【勝田班月報・6611】
《勝田報告》
 パラビオーゼ式細胞培養法による各種変異細胞株の特性の検討
 これまで報告したように[なぎさ培養后のDAB高濃度処理]、[ダイエチル・ナイトロソアミン(DEN)による処理]などによって、正常ラッテ肝由来の細胞から色々な変異株が得られてきたが、これらの細胞が正常ラッテ肝細胞に対してparabiotic culture内でどんな態度を示すか、肝細胞株RLC-9及び-10を用いて検討した。その結果、次に記すように、3株とも夫々に相異なる反応を示した(夫々に図を呈示)。
 (a)なぎさ培養后DAB高濃度処理により生じた変異株“O":
 RLC-9とparabiotic cultureしたところ、2日后には変異の増殖促進、正常株への抑制が認められたが、日と共にその傾向が消失し、7日后にはほとんど相互作用が認められなくなってしまった。つまり無反応型と呼べるであろう。
 (b)DEN処理による変異株(Exp.DEN-2):
 RLC-10と組合せたところ、RLC-10の増殖はparabiotaic cultureにより阻害されたが、変異株の方は促進されなかった(図では反って若干の阻害を受けたように見えるが、推計学的には有意の差があるかどうか判らない。未検定である)。これはかってDABを4日間使って増殖を誘導したRLD-1株の特性と似ている。
 (c)DEN処理による変異株(Exp.DEN-13):
 変異株の増殖が反って阻害され、正常肝細胞株(RLC-9)の方が反って促進されてしまた。不思議な現象であるが、事実であるから何とも致し方ない。
 とにかく、変異株によってさまざまに特性が異なるということは、当然とは云え、面白いことである。最近癌毒素の研究を再開したので、色々と考えさせられているところである。
《黒木報告》
 ICCC、UICC、それに名古屋の腫瘍ウィルス・シンポジウムとききまわりやっと仙台にもどったところです。UICCは本部附にされたため、殆んど演題をきいてないのですが、名古屋ではたっぷり3日間腫瘍ウィルスの先端的な仕事に触れてきました。
 そこで感じたのはアメリカのものすごい精力的な仕事に比べて日本のそれが、いかに小さく箱庭的であるかということです。アメリカのこのウィルスの仕事を支えているのは、polio uirus以来築かれたtissue cultureの「幅広い」しかもかなりレベルの高い技術ではないでしょうか。日本の組織培養が、ともすると「組織培養家」の間に閉じこめられ、「秘技」的扱いをされていたことには反省の余地がありそうです。このことは組織培養学会をより広い分野の人達が参加出来るようにしていくこととあわせて考えてみたいと思っています。
 Chemical carcinogenesisもin vitroのtechniqueを十分に利用していかないと、virusからますますとり残されそうな感じです。その為にはin vitroのchemical carcinogenesisを組織培養家の間にだけ閉じこめておかず、広く生化学者(例えば九大の遠藤教授)が自由自在に取り扱えるようにする必要がありそうです。もちろん生化学者の人達にも勉強してもらはねばなりませんが、我々組織培養をやっているものも、より普遍的な技術を求めて研究する必要がありそうです。
 以上のことを考へながら、今後の仕事の方針を探し続けているところです。次の4つの点にfocusを合せる積りです。
 (1)発癌剤添加方法の改良
 先日のICCCの混乱のもととなった発癌剤の添加の方法について改良を加えたいと思っています。具体的にはPBS or 0.9%NaCl Soln.にcellをsusp.させ、そこにcarcinogenを加え、30min.程度contactさせ、次にcultureする方法です。又はMonolayerのうえにPBS or 0.9%NaCl soln.with carc.をのせ、しばらくしてからmediumとreplaceする方法です。
water solubleの4NQO 6-carboxylも用いる予定です。
 (2)Established cellによるtransformation
 Primary cultureによるtransformationはmalignancyをはっきりとcheckできても、celllevelの分析では劣ることは確かです。そこで、transformat.を容易に用いられるsystemにするためにも、established cell lineを上手に利用することが望しい訳です。具体的にはBHK-21、3T3を考えています。
 (3)Albumin mediumの使用
 Controlがspontaneous transformationせずにLimited growthを示す点にも、種々の質問が集中しますので、albumin med.を用い、もの点を追求します。なお、従来のlimited growthを「分化」と結びつけて考えるつもりです。
 (4)transformed cellの発癌剤に対する耐性
 化学発癌剤により発癌したとき、その細胞がそのagentによる変化したという直接の証拠はどこにもありません(virusではT抗原、核酸のhomologyをあげることができる)。一つのMarkerとなり得る可能性のあるのは、発癌剤に対する耐性です。この分析はH3-TdR、Ur、LEU、を用いて12日の癌学会までにdataを出す積りです。

