【勝田班月報:6612:ラッテ肝癌細胞の放出する毒性物質】
《勝田報告》
A)ラッテ肝癌細胞の放出する毒性物質:
さきに、双子管を使って肝癌細胞と正常ラッテ肝細胞のparabiotic
cultureを初代あるいは第2代で試みると、AH-130でもAH-7974でも何れもその増殖が促進され、正常肝が壊されて行くことを見出して報告した。腫瘍と正常センイ芽細胞との間ではこのような相互作用は認められず、センイ芽細胞は影響を受けなかった。
この肝癌細胞の放出する毒性代謝物質の本体が判れば、そしてそれに対抗できる物質を得ることができれば、癌患者を悪液質から防いで死期をおくらせ、それによって時をかせいで、或は免疫学的抵抗力の発生によって癌が癒るかも知れない。これが狙いで、毒性物質の本体を追究することにしたが、道具としては初代培養より株を用いた方が成績が安定するので、正常ラッテ由来の2倍体肝細胞株RLC-10を用い、初代のAH-130(母培養数日後)との間の相互作用を確かめたところ、左図(増殖曲線を呈示)のようにやはり特異的な相互作用が現れたので、このRLC-10を今後の解析に持ちいることにした。
「仔牛血清20%+Lh0.4%+塩類溶液」の培地で肝癌AH-130を2〜4日母培養した後、同組成の培地で実験培養し、2日後に培地交新し、第2日から第4日までの2日間AH-130を培養した培地(これを“肝癌培地”と略稱)を分析に用いることにした。
まず、RLC-10単独の培養に、培地内のsalineの代りにこの肝癌培地を20〜40%に添加して、増殖に対する影響をしらべると、肝癌培地によって明らかにRLC-10の増殖が阻害される、ということが判った。(以下、各実験毎に増殖曲線を呈示)
そこで今度は肝癌培地の分析にかかった。肝癌培地を透析した場合のテストは、無添加の対照に比べ、無処理の肝癌培地を20%添加すると著明な増殖抑制が見られた。透析内液(高分子)はそれに反し、7日間を通じ、増殖を反って促進した。透析外液は2日後、4日後には抑制していたが、7日後には反って促進に変ってしまった。培地は1日おきに全量を交新したが、これは阻害物質の他に促進物質も含んでいること(或は培地組成由来の)を意味するかも知れない。
透析後、外液と内液を再び混和したのでは、2日後には抑制を見せたが以後は作用が消え透析という処理によって失活するものがあることを暗示している。これは本来ならば、無処理の肝癌培地と同じカーブになる筈のものであるから。
次に肝癌培地の透析外液、つまり低分子の方を、色々の温度処理してみた結果で、透析もせず、無処理の培地は7日間を通じて増殖を抑えている。そして透析外液(無加温)は2日後、4日後には抑えているが、7日後になると対照と差が無くなってしまった。2日後の成績が温度に反比例して抑制しているのは面白い。ところが7日後になると揃いも揃って皆、対照とほとんど差のないところまで上ってしまった。これが何を意味するか、は今後の問題であろう。とにかく毒性物質は低分子であるらしいことは云えよう。
Parabiotic cultureの成績では、肝癌は正常センイ芽細胞細胞には影響を与えなかった。だからいま物質レベルで追うときにもno
effectsでなければならぬ筈である。この意味の対照実験で、正常ラッテ皮下組織のセンイ芽細胞に対する影響をしらべた。無処理の肝癌培地は、対照とほとんど同じ増殖曲線となり、正常センイ芽細胞に対しては毒性を示さないことが判った。そして透析外液は著明な増殖促進を見せた。今後は無血清の合成培地で肝癌培地を作ってみたいと考えている。
B)肝癌細胞に対する放射線(コバルト60γ)照射の影響(増殖曲線と映画を展示):
映画は500r、700r、1,000rと3種を撮したが、ここでは1,000r照射後1日後より4週後まっでを連続的に示す。ここでは特に多核巨細胞が如何にして照射後に生じ、且その運命はどうなって行くかを検索した。
その結果明らかになったことは、コバルト60の1,000r照射によりAH-66肝癌(培養株)の細胞分裂は抑えられるが、数日経つと再開する。しかしこの場合、分裂直後に細胞質融合をおこなうものが多く、2〜3核の細胞ができてくる。これらは更にまた分裂をおこなうが、以後は多極分裂が多くなり、しかもまた分裂直後に細胞質融合をおこなうことが多い。こうして次第に大小不同の異型性の強い沢山の核を持った巨細胞が形成されて行く。細胞の致死的現象は瞬間的に起るが、分裂直後に起ることが多い。多核巨細胞も分裂をおこなおうとし、分裂直後に死ぬか或は再融合して延命する。
これらの所見を基にして、あえて空想的作業仮説を立てるならば、放射線照射後によく見出される癌の再発には、二つの原因があるのではあるまいか。つまり、一つははじめから耐性の高い細胞が混っていて、それが淘汰されて残るということと、もう一つ、多核巨細胞からの健全な癌細胞の再形成である。
