【勝田班月報・6702】
《勝田報告》
A)4NQOの活性持続性:
4NQOは中原氏らによれば、血清と混ぜるとSH基とただちに結合して失活する−とされている。しかし釜洞・角永氏らは5x10-7乗M・8日(これ以下はダメ)処理した群だけが悪性化したと報告している。そこで[20%CS+0.4%Lh+SalineD]の培地に等量の[10-4乗M4NQO+0.5%DMSO+SalineD]を混ぜて隔時的にO.D.の変化をしらべてみた。(結果表を呈示)。4NQOの終濃度は5x10-5乗Mとなり、血清は10%となる。これ以上血清をふやすと紫外部の吸収がみられなくなる。どうも結果表をみると、37℃・7日間加温でも4NQOは血清中で失活しないらしい。もっともこの場合、血清中のSH基の数と4NQOのモル比が問題になり得る。一桁ちがえば差は認めにくくなる。血清中の蛋白が10%として上の液中では1%(10g/l)。これを全部仮にアルブミンと考えてみると(分子量7万)、1/7000M。アルブミン1MにfreeのSH5コとして(牛6コ、ヒト42コ)、SHは1/1400M、つまり7x10-4乗Mとなり、5x10-5乗Mの4NQOを充分に収容し得る筈である。DMSOの関与は考えにくいので、血清内で4NQOがSH基にくっついて失活するという推論には、なお検討の余地がありそうである。
なお釜洞氏らは4NQOを10-4乗Mに水に溶いたと報告されたが、これは本当に溶けているか否か疑問である。もっと低濃度ならば直接水だけでも溶けるらしい。
B)RLC-10株細胞(正常ラッテ肝)の増殖に対するdimethyl
sulfoxideの影響:
これは昨年2月におこなった実験のデータであるが、最近班内でDMSOを溶剤として使うのが流行りはじめたので、お庫から出してお目にかけることにする。
DMSOは培養2日后に添加をはじめ、以后7日間の増殖をしらべた。この細胞では2%だとはっきり第4日以后に阻害を示し、1%でも増殖を抑制しているが、0.5%では対照との間に有意の差がない。我々の実験に用いている終濃度はこれ以下であるから、増殖という点に関しては、まず心配はいらないと考えてよいであろう(図を呈示)。
《黒木報告》
4NQO及びその誘導体のハムスターへの発癌性(in
vivo)
ハムスター胎児細胞を用いて4NQOのin vitro
transformationをすすめるに当って気になるのは、4NQOがハムスターに発癌性を有するかどうかということです。現在までに4NQOによる発癌はマウス、ラット、モルモット、ジュウシマツ(Uvolonca
domestica)で調べられていますが、ハムスターの成績はどういう訳か、昨年初めまではありませんでした。しかし月報6607に紹介したように英国のParish,D.J.and
Searle,C.E.らによりhamsterもtumorの出来ることが明らかにされました。その成績を再び要約してみます。
☆Carcinogen:4NQO:0.5% aceton soln.(0.5mg/ml)
☆Animals:male golden 11匹使用、6〜7週
☆treatment:0.5mlを週2回、whole backに塗布(5mg/w塗布したことになる)
☆Results:この量はtoxicではない。Papilloma:14w(1匹)17w(2匹)27w(3匹)
(表を呈示)このSearleらの報告の他に、森和雄氏(昭和医大)がhamsterで発癌に成功しているそうです(未発表、私信による)。(阪大の釜洞教授のところでは癌学会のときにはまだ出来ていないとのこと)
私が動物の発癌実験を始めたのは1966年4月11日ですが、in
vitroが中心なので、in vivoは簡単の方がよいと思い、文献の中でもっとも手間のかからない方法を選びました。すなはち、中原・福岡のGann
50 、1959及び久米:医学研究 34、1964の方法に準じて、(1)Solventとしてはpropylene
glycolを用いる。(2)皮下inj.によりfibrosarcomaの発生をねらう。これはin
vitroで成功した場合fibrosarcomaがもっとも考えられるからです。(部位は右鼠蹊部)。(3)10日おき5回、total
1.0mg & 5.0mg。(4)4NQO、4HAQOの両者で行う。(5)動物は動物不足のためage
sexをそろえられなかった。以上の方針でExp.を開始した訳です。
[結果]
発癌物質の局所に対するdamageは著しく、注射部位はulcer
necrosisをおこし、しばしばinfectionをみました。
長期間にわたる実験のため途中死亡、脱出ハムスターも多く、完全なdataは得られませんが、現在までは1匹にtumorの発生をみています。(表を呈示。7匹のうち1匹は295d.にtumor・小豆大、あり)。このうちの発癌例は4NQO
5.0mgの1例のみです。この例は10月4日(177d)のときにはなく、学会嵐の吹き終った後、12月14日(249d)には巨大なtumorとして発見されました(写真を呈示)。発癌したのはその中間の200日頃と推定しています。
組織学的にはfibrosarcoma、肺に転移巣(顕微鏡的・写真を呈示)がありました。
この成績は、中原らによる同様の実験(雑系マウス使用、propylene
glycolにとかし、皮下inj.、5回10日おき)と比較すると、非常に悪いことが分ります。
