【勝田班月報・6609】
(勝田班長は前月につづきアメリカ出張中・《巻頭言》にアメリカ便)
《永井報告》
ウニはシーズン・オフになったので現在はchemical
workをやっています。受精膜の化学成分は、予期に反して90%が蛋白、残りは糖及びアミノ糖から成っていることがわかって来ました。蛋白は酸性アミノ酸(Glu、Asp)に富見、酸性蛋白のように思われます。アミノ糖はグルコサミンとガラクトサミンとが約1:1のモル比で存在し、従来云われていた9:1と異なった知見を得ました。9:1というのは15年程前のデータですから、どうでしょうか。糖はマンノースが少量のみ。(1)これらのアミノ糖及び糖が蛋白に結合(covalent
bonding)して糖蛋白をつくっているか、(2)それとも糖類は蛋白とは別個にpolymerを形成して、このcationic
polimerと酸性蛋白とがイオン結合で結合して膜を作っているのか、二つの可能性が考えられます。受精膜形成のメカニズムから考えると、後者の可能性の方が面白いのですが、果してどうか。一応後者の可能性を頭において実験を進めたいと思っています。ウニのスルホリピドの基本糖成分であるスルホシュガーの結晶化を試みていますが、強酸性の為うまくいかず、trial
and errorを続けています。ヒトデ卵のX-Sugar(No6605)はガスクロマトグラフィーによってもQuinovoseであることが判明しました。(図を呈示)
この頃のガスクロマトグラフィーの進歩は見るべきものがあります。最初は脂肪酸の分析が主でしたが、段々、糖類、アミノ酸、ステロイド、糖アルコール、etc、かなりの種類の生体成分が分析できるようになって来ているのが現状です。アミノ酸などはまだ、標準的な方法の確立までいっていませんが、それも時間の問題だと思います。ガスクロマトグラフィーをうまく使いこなせば、μg単位のサンプルについて分析可能となるわけですから、相当なものです。ラジオガスクロマトグラフィーが発達すればもっと微量の物質の分析が可能になるでしょう。糖質化学などの分野もガスクロマトグラフィーの出現により、随分と影響を受け始めています。組織培養など、生化学者からみれば物質的には甚だ微量なものを扱っている人々にも、いずれ有力な手段となってくるに違いないと思っています。cell1個当りの分析もやがて夢でなくなる時が、そう遅くない時に訪れるでしょうが、ガスクロマトグラフィーなどさしづめその突破口となるのではないかと思います。
勝田班長の米国からの報告によれば、イノシトールを培養細胞の保存に(凍結保存)使うと、ジメチルスルホキシドやグリセロールなどよりも、細胞の抗原性の変動が少いとのことです。私もリピドをやっている関係から、イノシトールリピドには7〜8年とりつかれていたことがあります。5〜6年程前に、また2年程前にも、イノシトールを凍結保存剤に使ったらどうか、ということを提案したことがありましたが、あまり取り上げられませんでした!。イノシトールは代謝回転の速いリピド成分として、リピド生化学では随分研究されて来ましたが、遊離状態のイノシトールも生体組織にはかなり存在しています。例えば、組織100g当りのイノシトール(fee-type)のng数を表にしてみれば、下記のようになります。Plasma
: 1.14 whole blood : 1.25
Liver : 12.1 Lung :17.1
Heart : 7.1 Kidney cortex :61
Testes : 28 Ovary :32
Thyroid :121 Pituitary :96
Adrenal cortexs: 16 Salivary gland:19
Brain(cerebral cortex):− Spleen :22
Diaphragm : 6.2 Pancreas :12
Adipose tissue : 3.1 Eye(lens) :−
thyroidとpituitaryには、特に多く注目されています。またplasma中には少く、tissueにplasmaからactive
transportによって蓄積されるものと考えられています。上記glandsではhomogenateを遠心分劃するとcytoplasmic
fractionに局在するそうですが、最近非水溶液で遠心分劃をおこなうと、むしろ核分劃に多いそうです(胸腺組織についての伝研・積田氏の最近の知見:私信)。これがどのような意味をもっているのか興味のあるところだと思います。組織培養に使うとよいということはEagle
et al(1957)が云っており、これの代謝がかなり速いことからそのpathwayがCharalampous
