【勝田班月報・7001】
《勝田報告》
 ラッテ腹水肝癌AH-7974細胞の毒性代謝物質(続):
 昨年の月報No.6908にそれまでの研究成果を記載したが、今号ではその後の経過を報告する。これは永井旧班員の後輩の星元紀君との共同研究で、分劃は彼がおこなった。
 方法については前報に詳しく書いたが、簡単に復習すると、[10%仔牛血清+合成培地DM-145]で4日間JTC-16(AH-7974)を培養し、その培地を4℃でCollodion bag濾過する(低分子を得る)。これを凍結乾燥し、濃縮液をSephadex G25で分劃、各tube毎に凍結乾燥した。ここまでの阻害活性については前号に記した。この分劃の内、#35〜#38のtubesの分劃に活性が強いので、これを集めてSephadex G15で再分劃した結果を図に示す(図を呈示)。この分劃をtube毎に凍結乾燥し、1)#39-#54、2)#55-#59、3)#60-#64とまとめ、夫々Saline D 7mlにとかしてMiliporeで濾過し、RLC-10の培地[20%仔牛血清+0.4%Lh+D+20%分劃(対照はD)]に添加し、8日間培養した結果が次の図である(図を呈示)。
 阻害活性は明らかに39-54のところに現われ、55-59のpeakも若干の阻害効果を示している。分子量は1000位と推定され、アミノ酸7コ位から成ったペプチドではないかと思われる。目下その本態を追求中である。

《山田報告》
 本年も宜敷く御指導の程お願い申しあげます。昨年春に法隆寺を訪れた時に描きました夢殿のスケッチを今年の年賀状にしました。最近この様な古い日本の建造物に興味を覚えて描いています。
 やたらに外国の流儀や物事をそのままうのみにせず、日本的な様式や感覚を作りあげて行くことが、絵に限らず、研究にも必要ではないかと思ったりして居ます。みかけ上、同じ研究にみえても、日本人でなければ、或いは日本の風土でなければ育たない研究の進め方こそ、どこか「キラリ」と光る部分がある研究成果をもたらすのでないかと思って居ます。
 今年は細胞の悪性化に伴う抗原性(Surface antigen)の変化を、細胞電気泳動法により追求したいと思って居ます。
昨年暮に岡山からラット肝細胞の4NQOによる変異株Exp.7-1、-2を貰いましたので調べてみました。これは一昨年夏にしらべた細胞系ですが、その後一年以上経過しましたので、その後如何に変化したかを追求したかったわけです。
 しかしExp.7-2の系は、その後直ちに氷結したために培養継代があまり進んで居ないことがわかりました。細胞電気泳動的にも殆んど変化がなく、悪性化株の性質がやや悪性度を増して居る(箇々の細胞の泳動度のばらつきが増え、シアリダーゼ感受性が増加)様です。
 Exp.7-1の系は其の後3回氷結して居り、その間に7ケ月以上培養継代して来たさうですが、この株のControlに変化が来て居る様です。つまり発育が良くなかったので、再検の要がありますが、少くとも一年以上前の様な正常型(ラット肝細胞)のパターンを示さなくなって来た様です。近いうちに再検した成績を報告します。
 尚ほHQ-1及び-2の泳動度の変化も調べましたが次号に報告します。