《高木報告》
 1)器官培養による制癌剤スクリーニングの検討
 器官培養は細胞培養にくらべて組織細胞を一定期間ならばよりin vivoに近い状態に保つことが可能であり、また細胞培養では困難な人の悪性腫瘍組織などもごく短期間ならば維持しうると云う利点を有する。若し患者からbiopsyでえられた組織片を器官培養して、それに制癌剤を作用させ、その効果を適確に判定することが出来れば、至適な制癌剤を見出すにあたり、きわめて有用な方法であると云うべきであろう。本実験はこの様な考えの下にスタートした。
 ただここで問題になるのは器官培養においてはその効果の判定にあたり、細胞培養における細胞数算定と云う様な簡単ではっきりした指標が得られるかどうかと云うことである。この種の試みとして1964年にM.YARNELL等の報告があるが、彼等はこの指標として組織WetWeight 10μgあたりにとりこまれるP32のカウントをもってしている。しかしP32は、非常に非特異的汚染度の強いアイソトープであり、僅少量のWet Weightの測定では誤差が大きくて精度が悪いので、私達はP32の代りにDNAのSpecificの前駆物質であるH3をラベルしたThymidineを用いて非特異的汚染を除く工夫をし、組織の重量を測る代りに、用いた組織のDNA量と蛋白量を測定し、細胞活性を表現する指標として、DNA 1mg中にとりこまれたH3-Thymidineのカウントを以て表わす方法について検討を加えた。
 続いてこの系を用いてクロモマイシンA3やCHS等、二、三の抗癌剤についてDNA合成に対する抑制効果がどの様に発現されるかを観察し、制癌剤スクリーニングの為の基礎的な二、三の実験を行ってみた。
 培養に使用した細胞はヒヨコとハムスターの正常組織で、DNA合成の盛んな胸腺と脾とである。組織片は大体3x3mmに細切し、Stainless-steel mesh上より5%仔牛血清を含むE.B.M.に接するようにして気相は5%CO2 Gas、95%O2、又は空気、37℃の中で40数時間培養し、その間各種制癌剤を作用せしめた。作用后、組織片をH3-Thymidineと共に4〜6時間incubateし、反応中止后、Schmidt-Thannhauser-Schneiderの変法によりDNAを抽出した。 DAN量はDiphenylamine法により求め、液体シンチレーションスペクトロメーターにより放射能を測定してDNAの比放射能を求めた。蛋白量はビューレット法により定量した。
 先ず次の点につき検討した。
 a)培地中に加えられたH3-Thymidineがincubationの時間につれて如何に培養組織のDNA合成に利用されているかについて検討したが、DNAの比放射能とincubationの時間とに関しては、半時間から1時間位のlag phaseのあと6〜8時間までは直線的にDNAの合成がすすみ、それ以后、合成はやや低下する傾向がみられた。この低下した理由としてはincubationの際、組織片を集めて培地中に浸漬したこと及び、この培地より血清を取り去ったことも考えられる。従ってこの系の実験では4時間(時に6時間)のIncubation timeを用いた。
 b)培養組織片の大きさについて検討したが、これは肉眼的に大体同じくらいのものであればDNAの比放射能に大差ないことが判ったが、故意に小さくすると矢張りDNAの比放射能が大きくなる傾向がみられた。
 ついで制癌剤効果観察の一例として、A3及びCHSを1μg/mlの濃度で40数時間作用せしめたが、DNA合成抑制の程度はA3で50%、CHSで57%となり、CHSの方がA3よりもやや強い抑制効果を示した。この場合、ヒヨコとハムスターによる種類、胸腺、脾の別による差異は認められなかった。
 細胞培養法によれば、L細胞でA3の方がCHSよりも大体10倍程度も強い抑制作用を示しており、またHeLa細胞を用いても同様の傾向がみられている。即ち現在までの処、organ cultureではcell cultureとは異った成績がえられた訳で、この相違について更に検討中である。
 2)発癌実験
 先報に記した7月29日スタートのハムスターcell cultureは現在約90日を経過しcontrolは6代目、4HAQO添加群は5代目であるが細胞は広く伸びており増殖悪くなかなか移植出来そうもない。9月8日スタートの実験は20日目すぎてから急に細胞のdegenationが強くなり、回復不能の為中止した。
 10月12日新たに同様の実験をスタートした。方法は先月報のものと殆んど同じであるが、今回は3代でcarcinogenを添加したこと及び、継代細胞数を10万/mlと少くしたところ現在、carcinogenを除いて4代目へ移るところであるが、4HAQO・E-OHによるdamageが少くなった。まだcriss-crossやmultilayerの像はみられない。controlの細胞は3代に入り増殖が悪いが、それに反してcorcinogen添加群では可成りの増加をみている。