若し細胞の生存と増殖に必須のgenesが、放射線照射によって障害を受けると、一部に機能欠損部をもつgenesになる。G1期よりG2期の方が障害を受け易いという人があるが、G2期にはgenesは倍加されているので、これは考えにくい。G1期にgenesに機能欠損部をもつ細胞は早晩は死んで行かなければならないが、G2期の片方に機能欠損部をもつ細胞は分裂しない限り生存できるし、分裂しても娘細胞の一つは健全にまた分裂をつづけられる。また機能欠損部をもつ細胞も健全な細胞と融合すれば生存できる。Genesが倍加しているものでは、それぞれに欠損部があってもお互いに欠損部を補い合って延命するが、分裂すると欠損部が致命的になって死なざるを得ない。照射された細胞に分裂後の細胞融合が多いというのは、このような理由からではあるまいか。
ともあれ、このようにして次第に多核巨細胞が形成され、これが多極分裂した場合、機能欠損部をもつ細胞は個々には延命できない。そこでまたすぐに融合しようとする。しかし、非常に低い確立であろうが、全く健全なgenesだけを抜きとって組上げる細胞が生まれないとは限らない。そのような細胞が生まれたとき、これが活発に増殖して再発の因になるのではあるまいか。
堀川班員、北大の放射線科、そして私たち自身の実験でも、照射後の耐性細胞は染色体数が減っている。この減少がどんな理由によるものか、その辺を探るということは、耐性のmechanismを明らかにする上の一つの鍵になるかも知れない。何種類かの探索法による所見を総合して考えるということは大変有益であると思われる。
:質疑応答:
☆毒性物質について
[黒木]その毒性物質というのは濃縮できますか。
[勝田]濃縮できると思いますが、低分子物質らしいので、塩濃度の点で問題がありますね。
[永井]Collodion膜を使って透析に代る良い方法があります。しらべておきます。
[黒木]AH-130の方がstationary phaseに入ったときの培地ではどうでしょう。
[勝田]やってみないと判りませんが、Parabiotic
cultureのときのカーヴから考えて、抑制しなくなる可能性はありますね。
[三宅]正常のセンイ芽細胞と正常肝との間の相互作用はどうですか。
[勝田]増殖しているセンイ芽細胞の方が抑えられていました。
[藤井]抗体産生細胞に対するAH-130の影響はどうですか。
[勝田]胸腺の株とAH-130とのparaではAH-130の方が抑えられていました。
[藤井]マウスに癌性の腹水を接種しておいて、免疫のため抗原を与えると、正常血清を接種しておいた場合よりも抗体産生能が落ちていました。
[勝田]増殖に対する影響と分化機能に対するのとでは違っているかも知れませんね。
☆コバルト照射について
[黒木]この細胞は継代していますか。
[勝田]照射後は継代していません。
[螺良]細胞質の廻るというのは、照射していないのも廻りますか。
[勝田]照射しないとこんな巨細胞が出来ないから判りません。
[堀川]細胞の種類によって、多核になる細胞と一核のまま大きくなる細胞とあると思いますが・・・。
[勝田]一核のまま大きいと云っても、その経過を映画にとってみないと判りません。二核の細胞が分裂に入って、染色体を形成して、そのまま大きな一核になってしまうのもありますから。
[堀川]多核の場合、全部の核が染色体を形成し得るかどうか・・・。
[勝田]多核ではH3-TdRを長時間入れてみても、とり込んでいない小核もあり、DNA合成の非同調と、不能が考えられます。
[黒木]多核の場合、染色体形成が映画で見られますか。
[勝田]見えるように思われるが、大きく球状になるので、はっきりしない場合が多いです。
[堀川]正常と癌の細胞を、混ぜておいて照射すると、Hybridが出来るのではありませんか。
[勝田]Hybrid形成は面白いと思いますが、正常と癌とではどういう面白味がありますかね。
[堀川]Geneの問題に入るわけです。
[勝田]Hybridの仕事はマーカーが大切ですが、照射によってmaskされていたgene機能のmaskが外れるという可能性もありますし、酵素レベルのマーカーも解釈が難しいし、困りますね。
[掘川]それは対照がちゃんとしていれば・・・。放射線でそこまで変えるというなら大変なことです。
[永井]照射によって融合のfactorが出来るということは考えられませんか。
[勝田]細胞膜の荷電の変化とか、いろいろ考えなくてはならないでしょうね。
[螺良]放射線だけで変異が起せますか。またこの線量は生体より多いですか。
[堀川]遺伝的レベルでAをBに変えるということは出来ないでしょう。この線量は生体より大分多く、L細胞では1,000rですと1回の分裂で死んでしまいますね。