《難波報告》
 N-11:ラット肝細胞のクローニング及びその発癌実験
 従来使用してきたRLN-E7系のコントロール肝細胞を、月報6909(N-5)の方法によってクローン化した。培地は20%BS+Eagle'sMEMを使用。(表を呈示)結果は表に示すが、株化した細胞を使用した故か、クローン化の成功率は非常に高い。即ち13コのsingle cellを拾い、その内6コのpure cloneに成功した。
 目下6907(N-1)に述べた如く(1)4NQOが細胞の癌化の変異剤として作用するのか、(2)発癌の淘汰説の真偽の確認などの問題をこのクローン化した細胞を使用して検討したいと考えている。現在LC-2、LC-9、LC-10の3系で実験する予定で、その3系の増殖は目下良好である。
(図を呈示)図にこの3系の累積増殖曲線を示した。
 LC-2系の細胞をEagle's MEMに終濃度10-6乗M、10-5.5乗Mになるよう4NQOを溶いて各1時間処理した。細胞は100万個cells/TD40にまき込み3日後、6日後に4NQO処理したがどちらの濃度でも、顕微鏡的に細胞障害は認められなかった。
《堀川報告》
 1970年の新年を迎え班員の皆さんおめでとうございます。今年も一緒に大いに頑張りましょう。過ぐる1969年は私にとっても実にめまぐるしい一年であったように思います。京都での大学紛争に始まって以来金沢大学に落ち着くまで、本当に息つくひまもなしというのが、いつわりのないところでした。常時ならば4〜5年かけてゆっくりやるべきものを、あれよあれよと1年の内にすべてをやってしまった様な気持ちで私自身今更のようにそのプロセスをふりかえって反省もし、また新たなる希望をもやしております。
 1969年は頭初に計画した仕事のうち果して何割まで消化出来ただろうか? 勝田先生はじめ班員皆さんの御支援のもとに、この金沢に落ちつくことが出来ましたが、京大での大学紛争から始って金沢での設営までに要した時間から考えると、やはり1969年は仕事という面からみれば最初に計画したもののうち数割しか消化出来ていないというのが、これもいつわりのないところだと思います。
 そういった意味からも今年は、この与えられた環境をフルに動かして十二分に成果をあげたいと念願しているところですが、それも果してどの様になりましょうか。特に今年度は従来進めてきた「培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構」の研究を更に角度をかえて
(1)障害修復能という従来分子レベルと、一方ではただ単に細胞の生死を指標にしてとらえてきた現象を細胞の機能という面から浮きぼりにしながら、障害修復機構という実体の生物学的な意義づけをやってみたい。(2)更に、一方ではこれまでに再度試みて困難とされた放射線耐性細胞さらには感受性細胞を新しい技法によって分離し、これら細胞株を用いることによって、これまで得られてきた障害修復機構という実体を一段と明確なものにしたいと思っている。このあたりが私共の出来る試験管内発癌の機構解析にアタックする惟一のアプローチであろうと信じているからである。
 さて最後になりましたが、以前安藤さんが4-NQO処理後の細胞には、Bacteriaでみられるようなliquid holding repairがありそうだという結果を示され、この問題は障害修復機構の検索および解析をやっている私には、非常に興味のある現象なので、Ehrlich細胞を使って追試といえばおおげさになりますが、とにかくrepeatした結果が得られましたので、それを図に示します。(図を呈示)。各種濃度の4-NQOで30分間処理後直ちにコロニー形成をやらせたものと、各種濃度の4-NQOで30分間処理後細胞を24時間confluent状態においてからコロニー形成をやらせたものの比較です。これらの図から判るように、種々の濃度の4-NQOで30分間処理した直後に細胞をplateした方が、4-NQO処理後confluent条件下で24時間保ってから、コロニー形成のためにplateを始めたものより細胞の障害が少い。つまり生存率が高いと云う結果が得られた。どうも安藤さんのデータとは残念ながら相反する結果となったが、4-NQO障害に対するliguid holding repairの存在を培養細胞において考えるのはどうも困難なように思われる。この点御検討いただけると幸です。どこか実験操作にでも大きな穴があったのではないでしょうか。

《高木報告》
あけましておめでとうございます。今年もよろしく御願い申上げます。皆様よいお正月を御迎えのことと存じます。こちらも御陰様でと申したい処ですが、年末来、教授会の一方的授業再開をめぐって学内事情は全く混沌としており、まずは私の経験した最悪の年のはじめのようです。連日の会合、会合で頭が中々切換らず、仕事の方は全く申訳ない状態です。今一つ困ったことは、大事をとって発癌実験の細胞をすべて保存していた九大癌研細胞部のレブコが年末に故障をおこし温度が可成り上った由、細胞がやられてしまったのではないかと憂慮しています。目下細菌学教室のレブコに移してありますので、来週早々培養にもどしてみるつもりでおります。
 どうも書き出しからあまり景気のよくない年頭の言葉になりそうですが・・・・。さて今さしあたり考えている実験の計画は、1)NG実験のdataをはやくまとめること、2)発癌実験のtarget cellをかえてみる。出来ればepithelial cellを使い、あるいは既成のcell strainを用いてでもよいから少しでも定量的な実験系を確立すること、3)発癌剤の組合せによる発癌実験をこころみること−たとえば4NQOとNG−、4)in vitroで発癌剤処理によりtrans-formした細胞(もしくはこれを復元して生じた腫瘍の再培養によりえた細胞)と発癌剤処理をしなかったcontrol(もしくは培養した所謂“正常細胞")をmixして復元実験を行い腫瘍または正常細胞の復元成績を比較検討してみる。・・・などと云ったところです。
 これらの一部は現在手がけており、またin vitroでNG transformed cellの復元により生じた腫瘍の動物継代もこころみております。
 一方organ cultureとcell cultureの中間とも云えるslice cultureについても昨年来実験中ですが、培養条件はまずよいとして問題はsliceの作り方です。microchopperでは腎のようなわりに硬い組織は均等な厚さに薄くきれますが、膵のような軟らかい組織はどうしても均等な厚さの切片がえられず、このような軟らかい組織を着る方法を目下検討しています。均等な厚さの切片を作るには凍結切片がよいのですが、この場合凍結、解凍による組織のdamage、従ってviabilityが問題になります。この点をさらに検討したいと考えております。皆様の御教示を頂ければ幸です。

