【勝田班月報・6605】
《勝田報告》
 A)当室に於て樹立或は分離した培養細胞株の一覧表:
 過去17年間に於て伝研組織培養室に於て新たに樹立した株、或は他の既製株より分離した亜株(無蛋白培地継代可能の亜株)を示す(表を呈示)。
胸腺よりの株は上皮性細網細胞と思われる細胞がはじめはかなり多い。しかし継代と共にこの%が減少して行く傾向がある。容器によっては細網細胞が再び主位を占めることもある。この他RTM-1よりのClonAもある。
 新生児の内より故意に育ちの悪い1仔をえらび胸腺を採取した。胸腺は萎縮状態であったが、その経過を知るため培養したところ、果して中途で退行変性を呈し、継代培養できなくなった。
 B)微分干渉位相差顕微鏡による培養細胞の観察:
 日本光学で最近開発した微分干渉位相差というのは、これまでの位相差がいわば細胞の内部を透視しているのに対し、頂度細胞の表面から細胞膜の表面の凹凸ぶりを眺めているような感じである。(写真を呈示)下の写真はRTM-10(ラッテ胸腺細網細胞)の微分干渉写真で、細胞質内の顆粒が非常に立体的にみえ、核膜の辺端や核小体が隆起しているのも判る。この顕微鏡で観察した結果、硝子面に附着して広く細胞質を拡げている細胞の断面形態は下図のようであることが判った(模式図を呈示)。細胞質や核の辺縁が盛上っているのは、氷嚢に水を少し入れて密封して机の上においたときと同様の所見で、細胞質や細胞膜の物質的特性を暗示している。

《佐藤報告》
 ◇正常ラッテ肝細胞株のラッテ復元による腫瘍発生状況(表を呈示)。各細胞株の形態については5月の班会議でスライドにして持参の予定です。腫瘍性のあるRLN-8株は形態学的に癌細胞と考えられます。他のもの6細胞株は多型性、異型性がわづかです。たびたび報告しました様に復元してラッテを腫瘍死させた場合には復元株が癌であることは間違ありませんが、腫瘍をつくらなかった場合、復元された細胞株が癌ではないとは云ひ切れません。最近でも接種后235日たって腫瘍死した例がありました。極端に云へば接種動物が自然死するまで観察しなければならないと思います。即ち動物へ復元して腫瘍をつくる能力の弱いものは敢えて人工的な線(例えば100万接種で5ケ月観察、或いは500万で3ケ月)を引き、その線以上の腫瘍性をつかまえる事が現実的だと思ひます。培養肝細胞の発癌に関しては形態学的悪性度(核が大きく或は数が多くなる。核膜が肥厚する。細胞質境界が明瞭となる。多型性、異型性が増加する。異常核分裂が見える)と動物への腫瘍移植率がよく一致していました。
 RLD-10株(RLN-10株と同じラッテ肝より初代培養し最初の4日間のみ1μg/mlにDABを添加した細胞株)の腫瘍発生率(表を呈示)。この株細胞は私が3'-Me-DABの培養内発癌実験に主として使用した。培養1235日目の実験でi.p.に腫瘍発生率が100%であり且つ死亡までの日数が短いことが判明した。1313日、1337日ではそのような事はおこっていない。3'-Me-DABで発癌?させた場合にはi.c.が最も早く死亡する。この点は1235日目のRLD-10には見られない。然しどうしてこの様な高い腫瘍発生率が現れたかについては現在の所分らない。
 月報6510の復元については班会議で報告の予定。
 200日程度の3'-Me-DAB投与は腫瘍発生率及び死亡日数を短縮した。
 RLN-10及びRLN-21への3'-Me-DAB投与は今の所発癌への効果がない。
 RLN-35、36、38及びRLN-39には今后3'-Me-DABを投与して見る積である。