[佐藤]生体へかける場合は線量の合計だけでなく照射法もずい分ちがいますね。センイ芽細胞と上皮細胞とでもちがいます。
[堀川]同線量でも分割照射の方が影響が少ないですね。しかもセンイ芽細胞は障害回復が早いとされています。
《黒木報告》
ハムスター胎児細胞の4NQO及びその誘導体によるin
vitro transformation
(9)HA-1〜HA-7、NQ-1〜NQ-4のまとめ
再現性については、前回までの報告では、はっきりとdataをもって示しませんでした。しかし、その後、移植実験をくり返した結果、かなりreproducibilityの高いことがわかりましたので、ここにまとめて報告します(以下ぞれぞれに、詳細な復元表を呈示)。
4HAQO処置群のまとめです。この表でMorphologicalとMalignant
transformationをわけてあるのはmalignantでないtransformationが得られたからです。HA-7がそれにあたります。Morphological
transformationのみられなかった(transf.fociが出現しなかった)のは、HA-5の1本とHA-6の1本のbottleのみです。totalでは11/13ということになります。また、1回処置群でもtransformationが得られています。このことは4HAQOのphage
inductionの有効時間は15分であるという遠藤さんのdataと比較して興味のあることです。(10分間作用させたgroupは現在観察中です)
以下にHA-4、HA-6の移植成績を示します。組織学的にはいずれもfibrosarcomaでした。これに対し、HA-7ではくり返しの移植にもかかわらずtumorは形成されません。形態学的には、growth
speed colonyの形からみても、他のHA-6などと区別は出来ません。
次に4NQO及び6-chloro 4NQOによるtransformationの結果をまとめて示します。NQ-3は20日間にわたり4NQO処置をしたため、growthがとまったとICCCでもreportしましたが、UICCから帰って来たら、小さいtransformed
fociがみられました(230日)。これは、4NQOにより、bottleのほとんどの細胞がdamageを受けたため、このようにおそくtransformat.したのであろうと想像しています。前に述べたEarly
changeとTransformed Fociの間の時間の重要な因子としてこのcell
damageの程度をあげることができそうです。また、興味あることは、HA-7と同様、NQ-4がくり返しの移植にも拘わらず、tumorを形成しないことです。移植は79日から219日まで6回にわたり、25のcheek
pouchまたはSCに移植していますが、すべての例でnegativeの成績です。(histologicalにはgranuloma)
このようなnon-malignant morphlogical trasformationが何を意味するのか(NAGISAの場合も含めて)今後考えてみる必要がありそうです。例えば移植抗原の変化による移植拒否の可能性も否定できません。今後に残された問題点の一つでしょう。
以上の現在までの成績をまとめ、schemaを考えてみました。Controlはcollagen(fibre)を形成する点からdifferentiationとして理解しています。(schemaを呈示)それはNormal
CellsはDifferentiationへの道とSpontaneous
transformationへの道へ分かれる。CARCINOGENSを作用させると、Morphological
Transformationを経て、Malignant transformationへと進むが、not
malignantのままでいるものもある。
:質疑応答:
[高木]最後のスライドにある対照群の分化ということと、実験群の中に途中でそれに近い状態がありながら、長い時間たってから増殖しはじめたものがあるということ、とをどう考えて居られますか。
[黒木]対照群も同じように培地を変え培養をつづけているのに、未だに増殖しはじめるものがないということから、この場合の分化は対照群に特有の現象だと考えています。
[勝田]対照群は繊維を作っていますか。
[黒木]まだ染色してみていません。
[高木]どの系の場合も、一時繊維を作るような状態を経過して、変異細胞が出現したのですか。
[黒木]そうです。しかし変異細胞の出現する時期は一定ではありません。
