【勝田班月報・6704】
《勝田報告》
 A)4NQO類による培養内発癌実験:
 4NQO類を用いたこれまでの実験を一覧表にしてみました。細胞はすべてラッテ由来、CQ-4以后はセンイ芽細胞、特にCQ-5以后は皮下組織由来のきれいなセンイ芽細胞を用いています(きれいな−とは如何にもセンイ芽細胞らしい形態の細胞という意味)。(表を呈示)。
細胞変異の出現度について記すと、どうもラッテの細胞は変異が起り難いようでdramaticな変異はあまり見られず、これならまあ変ったかなアと思われるのに、CQ-4とCQ-13があります。前者は4HAQO、後者は4NQO処理です。
 CQ-13の実験は、大変面白いことには、処理のはじめから全部連続して映画をとってあることです。但し同一視野とは行きません。何故かというと、撮している視野以外のところに変異集落ができてしまったので、途中で視野を切換えたからです。1967-2-10午后(雪がふっていました)から11日午后(まだふっていました)まで24時間・10-6乗M・4NQOで処理したところ、12日午后には核の内部に網目状のfiberが見られるような変化を示し、死ぬ細胞が多くなり、19日にはほとんどの細胞が死んでしまいました。そこで20日から別視野をえらんでとりはじめたところ、26日迄の間に分裂した細胞が2コ見付かりました。2-26から3-4にかけては、分裂は起りませんでしたが、細胞が特徴のある活発なlocomotionを示していました。3-4から3-10にかけては、相変らず細胞が活発に動きまわり、criss-crossを思わせるところが認められ、そこでは小型細胞の分裂が3コ認められました。この視野では3-10から3-12までの2日間に、さらに3コの細胞が分裂しました。この日、別視野にできかけと思われるcolonyが認められましたので、そちら(周辺部)に切りかえたところ、16日までの4日間に非常に沢山の分裂がひきつづき、generation timeをかぞえられない始末(多層になって追跡できなくなってしまう)でした。そこでその日にsubcultureし、また映画をとりはじめたのですが、まちがえてcoverslipの下の細胞を狙ってしまい、これは1回しか分裂せず、この間のフィルムは使えないことになってしまいました。3-30からまた別視野で撮影をつづけています。以上の所見を略図にかいてみますと次のようになります(図を呈示)。
B)“なぎさ”培養によるラッテ胸腺細網細胞の変異:
 前回の班会議のとき、Rat thymusの細胞株を“なぎさ"状態において、固定染色してみたら、形態上明らかに変異を示す細胞が沢山現れていた事をお知らせしましたが、このときは生きた細胞を残さずに全部染色してしまいましたので別の実験で胸腺の株の各系を“なぎさ"培養してみましたところ、3/10例に約1月以内に変異細胞が出現しました。(経過の表を呈示)(RTM-1A株・RTM-1よりのclone、RTM-2株、RTM-8株よりの変異細胞の写真を呈示)。
 何れも円形小型化し(細胞質が硝子面にうすく拡がらないため)、立体的にpile upして増殖している。肝細胞の“なぎさ"のときのようにdramaticなcolony形成は見られず、いつの間にかこんな細胞が出てきた、という感じであった。グロブリン顆粒をたたえた、元のelegantな姿は消え失せてしまった。復元結果を観察中。