《黒木報告》
 ハムスターWhole Embryoへの4NQO、4HAQO(2)
 前報においては培養20日までの成績を報告しましたが、その後継代は順調にすすみ、現在(4月22日)は培養48日に達しています。
 現在までに得られた成績をまとめると次のようになります。
 (1)4NQO、4HAQOを、それぞれ4x10-5乗M、10-5乗M加えると、明らかなmorphological
transformationが起る。
 (2)morphologicalの変化はLeo Sachsの報告と非常によく一致している。fusiformな細胞がcrisscrossし、multilayerを形成する。
 (3)controlは培養40日目前后から増殖がおち、形態的には、うすい、顆粒を多く持った細胞から成るGiemsa染色すると、collagen様のものがintercellularに沢山みえる(これが「分化」 とどう結びつくか目下考えているところです。) このようなcollagenの合成?は4NQO、4HAQOを加えた方にはみられない。
 (4)controlha40日頃に増殖がとまるのに対し、4NQO、4HAQO添加群は活発に増殖している。継代に伴い混在していたcontrolと同じ形態の細胞は少くなって来た。
 (5)山根、松谷によるmodified Eagleを用いれば1%前后にコロニーが形成される(4NQO、4HAQO添加群の細胞)。今日これからクローンをとった。
 (6)feeder layerも目下検討中(細胞をsuspendにして5,000rのCo60をradiationする方法が、簡単のようです。
 (7)第二回目の実験群もスタートした。4NQO 4x10-6乗M、4HAQO 10-5乗Mをそれぞれ2日づつ培地交新と同時に加え、10日間で中止の予定。
 (8)動物(ハムスター)への4NQO、4HAQO注射による発癌実験も開始した。
 大体以上です。詳しくは班会議のときに。

《三宅報告》
 ヒト胎児皮フの培養(Sponge Matrix)にみられる表皮のH3-TdRの標識細胞
及び標識率の差(部位的な)について
 in vivoではヒトのadultの大腿部と足蹠部の皮フの間には有核層の厚さ、角質層の肥厚、更にはまた細胞の増殖状態の間に著しい差が認められます。この皮フをin vitroに培養すると、はたして同じことが生れるかということをしらべてみたのです。培養の方法は前回に記したのと同じです。材料は3〜4ケ月のヒトの胎児の大腿と足蹠の皮フです。それを8日間Roller cultureで培養した後にH3-TdRに2時間、5μc/mlの割合で取りこみをみました。最も長いのが8日間で、それまで各時間に同じことをやりました。大腿部の表皮では培養直後のものでは標識細胞(L.C.)は大体基底層に一致して出現します。ただ僅かに例外的にその上の中間層にも見られますが、標識率(L.I.)は大体20%と概算することが出来ました。このL.C.とL.I.の関係は、培養6、12、18時間の後も略々同様の価を示します。培養の時間が24時間以上になりますと、この価はだいぶ異って参ります。24時間目になるとL.C.は明らかにSuprabasalの部にまで拡がり、L.I.も45%に高まります。30時間の培養をへますと、L.C.は表皮の最上層にも出現します。この時のL.I.は50%にもなります。しかし36、42、54、60時間の培養の時間が長引くにつれてL.I.は下降してきます。それは51、44、35、26%と漸減して来ます。所が培養を更につづけて、4、5、6、7、8日目になりますとL.I.は20%と落ちて、横ばいの状態になります。がL.C.の出現部位はbasal layerのみでなく、Suprabasalの部位にも認められるのです。
 一方、足蹠部の表皮では培養1〜2日目では、L.C.の出現は前者と異って、basal layerにしか出て来ません。L.I.はまだ計算しえなかったのですが、とても前者の50%などという高い価は出て来ません。その後時間を経たもので、L.C.はSuprabasalの部にみられますが、その后、Labelingはbasal layerに落ちついてしまうのです。このように表皮の細胞の増殖はin vitroでも著しい差があるのです。