[勝田]対照群の分化ということについてですが、培養0日のものが分化していない細胞だという証明をしておかないと、培養内で分化したと断言するのは危険だと思います。我々の仕事の中に鶏胚心の初代培養で、ハイドロキシプロリンの定量と鍍銀染色と平行してみたものがあります。その場合、ハイプロの量は初期から細胞当りにすると同量位でしたが、銀繊維はstationary
phaseにはいって初めて現れてきました。つまり材料は作っていたが、プールしていたということです。
[三宅・堀川]この実験方式では、分化ということは強調しない方がよいと思います。
[堀川]この方式で、adultでもうまくゆくでしょうか。
[勝田]僕も胎児という点にひっかかります。
[黒木]自分の方針としては、もう少しハムスター胎児で実験をつづけて安定した実験方式を立てたいと思っています。
[勝田]たしかDr.Sanfordだったと思いますが、ハムスター胎児の株を作ることも出来るのに、黒木氏の場合どうして対照群が増殖しないのだろう、と不思議がっていました。
[黒木]自分が不思議だと思うことは、形態が全く同じなのに、ハムスターに復元してもつかない系があるということです。
[勝田]我々の“なぎさ”の時、話したことですが、変異の方向にはかなりの幅があり、決して同じものばかりが出来るのではないと思います。
[佐藤]僕もずい分時間と手間をかけて実験してきましたが、今にして思えば復元してつくとかつかないとかいうことに余りこだわると、どうしようもなくなるようです。クローンを用いるとか、何とか方法を変えなければ、行詰まってしまうと思います。
それから引きつづいて、DABの吸収について調べているうちに、細胞の種類によってだけでなく、状態によってDABの吸収度が違うということを経験しました。増殖状態で++のものが、冷蔵庫内におくと−、ホモジネイトにしたり、超音波でこわしたりすると±、になってしまうのです。このことから、発癌剤をどういう状態の細胞にかけるかということも問題だと思います。
[勝田]酵素レベルではDABを吸収しないということですね。面白い仕事ですね。
いうまでもないことですが、ここで一言、佐藤班員の今までの手間のかかった仕事のすべてが、今度の黒木班員の仕事の成功の土台になっているということを、黒木班員は自覚すべきですね。
[藤井]変異の方向が異種へ向かった為に、復元してもつかなくなったということも考えられますね。抗原性の問題です。
[勝田]そういう面から考えると、この細胞系の場合、凍結保存しておくことはよくありませんねん。凍結すると抗原性が変わるということをDr.Morganが言っています。イノシトールを使うと抗原性が変らないというデータも出していますから、その点研究してみるとよいでしょう。
[藤井]復元してつかなかった動物の、リンパ腺の細胞が、復元細胞への抗体をもっているかどうか、調べてみるのも面白いと思います。
[勝田]先程の佐藤班員のデータについてですが、超音波は、酵素をこわしてしまいますか。
[永井]直接こわしてしまうということは無いと思います。しかし、遊離させるということは考えられます。
[佐藤]まだデータが不充分ではっきりしたことは云えませんが、蛋白合成をやっている時にだけ吸収するように思われます。
[勝田]我々の班もそろそろ発癌機構に入ってゆかねばなりませんね。DABの実験についても、もう一度あともどりして、静止期の肝細胞にDABがどう働いているかも調べたいものです。
[永井]黒木班員の4HAQO又は4NQOで変異した細胞系は、それぞれの薬剤に耐性をもっていますか。
[黒木]今しらべている所です。成長カーブの上で違いがあるのかどうか、コロニーを作らせるレベルでどうか。もう一つは、予研の山田先生の方法で薬剤作用後のH3TdR、H3UR、H3Argの取り込みがどうかという三点で調べています。
[勝田]薬剤の添加法について、もう少し工夫した方がよいと思います。
[黒木]考えています。癌センターの杉村先生のデータに4NQOを4HAQOにもってゆくのを、アルブミンが促進しているということがあり、一方東北大の山根先生のデータからアルブミンはハムスター胎児の細胞の増殖を促進するというのが判っていますから、アルブミンを使おうと考えています。
[勝田]染色体について、調べてありますか。僕が気にしているのは、同じ傾向が出るかどうかということです。来年度は4NQOを班として集中的にやってもよいと思います。もちろん他のものもやりますが・・・。
《佐藤報告》
自然発癌:
1.Tumor-producing capacity of tha strains
:RLN-8,RLN-10,RLN-35,RLN-36,RLN-38, andRLN-39.
2.Days of tumor production of the straoms
:RLN-8,RLN-10,and RLN-39.