et al.により現在まで研究されてきています。いずれにせよ、イノシトールは生体組織にはかなり在ってわるさをしないらしい、ということは云えると思います。分り切ったことのようですが重要だと思います。S.J.Webbはvirusやbacteriaの乾燥保存の際に添加することにより、好結果を得ています。またイノシトールを加えてやるとultra-violet
irradiationに耐えるようになることから(Rous
sarcoma virus)、nucleoproteinの構造を保っているwater-structureと密接な関係があり、このstructural
waterとinositolとがその-OHを媒介に置換するのではないかと考えています。(inositol、ソルビトールの化学構造を図示)。またこれはイノシトールとは一応無関係ですが、化学的には同類のソルビトールについて茅野氏(1962年)の興味深い研究があります。即ちカイコ休卵の時期に休眠して冬を越すが、その際グリコーゲンの殆どがこのソルビトールに転換され、また春になって休眠がやぶられると、ソルビトールがグリコーゲンに再転換されるという研究です。卵にはその際wet
weightにして5%ものソルビトールが蓄積され、なめてみても甘く感ずる程だそうです。茅野氏はこのようにして昆虫卵は耐寒性を獲得し、又エネルギー保存を同時におこなっているものと考えています。自然の巧みさに驚きます。これらの糖アルコール類は培養の保存について、もっと考慮されてよいのではないでしょうか。
《螺良報告》
乳癌培養細胞にMoloney白血病細胞をcotact
cultureした場合の戻し移植
培養乳癌細胞は継代3年を経過し、電顕的にはウィルス粒子フリーとなている。之に白血病ウィルスをかけて培養できないかということで、cell-freeの白血病ウィルスを加えたが、その培地には造腫瘍性はなかった。
そこでcontact cultureに望みを託し、C57BLにMoloney白血病ウィルスで誘発した白血病細胞とcontact
cultureを試みた。その培養細胞は下図の如くで、白血病細胞(脾、リンパ節)は培養されて居ず乳癌のみ敷石状に増殖しているものと思われた。
[DDの培養乳癌にC57白血病をcontact culture]
(写真呈示・乳癌培養細胞の特長をもち白血病細胞は認め難いが)
そこでもし乳癌細胞だけになっていたら、之から電顕的に粒子が出れば白血病ウィルスでないかという可能性がある。この検索は目下遂行中であるが、一方、果して乳癌細胞だけになっているかを確かめるのに戻し移植を行った。乳癌はDD系由来、白血病はC57BL由来であるので、(C57♀xDD♂)F1・・・BDF1へ戻した。培養細胞はcontactしてから6ケ月、4〜6代を継代培養したものである。
1)BDF1への戻し移植
3匹に移植何れも陽性で局所に腫瘍を作ったが、同時に脾及び肝腫を伴った。移植后50〜62日で殺したが、下の写真のように局所の乳癌と共に、肝、脾、腎に白血病の浸潤を認めた。 [BDF1への戻し]
(写真呈示・接種部の腫瘍、肝への白血病細胞浸潤)
之が培養細胞で乳癌、白血病の2つが培養されていたのか、或は白血病の方はウィルスで誘発されたかが問題で、2月という期間は潜伏期としてかなり短い。
2)BDF1からDD又はC57BL屁の再移植
培養細胞でhistocompatibilityが不変だという結果をえているので、もしcontactした培養細胞に2種がまじっていたなら、DD由来の乳癌とC57由来の白血病はBDF1なら両者がつき、DDへなら乳癌だけ、C57へは白血病だけがつく筈である。目下の所C57への移植はついていないが、DDへの戻しでは41〜71日後に乳癌だけがついていて白血病は発生しなかった。 [DDへの戻し]
(写真呈示・培養部の腫瘍、肝−正常)
考察:今の所実験途中で結論に至らないが、BDF1の白血病はウィルスでなくて培養細胞によると思われる。そうすると培養に2系統の細胞が混っていたのではないかと思われ、之等が系統を異にする場合は、夫々の系のマウスを戻し移植に使って、細胞の選別ができないろうか。
まとめ
以上中間的な所ではあるが要約すると(図を呈示)、というところで、C57に白血病が2月で未だ出来ないで完全に系統による選別ができた所まではいっていない。
しかし培養細胞を系統別にしておくと戻しによって之を選別することが出来そうである。
《高木報告》
先報、実験2)のその后の経過について記します。培養8日目までの所では、4NQO添加群及び対照群の間に目立った差は認められませんでした。15日目4NQO群では表皮は3〜4層でむしろ薄くなりますが、表皮真皮共に健常に保たれており、角質層の著明な肥厚はありませんでした。