《黒木報告》
 4月の病理学会総会で佐藤春郎教授が宿題報告「癌転移」をやるため、その準備に追はれています。2月以降に行った実験は次の6つです。
 (1)Transformationの表現としての累積増殖曲線。(2)Exp.433、442、447、451のその後。
(3)4HAQOの15分間処置。(4)3Methyl 4NQO、4NQOによるtransformation。(5)normal hamstercellsのcloning。(6)3T3のcloning。
 (1)Transformationの表現法としての累積増殖曲線
 transfromationのcriteriaとしては今までgrowthが活発なことと、形態の変化(pile up)を挙げてきました。しかしただ、それを散文的に表現したのでは説得性に欠けるため増殖のよいことを累積増殖曲線の形で表現することを試みた訳です(山田正篤氏のsuggestionによる)。古いdataのHA-1、HA-2、NQ-2などをひっくり返し、第2代のうえかえ時を1として、それ以後のgrowthを累積していくという簡単な方法です。このためには、うえこみsizeとharvestのきちんとした記載、一定の継代方法が必要ですが、HA-1、HA-2、NQ-2、cl-NQ-1では、きれいなcurveが得られました(図を呈示)。controlが途中でcellが少くなるのは(累積に拘ず)うえこみsizeよりもharvestの少いためです。今後はこの方法でtransformationを表現する積りです。
 (2)4NQO、4HAQOの濃度と添加方法
 前号の月報に記したように、carcinogenをsuspensionでcontactさせる方法とmonolayerでcontactさせる法、又carcinogenの濃度を、4NQO:10-5.5乗、10-6.5乗、10-7.5乗。4HAQO:10-5.0乗、10-6.0乗、10-7.0乗の三段階で実験をすすめました(Exp.433、442、447、451)。現在60日程度すぎたのですが、これまでの結果では、1)Monolayer cotactだけにtransformationが起る。 2)濃度は4NQOは10-5.5乗、4HAQOは10-5乗Mのみ有効という結果がでています。またtransformed cellsは、CO2 incubatorを用いたときに生じやすい、or selectされやすい所見も得られたので、目下分析中ですが、確かなことは云えません。4HAQO 10-5乗M(HA-8と略)、4NQO 10-5.5乗M(NQ-5と略)は、それぞれ発癌剤処置後28日、23日にcheek pouchにtumorを作り剔出標本はfibrosarcomaでしたが、3wでregressしてしまいました。目下tumorの再培養と染色体の分析中です。(このような実験のときには、ハムスターが純系でないことが悩みの種です。Histologにはsarcomaなのですが、immunological failureのためにrejectされるのでしょう。発癌剤処置後の短時間の実験は方法としてはまだ改良すべき点が沢山あります)。
 (3)4HAQO 15分間処置
 以前に行った4HAQO 10分間及び1時間処置は、現在までのところtransformat.していません(Exp.403)。15分間という時間は遠藤先生のE.Coli(λphage)を用いた実験で示された4HAQOの有効時間です。やり直しの実験(Exp.464)は、1匹のembryoから得られたhamster cellsを用いて行いました。conc.は次の通りです。1.10-3乗M・・・すべてのcellがやられて剥れてしまった。2.10-5.0乗M・・・1G培養3日目に添加。3.10-4.5乗M・・・2G培養7日目に添加。4.10-5.0乗M・・・2G培養7日目に添加。5.10-5.5乗M・・・2G培養7日目に添加。
処置方法は従来のごとく、100xのconc.(1.を除く)の4HAQOをcell sheetに直接添加し、30秒後にmed.で100xにdilut.、final concent.にする方法です。15分後にPBSで3回、med.で1回washし、standard med.にかえてcultureします。
現在は処理後2wですが、4HAQO 10-4.5乗Mに変化がみられました。
 (4)3Methyl 4NQO、4AQOの処置
 (3)の15分間処置と同じcellsを用い、併行してすすめています。10-5乗M 5回処置です。cytotoxicな作用はありません。目下かんさつ中。
 (5)hamster embryonic cellsのcloning
 ハムスターのembryoでcolonyを作ることができるようになりました。1,000ケまいて70ケ前後(P.E.7%)です。Petri dishを三春P-3からFalconのplastic dishにかえたことも重要なfactorのようです。Med.もalbuminがなくとも、standard med.20%C.S.でも5%はcolonyを作ります。しかしalbuminのときは、denseなcolony、またはfibroblasticなcolonyのみとれることなど、思いがけない所見も得られましたので、目下調べているところです。
 (6)3T3のcloning
 3T3の実験はcloneをとってから本格的にはじめる積りでcolonyを作るpreliminaryのexp.をすすめています。途中でCO2-incubatorの故障などで少しおくれましたが、現在までの所見では、1)20%C.S. Eagleで30%のP.E.(これはもっと上がるはず)。2)Agar法ではseedlayerを0.3%、0.4%、0.5%寒天濃度及びcell数を100、1,000、10,000のいずれでもcolonyを作らないという所見を得ています。
 4月になったらcylinder法でcloneをとり、本格的に始める積りです。