《高木報告》
 最近は人胎児の入手がなくもっぱりハムスターを使って実験しています。今回はハムスター胎児の皮フをいろいろ条件の異るPlasma clotを用いて培養してみました。
 1)Plasma及びEmbryoextractの割合について。
 生直前のハムスター胎児背部の皮フを切り取り、3x5mmに細切して、サージロン上より、Plasma clotの上に置いた。Plasma clotの組成としては、(1)今までに用いたChick Plasma(C.P.と略)6滴、C.E.E.2滴(3:1)よりなるもので、これに4NQO 10-5乗Mol添加群及び対照群をおき、(2)C.P.5滴、C.E.E.3滴(5:3)、(3)C.P.4滴、C.E.E.4滴(1:1)、の以上4群に別けて3%CO2・97%O2通気下に、37℃で培養した。Medium更新は3〜4日毎とし、4、8、14日目に夫々Bouin固定、H.& E.染色にて観察した。
 培養前のものでは表皮層とは画然と区分されMitosisを可成りの程度に認めるが、角質層は全く認められない。培養4日のものでは各群共に2〜3層の表皮に相当する厚さだけ角質の増生を認めるが表皮と真皮の画然とした区別が出来なくなり表皮に相当する部分にもMitosisは認められない。真皮には幾分核のPicnosisを認めるが全般的にみて組織は殆ど健常に保たれている。8日目のものでは3:1群では4NQO群、対照群共に4日目のものと殆ど変らないのに比べて5:3、1:1群は共にPicnosisが可成り強く認められ、14日目に至るとこの傾向はますます強く、5:3、1:1群では全層殆どnecroticになっている。Plasma clotはC.E.E.の量が多くなるにつれて柔かくなり、1:1のものでは時には組織片が少しclot内に埋没して了う状態もみられたことが、この様な結果になって現れたのではないかと思われる。
 2)Embryoextractの種類及び気層についての予備実験。
 ハムスターの皮フを培養するのにハムスター胎児抽出液(H.E.E.と略)を用いることは以前からの懸案だったので今回予備的に用いてみた。同時にC.P.・C.E.E.を用いた培養を空気中で行ってみた。使用した材料は1)と殆ど同程度のものを同じ方法で採取して用いた。Mediumは、(1)C.P.6滴:H.E.E.2滴(妊娠中期のハムスター胎児を、Hanks液1:1にて抽出)。(2)C.P.6滴:C.E.E.2滴(従来のものと同じ)の二群とし、(1)は更に4NQO 10-5乗Mol.添加群及び対照群を置き、3%CO2・97%O2混合ガス通気下に37℃にincubateし、(2)は空気中で37℃にincubateした。
 その結果(1)においては4日目のもので表皮と真皮はなお、かなりはっきりと区分され、数は少ないが明らかなMitosisを両群共に認めた。8日目のものでは何故か原因ははっきりしないが、両群共に全体的に核がPicnoticであり、この点につき今後更に検討していきたい。 いずれにしてもハムスター皮フの培養で培養後Mitosisが認められたのは初めてであり、矢張りH.E.E.の使用については今後十分検討すべきであると思う。
 (2)の空気中で培養したものについては、これまでのガス通気によるものとの間に殆ど差を認めなかった。

《高井報告》
 今月は別の仕事に忙殺されてしまい、発癌の仕事は全くはかどらず困っております。従って残念ながら、今までから維持している細胞系についての観察以外に報告すべきものがありません。
 1)bE Ac.群:前月報に報告しましたように、細胞変性が強くなった状態からの、恢復→transformed colonyの出現を期待しているのですが、未だその傾向はみられません。前に記載した変性の少かった2本の瓶も、その後やはりひどくなって来ましたので、4月9日からAc.(-)のmediumにかえて、観察をつづけています。
 2)in vivo固型アクチノマイシン肉腫の培養:ASS の培養のうち、20%BS・199の方も20%CS・YLHの方も、夫々1本のみ細胞増殖がおこって来て、かなり元気になって来た様です。20%BS・199の方がやや細胞が幅が広い以外には、特に著明な差はないように思われます。この細胞のprimary cultureに適当な培地の検討に関しては、馬血清その他の多種の血清を試みる様、勝田先生からAdviceを受けているのですが、今のところin vivoで作ったアクチノマイシン肉腫がすぐに使えるものがないので着手出来ない状態です。
 3)復元実験:月報6601に記載しました復元実験については、現在までのところ、全く陰性のままです。