《三宅報告》
 先般来のDD系マウスの19日目の胎児についての皮膚のSponge法、意にまかせぬ結果に終りましたので、それより若い胎児を用いることにしました。妊娠日数と胎児の大さについての関連が、結果のもののついでではありませんが、みつかったのです。これに従えば、16〜17日の胎児の大さのものが、もっとも適しているように考えられたのです。数字で示されているところでは16〜17日目のものは888.7±13.55mgということです(図を呈示)。この時期の背の皮膚は培養3日目で次のような所見を呈しました。
 (1)最上層にperidermを押上げ、その下に角化層(恐らく不完全角化)を作り、その下には顆粒層を作りあげました。(2)Basal cellの核は培養前の対照にくらべて、極めて泡状で大きく、核小体も大形化しています。(3)Basal cellの配列に乱れがみられます。(4)この胎生の皮膚を切片にするに際し表皮が伸展してDermisの下に廻るという、技術上のArtifactが起る事があります。そのために興味のある所見が生れました。即ちDermisの裏に廻った表皮はSpongeの側につけられて、気体に接しないためか、ここでは角化が起る事が少く、表皮細胞がSpongの間隙に侵入します。原形質はbasophilicで核も大形化します。核小体も大きいようです。上皮細胞が創傷に際して、アメーバ様の運動をして傷害部を被覆するといいますが、このSpongeの中への移動もそれに類するものでしょう。 (5)以上の通りのBasal cellの配列の乱れ、Dysplasia(?)など、これから、16〜17日目のDD系マウスの胎児を対称に仕事を続ける理由が得られたように思うのです。

《螺良報告》
 系統別戻し移植による培養細胞の撰別
 月報6609号の実験が一応完了したので、まとめて報告する。これはもともと、DDの乳癌培養にC57BLの白血病細胞をcontact cultureして乳癌細胞に白血病ウィルスを感染できないかを目的としたものであった。しかし結果はDDの乳癌とC57BLの白血病の共存となり、しかも戻し移植によって夫々の腫瘍が系統別に再現された。前回ではC57BLの戻しの結果がなかったが、今回はそれが出たのでその組織像を示す(戻し移植のC57BL脾臓・写真を呈示)。
 さて問題は培養細胞であるが、その条件は下のようなものの4本をプールして3系統のマウスに戻し移植したものである(培養細胞と移植動物の表を呈示)。
 [まとめ]
 前回にはC57BLの結果が未だであったが、出来たのは白血病であった。期間が短いので細胞性のウィルスによる可能性は少い。小生らの他の実験に関連して考えるべきことが多いが、とにかく8ケ月培養しても細胞はHybridにならず、夫々のcompatibilityと腫瘍性を維持していたと思われることが今の結論である。