対照群では表皮5〜6層で幾分厚く、細胞の形は培養前のものに似て、胞体の明るい細胞が並んでいます。両群共mitosisは殆んど見られません。15日目までで4NQOの添加を中止し、その后は同じmediumにて培養を続けました。23日目のものでは15日目とはむしろ逆に、4NQO群では2〜3層の表皮と規則正しく配列した一層の基底細胞層を認め、角質層は表皮よりやや厚めと云う程度で、それ程著明な肥厚は認められませんが、対照群では表皮の厚さは殆んど変らず、表皮と真皮の区別ははっきりしているのですが、基底細胞層の規則正しい配列は全くみられず、若干の錯角化を伴う角質層は表皮に相当する程度ですが、更にその角化層の上にfibroblastの増殖がみられます。概して4NQO群の方が健常に保たれているように思えます。29日目のものでは4NQO群は4〜5層の表皮と同程度の厚さの角化層よりなり、基底細胞層の配列は崩れて了っていますが、真皮の細胞と共にかなり健常に保たれている感じです。
これに比べて対照群では、表皮2〜3層で基底層は認められず、真皮は毛嚢を除いて全くnecrosisになっており、23日目のものと同様薄い角質層の上にfibroblastの増殖を認めます。両群共mitosisは認められません。今回の実験では特に23、29日目のもので外観上サージロンの表面一面にoutgrowthがみられ、この為サージロンが曲って了う程でした。主としてこの為と思われるのですが、その部のclot融解が早く、その融解物の中に組織片が埋れて了う傾向がみられました。それが特に4NQOを塗らない対照群に強く、この為にむしろ対照群の方の健常さが早く失われる結果になったのではないかと思います。今回はincubtorがやや不調で30日前后で培養を止めましたが、次の機会にもっと長期の観察を行う予定です。
《三宅報告》
ヒト胎児皮膚からDD系マウス成熟皮膚へと、対象の切りかへを一部で始めたのです。20-Methyl
cholanthrenをペレットにした方法をかえて、これを5%の割合にParaffinに溶かして、ミリポアフィルターにしみこませ、固型化した後に2mm角位の小片に切り、培養直後のマウスの皮膚にのせ、3〜6日間放置しました。コントロールとしては、そのフィルターの小片を成熟マウスの背の皮膚に3日間のせたものと、フィルターにParaffinだけをしみこませたものを培養皮膚に添付したものについて検索しました。また、この実験に用いた20-M.C.はin
vivoの実験でBenzenに溶かしたもの、1回塗布后皮膚癌を発生したものと、同じボトルからのものです。培養皮膚に添付する時間がどの位で充分であるかを知りたいのが、この実験での目的になったのです。結論をさきに云えば3〜6日間もフィルターを放置したことは長きに失したと考えられます。これから、もっと短時間で、しかも対象の皮膚を胎生のものに再び戻してやり度いと思います。
その結果を述べますと、in vivoでは3日間の添付で、表皮は4層位になります。基底層の細胞は極めてactiveとなり、核は大きく泡状を呈して来て、Dermisの上に並んで来ます。表皮の最上部には薄い、Eosinで染まる角化層が積みかさねられてくるのです。
培養皮膚では、3〜6日に亘るフィルターの添加で、なる程培養されたコントロールの皮膚にくらべると、基底層細胞は少し増殖して来ますが、散在性に強い変性からまぬかれることは出来ず、核は泡状、時には空泡を形成して来ます。また、こまったことには、Paraffinだけのfilterを添加した皮膚のコントロールに、表皮の変化が出現することです。
以上の結果から、これからの実験を、すこしかえてゆく必要があると思われることです。 それは胎生の動物の皮膚に戻るということ。
M.C.の作用時間をもっと短くしてゆくということ。
ヒトの胎児での実験を、併用してゆくということ。だと考えています。
《佐藤報告》
(表を呈示)表はDonryu系ラッテに生体でDABを191日飼食させ、その肝臓を(特に肥大性結節)培養したのち、新生児ラッテに復元してTumor形成能をみたものです。詳しくは別刷を参照して下さい。このTCstrainは現在の所、中等度(?)のTumor-producing
capacityがありますが、3'-Me-DABを10μg/mlに連続或は間歇的に投与すると、比較的早く(66日〜79日)でTumor-producing