このtumorを培養したところ、写真に示すような細胞及びコロニーが得られました(写真を呈示)。criss-crossに配列するところはin
vitroのtransformed cellによく似ています。なお、動物継代にも成功しています。
《佐藤報告》
A)自然発癌
正常ラッテ肝組織から培養され株化された6株の内3株が夫々培養850日、1109日、1160日よりTumor-producing
capacityをもった事を報告した。[月報6612]
Tumor-producing capacityを示さなかった残りの3株の内、1株が最近になって、Tumor-producing
capacityをもったと思われるので報告しておく。
RLN-35(ラッテ日齢20日)で、(表を呈示)培養日数910日にi.p.接種、接種後313に腫瘍発生。また培養日数1009日i.p.では接種後184に腫瘍発生を認めた。
B)4NQO→Embryo all
(1)(図を呈示)1)Controlは39日現在尚増殖中と思われる。2)10-5乗Mのものは細胞変性がかなり強かったが、現在TD-15瓶に一杯になったので復元の予定。3)10-6乗M、30分投与をうけた細胞は培養7日目に継代し培養24日目に再投与を行った。一本には4NQO
30分、他の1本いは4NQOを連続投与した。連続投与では2日間で変性が強くなり以后4NQOを除いたが除去後7日目で細胞は完全消失した。
(2)(図を呈示)略図説明。Rat Embryo(生れる直前)をExplant
culture(RE-1)でスタート(TD40静置)。培養11日目に継代しTD-40
2本に分注、培養32日目にDMSOに溶かした4NQOを培地中に5x10-7乗Mになる様に入れた(7日間)。ControlとしてDMSOを7日間、同濃度に入れた。10-7乗では連続投与に耐える様である。
《高木報告》
その後行ったハムスターの皮フ移植について報告する。
先月報に記した皮フ移植は、panniculusを除いたgraftを、
panniculusを残して作ったrecipient側のbedに移植したもので同腹、異腹共に約半数がtakeされると云うまずまずの成績を示したが、実際に胎児の皮フを培養する場合panniculusを除去することは不可能なので今回はgraft側にもpanniculusを付けて、これをpanniculusを残したbedに移植することをa)adult→adult、b)suckling→adultの二つの場合について試みた。
a)adult→adult
生後、約8週間の1腹のハムスター6匹の背部に、約11mm径のbedを作りほぼ同時期の異腹のハムスターより約13mmのgraftを取って移植した。この際panniculusをつけた皮フではかなり厚く、又、硬くrecipient側に生体接着剤(alon
alpha)で接着固定するのが幾分困難であった。9日目繃帯除去。現在14日目まで観察した限りではgraftの部分は痂皮様となり未だ発毛はみられない。しかし先回の移植実験でtakeされなかったものでは、bedの部分が瘢痕性の収縮を示して小さくなったのに比べて未だその傾向がみられないので、表皮の剥離した跡にこれから発毛がおこるのではないかと思っている。
b)suckling→adult
生后、6日目約2〜3mmの明らかな毛を持ったハムスターより径13mmのgraftを取り生後約8週目の1腹のハムスター7匹の背部に作った径11mmのbedに移植した。9日目繃帯除去。14日目の現在、途中麻酔死した1匹を除く6匹は、表皮はうすい痂皮状になって脱落したが、そのうち2匹はその跡に明らかに頭尾逆方向の発毛がみられ、graftはtakeされた。他の1匹はgraft全体が脱落して瘢痕状収縮をみとめ、残る3匹については目下の所不明である。 次に先報の結果についてその後の経過を追加する。月報6701に報じた移植群では5週を経過した現在、抜毛部の毛は完全に生え揃って、他の部分と区別がつかずgraftのtakeされたものでも、その部の毛は必ずしも逆方向にはならないで、takeされたものとされないものの区別が殆んどつかない。これはハムスターの毛はマウスと違って長くて柔らかい為と思われる。
唯一匹だけ偶々graftの部分に白い毛が生えた為に現在でもはっきりtakeされたことが判るものがあり、今後はgraftの毛色を変えるように工夫したいと思う。
《三宅報告》
H3-Methylcholanthren、H3-Uridineを用いて、培養皮膚に作用させた後に、光顕的に、その取り込みを追うよりも、電顕Autoradiographyにのせて、それに成功すれば、形態学をやるものが、発癌の機構を追うことに一歩近づくことになることを話したことがあります。ColdのMethylcholanthrenをさえ、うまく使用出来ないために、labeledのものは、長くfreezerの中に眠ることになっていました。H3-Methylcholanthrenを用いるステップになっていないままでは、仕方がありませんので、H3-TdRについて、その電顕Autoradiographyを第一病理の藤田博士のもとで、開始された方法を用いて、同教室の北村君がやって呉れたのがこのphotosです。H3-Methylcholanthrenの取りこみに取りかかる第一stepと考えています。