3.Rats died of tumor formation by the culture
cells(RLD-10) treated without 3'-Me-DAB. についての膨大な表を呈示。
1.は現在約1,000日になるnormalラッテ肝組織からの培養細胞のTumor-producing
capacityです。観察中のものが多数有りますから、更に陽性のものが出る可能性があります。
2.はTumor takeのもののみを集めました。RLN-8は腹水型の肝癌です。RLN-10及びRLN-39は上皮性の動物もありますが、sarcomatousの部分も見えます。
3.はRLD-10株の自然発癌に当るものです。復元動物13/36が陽性です。復元細胞のculture
dayは1091から1235日までです。
:質疑応答:
[黒木]復元して出来た結節の組織像の中に未分化様の像がありましたが、あれは、腹水肝癌の遊離細胞を復元した時の組織像、又Dr.Evansの肝由来の培養細胞が自然悪性化したのを復元した時の組織像と似ていますね。
[佐藤]上皮性細胞と思われるものを復元して出来た腫瘍の組織像が、肉腫様にみえることもあるが、今の所どういうことなのか、はっきりわかりません。
[勝田]細胞の継代はどうしていますか。
[佐藤]0.2%のトリプシンで浮遊させ、遠心沈殿して細胞を集めます。大体2週間に1度継代しています。
[勝田]Dr.Hayflickが培養内の変異は殆どウィルスによるものだと云っていますが、佐藤班員の場合、培養の総日数に関係なく、或る時期にどの系もつづけて変異するということはありませんでしたか。
[佐藤]そういうことは経験していません。若い年齢の動物から培養すると早く培養内悪性化が起るという傾向があるように思いますが、データが少ないので確信はありません。又、悪性化は徐々に起こっているようです。
[勝田]では培養0日に悪性細胞がいるという事は考えられませんか。
[佐藤]それも考えられると思うので、今しらべてみています。
[堀川]復元後400日なんて長い日がたつと、動物体内で又何が起こっているかわかりませんね。もう少し短い期間に勝負出来ないと、解析することがむつかしいですね。
[勝田]さっきの培養0日に悪性細胞がいるのではないかということについてですが、培養初期にクローニングすると、悪性細胞のクロンがとれるというデータがある位ですから、よく調べてみないといけませんね。
[黒木]最初から悪性細胞が混ざっているのか、或いは悪性化しやすい細胞が混ざっているのか、どちらでしょうか。
[勝田]調べてみないと判りませんが、どちらの場合も可能性があると考えられます。それについても、42年度には高等な細胞でもクローニング出来る方法を確立したいものですね。それも確実に1匹からのクロンをね。松村氏のレジンを使う方法も皆で開発したいものです。
[黒木]コロニー形成の頻度の高い状態で、クロンをとれば、それぞれ特性のあるクロンがとれると思いますが、その頻度の低い状態の場合は、増殖の早いものだけを拾うことにならないでしょうか。
[勝田]何とかクロンを取るのに、奇抜な方法を考え出したいですね。
[黒木]培養瓶に小さなカバーグラスを沢山入れておいて、少数の細胞をまき、培養1日後に顕微鏡で調べて、細胞が1個だけついているカバーグラスを拾い出して培養している人がありますね。
[勝田]初めが1個だということを確認する点ではよい方法ですね。
[佐藤]さきに勝田班長が云われた初期にクローニングすると悪性細胞のクロンがとれるというデータは、炭酸ガスフランキで長期間培養してコロニーを育てていますから、その間に悪性化したとも考えられませんか。そう考えると、こういう方法で分離したクロンを使うのも又こわい気がします。
☆4HAQOの添加法については濃度と回数をどう調節すればよいか、炭酸ガスフランキについてその効用と弊害、癌と免疫について本当の所はわからないが癌免疫というものがあると思ってやりましょうという段階だということ、等々の雑談。
《高木報告》
最近試みたハムスター胎児皮膚の低温低湿における器官培養で、可成りの成果を得たので報告する。用いた材料は生下2〜3日前のハムスター胎児背部の皮膚で、これを切取った後3x3mm程度にメスで細切後、これまでに何度も用いたハムスター胎児抽出液(H.E.E)2滴、鶏血漿(C.P)6滴よりなるPlasma
clotにサージロンの上から置いて次の3群に分けて培養した。1)37℃群でa.は対照群、b.は4NQO
10-5乗Mol添加群、2)30℃群は4NQO(-)、湿度をincubatorのガラス戸内面に水滴が付くか付かないかの程度に調節したもの。