capacityを増加する様に見えます。実験そのものにも未だ追加等必要ですが発癌剤の機作の内に腫瘍性の増強(Selection?)がある様に見えます。実験は下記の通りです(図を呈示)。
(表を呈示)次はRLD-10株に3'-Me-DABを投与して悪性化した腹水肝癌を再培養し、それに3'-Me-DABを再投与すると腫瘍性が増強したことを示す。
《堀川報告》
今月号にもまだ改めて紹介出来るようなデータを得ていない。
帰国後早々にデータが得られるなどあまりにも虫のいい話かもしれないが、それにしても日本には学会やその他の会合が多すぎる。
8月10日から札幌で遺伝学会が開催され、それに出席したり、あちこちの談話会に引っぱり出されているうちに8月も過ぎてしまった感じである。仕事の方もさぼっているわけではない。事実今夏も学会や談話会に出席した日以外は一日も休みなく頑張ったつもりである。
幸い、放射線障害回復機序の実験に使用するX線、ならびにUV線耐性細胞もぼつぼつではあるが、きれいな形で分離されつつある。然し、現在のところ、肝心の装置がなくてどうにもならず、東芝から購入する部品の到着を待っているところである。
一方ショウジョウバエもいつでも仕事が開始出来るようになっておりながら、Madisonのボスが未だにOriginal
Note Booksを返送してくれない。(Paperにまとめるためボスに必要)といったところで、これもハエと共に手ぐすね引いて待っているところである。
Madisonの勝田先生から便りをいただいた。元気で頑張っておられ、あちこちで大分好評を博しておられるようで何よりだが、せめても9月の班会議までに少しでも自分の仕事を進めておきたいと思うものの、今のように八方ふさがりでは、どうにもならないというのが現況である。
《黒木報告》
Malignant transformation of hamster whole
embryonic cells by 4NQO
and its derivatives in tissue culture(6)
前報に記した4HAQOのdoseをかえた実験は目下運行中ですので詳しいdataは、班会議にまわしたいと思います(4HAQOの再現性はあるのですが、そのpatternが少し異なっている)。 今回は主に4NQO、6-chloro
4NQOの移植実験について記します。
月報6607号に4HAQO処置細胞はmorphological
& malignant transformationしたのに拘わらず、4NQO、6-chloro-4NQOによるそれはmalignantにならずmorphological
transformationのlevelにとどまっていると報告しました。その後くり返してハムスターcheek
pouch、SC(adult & newborn)に移植した結果、培養110日以降にmalignantになりました。4HAQOの2倍近くの日数を必要とした訳です。この結果は4NQO→4HAQOのenzyme
activityが、hamsterにおいては低いことを示唆しているのかも知れません。
この反応は次の如くです(図を呈示)。
4NQO及び6-chlo-4NQO処置細胞には次の5つがあります(図を呈示)。これらのうち、NQ-1は培養134日にカビのcontamiにより切れてしまった、growthはよく、非常に有望であった。NQ-3は前にも記したように2回目の4x10-6乗Mがoverぎみで、その後growthはとまってしまった。結局現在継代しているのはNQ-2、Cl-NQ-1、NQ-4の三系である。
NQ-2の移植成績は次表に示すように、培養56日には、ch.p.で2つともregressionし、(1wに小さいnodule、2wに消失)negativeでした。その後しばらくgrowthがよくなかったので、移植を手控ていたのですが、115日にch.p.とSC.に移植したところ、SC.はregression、ch.p.には硬いtumorがregressionせずに、しかしきわめて徐々に大きくなるtumorが得られました(図を呈示、histolog.は目下製作中)。しかし、その10日後(125日)には皮下にも移植可能となり、培養131日には新生児の全例(10/10)にtumor、165日はch.p.、SC.のいずれでも安定したようです。(NQ-2の移植成績表を呈示)
このように、NQ-2のmalignant transformationは培養120日前後におこったようです。なお、125日のch.p.のtumorは組織学的にfibrosarcomaでした。
NQ-4の移植成績