《永井報告》
 バフンウニの季節が今月初旬でおわり、あとは7月のムラサキウニまで待たねばならないので、材料を仕込む意味で今月前半は三崎に行き受精膜を集めるのに精を出した。これを溶解する酵素もウニ孵化時に分泌されるので、embryoをmass cultureし、これを集めた。この酵素は従来蛋白分解酵素とみられて来たが、よく調べてみると、確固とした証拠なしの提言とみられる。それで、むしろグリコシダーゼ系の酵素でないかとにらんで仕事を始めているわけです。一応精製した受精膜にcrudeの酵素を加えて、還元値が上昇するかどうかをみた。糖質が遊離してくれば、アルデヒド基の露出によって、還元値が増す。実験の結果は、どうやら時間とともに還元値が増加するようです。これをもとに膜の化学構造の決定まで行ければと目下夢を描いています。ウニと同時にヒトデも集めました。今年はどうやら調子がわるいらしく、卵巣と精巣をwet wt.で夫々1kgと600g程ようやく集めることが出来ました。これから、前報の意図のもとに、減数分裂を抑制している物質がとれればよいのですが。今月の後半は、先ず第一段階として糖脂質の抽出と分離にとりかかっています。ケイ酸カラムクロマトでは、糖脂質として検出されるものは(図を呈示)、図の と とか主要部である。HCl水解で、糖のガスクロを試みると、 からはFucoseとXsugarが、 からはFucose、Xylose、Galactose、Glucose、Xsugar( の場合と同じ)が検出された。このXsugarがどんなものか仲々わからず困っていたのです。メチル化糖かと思って脱メチル反応(BCl3処理)を試みても全く変化しないといった有様でした。所が今月後半に入って、ふとしたことから、東大農化・水産化学教室で、ヒトデの体表から分泌される毒性物質を研究していることを知り、早速paperをもらって読んだところ、水溶性のサポニン系物質として単離しており、これが毒性の本体だと書いてあります。非糖部分は未同定ですが、糖部分としてFucoseとQuinovoseとが存在しているとあるので、もしかすると我々のSugarXもこの珍しい糖Quinovoseではないかと思い、早速出かけて水産化学からQuinovoseをもらい験してみました。現在のところ、SugarXはBuOH:Pyridine:H2O(6:4:3)でのペーパークロマトでQuinovoseに一致したspotを与えました。我々はウニ卵から新しい型のリピドでスルホン酸型のキノボースと思われる糖をもっている糖脂質を見出しています。またナマコからやはりQuinovoseが得られています。ヒトデ、ウニ、ナマコは棘皮動物門(Echinodermata)に属するわけで、いずれも同じくQuinovose typeの糖をもつことになり、面白いことになるのですが、果してどうか。ヒトデの問題のリピドが水産化学の人々がとりだしたSaponinに似ているようでもあるので、目下この点を追及中です。もっとも彼らのものは、水に可溶、有機溶剤に不溶ですが、我々のものは水に不溶ですので、一応違うものとみれるのですが、何とも云えません。彼らは7月の卵をもっていないヒトデ全体からとっているのですが、我々は卵からこのものを得ています。Saponin様物質だとすると、我々のものは新物質ではなくなりますが、それにしてもこの様な一般にCellに対して毒性を有する物質が、何故精子にはなく、卵に多量に存在するのかが依然として謎のまま残ります。我々の物質のCell分裂に対する効果如何の問題もまだ残っています。


編集後記


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