低温だけでなく低湿としたのは、既報にある如く湿度が高いとPlasma
clot融解物と水滴とのmixした液の中に組織片が沈没して了う為に、組織の壊死が早められるのではないかと思われるふしがあった為である。これらを炭酸ガス10%空気90%の気相にincubateして3〜4日毎に培地交換を行い、その度に4NQO
10-5乗Mol含有Hanks液を滴下し、対照群にはHanks液のみを滴下して培養し、夫々3、7、10、14、20日目に標本を作って観察した。培養前の組織では表皮層は2〜3層よりなり基底細胞層は規則正しく配列しており、極く僅かな角化層を認める。Mitosisは殆んどみられない。3日目のものでは各群共に表皮は3〜4層と幾分厚さを増すが、夫々の間に著明な差異は認められない。7日目になると俄然著明な差が現われ、37℃群では表皮と真皮は可成りはっきり区別出来るが、表皮は2〜3層で薄くなり、又基底細胞層は認められずmitosisもない。これに反し低温低湿群では表皮は5〜6層と厚さを増し、整然と並んだ一層の基底細胞層を持って、真皮と区分されておりmitosisも可成り見られる。
尚4NQO群は対照に比べて著明に悪く表皮と真皮の区別もあまりはっきりせず、表皮層にあたる場所には長楕円形の核を持った細胞を少数みとめるのみで勿論mitosisはない。
10日目になるとこれらの差は更に顕著になり、37℃群では基底細胞層は勿論表皮層も定かでないのに比べて30℃群では7日目のものと全く同様、組織はきわめて健常に維持されている。
14日目のものでも上記の傾向は変らず、37℃のものでは組織の一部に僅かの細胞が生残している程度であるのに反して、30℃群では基底細胞層が乱れ、表皮が2〜3層になり幾分薄くはなるが、依然として表皮と真皮は画然と区分されており、mitosisこそみられないが明らかな差がある。
20日目になると、30℃群にも構造の乱れがやや強くなり基底細胞層は殆んど認められないが表皮真皮の区別は可成りはっきりしている。
又、この時期のものでは角質が表皮5〜6層に相当する厚さになり著明な錯角化を認める。37℃群では14日目同様、組織の一部に細胞が生残している様な状態である。
以上、この実験に関する限り、低温、低湿と云う環境が皮膚組織の培養に対し、明らかな好条件を与えるものと思われる。この条件を用いて現在進行中の実験でも8日目までの所、全く同様の結果が得られており、今後は温度と湿度との関係についても更に検討したいと思っている。尚、本実験では4NQOの効果については目新しい所見は得られなかった。
(各時期の顕微鏡写真を提示)
:質疑応答:
[三宅]低温で培養したものの組織像は、非常にきれいですね。気層はどうなっていますか。
[高木]炭酸ガス10%にしています。
[三宅]酸素が多いと角化に影響がありますか。とくに厚さについてどうですか。
[高木]角化層の厚さは一週間ではっきり差がつく位厚くなります。
[堀川]低温、低湿で培養しようというアイデアはどうして得られましたか。
[高木]生体での皮膚の条件から考えました。
[三宅]皮膚温のきめ方は、どういう方法を用いましたか。
[高木]そのための器具があります。今の実験では胎児を使っていますが、次からは生まれて直後のものを使う予定です。器官培養で三週間維持出来れば、発癌剤を作用させる実験が始められると思います。
[勝田]材料が胎児なら皮膚温37℃として培養してもよいように思いますが。
[池上]生まれる直前なので、培養中に分化して、生まれて直後と同じ状態になっているのではないでしょうか。
[三宅]ケラチン層が気体にふれる所と、ふれない所では、その厚さが違うという経験はありませんか。私は1例だけ、気体にふれる所の方が厚くなったというデータを持っています。
[螺良]培養に使われたのは皮膚のどの部分ですか。
[池上]背中です。
[三宅]組織片は液中にあるのですか。
[池上]Plasma clotの上にのっていて、正常な状態では空気にふれています。clotが液化してしまうと良くないようです。
《三宅報告》
D.D.系マウスのMCA-filterに際してみられた基底層の活動的な細胞とSponge