(写真を呈示)核の中に濃く、不規則な、毛糸の切端の様にみえるのが、銀顆粒です。核の中の濃厚なopaqueのあるところに局在するかに見えます。核外に見られる銀顆粒状の濃いものは、人工産物です。形は明らかに違います。
《永井報告》
4NQOと-SHgroupが反応しやすいこと、或は発癌物質と蛋白質-SHgroupとの関連性について、これまで得られている知見などを想い出してみたときに、これから述べることが何等かの示唆を与えはしないかと思って記してみた。それは細胞分裂と蛋白-SHgroupとの関連性について、日本の動物学者(団、坂井ら)によって得られている知見である。彼らによると(ウニ卵を使っての研究であるが)、細胞内蛋白の-SHgroupは細胞が分裂する直前に最大値に達し、それが減少し始めると分裂がおきる、という。この両現象は殆ど完全に同調しており、逆に云えば、-SH含量の変化を知れば、細胞分裂の時期を知り得る程である。
然も、この現象がみられるのは、0.6M-KClで抽出される蛋白についてであって、単に水で抽出される蛋白については、(図を呈示)図に示したように、丁度反対の動きがみられる。胚全体の蛋白は-SHでは全く変化がみられない。この0.6M-KCl-soluble蛋白は、水に不溶な性質をもっている。また、分裂卵細胞の内容物を、卵細胞からとり去って、いわゆるCortex部分と内容物部分とに分けるとCortex部分の-SHについて上記のSHサイクルがみられるが、内容物ではみられない。更に、Cortex部分にみられるSHサイクルについては、やはり0.6M-KCl可溶蛋白についてみられるだけで、今度は水可溶蛋白については、図にみられるような鏡像関係にある反対サイクルはみられなかった。次にSHサイクルは、トリクロール酢酸可溶性の蛋白についてもみられる。この場合、TCA-insoluble蛋白のSHは、図のような反対サイクルを描く。とにかくこのSHサイクルは丁度分裂との関聯のもとに一種のBiological
clockのような現象として捉えうるわけである。もう一つわかっている興味深い事実は、1%エーテル含有海水で卵を処理すると、卵は分裂しないで、核分裂のみが進行する。そしてSHサイクルの方は、エーテル海水で処理した時点におけるレベルで止まってしまう。次にこの卵を普通海水に戻すと、卵は今度は細胞分裂を開始する。と同時にSHサイクリの方も、前に停止したレベルから回復を始め動き出す。そしてこの場合も、SHサイクルと細胞分裂とは同調している。この際、長時間エーテル海水にさらしておくと、核分裂の進行に応じているかのように、いっぺんに4分裂、或は8分裂を起こす(図を呈示)。このことが何を意味しているかについては、いろいろ後論はあるが、とにかく面白い事実である。団らは、細胞分裂機構との関連のもとにこの現象の研究を現在もすすめている。蛋白質のSH→←S-Sの変化と、蛋白物性の変化(即ち分裂機構の生成)とを結びつけようとしている。発癌剤との関連はどうであろうか。
《堀川報告》
Leukemiaを指標とした発癌実験の第1歩として次の実験を開始した。
1.まずマウスRF系♀(生後40日)からbone
marrowを分離し、
2.注射針でbone marrow cellsを無菌的に分離。
3.分離されたcellsを3群にわけて次のように処理する。
A群)20%牛血清を含むEagle minimum mediumでT-30フラスコ中でCultureする(23時間)。 B群)Pytohemagglutinin(PHA)を含む前記Eagle
mediumでcultureする(23時間)。
C群)4-NQO*をfinal concentrationで10-5乗Mに含む前記Eagle
mediumでcultureする(23時間)。*Ethanolに溶かした4-NQOをmediumに加わえて最終濃度10-5乗Mになるよう調整した。溶液中の4-NQOのactivityは30分位で失活するというから、実際に23時間の処理でも、その作用時間は初期の瞬間的なものであると思う。
4.23時間処理後、3群ともにnormalなEagle
medium(20%牛血清を含む)にもどし、それぞれ6日間cultureする。この間cell
numberのcountは行っていないが、cellのconditionはいたって良好。ただPHAを含んだ培地で処理したものは最後までcellが凝集する傾向にあった。(従って以後の実験にはPHAを加える必要なしと見る。)
5.6日間正常培地でcultureした3群のcellsをそれぞれ900RのX線をあらかじめ照射したdd/YF系♀(生後40日)に一匹あたり40〜70万個cellsで静注する。
これは900R照射されたマウスのSpleen上に形成するcolony数から、injectしたbone
mrrow cellsの生存率を検定するためのものである。
(結果)。 今回の実験はみごとに失敗した。それは900R照射したマウスが、Spleen上にcolonyを形成する前に死亡したためである。今回の実験には一群に5匹ずつのマウスを使ったが、次回は少くとも10匹から15匹を使って生存マウス数を高める必要がある。
現在の段階では全くfundamental ideaを得るための実験であるが、これなくしてはSecond
stepに向う事が出来ない。次の実験を続行中であるが、同時に皆さんの御批判をこう。