《堀川報告》
 哺乳動物細胞における放射線障害回復機構の分子生物学的研究。
 紫外線照射された大腸菌において、その主な障害の1つにthymine dimerの形成があることはDr.R.B.Setlowをはじめとする多くの分子生物学者によって見出された。この紫外線照射によって大腸菌のDNA鎖内に形成されるthymine dimerは、DNAの複製を阻止することから細胞の死をまねき、同時に試験管内の実験からもDNAえの紫外線照射は形質転換能(transforming)を失わせることが証明された。また一方ではこうした紫外線照射によって生じたthymine dimerを切り出し、もと通りの正常なDNA鎖に復元されるSplitting enzymeが同じく大腸菌のある特定のstrainにおいて見出され、それ以来紫外線を中心とした放射線照射による障害からの回復機構の研究はにわかに活況をおびて来た。
 これにともなって当然考えられることは、このような回復機構のSystemが哺乳動物細胞にも存在するか否かという問題であり、これが勿論今日の放射線分子生物学の中心問題となって来たことはひとり我田引水ではあるまい。
 こういう意味から帰国後はmouse L cells、Ehrlich Ascites tumor cellsをはじめとするCultured mammalian cellsを中心にして紫外線さらにはX線耐性細胞を再度分離し、それらのものについて大腸菌でみられるような現象、さらには、Splitting enzymeのごとき存在があるかどうかを追求しているが、最近になって非常に面白い回復現象がみつかって来た。すなわち紫外線照射されたEhrlich Ascites tumor cellsがある一定時間後に完全に回復してしまうというのである。この現象が微生物でのSystemとまったく同じ機構で説明できるかどうか(私としてはむしろ微生物のそれとは別の機構であることを望むわけだが)、またこういった回復現象はEhrlich Ascites tumor cellsのような上皮性細胞にのみ特異的にみられる現象なのか等々・・・は今後の実験にまたねばならない。場合によってはこれから2、3の細胞株を寄せ集めて比較実験をせねばならないだろう。いずれにしてもやることは山のようにあるが、今日のように学会、学会に毎日をついやしているようでは仕事にありつけるのはむつかしい。学会が一日も早く終り、再度実験がstartできることを願っているのが、いつわりのない現在の心境である。
 次号からは落ち着いてもう少し学問的に話しを進めます。

《藤井報告》
 何はともあれ、先日のICCCの成果の上ったこと、おめでとうございます。勝田班長のタレント(マスコミ・タレントの意ではありません)にも驚きましたし、皆さんの組織培養における研究レベルもよくわかって、門外漢乍ら、うれしく思ったことです。癌における組織培養学が根をおろしてきていることを眼のあたりみることが出来ました。癌における組織培養学が発癌という問題ととり組んで、確たる地歩を進め、成果の上ってきたことは、大きな光明でもありますが、このように組織培養学が一つの研究の手段から独立した学問になりつつあるときに、この方面の恐らくは大先輩である筈の欧米の国々から、私からみてかなりグローブな臨床材料の組織培養化の試みや成果が、堂々と発表されていることは、驚きでもあったし、ああいう地道な仕事を今だにやっている、あるいはやっていける国柄に感心もした訳です。そういえば勝田班の面々は、エキスパートでありすぎて、当初は、今でも近より難い感がないでもありません。
 同種移植免疫でcell-bound抗体の本体が未だにはっきりせず、血清抗体の方を整理して、cell-boundの抗体と関係づけようとやって来ている現状ですが、今までのところ19S抗体より7S抗体にcytotoxic活性があまりにはっきり出ています。一方、モデル実験(同種免疫の)でcell-bound抗体が19S抗体らしいというデータを持って居て、血清中のそれと関係づけるのに些か弱っています。私の場合、cytotoxicityテストも短時間(30〜60分)の判定なので、せめてリンパ節細胞の短期培養の上で、これ等抗体の活性をしらべてみたいと思っています。特にcell-bound抗体の活性試験などは、この培養がうまく出来ないと駄目のようです。 最近、抗体が抗体産生を抑える、例えば19S抗体を注射すると、7S抗体の産生が抑えられるという論文がありましたが、またK.T.Brunner等(Swissの実験癌研究所、ExperimentalHematology,No.11.1966)は、cell-bound immunityが血清抗体を注射あるいは培養液に附加すると抑えられることを言っております。血清抗体にもいろいろありますが、移植免疫屋からみると面白い話。


編集後記


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