Matrixの中に侵入してゆく、アメーバ状の細胞、及びヒト胎児皮膚のMCA-Filter添付でみられたAtypismを思わせる間葉系の細胞(これは対照の培養でのH3-TdRを3μC/ml・2時間作用させると、強いuptakeをしめす細胞−筋細胞か、それとも結合織母細胞であるかは判明しがたいもの)が、このような型態に変ってゆくと考えられるのです。この3系のものに着目して追ってゆこうとしました。ところが、これを、そのままのSpongeに入れたままに培養しましても、永くmaintainを続けることが不可能であると知りました。そうした細胞が強い分裂像をSpongeの中ではしめして呉れないことでも、それと判ります。勿論又このようなSpongeで細胞がAtypicalな姿をみせたとて、これを悪性などとは考えられないことです。これから、この細胞を追う上に肝要であることは、何かの方法で、Spongeの外に取り出して、別の試験管なり、平板の上に置きかえて、増殖を期待することと、形態の変化をながめてゆくことにあると考えています。そのために小さい角瓶を用意して、上の3系の細胞が出来た時間をみはからって、Spongeを、丸ごとそのままに細切して平面上に移して、時間をかけて、その増殖を期待することにしました。これは難しい−少なくとも私たちの技術では−ことと覚悟しています。(顕微鏡写真を呈示)
:質疑応答:
[勝田]これは1時間10廻転の廻転培養ですか。
[三宅]1時間12〜13廻転位の廻転培養です。2代目には静置培養にしたいと考えています。
[勝田]組織片のついているのは“なぎさ”の所ですか。
[三宅]いいえ、液中です。
[堀川]変異細胞と思われるような細胞が出ていて、大変面白いと思われますが、あの細胞については、どう考えておられますか。
[三宅]今の所、まだはっきり変異細胞とは言えないと思っています。
[勝田]一つの方法として、Dr.Heidelbergerのように、変った細胞の部分をバラバラにして細胞培養で増やす、というのも試みるとよいでしょう。
[三宅]皮膚の器官培養をしていて、さっきお見せした様な変異細胞を見られたことがありますか。核仁が大きくて、細胞質の染まり方が青い、というような細胞です。
[高木]あまり見かけませんね。
[勝田]その細胞のDNA合成については調べてありますか。
[三宅]まだ調べてみていません。次の計画として、メチルコラントレンにH3ラベルしたものを用意してありますから、使ってみるつもりです。
《堀川報告》
A.組織培養による哺乳動物細胞の放射線障害回復の分子機構
1)数年前われわれは、培養された哺乳動物細胞における変異性の問題を解明する目的から、組織培養されたマウスL細胞を用い、それから各種物理化学的要因(MitomycinC、8-azaguanine、UV線、γ線)に対する耐性細胞を分離し、その出現過程の解析並びに耐性細胞のもつ遺伝的特性の究明に主力を注いて来た。そしてこれから耐性細胞のもつ特性をgenetic
markerとして耐性細胞間の形質転換(transformation)を試みてきた。
2)次いで放射線照射により、マウスL細胞の貪喰性(Cytosis)が促進されるという現象を利用して、放射線障害を受けた細胞への正常核の取り込み、更にはhighly
polymerized DNAの取り込みによる障害回復の研究へと仕事は発展した。
当時、Petrovic et al.(1963-1965)、Djordjevic
et al.(1962)もこの種の研究を精力的に進めていた。
3)ショウジョウバエの細胞を用いて分化の問題を追求していたマディソンでの2年半の生活の間に、細胞レベルにおける放射線生物学の中核的問題は一転した。
即ちThymine溶液を冷凍して、UV照射すると、2個のthymine
monomerが結合して1個のdimerを生ずるというBeukersら(1959,1960)の発見が契機となり、大腸菌を用いた多くの放射線生物学者(Setlowら(1964)、Rupert(1962,1964)、Paul
Howard-Flanders(1964)、Rorschら(1964)、Elderら(1965)、Jaggerら(1965)その他)により、微生物における紫外線障害回復の分子機構の研究は急速に進展した。そして最近にいたり、その研究分野はウニ卵(Setlow(1966))やショウジョウバエにまでおよんできている。
一方、高等生物細胞におけるこの方面の研究は(Troskoら(1965)の培養されたChinese
hamster cellsを用いた局部的な仕事が現在の段階で知られる唯一つのものである。)電離放射線による障害回復の分子機構と共に今後に残された大きな問題である。
このような目的からわれわれは、マウスL細胞、マウスエールリッヒ腹水腫瘍細胞を中心とする培養細胞を用いて、放射線による障害回復機構の研究に着手した。今回はその予備的結果を報告するにとどめる。分析的研究は今後にまちたい。
B.in Vitro発癌実験(計画)
実験Aの方も比較的順調に進み出したのでやっと発癌実験の方にも手が出せるようになった。出来れば成体から得た細胞をin
Vitroで癌化させ、それを成体にもどして勝負したいと思う。したがってマウスのBorn