《佐藤報告》
 第5回班会議6703号で、培養肝細胞株処理とDAB消費(試験管内)に就て若干述べました。今日までに判明したデータを記載しておきます。(表を呈示)
 判定:細胞に超音波を与えて破壊し、DABを含む培地中でincubateしても細胞核がcountされない程度(培養しても生きた細胞が認められない)に破壊されるとDABの消費は全くおこらない。
 4NQO→ラットEmbryo
 10-6乗M 4NQOと投与時間の関係
 4NQO 投与時間を30分、1、2、4、8、24、48、72時間後に正常培地にもどした場合、4時間迄の投与では変化に乏しい。6時間〜72時間投与後、4NQOを除去したものでは残存細胞が増殖する。今后の復元はこの辺りを目標にする。
 RE-3(2代 20日目)細胞に5x10-7乗Mの濃度で4NQOを5、10、15、20、25、30日間投与し、投与后は正常培地にもどして35日間細胞の変化を観察した。20日間以上投与したものでは細胞は殆んどみられなくなるが、残存した細胞は核小体が大きくなっており、30日間投与したものでは巨大な細胞が出現している。従って5x10-7乗M濃度の実験では20日間以上の投与が必要と思われる。
 動物復元は復元后最高22日で未だ結果はわからない。

《三宅報告》
 試験管内で、ヒト、マウス、ハムスターの胎児皮膚に発癌物質を作用させるまでの処置と操作について、永い間の困難と低迷があった。Sponge Matrixを用いた立体培養のみに終始したのでは、結果の見通しは、方法は異なるがHiebert(Cancer,12,633,'59)のAKマウス胎児皮膚の立体培養(Strange way)同様、暗いものが暗示され、Matrixを鶏の血漿からCollagen gelにかえたり、Spongeをはぶいて、組織を直接、血漿-clotやCollagenの上にのせて、表皮やその下のDermisからの細胞発育をみてきた。それは、それでもまだOrgan Cultureから離れまいとする作業でしかなかった。どうやら、今結論敵に、plasma clotに直接うえたものからはfibroblastが、またCollagen gelに直接うえたものからは上皮細胞が多くでて来ることがわかった(写真を呈示)。一方では、上記の皮膚をトリプシンを用いないで、dissecting(機械的に)をやって硝子面にのせたものからは同じくfibroblastが多くでて来ることも判ってきた。いまこの最後の方法でえた平板上の細胞(マウスとヒト胎児の写真を呈示)に、4x10-6乗Mの4NQOと20-MCA(5μg/ml)を作用させたもの、及び、一方でまづ最初Spong Cultureをおこなって、上記同様の方法で発癌物質を隔日に3回作用させた後に、これを動物に戻す方法を取り出した。このOrgan-Culture-transplantationという方法について、私共はこの間に、Pronaseを作用させて個々の細胞を平面に増殖させる方法をとらなかった。それはPronaseの入手が遅れたことと、Organ cultureをした組織をdissectして何度も平面にまいても細胞がうまく、はえて呉れなかったという、技術上の失敗によるものであった。そのためにorgan cultureされた組織から、出来るだけSpongeをのぞいて直接マウスの背の皮膚に戻してみた。この実験はまだ日が浅くて結果はのべられない。がこの方法については反省が必要である。古い論文であるがRous,P.が、C系マウスのembryoの皮膚を20-MCAと一緒にAdultのマウスの大腿の筋の中に戻して4週間以内という早さでPapilomaとCarcinomaの発するのをみたという、二つの実験を少しmodifyしたにすぎないのではないかという反省である。が、この古い実験での追試に近い発癌の機構については、後で、各種の方法を用いて、かえりみることとして、ともあれ、先をいそごうとしている。