NQ-4は、NQ-2と似た細胞像と活発な増殖性を有するに拘らず、現在に到るまでmalignantになっていません。NQ-2と同様にmorphol.tr.とmalig.tr.のgapがみられます。
cheek pouchで一時的に増殖した結節の組織像は、necrosisとcell
reactionでcontrolのそれと同様でした。(移植成績の表を呈示)。
6-chloro 4NQO処置細胞の移植
6-chloro 4NQOは以前にも記したように、ただ1回のみの処置です。しかし、その培地は12日間放置しておき15-12のscheduleです。現在まで移植は1回のみですが培養125daysにはhistologicalにfibrosarcomaとして確認されました(表を呈示)。
コントロールの移植
前回の班会議のとき、コントロールの移植実験の足りないことが指摘されましたので、その後何回かくりかえして試みました。結果は次表に記しますが、SC
of newborn、ch.P. of adultのいずれでも陰性です。Zen-2では長く培養した細胞を用いています(表を呈示)。コントロールの移植は大体この位でよいと思いますが、いかがでしょうか。
☆以下は武田薬品の小冊子「実験治療」にのった一文です(執筆者はK.O.生)。
《癌は自然に発生するか?》
1941年Geyがラットの繊維芽細胞を培養しつづけていると、永い間には元のラットに戻し移植すると肉腫のかたちで増殖することを認めたが、その後マウスの胎児から得られた細胞系には、このようなことがかなり頻繁にみられるという事実が知られてきた。このような細胞の体外培養を、時々嫌気性の条件下においてやるとやはり同様の事実がみられたので、Warburgの嫌気解糖系が優先するようなselectionが、癌を発生せしめると考えた学者もある(Gold-blatt-Cameron)。
In vitroの条件というものは、in vivoとことなって、ある意味で有限の因子からなるから、人工的に調節可能であると考えると、すべての条件が知られているにもかかわらず、多くの細胞は通常の状態で増殖してゆくのに、突然その仲間に悪性化したものができるということになる。
それでは、癌化ということは、まったく内在的な条件だけでおこりうる、いわめて気ままな、分析不可能な現象だとして、癌の研究は無意味になったと考える学者もできようというものである。
Polyomaのような、また他の殆ど遍在性と考えられるウィルスの関与を除外し、また宇宙線のような普遍な物理学的条件を除外してもこのようなin
vitro癌化がおこりうるものか否かは、考えようによってははなはだ重大な問題である。
上に述べたように一体in vitroの条件はすべて分析可能で有限であるかというにまだまだそうはいい切れないであろう。勝田はin
vitroで培養液と試験管壁とのなす境界に近いところに、一見癌に近いかと思われる細胞群の出現をみとめている。この部のガス圧、表面張力その他の特異性ということも頭におかねばならない点であろう。
一面から考えるとin vitroは増殖の場であって、細胞と細胞との隣り合せの関係は、invivoのように複雑でない。増殖しても増殖しても、植えかえられる培養細胞のコロニーにとっては、終点のないむなしい増殖がつづく。この系ではin
vitroで一種類の細胞の増殖を停止させるnegative
feed back機構を欠いていると考えてもよいであろう。
再生と潰瘍化を繰り返すin vivoの場と、この意味では一種の類似がなり立つ。この
negative feed backを免疫学的機構におきかえるとBurnerやGreeneの癌の免疫学説が成り立つであろう。
最近、一方ではHeidelbergerのように癌化と分化とを類似に置いて考える学説を主張する学者もあるが、一方ではまたsomatic
mutation(体細胞突然変異)として解釈する根拠も多くでてきている。もし後者の説の立場に立つならば、例えば、化学的発癌における癌原物質の作用は、きわめて特異的に突然変異条件をつくりだす場合もあろうし、または単に自然発癌の機会を増強するにすぎない場合も考えられよう。
癌は果たしてまったく自然の条件でも発生するものであろうか?。学者は必ずしも、生物は細胞分裂の機会ごとに自然に癌を生じうる危険をもっているとは考えていない。癌になる程の変異には何かある特異なmotiveが必要であって、そのmotiveはきわめて一部ではあるが判っている。Motiveを共通にする物質、エネルギー、ウィルスなどを考え、その全面的な解明を求めているというべきであろう。
In vitroの自然癌化は、その面からいうと、いまだ解決されるべき手がかりもつかめていない特種な分野かも知れない。