marrow Cellsか、Spleen Cellsをin Vitroで種々の物理的科学的要因で処理し、それを同系のマウスにもどし、白血病死をおこさせたいと願っている。このSystemの最も弱い点はウィルス関与をどのように処理するかという点にある。もう少し頭をひねってから出発したい。
:質疑応答:
[勝田]エールリッヒ細胞の放射線障害の場合、成長カーヴでみると、3日後に増殖がおちて、1週間後には回復してしまうというと、3日〜1週間の間は増殖が早くなっているわけでしょうか。
[堀川]いいえ、1週間近くなると対照群はstationary
phaseにはいってしまいますから、logarithmic
phaseの傾斜としては平行しています。ですからgeneration
timeは変っていないと思います。
次にやろうと思っている発癌実験のプランは、ネズミの骨髄と脾臓から血液細胞を採取して培養に移し、PHAを添加して幼若化させます。その細胞をXray、UV、DAB、4HAQOの組み合わせで処理し、もとの動物へ復元して、(1)細胞数の増減、(2)脾臓表面の細胞コロニーの形成等について調べようというものです。
[永井]X線、UV処理は白血病との関連性において考えているわけですね。
[勝田]面白い計画ですね。
[堀川]自分でもうまくゆけば面白いと思っていますが、ウィルス感染ということについては、きっと問題が残ると思います。
[藤井]骨髄とか脾臓とかを培養した場合、或る種の細胞群しか残らないということはないでしょうか。
[堀川]そういう心配もありますが、とにかく来年1年の宿題としてやってみたいと思っています。
《螺良報告》
腎エステラーゼから見た睾丸間細胞腫のホルモン産生
KF系マウスの睾丸間細胞腫を組織培養した場合、ホルモン産生能が培養で維持されているかどうかが問題となるが、培地よりも先ず細胞そのものについて調べたところでは化学的に検出できる様な量はなかった。そこでいろいろな方法の中で腎エステラーゼが雌雄で異ったZymogramをとる所から、培養の戻し移植をしたマウスについて調べてみた。
(表を呈示)接種部位や動物の性は余り影響がないが、潜伏期はかなり長いので、接種動物は充分長く観察する必要がある。なおこれらから更にKFマウスに継代してゆくと、かなり潜伏期は短かくなっている。これは継代によって潜伏期の短いものを選択したことと共に、KFマウスも近親交配を重ねてよりhomogeneousになった為ではないかと考えられる。こうしてかなりのKFマウス及び担癌動物がえられる様になったので、無処置雌雄、去勢雌雄及びそれらの担癌動物の腎エステラーゼのZymogramをしらべることができるようになった。
腎からエステラーゼのZymogramを作る方法は、荻田善一氏の方法「薄層電気泳動法」I
代謝、2:78-87、同 II、2:246-256に従った。
(Zymogramの写真を呈示)写真は基線に近い方が一寸カブったが、濃い帯と中央に左右にやや薄い帯がある(♂)。雌にはそれがないが、担癌動物では雌雄とも去勢如何をとわず、同様の帯が出現している。
問題はZymogramのホルモン産生に関する意義と、in
vitroでどう応用するかということにあるが、それらは今後勉強してゆきたい。
:質疑応答:
[堀川]Enzyme assayはどうやっていますか。去勢するとどんと変るのですね。
[勝田]他の動物でもそうです。Tumorになってもこの違いが残るものと、残らないものとがあるのですか。
[螺良]他の動物でもそうです。Tumorになったものと、なっていないものとでは、腎と肝でははっきり区別がつきません。血清ではどうか、やってみようと思っています。
[永井]Tumorを植えて、どの位で変動が出てくるのですか。
[螺良]このTumorは出てくるのがおそくて、はじめ2〜3カ月は触れないので、初期はとっていません。はっきり大きく腫大した動物でしか測ってありません。
[永井]Tumorの量との関係は判らない訳ですね。
[勝田]あのTumorが男性ホルモンを出しているのではないか−ということを云いたい訳ならば、去勢した雌に男性ホルモンを注射しておくという、群も作らなくてはなりませんね。
:一般討論:
[永井]Keratinのことについてですが胎児と成人とではKeratinの組成が違いますか。
[三宅]電顕でFibrilの並び方の濃さがちがう、というのを見ましたが、あとは余り違いが無いようです。
[永井]Hormone-dependencyで、Keratinができたり、できなかったり、というのを聞いたことがありますが・・・。
[堀川]放射線の感受性のことですが、核酸のGC含量の多い細胞ほど感受性が高いという説があります。