《安藤報告》
 班員の皆様、明けましておめでとうございます。昨年中はいろいろ御助言御指導いただきまして、本当にありがとうございました。私は班研究というものについては勝田班が初めての経験でしたので、入れていただいた頃は癌研究という事自体初めての事だった事もありまして、班研究のよさがよくわからなかったのですが、やっと今頃になって自分の感覚として実によいものだという事が認識出来るようになりました。一つのプロジェクトを集中してしかも分野の異る人達が種々な角度から研究討論する、実に研究体制のあるべき模範のような気がいたします。今年も若輩をどうぞ御指導御鞭撻の程をお願いいたします。以下少し本年度の研究計画の概要を記してみます。御批判下さい。
 まず現段階では4NQOの種々の生物に与える変化の内、何が発癌を惹起するために必須な変化であるのかは全く不明なので、一応基本的方針としては、現象全てを細部に至る迄徹底的に調べ上げるというつもりでおります。したがって現在迄はやや核酸、中でもDNA中心の実験をして来ましたが、今年は次のゆな事を考えています。
 (1)細胞が4NQOを代謝して培地中に放出する物質は4NQOのどのような誘導体か。
 (2)今迄はH3-4NQOが結合する細胞の成分を調べる際に、主に細胞の化学的成分を一まとめにして分劃していた(例えば、蛋白質、DNA、RNA等)が、見方をかえて細胞内の場所の違いによって同一物質でもその4NQOとの結合性は異ると思われるので、細胞分劃をした上で各分劃内の蛋白質、RNA、DNA等の比活性を比較する。
 (3)4NQOによって変化をうけたDNAが、単に分子量の変化というだけでなく、もっと化学的に見ていかなる変化をしているかを調べる。すなわち、4NQOによって切断されたDNAの物性(例えば、粘度、温度−吸収変化等々)あるいは化学的性質(例えば、切断された末端塩基に特異性があるか否か、等)を更に詳しく調べる事によって4NQOの作用を明らかにする。

《三宅報告》
 井上君が帰って参り、大学院学生の顔もやっと出揃ったというところです。昨年末から、やっと落ちついた感じで、これから仕事を始めようというような次第です。お世話になった井上君が主になって、部屋の中の整理もすんだところです。
 まず本年は昨年の夏にみつけた増殖の素速いd.d.マウスのEmbryoから出た細胞の細胞生物学的な検索から始めて参ります。12月にお話しできましたのはwildなものでしたから、cloningをやり、染色体をしらべ、動物に戻して、おくればせながら、みなさんについて参る決心です。
 昨年末にこの細胞をSponge matrixに吸いこませて、CO2-Incubaterの中で、浮かせるようにして、培養を始めました。それは組織学的な構造をtri-dimensionalなものの中で営ませたい考えでした。嗜銀繊維が出来ているでしょうから、その像を組織標本と同じレベルでみたいと考えたからです。Spongeは、少し灰白色透明のままで、2週間をすぎて、肉眼的には細胞がSpongeの中で生きていると考えますので、これから経時的に固定・染色にうつります。これも実は、上皮性、非上皮性の細胞の区別がSpongeの中で出来れば、幸いという下心があってのことです。一方で、ヒトの悪性腫瘍の培養に努力をつづけていますために、こうした簡単な方法で、上皮性、非上皮性の区別がつけることに成功しますれば、上皮性悪性腫瘍である癌細胞を、全く古典病理学の場に立ち戻って決定づけることができると考えたからです。そうは参らぬかも知れませんが、上皮性細胞のあってはならぬ臓器・組織からSpongeの中で上皮性と考えられる像を作りあげるのをみた時は、それを癌といえるのではないかと思うのです。新年の夢かも知れません。
《安村報告》
 Akemasite omedeto gozaimasu! Kotosi mo dozo yorosiku。 一年の計は元旦にありということですが、暮れもおしつまってから猛烈なカゼにやられて10年来初めて寝こんでしまうような始末でしたので、これはタルンデイル証拠かもしれません。寝こんでいるときにふと数年前まで多少は実行したことのある日本語のローマ字書きに思いをいたしておりました。昨年中は紛争にからんでいろいろ広報活動もせざるをえないハメにおちいって忙しい思いでした。またペーパーの下書きを何度も書き直しているときに、手書きの清書に時間をつぶされるときに、日本語をタイプライターで書くためにはローマ字化されねばと思ったことでした。このことは初夢の一つとしておいてください。
 ようやく12月のなかばになって学生のストライキが解除されて、ホッとしているヒマもなく、つぎつぎと授業再開問題にからんで、カリキュラムの再編、追試験等々、別の意味で多忙に追いまくられている状況です。昨年の大学紛争はいろいろ研究者にも多難であったといっただけではすまされない問題を提起しました。正直いってヤリキレないと思わせるところもございました。乱にいて治を忘れず、治にいて乱を忘れずということでしょうか。今年こそ、科学者は科学者としての任をはたすことができる年でありますように、まだ紛争の余燼(余塵?)があとを引いていますが。
 さて、今年度の実験予定のことです。協同研究者として、一生けんめいやってくていた井上君が京都に帰りましたので、仕事にひとくぎりつけました。新たに昨年夏の終りごろから手がけてきたラットの肝の初代培養からのクローニングが少しは目鼻がつきそうなところにやってきましたので、それがうまくゆけば、そのクローン化細胞系で発癌過程をSoftagarでスクリーニングして解析を進めて行きたいと考えています。しかしいまのところ、このクローン系の増殖が非常にスローモーで十分な材料をうるのに苦労がいりそうです。以上が新年にあたってのアイサツがわりです。