《高木報告》
 ハムスター胎児皮フの培養及び復元実験
 器官培養開始以来の懸案であった培養組織の復元にやっと一歩を踏み出し、先ず手始めに培養1週間目の皮フを復元した。培養にはこれまでと同様C.E.E.2滴、chick plasma 6滴からなるplasma clotを用い、30℃可及的低温にincubateした。
 今回は移植に用いる為に約10x10mmと、これまでのうちでは最大の皮フ片を直接clot上に置いて培養し、carcinogenとして4NQO 10-5Mol.in Hanks.を皮フ表面に1滴滴下し、対照群にはHanks液のみを滴下して、この処置を培養開始時及び3日目の培地交換時の計2回行った。用いた組織片は妊娠末期の雑婚ハムスター胎児の背部より皮フ全層を採ったもので1匹から2片を得るのがやっとである。この期の皮フは肉眼的には白っぽく、発毛はみえないが、組織学的には1〜2層の表皮層及びその厚さに相当する角化層を認め真皮における毛嚢や、毛の発生もadultのそれとあまり変わらない程度に分化している。
 7日間培養後、肉眼的には培養前に比べて幾分白っぽくなり光沢がなくなった様にも見え、in vivoのこの時期に相当するものでは肉眼的に明らかな発毛を認めるにも不拘、培養皮フ片には少くも肉眼的には認められない。
 組織学的には4NQOの添加群と対照群の間に殆んど差を認めず、相片とも2〜3層の表皮層よりなるが、細胞は可成り大型になり核も大きくなって、淡染する核質と数個の核小体を認めるようになり表皮全体の厚さは培養前に比べて2倍程に厚くなり角化層も約2倍に厚さを増して著明な錯角化を認める。この培養組織片をHanks液で洗った後、径7mmの円形のgraftを採り、adult Hamsterの背部に作った径6mmの移植床に移植した。
 4NQO群、対照群夫々4匹宛を用いたが、早いものでは移植後3週目にgraftの部分に発毛を認め、4週目には途中逃亡した対照群の1匹を除く7匹全部に白毛を認めた。
今回の実験では移植した動物の全てに白毛を生じたが、周囲が有色毛の中にgraftの大きさに相当して白毛を生じたのであるからtakeされた(?)と考えて良いのではないかと思っている。この点更に検討したい。
 現在5週目であるが、4NQO処理群においてgraftの部分に腫瘤形成などの変化はまだみられない。

《奥村報告》
 *ふたたび班員となるに際して
 またまた皆様の仲間に加えていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。班の主題となっている発癌機構の解明は、あまりにも難問すぎて、とてもとても私ごとき学徒には手のほどこしようがありません。恐らく、これからの1年間に目ざましい成果なぞ100%期待できないと思います。
 班に入るに際して、こんな弱気では途中で落馬してしまうかも知れません、よろしく御寛容の程!。昨年1年間のうちに“発癌"に関してさまざまな夢想を試みました。その中には極めてさまざまな計画があります。思考実験でけでダメになったものも数多くあります。また、一度は試みたいと思うものもあります。しかし、結論として、私ははやり“発癌"という山の裏側に廻り、発癌を成立させる因子を1つ1つ覗きながら仕事を進めてみることにしました。要するに、細胞が悪性になったかどうかという問題には一応無関心でいたいと思います。したがって、ことしは“Cell transformation"と云う課題について実験を組んでみます。そのための小道具は次のようなものです。
 Transforming factors:Simian virus 40
            Rous sarcoma virus
            4NQO、その他
 Cells:Hamster、mouseのfibroblasts
     humanのtrophoblasts、その他
以上の道具のうち出来るだけ多くのものを用いたいと思います。また、Cellは出来るだけsynchronizeした状態で用い、T-factorに対するTarget phaseがあるかどうかを探りながら仕事をすすめてみたいと考えております。

《堀川報告》
 今月の月報にはまとめて報告出来るような結果を持ち合わせていません。どの実験も丁度時間まちのところにあり、ちょびり、ちょびり報告していたのでは読んでいただく皆さんの方で理解に苦しむと考え、次号にまとめて結果を報告することにしました。この点御了承下さい。したがって今回は面白そうな文献の紹介にとどめます。
 1)By Carmia Borek and Leo Sachs:In Vitro cell transformation by X-irradiation.Nature 210:276-278(1966)
2)By Carmia Borek and Leo Sachs:The difference in contact inhibition of cell replication between normal cells and cells transformed by different carcinoges.
Proc.Nat.Acad.Sci.56;1705-1711(1966)

編集後記


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