処でもあります。つまり基本方針は昨年と同じで、何とかこれを推進したいと考えています。幸い今年度から我々の班はレパートリーが広くなり、生化学、ウィルス、移植と云った専門の方々も参加して頂ける事は御同慶にたえません。よろしく御指導御鞭撻の程御願いいたします。

《堀 報告》
 G6Pdehydrogenase isozymeについて:
 ようやく待望のacrylamideがEastmanより届きまして、gel electrophoresisを始めました。手始めに3日絶食、3日[30%protein-60%glucose]食を与えてG6PDをinduceしたシロネズミ肝の1:1 H2O homogenateをsampleとして、3mA/tube、2hrの泳動を試み、展開したものを、次の基質で染色してみました。 :G6P(50mg/ml)0,1ml、 NitroBT(1mg/ml)0.25ml、NADP 2mg 、EDTA・0.1M 0.1ml、Tris buffer・pH7.2・0.2M 0.25ml、KCl・0.1M 0.1ml、 H2O 0.2ml。これに適量のphenajine methosulfateを加えたものと加えないものを作りました。(結果図を呈示)。
 赤血球のG6PDについての文献では、他の動物ですが2〜3本の帯しかでないので、これ丈分れたことは予期以上の成果でした。この仕事の目的は、培養肝細胞で色々な酵素活性の低下が見られるのにG6PDのみは明らかに増加しているという前報の知見をもとにして、では果してこの増加はin vivoにおけるinductionによる増加と同じ性質のものか否かをDISCELECTROPHORESISで確めようというのです。もし同じ様な性質のものであれば、肝細胞の同定にもなるし色々の面で面白いと思います。なお、培養細胞については目下test中ですが、試料の量が少いのを何とか克服しなくてはなりません。
 以前考えた遠隔地での標本の固定、保存に関する方法については目下の処、冷アセトン(-70℃)固定1日、後、風乾、直ちに-10℃に保存したものでは少くとも1ケ月は各種脱水素酵素の活性が残っていて染色可能であることが判ったのですが、G6Paseはアセトンでよく保存されずまだよい方法がみつかりません。またAPaseは冷ホルマリン(10%+1%CaCl2)で数分固定してから、冷水で洗って、0℃の冷水に保存可能です。
 今1つの報告しなくてはならないことは、昨年秋に行った実験の残りの肝細胞が、今迄増えたり減ったりし香ばしくなかったのですが、最近極めて確実な増殖を示す様になり、strain化出来そうだということです。近い中に正確なdataを作りお知らせします。1年もたったものを今更strain化しても、あまり意味がないとも思いますが、もともと残ったものをそのままただmediumのみ更新しておいたものですので、これからの仕事の上に何か役に立つことでもあればよいと思っています。
 昨年はさっぱり仕事がはかどらずに、班員としての義務を果すことが出来ず真に申訳無く思っております。今年も教授の還暦に関連した事業や、5つも学会の世話など、でとても仕事は出来そうもありませんので、この研究班の活躍を期待するとともに、今後も機会のあるときには、色々御教示を賜ったり討論に加えて頂くことが出来れば幸と存じます。

編集後記


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