《藤井報告》
 新年おめでとうございます。
 何回か年頭の御挨拶を書きながら、今年も試験管内発癌における抗原変化について一歩進んだデータを出し得ずにいることは何ともつらいことです。抗血清の作製がラットの抵抗性の問題か、Culb cellsの抗原性の変化のためか捗らなかったり、沈降反応の感度の限界から、培養細胞でのImmune adherenceやmixed hemagglutionあるいはmixed hemadsorptionの応用に転向したものの、なかなかうまくいかず、ほぼ1年をその準備−抗γ-グロブリン抗体の作製など−に使ってしまい、これだけやりましたが癌抗原は化学発癌ではどうでしたと云えない状態が何とも申し訳ないところです。来年は研究費はいただかないでも今までの後始末をしようというのが、ささやかな希いです。
 毎月の月報はずい分と為になり、はげまされてきましたが、こわいProf.Kattaの顔をおもいうかべながら、つい不備なことを書いたりしているのもどうかとかえりみて、自分のピースでやって行くことも考えています。
 このところ、培養AH7974細胞でのIAとmixed hemadsorptionも技術的にうまくいくようになりました。この月報でもの凄くつよいIAの写真を出すつもりでしたが、フィルムのASAを間違えてうすい写真ができてしまいましたので止めました。
さし当っては、これらの方法でRLC、RLT、Culb-TCの抗原差を、同種抗血清、異種抗血清でしらべます。 
 次は細胞性の免疫に関連し、抵抗性ラットのリンパ球が試験管内で変異した細胞の抗原性を区別しうる方法として使えるかどうかを検討すること。実際には、Culb-TCに抵抗性のラットのリンパ節、末梢のリンパ球が、RLC、RLT、Culb-TCのcolony形成を抑制し、その間の差が両者の抗原性の差の指標になるかどうかを調べます。これは同種異色免疫でのin vitrolymphocyte cytotoxicity testの研究と関連してつづけたいと思っています。

《梅田報告》
 あけましておめでとうございます。
 昨年中は班の仕事として色々手がけてきたが、どうもぱっとした発癌実験が成功せず、急性毒性実験の結果のみで、小さくならざるを得ない様な感じで過ぎて了いました。今年度は胸をはって勝田先生の前に出れる様、是非共発癌実験を成功させたいと願っています。
昨年末、ラット肝のprimany monolayer cultureに各種発癌剤を投与して、長いのは6ケ月以上培養を続けているが、現在N-OH-AAF、4HAQO、Rubratoxin、その他、肝臓発癌剤の投与例のどれも旺盛な増殖を示していない。しかし長期培養するに従い、epithelialのpolygonal cell growthが次第にconstantになるが、controlでも同じ様であり、又、形態的にもpiling up等の変化を示すに至っていない。今年度も続けて之等の培養系を継代し細胞学的に検索を続けるつもりである。
 同じ様にハムスター胎児培養又は新生児肝の培養に、N-OH-AAF、4HAQO、Rubratoxin、トリプトファン代謝産物を投与して長期継代を続けているが、その方は9月30日より3HOA 2.5x10-4乗M mediumを3回changeして計7日間投与した例で、11月中旬より増殖がconstantになり、1週間に3〜5xの増殖率を示す様になった。12月1日に200万個cellsハムスターのcheekpouchに移植し、現在粟粒大の小粒が多数cheek pouchに見られる。この細胞系に関し、softagar等の検索を集中的に行う予定をたてている。その他の系は、controlと殆同じ増殖率を示し、一部の細胞のhamster cheek pouchへの戻し実験を行っているが、まだどうなるか不明である。


編集後記


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